異界の召喚憑依術師~チート術師は異世界を観光するついでに無双する~ (秋空 シキ)
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【第一話】俺死亡……トラックではなく軽自動車だが

 ポツポツと瞼を打ち付けてくる雨粒が、眠りという海から意識を浮上させ、目を開けさせる。どんよりとした黒い雲が青い閃光を放ちながら唸り声をあげるのが目に入った。

 ゆっくりと瞬きをした。

 辛うじて動く指先から急速に熱が失われていくのがわかる。それに伴い背中から流れる生温かい液体が路上のアスファルトに染み込んでいった。口から出る錆び臭い液体は内臓がやられてしまったことをあらわしてるのだろう。

 

 ああ、くそ……ここまでか。

 

 酷い耳鳴りとぼんやりとした視界の中に人垣が見え、皆一様に写真を撮っていた。仰向けに寝てるから雨に濡れた道路標識が見える。

 

 はは、よく聞こえねぇけど……これはサイレンの音か?

 

 どうやら既に救急車が呼ばれたらしい。安心からか、先程ふっとばして今、呆然とこちらを見つめているカッパを着た女の子に微笑みを浮かべた。最早輪郭が霞んで、顔が見えないが多分あっているだろう。

 ここで格好いい一言でも言えれば良いんだけど、生憎、俺じゃあそんな器用なことはできない。

 俺は薄く開けた瞳をもう一度瞬きさせて苦笑いしながら、目を閉じた。

 

 いつもの帰り道のことである。

 

 

 

 

 いつからだっただろうか人目を過度なくらい気にするようになったのか。小学校からか、幼稚園からか、もしくは、いや、きっと本当に随分と過去のことなんだろう。身近な人間関係がそうさせたのだ。そのため元々弱気だった俺は、人といることを嫌い学校でも徐々に孤立していった。授業のグループ学習の時も、学校行事も、孤立していた。いじめの標的にもされていた。

 

ははは………なんで今更……走馬灯ってやつか。

 

 中学生になってもいじめはなくなんなかった。むしろ暴力はヒートアップしたと思う。家にボロボロで帰っても、両親は、何の気遣いもなく仕事を押し付けてきた。

 その頃にはもう憔悴しきって逆らう気も起こさなかったな。自殺も考えたこともあったけどそんな勇気あるならいじめられてなんかいない。こんな普通とは違う特別な毎日を送ってきた俺だけど、漫画のように、自分の日常に花が咲くことはないってわかってた。けど最後の最後に自分に誇れることをして、日常に自分自身が赤い花として咲くことができたから、

―――――満足かな………

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 チェス盤のような白黒の床の先には果てしなく続く暗闇。水を打ったような静けさの中にポツンと立つ蝋燭は揺らぎの一つもしなく、静かに闇を照らしていた。

 それをボーっと見つめる俺。目を開けたらこれだ。全くもって見覚えのない場所に訪れた?らしい。意識があることも謎だけど、この空間が謎すぎて何もいえねぇ

 

 一応冷静を保っているつもりだが安心している訳ではない。死んだなら死んだで早く女神よこせや、まさか永遠にここで独りぼっちとかないだろうな、寂しすぎて死ぬっつの。とか思っている。というか死んでもボッチ、悲しすぎだろう。

 

 

 

 さて現実逃避していたのはいいがそろそろ何かしなければならないな。

 蝋燭だって見渡して見たけどこれ一本しかないんだ。なくなったら純粋な闇だ、そんな中人間の精神が耐えられるか?答えはノーである。だから移動しなければならない。これでも行動力はあるのだよ。

 

 俺は蝋燭をなるべく広範囲を見渡せるように上に持つと、迷子にならないように足元の升目に沿って歩き始め……

 

「グーー」

 

 

 そういえば幽霊って腹空くんだろうか。疑問である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 主人公が腹を空かしたのは下校中に死んだから、時間帯にして16:30くらい

次回は女神に会います。


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【第二話】会う女神が性格良いとは限らない

3000文字使っといて話が進まない


 もうどれくらい歩いただろうか。蝋燭の光を頼りに升目に沿って、周りを見渡しながら歩いて来たが、肝心の蝋燭がそろそろ半分になるところである。一応半分になったら次は右に回ろうと思うが、精神が蝋燭とともにすり減って来ているためできればそろそろ何かを見つけたい。

「ギュロロロ」

 あと腹がうるさい。音は鳴る。空腹感もある。しかし肝心の食べたいという意欲がない。どうなってんだ俺の身体は。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 全包囲どこを見渡しても白に染まり、その神秘感は留まるところを知らない。その中で異彩を放つ一つの西洋風の城。

 初めはとにかく感動したものだ。あれほど此処に異動して良かったと思えた日はないだろう。だが、今はどうだ。

 あれほど神秘的な白の空間にも馴れ、どこか物足りなく感じるし、城に至っては今の仕事が止められるのなら賃貸アパートに住んだっていい、むしろ売ってすら良いと思っている。

 今日も今日とて執務室で紙と睨めっこ。こんな広い部屋なのに窮屈で退屈だと感じる。

 誰か私に刺激をくれないだろうか。

 本音を言うと彼氏欲しい。頼む。こんな哀れな私に機会を恵んでくださらないだろうか!

 

……祈ったって無駄か。

 

「はいこいつ前科あり地獄ぅー、でーこいつはてんご……ん?ハーレム作ってんじゃねぇか!はい地獄ぅー」

 

 全くなんで毎回毎回この私がこんなことをしなければならないのか、そんなことを死亡者録を見ながら思う。こんなの閻魔のじっちゃんがやればいいのに。

 合コン誘われないのは何故だ!?一生独り身でいろってことか!?クソ!鬱憤を晴らしてやる。このハーレム野郎は全員地獄だ!次々次々女はべらせやがって!少しは自重しろっての!―――――――――――――

 

 

 

 

「女神様!!」

 

「んあどうしたよ、フルっち?」

 

 いつもの書類を片付け終え、腕を伸ばしている私に天使であるフルエルが汗だくで部屋へ入ってきた。おおかた廊下を走ってきたんだろう。忙しい奴め。

 

「先程アースとラマキアの世界間に人影が観測されました!直に向かう準備をして下さい!!」

 

 世界間に人影ねぇ全く死神は何をしてるんだか、死んで逝った魂をしっかり輪廻の輪に戻さなきゃいけないのに、こりゃ給料減給だね。ついでに良い男紹介させよ。

 

「アースぅ?」

 

 しかしアースの者と言えばさっき死亡者録の中に居たなぁまさか私の管轄だとは思えないが、一応確認をしといた方がいいだろう。

 

「そうですアースとラマキアの世界間ですよ、ほら早く行きましょう!って何やってるんですか?」

 

「見りゃわかるだろうに」

 

 机の上の既と書かれた箱を漁っていく、中には理不尽な理由で地獄と判子が押された紙が多々あったが、そしてそれを見て顔を蒼くするフルっちもいたが。気にしない、というか気にしたら私の負けだ……

――――っとこれか

 

「えーっと天城、優一14歳、女の子を庇い交通事故に遭うそして出血多量で死亡っと、ん?あれ?私が天国にしてる……だと……?」

 

 顔の前に掲げた紙には大きく天という字の判子が押さされていた。普段、死亡者録を片付ける私はさらっと流し読みをしているため、内容をあまり覚えてない。少し気になるが、それは後にして今はこいつかどうかの確認である。

 

「なぁフルっちまさかコイツじゃあないよな」

 

 数ある世界の中で我々、神は世界ごとに魂を管理しているのではなく魂の波動の間隔ごとに管理をしている。何故かは知らん。まあだから4秒に一人死ぬという地球で、たまたま世界間に入ってしまった人間が私の管轄になっている可能性は極めて小さい。さらに言えば私が管理している地球の魂の数は、他神に比べかなり少ないである。つまりそいつが私の管轄である確率は小さい。さぁ答えはどうだ!フルっちよ。

 

「ハハハ、なんか変なポーズとって確信めいたことを言ってますけどその方ですよ」

 

 嘘……だろ。

 

「それから面倒ごとを回避したいのはわかりますけど、そんな顔をされては世界間に迷ってしまった優一様に失礼でごさいますよ。」

 

 フッ、まぁいい、今回は面倒だが助けてやるとするか、さて準備しないとな。そう思い自分の部屋に戻るため私は腰をあげる。

 

「!!?」

 

っっ!!なに!いまのは!?まるで背筋が凍るような

 

「……あと、今後の執務についてこの件が終わり次第話があります。私の部屋に来て下さいヴァレン」

 

「ハイ」

 

 久しぶりに名前を呼ばれたがこの呼ばれ方はなぁ、殺されるかと――――

 

「余計なこと考えてないで早くいきましょう女神様」

 

 顔は笑ってるけど目が笑ってない天使につれられて私は世界間にいくのだった。因みに道中なにも考えてません。殺されるので。

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 俺はスズッと紅茶をすする。そして優雅にコトっとテーブルにカップを置くと、目を横に走らせ元の1/5程の大きさになった蝋燭に向けた。

 つい先程俺に救済の手が伸ばされ今もなおここにいる。それは救済になっていないじゃないかと思うかもしれないが……転生するまであと数分、ちょっと時間を遡らせよう。丁度蝋燭の蝋が1/2を切ったところまで――――

◆◆◆◆◆◆

 

 

 結局の蝋燭が半分の大きさになるまでなにも見つけることができなかった俺は行き先を右へ変更し進んでいた。

 そして暫くたちもうすでにへこたれて座り込もうとしていたところに突如目の前が輝いたのだ。

 あまりの明るさに暗闇に合わせられていた俺の目は堪ったもんじゃなく手で押さえてうめく。

 全く人になんの断りもなく人の目を焦がすなよと、呟き、目を擦りながらあけるとそこには一対の翼を生やした銀髪の美少女と活発そうな赤色の髪をしたこれまた美少女が少しうつむき加減で佇んでいるという意味不明な事態。

 

「え?、えっ?とどちら様ですか?」

 

 ニュアンスが変とか言わないで貰いたい。いきなり美少女が目の前に二人立ってるんだぞ。赤髪の方は目が死んでるが、普通テンパるわ

 

「やっと見つけました。もうずっと移動してたものですから再度観測するのにどれだけ時間がかかったか。そう思いませんか?女神様」

 

 銀髪の多分天使だと思われる人物が隣のえっ?女神様あれが?にため息を吐きながら皮肉を言った。というか俺の発言は無視ですかそーですか。

 

「ソウダネ」

 

 今度は赤髪の美少女が抑揚のない声で答えた。何かあったんだろう。仮にも女神とと言われてる女性だ。意識をしっかり持て!と言いたい。が言わない、正直銀髪美少女が怖い。不思議である。

 

「全くいつになったら元に戻ってくれるんですかそろそろいい加減にしないとおこりますよ」

 

「ソウダネ」

 

 どうやらさっきからこの調子らしい。銀髪美少女は、大きく息を吐くとどこからかスリッパを取り出して、――――

 

次の瞬間、乾いた音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 またしても何処かからソファーとソファーテーブルを取り出し、設置した赤髪の美少女は男勝りの口調で言ってきた。

 

 

「んじゃあとりあえず座れ」

 

 とりあえずどっからそれ出した?というツッコミたい気持ちを押さえて俺は席に着く。正面には女神様が座っておりその背後には銀髪美少女天使が微笑んでいた。監視してる風に見えるのはきっと気のせいだろう。

 

「あーったくメンドくせーなぁー」

 

 ドキドキと緊張している俺に赤髪美少女は頭をポリポリ掻きながら、人指し指を一本立てると

 

「いいか?よく聞いとけよまず、あんたは死んだ今はいわゆる幽霊ってやつだ。そして――――」

 

 中指をたてる。

 

「もう地球にはもどれない魂となってしまった。」

 




