BLEACH 結界争闘篇 (アルフレット)
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第一話

初めまして
完全に自己満足で書いていますが、
楽しんでいただけると幸いです。

アルフレット



目を開けると見たことない天井が目に映った

 

「ここは……」

「目ぇ覚めたか」

 

視線を少し動かすとオレンジの髪の男がいた

男は立ち、ふすまを開けて言った

 

「浦原さん!目ぇ覚ましたぞ」

「ハイハイ!今行きます」

 

しばらくするとふすまのを開けて妙な格好をした男が入ってきた

その後ろからオレンジの長髪の女、背が高く色黒の男と黒猫が入って来た

 

「気が付いたんスね」

「よかった~なかなか目を覚まさないから心配したよ~」

「なかなか目を覚まさなかった…?」

「あぁ、お前、二日間ずっと寝てたんだ」

「二日間?そうなんだ…」

 

二日間そんなに寝ていたのか

外を見やれば空は赤く染まっていた

自分の感覚でいえばまだ数時間しか経っていないようなのに

 

「ところであなたたちは…誰?ここはどこ?」

「ここは私の家っス

 そしてアタシはしがない駄菓子屋、浦原商店の店主で浦原喜助っていうもんっス」

「俺は黒崎一護だ」

「私は井上織姫!よろしくね~」

「茶渡泰虎だ」

 

一人一人順に自己紹介されたが、なぜこのような状況になっているのか

理解できず、つい惚けてしまう

するとそんな私の様子をみて心配になったのか

黒崎一護と名乗った男が顔を覗いてきた

 

「大丈夫か?」

「大丈夫…何で私はここにいるの?」

 

黒崎さんたちは顔を見合わせた

そんな様子を見て首を傾げた

 

「覚えてないのか?」

「うん…」

 

三人は少し驚いて、どう説明しようか悩んでいるようで

それを見かねた浦原さんが説明してくれた

 

「道端にケガをして倒れてたらしいんスよ

 それでうちに近かったんでうちに運ばれたんスよ」

「ケガ?」

「もう治療してしまったので今はありませんが

 覚えてませんか?」

「…覚えてない」

「そうっスか…わかりました

 まだ本調子じゃないでしょうから

 もう少し休んでいてください」

「…わかった」

 

横になるように促されて、もう一度横になると眠気が襲ってきた

それに逆らわずに目を閉じると深い眠りへと落ちていった

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

あいつが寝入ったことを確認すると全員、静かに部屋を出た

そして別の部屋に入った

しばらく沈黙が続いた

俺は気になっていることを浦原さんに聞いた

 

「なぁ、あいつ何で(ホロウ)に襲われたんだ?

 あいつからは霊圧を感じねぇんだろ」

「ハイ…正直、アタシにもわかりません。

 夜一さんはどうっスか」

「儂にもわからんが、

 あの娘…どこかで見たことがある気がするんだがの…」

 

黒猫姿の夜一さんが答えると浦原さんはうなずいた

 

「夜一さんもスか…

 アタシも見覚えがあるんスよね」

「浦原さんと夜一さんの知り合いってことか?」

「そうかもしれないっスね」

 

俺が確認すると、浦原さんは肯定した

また静寂が部屋を包む

浦原さんがは窓の外を見るのにつられて

俺も見るともう日が暮れていた

 

「もう暗いっスね

 皆さん、今日はもう帰った方がいい

 あとのことは私と夜一さんに任せて下さい」

「もうこんな時間か」

「…ム。そうだな」

「そうだね。夜一さん、浦原さん、あとはお願いしますね」

 

俺たちははそれぞれの荷物を持ち、浦原商店を後にした

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

黒崎サンたちが帰り、残されたアタシたちはまた考え込んでいました

 

「なぜ虚に襲われたのか

 彼女は何者なのか

 わからないことが多すぎますね」

「そうじゃのぅ

 あの娘に色々聞かなければならんな」

「考えても仕方がないんで夕食にしましょうか

 鉄裁サン、雨、ジン太くん!夕食にしましょう」

 

これ以上考えても埒が明かないだろうと思い、

夕食にしようと皆に声をかけた

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「あの子大丈夫かな?」

「まぁ…大丈夫じゃねぇか?

 浦原さんと夜一さんがついているしな」

「…心配ないだろう」

 

浦原商店を後にした俺たちはすでに暗くなった道を歩いていた

話題に上るのはやはり助けたやつのことだった

 

「そういえば名前、まだ聞いてなかったね」

「そうだな。また明日、浦原さんのとこに行くから

 その時に聞けばいいだろ」

「でもどうして双天帰盾、効かなかったんだろ?」

 

双天帰盾、井上が使うことができる治癒術

それが助けたやつには効かなかった

そして思い出されるのは助けた時、二日前のことだ

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

高校からの帰り道、俺は井上とチャドと歩いていた

話しながら歩いていると、虚の霊圧を感じた

 

「虚か…近いな」

「そうだね…行こう!」

 

三人で虚の霊圧がする方へ走った

虚はすぐに見つけることができた

俺は代行証を使い、死神化した

虚のそばに背中にケガをしたやつが倒れていた

 

「ケガしてるやつがいるのか

 チャド、井上、あいつを頼む!

 俺は虚を倒す!」

「「わかった!」」

 

俺はケガしているやつを井上とチャドに任せて

俺は虚を二人から離して、倒しにかかった

そして虚を倒して、元の体に戻り、二人の元へ駆け寄った

 

「一護…」

「どうだ?」

「黒崎君…」

 

井上は焦っているようだった

 

「双天帰盾が効かないの…!

 何度も試してるんだけどすぐに解けちゃって…」

 

怪我の状態はかなりひどく、

すぐに手当てをしないとまずいようだった

 

「浦原さんのとこに連れて行こう‼」

 

俺はケガしたやつを背負って走り出した

 

浦原商店に着くと、すぐに浦原さんを呼ぶ

 

「浦原さんいるか⁉︎」

「ハイハ〜イ

 ここにいますよ」

 

この場に似合わない飄々とした雰囲気の浦原さんが姿を見せた

 

「どうしたんスか

 そんなに慌てて」

「浦原さん‼

 この子を助けてください‼︎」

 

井上が浦原さんに訴えると浦原さんは俺が背負っている少女を見て

表情が険しくなった

そして家の中に向かって言った

 

「雨、部屋を用意してください

 鉄裁サンはこっちを手伝ってください

 皆サンはついてきてください」

 

部屋につき俺がケガしてるやつを降ろすと

すぐに鉄裁さんによって治療が開始された

 

「鉄裁サン、あとはお願いします

 皆さんはこちらへ」

 

そう言って浦原さんは俺たちを引き連れて別の部屋に入った

腰をおろすといつもと違った真剣な表情を浮かべて

俺たちに尋ねた

 

「さてと…説明していただけますか」

「あぁ…

 虚の霊圧がしたから行ったんだ

 そこにさっきのやつが倒れていて井上とチャドに任せて俺は虚を倒した」

「はい…黒崎君が虚を倒している間に双天帰盾で治そうとしたんですけど…

 すぐに解けちゃってできなくて」

「…あぁ

 井上が何度やってもすぐに解けていた」

 

浦原さんは少し考え込み、しばらくしてから顔を上げた

 

「そうっスか…

 つまり黒崎サンが虚を倒してる間に井上サンが治そうと試みた

 しかし、できず今に至ると」

「はい…」

「ハイ。わかりました

 いまは鉄裁サンの治療が終わるのを待ちましょう」

 

部屋の中を静寂が包み込む

しばらくすると治療を終えた鉄裁さんが入って来た

 

「店長…終わりました」

「お疲れ様っス

 どうでした?」

「ケガは確かに虚によるものです」

「やはりそうっスか

 ケガの治りはどうでしたか」

「時間がかかってしまいましたが、もう大丈夫でしょう」

「わかりました」

 

俺たちは安堵の息をついた

浦原さんは扇子を開き、扇ぎながらいつもの雰囲気に戻った

 

「それなら安心ですね

 もう暗いですし、黒崎サンたちは帰った方がいい」

「でも…」

「おそらく今日は目を覚ましませんよ」

「井上…俺たちがいても邪魔になるだけだ」

「そうだな。井上、あとは浦原さんたちに任せようぜ」

 

渋る井上を俺と茶渡で説得し、荷物を持った

井上はまだ納得しきっていないようだったが、俺たちに倣い荷物を持った

 

「じゃあ、あとはお願いします」

「ハイ。気をつけて帰ってください」

「はい。お任せください」

 

井上は二人に頼み、俺と茶渡は井上を待ち、歩き出した

そして俺たちは浦原商店を後にした

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「目が覚めてよかったけどわからないことだらけだね」

「そうだな。明日にはいろいろ訊けるだろ」

「そうだね。」

 

いつの間にか分かれ道に着いていたようだ

 

「あっ私はこっちだからまた明日ね」

「家まで送らなくて大丈夫か?」

「う、うん大丈夫だよ

 じゃあね~、黒崎君、茶渡君」

「あぁ、気をつけてな井上」

「俺も今日は寄るところがあるから

 一護、井上、また明日」

「おう。チャドも気をつけてな」

 

俺たちはそれぞれの帰路についた

 




最後までお読みいただきありがとうございました
次回も読んでいただけると嬉しいです
では、今回はこの辺で失礼します

アルフレット


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第二話

開いていただき、ありがとうございます
拙い文章ではありますがですが、楽しんでいただけると幸いです

アルフレット



目を覚ますともうすでに昼を回っているようだ

体を起こし、あたりを見回すと枕元に黒猫がいた

じっと見つめていると、黒猫は立ち上がり

ふすまを器用に開けて出ていった

その後ろ姿を見つめ、次に窓の外に目を向ける

空は晴れ渡っていた

眩しさに目を細めていると、誰かが入ってくる気配を感じた

そっちを見ると浦原さんと長身でおさげの男が入ってくるのが見えた

 

「おはようございます

 気分はどうですか?」

「おはよう…浦原さん…?」

「もう名前、憶えてくれたんスね」

「うん…そっちの人は誰?」

「私は握菱鉄裁と申します

 鉄裁とお呼びください

 食事を持ってきましたのでどうぞ食べてください」

「ありがとう

 …いただきます」

 

手を合わせて早速食べる

鉄裁さんが持って来てくれた食事はとても美味しかった

久しぶりに誰かが作った料理を食べた

 

私が食べているのを見て、浦原さんはニコニコしていた

鉄裁さんはどこか安心したように私を見ていた

浦原さんが思い出したように口を開く

 

「ちなみにアナタのケガを治したのは鉄裁サンなんですよ」

「そうなんだ。ありがとう」

「いえ。礼にはおよびません

 元気になったようで何よりです」

 

正直、こんなごつい人が私を治してくれたことに驚いた

人は見かけによらないんだなと思ったことは内緒だ

 

「ごちそうさまでした」

「完食ですね。」

「…おいしかった」

「お口にあったようでよかったです」

 

私が完食したことが二人ともうれしいようだった

そして、鉄裁さんは食べ終えた食器類をさげるために

ふすまを開けると黒猫が入って来た

黒猫が入るのを待ってから鉄裁さんは食器類を持って出て行った

部屋に浦原さんと枕元に座っている黒猫と私だけになると

浦原さんが聞いてきた

 

「そういえばまだ名前を聞いていませんでしたね

 お伺いしても?」

「…院殿(いんでん)(そら)

「院殿天サンですか…」

 

浦原さんは驚いているようだった

目を大きく開き、信じられないというような表情をしている

心なしか黒猫も驚いている気がする

 

「浦原さん…?どうしたの?」

「あ、いえ。なんでもありませんよ

 夕方には昨日いた人たちが来ると思うんで

 それまでゆっくり休んでいてください

 そのときにまた話を聞かせてください」

 

そう言うと浦原さんと黒猫は部屋を出て行った

その背中を見送りながら思う

 

(そういえば浦原喜助ってどこかで聞いたことがある気がする)

 

おなかが膨れたからかあんなに寝ていたのにまた眠気が襲ってきた

横になるとすぐに心地よい微睡に包まれていった

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

天サンの部屋を後にしたアタシたちはまだ驚いていた

 

「まさか院殿サンの娘サンだとは思いませんでしたね」

「そうじゃの

 儂もさすがに驚いた」

 

部屋に入り、夜一サンと腰を落ち着けて話す

 

「道理で見たことがあったんスね

 分からなかったのは、

 会ったのがまだ彼女が幼い時の一回きりだったからですかね」

「そうじゃったな

 あんなに幼かったのにおおきくなったのぅ」

「しかし、あまりお二人には似ていませんね」

 

鉄裁サンが入れてくれたお茶を飲みながら一人と一匹でそんな話をする

 

「さて、黒崎サンたちが来るまでもう少しありますね」

「そうじゃの。じゃが、一護たちにはどう説明するんじゃ?」

「彼女自身のこと、家のこと、一族のことは彼女自身から話すべきでしょうから

 アタシから話すつもりはありません」

「そうか

 まぁ、そうじゃの」

 

夜一サンはそういうと立ち上がり、ふすまに向かって歩き出した

アタシはそんな夜一サンを見て、またかと思いましたが一応聞いてみますか

だいたい予想がついていますが

 

「夜一サン、どこに行くんスか」

「なに、天のそばにいてやろうと思ってな

 おぬしと茶を飲んでも仕方ないしの」

「そうっスか…いってらっしゃい」

 

夜一サンはずっと天サンについていますね…

結局アタシは一人で寂しくお茶を飲むことになってしまいました

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

学校が終わり俺たちは浦原商店に向かっていた

昨日と違うのは眼鏡をかけたやつが一人増えているところだ

 

「おい、石田!何でお前がついてきてるんだよ」

「僕が一緒に行ってはいけないのか」

「来る必要はないだろ

 昨日も一昨日も来なかったのによ」

「仕方ないだろ

 昨日と一昨日は用事があったんだ

 僕は君みたいに暇じゃないんだよ」

「何だと!!俺だって暇じゃねぇよ」

 

俺と石田はいがみ合っていた

そんな様子を井上とチャドは呆れながら眺めていた

 

「でも、あの子に何かあるなら石田君にいてもらった方が心強いかな~」

「俺も井上に同感だ」

「二人はわかっているようだね

 黒崎、これが現実だ」

「お前ら…‼」

 

井上と茶渡が必要だといったことに気分を良くした石田は俺を馬鹿にしやがった

俺たちのいがみ合いはさらにヒートアップしそうになったところで

浦原商店に着いた

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

賑やかな声で目を覚ます

黒崎さんたちが来たのだろう

まだ眠気の残る眼をこすりながら体を起こすと枕元には黒猫がいた

見つめていると黒猫は部屋から出て行った

その姿を見送って窓の外を見ると少しオレンジがかった空が見えた

そうしているとふすまの向こうから声がした

 

「起きてますか~?」

「…起きてる」

「入りますね~?」

「…どうぞ」

 

答えるとふすまが開き、浦原さんたちが入ってくる

その中には見たことのない人が二人いた

黒猫がいなくて残念に思ってしまった

 

「よう」

「こんにちはー!具合はどう?」

「…こんにちは

 えっと…黒崎さんと井上さんと茶渡さん…?」

 

黒崎さんと井上さんが声をかけてくる

名前を呼ぶと井上さんは嬉しそうに顔を緩めた

 

「もう覚えてくれたんだね~」

「うん…」

「黒崎さんじゃなくて一護でいい」

「あっ私も織姫がいいな~」

「わかった…じゃあ、一護さんと織姫さん

 それでそっちの人たちは…?」

 

色黒の女性と眼鏡をかけた男を見る

すると女性は私と目線を合わせて笑顔で言った

 

「儂は四楓院夜一じゃ

 ずっとお主のそばにおったが気づかんかったか?」

「そばにいた?ずっとそばにいてくれたのは黒猫だけまさか…」

「そのまさかっスよ

その黒猫が夜一サンなんスよ」

 

驚いた

人が黒猫に化けることができるなんて

逆か?黒猫が人に化けているのか…

そんな私の表情を見て、

夜一さんはしてやったりといった顔をしている

 

「そうなんだ…そばにいてくれてありがとう」

「構わん、気にするな」

「あなたは…?」

「僕は石田雨竜だ」

「一護さんたちの友達…?」

「「こいつとは友達じゃねぇ(じゃない)‼」」

 

突然大きな声で否定された

息ピッタリ、なんだかんだ仲がいいんだろうなと思ったけど、

それを言うとさらにまずいことになりそうだったので

黙っていた

二人の睨み合いを眺めながら

織姫さんと茶渡さんはやれやれといった風だ

二人の睨み合いが一段落したところで

今までニコニコしていた浦原さんは表情を少し引き締めて

切り出した

 

「さて、自己紹介も済んだところで色々訊かせてもらえますか」

 

私は小さく頷き返した

そしてあたりには少し緊張感が漂った




今回もお読みいただきありがとうございます
次回もお読みいただけると嬉しいです
それではこの辺で失礼します
次の投稿は一週間後の5月1日を予定しています。

アルフレット


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第三話

なかなかうまくかけず、苦戦しております
今回も拙い文章ではありますが、楽しんでいただけると幸いです

アルフレット



皆が私が寝ていた布団の周りに腰を下ろす

皆が私を見る

昔のことを思い出してボーっしてしまう

 

「天サン、どうかしましたか?」

「…何でもない」

 

浦原さんの声にハッとすると目の前には

私の顔を覗きこんでいた浦原さんの心配そうな顔があった

周りを見れば心配そうな目が私を囲んでいた

そんな目を無視して私から話を切り出した

 

「それより訊きたいことって何?」

「そうですね…お名前はもうお聞きしましたし、

 ご家族のこと、訊かせてもらえますか」

「…わかった」

 

家族のことを話そうと口を開こうとしたとき

一護さんの声がそれを遮った

 

「ちょっと待て‼

 俺たちはまだ名前、聞いてねぇぞ⁉」

「そういえばまだ黒崎サンたちは彼女の名前を知りませんでしたね

 それでは、まず自己紹介からですね」

「…院殿天」

 

短く答える

一護さんたちが少し呆気にとられたようでポカンとしている

 

「どうしたの?」

「あ、いや…何でもねぇよ」

「う、うん。シンプルで少し驚いただけ」

 

ほかの二人も隣で頷いている

ほかにどのように答えればいいのか分からず首をかしげる

そんな私たちを見て浦原さんたちは苦笑していた

浦原さんは話を戻そうと咳払いをして、切り出した

 

「えぇ、では自己紹介も終わりましたし、

 改めてご家族のことを話していただけますか」

「…両親はだいぶ前に死んだ

 兄さんは…この間死んだ」

 

周りを見ると浦原さんと夜一さんはやはりという顔をしていたが、

一護さんたちは言葉を失っているようだった

 

「やはりそうでしたか…」

「浦原さん…?」

 

浦原さんたちがあまり驚かなかったことに

一護さんたちも驚いているようだった

浦原さんはそんな周りの反応を意に返さず考えて込んでいた

そんな姿に私も違和感を覚えていた

 

(父さんたちがだいぶ前に死んだことも兄さんが死んだことも知ってる?

 でもどうして?言った覚えはない…

 だとすれば他に考えられる可能性は…

 そう言えば浦原さんと夜一さんは父さんと母さんの血盟者と同じ名前…まさか)

 

と思いながら、考え込んでいる浦原さんと夜一さんを見つめる

そんな視線に気づいたのか俯いていた浦原さんと夜一さんが顔を上げた

 

「ん?どうしたんじゃ?」

「どうしました?アタシの顔に何かついてますか」

「思い出した…父さんと母さんの血盟者…」

 

二人は驚いたようで、目を見開いていた

周りは訳も分からずポカンとしていたが…

 

「よく覚えていましたね…その通りっス

 アタシたちはアナタのご両親の血盟者です」

「やっぱり」

「血盟者ってなんだ?」

「血盟者…その人が結んだ誓約みたいなものの相手のこと」

「分かったような分からないような…だな」

 

一護さんたちは完全に理解できないらしくまだポカンとしていた

浦原さんたちは苦笑しながらその様子を見ていた

 

「血盟者の話はまた後日でいいじゃろう」

「そうっスね

 先に進みましょうか

 ご両親とお兄さんが亡くなったときのことをお訊きしても?」

「わかった…」

「ではまずはご両親が亡くなったときのことをお願いします」

 

父さんたちが死んだときのことを思い出す

今でも鮮明に思い出せる…

 

「両親が死んだその日、私と兄さんは村のはずれの森で修行をしていた

 村の方から大きな音がしたから急いで戻った

 村に戻るといたるところで煙が燻っていて空に向かって

 いくつもの黒い線が上がっていた

 私たちは真っ先に自分たちの家に向かうと、

 そこには仮面をつけた男と交戦している父さんの姿があった

 父さんは満身創痍で立っているのも不思議なくらいだった

 母さんはもうすでに倒れていて、かろうじて息があるようだったけど動かなかった

 男は私たちの姿をとらえるとこちらに向かってきたけど

 それを父さんが阻んで言った

 

 『龍‼天を連れて早く逃げろ‼』

 

 龍っていうのは兄さんのこと

 兄さんはすぐに正気に戻って私を抱えて逃げた

 その後は現世に逃れて、いろいろなところを転々としながら過ごしてきた

 これが両親が死んだときの話」

 

話し終えるとあの時の最後に見た父さんの必死な顔、

母さんの生気がない顔が頭の中から消えず、

胸をつかまれているような痛みを感じた

あたりは重い空気で包まれていた

浦原さんたちが暗い表情をするのは理解できた

でも、どうして一護さんたちまでそんな顔をするのか分からず考え込んでいると

夜一さんが申し訳なさそうに言った

 

「つらいことを思い出させてしまって悪かったな」

「…大丈夫

 もうだいぶ昔のことだから」

 

私がそう言うと夜一さんは優しく頭を撫でてくれた

その手があまりにも優しくて母さんを思い出させた

頭を撫でられてると、石田さんが神妙な顔をして訊いてくる

 

「ちょっといいかい、一つ気になることがあったんだが」

「何?」

「『現世に逃れてきた』と言っていたが

 君は尸魂界の人間なのか?」

「うん…そう」

 

私の答えに少し驚いたようだが、石田さんはすぐに新たな疑問を口にした

 

「でもそれなら少しでも霊圧を感じるはずなんだが…?」

「たしかにそのはずだよね」

 

石田さんの発言にそういえばという感じでほかの三人が頷く

浦原さんを見ると浦原さんは心当たりがあるようだったが、

説明する気はないらしい

 

「それは特別な義骸に入っているから

 それとある術を使っているから」

「それで完全に霊圧を隠すことができるのかい?

 術ってどのようなものだい?」

「それは秘密」

 

石田さんは完全にとは言えないがとりあえず納得したようだった

 

「アタシからもひとつ、訊いてもいいっスか?」

「うん…何?」

「村の他の方々はどうなったんスか」

「正直、わからない」

「わからないってどういうことだよ?」

「私の一族は死ぬと何も残らない

 だから死んだのか逃げて霊圧を隠しているのかはわからない」

 

浦原さんはそう言えば…という顔をしていた

一護さんたちはそんなことあるわけがないといった感じだ

 

「何も残らないって死体くらい残るだろ?」

「本当に何も残らない…すべて消えて無くなる」

 

本当に他の皆のことはわからない

実を言うと父さんたちが死んだところも自分の目で見たわけではない

だから絶対死んだなんて言い切れない

本当は生きているかもしれない

でも、兄さんが死んだと言っていたから死んだことにしている

浦原さんが咳払いをして次の話に移る

 

「それでは、次は兄さんが死んだときの話をお願いします」

「わかった…

 兄さんが死んだのは本当につい最近

 私たちがこの空座町に引っ越してきたのはつい半年ほど前

 この町に来てから兄さんは毎日忙しそうにあちこちに行っていたみたい

 私ともこれまで以上によく話すようになっていたから

 今思えばもうすぐ死ぬってわかっているみたいだった

 そんなある日、兄さんはいつものようにどこかに出かけて行った

 私はいつものように家で一人留守番していた

 兄さんは夕方には帰ってくると言っていたけど帰って来たのは夜更けだった

 帰ってきた兄さんは普段義骸に入っているのに入っていなくて

 しかも血まみれだった

 そこら中に切り傷があって服もいたるところが切れていた

 どれだけ聞いても兄さんは何があったか答えてくれなかった

 私は必死に兄さんを助けようと治療したけどダメだった

 そして兄さんは息を引き取った

 これが兄さんが死んだ時のこと」

 

また、重苦しいほどの静寂に包まれた

それを破ったのは浦原さんだった

 

「お兄さんが誰と戦ったのか、心当たりはありませんか」

「…仮面集団」

「仮面集団というのはご両親と戦っていた人たちのことっスね

 その仮面集団に心当たりは?」

「…ない」

 

仮面集団に全く心当たりがなかったわけではない

確証がないからと自分に言い訳するけど、

本当は信じたくないからだと心のどこかではわかっていた

何かを隠していることを浦原さんはわかっているようだったが

何も聞かないでくれた

 

「わかりました」

「辛いことを話さしてすまなかったな」

 

浦原さんも夜一さんも申し訳なさそうな顔をしていた

一護さんまで黙ってしまい、また、静寂が訪れる

その静寂に居心地が悪くなって窓の外を見ると、

空は赤く染まっていた

その中に黒い点が三つ浮かんでいるのが見えた

 




今回もお読みいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです
では、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後の8日を予定しております。

アルフレット


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第四話

文章を書くのは難しいですね
オリジナルである天ですら苦戦している始末です
今回も楽しんでいただけると幸いです

アルフレット

*5/29…伊織のキャラを少し変更しました


赤い空に浮かんでいる3つの黒い点を注視した

誰も気づいていないようだった

そんな私に気づいた夜一さんが不思議そうに聞いてきた

 

「どうしたんじゃ?」

「誰かいる」

 

私は黒い点を指差し、答えた

全員が指をさした方を見る

全員の顔が驚きに染まり、引き締まるのがわかった

 

「たしかに誰かいますね」

「よく気が付いたのぅ」

「たまたま」

 

浦原さんや夜一さんが驚いたような間が抜けたような声を出した

 

「誰だよ、あいつら?」

「たぶん仮面集団」

「何だと⁉」

 

一護さんたちは私を囲むようにして、じっと黒い点を見つめていた

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

上空で俺たちは話していた

 

「布団の上で座っているやつか…」

「あぁ…そうだ殺さず生け捕りが今回の任務だ」

 

院殿天を見つめる

仲間の一人、界人(かいと)が好戦的に聞く

 

「周りにいる奴は誰だ?」

「甚平を着た男が浦原喜助、色黒の女が四楓院夜一、元死神で

 オレンジ頭の男が黒崎一護、死神代行だよ

 ほかは資料になかったはず」

「要注意人物が3人か…!」

「要注意人物くらい頭に入れといた方がいいよ」

 

呆れたようにもう一人の仲間、伊織(いおり)が答える

そして俺たちは要注意人物三人を凝視する

すると院殿天がこちらに気づいたようだ

 

「ほう…気付いたみたいだな」

「へぇ…なかなかやるな」

 

驚いて感嘆の声を上げる

天に続いて周りもこちらを見ていた

界人は嬉しそうに言う

 

「久しぶりに手応えのあるやつと殺りあえるのか…!」

「戦闘は最小限にとどめておけよ

 特に界人」

 

界人に注意をするが、効果はなく、

全身から戦いたいオーラを出していた

戦えることが嬉しいようだ

相変わらずの戦闘狂だ

それに俺たち二人はは呆れていた

 

「さて、そろそろ行くか

 伊織、界人…わかってるな」

「うん」

「わかってるよ

 楽しくなりそうだ…!」

 

界人が本当にわかっているのかは怪しかったが

仮面をつけ、ゆっくりと院殿天の方へ近づいた

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

空から黒い点が三つゆっくりと近づいてくる

そして、窓から少し離れたところで止まった

 

「誰だ⁉」

「院殿天だな

 一緒に来てもらおうか」

「違う…そんな人は知らない」

 

一護さんを完全に無視して私に問いかけてきた

 

「いや、お前は院殿天だっ‼」

「違う」

 

なぜか仮面集団と言い争いになる

と言ってもそのうちの一人だけとだが

イライラしたように頭を搔き、私を指差して言った

 

「もうどっちでもいいから俺たちと来い‼」

「イヤだ」

「少しは落ち着け」

 

別の仮面男に頭を叩かれている

頭を叩かれてようやく少し落ち着いてきたらしい

 

「悪いがお前に拒否権はない

 俺たちと一緒に来てもらう」

「イヤだと言ってる」

「だからお前に拒否権はないって言ってるだろ‼︎」

「そんなの知らない」

 

またさっきと同じような押し問答が続く

緊迫した状況なのは変わらないはずなのに

若干周りの緊張が緩んできた

そんな時ガンッという音が響いた

 

「いってぇな‼︎何すんだよ‼︎」

「いい加減にしろ

 落ち着けと言ってるんだ」

「だからって小刀の柄で叩く必要はないだろ‼」

「頭に血が上っている方が悪い

 それと相手を間違えるな、俺じゃないだろ?」

 

小刀の木でできた柄で思いっきり頭を叩かれたようだ

すぐに頭に血がのぼる性格のようで、落ち着けようとしたようだが

余計に血が上ったようだ

私たちにではなく仲間に喧嘩を吹っ掛けそうな勢いなのを

うまく私たちに誘導したが、

今すぐにでも私たちに攻撃しようとしているのを

押さえつけるのが大変そうだ

 

「もう一度だけ言う

 俺たちと来い お前に拒否権はない」

「イヤだ…院殿天っていう人じゃないし知らない」

 

さすがに仮面集団もこれ以上は無駄だと思ったのか

大きなため息が聞こえてきた

 

「もういい…キリがない

 悪いがこうなれば実力行使だ」

「最初からそうしておけばもっと早く終わっただろ‼︎」

 

緩んできた緊張感が一気に引き締まった

押さえつけられていたのが一気に緩み、体勢を崩しながら

待ってましたと言うように文句を言いながら

腰に差した剣を抜いて、私に向かってきた

死覇装姿の一護さんが割り込み、剣を交える

 

「邪魔すんな‼︎俺は今、あいつのせいで気が立ってんだ

 邪魔するならケガするぞ」

「悪いが、あいつを渡す気はない‼︎」

 

二人はしばらく鍔競り合いをしていたが、距離を取る

そしてそのあとは数合打ち合っては距離を取る、を繰り返してた

夜一さんと浦原さんが私の前に立ち、

茶渡さんと石田さんが私の横に立つ

織姫さんは私の肩を掴んでいた

他の仮面男は仲間が戦っているのを見ているだけで、戦おうとしない

そんな奴らに浦原さんが問いかける

 

「アナタたちの目的は何スか?」

「そんなこと、俺たちが答えるとでも?」

「答えないでしょうね」

「ならこの問答は無意味なものですよ」

 

これでこの話は終わりだと言うように相手は二人の戦闘に視線を戻す

そんな二人に再び浦原さんは問いかける

 

「アナタたちはかかってこないんスか」

「悪いが俺たちは戦いたくないんですよ

 それに悔しいが俺たちだけでは敵わないでしょうね」

「なるほど」

 

浦原さんも諦めたように視線を戻した

二人は浦原商店から少し離れて戦い続けていた

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ハハッ!さすがだな、死神代行

 久しぶりの楽しい戦いだ‼」

「俺は楽しくないけど…な‼︎」

 

仮面男は楽しそうだ

俺は段々防戦一方になってきた

 

(何だよ、こいつ⁉

 どんどん速くなっていく⁉)

「そろそろ限界か?

 俺はまだまだいけるぞ」

「っまだまだだ‼︎」

「そうこなくてはな‼︎」

 

かなりの戦闘狂らしい

剣八を思い出す

だんだん俺の体に切り傷が増えてきた

他の仮面男は参戦してくる様子はなかった

仮面男と距離が開いたときに天の方を見ると

浦原さんと夜一さんが天の前に立って仮面男たちと何か話しているようだった

近づいてくる気配にすぐに視線を戻し、仮面男の剣を受け止める

 

「余所見か⁉余裕だな」

「っく…!」

「そんなにあいつが気になるか?」

 

仮面に隠れて顔は見えないが、面白くないように見えた

舌打ちが聞こえた

 

「戦闘に集中しろよ‼

 そして…俺を楽しませろ‼」

「うるせぇよ‼」

(何だよこいつ‼

 一瞬でも気を抜けば斬られる…!)

 

先ほどまでとは違った雰囲気が相手の体から滲み出る

気がつけば目の前に仮面が見える

 

「っ…!」

「遅いな…これがお前の本気か?

 違うよな…⁉卍解しろよ‼」

「黙れ!」

(くそっ!卍解をする暇がない!)

 

ついていくのがやっとで卍解する暇もない

このままではまずいと思ったその時、

一羽のカラスらしき鳥が飛んできた

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

仮面集団のリーダー格の男の肩にとまると鳥が消えて行った

その瞬間男が驚いているようだった

 

「おい‼︎そこまでだ

 すぐに戻ってくるようにとのことだ

 行くぞ!」

「はぁ⁉︎ふざけんな‼︎

 いいところなんだよ…‼︎」

 

よほど一護さんとの戦闘が楽しかったのか

リーダー格の男に文句を言っていた

 

「命令だ

 従え」

「チッ」

 

舌打ちをしつつ、剣を下ろし、しぶしぶといった様子で従う

一護さんは肩で息をしていた

全身に傷がある

 

「おい‼︎逃げるのか⁉︎」

「うっせーな!俺だってお前と殺り合いたいんだよ」

「おい…!」

 

仮面男に念を押され、まだ戦い足りないようだったが、

渋々頷き、剣を鞘になおす

 

「わーてるよ!命令なんだろ

 それにお前は命拾いしたんだ

 それなりに実力はあるようだが、俺にはまだ届かない

 次はもっと楽しませろよ」

 

そう言い残して消えた

 

「院殿天はどうするんだ?」

「また作戦を練り直して出直す…

 そういうことだ。それまでそいつはお前たちに預けておくことにする」

 

そう言って他の二人も去っていった

 




今回もお読みいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後の15日を予定しています。

アルフレット


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第五話

何とか週1を守れている状態です
もっと早くかけるといいのですが…
では、今回も楽しんでいただけると幸いです

アルフレット

*5/29…伊織のキャラを少し変更しました


命令を受けて、戻り始めて数分が経った

界人を中途半端に戦わせたことで機嫌は最悪だった

 

「いいところだったのによ‼︎」

「仕方ないだろ…長から

 

『院殿天の捕獲は一時中止、すぐに戻ってこい』

 

 との命令なんだから」

「そうだよ

 どうせもう一度あの娘を迎えに行くんだから

 また戦えるさ」

 

俺と伊織で機嫌が悪い界人をなだめる

任務を放棄してまで戻って来いというのは滅多になく、

俺たちも若干の嫌な予感を抱えながら急いで戻った

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

織姫さんが一護さんを治療し終わってしばらくたったころ、

今まで黙っていた浦原さんが口を開いた

 

「これからのことですが、天サンがまだ狙われていますし、

 どうしましょうか

 お兄サンから何か言われていますか」

「兄さんからは

 

『何かあったら護廷十三番隊に俺の血盟者がいるからソイツを頼れ

 向こうにもこっちの事情は説明してある』

 

って言われてる」

「ふむ…龍の血盟者の名前は聞いていないのか?」

「聞いてない」

 

浦原さんは考え込んで、夜一さんはやれやれといった顔をしている

一護さんたちは黙っている

 

「天サンは彼らを頼るつもりですか?」

「出来れば頼りたくない」

 

これ以上誰かに頼りたくない…それが本音だった

出来ることなら浦原さんたちにも

 

「…わかりました

 ですが、アタシたちもあなたを放っておくことは出来ません」

「…どうしても?」

 

浦原さんは困ったような表情をする

考えていたことを見抜かれていたみたいで、

先手を打たれた

 

「出来ればあなたたちにも頼りたくない」

「ここでアタシが首を縦に振っても納得しない人が居ますよ

 その人たちはあなたが説得してください」

「先に言っておくが、一護たちを説得するのは骨が折れるぞ」

 

浦原さんたちの言葉を受けて四人を見る

じっと見つめていると一護さんが大きなため息をついた

 

「そんなに見つめても無駄だ

 狙われているやつを放っておけるわけないだろ」

「どうして?私なんか放っておけばいいのに」

「黒崎にそれを言っても無駄だ」

「そうそう!それに天ちゃんも見てたでしょ!

 心配しなくても黒崎くんは強いから大丈夫だよ‼」

「…あぁ」

 

夜一さんが言う通り、説得は難しいらしい

他の三人まで私を守る気満々だ

 

(確かに一護さんは強い

 他の皆も…強いのは分かる

 でも…)

 

まだ渋る私を見かねて浦原さんが言う

 

「もうここまで関わってしまったことですし

 頼ってもいいんじゃないですか?」

「そうじゃのぅ

 儂らもおることじゃから大丈夫じゃよ」

「そうだ。もうここまで関わったんだ

 今さらだろ」

 

皆が私を見る

首を縦に振れという無言の圧力があった

 

「…わかった

 でも頼るのはここにいる人だけ

 向こうの人には頼らない」

 

正直、まだ頼ることに迷いがあった

この場で一護さんたちを説得するのは無理だと思ったから

とりあえず頷いておくことにした

 

(距離を置いておけば離れやすいだろう

 この人たちとの距離に注意しとかないと…)

 

何故か皆が嬉しそう

私のせいで危険な目に会うかもしれないというのに

 

「わかりました

 ではこれからのことを決めましょう

 まずは生活についてですが

 黒崎サンのところでおねがいできませんか?

 うちはもうばれてしまっていますしね」

「それは構わねえけどお前はそれでいいのか、天?」

 

浦原さんはここではなく、一護さんの家に行った方がいいと言う

皆は思うところがあるのか、口々に疑問を言っていた

 

「…私はどこでも構わない」

「でもよ、俺んちじゃなくて、井上の家の方がいいんじゃないのか?」

「確かに天サンは女性ですから、

 同じ女性の井上サンの家の方がいいかもしれませんが

 もし、もう一度襲撃があった場合

 我々が向かうまで耐えきれる可能性は黒崎サンの方が高い」

「確かに私じゃあの人たちには歯が立たないだろうし

 でも、それならこのままここでいいんじゃないですか?」

「えぇ、バレたといっても浦原さんや夜一さんがいれば安全では?

 それに昔からの知り合いなんでしょう?」

 

私も正直、一護さんの家よりもここの方が安全のような気がする

浦原さんたちの実力は知らないけど

 

「確かにここでならアタシと夜一サンで彼女を守ることはできますが

 それではダメなんですよね」

「それに儂らは天の両親の血盟者じゃが

 会ったことがあるのはずいぶん昔に会った一度きりじゃ」

 

浦原さんはここにいてはいけないと言う

夜一さんは浦原さんの考えに察しがついているのか

浦原さんの考えに同意しているようだ

私には全然理由がわからない

 

「しかし、最終的に決めるのはアナタです。

 天サン、どうしますか?」

「…私はどこでもいい

 皆がいてほしいところにいる」

 

私が答えると浦原さんは困ったような表情になった

 

「そうっスか…

 アタシは黒崎サンのところにいてほしいですかね」

 

浦原さんはそういうから一護さんをじっと見つめる

 

「俺は構わねぇよ、お前がそれでいいならな」

「私はいい…」

 

一護さんは何故かため息をついて、

家に電話をかけてくると言って部屋から出て行った

浦原さんは満足そうに頷いて、扇子で仰いでいた

 

「じゃあ、決まりっすね

 一護さんとの関係ですが…」

「そんなことまで考えるの?」

 

私が聞くともちろんといったように浦原さんは頷いた

 

「えぇ、他人であるアナタを泊めるのですから

 何か理由が必要でしょう」

「…わかった

 じゃあ、一護さんと兄さんは友達だった、でどう?」

 

皆、ポカンとしていた

電話を終えて戻ってきた一護さんは何が起こったのか分からずに

首をかしげていた

 

「家に電話したら、いいってよ

 それよりどうしたんだ?」

「いや、何でもない

 天が初めて自分の意見を言ったから驚いただけじゃ」

 

何だかおもしろくない気がした

私にだって自分の考えがあるのに…

浦原さんはまた扇子で仰ぎ始めて言った

 

「そうですねぇ…

 友達ではなくお世話になった人ということにして、

 黒崎サンが天サンのお兄さんに世話になったということにしましょ

 それでいいですか、黒崎サン?」

「わかった。天の兄貴に俺が昔世話になった、だな」

 

浦原さんはどこかに楽しそうだった

一護さんが頷いたことで私たちの関係が決まった

 

「ではそういうことで

 そろそろ皆さん、帰った方がいいですね」

「本当だ。もう暗くなってる」

 

そう言いながら皆は帰る準備を始める

私はそんな様子を眺めていた

そんな私に夜一さんが声をかけてきた

 

「天、その格好で外に出るつもりか?」

「えっ…?」

 

夜一さんに言われて自分の格好を見ると寝巻状態だった

 

「忘れてた…でも、服ない…」

「心配するな

 井上、頼んでいたものは持ってきたか?」

「あっ!ここにありますよ~‼

 はい、天ちゃん」

 

そう言って織姫さんが私に紙袋を渡した

中身を見てみるとそこには服が入っていた

 

「ほら、男どもは出ていけ!

 天、着替え終わったら出てこい

 外で待っておるからの」

「わかった…」

 

夜一さんは男性陣を部屋から追い出し、織姫さんとともに部屋から出て行った

それを確認した後、服を取り出して着替え始めた

服はシンプルで可愛すぎず、どちらかというとボーイッシュな感じで

よく着る服と雰囲気が似ていた

着替え終わるとふすまを開けてみんなの前へ

 

「着替え終わった…」

「うん!よく似合ってるよ~かわいい‼」

「あぁ…似合ってるぜ」

「ありがと…」

 

とても照れくさい

でも、嬉しかった

 

「この服、気に入った」

「よかった~

 天ちゃんを拾ったときに着ていた服を参考にさせてもらったの」

 

なるほど…あの時は確かに兄さんが買ってきてくれた服を着ていたはず

けど、その服は虚の攻撃で破れてしまった

今になって残念な気持ちがこみ上げてくる

 

「では、天サンも準備ができたようなので、

 あとはお願いしますね、黒崎サン」

「あぁ」

 

一護さんたちと玄関で靴を履き、浦原さんと向かい合う

 

「また明日、ここに来てもらえますか?

 まだ聞きたいことがあるんで

 あと、わかっているとは思いますが、

 なるべく一人で出歩かないようにしてください」

「わかった…その…ありがとう」

「…どういたしまして」

 

浦原さんは少し驚いたようだけど、

すぐにいつものニヤニヤ顔に戻った

そして、私は一護さんたちと浦原商店を後にした

 




今回もお読みいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次の投稿は1週間後の22日を予定しています。

アルフレット


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第六話

あまり話が進んでない気が…
どうしても黒崎家と天を絡ませたかったので
少々無理やり天を黒崎家に連れて来てしまいました
では、今回も楽しんでいただけると幸いです

アルフレット


そんなこんなで時間が過ぎていった浦原商店を出ると、

もう外は暗くなっていた

みんなは何か話しているようだったが、頭に入ってこなかった

先ほどの襲撃のことで頭がいっぱいだった

 

「ねぇ天ちゃん?天ちゃんってば!」

(あの感じ間違いなく…でもどうしてあの人が

 ありえない…だってあの人は…)

 

頭をよぎるのはそんなことばかりだった

 

「おい‼︎天!」

 

ハッと視線を上げるとそこには一護さんの顔があった

心配そうに私の顔を見ている

 

「何?」

「『何?』じゃねぇよ

 いくら呼んだって返事しなかっただろ」

「呼んでたの?ごめん

 考え事してた」

 

一護さんはやれやれといった風に首を軽く振っていた

周りのみんなも心配そうに見ていた

 

「私はこっちだからまた明日ね〜」

「僕もこっちだ」

「俺はこっちだ

 …また明日」

「おう!気をつけてな」

 

ここからはみんな違う道を帰るらしい

井上さんが私の顔を覗き込んで笑顔で言う

 

「天ちゃんもまた明日ね〜!」

「…また明日」

 

私は気圧されながらも井上さんに返事をした

みんながそれぞれの帰路につく

私は一護さんとそんな三人の背中を眺めていた

 

「さて、俺たちも帰るか」

「うん」

 

三人の背中が遠ざかると私達も一護さんの家へと歩き出した

黒崎家に着くまで全く話さなかったが、不思議と心地よかった

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

(浦原商店を出てからずっとこんな感じだな

 仮面集団のことを気にしてんのか?)

 

そっと横にいる天を盗み見る

まだこいつのことは全然知らないが、様子が違うことくらいはわかる

 

(それだけじゃないような気もするけどな…)

 

思い出されるのは俺が井上にケガを治してもらっている時のことだ

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

あいつらが消えのを確認したあとすぐに天のところに戻った

浦原さんたちも腰を下ろしていてさっきの相手のことを考えていた

しかし天の様子に気づいたのか、

すぐに何もなかったような雰囲気を醸し出していた

俺が戻ると井上はすぐに双天帰盾を使ってケガの治療をしてくれた

消えそうな声が聞こえてきた方を見ると、

天を見ると真っ青な顔をしていた

 

「一護さん…ごめんなさい

 私のせいで」

「お前のせいじゃねぇよ、気にすんな

 それよりお前は大丈夫か?」

「…大丈夫」

 

天は大丈夫と答えたが、どう見ても大丈夫そうではない

青い顔をしながら心ここに在らずといった様子だ

俺にケガをさせてしまったことの罪悪感だけでないような

そんな姿に違和感を覚えながらも深く聞くことはできなかった

 

「一護さんって死神だったんだ」

「死神代行(・・)だ」

「一緒」

 

天がそういえばという感じで言った

代行の部分を強調し、違ぇよと思いながらも

天の顔を見ると何も言えなくなる

天は苦虫を潰したような顔をしていた

 

(俺が死神だと何かまずいのか…?)

 

気になったまま会話は終わった

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

仮面集団と話しているときは顔色を全然変えなかったのに

俺が戻ってくるときには青い顔をしていた

 

(襲撃直後よりはだいぶ落ち着いているみたいだけどな…

 俺が戦っている間に何かあったのか?)

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

しばらく歩くと一護さん家に着いた

《クロサキ医院》…病院を経営しているようだ

 

「今さらだけどいいの?」

「ほんとに今さらだな

 大丈夫だ

 ただいま」

 

そう言って一護さんは玄関を開けて入っていく

入るのが少しためらわれて立ち止まってしまう

そんな私を不思議そうに見て一護さんが入るように促す

 

「お邪魔します…」

「おう。そんなに緊張すんな」

 

おそるおそる玄関に入る

すると奥から賑やかな声が聞こえてくる

 

「お兄ちゃん帰ってきたみたい!」

「やっと一兄帰ってきたんだ」

「何‼︎一護が帰ってきたのか⁉︎」

 

靴を脱いで、廊下を歩きリビングのドアを開けた時、誰かが突っ込んできた

驚いてとっさに一護さんの背中に隠れた

それを一護さんが適当にあしらうと、明るい女の子の声が聞こえてきた

 

「ちょっとお父さん何やってるの?

 お兄ちゃんおかえり

 そちらの人が?」

「一兄遅い‼︎」

 

一護さんの背中から少しだけ顔を出す

視線が一護さんのお父さんから私に向く

 

「あぁ。電話で話した通り、しばらくこいつをうちに泊めたいんだけど

 いいよな?」

「私はいいよ」

「うん別にいいけど」

 

一護さんのお父さんは痛みでそれどころじゃないようだったけど

コクコク頷いて、全員が了承してくれた

 

「ほら」

 

一護さんが私に自己紹介するように促す

私は軽く頷いて、一護さんよりも半歩ほど前に出て頭を下げる

 

「院殿天…です

 よろしくお願いします…」

「天さん!遊子です!こちらこそよろしくお願いします‼︎

 ほら夏梨ちゃんも」

「私は夏梨。こちらこそよろしく」

 

遊子ちゃんは私の手を握って、笑顔で名前を教えてくれた

夏梨ちゃんは椅子に座りながら、

一護さんが返討ちにしたお父さんは突然ムクっと起き上がって

笑顔で私に近づいてきた

 

「俺は一護の父親で一心だ

 天ちゃん‼︎君は今日から私のむすーーーーッガ!」

 

勢い良く来て私に抱きつこうとした一心さんに驚いて

とっさに一護さんの背に隠れる

すると一護さんが今度は顔にパンチを入れた

 

「何してんだよこのエロ親父!天がビビってるだろ!」

 

一護さんそんな言葉も聞こえていないようで、

一心さんは痛みに顔を抑えて転げ回っている

そんな一心さんを無視して一護さんはテーブルに着く

遊子ちゃんも夏梨ちゃんも完全にスルーしていた

私はどうしていいかわからず、その場に立ち尽くす

 

「何やってんだよ

 こっちに来い」

「でも…」

「そこのひげダルマは気にしなくていいよ」

 

一護さんと夏梨ちゃんにそう言われテーブルに近づく

すると一護さんは椅子を引いて座るように促した

 

「じゃあ、あれは放っておいてご飯にしよ」

「あぁ、腹減ったしな」

「はい、これ天さんの分です」

「…ありがとう」

 

私の前にもカレーが置かれて、みんなが手を合わせる

 

「「「いただきます!」」」

「…いただきます」

 

ワンテンポ遅れて手を合わせてご飯を食べる

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

天も手を合わせて無言ではあるが、食べ進めている

遊子のカレーが気に入ったみたいだ

 

「天ちゃん、うちに泊まるのはいいんだが、

 家の人にはちゃんと言ってあるのか?」

「言ってないけど大丈夫…家には誰もいないから」

「えっ」

 

いつの間にか座っていた親父が天に聞くが、

天の答えにやばいと焦ったみたいで俺に耳打ちしてきた

 

「俺、聞いちゃいけないこと聞いちゃったか?」

「さぁな」

 

鬱陶しかったから適当にあしらう

すると余計に焦ったのかソワソワしだした

そんな親父には目もくれず夏梨が天に聞いた

 

「そういえば…一兄と天さんってどういう関係?」

「こいつの兄さんに世話になったことがあったんだ」

 

事前に打ち合わせていたように答えると天も小さく頷いた

夏梨は面白くなさそうに再びカレーを食べ始めた

勝手に彼女とか思ってやがったな…

親父は俺が言ったことになぜか安心したようだった

 

「そうなのか。

 なら天ちゃんのお兄さんに一護が世話になったと礼を言わないとな」

「その必要はないというか言えない

 兄さんはこの間死んだから…」

 

再び親父がやってしまったという顔をする

遊子や夏梨までまずいという顔になる

天が無表情のせいで余計に流れる空気が重くなる

そんなことはお構いなしに天は食べていた

三人は俺をジッと見てくる

その視線はどうにかしろと言っていた

 

「天、お前、好きなものはないのか?」

「好きなもの?」

「そうそう明日は天さんの好きなものにしよう‼︎」

「そうだな!歓迎会をかねてな‼︎」

「そうだね。天さんの好きなものは何?」

 

さっきの重い空気はどこかへ行ったようだ

天は隣で真剣に考えているみたいだった

しばらく考えたあと、口を開いた

 

「好きなものは特にない

 もし、食べたいものを作ってくれるなら

 遊子ちゃんの料理が食べたい」

「…え…?」

「遊子ちゃんが作った料理が食べたい」

 

予想外の答えに俺を含めてポカンとしてしまう

その反応が理解できないのか天は首をかしげている

 

「えっそんなのでいいの?

