ゴーストシティ (Firefly1122)
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始まりは突然に

 夏に向けてホラー小説を書き始めたいと思います。なぜ今からホラーなのか?そんなの夏が終わる前に書き終われる自信がないからだ!あとなんとなく書きたくなったからだ!と言うことで最新のホラー小説「ゴーストシティ」始まります!

〈登場人物紹介〉

富鹿夜空(とみしか よぞら):夕美夜高校の2年。趣味はゲーム、アニメ視聴など。ごく普通の高校生。
富鹿良志(とみしか よし):夕美夜高校の1年で夜空の妹。趣味は運動。入学早々バレー部に入部。少々男勝りな性格。
信野明日香(しなの あすか):夕美夜高校の2年で夜空、良志の幼馴染。両親を亡くし、今は夜空の家で家政婦のようなことをする代わりに夜空の父親から生活費をもらっている。


 リリリリとやかましく鳴り響く目覚まし時計。いつまでも寝ている夜空に朝を告げる。それでも夜空は起きることはない。目覚まし時計はいつまでも鳴り響く。まるで起きるまで音を出すのを止めないぞ!と言っているかのようだ。

 突然目覚まし時計の音がピタリと鳴りやむ。開け放たれたドアから冷たい空気が流れてくる。誰かが入ってきて、目覚まし時計を止めたのだ。シャアアっという音とともに光が漏れる。カーテンが開かれたのだ。

「おっきろーーーー!!夜空ーーーー!!」

その声の五月蠅さに鼓膜が震える。反射的に耳を塞ぐ。こんなことをするのは隣家に住む幼馴染の明日香だけだ。

「うるせえよぉ……まだ寝るんだよ……」

「何言ってるの!もう登校の時間だよ!さあ起きた起きた!」

夜空の上にかかる毛布が思いっきり宙を舞う。

「さ、寒い……毛布……毛布をくれぇ……」

「はいマッチ。これで温まって」

「それ死ぬやつ!かわいそうな女の子がおばあちゃんを想いながら死ぬやつ!」

「いやならさっさと起きる!支度したら温まる!」

夜空はしぶしぶ起きる。時刻は朝の7時30分。冬の寒さは薄れ、雪はもう残っていない。新たな生命が色とりどりに咲き乱れ始めるこの季節。4月とはいえこの地域は一月ずれているような気候だ。朝は寒い。

 制服を来て鞄を持ち階段を降りる。リビングでは妹の良志(よし)がテレビを見ながら朝食を取っていた。

「おはよう兄貴」

「ああ。おはよう」

若干金髪に近い茶髪の彼女はスポーツマンで平日の朝でもランニングに行くほどだ。帰ってきたばかりなのかまだ学校へ行く支度はできていない。

「相変わらず精が出てますなあ」

「兄貴みたいに家でダラダラしてたら自分の将来が心配だからね」

明日香が朝食を作り、俺たちはそれを食べる。それが夜空たちの日常だ。母は病死、父は朝早くから仕事に出るため朝から会うことはない。明日香の両親は2年前、神隠しにあった。

 神隠しとはそう。この近隣で起こっている失踪事件。たくさんの人がいる街中でも、友達と二人で歩いている帰り道でも、一人で釣りをしていても、突然消える。目撃者は多数。証言で必ず共通しているものは、”すぐそばにいたのに突然消えた”ということである。つまり犯人の顔はわからず、犯人がいるということすらもわからない。そう、神隠しとしか言いようがないのだ。その被害者の中に彼女の両親が入っている。

 両親がいなくなった当時は学校を半年以上休むほどにショックを受けていたが、今は夜空の家の家事をすることを前提に父から生活費をもらいながら生活している。家に住まないかと言う提案をしたが、思い出の家は手放したくないと言い、提案を断った。そのためまだ隣家に住んでいるのだ。

「ああ!もうこんな時間!急がないと遅刻しちゃうよ!」

テレビを見ながらゆっくりしているといつの間にか登校時間になっていた。良志はすでに着替えを済ませ階段を降りてきていた。そして慌ただしく玄関を出た。

 

 桜のつぼみが付き、少しずつ桃色に変わりつつある桜の並木がある川沿いの道。川の反対側は大きな道路になっていて、車がビュンビュンと通る。

「今日から2年か~月日が経つのは早いですな~」

「なにそれ親父臭い」

「明日香、仕方ないよ。狸親父だもん」

夜空の幼馴染は必然的に良志の幼馴染でもある。

「狸親父って失礼だな!ダイエットするほど太ってないだろ!」

「意味違うから……太ってる太ってない関係ないから……」

夜空たちがわいわいとくだらない話をしていると、ふと川の縁に立って釣りをしている大人の男性に目が留まる。なんてことない平凡な風景。川の魚を狙って釣りをするただの釣り人。彼らは何故かその釣り人から目が離せないでいた。

「釣りかー。いいね、久しぶりにやりたいな」

良志がそんなことをつぶやいた瞬間、その男のひとの背中から外に広がるように穴が開く。空間をねじったようなそんな形だ。その穴がその男の人の大きさになると、一瞬にしてその男の人を飲み込む。そして何事もなかったように消え去った。

「ひぃっ!?」

小さく悲鳴を上げた明日香が尻もちをつく。無理もない。この近くで噂にもニュースにもなっているその出来事が実際にその目の前で起こったのだから。

「お、おい……いまあそこに人いたよな?見まちがいじゃないよな?」

夜空は自分の見た光景を疑う。普通なら人が一瞬にして消えるなんてことはありえないからだ。

「う、うん……見間違いじゃ、ない」

夜空たちはそのあとしばらく無言で立ちすくんでいた。そしてしばらくしてから良志が言う。

「い、行こうか。今のはさ、見なかったことにして」

「そ、そうだね」

明日香はパンパンとスカートについた砂を落して立ち上がる。そして3人で足早にその場を後にした。




 ホラー小説は書くのが難しいですな。Firefly1122です。
ホラーゲームは動画で見たり、プレイしたりしてだいたいどんな風な展開がいいかはわかっているつもりですが、いざ小説にすると展開に加えさらに情景描写も鮮明に書く必要があるってのが難しいです。それでも何とか面白い小説になるようにガンバリマス。
 最後に閲覧ありがとうございます。次回も見てくださる方は気長にお待ちください。


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失踪と捜査

 この近所で噂になっている神隠し事件。その事件を目の当たりにした夜空たち。これがこの事件の前兆になるとは思ってもいなかった。

〈登場人物紹介〉

富鹿夜空(とみしか よぞら):夕美夜高校の2年。趣味はゲーム、アニメ視聴など。ごく普通の高校生。
富鹿良志(とみしか よし):夕美夜高校の1年で夜空の妹。趣味は運動。入学早々バレー部に入部。少々男勝りな性格。
信野明日香(しなの あすか):夕美夜高校の2年で夜空、良志の幼馴染。両親を亡くし、今は夜空の家で家政婦のようなことをする代わりに夜空の父親から生活費をもらっている。
北野海心(きたの かいしん):会社員の男性。趣味は釣り。嫁と娘と3人暮らし。
黒塚厳内(くろづか げんない):美夜野市の警部。失踪事件を解決しようと動くが、いまだに解決できていない。


 教室は騒々しく、先ほど見たものが嘘のように思えた。いや、あれは幻だ。そうに違いない。夜空は先ほどみたあの光景を頭から消し去ろうとする。しかしやはり頭から離れない。

