名探偵コナン〜小さくなった女探偵〜 (桂ヒナギク)
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 坂上 聡美。私立探偵で、年齢は二十一の独身。住まいは東京だ。

 聡美は今、黒ずくめの男が米花町を生業とする暴力団幹部の拳銃密売証拠フィルムと現金を交換している現場を、物陰から見つめていた。

 取引を見るのに夢中になっていると、背後から金色長髪の男がやってきて、角材で頭を殴りつけた。

「うっ!」

 聡美はよろめき、倒れた。

 意識が混濁する。

「ウォッカ、こんな奴に嗅ぎつけられるなんてざまあねえな」

「さ、坂上さんじゃねえか」

 と、暴力団幹部。

「お前さんのお知り合いで?」

「じ、自分が親しくしてる私立探偵の方で」

「じゃあ、お前の手で逝かせてやれ」

 長髪の男、ジンが幹部にカプセル状の毒薬を渡す。

「え?」

「我々組織が開発した体に残らない毒薬だ」

「い、嫌ですよ」

 聡美は混濁する意識の中、幹部に言う。

「関根さん……、あなた、警察職員なのに……、拳銃の密売に手を出すなんて……」

 関根と言う人物は聡美の口にカプセルを放り込み、ジンが水を飲ませる。

「関根とか言ったな。このことは他言無用だ。わかってるな?」

「あ、ああ……」

「ずらかるぞ」

 三人はそそくさと立ち去る。

「ぐっ!」

(か、体が熱い! 骨が、溶けてる!?)

 聡美は激痛に悶えて気絶した。

 

 

 目を覚ます聡美。

(生きてる?)

 起き上がる聡美。

「そうか。あの薬は効かなかったのね」

 違和感を覚える。

「え?」

 服がダボダボだった。

(どう言うことだ?)

 聡美は近くの公衆トイレに入り、鏡を見た。

(体が縮んでる!?)

 これは夢だ。そう思いながら、トイレを出る。

 後のことは覚えていない。気付けば、坂上法律探偵事務所の前にいた。

 法律探偵事務所は、聡美が弁護士の資格を持っており、両方経営している為に名付けられていた。

 中に入る聡美。

 部屋の中を漁り、幼い頃に着ていた洋服に衣装チェンジをする。

「そうだ」

 聡美は事務所を出ると、阿笠邸に向かう。

 以前、担当した民事事件で知り合った、阿笠 博士(あがさ ひろし)と言う科学者の元を訪ねた。

「なんだい、お嬢ちゃん?」

 聡美は博士に事情を説明した。

「それじゃ、君は坂上さんだと言うのだね?」

「はい。にわかには信じ難いと思いますけど、本当なんです」

「信じるとも。実はウチに出入りしているコナンくん、本当は工藤 新一(くどう しんいち)と言う高校生なんじゃ」

「そうなんですか」

「そうじゃ! 君も彼のところにしばらくの間、居候させてもらえばいい!」

「どう説明するの?」

「そうと決まれば早速、蘭くんに電話じゃな」

(勝手に決めるなよ)

「おっと、これを渡しておこう」

 博士は聡美に腕時計を渡した。

「これは?」

「腕時計型麻酔銃じゃ。新一もこれを使って、探偵の毛利 小五郎(もうり こごろう)を眠らせ、変声機で事件を解決してるんじゃ」

「それ傷害罪。あなたは傷害幇助ね」

「う……さすが弁護士さんじゃ」

「ま、とりあえず預かっておくよ」

 博士は電話をかけ始めた。

 それからものの数分で電話を終え、聡美に言う。

「住んでもいいそうじゃ」

「そう」

 聡美は毛利探偵事務所を訪問した。

「いらっしゃい」

 毛利 蘭(もうり らん)が出迎える。

「君が阿笠博士の言ってた子ね?」

「はい」

「お名前は?」

坂上 聡美(さかがみ さとみ)です」

「よろしくね、聡美ちゃん」

 蘭がそう言ったところで、小五郎が表から帰ってくる。

「誰だ、その子?」

「阿笠博士の知り合いの子で、聡美ちゃんって言うの。両親を事故で亡くして、行く当てがないから預かってくれって」

「おう、そうか」

 椅子に腰掛ける小五郎。

「さーて、ようこちゃん」

 小五郎はテレビをつけた。

「もう、お父さんったら……」

 



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2.バット

 帝丹小学校。

 一年の某教室に、聡美はいた。

 先生が聡美の紹介をしている。

「じゃ、席に着いて」

 聡美はコナンの隣に座った。

「よろしくね、(新一くん)」

 コナンは驚いた顔をする。

「その顔は驚いてるね。私もあなたと同じなのよ」

「同じ……?」

「アポトキシン4869。飲まされたのよ」

「え?」

「そう言うことだから、よろしくね」

 聡美は笑みを浮かべた。

 

 

