ドラゴンボールUW~記憶を失くしたサイヤ人~ (月下の案内人)
しおりを挟む

序章
敵か味方か?記憶を失った男


初投稿です。序章が長いのでなかなか東方キャラが出てきません。
この作品にはブロリーが出てきますので苦手な方はご注意ください。


 ここはパオズ山。悟空たちは六日後のセルゲームに向けて英気を養っていた。

悟空と悟飯は暖かな日差しを全身に浴びながら、日向ぼっこを楽しんでいるようだ。

 

「よーし、悟飯!昼飯に魚でも獲ってくっか」

 

「はい、お父さん」

 

 悟空は立ち上がって、家に少し入ってゆっくりと息を吸う

 

「チチ!ちょっくら悟飯連れて、飯獲ってくっかんな!」

 

「わかっただよ。気ぃ付けていってくるだぞ?悟飯ちゃんもあんまし危ねぇことするんでねえぞ?」

 

「うん、わかったよ」

 

 チチの許しをへて二人はパオズ山、奥地の小さな湖を目指して飛び立った。

 

~湖~

 

 湖に到着するとすぐに悟空は服を脱ぎ始めて、そこらへんの岩に無造作に置く

 

「この辺ならでっけえ魚が獲れそうだ。悟飯、準備はいいか?」

 

「いつでも大丈夫だよ、お父さん」

 

 悟空が振り向くとすでに悟飯も服を脱いでいた。悟空と違って丁寧に畳まれた服は水から少し

離れた場所に置かれている。お互いの顔を見合わせ、合図をとって同時に湖に飛び込んだ。  

 二人は大きな魚を探して二手に分かれて湖の中を模索する。その時、悟飯は奇妙な気を感じて水面に顔を出した。

 

「ぷはっ!なんだろう。どこか不思議な気を感じる……」

 

 気ではあるもののそれとは別の不思議な力が辺りを覆っていた。悟飯が周りへの警戒を続けていると悟空も水面に顔を出した。

 

「お父さん!」

 

「わかってる。こんな変な感覚は初めてだ」

 

 普段とは打って変わり真剣な表情で悟空は辺りの気を探る。そして山の向こうを指さした。

 

「あっちだ。あの山の向こうは一番でかい気を感じる。悟飯、行くぞ!」

 

「はい!」

 

 二人は服も着ないまま不思議な気の元へ飛び立った。

 

「お父さん、一体何なんでしょう?まさかセル以外にもまだ何か出てくるんでしょうか……?」

 

「わからねえ。もしかすっと生き物じゃねえかもしれねえ。でも邪悪な気ではねえし……?」

 

 悟空は頭をひねらせて考える。もしも人造人間だったとしたら気は感じないはずである。かといって今感じている気は、自分たちの知っている気とは別の力も感じる。

 

「……こりゃ、面白くなりそうだ」

 

 悟空が小さく呟くとちょうど目的の場所にたどり着いた。見渡したところ特に変わった様子はないがやはりこの場所だけ、他とは違う力を二人は感じていた。

 

「__っ!お父さん、あそこ!」

 

「ん?」

 

 何かを見つけた様子の悟飯はすぐさま見つけた場所を指さした。つられて悟空もその場所に目を凝らすと、そこには一人の男が倒れていた。

 肩までの長さでぼさぼさの黒い髪。見たことのないシンプルなデザインの民族衣装を着た男が全身に傷を負って倒れていた。

 悟空たちはすぐさま男のもとに駆け寄った。

 

「おい、おめえ!しっかりしろ!」

 

「……う、うう」

 

「ひどい怪我だ……。お父さん、この人を家まで運びましょう!」

 

「ああ、オラが運ぶ。急いで帰るぞ。ついてこい悟飯!」

 

「はい!」

 

 悟空は男を担ぎ上げて全速力で自宅へ向かう。その後ろを悟飯がついていった。

 

~孫家~

 

 深い眠りの中、声が聞こえる。追い詰められたような高い声。苦しむような低い声。そして、腹の底から叫ぶような悲痛の声。

 誰の声だろう?なぜそんなに苦しそうなんだろう?なぜそんなに悲しい顔をしているんだろう?何もわからない中、一人の男の声が聞こえた気がした。

 

『ホウレン…おまえの敵は必ず俺が…俺たちがとってやるからな』

 

 その言葉が頭に響き男の意識は浮上し始めた。

 

「……ここはどこだ?」

 

「あ、目が覚めたんですね」

 

「おまえは……?」

 

「ボクは孫悟飯っていいます。それより体のほうは大丈夫ですか?」

 

 悟飯が心配そうに治療された男の体を見る。だが当の本人は不思議そうな顔をしていた。

 

「怪我……。なんで怪我なんてしてるんだ?それにここは一体どこなんだ?」

 

 その言葉を聞き悟飯は不思議に思った。ここがどこなのかわからないのはともかく、自分が怪我をしていることすらわからないなんて一体どういうことなんだろう……と。

 だが幼い頃から勉強をしてきた悟飯にはピンとくることがあった。

 

「……もしかしたら、軽い記憶障害になっているのかもしれない」

 

「ん……?なにか言ったか?」

 

「あ、いえなんでもありません。それよりちょっと待ってくださいね」

 

 悟飯はひとまず記憶障害のことは置いておき、悟空とチチを呼んだ。するとすぐに二人が駆けつけてくれた。

 

「よお!おめえ大丈夫か?すげえ怪我だったけんど」

 

「悟空さじゃあるめえし、普通の人間があんな怪我して大丈夫なわけねえべ。おいおめえ、まだ治療したばっかなんだから無理して動くんでねえぞ?」

 

 駆けつけた二人はそれぞれ男を心配そうに気遣う。それを見て男は再び首をかしげる。

 

「あんたたちは誰だ?」

 

「オラか?オラ孫悟空だ。」

 

「オラは悟空さの妻のチチだよ。」

 

「ボクのお父さんとお母さんです。」

 

「そうか、親子なのか。……ところでなんで俺は怪我をしているんだ?」

 

 そう言い放った男の言葉に悟空とチチは少し驚いた顔をしてお互いの顔を見合わせる。

 

「おめえ、そんだな怪我してて何があったかも覚えてないだか!?」

 

「あ、ああ。」

 

 距離を詰めて息をまく姿に気圧されながら男は頷いた。その様子に悟空が腕を組んで考える。

 

「参ったなあ。おめえが目を覚ましたら、いろいろと聞きてえことが あったんだけんど。その様子じゃ聞けそうにねえぞ……。」

 

「すまない……。」

 

「わからねえもんはしょうがねえ、気にすんな!」

 

 悟空は組んでいた腕を解いて男のもとへ歩み寄り軽く肩を叩いた。申し訳なさそうにしていた男もその行動に少し安心したのか表情が和らぐ。

 

「あなたに一つ聞きたいことがあるんですが。いいですか?」

 

 悟飯は男の様子を見て自分の考えがあっているかを確認することにした。

 

「ああ、俺に答えられることなら構わない。」

 

「では……あなたが覚えていることってなにかありますか……?」

 

 悟飯の言葉に悟空とチチは首をかしげる。だが男はその質問に表情を暗くした。少しの間を空けて男はゆっくりと質問に答える。

 

「それが……覚えてないんだ。わかるのはせいぜい自分の名前くらいで…。」

 

「……やっぱり。」

 

 悟飯は男の言葉を聞いて自分の考えが当たっていたことを確信した。そこにいまいち話を理解できない悟空は悟飯に尋ねる。

 

「悟飯、何かわかったんか?オラちっともわかんねえぞ。」

 

 首をかしげながら悟空は悟飯に尋ねる。悟飯は深刻な顔をして悟空に説明を始めた。

 

「どうやらこの人は記憶を失っているみたいです。」

 

「記憶?ひょっとして、頭でも打ったんか?」

 

「だども頭にそんだな怪我なんてなかっただよ。」

 

「もしかしたら僕たちが見つけるよりもずっと前に何かがあったのかもしれません。それがなんなのかはわからないですけど……。」

 

「すまん、俺にも何があったかわからない。俺はいったい何をしていたのか…それさえ思い出せればいいんだが。」

 

 少し落ち込んだ様子の男に近寄り、その肩をに手を置いた。

 

「そう落ち込むなよ。きっと思い出せるさ。どうだ?どうせならおめえの記憶が戻るまでここに住まねえか?いいだろチチ?」

 

 突然の提案に男は驚いて悟空を見上げる。

 

「いや、さすがにそこまで迷惑をかけるわけにはいけないだろ。俺は一人でも大丈夫だ。」

 

「なに言ってるだ!そんな体でおまけに記憶まで無くなっちまってるだぞ?遠慮しねえでここにいればいいだよ。いまさら一人や二人増えたところでたいして変わんねえだ。」

 

「そうですよ。それに一人では危険もありますし、僕も記憶が戻るために協力しますよ!」

 

「……だが。」

 

「よし、じゃあ決まり!おめえは記憶が戻るまでオラの家に住むってことで。よろしくな!」

 

 男が何かを言う間もなく、悟空の意見は決定された。

 

「……あ、ああ。よろしく。えっと、ありがとう。」

 

 笑顔で手を差し出された男はもう意見をだすことができず、悟空の好意に甘えることにした。

そして差し出された手を取り悟空たちにお礼を言った。

 そこに悟飯が問いかける。

 

「そういえば聞きそびれてしまいましたけど、あなたはなんて名前なんですか?」

 

「俺か?俺の名前は……ホウレン。たしかそういう名前のはずだ。

 

「ホウレンか、じゃあ改めてよろしくな、ホウレン!」

 

「ああ、こちらこそよろしく。」

 

こうして謎の男ホウレンが悟空の家に住むことになった。

 

果たして記憶を戻すことができるのか。

 

そしてこの男がなぜ大怪我をしていたのか。

 

これ長い長い戦いの始まりの物語である。

 

「そうだ。とりあえず今の地球も状況も伝えとかなくちゃいけませんね。」

 

「ん?ちきゅう…?それの状況ってどういうことだ?」

 

「実は今、セルというやつが__」

 

 




いかがだったでしょうか?まだ初心者のためなかなか上手くいかないところもあり、投稿のペースも遅いですが、応援よろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

力を試せ!ホウレンの実力はいかに!?

第二話投稿です。文才がないためところどころ説明が下手かもしれません。


 セルゲーム開催まであと六日。ホウレンが悟空の家に住み着いて二日目になるが依然としてホウレンの記憶が戻る傾向はなかった。

 ホウレンと悟空はチチの言いつけで畑を耕していた。すると悟空がホウレンへ質問をしてきた。

 

「なあホウレン。おめえってひょとしてつええんか?」

 

「なんだよ突然。さあ、どうだろうな。体力はあるほうだと思うが……。」

 

「おめえ随分鍛えられた体つきしてっから、もしかすっとつええかもしんねえぞ。」

 

「そうか?まあ強いならそれに越したことはないが、記憶がないからな。確認しようがないぜ。」

 

 ホウレンが肩をすくめると悟空は笑顔で言い放った。

 

「じゃあよ、オラと組手してみねえか!」

 

「組手って……ご、悟空とか?」

 

 突然の申し出にホウレンは少し戸惑う。なぜならこの二日間の間でもすでに悟空の強さを何度も見ているからだ。

 湖に直接飛び込み、大きな魚を素手で捕まえてみせたり。巨大なイノシシや恐竜などもいとも簡単に倒してしまう悟空との組手は普通に考えれば無茶ぶりである。

 

「ああそうだ!おめえの力を見てみてえ!」

 

「いや、でもな……悟空と闘うってんならまだ恐竜とかのほうがまだいいぜ……。できれば俺が死なない程度のやつとか。」

 

「大丈夫だ!ちゃんと手加減すっぞ?それによ。つええやつと闘うのは楽しいぞ~!」

 

「楽しいって……そりゃ、相手との実力が近けりゃ楽しいかもしれねえけど、そうでなけりゃあただのピンチだろ?」

 

「そんなことねえさ。武道家なら自分より強いやつに会えばもっと強くなるために修行するし、なにより闘ってみてえって思う。それによ?もしかすっと、これがきっかけで何か思い出せるかもしんねえ。な?やろぜホウレン!」

 

 なんとか悟空を説得しようとしたホウレンの検討も空しく、説得に応じるどころかよりやる気を出させてしまい、ホウレンは降参するように小さくため息をついた。

 

「わかったよ。そこまで言われたら、俺も覚悟を決めるさ。悟空の言うとおり、もしかしたら少しでも記憶が戻るかもしれないしな。」

 

「やったあ!そうこなくっちゃな!へへっ、それじゃあ、始めようぜ!」

 

「待った。とりあえず場所を移そう。せっかく耕した畑が踏み荒らされちまうぞ?」

 

「おっといけねえ、そうだな。じゃあよ、ちょっと神様の神殿に行ってみねえか?あそこなら迷惑にはならねえし、ついでにみんなにもおめえを紹介もしてえ。」

 

「それは構わないが、神様の神殿ってなんなんだ?」

 

「そりゃおめえ、神様が住んでる家みてえなもんだ。」

 

「お、おまえ神様と知り合いなのか!?」

 

「まあな。つってもこの間、新しい神様に変わったばっかなんだけどな。さあ、ホウレン

オラの肩につかまれ。瞬間移動すっぞ。」

 

「瞬間移動って……ほんとになんでもありだな、おまえ……。これでいいか?」

 

「おう!じゃあいくぞ。」

 

 悟空はホウレンが肩をつかんだことを確認するとすぐに瞬間移動で神様の神殿へと移動した。

 

 ~神様の神殿~

 

「よし、ついたぞ。」

 

「おお、ほんとに移動できた!すげえな瞬間移動!」

 

「へっへ~そうだろ?覚えんの苦労したぞ~。」

 

「あら?孫くんじゃない。どうしたの?こんなとこまできて。」

 

「ブルマじゃねえか。おめえこそなんで神様の神殿にいんだ?」

 

「ちょっとトランクスの顔を見にね。もうそろそろ出てくるらしいのよ。」

 

「精神と時の部屋か。あいつもまた強くなってんだろうなぁ。」

 

「なんたってわたしの息子ですもの?当然よ。それより孫くん。そっちの彼は?」

 

「ああ。こいつはいろいろあって今オラの家に住んでるんだ。」

 

「はじめまして、俺の名前はホウレンだ。」

 

「へえ~。なかなか男前な顔してるじゃない。わたしはブルマよ。よろしくね。」

 

「ブルマか。よろしく頼む。」

 

「それで?孫くん。なんでこの子をあんたの家に住ませてるわけ?」

 

「それがよ、話すとなげえから、トランクスが出てきたらみんなにまとめていっぺんに話すよ。」

 

「なるほど、わかったわ。じゃあ、トランクスが出てくるまで待ちましょう。」

 

「よし。じゃあホウレン、その間に組手を済ませちまおうぜ!」

 

「そうだな、お手柔らかにたのむよ。」

 

 二人は神殿の広い場所まで移動してお互いに距離をとった。それを見て神殿にいた仲間たちがそれを観戦しに集まりだした。

 

「ピッコロ。あいつはだれだ?」

 

 天津飯は先にこの場に来ていたピッコロに問いかける。

 

「さあな。悟空が連れてきたようだが、今から組手を行うらしい。」

 

「悟空と?いくらなんでも無茶じゃないか?」

 

「普通ならな。だがやつから感じる気はどこか違う。」

 

「違う?違うとはどういうことだ。」

 

「俺にもわからん、だがひょっとするとやつは地球人ではないのかもしれんな。」

 

「準備はいいか!ホウレン!」

 

 ホウレンはゆっくり深呼吸をして拳を構える。

 

「おう!いつでもいいぜ!」

 

「よーし、いくぞ!!」

 

 悟空は一気にホウレンに詰め寄り、右拳で殴り掛かるがホウレンは紙一重でそれをかわし逆に悟空を殴りつけると難なく左手で拳を受け止められ軽い衝撃波が起こる。

 手加減しているとはいえ、超サイヤ人状態の悟空の攻撃をかわし、反撃まで加えたことにまわりが驚きの表情をみせる。

 だが一番驚いているのはホウレン自身のようだ。

 

「ははっ!おめえやっぱりつええじゃねえか!」

 

「お、俺自身も正直驚いてるとこだよ。体が勝手に反応しやがった。」

 

「その調子だ。どんどんいくぞ!」

 

 悟空は受け止めた拳を離し、即座にその腕を掴みホウレンを自らの後方へ投げ飛ばす。

 投げ飛ばされたホウレンは空中で体制を立て直し、着地と同時に悟空へ突撃して素早い連撃を繰り出した。しかしそれも悟空は難なくかわし、受け止めて見せた。

 

「くっ!やっぱつええ!全然当たるどころか、かすりもしねえ!」

 

 必死に悟空を攻撃するホウレンに対し、悟空は余裕の表情でとても楽しそうにしている。

 たとえどんなに力が離れていても、やはり悟空にとって闘いは楽しいものなのだ。

 

「えりゃあああ!」

 

「ぐうっ!?」

 

 悟空は連撃をかわすと同時にホウレンを蹴りつけ、ホウレンは避けることが出来ず後方へ大きく滑り込んでしまうがなんとか受け身を取り立ち上がる。

 正面を見ると悟空の両手に強い気が込められていた。

 

「ちょ、ちょっと孫くん!?」

 

「まて悟空!さすがにそれが当たればただでは済まんぞ!!」

 

「か~め~は~め~破ーーーー!!」

 

 ブルマと天津飯が制止するなかそれでも悟空はかめはめ波を放った。

 

「な、なんだこりゃ!?ぐぉあああ!!」

 

 かめはめ波をまともに受けたように見えたホウレンだったがなんと正面からかめはめ波を受け止めていた。

 

「ぐぬぬぬ……!!」

 

「どうした!おめえの力はそんなもんか!」

 

「ぐぐっ……だあああああ!!」

 

 ホウレンは歯を食いしばり後ろにどんどん押されながらもかめはめ波を上に弾き飛ばした。空へと弾かれたかめはめ波は大気圏を越え宇宙へと飛んで行った。

 

「はぁ…はぁ…っ!ど、どうだ。なんとかなったぞ!」

 

 周囲が驚く中、悟空は口元に小さな笑みを浮かべて、突き出した両手を下した。

 

「ここまでだ。ホウレン、やっぱおめえつええよ!オラの思ったとおりだ!」

 

「はぁ…はぁ…あ、ありがとよ。でも俺は限界…み…たい…だ…。」

 

 いままで気合で立っていたようなものであったホウレンは体に限界がきてその場に倒れる。意識が薄れゆく中みんなが俺に駆け寄ってくるのが見えた。

 

 ~神殿 内部~

 

 目が覚めると目の前に見知らぬ黒い人物が立っていた。

 

「おまえ目が覚めたか?」

 

「あ、ああ。ここは一体……それにあんたは誰だ?」

 

「俺ミスターポポ。おまえ悟空と闘って力尽きて倒れた。それを神様が治した。ここ神様の神殿の中。起きたならついてこい、みんな待ってる。」

 

 そういうとミスターポポはスタスタと歩き出す。それを見て慌ててホウレンはベッドから出て、後を追った。

 

 ~神殿 外~

 

「お、ホウレン!目が覚めたんか!」

 

 外に出ると真っ先に悟空が話しかけてきた。周りにはさっき闘いを見物していた人たちとその時いなかった長髪の青年が立っていた。

 

「迷惑かけたな。ところで俺の傷を治してくれたっていう。神様はどこにいるんだ?」

 

 あたりを見渡すと緑色の肌をした小さな子供が歩いてきた。

 

「はじめまして、ボクはデンデ。その神様です。といっても神様になったのはつい最近ですけど。」

 

「あんたがそうか。さっきは死ぬかと思った、治してくれてありがとな神様。」

 

「いえ気にしないでください。それとボクのことはデンデでいいですよ。」

 

「そうか?じゃあ改めてありがとな、デンデ。」

 

「ホウレン、トランクスも出てきたことだし。そろそろおめえのことを紹介してえんだけど、いいか?」

 

「そうだったな。じゃあ頼む。」

 

 悟空はホウレンに確認をとるとすぐにホウレンの横に立ち、みんなを呼び集めホウレンの事情をすべて話した。

 傷だらけで倒れていたことや記憶喪失のことを聞いたみんなは驚きの表情を見せた。

 

「そんなわけでなんとかこいつの記憶を戻してやりてえんだ。なんかいい考えがねえかな。」

 

 みんなが黙りこんでしまう中ピッコロが口を開いた。

 

「悟空、確かにそいつの正体が気になるのは確かだが、今の状況を忘れたのか?今はセルゲームに向けて皆修行している最中だ。そいつには悪いが付き合ってやれる時間がない。」

 

 ピッコロの言葉に全員が口を閉じる。ピッコロの言うとおり、今地球はセルゲームに勝たねばすべてが終わってしまうという時なのだ。ホウレン一人の記憶を戻している時間など残っているはずもない。

 

「そうだよな……。悪い、忘れてくれ。このことはやっぱり俺の力で何とか__」

 

「__待って!」

 

 引き下がろうとするホウレンの言葉を遮ったのはブルマだった。

 

「あのさ、みんなで明日お花見にいかない?」

 

「「「お花見ぃ??」」」

 

 ブルマの突然の申し出に皆が声を合わせて聞き直す。

 

「そう。お花見よ!もしかしたらこれで地球最後かもしれないんだから最後くらいパーッと騒ぎましょうよ!」

 

「お、オラは構わねえけど。みんなはどうだ?」

 

「さっきも言ったが、そんなことしている暇はない。俺はいかん。」

 

「悪いいが俺もそんな気分にはなれない。お前らだけで言ってきてくれ。」

 

「母さん、オレはいいですよ。少し息抜きもしたいですし。」

 

「ありがと、トランクス。ピッコロも天津飯も連れないわね~。じゃあ孫くん、そっちで声かけられる人には声かけといてくいれる?わたしは準備とかしておくから。」

 

「いいけどよ。なんだって急にお花見なんだ?」

 

「さっきも言ったでしょ?最後くらいパーッと騒ぎましょうって。……それにみんなで騒いで楽しいことをすればもしかしたら昔のことも何か思い出せるかもしれないでしょ?」

 

 ブルマの発言にホウレンは顔を上げて驚いた。

 

「あ、あんた最初からそのつもりで?」

 

「まあね。あなた悪い子じゃなさそうだし、手助けして上げたいじゃない?もしかしたら何も変わらないかもしれないけど、わたしにできるのはこれくらいだから。」

 

 その言葉を聞いてホウレンはブルマを正面に見据えて深く頭を下げた。

 

「ありがとう、それでも俺は嬉しいよ……。」

 

「いいのよ。ほら顔を上げて?記憶、戻るといいわね。」

「ああ!……悟空もありがとな。」

 

「気にすんな。それよか、お花見楽しもうぜ!」

 

「…あれ?そういやおまえ、明日はなんか用事があるんじゃなかったか?」

 

「え?そうだっけか?」

 

「ほら、確か悟飯の学校の面接とかって。」

 

「ああああ!!そうだった!わ、わりいブルマ。オラも明日は行けそうにねえ……。」

 

「あはは!残念だったわね孫くん?でも声かけはよろしくたのむわよ。」

 

「ちぇ~。しょうがねえな。」

 

「悟空、そろそろ帰ろうぜ。はやく畑に戻らねえとチチにどやされる。」

 

「そうだな。じゃあなみんな!ブルマ、明日はホウレンのことたのんだぞ。」

 

「ええ。任せといて。」

 

 悟空の肩に掴まりながらホウレンはみんなに軽く頭を下げた。

 

「みんな今日はありがとう。また明日。」

 

 そう言い残して悟空とホウレンは瞬間移動で帰っていった。

 

「ホウレンか……。」

 

「ピッコロ。何か気になることでもあるのか?」

 

「あいつの傷が治って神殿から出てきたとき奴の気が大きく上がっていた。」

 

「なに?どういうことだ。」

 

「……もしかすると、あいつはサイヤ人かもしれん。」

 

「な!?だがあいつには尻尾がついてなかったぞ!?」

 

「悟空やベジータと同じかもしれん、大怪我が原因で切れてしまった可能性もある。

……悟空め、また厄介なものを引き当てたかもしれんな。」

 

 ピッコロはそう言って空を見上げた。

 




次の更新はいつになるかわかりませんが早く書きたいと思っています。次回はパラガスやブロリーが登場する予定ですのでお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

波乱の予感 謎のサイヤ人パラガス

第三話更新です!この辺からだいぶ劇場版の内容が濃くなってしまいますがアレンジを加えて書いていきます。幻想入りはもうしばらくお待ちください。


 ブルマの提案で花見をすることになったホウレンは悟飯を連れて花見の会場にいた。

 クリリンや亀仙人、ウーロンにトランクスそしてベジータまでも来ていた。

 どうやらブルマに無理やり連れてこられたようだ。今はそれぞれ花見を楽しんでいる。

 

「おい貴様。確かホウレンとか言ったか?」

 

 ベジータはみんなをカラオケを聞いていたホウレンに話しかけた。

 

「そうだが、あんたは?」

 

「オレはベジータ。誇り高きサイヤ人の王子だ。貴様に話がある、ついてこい。」

 

「……?わかった。」

 

 二人はカラオケの場を抜けて近くの桜の木の下に移動した。

 

「では、単刀直入に聞くが。ひょっとして貴様はサイヤ人か?」

 

 突然の発言にホウレンは頭に謎マークを浮かべた。そもそも記憶がないホウレンにとってサイヤ人という単語すら初めて聞く言葉なのだ。それもあってさっきベジータが言ったサイヤ人の王子というのも実はよくわかっていない。

 

「わからない。そもそもサイヤ人ってのはなんなんだ?」

 

「ちっ、そうか記憶がないんだったな。面倒な奴め。まあいい説明してやる。サイヤ人とは惑星ベジータに住む、全宇宙最強の戦闘民族のことだ。とは言えすでに惑星ベジータは星ごと消滅しちまって、生き残ったのはオレやカカロットといったごく僅かな者だけだ。」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!惑星ベジータ?生き残り?ってことはあんたとそのカカロットってやつは宇宙人なのか!?」

 

「ああそうだ。ちなみにカカロットとは孫悟空のことだ。」

 

 衝撃の事実にホウレンは頭がいっぱいになる。だがなぜかサイヤ人という単語には聞き覚えがあった。

 

「……悟飯もサイヤ人なのか?」

 

「ああ。それにトランクスもだ。あいつらは例外で地球人とのハーフだがな。」

 

「そうだったのか……。」

 

「その様子じゃ、自分がどこの星の住人かも覚えてないようだな。だが貴様から感じる気は間違いなくサイヤ人のものだ。」

 

「俺が……宇宙人……?」

 

『なんだあれは!?』

 

『わああああ!!』

 

 信じられず戸惑っていると辺りが急に騒がしくなり始めた。

 すると空から突然巨大な宇宙船が降りたち花見の会場に強い風が吹く。

 

「あれは……?」

 

「どうやら宇宙船のようだな。まったく、今度は何が来やがったんだか。」

 

 遠くで宇宙船のドアが開き中からたくさんの兵らしき人達がこちらに向かって走ってきて、ベジータの前でひざまづいた。

 

「なんだなんだ!?」

 

「なんだ貴様ら、このオレに何か用でもあるのか?」

 

「捜しましたぞベジータ王子。」

 

 色黒の肌をして髭を生やした男が兵をかきわけてベジータの前にひざまづいた。

 

「……サイヤ人だな?」

 

「え。こいつもサイヤ人なのか?」

 

「パラガスでございます。新惑星ベジータの王になっていただきたく、お迎えに上がりました。」

 

「新惑星ベジータだと?」

 

「もう一度、最強の戦闘民族サイヤ人の優秀さを全宇宙に知らしめてやろうではありませんか!あなたの手で最強の宇宙帝国を築き上げるのです!」

 

「チッ、くだらん。いくぞホウレン。」

 

「お、おい待てよベジータ。」

 

 パラガスの提案を一言で切り捨てて歩き出した。ホウレンはそのあとを追い歩き出す。

 するとパラガスが新たな情報を伝えてきた。

 

「伝説の超サイヤ人を倒せるのはベジータ王、あなたしかいません!」

 

 その言葉にベジータの足が止まる。

 

「伝説の超サイヤ人……。」

 

「なんだよその伝説の超サイヤ人ってのは?」

 

「南の銀河一帯をその脅威のパワーで暴れまわっております。このままではせっかく築き上げた新惑星ベジータも伝説の超サイヤ人に……。」

 

「なんだよそれ、とんでもないやつじゃないか!」

 

「ところで貴方はベジータ王のご友人か何かですかな?」

 

「いや、俺は…その…。」

 

「そいつはオレたちと同じサイヤ人の生き残りだ。友人ではない。」

 

 どう答えていいかわからずいるところにベジータがハッキリと答えた。

 ホウレンはまだ自分がサイヤ人ということの自覚を持っていないため、少し戸惑う。

 

「なんと、我々以外にもまだサイヤ人が生き残っているとは!貴方も同じサイヤ人として共に戦おうではありませんか!」

 

「い、いや俺は別に。」

 

「父さん!それにホウレンさんも、ダメです!そんな話に乗っては!」

 

「貴様は黙っていろトランクス。パラガス!案内しろ!」

 

「父さん!!」

 

「貴方もどうぞ。ベジータ王の血を引くトランクス王子…。」

 

「……。」

 

 ベジータを乗せて宇宙船は出発の準備を行い始めた。そこで出発までにトランクスたちは話し合いを始めた。

 

「まったく、何新惑星ベジータの王よ。バカじゃないの?」

 

「母さん、オレが必ず父さんを連れて帰ります!」

 

「トランクスさん。ボクも手伝いますよ。」

 

「ありがとうございます!悟飯さん。クリリンさんはどうしますか?」

 

「お、オレはやめておくよ。今回は力になれそうにない。」

 

「わかりました。ではいきましょう悟飯さん!」

 

「待ってくれ!俺も連れて行ってくれないか!」

 

 宇宙船に乗り込もうとするトランクスたちを引き留めたのはホウレンだった。

 

「ですがホウレンさん。かなり危険かもしれませんから貴方を連れて行くわけには…。」

 

「聞いてくれ。ベジータによると俺は…サイヤ人らしいんだ。」

 

 ホウレンの言葉に悟飯は動揺を見せるが、神殿でピッコロの話を聞いていたトランクスはそのままホウレンの話に耳を傾ける。

 

「だから同じサイヤ人のあいつについていけば何か思い出せるかもしれない!勝手な頼みだと思うが頼む!俺も手伝わせてくれ!」

 

 そういって頭を下げるホウレンを見て、トランクスは少し考えてから首を縦に振った。

 

「わかりました。ではよろしくお願いします。」

 

「おう!絶対に役に立って見せるからな!」

 

「ありがたいですが、無理はしないでくださいね。何が起こるかわかりませんから。」

 

「ああ!」

 

「では母さん。オレたちは行ってきます。」

 

「ええわかったわ。トランクス。ベジータのことよろしくね…!」

 

「はい!」

 

 こうしてホウレン。トランクス。悟飯の三人は宇宙船に乗り込み数分後、宇宙船は地球を飛び立った。それから数時間後、新惑星ベジータに到着したホウレン達は出迎えに来ていた車に乗りようやく宮殿へとたどり着いた。

 

「ベジータ王。銀河の至る所から集めたならず者たちが貴方の従僕としてお待ちしておりました。」

 

 ベジータが宮殿に入るとそこには上半身が裸で筋肉質の男が立っていた。

 

「息子です。なんなりとお使いください。」

 

「ブロリーです。」

 

 ベジータはブロリーをじっと見つめた。

 

「おまえもサイヤ人のようだな。」

 

「はい。」

 

 その様子をホウレン達は遠目で見ていた。ベジータにサイヤ人の生き残りはごく僅かと聞いていたホウレンは少し混乱気味だ。

 

「……サイヤ人ってほぼ絶滅したみたいなこと聞いてたけどわりといるんだな。」

 

「オレも驚いています。オレのいた世界ではもうオレを除いてサイヤ人は一人もいないはずでしたから。」

 

「ん?オレがいた世界ってどういうことだ?」

 

「トランクスさんは未来からきたんですよ。」

 

「未来から!?」

 

「ええ。タイムマシンに乗ってね。母さんが抱きかかえていた赤ん坊がオレなんです。この世界には人造人間を倒すことが目的で来ました。」

 

「そ、そうだったのか。おまえたちってマジでなんでもありなんだな……。こりゃ俺もいちいち驚いてばかりじゃいらんねえな……。」

 

 トランクスたちと話をしていると一人の兵士がベジータの元へ駆け足でやってきた。

 

「申し上げます!トトカマ星に伝説の超サイヤ人が現れました!!」

 

「何っ!?もう出やがったか。さっそく伝説の超サイヤ人を征伐しに出かける、後に続けブロリー!」

 

「父さん!やみくもに出かけるのは危険です!もっと情報を集めてからでも!」

 

「臆病者はついてこなくてもよい!ブロリー早くしろ!!」

 

 トランクスの制止する声にも耳を傾けずベジータはブロリーを連れてトトカマ星へ向かうための宇宙船に向かって行ってしまった。残されたホウレンたちはこれからの行動について話し合いを始めた。

 

「オレは一度この星を探索してこようと思います。お二人はどうしますか?」

 

「ボクはトランクスさんについていきます。ホウレンさんは?」

 

「俺はこの宮殿を探ってみようと思う。あとで合流しよう。」

 

「わかりました。ではお気を付けて。」

 

 行動が決まった三人は二手に分かれて行動することになり、トランクスと悟飯は街の方角へと飛んで行った。一人になったホウレンはこの宮殿を探るため宮殿の中へと足を進めるのであった。

 

「まずは情報収集だよな。兵士に聞き込みでもするか…。」

 

 話を聞けそうな兵士を探しに宮殿内を歩き回る。宮殿の中は広くほぼ全てが石で造り上げられていて空気がひんやりしている。しばらく歩いていると渡り廊下に二人ほど兵士を見つけた。

 

「おーい!そこのあんたたち、ちょっと話を聞きたいんだがいいかな?」

 

「あん?なんだおまえ。」

 

「見ない顔だな…。新入りか?」

 

 二人の兵士は少し警戒した様子でホウレンを睨みつけてきた。ならず者を集めたというだけあって、兵士たちはガラが悪い連中が多いようだ。

 

「あ、いや。俺は地球からパラガスに案内されてきた者で…。一応サイヤ人だ。」

 

「さ、サイヤ人!?し、失礼しました。パラガス様の同族の方だったとは!」

 

「話は聞いております!なんでもお聞きください!」

 

 ガラの悪い兵士たちはサイヤ人と聞いた途端、急に弱腰になり頭を下げだした。

  

「……相当恐れられてんのな、サイヤ人って…。」

 

「それはもう!凶悪にして最強の戦闘種族サイヤ人の恐ろしさはパラガス様やその息子ブロリー様の強さを見れば当然のことです!」

 

「我々では束になっても敵わないほどの戦士が昔はたくさんいたと思うと背筋が震えるほどです!」

 

「そんなにか。でもまあ、俺のことはそんなに怖がらなくていいよ。別に取って食おうとか考えてるわけじゃねえからさ。そんなことより、パラガスとブロリーってそんなに強いのか?」

 

「……強いです。とてつもなく。おそらくどちらか一人でもいれば星一つを征服できてしまうほどの強さの持ち主です。」

 

「一人で星一つを征服できる…か。他にその二人で知ってることは?」

 

「他にですか…。そういえば、パラガス様はこの星に帝国を再建することに妙にこだわっていたような。」

 

「そういやそうだ。パラガス様はなんでこんな自然も何もない場所を選んだんだ…?」

 

「……。」

 

「申し訳ありません。これ以上のことは我々も詳しくは…。」

 

「いや、十分だ。ありがとよ、後は他の連中にも聞いてみるさ。」

 

「はっ!では我々はこれで失礼します!」

 

 二人の兵士は足早にこの場を去った。残ったホウレンには小さな疑問が残った。

 

「……この星に妙にこだわった…。」

 

 兵士たちの言ったように帝国を再建するならもっと自然が豊かな星を選ぶはず。それをしなかった理由がなにかあるようにホウレンは考えた。

 

「……パラガスは何か隠してるのかもしれないな。もう少し聞き込みを続けよう。」

 

 ホウレンはそれから宮殿の中で聞き込みを続けて様々な情報を得て、頭に小さな疑問を残しながらトランクスたちとの合流を待った。この時はまだこの星で大きな闘いに巻き込まれることをホウレンは知る由もなかった。




だいぶいろんな部分を端折ってしまった。次回は少し時間がかかりそうですが気長にお待ちください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ブロリーの豹変!狙われた孫悟空

以外と早く書けたので投稿します。


 聞き込みを始めてから数時間後、トランクスたちは迎えに行ったパラガスと共に宮殿へ帰ってきた。その時なぜか悟空も一緒であった。

 

「よう!ホウレン。おめえも来てたんだな。」

 

「悟空!?なんでおまえがこの星にいるんだ?」

 

「ちょっと瞬間移動でな。サイヤ人の気を追ってきたら悟飯たちに会ったんだ。詳しい話は飯食いながら話すから、早く行こうぜ!パラガス、案内してくれ!」

 

「ではこちらへ。」

 

 一同はパラガスの案内に従い、足を進めた。部屋に着くとパラガスは用意させた食事を兵士に運ばせて部屋から出て行った。

 

「それで?悟空はどうしてサイヤ人の気を追ってきたんだ?」

 

「界王様に頼まれて伝説の超サイヤ人を探してたんだ。」

 

「悟空も伝説の超サイヤ人を探しに!?」

 

「ああ。トランクスから聞いたけんど、おめえたちも伝説の超サイヤ人を倒しに来たんだってな。」

 

「まあ、正確にはそれを倒しに来たベジータを連れ戻しにって感じだけどな。」

 

「悟空さん。その界王様の情報は確かなんですか?」

 

「間違いねえ。オラも伝説の超サイヤ人が暴れた星に行ってきたけど、そこにはもういねえってのに随分でけえ気が残ってた。もしかすっとオラたちよりもパワーが上かもしんねえぞ。」

 

「ご、悟空たちよりもか!?」

 

「もしもお父さんの言うとおりだとしたら、パラガスさんの言っていたことはも本当であの二人以外にもサイヤ人がいるってことなんでしょうか…?」

 

 ますます謎が深まる中ホウレンはとりあえず今自分たちが得た情報を交換することを考えた。

 

「聞いてくれ。俺がこの宮殿で調べたことを話しておこうと思う。まずこの星に宮殿や街が造られたのはつい最近のことらしい。そしてそのどちらもが他の星から連れてきた奴隷に造らせたそうだ。」

 

「あ!ボクたちはその奴隷にされた人たちに会ってきました!伝説の超サイヤ人に星を荒らされて連れてこられたとか…。」

 

「ホウレンさん、ほかには何かありますか?」

 

 トランクスの催促に頷き、ホウレンは話を続ける。

 

「それとは他にパラガスはこの星に帝国を造ることにやけにこだわっていたらしい。もしかしたらパラガスは何かこの星のことを何か隠してるのかもしれない。」

 

 ホウレンの言葉に部屋の中が静まり返る。それぞれが考えをまとめているのだろう。そんな中悟空が夕食を食べる手を止めて話し始めた。

 

「そう気にすんなよ。この星になにがあんのかは知らねえけど、伝説の超サイヤ人とはぜってーに闘うことになると思う。オラはそれだけわかってりゃ十分だ。」

 

 そう言って悟空は再び夕食をガツガツと食べ始めた。

 

「……そうかもしれませんね。お父さん、ボク少しだけこの夕食をさっき話した人たちに持っていっていいですか?」

 

「いいぞ。持ってってやれ。」

 

「はい!」

 

「悟飯さん、俺も行きます。少し探りたいこともあるので。」

 

「わかりました、じゃあ行きましょう。」

 

 悟飯たちは夕食をいくつか持って宮殿から飛び立った。それから少し時を置いてベジータとブロリーがトトカマ星から帰り宮殿へと戻ってきた。

 

「くそっ!伝説の超サイヤ人は影も形もなかった!」

 

 苛立つベジータにパラガスが後からついてきてベジータをなだめる。

 

「ただいま一生懸命行方を捜査させております!もうしばらくお時間を。」

 

「よう!ベジータ。」

 

「…カカロット。わざわざ俺に殺されに来たのか。」

 

「ベジータ。伝説の超サイヤ人は見つかんなかったみてえだな。」

 

「伝説の超サイヤ人はオレが見つけ次第ぶっ殺してやる。出しゃばるんじゃない。」

 

 ベジータはそのまま窓際に座った悟空を通り過ぎて行った。パラガスもそれを追って先に進むがブロリーはなぜか悟空の前に立ち止まった。

 

「ベジータのやつまた怖え顔になったなー。ん?」

 

 立ち止まり悟空を睨みつけるブロリーに対して悟空は正面に立ち真っ向から睨みあった。

 感情が高まり始めたブロリーをパラガスが抑えようとする。 

 

「気を静めろ!ブロリー!」

 

 抑え込むパラガスの言葉も耳に入らずブロリーの気は高まり続ける。だが少し経つと徐々に高まった気は静まり始め、怒りをあらわにした表情も次第にもとのおとなしい顔つきに戻っていった。

 

「騒がせてすまなかったなカカロット。行くぞブロリー。」

 