「さっきのは見なかったことにしようよ……」

明日香は自分の席から夜空に話しかける。夜空の隣の席が明日香の席だ。

「ああ……そうしたいのはやまやまなんだが、頭から離れないんだ」

「仕方ないよ。噂だと思っていたものを見てしまったのだから」

「そういえば明日香はあの光景初めてだっけ?」

「うん……この話はやめようよ……」

「……ごめん」

彼女の両親は、仕事帰りに神隠しにあった。もう2年前のこと。今日は早く帰るね、その電話を最後に彼女の両親は消えてしまった。いつまでも帰ってこない両親を不審に思い警察に連絡し捜査を依頼するが、結局彼女の両親は見つからなかった。

 

 朝から川に来て釣りをする。彼の趣味だ。今日も釣りをしに川に出ていたが、気が付くと、夜になっていた。おかしい。さっきまで朝だったはずだ。自分に何があったかわからない。いつの間にか気を失っていたのだ。

 場所を確認する。ここは間違えなく先ほどまで釣りをしていたところだ。

「なんでこんなところで寝てたんだろうか」

彼は荷物をまとめ、帰る支度をする。ふと気配を感じた。顔を上げると、川に架かる橋の下に赤い目の黒い猫座っていた。

(なんだ?あの猫……)

彼は猫を不審に思ったが、何を思ったかクーラーボックスから釣った川魚を取り出す。

「おいで。ほら、これあげる」

黒猫はゆっくりと魚に近づく。クンクンと臭いをかぎ、川魚を食べ始める。

「っ!?」

彼は目の前の光景を疑った。黒猫が川魚を丸のみしたのだ。ありえないほどに口を開き、自分の頭より大きい川魚を一瞬にして取り込む。それはまるでイモガイが目の前にいる魚を丸のみするように。魚を食べ終わった猫は顔を上げ、彼を見つめる。ありがとうと言わんばかりにニヤリと顔を歪ませた。……笑ったのだ。

「う、うわああああああ!!」

彼は悲鳴を上げ、その場から逃げ出した。笑う猫。それは彼にとてつもない恐怖を与えたのだった。

 

 神隠し事件が始まったのは今から2年前。確か美夜野市都市化計画で山にあったお寺が壊された時からだ。一人目の失踪者はそのお寺の主だった人物だ。彼ら警察がいくら探しても結局見つかることはなかった。その後、1月に1人のペースで失踪者が増えていく。いずれもどこを探しても見つからなかった。最近ではちょっとペースが早くなった気がする。さっき主婦から連絡で、うちの旦那が釣りに行ったきり帰ってこないとのこと。電話を掛けても出ることなく、不審に思ったらしい。失踪事件が起こるため、街の人々は不安に陥っている。彼ら警察もこういう電話があるたびに失踪事件として調査し始める。

「黒塚さん、やっぱり見つからないらしいです」

「むう……」

彼は頭を抱えて唸った。無理もない。今まで解決できず増えて行くばかりの失踪者。先週も1人失踪した。彼のプライドもボロボロである。

「一応いつも出かけているという川の周囲を捜索する。案内してくれ」

 川に着くと、何人かの警察もその周囲を捜索していた。

「何か見つかったか?」

「あ、黒塚さん。いえ、何一つ見つかりません」

「そうか……」

「黒塚さん!こっちに来てください!」

川の中を捜索していた警察官が黒塚を呼ぶ。黒塚は歩いてその場所に向かう。

「何かあったか?」

「ここに釣り針と釣り糸があるんですが、これは関係ありますかね」

ゴーグルをかけ川の中を覗き込みながら言う。

「ちょっと貸してくれ」

黒塚はゴーグルを借り、覗き込む。石に引っかかり、流れに任せてヒラヒラと揺れる釣り糸。太さは0.6号くらいか。釣りが趣味なだけあってなかなか丈夫な糸を使っているみたいだ。

「あまり関係はないかもしれないが、一応鑑識に回してくれ」

「わかりました」

彼の指示で警官は動く。川から上がり、思考する。

(おそらくあれは石にひっかけて切ってしまっただけだろう。ここから離れた後か?)

結局彼に答えは出せなかった。




 とある小説を読んでその小説の書き方を少し真似てみました。Firefly1122です。
最近読み終えた小説が面白かったです。内容は山の中に潜む殺人鬼を目的にたくさんの腕に自信がある能力者が山に入り、数々の戦いを繰り広げるという話です。いろんな視点で書いていてその人の心理が読めて面白かったです。その書き方を少し真似してみましたw

 今回の話の解説を少し。夜空たちが学校に着いた頃、二人の男性が動きます。まず一人は夜空たちが目撃した失踪者となった北野海心。彼は飲み込まれた世界の中で黒猫とであった。一方そのころ海心が失踪したと報告を受け調査に乗り出す警部の黒塚。彼もこの事件に巻き込まれることになる。

最後に閲覧ありがとうございました。次回も見てくださる方は気長にお待ちください。


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影と消滅

 神隠しにあった海心は笑う猫に会い、逃げ出す。一方そのころ、海心の失踪の調査に乗り出した厳内が海心の物と思わしき釣り糸を拾うが、手がかりとなる物は見つからなかった。彼らの周りに起きる失踪事件とはいったい何なのか!

〈登場人物紹介〉

富鹿夜空(とみしか よぞら):夕美夜高校の2年。趣味はゲーム、アニメ視聴など。ごく普通の高校生。
富鹿良志(とみしか よし):夕美夜高校の1年で夜空の妹。趣味は運動。入学早々バレー部に入部。少々男勝りな性格。
信野明日香(しなの あすか):夕美夜高校の2年で夜空、良志の幼馴染。両親を亡くし、今は夜空の家で家政婦のようなことをする代わりに夜空の父親から生活費をもらっている。
北野海心(きたの かいしん):会社員の男性。趣味は釣り。嫁と娘と3人暮らし。
黒塚厳内(くろづか げんない):美夜野市の警部。失踪事件を解決しようと動くが、いまだに解決できていない。
飛岡晟(とびおか あきら):夕美夜高校の3年。オカルト研究部の部長で2人の3年の部員の1人。オカルト研究部の部長であるが責任感など一切なく、他人との関わりもほとんど拒絶している。最近は神隠し事件について調べている。
佐藤好夏(さとう よしか):夕美夜高校の3年。オカルト研究部の副部長で2人の3年生の部員の1人。同じ部活で同じクラスの飛岡晟のお世話係になっている。


コツコツと黒板を叩くチョークの音。それに続いてノートの上を走るシャープペン。今は授業中。夜空は遠い空を眺めるように何もない天井を眺めていた。

ツンツンと腕をシャープペンで突かれて我に帰る。突いてきたのは隣の席の明日香だ。

「何上の空になってるのさ。授業中だよ」

「ああ……悪い」

「謝らなくていいよ。どうせあの事を考えてたんでしょ?」

あの事とは、登校している最中に見た失踪現場。何もないところから突然黒い渦のようなものが出てきて、釣りをしていた男を飲み込んだのだ。それは一瞬で、瞬きしたら見れなかっただろうと思うほどの速さだった。

「仕方ないだろ。あんなの忘れられる訳がない」

「そうだよね。でも私たちが何をしたって解決できることでもない。この事件の解決は警察に任せるの。分かった?」

夜空は椅子の背もたれに体を預けながら言う。

「分かってるよ。」

「ならいいよ」

それからしばらく時間が過ぎた。カチカチという心地よいリズムを刻む音を聞きながら、何となく窓の方を見る。

「っ!?」

窓の外からこちらを見つめる黒い影。夜空が自分を見つけたと知ると、ニヤリと目と口を歪ませる。影。それ以外の言葉は見つからない。人の形をしているソレはクネクネと体を揺らしていた。

