知世の野望 ~The Magic of Happiness~ ((略して)将軍)
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プロローグ
大道寺知世の憂鬱


「ふぅ……」

 

 

4月も末になろうかという頃、自室の窓辺で夜空を眺めながら……

私は、大きくため息をついていました。

 

 

私の名前は大道寺知世、ビデオカメラの撮影と撮影に使う衣装の製作が趣味な、数日前に小学6年生になったばかりの少女です。

 

 

「きれいな満月ですわ……

 ……初めてさくらちゃんの魔法を撮影したのも、こんな夜でしたわね。」

 

 

2年ほど前、ちょっとした用事で夜道を歩いていた時に何気なく空を見上げると、そこで翼の生えた杖に乗って空を飛ぶ女の子と、その横に飛んでいる黄色いぬいぐるみの様ななにかを目撃し、手に持っていたビデオカメラでその光景をビデオに収めました。

 

 

その不思議な光景に驚きながらも、帰って、ビデオの内容を確認すると、そこには私の大切な人……さくらちゃんが写っていたではありませんか。

 

 

……翌日、目覚めた私はあれは夢だったのではないかと思いながら、改めてビデオカメラを確認すると、そこにはやはりさくらちゃんと黄色いぬいぐるみさんが写っておりました。

 

 

その光景が現実だと確信したのち、映像を映したビデオをカバンに入れて早めに登校すると、教室にはすでにさくらちゃんが席についておりました。

 

 

まだ他の生徒は来ていらっしゃらなかったので、これ幸いとさくらちゃんにビデオを差し出し、写っていた内容についてさ尋ねると、さくらちゃんは可愛らしい悲鳴をあげてしまい……

 

更に、その叫び声に反応して、さくらちゃんと一緒に写っていた黄色いぬいぐるみさんが関西弁でしゃべりながら、カバンの中から飛び出してきました。

 

 

ケルベロスと名乗った黄色いぬいぐるみさんの話によれば、さくらちゃんはクロウカードと言う、魔術師クロウリードという方の作った魔法のカードで、偶然魔法を使ってしまった結果、他のカードを町中にばら撒いてしまったとのこと。

 

 

そして、それぞれが意志をもってイタズラをしたがるクロウカードを回収する為に、ケルベロスさんことケロちゃんによってカードの回収者『カードキャプター』になったのだとか。

 

 

最初、さくらちゃんはカードキャプターとしての使命を嫌がっていましたが、カードを回収していくにつれカードキャプターとしての使命を自覚していき、最終的にクロウカードの正当な主として認められました。

 

 

その中であった、様々な出会い……

 

 

中でも、最初はライバルであった転校生『李小狼』君との関係は、お互いのぶつかり合いや触れ合いによって、いつしかお互いを、自分の一番大切な人と意識する関係になっていき……

 

 

そのさくらちゃん達の活躍を、私はずっとビデオに収め続けてきました。

残念ながら、帰国する李君との場面を収録する事はかないませんでしたが……

 

 

さくらちゃんと李君だけの大切な思い出に、踏み込むのは無粋と言うものでしょう。

いずれまた、いい場面を撮影するシーンは巡ってきますわ。

 

 

最近は、さくらちゃん大活躍の場面を撮影するためにカードのひとつ『創(クリエイト)』のカードを使って敵となる怪物を作成していただき、それをさくらちゃんが退治する場面を撮影しています。

 

 

……ただ、これはこれでいいシーンが撮れるのですけど、やはりかつての活躍とは違うように思えてしまうのです。

 

 

それでも、さくらちゃんを撮影していれば、ごく普通の日常でも楽しいのですが、李君が帰国した現在はさくらちゃんの表情がすこしさえ無くて……

 

 

「なかのよさげな女の子達の仲間達が活躍する物語では、こういうタイミングで新しい事件が起こったりするものなのですけど……」

 

 

2年前と、同じ輝きを放ち続けている夜空の満月を眺めながら、再びため息がもれてしまいました。

また新しい事件が起これば、凛々しいさくらちゃんを撮影するチャンスなのですが……

 

 

ただその場合、さくらちゃんもまた大変な目に会ってしまいますが……

でも、私はさくらちゃんの活躍を撮影したいだけで事件が起こるのを願っているわけではありません。

 

 

『絶対、大丈夫だよ。』

 

 

さくらちゃんの、超絶無敵の魔法の呪文があれば、例えどんな事件に巻き込まれたとしても最高の形で事件を解決してくれる……

 

 

そう信じているからこそ、新しい出会いのきっかけが起こる事を望んでいるのです。

 

 

……などと少し格好をつけた事を考えていると、猛烈な眠気が襲ってきてしまいました。

 

 

「……もうこんな時間ですか……そろそろ、もう寝ませんと……

 この事についてはまた今度考える事にしましょう……ふわぁぁ……」

 

 

 

明日も学校があるので、今日はこの辺で休む事にしましょうか。

 

 

さくらちゃんが活躍する夢を見れるように願って、私は電気を消し目をつむって眠りにつきました……

 

 

 

……この時、私は気づいていませんでした。

 

 

 

私達の住む世界とは別の世界から来た人達により、この世界にはすでに新しい事件の兆候が表れていて……

 

 

さらにこれから数日後、さくらちゃんがある女の子と出会った事をきっかけに様々な新しい事件に巻き込まれて……

 

 

 

その結果、事件の展開は本来の流れと大きく異なり、様々な思惑や悲しみで造られた闇を払って、その奥で悲しく輝いていた真相を見つけ出す事を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そして、その新たな出会いの日に、家の用事でさくらちゃんと出かける事が出来なかった為、新しい仲間との出会いのシーンを撮り逃がした事を心底悔やむ事になろうなどとは、考えもして居りませんでした……

 

 

よよよ……超絶くやしいですわ~……

 

 

 

 

 

 



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第1章:海鳴の魔法少女
新たなる事件の始まり


「さくらぁ~、まだ着かへんのか?」

 

 

狭くて、暗くて、いい加減うんざりするような環境で、ワイは外にいるさくらに不満の声を上げた。

結構な時間経ったはずやけど、まだ目的地に着かへんのかいな?

 

 

まったく、ワイだけやったらこんな苦労せんでも済むのになぁ……

 

 

「ケロちゃん! 声出しちゃだめだってば!!

 他の人に聞かれたらどうするの?」

 

 

すると、すぐさまさくらが慌てた声でワイの事を諫めてきた。

確かに、この状況で他人に聞かれたら騒ぎになるやろうけど……

 

 

「だってワイ、家を出てからずーっと閉じ込められっぱなしなんやで……

 いい加減、息がつまってまうわ。

 

 それに、今近くには誰もおらんのやろ。」

 

 

ちょっと気配を探ってみたけど、近くに人間がいる様子は無い。

今なら、ワイが顔だしても別に問題はないはずや。

 

 

「もー……ちょっとだけだよ。」

 

 

ぶすぶす文句言いながら、さくらはバッグのチャックを開けてくれた。

すかさず、ワイはカバンから顔を出して大きく深呼吸……

 

 

……ふぅ、やっと一息つけたわ。

 

 

ワイの名前はケルベロス。

ずっと昔、クロウ=リードっちゅう魔術師が魔術を使って造った封印の獣や。

 

 

今でこそ、バッグの中に収まる子猫くらいの大きさの姿をしとるけど、本当の姿は翼の生えた守護獣っちゅう感じのめっちゃカッコええ姿なんやで。

 

 

ま、この姿もなかなかかっこええけどな。

 

 

「気をつけてよ……

 こんなところ見られたら、ご近所じゃなくたって大変な事になっちゃうんだから。」

 

 

……んで、このむくれとるのが、ワイの今の主の木之本桜。

強い力を持っとったワイの前のご主人、クロウ=リードから魔法のカードを受け継いだ魔法使いで、ついこないだ小学6年生になったばかりや。

 

 

まだ幼いし、見た目にすごみっぽいものは全然見えへんけど、長年色々なやつを見て来たワイでも、今のさくら以上の魔力の持ち主は見た事があらへん。

 

そう、かつての主人だったクロウ=リードよりも上……

 

 

おっちょこちょいでネボスケやけど、間違いなく当世最強の魔術師や。

 

でも、やっぱ見た目は普通の女の子なんやけどな。

 

 

「しっかし、さくらと一緒に海鳴に来るのは久しぶりやなぁ。」

 

 

前に来たんは、まだ小僧やエリオル達が日本に居った頃やったからなぁ。

 

 

「私だって来れるんだったら来たいけど、ケロちゃんと違ってそんなちょくちょく会いに来れないんだもの。」

 

 

まぁ、さくらにもいろいろ予定があるさかい。

友枝町からも結構近いとは言っても、そこそこ距離があるからそう気安く来れるわけもないわな。

 

 

「……ところでケロちゃん、一人で遊びに行った時に迷惑かけたりしてないよね?」

 

 

そんな事を考えとると、さくらが不意に失敬な質問をしてきよった。

 

 

「いきなり何言うとんねん、言われなくてもそんな事せぇへんがな。

 そんなんしたら、ワイ完全にワルもんや。」

 

 

ワイはすぐさま、眉間にしわを寄せてさくらに抗議した。

全く、ワイの事をなんやと思っとんねん……。

 

 

……ちなみに、ワイらがさくらの住む友枝町から少し離れた海鳴市まで来たんは、こっちに住んでいる友達に会うためや。

 

 

2年くらい前、些細な理由でさくらと喧嘩した事があったんやけど、そん時に腹いせにテーブルの上に置いてあったチョコレートを食べたら、なんやえろう気持ちよくなってしもうて……。

 

……そっからの記憶がおぼろげなんやけど、気が付いたときにはどういう訳か、この海鳴に住んどるある女の子に子猫と間違えて拾われて、しばらくの間世話になったんや。

 

 

その後、色々あってワイはさくらと仲直りしたんやけど、そん時に知り合った女の子がワイらの事を知ってしもうてな……

 

 

元々、色々放っておけん身の上なもんで、ワイはちょくちょく会いに行くようになったし、さくらも時間が取れればこうして海鳴に会いにきとるんや。

 

 

「知世ちゃんも一緒に来れたらよかったんだけどね。」

 

 

「まぁ、家の都合やさかいしゃーないわ。

 ……ところでさくら、人の家を訪ねるのに、手ぶらちゅうんはちょっと礼儀にかけるんとちゃうか?」

 

 

ワイは結構訪ねとるけど、さくらは久しぶりなんやし……

久しぶりの再会、ここはビシッと決めんとあかん。

 

 

「ほえ……そうかな?

 お父さんからお土産にって、手作りのクッキー貰ったんだけど……。」

 

 

クッキー……それも悪くないなぁ、さくらのお父はん料理うまいし……

せやけどさくら、見舞いにはもっとええもんがあるんやで。

 

 

「例えば……そうやな、この海鳴には翠屋ちゅう有名な喫茶店があるのは知っとるか?」

 

 

ちなみに、翠屋ちゅうんはこの海鳴でもダントツの人気の喫茶店で、そこのケーキはえらい絶品、雑誌でもよく紹介されておる有名な店なんや。

 

 

「翠屋……

 どこかで聞いた事あるような?」

 

 

なんやさくら、その曖昧な返事……?

まぁええ、肝心なのは土産のケーキや。

 

 

「知っとるんやったら話が早い、あそこで出しとるケーキは絶品でなぁ……

 見舞いに行く時のお土産には、最高やと思うんやけど……。」

 

 

「え? ケロちゃん、そのケーキ食べた事あるの?」

 

 

「ああ、こないだ初めてご馳走になったんやけど、あれはもう実に絶品で……

 はっ!?」

 

 

アカン、余計なことまで喋ってもうた……

 

 

……コラ、さくら、そんな視線で睨むんやない。

その目つき、まるで機嫌の悪い時の小僧みたいや。

 

 

「ケロちゃん! さてはこの前遊びに行った時にケーキごちそうになったんでしょう!

 ダメじゃない! ちゃんと言わなきゃ!!」

 

 

「あっはっは…… 

 スマンスマン、ケーキの味に夢中になってつい忘れてしもた。」

 

 

「もう……。」

 

 

笑ってごまかそうとするワイに、さくらは仕方がなさそうな視線を向けてきたけど……

……ワイは悪うない、悪いんは全てを忘れさすような味の絶品ケーキや。

 

 

「……まぁ、そういうわけやからここはひとつ、ケーキを買いに行こう、な?

 ワイも一度、その翠屋にも行ってみたかったところやし……ん?」

 

 

そうして、いつもの感じでさくらと話をしとると、いきなり首の後ろあたりがざわつく感じがワイを襲いよった……!

 

 

「この気配は……まさか!」

 

 

この感覚、ワイの知っているのと比べるとちょっと風変わりな感じもするけど……。

 

 

「ケロちゃん、これって……!」

 

 

同時に、さくらも同じ気配を感じたようやった。

間違い無い様やな、この感覚はワイとさくらがよう知っとる……。

 

 

「強い魔の気配……なにかの魔法が、近くで発動したんや。

 しっかし、なんやこの気配……?

 なんか喜んどるというか、はしゃいどる様な感じやで?」

 

 

割と強い魔力にも拘らず、魔力その者からは邪悪な気配はこれっぽっちも感じられんかった。

 

なんでこないな所で、こんな気配がするんかわからんけど、邪悪な気配がない分これはかえって心配や。

 

 

こんなお気楽気分で強い魔力を使っとるんやったら、後でとんでもないしっぺ返しが来かねん……

危険な力の使い方や!

 

 

……しかも、すぐ近くに魔力の気配が2つも増えよった上、その周囲には一帯を包み込む魔力が展開されてしもうとる。

 

 

これは……結界?

 

これまた少し変わった感じやけど、こんな所に結界を使える術者なんておるんか?

 

 

こりゃ、いったいどういう事なんや……!?

 

 

「……ケロちゃん、これってこのまま、放って置くわけにはいかないよね?」

 

 

「ああ、誰が使うとるんか判らんけど、こないな強い魔の気配を放って置く訳には行かん!

 行くでさくら! 久しぶりのカードキャプター出動や!!」

 

 

「うん!」

 

 

さくらはそう言うと、周囲に人の姿が無いのを確認してから、胸にかけたペンダントを手に取り呪文を唱えはじめた。

 

 

「星の力を秘めし鍵よ! 真の姿を我が前に示せ!!

 契約の下、さくらが命じる……封印解除(レリーズ)!!」

 

 

そうすると、さくらの持つペンダントが杖へと変わっていき、本来の姿を取り戻していく。

これぞ、さくらの魔力が形になった魔法の杖『星の鍵』や。

 

 

さくらは、その杖を改めて手に取ると、更にカードを一枚取り出し、カードの名前を唱えて魔法を発動させた。

使うたんは、ここからいっちゃん早く気配の元へとたどり着ける魔法……。

 

 

(フライ)!!」

 

 

カードの魔法を発動させると、さくらの背に魔法の翼が現れた。

よし、これで準備完了!

文字通りすぐさま飛んで行くで!!

 

 

 

こうしてワイらは友枝町から少しだけ離れた海鳴市で、突如感じた魔の気配を調べに行ったわけやけど……

これがまた、とんでもないでかい事件の始まりやったんや。

 

 

クロウカードの時といい、香港の時といい、さくらはほんま巻き込まれ体質やなぁ。

 

 

 



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超絶無敵のカードキャプター

一生懸命がんばれば、なんでも出来ると思ってた。

 

 

この力があれば、大切なものを守れるって信じてた。

 

 

……だけど、それはただの思い上がりだったのかもしれない。

 

 

突然現れた、あの黒い衣装の女の子に……

 

 

私は、どうする事も出来なかった。

 

 

「なのは、気を付けて! 彼女、かなり戦闘慣れしてる……!」

 

 

防戦一方の私に、肩に乗ってるユーノ君は、

焦りを見せながら、気を付けるように私に助言をしてくれた。

……だけど、私はどうやってそれに応えればいいのだろう……?

 

 

「歳は、私と同じくらいなのに……!」

 

ジュエルシードの気配を追ってやってきた森の中で、

周囲の雰囲気が変わったと思った次の瞬間、突然現れたあの子……

 

 

ユーノ君は、あの子の事を同じ世界からやって来た『魔導師』かもしれないと言っており、

彼女も私達と同じように、ジュエルシードを集めているみたい。

 

 

私は、あの子の放ってきた魔法弾を防いでから、争わないで済むように

話し合おうとしたけれど、彼女は私の問いかけに、無意味だと言って取り合ってくれなかった。

 

 

ならば、力で彼女を止めようとしたのだけど、

魔法の腕は、彼女の方が上で、私には彼女を止めることが出来ない……。

 

 

そして、何度もぶつかり合うたびに押され、だんだん身体に力が入らなくなり、

ついに、あと1撃防げるかどうか……

そんな状況まで追いつめられてしまったのだ。

 

 

(……せめて、僕の魔力がもう少し回復していれば……!)

 

 

気が付くと、肩の上でユーノ君が悔しそうな顔をしていた……

……もっと私に力があれば、こんな思いはさせないで済むのに……!

 

 

「これで……終わり……」

 

 

「!?」

 

 

 

彼女は、漏らす様に抑揚の無い声でそう言うと

私達の方に武器の先端を向け、その先から強い力を放つ光球を私達へ放ってきた。

 

 

なんとか防御しようとしたけど、すでに足に力が入らなくなっており

そのまま、しゃがみ込むように倒れこんでしまった……

 

このままじゃ、やられる……!

 

 

「なのは!!」

 

 

「ユーノ君! 逃げて!!」

 

 

もう間に合わないのは判っていたけれど、ユーノ君を、私の失敗に巻き込みたくなかった。

 

 

とっさに、ユーノ君への言葉が口から飛び出るのと同時に、私は目をつむってしまい……

 

 

……直後、轟音と共に周囲は光に包まれた。

 

 

だけど、何故かその瞬間に私達が感じたのは、

目をつぶってもわかるほどの激しい光と、肌で感じる程度の爆風だけ……

プロテクションは破られたはずなのに、砲撃のダメージは届いてこない。

 

……いや、それだけじゃ無かった。

何故だかわからないけど、先ほどまでは無かった雰囲気

『優しい感覚』……そうとしか言いようがない感覚に、包まれていいるようだった

 

「あれ……?」

 

 

不思議に思って、恐る恐る目を開けた瞬間、私の目に映ったのは……

 

 

私をかばうように立ちはだかった、杖を構えた女の子の背中と

彼女の正面に展開された、翼の意匠が凝らされた大きな盾……

 

 

「え……?」

 

 

想像にもしなかった光景に、私は一瞬思考を止めてしまった。

ユーノ君にとっても予想外だったようで、目がいつも以上に目が真ん丸になってる。

 

 

「ふぅ、間に合うてよかった……お前ら、ケガないか?」

 

 

それを見てぼんやりとしていた私達が我に返ったのは、

どこからか聞こえて来た、奇妙に訛った声を聞いてからだ。

 

 

声の主は、目の前の女の子じゃない。

後ろから聞こえて来たし、何より今のは男の人の声……

 

 

誰なのだろうかと、声の主を確認するために振り向くと、

そこには、翼の生えたライオン……みたいな動物が

心配そうな顔で、こちらを見つめておいたので、一瞬だけビクッと驚いてしまう。

 

 

……いや、ライオンに翼は無いし、鬣が無いのにどこから聞いても男の人の声だし、

おまけに、イントネーションはなんだか関西弁だけど、ちょっと怪しい感じ……

いや、そもそも普通ライオンはしゃべらない……はずだよね?

 

 

先ほどから、思っても居ない事が連続で起きた為か、

私の頭の中は、これ以上になくぐるぐるしてしまったけれど……

 

 

……とりあえず、助けてもらったのは事実なので、

まずは、このライオンに対してお礼をいうことにした。

 

 

「「え……!? あ、はい、どうもありがとうございます」」

 

 

どうも、ユーノ君も同じ事を考えていたみたいで、

お互い、寸分たがわない言葉が、ほとんど同時に口から飛び出した。

 

 

「ええってええって、困った時はお互い様や」

 

それを聞いて気をよくしたのか、翼の生えたライオンが、器用手のひら……

もとい前足を上下に揺らしながら、大らかな態度をとっているこの光景……

 

 

……未だに目の前に見えている物が信じられない。

 

 

(あ、やっぱりさっきの攻撃で、どうにかなっちゃって、今はきっと夢を見てるんだ。)

 

 

やや思考逃避する形でそう考え、

これが夢だと確信する為に、自分のほっぺを思いっきりつねると……

 

 

「「!? イタタ……」」

 

 

ジンジンとした痛みが伝わり、思わず頬を抑えてしまった。

夢じゃない……? これ、現実……?

 

同じタイミングで、同じように痛がるユーノ君の声が聞こえてきたので、

そちらに目を向けると、そこでは少し涙目になったユーノ君がほほを押さえていた……

 

どうやら、ユーノ君はひげを引っ張って、夢か現かを確かめようとしたみたい。

 

 

「なんや、おもしろいやっちゃのぉ……

 芸人の魔法少女なんか? それとも魔法少女の芸人なんか?」

 

 

「げ……芸人!?」

 

 

「いや、別にウケを取ろうとしてたわけじゃ……」

 

 

今のやり取りがそんなにおかしかったのか……

私達は、愉快そうな顔を下ライオンから、いきなり芸人扱いされてしまったので、

その微妙に失礼な発言に、思わず反論せずにはいられなかった。

 

 

……このライオン、いったい何者なんだろう……?

 

 

「ケロちゃん! なにやってるのよ!?」

 

 

その答えが出る前に、今度は逆の方向から怒ったような声が聞こえてきた。

声の主は、もちろん盾を展開している先ほどの女の子。

 

 

「ケロちゃん……?」

 

 

私は、思わずライオンの方に向いて、恐らくこのライオンの名前らしい言葉をつぶやいた。

でも、どうみてもこのライオンは、そんなカエルみたいな呼び方が似合う見た目じゃあ……

 

 

……いけない、それよりも、この子にお礼を言わないと!

 

 

「あ……すいません、どうもありがとうございます。」

 

 

「よかった、無事だったんだね……

 ごめんね、ケロちゃんがびっくりさせちゃって。」

 

 

私がお礼を言った後、彼女はそう言って申し訳なさそうにしていた。

 

 

改めて見てみると、バリアジャケットとは到底思えない、どう見ても普段着としか思えない恰好で

その顔には、黒い衣装の子の抑揚の無さとは対照的に、

安堵の表情をいっぱいに浮かべて、私達に優しく語りかけてくれた。

 

 

見ているだけで、思わず惹かれてしまいそうな優しい笑顔。

それを見ていると、私の中になぜか懐かしい感覚が溢れてきて……

 

 

(あれ……? この人、なんか懐かしい……?)

 

 

「あなた達は一体……?」

 

 

この感覚が何なのかわからず、戸惑っている最中に、

状況の把握できていないユーノ君が、彼女に問いかけたけど、

どうも、今の状況ではすぐに答えてもらえなさそう……

 

 

「さくら、どうやらアッチはまだやる気みたいやで。」

 

 

上を見上げているライオンにつられて、空の方をみると、

そこでは、あの子が戦闘態勢と思われる構えをとったまま、

僅かに悔しさを見せる感じで、こっちを睨んでいる。

 

 

「……さっきの魔法とあの杖、どうやらちょっと厄介な奴みたいやな、

 なにが目的かは知らんけど、あちらさん引く気は無いみたいや。」

 

 

私の力不足なのか、あの子が凄いのか……

恐らく、どちらでもあるんだろうけれど、

私は、あの子には全然かなわなかった。

 

 

その現実に、心の中で悔しさを感じていると……

 

 

「……ケロちゃん、この子達の事、お願いできる?」

 

 

目の前の女の子は、真剣な表情でそう言い

盾を消して、そのまま一歩前に踏み出していた……

……顔を見ると、ほんのちょっとだけ怒っているようだ。

 

 

「おい!? ……大丈夫なんか?

 ちゃんとカードを使えば、なんてことはない相手やろうけど……」

 

 

ケロちゃんと呼ばれたライオンは、心配そうに彼女にそう言った

カード……今、彼女が手に持っているそれの事だろうか?

 

 

「……うん、わかってる。

 でも、なんでだろ……あの子の事を見てたら、

 ここで何とかしないとって思えてきたの……」

 

 

そう言って、彼女が再び空の方に視線を向けると、

なにかを決意したかのような表情をし、

杖を持つ手に、力と強い魔力をを込めているのを感じる事が出来た。

 

 

それを見て、ライオンはこの人の意思を尊重したようで……

 

 

「……わかった、さそこまで言うんやったら任せるわ。

 せやけど油断するんやないで!」

 

 

「うん!」

 

そう言って、彼女は元気よく答えると

彼女は新たに、ポケットから手に持っているものとは別の

不思議な絵柄の描かれたカードを取り出し、杖で突いた。

 

 

……すると、金色の光と共に、彼女の背に光り輝く翼が生え、

その翼をはばたかせ、彼女は空に居るあの子の許へとんでいった

 

 

それも、不安な感じなどみじんも見せず、なんとかしてくれると思わせるように力強く……

 

 

「あの翼……やっぱり、あの子も魔法少女!」

 

 

「でも、あんな魔法、今まで見た事ない……

 僕の知らない魔法を使うのか……?」

 

 

あの子に続いて、また新しい魔法少女に出会うなんて……

そして、あの子の使う魔法はユーノ君も知らない魔法みたい。

 

 

そんな事を思いながら、彼女の飛んで行った先を見つめていると……

 

 

「あんさんら、僅かながらも魔法が使えるっちゅうことは、

 噂に聞く魔法少女っちゅうやつかいな?

 いやぁ、さくら以外にも居るとは思わんかったわ。」

 

 

ケロちゃんと呼ばれたライオンが、気軽に横から話しかけてきた。

かなりフレンドリーな感じで、それほど怖い感じはしなかったから、

私はおじけづきもせず、気が付くとそのまま思っていた疑問をライオンに訪ねていた……

 

 

「さくら……あの人の名前?」

 

 

「貴方達はいったい……?」

 

 

驚きの連続で、今までやろうと思ってできなかった質問をユーノ君がすると、

ライオンは、わずかに考えるそぶりを見せ、すぐに顔を上げて問いに答えてくれた

 

 

「ワイの名はケルベロス、ずっと昔にクロウ=リードっちゅう魔術師に造られた

 金の瞳を持つ最強の守護獣や。」

 

 

「クロウ=リード……?」

 

 

ケルベロスと言う名前は聞いた事がある、ギリシャ神話に出てくる地獄の番犬で、

よくゲームとかのモンスターの名前に使われる名前。

そっちの方では、黒とか赤とかの色のイメージが強いけれど……

 

 

それにしても、ケルベロス……ケロベロス……ケロちゃん……?

この変換、ちょっと強引過ぎやしないかな……

やっぱり、どう見ても見た目に全然似合わないし。

 

 

それに、クロウ・リードと言う名前も聞いた覚えがある様な……

確か、有名な占いカードの原型を作った人の名前……

 

 

 

「魔術師と守護獣……? 魔導師と使い魔とは違うのか……?」

 

 

一方、ユーノ君はケロちゃんの言った単語に関して、

思う所があるのか、何かを考え込んでしまっていた。

……私には、その言葉にそれほどの違いがあるようには思えないけど……

 

 

そうして、新たな疑問が出来てしまった私達を余所に、

ケルベロスさんは、改めてあの人の方を向くと、そのままノリノリで説明を続けてくれた。

 

 

「そして、あれがワイの今の主……

 かつてクロウ=リードの造りだした魔法のカード、クロウカードの継承者!

 超絶無敵の魔法少女! カードキャプターさくらや!!」

 

 

「「カードキャプター……?」」

 

 

またもや、新たな疑問を生み出す聞きなれない単語に、

私とユーノ君は復唱するように、その言葉を口にしていた……

 

 

カードは、先ほど持っていたアレの事だろうけれど、

カードキャプターが意味するものは、私には思いもつかない……

 

 

……そうして、私達は視線をケルベロスさんにつられる形で、

空で戦いを繰り広げているさくらさんと、あの子の方へ向けていたのだった……

 

 

 




舞台はなのは対フェイトの初戦ですが、演出の展開上、戦闘の展開が原作と違ってしまっております

そして、ユーノもポジションがなのはの肩に居るので、この場面で原作通りの攻撃喰らったら
えらい事になっちゃって居たり……

この位の改変は、まぁ毎回あるもんだと思っていただければ

なお、こちらの世界ではタロットカードの制作者はクロウ・リードとさせてもらっております
元々、クロウリードがアレイスター=クロウリーが元ネタですし


一般レベルにはオカルト分野のややマニアックな有名人な感じと思っていただければ


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私の名前は木之本桜

……ジュエルシードの気配を追ってやってきた森の中で

 

 

私は、ジュエルシードの宿主になったと思われる、巨大化した猫の前と

その前に立ちはだかった、白い魔導師の少女と出会った。

 

 

見た感じでは、どうやら現地人のようだったが

この世界では、魔法は一般的な技術ではないはずにも拘らず

彼女は、かなりの性能だと思われるインテリジェントデバイスを所有していた。

 

なぜ、こんな所に魔導師が……?

それに、どうやってインテリジェントデバイスを……

 

いろいろと、疑問は尽きなかったけれど、

彼女の目的もジュエルシードらしい

 

ならば理由はどうであれ、彼女にを渡すわけにはいかない。

 

せめて傷つけないようにと、非殺傷設定で攻撃をしたけど

彼女は頑強な、頑強なプロテクションで、

私の攻撃を防いでいってしまった。

 

想像以上の魔力素質に、心の中で思わず舌を巻いてしまったけれど

一部技術に甘い所が見られ、それによるダメージが蓄積していき、

あと一撃加えれば倒れる所まで追いつめた。

 

 

これだけの素質と、あのデバイスを持っているのに、

おかしいと思うくらいに不安定な戦術だったけれど……

 

 

そんな事を考えても、どうせ意味は無い……

私には、目的を果たす事がなによりも重要だ。

 

 

そう判断して、最後の一撃を彼女の方に放ち、着弾した次の瞬間、

周囲に強い閃光と爆発音が広がっていく……。

 

もうあの子に、プロテクションで防ぐ力は残っていなかったはずだ。

 

……念の為、彼女が倒れているのを確認してから、

改めて、ジュエルシードの回収を行おうと思ったけれど……

 

光が収まった後、着弾点に見えたのは、

私が予想だにしなかった、翼をあしらった飾りのついた大きな盾、

その表面には、まるで傷がついていない。

 

さっきの少女がなにかしたのか!?

 

一瞬呆然としてしまったが、すぐに構えなおして

地上にあらわれた盾を警戒していると、

突如、盾が光とともに消えてしまい……

 

 

その後ろからは、先ほどの少女とは別の

背中に柔らかな印象の翼をはやした少女が、

一直線にこちらに向かって飛んできた。

 

 

「まさか……あの子の仲間……!?」

 

 

いや、そんなはずはない……

ついさっきまで付近に魔導師の気配はなかったはずだ……!

 

 

彼女は、まっすぐに私と同じ高度まで飛んでくると、

少し怒りを秘めた表情でこちらに顔を向け……

 

 

「どうして、こんな危ない事するの!?」

 

 

……私を嫌悪するわけではない

怒気をはらみながらも、どこか柔らかな物を感じる表情で私をしかりつけてきた。

 

「な、なにを……」

 

彼女の思わぬ行動に、思わず気の張りが緩んでしまったが、

すぐに気を取り直して彼女に対してバルディッシュを構える。

 

この状況で私の方に向かってくるという事は、

彼女の仲間だという事は間違いなさそうだ……。

 

だけど、この時点で私は彼女の事を脅威とは見ていなかった。

 

彼女の存在に気付けなかった点だけは不思議だったが、

どうみても争いごととは縁の無さそうな雰囲気だし、

なにより、手に持った杖は明らかにインテリジェントデバイスでは無い。

 

 

私の攻撃を、完全に防ぐ防御魔法の使い手だから、油断は禁物だけど、

実力は高くても先ほどの子と同じくらいのはず……。

 

 

そう判断して、新たな障害と思われる少女に対し

私はバルディッシュを構え、そのまま彼女へと攻撃をしかけた。

 

 

先ほどの攻撃を完全に防がれた事には驚いたけど、

あの盾自体は、ほぼ平面に近い防御魔法だったし、

どういうわけか、彼女はバリアジャケットを展開していない。

 

 

これならスピードで撹乱して、防御の裏をかけば勝てる、

そう思って、スピードに乗せたバルディッシュを振るったけれど……。

 

 

「ッ……!?」

 

 

予想に反して、私の攻撃は斬撃・射撃を問わず、

全てが、ギリギリの所でかわされてしまった……。

 

 

(さっきの子とは違う……魔力も……反応の速さも!)

 

 

なんとかして当てようと、連続でバルディッシュを振るうも、

彼女は、先ほど展開していた防御魔法を展開すらせずに、危うげもなく攻撃を避けてしまう……!

 

 

「うわっ……!」

 

 

そして、大降りになった所を避けられた隙に

彼女に大きく距離を開けられたのを認識した時……

私は、いつの間にか強く奥歯をかみしめていた……

 

 

(あたらない……!? 何故……)

 

 

……私が、焦ってる? こんな相手に……!?

 

 

正直、この時も圧倒的な強さは感じなかった。

 

 

体捌きはかなりうまいけど、それほどのスピードとは思えない。

……だけど、こちらが攻撃に入った瞬間には、向こうはすでに回避行動へと移っている……

 

 

まるで、こちらが仕掛けるタイミングが、完全に見切られてしまっているかのように……。

 

 

「もう……こうなったら……!」

 

 

「!?」

 

 

そして、彼女が次に仕掛けて来た事で、

私の焦りは、いっそう激しくなってしまった……。

 

 

「風よ、戒めの鎖となれ……『風(ウィンディー)』!!」

 

 

彼女が取り出したカードを、杖でついたかと思うと、

カードからは、魔力で造られた強い風が巻き起こり、

それが優しげな表情の女性の形を成したのだ。

 

 

「風が……人の形に!? なんだ、あの魔法は……?」

 

 

「すごい……」

 

 

地上の方から、驚愕と感嘆の声が聞こえた気がするけど、こちらは、それどころじゃない……。

あの魔法に、どれだけの威力があるのか……。

 

正直、予想もつかない。

 

不安になっている私に対し、人の形をとった風は、

その身を風の帯へと変え、私の方へそれを飛ばしてきた。

これで、私を捕らえるつもりなのか……!?

 

 

「くッ……!」

 

 

直撃の瞬間、即座にディフェンサーを展開し、

こちらに向かってきた風を逸らそうとしたけれど……

 

 

(……!? )

 

 

飛んで来た風の帯は、ディフェンサーで逸らす事が出来ず、

そのまま腕を伝って、私の全身を包もうとしてきた……!

 

 

……このままでは捕まる、直撃したら脱出は不可能だ!

 

 

そう判断した次の瞬間、私はディフェンサーを解除し、

全力で風の帯の無い方向へ回避をした!

 

 

「あっ!?」

 

 

「アカン! あと一歩やったのに……!」

 

 

下から驚嘆と落胆の声がしているが、私はそれどころではなかった。

……離脱するタイミングが遅ければ、完全に捕らえられていただろう。

 

 

「さくら! 次や!! 今のさくらなら四大属性カードの同時使用ができるやろ!!」

 

 

風の帯をかわし切り、呼吸を整えている所と、

地上から、彼女へのアドバイスが聞こえてきた。

 

 

先ほどは気づかなかったが、地上には先ほどの少女とフェレットの他に

翼の生えたライオンが居た……

アレは彼女の使い魔なのだろうか……。

 

 

……そして、今の発言がハッタリでなければ、目の前の少女は少なくとも、

あの風の魔法と同レベルの魔法を、あと3つは発動できると言う事になる。

 

 

まだ、先ほどの魔法は発動し続けている状態なのに……

 

 

ジュエルシードの回収だけを想定していたため、

付近に私の味方はいない……

 

 

彼女の使い魔の加勢、同レベルの魔法の同時使用……

この状況ではどちらが来ても、私に勝ち目は無くなるだろう。

 

時間がたち、さっきの少女が回復して彼女に加勢されてしまえば、

逃げる事さえ難しくなる……。

 

 

……だけど、そんな私の心配を余所に、

目の前の少女が使い魔に向かって叫んだ。

 

 

「ダメだよケロちゃん! それじゃあの子を傷つけちゃう!!」

 

 

私を……傷つけないようにしている……?

そんなの、普通に考えれば、非殺傷設定の魔法を使えばいいだけだ。

 

 

それに、先ほどのアドバイスも……普通なら口頭では無く、

念話を使った方が確実で、尚且つこちらに手を明かさずに済むはず……

 

 

まさか、アレだけの力を持っていてどちらも使えないのか……?

 

 

先ほどの相手以上に常識とかけ離れた、技術のアンバランスさに戸惑ってしまったけど、

時間をかければ、私が追いつめられつづける。

 

……ならば、この場はその甘さに付け込むしか手は無い。

 

 

バインドは、先ほどの風が今も展開されている以上、

よくても互いに動けなくなる状況に持っていけるだけ……

 

 

砲撃は、更にあの反応速度と鉄壁の防御魔法をなんとかしなければ、

当てることすらままならないだろう。

 

 

なら、渾身の一撃を決めて、向こうが混乱している間に、ジュエルシードを回収して離脱する。

私がここで目的を果たす為には、それしか道は無かった……

 

 

これが、最後の手段……

杖の先端を変形し、魔力刃を展開させ……

 

 

「!?」

 

 

「これで……決める!!」

 

 

全力を込めて、彼女へと突撃した。

 

 

だが、彼女は私の攻撃を避けようともせず、しっかりとこちらを見据えた上で、構えをとり……

 

 

……私達がすれ違ったほんの一瞬、ほんのわずかに見えた気がする光の煌めき……

 

それで、決着がついた。

 

すれ違い、互いに背を向けた状況で勝負の結果を確認するために、

お互い、相手側へと振り向いた瞬間……

 

 

―――ガタン!

 

 

「……!?」

 

 

……バルディッシュの先端が落ちた。

 

 

並みの攻撃では壊れないレベルの強度だけれど、

その断面は、鏡の様な滑らかな切り口になっており……

 

 

気がつけば、あの子の持っていた杖は、

いつの間にか、剣の形へと姿を変えていた。

 

 

間違いない、バルディッシュを切り裂いたのはあの剣だ……!

それも切り口を見るに、熱したナイフで、バターでも切るかのように……

 

 

……もう、この場において私に勝ち目は無い。

 

 

バルディッシュの損傷は時間がたてばすぐに修復されるけれど、

この状況では、それを待つだけの余裕も無い……

 

 

(油断しなければ……あの子と同じくらい……)

 

 

私の認識が甘かった……

いや、完全に彼女の実力を見誤っていた……

 

 

……私は、完膚なきまでに負けたのだ。

 

 

不本意だけど、こうなってしまった以上、私にできる行動は一つだけ……

 

 

「……今度は、負けない……!」

 

 

「え……?」

 

 

自分でも情けなく思うレベルの捨て台詞を発しながら、私はその場から離脱した。

 

 

彼女と……それと、その前に戦ったあの子の影響だろうか?

 

胸の奥に、言い様のない感情が生まれたのを感じながら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今度って……あの子、また何かやるつもりなのかな……

 ……小狼君と出会った頃は、あんな感じだったけど……」

 

 

 

戦いが終わって、あの黒娘が去って行った方向を見つめたまま、

さくらはぽけっと突っ立って居った。

 

 

やれやれ、カードの出し惜しみせんかったら

もっと早く勝負ついとったのに……

 

ま、あれがさくららしいと言えば、さくららしいんやけどな。

 

 

せやけど、今はそれどころやない。

本来の目的忘れてどないするっちゅうねん……

 

 

後から現れた魔力の気配は、あの黒娘と、こっちに座り込んどる白娘のもんやな。

 

 

ちょっと気になる気配やねんけど……

まぁええ、こっちは大した危険はないやろ。

 

 

せやけど、一番最初に感じた魔の気配はそうはいかん。

 

 

気配がこうして残っている以上、使い手はかなり近くに居るはずや。

 

 

ワイは、魔の気配の持ち主を探す為に、周囲を注意してよく見まわす。

 

 

「ん~……」

 

 

「あ……あの、なにか?」

 

 

このツインテ小娘には……他の気配は感じへんな。

あの黒小娘との戦いで、大分消耗しとるから、これだけの気配は出せん筈や。

 

 

「んん~……」

 

 

「ひっ!?」

 

 

一緒に居るイタチ……イタチ小僧か、コイツも魔力を持っとるけどちゃうな。

質は悪くないけど、どう考えてもあの気配とは別もんや。

 

 

ワイを見て、だいぶビビッてしもうとるみたいやけど……

 

……こら、警戒するんやない、別に取って食わへんわ。

 

 

……だけど、せやったらこの魔力の気配はどっから流れて来とるんや?

見回した見たけど、他にそれらしいやつ居らへんがな……?

 

 

「「あ……」」

 

 

ん? なんや、ツインテ娘とイタチ小僧、変な表情でハモりよって。

 

 

……気のせいか? なんや、耳の後ろに息を吹きかけられてるような……?

だれや! 変な気持ちになるからやめんかい!

 

 

そう思って、振り返ったワイを待ち受けていたのは……

 

 

「うわっぷっ!? 痛!? イタタタタ……!?」

 

 

あまりにもデカすぎるネコの顔と、ザラザラの突起がついた、大きなベロやった。

 

 

「うわっ!? こら! やめんかい!!」

 

 

「ケロちゃん!? どうしたの……!?」

 

 

なんやこのネコ!? なんでこんなデカいネコがおんねん!?

 

コラ、ワイを舐めるんやない!! ワイはクロウ・リードの造った

黄金の守護獣……ってアホ! 話を聞かんかい!!

 

 

ワイのありがたーい話を聞こうともせず、

猫はお構いなしにワイの事をベロベロと、何度も何度も舐め続け……

 

 

ええ加減にせい! ……と突っこむ直前に、

ワイの悲鳴を聞きつけて、さくらがようやく降りてきよった。

 

 

遅いわアホ! 猫のよだれでベトベトになってもうたやないか!!

 

 

「ほえっ!? 大きなネコ……!?

 ……今回、わたし『大(ビッグ)』のカード使ってないよね……?」

 

 

あー、そういや居よったな……あの時も、デカくなった野良猫。

 

 

どうせやったら、あの時みたいに小僧と小娘にちょっかい出せばええのに……

……いや、どっちもとっくに帰ってもうとるけどな。

 

 

それにこのネコ……もしかして、子猫なんとちゃうんか?

親猫、一体どんな大きさやねん……って、ちゃう! そうやない!!

 

 

「……どうやら、ワイらが最初に感じた魔力の気配はこいつみたいやな。」

 

 

「この猫さんが……?」

 

 

こんなネコ、普通に居ったらたまったもんやないからなぁ。

……しかし、一体なんでこんなに大きくなってもうたんや?

 

 

ワイが、魔力の気配を調べつつも、

どうしたものかと、原因と解決方法を考えていると……

 

 

「あの……助けてもらってなんですが……

 その猫を大きくしている原因、僕達に任せてもらえないでしょうか?」

 

 

後ろのイタチ小僧は、いきなりこんなことを言い出してきよった。

どうやら、この件についてなんか知っとるみたいやな。

 

 

「なんやそこの……イタチ小僧。

 お前さん、このネコがでっかくなった原因知っとるんか?」

 

 

「イタチ小僧……ええ、まぁ……

 ……元を正せば、僕が原因みたいなものですし。」

 

 

原因……? なんや、意味深な言い方やなぁ……?

ちょっと気になるけど、いまはそれどころやないか。

 

 

「……どうしよう、ケロちゃん。

 ここは任せた方がいいのかな……?」

 

 

「せやな、ここは判っとるヤツに任せるのが一番やろ、

 なにをするか、ワイも興味あるし。」

 

 

「「あ、ありがとうございます。」」

 

 

なんや、少し驚いた表情しよったな、そんなに意外やったんか?

 

 

「……なのは、お願い。」

 

 

「うん。」

 

 

そして、イタチ小僧の言葉に従うように、

ツインテ娘はデカいネコの前に踏み出すと、杖を構えると、

なにやら、どこかで聞いた事のあるフレーズの呪文を唱え始めよった。

 

 

「リリカルマジカル!  ジュエルシード、シリアルⅩⅣ!  封印!」

 

 

すると、デカネコから青い宝石みたいなもんが飛び出でて、

そのままツインテ娘の杖の先端へと吸い込まれていくと……

 

すぐさま、デカネコは先ほどの巨大さがウソの様な、

子猫サイズへと縮んでいってしもうた。

 

 

「ほえ~……こんなに小さい子ネコだったんだ。」

 

 

さくらが、驚いた表情でそんなのんきな事を言う。

……全く、『大(ビッグ)』のカードの時と同じやろ!!

 

前にもあったのに、よーそんなに驚けるな。

 

 

そんなさくらの暢気さに呆れてると、前足が妙にあったかくなったので、

何事かと視線を向けると、そこでは縮んだ猫がワイの前足を舐め続けとった。

 

 

……おい、お前まだワイを舐め足りんのか?

 

 

まぁ、こうなった以上は実害はないし、

足元の子猫は気にしないことにせんとこ。

 

 

しかし、一体全体なにがおこったんや……?

 

 

さっきの魔石みたいなもんは何なのかわからんし、

今、何をしてああなったのかは全然わからんままや。

 

こいつらは、何か知ってるみたいやけど……

 

 

「見た感じ、あんさんらなんか理由があってあの魔石を集めとるようやな。

 よかったら、その辺ちょっと聞かせて……!?」

 

 

詳しい事を聞こうとして、ツインテ娘とイタチ小僧に話しかけようとしたけれど……

 

「なのはー!!」

 

「なのはちゃーん!!」

 

 

このタイミングで、少し遠くから誰かを呼ぶような声が聞こえてきよった。

 

 

「どうしたのケロちゃん?」

 

 

「アカン、誰かこっちに近づいてきよる! こんな処見つかったらえらい事になるで!!」

 

 

「ほえっ!?」

 

 

仕方ないとはいえ、今ワイらが居るのはまごう事なき人様の家。

 

ワイは仮の姿に戻ればええけど、さくらはそうはいかん、

ここで面倒起こしたら、大事になって予定が大幅に狂ってまう!

 

 

「しまった……いつの間にか結界が……

 とにかくなのは、早くバリアジャケットの解除を!」

 

 

「う……うん!」

 

 

そう言って、一瞬光ったかと思うと、

ツインテ娘は、これまでとは違う普段着っぽい洋服へと変わっておった。

 

さくらと違うて着替えがお手軽やなぁ……って、そんな事考えてる場合やあらへん!

 

さくらの方は、少し慌てとったが

すぐさま翔のカードを発動させ、すでに飛び立つ準備ができとった。

 

 

こうなった以上、長居は無用!

ほな、ワイらはこれにて失礼……

 

 

「あの……ありがとうございます! さくら……さん?」

 

 

「ほえっ……?」

 

すると、助けてもらった事に対して……

 

ツインテ娘がさくらに向かって言ったお礼に、

さくらは驚いた表情をしたけれど、

すぐにツインテ娘に、いつも通りの微笑みを見せて……

 

 

「……わたし、木之本桜!

 よろしくね、なのは……ちゃん」

 

 

「! ……はい!」

 

 

ツインテ娘……なのはに、自己紹介と挨拶をかえしたんや。

 

 

ええのかなぁ、魔法少女同士やから、バラされんとは思うけど……

 

 

「さくら! はよせぇ!!」

 

「あ……うん! じゃあね! なのはちゃん!!」

 

 

そうして、名残惜しそうにする二人を後に、

ワイらは、その場を後にしてその場を飛び立ったんや……

 

 

……予定には、少し遅れてもうたけど、

人助けがあったさかい堪忍してもらうしかないわな。

 

 

 

 

 

 

 

 

……しっかし、今回の事が知世に知れたら、

知世、いったいどんな反応する事やら……

 

 

事件が起こったっちゅうんに、ビデオの撮影が出来なかったときは、

知世、この世の終わりかってくらいに落ち込むからなぁ……

 

 

かと言って、黙ッとる訳にもいかんし、

はぁ……どうしたもんやろ?

 

 

 




という訳で、参戦早々原作と展開が変わってしまいました
この分岐が、今後どういった感じで変わっていくのか……

……実は、あんまり深い事は考えてなかったり
へたすりゃ、明後日の方向へ飛んで行ってしまいそう


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魔法少女のお約束?

「不覚ですわぁーーーーッ!!」

 

 

先週末、さくらちゃんとケロちゃんが、海鳴市へお出かけになった時の事

 

 

その日、私は残念な事に用事があったので

さくらちゃん達に同行する事が出来なかったのですが……

 

 

次の月曜日、さくらちゃんが妙に浮かない顔をしていましたので

海鳴市で何があったのかと思い尋ねてると

学校では話せないそうで、放課後にさくらちゃんの家で話を伺う事になりました

 

 

その間もさくらちゃんは、誰かを心配している様に見える一方

なにか困った様子で、薄く苦笑いを浮かべておりましたが……

 

 

話を聞いてみれば、なんとさくらちゃん達は海鳴市で

これまで見た事もない魔法少女の方達が争っている現場に出くわし

さくらちゃんは、いじめられているように見えた

白い衣装の子の方に助太刀して、黒い衣装の少女と戦ったとのことでした

 

 

幸い、さくらちゃんは怪我一つなく、相手の黒衣装の子は逃げていったそうですが……

 

 

……まさか、外せない用事があった日に、

さくらちゃんが新しい事件に巻き込まれていて……

あまつさえ、新しい魔法少女と出会って、戦って、勝って……!

 

 

そして、そんな絶好の撮影機会を逃してしまったなんて……

 

 

もう、お約束の如く両頬に手を当てて

お腹の底から声が出る位に、絶叫してしまいました……

 

 

「ほえぇ……」

 

 

「……さすがコーラス部、声の響き方がちゃうわ……」

 

 

思わず力を込めすぎてしまったのか、さくらちゃんとケロちゃんは、

両耳を押さえていましたが、私は気にせずに、その先の言葉を続けました。

 

 

 

「エリオル君の事件からはや2ヶ月……魔法少女もののお約束でしたら

 そろそろ新しい仲間や、新たな敵が出てくる時期だと分かっていましたのに……

 完全に油断していました……大道寺知世、一生の不覚ですわ」

 

 

 

そういって、涙をぬぐうかのように片目に手を当て、よよよと崩れ落ちると……

……さくらちゃんの部屋の中なのに、まるで木枯らしが吹き、

スポットライトが当たっているような雰囲気が当たりを包みました。

 

 

 

「知世ちゃん、そんなテレビアニメじゃないんだから……」

 

 

「……さくら、それとんでもない問題発言とちゃうか?」

 

 

さくらちゃんが、困った顔をして危険な発言をした後に

ケロちゃんが、更に困った顔でメタなツッコミをなさいました……

 

 

でも、86年には、もっと危ないOPテーマがありましたし

やはり深く突っ込むと危ないので、この場は気にせず話を進める事にしましょう。

 

 

そうと決まれば、気を取り直して……

 

 

「……ですが、他所の町とは言え、こうして事件が起こったからには

 カードキャプターさくらちゃんの出番、再びですわね

 今回はチームを組んで戦う、魔法少女のお約束な、新しい仲間の子も出てきたわけですし」

 

 

そう、目的はさくらちゃんに新しい事件に挑んで解決していただき、

そのさくらちゃんの活躍の姿を、カメラに収める事!

 

 

これまでの事件では居なかった、仲間の魔法少女もいらっしゃることですし

落ち込んでいる場合ではありませんわ!

 

 

「うーん、そんな事言われても……

 結局、何の事件が起ってるのか、詳しくは知らないし

 新しい仲間って言っても あの子の事だって、少しだけ会っただけだから……

 

 女の子はフェレットさんから、なのはって呼ばれてて

 フェレットさんの方は、ユーノくんって呼ばれてたけど」

 

 

「まぁ……確かに名前だけでは厳しいですわね」

 

 

それにしても、フェレットさんですか……

魔法少女の使い魔としては珍しい気もしますわね

 

 

犬猫よりは希少ですけど、不思議な生き物よりは現実的で……

 

 

「……しっかし、今更やけど

 さくら、フェレットが喋ってた事に関して、完全にスルーしておったよな?」

 

 

「うん……後で考えたら、あれっ? しゃべってた? ……て思ったんだけど

 あの時は、必死だったから……」

 

 

「まぁ、さくらちゃんはケロちゃんが傍にいますし

 ほかにも、エリオル君のスピネルさんがいらっしゃいますから」

 

 

普段の姿は、どちらもぬいぐるみや、子ネコのような姿ですけど

変身すると、翼の生えたライオンと、蝶の羽の生えた黒豹さんですから

……この光景に見慣れてると、フェレットがしゃべっても、変に思わないかもしれませんね

 

 

「……まぁ、あのイタチ小僧ホンマは……まぁええか、色々と訳ありみたいやし

 しっかし、アイツらが集めとった青い宝石……確か、ジュエルシードちゅうとったな」

 

 

「あのネコさんがあんなに大きくなったのも、あの宝石のせいなんだよね」

 

 

「ごっつい魔力を持っとったし、まず間違いないやろなぁ」

 

 

「あの家、知世ちゃんの家くらい大きな家だったけど

 なんで、あの宝石はあんなところに落っこちてたんだろ?」

 

 

海鳴市で、私の家と同じくらい大きな家……ですか

大きなネコといい、何か引っかかるものがありますが

関係はなさそうなので、ひとまず置いておくことにいたしましょう

 

 

「さぁな、何があったか知ってるのはあの宝石だけや

 ……せやけど、あのツインテ娘、確か封印する時にシリアル14ちゅうとったから

 最低でもあと13個は、あの宝石があるっちゅうことになるな」

 

 

「……と言う事は、その子達の目的は色んな場所にばら撒かれた

 そのジュエルシードと言う宝石を集める事でしょうか?」

 

 

「クロウカードを集めてた頃の私達みたいに? まさかぁ……」

 

 

さくらちゃんは、そうおっしゃってますが

ばらまかれた何かを集めるのも、魔法少女の話としてはよくある展開ですわ

 

 

……懐かしいですわ、友枝町中にばら撒かれたクロウカードを回収する

さくらちゃんのご町内を守る活躍の日々……

今度は、二つの町を守る活躍にスケールアップですわね

 

 

「しっかし、そんな似た様な話、こうも続けてあるもんなんかなぁ」

 

 

「そこはまぁ……天使な花嫁さんとか、絶滅危惧動物の力を得たウェイトレスさんとか

 一度ヒットすると、テンプレートを基にした作品はたくさん出てきますから」

 

 

「……知世、そのチョイス、なんか意図ないか?

 一番肝心なのを出しとらん気がするんやけど……」

 

 

そこは、触れてはならない都合と言うやつですわ

 

 

「……そして、そのジュエルシードを、

 その子と、もう一人の子が、回収し合っているのですね

 友枝小学校に来た頃の李君みたいに」

 

 

「……なんか、ますますクロウカード集めの時みたい……

 小狼君と違って、あっちは女の子だけど」

 

 

「あの娘がさくらで、金髪の方が小僧……

 何の因果か、配役までおんなじやな

 

 ……ん? ちゅうことは、ワイはあのイタチ小僧か?」

 

 

まぁ、普段のケロちゃんはマスコット枠ですから

……あんまり、納得いかないような顔なされてますけども

 

 

「……しっかし、こうも状況が似ているっちゅうことは

 まさか、次は『創』(クリエイト)のカードの時と

 同じような事件が起こるんやないやろうな?」

 

 

「町に大きな怪獣が出てきたりとか?

 またまたぁ……」

 

 

そう言って、軽くケロちゃんの発現を流したさくらちゃん

表情からは、もしかしたら……という考えが読み取れてしまいましたが

そうなったら、さくらちゃんも再び巨大化してもらわなければいけませんね

 

 

「……そういや、さくらとは違うて知世ポジションは居らんかったな?」

 

 

「まぁ、普通にこういう展開だと、友達にも魔法の事は秘密にするのがお約束ですから

 魔法がばれたら、大抵大変な目にあってしまいますし」

 

 

変身するヒーロー・ヒロインは、大半が正体を隠して戦うのもお約束ですから……

 

 

……もっとも、さくらちゃんに関しては、それなりに事情を知る方が多いですし

魔法の事を知られても、これまでは大したことはありませんでしたけど……

 

 

「……あの子、大丈夫だよね?」

 

 

「その辺は、直接会ってみないと何とも……

 ……どうします? 今度の休みに海鳴市でその子の事、探してみますか?」

 

 

……実は、私には先ほどの家について心当たりがあったので

そこで話を聞けば、何かわかるのでは……と言う考えがありました

 

 

「お、それええなぁ! 知っとるか知世

 あそこには翠屋っちゅう喫茶店があって、そこのケーキが……」

 

 

「ケロちゃん、どうせ目的はケーキなんでしょ

 この間、買いに行く時間が無かったからって

 帰ってきてからそればっかりなんだよ」

 

 

「ほほほ、ケロちゃんらしいですわね」

 

 

翠屋さんですか、あそこのケーキ、お母様が

月に1度くらいで買ってきて下さいますわね

なんでも、店主さんとは古い付き合いなのだとか……

 

 

そうやって、和やかに話していると

下の方から、玄関のドアが開く音が聞こえてきて……

 

 

「ただいまー」 

 

 

「あ……お兄ちゃんだ

 そういえば、今日はバイトないんだっけ」

 

 

さくらちゃんのお兄さま、いつも色んな所でバイトしていらっしゃいますものね

そして、親友の月城さんとは、バイトのあるなしに関わらずいつも一緒に……

 

と思っていましたが、、今回はいつもとちょっと勝手が違っていたようで……

 

 

「さくらー、お客さんだぞー!!」

 

 

どうやら、今回はさくらちゃんのお客様と一緒にいらっしゃった様子でした

 

 

「ほえ? お客さん……? いったい誰だろ……?

 知世ちゃん、ケロちゃん、ちょっと待っててね」

 

 

しかし、お客様については、さくらちゃんも知らなかったご様子で……

いったい、どなたなのでしょうか?

 

 

あの様子では、月城さんでは無さそうですし

 

 

「……ひょっとして」

 

 

その時、私の脳裏にふと

ある考えがよぎりました。

 

 

「知世、なんぞ心当たりでもあるんか?」

 

 

「……ケロちゃん、噂をすれば影……

 と言うことわざをご存じですか?」

 

 

「当然や、噂話をすると、その本人が現れるっちゅう……

 まて知世、そりゃいくらなんでもまさかが過ぎるんと……」

 

 

私も、自分で言っておいて流石にそれは都合が良すぎると思います……

けど、こういう時のさくらちゃんって……

 

 

「ほえぇぇっ!? あなたは……!?」

 

 

「……やっぱり」

 

 

下から聞こえてきたさくらちゃんの声

どうやら、そのまさかが当たったみたいですわ

 

これもまた、お約束の一つですわね

 

 

「……ワイ、なんかクロウが生き取った頃の事思い出したわ

 思い出してみたら、あの頃もそんなん多かったなぁ……はぁ」

 

 

ケロちゃんは、その声を聞くと

背中を丸めて大きくため息をつかれてしまいました

 

 

……残念ですけど、また翠屋のケーキはお預けですわね

 

 

 

 




再開は戦闘中では無く日常で……なんでここに居るのかはまた次回


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平和な街の落とし穴

 

 

「なのは……ゴメン、こんな事になるなんて……」

 

 

「ううん、ユーノ君は悪くないよ

 私が上手く説明できなかったから……」

 

 

 

先日の月村邸でのジュエルシード回収で起こった事件

 

 

あの時は、突如乱入してきた黒い魔導師の少女に

僕もなのはも、危ういところまで追いつめられてしまったのだけれど……

 

 

あわやというタイミングで、謎の魔法少女、さくらさんが

彼女の攻撃から守ってくれたおかげで、

黒い魔導師の少女は逃走し、僕達は無事にジュエルシードを回収する事が出来た。

 

 

僕と同じ世界の出身だと思う黒い魔導師の少女以上に謎なさくらさんについては、

名前以外の事は、なにもわからなかったけれど、

どう考えても悪い人じゃなさそうだし、なのはも彼女には非常に感謝している。

 

 

ただ、あの事件で起こった事がすべていい方向に向かったわけじゃなくて……

 

 

事件の後、なのはは乱入して来た黒い少女と、さくらさんについて思案を巡らせることが多くなり

なのはの親友、アリサとすずかがそんな様子を心配して

何があったのかと、声をかけてくれたそうだんだけど……

 

 

でも、二人に事実を説明する訳にもいかず、なんでも無いと誤魔化し続けてしまった結果

その態度がアリサの気に障ってしまったようで、

3人の関係が険悪なものになってしまったんだ。

 

 

僕が、なのはを巻き込まなければ

こんな事にはならなかったのに……

 

 

「ねぇ、ユーノ君……

 あの子達、いったい何者なのかな?」

 

 

なのはは、暗い顔をしながらも

先日起こった事件に関して、僕の考えを求めてきた

 

 

「……最初に襲って来た黒い衣装の子は、僕と同じ世界から来た魔導師だと思う

 あのデバイスと魔法の光……僕が知っている魔法と、同じものだったから」

 

 

何故、彼女がジュエルシードを集めているのかは分からないけど、それだけは間違いない。

 

 

だけど、あのデバイスは明らかに普通に出回っている……

一般的な魔導師が使うものより、遥かに高性能なインテリジェンスデバイスだった。

 

 

そして、それを自在に操る力量……

 

 

魔導師の素質に関しては、性質こそ違うけど

なのはと同様に驚くべき素質を持っていて、

さらにどこで身につけたのか、対魔導師の技量も、十分以上のものを身につけていた。

下手をすれば、その道のプロとも渡り合えるほどに。

 

 

……けど、あの人はそんな彼女を、終始圧倒していた。

攻撃を完全に防いだ盾、捕らえる為の人をかたどった風

そして、あれだけのインテリジェントデバイスを抵抗なく切り裂いた剣……

 

 

どれも、僕の知る魔法とは性質が違いすぎる強力な魔法だ。

 

 

あのケルベロスと名乗ったライオンが言った事が本当ならば、

さくらさんは、彼女を傷つけないような魔法を選んでいた事になる。

 

 

……恐らく、僕が見た他にも、まだまだたくさんの強力な魔法を扱う事が出来るのだろう。

 

 

「あの人が使った魔法は……僕の知っているものとは全然違ってた

 あの子の持っていたカード、1枚1枚がものすごい力を持っていたし

 あの杖も、レイジングハートや、あの子が使っていた杖の様な

 インテリジェントデバイスでは無いけれど……」

 

 

「クロウカード……ケロちゃんって呼ばれてたライオンがそう言ってたよね?

 それにあの子の名前……この世界の人間なのかな?」

 

 

「うん……近くを通りかかったのは偶然だったみたいだし

 けど正直、こっちの世界に魔法は無いって聞いてたから

 ちょっと信じられない所もあるんだけど……」

 

 

ケルベロスの言っていた魔導師では無く魔術師、使い魔では無く守護獣と言う名称

時間が無いから、詳しく調べている時間は無かったけれど

この世界には、僕の知らない何かがあるのだろうか……?

 

 

「……言葉だけじゃ、とてもいい表せないけど

 すごくあかるくて、優しそうな雰囲気を持ってたよね?

 ……いったい、どこの子なんだろう……」

 

 

なのははそう言って、椅子に寄りかかって天井を仰いだ。

 

 

……色々と気になる人だし、僕もできればもう一度会って詳しく話を聞いておきたい。

 

 

もし、ジュエルシードの回収を手伝ってくれるならば、

なのはを危険な目に合わせずに済むかもしれないし……

 

 

でも、これ以上この世界の人を巻き込むわけにも……

 

 

「きのもと……さくら……」

 

 

……あの時の事を思い出していたのか、

なのはの口からは、何気ない感じで

あの時に聞いた彼女の名前が漏れていた……

 

 

 

 

 

 

 

「なのは、元気ないわね……アリサちゃんと喧嘩でもしたの?」

 

 

「!?」

 

 

すると突然、いきなり背後から声をかけられてしまい

僕もなのはも、思わず背筋が伸びてしまった。

 

 

「わっ!? お母さん……」

 

 

 

声の主は……なのはのお母さんの桃子さん。

話に夢中になってたせいか、近づいてきたのが全然わからなかった……

僕が喋ってたのを、聞かれてないといいけど……

 

 

「い……いつの間に……」

 

 

「ついさっきよ、なんども呼んだんだけど、返事が返ってこないから……

 ……ところで、今、木之本って言ってたけど……

 なのは、撫子の事覚えてるの?」

 

 

「なでしこ……さん?」

 

 

桃子さんが口にした人の名前……

なのはの様子を見る限り、まるで心当たりはないみたいだけど……

 

 

「木之本撫子……ケーキが大好物だった、私の古い友人でね、

 翠屋を開いてからは、ウチのケーキをよく子供達と食べに来ていたわ

 でも、最後に来たのは、なのはが赤ちゃんの時だから

 流石にそんなわけないかしら……?」

 

 

なのはが赤ちゃんの頃……いったいどんな感じだったんだろう……

 

 

って、そんな事を考えてる場合じゃない!

 

 

あの人の苗字と同じ、桃子さんの友人

ただの偶然なのだろうか?

 

 

「その、撫子さんの子供たちって、どんな子だったの?」

 

 

「その時は確か……

 お兄さんの桃矢君が10歳で、妹のさくらちゃんが3歳だったわね」

 

「さくら……!」

 

 

桃子さんが口にしたあの人の名前……

なのはが赤ちゃんの頃に3歳なら、あの人の年齢とも一致する……

 

 

間違いは無さそうだけど、こんな偶然あるものなのだろうか?

 

 

「さくらちゃん、なのはの事をすごくかわいがってくれてね

 ……どこかに、写真が残ってたはずなんだけど」

 

 

そういって、桃子さんはあごに指を乗せた。

どうやら、写真の場所を思い出そうとしているようだ。

 

 

……僕も写真を見てみたいけれど、今はそれどころじゃない

 

 

なのはと目を合わせて、お互いうなずいた後、

なのはは、桃子さんに向かって、撫子さんの事を訪ねた。

 

 

「その撫子さん、今は?」

 

 

「……それから、間も無く病気で亡くなってしまったわ

 その後、撫子の家族はみんな引っ越してしまって……」

 

 

そう言うと、桃子さんの表情は少し暗くなってしまった。

よほど、大切な友達だったんだろうな……

 

 

「……でも、4年くらい前から、お兄さんの桃矢くんが

 偶に来てくれるようになったの

 

 あの時、星條高校の生徒だったはずだから

 今は友枝町に住んでいるんじゃないかしら?」

 

 

「友枝町……」

 

 

なのはの顔からは、いつの間にか暗い表情は消え、

なにかに強い興味を示している、そんな感情が露わになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結構、近くにあるんだね……友枝町」

 

 

「駅3つくらい先だから、飛んで来ればすぐだよ」

 

 

あの後、思い立ったなのはに連れられて、すぐに友枝町へと向かう事になった、

今は、人に見られないように結界を張りながら、文字通りに飛んでいる最中だ。

 

 

思えば、こちらに来てからジュエルシード回収以外で、空を飛んだのはこれが初めてかもしれない。

 

 

「……でも、すぐに見つかるのかな?

 魔法が使えるって事以外で知ってるのは、名前だけだし……」

 

 

「うん……でも、なにもしなければわからないままだし

 とりあえず、出来る限りの事はやっておきたいなって」

 

 

さくらさんも、ケルベロスさんも、どちらも強い魔力の持ち主だった。

だから、何かのきっかけで力を発動していれば、

それを追って、見つける事が出来るけど……

 

 

でも、こうしてみると平和なところだし

そんな事件なんて起こりそうにも……

 

 

―――キィン……

 

 

……ん? なんだ、この感覚……

耳鳴りの様な、少し寒気がする様な何かの気配……

 

 

「なのは、これ……」

 

 

「うん、私も感じた……けど、今のはいったいなんなんだろう……?

 あの林の中からかな……?」

 

 

そういってなのはが目を向けた先は、高台にある林の中……

あそこから強い魔力を感じる。

 

 

……でも、なんだろう……普通に魔力の気配を察知してるだけなのに

なんだか、変な感覚がするような……

 

 

「この気配、さくらさんのじゃないみたいだけど……

 このまま、放っておくわけにもいかないよね?」

 

 

「うん……もしかしたら、ジュエルシードかもしれないし

 なんだか、少し違う気もするけど……これまでみたいに、誰かが取り込んでるのかも」

 

 

この魔力の気配からは、何故かいつも以上に危険なものを感じる、

このまま放っておいたら、大変な事になるかもしれない。

 

 

「……行ってみよう、どっちにしても放って置けないから」

 

 

「うん……」

 

 

そう言って、僕たちは地上に降り立ってから

結界を解いて周囲を見回た。

 

 

周囲の景色は、木々が生い茂る少し広い森と言った感じ。

 

 

……思った通り、ここからは強い魔力の気配を感じるけれど

これは、ジュエルシードの物とは違う感じだ……

 

 

でも、そしたらここに漂う魔力はなんなのだろう?

なにか、特別な物がここにあるのか……?

 

 

そう思って、魔力の源を探していると、不意に身体が揺れているのに気付いた。

地震が起こってる訳でも、僕が震えているわけじゃない……

 

 

まさか、なのはが震えてる?

 

 

「なのは、大丈夫……!?」

 

 

 

そういってなのはの方を見た瞬間、様子がおかしい事に気づいた。

なのはの息が荒くなり、凍えているように体が震え、目の焦点がぶれている……!

 

 

 

「なのは……? なのは!? いったいどうしたの……!?」

 

 

あからさまに様子がおかしいなのはに、声をかけようとしたけれど、

直後、僕も心臓をわしづかみにされるような感覚に襲われ、声が出なくなってしまった……!

まさか、何者かから攻撃されているのか!?

 

 

『――――ァ――――――ァ―――』

 

 

意識が薄れそうになる苦しさの中、

突然、奇妙な声が耳鳴りの様に聞こえてくる……。

 

 

内容は理解できず、どこから聞こえてくるのかすらわからないけれど、

全身の鳥肌が立ち、頭の中が揺さぶられるこの感覚……!

 

 

『―ウ―――ァ―――ァ――』

 

 

人の声にしては、あまりにも不気味な声で

時間がたつにつれて、それは徐々に大きくなっていった

 

 

ノイズの様にも、ハウリングの様にも聞こえ……

それが耳に届くたびに、全身の感覚がおかしくなる……

そして、僕たちは気が遠くなっていき……

 

 

 

「お―!! 大―夫―――――っか―――――!!」

 

 

これまでとは違う、男の人の声が聴こえたような気がした次の瞬間、

僕は、意識を失ってしまった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……?」

 

 

重苦しい感覚から解放されて目を覚ますと

僕は、いつの間にか大きな樹の根の上に覆いかぶさっていた。

 

 

周囲の景色は、先ほどの森ではなく

石畳と、天の字に似た門が見える、特徴のある光景が広がっている。

あの門、確かこの世界の鳥居……だったっけ?

 

 

「! なのはっ!?」

 

 

そこで、先ほど苦しそうな表情をしていたなのはを思い出して周囲を見回すと、

なのはは僕の隣で、同じ樹に寄りかかって眠っていた。

先ほどの表情が、嘘のような穏やかな寝顔だ。

 

 

「あれ……ユーノ君?」

 

 

僕の声に気付いたのか、なのははすぐに目を覚まし、

先ほどの僕とおなじように、周囲を見回しはじめた。

 

 

 

「ここは……神社? どうしてこんな処に……」

 

 

 

「……判らない、僕が目を覚ました時にはここに居て

 誰かが、僕達をここまで運んで来てくれたのかな?」

 

 

もしかしたら近くにいるのではないかと、なのはと一緒に再び周囲を見回して探すと

樹の後ろにある社の方から、誰かが歩いてくる音が聞こえる。

 

 

僕達が、樹越しにそちらの方を見てみると……

 

 

「お、目を覚ましたのか」

 

 

そこに居たのは、鋭い目つきをした少し怖そうな雰囲気のお兄さんと、

穏やかな目つきをした、さわやかな雰囲気の眼鏡をかけたお兄さん

どちらもなのはのお兄さんの恭也さんと同じくらいの年齢にみえる。

 

 

「よかった……大丈夫? はいこれ、お水 そっちの子もどうぞ」

 

 

メガネのお兄さんは、そう言うとなのはに紙コップに入った水を手渡し、

僕の目の前にもう一つのコップを置いてくれた。

 

……そう言えばいつの間にか喉がカラカラだ

 

 

「あ……ありがとうございます」

 

 

なのはは、お礼を言って紙コップを受け取り、一気に中身を干した。

僕は、この状況ではお礼を言えないので、心のなかで言ってから、

コップに首を突っ込むような形で、水を飲む。

 

 

 

 

「お兄さん達が、私をここまで連れて来てくれたんですか?」

 

 

「うん、驚いたよ

 近くを通りかかったら、キミ達が倒れてたんだもの

 どうして、あんな所に……?」

 

 

メガネのお兄さんの問いに、なのはは答えに詰まってしまった。

正直に話しても、信じてもらえそうにはないだろうけど……

 

 

……そう言えば、あの時はバリアジャケット姿だったはずなのに

いつの間にか、なのはの服はその前に来ていた服に戻っていた。

 

 

そう簡単に戻る事は無いはずだけど……どういう事なんだろう?

この人の様子を見る限り、運んでもらった時には元に戻っていたようだけど……

 

 

「この辺りじゃ見かけない顔だが……

 ……もしかして、あそこから妙な感覚がしたから、それを調べに行ったのか?」

 

 

ぶっ……ど……どうしてそれを!?

 

少し怖いお兄さんの台詞に対して驚き

危く噴き出して、そう言ってしまいそうになったけど

すんでの所でこらえきれた……

 

 

まさか、この人も魔力を持っているのか!?

 

 

「ど、どうしてそれを……」

 

 

「あの林は、前からよくないものが集まりやすい場所で

 たまに、感覚が鋭いヤツが足を踏み込んで、大変な目に会う事があるんだ

 ……なにか、よくなさそうなものが見えたり聞こえたりしたか?」

 

 

よくないもの……あの魔力を放っていた、なにかの事なのだろうか?

声が聞こえただけで倒れてしまったのだから、よくない事だけは確かだけれど……

 

 

「あ……変な声は聞こえました

 ただ、なにかが見えたりはしませんでしたけど……」

 

 

「……気を付けろよ、お前等みたいなのが目を付けられると特に危険なんだ

 

 この神木、あそこで受けたようなよくないもんを祓ってくれる力があるから

 まだ気分がよくないんだったら、もう少しそうしてるといいぜ」

 

 

……言われてみれば、なんだかこの樹に触れてると、なんだか楽になる感じだ。

何故そうなるのかはわからないけど、この樹からもなにか力を感じるような……

 

 

まだ、少し体が重い感じがするし、お言葉に甘えて、もう少し休ませてもらおう。

そう思って、僕は再び木の根っこへと覆いかぶさる。

 

はたから見たら、ちょっとだらしない恰好かもしれないけど……

なんだか、すっきりするような感じがするし、今は許してもらおう……。

 

 

「あの……お兄さんは、見えるんですか?」

 

 

……そう言えば、そんな事を知ってるって事は、

この人にも、何かが聞こえたり見えたりするはずだ。

 

 

なのはも不思議がって、目の前のお兄さんに、その事を聞いたんだけど……

 

 

「……昔はな、今はもう見えなくなっちまったんだ。

 ま、別にいいんだけどよ」

 

 

そうって、お兄さんはもう一人のメガネの人の方へと顔を向けた。

……見えなくなった事と、何か関係があるのだろうか?

 

 

「……桃矢も、以前あそこで大変な目にあったよね。」

 

 

「うるせぇ、あれは別件だ、別件。

 大体、ユキだって人の事言えねぇじゃねえか。」

 

 

そう言うと、少し不機嫌そうな顔で

ユキと呼ばれたお兄さんに抗議の声を上げた

 

 

どうやら、2人ともあそこで大変な目にあったみたいだけど……

 

 

……と、そこまで行って僕はユキさんの呼んだ名前に反応した。

 

 

 

今、桃矢って言ったよね? じゃあ、まさかこの人が……

 

 

なのはも、同じ事に気付いたみたいで、恐る恐る訪ねてみると……

 

 

「もしかして……木之本桃矢さん?」

 

 

「ん? どうして俺の名字知ってんだ?」

 

 

名乗っていない自分のフルネームを呼ばれ、

桃矢さんは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしたのだった。

 

 

 

 




という訳で、アリサとの不仲がずっと早く訪れてしまいました
展開上の都合と言うのもありますが、あの時に勝ってしまった影響で
倒れていた事の心配がなくなったり、考える事の漁が多くなったりでこんな感じになってしまいました

……実は温泉回やろうとはおもっていたんですけどね
アルフの絡みを、バイトしてた桃矢が追っ払うとか
逃げるユーノが男湯に逃げ込んで、雪兎がいたりするとか


次はいつ投稿出来る事やら


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絶対、大丈夫だよ

「えっと……なのは……ちゃん……だったっけ?」

 

 

ほんと、驚いちゃった……

 

お客さんって言われて、玄関まで迎えに行ったら

この間の女の子とフェレットさんが、お兄ちゃんと雪兎さんと一緒に、ウチに来てたんだもの

 

 

「この子、さくらちゃんの事を探してたんだ

 この間、助けてもらったお礼を言いたいって」

 

 

「さくらさん……この間はどうもありがとうございました」

 

 

そう言って、なのはちゃんはぺこりと頭を下げた

肩に乗っていた、あの時のフェレットさんも一緒に……

 

 

お兄ちゃんと雪兎さんと一緒だからか

流石に、今はこの間みたいにしゃべらないようだけど……

 

 

「……でも、よくウチが分かったね?

 もしかして、お兄ちゃんの事知ってたの?」

 

 

「知り合いと言えば、知り合いかもな

 ……と言うか、ずっと前にさくらもあってる」

 

 

「ほえ?」

 

 

ずっと前……? この間の事はお兄ちゃん知らないはずだし

これまで出かけた時にも、なのはちゃんと会った事ないのに……

 

 

……あ、いけない。あの時の事は、お兄ちゃんたちの前じゃ話せないだろうし

玄関に立たせたままじゃ駄目だよね

 

 

「……とにかく、家に上がって

 私の部屋まで案内するから」

 

 

「はい、おじゃまします」

 

 

そう言って、なのはちゃんは靴を脱いで上がり、案内する私の後をついてきた。

 

 

……それにしても、改めて見てみると

すごくしっかりしてそうだけど、やっぱり普通の女の子だね

いったいどうやって、魔法を使えるようになったんだろう……

 

 

「……ここが私の部屋だよ、中へどうぞ」

 

 

 

「おじゃまします」

 

 

 

なのはちゃんがそう言った横で、肩に乗ったままだった、フェレットのユーノ君が頭を下げた。

やっぱり、この子も言葉が判るんだね。

 

 

―――ガチャッ

 

 

部屋のドアを開けると、知世ちゃんが笑顔で待っていたので、

なのはちゃんは、少し驚いた顔をしてたけれど

知世ちゃんは笑顔を崩さず、そのまま私達を出迎えてくれた

 

 

そして、ケロちゃんは……あれ、いない?

もう、どこに行っちゃったんだろう……。

 

 

「おかえりなさい、さくらちゃん

 その子が、この間海鳴市で出会った魔法少女さんですの?」

 

 

「えっ!?」

 

 

知世ちゃんの問いかけに、なのはちゃんが驚きの声をあげて

ユーノ君の方も、声は出さなかったけど目を丸くしていた。

 

確かに、知世ちゃんの言う通りなんだけど……

 

 

「知世ちゃん!? どうしてわかったの!?」

 

 

「先ほど、さくらちゃんの驚いた声が聞こえましたから

 このタイミングであんな反応するのは、このパターン以外にないかと」

 

 

はう……私の声、ここまで聞こえてきたんだ……

ドア閉めておいたのに

 

 

……横を見ると、なのはちゃんが何か言いたそうにこっちを見つめている。

初対面で、私達の事情を知らないんだもの、知世ちゃんの事、説明しておかなきゃね。

 

 

「あ……ゴメン、この間の事、知世ちゃんと話してた所で……

 でも大丈夫だよ、知世ちゃんは全部知ってるから」

 

 

「じゃあ、もしかしてこの人も魔法を……」

 

 

なのはちゃんは、まだちょっと警戒しているみたいで

少し不安そうに知世ちゃんを見つめている。

 

 

「いえ、残念ながら私は魔法を使う事は出来ませんの

 ……さくらちゃん、ドアを閉めていただけますか?

 開けたままだと、事情を話しにくいでしょうから」

 

 

……と、いけない

 

 

――バタン

 

 

……これでよし、あんまり大きな声で話さなきゃ聞こえないよね。

私の事は、ほとんどバレてるけど、なのはちゃんはそうでもないだろうし

 

 

「……初めまして、大道寺知世と申します

 魔法は使えませんが、色々と縁があって、さくらちゃんのサポートをさせて頂いてますわ」

 

 

ドアが閉まったのを確認すると

知世ちゃんはなのはちゃん達に優しく挨拶と自己紹介をすると

 

 

なのはちゃんはようやく安心したみたいで

こわばった顔が優しい顔になって、自分も挨拶を返してくれた。

 

 

「……初めまして、高町なのはです

 もう喋っても大丈夫みたいだよ、ユーノ君」

 

 

「そうみたいだね

 ユーノ……スクライアです、初めまして」

 

 

続けて、ユーノ君も挨拶をしてくれたのだけど、

前もって事情を説明したから、喋るフェレットに関して

知世ちゃんは驚いた様子はなかったみたい。

 

 

まぁ、知世ちゃんとはケロちゃんとも付き合いがながいし

……そもそも、ケロちゃんと初めてあった時も

知世ちゃんは、それほど驚いてなかったんだよね……

 

 

……ん、ケロちゃん?

 

 

「……そういえば知世ちゃん、ケロちゃんは?」

 

 

さっきまで、私達と一緒に話してたのに、やっぱり姿が見えない。

 

 

「ケロちゃんって、あの翼の生えたライオン……?

 この部屋の中に居るんですか?」

 

 

あ……、そう言えば、なのはちゃん達は、あの姿のケロちゃんしか見た事ないんだよね

 

 

ケロちゃんの事も、ちゃんと紹介したいのに、いったいどこに行っちゃったんだろう……?

 

 

「おほほほほ……」

 

 

……ん? どうしたの知世ちゃん、その意味ありげな笑顔……?

 

 

 

「こにゃにゃちわ~~~~!!」

 

 

 

「「「わっ!?」」」

 

 

すると、次の瞬間私達は背中から聞こえてきた声にビックリしてしまった……

こんな変な挨拶をしてきた声の主はもちろん……

 

 

「いや~、見事に驚いてくれたなぁ

 どや、掴みはバッチリやろ?」

 

 

「ケロちゃん! なにやってるのよ!?」

 

 

得意げな顔をしたケロちゃんだった

もう、変ないたずらして……なのはちゃん達の目が、さっき以上に真ん丸になってるじゃない

 

 

 

「ぬ……ぬいぐるみがしゃべった!?

 しかも関西弁……」

 

 

 

「それに今ケロちゃんって、もしかして……」

 

 

 

「「このぬいぐるみが、あの翼の生えたライオン!?」」

 

 

 

なのはちゃんとユーノ君は、同時にケロちゃんの方を見て同じセリフで驚いてしまったけど……

 

 

それを聞くと、ケロちゃんはムッと、不機嫌な顔になり

 

 

「こら! 誰がぬいぐるみや!?

 全く、この超絶かっこええワイに向かって

 なんちゅうこといいよんねん……」

 

ぬいぐるみではないと、力いっぱい反論をはじめていた。

 

 

……そんな事言って、いつも他の人の前や

都合が悪くなった時は、ぬいぐるみのふりをしてるくせに……

 

 

この間見たケロちゃんと、今のケロちゃんの違いに、なのはちゃんは戸惑っていたけれど

ふと、何かを思い出したような顔でケロちゃんをみつめると……

 

 

「なるほど、この姿なら確かに『ケロちゃん』なの」

 

 

そこだけは納得できたみたいで、ユーノ君も無言でうなづいていた。

 

……確かに、大きい姿しか知らないで、ケロちゃんって呼んだんじゃ

似合わないって思っても仕方ないよね?

 

私は、今の姿の方が見慣れてるから、そんな違和感はないんだけれど……

 

 

「私も、初めてお会いした時は

 名前と雰囲気が違うと思っていましたわ」

 

 

「まぁ、昔と違うて、今は好きなタイミングで元の姿に戻れるようになったけど

 今の時代、ずーっとあの姿のままやおれんからなぁ……

 以前、仮の姿に戻れんようになって、大変な目に合うたし」

 

 

『泡』と『盾』のカードを、さくらカードにした時の事だね

あの時は、お届け物のおかげで使う魔法が分かって、すぐに元に戻す事が出来たけど……

 

 

「それにしてもなのはちゃん、よく家が判ったね

 お兄ちゃんは、私ともずっと前にあった事があるって

 言ってたけど、なのはちゃんは知ってたの?」

 

 

「……私も、ついさっきお母さんから話を聞いただけで、覚えてるわけじゃないんです……

 なんでも、前にあったのは私が赤ちゃんの頃だったから」

 

 

「ほえ……赤ちゃん?」

 

 

そこから、なのはちゃんは色々な事を話してくれた

 

 

なのはちゃんの話によれば、私達のお母さんは友達で

なのはちゃんのお母さんがやってるお店に、

お母さんはお兄ちゃんと私を連れて、通っていたと言う事……

 

 

ユーノ君が、この世界じゃない別の世界から

この世界にばらまかれてしまったあの宝石を回収するために、

こっち側へと、たった一人でやってきてきた事……

 

 

そして、その途中で倒れてしまい

なのはちゃんに助けてもらったことがきっかけで

なのはちゃんもジュエルシード集めを手伝っている事……

 

 

 

「……ごめんなさい、やっぱり私もその頃の事は覚えてないや

 そんなにずっと昔に、私達会ってたんだね」

 

 

「仕方ないですよ、うんと小さい頃に会ったきりなんですから

 私も、まだ生まれたばかりの頃ですし……」

 

 

その頃のなのはちゃんも、きっと可愛かったんだろうな

今も、十分に可愛いけど

 

 

「それにしても、ジュエルシードですか……

 確かに、最近海鳴市で奇妙な事件が起こったと聞きましたが

 それが、その宝石のせいだったとは……」

 

 

「元々は、僕一人で集める予定だったんですけど

 力が及ばず、力尽きて倒れた処を、なのはに保護してもらって……」

 

 

「……奇しくも、なのはが強い魔力を持っとたから、回収を手伝うて貰っとるちゅうわけか」

 

 

申し訳なさそうにに説明しているユーノ君に対して

ケロちゃんが、ちょっと厳しい感じでそういうと

ユーノ君は息を詰まらせ、そのまま悲しげに俯いてしまった……

 

 

「ちょっと、ケロちゃん! そんな言い方って……」

 

「ユーノ君は悪くないよ! 手伝うって言ったのは私だし

 危ないからって、自分だけでなんとかするって言ってたのに……」

 

 

すると、ケロちゃんを叱った私の言葉をさえぎって

なのはちゃんが、ケロちゃんの言葉からユーノ君を庇ったのだった

 

 

きっと、なのはちゃんは、ユーノ君を心配してて

ユーノ君は、なのはちゃんを巻き込みたくなかったんだね

 

「なんや、ワイをそんな悪モン扱いせんでもええやんか

 ワイかて、色々と思う事くらいはあるんやで」

 

そのまま、ケロちゃんは不満な顔を隠そうともしないで

浮いたまま腕組みをしてそっぽを向いてしまったのだ。

 

 

まぁ、ケロちゃんとも色々あったもんね。

町中にばらまかれた不思議なものを回収するために、

がんばってるのは、クロウカードを集めてた時の私達と同じだし……

 

 

あれ? でも、確か私とケロちゃんの時は……

 

 

「……ちょっと! そういうケロちゃんは

 ほとんど騙す形で、強引に私をカードキャプターにしたじゃない!」

 

 

「「えっ?」」

 

 

そう言うと、なのはちゃんとユーノ君はまたもや目が真ん丸になってしまい、

ケロちゃんは後ろを向いたまま、身体に脂汗が浮かせ始めてていた。

 

 

「あの……ダマすって……どういう事ですか?」

 

 

色々と気になるところがあるのか

なのはちゃんが、恐る恐る私に問いかけて来たので

続けて、その時の事を口にする

 

 

「クロウカードをばらまいちゃったのは、私のせいでもあったんだけど

 それについて、ケロちゃんと話している最中に

 ケロちゃんに言われた通りの呪文を唱えたら、いつの間にか契約させられてたんだよ!