「……はい。」

 

 落ち着いたブロリーを連れてパラガスは再びベジータの後を追って歩き出した。それから数時間後、皆が寝静まったころホウレンは一人夜風に辺りに廊下を歩いていた。

 すると視線の先に物凄い怒気を帯びた顔つきのブロリーがどこかへ向かって歩いているのを見かけた。

 

「あれはブロリー?こんな時間に何を…それにあの顔つきはなんだ?」

 

 最初に会った時とはあまりにも違う雰囲気を纏ったブロリーにホウレンは何か嫌な予感がした。

 

「……あとを追ってみるか。」

 

 こっそりとブロリーの後をつけていくと辿り着いたのは一つの部屋の前だった。

 

「あそこは悟空たちが寝てる部屋のはず…。あいつ一体何をしようってんだ?」

 

「カカロット…!」

 

「!?や、やべえ…!待てブロリー!」

 

 ブロリーは低い体勢になって扉に体当たりし、そのまま扉をぶち壊して部屋の中へ入っていった。その直後何かが破壊されたような大きな音が辺りに鳴り響き、ホウレンは急いで部屋の中に入ると、そこに見たのは真ん中から折れ曲がったベッドと破壊された外壁であった。

 

「悟飯!大丈夫か!」

 

「ボクは大丈夫です!でもお父さんが外に!」

 

「くそっ!後を追うぞ!」

 

「はい!」

 

 悟空とブロリーはぶつかり合いながら城の外を飛び回っていた。

 

「ブロリー、いい加減にしろ!」

 

 湖の付近まで来るとブロリーは両腕を小さく広げ急激に気を高め始めた。

 

「ウォオオオオオ!!」

 

「オラたちと同じで一気にパワーが上がるんか……!」

 

「カカロット!!」

 

「どらぁっ!!」

 

「グッ!?」

 

 悟空との距離を一気に詰めて殴り掛かるブロリーであったがそれを追いかけてきたホウレンによって再び元の位置へと蹴り飛ばされた。

 

「お父さん!大丈夫ですか!?」

 

「悟飯!それにホウレンも!なんでここに?」

 

「たまたまブロリーのやつを見かけてな、後をつけてきたらこのありさまってわけだよ。邪魔だったか?」

 

「そんなことねえさ。サンキューな!それよか気を付けろ、あいつまだまだ底が知れねえぞ……!」

 

「ああわかってる!」

 

 ブロリーは右手に気を集め、悟空たち目掛けて大量に緑色の気弾を放った。悟空たちはそれぞれ別の方向に避けると気弾は大きく爆発し大地を抉り取る。

 そしてブロリーは自らの気をさらに上昇させ始めた。

 

「オラが感じたのはこの気だ……!南の銀河を破壊したのはおめえだな!ブロリー!!」

 

「な!?悟空、そりゃどういう__」

 

「ウオオオオオオオ!!」

 

 ブロリーが気を高めることによって辺りに強い風が吹き始める。

 

「くっ…!いまはそれどころじゃねえか!!」

 

「やめろブロリー!」

 

 ブロリーの力が上がり続ける中、いつのまにかパラガスがその場にいた。

 パラガスは右手をブロリーに向け必死にブロリーを止めようとしているようだ。

 

「やめろブロリー!落ち着け!やめるんだ!!」

 

 パラガスが必死に声をかけ続けると最早止めることなど不可能に思えたブロリーの気が急激に小さくなっていった。

 

「なに……!?」

 

「おい、嘘だろ!あそこまで暴れてたやつがこんな簡単に……?」

 

 パラガスはブロリーの気が完全に元の状態に戻ったことを確認するとそのままブロリーに歩み寄った。

 

「ブロリー、宮殿に戻るんだ。」

 

 ブロリーは小さく頷きパラガスと共に宮殿へ飛んで行った。ブロリーの急激な変わりように動揺しパラガスには何も聞くことが出来なかった。

 

「……悟空。さっき言ってたこと、本当なのか?」

 

「ああ間違いねえ。ブロリー、あいつが伝説の超サイヤ人だ。」

 

「お父さん、それなら早くベジータさんたちにも伝えなくちゃ!」

 

「そうだな。でも今日はもうおせえ、明日の朝早くにこのことをベジータに伝える。トランクスにはホウレン、おめえから話しといてくれ。」

 

「わかった。」

 

「……明日はまちげえなく闘いになっぞ。二人ともしっかり休んどけ。」

 

 この後ホウレンはトランクスにこの出来事をすべて伝えた。このことを聞いたトランクスは気合を入れなおして明日の準備を始めた。そして翌日。

 

~宇宙船前~

 

 ベジータは痺れを切らし地球に帰ろうとしていた。パラガスはそれをなんとか止めようと必死に説得している。

 

「ベジータ王!明日まで、明日までお待ちください!明日になれば伝説の超サイヤ人がいる星がわかるはずです!」

 

「今地球ではセルという化け物が大会を開こうとしている。それを終わらせてからでも問題あるまい。

それとも、この俺をここにとどまらせたい理由があるのか?」

 

「い、いえそれは……。」

 

「ベジータ待ちくたびれたぞ!朝飯も食わねえで待ってたんだぞ?オラ腹減っちまった!」

 

 声が聞こえた宇宙船の方向を見るとそこには悟空とホウレンの二人組が入口で待ち構えていた。

 そして二人はベジータたちの前まで歩いてくると話をつづけた。

 

「ベジータ。出かける必要はねえぞ。伝説の超サイヤ人はここにいるんだ。」

 

「カカロット、出しゃばるなと言ったはずだ!」

 

「パラガス!ベジータに教えてやれ!ブロリーがその超サイヤ人だってな!」

 

「めっそうもございません!ベジータ王!そのようなことがあろうはずがございません!私より力の劣るブロリーが超サイヤ人だなどと…。」

 

「なにが私より力の劣るだよ、昨日のそいつの力はどう考えてもあんたより遥かに上だったぞ!」

 

「ホウレン、それは本当か?」

 

「悟飯だって見たんだ。間違いねえよ。」

 

「パラガス、こいつはどういうことだ……。」

 

「そ、それは…その…。」

 

 追い詰められていくパラガスに更なる追い打ちをかけるように悟飯とトランクスが奴隷となった人たちを連れてこの場にやってきた。

 

「父さん!パラガスが言っていることはすべて嘘です!あの街は父さんを騙すために造られた廃墟なんです!ここにあるものはすべてパラガスがこの人たちを使って造らせた見せかけの都市です!」

 

 トランクスがすべて言い終えると連れてきたものが一人震えるようにブロリーを指さした。

 

「あ…あいつだ!オレたちの星で暴れたのは!!」

 

 それを聞いたベジータはついにすべてを理解してパラガスを睨みつけた。

 

「パラガス、騙したな!」

 

「……やっと能天気なお前でも呑み込めたようだな。すべては貴様らの言うとおりだ。こんな最低の星にはなんの未練もない。彗星が衝突することが分かったからこそこの星を利用したのだ。」

 

「彗星の衝突…!それがあんたがこの星にこだわっていた理由か!」

 

「その通りだ。オレの本来の計画はお前らをこの新惑星ベジータと共に葬り去り、宇宙の中で一番環境の整った美しい地球に移住しそこを本拠地として帝国を建設することなのだからな!ベジータ。新惑星ベジータの王などとその気になっていたお前の姿はお笑いだったぜ!」

 

「貴様…っ!」

 

 ベジータがパラガスに掴みかかろうとすると隣から怒気の混じった声が響きベジータは動きを止めた。

 

「カカロット!!」

 

 その声の主はブロリーであった。ブロリーはゆっくりとパラガスとベジータを押しのけて悟空の前まで歩き出した。

 

「カカロット……ッ!!」

 

 ブロリーは超サイヤ人へと変身しながら悟空に向かって歩き続ける。その凄まじい気の上昇にホウレンは一瞬足がすくむ。だがベジータはその変身を見て自らも超サイヤ人に変身してブロリーに突っ込む。

 

「ハアアア!」

 

 ベジータはブロリーの首筋に勢いよく蹴りを当てるもブロリーはダメージはおろか怯みすらせずに悟空を目指して歩き続けた。

 それを見て悟空とホウレンは後ろに半歩下がり、両手を構えた。

 

「カカロットじゃねーっ!オラ孫悟空だ!」

 

「ウオォオォオオオオオオ!!!」

 

 ブロリーは空を見上げてどんどん気を上昇させていくその姿にパラガスは焦り始め、ブロリーを落ち着かせようと声をかける。

 

 

「ダメだ!やめろブロリー!それ以上気を高めるな!!」

 

 だがブロリーはその言葉も耳に入らず、さらに気を上昇させる。そして変化は起こった。

 ブロリーの周りが変身による気の上昇で大爆発が起こり、地面をへこませる。さらに気の強さに大気が震え強い衝撃波がホウレン達を襲った。

 爆発の中心にいたブロリーの姿は元の姿の倍近いほどの身長になっており、全身の筋肉が膨れ上がっていた。ついに伝説の超サイヤ人との死闘が幕を開ける…!




幻想入りまであと数話くらいです。もうしばらくお時間を!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

伝説との死闘!サイヤ人の覚醒!

遅くなりました五話目投稿です。


「カカロット…!まずおまえから血祭りにあげてやる!」

 

 ブロリーはそう言って悟空を指さし、悟空に急接近してきた。悟空は何とかそれに反応して攻撃をかわし超サイヤ人の状態で気を最大まで高める。

 

「ホウレン!おめえはパラガスを頼む!悟飯!トランクス!オラたちも全開で行くぞ!!」

 

「「はい!!」」

 

 悟飯とトランクスは超サイヤ人に変身して気を最大に高めブロリーへと向かっていった。そして残ったホウレンはパラガスと対峙する。するとベジータの様子が何かおかしいことに気が付いた。

 

「伝説の…超サイヤ人…。」

 

「ベジータ、どうしたんだ!伝説の超サイヤ人がいるんだぞ!闘いにいかねえのか!?」

 

「殺される…みんな殺される…!やつは伝説の…超サイヤ人なんだ…!」

 

「ベジータ!?どうしたんだ、らしくないぞ!」

 

 明らかに様子がおかしいベジータにパラガスは小さく笑った。

 

「純粋なサイヤ人であるベジータ、お前だけが本能的にブロリーの強大さと極悪さを理解できたようだな。だがもう遅い!ブロリーがオレのコントロールから外れ伝説の超サイヤ人となってしまった以上…。ブロリーと二人で全宇宙を支配しようとしたオレの計画も…何もかもおしまいだ…!」

 

「コントロールだと…!?おまえブロリーに何かしてやがったのか!」

 

「そうだ!私は科学者にブロリーを自在にコントロールする装置を作らせ、それによってブロリーの力を制御していたのだ!」

 

「ふざけんな!自分の息子だろ!そんなことして…あんたそれでも親かよ!!」

 

「だまれ!オレたち親子がこいつの父ベジータ王をどれだけ憎んでいたか貴様にはわかるまい!その昔、驚異的なブロリーの戦闘力をしったベジータ王はブロリーが将来ベジータの地位を脅かすと思い、オレたち親子の抹殺を謀ったのだ!そして、オレたち親子はゴミのように捨てられた。だがオレたちは助かった!ブロリーの偉大な潜在パワーが、死の淵からおのれの身を守ってくれたのだ!オレは…それ以来ベジータ!お前たち親子に復讐することだけを思って生きてきたのだ!」

 

「黙って聞いてりゃ、なんだそりゃ!?結局悪いのはベジータじゃなくてそのベジータ王ってやつだろーが!それどころか復讐を名目に自分の息子まで利用して恥ずかしくねえのか!」

 

「……ブロリーの力は強大すぎた。成長するにつれて親のオレが恐怖を感じるほどにな。このまま行けば宇宙はブロリーの手によって破壊しつくされてしまう。仕方がなかったのだ!」

 

「何が仕方がなかっただ!あんた少しでもブロリーを説得したのかよ!もっと他に方法があったはずだろ!?」

 

「問答はここまでだ貴様もサイヤ人だろう?来い!オレが直々に始末してやろう!」

 

「上等だよ…あんたは俺がこの手で倒す!」

 

 二人はへたり込むベジータを置いてその場を離れ街の中に降りて行った。

 一方そのころブロリーと闘っている悟空たちは三対一という状況ですら意味がないというほどの力の差があり、闘いは困難を極めていた。

 

「ハハハハ!どうしたカカロット貴様の力はその程度か!」

 

「おでれえたぞ!ブロリー、おめえほんとつええな…!だけどよ、オラたちもまだまだこっからだぞ!でりゃあああ!!」

 

 悟空はブロリーに突進し頭に左足で回し蹴りを食らわせ、即座に右足で追撃を与える。

 だがブロリーはビクともせず悟空の右足を掴みビルの壁へ投げつける。悟空はそのままいくつもビルを貫通して吹き飛んでいった。

 

「バーニングアタック!」

 

「む!?」

 

 悟空を投げ飛ばしたブロリーを狙って上空からトランクスが巨大な気弾を放った。放たれた気弾はそのままブロリーに直撃し、その周囲をすべて巻き込んで大爆発を起こした。

 

「……っ!」

 

 だがブロリーはその攻撃も特にダメージはなく、煙の中からトランクス目掛けて緑色の気弾を大量に撃ってきた。トランクスは両手を構えその気弾を防ぎ続けるがだんだんと後ろに押されていった。そこに悟飯がトランクスを助けるためにブロリーを横から狙った。

 

「魔閃光!!」

 

 悟飯に気づいたブロリーは気弾を撃つ手を止めて、悟飯の魔閃光を左手で受け止め、消滅させてしまった。そして悟飯に向かって走り出し、気弾で悟飯を吹き飛ばす。吹き飛ばされた悟飯はそのまま建物に激突し突き出していた鉄筋に引っかかり気を失う。

 

「悟飯さん!」

 

「次はお前だ……!!」

 

「うわああああ!」

 

 飛び上がったブロリーはトランクスの頭を鷲掴みにして地面へ投げ飛ばし、トランクスは地面に叩きつけられた。さらに追い打ちの巨大な気弾が落とされるがそこに悟空がトランクスの前に現れ、ブロリーの気弾を弾き飛ばした。

 

「大丈夫か!トランクス!」

 

「く…っ!大丈夫です!それより悟飯さんが!」

 

 ブロリーは悟空たちから目をそらして気を失った悟飯を見てにやりと笑った。

 

「カカロット、息子がかわいいか?」

 

「!!おめえ、何する気だ!」

 

「フハハハハハ!」

 

 ブロリーは高笑いしながら右手を構え、悟飯に向けて巨大な気弾を放った。

 

「やべえ!悟飯ー!!」

 

 悟飯に気弾が当たるその瞬間、別の方向から放たれた気弾によってブロリーの気弾は悟飯をそれて隣の建物を破壊した。

 

「そうなんでも思い通りになると思わないことだ。」

 

「……誰だ?お前は。また一匹虫ケラが死にに来たのか?」

 

「フン、バケモノめ。好きにしろ。」

 

 悟飯を助けたのは地球にいるはずのピッコロであった。

 

「オレがバケモノ…?違う、オレは悪魔だ!ハハハハハハ!!」

 

 ピッコロは高笑いするブロリーを無視して気絶した悟飯を抱きかかえ地面に下した。

 

「悟飯、仙豆だ食え。」

 

 ピッコロは気絶した悟飯に何とか仙豆を食べさせると、悟飯は意識を取り戻した。

 

「う…うう…ピッコロさん?ピッコロさん!どうしてここに!?」

 

「悟空と界王様の通信を聞いてな。瞬間移動できないのが悔しかったぜ。」

 

「ピッコロ!」

 

 ピッコロと悟飯がいる場所に悟空とトランクスも合流する。

 

「ピッコロ、よく来てくれたな!悟飯を助けてくれてありがとな!」

 

「……今まで感じたことのない何か…身震いのするような凄い気を感じた。おまえたち、すげえバケモノ相手にしてたんだな。」

 

「ああ。ピッコロも手ぇ貸してくれ!」

 

「無論だ。さあ行くぞ!!」

 

~街はずれ 広場~

 

 ここではホウレンとパラガスが一対一で闘っていた。状況はホウレンが遥かに優勢である。

 

「うぉりゃああ!」

 

「ぐうっ…!」

 

 ホウレンは右足の蹴りでパラガスを蹴り飛ばした。飛ばされたパラガスは地面を転がりながらもすぐに体制を取り直す。

 

「はぁ…はぁ…くそっ!貴様のような見ず知らずのサイヤ人にこうも押されるとは……!」

 

「あんたも随分タフだな……!いい加減倒れとけよ!」

 

「フフ…ここでオレを倒したとてもう間に合わん。彗星の衝突に巻き込まれ貴様らは全員死ぬのだ!…かわいそうだがブロリーも一緒にな。」

 

「……あんたにも子供を死なせたくないって思いはあんのか?」

 

「……当たり前だ。もともとベジータ王に抹殺を命じられたのはブロリーだけだ。だがオレはそれを助けようと必死に説得した。だがベジータ王にはオレの声は届かずこのオレも息子と共に葬られたのだ…。」

 

「……必死に王を説得しようとしたあんたが復讐のためとはいえ、どうしてその大事な息子を利用なんかしてんだよ。」

 

「言ったはずだ!仕方がなかったと!オレにはあのやり方しかなかったのだ!それに今更何を言ったところで結果は変わらん!ここでブロリーに全員殺されるか、彗星の爆発によって死ぬかのたった二つしかないのだ!それがなぜわからん!」

 

「二つじゃねえ、まだもう一つ残ってんだろうが。」

 

「なんだと…!?」

 

 ホウレンはにやりと不敵な笑みを浮かべてパラガスの胸元を掴み顔を近づけた。

 

「あんたもブロリーも含めて全部丸く収めて地球に帰る、それが最後の一つだ!」

 

 パラガスはあまりにも自信満々に無茶を言うホウレンに一瞬呆けた。

 

「馬鹿を言うな!貴様はブロリーを倒して地球に帰るというのか!?そんなこと貴様らにできるわけがない!」

 

「やるしかねえだろ。それと一つ勘違いしてるぜパラガス。」

 

「勘違いだと…?」

 

「そうだ。確かにブロリーを倒さない限りブロリーは止まらない。だけど殺す必要はねえ。俺はあんたもブロリーも連れて地球に帰るんだ。あいつの力なら破壊だけじゃなく、守ることにだって使えるはずだ。」

 

「なんだと……!?貴様何を言っているのかわかっているのか!?ブロリーは破壊を楽しむ凶悪な性格をしている。だからオレが制御装置でコントロールしてきたのだ!それを連れて帰るなどと、そんなことしたら地球はおろか、北の銀河一帯はブロリーの手によって破壊しつくされてしまう!それにオレはベジータ親子に復讐することを生きがいとしてきたのだ!今更これを変えることはでき__」

 

「__馬鹿野郎が!!」

 

 気が付くとホウレンはパラガスをぶん殴っていた。突然のことにパラガスは呆然とホウレンを見上げる。

 

「親のあんたが息子を信じてあげらんねえでどうすんだ!それに王はとっくに死んだんだろ!?いい加減あんたも後ろばっか見てねえで前見て生きやがれ!!」

 

「……オレは!」

 

「ホウレン!!あぶねえ避けろ!!」

 

 パラガスに説教をしていると遠くから悟空の切羽詰まった声が聞こえてきた。すると上空にはブロリーが立っており、ホウレン達目掛けて超巨大な気弾を放ってきたのだった。

 

「ハッハッハ!消えろ!!」

 

「パラガス避けるぞ!」

 

 しかしパラガスは倒れた状態から一切動こうとせず、うなだれていた。

 

「くそっ!こうなったら……!」

 

 ホウレンは上空から迫りくる気弾を両手で抑え、ギリギリの状態で気弾を抑え込み、全力で踏ん張った。限界まで気を上げていても徐々に気弾に押されはじめ、ホウレンの顔は険しくなっていく。

 

「ぐぬぬう……!!俺は…諦めねえぞ…!あんたら二人ともぜってーに仲間にしてやるかんな…!そのためにもここで…負けてられるかぁああ!!」

 

 その時ホウレンの髪が金色に輝いた。極限の状況で超サイヤ人のパワーが目覚めたのだ。だが不思議とホウレンは変身に動揺はなく、どこか懐かしい感覚になっていた。

 

「だらああああああ!!」

 

「なんだと!?ぐぁああああああ!!」

 

 そしてホウレンはそのまま、気を更に限界以上に引き出しブロリーの気弾をブロリーにはじき返した。予想外の出来事にブロリーは動揺し、自らの気弾に直撃し後方へ吹き飛んだ。




次回ちょっと長くなります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

死闘の決着 ホウレンVSブロリー ★

今回ちょっと長めです。


「ホウレンおめえ、その姿は……!」

 

「ああ、俺もなれたみたいだ…超サイヤ人に。」

 

「すげえぞ!オラたちも超サイヤ人になんのはすげえ苦労したのになー!」

 

「今のだけでだいぶ力を使っちまったけどな。でもここからは俺も一緒に闘う。」

 

「ああ頼む!でもあんま無茶すんじゃねぇぞ?」

 

「わかってるよ。……パラガス。あんたも手伝ってくれないか?」

 

「……ホウレンといったか。なぜ貴様はそこまでする?オレたちを救うことに貴様になんの意味があるというのだ。」

 

「……だってよ。あんたの話を聞く限りだと、悪いのは全部死んじまった王様のせいなんだろ?じゃああんたら親子は被害者じゃねえか。確かにあんたのやってきたことは悪いことばっかかもしんねえけどさ、あんたにも子供を思う気持ちってのがある。それならもう少しマシな生き方もできるんじゃねえかって思っただけだよ。」

 

「……理解できんな。そんな小さな理由で命を張ってまでオレを救うなど。」

 

「俺もバカみたいだって思うよ。でも体が勝手に動いたんだ、仕方ねえだろ?あんたの命は俺が助けた。だからあんたは俺を手伝え。」

 

「フッフッフ…!なんとも馬鹿なやつだ、いいだろう!貴様に救われた命だ、どうせ殺されるなら最後まで抗ってやろうじゃないか…!」

 

 パラガスはそう言うとゆっくり立ち上がりホウレンの手助けをする覚悟を決めたのだった。

 

「よろしく頼むぜ、パラガス。……悟空、俺はブロリーとも仲間になりたいんだ。協力してくれないか?」

 

「そいつはすげえ大変だと思うぞ?ハッキリ言って勝てっかどうかもわかんねえ、それでもいいんか?」

 

「ああ。それでもだ。」

 

「……わかった。オラはできる限り協力する。みんなはどうだ?」

 

「ボクも協力します。少しでも強い人が味方ならセルとの闘いでも助けになってくれるかもしれませんし。」

 

 悟空に続き悟飯も協力をしてくれると決めたがトランクスとピッコロは難しい顔をしていた。

 

「…正直、オレはあまり賛成できません。あいつは宇宙をめちゃくちゃに出来る凶悪な戦士です。もしまた敵になってしまうようなことがあればそれこそ最悪の敵になるでしょう。」

 

「オレもだ。そもそもあんな力をもったバケモノが簡単に仲間になるとは到底思えん。万が一のことになったら貴様、責任が取れるのか?」

 

「それは…。」

 

「そういうなよピッコロ。それにおめえだってもともとオラたちの敵だったじゃねえか」

 

「チッ、そいつを言われるとオレも言い返す言葉がないな……。」

 

「トランクス。おめえが言ってることもわかっけどそれでもオラはホウレンの言うことを信じてみてえんだ。おめえもホウレンを信じてやってくれ。」

 

「トランクス、頼む。俺だけじゃなくパラガスたちのことを信用してやってくれ!」

 

 二人に詰め寄られたトランクスは軽くため息をついて悟空たちを見た。

 

「わかりましたよ。お手上げです。こうなったら何としてでもこちらの仲間になってもらいましょう。地球に戻り、セルを倒すためにもね。」

 

「サンキュートランクス!それにピッコロも!これであとはブロリーを仲間にして地球に帰れば全部終わりだ、頑張ろうぜ!」

 

「へっ、簡単に言ってくれるぜ。……そろそろやつも戻ってくるだろう。」

 

 その時遠くで大きな爆発が起こり爆風と土煙が押し寄せる。その爆発の中心にはブロリーがいた。さすがのブロリーも自分自身の攻撃はダメージがあったようであちこち小さな傷が出来ていた。

 そしてホウレンたちがいる場所を睨むと一気に加速してこちらにやってくる。

 

「戻ってきやがったか…!貴様ら、行くぞ!気を抜くなよ!」

 

 ピッコロの言葉を合図に全員でブロリーに向かって特攻する。

 

「クズどもが、さっきはやってくれたな!!」

 

「おあいこだってーの!むしろこっちのほうが体力持ってかれてんだよ!」

 

「フン、まあいい!そんなことよりも…親父。そっちにいるということは、このオレの敵に回るということでいいんだな……?」

 

「いや違う、オレはおまえの説得に協力しているだけだ。敵に回るつもりなどない。」

 

「説得だと…?フハハハ!今更なにをほざくかと思えば、このオレを操っていた貴様がオレを説得などできると思うか!?どのみち殺すつもりだったのだ…ここで殺してやるぞ!」

 

「くっ……!」

 

「ブロリー!パラガスだってやりたくてやったわけじゃねーんだ、少しくらい話を聞いてくれ!」

 

「黙れ!オレがどんな気持ちで親父に支配されていたか貴様にわかるわけがない!赤ん坊のころから二人で共に生きてきた親父に裏切られたオレの怒りがわかってなるものか!!」

 

 ブロリーは感情を昂らせてホウレンたちに向かって再び巨大な気弾を撃った。ホウレンたちはそれをかわすがブロリーはそのままたくさんの気弾を撃ち続けた。

 

「話し合いなど必要ない!オレは…オレ一人の力だけですべてを破壊しつくすだけだ!」

 

 ホウレンたちは飛び交う気弾をかわしながら別の方向に散った。それを見たブロリーは気弾の連射をやめ、最初の狙いをホウレンに定めた。

 

「まずは貴様からだ…!ここで死ぬがいい!」

 

「冗談じゃねえ、こんなところで死んでたまるか!俺はおまえのことを仲間にするって決めたんだ!」

 

 ホウレンはブロリーの顔面を全力で殴りつけるがダメージが入った様子もなく顔に拳が当たったままブロリーは話し始めた。

 

「オレを仲間にだと…?ハッハッハ!それが説得の内容か?だったら尚更無駄なことだ!仲間など、弱いやつらがつくるものだ。オレには必要ない!」

 

 ブロリーはホウレンの頭を鷲掴みにしてそのまま地面に叩きつけた。

 

「ぐうっ…!!」

 

「ホウレン!」

 

「フハハハハハ!!」

 

 地面に叩きつけたホウレンをブロリーは頭を掴んだままホウレンを持ち上げ、建物に投げつけた。

 投げつけられたホウレンは建物の中に転がり壁にぶつかってその場に膝をつく。

 

「げほっげほっ…!なんてパワーだよ……!……ッ!!」

 

「消えろ!」

 

 ホウレンが顔を上げるとブロリーはエネルギー波を放ち建物ごとホウレンを吹き飛ばした。

 高笑いするブロリーを悟空と悟飯が左右で挟み込むようにたち構えをとった。

 

「「か~め~は~め~波ぁああ!!」」

 

 そして互いにかめはめ波を撃ち合ってブロリーはそのまま左右からくるかめはめ波に飲み込まれた。だがブロリーは二つのかめはめ波をどちらも片手で抑え込み悟空たちに跳ね返した。

 

「!?あぶねえ、悟飯避けろ!!」

 

 悟空と悟飯は何とかそれをかわした。今度は上空からピッコロとトランクスがブロリーに殴り掛かりそのまま激しく殴り続けるもブロリーは余裕を見せつけるように両手を組みながらその攻撃をかわし、逆に二人を殴りつけ大きく吹き飛ばした。

 

「ブロリー!おまえの怒りは分かった!だからオレの話を聞いてくれ!」

 

「うるさい、消えてろ親父!」

 

「ぐあっ!!」

 

 今度はパラガスが正面からブロリーに説得を試みる、だがブロリーはまるで聞く気がなく、パラガスを殴り飛ばした。

 一方その頃ベジータは……。

 

「……下級戦士が闘っているのに…ぐぅううう!オレは…オレはサイヤ人の王子ベジータだー!!」

 

 ついに闘う意志を取り戻し超サイヤ人となって戦場に飛び立った。

 

「この気は……!」

 

「トランクス、もたもたしてるんじゃないぞ!」

 

「父さん!!」

 

「サイヤ人の王子ベジータが相手だ!」

 

「フン、おまえだけは簡単には死なさんぞ!」

 

 ベジータはブロリーを激しく乱打を与えてさらに追撃として気弾を数発放った。しかしブロリーはこれもダメージにならず、ベジータにラリアットを食らわせそのまま建物をいくつも破壊しながらベジータを吹き飛ばした。

 

「くそったれぇ!ビッグバンアタック!」

 

 ベジータは吹き飛ばされながらも体制を立て直し、ブロリー目掛けて技を放った。

 だがブロリーはそれを避けようともせずベジータに向かって歩き出す。そしてそのままビッグバンアタックが直撃し大爆発を起こした。

 

「なんなんだ今のは?」

 

 煙の中からブロリーがゆっくり歩いて出てくる。ベジータの技ですらダメージが入らなかったようだ。

 

「チィッ!だらららららぁああ!!」

 

 ベジータはとにかくたくさんの気弾を連射した。激しい攻撃に辺りに強い爆風が巻き起こる。

 しかしブロリーはその攻撃の中でもまるで堪えず、むしろベジータに向かってゆっくり近づいてきた。

 そしてそのままベジータに急接近して顔を掴み地面に叩きつける。ベジータはそのまま地面に大きなクレーターをつくり動かなくなった。

 

「終わったな、しょせんクズはクズなのだ。」

 

「ブロリー!今度は俺たちの相手をしてもらうぜ!」

 

 そこに立っていたのは先ほど吹き飛ばされたホウレンとパラガスだった。どちらも傷だらけだが二人の目はまだブロリーを仲間にすることを諦めていなかった。

 

「まだ生きていたのか……。死にぞこないどもめ!」

 

「ブロリー…。おまえを操ってきたことはすべてオレが悪かった。オレにはあれしか方法が浮かばなかったんだ。だがおまえはオレの息子だ!オレはおまえを大切に思っている、これだけはわかってくれ!」

 

「ふざけるな…!どうせそれもオレを欺くための嘘なんだろう!もう親父の言うことに騙されんぞ!」

 

「嘘ではない!オレはおまえにただ謝りたいだけなんだ!信じてくれ、ブロリー!」

 

「うるさい…うるさい…!これ以上オレにその言葉を向けるな!オレの心をこれ以上かき乱すんじゃない!!」

 

「……ブロリー、おまえやっぱりパラガスの息子だぜ。不器用なところがそっくりだ。」

 

「なんだと……!」

 

「いい加減、認めろよ。おまえはさ、ただ悲しかっただけなんだろ?信じてた親父に裏切られたことがさ。だからそうやって今度は一人になろうとしてる。もう誰にも裏切られないように。」

 

「黙れ!知ったようなことをぬかすな!」

 

「ああ知らねえよ。俺はおまえのことを何も知らねえ、だからこれから知っていきたいと思ってる。言ったはずだぜ?オレはおまえを仲間にしたいんだ。だからおまえを一人になんか絶対にしてやんねえ。ここでおまえを説得してみんなで地球に帰るんだ!」

 

「なんなんだ…!貴様は一体、なにが目的でオレを仲間にしようとする!どうせ貴様もオレの力を利用しようとしているだけだ!それを何が仲間だ、笑わせるな!」

 

「利用なんて考えてねえよ!やっぱりおまえは不器用だ、そうやって利用されることを恐れているだけの臆病者だ!」

 

「オレが臆病だと!?ふざけるな!貴様らのような雑魚にそんなこと言われる筋合いはない!」

 

「ああそうだ、俺はおまえに比べりゃただの雑魚だよ!そしてこれが俺からの最後の交渉だ。その雑魚である俺がもしおまえに勝てたら、おまえは俺たちと一緒にこい!」

 

 まさかのホウレンの交渉に周りにいた全員が驚きの表情を見せる。いくら超サイヤ人に変身したとはいえホウレンの実力はこの中でも最低クラスなのだ。あまりにも分が悪い内容に全員が止めにかかる。

 

「ホウレン!いくらなんでもそりゃ無理だ!おめえはまだ超サイヤ人の力も完全に使いこなせてるわけじゃねえんだぞ!」

 

「そうですよ!それにそんなことしたらホウレンさんも死んじゃいますよ!?」

 

「貴様には無理だ!せめて悟空に任せたほうがいい!」

 

「……。」

 

 皆の制止の言葉を無視してホウレンはブロリーの反応を待った。するとブロリーは急に高笑いし始めた。

 

「フハハハハハ!!貴様如きがオレを倒すだと?面白い…いいだろう!そんな不可能なことをもし貴様がやってのけたら、オレは貴様の仲間にでもなんでもなってやろう!だが出来なければ貴様らは全員ここで死ぬ、つまり貴様らが死ぬことはもはや決まったも同然なのだ!」

 

「言ったな……?もう取り消せないかんな!覚悟しろよ!」

 

 ホウレンはブロリーから目を離し、悟空たちのほうを見つめた。

 

「悟空、そしてみんな。悪いけど、俺に力を分けてくれないか?みんなの力で勝ちたいんだ。」

 

「ホウレン…おめえ、本気なんか?」

 

「ああ、本気だ。頼む。」

 

 ホウレンの考えはみんなの力を自分に集めてその力でブロリーを倒すというものだった。だがあまりにも無謀な作戦に思わず悟空も息を飲む。

 

「わかった、ぜってえに勝てよ!ホウレン!」

 

「おう!」

 

「みんな!ホウレンに力を分けてやってくれ!みんなの力でブロリーを倒すぞ!」

 

「チッ、仕方ない。ホウレン!貴様が言い出したことだ!ちゃんと責任とりやがれ!」

 

「ボクの力も全部渡します!使ってください!」

 

「オレの力も…どうか、ご無事で!」

 

 悟空の号令に従いベジータを除く全員がホウレンに気を集める。

 

「ベジータ!おめえも頼む!ホウレンに気を与えてくれ!」

 

「ふ、ふざけるな!誰が貴様のような下級戦士に!」

 

「ベジータ!頼む、俺を信じて力を貸してくれ!」

 

「くっ…ぐぐ…!…今回だけだからな!!」

 

 ようやく観念したベジータはホウレンに残るすべての気を託した。

 そしてすべての気が集まったホウレンは凄まじい力を手にしたのだった。

 

「ありがとよ、ベジータ!ブロリー、待たせたな。さあ、決着と行こうぜ!!」

 

「ハッハハハハ!雑魚のパワーをいくら集めたとてこのオレを超えることはできぬ!」

 

「どうだろうな、そいつはこれからのお楽しみってやつだ!」

 

 その時さらに少しの気がホウレンに入ってきた。

 

「……パラガス。」

 

「……オレの気も使ってくれ、オレ程度の力では意味などないかもしれんがな。」

 

「いいや、十分だよ。サンキューな。さあブロリー!これで終わりにするぞ!!」

 

「いいだろう!だがここで終わるのは貴様らだ!」

 

 ホウレンとブロリーはその場から飛び立ち開けた荒野に降りたった。お互いに全力でぶつかるためである。睨み合いが続くなかついに二人は動きを見せた。

 

「ハアアアアア!!」

 

「デリャアアアア!!」

 

 同時に動きだした二人の拳は強い衝撃を放ちぶつかり合った。

 二人は何度も何度も同じぶつかり合いを繰り返し、そのたびに辺りの岩が砕け散り、地面はどんどん陥没していく。二人のぶつかり合いはさらに加速していった。

 

「うりゃららららら!でりゃあ!」

 

「うぉおおおおお!だああ!」

 

 拳の打ち合いを続ける二人だったがついにお互いの左頬に拳が入った。だがどちらもすぐに体制を立て直しさらに殴り合いを再開する。

 遠巻きに見ていた悟空たちもあまりに激しい攻防に息を飲み込んだ。

 

「ブロリー!オレはおまえを絶対に倒してやるぞ!!」

 

「やれるものならやってみろ!!」

 

 どんどんぶつかり合いは苛烈になっていった。お互いにガードできていた攻撃も徐々にできなくなってきて最早ただの殴り合いとなっていた。常識を超えた威力の拳での殴り合いは両者の体力を急激に奪っていく。

 

「くたばるがいいい!!」

 

 ブロリーはホウレンの拳を寸でのところでかわし即座にホウレンを全力で殴り飛ばした。

 体制が崩れたホウレンを追撃して両足で踏みつけるがホウレンは直前で体制を立て直しそれをかわし、そのままブロリーの左頬に全力の蹴りを食らわせて距離をとる。

 

「ぜぇ…ぜぇ…!あぶねえ……!」

 

「ハァ…ハァ…!くたばりぞこないめ……!これで終わらせてやる!」

 

 ブロリーは大きく距離をとって岩山の上に立つと、右手に気を込め始めた。

 

「とっておきだ……!」

 

 するとブロリーの右手からいままでで最大の気弾が現れた。圧倒的な威圧感に押しつぶされそうになるホウレンだったが、歯を食いしばりホウレンもまた両手を前に出し、ありったけの気を集めた。

 

「決着をつけようぜ、ブロリー!これが俺たち全員の力だぁあああ!!」

 

 ホウレンはみんなから集めたすべての気を両手から解き放った。解き放たれたエネルギー波はブロリーの特大の気弾とぶつかりあい激しい轟音を上げた。

 

「「ウォオオオオオオ!!」」

 

 まったくの互角に思えたぶつかり合いだったが徐々にホウレンのエネルギー波がブロリーの気弾を押し始める。

 

「ば、バカな!!」

 

「いけえええええええ!!」

 

 ホウレンは最後の力を振り絞って両手に力を籠める。そしてついにブロリーの気弾を貫いた。

 

「ぐああああああ!!こ、このオレがー!!?」

 

 ブロリーはホウレンの放ったエネルギー波に飲み込まれる。そしてボロボロになったブロリーは変身が解け岩山からゆっくりと落ちて行った。ついにホウレンはブロリーに勝利したのだ。

 

「やった…やったぞ!!俺たちの勝ちだー!!」

 

 喜びに満たされたホウレンの元にボロボロのみんなが集まり称賛の言葉を浴びせる。

 

「ホウレン!やったなー!!」

 

「最後はひやひやしたぞ。だがよくやった!」

 

「すごい闘いでしたよ!お疲れさまでした!」

 

「みんなの力のおかげだ、本当にありがとう!」

 

「ホウレン!」

 

「パラガス。どうかしたのか?」

 

「時間がない、早く宇宙船に乗り込まねばグモリー彗星の衝突に間に合わなくなってしまうぞ!」

 

「な、なに!?やべえ、早くブロリーを連れて行くぞ!ってあれ……?」

 

 ホウレンは急にその場に倒れこんでしまった。驚いた悟空たちはホウレンに駆け寄る。

 

「どうしたホウレン!大丈夫か?」

 

「あ、あはは。なんか力使い果たしちまったみたいだ…動けねえ。」

 

「いい!?し、しかたねえオラが担いでいく!みんな急げ―!」

 

 悟空たちはピッコロが乗ってきた宇宙船に全速力で向かった。そしてパラガスは一人ブロリーの元へ向かった。

 

「ブロリー。意識はあるか……?」

 

「……親父か。オレに…とどめを…刺しに来たのか?」

 

「違う。ホウレンと約束したはずだ。あいつが勝ったらおまえはあいつらの仲間になるとな。」

 

「……まだ、そんなことを言っているのか…。……親父、オレは…負けたんだな……。」

 

「そうだ。おまえは負けた。いいや、俺たち親子の完敗だ。こうして二人とも命を失っていないのだからな。」

 

「……。」

 

「さあ行くぞブロリー。地球へおまえも一緒にくるんだ。」

 

 パラガスは倒れているブロリーを担いで悟空たちの後を追った。そしてブロリーは深い眠りにつくのだった。

 その後ホウレンたちは宇宙船に奴隷となった人たちも乗せて地球へと飛び立った。

 それから数時間後、宇宙船は地球へと降りたった。

 

「戻ってきたな。地球に。」

 

「オラ腹減っちまった!早く帰ってチチに飯作ってもらうぞぉ!」

 

 それぞれが宇宙船から降りて、体を伸ばしているとブロリーがパラガスの肩を借りてホウレンと悟空の元へ歩いてきた。

 

「ホウレン、おまえには礼を言わねばならんな。オレとブロリーを救ってくれたこと感謝する。」

 

「カカロット…そしてホウレン…!オレは今回は負けた、だが次はこうはいかんぞ!傷が癒え、更に力を上げて、おまえたちはオレがこの手で殺す!それがオレの新たな目的だ…!」

 

「なんだよ…仲間になるって約束だろ?観念してくれよ。」

 

「チィッ…!そんな約束知らん!」

 

「おい!子供かてめーは!」

 

「ブロリー。オラは今度こそおめえを自分の力で倒して見せる。絶対にだ!」

 

「……フン。オレは簡単には倒せんぞ……。」

 

「ああ!それでこそやりげぇがあるってもんさ!」

 