夜空は視線を逸らす。見てはいけない。あれを思い浮かべてはいけない。自分の声がそう頭のなかに響いていた。

キーンコーンカーンコーンと言う授業の終わりを知らせるチャイム。やる気のないあいさつの後、ガヤガヤとした喧騒に包まれる。そこで夜空はようやく肩の力を抜くことができた。

「なんだったんだ……あれは……」

夜空はいつの間にか得体の知れない者のことを思い浮かべていた。

 

夕美夜高校の図書室。彼はひたすら本を読む。オカルト研究部の彼は授業中にも関わらず図書室に籠っていた。

「……」

自分の前に立つ人物の存在に気づいていながらも本を読み続ける。

「ちょっと!晟!気づいてるんでしょ!授業中よ!」

「……」

図書室なのに大声を上げる彼女は、オカルト研究部の仲間だ。同じクラスのオカルト研究部で唯一の3年生の仲間だ。名前は好夏だったはず……。

「あんたは本当に部活熱心ね……。それを授業にも向けてほしいわ……。そうすればあたしがこうやって呼びに来ることもないのに……」

彼は部活をするためだけに学校に来てると自負している。そのため授業などはほとんどサボっていた。

そんな彼を見てはぁ~とため息を吐いていた。

「先生!晟が授業サボらないように注意してって言ってるじゃない!」

彼が相手をしてくれないことを知ると図書室の先生に当たる。

「一応言ったのよ。授業受けてからまた来てって」

「それで?」

「無視されたからこうしてほおっているわけ」

「ダメじゃん!先生ならしっかり注意してくれない……」

ガタン!

彼女が言い終わらないうちにイスが倒れる音がした。

驚いて振り向く先生と彼女。

「晟?どこ行ったの?」

そこにはさっきまで彼が読んでいた本と、彼が座っていたイスがあるだけだった。




怖い夢を見てそれを小説に取り入れるという荒業をしようとしているFirefly1122です。
登場人物をどんどん増やして誰がどんな活躍をするのかを楽しみにしてもらう戦法!……俺は一体何と戦っているのか……。
最後に閲覧ありがとうございました。次回も見てくださる方は気長にお待ちください。


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失踪の記録

謎の影を見た夜空。それが何を意図しているのかはわからない。図書室で本を読んでいた晟。彼もまた失踪者となった。影と晟の失踪は失踪事件とどのような関係があるのか。

〈登場人物紹介〉

富鹿夜空(とみしか よぞら):夕美夜高校の2年。趣味はゲーム、アニメ視聴など。ごく普通の高校生。
富鹿良志(とみしか よし):夕美夜高校の1年で夜空の妹。趣味は運動。入学早々バレー部に入部。少々男勝りな性格。
信野明日香(しなの あすか):夕美夜高校の2年で夜空、良志の幼馴染。両親を亡くし、今は夜空の家で家政婦のようなことをする代わりに夜空の父親から生活費をもらっている。
北野海心(きたの かいしん):会社員の男性。趣味は釣り。嫁と娘と3人暮らし。
黒塚厳内(くろづか げんない):美夜野市の警部。失踪事件を解決しようと動くが、いまだに解決できていない。
飛岡晟(とびおか あきら):夕美夜高校の3年。オカルト研究部の部長で2人の3年の部員の1人。オカルト研究部の部長であるが責任感など一切なく、他人との関わりもほとんど拒絶している。最近は神隠し事件について調べている。
佐藤好夏(さとう よしか):夕美夜高校の3年。オカルト研究部の副部長で2人の3年生の部員の1人。同じ部活で同じクラスの飛岡晟のお世話係になっている。


 彼の元に届いた失踪届に再び頭を抱える。飛岡晟という少年が学校の図書館から失踪したというのだ。近くにいた教師と生徒はどちらも突然消えたという。何度も聞いた言葉だ。調査をするも、やはり失踪の手がかりとなる物は見つからず、調査は行き詰ったのだ。

「黒塚さん。こちらが失踪に関する書類をまとめた物と、周囲にあった物です」

再び状況を整理するため、部下に持ってこさせた書類と手がかりになりそうな物。中にはいままでの失踪者と失踪地点。そしてそれぞれの失踪する直前まで近くにいた人々の証言が書いてある。

 失踪事件が始まったのは2年前。一番最初の失踪者は山の上にあったお寺の持ち主であったお坊さんだ。目撃者はおらず、お寺参りの常連さんがお坊さんの家にお礼参りをしに行ったところ、お坊さんがおらず帰宅。再び訪ねるもお坊さんはおらず、それを不審に思った常連さんが警察に相談を持ち掛けたことが始まりだ。失踪の手がかりとなる物は見つからず、山の中をくまなく探すも見つからなかった。常連さんがお坊さんを訪ねたのは仕事の相談に乗ってもらったことのお礼だそうだ。2件目はお坊さんの親戚だという主婦だ。こちらも目撃者はおらず、夫がいつまでも帰ってこない妻を探してほしいと警察に相談を持ち掛けたことで失踪がわかった。こちらも手がかりは無し。その後、お坊さんの親戚と思われる人々が次々と失踪していった。そして6件目。お坊さんと一切関係のないと思われる会社員の男性が失踪した。その場所は会社の中だ。近くにいた会社員の話を聞くと、先ほどまで仕事のことで話をしていたが、話を終え自分の席に戻ったところでちらりと見ると、先ほどまでいた彼がいなくなっていた。最初はトイレだろうと思っていたが、いつまで経っても帰ってこず、心配になったそうだ。彼はまじめで仕事をさぼるような人物じゃなかったという。手がかりもなく、目撃者もいない。それから無差別失踪が始まった。一切の共通点がなく、唯一の共通点は目撃者ゼロ、手がかりゼロ、証言はすべて突然消えたということだけだ。手がかりになりそうな物は9件目の失踪者の物と思われる靴、13件目の失踪者の物と思われる仕事の書類、そして26件目の釣り糸だ。靴は失踪したと思わしき場所に落ちていた。靴は片方だけだ。書類も同じ失踪したと思わしき場所に落ちていた。内容はごく普通の仕事内容をまとめた書類だ。釣り糸は流されて引っかかった可能性もあるが、場所はおそらく糸が引っかかっていた川で間違いないだろう。

 ……まとめてみたが、やはりわからない。一番手がかりとなりそうなのはお坊さんの親戚という点で情報を集めることだが、これといった情報は一切手に入らなかった。

 黒塚は立ち上がり、屋上に出る。煙草をふかし、頭の整理をしていた。

 

 目を覚ます。周りを見ると真っ暗だ。だが、自分の居場所はわかる。ここは学校の図書館だ。

「……寝てしまっていた……のか?」

そう思考するが、すぐにその考えは消え去る。こんなに暗いのに俺を起こさないわけがない。それに先生がいなくてもお節介なクラスメイトであり、部員であるあいつが起こしにくる。普通なら。そうじゃないとしたら……

「っ!?」

ガシャンと何かが割れたような音がし、そちらを見る。図書館に飾ってある花の花瓶が落ちて割れたようだ。窓は開いていないため、風は吹かない。誰かが倒したのだろうか。

「誰かいるのか!」

声を張り上げ、返事を待つ。

「……」

いつまで経っても返事は来ない。彼は割れた花瓶の破片を拾い、ポケットにしまった。

 