 天さんが食べたいものはないの?」

「…ない

 誰かが作ってくれる料理が食べたい

 イヤなら私が作る」

 

遊子は焦ったように両手を振り、作るといっていた

そんなこんなで時間が過ぎていった

 




今回もお読みいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後の29日を予定しています。

アルフレット


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第七話

黒崎家第二話です
コンを登場させたくて少々強引ではありますが
話を持ってきました
では、今回も楽しんでいただけると幸いです

アルフレット


ご飯を食べ終わり、黒崎家では食後すぐに歯を磨かないと

自動的に次の食事が抜かれるというシステムがあった

私も一護さんに急かされて歯を磨く

 

磨き終わり、リビングに戻ると一護さんはソファに座って新聞を読んでいた

手持ちぶさたになり、とりあえず一護さんの隣に座ってみる

一護さんはチラッとこっちを見たが、すぐに新聞に視線を戻した

そうしていると遊子ちゃんがやってきた

 

「天さん、お風呂入ったからお先にどうぞ」

「あぁ、入ってこいよ」

「でも…」

「私も遊子もこれから宿題するから入ってきたら?」

 

皆からそう言われ、私はお風呂を先にいただくことにした

お風呂に入ろうと立ち上がると遊子ちゃんがこっちと手を引いてくれた

 

「遠慮せずにゆっくり入ってくるといい」

 

いつの間にかいた一心さんが優しく言ってくれた

軽くうなずき、遊子ちゃんに手を引かれながらお風呂場へと向かった

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

遊子に手を引かれて風呂へと向かう天を見送る

うちに来てから落ち着かない様子で

本当に連れてきてよかったのかと心配になる

新聞を読んでも内容があまり入ってこない

そうしているとソファに座っていた親父が俺に話しかけていた

 

「なぁ、一護…天ちゃんのことなんだがな…」

「何だよ?」

 

珍しく真剣な声で話しかけてくるから俺は親父の方を見た

 

「お兄さんはなくなったと言っていたが、もしかして…」

「あぁ…親も小さいときに亡くしたって言ってたな」

 

勝手に答えていいものかわからなかったが、

親父なら大丈夫だろう思い、話すことにした

 

「そうか…大変だっただろうな」

「そうだろうな」

 

天はあまり表情を表に出すことがないし、

付き合いも短いからまだあいつのことがまだよくわからない

俺はおふくろを亡くした時を思い出して、

きっとあいつの方が大変な思いをしたのだろうと思った

 

そんなしんみりした雰囲気に似合わない遊子の明るい声が聞こえてきた

 

「ねぇ!お兄ちゃん、天さんの着替えがないんだけどどうしよ?

 私とか夏梨ちゃんの服じゃやっぱり小さいよね?」

「手ぶらで連れてきてしまったからな…

 俺の服で今日は我慢してもらうか…」

 

そう言って俺は服を取りに自室に向かった

ドアを開けるとベッドの上に汚いライオンのぬいぐるみが見えたがスルーだ

自分の服の中からなるべく小さいTシャツとジャージを選んでいると

 

「おい‼無視すんな‼」

 

声が聞こえたがスルー

 

「いい加減にしろ‼」

「っ‼何すんだよコン‼」

「おめーが無視するからだろ」

 

思いっきり頭を蹴られた

 

「何だよ⁉」

「女の子の声が聞こえたぞ‼

俺にも会わせろ‼」

「そのうちな」

 

小さめの服を見つけて、それを持って部屋を出た

後ろで何か言ってるが無視だ

そしてその服を遊子に渡した

 

(明日、浦原さんのところに行くついでに

 あいつの着替えを取りに行かないとな…)

 

と思いながらリビングに戻り、また新聞を読み始めた

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

お言葉に甘えて、ゆっくり入った

久しぶりにのんびりと入った風呂はとても気持ちよかった

お風呂から上がると着替えと書き置きが置いてあった

 

『これ、着替えです

 お兄ちゃんのでごめんなさい』

 

(そういえばパジャマは持って来てなかった…

 明日、取りに行かせてもらおう)

 

一護さんの服を着ると、大きくてTシャツがミニワンピースみたいになり、

ズボンはすそを引きずってしまう

状態だったので、Tシャツの袖をまくり上げ、

ズボンはすそを折り返して何とか引きずらないようにした

そんな姿のままリビングに戻ると、一護さんは私を見て苦笑いした

 

「やっぱり大きかったな…大丈夫か?」

「うん…大丈夫」

 

一護さんと話していると遊子ちゃんと夏梨ちゃんが入ってきた

遊子ちゃんと夏梨ちゃんはノートを抱えていた

 

「天さんのベッドはもう用意しておいたから」

「天さんは私たちと同じ部屋だよ」

「…ありがとう」

 

ベッドを用意してくれたらしい

床でもよかったのにありがたい

そう言うと二人は一護さんに歩み寄った

 

「一兄、ここわからないんだけど」

「お兄ちゃん!教えて‼」

 

テキストを開き、わからない問題を指差していた

私も横から覗いて思わず言ってしまう

 

「この問題はここをこれとこれを使って求めればいい」

「「えっ」」

 

驚きで開かれた六つの目が私を見た

 

「何…?ごめん…」

「ううん!そうじゃなくて少しびっくりしただけだから」

 

横入りしたことを謝ると

遊子ちゃんは焦ったように首をぶんぶんと横に振っていた

一護さんはいいことを思いついたと言うように笑って二人に言った

 

「天がわかるなら天に教えてもらえよ

 俺もやることあるからな」

「…何で?二人は一護さんに…」

「イヤか?こいつらに教えるの」

「そんなことない」

 

なんとなく一護さんしたいことが分かった気がする

少しでも二人と仲良くさせようといったところだろう

二人からジッと見つめられて教えることにした

 

「わかった…

 じゃあそこに座って」

「ありがとう」

 

遊子ちゃんは嬉しそうに向かいの席に座った

夏梨ちゃんも遊子ちゃんの隣に腰かける

 

「白い紙、ある?」

「これでいい?」

「ありがとう」

 

白い紙をもらうとその紙に問題に書いてある情報を書き出す

それをまとめながら二人に説明をする

二人は真剣な表情で私の説明を聞いていた

そんな姿に昔の自分を重ね合わせる

 

(兄さんも私に教えてくれるときはこんな気持ちだったのかな)

 

そんなことを思いながら二人が分からないというところを解説していく

それらすべてを解説し終わると二人はスッキリした顔をしていた

 

「ありがとう!天さん‼」

「ありがとう、分かりやすかった」

「それならよかった」

 

そう言うと二人は宿題を置きに自室に戻っていった

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

遊子たち二人を天に任せると俺は自分の部屋に戻って

学校で出された課題を始めた

 

(それにしても小さめの服を選んだつもりだったんだけどな

 思っていたより小さいんだな、あいつ)

 

テキストを開きながら考えることは天のことだった

 

(遊子たちと仲良くなって、少しでも気が紛れるといいんだけどな

 つい最近、兄貴をなくして心の傷も全然治っていないだろうときに

 わけのわからない仮面集団に狙われて…

 大変でも何も言わないんだよな、あいつ

 愚痴の一つもこぼさねぇし…もっと頼ればいいのによ

 俺はまだそこまであいつにとって頼れる相手じゃないんだろうな)

 

気がつけば考えることは天のことばかりで全く進まない

これ以上やっても仕方ないと思いベッドの上に寝転がり、

目を閉じる

すると今日あったことが頭の中を巡る

 

(あの仮面野郎、何者だ?

 だんだん速くなって…卍解をする暇さえなかった

 このままじゃあいつを守れない

 でも、あいつ死神とは違うような…)

 

少しの違和感があったが考えても埒が明かないと思い、

体を起こし、つい大きなため息をついてしまう

 

(あいつが話してくれる日を待つしかねぇか…)

 

結局その結論に落ち着き、リビングにいるであろう天の様子を見に行くことにした

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

二人が自室に戻った後、私はソファに膝を抱えて小さくなって座っていた

目を閉じて、膝に顔をうずめる

今、部屋には一人なのに何故か兄さんを待っているときに

感じていた孤独感を感じることはなかった

 

まだここにきて少ししかたってないけどこれくらいはわかる

この家は温かい

父さんと母さんがまだ生きていた時のことを思い出す

あの時は毎日が楽しかった

あの日、二人がいなくなってしまってからは

心のどこかに穴があいたような感じがずっとしていた

それから何をしても心から楽しいと思えることがなかった

心の穴がふさがることはなく、次は兄さんがいなくなった

それはさらに大きくなり、少しも小さくなる気配がない

でもここでなら…少しぐらいふさがるかな

浦原さんはこれが狙いだったのかな…

 

ソファの上で膝を抱えながらそんなことを考えていると眠気が襲ってきた

耳をすませば話し声が聞こえる

そんな空間に心が落ち着いた

眠気に逆らうことができずに眠りの中に落ちた

 




今回もお読みいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後の6月5日を予定しています。

アルフレット


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第八話

思っていたよりたくさんの方に読んでいただき、嬉しい限りです
まだまだ拙い文章ではありますが、精一杯頑張っていきますので、お付き合いのほどよろしくお願いいたします

黒崎家第三話です
少々暗い展開になってしまいましたが、
天の抱えているものが垣間見えるのではないかと思います。
今回も楽しんでいただけると幸いです

アルフレット


俺がリビングに戻ると、ソファの上で丸くなっている天がいた

その姿がやけに小さく見えた

 

「おい、天!何してんだ?」

 

肩を叩きながら、声をかける

反応がない

肩を揺さぶるとゆっくりと倒れた

 

「おい‼」

 

よく見るとぐっすり寝ているようだ

焦った…

 

「天、起きろ!

 こんなところで寝るな、風邪引くぞ」

 

いくら揺さぶっても起きる気配がない

そうしていると風呂上がりの夏梨がリビングに入ってきた

 

「お風呂空いたから入ってきたら?一兄が最後だよ

 ていうか何してるの、一兄?」

「天がここで寝ちまってな

 起きる気配がねぇし仕方ねぇな」

 

俺は天を抱えるとベッドまで運ぶことにした

夏梨もついてきて部屋のドアを開けてくれた

部屋の中には遊子がいた

 

「どうしたの?」

「天がリビングで寝ちまったんだよ」

「ホントだ…ぐっすりだね」

「あぁ…疲れたんだろ

 世話のかかるやつだ」

 

ベッドの上に天を寝かせ、ふとんをかけてやる

起きる気配は全くなかった

ぐっすりと眠るその寝顔は無防備で、幼かった

俺は遊子たちの部屋を出て、着替えをとりに自分の部屋に行った

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

目を開けると目の前は自分の膝ではなく壁だった

体を起こすとベッドの上で寝ている遊子ちゃんと夏梨ちゃんの姿があった

 

(リビングにいたはずなのに…)

 

リビングで小さくなっていると眠気に襲われたことを思い出した

 

(あのまま寝ちゃったんだ

 誰が運んでくれたのか…一護さんかな)

 

時計を見ると午前三時を指していた

あれから五時間ほど経ったらしい

喉の渇きを感じ、水を飲むためにリビングにいく

コップに水を入れて喉を潤す

窓からは柔らかな月の光が入ってきていた

その光に誘われるように窓に近づき、外に出る

空にはきれいな満月が浮かんでいた

ひんやりとした空気が私を包む

その気持ちよさに目をつむると後ろに気配を感じて

振り返った

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

俺はなかなか寝れずに寝返りばかりうっていた

そんなとき階下から窓を開けるような音が聞こえた

 

(誰だ…?まさか…⁉)

 

敵が忍び込んできたのかと思い、飛び起きて

なるべく音を立てずに急いで階段を降りて音がした方へ向かう

 

(リビングからだよな…)

 

リビングのドアの前に着き、息を整えて勢いよく開けると、

誰もいなかった

視界の端に風でなびくカーテンが見えた

ゆっくりと窓の方へ近づくとそこに誰か立っていた

俺に気づいたのかゆっくり振り返る

ぐっすり寝ていたはずの天がそこにいた

 

「何だ…お前かよ」

「…?」

 

月の光に照らされて目をぱちくりしている様子がよく見える

そんな姿が可笑しくて思わず吹き出してしまう

 

「何?」

「何でもねぇよ

 下で物音がしたから見に来てみただけだ

 お前こそどうしたんだ?」

「目が覚めたから…一護さんは?」

「俺も同じようなもんだよ」

 

俺がそう答えると天は空に視線を移した

その姿があまりにも儚くて壊れてしまうのではと

思ってしまうほどだった

俺も天と同じように空に目を向けると

そこには綺麗な満月が浮かんでいた

 

「綺麗だな」

「うん…」

 

天の隣に並びながら月を眺める

雲はほとんどなく、晴れ渡っていた

空気はひんやりとしていて肌寒いぐらいだった

 

「部屋に戻らねぇと、風邪引くぞ」

「…」

「?」

 

返事が返ってこないことを不審に思って天を見ると

天の目から一筋の涙が流れていた

 

「天、どうかしたのか?」

「…何でもない」

「何でもないのにお前は泣くのか?

 おかしなやつだな」

「うるさい」

 

何となくこれ以上声をかけることが躊躇われて月を見上げる

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

一護さんは何も言わずそばにいる

しばらく月を眺めていると口が勝手に動き出した

 

「兄さんが死んだときも明るい満月の夜だった

 月の光が部屋の中を照らし出していて

 やけに兄さんのケガがはっきり見えたのを覚えてる」

「そうか…」

「何で、兄さんが死ななきゃならなかったの?

 私なんかほっとけばよかったのに…

 そしたら兄さんは…」

 

雲が月を覆い隠し始めた

周りはどんどん闇に包まれていく

兄さんが死んだときもこんな感じだった

私一人だけが闇に落ちていく感じ…

気づいたら止まらなくなっていた

 

「兄さんは約束した

 絶対死なないと、私を一人にしないと

 ウソつき…」

 

一護さんは何も言わずそばにいてくれた

こちらを見ることなく雲に覆われた月を見ているようだった

それが余計に私の口を動かしているような気がした

 

「そばにいた人がいなくなることが

 どういうことかわかってるはずなのに…」

 

話し始めると湧いてくる思いは兄さんに対してのどうして?ばかりだった

ただただ涙が浮かんでは頬をつたい落ちていく

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

チラッと横目で天の顔を盗み見る

涙をぬぐうこともせずに静かに泣いていた

雲が月を覆い始めてあたりが暗くなってきた

それが天の心を映し出しているように思えた

 

天が初めて自分の心のうちを話してくれたことを嬉しく感じた

だけど、同時に何て声をかければいいのか分からなかった

とてもじゃねぇけど兄貴を亡くしたことを

軽々しくつらかったななんて言えなかった

俺もおふくろを亡くしたときはつらかったし、悲しかった

俺のせいだ、と自分を責めた

それでも俺の周りには家族がいた

助けてくれるやつがいた

でもこいつにはそんなやつがいない

お前のせいじゃないと言ってくれるやつも、

苦しみを一緒に抱えてくれるやつもがいなかった

たった一人で誰にも言えずに大きなものを背負っていたやつに

つらかったなとは簡単に言えなかった

 

(でもこれだけは言える…)

 

そんなことを考えていると次第に雲が晴れてきた

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

雲が晴れてきて、月が顔を出す

完全に出てしまう前に急いで涙を拭く

泣いている顔を見られたくなかった

けど、散々泣いた後だからきっとひどい顔をしてるだろうと思い

苦笑が漏れてしまう

 

「ごめん…こんなこと話すつもりはなかった

 忘れて…風邪ひくから中入ろ」

 

自分でも気持ちのいい話をしたわけではないことはわかっていたから謝る

そのまま一護さんに背を向けて部屋に入ろうとしたとき

 

「天…」

 

小さな声だったけどそれでも何かが伝わってくるようだった

ゆっくりと振り返る

 

「お前が兄貴を亡くしたことを簡単につらかったな、何て言えない

 何て言えばいいのかわからない

 だけどな、これだけは言える」

 

雲が完全に晴れて、一護さんの顔を月の光が照らし出す

その表情は真剣だった

 

「俺は死なない」

「っ!!」

「お前を守るために死んでも本当の意味で

 お前を守ったことにならないだろ」

 

そう言って一護さんの表情はよく兄さんがしていた優しい笑みだった

その顔がとても頼もしくて、とても嬉しくて

頑張って止めた涙が浮かんできた

それを見られまいと背を向け、部屋に入る

 

「勝手にすればいい…」

「そうか…じゃあ勝手に護ってやるよ」

 

素直に頼ることができない自分が憎い

一護さんは私の答えに満足そうに笑ったような気がした

一護さんも続いて部屋の中に入ってきた

このまま寝てしまうのが何となくいやだったから

またソファの上で膝を抱える

 

「寝ないのか?」

「何となく寝たくない

 もう少し起きてる」

「そうか…早く寝ろよ」

 

そう言って一護さんはリビングを出て行った

ドアが閉まる音を聞くと、ストッパーが外れた

次から次へと涙が溢れてきた

それからしばらく私は声を上げずに泣いた

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

俺はリビングから出るとドアの前に立っていた

中からは小さな嗚咽が聞こえる

 

(少しでも楽になればいいんだけどな…)

 

今まで我慢していたんだろう

まだ付き合いは数日しかないが、

感情を表に出すことが苦手であろうことはわかる

あいつが抱えているものの少しを話してくれたことは嬉しかった

そういうことを話してもいいぐらいの相手になったと思っていいだろう

さっき聞いたことがすべてではないだろうから

自分から話してくれるのを待とう

 

このままここにいた方が邪魔になると思い、俺は自分の部屋に戻った

いつか抱えているもの全部を分けてくれること願いながらを眠りについた

 




今回もお読みいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後の12日を予定しています。

アルフレット


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第九話

黒崎家第四話です
ついに天とコンを絡ませることができました‼
今回も楽しんでいただけると幸いです

アルフレット


「お兄ちゃん‼朝ですよ〜」

 

遊子のそんな声で眼が覚める

いつの間にか寝てしまっていたようだ

完全に寝不足だが仕方ない

着替えてリビングに向かう

 

「おはよう‼お兄ちゃん」

「一兄、おはよう」

「…おはよう」

「おう」

 

遊子と夏梨、天が挨拶してくれる

天は昨日のことはなかったように、いや目が少し赤いようだったが、

そのほかは変わらない様子だった

その姿にとりあえず一安心する

よく見ると親父がいない

 

「親父はまだか?」

「お父さんなら朝早くから出掛けたよ

 晩御飯までには絶対帰ってくるって言ってた」

 

そう言えば医師の集まりとか何とか言ってた気がする

すっかり忘れてたけど

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

一護さんが起きてきた

昨夜のことがあってどういう顔をすればいいのかわからない

とりあえず短く挨拶だけしておく

一護さんはチラッとこちらを見ただけで席についた

何とか誤魔化せたみたい

顔がいつもより眉間にしわが寄っていて怖かったけど

昨日の夜のせいだろうか…

 

「今日、俺と天は昼過ぎから出かける

 晩飯までには帰ってくるつもりだ」

 

一護さんの発言で今日の予定を初めて知る

 

「わかった

 天さん、今日の晩御飯楽しみにしてて‼」

「うん…楽しみにしてる」

 

遊子ちゃんは気合いの入った顔で腕捲りして言った

そんなこんなで朝食の時間は過ぎていった

 

朝食を食べ終えて歯を磨いて、お皿を洗うのを手伝う

それが終わるとすることが無くなる

手持ち無沙汰になり、昨夜の様にソファの上で膝を抱えて座る

窓に目を向けると外はとてもいい天気だ

柔らかな日差しが入ってくる

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

俺は歯を磨き終えて、自分の部屋にいた

ベッドに腰掛けているとドアをノックする音が聞こえた

 

「お兄ちゃん、ちょっといい?」

「どうしたんだ、遊子?」

 

ドアの向こうから遊子の声が聞こえてドアを開ける

そこには少し暗い表情をした遊子がいた

そしてキョロキョロして誰もいないのを確認すると切り出した

 

「ねぇ、天さんって何かあったの?」

「どうしたんだ?急に」

「朝ね、お父さんが早く出かけるから

 朝ごはん作らなきゃって思って、起きてキッチンに行ったら

 リビングのソファの上で丸くなっている天さんがいたの

 目が真っ赤だったからどうしたのって聞いても何でもないって

 お兄ちゃんなら何か知ってるかと思ったんだけど…」

「わかった俺からも話聞いてみるな

 ありがとな」

 

そう言って遊子の頭を撫でてやる

すると嬉しそうにエヘヘと笑っていた

遊子はリビングに戻って行き、部屋のドアを閉めた

ベッドに寝転び考える

 

(あのままずっとリビングで泣いてたのか)

 

「俺に任せろ‼」

「はぁ?」

 

コンが突然叫んだ

意味がわからない

 

「だから俺に任せろ‼」

「はぁ?何をだよ⁉」

「天ちゃんが悲しみにくれてるんだろ?

 こんなときこそ俺様の出番だ‼」

 

関わると面倒だ

こんなときは無視が一番

 

「ほら、俺様が癒してやるから天ちゃんを連れてきやがれ‼」

「誰が連れてくるか‼」

 

コンを黙らすために押さえつけているとドアをノックする音が聞こえた

 

「…一護さん、私…入ってもいい?」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ソファに座りながら窓を見つめる

温かな日差しが入ってきていた

その日差しに誘われるように窓のそばに行った

窓のそばに行くと日差しが当たるところに座る

そのまま外を眺める

外では小鳥たちが遊んでいて、微笑ましい

それを眺めているとだんだん眠くなってきた

うとうとしてるとリビングのドアが開く音がした

声をかけられてハッと目を開ける

 

「天さん?何してるの?」

「…何もしてない」

 

声がする方を見ると遊子ちゃんが立っていた

今朝もソファの上で丸くなっていたことで

心配をかけてしまったらしい

遊子ちゃんの表情がくもるのを見てまずいと思って付け足す

 

「日差しが温かそうだったからここに座ってるだけ」

「そうなんだ!確かに今日は暖かそうだね」

 

間に合ったようだ

遊子ちゃんは笑ってくれた

思い出したように遊子ちゃんは言った

 

「そういえばお兄ちゃんが呼んでたよ」

「一護さんが…わかった

 ありがとう」

 

お礼を言って一護さんの部屋へと向かう

一護さんの部屋からは何だか騒がしい音がしていた

 

(一護さん以外いないはずなのに…)

 

不審に思いながらもドアをノックする

部屋の中の音が止んだ

 

「…一護さん、私…入ってもいい?」

「あ、あぁいいぞ」

 

何か慌てているようだったけど気にせずにドアを開けると

一護さんは少し疲れた顔をしていた

息も少し切れているような気がする

部屋を見回すと男の人の部屋と思えないほど片付いていた

 

「どうしたんだ?」

「それはこっちのセリフ…

 遊子ちゃんが呼んでるって言ったから来た」

「俺がか?」

 

頷く

どうやら一護さんは私を呼んだ覚えはないらしい

でも、心当たりがあるのか小さくため息をついていた

 

「遊子のやつ…」

「?用事がないなら帰る」

 

そう言って背を向けて部屋を出て行こうとしたとき

 

「ちょっと待ったーーーー‼

 俺の存在を忘れてもらっては困るぜ‼」

 

一護さんとは違う声が聞こえてきた

見回しても誰もいない

気のせいだと思って部屋を出ようと再び背を向ける

 

「おいおい‼ここだここ‼

 俺を無視するな!」

「コン‼お前は黙ってろ‼」

 

もう一度振り返るとライオンのぬいぐるみと格闘する一護さんの姿があった

さっき話していたのはライオンのぬいぐるみというわけ?

気のせいだそんなことあるわけない

 

「そこのお嬢さん…

 このコン様があなたの心の傷をいやしてあげましょう」

「だからお前は黙ってろ‼」

 

ライオンのぬいぐるみ、コンは私を癒すと言っている

正直、一護さんとコンのコントを見ているようだった

 

「何これ?」

「コン様だ」

 

しゃがんで目線を合わせて見る

コンの目をジッと見つめる

そのまましばらく見つめ合う

ぬいぐるみを指さしながら一護さんに聞く

 

「これ、ロボット?」

「俺はロボットじゃねぇ‼」

「あなたに聞いてない」

 

私が一蹴するとコンはあからさまに肩を落としていた

一護さんはため息をつきながらも答えてくれた

 

「義魂丸がなかに入ってんだよ」

「…なるほど」

 

義魂丸が物の中に入るとこうなるのか

初めて見た

おもしろい

とりあえず色々なところを触ってみる

やはり、入れ物はただのぬいぐるみらしい

触り心地は…あまりいいとは言えないような気がした

 

「そのまま俺様を抱きしめてもいいんだぜ!」

「何で?」

「何でって…」

 

何故かへこんでいる

私に抱きしめてほしいということか…?

 

「抱きしめて何か得がある?」

「おう!癒されて元気になるぜ‼」

「お前がな」

「お前は黙ってろ‼」

 

なるほど…抱きしめられてぬいぐるみは元気になるのか

ということは私自身には得はないと

一護さんはまたコンと取っ組み合いが始まった

はたから見ればオレンジ髪の顔が怖い男の人が何故か動くぬいぐるみと

じゃれているようにしか見えない

なかなかおもしろい光景だった

そんな様子を見ているとつい笑ってしまう

 

「フフッ」

「「っ‼」」

 

二人?の動きが止まった

ジッと顔を見られる

 

「…何?」

「あ、いや…何でも」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

天が笑った…

一瞬だけだが気のせいではないはずだ…

コンまで固まってやがる

 

「やっぱり俺のおかげだな‼」

「どこがだよ⁉」

 

コンが騒ぎ始めたからまた抑え込もうと取っ組み合う

そんなことをしていると遊子の呼ぶ声が聞こえた

 

「お兄ちゃん!天さん!お昼ご飯できたよ~」

 

取っ組み合いをやめて天を見る

天の顔からは笑みは消えていて、いつもの無表情に戻っていた

 

「飯、食いに行くか」

「うん…」

 

天に声をかけてドアに手をかける

 

「おい!無視するな」

 

後ろで喚いてるコンを無視して天と一緒にリビングに向かった

 




今回もお読みいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後の19日予定しています。

アルフレット


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第十話

UA2500越え…自分でも驚きです
本当にありがとうございます‼
励みになります。
たくさんの方に読んでいただいているのに文章力が…頑張ります
今回も楽しんでいただけると幸いです

アルフレット


昼食を食べ終えて一護さんと二人で家を出た

まずは私の荷物を取りに行くため私の家へと歩く

 

「お前のうちってどこだ?」

「兄さんと住んでた家はもう出たからない」

「家を出たって普通の家に兄貴と二人で住んでたのか⁉」

「うん」

「じゃあ、着替えの荷物とかはどこにとりに行くんだ?」

「念のために造っておいた隠れ家みたいなところ」

 

兄さんが死んでからすぐに家は引き払った

敵に場所を知られたかもしれないから

兄さんがそんなへまをするとは思えなかったけど

現世の、それも戦う術を知らない人たちを

巻き込むことだけは絶対避けなければならなかったから

 

一護さんは相変わらず黙ってついてきている

ようやく隠れ家の入り口についた

 

「着いた」

「おい…ここって…」

「ここが隠れ家の入り口

 一護さんはどうする?」

「ここが入り口って山だぞ」

「隠れ家は山の中にある」

 

そう言って勝手に歩き出す

入口に立って、間違って誰かが入ることがないようにかけている術を解除する

解除し終わってから振り返って一護さんを見る

 

「どうする?」

「俺も一緒に行っていいか?」

「うん…じゃあ、ついてきて」

 

一護さんが完全に入ったことを確認してからまた術をかける

かけたのを確認してから再び歩き出す

道という道はなくただ、山を登っていく

一護さんは後ろから黙ってついてきていた

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

(こんな山の中に家があんのか?)

 

ただの山の斜面を天は迷うことなく歩いていく

半信半疑のまま登り続けて十分ぐらいが経ったころ、小さな小屋のような建物が見えてきた

 

(ここが天の隠れ家か…)

 

「ここか?思ったより小さいな」

「うん…ここ

 見た目は小さいけど中は意外と広い

 それじゃ、すぐに荷物をまとめてくる」

「あぁ、急がなくてもいいぞ、まだ時間はあるしな

 ここで待ってるから行ってこい」

 

天は頷いてドアノブに手をあてるとドアが淡い光を放って少し開いた

そのまま中に入っていった

俺は小屋にもたれかかってあたりを見回す

本当に山の中で周りのは人気がなく、木々が生い茂っていた

街中とはまた違った空気が流れていた

目を閉じると聞こえてくるのは風によって揺れ、こすれる木々の音だけだった

 

(隠れ家があるならここでもよかったんじゃないか?

 わざわざ俺の家に泊めなくても)

 

嫌というわけではないが、あんなに縮こまっている姿を見るとそう思ってしまう

そんなことを考えていると扉の開く音が聞こえた

どうやら荷物をまとめ終わったらしい

扉の前に行くと小さめのボストンバッグを持った天がいた

 

「終わった」

「おう、少なそうだけど足りるのか?」

「大丈夫」

 

天はそう言うとカバンを地面においてドアノブに手をかざす

すると淡い光を放って、完全に閉まった

 

「これで終わり

 浦原さんのところに行こ」

「あぁ、荷物貸せ俺が持つから」

「重いからいい」

「だから俺が持つんだろ

 いいから貸せ」

 

歩き始める前に半ば強引に天のカバンを持つ

それは思っていたよりも重く、細いくせに軽々こんな重いものを持っていたのに驚いた

山を下り始めて、再び入ってきたところから出る

出たところで気になっていたことを天に聞く

 

「なぁ…普通の家に兄貴と二人で住んでたんだよな?」

「どこにでもあるようなアパートに住んでた

 それが何?」

「どうしたんだよ?お前の兄貴がその…」

「死んだとき?荷物を隠れ家に移して出た」

「出たって…大家とかいただろ

 何て説明したんだよ」

「何も説明してない」

 

人が死んだのだからいくら何でも説明なしでは出れないだろ

 

「いくらなんでも不審に思うだろ

 部屋に血のあとだってあったろ」

「血の跡は普通の人には見えない

 見えたとしても私たちの一族は死んだら何も残らないから大丈夫」

 

天の言ったことの意味がわからない

天は寂しそうな顔をしてうつむいた

それから消え入りそうな声で言った

 

「残らない

 本当に何も…

 だから部屋は兄さんが死ぬとそこにあった兄さんの血のあとも消えてなくなる」

「そうだとしてもいきなりいたやつがいなくなったら不審がるだろ」

「記憶を消してしまえばいい」

「はぁ⁉」

「私たちに関する記憶だけ消してしまえばそれですむ」

 

そう言う天の顔は悲しそうな寂しそうだった

記憶を消すのはルキアたちが似たようなことやっているから可能なのはわかる

ただルキアたちがやるそれとは訳が違うのだろう

 

「記憶を消すって死神がするようなやつか?」

「死神がどうするのかは知らない

 私たちは自分たちに関する記憶の一切を完全に消す術がある

 それを使えばすむ」

「一切の記憶を消す術って…」

「言葉の通り…その人の記憶の中から

 私と兄さんの記憶を消すことで、

 その人の中には天っていう人も龍っていう人がいなくなる」

 

驚いた

ルキアたちは記換神機という道具を使って記憶置換をする

それをこいつは自分の力でするってことか…

そんな力、使い方を間違えれば大変なことになるだろう

でもその力を使えば楽しかった記憶とかの

忘れたくないような記憶を相手からは消えて、

自分だけが覚えてるということになる

 

(それって辛くないか)

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

一護さんは黙りこくってしまった

そのまましばらく何も話さずに歩く

一護さんがポツリと呟く

 

「そうやって今まで逃げて来たのか…お前は…」

「え?」

 

あまりにも小さな声で何て言ったのかいまいち聞き取れなかった

聞き返すと一護さんは立ち止まってしっかりと私の目を見てはっきりと

 

「今までそうやって逃げて来たのか」

「っ‼」

 

はっきりと真剣な顔で…

今まで私が一番嫌だったことを…

その地を離れるごとに関わった人の記憶を消す

そんなことを繰り返してきた

私は覚えていても相手は憶えていない

それが一番寂しくて辛かった

 

「そう」

「俺たち相手にもそうするのか?」

「それはわからない

 そうするかもしれない」

 

私も一護さんの目をしっかりと見て答える

嘘やごまかしはきっと通じないと思ったから

でも、出来るとこならそんなことしたくない

一護さんはそんな私の答えにイラッとしたのか眉間のシワをさらに深めた

そのままずかずかと私に近づいてきて肩を掴んだ

 

「するな

 俺がお前を護る

 だから何があってももう二度とその術を使うな」

 

肩を掴む力が強くなる

そんな姿に顔を反らすこともできず、小さく頷く

そんな私の姿に満足したのか肩から手を離し、いつもの一護さんに戻った

 

「約束だからな」

 

そう言って一護さんは何事もなかったかのように歩きだした

それから浦原商店に着くまで言葉を交わすことはなかった

 

「来たぜ、浦原さん」

「こんにちは…」

 

店の奥から浦原さんたちが姿を見せる

夜一さんは猫姿ではなく、人の姿で出迎えてくれた

 

「早かったですね

 まだ皆サン来てませんからお茶でも飲みながら待ってましょ」

 

そう言って鉄裁さんにお茶を頼んで部屋に案内してくれた

部屋に入るとちゃぶ台があり、そのまわりを囲むように座る

 

「黒崎サンの家はどうでした?」

「そうじゃの楽しかったか?」

 

二人が私の顔を覗きこんでくる

思ったことを率直に言う

 

「温かかった」

 

二人は満足そうに笑ってそうかそうかと言っていた

 

「じゃが、目の下にクマができておるぞ

 眠れんかったか?」

「大丈夫」

 

夜一さんが心配そうに頭をなでてくれる

気持ちよくて撫でられていると玄関の方から明るい声が聞こえてきた

 

「浦原さ~ん

 お邪魔しま~す」

「おや、来たみたいですね」

 

浦原さんは玄関の方へ行った

 

「いらっしゃい

 三人ご一緒だったんスね」

「来る途中であったんです」

「一護たちは…?」

「もう黒崎サンと天サンは来てますよ」

 

織姫さんたちも来たみたいだ

足音が聞こえて襖が開く

 

「黒崎くん、天ちゃん

 こんにちは~」

「おう!」

「…こんにちは」

 

三人は部屋に入って同じようにちゃぶ台を囲むように座った

三人が座ったのを確認してから浦原さんが口を開いた

 

「さて、皆さんが揃ったことですし始めますか

 天サンに訊きたいことがまだありますから」

「…わかった

 答えられることは全部答える」

 

和んでいた雰囲気はどこかに消え去り、緊張感が漂い始めた

 




今回もお読みいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後の26日を予定しております。

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第十一話

チャドを話させたいけどどうすればいいか分からず
ほとんど話せてない
今回は浦原尋問その1です
今回も楽しんでいただけると幸いです

アルフレット


皆が揃ったところで浦原さんがでは…と切り出す

 

「訊きたいことがいくつかあるんス」

「訊きたいことって何?」

 

開いていた扇子を閉じて考えながらという感じで口を開く

 

「そうっスね…

 怪我をして倒れていたことは話しましたよね」

「うん…聞いた」

「あなたのケガは虚によるものでした

 では、どうしてあなたが虚に襲われたんでしょう」

 

私は虚に襲われた

普通の虚ならケガひとつせずに倒すことができる

それなのに私は虚にけがを負わされた

考えられる理由は…

 

「考えられる理由は四つ

 一つ目、虚に何らかの特殊能力があったから

 二つ目、単純に私の手に負えなかった

 三つ目、気づかないうちに攻撃された

 四つ目、仮面集団によるもの」

 

私は指を一本ずつ立てながら話した

皆がうーんとうなっている

まず始めに口を開いたのは夜一さんだった

 

「なるほどのぅ

 じゃがお主の手に負えぬのなら一護も倒すのに苦戦しとるはずじゃから

 手に負えなかったことはあるまい」

「そうっスね

 特殊能力があれば黒崎サンたちも気づくでしょうから

 その線もないでしょう」

 

夜一さんと浦原さんはアゴに手を当てながら二つ目と三つ目の可能性を否定する

それに一護さんがうなずきながら言う

 

「残るは二つか」

「君の実力がどの程度かは知らないが

 四つ目の仮面集団によるものが一番可能性が高いんじゃないか

 気づかないうちに攻撃されるほど鈍感ではないだろう」

「…ム」

「わたしもそう思う」

 

石田さんの発言に皆が頷く

浦原さんと夜一さんはともかく

石田さんたちは虚の気配に気付くぐらいの実力は持っていると思っているらしい

実際持っているけど…

 

「だけど仮面集団の仕業だったとしてどうやって虚でケガさせたんだろう?

 もし、そこに虚を持ってきても天ちゃんに気づかれるよね?」

「そうだな」

 

正直、そのタネについては見当がつく

実際にやれと言われたらできると思う

でも、それをここでいうわけにはいかない

少なくとも今はまだ…

浦原さんと夜一さんも見当がつくはずだがそれを言う気はないらしい

私にもその気がないのがわかったのか次の話に移った

 

「そのことを話しても仕方ありませんし、次の質問いいっスか?」

「何?」

「どうしてあそこにいたんスか?」

「あそこって?」

「アナタが倒れていたところっス

 ここから少し行ったところの」

 

次は私が倒れたところにいた理由を知りたいらしい

何とかごまかそう

 

「アナタはご自分が狙われていることはわかっていたはずです

 何の理由もなく外を歩くことはないと思うんス

 それも人気のないところを」

 

痛いところを突かれた

確かにあそこを歩いていた理由はある

でもそれを言うと絶対に怒るに違いない

だってそれは自分を封印する断界に行く途中だったから

 

「そんなことない

 私だって一人で外を歩きたい時ぐらいある」

「…そうっスか」

 

浦原さんは納得してないどころか

私が本当のことを話していないことも分かっているような気がした

これ以上話しても本当のことを話さないという思いで浦原さんを見つめると

あきらめたようにため息をついて、次の質問に移った

 

「では、次の質問っス」

「何?」

 

あきらめてくれたことに安堵した

 

「血盟者のことっス

 訊いてもいいですか?」

「答えられる範囲で答える」

「それで構いません」

 

浦原さんは私の答えに満足そうに頷いた

扇子を片手で開いてちゃぶ台に肘をつきながら口を開いた

 

「今、天サンに血盟者はいますか」

「いない」

「作る気はないんスか?」

「時期が来れば

 今はその気はない」

 

浦原さんはそうっスかと姿勢を少し後ろにした

夜一さんは残念そうな顔をしていた

なんとなくわかった

私を一護さんの家に行かせた理由が

 

(一護さんを私の血盟者にしたかったんだ)

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

何となく天があそこに倒れていた理由をごまかされた気がするが

天はこれ以上訊くなという目で浦原さんを見ていたから

訊こうにも訊けなかった

その代わり、浦原さんが血盟者の有無について聞き終わったのを見計らって

血盟者とは何か訊く

 

「なぁ、血盟者って何だよ」

「血盟者はその人が結ん…」

「それは聞いた

 もう少し詳しく聞かせてくれよ」

 

天は前に話した通りに話そうとするのを遮って詳しく話すように迫る

あまり話したくなさそうだがこれだけは引き下がれない

 

「血盟は簡単に言えばその人が最も信頼する相手と結ぶ誓約みたいなもののこと

 血盟者はその誓約を結んだ相手のこと」

「その相手って誰でもなれるのか?」

「なれる

 極論を言えばそこらへんにいる虚でもできる

 結ぶための儀式的なことさえできれば」

 

なるほど

やっと少しわかった

石田が小さく手を上げながら天に聞く

 

「どうして血盟者を作るんだい?」

「どうしてって?」

 

質問の意味が伝わらなかったらしい

 

「血盟者を作るメリットは何だい?」

「血盟者になるときに互いに何かしらの頼みごとをする

 それを互いに守る

 それだけ…」

 

たぶんそれだけじゃないだろう

けど、天は言う気はないらしい

それならと浦原さんと夜一さんに聞いてみる

 

「ということは浦原さんと夜一さんも頼みごとをしたのか?」

「ハイ」

「したぞ

 じゃが、お主たちに内容を教える気はないがの」

 

浦原さんたちから聞き出そうとしたが失敗に終わった

チラッと隣の天をみるとこの話はこれで終わりオーラを出してやがる

おそらく浦原さんたちは天が話したくないこと、

話す気がないことは二人の口から話す気はないのだろう

 

(これもまだ話せねぇのか…)

 

まだまだ話してくれることが少ない

出逢ってまだ数日なのだから仕方ないのは仕方ないけどな…

早く天の抱えているものを持たせてもらえるようになろうと改めて思った

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

何とか血盟者についての質問は乗り切れただろう

気づかれないように安堵していると今度は織姫さんが口を開いた

 

「ねぇ私からもいいかな?」

「…うん」

 

人差し指を立てて首をひねりながら聞いてきた

 

「どうして双天帰盾が使えなかったのかな

 天ちゃんを見つけた時に何度もしたんだけどすぐに解けちゃって…」

「そうてんきしゅん?」

「昨日、俺のケガを治してくれたやつのことだよ」

「あぁ…それはたぶん織姫さんの術では

 私の術に勝てなかったから」

 

浦原さんと夜一さん以外の四人の頭に

ハテナが浮かんでいるのがすぐにわかった

 

「前に義骸に入ってある術をかけているって言った」

「うん…言ってたね

 特殊な義骸に入って術をかけてるから霊圧が全く感じられないって」

「そう…私の場合、義骸の上から術をかけている

 だから傷を治すにはその術を解除するか、その術を上回る力でないと効かない」

「ということは、私の力だと天ちゃんの術に勝てなかったということ?」

「簡単に言えばそういうこと」

 

織姫さんはなるほどというように何度も頷いている

一護さんがならばと口を開いた

 

「じゃあ鉄裁さんが治せたのはお前の術より強かったからか?」

「それは違う

 傷を治すのに使ってくれた霊力を

 自分の中に取り込んで自分で治癒術を使った」

 

再び一護さんたちがポカンとした

 

「どういうことだよ?」

「そのままの意味」

 

理解できないようで皆が固まっている

浦原さんたちはどういうことかわかっているのか楽しそうにニヤニヤしていた

 

「『そのままの意味』って言われてもわからねぇんだよ!」

「だから、鉄裁さんが私を治すために使ってくれた霊力を取り込んで

 自分自身に治癒術を使った」

 

完全には理解できなかったみたいだが、諦めたようだ

浦原さんはまだニヤニヤして扇子を仰いでいた

 

「それならそんなことをせずに始めから

 自分に治癒術使っておけばいいのではないか」

 

今まで一言も話さなかった茶渡さんが口を開く

 

「自分自身に治癒術をかけるのは難しい

 それに、元から自分にかけていた術が解けないようにしながらだから

 無駄に力を使う」

「おまけにあの時はケガがひどかったんで自力で使うのは難しかったんでしょ」

 

浦原さんが補足してくれる

ようやく理解できたのか納得したように何度もうなずいていた

 

「もうない?訊くこと」

 

反応がない

ないということにしよう

そういうことにして、外を見るともう日が傾いていた

 




今回もお読みいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後の7月3日を予定しております。

アルフレット


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第十二話

何か暗い話になってしまいました
暗い話が多いような気もしますが
今回も楽しんでいただけると幸いです

アルフレット


外を見ればもう空は赤く染まっていた

皆の方に目を向けると何も言わずにそれぞれ何か引っかかることでもあるのか

考え込んでいた

何となく居心地が悪くて静かに席を立つ

 

「どこ行くんだ?」

「…外」

 

バレた…

こうなれば一人で行かせてくれない

思いっきり顔をしかめる

 

「俺が一緒に行く

 …露骨に嫌な顔すんな」

「…一人がいい」

 

一護さんはやっぱりついてくるという

さらに顔をしかめる

 

「店の前なら大丈夫でしょう」

「そうじゃの店の前だけなら一人でも構わん」

 

浦原さんと夜一さんが助けてくれる

自然と顔のしわが取れていく

一護さんも仕方ないなとため息をついている

 

「良かったね!天ちゃん」

「はぁ…なんかあったら呼べよ」

「わかった…」

 

私はそのままふすまを開けて玄関へと歩き、外に出る

外に出ると空はきれいなオレンジ色で耳をすませば

家に帰る途中であろう子供の声が聞こえる

地面に座ると一気に力が抜けたように寝転がる

砂が付くことなんて無視してただ空を見る

小さい頃も地面に寝転がっては母さんに怒られていた

 

(何だか懐かしい)

 

あの時はこうしていればどこからともなく誰かが現れて

私を起こしてくれたっけ

また母さんに怒られるぞって

でもそんな人はもうここにはいない…

何をしていても頭に浮かんでくるのは昔の出来事で

もう昔のようなことは叶わないのにどうしても祈ってしまう

今のたった一つの願い事を呟く

 

「時間を巻き戻せたら…」

 

叶わないことばかり願ってしまう

叶わないからこそ願ってしまうのか

視界がだんだんぼやけてきた

腕で目を覆う

空が見えないように

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

天が部屋を出て行った後も誰一人として口を開かなかった

しばらくそうしていると夜一さんが沈黙を破った

 

「のぅ、一護

 昨日の夜、何かあったのか?」

「そういえば天ちゃん、目の下にクマできてたよね」

 

井上もそういえばという風に思い出す

昨日の夜のことを思い出すと

真っ先浮かんでくるのはあいつの静かな泣き顔だった

 

「あぁ…昨日はきれいな満月だっただろ

 あいつの兄貴が死んだときもあんな満月だったらしくてな

 それで、兄貴のことを思い出して寝られなかったみたいだ」

 

俺が答えると夜一さんはそうかと呟き、井上は辛そうな顔をした

 

(井上もたった一人の兄貴を亡くしてるからな)

 

それでも井上の周りにも竜貴たちがいたからあいつほど孤独ではなかったはずだ

 

「朝には何もなかったようにふるまっていたけど実際はかなりきついんだろうな

 兄貴を亡くしてからあまり経ってねぇし

 それにずっと自分のせいだって責めていたみたいだしな

 なぁ…浦原さんと夜一さんはあいつがまだ小さいときに会ったことがあるんだろ?

 その時はどんなやつだったんだ?」

「そうっスね…あの時は今よりもっと表情豊かでしたね」

「そうじゃの…母親にべったりでよく笑っていたな」

 

少し安心した

昔から笑えないわけではない

昔は今と違って表情豊かだったってことはこれまでの生活のせいで

表情が消えていったってことだ

もしかしたらこれからそれを取り戻せるかもしれねぇ

現に今日の朝、あいつは少しだけだが笑ったしな

 

「黒崎サン、他に何か聞いていませんか?」

「何かって…今日ここに来る前にあいつの隠れ家みたいなところに

 着替えとか取りに行ったな」

「隠れ家ですか…」

「あぁ、山の中にある

 俺も隠れ家の前まで行ったぜ」

「なるほど…その時に何か話しませんでしたか?」

 

話したことは一つしか思い浮かばない

 

「あいつが今までどうやって過ごしてきたかは聞いたぜ」

「それを聞かせてもらえますか」

「あぁ…今まで住んでいた地を離れるときは

 自分たちの記憶をすべて消してしまうんだってよ

 兄貴が死んだときも家にあったものは隠れ家に移して

 自分たちに関する記憶を消したって言ってたな」

「そうっスか…」

 

浦原さんは予想通りだったのかやはりと頷いた

 

「やっぱり、天には可能なのか?

 人の記憶から自分の存在を消すことは」

「可能じゃろうな」

「そうっスね

 実際に見たことがないんで正確にはわかりませんが

 彼女の実力であれば可能だと思いますよ」

 

記憶を消すのに必要な実力がどれほどのものかわからねぇけど

二人が可能というなら可能なのだろう

思い出すのは俺たちにもそうするかもしれないと言った天の顔だった

 

「あいつ言ってたんだよ

 俺たち記憶も消すかもしれないって

 それも悲しそうな顔でな

 もうそんなことをさせたくねぇんだよ」

「そうならないように僕たちが頑張ればいい」

 

石田の言う通りだとは思ったが素直にうなずきたくない

井上とチャドは横で頷いているけど

そしてもう一つ気になっていたことを聞く

 

「なぁ、浦原さんたちはあいつの親の血盟者なんだよな

 俺でもあいつの血盟者になれるか?」

「なれるかなれないかで言えばなれる

 じゃが、それを決めるのは天自身じゃから

 お主が絶対に血盟者になるとは限らん」

 

つまり俺でもあいつに選ばれたらなれるってことか…

あいつの抱えているものを分けてもらうには

それが一番手っ取り早い気がした

話が一段落して窓の外を見ると空はもう暗くなり始めていた

 

「そろそろ帰った方がよさそうっスね

 明日は天サンの好きなように過ごして下さい

 明後日からは黒崎サンたちは学校があると思うんで

 天サンを家につれてきてもらっていいっスか

 終わったらまた迎えに来てあげてください」

「わかった

 学校に行く前に連れて来る」

 

明日は天の好きなようにと言われたが、

未だに遠慮しているのか本当にやりたいこととかがないのか

わからねぇけど何か言ってくれるとはあまり思えなかった

 

「天は店の前におるじゃろ」

 

夜一さんに続くように俺たちは立ち上がり部屋を出る

玄関で靴を履いて天に声をかけようとあたりを見渡しても天の姿が見えない

少し焦ってもう一度見回すと地面に寝転がった天がいた

声をかけるために近寄ろうとすると天の小さな嗚咽が聞こえた

その声に足を止める

井上たちにもその声が聞こえたのか足を止めていた

 

「天ちゃん…」

(俺たちの前では泣けないから外に出たのか…)

 

天の姿に俺たちはかける言葉が見つからなかった

俺たちはもう一度店内に入った

 

「天ちゃん…泣いてたね」

「あぁ…」

 

浦原さんたちも何と言えばいいのかわからないといったようだった

そのまま誰も話すことなくしばらく店の中にいた

すると外で寝ころんでいたはずの天が顔を覗かせた

 

「何してるの?」

 

目は真っ赤で声も鼻声だったが何もなかったように話しかけてきた

そんなことはせずに本当の気持ちをぶつけてほしいと

こんなに強く願ったことはなかった

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ひとしきりなくと少しすっきりした

周りを見るともうすでにかなり日が傾いて薄暗くなっていた

 

(外にいすぎた…早く戻らないと)

 

そう思って乱暴に涙を拭いて立つ

数歩歩くと店内に一護さんたちがいるのが見えた

 

(もしかして泣いているの見られた?)

