暗い僕と至高の彼女 (ネコ缶)
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日常

朝起きる、と言ってももうお昼だ。

高三の初めての夏休みなのに

遊びも勉強もせず ただ

ゴロゴロしてる。

「おはよう」

試しにベットの上で呟いてみる。

そこには、『静けさ』しかなかった。

誰もいない。 ただ天井のロープがこんな僕を

嘲笑していただけだった。

両親は、できの悪い子を置いて海外出張という名の

バカンスに行った。

「ヒカルは頭悪いから勉強しないとどこも大学受からないわよ」それが最後に聞いた母の言葉だった。

ざびしい ざびしい ざびしい ざびしい....

僕は今まで同級生や歳の近い子 特に女の子とは五年以上

まともな会話をしたことがない。

中学の時に虐められて、仲間だと思っていた、

唯一の『友人』も僕をか待ってくれなかった。

なんで、

なんで、

なんで、

なんで、

なんで...........

......................

でも仕方ないんだ。

僕は唇を噛んだ。

そう、人間とは自分を守るのに精一杯でその目的の

ためなら他人が、『自殺』しても良いのだ。、、、

それはひょっとして僕も同じかもしれない。

いや、『絶対に』同じだ。

認めたくないが。

僕は歯をくいしばった。

だから僕はこの世で『人間』とゆうものが最も怖い。

仲良くなってもいつか裏切ったり、捨てられたりしてしまうかもしれない。

捨てないで、捨てないでよ、

怖い。

他人の心の中で僕という存在は、

いったいどの様に定義されているの

だろうか。

「死ね、ウザい、消えろ」

そんな言葉が聞こえそうだ。

なんで人は楽しげに他人と会話ができるんだろう。

明日捨てられるかもしれないのに

だから僕は人を意識的に避けてきた。

 

 

『違うだろう』もう一人の僕が示唆する

『お前が避けてるんじゃ無いんだ。この世界が価値のない

お前を避けているんだ。お前は一生誰からも愛されない

必要とすらされない、孤独で苦しく、

地獄より辛い生活を

送るのだ』

 

毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日

寿命という大木を細いノコギリで

ゆっくりゆっくり削るような作業の繰り返し・・・。

 

はやく、切られたかった。

 

今日、こそ、死のう。

死ねば天国に行けるかもしれない。

でもいつも自殺しようと思うと、

怖くて、怖くて、足が震えて、首に

あるロープをつい外してしまう。

 

なんて臆病なんだ。死ぬのも生きるのも勉強も運動も

会話も、

下手くそ 。下手くそ、下手くそ‼︎

 

今日も、『同じ作業』を繰り返すのか。

なかば失望した気持ちで天井にかかった

強いロープに首をかける。

あとはこの椅子を蹴れば、

 

終わる、、、

 

 



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異変

ヒカルは水知らずの少女にあってしまいます。


『なにしてるの?』

後ろから

女の子の優しそうな声

がした。

僕は驚いてロープから離れ後ろを見る。

そこには、一人の女子高生がいた。

セーラー服を着て、黄色のネクタイをして

茶髪の少女

僕は真っ青になった。

「誰?なんでここにいるの?」

家の鍵が開いていたのか?

 

「ねえ!」

少女が発したのはとても力強い声だった。

僕はその声に押されて尻もちをついた。

 

そんな僕を絶望したかのような眼差しで

見つめている。

 

怖くて立ち上がれない。

 

「はやく質問に答えてよ!

なんでそんなことしてるの?」

 

少女は近くと僕の視線と合うように

女の子座りをした。

 

「しゅ、趣味でしています」

とっさに出たセリフはそれだった

 

「ふ〜ん そうなんだ〜〜」

機嫌が悪いのは明確だった。

だが、少女は次の瞬間、スレスレまで近づいて来た。

僕はまだ動けなかった。

「ねえ、それじゃ〜さ〜私があなたの人生を

『買って』あげる」

少女は満面の笑みを浮かべた

僕の視界を占領したこの笑みは、僕のためにわざわざ天から降りてくださった天使様のそれのようであった。

まるで純物質で構成された水晶のような透き通って

いるかの如く、輝いていた。

「どうゆうことですか」

「だから〜〜〜私のダーリンになってよ」

少女はいきなりダダをこねた子供のようになった。

「ダーリンですか。」

「そうだよ、ヒカル」

 

・・・この時、世界は僕以外静止した。

なんで少女は僕の名を知ってるのだろう

一度もあったことないのに

時間は解凍された如く少しずつ動き出した。

「ダメかな?ダメだったら殺すだけだけど」

和やかだった空気が一瞬で凍りつく。

彼女はおそらく自身のものであろうカバンから

『包丁』をそっと取り出した

「ヒカルが私のこと嫌いなら私も、ヒカルも

生きてる意味ない!

私が殺してあげる。自殺よりもずーっと確実だから長く

苦しまなくていいよ!

一緒に天国行こッ!」

少女は、壊れたかのように笑い出す。

「ヒカル、ほら、『奈々』の指で包丁を撫でるだけでね、」

 

少女いや、奈々の指から純紅の血がでた。

怖い。だが止めなければ‼︎

僕は奈々から包丁を奪い、床に投げ捨て抱きついた。

 

「分かった。分かったから」

僕は奈々の背中をさする。

「ありがとう!嬉しい!」

奈々はいつの間にか大人しく泣いていた。

 

僕はだんだん冷静になってきた。

いつの間にか泣いていた奈々も僕の後ろまで

手を伸ばし、抱きついていた。

だんだんと奈々の匂いがはっきりしてきた。

この世のものではない程いい匂いだった。

だんだん奈々の身体の『温もり』を冷静

に感じることができるようになってきた。

なんだろうこの幸せ。

死ぬのがバカバカしいと思える程のこの

『幸せ』

『必要とされる幸福』

「奈々のこと抱いてる時って幸せ?」

「とても幸せ」

心からでた一言だった。

 

 

 



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忘れ去られた事象

二人には幸せになって欲しいと切実
に願うばかりです。


「ねえ、ヒカル今日って何の日か知ってる?」

奈々は抱きついた手を離し僕の頭を優しくなでた。

僕は少し考えるがわからない。

「ヒカルの髪の毛いじりフワフワ

して癖になっちゃうな〜」

奈々は話をずらした。

でも分からない。

多分僕に考える時間をくれたのだろう。

「う〜ん、わからないか」

少し残念そうだった。

また、さっきみたいに

突然豹変してしまう

のが怖かった。

「ごめんなさい分からなくて」

僕は下を向いた。

だがまた頭をなでられた。

「今日って、8月10 日じゃない。

私、誕生日なんだ〜〜。」

微笑んで楽しそうだった。

でも何か引っかかる。

「誕生日?8月10日って

『僕の誕生日』....................」

「あったり〜!ヒカルと奈々の一番、

大事な日。ヒカルが奈々のもの

ものになって奈々がヒカルの

ものになった日!」

みんな忘れていた。

僕ですら忘れていた

僕の一番大事な日!

 

「目からうれし涙が出てるよ」

 

奈々は自然とでた僕の涙を指で

拭き取り舐めた。

「美味しい」

ほっこりした笑顔だった。

「それじゃ〜さ〜、一緒にケーキ作ろうか。

あんな物騒なロープ外したら、

材料買いに行こ〜」

僕はロープを外した。

「そのロープいらないから

燃やしちゃお〜」

奈々は笑顔で呟いた。

結局、それは二人でほどいて一本ずつ燃やすというか

溶かしていった。

「さ〜て行こうか。お金は全部払うよ。ヒカル

といる時間はお金じゃあ買えないし、

もし帰るんだったらいくらでも払いたいなあ〜」

「ウルウル」

泣きそうになったが耐えた。

「でもその代わり手を繋いで歩こう!」

一瞬ためらった。なぜならそんな姿を見た第三者は

どう思うか?

きっと奈々を馬鹿にするに違いない。

だが、奈々は何億人もの僕以外の人に最低と思われる

より、僕に手を繋いでもらえない方が何倍

いや、その程度で済むはずがない

違う何ガイ倍も辛く苦しいに違いない。

僕は手を繋いだ。誰がどんな目で見ようと、

そいつらは第三者だ!

買い物は意外とサクサク進んだ。

僕が好きなケーキ

(まあ普通のあの白いケーキなんだが)

を奈々は何故か知ってたから。

 

「さーて、作ろうか」

奈々がほとんど作ってくれたが僕も

少しは手伝った。混ぜたり塗ったり

しただけだが奈々は嬉しそうに僕を

見守っていてくれった。

かわいい

 

作り終わり、食べる事にした。

 

「ロウソク消して。あとケーキ全部食べていいよ」

 

奈々が嬉しそうに言う。

 

「誕生日が一緒なら二人で消したいし、

一緒に食べたい」

「あわわわ」

照れてるのがあからさますぎる。

「で、でもさ一口目は先に食べて!