次回、異世界ラマキアへ、そしてタイトルの召喚憑依術師となります


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【第三話】主人公として覚醒は当たり前だと思う

 その後いろいろと説明された。要約すると、俺が死んでからは女神様の部下である死神が魂を回収し忘れ、地球の輪廻の輪に戻せなくなるという事件が起きたらしい。

 全く、何やってくれてんだか死神は。

 そしてそのまま漂い続ける魂は、このラマキアとアースの世界間に辿り着いた。

 さらにそこから俺が歩き続けたため発見するのが遅くなり、俺の精神もすり減るという事態に陥ったわけだ。 

 どっかの誰かさんが俺、行動力はあるのだ。とかほざいてたが自業自得とはこのことである。

 で、今の俺には三つの選択肢がある。。一つ目、このまま世界間を旅し続ける。二つ目、ラマキアに赤ちゃんから転生する。三つ目、ラマキアに今の姿のまま転移する。尚、多少の願いや要求は許されるらしい。

 さてさてどれにしようかと俺は顎に手をあてる。一度やってみたかったポーズだ。

 まあもう決まってるんだがな。まず一つ目はない、絶対ない、ありえない。そして二つ目、これは一瞬迷ったが俺は親に良いイメージがないため却下。こんな風に消去法でやってみると、まるで仕組まれてるんじゃないかと疑いたくなるほど迷いなく決めれた。

 

「女神様、優一様、紅茶でございます」

 

 銀髪美少女天使がソファーテーブルにカップを置き、女神様から淹れていく。そして、俺の方にも淹れたかと思うと口を開いてきた。

 

「優一様、お決まりになられたでしょうか?」

 

「はい決まりました。三つ目にしようかと思います」

 

 うんうん、やはりこの人は良い人だ。気が利くし、丁寧だし、それにこの口調。完璧じゃないか。

 

「んでー、願い事は何にすんのー?」

 

 対して、腕を伸ばし机の上にまたどっかから出したクッキーを掴みあげていく女神様。そのままあーんと一口に食べると指に付いたカスを拭く……のではなく舐めるという豪快っぷり。どっからどう見ても神には見えない。

 この神様を交代させた方が良いと思ったのは、今まで沢山いただろう。

 

「そうですね」

 

 だがしかし、これでも神様なので俺も敬語である。些か不本意だがな。

 

「ラマキアという世界のガイドブックが欲しいですかね、未知の世界とは興味深いので、それから私を働ける年齢まで上げてくれると嬉しいです」

 

 思い出したくない嫌な両親(かお)が頭にちらつく。もう二度と他人なんか頼ってなるものかと思えたあの顔が。そして、一人であらがえる力がいる。それから……いやもういい。これ以上考えると、本当に自分がなにもできなかった悔しさで潰れそうだ。

 

「ふーんなるほどねぇー」

 

 女神様はほんとどうなってんのか分からんが、またどっかから出した紙を見ながら呟いた。

 

「よしわかった。その願い叶えよう」

 

 そして肯定すると、立ち上がりこちらに向かって歩いてきて俺のソファーの後ろまで来ると――――

 

「それから、ラマキアで働けるのは15歳からなんだ。たがら、もう三つ特典をくれてやる。それは着いてから確認しろ。あと、私に近況報告を週一でするんだ。わかったな」

 

――――耳元で囁いた。

 俺はというと赤面で固まっている。美少女が耳元にいるんだしょうがないだろ?。

 そして女神様は手をつけていなかった俺の紅茶をすっと飲んでからテーブルに置くとゆっくりと戻り半分顔をこちらに向けて。

 

「あと……そうだな数分で転生するだろう。転生する場所は街の近くにしといてやる。じゃあ私とフルエルはこれで失礼する」

 

 片手を軽く上げて去っていく姿は、かっこよかった。

 

◆◆◆◆◆◆

 

 というわけで時間は戻る。

 俺は、蝋もなくなり火の勢いが衰えた蝋燭へ目を移した。もう転生というわけだ。

 立ち上がり首を数度鳴らす。

 

「さて、いくか」

 

 それと同時に火が消え足元が輝いた。

 

◆◆◆◆◆◆

 

 目に写るのは、爛々とした太陽。頬を撫で付けてくる風は涼しい……嘘だごめん。

 

 目に写るのは爛々と血走った眼。頬を撫で付けてくる鼻息は生ぬるい。つまり目の前に怪物。

 

 

 

 女神様?どんな場所に召喚してくれてるんですか?

 

「や、やあ熊さん?とと、とりあえず話し合わない?」

 

「グルアァアアアア!!」

 

「デスヨネー」

 

 やり直し利かないかなぁ。

 

 

 

 

「はっ、はっ、はっ、はっ」

 

 

 

 急に始まった熊さんとの鬼ごっこ、草を掻き分け、木の枝をかわし、小川を飛び越えて逃げる俺。

 よくこんな走れるなぁと思う。

 身体能力が上がっているのは間違いなしだ。確認できて良かった……こんな形でなければだけど。

 ふと後ろをふりかえれば、迫る黒い影。草を踏みつけ、木の枝を引き飛ばし、って

 

「逃げ切れる気がしねぇぇぇえ!」

 

 よく熊と出会ったら背中を見せるなというよね。よく見て下さい。あの赤い眼を、涎を垂らす口を……俺の選択は多分間違っていないと思う。

 

「クソが!次会ったら覚えとけよクソ女神ぃいい」

 

 週一どころか今すぐ会える気がする。そしたら殴ってやるんだあの端正な顔を、絶対スッキリする。

 

『いいかーおめぇはラマキアに行ったらまずこう言うんだ。オープンってなハハハびっくりするぞ』

 女神を思い出したためか説明の際の言葉がよぎった。

 だが、

 

「今、言えるかぁあああ!」

 

 あの女神様のことだ、絶対何かあるため怖くて言えない。しかも、あの女神はここまで予測して言ったのか、笑っていた。

 だが現状を考えると、それしか打開策はない気がするのだ意を決して言うしかない。

 

「くそぉ……オォープン!!」

 

======================

 

天城 優一

LV1 【15才】 

種族 人族(ヒューマン)

HP30/30

MP150/150

 

魔法適性【テトラ】

水 雷 風 時空間

 

固有スキル

召喚憑依『召獣載書』(ヴィヴリオ・マギア)

 

スキル

看破lv2

偽装lv3

神託lverror

知識書lverror

 

 

能力

 

 

 

称号

 

 

 

加護

世界神の加護

 

======================

 

「・・・・?」

 

 ステータス?一瞬高笑いしている女神の顔が浮かぶ。

……ああそういうことかよ。

 

『いくら地球がつまらなくたってねぇ、ラマキアはそうはいかないさ』

 

 この意味が解った。

 ていうか普通行くのが剣と魔法の世界なら先に説明しろよ女神様。でもあいつ(女神様)ならありえるな……今でも笑い転げてそうだ。

 

 

 さてさてツッコミはこのくらいにして、現状打破を考えなければ。

 まず気軽にスキルを使おうとするのはよくない。だから何かを利用しなければならないな。かといって手持ちもない。

 

 ならば……

 

 目に写るのは流れていく木の枝、俺により掻き分けわれる腰程の草、そして視界の端に先程跳んだ川の上流とその波を二分する大きな岩。

 耳に入るのは俺の息使い、足音、熊の荒い息。

 

 くそ!情報が足りない……ちがう!今はこれしか無いんだ。もっと応用を。

 一瞬身体が熱くなり、五感、身体能力が格段に上がった。

 

「うおっ!?なんだこれ?」

 

 今は、気にする時間はない!

 とりあえずあの熊を!

 荒くなった息使いを安定させ、耳をよく聞こえる様に立てる(・・・)

 なんだろうこれが一番よく解る気がするのだ。

 目をつむった。

 

 

 それにより目にまわされていた情報処理能力が失われる。

 足音によって発せられた衝撃波が波紋のように広がって物体ではね帰り、周囲の景色を見せてくれる。

 色褪せた360度の世界。

 みえた!あれだ!

 

 

 俺は後ろをちらりと見て熊が直線上に追いかけて来るのを確認。そして方向転換。川に向かって走った。

 

「はっはっはっはっ」

 

 作戦はある。だがこれを決めれるかと聞かれたら五割くらいとしか言えない。しかし

 

「やるしか……ない!」

 

 

 

 

 

 

 




次回 決着。そして召喚憑依のチート性能が分かります。


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【第四話】妖狐 白狼 火鳥

第四話です。


 走る、走る、川に向かって走る。邪な考えは一切とっぱらいただただ集中力を高めていく。

 

「はっはっはっ」

 

 耳にから入る熊の足音に一定の間隔を開け、走っていく。

 川まで目測約30メートル……20メートル……10。

 

 あと少しである。感覚が極限まで研ぎ澄まされているこの状態で失敗はできない。成功の可能性を高めろ、焦ってはだめだと自分に言い聞かせた。

 極限集中とはすごいもので周りの音が俺と熊以外消え、逆にその部分を鋭く感知できるようになった。

 

 もはや熊の心臓の音まで聞こえた時、俺はそれぞれの配置を確認し……川に向かって跳んだ。

 目の前にある、川を二分する岩に手をつき着地。反対岸に向かって勢いを殺さず再び跳ぶ。

 熊を見る必要はない。動きはもうすでに手に取るようにわかる。――――即ち未来予測ができる。

 

「《惑わす霧(ミラージュ・ミスト)》!!」

 

 川が俺を中心に吹き出した濃霧に包まれた。

 

「ガアアアアァァ……ボボボ」

 

 一瞬遅れて熊が水に拐われていく音が聞こえる。

 どうやら成功のようだ

 俺は手をパン!と鳴らし、音で空間把握したあと、華麗に着地する。

 

「フッ、我ながら上出来。さて、逃げるか」

 

 ――――がしかし身体は言うことを聞かずバタリと倒れた。

 

「ああ、そうそう、川の下流には滝があるんだったな。そこで死んでくれると有りがたいんだけど」

 

死亡フラグを残して。

 

 

 

  

 

 その後、意識が覚醒した俺はマジで洒落にならない筋肉痛を現在進行形で味わっている。

 なんとかして仰向けになる。その一つ一つの動作のたんびに腕が、腰が、身体全体が、悲鳴をあげた。そして――――

 

「――――つ……もう夜か」

 

 東京では決して見れないであろう満点の星空を目にした。

 

 

 消耗しすぎたのか、もう一度寝てしまいたいと言っている重い瞼をすり減った精神力で無理矢理持ち上げる。

 

 なにあともあれ生存できて良かったと思う。もう一度あの苦痛()を味わえと言われた気分であった。しかも今回は車じゃなく補食だ。もっと嫌。

 しかしまだ安心していい訳じゃない。やらなければならないことが沢山ある。主に安否確認とか?特にあの熊に対しての。

 

「オープン……」

 

 

 

======================

 

天城 優一

LV3 【15才】 

種族 人族(ヒューマン)

 

HP30/60

MP100/350

 

魔法適性【テトラ】

水 雷 風 時空間

 

固有スキル

【召喚憑依】『召獣載書』(ヴィヴリオ・マギア)

 

 

スキル

看破lv 2

偽装lv 3

神託lv error

知識本lv error

 

 

能力

 

 

 

称号

 

 

 

加護

世界神の加護

 

======================

 

「はは、あいつ死んだのか」

 

 ホッと息を吐く。

 俺は殺してないから間接的に殺しても経験値は入るのか。ひとつ学んだ。

 

 さて、ステータスの確認だ

 まずは、スキルの使い方だな。

 多分、先程のあれは召喚憑依ってやつだと思う。それ以外該当しそうなのが無いのがその証拠だ。しかもその性能はピカイチで応用までできるチート。

……しかし感覚的にやってたため、もう一度使用できなければ意味がない。

 

 とりあえず俺は固有スキルをタッチした。

 