「では、オレたちはもう行く。また会うことがあるだろう。さらばだ。」

 

 パラガスはそういうとブロリーを抱えたままどこかへ飛んで行ってしまった。

 

「……行っちまったな。」

 

「……またすぐに会えるさ。」

 

「そうだな…。悟飯、肩貸してくれ。」

 

「はい、どうぞ。」

 

 ホウレンは悟飯の肩を借りてピッコロたちの元へ向かった。

 

「みんな、今回はオレの無茶を聞いてくれてありがとな!」

 

「今回だけだ。次はないぞ?」

 

「まったくだ。あの化け物を仲間にするなど、オレは聞いてないぞ!」

 

「ああ、そういやベジータには伝えてなかったっけ?」

 

「まあいい!カカロットだけじゃない、オレもやつを超えて見せるぞ…絶対にな!いくぞトランクス。」

 

「はい、父さん。では皆さん、また。」

 

 ベジータとトランクスはカプセルコーポレーションに帰っていった。

 

「オレはこの宇宙人どもをなんとかせねばな……。」

 

「ピッコロさんごめんなさい。任せてもいいですか?」

 

「仕方あるまい。放っておくわけにもいかんからな。おまえらもさっさと帰ってゆっくり休め。」

 

「はい!」

 

「ピッコロ、頼んだぞ!じゃあ悟飯、ホウレン。帰るか!」

 

「ああ帰ろう!」

 

 こうして新惑星ベジータでも壮絶な闘いは幕を下ろした。だがこれから先まだセルゲームが控えている。ホウレンたちは無事にセルを倒すことが出来るのであろうか……。

 




ちょっと無理やりだったかもしれませんがこれでブロリー編終了です。
あとはセルゲームを書いたら幻想郷の話を書くのでもう少しお待ちください。

↓ホウレンのイメージ絵描きました。

【挿絵表示】


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

セルの奥の手 セルゲームの結末

このセルゲームで序章はおしまいです。


 ついにやってきたセルゲームの日、ホウレンは闘いを見届けるべく悟空たちに同行する。

 始まったセルゲームで最初に悟空が闘おうとするがさきに世界チャンピオンのミスターサタンが闘いに出てしまう。だがサタンはあっさり場外に落とされて敗北してしまうのだった。

 そして悟空とセルの試合が始まり、闘いは苛烈を極めたがなんと悟空は降参してしまう。

 そこで悟空が次に闘う戦士として指名した者は孫悟飯だった。

 

 動揺を隠せない悟飯であったが地球の未来を守るために闘うことを決意する。

 その時悟飯が見せた気は先の悟空に匹敵するほどのものであった。セルとの闘いの中で悟飯は『この闘いに意味がない』『ほんとは闘いたくない』と言い出した。それを聞いたセルはそれを笑い飛ばす。だが悟飯はそんなセルのことですら殺したくないという気持ちがあり、自身の隠された力のことをセルに話してしまう。

 

 それを聞いたセルは悟飯の真の力に興味を持ち、逆に悟飯を怒らせてその力を解放させようと考えて悟飯を一方的にいたぶり始める。

 だが悟飯は自身が傷つけられることに怒りがこみあげてくることがなかった。そこでセルは悟飯の仲間たちを傷つければ悟飯が怒ると考え、悟空たちの元へ飛び立ち仙豆を奪い取る。

 仙豆を奪い戻ってきたセルに背後から16号が飛びつき自爆してセルもろとも命を絶とうとするがすでに爆弾はブルマたちの手によって取り除かれており、16号はセルに粉々にされてしまったのであった。

 

「しょせん貴様はドクターゲロの失敗作だったようだな。」

 

 セルは転がった16号の頭を蹴り飛ばし悟空たちを見た。

 

「今度は貴様たちの番だ。1…2…3…4……8人か。…よし。」

 

 そういうとセルの尻尾が大きく開き中から八体の小さなセルに似た生物が出てきた。

 

「さあ行け!セルジュニアたちよ。あの岩の上にいる8人が相手だ。痛めつけてやれ、なんなら殺しても構わんぞ。」

 

「「「キーー!!」」」

 

 セルの言葉に反応し、セルジュニアたちは一斉に岩の上にいるホウレンたちを狙って飛んできた。

 

「気を付けろ!こいつら恐ろしく強いぞ!」

 

 悟空の言うとおりセルジュニアたちの強さは単純に今のベジータやトランクスに匹敵するほどの力を持っていた。飛んでくるセルジュニアに対して全員が戦闘態勢に入るが、ホウレンはなぜか超サイヤ人になっていなかった。

 

「ホウレン、貴様何をしている!さっさと超サイヤ人になりやがれ!あいつらは手を抜いて勝てる相手ではないぞ!」

 

「手を抜いてるわけじゃねえんだ!俺はまだ悟空たちみてえに自由に超サイヤ人に変身できねえんだよ!」

 

「チィッ…!少しは戦力になるかと思ったがしかたない、貴様は仲間と協力しながら闘え!でないと死ぬぞ!」

 

「ああ、わかってる!」

 

 身構えるホウレンたち一人一人の元にセルジュニアがそれぞれ襲い掛かってきた。

 ホウレンたちはなんとかそれに応戦するがセルジュニアの力に圧倒され押され気味になってしまう。そして悟飯はセルがいることによって皆を助けられず、ただ見ることしかできなかった。

 

「や、やめろ…!トランクスさんとホウレンさん以外はも、もう二度と生き返ることはできないんだ……!」

 

「お?僅かに気が膨らみ始めたな。いいぞ、やっと怒りを感じ始めたようだ……。早く真価を見せんと取り返しのつかんことになるぞ。よく見るがいい、ベジータやトランクスでやっと互角の闘いだ。体力を失っている孫悟空も危ない……。」

 

 セルの言うとおりすでに先の闘いで体力を消費した悟空ではセルジュニアとの闘いはきついものであった。それでも悟空はなんとかセルジュニアと闘っているとそこにホウレンがやってきて背中合わせに立った。

 

「悟空、無理すんな!俺も一緒に闘うぞ!」

 

「すまねえホウレン…!まさかこんなことになるなんて思わなかったんだ……!」

 

「俺に謝ってどうすんだ、おまえが一番謝んなきゃなんねえのは悟飯にだ。だからそれまで死ぬんじゃねえぞ!」

 

 お互いの正面にのセルジュニアが襲い来る。二人はその攻撃を同時にかわすとセルジュニア同士が互いに顔を打ち付けて目を回す。

 そこを二人は同時に攻撃しセルジュニアを吹き飛ばした。

 

「ホウレン、なんとか超サイヤ人になれねえんか!?」

 

「なれんならとっくになってるよ!」

 

 セルは悟空とホウレンがともに闘う姿を見てにやりと笑った。

 

「誰だか知らんがなかなかやるではないか、だがもうここまでだ。セルジュニアたちよ!お遊びはそこまでだ!やれ!殺してしまえ!」

 

 するとセルと悟飯の間に何かが投げ込まれる。それは先ほどバラバラにされた16号の頭だった。

 

「ん?」

 

「じ…人造人間……。」

 

「孫…悟飯…。正しいことのために闘うのは罪ではない…。話し合いなど通用しない相手もいるのだ。せ…精神を怒りのまま解放してやれ…気持ちはわかるがもう我慢することはない…。オ…オレの好きだった自然や動物たちを…守ってやってくれ…。」

 

「……。」

 

 セルは16号に近づくとそのまま頭を踏みつぶしてしまった。つぶされた頭はぐしゃりと音を立ててバラバラになった。

 

「……!!」

 

「余計なお世話だ。出来損ないめ。」

 

 その時、セルの言葉に悟飯の中の何かが切れた。

 

「うぉああああああーーー!!!!」

 

 轟音と共に悟飯の周りにとてつもない気の嵐が吹き荒れ爆風が起こり地面にひびが入る。

 そして悟飯の髪が通常の超サイヤ人よりも更に逆上がり、体の周りにプラズマのようなオーラが漂っていた。その変身に周りだけではなくセルすらも驚いていた。

 

「…か、変わった…。」

 

「もう許さないぞ…おまえたち……!」

 

 そう言って悟飯はセルを睨みつけるとゆっくりとセルに歩み寄る。圧倒的な気がびりびりとセルの肌に突き刺さる。

 

「や…やっと真の姿を見せたか。こ、これで面白くなってきたぞ……!」

 

 強がるセルの手元に悟飯が素早く手を出しセルが持っていた仙豆を奪い返した。

 

「き、きさま仙豆を…!」

 

 そして悟飯はセルの横を通り過ぎて悟空とホウレンの元に飛んで行った。

 

「ご、悟飯……。」

 

「ホウレンさん、仙豆です。これでお父さんやみんなを。」

 

「あ、ああ。」

 

 悟飯がホウレンに仙豆を渡すと悟空とホウレンを襲っていたセルジュニアたちが悟飯を挟み込むようにたった。

 

「っ!悟飯、あぶねえ!」

 

「キキッ!キー!」

 

 悟飯を一斉に襲うセルジュニアだったがなんと悟飯は一瞬でセルジュニアたちを粉々に粉砕してしまった。バラバラになったセルジュニアたちはぐちゃりと生々しい音を立てて地面に落ちる。

 

「な…!?」

 

 驚くホウレンをよそに悟飯は別のセルジュニアたちを睨んだ。するとセルジュニアたちは殺された仲間を見て、残った全員で悟飯に襲い掛かった。

 

「「「キャアーーー!!!」」」

 

「はああああーーー!!」

 

 悟飯は襲い来るセルジュニアたちを一撃で葬り去ってしまった。それを見た仲間たちは驚きと同時に信じられないようなものを見る目で悟飯を見た。

 

「悟飯…その姿は一体……?」

 

「へ…へへ…悟飯。ついに出せたんだなおめえの本当の力を……!」

 

「…お父さん。ホウレンさん。もう少し離れていてください。もしかしたら巻き込んでしまうかもしれないから……。」

 

 悟飯はそう告げると再びセルの元へと戻っていった。

 

「いい気になるなよ小僧…。まさか本気でこのわたしを倒せると思っているんじゃないだろうな?」

 

「…倒せるさ。」

 

「…フン、大きく出たな…。では見せてやるぞ、このセルの恐ろしい真のパワーを!かぁあああ!」

 

 セルは急激に気を上げだし一気に爆発させた。その衝撃でセルを中心に爆風が起こり、瓦礫が吹き飛ばされる。

 

「つ、ついにセルがフルパワーの闘いを見せる……。」

 

「なんて気だよ…!こんなもんブロリーとたいして変わんねえじゃねえか……!」

 

「はああああ…!…どうだ。これが本気になったわたしだ…。」

 

「それがどうした。」

 

 そんなとてつもない気を放つセルに対しても悟飯は表情一つ変えることはなかった。

 それを見たセルは小さく笑い、一気に悟飯との距離を詰めて悟飯を殴りつけた。だが悟飯はそんな攻撃をものともせず、逆にセルの腹を思いっきり殴りつけた。

 

「あ…ぐぅ…!この……!」

 

 再びセルは悟飯に殴り掛かるが悟飯はそれを屈んでかわしそのまま立ち上がる勢いに任せてセルの顎を殴りつけ、セルを吹き飛ばした。

 吹き飛ばされたセルは空中で体制を取り直し、素早く着地した。だがダメージが大きくよろけてしまう。

 

「お、おのれ……!ではこれならどうだ!」

 

 セルは遥か上空まで飛び上がり両手に気を込め始めた。

 

「食らえ、全力のかめはめ波だ!避ければ地球が吹っ飛ぶ!受けざるを得んぞ!」

 

「な、なんだと!?」

 

「よしやがれ!冗談じゃねーぞ!!」

 

「かめはめ…波ぁああーーー!!」

 

 全員が慌てふためく中、セルは悟飯に向けて全力のかめはめ波を放った。

 その巨大なかめはめ波に誰もが死を覚悟した。そんな中、悟飯だけが微動だにせず空を見上げていた。

 

「か…め…は…め…波ぁあああーーー!!」

 

「お…おぉおおお!?ぐわぁあああ!!」

 

 悟飯はセルが放ったかめはめ波に対して更に巨大なかめはめ波を放った。そのかめはめ波はセルのかめはめ波をいとも簡単に押し返し、セルを飲み込んだ。

 セルはかめはめ波の威力に体のあちこちが吹き飛びズタズタな体になっていた。

 

「あ…あのガキ。セルのバカでかいかめはめ波を…も、もっとでかいかめはめ波で…!」

 

「す、すげえ!すげえぞ悟飯!」

 

「悟飯!なにをしている!とどめだ!早くとどめをさせ!」

 

「…もうとどめを?まだ早いよお父さん。あんな奴はもっと苦しめてやらなくちゃ…。」

 

「な…なんだと?」

 

「な、なにを言ってるんだ…あいつ。」

 

 セルは体を再生しようと力を込め始めた。悟空はそれを見て、焦って悟飯に訴えかける。

 

「悟飯!とどめを刺せるのはおまえだけだ!早くやれ!これ以上あいつを追い詰めんな!何をするかわかんねえぞ!!」

 

 だが悟飯は悟空の訴えに対して小さく笑みを浮かべてそれを受け流した。

 そしてセルは体を再生し終えるとわなわなと体を震わせて大きく叫びをあげた。

 

「ちくしょう…ちくしょう…!ちくしょぉおおおーー!!」

 

 するとセルの体形が大きく変わり始め巨大で筋肉質な体になり、悟飯の元に降りてきた。

 

「貴様なんかに…貴様なんかに負けるはずはないんだああ!!」

 

 逆上したセルは力に任せた攻撃を繰り返し悟飯を狙うも悟飯はそれを難なくかわし逆に強烈な一撃でセルの頭を蹴り飛ばした。

 

「あ…あぐ…うがああ!…うぷっ!?おごあ…っ!!」

 

 悟飯の強烈な蹴りを食らったセルは突然苦しみ始め、口から一人の女性を吐き出した。

 

「あ…!じゅ…18号だ!18号を吐き出した……!」

 

「あの吐き出された人のこと知ってるのか?クリリン。」

 

「あ、ああ。彼女は人造人間の一人でセルに吸収されてしまったんだ。で…でもなんでセルは18号を吐き出したんだ…?」

 

 18号を吐き出したセルはさらに苦しみ始め、だんだんその姿が変化していった。

 そして面影を残しつつもまったく別の人物へと姿を変えた。

 

「お、おい。セルの姿が変わったぞ。それに気も大きく減っちまった。どうなってるんだ?」

 

「あれは…セルの完全体になるひとつ前の姿です…!」

 

「ってことは、セルは弱体化したってことか!」

 

「ええ、おそらくそうでしょう…!あの姿ならオレでも十分に倒せるレベルです!」

 

 まさかの出来事に周囲が喜ぶ中、悟飯はつまらなそうに顔をしかめた。

 

「ちぇ、つまらない。それじゃあもうおまえも終わりだな…。」

 

「うぐぐぐ…っ!ゆ…ゆるさん…ゆるさなぁああーーい!!」

 

 セルは雄たけびを上げるとさらに体形を変化させ始め、今度は風船のように大きく膨らみ始めた。

 

「な、なんだ?何をするつもりなんだ……?」

 

「き…貴様らはもう終わりだ!あ…あと一分でお、オレは自爆する…。オレも死ぬが貴様らも全部死ぬ!地球ごと全部だ……!!」

 

「な、なに!?」

 

「泣いて謝ってもダメだぞ!も…もうオレにだって止めることはできないんだ……!」

 

「そうはさせるか!!」

 

 なんとかセルを止めようとする悟飯をセルが手を前に出し制止する。

「おっと!攻撃しないほうがいい。このオレに衝撃を与えるとその瞬間に爆発するぞ?もっともほんのちょっと死ぬのが早くなるだけだがな……!」

 

「くっ……!(こんなことになるなんて…!お父さんの言った通りだ!)」

 

 悟飯は膝をつき地面を叩きつける。

 

「く…くそっ!ボ、ボクのせいだ…。は…はやくとどめを刺しておけば……!」

 

「お、おい。これまずいんじゃねえか!?なんとかなんねえのかよ!!」

 

「だめだ…もうどうしようもない…。ち…地球がなくなる……!」

 

「あーはっはっは!!さあ、あと十秒だ!この勝負引き分けに終わったようだな!!」

 

「残念だが、貴様の負けだ。」

 

 自爆寸前のセルを前に何もできない皆の元に誰かの声が響いた。

 

「な…貴様は…誰だ!?」

 

 そこに現れたのはパラガスとブロリーであった。

 

「カカロットはオレが殺す。だから今この星を破壊されてはこまるんだ……!」

 

「ブ、ブロリー!?それにパラガスも……!」

 

 ブロリーは伝説の超サイヤ人に変身するとそのままセルを持ち上げて自分ごとセルをバリアーで包み込んだ。

 

「ブロリー!な…なにをするつもりだ…!!」

 

「ブロリーはあのままやつをバリアーの中に閉じ込め、その中で爆発させようとしているのだ。」

 

「パラガス…!何言ってんだ!そんなことしたらブロリーが……!!」

 

 ブロリーはセルを持ち上げたまま遥か上空に飛びたった。それにセルは激しく動揺する。

 

「き…貴様、正気か!?こんなことをすれば貴様が死ぬだけだ!命を張ってまで地球を守るとでも言うのか!?」

 

 取り乱すセルにブロリーはにやりと笑った。

 

「このオレが星の爆発くらいで死ぬとおもっているのか?」

 

 ブロリーの顔は本気だった。そしてブロリーは大気圏近くまで飛ぶとそこで急停止してさらにバリアーを強くした。そしてついにセルは限界を迎える。

 

「ち…ちくしょぉおおーー!!」

 

 セルはそのままバリアーの中で眩い光を放ちながら大爆発を起こした。バリアーがありながらもその衝撃は凄まじく、ホウレンたちの元まで届くほどだった。そしてセルの気はそのまま消滅した。

 

「セ…セルの気が消えた……。」

 

「ブ…ブロリーはどうなったんだ!無事なのか!?」

 

 ホウレンは空を見上げたままブロリーの姿を探す。すると上空からゆっくりと傷だらけのブロリーが降りてくるのを見つけた。

 

「ブロリー!」

 

「まさかあの化け物に地球が救われるとはな…。おかしな話だぜ。」

 

「はは、ピッコロ!そういうなよ。あいつのおかげでオラたち助かったんだぞ?」

 

「ふっ。まあそうだな。今はとりあえず感謝しておこう。」

 

 ブロリーは真下にいた悟飯の元に降りてきて歩み寄った。

 

「カカロットの息子…悟飯といったか?」

 

「は、はい。」

 

 ブロリーは悟飯の姿をじろじろと観察すると軽く舌打ちをした。

 

「貴様程度がそこまでの気を放つとは思わなかった。どうやらオレもうかうかしていられないらしい……。」

 

「あ…あの。ブロリーさん。ありがとうございました!ボ…ボクが調子に乗ったせいでもう少しで…ま…守れたはずの地球を壊されてしまうところでした…。本当にありがとうございます!」

 

「…フン。カカロットに伝えておけ。今回は助けたが次はない…。オレに殺されるまで負けることは許さんとな。…親父!行くぞ!」

 

「ああ、そうだな。ではさらばだ。ホウレンよ。」

 

「パラガス…ああ。またな!ブロリーによろしく伝えてくれ。」

 

 パラガスは片手をあげてそれに答え、ブロリーと共にその場から飛び去り見えなくなった。

 そして皆が悟飯の元に集まった。

 

「お父さん、ごめんなさい。ボクの油断のせいでみんなを危険な目に合わせてしまって……。」

 

「悟飯。相手だって何しでかすかわかんねんだ。次からは気を付けろ。それで充分だ。すごかったぞ、よく闘った。」

 

「…はいっ!ありがとうございます……っ!」

 

「今はとにかく帰って休もう!チチも心配してっかんな~!」

 

「そうだな。ククッ。悟空は悟飯を闘わせたから叱られるんじゃんねぇか?」

 

「ぃい!?オラもう、くたくただぞ…。」

 

 皆の笑い声に包まれてセルとの闘いは終わった。そして後日トランクスが元の時代に戻る日がやってきた。

 

「母さん、お元気で。」

 

「ええ。トランクスもね!未来の世界も平和にするのよ!」

 

「はい、必ず!」

 

「皆さん、本当にありがとうございました!さようなら!」

 

「元気でな!トランクス!」

 

「また遊びに来てください!」

 

 集まったみんなに見送られてトランクスは無事未来へと帰っていった。

 そしてホウレンは…。

 

「みんな、ちょっといいか?」

 

「なんだよ、ホウレン。どうかしたんか?」

 

「…俺さ。この星から少し離れてみようと思うんだ。」

 

 ホウレンの突然の言い出しに周りがざわめきだす。

 

「みんなには随分と世話になったけど、どうやらここでいくら時間をかけても俺の記憶は戻りそうにない。だから宇宙に出て、何か記憶を戻すきっかけを探してきたいんだ。頼む。俺に宇宙船を貸してくれないか!」

 

 静まり返る中、ブルマがホウレンの元にやってくる。

 

「いいわよ。私が造った宇宙船でよければ、持っていきなさい。」

 

「いいのか!?」

 

「ええもちろん!記憶を戻すの…手伝ってあげられなかったから、せめてそれくらいはさせて頂戴。」

 

「ブルマ…!ありがとう!」

 

「そっか…ホウレン。おめえともお別れか。寂しくなんな……。」

 

「悟空……。わりいな。でももう決めたことなんだ。いつかまた地球に帰ってくるよ。」

 

「…そうか。わかった。元気でやれよ!また会おうぜ!」

 

「ああ!悟空こそ元気でな!」

 

 そしてホウレンはブルマに宇宙船を用意してもらい宇宙船に乗り込んだ。

 

「みんな、またな!何年かしたら絶対に顔を見せに来るから、出迎えよろしく頼むぜ!」

 

「ホウレンさん、お元気で!」

 

「悟飯もな、勉強頑張れよ!」

 

「次はもっと強くなってこい、オレも相手になってやろう。」

 

「ベジータ、そんときはお手柔らかに頼むぜ?」

 

「じゃあなホウレン!ブロリーにはオラから伝えといてやっから、心配すんな!」

 

「お、おう。そっちのほうが心配な気が…。まあいいや、頼んだぜ悟空!いつかまた勝負しようぜ!」

 

 そしてホウレンは記憶を求めて宇宙へと旅立った。

 こうしてホウレンたちの闘いは終わった。だが、この闘いは数年後の長い闘いの序章に過ぎなかったことをホウレンたちはまだ知らない。

 果たして、これから先ホウレンたちのもとに何が起こるというのであろうか……。




次回から第一章が始まりますのでお楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一章 時空の先の幻想郷
歪みの中を進め 幻想郷への道


やっと第一章のスタートです!今回はまだ東方のキャラがほぼ出てきませんが、これからたくさん出てくるのでよろしくお願いします。


 悟空たちがセルとの闘いを終えてあれから三年の月日が流れた。

 地球は平和そのものであった。

 そして今日は未来からトランクスが人造人間とセルを倒したという報告に来ていた。

 

「トランクス!元気だったか?」

 

「はい、クリリンさんもお元気そうで。」

 

「それで、おまえの世界はどうなった?ちゃんと平和になったのか?」

 

「はい!人造人間もセルもなんとか倒すことが出来ました。これも皆さんのおかげです。」

 

「そうか!そいつはよかった!これでおまえの世界にも平和が戻ったんだな……。」

 

「ええ。これですべてが終わりました。……ところで悟空さんとホウレンさんの姿が見えないようですが、お二人はどちらに?」

 

「ああ、悟空なら今界王様のところに行ってるらしいぞ。なんでも大変なことが起きたとかで。」

 

「大変なことですか……。ではホウレンさんは?」

 

「…あいつは、もういないよ。」

 

「え?」

 

「トランクスが帰ったあとすぐにホウレンも宇宙へ飛んでっちまったんだ。記憶を探すためにな。だからここにはいないんだ。」

 

「そうだったんですか……。残念です。記憶…戻るといいですね。」

 

「ああ、そうだな。」

 

 場所は変わってここは界王星。悟空は界王様に呼び出されて界王星に来ていた。

 

「界王様。オラに話ってなんだ?」

 

「うむ。実は最近、地球で少し困ったことが起こってな。そのことでおまえを呼んだんじゃ。」

 

「地球で困ったこと?また誰かとんでもねぇやつが現れたんか!?」

 

 悟空は驚いたようにだがどこか嬉しそうに界王様に詰め寄った。

 

「そんなに簡単にとんでもないやつが出てたまるか!今回呼んだのはそういうものじゃなーい!」

 

「なんだよ…じゃあ何があったってんだよ界王様。」

 

「コホン!三年前、セルとの闘いで最後セルが自爆したのを覚えているな?」

 

「ああ、忘れるわけねえさ。それがどうかしたんか?」

 

「うむ。実はその時の爆発によって時空が歪んでしまっていたようなんじゃ。最初はとても小さな歪みだったようで放っておけばすぐに元通りになる程度のものだったみたいじゃが、最近になってその歪みが突然大きく変化し始めたのじゃ……。」

 

 突然の難しい話に悟空は軽く首を傾げる。

 

「?その歪みってのが大きくなるとどうなるんだ?」

 

「あちら側の世界と繋がってしまうんじゃ。」

 

「あちら側?いってえなんのことだ?」

 

「時空の歪みの中にある世界。幻想郷のことじゃ。」

 

「幻想郷…オラ聞いたこともねえぞ。」

 

「本来幻想郷の存在は誰にも知られていない。知っているのは神々だけじゃからな。おまえさんが知らんのも無理はない。」

 

「その幻想郷っちゅうところと繋がっちまうとどうなるんだ?」

 

「それはな。この世界の常識が狂ってしまいかねんのじゃ。それだけこちらの世界とは大きく異なる世界というわけじゃな。そこでじゃ!悟空、おまえさんとその仲間たちでこの幻想郷に直接入って中にいる博麗の巫女、または八雲紫を探してこの問題を解決してほしいんじゃ。」

 

「博麗の巫女と八雲紫か…。そいつらに会えばいいんだな?それだけなら別にオラ一人でもいいんじゃねえのか?」

 

「そういうわけにもいかんのじゃ。幻想郷には本来誰も入ることが出来ん。例外として一時的に開いてしまった時空の穴に入り込んでしまいその世界に迷い込むものもいるそうじゃが、今回は自分たちから入ろうとしているわけじゃからな。時空の歪みにおまえさんらで力を合わせて気で無理やり時空に穴をあけて侵入してほしい。それが今回の相談じゃよ。」

 

「……界王様。その幻想郷っちゅうとこにはつええやつもいるんか?」

 

「ん?おお確かにおるな。今言った博麗の巫女や八雲紫はもちろん、いろいろな能力を持ったものがたくさんおる。じゃが悟空。あくまで今回は闘うことが目的じゃないのじゃからな?わかっておるか?」

 

「へへっ、わかってるって!それじゃあオラみんなを集めてくっから、場所を教えてくれ。」

 

「うむ。場所はセルゲームがあった場所じゃ。そこに着いたら全員で気を全開にして思いっきり叫んでくれ。」

 

「叫ぶだけでいいんか?」

 

「おぬしらが全開の状態で気弾なんぞ撃ったら地球が壊れてしまうからな。叫ぶだけでも十分じゃ。さあいけ、悟空!頼んだぞ!」

 

「おう、任せとけ!じゃあな界王様!」

 

 悟空はそう言って瞬間移動で地球へ戻っていった。

 そして悟空はカプセルコーポレーションにやってきた。

 

「悟空さん!お久しぶりです!」

 

「おっす!トランクス、随分久しぶりだな!元気してたか?」

 

「ええ、おかげさまで。悟空さんは用事があったようですが、もう終わったんですか?」

 

「それがよ。ちょっと面倒なことになってきてな…。ちょどいいやトランクス、おめえの力も貸してくんねえか?」

 

「え、オレの力もですか?」

 

「ああ、それと悟飯。ピッコロ。ベジータも力貸してくれっと助かる。」

 

 悟空が指名したのは全員が強い気を持っているものだった。

 指名された三人は悟空の元に歩み寄り悟空から話を聞く。

 悟空は界王様に言われたことを全員に話した。

 

「なるほど、時空の歪み。それに幻想郷か。」

 

「ピッコロ、おめえ知ってるんか?」

 

「オレも元は神だからな。聞いたことくらいはある。いいだろう。オレも手伝ってやる。」

 

「お父さん、ボクも手伝います!」

 

「サンキュー悟飯。ピッコロ!」

 

「悟空さん、オレも手伝わせてください。ここまで聞いたら放ってはおけません。」

 

「おめえも手伝ってくれるか!ありがとな!ベジータ、おめえはどうだ?」

 

「……貴様の頼みを聞くのは癪だがいろいろな能力を持つ強いやつらには興味がある。いいだろう。オレも力を貸してやろう。」

 

「ほんとか!助かるぞ!それじゃあ、みんなオラについてきてくれ!」

 

 ベジータたちは飛んで行った悟空の後を追って全員で飛び立った。

 

「…行っちまった。」

 

「なんなのかしら。また変なことにならないといいけど……。」

 

 残されたブルマたちは心配そうに空を見上げていた。

 

~セルゲーム会場跡地~

 

 三年前セルゲームが行われたこの荒野はその当時のままで闘いの痕跡が残っていた。

 悟空たちは大きなクレーターの中に降りるとさっそく超サイヤ人に変身して気を全開に高めた。

 

「よーし、みんな!思いっきり叫ぶぞ!せーのっ!!」

 

「「「だぁあああああーー!!!」」」

 

 悟空たちの叫びはとてつもない気を放ち、雲さえも貫いた。そしてわずかだが空に切れ目が入り始め、奇妙な空間が出現した。

 

「いまだ!行くぞー!!」

 

 悟空の合図に合わせて全員で空の空間に飛び込んだ。

 そしてここは時空の歪みの中。歪みの中は薄暗く、薄紫色のグネグネした壁が続いていた。

 

「…ここが界王様が言ってた時空の歪みってやつか……。なんか気味悪りいなー。この先に本当に幻想郷なんてところがあんのかよ。」

 

「いや、間違いなくこの先だろう。少なくともこの空間はこの世のものではない。界王様の言った言葉を信じろ。」

 

 悟空たちはそのまま歪みの中を進んでいくとベジータが何かに気づいた。

 

「ん?なんだこの音は……。」

 

「ベジータさん、どうしたんですか?」

 

「貴様には聞こえんのか?この妙な音が。」

 

「妙な音……?」

 

 そういわれて悟飯は静かに目を閉じ周りの音をしっかりと耳に刻み付ける。すると遠くから何か電撃のようなバチバチという音が聞こえてきた。

 

「…本当だ。なんの音でしょうか?」

 

 すると突然歪みの中がうごめき出し、プラズマのようなものが発生し始めた。

 

「ど、どうなっているんですか!悟空さん、界王様からは何か聞いていないんですか!?」

 

「オ、オラにもわかんねえ!どうなってんだ一体!?」

 

 慌てふためく悟空たちであったが、そこに界王様からの通信が入った。

 

『悟空!聞こえるか悟空!』

 

「!!界王様!こりゃどういうことだよ、歪みの中がすげえことになってきたぞ!」

 

『そのことなんじゃが大変なんじゃ!おぬしらが入った後、歪みが突然小さくなり始めたんじゃ!このままじゃおぬしらは全員別の時空のどこかにバラバラに飛ばされてしまうぞ!』

 

「ぃい!?ど、どうすりゃいいんだよ。なんとかできねえんか!?」

 

『とにかくあちこちに空間の穴が開いておるじゃろう!その中のどれでもいいから飛び込めー!早く飛び込まんと本当にどこか別の世界に飛ばされてしまうかもしれんぞー!!』

 

「み、みんな!早く近くの穴に飛び込めー!早くしねえと大変なことになっちまうぞ!」

 

「なんだと!カカロットどういうことだ!」

 

「説明してる暇はねえ!いいから近くの穴に飛び込め!」

 

「チィッ!あとで説明しろよ悟空!」

 

「お父さん!先に行きます!」

 

 ピッコロと悟飯はそれぞれ近くにあった空間の穴に飛び込んだ。

 すると飛び込んだ空間の穴は小さくなり消えてしまった。

 

「ベジータ!トランクス!おめえたちもだ!」

 

「仕方ない…!行くぞトランクス!」

 

「はい!父さん!」

 

 そしてベジータとトランクスも近くにあった穴に飛び込み、穴は姿を消した。

 

「よし!じゃあオラも…!」

 

 最後に悟空は目の前に現れた穴に飛び込んだ。すると時空の歪みはどんどん小さくなり消滅してしまった。

 時はさかのぼり数分前…。

 

~宇宙船~

 

「…そろそろ地球につく頃か。みんなに会うのは久しぶりだな。」

 

 ホウレンは地球に向けて飛んでいた。

 地球が見えてきていよいよ着陸だと思うホウレンだったが突然巨大な気が地球から放出されてきた。その気に宇宙船が激しく揺れ、宇宙船のドアが開いた。

 

「うぉおおお!!な…なんだなんだ!?どうなってやがる!」

 

 ホウレンが慌てていると宇宙船の外が歪んでいるのが目に入った。

 

「!?なんだありゃ。近づいてくる…いや、俺が宇宙船ごと近づいてるのか!!」

 

 なんとか体制を立て直し宇宙船を操縦しようとするも間に合わずホウレンは宇宙船ごと歪みの中に吸い込まれてしまった。

 吸い込まれた先は悟空たちが入った時空の歪みであった。

 

「ここは…。どこだ?」

 

 時空の歪みのことを全く知らないホウレンはその不思議な光景に目を丸くした。

 すると前方にどんどん宇宙船が吸い込まれ始めたのだ。

 

「うお!くそっ次から次へと!とにかく宇宙船から出ねえと……!」

 

 ホウレンは急いで宇宙船から出ると宇宙船はプラズマに巻き込まれ姿を消してしまった。

 

「あっぶねえ!あのまま乗ってたら俺まで消えちまうところだったぜ…!それよりなんとかしてここを出ねえと!くそっ何かないのか!?」

 

 ホウレンは歪みの中を見渡し脱出経路を探すがどこにもそれらしきものは見当たらず、あちこちに黒い穴が開いているだけだった。

 

「っ~!こうなったら一か八かだ!うぉらあああ!」

 

 そしてホウレンは運にすべてを賭けて穴に飛び込んだ。すると穴の中でさらに空間が歪み始め、ホウレンは深い闇の中に落ちていった。長い時間穴を降りていくと下に小さな光が見え始める。

 その光に飛び込むと世界が急に反転してホウレンは地面に頭を打ち付けた。

 

「いってぇ~…!!はっ!こ…ここは?」

 

 ホウレンが辺りを見渡すとそこは薄暗く雲に包まれているかのようでまるであの世にでも来てしまったのかと思うほど、どんよりとした場所だった。

 果たしてホウレンが落ちた場所はどこなのか。そして悟空たちはどうなったのであろうか。

 

 

 

「…誰か侵入者のようですね。」

 

 




今回はここで終わりです。次回から本格的に始まります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

侵入者ホウレン?冥界の女剣士

 時空の歪みに巻き込まれたホウレンは見たこともない場所にいた。

 ホウレンはとにかく情報を集めるためこの場所を探索することにしたのだった。

 

「ここはどこなんだ…?地球…だよな?」

 

 あれから少しの時間歩き続けているホウレンだがいまだ人の気配を感じない。それどころか、気そのものをまるで感じ取ることが出来ないのだ。

 

「もしかして俺…死んじまったとかじゃねーよな……?」

 

 最悪の考えに背筋が凍りつくのを感じたホウレンは頭を振ってその考えを払拭した。

 しばらく歩き続けているとホウレンの前にとてつもなく長い階段が見えた。

 

「うわっ、頂上が見えねえ。すげえ長い階段だな…。」

 

 しかし階段の周りに建物は見えず、少しでも情報がほしかったホウレンは仕方なく階段の上を目指すことにした。

 ホウレンは舞空術を使い、階段を一気に進んで行くとだんだん建物が見えてきた。

 階段の頂上まで来たホウレンが降りるとそこには立派なお屋敷へと続く道があった。

 

「随分でかい屋敷だな。人がいるといいんだが…」

 

 ホウレンはひとまず屋敷を目指して歩き出した。

 

(もし人がいなかったらどうすっかな。他に建物は見えないし。あと他に見えるものといやぁ、あの大きな桜の木くらいだしな……。)

 

「とにかく、今はあの屋敷だな。頼むぜ、誰かいて__ッ!!?」

 

 その時ホウレンの元にどこからともなく斬撃が飛んできてホウレンはそれを紙一重でかわすが、頬を少しかすり血が垂れる。

 まさかの攻撃にホウレンはすぐさま拳を構え斬撃が飛んできた方向を睨む。するとそこには白い髪をしたおかっぱの少女が刀を握って立っていた。

 少女の隣には半透明な何かがふわふわと浮かんでおり、ホウレンはそういう種族なのだろうと自己解釈してそれを無視した。

 

「……よく避けましたね。」

 

「……誰だか知らねえが不意打ちとは汚ねぇじゃねーか…。おまえは誰だ。この屋敷の住人か?」

 

「私はこの屋敷の主、西行寺幽々子さまに仕えている庭師です。」

 

「そうか…で?なんで俺に斬りかかってきた。」

 

「この冥界に侵入者が入りましてね。恐らく貴方がそうだと判断してとりあえず斬ってみました。」

 

「あ…あぶねえやつだな…おまえ。(さっきまで人の気配はなかったはず。それどころか今もうっすらとしか感じられない…どういうことだ?)」

 

「あなたが貴方がどなたか存じませんが、侵入者なら斬って捨てるだけ。いきます!」

 

「くっ!!」

 

 ホウレンとの距離を急激に縮めてきた少女は、ホウレンの首を狙って斬りかかるもホウレンはそれを咄嗟にかわして後ろに下がり再び拳を構える。

 

「くそっ!よくわかんねえけど、そっちがその気なら相手になってやるぜ!はぁあああーー!!」

 

 ホウレンは少女と向き合い気を解放したその力は三年前よりもはるかに強力になっていた。

 ホウレンの突然の変化に驚いた少女は慌てて刀を強く握りなおした。

 

「な、なんですかそれは!」

 

「なーに、ちょっとばかし本気になっただけだよ。さあいくぞ!!」

 

 気を解放したホウレンは高速で少女との間合いを詰め、拳を突き出すが少女はなんとかそれに反応し、拳をかわして今度は少女のほうがホウレンから距離をとった。

 

「っと!なかなか素早いな…。だが次は……ん?」

 

 距離をとった少女は気を集中させているのか刀を構えたまま動かない。すると隣にいた白い生き物から青白い球が現れた。

 

「…なんだあれは?エネルギー弾か……?」

 

「くらいなさい!」     獄界剣『二百由旬の一閃』

 

 少女は青いエネルギー弾を刀で斬り裂くとその斬り裂いた部分から数多の赤いエネルギー弾がホウレン目掛けて飛んでいった。

 その数はホウレンの視界を埋め尽くすほどの量だった。

 

「!?(数が多すぎる!避けきれねえ!!)」

 

 圧倒的な数の攻撃にホウレンは避けることが出来ずそのままエネルギー弾の中に飲み込まれ大爆発を起こした。

 

「…ふぅ、どうやら終わったみたいですね。さあ早く幽々子さまのもとへ戻らないと。」

 

 勝利を確信した少女は踵を返して屋敷へと帰ろうする。

 

「待てよ。」

 

 爆発した場所にホウレンはあちこち傷がついた状態で立っていた。その姿に少女は激しく動揺する。

 

「俺はまだ闘えるぜ……?」

 

「嘘っ!全部当たったはず!なんでまだ生きているんですか!?貴方一体何者なんですか!」

 

「俺は戦闘民族サイヤ人だ…簡単に負けてたまっかよ!」

 

「ッ!…つ、次で今度こそおしまいです!!」

 

 少女はホウレンからさらに距離を離れると再び刀を構えなおす。

 

(…甘く見てたな。こりゃ本気を出さなきゃ俺も危ないぞ…。たいした女だ……。)

 

「スペルカード!!」      幽鬼剣『妖童餓鬼の断食』

 

 少女は刀を腰に構え刀に力を込め始めた。

 

「!(やつが溜めの体制に入った!やべえのがくる!)…上等だ。真正面から打ち勝ってやるぜ!うぉおおおおおーー!!」

 

 ホウレンは極限まで気を溜めてそのすべてを両手に込めた。

 

「やぁああーー!!」

 

 少女は刀に溜めた力を解き放ち特大の斬撃を放った。

 

「見せてやるよ、俺の技!…ターコイズブラスト!」

 

 ホウレンは両手から青白い光線を放った。この技はここ三年間の修行で身につけたホウレンの最大級のエネルギー波である。

 ホウレンが放った技は少女の斬撃を打ち砕きそのまま少女に向かって飛んで行った。

 

「そ、そんな!?きゃあああーー!!」

 

 少女はホウレンの技を避けきれずそのまま地面に倒れた。動かなくなった少女を見てホウレンは少しやりすぎたかと思いつつもとりあえず一息ついて気を緩めた。

 

「…終わったか。(危なかった。こんなに強い女がいるなんて…世界は広いな。)」

 

 するとピクリと少女の手が動き少女が起き上がろうとする。

 

「!(あれを食らってまだ動けるのか!?…だが。)」

 

「く…うぐっ…!」

 

「…もうやめとけ。これ以上やったら死んじまうぞ?」

 

「な…情けは無用です!絶対に貴方を幽々子さまの元へは行かせるわけにはいきません!」

 

「はぁ…俺は別におまえの主に何かしようってわけじゃねえよ。ちょっと人を探してうろついてただけでな。」

 

「え……?」

 

「まったく、マジで殺しにかかりやがって…。まあ楽しかったけどな。」

 

「じゃ…じゃあ貴方は幽々子さまを狙ってきたわけじゃないんですか……?」

 

「そうだって言ってんだろ?ほら、立てるか?」

 

 ホウレンは座り込む少女に手を差し伸べた。

 

「……ありがとうございます。」

 

 少女はそれに少し戸惑いながらも手を取って立ちあがった。

 すると少し離れた場所から知らない声が聞こえてきた。

 

「うふふ。二人ともお疲れ様。面白い闘いだったわよ~。」

 

「ん?あんたは……?」

 

 ホウレンが声に気づき屋敷の方向を見ると一人の女性がぱちぱちと手を叩いて二人に歩み寄ってきた。

 その女性は桃色の短い髪でどこか不思議な雰囲気を醸し出していた。

 ホウレンがどこからか現れたその女性を見ていると隣にいた少女が驚き戸惑っていることに気が付いた。

 

「ゆ、幽々子様!」

 

「え?この人がおまえの主なのか?」

 

 女性はクスリと笑いホウレンを見つめた。

 

「そうよぉ。私がこの白玉楼の主、西行寺幽々子よ。冥界に住む幽霊の管理なんかもやってるわ。」

 

「冥界…幽霊?…まあなんのことだかわからんが俺はホウレン。サイヤ人だ。」

 

「さいやじん?おいしそうな名前ね、よろしく。」

 

「え、あ…ああ、よろしく。」

 

「そ、それより幽々子さま。どうしたここに?」

 

 少女は随分と動揺していた。それもそのはず、さっきまでの闘いは幽々子を守るための闘いだったからである。本人が来てしまっては何の意味もない。

 

「あら?だってあんなに派手に闘ってるんですもの気になって見に来ちゃった♪」

 

「あ。そうですか……。」

 

 あっけらかんとした幽々子に少女はがくりと肩を落とした。

 

(さっきの闘い…意味ねえな……。)

 

「それで?貴方はこの白玉楼に何かご用かしら?」

 

「あ。いやここに用があったわけじゃねえんだ。ただ誰でもいいから話が聞ける人を探しててな。ちちょうどいいや、聞きたいことがあるんだけどいいか?」

 

「ええ。私に答えられることならなんでもいいわよ。」

 

「その…ここって地球のどこなんだ?」

 

「「はい?」」

 

 ホウレンの質問に二人は首を傾げた。その様子を見てホウレンは慌てて質問を言い直す。

 

「い、いや違った。こ…ここはどこなのか教えてくれないか?」

 

「ここは冥界よ。まあ死んじゃった人が来る世界みたいなところね~。」

 

 幽々子の答えにホウレンは顔を青くした。

 

「ってことは俺は…死んじまったのか!?うぉおおお!さっきのあれのせいなのか!?あんな穴に飛び込んだからこんなことに!!」

 

「お、落ち着いてください!貴方は死んでなんかいませんよ!」

 

「へ?ほんとか!?嘘じゃないよな!?」

 

「本当よ。第一死んだら魂とかになるはずだもの。…それより穴に飛び込んだって言ってたわよね?その話聞かせてもらえるかしら。」

 

「あ…ああ。実はここに来るちょっと前になんていうかこう…変な歪み?みたいなものに巻き込まれちまって、なんとか抜け出そうと近くにあった穴に飛び込んだんだよ。そして落ちた先がここだったんだ……。」

 

 ホウレンの説明に二人は納得したようで顔を見合わせた。

 

「なるほど、外来人ですか……。」

 

「外来人?なんだそりゃ。」

 

「外来人っていうのはね。私たちが住む世界、幻想郷の外の世界から迷い込んできた人のことよ。」

 

 幽々子の言葉に聞き覚えのない単語を聞いたホウレンは再び首を傾げた。

 

「……幻想郷ってなんだ?国の名前か?」

 

「違うわ。幻想郷ってのはねぇ。貴方が住んでる世界とは別の次元にある世界のことよ。」

 

 幽々子の説明にホウレンは理解が追い付かず、ただ頭の上にはてなを浮かべたまま説明を聞き続けた。

 

「本当はこの幻想郷には外の世界の人は入ってこれないはずなんだけど…たまに貴方みたいにこっちの世界に迷い込んじゃう子がいるのよぉ。」

 

「……なにがなんだかさっぱりだ。」

 

「まあ最初はそうよねぇ。とりあえずついてきてくれるかしら?話は屋敷でしてあげるわ。」

 

「そうか?そりゃ助かるぜ。」

 

「妖夢、貴方もついてきなさい。」

 

「はい。幽々子様。」

 

「妖夢っていうのか。そういやおまえの名前は聞いてなかったからなー。」

 

「そういえばそうですね。では改めまして、私はここ白玉楼専属の庭師をしています。魂魄妖夢と申します。」

 

「そうか、よろしくな妖夢。」

 

「こちらこそよろしくお願いします。」

 

「とりあえず二人とも休んでからかしらね。ホウレンさん?妖夢に肩を貸してあげてくれるかしら。」

 

「おっとそうだった。ほれ、掴まれ。」

 

「え!い、いやいいですよ!一人で歩けますから!」

 

 妖夢は少し恥ずかしいようで顔を赤くしてそれを断った。

 

「無理すんな。さっきの闘いでだいぶダメージを受けたはずだぞ?いいから黙って俺に掴まっとけよ。」

 

「…す、すみません。じゃあお願いします……。」

 

 少し考えたあと、観念した妖夢はおとなしくホウレンに肩を貸してもらい三人は屋敷へと向かって歩き出したのだった。

 




やっと東方のキャラを出せました。しゃべり方などに違和感があったらすみません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

仲間を探して 最強とさいきょう?