楽しそうに食べてる姿見たいの!」

 

二人でロウソクを消し、

最初に口に運ぶ。

美味しい。

奈々ありがとう。

 

僕は視線を奈々へ移す

「おめでとう、今までよく頑張ってきたね

エライ、エライ」

自分を認め必要としてくれる存在

がいることがこんなにも幸せだとは。

 

 

 

 

 




人は孤独を憎悪し、自分の存在を受け入れてくれる人を
盲目的に探そうとする。しかし、どんなに深い愛でも死に
勝る事は出来ない。つまり、いつかは、、、、必ず、、、
最愛、、、、、自分の命よりも大事であろう物を喪う運命
にある。しかも死はいつ来るか全く分からない恐ろしい物
自殺は苦しいからするのでは無く死の時間を操れる事による安堵が原因でするのかもしれない。

人と会わずして死ぬのと大事な人と別れながら死んでいく事はいったいどちらが幸せなのでしょうか。

ヒカルにとって奈々とはいわゆる一時的な苦しみを無くす
薬のようなものなのか、それとも...........


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幸せ

「もう、こんな時間か〜」

奈々はため息をひとつ吐くと、

「もう、寝ないと体に悪いよ」

と僕の頭を撫でる。

「泊まっていいかな〜」

奈々は哀しそうにつぶやく。

外が真っ暗なのに『帰れ!』とは流石に言えない。

「ありがとう」

奈々は

僕自身を包み込むかのように抱いた。

自分の苦しみや哀しみが浄化されていくような

気がした。

 

「もう、照れてるのがバレバレなんだから」

 

自分でもわかった。

手を伸ばせば、いや、手を伸ばさずとも

寄って来てくれくれる女性がいる。

僕の顔が真っ赤になったのがすぐにわかったのだろう。

 

「ヒカルは二階で寝るの?」

興味津々で聞いて来た。

 

「そうだよ。奈々は広いから一階で寝るといいよ」

「お姉さんがいなくても寝れる?

寂しくな〜い?」

奈々は幼児をあやす様に僕に僕に甘い言葉をふりかける。

 

「寝れるに決まってるだろ」

僕は率直に言い返し二階に行こうとした。

だがそれは許されざる行為だった。

「ごめんなさい。本当はヒカルじゃなくて

『私』が眠れないの。見栄張ってごめんなさい。

でも、優しいヒカルだったら許してくれるよね〜。

ただ一緒にヒカルと寝たいだけなの」

奈々は僕の左手を両手で握っている。

しかも、奈々の目は僕を必死で見つめ、

今にも泣きそうだった。

「わ、わかったよ」

「あ、ありがとう。今、布団、敷くから、

いなくならないでね」

僕の気が変わらない様に不器用ながら言葉を選んでいる

様だった。

僕はただ奈々が布団を敷くのを傍観している

だけであった。

奈々は布団を二つ敷き終えると、忘れ物を

取りに来たかの様にこっちに来た。

「待っててくれたんだ。一緒に寝ようね」

僕の背後に回り一歩ずつ僕を押して

行った。

 

 

 

僕はすぐに布団に入って寝ようとした。

「奈々のこと『嫌い』?」

今まで聴いたことのない程の重たい声

「なんで、向かい合って、奈々の方を

見て寝てくれないの。酷いよ。」

僕は恐る恐る奈々の方に寝返りする。

 

「おやすみ」

そう言うと、奈々は目を閉じた。

なんでいきなりこの人は押し寄せたのだろう、

まだあって半日もしてないのに、

まるで僕の全てを知ってる様な様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間経ったであろうか、僕は得体の知れない女性、奈々

に対して緊張して寝れずにただ目を閉じているだけだった。

「くす、もう寝ちゃたのかな」

奈々の声がいきなり聴こえたので驚き目を開けた。

だが、暗いだけで、奈々の存在は視覚以外で、

感知するしかなかった。

 

「もう寝ちゃうなんてやっぱり『子供』だね」

 

僕は身動き一つしなかった。

 

「素直でかわいいな〜」

奈々がとでも嬉しそうなのは、見えなくても分かった。

 

 

「でもそんなんだと、『悪いお姉さん』にイタズラ

されちゃうよ」

ゾッとした。悪寒がした。いったい、奈々は、

僕に何をするつもりだろう。

 

奈々は僕の布団に勝手に入ってくる。

「つーかまーえた」

奈々は僕に言っているのだろうか。それとも、独り言?

でも、それ以上に、僕と奈々の距離の近さの方が衝撃で

あった。

おでこがほぼくっ付くくらいの近さ。呼吸しているのが

わかるくらいの近さ。

夢でも女の子が自分を抱いてくれるなんて思わなかった。

 

「もう寝たんだから何しても良いよね。」

奈々は僕の頭を抱いた。

さっきまでとは違い、彼女の胸が顔面に触れる。

「もしヒカルが起きていたら興奮するだろうな〜

こんな事された事今までなさそうだし」

事実彼女の独り言は正しい。

「でもごめんね。起きてる時にいきなりこんな事

して拒絶されたら嫌だったから」

彼女は僕の頭を撫つつ、

僕の顔を彼女の柔らかな胸にもっと当たるように

位置を微調整した。

「ん〜〜〜〜〜〜」

彼女は、艶かしい声を発した。

まるで僕の体に染み渡るかのような声

偽りの無く心の底から幸せそな声。

「さてと、この辺で『アレ』をやろうかな」

彼女は僕の顔を自分の顔に近づける。

彼女の長い髪の毛が僕の顔にかかった。

ヤバイ、良い匂い。 寝てないのがバレる

必死で押し隠す。

すると、彼女はすぐ次の行動にでた。

僕の唇に生暖かい何かが触れている。

これはもしや!!!

「これで、あなたの『ファーストキス』

は私のもの......だーれも奪えない。だから、、、

『ヒカルは奈々の物だよ』」

暗くて見えないが、奈々の満足感、愉悦がひしひしと

伝わってくる。

「これでやっとあなたを守れる.........」

「ごめんね。もっと早く守ってあげられなくて」

「だから〜、全部、ヒカルが辛いのは私のせい。

だから、ヒカルは何にも悪くない。

全部ヒカルが

正しいんだよ〜」

僕の頭を丁寧に撫でながら、諭す。

奈々の接し方は僕が奈々の子供であるかのような接し方であった。

 

 



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奈々の過去

奈々とヒカルが抱き合ってねているとき、
奈々は過去の自分について、夢を見てしまいます。


私は、三人家族の家に生まれた。

「奈々、いつまでぬいぐるみで遊んでるの!」

母の罵声が轟く。

「中学受験まであと二ヶ月ないのよ!」

「ごめんなさい.........」

今日は、学校や塾がない日曜なのに。

私は、両親の期待に応えるために、

勉強しなければならない。

そうしないと私なんて誰も相手にしてくれない。

学校でも、懸命に勉強した。

「奈々は頭悪いからいつも補習ばっかりだ。

いつも朝早く学校に来て遅くまで勉強してるの〜〜

頭悪いったら可哀想ww」

「きっと両親がバカなんじゃないwww」

教室にいた時よく遠くから女子たちのヒソヒソ声が

聴こえた。

私が彼女たちに目をやると、すぐにそっぽ向いてしまう。

お父さん、お母さん、ごめんなさい。

何も言えない奈々を許して。

お父さんもお母さんも、

奈々がいつも努力していれば、『見捨てないよね?』

お父さんとお母さんの為にこんなにも、勉強してるんだよ。

今は、『出来損ない』だけど、

だけど、絶対に中学受かって見せるから。

その為だけに友達と遊ぶのを我慢したり、

無視されても、耐えてきたんだよ。

 

 

 

 

違うだろ..............................

もう一人の奈々が耳元で示唆する。

「お前は、勉強する為に友達を創らなかったんじゃない

んだ。

誰もお前見たいな、つまらなく、何も才能もない、

努力しか出来ない単細胞生物、、、誰が好きになるの?」

 

黙れ!黙ってよ! 私は心の中で叫んだ。

 

 

中学受験当日............................