======================

【召喚憑依】

あらゆる召喚獣を自身に憑依させその力を得る固有スキル。しかし普通の召喚獣と違い、スキルであるため意思はない。(契約は除く)また、召喚の仕方は自分の意思で召喚し憑依できる。スキルの止め方も同じ。

一体召喚憑依させるにつきMP30

 

ポイント50

 

======================

 

 胸を撫でおろす。どうやら制限などないようだ。

 

 

 

 続いて俺は『召獣載書』(ヴィヴリオ・マギア)をタッチする。

 

 

======================

『召獣載書』(ヴィヴリオ・マギア)

 

 

 憑依できる召喚獣

 

 

 

・妖狐(4/300)

固有【九尾覚醒】属性【幻影】

 

・白狼(0/300)

固有【神速】属性【凍結】

 

・火鳥(0/300)

固有【異常回復】属性【火炎】

 

======================

 

 これらを見るとどうやら俺は妖狐に憑依させたらしい。カッコ内の数値も妖狐以外0だから合ってるだろう。

 ……にしても召喚憑依ってチートだと思う。召喚憑依の説明を見る限りまだ召喚できる獣もいるだろうし、そいつらの固有スキル、属性も使えるのだ。しかも見たところどれも強力そうな。

 あと気になるのは召喚憑依させた時のステータス。こればかりは試さないとわからないので試す。

 先程と同様、妖狐でいく。幸いMPには問題ない。

 召喚というのは意思でできるため言葉にする必要はないだろうが、俺は初心者だ。分かりやすくするために言葉にする。

 

「召喚……妖狐」

 

 一瞬なにが起こったのか分からなかったが、身体の奥底から先程と同様、凄まじい力の濁流が流れてきて理解した。これすごいわ。

 

「もう変わったのか……」

 

 うおなんだこれ?頭の上に耳が生えてる?。お尻には尻尾が一本。……ふさふさだ……

 ――――っと感心してる暇はないなステータス確認しないと。

 

======================

 

 

天城 優一

LV3 【15才】 

種族 半人族(ハーフヒューマン) 半狐人族(ハーフビースト)

 

HP60/120

MP140/700

 

魔法適性【テトラ】

水 雷 風 時空間 (幻影)

 

固有スキル

【召喚憑依】『召獣載書』(ヴィヴリオ・マギア)

【九尾覚醒】『一尾解放』

 

スキル

看破lv 2 (4)

偽装lv 3 (6)

神託lv error (error)

知識本lv error (error)

(幻影付与lv1)

(音響世界lv5)

 

 

能力

 

 

 

 

称号

 

 

 

加護

世界神の加護

 

======================

 

「なんだこれ?すごいってもんじゃねえぞ?」

 

 ステータス上に【九尾覚醒】の欄が出てきたため、タッチする。さてさて何がどうなってるのか

 

======================

【九尾覚醒】

 身体能力だけでなく、魔力、スキルまでもがそれぞれ単純に高くなる固有スキル。 

 またこのスキルを発動させた状態で魔法を放てば元に戻ったときに魔力の節約となる。

======================

 

 これはまた、チートなスキルだ。あとは白狼と火鳥か、どんなものが待ってるやら。楽しみである。




 感想、アドバイス、誤字脱字報告待ってます。

 次回、えーと、街へ行きます。多分……


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【第五話】アオリスの門番は意地悪で有名

 多分前回より読みやすいと思います。私の思い込み違いでなければですが。


 妖狐を解除する。

 

「――――っ」

 

 思わず膝を付いた。

 これは注意だな、この脱力感はヤバイ、立てなくなる。戦闘中にでも起こったら怖い、一瞬でミンチだ。

 ……あと眠い。

 

 

 どうやら固有スキルにもデメリットがあるようで、俺の場合は眠気。妖狐の場合は脱力感。といった具合だ。 しかし、まだ決まった訳じゃないがどれも解除後であるため、対応の仕方はあると言えた。

 

 

 次は白狼だっけか、でも眠気がヤバイな。体調を考えて明日にした方が良いだろうか?

 でも夜中に襲われない可能性もなきにしもあらずだし、ああ、どうしよう。

 

 寝るとしても、俺にそんなサバイバル技術はないし。もっともサバイバルグッツも持っていない。水場が近く、というかすぐそこに川があるが一定以上離れた方がいいのか、離れない方がいいのかわかんねえ。

 一番良いのは、このまま下流に下っていって人里に降りるのだろうけど……いまの注意力が散漫している状態で襲われないで行けるかどうか。

 

 【神速】か……行けるか?いや無理だろう。いくら川の下流に街が栄えてる可能性があるからって、100%ではないのだ。もし、そうだったら今のところデメリットが動けなくなるしかない固有スキルで生き残れるか。という問題も。

 

 

 よく考えたら問題だらけだ。

 女神は近くに街があると言っていたがどの方角とは言っていない……方角?。

 ふと夜空を見上げる。……だめだ。一瞬平行世界だと思って期待したけど、あんなに月が大きいはずがない。

知っている星座の一つすら見つからなかった。

 

 熊のせいで忘れていたが、俺のおかれた状況はこうだ。

 

 森の中一人で遭難。勿論、異世界から来たため遭難届けすらも出ていない。いまいる場所の名称も知らず、この世界の言葉を話せるかどうかも分からず、周りには肉食獣……そして持ち札はイチかバチの賭けのみ。

 

 改めてみるとヤベェな俺、死ぬかも。何も分からずってガイドブック頼んだ意味が……待て。ガイドブック?

 俺は急いでステータスを確認する。

 

……ない……いやあるが、固有スキルばかりに気を取られて失念していた。

眠かったのもあるだろうが、『知識本lv error』『神託lv eroor』この二つは紛れもない特典だろう。

 この二つの内、知識本が今の状況を改善できそうだ。

 

「知識本……」

 

 思わず呟いた。すると目の前に突然本が出てきて、勝手にページがパラパラと捲れていく。というか浮いてるよこいつ。

 

「……止まったか」

 

 随分と長く捲れていったが、ついに止まり、見開きのページに絵が描かれていった。地図だ。中心に赤い点があり、そこから青い線が延びている。さらに緑が赤い点を囲い、北の方向に街の絵が描かれている。これは俺を中心とした地図だ。なんとなく分かった。

 一旦閉じて仕舞うよう目をつむりイメージする。……本は消えていた。もう一度出そうとするとすぐに出てきて地図をイメージするとさっきのページが開かれた。

 ハイスペックブックである。

 とりあえず目的地は分かった。行き方も分かった。後はここで夜を越すか、街まで歩くか、正直俺は寝たい、だが現実寝ては死ぬ。

 

 そんなことを思った瞬間本が捲れていき、一つのページで止まった。そこには絵とともに文章が書いており、

 

「なになに、すこし南の崖に土魔法で洞穴を掘り、柳の葉で隠すと幻影付与を掛け、周りの岩と同化させるように見せる。一日宿屋の完成。だと?」

 

 ここの近くに崖なんてあるのか、えーっと地図で南といったらこっちか……ってこっちはさっき熊を突き落とした滝壺がある方じゃないか。つまり崖ってあれか。

 流石にさっき殺した相手が眠るというか放置されている場所で寝るのは……ねぇ。

 ふとその時、森の中に二つの光る眼孔が見えた気がした。

 しかたない我慢するか。

 

◆◆◆◆◆◆

 

 翌朝、まだ日が昇り切ってない時間に俺は目覚め、ハイスペックブックを頼りに旅に出た。

 道中は、特に問題という問題もなくたまにでっかいいもむしの集団を見かけたくらいで無視し、歩き続けてきた俺は遂に街の影を捉えた。

 ハイスペックブックによると農業と商業が盛んなオアリスという王都とは遠い場所にある街だとか。

 

 ちなみにだが、ここでの俺の扱いは常識忘れの田舎者としようと思う。……それがテンプレというものだ。

 

 それから暫く歩きアオリスまでやって来た俺は……

 

 

「でけぇー」

 

 思ってた以上の外壁の大きさに嘆声をもらした。

 

 壁門に並んでいる人達の最後尾にならんだ。幸いそこまでの人数は居なくほどなくして順番が回って来そう。

……さて、なんて言おう?田舎者ですアオリスに買い物に来ました。じゃダメか?……いやダメだろ。

 

「次の人どうぞー」

 

 門番が俺を見ながら言う。

 

 えっ?ちょっと待って早すぎない!?まだ決まって無いんだけど!

 えっと、えっと……

「お、俺は田舎者で優一と――――」

 

「ロスワルド商会の者です。ここの領主に商談がありまして」

 

 横の人でした。男の人は名刺らしき紙を門番に見せると、直ぐに通されて街の中に消えていった。

 

 クスクス……

 

 周りから笑い声が聞こえる……どうしよう、穴があったら入りたい。

 

 勘違いを起こした俺は相当田舎者に見えたようで、どこの村の出身ボク?とかムカつく質問をされた。だから、ハイスペックブックを駆使し辻褄が合うように全ての質問に答え、門番の前に立った。

 おそらく俺の顔は恥ずかしさ八割、疲れ二割で赤面してる。

 

「大丈夫か?」

 

 心配してくる門番の人の顔がにやけてる。こいつ確信犯だ。

 

「あなたのせいで、この通りですよこのやろう」

 

「おやおや、人が心配してあげているのに、その態度とは先が思いやられるな少年」

 

顔、隠し通せてないぞ。ウゼェ……

 

「ちっ。冒険者になりに来ました」

 

「そうか、どうせ田舎者だから身分証なんて持ってないんだろう?これ、登録料な、ほら通っていいぞ」

 

 門番が俺の右手に銀貨を握らせ街を指差す。なんだろう、この負けた感は。全て見透かされていたし周りも慣れてるようで我関せずだ。

 ……とりあえず街に入ろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 街の中は、わいわいと活気が溢れていて、猫耳の獣人や犬耳の獣人、はてにはドラゴニュートと呼ばれる竜人が売り買いをしたり、噴水のある広場で子供たちが、鬼ごっこをしていたりする。

 住人と馬車に乗った商人との楽しそうな談笑も聞こえてきた。

 鎧を着ているガタイの良い人達は数人のグループで酒を片手につまみを食べている。おそらく傭兵か何かだろうが、雰囲気が良いことには違いない。

 

 

 

 これだよこれ!俺が剣と魔法の世界に気付いて求めていたものは。

 決して神様のくせして口調が悪い女神とか、召喚された瞬間に戦闘が始まるとか、街に来たら門番にバカにされるのは違うんだ。そう!これから始まるんだよ俺の異世界生活は。

 

「邪魔だぞおめぇ!どこ見て歩いてたんだ!?」

 

あっすいません。いま退きます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想、評価くれると嬉しいです。

次回、遂に冒険者に……


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【第六話】受付は美人が良かったなあ

お気に入り10件突破ありがとうございます!
それからサブタイトルを色々変えました。混乱する方がいらっしゃたら申し訳ありません。尚、内容に変化は御座いません。


 鉄で出来た剣が交差している看板を前に、俺は二度三度大きく深呼吸して足を踏み出した。

 

 冒険者ギルド、それは異世界転移モノの最高度のテンプレにして、迷宮に入り一攫千金を狙ったり、秘境を目指して旅をする旅人だったりと、目的はそれぞれ違うが誰もが一度は夢見るまさにファンタジーな場所である。

 そして、このアオリスの冒険者ギルドは他のギルドと比べて荒くれ者が少なく、みんながみんな仲良しである。その確固たる理由は勿論、支部長の手腕もあるが、一番は、その受付のせいなのだ。

 俺的にはそれは無いだろうと言いたい。とても言いたい。……受付は、

 

 

「お客さ~ん、登録したいのはわかるけどねぇ~この規約書に十五歳以上ってかいてあるのよ~、あなたどう見ても十三歳くらいかそれ以下でしょ~、いかなる理由があろうともねえ~ダメなのはダメなのよ~」

 