 ここは幻想郷のとある森。その上空に突然小さな歪みが発生した。

 そこから一人の人物が叫び声を上げながら森の中に落下した。その人物は時空の歪みの中で穴に飛び込んだうちの一人、孫悟空であった。

 

「いっちちち!なんとか間に合った見てぇだな。みんな大丈夫か__ってあり?みんなどこ行ったんだ?」

 

 悟空は辺りを見渡すがそこには自分以外の人の気配がなかった。

 

「あ…そうか。あんときみんな別々の穴に入ったから、もしかすっと別の場所に出ちまったのかもしんねえな。うーん、とりあえず気を探ってみっか。」

 

 悟空は目を閉じて遠くの気を感じてみるも上手く気が探れずそれを断念した。

 

「まいったな…。よくわかんねえ気がごちゃごちゃしててみんなの気がよくわかんねえぞ…。これじゃ、瞬間移動で合流すんのも無理そうだ…。仕方ねえ、歩き回って探すしかねえか。」

 

 そうして悟空仲間たちを探して森の中を歩き回った。だがいくら歩き回っても仲間たちは見つかず、時間だけが過ぎて行った。

 

「やべえな。オラ腹減ってきちまった…。みんなも全然見つかんねえし、参ったな~。ん?」

 

 腹を空かせて歩き回っていると森の奥に一人の少女が立っているのを見つけた。

 悟空はこれを幸運に思い、話を聞くため少女の元へ歩み寄った。

 

「おーい!そこのおめえ!ちょっといいかー?」

 

「え、あんただれ?」

 

 少女は水色の短い髪で背中に氷ような羽を持っていた。

 

「オッス!オラ悟空!」

 

「おっす!あたいチルノ!なんか用?」

 

「えっと、この辺に強そうなやつを見かけなかったか?怖え目つきしたやつとか緑色のやつとか。」

 

 悟空の曖昧な質問にチルノは不思議そうな顔で悟空を見た。

 

「よくわかんないけど強いやつだったらいるよ。」

 

「ほんとか!それで、そいつは今どこにいんだ?」

 

「ふっふっふ。それはあたいのことだよ!」

 

「へ?おめー、つええのか?」

 

「もちろん!あたいさいきょーだから!」

 

 自信満々に言い切ったチルノに悟空は少し戸惑う。どう見ても強そうには見えなかったからだ。

 

「そ、そうなんか?全然そんな風には見えねえんだけどな~……。」

 

「あ!あたいのことバカにしたな!」

 

 すると悟空の発言が気に障ったのかチルノは悟空に怒鳴りかかった。

 

「い!?いや、そんなことねえぞ?信じてないわけじゃねえって!」

 

「うるさーい!あたいがこらしめてやるから覚悟しろ!」

 

 チルノは悟空の弁明の声も聞かずに悟空に襲い掛かろうとしたその時、黄緑色の短い髪の羽が生えたもう一人の少女が止めに入った。

 

「待ってチルノちゃん!ダメだよ、知らない人に喧嘩売っちゃ!」

 

「あ、大ちゃん!だってこいつがあたいのことバカにしたんだよ!」

 

「す、すまねえ。そんなつもりはねえんだ。許してくれ。」

 

 チルノは悟空にグイッと近づき顔を覗き込んだ。

 

「む~…いいよ、ゆるす!」

 

 チルノはなんとか悟空を許してくれたようで、悟空はホッとして胸を撫で下ろした。

 

「あの…チルノちゃんがすみません。」

 

「あ、いや別にいいさ。それよかおめえは?」

 

「あ。私は大妖精っていいます。貴方は?」

 

「オラ、孫悟空だ。ところで大妖精、おめえにも聞きてえんだけどこの辺に強そうなやつらを見かけなかったか?怖え顔したやつとか緑色の肌してるやつとかさ。」

 

「えっと…緑色の肌の人?はわからないですけど、紅魔館なら強い人がたくさんいますよ?」

 

「紅魔館?」

 

「はい。この幻想郷の中でもかなり上の力を持った人たちが住んでいる館のことです。」

 

 その話を聞いた悟空はかなりわくわくした様子で嬉しそうな顔をしていた。

 

「へえー!そうなんか!闘ってみてえなぁ!」

 

「あたいのほうが強いけどね!」

 

 悟空はどや顔のチルノも目に入らず紅魔館のことを考えていた。

 

「もしかすっとみんなもそこにいるかもしんねえな…。なあ大妖精。その紅魔館っちゅう場所がどこにあんのか教えてくれ!」

 

「いいですよ。あっちのほ__」

 

「ちょっと待った!こうまかんへの行き方は教えられないよ!」

 

「え!な、なんでだよ!」

 

「えっとね。なんとなく。」

 

 チルノの適当な考えに悟空はどうしたもんかと真面目に考え込んでしまう。

 それを見て大妖精は焦ってチルノに近づいた。

 

「ちょ、ちょっとチルノちゃん……!」

 

「参ったな…。この世界はうまく気も探れねぇみてえだし。やっぱ飛び回って空から探してみるしかねえか……。」

 

 本気で考え込む悟空を心配した大妖精は悟空の顔を覗き込んだ。

 

「あの…大丈夫ですか?」

 

「え?あ、ああ大丈夫だ。それよかどうしても教えてもらえねえか?」

 

「うーん、どうしよっかな~?」

 

「チルノちゃん、教えてあげよう?ね?」

 

「たのむ!」

 

 悟空は手を合わせてチルノに頭を下げた。それを見たチルノは少し考えたあと何かを閃いたように手をぽんと叩き悟空を指さした。

 

「あたいに勝てたら教えてあげよう!」

 

「チ、チルノちゃん!?」

 

「ほんとか!よかった~!オラまた迷っちまうとこだったぞ~!」

 

「ふふふ、もう勝った気でいるの?ただの人間にあたいは負けないよ!」

 

 やる気満々になったチルノと悟空だったがそこに大妖精が小声で悟空に耳打ちしてきた。

 

「あ、あの悟空さん。」

 

「ん?どうした?」

 

「…チルノちゃんはあんな感じですけど、妖精の中では凄く強いほうで…その…人間の貴方じゃ勝てないと思うんです。それに紅魔館も同じで実のところチルノちゃんよりもずっと強い人たちが住んでいるので行かないほうがいいかもしれませんし……。」

 

「へえ。あいつほんとに強かったんだな~。オラわくわくしてきたぞぉ!」

 

「ええ~!?」

 

 小声でいつまでも会話している悟空たちにしびれを切らしチルノは大声で悟空を怒鳴りつけた。

 

「なにをコソコソしてる!来ないならこっちからいくぞー!」

 

「大妖精、離れてろ。巻き込まれんぞ?」

 

「は、はい……。」

 

 大妖精は余裕たっぷりな悟空を心配に思いながらも言われた通りに二人から離れた。

 

「さあて。お手並み拝見といくかな。」

 

 お互いに準備を整えた悟空とチルノはどちらも余裕がある表情で睨みあった。

 そしてチルノが先に攻撃を仕掛けた。

 

「くらえ!」       氷符『アイシクルフォール』

 

 チルノが手を前に突き出すとチルノの周りから氷のつぶてが現れ悟空目掛けて飛んで行った。

 悟空はそれに驚きながらも飛んできたすべての氷をかわして見せた。

 

「あれ?外した?」

 

(外したんじゃない。あの人…全部避けてた……!)

 

「おどれぇたぞ!おめぇ氷を出せるんか!よーしじゃあ今度はオラから行くぞ!か~め~は~め~……!」

 

「ふふん、運良く外れたみたいだけど次で決め__」

 

「波ぁあああーー!!」

 

「え?」

 

 悟空のかめはめ波をチルノは避けることが出来ずそのままかめはめ波に飲み込まれて消滅してしまった。

 

「あ!」

 

「チ…チルノちゃーん!!」

 

 様子見に撃ったはずのかめはめ波でチルノを消し飛ばしてしまった悟空はしまった!と思いながら大妖精のほうを恐る恐る見つめた。

 

「……あの、えっと。」

 

「チルノちゃん…またやられちゃった……。」

 

「す…すまねぇ。おめえの友達を吹き飛ばしちまった…。ぜ…絶対にドラゴンボールで生きけぇらしてやっから待っててくれ!」

 

 焦って大妖精に深く頭を下げる悟空だったが大妖精はあまり動揺していない様子だった。

 

「あ、えっと。大丈夫です!私たち妖精は時間が経てば復活しますので。」

 

「そ、そうなんか?そいつはよかった……!」

 

「あ、そうだ。紅魔館の場所なんですけど、向こうへずっと歩いたところに湖があって、その先にある真っ赤なお屋敷が紅魔館です。」

 

「サンキュー。じゃあ、またな!さっきのやつにもよろしく伝えといてくれ!」

 

「はい、お気をつけて!」

 

 大妖精と別れ、悟空は紅魔館がある方角へ飛んで行った。

 

「……凄く強い人だったなぁ。あの人なら紅魔館に行っても無事に帰ってこれるかも……。」

 

~霧の湖 上空~

 

「でっけえ湖だな~。それに霧もかかってて前が見ずれぇし…。」

 

 霧がかかった湖を先に進むとそこには真っ赤な館が見えてきた。

 

「お?ひょっとしてあれが紅魔館か?」

 

 悟空は紅魔館らしき建物を見つけその門の元へ降りた。

 

「へえー。ほんとに真っ赤だなぁ。ここにつええやつがいんのか…。悟飯たちもここに来てっといいんだけどなぁ……。」

 

 悟空が館をまじまじと見ていると門の壁に誰かが立っているのを見つけた。

 そこにいたのは赤色の腰まで伸びた長い髪で中華風の服を着た女性だった。話しかけようとした悟空だったが、よく見るとその女性は壁にもたれかかって寝ているようだった。

 

「寝てんのか?…参ったなぁ。おーいおめえ!ちょっと__ッ!!」

 

 悟空が近づいたそのとき、寝ていたはずの女性が突然悟空に殴り掛かってきた。

 だが悟空はその不意打ちに反応し拳を受け止めた。

 

「……今の不意打ちを軽く受け止めますか。なかなか強いですね。」

 

「おめえ、いきなりなにすんだ!」

 

 女性は突き出した拳を下げて話しを始めた。

 

「……先ほど、森のほうで大きなエネルギー波のようなものを何者かが放出したのを感じました。恐らく貴方のものでしょう?」

 

「……おめえ気を感じ取れるんか。確かにオラだ。それがどうしたっちゅうんだ。」

 

「もし貴方が危険な人物だったとしたら、この紅魔館の門番としてここを通すわけにはいきません。お引き取り願います。」

 

「別にオラおめえらに危害を加えるつもりはねえぞ。ただ聞きたいことがあるだけだ。」

 

「聞きたいこと…?なんでしょうか。」

 

「ここにオラみてえな強い気を持ったやつらがこなかったか?オラの仲間なんだけんど、この世界に来るときにバラバラになっちまったみてえでさ。」

 

「い、いえ来てませんよ?(ホントは寝てたからわからないけど……。)」

 

 悟空はガクッと肩を落とし、困った顔をして腕を組んだ。

 

「そうか~…。参ったなぁ。ここにはいねえのか……。」

 

「聞きたいことはそれだけですか?ならばお帰りください。」

 

「あ、そうだ。それともう一つお願いがあるんだけどいいか?」

 

「なんです?」

 

「ここにすげえ強いやつらがいるって聞いてよ!オラそいつらと闘ってみてえんだ!ダメかな?」

 

 悟空のお願いに女性は目を丸くする。

 

「ま…まあ、確かにここの住人は強者ぞろいですが。貴方人間でしょう?死んじゃいますよ?」

 

 戸惑った女性ははたから見れば無謀とも言える悟空のお願いに一応警告をするが悟空は逆に目を輝かせてしまった。

 

「そんなにつええんか!オラわくわくしてきたぞ!」

 

 そんな悟空の様子を見てこれはもう何を言っても無駄だと考えた女性はため息を零した。

 

「……えっと。後悔しませんね?」

 

「ああ!」

 

「……わかりました。では私がお相手いたしましょう。」

 

「おめえが相手してくれんのか!よろしくたのむ!」

 

「はい。よろしくお願いします。」

 

 悟空たちが組手を始めようとしているとき、紅魔館の窓からその様子を眺めている女性がいた。

 

「あら?珍しいわね。あの娘がちゃんと働いているなんて。」

 

 女性が独り言を零していると前から一人の少女がその女性の前に歩いてきた。

 

「咲夜。ちょっといい?」

 

「はい。何でしょうかお嬢様。」

 

「今美鈴が話している男、たぶん美鈴を倒してこの紅魔館に入ってくるわ。」

 

 少女の言葉に咲夜は一瞬あっけにとられる。

 

「人間が美鈴を…ですか?」

 

「ええ、間違いないわ。断片的だけど運命を覗いてみたの。目的はわからないけど侵入してくることは確かなこと…。気を緩めないようにね。」

 

「はい。かしこまりました。」

 

「ああ、それとね咲夜。」

 

 少女は去り際に後ろを振り返り一言だけ告げた。

 

 

 

「あの男には貴方でも勝ち目がないから気をつけなさい。」

 

 




言い忘れてましたが自分の書く幻想郷の住人は少しでもバランスをよくするためにだいぶ強め?にしてあります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

手合わせ開始!紅魔館の従者

今回は少しだけ短めです。


 悟空の頼み事によって闘うことになった二人は、紅魔館の門から少しだけ離れた場所に移動して、お互いに体をほぐすため準備運動を行っていた。

 準備運動を終えた美鈴が呼吸を整え悟空を見る。

 

「いきますよ。覚悟はいいですか?」

 

「ああ、いつでもこい!」

 

 二人は少し距離をとってお互いに構え睨みあった。常人が見ればただの睨み合いにしか見えないが二人にとっては隙の探り合いであった。

 

(嘘…まるで隙がない……?)

 

「どうした?来ねえならこっちからいくぞ!」

 

「……ッ!!(は、速い!)」

 

 美鈴は高速で繰り出された悟空の右拳を寸でのところで躱し、更にの二撃目の左拳を左手でいなし、悟空のガラ空きになった腹に殴りかかるが一瞬で後ろに回り込まれ逆に前方へ吹き飛ばされた。

 

「はっはー!惜しかったなあ!」

 

「くっ!(捉えたつもりが逆に捉えられていた!)……たあっ!!」

 

 悟空と美鈴は互いにぶつかり合い激しい攻防を繰り広げた。

 

「どうした!そんなんじゃオラは倒せねえぞ!」

 

「甘く見ないでください!まだまだこれからですよ!」

 

 美鈴は悟空から少し距離を取って技の構えに入った。

 

「いきます!」      彩符『極彩颱風』

 

 美鈴は色鮮やかな弾幕を全体に撒き散らし、悟空と自らを囲った。

 あまりの弾幕の密度にさすがの悟空も出られそうにない。

 

「……こりゃ逃げ場がねえな。」

 

「まだこの技は終わりではありませんよ!」

 

 美鈴は悟空に向けて一直線に走り出し悟空に殴りかかった。 

 

「っと!へへっ、そんなパンチじゃ避けるまでもねえぞ…_ッ!?」

 

 拳を受け止め余裕の表情を見せる悟空であったが、受け止めた美鈴の拳から追撃するように無数の白い弾幕が放たれ悟空に直撃した。

 

「うわああ!」

 

(効いた!これならいける!)

 

 チャンスを逃すまいと美鈴はすぐに吹き飛んだ悟空に追撃の弾幕を放った。

 しかし悟空は地面に滑り込みながらもすぐに体制を立て直し、一瞬で美鈴の後ろに回り込んだ。

 

「な!?」

 

「うおりゃああーー!!」

 

 そして悟空は美鈴に向けて特大の衝撃波を放った。強力な衝撃波によって二人を囲っていた弾幕がすべて吹き飛ぶ。

 

「ぐっ…きゃあ!」

 

 衝撃波をまともに食らった美鈴はそのまま門を突き破り、館の中まで吹き飛ばされた。

 

「やべっ!つい本気で攻撃しちまった!」

 

 悟空は急いで吹き飛んだ美鈴の元へ飛んで行った。

 

~紅魔館~

 

 悟空が紅魔館の中に入るとそこには扉の残骸の中に倒れる美鈴の姿があった。

 

「おい!しっかりしろ!大丈夫か!?」

 

 美鈴は悟空の声を聞いてフラフラと立ち上がろうとした。

 

「ま…まだ…やれ…ます……。」

 

「もうやめとけ!フラフラじゃねえか!それにおめえの実力は十分わかった。おめえ一人じゃオラには勝てねえぞ。」

 

「あら、じゃあ二人ならどうかしら?」

 

 突然聞こえてきた声に驚き後ろを振り返ると、そこには銀髪のメイド服を着た女性が立っていた。

 

「お、おめえ一体いつからそこにいたんだ?」

 

「今しがた来たばかりですわ。」

 

「さ…咲夜さん……。」

 

「何やってるのよ美鈴。門番の貴方が門どころか館の扉まで壊されてしまうなんて……。」

 

「す…すみません……。」

 

「まぁ、今はもういいわ。お仕置きはまた後でね。それよりも貴方?」

 

「ん?なんだ?」

 

「この手合わせ、私も参加させていただいてもよろしいかしら?」

 

「え?おめえも強いんか?」

 

「ええ、それなりにはね。」

 

「さ、咲夜さん!」

 

「美鈴、貴方も色々言いたいことがあるでしょうけど。ここは私と協力して闘いなさい。…お嬢様のためにもね。」

 

「え?それってどういう……。」

 

「……いえ、何でもないわ。それより立てる?」

 

 咲夜は倒れている美鈴い手を差し伸べた。

 

「は、はい!」

 

 美鈴は咲夜の手を取り、まだ少しフラつきながらもしっかりと立ち上がった。

 その様子を見て悟空は嬉しそうに笑った。

 

「へへっ、二対一か…わくわくすんなあ!」

 

「うふふ、それはなによりですわ。」

 

 嬉しそうに笑う悟空を見て小さく微笑んだ咲夜だったが内心では笑える状況ではなかった。

 

(お嬢様の話によると私たちではこの人にどうやっても勝てない…。ならせめてお嬢様に少しでもお怪我がないように出来るだけダメージを与えておかなくては……!)

 

「さあ、どっからでもかかってこい!」

 

「行くわよ美鈴!」

 

「はい!やああーー!!」

 

 先に美鈴が悟空に突っ込み激しくぶつかり合った。受け身でいた悟空は反撃しようと拳を構えると美鈴は後方に飛び退いた。

 そこに美鈴の後ろで咲夜が高く飛び上がり、隠し持っていたナイフを投げつけてくるも悟空は難なくそれをかわし、ナイフは床に突き刺さった。

 

「おめえ、ただのナイフじゃオラは倒せねえぞ?」

 

 咲夜は床に着地すると小さく笑みを浮かべた

 

「ふふ、ご心配なく。ただのナイフではありませんので。」

 

 すると床に刺さっていたはずのナイフが突然悟空の背後から飛んできた。

 

「なにっ!?」

 

 悟空は驚きながらもそれを全てかわした。かわしたナイフはそのまま咲夜の元へ飛んでいくが急に消えてしまい気が付くと咲夜の手の中に戻っていた。

 

「ほらね。だからいったでしょう?(まさか後ろからの不意打ちをかわすなんて……。)」

 

「……後ろからナイフが飛んできた。どうなってんだ?一体……。」

 

「(でもまだ私の能力には気づいていないはず…ならば!)……美鈴ちょっといい?」

 

 咲夜は悟空に聞こえない程度の小さな声で美鈴に話しかけた。

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「私がナイフで隙をつくって能力で貴方をあの男の前まで移動させるわ。だから貴方は全力で拳を打ち込みなさい。」

 

「……なるほど、わかりました。やってみます。」

 

「おめえ、なんかおかしな技を使ってんな?」

 

「さて、どうでしょう?闘っていればわかるかもしれませんよ?」

 

「ははっ!それもそうだな。さあ続き始めっか!」

 

「ええ、続けましょう。はあ!」

 

 咲夜は悟空の周りに大量のナイフを投げつけるも悟空はそれをすべてかわし続ける。

 

「まだまだ!」

 

 咲夜が手で合図すると避けた全てのナイフが悟空の頭上に降り注いだ。

 悟空はそれにすぐに反応すると真上に抜けて気合を放ちナイフを弾き落としたそのとき、ナイフを弾いたことでほんの一瞬気が緩んだ悟空の懐に突然美鈴が現れた。

 

「な!?」

 

「やあああーー!!」

 

「うわあああーー!」

 

 突如出現した美鈴の攻撃に反応できなかった悟空は、美鈴の全力の連撃をまともに受けて後方に吹き飛んだ。

 だが悟空はそれでも倒れることはなかった。

 

「ぐっ!……参ったな。ナイフだけじゃなく、人間まで急に現れたぞ……。」

 

 そんな悟空を見て二人はもう勝ち目どころかダメージを負わせることすら難しく感じ始めた。

 

「……そんな。」

 

「はぁ…はぁ…!私の全力の拳が…たいして堪えてない……?」

 

「そっちのおめえ、咲夜っていったか?」

 

「……はい、そうですがなにか?」

 

「おめえのそのなんだかよくわからねえ技、オラにはもう通用しねえぞ。」

 

「な……!?」

 

「それからおめえは美鈴だったか?おめえは体力が無くなって、技の威力が随分落ちている。さっきも言ったがもうやめとけ。」

 

「くっ……!」

 

 悟空の指摘はまさにその通りであった。今の二人の連携ならば美鈴が万全であれば流石の悟空もダメージが少なからず残ったはずだったからだ。

 美鈴の体力がすでに限界近くのため、普段の力が出し切れていなかったことを悟空はすでに見抜いていた。

 

「……言ってくれるじゃない。確かにこれじゃ何をやっても貴方には勝てない。でもね、お嬢様の為ならたとえ勝ち目がなくても私は貴方に戦いを挑み続けるわ!」

 

「咲夜さん……?」

 

「……?(お嬢様…何のことだ?)」

 

「さあ、手合わせを続けるわよ!」

 

 咲夜は敵わないと知りながらも悟空と闘うことをやめなかった。その様子を見て悟空は真面目な顔つきになり再び構えた。

 

「仕方ねえ。ちょっと眠っててもらうぞ!」

 

「「はあああーー!!」」

 

 お互いの攻撃がぶつかり合おうとしたその時であった。

 

「そこまでよ!咲夜!孫悟空!」

 

「「「!!」」」

 

 悟空と咲夜は何者かの声によって攻撃の手を止めた。

 悟空が声のする方向を見ると階段の上から薄紫色の髪にナイトキャップをかぶり背中にはこうもりの羽のようなものが生えた少女が降りてきた。

 

「レミリアお嬢様!」

 

「お、お嬢様!なぜこちらにいらしたんですか!?ここは危険です!はやく避難を!」

 

「何言ってるのよ。こんなに館をボロボロにされて私が出てこないわけないじゃない。」

 

「ですが……!」

 

「それにね。私とそこの孫悟空が会うのは運命によって定められていること…。どこに逃げようと同じよ。」

 

「え?運命?なんのこと……?」

 

 咲夜はレミリアのことを心配して避難してもらおうとしているが、美鈴は話を聞かされていないため何が何だかわからないといった表情をしていた。

 

「おいおめえ!なんでオラの名前を知ってんだ?」

 

「ふふ、なんでかしらね?」

 

 レミリアは階段を下りて悟空のすぐ横を通り過ぎていった。

 

「付いてきなさい。外で話をしましょう。」

 

「……ああ、わかった。」

 

 悟空は素直にレミリアの言うことを聞き、後についていった。

 果たして悟空はこれからどうなってしまうのか。

 そして仲間たちを見つけることが出来るのであろうか?




戦闘描写って難しいですね……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

吸血鬼姉妹登場!月下の超決戦!

 レミリアの後についてきた悟空は綺麗な植物が並ぶ庭の中央までやってきた。

 闘っているうちに辺りはすっかり暗くなり大きな満月が浮かんでいる。

 

「さて、ここで話をしましょうか。」

 

「ああ。」

 

「……お嬢様、私たちは。」

 

「少し離れて待機してなさい。」

 

「はっ!」

 

 指示を受けた咲夜はその場から姿を消し、少し離れたところにいる美鈴の隣に移動した。

 

「まずは自己紹介かしら?私はここ紅魔館の主のレミリア・スカーレット。誇り高き吸血鬼よ。貴方は?」

 

「オラは地球で育ったサイヤ人、孫悟空だ。」

 

「サイヤ人?」

 

「まあ闘いが大好きな宇宙人ってとこかな。」

 

「ふーん。月の民の別種なの?」

 

「月の民?いや、オラ別に月には住んでねえぞ。」

 

 悟空の言葉にレミリアは少し興味を持ち悟空に少し近づいた。

 

「あら。じゃあ本当に他の星から来たとでもいうのかしら?」

 

「まあな。つってもオラは生まれた頃にすぐ地球へ送られたらしいから、よく覚えてねえけどな。」

 

「そうなの…。それで貴方はなぜここに来たのかしら?」

 

「それなんだけどよ。実はオラこの世界の人間じゃねえんだ。」

 

「宇宙人という話なら今聞いたけど?」

 

「いや、そうじゃなくてよ。おめえたちが住んでるこの世界の外から来たんだ。」

 

 悟空の説明に紅魔館の者たちに衝撃が走る。外の世界にこれほどの強さを持った人間が存在することに驚きを隠せないでいた。

 そんな中レミリアがぼそりと呟いた。

 

「……外来人…か……。」

 

「がいらいじん?なんだそれ。」

 

「外来人っていうのは、貴方みたいにこの世界の外から迷い込んでしまった者達のことをそう呼ぶのよ。といっても大抵の人間は迷い込んですぐに妖怪の餌になってしまうことが多いけれどね。」

 

「へー。えっと、それでよ。オラ意外にも何人か一緒にこの世界に来たんだけどさ。色々あってバラバラに分かれちまってな。そいつらがここにいねえかなと思って来たんだ。」

 

「……ではなぜ私の従者と闘っていたのかしら?」

 

「へへっ、さっき言ったとおり、サイヤ人は戦いが大好きでな!美鈴にたのんで手合わせしてもらってたんだ。」

 

 それを聞いたレミリアは呆れたような顔をした。

 

「まったく、手合わせで私の館を壊さないで欲しいわね。」

 

「わりいわりい、つい力を出しすぎちまってよ。この通りだ!」

 

 悟空は両手を合わせてレミリアに謝罪した。

 

「はぁ…。まあいいわ。……それと、貴方の仲間だったかしら?残念だけどここには来てないわ。」

 

「ああ、もう聞いた。あいつら一体どこ行っちまったんだ……?」

 

「聞きたいことはそれだけかしら?ならお引き取り願いたいのだけど。」

 

「ああ、すまなかった。……ついでにちょっと聞きてぇんだけどよ。」

 

「ん?何かしら。」

 

「おめえはあの二人よりも強いんか?もしそうだったらオラと手合わせしてくんねえかなあ!」

 

「ほう?」

 

 悟空の発言にレミリアは興味深いといった反応をするが従者の咲夜にとってそれは危険すぎる申し出だった。

 

「いけません!お嬢様!危険すぎます!」

 

「下がりなさい咲夜。」

 

「ですがお嬢様!その男はまだ底が知れません!お嬢様にもしものことがあったら……!」

 

「命令よ。咲夜、下がりなさい。」

 

「ッ……!わかり…ました。」

 

 咲夜はレミリアに命令され苦しげな表情で下がった。

 

「貴方。私と闘いたいなんておもしろいことを言うわね?」

 

「そうか?」

 

「ええ。吸血鬼に闘いを挑むなんて宇宙人といえどもただじゃ済まないわよ?それでもいいのかしら?」

 

「ああ!大丈夫だ!」

 

 レミリアに対してまったく怯えを感じていない悟空を見てレミリアはくすりと笑った。

 

「ふふ、貴方本当におもしろいわね。気に入ったわ。」

 

 そう言うとレミリアはゆっくりと宙に浮かび上がった。

 

「では、始めましょうか。構えなさい。」

 

「へへっ、はやくおっぱじめようぜ!」

 

 二人が闘いを始めようとしたその時であった。

 

「待って!お姉さま!」

 

 そこに濃い黄色の髪を片方だけまとめてその上にレミリアと同じようなナイトキャップをかぶり、背中には結晶のようなものがぶら下がった不思議な羽のようなものを持つ少女が館から小走りでこちらに向かってきた。

 その後ろを長い紫色の髪の先をリボンでまとめていてこちらもナイトキャップをかぶり、片手に本を持っている女性がそのあとを追って歩いてきた。

 

「フラン?どうかしたの?」

 

「お姉さたちばっかりずるい!私も遊びたい!」

 

「何言ってるのよ。貴方はまだ力の制御が出来ていないでしょ?」

 

「それでもやーるーのー!」

 

「わがまま言わないの!パチェ!貴方が付いていながらなんでこの子を止めなかったのよ!」

 

「仕方ないじゃない。レミィたちがあんなに大きな音で闘うんだもの、すぐバレるわよ。」

 

「ちょっと、私はまだ闘ってないわよ!?大きな音を出したのは咲夜と美鈴のほうで私じゃないもん!」

 

 ギャーギャーと騒ぎ出す三人を見て悟空はどうしたもんかと腕を組み咲夜と美鈴のほうを見た。すると二人はやれやれといった表情で三人を見ていた。

 

「お、お嬢様……。」

 

「あはは、また始まっちゃいましたね……。」

 

「なあ美鈴。今レミリアと話してんのは誰だ?」

 

「あ、はい。今言い合いをしてるのは紫色の髪の人がお嬢様のご友人のパチュリー・ノーレッジ様で隣にいる黄色の髪をしている方がお嬢様の妹であるフランドール・スカーレット様です。」

 

「妹?へえ、そうなんか。じゃあなんで揉めてんだ?」

 

「たぶん妹様も貴方と闘いたいみたいで、そのことで揉めてるみたいです。」

 

「なんだそんなことか~!なら簡単だな。」

 

「え?」

 

 すると悟空は何かを閃き、言い争う三人を見つめた。

 

「ダメったらダメ!」

 

「やるったらやる!」

 

「おいおめえたち。」

 

「「何っ!!」」

 

 レミリアとフランは声を揃えて悟空を睨んだ。

 

「そんなに闘いたがってんなら、二人で一緒に闘ったらどうだ?」

 

 悟空のとんでもない発言に紅魔館の住人たちは、ポカンとした顔で悟空を見ていた。

 

「……貴方、本気で言っているの?」

 

「ああ。そうすりゃ、おめえたちの喧嘩も解決すんだろ?」

 

「私たち二人がかりだなんて、お兄さん壊れちゃうよ?」

 

「それはどうかな?やってみなきゃわかんねえぞ?」

 

 悟空は二人に対してもまるで臆することなく笑って見せた。それを見ていた咲夜たちは額に汗を垂らした。

 

「無茶な…。いくらあの男が強いからといって、お嬢様と妹様を同時に相手するなんて不可能よ。」

 

「私たち二人がかりとはわけが違いますからね……。」

 

 レミリアは真剣な顔つきで悟空の目を見た。

 

「死んでも後悔しないわね?」

 

「大丈夫だ。オラはおめえたちに絶対勝ってみせる!」

 

「……はぁ、仕方ないわね。貴方は気に入っちゃったから殺したくはなかったんだけど……。」

 

「お姉さま、大丈夫よ!壊れちゃう前に倒せばいいんだから♪」

 

「……それもそうね。いくわよフラン!」

 

「うん!お姉さまも足引っ張らないでよね?」

 

「こっちのセリフよフラン?久しぶりの闘いだからって張り切りすぎて足元をすくわれないようにね?」

 

 二人はようやく和解して悟空に向かって構えをとる。

 そしていつの間にかパチュリーは咲夜たちの元に立っていた。

 それを見て悟空はとても楽しそうに笑い、悟空もまた構えをとった。

 

「いっくよー!」

 

 フランの言葉を切っ掛けに闘いの火ぶたが切って落とされた。

 フランはとてつもないスピードで悟空を攻撃しながら通り過ぎた。

 

「ぐっ!」

 

「まだまだいくよー!」

 

 そのままフランは悟空の周りを目にも止まらぬ速さで駆け回り攻撃を繰り返す。

 防戦一方になった悟空はなんとかその状況を抜け出そうとして周囲全体に大きな衝撃波を放ちフランを攻撃するがあっさりとかわされてしまいさらに追い打ちを受ける。

 

「どうしたの?私一人にこんなんじゃ私たち二人を倒すなんて無理だよ?」

 

「どうかな?オラはまだピンピンしてんぞ!」

 

 悟空がフランに突進しようとした時、レミリアが頭上から現れた。

 

「さすが、咲夜たちを倒しただけのことはあるわね?」

 

「ッ!!(いつの間に上に!)」

 

「はあ!」

 

「うぐっ!」

 

 レミリアは動揺した悟空の頭をそのまま殴りつけ、更にフランの元に蹴り飛ばした。

 

「お姉さま、ナイスパス!たあ!」

 

 そして飛んできた悟空をフランが別の場所へ蹴り飛ばす。

 蹴り飛ばされた悟空は地面に転がり込んだ。

 

「くっ…さすが姉妹だな。息がぴったりだ…!……む!!」

 

 悟空はすぐさま立ち上がり二人を見るとレミリアとフランは左右に分かれてそれぞれ技の構えをとっていた。

 

「しまっ__!!」

 

「はあ!」     紅符『スカーレットシュート』

 

「やあ!」     禁弾『スターボウブレイク』

 

 レミリアは紅く染まった弾幕の束を。フランは七色に光る無数の弾幕をそれぞれ悟空目掛けて発射した。

 

「うわあぁああ!!」

 

 その勢いに悟空は避けることが出来ず大爆発を起こしてその場に倒れてしまった。

 

「あちゃ~。つい壊しちゃったかな?」

 

「ちょっとフラン!もう少し手加減しなさい!せっかくおもしろいやつだったのに死んじゃったじゃないの!」

 

「え~!お姉さまだって凄く強めに撃ってたでしょー!?」

 

「……凄い。あっさりとあの男を倒してしまった。」

 

「まあ当然と言えば当然の結果よね。」

 

 勝利を確信した紅魔館の住人たちであったが美鈴だけがいまだ真剣な顔つきで倒れた悟空を見ていた。

 

「美鈴?どうかしたの?」

 

「あの人…まだ気を感じる。まだ生きています!」

 

「まさか。あれをまともに受けて生きていられる人間なんてこの幻想郷にも数える程しかいないわよ?」

 

「それに生きてたとしても流石にもう戦えないんじゃないの?」

 

 咲夜に続いてパチュリーもまさかといった様子で美鈴の言った言葉が信じられないようだ。

 

「いえ…戦えないどころかあの人……!」

 

 すると抉れた地面から悟空がゆっくりと立ち上がった。

 

「「「!?」」」

 

「たいして気が減ってません……っ!」

 

 平然と立ち上がる悟空を見ながら放心したようにフランはつぶやいた。

 

「…嘘……?」

 

「いっちちち!油断してたぞ…。おめえたち本当に強いんだな~!」

 

 悟空は感心したように二人を見た。だが褒められた二人は信じられないようなものを見る目で悟空を見ていた。

 

「……貴方…なんでそんなにピンピンしているの……?」

 

「ピンピンはしてねえぞ?すっげー痛かったかんなあ!ハハッ!」

 

「貴方…まだ本気じゃないわね?」

 

「え?お姉さま、それってどういう……?」

 

「へへっ、まあな。」

 

 余裕な表情での悟空の発言に咲夜と美鈴が反応を見せた。

 

「そんな、まさか……!」

 

「あれで手加減しているんですか!?」

 

「ああ。オラが本気出しちまうとおめえらが危険だかんなぁ。」

 

「……見せなさい。」

 

「ん?」

 

「貴方の本気の力を私たちに見せてみなさい!手加減していたら私たちには勝てないわよ!」

 

 手加減されていたという事実がレミリアのプライドに障り、レミリアは悟空が本気を出すようにと強く望んだ。実際悟空は力をまだまだ隠していて今の力など半分にも満たないといったところである。

 それゆえに悟空は本気を出すことをためらっていた。

 

「…仕方ねえか。ちょっとだけだかんな?」

 

「それでいいのよ…。……フラン。」

 

 レミリアは小さな声でフランに話しかけた。

 

「何?お姉さま。」

 

「次で決めるわ。ありったけのスペルを打ち込むわよ。」

 

「!……うん!」

 

「はぁああああ!!」

 

 悟空は気を溜めだしたその時、悟空の巨大な気に触れて大地が震動を始めた。

 突然の震動に紅魔館の住人たちは動揺する。

 

「な、なにこれ地震……?」

 

「私の本棚大丈夫かしら…。」

 

「咲夜さん、これ地震なんかじゃありません……!」

 

「え?美鈴それどういうことなの?」

 

「これは悟空さんの体から発せられる気があまりにも巨大なのでそれに触れて周りのものにまで震動が伝わってきているんです……!少なくとも私が生きてきた中でこれほどの気を発せられる人なんて見たこともありません……!」

 

「だぁあああーー!!」

 

 そして悟空は超サイヤ人に変身した。するとその瞬間すべての震動が止まった。

 

「大気の震えが…止まった……?」

 

「すごい!変身した!金色でかっこいいー!」

 

「どうだ?これがオラの力だ……。」

 

「いいわね。ますます気に入ったわ!」

 

「そいつはどうも。それで?どうすんだ。本当にこのままでいいんか?」

 

「当然よ!今度は私たちも本気で攻撃させてもらうわ!」

 

「そいつは楽しみだな。さあかかってこい!」

 

「よーし、じゃあ私からいくよ!」       禁忌『クランベリートラップ』

 

 フランが放った弾幕が悟空の周りを回り始めて悟空を完全に閉じ込めた。

 

「あちゃー!また囲まれちまったな……。」

 

「囲んだだけじゃないよ!」

 

「む!?」

 

 悟空の周りを回る高密度の弾幕の隙間から、赤い特大のエネルギー弾が様々なところから飛び出して悟空を襲う。だが悟空はそれを難なくかわし続ける。

 するとレミリアが放ったナイフのような形をした高速の弾幕が回る弾幕を貫いて悟空を狙った。

 

「っと!あぶねえ!」

 

「……外れたか。でもまだまだ行くわよ!」    『スカーレットディスティニー』

 

 レミリアは回る弾幕の中の悟空に向けて先ほどの高速の弾幕を大量に放った。

 

「くっ!」

 

 悟空は飛んでくる弾幕をすべて紙一重でかわし続けた。

 

(結構早えな…避けんのも一苦労だ……!)