 昼休み。

 小嶋 元太(こじま げんた)円谷 光彦(つぶらや みつひこ)吉田 歩美(よしだ あゆみ)が聡美の元に集まってくる。

「坂上さん、僕たち、少年探偵団なんですけど、仲間になりませんか?」

「少年探偵団? ああ、噂には聞いてるよ。でも……」

「でも?」

「入る気は無いわ」

「えー?」

「おめえ冷てえやつだな」

 と、元太。

「私は一匹狼なの」

「一匹狼ねえ……」

 と、呟くコナン。

 その時、どこからともなく悲鳴が聞こえる。

 聡美とコナンは悲鳴の元に駆けつけた。

「先生、何が遭ったの!?」

「こ、校長先生が……!」

 と、校長室の中に向かって指を差す教員。

 部屋の中を覗くと、校長の上山(かみやま)が頭から血を流して絶命していた。

 聡美は110番で警察を呼んだ。

 捜査員がやって来て、鑑識作業が始まる。

 部屋の外では、目暮(めぐれ)警部たちが第一発見者の教員から話を聞いている。

 やがて鑑識作業が終わると、コナンと聡美は中に入った。

「おーい、コナンくんにお嬢ちゃん」

 と、目暮警部。

「勝手に入っちゃいかんよ」

「でも、鑑識作業は終わったでしょ?」

「君には世話になってるし、ま……いいか」

 目暮警部は教員との会話に戻る。

「ん?」

 聡美が閉じられているカーテンの裏の、中央が丸く割れた窓ガラスに気付く。

「江戸川くん」

「何だ?」

「これ」

 コナンも割れた窓ガラス見る。

「鑑識の前に部屋を見たけど、ボールなんかなかったぞ?」

「でも、これって……」

「確かにボールの痕跡(あと)だな」

「いたずらっ子の誰かがボールを外から中へ投げて、それが校長の頭に当たった?」

「ねえ、先生!」

 コナンが第一発見者の教員に訊ねる。

「これっていつできたの?」

「それは先週、体育の時間に野球をやって、バッターの打ったボールが当たったんだ」

「ふーん」

 聡美は窓の外を見た。

 血のついたバットが地面に倒れている。

(あれが凶器?)

「目暮警部!」

 聡美が言う。

「凶器が外に!」

「何だって?」

 目暮警部が窓の外を見た。

 地面までの距離は5メートルほど。ここは二階なのだ。

「高木くん!」

「はい!」

「大至急、あのバットを回収して鑑識に回すんだ」

「わかりました!」

 高木刑事が駆け足で外へ向かっていった。

 外で高木刑事がバットを回収する。

 



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3.ブローバック

 鑑識からの報告で、バットについてたいのは被害者の血液だった。

(中にガラス片が落ちてる……)