 などと言う勘違いをおこして頬に十字の傷がある、まさに歴戦を潜ってきましたというムッキムキ女ではいけないのだ。

 わかるか?今の気持ち、なんかこう裏切られた感じが。こんな女、前にしたら荒くれ者も凄むわ、そんな貫禄がある。

 

「………十五歳です」

 

「あらそうなの~ごめんなさいねぇ~勘違いしちゃてぇ~じゃあこの契約書にサインとぉ~冒険者カードを作るからこの水晶に手をかざしてねぇ~」

 

 ムキムキ女は白い紙と羽ペンを机の上に出すと今度は座布団とその上に大きめな水晶を一つ机に置いた。

 あれだな、こいつが持つとペンが小さく見えるな。ペンが小さいのか、こいつの手が大きいのか。

 多分こ…………やめておこう。これ以上言ったらヤバそうな殺気が飛んできたので。

 

 それにしてもこの水晶はなんだろうか?一見普通の水晶玉のようだけど。

 

「この水晶はねぇ~ステータスっていう、魔力やスキルが書いてあるものなんだけど、それを知ることができるのぉ~だからほらさっさと手を乗っけちゃってぇ~」

 

 言い方的にこの世界の人達は自力でステータスを見れないのか?そう思いながら契約書にサインし、水晶に手をかざすと、今度はさっきの間延びした話し方ではない真剣な顔つきになった女が

 

「少年、ちょっと悪いようだけど私に付いてきてくれるかな?」

 

 と、言ってきた。

 いきなりの変わり様に驚く俺を余所に、女は受付を離れ、奥に行ったかと思ったら直ぐに戻ってきて。

 

「待たせたね。今、他の者にここを頼んで来た。それじゃあ行こうかい」

 

 と言った。

 

 どうやら目的の場所は二階らしいが、その際に見た光景を俺は忘れない。

 

 

…………交代させられた子。美人だった。ちくしょう!

 

 

 そして通されたのは明らかに雰囲気が固い支部長の部屋。

 赤く長いストレートの髪をたなびかせ、窓際に立っていた彼女は俺の方を見ると……

 

「その者が件の新人か?」

 

 ムキムキ女に確かめた。

 その後、『君は退出してくれ、個人的に話しがあるんだ』と女を部屋から追い出した彼女は、俺の方に向き直る。

 その鋭い眼光に俺は生唾を飲み込んだ。

 

「そう緊張するな、少し相談があるのだ。そこに座ってくれ」

 

 彼女が顎で指したソファーは、かなり高そうで一瞬気が引けた。が勇気を出して座った。

 そして彼女も対面に座る。

 

「それで、なんでしょうか?」

 

 多分だけど固有スキルのことか、それとも……

 

「そう焦るな、まずは自己紹介といこう。私はクレア=ティファーレ、このギルドの支部長をやっている。よろしく頼む」

 そして握手を求めてきた。

 そうだな焦ってはいけない。俺は支……ティファーレさんの手を握り返すと返事をする。

 

「私は天城優一です。それとえーっと……」

 

 やばい、これ以上の自己紹介が出来ない。此処に来てコミュ障が発動するとは……

 

「ああ、話したくない内容ならそれでいい」

 

 よかった……勘違いしてくれたようだ。

 いや、良くないな、改善しなければ。

 そもそも、このコミュ障は昔俺が気弱だったのがいけなかったんだ。この世界でも気弱なままいてなるものか。そうと決まれば、ここで挽回しよう。

 

「いえ、言います。少し家事が得意です」

 

「……お、おう、そうか」

 

 ティファーレの顔が盛大にひきつる。

 

……………やっちまったああ!よく考えりゃ家事が得意な冒険者なんてそうそういないよ!

 しかも自分は、話したくない内容だと思ってたのに(家事が得意です)という、女子か!ってくらいの自己紹介されて、答え方に困るのは仕方ないよな。ごめんなさい!

 

「ま、まあ?家事が出来て悪いことは無いんだしいいんじゃないか?」

 

 ここで、相手に気を使わせるという痛恨のミス。

……………オレモウシャベンナイ。いやいやいや気をとり直せ、本題を忘れるな。

 

「ありがとうございます。ごほん、それで相談というのは?」

 

「ああそうだつたな、実は君は固有スキル保持者だろう?」

 

「まあ、はいそうですが。それがどうかしました?」

 

「……やはり、気付いてないか……」

 

 一体なんの話だ?固有スキルと聞かれるのは分かっていたからそれほど驚いていないだけだが。

 

「一万人に一人……これがなんの確率か分かるか?」

 

 ティファーレはこちらを見定めるような視線で言ってきた。それは、これでわかるだろ?と言ってるようで、必死に考えさせられた。

 

 

 一万人に一人………………?

 あっまさか!

 

「オッドアイ!?」

 

「違う!」

 

 えー違うの。じゃあなんだろ?

 

「君はきっと天然なんだ。そうに違いない………この確率は固有スキル保持者の確率だ」

 

 ………固有スキルの?ふーん

 で?である。

 

「へぇ意外と少ないんですね」

 

「……よくそんな反応が出来るな」

 

 なんだ?だめだったのか?それほど驚くことじゃないだろうし。

 

「いや、驚くから普通……まあ、とりあえず君が固有スキルの重要性を理解するのは後にして」

 

 と、ティファーレは両手で箱を持つような仕草をして横に置くと一瞬にして真面目な顔になった。

 

「問題なのはこの街に固有スキル保持者が二人いることなんだ。勿論、君ともう一人、ね」

 

「固有スキル保持者は少ないんじゃ」

 

「そう、少ないさ。だからだ。だから彼女は孤立してしまったんだ」

 

 ティファーレは少し悲しげな顔をして話始める。

 

 

 

「……やはり固有スキルが目立つためパーティで重宝されていたが、浮きやすく、パーティを辞めてしまったそうなんだ。だから自分ではない固有スキル保持者がいた場合連絡してほしいとね。パーティを組んでみたいそうだ。どうだろうか?」

 

「どうと、言われましても会ったことが無いようじゃ……自分的にはもっと親しい人となりたいので」

 

 

 一応は優しく断ったつもりである。

 そもそも俺と組むのは良くない選択だ。自分で言うのもあれだけど、未だスキルを使いこなせていないのだ。 だから人に迷惑をかけてしまうため少しソロで活動しようと考えてたのにこの展開。

 すこし早すぎやしませんかね?

 

「大丈夫だ。彼女はもう来ている。これから面会してそして、そこで君が決めればいい。」

 

 おおっと。これはまた急展開。どうやら彼女は来てしまったらしい。どうしよう

 

「私がそれらしき新人がいると伝えたら、すぐ来たんだ」

 

 お前か!?

 

「とりあえず、入って貰おうか」

 

 俺の放ったツッコミを華麗にかわすとティファーレはパンパンと手をならし……

 すると支部長室のギイとひらいていった。

 

「失礼します」

 

 入って来たのは…………って

 

「あなたですか!?」

 

「へっ?ん?あっ、あなたは!」

 

 なんと俺の知り合いだった。

 

「どうした?知り合いか?」

 

「まぁ、そうですかね」




次回 道端ではこんなことがあった。


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【第七話】冒険者なる前に仲間ができた(仮)だけど

 外壁を離れ、賑わう人混みの中を地図を頼りに縫うように進んでいった。

 

 それにしても、どこもかしこもお祭り騒ぎである。もう少し静かに暮らせないのか、マジ鬱陶しいわ

 

 俺は手に持ったハイスペックブックに目を走らせた。

 アオリスの街情報その一、はじめは此処に来てよかったと、思える場所だが、住民がハイテンションすぎてすぐ引くことになる。

 

 ハイスヘックブックにはこう書いてある。成る程、よくわかった。

 それにしても、ハイスペックブックは気が利く。本来の名前、知識本なんてのもあるだろうが、ふと、疑問に思ったことをすぐさま検索?してくれてるのか、直ぐに答えが表示されるのはこの世界では異常なことだろう。これがあったら自堕落な生活も夢じゃないぜ。

 先生が聞いたらすぐやめなさい。と言われそうな夢を抱えそうになったところで誰かとぶつかりそうになった。

 

「キァ!」

 ……っと危ねえ

 

「大丈夫ですか?」

 

 しかし彼女はバランスを崩してしまったらしく手に持った荷物を落としていた。

 

 

「手伝いますよ」

 

 手伝いながら思考を開始する。勿論アオリスについてだ。ハイスペックブックは今は使えないから、自前の脳みそで、だけど、

 

 少々どころか異常とも言えるこのハイテンションは一体どこから来たのかというと、それは祭りの数が問題だ。

 月に平均八回……異常だろ?そして前夜祭を入れるとあら不思議、一月の半数以上が祭りなのである。

 さらに、連日行われる祭りもあるので……まあつまり、はた迷惑な話なわけだ。……っとこれでラストか。

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとうございます!」

 

 そう言って彼女は満笑な笑みを浮かべて急ぐように帰っていった。

 そうそう、彼女の荷物を拾った理由は、罪悪感でも親切心でもないぞ、単に美少女だったからだ。それじゃなきゃ無視する。

◆◆◆◆◆◆

 

「っとこれが俺と彼女が知り合いである理由ですかね」

 

 俺はテーブルに置かれたジュースを飲んでからそういった。ジュースなのは気にしちゃダメだ。

 

「成る程、で、君は彼女とパーティーを組んでくれるのかね?」

 

 おいこら、感想もなにもないのかよ。それから、彼女の顔を見ながら言うんじゃない。ここで断ったら気まずいじゃないか。この打算野郎。

 

「私としては、組んでくれると助かります」

 

 そしてそこの女、こっちをチラチラ見ながら言うな。

俺はそんなのには釣られないぜ。

 それにしても皆さん大事なことが抜けてますよ。さも当たり前の様に会話してるが、

 

「とりあえず、組むか組まないかの前に名前……教えて貰っていいですか?」

 

 名前知りません。

 

「ああ!申し訳ありません。私シルロット=グレイスと言います。今後ともよろしくお願いします」

 

 このアマわかって言ってるのだろうか?何故俺がパーティー組む前提のように言ってるんだ?もしかしてお世辞かもしれないが、そもそも人見知りな俺が他人に声を掛けるかっつの、だから断ったら今後はなし!