 

本当は泣くつもりなんてなかった

空がきれいだったから少し眺めたかっただけだったのだから

見られたのは恥ずかしかったが声をかけてこなかったのは

きっと私を思ってのことだろうということにして

何食わぬ顔でいることにした

 

「何してるの?」

 

私が話しかけると案の定、皆気まずそうに目をそらした

そのまま沈黙が続く

すると浦原さんが口を開いた

 

「もう暗いですし、早く帰った方がいいっスよ」

「そ、そうだね!帰ろう!」

 

織姫さんが何かおかしかったのは無視した方がいいような気がする

 

「よし、じゃあ天、帰るぞ」

「わかった…バイバイ」

 

浦原さんと夜一さんに手を振ると浦原さんは扇子を振り夜一さんは頭をなでてくれた

 

「気をつけて帰るんじゃぞ」

「うん…」

 

やっぱり夜一さんに頭をなでてもらうのは気持ちいい

しばらく撫でられていると一護さんが声をかけてきた

 

「天、そろそろ行くぞ」

「うん…」

 

もう一度浦原さんと夜一さんに手を振って皆と一緒に帰路についた

 




今回もお読みいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後の10日を予定しております。

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第十三話

またもや暗い展開が…
コンが再び登場します‼
コンの扱いが難しい…
今回も楽しんでいただけると幸いです

アルフレット


帰り道、一護さんに明日の予定を聞くと

 

「明日はお前の好きなように過ごせってよ

 明後日からは俺たちが学校に行ってる間は浦原さんのところだ」

「わかった… 

 明日何するの?」

 

一護さんはやっぱりと言った風にため息をついた

 

「それはお前が決めんだよ

 何かしたいことはないのか?」

「…ない」

 

私が答えると周りからため息が聞こえてきた

周りを見回すと苦笑いばっかりだ

 

「行きたいところとか本当に何かないの?」

「行きたいところ…ない」

 

織姫さんが聞いてくれるけどないものはないから答えは同じだ

皆が困った顔をするが内心一番困っているのは私だろう

それならと織姫さんが声を上げる

 

「明日、どこかにピクニックに行こうよ‼」

「ピクニック?」

 

織姫さん我ながらナイスアイデアとうんうんと頷いている

一護さんと茶渡さん、石田さんまでもそれがいいと頷く

 

「どこに行くの?」

「電車で少し行ったところに大きな公園があったからそこに行こう‼」

「行って何するの?」

「体を思いっきり動かして遊ぶんだよ」

 

ということで織姫さんの提案で明日はピクニックとなった

その後集合場所など諸々決めて別れた

 

「なぁ聞いていいか?」

「何?」

 

皆と別れて少し経った頃、一護さんが足を止めて口を開いた

 

「俺たちはそんなに頼りないか?」

「えっ?」

 

一瞬一護さんがなんて言ったのか分からずに聞き返す

 

「だから俺たちは頼りないかって聞いてんだよ」

「どうして?」

「お前が話せないことが多いのはわかる

 それでも少しぐらい頼れよ」

 

返事に詰まってしまった

頼りないわけではない

いや、きっと一護さんが求めていることと私が求めていることはまるっきり違う

一護さんは私に《頼る》ことを求めているのに対して

私は《離れていく》ことを望んでいる

根本から食い違っているのだからどうしようもない

でも、それをはっきり言う勇気は私にはない

一方で話して少しでも楽になりたいという気持ちもある

でも、話す勇気さえ持っていない

 

「頼りないわけじゃない」

「じゃあ、何で苦しいことも全部ひとりで抱えようとするんだよ…‼

 浦原さんも夜一さんも井上、チャド、石田…みんな心配してんだよ

 少しくらいわけてくれてもいいだろ…‼」

 

一護さんは苦しそうな顔をしていた

 

「どうして一護さんたちに言わないといけないの?

 あなたたちには関係ない」

 

これでこの話は終わりと背を向けて私は歩き出した

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

天から話してくれるのを待つつもりだったけど

あいつの姿を見ていると無性に腹が立ってつい聞いてしまった

頑なに俺たちを頼ろうとしない

苦しみを一人で抱え込んでいる背を見ると

昔のおふくろを亡くした時の自分と重なる

 

『どうして一護さんたちに言わないといけないの?

 あなたたちには関係ない』

 

そんな言葉が本当は話して楽になりたいんじゃないかと思ってしまって

放っておくこともできない

あいつのためにしてやれることがわからなくなった

天はこの話はここまでと言うように背を向けて歩き出す

手を伸ばせば届くの距離のはずなのにやけに遠くに感じる

このまま立ち止まっていたらもう二度と届かなくなるような気がして

走って天の隣に並ぶ

そのまま俺たちは話すことなく家へと続く道を歩いた

その道のりはいつもより長く感じた

明日、こいつの気持ちに少しでも変化が起こることを願うしかなかった

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

本当は話して楽になりたい

でもそれをこれ以上近づくべきではないという思いが押しとどめる

 

(遊子ちゃんたちの前ではいつも通り振舞わないと

 いつものこと…大丈夫)

 

父さんと母さんが死んでから自分の本当の感情を殺すことが多くなった

だからいつものことと自分を納得させる

いつもならすぐに切り替えられるのに今回は苦戦した

あれから一言も話すことなく、黒崎家に着いた

何とか切り替えも間に合い、一護さんの後に続いて玄関のドアをくぐる

 

「ただいま」

「…ただいま」

 

するとリビングからバタバタと足音が聞こえて

満面の笑みを浮かべた遊子ちゃんが出迎えてくれた

 

「おかえりなさい‼お兄ちゃん!天さん!

 もうご飯できてるよ」

「あぁ…荷物を置いて手ぇ洗ったらすぐに行くよ」

 

早くしてねというと遊子ちゃんはリビングに戻っていった

そして私と一護さんは荷物を置いたあと

洗面所に行って手を洗いリビングに向かった

テーブルの上には所狭しと料理が置いてあった

 

「おかえり、一兄、天さん」

「おう!やっと帰ってきたかおかえり!

 一護!天ちゃん!」

 

夏梨ちゃんと一心さんはもうすでにテーブルについて

私たちを待っていたようだ

私たちも席に着く

すぐに遊子ちゃんも席ついて夕食が始まった

 

「張り切って作ったからいっぱい食べてね、天さん‼」

「ほんと、今日の遊子はすごかった」

 

みんな楽しそうに食べている

昨日も賑やかだったけど今日の方が賑やかだった

 

(こんなに賑やかな食事はいつ以来だろう…)

 

遊子ちゃんが張り切って作ってくれた料理はどれもおいしかった

次から次へとお皿の上に料理を載せてくれるから

それを断るのが大変だったけど、とても楽しかった

 

そんな楽しい夕食も終わり、

洗い物の手伝いをしようとしたらしなくていいと言われ

することがなくなる

ソファでボーっとしていると一心さんが来て

 

「天ちゃん、お風呂が入ったから先に入ってきていいぞ」

 

と言われ、お言葉に甘えて先にいただくことにした

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

親父に促されてお風呂へと向かう天の後ろ姿を見送る

天がリビングを出て行ってしばらくしてから

俺は遊子に明日みんなでピクニックに行くことを伝えた

遊子は用事があっていけないのを残念がっていたが、

弁当を作ってくれることになった

それから自分の部屋に戻った

 

一人のなった途端に帰り道のことが頭によみがえる

晩飯は楽しそうに食べていたような気がする

まだ数日しか付き合いがないとしても

もう少しぐらいあいつのことが分かってもいいはずだ

それなのにいまだによくわからない

つい深いため息をついてしまう

 

「何だよ⁉そんなため息つきやがって」

 

何となく空を眺める

今日は昨日より雲が出ていて月を覆い隠していた

それがあいつの心と同じような気がしてまたため息が出てしまう

 

「おい‼聞いてんのか⁉

 湿っぽくなるだろ‼」

 

コンに思いっきり腹に蹴りを入れられる

 

「何すんだよ⁉」

「お前が無視するからだろうが‼」

 

さっきから何か騒いでいたらしい

全く気付かなかった

というか気付きたくもなかった

 

「また天ちゃん関係か?」

「うるせーよ連れてこないしな」

「なんでだよ⁉こんな時こそ俺様の出番だろ‼」

 

なぜか張り切っているコンを無視する

というよりも相手にするのがめんどくさい

もう関わりたくなかったから目を閉じて寝る

 

「おい!寝るな‼」

 

まだ何か騒いでいるが無視だ無視

目を閉じれば浮かんでくるのは天が静かに泣いている姿だった

そんな姿が見たいわけじゃない

笑ってほしいと思う

きっと井上たちも同じ気持ちなんだろう

 

(明日のピクニックで笑ってくれるといいんだけどな…)

 

ドアをノックする音が聞こえる

いつの間にか寝てしまっていたようだ

 

「一護さん…お風呂開いた」

「おう、わかった

 わざわざありがとな」

 

ドアを開くのが何となくためらわれてドア越しのやり取りになる

天の足音が遠ざかっていくのを確認して風呂へ向かった

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

一護さんにお風呂に入るように伝えて私はリビングの窓から外を見ていた

空には雲が浮かび、月を覆い隠していた

 

(夕方はあんなにきれいだったのに)

 

夕方は今日もきれいな月が見れるかなと少し期待していた分残念だ

明日は皆でピクニックに行く約束がある

そんな約束なんてしたことがなかったから楽しみ

明日は雨が降らないようにと祈りながらベットに入った

 




今回もお読みいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後の17日を予定しております。

アルフレット


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第十四話

初めてのほのぼの回のつもりです
難しいですね…
今回も楽しんでいただけると幸いです

アルフレット


次の日、私の願いが通じたのか快晴だった

作ったお弁当を持って一護さんと待ち合わせ場所に向かう

するともうそこには織姫さんや茶渡さん、石田さんがいた

 

「遅いぞ、黒崎」

「遅いってな…まだ集合時間前だろ‼」

 

早速二人は火花を散らしている

 

「おはよう‼天ちゃん!」

「おはよう」

「…おはよう」

 

私はそんな二人を無視して織姫さんと茶渡さんと挨拶を交わす

 

「あとは…浦原さんたちだけだね」

「浦原さんたちも来るの?」

「うん!昨日の夜連絡したら一緒に行きたいって」

 

少し安心した

一護さんたちとだけじゃ昨日のことがあったから不安だったけど

浦原さんたちが来てくれるなら少しは安心できた

 

「それにしても遅いな

 もう時間だぜ」

「そうだね…どうしたのかな」

 

もうあと数十秒で時間となるとき向こうから飄々とした声が聞こえた

 

「お待たせしました!」

「おせぇよ浦原さん」

 

ようやく浦原さんが来た

でも夜一さんがいない

夜一さんを探してキョロキョロしていると

浦原さんが持っているカバンの中から声がした

 

「天、ここじゃ」

 

カバンの中を覗き込むとそこには黒猫姿の夜一さんがいた

 

「どうじゃ?驚いたじゃろ?」

「どうして猫の姿なの?」

 

疑問に思ったことを聞いてみる

 

「それはのぅ…この姿じゃと交通費がうくからじゃ」

 

なるほど

少しでも節約するために猫の姿で浦原さんのカバンの中に隠れているのか

夜一さんはいたずらっ子のような笑みを浮かべているように見えた

 

「じゃあ、全員揃ったから行こう‼︎」

 

織姫さんの号令で駅へと向かう

私も切符を買おうとした時、浦原さんが

 

「天サンの切符はアタシが買いますから」

「自分の分は自分で買う」

「ここは素直に甘えとくもんじゃぞ」

 

私が浦原さんと話してる間に浦原さんは私の分の切符まで

買ってしまったようで横から切符を差し出される

それを受け取ると満足そうに改札に向かった

そのまま電車に乗り込み、30分ぐらい揺られていると目的地の最寄駅に着いた

その間、夜一さんはカバンの中でモゾモゾ動いていて

ばれないかハラハラしたが、

バレることなく降りることができた

その駅から徒歩で数分、

そこには大きな広場があってたくさんの親子連れやカップルがいた

 

「着いた‼︎」

「ここ?

 人がたくさんいる」

「まぁ、今日は日曜の上にこんだけ天気が良ければ人は多いだろ」

 

こんなに人が多いところにきたのは久しぶりだ

ずっと他人を巻き込まないために人の多いところは避けていた

皆は広場の中に入って行く

私は皆より少し遅れながらついて行き、周りを見回す

人が多すぎてあまり落ち着かない

そう思いながらついていくと先ほどよりも人の数が少ないところへ出た

そこの木の下で皆はレジャーシートを手早く敷く

私は辺りを見回して、人の数が減ったことでさっきよりも落ち着いていた

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

広場に着いた

やはり天気のいい日曜ということもあって大勢の家族連れやカップルがいた

 

(今日は人が多いな)

 

辺りを見回すとキョロキョロしている天が視界に映った

 

(人が多すぎて落ち着かないのか?)

 

不安そうな顔をしてキョロキョロしている

今までひっそりと暮らしてきただろうから無理もないけど…

そんな天のことを気にかけながらも広場の中へと入って行く

 

「どこにレジャーシート広げようかな?」

「そうだな…もう少し人気のないところがいいだろうな」

 

井上がどこがいいか見回しながら聞いてきたから天を見つつ答えると

俺の言いたいことがわかったのかそうだねと頷いた

それからさっきの広場より少し奥の方へ行くと静かでいい場所があったから

そこにレジャーシートを敷くことにした

広げながら天の様子を確認するとさっきよりも落ち着いているようだった

やっぱり人が多いと落ち着かないらしい

シートを広げ終わるとどかっと座った

天はというと木々の間から見える通ってきた大きな広場を見つめていた

その視線はうらやましそうに寂しそうに見えた

 

「天、そんなとこに突っ立ってないでこっちに来んか」

「うん」

 

いつの間にか人の姿に戻っていた夜一さんが

そんな天の様子を無視して声をかけるとすぐに来た

シートの端にちょこんと座っている

 

「そんなところに座ってないでもっとこっちにおいでよ

 ご飯食べよ」

 

井上が呼ぶと靴を脱いでゆっくりとこっちに来た

公園に来たら飯の時間になるように来た

弁当は俺と浦原さんが持ってくることになっていたから

俺は遊子に作ってもらったお弁当を開ける

…いつも遊子が作ってくれる弁当と違う気がする

 

「ん?」

「どうしたの?黒崎くん」

「いつもの遊子が作ってくれる弁当と違う気がするんだよな」

「それは当たり前」

「なんでだよ?…まさか」

「今日のお弁当は私が作った」

 

驚いた

周りを見ても全員が目を見開いている

こいつでもそんなことするのか

まさか作ってくれると思わなかった

 

「何?」

「い、いや何なんでもねぇよ?」

「?」

 

こいつ…首をかしげてやがる

そんなに俺たちが驚くことが不思議なのか

それとも本当に俺たちが驚いている訳がわからないのか

もうどっちでもよくなってきた

シートの上に天が作った弁当を広げる

色とりどりでとても美味しそうだ

浦原さんが持ってきた鉄裁さんが作ったであろうものも美味しそうだった

飲み物担当のチャドが持ってきたジュースが全員に配られて昼飯が始まった

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

久しぶりに誰かのためにお弁当を作った

内心ドキドキしながらそれでも表面上は

気にしていない振りをして皆の感想を待った

 

「美味しい!!」

「よかった…」

 

皆美味しそうに食べてくれる

照れくさく思いながらも私も口に運ぶ

我ながら上手く出来たと思う

 

「でも何で、お前が作ることになったんだよ?

 昨日、俺は遊子に頼んだぜ」

「昨日、遊子ちゃんが聞いてくれた

 

 『お兄ちゃんに明日皆でピクニックに行くから

  お弁当を作ってほしいって言われたんだけど

  何か入れてほしいものある?』

 

 ってだからそれなら私が作るって言った」

 

一護さんは少し驚いていたがそうかとうなずいた

自分で作るといいながらもほとんど、

昨日の夕食の残りをアレンジしたものばかりだから

半分以上遊子ちゃんが作ったも同然だ

それでも美味しそうに食べてくれる様子を見ると嬉しかった

 

昼食を食べ終わると織姫さんが勢いよく立ち上がって

自分の荷物の中からバドミントンセットを取り出して

私の手をつかんで立たさせた

 

「ねぇ、天ちゃん!バドミントンやろ!!」

「え?」

「ほら!早く!!」

 

織姫さんに引っ張られて靴を履く

そしてラケットを持たされ、背中を押される

 

「天ちゃんはそこに立っててね

 バドミントン、やったことある?」

「ないけど知ってる」

「教えなくても大丈夫?」

「大丈夫」

 

これだけ長い間こっちで生活していたからどんなスポーツかはわかる

やるのは初めてだけど何とかなるだろう

 

「じゃあいくよ~」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

天と井上は少し離れたところでバドミントンを始めた

初めてらしい天は最初こそ苦戦していたが、

すぐにコツを掴んだのかラリーが続くようになっていた

そんな様子を俺たちは眺めていた

と言っても石田は木にもたれて本を読んでいた

 

「ねぇ!!二対二でやろうよ!」

 

井上が余っていたラケットを持って走ってくる

 

「あぁいいぜ」

「アタシは遠慮しときます」

「儂もじゃ」

「僕も遠慮しとくよ」

「石田くんはダメ」

「どうして⁉」

 

浦原さんと夜一さんはする気はないらしい

する気がない石田を井上がねじ伏せて

結局俺、天、井上、チャド、石田の五人ですることになった

まずは俺と天対井上と石田だった

 

「勝つぞ」

「やるからには負けたくない」

「負けないよ‼」

「遊びだからと言って手を抜くつもりはない」

 

それぞれ勝つ気満々で始まった

結果は俺と天の勝ちだった

天はなかなか厳しいコースに返したりと今日初めてしたとは思えなかった

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

疲れたから茶渡さんに代わってもらい、一休みする

シートに座ると後ろから寝転がった夜一さんが聞いてきた

 

「楽しいか?」

「楽しい」

「それはよかったです

 皆サン、アナタに楽しんでほしくてこれを計画したんスよ」

 

バドミントンで盛り上がっている四人を見る

嬉しかったのと同時にこれ以上距離が近づいてしまうのが怖かった

 




今回もお読みいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後の24日を予定しております。

アルフレット


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第十五話

浦原尋問回の序章…です
途中、わけわからなくなるかもしれませんが今回も最後まで読んでいただけると幸いです

アルフレット


皆でバドミントンをやり、皆が疲れてきたところで

織姫さんと石田さんが持ってきたお菓子を食べる

織姫さんが持ってきた自作のお菓子は…個性的だった

お菓子を食べながらワイワイしているのを眺めて、

時々混じりながら過ごしてあるとだんだん空がオレンジに染まってきた

 

「そろそろいい時間ですし、帰りますか」

「そうじゃの」

 

浦原さんと夜一さんの号令で皆で片付けをして帰る準備をする

木々の間から見える広場を見ると人も疎らになっていた

この時間が終わってしまうのが少し寂しく、

空を見上げていると夜一さんが声をかけてきた

 

「寂しいか」

 

辺りを見渡しても夜一さんの姿がなく、

視線を下に移すと黒猫姿の夜一さんがいた

 

「少し…こんなに楽しかったのは久しぶり

 こうやって公園で誰かと遊ぶのも」

「また来ればよかろう」

 

夜一さんは優しく言ってくれる

『また』があればいい、そう思うがまたがあるということは

一護さんたちとまだ一緒にいるということ

だから『また』があってはいけない

でも一方で『また』が来ればいいのにと思う自分もいた

 

「天サン!夜一さん!置いていきますよ~」

「早く来いよ」

 

帰る準備ができたのか浦原さんと一護さんが私たちを呼ぶ

夜一さんは私に行くぞと視線を動かして

皆のもとに歩いていき浦原さんのカバンの中に入った

私も夜一さんに続いて皆のもとに追いつく

私が追いついたのを確認すると駅に向かって歩きだした

帰り道も賑やかで夜一さんは行きと同じように電車代をうかすために浦原さんのカバンの中にいた

 

空座町の駅に着くと皆と別れて一護さんと一緒に黒崎家に帰る

 

「今日は楽しかったか?」

「楽しかった」

「そうか」

 

二人になった途端、昨日のこともあり気まずい空気が流れる

今日の沈黙は気が重くなるようなものだった

結局私たちはそのまま一言も交わすことなく黒崎家に着いた

玄関のドアを開け、リビングに入ると

遊子ちゃんたちが笑顔で出迎えてくれた

そして昨日と同じように何もなかったように振る舞い、

夕食を食べて一日を終えた

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

明日の用意を終えて、俺はベッドに寝転がった

目を閉じると思い出されるのは

今日のピクニックのときのことだった

 

(いつもより表情が柔らかかったよな…

 とりあえずは成功か…)

 

今日のピクニックの目的は俺たちとの仲を深めることもあったが、

一番の目的は天に抱えていることを少しの間だけでも忘れてもらうことだった

最後の最後で、気まずくなってしまったが、

いつもの人形みたいな表情が少しだけだが

人間らしい表情になっていたからよしとしよう

と井上たちと話していた

 

(あいつの心に変化があればいいんだけどな…)

 

天の心にいい変化があることを祈りながら俺は眠りについた

 

翌朝、俺は天を浦原さんのところに送るために浦原商店を目指していた

その道中も一言も交わすことなく浦原商店に着いた

 

「浦原さん!連れてきたぜ!」

「ハイハーイ…おはようございます…黒崎サン、天サン」

 

寝起きなのかあくびをしながら奥から浦原さんが出てきた

 

「学校が終わったら迎えに来るからここで待ってろ

 浦原さん、あとは頼んだぜ」

「わかった…」

「任せてください

 いってらっしゃい黒崎サン」

 

俺は天を浦原さんに任せ、二人に見送られて浦原商店を後にした

 

学校に向かって歩いていると向こうから井上たちが来るのが見えた

どうやら浦原商店に行く途中だったらしい

井上は俺の姿を見つけると駆け寄ってきた

 

「おはよう!黒崎くん!」

「おう!井上は朝から元気だな

 どうしたんだ?浦原さんに何か用か?」

 

この道は学校へのルートから外れている

そのことを不審に思って井上に聞くと

 

「ううん違うよ~天ちゃんに会えるかなって」

 

そう言いながら俺たちはチャドたちのもとへ歩く

チャドたちはその場で俺たちが追いつくのを待っていた

 

「ちゃんと彼女を送ってきたのか?」

「お前に言われなくてもな‼︎」

 

石田は顔を見るなり、メガネを押し上げながら聞いてきた

その姿にイラっとして喧嘩口調になってしまったが

石田は気にとめる様子もなくスルーされた

井上が気になってたんだけどと口を開く

 

「天ちゃん、あのあとどんな様子だった?」

「あぁ…いつも通りだったぜ

 楽しかったかって聞けば、楽しかったって答えたけどな」

「そっか…楽しかったんだ!良かった!」

 

あいつが楽しんでくれたことが

とても嬉しかったのか井上は満面の笑みを浮かべている

チャドたちも嬉しかったのか小さく笑みを浮かべていた

そう言う俺も顔がゆるんでいた

突然横を歩いている井上が残念そうに言った

 

「でも天ちゃんに会いたかったな…」

「学校が終わった後、迎えに行くんだから会えるだろ」

 

井上はそうだけど…と残念そうに下を向いた

そんな井上を急かして俺たちは学校に向かった

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「さて…黒崎サンたちも学校に行ったことですし、

 中に入りましょう」

 

案内されて部屋に入るとちゃぶ台の上にご飯がのっていた

 

「スイマセン…まだ朝食中なんっス

 すぐに食べてしまいますから適当に座ってください」

 

そう言うと浦原さんはご飯を食べ始めた

私は適当に腰を下ろす

すると不意に後ろから声が聞こえてきた

 

「今日は天が来るから早く起きろと親切に言うてやったのにのぅ」

 

その声に振り返ると夜一さんが立っていた

なぜか全裸で…

 

「おはよう…

 なんで裸なの?」

「おう!天、昨日はよく眠れたか?」

 

なぜ裸なのかという問いは完全に無視されたけど、

服を着始めたからよしとしよう

夜一さんは着終わるとちゃぶ台のそばに座った

そして浦原さんが食べ終わる頃、鉄裁さんがお茶を持って来てくれた

そのお茶を飲み、一息つく

しばらくしてから浦原さんが切り出した

 

「さて…黒崎サンたちもいないことですし、

 アタシたちだけに話せるとこもあるでしょうから

 質問に答えていただけますか?」

「わかった…でも、その前に小太刀を見せて」

「そうっすね…ちょっと待ってください」

 

そう言うと浦原さんは棚の中から夜一さんは懐から小太刀を取り出した

それを受け取り、本当に父さんと母さんのものなのか確認する

浦原さんたちを疑うわけではないが念のためだ念のため…

この小太刀は血盟を結ぶ時に使われるもので、血盟者に渡される

そしてこれが血盟者の証でもある

その小太刀には二つの模様が彫られている

一つ目は、その人の家の紋章

二つ目は、血盟を結ぶ者二人が霊圧を小太刀にこめることで現れる模様

これら二つを組み合わせることで世界に一振りだけの小太刀となる

実際に第三者が小太刀の確認に使うのは家の紋章だけであることが多い

しっかりと院殿家の紋章が彫られていた

確かに父さんと母さんのものだった

 

「ありがとう…」

 

二人に小太刀を返す

二人は直そうとせずちゃぶ台の上に置いた

 

「じゃあ、答えてくれますか?」

「わかった…でもその前にもうひとつ

 父さんたちと交わした契りは何?」

「私がアナタのお父さんと交わした契りは

 『自分に何かあったとき、皐月と龍、天のことを頼む』です」

「儂と皐月、お主の母君と交わした契りはこうじゃ

 『私に何かあったとき、勇さんと子供たちのことをお願いします』」

 

二人とも私と兄さんのことを頼んでいたのか

だから放っといてくれないのか…

この契りは絶対ではない

 

「だから私に関わろうとするの?」

「たしかにそれもあります」

「じゃがの、天

 一番の理由は儂ら自身がお主を守りたいからじゃ」

 

———私を『守りたい』

 

浦原さんと夜一さんはしっかりと私の目を見て、

いつもとは違った真剣な顔ではっきりと

 

「わかった

 わかることは全部話す

 でも一護さんたちにはまだ話さない」

「今はそれで構いません」

 

この二人からはもう逃げられない

覚悟を決めて聞かれたことは全て話すことにした




今回もお読みいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです
それではこの辺で失礼します
次回の投稿は一週間後の31日を予定しています

アルフレット


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第十六話

浦原尋問回です
途中、浦原視点があります
かなり不自然です
浦原のキャラを考えて書いたつもりですが、違和感を感じると思います
飛ばしていただいてもあまり問題はありません
読む場合は、自己責任でお願いします

アルフレット



ついに逃げ道がなくなった

一護さんたちがいるからという言い訳もできない

覚悟を決めたのにまだ逃れようと考える

目を閉じ、深く息をつく

そしてゆっくりと目を開け、浦原さんたちをしっかりと見る

 

「訊いてもいいっスか」

「うん」

 

目をそらすことなく頷く

もうこの二人から逃げない

 

「まずは、アナタが狙われている理由、検討ついてますよね」

「…ついてる」

「理由、教えてもらってもいいっスか」

「二人もわかっているはず」

 

私が狙われる理由…そんなのひとつしか思いつかない

言葉で答えるかわりに胸を指でつつく

私の予想通り二人はやっぱりという顔をしていた

 

「力のせいですか…」

「そう…」

 

やっぱり知っていた

父さんと母さんから聞かされていたんだろう

私のことを頼んでいる時点で、何の不思議もない

それより、今まで何も言わずにいてくれたことがありがたかった

 

「次の質問、いいっスか」

「…うん」

 

何を聞かれるのか分からず、怖い

浦原さんたちがせめていつものように

飄々とした感じでいてくれたらいいのに…

 

「仮面集団について心当たりがありますよね?

 教えてもらえますか?」

「っ‼」

「どうしましたか?」

 

あぁ…この質問がきてしまった

未だに私が避けている問題のひとつ

未だに自分に気のせいだと偽って先延ばしにしていること

正直に答えなければならない

答えると決めた

でも答えることでそれを認めてしまうのが怖くて答えにつまる

 

「天…答えたくないことは答えなくてもよい」

 

夜一さんが優しく声をかけてくれる

それに甘えたくなる

でも、正直に答えるって決めた

きっと賢い二人にはもう私の態度で仮面集団の正体に気付いているだろうけど

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

(お二人が一番懸念していたことが現実となってしまいましたね)

 

天サンの力を聞いたとき勇サンと皐月サンが気がかりなこととして天サンの力を狙った者たちが出てくることをあげていたことを今でもしっかりと覚えてます

ですが、正直誰の仕業なのか検討がつきません

そういえば…この間の襲撃のとき天サンは驚いたような顔をしてましたね

それも話しているときではなく黒崎サンが戦っているときに

そのあとから様子が変わりましたから何か思うところがあったんスかね

それも仮面集団に対して

 

「仮面集団について心当たりがありますよね?

 教えてもらえますか?」

「っ‼」

 

図星みたいっスね

答えが返ってこないということは心当たりはあるが、話すのにためらいがあるというところっスかね

それだけでおおよその検討がつきますが

 

「天…答えたくないことは答えなくてもよい」

 

夜一さんも検討がついたのか優しく声をかけていますが、

話さなくてもいいということは話さなくてもわかってるということっスから

隠したいのなら、ばれてるから話せともとれますから止めっスね

 

「…話す

 この間一護さんと戦っていたのは界人さんだった」

「界人サン…スか?」

 

聞いたことありませんね

ですが、天サンが知っていたとなると…

 

「界人さんは兄さんと同じ師匠に師事していた人…」

「ということは同じ一族の人ってことですか」

「そうなる」

 

やはりそうでしたか…

話せばそれを自分で認めてしまうことになりますから

答えに詰まってたんスね

 

「では他にいた二人には心当たりはないか?」

「あの時と同じように一緒にいるなら薫さんと伊織さん…」

「その二人はその界人とかいう輩と同じなのか」

「少し違う…年が近かったからいつもつるんでいた

 二人とも兄さんとは違う師匠に師事していた」

 

なるほど…

夜一サンがアタシが次に聞こうと思っていたことを横取りしてしまいましたが、天サンの一族が大きく絡んでいる可能性が高いっスね

 

「あの二人はその界人サンに『戦闘をやめて帰るぞ、命令だ』と言っていましたね…

 ということはさらに彼らの上に誰かがいると思うんスけど

 心当たりはありませんか」

「…ない」

 

これは本当にないみたいっスね

アタシにもわかりませんからこの話はこれ以上話しても仕方ないですし

ついでにこれも訊いておきましょう

 

「これはあまり関係ないっスけど…

 黒崎サンを血盟者にしないのはなぜっスか」 

「それは…」

「彼に隠れ家のこと、話したんスよね?」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

一護さん、隠れ家のことを浦原さんたちに話したのか…

隠していたというわけではないから別に構わないけどこの質問も答えにくい

少し考えて口を開く

 

「たしかに話した

 けど正直、今の一護さんと血盟を結んでも意味がないと思う」

「どうしてっスか?」

 

分かってるくせに…

二人ともやっぱりという顔をしている

 

「私と血盟を結べば必然的にこの件に関わることになる

 そうなれば、また界人さんと戦うかもしれない

 もしかしたら薫さんや伊織さんとも

 でも今の一護さんでは界人さんたちに十中八九負ける」

「まぁ…そうなるじゃろうな…」

 

あの時、明らかに一護さんがおされてた

卍解をしていないから、何て言えばわからなかもしれないが、それは界人さんも同じ

二人が全力でやりあったとしても一護さんの勝てる確率はそんなに高くない

それ以前に一護さんが全力を出せる状態に自力で持っていくのは難しいだろう

 

「ならなぜ一護さんと一緒にいるんスか?」

「離れられたら苦労しない」

「まぁそうでしょうね…

 ですが、アナタには記憶から自分を消す術があるんスよね?

 それを使えば済む話じゃないっスか」

 

少し怒り気味でいうと二人は乾いた笑みを浮かべていた

それより術の話までしたのか一護さんは…

話すべきじゃなかったかな

ある意味、一番知ってほしくなかった人たちに伝わってしまった

 

「あれはホイホイ使えるものじゃない

 一ヵ月ほど前に使ったばかり

 おまけに皆、かなり強い霊圧持ち…

 霊圧が強いほど消すのに使う力は大きくなる

 私から一護さんたちを離したいのなら手伝って」

 

私がすぐに使わなかったことから使えないことぐらいわかるだろうに…

次にあの術が使えるようになるのはおそらくあと数日かかるだろう

つまり、最低でもあと数日間は一護さんと一緒にいることになる

その間に何もないことを祈るばかりだ

それに、もともと一護さんといるように、血盟者になるように仕組んだのは他の誰でもなく浦原さんだ

 

「それに界人さんたちに私が一護さんと一緒にいることを知られてしまったから

 あの三人から一護さんたちの記憶を消さないといけない

 それはもっと大変」

 

でないとせっかく離れたのに今より悪い状態で関わることになりかねない

 

「それは…そうっスね」

「じゃが、それでは一護たちから離れられんのではないか?」

「それは問題ない

 ちゃんと考えがある」

 

そのあたりはちゃんと考えている

本当に成功するかは正直わからないがほぼほぼ大丈夫だろう

それと…と浦原さんが口を開いた

 

「確認なんスけど、あなたを襲った虚のことっス

 あれも仮面集団によるものっスよね?」

「たぶん…」

「虚に術を使えばお主にケガをさせるくらい

 それほど難しいことではなかろう」

 

私もそう思う

といっても霊圧の探知は割と得意だから

自分で言うのもなんだが、そんな私に気付かれないようにするのは簡単なことではない

浦原さんは突然手を叩いて立ち上がった

 

「少し疲れましたね

 休憩しましょうか」

 

そう言うと浦原さんは部屋を出ていった

部屋には私と夜一さんが残された

 

「大丈夫か?」

「大丈夫…

 でも、少し疲れた」

 

夜一さんは心配そうに私の顔を覗きこんできた

それからしばらくすると浦原さんがお茶を持ってきてくれた

鉄裁さんが淹れてくれたであろうお茶で一息つく

お茶を飲むと肩に入っていた力が抜けていく

誰も話すことなく時間が過ぎていった




今回もお読みいただきありがとうございます
浦原視点はどうだったでしょうか?
今後も出てきます
というか、次回もあります
早くキャラを崩さず書けるように頑張ります
それでは次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後の8月7日を予定しております。

アルフレット


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第十七話

前回の予告通り浦原視点あります
浦原視点は難しい…それなら書くなという話ですが…
今回も飛ばしていただいてもあまり問題はありません

しばらく確認していなかった間にUA4000越え…
ありがとうございます!!

それでは今回も最後までお読みいただけると幸いです

アルフレット


皆で静かにお茶を飲んでいるとお茶がなくなるころに

鉄裁さんがお代わりを持ってきてくれた

この人には透視能力もしくは心を読む能力でもあるのではと

思ったことは秘密だ

お代わりを飲み、しばらくすると

浦原さんがまた真面目な顔で切り出した

 

「まだ訊きたいことがあるんスけどいいっスか」

「何?」

「まずはアナタが実際にどこまでその力を制御できているか教えてもらえますか」

 

力の制御…しばらく修行をしていないから正確にはわからない

最後にしたのはたしか空座町に引っ越してくる少し前だったはず

 

「とりあえず普通の戦闘は可能…

 完全に力を解放した時、暴走はしないとは言い切れない

 しばらく修行していないからはっきりとは言えない」

「もし、アナタが界人サンと戦ったとして勝てると思いますか?」

「力を使わなければたぶん負ける」

「力を使えば?」

「…たぶん勝てる」

 

純粋に能力では界人さんは一族の中でもトップクラス

それに薫さんも伊織さんも兄さんと同レベル

兄さんに勝ったことが数えるほどしかない私には到底勝てない相手だろう

 

「仮面集団相手に力を使ったことは?」

「ない…」

「一族の皆サンは天サンの力について知っていますか?」

「知っているはず

 詳しく知っているかどうかは知らない」

 

実際に集会で私のことが話題に上がっていたのは知っている

その場で父さんがどの程度私の力について話したのかは知らない

浦原さんがさらに真剣な顔で口を開いた

 

「次の質問です

 正直におっしゃってください

 本当はこれからどうするつもりだったんですか」

「どうするか…」

 

本当のことを言えば怒られる気がする

しようと思っていたことはひとつ

 

「はい…

 龍サンも亡くなって誰も護ってくれる人がいなくなったあとどうするつもりだったんスか?」

 

夜一さんも真剣な顔で私を見る

適当に誤魔化そうと思ったけどそう言うわけにはいかないような気がして

気づけば本当のことを話していた

 

「消えようと思った

 今まで護ってきてくれた兄さんには悪いけど、私のせいで関係のない人たちが巻き込まれるのだけは絶対に嫌だから」

「そうなる前に消えようとしたのか…お主は」

「私一人がいなくなれば全てが終わると思った

 それに私が消えても気づく人はいない」

 

怒られると思ってうつむいた

私がしようとしていたことは父さんたちを、兄さんを裏切る行為だから

でもそうすることが一番確実で他人を巻き込まない方法だと思った

きっともっと早くこの手段を取っていたら兄さんは…

少なくとも一護さんたちを巻き込むことはなかった

怒られると思って構えていてもそんな声が聞こえる気配はない

そっと顔を上げ、二人の顔を見ると悲しい顔をしているように見えた

口を開いた浦原さんの声もどこか悲しそうに聞こえた

 

「記憶を消していたからですか?」

「記憶を消してもいたし、二人の小太刀の中には私の霊圧は込めていない

 私の生存を知る術はなくなる」

 

私は誰にも知られずに消えることができればこの戦いは終わる

私が消えればこの世界の私に関するすべての記憶は…

暗くなった雰囲気を浦原さんが変えるようにいつものように飄々とした声を上げた

 

「さて、もうお昼っスね

 昼ごはんにしましょう

 鉄裁サン、昼食にしましょう!」

「もうそんな時間か

 そうじゃの」

 

それからすぐに鉄裁さんがお昼ご飯を運んで来てくれて食べた

その時にはこれまでの重苦しい空気ではなく

いつものような軽いものになっていた

 

「昼からは何するの?」

「何しますか?

 したいことはありませんか?」

 

したいこと…思いつかない

でも…知りたいことは、聞いてみたいことは、ある

 

「ねぇ…昔の父さんと母さんのこと教えて」

「あぁ…‼構わんぞ」

「では、お昼ご飯を食べ終わったら

 勇サンと皐月サンのことをお話ししましょう」

 

二人は驚いたような顔をしたがすぐにうれしそうな顔になって

父さんたちの話をしようと言ってくれた

 

「いいの?」

「えぇ構いませんよ」

「気にするな、お主の初めてのわがままじゃ

 聞きたいことを訊けばよい」

 

お昼ご飯を食べ終わり、鉄裁さんが食器を下げるのを手伝い、お皿洗いも手伝った

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

天サンが鉄裁サンとお皿を下げてくれたあとアタシは夜一サンとお茶を飲んでいました

 

「しかし…驚きましたね

 また『ない』と答えられるのかと思っていましたが」

「そうじゃの

 じゃが、嬉しいの

 初めて天が儂らにわがままを言うてくれたの」

「そうっスね…」

 

たしかに初めて、天サンがわがままですね

 

「ですが、まだ昔のように笑ってはくれませんね…」

「仕方ないのかもしれんが、少し寂しいのぅ」

 

前に会ったのは一度だけですが皐月サンにベッタリで

あの子が笑うと周りも明るくなるような笑顔だったんですがね…

 

「皐月も言っておったしのぅ

 『この子には笑顔が一番似合う』と

 もう一度見たいものじゃな」

「そうっすね」

 

天サンが昔と同じように笑ってくれたときが

本当に心を開いてくれたという事でしょう

 

「じゃが、最後の質問はどうにかならんのか?」

「あ、ハハ…

ボクもそう思いました」

 

正直、龍サンが亡くなった後どうするつもりだったのか聞いたときはやはり聞かない方がよかったと思いましたが

その時、正直に答えてもらえると思っていませんでしたね

少しずつではありますが心を開いてきてくれているということですかね

 

「じゃが…あいつに自分が『消える』という選択肢を渡してはいかんな」

「そうっすね…自分の命を軽く見ている節がありますね

 これからも何かあればそちらの方に行ってしまいかねません」

 

本人も今まで護ってきてもらってその命を簡単に投げ出すのは

間違っていることだとわかっるてるみたいっスけど

おそらく虚に襲われたのは自分を消すためにどこかへ向かっていたところでしょうか

自分を消す方法が見当つきませんが

 

「その方向に行かないように気をつけなければなりませんね

 彼女は今、ボクたちも知らない逃げ道が用意されている状態ですからね」

「そうじゃの…

 おそらく一番注意すべきは一護たちじゃろうがの」

「たしかにそうっすね

 今現在、天サンの近くにいるのは黒崎サンですし、他の皆サンは敵認定されているかどうかも怪しいですし

 石田サンはまだ何とか戦えるかもしれませんが、あとのお二人は厳しいでしょうね」

 

あの時来た薫サンと伊織サンであればボクと夜一さんは問題ないでしょうが井上サンと茶渡サンは厳しいでしょうね

井上サンは戦闘には向いていませんし、茶渡サンは一撃重視ですから素早い相手に当てるのは至難の技

相性が悪すぎますね

そんなことを話しているとふすまが開き、天サンが戻ってきました

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

お皿洗いが終わり部屋に戻ると二人はお茶を飲みながら待ってくれていた

そのあと私の知らない父さんたちの話たくさんを聞かせてくれた

父さんと母さんの馴れ初めや出会ったときのこと、血盟者になったときのこと…

二人は楽しそうに話してくれた

もう父さんたちのことを知ることはできないと思っていたのにこうやって知れたことが嬉しかった

その話がひと段落し、お茶を飲んでいるとだんだん眠気が襲ってきた

つい船を漕いでしまう

すると夜一さんがそんな私の様子に気づいたのか

 

「ん?眠いのか?」

「大丈夫…」

 

目をこすりながら答えると二人は苦笑していた

 

「眠いなら寝てもらって構いませんよ

 まだ、黒崎サンたちが来るまで時間もありますし」

 

浦原さんの言葉に甘えて横になるとすぐに私の意識は沈んでいった

 




今回もお読みいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後の14日を予定しております。

アルフレット


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第十八話

今回は浦原視点はありませんが、一護視点があります
浦原視点よりは完成度が高いと思います
というよりも今までに何回か書いているのでもう遅いと思いますが
今回の一護視点は飛ばすと少し問題がありますので、我慢して読んでください
それでは今回も最後までお読みいただけると幸いです

アルフレット


俺たちは学校が終わると井上に急かされて浦原商店に向かった

「こんにちは~」

「浦原さん、来たぜ」

 

俺と井上が呼ぶと奥から浦原さんが姿を見せた

 

「いらっしゃい

 お待ちしていましたよ」

「?」

 

浦原さんはなぜか小声で話す

俺たちの頭にハテナが浮かぶ

 

「どうしたんだよ?」

「シーッ

 大きな声を出さないでください

 とりあえずどうぞあがってください」

 

とりあえず浦原さんに続く

浦原さんがふすまを開けて中に入る

するとそこには丸くなって寝ている天の姿があった

 

「ということなんで、お静かにお願いします」

「あぁ…」

「ぐっすりだね…」

 

なるほど

天が寝ているから

天の寝顔は幼く無防備だった

 

(見た目は俺たちよりも年下に見えるけど

 実際はかなり年上なんだよな…)

 

こうやって無防備に寝る姿を見ていると幼く見えるのに年上だと言うことが不思議だった

ぐっすり寝ているようで起こすのも気が引ける

 

「だけどこれだと連れて帰れねぇな」

「その心配いりません」

「どういうことですか?」

「これから皆さんには勉強部屋で特訓してもらいます」

「特訓?」

 

勉強部屋というとあの地下室か…

 

「そうっス

 特に黒崎さんには強くなってもらわなければなりません

 これから、天サンを護ろうと思うのならば」

 

なんとなく浦原さんがしたいことがわかった

井上が首をかしげながら訊く

 

「でもどうして急に?」

「一護…この間仮面集団と戦ったときどうじゃった?

 もしあのまま続けていたら勝てそうじゃったか?」

「それは…」

 

無理だっただろう

あいつはどんどん早くなっていた

それに比べて俺は卍解すらできなかった

でも卍解していればとも思う

 

「正直に言います

 今のあなたでは天サンを護れません」

「っ‼︎」

「今のあなたでは弱い

 たとえ卍解したとしても勝てる確率はそんなに高くないでしょう

 そのこともあって天サンはあなたを血盟者にできないのでしょう」

 

あっさり俺が考えていたことをきられた

それに誰を血盟者とするかは天次第

天が俺に任せてもいいと思えなければ俺は血盟者になれない

あいつを護るためにも強くならなければならない

 

「どうしますか?」

 

そんなの決まってる…‼

 

「強くなるに決まってんだろ…‼」

「それでは移動しましょう」

 

天を部屋に残して勉強部屋に移動し、特訓について説明を受ける

 

「黒崎サンには攻撃を避けながら反撃し、相手に隙を作る特訓をしてもらいます

 茶渡サンには素早い敵に攻撃を当てる特訓を

 石田サンにはアタシと実戦練習をしてもらいます」

「どうして石田くんは浦原さんと実戦練習なんですか?」

「速い攻撃にも対処出来ますし、

 攻撃に関しても手数があるんで先にアタシとの実戦にしました」

 

何か悔しい

でも、それが今の俺に足りないことだ

自分がするべきことをするべきだと自分に言い聞かせる

 

「どうやってするんだ?」

 

浦原さんが突然人形のようなものを取り出した

どこかで見たことのあるやつだな

 

「これを使います

 新しく開発したその名も『転神体・改』っス‼」

「どうやって使うんだ?」

 

転神体というと俺が卍解を習得するときに使ったものだったはず

深く訊くとめんどくさいことになりそうだったから適当にながして使い方を訊く

浦原さんは少し残念そうな顔をしたがすぐに説明してくれた

 

「簡単っス

 もう設定はしてあるんでこれに霊圧をこめれば…

 ほらこれで使えますよ

 もうこめちゃったんで、来ますよ…」

「は?っ‼先に言えよ‼」

 

浦原さんが霊圧をこめた途端人形が俺に向かってきた

それをギリギリで避けながら文句を言う

浦原さんは悪びれる様子もなくいつものような口調で言う

 

「余所見していたらやられますよ~」

「くそっ‼」

 

視線を戻すと目の前に人形がいた

余裕が全くない

この間の仮面男との戦いと同じように

いや、それ以上に

 

「それでは茶渡サンも始めますか」

「…お願いします」

 

どうやらチャドの方も始まったようだ

そのあとすぐ石田たちも始めたようだ

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

とても心地いい

体がちょうどいい温かさで包まれている

ゆっくりと目を開け、寝惚けた頭のまま体を起こす

何かが擦れて落ちる音がした

その音の方を見ると毛布が落ちていた

誰かがかけてくれたようだ

それをしばらくボーっと眺め、そのあと周りを見回す

人の気配が全くない

浦原さんも夜一さんの気配もしない

一気に頭が覚醒し、立ち上がる

 

「浦原さん?夜一さん?いないの?」

 

呼んでも返事がない

一気に不安になってくる

今までが長い夢で本当は一人のままだったのではないか

 

「浦原さん⁉夜一さん⁉︎どこ⁉︎」

 

もう一度名前を呼んでみる

やはり返事は返ってこない

体から力が抜けて座り込む

震えてきた体を両腕で抱く

 

(私のせい…?今までのことが夢?

 いやだ…そんなの)

 

鼓動が早くなるのがわかった

呼吸も早くなる

 

「天?どうしたんじゃ?」

 

声が聞こえた方をゆっくりと見るとそこには驚いた顔をした夜一さんが立っていた

 

「夜一さん…?」

「どうしたんじゃ?

 怖い夢でも見たか?」

 

私と目線を合わせながら優しく声をかけてくれる

安心して緊張の糸が切れたのか涙が溢れてきた

そんな私を見て夜一さんは慌てた様子で背中をさすってくれたくれた

 

「どうしたんじゃ?」

「何でもない…」

 

言ったら本当のことになってしまいそうで怖かった

それでも言って大丈夫だとそばにいると言って欲しかった

 

「何でもないわけなかろう

 話してみろ」

「…皆がいなくなったと思った

 今までのは長い夢だったんじゃないかって」

「儂らがいなくなって怖かったのか?

 大丈夫じゃ…儂はここにおるぞ

 一護たちもおる

 大丈夫じゃ…」

 

そのまま私が落ち着くまで大丈夫だと背中をさすってくれた

やがて落ち着き、涙がとまると今度はしっかりと私の目を見て言ってくれた

 

「大丈夫じゃ

 儂らはお主を置いてどこにも行ったりせん」

「うん…ありがと」

 

私がお礼を言うと夜一さんは笑ってくれた

でもすぐに、真剣な顔になって言った

 

「じゃが、儂らも天がいなくなると悲しい

 さっき、お主が泣いていたようにな

 じゃから、天、お前もどこにも行くな」

「…努力する」

 

夜一さんは私にどこにも行くなという

いなくなったら悲しいとも

そう言ってくれることが嬉しかったと同時に申し訳なかった

話題を変えるように気になっていたことを訊く

 

「皆はどこ?」

「あぁ…一護たちは下じゃ」

「下?」

 

下ということは地下のことか?

この家には地下があるのか?

初めて知った

 

「下で何してるの?」

「特訓じゃ」

「特訓?」

 

特訓…何のために?

まさか…

 

「お主を護れるようにな」

「私を護る?」

「そうじゃ

 別に儂らが強制したわけではないぞ

 まぁ喜助が提案したがの

 最終的には一護たちが自分で決めたことじゃ」

 

私を護れるように特訓を始めた?

たしかに今のままでは一護さんたちが仮面集団と戦うことはおろか自分自身を護ることも難しいかもしれない

それでも私が離れればそれで済む

 

「何を考えているんじゃ?