 

「くっ!こっちの姿は見えていないはずなのに!」

 

「全部避けられてるみたいだね…。だったら!」

 

「だぁあああーー!!」

 

「「!?」」

 

 悟空は自分の周囲全体に向かって気を放出し、回る弾幕をすべてかき消したのだった。

 

「ふぅ…。さあ、続けようぜ__むっ!」

 

 悟空は後ろから放たれたエネルギー弾を首を曲げてかわした。

 それはフランが放った不意の攻撃であった。

 

「「「もう!後ろから撃ったのになんで避けれるのよ!」」」

 

「ははは、そんなもんすぐわかっぞ……ってあり?」

 

「「「どうしたのお兄さん?」」」

 

「ど、どうなってんだ!?」

 

 悟空が驚くのも無理はない。なぜなら悟空の周りを四人のフランが囲んでいたからだ。

 

「お、おめえ!四つ子だったんか!」

 

「「「ふっふっふ~。そう思うのも無理ないかな?でもハズレ~♪これは私の奥の手。禁忌『フォーオブアカインド』だよ!」」」

 

「よくわかんねえけど、おめえの技ってことか!四人に増えるなんておめえ天津飯みてえだな。」

 

「「「天津飯?私食べ物じゃないよ?」」」

 

「いや、そうじゃねえ。オラの仲間にも四人に増えることが出来るやつがいてよ。そいつの名前が天津飯ってんだ。」

 

「「「へ~!私以外にもそんな人がいるんだ!」」」

 

「天津飯の技には弱点があったが、おめえはどうかな……?」

 

「「「へへ~、それは闘ってみてのお楽しみだよ!」」」

 

 四人のフランは同時に右手を開いた。するとそこに炎が現れメラメラと燃え盛っていく。

 

「「「どこまで耐えられるかな?」」」      禁忌『レーヴァテイン』

 

 燃え盛る炎は形を変えてゆき、そのまま長剣へと変わり、フランたちは一斉に長剣を構えて悟空目掛けて突っ込み長剣を振り下した。

 だが悟空は寸前で上へと飛びあがり宙へと逃げた。

 

「「「逃がさないよ!」」」

 

 フランは悟空を取り囲むように追跡しながらレーヴァテインで斬りかかる。悟空は四人の攻撃を避けながら上へ上へと上昇し続けた。

 

(参ったな。天津飯みてえに力が四等分されたりはしねえんか……!とにかく避けるしかねえ!)

 

 上昇し続けた悟空とフランは雲の上まで飛んで行ってしまい見えなくなってしまう。

 紅魔館の従者たちはその光景に目を見開いた。

 

「見えなくなった……。」

 

「一体どうなってしまうんでしょう……?」

 

「あれ?そういえばレミィは……?」

 

 そして場所は変わってここは雲の上、フランの攻撃を避け続けた悟空は反撃を試みる。

 

「このままじゃ埒が明かねえ!終わりにすっぞ!フラン!」

 

 悟空はレーヴァテインを大きくかわし両手を合わせた。

 

「か~め~は~め~波ぁああああーーー!!」

 

「「「キャアアアア!!」」」

 

 悟空が放ったかめはめ波はフランのレーヴァテインをかき消してフランを捉えた。

 勝利を確信した悟空だったがその瞬間、悟空はふとしたことに気が付いた。

 落ちていくフランの口元が小さく笑っていることに。

 

「よくやったわ!フラン!」

 

 突然聞こえてきた声に悟空は辺りを見回すと、なんとレミリアが月を背に紅く染まった巨大な槍を構えて待ち構えていたのだ。

 

「あ!!」

 

「貴方の言うとおり、終わりにするわよっ!」      神槍『スピア・ザ・グングニル』

 

 レミリアはその深紅に染まった特大の槍を悟空目掛けて解き放った。

 

「すげえ力を感じるっ!とっておきってやつか……!」

 

「いけぇえええーー!!」

 

 超高速で飛んでくる槍。それを見て悟空は笑みを浮かべた。

 

「へへっ、おもしれえ!正面から受け止めてやる!」

 

 悟空はグングニルを両手で受け止めて何とか堪えた。だがその威力にだんだんと押され気味になっていった。

 

「うぐぐぐ!このやろー!」

 

「無駄よ、いくら貴方が強くてもその状態じゃ抗えないわ。私たちの勝ちよ。」

 

「ぐぐっ…どうかな…?まだ勝負はついてねえぞ!」

 

「……もう終わりよ、残念だけどね。もしこれで生きてたら、手当くらいはしてあげるわ。」

 

「必要ねえよ…っ!それよか、飯のほうがいい……っ!」

 

「ふふ、いいわ。生きていたら、いくらでもご馳走してあげる。」

 

 その言葉を聞いた瞬間、悟空は目を輝かせた。

 

「ほんとか!?じゃあ尚更負けらんねえ!もっと力出させてもらうぞ!」

 

「え?」

 

「いくぞ!レミリア!」

 

 するとグングニルを受け止めている悟空の手のひらにどんどん気が集まり始める。

 

「か……め……は……め……波ぁああああああ!!」

 

 そして悟空の特大のかめはめ波はレミリアのグングニルを力づくで押し返し、そのままレミリアの真横を通り過ぎて行った。

 

「はぁ…はぁ…、どうだ。なんとかなったろ?」

 

「……嘘。あれでもまだ…本気じゃなかったっていうの……?」

 

「ああ、まあな。」

 

「信じられないわ。貴方のような人間がこの世に存在するなんて……。」

 

「どうすんだ?まだ続けっか?」

 

「……ふ、ふっふっふ。アーッハッハッハ!」

 

 レミリアは突然大声で笑いだしてしまった。

 

「……?」

 

「……負けよ。降参だわ。貴方とんでもない男ね。」

 

「おめえたちこそなかなか強かったぞ。」

 

「それはどうも。」

 

「それよか、ほんとに飯食わせてくれるんか!?」

 

 悟空は先の戦闘などなかったかのように目を輝かせていた。

 

「ふふ、もちろんよ。…すっかり真夜中になってしまったわね。ついでに泊まっていったら?」

 

「いいんか?」

 

「ええ。貴方の世界の話でも聞かせて頂戴?」

 

「助かるぞー!サンキュー、レミリア!」

 

「どういたしまして。さ、早く下に降りましょ?咲夜たちが心配しているわ。」

 

 悟空たちは二人でゆっくりと紅魔館まで降りて行った。その様子に従者たちはどちらが勝ったのかわからずともそばに駆け寄った。

 

「お嬢様!勝負はどうなったのですか!?」

 

「負けたわ。完敗よ。それよりフランは?」

 

 フランを探すレミリアの元に美鈴がフランを抱きかかえながら歩み寄った。

 

「ここにいますよ。」

 

「お姉さま…負けちゃったね。」

 

「ええ、そうね。でも仕方ないわ。この男まだ本気じゃなかったんですもの。」

 

「ええ!?そうなのお兄さん!?」

 

「あれ以上は本当に危険だからな。でもおめえも強かったぞフラン。若いのに大したもんだ。」

 

「貴方勘違いしているようだけど、フランは貴方よりずっと年上よ?」

 

「え?そうなんか?」

 

「ええ。ちなみに私は五百年以上生きているわ。」

 

「ご、五百年!?ひゃ~!おめえ、そんなに歳くってたんか!」

 

「驚いたようね。でもまあ、これでもこの幻想郷ではまだ若いほうよ?」

 

「そうなんか…。こりゃすげえ世界だなぁ。」

 

「咲夜。すぐに夕食の用意をして頂戴。この男にご馳走してあげるの。」

 

「え?は、はい。かしこまりました。」

 

「やりー!楽しみにしてっぞぉ!」

 

「私も食べる!闘って遊んだらおなかペコペコになっちゃった!」

 

「よっしゃ、じゃあ思いっきり食おうぜフラン!」

 

「うん!」

 

 こうして悟空の長い長い一日は終わった。

 この後、悟空のとてつもない食欲に全員が度肝を抜いたのは言うまでもなかった。

 




闘ってばかりですみません!これからも闘いは多くなると思いますがお付き合いよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

情報を求めて 竹林に住む者たち

今回はベジータ回です。


 皆がバラバラに幻想郷に入ったとき、ベジータは広い竹林の中に落ちていた。

 その竹林は深い霧がかかっており、更にまるで迷路のように複雑な場所だった。

 ベジータは竹林の中を飛び回り仲間たちを探すがそこには誰も見当たらず、探し続けること数十分の時間が経過した。

 

「くそっ、あいつらどこに行きやがったんだ?」

 

 苛立つベジータは皆を探すことをやめ、行動を変えることを考えた。

 

「……仕方ない。先に博麗の巫女とやらを探しに行くか。目的は一緒だ、あいつらもそこに必ず来るはず……よし、そうと決まればまずは情報収集だ。」

 

 ベジータは情報を集めるために竹林から出ようと空へ飛びあがるがなぜか上がっても上がっても竹の上に出ない、変に思ったベジータは一度地面に降りた。

 

「妙な力がかかってるみたいだな。くそっ、歩いて出口を探すしかないか。」

 

 ベジータは仕方なく竹林の中を歩き出した。そこからさらに数時間が過ぎた。だが一向に竹林から出られないベジータは苛立ちが限界近くに達していた。

 

「ええい!こうなったらこの竹林を妙な力ごとぶっ壊してやる!ギャリック……!!」

 

「ちょっと待った!あんたなにやってんだ?」

 

「!?」

 

 竹林に向けてギャリック砲を放とうとしたその時、後ろから誰かがベジータを呼び止めた。

 ベジータはそれに気が付き、技を放つのをやめて後ろを向いた。するとそこには白い長髪で頭のてっぺんに大きなリボンをひとつ、髪の先に小さなリボンをいくつかつけている女性がいつの間にかそこに立っていた。

 

「……なんだ貴様。いつからそこにいやがった。」

 

「いま来たばっかだよ。私は藤原妹紅、この竹林に住んでる人間さ。まあちょっと普通と違うがね。」

 

「何が違うのかわからんがちょうどいい。ここに住んでいる者なら出口もわかるんだろう?オレをそこに案内しろ。」

 

「それは構わないが、おまえこんな竹林の奥深くまでどうやって来たんだ?ここには妖怪とかもたくさんいるはずだけど……。」

 

「フン、そんなもの聞くまでもないだろう。全員ぶっ飛ばしてやっただけだ。」

 

「……あんたほんとに人間か?じつは妖怪とかじゃないよな?」

 

「そんなわけないだろう、オレをそんなものと一緒にするな!」

 

「ふーん。まあいいか。あんた名前は?」

 

「わざわざ教える必要はない。とっとと道を教えろ。」

 

「そんなこと言ってると教えてあげねえぞ?教えてほしけりゃ素直に言うこと聞くんだね。」

 

「ちっ。……オレはベジータ。戦闘民族サイヤ人だ。」

 

「なんだ、やっぱり人間じゃないんじゃないか。」

 

「貴様らから言うと正確には宇宙人といったところだ。」

 

「へえ、宇宙人か。また珍しいお客さんだ。」

 

「さあもういいだろう!さっさと道を教えやがれ!」

 

「はいはい。じゃあどちらに向かわれますか、お客様?」

 

 少しからかったような態度の妹紅に苛立ちを感じながらもベジータは面倒になってきてそれを無視することにした。

 

「……今は情報を集めたい。どこか人がいる場所に連れていけ。」

 

「はいよ。じゃあひとまず永遠亭にでも連れてってやるよ。あそこならいい情報も入るかもね。」

 

「永遠亭?」

 

「ああ。まあこの竹林に隠された病院みたいなところかな?そこには頭がいいやつもいるしそれに里までの道案内が出来るやつもいるから、そこまで連れて行けばあとはなんとかなるだろ。」

 

「そうか、わかった。案内してくれ。」

 

「じゃあ、私についてきな。」

 

 道案内をしてくれる妹紅にベジータは素直に従い、妹紅のあとについていった。

 竹林の中を歩いている途中で妹紅が何度か話しかけてきたがベジータはあまり話に乗ろうとしなかった。だが妹紅はそれでもまるで気にせずにベジータに話を振った。

 

「そういえば、ベジータ。あんたが欲しがっている情報ってのはなんのことなんだ?」

 

「……オレの仲間たちの居場所と博麗の巫女についての情報だ。」

 

「博麗の巫女ねえ…。そんなことなんで知りたがってんだ?」

 

「貴様には関係ない。」

 

「はいはい、そうですか。…ちなみにその仲間ってのはどんなやつらなんだ?」

 

「……オレの仲間は全部で四人で山吹色の道着をきた男とその息子の紫色の道着を着たガキ、そしてオレの息子で青いインナーの上に防護ジャケットを着ている男と緑色の肌をした紫色の道着に白いマントをつけている男だ。」

 

「随分と変わった格好をしている連中だな。…そういや、数時間前に慧音のやつが見つけた迷子の子供がそんあ服装だったような……?」

 

「なんだと?ということは悟飯のやつはその慧音とかいうやつのところにいるのか……。よぉし、これで次の行先も決まったぜ。そいつはどこにいやがるんだ?」

 

「慧音は人里に住んでるよ。おまえだって人里くらい知ってるだろ?」

 

「知らん。そもそもオレはこの世界の住人じゃないからな。と言っても通じんか……。」

 

「……いいや、わかったよ。あんた外の世界から来たんだろ?」

 

「!……わかるのか?」

 

「そりゃね。どうりで見たことのない服装だと思ったよ。外来人ってんなら納得さ。」

 

「その外来人というのはオレのことか?」

 

「そうだよ。外の世界から来た人間のことはみんな外来人って呼ばれてんだ。ま、そんなに珍しいものでもないってことだ。……さて、もうすぐ着くぞ。」

 

「む?」

 

 ベジータが前を見てみると竹林の奥に建物が見えてきた。

 

「じゃあ、あとは一人で大丈夫だよな?」

 

「ああ、助かったぜ。礼を言う。」

 

「はいよ。それじゃあまたな。ベジータ。」

 

 そうして妹紅は竹林の奥に消えて行った。それを見送ったベジータは永遠亭へと足を進めた。

 すると入口の近くに誰かが隠れてベジータを見ていた。その姿は幼い少女のようで黒髪の頭には白い兔の耳がついていた。

 

「おい。貴様はここの人間か?」

 

「……そうだけど。あんたは?」

 

「オレはベジータだ。ここの住人に用がある。入れてくれ。」

 

 少女は少し考えた後に扉を開けてくれた。

 

「入っていいよ。私についてきて。」

 

 ベジータは少女に案内されるがままに屋敷の中へと足を踏み入れた。

 案内されるがままに奥へと進んでいくと少女は一つの部屋の前で足を止めた。

 

「お師匠様、お客さんだよ。」

 

 少女が扉を開けるとそこには長い銀髪を三つ編みのようにしている女性が椅子に座っており、その隣には薄紫色の長髪で兔の耳が生えている女性が立っていた。

 

「あら?急患かしら?」

 

「オレは病人じゃない、貴様らに聞きたいことがあってきた。」

 

「聞きたいこと?何かしら。」

 

 ベジータは妹紅に話した時と同じように仲間たちのことと博麗の巫女についてのことを説明した。

 

「うーん。そのお仲間さんたちだけど。私は見ていないわね……ウドンゲは?」

 

「すみません。私も見ていませんね。」

 

「そうか…では博麗の巫女についてはどうだ?何か知っていることはないか?」

 

「博麗の巫女については誰だって知ってるわ。博麗神社に住んでいる巫女で妖怪退治や異変解決とかを仕事にしているわ。」

 

「異変というのはなんだ?」

 

「異変っていうのはね、この幻想郷で起こる怪事件や怪現象のことを言うのよ。といってもたまにしか起こらないんだけどね。」

 

「なるほど、わかった。さっき言ってた博麗神社と言うのはどこにある?」

 

「この幻想郷の東の端っこ辺りにあるわ。なんならこの子を案内人に貸してあげてもいいけど?」

 

「え?お、お師匠様?」

 

 突然の指名にウドンゲと呼ばれる女性は戸惑い始めた。

 

「そいつは願ったりだ。丁度人里とやらへの道案内が欲しかったところでな。」

 

「ええ~?ま、まあいいですけど……。そうだ、あなたお名前はなんていうんですか?ちなみに私は鈴仙・優曇華院・イナバといいます。」

 

「私は八意永琳よ。ここで薬師をやってるわ。」

 

 ベジータは妹紅のこともあってか素直に名前を言った。

 

「……オレはベジータだ。」

 

「ではベジータさん。私が道案内をさせていただきます。えと、まずは人里でいいんですよね?」

 

「ああそうだ。頼んだぞ。」

 

 ベジータは永琳たちに背を向けて扉を開けようとすると鈴仙があ!と驚いた声を出した。ベジータは何かと思い鈴仙たちのほうを見る。

 

「……なんだ?」

 

「いや、あの…背中に。」

 

「背中?……なんだこの紙は。」

 

 ベジータが背中に手を伸ばすとそこには『変な頭』と書かれた紙が貼りつけられていた。

 

「おい…きさまら、これはどういうことだ?」

 

「えっと、たぶんてゐの仕業だと思います……。」

 

「てい?誰だそいつは。」

 

 ベジータの問いかけに永琳が答える。

 

「因幡てゐ。さっき貴方をここまで連れてきた女の子よ。」

 

「ちっ、あのガキ。下らんことをしやがって。まあいい、さっさと行くぞ鈴仙。」

 

「あ、はい。ではお師匠様、行ってきます。」

 

「いってらっしゃい。しっかり案内するのよ?」

 

「はい、任せてください。」

 

 ベジータたちは永琳と別れ部屋から出た。そして廊下を歩いていると鈴仙が話しかけてきた。

 

「あの…ベジータさん。さっきのてゐのことなんですけど。」

 

「……なんだ。あの程度オレは気になどしていないぞ?」

 

「いえ、そうじゃなくてですね。もしかしたらまだてゐに悪戯の対象として狙われているかもしれませんから少し注意したほうがいいかもしれませんよ?」

 

「ふん、所詮子供の悪戯だろう?そんなもの気にする必要はない。」

 

「でも……。」

 

「余計な心配はしなくていい。貴様はオレに道を教えていればそれでいいんだ。」

 

「……どうなっても知りませんからね?」

 

 ベジータたちは玄関の扉を開けて外に出た。そのままベジータが先に竹林へ足を伸ばすと突然地面に穴が開いた。

 

「うお!?」

 

 まさかの出来事にベジータは反応が出来ず穴の底に落ちてしまった。すると穴の上にてゐが現れた。

 

「やーい!引っかかったぁ!鈴仙と一緒でまぬけだな~?あっはははは!」

 

 てゐはベジータをバカにするだけして高笑いしながら走り去っていった。

 鈴仙は穴の底を見つめてベジータに声をかけた。

 

「……あの~。大丈夫ですか?」

 

「……。」

 

「ベジータさん?」

 

「あの…クソガキがぁああーー!!」

 

「ひゃあ!」

 

 ベジータは穴の底から勢いよく飛び出し、竹林をきょろきょろと見回す。

 

「おい、貴様!さっきのガキはどこにいった!」

 

「え?ええと、あっちのほうに行きましたけど……。」

 

「あっちだな!すぐにとっ捕まえてこのオレをバカにしたことを後悔させてやる!」

 

「ちょ、ちょっとまってください!貴方今から人里に__!……行っちゃった。」

 

 その後ベジータとてゐの竹林の追いかけっこは夜まで行われ、ベジータは反省したてゐとベジータを追いかけて疲れ切った鈴仙を連れて永遠亭へ戻ってくることになった。

 結局ベジータはその日のうちに人里へ向かうことが出来ず。永遠亭にて一晩泊めてもらうことになったそうだ。




次回はトランクス回になります。お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

トランクスの災難 山の四天王勇儀

今回はちょっとだけ長めです。


ここは地底世界、別名旧地獄。トランクスは地底世界の旧都という巨大都市に落ちていた。落ちてすぐに仲間たちがいないことに気づいたトランクスはこの旧都で聞き込みを行いつつ皆を探し回っていた。

 

「参ったな…。かれこれ一時間は探し回ってるのに誰も見つからないなんて……。」

 

 トランクスは路地裏に座り込み少し休憩をしようとした。だがそんなトランクスに忍び寄る影が三つほどあった。

 

「おい兄ちゃん。こんなところでなーにやってんだ?」

 

「ここは俺たちの縄張りだ、とっとと失せな!」

 

 現れたのはガラの悪い三人の男だった。見るからに人間ではないその容姿に普通の人間なら怯えて腰を抜かす所だが、トランクスにとって怯えるような連中ではなかったため冷静なままだった。

 

「それは悪かったな。すぐに消える。」

 

 あまり関わりたくなかったトランクスはすぐにその場から立ち上がり、立ち去ろうとした。しかし男たち内の一人がトランクスの腕を掴みその足を止めた。

 

「待てよ兄ちゃん。ついでだ、ここで休んでった分有り金を置いてってもらおうか。素直に渡せば痛めつけたりしねえでやるぜ?弱小な人間さんよ。」

 

「……確かに勝手にお前たちの縄張りで休んだオレが悪いが、お前たちに金を払う必要は感じないな。オレは暇じゃない、さっさと放してくれ。」

 

「なんだと?てめえ俺たち鬼に逆らうなんて随分と命知らずな人間じゃねえか。」

 

「俺たちは別にお前を殺してやってもいいんだぜ?」

 

 自らのことを鬼と呼んだ男たちはトランクスの態度に怒りを露わにし、三人でトランクスを囲み脅してきた。だがトランクスの表情は変わることなく真っすぐに男の目を見ていた。

 そんなトランクスに更に苛立ちを覚え、三人の内の一人がついにトランクスに手を上げた。

 

「ただの人間風情が調子に乗ってんじゃねえよ!」

 

 男は常人では見えないほどの速さで拳を振り下ろした。だがトランクスはそれを軽く受け止めると

その男の腹に強烈な蹴りを叩きこんだ。男が何が起きたのかもわからないままその場に倒れ、気を失った。

 

「な!?」

 

「て、てめえ!何をしやがった!」

 

「お前たちが聞き分けが悪いんでな。悪いが少し眠っていてもらうぞ。」

 

「ふざけやがって!おいやっちまうぞ!」

 

 男たちはトランクスを左右で囲んで二人がかりでトランクスに殴り掛かる。だがトランクスはそのすべての攻撃をかわし続けた。

 

「はあ!」

 

「ごへぇ!?」

 

 トランクスは攻撃をかわしつつ片方の男の顔面を裏拳で殴りつけ気絶させた。そして最後に残った男を軽くひっくり返した。

 

「……お前で最後だ。さあ覚悟はいいか?」

 

「ま…待ってくれ!お、おれが悪かった!許してくれ!」

 

「……。」

 

「そ、そうだ!あんた確か急いでたんだろ?何か手を貸せることはないか!おれに出来ることならなんでもしてやるぞ!」

 

「……まあいい。じゃあ一つだけ質問させてもらう。この辺でオレと同じ人間を何人か見かけなかったか?」

 

「に、人間?いや、生憎おれはあんた以外の人間は見ていない。」

 

「そうか、ならいい。喧嘩を売る相手は考えたほうがいい。じゃあな。」

 

 トランクスは男から手を放し、その場から立ち去った。だが今の闘いを終始見ていた者がいたことにトランクスは気づかなかった。

 それからトランクスは何度かガラの悪い者たちに絡まれながらも捜索を続け、旧都の中心にたどり着いた。そこにはやけに動物が群がっている屋敷があった。

 

「大きな屋敷だな。ここの人なら何か知っているか……?」

 

 トランクスは何の情報も得られないままここにたどり着いたためとにかく情報が欲しかった。そこに周りとは違う大きな屋敷に淡い期待を抱いてトランクスは屋敷の中へと足を踏み入れた。

 

「ごめんくださーい!誰かいませんかー?少しお尋ねしたいことがあるんですけど!」

 

 だがトランクスの呼びかけに屋敷からは何の反応もない。仕方なくトランクスは引き返そうとすると後ろに微かに気を感じてトランクスは振り返った。

 そこには薄く緑がかった灰色の髪に黒い帽子を被っていて体の周りに管のようなものがあり、胸に閉じた目のようなものをつけた少女が立っていた。

 

「……君は?」

 

 トランクスの問いかけに少女は驚いた様子を見せた。

 

「……貴方。私に気づいているの?」

 

「え?何を言ってるんだ?気づいてるも何もここにはオレと君しかいないじゃないか。」

 

「!!……本当に気づいてる。貴方何者なの?」

 

 トランクスは少女の言っていることがよくわからなかった。その様子を見た少女はトランクスに近づき静かに話し出した。

 

「私は古明地こいし。ここに住んでいるの。貴方は?」

 

「え…あ、ああ。オレはトランクス。少し聞きたいことがあってここを訪ねたんだ。お父さんやお母さんはいるかな?」

 

「いないよ。ここには私とお姉ちゃん、それとペットたちだけで暮らしているの。」

 

「そうなんだ。じゃあ、お姉さんはいるかな?」

 

「いるけど…その子供扱いやめてよ。もっと普通に接してくれたらお姉ちゃんのところに連れてって上げる!」

 

「え?あ、ああわかった。……これでいいですか?」

 

「貴方の普通にって敬語なのね…。まあいっか、ついてきて。案内してあげる。」

 

「その必要はないわ。」

 

 突然聞こえてきた声に反応して屋敷の奥を見ると、その奥から薄紫色の髪にヘアバンドをつけフリルが多くついた服を着ている。更にこいしと同じで管のようなものが体の周りにあり、胸に開いた目のようなものが付いている少女がトランクスたちの前に姿を現した。

 

「あ、お姉ちゃん。ちょうどよかった、この人お姉ちゃんに聞きたいことがあるらしいの。」

 

「ええ。全部聞こえていたわ。それよりこいし、貴方いままでどこ行ってたのよ!随分心配したのよ?」

 

「ごめんごめん。ちょっと無意識の内に地上に出ちゃってたみたいで、そのまま散歩したり遊んで回ってたら少し遅くなっちゃった。」

 

「少しじゃないでしょ?一週間よ?一週間!」

 

「あ…あの~?」

 

「え?ああ、ごめんなさい。ちょっと熱くなってしまってました。えっとご用件は?」

 

 トランクスは先のこいしとの会話もあったせいか、姉のほうにも敬語を使うことにした。

 

「実は人を探しているんですが、今日ここら辺で人間を見かけませんでしたか?全部で四人なんですけど……。」

 

「人間?まさか、こんな地底にくる人間なんてそうそういないと思いますが……そういえば貴方は人間みたいですね。人探しのためだけにここ地霊殿まで足を運んだんですか?」

 

「足を運んだと言うよりは気が付いたらこの都市にいた…と言ったところでしょうか……。」

 

 トランクスの言葉にこいしは首を傾げた。だが姉のほうはトランクスの目をじっと見つめている。

 

「あの…オレの顔に何かついてます?」

 

「ここまで来るのに随分妖怪に襲われたみたいですね。」

 

「!……なんでそれを?」

 

「お姉ちゃんはね。人の心が読めるんだよ。」

 

「人の心を読む……?」

 

「ええ。こいしの言うとおりです。私は貴方の心の声を聴いただけ。故に貴方のさっきの言葉も嘘偽りがないこともわかりました。貴方のお仲間のことも読ませてもらいましたけど残念ながら私は見ていません。」

 

「そうですか……。」

 

「お役に立てずごめんなさい。」

 

「いえ、お話が聞けただけでも助かりました。ではオレはもう行きます。お邪魔しました。」

 

 トランクスが頭を下げて扉に手をかけ帰ろうとしたとき、こいしは少し残念そうにトランクスに声をかけた。

 

「もう行っちゃうの?」

 

「はい。こいしさんもありがとうございました。オレは引き続き仲間たちを探しに行きます。」

 

「……ねえ、その仲間探しなんだけど。私も手伝ってもいい?」

 

 こいしの提案にトランクスは驚いて目を見開いた。姉のほうを見るとそちらも少し驚いた様子でこいしを見ていた。

 

「ええと、こいしさん。気持ちは嬉しいですが、これ以上迷惑をかけるわけにはいきません。気持ちだけ受け取っておきますよ。」

 

「でもトランクスはさ、ここのことあまり詳しくないんでしょ?だったらここの地理に詳しい妖怪が一人くらい必要だと思うの!」

 

 こいしからなぜか強い思いを感じたトランクスはその申し出に少し迷いを見せた。するとそんな二人の様子を見て、姉はトランクスに話しかけた。

 

「貴方、トランクスって言うのね。」

 

「え、ええ。そうです。」

 

「じゃあトランクス。こいしを連れてってあげてくれないかしら?」

 

「貴方まで……どうしてオレの手伝いを?」

 

「それは秘密よ。」

 

 口元に指を立ててそう言った姉にトランクスはますます意味が分からなくなるも、引く様子がまるでないこいしたちに根負けした。

 

「……わかりました。じゃあお願いします。」

 

「やった!あっ……コホン。じゃあ私が街を案内してあげるからついてきて!」

 

「ちょ、そんなに手を引っ張らなくても!で、ではお姉さん。ありがとうございました。こいしさんを少しだけお借りしていきますね。」

 

「ええ、妹を頼みます。」

 

 トランクスはこいしに手を引っ張られながら地霊殿から出て行った。その後姿をみて姉は小さく微笑んだ。

 

「はしゃいじゃって……。よっぽど自分を見つけてくれたことが嬉しかったのね。」

 

 姉はそのまま二人の姿が見えなくなるまでそこに立っていた。

 

~旧都~

 

「こいしさん、そっち側はもう探したので別の場所を教えてもらってもいいですか?」

 

「じゃあ、向こうのほうを探してみましょう。」

 

 それから二人は数時間もの間、旧都全域を探し続けた。だが仲間たちは一向に見つからなかった。そこで二人はどこを探すかの話し合いをするため近くにあった長椅子に並んで座った。

 

「全然みつからない……。本当に旧都にいるの?」

 

「わかりません。正直オレはこの世界の地理をまったく知らないんです。」

 

「旧都がわからないってのはわかるけど…世界っていうのは?」

 

 トランクスは自分がここに来た経緯をこいしに話した。するとこいしはその説明に納得したようで長椅子から立ち上がった。

 

「貴方外来人だったんだね?どうりで見たことない恰好だと思った。でもそういうことなら話は早いね!」

 

「と、言いますと?」

 

「この地底世界じゃなくて地上を探しに行こう!」

 

「地上に行けるんですか?」

 

「当たり前だよ。行けなかったらそもそも地底にだってこれないでしょ?」

 

「な、なるほど。確かに……。」

 

「そうと決まれば、さっそく地上に行ってみよう!」

 

「はい!___こいしさん。動かないで。」

 

 急に真剣な声になったトランクスにこいしは不思議に思いながらもそれに従った。

 

「……おい、おまえたち。隠れてないで出てきたらどうだ?」

 

 トランクスがそう言うと街の至る所からガラの悪い男たちが次々と二人を囲むように現れた。

その中から数時間前トランクスに絡んできた三人の鬼たちが出てきた。

 

「よう兄ちゃん、さっきは世話になったな……!」

 

「懲りないやつだな。まだ痛い目にあいたいのか?」

 

「へっ、今度痛い目にあうのはてめえのほうだぜ?なにせこの人数だ!その連れの女を守りながらおれたちと闘えっと思うかよ?」

 

 トランクスたちの周りには二十人を超えるほどの妖怪が集まっていた。恐らくあの鬼たちの子分だろう。鬼たちが笑みを浮かべてトランクスたちに向けて一斉に襲い掛かってきたその時。

 

「待ちな!あんたら雑魚じゃいくら束になっても勝てないよ!」

 

 突然響いた大きな声に鬼たちは全員足を止めて声の主を見た。するとさっきまで笑みを浮かべていた鬼たちは冷や汗をかき顔が青ざめていった。

 

「あ…あんたは!星熊勇儀!?」

 

 星熊勇儀と呼ばれたその女性は金色の長髪で頭には黄色い星のマークがついた赤い一本の角を持ち、体操服のような恰好に半透明のスカートをはいていた。

 勇儀は持っていた赤い杯に酒を注いで飲み干すと周りの妖怪たちを睨みつけた。

 

「こいつは私が目をつけてんだ。負け犬は引っ込んでな。」

 

「くっ…!てめえ、誰が負け犬だこら!」

 

「あんた以外にいるのかい?あんたも鬼なら潔く負けを認めな。それよりも……。」

 

 勇儀はトランクスとこいしにゆっくりと歩み寄ってトランクスの正面で足を止めた。

 

「私はね。あんたに用があるんだ。ちょいと話を聞いてもらえるかい?」

 

「……なんだ?」

 

「実は今日のあんたの闘いっぷりは全部見させてもらったよ。人間でありながら妖怪たちを倒し、下っ端とはいえ鬼三人がかりを瞬殺してみせた。そんなあんたに頼みがあるんだよ。」

 

「見ていたのか…。それで?オレに何を頼もうって言うんだ?」

 

 勇儀はニヤリと口元を緩め、目を輝かせてトランクスに顔を近づけた。

 

「私にあんたの力を見せて欲しいのさ!」

 

 勇儀の言葉に周りの妖怪たちがざわめきだす。だがトランクスと勇儀はそんな中でも静かにお互いを見つめあう。そしてトランクスは小さくため息をして立ち上がった。

 

「どうやら引いてくれそうにはないな。いいだろう、相手になる。……こいしさん。少し俺たちから離れていてください。」

 

「……トランクス。大丈夫なの?相手は元山の四天王と呼ばれた鬼だよ?人間の貴方じゃ勝てないと思うけど……。」

 

「大丈夫です。オレも…半分普通の人間じゃないんで。」

 

「え?」

 

「決まりだ!じゃあさっそく始めようじゃないかい!」

 

 そう言うと勇儀は持っていた杯に酒を注ぎ始めた。

 

「……闘うんじゃなかったのか?」

 

「闘うさ。これを持ちながらね。」

 

 勇儀はそう言って酒が注がれた杯をくるくると手の上で回した。その余裕たっぷりな態度にトランクスは少し苛立ちを覚えた。

 

「……オレを舐めているのか?」

 

「違うよ、私にとってこれは力を試す準備さ。なにせ大抵のやつはこの杯から酒を一滴も落とすことが出来ないんだからね。……あんたはどうかな?」

 

「ふっ、酒が無くなっても後悔するなよ。」

 

「とんでもない!むしろそこまでの強さなら大歓迎さ!」

 

 二人は話をやめるとそのまま構えて動かなくなった。だが周囲の妖怪たちはそこに誰も近づかない、いや近づけないのだ。二人の間にはそれほど空気が張りつめていた。

 

 最初に動きを見せたのはトランクスだった。トランクスは勇儀を思いっきり殴りつけた、だが勇儀はそれを片方の手で受け止めていた。そのぶつかり合いだけで回りには衝撃が放たれ、土埃が宙を舞う。

 

「ゾクゾクするねぇ!こんなに強い一撃は鬼でも滅多に見られないよ!」

 

「一撃で終わらせるつもりだったんだがな。どうやら一筋縄ではいかなそうだ……。」

 

「そういうことさ!はあ!」

 

「くっ!!」

 

 勇儀は空いているトランクスの下っ腹を左足で蹴りつけた。重たい一撃にトランクスは立ったまま地面を滑る。そこに勇儀は左手でトランクスの右頬を殴りつけ、回し蹴りで追撃を加えるもトランクスはそれをギリギリで受け止めて逆に勇儀を殴りつけた。

 殴られてよろけた勇儀は自分の杯を見て楽しそうに笑った。

 

「いいね…!私の杯から酒を少しでも零させたやつは博麗の巫女たち以外では初めてだよ!」

 

「博麗の巫女……?」

 

 勇儀は長椅子まで歩いてゆき、杯をそこに置いた。すると勇儀から発せられる気のようなものが急激に上昇し始めた。その力の上昇に周りにいた鬼を含める妖怪たちは怯えだし、一部の妖怪は腰を抜かしてしまっていた。

 そしてトランクスでさえもその凄まじい力に驚きを隠せなかった。

 

「力試しなんてもういい。ここからは本気であんたと闘ってみたい!」

 

「まさかこれほどの気……いや別の力か。とにかく甘く見ていたのはオレも同じだったわけだ。」

 

「早くあんたも本気を出しなよ。じゃないと本当に__」

 

 その瞬間トランクスの視界から勇儀が消えた

 

「がっ!?」

 

「__死んじまうよ。」

 

 トランクスは強烈な右拳を腹にくらい妖怪たちの中に吹っ飛んだ。トランクスは想像を遥かに超える勇儀の力に大きなダメージを受けた。

 

「はぁ…はぁ…!(この力…人造人間に匹敵…いや、それ以上のパワーだ!)」

 

「はっはっは!まだまだくたばるんじゃないよ!」

 

 勇儀は高く飛び上がりトランクスに向けて飛び蹴りを仕掛けるがトランクスはそれを転がってかわした。勇儀の蹴りの威力に近くの妖怪たちは吹き飛ばされ、地面に大きくひびが入る。

 

「トランクス!こんなの無理よ!早く降参したほうがいいって!」

 

 トランクスを心配するこいしの声が響く、その声を聴いたトランクスは勇儀の攻撃を紙一重でかわしながらなんとか距離をとり、気を上昇し始めた。

 

「はぁああああ!!」

 

 そしてトランクスは超サイヤ人に変身した。変身の衝撃で辺りの土埃がすべて消し飛んだ。その変身にそこにいた誰もが驚いた。人間がこんなことを出来るはずがないと戸惑う声があちこちから聞こえてくる。

 だがトランクスはそんな声にも耳を貸さず、ただ勇儀と正面から対峙した。

 

「驚いたよ。人間にもそんな変身が出来るやつがいるんだねぇ。」

 

「……オレの体には人間の血だけじゃない、戦闘民族サイヤ人の血も流れている。今から見せるのが本当の力だ!」

 

「いいねぇ!そのサイヤ人とやらの血がどれほどのものなのか見せておくれよ!」

 