 

「まだ、パーティー組むかなんて決めてないので今後があるかは態度次第です」

 

「ええ!?組んでくれないのですか!?」

 

 見ず知らずの奴とそんな簡単に組める訳無いだろ!……といってやりたいが、さすがにキツい言い方なので優しくその節を伝えたら、ティファーレさんが、そういう事には気付くんだな。とか呟いていた。

 あいにく、かつて俺の唯一の友人が『お前、人を疑いすぎだろ』とか言っていたくらい、俺は人間不信であるのでな。

 

「では試しに、というのはどうですか?」

 

 グレイスさんが、よくありそうな提案をしてきた。

 試しに、か……思い出したくない記憶が甦る。

 

 放課後の教室、そこには俺と、一人の女子が赤面して佇んでいた。

 

『優一くん、これ……受け取ってください!』

 

 俺は、好きであった女子からのラブレターを貰い有頂天になっていて、まるで周りが見えてなかったんだ。

 急いで家に帰り封を開けると、

『(優一くんへ、………ぷぷぷばっかじゃないの。私がお前なんかにラブレターなんか書くわけないでしよ。試しに書いてみたけど、本当にひっかかるなんてマジうける。)』

って、書いてあって、その後にもつらつらと長い辛辣な言葉がつらなっていた。

 翌朝、学校に行くと何故か俺を見て笑い声が起こり、それで全てを理解することになった。

 あいつ、いやあのとき後ろにいたあいつら含めて俺をはめやがったのだ。

 

 俺は、その脳裏に映された暗い過去の映像をかき消すかのように頭を振ると、何を勘違いしたのかグレイスが悲しそうにうつむいた。

 

「お前、そこまで強く否定しなくてもいいだろうに」

 

「ああ、違いますよ、少し思い出したくない記憶が甦りましてね。……仮パーティーという意見には賛成です」

 

 少しの動作でも人柄が読み取れるし、なおかつ、俺がまだ足手まといなはずなので、それに対してどう反応するか、というのにもその人の性格が読み取れる。仮パーティーというのは、合理的に見てとても良い案なのだ。

デメリットも少ないし、

 

「本当ですか!?」

 

「はい」

 

「やったぁ!」

 

 何故ここまで喜ぶ?意味が分かんない。

 そんな、俺の心情を察したのかティファーレさんが、

 

「彼女だって一人だと寂しいんだよ、君だって一人はいやだろう?」

 

と、聞いてきた。確かにそうかもしれない。

 俺も常に一人だったが、あいつが友達になってくれてからは、あいつと会う度に気分が高揚していた。

 グレイスさんもきっとそんな気持ちなのかもしれない。似てるのかな……俺。

 

「まあ、そうですね。じゃあよろしくお願いします。グレイスさん」

 

 支部長室ではしゃいでるグレイスさんと握手をした。

 

◆◆◆◆◆◆

 

 俺とグレイスさんはギルドの一階に降り、ギルドの居酒屋に移動して、俺のギルドカードが出来上がるまで食事をしようということになった。

 俺もこの世界では成人を越えている……という設定(本当は14才)なので、一応酒は飲んで良いのだが、何しろ日本では20才まで飲酒禁止だったのと、それに肝臓を壊したら、冒険者生活が続けることができないのとで、飲むのは止めておいた。

 

 俺は顔を向けずに視線だけを横に向ける。

 

「思いっきりのんでやがる、大丈夫か……こいつ」

 

 もう既に酒瓶三つは開けている。だが、一向に止まる気配はない。そんなグレイスさんを周りは引いて、

 

「ぷはぁああ!」

「オオオオオ!スゲェぞ、このねぇちゃん」

「「 ワアアアアアア!!」」

 

いないな、うん。

 金、しっかり払えよ。俺は払えないからな。




 主人公、ついにヒロインと出会う。
次回グレイスと優一は、初の依頼を請ける。そして彼女の固有スキル公開!

習慣ランキング13位に入ってました。ありがとうございます!
 まだまだ拙い文ですが、みがいていこうとおもいます。これからもよろしくお願いします。
お気に入り、批評などしてくれたら嬉しいです
 
 


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【第八話】冒険者生活、始めから借金地獄となりました

どーもシキです。
久しぶりにお気に入りをみたら24件!
ありがとうございます。


 俺は、キルドの受付からギルドカードを貰い、その内容を見て唖然とした。

 

「借金……16万ルピ」

 

 それは確か、グレイスさんの飲んだ酒代に匹敵しており、もはやそれしかないほど値が同じである。

 つまり、あいつの所持金はゼロに等しいことと、あいつが飲んだ物は俺が支払わなければならないことを表していて、とりあえず俺はあいつとはパーティー解消しようと心に決めた。

 それにしてもあいつはどれだけ飲んだのか、酒だけで16万ルピとは、簡単にいえば160万円である。

 金貨一枚  10000ルピ=十万円

 銀貨一枚   1000ルピ=一万円

 小銀貨一枚  500ルピ=五千円

 銅貨一枚   100ルピ=千円

 小銅貨一枚  10ルピ=百円

 

 この世界のお金の単位である、これを見ればわかるだろうが、返済には金貨16枚必要なようだ。

 

 あいつ今、どこにいやがる。ぶっ飛ばしてやる。

 

 この世界に来て憧れの冒険者やれると思ったら中古車相当の借金負わされるなんてありえるだろうか?

 ないだろう、少なくとも俺は知らない。

 飲んだ酒の種類は、知りたくない。

 

 とりあえず金を稼いで返さねば、ギルドから除名されかねない。

 俺はそう思い、殺気を撒き散らしながら依頼ボードの方へ向かう。不思議と道は開けていた。

 

 

 

 

「えーっと確かFランクの冒険者が受けられる依頼は、と」

 

 迷子の犬探し報酬百ルピ、家のお手伝い報酬五十ルピ、などなど、まともに稼げそうなのがない。

 Fランクである今はその一つ上、Eランクまでの依頼しか受けられない。

 しかしそのランクでさえ、ゴブリン五体討伐、最高報酬千ルピのしかない。

 

「ははは、これは早急にランク上げが必須だな」

 

 もはや乾いた笑いが漏れてしまうほど俺は悲しい現実にうちひしがれていた。

 

 とりあえず、グレイスさんの実力に期待してゴブリン討伐を選んだ。

 

 受付は、その貫禄に並ぶ者の少ない女……ムキムキ女のところに並ぶ。

 

 

「あのねえ~いくら実力に自信あるからってねぇ~いきなりLV3がゴブリンを選んじゃいけないよぉ」

 

 ムキムキ女は間延びした声で、呆れた様に注意をしてきた。

 当たり前だ、実はそれぞれの依頼には推奨LVが書かれており、その内容によればゴブリンの安全討伐はLV10からである。

 

「まあ、今回はシルちゃんがいるから認めて上げるけどぉ次からはしっかり自分に合った依頼をうけてねえ~……はい」

 

 ムキムキ女が受注済と掘られたハンコを押して依頼書を渡してきた。

 

「ありがとうございます。次からは気を付けます」

 

 依頼書を受け取り、謝る時の定型文「次からは気を付けます」を使った俺は、酒場にまだ居すわっているグレイスさんを見つけて連れだしに向かう。

 あいつは、まだ借金を増やすつもりじゃないだろうな、それが理由でパーティーを追われたんじゃと疑問を浮かべて。

 

 

 

「おい貴様、まさかそれはシュワールじゃないだろうな?」

 

「あい?そうでしゅよ?よくわかりましゅたねボクー」

 

 殴っていいだろうか。こいつ一本、二万ルピもする高級酒を飲んでやがった。

 俺は顔を真っ赤にして拳を振り上げる。

 

「こいつがいなければ俺は今頃っ……」

 

「まてまてまてボクちゃん。こいつの酒代は俺が払うから頼むから、それ降ろしてくれ」

 

すると、焦ったように隣にいたイカツイ男の冒険者があくまでその酒を指差し止めてきた。

 

「止めないでくれ、こいつは、こいつは……俺に借金16万ルピ負わせたくせにまだ……!クソッ」

 

 ドン!と思いっきり机に拳をおろすとふぅと息を吐き、酒場のおばちゃんに氷水を二杯頼んだ。とりあえず落ち着け俺。

 

「あんた、苦労してんねぇ」

 

 優しいおばちゃんは机を叩いたことを怒りもせず、同情してくれた。俺は涙目になりながら、まずは自分の熱を冷やすために一杯飲み、残りは……

 

「これで、目ぇさましやがれぇええ!」

 

「ひゃあああ!!」

 

こいつの背中に流し込んだ。

 もう俺はこいつには容赦をしないと決めた瞬間であった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 一般的にはよく初心者の森と呼ばれる場所がある。

 そこには、ゴブリンやコボルトといった比較的に弱い魔物の生態系が築かれており、冒険者からしたら、LVもあまり上がらない、珍しい薬草も生えていないで不人気だが、初心者からしたらまさに宝の山とも言える。普通の薬草の群生地とコンビネーションが執れていない魔物の群れで稼ぎ易い場所なのだ。

 

 そして、そんなところに俺たちは来ていた。グレイスさんは、服を着替えあまり装備を着けずに来ている。

 本人曰く、この程度の森で本気でやる必要はないのだとか……頼もしいかぎりだが、少し無用心である。

 かという俺は、装備もない丸腰なのだが。

 

「そういえば、グレイスさんはLVいくつ何ですか?」

「私?うーん……34だね。最近確認してなかったけど3つ上がってた」

 

 仮パーティーを組んでからと言うものグレイスさんは敬語ではなくなった。仮にもパーティーなんだから、気楽に行こう。と言ってた。

 

「っと薬草ですね」

 

 俺は年上には敬語というしっかりとした教育を受けているので、たまに爆発することもあるが、基本敬語だ。

 木の根本らへんに生えていた薬草を摘むとグレイスさんが不思議そうに聞いてきた。

 

「さっきから思ったんだけど、なんで薬草なんか摘んでるの?これゴブリン討伐でしょ?」

「あなたのせいですよ!」

 

 即答してやった。

 誰のせいだと思ってんだ。これでホントに18才かよ。無責任女め。

 

「そうなの、ふーん」

 

……ダメだこいつ……

 

 先程一方的に確認したが、彼女のステータスはこうだ。

 

======================

シルロット=グレイス 【18才】

LV34 【18才】

種族 人族(ヒューマン)

HP680/680

MP1430/1430

 

魔法適性【トリトン】

水 風 回復

 

固有スキル

【白癒】『自動回復』『対象変更』

 

スキル

剣技LV3

槍技LV4

偽装LV1

鑑定LV6

身体強化LV3

 

能力

魔力操作LV5

剣士LV4

槍士LV5

家事LV1

料理LV1

風魔法LV3

水魔法LV2

回復魔法LV5

 

称号

 

回復士 酒豪 剣士 槍士 

======================

 

一応、偽装で隠蔽されているためLVを聞いておいたが、ここまで凄いとは思わなかった。

 因みに偽装は俺の看破の方がLVが高かったため、見抜けた。

 これを見る限り、少なくとも俺とグレイスさんの違いがわかると思う。

 

 

======================

 

天城 優一

LV3 【15才】 

種族 人族(ヒューマン)

 

 

HP60/60

MP350/350

 

魔法適性【テトラ】

水 雷 風 時空間

 

固有スキル

【召喚憑依】『召獣載書』

ヴィヴリオ・マギア

 

 

 

スキル

看破lv 2

偽装lv 3

神託lv error

知識本lv error

 

 

能力

 

 

 

称号

 

 

 

加護

世界神の加護

 

======================

 

 すっけすけである。

 能力とは、その人の技量。スキルとは、特殊能力だ。つまり俺は技量ゼロ、完全に特殊能力に頼る形になってしまっている。

 前回、一度だけ水魔法と幻影付与をあわせて使ったがそれだけでは技量として判断されなかった。まだまだ努力が足りない。しかもあれは感覚でやってたし。

 それに折角珍しい属性、時空間があるのだ。早く使えるようになりたいな。

 そんな時には先輩に聞くのが一番だ。

 

「グレイスさんはどうやって魔法を使ったりするんですか?」

 

「私はね、体にある保有属性の魔力を集めてそれにイメージを被せるでしょ、そしてドーンって感じかな」

 

「なるほど、体の中の魔力か……因みにどうやって集めるんですか?」

 

「うーん……こうギュッとする」

 

「ふんふん、で…具体的には?」

 

「え?だからこうギュッと」

 

「………」

 

 あれだな、もうこの人を頼りにしてはいけないな。

 

 俺は、無言でハイスペックブックを取りだし、自分から白紙のページを捲り始めた。

 

「へぇー、何それ……本?」

 

「はい、馬鹿には何も見えない魔導書です」

 

「……本当だね、って今私馬鹿なの!?」

 

「アアー…ソウミタイデスネ」

 

 本に馬鹿認定されたと、こいつが落ち込んでいる間に“魔法の使い方”と念じる。

 本が自動に捲れ、文字が浮かび上がった。

 

 

 




 苦労する年下主人公、迷惑すぎるヒロイン。
さてさてどうなるのか。
次回、ゴブゴブ……

 訂正、サブタイトルが長すぎるので変えました


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【第九話】ゴブリンの襲撃!