 私は、何度も無理だって言ってたのに!」

 

 

「それって、悪徳業者の手口じゃ……?」

 

 

ユーノ君は、気の毒そうな顔で、ちょっと酷そうなことを口にしてた

……まぁ、これっぽっちも否定はしないけど

 

 

「私、今でも納得してないんだからね」

 

 

「……いや、それはアレや……

 さくらやったら、カードの主になれると思うたからこそ

 ちょっとくらい強引に……いや、期待の全てを込めてカードキャプターにしたんや!!

 まぁ、なんだかんだでさくらはカードの主になれたんやし

 そのおかげで、この2人を助けられたんやから、結果オーライやろ! なぁ?」

 

私の不満に対して、ケロちゃんは言い訳がましい言葉を重ね続けていた。

 

もう、あの時のやり取りは、なのはちゃんとユーノ君とはまるで反対だったよ。

 

 

……結局、私がカードの主になるのは、クロウさんの予定通りだったみたいで、

そのおかげで、新しい友達や……一番、大切な人が出来たから……

別に……その事はいいんだけれど……

 

 

「……? さくらさん、どうかしたんですか?

 顔、すごく真っ赤ですよ?」

 

 

なのはちゃんに言われて、思わず、顔をそむけてしまった

はぅ……顔に出てた……恥ずかしぃ……

 

 

「……でも、僕も結局なのはには大きな迷惑をかけてしまって

 この間だって、さくらさんが来てくれなかったらどうなっていた事か……

 

 それに、周囲に事情を話せないことが原因になって

 今、なのはと友達との間に、深い溝が出来てしまってるんです……」

 

 

元気のない声で、ユーノ君は申し訳なさそうにその辺の事情を語ってくれた

 

 

……確かに、今は結構周囲の人に知られちゃったけど

カードキャプターを始めたころは、みんなに事情を離せないのが大変だった覚えがある。

 

 

「……知世さんは、魔法が使えないって言ってましたけど

 どうやって、さくらさんの魔法の事をしったんですか?」

 

 

ユーノ君は、思う事があったのか

さっきから私達の話を見守り続けていた知世ちゃんに

知世ちゃんが関わってきた時の事を聞いてきたけれど……

 

えーと……私の魔法を知世ちゃんが知ったのは……

 

 

「どうやってと言われましても……

 さくらちゃんがカードキャプターになった日の夜

 外を撮影して居ましたら、ケロちゃんと一緒に飛んでいるさくらちゃんが写りまして……

 翌日、その事をさくらちゃんに伺った所、ケロちゃんが飛び出て来て

 それからずっと、さくらちゃんの活躍をビデオに収め続けているのですわ」

 

 

……うん、そう言えばそうだった……

魔法少女は普通正体をばらさないって言うけれど

私の場合、その日のうちにばれちゃってたんだ……

 

 

……なのはちゃんが、信じられないって顔でこっちを見てる

 

 

「ビデオに撮影って……

 よく、そんな無防備に飛んで、知世さんだけで済みましたね?

 結界とか……張ってなかったんですよね……?」

 

 

 

「あん時、手持ちのカードは『風』と『翔』だけやったしなぁ……

 まぁ、うまく行きすぎな気もするけど……

 強い魔力の持ち主は、強さに応じて運がよくなったりもするんや

 せやから、都合の悪い相手には目撃されへんかった……と思うで」

 

 

「ちょっと、都合よすぎじゃありませんか?」

 

 

……確かに、よくよく考えてみたら知世ちゃん以外に目撃されてなかったのは不思議だよね

 

 

クロウカードの時も、エリオル君の時も……

 

 

正体がバレたら、ご町内に居られなくなっちゃうかもしれないから

バレてないのは幸運だとは思うけど……

 

 

「……それに、ビデオ撮影は私の趣味ですの

 かっこよくてかわいいさくらちゃんの活躍!

 一部は、都合により撮影できませんでしたが……

 私が撮影したすべて、後でなのはちゃん達にも見せて差し上げますわ」

 

 

そう力強く話していた知世ちゃんの目は、完全にキラキラと輝いてた……

 

 

なのはちゃん達は、それを見て少し引いてるけど、知世ちゃんは、グイグイと迫っていってる。

 

 

……ひょっとして、ビデオを見せる相手が欲しいんじゃ……?

 

 

「あの……ごめんね、助けになれなくて……」

 

 

友達に何も言えない事については、私にはどうしようもできなさそうだ。

私は、知世ちゃんがいてくれたおかげで色々と助けてもらったしんだし、

……一人だったら、私もあそこまで頑張れなかったかもしれないから。

 

 

「あ、いえ……事情が事情とは言え

 友達に隠し事してる私が悪いんですし……

 かといって、正直に言って信じてもらえないと思いますから……」

 

 

なのはちゃんは、仕方なさそうにそう言ったけれど……

でも、このまま放っておくことはできないし、なにか、私にできる事は……

 

 

「あ……そうだ、ジュエルシードについてだけど

 よかったら、私にも手伝わせてもらえないかな?

 あんまり、大したことはできないかもしれないけど……」

 

 

「えっ!?」

 

 

私の提案を聞いたなのはちゃんとユーノ君は、

落ち込んでいた顔を上げて、不思議そうな顔をしていた。

 

そんなに、意外だったのかな……?

 

 

「ジュエルシードって、すごく危ないモノなんでしょう。

 だったら、放って置くわけにもないし……ひょっとして、イヤだった?」

 

 

「ううん! とんでもないです!!

 でも……本当にいいんですか?」

 

 

少し申し訳なさそうな顔をして、なのはちゃんはそう言ってきたけれど、

このままなのはちゃん達だけで、危険な事をさせたくはなかった。

 

 

「なのはちゃんだって、ユーノ君を心配して、

 ジュエルシードの回収を手伝ってるんでしょう?

 私も同じだよ、なのはちゃん達を危ない目に合わせたくないもの。

 

 どこまでできるかわからないし、危険で大変かもしれないけど、

 みんなで力を合わせたら……絶対、大丈夫だよ」

 

 

 

そう言うと、なのはちゃんは前髪で目が見えないくらい俯くと……

 

 

「ありがとう……ございます」

 

 

そう言って、袖で目元をぬぐっていた

もしかして、泣かせちゃったのかな……?

 

 

「なのは……?」

 

 

ユーノ君は、そんななのはちゃんを見て不思議そうな顔をしていて……

 

 

知世ちゃんは、そんな私達の事を横で見つめながら、優しそうな笑顔を浮かべていました。

 

 

 

 

 




なのはとユーノ驚かせすぎたかなぁ……

とは言え、前知識なしで挑むとツッコミ所や驚く所が
結構多いのがカードキャプターさくらだから仕方がない

王道魔法少女ものと思われてますが、実は大きなお友達向けの
魔法少女作品に対するターニングポイントなんですよねぇ


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フェレット少年と怪獣少女

ジュエルシードの回収を手伝うと決めてからちょっと後

 

 

お茶とお菓子の用意をしてきて

なのはちゃん達に、お茶を振舞いながら

色々なお話をしてたんだけど……

 

 

「……そう言えば、さくらさんって念話は使わないんですか?」

 

 

「ほえ、ネンワ……?」

 

 

何の気なしにユーノ君が言ってきた念話と言うのが

なんの事だかさっぱりわからなくって、頭の上にハテナマークが浮かんだけれど、

そうしたらケロちゃんが……

 

 

「あー、遠い所にいる相手に、魔力で言葉を飛ばすアレやろ?

 そういや、さくらは連絡は電話使うとるさかい

 その手の術を教えた事なかったな」

 

 

なんて言ってきて……

どうやら、念話って言うのは、テレパシーみたいな物みたい。

 

 

割と簡単な魔法らしくって、私が使えないって言ったら

ユーノ君は、ものすごく意外そうな顔をしていた。

 

 

「……でも、普通にお話しするならパソコンや電話で十分だし、

 これまでも、あんまり使う必要のある場面はなかったかな?」

 

 

「それはそうなんですけど……」

 

 

……でも、声を出さないでお話しできるって事は

ケロちゃんが何かをやりそうなときに、

皆に知られずに注意したりするのにはいいかも……

 

 

 

 

そういうわけで……

 

 

―――もしもし、聞こえますか?

 

 

私は、ユーノ君やなのはちゃん達に、念話の使い方を教えてもらった。

 

 

ケロちゃんも、使える様ではあったけれど、

教え方が、かなり適当だったので当てにはできない

 

「せやかて……この術教えるほどのもんでもないから

 却ってどうして教えたらいいのか、わからへんねや」

 

 

……ケロちゃんの言い分はさておき

 

普段は、カードを使った魔法しか使ってないから、

最初の方は、二人の声が上手く聞こえなかったんだけど……

 

 

「あ……すごい、本当になのはちゃんの声が聞こえる」

 

 

一通り教えてもらって、やり方を何度か繰り返すうちに、

目を瞑って集中すれば、声が聞こえる様になった

 

 

―――さくら、ようやくできるようになったんか

    全く、相変わらず不器用やなぁ

 

 

―――本来、魔力を持っていれば誰にでも使える程度の魔法だから

    ……さくらさんほどの魔力の持ち主なら、簡単に出来ると思ったんですけど……

 

 

―――まぁ、さくらは色んな意味で特別やからなぁ

    普段使う魔法は、基本的にカードを使うとるし、細かい事をするんは、結構不器用やさかい

 

 

むぅ……ケロちゃんったらみんなの前でなんてことを……!

 

 

―――じゃあ、次はさくらさんから僕達に

    念話で話しかけてもらえますか?

 

 

 

すると、ユーノ君から、今度は念話で語り掛ける用に促されたので

早速やってみる事に……また失敗しなきゃいいけど

 

 

「うん、それじゃあやってみる……」

 

 

これから送るという事を、口で知らせてから、もう一度、集中するために目をつむると

目いっぱい集中して、教えてもらった通りに、頭の中でみんなに語り掛けてみた

 

 

(もしもし、三人とも聞こえる?)

 

 

でも、どうしたのか、いつまでたっても返事が返ってこなかった

自分では、うまくできたと思ったんだけど……

 

(あれ? もしかしてまた失敗しちゃったのかな?

 もしもし、もしもーーー……)

 

 

気を取り直して、再度念話で語り掛けると……

 

 

「さくら! ストップ!! やめぃッ!!」

 

 

「ほえっ!?」

 

 

 

聞こえてきたのは、頭の中に響くケロちゃんからの念話……

じゃなくて、耳元に聞こえてきた、ケロちゃんの怒鳴り声……

 

 

「ケロちゃん!! 何するのよ!!」

 

 

いきなり耳元で怒鳴られたので、なんだか耳がジンジンする

ケロちゃんったら、いったい何のつもりなの……!?

 

 

「なにするっちゅうんはこっちのセリフや!!

 あれを見てみぃ!!」

 

 

 

そう言われて、ケロちゃんの指差す方向には

口を手で押さえて、驚いた顔をしている知世ちゃんと……

 

知世ちゃんの視線の先で、目を回してひっくり返っていた、なのはちゃん達二人の姿でした……

 

 

「え!? ど……どういう事!?」

 

 

「どういう事もあるかい!! この程度の魔法に、めいっぱい魔力使いよって……

 さくらの念話、とんでもない爆音になって届きよったんや!」

 

 

「ば……爆音!?」

 

 

もしかして、それでなのはちゃん達がひっくり返っちゃったの!?

 

 

「そんな!? 私、そんなに魔力を使った覚えないのに……」

 

「お二人とも、大丈夫ですか?」

 

 

知世ちゃんは、心配そうに二人に近づくと、そのまま体を揺さぶりはじめる。

……本当に悪い事をしちゃった、後でちゃんと謝らないと……

 

 

……あれ、ふたり……?

 

 

えーっと、倒れてる片方の子は、なのはちゃんだよね……

知世ちゃんは、そこに居るから、もう一人ひっくり返ってる子は……

 

……誰だろう、この金髪の男の子?

 

 

―――

 

 

な……なんだ今のは……?

さくらさんが念話を発信した瞬間に、物凄い衝撃が、頭の中を駆け巡って行った……

 

 

「あ、頭の中がくらくらするぅ……」

 

 

まだ衝撃が抜けないので、そちらの方を向けないけれど

となりから、なのはの混乱してるような声が聞こえる……

……まさか、今のはさくらさんの念話!?

 

 

あまりにも強力すぎて、何を言ってるのか全然分からなかった……

 

 

……いや、そもそもこんな威力のあるもの、念話として扱っていいモノだろうか?

実戦で使っても、効果がありそうな威力だったぞ……

 

 

念話の衝撃の為か、僕自身は仰向けになっており、

ようやく少し動けるようになったので、なのはの方に顔を向けてみると、

なのはも、僕と同じように倒れてしまっていた。

 

 

「お二人とも、大丈夫ですか?」

 

 

知世さんが、そう言って心配そうに

なのはの体をゆすってくれていたけれど……

 

 

「は……はい、大丈夫れ~す……」

 

 

聞こえてきたなのはの声は、どう聴いても、大丈夫そうに見えないくらい揺らいでいた

 

 

……僕も、まだ頭の中がくらくらするけれど

なんとか起き上がれる程度には回復したので、上体を起こし……

 

 

「ええ、なんとか……」

 

 

知世さんに無事な事を伝えた瞬間、奇妙な違和感を感じた。

 

 

……あれ? なんだか視線が高くなってる?

それに、みんなの向ける視線が、なんだかおかしいような……

 

 

「ほ、ほえ……?」

 

 

さくらさんは初対面の相手を見るような顔だし、

知世さんとケルベロスは、少し驚いたような顔で、

なのはに至っては……放心と言っていいくらいの、ぽけっとした顔をしていた。

 

 

……いったい何が……と思って、少し考えてみると、僕は先程、上体を起こした事を思い出した。

 

 

フェレットの姿じゃ、そんな事できるはずがない

 

 

まさかと思って、今度は自分の手を眺めてみると、

そこにあったのは毛に包まれた肉球……ではなく、五本の指の生えた人間の手で、

それをすぐさま、自分の顔に当ててみると、その感触は毛皮ではなく人の肌だった。

 

 

え……これって……

 

 

「す……すいません! 鏡ありませんか!?」

 

 

「ほえ、鏡? だったら、そこに……」

 

 

まだ少し呆けていたさくらさんの指差した方向には、

小さな鏡スタンドがあり、立ち上がって、急いで鏡の中を確認してみると

そこには、久しぶりに見かける顔が見えた。

 

 

「……人間に戻ってる? 嘘、なんで……」

 

 

怪我の影響か、思う様に魔力が回復しないから

この姿に戻れるのは、まだしばらく先だと思っていたのに……

 

 

……っていうか、魔力自体も完全に回復してる!?

これ、いったいどういう事……?

 

 

「その声、やっぱりユーノ君!? ええっ、人間だったの!?」

 

 

そんな僕の驚きを吹き飛ばすように、これまで呆けていたなのはが驚きの声をあげた。

……いや、ちょっとなのは、知ってるはずだよね?

 

 

「いや、だって初めて会った時はこの姿で

 魔力の回復の為に、フェレットの姿になってるって言った筈……」

 

 

「ううん! それ初耳!

 始めてあった時から、ユーノ君フェレットだったよ!!」

 

 

え……そうだったっけ……?

 

 

……考えてみたら、あの時は怪我を負って、

意識が朦朧としてたから、そこは勘違いしてたかもしれないけど……

 

 

「……でもなのは、僕が元の世界で発掘をしてたり

 最初は僕一人でジュエルシード集めてたのは話したよね?」

 

 

「うん、そっちは覚えてるけど……」

 

 

それでも、まだ納得いかない顔をしているなのは。

このどうにもかみ合わない雰囲気に、僕はまさかと思って

とある疑問をなのはへと投げかけると……

 

 

「……あの、まさかとは思うけど、スクライア族や、僕の居た世界の住人は

 全員フェレットで、その姿で遺跡発掘をやってるとか、思ってたりする?」

 

 

このまさかと自分でも思う、僕の問いに対する彼女の返答は

右上の方に逃げた視線と、気まずそうな表情が物語っていた……

 

 

いや、流石にそんな訳無いでしょ!

 

 

「なのはちゃん、お気づきでいらっしゃらなかったのですね」

 

 

「ほえ? 知世ちゃんは判ってたの?」

 

 

知世さんは、どうやら僕の事をわかっていたようで

驚いた様子は見られなかったけど、

さくらさんを見る限り、なのはと同じことを思っていたようだ

 

 

「ガクッ……こら! さくらも分からんかったんかい!!

 全く、さくらカードを使いこなせても、それ以外はまだまだ未熟やなぁ……」

 

 

続いて、ケルベロスがずっこける様な動作をした直後に、さくらさんにツッコミを入れた。

 

 

「……でも、ケロちゃんも知世さんも、よくユーノ君の事わかりましたね?」

 

 

「アホ、ワイを誰や思うとんねん

 仮の姿っちゅう事位、初対面の時からわかっとったわ」

 

 

そう言えば、ケルベロスも今の姿と、大きな獣の姿に自由に変身することができるんだっけ……

 

 

「私は、先ほどのユーノ君の話を聞いていて

 多分、人間だけど何かの理由でフェレットになっているものだとは思ってました

 なんというか、癖とかものすごく人間っぽかったですし」

 

 

……そして、話だけで判った知世さんも、別の意味ですごい

魔力の件を抜きにしても、3つ違いとはとても思えない雰囲気を持ってるし

 

そんな二人の答えを聞くと、なのはは、恥ずかしそうに頭を掻き始めた。

 

 

「えーと……確かに、発掘や、輸送の話に関しては

 なんか、ちょっとおかしいとは思ってたけど

 魔法の世界の出身なら、そういう事もあるかなぁって……」

 

 

……なのは、いったい僕達の世界にどんなイメージを持ってるのさ?

 

 

「まぁ、魔法少女のマスコットキャラならば

 そう言った不思議な動物さんがいると思うのは、割と、普通の女の子の反応だと思いますわ

 

 魔法少女物の作品って、大体そんな感じですから」

 

……魔法少女と言うものに関しては、

なのはがそれっぽい事を言っていたのは覚えてるけど……

 

それだけで済まされてしまうものなのだろうか?

 

 

……後で、この世界の魔法や魔法少女について

よーく調べておいた方がいいかも……

 

 

 

 

「うるせーぞ、いったい何をそんなに騒いで……」

 

 

そんな事を考えていると、突然部屋のドアが開いて

さくらさんのお兄さん、桃矢さんが顔を出してきた。

 

 

最初は、なんだか呆れたような顔をしていたけど、

部屋の中を見渡して、あるものに目が向いたとたん、徐々にその視線が鋭くなっていく。

 

 

その視線の先にあったのは……

 

 

「……そこの金髪、いつの間に来たんだ?」

 

 

ギク……

 

本来、ここに居るはずのない僕だった。

 

さっきまでいなかった、この姿の僕が居たのだから、怪しまれるのは当然だろう……

 

桃矢さんの鋭い視線と、どう言い訳したものかという考えで、

頭の中が真っ白になり、問いに答えられないでいると……

 

 

「……すいません、この子は私の友達のユーノ君です

 一緒に友枝町に来たんですけど、さくらさんを手分けして探そうって事になって……

 ついさっき、改めて連絡がついたから、お邪魔させてもらったんです」

 

 

「う……うん! そうそう!

 私となのはちゃんが玄関までお迎えに行ったの」

 

 

なのはとさくらさんが、とっさに誤魔化してくれた

その表情は、ちょっとぎこちなかったけれど……

 

すいません、ボクの為に嘘をつかせてしまって……

 

 

「……一緒にいたイタチはどうした?」

 

 

ギクギク……

こうして人の姿のぼくが居るという事は

当然の事ながら、フェレットの姿のぼくが居る訳がない

無論、その為にこの場で変身する訳にもいかないし……

 

 

―――サッサッ……

 

「……?」

 

 

焦る中、なにかを払うような音が聞こえてきたのでそちらを横目で見ると

なにやら、細い尻尾の様なものが、ベッドの下で揺れていた。

見ようによっては、フェレットの尾に見えない事も……

 

 

「ユー……あの子なら、さっきベッドの下に潜り込んじゃって……

 お兄ちゃんがいきなりドア開けるから、驚いちゃったんだよ、きっと……」

 

 

それを確認すると、さくらさんが、更にウソで誤魔化してくれた

どうやら、ベッドの下に居るのはケルベロスのようだ。

 

 

……本当に、迷惑おかけして申し訳ありません。

 

 

「それにしては、階段あがる音は聞こえ無かったけどな

 ユキの奴も、なんか音がしたら気付いただろうし」

 

 

ギクギクギク……

 

 

これは……どうやって誤魔化したらいいんだろう?

なのはとさくらさんの顔は、困った顔で見つめ合っていた

……多分、僕も同じような顔をしているはず……

 

 

そして、知世さんは……なんですか、その楽しそうな顔

知世さん、僕等の困惑を余所に、この状況を楽しんでませんか……!?

 

 

だけど、結局この心配は無用な物だった。

桃矢さんは、部屋の全員の顔を見回した後、なんだか、ちょっと意地わるそうな顔をして……

 

 

「……まぁ、普段から怪獣(さくら)がドタンバタン音立ててるから

 そんだけ大人しそうなヤツが音立てたんじゃわからねぇよな」

 

 

「なんですってぇっ!?」

 

 

そう言うと、今度はさくらさんがこれまでに見せなかった怒りの形相になってしまった。

なのはも、さくらさんが怒った事にちょっと驚いている。

 

 

「……気を付けろよ、うっかり怪獣に踏みつぶされたら

 あのフェレット、ペッタンコになっちまうからな」

 

 

桃矢さんはそう言うと、してやったりという表情でドアを閉めてしまい

それに少し遅れる形で、さくらさんの投げた枕がドアにぶつかり、そのまま、床へと落ちる。

 

 

「……どうなってるの?」

 

 

すると、我に返ったのか、さくらさんは恥ずかしそうな顔をして、

今度は何でもないと言わんばかりの、両手で何かを取り消すようなジェスチャーを必死にしていた。

 

 

今の言葉、そんなに怒るところあったかな……?

 

 

「さくらちゃん、お兄様からよく怪獣とからかわれているので

 その言葉には、強く反応してしまうのですわ

 前にケロちゃんと喧嘩した時も、散々言われたとか」

 

 

すると、知世さんがさくらさんの怒りに関して詳しい説明を教えてくれた

 

 

「さくらさん、全然そんな感じには見えないよねぇ」

 

 

「うん……それにケルベロス、そのセリフで

 さくらさんとケンカしたことあるんだ……」

 

 

「……気ぃつけぃ、ああなったさくらはめっちゃ恐ろしいさかい」

 

 

ケルベロスは、少し震えてみたいだけれど、

さくらさんはようやく落ち着いたのか、元通りの表情へと戻っていた。

まだ、完全に機嫌は直ってないらしく、文句は終わっていなかったけど。

 

「お兄ちゃんったら、本当にイジワルなんだから

 いつだって怪獣怪獣って言って来るし

 それ以外にも、事あるごとに……」

 

 

……正直、ちょっと不愛想でぶっきらぼうな感じだけど、

あの森で僕達を助けてくれたし、その後のやり取りでも優しいものを感じられた。

 

 

「……さくらちゃんだって、そこはちゃんとわかっていますわ

 さくらちゃんのお兄様も、さくらちゃんを大切に思ってるからこそ

 ついついイジワルしたくなってしまうのですわ」

 

 

 

そう言うものなのかな……

兄弟が居ないボクにはちょっとわからないや

 

 

……ん、なんだろう

今の話を聞いたなのは、少しだけ寂しげな表情をしてたような?

 

 

「……ほな、話を戻して……

 とりあえず、さくらの念話は基本使わん様にしとこ

 あんなん使うとったら、こっちの身が持たんし、色々と、不具合も出てくるさかいな」

 

 

 

声の元を見ると、ケルベロスがベッドの下から這い出て来ていた

まぁ、どういう訳か、あの念話のおかげで、僕はこの姿に戻れたわけだけど

あれを念話として使われたら、こっちの身が持たなくなってしまう……。

 

 

「それに、普段は普通の電話を使うのがよろしいかと

 ……魔法の通信というのも素敵ですけれど

 私だけ仲間はずれなのは流石に寂しいですわ」

 

 

そういって、知世さんは切なそうな顔をしてしまった。

 

……正直、安全を考えると知世さんにはジュエルシード回収には参加せず、

待っていてもらった方がいいのかもしれないけれど……

 

 

何故だろう、なぜかその一言が言い出せない……

そんな事を言い出したら、何かとんでもない事が起こってしまいそうで……

 

 

 

「まぁ、ワイが要ればなんとかなるさかい、今はそれで十分やろ

 今後は、お互いが何かを見つけ次第、連絡し合うようにしよか」

 

 

海鳴市と友枝町は、少し距離があるけど

魔法を使って飛んでいけば、行き来にはそれほど時間がかからないはずだし

連絡手段も、念話が使えなくても色々と手段がある

 

 

もし、あの子と遭遇して争奪戦になったとしても、こうやって、僕の魔力も元に戻った事だし

無茶をせずに時間を稼げば、合流するだけの時間は持つはずだ

 

 

「……それと、時間のある時にワイから二人に

 色々と魔力の使い方の手ほどきを教えたるわ

 ワイ、海鳴市の方には用事で寄る事が多いさかいな」

 

 

「ケロちゃんが?」

 

 

「二人とも、十分な才能とセンスは持っとるけど

 どっちもまだ小さいから、経験だけはないやろうからな

 安心せぇ、十分に伸びる余地はあるで」

 

 

ケルベロスの知っている魔法かぁ……

 

 

確かに、こちら側の世界の魔法には興味はあるし、

これ以上なのはに負担をかけさせないよう、

僕も、何か手助けできることがあれば、積極的にやっていきたいと思う。

 

 

どこまでできるか、正直分からないけど……

 

 

 

「それじゃあ……これからよろしくね、なのはちゃん」

 

 

「こちらこそ、さくらさん」

 

 

そう言って、握手し合うなのはとさくらさん。

その横では、知世さんが二人の様子をビデオに撮影していた。

 

 

いったい、いつの間に……

 

 

 




……という訳で、ユーノがかなり早い時期で元の姿に戻り
さくらが新スキル『念話(?)』を習得しました

この作品中のさくらは、他の作品で覚えられそうな技があった場合
その中から一番簡単なもの(状況による)を習得できますが
必ずと言っていいほど、発動効果が原形をとどめてなくて
更にとんでもな効力を持つようになっております

とは言え、覚えられそうな技術なんてあんまりありませんけどね
この念話(?)の本当の効力は、またいずれはっきされるかもしれません


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ゆびきりげんまん

加筆修正したら、一部大きく増えてしまったので分割
てか、分割ポイント考えたら新しい挿入話になってしまった

ほぼ純然たるユーなの話
ただ、なのはの性格はさくらとの出会いで微妙に変化し始めています


さくらさん達との話が一通りついた後、さくらさんの家を出た僕達は

とりあえず人気のない所で、元の姿に戻って結界を張るため、

なのはと二人で、先ほどの神社へと向かう。

 

 

久しぶりに二本の足で踏みしめる地面の感覚

そこから、フェレットであった時より遥かに高い目線

横には、一緒に歩いているなのは……

 

 

そう言えば、これが初めてだっけ。

この姿で、並んでなのはと歩くのは……

 

 

「これで、よかったのかな……?

 結局、さくらさん達も巻き込むことになって……」

 

 

「ユーノ君?」

 

 

様々な覚悟をして、ジュエルシードの回収にやってきたけど、

ジュエルシードがこの世界にばらまかれたのを聞いたときに、

無謀な事をしないで、管理局に任せていれば、

なのはやさくらさんを巻き込まないで済んだのかもしれない。

 

 

今さら、答えが出ないのは分かってる。

……だけど、こうして元の姿に戻れた今なら

また、一人でジュエルシードを回収することも……

 

 

「……ユーノ君、もしかして

 また一人でジュエルシードを集めようって考えてたりしないよね?」

 

 

「えっ!?」

 

 

ほんのわずか、頭に浮かんでいた考えを指摘されて、僕は思わず答えに詰まってしまう。

 

なのはは、その答えが当たっていたことを察して、少し暗い表情になった。

 

 

「……ダメだよ、それじゃあまたユーノ君、

 大けがをして倒れちゃうかもしれないよ……」

 

 

「……だけど、僕はまた関係なかった人を巻き込んで……」

 

 

ジュエルシードがばらまかれてしまってから、

アレを発掘したことを、後悔しなかった日は無かった

 

 

なのはを巻き込んだ事も、海鳴市の人達に迷惑をかけた事も……

そして、今回さくらさん達まで巻き込んでしまった事も……

次々と、重い後悔が積み重なっていき、今でもそれで溺れてしまいそうな感覚に陥る事がある。

 

 

「……もし、この先なのは達が傷つく事があったら

 僕は、どうやって責任を……」

 

 

「……それは、私だって同じだよ。

 こうして、仲良く話している人が居なくなって、

 ……どこかで、傷ついて倒れてたって後で分かったら、

 私だって後悔するよ、なんであの時ああしなかったのかって……」

 

 

「なのは……」

 

 

なのはは、少し暗くなった空を見上げると、そのまま続きをしゃべり始める

 

 

「ジュエルシードがばらまかれたのは、ユーノ君のせいじゃないし、

 ユーノ君が来てくれなかったら、もっとひどい事になってたと思うよ。

 チームの子達も、すずかちゃんのネコも、

 ……もしかしたら、私だって」

 

 

「……でも、それは僕じゃなくてなのはが……」

 

 

きっかけは、確かに僕だったかもしれない。

だけど、本当に頑張ってたのはなのはで、なのはと出会えなかったら、そんなにうまくは……

 

 

「ユーノ君が来てくれたおかげで、私達は出会えて

 みんな、無事に済んで……

 そして、さくらさんとも出会えた。

 

 みんな、ユーノ君の決心から始まったんだよ」

 

 

「なのは……」

 

 

……そう言うと、なのははこちらの方を振り向き、僕の目の前へと歩いてくるとこう言ってきた。

 

 

「ねぇ、ユーノ君約束しよう。

 ジュエルシードを全部集め終えるまで、そんな後悔はしないって!」

 

 

「えっ!?」

 

 

唐突な提案に、僕は思わず驚きの声が出てしまった。

 

 

「だって、ユーノ君何かあると、すぐ自分のせいにするんだもの。

 ケロちゃんから、初めてあった時に芸人とか言われたけど……

 それ、ユーノ君のせいかも、自虐ネタ芸人って……」

 

 

「いや、そんな受けを取ろうとしてるわけじゃないから!!」

 

 

先ほどの落ち込みはどこへやら……

イタズラっぽく笑う、なのはのあまりの言いように、僕は抗議の声を上げた。

 

 

なにさ、自虐ネタ芸人って……

 

 

「……その代わり、私も約束するから

 全部終わるまで、ユーノ君を悲しませたりするような事はしないって」

 

 

「! なのは……」

 

 

「こうでもしないと、ユーノ君いつか出ていっちゃいそうだもの。

 ……はい、約束するから小指だして、こんな感じ。」

 

 

なのははそう言うと、僕の方に小指を立てた手を差し出してきた

 

 

「こ……こう?」

 

なにをやるのかわからなかったけど、

言われたとおり、なのはと同じように小指を立てた手を差し出した

 

するとなのはは、僕の小指に自分の小指を絡めてきて……

 

 

「ゆーびきーりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます……ゆびきった!」

 

 

そんな短い歌を歌いながら、手を上下に動かしはじめた。

 

 

「……これ、こっちの約束のおまじないだよ

 破ったら、今度は針を飲ませちゃうからね」

 

 

「ちょっと! そんないきなり……!?」

 

 

思わぬ罰則に、またしても抗議の声を上げてしまったけれど、

この約束はイヤじゃなくて、なのはの小指の暖かさは指を離した後もまだ暖かかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、そろそろ帰ろうか

 ユーノ君、フェレットに変身して肩に乗って」

 

 

「うん……やっぱりこうなるんだ」

 

 

身体が完全に元に戻ったので、今はもう、自分で飛ぶことはできるのだけれど……

 

 

向こうに戻ってから変身したのでは、誰かに見られたら誤魔化しようがないと言われて、

僕はフェレットの姿に戻って、なのはの肩に乗っていくことになった。

 

 

なのは、僕が人間だってわかったのに、抵抗感とかないんだろうか……?

 

 

 

……どうも、僕の扱いに関して、さっきの指切り以外で変わった事はなさそうだし……

もしかして、男として意識されてない?

 

 

 

そんな考えに悩みながら、周囲に人目の無い事を確認して

魔力を使いフェレットの姿に戻ろうとした……けれど

 

 

「……ユーノ君? どうしたの」

 

 

ちゃんと、変身魔法を使ったはずなのに姿が変わらなかったので、

なのはが、不思議そうな顔で声をかけてきた

 

 

「あれ? おかしいな、もう一度……」

 

 

そう言って、先ほどよりも集中して変身魔法を使ったけれど、

やっぱり、フェレットの姿になる事が出来ない。

 

 

「ど……どういう事!?」

 

使い方は間違ってないし、体に異常があるようには感じられないけど、

だけど、何度やってもフェレットになる事が出来なかった。

 

 

「……ど、どうしよう!?」

 

 

このまま元に戻れなかったら、流石になのはの家で厄介になる訳にはいかない。

 

 

フェレットの時も、喫茶店だから難色示されてたのに

実は男の子でした……なんて言ったら、どんな事になるか……

 

 

間違っても、歓迎されることだけはありえないだろう

 

 

「と、とにかくさくらさんに聞いてみよう!

 さくらさんなら、いい方法知ってるかも……」

 

 

そう言って、すぐさまさくらさんに電話をかけると……

 

 

「なんや、ついさっき帰ってったと思ったら、こんなに早くに呼び出しおって……」

 

 

さくらさんは、文字通りに飛んできてくれた。

帰っていった直後と言っていいタイミングだからか、

ケルベロスが、雰囲気が台無しだと言わんばかりの顔をしていたのだけれど、

とりあえず、事情を話したところ……

 

 

「ほえ……フェレットさんに戻れなくなっちゃったの?

 ケロちゃん、これって……」

 

 

「エリオルの事件と、同じかもしれんな

 ほなさくら、あのカードで……」

 

 

2人には、何か思い当たることがあったのか、

さくらさんは1枚のカードを取り出すと、杖で突いて魔法を発動させた。

 

 

出てきたのは、翼の細工がついた大きな盾。

この間、僕たちを守ってくれた『盾(シールド)』のカードだ

 

 

「防御魔法? どうしてこの魔法を……」

 

 

「ユーノ君、この中でもう一度

 フェレットに変身してみてもらえるかな?」

 

 

さくらさんにそう言われて、僕は盾の内側へ移動した。

……よく見てみれば、盾の周囲にはプロテクションの様な光の膜が見えたけど、

とりあえず、さくらさんに言われた通り、そこでフェレットに変身してみると……

 

 

今度は、これまでの苦労が嘘のようにあっさりとフェレットに変身できてしまった。

 

 

「なんで、防御魔法で変身が……?」

 

 

「変身魔法って、隠し事をするため……秘密とかを守る為のもんやろ

 せやから、『盾』のカードで、その守る力を増幅させたんや

 

 まぁ、ちょっと理不尽に思っても仕方ないやろ。

 さくらも、届け物のカニ見て、思い浮かんだ言うとったし」

 

 

……それは、こじつけと言うのではないだろうか?

まぁ、こうして戻った以上、信じる他なかったけど……。

 

 

 

こうして、僕たちは海鳴市に戻ったのだけれど

試しに一度、元の姿に戻ってまた返信しようとする戻ることが出来ず

結局、さくらさんの力無しでは戻れなくなったことが判ったのでので、

さくらさん達が居ない時は、よほどの事がない限り、フェレットの姿のままと言う話になった。

 

 

案の定、なのはのプロテクションでは効果はなかったし……

もし、うっかり元の姿に戻ってしまったら、どうなることか……

 

 

トホホ……どうしてこうなったんだろう。

 

 

 



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第2章:加速する幻想
幻想の門


私とさくらちゃんが、なのはちゃん達の

ジュエルシード回収を手伝う事に決めてから、少したった後の事……

 

 

私が初めて立ち会ったジュエルシードの回収の時、

ジュエルシードは、別の生物に乗り移り暴れまわっていましたが、

 

 

さくらちゃんはジュエルシード相手に、

一歩も引かない大活躍をし、無事に回収する事が出来ました。

 

 

このジュエルシードの気配に気付かなかったのか、

はたまた、どこからか見ていて、状況を不利とみて断念したのか、

この時は、さくらちゃん達の仰っていた

もう一人の魔法少女が介入してくることはありませんでした

 

 

ただ、この時はさくらちゃんの久しぶりの事件が無事撮影できまして、

とても満足いたしましたから、その子の事を、気にしてはいませんでしたが……

 

 

そして、その次の事件は、またもや何かに乗り移ったジュエルシードに加え、

その時に私が初めて目にした、もう一人の魔法少女が介入して来た為に

さくらちゃん達、黒い魔法少女、ジュエルシードの怪物による

三つ巴の状況となりました。

 

あちらの魔法少女……この時、フェイトと言う名前を知ったのですが、

彼女は、使い魔と呼ばれる大きな犬……アルフさんを連れて来ており

フェイトちゃんと、強力なコンビネーションを仕掛けてきました……

 

 

しかし、さくらちゃんとケロちゃんが、彼女達を足止めしてくれたおかげで

なのはちゃんとユーノ君は、その間にジュエルシードを回収でき……

 

 

さくらちゃんに阻まれながらも、それを見届けた彼女は、

それまで、あまり感情をあらわにしていなかったのが、

ほんの少しだけ悔しそうな顔をして、アルフさんと一緒にその場を去っていきました

 

 

その後ろ姿に、気になるものを感じたので、

あの子は何故、ジュエルシードを回収しているのか、

ユーノ君に心当たりがないかうかがってみましたが……

 

ユーノ君は、彼女の事はおろか、もう一人ジュエルシードを集めに来ている子が

居たこそさえ、予想外だったとの事でした

 

 

……ジュエルシードは、願いを叶える宝石だと、ユーノ君は仰ってましたが

だとしたら、あの子にも何か叶えたい願いがあるのでしょうか……?

 

 

 

そして、私達が今向かってる先で

なのはちゃん達が争奪戦を行っている、新たなジュエルシード

 

 

友枝町からかなり離れた位置で発見されたので、

それから連絡を受けた私達は出遅れてしまい、

さくらちゃんは『翔(フライ)』のカードで、私はケロちゃんの背に乗り

『幻(イリュージョン)』のカードで身を隠し、急いで向かった目的地は……

 

 

 

……かつて、さくらちゃんがクロウカードの主となる為に

審判者・月(ユエ)さんから、最後の審判を受けた場所

 

 

―――東京タワー

 

 

遠目では、以前見た時と変わりありませんでしたが、

その周囲には、一般の人間を寄せ付けない為の結界は張ってあり、

ケロちゃんと一緒に結界の中に入った直後に目にしたのは……

 

 

なのはちゃんとユーノ君の前に立ちはだかっている、

どことなく、犬のアルフさんを彷彿とさせるような女性……

 

 

そして、東京タワーの展望台の上には、

強く光を放っているジュエルシードに向かって、杖をかざし

今この瞬間、それを回収しようとするフェイトちゃんの姿がありました。

 

 

「しまった! ジュエルシードが!!」

 

 

彼女がジュエルシードを回収したのと同時に、

ユーノ君が、ショックを受けたような大きな声を上げ、

なのはちゃんもそれにつられる形で、彼女の方へと目をむけました。

 

 

……どうやら、私達は間に合わなかったようです

 

 

「なのはちゃん! ユーノ君! 大丈夫!?」

 

 

「さくらさん!」

 

 

 

私達が、なのはちゃん達と合流したのはその直後……

 

さくらちゃんの声に反応した二人の表情は、

ジュエルシードを奪取された為か、焦りが色濃く見えていました

 

 

対して、二人の足止めを行っていた女性は、

かなり疲弊して、私達の登場に少し驚いていたものの

 

憶する様子もなく、気を見て襲い掛かろうとするような

敵意を持った視線をこちらに送っていました。

 

 

……ですが、突如あの子の方を振り向いた後、改めてこちらへ向き直すと……

 

 

「……チッ、今回はここまでにしといてあげる

 だけど、これ以上邪魔するんだったら、今度こそ、ただじゃ置かないよ!」

 

 

よほどの戦いを繰り広げていたのか、息切れしながらも、睨むような表情でそう言って、

私達に背を向けるとフェイトちゃん共々ものすごい速さで去っていきました。

 

 

「あっ……! 待て……」

 

 

「アホ! そんなくたびれた身体で追ってもやられるだけや!

 ……残念やけど、今回は向こうが上手やったな」

 

 

追いかけようとする二人を、ケロちゃんが制止します。

あの人と同様に、2人もひどく疲れているのが私にもわかりました

 

 

「すいません……私達が、もう少しうまくやっていれば……」

 

 

「ううん! 私こそ、もっと早く来れていたら……」

 

 

そう言って、互いに謝り合うさくらちゃんとなのはちゃん。

どちらも悪いわけでもありませんでしたが……

 

このような結果になってしまい、いたたまれない雰囲気になってしまったので

私は何とかしようと思い……

 

「……あの、とりあえず少し休んでいきませんか?

 お二人とも、大分お疲れのようですし……」

 

 

その雰囲気を打ち消すために、休息を提案いたしました。

 

 

「え……? あ、うんそうだね。

 とりあえず、一休みしようよ!

 あの上なら、丁度いいと思うし」

 

そして、私の意見に同意してくれたさくらちゃんが指差した方向……

そちらをみて、なのはちゃんは驚きの表情を見せました。

 

 

「あれって……さくらさん、いいんですか!?」

 

 

確かに、ちょっとお行儀は良くないかもしれませんけど、

こういうのも、魔法少女の特権だと思いますもの。

 

 

「……たまには、こういうのもいいではないですか、

 さ、ひと休みいたしましょうか」

 

 

そうして、私達が先にそこに降り立ってから、

なのはちゃんとユーノ君は、恐る恐るといった雰囲気で……

 

 

東京タワーの展望台の上へと降り立ちました。。

 

 

 

「いいのかなぁ……?

 誰かに見つかったら大変な事になりそうなの」

 

 

少し不安な表情をしながら、周囲の景色を眺めるなのはちゃん。

 

でも、なんだかんだ言って、ここからの光景はまんざらでもないようです

 

 

「大丈夫だよ、たぶん……

 以前にも、ここで色々とやったことがあるし……」

 

 

「色々……?」

 

 

さくらちゃんの口にした色々の意味が分からず

なのはちゃんは、困惑していましたが……。

 

 

「あん時は、ほんま色々とやっとったからなぁ」

 

 

試練を見守ってくれていたケロちゃんは、あの時の出来事を懐かしんでいました。

 

……そう言えば、あれからもう1年になりますわね。

 

 

「あ……2人とも、喉かわいてるよね!

 私、ちょっと下に降りてジュース買って来るよ!」

 

 

さくらちゃんは、疲れて汗をかいている二人を気遣ったのか、

そのまま、カードを1枚取り出して杖で突きます。

 

 

「さくらさん!? 別にそんな……」

 

 

なのはちゃんは、遠慮がちにさくらちゃんを制止しようとしましたが、

『翔(フライ)』のカードを発動させたさくらちゃんは、

そのまま、人目がつかない位置を気にしつつ、地上の方へと降りていきました

 

 

「……さくらさんが、普段魔法を使う時って、いつもあんな感じなんですか?」

 

 

「そう頻繁に使う訳でもありませんけど……こういう場合は、使ってもいいと思いますわ」

 

 

さくらちゃんが魔法を気軽に使った事に、なのはちゃんは、疑問の表情を見せています。

 

さくらちゃん、普段は安易に魔法を使いはしませんけど……

きっと、お二人に気を使ったのでしょう。

 

 

(……なんで、あれで騒ぎにならないんだろう)

 

 

まだ、少し納得いかないという表情をしながら、

さくらちゃんの下りて行った方向を見つめるユーノ君。

 

 

「ところで、さっき色々って言ってましたけど

 ここで前になにかあったんですか?」

 

 

なのはちゃんは、さきほどさくらちゃんが口にした、色々と言う言葉の意味を知りたかったようで、

私達に、そのいろいろについて質問をしてきました。

 

 

「ああ、前にさくらが真のクロウカードの主になる為に、

 最後の審判をしたっちゅうんは覚えとるやろ。

 あれは、ここ展望台の上で行われたんや」

 

 

「あの、もう一人のクロウカードの守護者と戦ったっていう……

 あれ、ここでやってたんですか?」

 

 

……あの時は、本当に大変でした。

 

もう一人の守護者……

ユエさんは、クロウさんの事がとても大好きだったので、

はじめは、新しい主を選ぶことを、頑なに拒んでいましたが……

 

 

審判を超えた力を見せたさくらちゃん。

……その時に、さくらちゃんのまっすぐな心に触れて、

ユエさんは、さくらちゃんの事を新たな主に認めてくれました。

 

 

 

「……色々な思いが渦巻く中、さくらちゃんはユエさんに認められて

 改めてクロウカードの主になられたのですわ」

 

 

「結局、クロウの狙いどおりやったけど……

 さくらやからこそあの結果になったんやろうな」

 

 

そうして、かつての思い出話をふたりに語っていると、

なぜか、なのはちゃんは浮かなそうな顔をしていました……。

 

 

「……なのはちゃん、どうかなさいましたか?」

 

 

「知世さん、今回の事件……

 あの子とわかりあったうえで解決する事は、出来ないんでしょうか……?」

 

 

「なのは?」

 

 

ユーノ君は、なのはちゃんの意図を計りかねている状態の様ですが……

 

 

「……あの子と初めて会った時、杖を構えてきたあの子に、

 話し合いで解決できないのかって、尋ねた事があるんですけど、

 その時、あの子はそんな事をしても意味が無いからって言って……

 ちゃんと話し合えば、戦う事は避けられるかもしれないのに。」

 

 

確かに、お互いが心の内をわかり合う事が出来れば、

戦いを避ける事は出来るのかもしれません。

 

 

……けど、口にすればそれだけの事ですが、それを為すのは決して簡単な事ではない。

 

分かり合うためには、意味を持つ言葉と同じくらい必要なものがあります

 

 

「……人間、その気になれば甘い言葉などいくらでも言えますし、

 約束を反故にする口実だって、同じくらい言えます。

 

 言葉だけでは駄目……それを本当に信じさせるためには、

 その言葉に見合うだけの、強い想いがなければ……」

 

 

「想い……ですか?」

 

 

まだ数度しかお会いしたことはありませんが、

フェイトちゃんの瞳の奥には、なにかを為そうとする意志の他に、

例えようがない深い悲しみの色が見えた気がしました。

 

 

私の推測が当たっているのなら……

彼女と分かり合うための思いは、並大抵のものでは話にもならないでしょう。

 

 

「い……いきなり、凄い事を言いますね。」

 

 

「母から、よく聞かされているものですから、

 奇麗に見える言葉を使う相手には気をつけろと。」

 

 

さくらちゃんのお母様の一件があったからでしょうか?

ええ、それはもう何度も聞かされましたとも……

 

 

最も、その時の言葉に偽りは一切なかったようですけれど……。

 

 

「……もし、仮に話し合う事が出来て、

 その子がジュエルシードを求める理由を話したとして、

 素直にジュエルシードを渡せますか?」

 

 

「それは……」

 

 

私がそう言うと、なのはちゃんは答えが見つからないようで、

そのまま俯いてしまいました。

 

 

「あそこまで必死になって探しとるっちゅうことは、

 ジュエルシードを使うつもりで、集めてるっちゅうことやろうからなぁ……」

 

 

フェイトちゃんが、何のためにジュエルシードを、

必要としているのかはわかりませんが……

 

ジュエルシードを渡せないのであれば、

話し合い自体は平行線となってしまうはずです。

 

 

「……ジュエルシードは何かに使う目的で、譲渡できるようなものではないです。」

 

 

「せやろなぁ……ワイも昔、あの手の危ない道具は何度も見た事がある。

 もし仮に、ジュエルシードを甘すぎる認識で利用しよと思とったら、

 ……あの小娘、破滅への道を行き着く先まで転がり落ちる羽目になってまうわ。」

 

 

珍しく真剣な顔をするケロちゃんの言葉に、

2人はハッとした表情をして、互いの顔を見合わせました。

 

 

たぶん、朧げながらそのイメージが見えてしまったのでしょう。

 

 

「……わかり合うというのは、簡単なようで難しい事ですわ。

 人間、例え親しい相手にも明かしたくない事と言うのはございますし、

 そこに無理やり踏み込むと言う事は、心を踏みにじるのと同義になってしまいますから。」

 

 

「けど、このままじゃ……」

 

 

納得できないという表情をして、なのはちゃんがそうつぶやきましたが……

 

……もちろん、私も、そしてさくらちゃんも、

目の前の人がみすみす不幸になるのを、見過ごすつもりはありません。

 

 

「……分かり合うのは言葉だけとも限りませんわ。

 時には、競い合ったりぶつかり合ったりした結果、

 新しい縁が生み出される事だってございますから。」

 

 

「ぶつかり合う……?」

 

 

ユーノ君は、思い当たることがないのか分からないという顔をしてましたが……

 

なのはちゃんはこれを聞くと、少しばつの悪そうな顔をして頭を掻き始めていました。。

 

 

「……なのはちゃん、どうやらご経験があるみたいですわね。」

 

 

「……はい、小さい頃、大人しい子をからかって泣かしてた、

 いじめっ子つかみ合いのケンカをしたことがあって……

 覚えてる限りじゃ、本気のケンカをしたのはその時だけなんですけど、

 気がついたら、いつのまにかその2人と仲良くなってて……」

 

 

少し荒っぽいなのはちゃんの思い出に、ユーノ君は意外そうな顔をしていましたが、

ケロちゃんは、別の事を考えていらしたようで……

 

 

「まるで、一昔マンガの前でよくあったシチュエーションやなぁ……

 ホレ、ケンカの後で土手で寝転がってるアレや」

 

 

女の子のイメージとしては、あまり合ってないかもしれませんけど、

確かに、それが一番近いかもしれませんね。

 

 

 

「そんな事あったんだ……

 っていうかなのは、その二人ってひょっとして……」

 

 

 

ユーノ君の問いに、なのはちゃんは頷きながらも、思いつめた表情をしてました。

恐らく、今もその友情は続いていて……

 

 

……今はちょっと、不安定になってしまっているのでしょう。

 

 

「さくらちゃんだってそうですわ、クロウカードを集めていた時、

 事ある毎に色々な理由で競い合っていたライバルが、

 さくらちゃんにとっての、一番大切な人になっていたんですもの」

 

 

「「さくらさんの一番?」」

 

 

二人とも、その言葉がが気になったのか、

2人とも興味ありそうな、また意外そうな顔で、同時にそのセリフを口にしていました。

 

 

「ありゃ、ワイも意外やったな

 さくらの奴も、なんであんな小僧を……」

 

 

そして、なのはちゃんとユーノ君がが疑問を浮かべてる一方で

ケロちゃんが、ちょっと意地悪そうにぼやき始めています。

 

……嫌いじゃないですけど、相性が悪い感じでしたものね。

 

 

「あの時も、言葉が役に立ったのは一番最後……

 時にはぶつかり合って、時には協力し合って行った結果、

 2人の間に、強い絆が出来上がっていたからこそ、

 言葉が、あるべき結果を導き出したのですわ。」

 

 

どれも、口にするだけならいくらでも同じ事を言えるでしょうが、

2人の絆を紡いできた言葉の重みだけは、

決して、真似をすることはできないでしょう……

 

 

「絆……ですか?

 じゃあ知世さん、私はどうすれば……?」

 

 

なのはちゃんは答えが見つからなかったようで、私へ更なる問いかけをしてきましたが……

 

 

「おまたせ! ジュース買って来たよ!

 みんな、好きなのとってね!」

 

「わっ!?」

 

 

その時、答えを求めるなのはちゃんへの問いをかえすより前に、

ジュースを買ってきてくれたさくらちゃんが帰ってきました。

 

 

「さくらちゃん、おかえりなさいませ。」

 

 

「さくら、ずいぶん時間かかったやないか……

 まぁええわ、まずはワイから一本貰うで!」

 

 

どうやら、結構な時間話し込んでしまったようですね、

なのはちゃんに、答えを返す事はできませんでしたが、この答えは言葉にするよりも……

 

 

「なのはちゃん、答えはなのはちゃん自身が答えを見つけるべきですわ。

 分かり合うという事の、一番大切な事はなんなのか……」

 

 

「一番大切な事……」

 

 

私の問いに対して、なのはちゃんは深く考えてしまいましたが、

……いずれ、その答えを見つける事が出来るでしょう。

 

 

……さくらちゃんと一緒ならば、きっと

 

 

「ほえ……? 何の話? 知世ちゃん、なにをはなしてたの?」

 

「おほほほ、仲良しになる方法についてですわ」

 

 

さくらちゃんはジュースの缶を持ったまま、真剣な表情をしてるなのはちゃんを見ると

ちょっと不思議そうな顔をしましたが……

 

 

「なのはちゃん、誰とそんなに仲良しに……あれ?」

 

 

「どうかなさいました? さくらちゃん」

 

突然、何かに気付いた様子を見せると、

その視線を、展望台の中央の方へとむけていました。

 

 

「なんだろう……あっちの方、なにかおかしくない?」

 

 

そう言って、さくらちゃんが指差した方向……

そちらの方に目を向けると、そこには確かに奇妙な光景がありました。

 

 

「なんだ、アレは……?」

 

 

そこには、人が通れるくらいの穴が、空中にぽっかりと開いていて、

その穴の中から見える光景は、その奥に広がる周囲の物とはまるで違っており……

 

 

何故でしょうか、私には魔力がないのに……

 

 

この時だけは、その穴の奥から流れてくる雰囲気が、

この世界の常識とは異なる物だと、ハッキリ理解できたのです……

 

 

 

 




ジュエルシード回収を全部再現すると、尺が取りにくいし、原作なぞりにしかならないので
原作時系列に沿いながらも、結構な部分オリジナルな話が入ると思います


……なお、さくらにしてもなのはにしても、
放映時は、まだスカイツリーありませんでしたが
そこら辺はスパロボ風な雰囲気という事で目を瞑っていただきたいです


あとは通信端末もか
さくら放映時は折りたためないタイプ、なのは放映時は折りたたみのガラケーだったもんなぁ
ここら辺はその時その時で設定を作るつもり


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闇夜に輝く電波塔

 

 

東京タワーの上でさくらさんが見つけた、何もない空間にぽっかりと空いていた不思議な穴

 

 

 

その穴を抜けた先にあったのは、特に何も変わった所が無い

穴の位置から先に1、2歩進んだ東京タワー展望台の上でしたが……

 

どこかおかしい……そう思って振り返った瞬間、

穴の先にあった光景に対する違和感の理由がはっきりとわかりました。

 

 

抜けてきた穴の内側からは、私の後ろにいたみんなの姿と、

暗くなってきたため、光を放ち始めた夜景が見えましたが

 

 

こちらから見た穴の外側では、みんなの姿も夜景も見えず、

周囲には、不思議な光景が広がっていました。

 

 

私の後に続いてきたみんなも、この光景に驚いており……

 

 

「……どこ? ここ?」

 

ケロちゃんが私達の心の中を代弁するようにそうポツリと言葉を漏らしました。

 

穴を抜けた先の周辺に見えた景色……

 

それは、古風な民家が集まる集落、小さな一軒家がまばらに見える森、

洋風の大きな館が中央の島に建てられている湖、大きな山……

 

 

どれも都心はおろか、とても現代のものとは思えない、

よく言えば古風、悪く言えば田舎な風景でした。

 

 

「この光景、東京でないことだけは確かですわね……

 23区外ならば、意外と田舎な雰囲気の場所がありますけれど、

 周辺には電車どころか、車に電灯、電信柱すら見えませんわ。」

 

 

言われてみれば、東京どころか、

日本であればどこに居ても目にするそれらのものが全然見当たりません。

 

 

……だけど、各所に見える建築物は、一部を除いて

和風建築と思えるものが多くて、他の外国や、ファンタジーな異世界とはどうも思えない感じです。

 

 

……異世界と言えば、ちょっと思い当たる節はあるけれど。

 

 

「ユーノ君、まさかとは思うけど、ここって……」

 

 

「ううん、この世界は僕の知っているどの世界とも違うよ。

 もしかしたら、こんな雰囲気の世界を探せばあるかもしれないけど、

 ……少なくとも、僕は今まで見たり聞いたりしたことは無いから」

 

 

もしかして……と思ったけれど、やっぱりこの光景は、

ユーノ君の元居た世界では無いようです。

 

……まぁ、そうだよね、ユーノ君のイメージとは、あんまり合わない気がする光景ばっかりだし

明らかに、日本風な建物の方が多いし……

 

 

でも、今どきの日本にこんな所があるのかな?

 

 

「……ほえ? あっちでなんか光ってる?」

 

 

「え? ……あ、ホントだ、何か光ってますね」

 

 

さくらさんが、なにかを見つけた方向を確認してみると

その先の空中では、突然現れた空を覆わんばかりの様々な色の光が、

何かの形を造り出すように、幻想的な風景を造り出しています。

 

 

なんだろう、あの光……?

 

 

「花火大会……では無さそうですね、

 何かが動きながら、光の弾を放っているように見えますわ。」

 

言われてみれば、知世さんの指摘通り、

光の弾の生まれる位置は、そこに誰かがいるように移動していて……

 

 

更に、あの光の弾からは少し変わった力の気配を感じました。

ただの火花では無いようです。

 

 

 

「……アレは魔力の類で作られた小さな固まりみたいやな、

 1個1個に大した威力はないけど、あんだけの数や……

 放っとるヤツは、よほどの力の持ち主やで。」

 

 

遠い空を埋め尽くさんばかりの、色取り取りの光の弾……

 

 

時には、光の帯のようなものが絶え間なく流れ続けており、

その光が、一点に集中したと思うと、すぐさま先ほどとは違うパターンの

大量の光の玉が展開され始めました。

 

 

「あんなに大量の魔力弾、一体誰がばらまいているんだろう?」

 

 

「何かの儀式を行っているのかな……?」

 

 

だけど、あれが何なのかはわからなかったので、みんなでその正体を推測していると……

 

 

「―――いいえ、アレは女の子の遊びですわ」

 

突然、背後から女の人の声が聞こえました。

 

声の主は、私達と同じように、あの穴を抜けて来たのか、

それとも、こちら側のどこかに潜んでいたのか……

 

私を含めたみんなは、その声に驚き、

声とは逆方向に飛びのくと、声の主の正体を確かめるために振り向きました。

 

「あら、驚かせてしまったかしら?」

 

……そこに居たのは、赤い紐の飾りがついたドアノブカバーのようなモブキャップをかぶり

日傘をさし、紫色のドレスを着た、どこか浮世離れしている様な奇妙な格好……

 

 

背を含めた見た目は、私より少し年上に見える程度だったけど、

異様な雰囲気のせいだからか、さくらさんよりも年上に見える気がしました。

 

 

「……ようこそ、可愛らしいお客様達」

 

 

 

彼女はそう言って微笑んだ後、私達の方に近づき、

そのまま観察するような眼で、私達を見つめ……

 

 

「ほえっ!?」

 

「ふん……ふん……」

 

 

その行為に驚いたさくらさんの態度を気にせず

上下に東京タワーを見回してから、再び私たちに顔を向けると……

 

 

「この電波塔をこちら側に呼び寄せたのは貴方達?」

 

 

「こちら側……?」

 

 

なんとも意図の掴みにくい奇妙な質問をしてきました。

こちら側って言うのは、いったい……?

 

 

「あの、私達はあの穴を通ってきたら、ここにたどり着いたんですけど……」

 

 

さくらさんがそう答えると、この人は表情を変えずに再び私達に顔を向けてきて……

 

 

「ええ、そのようね……

 大した力を持っているようだけど、どうやらこの異変は貴方達の起こしたものじゃなさそうだし

 単に、巻き込まれた外来人なのね」

 

 

「外来人……ですか?」

 

 

今度は、聞いた事のない単語を口にしました。

……私達、やっぱり別の世界とかにきちゃったのかな?

 

 

「あの……ここは、いったいどこなんですか?

 それに、あなたは……」

 

 

知世さんが女の人に質問すると、女の人はにっこりと笑い……

 

 

「ここは幻想となった存在の流れつく世界……【幻想郷】

 品物・妖怪から古い神など、外の世界で忘れられ【幻想】となったものが流れ着く世界」

 

 

「ゲンソウキョウ……?」

 

すぐさま、私達の質問に答えてくれました。

 

 

……本質を理解するのには、時間がかかりそうな答えでしたけど。

 

 

「私の名前は八雲紫、幻想郷の管理者の一人、

 妖怪の賢者とも呼ぶ者もいるわ」

 

続けて、彼女は自己紹介をしてくれましたが、

その自己紹介もまた、常識とは思えないもので……

 

 

「よ、妖怪……ですか? 紫さんが……?」

 

 

そうって、さくらさんが一歩後ろに下がってしまいました。

心なしか、顔が少し青ざめているような……

 

 

「……けど、失礼ながらあんまり妖怪って感じには見えませんわね、

 私達より、少し年上のお姉さんに見えますわ」

 

 

「あら、嬉しいこと言ってくれるわね」

 

知世さんの感想に機嫌をよくしたのか、紫さんは上機嫌そうな表情になっていました。

 

大人びてる知世さんならではの、感想かもしれませんけども……

 

 

「……でも私、こう見えて貴方達よりも年上よ

 そう、そこの大きな獣よりもずーっと……ね」

 

 

紫さんはそう言うと、ケロちゃんの方に視線を向けました。

……ケロちゃんは、見た目と違ってずっと長生きだって言ってたけど、

そのケロちゃんよりもずっと年上って事は……

 

 

いや、考えるのはやめておこう。

女性に関して、その手の質問は失礼すぎるし、

 

……ウチも、あまり人の事は言えない気がするし

 

 

「前々から、妖怪と友達になってみたいなぁ~とは思っとたけど、

 まさか、こんなタイミングで出くわすとは思っとらんかったわ。

 ……ところで、ネーちゃんはなんの妖怪なんや?」

 

ケロちゃんは、のんきそうな声でそんな事を言っていた……

 

でも正直、紫さんが妖怪だって言われても、見た目だけじゃ全くそう見えない。

少し風変わりだけど、こんな感じの人も、探せば見つかるんじゃないかなって思えるくらい

見た目は人間そのものだし……

 

 

「生憎と、妖怪としての種族名は無いわ、

 幻想郷にも、そして外にも、私と同じ種類の妖怪は居ないもの。

 ……それっぽいあだ名はあるけどね」

 

 

「なんや、結構えらそうな妖怪やから、

 てっきり、ぬらりひょんの女版かと思ったわ」

 

 

……ケロちゃん、流石にその表現はどうかと思うの。

 

 

「ケロちゃん! ……すいません、紫さん」

 

 

ケロちゃんの発言に対して、さくらさんは申し訳なさそうに頭を下げたけど、

紫さんは、気分を損ねた様子もなく話を続けました。

 

 

「いいのよ、自分でもそこそこ似てるって自覚はあるし、

 ……ちなみに、外でも知られてる妖怪がいいって言うなら、

 そっちに居るそれなんかどうかしら?」

 

 

「そっちって……後ろ?」

 

 

そう紫さんに言われて、私達が振り向くと……

 

 

「ばぁ~」

 

 

そこいたのは、大きな一つ目と舌を出した巨大なナス……じゃない

大きな目と口の描かれた和風の傘の……からかさおばけ?

 

 

確かに、割とテレビとかで目にする妖怪ではあるけれど……

正直言って、あんまり怖いとは思わない。

 

 

今時、これじゃあ幼稚園の子供だって怖がらない……

 

 

「ほえええぇぇぇぇぇっ!? おばけーーーーーーーっ!?」

 

 

そんな事を思っていたら、突然悲鳴を上げたさくらさんに抱きつかれてしまった。

 

 

ちょ……ちょっとさくらさん!? どうしたんですか!?

そんな思いっきり抱きしめられたら苦しいです……さくらさん!?

 

 

「なのは!? さくらさん!?」

 

パニックを起こしたさくらさんと、抱きつかれて身動き取れなくなった私達を心配してくれたのか

ユーノ君が大きな声を上げてくれたけれど……

 

 

「ほー、カラカサお化けなんておるんかぁ

 ……しかしさくら、こんなんでもお化けはダメなんか?」

 

 

ケロちゃんは、心配する様子もなく呆れ顔でさくらさんにそう言って

その隣では、知世さんが嬉々としながら、

慌てるさくらさんを撮影しているのが見えました……

 

 

「いやいやいや! オバケはいやーっ!!」

 

 

さくらさん、本気で泣いてる……

あれだけすごい魔法が使えるのに、こんなオバケがダメなんだ……

 

 

「……珍しいわね。今どきこんなの、こっちの子供でも怖がらないのに」

 

 

「さくら、あからさまなお化けはダメダメやさかいなぁ」

 

 

「臨海学校の時の肝試しで、お化け役の先生から、

 脅かしがいがあると言われるくらいですから。」

 

 

ユーノ君以外の皆は、慌てているさくらさんをよそに、

そんなのんきなことを言っている……

 

 

ちょっと知世さん、そんなに目を輝かせてビデオを回して……

なんだか、この状況を楽しんでません!?

 

 

―――バタッ

 

 

さくらさんに抱き疲れたまま、そんな事を考えていると

背中側から、何かが倒れるような音がしました。

 

なんとか、腕の隙間から顔を出して、音がした方を見てみると……

 

 

さっきの唐傘お化けがばったりと倒れてしまっていて

どうしたのかと、よく観察見てみるとその中に……

 

「もう食べられましぇーん……ぐえっぷ」

 

 

そう言って目を回している、オッドアイの女の子が見えました。

どうやら、あの唐傘お化けの正体はこの子だったみたい……

 

 

苦しそうだけど、どこか満足げな表情に見えるような……

 

 

「さくらさん、もう大丈夫ですから……

 ほら、あのオバケも中身は女の子ですし……」

 

 

「ううー……」

 

 

そう言うと、さくらさんはようやく落ち着いてくれ、抱きついた腕を放してくれました。

 

まだちょっと涙目だったけど……

 

 

「もしかして、この子が妖怪の正体?」

 

 

「一応、それは外も中身も含めての妖怪よ。

 この子は、驚きの感情を糧にする妖怪だから、

 あれだけ驚かれて、満腹になっちゃったのね」

 

 

驚かせるのが、この子のご飯になるんだ。

 

それで、驚いたさくらさんをしつこく驚かして……

 

 

「……そら、さくらほど驚いてくれる相手そうは居らんわなぁ……満腹でぶっ倒れる訳や

 ……ほれ、しっかりせぇ」

 

 

紫さんの説明を聞いて納得したそぶりを見せたケロちゃんは、

そう言うと唐傘お化けの女の子に近づいて行き、肩のあたりを前足で軽く揺さぶり始めました。

 

 

「……ひょっとして、本当に友達になる気なのかな?」

 

 

ふと、そんな考えが浮かんだのでそれを口にしたら、

さくらさんは目が再び潤ませてから、必死で首を横に振り始めてました。

 

 

……傘が普通だったら、どうみても普通の女の子なのに、ちょっと怖がり方が異常じゃないかなぁ

 

 

……まぁ、苦手なものは誰にでもあるよね

そう結論付けようとしたその時

 

 

「……お前達! こんな処でなにしてる!?」

 

 

不意に、辺りに大きな声が響き渡りました。

上の方から聞こえてきた声のした方向に、みんなで目を向けると……

 

 

そこに居たのは、青いワンピースに身を包み、

背中にガラス細工の様な羽を背負った小さな女の子。

 

なにか気に入らないことがあったのか、不機嫌そうな顔をしているけれど……

 

なんで、私達の事をにらんでるんだろう?

 

 

「あらまぁ、まさかこんな処にあなたが現れるなんて、

 関門超えてきた様には見えないけれど……

 他の連中と同じように、光に寄ってきたのかしら?」

 

 

紫さんは、彼女を知っている素振りでそう言うと、

少し面倒そうな顔でその子の事を見つめてから、軽くため息をつきました

 

 

「知り合い……なんですか?」

 

 

「まぁ、広いような狭いようなこの幻想郷でそれなりに有名だから……

 良くも悪くも……ね」

 

そう言うと、今度は私達の方を向いて、

なにかを言いたげな笑顔を浮かべました。

 

良くも悪くも……一体、どんな子なんだろう、あの子……

 

 

 

「この赤い塔は、あたい達の秘密基地にするんだから、横取りなんてさせないわよ!!」

 

 

……とりあえず、なにか盛大な勘違いをしているのだけは間違いなさそうでした。

 

 

 

 

 



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奇妙な異変とスペルカードルール

 

 

面倒な事になった……。

 

 

私が、外から来た子達に幻想郷について説明をしていると、

いつの間にか面倒くさそうな妖精がやって来ていて、

この電波塔を我が物にしようと宣言していたのだ。

 

 

妖精は私達を敵視しているようで、今もなお上空で鼻息を荒げているけれど、

今は、妖精にかまって説明を中断したくはなかったので……

 

 

「……今は私が話してる最中よ、順番はきちんと守りなさいな」

 

 

少し力を込めながらそう言って制止すると、

ありがたいことに妖精は大人しくいう事を聞いてくれた。

 

 

……少し、この子達がおびえた様子を見せた気がするのは気のせいよね、きっと……

 

 

そうして、妖精を大人しくさせてから改めて、

私は、彼女達に幻想郷で起こっている異変についての説明を始めた。

 

 

「……今、幻想郷では様々な色に光る巨大な塔が現れた、奇妙な事件の噂でもちきりなの

 

 幻想郷の住人達は、この事件を異変と判断して、

 各々が、事件解決のための行動を開始しているわ」

 

 

「異変……ですか?」

 

結構、幼い割には理知的そうな顔つきをした子が揃っているが

私の言う異変については、予想通り外の人間には分からないようで、

全員、その意味がつかめていないような表情を見せていた。

 

 

まぁ、普通の外来人なら

こちらほど、頻繁には異変と呼ばれる事象と遭遇しないでしょうし。

 

 

……あくまで、普通の状況ならばだけれど

 

 

「……先ほども言ったとおり、この幻想郷は一部の例外を除いて、

 古今東西を問わず、忘れられ幻想となった様々な存在が流れ着く世界なの。

 そこに転がってる唐笠お化け、向こうで実物は見たことなくても、

 名前くらいは聞いたことあるでしょう?」

 

 

「……そうなんですか?」

 

 

あからさまに日本人とは思えない金髪の男の子には、

流石にわからなかったみたいで、他の子に尋ねているけれど

 

 

「まぁ、アニメや漫画などで、よく題材にされますから

 そういった題材を好む人は多いですし

 ただ、中身が女の子というのは聞いたことありませんけど」

 

 

間を入れず、黒髪の女の子がその疑問に答えてくれた。

 

 

中身に関しては……まぁ、そこはそれってやつね、

こちらにも、いろいろと事情というものがあるから。

 

 

「……そして、流れ着いてきた幻想の内、特に力のある者は、

 時に己の存在と力を誇示したり、また時には気まぐれで奇妙な事件を起こす。

 その力ある者の起こす事件を、幻想郷では異変と呼んでいるわ。」

 

 

「その異変が起こると、どんな事が起こるんですか……?」

 

気になる所があったのか、髪を両側で束ねている子が異変について尋ねてきた。

 

そうね……異変を起こす者は、どれもプライドが高いから

他者のマネ、二番煎じをすることは無いけれど……

 

 

「ここ最近の物だと、郷が赤い霧で覆われたり、冬が何時まで経っても終わらなかったり、

 夜が明けず、満月が何時までも同じ位置にとどまっていたり……そんな異変が起こったわ

 ……ね、立派な異変でしょう?」

 

 

「確かに、そんな事が起こったらニュースになるような事件ですね」

 

 

異変の具体例を説明すると、ふんわりとした子が私の説明を肯定してくれた。

 

だけど、髪を両側で束ねている子は、思う所があるらしく

考える風な様子をして……

 

「でも、私達の近くでも最近そんな感じの不思議な現象が起こったっていう

 ニュースを見た覚えがありますよ、

 2年くらい前から、偶に起こる感じで……」

 

こんなとんでもない事を言い出したのだ。

 

え……ウソ?

 

偽りを言っているようには見えないけど

 

外では、そんなに前から異変が起こるようになったのかしら?

 

 

「そうかな……? 私、聞いたことないけど……」

 

 

「なのはちゃん、それってどのような事件ですの?」

 

 

私が驚いていると、ふんわりとした子と黒髪の子が

その事件について、言い出した子に尋ねると……。

 

 

「確か……どこかの小学校が運動会の日に、花びらで人が埋まったとか

 ペンギンみたいな大きな滑り台がひっくり返ってたとか

 春なのに子供がすっぽり埋まるような大雪になってたのに

 翌日には、その雪が全部消えちゃったとか……」

 

帰ってきた答えの内容は、こちらで異変と言うにはかなり規模が小さかったけど

確かに外側で起こるとは思えない現象の数々だった。

 

 

 

なるほど、こちらほど規模は大きくないけど、確かにそれは異変ねぇ……ん?

 

 

「そこ、なにか思い当たる節でもあるのかしら?」

 

「え?」

 

 

気が付くと、ショートカットの子と、翼の生えた獣が、

明後日の方向を向きながら、すごい汗を流している。

 

……どうやら、この子達は、その異変の関係者だったみたいね。

 

 

「……ゴメン、それクロウカードの仕業」

 

「えっ!?」

 

 

やっぱり……

 

そのまま彼女は、申し訳なさそうにその外で起こった異変について説明をしてくれた。

 

 

「実際は、カード以外が起こしとる事件もあるんやけど、

 そういや、解決した事件の内容までは話しとらんかったな。」

 

 

ふぅん、カード……

内容から察すると、その子が異変を解決したみたいね

 

 

「よろしければ、今度お二人にもさくらちゃんの活躍を、撮影したビデオをお見せいたしますわ

 ところで紫さん、その異変ですが 起こった後は、いったいどうなるんですの?」

 

 

あら、ちょっと話がずれてしまったわね

それじゃあ、気を取り直して……

 

 

「これまでの異変はあそこの山にある博麗神社の巫女や、

 そのやり方をまねる者たちが、異変を起こす犯人達を懲らしめる事で、

 一応の解決を見せて来たわ」

 

 

「まぁ、さくらちゃんやなのはちゃんみたいな方が

 こちらにもいらっしゃるのですね」

 

 

「同じ……なのかなぁ?」

 

 

……むしろ、私にとっては外で同じような事をやっているのが驚きなんだけど

 

 

まぁ、そちら側の異変とこちら側の異変では、

異変自体の持つ意味は、大きく異なるでしょうから

全く同じと言う訳ではないのでしょうね。

 

 

だけど、どちらも解決されなければならないという点はおなじ、

こちら側においてはなお、異変を起こしている側にとっても……

 

 

「……でも、今回はこれまでの異変とは違う……

 あからさまな異変なのに、幻想郷の中に、

 異変を起こしている原因が見つからないのよ。」

 

 

……そう、巫女をはじめ、これまで幾人も、

あちらこちらで異変解決の為に行動しているけれど、

今回の事件は、未だ解決の糸口すら見つかっていない

 

 

「隠れてらっしゃる……わけではないですよね?」

 

 

「……ええ、先ほども言った通りこちら側で起こす異変は力の誇示の意味もあるし、

 幻想郷の中で、私が探して正体も居場所の検討もつかないと言う事は、

 絶対にありえないわ……」

 

 

もし、異変の原因が幻想郷にあるならばの話だけれど

 

 

「じゃあ、もしかして……」

 

 

 

 

異変に対する説明を聞いて、原因に心当たりがあるのか

ふんわりした子が、何か言おうとした瞬間……。

 

 

「おい! あたいを無視するなー!!」

 

 

周囲に響き渡ったヒステリックな声で会話が中断されてしまった

……もう、これからが肝心な所なのに。

 

 

「いい加減、しびれを切らしたみたいやな。

 短期そうなヤツやから、むしろよくここまで待ってくれたなぁって気もするけど……」

 

 

翼の生えた巨大な獣は、妙な訛りを口にすると、声の主をぽけっとした目で見つめていた。

 

 

「あの子も、妖怪なんですか?」

 

 

「いえ、あれは幻想郷中でよく見かける自然から発生する幻想。

 ……俗にいう、妖精という存在ね

 イタズラ好きだけど、幻想郷の幻想の中では一番弱い存在よ」

 

 

「うーん……妖精さんって、この世界でも

 イタズラ好きの所はかわらないのかなぁ……?」

 

 

ふわっとした子が、まるでどこかで

他の妖精に出会った事があるかのような口ぶりで漏らしたけれど……

 

まぁ、今回は関係なさそうだし

とりあえず、置いておくことにしましょう。

 

 

「あの子……

 もしかして、氷の妖精ですか?」

 

 

流石に、それは見ればわかるみたいね

 

 

「ええ、あれに関しては見てのとおりよ。

 ただ、あれは妖精の中でも特に強い力を持っているから、

 普通の人間ならば、逃げた方が賢明……」

 

 

そこまで言って、私はとあることを思いついた。

 

 

先ほど、この子たちの見立てをした際に、

各々が、強い力を秘めているのを確認できた。

 

この子達なら、もしかしたら……

 

……アレをああして、これをそうすれば……

ちょっと強引だけど、これならなんとか行けそうね

 

 

「……紫さん、どうかしました?」

 

 

黒髪の子が、話を中断したのを不審に思ったのか、そう言って声をかけてくれた。

ちょうど考えがまとまった所なので、私は早速……

 

 

「……ねぇ、提案があるのだけれど……

 あなた達、アレの相手をお願いできないかしら?」

 

 

彼女達に対して、こんな提案をしたのだ。

 

 

「ほえっ!?」 「えっ」 「ええっ!?」 「なんやて!?」

 

 

うん、いきなりこんな事言われたら普通は驚くわよね。

 

ただ一人、黒髪の子は何故か笑顔で目を輝かせてるけれど・……

 

 

「別に、さほど危険はないし、勝敗は気にしないわ。

 とりあえず、命名決闘法(スペルカードルール)を理解する為に、

 まずは一番基本的な方法で、あの妖精の相手をしてほしいの。」

 

 

「スペルカードルール……ですか?」

 

 

まぁ、まずはそこから説明しなきゃならないわよね。

 

 

「では……コホン」

 

 

そう言って、ワザとらしいセキを一つして、

彼女にスペルカードルールに関する説明を始めた。

 

 

スペルカードルールは、幻想郷での揉め事を解決する為の決闘法の一種。

霊力、魔力、妖力……己の持つ様々な超常の力を用いて、

異変を起こしている側は、出題者(ボス)となり、

スペルカードを宣誓し、それに応じた弾幕を展開、

異変を解決する側は、挑戦者(自機)となって、出題者のスペルカードを攻略する。

 

 

勝敗は、出題者側は、挑戦者の戦意を削り切れば勝ち。

 

 

対して、挑戦者側は、出題者側の展開する弾幕に対して、

出題者に一定の攻撃を加える、または一定時間耐えきる。

 

 

このどちらかを達成すれば、スペルカードを1枚攻略した事になり、

最初に宣言した枚数のスペルカードを攻略すれば、挑戦者側の勝ち。

 

 

負けた方は、余力があっても素直に負けを認め、異変からは手を引くのが基本的なルールだ。

 

 

「うーん、なんだかわかるようなわからないような……」

 

 

「なんだか、挑戦者側が圧倒的に不利じゃないですか、このルール?」

 

 

まぁ、異変を起こす側は基本的に目立ちたがり屋ですものねぇ……

 

 

「その代わり、出題者側は絶対回避不可能な弾幕を張ってはダメ。

 弾幕も、美しく展開しなければいけないし、意味のない攻撃もしてはいけない。

 挑戦者側は、規定回数まではスペルカードを使用して、

 現在展開されている弾幕を、除去する事も出来るの。

 

 どれだけ実力の差があっても、きちんと攻略の定石を踏んでいけば、

 必ず挑戦者側に勝ち目がある、それがスペルカードルールよ」

 

 

幸い、どの勢力からもこれまで、

この決闘法に関して、物言いがついたことは無い。

 

今はもう、幻想郷になくてはならないシステムだ。

 

 

「……でも、そのルールって弾幕っていうのが使えなきゃダメなんですよね?

 いきなり言われても、そんなのすぐには使えないし……」

 

 

「私のも、弾幕というよりは光線って感じですし……」

 

 

……確かに、いきなり外からきて、理解できるものでないことは確かね。

 

 

だけど、理解は出来なくても……使う事は可能よ。

 

 

「大丈夫よ、光線も弾幕に混ぜて使う事はできるし、

 ……試しにそこの獣、適当に力を使ってみて」

 

そう言って、金色の獣の方を指さすと、

周囲の子達も、視線を翼の生えた獣の方を向け、

獣は器用に前足の真ん中の指で、自分の事を指さした

 

 

「ワイ? まぁ、別にええねんけど……

 ワイかて、そんな弾幕ちゅう力はしらんで、

 普段は、こうやって火を噴くくらいや……見とれよ」

 

 

そういって、獣が四肢を伸ばして構えて口を開き、

そこに力を集中させ、火を噴きはじめると……

 

 

「ほえーーーーっ!?」「ええっ!?」

 

 

「はんはほひゃーーーーーっ!?」

 

次の瞬間、翼の生えた獣の口から、炎の代わりに色とりどりの弾幕が飛び出したのだった。

 

 

ええ、とっても愉快な光景でしたわ。

 

 

 

 




うーむ、こんな出来で大丈夫かなぁ
基本的に独自解釈の幻想郷・およびスペルカードルール解説になってしまった

なお、ケルベロスが弾幕を吐き出したのは幻想郷の環境自体が
弾幕を作り出すのに適していると解釈したからになります

割と幻想入りとかしてすぐに弾幕・スペルカード使ってるヤツが多い気もするし

しっかり集中すれば、幻想郷でも炎が吹ける感じです


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サイキョー妖精と弾幕ごっこ

 

 

不思議な世界、幻想郷で出会った八雲紫さんに勧められるまま、

ケロちゃんが炎を吐こうとしたところ

次の瞬間、ケロちゃんの口からは、昔のアニメにある石鹸を食べた動物のように

色取り取りの光の弾が飛び出してきました……。

 

 

……ケロちゃん炎なんて吐けたんだ。

 

この結果はケロちゃん自身も想定外だったようで、

口から弾幕を吐き出しながら慌てていましたが、

そんなケロちゃんを余所に、紫さんが語った話によれば……

 

 

「幻想郷で、戦う為に発現する力は、

 あらゆる種類の力が、弾幕になりやすい性質を持っているの

 ……そう、あなた達の持つ力でも例外ではない」

 

 

「あらゆる種類の力?」

 

 

紫さんの話を要約すると、世の中には魔力の他にも、

霊力、妖力などといった性質の違う超常の力が存在しているのだとか。

 

 

……どれもゲームとかでよく聞く単語ではあるけれど

そんないろんな力が魔法以外にも存在しているなんて驚きなの。

 

 

「まぁ、幻想郷ほどごちゃごちゃしてる所は他にないだろうけど、

 超常の力という点では共通しているし、魔力だけでも使い手で性質は違うし、

 人間にとって区別する意味はほとんどないでしょうね。」

 

 

「わかるような、わからないような……

 ……でも、幻想郷ではそれらの力は本来持つ性質に関わらず

 さっきケルベロスが吐いた弾幕になりやすいと?」

 

 

紫さんの話は、私達の知る一般常識と違うので、

ユーノ君も、結局どうしてそうなるのかはわからなかったみたい。

 

でも、弾幕に関しての考察はいい所をついてたらしく、

ユーノ君の質問に対しての返答には、おおむね同意してくれました。

 

 

「無論、きちんと集中すれば本来の力は使えるわ。

 

 ……逆に言えば、力ある者が幻想郷に来れば、

 誰でも、弾幕を使う事が出来るのよ。

 試して御覧なさい、こう軽く手をかざして……」

 

 

ざっくりとした説明をしてもらい

私達も教わった通りに手をかざして、力を集中してみると、

その瞬間、頭の中に光の玉が集まるイメージが浮かび、

手の中に魔法を使うのと、微妙違う力が集まってきたのを感じ

 

そして……

 

「……えいっ!」

 

イメージと共に、掌に集まったそれを解き放つと、

そこから、イメージ通りの光の弾の集まりが飛び出しました

 

「できた……!」

 

 

紫さんの説明があっさりしすぎてて、なぜこうなるのかはわからなかったけれど、

弾幕がどういうものなのかは、不思議と心の奥で理解できた気はしました。

 

 

レイジングハートなしで、こんな事ができるのはちょっと新鮮かも……

 

 

「射撃系魔法が、こんなにはっきりと……」

 

 

私の隣では、ユーノ君も弾幕を放っています。

その形は、どことなく鎖のようにつながっているように見えて、

相手の動くを拘束するバインドを彷彿とさせる見た目だったけど……

ユーノ君は、私がこれまで多用してきた砲撃魔法の系統は、

どういう訳か使えなかったそうなので、すごく驚いた顔をしてました。

 

 

「ほえっ!? なにこれ!?」

 

 

その時、突然さくらさんの悲鳴が聞こえて来たので、私たちはそちらに向くと……

目に映った光景に私達は、思わず言葉を失ってしまいました……

 

 

「え……なんですか、それ!?」

 

 

「これも……弾……幕……弾幕?」

 

 

そこにあったのは、さくらさんの手にくっついている、

直径がさくらさんの身長より大きい巨大な大きい光の玉……

これはひょっとして、さくらさんの弾幕……?

 

 

……いや、どう見ても弾幕じゃないよね、コレ。

例えるならば、大玉ころがしの玉が光っているような感じ……。

 

 

「どうしよう、全然離れない……」

 

 

おまけにこの大玉、さくらさんの手のひらからは飛び出ず、

手を振って振り払おうとしても、手にくっ付いたまま離れない。

 

 

「全く、何やっとんねん」

 

 

ケロちゃんは呆れた顔でそう言うと、さくらさんの反対側から大玉を口でくわえて、

そのまま後ろに引っ張っていくと、大玉はようやく離れ、

その後は、それでもその場に留まったまま光を放ち続けていました。

 

 

「……初めて見たわ、ここまで不器用な弾幕。

 

 いや、弾幕というより、大玉だけど、

 どこをどうすれば、あんなのが出てくるのかしら……?」

 

 

紫さんは半分不思議そうに、半分呆れた顔でそんな感想を漏らしてました。

 

 

「はぅ……」

 

 

それを聞いて、申し訳なさそうな顔をするさくらさん。

別に、悪いことしたわけじゃないから、そんな顔しなくてもいいと思うんですけど……

 

 

……そんなわけで、さくらさんは弾幕をうまく使えず

ユーノ君は男の子だからという理由で、ずっと上空で待ちぼうけをしていた妖精との

弾幕ごっこは、私が相手をする事になりました。

 

私が相手をすることに、ユーノ君は心配をしてくれたけれど、

女の子の遊びに、男の子が出て来たんじゃまずいだろうしね……

 

それにしても、人の事を言える義理じゃない気もするけど、

女の子の遊びにしては、ずいぶんと物騒な気がする……。

 

 

「なのは、気を付けて」

 

「無理しないでね、なのはちゃん」

 

少し不安に思いながらも、二人にそう言われて見送られながら、

私は魔法を使って空を飛び、空中に待ち受ける妖精の子との弾幕ごっこに挑むことになりました

 

 

「やっときたな、お前があたいの相手か?

 なんだかちょっと頼りない感じ

 ……あたいの名前はチルノ、あんたの名前は?」

 

「え……高町なのは」

 

妖精の子は、はっきりと物事を言う性格らしく、ちょっと失礼な事を言われた気がするけれど……。

 

反論するタイミングを逃してしまい、そのまま私も名前を名乗ってしまいました

 

 

彼女の性格は、氷の妖精という感じではなく、

むしろ、氷というイメージからは想像つかない、

よくいえば熱血漢、悪くいえば直情型という感じでした。

 

 

「よし!なのは、あたいと勝負だ!

 スペルカードはお互い3枚!