 夜空は学校の図書館で起こったという失踪事件のことを考えていた。

「夜空。今日はもう学校終わりだってさ」

「そうか。……それで、失踪事件の方はどうなっているんだ?」

「警察の人が調べてる。たぶん手がかりはでないでしょ」

失踪事件は噂ではなかった。噂通りであれば手がかり無し、突然消える、目撃者無しの3つがこの神隠し事件に共通しているものだ。だが、俺たちは見てしまった。釣り人の失踪を。つまり、あくまでも噂でしかなかったものが俺たちを巻き込もうとしているということだ。

「考えるのやめようよ。朝も言ったけど、わたしたちには何もできないんだから」

「ああ。それじゃあ帰るか」

「うん」

夜空は鞄を背負い、学校を出た。




 あらゆるゲームでイベントがあり、それの攻略に手を焼いているFirefly1122です。
次回からいよいよ物語が進展します。今回までが準備という感じですね。数多くのキャラクターを書くため、準備も長くなった感じですね。まあこの後も増える予定ですが。
 最後まで閲覧ありがとうございました。次回も見てくださる方は気長にお待ちください。


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動き出す影

 突然消えてしまった学校の生徒の一人。黒塚は調査に乗り出すもやはり手がかりが出ず、昔のデータも調べいた。そのころ消えてしまった生徒である飛岡は自分のいる場所の異常さに気づいていた。

〈登場人物紹介〉

富鹿夜空(とみしか よぞら):夕美夜高校の2年。趣味はゲーム、アニメ視聴など。ごく普通の高校生。
富鹿良志(とみしか よし):夕美夜高校の1年で夜空の妹。趣味は運動。入学早々バレー部に入部。少々男勝りな性格。

信野明日香(しなの あすか):夕美夜高校の2年で夜空、良志の幼馴染。両親を亡くし、今は夜空の家で家政婦のようなことをする代わりに夜空の父親から生活費をもらっている。

北野海心(きたの かいしん):会社員の男性。趣味は釣り。嫁と娘と3人暮らし。

黒塚厳内(くろづか げんない):美夜野市の警部。失踪事件を解決しようと動くが、いまだに解決できていない。

飛岡晟(とびおか あきら):夕美夜高校の3年。オカルト研究部の部長で2人の3年の部員の1人。オカルト研究部の部長であるが責任感など一切なく、他人との関わりもほとんど拒絶している。最近は神隠し事件について調べている。

佐藤好夏(さとう よしか):夕美夜高校の3年。オカルト研究部の副部長で2人の3年生の部員の1人。同じ部活で同じクラスの飛岡晟のお世話係になっている。


 校内で失踪事件が発生したこともあり、夜空たちは昼間の町をブラブラと歩いていた。突然訪れた暇な時間。明日香の提案で町にある喫茶店で時間を潰すことにしたのだ。

 

「あーあー暇だなぁー」

「ついに明日香がゾンビに……」

「誰がゾンビよ!レッサーパンダなら許してあげるよ」

 

 膨れる彼女はレッサーパンダというオレンジのシマシマ模様をした猫のような狸のような生き物が好きなようだ。

 夜空は明日香の話を聞きながら、スマホを置いていじっていた。

 

「ああ、あれか。水でいろいろキレイに洗ってくれる……」

「それはアライグマね!レッサーパンダっていうのは……」

「っ!?」

 

 夜空が視線をあげると、明日香の後ろに黒い影が佇んでいた。朝、窓の外に浮かんでいたあの影だ。

 

「どうしたの?夜空」

 

 明日香が体を前に乗り出してくる。夜空は明日香の後ろに佇む黒い影から目を離せないでいた。目を離すと襲われそうだったからだ。

 彼女はずっと自分の後ろの方を見ている夜空に対して怪訝な表情をしていた。

 

「何があるの?」

 

 そういいながら後ろを向くが、何もない。ただ、会社員二人が話し込んでいるだけだった。

 

「見えて……ない……のか!?」

「え?」

「お前の後ろにいる影が見えてないのかよっっっ!」

 

 ガタンと音を立て、立ち上がる夜空。その目はやはり彼女の後ろを見ている。

 物音に驚きこちらを注目する人びと。そして駆け寄る店員さん。

 

「お、お客様、どうかなさったんですか?」

「っっっ!?」

 

 夜空は今にも泣き出しそうな顔をしていた。見えない何かに怯えているようだ。そのまま後ろに後退り、テーブルの脚で足をとられる。

 

「夜空?大丈夫?」

 

 明日香は心配になり声をかけるが、来るな来るなと繰り返す。

 

「っ!?う、うああああ!!」

 

 夜空は悲鳴と共に、その場から消えてしまった。文字どおり、消えたのだ。それはこの店にいた全員が見ただろう。次に聞こえるのは、周囲にいた人びとの悲鳴だ。明日香はただ呆然として立っていた。

 

 

 

 もうどれくらい走っただろう。気がつけば見慣れた町並みにいた。彼の家の前だ。

 

「よかった……」

 

 一人安堵する海心。今日は何かがおかしい。霧が出て、周りがよく見えない夜の道、人は愚か車ひとつ通らない大通り、そして、笑う猫。全てが彼を不安にさせる。だが、家に入ってしまえばこちらのもの、愛しの妻と可愛い娘と共に食事をとるんだ。

 ガチャリとドアを開ける。家の中は真っ暗だ。

 

「ただいま……佐恵子?美結?いないのか?」

 

 いつもなら佐恵子がお帰りと言って出迎えてくれる。いつもなら美結がお帰りと言って抱き付いてくる。異常だ。この世界は異常だ。

 

「佐恵子!美結!どこにいる!?」

 

 何度呼び掛けても無音の家内。海心は黙りこんだ。すると突然、ガチャンという物が割れる音。音の発生源は二階の自分達の部屋からだ。

 

「!?佐恵子!?美結!?いるのか!?」

 

 海心は荷物をその場に落とし、階段を駈け上がる。パパとママの部屋と可愛い字で書かれた掛札がある部屋を思いっきり開ける。

 

「はあ……はあ……佐恵子?美結?」

 

 そこには何もなかった。人がいる気配など一切ない。

 

「?」

 

 海心は一歩踏み出すと床に落ちている写真に気がつく。先程の音はガラス製の写真立てが落ちた音だったようだ。

 海心はそれを拾い上げ、写真を見る。

 

「!?」

 

 写真は山の頂上で三人仲良く並んでいる写真だ。微笑ましい写真だ。ただひとつ、海心の頭があればの話だが。

 

「なん……なん……だよ……」

 

 写真の中の海心は、頭があるべき所は向こうの風景を写されており、まるで最初から頭など無かったかのようだ。海心はその写真を取り出し、ポケットにしまう。例え自分がいなくとも、海心には思い出の写真だったからだ。

 

「佐恵子……美結……待ってろ……おとうさん帰るからな……」

 

 ポケットにしまった写真に手を当て、そう呟く。そして彼は家から出たのだった。

 

 

 

 暗い世界を月の光が照らす。霧が邪魔をし視界を狭くする。だが、それの方が私には好都合。新しい獲物を狩るのに最高の気候なのだ。

 

 暗闇にこだまする幼い声、誰も入らぬ暗い沼の中央に建つ社の中から聞こえてくる。

 

 さあ、久々の玩具(おもちゃ)はどれほど私を楽しませてくれるだろう。

 今回はたくさん遊びたかったから、少し多目に連れてきてしまった。無理もない。前回の人間はすぐに逝ってしまったのだから。

 そう言えば、黒塚とか言う男が外から干渉しようとしていたな。ふふふ……面白い。今回は楽しくなりそうだ。

 