 申し訳ありませんが、今後の展開のため大幅に修正させて頂きました。5/2


 ♪~♪~

 初心者の森を陽気な口笛で突き進むグレイスさんと、たまに薬草の群生地を見つけては摘みとり、黙々と本を読み続ける俺。

 先程から警戒をしているが一向に出てくる気配のないゴブリンやコボルト。

 今は魔法習得のため出てきて欲しくなく逆にありがたく思っていたが、あまりにも不自然である。

 

 俺は一度本を閉じ、脇に抱えると前を見据えた。

 

「出てきませんね」

「そうだね、どうしたのかな」

 

 グレイスさんも神妙な面持ちになり辺りを見渡す。

音響世界なら見つけられるだろうか、しかし、半妖狐になる必要がある。

 

「ちょっと俺。トイレ行っていいですか?」

「トイレ?いいよ」

 

 少し獣道を離れ林の中へ入っていった。

 

 

 

「ここら辺でいいか……妖狐」

 

 一瞬の後、体の底から何かが這い上がって胸にそれが蓄積されていくのを感じる。以前より鮮明に。

 本に書いてあった魔力とは体の丁度、肺にたまっていた。

 

「これが……」

 

 俺は手をにぎにぎさせ、胸に手を当てる。

……まだ、違和感は残ってる

なんとか移動させ、意識下で魔法を発動させられたらと思った。感覚は掴んだ。あとはコントロールするだけ、

 

「………っと今はそれどころじゃないんだった」

 

 俺は急いで音響世界を発動させると頭の中に新しい3Dの地図が出来上がって、半径100M程で止まった。

 

「!っこれはヤバい」

 

 百に下らないかという生物反応。それは俺たちを中心に均等間隔で囲むように広がっており全てがここからは視認出来ない位置にいた。

 

 

 俺は頭に耳、お尻に尻尾が生えてることなんて気にせずにグレイスさんの元へ急ぐ。

 

 音響世界によればまだ攻撃らしきものはされていない。無事である。しかし、だからと言って、ゆっくり戻っていいわけじゃない。迅速にかつ、冷静にと自分に言い聞かせて戻った。

 

「グレイスさん!」

「どうしたの……ってなにそれ可愛い!」

「可愛い?…………っとそんなことよりも囲われています!」

 

 俺は状況を伝え、これからどうすべきかを求めた。

 

「そうだね、とりあえず逃げる事だけを考えて、その策を練ることだよ。焦っちゃいけない」

 

 おお、頼りになる。

 

「で、その策とは?」

「え?」

「いやだからその策はどう考えても、この危機的な状況だとグレイスさんが考えるのが妥当だと。そうですよね」

「え、うん、まぁ……そうだね……どうしよう?」

 

 一瞬にして俺の頭は、こいつ!となっていたが、気付くかなかった責任は両方にあるので息を吐いて自分をおちつかせた。

 

 そしてグレイスさんは、何やら良い案を思い付いたように手のひらに拳をポンと当てる。

 

「思い付きました?」

「いや、そうじゃなくてね。こういうときこそ。冒険者としてどう動くかが大事になるから初心者である君が考えて、私が採点してあげよう。うん」

 

 どうやら正論っぽいことを言って、俺に押し付けたいだけのようだ。

……殴っていいかな

 …………こうなったらあれだな、うん。俺に任せたことを後悔するが良い。

 

「そうですね……逃げるの…止めましょうか倒しちゃいましょう」

「え?ちょ、え?」

「じゃ、頼みました。俺は遠距離から、グレイスさんは近距離で」

 

 そう言って俺は返事をする時間を作らず走り出した。次第に状況が理解できてきた(遅すぎだけど)グレイスさんは、はああああ!?と言って餌にされたことに気付く。

 

 俺は直ぐにグレイスさんの視界から外れると、木に上った。そして周りを見渡しながらハイスペックブックを取り出す。

 

「ここまで来ると大丈夫かな、ゴブリンは木にのぼれないしコボルトは犬だし」

 

 気になるジャイアントベアーという以前俺を襲ってきた熊はここには居ない。

 

「そもそもあいつ推奨LV35だし、よく生きてたな俺」

 

 俺は大勢のゴブリンたちを見下ろせる高さまで上ると下を見た。

 

「さてさてどうなってんのか」

 

 地上十数メートル、思った以上に足場が不安定で怖いが、あいつを懲らしめれると思うとまだ我慢できる高さである。

 

 立ち回る小さな影は短剣を片手に孤軍奮闘していた。

右から迫るゴブリンを切り付け、後ろから降り下ろされる棍棒を半身をずらしてかわし、首を斬る。そして囲われないよう移動しながらゴブリンに飛び掛かっていた。

 だが、度々短剣が届かないことがある。短剣が合っていないのだ。そのため体力を消耗し額には汗が滲んでいる。その表情からは焦りが見えていた。

 

「ふっ、罰が当たったな……さて、ゴブリンの生態」

 

 ハイスペックブックがぺらぺらと捲れていく、そしてとまった。次第に文字がにじむように浮き出てきて知りたい情報を載せていく。

 

「………弱点は火か、あいつの出番だな」

 

 俺はグレイスさんに目を戻した。

 

 いくらLV34ともいえど百体以上を相手に善戦するのは難しい。

 それに丸腰といって良い程の身なりだ。体力が尽きるのは時間の問題だろう。

 自動回復というスキルも気になったが、それも追い付いてない様子。そして身体強化というスキルを持ってる癖に焦って発動すらさせることが出来ていない。

 

 俺はゴブリンの残数が半分程になったところで救いに行くつもりだ。

 グレイスさんは、必死になりながらも奮闘している。

 剣は合ってないが流れるような身のこなしで次々とゴブリンを倒していった。だが、ようやく半分というところで膝をついてしまった。

 

「そろそろいいかな、あいつも反省したろ……火鳥」

 

 瞬間、体中にあふれていた魔力がふっとなくなり、今度は全身が赤い炎に包まれ体に吸い込まれるように消え、背中に炎翼が形成される。

 すかさずステータスをチェックした。

 

======================

 

 

天城 優一

LV3 【15才】 

種族 半人族(ハーフヒューマン)半鳥人族(ハーフビースト)

 

 

HP60/60

MP320/350

 

魔法適性【テトラ】

水 雷 風 時空間 (火炎)

 

固有スキル

【召喚憑依】『召獣載書』(ヴィヴリオ・マギア)

 

【異常回復】『常時回復』

 

スキル

看破lv 2

偽装lv 3

神託lv error

知識本lv error

(纏炎lv4)

(火炎の息吹lv7)

 

能力

飛行lv5

 

 

称号

 

 

 

加護

世界神の加護

 

======================

 

 

 

======================

纏炎lv5

 

 炎を自分に纏うスキル。形を変えたり、出力を変えたりは術者次第。レベルにより扱い易さが変わる。

 

======================

 

======================

火炎の息吹lv7

 

 火竜の使うブレスと同等の威力を誇るスキル。極めればそこら一帯を火の海にすることも可能。レベルによって威力と使用する魔力が変わる。

 

======================

 

 俺はさっそく纏炎を使用し全身が火に包まれる。目をつむる。遠距離からの射撃は銃の方が良いのだが構造がわからないため、頭の中で弓矢をイメージしていく。

 身体中の熱気が二ヶ所に別れ、ひとつは弧を描きながら弓の形に、もうひとつは腰の辺りに大量の熱量を感じた。

目を開ける。

 

 腰から矢を取り出すと弓につがえる。

 大きく息を吸いゆっくりと吐き、集中していく。

 

 

 グレイスさんの丁度真後ろにいるゴブリンが棍棒を振り上げた。

 

「今っ!」

 

 ヒュっと一本の火矢が空気を貫きゴブリンの脳天に突き刺ささる。それが棍棒へと触れ燃え上がった。

 

「まだまだぁっ!」

 

 意表を突かれて動きを止めているゴブリンを狙いどんどん矢を撃っていく。矢は面白い程当たっていった。

 ゴブリンのよく燃える腰布に狙いを変える。

 

……俺が時間稼ぎをしている内にグレイスさんはかなり回復して動けるようになっていた。

 立ち上がり、もがいているゴブリンを一瞥して走り出す。次々と動けなくなったゴブリンを切り殺し、ようやくゴブリンの数が一桁になった時、それは現れた。

 

 




  



 

次回 ゴブリン襲撃2

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【第十話】ゴブリンの襲撃!2

 本編の前に謝罪を。
 一ヶ月もお待たせしてしまい申し訳ありませんでした。
 おこがましいと思いますが言い訳としては……正直に言いますと、他の作品を読んでおりました。



 ゴブリン

 身長約120cm体重約45kg

 全身緑色をしていて手には棍棒、腰に布を巻いている頭の良い魔物。その頭脳は集団で暮らし、パーテイを組んで獲物を捕らえるほど。

 しかし個としての力は魔物の中でも最下位に位置し、単体で戦ったら初心者冒険者と互角である。また弱点が多く、斬撃、打撃、魔法攻撃のどれにも強い耐性を持っていない。なかでも火に弱く、初級とされているファイヤーボールひとつで命を落とすこともある。

 

 これがさっき見たゴブリンの生態だ。しかしこいつはなんだ?

 姿、形はそっくりだけど、大きさと色が違う。赤黒い肌に2mを優に越える身長、手に持つ棍棒はもはや木の幹かというほどだ。それがグレイスさんの前に堂々とたっている。

 グレイスさんは恐怖で固まっていた。

 

 俺がさっきから撃っている火矢もいにもかえさず悠々とたたずんでいてる。

 そいつは大きく腕を振りかぶると、ゆっくりと降り下ろして______

 

「避けろぉぉぉぉおおお!!」

「……ッ!」

 

 咄嗟に出た声に正気を取り戻したグレイスさんが横に跳ぶのを見るとニヤリと笑う。

 

ゾクリ

 

 獲物、というより玩具。弄ぶかのようにわざとらしく、ゆっくり、降ろしたと言っても良い程のそれは地面に深くめり込んでいる。それほどの筋力。

 

 だから、ただ、笑っただけ、それなのに、それだけなのに……差がわかってしまった。

 

 

 

「クソッ!『濃い霧(ディープ・ミスト)』」

 

 瞬間、一寸先すら何も見えない霧が赤黒いゴブリンを覆い隠した。

 

 木の上から炎翼を広げて滑降し途中でグレイスをお姫様抱っこして、浮き上がろうとするが、少し離れた場所に着地する。

 まだ飛行に慣れていない弊害だ。自分の実力に嫌気がさした。

 

 まだ、深い霧が残っているため、逃走するチャンスだ空を飛べる俺一人なら……とグレイスさんを見る。

 

 まさに顔面蒼白といった表情だ。

 

 俺はまだ人一人抱えて飛ぶことはできない。それにあまりの迫力に唖然しているグレイスさんは、あたりまえだが、戦力外。ほっとけばいい。しかし、流石にそれは人としてどうかと思う。

 クソ……

 

「ウオオオオオォオオオ!!!」

 

 濃い霧は叫び声ひとつで散った。

 俺がもたもたと決めあぐねてるせいだ。

 

 赤黒いゴブリンはこちらに鋭い目を向けてくる。

 どうやらもう逃がす気も隙もないらしい、赤い瞳がそう語っていた。

 

 グレイスさんを庇うように前に立つ。

 正面から見たこのゴブリンの気迫がビリビリと肌を駆け抜け、冷や汗がたらりと垂れた。

 

 ヤバイな……足が硬直して動かない。逃げることも向かうことも出来ないなんて。

 

 辛うじて働く頭を使いスキルを発動させる。

 

「看破」

 

======================

 

ゴブリンジェネララル

lv54

 

HP3200/3200

MP640/640

 

======================

 

 

「ハハハ………」 

 

 思わず乾いた笑い声を出してしまった。

 

「54かよ……」

 

 それは個人ではなく六人パーティの平均LVが60だったら安全に倒せると言われてる領域。

 間違っても今の俺や、グレイスさんが挑んで良い相手じゃない。逃げろという警報が頭に絶え間なく響いてくる。

 だがしかし、引けないのも事実。

 

「全く、どうすりゃいいんだか……」

 