 聡美は身を乗り出して外を見る。

「ん?」

 地面で何かが光った。ガラス片か。

「どうした?」

 と、コナン。

「ガラスって、割ると、割れた方向はもちろん、内側にも破片が落ちるよね?」

「ああ。ブローバック現象だな」

「これ、中から割ったんじゃないかしら?」

「バットでか?」

「恐らくね」

「そういえば、あの人は嘘をついたな」

「嘘?」

「先週、体育の授業はあったけど、野球をやったクラスはなかったんだ」

 聡美は第一発見者の教員を見た。

「江戸川くん、小五郎さん呼んで」

「え? いいけど」

 コナンは携帯で小五郎にかけた。

「もしもし、おじさん? 今、学校で殺人事件が起きちゃって。解決してほしいからちょっと来てよ」

「ぬゎにい!? わかった、すぐに行く!」

 それから暫くして、小五郎がやって来た。

「毛利くん、何の用だね?」

「目暮警部殿! コナンに頼まれて事件を解決しに来たんですよ」

「別にお前なんかいなくても解決できるがな」

「まあ、そんなこと言わずに全部この私目にお任せ下さい」

 小五郎は事件現場を確認する。

 聡美は物陰から小五郎を腕時計型麻酔銃で狙う。

「お前、まさか?」

「そのまさかよ」

パシュ!──聡美が麻酔銃を発射した。

プス!──小五郎の首筋に麻酔ばりが刺さる。

「フニャ!?」

 小五郎は校長室の椅子に座り込み、眠りについた。

 コナンは聡美に訊ねる。

「誰が声を出すんだ?」

「私」

「じゃ、これを」

 コナンが蝶ネクタイを取り出すが。

「いらないよ」

 聡美は小五郎の背後に駆け込んだ。

「毛利くん、どうしたんだね?」

 と、目暮警部。

「犯人がわかりましたよ、目暮警部」

 と、小五郎の声が聞こえてくる。

 コナンが聡美を見ると、蝶ネクタイ型変声機を使わずに、小五郎の声を出していた。

「何?」

「犯人は、第一発見者のあなたです!」

 驚き戸惑う教員。

「え? 僕が犯人?」

「私の後ろのガラス、あなたが割ったんですよね?」

「いや、それは体育の時間に生徒が打った球が当たったんですよ」

「それは嘘です」

「嘘?」

「先週、体育の時間はありましたが、野球をやったクラスは一つもありませんでした。なぜ、そんなことを?」

「えっと……、それは……」

「あなたは今しがた、被害者をバットで殴り殺し、そのバットをガラスに向かって投げ飛ばしたんです!」

「で、でも窓ガラスの前にガラス片が落ちてるじゃないですか! それは外から割れたってことでしょう!?」

「ブローバック現象ですよ」

「……!?」

 驚く教員。

「物には抵抗力があり、ガラスを割ると割れた方向だけでなく、割られた方向にもガラス片が飛び散るのです」

「ぐっ!」

 その場に崩れる教員。

「校長が、あいつが悪いんだ。俺の妻を寝取るから……!」

「あとは署でお聞きします」

 教員が警察官に連行された。

 小五郎が目を覚ます。

「毛利くん!」

「警部殿……?」

「またまたお手柄だぞ。お前に警察を辞められて後悔してるよ」

「はて?」

「小五郎さん、お手柄だったね」

 と、聡美。

「そうだよ。名推理だったよ!」

 コナンに言われ、「そうか? なーはっはっは!」と笑う小五郎であった。

 



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4.給食費

 帝丹小学校。

 聡美は五年生の弟である坂上 剛(さかがみ つよし)に自分の素性を説明していた。

「え、君が聡美お姉ちゃん? そんなの嘘だい!」

「本当なのよ。毒薬を飲まされて気づいたら体が縮んでたのよ」

「なんか信じがたいなあ」

「信じてくれないのね」

「ごめん。正直、半信半疑なんだ。なんとなくお姉ちゃんに似てるからね」

 その時、剛のクラスメイトがやってくる。

「おい、坂上!」

 クラスメイトは大きい体をしたガキ大将のような人物だった。

「ちょっとツラ貸せ」

「何?」

 剛がガキ大将に連れて行かれる。

 聡美は後を追った。

ブン!──廊下で剛が殴られる。

「剛!」

 聡美がガキ大将の前に立ちはだかる。

「女は引っ込んでろよ」

「うっさい!」

 聡美がガキ大将を蹴ると、二メートルほど吹っ飛んだ。

「何しがやる!」

 起き上がったガキ大将が、聡美に襲い掛かった。

 聡美はスウェーバックでガキ大将のパンチをかわし、更に次々と繰り出される攻撃をことごとく避けた。

「なんで当たんねえんだよ!」

「動きが遅いのよ。のろま。後ね、うちの剛をいじめないでくれる?」

「チッ」

 ガキ大将は教室へ戻っていく。

「本当にお姉ちゃんなの?」

「だからそうだって言ったよね?」

「お姉ちゃんが僕より小さいなんて、なんか嫌だな」

 聡美の背中に矢が突き刺さる。

「じゃ、私は戻るから」

 聡美は自分の教室に戻った。

 教室では、先生が困ったような顔をしていた。

「先生、どうしたの?」

美空(みそら)さんの給食費がなくなちゃったの」

「給食費が?」

「そこに置いてあったんだけど……」

 教卓を指差す先生。

「容疑者は?」

「容疑者って、生徒たちを疑いたくはないわ」

 今日は頼みの綱のコナンは風邪で休んでいる。

「聡美さん、あなたも小五郎さんのところで探偵のイロハを教わってるんでしょ? 給食費を見つけてくれない?」

「うん、いいけど……。先生が美空ちゃんの給食費を最後に見たのはいつ?」

「十五分くらい前ね。トイレ行って、戻ってきたら美空さんの分だけないのよ」

「……………………」

 教室には数人の生徒。放課後でほとんどの子ども達は帰宅している。

 聡美は残っている生徒たちに話を聞いた。

 生徒の人数は三人。

(しば)くん、君はなんか見てる?」

「僕は何も見てないよ」

篠田(しのだ)くんは?」

「僕は柴が怪しいと思うな。こいつ、家が貧乏だから、金とか見たら盗みそう」

「なるほど」

 聡美は頷き、続けた。

山本(やまもと)くんはどうお?」

「俺はトイレ行ってたから……」

 聡美は山本のズボンのポケットから何かがはみ出しているのに気づいた。

「それは?」

 聡美が指摘すると、山本は慌ててそれを隠した。

「山本くん、出しなさい」

 先生が言う。

「ち、違うんだ! これは!」

 先生が問答無用で取り出す。

 聡美の隠し撮り写真が出てきた。

「……え?」

「山本くん、これは?」

 山本は頰を赤らめて走り去ってしまった。

「対象外です」

 と、聡美。

「どう言うこと?」

「あの様子だと、山本くんは私に気があるのね」

(……あれ?)

 聡美は何かに気づき、先生から写真を奪い取って見つめた。

 日直が窓を閉めようとした時か、風が入ってきて給食費の入った封筒がゴミ箱に入り込む瞬間が写り込んでいる。

(なるほど)

 聡美はゴミ箱を調べた。

 すると、中から封筒が出てくる。

「先生、美空ちゃんの給食費」

「そんなところにあったのね」

 先生が聡美から給食費を受け取る。

「見つけてくれてありがとう」

それから──と、柴と篠田を見る先生。「疑ってごめんね」

「いや、別にいいよ。見つかったんだし」

「僕もいいよ」

 柴と篠田はそう言うと、ランドセルを背負って帰って行った。

 



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