 少女の声は暗闇に溶けて消えてしまった。




 自動車免許取るの大変だ……あ、Firefry1122 です。

 忙しいピークの日は過ぎ去り、ゆっくり落ち着いた気持ちでホラー小説を書く私。今回は本格的に話が動き出しました。次回からさらにドキドキするような話に仕上げたいと思います。

 最後に閲覧ありがとうございました。次回も見てくださる方は気長にお待ちください。


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ポルターガイスト

 ついに夜空のみが見える影が動き出した。そして夜空も失踪する。この日最初の失踪者である北野海心もこの世界の異常さに気付き、自分の世界に帰ると決意した。

〈登場人物紹介〉

富鹿夜空(とみしか よぞら):夕美夜高校の2年。趣味はゲーム、アニメ視聴など。ごく普通の高校生。

富鹿良志(とみしか よし):夕美夜高校の1年で夜空の妹。趣味は運動。入学早々バレー部に入部。少々男勝りな性格。

信野明日香(しなの あすか):夕美夜高校の2年で夜空、良志の幼馴染。両親を亡くし、今は夜空の家で家政婦のようなことをする代わりに夜空の父親から生活費をもらっている。

北野海心(きたの かいしん):会社員の男性。趣味は釣り。嫁と娘と3人暮らし。

黒塚厳内(くろづか げんない):美夜野市の警部。失踪事件を解決しようと動くが、いまだに解決できていない。

飛岡晟(とびおか あきら):夕美夜高校の3年。オカルト研究部の部長で2人の3年の部員の1人。オカルト研究部の部長であるが責任感など一切なく、他人との関わりもほとんど拒絶している。最近は神隠し事件について調べている。

佐藤好夏(さとう よしか):夕美夜高校の3年。オカルト研究部の副部長で2人の3年生の部員の1人。同じ部活で同じクラスの飛岡晟のお世話係になっている。


 夜空が失踪した。彼女の精神も崩壊寸前だった。両親に続き、家族同然の幼馴染も失踪してしまったからだ。

 

「それでは信野さん。富鹿夜空さんが消えた時のことを可能な限り詳しく話してもらえませんか?」

「……」

 

 今は警察署の取り調べ室の中だ。あの後明日香はその場にへたりこんでいた。そこに誰かが通報したのか警察がやってきて保護される。そして、黒塚厳内と名乗る中年の警察官から質問をされていた。

 

「辛いかも知れませんが、夜空さん……いや、失踪者を全員助けるためには必要なことです。わたしたちも全力を尽くして調べていますが、手がかりが一切ありません。目撃者であるあなたの情報が必要です」

「……夜空は……何かに怯えていました」

 

 明日香はぽつりと話す。その声は独り言のように小さく、ここが静かでなければ聞こえなかっただろう。

 

「怯えていた?それは以前からですか?それとも……」

「消える寸前です……来るな来るなと繰り返しつぶやいていました……」

「何かが近づいていたということですか。その何かに心当たりは?」

「ありません……」

 

 黒塚はため息をつく。結局何かが見えた時に消えるという確証のない情報しか手に入らなかった。その何かが知りたかった。

 

「わかりました。あなたは帰ってください」

 

 黒塚は机に手を突き立ち上がる。取り調べ室を出ようとドアノブに手を掛けた時、明日香が口を開く。

 

「今日だけで2回……」

「え?」

「釣りをしていた人も……夜空も目の前で消えた……どうして!私の近くの人が消えるのはどうして!?」

 

 突然頭を抱え叫びだす。黒塚は明日香の肩を掴む。

 

「教えてください!それはどういう意味ですか!」

 

 そのまま明日香は気を失った。黒塚は手を離す。

 

「信野さん、あなたは何を知っているんですか……」

 

 明日香は何も答えなかった。黒塚は救護班を呼び、明日香を病院に送った。

 

 

 

「うっ……うう」

 

 夜空が目を覚ます。体を起こし、周辺を見渡す。真っ暗だがここは先ほどいた喫茶店だ。

 

「俺は……寝ていたのか?」

 

 一瞬そう思考するが、あの時のことを思い出す。影が自分に迫ってくる。ぶつぶつと何かをつぶやきながら。

 

「アソボウ。そう言っていた。あれは一体……」

 

 突然ガタガタと机と椅子が動き出す。

 

「地震!?」

 

 すぐにその場に伏せる夜空。しかし、それが地震でないことを嫌でも思い知る。机と椅子が宙に浮かんでいるのだ。

 

「な、なんなんだよっ!」

 

 夜空は立ち上がり、出入り口のドアに走りだす。その瞬間に夜空に向かって飛んできた。夜空は必死に躱しつつ、ドアに向かって走る。

 

 ガシャンと言う音が絶え間なく聞こえる。ドアに向かって叩きつけられている音だ。なんとか脱出できた夜空は息を切らせ、その様子を見ていた。

 

「なんだってんだよ……あれは一体なんなんだよ……」

 

 しばらくドアに引っかかっていた机はそのまま地面に落ちた。それを見た彼は安堵する。そして、改めて周囲を眺める。

 

「……月が出てるってことは今は夜か。だがなんだ、この体が重たい感じは……」

 

 月の光は深い霧によって明るくて暗い、そんな曖昧な感覚すら感じられる。そして濃霧による影響か体が重く感じられる。夜空は濃霧の中を歩いて行った。




 免許取得は大変だー。あ、Firefly1122です。

 頑張って小説書かねば……仕事が忙しい。

 最後に閲覧ありがとうございました。次回も見てくださる方は気長にお待ちください。


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進む

 1日に2人も目の前で消える瞬間を見てしまった明日香は、黒塚に保護され、夜空が消えた時のことを聞かれる。その時のショックにより、病院に送られ、結局明日香の見た光景は聞き出せなかった。そのころ夜空は異世界のカフェの中でポルターガイストに襲われる。

〈登場人物紹介〉

富鹿夜空(とみしか よぞら):夕美夜高校の2年。趣味はゲーム、アニメ視聴など。ごく普通の高校生。

富鹿良志(とみしか よし):夕美夜高校の1年で夜空の妹。趣味は運動。入学早々バレー部に入部。少々男勝りな性格。

信野明日香(しなの あすか):夕美夜高校の2年で夜空、良志の幼馴染。両親を亡くし、今は夜空の家で家政婦のようなことをする代わりに夜空の父親から生活費をもらっている。

北野海心(きたの かいしん):会社員の男性。趣味は釣り。嫁と娘と3人暮らし。

黒塚厳内(くろづか げんない):美夜野市の警部。失踪事件を解決しようと動くが、いまだに解決できていない。

飛岡晟(とびおか あきら):夕美夜高校の3年。オカルト研究部の部長で2人の3年の部員の1人。オカルト研究部の部長であるが責任感など一切なく、他人との関わりもほとんど拒絶している。最近は神隠し事件について調べている。

佐藤好夏(さとう よしか):夕美夜高校の3年。オカルト研究部の副部長で2人の3年生の部員の1人。同じ部活で同じクラスの飛岡晟のお世話係になっている。


 良志は病院に来ていた。顧問の先生から明日香が病院に送られたという話を聞いたからだ。そして、病院の先生から話を聞く。

 

「……そうですか。精神的ショックによる気絶ですか。原因とかわかりますか?」

「警察の方の話によると、幼馴染の夜空さんが目の前で消えたとの話です」

「えっ!?兄貴が!?」

「はい……警察の方が現在調査中です」

「……」

「富鹿さん。信野さんのそばにいてあげてください」

「はい……」

 