 トランクスと勇儀の姿が消える、そして次の瞬間に二人の拳がぶつかり合った。ぶつかり合った衝撃で足元が陥没しクレーターが出来る。互いの力は拮抗しているかのように見えたその時、トランクスが徐々に勇儀の拳を押し始めた。

 

「おいおい!あの星熊勇儀が押されてねえか!?」

 

「お…おれたちはあんな化け物と闘おうとしてたのか……。」

 

「ぐっぐぐ!なんて力だい……!怪力乱神と恐れられるこの私が……!」

 

「もう終わりにさせてもらうぞ。勇儀!」

 

「!?」

 

 トランクスはぶつかり合った勇儀の拳を弾き飛ばし、そのまま上空に蹴り上げた。そして蹴り上げた勇儀の後ろに一瞬で回り込みその背中を蹴りつけ、両手を合わせて勇儀を叩きつける。それをくらった勇儀はクレーターの中心に勢いよく衝突した。

  トランクスは上空からゆっくりと勇儀の元へ降りたった。

 

「……まだ立っていられるのか。」

 

 叩きつけられた勇儀は土埃の中で立っていた。だが先ほどと違い力が随分と低くなっていた。

 

「……参った!私の降参だよ。あんたまだまだ本気じゃないだろう?」

 

「気づいていたのか?」

 

「だからなんとか本気を出させてやろうと思ったんだけどねぇ。はっはっは!上には上がいるもんだ!」

 

 高らかに笑う勇儀だがその表情はどこか悔しそうだった。

 トランクスはその様子を見て超サイヤ人を解いた。すると闘い終えたトランクスの元にこいしが駆け寄った。

 

「トランクス!」

 

「うわ!?」

 

 駆け寄ったこいしはすぐさまトランクスに抱き着いてきた、驚いてこいしを見るとこいしは目を輝かせてトランクスを見ていた。

 

「あの…こいしさん?」

 

「凄かったよトランクス!なんなのあの変身!?もう、あんなに強いんだったら言ってくれたらよかったのにー!」

 

 こいしはまるで子供のように興奮した様子で今の闘いの感想を言い続けた。

 

「こ、こいしさん。そんなに抱き着かなくても……!」

 

「ええ~?いいじゃない。減るもんじゃないんだしさ。」

 

「あっはっは!地霊殿の子供に随分と好かれたようじゃないかトランクス?」

 

「あ、あはは。そうみたいですね……。」

 

 ここでトランクスは周りにいたはずのたくさんの妖怪たちの姿が見えないことに気が付いた。

 

「そういえば、あの連中はどこに……?」

 

「あの妖怪たちならトランクスが勇儀を倒した辺りで逃げてっちゃったよ。」

 

「それで怯えて逃げちまったってわけかい?だらしない連中だねぇ……。」

 

「まあとにかくこれであいつらもオレたちに手を出してくることはないだろう。それよりも…この大穴はどうしようかな……。」

 

「ああ、この穴なら気にしなくていい。私が知り合いに頼んで直してもらっとくよ。」

 

「そうか?それは助かる……。」

 

「ねえトランクス。地上に出る前に一度地霊殿に戻らない?地底だからわかりにくいけど、もうすっかり夜だよ?」

 

「そうなんですか?参ったな、どこか眠れる場所を探さないと……。」

 

 その言葉を聞いた勇儀はニヤリと笑いトランクスの肩に手を回した。

 

「トランクス、あんた酒は飲めるかい?」

 

「え?いや、オレはあんまり飲んだことは……。」

 

「よーし!じゃあ今日はあんた今日は私に付き合いな!寝床がないなら朝まで飲み明かそうじゃないかい!」

 

「え…ええ~!?」

 

「あ、ずるい!私もトランクスともっと話がしたい!」

 

「ちょ、ちょっとこいしさんまで!」

 

「よーし、じゃああんたも来な!今日は朝まで騒ぎ通すよ~!」

 

「おおー!」

 

「ちょっとお二人とも!?待ってください!さすがにそんなわけには…ちょ、押さないでください!な…なんでこんなことに……?」

 

 トランクスの主張も空しく、二人に引きずられて、結局その日は朝まで勇儀の酒とこいしの質問攻めに付き合わされることになったトランクスであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

巫女の誘い 神々が住まう神社

 ここは幻想郷のとある山、そこを飛び回りながら大声で叫ぶ者がいた。それは仲間を探し回るピッコロであった。

 ピッコロは幻想郷に落ちるとすぐに周りの状況を把握し、あちこちで情報収集を行っていた。仲間を探し回ること数時間、ピッコロはとにかく広範囲に捜索を続けていたが今だ誰一人見つけることが出来ていなかった。

 

「……ここにも気を感じないか。あいつら一体どこに飛ばされやがったんだ?……早く合流せねばなるまい。……先を急ぐか。」

 

 ピッコロがその場から飛び立とうとしたその時、遠くから何者かがこちらに向かって飛んでくるのが見えた。

 

「待ちなさい!」

 

 飛んできたのは緑色の長髪で頭に蛙と白蛇のアクセサリーをつけた巫女装束の少女だった。

 少女は勢いよく飛んでくるとピッコロから少し離れた場所で急停止した。

 

「なんだ貴様。このオレに用でもあるのか?」

 

「貴方ですね!幻想郷のあちこちを徘徊している妖怪というのは!」

 

「誰が妖怪だ!誰が!!」

 

「貴方のような人間がいるはずありません!緑色だし!」

 

「ほっとけ!人を見かけで判断するんじゃない!」

 

「じゃあ、人間なんですか?」

 

「……いや、人間ではないが。」

 

「じゃあ、やっぱり妖怪ですね!貴方は私が退治します!」

 

「なぜそうなる!」

 

「問答無用です!」        奇跡『客星の明るい夜』

 

 ピッコロの話も聞かずに少女は左右に二つの光源を創り、きらきらと輝くレーザーを放った。

 

「チッ、仕方ない。少し黙らせてやろう。」

 

 ピッコロは少女のレーザーが当たる寸前にその場から消えた。

 

「消えた!?ど、どこに!!」

 

「馬鹿め、後ろだ。」

 

「え!?」

 

「カァア!!」

 

 ピッコロは少女の手を掴み地面に向けて投げ飛ばした。投げ飛ばされた少女はなんとか体制を立て直して地面を滑るように着地する。

 

「くっ!な、ならばこれはどうです!」        秘術『グレイソーマタージ』

 

 少女を中心に星形の弾幕が形成され、ピッコロに向けて弾けるように飛んできた。

 

「ジュエリャアアア!!」

 

 ピッコロは飛び交う星型の弾幕を全て素手で粉砕した。

 

「そんな!?弾幕を素手で打ち消すなんて……!」

 

 驚く少女をよそにピッコロは少女から数メートル離れた位置に降りてきた。

 

「面白い技だが、まだまだ無駄が多いな。」

 

「ま、まだ!」

 

 少女が胸元から札を取り出そうとすると、瞬く間にピッコロは間合いを詰め、少女の首元に爪を突き付けた。

 

「うっ!」

 

「……貴様の負けだ。降参しろ。」

 

「ううっ……参りました。私の負けです……。」

 

「よぉし、それでいい。」

 

 ピッコロは突き付けていた爪を下ろした。

 

「……貴方は何者なんですか?こんなに強い妖怪は初めて見ました。」

 

「違うと言っているだろう!オレはナメック星人だ!」

 

「ナメック星人…え?う、宇宙人ですか!?」

 

「ああそうだ。妖怪ではない。」

 

「凄い!宇宙人ってこんなに強いんですね!」

 

「いや、別に宇宙人が全員強いわけでは__」

 

「やっぱりここでは常識に囚われてはいけないようです!」

 

「聞けよ……。」

 

「私は東風谷早苗っていいます!貴方は?」

 

「……ピッコロだ。」

 

 早苗は先ほどからなぜか興奮した様子で鼻息を荒くしてピッコロに詰め寄った。

 

「ピッコロさんですね!是非うちの神社に来てください!」

 

「先ほどまでオレを退治すると言っていたやつについて行けと?」

 

「それは……えっと……。」

 

 ピッコロの言葉に早苗は口ごもり、ばつが悪そうに顔をそらした。

 

「まあいい、今回は見逃してやる。だが神社には行かん。」

 

「そ、そうですか、残念です……ちなみに本当に悪い妖怪じゃないんですよね?」

 

「安心しろ。オレは別れてしまった仲間たちを探しているだけだ。」

 

「え?そうだったんですか…!?わ、私ったらなんて失礼なことを…!す、すみませんでした!」

 

 勘違いと知った早苗はピッコロに深々と頭を下げて謝罪した。

 

「分かればいいんだ。オレはもういくぞ。」

 

「あ…待ってください!私の神社に来れば何かわかるかもしれませんよ!」

 

 早苗はその場から立ち去ろうとするピッコロを呼び止めた。ピッコロは早苗の言葉に反応し、もう一度早苗の顔を見た。

 

「ほう?どういうことだ……。」

 

「えっと、私の住む守矢神社には二人の神様がおられます。」

 

「神だと……?」

 

「はい、あのお二人なら何か知っているかもしれません。どうですか?一緒に来ていただけませんか?」

 

「……(なぜこの娘がこうもオレを神社に連れて行きたいかはわからんが…二人の神…か…。)」

 

 ピッコロは少し考えた結果、今は少しでも情報を得たいと考えた。

 

「……よし、いいだろう。案内しろ。」

 

 ピッコロがそう言うと早苗はとても嬉しそうな笑顔でピッコロの顔を見上げた。

 

「やった!来てくれるんですね!ありがとうございます!」

 

「ああ、ただし襲ってくるなら容赦はせん、神だろうがなんだろうがオレがまとめて始末してやる。わかったな?」

 

「は、はい!わかりました!では、私についてきてください。」

 

 早苗が山の奥へ飛んでいき、ピッコロはそれを追っていった。飛んでいる最中に早苗はとある質問をしてきた。

 

「そういえばピッコロさんは外の世界の方ですか?」

 

「なに?貴様、なぜそのことを。」

 

「いえ、こちらの世界では見ない服装だったので。そうなのかな?……と。」

 

「なるほど……そうだ。確かにオレはこことは別の次元から来た。」

 

「何をしに?」

 

「……少し大事な用があってな。人を探しに仲間とやってきた。」

 

「へぇ…。あ、見えてきました。あそこが私が住む守矢神社です!」

 

 早苗が指さした先には立派な神社があった。だがどう考えても人が寄り付きそうにない所に建ててあり、ピッコロは少し疑問に思うも神様の神殿と同じようなものかと納得して何も言わなかった。 

 二人はそこまで飛ぶと境内の中に降りたった。

 

「……ここが二人の神が住まう神社というところか。」

 

「神奈子様~!諏訪子様~!ただいま戻りました!」

 

 早苗が呼ぶと神社の中から二人の女性が出てきた。

 先に出てきた女性は紫がかった青髪にしめ縄のような髪飾りをつけ、背中には更にしめ縄を大きな輪にしたようにつけている。

 

「おかえり、妖怪退治はどうだったんだい?」

 

「そ、それはその……。なんていうか…私の勘違いだったみたいで。」

 

 神奈子に続いて次に出てきたのは金髪の頭の上に市女笠に目玉のようなものがついた不思議な帽子を被った女性だった。

 

「おかえり。勘違いだったのはいいんだけど…あの人誰?」

 

 諏訪子がそう尋ねると早苗は気まずそうに顔をそらした。

 

「その…私が退治しようとしてしまった方です……。でもこの人凄いんですよ!私の弾幕がまるで歯が立たなかったこともありますが何より!なんと宇宙人らしいんですよ!」

 

「ふーん……。ようこそ、守矢神社へ。」

 

「……あんたたちがここの神か?」

 

「おほん!その通り、我がこの守矢神社の神である八坂神奈子だ。」

 

「またカッコつけちゃって……。同じく洩矢諏訪子だよ。よろしくね。」

 

「ああ、ここには聞きたいことがあって来た。」

 

「聞きたいこと?なんだい、それは。」

 

「オレはこの世界に来て間もない。どこかにオレのように仲間を探しまわる外来人とやらを見かけていないか?」

 

 ピッコロの問いかけに二人は考え込んだ。

 

「仲間を探す外来人かー。」

 

 思い当たる節がなさそうな諏訪子とは裏腹に神奈子はなにかを思い出そうとしていた。

 

「むぅ…。確か昼頃にどこかで見かけたような……?」

 

「あれ?神奈子様、お昼に出かけてらしたんですか?」

 

「ちょっと散歩にね。……そういえば、人里に見慣れない恰好の子供が一人いたな……。」

 

「……!悟飯か!」

 

「え?さすがに夕ご飯にはまだ早いですよ?」

 

「いや、飯のことじゃない。悟飯というのは仲間の名前だ。」

 

「へぇ、変わった名前だね。じゃあ、君はすぐに人里に行くの?」

 

「そうだな、今は一刻も早く仲間と合流するべきだ。」

 

「ええ~!もう行っちゃうんですか?……せっかく強さの秘密を聞こうと思ってたのに……。」

 

 早苗は周りに聞こえない程度の声で本音を漏らすが生憎ピッコロの聴覚は常人よりも遥かに優れていたため、ピッコロには丸聞こえであった。

 

「なるほど、それが貴様の真の目的だったか。」

 

 ピッコロにそう言われ、早苗はギクリとした。その様子を見てピッコロは面白そうに笑った。

 

「まあいい、またここに来る機会があればオレの強さの秘密を教えてやろう。」

 

「ほんとですか!?やったー!嘘じゃないですよね?」

 

「ああ。ちゃんとオレが『鍛えて』やろう。」

 

「ありがとうございます!またいらしてください!」

 

 踵を返すピッコロに神奈子と諏訪子が順々に話しかけてきた。

 

「もう行くのかい?」

 

「ああ。情報をありがとよ。」

 

「一応、人里の場所はわかるよね?」

 

「ああ、ここに来る前に何度か通った。」

 

「そっか、じゃあ大丈夫かな?また来なよ。」

 

 返事をするように片手をあげて、ピッコロは人里へ向かって飛び去った。

 

「……あの人も今回の異変に巻き込まれたのかな?」

 

「さあね。もしそうだとしたら、またすぐに会うことになりそうだ。」

 

「いや~楽しみです!ってあれ?『鍛える』……?」

 

 早苗と出会い仲間の情報を得たピッコロは次に人里に向かうことにした。ピッコロは無事に仲間と合流することが出来るのだろうか……。

 

~???~

 

「……やっぱりダメみたいね。」

 

「やはり外界との接触が不可能に?」

 

「ええ…そうみたいなの。向こうからは入ってこれるのに、こちらからは外界に干渉できないなんて……面倒なことになったわね。」

 

「では、いかがなさいますか?紫様。」

 

「そうね……。しばらく様子を見ましょう。迂闊に手は出せないわ……。」

 

「はい、わかりました。」

 

「それと…面白そうな連中が外界から入ってきたみたい……行ってみましょ?藍。」

 

「はい、紫様。」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

博麗神社を目指して 悟空との再開

 早苗たちと別れてからピッコロはすぐに人里へとやってきた。怪しまれないように里の外で降りてから里に入っていったがもともとの見た目の問題で村人からは怪しがられていた。

 

「……ここに悟飯がいるのか……。」

 

 だがピッコロはそんな目線をものともせず、悟飯を探して歩き回った。そんな様子を村人たちは更に怪しく思い始めた。

 

『お、おい。あれ妖怪じゃないのか?』

 

『本当だ!どうする?巫女様に退治をお願いするか?』

 

『そうしたほうがいい……!急いで巫女様に_』

 

 村人たちが遠くからひそひそと話しているとピッコロに近づく者がいた。

 

「あはは!おじさん全身緑色で変なのー!」

 

『『『!!?』』』

 

 村人たちがその声に驚いてピッコロのほうを見るとそこにいたのはまだ小さな子供であった。

 

「あはははは!」

 

「……。」

 

 村人たちは無言で子供を見つめるピッコロを見て大きく慌てだした。

 

『ま、まずい!このままではあの子が!』

 

『どうかしたんですか?』

 

『え?あ!先生!丁度良かった!妖怪が子供を襲っているんだ!助けてやってください!』

 

『なにっ!?おのれ、すぐに追っ払ってやる!』

 

 そんなやり取りがあることに気づかず、ピッコロは子供に悟飯のことを訪ねようとした。

 

「おいお前。この辺りで変わった子供を__」

 

「待て!」

 

「ん?」

 

 ピッコロが声のしたほうを見てみると、そこには青いメッシュの入った銀色の長い髪に青い帽子を被った女性がまるで鬼のような形相でこちらに向かってきた。

 

「あ、けいね先生だ!」

 

「私の教え子に手を出すんじゃない、離れろ!」

 

「……何を言っている?」

 

「すぐに立ち去るなら許してやる。だがもし抵抗するならば私が力づくで退治してやろう。」

 

「貴様、何を勘違いしている。オレはただ聞きたいことがあっただけ__」

 

「なるほど、立ち去る気はないようだな。」

 

「人の話を聞け!」

 

「いいだろう。私がこの場で退治してやる!さあ覚悟しろ!」

 

 女性はピッコロの話をまるで聞かずにピッコロに襲い掛かってきた。

 

「チィッ!この世界の女は人の話が聞けんのか!?」

 

 仕方なくピッコロは反撃しようと構えて攻撃をしたその時。

 

「待ってください!慧音さん!」

 

 二人を止めに入ったのは悟飯であった。

 慧音と呼ばれる女性も悟飯の声を聞いて襲い掛かるのを止めた。

 

「む?悟飯、どうしたんだ?」

 

 慧音は先ほどの形相からは想像がつかないくらいに笑顔で悟飯に振り返った。

 

「ご、悟飯!」

 

「え?」

 

 ピッコロの口から悟飯の名前が出たことに慧音は驚き、気の抜けた声を出した。

 

「慧音さん、その人がボクの師匠です!だから攻撃しないで!」

 

「え?え??」

 

 慧音は何が何だかわからずに、交互にピッコロと悟飯の顔を見るのだった。

 それから数分後。

 

「…本当に申し訳ない……。」

 

 悟飯とピッコロから説明を受けた慧音は申し訳なさそうに深々と頭を下げていた。

 

「わかればいい。次からはちゃんと人の話を聞くんだな。……それで、悟飯。おまえはなぜここにいたんだ?」

 

「はい、実はこの近くで迷っていたところでこの慧音さんに出会ってここまで案内してもらったんです。それで…この世界の歴史とかを聞いていたらつい時間を忘れてしまって……。」

 

「この子は賢い子だな。教えたことをすぐに覚える。私の教え子たちにも見習ってもらいたいくらいだ。」

 

「ふ、そうか。手間をかけたな……確か__」

 

「上白沢慧音だ。よろしくたのむ。」

 

「そうか、礼を言うぞ。慧音。」

 

「うむ、当然のことをしたまでだ。」

 

「ピッコロさん、お父さんたちとは会いましたか?」

 

「生憎、オレもまだ誰にも会ってはいない。お前が初めてだ。」

 

「そうですか……。」

 

 悟飯はまだ再開できない仲間たちのことが心配なようで小さく肩を落とした。

 

「……悟飯から話は聞いている。貴方たちは別れてしまった仲間たちを探しているとか……。だが、ここ人里ならば情報も入りやすいはずだ。貴方も悟飯と一緒にここに滞在してみてはどうだろう?」

 

「なるほど、確かにここならば他の連中もオレのようにたどり着くやもしれん。ここはお言葉に甘えるとしよう。慧音、少しの間だがよろしく頼む。」

 

「ああ、こちらこそよろしく。」

 

「それと一応聞いておきたいのだが、貴様は悟飯以外の情報を持っていないのか?」

 

 慧音は腕を組んで記憶を探る、すると何かを思い出して顔を上げた。

 

「多分貴方たちとは直接関係はないと思うが、一年ほど前に強い力を持った外来人がこの幻想郷に迷い込んだことがあったな。その者は今もまだ幻想郷に住んでいて、よく人里にも来るらしい。」

 

「ほう?そいつはどれほどの強さを持っているんだ?」

 

「幻想郷の強者たちに比べればたいした力はないが普通の人間はおろか、そこいらの妖怪では歯が立たないくらいの力の持ち主らしい。私もまだあったことはないがね。」

 

「……悟飯、お前は心当たりがあるか?」

 

「いえ……ボクも覚えがありません。ピッコロさんは?」

 

「オレもだ。そんな力を持ったやつが地球にいたか……?」

 

 気になった二人は考え込むがまるで心当たりがなかった。

 

「……今は考えても仕方あるまい、少なくとも今のオレたちとは関係ないだろう。」

 

「……そうですね。もしかしたらその人とも会う機会があるかもしれませんし今はとにかく何か情報が入るのを待ちましょう。」

 

「それがいい、貴方も探し回って疲れただろう?悟飯と一緒に私の家に泊まっていくといい。」

 

「そうだな……。ではそうさせてもらうとしよう。」

 

 慧音にすすめられながらピッコロと悟飯は慧音の家へと歩き出すのだった。

 そして悟空たちが幻想郷に来てから次の日……。

 

~白玉楼~

 

 幻想郷のいろいろな話を聞いたホウレンは幽々子と妖夢と共に早朝から白玉楼の前にいた。

 

「昨日は泊めてくれてありがとな、幽々子。」

 

「ふふ、また来てもいいのよ?」

 

「機会があればな。それじゃあ妖夢、道案内よろしく頼む。」

 

「わかっています。私に任せてください。」

 

 前日の夜に話し合った結果、ホウレンを博麗の巫女の元に送ってホウレンを元の世界に戻してもらえるようにに頼んでみることになり、道がわからないホウレンのために妖夢が付き人になるということになっていた。

 

「それでは幽々子様、行ってまいります。」

 

「ええ、気を付けていってらっしゃい。妖夢。」

 

 幽々子に見送られて二人は長い階段を下りて行った。それから歩くこと十数分、そこには空間が歪んでうごめいている場所があった。

 

「見えてきました。あそこから地上に出ます。ちゃんとついてきてくださいね?」

 

「ああ。」

 

 妖夢に連れられてホウレンは歪んだ空間に足を踏み入れた。一瞬の眩しい光に目を閉じる、そして次に目を開くとそこは木々に囲まれた山の山頂であった。

 

「ふぅ、やっと明るいところに出られたみたいだな。」

 

「冥界は基本薄暗いですからね。さて、ホウレンさんは飛べますよね?このまま博麗神社まで飛んで行っちゃいましょう。」

 

 二人は博麗神社に向かって飛び立った。その途中でホウレンは気になるものを見つける。

 

「……?」

 

「どうかしましたか?ホウレンさん。」

 

「あそこに見える真っ赤な建物ってなんだ?」

 

「ああ、あれは紅魔館といって吸血鬼とその従者たちが住んでいる館ですよ。それがどうかしたんですか?」

 

「吸血鬼って…そんなのもいんのか……。入口の辺りが派手にぶっ壊れてっからなんだろうなと思ってさ。」

 

「あれ?ほんとですね。何かあったんでしょうか……?ホウレンさん、すみませんが少し寄って行ってもいいですか?」

 

「いいぞ、俺も気になるしな。」

 

 ホウレンに許可を取った妖夢は方向を変えて紅魔館へと飛び、その壊れた門の前に降りたった。

 門の前を見るとそこには美鈴が立ったまま寝ていた。

 

「……えっと、妖夢?」

 

「なんですか?」

 

「いや、あそこに寝てるやつは門番とかじゃないのか?」

 

「そうですよ。妖怪の紅美鈴という方です。」

 

「門番が寝てるとか、ここの警備は大丈夫なのかよ……。」

 

「そもそも紅魔館に侵入しようなんて命知らずな人はまずいませんからね。あまり問題ではないんじゃないかと思われます。」

 

「そ、そうか。」

 

 二人が話をしているその時、突然その場に咲夜が現れて美鈴の頭に軽く手刀を入れた。

 

「はう!」

 

「まったく、貴方は何度言えばわかるのかしらね?」

 

「はっ!いやこれは違うんですよ咲夜さん!今日はなんていうかその、侵入者とかも来そうにないとても素晴らしい天気だったので昨日の戦闘での疲労を回復させつつ次から頑張ろうということであって決してサボって昼寝していたわけじゃないんです!」

 

「言い訳してる暇があったらそっちを見てみなさい。」

 

「へ?そっち?」

 

 そのやりとりを見て、妖夢はいつものことといった表情。ホウレンは呆然とそれを眺めていた。

 

「どうも。」

 

 妖夢は特に驚いた様子はないが、突然現れた咲夜にホウレンは驚きを隠せずにいた。

 

(まったく見えなかった。どんなスピードしてやがんだ……。)

 

「あ、妖夢さん。おはようございます。それと……どちら様ですか?」

 

「バカね、男女の関係にあまり口を出すものじゃないわよ?」

 

「ちょ、何を勘違いしてるんですか!この人は幽々子様のお客人ですよ!」

 

「えっと、俺はホウレン。あんたたちから言えば外来人ってやつだ。」

 

 咲夜と美鈴はホウレンの言葉を聞くとお互いに顔を見合わせた。

 

「?……どうしたんですか??」

 

「いえ、なんでもないわ。それよりも貴方、ホウレンさんって言ったかしら?」

 

「それがどうかしたのか?」

 

「……妖夢。この人ってひょっとして凄く強かったりするかしら?」

 

「え、ええ。確かにこの人は少なくとも私よりも強いですけど……。」

 

「……やっぱり。ねえホウレンさん?貴方、孫悟空という人物を知っているかしら。」

 

 ホウレンは予想だにしない名前に目を見開いた。

 

「悟空だって!?なんであんたが悟空のことを知ってるんだ……!?」

 

「咲夜さん、悟空さんを知っているってことはやっぱり!」

 

「ええ。間違いないわね。妖夢、悪いんだけどその人と一緒にお嬢様の元まで来てもらえるかしら?」

 

「いいですけど、ひとつ聞いてもいいですか?」

 

「なにかしら?」

 

「……随分館がボロボロみたいですけど、何かあったんですか?」

 

「そのことならお嬢様のところに行けばすぐにわかるわ。とにかくついてきて頂戴。」

 

「えっと…咲夜でいいのか?悟空のこともついていけば教えてもらえんのか?」

 

「はい、十六夜咲夜と申します。悟空さんのことならばついて来ればすぐにわかりますよ。もっとも、貴方の知っている孫悟空さんだったらの話ですが。」

 

「あ。ついでに私は紅美鈴です。よろしくお願いしますね。」

 

「ああよろしく。」

 

 ホウレンと妖夢は咲夜たちに連れられて紅魔館の奥へと足を進めた。途中でボロボロになった庭や壊れた扉を見て、ますます疑問に思いながらも先に進んでいくと広い部屋に出て、そこには大量の料理と食べ終えた皿、そしてそれをガツガツと食べる男とそれを愉快に眺める少女がいた。

 

「悟空!?」

 

「!……ゴクン。ホウレンじゃねぇか!おめえなんでここにいんだ!?」

 

 思わぬ再開に動揺する二人を横目にレミリアは咲夜に問いかける。

 

「咲夜。こいつは誰かしら?」

 

「お嬢様、この方はホウレンさんと言いまして悟空さんのことを知っているようなので探していたお仲間の一人かと思い、勝手ながらここまで連れてまいりました。」

 

「そうなの?……ってあら?そっちにいるのは冥界の庭師じゃない。なんで貴方までここにいるのかしら?」

 

「突然押しかけてごめんなさい。私はホウレンさんの道案内として行動してたんですが、途中でここが派手に壊れているのが見えて何かあったのかな?と思って来ました。」

 

「そういうことか。ここが壊れてるのはね、昨日そこの男が私たちと闘ったからよ。」

 

「闘ったって……あの人ももしかして強い方なんですか?」

 

「強いなんてもんじゃなかったわよ。私とフランの二人がかりでまるで敵わないんだもの、正直勝ち目が見えないわ。それよりも、あの人もってことはあいつも強いのかしら?」

 

「ええ、まあ。咲夜からも聞かれましたが、私よりはずっと強いですよ。」

 

 妖夢たちが話している間にようやく落ち着いてきたホウレンたちは久々の再開に会話を弾ませていた。

 

「ホウレン、おめえも随分と強くなったみてえだな。三年前とは大違いだ。」

 

「おまえこそ、ただでさえ強かったのにまだ強くなるのかよ。」

 

「ははは。オラもっと強くなりてえかんな。そういやおめえ、なんでここにいんだ?確か宇宙に飛んでったはずだろ?」

 

「久しぶりにみんなの顔が見たくなってな。帰ってきたと思ったらへんな空間に巻き込まれてさ、気が付いたらこの世界にいたってわけよ。悟空こそなんで幻想郷にいるんだ?」

 

「オラは界王様に頼まれて来たんだ。悟飯たちも一緒に来てんだけど、はぐれちまってどこにいんだかわかんねえんだ。」

 

「そうだったのか。俺も探すの手伝おうか?」

 

「ほんとか!いやあ助かるぞぉ!オラここのこと何にも知らねえかんな~。」

 

「大丈夫だ、妖夢がいれば少なくとも道には迷わねえさ。妖夢!ちょっといいか!」

 

 呼ばれて妖夢はホウレンの元へ小走りでやってきた。

 

「なんですか?」

 

「あのさ、この後博麗神社に向かう前に悟空の手伝いを一緒にしてくれねえか?お前がいないと道がわかんなくてさ。たのむよ!」

 

 ホウレンは手を合わせて妖夢に頼み込んだ。

 

「え?別にいいですけど、何を手伝えばいいんですか?」

 

「実はこいつの仲間を探すのを手伝ってほしいんだ。」

 

「この方のですか。まあ乗り掛かった舟ですし、最後まで付き合ってもあげてもいいですよ。」

 

「サンキュー!おまえやっぱりいいやつだぜ!」

 

「オラからも礼を言わせてくれ、ありがとな!オラ孫悟空ってんだ。おめえは?」

 

「私は魂魄妖夢です。よろしくお願いします。」

 

「そんじゃあ、わりいけど飯食い終わるまで待っててくんねえか?」

 

「相変わらずよく食うなお前……。いいぜ、ゆっくり食えよ。」

 

「サンキュー!」

 

 こうしてホウレンと悟空は思わぬ形で再開することになったのだった。ホウレンたちは無事に仲間を探し出すことが出来るのであろうか……。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

集結する仲間たち 博麗の巫女参上!

 ホウレンと悟空がまさかの再開を果たしたころ、人里ではピッコロと悟飯が慧音と共に人里で情報を集めていた。

 最初はピッコロの姿に恐れを抱いていた人間たちも、慧音と共に歩いているのを見てだいぶ慣れてきたのか誰も怖がらなくなっていた。

 

「特にそれといった情報が手に入らないな……。ピッコロのほうはどうだ?」

 

「オレもだ。まったくあの三人はどこをほっつき歩いているんだ……。」

 

「二人とも、少しいいですか?ちょっと変わった話を聞いたんですけど。」

 

「なんだ?」

 

「昨日の夕方頃に紅魔館という場所がある方角から大きな爆音が鳴り響いていたらしいんです。もしかしたらお父さんたちかも?」

 

「なるほど、ひょっとしたらあの三人の内の誰かが何者かと闘っていたかもしれんな。慧音、その紅魔館の場所はどこだ?」

 

「紅魔館はここからずっと向こうへいったところに森があってその先に大きな湖がある。更にその先に建っているのが紅魔館だ。」

 

「よし、行くぞ悟飯。あいつらがいるかもしれん。」

 

「誰がいるかもしれないだって?」

 

 紅魔館に向かって飛びたとうとするピッコロと悟飯を呼び止めたのはベジータであった。

 

「ベジータさん!」

 

「ベジータ!お前いつの間に!」

 

「貴様らがだらだらと話しをしている間にな。どうやらまだカカロットとトランクスはいないようだな。」

 

「ちょっとベジータさん!おいてかないでくださいよぉ!」

 

 ベジータの遅れてやっていきたのは鈴仙だった。ベジータを送ってここまでついてきたようだ。

 

「ふん、チンタラしているからだ。」

 

「ベジータさん、そちらの方は?」

 

「私は鈴仙・優曇華院・イナバといいます。ベジータさんの道案内として同行して来ました。貴方がたがベジータさんのお仲間さんですか?」

 

「はい、ボク孫悟飯っていいます。」

 

「オレはピッコロだ。」

 

「見つかってよかったですね、ベジータさん。」

 

「……そうだな。あとはカカロットとトランクスだが……お前らが話していた内容だと紅魔館とやらに行くんだろう?オレもついていくぞ。」

 

 ベジータがと合流して今度こそ紅魔館へ飛び立とうとする三人だったが、それを遠くから呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「ま、待ってください!」

 

「この声は……!」

 

 三人が振り返ると遠くからトランクスとこいしが走ってくるのが見えた。だがどういうわけかトランクスは少しふらついた様子であった。

 

「トランクス、おまえも無事だったか!」

 

「え、ええ。なんとか……。皆さんもご無事でなによりです。」

 

「これであとは悟空だけか、ということは紅魔館に行けば悟空がいるかもしれんな。」

 

 ベジータは立ち止まってもなおふらついたままのトランクスに疑問を浮かべた。

 

「トランクス。おまえ何かあったのか?」

 

「あ、あはは。ちょっと色々大変なことがありましてね。お気になさらず!」

 

「この人たちがトランクスの仲間なんだ。へえ~!」

 

「お前は?」

 

「私?私はこいし。古明地こいしだよ。トランクスの仲間探しを手伝ってあげてたの。」

 

「こいしさん、手伝ってもらってありがとうございました。ここからはもう大丈夫です。さとりさんと勇儀さんにもよろしく伝えといてください。」

 

「ええ~?でもまだ全員集まったわけじゃないんでしょ?最後まで手伝わせてよ。」

 

「ですが……。」

 

「好きにさせておけばいい。すぐにカカロットと合流することになるだろうがな。」

 

「……わかりました。ではこいしさん、もう少しだけよろしくお願いします。」

 

「鈴仙、おまえはどうする?」

 

「私はそろそろ戻ろうかと思いますのでここで失礼させていただきます。最後の一人、見つかるといいですね!」

 

「そうか、世話になったな。」

 

 話がまとまって最後にピッコロと悟飯が慧音の前に立った。

 

「慧音、色々と助かった。ひとまずはこれでお別れだ。」

 

「慧音さんお世話になりました。」

 

「ああ、またいつでもきなさい!」

 

「はい!では失礼します!」

 

 こうして悟飯たちは悟空を探して紅魔館がある方角へと飛び立った。一方ホウレンたちは四人で人里へ向かって平原を上空を飛んでいた。

 ホウレン、悟空、妖夢、そしてレミリアに命じられて手伝いに来た咲夜の四人だ。

 

「いや~待たせちまって悪かったな。それに咲夜も手伝いに来てくれてありがとな!」

 

「お嬢様のご命令ですからね。しっかりこなして見せるわ。」

 

 雑談をしながら飛んでいると別の場所からこちらに向かって飛んでくる女性がいた。

 

「待ちなさい、そこの外来人!」

 

 飛んできた女性はホウレンたちの前に回り込んできた。突然見知らぬ女性に呼び止められ、ホウレンたちは少女の前で急停止する。

 その女性は少し暗い茶色の髪に大きな赤いリボンを付け、肩が出た巫女服を着ていた。さらにその手にはお祓い棒を持っている。

 

「あー…その外来人ってのは俺たちのことだよな?」

 

「あんたたち以外に誰がいんのよ……。」

 

 少女は半ば呆れたようにため息をついた。

 

「私は博麗霊夢。博麗の巫女をやっているわ。今回はあんたたちに用があって来たの。」

 

「「博麗の巫女だって!?」」

 

 声を合わせて驚いたのはホウレンと悟空であった。

 

「悟空、おまえも博麗の巫女を知ってるのか?」

 

「おめえこそ、なんで知ってんだ?」

 

「いや、俺はもともと博麗の巫女のところに用があって妖夢と一緒に行動してたんだよ。」

 

「なんだおめえも博麗の巫女に用があったんか。オラたちも博麗の巫女に用があってこの世界に来たんだぞ?」

 

「へ~、妙な偶然もあったもんだな。」

 

「……もういいかしら?」

 

「おう、いいぞ。」

 

 霊夢は気を削がれながらも咳払いをして話をつづけた。

 

「私は普段、妖怪退治とかを仕事にしているんだけど、他にも異変の解決とかもやってるのよ。」

 

 ホウレンは霊夢の言葉に一つだけ聞き覚えのない単語を聞いて妖夢のほうに顔を向けた。

 

「異変って?」

 

「異変っていうのはですね。幻想郷で希に起こる怪奇現象や妖怪などによって意図的に起こされた不可思議な現象とかのことです。」

 

「へぇ……。」

 

「そう、それで私は貴方たち二人に用があって来たわけ。」

 

 霊夢はそう言うとホウレンと悟空を交互に指さした。

 

「?オラ何にも変なことしてねえぞ?」

 

「俺も覚えがねえな。」

 

「「……。」」

 

「いや…そっちの二人が明らかに何かあったって顔してるんだけど‥。」

 

「妖夢、俺なんかしたっけか?」

 

「……まあ、あんな凄い力で闘ったら……。」

 

「目を付けられてもおかしくないわね……。」

 

 妖夢と咲夜はお互いに顔を見合わせて納得したようにうなずくがホウレンと悟空はよくわかっておらず首を傾げていた。

 

「別にあんたたち二人だけってわけでもないんだけどね。」

 

「あれ?この二人以外にも誰かいるんですか?」

 

「ええ、実は昨日から幻想郷のあちこちで闘いの痕跡が残されていてね。得体のしれない力ばかりだから私が最も危険と感じたところに来たってわけ。」

 

「ホウレン、おめえそんなに暴れたんか?」

 

「いや、間違いなくお前のほうだろ。」

 

「当たり前でしょ?紅魔館に一人で殴り込みに行って大暴れしたって噂を聞いたわよ?」

 

「いい!?確かに門はぶっ壊しちまったけど、大暴れはしてねえぞ!」

 

「玄関と庭も壊したでしょ?」

 

 慌てて弁明する悟空に咲夜が言葉を付け足した。

 

「あ、そうだった!」

 

「よくもまあ、紅魔館でそこまで暴れたもんだわ。でも、一緒に行動している所を見るとレミリアあたりにでも負けて追い返された?」

 

「ん?いや、オラ勝ったぞ?」

 

「……は?」

 

「咲夜はオラの手伝いに来てくれただけだ。」

 

 霊夢は悟空の言葉がすぐに理解出来ずに悟空と咲夜の顔を交互に見た。

 

「は…え…?咲夜、この人の言ってること…本当なの?」

 

「ええ、事実よ。お嬢様も妹様もまるで敵わなかったわ。」

 

「そんなことねえぞ。あの二人も結構強かったかんなぁ。」

 

 咲夜の様子を見てそれが嘘じゃないと分かった霊夢は驚きの表情で悟空を見つめた。

 

「信じられないわ……。外の世界にそんな人がいるなんて。」

 

「私もよ。まさかお嬢様たちが敵わないなんてね……。」

 

「それで、悟空になんの用があるんだ?」

 

「私の用事は貴方たちが最近の異変の元凶じゃないかって思って来たの。」

 

「なに?」

 

「霊夢、最近の異変っていうのは?」

 

 咲夜は霊夢が言った言葉が気になり、霊夢に問いかける。

 

「それはね、幻想郷と外の世界の結界が不安定になっていることよ。」

 

「結界が不安定に?それってあの隙間妖怪のせいとかじゃないの?」

 

「それが違うのよ。むしろ紫は私と一緒にその元凶を探してる協力者ってところね。それでその結界が最近更に不安定になってたのよ。そこに突然貴方たちみたいな強い力を持った人たちが幻想郷に入ってきたってわけ。怪しまれて当然じゃない?」

 

「確かに、俺たちすげえ怪しいな。」

 

「でしょ?だからそれを私の目で確認してもし犯人だったら退治しようと思ったわけ。」

 

「それって…ホウレンさんとそのお仲間さんたちもですか!?」

 

「そうよ。今のところ一番怪しいのはこの人たちだけだし、それに今仲間たちもって言ったわよね?恐らく私の勘だと昨日から見つかってる闘いもその仲間たちじゃないの?」

 

「知らねえよ。あいつらがそんなことするわけ……いやするな、うん。」

 

「そうだな。悟飯やピッコロ、トランクスはともかくベジータは何すっかわかんねえぞ?」

 

「一番危ないって目を付けられたやつが言うかよ?」

 

「はっはっは!そりゃお互い様ってやつだ!」

 

 その二人の会話を聞いて霊夢は確信を得たと思い、目つきを鋭くした。

 

「身に覚えがあるのね。決定だわ。さっさとあんたたちを退治して私はお昼寝に戻らせて貰うわよ!」

 

「ちょっ……!霊夢さん、落ち着いてください!まだ証拠もないじゃないですか!」

 

「まあ確かにそうだけど。こっちは早くこの異変を終わらせなきゃいけないのよ、そうしないと……。」

 

「そ、そうしないと……?」

 

「いつまで経っても私がのんびりできないじゃないの!」

 

「そんな理由ですか!?」

 

「さあ行くわよ!そこの悟空とかいう人!」

 

 霊夢はビシッと悟空を指さした。

 

「ん?オラか?」

 

「当然よ。紅魔館を一人で攻略出来るくらいだから、その仲間たちの中では一番強いんでしょ?だったら貴方を倒せば解決じゃない。」

 

 霊夢の言いぐさにホウレンは慌てて話を聞いてもらおうと悟空の前に出る。

 

「待てって!先に話くらい聞いてくれよ!」

 

「問答無用よ!聞いて欲しいなら私を倒してからにしなさい!」

 

「どこのボスだお前は!」

 

 ホウレンの言葉に耳を貸してくれない霊夢を見て悟空が楽しそうに笑った。

 

「オラは別に構わねえぞ、こいつ強そうだしなあ!」

 

「いや、お前そういう問題じゃないだろ?」

 

「そんなこと言っておめえだって実は闘いてえんじゃねえか?」

 

 悟空に指摘されてホウレンは少し口ごもる。

 

「……まあ、倒さないと話を聞いてくれないってんなら俺も闘ってみてえけど。」

 

「ん~どうすっかな。オラも闘いてえし……。」

 

「あの……。」

 

「むぅ……よし!ここはじゃんけんで決めようぜ!」

 

「ちょっと……?」

 

「そうだな、そうすっか!せーのっ!」

 

「「じゃ~んけ~ん…ぽん!」」

 

「……。」

 

 二人は何度も話かける霊夢の声にも気づかずにどちらが闘うかを決めるために霊夢をそっちのけでじゃんけんを始めてしまった。

 

「霊夢。こういう人たちなのよ。」

 

「緊張感がないわね……。こっちがやる気なくしちゃうわよ……。」

 

「まったくです。でも気をつけたほうがいいですよ?この人たち、どっちも信じられないほどの強さですから。」

 

「忠告どうも。」

 

 そして何度もあいこを繰り返したじゃんけんの勝者が決まった。

 

「よっしゃー!俺の勝ちー!」

 

 どうやら勝ったのはホウレンのほうらしく、悟空は悔しそうな顔をしていた。

 

「ちぇ、しょうがねえ。おめえに譲るよ。」

 

「ああ、悪く思うなよ?」

 

「決まったかしら?」

 

「おう!俺がやらせてもらうぜ!」

 

「まったく……この私を目の前に随分と余裕じゃないの。」

 

「余裕ってわけじゃねーよ。それよりおまえ、俺が勝ったらちゃんと話を聞いてくれるんだろうな?」

 

「あれ、本気にしてたの……?まあいいわ。勝てたらね。」

 

「絶対だぞ?手加減しねえからな?」

 

「はいはい、わかったわよ。さっさと始めましょ?」

 

 ホウレンは霊夢の承諾を得てやる気を更に出した。そして悟空、妖夢、咲夜の三人は闘いの邪魔にならないように少し離れた地上に降りた。

 それを確認するとホウレンは深呼吸をして息を整える。

 

 

 

 

「……よし、いくぜ!」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

博麗の巫女の力 ホウレン逆転の超サイヤ人

 ホウレンと霊夢の闘いは以外にも一方的になった。押されているのはホウレンのほうだ。

 霊夢の実力はホウレンの想像を遥かに上回っており、幻想郷最強とも言えるその力の前にホウレンはなすすべなく地面に叩きつけられていた。

 

「ぐっ……!」

 

「もうおしまい?」

 

 霊夢は空中からホウレンを見下ろしている。その姿にはいくらかの余裕を感じた。

 

「んなわけあるか、まだまだこれからだってーの!」

 

 そんな二人の闘いを見ている三人はそれぞれに思うところがあるようだった。

 

「……さすが霊夢ね。あの人も十分な実力者だと思うけど完全に霊夢が押してるわ。」

 

「ええ。やっぱり強さの格が違いますね……。」

 

「おーい!ホウレン、大丈夫かー?」

 

「おう!まだまだいけるぜ!」

 

「なら早くかかってきてよね。あんたの次にあいつも残ってるんだから。」

 

 そう言って霊夢は悟空を横目で見た。

 

「おいおい、もう勝った気でいんのかよ。勝負はまだこっからだぜ?」

 

「と言ってもね……。貴方の動きじゃ、勝ち目はないわよ。」

 

「どうかな?いくぜ!」

 

 ホウレンは霊夢めがけて飛び上がり、無数の拳を繰り出すが全てかわされる。

 

「ほら、私にかすりもしないじゃないの。」

 

 ホウレンの攻撃を涼しい顔で避けながらそう言った霊夢を見て悟空は感心したように驚いた。

 

「へぇ、あいつ思ったよかつええな!レミリアより強いんじゃねえか?」

 

「……そうですね。昔お嬢様が異変を起こしたことがあったのですが、その時お嬢様を倒し異変を解決させたのは霊夢ですからね。」

 

「ほんとか!すげえんだなーあいつ!」

 

「……貴方が言うかしら?」

 

 

 三人が会話をしている時も闘いは続いている。ホウレンの攻撃をかわし続けた霊夢は隙を狙ってホウレンの腹に強烈な右拳を叩きつける。

 

「うぐっ!!」

 

「それ!」

 

 強烈な一撃によろけたホウレンに霊夢は回し蹴りを食らわせる。ホウレンはそれを避けることが出来ずに再び地面に滑り込んでしまう。ホウレンはなんとか立ち上がるも疲れが見え始め、息を乱していた。

 

「妖夢が言ったとおり油断せずに戦ったつもりだけど、この程度なら油断してても倒せそうね。」

 

(やべえな、こいつ妖夢よりも遥かに強いぞ……。このまま闘っても本当に勝ち目がねえ!)