 あたいが勝ったら、あの塔はあたいのものだからな!」

 

 

……いや、東京タワーはそもそも私のものじゃないから。

 

 

強引な物言いに呆気にとられたけれど、

言い返す前に、弾幕ごっこの勝負は始まってしまい、

すぐさま、こっちに向かって、あの子の放った弾幕が迫って来ていて……

 

 

彼女は、いつもの魔導師の子とは違うタイプの……強敵でした。

 

 

最初にはなってきた攻撃は、散弾銃の如く広範囲に広がるものと、

円状に広がった後に一斉にこちらに向かって来る氷の弾幕。

 

 

どちらも弾速はそれほどでもないし、隙間が大きいので普通に動けば回避しきれるけれど、

これを呼吸するように連発されると、さすがにその物量に圧倒されてしまう。

 

弾速はそこまで早くないので、回避できない事は無いけれど、

この圧倒的な弾の量にはすごく驚かされました。

 

 

そうして、そこら中に展開された、弾幕を避けながら、彼女に何度か攻撃を仕掛けると

チルノちゃんは、愉快そうに口角を上げてニヤリと笑って、

今度はカードらしきものを高く掲げました

 

おそらく、あれが紫さんの言っていたスペルカード。

つまり、これからが弾幕ごっこの本番なのでしょう……

 

 

「アイシクル・フォール!!」

 

 

彼女がスペルカードの名前らしい言葉を宣言すると、

今度はすぐさま、先ほどとは比較にならない大量の……

 

でも、無造作ではなく、よく見れば何らかの規則に沿った、

どことなく美しい形をした氷の刃を左右から放って来ました。

 

「ッ! これがスペルカード……!」

 

 

左右の視界ギリギリのところから襲ってくる大量の氷の刃は、

その数で瞬時の判断能力を低下させ、結構な数がすぐ近くをかすめていき

バリアジャケットのかすめた箇所を確認すると、そこには白い氷の跡がありました。

 

 

こんなのが直撃したら、冷たいとか寒いとかじゃ済まないの。

 

 

彼女の正面には氷の弾幕は襲ってこなかったけれど、

流石にそれは向こうも理解しているようで、

別の弾幕を使って、その死角を埋めています……

 

 

「よけきれない……ここで1回!!」

 

 

この時は、スペルカードとして登録していたディバインバスターを

1枚使って、なんとか切り抜けることができたけれど……

 

 

「パーフェクト・フリーズ!!」

 

 

そう言って、新しいスペルカードを宣言したチルノちゃんは、

あちらこちらに色とりどりの弾幕を放ち始めました

 

さっきの弾幕とは軌道や速度が違うけど、

適度な距離を取って入れば、十分に避けられる。

そう考え、回避しながら攻撃を続けていると……

 

 

「止まれぇッ!!」

 

 

チルノちゃんの掛け声とともに、突然全ての弾幕が停止し、

あやうく、それにぶつかりそうになってしまいました

 

 

「!?」

 

 

ギリギリのところで、何とか踏みとどまれたけれど、

まさか、弾幕を途中で止める事が出来るなんて……

 

 

さらに、その状態で放ってきた別の弾幕を静止した弾幕の隙間を縫う形で避けると……

 

 

「動けぇッ!」

 

チルノちゃんが先ほどと違う掛け声をあげた瞬間、

止まっていた弾幕が、徐々に氷が解けていったかのように

徐々にスピードを取り戻しながら動き始めていきました。

 

 

驚異的とまでいうほど強い技ではなかったけれど、色々と興味が惹かれる技でした。

あれだけの弾幕が一斉に停止すると、スピードが完全に殺されて、意味をなさなくなる。

 

 

これは……もしかしたら使えるかもしれない。

 

 

あれほどの弾幕を放つのは大変そうだから、

私に、似たようなことをできるかはわからないけれど色々と参考になる攻撃です。

 

 

……ともあれ、このスペルカードも無事に切り抜けることができたので、

いよいよ、チルノちゃんは3枚目のカードを手に取り、

先ほどと同じように、カードの名前を宣言しました。

 

 

「ダイヤモンド・ブリザード!!」

 

 

すると今度は、チルノちゃんの周囲に氷の塊が現れ、

それらが次々とはじけ、弾幕となって周囲を埋め尽くしていきます。

 

全方位にこれまでの弾幕とは比較にならない大量の弾幕が放たれる、

正直パワーだけならば、私とじゃ比較にならないかもしれない、膨大な弾幕……

 

 

だけどよく見れば攻略できない弾幕じゃない。

 

 

これまでのスペルカードで弾幕に慣れたので、

出来るだけ彼女を射線上にとらえるように位置を取り、

残った2枚のスペルカードを使いながら、ギリギリの回避をしつつ攻撃を打ち込んで……

 

……そして、ついに

 

「うああああっ!?」

 

チルノちゃんの悲鳴と共に、展開されていた弾幕はただの光の粒子とな変わり

なんとか、最初の宣言通り、3枚目のスペルカードを攻略する事が出来ました。

 

 

これで、私の勝ちのはずなんだけど……

なんだか、チルノちゃんが両手で頭を押さえたまま動きません。

 

 

「あの、大丈夫……? どこか痛かったりする?」

 

 

 

ひょっとして痛いところに当てちゃったんだろうか?

心配になったので、近づいて声をかけたところ……

 

 

「……あっはっは!! やるなお前! なのはだったっけ?

 サイキョーのあたいに勝つなんて、大したもんだ! 気に入ったぞ」

 

 

さっぱりとした笑顔と、そして豪快な笑い声が帰ってきました。

……気にしてないのかな、今の勝負の事……。

 

 

「あ、ありがとう……」

 

 

「あーあ、これであの赤い塔はお前のものか

 暗いところでピカピカ光ったりして、面白かったんだけどなぁ」

 

 

チルノちゃんはそう言って、残念そうに東京タワーの事を見つめたけれど、

この間違いは解いて置かないと、後々面倒な事になりそうなので……

 

 

「いや、別にあのタワーは私のものってわけじゃなくて……」

 

「お? だったら、やっぱりあたいが貰っちゃってもいいのか?」

 

誤解を解こうとしたら、すぐさまそれを曲解されてしまいました。

 

……なんというか、チルノちゃんのこの性格はちょっと扱いに困る感じだ。

あの子のように、感情の起伏が薄いのもちょっと困るけど、

こうも直情的すぎるのも、長く続けると正直疲れます……

 

 

なんだろう? アリサちゃんが短絡的になったらこんな感じなんじゃないだろうか?

本人に聞かれたら、ほっぺ引っ張られるだけじゃ済まないだろうなぁ……

 

 

そんな、当人に聞かれたくない事を考えていると……。

 

 

『おつかれさま、無事に勝利できたみたいね』

 

「紫さん? 一体どこから……」

 

突然、紫さんの声がどこからともなく聞こえてきました。

 

周囲を見回してみたけれど、辺りに姿が見ええず、

先ほどまでいた展望台の上を見てみると、

紫さんはおろか、他の皆も誰も居なくなっていて……

 

 

「紫さん、いったいどこから……えっ?」

 

 

「うわっ!?」

 

 

他の皆や、声の出所を探ろうとした瞬間、

突然、足を引っ張られるような感覚がしたうえに

目の前に、暗闇の中に赤い目が浮かぶ不気味な光景が写りました……

 

 

その不気味な光景に思わず背筋が寒くなり、

思わず目を瞑ってしまいましたが、そのままなにも起こらなかったので

再度目を開くと……

 

私は、どこかの建物の中に立っていました。

 

 

「ん? どこだここ……あたい達、さっきまで外にいたはずなのに?」

 

 

どうやら、チルノちゃんも同じ状態に陥っていたようです。

 

 

この場所がどこだか気になったので、すぐ隣にあったガラス張りの窓を見てみると、

外には先ほど展望台で確認した、幻想郷の風景が映っていました。

 

 

「もしかしてここ、タワーの中?」

 

 

「タワーって、あの赤い塔?

 へぇ、中はこんな風になってたんだ」

 

チルノちゃんは、なぜここにいるかを気にせず、

周囲に興味津々の様子で、そこら辺をキョロキョロと見まわしていましたが……

 

 

「へぇ……それは興味深いわね……」

 

 

「ええ、よろしければ今度……」

 

 

「と、知世ちゃん……」

 

 

通路の奥側から、誰かが話している声が聞こえてきました。

声の中には、ユーノ君、さくらさん、知世さん、ケロちゃん、紫さん……

みんなの声が聞こえてきましたが、その中には知らない誰かの声も混じっていました。

 

 

不思議に思いつつも、声のする方に歩いていくと、そこで目にしたのは……

 

 

「ええっ!?」

 

 

そこは、東京タワーの展望台カフェエリア

 

その中心には、何故か先ほどさくらさんが出した大玉に、

チルノちゃんが出した氷の弾が、アイスのトッピングの様に突き刺さって……

 

その周囲には、ユーノ君、さくらさん、知世さん。

そして紫さんの他に見た事のない奇妙な格好をした人が、大玉をちぎり取っては口に運んでいる。

そんな奇妙な光景でした

 

 

 



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幻想とのご挨拶

 

 

なのはと、青い妖精が弾幕ごっこを初めた少し後。

 

二人の戦いをタワーから眺めていた僕たちのところに、

妖精の子が放った氷の流れ弾が降り注いで来るというハプニングがあったのだけれど、

 

 

みんな、物陰に隠れたり、防御魔法を使ったり、傘をさすなどをしたので、

被害は、着弾した一部の場所が凍った程度でした。

 

 

ただ、流れ弾は先ほどさくらさんが出した大玉にも当たり、

その結果、あの大玉の表面に氷の弾幕が散りばめられて、

まるでアイスクリームのようにも見える不思議な物体となってしまい……

 

「ほえ……どうしよう、これ?」

 

「この光の玉、いつまでこのままなのでしょうか?」

 

「さぁ、こんな弾幕は私も初めて見たから……どうなるのかしら?」

 

 

その奇妙な見た目に困惑する僕達をよそに、紫さんは頰に指を当てながら、

無意味に困った感を出して、無責任な事を言い始めた上……

 

「それにしても、見た目はすごく美味しそうね」

 

「まぁ、確かにうまそうに見えるなぁ」

 

紫さんに続いてケルベロスまで呑気な事を言い始めてしまいました。

 

 

……いくら美味しそうに見えるからって、魔力の塊が食べられるわけがないでしょ。

 

 

心の中で発言にそうツッこんだけれど、

ケルベロスは何か閃いたような顔をした後、さくらさんに耳打ちをすると

さくらさんは半分呆れた顔をしながらも、杖とカードを取り出してある魔法を発動させました。

 

 

その結果、目の前で起こった事は、先ほどの僕の予想を大きく裏切って……

 

 

「よっしゃ! 狙い通りや」

 

「まぁ……これは、すごいわね」

 

 

大玉は不思議な柔らかさを持った、なんとも言い難いお菓子になり、

突き刺さっていた氷は、アイスクリームっぽいものになってしまいました。

 

 

もしかして、今のはものをお菓子に変える魔法?

こんなの、見た事も聞いたこともないし、完全に子供向けの童話の出来事……

 

 

いや、今時の子供がこんな魔法信じるわけもないか。

 

 

だけど、そんな子供でも信じない様な出来事が目の前で実際に起こってしまった。

これまで何度も思ったけど、やっぱりさくらさんの魔法はあらゆる意味で普通じゃない……。

 

 

「常識なんて、打ち破るために存在しているようなものよ

 ……特に、この幻想郷では」

 

 

そんな僕の考えを見透かしてきたかのように、紫さんは僕にそう言ってきた。

 

 

……この世界に来てから、常識では考えられない事はたくさんあったんだけど

まだまだ、認識が甘かったのだろうか……?

この先、、こう言った事はまだまだ起こるのだろうか?

 

 

「それにしても、このお菓子の大玉……

 これだけあると、みんなで分けても、だいぶ余りそうですわね」

 

……確かに、なにせさくらさんの身長より大きな大玉が、まるごとお菓子になってしまったのだ。

 

みんなで食べても、どれだけかかることやら……

いや、甘いものこれだけ食べたら、流石に途中でうんざりしてしまいそうだ。

 

 

「これだけ多いと、雪兎さんでも食べきれないんじゃないかな……?」

 

 

さくらさんは、何故か月城さんの事を引き合いに出している……。

あの人、そんなこと言われるくらい食べる人なんだろうか?

 

見た目はすごくすらっとしてたし、おっとりとして、

少なくとも、健啖家には全然見えなかったけどな……?

 

 

「……その心配は無用よ。

 ちょうど、甘いものが欲しい所だったし、これならいいお土産になるわ。」

 

 

「お土産……?」

 

 

紫さんのお土産と言う言葉の意図が分からず、僕たちは思わず考え込んでしまったが……

 

 

「説明するより、直接紹介した方が早いわね、

 ちょっと、場所を移動しましょう。

 あの子達は、一区切りついてからにしましょうか。」

 

 

 

紫さんが意味ありげにほほ笑みながらそう言った直後。

 

いきなり、落下する感覚に襲われたと同時に

暗闇の中にいくつもの不気味な目が浮かぶ光景が見え……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、気が付いたらみんなと一緒に、ここに飛ばされてたんだ

 ……あ、これはなのはの分」

 

 

そう言って、僕は合流したなのはに、ここまでの事を説明してから

切り分けたお菓子を乗せたお皿を、なのはへと差し出した。

 

 

「あ、どうもありがとう。

 ……その奇妙な空間は私も見たよ。

 あれはいったいなんだったんだろう……?」

 

 

僕の知っている物とは大きく異なるけれど、

あの不気味な光景は、恐らく空間跳躍の為の異空間だと思う。

 

 

そして、恐らくあの異空間の入り口を造り出したのは、話の流れから考えれば……

 

 

「驚かせてしまってごめんなさいね。

 あの空間は、私の能力(ちから)で生み出した境界の裂け目……。

 私は、スキマと呼んでいるわ」

 

 

「スキマ……?」

 

 

「やっぱり、あの空間は紫さんの……」

 

 

思った通り、紫さんの仕業だったようだ。

 

あの能力、紫さんは軽く説明してくれたけれど、

考えてみると、あの力はかなり恐ろしい代物だ。

 

 

あの空間跳躍は、僕達がここに飛ばされた時も、なのはが飛ばされた時も、

発動する兆候や、発動した形跡は一切関知できず……。

 

 

僕は、その前の紫さんのセリフから、

使用者が彼女だと言う事を推測しただけに過ぎない。

 

 

効果範囲や対象が、どれだけなのかはわからないけれど、

もしあの力を悪意を持って向けられれば、とんでもない事になる事だけは想像がつく……。

 

 

この人は、いったいなんの目的があって、僕達をここに案内したのだろう……?

 

 

「警戒しないで、とりあえずあなた達に危害を加える気はないわ。

 ……ちょっと、面倒事は押し付けるかもしれないけど。」

 

 

「面倒事……?」

 

 

僕もなのはも、その言葉の真意を理解できずにいると

腰のあたりに、ふかふかした何かをたくさんつけた女性が、紫さんに近づいてきて……

 

 

「紫様、そろそろお話を始める準備を……

 あちらは、まだゴキゲンで居てくださいますが、あの子の方は、そろそろ限界かと」

 

 

「分かってるわよ、藍……

 それじゃあ、2人ともあちらの席について貰えるかしら?」

 

 

そう言って、紫さんが指差した先のテーブルには……

 

 

一足先に案内されていたさくらさんと知世さんとケルベロスが居る。

 

 

……そして一緒に、何故かさくらさんをひどく気に入り、

膝の上に乗せて可愛がっている、さくらさん以上にふんわりとした雰囲気のの女性と

その横で、呆れた顔をしているおかっぱの女性が居る。

 

さくらさんを膝の上にのせている女性は、楽しそうに彼女と話をしているけど

何故か、さくらさんは非常に困惑した表情をしており、ケルベロスは、少し呆れた顔をして……

 

そんなみんなの様子を、知世さんは構えたビデオで撮影し続けていた。

 

 

「紫さん、あの人は?」

 

 

「私の古い友人と、その側近よ……

 今回の一件に関しては、各種勢力の首魁達にも連絡を入れたのだけれど

 すぐさま都合がつくのが、彼女しかいなくて……

 ……さ、詳しい事は席についてからにしましょう」

 

 

なのはの問いに、紫さんはそう答えて席に座るよう促してきた。

 

……彼女も、紫さんの様な力の持ち主なのだろうか?

 

 

「お2人とも、こちらへどうぞ。」

 

 

今ひとつ、状況が飲み込めないまま、藍と呼ばれた人に案内され

言われるままに僕たちは席に着く。

 

いったい、紫さんは何をさせようとしているのだろうか……

 

 

……僕達が席に着くと、紫さんがふんわりとした女性に声をかけ、

彼女は名残惜しそうにしながら、さくらさんを解放すると

さくらさんと知世さんは、僕達側の席に着いた。

 

なんだか、さくらさん、だいぶぐったりしていたけれど……。

 

 

「さて、揃った所でまずは自己紹介から始めましょうか。

 では、改めて私から……幻想郷の管理人・八雲紫、妖怪の賢者と呼ぶ者もいるわ」

 

 

「紫様の式、八雲藍です」

 

 

紫さんは、先ほど色々説明してもらったから大体の事はわかるけど、

その従者だという藍さんの言った【式】と言うものが、今ひとつ理解できなかったが……。

 

すぐさまケルベロスが、小声で式についての説明をしてくれた。

 

「あの式ちゅうんは、妖獣とかに、制御する為に、式神ちゅう術を被せた存在の事や。

 あの尻尾からすると、アレの正体は妖力を持ったキツネで、

 それを紫ねーちゃんの造った式神を乗っけて、あの姿になっとるわけやな」

 

……ケルベロスが説明してくれた内容と、同じ魔法技術には覚えがあった。

僕たちは式と呼ばないけれど、同じタイプの魔法は何度も見聞きしたことがあるのだ。

 

 

「……つまり、いつものあの子が使っている

 アルフの様な使い魔の様なものってこと?」

 

 

あれも、ケルベロスの言った式と同じ、動物に魔力を与えて従者とする魔法の一つだ。

 

考え方としては間違っていなかったようで、

ケルベロスはそのままうなづいて肯定を示してくれたが……

 

 

「……せやけど力量は、全く比較にならへんで。

 あのねーちゃんの尻尾、9本あるやろ、

 あれは九尾っちゅうて、極めて力の強いキツネ妖怪やないとああはならん。」

 

 

あの腰のフカフカは、キツネの尻尾だったんだ……

 

使い魔も、普通の動物が人間の姿をするようになるけれど、

尻尾が沢山増えたりするなんて事は、聞いた事が無い。

 

 

……っていうか、この世界にはそんなキツネいるんだ。

 

 

「狐の妖怪は、特に数や種類が多いさかいな。

 九尾ともなると、普通は式にするどころか、よほどの術者でも相手にならん大物妖怪やで……

 当然、あれを式にしとるあのねーちゃんも、とんでもない力の持ち主っちゅうわけや。」

 

 

「ほえ~……」

 

 

ケルベロスの説明を聞き、恐る恐る横目で二人の様子を確認してみると、

どういう訳か、紫さんはすごくニコニコとした顔をしており、

藍さんは、その横でため息をつきながら頭を抱えていた

 

 

……こうしてみると、有能そうな人なのはわかるけど、

そんな危険な人には見えないんだけどなぁ……。

 

 

「じゃあ、次はは私の番ね

 白玉楼(はくぎょくろう)の主、西行寺幽々子よ。」

 

 

「白玉楼庭師兼・幽々子様の護衛、魂魄妖夢です。」

 

続けて、白玉楼と言うのは勢力の名前だろうか?。

そこの主と護衛だという二人が自己紹介をしてくれた

 

 

紫さんの力と、藍さんの話を聞いた後だからか、

幽々子さんと妖夢さんは、二人と比べると割と普通に見える。

 

 

しいて言えば、妖夢さんの周りに尻尾の生えた白い球の様なものが、

ふわふわと浮いているけれど……

 

 

「あ……あの妖夢さん、そのふわふわ浮いているのは……?」

 

 

さくらさんも、同じ事が気になったのか、

ストレートにそれについて質問をしたけれど、心なしか、なんか青ざめてる気がする……

 

 

「あぁ、これは私の半身の霊体……

 わかりやすく言えば……人魂ですね」

 

 

「ほええぇっ!? ヒトダマ!?」

 

 

それを聞くと、さくらさんはものすごい悲鳴をあげて後ろに飛びのいた。

 

 

「ああ、そう言えばオバケがダメダメだって言われてたわね。

 ……それにしても、ちょっとショックねぇ……

 幻想郷の実力者を前にしても、動じた様子はなかったのに、

 からかさや、半分だけの人魂を、こんなに怖がられるなんて……

 ちょっと、自信失くしちゃうかも。」

 

 

そう言って、紫さんは頬に手を当てて切なげにため息をついた。

ちょっと、わざとらしそうな感じだったけど……

 

 

「さくらちゃんは、幽霊や訳の分からないものが怖いそうですから、

 難しいものより、シンプルな怖がらせ方が効果的なのかもしれませんね。」

 

 

知世さんはそう説明すると、紫さんは、ちょっとあきれた表情になってました。

 

……スキマ通った後、さくらさんかなり怖がってましたけど。

 

 

「……あ、じゃあ今度は私の番ですね。

 木之本桜、小学6年生です」

 

「高町なのは、小学3年生です」

 

「ユーノ・スクライア、こことも、外とも別の世界からやって来て

 少し前まで、遺跡発掘の責任者をやってました」

 

「大道寺知世、さくらちゃんのクラスメートですわ

 魔力のような力を持っておりませんが

 いろんな形で、さくらちゃんのサポートをやらせていただいてます」

 

 

目の前の人と違って、僕達にはあまり語れるような事がないので、

軽く自分たちの名前とちょっとした経歴などを名乗って、自己紹介を終える。

 

 

「封印の獣ケルベロス、魔術師クロウ・リードに造られた封印の獣や。

 今はさくらのサポート役ってところかいな」

 

 

ケルベロスは、僕達より圧倒的に長く生きているから、

説明しようとすれば、もっと語れる気もするけれど、

お菓子に夢中だったので、自己紹介も僕たちと同じ控えめな感じで終わらせた。

 

 

そう言って、僕たちの簡単な自己紹介を終えると

紫さんは、にっこりと、しかしどこか怪しげな微笑みを浮かべ……

 

 

 

「どうもありがとう。

 ……それじゃあ、自己紹介も済んだところで、

 あなた達をここに呼び寄せた理由を語らせてもらうわ。」

 

 

 

僕達をここに呼んだ目的を語り始めたのだった。

 

 




思うところあって、この時点での自己紹介してくれる東方勢の数を減らしました
それに伴い文字数も1000とちょいダウンサイジング

それ以外は加筆修正したから、読みやすくなってるといいなぁ


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幻想の危機、さくらの選択

 

 

なのはちゃんが、弾幕ごっこと言う名前の勝負を終えて帰ってきた後、

私達と紫さん達の自己紹介が一通り終わると、

紫さんは私達を呼んだ理由を語り始めました。

 

 

「現在、幻想郷はかつてないほどの危機にさらされているの、

 それも……存亡の危機と言ってもいいレベルの……ね。」

 

 

これまでは、どこか飄々としてつかみ処がない感じでしたのに、

この話を始めた紫さんは、これまでとは打って変わって、

極めて真剣な表情で、重々しくそう言ったのです。

 

 

「存亡の危機……ですか?」

 

 

「ええ、幻想郷では過去に、スペルカードルール制定のきっかけとなった、

 幻想郷始まって以来の大事件があったのだけれど……

 あの時でさえ、存亡の危機というほどのレベルではなかったわ。」

 

 

「……まぁ、あれはあれで、いいきっかけではあったけれどね」

 

 

幽々子さんは、紫さんの言葉に合わせるようにそう言うと

口元をセンスで押さえ、なにか思い出し笑いをしている風に見えました。

 

 

一方、紫さんは不機嫌そうな顔になっていましたが……

 

 

そこまで聞くと、私の頭の中でちょっとした疑問が浮かんできました。

 

 

「先ほどの話ですと、幻想郷では

 異変はよくある事の様におっしゃってましたけれど

 今回の事件は、それとは違うのでしょうか?」

 

 

通常の異変というものが、どういうものかは分かりませんが、

異変が日常的に起こっている世界であれば、

形がどうであれ、それを解決する力は持っているはず。

 

そう思って尋ねると、紫さんはゆっくりと頷いてから答えてくれました。

 

 

「……今回の異変と、通常の異変の大きな違いは、

 先ほども言った通り、異変の原因が幻想郷の中にない事なの。

 だから、幻想郷の中では、解決する術がない……」

 

 

「と、いう事はまさか……」

 

 

今起こっている幻想郷の異変の原因は、幻想郷の外……

流れからすれば、恐らく私達の世界にあるという事なのでしょう。

 

 

「……本来、外の世界と幻想郷との接点は数える程度の数しかないわ。

 

 忘れられる事で、存在が稀少となったり、

 外の世界と縁を切るなどして自らが幻想になる幻想入りと呼ばれる方法。

 

 その他に、まれにある結界のほころびから入る、私が案内する

 まぁ、どちらもめったにない事なんだけれど……」

 

 

「そういうわけで、幻想郷の主な住人は気軽に外に出ることはできない…… 

 ……つまり、外界に原因がある異変に対しては、

 直接的に手出しすることはできないのよねぇ……」

 

 

紫さんの話に続いて、幽々子さんが

幻想郷の方々が、今回の異変を解決できない理由を教えてくれました。

 

 

そういえば、紫さんは幻想郷の事を、

外の世界で忘れられたものが流れ着く世界とおっしゃってましたっけ……

 

 

ケロちゃんがいつも言っている魔法の使い方と同じように、

その辺りには、私の分からない決まりごとがあるのでしょう。

 

……でも、そうなると一つおかしなことがあります。

 

 

「……紫さん、私達が入ってきたあのほころびもそうですが、

 何故、東京タワーはこちら側にあるのでしょうか?

 スカイツリーのせいで、確かに多少目立たなくなってはいますが、

 未だに根強い人気のあるスポットですのに……」

 

少なくとも、人々から忘れられた存在……

先ほど紫さんがおっしゃった、幻想入りする代物ではないはずです。

 

 

「うん、大きな塔だからどこからでも見えるし、

 こんな大きなもの、簡単に忘れられないはずだよね。」

 

「テレビの電波は終わっちゃったみたいだけど、

 ラジオの電波とかは、今も発信しているはずですよ。」

 

 

「僕達が展望台に座った時も

 まぶしいくらいにライトアップされてたし……

 取り壊さでもしない限りは……」

 

 

みんなも、その事については同意見のようで、

各々、自分の意見を口にしていました。

 

 

「そう、この電波塔は幻想入りするには、まだ早すぎる。

 ……にも関わらず、こうして幻想郷に半分入り込んでしまった。

 つまり、なにかの原因で、幻想と現実の境目があやふやになり、

 幻想への流れが、異常なまでに加速しているの。」

 

 

「幻想の加速……? そんな事、ありうるのですか?」

 

 

詳しい事は分かりませんが、どういう事なのかは、

今起こっているこの現象をみれば、おのずと察しがつきます。

 

 

「……もし、このまま加速が進んでまえば、

 幻想郷と、ワイらの世界の境目がなくなってしまうっちゅうわけやな。」

 

 

「ええ、そうなれば結界は意味をなさなくなり、

 幻想郷も、存在意義を無くしてしまう……

 その結果がどうなるか……」

 

 

「外の連中が流れ込んでくるか、こちら側のザコ妖怪が外で暴れまわるか。

 いずれにせよ、ろくでもない事になる事だけは確かです。」

 

 

紫さんの問いに対して、側についている藍さんが返してきた答え……

それが現実のものになってしまえば、

どちらの世界でも、大きな被害が出てしまう事でしょう。

 

 

「今のところ、他の建物が幻想入りしようとしている形跡はないわ。

 小物とかは、少しずつ増え始めているけれど……

 今のところ、これが一番の大物ね。

 

 ……でも、そのせいか電波塔の場所に、大きな結界のほころびが出始めているから、

 幻想入りを食い止める為に、つっかえ棒をしておいたんだけど、

 貴方たちと戦ってた、金髪の子に持ってかれちゃったし……」

 

 

「え……!?」 

 

「もしかして、そのつっかえ棒って、

 あそこにあったジュエルシードの事ですか!?」

 

 

そのつっかえ棒の争奪戦を、先ほどまでしていたなのはちゃんとユーノ君は、

それを聞いて、二人とも驚いた顔をしました。

 

 

宝石の種(ジュエルシード)、あなたはそう呼んでるのね。

 この間、外で強い力を放っていたのを見つけたから、

 何かに使えると思って、持ち帰ったのだけれど……」

 

 

「ジュエルシードは、元々は僕が他の世界で発掘したものです。

 それが、事故でこの世界にばらまかれてしまって……

 ……あの、もしかして幻想の加速の原因は……」

 

この異変の原因は自分のせいなのだろうかと思ったのか、

身体をすくめて、しゅんとしてしまったユーノ君

 

 

けど、紫さんは彼を責めませんでした。

 

 

「心配する必要はないわ、これとそれとは別問題よ、

 今回の事件は、あくまで異変……首謀者は、存在するはずなの。

 

 ……そこで、これからがあなた達に頼みたい本題。

 あなた達には、この事件を起こしている黒幕を見つけ出して欲しいの。」

 

 

「ほえっ!?」

 

 

「あらあら、いきなりストレートに言うわねぇ。」

 

突然出された、紫さんからの依頼。

 

 

まぁ、途中からそんな感じになる流れは感じていました。

……確かに、紫さん達が外に出られないのであれば、

事態を理解できる、外側の人に頼むしかないのでしょうけれど……

 

 

「別に、黒幕を倒せとは言わないわ、

 あくまで見つけ出して欲しいだけよ。

 そうすれば後は、私が何とかするから……」

 

 

「……紫さん、その黒幕というのは、

 あの子とも、関係あるんでしょうか……?」

 

 

なのはちゃんは心配そうに、

そして真剣な表情で紫さんに問うと……

 

 

「あの宝石を持って行った子ね。

 ……タイミングを考えれば、無関係とは思えないわ。

 あの様子から見て、誰かの命令で動いてるみたいだし……」

 

 

「その誰かが……黒幕……?」

 

 

そう言うと、なのはちゃんの表情は、

更にこわばってしまったように見えました。

 

 

「……あいにく断言できるほどの情報は持ってないわ。

 ただ、あんな小さな子を、一人で矢面に立たせるからには、

 ろくでもないヤツなのは、間違いないはず。

 ……下手をすれば、いずれは使いつぶされるのが関の山よ。」

 

 

「!?」

 

そして、紫さんが予想した彼女の行く末を聞くと

なのはちゃんの顔に、驚愕の色が浮かんでしまいました……

おぼろげながら、そのイメージが見えてしまったのでしょう。

 

 

「……紫さん、

 もしこの話を断った場合はどうなりますか?」

 

 

「……警戒しなくても、このまま外界に帰ってもらうだけよ・

 ただ、異変の内容次第では、あなた達にとって、

 その結果起こりうる事が、他人事でなくなることだけは確かね。」

 

 

……なのはちゃん達と出会ってからはや数日。

 

今回の事件を除けば、これまで起こった事件は、

すべてジュエルシードが関係する事件でした。

 

 

でももし、それとは別に事件が起こっているのならば……

その被害が、私達の知る誰かに降りかからないとも限りません。

 

 

「……でも、その黒幕相手に僕達だけで大丈夫なんでしょうか?」

 

 

「無論、この話を受けてもらえば、直接的でないにせよ、

 私達からも、最大限の支援を用意するわ。」

 

 

そう言った紫さんの表情は、これまでにない真剣なものでした。

 

「あなた達の運命と、幻想郷は一蓮托生。

 決して、支援の手は抜かないし、

 異変解決の暁には、私達にできる事ならば、

 どんな願いでも、かなえる事を約束するわ。」

 

 

紫さん達の真剣な様子から察するに、

……おそらく、私達に頼る以外、

異変を解決する術はないのでしょう。

 

 

「……なのは、どうしようか。

 僕は、散々なのはに迷惑をかけてきたから、

 なのはの決定に従うよ。」

 

 

「迷惑だなんて、そんな……

 でも、私達の世界にも影響が出るんだったら何とかしたいと思うよ。

 ……あの、さくらさんと知世さんは……?」

 

 

ユーノ君に相談されたなのはちゃんは、私達の方に話題を振ってきましたが……

 

 

無論、私はさくらちゃんについていくつもりです。

そして、さくらちゃんは真剣に悩んだ顔をした後……

 

 

「……ケロちゃん、もしこの異変を放っておいたら

 大変なことになるんだよね?」

 

 

「ああ、世界の境界の歪みは、ワイも前に見た事がある。

 もし、そんなんを完全に起こしてしもうたら大変なことになるやろ……

 今度は下手せんでも、地球がどっかーん! ちゅうことだってありうるわ。」

 

 

ケロちゃんの真剣な表情をした発言に、さくらちゃんは一瞬恐れの表情を見せましたが、

すぐに、何か決意をした表情で、なのはちゃんとユーノ君の方を向き頷くと、

2人とも、強い意志を秘めた表情で同時に頷き返してくれました。

 

 

そして、次に私の方へ顔を向けて来てくださったので

私も、さくらちゃんに従う意思を見せ、無言のまま頷き返します。

 

さくらちゃんは最後に、紫さん達の方へ向くと……

 

 

「わかりました、紫さん。

 どこまで出来るか分かりませんけど……

 私達で、出来る限りやってみます。

 絶対、大丈夫だよ……!」

 

 

何時も、さくらちゃんが言っている無敵の魔法の言葉を言ったのです。

 

 

この言葉に、幽々子さんはにっこりと笑ってくれ、

藍さんと妖夢さんは、一瞬驚いた表情を見せて……

 

そして、紫さんは、安堵するような微笑みで

 

 

「……ありがとう」

 

 

静かに、そして優しい口調でお礼を言ってくださいました。

 

 

 

 




展開と文章が、ちと駆け足になってしまったかなぁ……
幻想郷勢力は、うかつに表に出せんからこういう形になってしまった

とは言え、ちゃんと後々の章でもちゃんとした出番を出す予定です
外で活躍させるための条件が、ちょっとばっかし捻ってありますが


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幻想を観るモノ

 

 

ある日、突如として

店の前に、この塔が現れてから一月が経った。

 

 

見立てると、全長千尺を超えるであろう馬鹿馬鹿しいほどに高いこの塔は、

何の嫌がらせか、寄りにもよって僕の店の上に現れ、

昼間は影を作って周囲を日陰にしてしまい……

 

 

そのくせ、夜は無駄に様々な色に光って、まぶしい事この上ない厄介なヤツだ。

 

 

更に厄介な事には、塔の物珍しさに寄ってきた妖精や妖怪達が、

これを自分のものにしようと、毎日の様に弾幕ごっこで縄張り争いをするので、

その流れ弾がこっちの方に飛んでくるので、たまったものではない。

 

 

全く、本当に困ったものだ

 

 

……一度、この塔を調べに八雲紫がやって来て、

曰く、これは外界の中心ともいうべき場所にある

東京タワーと言う名の電波塔だという事を教えてくれた。

 

 

電波塔は、以前にもこちら側に来たものがあったから知っているが、

それでもせいぜい、森の木より少しばかり背が高い程度だったので、

この東京タワーとは、比較にもならないシロモノだ。

 

 

なんでも外界では、最近更に大きな電波塔が出来たことにより、

少しばかり目立たなくなってしまったそうだが、

まだ幻想入りするには早すぎるとも言っていた。

 

 

これより大きいとは、外は一体どうなっているのだろうか……?

 

 

そんな事を考えていると、八雲紫が彼女にしては珍しく深刻な顔をしていた。

 

なにかを考えていたようだが、話しかけても反応が無かったので放っておいたら、

気が付いた時にはいつの間にか姿を消していた……

 

 

その翌日、再び店に現れた彼女は、

僕にも滅多にお目にかかる事のない材料を持ってきて、

早急にこういうものを造ってくれと早口で注文すると、

僕が返事をする前に、またどこかへと消えてしまったのだ。

 

 

滅多なことで動じないあの大妖怪が、深刻な顔をしていた上、

普段なら絶対にしないであろう注文を出してきた事から……

 

 

恐らくこの異変は、現在起こっている博麗の巫女では手出しができず

放っておけば幻想郷の存在を危うくしてしまうモノであることは、

なんとなく予想が出来た。

 

 

そうなってしまえば、僕にとっても他人事ではない。

だから精魂込めて三日三晩かけ、彼女の注文した道具を作り上げた。

 

 

特に以来の期日は決めていなかったので、どうやって渡すか少し悩んだけれど、

……とりあえず、置いておけば彼女が勝手に持っていくだろう。

そう思って、その道具を置いてひと眠りしたのだが……

 

 

その後、眠りから覚めても件の道具は棚の上に置きっぱなしで、

更に1週間経っても、再び彼女が現れる気配は微塵もなかった。

 

 

……もしや、注文を忘れているのか?

 

 

一昨日、野暮用でやってきた魔理沙に目をつけられてしまい、

どこか気に入った様子を見せ、危うく持っていかれそうになったが、

八雲紫の注文だと言ったら、ひとまず引き下がっていってくれた。

 

 

ただ、魔理沙の性格上、放って置きっぱなしの状態が続けば、

いつまでもこれが無事である保証はない。

 

 

そうなれば、僕か魔理沙のどちらかに彼女の怒りが向けられることだろう。

 

……全く、世の中は理不尽だ。

 

 

「……このまま放っておいたら、本当に持っていかれしまいそうだよ。

 本当に忘れているんじゃないだろうな……」

 

 

誰もいない店の内、心の中で彼女に悪態をつきながら、

ぼんやりとそんな独り言を言っていると……

 

 

「失礼、なかなか適任者が見つからなかったので、

 受け取りに来ることが出来なかったのよ。」

 

突然、入り口の方から声が聞こえてきた。

 

振り向くと、そこには件の注文主が笑顔で佇んでおり、

さらに、彼女が最も信頼する側近と、

これまでに、見かけた事の無い少年少女達が居た。

 

 

「……全く、貴方はいつもそうだ、

 来るかと思えば来ず、来ないと思ったらいきなり現れる。

 その気まぐれに付き合わされる身にもなって欲しいものだ。」

 

 

「あら、今回は不可抗力よ、

 適役がなかなか見つからなかったんだもの。」

 

 

そう言って、彼女は子供たちの方を向いた。

 

 

この子達の着ている物は、明らかに幻想郷の住人の衣装と違う。

……まさか、外界の人間なのか?

 

 

「紫さん、この人は……?」

 

 

「この古道具屋の店主よ。

 あまりに商売っ気が無いものだから、

 品物は棚の飾り物か、勝手に持っていかれる方が多い、

 商売人としてどうかと思うタイプなのだれど……」

 

 

その説明はどうかと思うのだけどな……

まるで盗みを働かれても動かないダメ店主じゃないか。

 

 

「放って置いてくれ、どうせ趣味でやってるような店だ。

 ……それに、勝手に持って帰られてる訳じゃない、

 生きている間は借りておくだけだそうだ。」

 

 

そう言うと、紫も藍も呆れたような顔をしてしまった。

 

……自分で言っておいてなんだが、あまりに苦しい言い訳だったか。

 

 

だが、気を取り直して、僕は初対面の小さなお客の方に向き、

まず自己紹介をすることにした。

 

 

「……僕の森近霖之助、この道具屋・香霖堂の店主だ。

 ようこそ、外からのお客様。」

 

 

「はじめまして、木之本桜です。」

 

 

彼女に続いて、八雲紫が連れてきた子供達は、次々と自己紹介をすると、

一通り終わった後、店内を物珍しそうに見回し始めていた。

 

 

人里の子供は、こういったものに興味を抱くものは少ないが、

外の世界の子とはそうでもないのだろうか……?

 

 

「こちらの棚に並んでいる物は……

 写真やテレビで見た事がありますわ。

 実物を見るのは、私も初めてですが……」

 

 

「そこの棚は、外の世界から流れてきた品を並べてあるんだ。

 君達くらいの年齢では、幻想入りする前の実物は、

 見た事が無いかもしれないね。」

 

 

見たところ、全員10前後の年齢と言った所……

幻想入りしたもので、本物を見た事があるものはいないだろう。

 

 

「……? 霖之助さん、この棚に並んでいる物はなんですか?

 そっちの棚と比べて、使われている技術が大きく違うようですけど……」

 

 

「そちらの棚は、主に買い取った品物を並べておく棚だよ。

 妖怪、魔法道具、その他君たちの知らない世界から、

 流れて来たものを並べてあるんだ。」

 

 

金髪の少年・ユーノは、興味津々な様子で棚の品物を眺めていた。

棚に置いてあるものは、大したものではないが、

この品物自体の異質さに気付くとは……将来有望な子かもしれない。

 

 

「そちらに並んでいるのは、衣服の生地でしょうか?

 なんだか、ずいぶんと変わった感じのものですけど……」

 

 

「それは、弾幕ごっこでボロボロになった衣服の修理などを請け負う事もあるから、

 それなりに備えは用意してるんだ。

 こちら側の品物だから、外では見かけないだろうね。」

 

 

知世は、今度は衣装に使う反物に目を付けたようだ。

心なしか、生地を見た彼女の目が居ように輝いている気がするが……

服作りに、興味があるのだろうか……?

 

 

「はぁ~……なんか知り合いの店を思い出すなぁ、

 あそこも、ぎょーさん不思議な力を持った道具が置いてあったし……」

 

 

「ほえ? 知り合いのお店って、ケロちゃんの知り合いの?」

 

 

「もう、とっくに亡くなっとるけどな……

 クロウ以上に、性格ひん曲がったヤツやったで……」

 

 

黄色い小動物の様な妖獣は、この店を見て何かを思い出していたようで、

その口調からは、懐かしい様な、また面倒の様な、

複雑な感情が見え隠れしていたのがわかった。

 

外の世界にも、こんな雰囲気の店があったのか。

もう存在していないようだが……

今もあったなら、自分も見て見たかったな。

 

 

「……さて、頼まれていたものはとっくに出来てるよ、

 こんなモノを作らせるとは、あなたらしくないな。」

 

 

そう言って、棚の奥にある箱を取り出し台の上に置いた。

とりあえず、渡してさえしまえばもうこちらに責任はないはずだ。

 

 

「それだけ、事態は切羽詰まっているという事よ

 事はもう、幻想郷だけで済む問題ではなくなっているわ」

 

そう言って、箱を手にした彼女は箱を開いて中身を確認した。

 

表情こそ普段通りだったが、どこか彼女らしくない焦りを感じる、

やはり、状況はかなりまずいようだな……

 

彼女はそう言って、箱の中から注文品を取り出すと、

子供達の前に差し出し、渡した品についての説明を始めた。

 

 

「……さて、あなた達には先ほども言った通り、

 現在起こっている異変の黒幕を突き止めて貰いたいのだけれど、

 もしもの時の為に、あなた達の助けとしてこれを渡しておくわ。」

 

 

「これは……懐中時計ですか?

 ふたが、レンズみたいになっているようですが……」

 

 

彼女が作らせたあの懐中時計は、八雲紫の持つ能力の一部を、

他者が使えるようになるというシロモノで、

特定の条件を満たしたうえで、これの力を使えば、

遠く離れた場所を繋ぐスキマを産み出す事が出来るのだ。

 

 

強固な結界が張ってある場所では、簡単に使う事は出来ないが

……今の状態ならば、幻想郷との繋がりを作ることもできる……

 

普段の彼女なら、絶対に作らせるはずのない、

外と幻想郷の境界を、あやふやにしかねないモノだ。

 

 

「敵は、かなり狡猾で強かな相手よ、

 単なる力だけでは、窮地に陥る事もあるかもしれない。

 ……そんな時、これを使えばごくわずかな時間だけ、

 幻想郷の住人の力を、借りる事が出来るの。」

 

 

「幻想郷の住人って言うと、

 チルノちゃんみたいな子達ですか……?」

 

 

「ええ、幻想郷の中ではそこそこの力量だけど、

 それなりにてこずったでしょ?」

 

 

確かに、知世ちゃんを除く3人と1匹は、かなり強い力を持っているようだが、

幻想郷を揺るがすような異変を起こす様な相手では、

何が起こるかはわからないし、外の子供に任せるだけでは、

妖怪の沽券と言うものも立たなくなる。

 

 

ならば、彼女たちに力を貸したうえで、

異変を解決したことにすれば、それなりにメンツは立つ……が……

 

 

「……ただ、注意してほしい点がひとつあるわ。

 呼び出す為には、呼び出す対象と約定を結んだうえで、

 なんらかの対価を支払う事。」

 

 

「対価……ですか?」

 

 

そう、幻想の力を借りるという事は決して軽くはないのだ。

 

 

「等価交換……ちゅう訳か。

 魔術を使う上やと、ただで力を貸してもらうんは色々問題になるさかいな」

 

 

「ええ、難しい所ではあるのだけれどね。

 約定に関しては、それなりの手助けはするけれど、

 対価となる物に関しては、あなた達でなんとかして頂戴。

 

 そして、基本的に強い力の持ち主ほど、対価は重いと思っておいて。」

 

 

大義がどうであろうと、ただで力を貸せと言うのは、

妖怪の存在意義に関わる問題だ。

故に、対価を求めるのはそうそう不自然な事ではない。

 

 

だが、普通の妖精ならともかく、

その他の者達がどれだけの要求をしてくる事か……

 

 

「……紫さん、その対価って、あんまり危ない事は無いんですよね?」

 

 

「正直、要求される内容と相手次第ね。

 無論、あまりに危ないものは私の方で突っぱねるし、

 約定を結んだうえで、それを破るバカはまずいないと思っていいわ。」

 

 

人間相手に約束を破るなど、いかなる妖怪にとっても屈辱でしかない。

だが、足元を見てくる者は居ないとも限らないが……

 

 

「分かりましたわ、紫さん。

 対価に関しては、私の方で考えておくので、交渉の仲介はお願いいたしますわ。」

 

 

知世ちゃんは、対価に臆した様子もなく

八雲紫も、満足する表情を見せ、了承するようにうなづいた。

 

あの動じなさは、中々に見習うべきものかもしれない。

 

 

「ところで、この懐中時計なのですけれど、

 なんだか、どこかで見た事ある様な感じなのですが……」

 

 

「ああ、ワイも同じ事思っておった

 これ、あれをパクっとるんとちゃうんか?

 本家と元祖があったり、寿司と天ぷらがあったりする妖怪ウォッ……むぐっ!?」

 

知世ちゃんは、品物について何か思い当たる事があったようで、

そこに同意した妖獣が、その思い当たった何かの名前を言おうとしたところ……

 

すかさず、八雲紫が人差し指を突き出して妖獣の口をふさぎ、

続きを言えなくしてしまう……。

 

「さぁ……何の事かしら?

 その幻想鏡(ゲンソウキョウ)は、あくまでオリジナル製品ですわ。」

 

 

よほど、言わんとする言葉が不都合だったのか……。

彼女は人差し指で口をふさぎ続け、知らぬとばかりに、

視線を横に逸らして恍ける気満々の態度をとりはじめた。

 

 

……ちなみに、このデザインは彼女の指定だ。

 

 

「紫様、その態度はいかがなものかと思います、

 ……変な形で張り合わないでください。」

 

 

そんな主の態度を、藍がすかさずいさめるが……

 

 

そう言えば、最近南の方から現れた、今まで見た事もない妖怪に対し、

なにかと張り合っていると、妖怪の間で噂になっていた気がするが……?

 

 

まぁ、それとこれとは関係なさそうなので、

とりあえず放っておいてもいいだろう。

 

 

……そうして、子供達は彼女から幻想鏡を受け取ると、

すぐさまその力を使って、各々の自宅へと帰っていったのだった。

 

 

悪用されると、とんでもない事になる代物だけれど、

彼女達ならば、正しく使いこなしてくれるだろう。

 

 

僕は、ようやく手元を離れていった品の事を考えながら、

この日は、すぐさま身を休める事にしたのだが……

 

 

……その翌日、早速知世ちゃんだけが店へとやってきたのだ。

 

 

まさか、昨日の話の通りに、

僕の力を借りるつもりなのかと思っていたのだが……

 

「すいません、こちらの生地をいくらか分けていただけないでしょうか?」

 

 

彼女の目的は、店にあった生地の取引だった。

 

取引自体は、八雲紫も了承しているので、

彼女が持ち込んできた外の世界の品物と交換する形になり、

それを想定していた彼女から、いくらかの面白い品物を受け取ると

その対価として十分な生地を彼女に渡したのだ。

 

すると、生地を受け取った瞬間、

彼女はこれまでに見せた事のない輝かんばかりの表情を見せると

僕に礼を言って、再び外の世界へと帰っていったのだが……

 

 

この後、彼女が持って帰った生地は、

後に僕も八雲紫も想像だにしなかった、

幻想郷に対しての、新しい風をもたらす事になるのだが……

 

 

 

この時点で、幻想郷でそれを想定していたものは誰も居なかった……と思う。

 

 

 




さて、これにて2章終了になります
3章からは、フェイトサイドが大幅に強化されていく予定

今回の話、大幅強化前にさくらのバトルコスチューム強化などをするのが目的だったりします
作中操られた小狼の斬撃でしか傷つきませんでしたが
それ以外は、割とフツーのコスプレ衣装ですし……

……つまり、ユエ戦での頑丈さは彼女の素の状態での防御力?


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第3章:強襲、友枝町
身体の真ん中が虚ろになって


今回から三章入ります
こっから、なのはのストーリーから大きくそれる予定です
……二章でも、大概でしたけどね


 

 

不思議な世界、幻想郷を訪れてから数日後の事……

 

 

ユーノ君から頼まれたジュエルシードの探索に加え、

幻想を加速させている黒幕の探索を

紫さんにお願いされた私達でしたが……

 

 

あれから現在に至るまで特に変わった事は起こらず、

それどころか、ジュエルシードも見つからなくなってしまいました。

 

 

さくらちゃんはなのはちゃん達と力を合わせて、

周囲をパトロールしつつ、必死に探索をしていましたが、

それでも、手掛かりになりそうな物すら見つけられません。

 

 

「まさか、残りのジュエルシードは全部彼女が……?」

 

 

ジュエルシードを見つけられない不安から、

ユーノ君は不安げな顔でそんな言葉を口にしましたが……

 

 

「……いや、それは流石に無いと思うで、

 残りもまだ結構な数やさかい、

 アイツだけで、しかもワイらに気付かれず回収しきるんは無理や

 

 ……それに、全部集めるつもりやったら

 いずれなのはの持ってるジュエルシードも狙うてくるはずやからな。」

 

 

ケロちゃんは、その意見を否定したうえで、

いずれは、なのはちゃんの持っているジュエルシードを

狙ってくるだろうとの予見を立てていました。

 

 

いずれ、あの子とも決着をつける時は来るのでしょうが……

 

 

それにしても、なぜ急にジュエルシードは見つからなくなってしまったのでしょうか?

 

偶然、現在活動しているジュエルシードが無いのか……

それとも、これも幻想の加速の影響なのか……

 

 

とにかく、今はどんな事件が起こっても、

慌てず対処できるように備えておくべきです。

 

 

「あの……だったら、ちょっとお願いがあるんですけど」

 

 

すると、なのはちゃんも何かを考えていたようで、

すぐさま、さくらちゃんにとあるお願いをしてきたのでした。

 

 

「え……!? だ、大丈夫なの……?」

 

 

そのお願いに、さくらちゃんは心配そうな顔をされていましたが、

ケロちゃんは、なのはちゃんの意見に頷き、

ユーノ君も、一緒にお願いしたいと賛成したので……

 

 

今、さくらちゃんとケロちゃんは月峰神社で、

さくらカードを使い、なのはちゃんとユーノ君を特訓しています。

 

 

ここは、友枝町でも特に魔力の集まりやすい場所なので

ケロちゃん曰く、魔法の特訓にはもってこいだそうで……

 

 

そして、私はと言うと……

ケロちゃんの背中に乗って空中から、

さくらちゃんがお二人を鍛えている所を撮影中です。

 

 

「あれっ!? ここ前も通ったのに!?」

 

 

二人を交互に撮影していると、

下から、なのはちゃんの慌てた声が聞こえてきます。

 

 

 

「なのは! その先は行き止まりだよ!

 少し戻ったところを右に曲がって!!」

 

 

すると、少し離れた所からその声に応えるように

ユーノ君がなのはちゃんに道案内をする声も聞こえてきました。

 

 

……今回、さくらちゃんが2人に出したお題は、

『迷』(メイズ)のカードの攻略です。

 

 

どんな手を使っても、迷路を抜け出せたら成功と言われたので、

なのはちゃんは、いきなり迷路の壁を

得意技のディバインバスターで貫こうとしたのですが……

 

 

……でも、『迷』の壁って普通に壊そうとするだけでは、

すぐに元通りになってしまうんですよね。

 

 

さきほどなのはちゃんは、急いで開けた穴を突破しようとして、

危うく壁にぶつかりそうになっていました。

 

 

おまけに空を飛ぼうとしても、壁が伸びて邪魔をされてしまうので、

二人とも、地道に足を使って出口に向かおうとしています。

 

 

観月先生が、月の鈴を使った時は再生しませんでしたから、

ケロちゃん曰く、今のさくらちゃんならば、

壁を普通に壊せるとの事ですが……

 

 

「……いいのかなぁ、『迷』のカード、

 あの時は観月先生が攻略したのに……」

 

 

カードさんは、自分の力を攻略した相手を主と認めるので、

あの時は、観月先生がカードを手にしたのですよね。

その後、すぐにさくらちゃんに渡してくださいましたけど……

 

 

「かまへんって、自分の力でカードに変えたんやさかい。

 ……それにしても、『迷』には流石のあの2人でも手こずる様やな……

 ま、だからこそ特訓になるんやけど。」

 

 

迷路の中は、普通の空間と感覚が違うせいか、

二人とも攻略には、まだまだ時間がかかりそうです。

 

 

「……でもケロちゃん、なのはちゃんの魔法の威力は凄そうなのに、

 なんで『迷』の壁が壊せないのかな……?」

 

 

そう言えば、観月先生が壁を壊した時には、

手にした月の鈴をコツンとぶつけるだけで

壁が粉々になっていました。

 

 

なのはちゃんの得意技、ディバインバスターはピンク色の強そうな光線を放つ技で

実際、威力の方もかなりありそうなのですが……

 

 

何度やっても、壊れたかと思った直後に再生されてしまったため、

最後にはキツネにつままれたような顔になってしまって……

 

 

「なのはの魔法、威力はいいトコ行っとるんやけど、

 魔力そのものの扱いが、素っ気無いんがなぁ……」

 

 

さくらちゃんの質問に、頭をかきながら

ケロちゃんは少し悩んだ感じの表情を浮かべていました。

 

 

2人の魔力に、何か思う所があるのでしょうか?

 

 

「……素っ気ない?」

 

 

「昔からある古い魔術は、手順を踏んできちんと約束事を守ったら

 ある程度までは、誰でも使えるちゅう話は覚えとるか?」

 

 

「えーっと、たしかクロウカードについて説明してもらった時に聞いたような……」

 

 

私は、さくらちゃんが使うカードをずっと見て来たので、

その辺の事情はよく分かりませんが……

 

 

おそらくクロウさんや李君のご家族、そして李君の執事の偉さんのような、

魔法を使う事の出来る一族の方は、そうやって魔法を使い始めていくのでしょう。

 

 

そう言えばユーノ君は、この世界に魔法があると思ってなかったそうなので、

ユーノ君が使う魔法は、またそう言ったものとは別なのでしょうか?

 

 

「あの二人の使うとる術式は汎用性……

 つまり、誰にでも使えるちゅう部分を強調した魔法で、

 ごっつ制御しやすいけど、反面使い道はかなり限定されてまうんや。

 

 なのは達の使うとる魔法は、強力やけど不思議っぽい感じはないやろ?」

 

 

「まぁ……言われてみれば。」

 

 

確かに、カードの起こす効果は色々と不思議な物がありましたし、

それと比べてしまうと、少し味気ない感じはするかもしれません。

 

 

「あの術式やと、『迷』の壁を壊しきるだけの効果は出せん。

 

 ……なのはの魔法、同じ系統の術者相手やったら有利に戦えるやろうけど、

 そうでない相手……特に搦め手使って来るようなヤツには、

 苦労させられるかもしれへんなぁ……」

 

 

搦め手……カードさんの中だと、『小』(リトル)『眠』(スリープ)でしょうか?

現在攻略している『迷』にも、大分苦戦していらっしゃいますし……

 

 

「……なら、その術式をなんとかすれば大丈夫なんじゃないの?」

 

 

「それは言うほど簡単な話やあらへん。

 さくらがクロウカードが使えんようになって、さくらカードに変えた時みたいに、

 人それぞれ、きちんと適合する術式は異なるんや。」

 

 

何気なしにさくらちゃんが提案した術式を変える方法は、

ケロちゃんからはバッサリと否定されてしまいました。

 

 

「迂闊に合わん術式を使うたら、それこそ大変な事になるし、

 そもそもあの2人はなんちゅーか……ん?」

 

 

続けて出てきたケロちゃんの言葉には

二人に何か思う所があったようにも聞こえましたが……

 

 

話の途中で、ケロちゃんは何かに気付いたようで言葉をそこで止めてしまい

それに釣られて、私達がケロちゃんの視線を追うと……

 

 

その先では、ユーノ君が足をふらつかせているのが見えました。

 

 

「! さくらちゃん! 『迷』のカードの解除を!

 ユーノ君の様子がおかしいですわ!!」

 

「え……!? いけない!!」

 

 

続いてさくらちゃんも事態に気付いたため、

すぐさま杖を使って、『迷』をカードに戻し、周囲の光景が元通りになると……

 

 

地面に手を突く形で倒れ込んだユーノ君の元に、

まずなのはちゃん、続いて私たち全員が駆け付けました。

 

 

「ユーノ君、どうしたの!? 顔色、なんだかよくないよ!!」

 

 

「大丈夫……

 すいません、せっかく特訓してもらってたのに……」

 

 

苦しげな顔をしながらも、心配をかけないよう

なんとか平気そうに見せようとするユーノ君。

 

だけど、明らかにその表情は苦しさを隠しれていませんでした。

 

 

「なにか、ご病気なのですか……?」

 

 

「まさか、この間のケガが……」

 

 

倒れた原因はいったい何なのか……

 

 

なにか、悪い病気でしたら、今のユーノ君の立場では

お医者様にかかることは難しいはずです……

 

「いや……本当に大丈夫だから……」

 

 

「大丈夫なわけあるかい!

 どこや!? どこが痛いんや!?」

 

 

それでもなお平静を装うユーノ君に

ケロちゃんが怒鳴りつけた次の瞬間……

 

 

 

―――グウゥゥゥゥ……

 

 

 

「ん……?」

 

 

「今の音は……」

 

 

「ひょっとして……」

 

 

周囲には、大きなお腹の音が響き渡り……

 

 

「……おいユーノ、お前まさか……」

 

 

ケロちゃんのあきれたような声を聞くと……

 

 

ユーノ君は申し訳なさそうに頬を掻きながら、顔を真っ赤にしていたのでした。

 

 

 

 

 

「……そら、ぶっ倒れて当たり前や。

 フェレット並の飯の量しか喰っとらんやなんて……」

 

 

呆れた顔でユーノ君にお説教をしているケロちゃん。

 

 

「す、すいません……

 あの姿で活動する分には、あれで足りるんですけど……」

 

 

どうやら、倒れた原因は極度の空腹だったようで……

 

 

ユーノ君は、近くのお店で買って来たパンとコーヒー牛乳を

申し訳なさそうに口にしていました。

 

 

「ちゃんと言ってくれてたら、

 ご飯もっと持って行ってあげたのに……」

 

 

「本当にゴメン……でも、結局フェレットのままじゃ

 結局、そんなに多くは食べられないから……」

 

 

確かに、フェレットの姿ならば十分だったかもしれませんが、

ここしばらくは人間の姿で活動してる事が多かったですし、

身体の大きさを考えると……こうなって当たり前ですわね。

 

 

「よく食べるんは魔術師の基本やで、

 美味いもん食って、栄養にして身体を作るのと同じ様に

 周囲から力を集めて、自分の力にせな、強い力は使えん。

 

 生活も魔術の一環やで、このアホゥ。」

 

 

「うう……」

 

 

食べる事に拘るケロちゃんならではのセリフに、

ユーノ君は反論できないみたいです。

 

 

……でも、困った問題ですわね。

 

なのはちゃんの家にいる時はずっとフェレットで居なければならないので、

またいずれ、再びこういう問題が起こってしまいますし、

かと言って、なのはちゃんのご家族に正体を明かす訳にも……

 

 

「今、なのはの家族に正体をバラしたら、多分ただじゃすまされないと思います

 巻き込んじゃったこともそうだけど……その……その他にも、色々と……

 

 

なんだか、今最後の方が大分小声でしたが……

まぁ、なのはちゃんは気にしていらっしゃらないようですし、

ここを追求するのは、野暮と言うものでしょう。

 

 

「……小僧が居ったら、メシくらい喰わせてもらえたかもしれんけどなぁ。」

 

 

「小狼君……確かに、料理は好きだって言ってたし、

 男の子同士だし、発掘とか、遺跡とかの話が好きだったから、

 ユーノ君とも、気が合いそうだよね。」

 

 

そう言えば、李君はさくらちゃんのお父様が友枝小学校で講師をやった時、

遺跡の話題で、普段とは違って興味津々な態度でさらに詳しい話を伺っていましたわね。

 

遺跡発掘をしていたユーノ君とは、きっと気が合ったことでしょう。

 

 

「……この事は、後で紫さんに相談してみましょうか?

 答えを返してくれるかはわかりませんが……」

 

 

「食事の事で相談って……なんだか、本当に申し訳ないです。」

 

 

「そんな事無いよ、一杯食べるのは健康な証拠……!?」

 

 

そして、ユーノ君の食糧事情をなんとかしようとを相談していると……

 

 

突然、周囲からそれまで聞こえていた物音や声が消え、

重苦しい雰囲気が周囲に広がりました。

 

 

……さくらちゃん達にはもちろんのこと

魔力の無い私にもわかるくらい、何かがが変わったと思えるような感覚で……

 

 

「ケロちゃん、これって……!」

 

 

「ああ、誰かがこの近くに結界を張ったんや!

 なんか、ちょっと妙な感じの結界やけど……」

 

 

本来、結界は力のないものを中に寄せ付けないためのものだそうですが、

これまではケロちゃんの力を借りて、

私も、あの子が作った結界の中に入る事が出来ていました。

 

 

ただ、今回はケロちゃん曰く、ちょっと妙な感じだそうで……

 

 

「妙な感じって……あの子の結界じゃないの?」

 

 

「いや、アイツのとは結界の性質がちゃう。

 もしかして、コレがあのネーちゃんの言ってた黒幕に関係しとるんか……?」

 

 

未だ目にしたことのない幻想を加速させているという黒幕……

 

 

この結界は、その何者かが作ったものではないかと思い、

突如変わった周囲の様子に、私達が警戒していると……

 

 

「きゃーーーーーーっ!!」

 

 

突如、絹を裂くような女の子の悲鳴が聞こえてきました。

 

それも一つだけではなく、友枝町のあちこちからたくさん……

 

 

 



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新世紀末少年伝説

今回から新規特殊タグ一つ追加
このタグが関わる参戦作品は、タグや前書きに入れませんし
基本的に、原作作品の敵サイドのみが関係します
カオスな新展開……になってくれるといいなぁ


 

 

……最近、なのはの様子がおかしい。

 

 

この間、すずかの家に招待されたとき、

森の方に行った子ネコを追いかけていった後くらいから……

 

あの時は、特に変わった様子もなく、

子ネコを抱えていつも通りの様子を見せていたみたいけど……

 

 

それから、私達と話している最中も、話そっちのけで

ぽけーっと何かを考えてることが多くなってた。

 

 

子ネコを探しているときに、何かあったのだろうか?

 

 

今考えてみれば、子ネコを追いかけていっただけにしては

時間がかかり過ぎていたし……

 

 

だけど、なのはになにかあったのか聞いても、

別に何もないと言って、はぐらかされてしまった。

 

 

どう見たって、何もないって感じじゃないのに……

 

 

……今回に限った事じゃないけれど、なのははなんでも抱え込み過ぎる

 

ツライ事があろうが、苦しい事があろうが、

周りに心配かけまいとして、全部抱え込んでしまうのだ。

 

 

そこが、なのはらしいと言えばらしいけど、

悩みがあるならば、せめて私達には打ち明けて欲しい。

 

長い事付き合ってきた親友なんだから……

 

 

……まぁ、それでもなんともないと言う顔をされたので

カチンと来て、ついついきつく言ったのは、

ちょっとは、私が悪いかもしれないけど……

 

 

すずかからは、何度も仲直りするように言われているが

向こうから、ちゃんと話すまでは許すもんか。

 

 

せめて、何で悩んでるかがわかるまでは、絶対にだ。

 

 

そんな私達の心配を余所に、あれから放課後や塾が終わった後、

なのははどこかへと姿を消してしまう。

 

待ち伏せしても捕まらないし、後をつけてもすぐに撒かれ、

家に帰ってるかと思えば、どうも様子が違うみたいだし……

 

 

ケンカしている最中なので、気まずさは感じているようだが

その割に、前よりも笑顔でいる事が多くなってるような……

 

特に、別の子達とつるんでいる様子はないみたいだけれど……

 

私達の気も知らないで、一体、なにをやってるんだか?

 

 

……そして最近、奇妙な目撃情報が耳に入った。

 

なのはの姿を、少し離れた友枝町で見かけたのだという。

 

 

友枝町は、海鳴市から結構近い所だけれど、

あんな所にいったい何の用があるんだか……

なのはの場合、電車代もバカにならないだろうし。

 

 

だが、その直後に聞いた話に関しては、

流石に耳を疑う内容で、思わず目撃者の肩を掴んで二度聞きしてしまった……

 

 

友枝町でなのはは、事もあろうに近い年頃の男の子と、

親しそうに話していたというのだ。

 

 

……いやいや、あのなのはが?

 

 

人付き合いを避けてる訳じゃないけれど、

しっかりしすぎた性格や……もしくは、私達のせいなのか……

 

 

幼等部のあの事件以降、ボーイフレンドはおろか、

新しい友達を作る雰囲気すらなかったのに……

 

 

それが事もあろうに、友枝町で男の子と親しそうに話してたぁ!?

 

 

「もしかして……なのはちゃんの彼氏?」

 

 

すずかもそれを聞くと、流石に驚いていた……

流石に、彼氏云々は早計な気がしないでもないけど……

 

……でも、私達の事を避けてるって事は、

そっち方面もありうるっちゃありうる……?

 

 

おのれ、なのは……

私達に話せないってのはそれの事か!?

 

 

話をしてくれた相手を問い詰めて、更に掘り下げて聞いてみると……

 

 

なのはの相手らしき男の子は、金髪のショートカットで、緑色の目をしており、

なんでも、友枝町でも有名なスポーツ万能の明るい子で、

一昨年眠れる森の美女の劇でやった王子様の役がとても評判高かったとか……

 

 

話を聞いてみると、絵にかいたような少女漫画の恋人役っぽい感じ……

……もし黙ってる理由がコレだとしたら……許せん!!

 

 

……別に、なのはに先を越された事が許せないのではない。

 

こんな面白……もとい、大事な事を私達に相談もせず、

一人で抱え込もうとしている事が許せないのだ……

 

 

男が出来たら、親友なんてもう過去のものだってか!?

あの薄情者!!

 

 

「アリサちゃん……顔、酷い事になってる……」

 

 

すずかの忠告はとりあえず聞き流すとして……

月村邸での一軒が、その子と関係しているかはさて置き、

この事については、あらためてなのはに問いたださなくては!

 

 

……ただ、この程度の噂話がネタ元じゃ、

問い詰めたところで、すっとぼけられてしまうだろう。

 

 

……やるからには、現場を押さえなきゃ。

そしたら、いくらなのはでもごまかしきれまい……

 

 

……そういう訳で、今はすずかと一緒に、なのはらしい女の子の目撃情報があった

友枝町の神社へ、クルマで向かっている所だ。

 

 

「アリサちゃん、やっぱりやめた方がいいんじゃないかな……?」

 

 

すずかは今さら怖気づいたのか、追跡をやめようと言ってきたけれど、

今さら、やめられるわけがない。

 

 

「なによ今更……

 すずかだって、興味がないわけじゃないんでしょう?」

 

 

「それは、そうだけど……

 けど、こんな事したらますますこじれちゃうんじゃ……

 立場が逆だったら、アリサちゃんだって……」

 

 

……まぁ、確かに私が同じ事やられたら怒るだろうけど……

私の場合は、ちゃんとこじれる前には話すと思う。

きっと、多分、おそらく、メイビー……

 

 

……だから、あくまで悪いのは黙りっぱなしのなのはだ。

 

……うん、それだけは間違いない。

 

 

「……それに、友枝町って一昨年あたりから、

 不思議な現象が起こってり続けてるから……」

 

 

「あー、なぜかこの一帯だけ春先に大雪になったり、大豪雨になったり

 公園の滑り台が、ひっくり返されたりってやってたわね……

 でも、それだったら最近の海鳴だって……ん?」

 

 

心配し続けるすずかと、そんな話を続けていると、

近くに信号や歩行者もないのに、車はゆっくりと減速しつづけ……

 

そのまま、ぴたっと止まってしまった。

 

猫でも横切ったのだろうか?

そう思って、運転席の方に目をやると……

 

 

「ん……?」

 

 

どうした事か、そこに先ほどまでいたはずの運転手の姿が無くなっていた……

 

 

ドアを開けた音は全然聞こえなかったし、周囲にも姿は全く見えない。

 

 

そもそも、私達に断りなしに車を止めて、

外に出て行ってしまったのなら運転手としては問題が……

 

 

……そこまで考え、おかしいのは運転手だけでない事に気がつく。

まだ人の多い時間帯の市街地なのに、周囲の人の姿があまりにも少ないのだ。

 

 

目につくのは、私達と同じか上くらいの女の子ばかりで、

みんななにかに慌てているみたいだ……

 

 

「すずか! 外に出るわよ!!

 ここ……なんかおかしい!!」

 

 

「え……アリサちゃん?」

 

 

奇妙な雰囲気から危機感を感じ、このままここにいるとまずいと感じた私は

すずかを連れて車の外に出たが……

 

 

「きゃーっ!!」

 

 

すぐさま、あちこちで女の子の悲鳴が次々と上がり、

それと同時に、ローラーが滑る音と、品の無い歓声が後ろから迫ってきた。

 

 

「なに!? この音……!」

 

 

私達は振り向いて、聞こえてきた方向を確認すると……

 

そっちからは、全体的に緑色のコーディネートをし、

はちまきにモヒカンヘアーや、ソリコミにピアスをしてる異様な集団が、

アニメに出て来そうな……でも、それにしてはおもちゃにも思えない武器を手に、

足元を怪しく光らせ、地面を滑る様な不可解な動きで迫って来ている光景だった。

 

 

なんなのよアレは!? どう考えても出る世界観間違えてんでしょ!!

 

 

心の中で、そんなツッコミをした次の瞬間、

私達は、すぐさまその世紀末な連中に囲まれてしまった……

 

……こうして近くで見ると、イカれた見た目のわりに、

背格好から私達と年の近い小学生なのは間違いなさそうだけど……

 

 

聞いたことないわよ、この辺にこんな不良丸出しの小学生が居るなんて!!

 

 

私達を囲んだ不良達は、まるで獲物を囲んだハイエナみたいに

不快なニヤケ面と品の無い笑い方をしている……

 

この……世紀末少年を相手に、

すずかは怯えているかのように不安げな顔でして……

私は、ただ強くそいつらを睨みつけていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁーーーーーっ!?」

 

 

―――ゴツン!

 

 

 

襲ってきた不良相手に、足元にチェーンバインドをかけて転ばせる。

見た目はかなり地味だけど、地面を滑るように移動する相手の

進行方向に張っておけば効果覿面だ。

 

 

……ちょっとやりすぎな気がしないでもないけれど、

向こうから襲って来たんだし、この際大目に見て貰おう。

 

 

空腹を満たして一息ついた直後、突如として周囲に結界が張られたのを見て、

すぐさまフェイトがやって来たと思ったが、

この結界はどことなく、彼女の造ったそれとは違うように感じられた。

 

 

なら、誰がこの結界を張ったのか……

 

 

答えを出す前に、突如女の子の悲鳴が聞こえてきたので

急いでみんなと駆けつけると、そこで僕は目を疑うような光景を目にした……

 

 

そこに居たのは、さくらさんと同じ友枝小学校の制服を着た女子生徒と、

それを取り囲む、異様な恰好をした……

多分、僕より少しだけ年上と思われる、異様な恰好の男子達。

 

 

背丈はそれっぽいけれど、目つきと髪型は、どうしても小学生には見えない。

 

だが、そんなものより問題なのは彼等から放たれている魔力光と、彼ら一人一人が手に持っているシロモノ……

 

見た目こそ一般的な物とは違うけど、アイツらの動きや魔力の動きをみれば、あれは僕の居た世界で魔法を取り扱う為のデバイスと酷似している……!

 

何故、アイツらがあんなものを持っているんだ!?

 

僕の疑問をよそに、駆け付けてきた僕達の気配に気づいたヤツらは足音に気付いてこちらを向いた。

 

最初に何かに驚いた様子を見せて、全員で顔を見合わせたかと思うと、囲んでいた子への包囲を解いて、一斉に僕達の方に向かってきたのだ。

 

 

……いや、正確に言えば僕達じゃない。

 

彼等の視線が向いているのは、僕とケルベロスを除く三人。

 

なのは、さくらさん、知世さん……

 

 

こいつら、女の子を狙っているのか!?

 

 

なのはとさくらさんも、彼らの目的におぼろげながら気づいたようで、

僕達は、知世さんを守る様に彼女の前に立ち、

彼らの目論見を阻止するために、彼らと交戦を始めた。

 

 

まず、最初にケルベロスが先頭に立って大きな声で咆えた。

 

こんな大きな獣に、あれだけの大音量で咆えられたら大の大人だって身がすくむ……

案の定、向かってきた奴等の大半は、驚いて足を止めてしまった。

 

 

ならばと、ケルベロスを迂回して向かって来ようとするが、

今度は僕となのはの出番だ。

 

 

相手の方が数が圧倒的に多く、一人ずつ倒していったのでは間に合わないので、

僕達は十字砲火になる形で、この間覚えたばかりの弾幕を放つ。

 

幻想郷の外だからか、あの時ほどの威力は無いけれど、

あれだけ密集していればどれかには当たるし、ひるませる程度の事は出来る。

 

そこをなのはは本来の強力な砲撃で狙い、

僕はその隙にチェーンバインドを利用して、

編隊を組んで移動している奴等の先頭の相手を狙って転ばせた。

 

 

これだけの反撃をされるのは想定外だったのか、

倒れた奴等がもう一方から攻めていった奴等の方に助けを求めようとしたが……

 

 

そちら側は全員、バッタリと倒れてしまっていて、

よく見ると、中には鼻提灯を膨らませているモノまで居た。

 

 

あれをやったのは、おそらくさくらさんだろう。

僕達はまだ目に知った事はないけれど、アレだけカードがあるのだから、

おそらく眠らせる魔法のカードを持っているのだろう。

 

 

……それがどういう魔法で、どうなってああなるのかは、

カードの術式そのものが僕達の使うものと全然違うので分からないけど……

 

 

そうやって倒したり、後ろに備えていた残りの敵はその光景に恐れをなしたのか、

眠っている仲間を置いて、そのまま一目散に逃げて行ってしまった。

 

 

一息ついた所で、先ほどまでアイツらにに囲まれていた、

友枝小学校の制服を着た女の子達のいた方向を見ると……

 

 

僕達があいつらの相手をしている間に逃れたのか、もう姿が見えなくなっていた。

無事に逃げられていればいいんだけれど……

 

 

「驚きましたわ……まさか、あんなに魔法を使う子達が一斉に襲って来るなんて……

 男の子だから、魔法少女では無さそうでしたけど。」

 

 

知世さんは、驚きながらもどこかのんきそうなことを言っていた。

……魔法少女と違って、魔法少年とか言う言い方はしないのだろうか?

 

 

「ユーノ君、あの子達が持っていたのって、

 レイジングハートや、あの子の使っている杖と同じデバイス……なのかな?」

 

 

「うん……そうだと思う。

 

 多分、インテリジェントデバイスよりも扱いやすいストレージデバイスだと思うけど

 ……でも、どこか違う気がするし、あれだけの数のデバイスをいったいどこから?」

 

 

扱いやすくてインテリジェントデバイスよりは安価と言っても、

子供が取り扱えるような値段じゃないはずだし、

使い方を知らないで、使えるような物じゃない。

 

もし、あれらを持ち込んだ可能性があるとすれば……

 

 

「……まさか、あの小娘か?」

 

 

「断言はできないけれど……」

 

今のところ、他に考えられる可能性は無い。

何故こんなことをしたのかは、皆目見当つかないが……

 

「じゃあ、この子達も、ユーノ君と同じ世界の子?」

 

なのはは、少ししっくりしない感じでそう言ったけど、正直僕もそれは無いと思う。

 

人の事を言える立場じゃないけれど、

本来、管理外世界での魔法の使用は禁止されているし、

そこまでの度胸がある様な相手にも見えない。

 

 

そうなると、彼らはこの世界の人間と言う事になるけど、

まさか、あんなに魔導師の素質を持った子が居たなんて……

調査によれば、素質を持った人間は少ないはず……

 

 

……ん、ちょっと待てよ?

これまでに2度、危ない目に逢ったけど……

 

 

・なのは

ジュエルシード回収時、大怪我をして助けを求めた時に

近くを通りかかっていた所を助けてくれた。

ものすごい魔力の持ち主。

 

 

・さくらさん

なのはと一緒に魔導師との戦闘でピンチになった時

魔力の気配を察知して、助けに来てくれた。

とてもすごい魔力の持ち主で、お供のケルベロスもすごい。

 

 

……とてつもない魔法の素質を持った少女が近くを通りかかった上、

更に危ない状態で、もっとすごい魔法の使い手が近くを通りがかる偶然、あるんだろうか?

 

 

……もしかして、こういう事?

 

 

~仮説~

この世界の人間に表向き魔法技術は無いが、

ひとたびきっかけがあれば覚醒して、かなりの力を発揮する。

 

 

確かに、なのはもさくらさんも、魔法と遭遇したことで、

魔法の素質が開花していったみたいだし、それに……

 

 

・幻想郷の皆さん

なのはと激戦を繰り広げたチルノが、

下から数えた方が早い程度の強さ。

 

 

海鳴市と、友枝町と、幻想郷くらいしか知らないのに、

これだけとんでもない事態に遭遇し続けたと言う事は……

 

 

~結論~

調査不足

この世界には、まだまだ不思議がいっぱいです。

 

 

「ユーノ君、どうしたの?」

 

 

「いや、なんでも……あはははは……」

 

 

なのはの問いに対して、もう乾いた笑い声しか出なかった。

……なにやってたんだ、管理局!?

 

 

「1人見つけたぞ!!」 

 

 

「待てぇ! 絶対に逃がすな!!」

 

 

そんな理不尽な答えにたどり着いて、

黄昏ている僕の事を余所に、近くからまたもや女の子の悲鳴と、

奴等の仲間だと思う声が聞こえてきた。

 

 

「ユーノ君! あっちで誰かが追われてる!」

 

 

「!? いけない! 急がないと……」

 

 

また、誰かが襲われているのか……!

 

 

なのはの声で我に返った僕は、すぐさま声の聞こえてきた方へと走り出した。

 

 

僕が一番声のする方向に近かったので、一番最初に声の元に駆けつける事が出来たけど、

その先にあった角を曲がって、僕が目にした光景は、

女の子を追ってきた、先ほどの連中と同じ格好をしたやつらと……

 

 

「!? アンタ、アイツらの仲間……!?」

 

 

そいつらに追われながら、僕の姿を見ると

僕を奴らの仲間と勘違いして睨みつけてきた気の強そうな少女……

 

 

奴等に追われていたのは、なのはの親友で、

現在ケンカ中の相手……アリサ=バニングスだった

 

 

……どうして、アリサがこんなところに……!?

 

 




さて問題です、今回の新規参戦作品はなんだったでしょうか?
ヒントは、今回のは全部原作でもモブザコ(ただしインパクトは原作でも結構ある)で
そこそこ発売日が近い(2017年11月9日現在)作品です

……構想自体は、発売発表前からあったんですけどね
月1~2ペースでやってて、まさか今更これが関わって来るとは……


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抱えているもの、見えてないもの

 

 

友枝町全体が、不思議な気配に包まれた次の瞬間、

あちこちで上がった女の子の悲鳴が聞こえた方向へ駆け付けると……

 

 

そこでは、友枝小学校の女子生徒達が、

緑色でコーディネートされた、ガラの悪い子達に追われている所でした。

 

 

走って逃げる子達に対して、彼らは地面をすべるように移動しており、

その腕には、どこかなのはちゃんのレイジングハートを彷彿とさせる

銃や大砲、手甲など、様々な形をした機械を持っていて……

 

 

「まさか……あれはデバイス!?」

 

 

それを見たユーノ君の驚きようから、彼らが手に持っているのは、

レイジングハートと同じ、魔法を使う為の道具だという事が予想できました。

 

 

……なぜ、あれだけの人数がそんなものを持っているのかは分かりませんが、

ガラの悪い子達は私達に気づくと、こちらにも向かってきたので……

 

 

ある子は、ユーノ君の拘束魔法で足を掬われ……

また、ある子はなのはちゃんの砲撃魔法で気絶し……

さらに、ある子達は、さくらちゃんの『眠』のカードでまとめて眠らされ……

 

 

そして、そうならなかった他の子は私の方に向かってきた所を、

真の姿に戻ったケロちゃんに、前足で押さえつけられ……

 

そのままケロちゃんにすごまれると、手にしていた道具を放り出し

ひどくおびえた様子で、涙を流しながら謝り続けていました。

 

 

「まったく、なにもんやこいつら……?

 今時、魔力を持った人間が徒党を組んで襲って来るやなんて……

 ……知世、すまんけどそこにあるその杖、拾ったってくれんか?」

 

 

「わかりましたわ」

 

 

ケロちゃんにお願いされて、私は彼らが放り出した

魔法の杖らしき代物を回収し、幻想鏡の中へとしまいました。

 

 

この鏡には、中にものをしまえる機能もありまして……

これで、急な荷物や撮影のためのバッテリーを運ぶのに

今後、苦労する必要がなくなりました。

 

 

ただ、襲ってきた子達を倒しても、また次から次へと新たな子達が襲ってきたので、

皆でまた同じように、彼らをこらしめたりしていたのですが……

 

 

何度かそんな事を繰り返したところ、少し先の曲がり角から、

またも誰かが追いかけられてくるような足音が聞こえてきました。

 

 

どうやら、今度は誰かが追われている様子です。

 

 

みんなで、そちらに向かって駆け出し、一番近い所に居たユーノ君が

真っ先に曲がり角の先へと早くたどり着いたのですが……

 

 

「あ……!」

 

 

その直後、ユーノ君は驚愕の表情で、その場に立ち止まってしまいました。

なにか驚くようなものを見たのでしょうか……?

 

 

「ユーノ君! どうしたの!?」

 

 

続いて、なのはちゃんがユーノ君を心配して駆け寄るり、曲がり角の先を見ると

今度はなのはちゃんまで、ユーノ君と同じ表情をしてしまいました。

 

 

不思議に思いつつ、私達も駆けつけて、その先に何があるのかを

確認できる位置まで行くと、そこで目に入ったのは……

 

 

「え……なのは!? それに、ユーノ……?」

 

 

居心地悪そうな顔をしているユーノ君と、何故と言う顔をしているなのはちゃん

 

 

そして、それを見てもっと驚いた顔をしている金髪の女の子……

 

 

 

「あ……アリサちゃん!?」

 

 

「なのは……なによその恰好!? コスプレ!?

 それに、そこに居るのは……知世さん!?」

 

 

「こんにちは、アリサちゃん。

 お久しぶりですわ。」

 

 

……2人の前に居たのは、パーティで何度か顔を合わせた事のある、

世界でも有名な実業家の娘さん、アリサ=バニングスちゃんでした。

 

 

「ほえ? 知世ちゃん知ってるの?」

 

 

「ええ、家の用事でこれまでに何度かお会いしたことがありますので、

 ……もしかして、なのはちゃんがおっしゃってた、

 最近雰囲気が悪くなったっておっしゃってたご友人と言うのは……」

 

 

そう言えば、アリサちゃんもなのはちゃんと同じ学校でしたわね。

 

 

以前、アリサちゃんからパーティで友人の話になったときに、

一緒に居たすずかちゃんともう一人、普通の家庭の友人がいると聞いたことがありましたが……

 

 

「……意外と、世間って狭いものですわね」

 

 

「この子が、なのはちゃんの友達……?」

 

 

「こ、コスプレがもう一人……」

 

 

アリサちゃん、いきなり色んな事が押し寄せてきたので、

頭の中が混乱していらっしゃるようですわね。

 

 

「……みんな、のんびり話ししとる場合や無さそうやで。

 あの連中、またごっそりと来て居るわ。」

 

 

アリサちゃんが落ち着く間もなく、

すぐさま追いかけてきた子達が迫ってきたのを見て

ケロちゃんは、そう警告してくださいましたが……

 

アリサちゃんは、声の主を見て固まってました。

 

 

……まぁ、しゃべる事を抜きにしても、

こんな大きな翼の生えたライオンを見たら普通は驚くでしょうね……

 

 

でも、とりあえずこの場を何とかしなければ……

 

 

「みんなすいません、私達は他の子達と一緒に

 月峰神社まで、いったん非難することにしますので、

 後の事、お任せしても大丈夫でしょうか?」

 

 

追われている子達を放っておくことはできませんし、

このままでは、みんなが気兼ねして戦えなさそうですので、

私は、皆を安全なところに避難させために、別行動をとる事にしました。

 

 

さくらちゃん達の撮影できないのは残念けれど……

流石に、今はそれどころではありませんわ

 

 

「う……うん、わかったよ知世ちゃん。

 ケロちゃん、知世ちゃんたちと一緒にいてあげて。」

 

 

「……わかった、さくら達も気ぃつけや。」

 

 

さくらちゃんは、今ひとつ状況が呑み込めてない様子でしたが、

私の意図を察してくれたのか、すんなりと私の提案を受け入れてくれ、

ケロちゃんをボディガード役につけてくださいました。

 

 

なのはちゃんとアリサちゃんは、

ぎこちなく相手をチラ見している状態でしたが……

 

 

「アリサちゃん、とにかく今はこちらへ、

 私達は、足手まといになるだけですわ。」

 

 

私が、そう言って諭す形でアリサちゃんに手を差し出すと……

 

 

「……なのは、後でちゃんと説明しなさいよ」

 

 

その目は、なのはちゃんを睨んだままで……

顔も納得いかないといった表情のままでしたが、

このままではどうにもならないと思ったのか、

彼女も、私の申し出を受けて、手を握り返してくれました。

 

 

「……なのはちゃん、ここまでの事は私の方から説明しておきますわ。

 よろしいですね?」

 

 

「……わかりました」

 

 

なのはちゃんが、ここまで親友のアリサちゃんにも隠し続けてきた秘密。

 

それを私の口から語るのは、少し申し訳なく感じるところもありますが……

 

この雰囲気では、なのはちゃんが直に説明するよりも、私が説明した方がよいでしょう。

 

 

私達が立ち去る際、なのはちゃんは、少し元気のない感じをしていましたが……

さくらちゃんとユーノ君が一緒にいてくれるので、とりあえずは大丈夫のはずです。

 

 

 

今は、私のやるべきことをしなくては……!

 

 

 

 

 

---

 

 

 

 

あのガラの悪い連中から逃げてきた他の子達と一緒に、

知世さんと、羽の生えたライオン……みたいなケモノに案内され

近くにあった神社に避難した私は、そこで知世さんにこれまでの事を大まかに説明してもらった。

 

 

なのはの事、ユーノが男の子だったって事、

すずかの家であの時事件が起こっていた事、そこでなのはが出会ったさくらさんの事……

 

ちょくちょく魔法という非現実的な話が絡んでいたので、すぐには信じられなかったが、

知世さんは嘘をつく人じゃないし、真剣な表情をしていたので、

それが真実だという事は十分に伝わってきた。

 

 

……ただ、私の心はまだもやもやしたものが残っていたが

 

 

「……アリサちゃん、怒ってらっしゃいます?」

 

 

「そりゃまぁ……なのはに、こんな大変な事を黙ってられた訳ですから……

 ……別に、仲間外れにされたことを怒ってる訳じゃないです。

 それより、私達に一言も相談しなかった事の方が……」

 

 

まさか、最近なのはの様子がおかしかった理由が、魔法少女やってたからだなんて……

 

 

斜め上すぎる答えで、頭の中はもうめちゃくちゃ……

次になのはに逢った時に、なんて言ったらいいのか、言葉も浮かんでこない。

 

 

「まぁ、周囲に正体を隠し続けるのが、魔法少女のお約束ですから……

 

 それにアリサちゃん、なのはちゃんが正直に理由を言ってくれたとして……

 すぐに納得、出来ました?」

 

 

「そ、それは……」

 

 

いや、馬鹿正直にそんなこと告白されようもんなら、

きっと全力で怒り出してただろうなぁ、私……

『なによそれ! 馬鹿にしてんの!?』とか言って……

 

 

それでも、もう少し言いようくらいはあったと思うんだけど……

説明する前に、魔法の方をを先に見せるとか……いや、トリックって思いこむかな?