「奈々、筆記用具持った?」

母が私に確認した。

「持ちました」

「そう。いってきな」

「はい」

 

私は、試験場についた。

「それでは、試験、始め!」

私は、必死で答案を書く。

だが、試験終了10分前にそれは起こった。

 

 

 

「ゴボッ」

私は、とっさに口を抑える。

口から、血が、出ていた。

 

どうして、、、、、、、

 

考えてみれば、当たり前であった。

小学生の少女が毎日、不規則、不健康

で勉強漬けの生活してたら。

自分の命よりも、両親に少しでも気に入ってもらう方

がはるかに重要であった。

 

私は、口を塞ぎ、試験官に気づかれないようにした。

保健室に運ばれたら、

もうテストが受けられないから。

 

私は、自分の命よりも、『たった残り15分のテスト』

の方が、重要であった。

 

最期まで諦めるな、自分に言い聞かす。

落ちた先に、幸せなんかあるのか。

 

「試験、やめ!筆記用具を置いて下さい」

 

なんとか、終わった。

家に帰るまでには、血は止まっていた。

両親は試験の出来具合は私に散々聞いたのに、

褒めても、私の健康のことも聞いてくれなかった。

 

 

二週間後、合否が家に届いた。

結果は『不合格』

一点だけ、たった一点だけ足りなかった。

「はあ、、、、、」

父と母は明らかに不機嫌そのものだった。

 

私は自分の部屋に逃げるようにして

駆け込んだ。

「どうして、どうして、どうして、どうして............」

 

本当に辛い時は、涙なんて、思ったより出ないもの

なんだ。

から泣き、、、泣いているはずなのに、

涙が少ししか出ない。

 

私は、何時間も、布団にうずくまっていた。

 

「もう、12時か」

昨日までなら寝ていた時間。

少し、両親の様子でも、見てくるか。

私は、明かりの灯っていたリビングをそっとのぞいて

見た。両親の話し声が聞こえた。

 

「あんなに勉強してたのに

どうして、落ちるのかね〜〜」

母がため息をつく。

「仕方がないよ、奈々は才能が乏しかったんだ」

 

「それはない。奈々は私たちの子よ。第一、あんなに

勉強したら、『サル』だって受かるわ。

なんで受からないのよ、『不良品』!!」

 

え、私の身体は硬直した。

私って、お母さんから見れば、物だったの?

それも、粗悪品。

お父さんは、、違うよねえ、、、。

私は、父の今から発しようとする言葉に、息を飲んだ。

『それは、違う」って言って。

 

「そうだなー。奈々はもしかしたら、家では、

勉強している偽りの仮面をしながら、

学校では遊び呆けていたんじゃないか。」

 

バコン

母がテーブルを叩く。

ドアの隙間から見ていた私は、

一瞬だけ動揺した。

違う、私は、奈々は、家でも学校でも本気だった。

 

「そうよ、きっとそうよ。明日、あの子に問い詰めて

やる。私たちの顔に泥を塗ったあの子に。私たち

の期待を裏切りやがって!」

「落ち着けよ〜奈々が起きたらどうするんだ」

「うるさい、あいつなんか私の子じゃない。あいつなんか

養子にでも売っちゃえばいいのよ」

母は、私が見た何よりも怖かった。

両親と言った遊園地の、お化け屋敷よりも、

おっかない先生よりも。

もう、人ではなく狂い切った獣だった。

 

私は、とぼとぼと自分の部屋に戻る。

両親の使っていた、ライターとタバコを

持ちながら。

 

タバコの匂い。私の大好きだった、

いや、好かれようとしていた両親の匂いだった。

今まで好きだった匂い。

でも、今は、違う。

 

私は、気づかれないように、階段、両親の寝床、

こたつの中、私の部屋に、

火のついたタバコを忍ばせておく。

 

「ふふふ、これで奈々もパパもママも、

『天国』に行けるね。そしたら、

寂しくなんかないね。

ずーっと一緒だよ。」

 

 

 

 

「火がどうして、バケツだ!」

「キャー!ローン後何年残ってると

思ってるのよ!」

「そんなこと言ってる場合か!

ゴホ、ゴホ、ウッ」

「あなた、あなた、、、、!ゴホ」

ドサッ!

 

「あははははははははははははははははははは

はははははははははははははは

はははははははははははははは、

みんな、呼吸困難で死んじゃった。

私も今から行くからね。

『天国』では、可愛がってね」

 

ドサッ!!

 

 

 

翌朝

 

 

 

 

 

 

私は助かった。

目を開けると、病院の天井があった。

 

両親の姿はどこにもない。

私が殺したのだから。

どうやらこの事件は、『事故』

として処理されたようだった。

火傷を治療して、

二ヶ月後、

私は、少年少女養護施設に送られた。

私が両親を殺したという事実は私以外

誰も知らない。

 

でもそんなこと、どうでもよかった。

 

どうして、私をおいて『天国』

にいっちゃったの?

ずるいよ、

ずるいよ、

 

ああああああああああああ

あああああああああ

ああああああ!!

 

 

「ハア、ハア、ハア、、ここは?」

どうやら、夢を見ていたようだ。

何度も見た『本当の夢』。

「あれ、ヒカル、、、」

ヒカルは私の胸に、抱きつきながら

熟睡していた。

とっても気持ち良さそうだ。

人間ってこんなにも安らかな表情

になれるんだ。

見ていて、幸せな気分になった。

どんな夢見てるのだろう。

私に告白されている夢でも、

見ているのかな。

 

「ヒカルは他の人とは違って

私のこと、見捨てたりしないよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




人は一番大切な人に
裏切られる事が最も辛いかもしれません


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表裏

奈々と祝った誕生日の翌朝

 

「ヒカル、もう起きて」

奈々は僕の体を優しくさする。

夏休み中、僕はたいてい昼に起きる。

起きているのか、寝ているのか、

はたまた、『死んでいる』のか、

わからない時間。

みんな、、無能で期待外れな僕を避けてったなぁ。

「まだ6時じゃないか」

僕は、ボソッと不満を言う。

「それじゃ〜長生きできないよ。

規則正しい生活をしないと、幸せになる前に、

死んじゃうよ」

急に、奈々は暗い表情になる。

昨日出会っただけなのに、どうして、

こんなにも悲しそうになるんだろう。

「わかったよ」

「私の言う事聞いてくれてありがとう。

自分の事を粗末にしちゃダメだからね」

 

僕と奈々は台所に行った。

もちろん、手を繋いで。

奈々は嬉しそうであったが何故か

悲しそうであった。

 

奈々は、既に料理を作ってくれていた。

しかも、家にあった残り物で作っていてくれた。

僕は、料理も下手でいつも、

カップラーメンか適当に作った料理しか作っていない。

 

「オムライス?」

 

オムライス、幼い頃、僕が落ちこぼれて、

親の期待に応えられなるまえ、

嬉しかった時、いつも作ってくれた料理だ。

 

「どうして、オムライス?」

「嫌いなの?」

「いや、大好きだけど、でも......」

「それなら、一緒に食べよ」

 

 

「いただきます」

 

奈々は僕にそう言うようにせがんだ。

美味しかった。

両親が僕を愛していた昔のような気分

だった。

「泣いてるの?」

奈々が僕に問う。

僕は黙っているしか無かった。

 

「今日、何処か出かけない?」

沈黙が切れる。

「どこへ?」

「二人で遠くまで行って戻って来るの。

ヒカルは、人混みが多いところや、

うるさい所は、あまり好きじゃないでしょ」

「わかったよ」

奈々の言ってる事は正しい。

 

僕と奈々は、バスに乗って、

寺院、教会、などにの外観を眺めに行った。

ほぼ引きこもりの人が、気楽にできる事

は、それくらいしかないだろう。

奈々は、常に幸せそうだった。

特に、教会の鐘がなった時、

「ヒカルと結婚したいなぁ〜」

と言って顔が真っ赤になる程、興奮していた。

 

 

帰り、バス停から降り、家に帰るて時、

事件が起きた。

 

僕は大事な事を忘れていた。

バス停と家の間には、暗くなると、

よく不良がたまる狭い場所があった。

 

いつもなら遠回りするのだが、

夏休み中、特に外出しなかったせいか、

奈々といて気が緩んでいたのか、

数人の学生服を着た不良達と出くわしてしまった。

僕は、高校三年生なので、

不良達は同級生か、年下のどちらかである。

 

「おい」

不良の一人が僕を睨む。

「はい、何でしょうか?」

僕は、以前の経験からどのように対処する

のが最良の選択か知っていた。

とにかく相手様の神経を逆撫でしないように

神経に沿って行動しさえすればいい。

 

いつもは、それでよかった。

 

バシン‼︎

 

僕は殴られ、道に倒れ転がった。

まるで無生物のような力のない運動だった。

 

「おまえ見たいな最弱でキモいカスが、なに

偉そうに女といるんだよ!」

「ずいまぜん」

僕は、かすれた声で謝る。

 

「俺なんかな〜

先週まで付き合ってた彼女に振られたんだよ

それなのに何でお前が、、、」

僕が奈々を守ろうとしようと、目を奈々の方

に向けたとき、

 

ボゴッ、グシャ、、、

 

奈々は僕を殴った不良に殴りかかっていた。

ボゴッ、ボゴッ、ボゴッ、ボゴッ

ボゴッ、ボゴッ、ボゴッ、ボゴッ、、、、

奈々の拳の周期的な運動が、

鈍い音のリズムを刻む。

「お、お前やめろ!」

別の不良が動揺して止めるように促すの

 

奈々はその不良をにらむ。

「消えなよ」

死神のような声だった。

さっきまでの愛くるしかった奈々とは、

考えられない姿だった。

不良達は、奈々を恐れて殴られてる事奴

以外、一目散に逃げて行った。

 

僕も恐怖心から後ずさりしようとしたら、

奈々は、

倒れている不良に馬乗りになって殴り続けながら

「今手当てしてあげるから、じっとしてて!」

と呟いた。

僕は後ずさりすらできなかった。

 