 

「さあ、そろそろ終わりにしましょうか。」        霊符『夢想封印』

 

 霊夢がお祓い棒をホウレンに向けるとその周りから大きな光の玉が現れ、ホウレン目掛けて飛ばされる。

 

「くっ!」

 

 ホウレンはその攻撃をギリギリですべてかわす。

 

「そんなんで避けたつもり?」

 

 すると避けたはずの光の玉はホウレンを追跡するように再び方向を変えて飛んできた。

 

「くそっ!うらぁあああ!」

 

 ホウレンはやむを得ずその光の玉をすべて力ずくで弾き飛ばした。それに驚き一瞬だけ隙が出来た霊夢にホウレンは技の構えをとる。

 

「くらえ!ターコイズブラスト!」

 

 ホウレンは霊夢目掛けて青白い閃光を放つがなぜか霊夢は仁王立ちのままその技をくらった。

 

「はぁ…はぁ……マジかよ。」

 

「それが貴方の全力かしら?」

 

 土埃の中から霊夢がゆっくりと出てくる。技が直接当たったにも関わらず霊夢はまったくの無傷であった。

 

「まるで効いていないのか……!?」

 

「そんなわけないでしょ?ちょっと結界を張っただけよ。」

 

「結界だと……?」

 

「そ。もともとこの幻想郷の結界の管理も仕事のうちだしね。これくらい造作もないわ。」

 

 ホウレンはいよいよもって手詰まりになり最後の手段に出ることにした。

 

「……仕方ねえか。ここまで追い詰められたんじゃ、出し惜しみしてるわけにもいかねえ。」

 

「?」

 

 首を傾げる霊夢を前にホウレンは両腕を開き気を高め始めた。

 

「お、ホウレンのやつ、やっと本気出すみてえだな!」

 

「本気って…もう全力で闘っているんじゃないですか?」

 

「あの状態ではな。」

 

「?あの状態では……?」

 

 悟空の言葉に妖夢は首を傾げた。だが咲夜は昨日の悟空を思い出していた。

 

「……まさか、あの人も……?」

 

「はぁああああ!!」

 

「……一体何を?」

 

「だああああ!!」

 

 その瞬間、ホウレンの周りに爆風が起こり超サイヤ人へと変身した。

 

「な!?」

 

「や、やっぱり!!」

 

「え?え??」

 

 妖夢は突然の爆風に何が起こったか分からず、辺りをキョロキョロと見渡す 霊夢は一瞬驚いた顔をしたが、すぐさま冷静さを取り戻していた。

 

「……何よ、その姿。」

 

「これか?これは超サイヤ人ってやつだよ。」

 

「なにそれ?」

 

「そうだな……。俺たちサイヤ人の真の力ってやつかな?」

 

 

「ふぅん。でも今更その真の力で闘っても意味ないんじゃないの?そんなボロボロの体で本気を出したところでこの実力差が埋まるとは思えないんだけど?」

 

「俺たちサイヤ人を甘く見ないことだな。さっきの俺と今の俺……どれだけ違うか、確かめて見るか?」

 

「いいわよ。今度こそ完膚なきまでに叩きのめしてあげる。」

 

ホウレンと霊夢は少しの間お互いを睨み合う。そして先に霊夢がお払い棒を 構え攻撃を仕掛けた。

 

「はっ!!」        夢符『退魔符乱舞』

 

 霊夢は数多の針状の弾幕を超高速でホウレン目掛けて放った。だがホウレンはその弾幕を全て最小限の動きで躱してみせた。

 

「あの速度を見切った!?」

 

「うおりゃあ!」

 

「くっ……!」

 

 ホウレンは弾幕を躱した直後、霊夢に向かって突進し右拳を突き出すも咄嗟に受け止められる。  

 だが即座に左足で蹴りをいれ霊夢を蹴り飛ばした。吹き飛んだ霊夢は地面を滑り、体制を立て直した。

 霊夢は一度ホウレンと距離をとるため、空へと飛び上がった。

 

「逃がさねえぞ!」

 

 ホウレンは霊夢を追い空へ飛び上がったその時

 

「逃げる気なんてないわ。」

 

 霊夢はくるりと振り返りお払い棒をホウレンへ向けた。

 

「!!」

 

「今度は避けられないわよ!」        霊符『夢想封印 集』

 

 さきほどと同じ大きな光の玉が今度はホウレンの周りを包むように現れ、一斉にホウレンに集まるように飛び交って爆発を起こした。それをまともにくらったホウレンは地面へ落下した。

 

「……ッ!ハッ!!」        夢符『二重結界』

 

 土埃の中から特大の光線が飛び出すが霊夢は咄嗟に結界を張り身を守った。激しい轟音が鳴り響き、周りの煙が全て吹き飛ぶ

 

「うぐぐ……!」

 

 霊夢の張った結界は非常に強力なものであったがなんとホウレンの攻撃によってひびが入りだす。その結界を見て霊夢は目を見開いて驚いた。

 

「嘘でしょ!?結界にひびなんて……!!」

 

「砕けろぉおお!!」

 

「うっく……きゃあああ!!」

 

 ホウレンのエネルギー波は霊夢の結界を打ち砕きそのまま霊夢に直撃した。流石の霊夢も避けきれず、地面に落ちていった。

 その様子を見て妖夢は自分と闘った時との違いに驚きを隠せずにいた。

 

「す、凄い……!あの姿になってから強さがまるで違う……!」

 

「あいつも随分修行積んだみてえだな。始めて会ったよかずっと強くなってやがる。超サイヤ人の力も使いこなせてるみてぇだ。」

 

「超サイヤ人の力を使いこなせてる?どういう事?」

 

 悟空の言葉に咲夜が質問をする。

 

「もともと超サイヤ人ってのはオラたちサイヤ人にとって、伝説上の存在でな。理性が少しとんで、凶暴性が増すんだ。」

 

「……物騒な話ね。」

 

「ですが、ホウレンさんは強さこそ増しましたが。理性がとんでいるようには見えませんが……。」

 

「そうね。貴方が変身した時も普通にお話していたみたいだけど?」

 

「そりゃ、たくさん修行したかんなぁ。」

 

「そう……。(修行でなんとかなるのね……。)」

 

「それでホウレンはな。出会ったとき記憶が無くってよ。それなのに闘いの中ですぐに超サイヤ人になりやがったんだ。あいつひょっとしたらすげえ才能の持ち主かもしれねえな。」

 

「サラッと重要なこと言わないでください!記憶が無いってどういう事なんですか!」

 

「……彼は今も記憶が無いままなの?」

 

「……ああ。あれから三年は経ってっけど、多分まだ昔のことは思い出せてねえと思う。」

 

「そうなんですか……。」

 

「ああ、だから超サイヤ人の力も全然使いこなせなくてすぐ変身が解けちまってたんだが、この三年で随分と物にしたみてえだ。……だけど、あの霊夢っちゅう女。まだなんか隠してんな……。」

 

 ホウレンは倒れた霊夢を真っすぐに見つめている。

 

「……どうだよ、霊夢。俺の全力は。」

 

 霊夢はゆっくりと立ち上がりながらホウレンの言葉に答えた。

 

「……ええ、正直驚いたわ。まさか……力尽くで二重結界を壊すなんてね。」

 

 立ち上がった霊夢は再びホウレンと向き合い睨みあった。

 

(さてどうしようかしらね……。まさか私とほぼ同等かそれ以上の力を隠しているなんて思わなかったわ。それにまだもう一人残ってるし……。)

 

 睨み合いをしているとホウレンと悟空はこちらに向かってくる気の存在に気が付き空を見上げた。

 

「この気は……!」

 

「どうしたの?闘いの最中によそ見なんて随分と余裕じゃない。」

 

「悟飯たちの気だ!」

 

「何を言っているの……?」

 

「あいつら無事だったんか!よかったー!」

 

 ホウレンに引き続き悟空も向こうの空を見上げて歓喜する。それを見て咲夜は悟空に問いかける。

 

「貴方も彼も急にどうしたのよ?向こうの空に何かあるの?」

 

「……あ!誰か飛んできますよ!」

 

 妖夢の言葉に反応して霊夢も同じく空を見上げる。

 

「あれは……?」

 

 その先には悟飯たちが飛んでくる姿があった。霊夢たち幻想郷の住人にとっては見たこともない人間たちが空を飛んでくるという光景であり、軽く身構えてしまう。

 そして悟飯たちは悟空の前に降りてきた。

 

「お父さん!無事でよかった!」

 

「おー悟飯!おめえも無事だったみてえだなぁ!」

 

 悟空の言葉に咲夜はギョッとした。

 

「貴方結婚してたんですか!?」

 

「え?そうだけど、それがどうかしたんか?」

 

「い、いえ意外だったもので……。」

 

「カカロット、これはどういうことだ。なぜホウレンのやつがここにいる?」

 

「それどころか超サイヤ人にまで変身して闘っているとはな。おかげでオレたちも見つけることが出来たが。」

 

 今度はベジータとピッコロが順々に悟空に問いかけた。

 

「いろいろあってさ、あいつはこの世界に迷って入ってきちまったらしいぞ。」

 

「なるほど、わざわざ異世界にまで迷い込むとは間抜けなやつめ。」

 

「ベジータ、オラたちだってこの世界で迷ってたからお互い様ってやつだと思うぞ?」

 

 そう言われてベジータは小さく舌打ちをして押し黙った。

 

「ちょっとそこにいるのってこいしじゃないの!なんであんたまでそいつらと一緒にいんのよ!」

 

「私?私はトランクスについてきただけだよ。ね?トランクス。」

 

「はい。こいしさんがオレたちの手伝いをしてくれると言うので来てもらいました。」

 

「そういうこと!」

 

「手伝いってあんた……。」

 

「ホウレンさん!一体何があったんですか?ボロボロなうえに超サイヤ人にまでなって。」

 

 トランクスの問いかけにホウレンは霊夢から目を離さずに答えた。

 

「いろいろあって、こいつを倒さないといけなくなってさ。超サイヤ人にならないとまるで歯が立たないから全力をだしたってわけだよ。」

 

「なるほど、そうだったんですか。」

 

「さて、随分賑やかになっちまったがそろそろ続きを始めようぜ?霊夢。」

 

「……そうね。始めましょうか。」

 

「みんな。これは俺の戦いだ。手は出さないでくれ。」

 

(流石の私もこれだけの人数相手じゃ勝ち目がないわね。仕方ない、体力の消耗が激しいからあまり使いたくなかったけど。あのスペルを使うしかないか……。)

 

「……ホウレンっていったわね?貴方の負けよ。」      『夢想天生』

 

 ついに霊夢は最後の切り札を見せる。果たしてホウレンは勝つことが出来るのであろうか……?

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

技と技のぶつかり合い!夢想天生に打ち勝て!

 霊夢はこれ以上ホウレンとの闘いに時間をかけられないと判断し、博麗の巫女の切り札とも言えるスペルを発動した。だが見た感じではとくに変化は見られず、ホウレンは困惑していた。

 

「なんだ……?(なにか変化があったわけでもない。どんな技だ?)」

 

「はあ!」

 

 霊夢は無数の弾幕をホウレン目掛けて放った。

 

(?スピードに変化はない。)

 

 ホウレンは放たれた弾幕を全て弾き飛ばした。

 

(威力も大差ねえな。一体何が変わったってんだ?)

 

 疑問に思うホウレンへ霊夢はさらにホウレンを包み込むように弾幕を放った。

 

「こんなもんじゃ俺は倒れねえぞ!だあっ!」

 

 ホウレンは自らの周囲全てに向けて衝撃を放ち、向かい来る弾幕を打ち消していく。

 だが霊夢の弾幕は止まることなく次々とホウレンへ飛んできた。

 

「チィッ!キリがねえな……!こうなったら一気に決めさせてもらうぞ!」

 

 ホウレンは弾幕を手で弾きながら霊夢へ向けて突撃した。

 

「一気に決める?無理よ。だって__」

 

「だああああ!!」

 

 勢いよく霊夢に殴りかかるホウレンだったが、なんとホウレンは霊夢をすり抜けそのまま通り過ぎてしまった。そして通り過ぎ間に霊夢は耳元で呟いた。

 

「__貴方は私に触ることすら出来ないんだから。」

 

「なっ!!?」

 

 まさかの出来事に一瞬思考が止まったホウレンだが、すぐさま体制を整え霊夢から距離をとる。

 

「ど…どうなってんだ?今確かに俺は……。」

 

「よそ見は禁物よ。」

 

 混乱しているホウレンに霊夢は再び包み込むように弾幕を放った。

 

「またそれか!そんなもん全部吹き飛ばして__ッ!」

 

 先ほどと同じように弾幕を弾き飛ばそうとしたホウレンだったがそれをする前に霊夢の弾幕の一つがホウレンの頬をかすめていった。

 

(スピードが上がった。まだ本気じゃなかったってことか……?)

 

 ホウレンが考える間にも弾幕はどんどん加速していく。

 

「くそっ!どうなってんだこりゃあ!?どんどんスピードが上がってきてやがる……っ!」

 

「さっきから驚いた顔ばかりね。そろそろ諦めたらどう?」

 

「んなわけねえだろ……っ!これなら……どうだ!」

 

 ホウレンは霊夢に向けて気弾を連続で放った。その気弾は霊夢の弾幕の間を潜り抜けて霊夢へと飛んでいく……が、その気弾もすべて霊夢の体をすり抜けていき霊夢の後方の岩が砕け散った。

 

「触れないって言わなかったかしら?」

 

「駄目か……!それなら次はこれだ!」

 

 ホウレンは弾幕を避けながらも更に霊夢へと気弾を創り出す。今度は少し大きめの気弾と小さな気弾を時間差で飛ばした。

 先に撃った大きな気弾はスピードが遅く、後から撃った小さな気弾はスピードが速かったため霊夢をすり抜ける瞬間に二つの気弾がぶつかり合い、霊夢をすり抜ける瞬間に大爆発を起こした。

 

「すり抜ける瞬間の爆発だ!これなら避けようがねえはず……!」

 

 だが煙の中からはまるでダメージが入っていない霊夢が立っていた。

 

「無駄よ。たとえ私の中で爆発を起こそうとも、全方位からの一斉攻撃をしようとも、私に一切の攻撃は当てられない……いいえ当たらないのよ。」

 

「くっ……!」

 

 一方的になってきた闘いを見ながら悟空たちはそれぞれが霊夢の力を観察をしていた。

 

「ほー!あいつすげえ技使うんだなぁ!おどれぇたぞ!」

 

「徐々に速く、そして強くなっていく技。攻撃を完全に無効化してしまう絶対の守り。あれがこの幻想郷最強クラスの実力ってところか……だが。」

 

「隠してはいるようだが体力の消耗が激しいようだな。あんな諸刃の技を使うとは、やつも随分追い詰められているらしい。」

 

「ああ。実力的にはホウレンで丁度良かったかもしんねえな。」

 

 悟空に続いてピッコロ、ベジータの順に霊夢の技の感想を言う。そんな様子を見て妖夢は小さな疑問が頭をよぎった。

 

(あの技を見てこの余裕……ひょっとしてこの人たちはみんなホウレンさんよりも実力が上なの?)

 

 そんな疑問を胸に妖夢は再びホウレンと霊夢の闘いに意識を向けた。

 

「はあああ!」

 

 ホウレンは弾幕を弾きながら霊夢に近づき、今度は接近戦で霊夢を攻める。

 だがいくら拳を重ねてもすべては空を切るばかりで霊夢に当てることはできなかったがそれでもホウレンは攻撃をやめずに殴り続けた。

 

「無駄よ。いい加減あきらめなさいっ!」

 

 霊夢は一瞬だけホウレンの拳をかわして、逆にホウレンを殴り飛ばした。そこでホウレンは一つ疑問に思った。

 

(なんで今攻撃をする前に俺の攻撃を避けたんだ?……試してみるか。)

 

 ホウレンは再び霊夢に向かって突撃し、何度も拳を振るった。

 

「ああもうしつこいわね!こうなったら……!」

 

 諦めずに何度も向かってくるホウレンに苛立ちを覚えた霊夢は短期決着を狙い、直接攻撃を繰り出した、するとどういうわけかホウレンはその霊夢の腕を掴み取った。

 

「しまっ……!」

 

「つかまえた!オッラァアア!!」

 

「キャッ!?」

 

 ホウレンは捕まえた霊夢をそのまま一本背負いで地面に叩きつけた。そしてすぐさま追撃を加えようとするも攻撃は再び霊夢をすり抜けてしまい失敗に終わり、仕方なく少し距離をとった。

 

「どうやら予想が当たったみたいだな。おまえのその技は遠距離の攻撃をしている時ならば問題なくすり抜けさせることが出来るみたいだが、自分の体を使った攻撃をする瞬間だけはその技の効果が消える。……そりゃそうだ、なにせすり抜けちまったら自分の拳も当たらねえもんな。」

 

「……ご名答。この技を見切ったのはあんたが初めてよ。でもわかったところで状況は変わらないわよ?だって私が体を使った攻撃をしなければいいだけだもの。」

 

「いいや、変わるさ。だっておまえ、もう体力が限界近いんだろ?さっきから小さいが呼吸が乱れまくってるぞ。」

 

「……うっさい。あんただって人のこと言えないんじゃないの?」

 

「……まあな、正直言うと体中ガタガタだよ。」

 

「当たり前よ。というか、あれだけの弾幕を受け続けてまだ立ってられる方がどうかしてるわ……。」

 

「褒め言葉として受け取っておくぜ。」

 

「ご自由にどうぞ。」

 

「だけど、俺はまだまだ負ける気はねえぞ?」

 

「私だって負ける気なんかないわよ。……でも流石にもう限界。だから次で終わりにさせてもらうわ。」

 

 霊夢の勝利宣言にホウレンは小さく笑みを浮かべた。他のサイヤ人よりは温厚な性格のホウレンでもその流れる戦闘民族としての血がこのギリギリの闘いに興奮し、熱くなっているのかもしれない。

 

「望むところだ。最高の技でおまえの全力を打ち砕いて俺が勝つ!」

 

「ふふ……やってみなさい!博麗の巫女の全力、とくと味わうがいいわ!」

 

「「はぁあああああ__!!」」

 

 ホウレンは右拳を突き出し、残ったすべての気を集中させ始める。そして霊夢は周りに数えきれないほどの弾幕を創り出し残る霊力のすべてを込め始めた。

 これが最後のぶつかり合い。どちらが勝つかわからない真剣勝負のはずだがこの勝負を観戦していた妖夢たちにはなぜか二人の表情が楽しそうに見えていた。

 

「__これで……終わりよ!!」        神技『八方龍殺陣』

 

 そしておびただしいほどの数の弾幕がホウレン目掛けて発射された。

 

「__ガーネットインパクト!!」

 

 ホウレンの突き出した右拳の先に赤い気が集まり、特大の球体となって放たれた。そして二人の技がぶつかり合い、辺り一帯にとてつもない衝撃と爆風が発生した。

 

「はぁあああああ!!」

 

「うぉおおおおお!!」

 

 激しいぶつかり合いの末、お互いの技が打ち消し合い大爆発を起こした。爆発の衝撃により大地が吹き飛び、辺りに飛び散らかる。

 

「ケホッ、ケホッ!ど…どうなったんですか!?」

 

 煙に包まれた戦場を妖夢は見渡すがいまだ二人の姿は確認できない。

 するとこいしが二人を見つけて指を指した。

 

「ねえ、あれ!」

 

「え…あ!ホウレンさん!霊夢さん!」

 

 こいしが指さした場所には大きなクレーターが出来ていて、その中心部に二人は中腰で立っていた。ホウレンはボロボロの恰好で超サイヤ人からもとの姿に戻っている。

 霊夢は夢想天生の効果で傷を受けてないようだが疲労が激しく大きく肩で息をしていた。

 

「はぁ…はぁ…呆れたわね。まだ立っていられるなんて……。」

 

「へ、へへ……まあな……。だが、もう動けねえよ……。」

 

「……ふふふ、実は私もよ。……こんなに長い時間夢想天生を使いっぱなしで闘う日が来るなんて思いもしなかったわ。まさかこんなに強い人が外の世界にいるなんてね。」

 

「それは俺にも言えることだな……。地球にこれほどの力を持った女がいるなんて考えもしなかったさ……。」

 

「どうするの?お互いに闘う力が残っていないんじゃ、決着がつかないわよ?」

 

「……そうだな。ここはひとつ引き分けってのはどうだ?」

 

「引き分け…か。いいの?引き分けじゃ私に話を聞いてもらえないんじゃないの?」

 

「あ~…そうだったか。どうしたもんだか……。」

 

「ふふ、いいわよ?引き分けだったけど貴方たちの話…聞いてあげるわ。」

 

「本当か!助かるぜ……でもなぜだ?おまえ、俺たちを異変の元凶だと思ってるんだろ?」

 

「ええ、最初はね。でも貴方と闘っている時にその諦めない姿勢と真剣で楽しそうな表情を見ていたら、だんだん貴方が悪い人間には見えなくなってきたのよ。それが理由。」

 

「そうか……。ありがとな霊夢。」

 

「やめてよ。そもそも貴方たちに喧嘩を吹っ掛けたのは私のほうなんだから。むしろ私のほうこそ久々にいい運動が出来て少しだけ楽しかったわ……その……ありがとね。」

 

「へへっ。」

 

「ホウレンさん!」

 

 ボロボロになったホウレンの元へ妖夢が駆け寄った。

 

「おう、妖夢か。悪いけど肩貸してくれ。フラフラでさ……。」

 

「は、はい!どうぞ。」

 

「咲夜~。私にも肩を貸してくれない?」

 

「仕方ないわね。随分よろよろじゃないの、大丈夫?」

 

「あまり大丈夫じゃないわね。早く博麗神社で一休みしたいわ。」

 

 闘い終わったホウレンの元に悟空たちの歩み寄ってきた。

 

「ホウレン、よく頑張ったな!オラ見ててワクワクしたぞ!」

 

「まったく、グズグズしやがって。」

 

「はは、悪いな。でもこれで話は聞いてもらえるぞ。」

 

「ええ、ちゃんと聞かせてもらうわ。……でもその前に……魔理沙、それにパラガスもいつまで隠れてるつもり?」

 

「パラガスだって!?」

 

 予想もしない名前が出たことによりホウレンたちは動揺し辺りを見渡した。すると少し離れた場所にあった岩陰から長髪でウェーブのかかった金髪にリボンのついた三角の帽子、いかにも魔女といった恰好をした少女とそしてどういうわけかパラガスが出てきた。

 

「なんだよ、私たちに気が付いてたのか。」

 

「だから言っただろう。もっとも、他の連中は気づいていなかったようだがな。」

 

「パラガス!な、なんでお前までここにいるんだよ!?」

 

「それはオレのセリフだ。なぜおまえたちがこの幻想郷にいて、しかも霊夢と闘っているんだ?」

 

「それは今から説明するところで…ってかおまえいつからこの世界にいるんだ?」

 

「オレがこの世界に来てしまったのは一年ほど前だ。……ブロリーと共にな。」

 

「ブロリーも来てるんか!おめえたちもホウレンと同じで迷っちまったんか?」

 

「まあそういうことだ。詳しくはまた後で話そう。」

 

「なによ、あんたたちパラガスと知り合いだったの?まあいいわ。それじゃあ、もう一人にも出てきてもらおうかしらね……紫いるんでしょ?出てきなさい。」

 

「紫?」

 

 霊夢が呼びかけると霊夢の背後に不気味な目が現れ、中から金色の長髪に毛先をいくつかリボンで結んでいてナイトキャップを被り、日傘を差した女性が出てきた。

 

「うふふ、やっぱり私のことも気づいてたのね?」

 

「当たり前でしょ?まったく人が本気で闘ってるってのにみんなして呑気に見物なんかして。」

 

「そう言わないでよ。貴方と本気で戦える人なんてなかなかいないんだから見物もしたくなるじゃない?」

 

「私も同じだぜ。見てて楽しかったぞ!」

 

「そりゃどうも……。」

 

 ホウレンはその三人の会話を聞きながら横目で妖夢を見ていた。

 

(この世界は不思議なやつばかりだな。妖夢みてえに突然斬りかかってくるやつもいるし。)

 

「?なんですか?」

 

「……なんでもねえよ。」

 

「さ、ホウレンっていったわよね?話を聞かせて頂戴。」

 

「おう。じゃあ悟空、説明頼む。」

 

「わかった。実はオラたちは界王様に頼まれてこの世界の霊夢と八雲紫っちゅうやつを探しに来たんだ。」

 

「あら。八雲紫は私のことよ。」

 

「ほんとか!ラッキー!それでさ界王様の話だとおめえたちに頼んで最近出来たっていう歪みってやつをなんとか直してほしいってことなんだけど、出来っか?」

 

 悟空の話を聞いた霊夢と紫はそろって暗い顔をした。

 

「……ごめんなさい。界王様のお願いごとだし何とかしたいのは山々なんだけど、この問題は私たちにはまだどうすることもできないの。」

 

「どういうことだ?」

 

 悟空の問いかけに霊夢が答える。

 

「貴方たちと闘う前に私は異変を解決しようとしてたのは知ってるわよね?恐らく貴方たちが言っている歪みっていうのは私が今解決しようとしているものと同じものだわ。……この異変が発生してからかれこれ一年くらい経つけど、未だに解決の目途すらたっていないのよ。」

 

「そうなんか…参ったな。」

 

 腕を組んでどうするか考え込む悟空にピッコロが一つ提案をしてきた。

 

「ここで悩んでいても仕方あるまい。一度元の世界に戻り、再び界王様とこの件を話し合うべきだ。」

 

「お父さん、ピッコロさんの言うとおりです、ここは一度帰りませんか?」

 

「……そうだな。じゃあ霊夢、紫、どううやったら元の世界に戻れんだ?教えてくれ。」

 

 悟空の言葉に二人は更に顔を俯かせた。その様子を不思議に思いホウレンは声をかける。

 

「どうしたんだよ。あんたたちの力で元の世界に戻れるって俺は聞いたが?」

 

「……無理よ。」

 

「え?」

 

「いつもだったら確かに紫の力で元の世界に帰すことが出来るわ。でも今は状況が違う。」

 

「最近の境界の歪みは私の手に負える代物じゃないの、だから下手に手を出せば違う時空に飛ばされてしまう可能性が非常に高いの。だから貴方たちを元の世界に帰すことはできない。」

 

「そ、そんな……。悟空、俺たちこれからどうすりゃいいんだ……?」

 

「やべぇな。チチにめちゃくちゃ叱られっちまうぞ……。」

 

「そういう問題じゃないですよお父さん……。」

 

「チッ、面倒なことになってきやがったぜ。」

 

 それぞれが困り果てているとトランクスが霊夢たちに質問をした。

 

「霊夢さん、紫さん、オレたちが元の世界に戻るにはどうすればいいか、わかりますか?」

 

「……そうね。ひとつだけ方法があるわ。」

 

「ほんとか!?」

 

「ええ、それはね。この異変を解決することよ。」

 

「「「異変を解決?」」」

 

 声を揃えて聞き直したホウレンたちに紫は続きを話し始めた。

 

「そう。この異変を解決させることさえ出来れば、貴方たちを外の世界へ帰すことが出来るようになるのよ。」

 

「でも簡単なことじゃないわよ?まだ元凶すら掴めてないし、どれくらいかかるかも分からないわ。」

 

「……みんな、どうするんだ?」

 

 ホウレンはみんなを見渡して問いかけた。みんなは少し考えるとすぐに答えを出した。

 

「オラはやるぞ!その異変っちゅうのが解決したら界王様のお願いも終わらせられるし一石二鳥ってやつだ!」

 

「ボクもお手伝いします!みんなで頑張りましょう!」

 

「オレもだ。こうなっては仕方あるまい、最後までやらせてもらうぞ。」

 

「オレもやります。父さんはどうしますか?」

 

「協力するしかないだろう。さっさと終わらせてしまうぞ。」

 

「みんな賛成みたいだな。霊夢、俺たちにもその異変の解決を手伝わせてくれ!」

 

「だそうだけど。どうするの?霊夢。」

 

「はぁ……わかったわよ。好きにすればいいわ。」

 

「よし!よろしく頼むぜ、霊夢!」

 

「それはそうと、貴方たちどこに泊まるわけ?」

 

「え……?」

 

「言っておくけど、ウチはこんな人数泊まれないからね。」

 

「あ~……。」

 

 どうしたものかとみんなを見渡すが誰もそのことは考えていなかったようで押し黙る。

 

「……まずは寝床探しからだな。」

 

 これで幻想郷最初の闘いが終わった。果たしてこれから先ホウレンたちは異変を解決し、元の世界に戻ることは出来るのであろうか……。




これで第一章は終わりです!次回は番外編としてパラガスとブロリーがなぜ幻想郷にいたのかを書きますのでそれを書いたら第二章が始まります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 突然の幻想入り ブロリーとパラガス

今回はホウレンたちが幻想郷に来る一年前の話になります。


 セルとの闘いが終わってから約二年、ブロリーはホウレンたちに敗れて以来、更なる強さを求めて激しい修行を繰り返し、時折悟空の元へ行き勝負を仕掛けるといった生活を送っていた。

 そんなある日のこと……。

 

「ブロリー、そろそろ夕食にしよう。おまえも腹が減っただろう。」

 

 パラガスが話しかけた先にはブロリーが巨大な岩を背中に乗せたまま指立て伏せをしていた。

 

「はぁ…はぁ…親父か。いい、オレはもう少しやってから食う。」

 

「そうか、ではオレは先にいただくとしよう。おまえもやり過ぎないようにな。」

 

「……ああ。」

 

 二人が今いる場所は地球のとある荒野だった。近くにある洞窟で夜を過ごし、猛獣や遠くの森から食料を集めて生活している。もともと惑星ベジータが無くなってから二人で宇宙を放浪していたため、こんな生活にも慣れていた。

 

「カカロット……そしてホウレン。オレは必ずやつらを超えて見せるぞ……!」

 

 そして翌日、ブロリーは早朝から修行を始めていた。気弾を大量に放ちそれを撃ち落とすという修行だ。それを続けていると洞窟のほうからパラガスの声が聞こえてきた。

 

『な、なんだこれは!?ぐぉおおお!!』

 

「……親父?何を騒いでいるんだ。」

 

 気になったブロリーは修行を一時中断し洞窟へと戻った。するとそこにパラガスの姿はなく、変わりに電磁波を放った紫色の空間が出現していた。

 

「……なんだこれは?親父!どこにいるんだ!」

 

 辺りに大声でパラガスを呼びかけるも返事はなかった。変に思ったブロリーは現れた空間が気になり手を伸ばした。するとブロリーの体が急激に空間へと引きずり込まれた。

 

「なっ!?ぐぁああああ!!」

 

 そしてブロリーはその空間に入り姿を消した。それから数時間が過ぎブロリーは目を覚ました。目を覚ました場所は先ほどまでいた洞窟の中ではなく、見たこともないような場所だった。

 どんよりとした空に枯れた木々、血のような真っ赤な池などが目に入り、まるで地獄のような場所であった。 

 

「なんだここは……。親父はどこにいったんだ?」

 

 ブロリーが辺りを見渡していると遠くから何者かが大声で叫んできた。

 

「おいおまえ!ここで何をしている!」

 

 現れたのは妙な姿をした男だった。例えるならばまるで鬼のような姿をした青い肌の男だ。今の状況がわからないブロリーは仕方なくその男に話を聞いてみることにした。

 

「おいおまえ、ここはどこだ?」

 

「何を言っている!おまえ亡者じゃないな?どうやってここに入ってきた!」

 

 ブロリーはその男が言っている意味がよくわからなかった。だが明らかに敵対している様子を見てブロリーは鼻で笑った。

 

「何を笑っている!痛い目にあいたくなければここで何をしていたか大人しく話せ!」

 

「それはオレのセリフだ。死にたくなければここがどこなのか話せ。」

 

「なんだと、いい度胸だ!ならば力づくでおまえを捕らえて四季さまの元へ連行する!」

 

 男は背中に抱えた金棒を取り出してブロリーの肩に振り下ろした。ブロリーはその攻撃を避けずにあえて肩で受け止める。それを見た男は驚いて後退する。

 

「その程度か?」

 

「くっ!おいおまえたち!こっちに来てくれ!」

 

 男の呼びかけに応じて周辺から似たような姿をした男たちがたくさん集まってきてブロリーを囲った。

 

「こいつが侵入者か?」

 

「ああそうだ。こいつを捕らえるのを手伝ってくれ。」

 

「たった一人の人間だろう?何をそんなに構える必要がある?」

 

「普通の人間がオレたち獄卒の攻撃にビクともしないわけがない!いいから手伝え!」

 

「へっ、仕方ない。ここはオレが片付けてやるぜ!」

 

 そう言って囲っていた男の一人が薄ら笑いを浮かべて腕を鳴らしながらブロリーに歩み寄った。

 

「おい!やつを甘く見るんじゃない!全員で取り押さえろ!」

 

「いいから黙ってみてな!待たせたな人間。すぐにお寝んねさせてや__ごぼぉ!?」

 

 ブロリーは舐めた態度に腹が立ち、話を聞き終わる前に男を殴りつけ、遠くの岩山に叩きつけた。

 

「な…なんだこいつ!!ほんとに人間か!?」

 

「だから言ったろう!全員で取り押さえるぞ!」

 

 今のを見て男たちはようやくブロリーを危険と判断して武器を取り出した。そして一斉にブロリーへ襲い掛かった。

 

「「「うぉおおお!!」」」

 

 ブロリーは襲い掛かる男たちの攻撃をすべてかわしながら一人ずつ順に片付けていく。次第に男たちの数は減っていき結局その場に残ったのは一撃で沈められた男たちと見る影もなくボロボロになった地形だけだった。

 

「……つまらん。もう終わりか……おいおまえ、まだ意識があるだろう?ここはどこなのかさっさと教えろ。」

 

「お…おまえ、何を言っているんだ?ここに侵入しておいて知らぬはずがないだろう……・?」

 

「知らん。だから聞いているんだ。」

 

「それは私が説明してあげましょう。」

 

 突然聞こえてきた声にブロリーは振り向くとそこには緑色のショートヘアで片方だけを少し長く伸ばし、赤と白のリボンを付けている。さらにその上に帽子を被っている女性が歩いてきた。

 

「誰だおまえは?」

 

「私は四季映姫、ここ幻想郷の地獄の閻魔をやっています。」

 

「そうか、地獄の……ってなんだと!?ここは地獄なのか!?」

 

「はい。まさか本当に知らずにここに侵入してきたんですか?」

 

「知るわけないだろう!オレはそもそもここがどこなのかも今知ったばかりだ!」

 

 それを聞いた映姫はブロリーの顔をじっと見つめて目を閉じた。

 

「……嘘はついてないみたいですね。ではなぜ私の部下たちを倒したのですか?」

 

「こいつらが勝手に襲い掛かってきたから始末しただけだ!そんなことよりもここが地獄ということは、オレは死んだのか!?」

 

「いいえ、生きてますよ。亡者であれば貴方は今頃力を封印されて弱体化しているはずです。貴方は別に力が弱まってないでしょう?」

 

「……なるほど。確かにオレの力は弱まってなどいない。ではオレは生きているのか……!」

 

 ブロリーは自分が生きていることがわかると安心して肩を落とした。

 

「貴方がなぜここに来たのかの経緯が知りたいです。そのままじっとしててください。」

 

 そう言うと映姫は懐から手鏡を取り出してそれを覗き込んだ。

 

「?何をしている。」

 

「……なるほど、貴方は外の世界から来たのですね。それもかなりの極悪人のようです。」

 

「外の世界だと?なんのことだ。」

 

 映姫はブロリーにここ幻想郷のこと、外の世界のこと、そして今の状況をひとつずつ丁寧に説明した。説明を聞いたブロリーは最初は信じられないという様子だったが自分が吸い込まれた謎の空間のことを思い出すと映姫が話した内容がすべて真実であることを理解した。