 

 

「きっと、アリサちゃん達を巻き込みたくなかったのでしょうね。

 ジュエルシードの一件だけでもだいぶ危険なのに、

 なのはちゃんのライバル魔法少女……

 

 それに、今回の件のような事まで、起こってしまってるのですから。」

 

 

「……こんな大変なことに巻き込まれて、

 自分はどうなってもいいとか思ってるのかしら、あのバカなのは」

 

 

昔っからいっつもそう……

つらい事とかあっても、そんな雰囲気ちっとみ見せないで、

我慢してばっかりで……

 

 

アンタが辛い顔してんのに、私達が平気でいられると思ってんの!?

 

 

「気づいてないわけではないでしょうけれど、

 ……見えなくなっているのかもしれませんね」

 

 

「見えなくなってる……?」

 

 

知世さんはそう言うと、そのまま先を続けました

 

 

「なのはちゃん、しっかりしている子ですけど、

 責任感が強いというより、過度に強すぎるように感じます。

 あの年齢で、不自然すぎる位に……」

 

 

確かに、なのはと初めて会った頃も、ケンカのきっかけになったあの言葉……

悪いのは、私だってわかりきってるけど、

今思い出しても、小学校に入る前の子供とは思えない感じだった……

 

 

普段は、自分に自信を持てない普通の子だけど、

何かきっかけがあると、いつも自分を責めるように……

 

 

「過ぎたるは及ばざるがごとし……

 どんな感情でも、過度に抱え込むのはいけませんわ。

 

 本人に自覚があるかはわかりませんが、

 身の丈を超えて何かを背負えば、必ずどこかに脆さが生じます。

 ふとしたきっかけで、その脆さで大きな傷を負うことだって……」

 

 

「え……!?」

 

 

真剣に語るその表情からは、そのあってはならない不安が起こりうるかもとすら思えてしまった。

知世さんの言う脆さが、本当になのはにあるのかは疑わしかったけど、

それが現実になってしまったら……

 

凍りつくかのような感覚が、一瞬私の背中を襲う、

 

そんな事になったら、私……

 

 

「……でも、きっと大丈夫ですわ。

 今のなのはちゃんにはさくらちゃんがついるのですから。」

 

 

だけど次の瞬間、知世さんのこれまでの真剣な表情が嘘のような、

明るさ全開の笑顔をこちらに向けられ、私は思わずポカンとした顔になってしまった。

 

 

さくらって言うのは、なのはと一緒にいた、

もう一人の魔法少女の事……

 

前のパーティで、知世さんの一番の友達と言う人の事は聞いた事があったけど

知世さんの態度から察すると、恐らくあの人がそうなのだろう。

 

 

だけど……

 

 

「あの人、そんなにすごい人なんですか?

 なんというか、見た目そういうふうには見えなかったんですけど……」

 

天然と言うか、ほんわかと言うか……

正直、これっぽっちも強そうには見えない。

 

 

おまけに、友達として付き合う分には優しくて楽しそうだけど、

不思議なことに、なのはの方から近づくイメージが全然見えないのだ。

 

 

……改めて考えてみると不思議よね。

なのはに、私達以外の友達が出来なかったの……

 

 

あの人の場合、魔法少女の先輩だから、ちょっと特別なのかもしれないけど……

 

 

「魔法の事もそうですが……

 さくらちゃんの素敵な所は、そこではありませんわ。」

 とにかく、さくらちゃんとユーノ君が居れば、

 なのはちゃんが危ない目に逢う事はありませんから。」

 

 

「ユーノ……アイツ、信用できるんですか?」

 

 

少し前になのはが見つけた、森で倒れていたフェレット。

 

いつの間にか、なのはに飼われていたわけだけど、

まさか、別世界から来た男の子だったなんて……

 

 

正直、アイツがなのはを巻き込んだわけだから、

そこの所を考えると、今ひとついい印象が持てない。

 

 

「色々とおっしゃいたい事はあると思いますけど、

 少なくとも、自分の責任を果たそうと頑張ってますし、

 これまでも、なのはちゃんが危なくない様に行動してますから、

 私は信用できると思っていますわ。

 そういった所、ケロちゃんとはとてもよく似ていますし。」

 

 

そう言って、知世さんが目を向けた先を私も追うと……

 

 

そこでは、ケロちゃんことケルベロス……さきほどの翼の生えたライオンが、

さっきの場所から連れてきた、ガラの悪い奴に凄んでいた。

 

 

「お前ら、ワイを怒らせたらどうなるか知りたいんか……?

 ええから、とっとと知っとる事全部吐き出さんかい!!」

 

 

声のすごみと関西弁が相まって、まるで裏社会の住人の様な脅し文句だ。

 

あのケルベロスは、さくらさんのお供だって話だけど、

いくら強がっても、あんなのに凄まれたら怖いわよねぇ……

 

すでに半泣き状態なので、間もなく洗いざらい白状するだろう。

 

 

あれを見てる限り、どう考えても

ケロちゃんってかわいらしい相性は似合ってないように感じるけど……

 

 

それにしても……なんというか……

フェレットと比べると……迫力が違いすぎるというか……

 

 

かたやライオン、かたやフェレット兼同い年くらいの男の子……

お供の迫力だけなら、なのは完全に負けてるわ……

 

 

他の実力もアレくらいの差なのだろうかと考えていると、

突然、周囲の雰囲気が変わった。

 

 

不自然な静寂が途切れ、あちこちから色んな音が聞こえてきたのだ。

 

 

「お……結界が無くなったで、

 どうやら、さくら達がやってくれたみたいやな。」

 

 

ケルベロスは、空を見上げながらそんな事を言ってた。

どうやら、なのは達があいつらを追っ払ってくれたようだ。

 

 

帰ってきたら、色々と問い詰めてやらなきゃ……

魔法少女の事、私達に黙っていた事、言いたいことはめいっぱいある。

 

 

でも、その前にすずかも探しに行かなきゃ……

逃げる途中ではぐれちゃったから、どっかで泣いてなきゃいいんだけど……

 

 

そう思いつつ、なのはに言ってやりたいことを考えていると、

それから間もなく、なのは達が空の方からやって来た。

 

 

「なのは! 全部聞かせてもらったわよ!!

 さぁ、弁解を聞かせてもら……?」

 

 

地面におりてきたのと同時に、なのはを問い詰めようとしたのだけれど、

どうにも帰ってきたなのは達の表情がおかしい……。

 

 

ユーノ共々、浮かない顔をしているけど、何かあったのだろうか?

それに、すずかもまだ帰って来てないし……

 

 

なにかあったのかと、なのはに尋ねようとしたところ、

それよりも先にさくらさんが、知世さんの方に駆け寄り……

 

慌てた口調でこう言ったのだった……

 

 

「知世ちゃん! 大変!

 奈緒子ちゃんが……さっきの子達に連れていかれちゃったって!!」

 

 

それを聞くと、知世さんは驚いた表情を見せたが、

それでも悲鳴を上げまいとして、自分の口を両手で押さえたのだった……

 

 

 

 




テンションがようやくそれなりに戻ってきたかなぁ
戦闘場面書きにくいので、こういった場面だらけになりそうですが


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ケルベロスは逃さない?

突如どこからともなく現れた、奇妙な魔法具を持った悪ガキ共……

 

 

ワイらがあいつらと戦っとる時に逃げてきた金髪娘・アリサは、

最近関係が悪くなったっちゅうなのはの友達やったそうや。

 

 

かなりの金持ちの家の娘で、家のつながりから知世とも知り合いやったそうやけど、

なんともまぁ、世間は狭いもんやなぁ……

 

それにしても、わざわざこうして友枝町まで来てくれたっちゅうことは、

ケンカしてても、なんやかんやでなのはの事を気にかけてたみたいや。

 

まぁ、それで事件に巻き込まれたのはアンラッキーやったけど……

 

 

とりあえず、知世がこれまでの経緯を説明してくれたので

一応は事情を理解して落ち着いたみたいやけど……

 

この先、いったいどうなる事やら……

 

 

……ま、ワイには関係あらへん、流石にこれはなのはの問題や

 

 

とりあえず、ワイはワイの仕事をせんと……

 

 

この悪ガキどもがどっから来て、何を目的にしてるのか聞き出さんとあかん。

 

そんなわけで、ついでにとっつ構えた悪ガキどもを脅しとったんやけど、

その最中にさくら達が上手い事やってくれたみたいで、

町中を覆ってた結界は消えて、周囲の雰囲気が元通りになったんや。

 

 

さくら達も帰ってきたんで、めでたしめでたしと思ったんやけど、

帰ってきたさくらの話で、とんでもない事がわかった。

 

 

この悪ガキ共の仲間に襲われた女の子の中には、

さくらの友達の梨花と千春ちゅう子も居って……

 

 

あの悪ガキどもに囲まれてあわやって所に

さくら達が駆け付けておっぱらったおかげで、この二人はさらわれずに済んだそうや。

 

 

まぁ、さくら達が魔法使うた事には、めっちゃびっくりしておったそうやけど……

 

 

……せやけど、二人と一緒におったもう一人の友達、

奈緒子だけは、逃げる際に出遅れて悪ガキどもに捕まってしもうたそうや。

 

おまけに、神社まで逃げてきた女の子達の中には、

なのはのもう一人の友達、すずかっちゅう娘もおらんかった。

 

 

恐らく、その子も奴らに連れ去られてもうたみたいやな……

 

 

アリサは、すずかを巻き込んだことについて、ぼそっとなのはに謝っとったみたいやけど……

 

とにかく、このまま放っておくわけにはいかん。

 

 

……とりあえず、今は神社に逃げてきた

女の子達の事を何とかせな……

 

 

さくらが魔法使うとこや、ワイの本当の姿を見られてる訳やし、

誰かが口滑らせて、さくらの話が下手に出回ってしもうたら、

ワイら、友枝町に居られんようになってまう。

 

しゃべるぬいぐるみとして売られるのだけは、ホンマ勘弁やで……

 

そういうわけで、逃げて来た子達から一通り情報を聞いた後は、

さくらの友達含む、逃げてきた女の子達全員に『(イレイズ)』のカードを使うて

誰に助けられたかっちゅう記憶を消したんや。

 

 

「あのカード……記憶を消すこともできるんだね。」

 

 

「まぁ、なんでもかんでもっちゅうわけやないけどな……」

 

 

この時ユーノは、改めてカードの力にえらく驚いておった。

 

……まぁ、ユーノの使う術とは性質がまるでちゃうから、

そう思うんは無理もないけどな……

 

 

……ちなみに、さくらの友達からも事件の記憶は消したんやけど、

なのはの友達のアリサっちゅう娘からは記憶を消さんかった。

 

ホンマは、消そうと思っとったんやけど……

 

 

「イヤよ! すずかがさらわれてるってのに

 私だけ全部忘れて帰れっての!?

 絶対に嫌だからね!!」

 

 

そこまでの様子を見ていたアリサから、すごい剣幕で拒否されてもうたから、

流石にさくらもカードを使う事ができひんかったし……

 

 

「……さくらちゃん、ケロちゃん

 アリサちゃんの記憶を消すのは

 ひとまず待っていただけないでしょうか……?」

 

さらに知世からもお願いされたんでは、ワイら強制も拒否も出来ん。

 

 

巻き込んでしまう事になるけど、とりあえずアリサの記憶に関しては後回しや。

 

 

……で、肝心の悪ガキやけど、聞き出したところによれば、

こいつらは誰かの命令で女の子を連れ去ってたそうや。

 

 

「お……俺たちは命令されただけなんだ!

 俺達のボスから、あっちこっちの学区から、かわいい女の子を連れて来いって……」

 

 

こいつら、他所でも似たようなことやってたんか……

こら、話は友枝町だけでおさまりそうにないわな。

 

 

「それにしても、ずいぶんな数がやったな、

 あれだけの使い手を送り込んで来るやなんて……」

 

 

「と、友枝町はかわいい子が多いから、

 ボスも本腰を入れて攻めろって……

 

 ま、まさかこんな強い魔法少女がいるなんて……」

 

 

まったく、何考えとるんやこいつらのボス。

 

ま、友枝町にはさくら達が居ったんが運の尽きやな。

 

 

他にも色々と話を聞き出そうとしたけど、

持ってる道具は怪しい女にもらったとかで、詳しいことは分からんし、

ボスの居場所や名前とかは、いくら脅しても吐こうとせんかった。

 

 

こいつ等のビビりよう……

どうやらボスは、相当おっかないヤツみたいや。

 

 

ワイも、唸って脅し付けたりはしたけど、

流石に、子供相手に傷つけたりしたらあかんしなぁ……

 

 

 

 

 

「……それではケロちゃん、後の事はよろしくお願いいたしますわ」

 

 

記憶を消した女の子達が、それぞれの家に帰って行った後。

 

 

 

とりあえず、さくらに月峰神社の裏で『(メイズ)』のカードを使うてもろうて、

ワイその中で、悪ガキどもを見張る事になった。

 

なのははそのまま帰れば問題ないけど、

運転手と一緒に来たアリサはそうもいかん。

 

 

……そんな訳で、アリサは家に連絡して知世の家に泊まる事になったそうや。

一応、話の上ではすずかも一緒っちゅうことになっとる。

 

 

みんなが帰っていく際、不良達はしょんぼりしながら俯い取ったけど、

帰り際に知世が言った一言……

 

 

「ケルベロスという名前は、ギリシャ神話の地獄の

 逃げようとする亡者を食べてしまう番犬の名前からつけられた名前ですわ……

 逃げようとしたらどうなるか……お判りですわね?」

 

 

流石に、友達をさらわれて怒ったのか

目が全然笑ってへん笑顔で、妙に腹に響く声を出しながら

さらりととんでもない脅し文句を言いよった。

 

 

ワイも便乗して、そのセリフの後に唸ってみたら、

悪ガキども、めっちゃビビりまくっとったけど……

 

 

ワイいややで、こんな悪ガキ食わされんの、

こんなん、絶対腹壊してまうわ。

 

 

 

 

そうして、ワイはしばらく悪ガキどもを見張っとったんやけど、

こいつら、ワイがしっかり見とる内は

ガチガチになって、微塵も逃げる様子は見せんかった……

 

 

……せやけど、みんなが帰ってから何時間か経った頃、

ワイがうつぶせになって、目を瞑って寝息を立てた途端、

みんな顔を見合わせてとヒソヒソと相談しだしよった。

 

 

……どうやら、あと一押しみたいやな。

 

 

気づかれへんように、横目で悪ガキどもを確認してから

ワイは寝がえりをうって、前足で腹の辺りを書くしぐさを見せた。

 

 

すると……

 

 

「ライオンって、うつぶせで腹かいて寝たっけか?」

 

 

コラそこ、細かい事は気にするんやない。

 

 

「しっ、起きたらどうすんだよ……

 これはチャンスだ……いいか、物音立てるなよ。」

 

 

細かい疑問を投げ捨てて、悪ガキたちの一人がそう言った後、

悪ガキどもは物音を立てん様に気を付けながら、

抜き足、差し足、忍び足で、ワイから遠ざかって……

 

 

そのまま、すんなりと『(メイズ)』の出口までたどり着いて、

そこからは全力で走って、逃げていきよった。

 

 

……しめしめ、思う壺や。

 

 

ワイは悪ガキどもに気付かれんように仮の姿に戻って、

カードに戻った『(メイズ)』を回収すると、

そのまま空高く飛んで、悪ガキどもを見失わんように見はりながら

電話を取り出して知世に連絡を取った。

 

 

「もしもし、知世聞こえとるか?

 あの悪ガキども、まんまと逃げていきよったわ。」

 

 

「ごくろうさまですわ、ケロちゃん

 引き続き、追跡をお願いいたしますわね。」

 

 

そう、あの悪ガキどもを逃がしたんは作戦や。

 

 

こうすれば、あの悪ガキどもは黒幕の所まで逃げ込むはずやし、

そこには、きっとさらわれた子達も居るはず……

 

 

見逃さんように、そのまま悪ガキどもを追跡してると、

友枝町の外れの人気のない所までたどり着くと、悪ガキどもを回収しに来よったのか

道具を持った悪ガキの仲間が現れよった。

 

 

「バカ! しくじりやがって!!

 なにやってんだよ!!」

 

「だって、あんな強い魔法少女が居るなんて……」

 

 

「シッ、今はそれどこじゃないだろ!!」

 

なんか口論してたみたいやけど、一人が仲裁に入ると、

逃げ出した方の悪ガキ共は、後から来た連中から、

予備の物らしい杖を渡されて、全速力で走って行きよった。

 

 

中々のスピードやけど、ワイと比べたら大したことあらへん。

ケルベロス(地獄の番犬)の名前通り、絶対逃がさへんからな。

 

 

そしてそのまま、友枝町の市街から離れた場所に来ると……

 

 

突然、悪ガキども周辺の空間が歪んだように見え、

直後、ワイの目の前で悪ガキどもの姿は消えてしもうた。

 

 

決して、見落としたり逃げられたりしたわけやない。

 

アレだけの人数や、一人二人ならまだしも、

全員まとめて見逃すなんてあり得へん。

 

 

「この気配……どうやら、この先にいるみたいやな。」

 

 

見えなくなった原因は……消えた場所から感じる異様な気配と、その中のもの。

 

消えたように見えたんは、これのせいやな……

 

 

 

---

 

 

 

 

 

「ええ……判りましたわ、

 準備が整い次第、すぐに向かいます。」

 

 

月峰神社で、ケロちゃんに彼らの事を頼んだ後、

私達は、一旦それぞれの家に帰る事にしました。

 

 

そして、頃合いを見てあの子達を追いかけたケロちゃんからの連絡を待っていたのですが……

 

 

今回の事件は色々と異様な雰囲気がしたので

これまで以上に、準備しておくべき……

 

 

そう思って、ケロちゃんからの連絡が来るまでの間、私は私の出来る事をしていました。

 

 

「知世さん、電話あのライオンから?」

 

 

「ええ……」

 

 

そうそう、先ほど起こった事件で、友枝町は大きな騒ぎとなったため、

アリサちゃんの乗ってきた車の運転手さんは、アリサちゃんが消えた件で

警察の方から事情聴取を受ける事になり、

一人で帰るのは危険と言う事で、お母様やアリサちゃんの家に連絡し、

アリサちゃんは今回、私の家にお泊りする事になりました。

 

 

 

「友枝町から、少し離れた山中まで追いかけて……

 そこから、彼らの姿が見えなくなったそうです。

 

 どうも、その近辺に何かがあるようなのですが……」

 

 

「なんですって……!?」

 

 

それを聞くと、アリサちゃんは逃がしてしまったのかと

不安そうな表情を浮かべましたが……

 

 

「大丈夫ですわ、魔力の気配は残っているそうなので、

 追跡は可能とのことです。」

 

 

「そうですか……よかった」

 

 

そう言って、ほっと胸をなでおろしました。

 

 

攻めてきたあの子達には、まだ仲間がいらっしゃるようですし、

奈緒子ちゃんやすずかちゃん達が連れていかれた彼らの本拠地には、

どれだけの相手が待ち受けてるのかはわかりませんが……

 

 

連れ去られてしまった子達がいる以上、

さくらちゃんも、なのはちゃんも、きっと助けに向かいハズです。

 

 

 

「……ならば、私もそれを出来る限り、

 サポートさせていただきますわ!」

 

 

その為、私も私のやるべきことをしなくては……

 

 

「で……知世さん。

 それでどうして、そんなコスプレ衣装を作ってるんですか?」

 

 

ジトっとした目で、アリサちゃんが見つめているのは、

ついさっき出来上がった、さくらちゃんの為の新しい衣装……

 

 

この間、森近さんのお店で仕入れてきた、弾幕ごっこ用で使う、幻想郷の生地……

それで作った、これまでのバトルコスチュームより、高性能な進化した(アドバンスド)バトルコスチューム……

 

 

「さくらちゃんは、なのはちゃんのバリアジャケットと違って、

 魔法で衣装を造り出す事が出来ませんから……

 特別な時に着る特別な衣装は、私の担当なのですわ。」

 

 

「……知世さん、なんかすごく楽しそうですね。

 それにそっちの衣装……

 さくらさんが着るにしては小さすぎるような……?」

 

 

そう言うアリサちゃんの視線の先にあるのは、

先ほどまで造っていた衣装とは別の、もう一着作った衣装。

 

 

ある事情で、この新型バトルコスチュームを作る前に、

この一着を用意していたのですが……

 

 

こちらは、人間ならば幼稚園児の洋服程度のサイズなので、

さくらちゃんには小さすぎますし、ケロちゃんには大きすぎます。

 

 

「ええ、こちらの衣装はさくらちゃんに来ていただくものではなくて……」

 

 

―――どうやら、出来上がっているみたいね。

 

 

「!?」

 

 

衣装に関して説明しようとした所で、突如部屋の中に響いた不思議な声。

アリサちゃんは驚くと同時に、声の主を探るように周囲を見回しました

 

 

すると、部屋の壁に両端が赤いリボンで結ばれた

不思議な線の様なものを見つけ、それを指さそうとした瞬間。

 

 

「な、なにこれ……!?」

 

 

その線がゆっくりと開いていくと、そこから赤いいくつもの目が覗き見えて

その異様な見た目に、アリサちゃんがうめき声を漏らして後ずさると……

 

 

「いよっと……」

 

 

その中から、見覚えのある帽子をかぶった金髪女性の上半身が、

力ない感じで垂れ下がりながら現れました。

 

 

「おつかれさまです、紫さん

 わざわざ来てくださってどうもありがとうございます。」

 

 

「ご丁寧にどうも、知世

 どうやら、こっちは大変な事になってるみたいね

 ……あら?」

 

私が軽く挨拶すると、上半身を起こした紫さんは、

そのまま視線を移動させ私とは別の方向を見つめました。

 

 

そこには、突如姿をあらわした異様な紫さんと、彼女と親しそうに話している私達を、

アリサちゃんがもう何も言えないといいたそうな表情で、

やや放心した感じで見つめており……

 

 

「……驚かせてしまったみたいね、

 初めまして、オテンバなお嬢様。」

 

 

そんなアリサちゃんに、紫さんは何か含むものがあるような感じで挨拶をしたのでした。

 

 

 

 



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幻想に近い場所

 

 

友枝町にやって来て、妙な恰好をした魔法を男子達に襲撃されるという、

現実とは思えない奇妙な事件に出くわした後の事……

 

 

友枝町内では、あちこちで女の子が消えたという話でもちきりになっているそうで、

ウチの運転手も、運転中に私とすずかが消えたのを目撃したと言う事で、

現在、警察に事情聴取をされている最中だと言う。

 

 

なのはは、魔法で飛んで帰る事にしたそうだが、私はそうもいかなかったし、

なにより、すずかがさらわれてしまったまま、のこのこと返る訳にもいかない。

 

 

なのでとりあえず、表向きには事件の影響で帰れないから、

知り合いの知世さんの家にすずかと一緒に泊っていくという話になった。

 

あの不良達と戦っていた姿を見る限りでは、なのはも……

そして、さくらさんも、さらわれた女の子を助けに行くんだろうし。

 

 

そうして、追跡の為に残ったケルベロスに後を任せつつ、

知世さんの家で、何故か衣装を作り始めた知世さんを眺めて待ちながら、

かかってきた電話を知世さんが取り、ついに来たかと立ち上がった所で……

 

 

 

部屋中に、妙な声が響いたかと思うと、

壁の所に、赤いリボンで両端を結んだような糸の様なものがあらわれた。

 

なんだと思って眺めていると、その糸はだんだん太くなっていき、

その中には、見るも不気味な目玉だらけの光景が広がっていて……

 

それが人ひとり通れそうな大きさになったかと思うと、

中から、いきなり私達より少し年上と思われる女の上半身が垂れ下がって来たのだ。

 

 

「おつかれさまです、紫さん。

 わざわざ来てくださってどうもありがとうございます。」

 

内心驚いていた私をよそに、親し気に垂れ下がり女と喋る知世さん。

 

そうしてしばらく話した後、知世さんは小さいほうの服を彼女に預けると、

垂れ下がり女は頷いてから、再び不気味な空間の中へと引っ込み、

そのまま、不気味な空間が線のように細くなり、両端のリボンともども吸って消えていったのだ。

 

 

「誰なんですか……今の人?」

 

 

分けが分からかったので、率直に知世さんに尋ねた所……

 

 

「この間知り合った、妖怪の八雲紫さんですわ、

 今回の事件の協力者……と言ったところでしょうか。」

 

 

とまぁ、またしても信じがたい回答が返ってきてしまった。

 

 

妖怪……これまた魔法少女に続いて、信じがたい呼び名だけど、

あんなホラー映画みたいな登場されては信じるしかない……

 

それにしても、妖怪にあの服を渡すことに、どんな意味があるのか……?

 

 

少し考えてみたけれど、どうにも答えが出そうになかったので、

この件はいったん保留にしておく事にした。

 

 

「じゃあ知世さん、これですずかを……」

 

 

「ええ、ちょっと待っててくださいね。」

 

 

知世さんはそう言うと、持っていたコンパクトを開き、鏡を壁の方へとむけた。

 

すると鏡から光が放出され、その光が当たった所に、

先ほどの彼女が開いた空間によく見た裂け目が現れ……

その裂け目が開いた先には、机の上に座っているさくらさんの姿があった。

 

 

「あっ、知世ちゃん……! こっちは準備できてるよ!」

 

 

……なんでも、この鏡を使えば誰にでもあの空間『スキマ』を生み出し、

色んな場所と空間をつなげる事が出来るのだとか。

 

それを、今回はさくらさんの部屋につながげたそうで……

 

こんな事言うのは、尊大に聞こえるかもしれないけど、

これでも小学生としては文系理系ともに優秀な方だ。

 

だけど、この目の前で起こっている現象については、

いくら考えてもハッキリとはわかりそうにない……

 

 

理不尽な目の前の事実を相手に、施行を巡らせている私をよそに、

知世さんは、残ったもう一着の衣装を手にさくらさんへと手渡している。

 

 

「最近は、急ぎの事件が多かったので、

 さくらちゃんに衣装を着ていただけませんでしたから……

 今回は、特別に気合を入れて作らせていただきましたわ。」

 

 

「ほえ~……」

 

 

……なんだろう、さくらさんが困っている感じなのに対し、

知世さん、これまでに見たことのないような表情で、めちゃくちゃ輝いている風に見える……

 

 

いつもは大人っぽい雰囲気の深窓の令嬢的な雰囲気なのに……

初めて見たかも、こんな知世さん。

 

 

知世さんから手渡された衣装を着て、さくらさんの準備が終わると、

知世さんは再び新しいスキマを開いた。

 

 

見えたのは、部屋で待っていたなのは……と、フェレット姿のユーノ。

 

 

 

 

……ある程度事情が分かっているといっても、

なのはとは、まだすんなり和解できているとは言えない状態だ。

 

 

だから、なのはがこちらに向けてきた視線に対して、

思わず目をそらしてしまった……

 

 

しゅんとしたなのはに申し訳なく思いながらも、

横目で、再びなのはの方を確認してみると、

さくらさんがなのはに何か言っているのが見えた。

 

何を言ったのかはわからないけれど、

それを聞いて、なのはの表情がちょっと緩んだような気がする。

 

 

……ちょっと悔しいかな。

 

 

そして、次の行先ははいよいよあの世紀末少年達を追いかけていったライオンのところ……

 

 

「それでは、いきますわ」

 

 

そう言って、知世さんがまた新たに開いたスキマを抜けると……

 

 

そこは、人気のない郊外の道路脇の林の中。

 

 

そこには首にスマホをぶら下げた、翼の生えた

子ネコほどの大きさのぬいぐるみが、間抜け面でふわふわと浮いていた。

 

 

……あれ? なにこのぬいぐるみ?

あのライオンが居るはずじゃなかったの?

 

 

「……よぅ、ちょっと時間がかかったんとちゃうか?」

 

 

「お待たせしましたケロちゃん。

 ちょっと、届け物をする用事がありましたもので……」

 

 

気軽に声をかけてきたぬいぐるみに、

知世さんは友達に接するように返事をかえしたが……

 

 

ケロちゃんって……確か、さくらさんと知世さんが、あのライオンを呼ぶ時に使ってた愛称……

それに、声質は違うけど、似たようなニュアンスの関西弁……

 

 

ぶっちゃけ、アイツの雰囲気には似合ってなかったし、

あの呼び方だとカエルっぽいとか思ってたけど、まさか……

 

 

「……アリサちゃん、ケロちゃんはあっちのライオンが本当の姿なんだけど、

 普段はこっちの小さい姿でいるんだって……」

 

 

私の考えてることを見透かしたのか、横からなのはが説明をしてくれた。

……なるほど、確かにこの姿ならケロちゃんね。

 

 

しかし、二つの姿にあまりにもギャップありすぎじゃないだろうか?

 

 

「それでケロちゃん、どういった状況ですの?」

 

 

「見ての通り……ちゅうても知世にはわかりづらいか。

 

 この先が、ちょっと不思議な空間になっててな……

 まぁ、自分の目で見た方が早いやろ、

 ちょいと二・三歩ばっかし前に歩いてみい。」

 

 

状況を尋ねた知世さんに対して、ぬいぐるみは林の中を指……

いや、前足で指していた、見たところ何もないようだけど……

 

 

ぬいぐるみに言われるまま、私はその方向に歩いていくと、

三歩ほど歩いたところで、周囲に波紋が立った様に見え……

 

波紋が収まってハッキリ見えるようになったところで、

目の前には、林から森林と言っていいくらいの森が広がっていたのだった。

 

 

「な……なにこれ!?」

 

 

私の後に続いてきた、なのは達も驚きの声を上げている。

 

友枝町からそれほど離れてない場所に、

山一つ分を囲むような森はなかったはずなのだから当然だ……

 

 

「……ケロちゃん、これってどういうこと?」

 

 

いつの間にか、さっきのスキマみたいなものをくぐったのかと考えていると、

ぬいぐるみは、この空間に関して説明をしてくれた。

 

 

「どうも、こないだの幻想郷と近い感じの世界みたいやな。

 あれと違うて完全な自然のものらしいけど、結界で隔離された世界に近い雰囲気の場所や、

 去年、香港で会うた水使いのねーちゃんは覚えとるやろ?」

 

 

「水使い……?」

 

 

初めて聞く言葉に、なのははハテナマークを浮かべる。

香港と言ってたけど、あっちで何かあったのだろうか?

 

 

「うん、去年香港に旅行に行ったときに逢った人でね。

 その人と会う為に、バードストリートにあった古井戸から、

 不思議な空間をたどっていったんだけど……」

 

「ぶっちゃけて言えば、あの時の空間と一緒や。

 あれほど偏屈な代物やないけど、

 これも、あそこと同じように色んな場所に通じているみたいやな。

 

 あの悪ガキどもも、ここを使ってどっかから友枝町に来たんやろ。」

 

 

非日常的な会話を普通にされて、どうにも理解が追いつきにくいけど、

とにかく、大まかなイメージと、普通じゃないことだけは理解できた。

 

 

いずれにせよ、すずかを含めさらわれた子達を助けなきゃいけないし、

ここで相談しているだけでは、無駄に時間を消費するだけだ。

 

 

「……で、あの不良達はどっちに行ったわけ?

 まさか、見失ったわけじゃないでしょうね。」

 

私は単刀直入に、奴等の行先を尋ねた。

ここまで来て、見失ったと言わせる気は無かったが……。

 

 

 

「ワイを甘くみんな、姿が見えなくなっても、魔力の気配と匂いで後を追える。

 連中が逃げて行ったんはこの先や。」

 

ぬいぐるみはきちんと仕事をしたと言わんばかりに、その言葉を終えるタイミングで

ビシッという効果音が聞こえそうなほど力強く森の奥を指した。

 

 

私には、どっちに行ったらいいのか全然わからなかったけど……

 

 

「とにかく、今はあの子たちの後を追いましょう。

 さらわれた子達も、きっと不安がってるでしょうし……」

 

 

「せやな……もしかしたら森の中に見張りが居るかもしれん、

 出来るだけ、目立たんよう低く飛びながら先にすすもか。」

 

 

ぬいぐるみはそう言うと、突如巨大化した翼で自分を包み、それが強く光ったかと思うと、

再び翼が開き、そこから元の姿のライオンがあらわれた。

 

……しかし、こうしてみても、やっぱり同一人物とは思えないわね、

口調は一緒だけど、声の質にだいぶ違いがあるし……

 

 

「さぁ、アリサちゃんもこちらへ」

 

 

「あ、はい……」

 

 

知世さんに手を引かれ、私は一緒にケルベロスの背中にまたがる。

不良達から逃げる際にも乗せてもらったけど……悪くない乗り心地ね。

 

 

「……知世、今更やけどコイツ連れてくる必要あったんか?

 なんや小娘の事思い出す感じで、うるさそうなんやけど……」

 

 

「ちょっと! 聞こえてるわよ!!」

 

 

なんて失礼な奴、なにもそこまで言うことないでしょう。

これに加えて重いなんて言ってたら、しっぽを強く引っ張ってたところだ。

 

それに、小娘っていうのはいったい誰の事なのだろうか?

 

 

「アリサちゃんも、友達が心配でしょうし……

 事情を知った以上、仲間外れはかわいそうですわ。」

 

 

……そういう理由で連れて行ってもらうのもどうかとは思うけど、

でも、置いてくなんて言われたら、絶対怒り出してたろうしなぁ……

 

 

「……まぁええ、ほな落ちんようしっかりつかまっとき。」

 

 

「あ! いきなりすぎるわよ!! きゃっ!!」

 

 

そういうや否や、ケルベロスはいきなり飛ぼうとしたので

慌てて体にしがみつくと、ふわりと体が浮き……

 

 

安定した所で周囲を見ると、なのは、ユーノ、さくらさんも空に浮かんでいた。

 

 

コイツの背中に乗って飛ぶのもなかなかの感じだけど、

なんだかうらやましいなぁ、自分で飛べるのって……

 

 

そうして、私達はそのままあまり目立たない高さとスピードで先に進んでいくと、

ある程度進んだ所で、なのは達が何かに気づいたようで、

その場に泊ってから、一緒に同じ方向を見つめていた。

 

 

みんなと同じ方向に視線を向けると、、そこにはあの不良達の姿が……

なにやら、暇つぶしのおしゃべりをしているみたいで、こちらには気づいてないけれど、

どうやら、アイツらは見張りのようだ。

 

 

「……このままじゃ、流石に見つかるわよね……

 さてどうしたら……って、さくらさん?」

 

 

このまま先に進むと見つかりそうなので、どうしようかと考えてると、

さくらさんは、いつの間にかカードを取り出し、

すぐさま、それを手に持っていた杖で突いた。

 

 

『|『幻』≪イリュージョン≫!!』

 

 

すると、目の前に不思議な模様の何かが現れ、

不良達が何かに驚いたような顔をした次の瞬間、

アイツらは鼻の下を伸ばした表情で座り込んでしまった。

 

 

後で話を聞いたところによれば、

この時さくらさんが使ったのは(イリュージョン)のカード。

 

こんなところで(スリープ)を使うと風邪をひくし、

(ミスト)はちょっと危険なので、このカードを使ったうだ。

 

 

なんでも、効果は相手の望む幻を見せる効果だとか……

 

あいつらが一体どんな幻を見たのか……考えない方がいいだろう。

 

 

 

そして、幻を見せられたままの奴等を尻目に、さらに先に進んでいくと……

 

―――バゴォン!!

 

 

先の方角から、強い光や大きな音が聞こえてきた。

見つかったのかと思ったが、どうもそういう雰囲気ではないみたいだ。

 

 

「くそっ! 侵入者だ!!」

 

 

「強い……! おまえ、何者だ!?」

 

 

慎重に見つからない位置まで進んで眺めると、

そこにはあの不良達を相手に、たった一人で立ち向かう

ツンツン金髪の男の子の姿があった。

 

 

「クロス……ファイア!!」

 

 

年は私たちよりも少し上といったところだろうか?

手に持っているのは、十文字槍の刃の部分が光線になっている感じのもので、

その先から空中に光の弾を置き、合図すると、

その光の弾がはじけて、周囲に攻撃をばらかれる……。

 

 

武器そのものは見たところ、不良の使っている物にどことなく似ている気がした。

 

 

「あれは……デバイス……!?

 でも、ストレージでもインテリジェントでもないし、

 さっきの奴らが使っていたのとも微妙に違う……」

 

 

そんな彼の得物をみて、ユーノが驚きの表情を見せる。

知っているものに似ているのだろうか……?

 

そういえば、なのはの使っているレイジングハートに

似ているようで、やっぱりどこか違う印象を受けたけど……

 

 

そんな事を考えて戦いを見物していると、

不良達は次々に敗走していき、後にはツンツン頭だけが残っていた。

 

 

ツンツン頭は、なんだか不満そうに周囲を見回していたが、

ふと、何かに気づいたようにこちら側を向くと……

 

 

「お前たち、そこに隠れてるのはわかってる。

 オレに、何か用でもあるのか?」

 

 

あ……バレた……どうやら、私達に気付いたみたいだ。

気づかれる距離じゃないと思ってたのに……

 

 

とりあえず、向こうも魔法を使うみたいだし、

あの不良と戦っていたという事は、少なくとも奴らの仲間じゃないはず。

 

「……とりあえず、お話を伺ってみましょうか。

 このまま隠れているわけにもいきませんし、

 情報は出来るだけ集めておきたいですから。」

 

 

不安はあったけれど、知世さんの提案への反対者は誰も居なかったので、

とりあえずツンツン頭の言葉に従って、そのまま姿を現した。

 

 

ツンツン頭は、一瞬すこし驚いた様子を見せたが、

すぐに平静を取り戻し……こう言ってきたのだった。

 

 

「……随分と、変わった連中だな」

 

 

動じないヤツね、ケルベロス見てその態度って……

 

 




今回出てきた男の子はオリキャラではありません
都合設定が原作とそれなりに変っていますが、タグに出さない
魔導師化参戦作品からの出演です


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ロッドマイスター

 

 

友枝町を襲ってきた不良達を追跡している途中で出会った

髪を金髪に染めている、青いノースリーブの男の子……

 

 

手に握っている杖にも槍にも見えるそれは、

不良の使っていたものと同じ、ストレージデバイスに酷似しているけど

よく見れば、やはりどこか違う代物だ……

 

 

「その杖……ロッドマイスター……それに使い魔か、

 お前たちも事件の関係者か?」

 

 

彼は、呼びかけ通りに姿を見せた僕たちの事を、

一通りみんなを見回してからそう言った。

 

 

使い魔は、ほぼ間違いなくケルベロスの事だろうし、

事件は、あの奇妙な格好の連中についてだと思うけど……

 

 

「ロッド……マイスター……?」

 

 

聞きなれない言葉を耳にして、僕達は首をかしげた。

なのは達はもちろん、割と博識なケルベロスも、

それがなんのことなのかわからないようだ。

 

 

「なんや青小僧、思わせぶりな態度取りよって、

 ……ロッドって、さくらとなのはの杖の事言うとるんか?」

 

 

ケルベロス、初対面でその言い方は、失礼すぎやしない……?

 

 

「そのつもりで言ったんだが……

 お前達は杖を受け取った時に、そう言われなかったか?」

 

 

「受け取った時……? 私のは、ケロちゃんから受け取って……」

 

 

「私は、ユーノ君から譲ってもらったんだけど……」

 

 

うーん、なんか話がかみ合わない。

 

お互い、魔法の使い手ではあるようだけれど、

どこかに認識の食い違いがあるみたいだ。

 

 

……と言うか、なのは

僕はまだレイジングハートを貸してるだけで、

譲った覚えはないんだけれどな……

 

 

いや、確かに僕より遥かにうまく扱えてるし、

当面返してもらう気はないんだけれど、

正式に譲ったって話になると、あとで面倒なことに……

 

 

「……なるほど、全く別系統の使い手か。

 

 そういう希少な使い手がいるという話は聞いていたが、

 こんなところで出会うなんてな……」

 

 

そんな事を考えている僕をよそに、

向こうは向こうで、なんだか一人で納得していた。

 

 

……とりあえず、レイジングハートの所有権は後回しだ。

彼は僕達の知らない何かを知っているようだし、

ここで、情報を引き出しておきたい。

 

 

「君は、デバイス……

 手にしてるそれや、あの不良達が使ってた、

 杖についてなにか知ってるのか?」

 

 

「デバイス……お前達はそう呼んでるのか……

 俺達は、マギロッド(魔術師の杖)と呼んでる。

 どういうものかは…今更説明する必要はなさそうだな……」

 

 

マギロッド……用途はその名の通り、魔法を使うためのものなのだろう。

何度見ても、どことなくストレージデバイスに似ているが、

先ほどの戦闘を見る限り、性能は決して低くない。

 

 

「その杖は、いったいどうやって手に入れたのですか?

 えーと……」

 

 

そう言えば、まだ名前を聞いてなかったっけ。

 

 

「ん……悪い、まだ名乗ってなかったな

 俺の名前は闇雲ミヅチ、龍神小学校の生徒だ。」

 

 

ミズチ……少しとっつきにくい雰囲気があるけど、悪い奴じゃなさそうだ。

 

 

「自己紹介ありがとうございます、大道寺知世と申します。

 こちらは、木之本桜ちゃんで、こっちが高町なのはちゃん、アリサ=バニングスちゃん、ユーノ君

 ……そして、こちらの大きいのがケルベロスことケロちゃん。

 見た目は迫力がありますけど、こうみえて気さくで陽気な性格ですわ。」

 

 

名乗ってくれたミズチに対し、知世さんは僕達の紹介をしてくれたのだが……

 

 

「大道寺……」

 

 

何故か知世さんの苗字を口にすると、ミヅチはわずかに眉間にしわを寄せていた……

なんだか、イヤな事を思い出したような表情だけど……

 

 

「どうかなさいましたか?」

 

 

「……いや、知り合いに同じ苗字のやつが居てな、

 いろいろと性格に癖のあるヤツだったから、その……わるいな。」

 

 

どうやら、大道寺と言う名前に別の心当たりがあったようだ。

 

察するに、あまり仲は良くないみたいだけど、

一体どんな性格の相手なのか……

 

 

「……奴等の仲間に見つかると厄介だ、

 お前達も、たぶん行先は一緒なんだろう?

 

 ……ついて来い、こっちが森の出口だ。」

 

それ以上その大道寺について口にする事もなく、

ミズチはそう言うと、足早に森の奥へと進んでいってしまった。

 

 

どことなく、疑わしい雰囲気を持っているけれど、

とりあえず信用は出来ると思う。

 

「とりあえず、ミズチ君について行ってみましょうか、

 どうやら、行先は間違っていないようですし……」

 

「連中が潜んでても、ワイにはまるわかりやからな、

 警戒しながら、進むことにしよか。」

 

 

そんなわけで、周辺に最大の注意を払いながら、

僕達は彼の後について行くことにした。

 

 

「……さて、マギロッドをどうやって手に入れたかの話だったな。」

 

 

そうして、みんなで少し歩いたころ、

ミヅチがさっきの僕の質問に対して答えようとしてくれた。

ただ、その内容に関しては……

 

 

「……悪いが、こちらにも色々と話せない事情がある、

 俺がこのロッドを手に入れた理由は教えられない。」

 

 

「ちょっと! なによそれ!!

 思わせぶりなこと言っておいて……」

 

全く教えてもらえないのも同然の返答だったので、すぐさまアリサは激昂してしまったのだ。

 

「アリサちゃん、落ち着いてくださいませ。

 他人に話せない事情があるという意味では、私たちも似たような立場ですし……」

 

 

そんなアリサを、知世さんがなだめられておちつかせる。

ただし、顔はしかめっ面のままだったけど……

 

 

……正直簡単に答えてもらえるとは思わなかったし、

僕達も、これまでの事を他人に全部話せるかといわれると……

 

 

魔法少女の一件もそうだし、

幻想郷の皆さんについても特に口止めはされていないけれど、

軽々しく話していい話題ではないはず……

 

 

ミズチはとりあえず敵ではなさそうだけれど、

むやみにこちら側の情報を渡すわけにはいかない。

 

 

……他人の事が言えるのかと言う心の声は、

とりあえず無視する事にした。

 

 

 

「……ただ、他のロッドマイスターは、

 ある特定の地域で最近使い手が増えているそうでな……

 この先につながっている街も、最近ロッドマイスターが増えている地区の一つだ。」

 

 

「特定の地域……? 海鳴じゃ聞いた事ないけど、

 ……いったいなんでそんな事になってるのかしら?」

 

 

アリサの口にした疑問はもっともだ。

 

当然ながら、どこかで販売しているわけはないだろうし、

ばらまいた所で、得があるとも思えない。

 

 

 

「さぁな……その辺は俺にもわからん

 ただ最初期の奴は、三ヶ月くらい前から、杖を手に入れたと聞いている。」

 

 

……わからないって言ってる割に、結構詳しいな。

 

三ヶ月前というと……

僕は、まだなのはと出会うどころか、

ジュエルシードを発掘して間もないころだ。

 

 

「三ヶ月ほど前……」

 

「李君が帰国して、すぐの頃になりますわね。」

 

 

彼の話が本当ならば、そんな前からあのデバイスによく似た杖が

バラまかれていた事になるけど……

 

……ん? 待てよ、そんなに前からバラまかれていた……?

 

その頃、ジュエルシードは発掘したばかりだから、

まだ管理してもらうかどうかすら決まっていない時期で、

あれを狙ってきたフェイトも、情報はおろか存在すら知らないはず……

 

 

あのデバイスもどき、てっきり彼女がらみだと思っていたけれど、

別の誰かが、あれをばらまいているのか……?

 

 

「ついたぞ、どうやらあいつ等はここからいろんな街に繰り出していたようだな。」

 

 

ミズチの声で、思考の海から我に返ると、

僕達はいつのまにか、どこかの町の入り口らしい場所に立っていた。

 

 

そこそこ大きな町のようだが、海鳴市とも、友枝町とも雰囲気が違う。

 

 

「ここは……山茶花町という所らしいですわ、

 結構、離れた場所まで来てしまいましたわね。」

 

 

知世さんが、手にしたスマートフォンで現在位置を確認する。

僕達も画面を確認させてもらうと……

どう考えても、歩いてきた距離が合わないほどの遠い場所だ。

 

 

振り返ってみると、そこに見える景色も、

いつの間にかこれまで歩いてきた森が消え、普通の道路と街灯のならぶ

通常の光景へと変わっていた。

 

 

「こんなの、初めてだ、

 君は、前からあの空間の事を知って……

 

 ……あれ、ミズチ?」

 

 

そして、あの空間についても訪ねようとしたところ、

ミヅチは、いつの間にか姿を消してしまっていた。

 

さっきまで、すぐそこに居たのに……

 

 

「あいつ、いつの間に……

 まったく、勝手なやつねぇ……」

 

 

「一人で、あの子たちの所に行ったのかな……?」

 

 

各々が、ミズチに対しての感想を口にする。

なんとも、謎の多い子なのは間違いないけれど……

 

 

「もしかしたら、私達を巻き込まないようにしてくれたのかもしれませんね。

 

 ほら、さっき森の中にいた子達を追い払っていましたから、

 追手がかかっていると思ったのではないでしょうか?」

 

 

言われてみれば……

 

 

さくらさんのおかげで、僕達は見つからずに済んだけれど、

ミズチは顔を見られて、さらに逃がしてしまっているのだから、

追っ手をかけられてもおかしくないはずだ。

 

 

「……奈緒子ちゃん、ここにいるんだよね。」

 

 

「恐らくは……

 でも、この町も結構広そうですし、

 どうやって探したものか……」

 

 

さくらさん達は、連れ去られた友達の心配をしている。

無論僕達も、すぐに助け出したいに行きたいけれど……

 

ここはあいつらの本拠地、どこで何が待ち構えているかわからない。

事は、慎重に運ばなければ……

 

 

……それに、この世界でこんな時間に小学生が出歩いている所を

町の大人に見つかったら、大変なことになってしまう。

 

……なのはと出会う前、おまわりさんに見つかった時は大変だった。

不法滞在もいいとこだから、詳しい話が出来る訳もなくて逃げるしかなかったんだよね……

 

 

あのおまわりさん、いい人そうだったから、

あの時は、なおの事心苦しく……

 

 

「……ん? ねぇ、ちょっとアレを見て」

 

 

アリサの声で、回想を中断して指さした方を見ると……

そこにいたのは、ごく普通な雰囲気の小学生の男女。

 

僕たちが言えた義理ではないけれど、

こんな時間帯に外を歩き回るのは不自然と思われる二人組だ。

 

 

なにか、周囲を警戒している様子だけど、アレも襲ってきた奴等の仲間なのか……?

しばらく眺めていると、こちらに視線を向けて来たので、僕達はすぐさま身を隠した。

 

 

 

「なんで、こんな時間にこんな所を……」

 

 

「夜中のデート……ちゅう雰囲気でもなさそうやな……

 お、あの店に入りよったで。」

 

 

いつのまにか小さい姿になっていたケルベロスの、

あまり適切でない発言は無視することにして……

 

 

二人は、警戒を追えると

そのまま、そこにあった少し派手な看板のお店へと入店していった。

 

 

僕達も、その店の前まで行って看板を確認すると、

そこには、【ウサオちゃん喫茶】という文字が……

 

 

「どうやら、喫茶店……の様ですわね」

 

 

「ほえ……でも、なんでこんな時間に……?

 もしかして、あの子たちと何か関係があるのかな……?」

 

 

 

「とりあえず、入ってみましょうよ。

 お店ってことは、中に大人がいるでしょうし、

 いきなり襲ってこられたりもしないでしょ。」

 

どうかなぁ……その大人がグルだったとしたら

なおの事、ピンチになるんじゃ……

 

―――グー……

 

そんな不安な雰囲気を余所に、またもや僕のお腹が鳴ってしまった……

みんなの視線が一気に集まって、またもや僕は赤面してしまう。

 

「あんたねぇ、こんな時にお腹鳴らすなんて緊張感ないんじゃないの?」

 

「まぁ、あれから結構時間もたってるし……仕方ないよ。」

 

「ごめんね……お夕飯もっと持っていければよかったんだけど……」

 

 

アリサからは呆れ、さくらさんからは慰め、

なのはからは申し訳なさそうに謝罪の言葉が向けられる……

 

 

……僕って、こういうキャラだっただろうか?

 

 

「仕方ありませんわ、とりあえずお店に入って、

 注文しながら、中の様子をうかがうことにしましょうか。

 

 事情が事情ですし、今回は私がお支払いしますわ。」

 

 

「そんな……二度もおごってもらうわけには……」

 

 

さっきのパンとコーヒー牛乳の代金も、当面返す当てがないのに、

これ以上おごってもらうのは、さすがに申し訳が……

 

 

「いいえ、ユーノ君も自らの危険を顧みずに、

 ジュエルシードを回収しに来てくれたのですから……

 これは、私からのほんの恩返しですわ。」

 

 

なんだろう……この心遣いに

なぜか、目から熱いものが零れ落ちそうになってきた。

 

 

「……と言う訳で、さっそく中に入ってみることにいたしましょうか。」

 

 

そういうと、知世さんはドアノブに手をかけて扉を開いたので、

僕達も、それに続いて店の中に入ると……

 

 

そして、僕達はそこで驚くべきものを目にしたのだった。

 

 

 

……ある意味、誰も想定していなかった方向性で。

 

 

 

 




第三章はここまでとなります
次からは第四章になる見込み

今回、特殊タグからついに名前付きが出てきましたが
このタグを使う場合、作品名はタグにならないのであしからず


……構成的に、やっぱSRC向けかも


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第4章:力こそ正義
炸裂、ウサオちゃんスペシャル


友枝町を襲った犯人を追いかけ、不思議な空間を抜けた先にあったのは

私達の住む町から遠くにある山茶花町という町でした。

 

 

知世さんが借りているスキマの力を使って家を抜け出してきたので、

もうすっかり遅い時間だったけれど

町について早々に、私達と同じくらいの子達が

変わった名前の喫茶店に入っていくのを目撃しました。

 

 

人のことは言えた立場じゃないけれど、

こんな時間にあんな子供がこんな所を出歩いているのは……やっぱりおかしい。

 

 

もしかして、さっきの子達の仲間なのでは……という疑問、

そして、おなかを鳴らしたユーノ君のため、

話し合いの結果、とりあえず中に入って、

何事もなければそのままなにか注文しようという話になりました。

 

 

もし普通のお店だったとしても、さっきの子達が入っていったんだから、

起こられたりはしないだろうし……。

 

 

「……あとで、ワイにも分けてや。」

 

 

……いつの間にか仮の姿に戻っていたケロちゃんは、

そういうと、知世さんのバッグの中に隠れてしまいました。

 

 

……よし、行ってみよう。

 

 

覚悟を決めて、店のドアを開けて中に入ると

店のドアにかけられたチャイムが鳴り……

 

「いらっしゃーい……あらっ!」

 

私達の入店に気付いた、かわいいエプロンをつけた店員さんが挨拶をしてくれたので……

 

 

「………………」

 

私達は、思わず無言のまま固まってしまいました。

 

何故こうなったのかと言うと、店員さんの見た目と言うのが……

 

 

スッキリとした坊主頭。

 

 

筋肉が沢山ついているマッチョボディ。

 

 

目には長いつけまつげと、ケバケバしいほどのアイシャドー。

 

 

赤い口紅を塗った分厚い唇、その周りには濃いイブニングシャドー(ヒゲそりあと)

 

 

どうみてもオカマッチョ……としか言いようがない、

見た目にインパクトのありすぎるおじさんだったからです。

 

 

「あら、あなた達始めてみる顔ね……

 あの子達の新しいお仲間?」

 

 

そして、見た目と声の太さに似合わぬ女性口調……

 

 

この時、私は最初にジュエルシードを回収した時以上に

驚いた顔をしていたと思います……

 

 

たぶん、隣で口をぽかんと開けてるアリサちゃんと同じように……

 

 

「ほえ~……」

 

 

その横では、さくらさんが少し困惑していましたが、

このインパクトある光景を目撃しても、

知世さんはいつもと変わらぬ微笑みを浮かべていて……

 

 

逆の隣では、ユーノ君は何かに怯えるように震えてました。

……ユーノ君、こういう人苦手なのかな?

 

 

「ユキエさん、どうしたの……って、誰だお前たち!?」

 

 

そうして固まっていると、こちらの様子を確認しに来たのだろうか……

店の奥から私達より少し年上くらいの小学生の子が出てくると、

私達の姿を見て警戒したのか、いきなり大きな声を上げました。

 

 

その声を聞きつけて、更に奥から全部で十数人ほどの

私達と同年代か、それ以上の学年が違うの子達が出てきて……

 

 

警戒心丸出しでこちらを見ているみんなの手には、

ミヅチ君が説明してくれたマギロッドと思われる杖が構えられています。

 

 

「それは、マギロッド……!

 まさか、君達もあの不良の……」

 

 

「何言ってるんだ!

 お前達こそコクエンの手下なんじゃないのか!?」

 

 

緑色でコーディネートされたあの子達と違って、ごく普通の小学生と思われる服装……

いや、あの世紀末ファッションと比べるとマシだけど、道義姿は普通じゃないかな?

 

 

とにかく、あの子達とは違った雰囲気の子ばかりでしたが、

あの杖を持っている以上、彼らの仲間とも限りません。

 

 

向こうも、コクエンという聞きなれない名前を出して来たところを見ると、

私たちが、その人の仲間じゃないかと疑っているのでしょう。

 

その敵意に反応して、私とユーノ君は前に出て構え返したので、

お互い、にらみ合う事になりましたが……

 

 

―――グゥー……

 

 

突然、店の中に響き渡った音で、緊迫した空気が緩み、

音の主のユーノ君が再び赤面してしまいました。

 

 

今夜は晩御飯多めに持ってったはずなんだけど……

やっぱり、フェレットじゃあんまり食べられないのだろうか?

 

 

「ちょっとちょっと、お店の中でもめ事はダメよ♪」

 

 

そうやって空気が緩んだ瞬間に、先ほどの店員さんが

まだすこし緊迫していた雰囲気を破って間に入り、

向こう側の子達をなだめ始めてくれました。

 

 

「……落ち着きなさいな、この子達がコクエン君の手下なわけないじゃない。

 こんなかわいい子達、あの子なら絶対そばに置いてるわよ。」

 

 

うーん、やっぱりあの声であの口調はちょっとなれないかも……

 

 

とにかく、店員さんが訳のわからない理由で説得すると、

驚いたことにほぼ全員が、非常に納得した顔で杖の先を下ろしてくれて……

 

 

「……まぁ、それを言われればそうだけど……

 でも、少女漫画の主人公並みの可愛さの子が

 こんな時間にここに来るなんて普通じゃないですよ?

 

 ……君たち、いったいどこの子?」

 

 

まぁ、そういわれるのはもっともな話なの。

 

とにかく、警戒を解いてくれたようなので、

これまで何が起こって、どうしてここにいるかの説明は、

さくらさんが、してくれる事になりました。

 

 

「私達、友枝町から来たんですけど、

 今日、緑色の格好をした子達が、いきなり町に襲ってきて……

 

 その子たちは、なんとか追い払えたんですけど

 友達が連れていかれたから、ここまで追いかけてきたんです……」

 

 

「え!? コクエン隊を……キミ達が!?」

 

 

「あらヤダ! じゃああなた友枝小学校の子!?」

 

他の子達がみんな驚いている中、

店員さんは、さくらさんの答えに対して嬉しそうに手を鳴らすと、

目をキラキラとさせた笑顔をしていました。

 

 

見た目は、ちょっと不気味だけど……

 

 

「あそこって男女問わずかわいい子が多いのよねぇ……

 確かに、あそこならコクエン君は真っ先に狙いそう。

 

 ……大丈夫よ、嘘つくような子には見えないもの、

 あなたたち、相談に乗ってあげなさいな。」

 

 

納得した店員さんが、再びあちら側の子達に声をかけると、

その理由に納得したのか、それとも迫力に押されたのか。

向こうの一番前の子が、ため息をつくと……

 

 

「わかったよ、奥の部屋まで来てくれ、

 秘密のアジトになってるんだ。」

 

 

そう言って、店の奥を指さしてついてくるように言いました。

 

どうやら、私達の事を信用してくれたみたいです。

 

 

「大丈夫よ、お友達の事、この子達なら相談に乗ってくれるわ。」

 

 

「ありがとうございます、店員さん」

 

さくらさんが、物おじをせずお礼を言うと、

店員さんはニコニコしながらも、少しはっとした顔をして……

 

 

 

「あらヤダ、まだ自己紹介して無かったわね、

 私はこのウサオちゃん喫茶の店長よ、ユキエって呼んでちょうだい♪」

 

 

どう考えても、本名じゃないよね……

まあいいか、そういう人もいると思えば……

 

 

そうして、私達はユキエ……店長さんに奥の部屋に案内され、

先ほどの事、奥に居た子達と、お互い軽い自己紹介をしてから、

この町で何が起こってるかを聞くことになりました。

 

 

……と、その前にユーノ君の食べるものを注文しなきゃ、

またおなかが鳴ったら大変だもの。

 

 

「ねぇねぇなのは、これなんかどう?

 店長のおすすめの一品!」

 

 

そういって、アリサちゃんがメニューを見ながら注文したのは、

見た目が豪快なスペシャルパフェ。

 

 

……写真を見る限り結構な量だけど、食べきれるのだろうか?

まぁ、大食いチャレンジじゃないからいざとなったら分けてもらえばいいかな。

 

 

そして、注文が終わって店長さんが調理場に行った直後……

 

 

「それで、ハッキリ聞くけどこの町では何が起こってるの?

 それに、さっき話に出てきたコクエンって言うのは?

 あと、マギロッドについても教えてくれる? 手に入れた方法とか」

 

 

アリサちゃんは、彼らに対してこれまでの疑問の数々……

そして、この街で起こっていることを尋ねました。

 

 

「え……? でも君達あいつらを追っ払ったって事は、

 ロッドマイスターなんじゃ……?」

 

 

「それはさっきやったからもういい。

 

 私達は、それについて詳しく知りたいの。

 ……もしかして、話せなかったりとかするの?」

 

 

どうも、目の前の人たちは私達より年上みたいだけど、

アリサちゃんは躊躇せずに、ややキツめに正確な答えを言うよう要求しました。

 

そう言われると、向こうは一度相談するかのように目を合わせていましたが、

すぐに全員が納得した顔になり、質問した内容について話してくれました

 

 

「別に、話せないって事はないんだけどね、

 今から、3ヶ月くらい前だったかな……

 

 山茶花町の中で、魔法使いみたいな黒いローブを着た女が、

 小学生に魔法の杖を配ってるって噂が流行ったことがあるんだ。」

 

 

「三か月前……ミヅチ君の教えてくれた情報と一致しますわね。」

 

 

町にたどり着いたと思ったら、いつのまにか姿を消してしまっていたけど、

どうやら、あの話は本当だったみたい。

 

 

「私達も、最初は子供じみた噂だって思ってたんだけど……

 ある日、俺達も学校の下校中に、いつのまにか見覚えのない道を歩いていたら

 そこに、噂通りの黒いローブの女がいて……」

 

 

「噂通り……にしては、ちょっと機械っぽい感じが強いけど、

 この通り、魔法の杖をもらったってわけ。」

 

 

そういって、目の前のみんな集中したと思った瞬間。

 

 

何もなかった彼らの手には、友枝町に襲ってきた不良が持っていた物によく似た、

棒をメインに、やグローブ、あるいは大きな銃みたいな様々な道具が現れました。

 

 

それを見て、ユーノ君は身を乗り出し、まじまじとそれぞれの道具を見回しています。

 

 

「それが、君達のマギロッド?」

 

 

「ああ、何でもできるってわけじゃないけど、

 この杖を使って、色んな事が出来るようになってさ、

 手にした奴、みんな大喜びだったよ。」

 

 

確かに、こういうところは、レイジングハートや

さくらさんの星の杖とおんなじみたい

 

 

「……ちなみに、マギロッドって呼び方は、くれた人が言ったわけじゃないんだ。

 誰かが、魔法の杖と絡めて、これの事をそう呼びだして、

 それがいつの間にかあっちこっちで流行ってね……

 アニメみたいにかっこよく、使い手の事、ロッドマイスターとか言ったりさ。」

 

 

みんなが口々にいろんな情報をくれるけれど、

私は、みんなにマギロッドを渡したという、黒いローブの女の事が気にかかってた。

 

 

黒と言えば、あの子も黒っぽい衣装だけど……

 

 

「あの、すいません、その黒いローブの女ですけど、

 もしかして……私と同じくらいの子だったりしません?」

 

 

時期的に合わないのはわかっているけれど、

何故か、関係してるんじゃないかという疑問が続いていて……

 

 

「え……? いや、どう見ても20代くらいの人だったよ。

 

 ……大きな声じゃ言えないけど、ユキエさんと違って、

 まっとうな女性なのはまちがいない。」

 

 

ちょっと失礼な返答に、発言をした子以外の子は、

慌てた顔で厨房を見たけれど、店長さんには聞こえてなかったみたいで、

向こうでは、鼻歌を歌いながらパフェにクリームをかけているところでした。

 

 

 

「……顔は良く見えなかったけど……

 すべすべしたきれいな大人の手だったし……」

 

 

「なんか、色気のある声でさ……

 顔を見なかったの、ちょっと後悔したかなぁ……」

 

 

……どうやら、杞憂だったみたい。

 

どこかに引っかかるものを感じたけれど、

あの子とは関係してないようなので胸をなでおろすと……

 

 

「はい、おまちどー♪

 当店のスペシャルメニュー、ウサオちゃんスペシャルよ♪」

 

 

ちょうど、店長が注文したパフェを持ってました。

 

 

大きなパフェの器に、甘そうな具が山盛りで、まさに圧巻……

一人で食べきるのには、ちょっと大変そうなの。

 

 

 

「なるほど、確かにこれはスペシャルね……

 ちょっと味見させてもらうわ。」

 

 

「ワイもワイもー、独り占めは許さへんで!」

 

 

そして私達が見入っている間に、

アリサちゃんと、いつの間にカバンから出ていたのかケロちゃんが

スプーン立てにあったスプーンを手に取り、

パフェにスプーンを突っ込んで、掬い取ってました。

 

 

「ちょっとケロちゃん! 勝手に出てきちゃダメでしょ!!」

 

 

さくらさんが、ケロちゃんに対して注意をしたけれど……

 

 

当のケロちゃんは、怒ってるさくらさんと、

突然出てきたケロちゃんに驚いているほかの子達の事など知らないとばかりに、

ケロちゃんはスプーンの先を口元に寄せながら……

 

 

「かまへんって、ここにいる連中みぃーんな魔法の事しっとるんやから……

 友枝町から離れた場所やし、旅の恥は搔き捨てっちゅうやつや。」

 

 

そんな無責任なことを言ったので、さくらさんが呆れた顔をしてました。

……本当に、いいのかなぁ?

 

 

「あら~……これはマスコット?

 いいわねぇ、やっぱり女の子の魔法使いにはこういったのがないと……

 それじゃあ、ごゆっくり~♪」

 

 

そして、ケロちゃんを目にしてなぜか満足そうな顔をしたユキエさんが

キッチンの方に向かっていくのを見送った直後……

 

 

―――バリ バリ

 

 

突然、変な音が2つ聞こえてきたので、

なんだろうと思って、そちらの方を向くと……

 

 

「うぇ……な、なんなのよこのパフェ!?」

 

 

アリサちゃんは、青い顔をして口元を手で押さえていて……

 

 

「ぶぇぇぇ~……」

 

 

ケロちゃんは、舌を出しながら苦虫でも噛み潰したような顔をしていました。

心なしか……いや、確実に舌が赤く染まってる?

 

 

このパフェ、そんなにまずいのかな……?

 

 

「……やっぱり、こうなったか。」

 

 

「普通のにしておけばよかったのに……。」

 

 

目の前の子達が案の定といいたそうな顔で、

そういっているのを聞きながら、パフェをよく見てみると……

 

パフェの材料には、クリームの他に、アンコ、プリン、チョコレート、キャラメル、バナナと

少しまとまってなさげな甘いものが詰め込まれていましたが……

 

 

……その中に一つ、赤い部分に変な違和感を感じました。

 

この赤さは、よく見てみるとイチゴ……ではなく、

唐辛子で漬け込んだであろう白菜……

間違っても、パフェの材料に使ってはいけなさそうな材料だ。

 

 

「辛……ッ!?なんでパフェにこんなもんが入ってんのよ!!」

 

 

水を飲んで一息ついたアリサちゃんは涙目で怒っています。

 

 

パフェの材料と思ってこんなもの口にしたら、私だって怒るかも……

実家が喫茶店だからなおの事……

 

 

「……なんでも、このパフェは甘辛い初恋の味を表現してるんだとか……」

 

……と、周囲の子達が教えてくれましたが……

 

 

初恋の表現って、甘酸っぱいじゃなかったっけ?

確かにこれも漬物だから、酸っぱいところもあったはずだけど、

辛いまで行ったら、失恋の味になっちゃうんじゃないのだろうか?

 

 

いやむしろ、それをこんな表現にしなくても……

 

 

「……いっぺん、翠屋のパフェ味合わせてやりたいわ……

 そしたら、ちょっとはマシになるかもしれないし……」

 

 

アリサちゃんは、恨みがましそうな顔でそうポツリと漏らしてました。

 

 

……言いたいことはわかるんだけど、食べただけでそこまでの効果は

期待しない方がいいんじゃないかなぁ……

 

 

なにしろ、お姉ちゃんがアレだから……

 

 

「大丈夫……?」

 

 

「ぶぇぇ……ワイ辛い物苦手なんや……

 まったく、なんちゅうもの作るんや、あのオカマッチョ」

 

 

そして、本来食べる役のユーノ君は、まだ舌を出しているケロちゃんを心配しつつも

目の前のパフェに恐れを抱いた様子で引いていました……

 

 

……あの、無理しなくてもいいんだからね?

 

 



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逃げられた最後の希望

不良を追跡してたどり着いた町、山茶花町。

 

逃走の痕跡を追う中、僕達は奴等と敵対している

ロッドマイスター達の集団とある喫茶店で出会い、

彼らと話し合う事になった。

 

その際、空腹で鳴った僕のお腹を満たすために、

なにかを注文する事にしたのだけれど、

選んだのは、メニューは面白半分でアリサが強引に選んだスペシャルパフェ。

 

こんなものを選ぶだけあって、アリサも味に興味はあったようで

甘いものにつられて飛び出てきたケルベロスともども

一口とばかりに、出てきたパフェをスプーンですくい取り

嬉しそうに口に運んだのだが……

 

一部の材料と味に問題があったらしく

二人とも、マズさを表現したような顔をした直後

文句を言いながら、目の前のパフェを睨みだした。

 

 

……もともと、僕が食べる注文だったため

アリサはさっさと食えとばかりに、目を背けながら

僕の前にパフェの器を押し出してくる。

 

正直、かなり不安だけれどご馳走してもらう以上

手を付けないわけにもいかないし……

……どうしてもダメなら、残すしかないか

 

そう思い、僕がスプーンをもった手を伸ばすと……

 

 

「……で、どこまではなしたっけ?」

 

目の前の男の子が、どこまで話したのか忘れてしまったらしく

そんなことを言いだした。

 

パフェの事とか、ケルベロスを見たりで

気がそっちの方に向いたのだろう。

 

 

「黒いフードの方に、この近辺の小学生が

 マギロッドを貰った所までですわ」

 

知世さんは、話をしっかり覚えていたので

あのマギロッドというデバイスもどきを配っていた

黒いフードの女の話題を口にする。

 

あの不良達や、彼らのようなこっちの世界の子供たちに

マギロッドを無差別でばらまいた謎の女……

 

いったい、何者なのだろうか?

 

普通に考えたら、どう考えてもこの行為に利点はないはずだ。

管理外世界の子供達にばらまくには、

一番安いデバイスだって、おもちゃにしては高価すぎる。

 

ただ、それを彼らに問いても明確な答えは返ってこないだろう。

僕は、目の前のパフェを相手にしつつ、話の続きを聞く事にした。

 

「そうそう……それでマギロッドを貰った後は、

 貰った奴等が集まって、いろいろな事を始めたんだ。」

 

「たとえば、イタズラだったり、魔法を使ってのいろんな勝負やったり……

 もう、漫画の主人公になった気分で大はしゃぎだったぜ。」

 

彼等は、その体験を楽しそうに語り始めたけれど、

この辺の感覚は、僕にはよくわからない感じかも……。

 

素質によるとはいえ、魔法を普通に使える世界の出身だからか、

ここまで生き生きとした表情を見せる感覚は、ちょっと理解しにくい半面

少しだけうらやましくもある。

 

「あと、君らが通ってきたあの森……

 誰が言い始めたのか、クラスターって呼ばれてるんだけどさ。

 あれも、マギロッド貰って見える様になったから、

 日帰り気分でいろんな所にいく時に使ってたんだ。」

 

こちら側からは見えない不思議な空間。

あれを辿って、僕達はこの町にたどり着いたのだけど、

知世さんのGPSで確認した所、本来の距離はかなりのもので、

あの中で、僕らが進んできた距離ではたどり着けないはずだ。

 

「クラスター……集団や、房という意味ですわね

 あれは、いったいなんなのでしょうか?」

 

知世さんが疑問を口にしたけど、正直僕にも見当がつかない。

転移ではない、徒歩で行ける不思議な空間……

こんなの、文献上でも今まで聞いた事が無い。

 

「詳しい事はあんまり……

 みんな、便利だなーとしか思ってないんじゃないかな。」

 

 

「……でもさ、そのうちやってる事が、

 どんどんエスカレートしていってさ……」

 

先ほどの嬉々とした表情から一転して、

彼らの顔に徐々に曇りが見え始める。

 

「楽しみとしての勝負じゃなくて

 縄張り争いや、上下関係を決めるケンカとかが

 起こるようになっちゃったんだ……」

 

と、マギロッドは便利な道具としてだけではなく、

使い込まれて行くうちに、危険性も発揮し始めたようだ。

 

……この辺りの事情は、どこに行っても変わらない。

 

向こうでも、表向きは魔法を迂闊に、

使っちゃいけないよう教えられてるけど……

 

そんな事は知らないとばかりに、

魔法犯罪の発生率は、目をそむけたくなるほどに高かった……

それも、年齢を問わず……

 

「あー……なんとなくわかる気がする。

 なのはやさくらさんならともかく、普通の小学生なら、

 そういう力をいきなり持ったら、そうなるわよねぇ……」

 

アリサは、彼らの話を聞いて、さもありなんとばかりに頷いた。

 

そういう意味では、僕は本当に運がよかったと思う

悪い子じゃないのは分かっているけれど

これがアリサだったらどうなっていたことやら……

 

「……で、そんな抗争が続いていった結果

 この辺では、ある男の率いるグループが頂点を勝ち取ったんだ。」

 

「そいつが、君達の町を襲った奴等、コクエン隊のボス・宵闇コクエン……

 間違いなくこの町じゃ一番のロッドマイスターだよ。」

 

コクエン……これまでの会話で、何度か耳にした名前だ。

 

「……たしか、お店に入った時にその名前を出してましたわね」

 

友枝町に襲ってきた彼らは、まだ未熟なところはあれど、

魔導師として、決して弱い部類ではない。

 

むしろ、3ヶ月であれだけの使い手になったのならば、

かなりの素質を持っていると言える。

 

そんな彼らと同じ……最長で三か月と言う短い期間で、

彼らの主としてふるまう強さを誇るコクエンとは、

いったい、どんな相手なのだろう……

 

「元々は、ケンカもそこそこ程度なチャラ男だったんだけど、

 ロッドマイスターになってからは、とんでもなく強くなってさ……」

 

「今では、近隣の学校を全部制圧した上、

 手下を引き連れながら、王様気取りで街を歩いてるわ。」

 

この辺を聞く限りでは、成り上がりで支配欲の強いイメージだ。

それで居て、従えるだけの強い実力を持っているのも間違いない。

 

「ただ、中心メンバー以外は

 力ずくで従わせてるだけだから、人望はあんまりかなぁ……

 特に、下っ端連中は、不満でいっぱいだとか。」

 

……だけど、人望はあんまり無いようだ。

 

まぁ、遠く離れた町まであんな事をしてくる奴だし、

危険そうなやつだって事は間違いけれど……

 

「でも、あそこまで迷惑かけまくってる奴なら、

 町の大人だって、放っておかないんじゃないの?」

 

確かに、そこまで横暴を繰り返しているのならば

止める大人が出てきてもいいと思うけれど……

 

「生憎、そんな大人はいないんだよね。

 ……それに、町一番のイタズラ小僧が、魔法使って悪さしていますなんて、

 信用してくれる大人、どれだけいると思う?」

 

「そ、それを言われると……」

 

むこうならば、すぐに誰かがすっ飛んでくる内容だけど、

魔法が表ざたになってないこっちでは、

子供のウソと思われるのが関の山のようだ。

 

「あれ? でも店長さんは……」

 

「確かに、事情を知って僕たちをかくまってくれるくらいには、

 頼りになる人なんだけどね……

 ユキエさんだけじゃどうしようもないし、

 あの人に説得されて、信じてくれる人もいると思う?」

 

……まぁ、それも確かに、

悪い人では無いと思うけれど、普通の人からは、

ちょっと近づきがたい感じの雰囲気だったし……

 

「……実は、ユキエさん以外にも事情を知ってる人はいるんだけど、

 コクエン達は手下とマギロッドを使って、町中の大人の弱みを握ってるから、誰も奴等を注意出来ない……

 事情を知ってる大人はユキエさんを除いて、みんな、ほとんど奴等の言いなり状態なんだ」

 

「弱みって?」

 

「内容までは知らないけど……

 なんでも、バレたらショックを受けるような写真とかを盗撮してるとか……」

 

 

「許せませんわ!!」

 

 

彼らが弱みの内容・盗撮と言う言葉を口にすると、

すぐさま、知世さんが大きな声を挙げた。

 

それに驚き、さくらさんを含め、僕たちみんなが知世さんの方を向くと、

知世さんは、眉間にしわを寄せながら、眉の端を釣り上げて、

僕達がこれまでに見た事のない、怒りの表情を露わにしていた。

 

……とはいえ、本来の性格が性格だからか、

怒ってるとはいっても、それほどの迫力はない。

 

「と、知世ちゃん……!?」

 

「撮影のための道具を、人を貶めるために使おうなど、

 到底許される事ではありませんわ!」

 

……知世さん、怒るポイント少しずれてます

 

「……まぁ、こういうのを言うのもなんだけど、

 コクエン含めて、マギロッド貰った奴等は、

 なんというか、親でもこう言った事に介入してこないような家庭でさ……」

 

 

「そういうわけで、町で協力してくれる大人はユキエさんただ一人なのよ……

 アイツらも、ここに踏み込んでくるのは勇気がいるでしょうしね。」

 

 

まぁ、確かにあの人に視線を向けられるとちょっと怖い……

 

ドアを開けた先にあの人が待ち構えているのでは、

迂闊な真似をする小学生はいないだろう……

 

 

―――カチャン

 

 

そんな話の中、手にもつなにかで硬いものをついたような感覚と同時に

ガラスに金属をぶつける音がした。

 

なんだろうと思って、そそっちに目を向けると、

目の前の器……先ほど頼んだパフェ空になっており、

手に持っていたスプーンが器の底をついていた。

 

どうやら、気が付かないうちにパフェを平らげてしまったみたいだ。

 

話に夢中になって、味はよくわからなかったけど、

空腹感は解消されているので、もうお腹はならないだろう。

 

 

「……と、ごちそうさま。」

 

お腹が落ち着いたので、そう言ってスプーンを置くと……

 

「「「ええっ!?」」」

 

 

次の瞬間、みんなが驚愕した表情で、一斉にこっちに視線を向けてきた。

 

いや、何もそこまで驚かなくても……

 

「このパフェを、ほとんど一人で完食するなんて……」

 

「味音痴なのか、それともよほど腹が減ってたのか……」

 

見せに居た子達は、僕とパフェの器を見て、

信じられないと言わんばかりの表情を見せた。

 

けど正直、食べられない味ではなかったと思うけど……

 

「なのは、いくらなんでもこれはひどいんじゃない?

 あのマズイパフェを完食するほど飢えさせてるって……」

 

アリサも、さきほどこのパフェを口にしたばかりだからか、

彼等と同様の顔をして、なのはにあらぬ疑いをかけ始めていた。

 

「なっ!? アリサちゃん! それは流石に誤解なの!!

 大体、あのパフェを選んだのはアリサちゃんでしょ!!」

 

それに反論する形で、なのはは珍しく怒った表情になり、

原因はそっちだと言わんばかりに、アリサがパフェを頼んだ事を責め返す。

 

な、なんだか周囲の雰囲気が大変な事になってるような……

二人とも、こんなことでケンカしないで……

 

「……まぁ、そう言う訳でこの町を掌握したコクエンのやつは、

 今度は、別の学区を制圧しようとして、各地に手下を送り込んだんだ。

 さらわれた子達も……たぶん、その一環だと思う。」

 

そんな雰囲気にかかわりたくないとばかりに、

話の進行役をしてくれていた子が、改めて事情の説明を続けてくれた。

 

なんでそんな事を始めたのかは理解できなかったけど、

おおむね何が起こっているかは分かったと思う。

 

「事情は大体理解できましたわ。

 ところで、さらわれていった子達の居場所に心当たりはありますか?」

 

あの襲撃で、さくらさんの友達の奈緒子さんと、

アリサと一緒に来ていた、なのはの友達のすずかが連れていかれてしまい、

今も行方は分かっていない。

 

話では、他にもさらわれた子はいるみたいだから、

なんとしてでも助け出さなければ……

 

「居場所はおそらく、奴らの本拠地、亀山小学校のどこかのはずだよ、

 今は廃校になってて大人は誰も立ち入らないんだ。」

 

「ただ、あの周辺はマギロッドの力で、不思議なことになっていて、

 結構広いし、手下も結構な数がいるから、

 直接乗り込むのは、お勧めできないかな……」

 

「みんながどこにいるのか分かればいいんだけど……」

 

土地勘がない僕達では、乗り込んでも、

すぐにまよって罠にはまってしまうかもしれない。

 

せめて、中の様子が分かれば……

 

「そういう事なら、手がなくも……

 ……いや、この手はちょっと……」

 

「なにか、方法でもあるの?」

 

 

すると向こうの子が、何かを提案しかけたけど、

やっぱりダメだといた雰囲気で、それをひっこめてしまった。

 

一体、何をしようとしたのだろうか?

 

「教えなさいよ、この際できることは何でもやらなきゃ。」

 

アリサが、出し惜しみするなと言いたげに問い詰めると……

 

「……実は、コクエンの下っ端の中に、仲間がスパイとして入り込んでるんだ。

 そいつに頼めば、ある程度中の様子はわかると思うけど……」

 

「……なにか、問題でも?」

 

向こう側に、彼らが送った内通者がいるのは予想外だったけど、

それを利用すれば、中の様子を探る事は可能だろう。

 

だけど、引っ込めたからには、この案にはどこかに問題があるようで

知世さんの問いにも、すぐに答えを返してくれなかったが、

少し考える様子を見せると、その先を語ってくれた。

 

「……あそこには、立ち入り禁止区域があるそうで

 下っ端はそこに入れないって話なんだ。

 出入りできるのは側近か女の子じゃないと行けなくて……

 だから、その……」

 

 

話を先に進めていくにつれ、だんだん声が小さくなっていく……

……つまり、さらわれていった子は、その区画のどこかにいて、

それをもっと詳しく調べるためには……

 

 

「まさか、私達の誰かにわざとつかまれって言うの?」

 

「だから、ちょっとこの案は無理かなって思ったんだよ。

 ……きみらの可愛さだと、逆の意味で安心できないし……」

 

確かに、その手段を使うのはあまり賛成はできない。

 

立ち入り前に、ボディチェックをされる可能性もあるから、

デバイスを持っていれば、感づかれるだろうし……

 

「それに、友枝町に来た子達には顔を見られてますので、

 また出会ってしまったら、すぐにばれてしまいますわ。」

 

友枝町を襲ってきた奴等は、捕まえた子達も含めて、

全員逃げられてしまった上に、あれだけ派手に相手をしたのだから、

こっちの顔は覚えられているだろう。

 

やっぱり、この手を使うのは難しそうだ。

 

「……では、この手を使うには、ばれないように変装して、

 なおかつ、道具を使わないで魔法を使えるようにすれば……」

 

知世さんが、あごに手を当てて潜入する方法を考えているけど、

今の僕たちに、実行できるとは思えない。

 

「うーん……」

 

みんな、どうしたものかと頭を抱えてしまった。

 

……こうなったら、当てにするようで申し訳ないけど、

さくらさんのカードの力を、期待させてもらうしか……

 

「……………………」

 

そんな結論に行きつきそうだったタイミングで、

ふと、知世さんの視線がこちらを向いている事に気が付いた

 

……その表情は何故か、少し楽しそうな顔をしていたが、

何故か僕は逆に、その視線に不安を感じ始めたので……

 

 

「……あの、なんですか?

 その意味ありげな視線は……」

 

恐る恐る、その視線の意図を尋ねると……

 

「……マギロッドを使わなくても魔法が使えますから

 あとは見た目さえ何とかすれば、いけますわね。」

 

知世さんは、僕の問いかけに応える事なく、

あごにあてていた指の形を変えて、

名案が浮かんだとばかりの顔をし、掌を叩いたのだった。

 

僕も、そして話を聞いていたみんなも、

すぐには知世さんの意図が分からずに困惑していたのだけれど……

 

すぐさま、さくらさんが「あっ」と言って、何かに気付いた風な顔をして……

その後に、アリサが「なるほど」と言って、にやりとした顔を見せ……

 

他の女の子達が「あー」「いけるかもー」とか言いながら、楽しそうな表情をし……

男の子達の方は「げ……」「まさか」と言いながら、恐れを見せる様な表情を浮かべ……

 

 

……そこで、僕は知世さんの意図する恐ろしいアイデアの内容に気づいたのだった……

なのはだけ、まだわかってないようだけれど……

 

「い、いやちょっと! 無理です!!

 すぐばれちゃいますってば!!」

 

冗談じゃないと、僕は必死にそのアイデアを否定した……が……

 

「心配ありませんわ、ため息が出るほどに

 かわいく仕上げて差し上げますから」

 

知世さんが、一見悪意の全くない笑顔を見せて来た為か

なぜか、それ以降一切反論することが出来ず、

周囲の雰囲気も、そのアイデアへと傾きはじめていた。

 

心配ないと言われたけど、こんなのむしろ心配しかできない!

このまま、ここにとどまるのは危険だと思い、すぐさま席を立って逃げようとしたのだけれど……

 

「……どこに行くつもりなのかなぁ……?」

 

「ひっ!?」

 

いつの間にか、アリサに肩をガっとつかまれてしまったため、逃げ出す事は出来なかった。

 

彼女は目の周囲を暗くした感じで、嗜虐的な笑みを浮かべ……

 

「うふふ、逃がさないわよー……」

 

背筋に震えが走るような口調で、そう僕に言い放つ。

 

ちょっと! それどこかで使わなかったはずのセリフ!?

 

なんとかしてもらおうと、僕は懇願するような目でなのはの方を見たけれど、

なのはは、未だ知世さんのアイデアの内容に気づいていないため、

アリサの行為に少し驚いていたが、僕が何をされるのか分かって居ない様子。

 

このままでは、なのはに助けてもらえそうにはない……

 

こうなったら誰でもいいと、向こう側に座る男子達に

救いを求める様な視線を向けると……

 

 

「お……俺は潜入の為に、連絡を取ってくる! じゃ!!」

 

慌てた表情でそう言って、一人が席を立ち……

 

「待てよ、一人じゃ心配だから俺もついてくぜ!」

 

あからさまに不自然な笑顔をしながら、先に席を立った一人に続いてまた一人席を立ち……

 

「あ、見張りの時間だ!」 「ちょっとトイレに……」 「一緒に行こう!」

 

残るみんなも、巻き込まれることを警戒したのか、

全員半分慌てた顔をしながら、各々勝手な理由をつけだして、

駆け足で振り返らずに部屋の外に出ていってしまい……

 

……そして、部屋の中の男子は僕以外、全員いなくなってしまった。

 

「逃げられた……最後の希望が……」

 

彼らの薄情さに、思わず涙が出てきそうになってしまう……

 

確かに、これまでなのはをはじめ、いい人に巡り合ってきたのは、

奇跡のレベルだとは思うけれど……

 

それにしたって、あの態度はないんじゃないか!?

 

「ふふふ……話は聞かせてもらったわよ」

 

 

そう思っていると、突如後ろから図太い声が聞こえてきた。

 

その声に、先ほど以上に不吉な予感を感じたけれど、無視するわけにはいかないので、

ギギギ……と音がするような動きになりながら、恐る恐る顔をそちらに向けてみると……

 

そこには、マッスルポーズで筋肉を強調しながら、

目を怪しく輝かせている店長さんがいた……。

 

そのあからさまに怪しさしかない雰囲気で、

嫌な予感が、加速度的に酷くなっていく……

 

「お店に入ってきたときから、この子はイケるって思ってたのよ。

 お店の更衣室に、アナタにも似合いそうな服があるから、

 好きに使ってもいいわよ、私も手伝ってあげるから♪」

 

「あ……もしかして……?」

 

店長さんのこの言葉を聞いて、なのはもようやく僕が何をされるのか気づいたみたいだけど

こうなってしまっては、どうやっても逃げられなさそうだ……

 

せめて、自由に変身できれば逃げきれたかもしれないけど、

さくらさんに協力してもらわないとできない現状では、もう打つ手はない……

 

……いや、前は出来ていたんだから、きっとできるはず!!