 いまだ動けそうにないグレイスさんの手に握っている短剣を手から取るとぎこちなく構え、頭をフル回転させる。

 

「……まって、そ、そそその剣は……」

「今はそんなこと言ってる場合じゃないんですよ」

 

 後ろを振り向かずに言う。

 

 何かを必死で伝えようとしているのが背中越しに伝わってくるが、いかんせん声が震えている。

 

 何がいいたい、と目線を送ると俺の握っている短剣を指差した。

 

 これになにが……

 

 チラリと短剣を見る。そのとき、ふと魔力を感じた。それは、隠されているような、いや包まれている?短剣を裏返して見るが、見た目はなにもない明らかに普通の短剣だ。今度もまた、違和感が、いや記憶の残像が頭をよぎった。

 

『グレイスさん』

『何かな』

『確かに初心者の森とはいえ、そんな装備で大丈夫なんですか?』

『大丈夫、大丈夫!こう見えても私、結構やるから、余裕余裕!』

 

 一見なにも違和感のない会話。ただ、今は違和感が残った。

 

 余裕余裕!と言っていたのにグレイスさんがゴブリンの罠にあっさり嵌まったこと。

 そのとき、いくら集団で来たとはいえ魔法を使っていれば、もしくはスキルを使っていれば簡単に勝てた程の実力差があったこと。

 また、顔に焦りが出てたこと。

 

 そして今、握っている短剣が魔力に包まれていて、現状、俺の看破スキルが発動しないこと。

 これらのことを考えると、簡単に言えばこの短剣、何かがあるのだ。それは____________……スキルと魔法を発動させない効果。

 

 

 俺はグレイスさんがなにかを言おうとする前にポツリと言った。

 

「え?う、うん……え、でもなんで?え?」

 

 うんうん、この反応は面白い。

 昔から頭は良く回る方だったんでこの光景は何度か見たことがある。それから、火鳥モードは消えていないな。固有スキルは例外なのかも知れない。

 

 ……さて、グレイスさんのおかげで多少の緊張はほぐれてきたが、悠長にやっていられる暇はないんでね。  さっさと終わらせますか。

 

 俺は短剣を一度地面に突き刺す。

 そして再び看破で調べた。

 

==================

 

 

 

 案の定といったところか。思った通り俺が手に持っていなかったら簡単に看破出来た。

 

 そしてその情報を見て思わず頬が緩んでしまう。

 あまりにも俺にぴったりな能力を秘めていたからだ。それはもうぴったりである。

 先程ハイスペックブックにしか載っていない魔法があるのだがそれとの相性が抜群なのだ。それを上手く活用さえ出来れば勝てるくらいには。

 というか寧ろそれしか勝ち目がないんじゃないかな。作戦的に、成功させればこちらの勝ち。失敗は死に直結しまーす、って感じ……なんのデスゲームだよ。さらに成功率は不確定という完全に出たとこ勝負。

………でも、さっきよりは状況が好転していると言っていいだろう。

 

 さて、作戦を練ったは良いがそれを実行するにはどうしてもグレイスさんの助けが要るな。

 

 

「グレイスさん」

「…………」

「グレイスさん!」

「…!なに?」

 

 ………どうしようかこれ。いま完全にどっかいっちゃつてたよ。意識が。

大丈夫か?

 

「作戦なんですが、まず……あー、やっぱいいや。とりあえず俺が合図したらこの短剣の能力使って下さい」

「わ…わかった」

 

 ゴールしか言わない超簡潔な内容だったんだけど大丈夫かな?不安しかないんだけど……まあいいや

 

 

 

 俺は、キッとゴブリンジェネラルを睨んだ。こいつは、先程からいっこうに動く気配がない。油断しまくってるというより、冷静にこちらの出方を伺っているといった様子だ。

 

「いいぜ、こっちからいってやんよ」

 

 ダッと地面を踏み込み、全力とはいかないものの、機転を効かせられるくらいのスピードは出す。

 

「ウォォオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 どうやらあちらも戦闘体勢に入ったようだ、強力な威圧を放ってくる。が!もう遅い!

 

「妖狐!」

 

 瞬間、ダンッ!と地面が爆ぜた。妖狐は身体能力が飛躍的に上昇するスキルだ。

 そして、

 

「白狼、『瞬歩』!」

 

 ゴブリンジェネラル目前で更に一気に加速する。二段の緩急をつけたスピードはそれはもう、意表を突けたようで、ゴブリンジェネラルが反応を起こす前に懐に入ることに成功した。

 

「うおおおおおおお!」

 

 ズブッと音がした。俺の手に持っている短剣が浅いながらもゴブリンジェネラルの肉に突き刺さった音だった。

 

 そしてそのまま、右腕を唸らせて大回転!

 返り血が飛び、頬に付いたが気にせず、ゴブリンジェネラルの横を突っ切った。

 

 ある程度の距離を開けたら振り返って、

 

「フッ、ちょっと油断のしすぎだぜ」

 

 と、しっかり警戒してたことを知っておきながら言う。

 

 ブチン

 

 何かが切れた音が聞こえた。

 

 今さっきまで赤黒かった肌は、もう湯気が出るんじゃないか?ってくらいになっており、額に幾本の筋がはしっている。

 

 まさか、こんな安い挑発に乗るなんて思わなかった。

ついでにグレイスさんに気をとられないようにしたんだけど……大丈夫だな。ゴブリンジェネラル俺しか見えてないし。

 

 

「ウブオオオオオオオオオオオ!!」

 

 なんの列車だ。ってくらいの突進を、ひらりと……かわせるわけないので、思いっきり逃げる。

……怖すぎアレ。

 

 

 俺は今、白狼という種族で『瞬歩』を使わなくとも妖狐より速く走ることができる。が、やはりレベル差が大きいからゴブリンジェネラルの方が少し速かった。それにあいつにとってはこの森を熟知しているから走りやすいはずだ。

 

………まあ

 

「ウブオオオオオオ!!!」ドオン!ドオン!ドゴン!

 

 今の奴にとってそれは関係ないか……木々を薙ぎ倒しているし。

 あの熊といい、なんでこうも俺とあう魔物は自然破壊がお好きなのか、一度聞いてみたいよ。

 

………っと少しづつ近づいてきたか。そろそろだ。

 

「『放水(ウォータ)』『放水(ウォータ)』『放水(ウォータ)』『放水(ウォータ)』『放水(ウォータ)』」

 

 地面に水溜まりを作っていく、まあ、これも気づいてかわしていくだろうからスピードダウンを狙っているだけ……

 

「ウォオ!?」

 

ドシャア!

 

 

 ……盛大に転んだようでなによりです。まさか、ひっかかるとは……あいつ絶対バカだろ

 

 そのかいあってか、俺の目標としていた距離までゴブリンジェネラルはいっこうに追い付けそうもなかった。

 

 

 グレイスさんとの距離、目算、推定350メートル……ここまでくればいいだろう。

 

 俺は短剣をズブリと地面に刺すと

 

「ウオオオオオ!!」

 

 自業自得の癖に激怒している泥だらけのゴブリンジェネラルに目を向けた。

 

 さて、いまのままじゃ単純に魔力が足りないからな。

 

 

 

 

 

 

 




 次の投稿は明後日。五月二十九日となります。


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【第十話】グレイス

 私は目の前に広がる光景に息を飲んで固まっていた。

 ドクンドクンドクンと心臓が早鐘を打つ。

 硬直した右手が短剣を強く締め付けた。

 

「ああ、あ、………あぁ」

 

『いやー!ママも一緒に行く____!』

『暴れるなグレ!後で必ず助けるから』

『そうよ、パパがきっと助けてくれるわ、だから安心しなさい』

 

「あぁ……」

 

『グレ、いいかい、ここからあっちに向かって名一杯走るんだ』

『ママは?パパは?』

『大丈夫、すぐに追い付くからね』

『ヤ!いっしょがいい!』

『大丈夫だから、ほら証拠にこれをあげる。パパの大切な剣だ』

『取りにもどってくる?』

『大切な宝物が、2つここにあるんだ。当たり前だよ』

『……わかった』

『いい子だ』

 

「…………あ……ああ」

 

『おい聞いたか?』

『んあ?』

『コレナ村の話だよ、つい先日廃村になったらしいぞ』

『なんだそりゃ?』

『大量のゴブリンとジェネラルが襲ったらしい』

『終わったなその村の人民』

『だな!ギャハハハハハ』

『パパとママはかえってくるもん!』

『?……なんだおめぇ』

『かえってくるもん』

『お、おいまさか生き残りか!』

『しめた!こいつぁ高値で売れるぜ!』

 

「あ………ああ」

 

 薄く、ぼんやりとした記憶だったが甦ってきた。視線を上げると

 

「……ヒッ!……」

 

 かつて父と母を殺した張本人がそこにいた。

 視界の上から棍棒が迫っているのもみえる。

 

 私もここまでかな………父さんを殺した奴に勝てるわけ、

 

「避けろおおおおおおお!」

 

 その声に一気に現実へと戻された私は咄嗟の判断で回避することに成功する。

 

 直後、お腹の辺りに衝撃を受け、ふわりと浮かんで、ジェネラルと離れた距離にいることに気が付いた。

 

 そして私の前に苦虫を噛み潰したしたかのような顔をした彼の姿が目に入る。

 

 どうやら何か考えている様子で、チラリとこちらを見た。

 

「ウオオオオオォオオオ!!!」

 

 そして、ジェネラルの叫びに一瞬驚くと私の前に立ってくれる。

 この時ばかりはあのユーイチが大きく見えた。

 

「ハハハ………54かよ」

 

 しかしすぐ、小さく弱々しい雰囲気になってしまう。

 

「全く……どうすりゃいいんだか」

 

 その声と同時に多分固有スキルなんだろうけど、炎で出来た翼がちいさくなる。

 

 彼はくるりと振り替えると呆然としている私の手から短剣を取った。ああそれは父さんの……

 

「……まって、そ、そそその剣は……」

「今はそんなこと言ってる場合じゃないんですよ」

 

 確かにそうだけど………でも……。

 なんだ?

 そう語っている視線が私に突き刺さる。

 

 短剣を指差して、形見なの、と言いたいのに私の口は彼越しに見えた爛々と光る目に怖じ気づいて、閉ざしてしまった。

 

 ホント……情けないな。レベル的に言えば彼は私より圧倒的に格下なのに、私よりずっと強くみえる。

 確かに過去のトラウマだからといって逃げてもいいかも知れない。だけど、いつまでも逃げ続けちゃいけないんだ。いつかは結果を出さなくちゃいけない。それに、冒険者になった理由だって……ホント、なにやってるんだろうな。

 

 ふと、父から貰った短剣に目を向ける。

 

 ……あの剣さえあれば父さんは負けない、冒険者になって初めてわかった。それほどの力量だった。

 今でも後悔してる。あの場で、私があんな我が儘を言わなければ、まだ一緒に暮らせたんだ。

 

「……スキルと魔法を発動させない効果」

 

 そうそう、あの剣にはそんな効果があった。だけど、父は剣士だったから関係無く、って、ん?あれ?今、ユーイチが言った?

 

「え?う、うん……え、でもなんで?え?」

 

 彼は私の反応を見るとニマニマと笑った。すると今度は真剣な顔になり、一度短剣を地面に刺すと、また、何かを考えるように顎に手を当てた。

 

 実はあの剣にはもうひとつ秘密がある。というか、それを発動させるのに対価としてスキル、魔法が使えなくなる。

 私も一度見たときが有って、それはもう凄かった。こうドドーンて感じで辺り一面が吹き飛んだよ。

 まあ、父さんが母さんにこっぴどく怒られた方が凄かったけど。

 懐かしいな。

 

「グレイスさん」

 

 ホントあの頃に戻れたらいいのに、

 

「グレイスさん!」

「…!なに?」

 

 急に大きな声出さないでよ。

 

「作戦なんですが、まず……あー、やっぱいいや。とりあえず俺が合図したらこの短剣の能力使って下さい」

「わ…わかった」

 

 たったそれだけ言ってゆユーイチはジェネラルの方へ向き直り、突撃していった。

 

 ていうか作戦ってそれだけ?………んん?ユーイチって短剣の能力知ってたっけ?