 




どうして人というのは、表と裏があるのでしょうか。
裏を隠すため、偽りの表を作り上げ、人々は生きて
いるのでしょうか。


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思い

奈々は、変わってしまった。

奈々の拳は赤く血に染まり、

もはや、人間では無く、

『獣』としての雰囲気であった。

奈々は、殴り終えると、

ゆっくりと僕の方に歩み寄る。

奈々の眼は、夕焼けの明かりに

反射して、橙色に照り返る。

「ふふふふふふ」

奈々は、僕だけを見ながら不気味に

微笑む。

「あんまり、怪我してないみたいだね。

よかった。本当によかった」

奈々は、しばらく下を向いて、

黙り込んでしまった。

「奈々の事、嫌いになっちゃった?」

 

 

いきなりの言葉に衝撃を受ける。

奈々がこんな事をしたのは全て

僕を守るため。

そんな奈々を嫌いになれるはずなかった。

「あなたを傷つける人には『教育』しなきゃ、

て思ったの。

二度と傷つけられないように。

私がどうなろうと関係ない」

独り言のような声で奈々は呟く。

 

「さっ、帰ろうか。」

僕は、できる限り明るく振舞った。

そんなことしかできないから。

僕と奈々は、手を繋いで家に帰った。

僕は、家に着くまで『ある事』を考えていた。

 

 

僕は家に帰ると、奈々に『ある事』について

奈々に尋問した。

「どうして、僕のためにあんな事したの」

「あなたが大切だから」

「何で!二日しかいたことのない人

の何処が大事なんだよ!」

自分でも、驚く程の大声をたてる。

 

奈々は少し俯く。

 

「それでも、大事なものは大事なの」

 

「何で!僕は、勉強も運動も中途半端で、

人と話すことも下手で何にも取り柄のない、

無価値の人間なんだよ。

努力しても、才能がいつまでたってもクズの

ままだし、そんなんだからみんなから

失望されて、仲間にすらされないんだ。

そんな僕を、大切に思うなんて..............」

 

「うるさい!」

奈々は、僕の言葉を遮り、僕を睨む。

 

僕は、突然の豹変に、驚き、

奈々の前に腰を下ろしてしまった。

「あなたは無価値な人間じゃない。

私は、あなたのいいところなんて

いくらでも知っているの。

今は、なにもできないかもしれない。

でも、何年もしたら、

絶対自分の能力が開花するから。

泥まみれの石でも奈々が磨けば、

綺麗になるから。

私が、ピカピカにして見せるからさ、

 

自分が無価値だなんて、

 

そんな哀しいこと言わないで」

 

奈々は、涙を流しながらも、

僕を励まそうと笑顔で

僕に手を差し伸べてくれた。

僕は、奈々の手を掴み

立ち上がり、奈々を抱いた。

「わかったよ。もう二度と言わないよ。」

僕は、気づいたら泣いていた。

「約束だからね」

 

 

夜、僕は奈々に飛びっきり甘えながら

寝た。奈々に抱きつきながら寝ても

何も文句を言わなかった。

 

 

 

 

 



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消失

展開が急すぎてしまったので少し付け加えてみました。
(5月7日)


翌朝

僕が起きたら奈々はいなかった。

「奈々、何処にいるの?」

僕は、しばらく探していると

テーブルに一枚の手紙があった。

桜色の綺麗な手紙だった。

奈々が書いたのだろうか。

僕は読んでみることにした。

『拝啓 奈々の親愛なる

ヒカルへ

 

奈々は、ヒカルの事が

大好きです。世界で一番

でも、奈々はどうしても

行かなければならない場所が

あります。

 

恐らく、数年間は会う事が

出来ないでしょう。

でも、それは、

またヒカルと会うためには

どうしても必要な事なのです。

だから、許して。

しばらく一緒にいられなくても、

奈々はいつでもヒカルの事を

大切に想っています。

だから、私に会うまで、

健康でいてください。

お願いです。

私に会うまで、死なないで

そして、自分の思った道を

貫いてください。

奈々より』

 

奈々の手紙は、少ししわ

ができていた。

恐らく泣いたのだろう。

涙でインクがにじんでいる

のがまるわかりだ。

僕は、奈々からの手紙を

なくさないように自身の机の中に

しまった。

奈々、どうして、いなくなったんだよ。

でも、奈々も、僕と離れたくて

離れたわけじゃなかったんだ。

僕は、一瞬、

奈々にも捨てられてしまったと思ったが

次に奈々と会うために、

なるべく立派な人になろう

と『決意』した。

それと同時に、どうして、

『さようなら』の声すらかけて

くれなかったのか、『昨日の奈々』に

問いたかった。

 

僕は、どっちかというと、

陰湿な理系オタクだ。

高3の夏休み、僕は、

タイムマシンやブラックホール

の研究で有名である理系単科大学である

宇宙科学大学に入学しようと

『決心』した。

 

僕は、同級生、教師、親

誰がなんと言おうと意志を

曲げたりしなかった。

僕は、『自分の思った道を貫く』

という奈々との約束を破りたくなかった。

奈々だけは裏切りたくなかった。

僕は、半年間、勉学に勤しんだ。

おかげで、受かりっこない

と言われていた、

あの宇宙科学大学、

理学部宇宙物理学科に

補欠合格ながら入れさせてもらえた。

そして、宇宙物理学を学んだ。

過去へ戻るタイムマシンを

発明するために。

奈々と出会ったときに戻って、

聴いてみるんだ。

 

どうして、いなくなったのか。

 

 

僕は、その事を聴くために

大学卒業後も一生懸命研究し、

ついに、やっと

一人で過去へ戻るタイムマシンを

発明した。

仕組みは、車のバッテリーで

超小型のブラックホールを

創り出し、

それに飲み込まれる事により、

時空を移動して、

過去に行くというものである。

 

これで、やっと奈々に会える!

今までの、『天命』が果たせる。

 

しかし、

私はとある重要な事項のことに

気がついていなかった。

 

僕の作ったタイムマシンは、

使用者の生まれる前には戻れても、

使用者の生まれた後の時代には

戻れないのだ。

『僕は、奈々と会った過去へは

戻れない』

何故なら、本来、同じ時刻には

同じ人間は、一人しかいない。

 

つまり、もしも僕が、

奈々と過ごした十年前に戻ったら、

僕という存在が『二人』存在

してしまう事になってしまう。

どちらかが『本物』で、

どちらかが『偽』なのか?

 

この場合、僕という存在が、

同時代には僕は一人しかいない

という存在に矛盾して、

僕という存在はこの宇宙から、

『消失』してしまう。

 

だから、自分が存在するより前の

時代には行けるがそれ以外は行く

ことが出来ない。

そう、僕が今までしてきた努力は、

『無駄』だったのだ。

 

僕は、もう、奈々と会えない。

 

 

「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

僕は、自宅で発明したタイムマシンの横で、

泣き叫んだ。気が狂ったように。

 

何で、何で、何でなんだーー!

 

僕はもう、永遠に奈々に会えないのか!

僕の十年は、僕の一生は、無意味だった。

 

僕は、

半年間、堕落し、絶望した。

僕は、

タイムマシン(中古の軽車を改造した物、

一応は、運転という機能も併せ持つ)

を小さな車庫にしまい、

鍵をかけた。

一度と使わないだろう。

 

そして、あまりお金がないので、

家に引きこもり、酒、タバコ、

暴飲暴食、昼夜逆転……

ありとあらゆる不健康な生活をした。

自分というかけがえのない存在を

虐げる事に楽しみを見出していた

のかもしれない。

 

僕は、みるみる病弱になっていく。

髪の毛は、26なのに白髪だ。

もう、誰とも会いたくなかった。

奈々との約束を破ってしまった。

でも、もう会えないからな、、、

僕の右目から、一滴の涙

が流れ落ちた。

 

 

 




奈々とヒカルはもう二度と会う事すら許されないのでしょうか。


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偽者

奈々は僕を裏切った。

僕は、また昔のような昼に起きて、

何をすべきか分からずまた寝る

という、十年前の生活に戻ってしまった。

 

散歩にでも行くか。夕方、僕は閃いた。

いつも、家に引きこもってたので、

どうしても外に行きたかった。

いつも家の中の不変な景色に

うんざりだった。

 

僕は、人目を避けるように家を出た。

27歳なのに白髪で、歯は酒、タバコ

のせいで黒ずみ、

腰は、いつも下を向いていたので、

曲がってしまった。

 

こんな姿、他人にみらたくないな。

夕方の平日だったので、僕は、

帰宅途中だと思われる小中学生、

高校生たちを眼にした。

元気な人たちだ。

下校途中の、数十分の間でさえ、

友人?、たちと話すのをやめない。

どうせ、その友人にはいつか裏切られ、

別のもっと、愉しい友人、の方に行ってしまうのだ。

裏切られないように、互いにくだらない話を、

懸命に話すのだ。

 