そう思って、変身する為に魔力を集中させたけれど……

 

「さぁ、こっちにいらっしゃい♪

 衣装はいっぱいあるから、最高のものを選ばなきゃね」

 

 

願いむなしく、変身をする事が出来なかった僕は

みんなに担ぎ上げられるようにして更衣室へと運び込まれ、

潜入の為の準備として、色々とされる羽目になり……

 

 

そして担がれている最中、僕は逃げていった男子達に対し、

自分でも不思議なくらい恨みがましく、こう思ったのだった……

 

「せめて、だれか一人くらい反対してくれてもいいじゃないか……!」

 

 



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『ぱーへくつ』に『びゅーちほー』

ウサオちゃん喫茶で準備を整えてから、

僕はコクエンの所に、スパイとして潜り込んでいた子に連れられ、

裏山にある廃校となった亀山小学校へと向かっていた。

 

 

普通に歩いて行く分には、中々険しい山道だけど、

その理由は、元々亀山小学校は肉体と精神を鍛える為に

小学校と併設して、格闘技の道場も建てられていたからだそうだ。

 

 

確かに、普通の子供には少し厳しい坂道かもしれないけど

僕の本業である発掘業は、これ以上に過酷な所で

仕事を行う事もあったので、僕自身はそれほど厳しくは感じなかった。

 

 

むしろ、道より今の恰好の方が、色んな意味でずっと厳しいのだけれど……

 

 

そう思いつつ、坂道を登り切った先には、

廃校のものとは思えない立派な木造の門があり

そこを、守る様に見張っている子供の姿があった。

 

あの恰好を見ると、彼らもコクエンの配下なのだろう。

 

 

「開門だ! コクエン様に合わせたい子がいるから

 はやく門を開けろ!!」

 

門の前まで行くと、僕を案内してくれた子が、

そんな口上を述べて開門を要求した。

 

 

漂う雰囲気から察すると、話に聞いていた通り、

この周辺も、幻想郷やクラスターと同じ、通常空間とは異なる空間みたいだ。

 

 

「なんだ、こんな時間に……むっ」

 

 

時間が時間なので、門番の子は彼に対して眠たげに

不満そうな顔をしていたけど……

視線を僕の方に向けると、次の瞬間には一瞬で目が『カッ……』と開いていた。

 

 

彼の瞳に写っているのは……当然ながら、僕。

それも、フェレットの姿でもなければいつもの服装でもない。

 

 

黒のワンピースの上に、ひらひらのエプロンドレスを身に着けて、

頭には、これまたひらひらのヘッドブリムをつけた

まごうことなきメイド少女の格好……。

 

 

おまけに、前髪もいつもより下に下げられているので、少しばかり前が見づらい。

 

 

コレが、今の僕の恰好だ。

 

 

ウサオちゃん喫茶から出発する少し前の事、

 

知世さんの出したアイデアで盛り上がったみんなに

更衣室まで連行されていくと……

 

 

そこには、どういうつもりで用意してあるのか

赤いワンピースに着物などの、店長さんにはどう見ても似合わない

いろんな女物の衣装が集められていた……

 

 

「全部、従業員用の衣装なんだけど

 どういう訳か、バイトの子が来なくってねぇ……

 大丈夫、ちゃんとあなたに似合うサイズもあるから

 ……さ、始めましょうか」

 

 

店長さんはそう言って僕を安心させようとしてきたが……

いや、ちっとも大丈夫じゃないから!!

 

僕は、そんな抗議の声を上げようとしたけれど

言葉を発する前に周囲の流れに押し流されてしまったため、

その声は誰の耳にも届く事はなかった……。

 

 

そしてすぐさま、アリサと店長があれだ、そうじゃない、これなら、どうだろうと

張り合うように、色々な衣装と小道具を選んできて……

 

「それでしたら……こんな組み合わせはどうでしょうか?」

 

「あら!」

 

「いいわね!!」

 

知世さんは、二人の選んできた衣装に対し、ワンポイントの付け足しを行ってくれていた。

 

 

これまでのさくらさんの衣装は、知世さんの手作りとの事だったので

二人の評価を見るに、かなり的確なアドバイスではあったようだけど……

僕にとって、このアドバイスは忌むべきものにも思えた。

 

 

なのはは、次々と衣装を持ってくる二人の雰囲気に押され

なにも言えない感じになってしまったようだけど、いざ着替えの段階になると

 

 

「ま、待った!!」

 

そう言って僕の前に割って入ってくれた。

そんななのはを見て、僕はこの暴挙を止めてくれるのかと、淡い期待を抱いたのだけれど……

 

「それは私がやるの!!」

 

……と、どこか琴線に触れるものがあったのか、

とてもやる気な表情で、着替えの手伝いをしてくれることになった。

 

何処を着替えたのかは……この場では秘密とさせてもらうけど

こんな所、なのはの家族に見られたらとんでもない事になるのは間違いない……

 

もしかして、フェレットの姿でいた時の事

根に持たれてたんだろうか……?

 

そして、衣装を一通り試したあとでどの衣装を着ていくのかが決まったので

一通りの衣装を身に着けて形を整えた後……

 

確認の為に鏡を見ると、そこに映った僕の姿は、

まぎれもないメイド少女になってしまっていた……

 

あんまりと言えばあんまりな自分の姿を見て

僕は思わず、がっくりとひざを折ってしまったけれど……

 

悲劇は、ここで終わりじゃなかった。

 

今の僕の姿を見て、なにか思う所があるのか、

アリサ、店長さん、知世さんはみんな頭やあごにに指をあてながら、眉間にしわを寄せて

なにかを考えるようなそぶりを見せた後……

 

示し合わせたかのように、同じタイミングで一斉に手を打つと

それぞれ店の奥や、カバンの中から何かを探しはじめた。

 

一体何をやってるのだろうと思ったけれど、

その後、再び僕の所に来た時には……

 

「どうせやるからには、徹底的にやらなきゃ……」

 

アリサの手には香水ビンと口紅……

 

「元がいいから、とっても似合うと思うわ」

 

店長さんの手にはパウダーとマスカラとビューラー……

 

「やりすぎはいけませんわ、あくまで自然な感じが一番です」

 

そして、知世さんの手には櫛とドライヤーがガッチリと握られており

みんな、顔に影がかっためいっぱいの笑顔で、再び僕に近づいて来たのだった。

 

 

「や、やめて! そこまでやる必要ないってば!!」

 

何をされるのか容易に想像できたため、何とか逃れようとしたものの

 

 

またもや抵抗むなしく、僕はガッチリと捕らえられてしまい

各々が手にしたアイテムで顔をメークされた結果……

 

 

「これが……僕……?」

 

鏡には、誰この美少女!? と言いたくなるような僕の姿が写っていた。

 

一瞬、鏡を見ながら頬をつねって、本当に僕なのかを確かめたくらいだ。

 

「きゃーーーっ! かっわいいーーーーっ!!」

 

 

女子のみんなは口々にそんな事を言いながら盛り上がっており

アリサと店長さんは、僕を見てハイタッチを決めていて、

知世さんからは両手を合わせて素敵ですわと目を輝かせていた。

 

 

そして、この光景を見守っていたなのはは、呆然とした顔で僕の方に近づいてくると……

 

「え……!? 本当にユーノ君!?

 だって、とってもきれいで……男の子なんだよね?」

 

困惑しながら、そんな感想を述べてくれた。

 

 

……なのは、そこまで言うか。

そりゃ、こっちに来る前から、散々女顔とは言われたけども!!

 

 

そもそも、男として認識してくれるんだったら、

普段の無頓着さはいったいどういう事なんだろうか?

 

 

そして、こんな姿を見せたくないと

渋る僕の意見など無視するかのように背中を無理矢理押され、

外で待っていたみんなにお披露目すると……

 

女子の中で唯一、着替えに参加してなかったさくらさんからの言葉は

 

「ほえ~! かわいい~!」

 

純粋そうな瞳で、そう言ってくれた。

 

 

……うん、更衣室の中でも何度も言われましたけど、

何故かさくらさんのこの声が一番効く気がする……悪い意味で

 

 

さらに、いつの間にか戻って得来ていた薄情な男子達は

僕の姿を確認すると全員が頬を赤らめつつ、目をそむけてしまった。

 

やめれ、そう言う反応……

 

なんだろう、同性にこういう反応をされると、胸の奥にすっごくもやもやしたものが残る。

 

 

「びゅーてほー! まさにぱーへくつ!!」

 

 

そして、衣装を提供してくれた店長さんは

なんというか……形容しがたいテンションをしており

その迫力から、目から光線を放っているようにも見えた。

 

 

場が三者三様の評価で盛り上がっている中……

 

 

「それにしても、これだけかわいく仕上がったんなら……

 コクエンの所への潜入は問題なく行きそうだな」

 

男子の誰かが放った、この一言で……

 

 

「あ……」

 

 

「そういえば……」

 

 

「そーいう目的があったんだっけ

 すっかり忘れてたわ……」

 

 

店長さんと女子とアリサは、

ようやく本来の目的を思い出してくれたのだった。

 

 

……いくらなんでもヒドすぎるよ

思わず、目から涙が流れそうになったけれど……

 

 

「申し訳ありませんが、涙は後回しですわ

 お化粧が崩れてしまいますから」

 

知世さんのこの一言に制止され、泣く事も許されなかった。

 

 

 

……そこまで気合いを入れた変装だったけれど、

やはり、僕が女の子に変装するのは無理があったのだろうか?

 

門番は、何も言わずに

こちらをじーっと見つめてきている……

 

 

(もしかして、ばれてる……?)

 

 

……よくよく考えたら、こんな露骨すぎる格好をした

メイド服小学生なんている訳がないじゃないか!

 

 

「あのー、私に何か……」

 

 

もうこうなったらどうにでもなれとやけくそ気味に演技をしながら、

視線を向けてくる門番に話しかけると……

 

 

「……可憐だ」

 

 

「へっ?」

 

 

思わぬ返答に、つい間の抜けた声が出てしまった。

よく見てみると、彼の顔には照れたような赤みが浮かんでる……

 

こ、こいつまさか……!

 

 

「……っと! 失礼……

 キミ、名前は……?」

 

 

門番が名前を訪ねて来た。

本当は男だから、本名を名乗るわけにもいかないので……

 

 

「あ……アリサでぇす」

 

 

とっさに偽名を名乗ってごまかす事にした。

 

アリサの名前を使ったのは、知り合いの中で、

今の見た目と名前に一番無理がなかったからだ。

 

 

……決して、あの時逃がしてくれなかった事や

香水と口紅を持ってきたことに対する

ささやかな仕返しとかじゃあない……断じて

 

 

「それじゃあ、俺は……アリサちゃんを案内していきますので、これで……」

 

 

「……わかった、通ってよし」

 

 

そうしてとっさに出した偽名に戸惑う事なく

案内役の子は話を合わせてくれたので、

僕達はすんなりと門を通ることができた。

 

 

門の先には、廃校と言うには割としっかりした木造の校舎があったけれど……

 

ところどころ、つたない修理がしてある所を見ると彼らが修復をしたのかもしれない。

 

 

……後者を眺めていると、背中の方から視線を感じたので

確認の為に振り向いてみると、

門番の子が名残惜しそうに見つめている……気がした。

 

 

……いや、そんな訳ないよね、

きっと気のせいだろう……そうに決まってる。

 

 

「こら見事に化けたもんやなぁ……

 小僧ん時のお姫様とは大違いや」

 

 

そう思い込んでいると、エプロンのポケットの中から、妙な訛りのついた声が聞こえてきた。

恐らく、今のやり取りをこっそり覗き見ていたのだろう。

 

 

「言わないでよ、ケルベロス……

 本気でへこむから」

 

 

そこに居るのは、ぬいぐるみのような姿のケルベロスだった。

 

今回潜入するに至って、一人だけでは危険だと心配したさくらさんが、

頼んでくれたおかげで、僕のサポートをしてくれることになったのだ。

 

ケルベロスにしても、あのお店が苦手そうにしていたのと

何気に、いつの間にか他の子達に面白がって

もみくちゃにされていたので、あの提案は渡りに船だったのかもしれない。

 

 

エプロンドレスのポケットからちょこんと顔を出している姿は、まごう事なきぬいぐるみだ。

 

 

「……それにしても、ワイは知らんで

 あの金髪小娘の名前使うてしもうて……

 バレたら、あとで怒られるんとちゃうか?」

 

 

「いや、女装してるのに自分の名前を名乗るわけにも

 いかないでしょ……」

 

 

正体がバレて囲まれる危険と、アリサに今のことがバレて怒られる危険

……どっちも大変だけど、多分アリサの方がマシのはずだ……よね?

 

 

「……ええんとちゃうかなぁ

 本名でその格好しても、割と違和感なさそうやけど……」

 

 

ケルベロスは、そんな事を言うが、絶対そんな事は無いはずだ。

 

 

……そもそも、見た目と名前の違和感を

ケルベロスと話すのが、そもそも無理な話なのかもしれない

 

 

本当の姿ならばともかく、今の格好だと

どう見たって愛称の『ケロちゃん』の方がお似合いだし……

 

そんな事を話していると、案内役の子が足を止め目の前の建物を指さした。

 

「……さて、あそこに見えるのが旧校舎だ。

 あそこは幹部格か、コクエン直属の奴しか入れないから

 連れ去られた女の子達がいるのはここしかないはずだ。」

 

 

目の前に見えた旧校舎は、周辺は堀と高い壁に囲まれており

その中にある建物は、旧校舎どころか……

 

 

「旧校舎っていう割に、ずいぶんと立派な……

 っていうか、これのどこが校舎なのさ!?」

 

「……本物に比べると、さすがに小さいけど

 どうみてもこれは城やんけ」

 

 

そう、そこにあったのは、こちらに来てから見た

こっちの世界の昔を舞台にしたテレビ番組でよく見る

お城……を、小型にしたような建物だった。

 

 

「もしかして……これもマギロッドで?」

 

 

「そりゃまぁ、魔法の杖だから

 これくらいできても、別におかしくないだろ?」

 

 

建築に使える魔法は……確かに無い事もないし、

……さくらさんの『(メイズ)』のカードを体験したばかりだから

ありえないことはないと思うんだけど……

 

 

「俺も、まさかここまでやってるとは思わなかったからなぁ……

 中にいる連中も、結構な数がそろってるし、

 それに、厄介なのはコクエンだけでもなさそうなんだ。」

 

 

「どういう事?」

 

 

この人数だけでも結構大変そうなのに、まだ厄介ごとがあるのだろうか……?

 

 

 

「なんでも最近、かなり強い用心棒が来たって話でさ、

 俺は見たこと無いから、コクエンと比べてはどうかわからないけど

 なんでも、幹部連中が束になってもかなわなかったって話で……」

 

 

……早く言ってよ、そういう事は

そう言えば、結局コクエンの使う魔法もわかっていない。

果たして、その用心棒共々、どれだけの強さなのだろうか……?

 

 

そうして、僕達が校舎の入り口までたどり着くと、

案内役の子は、入り口の見張り達と話をして、

通行の許可を貰えるように頼み始めた。

 

 

彼らもまた、先ほどの門番の子の様に僕に目を向けると……

 

 

 

「コクエン様の趣味にぴったりのメイド少女だ……」

 

 

「金髪の外人少女なのもポイント高いぞ……」

 

 

「俺も……このみだ……」

 

 

―――ゴンッ!

 

 

各々が勝手な事を言い始めた挙句

最後の一人に対して、二人が頭をどついていた。

 

みんな同じ反応をするんだなぁとあきれていると、

今度は、どうやら揉め始めたみたいで……

 

 

「だから、俺が案内するんだって!!

 見つけてきたのは俺だぞ!!」

 

 

「下っ端ごと気が生意気だぞ!!

 ここは、俺がエスコートを……」

 

「いやいや、ここは俺が一緒にデートに……」

 

 

―――バキッ!!

 

 

「それは違うだろ!!」

 

 

……なんか、とんでもない内容が聞こえてきている

って言うか、あれはわざとやってるんじゃないか?

 

 

そう思って呆れていると、そんなやり取りを続けている彼らに

案内役の子が、根気よく話を続けてくれた結果……

 

 

「な……なんとか、一緒に入る許可を貰ったぞ

 さぁ、先に行こうか……」

 

 

どうにか、通行許可が出たので、

彼と一緒に校舎の入り口をくぐる事になった。

 

 

「あくまで、彼女を連れてくだけだからな! 勘違いするなよ!!」

 

「ようこそメイド少女! 君を歓迎するぜ!!」

 

 

後ろからは、また名残惜しそうな視線と、歓迎の声が聞こえてくる。

さらわれた子達を助けるためには都合がいいんだろうけど……

……正直、あんまり歓迎してほしくない。

 

 

こうして、出会う連中に僕が女の子だと思わせたまま

僕達は、さらわれた子達がいるであろう旧校舎……

いや、元旧校舎へと、足を踏み入れたのだった。

 

 

さらわれた子達はもちろんだけど、コクエンの情報や、

さっきの話に出てきた助っ人の事も調べなければ……

 

 

それにしても、行く先々で受ける視線は

なんとかならないものだろうか……?

 

 




投稿がスムーズになってきた
動かしやすいところまで持ってこれたのか、元ネタがあるおかげなのか……
SRPG用シナリオのテスト版の一面も持ってるので
SSとしては、ちと書き方が拙かったりもしますが


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マグスギア・フェレット

 

「ユーノ君、大丈夫かな……」

 

 

メイドに扮装したユーノを送り出してから、

なのはがずっとこんな感じで落ち着かないみたい。

 

こんななのは、初めて見たかも……

 

 

すずか達を助けるためとはいえ、

余所の学区にまで、あんな乱暴なことをして来る様な

奴等の本拠地に、ユーノを一人だけで送り込んでしまったのだから

心配するのも当然と言えば当然か……

 

……それに、すっかり忘れてたけど、なのはとは

最近険悪な感じになっていたから、

ここしばらくろくに口きいてなかったんだっけ

 

……となれば、一番身近だったのは誰なのか

ハッキリ言って、考えるまでもない。

 

 

一つ屋根の下にどころか、フェレットの姿だったとは言え、

同じ部屋で暮らしてたわけだし……

 

思う所がないわけじゃないけれど

ここしばらくなのはの支えになっていたのはアイツのはずだ

 

 

それを、悪ノリして変装させて送り出しちゃったけど

冷静に考えたら、とんでもないことをしたんじゃないだろうか……?

 

 

万が一にも、変装がバレたのなら

いったい、どんなひどい目にあわされるか……

 

 

「その辺りは、大丈夫だと思いますわ。

 ユーノ君はしっかりしていますし、

 今はケロちゃんも一緒なのですから。」

 

すると、なのはだけでなく、私の考えも見透かしたように

知世さんは落ち着かせるかのようにそう言ってくれた。

 

「まぁ、確かにあんなライオンが一緒なら

 あいつらもうかつに手は出せないと思いますけど……

 でも、今はぬいぐるみの姿なのよね……」

 

大きな姿の時は、ものすごく強そうだったけれど……

 

小さい時はぬいぐるみみたいな見た目な上に

パフェを食べて渋い顔をしたり、ここの女子にもみくちゃにされたりしてたりで

そこを見てると、今一つ信用できない感じなのよね……

 

 

「ケロちゃんだけではありませんわ

 ユーノ君は自分の事を低く評価している節が見えますけど……

 ユーノ君の実力は、なのはちゃんがよくご存じなのでは?」

 

「え……?」

 

 

知世さんに話をふられたなのはが、驚いた顔をした。

 

アイツ、確かジュエルシードってやつを回収してる最中に

怪我をしてフェレットの姿になって、なのはに拾われて

それ以降、なのはに力を貸してもらってるんだったっけ……

 

 

「魔法の事については、あんまり詳しく知らないけど

 ユーノは、あの不良達相手に、なんというか……

 なのはやさくらさんと比べると、戦い方がかなり地味だった気がするんだけど……」

 

なのはは派手に砲撃や光の弾をあてていたし、

さくらさんは……もう、反則としか言いようがないような

相手にもなってない状態で簡単に制圧してしまった。

 

それに対して、ユーノの攻撃は確実ではあったけれど

見た目の派手さもなく、ひたすら地味な感じで

成果も、三人の中で一番低かったはず……

 

 

「ユーノ君、攻撃魔法が得意でないとおっしゃっていましたが

 その代わり、いつもなのはちゃんが危なくないように

 何かがあっても守れる位置をとっていましたわ。

 なのはちゃん、見ていると大きな魔法を使った直後は

 結構、無防備になるタイミングがありますから……」

 

 

「え!? ほんとですか……?

 気が付かなかった……」

 

 

そういわれれば、あの時も相手の攻撃をユーノが守り通した直後に

なのはが一撃をお見舞いする感じだった覚えがある。

 

あの魔法、『魔法』と言うより、『魔砲』って感じの見た目だし、

使った方も、当たったと思ったら油断してしまうのかもしれない。

 

ゲームとかでも、よく覚えのある感覚だし……

止めきれなければ、すぐさま後ろを取られてしまうイメージもある。

 

「それに、もしユーノ君が弱虫で意気地がなければ、

 危険を冒してまで、ジュエルシードを回収しに

 この世界までやってくるはずがありませんでしょう?」

 

「あ……」

 

そう言われると……確かに、普通なら尻込みするわよね

たった一人、知り合いもいない中ジュエルシードを回収しに来るなんて

 

 

今は色々あって、なのはに拾われて今に至るわけだけど

もし出会わなかったら……ジュエルシード回収のために

今も一人で戦い続けていたのだろうか……?

 

アイツ、なんでそこまでして……

 

「……ジュエルシードと言えば……

 この事件、あの子もかかわってるんでしょうか?」

 

 

「あの子って……なのはのライバル魔法少女のこと?」

 

私は、その子にはあった事はないけれど、話によれば魔法の腕はなのはよりも上で、さくらさんが居なかったら、危ない時もあったとはなのはの談だ。

 

ユーノも、使う魔法とデバイスをみて、同じ世界から来たという推測を立てていたけれど……

 

そのデバイスとよく似たマギロッドとかいう魔法の杖、もしかしてこっちの方にも関わっていたりするのだろうか?

 

黄昏の魔法使いは、大人の女性との事だったので、イコールライバル魔法少女ではなさそうだけど……

 

「そう言えば、アンタたちはジュエルシードのこと知ってる?

 これくらいの宝石みたいな見た目をしてるそうなんだけど……」

 

ふと、魔法の話題で関連があるんじゃないかと思いつき

何の気なしに、周囲に居る子達にジュエルシードの事を尋ねると……

 

「それって……中に数字が入った青い宝石?」

 

「知ってるの!?」

 

思い当たる節があったらしく、そのものズバリな答えを返してくると

なのはが食いつくように身を乗り出した。

 

「知ってるも何も……少し前から、コクエン達が血眼になって集めてたぜ。

 ジュエルシード狩りとか言って、見つけた奴から無理矢理巻き上げたとか言う話も聞いたし……」

 

 

それを聞いて、私となのははお互い息を呑みつつ顔を見合わせた。

こんな所にも影響があったのにも驚いたが、もっと驚いたのはジュエルシード狩りと言う名前……

 

正式な名前知っていなければ名付けられない名前だからだ。

 

それを、誰があの不良達に教えたのか……

その答えは、もはや推測するまでもなかった……。

 

 

―――

 

 

潜入早々、門番や見張りの子達にうれしくない歓迎を受けて、

割と本拠地の旧校舎に入り込んだ僕は、案内役の子と

後者内部を手分けして探す事になったので、別行動をとった。

 

お互い、立場が違うからこの方が効率よく調べられると思うけど……

……でも、何故か彼が別れ際に、

ため息をつきながら名残惜しそうにしていたのは……何故だろう?

 

正直、さっきからずっと首筋のぞわぞわがとまらない……

 

「……ユーノ、風邪ひいたんか?

 震えがこっちまで届いとるで」

 

その悪寒がケルベロスまで伝わったらしく、

ポケットの中から、僕の身体の事を心配する言葉をかけてくれた。。

 

風邪を引いたわけではないと思うけど……

ここまで来て、調査をやめるわけにもいかないので

なんとかその悪寒を抑え込んでから、僕は内部の調査を開始する。

 

まずは校舎の1階から……

ここはどの教室も、コクエンの部下と思われる

不良達のたまり場として使われていた。

 

お菓子やパンの袋と思われるゴミが散らかってはいるものの

それなりに掃除はしているのか、

建物自体は、それほど汚れた印象はない。

 

そんな所に、こんな格好で探索していたら、

当然の事ながら、あちらこちらで目立ってしまう。

 

……事実、教室の前を通りかかっただけで、中が騒がしくなっていた

 

 

ここで不審に思われたくはないので

情報収集を円滑に行うためにと、出発前に知世さんがくれた

手提げ袋の中身を利用することにした。

 

中に入っているのは、店長さんから借りたトレイと

ぎっしりと詰まっているお菓子……

 

 

エプロンのポケットの中にいるケルベロスが、

ぬいぐるみのふりをしつつも、物ほしそうな目で

トレイの上に乗せたお菓子を見ているけど……今はダメだ。

 

知世さん曰く、これを「差し入れに来ました」といって渡せば

調査もスムーズにいくと言っていたけれど……

 

「これ……俺に!?」

 

「メイド少女からの差し入れ……うれしいぜ……」

 

「ありがとう!! 大切にするぜ」

 

 

……ハッキリ言って、想像以上に効果ありすぎた。

みんな、我先にお盆の上のお菓子に手を伸ばして来た上に

中には、涙を流して感激する子まで……

 

 

そんな彼らの行動に内心あきれながらも

感情を表に出さず笑顔で色々と質問してみると、

秘密なんてどこへやら、次々と投げかけた質問に答えてくれた。

 

 

「コクエン様の居場所? 2階奥の校長室をつかってるぜ」

 

 

「さらってきた女の子達も、さらに奥の部屋にいるはずだな」

 

 

「実はさ、東側の壁に抜け穴があって

 普段は草で隠してあるけど、外に出るときとか使ってるんだ

 あそこから侵入されたら大変だぜ。」

 

 

中には、聞いてもいない有用な情報まで……

うまくいきすぎて、さすがに罪悪感がわいてくる。

 

 

……これで正体ばれたら

一体どんなヒドイ目にあわされる事やら……

 

 

そうやって、1階の子からは一通り情報を集め終えたので

さらわれた子達の居るという、校長室周辺を調べる為に教室を出ると、

誰も見ていなくなったタイミングを見計らって、ケルベロスが僕に話しかけてきた。

 

 

「気づかれへんもんやなぁ……

 そういや今更やけど、なのはに男の子ちゅうんが

 バレたんは大丈夫やったんか?」

 

「それが、まったく……

 これまでとあんまり変わりがないんだよね……」

 

 

寛大なのか、同情なのか、そういうものだと思われてるのか、

僕の本当の姿を知られた後も、なのはの態度に変化はそれほど見られなかった。

 

まぁ、これに関しては僕の方も人の事は言えないけれど……

本当に、なのはは僕の事をどうおもっているのだろう?

 

これまでは、行為に甘えてずるずると居ついてしまったけれど……

 

「あ、いたいた

 おーい、そこのメイドちゃん!」

 

そんなちょっとした悩みについて考えていると

廊下の先から声がしたので、そちらに振りむく。

 

すると、コクエンの配下と思われる不良がこちらに駆けて来たので

ケルベロスは、またもやぬいぐるみのふりをしてしまった。

 

なんだか、こっちを探しているようだけれど

もしかして、正体がバレたのか……?

 

 

「はぁ……はぁ……突然呼び止めてごめん

 そのお菓子の中に、飴とかってないかな?

 できれば、棒付きのでかいヤツ」

 

どうやら、そう言う訳ではなさそうだった。

 

それにしても……飴? 

そんなものを求めて、わざわざ僕の事を探していたのだろうか……?

ちょっと様子がおかしいので、詳しい話を聞いてみると……

 

「ウチの用心棒については知ってる?

 ソイツ、飴が大好きで、舐めてる時は基本機嫌がいいんだけど

 今、ちょっと切らしちゃって、イライラしてるんだ……」

 

用心棒の話は、案内役の子に聞いたばかりだが、

彼の不安そうな感じを見るに、かなりの実力者なのは間違いなさそうだ。

 

このまま放っておくと厄介な事になりそうだったので、

手提げ袋の中を確認してみると、中には棒付きの物はなかったけれど

球状の大きな飴玉がいくつか残っていた。

 

 

「こんなのでよければ、ありますけど……」

 

 

そのうちのいくつかを手に持って差し出すと

彼は、ちょっと悩んだような表情をして……

 

 

「あー、飴玉だけか……

 でも、探してくる間なだめるくらいならなんとかなるかな……

 キミ、悪いんだけど2階の西側にいるヤツに

 その飴を持って行ってくれないかな?」

 

その用心棒に飴を持っていくように頼んできた。

 

用心棒がどんな奴なのか、正直気になってはいたし、

直接会って、どんな奴かを確認しておいた方がいいかもしれない。

 

そう考えて、彼の頼みを了承すると、胸をなでおろしてほっとしてから

こうしちゃいられないとばかりに、彼は再び駆け出して行った。

 

その用心棒、よほど怖いヤツなのだろうか……

 

ふとポケットの方に目をやると、

目の前でお菓子を人にあげてばっかりなのが気に入らないのか、

ケルベロスは、すっかり恨めしげな顔をしていた。

 

周囲に誰もいないのを確認してから、

こちらを向いて、なにかを言いたげな視線で見つめているが……

 

今は情報収集の方が先なので、ケルベロスにはもう少し我慢して貰おう。

 

そう思って、僕が2階西にあった教室に入ると……

 

そこでは、明らかに他の不良と異なる雰囲気をしている男が

何やら細かい作業をしているところだった。

 

「ん? 誰だお前

 見かけない奴だな……」

 

来ている服は上下ともに白い学ランと呼ばれるタイプ。

どこかの学校の制服なのだろうか? 高級そうな生地の整った服装をしている。

髪型は、黒髪のいわゆる坊ちゃんカットをしており、声も声変わり前の少年のものだ。

 

ここまでの情報ならば、なぜか不良達の中に囲まれた

どこかの高級そうな学校に通ってそうな見た目なんだけど……

 

問題なのは、彼の体格……

身長は桃矢さんと同じくらいに高く、

横幅も少し太っている感はあるけれど、印象としてはガッチリとした感じ。

 

おまけに、剃っているのか薄いのか、眉毛が生えている用には見えない。

 

声を聞いて居なかったら、高校生どころか、

大人だと間違えんばかりの巨躯の持ち主だ。

 

 

「あの……この部屋に飴を持って行ってくれと頼まれて持ってきました」

 

 

「おお、そうか!

 ……ん~、棒付きのはないのかよ……」

 

 

彼はそう言うとやや不満げな顔で、がっちりとした指で飴玉をつまむ

確かに、この体格だとこのくらいの飴じゃ満足できないのかもしれない。

 

 

「大きいのは、今買いに行っているそうなので

 もう少ししたら、届くと思います。」

 

 

「ん~……ならいいか

 ありがとよ」

 

 

そういって、口の中に飴を一つ放り込むと、残りを脇に置いてから、

落ち着いた感じで椅子に座り、なにやら細かい作業を再開した。

 

 

(……これでホンマに小学生かいな)

 

 

ケルベロスのあきれ顔からは、そんな言葉が読み取れたが、

僕はそれよりも、彼の手先周辺にあるものに目が行っていた。

 

 

あのいじってるのって、マギロッド……?

 

中身をいじっているってことは、ある程度構造を知っているのだろう。

 

もしかしたら、出所やバラまいていたフードの女の事についても、

何かを知っているのかもしれない。

 

 

さらわれた子達の事も大事だけれど、

彼からも、何とかして情報を手に入れなければ……

 

 

「あの……ちょっと話を聞かせていただきたいんですけど……」

 

 

僕は、彼の勘気を被らないように気を付けながら、

それとなく情報を聞き出してみることにしたのだった。

 

 



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ふんわりお姉さまとメイド少女

イメージCV:檜山修之でお楽しみください


 

 

 

ある日の夕方、いつもの帰り道を歩いてた俺は

気が付いたら知らない裏路地を歩いていた。

 

道を間違えた覚えはないし、そもそもこの町に

こんな路地があったか? と思っていた所……

 

 

「そこのキミ……魔法の杖、いかがかしら?」

 

いつの間にか目の前に立っていた。

後に、黄昏の魔法使いと呼ばれることになるあの女は

そう言って、俺に魔法の杖……マギロッドを差し出してきた。

 

 

とりあえず貰えるものは貰っとく主義なので、

そのまま杖を受け取ることにしたが、

受け取ったのは、魔法の杖と言うよりはなんかメカメカっぽい代物だったし、

そもそも魔法の杖なんて言われて、信じる方がどうかしてる。

 

 

……何のつもりでこんなことをするのか、

そもそも、ここはどこなのか聞こうとして、顔を上げると

女はいつの間にか消えており、周囲の風景も、普段歩いている道に戻っていた。

 

 

あれは夢だったのかと思ったが、手には貰ったマギロッドがあったし

なんかわからないけど、この杖からは言葉に言い表せない不思議な感覚を感じたので、

とりあえず試しに、道行くオヤジに杖を向けて念じた所、

その瞬間、強い風が吹いてカツラが飛んで行ってしまった。

 

それだけなら、単なる偶然だろうと思っていただろうが、

他にもいろいろ試してみた結果、同じようにいろんな事が起こったので

なにがなんだかよくわからないが、この杖は本物だと確信してから……

 

……俺の日常が変わったのだ、もちろんいい方へと。

 

 

ただ、マギロッドを貰ったのは俺一人だけじゃなかったらしく

周囲ではマギロッドを使ったらしい騒ぎが起こり始めており

さらにあちこちで、マギロッドの持ち主、ロッドマイスターの小競り合いが発生しはじめたのだが……

 

 

周囲でやり合ってる奴等の雰囲気を見ると、あんま大した風には見えなかったので

他のマギロッドを持った奴等に勝負を挑んだ所、あっさりと勝つことが出来た。

 

そこから同じ要領で勝ち星を重ねていき、

倒した奴を片っ端から配下にしてたら、気が付いたら山茶花町で

俺にかなう奴はいなくなり、兵隊の数もかなりのものになっていたのだ。

 

 

もうこの街に俺様にかなうやつは居ねぇ!

 

そう思って浮かれていた俺はある日の事、

いつの間にか、あの裏路地にたどり着き

再び、マギロッドをくれた女と再び出会ったのだった。

 

「久しぶり、上手く力を扱えているみたいね……」

 

あの女は、俺のやった事を知っていたらしく

よくやったとほめてくれ、さらに褒美として、

これまでより強いマギロッドをプレゼントしてくれた。

 

 

新しいマギロッドは、これまでよりも一段強い性能だったので、

このプレゼントは、確かにうれしいものだったが……

 

 

……この時は、俺の興味はマギロッドではなく、

女の横にいる金髪美少女の方の方に向いていた。

 

 

……うん、いいなぁ

目がぱっちりしてかわいいし

髪もサラサラだし、はかなげな感じがなんともグッド……

 

 

それになんていうか……いいのか?

こんな露出度高い恰好なんかして……

メイドさんもいいけど、こういうのもなんか……

 

 

そう思って彼女を眺めていると、彼女は俺の視線に気づいたのか

女の陰に身を隠してしまった。

しまった、あんまりじろじろ見すぎたか……

 

惜しいと思いながら、がっつきすぎたことを反省していると……

 

「……実は、アナタにはこの子の手伝いをしてほしいの」

 

 

女はいきなりこんなことを言い始めてきた。

 

 

なんでも、彼女はジュエルシードとかいう青い魔法の宝石を探しているそうだけど

一人だけじゃ手が足りないとかで、俺に力を貸してほしいのだという。

 

そんなの、考えるまでもない。

 

 

「こんなかわいい子の為なら、いくらでも手伝うぜ!!」

 

 

俺は即答すると、女はさらに助っ人の紹介を約束してくれた上、

余所の町に通じてるという次元の異なる抜け道、

『クラスター』に出入りする方法を教えてくれた。

 

 

助っ人に関しては、最初は金髪のかわいこちゃんこと、

フェイトちゃんが来てくれるのかと思っていたのだが、

彼女は別の仕事があるそうで、後日別の奴がやって来る事になった。

 

 

……で、当日やって来たのは、またもかわいい女の子……じゃなく

飴を舐めてる坊ちゃんカットの、身長180cmはあるデカブツヤロー……

見た目迫力があって強そうだけどだけど、あの子を見た後だとガッカリ感が半端じゃねぇ……

 

 

ただこのデカブツは、普段は図体に似合わず飴ばっかり舐めていても、

腕は確かで、うちの幹部クラスがまとめてかかっても相手にならない強さだった。

 

 

部下の中では、俺とあいつのどっちが強いかっていう噂もたっているようだが……

 

そりゃ、当然俺に決まってんだろ。

 

直接証明してやってもよかったんだが、大事な作戦をやる前だったから

ぶつかり合って消耗するのも馬鹿らしいので、

コイツの事は適当な部屋を与えて、用心棒をやってもらう事にした。

 

 

そして、クラスターに関しては……

フェイトちゃんの為ならばという事で、部下を総動員して

中ををよく調べてみたのだけれど、

これが、本当にあっちこっちにつながっていて……

 

 

最初の方は、頼まれたとおりに

抜け道周辺にあったあの宝石を集めて

受け取り役としてやってくるフェイトちゃんに渡していたのだが……

 

 

抜け道一つの近くに、前に雑誌で見た事のある友枝小学校があるという

うれしい誤算があってから、ある計画が思い浮かんだ。

 

 

ここら辺の女子は、大半が不良じみた連中ばっかりだから

かわい子ちゃんをはべらせるという目的を果たすには

どうしたものかとずっと考えていたんだが……

 

これなら、簡単に達成できる!

その事に気付いた日は一日中笑いが止まらなかった。

 

 

あの小学校の女子は、ほんとカワイ子ちゃんばっかりだからなぁ……

 

 

そして、カワイ子ちゃんを連れてこさせるために

まずは下準備に他の学区を襲撃して

適当な子達を連れてこさせた上で……

 

 

ついに今日、本命の友枝小学校周辺に仕掛けたんだが……

 

 

帰ってきた連中はボロボロになっていた上

連れてこれた子は、たった二人だけ……

 

 

どういう事だと怒鳴ったら、帰ってきた連中は、

羽のライオンを連れた魔法少女達にやられたとぬかしやがった。

 

 

最初はふざけているのかと思ったが、

後から帰ってくた奴等も同じことを言っており、

必死の形相から嘘は言ってなさそうだったので、詳しい話を聞いてみると……

 

 

あるヤツは、足元に魔法のひもを張られてすっころばせられ、

またあるヤツは、光が見えたと思ったらいつのまにか気絶させられており、

……そして、一番多かったのが周囲にキラキラしてる何かがバラまかれたと思ったら

いつのまにかグースカ寝てたという話だった。

 

 

ふっざけんな! この計画に部下の7割は動員してんだぞ!

いったい、どんな化け物にやられたんだと聞いてみると……

 

 

……全員、何かを思い浮かべた様子を見せると

直後に一瞬で顔がにやけ、鼻の下を伸ばしたのだった。

 

 

……美少女だったんだな!! その魔法少女!!

 

 

あれだけの兵隊よりも強くて、しかも美少女……!

くそーっ! 俺もみてみたかった!!

 

そんな子を連れてこれれば最高だったのに……

まったくもって惜しい!!

 

……とりあえず、成果無しの連中には

適当な制裁を考えておくとして……

 

 

とりあえず、いまは何とか連れてきた女の子の

顔を拝んで見たかったので、恰好を整えてから貴賓室へと向かったところ……

 

 

今回連れてきた二人を見て、驚いた……

 

 

うわ、これは大当たりだわ……

成果はたった2人だけど、侵攻したかいあったかも……

 

 

連れてきた二人のこのうち、お嬢様な雰囲気の髪の長い子の方は

こちらを警戒する風に、怯えた風な視線を向けてきた。

 

 

制服が違うから、友枝小の子じゃないみたいだが……

でもそんなこと関係ない、かわいいから許す!

 

 

ただ、このままじゃお話しするのは難しそうだなぁ……

このままじゃ名前を聞く事も出来そうにないので、

とりあえず、落ち着くまで様子を見る事にする事にする。

 

 

そしてもう一人……本命の友枝小学校の子は

怯えるどころか、何故か嬉々とした様子をしており

 

 

「これって、とっても不思議体験だよね」

 

 

目を輝かせながら、そんな事を言っていた。

 

 

話を聞くと、この眼鏡の女の子……

6年生の奈緒子お姉さんは、オカルト話が大好きで

俺達の事を、最初は宇宙人と思ってたとか……

 

 

俺達は宇宙人じゃなく人間で、使ってるのは魔法だと言ったら、

奈緒子お姉さんも、どこからかうわさ話を聞いたらしく

黄昏の魔法使いの話を聞いた事があるようで、

実在してたのかと、感心したかのように驚いていた。

 

 

……ならば、友枝町にいた魔法少女について

何か知っているんじゃないかと思い話を聞いてみたのだが……

 

「魔法少女? 友枝町に……?

 うーん、それらしい話は聞いた事ないけど……」

 

 

奈緒子お姉さんには、その魔法少女について思い当たる節は無い様子で、

 

 

「ただ、4年生の時から、友枝町では不思議な事が起こっていたから

 もしかしたら、それと関係あるかもね」

 

 

頬に指をあてながら、首をかしげてそう言ってたけれど……

 

 

くぅ~……そのしぐさが、ほんとかわいい

俺たち相手に物怖じすることなく、なんというか

こう……ふんわりとした雰囲気がたまらなぁい!!

 

 

そして、すっかり彼女に夢中になってしまい、

あれやこれやと長時間話していると

気が付いたら、のどがカラカラになっていた。

 

 

こういう時、何も出さないというのは男の礼儀にかけるので

お茶でも用意してこようかと、貴賓室を出て、給湯室まで行こうとしたら……

 

その途中、あのデカブツが居る部屋から

誰かと話している声が聞こえてきた。

 

 

戦闘か、特訓の時以外は、一人で飴舐めてばっかりの

アイツにしては珍しいなと思って部屋の中を覗いてみると……

 

 

「それで、ゲンさんはどこから……?」

 

 

「んー、悪いな

 それはしゃべっちゃダメって言われてるんだ」

 

 

どういう事だ、これは……

 

 

見えたのは、あの野郎が事もあろうに

俺の好みどストライクのメイド服を着た金髪少女と話している所だった。

 

正直、メイド少女は黒髪の方がいいかなと思っていたのだけれど……

金髪だって負けてない位に魅力的……って違う、そうじゃない!!

 

 

おまえ! いったいいつの間に!?

 

 

「おい、ゲン! なんだそのメイド少女は!?」

 

 

クッソうらやましい……! メイドなんて連れてきやがって

こいつおぼっちゃんなのは、髪形だけじゃなかったのか……!

 

 

……と、憤慨して怒鳴り込むと

ゲンはこっちを振り向いて……

 

 

「なんだよコクエン、こいつお前が

 連れてきたんじゃなかったのか?」

 

 

すっとぼけた顔で、そんな返事を返してきた。

 

 

俺が……この子を?

 

 

馬鹿言え、こんな子が居たらお前なんかに近づけるか!

 

 

「あの……コクエンさんって

 この周辺のロッドマイスターで一番強いっていう?」

 

 

「え? 俺のこと知ってるの?」

 

 

メイド少女は、俺の噂を知っていたらしく、

ちょっと驚いたような顔で、こちらに話しかけてきてくれた。

 

やばい……近くで見たら更にかわいい……!

 

 

「あ……はい、町で迷っていたら部下の人達が、

 あなたにあってみないかと、ここまで案内してくれたので……」

 

 

だれだ!? こんな最高にかわいい子を連れてきてくれたのは!?

 

後で思いっきりほめて……いや、先にこの子の案内と

奈緒子お姉さん達に、お茶の用意をするのが先だ!!

 

 

「そ、そーなんだ! わざわざ来てくれてどうもありがとう!!

 じゃあ改めて……俺の名前は宵闇コクエンだ、君の名は?」

 

 

「あ、アリサでぇす」

 

 

まぶしいばかりの笑顔と、かわいらしいポーズをとりながら

そう言って自己紹介をしてくれたアリサちゃん……

 

 

くーっ、しびれるぜ

 

 

その間、ゲンのヤツは興味なさそうに飴をしゃぶりながら

相変わらず飴をしゃぶり続けていた。

 

 

かわいそうだねぇ、この可愛さがわからない奴は……

まぁ、俺にとっては都合がいいんだけどな

 

 

そうだ、メイドという事はお茶の用意とかも得意のはず……

ちょうどいい、一緒に手伝ってもらおう!

 

 

「じゃあアリサちゃん、ちょっと頼みたい事があるんだけど

 今、貴賓室に他の女の子たちが居てさ。

 彼女達にお茶を入れてあげたいんだ、手伝ってくれないかな?」

 

 

「あ……はい、よろこんで」

 

そう言って、アリサちゃんはかわいらしく笑顔を返してくれた……

 

 

急なお願いにもすぐに対応してくれる……まさにメイドの鏡だぜ!

 

どっかのコスプレ好きなのかもしれないけど、

こんな子に、毎日お世話してもらったら最高だろうなぁ……

 

 

こうして俺は、廊下でうらやましそうな目をしている奴らを横目に

アリサちゃんと一緒に給湯室でお茶を入れて

彼女を連れて、貴賓室へと戻っていくのだった。

 

 

あ~、もう最高ぉ~……!

 

 



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ふしぎ体験と偽りの笑顔

 

 

……なんだか、大変な事になっちゃった

 

 

今日の夕方、私はいつものみんなと一緒に帰宅してる途中、

夕暮れ時の帰り道、いつの間にか知らない路地裏にたどり着いた子が、

黒いローブを着た黄昏の魔法使いと言う人から

魔法の杖を受け取ったという、最近小学生の間で流行っているという噂について話していた。

 

 

この手の話は好きだし、そうだったら面白いなとは思ってたけど

流石に、私も本当だとは思っていなくて

みんなも、単なる噂だって笑ってたんだけど……

 

 

「黄昏時っていうのはね……」

 

 

ここで、山崎君が便乗していつもの嘘話を始めたので、

これまたいつものように千春ちゃんに襟をつかまれてガクガクされてしまい

黄昏の魔法使いの話は、そこで終わりになってしまった。

 

 

山崎君、打合せなしで見事なコンビ技を見せてくれたエリオル君や

話に、ものすごい勢いでだまされてくれる李君が帰ってからは

だいぶ寂しそうにしてたけれど、今は、もう大丈夫みたい。

 

 

……ちなみに、山崎君のウソに同じように騙されてばかりのさくらちゃんは、

今日は知世ちゃんとの約束があるそうで、今日は先に帰ってしまった。

 

 

なんだか、最近はそう言って先に帰っちゃうんだよね。

 

そう言えば、クラスメートの子が、月峰神社で、

他所の学校の子とさくらちゃん達がよく一緒に居る所を見たって言ってたけれど……

 

 

さくらちゃんの新しい友達なのかな?

まぁ、さくらちゃんなら別におかしなことでもないけれど……

 

 

……それにしても、最近はふしぎ現象が全然起こらないなぁ

 

 

去年や一昨年は、お化け騒動に、不思議な雷や雪に雨。

遊園地でのポルターガイストに、消えちゃった古本。

人形泥棒騒動や、ひっくり返ったペンギン大王と、

色々な事件が色々起こっていたけれど

最近は、何も起こらずにとっても平和……

 

 

最近の不思議な噂話は、友枝町から海鳴市の間で

黄色い妖精っぽいものが空を飛んでいたっていう話だけ。

 

 

私も、黄色い妖精か黄昏の魔女にあってみたいなぁ……

 

……と、少し上の空になってそう考えていたら

 

「きゃあぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

突然聞こえてきた、千春ちゃんで現実に引き戻された。

 

何が起こったのかと、千春ちゃんの方を見ると……

 

 

「や……山崎君が……消えちゃった!

 しっかり、掴んでたはずなのに……姿が薄くなっちゃって……!」

 

 

そう言って、掌を見つめながら青ざめた表情でそう言っていた。

 

 

消える……あれ? 確か、こんな事が前にもあったような……

確か、臨海学校で……?

 

 

頭の中で引っかかったので、臨海学校の時の事を思い出そうとするけれど

違和感の正体が難なのか、思い出す事は出来ない。

 

とにかく、今は千春ちゃんを落ち着けて

山崎君を探さないと……。

 

だけど、突然遠くから奇妙な音と、騒ぎ声が聞こえてきて、

ただならぬ雰囲気を感じたので、そちらの方へと振り向いた所……

 

 

私達の目に入ったのは、モヒカンに剃り込みといった、

あからさまに不良っぽい髪形をした子達が

まるで地面を滑るかのような動き方でこちらに向かってくるのが見えた。

 

 

あまりの事に、つい悲鳴を上げて逃げたものの

途中で、私はみんなとはぐれて一人だけになってしまった所を見つかってしまい、

不思議な光に包まれたかと思うと身体が浮いてしまって、

そのまま、不思議な空間まで連れ去られてしまったのだ。

 

 

てっきり宇宙船にでも連れていかれるのかと思ったのだけれど、

連れていかれた先は、ちょっと古めの小学校っぽい建物で、

地面に下ろされた所……

 

 

「ようこそ! 友枝小のお姉さん!!」

 

 

彼らのリーダーだという子、宵闇コクエン君が

丁寧に出迎えてくれたのだ。

 

あまりの展開に、理解が追い付かず……

 

「……もしかして、宇宙人?」

 

 

「んがっ!?」

 

思わず、そんな事を口にしたら思いっきりずっこけられてしまった。

 

だけど、コクエン君はそれで気分を害した様子はなかったので、

私の当初の不安はどこへやら、この状況について、色々と話を聞いてみたくなり

これまでの事を質問してみると、彼らは快く答えてくれた。

 

 

聞いた所によれば、コクエン君達は、なんと噂の黄昏の魔法使いから

直接、魔法の杖を貰った子達なのだという。

 

コクエン君はこのあたりで一番強いロッドマイスターで、

少し、周辺の子達をあらかた子分にしたので、他の学区も支配下にするという

私にはちょっとわからない理由で、友枝町に来たそうだけど……

 

友枝町には、同じく魔法を使う子が居たらしく

その子が彼らの前に立ちはだかった結果

私を含めて二人だけしか連れてこれなかったのだとか……

 

 

その子について、何か知らないかと尋ねられたけれど、

私も、そんな子の話は聞いた事がないので、正直にわからないと答えた。

 

 

ただ、友枝町では前に不思議な事件が起こっていたから、

もしかしたら、その時に誰かが活躍してたのかもしれないと教えてあげた。

 

 

同じ部屋に居た他の子達は、私が楽しそうにしていたからか、

私達がしゃべってるのを見て、あっけにとられていたけど

 

私は特に気にせず、せっかくに不思議体験だからという事で

コクエン君に色々な話を聞かせてもらう事にした。

 

 

コクエン君はそのまま嬉々として、いろんな話を聞かせてくれたが

しばらくすると、流石にしゃべりすぎたのか、少しノドが乾いてしまったそうで

お茶を入れに行ってくると、部屋の外へ出ていってしまった。

 

冷静に考えると、魔法の杖を貰った魔法使いが、

あんなにペラペラと秘密しゃべっていいのかな……?

 

 

アニメとかだと、正体がバレたら魔法の国に帰ったり、

動物に変えられちゃうこともあるけど……

 

 

「……姉さん、度胸あるなぁ

 自分を誘拐した連中の大ボスに、臆せず話し込むやなんて」

 

 

……ふと、後ろから関西弁で話しかけられたので振り向くと

そこに居たのは、赤いレオタードを着て

うさ耳つきのサンバイザーを付けた、金髪で褐色肌の女の子。

 

外国人と言うには日本人っぽい顔つきなので、

おそらくは日系人なのだろう。

 

 

服装に関しては、、色々と言いたいことがある子だけれど

話を聞いてみると、この子も買い物の途中で

彼らに連れてこられたのだとか……

 

 

「日本も、だいぶ物騒になったもんやなぁ……

 はぁ、テリーがあれば……」

 

そのテリーと言うのが、なんの事なのかはわからないけど

今、ここから脱出する手段は無いみたいだ。

 

 

そして、連れて来れたタイミングから私と一緒だった

白いロングスカートの制服を着た子は、

部屋の隅っこの方で、不安そうな顔をしながらおとなしくしていた。

 

 

どうも、友枝町の子じゃなくて海鳴市から来たそうで

なんで友枝町にいたのかが気になる所だったけど、

あまり積極的に関わってくる様子はなかった。

 

 

「おまたせ、遅くなっちゃってごめん

 アリサちゃん、みんなにお茶をよろしく!」

 

 

「わかりました~」

 

 

そうこうしていると、コクエン君がお茶を入れて帰って来てくれてたのだが、

何故か、メイド服を着た子も一緒だった。

 

 

あの子の名前になにか思う所があるのか、

さっきの子は名前を呼ばれたときにほんの少しだけ反応したけど

メイド服の子を見ると、また壁の方へと向いてしまった。

 

 

知り合いと同じ名前なのだろうか?

 

 

「はい、どうぞ。」

 

 

メイド服の少女アリサちゃんは、コクエン君に言われた通りに

お茶のカップを渡してきたので、私はそれを受け取った。

 

この子も、コクエン君の仲間なのだろうか?

友枝町に来た事は、ずいぶんと雰囲気が違うし……

 

……それに、なんだか顔をよく見ると

眉間と口の端にしわが寄ってる様な気が……?

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

まったく、ひどい目にあった……。

 

 

コクエンは、女の子に対して、思ったよりは紳士的ではあったけれど、

その分、馴れ馴れしくもしてきたので、こっちは大変だった。

 

 

隙あらば、肩や腰に手を回して来ようとするし、

事あるごとに自慢話を挟んでくるのが正直うざったい……

 

 

……変装がバレてないのはいいことだし、

こうやって連れてこられた子達の、居場所が分かったのはなによりだけど……

 

 

逆に食いつかれすぎて、言い寄られるのがあまりにもキツイ……

 

 

ぬいぐるみのふりをして、お菓子に手が出せないケルベロスに対し

 

「その子、アリサちゃんのマスコット?

 キミによく似合う、かわいいぬいぐるみだね!」

 

僕に対するアピールのつもりだったのだろうけど、

ケルベロス本人はその言われ方が気に障ったのか

コクエンに対して、怒気を放ち始めていた。

 

 

……今は目立つわけにいかないので、ケルベロスの怒りを無視しつつ

部屋の中の子達にお茶を配っていると、貴賓室の入り口がノックされた。

 

扉を開けたのは、コクエンの部下の一人で、彼は部屋の中を見て

一瞬息を飲んだのちに、コクエンの方を向いた。

 

 

「コクエン様、あの子がいらっしゃいました。

 応接室の方で待たせてます。」

 

 

「ああ、もうそんな時間か……

 ……それじゃあ、俺はちょっと用事があるからまた後で

 アリサちゃんも、このままここで待っててくれ。」

 

 

どうやら、誰かが来たのを知らせに来たみたいだ。

 

それを聞くと、それまでこっちに食いついてきたコクエンは

やや名残惜しそうにしながら、部屋から退出していった。

 

 

「ふぅ……」

 

 

ようやく離れられて、ほっと一息をつく。

なんだか、いつもよりもすごく疲れた感じだ……。

 

 

(……ユーノ、顔が戻ってへんで)

 

 

 

ケルベロスに指摘されて、自分の顔を障ってみると、長く愛想笑いを続けていたからか、

目と口の筋肉がつって、笑顔から戻らなくなってしまっていたので、

慌てて指先でマッサージし、なんとかそれを元に戻した。

 

 

だけど、その行為は不審に思われてしまったようで、

視線を感じて、改めて部屋の中を見回すと、

連れてこられたであろう子達が、不思議そうな顔でこちらを見ていた。

 

 

とりあえず、さらわれていった人がちゃんといるか確認しなくちゃ……

 

 

まずは、友枝町の制服を着た、さくらさんの友達の奈緒子さん。

……うん、他に同じ制服を着てる子はいないし、

さくらさんから聞いた特徴も一致してる、彼女で間違いないだろう。

 

 

そして、見慣れた制服を着ているのがすずか。

流石に、彼女はなのはとの付き合いで何度も見た事があるので見間違えることはない。

 

 

その他にも、いろんな学区にも手出ししているようで、

各々別の制服や、私服を着た子達が居たけれど……

 

 

約一名、なぜかバニーガールっぽい子まで居たのには驚いた。

見た所、純粋な日本人ではないようだけど、

なんでこんな格好をしてるんだ……?

 

 

「なんやメイド少女、ウチの格好に文句あるんか?」

 

ガンを飛ばしていると思われたのか、つっけんどんな感じにそう言われてしまった。

 

 

奇妙な格好だが、作戦のうちとはいえ、僕もこの格好をしている以上、

そう言われると何も言えないので、彼女の事はとりあえず放っておくことにした。

 

 

さて、さらわれた子達の居場所はわかったけれど

どうやって、ここから連れ出したものか……?

 

 

ドアに鍵はかかっていないようだけれど、流石に見張りは居るし

彼らを何とかしたとしても、ここから正門までの間、誰にも見つからずに行ける訳がない。

見つかったら、さすがに連れ戻されるだろう。

 

 

なのは達に連絡を取ろうにも、預かった携帯は、結界のせいで通じないみたいだし、

念話も、遠距離で使った場合、横から傍受される可能性を考えるとおいそれとはできない。

 

……紫さんの力を借りようと思っても、

あの鏡は、知世さんが持っているので連絡を取ることもできない。

 

コクエンに頼んだ所で、あの食いつきようじゃ、簡単に外に出してくれなさそうだし……

 

「いったいどうやって……ん?」

 

……どうしたものかと悩んでいると、部屋の隅にある小さな通風孔に目が行った。

 

見た所、直接外に通じているようで、ここを通ることができれば、外に出ることができそうだが、

フェレット姿ならばともかく、この姿で通るのはまず無理だろう。

 

ましてや、今はフェレットに戻るのに、

さくらさんの力を借りなきゃもどれないし……

 

 

……そうなると、出来る事はひとつしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……ほんまに、一人で大丈夫なんか?)

 

 

 

(とりあえず、この格好してればなんとかなるとおもうから……

 見取り図はこれに書いておいたから、これをみんなに……

 あと用心棒……ゲンの事も忘れずに伝えておいて)

 

 

僕は、部屋の隅の通風孔の前にしゃがみ込むと

ケルベロスを見られないように体を壁にしつつ、

内部の見取り図や、注意点を描いたメモを、ケルベロスに渡して、通風孔へと送り込んだ。

 

 

これで、ケルベロスが外に出られれば、みんなにも中の事が伝わるはず……

 

 

僕だけでは、みんなを脱出させる事は難しそうだけど、

外のみんなと協力すれば、何とかなるはずだ。

 

 

後は、みんなが到着するまでここで待っていればいい。

そう思って、空いていた椅子に腰かけて休憩しようとした所……

 

 

「アリサちゃーん、ちょっとお願いしたいことがあるんだけど……」

 

 

ちょうどそのタイミングで、コクエンがドアから顔をのぞかせながら

申し訳なさそうな顔で、僕の事を呼びに来たのだが……

 

 

その光景を見た僕は、コクエンの顔にうんざりしつつも

お願いに対して激しく嫌な予感を感じたのだった……

 

 

 

 

 



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ドキドキ・メイド少女

 

 

まずいことになっちゃったかも……

 

 

亀山小学校に潜入したユーノ君を心配してる途中、

アリサちゃんが、ロッドマイスターの子達にジュエルシードについて知らないかと尋ねた所

コクエン君達が、少し前から集めているという答えが返ってきた。

 

詳しく話を聞いてみたところ、あの子達は宝石の事を

間違いなくジュエルシートと呼んでいたという……

 

 

ジュエルシードの名前を知っているのは、ユーノ君から教えてもらった私達の他は

私達とジュエルシードを奪い合っているフェイトちゃんしかいないはずだ。

 

 

「これは……もう確定ですわね」

 

 

どう考えても、あの子とコクエン君達との間に繋がりがあるとしか思えない……

つまり、場合によっては私達の情報を知っているかもしれないという事。

 

もしも、ユーノ君の正体がばれたらどんな目にあわされるのか……

 

 

……なんとかして、この情報を伝えないと!

 

 

だけど、携帯電話は繋がらないし

念話も、相手の本拠地で使用すると、傍受される可能性があるそうなので

緊急時以外の使用は固く禁じられている。

 

 

知世さんの持っている幻想鏡も、向こう側の力が乱れているせいで

スキマをつなげる事は出来ないそう。

 

 

潜入したユーノ君達の他にも、亀山小学校を見張っているという子達から

それっぽい騒ぎの連絡がないという事は

まだ何も起こってないと言う事だけど……

 

 

何もできないことが不安で、非常にもどかしくなる……

 

 

―――おーい、なのは、聞こえるかぁ~?

 

 

その時、頭の中に少し変わった関西弁が響いてきた。

 

 

「! ケロちゃん! どこから……!?」

 

 

―――小学校を出た西の辺りの林や

   ここ抜け道があってな、ここを使うたら

   門番に見つからず、中に入ることができそうやで

 

念話で、ケロちゃんの自慢げそうなセリフが頭の中に響いてくる、

どうやら、大変な事が起こったわけではなさそうだ。

 

「ふぅ……よかった。

 それより、ケロちゃん、大変だよ!

 ジュエルシードについてだけど……」

 

 

ほっと一息をついてから、先ほどの話について

すぐさまケロちゃんに伝えようとしたのだけれど……

 

 

―――よろこべ、連れてかれた女の子達の居場所が分かったで!

   なのはの言ってた友達のすずかや、さくらの友達の奈緒子も無事や

   あとで、二人に伝えといてんか?

 

 

私の伝えたいことを遮るように、ケロちゃんは潜入の戦果を伝えてきた。

 

 

すずかちゃんが無事だったことはうれしいけど、

こっちの声もちゃんと聞いてほしいの……

 

 

―――とりあえず、ユーノから見取り図やその他のメモを預かっとる、

   これを使うたら、捕まってる女の子達は助け出せるはずや。

 

 

どうやら、潜入は成功したみたいだ。

これなら、すぐにさらわれた子を助け出せそう……

 

……ん? ちょっと待って?

ユーノ君から預かってるって……

 

 

「ちょっと待って、ケロちゃん!

 ユーノ君、今そこにいないの!?」

 

 

―――女の子達を集めとる部屋の監視は厳重やから、

   一人でフェレットに変身出来んのでは、あの部屋から抜け出せんねや。

   助けが来るまでは、あそこで待っててもらうしかないやろな。

 

 

……という事は、ユーノ君は今、敵陣のど真ん中で一人っきり!?

 

 

どうしよう……友枝町を襲ってきた子達の中には

空を飛んでいた子はいなかったから、

飛べば何とか逃げ切れるかもしれないけど……

 

もし、屋内で捕まっちゃったら……

 

「なのは、どうしたのよ?

 あのぬいぐるみ、なんだって?」

 

 

念話が聞こえていないアリサちゃんの声をよそに、

私の心の中が、不安でいっぱいになっていく……

 

その時、部屋の入り口のドアが開けて入ってきた子達の話し声が

何故かハッキリと私の耳に聞こえてきて……

 

 

 

「あの金髪少女……前々からコクエンの所に

 出入りしてる子だよなぁ……」

 

 

「ああ、やたらとでかい犬を連れてな

 あいつの配下ってわけじゃなさそうだけど……」

 

その、あまりにも覚えがある特徴を聞いた瞬間

私の心の中で、何かが大きく動いたのを感じたのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……どうしよう、まさしく絶体絶命のピンチだ

 

 

 

 

ケルベロスを送り出した直後、コクエンが顔を出して、

これから来る客のために、給仕役をやって欲しいと頼んできた。

 

 

怪しまれないようにするのと、ゲンのような協力者が他にもいるのかを確認する為に、

その頼みを了承して、お茶とお茶菓子の用意をして応接室、

コクエンが言っていた部屋へ向かうと……

 

 

……そこで僕は、とんでもないものを目にしてしまった。

 

 

「やぁ、アリサちゃんありがとう!

 フェイトちゃん、彼女が今日から働いてくれてる

 メイドのアリサちゃん」

 

「どうも……」

 

 

なんとコクエンの客は、いつも僕達とジュエルシードを奪い合っている

魔導師・フェイトと、彼女の使い魔だったのだ。

 

 

まさかの来客に、表情も体も一瞬硬直してしまう。

 

はたから見れば、この対応は悪手だったかもしれないけれど、

トレイを落とさなかっただけでも、大したものだったと思う。

 

 

「……アリサちゃん、どうかした?」

 

 

一瞬動きの止まった僕に対して、コクエンは心配そうに声をかけてきてくれた。

 

 

あまりの状況に、頭の中が真っ白になりそうだったけど、

すんでの所で踏みとどまって、自然なメイド少女のあり方を装う。

 

 

「い、いえ……ずいぶんここにいる他の方とは違ったタイプの子だなぁって……

 彼女は、貴賓室にいる子とは違うんですか?」

 

 

「いてくれたらいいなぁとは思ってるんだけど……

 そこらへん、色々な事情があるわけよ。

 実際、あのデカブツの代わりにいてくれたらどんだけうれしいか……」

 

ゲンに対する不満をあらわにするコクエン。

どうも、コクエンはゲンの事があまり好きじゃないみたいだ。

あの時も、やたら敵視してるよな口ぶりだったし……

 

 

今の所フェイトは、こちらの事を気にしてないみたいだけれど……

 

 

何度も顔を合わせてるだけあって、このままこの場にいたら、さすがに正体がバレてしまうだろう。

さっさとお茶を出して、おいとまを……

 

 

「あ、悪いんだけど彼女がいる間、お茶を入れる役をやってもらえるかな?

 こういう場にメイドがいるって、とても華やかになるし」

 

 

……することは出来なかった。

ばれてない分、コクエンの頼みは余計に性質が悪く感じる……

 

 

とにかく少しでもばれないように、少し離れた位置で、

バレないように、二人のやり取りを見守る事にした。

 

 

正直、不安で心臓がバクバクなっている……

僕はこの重圧に耐えられるのだろうか……

 

 

 

「……さて、フェイトちゃんに頼まれた宝石、

 これの事でよかったんだよな?」

 

僕の内心など知らずに、コクエンはそう言って、

机の下から金属製の大きなカバンを取り出した。

 

小学生には似つかわしくない代物だが、

いったいどうやって手に入れたのか……?

 

 

コクエンが、そのままもったいぶるように箱を開けると

その中に入っていたのは……

 

 

(……!?)

 

 

青い本体の中に、赤い文字の入った宝石……

間違いなく、それは僕がこの世界に来るになった原因・ジュエルシードだった。

それも、3つも……まさか、コクエンも集めていたなんて……

 

 

「うん、確かに……

 回収するときになにかあった?」

 

 

「なんか、化け物みたいなやつが持ってたとも聞いたけど、

 おおむね、問題なく回収できたと思うぜ。

 なにせ、結構な数の兵隊をそろえてるからな!」

 

 

どうやら、コクエンは配下の数にものを言わせて、ジュエルシードを集めたらしい、

無法者じみた勢力拡大は、想像以上に厄介な手段だったようだ。

 

 

なんとかして取り返したいけど、この状況では動くことはできない。

僕は、奥歯をかみしめながら、彼女の手にジュエルシードが渡るのを

黙ってみていることしかできなかった……

 

 

ただ、あまりにその光景を見つめすぎたのか、

彼女もコクエンも、こちらに視線を向けてきたので

僕は慌てて、下の方を向く……

 

しまった、あんまり見つめすぎたか……

不審に思われたかと心配する僕に、コクエンは……

 

「アリサちゃん……もしかして、この宝石欲しかったりする?

 悪いね、こっちはフェイトちゃんに、前々から頼まれてたものだから

 おねだりされても、そうホイホイ渡すわけにはいかなくってさぁ……

 何か欲しいのがあったら、また今度用意するから……ゴメンね」

 

 

宝石に目がくらんだと勘違いしたらしく、僕に対してそんな事を言ってきた。

 

……欲しいのは確かだけれど、こいつにおねだりする気は一切ない。

それよりも問題なのはフェイトの視線だ……

 

 

何度も顔を合わせてるだけあって、

流石にこれだけ目を合わせたのでは、流石にばれたか……?

 

 

「……ごめんね、これだけはどうしても渡せないの。」

 

 

だけど彼女も、僕の不安など気づきもせず、そう言って謝られてしまった。

あれ!? ひょっとして僕のこと全然気づいてない!?

 

 

ちょっとは疑われるの覚悟したけれど、こうも気づかれないなんて……

 

 

これは、変装があまりに効きすぎているのか、

それとも、いつもの勝負で僕の印象がないのか……

 

 

……考えてみたら、確かにいつものメンバーの中で僕の印象は一番薄いのかも……

いや、むしろ知世さんを含むみんながインパクトがありすぎる気が……

 

 

そんな自虐気味な事を考えながら、フェイトの横にいる使い魔の方へと視線を向けた。

 

 

2回目の遭遇以降、フェイトを守る様に一緒に居るアイツは、

あの姿からして、あの使い魔は犬かオオカミのはずだ。

 

 

もし、姿で二人が気付かなかったとしても、

匂いで気づかれてしまいそうだけれども、

アイツも、こちらに対してリアクションをかけてくる様子はない。

 

 

……と言うか、さっきからずっと僕とは反対方向を向いて

鼻の辺りを抑えているような……?

 

どうも今は、フェイトと念話で話しているみたいで、

今度こそバレたのかと覚悟していたけど、

念話が終わったタイミングで、フェイトは申し訳なさそうにこちらを向くと……

 

「……ごめん、アルフがあなたのつけている香水が苦手みたい。

 悪いけど、そろそろ席を外してもらえないかな……」

 

 

そう言って、僕に退室するよう頼んできた。

 

 

あ、香水のせいで匂いがわからなかったのか……

女装の際の悪乗りが過熱したおかげで、ここまでされたけれど

まさか、そのおかげで助かるとは思わなかった。

 

 

「えー、そうかなぁ……

 俺はいい匂いだと思うけど……

 ……悪いな、アリサちゃん、そう言う訳だから

 貴賓室の方に戻っててくれないか?」

 

 

コクエンはそう言って僕に退室を促してきた。

 

だいぶ、名残惜しそうにしていたけれど、

無理を言って引き留める気は無さそうなので、

僕は、そのコクエンのややワガママな要望に

二つ返事で了承して、無事バレることなく応接室から抜け出す事が出来たのだ。

 

 

どっと疲れが襲ってくるような感じがしたのは、

想定外の危機的状況から、無事に抜け出せたことに対する安堵からか……?

 

敵とはいえ、さんざん顔を合わせているにもかかわらず

女装のせいで気づかれなかったことに対する

もやもやとした納得のいかなさからか……?

 

目の前にあったのに回収できなかった

ジュエルシードについてか……?

 

……それとも、こっちの気も知らないで

事あるごとににやけた視線を送ってくるコクエンのせいか……?

 

 

……悩むのは後にしよう、そろそろケルベロスも皆に合流しただろうし

そろそろ、みんなを出迎える準備をしなければ。

 

 

……そして、気持ちを切り替える為に、周囲に人がいないのを確認してから

大きく深呼吸をして、大きく息を吐きだした直後……

 

 

「むぐっ……!?」

 

 

周囲に人の気配はなかったはずなのに

僕はどこから出てきた手に、口を押さえられてしまい……

 

 

そのまま、手の伸びてきた方向にある部屋へと

引きずり込まれてしまったのだった……

 

 

 

 



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踏み入れてはならぬ領域

状況が落ち着いたので更新再開
幹部数と出演作品数いくつにするか、未だ悩んでますが


口を手で押さえられたせいで助けを呼ぶことができず、

なすがままに、そのまま手の伸びてきた部屋へと引っ張り込まれ

もしかして、よからぬ事を考えた輩が変なことをしようとしたのかと

警戒しながら、相手を確認しようとしたところ……

 

 

 

「ユぅぅぅノぉッ! アンタって奴はぁっ!!」

 

 

 

「あ……アリサ!?」

 

 

 

そこには、目を三角にして起こるの言葉通りに目を吊り上げ、これ以上ないくらいに激怒している

ウサオちゃん喫茶で待っているはずのアリサだった……

 

 

「ど、どうしてここに!?

 それよりも、いったい何をそんなに怒って……!?」

 

想定外の事態に、何があったのか尋ねようとしたけれど、

襟首をつかまれ、強烈に頭をガクガクと揺さぶられた為に

まともに言葉を発することができず、そのままアリサの怒りの声が耳に突き刺さった。

 

 

「見てたわよ!! 変装したアンタが

 あのチャラ男相手にやってた事!!」

 

 

「え……?」

 

 

チャラ男って……もしかしてコクエンの事!?

見てたって……いったいどこから!?

 

 

「あ、アリサちゃん、もうその辺にしておこうよ……」

 

 

 

揺さぶられ続けているため、考えが全然まとまらなかったけど、

新たにアリサを制止しようとする声が聞こえてくる。

 

 

この声だけは聞き間違えることはない。

声の主は、これまた喫茶店で待っているはずのなのはだ。

 

「なのは……!? あれ、それにさくらさんに知世さんも……」

 

 

よく見てみると、周囲にはさくらさんに知世さんも居て、

知世さんの持っているバッグからは、

先ほど外に出て行ったはずのケルベロスが、丸い頭を出していた、

 

 

「み、みんないつの間に……?」

 

 

「それは、私から説明いたしますわ。

 ユーノ君が潜入しに行った後、喫茶店にいた子達から

 コクエン君がジュエルシードを集める命令を出していたことや

 こちらの建物に、あのフェイトちゃんらしき子が

 出入りしているという話がありまして……」

 

 

驚く僕に、知世さんは申し訳なさそうに、潜入した後の情報を教えてくれた。

 

 

あの時は気持ちが急いてしまっていたし、

まさか、コクエンとフェイトにつながりがあるとは思ってなかったから、

一刻も早く助け出さなければと、すぐさま潜入に映ったわけだけど……

 

その情報と可能性は、もう少し早く欲しかったな……

 

「それで、もしばったり出くわしたら大変だと思って、

 私達も潜入して来たんだけど……」

 

 

……さくらさんの懸念していた通り、実際に応接室で彼女に出くわした時には、正体がいつバレるかヒヤヒヤしたけれど……

 

 

あの場でバレたらどうなっていたことか……

 

けど、バレなかった理由が女装がうまく行っていたからだと思うと、複雑な気分になる……

 

 

それに、こんなにあっさり侵入できるんだったら、僕が変装した意味なかったんじゃあ……?

 

 

「まぁ、その辺は結果オーライと言うことで。

 ……ただ、私達の方も、入り込んだまでは良かったのですが、

 こちらにたどり着いたときには、ユーノ君の居場所がわからない状態だったわけですから……」

 

 

「だから、ユーノ君がどこが居るのか確かめるために、アレを使わせてもらったの」

 

 

そういったさくらさんが指さした先にあったのは洗面台に備え付けられた鏡。

少し古いけど、割とこまめに手入れされているらしく、汚れや曇りはほとんどない。

 

 

「鏡……?」

 

 

「……クロウが得意にし取った術の中に、鏡やら、水面やら、とにかく姿が写るもんに離れた場所の風景を写す術があってな……

 さくらにカード使うてもろて、あの部屋の中でのこと確認してもろうてたんや」

 

 

ケルベロスが、僕に理解もつかない様な魔法について説明してくれた。

……なんというか、さくらさんの使う魔法って反則じゃないだろうか?

 

 

多分、ここにあっさりこれたのもカードの魔法のおかげだろうし、

盾の魔法で変身の補助が出来たり、迷路の魔法は全く出られなかったり……

……単なる技術の違いだけとは思えない。

 

それとも、こちら側の魔法はそう言うものばかりなのだろうか……?

いくら考えても、わかりそうにはないけれど……

 

 

「……とりあえず、僕の方は大丈夫だよ。

 幸い、あの子にも正体はバレなかったし……」

 

 

僕がそう言うと、みんなは安心した表情をしてくれたけれど、

ただ一人、アリサだけはみんなとは違う顔をしていた。

 

どうも、さっきの怒りはまだ収まってないみたいだけど、

けど、いったい何にそんなに怒って……?

 

フェレットに変身してた事や、なのはを巻き込んだ事について、後々言及される事は覚悟してたけど、アリサは今この場で怒るほど空気が読めない相手じゃないはず……。

 

 

「そうねぇー……、あのチビ男子にだいぶ気に入られてたみたいだもんね

 ねぇ、≪アリサちゃん≫?」

 

 

「!?」

 

 

そう思っていたところ、想定外のアリサの言った一言で、僕の表情は凍り付いてしまい……

 

 

「……【本物】のアリサでぇす♪」

 

 

続けて、タイミング外れの自己紹介をしてきたアリサは、

顔に友好的な笑顔を浮かべて……居るわけがなく、

表情は笑っていても、目だけはこれっぽっちも笑っていなかった……

 

 

むしろ、その表情からはさっき以上に怒気を感じられる……

 

 

 

「……あの、どこから?」

 

 

僕が、その名前を名乗ったのは、ケルベロスが一緒の時だったはずだ。

……そこで、もしやと思ってケルベロスに目を向けると、ケルベロスは居心地悪そうに眼を背けた。

 

 

ケルベロス! さては……!

 

 

「……アイツから、全部聞いたわよ!

 なに勝手に人の名前使って、ぶりっ子なんてしてるのよ!!」

 

どうやら、潜入後の事についてケルベロスは全部しゃべってしまったようだ。

 

 

そして、アリサの目の笑ってない笑顔は、

再び目を吊り上げた怒りの表情へと変わり、

アリサはさらに強く僕の頭を再度揺さぶった。

 

 

「いや、だって女の子に変装してるんだから、そのまま名乗るわけには……」

 

 

揺さぶられる中、何とか力を振り絞って自己弁護したけれど、

アリサは、一切聞く耳を持ってくれず、さらに強く僕の頭を揺さぶる……

 

 

「自分の名前でいいでしょうが!!

 背反の癒し手! この世の果てで恋を唄う少女!!」

 

 

そんな、無体な要求を僕にしてきたのだった

いや、そんな事言われたって……

 

 

「……アリサ、小学生が話題に出していい名前なんか、それ……?」

 

 

年齢的に口に出してはいけなさそうな名前をケルベロスに指摘されても、

彼女の怒りが収まりそうな気配はない……。

というか、こんなに騒がれたら誰かに見つかってしまいそうだ。

 

 

「あ、アリサちゃん、だからもうその辺で……

 すずかちゃん達の事も、何とかしなきゃいけないし……」

 

 

「……そうね、ひとまずこいつの事は後回しにしましょうか。」

 

なのはに制止された頃には、散々揺さぶって少しは気が晴れたのか

アリサは少しスッキリしたような顔で、ようやく僕の襟首を離してくれた……

 

 

うう、頭がくらくらする……

 

 

「……それにしても、よくこんな所にいて誰にも見つからなかったね……?」

 

 

「そりゃ、わざわざ好んでこんな所に入り込んでくる男子はいないでしょ」

 

 

「?」

 

 

揺さぶられ続けてフラフラになったせいか、一瞬、アリサの言ってることが理解できなかったけど、

落ち着いた所で改めて周囲を確認すると、部屋の様子を見て僕は思わず動揺してしまった……

 

 

内装は、さきほど見た鏡付きの洗面台が2つ、人ひとりが入れるくらいの個室のドアが4つ

そして、部屋全体はピンク色のタイルに覆われており、床には小さな排水溝らしき金網……

 

 

作り自体は僕がこれまでに見てきたものとは比較にならないほど古臭いし、

僕が知っているものと比較すると、あるべきものがないけど……

この部屋に広がる微妙な感じの人工のものっぽい匂いだけは、似たようなものを嗅いだ覚えは幾らでもある。

 

 

知ってはいるけど、一度たりとも入った事は無い場所……

いや、むしろこの中では本来僕だけが入ってはいけない場所……

 

 

「じょ……女子トイレ!?」

 

 

確かに、よほどヒドイ性格でなければ、うかつに入り込んだが最後、バッドエンド一直線になりかねない男子にとっての禁足地に足を踏み入れる奴はいないだろう……

 

 

「あいつら不良ぶってても、さすがにここに入ってくる勇気はないみたいね。

 それにしても、アイツら男子しかいない割に、なんでこここんなにキレイなのかしら?」

 

 

「多分、連れて来られた女の子たちが、使用する時の為に、掃除されているのだと思いますわ。」

 

アリサの疑問に、知世さんがもっともな答えを返した。

 

 

確かに、アイツらはそろいもそろって女の子に弱いみたいだったから

意外と、そう言う所はまめにやっているのかもしれない

 

 

部屋の隅に小さな赤い汚れみたいなものが見えたけれど……

その汚れがなんなのか、どうしてついたのかは大した問題じゃなさそうだ。

 

……と、そんな事を言っている場合じゃない。

僕だって、立場は同じなのだから。

 

 

「……あの、僕も男なんだから、

 あんまりこういう所にいると……ちょっとアレなんだけど……」

 

 

事情がしかたないとはいえ、認識した以上、ここの居心地は僕にとってもかなり悪いので、切実に、さりげない感じで抗議の声を上げた所

 

何故かアリサは目を細めて、僕の耳元に口を近づけて……

 

 

 

(……あら、なのはと寝起きを共にしていても、こういう所はやっぱり恥ずかしいのね?)

 

 

(!?)

 

 

突然、とんでもないことを耳打ちしてきた……!

 

 

(……いや! それは……!)

 

 

想定外の言葉に慌てる僕に対し、アリサは責めるように、そのまま言葉を続けてくる……。

 

 

(あの騒ぎでうやむやになっちゃったけど

 その辺、全部終わったらしっかりと聞かせてもらうわよ……覚悟しておきなさい。)

 

 

そして、いつの間にか、細い目はジトっとした視線へと変わっており、

先ほどとは異なる感情が込められているのだけは理解できた……

 

いや、むしろ理解させられた。

 

 

「アリサちゃん、どうしたの?」

 

 

「ううん、なんでもないわよ、なのは♪」

 

 

その直後、なのはに声をかけられ振り向いたアリサの顔は、

一瞬で黒い感情の一切感じられない笑顔へと変わっていた。

 

 

どうやら、なのはに対する怒りは解けたみたいだけれど、

その怒りは、多分この事件を解決次第、僕への追及へとむけられるのだろう。

 

 

なのはが抱えていた問題は解決できたから、それはいいのだけれど……

……何故だろう、理不尽しか感じられない。

 

 

そんな事を考えながら、憂鬱な気分に浸っていると……

 

 

―――ヴーッ

 

 

突如、何かが振動するような音が部屋に響き渡った。

この音は、誰かの携帯電話みたいだけれど……

でも、この中じゃ携帯は使えないはず……?

 

 

「……そろそろ時間ですわ、みなさん準備はよろしいですか?」

 

 

「え……もうそんな時間ですか?」

 

 

どうやら、先ほどの振動は知世さんの携帯電話のもので、

着信ではなくタイマーで振動していたようだ。

 

携帯電話を取り出して振動を止めた知世さんはそういうと

なのはは、すぐさま反応する。

 

 

「何とかして、みんなを連れ出さなきゃ。」

 

 

「気ぃつけや、何が起こるかわからへんからな。」

 

 

「うん、わかってる。」

 

 

続けてアリサ、ケルベロス、さくらさんと

僕以外の全員の表情が一転、真面目なものへと変わり、

僕一人、何が起こっているのかわからずに取り残されてしまった。

 

 

「あの……いったい何が?」

 

 

何をしようとしているのか、みんなに尋ねてみると……

 

 

「あ……すまん、説明しとらんかったな

 全く、金髪小娘がやりすぎたせいで……」

 

 

「なによ! 私のせいだっていうの!!」

 

 

ケルベロスがアリサの事を愚痴って、アリサがそれに反論し

今度はこの二人がにらみ合ってしまった。

 

あの、それよりも早く説明を……

 

 

「2人とも! もう時間だってば!!

 ユーノ君、私が説明するから、一緒に行こう」

 

 

結局、なのはは僕が答えを聞く前に二人を叱るようにそう言った後

僕に、手を差し伸ばしてきた。

 

 

……何が起こってるかはわからないけど、

どうやら、今はみんながやるべき何かを手伝うべきみたいだ。

 

 

「わかった……なのは、よろしく」

 

 

そう言って、僕はなのはの手を取ると、

そのまま手を引かれて、みんなと一緒にトイレのドアから飛び出した。

 

 

同時に、外からはいくつもの爆発音と、多くの人数が、

慌てるような声や足音が聞こえ……

 

 

 

……さらわれた子たちを救出するための作戦が始まった。

 

 




ちなみに、女子トイレ入りでバッドエンドはメダロット1ネタです
厳密にはバッドエンドではないのですが、ヒロインエンドは迎えられなくなります

……メダロット1の女子トイレ、入り口に標識ないから初プレイじゃ絶対引っかかると思う


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エスケープ・フロム・カメヤマ

 

フェイトちゃんのイヌが香水の匂いが気になるそうなので、

勿体ないと思いながらも、アリサちゃんに退室してもらった後の事、

 

こうやってフェイトちゃんと一緒に居られるチャンスは滅多にないから、

色々話がしたくって色々と話題を振りかけてみたけれど……

 

どうにもフェイトちゃん、今日はちょっと元気がないみたいで、

どんな話題にも、空返事をかえすだけの、ずっと浮かない顔のままだった。

 

……なんだか、フェイトちゃんの連れてるデカい犬が、

事あるごとに、不機嫌そうな顔でこちらをにらんできた気がしたけど……

 

そんなわけねーよな、頭いいみたいだけど所詮犬だし、

ただ、目つきがいま一つ気に入らなかったので、こちらからもにらみ返していると……

 

 

「……ジュエルシードありがとう、今日はもう帰るね。」

 

 

フェイトちゃんはそう言って、席を立って帰り支度を始めた。

 

 

「えっ、もうそんな時間?」

 

時計を確認してみると、元々夜遅くだったとは言え、

彼女が来てから、結構な時間がたっていた。

 

 

あーあ、結局今日もあんま話せなかったな……

……いや、女の子のエスコートは最後までしないと。

 

 

「あ……そう?

 じゃあせめて門のとこまで送ってくぜ」

 

 

女の子には優しいとこを見せなくっちゃ、

そう言って、俺は見送る為に続けて席を立った。

 

 

この時も、フェイトちゃんのイヌが睨みつけてきた気がするけど……

どうでもいいや、無視だ無視。

 

 

そのままフェイトちゃんと一緒に廊下を歩いて行ったが、

結局、話すこともなく校舎を出るところまでたどり着いた。

 

もう帰っちゃうのかぁとフェイトちゃんとの別れを惜しんで居ると……

 

 

「しゅ、襲撃だぁーっ!!」

 

 

「門を守れーッ!!」

 

 

突然、兵隊達の慌てる声が聞こえてきやがった。

一体何が起こったんだ!?

 

 

「お前ら! いったい何があった!?」

 

 

正門に向かう兵隊達を捕まえて、何があったのかを聞いてみると……

 

 

「あ、コクエン様!?

 敵襲です!! レジスタンスが襲撃してきました!!」

 

まさかの報告を聞いて、俺は無性に腹が立った。

せっかく人がいい気分に浸っていたのに、雰囲気の読めない奴らだぜ……

 

おまけに、たかがレジスタンス相手にこの大騒ぎとは……!

 

「てめぇら、残党相手にこんな大騒ぎしやがって!

 たるんでんじゃねーのか!?」

 

俺達に敵対する奴等の集まり・レジスタンス。

 

名前の聞こえはいいが、ハッキリ言ってしまえば烏合の衆。

配下に加わるのを拒んだ奴らが集まっただけなので、

結局、なにも出来ないと思ったから放っておいたってのに……

 

こいつら、そんな雑魚相手にこんな大騒ぎしやがって……!

 

 

「それが、レジスタンスにおかしな奴がいまして……

 そいつ一人に、最前線の兵隊は総崩れに……」

 

 

「なんだと!? 聞いてねぇぞ!

 レジスタンスに、そんな腕の奴がいるなんて!!」

 

一人でそこまでやるとは、そのおかしなヤツは、かなりの腕前のようだ。

 

だが、下級戦士とはいえ、たった一人にやられるとは信じられねぇ……

 

 

「……まさか!」

 

 

すると、俺達の話に思い当たる節があったのか、

フェイトちゃんが珍しく感情をあらわにするようにそう叫んだ。

 

 

「フェイトちゃん、どうしたの?

 何か心当たりでも……?」

 

 

「ジュエルシードを集めるときに、いつもかち合う子達がいるの

 あの子達の誰か来ているなら、もしかして……」

 

フェイトちゃんは、真剣な顔で、そしてただ事ではなさそうにそう言った。

 

……これまで、フェイトちゃんの戦う所を1度だけ見た事がある。

 

流石にパワーは俺ほどじゃないけれど、

目にも止まらぬ素早い動きは驚異的で、並の相手なら動きをとらえることも出きない。

 

ウチの幹部連中じゃ相手にならないだろう力の持ち主だ。

 

 

そのフェイトちゃんが、これまで見た事のない真剣な顔をしてる。

そいつは、よっぽどの相手って事か……?

 

そういや、友枝町に送った連中がやられたのも

ライオンを連れた3人組だって言ってやがったが、まさか……

 

 

「なんだよコクエン、ずいぶん騒がしいじゃねーか。」

 

 

そんな考え事をしていると、いきなり後ろから、能天気そうな声が聞こえてきた。

 

 

「ゲン……!」

 

 

「おせーよ、こんな大騒ぎしてるのに、ノロノロしやがって……

 何のための用心棒かわかってんのか!?」

 

 

まったく、こいつときたら命令は聞かない、襲撃にも加わらない、

暇さえあれば飴を舐めながらマギロッドをいじり続けてばっかり……

 

デクノボウってのは、まさにこいつの事だ。

 

 

「なにおぅ!? 年下のくせに生意気だぞ!!」 

 

 

「うるせぇッ! 年上だからって威張んな!!」

 

 

前から、こいつの事は気に入らなかったんだ、

この場で決着つけてやろうか……!? とか思って、にらみ合うが……

 

 

「ゲン、コクエン、ケンカしてる場合じゃないよ、

 あの子達が来てるのなら、表の子達じゃ相手にならない……」

 

 

いつの間にか、大きな鎌を手に持っていたフェイトちゃんに止められてしまった。

 

……確かに、今はケンカしてる場合じゃない。

ゲンの方が先に呼ばれたのは、ちょっと気になったけど……

 

 

フェイトちゃんや、奥にいる子達に被害が及ばないように、

とっととレジスタンスを名乗ってる連中を叩き潰すのが先だ。

 

 

「行くぞゲン! レジスタンスの連中をさっさと叩き潰すぞ!」

 

 

「うるさい! 命令すんな!