 良志は明日香の手を握る。明日香は酸素マスクをつけ、ベッドに眠っている。

 

「明日香……兄貴大丈夫かな……」

 

 明日香に話しかけるが、反応はない。

 

「……私、兄貴を探してくるよ」

 

 結局何も反応はなかった。良志は病室を出て行った。

 

 

 

 ふう……とため息をつく少年。彼は今学校の中を歩き回っていた。

 

「……変わった物はないな。七不思議であれば学校のどこかにあれがあるはずだ」

 

 各教室を回り、机や棚を探索する。当然職員室にも行った。

 

(考えろ……あの文章は何と書いてあった……)

 

美夜野市七不思議1:夕美夜高校の霊。丑三つ時の霊祝杯時。春と夏。君の間にぼくはいる。

 

「……まずは職員室に行くか。あれが必要だ」

 

 晟は再び職員室に向かった。

 

 

 

 

 夜空は町をさまよっていた。月の光はあれど、霧が濃すぎるのだ。見慣れた町ですら別の場所にいるような、そんな感覚に陥る。

 

「人がいない……」

 

 あれから数時間町をさまよっているが、歩いている人にすれ違うことがなかった。しばらく道なりに歩いていると、山が見えてきた。

 

「山?こんなところに山はなかったはずだ」

 

 道なりに進んでいると、山にぶつかることはない。いつの間にか道を間違えたしかありえない。夜空はもう一度、あたりを見渡す。ちょうど市と市の境目に立つコンビニ。その対面にある本屋。間違いない。ここから先は別の市になり、まだ町が続く。

 

「戻るか……」

 

 道路が山にぶつかり、アスファルトは崩れている。そこから先は木々が生い茂っていて、とても進める状態じゃない。つまり行き止まりだ。夜空は踵を返す。

 

 風に流され、少女の声らしきものが聞こえてきた。

 

「っ!?」

 

 笑い声のような声だ。だが、それは一瞬で、すぐに霧の中に消えてしまった。

 

 

 

 あはは!現実世界でも面白いことが起きてるよ!まさか彼をこっちに連れてきただけで気絶しちゃうなんて。あの子もこっちに送ってきたらどうなるかなぁ。いや、あの子からは何かを感じる。こっち側と同じ。ふふふ……仲間だ。友達だ……一緒にここで……



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夕美夜高校の勇人君

 先生から明日香が倒れたと聞いた良志は、病院で事情を聞く。話を聞くと、兄の夜空が消えたという。良志は兄を探す決意をし、病室を出て行った。そのころ、晟は美夜野市七不思議を調べていた。また、夜空は街を歩いていた。山にぶつかり、引き返す。

〈登場人物紹介〉

富鹿夜空(とみしか よぞら):夕美夜高校の2年。趣味はゲーム、アニメ視聴など。ごく普通の高校生。

富鹿良志(とみしか よし):夕美夜高校の1年で夜空の妹。趣味は運動。入学早々バレー部に入部。少々男勝りな性格。

信野明日香(しなの あすか):夕美夜高校の2年で夜空、良志の幼馴染。両親を亡くし、今は夜空の家で家政婦のようなことをする代わりに夜空の父親から生活費をもらっている。

北野海心(きたの かいしん):会社員の男性。趣味は釣り。嫁と娘と3人暮らし。

黒塚厳内(くろづか げんない):美夜野市の警部。失踪事件を解決しようと動くが、いまだに解決できていない。

飛岡晟(とびおか あきら):夕美夜高校の3年。オカルト研究部の部長で2人の3年の部員の1人。オカルト研究部の部長であるが責任感など一切なく、他人との関わりもほとんど拒絶している。最近は神隠し事件について調べている。

佐藤好夏(さとう よしか):夕美夜高校の3年。オカルト研究部の副部長で2人の3年生の部員の1人。同じ部活で同じクラスの飛岡晟のお世話係になっている。


 少年は職員室を探索していた。

 

「……ここか」

 

 少年は職員室の入り口に貼ってある教師の席が書いてある紙を見てつぶやく。そして、目的の席を調べる。

 

「……あった」

 

 手に紙を持ち、また教室に戻る。

 

(丑三つ時、つまり2時。「の」はクラスの長音符を意味する。そして、霊祝杯時。これは幽霊が出やすい時間を意味する。つまり2時~3時だ。霊が活発する時間は2時と言う話の方が多いから2時の可能性が高いだろう。つまり、「2-2」だな)

 

 彼は2-2の教室に入り、手に持った紙を見る。

 

(春と夏……これは名前だろう。……(はるな)晴菜と夏輝(なつき)って名前があるな。たぶんこれの間にある机が彼のだろう……)

 

 そう考えると、机の中身を漁り始める。そして、何かを引き出す。

 

「夕美夜高校の勇人君。野球少年だって話だったな」

 

 手に持った野球ボールを手に、そうつぶやく。そして、彼は全力疾走で廊下を走った。刹那、教室の机が窓を突き破り、彼を追ってくる。

 

(ボールを手に取るとそれを取り返そうと襲ってくる。逃げられなかったら殺される……ああ、噂通りだな)

 

 階段を飛び降り、2階に、1階に入り込む。正面玄関に着き、入り口の扉を開けようとドアを引く。

 

「っ!?」

 

 ビクともしない。彼はハッと後ろを振り向く。坊主頭の少年がそこに立っていた。

 

「カエセ……カエセ……ボクノ……」

「……お前は何故ここに縛られている。ボールはここにある。だが、これを返したところでお前が成仏できるわけじゃないのだろう?」

「カエセ……カエセ……ボクノ……」

「……」

 

 彼は少年を睨む。少年は宙に浮かせた机や椅子を彼に向かって飛ばす。少年はその机や椅子を躱す。バリンと入り口の扉のガラスが割れる。彼は割れた扉から外に出る。

 

「さあ、野球でもしようか」

 

 彼はボールを握った手を少年に向ける。

 

「アアア……」

 

 少年はうめき声を上げる。彼はボールを少年に投げる。少年はそれを受け取る。彼はバラバラになった机の脚を持って、一言いう。

 

「お前がピッチャーだ」

 

 

 

 自分の家を出て、街の方に歩く。この世界を出ると決意した彼だったが、出る方法もわからず途方に暮れて、ぶらぶらと街を歩いていた。

 

「……誰もいないな」

 

 時間の感覚はわからない。だが、長いことこうやってぶらぶらと歩ている。誰一人とも会っていない。彼はふと顔を上げる。一人の男がうつむいてこちらに歩いてきている。やっと人に会えた。彼はその男に声をかける。

 

「あ、あの!すみません!」

「……」

 

 男は無言だった。うつむいた状態で一定の速度で歩いている。

 

「すみません!」

「……」

 

 再び声をかけてみる。しかし、男は顔を上げるどころか足を止めることすらしない。彼はあきらめてその男を見送った。気配を感じ振り向くと、多数の人々が歩いてくる。先ほどの男性と同じようにうつむきながら。その人々の向かう先を目で追うと、霧でよく見えないが、山のシルエットがうっすらと見えた。

 