僕は、違った。学生時代も大抵は、

独りだった。僕は、裏切られたくなかったんだ。

だから、常に、独りだった。

 

独りに成りたかったのに、

成りたくてなったのに、

何故か寂しいのだ。

偽りの、友情、愛情でも良いから、

欲しかった。

 

僕は、児童擁護施設の近くを通っていた。

ここは、親がいない子が生活するための

施設。

見てみると、多くの子が、広い施設内の遊具

で、仲良く遊んでいるようであった。

逆境に耐え、それでも、

前向きに生きている姿が輝かしかった。

僕は、児童擁護施設から少し離れた

大型トラックも『ビュンビュン』走っていて、

狭い歩道も横に携わっている、

大きな道路を歩いていた。

僕は、とある少女を見つけた。

少女は、僕も通った近くの県立中学の

制服を着ていた。

少女は、何故か道路を行ったり来たり

している。

時折、しゃがんで俯き、悲しそうであった。

 

家出でも、したのだろうか。

 

しばらくすると、少女は、

何か決心を決めたように、

立ち上がり、

いつ大型車が来るか分からない道路

をゆっくりと横断し始めた。

僕は、すぐ気づいた。

この子は、自殺するんだ。

 

僕は、精一杯走り、

歩いている少女を抱きしめ、

向こうにある歩道に転がり込んだ。

 

危なかった。大型車と僕たちの距離は、

二メートルなかったのではなかったのではないのか?

 

少しズレたら二人とも、、

死んでいた。

 

僕は、擦り傷だらけだったが、

彼女は怪我をしていないようであった。

僕は、彼女が落ち着いたのを見計らい、

話をしてみることにした。

話せない、、、、、

正確には、何を話したら良いのか分からない。

命を粗末にするな、、、そう言うべきか。

いや、僕は、口が裂けてもも言うことが出来ない。

同類だからだ。

 

それじゃあ、敢えて助けずに 、

見殺しにすれば良かったのではないのか。

 

彼女は、『自分の意志』で自殺しようとした。

何故か。それは、生きているより、死んだ方が、

『幸せ』だから、である。

つまり、僕は、彼女が幸せになるのを邪魔した、

『悪魔』なのである。

 

「け、怪我は、なかったかい、、、」

 

小さな声を、絞り出す。これしか言えない。

 

彼女は悲しそうに、下を向いたままだ。

 

「あの、えーと、御免」

僕は、謝った。声にならないほど、小さな声で。

 

自殺したい人には自殺させてあげるのが、一番の幸福

だったのではないか、、、、。

なんで、助けてしまっのだろう。

 

『ごめんなさい』

「えっ?」

彼女がだした、第一声であった。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、

ごめんなさい、ごめんなさい、

ごめんなさい、、、」

 

彼女は、僕に抱きつき、

必死で泣きながら謝った。

僕は、一瞬、困惑したが、

こんな可愛い子が、僕なんかの事を、

頼って必死に抱きついている。

 

こんな事状況では、

僕も抱き合うしかできなかった。

 

 

 

 

しばらくすると、彼女は

泣きやんだ。

「あのう、、。その、お怪我はしていませんか」

少し怯えているようだった。

「大丈夫、」

「よかった〜〜」

彼女は、安堵の息をついた。

 

「奈々のせいでお兄さんも死んだら、

どうしようかと思って」

 

僕は、一瞬、心臓が止まった心地がした。

 

『奈々』いや、そんなまさか、、、

 

この、『奈々』が十五年前のあの

『奈々』のはずが無い。

この『奈々』は、人違い、

『偽物の奈々』だ!

 

僕は、すぐ冷静さを取り戻す。

 

「こんな白髪の僕の事を『お兄さん』

て呼んでくれるのは、奈々ちゃん

くらいだな〜。ご両親は心配しないの?

こんな真っ暗になったら、悪い人に、

襲われちゃうかもしれないよ」

 

僕は、何も考え無いで会話をしてしまった。

相手は、可愛いらしい少女だが、

中身は、悩み苦しんだ『自殺志願者』

なのだ。

それを忘れていた。

 

「パパとママは、死んじゃったの。

一年前ね、おうちで火事があって、

私は助かったんだけどね、両親は、、、」

 

奈々はまた俯く。

 

「ごめん」

 

「お兄さんは、悪く無いよ。

でも、私も本当は、

両親と一緒に焼け死にたかった。

両親は怖かったけど、

死んだ後、天国では、

優しくしてくれると、

思ったから」

 

僕は、しばらく何も言えなかった。

言葉を必死で探したが、何も出てこなかった。

 

「奈々ちゃんは、今は、おじいちゃんの家

で暮らしているのかな?」

僕は、話題を避けるしかなかった。

 

「おじいちゃんは、奈々が幼稚園の頃、

死んじゃって。親戚の人も、

家計が苦しくて、、、

擁護施設で生きるしかなかった。

でも、擁護施設でも、誰も、奈々と遊んでくれないの。

最初、入った時、身体の大部分に火傷を負っていたから

みんな、ミイラ、て言って、

奈々の事イジメたんだけどね。

それでも、まだ幸せだった。」

 

「どうして.....」

 

「だって、しばらくしたら、

奈々の事、みんな無視するの。

最初は嬉しかった。

誰も奈々を傷つけないから。

だけど、、だけど、

誰も、誰も、誰も!、、

 

奈々を見てくれない。

 

奈々何も悪いことしてない!

 

なのにどうして!

奈々を必要としてくれないの!」

 

僕はただ聴いていた。

歯を噛み締めながら聴いていた。

 

「今日、高級時計専門店をやっている

『親戚だったおばさん』に

会いに行ったの。

 

奈々嬉しかった。

 

会いに行ったらもしかしたら、

引き取って一緒に暮らしてくれる、

て思ったから。

でも違った。

 

『おばさん、久しぶり。』

て言ったら、

『あなた、誰?。

ああ、ここら辺の汚らしい子は、

みんな児童擁護施設の子か。

ダメじゃ無い!

児童擁護施設から勝手に抜け出したら!

さあ、帰った、帰った!

私は、貧乏人なんか相手にしてる暇

ないのよ!』て、

怒られちゃった。

本当は、忘れているわけないんだ。

昔、あんなに遊んだのに。

 

奈々の事、『可愛い』て、

何回も言ってくれたのに!

全部嘘だったんだね。

 

奈々なんて、引き取っても何にも得に

ならない『不良品』だからね。

奈々は

『ごめんなさい。もう二度と来ません』

て言って帰ったの。

 

誰からも、必要とされない。

もう、偽りの友情も愛情ですら、

手に入らない。

 

だから、死のうと思ったの。

 

ごめんね、

お兄さんにまで死ぬかもしれない

ような思いをさせて。

 

でも、お兄さんに迷惑だってわかってる

けど、お願いがあるの。」

 

 

「奈々と暮らしてくれないかな」

 

奈々は、僕の方を向いて涙目なりながら、

お願いする。

「迷惑だってわかってるけど、

一緒に暮らしたいの。

命がけで奈々を救ってくれた、

あなたと暮らしたいの 」

 

「解った」

 

 

 

 

僕は、奈々の里親になった。

里親になるのは、僕が思っていた程、

超、厳密かつ膨大な法的処理

が必要なのではなく、

意外と簡単であった。

 

もしかしたら、孤児がどうなろうと

どうでも良いのかもしれない。

 

ただし、さすがに、

法的手続きは一ヶ月必要でその間

に、二人で生活できるだけの収入が期待できる

仕事を持つという条件付きだったが。

 

 

僕は、幸いに、大学で多少学んだ工学の知識が、

生きて、自動車会社の開発部に就職できた。

とは言っても、

毎日残業して

五歳下の人に毎日説教され、

ほぼ、上司に、お茶を出したり、

報告書を書いたり、しているだけだが。

 

でも、半年前よりはましな生活になった。

 

これから、奈々との新しい生活が始まる。



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生活

一ヶ月後、法的手続きが済んだ後、

奈々と僕は僕の家で共に暮らすことになった。

「奈々を拾ってくれてありがとう」

奈々が、家に『最初』に入る時、

に僕に言ったことである。

 

普通、白髪でタバコ臭い二十代後半の男性

なんかに、かける言葉じゃない。

そういう言葉は、

結婚する相手にするようなものだ。

 

僕は、奈々が結婚するまでは、

面倒を見ようと思った。

 

奈々と僕は家に入った。

家は、散らかったままだった。

新しいハードな仕事に

順応するために、

僕は家の片付けを怠っていた。

 

「ごめん、奈々が家に来るっていうのに、

何も片付けてないや」

 

「じゃあ、一緒に片付けよう、パパ」

 

僕は、一瞬、硬直した。

僕は、奈々にパパなんて呼ばれる程、

の資格は無い。

 

「僕は、パパなんて呼ばれる資格はないよ。

ヒカルって呼んで」

 

奈々は少し深刻な表情になった。

だが、すぐに微笑んだ。

 

「ヒカル、奈々と片付けよう」

 