 お前、生意気なんだよ、コクエン!!」

 

 

相も変わらず偉そうな口を利くゲンに、一瞬やっぱこいつシメようかと思ったけど、

またケンカしたんじゃ、フェイトちゃんに申し訳なさすぎる。

 

 

フェイトちゃんの為に、言いたいことを『ぐっ……』と堪えて門の所まで行くと……

 

そこには、お互いににらみ合うウチの兵隊とレジスタンス、

そして、折れたり凍り付いて使い物にならなくなったマギロッドと……

 

 

見た事もない、精彩なデザインな衣装を着て、

空を飛びながら、まるで花火のような光と氷の弾をばらまき……

 

 

「お……? 新しい奴らが出て来たな!

 お前たちがここのボスか!? 

 3人もいるって事は、うるさい幽霊かなんかなんだな!?」

 

 

……俺達を見るなり、訳の分かんねぇ事をしゃべりまくる、

奇妙なバカっぽい、青い幼稚園児みたいなヤツが暴れていた。

 

 

なんだありゃ……あんな馬鹿丸出しの雰囲気じゃ、

せっかくの服のイメージが台無しじゃねーか……

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

「うっ……!?」

 

 

 

さくらさんが杖でカードをつき、出てきた小さな妖精のような何かが

見張りの上まで飛んでいき、杖を一振りして光る粉を振りかけると……

 

 

―――バタリ

 

 

見張りは、そのまま倒れてしまい、

グースカと寝息を立てて、気持ちよさそうに眠ってしまった。

 

 

「……やっぱり反則よね、さくらさんの魔法

 こんなのが52枚も使えるんじゃ、やりたい放題じゃない。」

 

 

コクエンみたいなやつが、こんなカードを使おうもんなら

どんなことになるか、想像する事すら悍ましい……。

 

 

ホント、カードの使い手がさくらさんみたいな優しい人で良かったわ……

 

 

「まだまだ、こんなん序の口や、

 ……さ、はよ中にいる子達を助け出すで。」

 

 

「……カギ、あったよ!」

 

 

ユーノが倒れた見張りの体を探り、懐からカギを取り出した。

 

着替える暇はないので、未だにメイド服を着てるけれど、

あのモヒカン、意識があったらどんな顔をしていたのやら……

 

 

―――ガチャリ

 

 

「みなさん、ご無事ですか?

 助けに参りましたわ」

 

 

「え……知世ちゃん!? さくらちゃんも!」

 

ドアを開けた知世ちゃんの姿に真っ先に反応したのは、友枝小の制服を着たメガネの少女だった。

……恐らくあれが奈緒子さんなのだろう。

彼女は、こんな時間に現れた二人を見て驚いているみたいだった。

 

……まぁ、特にさくらさんの格好はどう見てもコスプレだもんね、

私も、なのはの魔法少女姿見た時は驚いたし。

 

 

「よかった……奈緒子ちゃん無事だったんだ。」

 

 

突然現れた助けに、部屋の中に居た子達がどよめいたけど、

奈緒子さんだけは、驚きを収めた後

すぐにさくらさんと知世さんの元へと駆け寄っていった。

 

 

私達も……えーっと……

あ、いた! あんな隅っこの方に寄っちゃって……

危うく見逃すとこだったじゃない!!

 

 

「すずか!」

「すずかちゃん!!」

 

 

「アリサちゃん、なのはちゃん!?

 二人ともどうして……

 それに、なのはちゃんその格好は……!?」

 

 

すずかも無事だったみたいで、私達の姿を見るとすぐに駆け寄ってきた。

ただ、なにかあった時にためにバリアジャケットを装着していたなのはの姿を見て、

流石に戸惑ったみたいだけど……

 

 

「あの、これは……

 どうしよう、アリサちゃん?」

 

 

「今さら隠しても意味ないでしょ、

 正直に言ったら? 魔法少女になりましたって。」

 

 

「あ、アリサちゃん!?」

 

 

なのはは、私に助けてもらいたいみたいだったけど、

その隠し事のせいで、こちらも長いこと悩んだ上、事件に巻き込まれてしまったのだ。

 

 

もう許したなんて思わない事ね。

ちゃんと、仕返しはさせてもらうんだから!

 

 

「ねぇねぇさくらちゃん、魔法少女だって!!

 なんか、ホンモノみたいだよ、すごーい!!」

 

 

「うん……そうだね、奈緒子ちゃん」

 

 

そして、奈緒子さんの方は、そんななのはをみて何故かはしゃいでいた。

あの子は、魔法少女とかが好きなのだろうか……?

 

……て言うか、今話しかけてる相手も、魔法少女なのだけれど……

あの格好みて、気づかないのはある意味スゴい……?

 

 

「……みんな、早くここから逃げよう、

 外でコクエン達を引き付けてるみんなも、いつまで持つかわからないから……」

 

 

そんな彼女に半分呆れていると、表で見張っていたユーノが脱出を急かしてきた。

真面目な顔をしているけれど、衣装は相変わらずメイド服のままなので、

アイツの本当の性別を知っていると、かえって滑稽に見えてしまう。

 

 

「あれ? さっきのアリサちゃん……

 ん? あなたも、確かアリサちゃんだったよね?」

 

奈緒子さんはユーノを見て、困惑しながら私と交互に見つめはじめた。

アイツめ……ここでも私の名前を語ったのか……

 

 

すずかも、その辺が気になっているようで、恐る恐るこちらを見ているけど……

 

 

「……ユーノ! アンタいつまでその服着てんのよ!!

 バリアジャケットがあるんだから、いつ脱いでも大丈夫なんでしょ!?」

 

 

全く、紛らわしいったらありゃしない……

けど、ユーノは私の言葉に半分涙目になって反論してきて……

 

 

「脱げないんだよ! 構造が複雑すぎて……

 って言うか、アリサ! 今それを言ったら……」

 

「ユーノって……え?」

 

私が名前を呼んだことで、すずかも、おぼろげながら

このメイド服少女の正体に気付き始めたみたいだった。

ユーノは、その反応を見て慌てたけれど……

 

 

いいじゃない、なのはが魔法少女やってるのバレたんだから、

マスコットのアンタも巻き添えになったって……

 

 

「あんたら、いつまで漫才やっとんねん。

 ウチらを助けに来てくれたんのは、ちゃんと礼いわせてもらうけど、

 そろそろ、外まで案内してくれへん?」

 

 

そんなこちらの内輪もめにうんざりしたのか、

さらわれた子のうちの一人が、関西弁で催促をしてきた。

 

 

……この子も、なんというか競泳水着に、サンバイザーとうさ耳をつけた、

何を考えているのかわからない恰好をしていた。

 

 

一瞬、コクエンの趣味なのかと思ったけれど、他の子を見る限り

変わった衣装を着せられている子は捕まってたこの中には居ないし……

 

 

振舞い方が、あまりにも自然すぎる……

まさかとは思うけど、それひょっとして普段着……?

 

 

「これは大変失礼いたしました、

 それではさくらちゃん、お願いいたしますわ。」

 

「うん……奈緒子ちゃん、ちょっと離れてて!」

 

「さくらちゃん……?」

 

 

結局答えを聞く暇はなく、知世さんがさくらさんに

ここから脱出する方法を出してもらうようにお願いすると……

 

 

さくらさんは、一人壁の前に立ち、

先ほどとは別のカードを取り出して、カードの名前を叫んで杖で突く。

 

 

「『(スルー)』!!」

 

そしてカードが光を放ち、さくらさんの目の前の壁が歪んだように見えたと思ったら

さくらさんはそのまま壁の方に向かって歩き続け……

 

壁にぶつかりそうになった瞬間、周囲のみんなが危ないと声をかけたのを気にせず……

さくらさんは、そのまま前に進むと、壁の中へと吸い込まれるように消えていき……

 

 

「……これで、この壁を通れるようになったよ!

 みんな、早くここから逃げよう!!」

 

 

次の瞬間、壁から、ひょっこりと顔を出してきた。

 

 

その不思議すぎる光景に、あちこちから驚きの声が上がっている。

……やっぱり、反則過ぎるでしょ、そのカード

 

 

でもまぁ、こうして少々反則気味な脱出ルートが出来たので、

私達は捕まっていた女の子を連れ、この奇妙な城からの脱出を始めたのだった。

 

 

壁の方に向かっていくのに躊躇している子や、目の前の驚きの光景に、興味津々な子……

更には、走りながらもなんとかメイド服を脱ごうと、悪戦苦闘している奴もいたけれど……

 

 

ここでぐずぐずしているわけにはいかない、まだ脱出は始まったばかりなのだから。

 

 

なにしろ、この学校……結構な高さの山の上にあるから

上がってくる時も、かなり大変だったし……

 

 

おまけに、奴らが私達の想定より、はるかにヤバい奴らだと分かったのは、それからまもなくの事だった。

 

 




チルノが来ている衣装は、出発前に知世が用意していた衣装のウチの一着です
もう一着は、この後で使いますが、誰が使うのかはお楽しみ

……てか、候補は上がってるけど誰にするかは決まってなかったりして

しかし、CLAMP衣装を文章でどう再現したものやら


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暴君、見参!

ここまでの話を、一通り加筆修正行いました。
そこそこ設定の変更を入れたり、追加エピソードを入れたりしたので
未見の方は、一度見直してみてくだされば幸いです


 

レジスタンスの攻撃を食い止める部下達の元に

俺・フェイトちゃん、そしてゲンが駆けつけてから、20分くらい経っただろうか?

 

 

襲撃を仕掛けてきたレジスタンスの雑魚連中の大半は、

あっという間にマギロッドを折って、戦闘不能にしてやった。

 

 

ロッドマイスター同士の戦いは、お互い行動できなくなるか、マギロッドを破壊されれば負けとなり、

それ以上の手出しをしないのが、暗黙のルールになっている。

 

 

マギロッドは、時間がたてば再生するし、マイスターに来るダメージは、

全てロッドが肩代わりしてくれるそうなので、マイスター同士の戦いでは

滅多なことで、大けがをしたりすることは無い。

 

 

悪あがきで、マギロッドの使えない状態で抵抗しようとしても、

基本的にロッドマイスターはマギロッド無しじゃ魔法を使えないから、

マギロッドが再生するまで、結局なにも出来はしないから、放っておいても問題はないのだ。

 

 

……だが、あの能天気なチビは、マギロッドらしきものを持っている用には見えなかった

 

「それそれーっ!!」

 

 

……それにもかかわらず、ヤツはあちらこちらへ大量の氷や光の弾をばらまき、

弾が当たった兵隊のマギロッドを次々に凍らせている。

 

 

あれだけの弾、ウチの兵隊が一斉になって放ってもバラまけるかどうか……?

一体、どんだけの力を持ってやがるんだ?

 

 

……だが、一つ一つは大した威力は無いし、スピードも精度も大したことは無いので、

俺とゲンは防御用の魔法で防ぎ、フェイトちゃんはすべて見切って避けていた。

 

 

情けない部下共はここまでに結構なかずがやられていたが、

レジスタンス側も残っているのはあと僅かなので、ここであのチビを倒せば、奴らはもう打つ手がないはずだ……

 

 

その時、俺の頭には少ない被害でアイツを倒す名案がひらめいたので、

すぐさま、力を貸してもらう必要がある二人に念話を送る。

 

 

―――ゲン! アイツの弾を何とかしろ!

 

―――チッ……えらそうに命令すんな

 

帰ってきたのは不満たらたらな文句だったが、直後に一瞬力を溜める動作をすると

ゲンは身体を光らせながら前方に駆け出し、そのまま、チビの方向へと弾丸のように呼び出していった。

 

 

アイツは、見かけによらず動きが早く、特に、魔力でブーストをかけると

信じられないくらいのスピードを出しやがる。

 

 

おまけに、どうしたわけかブースト使用時にも身体に魔力をまとっているので、

ちょっとやそっとの攻撃は弾かれてしまうのだ。

 

 

当然、アイツの放つ光の弾も次から次へと弾かれてしまい、あと少しでぶつかる距離まで近づくと

そのままゲンの放つ光が激しくなり奴はタックルの構えをとり……

 

 

「ハンマー・G・クラーッシュ!!」

 

 

得意技の名前を叫んで、そのままチビの居る方向へと突撃していった。

 

あの巨体が、とんでもないスピードで突っ込んでくるのだから、

並の防御では速攻で打ち破られ、そのままマギロッドは破壊されるのがお決まりのパターンだ。

 

 

現に、ウチの幹部でアレに耐えられる奴は居なかった……

 

 

「うわっ!?」

 

 

ただ、小回りの方は効かないので、動きが見えているのなら、かわすのは難しくはない。

 

あのチビも、スピードには驚いたようだが、真正面から突っ込まれてきたので

ギリギリのところで、横にそれてかわしやがった……

 

 

「チッ、ちょこまかと!!」

 

 

ゲンが悔しそうな顔でそう言ったが、お前の攻撃が避けられるのは想定内なんだよ。

 

感謝はしてやるぜ、なにせお前が弾をはじいてくれたおかげで

道が出来たんだからな……!

 

 

「この……っ!」

 

 

「!?」

 

 

チはがかわし切ったゲンの方に向けていた首をこちら側に戻した瞬間、驚きの表情を見せた。

ゲンが作った道を利用して、フェイトちゃんがチビに接近していたのだ。

 

 

本音を言えば、後ろに下がっていてほしかったが、ジュエルシードを集めてくれたお礼のつもりなのか、フェイトちゃんは俺に協力してくれたのだ。

 

 

あのチビは、何とか彼女の攻撃に耐えていたが、接近戦では、流石に分が悪いのか。

弾の密度が、徐々に薄くなり、こちらに飛んでくる頻度が少なくなっていく……。

 

 

こうなりゃ、こっちのもんだ!

 

弾を防ぎながらだとチャージがやりにくかったが、今なら、チャージし放題……!

 

 

そうして、俺は二人のやり取りを見守りながら、俺は展開した俺のマギロッドに限界まで溜めると

右手に持ったマギロッドの砲口を、チビの方に向け……

 

 

「フェイトちゃん! チャージ完了だ!

 どいてくれ!!」

 

「!」

 

接近戦を仕掛けていたフェイトちゃんに対してそう叫ぶと、彼女は、すぐにチビから遠ざかり……

 

 

「喰らえッ!!」

 

 

十分な距離を取ったのを確認してから、チビに向けて砲撃を放つ。

 

 

放たれた暗闇の帯は、そのままチビの元へと向かっていったが、

アイツも、攻撃が来るのは予測していたらしく、フェイトちゃんとは逆の方向に避けた。

 

流石に、アレだけやりゃ避けられて当然か……。

 

 

 

……だが、それも予測通りだ

 

 

チビが回避行動を終えて、一瞬動きが止まったのを見計らって、

俺は、左手に持った砲口から、もう一発の暗闇の帯を放った。

 

「わ~~~~~~っ!?」

 

 

今度は避けきれずに青いチビへと直撃すると、

やつの姿は、直撃した砲撃の爆風で隠れてしまう……。

 

 

目視で確認はできないが、間違いなく直撃したはず……

これで、ヤツはしばらくは動けないはずだ。

 

 

左右を見回して、残るレジスタンスを確認したが、残っているのは間違いなく雑魚ばかり……

もう奴等に大した抵抗は出来ないと勝利を確認する。

 

 

だけど、俺はこの勝利に対し、この時初めて、奇妙な違和感を感じた……。

 

 

あの青い奴は、いったいどこからやってきたのか……?

レジスタンスにこんなのが参加したなんて、聞いた事なかったし、

なんで、こんなタイミングで俺達に攻撃を仕掛けて来たんだ……?

 

 

「どうやら、あの子達じゃなかったみたい……

 でも、あんな子一体どこから……?

 ……ゲン、何か知ってる?」

 

 

「知ってる訳ねーだろ

 ここしばらくは、ずっと校舎の中だったし」

 

 

どういうことなのか考えていると、後ろの方では、フェイトちゃんとゲンも

アイツについて心当たりがないかと相談をしていた。

 

 

仲が良さそうとは思わないが、こうして二人で話をされているとなんかムカムカしてくるな……

 

 

……待てよ、フェイトちゃんの言ってたあの子達って、

もしかして、友枝町で兵隊達がやられたっていう魔法少女達の事なんじゃないか……?

 

 

捕まった連中は、見張りのライオンが寝たのを見計らって

逃げて来たとか言ってたけど、もしそれが罠で……

 

 

あのチビがその子達の仲間だったりしたら

その魔法少女たちは、何のためにそんな事をしたのか……

 

「ん……魔法……少女?」

 

その時、何故か俺の脳裏にはアリサちゃんの姿が浮かんできた。

 

ドストライクな見た目だったので、これまでちっとも疑わなかったが

なんでこんな街で、こんな夜遅くに

アリサちゃんみたいなメイド少女が歩いていたんだ……?

 

……と、そこで俺はある答えにたどり着いてしまった。

 

 

「あ~~~~~~~っ!?」

 

 

そのまさかの答えに、俺は悲鳴にも似た叫び声を上げてしまい……

 

 

「ッ!?」

 

 

「な、なんだよコクエン!? そんなデカい声出して……」

 

 

その悲鳴に驚いたフェイトちゃんやゲン、兵隊達の視線を気にする事もなく……

 

 

俺は視線を、校舎の奥にある貴賓室の方角へとむけたのだった。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

「早く、こちらから脱出を……!」

 

 

さらわれた子達がいた部屋から、壁を抜けて脱出した私達は、

ユーノ君が、中の子達から聞き出してくれた抜け穴を使い、

周囲を覆う結界の外へと脱出し始めました。

 

 

誰も知らない秘密の抜け穴との事だったので、

大きさは、小学生一人が抜けられる程度……

その為、人数が増えている今は入ってきた時以上に、時間がかかっています。

 

 

「さ、慌てないで一人ずつよ」

 

 

「ここを出たら、先に居る子達に従って

 ウサオさん喫茶って言うお店で待ってて!」

 

 

アリサちゃんとさくらちゃんは、女の子達の先導をしてくれ……

 

 

そこからちょっと離れた場所では……

 

 

「ダメだ……全然……脱げない……!」

 

 

「よく見たら、この服かなり複雑だよね……

 ちょっとやそっとじゃ脱げなさそうなの。」

 

 

ユーノ君が、なのはちゃんに手伝ってもらいながら、メイド服を脱ぐのに悪戦苦闘していました。

 

 

「キミって、男の子だったんだね……

 ちっともわからなかった。」

 

 

「メイド服来ているうえに、化粧もばっちりやったからなぁ。」

 

 

「あのユーノ君が……男の子……」

 

 

その横では、奈緒子ちゃんとすずかちゃん。

そして、赤いレオタードを着たキャサリンさんがその様子を眺めていています。

 

 

私達は、他のみんなが脱出してから抜け出すので、

すずかちゃんと奈緒子ちゃんは私達もその時一緒に脱出すると言ってくれ……

 

 

「あ、ウチの事はキャシーでええよ、

 ウチも一番学年が上やさかい、脱出は最後の方でええわ。」

 

 

キャシーさんも、そう言って順番を後回しにしてくれました。

 

 

「それにしても、あんたね……

 一体、いつまでそうやってるのよ。」

 

 

「ちょっと! この服を選んだのはアリサ達だろ!?」

 

 

まだ服に苦戦しているユーノ君が不満だったのか、アリサちゃんはユーノ君に向かって呆れた風にそう言いましたが、ユーノ君も、負けじと言い返します。

 

 

「コクエンのアホ騙すんは、うまくいってたけどな。」

 

 

「ホンマ、べたぼれみたいやったからなぁ……」

 

 

ケロちゃんとキャシーさんは関西弁同士気があったのか、

仲良く、変装の成果について気軽に話をしていて……

 

 

「これ、かなり本格的な衣装だね……

 ちょっとやそっとじゃ脱げないよ?」

 

 

あまりの苦戦を見かねたのか、奈緒子ちゃんは

二人に近づいて、衣装を脱ぐのを手伝い始めました。

 

 

「……でも、こういうの見てたら去年の学芸会で、李君のお姫様を思い出しちゃった。

 あれも、知世ちゃんの作品だったよね。」

 

 

「ええ、あのドレスは着脱しやすいように、工夫を入れていましたけど……」

 

 

「……他にもいたんだ、同じ目にあってる人……」

 

 

奈緒子ちゃんの話を聞くと、ユーノ君は同じ目にあった、

出会った事のない李君に対して、同情している様子です。

 

 

「そう言えば、一昨年に星條高校でやってたシンデレラでも、

 さくらちゃんのお兄さんがシンデレラやってたんだっけ?」

 

 

「ほえっ!? 奈緒子ちゃん知ってたの!?」

 

 

突然の奈緒子ちゃんの発言が耳に入ったようで、さくらちゃんは驚いた顔をしています。

あの時は、奈緒子ちゃんとは一緒ではなかったはずですけど……

 

 

「え……!? さくらさんのお兄さんって、桃矢さん!?」

 

 

「あの人が……シンデレラ!?」

 

 

「星條高校はお隣だからね、

 人気すごかったって、当時噂になってたよ。」

 

 

意外な情報を聞いて、なのはちゃんもユーノ君も驚きのあまり目が点になってしまったようです。

 

 

……これで、同じ劇で月城さんが『サバの缶詰』の役だったと知ったら、どんな反応を見せてくれるのでしょうか?

 

 

……興味は尽きませんが、それを話している時間はなさそうです。

 

 

「……さ、他のみんなは全員脱出したわよ、私達も、早く外に出ましょ!」

 

ユーノ君たちが衣装を脱ぐのに苦戦している間に、

他の子達は、全員脱出できた模様です。

 

さぁ、私達も早く脱出しなくては……

陽動をして下さってるチルノちゃんや山茶花町の皆さんに、これ以上負担をかけるわけにはいきませんし……

ユーノ君の着替えは、残念ながら帰ってからですわね。

 

 

「……さ、次はキャシーさんの番ですわ、

 はやく、脱出を……

 

「ちょっと待ったぁッ!!」 

 

ッ!?」

 

 

そうしてキャシーさんに脱出を促した直後

 

突如、背後から響いてきた大声……

 

当然のことながら、恋の大逆転チャンス……と言う訳ではありません

 

 

その声がした方向へ、私達が一斉に顔を向けると……

 

 

そこに居たのは、友枝町を襲ってきた子と同じ格好をしている子達が数名、

そして、彼らを率いるように立つ先頭の3人と1匹……

 

 

「あの子……やっぱり来てた……!」

 

 

「なんだ、女の子ばっかりじゃないか、

 アイツら、こんなのに手も足も出なかったのか?」

 

 

ジュエルシード集めの際、いつもかち合ってきた、

黒い魔法少女・フェイトちゃんと彼女の使い魔・アルフさん。

 

 

ケロちゃんから得た情報にあった、用心棒だと呼ばれている身長180cmはある大柄の男の子。

 

 

そして、二人の間に居る、緑色の服を着てジーンズを穿き、耳にピアスを輝かせている子……。

 

 

「コクエン君……」

 

 

「………………」

 

 

彼を見て、奈緒子ちゃんは彼の名前をつぶやきました。

 

間違いなく、彼が友枝町を襲ってきた子達のボス宵闇コクエン君なのでしょう……

 

 

彼は、奈緒子ちゃんの言葉を意に介しない様子で、

そのまま、私達の事を睨みつけていました……

 

 

 




なお、総合戦闘力は、さくらが最強なのはタグの通りで
幻想郷勢はこちら側で全力を発揮できないことにしてるので、ここはちょっと除外してみると

その他の総合力は、なのは・ユーノ・フェイト・およびその他のボス格で大きな差はありません

(少なくとも、なのはとコクエンが素質は同レベルの設定です)

なのはとユーノはさくらとの特訓で、意外と文字通りに地力を上げていますが
その他のマイスターも実戦経験を積んでいるので、対人経験は二人よりも上になります

その他にも得手・不得手に加えて得意レンジなどの要素や
チーム戦で生きてくる相性とコンビネーションがありますが
果たしてこれがどう生きてくることやら……?


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ユーノ嬢変化?

 

 

 

「ちょっと待ったぁッ!!」

 

 

脱出まであと僅かという所で、僕達の後ろから、僕達を引き留めるかのような大きな叫び声が響いた。

 

 

声の主は、つい先ほどまで僕と行動を共にしていた、今回の事件の首魁・宵闇コクエン。

その隣には、バリアジャケットを展開したフェイトと使い魔のアルフ、

そして逆の隣には、キバのついたようなナックルを装着した彼らの用心棒、近藤ゲンが臨戦態勢を取っている……。

 

 

「ふーん……さらってきた奴等を助け出すために

 アイツらは、騒ぎを起こしたって事か……

 まぁ、どうでもいいけどな……」

 

 

ゲンが、少し感心しながらもやや冷めた表情でそうつぶやく。

作戦によれば、喫茶店に居たレジスタンスの子達と、以前なのはと戦った氷の妖精チルノが

正面入り口付近で騒ぎを起こし、彼らを引き付けるはずだったが……

 

……けど、こうして彼らがここに居る以上、陽動は、既に制圧された後なのだろう……

せめて、もう少しだけ時間があれば……

 

 

「黒い衣装の金髪魔法少女……

 さっき見た時、背中側だったから顔が見えなかったけど……

 なのは、アイツがあんたのライバル魔法少女なのね……?」

 

 

「うん……ユーノ君と同じ世界の出身みたいだけど

 名前以外の事は全然わからなくって……」

 

 

そんな彼らを見て、思う事があるらしく、

アリサはフェイトについてなのはに尋ねていた。

 

考えてみれば、フェイトはなのはと一番因縁がある相手で、アリサとは、今回が初対面だ……

なのはの親友のアリサが、気にするのは当然だ。

 

「まぁ、見た目的に対照的って気はするわね。

 色とか、露出度とか……まぁ、あっちはいいとして……」

 

 

そう言って、アリサは別の方向に視線を移すと……

ビシッ!! という音が鳴りそうな勢いで、指を突き出し……

 

 

「あんた達……子供のケンカに高校生混ぜてくるってどういう神経してんのよ!?

 悪党のプライドってもんは無いの!? プライドは!?」

 

大声で、納得いかないようにそうまくしたて始めた。

アリサの指さした先に居たのは……

 

 

「……?」

 

言うまでもなく、超巨体のゲンだ……。

 

本人は状況が呑み込めていないらしく、鳩が豆鉄砲で撃たれたような顔で

無言で『オレの事か?』と言わんばかりに、自分の顔を指をさす。

 

そんなゲンに、アリサは一切躊躇せず……

 

 

「アンタ以外に誰が居るってのよ!?

 周りの連中と一回りどころか、二回りも、三回りもスケールが違ってんじゃない!!」

 

マシンガンの様に、次々と文句を口に出し続けた。

 

 

……確かに、見た目だけならばゲンは、並の大人以上の大きさだ。

桃矢さんと比べても、身長は同じくらいだろうけれど、

どう見ても腕回り、足回り、胴回りが僕達とは比較にならないくらい太い。

 

もう少しラフな格好だったなら、

アリサはもっとひどい言葉を投げかけていたかも……

 

「あの……ちょっといいかな……?」

 

そんなアリサのペースに耐え切れなくなったのか、

フェイトがアリサの言葉をさえぎった。

 

……彼女がこんな態度を取ったのは、ちょっと意外かも。

 

「……なによ?」

 

「ゲンは……確かに、私達の中では一番年上だけど……

 私とは、2つしか違わないから……」

 

 

アリサの発言に反論した、やや抑揚のないフェイトのセリフ……

 

すぐに理解が出来なかったのか、今度はアリサが鳩に豆鉄砲を喰らったような顔になってしまった

 

……うん、確かに信じられないけど、さっき聞いた話によれば……

 

 

「アリサ、多分それ本当だと思う。

 声変わりしているような声色じゃないし、さっき話を聞いた時も

 小学五年生だって、ハッキリ言ってたから……」

 

 

続けて僕がそう言うと、アリサをはじめ、こちら側に居るみんなの目が点になってしまった。

……いや、見た目だけじゃ確かにわかりにくいけど……

 

「ちょ、ちょい待ちぃ! じゃあなにか!?

 あの図体でウチよりも年下なんか!?」

 

 

「ほえ、年下……?」

 

 

「見た目よりは、声が高いとは思ってたけど……」

 

 

「ずいぶんと、発育のよろしい方なのですわね」

 

キャシーさん、さくらさん、奈緒子さん、知世さん、驚き方はそれぞれだけど、

最年長の皆は、相手が年下だという事実に特に驚いている。

 

 

だけど、問題のゲンはと言えば、僕達の事など知らぬとばかり、

どこから取り出したのか、ゴキゲンそうな顔で棒付きのキャンティーを舐めはじめていた。

 

 

あの図体で、ああやって無邪気に飴を舐めるところを見ていると、

ミスマッチさが、逆に怖く見えてくる……。

 

 

……そう言えば、先ほどの『ちょっと待った』からコクエンの……

いや、コクエンに加えて、アイツの部下のモヒカン達が声も聞こえてこない。

 

 

こっちの混乱に乗じて何かを企んでいると思い、彼らの様子を改めて確認すると……

 

そこには、ぼうっとした顔で、バカ……いや、間抜け面をした奴らが、

口を半開きにして、さくらさんへと視線を集中させていて……

 

 

「……ほえ?」

 

 

 

「「「「「はうっ!?」」」」」

 

 

その視線に気づいたさくらさんが、首をかしげると、

全員が変な声を出しながら、胸を押さえて変なポーズをとりはじめたのだ。

 

 

こいつら、まさか……

 

 

 

「……コクエン?」

 

 

「はっ!? いや、これは違うんだ!!」

 

 

様子の可笑しさに気付いたフェイトに声をかけられると、

コクエンは慌てながら、何とか取り繕うとしたけれど……

いったい、何が違うというのか。

 

 

「ふぅん……さくらさんに見とれてたんだ。」

 

「あ……アリサちゃん!? そ、そのこれは深いわけが……」

 

更にボクの発言に反応したコクエンは、両手を上下に上げ下げしながら、さらに言い訳をし始めた。

 

 

……この状況で、どんな深いわけがあるのか。

 

どう考えてもその場しのぎの言い訳でしかないけれど、今の僕にとって、そんな事はどうでもいい。

 

 

今のコクエンの声を聞いて、こちらを睨みつけ始めたアリサの方がよっぽど問題だ。

 

 

「ユーノ! アンタのせいでアイツ! アタシの名前をアンタのだって勘違いしたままじゃないの!!

 逃げる前に、ちゃんと誤解解いておきなさいよ!!」

 

 

……先ほどからはない気を荒くしていたアリサだが、ついに限界が来たのか、

そのままの勢いで、ついに僕の正体を奴等の面前でばらされてしまった。

 

 

それも、メイド服を着たままの格好で……

 

「ユーノって……えっ!?」

 

 

フェイトは、これまでの争奪戦で流石に名前を憶えていたらしく

アリサから僕の名前を聞いた後、数秒ほどこちらを凝視すると、

僕の正体に完全に気付いたようで、彼女にしては珍しく口を手で押さえながら、目を見開いての驚いた表情をして……

 

 

アルフに至っては、目を丸くしながら、顎が地面につくくらいに口を大きく広げてしまっている。

 

 

まぁ、役割はしっかりと果せたわけだからもう正体がバレた所でどうという事は無いけど、

今後、フェイト達と顔を合わせるたびに少しだけ気恥ずかしくなるのは少し悩ましい……。

 

 

そして、興味ないとばかりに、そっぽ向きながら飴をなめ続けているゲンは問題ないとして……

 

 

コクエンやコクエンの部下は、一体どんな反応をする事か……。

まぁ、それももうどうでもいい、むしろ今後付きまとわれないで済む分スッキリする。

 

そう思って、コクエン達の方に目を向けると……

 

 

「えーっと、そこの勝気なお嬢様のキミの名前がアリサちゃんで、

 あっちのけなげなメイド服の本当の名前が……ユーノ?」

 

 

「そうよ、あんましいい気はしないから、二度と間違えないで!!」

 

 

よほど自分の名前が使われるのが嫌だったのか、

アリサはコクエンに念を押して、名前を訂正していた。

 

……ちょっとやりすぎな気もするけれど、流石にあそこまでやられたら間違えないはず……

 

 

「……わかった! ユーノ()()()

 

「ユーノ()()()、友達を助ける為に、わざわざ偽名を使って潜り込んでくるなんて……」

 

「なんてけなげな子なんだ……! ユーノ()()()

 

 

……これっぽっちもわかってなかった。

 

 

名前の勘違いは是正されたけれど、一番肝心な情報を勘違いされたまま……

 

配下共々、そろいもそろって僕の名前に()()()づけして読んでいる……

 

ああもう! そういうのは、ケルベロスだけで十分だから!!

 

アリサが、それ見た事かと言わんばかりのどや顔をしているのが妙に腹立たしい……

 

彼らの勘違いに思わず脱力して、地面に両手と両ひざをつく。

するとその時、奈緒子さんが駆け寄って来て……

 

 

「……あ、わかった!

 この紐を先に解かないと脱げないんだよ!」

 

僕がポーズを変えた事で、これまで脱げなかったメイド服の脱げない原因を見つけてくれた。

……こうなれば、もうこっちのものだ

 

「! 奈緒子さん! すいません!!

 今すぐそれを解いてください!!」

 

「うん、これをこうすれば……」

 

 

「「え……ちょっと、なにを!?」」

 

僕の頼みに応えて、奈緒子さんが紐を引いて結び目をほどいてくれた。

 

 

「よし! これで……!」

 

 

そのまま、僕は一切の躊躇なくメイド服を脱ぎ去ると同時に、僕は即刻バリアジャケットを展開しいつもの恰好へと戻った。

 

コクエン達はと言えば、何を勘違いしているのか両手で顔を押さえていたのだが……

指のスキマからばっちり見ているのは、こちら側からもハッキリと確認できた。

 

 

「え……!? 早着替え……いや、変身!?」

 

「ユーノちゃん……!?」

 

着替え終わった後、少しがっくりしたような顔で、奴等は僕を見ていたけれど

彼らが何を思おうが、僕にはもう知った事じゃない、これでようやく、いつも通りに……

 

 

「ボーイッシュな恰好もいいね!!」

 

「生足短パン萌え!!」

 

 

……出来なかった、こいつらまだ僕の正体に気付いていないのか!?

思わず頭痛がしてしまい、僕は頭に手をあてた。

 

 

流石のフェイトも、コクエン達に対し、あきれた顔をしており、

ゲンは気づいているのか気づいていないのか、引き続き知らないとばかりに

新しい飴をポケットから取り出し、フィルムをはがして舐め始めている。

 

 

「あの……すいません。

 お化粧がまだ残っていますから、そのままだと、まだ女の子に見えても仕方がないかと」

 

声のした方を見ると、知世さんが申し訳なさそうな顔で、

メイク落としのクレンジングシートの袋を差し出してくれていた。

 

 

……そう言えば、アリサに知世さんに、ユキエさんの悪乗りで色々と化粧をさせられたんだっけ……

 

 

そのおかげで助かったとはいえ、いつまでも化粧をつけておく意味は無い。

 

 

「ちょっと待ってて!」

 

「お、おう!」

 

 

僕の要求に、意外とすんなりコクエンが合意してくれたため、すぐさま化粧落としを始める。

 

 

香水はすぐにどうにかできるものじゃないけれど、

つけまつげを外した後、ファンデーション、マスカラ、ルージュのついた顔を、クレンジングシートで荒っぽくふき取るが……

 

 

「あらあら、ちょっと強すぎですわ。

 それだと、取り切れない部分が出てきてしまいますから……これはこうするのですわ」

 

やった事のない化粧落としは、わかる人からすればダメだったらしく

ある程度やった後は、知世さんが細かなところまで念入りに化粧を落としてくれ……

 

「はい、これでおしまいですわ。」

 

 

そして、知世さんが仕上げをし、顔がスッキリしたのと確認すると、

僕は改めて、コクエン達の方へと顔を向けた。

 

 

「ゆ、ユーノちゃん……!?」

 

 

「そ、その顔は……!!」

 

 

もう、衣装の付け外しも、化粧の落とし忘れもない、正真正銘、いつも通りの僕だ。

 

 

……最近、フェレットの姿でいる時の方が多いけど、その事については考えないことにして……

 

 

完全な素顔をさらした僕に、コクエン達は驚きを隠せないまま……

 

 

「すっぴんも素敵だ!!」

 

 

「っていうか、こっちのほうがかわいい!!」

 

 

―――ヒュー……ドスン

 

 

こいつら……どんだけ鈍いんだ……

 

 

ここまでやっても、勘違いし続けている彼らに、僕は思わず全身の力が抜けて脱力した結果、

僕は前のめりに地面と正面衝突してしまった……。

 

鼻が痛くなってしまったけど、こんなのは些細な事だ……。

 

 

「あの……ユーノ君、大丈夫?」

 

「……全然、大丈夫じゃない」

 

なのはが、心配して声をかけてくれたが、間違っても大丈夫とは言えなかった……。

 

「もうこれはあれかな? フェレットに変身する魔法じゃなくて、

 女の子に変身する魔法を使えって事なのかな……?」

 

 

このまま言っても、男のままじゃろくでもない目に合いそうな気もするし、

いっそのこと、その路線も悪くない気が……

 

「い、いや……ヤケ起こしちゃだめだよユーノ君。」

 

「そ、そうだよ、フェレットさんでも、男の子でも、

 ユーノ君はユーノ君なんだし。」

 

 

なのはとさくらさんが、なんだか訳のわからない理由でなぐさめてくれたが、

今の心境は、いっそのことモグラにでもなって埋まりたい気分だ。

 

 

「根性見せぃ、ユーノ! お前が女の子になってもうたら、

 必然的にワイがいじられキャラになってまうやろが!!」

 

同時に、ケルベロスのやや自分勝手な声も聞こえてきた気がするけど……

ずいぶんと勝手な事を言っていたので、無視する事にした。

 

 

「あ……でも、向こうはようやくわかってくれたみたいだよ、ほら……」

 

そして、奈緒子さんが向こうを指さしながらそう言ってきたので、

力を入れて顔を起こし、その先を見てみると……。

 

 

そこでは、コクエン達が地面に突っ伏した格好で、

見てもわかるくらい、ネガディブな雰囲気をあたりにまき散らしていた……

 

 

「ユーノ……()……ってことは……」

 

 

「メイド少女じゃなくて……メイド()()……?」

 

 

そんな彼らを心配したのか、フェイトもゲンも、彼らの身体をゆすっているけど

それに反応する事なく、突っ伏したままだ。

 

 

まさか、呼び方でようやくわかってくれたなんて……

内心複雑だけど、これはチャンスだ。

 

二人だけじゃ追撃してこれないだろうし、この隙にみんなを連れて逃げ……

 

 

「せっかくのドンピシャのメイド少女だったのに……」

 

 

「お人形さんみたいで可愛くて……」

 

 

「差し入れも用意してくれて……」

 

 

……ようと思っていたら、これまでとは違う恐怖すら覚える様な韻の奴等の言葉が耳に入ってきた。

 

突っ伏した格好は先程と変わらないのに、その身から発せられる気迫は別物に代わっており、

ゲンもフェイトも、その迫力に思わず一歩引いている……

 

 

「な……なんかヤバい事になってない!?

 あいつら、あからさまにおかしいわよ……!」

 

 

その異様な雰囲気はこちらにも届き、

アリサは嫌悪の表情で、思わず後ずさりはじめていると……

 

 

コクエン配下の一人が、突っ伏した格好のまま

顔を上げてこちらを向き……

 

 

「まさに理想のメイド少女だったのに、それが……

 勝気なお嬢様!!」

 

「なっ!?」

 

 

アリサのものだと思われる特徴を口にした。

心なしか、その目は怪しく光っているよう見える……

 

 

そして、そこから続けて……

 

 

「優雅で優しいお嬢様なお姉さん!!」

 

「あら……」

 

別の一人が同じ挙動をしながら、知世さんの特徴を口にし……

 

 

「明るさのどこかに影が差すツインテール少女!!」

 

「えっ!?」

 

「天然ふんわりな、ほえほえお姉さん!!」

 

「ほえっ!?」

 

更に続けて、なのは、さくらさんの特徴を口にして顔を上げる。

……なのはに関しては、なんか酷い事を言っている気もするけど、

何故か間違っている気はしない……でも、今はそんなことどうでもいい。

 

そして、ひときわ大きな赤黒い何かを放っている様なコクエンが、他の奴等と同じ様に顔を上げると……

 

 

「そんな超絶美少女に囲まれた、女と見間違わんばかりの美少年キャラだとぉ……ッ!?」

 

そこには、先ほどのお調子者と同一人物なのかと疑うほどに、憎悪と嫉妬を全面に浮かび上がっていて……

 

 

「「「「「おのれっ! 許せんッ!!」」」」」

 

 

示し合わせたかのように、全員が口をそろえてそう言った途端、

幻覚か、魔力の影響なのか、彼らを中心に爆炎があがった……様な気がして……

 

 

「可愛さ余って憎さ百倍!! 今こそこの幸せナンパ野郎に天誅を下すッ!!」

 

その炎の中で、いつの間にか立ち上がった彼らが、

一斉に拳を天に突き出し、先ほどと変わらぬ表情で勝手な宣誓をしていた。

 

 

この行動には、みんなもドン引きだったのか、こちら側の皆は、いつの間にか大きく後ずさっており、

フェイトとゲンも、雰囲気に押されたのか、炎から離れた場所で、彼らの様子を眺め……

 

 

そして僕は、彼らの勝手な台詞に対し、これまでの記憶にないほど腹の底から声を絞り出し

思いのたけをコクエン達にぶつけたのだった……

 

 

「知るか―――――――ッ!!」

 

 

 

 



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DARK KNIGHT

うーぬ、戦闘描写苦手だ……やっぱこういう所はSRPGとかの戦闘システムに任せたいもんだ


 

 

 

亀山小学校脱出まであと一歩と言うところで駆けつけてきたコクエン君達と、

単独で潜入して情報を集めてきてたユーノ君の……

 

色々な思いがこもった心の叫びをきっかけに、

友枝町からさらわれた子達を救出しに来た私達と、

それを阻止しようとする、コクエン君達との戦いが始まりました。

 

 

コクエン君と、彼の直接の配下と思われる子達は、

ユーノ君が男の子だという事が、よほど許せなかったのか……

 

「狙え……撃てーっ!!」

 

「おおーっ!!」

 

 

コクエン君の号令の下、一斉にわき目も触れずに彼らの持つ武器から、

次々とユーノ君に向かって黒い光線のような攻撃が放たれて行きました。

 

 

「くっ……!」

 

 

ユーノ君は、すぐさま防御魔法を展開したので

ダメージを受けることなく、攻撃をすべて防ぎ切りましたが……

 

 

「あのモヒカンは……側近だけあって、かなりの使い手みたいやな、

 ウチらを襲ってきた連中より、更に上手や……」

 

キャシーさんのおっしゃっている通り、現在のコクエン君の取り巻きの子達は、

友枝町にやってきた子達と比べると、明らかに強く見え……

 

 

コクエン君の力量は、彼らを更に上回っており、単発の砲撃だけなら、なのはちゃんのディバインバスターとほぼ同等に見え、

それを、両手の砲身から放っているので、単純な射撃能力だけならば、なのはちゃんをも上回っているように見えました。

 

 

半面、スピードは大した事ありませんでしたが、その重さをカバーするかのように、

素早い動きで、仕掛けてくる方達がいらっしゃいます。

 

 

「……ッ!」

 

 

コクエン君の攻撃をすべて防がれたのを確認すると、

フェイトちゃんは、アルフさんと一緒に、すぐさま格闘戦を仕掛けてきました。

 

 

この二人とは、これまで幾度も戦ってきたので、

スピードへの対処は、さくらちゃんとなのはちゃんで何とか対処できましたが……

 

 

問題は、もう一人のスピードでした。

 

 

「どけぇッ! 今度は俺の番だぁッ!!」

 

 

突然向こう側から聞こえてきた声を聞いた瞬間、フェイトちゃんとアルフさんはすぐさま散開し、

開いた道からは、ゲン君が身体に何かをまとい猛烈なスピードで突撃してくる姿が見えました。

 

 

「は、はやい!?」

 

 

軌道は単純な直線でしたが、加速度が非常に早い上に直線だけなら最高速度はフェイトちゃんを上回ってるようにも見え……

 

 

彼の進路上に居るユーノ君は、回避が間に合わないと判断して、そのまま防御魔法をゲン君の方へと展開し……

 

 

「うおおおおおおおおっ!!」

 

 

―――ガゴォン!!

 

 

ものすごい衝撃音の後、、ユーノ君がゲン君の突撃を受け止め切っているのが見えました。

けど、ユーノ君の防御魔法は発光が一瞬弱くなり、

ユーノ君自身も、防ぎ切ったにもかかわらず結構な距離を後ろへと吹き飛ばされてしまいました。

 

 

「シールドが……力任せでここまで……!?」

 

 

「う、受け止められただとっ!?」

 

 

ユーノ君も、ゲン君も、たがいに自分の魔法に自信があったようで、この結果にお互い一瞬呆然としてしまい……

 

 

「甘いぜっ! 隙ありだッ!!」

 

 

「!?」

 

 

その隙を狙って、再びコクエン君がユーノ君に砲撃をしかけてきたので、

それをかわすために、ユーノ君は空中へと飛び立ちました。

 

 

「このっ……!」

 

 

だけど、ユーノ君も、やられてばかりではなく、コクエン君に対して手から魔法の鎖を打ち出し、コクエン君の身体を捕縛しました。

 

 

「チッ、拘束魔法(バインド)……!?」

 

 

攻撃魔法が得意でない半面、ユーノ君の拘束魔法はかなり強力で、

これまでの戦いでも、長時間捕らえた相手の動きを封じてきました。

 

 

ですが……

 

 

「……なるほど、かなりの強度だ……

 他の奴等なら、ガッチリ止められただろうな……

 だが……ッ!」

 

 

「!?」

 

 

そう言って、コクエン君の纏った光が一瞬強くなったように見えた次の瞬間……!

 

 

―――バリンッ!!

 

 

「ば……バカな!?

 僕のチェーンバインドが……!」

 

 

ユーノ君の拘束魔法は、あっさりと砕かれてしまったのです……。

 

 

「なめんなよ、俺はこの一帯を占めてる男だぜ、

 こんなチャチな手段が、通用すると思ってんのか!?」

 

 

ユーノ君の拘束魔法を解いて勝ち誇るコクエン君に対し……

拘束魔法を破られたユーノ君は、ひどく動揺してしまいました。

 

 

無理もありません、攻撃魔法が得意ではないので、

これまでは主にサポート役として、立ち回ってきたわけですが、

その要となる拘束魔法が通用しないのは、かなりつらい展開になるはずです。

 

 

「だけど……この戦いは一人で戦ってるわけじゃないんだよ!!」

 

 

「!?」

 

 

ですが、やや放心しているユーノ君の後ろ側から慢心して勝ち誇っているコクエン君に対し、なのはちゃんが、砲撃魔法を放ちました。

 

 

強い光は、コクエン君に対して真っすぐと進んでいき、動きが重いコクエン君には避ける事が出来ずにそのまま直撃するかと思いましたが……

 

「ッ! バサルトッ!!」

 

 

コクエン君は、手に持っていた砲身から甲羅の様なパーツを射出し、砲撃の方へ展開すると

そこから、なのはちゃん達の使う防御魔法によく似た光の壁を展開して、なのはちゃんの攻撃を防ぎます。

 

 

「! 防がれた……!?」

 

 

どうやら、あの甲羅はかなりの防御力を持っている様です。

 

 

「砲戦タイプが、打ち合いに負けると思ったかッ!!」

 

 

攻撃を防いだコクエン君はそう言うと、今度はなのはちゃんの方に砲撃を打ち返してきて……

 

 

「なのは! まかせて!!」

 

 

その車線上に、ユーノ君が割り込んできて防御魔法を展開し、攻撃を防ぎ切りました。

 

しかし、相手側もこの砲撃戦を黙っていて見る訳もなく、

動きが完全に止まってしまうと、その隙を狙い……

 

 

「今度こそーッ!!」

 

「もらった……!」

 

 

ゲン君がユーノ君、フェイトちゃんがなのはちゃん、

そしてアルフさんが状況を見て双方に攻撃を仕掛けてきます。

 

 

それを防ぐため、さくらちゃんとケロちゃんは、お二人の援護に回っていますが……

想像以上に強い魔力を持っているのか、彼らに『眠』などの動きを止めるタイプの魔法の効果が通用しないため、必然的に、強力なカードを使わざるを得なくなってしまい……

人を攻撃するのに慣れてないさくらちゃんは、今一つ動きが鈍くなってしまいます。

 

 

「さくら! なに躊躇しとんねん!?

 もっと強力なカード使うたら、十分勝てる相手やろ!!」

 

 

「わかってる……でも……!」

 

 

さくらちゃんも、二人を守る時には、しっかりと力を発揮していらっしゃいますが、そうでないタイミングで、攻撃を仕掛けようとはしません。

 

 

やはり、人を傷つけてしまうのに忌避感を抱いているのでしょう。

 

 

……ただ、あるいはこのやり方も、間違っていなかったのかもしれません

的確なタイミングでなのはちゃんとユーノ君の援護をしているため、コクエン君達は決定打を与える事が出来ずに戦いは長引いて行き……

 

 

 

「……!」

 

 

「ぜぇ……ぜぇ……」

 

 

体力か、魔力か、もしくはその双方を使い果たしたのか、さくらちゃんと、さくらちゃんから魔力を受け取っているケロちゃんを除く全員が、疲れた顔をしはじめていました。

 

 

「みんな、息が上がってる……」

 

 

「お互い、ほぼガス欠みたいやな……

 しかし、あの子どんな力もっとんねん?

 大半が援護や言うても、結構な力使っとるはずやで!!」

 

 

「さくらちゃん、ものすごく体力があるのは知ってたけど……」

 

 

戦いを見守っていたアリサちゃん、キャシーさん、奈緒子ちゃんは、まだ平気そうな顔をしてるさくらちゃんに対して、それぞれ感想を口にしていました。

 

 

あら? そう言えばキャシーさんの口ぶり……

もしかして、今のは……?

 

ちょっとした事に気が付きましたが、今はそれ以上深く考える事は出来ませんでした。

 

 

「今なら……行ける!!

 風よ、戒めの鎖となれ! |『風』≪ウィンディー≫!!」

 

さくらちゃんは相手の動きが鈍ったタイミングを見逃す事なく

相手の動きを完全に止める為、『風』のカードを発動すると……

 

 

「しまった……!?

 なんだこれ……全然解けねぇッ!?」

 

 

コクエン君に向かって、魔法の風が形を成して伸びていき、彼の身体を拘束していきました。

 

 

ユーノ君のバインドは、あっさり解かれてしまいましたが、さくらちゃんの『風』のカードは、カード集めの一番最初から使いつづけ、何度も決め手となるタイミングで成果をあげてきた、さくらちゃんの文字通りの切り札……!

 

 

全快の状態ならば、どうだったかはわかりませんが、

疲弊した今のコクエン君には、あの拘束を解く事ができずにからめとられています。

 

 

「コクエン!?」

 

 

「な、なんだあれ!? 人の形をした風ッ!?」

 

 

これまで何度も捕らえかけられた事があるので、効果は身に染みているであろうフェイトちゃん……

さくらちゃんの魔法を初めて見て、他の魔法との性質の違いに戸惑うゲン君……

 

 

二人も、大分疲弊してしまっているうえ、コクエン君の他の配下の子は、すでに全員ダウンしてしまっており、これ以上、彼らに戦闘を継続することはできないでしょう。

 

 

「これでよし……今のうちに脱出しよう!!」

 

 

そして、相手の動きが止まったのを確認すると、さくらちゃんはみんなにそう号令しました。

 

 

少し中途半端気味な展開ですが、今回の目的はあくまでさらわれた子達の救出ですから、みんなを放っておくことはできませんし……

 

 

コクエン君達をこの後どうするかは私達には判断がつけられないので、後で誰かに相談することになりそうです。

 

 

……無論、この後コクエン君達がこの度の行いを反省していただければ、それが一番よろしいのですが……

 

 

そう思って、その場から去ろうとしたその時……

 

 

「……なんで」

 

 

「えっ……!?」

 

 

お腹の底から絞り出したような……小さいけれど、強烈が何かが込められたような声が……

 

 

「チクショウ! なんで勝てねぇんだーーーーッ!?」

 

 

「コクエンッ!?」

 

 

それは、風にカードに捕縛されたままの、コクエン君が発したものでした。

魔力を使い果たし、もう身動き取れない状態だったはずですが、その身体からはさっきよりも強い光が放たれており……

 

 

「どいつもこいつも、俺の事を見下しやがって……!

 コイツは……誰にも負けない! どんなヤツでもぶっ壊せる最強のマギロッドじゃなかったのかよぉーーーッ!?」

 

 

その光は、コクエン君が怒りを露にしながら、それを示す言葉を発す度に強くなっていき……

それに呼応するように、地面は揺れ始め……

 

 

「そんな……魔力値が、どんどん上昇していく……!?」

 

 

「こ、コクエン!? お前いったいなにしたんだよ!?」

 

 

コクエン君の状態は、二人にとっても想定外だったらしく、フェイトちゃんも、ゲン君も、この事態に慌てはじめ……

 

 

 

「あっ! 風のカードが……!!」

 

コクエン君を拘束している風も、内側から膨らんでいくように、コクエン君の身体から離れ始めていました。

 

 

「アホな……!? さくらの使うた4大元素カードをはじくやて!?」

 

 

ケロちゃんにも、この事態は流石に予想外だったようで、彼を完全に押さえつけていた風は彼の放つ光が強くなるたびに、引きはがされていき……

 

 

「チクショオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 

そして、コクエン君が、これまでにない強い叫び声をあげた瞬間、風の戒めは完全に解かれてしまい……

 

 

同時に、コクエン君に呼応するように、あちこちの地面から強烈な光が、あちらこちらから立ち上っていきました……

 

 

 

 



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大地の巨獣

ビルダーズ2プレイしてたら、なんぞテンションが切れた感じで投降に時間がかかりました
その割に短いけれど……やっぱ後で加筆修正必死かな?


 

 

亀山小学校の抜け穴から、一人、また一人と女の子が抜け出してくる。

 

 

「みんな! こっちだ!!」

 

 

俺達の役目は、彼女達を安全な所まで送り届ける事だ。

 

 

正門でコクエン達を引き付ける陽動作戦は、何とか大多数を引き付ける事には成功したが、

コクエンと、巨大な用心棒、そして金髪の少女の乱入によって壊滅状態になってしまった。

 

俺達の負けが決定的になったタイミングで、陽動に気付いたコクエンが慌てて引き返していったので、まだ何人かは戦える状態だけど、背後をつくだけの余裕は流石になく、

俺達は救出に動いた子達の無事を祈りながら、小学校東側の抜け穴付近に陣取った。

 

 

情報収集の為、潜入した金髪の子が送ってきた情報によれば、ここには中の連中が使用する秘密の抜け道があるそうで、先に抜け道を使って入っていった子達は、ここから入り込み、さらわれた子達と一緒に脱出する手はずになっている。

 

 

俺達が駆け付けた時には、抜け穴の外側には、不安そうに立ち止まっていた子達や抜け穴から這いだしてきた子達が居り、中から激しい振動がしたり、光が見えている所を見ると壁の向こうでは、激闘が繰り広げられているようだ。

 

 

陽動は不十分だったのかと思って悔やんだが、まずはこの子達を保護するのが先決だと思い、

決められた手筈通り、俺達男子は周囲を警戒しつつ、女子は事情を説明したうえでさらわれた子達を、ウサオちゃん喫茶へ誘導していく。

 

 

彼女達がユキエさんを見たら、ちょっと面食らうかもしれないけれど、見た目がアレって事を除けばいい人だし、他に頼れる人も居ないから仕方ないよね……?

 

 

「おーい、あたいはどうすればいいんだ?

 こうやってじっとしてるのはつまんないぞ……」

 

 

そんな俺達の行動を、知世さんが鏡から呼び出した妖精のチルノは、詰まらなさそうな目で眺め続けている。

 

 

「もうちょっとだけ待ってくれ!!

 中の子達が全員出てきたら、俺達も踏み込む!!」

 

 

先ほど、コクエン達の攻撃を受けて目を回していたのに、目を覚ましたと思ったら、暴れたりないとばかりに不満そうな表情をしている。

 

 

妖精って、こういうのだっけ……?

童話とか、ゲームとかで出てくるのは、もっとかわいらしいんだけどなぁ……

 

 

「チクショオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 

すると突然、壁の向こう側からコクエンの叫び声が聞こえて来たのと同時に、地面からあちこちに光が上り、俺達は光を防ぐために目をつむり腕で覆った。

 

この光は何なのか……何か妙なものを感じるけど、まさかこれもコクエンの罠……!?

そんな事を考えながら、瞼の下から光が収まっていくのを感じ、再び目を開くと……

 

 

学校の壁と森が広がっていたはずの、周囲の景色は大きく変わっていた……

 

 

これまで、ゲームの中でしか見た事の無い、燃える様な赤い地面、

そして赤く輝く、溶岩の流れるような光景へと……

 

 

 

―――

 

 

 

 

「うっ……」

 

 

一体、何が起こったのだろう?

気が付いたら、僕は地面にうつぶせになって倒れていた。

 

 

「確か……さくらさんの風をコクエンが弾いて……

 それと同時に、地面から……」

 

 

僕が覚えていたのは、コクエンの絶叫と共に、地面から大量の光が噴き出した光景……

 

 

気絶したのは、あの光に巻き込まれたからだろうか?

意識がはっきりしてきたのと同時に、右手に熱さを感じていたので、そちらに目を向けると……

 

 

「……!?」

 

 

僕の右手は、赤く光るマグマの様な液体に漬かっていた、

それを見て、慌てて手を引っ込めたけれど、僕の右手はやけど一つ追っていない。

 

 

確かに熱く感じたけれど、この液体はいったい何なのだろうか……?

 

これがもしマグマだったら、ヤケドどころか右手は溶けてなくなって居るはずだし、

有毒ガスがそこら中に沸いているはずなので、こうして普通にしていられるわけがない。

 

 

「みんな……なのは達は無事なのか……!?」

 

 

周囲を見回してみると、目に映るのは赤く光る液体の他は、岩壁と、あちこちに浮かんでいる岩場だけ……

僕の他に、誰かが居る様子はなかった。

 

 

―――ズガンッ!!

 

 

周囲を見回していると、上の方から何かがぶつかるような音が聞こえてくる。

強い魔力の気配や、魔力光が確認できる所を見ると、みんなは上の方にいるようだ。

 

 

「……という事は、僕はここまで落ちてきたのか……?

 とにかく、早くみんなと合流しないと……!」

 

 

あれだけ魔法をを使った後なのに、不思議と魔力は残っていた……

これなら、すぐにみんなの所に戻れるはずだ。

 

そして、意識を集中させて飛ぼうとした次の瞬間……

 

 

「……おっと、待ちな!」

 

 

「!?」

 

 

突如聞こえてきた声に、僕は声のした方へと振り向いた。

声のした場所には、赤い液体しかなかったが……

 

 

―――バシャン

 

 

 

次の瞬間、そこから飛沫が上がり、その中から……

 

「このままいかせるわけにゃいかねえよ!!」

 

 

「こ……コクエン!?」

 

 

余裕たっぷりの顔で不敵に笑っているコクエンが現れた……!

 

 

先ほどまで手に持っていた砲身は無かったけれど、

その体には、見てわかるくらいに魔力も体力も充実している……

 

 

「ほとんど魔力を使い果たしていたはずなのに……! どうして……!?」

 

 

「さぁな……俺にも理由は分からねえよ、

 だが、この光る赤い水……こいつには、なにかがあるみたいだぜ。」

 

そう言って、コクエンは掌の中の赤い液体を見せつけてきた。

 

 

……そう言えば、僕の魔力が思ってた以上に回復していたけれど、

それは右腕がこの液体に使っていたからなのか……

 

この液体は、いったい……?

 

 

「まさか、俺達の足元にこんなもんがあったとはな……

 お前らに、兵隊も野望もつぶされちまったが、

 こいつを使えば、巻き返しが出来る……!」

 

 

「!? やめろっ! コクエン!!

 こんなことをしてなんになるんだ!!」

 

 

この液体を見回しながら、再度野望を口にしたコクエンを僕は制止した。

こんな危険なものを、悪用させたらとんでもない事になる……!

 

 

「ハンッ! 俺に命令するってのか!?

 ……だったら、俺を力づくで止めるんだな!!

 この力を得た俺に、実力でな!!」

 

 

そう言って、コクエンは戦う構えを取った。

 

この力への執着は、ただ事じゃない……

いったい、なにがあればこれほどまでに力に執着出来るんだ……?

 

 

「コクエン……どうしてそこまで……!?」

 

 

僕は、コクエンのその態度が気になって、その理由を尋ねる……

 

 

「決まってんだろ! 力があればなんだってできるからだ!!

 弱い奴はな、何されたって文句は言えねぇんだよ!!」

 

 

すると、コクエンは僕の問いに帰して、不機嫌そうにそう言い放ってきた。

 

その中でも、ある単語に特に力を込めて……

 

「弱い奴……?」

 

 

この単語に、僕は違和感を感じた……

力を求める奴のセリフにしては、似合わないものなのに、妙に実感がこもっている……

 

もしかして、コクエンの言う弱い奴というのは……

 

 

「笑っちまうぜ……

 道場では腕っぷしを鼻にかけて、いいようにしてきた連中が、

 ちょっとマギロットの力を使っただけで、今じゃ見る影も無くなっちまった……

 上級生も、師範も……そして、センコー達、えらそうな大人も!

 力があれば、これまでデカい顔してた奴等だって、言いなりにできるんだ!!」

 

 

「コクエン……」

 

 

喫茶店で誰かが言っていた……

コクエンは、元々ケンカの腕はそこそこ程度だったって……

 

 

ここまで来れば、流石に僕にも理解できる……

彼の言う弱い奴は、魔法を得る前の自分の事なのだろう。

それが魔法を得た事で力を得て……現在のコクエンになって……

 

 

「コクエン……」

 

 

イヤな奴だけど、その辺の事情を考えると、どこか悲しく思えてくる……

コクエンも、僕の視線と表情から何を考えているのか分かったようだが……

 

 

「なんだその顔は……? 俺の事を憐れんでるってか?

 てめぇに、人の事を憐れむ余裕があるのか?

 お前だって、弱いからたった一人で、この世界に来る羽目になったんだろ?

 ……異世界人よ!」

 

「なっ……!?」

 

 

そのコクエンの発言に、僕は思わず驚いた……!

 

異世界人だという事は、フェイトに聞いたのかもしれないけど、

なのは達にも話した事がない事情を、どうして知ってるんだ!?

 

 

「フェイトちゃん紹介してくれた時に、黄昏の魔法使いが教えてくれたんだよ、

 フェイトちゃん以外にも、ジュエルシードを集めに来たヤツが居るってのと……

 その辺の事情とかを、色々とな……」

 

 

「黄昏の魔法使い……!?」

 

 

ここまでの話から、フェイト同様、向こう側の出身だとは思っていたけど……

一体、どこまでこっちの事情を……!?

 

 

「……さて、無駄話はここまでだ、

 俺を止めたきゃ、力でねじ伏せてみるこったな!!」

 

 

「!?」

 

 

そう言うと、コクエンは格闘技のモノらしい構えをとった直後、手に魔力を纏い、ものすごいスピードで突進してきた!

 

 

ロッドマイスターは、マギロッド無しで魔法を使えないと聞いたけれど、コクエンは自分だけで力を使う事が出来るようだ……

 

先ほどの動きが鈍い砲撃タイプの戦法とは逆に、フェイトほどではないけれど、素早い動きで間合いを詰めてくる格闘による至近距離戦……!

 

目の前まで接近してきたコクエンは、魔力を込めた右腕を振りかぶると、それを僕にたたきつけようとしたので、それを防ぐために、僕も右手を前に出して魔法で防御しようと構える……

 

 

……だけど

 

「!?」

 

 

 

身体にも、そして右手にも魔力は充実しているはずなのに、

なぜか右手の前に攻撃を防ぐための障壁が出現しなかった……!

 

 

 

 

 




というわけで、4章のボス戦は、タイマンでユーノが担当することになりました

ただ、元々バインドなどの拘束系が効きにくい相性最悪な相手の上に
謎の不調で、どういう訳か防御魔法も碌に張れない状態に……

果たして、ここからどうやって逆転を果たすのか?


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CRASH DOWN

魔改造タグ再び、対象はユーノ……だけではなくコクエンもか
ユーノ、弾幕に続いて再び性能やらがここから大きく変化いたします


 

 

さくらちゃんが、コクエン君に向かって放った『風』がコクエン君の事を、しっかりと捕まえた後……

 

 

魔力を使い切ったはずのコクエン君が力を放出しながら大きな声で叫ぶと、『風』の鎖は解かれてしまい……

それと一緒に、地面から膨大な量の魔力が、その声に反応するように、あっちこっちから噴き出してきて……

 

気が付くと、コクエン君達の姿は消えており、更に、先ほどまで学校の校庭だった目の前の光景が

目の前には底が赤く輝いている大きな穴と、あちらこちらに、大きな石の塊が浮いている不思議で異様な光景へと変わっていました……

 

 

「なによ……なんなのよこれ……!?」

 

 

「この光景は……」

 

 

この光景に驚いて声を上げたアリサちゃんと、すずかちゃん、その他のみんなの驚いた声が聞こえてきました……

 

 

ただ、さくらちゃんとケロちゃんは、この光景に驚くよりも先に、なにか思い当たる事があったようで、互いに顔を見合わせながら話し合っていました。

 

「ケロちゃん……これって……?」

 

 

「まさか、こないな所にこれほどの力が溜まっとったとはな

 ……みんな、無事か!?」

 

 

とりあえず、みんなの安全を確認するため、ケロちゃんがみんなに声をかけると……

 

 

「とりあえず、ウチは大丈夫や……

 しっかし、なんやこれ……聖霊力の高まりによう似とるけど……」

 

 

「私も大丈夫……

 でも、これっていったい……?」

 

奈緒子ちゃんや、キャサリンさんの声が聞こえてきました。

とりあえず、私達の位置より後ろに居たみんなは全員無事の模様です。

 

 

あとは、なのはちゃんとユーノ君ですが……

そう思ってあたりを見回すと、私の所から少し離れた場所で、なのはちゃんが焦りながらあちらこちらを見回していました。

 

 

「なのはちゃん……? どうしたの?」

 

 

そんな様子を心配してさくらちゃんが話しかけると、なのはちゃんは切羽詰まったような表情をして……

 

 

「ユーノ君……ユーノ君がいないんです!!」

 

 

「えっ!?」

 

 

それを聞いて、私達も改めて周囲を見回してみると、確かに周辺にユーノ君の姿がありませんでした。

 

 

「アイツ……いったいどこに……!?

 まさか、穴の底の方じゃ……!」

 

 

アリサちゃんがそう言ってすぐに、なのはちゃん、そして一緒に居たみんなが穴の底の方を注意深くみつめると……

 

 

「いましたわ!! あの岩盤の淵……!!」

 

赤い輝きが強く、見つけにくい状況でしたが、ようやく、波に浮かんでいる岩の上に、ユーノ君が倒れているのを発見することができました。

 

 

「ユーノ君!?」

 

 

「アイツ! 落っこちたんか!?」

 

 

ここからでは詳しい状況は確認できませんが、もし落ちて動けないのならばすぐに手当てしなくては……!

 

 

「待ってて! 今行くから……」

 

なのはちゃんはそう言うと、すぐさま飛び立とうとしましたが……

 

 

「待った! なんやおかしい気配がしてきよるで……!

 ……!? みんな! 注意せい!」

 

 

なにかを察したキャシーさんに制止された次の瞬間……!

 

 

―――ギギギ……

 

 

目の前で、奇妙な音と共に光が集中していくと……

 

 

「な……なにこれ!?」

 

 

そこには、ボロボロの金属製の細長い侍と言う表現がぴったりな、

見た事もない何かの集団が立っていたのでした。

 

「これは……アヤカシ……? 蟲……?

 いや、そのどっちともちゃう!」

 

 

「機械人形の残骸……?

 聖霊力とは違うみたいやけど……なんや、これ……!?」

 

 

ケロちゃんとキャシーさんは、目の前のこれらを見て、それぞれが知るなにか近いものを思い浮かべた様子ですが……

どうやら、いずれも目の前のアレとは異なるようでした。

 

 

「自動人形……?」

 

 

同時に、すずかちゃんも小さな声でぽつりと何かをつぶやいていましたが……

 

 

―――ギギギ

 

 

そうこうしている間に、あの人形はこちらに気付いたらしく、

武器を構えながら、こちら側へと迫ってきました。

 

 

「……どうやら、ここら辺に充満している強い力がこいつらを呼び寄せたみたいやな……!

 なにもんかわからんけど、敵なのはまちがいなさそうや!」

 

 

「ど、どうすればいいのよ!?」

 

 

なぜこうなったのかはわかりませんが、この状況を作り出した原因が彼らを呼び出した力の元になっているならば……

 

 

「奴等を動かしとる力の大元、コクエンの力を押さえればええねん、

 下の方に、大きな力を感じるさかいアイツは、底の方に居るはずや。」

 

 

私の考えを肯定してくれるように、キャシーさんが事態を解決する方法を教えてくれました。

 

 

ですが、下の方に居るという事は……

 

 

「下の方って……! ユーノ君がいるほうだよ!!

 急がないと……!!」

 

 

「……おちつけ、一人で突破できる数やないで!

 おまけに、このまま放っておくわけにも……」

 

 

慌てるなのはちゃんに対して、少し諫めるように声をかけるケロちゃん。

消耗したなのはちゃんだけでは、突破は難しいですし、万が一、彼らに外に出られては無関係な人を巻き込みかねません。

 

 

ですが、ユーノ君を放っておくわけにもいかず、どうにか、この状況を変える方法を考えていると……

 

 

「アイシクルフォール!!」

 

 

背後から、規則的な動きをする圧倒的な数の氷の弾が飛んできて、次々と人形を打ち貫いて行きました。

 

 

「この弾幕は……」

 

 

「チルノちゃん!!」

 

 

私達が後ろを振り返ると、そこには陽動に回っていたチルノちゃんの姿が……

さらに、一緒にウサオちゃん喫茶で出会ったみんなの姿も……!

 

「へへへ……やっぱあたいってサイキョーね!!」

 

「あの子……羽が生えてる……

 もしかして、妖精さん……?」

 

 

自慢気な顔をしているチルノちゃんに、奈緒子ちゃんが、興味深そうな視線を向けています。

 

 

「どうやら、いいタイミングだったみたいだな……

 ……けど、この状況は一体……?」

 

駆けつけてくれた子達は、この状況を把握出来ていなかったので、先頭の子が代表して状況を確認しに来た際、ここまでの状況を簡単に説明いたしました。

 

そうして、底に落ちたユーノ君の救助と、この状況の原因となっているコクエン君を止める為、底の方に行きたい旨を伝えると、彼らは自分の胸を強くたたき……

 

 

「……だったら、俺達が何とかするよ!

 足止めくらいだったら、なんとかなるはずだ!」

 

 

「こっちも、色々助けてもらったからね、今度は、私達が助ける番よ!!」

 

 

私達を、先に行かせる為に、この場での足止めをかってくれたのです。

 

 

「みんな……!」

 

 

「急いで! いつまで持つかわからないから!!」

 

 

お礼を伝えようとするなのはちゃんに、一人が先を急ぐように促すと……

 

 

「さくら! なのは! ワイはこの場でみんなの事を守っとる!

 お前ら二人で、ユーノのとこへ行ってくるんや!!」

 

 

「ケロちゃん!」

 

 

「さくら、なのはの事をちゃんと守っとったれや!」

 

 

私達を守る為か、ケロちゃんはさくらちゃんとなのはちゃんの二人に下へと向かうよう指示してくれました。

 

 

「わかったよ、ケロちゃん! みんなの事をお願い!!

 いこう、なのはちゃん!!」

 

 

「はい!!」

 

 

そうして、さくらちゃんとなのはちゃんは、チルノちゃんの弾幕で、手薄になった場所を抜けて、穴の底の方へと向かっていきました……。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

「うおっ!?」

 

 

ガッチリと両手でつかんだコクエンの身体を、力で持ち上げて遠くへ投げ飛ばす。

 

だけど、コクエンは地面に衝突する瞬間、うまい具合に受け身を取ってダメージを軽減させてしまった……

 

 

「へ……やるじゃねぇか、お前みたいな優男にそんな力があるとは思わなかったぜ」

 

 

そのまま立ち上がったコクエンは、感心するようにそう言う……

受け身を取られた分、大したダメージは与えられなかったみたいだ。

 

 

「……伊達に、一人でジュエルシードを回収しに来たわけじゃない。

 それに、発掘に関しての技術は一通り叩き込まれてる……

 力仕事だって、それなりに経験はあるんだ。」

 

まさか、こんな争い事で使う事になるとは思わなかったけれど……

 

コクエンの最初の突進を防ぐ際、なぜか右腕でシールドを張ることが出来ず、それに気づいた直後、とっさに避けようとしたものの、コクエンの拳が頬をかすめ、そのままコクエンは息をつかせぬラッシュ攻撃を仕掛けてきた。

 

 

幸い、左腕からはシールドを張る事が出来たので、それらや、チェーンバインド、そして弾幕を駆使し、なんとかコクエンの猛攻を防ぎつつ、隙を見て先ほどの様な反撃をしていくが……

 

 

コクエンの格闘術は意外としっかりしたものの上、バインドは先ほど同様に効果が薄くシールドも、左手だけでは右側の守りが甘くなってしまい、逆にこちらが押し切られそうになってしまう事も何度もあった。

 

弾幕だけは、右手で放つ事が出来たけれど、一発一発の攻撃力は高くないので制止力が足らず、ダメージ覚悟で突っ込まれてくると、こちらの方が痛手を負ってしまう……

 

 

……ここまでを分析してみると、正直コクエンの使ってくる魔法は、魔法とは言い難い魔力を暴発させているだけの荒っぽい代物だ。

 

 

だけど、現在コクエンの放っている魔力は相当なもので、それだけで十分な破壊力を発揮しており

このまま受け続ければ、いずれシールドを破られかねないだろう。

 

 

その前に、何とかして決着をつけたいけれど、元より攻撃魔法が不得手な上、バインドが通用しにくく、右手で碌な魔法が使えないとあれば、ジリ貧になるのは目に見えている……

 

身体には、魔力が充実しているのになぜ……?

 

先ほどの投げも、コクエンに警戒されている以上、2度目は通用しないだろう……

 

 

「……うおおおおおっ!!」

 

 

決定的な解決策が浮かばないまま、コクエンは次の攻撃を仕掛けてきた。

初撃はかわして距離を取ったけれど、すぐに距離を詰めてくる……

 

 

もう僕にはどうしようもないのか……?

だけど、もう僕に使える魔法は……

 

 

 

 

 

 

 

 

……いや、ある!

この方法ならもしかして……!

 

 

思い浮かんだ手段を実行するため、僕は再び距離をとると、僕はコクエンに向かって攻撃の構えをとる。

 

 

「……!? 何のつもりだ、そりゃ……?」

 

 

だが、僕の構えを見ると、コクエンは不機嫌そうな顔をした。

 

 

コクエンの反応に対し、僕は当然だと思った。

……なにしろ、僕のとった構えはコクエンのとよく似た……

いや、意図して同じ構えをとったのだから。

 

 

思い浮かんだアイデアは、すごくシンプルなものだった。

すなわち、コクエンと同じことをやり返す事……

 

 

コクエンの今の力が、この輝く液体にあるのならば、恐らく同じように浸っていた僕の右腕にもおなじ力があるはずだ。

 

 

「……なるほど、俺様の真似をしようってわけか、

 だが、そんな即席の構えでどうにかなると思ってんのか?」

 

 

正直、同じことをやり返すだけでは、僕の方が不利だろう。

あの赤い液体に、全身が浸かっていたコクエンと、右腕だけの僕とでは、力の差は大きいだろうし、

格闘術の腕もコクエンの方が上だ、だけど……

 

 

「……どうにかなるじゃない、なんとかするつもりだよ」

 

 

僕は、コクエンに対し宣言するようにそう言い放つ。

 

……今のコクエンをこのままにしておくわけにはいかない、ここで止めなければ……

僕はそう思ってから、構えを持ったまま力を集中しはじめた。

 

 

右腕から感じる、これまでと違う力の感覚……

それを実感している中、僕はいつもフェレットに戻る時お世話になっている、さくらさんの『盾』の中での感覚を思い出していた。

 

 

攻撃だけでない、あらゆる物から護る意思の込められた魔法……

僕がそれまで学んできた魔法と、全く異なるその力の中での感覚と、右手に集まっている力に、どこか同じものを感じたからだ。

 

 

そして、その力が十分に高まったのと同時に、胸の奥底から、熱い何かがこみ上げられ……

 

 

「舐めんなよ……このヤロォっ!!」

 

 

「そっちこそ……いい加減にしろぉッ!!」

 

 

怒鳴り声と共に仕掛けてきたコクエンの突撃にやり返す様に、溜まり溜まった思いをぶちまけて、コクエンへと突撃していく……

正直、こんな熱い感情が出て来たのは初めてだ。

 

 

……思えば、こいつには色んな意味で苦労させられっぱなしだった。

 

 

コイツのせいでアリサに正体がバレるわ、すずかがさらわれるわ、女装させられて潜入させられるわ、なれなれしく話してくるわ、勝手な事をいってくるわと、今夜だけで思い出に残したくないイヤな記憶ばかりが出来てしまった……

 

 

少し勝手かもしれないけれど、その辺の仕返しも兼ねて、僕は自分の拳を更に強く握り込んだ……

 

 

「うおおおおおおおっ!!」

 

 

だけど、コクエンの方が、先にモーションに入り、拳をたたきつけようとして接近してくる。

先にモーションに入られたのでは、僕の方がやられてしまう……が、

 

 

「貰った!!」

 

 

「ッ!?」

 

 

コクエンが振りかぶる直前、用意しておいたチェーンバインドでコクエンを拘束した。

右手への集中の為、かなり弱いバインドではあったけれど……

 

 

「バカがッ! この程度足止めに……」

 

 

「それで……十分だ!!」

 

 

すぐに、コクエンはバインドを解除しようとそちらに集中しが、その一瞬の間に、僕はコクエンの懐に潜り込み……

 

 

「なっ!?」

 

 

「はああぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

―――ガッ……

 

 

 

懐に潜り込んだことで驚愕の表情を見せたコクエンへと、右手をため込んだ力ごと、拳をコクエンへとたたきつけた……

 

それを喰らい、コクエンは一瞬ふらついたが、再び姿勢を直し……

 

 

「ぐっ……だが、まだ……」

 

 

改めて、攻撃のモーションを取ろうとしたけれど、僕の攻撃はまだ終わっていない……

 

 

「コクエン……これで決める!!」

 

 

更なる魔力を暴発させる為に、僕は左手で右手の手首をつかんで安定させ、そこからさらに高まった右手の疼きを叫び声と共に解き放った……!

 

 

 

―――ドォォォォン!!

 

 

これまで使ってきた魔力光とは違う、強い輝き……

それが直撃した所からあふれだし……

 

 

「……へっ」

 

 

「!?」

 

 

直後、コクエンのニヤリとした表情に驚いたが、コクエンはそこから構えをとる事をなく、数歩後ろに下がっていき……

そのまま膝をついたかと思うと、コクエンの足元が崩れ……

 

 

「!? コクエン!!」

 

 

その光景を目にした瞬間、僕は前へと駆け出していた。

 

 

……この時、僕は何を考えていたのだろう?

 

こんな奴でも、見捨てるわけにもいかないと思っていたのか、それとも別の事を考えていたのか……?

 

 

ただ、コクエンに向かって、手を伸ばそうとしたのは間違いなかった。

だけど、結局その手はコクエンに届く事はなく、コクエンの足元が、完全に崩れる直前になって……

 

 

「コクエン!!」

 

 

「………………」

 

 

僕のではない、コクエンを呼ぶ声が響いたが、コクエンの返事はなかった。

 

 

「フェイト!?」

 

 

突如として現れたフェイトが、落下中のコクエンの手を握りしめていたのだ。

てっきり、彼女上でなのは達と戦い続けているかと思ったけれど……

 

 

「……この場は引かせてもらう。」

 

 

「ま、待て……!?」

 

 

コクエンを抱え直しながら、そのまま去ろうとするフェイトを追おうと、今度は彼女に向かって手を伸ばしたけれど、力を使いすぎた影響か、全身に力が入らず、僕はそのまま倒れてしまった

 

 

「こ、こんな時に……」

 

 

なんとかして、この場から抜け出さなければならないのに、身体がいう事を聞かず……意識も朦朧としていってしまった……

そう、いつかと同じように……

 

 

 

―――

 

 

 

「勝ったの、アイツの方だったな。」

 

 

「ああ、正直驚いたぜ、

 まさか、アイツがあれだけの力を見せるとはな……」

 

 

コクエンと、ユーノの戦いを少し離れていた場所で見ていた俺達は、この意外な結果に、お互い驚きを隠せなかった。

 

 

「俺の攻撃を防ぐだけあって、防御は大したもんだったけど、攻撃は他の二人がやってたからなぁ……

 アイツのアレも、例のシステムの影響なのか?」

 

 

「さぁな……

 アレの性質を考えると、十分にありうるが……」

 

 

アイツが最後に見せた力は、あのシステムの影響だけじゃない気がする……

確信は持てないが、俺の直感がそう告げていた。

 

 

「……んで? これからどうするんだ?

 フェイトの奴は、アイツを引き上げてどっか行っちまったけど?」

 

 

「コクエンが敗れた以上、俺達もここに居る意味はない、十分なデータは取れたし、いったん引き上げるぞ、ゲン。」

 

 

「おう……でもいいのか、アイツら放っておいて?」

 

 

ゲンが心配そうな顔をして、下の方を見続けていた……

 

 

「ユーノ君! ユーノ君! しっかりして!!」

 

 

そのさきでは、フェイトに少し遅れて駆けつけた高町と木之本が、気を失ったユーノに声をかけながら脱出しようとしている。

 

 

助ける意味でならば、あの二人が居れば大丈夫だろうし……

 

 

「心配ないだろう、ロッドマイスターとは事情が違うようだが……

 アレだけの力の持ち主だ、放っておいても関わりざるを得ないだろうさ。」

 

 

フェイトとも縁があるなら、なおの事……な

 

 

そうして俺達は、上の連中に気付かれないようなコースをたどりながら、亀山小学校を後にした。

 

 

今後の戦いを、楽しみにしながら……

 

 

 




前半の機械人形……これ元ネタ分かる人いるのかなぁ?
一応わかる人向けに書いておきますが、この辺りは完全にフレーバーです
ですので、原作の関係者はほぼ出てこないものと思ってください
……っていうか、そもそも時代合いませんからね
以降も、カオスにならない程度にはフレーバーで他の作品使うかも


ユーノの素手状態での力持ち設定は、発掘やってるなら、見た目は華奢でも
そこらへん一通りは叩き込まれてるだろうというイメージからです
恐らく、本来の魔法勝負では活躍せんだろうけれど……


あと、最後の攻撃はテリーのバスターウルフ意識しました
言うまでもなく本来ユーノには使えないのですが……
前回もそうですけど、その前のあるイベントの時点で
魔力そのものに変化が表れている状態です

コクエン編はこれで決着かな
後はエピローグ書けば新しい章に行けるぜ


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野望の夜は明けて

 

 

 

深淵とも思われる暗闇の底で……

 

 

 

―――例のロストロギア……

 

 

―――97管理外世界……

 

 

 

いつか聞いた覚えのある言葉が、頭の中でおぼろげに響いていた……

 

 

 

―――管理局……

 

 

―――……から、うごけな……

 

 

……そうだ、僕はこれを切っ掛けに、僕はジュエルシードを回収することを決意し、

この世界に来て……回収の途中で倒れ……

 

 

そして、なのはと出会ったんだ。

 

 

ジュエルシードがばら撒かれた事……

なのはを巻き込んでしまった事……

どれも、僕がアレを発掘してしまった事が原因だと思っていた……

 

 

……だけど、同じくジュエルシードを探している魔導師・フェイト。

 

僕がこの世界に来る前に、こちら側の小学生にバラまかれていたデバイスによく似た魔法の杖・マギロッド、そしてそれを自在に操る、見た事がないタイプの魔導師・ロッドマイスター

 

これらを目にして、僕の心の中に大きな疑問が生まれ始めていた。

 

 

ジュエルシード含め、これだけの代物がこの世界に集まっているのは、ただの偶然なのだろうか……?

 

 

―――そんなはずは無い。

 

 

……疑問への肯定か、責任への否定か、どこからかそんな声が聞こえてくる……。

 

 

この声は、僕が心のどこかで思っていた言葉なのだろうか……?

 

 

 

―――事件は……?

 

 

 

―――解決……さらわれた子達も……

 

 

 

……再び、誰かの声が聞こえてきた、先ほど聞こえた声とは別人の声だ。

 

 

後から聞こえてきた声には、聞き覚えがある……

 

 

この声は……確か……

 

 

 

 

「あ……?」

 

 

声の主が誰だったかを思い出そうとした瞬間、暗闇の中に光が差し込んできて……

 

 

そうして、目の前にあった闇が晴れた直後、僕の目に映ったのは見知らぬ天井だった。

 

 

「ここは……?」

 

 

ベッドに眠っていたことに気付いた僕は、すぐさま上体を起こして周囲を見回した。

 

 

僕が居たのは、飾り気のない部屋……

 

意識を失う前に起こったことから推測して、コクエンとの戦闘の後で倒れた僕を、誰かがここまで運んでくれたのだろう。

 

 

……最後の一撃を放った直後、魔力を使いすぎた為か、気を失ってしまったようだけれど……

 

一人でジュエルシードを回収していた時に倒れた時と違って、今回は、魔力を使い果たしてもフェレットにならなかったようだ。

 

 

自分の身体に起こっている何らかの変化に戸惑いつつも、僕はコクエンに一撃を打ち込んだ掌を眺めて、あの時の事を回想する……。

 

 

あの時に行使した、恐らくコクエンも使っていたあの力からは確かに魔力を感じたが、僕が使ってきた魔法とは全く異質のモノだった……。

 

 

使った事がないのに、なぜかとてもなじむあの熱い感覚……心の奥底から湧き出してくる高揚感……

 

今でも、明確に思い出すことが出来る。

 

 

……そして、冷静になった今、はっきりとわかる事がある。

 

あの力は、これまでの魔法技術と異なる為、これまで僕が使ってきた魔法で使えた非殺傷設定を、一切受け付けない……

使い方次第で、意図せず相手を傷つけ、害する事もありうる危険な力だと……

 

 

そんなものを、あの時の僕は躊躇なくコクエンに打ち込んだ……

 

 

あの一撃を放った時に感じた感覚と言い、今の状態といい、僕の身体は、いったいどうなってしまったのだろう……?

なにか、この世界に来た事で変化が起こっているのか……?

 

 

―――コンコン

 

 

 

自分の使った力に対して不安になっていると、突然ドアをノックする音が聞こえてきた。

 

 

 

「あ……はい」

 

 

反射的にノックに対して返事をすると、ドアノブを回す音が聞こえて、ドアが開き……

 

 

 

「おはよう、ようやく起きたみたいね、身体の調子はどうかしら?」

 

 

 

「て、店長さん!?」

 

 

 

低い声を響かせて、ウサオちゃん喫茶の店長さんが顔を出してきた。

 

相変わらずの体格に似合わない格好に面食らって、危うくベッドから落ちそうになってしまったけど、シーツとマットレスを掴んで、なんとか踏みとどまる……

 

 

……店長さんが居るって事は、この部屋はひょっとして……

 

 

 

「ああ、見慣れない部屋で驚いちゃったのね、

 ここはウサオちゃん喫茶の2階……私のプライベートルームよ」

 

 

「あ……やっぱり……」

 

 

 

まぁ、そうだよね……

この人の趣味にしては、内装がさっぱりすぎる気もするけれど、プライベートのことなので、考えないことにおく。

 

 

 

「昨日は大変だったみたいね……

 あなたは特に、ボロボロになってたし、みんな心配してたわよ。」

 

 

「みんな……?