 山を凝視していると、ゴゥっという強い風が吹く。霧の水分で少し湿った空気が肌に纏わりつく。なんとなく、あの山に行かないといけない、そんな感じがした。




暑くなってきたので、こわーい話や動画を見て涼しくなってます。Firefly1122です。

 最近私がはまっているのは、意味が分かるとこわーい話です。下手くそなりに少し考えてみたので一つ。

 ある仲のいい兄弟がいました。兄は社会人で、中学生の弟をよく学校に送っていました。ある日、白い車で弟を学校に送りました。

「放課後迎えに来るから」

 そう言って兄は走り去っていきました。放課後、弟が校門の前で待っていると、兄の車と同じ、色が赤い車が走ってきました。兄でした。

「迎えに来たよ」

 そう言って乗るように促します。弟は新しい車でも買ったのかなと思いつつ乗り込みました。弟はそれ以来、学校に来ることはありませんでした。


 どうでしょう。怖かったらよかったです。

 最後に閲覧ありがとうございました。次回も見てくださる方は気長にお待ちください。

 上の意味こわの解説です。兄の乗ってきた白と赤の車は同じ車種です。兄は……

「交通事故で死んでしまいました」


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動き出すエレベーター

 晟は美夜野七不思議を調べ、学校に訪れる。そして七不思議の1つ、勇人君にあった。そして海心はこの世界から出るための手がかりを求めて街に向かった。

〈登場人物紹介〉

富鹿夜空(とみしか よぞら):夕美夜高校の2年。趣味はゲーム、アニメ視聴など。ごく普通の高校生。

富鹿良志(とみしか よし):夕美夜高校の1年で夜空の妹。趣味は運動。入学早々バレー部に入部。少々男勝りな性格。

信野明日香(しなの あすか):夕美夜高校の2年で夜空、良志の幼馴染。両親を亡くし、今は夜空の家で家政婦のようなことをする代わりに夜空の父親から生活費をもらっている。

北野海心(きたの かいしん):会社員の男性。趣味は釣り。嫁と娘と3人暮らし。

黒塚厳内(くろづか げんない):美夜野市の警部。失踪事件を解決しようと動くが、いまだに解決できていない。

飛岡晟(とびおか あきら):夕美夜高校の3年。オカルト研究部の部長で2人の3年の部員の1人。オカルト研究部の部長であるが責任感など一切なく、他人との関わりもほとんど拒絶している。最近は神隠し事件について調べている。

佐藤好夏(さとう よしか):夕美夜高校の3年。オカルト研究部の副部長で2人の3年生の部員の1人。同じ部活で同じクラスの飛岡晟のお世話係になっている。


 深夜の病室。少女は目を覚ます。ハッ目を覚ました彼女は周囲を見渡す。真っ暗な病室。窓のカーテンも閉め切られ、月の光も届かない。唯一光が漏れる扉の向こう側。彼女は身体を起す。その衝撃で酸素マスクが落ちる。ゆっくりと歩き、その扉に向かう。ガラガラと音をたて、横開きの扉が開く。シーンと静まり返った廊下、一瞬の明かりで目がくらむが、すぐに目が慣れる。周囲を眺める。そこで初めて少女は気づいた。

 

「……ここ、病院?」

 

 壁に書かれた地図を見て、受付に向かう。ここは2階、階段を降りて左に曲がったところに受付がある。

 

「すみません……」

「あ、明日香さん。意識を取り戻したんですね。よかった」

「あ、あの……わたしはどれくらい」

「4時くらいからなので10時間ほどですね。一人で歩いてこれるほどだからもう大丈夫みたいですね。ですが、まだ少し安静にしていてください」

「……はい」

 

 看護婦の引率でエレベーターに乗る。2階のボタンを押し、上に向かう。

 

 

 何分経っただろう。1階から2階まで距離はない。15秒もしたら着くはずだ。それなのにひたすら音を立て、ずっと上り続ける。いくら何でも遅すぎる。看護婦もすこし青ざめていた。

 

「……緊急外部連絡を!」

 

 さすがにおかしいと考えた看護婦はエレベーターに付いている受話器を取る。しかし、外につながらなかったのか、さらに青くなった顔でこちらに振り向く。と、その瞬間、エレベーターはその動きを止める。やっと止まったと安心したのもつかの間、ゴウっと音を立て、動き始める。……落下しているようだ。彼女らは宙に浮き、エレベーターの天井に張り付く。

 

「きゃああああああ!!!」

 

 彼女らは絶叫する。そして明日香は、死を覚悟する。刹那、落下がゆっくりになり、床に体を叩きつけられる。看護婦は頭から落ち、打ち所が悪かったのか気を失った。明日香は体に響く痛みをこらえながら、看護婦さんを揺する。

 

「看護婦さん!看護婦さん!」

 

 ゆっくりと降りていたエレベーターが止まり、チーンと間抜けな音を立てる。階を見るとB2階。地下だった。まるで誘うような暗闇が広がる空間に目を向ける。

 

「うううう」

 

 低く呻くような声に明日香は身を震わせる。そして、先ほどよりも強く看護婦を揺する。

 

「看護婦さん!看護婦さん!」

 

 しかし、目を覚まさない。暗闇の向こうにある扉らしきものがガタンと音を立て開く。ビクッと身を震わせ、その方向を向く。扉の向こうには青色の着物を着た、長い黒髪の少女らしき人物が立っていた。明日香は直感した。夜空が見ていたのはこの子だと。

 

「看護婦さん!かんご……ひっ!?」

 

 先ほどまで揺らしていた看護婦の姿が腐り、触れていた肌からウジが沸く。顔がこちらを向いていた。先ほどの看護婦ではない。横にすごい気配を感じ、振り向く。そこに先ほどの少女が立っていた。あの一瞬で、20メートルはあろう廊下を音もたてずに移動してきたのだ。その顔はニッコリと笑い、まるでいい獲物を見つけたと言わんばかりの表情をしている。そして口を開く。

 

「一緒に遊ぼう」

 

 明日香は悲鳴を上げ気を失う。

 

 

 

「ふぅ……」

 

 一息つく少年。校庭にあるベンチに腰を掛け、メモを見る。

 

 あの後彼は勇人君と野球をした。キャッチボールやバッティングなどなど。勇人君がここに出るのは、いじめを受け、その怨みが彼をここに縛り付けている。彼の大切にしていたボールを隠したりしていた。最後は彼は屋上から突き落とされた。野球をしたかった。友達と仲良く。それが彼の望み。そして、大切なボールを隠すような人間はいじめっ子だと判断し、殺そうとする。晟が助かったのは、彼の望みを果たして上げたからだ。晟はため息をつき、立ち上がる。

 

「さて、次に行くか……」

 

 そして、美夜野市の中央病院に向かったのだった。

 

 病院に入り、時計を見る。時刻は夜2時を指している。ここに来たのは2つ目の7不思議、病院のエレベーターゾンビを調べるためだ。 

 

「……さっきのやつは確か3時に出るはずだ。つまり、ここは時間の概念がないのか?」

 

 受付の横にある地図を見てエレベーターに向かう。電気は来ているようで、エレベーターは作動している。今エレベーターがいる階はB2と書いてあった。三角形が下に向いているボタンを押すと、エレベーターが動き出す。チーンと言う音とともに扉が開く。

 

「……」

 

 エレベーターの中には患者と思われる少女が倒れていた。

 

「おい、大丈夫か?」

 

 不思議とそれがちゃんとした人間だとわかった。エレベータに入り、彼女に声をかける。しかし、反応はない。そうこうしている間にエレベーターが閉じる。

 

「っ!?しまった!」

 

 そう叫ぶと同時に強い気圧が襲い掛かる。地面に押さえつけられる感覚だ。

 

「どうした!こうなったときどうやって対処した!考えろ!」

 

 思考がめぐる。そして思い当たる。

 

「次は落下だ!その間に上に……」

 

 ふと傍らに眠る少女が気になる。

 

「……くそ!二人じゃ無理だ!」

 