 さっきまで夢だったのかと泣いていた奴が」

「それは忘れて」

「嫌じゃの

 なかなか可愛かったぞ泣いているお主は」

 

今更になって夜一さんの前で泣いたことが恥ずかしくなってきた

心の中も読まれていたようだ

夜一さんは意地悪な表情を浮かべて私の頬をつついてきた

一人になったことで泣くなんて皆と一緒にいることで心が弱くなったようだ

兄さんがいなくなったときも泣かなかったのに…

それに自分から進んで消えようとしているのに泣いてしまうなんて

本当にこのままで大丈夫なのか自分でも心配になってくる

そうしていると夜一さんが立ち上がりながら訊いてきた

 

「下に行くか?」

「…行く」

 

夜一さんが私の手を引いて立ち上がらせてくれた




今回もお読みいただきありがとうございます
様々なご意見があると思いますが、特訓の描写とそれに至るまでに関することは大目に見てください

次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後の21日を予定しております。

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第十九話

特訓回です
前回同様、大目にみてください
それでは今回も最後までお読みいただけると幸いです

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夜一さんの後に続いて歩く

すると地下に続く梯子がかかった穴についた

その穴を覗き込むとかなり広い部屋と言うか運動場のようなものがあった

 

「この梯子で降りるの?」

「まぁ…そうじゃが

 少し、じっとしとれ」

「えっ⁉」

 

いきなり夜一さんに抱えれた

 

「しっかりつかまっとくんじゃぞ」

「っ‼」

 

そのまま夜一さんは穴のなかに落ちていった

思わず目を瞑り、夜一さんにしがみつく

 

「ほれ、着いたぞ」

 

夜一さんに言われて目を開けると

そこにはゴツゴツした岩場が広がっていた

夜一さんに下ろしてもらい、自分の足でたつ

 

「天サン、起きたんスね

 今、休憩中ですから黒崎サンと話しても大丈夫っスよ」

「…無理」

 

浦原さんにそう言われて一護さんたちの方を見ると

織姫さんは心配そうに皆を見ていたが、他の三人は疲れ果てていてとても話せる状態には見えなかった

とりあえず一護さんの顔を覗きこんでみる

顔は汗だくで息も上がっている

肩をそっとつついてみる

 

「ん?天か…どうしたんだ?」

「大丈夫?」

「大丈夫に見えるかい⁉これが…‼」

 

見えない…

石田さんは一護さんよりも辛そうだった

茶渡さんは汗だくだが二人よりも平気そうに見える

 

「茶渡さんも辛い?」

「…問題ない」

 

茶渡さんは静かに大丈夫だと答えてくれた

 

「辛いならやめた方がいい

 私なんか放っとけばこんなことしなくて済む」

「別にやりたくないわけじゃねぇよ

 好きでやってんだ」

 

好き好んで辛い思いをする必要なんてない

一護さんは浦原さんに続きをしようぜと言って特訓の続きが始まった

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

もうかれこれどれくらいしただろう

最初よりは見切れるようになったがかなり辛くなってきた

すると突然人形の動きが止まった

 

「止まったみたいっスね

 では少し休憩しましょうか」

 

そんな浦原さんの声が聞こえたと同時に倒れこんだ

周りを見るとチャドは座り込み肩で息をしていた

石田は…死んでいた

目を閉じて、息を整えようと意識する

 

「ほれ、着いたぞ」

「天サン、起きたんスね

 今、休憩中ですから黒崎サンたちと話しても大丈夫っスよ」

「…無理」

 

天が降りてきたようだが、起きる気になれない

そのままじっとしていると肩をつつかれた

目を開けると天の顔が見えた

 

「ん?天か…どうしたんだ?」

「大丈夫?」

「大丈夫に見えるかい⁉これが…‼」

 

石田の怒ったような声が聞こえる

天は大丈夫だと思えなかったのか何も言わずに視線をチャドに向けてチャドに辛いかと訊いていたがチャドがこれくらいで音を上げるわけもなく大丈夫だと答えていた

 

「辛いならやめた方がいい

 私なんか放っとけばこんなことしなくて済む」

「別にやりたくないわけじゃねぇよ

 好きでやってんだ」

 

こいつはまだこんなことを言うのか…

これ以上話しても今の俺では意味がない

 

(こいつに色々文句を言うのは強くなってからだ)

 

そう思い、浦原さんに声をかける

 

「続きしようぜ」

「ちょっと待て黒崎

 いくら何でも…」

「ならお前は休んどけよ」

 

グチる石田を適当にあしらって浦原さんに人形を動かしてもらい、特訓を再開する

チャドも動かしてもらい特訓を再開した

石田も何か言いながらも再開した

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

私は少し離れたところから夜一さんと織姫さんとその特訓の様子を見る

 

「どうじゃ?さすがのお主でもこの特訓はきつかろう?」

 

一護さんはひたすら早い攻撃をよけ、反撃する特訓

茶渡さんは素早い敵に攻撃を当てる特訓

石田さんは浦原さん相手に実戦をしていた

一護さんと茶渡さんの相手をしている人形みたいなものは浦原さんの発明品だろうか

 

「たぶん一護さんと茶渡さんのは私でも簡単にできる

 でも、浦原さんとの実戦はきつい」

「天ちゃんそんなに強いの!?」

 

織姫さんが驚いたように声を上げる

 

「強くない…相性の問題」

 

一護さんや茶渡さんが特訓しているくらいの速さなら見切れる

攻撃をかわすこともできるし、当てることもできる

速度重視の相手は私にとって得意な相手だ

 

「まぁ…そうじゃな

 その戦い方は皐月譲りか」

「だと思う

 戦い方の師匠は母さんだから」

 

母さんが生きていた時は母さんから戦い方を学んだから同じような戦い方になってしまった

母さんがいなくなってしまってからは力重視の兄さんとしていたから厳密にいうとあの時とは戦い方少し変わった

 

「皐月と遊んだときは楽しかったのぅ…」

「夜一さんと母さんは似てる…戦い方が」

 

夜一さんも速度重視だったはずだ

昔、母さんが言っていたような気がする

 

「ねぇ…いつまで続くの?」

「さぁの気が済むまでか、動けなくなるまでじゃろう」

 

織姫さんも苦笑している

 

「ねぇ…天ちゃんは戦わないの?」

「戦わないんじゃなくて戦えない」

 

織姫さんは首をかしげる

意味がわからないらしい

 

「今、私がここで義骸を脱げばたぶん仮面集団にこの場所がばれる

 だから義骸を脱げない」

 

織姫さんは少しわかったのか曖昧にうなずいていた

その様子を見てから再び一護さんたちの特訓に目を向ける

かなり辛そうで動きも鈍ってきていた

私と織姫さんと夜一さんは次の休憩で皆に渡すための飲み物を取りに上がった

 

再び人形みたいなものが止まるまで数十分かかった

その間、一護さんたちは戦いっぱなしだった

 

「かなりの荒行…」

「浦原さんの修行はいつもこんな感じだよ…」

 

織姫さんが苦笑しながら答えてくれる

倒れ込んでいる一護さんたちのもとに飲み物を持って行く

 

「大丈夫?」

「ん?あぁ…大丈夫だ」

 

一護さんの顔を覗き込みながら訊くと息を切らしながら答えてくれた

浦原さん以外は肩で息をしていて汗だくだった

 

「はい」

「ん?ありがとな」

 

一護さんたちに飲み物を渡す

浦原さんは息すら切らさずにそこに立っていた

 

「浦原さんは…平気そう…」

「ハイ!まだまだいけますよ」

 

本当に元気そう

 

「じゃあ、飲み物いらない」

「どうしてっスか⁉」

 

少し浦原さんに夜一さんに教わった通り嫌がらせをしてみる

夜一さんは楽しそうにニヤニヤしていた

 

「だって顔にいらないって書いてある」

「書いてませんからアタシにもくださいよ」

 

さすがにこれ以上いじわるをするのはかわいそうに思えて渋々飲み物を渡す

皆が飲み物を飲む様子を少し離れたところから眺める

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

特訓を再開したのはいいが正直もうきつい

始めよりは見えるようになったが疲労のせいか体が動かなくなってきた

それでも体に鞭打って動かす

 

(まだ…まだだ…‼)

 

そしてようやく人形が止まり地面に倒れ込む

チャドのも止まったようで岩にもたれるように座り込んでいた

目を閉じて呼吸を整える

すると天が顔を覗き込んできた

 

「大丈夫?」

「ん?あぁ…大丈夫だ」

 

正直、大丈夫ではないが心配させないように大丈夫だと言いておく

すると次は目の前にペットボトルが差し出された

 

「はい」

「ん?ありがとな」

 

天が差し出してくれたペットボトルを開けて飲む

熱がこもっていた体が一気に冷めていく感じがした

周りを見るとチャドたちももらって、飲んでいた

しかし浦原さんには配ろうとしない

 

「浦原さんは…平気そう…」

「ハイ!まだまだいけますよ」

「じゃあ、飲み物いらない」

「どうしてっスか⁉」

 

どうやら浦原さんに嫌がらせをしてるみたいだ

後ろで夜一さんが楽しそうにニヤニヤしている

おそらく夜一さんの入れ知恵だろう

 

「だって顔にいらないって書いてある」

「書いてませんからアタシにもくださいよ」

 

もう十分楽しんだのか浦原さんにも飲み物を渡していた

そんな天の姿を見るのは初めてで新鮮だった

そんな姿を見て和む

 

「それでは、今日の特訓はここまでにしましょうか」

 

浦原さんの一言で今日の特訓が終わった




今回もお読みいただきありがとうございます
勉強部屋での特訓でペットボトル飲料が出てくるとは思えませんが、そこは突っ込まないでください
作者も理解しております。

次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後の28日を予定しております。

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第二十話

ついに今日から学校が始まる…
もっと休みが欲しい…

さて、記念すべき第二十話です
今回はほのぼの回第二弾…のつもりです
今回も最後までお読みいただけると幸いです

アルフレット



一護さんたちの 特訓が終わり、

動けるようになるまで休憩してから上に上がる

空は赤く染まっていた

 

「そろそろ皆さん帰った方がいいでしょう」

「そうだなじゃあ帰るか」

 

皆が帰る用意を終えるのを待っていると浦原さんと夜一さんが来た

 

「明日もここに来てください

 黒崎サンにはアタシから話しておくんで」

「わかった」

「天?帰るぞ」

 

一護さんが呼ぶ声が聞こえそちらに向かう

二人も後ろから付いてくる

私が行くともう準備を終えて、皆が私を待っていた

 

「黒崎サン、明日もここに天サンを連れて来ていただけますか?」

「わかった

 今日と同じくらいに来る

 今日はありがとな浦原さん、夜一さん」

 

そう言って一護さんは背を向けて歩き出す

他のみんなも口々に別れを言って歩き出す

 

「じゃあの、天

 しっかり寝るんじゃぞ」

「また明日」

 

私も二人に別れを言って皆のもとに急いだ

皆も私が追いつくまで待ってくれていた

 

帰り道、皆疲れのせいか足取りが心なしか遅かった

 

「疲れた?」

「まぁな」

 

一護さんに聞くとなんてことないように答えてくれたが、

かなり疲れているようだ

茶渡さんも疲れているみたいだったけど平気そうに見えた

石田さんは…大丈夫じゃなさそう

 

「帰ったらちゃんと休んでね?」

「あぁ…そうするよ」

 

織姫さんの言葉にうつろな声で石田さんが答える

それに織姫さんは苦笑いを浮かべていた

気がつけばもう分かれ道まで来ていた

 

「じゃあね!」

「石田さん…一人で帰れる?」

 

石田さんの様子が心配で聞いてみると

さっきよりはしっかりした声で答えてくれた

 

「心配ない、大丈夫だ」

「石田なら問題ないだろう

 殺しても死なないような奴だ」

「君に言われたくないね!」

 

一護さんとケンカを始めたから大丈夫なんだろう

本当にこの二人はなんだかんだ言って仲がいいと思ったのは

口に出さないでおいた

他の二人も呆れながら見ているが、止める気はなさそうだ

いつまでも続きそうなので声をかける

 

「私、先に帰る

 また明日」

 

そう言って体の向きを変えて歩き出せば

焦ったような一護さんの声が聞こえた

 

「おい‼ちょっと待て!

 じゃあな」

「またね~天ちゃん!黒崎くん」

「あ、おい!黒崎まだ話は終わってないぞ!」

 

織姫さんは元気よく、茶渡さんは小さく手を上げてくれた

石田さんは一護さんに文句を言っていた

このまま放っておけばまだ言い合いが続いていたようで

無理にでもやめさせて良かったと息をつく

 

「おいていくな!」

「石田さんとケンカしている方が悪い」

 

私は歩みを止めることなく一護さんが追いつくのを待った

一護さんは慌てたように隣に並んできた

隣に並び少し経った頃一護さんが聞いてきた

 

「今日は浦原さんたちと何してたんだ?」

「…父さんと母さんの昔の話を聞いた」

 

答えるとそうかと一護さんは言った

 

「いい話、聞けたか」

「たくさん話してくれた」

 

私たちの会話はそれっきりで終わり、黒崎家に着いた

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

天が心配そうに石田に声をかける

 

「石田さん…一人で帰れる?」

「心配ない、大丈夫だ」

「石田なら問題ないだろう

 殺しても死なないような奴だ」

「君に言われたくないね!」

 

俺の一言がきっかけで言い争いが始まった

 

「殺しても知らないやつは君だろ⁉黒崎‼」

「何だと⁉」

 

周りは呆れているような気がするが無視だ

すると静かだけどよく通る声で天が言った

 

「私、先に帰る

 また明日」

「はぁ?」

 

そう言うなり天は体の向きを変えて歩き出した

俺は焦って天に向かって叫んだ

 

「おい‼ちょっと待て!

 じゃあな」

 

井上とチャドに別れを言ってから天に追いつくために走った

後ろで石田が何か言っているが無視だ無視

ようやく追いつき文句を言う

 

「おいていくな!」

「石田さんとケンカしている方が悪い」

 

すぐさま正論を返され、言うことがなくなる

そこで会話を途切れさせるのはもったいない気がして天に訊く

 

「今日は浦原さんたちと何してたんだ?」

「…父さんと母さんの昔の話を聞いた」

 

たしかこいつの親父さんたちと浦原さんたちは血盟者とかいうものだったよな

だから昔のことを知っているのか

 

「いい話、聞けたか」

「たくさん話してくれた」

 

全部本当のことを話したかは怪しいがさすがの浦原さんたちも噓は言わない

…いや可能性はあるな

それでも今日の朝に感じた重苦しい空気はなかった

 

(そう言えばこいつ少し変わったよな)

 

今までのこいつならさっきみたいに石田と言い争いしていても傍観を決め込んでいたはずだ

それに、特訓の後の浦原さんへのイタズラ、夜一さんに入れ知恵されていたとしてもそんなこと今までしなかった

無表情の中にも少し表情が変わっているのが少しわかってきたような気がする

そんなことを思いながら隣を歩く天を見る

その顔は少し楽しそうに見えた

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

翌朝、昨日と同じように浦原さんのところに向かう

そして一護さんは私を浦原さんに預けると学校に行った

一護さんを見送り、中に入る

 

「今日は何するの?」

「別に何もすることはありませんよ」

 

今日は、尋問はないらしい

一護さんの特訓について訊いてみる

 

「一護さんたちは今日も特訓するの?」

「黒崎サンがすると言えばしますよ」

 

絶対にすると言う気がする

でも、今日はそれでは困る

 

「でも、今日は早く帰らないといけない」

「どうしてじゃ?」

「今日の夕食は私が作ることになってる」

「そうなんスね

 わかりました」

 

昨日の夕食時に決まったことを思い出す

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

遊子ちゃんが作ってくれたご飯をみんなで食べていると突然夏梨ちゃんが言った

 

「そう言えば天さんって料理、上手なんだよね?」

「そんなことない」

「ピクニックにの時に作ってくれた弁当はうまかったぜ」

 

一護さんが言わなくていいことを言う

すると遊子ちゃんが目を輝かせて言う

 

「そうなんだ!お兄ちゃんだけいいなぁ」

「そうだぞ!一護だけずるいぞ!」

 

何か嫌な予感がする

一心さんまでもが子供のように羨ましがる

この流れだと…自分から言った方がいいような気がして自分から言う

 

「明日の夕食、私が作る」

「え‼いいの⁉」

 

それを狙ってたくせにと思うが黙っておく

 

「別に構わない」

「「やったー‼」」

 

遊子ちゃんと一心さんは大喜びしている

夏梨ちゃんはばつの悪そうな顔をしていた

 

「ごめん、天さん」

「大丈夫、気にしないで」

 

夏梨ちゃんは話を振って私が作ることになったことを申し訳なく思っているのか謝ってくれた

一護さんはやれやれという顔で遊子ちゃんと一心さんを見てしていた

 

「本当にいいのか?

 嫌なら断れよ」

「本当に大丈夫」

 

一護さんは私が無理していると思っているのか心配そうに聞いてくれた

別に夕食を作ることは嫌ではない

ただ少し緊張するだけ

一から誰かのためにご飯を作るのは久しぶりだ

皆の好みが分からず、何を作ればいいのかわからない

 

「何、食べたい?」

「う~ん…天さんの得意なもの作って欲しいな」

「得意なもの…?わかった」

 

得意なもの…兄さんが好きだった親子丼を作ろう

ならば、明日買わないといけないものは…と考えながら

夕食の時間は過ぎていき、一日が終わった

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「それなら儂が送っていこう

 何時ごろに帰ればいいんじゃ?」

 

どうやら今日は夜一さんが送ってくれるらしい

夕食を作るのにかかる時間を逆算すると…

 

「五時半くらいに帰れたらいい

 でも、その前に買い物しないといけない」

「それなら四時半にここに出ればいけるでしょう」

 

そういうことで帰りについてあっという間に決まった




今回もお読みいただきありがとうございます
天の兄が親子丼が好きというのは特に意味はありません
何がいいかわからなかったので自分が書いたとき食べたかったものにしただけです
深く考えないでくださいね
次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後の9月4日を予定しております。

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第二十一話

前回に続きほのぼの回第三弾です
9月も第二週に入り、来週からテスト週間が始まってしまいます
そんなことは関係なしに来週も投稿する予定です

しばらく確認していない間にUAが5300越え、お気に入り30件越え…
本当にありがとうございます!!
これからもがんばってまいりますので、応援よろしくお願いします。

それでは今回も最後までお読みいただけると幸いです

アルフレット



四時半になり、猫姿の夜一さんと浦原商店を出る

足は自然と動いて、兄さんがまだいたころ通っていた精肉店へと向かっていた

 

「いらっしゃい‼」

 

私のことは覚えていないらしい

自分で記憶を消したのだから当たり前だが、安心したのと同時に少し悲しくなる

 

「鶏肉、ください」

「毎度あり!おつかいかい?

 偉いね!これサービスだよ」

 

そう言って揚げたてのコロッケを一個くれた

前もこうやって買い物に来るとコロッケをくれた

 

「…ありがとう」

「いいんだよ!おばちゃんからのおこずかいさ

 また来てね!」

 

精肉店を後にして八百屋に向かう

その途中もらったコロッケを半分に割り、片方を夜一さんに渡して自分ももう片方を頬張る

あのころと変わらずおいしかった

夜一さんは私の少し後ろをついてきていた

八百屋でも買い物を終える

こっちでも私に関する記憶はしっかりと消えていた

 

「あとはどこに行くんじゃ?」

「スーパーで調味料を買う」

「食材もそこでよかったんじゃないのか?」

「少し遠いけどあそこの精肉店と八百屋の方がおいしい」

 

傍から見れば、猫と会話しているのに気に留める人は誰もいなかった

そして買い物を終えて、黒崎家に帰る

 

「ありがとう…」

「構わん、気にするな

 一護が帰ってくるまでは家の近くにおるから何かあったら呼べ」

「わかった…じゃあね」

「うまい飯を作ってやれ」

「わかってる」

 

そして夜一さんに背を向けて家の中に入った

リビングは静かで誰もいなかった

キッチンに材料を置き、早速取り掛かる

黙々と作っているとリビングのドアが開く音が聞こえた

 

「お、おいしそうなにおいがするな!

 天ちゃん悪いが少し出てくる

 ごはんまでには帰ってくるよ」

「わかった…いってらっしゃい」

「おう!いってきます」

 

一心さんがキッチンを覗いて言う

そして、リビングから出ていき、やがて玄関が閉まる音がした

静かになり、また作り始める

それから少し経ち、玄関のドアが閉まる音が聞こえ、

リビングのドアが開く音がした

 

「ただいま」

「ただいま~!天さん本当に作ってくれてるんだ

 ありがとう‼」

「…おかえりなさい」

 

遊子ちゃんと夏梨ちゃんが帰ってきた

カバンを置いてくると言ってすぐにリビングを出て行く

普段は自分が迎えてもらう側だったのが今日は自分が迎えていることが少しこそばゆい

そう思っていると遊子ちゃんが戻ってきて言ってくれた

 

「ありがとう、天さん!

 何か手伝うことない?」

「大丈夫…ゆっくりしてて」

 

そう言うと遊子ちゃんはソファに座って夏梨ちゃんとテレビを見始めた

それからすぐに一心さんも帰ってきて一緒になってテレビを見ていた

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

俺たちは学校を終わり、今日もまた井上に急かされて浦原商店に向かった

 

「浦原さん!天ちゃん!来たよ~」

「ハイハーイ!いらっしゃい皆サン」

 

今日の浦原さんは小声ではなく普通だった

 

「今日は天ちゃん、寝てないんですか?」

「ハイ

 それに天サンはもう帰りましたからここにはいませんよ」

「えっ!帰っちゃったの?」

 

俺も驚いた

あいつを一人で帰らせても大丈夫なのか…

 

「ハイ

 なんでも今日は夕食当番だとか

 もちろん一人では帰らせていないので安心してください」

 

そう言えば昨日の夜、そういうことになってたな

でも誰があいつについてるんだ?

と思っていたら石田も同じことを思っていたらしく訊く

 

「誰が彼女についてるんです?」

「夜一さんがついてますよ

 黒崎サンが帰ってくるまでついてくれることになっているので心配いりません」

 

夜一さんがついてくれているなら安心だ

 

「今日はどうします?

 昨日と同じように特訓しますか?」

「あぁ!当たり前だろ‼」

「なら、早速始めましょうか」

 

夜一さんには悪いが特訓してから帰ることにする

浦原さんに続いて勉強部屋に入り、特訓を開始する

昨日始めた時より、明らかに反応できるようになった

昨日と同じように人形との実戦、休憩を数回繰り返し、今日の特訓を終える

特訓が終われば、今日も俺たちは地面に倒れ込んでいた

だいぶ反応が良くなってきたからと途中でもう一段階あげられた

その一段階が一段階じゃないだろというくらい一気に早くなり、昨日より疲れる結果となった

そのまましばらく三人で寝転びながら休憩し、浦原商店を後にした

 

「今日は昨日より大変そうだったね…」

「まぁな…」

 

井上の言葉に返事するのも面倒になるくらい疲れていた

石田は昨日よりも死んでいて俺でも心配になるくらいだった

 

「でも…黒崎君は帰れば天ちゃんが作ったご飯が待ってるんだよね

 いいなぁ~

 この間のお弁当もおいしかったし今日のご飯もおいしいんだろなぁ」

「まぁ…そうかもな

 なら俺んち来るか?天がどれだけ作ったか知らねぇけど」

 

俺がそう言うと井上は待ってましたと言わんばかりに

笑顔で俺の前に回り込み、顔を近づけて嬉しそうに言った

 

「いいの?」

「あぁ…余るかはわからねぇけどそれでもいいならいいぜ」

 

そんな井上に気圧されながらも頷くと、井上は隣で飛び跳ねていた

 

「お前らも来るか?」

「いいのか?」

「いいだろ

 お前らがいた方が天も嬉しいだろうしな」

「それならお言葉に甘えさせてもらおうかな」

 

そういうことで、チャド、井上、石田が家で夕食を食べていくことになった

しばらく歩き、家についた

すると上から猫姿の夜一さんが降りてきた

 

「あっ!夜一さん‼」

「なんじゃ、井上たちまで一緒なのか」

「あぁ、天の作ったのが食べたいそうだ」

 

夜一さんは呆れたように後ろの方を見た

それでも井上はそんな夜一さんの視線に気づいてないみたいだが

 

「儂は戻るぞ

 お主たちも帰ってきたしの」

「おう!ありがとな」

 

夜一さんは視線をこっちに投げかけただけで立ち去っていった

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

夕食が完成した

五人分の量が分からず多めに作ると、かなり多くなってしまった

そんなことを思いながら片づけを終えると遊子ちゃんが声をかけてくれた

 

「天さん、終わったなら一緒に見よう‼」

 

遊子ちゃんに誘われ、ソファに座りテレビを見ると

よくわからない心霊番組が流れていた

それをしばらく四人で見る

すると玄関のドアを開く音と賑やかな声が聞こえてきた

 

「ただいま」

「おじゃましまーす!」

 

一護さんが帰ってきたみたい

ほかにも誰かを連れて

そのまま私たちが顔を合わせていると一護さんたちがリビングに入ってきた

 

「おかえり、お兄ちゃん!」

「おかえり、みんなと一緒だったんだ」

「こんばんは、遊子ちゃん、夏梨ちゃん!」

 

一護さんが連れてきたのは織姫さんだけでなく茶渡さん、石田さんも一緒だった

 

「…おかえりなさい」

「おう」

「天ちゃん!こんばんは」

「…こんばんは」

 

一護さんに声ををかけると

織姫さんは会いたかったと言わんばかりに飛んできて満面の笑みで挨拶してくれた

それに気圧されながらも返す

 

「どうしたの?」

「今日、天が晩飯作るって言ったら井上が食べたいってさ

 それならと思ってチャドたちも連れてきたんだが…まずかったか?」

「大丈夫…作りすぎたからみんなの分もあると思う」

 

私がそういうと一護さんは安心したように息をついていた

織姫さんは嬉しそうで飛び上がるのを直前で踏むとどまっていたのがわかった

そして、三人増えた夕食が始まった

皆おいしそうに食べてくれた

作りすぎたのがちょうど皆で食べるとなくなった

それから内緒で作っていたケーキも皆で食べた

普段より賑やかで楽しい時間はあっという間に過ぎていき、織姫さんたちは帰って行った

そのあとはいつもと同じようにお風呂に入り、寝た

少しの寂しさを感じながら

 




今回もお読みいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後の11日を予定しております。

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第二十二話

薫視点が書きやすい…
筆が進む進む
そのせいで少しいつもよりも長くなってしまいました
それでは今回も最後までお読みいただけると幸いです

アルフレット


それから数日、私は一護さんが学校に行っている間は浦原さんのところに、

一護さんは学校を終えると、浦原さんのところに来て特訓をする日が続いた

そんなある日、一護さんたちは今日は学校もなく、

朝から浦原さんのところに来て特訓していた

私は上で昼食を作る鉄裁さんの手伝いをしていた

それが出来上がり、皆を呼びに行こうとしたとき上から霊圧を感じた

 

(まさか…)

 

そう思い、窓から顔を出す

上空には黒い点が三つあった

目があったように思ったとき、攻撃が飛んできた

間一髪それをよけ相手に見えないところに隠れる

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

今日は学校が休みだったこともあり、

朝から浦原さんのところで特訓をしていた

 

「そろそろ昼食でしょうからいったんここで終わりましょう」

 

浦原さんのその言葉で俺たちは地面に座り込む

始めよりだいぶ反応できるようになってきた

たしかな手ごたえを感じる

天は鉄裁さんが昼食を作るというので連れて行ったっきり戻っていない

そろそろ戻ってきてもおかしくないはずだと思っていると

 

ドォォォン‼

 

頭上から大きな音がした

俺たちは顔を見合わせて急いで上へと昇ると

半壊した浦原商店が見えた

あたりを見回すが天の姿が見えない

 

「おい‼どこだ⁉」

「お!何かぞろぞろ出て来やがったぜ…‼」

 

その声に空を見れば仮面を被った男が三人いた

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

俺たちは再び院殿天を連れ帰るために例の家に来ていた

 

「あの家ん中に院殿天がいるんだろう?

 サッサと連れ帰っちまおうぜ」

「落ち着け、界人

 まだいると決まったわけではない

 姿を確認次第作戦に移る」

 

俺は界人をなだめ、院殿天の姿を探す

 

「どうやって連れ出すんだよ?」

「たしかに…簡単にはついて来てくれないだろうね」

「まぁ…そうだろうな

 その辺は心配すんな釣りだよ、釣り」

 

その辺は予測済み

二人は意味がわからなかったのか首をかしげていた

界人が訊いてくる

 

「どういうことだよ、薫?」

「簡単な話だ

 少し霊圧を解放すればあいつの方から顔を出すさ」

 

あいつはかなりいい霊圧感知能力を持っていると敵ながら思う

 

「たしかに院殿天の感知能力は大したものだが

 そのあとはどうするんだい?」

「そのあとは少し手荒な真似になるが…」

「あいつを黙らせるんだな…‼

 それは俺に任せとけ‼」

 

界人のいうことは間違いではないが、正直こいつに任せると大変なことになるだろう

伊織と顔を見合わせ、肩をすくめる

視線では『僕では止められない』と言っていた

あきらめて界人に任せることにしよう

 

「それはいいが、あまり派手にするなよ」

「そうだよ、また面倒なのが出てきたら嫌だからね」

「そんなの知らねえよ

 前回は長のせいでお預け食らったんだ今日くらいいいだろ‼」

 

たしかにあの時は長から戻ってくるように連絡があった

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

長から戻るように連絡を受けてすぐに村に戻った

 

「長!どういうことですか⁉

 いきなり『院殿天は置いておいて戻って来い』などと」

「そうだぜ‼いいところだったのによ‼」

 

戻るとすぐに長のもとへ事情を訊くため向かった

長は疲れ切った顔をしていた

 

「すまんかったな…

 実はな面倒なことが起きた」

「面倒なこととは?」

 

そんな長の顔を見て俺たちが戻されるくらいなのだからまずいことが起こったのだろうと思う

なかなか話そうとしない長に界人が強く詰め寄った

 

「何だよ⁉もったいぶらずに答えろよ‼」

「実はな…愛梨がないなくなったんだよ‼」

「「「はぁ?」」」

 

俺たちは三人揃って

長の娘がどこかに行ってしまっただけで俺たちは戻されたらしい

 

「そんなことで俺たちを呼び戻したんですか⁉」

「急いで戻ってきて損した」

「あいつとの楽しみ返してくれよ‼」

 

礼を尽くすのを忘れて口々に愚痴る

すると長は今にも泣きそうな表情で言う

 

「そんなことじゃない‼

 愛梨がいなくなったんだぞ⁉

 一大事じゃないか‼」

「いつものことですよね?

 愛梨さんがいなくなるのは」

 

俺は少し落ち着いて長に言う

いつも誰にも行き先を告げずにふらっといなくなる

そして探すと大抵ショッピングモールとかにいる

よくあることなのに長は落ち着きを失っていた

 

「愛梨に何かあったらどうする?

 お前たちは心配じゃないのか⁉」

「そうですね…

 で、俺たちは何をすればいいんですか」

 

正直、これ以上長の相手をするのがめんどくさい

二人に代わってくれと目線を送るが完全に無視された

 

「君たちには愛梨を探してもらいたい」

「分かりましたが、院殿天はどうするんです?」

 

院殿天のことを聞くと今までと打って変わって真剣な表情をする

 

「それは後回しでも大丈夫だろう」

 

なるほど、助言してもらったのか

仕方なく頷き愛梨探しを引き受け、さがる

 

「はぁ…長にも困ったもんだな」

「そうだな…あの過保護さえなければいい人なんだけどな」

「いまさらだろ…

 さっさと愛梨を探して院殿天のところに行くぞ」

 

俺たちは長に聞かれない程度離れたところで愚痴る

珍しく界人のいうことで行動することになった

それから数日後、無事に愛梨を見つけた

案の定、ショッピング中だった

渋る愛梨を長のもとに連れて行き、改めて命令が下る

 

「薫、伊織、界人!院殿天をここに殺さずに連れてこい‼」

「「「はっ‼」」」

 

ようやく院殿天のもとに行けることになった

 

「はぁ…やっとか」

「そうだな…今回はいつもより時間がかかってしまったからな」

「よし…‼やっと楽しみの再開だ‼」

 

俺と伊織は疲れているのに対し、界人は楽しみで仕方ないみたいだ

 

「界人、張り切っているところ悪いが行くのは明日だ」

「はぁ?なんでだよ⁉」

 

界人の出鼻をくじいたようで悪いが、さすがに今回は何の対策を練らずに行くのはまずいと思った

前回、途中で終わったことで相手は何かしらの対策をしていると思えてならない

そんな俺の考えを伊織も持っていたのか界人を説得する

 

「当たり前だ

 前回は途中で撤退したんだ

 警戒するに越したことはない

 それに相手は浦原喜助がいるんだからな」

「わーったよ‼明日にはいくんだよな?」

「あぁ…そのつもりだが」

 

なら、と界人は納得してくれたみたいだ

 

「作戦は俺が練っておく

 今のところ決行は明日だいいな?」

「あぁ」

「今からの方がいいけどな‼」

 

二人とも全くぶれない

界人に苦笑しながらも解散した

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

昨日までのことを思い出して深くため息をつく

横から視線を感じてそちらを見ると伊織が同情の視線を向けていた

 

「大変だね…薫は」

「同情するなら代わってくれ…」

 

そういうと伊織のやつは視線をそらしやがった

昨日の夜は夜で愛梨の愚痴に付き合わされていた

おかげで万全の態勢で臨めていない

そんなことをいまさら口にしても仕方ないと自分に言い聞かせてこれからのことに集中する

 

「おい‼いつになったら始めるんだよ⁉」

「そう慌てるな…もう少しで始める」

 

界人は相変わらず早く戦いたいようだがそれをなだめる

 

「最終確認だ

 今回の任務は院殿天の生け捕り

 方法は霊圧で釣り、一気にかたをつけ離脱、いいな?」

「うん」

「当たり前だ…‼サッサとやろうぜ‼」

「最後に界人、頼むから戦闘になるようなことは避けてくれ

 今日は出来れば戦いたくない…」

 

そう言うと界人は意味がわからないと言った顔をした

 

「はぁ?何言ってんだよ⁉戦うためにここに来たんだろ⁉」

「違うに決まってるだろう

 院殿天の生け捕りが任務だよ」

 

それを伊織が対応してくれる

 

「そんなのどうでもいいんだよ

 俺は戦いたいんだ‼」

「もういい…」

 

界人を説得するのは無理と判断した俺たちは

戦闘はできる限り界人がするということを条件に諦めた

 

「さてそろそろ始めるか…準備はいいか?」

「もちろん」

「いつでもいいぜ…‼」

 

界人に呆れながらも作戦を開始するために仮面をつけ、

作戦を開始する

 




今回もお読みいただきありがとうございます
三人のやり取りを書くのが楽しくてたまりません
天視点よりも書きやすくて困ってしまいます…

次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後の18日を予定しております。

アルフレット


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第二十三話

今回も薫視点があります
本当に書きやすい
薫・伊織対界人のやり取りを考えるのが楽しすぎる
そのせいで分かりにくくなっているかもしれませんが、ご容赦ください
それでは今回も最後までお読みいただけると幸いです

アルフレット


俺たちが上に上がるとそこにはがれきの山があった

 

「何だよ、これ…」

 

浦原さんたちもさすがに驚いていた

浦原商店を中心にかなりの範囲ががれきの山だ

かなりの人が巻き込まれたに違いない

すぐに我に返ってあたりを見回す

こんな有様だと天もどこかでケガしてるかしれない

もしかしたらもう敵の手に渡っているかもしれないと思い、急いで天を探す

 

「おい‼どこだ⁉」

「お!何かぞろぞろ出て来やがったぜ…‼」

 

声が聞こえた方を見れば仮面を被った男が三人いた

この間来たやつと同じみたいだ

 

「おい‼お前らの仕業か⁉」

「『お前ら』じゃなくてこいつの仕業だ」

 

そう言ってあとから近づいてきた仮面男の一人が真ん中にいる奴を指さす

指さしたやつが少し前に出て言った

 

「さすがにこれは悪かったと思ってはいるよ

 こいつを止めきれなかった俺たちにも落ち度はあるしな

 それは謝る、すまなかったな

 よし!それなら取引をしよう」

「取引っスか?」

 

それ対していつもの雰囲気を消し、真剣な顔の浦原さんが応じる

 

「そうですよ

 院殿天を渡してください

 そうすればあなたたちに危害を加えない

 それとこいつが壊してしまったところを直しましょう

 どうですか?いいと思いますが」

「ふざけんな!誰がそんな取引に応じるか‼」

 

カッとなってつい返してしまう

だが、仮面男の発言でまだ天が仮面男たち(てき)の手に渡っていないことに安心する

すると浦原さんが一歩前に出て言う

 

「黒崎サンの言う通りっスね

 申し訳ありませんが、その取引には応じられません」

「そうですか…残念ですね」

「何が残念だ‼

 俺の楽しみを取ろうとしやがって‼」

 

騒ぐ一人の頭を押さえつけながら一人が言う

 

「お前は少し黙ってろ

 それならば力ずくで連れて行くだけですが、それでもいいですか?」

「いいですかじゃねぇよ、そうすんだよ‼」

 

ゴン‼

この間と同じように小刀の柄で頭を思いっきり叩かれている

 

「お前は少し黙ってろって言ったよな?

 こいつ頼むわ」

「了解」

「おい‼何すんだよ⁉」

 

もう一人のやつがそいつを押さえつけて少し後ろに下がらせる

 

「さて、うるさいのは今は無視するとして… 

 もう一度お聞きします…取引には応じてもらえませんか?」

「できませんね」

「なぜです?

 あれはあなたたちが抱え込めるようなものではないでしょう?」

 

天を物扱いしていることに言い返しそうになるが何とか堪える

交渉に関しては浦原さんに任せておくのが一番だろうと思い、感情を押さえつけて黙っていた

 

「そういう問題ではないんですよ

 アナタたちにはわからないと思いますが」

「そうですか…非常に残念です」

 

そう言うと後ろに下がり押さえつけていた方の男と視線を交わす

すると押さえつけられていた男を離し、背中を押す

 

「仕方ない…実力行使だ

 行っていいぞ」

「俺は犬か⁉

 まぁ…いいやそんなこと…!戦えるならなぁ‼」

 

そう言うと俺たちに向かって来た

それを俺が迎え撃つ

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

最後の作戦会議が終わり、俺たちは作戦を開始した

 

「じゃあ行くぞ…」

 

俺は集中し、少しだけ霊圧を開放する

するとすぐに窓から俺たちを見る院殿天の姿が見えた

どうやら釣れたようだ

その姿を確認した後すぐに界人が砲撃を放っていた

 

「釣れたな…」

「いくぜ…‼」

 

界人が砲撃を飛ばす

それを飛ばす瞬間俺たちはしまったと思った

目を開けるとそこに建っていた家々が全壊していた

 

「界人…いくら何でもやりすぎだろ…」

 

さすがに界人がこんな広範囲をを壊すとは思っていなかった

せいぜい浦原喜助の家だけだろうと思っていたが、完全な計算違いだったらしい

さすがに罪悪感を覚える

 

「いいだろ、別に

 ここはお前が作った複製世界なんだからよ」

「たしかにそうだけどな…はぁ…」

 

たしかに今目の前に広がっているのは俺が霊圧を解放すると同時に作った複製世界だが

浦原喜助の家だけは本物だった

そうしないと院殿天をこの場に連れてこれないから

盛大にため息をつく俺に伊織は同情の視線を送り、肩をたたく

そんな伊織も界人に文句をつける

 

「院殿天が死んだらどうするんだい?」

「知らねぇよそんなこと

 でもその心配はねぇんじゃねぇか

 あれを避けたみたいだしな」

 

たしかに攻撃が当たったところに影はなく避けれたようだ

それはそれで面倒なことなのに気付いているのは俺と伊織だけだろう

しばらくすると下から黒崎一護たちが姿を現した

どうやら院殿天を探しているようだがその前に界人が声をだしたせいで、こちらに気付いていた

界人は少し目を離したすきに降りて行きやがった

 

「お!何かぞろぞろ出て来やがったぜ…‼」

「あいつ…いつの間に…」

「仕方ないよ…界人なんだから

 僕たちも行こう」

 

伊織に諭されて俺たちも降りて行った

黒崎一護が俺たちに向かって叫ぶ

 

「おい‼お前らの仕業か⁉」

「『お前ら』じゃなくてこいつの仕業だ」

 

普段ならそう言われても肯定するが今回だけは肯定したくなく、界人ひとりに罪を擦り付ける

一応謝罪はしておくべきだろう

 

「さすがにこれは悪かったと思ってはいるよ

 こいつを止めきれなかった俺たちにも落ち度はあるしな

 それは謝る、すまなかったな

 よし!それなら取引をしよう」

「取引っスか」

 

謝罪をしつつ界人が作った状況を利用してみる

思っていた通り浦原喜助が乗ってきた

 

「そうですよ

 院殿天をこちらに渡してください

 そうすればあなたたちに危害を加えない

 それとこいつが壊してしまったところを直しましょう

 どうですか?いいと思いますが」

 

簡単に首を縦に振るとは思っていない

案の定、突っぱねてきた

 

「申し訳ありませんが、その取引には応じられません」

「そうですか…残念ですね」

「何が残念だ‼俺の楽しみを取ろうとしやがって‼」

 

後ろでうるさい界人を黙らせる

 

「お前は少し黙ってろ

 それならば力ずくで連れて行くだけですが、それでもいいですか?」

「いいですかじゃねぇよ、そうすんだよ‼」

 

黙らせても黙らない界人に小刀の柄で頭をたたく

そして伊織に任せるとめんどくさそうに引き受けてくれた

また取引を再開する

 

「さて、うるさいのは今は無視するとして…

 もう一度お聞きします…取引には応じてもらえませんか?」

「できませんね」

「なぜです?

 あれはあなたたちが抱え込めるようなものではないでしょう?」

 

院殿天を物扱いすることで黒崎一護あたりを挑発しようと思ったがどうやら無駄に終わったようだ

浦原喜助もそれに乗ってくることなく淡々と返してくる

 

「そういう問題ではないんですよ

 アナタたちにはわからないと思いますが」

「そうですか…非常に残念です」

 

別に残念だなんて思っていない

いや、このまま終われば楽でよかったのにとは思ったが、相手に応じる意思がなければもう取引をする必要はない

ならば当初の計画に戻して実力行使でもらっていくまでだが、ここから一気にかたをつけて連れて帰るのは骨が折れそうだ

やっぱり界人に任せるんじゃなかったと後悔するが、もう後の祭りだ

仕方なく伊織に視線を送り、界人を離すように伝える

 

「仕方ない…実力行使だ行っていいぞ」

「俺は犬か⁉まぁ…いいやそんなこと戦えるならなぁ‼」

 

俺が一言かけると好戦的な笑みを浮かべながらかかっていった

それを黒崎一護が受け止め、前回と同じように二人の戦いが始まる

 

「お前が俺とやろうってか?

 楽しませてくれよ‼」

 

俺は伊織と顔を合わせると二人同時にため息をついた

こうなったら誰にも界人を止めることはできない

黒崎一護が界人を満足させてくれるのを祈るばかりだ

そんなことを思っていると下から無数の矢と霊子の砲撃が飛んできた




今回もお読みいただきありがとうございます
無理があるだろうと思われることろもあると思いますが無視してください

次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後の25日を予定しております。

アルフレット


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第二十四話~一護視点~

これから三話分、三人の視点で書いていきます
その第一弾の今回は一護視点です
戦闘描写は難しいですね
皆様の想像力に頼りまくりです
どうか想像しながらお読みください

アルフレット


俺たちに向かってくる仮面男を俺が迎え撃つ

 

「お前が俺とやろうってか?楽しませてくれよ‼

 前より強くなってんだよな⁉」

「うるせぇ!」

「フン!まぁいい少し移動するぞ

 邪魔されたくねぇしな…黒崎一護、連いて来い‼

 お前らはくんなよ‼」

「誰も行かねぇし、邪魔しねぇよ

 やりすぎんなよ」

 

仮面男は仲間の言葉を無視して、移動し始める

仮面男に従うのは癪だったが、俺は少しでも浦原さんたちから離れるために連いて行く

 

「ここらへんでいいだろ…

 時間はたっぷりある前回の続きといこうぜ‼

 どうせ強くなってんだろ?

 ならそれで俺を楽しませろ‼」

 

数合打ち合うと前回と違い、しっかりと仮面男の動きについて行けていることがわかる

これまでの特訓のおかげで少し余裕ができた

前回と同じくらいまでのスピードには疲れ切っている身体でも何とかついていけるはずだ

 

(見える…‼これなら‼)

「ほう…前より反応はいいけど動きは鈍いな」

「っ‼」

 

一気に加速してきた仮面男を間一髪のところで斬月で受け止める

 

「ほう…‼前よりやるようになったな…‼

 でももう息切れか?まだまだこれからだろ⁉」

「当たり前だ!」

 

あいつは全く息切れしていないのに対して俺は息が切れ始めていた

午前中の特訓の疲れが全く抜けていない状態だったから仕方ないと言えば仕方ないかもしれない

それでも言い訳をしていられる状況でもない

それに負けるわけにいかない

 

(あいつは…天は俺たちが護る‼)

 

数合打ち合い、少し距離を取る

そのすきにチラッと浦原さんたちの方を見るとチャドと石田が他の二人に対して攻撃を仕掛けているところだった

二人には全く当たらず、浦原さんに至っては手出しする気がないように見えた

もともとほかの二人は戦うつもりはなかったのか会話は聞こえないが、一目でめんどくさいと思っているのがわかった

 

「おいおい…また余所見か?

 前より見えるようになったからって気ぃ抜いてんじゃねぇよ」

 

その声に視線を戻し構え直すが、前回とは違い、斬りかかってくる様子はなかった

気を抜くなって言った本人がチャドたちの方を見てそのまま俺にも聞こえるくらい大きなため息をついた

 

「はぁ…今回の任務で生じる戦闘はよ

 俺がするはずだったのによ…」

 

今までの好戦的な雰囲気はどこかに消え去り、なぜか愚痴り始めた

 

「前回は長のどうでもいいことで呼び戻されて楽しみがお預けになってよ…

 今回こそはって思ってたわけよ…

 作戦開始前に今回の任務の戦闘は全部俺がするって決めたのによ…

 何であいつらがするんだよ…

 ひどいと思わないか?

 俺から楽しみを奪うなんてな

 お前もそう思うだろ」

「…」

 

呆気にとられる

正直、そんなことどうでもいいし理解できない

それにどうしてこんな空気になったのか不思議だ

訳が分からず、俺はいつの間にか構えをゆるめていた

何も答えずに突っ立っているとチャドたちの方を見ていた仮面男が突然俺の方を見る

それに思わず身構える

 

「なぁ…お前もそう思うだろ、

 楽しみが誰かに横取りされるんだ

 そんなのお前だって嫌だろ、黒崎一護?」

「あ、あぁ…そうだな」

 

今にも泣きそうな声を出され、何だかかわいそうに思えてとりあえず同意する

 

「だからよ…お前が俺を満足させてくれよ…‼」

「っ‼」

 

今までの雰囲気は霧散して初めのような好戦的な雰囲気を出してきた

それに対して俺も斬月を構え直す

それが気に食わなかったのか仮面男はイラついた声で言う

 

「なぁ、俺はお前に楽しませてくれと言ったよな?」

「…あぁ」

 

思わず返事をしてしまう

 

「お前、このままで俺を楽しませれると思ってるのか?」

「どういう意味だよ?」

 

俺としてはこいつを楽しませる気なんて毛頭ない

 

「じゃあ…言い方を変えてやるよ

 そのままで俺に勝てると思ってんのか?」

「っ‼」

 

つまり卍解しろってことか、とやっと理解する

それと同時に今まで俺の頭から卍解することが抜け落ちていたことに驚く

 

「やっとわかったか?

 ならお前のとるべき行動はひとつだよな?」

「っ‼」

 

あいつに言われて気付いたのは癪だが

あいつの言う通り俺がとるべき行動はただひとつ

左足を一歩前に出し、重心を下げ、

右腕だけで斬月を支え、相手に切っ先を向ける

右手首に左手を添える

そして、息を大きく吸い込み言う

 

「卍…解‼」

 

俺の周りを強風が囲み、それが晴れる

 

「…天鎖斬月」

 

仮面男を見ると身体を震わせていた

 

「あぁ…いいな

 これなら楽しめそうだ

 さぁ…‼第二回戦と行こうぜ‼」

 

仮面男は仮面のせいで表情は見えないが全身からは

楽しくて仕方ないというようなオーラを出していた

それから打ち合いが始まった

 

「ふん‼」

「っく‼」

 

ようやく俺が仮面男に一撃を食らわせることができた

すると悔しがる素振りを全く見せずに嬉しそうな声を上げる

 

「いいねぇ…‼その調子でもっと俺を楽しませてくれよ‼」

(何だよこいつ⁉剣八の同類か⁉)

 

初めて剣八と戦った時を思い出させるような相手だった

 

「いいねぇ…‼その調子だ‼

 これなら少し力を使っても問題ないよな⁉」

 

さすがに仮面男も息が切れてきていた

そう言うと指で四角を書くような動きをする

 

「まぁ…まずはこれくらいからにしてやるから楽しませろよ‼」

 

そう言うと俺に向かって斬りかかってきた

それを間一髪で避ける

そして、次にかかってくるであろう方向に体を回転させる

すると目の前に仮面が見えた

その攻撃を完全に避けきれずに斬月で受け止める

 

「へぇ…やるな

 初見でこれを防いだやつはお前が初めてだ

 俺たちの一族以外でな」

 

そう言いながらまた攻撃を仕掛けてくる

それも避けきれずにまた斬月で受け止める

だんだん目で追えなくなってくる

 

(くそっ!まだ早くなるのかよ)

 

そんな俺をものともせず仮面男はまだまだとでもいうように早くなっていく

そろそろ見切れなくなってきたが何とか直撃を避けて斬月で受け止め続ける

 

「ぐっ…‼」

「そろそろ限界か⁉」

 

徐々に受けきれなくなり、身体に傷が増えていく

それでも何とか仮面男のスピードについていく

 

「まだ反応できるのか…‼

 あぁ…‼こんなに楽しいのは久しぶりだ‼

 このままお前を殺して終わらすのはもったいない

 それならばお前を殺さずに終わらせればいいだけの話だよな?」

「誰が…そんなこと…させるか…‼」

 

打ち合う中で仮面男は嬉々とした声で話している

俺とは違い話すのに言葉が切れることない

 

「俺がすんだよ…‼」

「っ‼」

 

仮面男の攻撃に耐え切れずに飛ばされる

そしてそのまま地面に叩きつけられる

浦原商店のあったところの近くまで吹き飛ばされたみたいだ

意識が遠のいていくのを何とかつなぎとめ、立ち上がろうと足に力を入れる

すると仮面男が近くに降り立ち、顔を覗いてきた

 

「驚いたぜ…‼これをくらっても立ち上がろうとするなんてな

 だがもう限界だろ?前回よりは楽しめたがまだまだだな

 お前ならもっと俺を楽しませれるようになるはずだ…‼

 今回はここで見逃してやるから、

 もっと強くなって俺を楽しませろ‼」

「待て…‼まだ…俺は…」

 

そう言って背を向ける仮面男に声をかけるが無視された

体を動かそうと力を入れるが、体が鉄でできているように重く、ピクリともしなかった

 

「黒崎くん‼」

 

井上の声が聞こえる

視線の端に二本の線が引かれる

すると少し離れたところから

 

ドォォォン‼ 

 

と二回聞こえてきた

かすれる目でそっちを見るとチャドと石田が地面に叩きつけられるのが見えた

 

「茶渡くん‼石田くん‼」

 

井上の叫びが聞こえた

井上は近かったであろう俺のところに来て顔を覗き込んできた

井上の心配そうな顔を見るのを最後に俺の意識は深い闇へと落ちて行った




今回もお読みいただきありがとうございます
どういうことかわからない箇所が多々あると思いますが、皆様の想像にお任せします

次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後ではなく3日後の28日を予定しております。

アルフレット


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第二十四話~浦原視点~ 

初めての週2投稿が出来ました
同じような話を三週間もかけてするのは少しずるいような気がしたので今週2回目の投稿です
そして第二弾の今回は浦原視点です
違和感ありまくりかもしれませんがお付き合いください
それでは今回も最後までお読みいただけると幸いです

アルフレット


石田サンと茶渡サンが自分から仮面男、おそらく薫サンと伊織サンにケンカを売るとは思いませんでした

たしか、背が低い方が薫サンで、高い方が伊織サンでしたっけ

彼らの実力は全く分かりませんが少なくとも今黒崎サンと戦っている界人サンと同じくらいの強さはあるでしょうから正直、きついでしょうね

それでも逃がすわけにはいかない点は同感なので止める気はありませんが

 

「なぁ、まずは名前、聞かせてもらってもいいか?」

「石田雨竜、滅却師(クインシー)だ」

「…茶渡泰虎」

「なるほど、ありがとう

 君は滅却師か…初めて見たな

 見た目は普通なんだな」

 

薫サンと伊織サンは全く緊張感が感じられませんでしたが

石田サンと茶渡サンはかなり肩に力が入っているようですね

ボクは近くにいる夜一サンに耳打ちをして天サンを託すことにしましょう

 

「夜一サン、天サンを頼みます」

 

夜一サンに天サンのことを頼むと任せておけと頷いて消えてしまいましたね

すると向こうも片方が天サンを探しに行くのか薫サンと伊織サンが相談しているみたいっスね

 

「こいつらの相手、任せてもいいか?」

「院殿天を探しに行くのかい?