 ! なのは達は!?」

 

 

朧げな意識の中で、なのは達の声がした気がするけれど、

あの後、なのは達がどうなったかを確認する前に意識を失ってしまったから、事件の顛末がどうなったのか、わからないままだ。

 

あの後どうなったのか心配になったので、店長さんに尋ねたところ……

 

 

「大丈夫よ、あなたのお友達も、さらわれた子達も、みーんな無事にお家に帰っていったから、

 ……時間が時間だったから、あなたはウチで一晩預かる事になったわけ。」

 

 

店長さんは、心配ないとばかりに胸を叩いて、

僕が倒れた後に何が起こったのかを教えてくれた。

 

 

コクエンとの勝負に決着がついた後、なのは達は、倒れて気を失っている僕を見つけ、そのまま意識のない僕を連れて外に脱出すると、すぐさま結界が破れて、亀山小学校は、元の廃校に戻ったのだという。

 

 

「その後も大変でね……幸い、周囲の店の皆は気づかなかったみたいだけれど……」

 

 

みんなはさらわれた子達共々、全員ウサオちゃん喫茶に戻ってきたのだけど、その時には日付が変わっていた上に、気を失っていた僕は、フェレットに戻る事ができなかったので、僕は店長さんに預けられ、他の皆は一足先に帰っていったんだとか。

 

 

「なのはちゃんだったっけ……?

 あの子、最後まであなたの事を心配してたわ。」

 

 

「そうですか……」

 

 

また、なのはに心配をかけてしまった……

事件は無事に解決したけれど、心のどこかにはやるせなさが残っているように感じる。

 

 

「……さ、これ以上心配させないためにも、早い所帰ってあげなくちゃね、

 けどその前に、汚れを落とすためのシャワーと朝ごはん……にはちょっと遅いけど、食事の用意しておいたから、帰る前に食べていきなさいな。」

 

 

「あ……どうもありがとうございます」

 

 

 

みんなを安心させるため、早いところ帰らなければならないが、アレだけ力を使った後に長い事眠っていたせいか、またしても、かなりの空腹感を感じていたので、店長さんのご厚意に甘えて、用意してもらった食事をいただく事にした。

 

 

そうやって、僕は店長さんからバスルームを借りてシャワーを浴び、洗濯してもらった服に着替えてから、お店の方へ降りると……

 

 

「あら、ようやくお目覚めなのね、

 こっちは、もう一杯目を食べ終わる所よ。」

 

 

そこでは、僕は空になったどんぶり2つを前にお茶をすすっている、大量のフリルが付いた特徴ある服装の女性……

 

 

「ゆ、紫さん!?」

 

 

幻想郷で出会った妖怪の賢者、八雲紫さんが笑顔でこちらに手を振っていた……

 

 

「はぁい、昨日はお疲れだったみたいね、

 店長さん、カツカレーうどん定食の追加おねがーい。」

 

 

「はぁ~い♪ ご注文承りましたぁ~♪」

 

 

挨拶してくれた後、彼女は内容がなんとも判断しづらいメニューのお代わりを注文する。

 

 

カツカレーうどん定食……カツカレー・うどん定食なのか、カツ・カレーうどん定食なのか……って、そんな事考えてる場合じゃない!!

 

 

「な、なんであなたがここに……?」

 

 

あの事件以降、それなりに出会っている気はするけれど、関係者がいない所に、こんなあっさりと姿を見せて……

本当、なんでこんな所でお茶をすすってるの!?

 

 

「なんでとはご挨拶ね……

 あなたの仲間や、さらわれていった子達を、誰が送り返してあげたと思ってるの?」

 

 

「え……?」

 

 

そう言われて、僕は事件について思考を巡らせてみた。

 

 

そういえば、店長さんはなのはやさらわれた子達を送り返したと言っていたけれど……

 

幻想鏡は、使う為には行先を知っている必要があるから、なのは達はともかく、さらわれた子達を送り返す事は出来ないはず……

 

 

……という事は、彼女達を送り返してくれたのは……

 

 

「まぁ、たまには役に立たないとね、

 ……そうそう、さらわれてった子達の記憶は、さくらが魔法で消してくれたから、秘密が漏れたり、今回の事件が大きくなったりはしないはずよ」

 

 

「あの……いいんですか? ここでそんな話をして……

 店長さんは、マギロッドの事情を知ってるからともかく、あっちのお客さんは……」

 

 

そう言って、僕は窓際の一番奥の席の方を向く。

 

 

そこには、僕達以外の店内唯一の客と思われる人……

店内だというのに、麦わら帽子をかぶったままで、丸いサングラスをかけ、ベージュの肌着・股引きを着用して、お腹周りに腹巻をまいている……

 

食い入るように新聞記事に目を通している、どう見てもカタギとは思えない格好のおじさんが座っていた。

 

 

結構距離があるから、簡単には聞こえないとは思うけど……

 

 

「構わないわよ、こちら側じゃ今時こんな話に耳を傾ける人間なんていないでしょう?」

 

 

それは、そうかもしれないけれど……

 

……こうして、ここで話している僕と紫さんが異世界人と妖怪だと知ったら、あのお客さん、どんな反応示すんだろう?

 

 

「はぁい、カツカレーうどん定食おまちどぅ♪

 こっちはユーノ君の分よ、どうぞ召し上がれ。」

 

 

そしてそのタイミングで、店長さんがスマイルで両手にそれぞれのお盆を乗せながら、紫さんの注文と一緒に僕の分の食事を運んできてくれた。

 

 

持ってきてくれた内容は、カツカレーが乗ったうどんと山盛りのご飯とみそ汁……

あのメニューの正しい切り方は、カツカレーうどん・定食だったのか……

 

 

「いいわね、こういうメニューは嫌いじゃないわ、

 さぁ、早くいただいちゃいましょう。」

 

 

昨日のパフェと違って、こっちの材料は至極まっとうなようだし、

紫さんがお代わりしている所を見ると、味も十分行けるのだろう。

 

「それじゃ、いただきます。」

 

 

そう言って、僕は先にカツカレーうどんの方から手を付けた、

……これだけ大ボリュームの料理、けっこう久しぶりかもしれない。

 

 

それにしても、紫さんはお代わりを注文してるのにどんぶりが僕の物よりも一回り大きいのに、嬉々とした顔でうどんをどんどんすすりこんでいっている……。

 

 

一体、彼女のどこにあれだけの量が入っていくのだろう……?

 

 

そんな小さな疑問が浮かべながら食事を勧め半分くらい食べ終わった後、僕はふとある事が気になったので、店長さんに尋ねてみた。

 

 

「あの……店長さん?

 そう言えば、コクエンって元々どういう奴だったんですか?」

 

 

「あら……気になる事でもあったのかしら?」

 

 

最後の戦いで、コクエンが見せたあの表情……

あの時、僕はあいつから強い怒りと同時に、やるせないような悲しみを見たような気がした……

 

何故、あそこまで力を求めるようになったのか……?

 

 

「……あの子が根城にしてた亀山小学校、実は廃校になったのはつい最近でね、

 この町、ガラが悪いのが多いのは見ての通りだけど、亀山小学校とその隣の道場でも、たびたび問題が起こってたのよ……」

 

 

話によれば、ここ山茶花町は空手の道場で有名だったそうで、特に亀山小学校の生徒は道場と学校が隣同士だと言う事もあり、生徒はほぼ強制的に入門させられた上、道場内では力を背景にした

大小様々な揉め事が、常に起こっていたそうだけど……

 

伝統と言うか、通例と言うか、半ばそれが当たり前と言う雰囲気になっていたため、周囲の大人は、我知らぬとばかりに対策をしてこなかったのだという。

 

 

「……それが、先々月に証拠付きの怪文書がばらまかれて、その内容が学校・道場関係者のスキャンダラスな内容で大騒ぎになっちゃってね……

 元々、立地的にも問題があったし、亀山小学校と道場は閉鎖することになっちゃったの。

 誰の仕業かは、表向きにはわかってない事になってるけど……」

 

 

「マギロッドを手に入れたコクエンが……?」

 

 

僕の問いに、店長さんは静かにうなずいてくれた。

 

 

少しばかり荒いけど、結界に建築と、色んな魔法を使いこなしてたくらいだ、

魔法を使えない人間に対してならば、それくらいの事は朝飯前だったろう……

 

 

「あの子も、当時は生傷絶えなかったからね……店の裏で、悔しさに耐えてるのも、何度も見た事あるわ。

 ……あの子の手下の中にも、同じ思いした子がいるから、まんざら、暴力だけでしたがえていたわけじゃないのよ。」

 

 

「そうですか……

 ……ところで、あの後コクエンはどうなったんですか?」

 

僕の放った一撃を受けて、コクエンは一瞬笑ったような顔をしながら崩れ落ちた。

その後で、フェイトが抱え上げて去っていったところまでは覚えているけど……

 

 

「……少なくとも、今のところは見つかってないみたい、

 仲の良かった子達何人かも含めて、見つかってないってきいたから。」

 

 

彼女は、アイツを連れて一体何をするつもりなのか……?

性格はともかく、実力は本物だから、今後、彼女の協力者として出てくるのなら、今後の戦いは困難になっていきそうだ……。

 

 

「……はてさて、今度は何が起こる事やら……

 ……ごちそうさまでした」

 

気が付くと、紫さんはまたもや空になったどんぶりを置き、また食後のお茶をすすり始めていた。

 

 

僕も、わずかに残ったうどんとごはんを口の中に放り込み、よく噛んでから飲み下す……

 

 

「ふぅ……ごちそうさまでした。」

 

 

さて、お腹も一杯になった事だし、そろそろ僕も帰らないと……

 

 

「それじゃあ、僕はこの辺で失礼します。

 早く、みんなを安心させてあげないと……」

 

 

「ごくろうさま、また何かあったらいつでもいらっしゃい、

 相談くらい、乗ってあげるから。」

 

 

 

そして僕は、挨拶を返してくれた店長さんに頭を下げた後、店の外に出る為にドアノブに手をかけようとした……その時。

 

 

「え……」

 

 

足元に突然、階段を踏み外したかのような浮遊感を感じ、思わず下を見てみると、そこには見覚えのある不気味な目が浮かぶ空間が広がっていた……

 

 

こ、これはまさか……

 

 

「帰りは、私が送っていってあげるわ、出た時に変な落ち方しないように気を付けてね♪」

 

 

「ちょっと! 紫さん!?

 奥のお客さんどうするんですかぁ~~~~……ッ」

 

 

僕は紫さんのおせっかいに抗議の声を上げてながらもなすすべがないまま、大量に赤い目が浮かぶ不気味な空間を、垂直落下していったのだった……

 

 

 

 

「それじゃ、店長さん……私もこの辺で……

 お代、ここに置いておくわね、おつりは取っといて。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

 

「大変な事になってるようだな、店長さんよ。」

 

 

「まぁねぇ……それより、アンタも仕事なんだろうけど……もうちょっとは、放っておいてあげなさいよ?」

 

 

「子供のケンカに手を出す気はねぇよ、

 ……ただ、子供は大人がちゃんと見守っててやんなきゃな。」

 

 

「全くよ……

 それにしても、アレだけすごいのが、まだ残ってたなんてね。」

 

 

「ウチの買いなさられたのとは、格が違うわな……。」

 

 

 

 

 

 

 

 




これにて4章・コクエン編エピローグとなります
遅筆と多忙期間があったせいで、だいぶかかってしまった……


なお、今回はユーノの覚醒・準備段階のお話でした
コクエンとは、性格的に対になる感じになっており
他人の為に尽くすユーノと、我欲を貫き通すコクエンのぶつかり合いは
割と最初から考えてはありました


そして、きな臭いお話も出てきましたが、果たしてこの後どうなる事やら……
なお、原作でのコクエンの称号は四天王……
果たして、残る四天王の正体と、次の相手はどいつだ……!?


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第5章:砂漠の底に眠るモノ
幻想からの贈り物


コクエン編に一区切りついて、今回より新章
戦後処理っぽいやりとりと、新エリアボスの導入章です


友枝町が、亀山小学校から来た子達に襲撃され、さらわれた子達を救出するために、クラスターと呼ばれている抜け道を使って山茶花町まで向かった、コクエン君の事件が終わった翌日のこと……

 

 

事件が終わったすぐ後、気を失ったままのユーノ君を、店長さんに預ける事になったなのはちゃんは帰ってからも、浮かない様子で、翌日に月峰神社で合流すると、すぐに迎えに行こうと急かしていらっしゃいましたが……

 

 

その直後、池の方で大きな音が聞こえたので

なにかと思い駆けつけてみると、そこには、池に落ちて濡れ鼠になりながら、何故か不機嫌な顔で空を睨みつけているユーノ君の姿がありました。

 

 

「ユーノ君!!」

 

 

「なのは……!

 あの……ただいま……」

 

 

なのはちゃんは、ユーノ君の姿を見ると、安心したような顔をして彼の名前を呼び、ユーノ君もなのはちゃんの顔を見るなり、心配をかけた事を気にしてたのか少しばつの悪そうな顔で、そう返しました。

 

 

 

聞けば、紫さんに送ってもらった結果、池に落ちたそうですが……

果たして、このユーノ君にとっては迷惑だったであろう送迎は、ただのイタズラなのか、それとも心配するなのはちゃんを気遣ってくれたからなのか……?

 

 

ともあれ、コクエン君の事件は、ユーノ君の帰還ですべて解決となりました。

 

 

その後、ユーノ君から地下の方で起こった事情を聞き、そこで見た赤く輝く液体の事や、コクエン君の力が増した事、そしてユーノ君がこれまでの魔法を使えず、これまでとは完全に違う力の使い方をした事を聞きました。

 

 

今はフェレットに変身する魔法以外は、全て元通り使えるようになったようですけれど……

 

その赤い液体は、私達の前に現れた機械人形と、なにか関係があるのでしょうか……?

 

……ちなみに、あの機械人形は私達が脱出した直後、洞窟が崩れ始めたのと同時に、そのまますぅっと消えて行ってしまいました。

 

 

ケロちゃんは、それを聞いて何か思う事があるような表情をしていらっしゃいましたので、何か知っているのかと尋ねると……

 

 

「……機械人形についてはワイもわからん。

 今んとこ、異常が起こってないなら問題ないやろ、あそこで見た光景は気にせんとき。」

 

 

そう言って、はぐらかされてしまいました……

ケロちゃん、なにか隠しごとをされているのでしょうか?

 

 

とりあえず、その日はみんなも疲れていたので、いつもの通り、ユーノ君をフェレットの姿にしてから

幻想鏡を使い、そのまま帰る事になりました。

 

 

そして、さらに一週間後……

 

 

 

「どういう事なんですか、これ……?」

 

 

ユーノ君は、ジトっとした目で目の前の光景に対し、そう溢していました。

 

 

「あの……その……ごめんなさい」

 

 

「謝る必要ないわよ、すずか。

 アンタ、そんなに私達を仲間外れにしたいわけ?」

 

 

その発言に対し、すずかちゃんは申し訳なさそうに謝り、アリサちゃんは、不服そうな顔でそう返し……

 

 

「……さくらさん、この二人からは記憶を消さなかったんですか?」

 

 

「そうしようと思ったんだけど……

 二人とも、とっても嫌がってたから、悪いかなと思っちゃって……」

 

 

さくらちゃんはユーノ君の質問に対して、ヘアブラシを片手に申し訳なさそうに答えたのでした

 

 

あの夜、紫さんがさらわれた女の子を送り返す前に、怖い思いを残さないようにと、さくらちゃんは『消』のカードを使って、みんなから、事件の記憶を消したのですが……

 

 

「イヤよ! こんな大事な事を忘れさせられて、知らなかったことにするなんて、絶対に嫌!!」

 

 

「………………」

 

 

自身の記憶を消される事を、アリサちゃんが猛烈に嫌がり、すずかちゃんも不安そうな顔をされたので……

 

 

「知世ちゃん、ケロちゃん、どうしよう……?」

 

 

「……こら、しゃーないわなぁ……」

 

 

結局、迂闊に他言をしないことを理由に、二人の記憶は消さない事になりました。

 

 

ただ、事件の影響で、二人ともこの一週間の間は外出できなかったので、事件の日から今日まで、お二人と顔を合わせていなかったユーノ君は、そのあたりの事情を今日まで知らず、二人が私達と一緒に居る事に驚いたわけで……

 

 

「それにしても、さくらちゃんが魔法を使えるってだけでも驚いたのに、妖怪とか、異世界人とか、不思議体験がいっぱいで、もうびっくりだよ」

 

 

一方、そんな話をよそに、奈緒子ちゃんはここ数日の体験を目を輝かせて思い出していらっしゃいました。

 

 

「……奈緒子さんも、覚えているんですね?」

 

 

「ごめん……奈緒子ちゃん、こういう話好きだし、知世ちゃんだけって訳にもいかなくて……」

 

 

まぁ、私の立場からすれば反対できませんから……

そう言う訳で、奈緒子ちゃんもお二人と同様記憶を残したままなわけで、またもやさくらちゃんは申し訳なさそうに、頭をかいたのでした。

 

 

「それに、忘れちゃうって事は、この事件であった子達の事を忘れちゃうって事でしょ?

 ……ちょっと強引な子達だったけど、また会った時に全く覚えてない態度をとったら、可哀そうかなって思って……」

 

「ん……」

 

 

ユーノ君は、奈緒子ちゃんにそう言われると何も言えなくなってしまったようで、仕方ないと言いたげな感じでため息をつき……

 

アリサちゃんとすずかちゃんは、それを見て、なにか、思いつめたような表情をしていらっしゃいました・

 

最も、私は奈緒子ちゃんに参加していただくのは大歓迎ですけれど……

 

 

「ところで奈緒子ちゃん……実は今度撮影するビデオで、脚本面で相談したいところがありまして……」

 

 

「……知世ちゃん、詳しく話を聞かせてもらえるかな……?」

 

 

さくらちゃんの台本無しの活躍は、この間存分に撮影できましたが、それはそれ、これはこれ。

予定調和の映像を撮影するのも、また重要な訳でして……

 

 

今後の活動を想像し、思わず口がにやけてしまっている私と、メガネを輝かせて、話に乗ってくれている奈緒子ちゃんは向き合って今後の事を相談しはじめると……。

 

「ほえぇ……。」

 

 

他の皆は、そんな私達の様子を見て大きく一歩引いていました。

 

 

「……あ、そう言えばキャサリンさんだっけ? あの子も、記憶はそのまんまなんだよね?」

 

 

「うん……とは言っても、あの子の場合、消さなかったんじゃなくて、消せなかったんだけど……」

 

 

「キャサリンって……あの赤い競泳水着のバニーガールの?」

 

 

そう、彼女も今回の事件を怖がっていたわけではなく、最初の段階で(イレイズ)のカードを使おうとしたのですが、何故か彼女にはカードの力は効きませんでした。

 

それを見て、さくらちゃんは不思議がっていましたが……。

 

 

「……ま、ウチにも事情があるっちゅうことや

 安心せぃ、みんなの事、うかつにばらしたりせぇへんから

 ……名刺渡しとくから、なんかあったら連絡してや、ほな……!」

 

 

キャサリンさんは、当然という表情をしながら私達に名刺を渡すと、そのまま紫さんのスキマを使って帰っていきました。

 

思い返してみれば、キャサリンさんはマギロッドの使い手ではないようですが、所々で魔力を感じていらっしゃった様子でしたので、もしかしたら彼女も何らかの力を扱えるのかもしれません……

 

彼女とは、またどこかで出会う事がありそうです。

そんな予感を感じていると……

 

「あ……ところで、コクエン君の事件だけれど……」

 

 

奈緒子ちゃんが、突然事件の話題を振ってきました。

 

 

「ほえ? 奈緒子ちゃん、また何かあったの!?」

 

 

「うーん、あると言えばあるかな?

 あの事件、結構大きい騒ぎになっちゃったから、インターネットのある掲示板に色々書きこまれてるんだけど……」

 

 

奈緒子ちゃんの事ですから、その掲示板はきっと不思議な事に関するものなのでしょうね。

 

 

「まさか、誰かが事件について書いたとか!?」

 

 

「ううん、黄昏の魔法使いは、そこそこ噂になってるけど、コクエン君の事件については、詳細は書かれてないよ。」

 

 

山茶花町の子達も、マギロッドの事を含めて、私達の事を、他の方には秘密にして下さるよう約束してくださいましたし、コクエン君自身も、変な書き込みをすることはないでしょう。

 

最も、書いた所で信用してくれる方はいらっしゃらないでしょうけど……。

 

「詳細は……?」

 

 

「……うん、さらわれた子達が、記憶を消される前に写真を撮ってたみたいで……

 あんまり写りは良くないんだけど、ユーノ君、これ……後ろ向きだし、逆光でわかりにくいけど……」

 

「え……僕ですか……?

 ……ああーーーーーっ!?」

 

奈緒子ちゃんが差し出したスマートフォンをユーノ君が確認した所、彼は大きな叫び声をあげてしまいました。

一体何を見たのかと、私達もつられて画面を確認すると……。

 

「これ……メイドの恰好したユーノとケルベロス!?」

 

そこには、灯りに照らされたメイド服の子と、耳の大きなぬいぐるみっぽいなにか……いえ、変装したユーノ君とケロちゃんのハッキリとしたシルエットが写っていました。

 

 

「画像編集ソフトを使っても、何故かこれ以上明るくならないんだって……

 さらわれたこのスマートフォンに残っていたらしくって、コメントには妖怪退治をするメイド少女とお供とか、片目の妖怪少女と、ぬいぐるみになったお父さんとか書かれてたけど……」

 

 

それだと、まるでどこかできいた妖怪退治の漫画ですわね、それにしてもこんな写真を撮られていたとは……

 

 

これをみて、アリサちゃんはお腹を抱えて大笑いをし、すずかちゃんも笑いをこらえるように後ろを向きながら口元を押さえ、ユーノ君はまたもやがっくりと地面に手をついてしまい……

 

 

さくらちゃんは、縁側でそのやりとりに耳を傾けつつ、手に持ったヘアブラシで、うとうとしているなのはちゃんの髪をすいていらっしゃいました。

 

 

今、私達が居るのは、紫さんが事件解決のお祝いと、今後の活動に役立てるようクラスターの中に用意してくれた……

 

 

これから、私達の新たな活動拠点となる一軒家です。

 

 

 

 




とりあえず今回は戦後処理と、本拠地の紹介のさわりかな
原作と違って、奈緒子にもバレてしまいました
元々は、消した状態で奈緒子があの写真を見せるはずだったんですけどね
きっと、鬼太郎だと言わんばかりに


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アナタが令嬢、大統領!

拠点をゲットして、色々と出来る事が増えてくさくら一行
SSというよか、ゲーム的かなとか悩んでたりしましたが
もう吹っ切れたつもりで、その歩行性でやっていく事にしました


 

 

 

「あーーーっ!? こら! なんちゅーとこにバナナの皮置くねん!」

 

 

「うふふ、こういうアイテムだからこそ的確に使わなきゃ。」

 

 

くそーっ、またあとちょっとの所で1位を取られてもうた……

 

 

あんだけ見事なバナナの皮使いするやなんて、このねーちゃん絶対初心者とちゃうやろ!

 

なにが、初めてだからお手柔らかに……や!

猫かぶるんもええ加減にしとき!!

 

 

……しかしまぁ、こうやってこの姿で思う存分ゲームが出来るちゅうんはなかなか快適やな。

 

 

さくら、最近は特にゲームで対戦してくれへんから、ここんところは見知らぬだれかとのオンラインプレイか、スッピーとのチャットプレイばっかりやったけど、こうして横の相手と対戦する方がおもろいわ。

 

 

あの目つきの悪いクソガキどもの起こした事件が解決してから数日後。

 

 

ワイらは事件の大まかな内容を、改めてこのネーちゃん【八雲紫】に報告したんや。

 

マギロッドに黄昏の魔法使い、コクエン一派、地底に現れたボロボロの機械人形や、地面の底で光るモノ……

 

 

ワイの話を、ネーちゃんは表情を変えずに、うなづきながら聞き続け……

 

そして、一通り話し終わった後に微笑みながらこういいよった。

 

 

「ちゃんとやってくれているみたいね。

 ……それじゃあ、今回の事件解決のご褒美に、ちょっとしたものをプレゼントしてあげるわ」

 

 

そう言われて、ワイらはまたあの不気味な目玉の浮かぶ空間を通り抜けさせらると、その先にはこの古風な一軒家があった。

 

 

なんでも、ここはワイらが山茶花町に行く時に通った、クラスターと呼ばれとる空間の友枝町の外れにあった、出入り口のすぐそばやっちゅうことで……

 

 

幻想鏡で作った出入口全部を、ここへとつなげられる上、必要なものがあれば改めて用意するから、今後ここは自由に使ってもいいとの事やった。

 

 

「これならば、秘密基地にピッタリですわね……

 紫さん、どうもありがとうございます」

 

 

なんか怪しい気もするけど、とりあえず知世は大喜びしてたから、まぁええか。

 

 

電気代やネット代とかは、全部ねーちゃん持ちっちゅう話やし、出入口全部と繋がってるっちゅうんは、ワイにとってもありがたい話や。

 

 

「……しっかし、ねーちゃんどう言うつもりなんや?」

 

 

「何の話かしら?」

 

 

「とぼけるんやない、事件が終わった後に、いきなりワイ等の前に現れたり、こないな一軒家をくれたり……

 幻想の加速を止めるっちゅうんやったら、こないな事は悪手なんとちゃうか?」

 

 

事件後、このネーちゃんは、記憶が消せへんかった連中や、協力してくれたロッドマイスター、あの喫茶店のおっちゃんに、スキマの力込みでハッキリ見られてしもうとる。

 

 

あんまし数は多くないし、秘密をべらべらしゃべる相手やないけど、幻想を認識されるちゅうんは、そっち側の存在にとってあんまええ事やないはずや……

 

……てっきり、ワイは連中のマギロッドも回収するかと思っとったけど、いつの間にか知世が集めとった破片を受け取った以外には、さほど興味は示しとらんかったし、ここを貰うてから訪ねてくるようになった山茶花町の連中に対しても何かしている様子もない。

 

……おまけに、この一軒家は幻想郷の方にも繋がっとるらしく、あの生意気バカ妖精やその取り巻き、それに骨董店の半妖にーちゃんをはじめ、その他に向こう側の見た事ない連中までやってきとる。

 

昨日は、取材とか言ってブン屋っぽいネーちゃんがインタビューに来よったし……

あのネーちゃん、天狗って言うとった割に、鼻は普通やったけど。

 

 

「そのあたりに関しては、特に問題視はしてないのよ、

 過去に比べて幻想への流動が大きくなっているのは確かだけど、この程度は想定内だから。」

 

 

「……ねーちゃん、率直に聞くけど、話に聞く『黄昏の魔法使い』について知っとるんやないか?

 そもそも、そいつがネーちゃんの言う黒幕とはちゃうんか?」

 

 

前の事件を起こしたのはコクエンの奴やけれど、そもそもの原因を作ったんは黄昏の魔法使いで間違いないはずや。

 

 

それに、コクエンが拠点にしてたあの小学校……

 

コクエンの魔力が共鳴した時に見えた光景を考えれば、あないな場所を拠点にしてたちゅうんは、単なる偶然とは思えん。

 

 

もしかしたら、事件を起こしたんも、その黄昏の魔法使いになにか吹き込まれた可能性も……。

 

 

「報告してもらった事は感謝してるし、現時点でその可能性は高いと思うけれど……

 見た事もあった事もない相手に関して、私から言える事はないわ。

 写真なり、録音なりがあるというなら、話は別だけれど。」

 

 

「……まぁ、ワイ等も奴に関しては人からあったっちゅう話を聞いただけやからなぁ。」

 

 

あれから、ここに尋ねてきた山茶花町の連中に、黄昏の魔法使いについて話を聞いてみたけれど、みんなそいつに逢ったのは1度きりっちゅう話で、記録に残るような何かは持っておらんかった。

 

 

一人、スマホを胸ポケットに仕込んで盗み撮りをしたやつが居ったらしいんやけど……

 

 

結局、それにはなんも映っておらず、音声も録音されてなかったそうや。

 

 

いったい、何者なんや? 黄昏の魔法使いちゅうんは?

協会の関係者とは到底思えんし……

 

 

「とにかく、前よりはだいぶ安定してきた感じはあるけれど、まだ不自然に大きい幻想の加速は続いている状況よ。

 前回同様、その原因となっている奴等の拠点を潰していけば、いずれ奴らはあなた達の前に姿を現すはず……」

 

 

「……予想はしとったけどまだおるんかい、コクエンと同じような事をやっとるヤツ。」

 

 

魔法の力を使うて、あちこちの小学校を支配下に置いて女の子を侍らせようなんて、ホンマトンデモないヤツやったわ。

 

 

……ある意味で、小学生らしいと言えばらしいけど、この辺りさくら達は妙に大人な感じあるさかい。

 

ま、さくらは子供っぽい所も多いけどな。

 

 

「……ところで、一つ聞きたい事があるんだけど、あの氷の妖精が来てた服って、知世が作ったものなのよね?」

 

 

「? ああ、ネーちゃんに言われた通り、取引する為に用意したそうやけど、それがどうかしたんか?」

 

 

なんでも、ワイが悪ガキどもを見張ってた時、万が一の時に備えて力を借りる為にわざわざ用意したそうで、アイツもえらくあの服を気に入っておったわ。

 

 

「ねぇ、もしよければなんだけど、あなた達もう少し私の力を……「な、なんだお前たち!?」」

 

 

紫ねーちゃんが、何か意味ありげにワイに何かを訪ねて来たけど、ちょうどそのタイミングで誰かが挙げた大声にかき消されてしもうた。

 

 

……あの声は山茶花町の奴らの声みたいやけど、表の方で何かあったんか!?

 

!? この魔力の気配の群れは……!

 

 

「あ! ちょっと!!」

 

 

ワイは引き留めようと手を伸ばす紫ネーちゃんには気もかけず、声のした玄関の方へと駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

「あ、あなた達は……!」

 

 

家の中で知世ちゃん達と話している途中、表の方から山茶花町の子達の叫び声が聞こえて来たので、私達がそちらの方を見てみると……

 

 

そこでは、遊びに来ていた山茶花町の子達と、なぜか全員ニット帽を被っている、コクエン君達と一緒にいた子達がお互い左右に分かれてにらみ合っていました。

 

 

「お前たち、まさかこの前の仕返しに……」

 

 

「うるさい! お前たちに要はない!!」

 

 

どちらも、今にもケンカを始めそうな雰囲気で、縁側に座っていたさくらちゃんは、なのはちゃんの事を守る様にぎゅっと抱きしめており、なのはちゃんは最初の声で目が覚めてしまったのか、衣装はそのままだったけど、大きくなったレイジングハートを握りしめていて、いつでも対応できるように構えていました。

 

ユーノ君も、相手の事を警戒しつつ、すぐ飛び出していけそうな体勢を取って、奥の方から駆けつけてきたケロちゃんは、そのまま庭へと飛び出して姿勢を低くしてうなり……

 

 

「あいつら……また、なんかやらかすつもりなの……!?」

 

 

アリサちゃんは、あの子達を見て不機嫌そうな顔をしながら吐き捨てるようにそう言っていたけれど……

 

 

「待ってください、なんだか様子がおかしいです。

 ……あの子達、マギロッドを展開してませんわ」

 

「え……?」

 

 

知世ちゃんの指摘で、私達はあの子達が手ぶらだという事に気が付いた。

 

 

多分、ポケットの中とかに入っているとは思うけれど、私達を襲うつもりならあの時みたいにマギロッドを手に持ってるはずだよね……?

 

じゃあ、別の理由があるのかなと思っていると、

彼等はみんな揃って私達の方を向いて、そのまま勢いよく地面に正座したかと思うと……

 

 

「「「「「「「「この間は、ホントすいませんでした――――ッ!!」」」」」」」」

 

 

そのまま地面に手をついて、深々と頭を下げたのでした。

 

 

「……はァ!?」

 

 

「え……ちょっと、なんのつもりよ!?」

 

 

この意外過ぎる行動に、みんな揃って困惑してしまい、山茶花町の子達も、先ほどまでのこわばった表情から一転して訳が分からなさそうな顔をしちゃったけど……

 

 

「みなさん、顔を上げてくださいませ、

 ……どういう事か、説明していただけますか?」

 

 

知世ちゃんだけは、あんまり慌てた様子もなく、頭を下げた子達の前に駆け寄り、行動の理由について尋ねました。

 

 

「はい、あれからの事なんですけれど……」

 

 

みんなの代表っぽい子の話によれば……

 

 

コクエン君が負けて、山茶花町から姿を消してから、彼等の立場は凄く悪くなってしまったのだとか。

 

 

「まぁ、これまで好き放題してたから、そのあたりは自業自得だって分かってるんですけど……

 ただ、それから色々考え事をするうちに、心の奥底がなんだか痛むような感じがして……」

 

 

詳しく話を聞いてみると、その原因は私達を連れ去った事への後ろめたさからか、いたたまれない状態が続いたので、その事を謝ろうとした見たいだけれど、大半の子達は事件の記憶が消えてしまったので、それも出来なくなってしまったとか。

 

 

「……それで、事件を覚えてるすずかや奈緒子さんに謝って許してもらおうっての?

 ……ムシが良すぎるわよ! これまで好き勝手しておいて!!」

 

「アリサちゃん……!」

 

アリサちゃんは、許さないと言わんばかりに怒っているけれど、すずかちゃんは怒るアリサちゃんを諫めている。

 

「すずか! アンタはこいつらをそんな簡単に許せるの!?

 程度や理由はどうであれ、こいつらのやったのは誘拐なのよ!!」

 

それを聞いて、地面に正座をしているみんなは、更に申し訳なさそうに俯いてしまったけれど……

 

 

「でも……私が連れていかれたそもそもの原因は……

 アリサちゃんが、なのはちゃんが最近友枝町の子と付き合ってる証拠を掴もうって、強引に誘ったからじゃあ……?」

 

 

すずかちゃんのその言葉に、アリサちゃんは一瞬『うっ……』っと漏らすと、非常にマズそうな表情で大粒の汗を流しながら、狼狽しはじめました。

 

「……アリサちゃん、どういう事?

 私の事が心配で追ってきたとは聞いたけれど、お付き合いとか、証拠とか言う話は初耳なの……」

 

それをしっかり聞いていたなのはちゃんは、アリサちゃんの事をジトっとした目で見つめてており……

表情こそ穏やかだけど、怒っているのはすぐにわかりました。

 

 

「い、いや! それだけ心配だったって事よ!!

 近いとはいえ、学区が離れた学校の子が相手だっていうんだもの!

 ほら、騙されてないかとか気になって……」

 

 

突然の事に、アリサちゃんはさらにしどろもどろになって弁解しようとしたけれど……

 

 

「友枝町でも有名なスポーツ万能の、かわいい金髪の子で、

 去年の眠れる森の美女の王子様役が、すっごく人気だったって……

 話を聞いてる時のアリサちゃん、すごく悪そうな顔をしてたよ。」

 

 

「すずかッ!!」

 

 

すずかちゃんが、追い打ちをかけるように話の続きをいうと、アリサちゃんは、余計な事を言うなと言わんばかりに、すずかちゃんを叱ったけれど……

それを聞いたなのはちゃんの視線は更に鋭くなっています。

 

 

「金髪って、ボクの事?

 でも、その他の特徴って……」

 

 

「眠れる森の美女の王子役って、私の事かな……?

 去年の劇でやったんだけど……」

 

 

 

さくらちゃんとユーノ君は、身に覚えがあったりなかったりする内容に困惑していたけれど、これってつまり……

 

 

「どうやら、二人の特徴が混ざってしまったようですわね、噂とはそういうものですから。」

 

 

うん、どう聞いてもそうだよね、知世ちゃんの結論に私はそのまま静かにうなづく。

 

 

「……それで、奈緒子ちゃん、すずかちゃん、いかがなさいますか?」

 

 

そしてすぐ後に、知世ちゃんは私達に対してそう尋ねてきました。

質問の意図はもちろん、この子達を許すかどうかって話だとおもうけど……

 

 

「私は……大丈夫です、ちょっと驚いたけど、ヒドイ事はされなかったし……」

 

 

すずかちゃんは、今はもう事件の事を気にしていないようで、

怒っているアリサちゃんをよそに、彼らの事を許したみたい。

 

もっとも、今アリサちゃんはなのはちゃんに対して、焦りながら弁解をしているけれど……

 

 

そして、私も……

 

「……二度とこんな悪さをしないって誓えるのなら、私も許してあげる、

 みんなのおかげで、不思議体験ができたから……ね。」

 

 

 

「あ、ありがとうございます! 二度と悪さは致しません!!

 ……この頭に誓って!!」

 

私達の言葉を聞いた彼らが、そう言って私達に改めて頭を下げた後、フードを取ると……

 

「……わっ!? そ、その頭……」

 

 

前に逢った時、モヒカン、剃りこみ、パーマと、小学生らしくなかったちょっと怖い雰囲気だった髪型が、みんなお坊さんみたいな丸刈りへと変わっていました。

 

 

「そ……剃っちゃったの? 頭……?」

 

 

「すいません、今の俺達にできる詫び、この程度しか思い浮かばなかったので……」

 

 

まさかの行為に、私を含めたみんなは驚きの表情を隠せません。

 

山茶花町の子達も、ここまでするとは思ってなかったらしく、不満そうな表情をしてる子はほとんどいなくて……

 

「わかりましたわ、奈緒子ちゃんとすずかちゃんがこう言っているのですから、これ以上責めるのはやめにいたしましょう。

 皆さんも、この話はこれまでという事で……よろしいですわね?」

 

 

いぶかしげな顔をしてる子はまだ何人かいたけれど、知世ちゃんに対して抗議する子は一人も出ません。

 

 

「ではみなさん、これからはなかよくお願いいたしますわ。」

 

 

そして、知世ちゃんが笑顔を浮かべながらそう言うと、どちらの子達も少し顔を赤くしながらうなづいたのでした。

 

 

「まぁ、知世がそう言うならええねんけど……

 みんな、ホンマ人がええなぁ。」

 

 

 

ケロちゃんは、ちょっとあきれた顔でそう言ったけれど、この後、知世ちゃんがちょっと悪そうな顔をしながら、私に耳打ちした台詞を聞いたらどう思ったのだろう……?

 

 

「これで、さくらちゃん撮影の大道具係をゲットですわ……」

 

 

そんな知世ちゃんの、ちょっとあくどく聞こえるこのセリフに対して、私はメガネを人差し指で直しながら、こう返しました。

 

 

「悪役や、戦闘員役もよろしくね……」

 

 

―――クシュン!!

 

 

すると、その言葉が原因なのか、背中の方からさくらちゃんの時季外れのくしゃみが聞こえてきたのでした。

 

 

 

「と、ところで一つ聞きたいんだけど、キミたちはコクエンの元でジュエルシードをどれだけ集めたんだ!?」

 

一方で、ユーノ君はこちらの世界へきた理由のジュエルシードについて彼らに尋ねています。

 

 

「ジュエルシード……? あの宝石のことか? 確か、全部で5つだったよな?」

 

 

「あ、ああ……

 あの宝石が化け物に変わったりとかして、色々大変だったけど……」

 

 

確か、全部で21個だって聞いたから、これまで見つけた分を合わせると、まだ半分近くが見つかっていないことになるはず……

 

 

「せやけど、コクエンの事件が起こる前から、ジュエルシードは見つからんようになってしもうとるはずやで?」

 

 

「……多分、俺達以外のロッドマイスターが拾ってるんだと思う。

 山茶花町以外にも、クラスターを利用してるマイスターはたくさんいて、手に入れたジュエルシードの中には、そいつらから巻き上げたのもあるはずだから……」

 

 

ケロちゃんの言葉に対し、後ろの方に座っていた子が申し訳なさそうにそう漏らしました。

巻き上げるって言うのは、やっぱりよくない事だけれど、そのまま持っていたら事件が起こっていたかもしれないし……

 

本来の価値を知ってたり、本物の宝石を知ってたりする子は居なかったと思うけど、拾ったものをおまわりさんに届けなかったから、その辺はまぁおあいこ……になるのかな?

 

 

 

「……そうなると、なんとかしてジュエルシードを拾ったロッドマイスターを探す事は出来ないでしょうか?」

 

 

彼らの意見を聞いた知世ちゃんがそう言うと、山茶花町の子達と座っている子達は、それぞれ顔を見合わせ、ボソボソと小さな声て何かを相談し始めました。

 

 

「なにか、思い当たる事があるの?」

 

 

気になったので、みんなに尋ねると……

 

 

 

「確実って訳じゃないけど、こっち側で情報を集めるんだったら、あそこに行くのがいいんじゃないかなって思って……

 もしかしたら、ジュエルシードもそこにあるかもしれないし。」

 

 

詳しい内容はまだわからなかったけど、先頭の子がそう言うと後ろにいた子達は示し合わせた様に、一斉にうなづきました。

 

 

 

 

 

 

 




久しぶりに出た気がする、知世大暴走的な雰囲気……
劇場版2作目の冒頭と、クリアカードのリバースの回で見せた
ブラック知世がついに表に侵蝕してきました

おまけに、賛同するブラック眼鏡も加わって
果たして、この後どうなる事やら……

あと、話を中断されてしまった紫さんの事も忘れないでください
自分の真意を話さないせいか、肝心のお願いを聞いてもらえない状態


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デザート・フロンティア

新章の前半部分が、本格的に動き出しました

……それに伴い、話もとんでもない方向に吹っ飛んで行ってしまった

元々は、なのは無印にさくらが介入しましたで行こうとしたのに
どうしてこうなったのやら……


 

 

私の知れない異世界で発掘された、所有者の願いをかなえてくれるという魔法の宝石・ジュエルシード。

 

 

ユーノは、元々この宝石を回収するために、別の世界から地球へとやって来ていたそうで、最近海鳴市で起こっていた不可解な事件は、だいたいこの宝石が起こしていたのだという。

 

 

コイツには、なのはに関する事で色々と言いたいことがあったのだけれど、悪いヤツではなさそうだし、ジュエルシード回収の為に、一人でやってきた勇気に免じて、とりあえずその件に関して保留する事にしてあげた。

 

 

しっかし、コイツも結構謎の多い奴よね……

 

私達と同い年なのに、発掘を生業にしている一族の責任者だとか言うけど、能力に秀でているとしても、こんな子供に責任者をやらせるとか、スクライア族っていったいどんな連中なのかしら……?

 

 

他にも色々と謎はあるけど、そこはひとまず置いといて……

 

 

今、私達はジュエルシードの手掛かりを得るために、丸ボーズ達が話してくれた、ロッドマイスターの集まるという場所へと向かっている。

 

 

話によれば、山茶花町につながっている入り口とは逆方向に向かった先にあるそうだけど……

 

 

私達は、そこで予想だにしなかった光景を目の当たりにし……

そして、現在進行形で、その過酷な環境を身をもって味わっていた……

 

 

「……なんで、こんな所に砂漠があるのよーっ!?」

 

 

目の前に広がる、砂だらけの地面と、所々に生えているサボテン……

そして、汗だくになりかねないレベルの熱気。

 

 

夏はもうちょっと先だというのに、苦手な日本の夏よりもさらに厳しい暑さ……

この不可解で理不尽な環境に対する不満は、思わず大声をあげたくなるレベルのモノだった。

 

 

「やかましいなぁ……

 そんなにこの暑さが不満なら、さっさと帰ったらええやろ?」

 

 

すると、さくらさんのポシェットから顔を出したぬいぐるみサイズのケルベロスが、うんざりとした顔でそう言ってきた。

 

 

「なによ、そんなに私の事を仲間外れにしたいわけ?」

 

 

「だって、アリサは居っても役に立たへんやろ、

 ……むしろ、余計なトラブル起こしそうな気もするわ。」

 

 

「なんですってぇ!?」

 

 

このぬいぐるみの、あんまりと言えばあんまりな言葉に私は思わずカッとなってしまった。

 

「ケロちゃん!

 ……ごめんねアリサちゃん」

 

「あ……いえ、あんまり気にしないでください……」

 

すぐさま、さくらさんがぬいぐるみにしかりつける様に言った後、ぬいぐるみの代わりに謝ってきたけど、別にさくらさんが誤る事じゃないと思いながら、思わず恐縮してしまう……

 

 

……こんなことで頭に血が上ったのは、この暑さのせいだと思いたい……

 

 

『あ、ここからあそこに行くんだったら帽子と水筒は必須っすよ、

 あと、出来れば水着も持ってった方がいいかな?』

 

 

あいつらの言っていた説明の意図が水着以外、よーく理解できた……

 

 

この暑さでは大した効果はないと思いつつも、渇きと火照りを癒すたに

私は手にした水筒を開け、水を口にしながら……

 

あいつらや、そこに集まっているというロッドマイスターは、みんなこんな過酷な道を平気な顔で行き来しているのかと考えていた。

 

「……あまり辛いのでしたら、アリサちゃんもあちらで待機していてもかまいませんわ、何かあれば、私の方で呼び出すことが出来ますし……」

 

「いえ、お気遣いなく……」

 

あんまり私が辛く見えたのか、知世さんが気を使ってくれたけれど、どうにもその提案に乗る気にはなれなかった。

 

 

……ちなみに、奈緒子さんとすずかは、なにかあった時の連絡の為に今回は拠点で留守番をしている。

 

 

特に奈緒子さんは、知世さんと相談をして、向こうでなにかをやるつもりみたいだけど、その時の二人の顔はとてつもなく悪そうな感じだったので、何をするつもりなのか、正直不安だ……

 

 

「……ところでなのは、アンタ魔法少女になったんだから、魔法で涼しい風を起こすとかできないの?」

 

 

「き、急にそんな事言われても……

 ユーノ君から、そんな魔法は教わってないし……」

 

 

私の、ほんのりとしたあったらいいなという質問に対して、なのはは、ひどくうろたえてそう言うと、ユーノの方に視線を移したので、私もなのはにならってそちらの方を向く。

 

 

「いや、僕も特にそう言った種類の魔法は……

 そもそも、周囲の気温の調整とかは、バリアジャケットを展開すれば出来るから……」

 

 

「……へー、つまり私は今度も仲間外れってわけ?」

 

 

「あ、アリサちゃん……」

 

 

またも魔法がらみで疎外感を感じて、思わず二人に対して嫌味を言ってしまった。

……二人が、そんな事をこれっぽっちも考えてない事くらい、汗びっしょりの姿を見れば分かるのに……

 

 

「あ……! だったら、私が何とかするよ!!

 ケロちゃん、いいよね?」

 

「まぁ、子供にはこの暑さは辛そうやからな。」

 

「え!? べ、別に私そんなつもりじゃ……」

 

 

すると、さくらさんは雰囲気を変えようとしてくれたのか、そう言ってカードの用意を始めてくれていた。

 

……なんだか、自分が悪い子になってしまった感じで、妙に居心地が悪い……。

 

 

「暑さを何とかするカードって言うと……

 『雨』、『雪』、『凍』……こんな所かな?」

 

 

「うーん、この場で『凍』は、効果薄いから、『雨』か『雪』がええと思うねんけど……」

 

 

さくらさんとケルベロスはそう言ってカードを選んでおり、そんな相談をしている姿を見ると、私の心の中には、ある疑問が浮かんでいた。

 

 

私、なんでこんな自然に仲良くこの人と話せているのだろうと……

 

 

さくらさんと出会ったのはつい最近、コクエンの事件の時。

 

知世さんから初めて話を聞いた時は、なんとなく親友(なのは)を取られてしまった風に感じて、少し気に入らない感じがしていたけれど……

 

 

それからこの人と一緒に行動するうちに、そんな考えはどこかへ行ってしまった。

あんまり詳しく言葉にできないけれど、この人とと一緒だとすごく心が安らぐのだ。

 

 

……多分、なのはもどこかでそれを感じているのだろう。

 

特訓の後で、なのはの髪が乱れてしまった時に、さくらさんがなのはの髪をとかしながら直していてくれてたけれど……

 

 

覚えている限り、なのははこれを他人にやってもらった事はない、私がやってあげると声をかけても、常に自分でやるといって譲らなかったはずだ。

 

ましてや、髪をとかしてもらいながらウトウトと眠るなんて……

 

……あの時、初めてなのはが年相応の姿に見えた気がした。

普通に過ごす分には、やや天然な少し年上のお姉さんだけど……

 

なんと言うか、この辺の感覚は上手く説明できない感じだ。

 

「……アリサちゃん、待たせてごめん!!

 すぐこの辺りを冷やすから、もうちょっとだけ待ってて!」

 

 

「え!? あ、すいません! ついぼーっとしちゃって……」

 

 

そう思っていると、使うカードが決まったらしく、私は慌ててさくらさんへと返事をかえした。

 

……それにしても、天候を変えられるって、あのカードもとんでもない力を持ってるわよねぇ。

 

 

「それじゃあ……」

 

そして、いよいよさくらさんがカードの力を使おうと、手に持ったカードを掲げようとした……その時

 

 

「あ、待ってください、

 あそこに看板が立っていますわ。」

 

 

知世さんが、そう言って少し先の方を指をさしたので、その先を見てみると、その先には板をつなぎ合わせたような西部劇に出てくるような感じの看板があった。

 

なんで、こんな所にこんな看板が……?

 

 

 

「ほえ……英語で書いてある……

 これ、なんて読むんだろう……?」

 

 

看板の内容は、全部英語で書かれており、さくらさんには読めないようだったので……

 

「さくらには英語はまだ早いようやな、えーと、これは……」

 

「『砂漠のオアシス、デザートレイクタウン

  この丘を越えたすぐそこ』……って書いてあるわね。」

 

 

もったいぶったぬいぐるみよりも先に、私が看板の内容を読み上げた。

 

 

役目を取ってしまったせいか、ぬいぐるみは不貞腐れた顔をしていたけれど、そんな事は気にかけず、私の興味は看板の後ろにある少し小高い丘の方へと向いていた。

 

 

「……確かに、砂漠と言えばオアシスはつきものだけど、本当に、この先にそんなものがあるのかしら?」

 

 

「とにかく行ってみよう、タウンって町の事……だったよね?

 だったら、そこに人が集まってると思うし。」

 

 

さくらさんは、今一つタウンの意味に確信が持てていないようだったけれど、別に間違ってはいないので、彼女に対して軽く頷いてからみんなと一緒に目の前の丘を登り始めた。

 

 

その先で、私達が目にした光景は……

 

 

アメリカナイズな、レトロな感じのする木造建築の建物が集まっていて、そのはずれには、柵で囲った大きな広場や、その先にある鉱山の様な洞窟の入り口……

さらに中央には、芝生に見える地面で囲われた水場があり、その水場も、まるでプールの様に舗装されている……

 

 

どう見てもオアシスと言うのとはちょっと違う、なにかを間違えたリゾート地のような光景と、そこで遊んでいるたくさんの小学生の姿だった。

 

 

「なによ、この光景……」

 

 

「……なんだか違う西部劇の町……かな?」

 

 

私のつぶやきに、なのはが真面目に答えを返す。

 

確かに、入り口にある看板のあたりとか含めて、プール関連以外は、そんな感じがするけれど……

 

 

開拓時代アメリカの西部って、こんな感じだっただろうか?

 

なんか雰囲気的には、日本人が勘違いしてる西部劇って気もするし……

すなわち、マカロニウェスタンならぬ、テンプラウェスタン……

いや、これは流石にふざけ過ぎか。

 

 

「……これも、あの杖を使う子達が作った町なのかな?」

 

 

「亀山小学校跡も、マギロッドの力を使ってお城に建て替えたって言ってたから、多分そうだと思うけれど……」

 

 

さくらさんの疑問にユーノはそんな感じで肯定しているが、ちょっとカクカクしてるとは言え小学生が

こんな建物を作れるんだったら、大工や建築会社の立場が無くなってしまう。

 

 

これは、魔法がすごいのか、それともマギロッドがすごいのか……

……そもそも、あの建物のカクカク具合、どこかで見た事があるような……?

 

 

「まぁ、こうしていても始まりませんし、ジュエルシードの情報を集める為にも、

 注意しながら、あの町へ行ってみる事にしましょう。」

 

「そうだね、あっちの方が涼しそうだし。」

 

 

確かに、ここで町の様子を眺めているだけでは、暑さで熱中症になってしまいかねない。

 

 

西部劇には無法者がつきものだけど、町のみんなの楽しそうな姿を見る限り、コクエンの時のように、何者かに苦しめられている様子は見られないし、とりあえず危険は無さそうだ。

 

 

こうして、私達は情報集めの為、デザートレイクタウンと名付けられた不思議で奇妙な街へと、足を踏み入れた。

 

 

 

……そう言えば、水着が必要ってのも、この為だったのね。

 

 

 

事件の影響で、未だアイツらには悪い印象しかなかったけれど、今だけは、ほんの少しだけ感謝する気持ちになったかも……

 

 

 




砂漠関連は、メダロット4のあたりが元ネタです
シリーズ4つも続くと、いつもの街から少し行った先が
やれ裏山、やれ鍾乳洞、やれ砂漠というのはトンデモな展開ですが……
位相のずれた世界ならば、まぁありっちゃありですよね



ちなみに、今回の章……と言うか、次の話から
更に魔導師化した他所の作品のキャラが更に増えてしまう予定
これまでも対外でしたけどね……


なお、出てくるのは基本主役以外……どころか、結構脇役からチョイスする予定
名前付きで出てくるのは、大体どっか他の作品から出てると思っていただければ


出せない場合は、オリキャラの設定募集するかもですが
詳しくは、目次ページの解説欄の【キャラ投稿企画開催中】のリンクからどうぞ

現状、出すとは確約できませんが、キャラ自体は常時募集しておりますので

(ハーメルンじゃあんまり出せないかもだけど、SRPG側なら結構出せるかも)


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ウェスタンリゾート・マイヤー

長くなり過ぎないよう、予定の半分くらいの箇所で投稿してみました
これも、後で修正とか入れるんだろうなぁ……

参戦作品が増えてしまった


 

 

 

私達が町の門にたどり着き、町の名前が書かれた看板をを潜り抜けようとすると……

 

 

「……待った、おめぇ達ちょっとそこで止まれ」

 

 

どこからか、私達を制止する声が聞こえてきました。

 

 

「え……? 誰よ、今の声?」

 

 

声はするのに、しゃべってる人の姿が見つからなかったので、みんなで声の主を探そうと周囲をきょろきょろと見回してみましたがやはり誰もいません。

 

 

「ちがう、こっちだこっち、おめえ達の頭の上だ。」

 

 

そう言われて私達が上を見上げると、看板横にある見張り台らしき場所から、ケープを身につけ目の下に白いペイントを入れ、髪を後ろで一本の三つ編みにまとめた男の子が、こちらを見下ろしているのが見えました。

 

 

「ね、ネイティブアメリカン……?」

 

彼の恰好を見て、アリサちゃんが少し呆れた顔でそう漏らしていましたが、向こうは気を悪くした様子もなく、私達を観察しながら少し訛った言葉で話を続けます。

 

「おめぇ達、見ねぇ顔だな?

 おまけに、外国の人まで来るなんて珍しいべ……それにしても、日本語すげぇうめーなぁ」

 

井出君はアリサちゃんとユーノ君に、感心しながらそう言いました。

 

「……キミも、ロッドマイスターなの?」

 

 

「おー、おめぇも日本語うめぇな、もちろんここにいる連中はだいたいそうだ……

 おっと、オラは井出安行(いでやすゆき)、よろしくな!」

 

「これはどうもご丁寧に、大道寺知世と申します。」

 

 

その後、私に続きみんなも自己紹介した後で……

私は、彼にこの町について尋ねてみました。

 

 

「ところで井出君、この町はいったいどの様な所なのですか?」

 

 

「なんだk、知らねぇで来たのか?

 ここは、元々オラ同様にマギロッドを受け取った仲間達の溜まり場だったんだけど、オラ達のリーダーが、あっちこっちで悪さする連中を懲らしめてる内に、どんどん人が集まってここまで大きくなってよ……

 今じゃ、あっちこっちから、気の知れたロッドマイスターが集まってんだ。」

 

 

「へぇ……でも、なんで街並みが西部劇風なの?」

 

 

井出君の説明に感心しつつも、やはりこの街並みの雰囲気は気になるようで、疑問に思ったさくらちゃんが、その点について質問すると……

 

 

「そりゃ、オラ達が西部劇が大好きだからに決まってるべ。」

 

「ほえ~……」

 

「ず、ずいぶんストレートな答えですね……」

 

 

井出君のあっさりとした答えに、さくらちゃんは呆けてしまい、なのはちゃんも少し呆れた顔でそう言いました。

 

 

「風間……オラ達のリーダーは、家族そろって西部劇マニアでよ、オラもソイツの家にお邪魔する時に何度も西部劇の映画を見せてもらうウチに、すっかりハマっちまっただ。

 それに、後から集まったみんなも風間のファンばっかりだから、反対意見は出なかったしな。」

 

「本当に……?

 まさか力にものを言わせて、無理矢理いう事を聞かせてるんじゃないでしょうね?」

 

この間のコクエン君達の事があったからか、アリサちゃんが疑わしそうにそう言った所……

 

「オラ、嘘はキライだ、

 白人ウソつき、インディアンウソつかない。」

 

「当て付けか! この!!

 大体アンタ日本人でしょうが!!」

 

どこかで聞いたようなフレーズを言い返した為、、アリサちゃんが強烈なツッコミを入れたのでした。

 

「まぁまぁ、アリサちゃん落ち着いて……」

 

「……と事は、その衣装はトントのコスプレか、というかその呼び方使っていいワケ?」

 

「どっち使っても問題あんなら、好きな方使えばいいだろ?

 ……てか、人の事コスプレっておめぇら、人の事言える恰好か?」

 

 

そう言われて、アリサちゃんは『ぐっ』と言葉に詰まってしまいました。

……確かに、さくらちゃんをはじめ今回来ている服は、みんな明らかに私服って感じはしませんものね。

 

 

「……あーもう、わかった、悪かったわよ。

 ところで、私達いつまでここで足止めされなきゃいけないワケ?

 いい加減、ここで立ちっぱなしはきついんだけど……」

 

 

熱さでイライラしてきたのか、アリサちゃんはちょっとキツイ口調で井出君にそう言い放つと……

 

 

「おっと、ついつい話し込んじまっただ、別にもう入っても構わねえんだけどよ……

 おめぇ達、町に何の用があってきたんだ?」

 

 

彼は申し訳なさそうな雰囲気を見せながらも、私達の目的について尋ねてきたので……

 

 

「僕達、ジュエルシードって言う宝石を探してるんだけど……」

 

 

「ジュエルシード……!?」

 

 

ユーノ君が返答時に、ジュエルシードと発言した直後、井出君はわずかに驚いた様子を見せました。

 

 

「何か知ってるの!?」

 

 

その表情を見て、井出君がジュエルシードについて知ってると確信したらしいユーノ君は、更に話を聞こうとしましたが……

 

 

「……その話についてなら、小野寺に聞いた方がいいべ。」

 

 

井出君は自ら語ろうとせず、小野寺という方の事を教えてくれました。

 

 

「小野寺……さん、ですか?」

 

 

「この町で、一番の情報通だ、道をまっすぐ行ったとこにあるプールに居るはずだから、そこで話を聞けばいいべ。」

 

 

「なんか、怪しいわねその態度……

 もしかして、ワナにかけようとしてないでしょうね?」

 

 

なにかを隠している様な井出君の態度に、アリサちゃんは疑わしい目で井出君の事を睨みましたが……

 

 

「オラ、嘘は大キライだ、

 白人ウソつき、インディアンウソつかない。」

 

 

「それはもういいっ!!」

 

 

井出君が、先ほどとほぼ同じフレーズを言ったため、再びそれに対する鋭いツッコミが炸裂したのでした。

 

 

「まぁまぁ、アリサちゃんその辺で……

 井出君も、嘘を言っている様子はありませんし、ひとまずその小野寺さんという方に、話を伺う事に致しましょう。」

 

 

「うーん、知世さんがそう言うんだったら……

 罠だったとしても、みんながいれば大丈夫だろうし、ここで立ちっぱなしってのもつらいし……」

 

 

「ははっ、ワリィワリィ……

 もう入ってもいいだよ、でも騒ぎは起こさねぇようにしてくれよな。」

 

 

こうして、私達は井出君に許可をいただき、町の中に足を踏み入れました。

 

 

街並みは、外で見た通りの西部劇風な雰囲気ですが、あちらこちらで少し街の雰囲気に似合わないレモネードスタンドのワゴンがありました。

 

 

「商売までやってるのか……商魂たくましいな……

 確かに、この暑さじゃ欲しくなるけれど……」

 

「それでは、いただいてからプールに行く事にしましょうか。」

 

私は、スタンドの子に冷えたレモネードを注文してみんなに配り、そこで一息ついてから、

小野寺さんの居るというプールへと向かったのです。

 

 

 

 

 

 

「うわぁ……おっきいプール!」

 

 

更衣室で水着に着替えてから、プールサイドまで行くと、学校や専門の施設にあるよりも大きなプールと、そこで遊ぶ子供たちの姿がありました。

 

 

作りは少しシンプルでしたが、プール内から吹き上げる噴水など、一般のプールでは見かけないギミックなどが組み込まれており、それらを利用してみんな楽しそうに遊んでいます。

 

 

「うーん……」

 

「どうしたの、アリサちゃん?」

 

この光景を見て、アリサちゃんは何かを不思議に思ったなのはちゃんが訪ねた所……

 

 

「いや、この状況でプールって聞くとイヤな予感がしてきて……

 なんというか、ユーノが一緒だと、ただじゃ済まさない感じがするって言うか……」

 

 

「急にどうしたの、アリサちゃん、海鳴にだって海鳴スパラクーアがあるじゃない?

 それに、なんでここでユーノ君が?」

 

「なんというか……うーん、なんでだろ?」

 

 

……どうも、アリサちゃんは経験のない記憶を受け取ってしまったみたいですわね。

 

 

まぁ、それについては私も割と他人ごとではない気もしますけど、あんまり深く言うと大変な事になりそうでし、アリサちゃんも気のせいと言う結論に行きついたようなので、ひとまず放っておく事にしましょう。

 

 

「みんな、おまたせ……」

 

 

「あ、ユーノ君こっち……

 って、どうしたの、その顔……?」

 

なのはちゃんが手を振ってユーノ君を誘導しましたが、ユーノ君はなんだか非常にげんなりとした顔をしていました。

 

どうも、更衣室でなにかあったようですが……

 

 

「……ねぇ、僕ってそんなに男っぽく見えない?」

 

 

「ほえ……?」

 

 

私達がそれについて聞き出す前に、ユーノ君は自分の容姿について私達に訪ねてきました。

 

 

「……あー、そう言えば男子更衣室の方が騒がしかった気がするけど、もしかして……」

 

 

どうやらアリサちゃんは、なにが起こったのかを察したようで……。

 

 

「僕が入ったとたん、更衣室内が一気にざわついてさ……

 着替えてる時も、周囲の子達はみんな背中向けてたし、着替え終わったら終わったで、なんか視線を感じて……」

 

 

ユーノ君はうんざりだと言いたげな表情で、更衣室で何があったのかを教えてくださいました。

 

 

「き、気にしない方がいいよユーノ君!

 ウチのお兄ちゃんも、線は細い方だし……」

 

「そうそう! なのはちゃんの言うとおりだよ!

 ウチのお兄ちゃんも、力持ちなのに痩せてるし、女の子に間違われるのは、ユーノ君がかわいいって事だから……」

 

「はうっ……!?」

 

 

気落ちしたユーノ君に対し、なのはちゃんとさくらちゃんはフォローをしていらっしゃいましたが、さくらちゃんの一言は、かえって心を抉ってしまったようで……

 

 

「……さくらさん、それフォローになってませんよ。」

 

 

「あ……!? ゴメンね! ユーノ君!!」

 

 

「いいんです……それよりも、早く小野寺さんを探さないと……」

 

 

さくらちゃんの発言に対して、ユーノ君自身は特に不機嫌には思わなかったようですが、

結局ユーノ君はうつむいたまま、小野寺さんを探すよう促してきました。

 

 

「それでは……あの、すいません、

 こちらに小野寺さんという方を探しているのですが……」

 

 

そこで、近くを歩いていた女の子に小野寺さんについて尋ねたところ……

 

 

「マリちゃんの事?

 マリちゃんなら、ほら、あそこに居る……」

 

彼女がプールの奥の方を指さした先では、パーカーを身につけた、ショートカットにハート型の髪飾りを身につけた、元気のいい女の子が……

 

 

「みんなー! 時間よー!!

 プールからいったん上がりなさーい!!」

 

 

プールの中の子供たちに、上がるよう大きな声で呼びかけていました。

 

 

 




とりあえず、フルネームで出てくるのは版権キャラと思っておいてください
今回のは作品はともかくとして、キャラの方は結構マイナーだし、元と使い方が違うから
検索しないとそうそうわからないとは思いますが……


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ビルドタウン・ストーリー

4月のうちに収めるつもりだったのが、不調で5月になってしまった……
しかし、この話もどっちの方向に飛んでいくことやら……


着地点は、きちんとなのはに合わせる予定なんですけどね


 

 

「へぇー、友枝町と海鳴市から……

 あの辺にも、ロッドマイスターになった子がいたんだ」

 

 

井出君から情報通だとうかがった彼女、小野寺マリちゃんはプールからみんなを上がらせた後、プールサイドにあったテーブルまで案内してくれた後で、話を聞いてくれました。

 

 

「うーん……まぁ、そんなところ……なのかな?」

 

 

本当は、私もなのはちゃんも、マギロッドじゃない魔法を使うんだけど、その辺はあんまり大っぴらに説明できないから、ちょっと歯切れの悪い答えになっちゃったけど……。

 

 

「ところで、マリちゃん達もマギロッドを黄昏の魔法使いという方から……?」

 

 

「うん、みんな知らない路地裏に入り込んだと思ったら、そこで出会ったローブを被った女の人からもらったの。」

 

 

「マリちゃんは、風間達を除けば私達の中で、一番マギロッドを使うのが上手でね……

 使うのが苦手な子や低学年の子達に、使い方を教えていくうちに、これだけの人数が集まったんだよ。」

 

 

マリちゃんの後ろから、さっきマリちゃんの事を教えてくれた子が、マリちゃんの肩に親しそうに手をかけながら、そう説明してくれました。

 

 

他の子達も、きっとマリちゃんの事を慕ってるんだろうなぁ……

 

 

「多分、あなた達もそんな関係なんでしょ?

 さくらちゃんが、マギロッドの使い方を教えてるとか……」

 

 

「間違ってはない気もしますけど……

 でも、そういう関係だとよかったかな……?」

 

 

マリちゃんの言葉に、なのはちゃんは何故か少し口ごもった風に答えました。

でも、なのはちゃんに教えてるのは、ユーノ君の役目だから……

 

 

「うーん、教えてるってのは違うかな……?

 特訓には付き合ってるけど、なのはちゃんもユーノ君も、私よりもすごくしっかりしてるから

 あんまり、私から教える様な事もないし……」

 

 

私の場合、やっぱりすごいのは私じゃなくてカードさん達だから、その辺りは大変なのに頑張ってる二人や、みんなから尊敬されてるマリちゃんの方がすごいと思う。

 

 

「それにしても、それなりに大規模な街に大きなプールを作るとか、魔法っていろんな事が出来るのね、なんか、どっかで見たような風景って気もするけど……」

 

 

「あー、やっぱりわかる?

 その辺りは、魔法だけってわけでもなくてね……」

 

 

少し呆れた感じでアリサちゃんが言うと、マリちゃんは少し気まずそうな顔をしてしまいました。

 

 

「どういう事?」

 

 

不思議に思って、訪ねてみると……

 

「大人に黙って、こっそり魔法の練習とかやってる内に、いろいろやりたい事が出来てきちゃってね……その中の一つが、秘密基地を作る事だったの。

 それで、どうやって作ろうかって話の中で、最近流行りのゲームみたいにできないかって話が出てきて……」

 

 

「は、流行りのゲーム……?」

 

 

「それって、ブロックを積み上げたり、素材を集めて、お家とかのいろんな建物を作ったりするあの……?」

 

 

「さくらさん、知ってるんですか?」

 

 

私は、そんなに遊んだことはないけれど……

 

 

(最近、ケロちゃん一日中そのゲームで遊んでるんだよ……

 お菓子屋さんとか、お菓子の家とか、ケロちゃん風の石像とかたくさん建てたりして……)

 

 

(確かに、その辺はケロちゃんらしいですわね)

 

 

時々、チャットしながらエリオル君の所の黒猫さんと一緒にやってるみたいで、何度か『だったら、お前やってみぃや!!』って、怒ってた時もあったけど……

 

 

「それが、思いのほかうまく行っちゃって、気が付いたらこんな町が出来ちゃってたってわけ。

 ……今でも、建材を集めるために地面を掘ったりなんかしてね。」

 

 

「あー、そう言えば町のはずれに、鉱山の入り口っぽいのがあったけど……」

 

 

「あのゲーム、今ものすごく流行ってるからね……

 みんな、同じ考えに行きついたらしくって、どこもみんな同じ方法で自分達の街を作ってるのよ。」

 

 

そう言えば、コクエン君の居たお城を見た時も、初めて見る感じはしなかったけど、確かにあの建物は、なんとなくあのゲームで作った建物によく似てたかな……

 

 

「まぁ、そういった相手が友好的とは限らないけどね……

 唐突だけど、あなた達コクエンって名前を聞いた事がある?」

 

 

「ほえっ!?」

 

 

ちょうど、あの時の建物の事を思い出したタイミングでコクエン君の名前を出されたので、私は思わず驚いて声を上げてしまいました……

 

 

みんなは声を上げはしなかったけど、やっぱり驚いてたみたい。

 

 

「その様子だと、やっぱり名前くらいは知ってるみたいね……

 山茶花町近辺を支配下に置いていたロッドマイスターで、アイツも部下を使って大きなお城を建ててたそうなんだけど……

 こいつが……なんというか、自分の欲望に忠実なやつでね、

 何度か、この町にちょっかいをかけてきたことがあったんだけど、

 ……少し前に、ソイツの部下があっちこっちでかわいい女の子をさらいに来たのよ。」

 

 

「……その様子だと、マリちゃん達の所にも?」

 

 

コクエン君の話題を出した頃からイライラしはじめマリちゃんに、恐る恐る尋ねてみると……

 

 

「……まさか、クラスターの外であんな真似をするなんて思ってなくて、こっちの事情を知らない子が何人か連れてかれちゃったのよ……

 まぁ、なにがあったのかわからないけど、さらわれた子はその日の内に家に戻ってたんだけどね。」

 

 

「そ、そうなんだ……」

 

 

やはり、コクエン君たちはマリちゃんの友達も、あの時に連れて行ってしまってたみたい。

 

その辺の事情、私達はよーく知ってるけど、あんまり知られないほうがいいよね?

 

そう思ってみんなの方を見回してみると、なのはちゃんとユーノ君はお互い困惑した感じで顔を見合わせてて、アリサちゃんは不機嫌そうにジュースをすすり、知世ちゃんはいつも通り楽しそうに笑ってました。

 

 

「事件の翌日になにがあったのか、流石に気になったから、おとといに山茶花町まで行って調べてきたんだけど、話によればコクエン一派は誰かに壊滅させられたって話で、事件については何もわからなかったし、その誰かに関しても、あやふやな噂しか掴めなかったわ。」

 

「噂?」

 

 

その誰かって、私達の事だよね……?

山茶花町のロッドマイスターのみんなは黙っててくれるって約束してくれたから、別の子から聞いたんだと思うけど、いったいどんな噂になっちゃったんだろう……?

 

 

「なんでも、たった一人で奴らの拠点に乗り込んだそうなんだけど、ほとんどの攻撃はひらりとアクロバットみたいな動きでかわしたうえ、よけきれないのは頑丈な防御魔法で受け止めてかすり傷一つ追わず……

 攻撃で、超強力な光線や嵐のような暴風を巻き起こしたもんだから、コクエンは吹っ飛んじゃった上に、残った配下も泣いて土下座して謝ったほどのロッドマイスターだとか……」

 

 

(一人って……な、なんかとんでもない話になっちゃってる!?)

 

 

これって、私となのはちゃんとユーノ君の情報がごちゃ混ぜになっちゃってるよね……?

 

アリサちゃん達が巻き込まれるきっかけになった噂もそうだけど、どうして噂ってこんな風になっちゃうんだろう……?

大まかな出来事とかは、間違ってない気もするんだけれど……

 

 

「……もしかして、なにか思いあたる事があったりする?」

 

 

「ほえ!? ど、どうして……?」

 

 

「話によれば、その子は女の子だって聞いたし、それに……」

 

 

……もしかして、私達の事気づかれてる!?

いや、まだそうと決まったわけじゃないよね……?

 

 

私は変な声を出さない様に落ち着いてから、改めてマリちゃんの話の続きを聞くと……

 

「メイド服のコスプレをした、アリサって名前とも聞いたのよ。

 その衣装、コスプレっぽいし、そっちの子と同じ名前でしょ?

 だから、関係者じゃないかなって思ったんだけど……」

 

 

ちがいます、全くの別人です。

 私、マギロッドとか言うの貰ってませんから

 

 

名指しされたアリサちゃんは、マリちゃんに背中を向けつつ、首だけ彼女の方に向けて、笑顔ではっきりと答えました。

 

 

―――ギリギリ……

 

「ふぇ~……!」

 

……眉間にはシワが寄っていて、マリちゃんの方から見えない正面側では、両手でユーノ君のほっぺをつかみ、伸びきってしまいそうなくらいに力強く引っ張り上げていたけれど……

 

 

「そうなんだ……まぁ、ここで遊んでる子にもマギロッドを貰った子に連れてきてもらってる子は居るしね……

 ……そういう訳だから、ここと同じ様に作った町は、結構あっちこっちにあるわ。」

 

 

「ゲームの影響でかぁ……

 まぁ、ある意味納得のいく使い方って気もするわね。」

 

 

そう聞くと、アリサちゃんは腕に力を込めたまま上を見上げました。

なにか考え事をしているみたいです。

 

……確かに、カードキャプターになる前とかは、漫画とか、ゲームとか、絵本とかの魔法とかが使えたらいいなぁって思うことは、何度かあったかな。

 

 

実際に使えるようになってからは、そうでもないけれど……

お城みたいに大きい家は疲れるし、不思議の国のアリスの時も大変だったし……

 

 

「……でも、それってつまり、あの不良連中も建物を作れるって事だから……」

 

 

「アリサちゃん、どうかしたの?」

 

 

考え事が終わったのか、アリサちゃんはユーノ君掴んだまま、漏らす様にそう言いました。

その言葉に、ユーノ君を心配しているなのはちゃんが反応すると……

 

 

「……なのはくらいなんじゃないの?

 戦闘用の魔法しか使えない魔法使いって……」

 

 

 

―――グサッ

 

 

アリサちゃんがそう言った直後、なにかが刺さるような音聞こえたかと思うと、なのはちゃんはまるで凍り付いたような笑顔をしたまま胸に手を当てて、うずくまってしまいました……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「……みんな、お疲れ様、お菓子の用意できたから、この辺で休憩にしよう。」

 

 

「了解しました、奈緒子お姉さま!!」

 

 

さくらちゃん達が、ジュエルシードの情報を集める為に、ロッドマイスターの集まる街へ向かっている間……

 

私達は、妖怪の紫さんからもらった一軒家周辺で、山茶花町から来た子達や、コクエン君といた子達が新しい建物を建てる作業の監督とお手伝いをしています。

 

 

私達があの事件で連れていかれたあのお城は、最近流行ってるゲームを真似して魔法を使って建てたそうなので、それを知った知世ちゃんと一緒に、アイデアを出し合いながら、こんな風に出来たらいいなとお願いしたら、みんな快く協力してくれました。

 

 

「ホントすごいねー、結構大きい建物お願いしたのに、もうここまでできちゃうなんて……」

 

 

「いえ、まだ外側だけですから、中の方も出来るだけ注文通りにしないといけませんし。」

 

みんなはそう言いながら、、やる気に満ちた笑顔を見せてくれてました。

早く完成したら、みんな驚いてくれるかな?

 

 

「それにしても、木材や石材はともかく、布とか、明かりとかの材料はどうやって用意してるの?」

 

 

今の段階でも、材料がすぐそこから手に入りそうな、木や石といった材料のほかに、飾りやのれんに使う布や、ガラスを使ったランプと言った、ちょっと手に入れるのが難しそうなものが、結構使われてるけど……

 

 

「ガラスとかは、砂とかを元に作ればできますし、他の小物も、マギロッドの力を利用して作れば、大抵のものは作れますけど……」

 

 

「鉄とか金属とかは、砂鉄集めたりすることもありますけど、基本は粗大ゴミに捨ててあるのを拾ってきて、それを分解して材料にしてます。

 ゲームみたいに、鉱石とか掘れるわけじゃないですし……」

 

 

確かに、ゲームみたいに鉱石を炉で溶かして塊にするのって、魔法だけじゃどうしようもなさそうだもんね。

分解するのも、それはそれですごい技術だけど……

 

 

「他にも、適当な種を持ち込んで魔法を使えば、すぐ実がなるくらいに育てられるし……」

 

 

あー、確かに種のある果物とか食べると育てたくなるもんね。

……っていうか、そうやって育てる魔法とかもあるんだ。

 

 

「果物ばっかりじゃ、塩っけとか物足りなくなるから、資材の作成で余った金属とかを、買取やってるとこに持ち込んで、お菓子代にしたりとか……」

 

 

「……いいのかな、それって……?」

 

 

懐かしむようにしみじみと語る子の台詞を聞いて、すずかちゃんは心配そうにボソッとそう言いました。

 

確かに、大人に知られたらちょっと問題になるかもしれないけど……

 

 

「……すずかちゃん、それを言ったら昔ながらの孤独なヒーローや魔法少女だって、立場がなくなっちゃいそうだから、それはこの際考えないでおこうよ。」

 

 

世の中、少女漫画誌に連載しているお姐さんたちが、大人向けの雑誌で、未成年に堂々とお酒飲ませてる例とかも探せばあるだろうから、深く考えたら負けだよ、きっと……

 

 

「それにしても、初めて会ったときは攻撃用の魔法ばっかり使ってたのに、こんなことまで出来たんだね。」

 

 

「いやぁ、結局はゲームや、思いついたやつの真似ですから、あんまりえらそうなことは言えませんけど……」

 

そう言うと、みんなは顔を赤くしてあっちの方を向いてしまいました。

あんまり、ほめられるのに慣れてないのかな?

 

 

「……あの、奈緒子さん。

 ちょっと気になった事があるんですけど……」

 

すると、今の話に何か気になる事があったのか、すずかちゃんは心配そうな顔な顔でそう尋ねてきました。

 

 

「どうしたの、すずかちゃん?」

 

「なのはちゃんも、みんなみたいに、こういうモノづくりをするための魔法とか使えるんでしょうか?

 私、なのはちゃんの戦うところしか見てないから……」

 

そう言えば……さくらちゃんのカードは色んな事が出来るそうだし、ユーノ君も便利そうなのや、回復魔法を使ってるのは見たけれど、なのはちゃんは戦う為の魔法しか……

すずかちゃんの言葉を聞いて、そんな事を考えていると……

 

 

―――ヒュー……ドスッ!

 

 

どこか遠くで、なにかが高いところから落ちて、誰かに刺さるような音が聞こえてきたのでした。

 

 

 

 

 




ゲームを参考にしているというのは、まぁ小学生がこんな力を手に入れたら
まず参考にするのはその辺の発想からだろうなと言うイメージが元です
ケルベロスの知り合いの某店主も、某ゲーム参考にしてワープ空間つくっちゃったりしてましたし……


なお、ケルベロスの台詞はニューヤングチャンネルからネタを使わせていただきました
ちょうど出演してるのが、ケルベロスとスピネルの中の人なんですよね
……まぁ、変身前ではなく、変身後の方なのですが


そして、至近距離と超遠距離から言葉の暴力を受けたなのはの運命は……!?


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気分ひとつで自由に変形

うーむ、どうにもペースが落ちてしまったかな……
ビルダーズ2プレイ以降、創作意欲が落ち気味な気がする……


 

「なのは! 私が悪かったってば!

 だから、いい加減出てきなさいよ!!」

 

 

アリサは目の前の段ボール箱に対して、先ほどからずっと謝り続けている。

 

 

先ほど彼女が何気なしに言った一言が、想像以上になのはを傷つけてしまったのか……

 

それとも、どこから遠い所から落ちてきたように感じた言葉の刃っぽいなにかのせいなのか……

 

 

「………………」

 

なのはは、暗い表情でどこからともなく、身を丸めれば十分中に納まりそうな大きさで、側面には青い屋根と白い壁の描かれた段ボール箱を取り出すと、そのまま中に引きこもってしまったのだ。

 

 

「ちょっとは反応しなさいよ、なのは!!

 そもそもどっから出したのよ!? こんな段ボール!」

 

 

アリサの言葉に対して、段ボールは微動だにしなかったけれど……

 

「なのは、アリサも悪気があっていったんじゃないんだし、なんだったら、また今度別の魔法を教えるから……」

 

 

僕がそう言ったとたん、一瞬段ボールがピクリと動くが、なのはは外に出てくることはなく、すぐにダンボールは動きを止めてしまった。

 

 

「このぉ……私の謝罪より、魔法の方が大事ってか!?

 なのは! アンタ最近キャラ変わったわよ!?」

 

あからさまな怒気をあらわにし、アリサはついにダンボールに手をかけ揺らし始めたが、どうやって抑えているのか、やっぱりダンボールは微塵も動く気配がない。

 

「なんだか……あなた達も大変みたいね……。」

 

 

「アハハ……」

 

 

僕達のやり取りを見ながら、マリさんは苦笑いをしながらそう言っていた。

 

こころなしか、笑いをかみ殺しているようにも見えるけど……

 

 

「まぁ、なのはちゃんの事はアリサちゃんにお任せするとして……そう言えば、マリさんに伺いたいことがあるのですが。」

 

そう言って、知世さんは二人のやり取りをよそに、マリさんに話しかける。

 

 

……確かに、あの二人はしばらくあのままにしておいた方がいいのかも、下手に横やりをいれたら、余計こじれそうな気もするし……

 

 

「私に聞きたい事って……?」

 

「……ジュエルシードという宝石についてですわ。

 入り口にいた井出君から、マリさんに聞けと言われたのですけれど……」

 

「ジュエルシード!?」

 

そして、ジュエルシードの名を聞いた途端、マリさんは……

いや、彼女だけじゃない、周囲に居た子達も、僕達に向かって不安げな表情で同じように身構え始めたのだ。

 

「え……?」

 

「あなた達、どこでアレの事を……?」

 

「……ご存じなのですね?」

 

がらりと変わった周囲の雰囲気にさくらさんは戸惑っていたけれど、知世さんは対照的に、みんなの放つ圧力をものともせず話を進めていった。

 

「私達は、理由があってみんなに危険が無いようあれを回収しているんです。

 ……もし、所在をご存知であれば、教えていただけないでしょうか?」

 

やさしく、されど強い意志を感じる知世さんの言葉に対し、マリさんは最初、敵視するような視線を崩さなかったけど……

 

「はぁ……どうも、あなた達はアイツ達とは違うみたいね。」

 

 

大きく息を吐いたと思うと、表情を緩めて腰掛けながらそう言った。

 

彼女の言うアイツ達とは、いったい誰の事なんだろう……?

 

 

「あいつ達……?」

 

 

「これまで、率先してジュエルシードを回収してた奴等の事よ……もちろん、コクエンも含めてね。」

 

 

「え!? それじゃあ、他にもジュエルシードを集めてる奴が……!?」

 

 

コクエンがジュエルシードを集めていたのは、フェイトに頼まれたからだ。

理由は、あいつの丸見えの下心だったけれど……

 

 

「変なモンスターに変わったり、色んな事件を起こしてるのは知ってるけれど、コクエンを含めて、どういうわけか近辺のロッドマイスターの集団が、アレを奪いあってた事があったのよ。

 アレが、元々いくつあったのかは知らないけれど、捜索には全部含めてかなりの人数が動いてたから、もうこの近辺に残ってる可能性はないと思うわ……」

 

 

まさかの事態に、僕は思わず息を飲んだ。

 

 

何故、そいつらもジュエルシードを集めようとしているのかは知らないけど、そいつらもコクエンと同じようにフェイトに頼まれてジュエルシードを回収しているのなら、すでにかなりの数が彼女にわたったはずだ……

でも、もしそうでないのなら彼女の手に渡る前に回収しなければ……

 

 

そんな事を考えながら、なのはとアリサの方を向くと、そこでは段ボールから出てこないなのはにアリサが業を煮やしたらしく、力づくで段ボール箱を引きはがそうとしていた所だった。

 

アリサは歯を食いしばっており、下からはが引きはがされまいとして、段ボールを抑えようとするなのはの手だけが見える……。

 

 

「……では、残るジュエルシードの持ち主は、そのロッドマイスターの方々が?」

 

 

「ええ、最もコクエンが持っていた分だけは、どこに行ったかはわからないけど……」

 

 

後ろで、知世さんの問いかけに対して、続きをマリさんが語ろうとした瞬間。

 

 

「見つけたぞ!」

 

 

「!?」

 

 

どこからともなく聞こえてきた大声が周囲に響き、僕も、知世さんも、さくらさんも、争ってたなのはとアリサも手を止め、みんな一斉に声のした方向を向くと、逆行でよく見えないが、高い所にある給水塔のてっぺんに誰かが立っているのが見えた。

 

 

「この数……間違いない、宵闇コクエンを倒したのは貴様らだな!!」

 

 

そう言って、声の主は僕達の方を指さす。

 

 

「え……!? 知世さん達が!?」

 

 

マリさん達は、驚いた顔で知世さん達の方を向いたが、僕達は彼女の口にした別のことに驚く。

 

「な、なんでその事を!?」

 

 

僕達が、コクエンを倒したことを知っている人はごく僅かのはずだ。

僕は、山茶花町の誰かが喋ったのかと考慮したけど……

 

 

「ふん、愚問だな。

 ジュエルシードとか呼ばれていたエネルギー物質、アレを探知するためのレーダーを使えばそれくらいの推論はすぐ立てられるわ!」

 

 

「ッ!?」

 

 

更に想像しなかった答えに、これ以上ない位心臓が跳ね上がった……

ジュエルシードを探知する為のレーダーだって!?

 

 

「そ、そんなもの、いったいどうやって手に入れたと言うんだ!?」

 

 

「手に入れた……? 違うな、サンプルのデータをもとに造り上げたのだよ……この私が!!」

 

 

「!?」

 

 

これまでに集めたジュエルシードは、全てレイジングハートの中に封印された状態だ。

 

 

これを探知する方法は、僕の知る限り存在しない……

それを、彼女は作ったと言ったのだ……!

 

 

「とうっ!」

 

僕達が驚いて声が出なくなっているところに、彼女は給水塔からプールサイドへと飛び降りてきた。

なんだか、降りてくる時の起動が少し変な感じだったけど……それは今問題じゃない。

 

 

改めて彼女の姿を確認すると、スクール水着に、リコーダーの袋が飛び出している赤いランドセルを背負った髪の毛の癖が猫の耳のようにも見えるこれでもかというくらいに、あからさまな小学生をアピールしている少女だった……

 

こんな子が、ジュエルシードを探知するレーダーを作っただって?!

 

 

「さて、それではお前たちの持つジュエルシードを献上してもらおうか……この天才きら様になッ!!」

 

 

仁王立ちの状態で腕を組んでいた彼女、きらはそう言うと、なのはの方に向かって掌を差し伸ばした。

 

 

こうもストレートに持ち主のなのはを選んだという事は、彼女の造ったレーダーはかなりの精度みたいだ……

 

 

「……あなたも、フェイトちゃんに頼まれてジュエルシードを集めているの?」

 

ダンボールから出てきたなのはは、きらの行為に対し、ここから見てわかるほどに拒否する態度を表に出し、彼女の関与を尋ねる。

 

 

「フェイト……誰だそれは?

 私は、誰かの命令で動くのは大っ嫌いなのだ。

 ……そいつには、個人的な興味があってな、私が詳しく解析してやるから、さっさと寄こせ。」

 

 

「断る! ジュエルシードは、人の手に余るものだ!!」

 

 

フェイトは関係ないようだけれど、彼女のあの態度、ジュエルシードを目的はどうであれ、私欲で扱おうとしている事だけは分かる……。

 

そんな相手に、ジュエルシードを渡すわけにはいかない!!

 

 

「アンタ! なにを言ってるのか知らないけど、ここでのルールは、他人に迷惑をかけない事よ!

 人からものを巻き上げようとするなら、今すぐここから出て行って!!」

 

 

「マリさん!」

 

 

彼女と一戦交える事を覚悟していたが、周囲ではすでにマリさんと彼女の仲間達がマギロッドを構えてきらを包囲していた。

 

 

「……なんだそれは?」

 

「アンタが何者かは知らないけれど、これだけの人数を一度に相手できるかしら……?」

 

 

敵意を露にして徐々に包囲を狭めていくマリさん達、しかし、きらは余裕の表情を全く緩める事が無く……

 

 

「そんなおもちゃで、このきら様を相手にしようとは笑えるな……

 ……よし、お前たちに特別に面白いものを見せてやろう。」

 

「面白いもの……?」

 

 

そう言って、きらは背中に手を回すと、すぐさま青い液体が入った瓶を取り出し蓋を外して瓶を逆さにして液体を足元に溢す……

 

すると、地面に落ちた液体はすぐさま盛り上がった形になり、そこから徐々に膨らんで……

 

 

「なに、その瓶……!? 物理法則どうなってんのよ!?