奈々は、熱心に片付けをしてくれた。

半年分の食べ終わったカップラーメン、

何十本もの酒ビン、、、

 

奈々は有無を言わず幸せそうに片付けていた。

 

「やっと綺麗になった」

「ありがとう奈々」

 

僕は、

タバコが吸いたくなったので、

奈々の前でライター

とタバコを取り出した。

 

僕は、つい何も考えずに行動してしまう

癖があった。

奈々が悲しそうな眼差しを向ける。

 

「ねえ、ヒカル。無理してとは言わないんだけど。

あのう、そのう、、、

タバコは、私あんまり好きじゃないんだ、、」

 

僕は、解った。

おそらく、奈々の家が火事になった原因は、

タバコによる出火が原因によるものだと。

そんな事すら、

奈々の気持すら解ってあげれないのか僕は。

 

僕は、タバコとライターを棄てた。

 

「わがまま言ってごめんなさい」

 

「そんな事ないよ。

僕も、最近吸い過ぎてて、反省しようと

思っていたところなんだ。」

 

「ならよかった」

奈々は、ふと笑顔になった。

 

「それより、

お腹すいたから夕飯にしようか。

今から弁当買って来るから何が良い?」

 

「ダメだよ。

いつも、カップラーメンやレトルト食品

で済ましたら。

塩分の取り過ぎで死んじゃうよ。

奈々が美味しいもの作ってあげる」

 

奈々と僕は、

歩いて近くのスーパーに行った。

 

「ヒカルのために、肉じゃが作ってあげる」

 

食材を選んでいる奈々は可愛かった。

昨日、自殺しようとしていたとは

誰も思わないだろう。

 

あれ、僕は、昔にも、

同じ事を経験した事がある。

 

昔、『奈々』と買い物をした。

なのに、僕は、『奈々』の顔すら、

忘れてしまっていた。

あれほど好きだったのに、、、

 

「どうしたの。ヒカル、涙出てるよ」

 

気づいたら奈々が僕の顔を覗きこんでいた。

 

それも恐ろしいほど心配そうに。

 

「なんでもないよ。他には買うものはないかい」

「大丈夫。家に帰って、肉じゃが作ろう」

 

奈々は、終始、僕の手を握っていた。

 

僕たちは買い物を終え、家に帰った。

 

奈々は手際よく肉じゃがを作ってくれた。

僕は、見ているだけだった。

手出ししたら逆に迷惑だと思ったからだ。

「出来上がり、さあ、一瞬に食べよう」

 

奈々は、僕の猫背から、箸の持ち方まで

優しく正してくれた。

 

奈々の料理は美味しかった。

僕がそういうと奈々はとびっきり

嬉しそうだった。

 

なんでこんな娘が

自殺しようとしていたのだろう。

 

 

 

食事が済むと、僕は、風呂を沸かした。

 

「奈々、先に入る?」

 

「先に入って、ヒカル」

 

僕は、奈々の言葉に甘えて先に入る事にした。

 

奈々が一人前になって、優しく理想的な男性

と結婚するまで、お金だけはなんとかしよう。

僕にはそれしかできないから。

僕が風呂にゆったりと使っている時、

いきなりドアが開いた。

奈々だった。

しかも裸だった。

「な、何してるんだ」

「何って、ヒカルの背中、

洗いに来ただけだよ。

早く背中洗わせて」

僕は、奈々に強制的に背中を洗われた。

たまに、奈々の柔らかくて暖かい身体が

触れて気持よかった。

 

僕と奈々は、一緒に風呂に浸かり、

風呂から出た。

「ねえ、ヒカル。奈々、

ヒカルの背中、

綺麗にしてあげたんだから、

今度は、ヒカルが奈々の身体拭いてよ」

 

「突然、また、何を言いだすんだ」

 

「早く拭いてよ〜〜。二人揃って

風邪引いちゃうよ〜」

 

奈々は何故かとても幸せそうだったので、

大人しく、

身体を拭いてあげる事にした。

僕は、慎重に奈々の身体をなぞるようにして

拭いた。

僕が胸を拭いてあげている時、

「くすぐったいよ〜」

奈々は気持よさそうな声を上げると、

少し身動きした。

 

奈々が動いた事によって奈々の身体

の感触がより正確にわかるようになった。

そして、奈々が発する少女特有の匂いが

正確に感知できるようになった。

 

やばい、これ以上、理性を保てない、、。

 

奈々が天使にみえる、。

 

「ふふふ、やっと微笑んでくれたね」

 

僕は奈々を見上げる。

 

「今まで奈々、

ヒカルが幸せそうに微笑んでくれてる

の見れなかったからとても哀しかったんだよ。

奈々のやっている事は、ヒカルにとって、

もしかしたら、

辛い事なんじゃないかって思ってたんだよ。

もう辛そうな顔したらイヤだよ。

 

『奈々がどんな事をしてもヒカルがを見

幸せにするから』」

 

「はい」

 

 

 

 

奈々と僕は、一緒に寝た。

 

奈々は僕に抱きつきながら寝た。

 

奈々は、すぐに寝てしまった。

 

奈々は寝言を言っていた。

 

「ヒカルのためなら、

なんだってしてあげる。

だから、奈々を、、棄てないで、、」

 

 

 

 

 



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寿命

奈々は凄く優しい。

僕が奈々と暮らしてから半年、

僕の帰りが深夜になっても、

奈々はいつも料理を作って待っていて

くれる。

 

優し過ぎる、、、

 

僕がドアを開けた途端、

いつも『おかえり』って言って

抱きしめてくれる。

こんな生活が当たり前だと

感じてしまった時のこと。

僕は、持病であった喘息や

昔のタバコの吸い過ぎが

原因で、とうとう肺ガンになって

しまった。

 

残業中に倒れて、

救急車で運ばれた。

僕も、もう終いだなあ。

病室のベッドに横になりながら

感じた。

これ以上僕にはレールはない。

区切りのいい三十までは生きたかったなぁ。

 

「ヒカル!」

 

奈々の声だった。

 

病院まで一時間以上かかるのに、

どうして?

 

「良い子は、二時前には寝るって約束した

だろ」

 

僕は、いつも、遅くまで待ってくれている

奈々は大好きだったけど、

まだ将来のある奈々に、

不健康でいて欲しくなかった。

僕より、立派で誠実な、若者と共に、

一日でも長く幸せな人生を歩んで欲しかった。

 

「病室から電話が掛かってきて、寝れるわけ

無いじゃない!

ずっと夕飯、我慢してたのに、、、」

 

「ごめん、、、」

僕は俯いた。

 

「奈々が悪いんだ。」

「え?」

奈々は顔をしかめる。

 

「奈々を養う為に残業までしてくれたのに、

奈々何もできなかった」

 

「奈々ってヒカルの『ガン細胞』だよね。

奪うことしか脳に無くて、

何も与えてあげられないんだ」

 

「違う!」

僕は叫んだ。

 

「毎日、僕の帰りを待って、

抱いてくれる奈々がいたから、

半年間も幸せで、仕事も頑張れた。

充分与えてくれたよ」

 

「そうかぁ〜〜」

 

奈々は心か嬉しそうな声を出した。

 

こんな、純白な音色を聴いて、

穏やか気分にならない人はいないだろう。

 

奈々は僕の頭を撫でて、

まるで、自分の子を諭すかのような口調で、

話しかける。

 

「今まで、守ったくれてありがとう。

とっても嬉しかった。

今度は、『私があなたを守ってあげる』」

 

奈々は、幸せそうな表情で、

僕のおでこに『キス』をしてくれた。

 

いつもは恥ずかしいみたいで

大人になってからと言っていたが、

奈々の中の『何か』が変わった。

 

 

 

 

だが、一ヶ月もして僕の様態が悪化すると、

 

奈々も、段々元気が喪失してきてしまった。

 

「『来年』、奈々と誕生日祝おうね。

奈々の誕生日は、ヒカルの二日遅れだから、

二回も祝うことができるね」

 

奈々は涙をこらえる様子で、

必死で笑顔を『作る』。

 

「『来年』、

ヒカルと一緒にいろんなところ旅行したいな」

 

『来年』という言葉ばかり連呼する様になった。

奈々は明らかに、純粋過ぎた。

 

「僕は『来年』まで生きられないんだね?」

 

奈々の表情が一気に暗くなる。

担当医は応えてくれなかったが、

奈々は教えてくれるだろうか?

 

しばらくの間、奈々は沈黙していた。

 

 

「そうだよ。バレちゃたか。

奈々って嘘つくの下手?」

 

僕は、今まで、背負っていた重たい何かが

外れていく様な気持ちだった。

 

「僕は、親や親戚は誰もいないから、

『遺産』は奈々にあげる。それで、

立派な人と結婚して幸せに生きるんだぞ」

 

僕には『タイムマシン』と言う遺産があり、

使い方、仕組みは、

全てパソコンのメモリの中だ。

あれがあれば金には困らないだろう。

ちなみに、

パソコンの暗証番号は僕の誕生日だ。

奈々ならすぐ気が付くだろう。

 

その時だ

「バシン!」

 

 

 

奈々は、僕に強烈なビンタをお見舞した。

 

ビンタの音が、病室を駆け回る。

 

「どうして、ヒカルが居なくなった後、

奈々は幸せに生きなきゃいけないの?