 四楓院夜一がさっき行ったよ 

 そっちの方が面倒だと思うけど」

「でもな…こっちだと絶対戦闘だろ?

 なら確実じゃない方にかけてみようってな」

 

どうやらこの二人は界人サンと違って戦いたくないようですね

そんな姿に石田サンが耐え切れなくなったのか矢を何本か射りましたがやはり一本も当たることなく避けられましたね

 

「わかったよ…気をつけて」

「じゃあ、こっち頼むわ」

 

どうやら話が終わったようで始めに言っていた通り薫サンが天サンの方に行き、伊織サンが石田サンたちの相手をするみたいっスね

 

「さて、待たせたね

 始めるかい?」

「フン」

 

始まるみたいっスね

しかし、二人が一人になっても少し厳しいでしょうね

案の定始まって数分、石田サンの矢はことごとく落とされ、命中したのは数本のみ

それも掠っただけで大した傷を負わせることはできませんでした

茶渡サンに至っては一発も当たっていませんでした

二人はもう息が切れていたのに対し伊織サンは全く息が切れておらず明らかにまずい

黒崎サンの方も卍解したにもかかわらず完全に防戦一方で傷がどんどん増えていっている状態

夜一サンの方でも戦闘が行われているようですね

まぁ…夜一サンは心配ないでしょう

 

「ふむ…なかなかやるね

 でもそんなものかい?

 よくもまぁその程度の力で僕と戦おうと思ったね

 はぁ…向こうは結局戦闘になっているね

 あいつ、こっちの方が絶対楽だったろうに

 わざわざあっちを選ぶなんて

 まぁ、僕はおかげで楽できたけど

 っと‼まだやるのかい?いい加減諦めてくれないかな?」

「うるさい!余裕ぶっていられるのも今だけだ‼」

 

明らかになめられてますね

石田サンたちは攻撃が全く通じない上にいいように弄ばれているせいで頭に血が上ってしまってますね

普段の石田サンたちではあまり考えられないんスけどね

どちらかと言えば黒崎サンのストッパー的立ち位置ですし

 

(予想以上に手強いっスね

 これはまずいかもしれません

 ボクとしたことが…)

 

午前の特訓での疲労がほとんど回復していない状態での戦闘

おまけに格上の相手に対してですからなおさら悪いでしょう

正直、ここまで戦っていられるのが不思議な状態です

特に黒崎サンは

 

(石田サンも茶渡サンももう限界でしょう

 そろそろボクの出番スかね)

 

そう思い、斬魄刀を解放することにしました

 

「啼け、紅姫」

「っ‼これはまずいね」

 

相手をしっかり見て出しますが

 

「…剃刀紅姫」

「っ‼危ないなぁ…」

 

避けられてしまいましたか

伊織サンは距離を取り、何かを唱えたあと急に動けなくなってしまいました

 

「申し訳ありませんが、少しジッとしていてください」

 

力を入れて解こうとしますが体全体が覆われてしまったのかなかなか解けません

そうこうしていると黒崎サンが飛んできて、地面に叩きつけられてしまいました

 

「黒崎くん‼」

 

黒崎サンは辛うじて意識があるようでしたがもう戦うのは無理でしょう

黒崎サンを気にしている間に石田サンたちも完全にやられてしまいましたか…

これは本当にまずいですね…

ようやく拘束から抜け出すことができましたが正直、この二人と同時にやり合うのは厳しいですね

夜一サンは…平気みたいっスね

 

「さてさてどうしましょうか」

「さすがのあなたでもこの状況はまずいですか?」

「えぇ、もちろん大ピンチっス」

 

それに比べてほぼ無傷の二人っすか

夜一サンと合流して二対三でする方が確実だとは思いますが

さすがにそれも難しいっすね

 

「噓っぽいな…」

「どうすんだよ?」

「向こうでは完全に四楓院夜一とやり合ってるみたいだしね」

「こっちでもするか?」

「できればしたくないね」

 

向こうの心配は全くしてないんスね

 

「アタシもっスよ

 アナタたちがこのまま引き下がってくれれば一番ありがたいんスけどね」

「そうできたらいいですけどね

 さすがに二対一でもあなたとするのはごめんですから」

 

ずいぶん過大評価してくれてるみたいっスね

それでも引く気はないのか戦闘態勢に入ってしまいましたか

仕方ありません

やるしかありませんね

天サンがどこにいるかが気になりますが

それはとりあえず置いておくとしましょうか

今は目の前の敵に集中しないとさすがにまずいっスからね

すると後ろからがれきが崩れる音がして、振り返るとそこには土埃まみれの鉄裁サンが立っていました

 

「鉄裁サン、無事だったんスね」

「はい、何とか」

「よかったっス」

 

全く心配はしていませんでしたが、とりあえず無事で何より

 

「はぁ…さらにまずくなったな…」

「何でだよ?さらに面白くなってきたじゃねぇかよ」

 

相変わらず界人サンは戦いたいみたいっすね

 

「あの長身でおさげの男は握菱鉄裁、元鬼道衆総帥・大鬼道長だよ」

「?すごいのかそれは」

「要注意人物に上がっていただろう…

 鬼道衆を束ねる要職についていた人だよ

 いい加減、憶えてよ…」

 

界人サンは憶えるのが苦手のようっすね

しかし、戦闘中にこんなに空気を緩ますことができるのも才能ですかね

そんな伊織サンの言うことが聞こえていないのか誰よりも早く戦闘態勢に入っていましたから

こちらも戦闘態勢に入らないといけませんね

しかし、戦闘になる前に薫サンが急いでこちらに来て二人に声をかけ

 

「いったん引くぞ‼」

「はぁ?何でだよ⁉」

「今回は戻らないとさすがにまずいです‼」

 

一人増えましたね…

どうやら今回も断念して引き上げるみたいっスね

助かったのは助かりましたがまた来るでしょうからそれを考えた場合、この場で決着をつけておきたかったですね

横を見ると夜一さんがもうボクの隣に並んでいました

 

「帰るんスか?」

「あぁ…帰らないとまずいんでね

 それよりあんた化けもんだろ」

 

薫さんが夜一さんを指さしながら叫んでいますが

夜一さんが隣でこめかみを引くつかせているので

ボクと鉄裁サンはそれどころじゃありませんでしたが

 

「化け物とは失礼じゃのう」

「あれを食らっておきながらピンピンしている時点で

 俺から見れば化けもんですよ」

「夜一サン、何したんスか?」

 

ボクから見てもかなり強い人から『化けもん』と呼ばれるなんてさすがだと思ってしまいましたが声に出せばボクが殺されそうなんで黙っておくことにしましょう

 

「別に何もしとらん

 ただ拘束か何かを破っただけじゃ」

「うわ…お前の術を破ったのかあの女は」

「そうだ…結構本気でやったのにな

 その上、顔面に一発食らった」

「へぇ…俺も浦原喜助に使ったけど解くのにそれなりの時間がかかってくれたよ」

 

どうやらボクが食らったのと同じ術を夜一サンは食らったが、すぐに解いて顔に一発入れたということっスか

ボクでも解くのに少しかかってしまったのにさすがっスね…夜一サンは

 

「あのぅ…」

「ん?何だ?」

 

完全に新たに来た一人のことを忘れていましたね

おそらく全員

 

「そろそろ戻らないとまずいです…」

「そうだな…今回はここまでにしましょうか

 次は絶対に院殿天をもらっていきますから

 それまであれを頼みますね

 それとこれはお詫びです

 こいつがめちゃくちゃにしてしまったんで」

 

そう言うと薫さんが手を合わせて何かを唱えているようですが聞き取れませんね

唱え終わると急に薫さんたちが光りだし、眩しさに思わず目を細めてしまいました

光が消え、視界が戻ってくるとそこには彼らの姿はなく壊れたはずの浦原商店や周りの家が無傷のまま建っていました




今回もお読みいただきありがとうございます
今回はフルの浦原視点でした
前回よりはマシになっているでしょうか

次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後ではなく4日後の10月2日を予定しております。

アルフレット


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第二十四話~薫視点~

さて、最後の今回は薫視点です
毎度のことながら戦闘描写は皆様の想像力に頼っております
今回も想像しながら最後までお読みいただけると幸いです

アルフレット


俺と伊織が呆れながら界人を見送り、

黒崎一護が界人を満足させることを祈っていると

下から無数の矢と霊子の砲撃が飛んできた

 

「何だよ…俺たちとやろうってか?」

「君たちを逃がすわけにいかないからね」

 

めんどくさい

戦闘は界人に任せるつもりで戦うつもりなんてしていなかった

二人と、浦原喜助と四楓院夜一と戦えば

『今回の任務の戦闘は俺にやらせてくれるんじゃなかったのか』

と文句を言われるに違いない

 

「戦闘は黒崎一護の後にあいつとやってくれないかな?

 今君たちと戦えばあとで界人(あいつ)に文句言われるんだよ」

「それはそっちの事情だろ?こっちは君たちに用があるんだ」

 

伊織も同じことを思ったのか説得を試みるがどうやらこのまま引き下がってくれる気は全くないらしい

そのとき、界人のやつがこっちを見ていることに気付いた

戦闘を一時中断しているということはきっとこっちを見て敵相手に愚痴をこぼしてんだろう

仕方ない

俺たちは名前も知らないやつの相手をするのは何となくイヤで名前を訊く

 

「なぁ、まずは名前、聞かせてもらってもいいか?」

「石田雨竜、滅却師(クインシー)だ」

「…茶渡泰虎」

「なるほど、ありがとう

 君は滅却師か…初めて見たな

 見た目は普通なんだな」

 

正直、すんなりと答えてくれると思ってなかったが訊いてよかった

なかなか興味深い

滅却師が紛れ込んでいるとは

要注意人物に入っていなかったのが意外だった

浦原喜助が四楓院夜一に耳打ちをすると四楓院夜一が消えた

おそらく院殿天を探しに行ったのだろう

 

「こいつらの相手、任せてもいいか?」

「院殿天を探しに行くの?

 四楓院夜一がさっき行ったよ

 そっちの方が面倒だと思うけど」

「でもな…こっちだと絶対戦闘だろ?

 なら確実じゃない方にかけてみようってな」

 

正直、こいつらの相手をするのがめんどくさいだけだが

伊織のことだから俺の面倒なことを押し付けようとしていることがわかっているのだろう

その上で明確に言うわけでなくやんわりと断ろうとしてくる

たしかに四楓院夜一とやり合うようになってしまえば面倒だがそれは俺の努力次第でどうにでもなるだろう

しかし、このままここにいればこいつらと戦うのは絶対だ

 

「わかったよ…気をつけてね」

「じゃあ、こっち頼むわ」

 

伊織に二人の相手を任せて俺は院殿天を探しに向かった

正直、探すのは至難の業で、がれきをどかしていくのが地道だが一番早いような気がした

 

「仕方ねぇな…どかしていくか」

 

大体の目安をつけてがれきに手をかける

すると、急に何かが飛んできた

 

「っ‼危ないなぁ…」

「避けておいて何を言ってるんじゃ」

 

早速四楓院夜一と出会ってしまった

 

「はぁ…こうなるなら俺が二人の相手をしておけばよかったな」

「何をグチグチ言っておるんじゃ?」

「あの、提案なんですけど、俺じゃなくて黒崎一護が今戦っている相手としてもらえませんかね?

 俺正直、戦いたくないんですよ」

 

ダメもとで提案してみる

界人なら喜んで相手するだろう

もうそろそろ決着がつくころだろうしな

 

「それは聞けんのう」

「どうしてもですか?」

「どうしてもじゃ

 儂としてもお主を逃がすわけにも、あやつを渡すわけにもいかんしの」

 

やっぱり無理だったか…

仕方なく戦闘態勢に入る

 

「そんなにいやか?儂とやり合うのは?」

「別にあなただから嫌ってわけではないですよ

 そもそも今日は戦いたい気分じゃないんです

 だから戦いたがっているやつがいるからそいつの相手をして欲しいんですよ

 あいつ、不完全燃焼起こすと後で厄介だから」

 

本当に最悪だ

なかなか治らない上に次に戦える機会では暴れすぎる

それさえなければいいやつだと思うんだけどな

 

「しかしのう、お主たちを逃がすわけにはいかんしのう

 お主が降参すればすぐ終わるし、すべて解決するのではないか?」

「そういうわけにはいかないな…

 それを言うならあなたが見逃してくれれば万事解決だと思うんですけど?」

「う~ん…そういうわけにはいかんのう」

 

結局こうなる

戦闘を回避できる気がしない

 

「結局こうなるんですかね」

「そうじゃの」

 

こうなるなら伊織にこっちを任せればよかったと後悔するが時すでに遅し

そんなことを思ってる暇もなく四楓院夜一は攻撃を仕掛けてきた

さすがに元二番隊隊長にして瞬神・夜一の異名をとるだけはある

かなりきつい

こっちが防戦一方に追い込まれる

おまけに俺はどちらか言えば中・遠距離派だから相性が悪い

本当に最悪だ

やっとの思いで距離を取り、二人の方を見る

どうやら界人も伊織もとりあえずは終わったみたいだ

二人とも勝って浦原喜助と対峙しているようだった

 

「おうっと!」

「余所見か?余裕じゃの?」

「これが余裕あるように見えますか?」

 

四楓院夜一は全く攻撃の手を緩めてくれる気配がなかった

 

「あぁ…余所見など余裕のある証拠じゃろう」

「あの!そろそろ終わりませんか?

 黒崎一護も茶渡泰虎も石田雨竜も皆やられちゃいましたよ」

 

ダメもとで言ってみる

 

「じゃが、まだ儂と喜助がおるじゃろう?」

 

やはり無駄だった

厄介な二人が残っている

またもやダメもとで訊いてみる

 

「はぁ…もう疲れましたよ

 降参してもらえませんか」

「お主が降参すればいい話じゃろ?」

 

言われる思った…

もうどうしようもないのか…

深いため息が漏れる

 

「お主はなぜ戦いたくないんじゃ?」

「戦うことは今回の任務に入っていないし楽したいじゃないですか

 別に戦うことは嫌いじゃないんですよ…好きでもないけど」

 

今回の任務は院殿天の生け捕りであって、取り巻きの殲滅は入っていない

俺としては戦闘なしでさっさと連れて帰りたい

 

「ふむ…お主たちはそれぞれ考えが違うのだな」

「そうかもしれないですね

 戦闘狂に真面目に不真面目な三人がそろっていますから

 なので戦闘狂としてもらってもいいですか?

 たぶんあいつこれから浦原喜助とやりたいと思うんでそのあとで」

 

もう一度しれっと界人と戦うように言ってみる

しかし、効果はなく

 

「ほう…お主は喜助にあやつが勝てると?」

「さぁ…どうでしょうね

 ですが、仲間の勝ちを疑うことなどあってはならないのでは?」

 

正直、あいつは手傷を追っているだろうし勝てるかと聞かれたら厳しいと思うがそれでもあいつの負けた姿は想像できないししたくない

 

「なるほどのう…少しはまともなことを言うんじゃの」

「あれと一緒にしないでもらえますか」

 

何気に界人と一緒にされた気がして腹が立つ

そして、再び戦闘を開始する

直撃することはなかったが、何発か掠ってしまう

だが、何とか力を使うことなくやり過ごしていく

再び四楓院夜一と距離が開いたとき突然後ろに気配を感じた

知っている気配だ

 

「どうしたんだ?」

「至急、戻ってください‼」

 

葵が突然姿を現した

慌てた様子が気になる

何かあればいつも長がカラスを飛ばすのに今回は葵が来たということは長に何かあったということか

 

「何があった?」

「村が…‼」

 

まずいことが起きたことはすぐに理解できた

そして迷わず撤退を選ぶ

俺は四楓院夜一に拘束術をかけて時間を稼ぎ、二人のもとへと向かおうとするがすぐに解かれてしまった

 

「噓だろ…ぐっ‼」

「何が噓なんじゃ?

 何があったかは知らんが、お主を逃がすわけにはいかん」

 

その上顔面に一発食らってしまった

次は葵と協力して強めの拘束術をかける

とりあえず二人と合流できればそれでいい

次は何とか時間を稼ぐことができた

そして二人に言う

 

「いったん引くぞ‼」

「はぁ?何でだよ⁉」

「今回は戻らないとさすがにまずいです‼」

 

葵のがここにいることで二人は緊急性に気付く

 

「帰るんスか?」

「帰らないとまずいんでね

 それでは今回はここまでにしましょうか

 次は絶対に院殿天をもらっていきますから

 それまで院殿天(あれ)を頼みますね

 それとこれはお詫びです

 界人(こいつ)がめちゃくちゃにしてしまったんで」

 

帰り際に複製世界を解除し、浦原喜助の家を元に戻す

そして、四人でその場を離脱した




今回もお読みいただきありがとうございます
最後は雑でしたかね…
次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後の9日を予定しております。

アルフレット


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第二十五話

久し振りの天視点です
変になってないといいのですが…
それでは今回も最後までお読みいただけると幸いです

アルフレット


音が聞こえる…

目を開けるとそこにはがれきがあった

間一髪直撃は免れることができたが、衝撃によって飛ばされて意識を失っていたみたい

がれきをどかそうと体を動かしてみると激痛が走った

それでもゆっくりと体を起こしがれきをそっと押す

すると少しずれて外の様子が見えた

そこには界人さんと戦う一護さんの姿があった

状況は一目見てわかるぐらい劣勢だった

午前中の特訓のせいもあるんだろうが明らかに一護さんが追い詰められていた

界人さんは術を使っていた

一護さんにはまだ何も教えていない

話していない

破るのは絶望的だろう

 

(あぁ…また私のせいだ

 私がここにいなければ…)

 

そう思っても界人さんと一護さんの戦いが終わるわけではない

どれだけ心の中でやめてと叫んでも終わらない

一護さんがどんどん傷ついていく

このままだと死んでしまうんじゃないかと思ってしまうぐらい

石田さんも茶渡さんも傷ついていく

伊織さんと戦っているようだった

少し視線をずらすとそっちでは夜一さんと薫さんが戦っているようだった

もうやめてほしかった

私なんか放っておいて欲しかった

薫さん、伊織さん、界人さんは兄のような存在だった

村で疎まれていた私に普通に接してくれる数少ない人たち

一護さん、石田さん、茶渡さんはまだ知り合ってそんなに経っていないけど私のために特訓をして強くなってくれて私を護ろうとしてくれる人たち

浦原さんと夜一さんは父さんと母さんの血盟者で今本当のことを話せて、こっちに来てから一番私のことを気にかけてくれる人たち

そんな大切な人たちが私のせいで傷つけあっている

やめてほしかった

一緒に肩を並べて笑いあっていた欲しい

そう願っても私にはどうすることも

いや、何もしようとしないだけだ

私はただ見ていることしかできなかった

 

「もう…やめて…戦わないで…

 傷つけあわないで…私の大切な人たち…」

 

そっと今私が一番願うことを呟いてみる

何も変わらない

涙が溢れて視界が滲む

そしてまた意識が深い闇に落ちて行った

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

彼らが去り、ボクたちは立ち尽くしていました

そして、黒崎サンたちを回収して寝かせ

 

「今回もまぁ…助かったのう」

「そうっスね…

 まずは黒崎サンたちの治療と天サンを探さなければなりませんね

 井上サン、鉄裁サン

 黒崎サンたちのこと頼んでもいいっスか

 アタシたちで天サンを探してきます」

「分かりました…‼」

 

そしてボクたちは井上サンと鉄裁サンに黒崎サンのことを任せて天サンを探すために浦原商店を後にしました

跡形もなくなったところにいたはずなのに今はこうして何もなかったように家が建っている

何か幻惑系の術でもかけられたのでしょうか

 

「それにしてもさっきのはなんじゃったんだろうな」

「そうっスね…

 正直、ボクにもわかりませんが天サンならわかるでしょう」

 

夜一サンも不思議に感じているようですね

しかし、先ほど黒崎サンたちが倒れていたのは戦っていた時に飛ばされた場所ですから完全に別の場所ということではないのでしょう

 

「天サンはどこにいるんスかね」

「全くわからん…天を見つける前に薫じゃったか?

 戦闘になってしまったからのう」

 

夜一サンから吹っ掛けたように見えたというのは黙っておきましょう

まだ死ぬわけにいきませんからね

 

「天を探すのがこんなに大変だとはな

 一護じゃったら楽なのにのう」

「たしかにそうっスね

 霊圧を頼りに探すことができませんから」

 

今の天サンは霊圧を完全に遮断する義骸に入っているので見つけるのは霊圧を頼りに探すのは至難の業

足と目だけが頼りっすね

 

「二手に分かれますか」

「そうじゃの

 儂はこっちに行く」

「わかりました

 では、三十分後にまたここに集合しましょう」

 

そして、ボクたちはそれぞれ天サンを見つけるために二手に分かれましたが見つからずに三十分たち集合場所に集まることになりました

 

「そっちはどうじゃ?」

「ダメっスね

 夜一サンはどうでしたか?」

 

夜一サンは首を横に振り座り込んでしまいました

ここまで見つからないとなると考えられるのは

一つ目、実は薫サンたちに連れて行かれた

二つ目、自分の意志で見つからないように隠れている

三つ目、見つかりにくいところで動けない

どれも天サンの場合まずい気がしますね

 

「どうしますか?」

「あと探していないのはどこじゃ?」

「薫サンたちがどこまで破壊していたか正確にはわかりませんからはっきりとはわかりませんが、だいたい探したんじゃないっスかね」

 

あてもなく二人で空を蹴って天サンの姿を探しますが、見つかりません

 

「ん?いたぞ‼」

 

夜一サンが木々が生い茂った中の天サンを見つけましたが、ぐったりとしていてとてもではありませんが無事には見えませんでした

珍しく夜一サンが取り乱しながら天サンのもとへ行くのをボクは少し後ろから追いかけました

 

「天‼大丈夫か⁉」

「大きな傷はないみたいっスね」

 

とりあえず、大けががないことに胸をなでおろしましたが、生気のない顔を見れば完全には安心できませんね

その顔をよく見れば目から下に向かってのびる一筋の線が見えましたが、今はそれよりも天サンを起こすのが先っスね

 

「天‼天‼しっかりせい‼天‼」

「ん…」

 

夜一サンの必死の呼びかけにようやく反応がありホッとしました

 

「天‼探したんじゃぞ‼」

「とにかく無事でよかったっス」

 

少し開けた天サンの目をのぞき込むと焦点が合っていない目とかすれた小さい声で

 

「浦原さん…?夜一さん…?」

「ええ、そうですよ」

「大丈夫か?」

 

夜一さんの問いに天サンは小さく頷きますが、きっと大丈夫なんかではないでしょう

身体的にも精神的にも

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

声が聞こえる

 

「……‼…ら‼……かりせい‼天‼」

 

夜一さんの声だ

私を呼んでる?

ゆっくりと目を開く

 

「ん…」

 

ぼやける視界に浦原さんと夜一さんの顔が映る

 

「浦原さん…?夜一さん…?」

「ええ、そうですよ」

「大丈夫か?」

 

声がかすれる

話すのもつらくなり小さく頷く

安心させるために頷いたのに浦原さんも夜一さんも顔をゆがませた気がした

 

「無理しなくてもいいんスよ」

「そうじゃ…大丈夫なわけがなかろう」

 

心配そうな声で、優しく怒られる

意識が再び遠のく

 

「もう少し寝ていて構いませんよ」

「そうじゃ…もう少し休め」

 

そう言って夜一さんは私の頭をなでてくれた

頑張って保っていた意識を手放し、もう一度深い闇に落ちていく

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

天サンがもう一度意識を失うと夜一サンが天サンを抱えて、帰ることにしました

静かになるべく天サンに負担をかけないようにと

 

「天サン、きっとボクたちが戦っているのを見てたんスね」

「そうじゃの…

 こいつにとって大切な者同士が自分のせいで戦っているようにしか見えんかったじゃろうな」

 

それを見てきっとやめてくれと祈ったのでしょうね

夜一サンも声に出しませんがきっと涙の意味がわかっているのでしょう

 

「天は皐月に似て人が傷つくことを嫌う優しい子じゃ

 きっとこれからもっとつらい思いをするんじゃろうな」

「そうっスね…このままでは天サンは壊れてしまうかもしれませんね

 そうなる前に黒崎サンたちが天サンを支えられるようになってくれるといいんですが」

 

これからの一番の問題は天サンが黒崎サンたちに頼るようになるか

そのために今までいろいろ仕組んではきましたが成果は今のところあまりありませんね

もう手助けできることもありませんからここから先は天サンと黒崎サンたち次第っスね

そう思いながら静かに急いで家へと戻りました




今回もお読みいただきありがとうございます
今回の浦原視点は少し雑だったでしょうか…

次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後の16日を予定しております。

アルフレット


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第二十六話

投稿済みの小説をこの間初めて読みました
投稿する前までは何回も読み直したりするのですが、投稿してしまうと何だか恥ずかしくて読む気になれなかったのですが、この間恥ずかしさを乗り越えて読みました
感想は…驚きましたね…
自分でも忘れていた設定がかなり…
今、少しスランプ気味ではありますがそれなりにストックがあり安心していたところに今回の忘れていた設定が…
書き直しが必要となりました…
これからの話を書き直すつもりですが、投稿済みの方を変える場合もあります
そんなに大きく変えるつもりはないので、もしこれからの話であれ?と思った方はお手数ですがその場面を探し出し、確認してください
よろしくおねがいします

前書きが長くなってしまいましたね
それでは今回も最後までお読みいただけると幸いです

アルフレット


「…ん」

「黒崎くん‼」

 

井上の声にゆっくり目を開ける

するとそこには心配そうな顔をして俺の顔を覗き込む井上の姿があった

体を起こして周りを見るとチャドと石田がいたが、天の姿が見えない

 

「天は⁉無事なのか⁉」

 

全員顔を下に向け、誰も答えない

最悪の結果が頭をよぎる

すると浦原さんと夜一さんが入ってきた

 

「天サンは無事ですよ

 今は別室で寝ています」

 

腰をおろしながら答えてくれる

連れていかれていないことにホッとした

その一方で井上たちの浮かない顔が気になる

 

「何かあったのかよ?」

「天ちゃんがまだ目を覚まさないの」

「は?」

 

まだ目を覚まさない

井上の言葉に一瞬思考が止まる

外を見ればもう暗くなっていてあれからもうかなり経っているようだ

それなのにまだ目を覚まさないということはかなりまずいんじゃないか

 

「ケガしてるのか?」

「ケガはそれほどひどくないんですが

 会いに行きますか」

 

そう言って立ち上がり部屋を出て行くあとを俺たちはついて行き、天が寝ている部屋に行く

部屋に入るとそこには生気のない顔で眠る天の姿があった

いたるところに包帯がまかれていて痛々しい

 

「大丈夫なのかよ?」

「正直、わからん」

「天サン次第でしょうね」

 

沈黙が俺たちを包む

もう一つ気になっていたことを訊く

 

「仮面集団は?」

「撤退していきました」

「そうか…」

 

完全にあいつを護り切ることができなかった

あいつらが撤退しなければきっと天は連れていかれていただろう

そのことが俺の心に重くのしかかる

 

「今日はどうしますか

 このまま家に泊まっても構いませんが」

「そうだな…一人で帰る気にもなれねぇし…」

 

俺だけ家に帰るのは気が引け、浦原さんの言葉に甘えることにする

井上たちはどうするのかと思い見る

 

「なら私も…」

「井上さん、彼女のことは黒崎に任せて僕たちは帰ろう

 あまりたくさん人がいても仕方ないだろ」

「でも…」

「井上たちは帰れよ

 俺が天のそばについとくからよ」

 

井上は残ろうとするがそれを石田が止めたことで俺も止める

それでも渋る井上を説得してチャドと石田と共に帰ることになった

 

「気をつけてな」

「黒崎くん…天ちゃんのことお願いね?」

「おう、任せとけ」

 

心配そうな井上に安心させるように答える

 

「それでは皆サン、気をつけて帰ってください

 おそらくないと思いますが、念のために仮面集団には特に注意してください」

「わかりました」

 

チャドと石田は残りたそうな井上を連れて帰って行った

三人の背中が見えなくなり、俺たちは部屋に戻る

部屋に戻るや否や浦原さんが口を開いた

 

「今日はお疲れでしょうから、もう休んだらどうっスか?」

「いや、大丈夫だ

 俺は天のそばにいる」

「そうっスか…それでは、天さんのことは黒崎さんに任せることにしてアタシたちは別の部屋で休むことにしましょうか」

「そうじゃの」

「では黒崎サン、天サンが目を覚ましたら声をかけてください」

 

そういうと二人は部屋から出て行った

天だ寝ている枕元に座り、天の生気のない寝顔を眺める

 

(護るって言ったのにな)

 

心に浮かんでくるのは後悔の念だけだ

結果的に言えば護ることができたかもしれない

それでも自分の力が足りないせいで天を完全に護り切ることはできなかった

頭を振り、切り替える

 

(今、こんなこと考えても仕方ねぇ

 こいつを護りきるために強くなるだけだ)

 

そう改めて思い、天の寝顔を眺める

 

いつの間にか眠ってしまっていたようだ

ふとんの方を見るとそこには天の姿がなく慌てて顔を上げると窓に座る人影があった

 

「天?」

 

思わず名前を呼ぶとその人影がゆっくりと振り向いた

月明かりがそれを照らし、天の顔がはっきりと見えた

 

「起こした?」

「いや…大丈夫なのか?」

「大丈夫…」

 

何もなかったように訊いてくるのに驚きながら天に尋ねる

大丈夫というがいたるところに包帯がまかれていて大丈夫そうには見えなかった

天にゆっくりと近づく

 

「身体、まだ痛むだろ?」

「少しだけ…一護さんは?」

「俺は平気だ

 井上が治してくれたからな」

 

俺がそう答えると天はホッとしたように呟く

 

「よかった…」

「何がだ?」

「一護さん、生きてる…」

 

こいつは自分がこんな状態になっても自分より他人の心配をするのか

そんな姿に呆れを覚える

家に帰らなくていいのかとそんなことまで心配する

 

俺たち(他人)のことばかり…自分の心配をしろよ)

 

「まだ寝といた方がいいんじゃないのか?」

「大丈夫…」

「そうか…

 俺は浦原さんたちにお前が起きたことを伝えてくる」

 

俺はそう言うと空に背を向け、部屋を出て浦原さんたちがいる部屋に行く

ふすまを開けるとお茶を飲んでいる二人がいた

 

「天が目ぇ覚ましたぞ」

「分かりました」

 

そう言うと二人は立ち上がり、天のいる部屋へと向かう

俺はそのあとを追う

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

目を開ける

 

(ここは…浦原さんの家…?)

 

そこには一週間ほど前に見た天井が見えた

きっと浦原さんと夜一さんが連れて来てくれたのだろう

部屋の中は暗かった

まだ鈍く痛む身体をゆっくり起こす

自分の身体を見るといたるところに包帯が巻かれていた

窓の外に目を向けると空には薄い雲がかかっていた

ふと横をみると一護さんが座りながら寝ていた

ずっとそばにいてくれたようだ

一護さんを起こさないようにゆっくりと布団を抜け、窓に腰掛ける

雲が晴れてきて月が顔を覗かせる

 

「天?」

 

一護さんを起こしてしまったようだ

空に向けていた目を一護さんに向ける

 

「起こした?」

「いや…大丈夫なのか?」

「大丈夫…」

 

月明かりが少し驚いたような一護さんの顔を照らし出していた

ゆっくりと一護さんが近づいてくる

私はその場から動くことなく一護さんがこっちに来るのを待つ

 

「身体、まだ痛むだろ?」

「少しだけ…一護さんは?」

「俺は平気だ

 井上が治してくれたからな」

 

たしかに一護さんの身体に界人さんと戦っていた時にできたはずのケガはない

何事もなかったように立っている

 

「よかった…」

「何がだ?」

「一護さん、生きてる…」

 

あの時、地面に叩きつけられたのを見て怖かった

でも、今目の前にいる一護さんは何事もなかったように立っている

一護さんは呆れながら言う

 

「自分の心配しろよ…

 まぁ悪かったな…心配かけて

 お前も連れて行かれなくてよかったよ」

「ん…」

 

私もたくさん心配をかけたんだろう

もう一度窓の外を見る

その時ハッと気付き、一護さんを見る

 

「帰らなくていいの?」

「ん?大丈夫だ今日は帰らないと伝えてある

 遊子は残念がってたけどな」

「そう…」

 

今日はこのまま浦原さんのところに泊まるらしい

 

「まだ寝といた方がいいんじゃないのか?」

「大丈夫…」

「そうか…

 俺は浦原さんたちにお前が起きたことを伝えてくる」

 

そう言うと一護さんは部屋を出て行った

その背を見送り、また空に目を向ける

 

「薫さんたちは大丈夫かな…」

 

しばらく薫さんたちに思いを馳せながら月を眺める

きっと一護さんが実は仮面集団も私の大切な人たちだということを知ったらあの顔がもっと苦しそうになるんだろう

そうしているとふすまの開く音がした

 

「目が覚めましたか

 無事でよかったっス」

「心配したんじゃぞ‼」

「ごめんなさい…」

 

夜一さんに詰め寄られてとりあえず謝っておく

 

「ケガの治療、しますか?」

「このままでいい」

 

どうせすぐにいなくなるつもりだ

私なんかの治療の労力を費やす必要はない

 

「とりあえず布団に戻ってもらえますか」

「何で?」

「何でもじゃ」

 

夜一さんはそう言うと私の体を抱き上げてふとんに寝かせる

 

「まだケガも治っていませんから寝てください」

「眠くない」

「寝るんじゃ」

 

寝るように言われても今まで長時間寝ていたせいかあまり眠くない

寝たくないと抗議するが夜一さんに叱られる

仕方なく目を閉じると心地よいぬくもりが頭をなでてくれる

するとだんだん眠くなってきて、意識が落ちて行った

 




今回もお読みいただきありがとうございます
一護視点が少し雑になってしまったような気がしますが…
お許しください

次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後の23日を予定しております。

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第二十七話

一護視点が何とも言えない出来となってしまいましたが、今回も最後までお読みいただけると幸いです

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次に目を開けると部屋は明るかった

 

「天ちゃん‼おはよう‼」

「おはよう…」

 

視線を少し動かすと織姫さんの笑顔が見えた

 

「具合はどう?まだ痛む?」

「大丈夫…」

 

身体を起こそうとすると背中に手を当てて支えてくれた

 

「ありがとう…」

「どういたしまして

 何かしてほしいことはない?」

 

部屋を見回すとここにいるのは私と織姫さんの二人だけらしい

皆の気配はするから家のどこかにいるのだろう

 

(悪くない…

 これならいなくなってもすぐには気付かれないかもしれない)

「天ちゃん?どうしたの?ボーっとしちゃって」

 

織姫さんがいるのを忘れていた

 

「何でもない

 喉、渇いた…」

「わかった‼

 鉄裁さんに水もらってくるね」

 

そういうと織姫さんは部屋から出て行く

それを見送り、足音が遠ざかったのを確認すると動き出す

まだ身体は鈍く痛むが動けないほどじゃない

音をたてないように気を付けながら窓まで移動する

皆がいるであろう方を見て呟く

 

「ごめんなさい

 さようなら…」

 

そして窓を蹴り、外に飛び出した

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

井上に天のことを任せて俺たちは別室で話していた

 

「昨日は完全にアタシのミスです

 すいませんでした」

「別に浦原さんのせいじゃねぇだろ」

 

昨日はたしかに特訓の疲れもあった

仮面男に敵わなかったのは疲れだけのせいじゃない

もし、午前中に特訓せずに疲労が溜まっていなかったとしても勝てたとは言い難い

 

「これからどうすればいいんだ?」

「そうっスね…

 これから天サンを護るうえで一番の課題があります

 それは黒崎サン、アナタが天サンの血盟者になれるかどうかっス

 ですが今の状態では無理でしょう」

 

それは自分でも痛感していた

昨日は仮面集団が撤退したおかげで天を渡さずに済んだが次もそうなるとは思えなかった

 

「それは自分でもわかってる

 卍解してもあいつにはついて行けなかった

 もっと強くならねぇと護り切れねぇ」

「黒崎の卍解でも無理だったのか⁉」

 

チャドと石田が目を見開いている

 

「あぁ…

 あいつが『少し力を使っても問題ないよな』って言ってから

 追いつけなくなった」

「力?何のだ?」

「それは俺にもわからねぇ」

 

俺たちには何の見当もつかないが浦原さんたちは心当たりがあるみたいでなるほどと考え込んでいた

俺たちには話す気がないようだが

 

「まぁ…血盟者になれない要因は黒崎サンの方だけではありませんが」

「天の方にもあるってことかよ?」

「そういうことじゃ

 天はお主たちに話さなさ過ぎなんじゃ」

 

たしかにあいつには俺たちに話せないことが多いとしても話さなさすぎるような気がする

いつかの帰り道でもそうだった

辛そうな顔をしておきながらなぜ話さないといけないのかと訊いてきた

 

「まぁ、天サンにはアタシたちに話す決心、覚悟が足りないんすよ」

「でもそれは僕たちが弱いからでは?」

 

石田が浦原さんに訊く

 

「おそらく今回、黒崎サンとの戦闘で使われた“力”はあらかじめ天サンが話しておけばそんなに苦戦することはなかったかもしれません」

「つまり、彼女が僕たちに話さなかったからより苦戦したってことですか?」

「簡単に言えばそういうことっス」

 

石田の確認を浦原さんは肯定する

俺はそれでも、と切り出す

 

「それでもあいつが話さなかったのは俺たちが弱いことが一番の原因じゃないのか?」

「たしかに弱いから話さなかったということはあると思いますが天サンはアナタたちにかかわった時点でこういうことになることはある程度予想していたはずです

 自分が一緒にいた場合皆さんにどんな危険が降りかかるかはアタシにだって予想できます

 それでも話さなかった

 本来であればもう少し話せるはずなんです

 それをしなかったということは天サン自身にその覚悟がなかったということ

 話す覚悟がないのならばアナタたちを巻き込まないように離れるべきでした

 しかし、彼女はそれもできなかった

 何もできずに中途半端になってしまった

 それが彼女の間違いでした」

 

今まで天に甘かった浦原さんや夜一さんが厳しいことを言う

 

「まぁ…それが天のいいところでもあるんじゃがのぅ」

「どういうことだよ?」

「つまり、自分のことより周りのことを考えすぎてしまうってことっスよ

 実際、彼女が話さなかったのはほとんど皆サンのことを思ってのことっスからね」

 

自分のことよりも人のことを考えすぎてしまうのがあいつの長所でもあり短所でもあるということか

そんなことを考えていると

ふすまの向こうから井上の焦った声が聞こえた

 

「みんな!大変‼」

「どうしたんだ、井上?」

 

井上が勢いよくふすまを開けて入ってきた

 

「天ちゃんがいなくなっちゃった‼」

「どういうことだよ⁉」

「天ちゃんが何か飲みたいっていうから

 飲み物を取りに行って

 ついでに何か食べれそうなものもって思って…

 それ持って戻ったらいなくなってて…」

 

まだケガも治りきっていない

普段は大丈夫だと言うあいつが 少し痛い と言った

本当はかなり痛いはずだ

そんなあいつがどこかに消えた

嫌な予感がする

浦原さんも同じことを思ったのか真剣な顔になっている

 

「やられましたね…」

「仮面集団か⁉」

 

俺たちが目を離したすきに仮面集団にさらわれたんじゃないかと思い、浦原さんを見る

 

「おそらく天サン自身の意志でどこかに行ったのでしょう」

「あいつ自身の意志って…」

「まさか…」

 

浦原さんと夜一さんは心当たりがあるのか顔色を変えている

 

「とにかく急いで探した方がいいっスね」

「そうじゃの

 手分けをして探すぞ」

 

そして俺たちはいなくなった天を手分けして探すことにした

 

それからしばらく俺は一人で天を探していた

 

(あいつ、どこにいったんだよ‼)

 

前に一度連れて行ってもらったあいつの隠れ家があるあたりも探してみたがいない

 

(一度チャドたちと合流した方がいいな)

 

チャドたちに連絡を取り、浦原商店で合流することにした

 

「チャド!井上!石田!」

「…ム。一護か」

「黒崎くん…!」

「遅いぞ、黒崎」

 

すでに三人の姿があった

しかし、浦原さんや夜一さんの姿がなかった

 

「悪い。浦原さんたちは?」

「まだ戻っていないみたい…」

「そうか…何かわかったか⁉」

 

三人が首を振る

あいつが行きそうなところも何もわからない

あいつについて何も知らないことを思い知らされる

手がかりもない

あの二人なら何か知っているかもしれない

しかし、今ここにあの二人はいない

完全に手詰まりだ

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

皆のもとから逃げ出して私は断界の入り口を目指してただただ走っていた

誰にも言わずに来たことに少しの罪悪感を抱きながら

 

「着いた…」

 

断界の入り口のある廃寺に着いた

今になって少し怖くなってくる

 

(先延ばしにしたことを今からするだけ

 もっと早くしておけばよかった

 そうすれば一護さんたちは…)

 

あの時、虚に襲われなければしていたこと

さすがにもうこれ以上皆を巻き込むわけにいかない

これ以上大切な人たちが戦う姿なんて見たくない

これが兄さんや父さん、母さんを、今まで護ってきてくれた人たちを裏切る行為であることはわかっている

 

(ごめんなさい…一護さん

 約束、守れない)

 

一護さんと使わないと約束した術を、私の存在を皆の記憶から消す術を使う

勝負は断界入ってから

自分を封印したと同時に発動するように術をかける

封印は私とって死と同義

つまり、私が死んだとき私の存在がこの世界から、記憶から消される

 

(兄さんたちも忘れるのかな

 それは少しイヤだな)

 

そう思いながら数メートル先に断界を開ける

 

「このまま断界に入って、自分を封印してしまえば…

 すべてが終わる」

 

呼吸を整えて、足を踏み入れようとしたとき後ろから感じた覚えのある気配がした

 




今回もお読みいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後の30日を予定しております。

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第二十八話

久し振りの薫視点登場です
筆が普段の2倍ぐらい早く進みました‼
それでは今回も最後までお読みいただけると幸いです

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俺たちは院殿天を連れ帰るためにまた浦原喜助の家に来ていた

 

「誰もいないんじゃねぇか…これ」

「たしかに…人気、全くありませんね」

 

界人はめんどくさそうに言う

今回から加わった葵は残念そうに言う

本当に予想外だ

あの界人の攻撃で無傷とは考えられず、まだ寝ているだろうと踏んでここに来たのにもぬけの殻だ

 

「だが、誰もいないとなると…もしかしたら院殿天がどこかに行ったのかもしれないな

 とりあえず探すぞ」

「そうだね…霊圧もバラバラだから薫の言う通りかも

 でもどうやって探す?」

 

黒崎一護の居場所ならすぐにわかる

院殿天の居場所となると骨が折れそうだ

 

「そうだな…

 とりあえず黒崎一護やその他の院殿天についていたやつを念のために一緒にいないか見るか…

 いなければおそらく人目につかないところにいるはずだ」

「人目につかないところってどこだよ?」

 

自分で考えろと思うが今ここでそれを言うと先に進まないような気がするから黙っておく

 

「例えば山、森…とか」

「たしかにそうですね

 ケガをしているはずですからそんなに遠くに行ってないのでは?」

「葵は界人と違って優秀だね

 いっそのこと葵と界人を入れ替えようか、薫?」

「そうだな、たしかに界人より葵の方が任務がはかどりそうだ」

 

葵の方がしっかりしているし、戦闘バカの界人より使いやすい

戦闘力で見れば界人の方が上だが、葵でも十分足りる

 

「何でだよ⁉」

「自分の胸に手を当ててみろ

 すぐに答えがわかるだろうよ」

 

界人の相手をするのがめんどくさくなって適当にあしらう

 

「じゃあ、院殿天の捜索、始めるぞ

 二人一組で探す

 組み合わせは俺と葵、伊織と界人な

 伊織、界人が暴走しないように頼むぞ」

「何で僕が…わかったよ」

 

界人のことを押し付ける

伊織は嫌そうな顔をしながらも引き受けてくれた

 

「よし、じゃあ半刻後にここに集合

 見つけた場合は弾を上げろ」

「「「了解」」」

 

とりあえずの指示を出す

一つ、言い忘れに気付く

 

「それと、界人!合流するまで戦闘禁止な」

「わーったよ」

 

いつも通り本当にわかっているのかは微妙だがそれを突き詰めているわけにはいかない

何としても黒崎一護たちより先に見つけなければ

 

「よし、院殿天の捜索開始だ」

 

俺の号令で二手に分かれて探す

 

「あのう…いつもこんな感じなんですか?」

「何が?」

 

別れてからしばらく経った時、葵が訊いてきた

 

「ゆるいというか…緊張感がないというか…」

「あぁ…そうだな

 いつもこんな感じだ」

 

どうやら俺たちの任務に対する姿勢に疑問を持ったようだ

他の奴らはどうか知らないが昔から一緒にいることが多かったせいか任務に対する緊張感が欠けている自覚はある

それでもこの雰囲気に助けられたこともたくさんある

 

「それより昨日、お前が来たのには驚いたぞ」

「そうですね…まだあまり外で仕事はしてませんから」

 

何か長から連絡があるときはカラスであることが多い

それでも昨日はカラスではなく葵が来た

 

「まあ…昨日は本当に大変だったな」

 

昨日のことを思い出す

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

葵が四楓院夜一と戦闘中に来て伊織や界人を連れて村に戻る

村に帰るといたるところで煙がくすぶっていた

 

「何だよこれ…」

「これはまずいね」

「長‼長‼どこにいるんですか?」

 

まずは事情を知るために長を探す

呼びながら村の中を歩き回る

すると見覚えのあるものが見えた

 

「虚⁉何でここに⁉」

「とりあえず倒すぞ」

 

虚を倒していく

少し奥に行ったところには俺たちとは別の班が戦闘にあたっていた

全ての虚を倒し終えて一息ついていると奥から声が聞こえる

そこに向かう長と村の皆がいた

 

「長‼これは何事ですか⁉」

「おぉ、薫に伊織に界人か

 わからん…急に虚を入れておいたものが壊れてこの有様だ

 村はこんなことになってしまったが誰一人として失わずに済んだのは不幸中の幸いだろうか…」

 

とりあえずけが人だけで済んだらしい

あれだけの虚が逃げ出しておいて死人が出なかったのは奇跡だろう

 

「とりあえずご無事で何よりです」

「うむ、よく戻ってきてくれた

 それと葵、薫たちを呼び戻してくれてありがとう」

「い、いえ‼当たり前のことをしたまでです」

 

長に礼を言われてこうも慌てる奴はあまりいないだろう

実際、葵は褒められるだけの働きはした

俺たちが帰ってこなかったらどうなっていたかわからない

 

「何か褒美を…」

「あの…本当にそのようなものは…」

 

どこまでも恐縮しまくってる

そんな姿を見ているといじめたくなる

 

「へぇ…お前は長からのご褒美はもらえないのか?