 あれもマギロッドなの!?」

 

 

「馬鹿め、そんなおもちゃと一緒にするな!

 これは貴様の常識など遥かに超えた、このきら様の最高傑作……」

 

 

そうして、さらに大きくなったそれは、彼女の下半身をすっぽりと包み込むと、表面には目と口のような模様が浮かばせた。

 

なんだか、気の抜ける表情だけれど……

 

「私の気分ひとつで自由に変形!!

 世界最強の兵器、きら様スライム(仮)だッ!!」

 

 

「ッ!?」

 

 

きらが身にまとったスライムは、いきなり横に筋骨隆々な形をした腕を生やすと、その巨体からは想像できない速度で突っ込んできて腕を水平に振り払った。

 

 

「「「「「「うわぁっ!?」」」」」」」

 

 

「み、みんな!?」

 

 

サイズがサイズなだけにかなりのリーチと破壊力で、包囲していた皆はあっという間にプールまで弾き飛ばされてしまい、残るはマリさん一人だけになってしまった。

 

 

「ふん、他愛ない……先ほどの大きな態度はどうした?

 この程度では、スライムの性能テストにもならん……」

 

 

そういって、きらは余裕とばかりに鼻息を強くした。

マリさんは、歯ぎしりしてきらの事を睨みつけたけれど、すぐさま振り返り……

 

 

「あなた達! 私が足止めしているうちに逃げて!!」

 

 

「マリさん!?」

 

額に冷や汗を浮かべながらも、僕達にすぐこの場を離れるように言ってくれたのだ。

 

「コイツの強さ、普通じゃない……!

 なんで、あなた達がジュエルシードを集めてるのか知らないけど、こんな奴に渡すよりよっぽどマシなはずよ!

 大丈夫、逃げるくらいの時間は……」

 

 

「出来ると思っているのか? 馬鹿め!!」

 

 

そんな彼女の行為を無駄だと言わんばかりに、きらはマリさんに対して、スライムの拳を振り上げ、叩きつけようとする。

 

 

「「いけないっ!!」」

 

 

僕と……そしてなのはは、すぐさまそれを止めようと前に駆け出したけれど、想像以上の速さに出遅れ、止める事が出来ず拳は振り下ろされてしまう。

 

 

「マリさん!?」「マリちゃん!?」「マリ!?」

 

 

周囲の子達の悲痛な声があちこちから響く……

その声と目の前の光景で、僕達は愕然としてしまったけれど……

 

 

「な……バカなッ!?」

 

 

「あなたは……!?」

 

 

彼女は、僕達よりも早くマリさんの所に駆けつけていた。

 

 

「……許さないよ、自分勝手なわがままで、みんなの事を傷つけて……!」

 

 

「バカな……!? スライムの攻撃を受け止めた!?」

 

 

その光景が予想外だったのか、きらも、マリさんも、ビデオ撮影をしている知世さんを除くみんなは驚いた表情のまま、目の前の出来事を眺めている……。

 

 

両手持ちした星の杖で、スライムの攻撃を受け止め、きらに対し、これまで僕達が見た事のないほどに怒りを露にしている彼女は……

 

 

そのまま杖でスライムの拳を振り払うと、体格差からは絶対に想像できない勢いでスライムが後ずさっていった。

 

 

「き、貴様……なんだその力は!?」

 

 

この出来事は流石に予想外だったらしく、先ほどまで余裕だったきらの表情から、余裕の表情が消えていた。

 

 

 

「……あんまり人の見てる前で、このカードを使いたくなかったけど……」

 

 

 

そんなきらに対し、さくらさんは杖を向けると……

 

 

 

「もう許さないよ!

 私が、思いっきり叱ってあげる!!」

 

 

怒りの表情を見せたまま、強い口調でこう言ったのだった。




冒頭、なのはがありえん方向でいじけてしまってるのは、流れの変わった事による心境の変化が主な原因です


前にも書いたと思いますけど、今回と次の章はなのはが主軸になる予定なので
(主役になるとは言ってないけれど)


そして、きらの相手はなのは&ユーノで行こうかなと思っていたのだけれど
設定的には、きら+スライムは結構な強キャラ(漫画版準拠)なので、さくらが相手をする事になりました


……後は、レンジがかみ合わなさすぎる事とかもかな
投げキャラと砲撃キャラじゃ、流石にタイマンでの描写が難しい……


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激突・わがままプロフェッサー

きら戦のイメージが浮かばなくてちと難産気味になってしまった
前半別シーン入れた事で、なんとか誤魔化してみる事に……


 

 

建築作業の合間の、穏やかな一服の時間、私はジュースを一口飲んでから……

 

 

 

「……そう言えばさ、すずかちゃんはなのはちゃんが魔法を使ってるって知った時、どんな事思った?」

 

 

私はすずかちゃんに対して、何気なくそんな事を尋ねてみた。

 

 

「どうって……どういう意味ですか……?」

 

 

「あ、ごめんごめん、別に深い意味は無いよ、ただアリサちゃんは、なのはちゃんがその辺の事情を黙ってた事、結構不満だったみたいだけれど、すずかちゃんはそんな事ないみたいだから、その辺がちょっと気になっちゃって……」

 

 

コクエン君の所で、みんなが助けに来てくれた時は、すずかちゃんもさすがに驚いてはいたけれど、彼女は事情を知った後も、特に揉め事もなくこうして私達と一緒に活動してくれている。

 

アリサちゃんと比べると、すずかちゃんは大人しいから、それほどおかしくはないと思うんだけど……でも、横から見てるとなんだか少しぎこちない感じがするんだよね。

 

 

「それは……確かに、最初は驚きましたけど、なのはちゃんの様子がおかしかった理由がわかってほっとした方が強かったから……

 ……あの頃のアリサちゃん、そのせいでずっとイライラしてましたし。」

 

 

アリサちゃん、ものすごく気が強そうだもんね、知り合いだと苺鈴ちゃんが一番近いかも。

 

 

そう言えば、苺鈴ちゃんが居た頃は、李君を除けばさくらちゃんと知世ちゃんはよく一緒だったよね。

 

 

強気な苺鈴ちゃんとアリサちゃん……

お嬢様な知世ちゃんとすずかちゃん……

そして、魔法少女のさくらちゃんとなのはちゃん。

 

 

それぞれを比較すると結構違うけど、組み合わせてみるとよく似てる気がするかも。

 

 

「そう言う奈緒子さんは……?

 オカルトとか好きそうだから、ずっと黙ってた事を結構気にしてるんじゃ……」

 

 

「うーん、確かにちょっと悔しいと思ったけど、それ以上に、さくらちゃんが魔法少女って言うのに驚いたかな?

 さくらちゃん、オバケとか苦手だし、どちらかって言うと、身体動かしてる方が得意なタイプだから。」

 

 

きもだめしで、とっても怖がるさくらちゃんを思い出すと、これまでに起こった不思議な事件を解決したようには思えなかったし……

 

 

「そこは、なのはちゃんとは反対ですね。

 なのはちゃん、逆に運動とか苦手な方ですし、算数が得意で、体育が苦手って自分でも言ってましたから。」

 

 

「あ、それもさくらちゃんと反対だ。

 今は少し好きになってるって言ってたけど、なのはちゃんと同じころのさくらちゃん、算数苦手って言ってたから。」

 

 

うーん、どっちも魔法少女なのに、同じようでなんか反対なのも、なんかすごいかも……

全部見た訳じゃないけれど、使う魔法も全然違う感じだったし。

 

 

……けど、あの二人を見てると、なんかそれだけじゃない気がするんだよね、なんというか言葉で言い表せないけど、もっと肝心なところが違ってる感じが……

 

 

「みんな、今頃何してるんだろう……?」

 

そう思っていると、すずかちゃんは上を見上げてそうつぶやいた。

 

 

……うーん、おかしいと言えばやっぱりすずかちゃんもなんだよね。

 

なのはちゃんの事情を聞いてからの反応、秘密を聞いてほっとしたっていうんじゃなくて、もっとすずかちゃん自身に関係がありそうな感じだったし……

 

 

友達の秘密を知って、ほっとする理由……

何があったらそう言う反応をするのか考えると、頭の中にある仮説が浮かんできた。

 

 

「あのさ……こういう事を聞くの、失礼だとは思うんだけど……

 ひょっとしてすずかちゃん、なのはちゃんとアリサちゃんに、なにか隠しごとしてたりする?

 それも、実はすずかちゃんも魔法少女でしたって言うのと、似た様なレベルの。」

 

 

最後の部分だけは、自分でもちょっとありえないかなって思うけど、それ以外は十分あり得そうと思う私の答えに対して……

 

 

すずかちゃんは、一瞬跳ね上がらんばかりにビクッと全身を震わせると……

 

 

「ふえっ!?」

 

 

……そう言って、大げさなポーズをとりながら、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔になってしまった。

 

 

この驚き方……ひょっとして全部あたってる?

魔法少女とかの下りは、流石に冗談のつもりだったんだけど……

 

 

「……なーんて、そんな訳ないよね!

 もしかしたら、ライバルは親友でしたって言うパターンかとも思ったけど、なのはちゃんのライバル魔法少女は、あの時一緒にいたし!!」

 

 

「そ、そうですよ……

 なんですか、秘密って……」

 

すずかちゃんは私の仮説を笑い飛ばそうとしたけれど、その笑顔はあまりにも不自然過ぎたので、作り笑いであることは一目瞭然でした。

 

……正直、秘密に興味はあるけど、これって踏み込んだらダメなやつだよね?

どこか、不安そうにも見えるし……

 

 

こうなったら、もっとありえ無さそうな話で、安心させてあげなきゃ!

 

 

「例えば……黒マントと仮面を被ったお供を連れて怪物退治をしてるとか、実は家族そろって魔界からやってきて魔界の王子様を探してるとか、謎の古代遺物・オーパーツを探してあっちこっちの遺跡を巡ってるとか……」

 

 

そうして、自分でもちょっと無茶苦茶だったかもと思うくらいに、本で読んだ現実にはありえ無さそうな話を、いくつも並べてみたところ……

 

 

すずかちゃんは、笑顔にもかかわらず全身にものすごい汗を浮かべたまま、カチコチに固まってしまいました。

 

 

「イヤデスナオコサン、ソンナワケナイジャナイデスカ……」

 

 

なんとか、口元のあたりを動かして声を出してるけど、笑顔でぶるぶる震えてるから、喋り方がカタコトなっている……

 

 

……もしかして私が言った話、どれかが大当たりしてた?

だとしたら、ぜひとも聞いてみたい所だけれど……

 

 

「……だよねぇ! ごめんね、私不思議体験とか大好きだから、こんな普通はありえない話しちゃって、そうなら面白いかなぁと思って、つい……」

 

「アハハハハ……ソウダッタラステキダトオモイマスヨ」

 

 

……まぁ、秘密にするって事はそれなりの理由があるって事だものね。

興味はあるけど、すずかちゃんは絶対それを知られたくないみたいだし、今は他に面白そうなことがたくさんあるから、これ以上この話をするのはやめておこう。

 

 

そして、コップに残っていたジュースを全部飲み干した。

 

 

「奈緒子さん、ちょっと……」

 

 

すると、建築作業をしている子の一人が私の所へやってきた。

どうも、なにかが起こったみたいな感じだけれど……

 

 

「ん? なにかあったの?」

 

 

「来客です、背中に羽が生えてるから、この間のブンヤと同じ、妖怪の世界から来たみたいなんですけど……

 用事を聞いてみたら、ここのえらい人に会いたいそうなんで……どうします?」

 

 

妖怪の世界……どうやら、さくらちゃん達が言ってた幻想郷の人みたいだね。

 

 

私は行った事はないけど、そこから来たという人にはここで何度かあった事がある。

ただ、妖怪って言う割に、森近さんを除いてみんなかわいい女の子だったから、ちょっと期待と違った感じではあったけど……

 

 

「えらい人って……私、そんな事ないと思うけどな、さくらちゃん達や、みんなと違って魔法が使える訳じゃないし……」

 

 

「いや、最年長ですし、監督ですし、優しくてかわいい……いや、なんでもないです!!

 ……とにかく、せっかく来たから今残ってる人でいいって言ってるんですけど、俺達じゃちょっと話づらい感じなんですよ……

 あっちも美少女で、これまた美人のメイドが付き人やってるから……

 ……あ、メイドさんの方は見た目は完全に人間っぽいです。」

 

 

羽の生えた美少女……一体、どんな子なんだろう?

メイド付きって事はお嬢様だと思うけど、知世ちゃんや、すずかちゃんみたいな感じなのかな?

 

 

「……うん、わかった、私が会うよ。

 すずかちゃんも、一緒に来てくれるかな?」

 

 

「あ……はい、わかりました。」

 

 

先ほどまでおかしな表情になってしまっていたすずかちゃんは、だいぶ落ち着いたみたいで、表情もしゃべり方もいつもの感じに戻っていた。

 

「それじゃあ、どうぞこちらに……」

 

 

そう言って、案内してもらった先では……

 

みんなが作っていた、屋外用のテーブルとイスの所に座っている、コウモリの様な羽の生えた銀髪の少女と……

 

その傍らで、彼女の為に日傘をさしている、スッキリとしゃれたミニスカートのメイドさんの二人が優雅に過ごしているのが見えた。

 

 

すずかちゃんは、何故か彼女達を見ると、どこか驚きつつも怯えているような表情をしてしまったけれど……どうしたんだろう?

 

 

「ふぅん……ガラの悪いのばかりと思ってたけど、そうじゃない子もちゃんといるのね。

 力の持ち主ってわけじゃなさそうだけど。」

 

 

私達の方に視線を向けてきた銀髪の子はそう言うと、私達を観察するように視線を向けてきた。

彼女の顔は、こちら側からだと影になっているのに、眼は不自然なくらいに鮮やかに紅く見える……

 

コウモリの羽……血の様に紅い瞳……そして、メイドさんの指している日傘……

それらをみて、彼女の正体についてある答えが浮かんで来たので、少しの怯えと大きな興奮から、思わずそれを口にしてしまうと……

 

「……もしかして、吸血鬼?」

 

 

「へぇ、いきなり見抜くなんて……

 なかなか鋭いわね……気に入ったわ。」

 

 

彼女は気分をよくしたように、ニヤリと怪しく笑ったのでした。

 

 

―――

 

 

 

 

……突如乱入してきた、きらという子が取り出した巨大なスライム。

 

 

二本の太い腕を伸ばしてきたり、逆ピラミッド型、ドーナツ型と自由自在に変形したり、動きは遅いけど、破壊力も防御力もすごく高くて、あの子を止めようとした、私達の仲間はすぐに倒されてしまった。

 

 

「さて、次はお前だッ!」

 

 

彼女はそう言って、私へとスライムの腕を振りおろしてきたけれど……

 

 

 

「……許さないよ、自分勝手なわがままで、みんなの事を傷つけて!

 私が叱ってあげる!」

 

 

 

目の前には、ジュエルシードの事を聞きに訪ねて来た子のお姉さんの方、木之本桜さんがマギロッドらしい杖で、スライムの腕を受け止めてくれていた。

 

 

「な……バカな!?

 私のスライムの拳を受け止めた……!?」

 

 

 

焦ったきらは、すかさずもう一方の腕を使ってさくらさんを捕まえようとしたけれど、さくらさんは私を抱きかかえてから、腕が当たる前にすごいジャンプをして、私をみんなの所まで運んでくれた。

 

 

「マリちゃん! 大丈夫!?」

 

 

「うん……さくらさんのおかげで

 どうもありがとうございます……」

 

 

さくらさんはそのまま私を下ろしてくれたので、お礼を言うとさくらさんはちょっと気恥ずかしそうにしている。

 

「さくらさん!」

 

すると、すぐさまなのはちゃんとユーノ君が駆けつけてきており、

なのはちゃんの手には、いつの間に展開したのか、彼女の体格の割にかなりの大きさのマギロッドが握られていた。

 

見た感じ、彼女に加勢するつもりみたいだけれど、さくらさんは優しく微笑むと……

 

 

「大丈夫、あの子は私が何とかするから、なのはちゃん達はみんなが怪我をしない様に守ってあげて。」

 

 

「あっ、さくらさん……」

 

 

そう言って、きらの方へと跳んでいき、なのはちゃんは心配そうな顔でその背中を眺めていた。

 

……正直なところ、私も彼女達に対する第一印象は、どこか抜けているお姉さんと、しっかりものの妹?だったから、彼女の心配する気もわかる感じだけれど……

 

 

「ほぅ、私に一人で挑むつもりか? その度胸だけは褒めてやる!

 だが、それは思い上がりという事を教えてやろう!!」

 

 

きらはさくらさんにそう言うと、狙いを定めて再び攻撃を始めた。

私には、受けきれるかどうかわからない位の強烈な攻撃の連発だったけれど……

 

 

さくらさんは、素早く早いジャンプを繰り返しながら、きらの攻撃を、ギリギリのところできれいに避けていった。

 

 

「おのれ! ちょこまかと……」

 

 

きらはそう言って、さらに攻撃を続けていくけれど、やっぱりさくらさんを捕まえる事は出来ない。

腕の動きそのものは、それほど遅いわけでもないのに……

 

 

そして、何度か空振りしたスライムの拳がプールの底に叩きつけられ、大きな隙が出来た瞬間……

 

 

「……今だ、『(フリーズ)』!!」

 

 

さくらさんが、身につけていたポーチから取り出したカードらしきものを突くと、そこから氷の魚の様なものが現れ、プールを一瞬で氷漬けにしてしまった……

 

 

「な……聖霊!? いや、違う……

 だが、これだけの力を出し、しかも御しきっている……!?」

 

 

「ここまでだよ、暴れるのはやめて、みんなにあやまりなさい!!」

 

 

さくらさんは杖を彼女の方に向けながらそう言った。

 

きらはすごく悔しそうな表情をしているけど、スライムの腕も、片方が氷の中に閉じ込められてしまったので、もう動けずにこれで勝負あったかと思ったけれど……

 

 

「くッ……舐めるなっ!! この程度でぇっ!!」

 

 

きらは、ものすごい気迫を込めた怒鳴り声をあげたかとおもうと、スライムもそれに答える様に腕を膨らませて……

 

 

―――バキバキバキッ!!

 

 

「うそっ!?」

 

 

ものすごい音とともに、アレだけガッチリと固められていた氷を砕き閉じ込められていた腕の拘束を解いてしまった……

 

 

そして、そのまま突進し、驚き止まっていたさくらさんを両手で捕まえてしまう。

 

 

「あっ!?」

 

 

 

「まさか、私をここまで追い詰めるとはな……

 そのせめてもの褒美だ! 貴様はこのままぶん投げる!!」

 

 

 

きらはそう言って、さくらさんを捕まえたままスライムと共に高く飛びあがっていく。

 

 

「アイツ……まさか、あのままさくらさんを叩きつけるつもりかッ!?」

 

 

「ええっ!?」

 

 

 

金髪の子、ユーノ君はきらがやろうとしている事を見抜いたみたいだけれど、私達には、ここからきらを止める事は出来そうにない。

 

 

巻き添えを受けない様に遠ざかっていた上に、受け止めて衝撃を軽減させようにも、あの質量が相手では受け止めきれそうにないし、下は凍ったプールだから踏ん張りを利かせることも出来なさそう。

 

 

それでも、何もしないよりは……そう思って、私も、そしてなのはちゃんとユーノ君も落下点へ駆け出すが、間に合う訳もなく、スライムはさくらちゃんを抱えたまま落下……

 

 

「『(ジャンプ)』ッ!!」

 

 

 

「……な、なにッ!?」

 

 

―――した訳ではなかった。

 

 

 

地面に叩きつけられようとした瞬間、さくらさんは地面に両手をついていたのだ。

 

 

普通ならば、その程度で防げるわけがないほどの重量差だけれど、そんな常識を覆して、さくらさんは地面に叩きつけられるのを防いだだけでなく、そのまま彼女を掴んでいるスライムごと、先ほどよりも高く飛び跳ねていった。

 

 

「まさか……『(ジャンプ)』のカードを腕に……」

 

 

よほど強い力で飛んでいったので、反動でスライムが大きく揺れてしまい、その結果腕のホールドが緩むと、さくらさんはそこからするりと抜け出す。

 

 

「ば、バカな!? ありえん……!?」

 

流石に予想外の結果だったらしく、きらは呆然としているようだ。

 

さくらさんは、そのままスライムに埋まっているきらの上半身近くまでいくと、そのままその近くのスライムを掴み……

 

 

「舌噛むよ! しっかり口結んで」

 

 

「なっ!?」

 

 

そのまま二人が乗ったままのスライムはプールへと落下して……

 

―――ドッボーンッ!!

 

 

そこから、大きな水しぶきが上がった。

 

 

プールには、さっきまで氷が張ってたはずなのに……

これも、彼女の魔法の力なのだろうか……?

 

 

「さくらさん!!」

 

 

なのはちゃんは大量に打ち上げられた水しぶきをものともせずに、心配そうな顔でプールに駆け寄っていく。

 

 

あのスライムがクッションになったとは思うけど、アレだけの水しぶきが上がるほどの衝撃を受けて、あの二人は大丈夫なのだろうか……?

 

 

私も、心配になってなのはちゃんの後ろから駆け寄っていく。

水しぶきのせいで、すぐにはよく見えなかったけれど、徐々に収まり、プールがよく見えるようになると……

 

 

「……え?」

 

 

 

私も、なのはちゃんも目の前の光景に、思わず凍り付いてしまった。

 

 

さくらちゃんときらを乗せたスライムが落ちた場所には、先ほどの衝撃で空いたと思われる、大きな穴が開いていたのだから……

 

 

 

 




次で5章は締めかな
我ながら、色々とカオスな事になって来てるなぁ……
6章でも、更にカオスになっていきそうだ


……あと、別ページで裏・知世の野望の公開を始めました
R-18作品なので、興味のある方はそちらの検索ページからどうぞ


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砂底1万センチちょっとの大作戦

5章最終話、特に盛り上がりがある訳ではないのだけれど


 

 

 

「……全く、ワイが一緒におったらこないな目に会わんかったのに、ワイだけのけものにするから、こういう目に会うんや。」

 

 

そう言って、ワイは軽くため息をついた。

 

 

「……ひょっとして、室内プールの一件を根に持たれていたのでは?

 あの時、さくらちゃん結構クリームソーダ楽しみにしてましたから。」

 

 

「クリームソーダ……?」

 

 

知世の言っとるのは、友枝町の室内プールに行った時の事やな。

 

 

あの時も、さくらはワイの事を置いて行こうとしたけど、さくらに見つからんよう荷物の中にこっそりと紛れ込んだワイは、そのまま外に出てさくらのクリームソーダをいただいた事があったんや。

 

 

……さくら、あんな昔の事を根にもつなんて器が小さいで。

 

 

「それにしても暗いわね……これじゃ、よく探せないわよ。」

 

 

「ちょい待ちぃ、今明かりを用意するさかい。」

 

 

アリサの不満に応えるため、ワイは全身から軽く火の魔力を放出すると、あちこちに火の粉の様な光の粒子が広がって暗闇を照らしていく……

 

 

「すごーい、ケロちゃんこんな事も出来るんだ……!」

 

 

その光景を見て、なのはは感心してそう言った。

 

 

「なーに、こんなん初歩中の初歩やで、こんなんワイにとってはほんの朝飯前……」

 

 

「ちょっと待って! こ、これは……」

 

 

そうしてワイが得意げになっている所で、ユーノがなにかを見つけたらしく声を上げたせいで、せっかくワイが決めた台詞がかき消されてしもうた。

 

 

せっかくワイがかっこよく決めてる所なのに……と不満に思いながらも、ユーノの指さした方向に目を向けると……

 

 

「な……なんやこれは……?」

 

 

そこに広がっていたのは、ワイらの想像もせんかった光景やった。

 

 

―――

 

 

時間を少し戻して……

 

ワイらがプールの前にあった更衣室にたどり着いた時、ワイは他のちびっこ共を驚かせんようにさくらのバッグの中に納まっとったんやけど……

 

 

「……ケロちゃんはここで待ってて。」

 

 

「え? さくらちょい待ち……」

 

 

さくらはそう言うと、さくらはワイをバッグの中に置き去りにしたまま、みんなと一緒にプールの方へと行ってもうた。

 

 

なんとかして抜けだそうとしたけど、今回はチャックになんぞ細工でもしよったみたいで、ワイがいくらいじくってもチャックを開ける事が出来へんかったんや。

 

 

 

まぁ、バッグを壊すわけにもいかんし、幸いレモネードのビンを一緒に入れといてくれたから、ワイはそれをちびちび飲みながら、さくら達の事を待っとったんやけど……

 

 

「……ん?」

 

 

しばらくすると、すぐ近くから強い力の気配を感じたので、ワイは思わずマジな顔になった。

この気配は、魔力やない……せやけど、コレと同じものは、前に感じた事がある……。

 

 

―――聖霊力

 

 

魔力とは似て非なる超常の力の一種。

 

 

クロウが生きとった頃には、その力を使う聖女と言われるネーちゃん達と、何度もあった事があるけど、さくらが封印を解いて以降は当時と環境が変わったためか、使い手はとんと見つからんになってしもうた。

 

 

それっぽい力の持ち主は何回か見かけた事はあったけど……まぁ、それはおいといて。

 

 

その聖霊力の持ち主が、なんやら人の集まってる所に現れていきなり大きな力を放った直後、さらに大きな力の持ち主が、そいつに近づいていくのを感じた。

 

 

……この気配は、外が見えなくてもわかる、さくらの奴が聖霊力の持ち主を止めに行ったんや。

 

 

向こうで何が起こっとるのはわからんけど、コイツをこのまま放っておくわけにはいかん。

 

 

ワイはさくらのサポートをする為に、何とかバッグから出ようとしたけれど、やっぱりチャックがどうやっても開かへん……

 

 

「えーい! ド根性やぁーッ!!」

 

 

ワイの気合を込めてそう言うと、周囲の子達がそれを聞いてビビりよったらしく、なんぞ周辺がざわざわし始めたけど、今は関係あらへん。

 

そのまま、力の気配のする方向に向かって、バッグごとぴょんぴょんと何とか飛び跳ね続けると……

 

 

「……このバッグ、確かさくらさんの……」

 

 

「! ケロちゃん!!」

 

 

聞き覚えのある声がしたかと思うと、すぐさまバッグが拾い上げられてチャックを開けられると……

すぐ目の前に、切羽詰まった顔の知世がおった。

 

 

「ケロちゃん! さくらちゃんが……!」

 

 

そう言って別の方向を向いた知世の視線の先には、プールであっただろう場所と、そこにぽっかりと開いた巨大な穴があって……

 

 

その穴の底から、さくらの魔力と先ほどの聖霊力が、ものすごいスピードで遠ざかっていくのを感じることが出来た。

 

 

このスピード……さくら達は、どこかに流されとるんか!?

 

 

「分かった! すぐ追いかけるから背中に乗り!!」

 

 

そう言いながら、ワイは真の姿へと戻った。

周囲の子供達が、ワイの姿を見てさらに驚いたけど、今は構っとる場合やない。

 

 

そのまま背中に知世とアリサを乗せて、なのはとユーノと共に穴の中へと入り……

 

 

真っ暗な穴の中に明かりを灯したワイ達は、その地下に広がる光景……

水の流れる水路をはじめとする、明らかに人の手のくわえられた建築物……遺跡を見て驚いていた……

 

 

「なにこれ……まさか、上の連中、地下にこんなものまで作ってたの!?」

 

 

「……いや、違うと思う。

 上の建築物とは、明らかに方向性が違いすぎる……」

 

 

ユーノの意見に、ワイも賛成や……

おまけに、この遺跡は昨日今日出来たもんやない。

 

あの町の下に、こんな遺跡があるっちゅうんは何か意味がありそうな気もするけど……

 

……今はそれどころやない!

さくらの行方を追う為、ワイは意識を集中する……そして。

 

 

「……あれや! さくら達はあの先や!!」

 

 

さくらの気配がする水路を特定し、その中へ進んでいった。

 

 

その後、しばらくは人の手のくわえられた様な水路が続いていたが、もう少し進むと水路とは言えない、ごつごつとした岩壁に変化していき……

 

……そして、ワイの放った光は徐々に弱まっていってしもうた。

 

 

「ちょっと! なんで暗くするのよ!?」

 

 

「ケロちゃん……?」

 

 

「クッ……ちょっと厄介な事になってしもうた……

 うまく、力の調整が効かへん……」

 

 

この辺、あちこちからなんや奇妙な気配がするし、なんぞ厄介なもんでも埋まってしもうてるらしく、そのせいで周囲を照らす程度の力を、うまく調整する事が出来なくなってしもうた……

 

この気配、さっきの遺跡と関係あるんか……?

 

 

「ん……?」

 

 

「……? ユーノ君、どうかした?」

 

 

「あ、いや……なんでもない……」

 

 

なんか、ユーノの様子が微妙におかしいけど、アイツもこの辺の気配を感じ取るんか?

 

 

「……ケロちゃん、考え中のところ申し訳ありませんが、今は早くさくらちゃんを……」

 

 

「判っとる。

 待っとれ、光を強くするさかいな。」

 

気配も気になるけど、今はさくらの方が大事や。

調整がうまくいかんとはいえ、もっと力を込めれば何とかなるはず……

 

そして、ワイが力を込めて周囲を思いっきり照らすと……

 

 

「ふぉっふぉっふぉっ……こりゃあありがたい。」

 

 

「うわぁっ!?」「きゃあああああっ!?」

 

 

いきなり、目の前に不気味なジイさんの顔が照らし出されたので、ワイとアリサはびっくりして思わず悲鳴を上げてしもうた。

 

 

爺さんは、ワイらの姿を見て特に動揺する事もなく、二・三度頭をかくと……

 

 

「すまんすまん、驚かせてしもうたかの?

 ちょうど、こっちも懐中電灯の電池が切れてしまってのぅ……

 いやぁ、本当に助かったわい。」

 

そういって、ワイらに礼を言ってきた。

改めて、爺さんをよく見てみると……

 

全身、結構な痩せ体形で、口の上からもっさりと蓄えられた白いヒゲがぶら下がっており、目には修理の後があるボロい丸サングラスをかけて、頭には深緑色のニット帽……身体は薄汚れていて、袖の破れている作務衣を着ており、足はさらにボロいサンダル履き……

 

 

……貧乏神を絵にかいたらこんな感じなんやないか?

迷いなくそう思えるような風体やった。

 

 

「それにしても、変わったものに乗っておるのぅ、見ない顔じゃが……さっき、あっちの方に飛んでった子達の知り合いかの?」

 

 

「さくらちゃん、やはりこの先に……

 飛んでいったという事は、ご無事なのですね。」

 

 

この爺さんは、どうやらさくら達の事を見ていたらしく、無事を確認できた知世はほっとして胸をなでおろしていた。

 

 

流石はさくらやな、適当なタイミングで『(フライ)』のカードを使うて、流れからは逃れたみたいや……

 

……せやけど、そしたらなんで戻ってこんかったんやろ?

それに、飛んでった子達っちゅうんはどういう事や……?

 

 

「あの、もう少し詳しく説明してもらってもいいですか?

 ええと……」

 

 

「おお、そういえばまだ名乗っておらんかったのぅ。

 しがない陶芸家の岡田鉄心じゃ、よろしく。」

 

 

なんや、変わった名前のじいさんやな……

陶芸家ちゅうことは、鉄心ちゅうんは雅号かいな。

 

 

……ワイを見て驚かんところを見ると、ただものではなさそうやけど、見た目に反してジーさんはただの人間みたいで、特に力を持っているわけでもなさそうや。

……いったい、なんでこないな所におるんや?

 

 

「岡田さん……ですか」

 

 

知世は、なにやら爺さんの名前になにか思う所があるみたいやけど……

まぁええ、今はさくらの事を聞き出さんと。

 

 

「ついさっきの事じゃがな、ワシがそこで土を取っておると、いきなりそこの流れが強くなってのぅ……

 何事かと、しばらく見ておったら、なにやら特大のゼリーみたいなものが、どんぶらこっこ、すっこっこと……」

 

 

「……いや、桃太郎かっての。」

 

 

爺さんのオーバーなリアクションとどこかで聞いたフレーズに、アリサがすかさずツッコミを入れた。

 

土取りやのうて、柴刈りやったらまんまやったんやけどな。

 

 

「そうしたら、今度は光る羽がそれを追いかけて行っての、この暗さじゃから姿は良く見えなかったが、声は二人分聞こえてきて……」

 

 

 

~~~

 

 

「おい! 遅いぞ!! このままでは、スライムを見失ってしまうではないか!!」

 

 

「ほえ~……そんな事言われても……」

 

 

「急げ! アレは私の最高傑作だ! 誰の手にも渡してはいかん!!」

 

 

~~~

 

 

「……てな言葉が聞こえてきたんじゃ。」

 

 

ジーさんの声を聞いて、先ほどまで張りつめていた緊張感は一気に抜けてしまい、ワイ等は思わず脱力してから……

 

 

「さくらのアホ! いったい何しとんねん!!

 お人よしすぎるにもほどがあるわ!!」

 

すぐに立ち直って、ここに居ないさくらに対して力強くツッコミを入れた。

 

 

何があったかは知らんけど、どうもさくらは脱出した後、

戦っていた相手を助けた上に、相手が使ってたスライムの回収を手伝わされてるみたいや……

 

 

「……まぁ、そこがさくらちゃんの良い所ですから。」

 

 

「いい人すぎて、かえって心配なんですけど……」

 

 

そこは……確かに、ワイもそう思う。

 

……まぁええ、なんやかんや言うても知世の言う通り、そこがさくらのええ所なんやしな。

 

 

「あのスピードなら、そろそろ出口にたどり着いておる頃じゃな、このまま追うより出口の方に迎えに行った方がいいじゃろ。」

 

 

ジーさんはそう言うと、よっこいせと土の詰まったバケツを持ち上げ、ワイらに背を向けた。

 

 

「確かに、このまま暗くて狭い所を行くよりは、そっちの方がいいかも……

 それに、やっぱりここは妙な雰囲気がするし……」

 

「私は分からないけど……その方がよさそうだね。」

 

 

ユーノは、相変わらずこの周辺の気配に警戒しているみたいで、爺さんの提案に乗るよう皆に促し、ワイを含め、みんなもその提案に反対はせんかった。

 

 

「……おっとそうじゃ、ほれっ。」

 

 

「わっ……!?」

 

 

すると、いきなり爺さんが振り返って何かを投げつけて来たのでそのさきに居たユーノがそれをうまくキャッチすると……

 

 

「なんですかこれ……石……じゃない、風化したメダル……?」

 

 

そこには、六角形のメダルが砕けたような形をした石が3個握られていた。

 

 

「お土産じゃよ、この辺じゃ少し土を掘ればいくらでも出てくるんでな……

 暇なときにでも調べてみてはどうかの?」

 

そう言うと、爺さんはまたこちらに背を向けて、機嫌よさそうに鼻歌を歌いながら今度こそ出口に向かっていった。

 

 

 

―――

 

 

 

―――バシャーン!!

 

 

「あそこだ! ここはもう流れが緩やかで、スライムを流すほどの水勢はない!

 今度こそ追いつくぞ! 急げ! さくら!!」

 

「もぅ……そんなに大事なモノなら、あんな使い方しなければいいのに……」

 

 

洞窟を抜けてると、さっきまでいた砂漠とは違う景色が広がっていた

 

流されたきらちゃんのスライムが、そのままの勢いで出口から遠いところまで飛びだしていき、そのまま落下していくと、すぐに勢いよく水柱が上がった。

 

 

きらちゃんが、あのスライムだけはどうしても無くせないと大騒ぎをしたので、私は仕方なくそれに付き合う事にしたんだけど……。

 

 

「……しかし、お前の使うそのカード、なかなかのものだな。

 怪力化に跳躍、おまけに飛行まで出来るとは……

 どうだ? 私に調べさせてくれないか?」

 

ここに来る途中で起源を直したらしいきらちゃんは、カードにも興味を持ったらしく、私に対してそんな事を言ってきた。

 

「……ダメだよ、カードさん達そういうのは嫌いみたいだし」

 

「ふん、つれないヤツめ……

 ……まぁいい、わざわざ施設で調べるよりは、実戦に持ち込んだほうが色々とはかどりそうだしな。」

 

断られたけど、それだけじゃ終わらないよ言った感じで、

きらちゃんは私に抱えられたまま、怪しそうにニヤリと笑った。

うーん、なんだか不穏な事を言ってる気が……

 

 

「とにかく、あのスライムさんを回収したら、もう暴れたりしないでね。」

 

「分かってる、きら様に二言はない。

 ……よし! 見つけたぞ!!」

 

私の話を聞いているのかいないのか、きらちゃんの目は、地面の上に転がっているスライムさんにくぎ付けになっており、そのまま地面の上に降りると、すぐさまわき目も降らずに駆け寄っていく。

 

 

結構流されてきちゃったけれど、こっからどう返ればいいんだろう?

あの洞窟をたどって帰るのは大変そうだし、他の帰り道があればいいんだけど……

 

 

「うわぁっ!?」

 

 

すると、いきなりきらちゃんの悲鳴が聞こえて来た。

慌ててそっちを見ると、そこにはスライムさんを目の前にして後ずさっているきらちゃんと……

 

 

「怪しい子達ね! いったい何者!?」

 

 

彼女を囲みながら、赤いバンダナを付けた、迷彩柄のタンクトップとズボンを付けた子達が、マギロッドらしいものを構えている所だった。

 

そして、さらに奥の方では真っ赤な服を着た女の子が水を滴らせながら、ワナワナと震えていて……

 

「どうやら、あのスライムはあなた達の物のようですわね……

 私の安らぎのひと時を邪魔するとは、許しませんわ……」

 

 

どうやら、さっきの水柱のせいで、水を思いっきり被ってしまい、ものすごく怒って様子でした……

 

 

「あの……ごめんなさい」

 

 

「あやまってすむなら、警察はいりませ……え?」

 

 

迷惑をかけてしまったのは確かなので、彼女に対して頭を下げて謝ると、彼女は突然怒るのをやめ、私の顔をまじまじと見つめ始めました。

 

 

「ほ、ほえ……?」

 

 

私の顔に、何かついているのかな?

慌てて顔に手を当てたけれど、別にそんな事は無いみたい。

 

彼女の様子を見て、周りの子達も不思議に思ったらしく、一人が心配そうに彼女の名前を呼びかけました。

 

 

「あの……シュリ様、どうか致しましたか?」

 

 

シュリ……?

 

 

「おい! さくら! なにをしてる!!

 早く、こいつらを何とかしろ!!」

 

 

きらちゃんは、囲まれたままどうしようもないみたいで、私の方に助けを求めて来たけど……

 

 

私は、きらちゃんの声に反応することなく、シュリちゃんの顔を見ながら、その場にじっとたたずんでいました。

 

 

 




そこで謎の陶芸家と出会った一行と、別の勢力の『ド』真ん中に飛び込んでしまったさくら。
果たしてこの先どうなる事やら……

半分考えていて、半分考えていない感じかも


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第6章:仮面舞踏会(マスカレイド)
ビリー・ザ・ウィンド


ここから6章開始、流れ的にはエリアボス戦なんですが……
果たして、今回はどういう展開になっていく事やら


 

 

「……ふぅ、やっと外に出れたわ。」

 

 

「うっ、まぶしい……あれ、ここって……?」

 

 

鉄心さんの案内で洞窟の外に出ると、そこはさきほど丘の上から街を見回した時、町の奥に見えた坑道と思われる大きな穴のあった場所でした。

 

暗い所から明るい所に出たので、ちょっと目がくらんでしまいます。

 

 

「……さて、ここまで来ればもう案内はええじゃろ、

 ワシは帰って作品作りをするから、あの先への案内は町の子達に頼んでくれ、それじゃあの。」

 

「あ! ちょっと!?」

 

 

鉄心さんは、サングラスを着けていたからかまぶしさに目をやられる事なく、そのまま自分の出番はここまでとばかりに、私達に背を向け、掌を軽く左右に振りながら、アリサちゃんの制止もどこ吹く風で、どこかへと去っていってしまいました。

 

 

「……ったくもー、なんていうお気楽爺さん……」

 

 

「あの人も、黄昏の魔法使いの関係者なのかな……?」

 

 

私達がこちら側の世界、クラスターで出会った初めての大人なので、どうしてあの人がこちら側にいるかは興味深い所ではありますし……

 

それに、鉄心さんの名前、以前どこかで聞いた覚えがあるのですが……

 

 

「鉄心さんの事も気になりますけど、今はそれよりもさくらちゃんを迎えに行かなければ……!」

 

 

「……そうですね、町の子ならわかるって言ってましたから、ひとまずマリさんに聞いてみましょう。」

 

 

優先すべきは、流されて行ったさくらちゃんを迎えに行く事……

その事で意見を一致させた私達は、みんなでうなずき合った後、再びマリちゃん達と会う為に彼女の居たプールの方へと向かったのでした。

 

 

 

―――

 

 

「そう、あの水路の先に……」

 

 

プールサイドに戻って来た私達は、さくらちゃんときらさんの戦いで空いた穴を見つめる子達に、危険だから穴に近づかないよう指導していたマリちゃん達と再会し、穴の中で何があったのかを話しました。

 

それを聞いた彼女は、後の事を彼女の仲間達に任せ、私達を町の集会場として使っている保安官のオフィスを模した建物へと案内し、難しそうな顔でそう言ったのです。

 

 

「……あの先って、そんなにヤバい所なの?」

 

 

「ヤバいって事は無いんだけど……ちょっと厄介な所なのよ。

 ……もっとも、あなた達はあの人が流されて行かなくても、足を踏み入れてったとは思うけど……」

 

 

「どういう事です?」

 

彼女はさらに深刻そうな顔をすると、意味ありげにそう言い、疑問に思ったユーノ君がその先を尋ねると……

 

 

「あなた達、ジュエルシードを探してるっていってたでしょ。

 ……あのエリアを支配するロッドマイスターも、ジュエルシードを集め始めてるのよ。」

 

「!」

 

 

きらさんの襲撃で、うやむやになっていたジュエルシードの話題、マリちゃんは、その続きを語ってくれました。

 

 

「赤金シュリ……それが、あの一帯を支配してるロッドマイスターよ。

 コクエン達ほど、むやみな勢力拡大はしていないから、数はあいつらほど多くはないけど、その分腕利きをそろえていて、数と質の違いはあるけれど、コクエンとまともに張り合えるほどの戦力をそろえているわ。」

 

 

「コクエン達と……!」

 

 

友枝町を襲って来た子達や、亀山小学校で戦った子達……

全部合わせると、山茶花町のレジスタンスの子達とは比較にならない位の人数でした。

 

彼らと比較して、人数は少ないけれど質が高いと言う事は、かなりの腕前のロッドマイスターが揃っていることが予想されます。

 

 

「……元々、私達にジュエルシードの事を教えてくれたのはシュリ達でね、あなた達には悪いけど、コクエン派よりはマシだと思ってたから、私達が見つけたのはシュリ達に渡しちゃったの……ゴメンね。」

 

「いえ、元々バラまいてしまった僕が、どうこう言える立場じゃありませんから……」

 

 

申し訳なさそうに謝ったマリちゃんに対し、ユーノ君は更に申し訳なさそうな顔で、彼女にそう伝えました。

 

 

さくらちゃんだけではなく、ジュエルシードまで……

シュリさんの所を尋ねる理由が、また一つ増えてしまいました。

 

 

「……ところで、マリさんはそのシュリって人と面識があるんですよね?

 だったら、何とか口利きをしてもらえませんか?」

 

 

「うん、今回の事は私達の為にやってくれた事が原因だから、出来るだけの事はしてあげたいけど……

 でも、シュリの事なんか苦手なのよね……」

 

 

なのはちゃんの頼みに、マリちゃんは微妙に嫌そうな顔をしてしまいました。

一応、彼女にとっては味方ではあるのでしょうが、完全に信頼できる相手と言う訳ではなさそうです。

 

 

「そう言えば、あのお爺さん……いったい何者なの?

 こっちにいるのは、みんな子供だけだと思ってたのに……」

 

すると、アリサちゃんはふと思い出したのか、謎のお爺さん・岡田鉄心さんについてマリちゃんに尋ねると、マリちゃんはちょっと意外そうな顔をして……。

 

「鉄心さんのこと? あの人はここに町を作る前から、ここで陶芸用の土を取ってるらしくって……

 どうやって、こっち側に来ているのかは、私達も知らないけど……

 ……町を作る時にも、色々アドバイスしてくれたし、変わり者だとは思うけど悪い人じゃないわ。」

 

 

鉄心さんに対して、そう答えてくださいました。

私が思ってる以上に、信用していらっしゃる様子です。

 

 

「……魔法を使う奴等が集まってる世界に居る爺さん……

 実は、本物の魔法使いとか言うパターンじゃないわよね?」

 

 

「まさかぁ……鉄心さん魔力持ってないし、魔法使ってるとこも見た事ないし……

 まぁ、そう言う噂話をしてる子は、たまにいるけどね……」

 

 

普段はみすぼらしい格好をしている、本物の魔法使い……

王道パターンではありますけど、どうも鉄心さんはそれとは違うように思います。

 

 

もっとも、私達の知っている大人の魔法使いは、幻想郷の方達を除けば、観月先生、李君のお母様達と、執事の偉さんくらい……

 

あ、もう亡くなられていますが、香港で出会った水使いの方もですわね。

 

 

結局、謎のままだった鉄心さんの話題をして、気がまぎれたのか、マリちゃんはすっきりとした表情で大きくうなづくと……。

 

「……いいわ、シュリへの仲介役は任せておいて、ちょっと性格が面倒だけど、迷い込んだ子を探しに行くのを渋るような性格じゃないし……」

 

 

そう言って、協力を口にしてくれた瞬間……。

 

 

―――ギィ……

 

 

 

「残念だが、そう言う訳にはいかなさそうだぜ」

 

 

「え……?」

 

 

「風間!! 帰って来てたの!?」

 

 

入り口のスイングドアが開いて入ってきたのは、カウボーイハットをかぶり、赤いスカーフを首に巻き、腰に交差させた二つのガンベルトをつけた、誰が見てもカウボーイと言いたくなる格好をした男の子でした。

 

 

「こっちの方でも、大変な事が起こったみたいだからな、大急ぎで戻って来た。

 ……初めまして、俺の名は風間美利(かざま よしのり)……風のビリーと呼んでくれ。」

 

「……いや、流石に色々と狙いすぎでしょ。

 それにビリーって……美・利でビリー……

 そこまでかっこつけて、恥ずかしかったりしないの……?」

 

 

自己紹介と同時に、帽子の先を弾きながら決めポーズをとった風間君に対し、アリサちゃんは呆れた顔で冷めた反応をしましたが、彼は特に気にしてない様子です。

 

 

「……風間って、入り口の井出が言ってた?」

 

 

「ええ、西部劇かぶれで、ちょっと格好つけすぎだけど、彼がこの町で一番のロッドマイスター……スタイルは言うまでもなく二丁拳銃で、連射と命中精度は他に並ぶものはないわ。

 ……それより風間、そう言う訳にはいかなさそうってどういう事?」

 

 

彼の苗字は、この町で一番だけあってこれまで何度か耳にしており、それにユーノ君が気づいた所で、マリちゃんはさっぱりとした感じで彼の紹介をしてから、そのまま風間君のさっきのセリフの意味に対して尋ねると……。

 

 

「大まかな話は、安行と剛から聞いた……

 話題の中心の女子二人なら、巨大なスライムともども俺も確認してきた所だ。」

 

 

「えっ!?」

 

 

なんと、風間君は流されて行ったさくらちゃん達の事を実際に目にしてきたと言うのです。

 

 

「コクエンが失脚してから、シュリ達がおかしな動きをし始めてたからな。

 バレないよう、こっそりと奴等の様子を確認していたら、いきなり例の水路から、巨大なスライムが飛び出してな……

 その直後、羽を生やした天使と、彼女に抱きかかえられた猫娘が、それを追うように飛んで来た所を見て来たのさ。」

 

 

「天使って……だからねぇ……」

 

 

どうやら、風間君はなかなか分かっている方のようですわね……と、そうではなくて……!

 

 

「それで、さくらちゃん達は無事なのですか!?」

 

 

アリサちゃんは、彼の発言に対してなにかを言いたそうな顔をしていらっしゃいますが……

風間君は特に気にした様子もなく、私が前のめり気味にさくらちゃんの安否に対して尋ねると、軽くため息をついてから……。

 

「怪我をしてない……って意味じゃ無事だな。

 さっきも言った通り、羽を生やして飛んで来たから、そのままスライムめがけてふわりと地面におりてったぜ。」

 

「そうですか……ほっ。」

 

その後の様子を教えてくださいました。

 

 

さくらちゃんなら大丈夫……だとは思っていましたが、実際に無事だという話を聞けたので、私はほっと胸をなでおろして安堵しました……が。

 

「ちょっと、その言い方だとそれで全部って訳じゃなさそうだけど……

 何か他に問題でもあるわけ?」

 

 

アリサちゃんがそう尋ねると、美利君は首を左右に振りながら肩をすくめ……。

 

 

「……スライムが、よりにもよってシュリのすぐ近くに落ちて、

 それで上がった水しぶきのせいで、シュリの奴がびしょ濡れになったんだ……」

 

アリサちゃんの尋ねたところの、問題について答えてくれました。

 

「びしょ濡れって……!? 

 あのプライドの高いシュリをそんな目に合わせたら……」

 

それを聞くとマリちゃんは慌てた表情で身を乗り出しましたが、話はまだ続くようで、風間君は帽子に手をかけて、視線を隠す様に深くかぶると……

 

 

「そして、二人がのこのことスライムの所に駆け寄っていったせいで、すぐさま怒り心頭になったシュリの取り巻き連中にかこまれて……

 ……そのまま、連れてかれちまったんだ。」

 

 

マリちゃんはそれを聞くと、空を仰いで手を目の上にかぶせてしまいました。

風間君は打つ手なしという具合に、帽子をさらに深くかぶったて首を左右に振っています。

 

 

この二人の態度から、私達にもこの先の展開が非常に厄介になるという事だけは、はっきりと理解出来ました……

 

 

 

 




ちょっと難産だったかなぁ……導入書いて、滑りがよくなればいいけど


なお、風間美利も小野寺マリも、スーパービーダマンのキャラですが、
この二人、原作でもアニメでも面識はなかったはずだったりします


使い勝手的にちょうどいいんだもの、こういう使い方もアリですよね


新型SRCの方も開発再開して、知世の野望SRPG版も展開を変えて作り始めました
まだ更新していませんが……キャラ絵がヘタクソなのは勘弁してください


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流れて追って仮装武闘会

イメージがわかなくて、大きく間をあけてしまった……
SRPG開発の方も停滞気味だったし、これでやる気が再燃してほしいなぁ


 

 

コクエンと対抗できるほどの戦力を持っているというロッドマイスター・シュリ。

彼女もジュエルシードを集めているらしく、さくらさんも彼女の所に流されて行ったそうなので、さくらさんを迎えに行くついでに、ジュエルシードを譲ってもらえるように交渉しようとしていた所で……

 

話によれば、さくらさんは流されて行った先で、シュリに文字通りの水をぶっかける様な真似をしてしまい、彼女を激怒させてしまったのだという……。

 

もちろん、さくらさんがわざとそんな事をした訳じゃないと思うし、そもそも元をただせば、その辺の原因は全部あのきらと言うこのせいなんだけど……。

 

 

 

とんでもない事になってしまったと頭を抱えながら、コクエンと比べればまだ話が通じそうな相手そうだったので、、僕達はマリさん達に頼み込み、どうにかシュリの本距離まで案内して貰える事になった。

 

 

シュリがどんな性格なのかは知らないけれど、あのド天然の……

 

いや、ふんわりとした雰囲気のさくらさんに危害を加える様な危険な相手だという事はない……と思いたい。

 

 

そう思いながら、彼女達の案内でそこそこ整備された道をたどってシュリの本拠地までたどり着くと……

 

そこは周囲が大きな防壁に囲まれ、四隅に円筒形の塔と円錐形の屋根で構成された塔が設置されている中にそびえ立つ。コクエンの拠点とは対照的な洋風造りのお城がそびえ立っていた。

 

 

話によれば、シュリもコクエンと張り合うほどの実力者だそうだけど、力を手に入れるとこういう建物が作りたくなるのだろうか……?

 

 

「さぁ、入り口はこっちよ。」

 

 

そんな事を考えていると、マリさんは手招きして入り口の方へ案内してくれた。

 

 

後について行きながら、何気なく周囲を眺め回してみると、これもシュリの指示なのか、周辺には城の雰囲気にあった建物が所せましとばかり、規則的に並んでいる。

 

 

 

「西部劇の次は、ファンタジーRPGの世界観かいな……

 なんや、ゲームの世界に来たような気分やで。」

 

 

「確かに、あそこのお店なんかカウンターで注文したら、薬草とか売ってくれそうな雰囲気よね。」

 

 

ケルベロスとアリサは、この風景に思う所があるようで楽しそうに、場の雰囲気について話し合っている。

 

 

……この辺、僕にはあんまりよくわからない感じだ。

 

 

「シュリは、派手好みなヤツだからな。

 アイツ好みの煌びやかな雰囲気をベースに、この辺りはこんな具合に仕上がってったんだ。」

 

 

「そういや、さくらも前にお城暮らししてみたいとか言っとったなぁ……

 案外、ここで満喫しとるんとちゃうか?」

 

 

「そうだと良いんだけれど……

 さ、あそこが城に出入りする為の受付よ。」

 

 

そういってマリさんが指さした先には、大きな入り口の前では、ちょっと城の雰囲気に似合わないミリタリールックの女の子達が、門を守る様に立ち並んでいた。

 

……気配から察するに、彼女達も結構な力量のロッドマイスターみたいだ。

 

 

「あれは、シュリの親衛隊……? 妙だな、あいつらが門番をしているなんて……」

 

 

「それに、雰囲気もなんだか前と違う……?」

 

 

彼女達を見ると、美利とマリさんは訝しげな顔をした。

 

 

察するに、普段とはどこか違う感じなのだろうか……?

普段がどうなのかは知らないし、現状特に彼女達と敵対している訳ではないはずなので、二人は少し注意しながらも門の所まで行き、彼女達と話したところ……

 

 

 

 

「……か、仮装舞踏会?」

 

 

「ううん、仮装武闘会。

 今日は、ペアを組んだロッドマイスターが仮装して相手のペアと戦い勝ち進んでいくイベントをやってるの。」

 

 

予想外と言えば予想外過ぎる返答が帰って来てしまった。

 

 

「……あの、私達は先ほどこちらへ連れてこられた女の子を迎えに来たのですが……

 なんでも、シュリさんを事故でずぶ濡れにしてしまったそうで……」

 

 

「え……? あなた達、あの生意気なスク水の子の仲間!?」

 

 

門番の子達は、知世さんが訪ねた内容を聞くと、すぐさま表情が険しくなり、

マギロッドを構えながら、こちらを睨んできたが……

 

 

「あ、いえ! そっちじゃなくてもう一人の子!

 ウチのデザートレイクタウンを、襲ってきたそっちの子から守ってもらったんだけど、

 その際、プールの底が抜けちゃって、その子と一緒にこっちまで流されちゃって……」

 

 

マリさんがフォローしてくれたので、ひとまず構えを解いてくれた。

 

 

だけどほっとしたのもつかの間、彼女達はお互いに顔を見合わせてから改めてこちらを向くと……

 

 

「もう一人……? いえ、私達は何も聞いてないけど……」

 

 

さくらさんの事など知らないとばかりにそう言ってきたのだった。

見た感じ、ウソをついてる様子は無さそうだが……

 

 

「え!? そんな……!? だって、風間さんが……」

 

 

なのはが珍しく動揺して、美利の目撃談を話そうとしたけれど、それを口にする前に慌てた顔のマリさんに口を押さえられてしまう。

 

 

「むぐっ!?」

 

 

その辺の行動を見て、彼女達は怪しそうに僕達を見つめて来たけれど、美利は平静を装い、なのはの代わりにさくらさんについて訪ねてくれた。

 

 

 

「いや、すまない……

 一緒に流されて行った子が、そいつと一緒に、シュリ達に連れていかれたとここに来る途中で聞いたんでな……

 ……何かの手違いと言う可能性もあるし、このまま放っておくわけにもいかない。

 悪いが、中に入って探させてもらえないか?」

 

 

美利がそう言ってから、帽子を取って丁重に彼女達に頭を下げる。

それをみて、彼女達はまんざらでもないという顔をしてから……

 

 

「うーん……今日はさっき言った仮面武闘会をやっているから、招待状を持っていなければ、通しちゃいけないって言われてるのよね……」

 

 

「でも、ああいわれて断るって言うのも……」

 

 

 

互いに顔を見合わせて、僕達そっちのけで相談をはじめてしまった。

 

 

(むー! むー!)

 

 

一方で、マリさんに口をふさがれてしまったなのはは、なにかを言いたそうに、マリさんの手を外そうともがき続けていた。

 

 

 

「あ……ゴメンね、風間が探ってた事ばらされると、ちょっと立場的にマズかったから……」

 

 

「ぷはっ……マリさん、いきなり酷いの……」

 

 

マリさんはそう言ってからなのはの口から手を外したので、なのはは大きく息を吸いながら、いきなり口をふさいだことに対して、不満げに彼女へと抗議の声を上げたが……

 

 

この行為に不信を抱いたのは、なのはだけではなかった。

 

 

「……ちょっと、立場的にマズいってどういうこと?」

 

 

「少し前、ウチととあるロッドマイスターとの間で揉め事があってな……

 そいつが最近、シュリの所に出入りしてるって話があったんだ。」

 

 

アリサの問いに、美利は深刻そうな顔で答えた。

この雰囲気から察するに、そのロッドマイスターは友好的な相手ではないみたいだ……

 

 

「それで、シュリさんの所を探っていた訳ですか……

 いったい、どのような方なんです?」

 

 

続けて、知世さんがその相手の事を尋ねると……

 

 

「悪いが、その話は後だ。

 ……アッチも、ちょうど話が終わったみたいだしな」

 

 

美利はその質問に答えずに、そのまま受付の子達の方を向いた。

どうやら彼女達は話し合いを終たようで、その結論を伝えてくれるようだ。

 

 

「……さっきも言った通り、今は中で仮装武闘会をやってるから、一般の見学者は中に入れる事は出来ないんだけど……」

 

 

「でも、武闘会への飛び入り参加者ならば受けつけてるから、参加ペアとして登録するなら入場を許可するわ。

 ……もっとも、腕に自信があればの話だけれど。」

 

 

「……予想は出来てたけど、だいぶ無茶な展開になって来たわね……

 どうする? 妙な話になって来たけど……」

 

 

アリサは彼女達の返答を聞くと、眉間にしわを寄せ、さもありなんといわんばかりの表情をしながら、僕達に問いかけて来た。

 

 

「まぁ、別に優勝する必要はないんだし……

 参加するだけなら、いいんじゃないかな?」

 

 

「……うん、さくらちゃんを迎えに行かないといけないし、出来るだけの事はしなきゃ。」

 

 

なのはの方も、さくらさんの事が気にかかっているようで、意外と乗り気のようだった。

 

 

「参加者だけとなると、私とアリサちゃんは参加できませんから、この場はなのはちゃんとユーノ君にお任せする事になってしまいますわね。」

 

 

「うーん、二人だけに任せるのは何か心配だけど……」

 

 

知世さんとアリサは僕達の事を、心配そうな目で見ている……

いや、アリサのはなんだかちょっと意味合いが違う感じにも見えるけど……

 

そんな僕達を見かねたのか、マリさんは僕達の方に一歩前に踏み出して……

 

 

「……いえ、ここは私達も協力させてもらうわ。

 町を守って貰う為に巻き込んじゃったんだもの、いいでしょ、風間?」

 

 

「全く、強引なヤツだ。

 まぁ、妙な探りを入れるより、この催しに参加した方が確実か……

 オーケー、俺達もエントリーだ。」

 

 

美利ともども、武闘会に参加して僕達に協力を宣言してくれた。

 

 

「二人とも、ありがとうございます。」

 

 

「……ところで仮装武闘会って言っていたが、仮装の部分はどうすればいいんだ?」

 

 

そう言えば……『仮装』武闘会って、いったい何をすればいいんだろう?

少し嫌な予感がしたけれど、我慢して詳しく話を聞いてみると……

 

 

「なにしろ、シュリ様主催の仮装大会だから……

 怪獣の着ぐるみや、モンスターの被り物みたいな受け狙いのキワモノはダメ、あくまで美しさを表現しなければ、参加許可は出来ないわ。」

 

 

「美しさ……ねぇ。」

 

 

それを聞いて、アリサの目が怪しい物を見るように細めて来たけれど、それは見なかったことにする。

 

 

「風間君と、そっちの女の子は……うん、なかなかの恰好だし、その格好で大丈夫だけど……

 小野寺さんと、そこの金髪のキミは、そのままだとちょっと……

 素材はいいけど、恰好が普通過ぎるのと、色合い的に地味かなって。」

 

 

「色合いが地味……」

 

 

まぁ、発掘現場で使ってた格好だものなぁ……

現場ではいろいろと便利なのだけど、仮装にあうかと言われれば……

 

 

「私は風間と違って、普段着だから仕方ないけど……

 でも、いきなり仮装と言われたって……」

 

 

もし参加できないなんて事になったら、武闘会へはなのはと美利がペアで参加することになってしまうだろう……

 

 

うーん、相性は悪くなさそうだけど、なんだろう、この妙に嫌な感じは……

 

 

 

「大丈夫よ、表の通りに今回の仮装武闘会の為の衣装を用意してあるお店があるから、今なら売れ残りくらいは残ってると思うわ?」

 

 

すると、僕の心配を見かねたのか、受付の子達は衣装についての情報を教えてくれた。

 

 

余り物というのは、あんまりいいイメージはないけど、背に腹は代えられないか。

 

 

「それじゃあ、そっちに行って適当な衣装を探してこよう。」

 

 

「時間があれば、私の方でご用意したかった所なのですが……

 ならば、せめてコーディネートのほうで協力いたしますわ。」

 

 

「いやぁ、ホント楽しみね……うふふふふ……」

 

 

 

……知世さんとアリサは、どこかで見たような怪しい雰囲気を醸し出しはじめたので、僕はそれを警戒しつつ、衣装探しのため、教えてくれた店へと向かったのだった。

 

 

 

……絶対に、前回と同じ轍は踏むもんか!

 

 

 




仮装武闘会ネタはコクエン編やってる頃から考えてたのに、いざとなったら筆が乗らなくなってしまった……
なんで最近は、やりたいネタに到達したタイミングでやる気が無くなるのか……


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コスチュームセレクト

少しずつパロキャラの封印を解いていく事にするかなぁ
1から作るの大変だし、かといって完全モブじゃやりづらい所もあるし

まぁ、今回は存在の雰囲気だけですけどね


 

 

まいったまいった……

 

 

腕利きのロッドマイスターを集めて大会を開くって聞いたので、わざわざ腕試しにやって来たのにやってきたが、まさか男女のペア大会だったとは……

 

 

派手好きなシュリらしいと言えばらしい嗜好だが、一人でやるつもりだった俺は、完全に肩透かしを食らってしまった。

 

一緒に参加するパートナーの当てがない事もないが、この状況でアイツに頼むってのは、流石にないか……

 

 

他に連絡付きそうなのは大体が男だし、その辺で適当な女子を見繕って……

 

『お茶しない?』

 

などと声をかけて頼むなんていうのも、気が進まない。

 

そもそも、そう言うのは俺のキャラクターじゃないしな……

 

 

……まぁ、招待状は別途貰えたから、今日の所は参加者の実力を見極めさせてもらう事にしようか。

 

 

そう思って、改めてシュリの城に向かっている途中で……

 

 

「あれ? アンタ確かこの間の……」

 

 

不意に、聞き覚えがある声をかけられたので、誰の声だったかと思いながら、そちらへと振り向くと……

 

「お前らは、あの時の……」

 

 

そこには、コクエンの所に向かう際に出会った女子達の中で、一番やかましかったヤツ……確か、アリサっていったか?

そいつが、珍しいものを見たと言わんばかりの表情をしていた。

 

更に、その後ろには……

 

 

「あなたはミズチ君でしたわね、その節は大変お世話になりました。」

 

 

黒髪のやや天然気味なお嬢様……知世が、この間の件に関して、軽い会釈をしつつ礼を述べた。

 

 

「特に、なにかをした覚えはないんだがな、そっちに居るのは……」

 

 

「よぉ、久しぶりだな、ミズチ。」

 

 

俺がカウボーイハットを被った男が俺の名を呼ぶと、周りの二人が驚いた顔でそちらを向く。

 

 

「なんだ、知り合いだったの?」

 

「ああ、少し前に町までわざわざ勝負を挑みに来た事があるんだ。」

 

 

風間美利、前に腕が立つ奴を探してあちこちまわっていた時に出会ったロッドマイスター。

一度手合わせした時、抜群の連射力と命中率で、非常に楽しませてもらった相手だ。

あの時は、決着がつかなかったが……

 

 

 

「一応シュリ派だとは聞いていたが、お前がここに来るとはな。

 こいつらとは、知り合いだったのか?」

 

 

「いや、ついさっき知り合ったばかりだ。

 ……それより、ここにいるという事は、お前も例の武闘会に?」

 

 

流石に、ここに居れば理由くらいは察せられるか……

まぁ、それに関してはお互い様ではあるが。

 

「そのつもりだったんだが、残念な事にパートナーが見つからなくってな……

 そう言うお前の方は……?」

 

「もちろん、参加だ。」

 

 

やっぱりか……

 

 

パートナーに関しては、コイツの拠点には派手な活躍はしてないものの、拠点の皆から信頼されている、実力派ロッドマイスター・小野寺マリがいたはず、パートナーはアイツで間違いないだろう。

 

 

「風間、お待たせ!

 ……あら? あなたは確か……」

 

 

噂をすれば何とやら、さっそく当人のお出ましだ。

 

「……ずいぶんと思い切った格好だな」

 

「いいでしょ、せっかくの機会だったから

 思い切ってコーディネートしてみたの、似合うでしょ?」

 

小野寺の言葉に、風間は答えが見つからないようで、帽子で表情を隠そうとしていたが……

 

それにしても、本当に思い切った格好だな……

 

黒のレザーのビスチェ、ショートパンツ、ロングブーツに加え、みぞおちの所までしか丈のない半そでのトップスとは……

 

 

「……普通って言われたの、そんなに気にしてたのか?」

 

「別に、またなんか言われて入れないのも癪じゃない、それにユーノ君の方見たらもっと驚くわよ。」

 

 

「ユーノ……!? アイツも来てるのか!?」

 

 

名前を聞いて、思わず声を荒げてしまった……

まぁ、知世とアリサがいるなら、アイツが一緒にいてもおかしくはないだろうが……

 

 

初見時はサポート向きで、大した相手ではないと思っていたが、コクエンとの一件では想定外の活躍を見せてくれたので、実は一度手合わせしたいと思っている。

 

そうなると、今回出れなかったのはちょっと惜しかったか……

 

……アイツが出るとなればパートナーは、カード使いの木之本か、砲撃使いの高町のどちらかのはず。

 

どちらがパートナーだとしても、コイツとの組み合わせなら相当の所まで行けるだろう。

 

「みんな、待たせてごめん

 ……って、あれ?」

 

 

すると、小野寺の後ろから高町と、彼女に腕を引かれたユーノが姿を現した。

 

高町は、前回と同じ白いバリアジャケットを着用していたが、ユーノの方は……

 

 

「ミズチ……!?」

 

 

「………………」

 

 

正直言って、この格好は想定外だった……

 

 

いや、似合ってると言えば似合ってはいるんだが、コイツコクエンの時の女装だけじゃなく、こんな格好まで……

 

 

木之本や高町の恰好もそうだけど、もしかしてこれがこいつ等の……

 

 

「……趣味か!?」

 

 

ユーノの恰好を見て一通り思考を巡らせた後、

俺の口からは、思わずそんな言葉が飛びだした……

 

 

 

―――

 

 

 

まさか、こんな所でミズチと出会うなんて……

 

 

城をいったん後にした僕達は、仮装武闘会の衣装の為にあちこちのお店を巡って、合う衣装を探していた。

 

ただ、すでに仮装武闘会は始まっているので、どこも品物はだいぶ少なくなっており……

 

 

「あ……これいいわね、ちょうどこんなのが欲しかったのよ。

 後はこれを組み合わせて……」

 

 

マリさんは、運よく彼女の好みに合うものがあったので、嬉々とした表情で、黒い革製の衣装を手に、試着室に直行していったけれど……

 

 

僕にとって肝心な男物の衣装は、どこに行っても碌なものが残っていなかった。

 

 

全くないと言う訳ではなかったのだけれど、どれもあまり物の様なものばかりで……

 

 

「三銃士に出て来そうな衣装が……あ、ごめん、帽子とマントだけだった。」

 

 

「こちらの執事服なら似合いそう……あら、ワイシャツがありませんわ……」

 

 

「あ、この鎧とか軽いし良いんじゃない? ……って、お腹周りしか残ってないわ。」

 

 

みんなも、僕に合う衣装を探してくれて入るのだけれど、見つかるのはどれもハンパ品ばかり……

なんとか組み合わせようにも、組み合わせたら変な格好になること請け合いの物しか残っていない様子だ。

 

変なものを見つけられたらたまらないと、僕も必死で衣装探しに苦戦しているのだけど、やはりいいものが見つからない。

 

どうしようと悩んで居ると……

 

 

「これは、アレとちゃうんか? 前回同様、また女物を……」

 

 

ケルベロスが、あきらめたかのようにとんでもない事を言い出したので……

 

 

「イ・ヤ・だ!!」

 

 

僕は、断固としてその提案を切り捨てた。

 

 

「まぁ、そっちの方が楽なのは確かよね。

 女物の衣装は、それなりに結構残ってるし……」

 

「スカートに、ショートパンツに、チャイナドレス……

 どれも、ユーノ君に似合うと思うんだけどな。」

 

ケルベロスの発言を聞いていたらしく、アリサとなのはが衣装を漁りながら、とんでもない事を口にしている……

 

なんでこう、みんなして僕の事を女装させようとするんだろう……?

 

 

「……大変だな、お前も。」

 

 

がっくりと肩を落としていると、美利が僕の肩を軽く叩いて同情するように慰めてくれた。

 

いいよね、こういうのに巻き込まれそうにないキャラって……

 

「……あ、男物で全部そろっているのがありましたわ。」

 

 

「えっ? どれどれ……?

 ……あっ、これは確かにユーノ君にピッタリかも!!」

 

「よかった、で、どういう衣装なの……?」

 

 

安堵のため息を吐いて、知世さんが広げている衣装を確認してみると……

 

上着は以前テレビで見た、どこかの学校のブレザーのようにも見えるジャケットで、それとセットなのか、少し変わった帽子も一緒に用意されており、ここだけならば問題なく男物と断言できる。

 

……だけど、問題なのは下に身につける方。

男物と言っていたのに、下でひらひらしているタータン柄のそれは、どうみても女物のスカートにしか見えない……

 

 

「ちょっと! 男物って言ったじゃ……」

 

 

期待を打ち砕かれたことに対して、抗議しようとすると……

 

「ほー、キルトやな……

 こら確かに、まごう事なき男物やで」

 

「うそっ!? これで!?」

 

 

「ええ、スコットランドの伝統的衣装で、ここの出身の俳優さんが身につけてる画像とかはたくさんありますわ。

 なのはちゃん、ちょっとこれ持っていてください。」

 

そういって、知世さんは衣装をなのはに預けてからスマートフォンを操作し始め、軽く頷いた後に僕の目の前に差し出してきた画面を見てみると……

 

 

確かに、そこには美形と言っていい男性はおろか、白いひげを生やした初老と思われる男性が、知世さんの用意したものと同じ衣装を着ている写真が写っていた。

 

え……? これ本当に合成とかじゃないの?

確かに、特定の部族の衣装には、たまにとんでもなくトンチキなのがあったりするけど……

 

 

「男物……なら文句ないのよね?」

 

 

……そして、気がつけば上着を手にしたアリサが背後からにじり寄っており……

 

 

「大丈夫、きっと似合うから!」

 

 

その後ろからは、なのはがスカートを手にしていて……

 

 

「仮装武闘会だから、この際思い切ってやってみましょう!!」

 

 

知世さんが帽子をもって、とてもにこやかな笑顔を浮かべていた。

 

 

この流れはまさか、前回と同じ……!?

 

 

助けを求めようと、後ろに居る美利の方に振り向くが……

 

 

「……あれっ!? 誰も居ない!?」

 

 

そこに居たはずの美利は、いつの間にか姿を消していた……

 

 

これって、まさか前回と同じパターン……?

 

 

……ひどいっ!!

 

 

「嫌だとは言わせないわよ、さくらさん助け出さなきゃ、アンタフェレットの姿になれないんだから。」

 

 

落胆してる所に、アリサがダメ押しとばかりに非常に痛いところをついてきた。

 

確かに、今もフェレットの姿になるにはさくらさんの助力が必要なので、必然的になのはの家に戻る事が出来なくなってしまう……

 

いや、そうじゃなかったとしても、さくらさんの事を放っておく気は無い。

 

……こうなると、もう覚悟を決めるしかないか?

 

 

色々とあきらめかけた僕は、みんなの持っている衣装に手を出そうとしたところ……

 

 

「みんな、そのくらいにしておいてやれ。」

 

 

「あれ? 風間さん今までどちらに……?」

 

 

「面白いものを見かけたから、ちょっと譲ってもらって来たんだ。

 これもネタ要素が強いが、ちゃんとした男物だから好きな方を選ぶと良い。」

 

美利がギリギリのタイミングで戻って来てくれ、みんなの事をやんわりと制止したのと同時に、彼の格好にはあからさまに不似合いな唐草模様の風呂敷包みを僕へ手渡してくれたのだった。

 

 

―――

 

 

「まぁ、この衣装もそんなに気に入ってるわけじゃないけどね……

 動きやすいのはすごく助かるんだけれど……」

 

 

「そりゃまた、究極の二択だったな……」

 

 

やや気恥ずかしそうに、頬をかきながらユーノ君の話を聞き、、ミズチ君は同情するような感じで、あきれた様にそう言いました。

 

 

今のユーノ君の恰好は、鋲がついた丸い肩当に、指が出ている青い小手、黄色い脚絆に青い足袋と草鞋。

素肌には長袖の網シャツを身につけ、腰に黒い帯を締め、その上には青い忍び装束とオレンジ色のマフラー。

 

 

その格好は、日本人はおろか日本の事を少しでも知っているならば、誰もが知っている忍者を彷彿とするような恰好でした。

 

……それにしては、少し色彩が派手ですが。

 

 

「……なんか、その格好おかしくない?

 こんな衣装、いったいどこから見つけて来たのよ?」

 

アリサちゃんが疑わしそうな顔で風間君に尋ねました。

 

「さっき、表に知っているヤツが大荷物を抱えてトボトボ歩いてるのを見かけてな……

 もしやと思って声を掛けたら、在庫を抱えて帰る途中だったそうで、そこでユーノの特徴を伝えたら、嬉々としてコイツを渡してくれたって訳だ。

 ……なんでも、江戸時代に愛犬と共にサンフランシスコから来日した、正義の忍者の衣装のレプリカだそうだが……」

 

 

また、ずいぶんと胡散臭い説明ですが、用意したのがこのジャンルだとすると、武闘会に参加するみんなからは不評だったのかもしれませんね。

 

 

「あまりにも嘘くさすぎる……

 いったい、どんな奴がこんなの用意してたのよ?」

 

 

「どっちも、アメリカのドラマの【SHOUGUN】を見て日本に被れた、某インターナショナルスクールの生徒とは聞いたな……

 『男は黙って……』だの、訳の分からない英語だのを言って、すごく胡散臭いヤツなのは確かだが……」

 

それを聞いたアリサちゃんは、開いた口が塞がらないとばかりに、口をポカンと開けてしまいました。

 

 

……ともあれ、この衣装ならば一応派手ではありますし、それなりにユーノ君に似合っていますから、仮装武闘会への参加は問題なさそうです。

 

 

「それでは、私達は一旦戻って、拠点の皆に協力をお願いしてきますので、なのはちゃん、ユーノ君、マリさん、風間さん……

 さくらちゃんの事をよろしくお願いいたします。

 ……ケロちゃんは、もしもの時の為になのはちゃん達と一緒にいてあげてください。」

 

 

「よっしゃ、まかしとき知世、なんかあったら、前回同様ワイが外に出て伝えるさかいな。」

 

 

ケロちゃんは得意げに胸を叩くと、私のお願いを快く承諾してくださいました。

 

 

「仮装武闘会……か、なんだか緊張するなぁ……」

 

 

「向こうじゃ、それなりに大会とかやってるけど、自分がこんな大会に出るとは思わなかった……」

 

 

「勝てないと思ったら、意地を張らずにギブアップする事も考えておけ、別に優勝する事が目的じゃないからな。」

 

 

「さぁ、それじゃあいきましょうか。」

 

 

そして、各々の思いを胸にみんなはお城の門を超えて武闘会会場へと向かっていき……

 

 

私とアリサちゃんは、人気のない所まで移動すると幻想鏡を使い、この後で何があっても対処できるよう、みんなに協力を頼もうと、集会所になっているあの一軒家まで転移したのですが……

 

 

そこでは、何故か山茶花町の子達がワイワイ集まって、一軒家の中にある何かに注目してる様子を見せていました。

 

何人かは、ちょっと腰が引けているようにも見えますが……

 

 

「ん? なにかしらあれ……?

 すずかか奈緒子さんに、なにかあったのかしら?」

 

「すいません、ちょっと通してください…………あら?」

 

 

部屋の中には、奈緒子ちゃんとすずかちゃんがコタツ台に座っており、二人の座っている反対側には、見た事のない変わった雰囲気の女の子が付き人と思われるメイドさんを横に侍らせ、優雅に紅茶を飲んでいました。

 

 

見た感じ、どう見ても日本人ではない様子ですが、奈緒子ちゃんは、彼女を見て、好きな話題をするときに見せる嬉々としており、一方ですずかちゃんは、彼女を見てどこか落ち着かない感じを見せています。

 

彼女は私達に気付くと、カップに残った紅茶を一気に飲み干してから……

 

 

「どうも、お邪魔させてもらっているわ

 あなたが、大道寺知世ね……」

 

 

私の事を名指しで呼ぶと、かわいらしさの中にどこか畏怖を覚える様な、妖しい笑顔を見せたのでした……。

 

 

 




実は、忍者コスではなく、キルトの方で行こうかなと思ってたり……
とはいえ、キルトはそれほど詳しいわけでもないし、武闘会ならば忍者の方がいいかなと思い当初の目的通り忍者ユーノにしました。

なお、衣装の元ネタは新日本企画製侍魂格闘ゲームの、犬の方が本体と言われるガイジン忍者です。
もっとも、最近は割とそうでもないようですが……


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底抜け紅魔館

大分開いちゃったけど、最新話出来たので投稿

最初の方の話も、また見直したらおかしいとこあったので少しずつ直していってます。

ああ、作るものが多すぎて……


「……では、改めて自己紹介するわ。

 私の名はレミリア・スカーレット、幻想郷の霧の湖にある紅魔館の主よ。」

 

 

拠点の一軒家で奈緒子ちゃん達と共に居たお客様・レミリアさんは、凛とした表情で優雅に自己紹介をしてくださいました。

 

「これはご丁寧にどうもありがとうございます、大道寺知世と申します。

 ……あの、奈緒子ちゃん、すずかちゃん、私達が不在の間になにかありました?」

 

失礼の無い様に、レミリアさんに挨拶をかえしてから、私は奈緒子ちゃんとすずかちゃんの様子が、なんだかおかしいのを不思議に思ったので、何かあったのか尋ねてみたところ……

 

「え……!? あ、ううん! あんまり大したことはなかったよ!!」

 

奈緒子ちゃんは、いい事があった時のさくらちゃんみたいに、目をキラキラさせて喜びを表現しており……

 

「あ……私の方も大したことは無いです……」

 

「すずか……?」

 

逆に、すずかちゃんは委縮したかのように小さくなっています。

 

「……あんた、まさかアイツにいじめられたんじゃないわよね?」

 

「う、ううん!! 別にそう言うのじゃなくて……」

 

アリサちゃんは、すずかちゃんが何かされたのではないかと推察して、横目でレミリアさんを警戒しするように睨み……

 

表でこちらを見守っている子達も、なんだか落ち着かない様子で、中には奇妙な物を身につけたり、どこかに買い物に行っていたのか、ビニール袋を片手に急いで駆けてくる子まで居ました。

 

その子は別の子に持っていた袋を渡すと、よほど急いでいたのか荒くなった呼吸を整えようとし、袋を受け取った子は、何故か中からポテトチップスと思われる袋を取り出すと、すぐさまそれを開けようとしていました。

 

ですが、レミリアさんの横に座っていたメイドさんが、その光景を目にした瞬間……

 

 

「え……!?」

 

 

「……失礼、申し訳ありませんが、お嬢様はコレの匂いが大変苦手なので、こちらを開封するのは、私達が居ない時におねがいします。」

 

 

メイドさんがレミリアさんの横から、姿が消えたかと思うと、彼女はいつの間にか先ほどの子達の所に居り、ポテトチップスの袋を取り上げて、ここで開けないよう彼らに注意していました。

 

 

「い、いつの間に……」

 

 

「うふふ……恐れられてるわね、私。

 アレは匂いだけでも苦手だけど、慌てて対策されるほどに素直に恐れられると、気分がいいわ。」

 

その光景を見て、レミリアさんは機嫌を悪くするわけでもなく、却って彼らの行動を見て妖しい微笑みを浮かべていました。

 

 

「……さすが、吸血鬼のメイドさん。

 やっぱりあの人もただものじゃないんだね……」

 

奈緒子ちゃんは、驚きながらも感心していますが、何故かすずかちゃんはそれを聞いて、こっそりと頷いているようにも見えました。

 

 

「それで、レミリアさんはどのようなご用件でこちらへ?」

 

「……ちょっと、新しい服が欲しくてね。」

 

「……服?」

 

私の問いに対する答えに、周囲の皆はレミリアさんの真意がつかめない様子でしたが彼女は、そのまま話をつづけました。

 

 

「つい先日の事、ウチの周辺でいつも遊んでいる妖精が、見た事のない雰囲気の服を身につけていたのを見かけてね……

 色々と素晴らしい意匠の服だったから、どこで手に入れたかと尋ねたら、ちょっと苦労したけど、外から来た子から貰ったって聞いたのよ。」

 

 

「あ、ひょっとしてチルノさん……」

 

 

コクエン君の事件で、チルノさんに力を貸してもらうために、対価として渡した私の手製の服……

 

どうやら、チルノさんは気に入ってくれているみたいです。

 

 

「そこから、色々と調べさせてもらったんだけど、あの服は貴方がつくったもので、間違いないわね?」

 

「……はい、相違ありませんわ。」

 

私がそう答えると、彼女は喜んでいる風に目を細め……

 

「どう? 私にも服を仕立ててもらえないかしら?

 ……八雲紫から、約定と対価の話は聞いているわ。

 私の対価は、貴方達への協力……悪い話ではないと思うけど?」

 

掌を上にした手を私達の方に差し出すと、そう提案してきました。

 

レミリアさんの詳しい実力は分かりませんが、先ほど力を見せたメイドさんを従えている点や、この威厳とも言うべき雰囲気から察するところ、彼女はかなりの力を持った方のようです。

 

 

正直、今はさくらちゃんを救出するのに人手が欲しいですし、すぐさまお願いしたいところではあるのですが……

 

 

「力を貸してくださるのならば、こちらからお願いしたいですわ。

 ただ、ちゃんとしたものを作るとなると、寸法から取らねばいけませんし、仕立てるのにも時間がかかりますから、それなりに時間がかかってしまいますが……」

 

 

「構わないわ、私も永く生きている身だもの、仕立てを待つのは気にならな……ん?」

 

そんなものは気にもしないとばかりに、機嫌のいい顔をしていた所に、彼女はなにかに気付いたのか、外の方に目を向けると……

 

 

「あ、お嬢様! そんな所に居たんですかー!!」

 

 

「美鈴!? 貴方なんでここに……」

 

彼女の視線の先には、中国の人民服を彷彿とさせるような緑色の服と帽子を被った、赤毛の少女がいらっしゃいました。

 

どうやら、レミリアさんのお知り合いのようですが……

 

「レミリアさん、あの方は……?」

 

「……っと失礼、彼女はウチの門番の紅美鈴(ホン・メイリン)よ。

 今日は留守を任せておいたのだけど……」

 

「すいません、ちょっと屋敷の方で事件が起こってしまって……

 あ、咲夜さん、一枚いただきますね。」

 

「あ、ちょっと……!」

 

少し不機嫌そうな顔になったレミリアさんとは対照的に、美鈴さんは困った様子を見せながらも、笑顔を崩さず咲夜さんの持っていた袋からポテトチップスを一枚取って口に放り込みました。

 

「あれ? この味と匂いは……」

 

……あの袋、何時の間に開けてしまったのでしょうか?

 

「事件……? 塔の事件があるから、今はどこも異変を起こさないはずだけど、身の程をわきまえない妖精でも迷い込んできたのかしら?

 ……あと、こっちに近寄るんじゃないわよ。」

 

レミリアさんは不機嫌そうに顔をしかめながら、美鈴さんにそう言い放ちました。

 

 

「すいません、まさか味付けがこれだとは思わなくて……

 ……それがですね、紅魔館に妖精じゃなくて人間が入り込んできちゃったんですよ、それも外来人……」

 

「外来人……ですって?」

 

 

美鈴さんの話を聞いて、顔が険しくなるレミリアさん。

確か、外来人というのは幻想郷の外から入り込んだ人の事だったはず……

 

 

「これも、塔の事件が影響してるんですかね……?

 更に変わった事に、迷い込んだのは猫の耳みたいな髪型をした水着を着た女の子でして……」

 

「水着ねぇ……私にはわからない感覚だけど……」

 

レミリアさんは、侵入者の恰好には興味がない様子でしたが……

 

「ちょっと待ってください! その子はひょっとして……」

 

「知世ちゃん?」

 

 

美鈴さんの口にした特徴には、私に思い切り心当たりがあったので、少し思案した後レミリアさんの方を向き、お願いをする事にしました。

 

 

「……レミリアさん、申し訳ないのですが、レミリアさんのお屋敷でその女の子と合わせていただけないでしょうか?」

 

 

「あら、ずいぶんと度胸のある発言ね

 うら若き乙女が、吸血鬼の屋敷に自ら乗り込もうだなんて……」

 

 

私のその発言を聞くと、レミリアさんは怪しい笑顔でそう言いましたが、更に興味深そうに私を見つめると……

 

「……いいわ、なにか考えがあるみたいだし、ご招待するわ、大道寺知世さん……」

 

私を、屋敷へと招待してくださいました。

 

「知世さん、私も一緒に……」

 

私の事を心配してくれたのか、アリサちゃんは同行を申し出てくれましたが……

 

 

「いえ、アリサちゃんは協力してくださる方達をまとめて、いつでもシュリさんのお城に乗り込めるよう準備を進めててください。

 恐らく、あちらでも一悶着ありそうですから……」

 

万が一、なのはちゃん達の方で何かあったら、そちらも何とかしなければいけないので、彼女にはそちらの方をおまかせする事にしました。

 

 

「それじゃあ、早速案内させてもらうけどその前に……

 咲夜! 美鈴!!」

 

「はい!」

 

「なんでしょうか、お嬢様?」

 

堂々としたレミリアさんに名前を呼ばれた二人が、凛として返事を返すと……

 

 

「……あなた達は、口をよーくゆすいで来なさい、臭いがしなくなるまで帰ってくるんじゃないわよ。

 あと食べちゃった分はちゃんと払っておきなさい」

 

 

「はい……申し訳ありません」

 

 

「たはは……なにせ味がアレでしたからね……」

 

咲夜さんは申し訳なさそうに、美鈴さんは困った顔で頬をかきながら、レミリアさんの言いつけに答えたのでした。

 

 

咲夜さんも、ついうっかりつまんでしまったのですね……

 

 




異変の影響で、新たなる侵入経路が追加されました。
これが、後々どういう事態を巻き起こしていくのか……

そして、たまにいますよね、オカルト系が出てくるとブルック初対面時のウソップの如く
魔除けグッズフル装備するキャラ

にんにくはお手頃なものが無かったので、ポテトチップスで代用する事になりました(何


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