 

ヒカルは、来年、わたしと結婚式をして、

幸せにならなきゃいけないのよ。

 

なんで、そんなひどいこと言うのかな」

 

奈々は僕の細くなってしまった手を掴むと

奈々の胸に無理やり擦りつけた。

 

「奈々の胸どうして柔らかくて気持ちいか

わかる?

ヒカルが触って喜ぶ為だけにあるのよ。

肉体的快楽でも愛情でも、

なんでもいいから、幸せにしたいの、、、」

 

奈々は突然僕に抱きついた。

「もう逃がさないわよ。

後一ヶ月しか生きられないなら、もう犯してもいいよね」

 

奈々は僕を押さえつける。

強い、、、、、、、

 

 

僕は間違っていた。

 

奈々は僕の事をお父さんの代わりと

見ているのだと思っていた。

たが、違った。

 

奈々は僕の事を『恋人』と思っているのだ。

 

違う!正確には、

僕は奈々の体の一部(例えば心臓)

だと奈々は考えている!!

 

なくなると生きていけない、、、

 

 

僕が勝手にきえてしまうのは、

奈々にとって『死』を意味していた。

 

 

 

 

 

僕は奈々にレイプされた。

 

 

奈々は凄く元気だった。

こんな奈々しばらく見ていなかったなぁ。

僕が微笑むと、奈々も微笑んでくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「楽しかった。ありがとう。

また明日もお見舞いに来るね。」

 

奈々は

最後に、僕を包み込む様に優しく抱きしめて

キスをしてくれた。

 

奈々は、病室を出ようとするとき、

突然止まった。

 

「どうしたの」

僕は奈々に言う。

 

奈々は僕の方を向き語りかける。

 

「次に、あんな哀しい事言ったら、、、、

『許さない』からね」

 



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遺産

次の日、いつもの様に

奈々はお見舞いに来てくれた。

 

「ヒカル、家の掃除してたら、

高そうな箱見つけちゃった。

中身何入ってるの?」

 

「開けてないのかい」

「うん」

 

奈々は、

『昔の奈々の手紙』の入った箱

を差し出す。

 

 

「それは、『昔の恋人』から

もらった手紙」

僕はふと『奈々』の事を思い出す。

僕の事、守ってくれたんだっけ。

曖昧な記憶を想い出す。

 

敢えて忘れようとしていた。

 

もう二度と、会えない。

 

いや、会えても、

こんな約束破った姿、、、見せられない。

 

 

「そうなんだ、いつ出会ったの」

 

「僕が高校三年の誕生日の

ときに出会ったんだ」

 

「へー、それじゃあ、

恋人がいなかったヒカルに、

神様がプレゼントをあげたんだね」

 

奈々は、とても嬉しそうだ。

普通、最愛の昔の恋人の話なんか、

こんな楽しそうに聴けるのだろうか。

 

奈々は、『自分の感情』より『僕の幸せ』を

優先するのだ。

 

「そう、だと良いけど....」

 

「どうしたの?」

 

奈々が心配そうで問いかける。

僕は、続けて話す。

「その人とは、二日しか会ってなくて、

突然どっか行っちゃったんだ。

悲しかった。

『さようなら』の一言さえ、

どうして発してくれなかったんだ」

 

僕は、下を向く。

 

「ひどいよそんなの」

 

奈々は、とても重たい口調で言う。

僕は、少し驚き、奈々に目を移す。

 

「そんな手紙、大事にする必要ないよ。

裏切られたんだよ。もっといい男がいたから、

きっとヒカルは棄てられたんだ、、、、、、」

 

奈々は、僕を見ながら、涙を落としている。

自分が泣いているのに、

気付いてさえいないらしい。

 

「そんな人、どうして好きなの?」

 

「どうしてって、、、」

 

僕は十五年以上も

昔に奈々と二日だけ会った、

『記憶』を想い出そうとする。

 

「僕を二日だけ愛してくれたから、、、」

 

 

奈々と僕はしばらく沈黙する。

 

「もう、会えないからか、、、。

だから

あんな物発明したんだね」

 

「なんのことだい」

 

「タイムマシン」

 

僕はぞっとする。

どうして、

奈々には一言もその存在について

言及してすらいないのに、

知っているんだ。

 

 

奈々は僕にそっと近づく。

 

「私、不思議だったんだ。

どうして、ヒカルが車も、

免許証も持ってるのに、

ヒカル、

車使わないのかしりたくて、

無断で

車の中入っちゃったの。

埃臭かったけど、中に

『遺書』がしまってあってね」

 

奈々が微笑みながら言う。

 

そういえば、

奈々と暮らしてからしばらくして、

僕は、遺書を書いたんだっけ。

 

僕が死んでも、生きていけるように。

 

遺書は、なかなか見つからないところに

隠しておいた。

そう、今となっては埃臭いオンボロ車

全く使っていない。

ここに隠したんだ。

 

「奈々へ

 

もし、奈々がこれを読んでいる頃

には、僕は、もう、

この世にいないのかもしれません。

迷惑かけてごめんなさい。

 

もし、お金に困ったなら、

 

この車を利用して下さい。

 

この車は、タイムマシンです。

 

操作した人の生年月日より、

前の年代より前ならどんな年代

にも飛ぶことができます。

 

世の中には、昔は、

信じられない程、

安価だった物が、

今では、希少すぎて、

信じられない程、

高価な物が沢山あります。

 

例えば、切手や小銭などです。

 

それを、タイムスリップして、

持って来れば、

何とか生きていける分のお金にはなるでしょう。

これを遺産だと思って下さい。

それと、

タイムマシンの存在を誰かに教えたり、

大儲けしようとしてはいけません。

きっと悪い人間に見つかって、

タイムマシンを取られて、

くだらない金儲けに使われて

しまうでしょう。

 

最後までいれなくてごめんなさい

ヒカルより」

 

 

僕は、遺書の内容を思い出した。

 

奈々は僕の頰を撫で、

優しい声で諭す。

 

「ヒカル、、、。

そんなに『昔の恋人』をに会いたいなら、

会わせてあげる。

私が、17年前の8月10日、

ヒカルの高校三年の誕生日にタイムスリップして、

ヒカルの恋人に会ってきてあげる。

そして、奈々お願いしてきてあげるよ。

 

『ヒカルのそばにいつまでも居て』って。」

 

奈々は僕にキスをする。

 

「そしたら、三人家族になるね。

ヒカルがパパで、ヒカルの彼女がママで。

奈々が娘になるの」

 

奈々はとっても幸せそうだ。

 

 

 

 

その時、悲劇が起こった。

 

「ゴホ、ゴホ、ウェ〜〜」

 

僕は、多量の血を吐いた。

 

「ヒカル、大丈夫、ヒカル!

死んじゃや〜〜だ!

死んじゃや〜〜だ!」

 

奈々が必死で叫ぶが僕の意識は、

どんどん遠ざかる。

 

 

一時間後、、

(ここからは、奈々目線で話が続きます)

 

ヒカルは今、

集中治療室で治療を受けているみたい。

 

どうやら、一命は取りとめたみたい。

 

でも、もう永くないらしい。

 

奈々にやれる事は、

『アレ』しかない。

 

まず、昔にタイムスリップして、

ヒカルの恋人に別れないように

説得する。

そして、

ヒカルに、

健康な生活を送るように、

説教する。

タバコなんて吸わせない。

そうすれば、

現代に帰ってきたとき、

三人でずっと

仲良く暮らしていけるよね。

 

ヒカルと彼女が会った時が、

高校三年の誕生日、8月10日。

 

奈々が産まれたのは、

同じ年の8月12日。

 

つまり、奈々は、

昔に二日しか行けない。

それ以上いてしまうと、

 

奈々の存在が喪失してしまうのだ。

 

でも、嬉しい。前は、

ヒカルと同じ誕生日でないことを

恨んだけど、

その、二日というズレ、『差違』

のおかげで、ヒカルは救われる、、、。

 

奈々は家に帰って、

タイムマシンを動かした。

埃まみれでも、動作して来れた。

 

「ヒカル、今、助けに行くからね」

 

奈々は過去へ出発した。

 

 

 

 

 



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過去と未来の連続性

これで、短かったかもしれませんが最終話とします。
ヒカルと奈々がとうとう結ばれる............。


奈々、過去に戻れたみたい!