 

 ふと思い、ユーイチを見てみると炎の翼ではなく、尻尾と耳が生えていた。それも彼の固有スキルなのかな。

 私はそう確信すると今度はジェネラルを見る。

 

 こちらもこちらで相変わらず堂々と立っている。だけど、その目は私を見るときよりも警戒の色に満ちていた。

 

 

 

 小さくないショックを私が受けていると、その間にユーイチはかなり接近していて……消えた。いや消えてはいないが一瞬、ほんの一瞬、体が輝いたと思ったら既にジエネラルの懐に入っていた。

 全く見えないスピードで移動したのだ。

 

 ジェネラルもその事実に驚いている。勿論私も。

 しかし、愕然としていても現実の世界は動いて彼の腕と短剣は正確にジェネラルの腹へと迫っていった。

 

「うおおおおおおお!」

 

 

 キラリと彼の尖った牙が夕日の太陽に反射して、短剣はジェネラルに突き刺さる。そしてそのまま、両手で握り一回転。

 

「はははは」

 

 明らかな初心者の振り方だった。だけど、復讐を目的に武術をたしなんでいる私よりも純粋な一撃で、証拠に彼の頬が赤く染まるも、その顔は眩しいと思える顔をしていた。

 

 しかし、多少の傷で狼狽えるほどジェネラルは甘くない。なんてったって奴は卑怯で下劣で最低だから。私の両親が死んだもうひとつの理由がソレのせい。

 

…………やっぱり。

 

 ジェネラルは私の方を見ると、その顔を喜色の色に染める。ずる賢い奴は人質をとるのだ

 

 

「フッ、ちょっと油断のしすぎだぜ」

 

 しかし、その顔はすぐに真っ赤に染まった。ユーイチが明らかな挑発をしたからだ。

 

 昔、ジェネラルを調べていた時に他のゴブリンより頭が良いと書かれてあった。つまり、こいつはユーイチの挑発の意味をしっかりと理解しているということに他ならない。だからこそ、顔を真っ赤に染めて額に幾つもの青筋を立ててユーイチに向き直った。

 

「ウブオオオオオオオオオオオ!!」

 

 そして遠吠えを挙げながら、突進していった。

 

 

 

 

 ユーイチとジェネラルが森に消えると私はペタリと地面に座った。

 ホッと胸をなでおろす。怖かった。なによりもあの顔が……かつて村人を襲ったジェネラルにそっくりだったから……ダメダメだったな。私。

 

 森から幾つもの爆音が聞こえてくる。

 

 

 一度息を整えると、ジェネラルがいなくなった森を私は睨んだ。復讐を誓ったからには成し遂げなければならない。ユーイチからの合図はきっとその終わりだ。絶対に失敗は許されない。

 

 私の手ではないけど、父から貰った短剣で、その役目を果たそう!

 

 

 そう、決意したところで不意に後ろから声がかけられる。

 

「今です!」

 

 その声を合図に私は、能力を発動させた。

 




 次回の投稿は六月一日以内になりそうです。


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【第十一話】討伐後のあれこれ

 俺たちは無事にゴブリンジェネラルを倒し、その魔石と道中集めた薬草、そして本命の只のゴブリンの討伐部位“耳”を持ち……いや正確には持っていないが、冒険者ギルドへと帰還していた。

 

「それにしても、亜空間収納かあ~、ぷはぁ……便利だよねえ~」

「まあ、俺の魔法の真骨頂ですし、それにしてもなん本目ですか飲みすぎですよ」

「あたしはこれくらい飲まないと気がすまないのぉ、やぁつと積年の恨みをはらしたんだからぁ」

 

 そういって本日七本目の酒瓶を開けるグレイスさん。

 

 俺は自分の水をぐいっと飲む。因みに水なのはこいつのせいで絶賛借金急上昇中だからである。……もう飲ませないからな。いくら祝杯だといっても限度があるってば。

 借金考えたことあんのかこいつ160万だぞ、俺もまさかこの年で借金抱えることになるとは思わなかったよ!

 

……と、いくら考えたって無駄だし何いっても聞かないから放置しといて。

 

 ゴブリンジェネラルは案外あっさりと死んだ。というか短剣の能力が強すぎた。

 

 

====================

爆剣【ボアノソード】クラス 魔剣級

 

 かつて巨匠ライガスが“シルロット・ボレアース”に贈ったされる【七大魔剣】の一振り。

真骨頂とされる能力は爆発。対象に装備者の魔法、スキルを装備中封印するがその威力は計りしれず、毎度変わるという。

 

[装備者]

シルロット・グレイス

====================

 

 

 最初こいつを見たときはびっくりしたよ。なんてったって【七大魔剣】の一振りなんだもん……いや知らないけど。なんか凄いじゃん。

 ともかくゴブリンジェネラルが死んだのはこいつが原因で、俺のしたことといったら大したことはないのだ。

 

◆◆◆◆◆◆ー初心者の森ー

 

 

 半妖狐へとなった俺は短剣を目標としていた木に突き刺すと、ゴブリンジェネラルを睨む。

 

「ウオオオオオオオオオ!!!」

 

 大層怒ってらっしゃるようで、それはもう怒りの表情で俺へと猛進していた。

 だがまあ、命がけの鬼ごっこもここまで、俺はおいとまさせて貰おうかな。

 

 俺がこれからするのは謂わば転移。よくある転移だ。だが、それをするにも大層な魔力と空間把握をしなければならない。転移したら土の中でしたとか嫌だし。ともかくハイスペックブックにそう書いてあった。

 だから半妖狐になった。

 

 音響世界で空間把握をし、グレイスさんの位置を確認したあとは妖狐の能力【九尾覚醒】『一尾解放』で身体能力、“魔力”を含むを強化する。これで準備完了。

 

 さてと……ゴブリンジェネラルさん_______

 

「さようなら」

 

 一瞬の浮遊感を体感した後は、固くそして縮こまりながらも森を睨み付けているグレイスさんの背後に

 

「っと」

 

 着地した。

 

「今です!」

 

ドカアアアアアアアアアン!!!!

 

 そんな爆音が森中になり響き、近くの木に羽を休めていた鳥や、林に身を潜めている動物らが一斉に羽ばたき、森を駆け抜けて行く。

 

「……やりましたね」

 

 返事がない。

 

 ふと、グレイスさんを見るとその目には数えきれない何かが流れていて、とても今は話しかけられないオーラが纏われていた。

 

 そして涙の結晶が地面に落ちたのと同時に波紋が広がるように静寂が訪れる。

 

 鳥も、動物も、あまつさえ森の木々も呼吸をしていないかのように。

 

 俺もそんな風景の一部だった。今まで高ぶっていた興奮が、威嚇している虎をあやすような、なだらかな空間の波長によって鳴りを潜めていく。周りの動物も同じなのか?

 きっとそうだ。突然の爆発音によって極限まで高められた警戒が嘘のように解れている。

 

 彼女の固有スキル、【白癒】……癒す力。ここまで癒されるのか。

 

 揺りかごのような落ち着いた空間の中、俺は彼女に初めて尊敬を抱いた。

 

◆◆◆◆◆◆

 

 確かに尊敬を抱いたが……これはちょっと、ね。

 俺が記憶を遡っている間にグレイスさんはついに八本目を開け、ぐびぐびと喉を鳴らしていた。

 

 ちらりと視界に入った酒の種類とその代金を俺は見なかったことにする。

 

………見なかったことにする。

 

 

 

 

 そういえば、道中グレイスさんにこんな質問をされた。『ユーイチってさどうやって私の後ろに来たの?』

うーむ非常に困る質問だった。

 

 

 そもそも俺は彼女の固有スキルを知ってるが彼女は俺の偽装によって知らない。よって彼女は俺の固有スキルを知る権利がある。が、しかし教えるつもりはない。あんな口の軽そうな女誰が信用できようか!

 

 

 というわけで、只のスキルとしました。亜空間収納も只のスキルとしました。世界は広いんです。と言ったら信用してましたー。同じパーティとしては複雑……

 

 それにさっき、さらっとホントのこと言っちゃったけど、気付いてない様子。バカだろこいつ。

 

「ぐあーZzzzzz」

 

 酒抱えながら寝てるし、ったく。

 

「おばちゃんお水二つお願いします」

「ははははははははははははは……大変ねぇ」

「全くです」

 

 そう言いながらも冷水をコップに注いで渡してくれるおばちゃん。

 

 俺はひとつをぐいっと飲み干すともうひとつをグレイスさんの背中の方へ持っていく。

 そういえば、今日同じことやった気がする。

 

 

「ひやああああああああああ!」

 

 おはようございます。夜だけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次の話はテスト期間に入るので二週間後……とかになりそうです。

 主人公……大変そう。
 私も大変でこざいます。主に勉強が。


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【第十二話】 

 その後、目を覚ましたグレイスさんとグレイスさんの過去も含めて、アレコレお話してゴブリンジェネラルの魔石は魔導具の媒体として魔導具店に直接売ることになった。なんでも冒険者ギルドに売るのと直接売るのとでは値段が違うらしい。

 薬草は冒険者ギルドに売却した。最近の需要がそれなりに高いらしく結構な値段になった。耳が沢山あったので五回分の依頼と合計して、8800ルペ。うーむ、日本円にして約九万円。道端の草を売ったと言ったら聞こえがいいが、借金の総額と比較するとどうにもなあ。

 

 それから悲報と朗報だ。なんでもグレイスさんが養子に入った家が宿屋を営んでいるそうで、パーティを組んでくれるのなら無料で部屋を貸してくれるそうだ。

 泊まる宛がない俺はそれを渋々了承した。

 そんなわけで俺は、口が軽そうで、酒癖がわるくて、美人なグレイスさんとパーティを組むことになった。

 

 ついでに只今グレイスさんは、初心者の森にゴブリンジェネラルが出たという異常性に疑問を持ったということで、冒険者ギルドの支部長と会談中だ。

 

「ここか」

 

 見上げると看板が目に入り、『アルキス魔導具』と書かれている。ハイスペックブックの地図に照らし合わせてもここを示していた。

 

「こんばんわー」

 

 扉を開けると扉に付いていた鈴が、チリンと鳴った。うむ、いい音だ。心が洗われる。グレイスさんもここに来るといい、一瞬で酔いが覚めるだろう。

 

「いらっしゃい、お母さん!お客さんきたよー!」

 

 出迎えてくれたのは、黒いローブを被った可愛い少女である。

 

「あらそう、ちょっと受け答えしてて、今、手が離せないからー」

 

 二階から声が聞こえてくる。澄んだ声だ。

 

「わかったー」

 

 どうやらお母さん、もとい店主は出てこれなさそう。

 困ったな。

 

「お客さん、なにを買いますか?」

「ううん、買うんじゃなくて、売りに来たんだけど…大丈夫かな?」

「うーん、大丈夫だと思うよ?」

「まあいいか。……これなんだけど、ゴブリンギェネラルの魔石でね、売ろうと思うんだ」

「うーん、大きさはこれくらいか、魔力濃度はAと……たしかそれだったら……」

 

 少女はぶつぶつと小言を言うとカウンターらしき場所まで走って行った。

 

「あったあった!これだよ!」

 

 元気よく持ってきたのは一つの書面。

 

「えっとねぇ、いちじゅうひゃくせん、六万ルピだよ!」

 

 おお、そんな大金になったのか。しかしこのお店にそんな備えなんてあるのか?なんて不思議に思ってたら少女がなにやら腰から革袋を取り出して、はい!と元気に金貨を渡してきた。

 

 

 

 

 

 




 書き加えをします


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