 刹那、一瞬だけ止まる。気圧が無くなり、無重力になる。そして一気に天井にたたきつけられる。晟は傍らに眠る少女の手を握りこちらに引き寄せ、抱きしめる。そしてエレベーターは最下層まで落ちた。




 暑い日が続きますね~Firefly1122です。

 怖い話を聞きながら小説の展開を考えるが楽しいです。暑い日に怖い話はいいですよ。

 最後に閲覧ありがとうございました。次回も見てくださる方は気長にお待ちください。


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出会い

 目を覚ました明日香は受付に向かう。部屋に帰るように言われ、エレベーターに乗るが、怪奇現象に襲われる。勇人君を成仏させることに成功した晟は病院のエレベータに来たが、油断して晟もエレベーターの怪奇に襲われた。

〈登場人物紹介〉

富鹿夜空(とみしか よぞら):夕美夜高校の2年。趣味はゲーム、アニメ視聴など。ごく普通の高校生。

富鹿良志(とみしか よし):夕美夜高校の1年で夜空の妹。趣味は運動。入学早々バレー部に入部。少々男勝りな性格。

信野明日香(しなの あすか):夕美夜高校の2年で夜空、良志の幼馴染。両親を亡くし、今は夜空の家で家政婦のようなことをする代わりに夜空の父親から生活費をもらっている。

北野海心(きたの かいしん):会社員の男性。趣味は釣り。嫁と娘と3人暮らし。

黒塚厳内(くろづか げんない):美夜野市の警部。失踪事件を解決しようと動くが、いまだに解決できていない。

飛岡晟(とびおか あきら):夕美夜高校の3年。オカルト研究部の部長で2人の3年の部員の1人。オカルト研究部の部長であるが責任感など一切なく、他人との関わりもほとんど拒絶している。最近は神隠し事件について調べている。

佐藤好夏(さとう よしか):夕美夜高校の3年。オカルト研究部の副部長で2人の3年生の部員の1人。同じ部活で同じクラスの飛岡晟のお世話係になっている。



 少女は兄の手がかりを求め、警察署に来ていた。時刻はすでに8時を回っている。

 

「こんばんは。富鹿です。兄が行方不明になったと聞いてきました」

 

 入ってすぐの受付で用件を言う。受付の入り口でパソコンを打っている女性の警官が顔を向ける。

 

「富鹿さんですね。行方不明になった兄と言うことは富鹿夜空さんの妹さんでしょうか?」

「はい」

「担当の黒塚が対応します。こちらへどうぞ」

 

 席を立ちあがり、部屋から出てきた女性警官の後ろをついて歩く。廊下を右に曲がり、長い廊下の2つ目のドアを開ける。札を見ると、待合室と書いてあった。

 

「こちらでお待ちください。担当の黒塚を呼んできます」

「わかりました」

 

 2つの長机を挟むように4つのパイプいすがある。それの一つに良志は座った。しばらく待っていると、ノックの音とともに中年の男性が入ってくる。

 

「お待たせしました。黒塚と、申します」

 

 少し間延びした声の中年男性は黒塚と名乗った。良志も名乗る。

 

「行方不明になった富鹿夜空の妹の、富鹿良志と申します。兄の失踪についていろいろ聞きたくて来ました」

「なるほど。いろいろ話したいことはやまやまなんですが、正直のところ行方は愚か犯人すらもわかっていない状況なのです」

「手がかりになりそうなものは?」

「失踪者の繋がりを調べたのですが、全くわからないのです。他にもいろいろな方向から調べてみたのですが、一切共通点が見つかりませんでした」

「その資料とかありますか?」

「ちょっと待っててください」

 

 そう言って部屋を出て行く黒塚。少女はそのまま座って待っていた。きょろきょろとあたりを見渡す。特に変なところがあるわけでもなく、白い無機質な壁があるだけである。窓からは山の風景だけが映っている。そんなこんなで部屋の中をきょろきょろしていると、再びドアが開く。黒塚が帰って来たのだ。

 

「お待たせしました。これが被害者のリストです」

 

 ホッチキスで止められた紙の束を受け取り、見る。内容は被害者の名前、最後の目撃場所、周囲にあった物、家系などなど。その中には夜空の名前がある。その上に良志の学校の生徒の名前もある。

 

 良志はそれぞれの関係性を探してみた。最初の犠牲者はお寺の住職、二人目はその親戚だ。ここでピンと来て訪ねる。

 

「一人目と二人目、親族ですよね?」

「はい。そうです」

「それじゃあ……」

「あなたの考えはわかる。わたしもその件で調べた。しかし、何の関連性もなくなってきたのです」

 

 良志は再びリストに目を向ける。確かに最後の方は一切関連性があるように思えない。夜空の妹である良志もお寺の住職に知り合いなどおらず、ましてや夜空の名前の上に書いてある生徒も知らない。

 

「それじゃあ……」

 

 リストを見て思考を巡らせるも何も思いつかない。と、黒塚が口を開く。

 

「私はこう考えています。これは霊の仕業ではないかと」

 

 良志は呆れた。大の大人が霊の仕業だと言い張るのだ。その様子を見た黒塚はさらに詳しく説明する。

 

「一切の手がかり無し。引きずった跡は愚か目の前で跡形もなく消えたという証言すらも出てくる。わたしも最初はそんなバカげた話はないと思っていたが……信じてはくれませんよね」

「あたりまえでしょう?そんな話誰が信じるというのですか?」

「そうです。信じてはくれません。誰も。ただ一人を除いて」

「?」

「今から私の知り合いのところに行きます。ついてきますか?」

「兄の手がかりになるのならどこにでも行きます」

 

 二人は部屋を出た。

 

 

 夜空は走っていた。途中ですれ違う数人の人々。だが生きている人間ではない。夜空はそう確信していた。すれ違う人々はすべて顔面蒼白、俯き、声をかけても返事はない。ただひたすらに一定の速度で歩いている。その方向は、夜空の背後にそびえ立つ山だ。夜空はその山から聞こえる異様な声から逃げるように走っている。

 

「お、おい!君!」

 

 声がかけられた。夜空のものではない。足を止め、振り向く。俯いたまま走っていたため、存在に気付かなかった。

 

「生きてる……人?」

「あ、ああ。今ここがどこかわかるかい?」

 

 その顔を見ると、夜空は思い出す。登校中に忽然と消えた釣り人のおじさんだ。

 

「あなたは川で釣りをしていた……」

「ん?確かに釣りをしていて気づいたらこの薄暗い世界にいた。何か知っているのかい?」

「知りません……ただ、俺たちは失踪者だということだけはわかります」

「それは何故だ?」

「あなたは失踪した。俺たちの目の前で。そして俺は恐らくこの失踪の犯人と思われる化け物に襲われた」

「はぁ……化け物か……いや、すまん。あまりにも現実離れしていてな。ちょっと頭が混乱しているんだ」

 

 その釣り人のおじさんはキャップをかぶった頭をなでる。そしてその右手を差し出しこう言った。

 

「わたしは北野海心。良かったら一緒に行動してはもらえないだろうか。一人では心細いからな」

 

 夜空はすでに決めていた。生きている人、同じ失踪者。一緒に行動しない理由がない。差し出された右手を取り、握手した。




 夏休みも半分が過ぎた模様。仕事は相変わらず大変です。Firefly1122です。

 いよいよこの小説も半分ほどになりました。というか前振り長すぎた気がしてますw次回からさらに進展するかなと思います。

 最後に閲覧ありがとうございました。次回も見てくださる方は気長にお待ちください。


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