 

奈々は今、ヒカルの家の前にいる。

随分、結構、新しい家だ。

 

やっぱり17年も経つと、

家も古くなってしまうみたい。

今は大体、午後二時のようだ。

さて、ヒカルに会わなきゃ。

 

ヒカルと

ヒカルの彼女と

奈々で、誕生日祝いたいなぁ〜〜。

 

さて、ヒカルのお家に入ってみようか。

 

昔のヒカルってどんなのかなぁ〜〜

 

髪の毛は黒かな〜〜

 

強いのかな、かっこいいのかな、、、

 

想像するだけでワクワクする。

取り敢えず、

玄関のチャイムを鳴らしてみる。

「ピンポ〜ン」

虚しく響き渡る。

 

あれ、留守なのかな?

 

今度は、

鍵がかかってないか確認してみる。

 

「ガチャ」

 

あれ、開いてる!

 

ヒカル、いるのかなあ。

そ〜と入ってみる。

 

玄関には、おそらくヒカルのものだと思われる

靴が一つだけあった。

 

彼女...どうしたのかな。

 

恐る恐るヒカルをがしてみる。

 

「ごそごそ」

ヒカルの部屋から物音がした。

 

行ってみるか。

 

ヒカル、誕生日だし、何か楽しい事、

してるんだろうなぁ〜〜。

 

奈々と彼女どっか可愛いかきいてみよ!

 

 

奈々は、ヒカルの部屋を覗いてみた。

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

奈々はしばらく、何もできなかった。

ヒカルがしている事がしばらくの間、

理解できなかったのだ。

 

ヒカルは、、、

死のうとしてる?

 

ヒカルは暗い表情でロープを持っている。

 

なんで。

今日は、

ヒカルの楽しい誕生日、なんだよ。

 

『彼女』は何してるの。

 

このままじゃヒカルが、

『私のヒカル』が、

死んじゃうよ。

 

そうだよ。

 

奈々はとある事に気が付く。

 

そうだよ。ヒカルは奈々の物。

今も昔も変わらない。

 

ヒカルは奈々が幸せにしてあげる。

 

もしできないのなら、

『私と死んじゃおう?』

 

奈々はもし、ヒカルが悪い人に

襲われた時、守ってあげる為に

持っていた、ナイフを取り出す。

 

ロープで首が締まるより、

『奈々が刺したほうが簡単に死ねるよ』

 

守る為のナイフで、殺すなんて、、、。

 

 

「なにしてるの」

 

奈々は哀しみを抑えながら、

優しい声で、ヒカルに語りかける。

 

 

 

 

それから先はしばらく記憶が飛んでしまった。

おそらくあまりにショックだったのだろう。

 

気が付いたらヒカルが抱きついていた。

 

やった!ヒカルが幸せそうだ!

殺さずに済んだ!

 

 

しばらく、若いヒカルを見てみると

少し、違う感情、が湧いてくる。

 

『可愛い』抱きついているヒカルは、

若くてかっこいいというよりも、

守ってあげたいくらい可愛い。

独占したい。

 

 

そうだ、今日は、ヒカルの誕生日‼︎

祝うのは、もちろんだけど、

奈々の夢もやってしまおう。

 

奈々の夢それは『ヒカルと一緒に誕生日を祝う』

事だ。

奈々とヒカルは今日くらい、同じ誕生日

として祝っても、いいよね?

 

 

奈々とヒカルは一緒にケーキを作った。

 

不器用ながら、

ヒカルは私のいう事を聴いて、

一生懸命ケーキを作っている。

 

可愛いなぁ〜〜。

 

ヒカルにはケーキのほとんどをあげちゃった。

奈々は自分がケーキを食べる為に

作ったんじゃない。

 

ヒカルが美味しそうにケーキを食べるところを

見る為に作ったんだよ。

 

ヒカルは寂しがりやの奈々と

一緒に寝てもくれた。

 

今も昔も優しいなぁ〜〜

 

 

でも、夜中、

せっかくヒカルが一緒に寝てくれたのに、

怖い夢を見ちゃった。

ごめんね。

そこである事に気がつく。

あと、たった30時間しかヒカルといれない!

 

そうだ、奈々には、二つの『使命』

がある。

 

ヒカルの恋人の事は、結局わからなかったけど、

でも、ヒカルは

最低でも健康でいなければならない。

奈々とずっと幸せに暮らす為に。

 

ヒカルに、

規則正しく理想的な生活をさせないと!

 

次の日、奈々はヒカルを早めに起こした。

 

気持ち良さそうに

寝ているヒカルを起こすのは、

辛かった。

でも、二人の未来の為には必要な事。

 

奈々とヒカルは1日だけいろんな所に

旅行した。

 

楽しかった。いつか、あんな素敵な教会で

ヒカルと結婚したいな。

 

でも、

『旅行』から帰る時、

嫌な事が、起こってしまった。

 

 

ヒカルが不良たちに絡まれ殴られちゃった。

 

どうして、どうして殴られなければならないの?

ヒカル、何も悪いことしてないよ....

 

私のヒカルを傷つけないで‼︎

 

気が付いたら、

ヒカルを殴った不良を殴りまくっていた。

 

ヒカルの為だったら人殺しだって!

でも、

そこで冷静になる。

ヒカルは『人殺し』は、、、嫌いだよね。

 

殺したら、ヒカルと暮らせない!

 

 

奈々とヒカルはそのまま家に帰った。

 

ヒカルは、こんな奈々を許してくれた。

 

優しいところが、

ヒカルのいいところでも

『辛い』をところでもあるんだけどね。

 

 

でも、ヒカルは、奈々に哀しい言葉をかけた。

 

『どうして、無価値の僕の為にこんな事までして

くれるのか』

 

 

『無価値』なんかじゃない。

結局、

『ヒカルを磨く為にずっとそばにいる』って約束しちゃった。

 

ひどいよ。そんな哀しいこと言われたら、

未来に戻れないじゃない。

奈々ずっといたら消えちゃうんだよ。

 

おまけに、

奈々にとっても甘えてくれる様になったけど、

でも、それが辛いの。

 

私は手紙を書く事にした。

 

いうべき内容は一つしかない。

 

『奈々の未来の為に、生き続けて‼︎』を

 

私は、ヒカルが寝たあと、

涙を垂らしながら、

書いた。

 

もっと、一緒にいたい。

でも、

それじゃあダメ‼︎

 

私は過去ではなく、

『未来』に賭ける事にした。

 

「明日、『奈々』が産まれるから、

寂しくなんかないんだよ。

また会えるから」

 

熟睡し切っているヒカルにそう言うと、

奈々は『現代』に飛んだ。

 

 

 

 

 

『現代』

(タイムマシンの特性上、

奈々が二日、過去で過ごし戻ってくると

現代でも既に二日過ぎている事になる)

 

ヒカルが集中治療室に入ってから二日も

経ってしまったの?

 

早く、現代のヒカルに会いに行かないと!

 

ヒカル、奈々との『約束』守ってくれたよね。

だって、ヒカル、だもん。

 

 

 

奈々はヒカルの病室の扉を開けた。

 

「あれ、ヒカル、どこ?」

 

ヒカルはいなかった。

ヒカルは死んだ?

いや、ヒカルは『約束』を守ったはずだから、

死んだはずない‼︎

 

「ヒカル!奈々と隠れんぼしてるのかな?

元気になったからって、

そんなことしたらダメだよ。

奈々、悪い鬼だから、捕まえたら、

もう離さないよ。

牢屋にでも閉じ込めて、

一生動けない様にしてあげる。

でも、奈々、それでも、

ヒカルを幸せにしてあげる。

ずっとそばにいてあげるから。

ふふ、寂しくなんかないよ」

 

「……………」

 

辺りに静寂が広がる。

 

凄まじいほどの虚空感

 

「奈々、ヒカルと一緒に死ぬことすら

許してもらえないの?

そんなにも奈々の人生って『無価値』?」

 

座り、泣き崩れる事もできない。

涙さえ出せない。

 

呆然とたち尽くすことしかできない。

『ヒカルは死んだ』

 

奈々にとって希望という光は全て

『幻想』だったのだ.........。

 

 

「パパもママもヒカルもみんな、幻だったんだ」

奈々は病室の窓を全開に開ける。

 

こんな高さから堕ちたら間違いなく即死だろう

死体すらばらばらかもしれない。

 

「みんな、幻なら奈々も幻になろうかな。

そしたら、仲間に入れてくれる?」

 

奈々は、飛び降りようとした。

 

 

その時‼︎

「奈々‼︎」

後ろから、

優しく、いつも聞いていた男性の声がして、

同時に抱きしめられた。

 

「ヒ、ヒカルだ!会いたかったよ‼︎どこにいたのよ!

心配したじゃない!」

「病室で、『奈々の手紙』を眺めていたら

思い出したんだ。

奈々はいつも僕を守っていてくれたんだって。

そしたら、いきなり体が軽くなって。」

 

ヒカルは若々しかった。髪の毛は17年前と同じく

黒で、今まで見たどのヒカルよりも生き生きしていた。

 

『約束』守ってくれたんだ。

 

「ヒカル、もう一度『旅行』しよう‼︎」

 

 




今まで、至らない点はあったかもしれませんが、
最後まで読んでくださってありがとうございました。


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