 いいご身分になったな」

 

俺の悪乗りに界人たちものってくる

 

「長からのものを断るってことはお前は長より偉くなったんだな

 知らなかったぜ」

「こら界人、なんという口のきき方

 申し訳ありません、葵様、無礼をお許しください」

 

慌てふためいている様子は見ていてとても楽しい

この場にいる誰もが俺たちの悪ふざけを止める気がないようだ

みんな楽しそうに眺めている

 

「やめてください、皆さん‼

 長も笑ってないで止めてください‼

 本当にご褒美なんていりませんから

 で、ではその代わりにひとつ、お願いを訊いていただけませんか」

「すまない…お願いとは何だい?」

「村の外に出て仕事がしたいんです」

 

どこまでいっても真面目な奴だ

 

「あぁ…それは別に構わないがそんなことでいいのか?」

「はい‼お願いします‼」

「なら俺の班に加われよ

 いいですよね、長?」

 

必死で頭を下げている葵を見ながら言う

長も笑顔で何回も大きく首を縦に振っている

 

「いいとも‼」

「えっ…いいんですか?」

「俺たちは別にいいんだよ

 お前はイヤか?」

 

葵は首が取れそうなくらい横に振っている

そして、葵は正式に俺の班に入ることになった

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

横に並ぶ後輩はとてもいい奴だ

少し真面目すぎるが戦闘狂(バカ)がいるこの班にはピッタリだろう

 

「ん?」

「どうしたんだ?」

 

葵は立ち止まり、指をさしながら言う

 

「あれじゃないですか、院殿天」

「そうだな…急いで弾を上げるぞ」

 

たしかにそこには階段を上っている院殿天の姿があった

葵に連絡用の弾を打ち上げてもらい、界人たちを呼ぶ

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

懐かしい気配を感じて振り返ると仮面をつけた男が四人いた

薫さんたちだ

もう一人増えているが誰かわからない

思わず立ちつくしてしまう

 

「こんなところにいたのか

 ん?何だよあれ?」

「あれは…なるほどな

 間に合ったようだな」

 

界人さん以外の三人は私が何する気だったのかわかったようだ

この状況を見れば一目瞭然だろうから驚きはない

界人さんがわからなかったこと以外は

 

「どういうことだよ?」

「後で話してやるよ

 さぁ、俺たちと来てもらおうか」

(やっとここまで来たのに…もう少しだったのに…

 こうなれば力ずくでも)

 

もともとすぐに閉じるように開けた断界の入り口はもう閉じかけていた

数メートル先にある閉じかけている断界の入り口に向かって走る

しかし、四人のうちの一人が立ち塞がった

伊織さんだ

 

「っ‼」

「行かせないよ」

「捕まえた」

 

伊織さんに気を取られているすきに界人さんに手をつかまれた

逃れようと必死で抵抗する

力が緩むことはない

苦し紛れに浦原さんからもらっていた小型爆弾を地面にたたきつける

大きな爆発音と地面で爆発したことによって土埃がたつ

そして界人さんが怯んだすきに逃げる

 

「逃げないでくれるかな」

 

しかし、またすぐに次は伊織さんに手をつかまれた

そして鳩尾を殴られ、意識が深い闇に飲まれていった

 




今回もお読みいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後の11月7日を予定しております。

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第二十九話~一護視点~

タイトルでお気づきの方も多いでしょうが、二回目の週2回投稿です
第一弾は一護視点です
今回も最後まで読んでいただけると幸いです。

アルフレット


爆発音のした方を見ると黒い点が四つ浮かんでいた

そのうちの一人が何かを脇に抱えている

 

「やっと見つけた…!」

「…!誰かに捕まっているみたいだ

 急がないとマズいんじゃないか」

「あぁ…!俺は先に行く‼」

「黒崎くん…!」

 

地面を蹴って、高く飛ぶ

そして、斬撃を飛ばす

 

「そいつを返してもらおうか」

「やっぱり来たか…‼︎」

 

そこには仮面をつけた男が四人いた

そのうち一人が天を脇に抱えていた

脇に抱えられている天はぐったりとしている

 

(天…!もう少し待ってろ‼すぐに助ける‼)

 

向かい合い、緊迫した空気が流れた

睨み合いがしばらく続いた

下から多数の矢と霊子の砲撃が飛んできた

 

「天ちゃん‼黒崎くん…‼」

「おぉ…援軍か」

 

チャドたちが着いたようだ

石田の銀嶺弧雀とチャドの巨人の一撃(エル・ディレクト)だった

仮面集団はそれを片手で防いでいた

石田の放った矢は俺の方にも飛んできた

 

「おい!石田‼あぶねぇだろ!」

「ふん 

 そんなところにいる君の方が悪い

 それに僕が君に当てるなどというそんなへまをすると思うのか?」

「何だと!」

 

仮面男たちは俺たちのやり取りに若干呆れているようだった

 

「何だよあいつら?これから戦おうってのに」

「「お前が言うな」」

 

昨日戦ったやつが愚痴るのを他の二人が同時に突っ込んでいた

そんなこと知らないとばかりに俺に好戦的な視線を投げてくる

 

「なぁ、俺の相手はまたお前がしてくれるのか?黒崎一護‼」

「あぁ…‼いいぜ、相手してやるよ」

「昨日よりはマシなんだろうな…‼」

 

始解のまま戦っても意味がない

始めから卍解でいく

まだ虚化はしない

 

「卍…解‼…天鎖斬月」

「それだよ、それ‼」

 

仮面男もそれを望んでいたようで嬉しそうに肩を震わせていた

そのまま切り込んでくる

それを斬月で受け止め、払う

少し距離ができる

 

「昨日より動きがいいな…昨日は本調子じゃなかったんだな

 これなら楽しめそうだ‼」

 

たしかに疲れがない分、昨日より相手の速さについていけている

ただ相手も昨日は本気を出していない

再びぶつかり、少し後ろに飛ばされる

 

「くっ‼」

「おいおい…そんなもんかよ

 昨日に比べたら少しはマシになってるけどよ

 そんなんでこいつを助けようってか

 笑い話だな」

 

仮面男は俺を挑発してくる

かなり分が悪いように思うがそんなことは気にしてられない

今はただ天を助けるだけだ

 

「昨日と同じ術を使うか…

 昨日より動きがいいならついてこられるよな?」

 

そう言うと昨日と同じように指で四角を書くような動きをする

 

「来るか…‼」

「さてと…始めるか」

 

昨日のように避けて振り返れば目の前に仮面がある

それでも昨日よりは反応ができたし一発くらわすことができた

 

「はぁぁぁぁあ‼」

「くっ‼やるなぁ…‼」

 

ようやく一発食らわせることができた時には俺は息が切れてあちこちに切り傷があった

仮面男は息はあまり切れておらず俺がさっき食らわせた少し深めの一発だけだった

すると仮面男が嬉しそうに肩を震わせて歓喜の声を上げる

 

「やっぱり、おまえ、最高だ‼

 どんどん強くなっていく…‼

 殺すのがもったいない」

「おい‼そろそろ終わらせろよ」

 

チャドたちと戦っているはずのやつが俺の相手に声をかけてきた

その時にチャドたちの方を見ると息が切れている

石田が矢を放っているにも関わず話しかけてき

戦闘の最中に声をかけられたのがイラッとしたのか怒鳴る

 

「わーってるよ‼お楽しみの邪魔すんな

 いいところなんだからよ‼」

「ハイハイ…

 こっちももう終わらせるからお前も終わらせろ」

 

その様子にも動じずに応対している

そして、俺に残念そうな声で言った

 

「だってよ…せっかく楽しかったのにな

 もう終わりだってよ」

「終わらせてやるよ…‼」

 

俺が挑発するとさっきと雰囲気が一変して仮面男は笑い出した

 

「ハハハ…‼お前が俺を倒してか?

 いや、違うなお前が俺に倒されてだろ?

 そんな体では俺に勝てない

 それに俺ももう今のお前じゃ楽しめない

 なら、終わらせるしかないよな…‼」

 

斬月を構えなおす

虚化しようと手を顔の前に持っていくがそんなことに気も留めず仮面男が向かってくる

慌てて斬月を両手で握り直す

受け止めようとするが刀が交わる寸前に消えた

後ろに気配を感じて振り向いた瞬間思いっきり吹き飛ばされた

 

「ぐっ‼」

 

何が起きたのかわからなかった

そのまま地面に叩きつけられる

体が止まり、ようやく腹に打撃を食らって吹き飛ばされたことを理解した

 

「黒崎くん‼」

「もう動けねぇか?」

 

井上の心配そうな声が聞こえる

仮面男が上空から見下ろしてくる

ここで寝ているわけにはいかない

ひどく痛む身体に鞭を打って立ち上がり、仮面男と向かい合う

 

「ほう…まだ立てるのか

 そりゃそうだよな

 今ので倒れていたら俺の見る目がなかったってことだもんな…‼」

「まだまだだ‼」

 

正直、勝てるとは思えない

それでも天を助けることをあきらめるわけにはいかない

その想いだけで仮面男に向かっていく

 

「その調子だ‼もっと俺を楽しませろ‼」

「っ‼」

 

それからは防戦一方で必死に飛ばされないように足に力を入れて受け止める

次第にそれも難しくなってきてついに飛ばされた

 

「そら…よ‼」

「ぐっ‼」

「黒崎くん‼」

 

地面に叩きつけられてそのまま木々をなぎ倒しながら転がる

井上の呼ぶ声が聞こえる

 

ドォォォン…‼

 

少し離れたところにチャドと石田が飛ばされてきた

 

「茶渡くん‼石田くん‼」

 

井上の叫ぶ声が聞こえる

頭上から仮面男(あいつ)声が聞こえる

 

「おいおい…もう終わりか?」

「そうみたいですね

 もうこの人たちに用はありませんから離脱しましょう

 お二人の方も終わったみたいですし」

「待てよ…‼」

 

俺は残っている力を振り絞って立ち上がろうと、腕に力を込め、体を起こす

 

「まだ動けるのかよ…‼」

「死にたいんですか?

 そのまま黙って寝ておけばいいものを…」

「そいつを離せ」

 

もう立っているのがやっとの状態

このままだとあいつらに天を連れていかれる

それだけはさせない

絶対に

 

「そいつを置いて行け…‼」

「さすが…要注意人物ですね

 申し訳ありませんが、それはできません

 諦めてください」

「諦めるわけにいくか…‼」

 

何とか立ち上がり、もう一度攻撃を仕掛けようと斬月を構えたとき天の声が聞こえた

気を付けなければ聞こえないほどだが静かで力がこもったものが

 

「もう嫌だ…誰かが傷つくのは」

「ん?」

「天ちゃん…?」

 

井上にも聞こえたのか天の名前を呟く

次の瞬間、天が輝き出した

 

「もう嫌だ…一人になるのは」

「え?」

「天?」

 

天が纏う空気が変わる

 

「葵‼そいつを離せ‼

 お前らあいつから離れろ‼」

 

仮面男が天から仲間を離す

離された天はその場にふらりと立ち、

胸に手を当てて小さいけどよく通る声で言った

 

「現れろ…止水」

 

そして天の周りに風が吹き荒れる

その風に思わず目を細める

吹き飛ばされそうになるのを斬月を地面にさしてそれに捕まり何とか踏ん張る

 

「きゃぁぁぁあ‼」

「井上‼」

 

井上を助ける余裕もなく井上は耐え切れずに数メートル吹き飛ばされてしまった

 

「何だよ⁉これ‼」

「界人‼離れろ‼」

 

仮面男たちも戸惑っているようで仮面男の一人が天の近くにいる奴の後ろに回り込み天から離す

そして風がおさまったのを感じ、ゆっくりと目を開けるとそこには普段とは違う姿の天がいた

巫女のような服を着て、手には刀を待った天が空に浮かんでいた




今回もお読みいただきありがとうございます
戦闘シーンはまたもや皆さんの想像力を頼りとさせていただいております

では、次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後ではなく3日後の9日を予定しております。

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第二十九話~薫視点~

二回目の週2回投稿です
第二弾は薫視点です
今回も最後までお読みいただけると幸いです

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連絡用の弾を打ち上げてすぐ伊織と界人が来た

 

「いたのか⁉」

「あぁ…やっぱり葵は優秀だよ」

 

それから数分もしないうちに界人たちがやってきた

サラッと葵はお前ら(特に界人)と違って役に立つアピールをしてみたが不発に終わった

 

「お、いるいる‼でもあいつはどこに行こうとしてるんだ?」

「ここは廃寺みたいだね」

「何でもいい

 とりあえず捕まえるぞ」

 

仮面をつけて、院殿天に近づく

空中に大きな穴が開いていた

院殿天は振り返り、俺たちを見た

さすがの探知能力だ

 

「こんなところにいたのか

 ん?何だよあれ?」

「あれは…なるほどな

 間に合ったようだな」

 

自分を封印するつもりだったのか

でも今は関係ない

 

「どういうことだよ?」

「後で話してやるよ

 さぁ、俺たちと来てもらおうか」

 

よほど俺たちと来たくないらしく断界の入り口に向かって走ろうとする

伊織と界人に目配せをする

 

「っ‼」

「行かせないよ」

「捕まえた」

 

伊織で一瞬怯んだすきに界人が捕まえる

必死に抵抗しているが界人の手は緩むことがなかった

観念しておとなしくなったのかと思いきや

ポケットから小さな球体を取り出して地面に叩きつける

すると大きな音とともに大量の土埃が舞う

 

「逃げないでくれるかな」

 

そのすきに逃げようとしたが伊織に見つかって捕まえられる

そのまま伊織に鳩尾を殴られて気を失った

 

「おいおい…何だよ今の?」

「浦原喜助の発明品だろうな

 それより、伊織、ケガさせるなよ」

「大丈夫だよ。加減はしたから

 この程度では心配ないだろう」

 

たしかに殴るぐらいでケガさせられたら苦労しない

 

「ならいい

 さぁもうここには用はない。さっさと戻るぞ」

「なぁ、さっきのどういうことだよ?

 説明してくれよ」

 

いまだに院殿天が何しようとしていたのか界人はわからないらしい

あとの二人はわかっているようだが

界人を適当にあしらって地を蹴る

 

「自分で考えろ、戦闘バカ」

「何だと⁉おい、葵‼お前は教えてくれるよな?」

「えっ⁉」

 

話を振られると思っていなかったのだろう

困ったように俺と伊織の顔を見る

俺たちは肩をすくめて、好きにしろと伝える

葵は界人に説明し始めた

 

「あの断界はおそらく院殿天が自分を封印しようと開けたものだと思います

 そうすることで黒崎一護たちがこれ以上巻き込まれないようにしようとしたんでしょう

 ですよね?薫さん」

「たぶんそうだろうな

 さすがだな、葵は

 それに比べて界人は…」

 

俺と同じ考えでおそらくその通りのことをしようとしたんだろう

そのことを後輩である葵は気付いたのに先輩の界人が気付かなかったことを嘆く

 

「何だよ⁉戦闘は俺の方が強いからいいだろ⁉」

「戦闘以外は葵の方が上だね

 それってほとんどの部分で葵に負けてるってことだよ、界人」

 

開き直る界人に伊織が一発ぶちかます

界人は反論できずにうなった

 

「もういいだろう長居しすぎたサッサと帰るぞ」

「「了解」」

「何だよ…もう行くのか?今回は戦闘はなしかよ」

 

二人は素直に離脱の指示に従うのに界人だけは文句を言う

 

「俺たちの任務は院殿天を連れていくことであって戦闘が目的じゃない

 いい加減、それを素直に理解して受け入れろ」

 

文句をいう界人に対して文句を言う

そして俺たちは院殿天をわきに抱えて、離脱しようとしたとき後ろから斬撃が飛んできた

俺たちは難なく避け、斬撃が飛んできた方向を見た

界人が嬉しそうに言う

 

「この霊圧…アイツだ…‼」

「どうする?薫」

「仕方ない…さっさと片付けて戻るぞ

 これからも付きまとわれると厄介だからここで終わらせよう」

「「了解」」

「終わららせるのかよ…まぁいいや

 さぁ…今回はより楽しませてくれるよな…‼」

 

どうしてこんなに戦闘が発生するのだろうか

界人は嬉しそうで、根っからの戦闘狂だということを再認識した

 

「界人のやつ…本当にわかっているのかな」

「どうだか…戦闘は俺と伊織、界人でする

 葵、お前は院殿天を頼む」

「わかりました」

 

葵に院殿天を任せて俺たちは戦闘態勢に入った

斬撃の主は案の定、黒崎一護だった

形だけは戦闘態勢に入っているが雰囲気はそれとは全く違うものだった

 

「めんどくさいやつが来たよ…」

「界人さんやる気満々ですね…」

 

葵は引きつった笑みを浮かべながら言う

 

「お前は初めてだったか?任務でのあいつのあの顔を見たのは」

「はい…本当なんですね…」

 

完全に引いている

 

「界人、後輩に引かれてるよ~」

「無駄だろ獲物を見つけたあいつには何も聞こえてねぇよ

 あの戦闘バカにはな」

 

堂々と界人のことを馬鹿にする

すると聞こえていたのかいきなり振り返って大声で言う

 

「聞こえてるよ‼」

「ソレハワルカッタ」

 

めんどくさいので棒読みで返す

そうしている間に黒崎一護は来ていた

 

「そいつを返してもらおうか」

「やっぱり来たか…‼︎」

 

嬉しそうなのは界人だけだ

しばらく界人と黒崎一護がにらみ合う

そんな様子を俺たちはただ眺めていた

すると下から無数の矢と霊子の砲撃が飛んできた

 

「天ちゃん‼黒崎くん…‼」

「おぉ…援軍か」

「また面倒なのが増えた…」

 

俺たちはそれを難なく避けて下を見る

昨日と同じように石田雨竜と茶渡泰虎が攻撃を仕掛けてきた

 

「おい!石田‼あぶねぇだろ!」

「ふん 

 そんなところにいる君の方が悪い」

「何だと!」

 

どうやら相手も俺たちと同じように戦いの最中に言い合いとかするらしい

もっとも界人が関われば敵味方問わずだからあの二人の方がまだましだろう

 

「何だよあいつら?これから戦おうってのに」

「「お前が言うな」」

 

そんな界人が何してんだよと愚痴るから俺と伊織で突っ込む

葵は何言ってんだこいつって顔をしていた

そんな俺たちを知ってか知らずか界人は好戦的な視線を黒崎一護に向けていた

 

「なぁ、俺の相手はまたお前がしてくれるのか?黒崎一護‼」

「あぁ…‼いいぜ、相手してやるよ」

「昨日よりはマシなんだろうな…‼」

 

界人には戦闘を避けるという選択肢はないのか

俺が呆れてため息をつくと伊織は肩をたたいて頷いている

葵は同情の視線を送ってきた

二人は俺の考えに同感らしい

そんなことを思っている間に黒崎一護が卍解して二人の戦闘が開始した

ため息をつきながら眺めていると下から数本の矢が飛んできた

 

「何すんだよ、危ないだろう?」

「そんなことは知らない

 彼女を返してもらおうか」

 

石田雨竜たちも戦う気らしい

 

「黒崎一護の後に…」

「僕らは君たちに用があるんだ」

 

昨日と同じことを言おうと思ったら途中で遮られて昨日と同じことを言われた

 

「やるのか?仕方ないな…相手してやるか」

「頑張りなよ」

「お前もすんだよ

 後輩にかっこいいとこ見せとかないとな

 あいつの印象が強くて俺たちの印象までガタ落ちだ」

 

別に班の印象なんてどうでもいい

ただ伊織を戦闘に巻き込むための文句だ

自分だけ高みの見物はずるい

 

「薫一人でも十分だと思うよ」

「なら、お前ひとりでも十分だよな?

 昨日、あいつらとやり合ったわけだし

 それに昨日は俺、貧乏くじ引いたし」

 

敵を目の前にして互いに戦闘を押し付け合う

それをなぜか石田雨竜たちは黙って見ている

ついに後輩に止めに入られた

 

「もう二人で相手してくださいよ

 そうすれば平等じゃないですか」

「まぁまだマシか

 よし、じゃあ行くぞ

 お前は少し後ろに下がっていろ」

 

葵に言われると素直に従わないといけないような気がして俺たちは従う

葵が後ろの下がったのを確認してから向かい合う

 

「待たせたな

 別に律儀に待つ必要なんてねぇんだぞ」

「うるさい

 井上さん、少し下がってて」

 

女を下がらせていきなり攻撃を仕掛けてきた

石田雨竜の矢で誘導して茶渡泰虎の霊子砲で俺たちをたたく

そんな作戦らしい

でも、それを成功させるためには俺たちが避けなければならない状況を作り出さないといけない

俺たちはただ壁を作りそれで避けもせずに受け止めていた

しかし、茶渡泰虎の一発は協力で壁にひびが入るほどだった

 

「おっとあぶねぇ…これは面倒だな

 一気にかたをつけるか」

「そうだね…このままだと時間かかりそうだし」

 

相手が勝手につぶれてくれるのを期待していたがなかなかタフだ

少し離れたところでは界人がかなり盛り上がっていた

矢を避けながら界人に言う

 

「やっぱり、おまえ、最高だ‼どんどん強くなっていく…‼

 殺すのがもったいない」

「おい‼そろそろ終わらせろよ」

 

このままだといたぶり続けて無駄に長く戦いかねないから水を差す

少し冷めたみたいで作戦成功だ

 

「わーってるよ‼お楽しみの邪魔すんな」

「ハイハイ…こっちももう終わらせるからお前も終わらせろ」

 

文句を言われたがもう大丈夫だろう

 

「というわけで、さっさと終わらせてしまおうか」

「っ‼」

 

今まで防御に専念していたのを止め、攻撃に転じる

一気に近づき、それぞれの懐に入る

 

「なっ‼」

「っ‼」

 

逃げる暇さえ与えず腹を殴りつける

 

「ぐっ‼」

「がはっ‼」

 

十メートルほど先の岩を硬化し、そのまま二人をそれにぶつける

それでも立ち上がろうとする

 

「あれを食らっておいてまだ動けるのか…」

「頑丈だね」

 

俺たちは素直に感心する

しかし、もう戦うことは無理だろう

そのまま背を向けて葵のもとへと戻ろうとしたときチラッと界人の方を確認するとちゃんと終わらせていた

少し葵に近づいたところで院殿天の異変に気付く

 

「葵‼そいつを離せ‼

 お前らあいつから離れろ‼」

 

慌てて葵に声をかける

そのまま全速力で葵のもとに行き、院殿天から離す

 

「現れろ…止水」

 

起きないだろうと思い込んでいた、最も恐れていたことが起きた




今回もお読みいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後ではなく4日後の13日を予定しております。

アルフレット


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第三十話~天視点~

タイトルでまた同じ話の別視点の週2回投稿だと思った画面の前のあなた!!
残念ながら(?)同じ話の別視点の週2回投稿ではありません
週2回投稿ではありますが、今回は同じ話の別視点ではありません
ということで、次回を楽しみにしてください

今回も最後まで読んでいただけると幸いです

アルフレット


声が聞こえる…

 

「まだ動けるのかよ…‼」

「死にたいんですか?

 そのまま黙って寝ておけばいいものを…」

「そいつを…離せ」

 

界人さんのものだ

次は葵のもの?

最後は一護さんのものだ

 

「そいつを置いて行け…‼」

「さすが…要注意人物ですね

 申し訳ありませんが、それはできません

 諦めてください」

「諦めるわけにいくか…‼」

 

一護さんの声だ

葵もいるらしい

今私を抱えているのが葵のようだ

今度は心の中に響くような声が聞こえた

 

———いいのか?

 

何が?

 

———このままではあの者たちは死ぬぞ

 

それは…でもどうしたらいい?

私にはどうしようもない

 

———本当にそうか?お前には私がいる

 

そうだけど…アナタを使うということは認めるということ

それにもうあの人たちをごまかせなくなる

 

———今まで誤魔化せていたと思っていたのか…

私にはとっくの昔に私の存在を知られていたと思うが

この際そのようなことはどうでもいいが、このままではあの者たちは死ぬぞ

今まで彼らの前で使ってこなかったからお前の言う通り認めることだ

これから今まで以上に狙われるかもしれない

 

そう…だから

 

———私を使わないのか?助けないのか?

今助ければあの者たちは死ぬだろう

選べ‼あの者たちを今すぐ殺すかそれとも助けるか

 

助けることを選べば力を貸してくれる?

 

———もちろんだ

 

なら力を貸して‼

死なせたくない…もう嫌だ一人になるのは

私のせいで誰かが傷つくのは、死ぬのは…イヤだ

 

———なら私を使え

そうすればお前は戦える

 

わかった…

私と一緒に一護さんたちを助けて

 

———ともにあの者たちを助けよう

 

ありがとう

 

覚悟は決めた

今度は私の番だ

自分にかけていた術を解き、義骸を脱ぐ

 

「葵‼そいつを離せ‼

 お前らあいつから離れろ‼」

 

離されるとその場に力を抜いた状態で立つ

心は不思議と凪いでいた

胸に手を当てて呼ぶ

 

「現れろ…止水(しすい)

 

私の周りを風が吹き荒れる

久しぶりの開放で思わず力を流しすぎてしまう

 

「きゃぁぁぁあ‼」

「井上‼くっ‼」

 

織姫さんの悲鳴が聞こえた

数メートル吹き飛ばしてしまったようだ

一護さんは何とか耐えているようだ

 

「何だよ⁉これ‼」

「界人‼離れろ‼」

 

少し離れたところでは伊織さんが界人さんを回収していた

しばらくしてようやく力を制御できた

手の中に懐かしい重さを感じる

ゆっくりと目を開く

 

「天?」

「天ちゃん?」

 

まず目に入ってきたのは驚愕の表情を浮かべた一護さんと織姫さんだった

少し視線を動かせば石田さんや茶渡さんの姿も見えた

二人も同じように驚いていた

 

「ようやく本当の姿を見せたな…‼」

 

声のする方を見てみればそこには薫さんたちがいた

葵と界人さんはケガをしていたが後の二人は無傷だった

 

「はぁ…何でこうなるかな」

「仕方ないだろ…界人、葵、伊織、お前らは休んどけ

 俺がやる」

「何でだよ⁉」

 

伊織さんはまずいことになったと深いため息をつく

薫さんは葵と伊織さんと界人さんに休むように指示を出すが界人さんが当然のように文句をつける

 

「いいから休んどけ‼」

「あ、あぁ」

 

めったに聞くことがなかった薫さんの怒鳴り声で界人さんは驚いたように首を縦に振った

 

「さてと…

 お前の正体が完全にわかったところで

 悪いけど一緒に来てくれるか?」

「いやだ」

「そういうと思った」

 

分かり切っていることを訊くということは私と戦いたくないのだろう

 

「仕方ないか…

 無理やりにでも連れて帰らせてもらう」

「できるものなら」

 

そう言うと私は戦闘態勢に入った

久しぶりの戦闘だから正直、どこまでやれるかわからない

兄さんに勝てたことが数回しかない私に勝てる相手だとは思わなかった

それでも今は止水がいてくれる

 

「天…‼」

「少し待ってて

 すぐに終わらせる」

 

一護さんを安心させるために肩越しに微笑む

一護さんが膝をついて肩で荒く息をしているのが見えた

今、前には護ってくれる背中はない

でも、後ろには護るべき、護りたい一護さんたち(そんざい)がいる

 

「もう逃げない

 次は私の番」

 

今の状態では止水の能力は使えない

それでも少しは戦える

 

「守護結界・甲子(きのえね)

「黒崎一護たちを護るのか」

 

一護さんたちのことを気にせず戦うために守護結界を張る

ついでに治癒効果も付与しておく

 

「お前だけで俺たちに勝てるとでも?」

「わからない…久しぶりに戦うから…」

 

しばらく睨み合い、一気に距離を互いに縮める

そしてそのまま打ち合いになる

そうしていると懐かしくなってくる

 

(薫さんは変わらない)

 

薫さんは昔と同じように結界を巧みに使い動きを封じようとする

後ろから横からと拘束結界が迫ってくる

それを避けるのに集中してしまうと目の前に薫さんの結界で作った剣が迫る

それを止水で受け止める

昔に戻ったようでつい口にしてしまう

 

「やっぱり、薫さんは強い…」

「なっ‼」

 

戦い方は昔と変わらないのに反応は違う

昔ならば当たり前だと笑っていたのに今は驚いている

 

「お前…なぜ俺の名前を知っている⁉」

「知っているから…」

 

私の予想通り薫さんの記憶から私は消されていた

きっと私を敵に見せるために誰かが仕組んだことだろう

そんなことを考えながら薫さんの攻撃を避け、時に受け止める

次第に薫さんの攻撃は単調になってきた

 

「単調になってる」

「っ‼」

 

少し薫さんのリズムを崩せたみたいだ

戸惑いを隠せないようで攻撃も読みやすい単純なものに変わってきているのを気付いていないようだった

 

「おい‼何してんだ⁉さっさとかたつけろよ‼」

 

外から薫さんの異変を察知したのか声をかけてきた

それに対して私はつば競り合いをしている時に薫さんに聞こえるように呟く

 

「界人さんも変わってない…」

「お前…界人のことも知っているのか⁉」

「知ってる

 ほかの二人も…伊織さんと葵」

 

私がそういうと薫さんは少し強引に距離をとる

私はそれに追撃することもなくその場を動かない

薫さんの顔を見れば驚いたような恐れを抱いているような顔をしていた

その顔をただ見つめる

すると薫さんは三人の方を向いて言った

 

「引き上げるぞ…」

「はぁ?何言ってんだよ⁉院殿天はどうすんだよ⁉」

「そうですよ

 今回の任務は院殿天を連れ帰ることですよ⁉」

 

突然の薫さんの言葉に三人は驚きを隠せないようだった

界人さんと葵は薫さんに詰めよるが、伊織さんは何かを察したのか何も言わなかった

 

「待って…帰るの?」

「あぁ…今、お前と戦っても今の俺たちでは勝てないだろうからな」

 

このまま帰らせるわけにいかない

何らかの決着をここでつけないと一護さんたちが狙われるかもしれない

 

「帰らせない」

「悪いね…そういうわけにはいかないんだよ

 邪魔、しないでもらえるかな」

 

私が四人の行く手を阻むと伊織さんが言う

そして、一護さんたちに向かって腕を伸ばす

今から伊織さんがしようとしていることを理解すると同時に一護さんたちの方へ急ぐ

 

(あの守護結界では防ぎきれない

 一護さんたちにはまだ見えないから避けれない

 私が護らないと)

 

私が一護さんのもとにつくよりも一瞬早く伊織さんが攻撃を仕掛けてきた

ギリギリ間に合い、結界を何重にも展開する

 

「くっ‼」

「天‼」

 

腕に圧力がかかる

ここで踏ん張り切れなかったら私はもちろん一護さんもろとも消えてしまうだろう

 

「早く…逃げて…」

 

一護さんは立ち上がろうとしたが立ち上がれずにその場を動けない

治癒効果も付与していたが動けるようになるまでは時間が足りなかったようだ

薫さんたちの気配が消えたことを感じた

 

「く…‼」

「逃げろ…‼」

 

押され始めた

どんどん身体が後ろに押される

気がつけば一護さんとの距離が最初の三分の一程度になっていた

 

「早く…‼」

 

限界が近づいてきた

腕には圧力に耐えきれず切り傷ができてきた

 

「誰か…一護さんを…‼」

「天‼一護‼」

「天サン‼黒崎サン‼」

 

夜一さんと浦原さんの声がする

すぐに夜一さんが私の背後に降りてきた

 

「大丈夫か⁉」

「一護さんを…‼」

 

あと少しだと最後の力を振り絞る

夜一さんが一護さんを抱えて、離れたのを確認してから処理を始める

このまま私がこれを離してしまうと周りに被害が出る

それを避けるためには無効化するしかない

成功するかはわからないがやるしかない

 

「っ‼」

 

結界と結界の間に空間を作るようにして攻撃との間を取っていく

そして十分な距離が取れたら次はその結果を解き、攻撃自体を対象としてかけ直す

そしてそのまま地上に被害が出ない程度の上空へ持っていく

そこで攻撃に対して同じくらいの威力のある攻撃を結界を解くと同時に与える

すると伊織さんからの置き土産は消えてなくなった

それを確認できると力が抜けて身体が落下し始めた

 

「おっと…‼よくやりましたね」

「浦原さん?」

 

空中で浦原さんが私を受け止めてくれた

それに安心するとまぶたが重くなってきた

 

「疲れたでしょうから

 休んでください」

「ん…」

 

最後に何とか自分の力で義骸に入ると私の意識は闇に落ちて行った




今回もお読みいただきありがとうございます
最後の方はまたもや皆さんの想像力に頼らせていただいております
1回読んでも分からなかった方はわかるまで読んでいただけると助かります
皆さんの想像力に頼り切らなくてもいいように早く文章力をあげなければ…とは思っております

では、次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後ではなく3日後の16日を予定しております。

アルフレット


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第二十七ー三十話~浦原視点~

前回、同じ話の別視点の週2回投稿ではないと申し上げましたが…半分?少なくとも3分の1はウソでしたね…
すいませんでした…
それでは今回は違和感ありまくりの浦原視点です
とばしていただいても問題はありません
本当に浦原視点は難しいですね…
書かないでおこうとしてもなぜか書いてしまう…
う~ん…複雑です

前書きが長くなってしまいましたね
それでは、今回も最後まで読んでいただけると幸いです。

アルフレット


井上サンに天サンのことを任せてボクたちは別室で話していていました

 

「昨日は完全にアタシのミスです

 すいませんでした」

「別に浦原さんのせいじゃねぇだろ」

 

こんなに早くまた薫さんたちが来るとは思っていませんでした

完全にボクの読みが外れてしまいました

消耗した状態であの三人と戦闘になってしまうとは

 

「これからどうすればいいんだ?」

「そうっスね…

 これから天サンを護るうえで一番の課題があります

 それは黒崎サン、あなたが天サンの血盟者になれるかどうかっス

 ですが今の状態では無理でしょう」

 

それは黒崎サン自身が一番わかっているでしょうが

 

「それは自分でもわかってる

 卍解してもあいつにはついて行けなかった

 もっと強くならねぇと護り切れねぇ」

「黒崎の卍解でも無理だったのか⁉」

 

黒崎サンが卍解してもついていくのが難しいほどとはこちらも予想外でしたね

 

「あぁ…

 あいつが『少し力を使っても問題ないよな』って言ってから

 追いつけなくなった」

「力?何のだ?」

「それは俺にもわからねぇ」

 

なるほど…

界人サンは“力”を使わなければ黒崎サンについていくのが難しいということっスか

ならば天サンが前もって話していれば今回のように大敗することもなかったかもしれませんね

 

「まぁ…血盟者になれない要因は黒崎サンの方だけではありませんが」

「天の方にもあるってことかよ?」

「そういうことじゃ

 天はお主たちに話さなさ過ぎなんじゃ」

 

天サンは黒崎サンたちを巻き込まないようにと話すことを限定しすぎでした

天サンには足りなかった…巻き込む覚悟が

 

「おそらく今回、黒崎サンとの戦闘で使われた“力”はあらかじめ天サンが話しておけば

 そんなに苦戦することはなかったかもしれません」

「つまり、彼女が僕たちに話さなかったから

 より苦戦したってことですか?」

「簡単に言えばそういうことっス」

 

でも、俺たちが弱いせいじゃないかという黒崎サンに

 

「たしかに弱いから話さなかったということはあると思いますが天サンはアナタたちにかかわった時点でこういうことになることはある程度予想できたはずです

 自分が一緒にいた場合皆さんにどんな危険が降りかかるかはアタシにだって予想できます

 それでも話さなかった

 本来であればもう少し話せるはずなんです

 それをしなかったということは天サン自身にその覚悟がなかったということ

 話す覚悟がないのならばあなたたちを巻き込まないように離れるべきでした

 しかし、彼女はそれもできなかった

 何もできずに中途半端になってしまった

 それが彼女の間違いでした」

 

そう言うと少し驚いた顔をされました

夜一サンはため息をつきながら

 

「まぁ…それが天のいいところでもあるんじゃがのぅ」

「どういうことだよ?」

「つまり、自分のことより周りのことを考えすぎてしまうってことっすよ

 実際、彼女が話さなかったのはほとんど皆サンのことを思ってのことっスからね」

 

実際に天サンが何も話さなかったのは黒崎サンたちを巻き込まないようにするためで今回、その天サンの優しさが裏目に出てしまいましたが

そんなことを話しているとふすまに向こうから井上サンの慌てた声が聞こえてきました

 

「みんな!大変‼」

「どうしたんだ、井上?」

 

井上が勢いよくふすまを開けて入ってきた

 

「天ちゃんがいなくなっちゃった‼」

「どういうことだよ⁉」

「天ちゃんが何か飲みたいっていうから

 飲み物を取りに行って

 ついでに何か食べれそうなものもって思って…

 それ持って戻ったらいなくなってて…」

 

まだケガも治りきっていないので、大丈夫だと思っていましたが逃げましたか…

 

「やられましたね…」

「仮面集団か⁉」

 

薫サンたちの仕業でしたらもっと騒ぎが大きくなるでしょう

ボクたちがここにいるのに界人サンが素直に帰るとは思えませんから

となると考えられるのは…

 

「おそらく天サン自身の意志でどこかに行ったのでしょう」

「あいつ自身の意志って…」

「まさか…」

 

おそらく天サンは自分の存在を消そうとしているのでしょう

夜一サンも天サンが何をしようしているのか分かったようで珍しく顔色を変えていますね

 

「とにかく急いで探した方がいいっスね」

「そうじゃの

 手分けをして探すぞ」

 

手分けして探すことになり皆さんと別れて天サンを探し始めて

しばらく経ったころ夜一サンがやってきました

 

「のう…喜助」

「何ですか、夜一さん」

「天はやはり…」

「でしょうね…

 あのけがでしたからしばらく動けないと思っていたんですが…やられましたね」

 

昨日、鉄裁サンの治療を拒みましたからゆっくりと治すのかと思っていましたが消えるつもりだからいいと言うことだったんスね

 

「たしかにのぅ…

 ところで喜助、天の行きそうなところに心当たりはないのか?」

「天サンの目的は『自分を消すこと』っスから

 その方法について分かればすぐにでもわかるんスけどね」

 

あの時はまずいことを訊いたと思いましたが今となってはもっと詳しく聞いておくべきでしたね

 

「お主が天じゃったらどうすんじゃ?」

「そうですね…ボクが天サンでしたら断界に消えますかね」

 

断界に入る…今までどうして気付かなかったんでしょう

しかし、消えるために使える断界の入り口は多すぎますね

 

「断界か…じゃが、消えるとなればそのために使える断界は…」

「そうっス

 移動用のものより断然多いんス

 浦原商店(うち)から行ける範囲でもかなりありますし、ある程度把握はしていますが全ては把握していないですし虱潰しに探すのは効率が悪いですが」

 

今はそうするしかないっスね

夜一サンにいくつか断界の入り口を教えて手分けして探すことにしました

それからしばらくまた一人で探していましたが

夜一サンが探し終えたのかボクの方に戻ってきました

 

「どうでしたか?」

 

夜一サンは無言で首を振るということはいなかったということっスね

霊圧を頼りに探すことができないとやはり大変ですね

しかし、まだ彼女は消えていないでしょう

彼女のことですから自分が消えればもう争わないで済むようにするはず

 

「一度戻りましょうか

 黒崎サンたちも戻っているかもしれませんから」

「そうじゃの」

 

そういい合いボクたちが家の方へ足を向けたとき遠くで爆発音が聞こえました

 

「喜助…あれは」

「ええ…ボクが渡した小型爆弾っスね」

 

顔を見合わせて音のした方へ急ぐとその途中で黒崎サンの斬撃が見えました

どうやら薫さんたちと戦闘になっているようですが疲れがないとはいえ勝機は薄いでしょうね

 

「一護たちが戦っているようじゃの」

「そうみたいっスね

 しかし…」

 

着いてみるとやはり皆サンかなり劣勢に立たされていますね

すぐに加勢しようとする夜一サンをとめて

 

「待ってください

 しばらくこのまま見ていましょう」

「なぜじゃ、喜助?」

 

夜一サンはそう訊いてすぐにボクの考えを理解したのかもう何も言わずに眺めていました

 

(さぁ…天サン

 これが最後のチャンスっスよ)

 

黒崎サンたちは動けなくなり、さすがにもう無理だろうと諦めて助けに入ろうとしたとき薫サンの鬼気迫った声が聞こえてきました

 

「葵‼そいつを離せ‼

 お前らあいつから離れろ‼」

 

葵サンという方が天サンを離すとふらりと立ち、彼女を中心に急に突風が吹き始めました

 

「ようやく覚悟ができたんスね」

「そうみたいじゃの」

 

風がやむとそこには巫女衣装で手には刀を持った天サンが立っていました

その姿になったということは力を解放としたということ

黒崎サンたちを護るために

ようやく待ちに待った瞬間が訪れました

天サンと戦うのはどうやら薫サンだけみたいっすね

数合打ち合い、そのあとのつば競り合いで天サンが何か言ったのか薫サンの攻撃が単調になってきましたね

薫サンが強引に距離をとったあとどうやら退却するようでその場を去ろうとしていた四人にの前に天サンが立ち塞がっていました

 

「天のやつ…何をしておるんじゃ」

「ははは…」

 

夜一サンの言葉に引きつった笑いしかでませんね

四人の前に立ち塞がっていた天サンが急に黒崎サンの方へ行くのが見え、どうしたのかと注視すると伊織サンが黒崎サンに向かって攻撃を仕掛けようとしているのが見えました

 

「あれは…まずいですね

 行きましょう」

「分かっておる‼」

 

どうやらギリギリののところで間に合ったようで天サンが攻撃を止めていますが時間の問題でしょう

 

「浦原さん‼夜一さん‼」

「大丈夫か、井上⁉

 すぐに向こうへ行け‼いいな⁉」

 

とりあえずボクたちは井上サンたち三人を先に安全なところに移動させました

そうして三人を移動させ終えると天サンの声が聞こえてきました

 

「誰か…一護さんを…‼」

 

ボクたちは二人のもとに向かうと

動けない黒崎サンと腕から出血している天サンが見えました

夜一サンが二人を救出し、ボクが攻撃の後処理をすることに自然と決まり夜一サンが二人のもとに行って構えていると夜一サンは黒崎サンだけを抱えて戻ってきました

 

「天サンは⁉」

「これを処理すると…天⁉」

 

天サンは攻撃を防いでいた結界を解き攻撃事態に結界をかけて空の方へ持って行ってしまいました

何をしようとしているのか分からずに見ていると突然結界を解いたかと思えば攻撃が消えてしまいました

それを確認し、安心して力が抜けたのか落ちてくるのが見えて急いで受け止めに行きました

 

「おっと…‼よくやりましたね」

「浦原さん?」

 

天サンは閉じた目を少し開けてボクを見てまた安心したのか目がだんだん閉じてきました

 

「疲れたでしょうから

 休んでください」

「ん…」

 

そう言うと天サンは自力で義骸に入ると完全に意識を失ってしまいました

 




今回もお読みいただきありがとうございます
浦原視点はどうでしたか?
始めに比べてマシになっているような気はするのですが…
違和感はありますよね

では、次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後ではなく4日後の20日を予定しております。

アルフレット


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第三十一話

またこれから週1回投稿になると思います
それでは今回も最後まで読んでいただけると幸いです。

アルフレット


目を覚ますとつい昨日見た天井が見えた

また浦原商店に戻ってきてしまったらしい

窓の外を見ると薄暗かった

 

「目ぇ、覚めたか?」

 

窓とは反対に視線を動かせばそこにはいつも以上に眉間にしわが寄った一護さんの顔があった

その向こうには夜一さんの姿もあった

 

「どうしたの?」

「どうしたの、じゃねぇよ‼」

 

一護さんはカンカンに怒っているみたいだ

力のことを話さなかったのを怒っているのだろうか

 

「とりあえず浦原さん呼んでくるから

 夜一さん、こいつのこと頼むわ」

「うむ」

 

そう言うと一護さんは部屋を出て行った

 

「夜一さんは行かないの?」

「行かん」

 

夜一さんも怒っているようだ

 

「怒ってる?」

「あぁ」

 

とりあえず謝っておく

きっと夜一さんを怒らせると怖い

 

「ごめんなさい」

 

何の反応も返してくれない

気まずくなって何となく身体を起こそうと腕に力を入れると激痛が走った

 

「っ‼」

「まだ起きるな

 寝ていろ」

 

腕を見ると包帯でおおわれていて血がにじんでいる

夜一さんが近付いてそっと私の腕をとった

 

「っ‼」

「痛かったか?すまん

 傷が開いてしまったようじゃの」

 

やさしく私の腕を下ろしてくれる

足音が聞こえ、部屋の前で止まった

 

「入りますよ~」

 

そう言うと浦原さんと一護さんが入って来た

一護さんは壁に寄りかかりながら、浦原さんは夜一さんの横に座り、顔を覗き込んできた

 

「気分はどうっスか?」

「よくはない」

 

でしょうねと浦原さんは笑う

浦原さんは怒っていないと安心したのもつかの間

険しい表情になった

 

「浦原さんも怒ってる?」

「怒ってますよ」

 

やはり怒っているようだ

どうやら私は皆を怒らしてしまうことをしたらしい

怒られないように話題を変えてみる

 

「私どれくらい寝てた?」

「半日と少しっスよ」

 

今は明け方らしい

 

「織姫さんたちは?」

「今は家で休んでるんじゃねぇか」

 

織姫さんたちは帰ったけど一護さんだけここに残ったということだろうか

怒られるのを回避するために違う話題を振ってみたがもう思いつかない

それに浦原さんたちはまだ怒っているようで顔が怖かった

 

「アタシたちがどうして怒っているかわかりますか」

「力について何も話さなかったから?」

 

自分の中で唯一心当たりがあることを言う

 

「それも少しはありますが違いますよ」

 

少しだけ正解らしいが、大部分は違うらしい

他に思い当たることもなく首をかしげる

そんな私の様子をみて周りから盛大なため息が聞こえたのは気のせいではないだろう

 

「本当にわからないんスか」

 

本当にわからないから首を縦に振る

 

「お前が勝手にいなくなったうえに」

「あんな無茶をしおって」

「心配をかけたからっスよ」

 

三人の少しずつ言われる

どうやら勝手にいなくなったことと無茶をしたこと、心配をかけたことがいけなかったらしい

三人が怒っている原因をようやく理解する

 

「えっと…ごめんなさい…」

「お前、自分がしたことわかってるのか⁉」

 

一護さんに問い詰められてつい首を横に振ってしまう

また周りからため息が聞こえてきた

 

「どうして皆が私が勝手にいなくなったことと無茶したこと、

 心配をかけたことで怒るの?」

「お前な…‼」

 

私のその言葉を聞くや否や一護さんは私の胸ぐらをつかんできた

そのときに身体に痛みが走り顔をゆがめるがそんなことお構いなしに一護さんはまくし立ててきた

 

「っ‼」

「当たり前だろ‼

 勝手にいなくなれば探すし、無茶をすれば心配するし、心配すれば怒るのは当然だろうが‼」

 

それが理解できない

赤の他人である私がどうなろうと一護さんたちには関係ないはずだ

そんな私の考えが伝わったのか一護さんは少し悲しそうな顔をして言った

 

「お前は俺たちの大切な仲間だろ⁉」

「私が一護さんたちの仲間?」

 

嬉しいのと同時にまずいことになった思う

 

「なら、やめる」

「は?」

 

今度ははっきりと言う

 

「一護さんたちの仲間、やめる」

「何言ってんだよ⁉」

 

一護さんが声を荒げる理由はきっとやさしいから

ならば…とるべき行動は一つ

一護さんの腕をはずし、痛む身体を起こし、全員から距離を置くために立つ

足に力が入らずにこけそうになるが何とか耐える

 

「もし、一護さんたちが私を放っておくことで罪悪感を感じると言うならばそれはなくす

 そうすれば苦しまない」

「お前‼何言ってんだよ⁉」

 

三人が効果範囲に入るように痛む身体に鞭を打ちながら移動する

三人に向けて血がにじむ腕を伸ばす術を使うために息を吸う

唱えようとしたそのとき、止水の声が聞こえた

 

———やめろ、天

 

「止めないで」

「天?」

 

一護さんが不思議そうな声を出すがそんなのは気にしてられない

 

———今それを使えばきっとお前は一生後悔することになる

 

「それでもかまわない」

 

———嘘をつくな

 

「どうせすぐに消える」

 

———あの断界はもう使えないだろう

 

「別の断界を使う」

 

———その準備にどれだけかかると思っている?

その間ずっと後悔することになるんだぞ

 

「その間、我慢すればいいだけの話」

 

———どうしてお前はいつも自分だけが苦しむ選択をする?

お前はもう十分頑張った

彼らに甘えてもいいのではないか?

 

「甘えてどうするの?甘えればいずれまた一人になる

 きっと一護さんたちだって私の前からいなくなる

 そうなるくらいなら始めからそうならないように離れればいい

 自分に関する記憶を消すなんて今までやってきたこと

 今さら苦しむことなんてない‼」

 

つい大声をしまい、三人が驚くのが見えたが気にしている余裕はない

 

———ついこないだも苦しんでいただろ? 断界に入るときも

私にはお前が苦しむのがわかっているから、お前にこれ以上苦しんでほしくないから言っているんだ

 

「これ以上苦しんでほしくない…?

 もう一緒…もう慣れた

 それに私は誰かが悲しむ姿は見たくない

 私がいなくなればそんなこともなくなる」

 

もう慣れたなんて噓だ

本当は少しも慣れていない

でもそれは、誰かが悲しむ顔を見るよりはずっとマシだ

 

「いい加減にしろよ‼

 さっきから誰と何の話してるかは知らねぇけど

 俺がいなくなるとか、記憶を消すことにもう慣れたとか…

 ふざけんな‼

 記憶を消すのに慣れたなんて見え見えのやせ我慢に気付かねぇほどお前のこと分からねぇわけじゃねぇ‼

 それに俺は言ったよな⁉死なねぇって‼

 もっと俺たちを頼れよ‼」

 

一護さんは私の目をしっかり見て悲しみの混じったような声で言う

 

「そう言ってたのに兄さんはいなくなった…」

「は?」

 

聞こえなかったのだろうか

 

「兄さんも言ってた

 『俺は死なない、お前を一人になんてさせない』って

 でも、いなくなった‼私をおいて…

 どうして一護さんもいなくならないって言える?

 私を一人にしないって言いきれる⁉」

「っ‼」

 

思わず声を荒げてしまった

皆の顔を見れば驚きに染まっていた

皆の顔から眼をそらし再び集中する

もうこれ以上この人たちと話すわけにいかない

 

———もう一度言う

天、やめろ

今、それを使えばお前に残るのは後悔だけだぞ

 

「だから何?後悔しか残らないのは今に始まったことじゃない」

 

———今のお前の体で使えばきっとお前はもう…

 

「それが何?もう消えるだけの怪物にそんなこと関係ない

 もう黙って止水

 集中したいから…」

 

包帯を巻かれ、血がにじむ腕に力を込める

高い霊圧持ちが三人、一気に記憶を消せばまたしばらく力を使えないだろう

そんなことはどうでもいい

この三人の記憶から自分が消せるなら

もう巻き込まなくて済むなら

 

「さようなら…私のことは忘れて」

「やめろ‼天‼」

 

力を込めるいつれて腕が悲鳴をあげる

それを無視してこめていく

すると突然止水の謝る声が聞こえたと思ったとき急に腕に込めた力がぬけていく

 

———天、すまない

 

「止水?何するの?」

 

———やはり、私にはお前にこのようなことさせたくない

 

「どうして?今まで何も言わなかったのに?」

 

———龍がいたからな

今のお前には心から本音をぶつけられる者はいなかった

だが、きっと黒崎一護はお前の思いを受け止めてくれるだろう

 

「何かあってからでは遅い…‼だから」

「今ここで俺たちの記憶から自分のことを消そうってか⁉

 ふざけんのも大概にしろよ‼」

 

一護さんはいつの間にか目の前にいて腕をつかみながら言った

 

「ふざけてなんかいない‼

 一護さんがいなくなったら、遊子ちゃんや夏梨ちゃんは⁉

 一心さんも悲しむに決まってる‼

 他の皆もいなくなれば誰かが悲しむ‼

 それなら悲しむ人が誰いない私がいなくなればいい‼

 それですべて解決する‼

 もっと早くこうしておけばよかった…そうすればきっと…」

 

自分の思いとは反して涙が溢れてくる

 

「天サン、それは違いますよ」

「え?」

 

今まで黙っていた浦原さんが口を開く

 

「あなたがいなくなればアタシはもちろん夜一サンや黒崎サンたちも悲しいっスよ」

「そうなるなら記憶を消せばいい

 そうすれば何も思わずにすむ」

「儂らだけじゃないぞ皐月や勇、龍も悲しむと思うぞ」

 

そんなのわかっている

でもその心配もない

きっと私は皆のもとにはいけないから

 

「止水っていうのか?お前のこと止めようとしていた奴は

 そいつが一番悲しむんじゃねぇか」

「止水が一番悲しむ…?」

 

———私はお前の悲しむ姿、苦しむ姿は見たくない

 

私の言葉に答えるようにいつもより少し悲しげではっきりと止水が言う

止水のその言葉を聞くと今まで頑張って立っていた足と力を込めたことでさらに傷ついてしまった腕から力が抜けていった

私が倒れかけると一護さんがしっかりと支えてくれた

 

「大丈夫か?」

「私はどうすればいい、止水?」

 

止水に問いかけるが返事がない

聞こえてきたのは止水の声ではなく一護さんのものだった

 

「そんなの簡単だろ?俺たちを信じろ、頼れ」

「信じる?」

 

一護さんは信じろと言う

周りを見回せば浦原さんや夜一さんが頷いていた

 

「もう…誰もいなくならない?」

「あぁ!当たり前だろ」

 

一護さんは当たり前だと笑う

浦原さんや夜一さんも

 

「もう一人にしないで…‼」

 

そう言うと涙が次から次へと溢れてきて止まらなくなってしまった

泣き顔を見せまいと下を向いていた私を一護さんがやさしく頭をなでてくれた

 




今回もお読みいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後の27日を予定しております。

アルフレット


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第三十二話

ヤバいです…
スランプです…思いっきり
だいぶ前からスランプではあったのですがストックが底をついてきました
何とか頑張って週一投稿を続けていきたいと思います

それでは今回も最後まで読んでいただけると幸いです。

アルフレット


ひとしきり泣く

 

「ごめんなさい…」

「もう記憶を消そうなんて考えるなよ」

 

一護さんはそう言いながら頭をポンポン叩いてくる

 

「さて、ひと段落したところで天サン、腕の治療しましょう

 出血がひどいですからね」

「このままでいい」

 

治療を拒むと浦原さんは呆れたように息をつく

 

「このままというわけにはいきません

 せめて、包帯くらいは変えないといけないでしょう」

「そうじゃぞ、貸せ」

 

そう言うと強引に夜一さんが私の腕を取り、言う

 

「無理しよって…仕方ないやつじゃの」

「ごめんなさい…」

 

替えの包帯を持って来てテキパキと巻いてくれる

 

「…ありがとう」

「礼は別にいらん

 もう少し休め」

「そうっスね…

 アタシと夜一サンは自室でもう休みますから

 逃げ出さないでくださいね

 黒崎さんはどうしますか」

「俺はここで見張ってる」

 

浦原さんは最後にもう一度逃げ出さないように念を押してから出て行った

二人が出て行き部屋の中には私と一護さんだけが残された

 

「ごめんなさい…」

「別に謝る必要はねぇよ

 無理に体動かしたから疲れただろ

 もう少し寝ろ

 俺も眠いから寝るわ」

 

そう言うと一護さんは私をふとんに寝かせ、ふとんの近くで横になった

するとすぐに寝息が聞こえてきた

 

(ずっと起きていたのかな?

 一護さんが血盟者に…なってくれたらいいな)

 

いつかの浦原さんの思惑通りになるのが少しいやだったけどもし一護さんが私の血盟者になってくれたらと考えながら目を閉じると何だか幸せな気分になった

そして心地いい微睡に包まれる

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

どうやら天は寝てしまったようで隣から規則正しい寝息が聞こえる

目を開けて天を起こさないように静かに身体を起こし天の寝顔を見るといつもより穏やかなような気がした

 

(今までいろんなこと我慢してきたんだろうな)

 

ようやくこいつの本心を聞くことができた

そのときに思ったのは前にみたいな『嬉しい』ではなく『苦しい』だった

まだ短い付き合いとはいえ今までこんな苦しいものを一人で抱え込んでいたことに気付けなかった

分けてもらえなかったことが苦しかった

 

(こいつは当然のように自分が苦しむことを取るんだな)

 

記憶を消すようなことは、あんな顔はさせないと決めていたはずなのにそれを天にさせてしまった

それも見え見えのやせ我慢までさせて

正直、止水というやつがいなければ今頃きっと天に記憶を消させていただろう

仮面集団からも護り切れずに心の傷をふさいでやるどころか余計に悪化させて自分が不甲斐ない

 

「俺のせいでこんなケガして、それでも自分を押し殺して俺たちを護ろうとして…

 いつも護られているのは俺の方だな

 本当は俺がお前を護らなきゃなんねぇのに」

「ん…」

 

気がつけば口に出ていたようだ

俺の声で起きたのかと驚いたがそうではないようだ

それに安心して俺は横になる

そのとき、なぜか夜一さんが天の頭をなでると気持ちよさそうにしていたことを思い出して俺も天の頭をなでてみると天が少し笑ったように見えた

傷ついて寝ているときの天をよく見るせいか少し笑っているように寝る天の姿が新鮮だった

そのまま横になると俺もすぐに眠気が襲ってきて眠りについた

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ボクたちは血まみれの天サンの包帯を片付けるとお茶を飲んでいました

 

「どっと疲れてしまいましたね」

「そうじゃの…まぁ何とか天が止まってよかったのぅ」

 

一時期はどうなるかと思いましたが

何とか踏みとどまってくれてよかったスね

 

「のぅ喜助…」

「なんですか?」

「天が言うておった『止水』がそうなのかの」

 

『止水』…たしかその人が天サンを止めているようでしたね

それに私たちにその声が聞こえないとなると

 

「そうでしょうね」

 

その『止水』サンがおそらく彼女の力

 

「どんな力かまだわかりませんが

 おそらく近いうちに天サンから話してくれるでしょう」

「そうじゃの

 今回の一件で一護は血盟者に近づけたじゃろうからの」

 

正直に言いますと、昨日の戦闘でいい感じになるかと思っていたんすけど反対方向に行っちゃったんで、ひやりとしましたが何とか軌道修正できたようでよかったっス

 

「しかしのぅ…」

「どうしたんスか?」

「天の心の闇とでも言うのか

 それに気づけなかったのはちと悔しいの」

「たしかにそうっスね…」

 

今まで天サンの周りのことばかりに目が行き過ぎて天サン自身についてはあまり聞きませんでしたからね

天サンは自分で話すような方ではないことはわかっていたはずなんですが

 

「勇サンや皐月サンに怒られてしまいますかね」

「そうかもしれんのぅ…それか笑うの、特に勇は」

「そうかもしれませんね

 彼らが一番大切にしたものをボクたちに託してくれたんスからしっかりと護らないとっスね」

 

ボクたちと勇サンたちが結んだ血盟の契り、絶対の約束ではありませんが柄にもなく絶対護る、なんて思ってしまいますね

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

次に起きるともう昼前のようだった

横を見ればまだぐっすりと眠る一護さんの姿があった

窓に視線を移す

久しぶりにいい夢が見れた

黒崎家の皆と織姫さんや茶渡さん、石田さん、夜一さんに浦原さん…

皆で公園に行って遊ぶ夢

その中では私も思いっきり笑っていた

 

「現実になればいい…」

 

一護さんを起こさないように身体を起こそうとするが激痛が走り思わずうめき声を出して、ふとんの上に倒れてしまう

 

「うっ…‼」

 

私の小さなうめき声で一護さんは跳ね起きた

 

「天、どうした⁉大丈夫か?」

「大丈夫…ケガしてたの忘れてた」

 

慌てた様子の一護さんは面白かったけどそれを笑う余裕はなかった

一護さんは心配そうに私の顔を覗き込んでいた

 

「痛むのか?」

「大丈夫…」

「痛いなら痛いって言え

 強がる必要なんかねぇよ」

 

一護さんはやさしく私を諭す

 

「痛い…」

「誰か呼んでくるか?」

「いい…」

 

小さく首を横に振ると一護さんはわかったと言って

ケガをしていない頭をなでてくれた

それが心地よくて痛みが引いていくようだった

 

「もう大丈夫…」

「そうか

 痛むなら無理して起き上がるな

 俺を起こせばいいだろ」

「一護さん…気持ちよさそうに寝てたから…」

 

一護さんの寝顔なんて見たことはないが何となく普段よりも柔らかいような気がした

そんなことを話していると浦原さんが入って来た

 

「あれ、起きたんすね

 天サンの寝顔見ようかと思ってきたんですが遅かったようですね

 体の調子はどうっスか?」

「平気…」

「平気じゃねぇだろ…‼」

 

横から一護さんに頭を軽くたたかれる

少し頬を膨らませてみれば

 

「何だよ…痛みで起き上がれなかったやつのどこが平気何だよ⁉」

「やっぱりまだかなり痛むんすね

 鉄裁サンに治してもらった方がいいんじゃないっスか」

「いい」

 

たしかに鉄裁さんに治してもらうのを手伝ってもえたら

今よりもずっと楽になるだろう

 

「織姫さんたちは?」

「今日は来ませんよ」

「どうして?」

「天サンのケガがかなり悪かったですからね

 今日一日はしっかり休んでもらおうと思いまして」

 

てっきり今日の朝には織姫さんたちは来るのだと思っていた

 

「いつ来るの?」

「明日の夕方に来ると思うぜ」

「明日の夕方…学校?」

「あぁ」

 

今になって気付く

一護さんが死覇装姿であることに

それに昨日で休みが終わりのはず

それなのに一護さんはここにいる

 

「今日も学校じゃないの?」

「ん?あぁそうだけど問題ねぇわけじゃねぇけど大丈夫だ」

「休んだら怪しまれるんじゃ…?」

「コンが代わりに行ってる」

「それこそ問題あると思う」

 

コンが一護さんの代わりに学校へ行っている

一護さんとコンはまるでタイプが違う

すぐにばれそうで気が気ではない

 

「問題あるけど大丈夫だ

 気にすんな

 よくあることだ」

 

よくあること…私はコンに任せるのは不安すぎてとてもじゃないけどよくあることにしたくない…というか一回も任せたくない

何されるかわからないし

そんなことを思っていると浦原さんがあの、と口を開いた

 

「昼食どうしますか?」

「私はいらない」

「何言ってんだよ

 少しぐらい食えよ」

 

ずっと寝ていたせいかお腹が減っていない

 

「そうっすよ

 もう、二日ほど何も食べてないんすから

 治るものも治りません」

「それ、病気の話」

「関係ありません」

 

言われて初めて気付く

たしか薫さんたちが来た時もお昼ご飯を食べずに終わったしそのあと目を覚ましてからも何も口にしていなかった

 

「それでは皆さんで楽しい昼食としましょう」

 

そういうと浦原さんは部屋を出て行った

そしてしばらくすると小さなテーブルを持ってきて

皆で鉄裁さんが作ったお昼ご飯を食べた




今回もお読みいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後の12月4日を予定しております。

アルフレット


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第三十三話

12月に入り今年も残すところあと一ヶ月弱となりましたね
一年たつのが早い…

さて、今回も最後までお読みいただけると幸いです
アルフレット


昼食を食べ終えると浦原さんが口を開いた

 

「明日のことっスけど、天サンわかっていると思いますがもう話さないわけにはいきませんよ」

「わかってる…

 明日、みんなが来た時に全部話す」

 

それならいいんスけど、と浦原さんが小さくため息をついていた

 

「俺はもう帰るけどちゃんと休んどけよ」

「帰るの?」

「あぁ、さすがにコンに任せておくのも心配だしな

 それに今から行けば午後からの授業には間に合うだろうからな」

 

一護さんが帰ってしまうのは少し残念だけど

コンに一護さんの身体を預けておくのも心配だ

 

「それじゃあな

 浦原さん、夜一さん、天のこと頼むな」

「私は帰らなくていいの?」

「ん?その体で動くのきついだろ

 遊子たちには言ってあるから大丈夫だ」

「…わかった

 気をつけて」

 

私がそう言うと一護さんは軽く手を上げて窓から出て行った

その背中を見送る

 

「どうですか?」

「何が?」

 

主語がないと何のことだか全くわからない

何故かため息まじりに浦原さんは言う

 

「一護さんのことっスよ」

「一護さんが何?」

 

夜一さんまでもため息まじりに言う

 

「血盟者に、ということじゃ」

「そうさせたかったんでしょ?」

 

やっと何のことかわかり、なるほどと頷く

 

「まぁ…そうじゃな」

「でも、なってほしいって思う」

「そうっスか」

 

浦原さんはニヤニヤしていた

二人の思惑通りになるのは少し悔しかったが一護さんを血盟者にしたいと、今は心から思う

浦原さんは立ち上がり、言った

 

「まだ、身体が痛むでしょうし、休んでください」

 

そう言うと二人は部屋を出ていった

その背を見送り、ふとんに横になる

お腹がふくれたせいかあれだけ寝ていたのに眠くなってきた

 

(明日、一護さんに血盟者になってくれないか訊いてみよう)

 

そう心に決めると何だかいい夢が見れるような気がした

 

目を開けるともう夕方に近い時間だった

少し視線を横に動かすとそこには浦原さんと夜一さんがいた

 

「また、ぐっすりでしたね

 気分はどうっスか」

「また?」

 

外は日が少し傾いてきている程度でどう考えても数時間しか経ってない

 

「もうすぐ黒崎サンたちがいらっしゃるでしょうから

 起きれますか」

「一護さんたちが来るのは明日…」

「今日がその明日ですよ」

 

どうやら私は丸一日寝てしまっていたようだ

あれだけ寝ていたのにまだこんなに寝れるのかと

この三日間で起きていたのはほんの数時間程度だろう

それからすぐ、玄関の方から賑やかな声がした

 

「こんにちは~」

「皆さん来たようですね」

 

そう言うと浦原さんは皆を出迎えに玄関へ向かった

皆が来る前に身体を起こす

ふすまが開いたと思ったのと同時に織姫さんが目の前にいた

 

「天ちゃ~ん‼無事でよかった~‼」

「織姫さん…痛い」

 

織姫さんは私の姿を見た途端抱きついてきた

まだケガが痛むのに織姫さんに抱きしめられてさらに痛む

そんな私の様子に気がついたのか一護さんが止めに入ってくれる

 

「井上、天から離れろ

 天が痛がってんぞ」

「あっ!ごめんね」

「大丈夫…」

「そろそろいいっスか」

 

苦笑しながら浦原さんがもういいかと言う

 

「さぁ…それでは天サン」

 

浦原さんに急に名前を呼ばれ少し姿勢を正す

先に話せと言うことだろうと思い、口を開くが

 

「えーと…ごめんなさい」

 

何と言えばいいかわからずとりあえず謝る

どうやら浦原さんが期待していたこととは違ったみたいで頭を押さえている

そんな姿に私が首を傾げると周りからは苦笑が漏れた

 

「違いますよ…」

「何が違うの?」

 

次は周りからため息が聞こえてきた

 

「他に言うことがあるじゃろ?」

「他にいうこと…」

 

ついに夜一さんに頭を叩かれた

 

「えーと…色々ごめんなさい」

「お前なァ…‼」

 

今度は一護さんが怒り始めた

もう一度やれば次は誰が怒るのか気になったがそれを言えばまずいことになるような気がして言葉を飲み込む

 

「何が違うの?

 兄さんは悪いことしたと思ったら謝れって言ってたのに…」

「謝る必要はねぇよ」

 

一護さんの言葉に周りを見ると皆は頷いてくれた

謝罪の言葉はいらないから本題に入れと言うことだと理解する

 

「わかった…

 ねぇ、一護さん…」

「何だよ?」

 

血盟者になって

簡単なことなのになかなか口に出せない

今になって…虫のいい話だ

なかなか言い出さない私を一護さんは急かすことなく待ってくれている

ようやく口にする

 

「一護さん…私の…血盟者になってください…」

 

消え入りそうな声で言った私に力強い笑みでうなずいてくれる

 

「あぁ、当たり前だ」

「ありがとう…」

 

一護さんの答えに安堵する

止水の声が聞こえてきた

 

———よかったな、天

 

本当に…止水も安心した?

 

———当たり前だ

さて、これから血盟を結ぶ儀式に入らねばならないが出来そうか

 

大丈夫…やって見せるから

 

———はぁ…血盟者になってすぐに無理する必要はないんだがな

 

問題ない…やっぱりここでするわけには…

 

———ダメだろう

もう少し外部と遮断された空間がいい

それに解放直後に力を制御出来るとも限らない

地下の勉強部屋だったか

あそこであればここよりいいだろう

 

わかった

そうする

 

「天?」

 

一護さんの声にゆっくりと視線を上げる

 

「どうかしたのか?」

「何でもない…浦原さん、地下室貸して」

 

浦原さんに向き合い言う

 

「そんな身体で大丈夫っスか?」

「大丈夫」

 

しっかり目を見て答えると軽くため息をつかれたが貸してくれるようだ

私は無言で浦原さんのあとに続こうとするが足に上手く力が入らずふらついてしまう

すると夜一さんは私を抱えて歩き出す

 

「自分で歩ける」

「何を言うておるんじゃそんな身体で

 大人しくしとれ」

 

そのまま仕方なく夜一さんに抱えられていることにした

一護さんたちは状況がよくわからないのかその場を動いていなかった

そんな四人に声をかける

 

「何してるの?一護さんは来なきゃダメ

 他の皆はどっちでもいいけど」

 

私がそう言うと四人は顔を見合わせてあとについてきた

 

「おい、天これから何すんだよ」

「儀式」

 

四人は目をパチクリしている

 

「儀式って何のだい?」

「もちろん血盟の儀」

 

何わかりきっていることを訊くのかわからずに首を傾げる

すると前を歩いていた浦原さんが振り返り、苦笑まじりに言う

 

「黒崎サンたちは知らなくて当然っスよ

 天サン、何も話さなかったんですから」

「でも、前に儀式的なことをするって言った」

「それだけで察しろと言うのはちと難しいぞ」

 

夜一さんにも苦笑された

 

「一護さん、一つだけ私に対する約束考えといて」

「はぁ?何でだよ」

「儀式で必要だから

 ないならなくてもいいけど」

 

そんなことを話しているとどうやら地下室への入り口に着いたようだ

そのまま夜一さんに抱えられたまま中に入る

無事に着地する

 

「ここで降ろして、夜一さん」

「うむ、降ろすぞ」

 

おろしてもらってすぐはやっぱりふらつき、夜一さんが支えてくれる

足にしっかりと力をいれて立つ

 

「一護さん、死神になって」

 

私がそう言うや否や浦原さんが持っていた杖で一護さんを死神にしてしまった

浦原さんの杖が気になったが今はそんなことをしている場合ではない

 

「私も脱ぐから待って」

「脱ぐって何を⁉」

 

両手を合わせ、身体の表面に力を集める

そのまま外に向かって力をかけていく

すると徐々にとれていくのがわかった

その数秒後には完全に脱げた

 

「終わった

 義骸脱げた」

「義骸のことかよ」

「ん?他に何がある?」

 

一護さんと石田さんが真っ赤な顔をしてため息をついていた

それを横から夜一さんが小突いていた

自分の身体を見ると包帯もはずれているせいで血がついていた

 

「さっきのでキズが開いてしまいましたか」

「大丈夫…すぐ治す」

 

私は自分自身に治癒結界をかける

するとものの数秒で身体からキズが消えてなくなった

ポカンとしているのを無視して一護さんに言う

 

「一護さんはこっち

 皆はそこにいて」

 

一護さんの腕を引き、皆から少し離れる

障害物がないところに二人で向かい合って立つ

 

「始める

 準備はいい?」

 

一護さんが頷くのを確認したあと懐から小太刀を取りだし、互いに腕が届く距離で地面に刺す

そして、儀式を始めるため集中した




今回もお読みいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後の11日を予定しております。

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第三十四話

自分でも何が書きたかったのか分からなくなった節はありますが多めに見てください
それでは今回も最後までお読みいただけると幸いです

アルフレット


小太刀を地面に刺し、手が小太刀の真上にくるように出す

 

「一護さんも私の手の下に手を重ねて」

「あ、あぁ」

 

小太刀に力を伝えていく

すると光りだし、地面に円陣が描かれる

声が聞こえてきた

止水のものだ

いつもと違うのは心に直接聞こえてくるのではなく耳から聞こえてくることだ

一護さんも聞こえているのか声の主を探してキョロキョロしていた

私はすぐに止水の居場所がわかり、そちらを見ると少し見上げる位置にいた

一護さんも私の視線をたどるとそこにいる止水を見て驚きながら言った

 

「何だよ⁉こいつ⁉」

「後で説明する

 止水、始めて」

「うむ…それではこれより血盟の儀を執り行う

 この儀式を終えた者同士が血盟者となる

 二人ともよいか?」

 

いつもとは違うって緊張しているような止水が面白かったがここで笑えばあとが怖いと思い堪える

そんな私の様子が伝わってしまったのか止水に睨まれる

その様子を無視して頷くと一護さんも頷いた

 

「うむ

 それではふたりともこの小太刀に霊力をこめよ」

 

止水のその言葉を合図に小太刀に霊力を込めて行く

すると地面に描かれた円陣に新たに模様が加わる

 

「よし

 では、天、盟約を述べよ」

「盟約…私の力を悪用されたとき封印し阻止すること」

 

一護さんの顔が驚きに染まるのがわかった

そんな反応するだろうとは思っていたけど

 

「黒崎一護、盟約は『院殿天の力が悪用されたとき封印しそれを阻止すること』だ

 一度結べば血盟解消さぬ限り破ることは許されない

 結ぶか」

「い、いや結ぶわけねぇだろ何だよ⁉封印って⁉」

「そのままの意味

 とりあえず了承して」

「了承出来るわけないだろ‼」

 

予想通りの展開になった

助けを求めて止水を見るが、自分で何とかしろと目を反らされた

 

「一護さん、深く考える必要はない

 そうならないようにすればいいだけ

 念のための約束」

「でもよ…‼」

「一護さんが応じてくれないと先に進まない」

 

一護さんはなかなか首を縦に振ってくれない

小さくため息をつき、私は首を横に振る

 

「ならもういい

 止水、中止」

「いいのか」

「一護さんがイヤなら仕方ない」

 

止水は私の考えが分かったのかあっさりとのってくれる

そして一護さんは私の思った通りの反応をしてくれる

 

「わかったよ‼」

「と黒崎一護は言っているが、天、どうする?」

「了承してくれるならいい」

 

作戦が成功し、心の中でガッツポーズする

顔には出さないように気をつけながら

止水には私の心の中が分かったようで少し笑っていた

それをにらみつけると止水は咳払いをして言った

 

「では、血盟の儀を再開する

 黒崎一護、もう一度訊く

 盟約は『院殿天の力が悪用されたとき封印し阻止すること』だ

 一度結べば血盟解消せぬ限り破ることは許されないがよいか」

「あぁ」

 

一護さんはようやく渋々ではあるが頷いてくれた

一護さんが了承すると小太刀がそれに反応するかのように一度強く光り、それがおさまると円陣に新たな模様が追加されていた

 

「これにて盟約は結ばれた

 では次に移ろう」

「まだあるのかよ…」

 

おそらくまだこんなことが続くから一護さんは面倒に感じているのだろう

一護さんがもっといい加減な人だったらもっと早く終わるだろうに

かと言ってこのまま止まっていては先に進めないから止水に進めるよう促す

「まだある

 先に進まないと終わらないから止水進めて」

「あぁそれでは黒崎一護、契りを述べよ」

「契りって何だよ?」

「契りは一護さんが私に求める約束事のこと考えといてって言った

 なければいい」

「このためにかよ…そうだな…決めたぜ」

 

一護さんはしばらく考えて言った

 

「では、黒崎一護、契りを述べよ」

「天、もう二度と消えようとするな」

「っ‼︎」

 

痛いところを突かれた

もし、これを言われなければまだ消えるという選択肢があるから万が一のとき消えることができたのにとまだ逃げを考えている自分がいた

 

「天、黒崎一護の契りは『二度と消えようとしない』だ

 わかっているかとは思うが破ることは許されないぞ結ぶか?」

「…結ぶ」

 

ここで私が了承しないとまた先には進めない

血盟を結ぼうと思っていたときからこうなる予感はしていたけど

 

「わかったでは天、契りは何かあるか?」

「天もあるのかよ⁉」

 

一護さんはなかなか終わらないからか少しめんどくさそうに見える

私が一護さんに願うのは封印ともう一つ…

 

「じゃあ…死なないで…」

「っ‼︎」

 

つぶやくような小さな声だったけど一護さんにはしっかり聞こえていたようで目を見開いていた

 

「黒崎一護、天の契りは『死なないこと』だ

 これには強制力はない破っても…まぁ許される…か?」

「許さない」

 

一応、私からの契りは破っても何もないがそんなこと許すわけもなく即答した

 

「だそうだが、結ぶか?」

「当たり前だろ」

 

この契りに関しては一護さんは間を空けずにすぐに返事をしてくれた

私を安心させてくれるような笑みで

 

「これで両者の契りは交わされた」

 

止水がそう言うとまた小太刀が光り、新たに模様が追加された

 

「これで血盟の儀は終わりだ

 よって二人は血盟者となった

 天、小太刀を抜き、黒崎一護へ」

 

止水の言う通りに小太刀を抜くと地面に描かれた円陣が小太刀に吸い込まれるように消えていき、小太刀の柄の部分に刻み込まれた

それを確認し、一護さんの手を上向きにしてその上に置く

 

「おめでとう、天

 黒崎一護、天のことを頼んだぞ」

「あぁ…」

「止水、ありがとう

 お疲れ様」

 

止水は私に血盟者ができたことに本当に安堵したらしい

完全に終わったのがわかったのか浦原さんたちが近づいてきた

 

「お疲れ様っス」

「なかなか時間がかかったのう」

「一護さんのせい」

 

さらっと時間がかかったのを一護さんのせいにする

止水が急に頭を叩いてきた

 

「何が『一護さんのせい』だ

 お前がもっとしっかりと前もって話しておけばこんなことに時間もかからなかっただろう…よ‼」

「痛い…やめて止水」

 

止水は私の言ったことを流す様子もなく頭を拳ではさんでぐりぐりしてきた

いつもならば何らかの反応をするのにそれがないことを不思議に思い一護さんの方を見ると小太刀をジッと見つめていた

 

「黒崎くん、どうしたの?」

「いや。なんでもねぇよ」

「おそらくようやく天の血盟者になれて感慨にふけっているのであろう」

「うるせぇよ…てか、お前誰だよ⁉」

 

織姫さんが声をかけても心ここに在らずって感じの答えだったのに止水が声をかけると恥ずかしそうに答えていた

そこでようやく止水のことを思い出したのか突っ込んでいた

 

「この人は止水」

「それだけか?仕方ない…改めて私の名は止水

 そして天の斬魄刀だよろしく頼む」

 

簡単に止水について紹介すると浦原さんと夜一さんは納得したように頷いていたが、他の四人はポカンとしていた

その様子を見て止水は苦笑する

 

「大丈夫か?思考が追いついて来ていないようだが…」

「大丈夫っスよ

 そのうち追いつきますんで」

 

止水は一護さんたちに声をかけるが、関係のない浦原さんが答えていた

止水は浦原さんと夜一さんをマジマジと眺めて言った

 

「あなたたちが勇と皐月の血盟者か?」

「ええ、そうっスよ」

「なるほど…さすがだ」

 

止水が何に納得したのかわからないがうんうんと頷いていた

そこでようやく思考が追いついたのか一護さんが口を開いた

 

「天、お前って死神…じゃないよな?」

「違う」

「じゃあどうして斬魄刀なんかを持っているんだい?」

 

どうやら一護さんたちは死神ではないにもかかわらず私が斬魄刀を持っていることを不思議に思っているらしい

浦原さんと夜一さんはわかっているのか何も言わず、いつもと変わらなかった

説明する気もないようだ

私が口を開こうとすると先に止水が口を開いた

 

「それは私が説明しよう」




今回もお読みいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後の18日を予定しております。

アルフレット


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第三十五話

学校も最後の冬休みに入り、スランプ気味であるこの話をどうにかして進めようと思います…
皆さんはスランプになってしまったときどうしているのでしょうか?

それでは今回も最後までお読みいただけると幸いです

アルフレット


「それは私が説明しよう」

 

一護さんたちが私が斬魄刀を持っていることに疑問を抱き、止水が説明しようとする

 

「止水、自分で説明する」

「いや、私が説明しよう

 天は最低限のことしか言わないからな」

 

私が頬を膨らませるとポンポンとなだめるように頭を優しく叩かれた

 

「兄妹みたいだね~」

「そんなことない」

「ふむ…なるほど

 周りから見ればそのように見えるのか」

 

織姫さんの言葉に私は否定するが止水は少し嬉しそうに呟いていた

そんな止水の足をおもいっきり踏もうとしたがギリギリのところで避けられた

 

「何で避けるの?」

「何でって痛いのがイヤだからに決まっているだろう

 お前だってなぜ私の足を思いっきり踏もうとしたんだ?」

「言わなくてもわかってるくせに…」

 

止水は肩をすくめてまた私の頭をポンポンとなだめるように優しく叩いた

そして地面に腰をおろして皆に座るよう促す

 

「話は長くなるから座って話そう

 まずは天のことについてだ

 天は尸魂界にある結界術を扱うことが出来る一族の長の娘だ

 ん?死神とはまた別のものだ

 まぁ、中には死神になるものもいるがな

 話を戻そう

 今からおおよそ50年前、天たちが住む集落が何者かに襲撃された

 そのとき、天の両親である院殿勇と皐月が亡くなった

 そのことはもう知っているだろう

 そのあとすぐ天は兄の龍と共に現世に逃れてきたが一ヶ月ほど前、龍は襲われ命を落とした

 あとは君たちが知っている通りだ」

「そんなこと話さなくても…」

「なぜだ?お前を理解して貰うには必要なことだろう

 そもそもお前は話さなさすぎる 

 もう少し話せ」

 

止水は私の過去から話し始めた

私が話す必要なしと判断したものをそれは話すべきことだと止水は言う

 

「なんで?」

「なんでって…相変わらずだな

 だから私が話すんだ」

「理由になってない」

 

皆は分かっているのか納得したような表情を浮かべていた

私のことは無視され止水は話を続ける

 

「さて、話を続けるぞ

 次は天の力についてだ

 天は先に述べたように結界師の一族の娘だから当然結界術を使える

 実際に見ただろう?この間の戦闘で

 特に天は力が強い

 しかし、狙われる理由は別にある…私だ」

「別に止水のせいじゃない」

 

確かに止水が狙われているがそれは正確ではない

浦原さんと夜一さん以外はわからないのか頭の上にはてなマークが浮かんでいた

 

「どういうことだよ?」

「正確に言えば天の力の中の私だ

 基本的に天の一族は結界師というものになり、死神にはならない者が多い

 死神になる者は別として結界師は斬魄刀を持たない

 しかし天は違う結界師でありながら斬魄刀を持つ」

「違う…持っているんじゃない」

「そうだったな

 天は斬魄刀をその身に宿し、生まれてきた

 結界師には昔から言い伝えられていることがある

 『斬魄刀を宿し者はすべての世界を破壊し新たな世界を造り出す』というものだ

 つまり、天にはその力がありそれこそがあいつらが狙っているものだ」

 

一護さんは首を傾げながら止水に確認する

 

「つまり、天の力を手に入れて現世を破壊し新たな世界を造り出すことが目的ってことか?」

「違う」

 

私が即答すると一護さんは眉間のシワをさらに深めた

 

「違うって何が違うんだよ」

「天が消せるのは現世だけではない全てだ

 現世も尸魂界もこの世の中にある全ての世界をだ」

「なっ‼」

 

止水が言い切ると浦原さんと夜一さんはやはりと少し緊張した表情で頷き、一護さんたちは固まってしまった

そんな一護さんたちの様子を気にすることなく浦原さんは口を開いた

 

「それを使う条件はないんスか?」

「条件というか…いわば私は爆弾の起爆装置だ」

 

止水が答えるが、浦原さんでもよくわからなかったのか首を傾げていた

 

「どういうことっスか?」

「爆弾を爆発させることができるスイッチ」

「それはわかりますけど…爆弾は誰なんすか?」

 

私が真面目に浦原さんの質問に答えたのに周りからため息が聞こえてきた

ひどい…

 

「さぁ…わからない」

「わからないんスか?」

 

私がわからないと答えたことが意外だったのか少しだけ目を見開いていた

その様子に止水の方を見ると止水もわからないようで首を横に振っていた

 

「あぁ…爆弾候補はたくさんいるからな」

「たくさんいるとは…?」

「爆弾は誰でもやろうと思えばできる」

「どういうことじゃ?」

 

だんだん一護さんたちはこんがらがってきたのか難しい顔をしだした

今まで口を開かなかった夜一さんが口を開いた

 

「先に言ったことでは少し語弊があるな

 正しく言えば私は現世や、尸魂界…全ての世界を破壊するためのきっかけだと言えばより正確だろう」

「全ての世界を破壊するためにはそれなりに大きな力がいる

 その力と止水があれば力の持ち主が誰であっても破壊することが可能」

「その力は結界術を使える者に限るがな」

 

ようやく理解できたのか普段あまり表情を変えない浦原さんでも驚愕しているのがわかった

 

「それならばもうすでにあやつらがその力を手に入れている可能性がある訳じゃな?」

「その可能性は十分ある」

 

夜一さんの質問に止水が真剣な表情て答えると夜一さんは深く息をついた

とりあえず一段落したところで次の話に移るべく止水に声をかけた

 

「止水、次は仮面集団について話して」

「はぁ…話す気はないのだな…まぁいい

 仮面集団についてはわからないことが多いからわかっていることのみを話す

 まず、仮面集団の正体はおそらく天と同じ一族つまり結界師である可能性が高い」

「それじゃあ…」

「今まで君たちが戦って相手は天の顔見知りだ」

 

ふたたび浦原さんと夜一さん以外は驚いているようだがそんなことは気にせず私が続ける

 

「一護さんの相手は界人さん、石田さんと茶渡さんの相手が薫さんと伊織さん

 この間私を抱えていたのが葵

 葵以外は私の兄弟子にあたる人たちで葵は幼なじみ」

「マジかよ…でもそれだとあいつらはお前のことを知ってるんじゃないのか?」

「たぶん記憶を消されてる

 この間、名前を呼んだら動揺してたから」

 

浦原さんはずっと疑問に思っていたのか納得したように頷いていた

 

「それで薫さんたちは帰っていったんすね」

「たぶんそう…」

 

石田さんが顎に手をあてながら私の顔をしっかりと見て訊く

 

「仮面集団が君を思い出すことはないのかい?」

「ないとは言いきれない消された方法による」

「消す方法はいくつもあるのかい?」

 

記憶を消す方法が複数あることにかなり驚いていたようだが、そんなに驚くようなことだろうかと首を捻りながら答える

 

「ある…大きく分けて二つ

 一つ目は完全に消してしまう記憶消去、もう一つは封印する記憶封印」

「後者であれば思い出すかもしれない」

 

止水が補足する

それに対してまた石田さんが訊く

 

「どちらの可能性が高いんだい?」

「記憶封印…記憶消去を出来るほどの力を持つ人はあまりいない」

 

実際にそれができるほどの力を持った人は知らない

父さんや母さん、兄さんでもそれほどの力は持っていなかった

一護さんが静かに口を開いた

 

「封印を解くにはどうしたらいいんだ?」

「何らかのきっかけで自分自身が気付き、思い出したいと強く願えば可能だろう」

 

それに対して止水が答える

今回の場合は私のことを忘れているからきっかけは私自身が重要だろう

一護さんがそんなことを訊くと言うことは…

 

「一護さん、薫さんたちの記憶の封印を解こうとしてる?」

「あぁ…戦わずにすむならそれが一番いいだろ?」

 

一護さんはそれができることを信じて疑わないみたいだ

止水を見ると止水も私を見て微笑み、頷いてくれた

 

「…ありがと」

「気にすんな」

 

一護さんは笑って頷いてくれた

他の皆もそれぞれ頷いてくれる

 

「さて、今日はここまでにしよう」

「まだ訊きたいことがあるんスけど…」

「それはまた明日にしよう

 天がそろそろきつくなってきただろう」

「ん…まだ大丈夫…」

 

正直少しきつくなってきたが強がると止水には頭を小突かれた

そしてそのまま頭をなでてくれる

 

「強がっても無駄だ

 私には全て分かるのを忘れたか?」

「どういうことだよ?」

 

周りは理解できていないようではてなマークが浮かんでいた

 

「私がこうして具現化していられるのは天の霊力を使っているからだ

 普段であればこのように話すことは苦ではないが今は違う

 完全に回復しきっていない上に、血盟の儀を行ったため消費はいつも以上だ」

「そういうことなら仕方ないっスね」

「納得してもらったところで私は失礼する

 最後に黒崎一護、今日は枕元にその小太刀をおいて寝るように」

「何でだよ?」

 

そうか…一護さんが私の血盟者になったから…

今日の夜、兄さんに…

 

「理由は寝ればわかる

 浦原殿、夜一殿、あなたたちも今日はそれぞれの小太刀を枕元において寝てほしい」

「わかりました」

「頼みます

 それではこれで失礼する」

 

そう言うと止水は私の中に消えていった

それと同時に私は義骸を纏った




今回もお読みいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後の25日を予定しております。

アルフレット


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外伝~クリスマス~

今回は投稿日がクリスマスということで話も本編とは全く関係のないクリスマスの話にしました
本編では起こっていませんので、本編とは切り離してお読みください

それでは今回も最後までお読みいただけると幸いです

アルフレット


今日は雪が静かに降っている

そして周りを見回せば至るところに仲良さげに腕を組み、歩いている男女がいる

 

「ねぇ…一護さん

 みんな寒いの?」

「ん?あぁ…今日はクリスマスイブだろ」

「クリスマス…兄さんが日本には関係ないって言ってた」

「まぁ関係ねぇけどお前も何年もこっちにいたらわかるだろ

 日本人はこういうイベントが好きなんだよ」

 

私は一護さんと近くにある大きなショッピングモールに来ていた

どこを見てもピンク色に染まった空気が見える気がする

クリスマスデートというものだろうか

隣の一護さんは興味なさげに見る

 

「一護さんも?」

「嫌いではねぇな」

 

嫌いではないと言うわりに普段以上に眉間にシワがよっている

今日は誰か別の人と予定があったのだろうか

 

「誰かと予定あった?」

「別にねぇけど何でだ?」

「いつもより怖い顔してる」

 

腕を伸ばして眉間のシワを撫でる

一護さんは一瞬驚いた顔をしたがすぐに私の腕をつかんで下ろし、余計なお世話だと言うが、さっきよりも眉間のシワがとれていたから作戦は成功したようだ

 

「で、何で俺は今日連れ出されてんだ?」

「プレゼント買う」

「プレゼント?誰に?」

「ジン太くんにせがまれた

『12月25日はクリスマスだ!!先輩である俺様に何か用意しとけ』って」

「何だそれ?」

「ジン太くんにあげるなら雨ちゃんにもあげないと…

あ、あとは遊子ちゃんと夏梨ちゃんにも買おう」

「そんなの無視しとけよ」

「…できない

いつもお世話になってるから…」

 

それにあんなに楽しみにしている顔で言われたら余計に無理だ

何かいいものがないかまわりを見廻しながら歩いていく

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

今日はクリスマスイブのせいかカップルや家族連れが多かった

珍しく天の方から声がかかったときは何かと思ったがプレゼント選びの手伝いとは思わなかった

 

(こども四人へのプレゼント探し…か

 こいつも大分変わったってことか)

 

出会ったころならば考えられないことだったが今は自分からプレゼントを渡すだとか人に関わろうとするようになったことに安心する

隣を歩く天を見下ろせば何処かを羨ましそうに見ていた

 

(何かいいものでもあったのか?)

 

視線の先を辿ってみるとそこには親に甘える子供の姿があった

 

「天、どうした?」

「…何でもない」

 

天は嘘が下手になったような気がする

俺が分かるようになったのかは分からないが

何でもないわけない顔なのにそういう天の頭を軽く叩いてやる

そうすれば嬉しそうに目を細める

 

(天、頭叩かれるというか撫でられるのが好きだな

 撫でたら犬みてぇ)

 

尻尾があればちぎれんばかりに振って、クーンと鳴いていそうだ

始めは夜一さんの真似をしてやってみたが思っていたよりも効果があるらしい

少し拗ねたぐらいならこれ一発で機嫌が治る

 

「どんなものあげるか決めてるのか?」

「全く」

「お前な…それぐらい決めてこいよ」

「何あげればいいかわからない…」

「イメージとかねぇのかよ?」

 

歩きながら考え込む天はしばらくすると顔をあげて俺を見た

 

「イメージ…ジン太くんは何かおもちゃかバットとか?雨ちゃんは服でいいかなと思ってるけどどんなものをあげればいいかわからない」

「とりあえずおもちゃ売り場でも行ってみるか」

「ん…おもちゃ売り場は、向こうみたい」

 

近くにあったフロアマップでおもちゃ売り場を探し、見つけると天は先に歩き出す

その足取りは楽しそうでそれを眺めていると天が振り返りどうしたの?と首を傾げるから何でもないと答えて天の横に並ぶ

おもちゃ売り場に着き、店内を見て回る

 

「う~ん…」

「どうした?」

「わからない…」

 

正直、天の方がジン太や雨の好みがわかっているはずで天にわからなければ俺にはわからない

 

「…最近何かほしいとか言ってなかったか?」

「…聞いた憶えがない」

「…普段遊んでるものとか」

「…外で遊ぶか雨ちゃんをいじめてるか」

「…ならスポーツ店に行ってみるか」

「わかった…」

 

先ほどの足取りとは違い、少し落ち込んでいたようだった

だから頭を軽く撫でてやったらすぐに持ち直して再び楽しげに歩き出した

 

「何かいいのがあったか?」

「これ…」

「グローブ?」

「うん…野球、よくやってるみたいだから」

「いいんじゃねぇか?」

 

スポーツ店に着き、店内を見て回っていると天が急に足を止めた

その手の中には赤の子供用のグローブがあった

ジン太へのプレゼントは決まったようで買ってくるのかと思えばそこを動かず俺を見上げてきた

 

「ねぇ…夏梨ちゃんもよくスポーツやってるみたいだけど何かほしいとか言ってた?」

「夏梨と遊子の分はいい」

「何で?」

「何でって、気を使う必要はねぇよ」

「気を使ってるつもりはない

 あのときのお礼、まだ何もしていないから」

 

寂しそうに言うのを見てこれ以上反対出来るわけもなく仕方なく考えるが、夏梨が欲しいと言っていたものは親父と俺で用意してしまった

 

「ねぇな…夏梨がほしいって言ってたやつは俺と親父で用意しちまったし…」

「…なら考える

 一護さんたちは何あげるの?」

「靴とサッカーボールだな」

「それと被らないように選ばないと」

 

終始楽しそうにプレゼントを選ぶ天の姿を少し嬉しく思いながら眺めていた

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

それから服屋さんに行って雨ちゃんに似合いそうなワンピースを買った

遊子ちゃんにはショッピングモール内にあったキャラクターショップで可愛くて触り心地のいいぬいぐるみを買った

 

「これで全部…

 サンタさんは大変」

「?」

「たった四人のプレゼントを選ぶのがこんなに大変なのにサンタさんは世界中の子供のプレゼントを選んでる」

「…そうだな」

 

―――真夜中

私はジン太くんや雨ちゃん、夏梨ちゃんに遊子ちゃんの枕元にプレゼントを届けていた

今夜はサンタさんなるものが子供たちにプレゼントを届けるらしい

サンタさんは昔からいるらしいが死神みたいなものなのだろうか

そんなことや喜んでいる姿を思いながら全て届け終わり、ばれないように自室に戻るとまだ居間に明かりがついていた

気になって行ってみると一護さんがそこにいた

 

「どうしたの?」

「お前に渡したいものがあるんだよ」

 

一護さんに手招きされて向かいに腰を下ろす

 

「メリークリスマス」

 

差し出されたのは赤と緑の袋で、中には柔らかい何かが入っているようだった

それを両手で受け取り固まっていると一護さんが開けてみろと言うから袋を開けてみるとそこには温かそうな手袋があった

すぐに気づいた

これは私が遊子ちゃんのプレゼントを選んだ向かいの店に置いてあるのが見えて、温かそうだなと思っていたものだった

 

「これ…」

「お前いつも寒そうに手こすったりしてるだろ

 お前にちょうどいいと思ったんだよ」

 

着けてみるとすぐに手が温かくなった

嬉しくて一護さんを見上げると照れくさそうに頭をかきながらそっぽ向いていた

 

「ありがと

 大事にする」

「おう」

「これでもう寒い思いしなくてすむ」

 

一護さんは立ち上がり私の頭を撫でて、じゃあなと居間を出ていった

その後ろ姿を見送る

 

「天、嬉しそうじゃの」

「嬉しい…家族以外から初めてプレゼントもらった」

「よかったっスね」

「うん…」

 

入れ替わるように入ってきた浦原さんと夜一さんが私と私の手の中にある手袋を見て、優しく笑いかけてくれる

 

「天、そろそろ寝ろ」

「そうっスよ

 よいこはもう寝ないといけない時間っすよ」

「…わかった」

 

まだもう少し起きていたかったが、夜一さんと浦原さんに寝ろと居間を追い出される

時計を見ればいつもはもう寝ている時間だった

仕方なく自室に戻り、手袋を枕元に置いてふとんへ入る

するとすぐに心地いい微睡みに包まれ、夢の中へと意識を落とした

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

天にプレゼントを渡し、自分の部屋に着く

部屋に入るとすぐに机の上に置かれた包みに気がついた

 

「何だこれ?」

 

近づいていればメッセージカードがついていた

それを開けて読む

 

『一護さんへ

メリークリスマス

クリスマスは大切な人にプレゼントを渡してもいいと聞いたので贈ります

一護さんに似合うと思うので使ってくれると嬉しいです

天より』

 

メッセージカードを脇に置き、包みを開けてみるとそこには今日、天とショッピングモールに行ったときにいいなと思ったマフラーが入っていた

 

「あいつ…いつの間に…」

 

思いがけない相手からのプレゼントに驚きながらもとても嬉しかった

今年は人生で一番いいクリスマスになりそうだ




今回も最後までお読みいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです
それではこの辺で失礼します
次回の投稿は一週間後の1月1日を予定しています

アルフレット


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外伝~お正月~

投稿日は元日ということで今回はお正月特別編です
大急ぎで仕上げたため文がおかしいところがあるかもしれませんが、後々直していくつもりです
今話も前回同様本編には関係ありません
ですが、クリスマス編の続きなのでその二話は続いているのでその辺りはご注意下さい

それでは今回も最後まで読んでいただけると幸いです

アルフレット


今日は十二月三十一日…つまり今年最後の一日、大晦日

浦原商店ではゆったりとした時間が流れていた

昨日までは大掃除でバタバタしていたがそれも無事に終わり、私は今日鉄裁さんの手伝いをしていた

 

「これでいい?」

「はい」

 

それももう終わり

最後の一品をお重に詰めておせちも完成

色とりどりでいくつか味見をさせてもらったけどどれもとても美味しかった

 

「天殿が手伝ってくださったおかげで早く終わりましたな」

「役に立てたならよかった」

 

手伝いを終え、エプロンをとる

お重を丁寧に積み、満足そうに頷く鉄裁さんの様子を見ると手伝ってよかったと思う

明日、みんなで食べるときが楽しみだ

手伝うことははもうないそうなので自室に戻ることにした

外はもう暗く、時計を見ればもういつもなら夜ごはんを食べている時間を過ぎていた

鉄裁さんがいろいろ味見させてくれたから夜ごはんを食べようにもお腹いっぱいで何もする気にならない

年越しそばを楽しみにしていたが今年は諦めよう

今日というか明日は一護さんたちが初日の出を見に連れていってくれるらしい

それまで特にすることはない

手持ち無沙汰になり、なんとなく横になる

寝転び、窓の外に見えた晴れ渡っており夜空は晴れ渡っており、満月が明るく照らし出していた

満月で明るい中、少ないながらも星々が瞬いていた

兄さんがいなくなってからの、独りだけの初めての年越し

そんなことを思ったが、こんなことを言えば一護さんにまた怒られるのだろう

実際には私のそばに兄さんがいなくなったけど一護さんたちが今は私のそばにいてくれる

さみしくはないと言えば嘘になるがそれでもさみしさに押しつぶされることはない

それも全てみんなが私のそばにいてくれるからだ

明日はそんなみんなと初詣に行って、浦原商店(ここ)で今日作ったおせちをみんなで食べる

久しぶりに『楽しみ』という感情が顔を出したような気がする

そんなことを思いながら目を閉じるといつの間にか心地よい微睡みに包まれ、それに抗うことなくそのまま身を委ねた

 

目を開けるとまだ暗い天井が見えた

何時かと思い時計を見ればもう時計の針は午前五時を少し過ぎたころを指していた

集合時間は六時、集合場所は浦原商店前

まだ一時間ある

みんなで初日の出を見たあとは初詣に行って、浦原商店に戻っておせちを食べる

みんなが当たり前のことのように約束してくれた

 

のんびりと用意をしていると気づけばもういい時間になっていた

忘れ物がないか確認して部屋を出る

その前に机の上に置いておいた一護さんからクリスマスにもらった手袋を着けて準備万端

意気揚々と部屋を出る

一応居間に書き置きを残しておく

靴を履き、外に出るとそこにはもう一護さんが来ていた

 

「おはよ」

「おう」

 

私が来たことに気づきこちらを見る一護さんの首もとにはクリスマスにプレゼントしたマフラーが巻かれていた

あれから何度か会って、使っていると聞いていたが実際に巻いている姿は一度も見たことがなかった

あげた自分が言うのも何だがよく似合っていると思う

 

「マフラー、着けてくれてる」

「ん?これか?

前に着けてるって言っただろ?」

「言ってたけど見たことなかった

思った通り似合ってる」

 

私がそういうと一護さんは何故かそっぽを向く

どうしたのかと顔を覗き込むと、少し頬を赤く染めていた

何だか嬉しくなって顔を近づけると一護さんに頭を押さえ込まれた

そして、ポンポンと優しく撫でられる

 

「新年早々、何をしているんだ、黒崎?」

「天ちゃんだけずるーい!!」

「…」

 

いつの間にか来ていたのであろう三人にようやく気づく

 

「何だよ、石田!?お前は黙ってろ」

「何!?」

「井上も天と同じことしてほしかったらこっちに…」

「う、ううん!!いいの!!」

 

織姫さんは顔を真っ赤にしながら手と首をブンブンと横に振る

その様子に一護さんは首を傾げながらそうかと言っている

石田さんはもう相手にされないとわかっているのか自分は冷静だとでもいうように眼鏡を直していた

茶渡さんはそんな三人の様子を無言で静かに見守っていた

いいと言っても見つめてくる一護さんに織姫さんは顔を真っ赤にしたまま逃げるように私の方を向く

 

「天ちゃん!!」

「なに?」

「あけましておめでとう!!」

「お、おめでとう」

 

突然で驚いたせいでぎこちない挨拶になってしまった

それでも織姫さんは気にすることなく私の手をとって、今年もよろしくねとブンブン振る

されるがままになっている私に一護さんは少し笑う

正直助けてほしいのだが助けてくれる気配は全くない

 

「全員揃ったし行くか」

 

一護さんの号令で初日の出を見に浦原商店をあとにする

まだ人気のない道を五人で歩いていく

歩いていくうちにどんどん空が明るくなってきた

それからしばらく歩いて、空座町の外れにある小高い山の頂上に着いた

 

「着いた…」

「疲れたか?」

「…少し」

 

頂上の少し見開けた場所の入り口で立ち止まっていると一護さんが顔を覗き込んできた

顔をあげれば織姫さんたちはもう先に進み、もうすぐ顔を出す太陽を待っていた

 

「黒崎くん!天ちゃん!早く!!

もうすぐだよ!!」

「おう」

「わかった」

 

織姫さんに呼ばれ、みんなところへと向かう

そこへ行けば織姫さんは満面の笑みで迎えてくれる

織姫さんが指を指す方を見ると地平線の向こうから空座町を照らし出す太陽が姿を現し始めていた

それの美しさに誰一人言葉を発することなくただただ魅入っていた

それから太陽が完全に昇りきってもしばらく口を開けずにいた

ようやくみんなが我にかえり、一斉にため息を吐く

 

「きれいだったね~」

「きれいだった」

「…そうだな」

「たまにはこういうのもいいな」

「そうだね、黒崎と同じ考えなのは認めたくないが」

 

またケンカが始まるかと思えば一護さんは言い返すつもりはないのか太陽を眺めていた

その横顔を見ているとそれに気づいた一護さんは私を見下ろしてきた

 

「なんだ?」

「何でもない

言い返さないんだと思っただけ」

「この景色を見ているとそんなことどうでもよくなってな」

「ふーん」

 

一護さんは隣で何だよと言っているがそれを無視して日の出に目を戻す

そんな私の姿にため息を吐きながらも一護さんも太陽に視線を戻す

それからしばらくして時計を見ればもう一時間半過ぎていた

 

「そろそろ初詣に行くか」

「うん…行って帰ったらお雑煮とおせちが待ってる」

「まるでお正月だね!!」

「?今、お正月」

 

織姫さんの意味不明な言葉に首を傾げるがみんなは特に何か反応することはなく普通にしている

それから太陽に背を向けて神社に向けて歩き出す

神社に着けばそこは出店が並び、たくさんの人で溢れ帰っていた

 

「すごい人…」

「思っていたより多いね」

 

少し気を抜けばすぐにはぐれてしまいそうだ

少し歩くだけで誰かにぶつかってしまう

 

「大丈夫か?」

「…大丈夫じゃない

早くお詣りして帰る」

 

一護さんはそんな私の言葉に苦笑いを溢す

また私が誰かとぶつかり、流されかけると一護さんはすかさず手をとってくれた

 

「大丈夫か?…大丈夫じゃなさそうだな」

「もう疲れた」

「天ちゃん、ちっちゃいから大変だね」

「…ちっちゃくない」

 

それから何故かみんなに囲まれながら進み、ようやくお賽銭箱の前に出ることができた

みんな一列に並び、お賽銭を投げ入れる

心の中で願い事を呟く

 

『これからもみんなと一緒に過ごせますように』




最後までお読みいただきありがとうございます
次回の投稿は8日を予定しております
次回も読んでいただけると嬉しいです
それではこの辺で失礼します

アルフレット


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第三十六話

世間ではクリスマス…皆さんはいかがお過ごしでしょうか(過ごされたでしょうか)
恋人いない歴=年齢の私はバイトで寂しさを紛らわすつもりです
皆さまがよい一日を過ごされることをお祈りしております

それでは今回も最後までお読みいただけると幸いです

アルフレット

*クリスマスはとうに過ぎていましたね…
もともとこの話をクリスマスに投稿する予定だったのです
スイマセン…


「ふぅ…」

 

義骸を纏った私は一息をつく

周りを見回せば止水がいたところを呆然と眺めている一護さんたちがいた

 

「えーと…皆サン?そろそろ上に上がりましょうか」

「上がる」

 

浦原さんが声をかけてようやく戻ってきたようだ

それを確認すると私は上がるべく梯子のもとまで歩き出す

 

「あ、おい‼待てよ‼」

「天ちゃん!待ってよ~」

 

後ろから声をかけられるが、そんなことを気にせずに歩く

すると急にフワッとしたかと思えば、斜め上に夜一さんの顔が見えた

 

「夜一さん…どうして担ぐの?もう歩ける」

「お主のその姿では上がるのに時間がかかるだろうと思ってな

 そのままじっとしておれ」

「いい。自分で歩く」

「いいからじっとしておれ」

 

夜一さんはいたずらっ子のような笑みを浮かべて、私に有無を言わせず、そのまま歩き始める

助けを求めて浦原さんを見るが、大人しくしていろと目で言われただけだった

一護さんたちにも助けを求めるが、一護さんはまた小太刀を見ていて私の視線に気づかず、織姫さんと茶渡さんは微笑ましそうに、石田さんは我関せずといった感じだった

仕方なく諦めて大人しくする

その様子に夜一さんは満足したのか頷いていた

そして勉強部屋を出て、いつもの部屋でちゃぶだいを皆で囲む

 

「さて、今日はこれで解散にしましょう」

「ム…もうこんな時間か…」

 

時計を見るともう六時をゆうにまわっていた

 

「天はどうするんじゃ?一護の家に帰るのか?」

「このまま浦原さんの家(こ こ)にいるなら俺から言っておくぞ」

「今日は一護さんの家に行く

 ちゃんとお礼言いたいから

 明日からはここにいる」

 

私がそう言うと浦原さんと夜一さんは何故か嬉しそうに少し笑う

 

「わかりました

 黒崎サン、天サンのことお願いします」

「あぁ、帰るぞ、天」

 

一護さんが立ち上がったので、私も立ち上がりあとに続く

顔だけ振り返りながら二人を見た

 

「ん…また明日、浦原さん、夜一さん」

「気をつけてな」

「うん、二人も今日の夜、忘れないで」

「わかっていますよ」

「ならいい…さよなら」

 

最後に二人に小太刀を枕元に置くように念を押す

そして一護さんたちと浦原商店をあとにした

 

「あ~あ…今日が天ちゃんと一緒に帰れる最後の日か…」

「一緒に帰れなくても会える」

「そうだけどさ~」

 

織姫さんは浦原商店を出てからずっと同じことばかり言っている

残念がってくれるのは嬉しいが そろそろめんどくさくなってきたから、話題を変える

 

「一護さん、何て言ったの?」

「何がだ?」

「私が帰らない理由」

 

他に思いつかなくてとりあえず訊く

ようやく私の聞きたいことがわかったようであぁと声を上げていた

 

「遊子たちには『天は親戚の家に泊まる』って言ったぞ」

「ふーん…」

「何だよ?その反応は!」

「別に何もない」

 

一護さんはまだ横でぶつぶつ言っているけど、こういうときは無視するのが一番、と学んだ

いつの間にか分かれ道に来ていたらしい

 

「じゃあ、また明日‼」

「うん、また明日」

「気をつけてな」

「ム…」

「あぁ」

 

今日、ここでまた明日と言うのが最後だ

織姫さんが寂しがっていたのが少しわかった気がする

そんなことを思いながら三人の背中を見送った

三人の背中が見えなくなってから私たちは黒崎家へと歩を進めた

久しぶりに見る《クロサキ医院》の文字

ここに来てからそんなに日は経っていないのに、浦原さんのところに泊まっていたのはほんの少しの間だったのに何だか懐かしい

 

「ただいま」

「…ただいま」

 

久しぶりに黒崎家の玄関をくぐる

皆の明るい声が迎えてくれる

 

「お兄ちゃん、天さん‼おかえりなさい‼」

「おかえり」

「うぉー!!天ちゃん、おっかえり~!!」

 

いきなり一心さんが私めがけて飛んできた

思わず身構えるけど、私に抱きつく前に一護さんを顔を一発殴って止めてくれた

 

「ふん‼何してんだ‼このエロ親父‼」

「何するんだ‼一護‼天ちゃんだって寂しかったよ…」

 

顔をさすりながら私に同意を求めてくるけど、それを首を傾げることでスルーする

するとかなり傷ついたようだった

それに一護さんが勝ち誇ったように追い討ちをかける

 

「残念だったな‼そんなことないってよ」

「そ、そんな…」

 

ガクッと肩を落とす姿を見ると罪悪感が出てきた

困って横を見ると気にすんなと一護さんが小さく笑ってくれた

いつの間にかキッチンから出てきた遊子ちゃんが腰に手をあてて二人の間に立っていた

 

「お父さん‼何してるの⁉」

「俺だけか⁉一護は‼」

「お腹へった…一兄、天さん、早く食べよ」

 

遊子ちゃんの言葉にさらに傷ついたようだけどそれを気に止める人は誰もいない

今までのやり取りを止めることなく見ていた夏梨ちゃんがもう我慢出来なかったのか、イスの背もたれに顎を乗せて言った

それに応じるように一護さんはイスに座る

まだ固まっている私にイスを叩きながら言ってくれた

 

「あぁ、そうだな。天も座れ」

「うん」

 

私が席につくのを待ってましたと言わんばかりに遊子ちゃんがご飯を持ってきてくれた

 

「はい、どうぞ」

「ん…ありがと」

「食うか」

 

私の前にご飯が置かれたのを確認してから一護さんが言う

 

「「「「いただきます」」」」

 

一心さんはまだ席についてないけど先に皆で手を合わせる

一心さんが何か言っているけど皆が無視するので、私も聞こえないフリをする

今日も遊子ちゃんの作ってくれた料理は美味しかった

それが今日で最後になると思うと少し残念だ

そのことを言わないといけないと思うが、何と話し出したらいいかわからない

このままだと余計にわからなくなるような気がしたから考えるのをやめてそのまま話すことにする

 

「急で悪いけど、明日からまた親戚の家に泊まる」

「え?いつまで?」

「これからたぶんずっと…」

 

私がそう言うと、一護さん以外食べる手を止めて私の方を見る

 

「じゃあ…今日が最後?」

「そうなる」

「本当に急だね」

 

遊子ちゃんは寂しそうに、夏梨ちゃんは口では素っ気なかったけど、寂しく思ってくれているのがわかった

それが嬉しいのと同時に寂しく申し訳なかった

 

「ごめんなさい…」

「仕方ねぇよ

 もともと、家に来るのはその親戚が準備出来てなかったからだしな

 …言ってなかったか?」

 

一護さんがしれっと嘘をつく

遊子ちゃんも夏梨ちゃんもそれが嘘だとはわからなかったみたいで、一護さんに文句を言っていた

一心さんは無言を貫いている

 

「天ちゃん」

「何?一心さん」

 

今まで何も話さなかった一心さんが不意に私の名前を呼ぶ

一心さんの方を向くと真剣な顔をしていた

何を言われるのかと構えていると

 

「またいつでも泊まりに来るといい」

 

ニカッと笑って言ってくれた

その姿に思わず父さんの姿を重ねてしまった

私にこうやって笑いかけてくれる数少ない人たちを護るためにも戦おうと改めて心に決めた

 

「…ありがと」

 

そのあとは今までよりたくさん話しながらご飯を食べた

食べ終えると遊子ちゃんと一緒にお皿を洗う

そしてお風呂に入ってまた遊子ちゃんと夏梨ちゃんとおしゃべりをした

これまでで一番楽しい時間となった

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

晩飯を食べ終えて、風呂に入って俺は自分の部屋に戻った

 

「ふぅ…」

「おい!一護‼」

 

(今日は楽しそうだったな)

 

今日の天はいつもよりも表情が柔らかく見えた

あまり表情に変化はなかったが、ここ数日の間で一番穏やかだったように見えた

 

(それにしても…何だよ、枕元に小太刀を置いて寝ろって…)

「てめえはいつまで無視すんだ‼」

「グッ!!何すんだ⁉コン‼」

 

いきなり汚ないぬいぐるみがベッドに横になっていた俺の腹に蹴りをいれてきやがった

 

「てめえが無視するからだろ⁉それより離せ‼」

「お前、何か言ってたのか?」

 

初耳だ

コンが暴れるが背中を掴んでいるから問題はないが、うるさい

仕方なく落とす

 

「で、何だよ?」

「天ちゃんが帰ってきてるんだろ?あ…」

「断る」

 

コンが言いたいことはすぐにわかった

予想通り、天に会いたいらしい

 

「何だと⁉天ちゃんもきっとラブリーコン様にあ…」

「思ってねぇよ」

「お前に訊いてねぇ‼天ちゃんを連れてきやがれ‼

 直接訊いてやる‼」

 

再び、俺に突っ込んでくるが、見えていれば問題はない

また、取っ組み合いをしているとドアが開く音がした

ドアの方を見ると天が立っていた

 

「何を訊くの?」

「天、どうした?」

 

廊下まで聞こえていたのだろう

天は首を傾げながら入ってきた

 

「一応念を押しに…」

「わかってるよ」

「ならいい、おやすみなさい」

 

小太刀を枕元に置くように念を押しに来たらしい

天は俺が忘れていないのを確認するとクルリと背を向けた

それに焦ったようにコンが呼び止める

 

「ま、待て‼天ちゃん、ここに俺様がいるんだぜ?」

「うん…だから何?」

「な…そ、天ちゃんは寂しかっただろ⁉」

 

困ったように俺を見る

その目は正直に答えていいのかと訊いていた

コンが傷つかないように配慮する必要はない

 

「正直に答えてやれ」

「別に…そんなことなかったけど」

「だとよ、残念だったな」

 

コンは頭を抱えて何か叫んでいるが、そんなことは知らない

天は少し気まずそうだった




今回もお読みいただきありがとうございます
今年の更新は今回で最後となります

次回も読んでいただけると嬉しいです
それでは、この辺で失礼します
次回の投稿は一週間後の1月1日を予定しております。

アルフレット


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第三十七話

今回も最後まで読んでいただけると幸いです

アルフレット


天は部屋に戻り、俺は枕元に小太刀を置く

 

「何だ?それ」

「これか?血盟者の証だとよ」

「血盟者って何だ?」

 

正直、俺もよくわかっていない

ただ約束するのに儀式したというだけで普通に約束することとの違いもよくわからない

コンに真面目に答える必要もないと思い、簡潔に答える

 

「一番信頼した人と結ぶ契約みたいなものらしい」

「ふーん…血盟者って誰が?」

 

嫌な予感がする

 

「俺がに決まってるだろ」

「誰のだ⁉」

「ハァ…天のだ」

 

真面目に答えてもはぐらかしても騒ぎそうだが、真面目に答えた方がましだと思い、真面目に答えるが後悔した

 

「何でお前なんだよ!?どう考えても俺だろ⁉」

「どこをどう考えたらお前になるんだよ⁉」

 

俺はコンの口をふさぎ、横になる

すると、すぐに眠気が襲ってきた

それに抗うことなく眠りにつく

 

俺は気付いたら真っ白な空間にいた

 

「ここどこだよ?夢か?」

「うぅむ…半分正解だけど半分不正解だね」

 

声がした方を向くとそこには巫女(男だから神主か?)姿の男が立っていた

俺に向かって手を振っている

 

「お前、誰だ?」

「オレのこと?誰だと思う?」

 

めんどくさい

男はニコニコ顔で俺に近づいてきた

思わず身構える

 

「そんなに警戒するなよ…寂しいだろ」

 

ニコニコ顔から少し悲しそうな顔になる

 

「仕方ないじゃろ

 見知らぬ者が不気味な笑みを浮かべながら近づいてこれば身構えるに決まっておろう」

「ひどいなぁ…夜一さん」

 

聞きなれた声が聞こえて振り返るとそこには浦原さんと夜一さんが立っていた

 

「浦原さん!?夜一さん!?」

「どーも黒崎サン、こんばんわ

 龍サンもお久しぶりっすね」

「そうですね…最後に会ったのはまだ父さんと母さんが生きている時だったかな?」

 

浦原さんたちは何か話しているが、そんなことよりも何かモヤモヤする

 

(龍?…どこかで聞いたような…まさか⁉)

 

『龍っていうのは兄さんのこと』

 

ようやく思い出した

天と会って間もない頃に聞いた天の兄貴の名前

弾かれたように顔をあげると、俺を見る優しげな視線と交わる

 

「一護くんは気づいたみたいだけどとりあえず自己紹介だけしておこうか

 オレは院殿龍、天の兄だよ

 いつも妹が世話になっているね」

 

予想通りの答えが返ってきた

ただ、見た目は全く似ていないから違和感がある

 

「やっぱり天の兄貴か…

 …あまり似てないんだな」

「そ、そうかな?

 ちゃんと血はつながってるんだけどな…」

「まぁ…そうっスね」

「喜助さんまで…」

 

気にしているのか少し寂しそうな顔をした

ここまで似ていない兄弟は少ないんじゃないか

俺でも遊子と夏梨と似ているところはあると思う

この兄妹は全然似ていない

天は、ストレートの黒髪で、おっとりとした印象を受ける顔立ちをしている

それに対して、兄貴の方は癖のある白髪で、顔立ちはキリッとしていて天とは正反対の顔立ちをしているように思う

何も言われずに兄妹とわかる人は皆無だろう

 

「まぁ、気にするな

 お前は勇に似ておるが、天は皐月に似ておるから仕方ないじゃろ」

「そういうものですかね…」

「それで納得しておけ」

「うぅ…そうします…」

 

夜一さんがフォローしてようやく渋々頷く

天の兄貴には天とはまた違っためんどくささがある

天は話さなさすぎてめんどくさく感じるときがあるが、兄貴の方は…とにかくめんどくさい

今までのことがなかったのかのように俺の方を見る

 

「とにかく一護くん、天の血盟者になってくれてありがとう」

「別に礼を言われることじゃねぇよ」

「そうかい?それでも言わせてほしい、ありがとう

 天が血盟を結んだことは兄であるオレにとっても嬉しいことなんだ

 それにようやくひと安心出来るしね」

 

座るように促されて腰を降ろす

天の兄貴は安堵の表情を浮かべていた

 

「ひと安心?」

「あぁ…天は人に頼るのが昔から苦手でね

 ちゃんと血盟者を作ることができるのかずっと心配していたんだ」

「たしかにそうだな…」

 

俺たちに頼ることが出来ずに一人で抱えていた天を思い出す

 

「ハハ…あいつは一人で何でも抱え込むから

 全部周りを思ってのことなんだけどね…」

「それはわかってる」

「そうかい?それならよかった」

 

始めは頼るほどの力が俺たちになくてそれで頼ろうとせずに一人で抱え込んでいたと思っていたが、今は俺たちを巻き込んで何かあったら怖くて頼りたくても頼れなかったことを知っている

それが天の優しさだということも、俺たちのことを思って頼ろうとしないことも今はちゃんと理解している

 

「昔の天ってどんな感じだったんだ?」

「昔の天か…よく笑う元気な子だったよ

 あいつの笑顔は太陽みたいだったよ」

「そうなのか?」

「うん…父さんと母さんが死んでからは無理して笑うようになったけどね」

 

太陽みたいな笑顔で笑う天…正直想像できない

今はいつも無表情で、慣れてきた今なら少し表情の変化がわかるようになった

その変化も小さいもので笑うなんてことはほとんどない

 

「見てみたいな…その笑顔」

「そうかい?」

「アタシもまた見たいっスね」

「そうじゃの

 あやつの笑顔は見てるこっちも幸せになるからの」

 

浦原さんたちは昔見た天の笑顔を思い出しているのか視線が遠くなっている

その笑顔が見れるようにあいつのことをしっかり守ってやらないとな

 

「たぶん見れると思うよ

 ちゃんと一護くんたちが天の心を受け止めて、天の心の叫びを聞いて、あいつが一人で抱え込まなくなったらね」

「心の叫び…」

「そうだよ

 少しは本人の口から聞いたでしょ?」

 

あの夜、天が消えようとした夜、ようやく本当の気持ちを聞けた

まだ笑えないということは全部吐き出していないということか…

考えていた俺の思考を停止するように天の兄貴が声をかけてくる

 

「何か他に聞きたいことはある?」

「聞きたいこと…血盟者って何なんだ?」

「それもわからず、血盟者になったのかい?」

 

今にして思えばそうだ

あいつを護るためには血盟者になる方がいいと言われて血盟者になることを目的としていた

どんなものかもあまり考えずに

 

「一番信頼した人と結ぶものだということは知っている」

「それだけ?他には?」

「盟約を破ってはいけない…ぐらいか?」

「ハァ…天は…仕方ない」

 

盛大にため息をつかれた

俺のせいではないのに…

 

「詳しく説明しよう

 まず、血盟者は君の言う通り一番信頼した人と結ぶものだ

 結ぶときには結界師側から提示される盟約…これはほとんどの場合、自分が暴走したときに対することが結ばれる

 そしてこれを破ることは許されない

 もし破ればそれ相応の罰があたる

 次に両者が提示する契り…これは結界師側からのものは破っても何もない

 少しの罪悪感が残るだけだ

 しかし、相手側からのものは破ることは許されない

 これに対してもそれ相応の罰があたる」

「つまり天の『力を悪用されたとき封印し阻止すること』は破ると罰があたるということか?」

「その通り

 天の盟約を破れば君に下される罰は“死”だろうな」

 

罰という範囲を越えていると思う

 

「どうしてそんなことがわかるんだよ?」

「言ったろ?それ相応の罰があたると

 天が暴走すれば多くの人が死ぬだろう

 それに対する罰は“死”が一番相応しいだろう?」

 

多くの人を犠牲にしてしまったことで俺には一番重い罰()があたるということか

 

「なるほどな…じゃあ、天が俺の契り『消えようとしない』を破った場合は?」

「おそらく“一生消えることが出来なくなる”だろうね」

 

消えたいのに消えることが出来ないのは罰になるだろうな

 

「もし天の契り『死なない』を破ったときは何もないのか?」

「何もないよ

 ないけど死ねば終わりだろ?」

 

死ねば何の罰も受けられない

罰があってもなくても同じだな

 

「それはそうだな

 でも、何で結界師の方は二つもあるんだよ?」

「さぁ?オレの推測では盟約は結界師本人の望みとはいいにくい

 稀に自分の望みを盟約にするやつはいるけど大半が自分が暴走したときという不確定な未来のために結ぶ

 暴走したやつなんてたった一人を除いていないしね

 だから罰なしでも契りを結ぶんじゃないかな」

 

まだわからない未来のために自分の望みを我慢する

そんなことするなら…

 

「不確定な未来のために結ぶ盟約はいらねぇんじゃないのか?

 暴走を止めろなんていう」

「そういうわけにはいかない

 血盟者でないと暴走を止めることは出来ないからね」

「どうしてだ?」

「暴走を止めるには血盟を結んだときに使用された小太刀がいるからだよ

 だから結界師は修行を終えるとすぐに誰かと血盟を結ばなければならない

 天は遅かったけどね」

 

なるほど…天が暴走したときに止められるのは俺だけということか

言い換えればあいつを助けられるのも俺だけ…

あいつは俺に命を預けてくれたということか

 

「だからね、一護くん

 天のことをよろしくお願いします」

「言われなくても、だ」

 

地面に手をついてまで俺に頭を下げてくる

天のことが大事なんだとよくわかった

今になってようやく気づく

 

「天からは兄貴は死んだと聞いていたんだけどよ…まだ生きているのか?」

 

天の兄貴は悔しげに顔を歪める

 

「たしかにオレは死んだ

 それについてはオレの血盟者が来てから話そう」

「誰だよあんたの血盟者って」

「来てからのお楽しみ

 きっとびっくりするよ」

 

さっきとは表情が一変し、いたずらを考えている子供のような笑みを浮かべている

何故か無性に腹が立つ

それからしばらくしても兄貴の血盟者が現れない

 

「それにしても遅い‼何してるんだか…寝るのが遅いからいつまで経っても背が伸びないん…」

 

突然、グチグチ言うのを止めたと思ったら勢いよく立ち上がる

顔には嬉しそうな笑みが浮かんでいた

 

「お、ようやく来たな」

 

天の兄貴と同じ方向に視線を向けるとそこには見覚えのある一人の男の子が立っていた




今回も最後までお読みいただきありがとうございます
楽しみにしてくださっている方には申し訳ないのですが、次回の投稿はしばらくお時間をいただきたいと思います
中途半端なところで申し訳ありません
遅くとも二月の上旬には投稿する予定です
それまでお待ちいただけると幸いです

アルフレット




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第三十八話

お久しぶりです…
2月の上旬には投稿を再開しようと思っていました…
それからかれこれ2か月…本当にすいませんでした

それでは久しぶりの最新話…最後まで楽しんでいただけると幸いです。

アルフレット


そこには白髪の小学生ぐらいの男の子が立っていた

 

「やぁ、日番谷

 遅かったね」

「院殿…」

 

日番谷は今この状況を瞬時に理解してオレが死んだことを悟ったのだろう

さすが天才少年だ

しかし、今空気を重くしたいわけじゃない

そのためには日番谷の気持ちを変えるしかないか

 

「もっと早く寝ないと大きくなれないよ」

「うるさい!!余計なお世話だ」

 

作戦は成功したようだ

ホッと一息ついて周りを見回せば目を開いて固まっている人が三人いた

 

「あんたの血盟者って冬獅郎だったのか⁉」

「ん?黒崎か」

 

一護くんは日番谷が俺の血盟者だということに驚いているようだけど、日番谷はそんな風に見えない

あいつの驚く顔が見れるのではと期待していただけに少し残念だ

それより天はオレの血盟者について何も言わなかったのか

 

「あぁ、そうだよ

 皆はお互いのこと知ってるよね?」

「あ、あぁ」

 

未だに少し固まっている三人をほぐすために本題の前に何か別の話を挟もうか

 

「まぁ、一応紹介しておこうか

 まず、オレの血盟者の日番谷冬獅郎

 父の院殿勇の血盟者の浦原喜助さん

 母の院殿皐月の血盟者の四楓院夜一さん

 そして最後に妹の院殿天の血盟者の黒崎一護くん

 天は何も伝えていなかったのかい?」

「尸魂界にいるとは言っていましたが、誰かは知らないようでしたよ」

 

紹介が終わる頃には三人とも復活していた

オレが天に血盟者について伝えていた気になっていただけか

でも伝えた覚えは…ないな

 

「兄妹そろってどうしようもないの」

「ハハ…申し訳ない

 さて、紹介もすんだことだしそろそろ本題に入りましょうか」

「そうっスね

 アタシたちをここに呼んだ理由から話してもらえますか?」

 

すっかり伝えた気になっていた

天には申し訳ないことをした

とりあえず心の中で謝っておこう

 

「もちろんですよ

 簡単に言えば天のことを頼みたいからです」

「天…お前の妹だったか」

「そうだよ

 まず、天の力については三人は聞いたよね」

「あぁ、止水が説明してくれた」

 

意外だ

天のことだからそういう話は自分ですると思っていたけど、止水が説明したなら心配はなさそうだ

 

「止水が説明を…止水なら大丈夫だと思うけど念のために日番谷もいるからもう一度説明するよ

 天の力は今存在する全ての世界を破壊できる

 厳密に言えば天の中の止水がその力を持っている

 そして作り替えることができる

 ここまではいいかな?」

「ひとついいっスか?」

「どうぞ」

 

喜助さんが小さく手をあげて口を開く

 

「その止水さんを扱うのは誰でもできるんスか?」

「出来ませんよ

 天にしか扱えない

 もし、止水だけ奪われたとしても天がいなければ意味がない

 では、話を続けますね

 止水の力はただの起爆剤に過ぎない

 さっき、全ての世界を破壊できると言ったけど正確に言えばそれも違う

 破壊できるだけの大きな力、というよりも結界術を扱う力を溜めておく結界器(けっかいき)の大きさが十分ないとそれは爆弾にはならない

 つまり、止水とそれを扱える天、そして大きな結界器を持った者、これらが揃わないと世界を破壊することはできない」

 

天には重いものを背負わしてしまった

代わることができたらと何度思ったことか

そんなことを思っていると夜一さんが口を開いた

 

「それができるほどの力を持った者に心当たりはないのか?」

「あります

 そのことについてはまた後で詳しくお話しします」

「俺からもひとついいか?」

 

夜一さんの次は日番谷だ

 

「何だい?日番谷」

「なぜ世界を破壊するのに必要なことがわかっている?

 世界を破壊すれば何も残らないのではないのか?」

「それは簡単なことだよ

 今、君たちがいる世界が破壊された後に創造された世界だからさ」

「何⁉」

 

話し始めてからそれが一族の機密事項であることを思い出す

この四人なら大丈夫だろうと思いながらも冷や汗をかく

 

「このことは他言無用で頼む

 日番谷の言う通り、破壊すれば何も残らない

 でも爆弾になった者、今は創造主とでもしようか…

 そいつが次の世界を創るための面子を決め、自分の庇護下に置くことで創造主とその庇護下に置かれた者たちは次の世界で自分として生きることができる

 それに選ばれれば自分たちの好きなように世界を創れるんだ」

「つまり彼らの目的は『新たな世界の創造』ということっスか」

 

皆、難しい顔をしている

 

「その彼らっていうのが薫たちを指しているなら半分不正解ですね」

「どういうことだよ?あいつらが天を狙っているのは間違いないだろう⁉」

 

薫たちのことが納得出来ないのだろう

一護くんはスゴい剣幕でオレに突っかかってくる

あいつら、そんなに酷いことをしたのか

 

「それについても後で詳しく説明するよ

 最後にこれだけ言わせてくれるかな

 世界を破壊したあとのことだ

 世界を破壊しても皆死ぬというわけではないんだ」

「さっきは何も残らないって言わなかったか?」

 

日番谷の目が恐い

いい加減なことを言うなってことだろうけど

 

「言ったね

 世界を作り替えた痕跡は残らない」

「それだとおかしくねぇか?痕跡が残らないのに誰も死なねぇって」

「おかしくないさ

 日番谷はどうかしらないけど三人は知っていると思うよ、その方法を」

 

三人は考え込む

喜助さんと夜一さんはすぐにわかるかと思ったがそうでもないようだ

しばらく待っているとどうやら喜助さんはわかったようだ

 

「…まさか…‼」

「喜助さん、わかりましたか」

「はい…記憶の消去ですか」

「その通りです

 正確には記憶の置換といった方が正しいですけど」

 

一護くんはまだよくわからないらしく首を傾げている

 

「どういうことだ?」

「世界の破壊と創造の正体は今この時を生きている人々の記憶を置換すること、ということか?」

「正解‼さすがだね、日番谷は」

 

折角正解したんだからもっと嬉しそうな顔をすればいいのに

ますます仏頂面になってる

一護くんは日番谷のまとめで理解できたのだろうが、一護くんは首を傾げながら訊いてくる

 

「創造主たちもそうなのか?」

「違うよ

 言ったでしょ、創造主とその庇護下に置かれたものたちは自分(・・)として生きることが出来ると」

「つまり、創造主とその庇護下にいる者共は記憶を置換せずに新しい世界を生きるということか?」

「その通りです、夜一さん」

 

オレの説明だけでは理解できなかったのだろう

難しい顔をしていることに気づいた夜一さんが簡潔にまとめてくれた

 

「全員の記憶を書き換えることなく新たに世界を創り変えることはできないんスか?」

「不可能というわけではないですよ

 ただ、それをするにはこの世に生きている人の顔と名前は知っている必要がある

 一度聞いたとかそんなレベルではなくて名前と顔が一致しなければならない」

「それではほぼ不可能ですね」

「まぁ…そうですね」

 

まず見ず知らずの人のためにそんなことする人がいるとは思えない

息をついて周りを見ると難しい顔をした一護くんが目に入った

 

「ここまではついてこれてる?」

「あ、あぁ」

 

本当かどうか怪しいけど時間を無駄にするわけにもいかない

分からないのならばまた後で喜助さんたちに聞いてもらうことにしよう

 

「じゃあ、次に進むよ

 創造主は創り変えた世界の王になる

 庇護下に置かれた者は差し詰め官僚と言ったところかな

 それでも、寿命がのびるというわけではないから創造主たちはもう生きてはいない

 起爆剤になる者は…」

「起爆剤となるやつはどうなるんだ?」

 

オレが突然口ごもったのを不審に思ったのか日番谷が先を促す

 

「起爆剤になる者は…新しい世界を創るための唯一の犠牲になる」

「っ‼それじゃあ…天は…」

「もし、あいつらの手に渡ってしまえば天だけがいない新しい世界ができるだろうね」

 

たった一つの犠牲

世界を創りかえるのには少ないだろう

それでも(あいつ)の兄であるオレはそんなこと許せるわけがない

他の何においても一番に(あいつ)の幸せを祈っているのだから

 

「なるほど…しかし世界を創りかえるための犠牲がたった一人というのは少ないですね」

「じゃが、それを無視できるわけがなかろう」

「あぁ、絶対に天を渡さねぇ」

 

その様子に安心する

日番谷は何も言わないけど、心の中では三人と同じことを思っているのだろう

なんだかんだ言ってそういうことを無視できない奴だから

 

「ありがとう

 改めて、(そら)のことを頼むよ」

「あぁ、任せろ」

 

一護くんの顔はとても頼もしかった

一護くんが天の血盟者になってくれたことを心強く思う

 

「ありがとう

 まだ話すべきことがあるから次の話に移ろうか」




最後までお読みいただきありがとうございます。
次回も読んでいただけると嬉しいです。
それではこの辺で失礼します。

次回の更新は一週間後の4月9日です。
9日には絶対に投稿します‼

アルフレット


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第三十九話

予定通りに投稿できました。
よかったです…

それでは今回も最後まで読んでいただけると嬉しいです

アルフレット


「さて、次の話に移ろうか

 次は敵のことについて話そう

 まずはそうだな…薫たちについて話そうか

 三人は知っていると思うけど界人はオレと同じで父さんに師事していた

 薫と伊織は母さんに師事していてオレたちは幼馴染であり、好敵手(ライバル)だった

 葵は天の唯一の友達と言ったところかな」

 

皆でバカやっていたころが懐かしい

あの頃はオレたちの後ろを天がついてきて、それを止めるために葵が追いかけてきたっけ…

そんな楽しい思い出に浸っていると喜助さんがオレを現実に引き戻すように声をかけてきた

 

「そんな薫サンたちがどうしてアナタたちを?」

「あいつらに何が起こったのか正確なことはわかりません

 これから話すことはあくまでもオレの考えとして聞いてください

 一族の村が襲われたとき、父さんと母さん以外誰一人として村にいなかった

 たしかに結界師(オレたち)は死ねば何も残らない

 だから全員が死んでいれば何もおかしなことはない

 でも全員殺すことは無理だろうね

 それにオレが見た限り、感じた限り襲撃者はたった一人だった

 そいつの衣服には血がついていなかった

 このことの意味がわかるかい?」

「ケガひとつせず村を制圧…」

 

さすが、喜助さんだ

一護くんと日番谷に訊いたつもりだったけど、まぁいいや

話、進めやすくなったし

 

「その通りです

 そんなこと一族の皆の戦い方や性格を知っているオレですら無理な話

 それなのにたった一人の襲撃者はそれをやってのけた

 どうしてそんなことが出来たのか…

 考えられる理由はふたつ

 ひとつ目、ただ単に襲撃者が誰も傷ひとつつけられないくらい強かった

 ふたつ目はその襲撃者が結界師であった

 薫たちが生きている時点で前者はあり得ない

 つまり、必然的に後者の“襲撃者が結界師だった”ことになる」

「でも、それでもあいつらが村にいなかったのなら襲ったやつが結界師とは限らねぇんじゃねぇか?

 それにケガしてねぇ理由にならねぇんじゃ…」

「あいつらがいなかったらね

 でも実際、そんなことはなかった

 あの日は特別な日でね

 村にいなかったのはオレと天だけなんだ

 それにケガをしてない理由は…」

「記憶を操作したんですか?」

 

喜助さんに先を越された

それしか考えられない

あの日は村で天に関する大切な会議が開かれた日だった

天に聞かれるとまずかったから監視役としてオレだけ天のそばにいた

他の皆はこれからの天の扱いに関して話し合いをしていたはずだ

 

「おそらく…

 襲撃者が結界師であれば一族の皆の記憶をいじれば無駄な戦闘を行わなくてすむ」

「じゃあ…仲間を殺したってことかよ…」

「まぁ…そうなるね」

 

信じたくない

オレの知っている皆は仲間想いでケンカはしても仲間を手にかけることなんて出来ない人ばかりだ

少なくとも薫たちはそんなことを出来る奴らではなかった

 

「薫サンたちにどのような記憶の操作があったと思いますか?」

「まず、薫たちはオレたちのことを知ってはいるが覚えてはいない

 そのことから考えるとどこかの忍の世界で言う“抜け忍”のような認識なんだろうね

 つまり、オレたちは一族から抜けた犯罪者、離脱者と言うところかな

 天が名前を呼んだとき驚いていたんじゃないかい?」

「うむ…驚いていたと言っておった

 そのせいで、引き上げたようだしの」

「そうなんですか…オレのときはそんなことなかったな

 オレの場合、界人だったけど」

「天サンは薫サン相手でしたね」

 

界人のときは怖かったっけ

何時もよりも速さと力が増して、より凶暴になった

薫ならそんなに動じることないかと思っていたけどそうでもなかったみたいだな

 

「薫か…まだ当たりだったかな

 おっと少し話が逸れてしまったかな

 話を戻そう…どこまで話したかな…襲撃者が結界師の可能性が高いというところまでだったよね

 襲撃者の正体に心当たりがあるかと言えばある」

「なっ!!誰なんだよ!?」

「父さんの弟、オレたちから見れば叔父にあたる院殿(まさる)

 この人は父さんと次期長の座を争っていた

 でも、なれなかった

 実を言うと実力で言えば二人とも同じぐらいだった

 村の長を院殿家の中で一番強い人を選んできた結界師の一族だから父さんでも叔父さんでもどちらがついてもよかったんだ

 二人とも同じぐらい強かったからね

 実力だけを見ればね

 でも、性格は正反対

 父さんは誰に対しても優しく、曲がったことが大嫌いな人だった

 それに対して叔父さんは表面上は誰にでも優しいけど心の中では自分さえよければそれでいい、自己中な人だった

 村民が二人のうちどちらを選ぶか、目に見えて分かっていた

 当然のことながら父さんが次期長に選ばれた」

「その腹いせに実の兄を殺したと?」

 

日番谷の顔が恐い

オレは無関係なのに

 

「それは少し違う

 少なくとも父さんは叔父さんが苛められたりしたときは庇っていたと聞くし、父さんが長に選ばれたことも一応納得していたしね

 オレが知っている限り、叔父さんも殺すほど父さんのことを憎んでいるわけではなかった」

「たしかにそうでしたね…

 仲がいいとはとてもじゃありませんが言えませんでしたけど」

 

浦原さんの言う通り仲がいいとは言えなかったけどそれでも二人はちゃんと兄弟だった

互いに認めあってはいた

たったひとつを除いて

 

「二人の仲が悪かった理由…それは考え方の違いだ」

「考え方?」

「父さんはいまこの時をこの世界を自分らしく生きていこう、そう考えていた

 つまり“世界を創り変える必要はない派”だったんだ

 でも、叔父さんは違った

 叔父さんはこんな理不尽が溢れた世界を終わらせて皆が幸せに暮らせる世界を創るべきだ、そう考えていた

 つまり“世界を創り変える必要がある派”だったんだ

 そして天が産まれたとき、その考え方の違いから二人の仲は完全に決裂した」

「今まで手段がなく、実現出来ないと思っていたところにお前の妹が産まれたことで実現するために最も必要なものが手に入った…」

 

日番谷の言葉に頷く

本当に理解が早くて助かる

さすが、天才少年日番谷冬獅郎だ

 

「天が産まれてからの二人の仲は本当に最悪だった

 天を力ずくで奪おうとはしないものの近づこうとはしていたからね

 天は特別な力を持っているせいで一族の長の娘であるにも関わらず周りからは疎まれていたから、そんな自分に優しくしてくれる叔父さんに懐くのに時間はかからなかった

 それに対してだけは父さんは厳しくしていたから父さんを怒らせないために会うのは控えていたけどね

 一方の叔父さんはなかなか道具が手に入らないことにずいぶん焦っているようだった」

「そこで、強行手段に出たと?」

「おそらく…

 爆弾、つまり《創造主になれる器を持つ人》はいた

 叔父さんの娘、オレたちから見れば従妹の院殿愛梨」

「その人が爆弾となり得る人物ですか…」

「天とは正反対だったよ

 こう言うと何だけど…性格はわがままで自分の思い通りにならないのをひどく嫌う子だったよ

 それでも媚び売っておかないと、もし、世界を創り変えたときに守ってもらえないからいつも周りにはたくさんの人がいた

 機嫌を損ねないように気をつけながらね

 娘同士も仲が悪くてよくケンカになってたよ

 二人がケンカしたときは叔父さんまでも天の味方をするから機嫌は最悪だったね」

 

二人の仲は父親同士よりも悪かった

というより、天は相手にせず愛梨の方が一方的に突っかかっていただけだけど

天も天で正論で返すから余計にヒートアップして手をつけれなくなって…

 

「あの人の娘だから考え方も同じで、しかも自分が世界の王になれる

 よく天に止水を渡すように言っていたよ

 その彼女は今…」

「既に相手側にいる…と?」

 

新たに産まれていなければ彼女しか、愛梨しかいない

愛梨が薫たちのそばにいる可能性はかなり高い

 

「おそらくね」

 

襲撃者は叔父さんで爆弾は彼女(あいり)

たしかにそうだ…そう考えないと納得出来ないことはたくさんある

それでも、一族全員の記憶置換をするには叔父さんでは力が足りないし、愛梨にはそんなこと出来る技術はない

他の何かが…別の何かがまだ関係しているはず…

でないと少しずつおかしい

オレが急に考え込んだのを首を傾げながら一護くんが口を開く

 

「おい、どうしたんだよ?」

「ん?何でもないよ…

 さて、とりあえずここまでの話で爆弾については話したよね

 じゃあ、次の話に移ろうか」




最後までお読みいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです
それではこの辺で失礼します

アルフレット


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第四十話

最後の投稿から二ヶ月半…
本当に申し訳ありません‼︎
現在日本におらず、留学中でして…というのはただの言い訳ですね

それでは今回も最後までお読みいただけると幸いです

アルフレット


「次の話に移ろうか

 これからのことについて少し話しておこうと思う

 まず、日番谷に訊きたいんだけど護廷十三番隊はどこまで把握している?」

「現世で何かあった程度にしか把握できていない」

 

何かあった程度…何かあったことしか把握していないということか

 

「隊首会は?」

「開かれたが、詳細がわかり次第もう一度開くことになった」

 

調査するとしたら動くのはあの隊かな

 

「十二番隊はどのくらい調べられた?」

「さぁな…明日、隊首会が開かれる

 そこでわかるだろう」

 

遅い…

もっと優秀だと思っていたのに結界を感知できないせいだろうか

 

「遅いですね…もうあれから日が経っています」

「いつもならもっと早くわかるはずじゃがの」

「今ここで瀞霊廷に文句言っていても仕方ないですし、動きがある前に天が血盟者を作ったのは助かりましたし結果的に良かったこともありますし

 で、日番谷…」

「言いたいことは大体分かるが、何だ?」

 

さすが、オレの血盟者

言わんとしていることがわかるなんて

 

「君に現世に、天のもとに行ってほしい」

「ハァ…だと思った

 努力はするが保証は出来ない」

「信じてるよ」

 

ため息まじりに了承してくれる

他の人を信用していないわけではないが、信頼は出来ない

天にとってもきっと日番谷の方がいいだろうし

日番谷の方はまぁ大丈夫だろう

何だかんだ言ってなんとかしてくれるし

あと問題は…

 

「さて、三人…というより一護くんにはある訓練をしてもらう必要がある」

「何のだよ?」

「結界を見えるようになってもらわないといけない」

「結界って見えんのか?」

「ものによる

攻撃とか戦闘で使うようなやつは君たちでも大抵見える

ただ、そのために訓練はしないといけないけどね」

 

父さんと母さんの血盟者だった喜助さんと夜一さんはまたすぐに見えるようになるだろうけど、一護くんはそうはいかないだろうな

 

「どうしたら見えるようになるんだよ?」

「それは天に訊いて

実際に訓練をつけるのはあいつだからね」

「天にか…」

 

天に説明させると聞いた瞬間一護くんの顔が曇った

一護くんだけでなく喜助さんや夜一さんの顔まで曇る

気持ちはわかるが自分の妹をそんな風に思われているのは少し…いやかなりショックだった

 

「…心配なのは分かるよ

大切なことはしっかりと説明するはずだから…たぶん

そんなに心配なら止水に任せればいいよ

止水なら安心でしょ?」

「まぁ…そうっスね」

「冬獅郎はどうすんだよ?」

「日番谷は前にオレが訓練つけているから大丈夫

 少し感覚を取り戻すために訓練しないといけないかもだけど

 現世に行ったら天に訓練つけてもらって」

「あぁ」

 

日番谷のことはあまり心配していない

少し訓練すればすぐに見えるようになるだろう

そんなことを考えていたら意識が遠のくような感覚がした

どうやらもうそろそろらしい

 

「さてと…そろそろ時間切れかな

 最後に日番谷、例のもの、頼むよ」

「あぁ…」

 

例のもののためにも日番谷には天のもとに行ってもらわなければいけない

 

「そして一護くん、天に伝言を頼めるかな」

「伝言?」

「うん…これでオレは完全にこの世から存在を消すことになる

 だから天に伝えて欲しい

 『約束を守れなくてごめん。もう諦めることは何もない。しっかり生きろ』と」

「わかった、伝えておく」

「頼むよ」

 

オレの唯一の心残り…

自分の口から伝えることが出来ないのは悔しいが、伝えないのはもっと嫌だ

 

「喜助さん、夜一さん、天のこと見守ってやってください」

「ハイ」

「わかっておる」

 

天のことをオレたちの代わりに二人には天を導いてほしい

今のあいつには道を示してくれる存在がいない

本来はオレや父さんたちがすべきことだが、もうそばにいてやれない

それがどれだけきついか、オレはよく知ってる

そんな思いを天にはしてほしくない

もう頼むことはないかと探していたとき、

 

「間に合ったか…」

「止水…!?どうやってここに…?」

「小太刀を通じてだ」

 

なるほど

あいつなら出来るだろう

だけどそれなら天の精神でも割り込みは可能なのに…

止水が来たことに少しがっかりしてしまった

 

「自分が来てしまえば泣いてしまい、また君に心配をかけてしまうだろう、と天は考えていたな

 だから私が行くように天が言ったのだ」

「そうか…」

 

オレの考えを読んだのだろう

止水は訊いてもいないのに教えてくれた

 

「天から伝言を預かってきた」

「天から…?」

 

天からの伝言…

 

「うむ…『私のせいでごめんなさい』と」

「そうか…」

 

俯いて自分の手を見る

また、あいつに謝らせてしまった…

謝る必要なんてないのに…

人の気持ちばっかり考えて、気持ち(じぶん)を殺す

要らないことを覚えさせてしまった

 

「そしてこうも言っていた

 『ずっと護ってくれてありがとう

 兄さんの妹でよかった』と」

「そうか…」

 

あぁ…やっと謝罪より聞きたい言葉が、口にしてほしかった言葉が聞けた

涙で手がぼやけて見える

あいつの笑顔付きではなかったのは残念だがそんな贅沢を望むことはオレには許されない

あいつとの唯一の約束を破ってしまったのだから

ならば、オレからも伝えなければ…

 

「一護くん追加で伝えてほしい

 『お前を今まで護れてよかった。オレに護らしてくれてありがとう』と」

「あぁ…わかった」

 

涙を拭き、一護くんの顔を見て頼む

今まで天との約束を守りきれなかったことへの罪悪感しか天に対して抱けなかったのが嘘みたいに心はとても清々しい

傍から見れば泣き笑いのような顔に見えるであろう顔を次は止水に向ける

 

「止水、これからも天のことを頼むよ」

「心得ている」

 

止水は微笑を浮かべてオレの言葉にしっかりと頷いてくれる

それに安心した時、再びさっきよりも強く意識が遠のく感覚がした

本当に時間がない

 

「あぁ…時間切れだ…

 天のことをお願いします!!オレの代わりに護ってくれ…!!」

「任せろ!!」

「あぁ、約束は守る」

「ハイ」

「任せておけ」

「心配せずともよい」

 

五人の頼もしい顔を最後に見回して目を閉じる

すると自然と天が瞼の裏に映った

父さんたちが死んでからよく見るようになった無表情の天がそこには立っていた

 

(ごめんな…こんな兄貴で

 でもお前の兄貴でいられて良かった

 お前を護らせてくれてありがとう)

 

瞼の裏に映る天に向かって心の中で言う

その声が聞こえたのか天が驚いたような顔をしたあと、父さんたちが死んでから一度も見せることがなかった笑顔を浮かべた

最後に見たのは随分と昔なのにはっきりと鮮明に浮かんできた

そして笑みをさらに深めてオレが天に笑顔で言ってほしかった言葉をくれた

 

(先に父さんたちのところに行くよ

 お前はまだ来るなよ

 ゆっくりおいで

 お前を迎える用意を父さんたちとしておくから)

 

これを最後にオレの意識は完全に遠ざかって行った

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

次に目を開けるとそこは何もない、ただ柔らかな光が差していた

初めて来たはずなのに妙に懐かしさを感じ、心が温かくなる

心地よくて目を閉じる

 

「龍…」

「ついにお前まで来てしまったか…」

 

声がする方を向けば懐かしい、会いたかった人たちがそこにいた

二人とも複雑そうな顔をしている

 

「やぁ、父さん、母さん…ひさしぶりだね

 ごめん…約束、最後まで守れなかったよ」

「そんなことないわ

 今まで天を護ってくれてありがとう

 お疲れさま」

 

今、出来る限りの笑みを浮かべるが、目には涙が浮かんでくる

結局、泣き笑いのような感じになってしまった

そんなオレに二人は近づいて頭を撫でて抱きしめてくれた

懐かしい温かさにずっと心に沈んでいた気持ちが沸き上がってくる

 

「オレ…結局、あいつを独りにしてしまった…!!」

 

涙が溢れ、下を向くオレに父さんがやさしい声音で言い聞かせるように言う

 

「龍…たしかにお前は天を独り残してこっちに来てしまったのかもしれない…

 だが、そもそも父さんや母さんが最後までお前たちを護れなかったんだ、そばにいてやれなかった

 本当ならまだお前も…」

「そうよ…あなたもまだここに来ていないはずなのよ

 私たちがしっかりしていれば今ごろ四人で楽しい毎日を送っていたはずなのだから…」

 

二人の声にはやさしさが滲んでいたがその一方で悔しさも滲んでいた

父さんの手がオレの頬に添えられそれに促されるように顔をあげる

 

「それに天が今まで生きてこれたのは間違いなくお前のお陰だ」

「龍が今まで天を護ってくれたお陰であの子は今も生きている

 そして、血盟者を見つけることが出来たの

 私たちはそばにいてあげられなくなったけど私たちの代わりにそばにいてくれる人を見つけたわ

 だから、もう自分を責めないで

 あなたは本当によくやったわ」

 

もう二人の顔には複雑そうな表情も、声に悔しさもなくただただやさしさだけしかなかった

その表情に声にさらに涙が溢れる

 

「父さん…母さん…」

 

オレが二人を呼ぶとよりいっそうやさしく微笑んでオレを抱きしめてくれた

心地よい温かさに包まれながら残してきた天のことに心の中で語りかける

 

(天…ここで父さんと母さんとお前のことを見守ってるから、精一杯生きろ

 十分、生きたらこっちにおいで…また四人一緒に過ごそう

 そのときにお前の話をたくさん聞かせて

 お前の心からの笑顔を見せてな)




最後までお読みいただきありがとうございます

なるべく次話を早く投稿できるように頑張ります…
次回の投稿も読んでいただけると嬉しいです

アルフレット


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