 

「つまり、オレは別の世界に迷い込んでしまったということか?」

 

「そういうことです。ですが本来ここ地獄には生きた者は入ることが出来ません。もしかしたら最近の異変の影響が地獄にも出ているのかも……。」

 

「異変……それはなんだ?」

 

 質問された映姫は異変についてをブロリーに説明した。

 

「それが異変か。それがオレになんの関係がある?」

 

「今幻想郷では少しだけ結界に歪みが発生しているんです。今はまだ大したことない歪みですが、早く解決しないとどんどん歪みは悪化してゆき、最終的には外の世界と幻想郷がごちゃごちゃになってしまう可能性すらあり得るのです。何が言いたいのかというと貴方がその小さな歪みに巻き込まれてこの世界に来たということです。」

 

「よくわからんが、帰ることは出来るんだろうな?」

 

「そんなの私にはわかりません。でも、そうですね……。地上にいる博麗霊夢の元に行けばもしかしたら帰れるかもしれませんよ?」

 

「ならばオレをそこに連れていけ。」

 

「いいですけど条件があります。」

 

「条件だと……?」

 

「はい。貴方を今から霊夢の元へ送り届けます。それで貴方が元の世界に帰れればそれでよしとしましょう。ですが、もし帰ることが出来ないようであれば貴方はもう一度この地獄に帰ってきてもらい、力の一部を封印した上でここで働いてもらいます。」

 

「なんだと?なぜオレがしなければならない!」

 

 映姫に詰め寄るブロリーの前に映姫は先ほどの手鏡を出して見せた。

 

「この鏡は浄玻璃の鏡(じょうはりのかがみ)と言いまして、これを覗くと見ようと思った人物の過去をすべて覗き見ることが出来るんです。さきほど鏡を覗き込んだ時に貴方の歩んできた人生をすべて見させていただきました。その結果、貴方は地獄に落ちるべき極悪人と分かったのです。そんな人物をこのまま何もせずに見逃すのは閻魔の私には耐えられません。だから先の条件を出させていただきました。」

 

「ふん、そんな条件飲むわけがないだろう?いいからオレを博麗霊夢とやらの場所へ送れ!」

 

「条件を飲まないというのなら連れて行きませんよ?貴方は一生ここで私たちと共に生きていくんことになるんです。それでもいいんですか?」

 

「ぐ…ぐぬぅ!」

 

 考え込んだブロリーだったが背に腹は代えられず映姫の条件を渋々受け入れた。

 そして場所は変わってここは三途の川。そこには船が一隻と赤髪を小さくツインテールにして、半袖の着物を身にまとい、大きな鎌を抱えた女性がいた。

 

「彼女は小野塚小町といってここ三途の川の渡し舟の船頭をやっています。今回は小町に貴方を案内させますので、くれぐれも逃げ出さないでくださいね?あ。ちなみに逃げ出そうとしたら強制的に貴方の力を封印させてもらいますので注意してくださいね?」

 

「先に言え!くそっ、こうなれば絶対に元の世界に帰り、条件をなかったことにしてやる……!」

 

「では後は任せましたよ、小町。」

 

「ええ、任せてくださいよ。お前さん名前は?」

 

「ブロリーだ。」

 

「じゃあブロリー、この船に乗っておくれ。」

 

 ブロリーは小町の言葉に従って小舟に乗り込んだ。そして映姫に見送られて二人は三途の川を渡り始めた。一方そのころ、消えてしまったパラガスは……。

 

「おーい、おっさん。こんなところで寝てると妖怪に食われちまうぞ?」

 

「う……ん……?」

 

 パラガスが目を覚ました場所は深い森の中だった。誰かに声をかけられて起きたパラガスの前にいたのは魔理沙ともう一人、金髪のショートヘアにヘアバンドのような赤いリボン、青いワンピースのようなロングスカートを着た女性がいた。

 

「ここは……?」

 

「お?目を覚ましたみたいだな。大丈夫か?」

 

「……おまえたちは?」

 

「私か?私は霧雨魔理沙だ。」

 

「私はアリス・マーガトロイドよ。貴方こそ名前は?」

 

「……俺はパラガスだ。それよりここはどこだ?オレは確か何かに吸い込まれてそれで……。」

 

 パラガスはなんとか吸い込まれた後のことを思い出そうとするが何も思い出せない。どうやら吸い込まれた時に気絶してしまったようだ。

 頭を抱えていると魔理沙たちが納得したように顔を見合わせていた。

 

「パラガスさん、貴方多分外の世界から来たんだわ。」

 

「外の世界?何を言っているんだ?」

 

 そして二人はパラガスに幻想郷のことを説明した。

 

「……にわかには信じられん話だが、この状況では信じるしかないようだな……。ではオレはどうしたら元の世界に戻れる?」

 

「ああ、それなら霊夢のところに行けば帰れると思うぜ。なんなら連れてってやろうか?」

 

「本当か?ならお言葉に甘えさせてもらおう。案内してくれ。」

 

「いいぜ。アリス、おまえはどうする?」

 

「私はそろそろ帰ろうかしら。案内なら貴方一人で十分でしょうし。」

 

「そうか、わかった。じゃあパラガス、この私の後ろに乗ってくれ。」

 

 そういって魔理沙は箒に乗り、その後ろを指さした。

 

「気遣い感謝するが必要ない。」

 

 パラガスはそういって二人の前で空に浮かび上がって見せた。それを見て二人はパラガスが普通の人間じゃないとわかった。

 

「あんた飛べるんだな。何者だよ?」

 

「オレはサイヤ人だ。これくらいわけない。さあ案内してくれ。」

 

「サイヤ人?まあよくわからないが、まあいいか。こっちだ。」

 

 パラガスは魔理沙に案内されてそのまま博麗神社へと飛び立った。それから少し時間が経ち、二人は博麗神社に到着した。

 

「おーい霊夢!いるか?」

 

 魔理沙が呼びかけると、神社の中から霊夢が顔を出した。

 

「魔理沙じゃない、また茶菓子でも盗みに来たの?」

 

「ちげーよ!茶菓子はもらうけど今回は用事があって来たんだ!」

 

「用事?それってそこの人と関係あるの?」

 

 霊夢は魔理沙の後ろに立っているパラガスを見てそう言った。

 

「パラガスだ。おまえに頼みがあり、ここまで案内してもらってきた。」

 

「ふーん。」

 

 霊夢は立ち上がり、神社から出てきて二人の前までやってきた。

 

「それで、頼みって何かしら?」

 

「オレはどうやらこの世界に迷い込んでしまったようでな。そこでオレを元の世界に戻してもらえないだろうか?」

 

「霊夢、おまえなら簡単だろ?戻してやってくれよ。」

 

 すると霊夢はばつが悪そうに目をそらした。その様子を魔理沙は不思議に思った。

 

「どうしたんだよ。何か問題があるのか?」

 

「えっと……実は今は幻想郷と外の世界を繋げることが出来ないのよね……。」

 

「はあ?なんだよそれ、なにかもしかして最近の異変と関係あるのか?」

 

「ええ、その通りよ。パラガスって言ったかしら?悪いんだけど、この異変が解決するまで貴方を元の世界に帰すことは出来ないわ。」

 

『なんだと!?』

 

 パラガスが反応を見せるよりも早く、突然大きな声が神社の入口から聞こえてきた。驚いて鳥居の方を見てみるとそこにはブロリーと小町が立っていた。

 ブロリーは丁度今の話を聞いてしまったようで、だらだらと汗を流していた。

 

「ブロリー!?おまえもこの世界に迷い込んでしまっていたのか?」

 

「親父こそ、こんなところにいたのか……いやそれよりも!帰れないとはどういうことだ!?」

 

 ブロリーは霊夢の両肩を掴んで詰め寄った。切羽詰まった様子のブロリーに気圧されながら霊夢は答えた。

 

「い、今幻想郷は重大な異変と直面しているのよ。この世界の結界が不安定になり始めていて危険な状態なの。今結界を開いてしまったら何が起こるかわからない、だから帰すことは出来ないのよ。わかった?」

 

「……。」

 

 放心するブロリーの肩に手をポンと置いて小町は言った。

 

「残念だったね。」

 

「く…くそぉおおお!!」

 

 その後、パラガスは魔理沙に誘われて魔理沙の家で研究の手伝いをして過ごすことになった。

 そしてブロリーはがっくりと肩を落としながら地獄に戻り、映姫の元で力の一部を封じられて獄卒として働くことになった。

 それから一年後、二人はホウレンたちと再会することになるのであった。

 




次回から第二章です。更新ペースが遅くなるかもしれませんが最後まで頑張ります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二章 凍界異変
吸血鬼姉妹の喧嘩 見えてしまった運命


ようやく第二章の始まりです。この章からオリキャラなどが登場する予定です。


 霊夢と闘い、異変を解決する手伝いをすることになってから二週間の時が流れた。

 それぞれ縁がある者たちからの手助けもあり、幻想郷での滞在場所を決めてバラバラに日々を過ごしていた。

 そして霊夢の判断で誰かひとりが博麗神社に住んで情報を共有するほうがいいということで、霊夢を激闘を繰り広げたホウレンが博麗神社に住みつくことになっていた。

 

 ~博麗神社~

 

 暑い日差しが差し込む中、境内には上半身裸で指立て伏せをするホウレンとそれを呆れた顔で見守る霊夢の姿があった。

 

「……あんたねぇ。この暑いときにそんな暑苦しいことしないでよね。」

 

「まあそう言うなよ。これくらいしかやることがねえんだ。」

 

「暇なら境内の掃除でもしてなさいよ。」

 

 ホウレンは指立て伏せを中断して地面に座り込んだ。

 

「掃除って言ってもよ。いつもおまえがやってるから十分綺麗だろ。」

 

「掃除ってのはね、何度やってもいいものなのよ。」

 

「はいはい、わかったよ。どこを掃除すりゃいい?」

 

「そんなの自分で考えてよね。」

 

「投げやりだなおい。」

 

 あれから皆で色々と調べてはいるものの異変にそれといった変化はなく、すっかりここでの生活に慣れてしまっているホウレンであった。

 もはや日常と化している会話をしているとそこに悟飯がやってきた。

 

「お二人とも、こんにちわ。」

 

「よう悟飯!」

 

「いらっしゃい。寺子屋での生活はどう?」

 

「はい。とても勉強になって楽しいです。」

 

 悟飯は慧音の勧めもあり、慧音の元に住みながら寺子屋にも通っている。

 慧音も真面目で優秀な生徒ができたと喜んでいるそうだ。

 

「あの小難しい授業を楽しめるなんて、随分賢い子ね。」

 

「それで、今日はどうしたんだ?」

 

「はい。……あれから異変の状況に変化はありましたか?丁度この近くを通りかかったのでそれを聞きに来ました。」

 

「残念ながら何もないわ。それどころか貴方たちが幻想郷に来てから外の世界から迷い込む人も減って、手がかりが何も見つからないのよ。」

 

 そう言って霊夢はお手上げのポーズをした。

 

「そうですか……。」

 

「まあそう落ち込むなよ。ゆっくり探していこうぜ?いつか絶対に帰れる時が来る。今はこの世界での生活を楽しんでいこう、な?」

 

「……そうですよね。ありがとうございます、ホウレンさん。」

 

「まったく、あんたはほんとに気楽でいいわね。探すのは私なのよ?」

 

「ははは!そうだったな。すまん!」

 

「やれやれ、早く見つけないとね……いつまでも二人で生活ってわけにもいかないし……。」

 

「ん?なんだ?」

 

「なんでもないわよ。それよりもあんたの仲間たちは上手くやれてるの?」

 

「どうだろうな。悟飯、おまえはみんなに会ったか?」

 

「はい、皆さん元気そうでしたよ。……ピッコロさんはあの山に行ったっきり見てませんけど。」

 

「ふぅん……。(もしかして早苗のところにでもいるのかしら?)」

 

 その頃、守矢神社では……。

 

「わ、わわ!ちょ…ちょっと待って……!」

 

「甘ったれるな!そんなことではいつまで経っても強くなれんぞ!」

 

「そそ、そんなこと言っても……!か、神奈子さまも諏訪子さまもなんとか言って下さいよぉ!」

 

「ま、早苗も最近運動不足だったし、いいんじゃないかな?」

 

「そうだな。ピッコロ!くれぐれも大怪我はさせないでくれよ!」

 

 ピッコロに激しい特訓をされている早苗を見守る神奈子と諏訪子はにやにや笑いながら言った。

 

「フン、それはこいつ次第だな。」

 

「そ、そんな~!?」

 

 そして再びここは博麗神社……。

 

(まあ、あの中じゃ一番まともそうな人?だったし大丈夫か。)

 

「そうか、みんな元気にしてるんだな。安心したぜ。」

 

「別の世界に来たってのに、随分と図太い神経をお持ちね。」

 

「そういう連中なんだよ。おまえだって結構図太いほうだろ?」

 

「……まあそうかもね。」

 

「では、ボクはそろそろ帰ります。何かあったら教えてくださいね?」

 

「おう、またな。」

 

「あ、待って。私もついていくわ。」

 

「ん?どうしたんだ。」

 

「ちょっといろいろ買い物にね。あんたがいる分、こっちは大変なのよ。」

 

「俺も付き合うか?」

 

「別にいいわ。あんたはここで留守番してて頂戴。」

 

「そうか、気を付けてな。」

 

「子供じゃないんだから大丈夫よ。じゃ、行ってくるわ。」

 

「ではホウレンさん、さようなら。」

 

 そうして悟飯と霊夢は人里へと飛んで行った。残されたホウレンは大きく背伸びをした。

 

「さーて、昼寝でもするかぁ。」

 

 ホウレンは欠伸をしながら神社の中へと消えて行った。

 場所は変わってここは紅魔館。悟空はレミリアたちに気に入られて紅魔館へ住みついていた。

 現在悟空は美鈴を鍛えるため、特訓の日々を送っていた。

 

「どうした!まだこんなもんじゃねえだろ!」

 

「はい!まだまだいけますよ!」

 

 ここのところ毎日繰り広げられている二人の組手をフランはひとり窓から眺めていた。

 

「いいなぁ。二人とも外で思いっきり遊べて。最近は曇りの日が多いから私もお外には出られるけど。この敷地内からは出ちゃダメって言われてるしな~……。」

 

 フランは自分の手を見ながら握って開いてを繰り返す。

 

「……この能力が上手く使いこなせればなぁ……。」

 

 フランは自信の能力をまだ上手く扱いきれないという理由でレミリアからこの屋敷の敷地内から一人で出歩くことを禁止されていた。

 元々フランの能力は非常に危険なもので、下手をすればまわりの生き物すらも全て破壊してしまうほどだった。

 そのことをフランも理解しており、納得した上での外出禁止であった。

 

「でも……それでもお外へ遊びに行きたいよ……。」

 

 自身の能力のことで悩んでいるとそこに咲夜が通りかかった。

 

「あら?妹様。こんなところでどうしたのですか?」

 

「咲夜……。」

 

「どうされたんですか?元気がないようですが……。」

 

 落ち込んだ様子のフランを心配する咲夜の言葉にフランは首を横に振った。

 

「……ううん。なんでもない。……それよりお姉さまはどこ?」

 

「お嬢様ですか?お嬢様なら自室にいらっしゃると思いますが。」

 

「そっか。ありがと。」

 

 咲夜にお礼を言うとフランは咲夜の横を通り過ぎてレミリアの部屋へ向かった。

 

(こうなったらお姉さまに直接頼み込んでみよう!もしかしたら許してもらえるかもしれないし!)

 

「……妹様。どうしたのかしら。……あんなに寂しそうな顔をなさって……。」

 

 遠ざかるフランの背中を咲夜はその姿が見えなくなるまで見送った。

 そしてここはレミリアの部屋。レミリアはひとり、部屋で静かに過ごしているとドアから小さくノックが聞こえてきた。

 

「誰?」

 

『お姉さま、私だよ。入ってもいい?』

 

「フラン?いいわよ。入りなさい。」

 

 レミリアの返事があるとすぐにフランが部屋に入ってきてレミリアの数歩手前で立ち止まった。

 

「どうしたの?」

 

「……あのね。私……お外に出たいの。」

 

 突然の言葉にレミリアは目を見開くがすぐに真面目な顔つきになってフランと向き合った。

 

「……どうして急に?」

 

「悟空と美鈴がよくお外で遊んでいるでしょ?それを見てたら私もお外に遊びに行きたいなって思って……。」

 

 フランの説明に対してレミリアは無言だった。だがしっかりとフランの目を見つめていた。

 

「ねえ、私前よりも能力を上手く使えるよ?周りのものだって絶対に壊さない。だから__」

 

「__駄目よ。」

 

「ッ……!なんで!?私だってあまり物を壊さないようになってきてるのに、どうしていつまで経ってもお外に行かせてくれないの!?」

 

「……貴方はまだ完全に能力を扱えているわけじゃないの。それはわかるわよね?」

 

「……うん。」

 

「貴方が外に出かけて、もしもの事があったらどうするの?」

 

「でも……それでも私はお外で遊びたいよ!!」

 

「駄目って言ってるでしょ!いい加減にしなさい!!」

 

「うう……お姉さまのバカ!」

 

 フランは涙を堪えながらレミリアの部屋を飛び出していった。

 

「あ!待ちなさい!フラ__ッ!!?」

 

 レミリアが飛び出していったフランを呼び止めようとしたその時、レミリアの脳内に見知らぬ様々な場面が駆け巡った。

 

『どうなっているんですか!この幻想郷で一体何が起こってるんです!?』

 

 白く染まりかけた幻想郷の空をピッコロと共に飛ぶ早苗の姿。

 

『あんたがこの異変の本当の元凶ってわけね。今度こそ終わりにしてやるわ。』

 

 凍り付いた丘で誰かと対峙している霊夢の姿。

 

『嘘ですよね……?ホウレンさん……ホウレンさんっ!!』

 

 数多の氷塊が転がる中で何かを見つめて叫び続ける妖夢の姿。

 

『ごめんなさい……お姉さま……。』

 

 そして……へたり込んだままで謎の化け物に殺されるフランの姿。

 そこまで見て、レミリアは我に返った。

 

「__ッ!?ハァ!ハァ!……まさか……今のは幻想郷全体の運命……?これから一体何が起こるって言うの……?」

 

 レミリアはひどく動揺しながらも今見えた運命の最後を思い出して顔を青くした。

 

「最後に見えたのはフランだった……いけない!早くあの子を止めないとあの子が危ない!!」

 

 レミリアは必死になってフランを追って走り出した。

 

 ~紅魔館 門~

 

「お?あれってフランじゃねえか?」

 

「え?ホントですね。こっちに向かって走ってきてるような……?」

 

 不思議に思う美鈴と悟空のもとへでフランは走りながら右手を突き出した。

 

「どいて!」

 

「え!?ちょ、ちょっと妹様!なにを!?」

 

「えい!!」

 

 フランが突き出した右手を握ると突然門が爆発して吹き飛び、爆風により土埃が舞って、そこをフランが駆け抜ける。

 

「うわ!すげえ埃だ!前が見えねえぞ!」

 

「ゲホッ!ゲホッ!い、妹様!待ってください!」

 

 美鈴はすぐにフランを追うも大量の土埃で視界を奪われ、フランを見失ってしまった。

 

「大変です!妹様が行ってしまいました!すぐに追わないと!」

 

「いってえどうしたんだ……?フランのやつ……。」

 

 慌てる美鈴と状況がよくわかっていない悟空の元に少し遅れてレミリアが息を切らしながら走ってきた。

 

「はあっ…はあっ…!美鈴!フランは!?」

 

「お嬢様!申し訳ありません!妹様は門を破壊して外に……!」

 

「くそっ!ま…間に合わなかった……!!」

 

「どうしたんだ?おめえたち。そんなに慌てて。」

 

 悟空は慌てる二人のことを不思議そうに見ながら聞いた。

 

「……そうか。貴方にはまだ教えてなかったか。よく聞きなさい悟空。フランはね……__」

 

 レミリアは事の経緯を悟空に説明した。

 

「そうか……あいつ、まだ自分の力が上手く扱えねえんか。」

 

「ええそうよ……だからあの子を早く見つけないと!」

 

「……でもよ。レミリア。それだけじゃねえだろ?」

 

 外に向かって走り出そうとするレミリアだったが悟空の言葉にその足を止めた。

 

「……なにが言いたいの?」

 

「いくらフランの能力が危険でもそこまで本気で止めるとは思えねえんだ。本当はおめえだってフランが周りの生き物を壊しちまうなんて思ってねえんだろ?」

 

「……なんでこういう時だけ貴方は察しがいいのかしらね。」

 

 レミリアは悩みながらも自分の気持ちを正直に話すことにして悟空と向き合った。

 

「そうよ。……あの子がもう周りを全部壊してしまうなんて思ってない。……あの子が必死に自信の能力を制御しようとしてることもわかってる。……でもね。やっぱり心配なのよ。姉妹なんだから当然でしょ?あの子がまた昔みたいに能力に溺れ、狂気に走る姿はもう見たくないのよ……。」

 

「お嬢様……。」

 

「そうか……よし!」

 

 悟空はレミリアの話を聞くと満足そうに笑い、レミリアの頭に手を置いた。

 

「……悟空?」

 

「フランはオラが連れ戻してやる。だから心配すんな。オラは頑丈だからそう簡単に壊されたりしねえよ。」

 

 レミリアは悟空の言葉に意表を突かれたのか目をぱちぱちと開いて悟空を見つめた。

 

「そう……そうね……。(先に見た運命。この男なら何か変えられるかもしれない。)」

 

 そして考え込んだ後にレミリアは悟空の目を見てそれに答えた。

 

「悟空。フランをお願いするわ。それと美鈴、貴方も一緒に行きなさい。」

 

「わかりました!」

 

「それと……念のため、いつでも闘える準備はしておいて頂戴。」

 

「え?お嬢様、それはどういう……?」

 

「頼んだわよ。二人共、無事に帰ってきてね。」

 

「おう!行くぞ美鈴!」

 

「は、はい!行きましょう!」

 

 レミリアの言葉に違和感を覚えながらも美鈴は悟空と共に森のほうへと飛んで行った。

 それを見送ったレミリアは慎重にこれからのことを考えていた。

 

「(私が最後に見たフランが殺される場面、あれは間違いなく紅魔館だった。ならばあの得体のしれない化け物はここに現れるはず……。それなら、なんとしてでもここでそいつを倒してフランを救って見せる……!)……咲夜。いるんでしょ?出てきなさい。」

 

 レミリアが呼びかけるとどこからともなく咲夜が現れた。

 

「お呼びでしょうか。」

 

「紅魔館の全ての者に伝えなさい。今から私が話す言葉を。」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

異変の予兆 凍り付いた物体

 ここは博麗神社、霊夢が人里に出かけてからホウレンは一人で昼寝をしていた。

 そこに一人の来客がやってきた。

 

「ホウレンさーん!いらっしゃいますかー?」

 

 やってきたのは妖夢であった。妖夢の呼び声に寝ていたホウレンは目を覚まして神社の外へ顔を出した。

 

「なんだなんだ?人が気持ちよく寝てるってのに……って妖夢じゃねえか。どうしたんだ?」

 

「こんにちわ。今日はちょっと頼みがあって来ました。」

 

「頼み?」

 

「はい!その……私の修行相手になっていただけないでしょうか!」

 

「修行相手?なんだ突然。」

 

「この間のホウレンさんと霊夢さんの戦いを見て思ったんです。私ももっと鍛錬を続けて一人前の強さになりたいって。お仕事は幽々子様に頼んで少しづつ休暇をいただきました。だからお願いします!どうか私の鍛錬に付き合ってください!」

 

 深々と頭を下げる妖夢にホウレンは頭をかきながら笑った。

 

「……へっ。仕方ねえな。いいぜ、付き合ってやるよ。」

 

「本当ですか!?」

 

 ホウレンの言葉を聞いた妖夢は頭を上げてホウレンに詰め寄った。

 

「お、おう!落ち着け、顔が近いぞ?」

 

「あ……す、すみません!つい……。」

 

 妖夢はハッとしてすぐに後ろに下がった。

 

「まあ……なんだ。俺も修行相手が欲しかったとこだ。これからよろしく頼むぜ。妖夢。」

 

「はい!こちらこそよろしくお願いします!」

 

「よーしそうと決まればさっそく始めるか!」

 

「え!?いますぐにですか!?」

 

「ああそうだ!まわりが驚くくらい強くなってやろうぜ!」

 

「は、はい!がんばります!」

 

 こうして二人は共に修行をすることになった。そしてその頃、守矢神社では……。

 

「はぁ…はぁ…も、もうダメです……。」

 

 早苗は汗だくになって肩で息をしながらその場に座り込んだ。

 

「あれだけの強さがありながら情けない奴め。まあいい、今日のところはこれくらいにしておいてやろう。」

 

「や、やったぁ……!あ…ありがとうございました……!」

 

 修行がようやく一息ついたところに神社から諏訪子が出てきた。

 

「修行はもう終わりかな?だったら話があるんだけど。」

 

「早苗にか?」

 

「うんまあ、早苗なんだけど。ピッコロにも聞いといて欲しいかな。」

 

「そうか。」

 

 早苗はようやく息を整えて立ち上がった。

 

「なんですか?諏訪子さま。」

 

「実はさ。最近、近くの山で凍りついた草木が見つかったらしいんだ。」

 

 諏訪子の言葉に早苗は首を傾げる。

 

「凍りついた草木…ですか?」

 

「どういうことだ。この季節に草木が凍りつくなどありえん。」

 

「そうなんだよ。それも一つや二つって話じゃない。あちこちで発見されてるんだ。まだ断言はできないけど。これは異変だと私は思う。」

 

「異変か。なるほど、確かにオレにも関係があるかもしれんな。」

 

「でしょ?それで早苗とピッコロにこの異変を調べて欲しいんだ。」

 

 異変と聞いてやる気を出した早苗は元気よくそれに答えた。

 

「わかりました!私たちに任せてください!ね、ピッコロさん?」

 

「いいだろう。異変解決というやつを見せてもらおうか。」

 

「任せたよ。くれぐれも無茶はしないようにね。」

 

「はい!任せてください!よーし、やりますよー!……とその前に汗を流してきてからでいいですかね?もうベトベトで・・・。」

 

 出鼻をくじかれてピッコロはガクリと肩を落とした。

 

「さっさと行ってこい。」

 

「すみません。じゃ、ちょっと待っててください!」

 

 そう言って早苗は神社の中へ走っていった。すると諏訪子が先ほどよりも更に真剣な顔でピッコロに話しかけてきた。

 

「……ピッコロ。ちょっといいかな。」

 

「む?」

 

 それから十数分が過ぎ、神社の中から早苗がスッキリした顔で出てきた。

 

「お待たせしました~!さあ、行きましょうピッコロさん!」

 

「ようやく来やがったか。さっさと行くぞ。」

 

「はい!私についてきてください!」

 

 そう言って早苗は空高く舞い上がった。

 

「ピッコロ。任せたからね。」

 

「……ああ。」

 

 早苗をに続きピッコロもゆっくり空へ上がっていき一気に加速して二人は飛んでいった。

 そして場所は変わりここは魔理沙の家。ここではパラガスが魔理沙の手伝いとして住み込んでいた。

 

「魔理沙。少しいいか?」

 

「ん?なんだよパラガス。」

 

「実はこの茸なんだが。」

 

 そう言ってパラガスは懐から氷漬けになった茸を取り出して魔理沙に見せた。

 

「先ほど森の奥で見つけたんだが。これはどういった種類なのだ?」

 

「……なんだよこれ。」

 

「知らんのか?となると一体…?」

 

「いやこの茸自体は知ってるんだよ。でもこんな季節に氷漬けになってるなんてありえないだろ。」

 

「ふむ、確かに。」

 

「なあパラガス。この茸が生えてた場所って他も凍ってたのか?」

 

「ああ。中途半端にあちこち凍りついていたよ。」

 

「中途半端に……。だったらとっくに溶けてるかもしれないけど、そこまで案内してくれ。」

 

「わかった。少し距離があるがいいかな?」

 

「別にいいぜ。」

 

「そうか。では案内しよう。俺について来てくれ。」

 

 パラガスに案内されて魔理沙は凍った茸を見つめながらそれについていった。

 

(この茸。随分時間が経っているはずなのに全然溶け始めない……。もしかしたら異変かもしれないぜ。)

 

 更に場所は変わってここは人里。

 

「じゃあ霊夢さん。ボクはこれで。」

 

「ええ。気を付けてね。慧音によろしく。」

 

「はい。さようなら!」

 

 悟飯は霊夢に軽くお辞儀をして遠くへ走っていった。

 

「……さて。さっさと買い物を済ませちゃいましょ__ッ!?痛った~!ちょっと何よもう!」

 

 霊夢は何かに足を打ち付け、目に涙を浮かべながら足元を見るとそこには石が地面に張り付くように氷漬けになっていた。

 

「もう、誰よこんなイタズラ仕掛けたの!まったく。誰か怪我したらいけないし、危ないから取っちゃいましょ。」

 

 霊夢はその石に手を伸ばして思いっきり引っ張るもその石はビクともしなかった。

 

「……?随分硬いわね。引いてダメなら……よし!」

 

 霊夢は氷から手を離し、思い切り殴りつけた。だが凍り付いた部分以外の場所だけがひび割れて石はまるで無傷だった。

 

「痛った!なによこれ。全然壊れない……。大体氷ならもう溶け始めてもおかしくないはず……。」

 

 何かがおかしいの感じた霊夢はキョロキョロと辺りを見渡して歩いている村人に話しかけた。

 

「ねえ!そこのおじさん!ちょっといいかしら?」

 

「おや、これはこれは!博麗の巫女様じゃないですか!私に何かようですか?」

 

「最近人里で何か不思議なことが起こってない?なんでもいいの。」

 

 村人は少し考えると手をポンと叩いて霊夢に話した。

 

「そうだ。あれがありました!不思議なことが一つありましたよ。」

 

「それってどんな?」

 

「えっとですね。里の外れの方で草木が凍りついてるのが見つかったんですよ。」

 

 村人の話に霊夢は今の凍り付いた石が頭をよぎった。

 

「……その氷ってまだあるかしら?」

 

「ええ。不思議なことにその氷はまったく溶けないみたいで、そこに住む人が困り果てているらしいですよ?」

 

「……そう。引き止めてごめんなさい。情報ありがとね。」

 

「いえいえ、それでは私はこれで。」

 

 おじさんは軽く手を挙げ去っていった。それを見送った霊夢は顎に手を当てて考える。

 

「……溶けない氷……か。何か嫌な予感がするわね。」

 

 そして霊夢はおじさんから聞いた場所を探して歩きまわり、その場所へたどり着いた。

 そこにはこの季節にはあり得ない凍り付いた木々があった。

 

「……ほんとに凍ってる。この木もさっきの石と同じなら……。」

 

 霊夢は確認の為に凍りついた木を蹴りつけるが木にはヒビ一つ入らなかった。

 

「やっぱり。さっきのといい、この木といい、普通じゃありえない強度だわ。手加減してるとは言え私の攻撃でヒビ一つ入らないなんて。」

 

 霊夢はそれを異変と判断して深くため息をついた。

 

「やれやれ、買い物どころじゃなくなっちゃったわね。間違いなく異変だわ。さっさと原因を探して解決しちゃいましょ。」

 

 霊夢、魔理沙、早苗はそれぞれ異変の解決へ向けて行動を始めた。

 あの氷は一体何なのかを調べるべく霊夢は自らの勘を頼りに飛び出したのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

フランの気持ち 魔法の森の異変

 霊夢たちが異変解決に向けて動き出した少し前、悟空と美鈴は深い森の中を歩いていた。

 

「うーん。この辺りから微かにフランの気を感じた気がしたんだけど。分からなくなっちまった。やっぱりこの世界は気が探りにくいみてえだな。」

 

「たぶん、幻想郷には気ではない力を持った者がたくさんいるせいでしょうね。私も近くの気しか探ることが出来ません。」

 

「やっぱそうか。気を付けねえとなぁ……。」

 

「さあ。妹様を手分けして探しましょう。私はあっちを探してきます。」

 

「じゃあオラがこっちだな。何かあったら気を思いっきり高めろ。それならオラも気を感じ取りやすいはずだ。」

 

「わかりました。ではいきましょう!」

 

 二人はお互いの逆の方向へフランを探しに走りだした。それから数十分の時が流れるもフランの姿は一向に見当たらなかった。

 美鈴は息を切らしながら立ち止まり、膝に手をついた。

 

「はぁ…はぁ…!全然見つからない……。もしかしてもう森から出て行ってしまったんじゃ……?」

 

 美鈴はこの森にすでにフランがいない可能性を考えて一度悟空呼ぶために気を高めた。すると後ろから気配を感じる。

 

「……美鈴?」

 

 その声に振り向くとそこにはフランが立っていた。だがフランの目は光を失ったように虚ろであった。美鈴はそれに気が付かずに駆け寄った。

 

「妹様!よかった、こんなところにいたんですね!心配したんですよ?」

 

 だがフランは美鈴の言葉に何も反応を示さず、俯いたままだった。

 

「さあ、私と一緒に帰りましょう?お嬢様も心配してます。」

 

 その言葉にフランは初めて反応を示してゆっくりと顔を上げた。

 

「お姉さまが心配……?」

 

「そうですよ。だから私がこうして迎えに来たんです。」

 

「……嘘。」

 

「え?」

 

 フランが一言発したその直後、フランから禍々しい魔力が溢れ出る。それに気が付いた美鈴は咄嗟に身構えて後ろへ一歩下がった。

 

「これは……!妹様、一体何を!?」

 

「お姉さまが私の心配だなんて嘘よ……!きっと本当は私の力が暴走してしまうかもしれないから。そうなる前に私を連れ戻そうとしてるだけなんでしょ……!」

 

「そんな!違います!お嬢様は貴女を本気で心配して……!」

 

「もういいよ。ごめんね美鈴。」        禁忌『レーヴァテイン』

 

 そう言うとフランは右手に燃え盛る炎の剣を創り出した。

 

「ちょっとだけ眠っててくれる?」

 

 そしてそのまま美鈴へ向かってレーヴァテインを振り下ろした。

 

「くっ!」

 

 美鈴は咄嗟に右へ飛び、レーヴァテインをかわし体制を整える。レーヴァテインが通った後は火がつき、木々に燃え移っていた。

 

「妹様、落ち着いてください!こんな森の中でそんなスペルカードを使ったら森が全焼してしまうかもしれません!」

 

 フランはそれを聞き、レーヴァテインを消した。

 

「……そっか。じゃあ。」        禁忌『カゴメカゴメ』

 

 そして左手を開いて前に突き出すと別のスペルカードを発動し、美鈴を取り囲むように放った。

 

「!!(駄目……!これはもう避けられない!)」

 

「これなら大丈夫だよね?さあ、今度こそ眠ってね。」

 

 フランが指で合図を取ると弾幕は一気に美鈴へ襲いかかった。美鈴は両腕を前で交差させて身を守ろうとした。そして攻撃に備えて歯を食いしばる。するとそこに超スピードで接近する影があった。

 

「美鈴!!今すぐしゃがめ!」

 

「悟空さん!?」

 

「だぁああああ!!」

 

 その影の正体は悟空だった。悟空は一瞬で弾幕の間をくぐり抜け美鈴の前に立ち、そして驚く美鈴を地べたにしゃがませると全体に向かって衝撃波を放ち、フランの弾幕を全て弾き飛ばした。

 

「ふう~。危なかったなぁ美鈴。怪我はねえか?」

 

「は、はい。ありがとうございます。それよりどうしてここが?」

 

「ん?さっきおめえが気を高めたんじゃねえか。」

 

「あ……。」

 

 美鈴は確かに気を高めていた。だがフランに遭遇したことで、そのことをすっかり忘れてしまっていたようだ。

 悟空はしゃがんだ美鈴に手を差し伸べて立ち上がらせた。フランは美鈴を助けた悟空の姿を見て、更に表情を暗くした。

 

「……そっか。悟空も私を連れ戻しに来たんだ……。」

 

「ようフラン。探したぞ~!おめえに話があって来たんだ。」

 

「……何?また館に帰れって話?だったらイヤ。帰りたくない。」

 

「なんでだ?」

 

「だって、帰ったらまた私は館に閉じ込められてお外に出られなくなっちゃうもん……。私はもっとお外で遊びたい。それにお姉さまとも喧嘩しちゃったし……。」

 

「レミリアは怒ってねえぞ?」

 

「嘘っ!だって私お姉さまを怒鳴りつけて無理やり出てきちゃったもん!お姉さまが怒らないわけない!」

 

 フランは激情に駆られて大声を上げた。

 

「貴方たちが来たのだって、お姉さまに頼まれてでしょ!?」

 

「よくわかったなぁ!確かにオラたちはレミリアに頼まれておめえを探しに来た。」

 

「やっぱり……。悟空さんなら私を力づくで連れ戻すことが出来るから……。」

 

「そんな!お嬢様はそんなつもりで悟空さんに頼んだわけじゃありません!」

 

「美鈴の言うとおりだ。オラ別に力づくでおめえを連れ戻すつもりはねえぞ。」

 

 二人の言葉を信じられないフランだったが、それならば何をしに?という疑問が頭をよぎった。

 

「……じゃあどうするつもりなの?」

 

「おめえが帰りたいって思うまで好きにすりゃいい。遊びてえっていうんならオラたちも付きやってやる。それでどうだ?」

 

 フランは悟空の言葉を聞いて目を見開き、口をポカンと開けた。

 

「……どういうつもり?私を放っといたら危険だからお姉さまに頼まれて私を連れ戻しに来たんじゃないの?」

 

「確かにレミリアは危険もあるって言ってた。でもな、レミリアはおめえが頑張ってることもちゃんと分かってくれてる。あいつだっておめえを外に出してやりてえって思ってるんだ。あいつはオラたちにフランを探してくれって頼んだ時、フランのことをすげえ心配してたんだぞ?オラたちの中で誰よりもな。」

 

「……。」

 

 悟空の話を聞いているとフランから発せられていた禍々しい魔力がゆっくりと薄れていった。

 

「あいつの気持ちも分かってやってくれ。おめえの大切な姉ちゃんだろ?」 

 

「……お姉さま……謝ったら許してくれるかな……?」

 

 フランは俯いたまま消え入りそうな声でそう聞いてきた。

 

「大丈夫だ。レミリアならきっと許してくれる。なんならオラたちも一緒に謝ってやるぞ?」

 

「……二人共。ほんとに遊びに付き合ってくれるの……?」

 

「いくらだって遊んでやっぞ!なあ、美鈴?」

 

「はい!私もとことん付き合いますよ!」

 

「……ほんとにいいの?」

 

「ああ。でも先に美鈴にはしっかり謝っとかねえとな?」

 

「うん……。美鈴、さっきはいきなり攻撃しちゃってごめんなさい。」

 

 フランは美鈴に向かって縮こまって頭を下げた。

 

「……妹様。頭を上げてください。私に怪我はありませんし、気に病む必要なんてありません。だからほら、一緒に遊びましょう?」

 

「ごめんなさい……ありがとう……っ!」

 

  フランは目に涙を浮かべながら美鈴に抱きついた。

 

「遊ぶのはフランが落ち着いてからだな。」

 

「はい……そうしましょう。」

 

 すでにフランから発せられていた禍々しい魔力は完全になくなっていた。二人は美鈴の胸で涙を擦るフランを優しい笑顔で見守った。

 

 ~妖怪の山~

 

 ピッコロと早苗は諏訪子から聞いた凍った草木の場所へ来ていた。

 

「はあ……。凍った草木は見つけましたけど、異変解決の手がかりは見つかりませんね……。ピッコロさん、そっちはなにか見つかりました?」

 

「いや、特に目立ったものは何もない。だが気になるものを見つけた。」

 

「え?何を見つけたんですか?」

 

「足跡だ。それもなにか人間ではない者のな。」

 

 そう言ってピッコロが指を指した場所にはは直径1メートルはあるとても大きな足跡だった。

 

「……なんの足跡でしょう?こんなに大きな足の妖怪ここらにいましたっけ……?」

 

「なるほど。もしかしたらこの足跡の主がなにか鍵を握っているかもしれんな。」

 

「確かに……。ピッコロさん。この足跡をたどってみましょう!」

 

「いいだろう。だが油断するなよ。なにがいるかわからんからな。」

 

「はい!もしもの時はサポートお願いします!」

 

「ふん、まあよかろう。行くぞ。」

 

 二人は謎の足跡の招待を追って山の奥へと足を進めた。

 

 ~魔法の森~

 

 魔理沙がパラガスに案内されて来た場所は辺りにある草木が中途半端に氷漬けになっており、まるで何かが闘った後のような光景だった。

 

「お、おいおい!どうなってんだ?なにがあったらこんな光景になるんだよ!」

 

 驚いているのは魔理沙だけではなかった。なぜかこの場所を知っていたはずのパラガスまでもがその光景に動揺していた。

 

「……おかしいぞ。俺が来たときはこのように荒れていなかった……。」

 

「え?どういうことだ?」

 

「先ほど俺が来たときはせいぜい3mほどしか凍りついていなかったはずなんだ。これほど広く凍りついてはいなかった。」

 

 パラガスの言うとおり森はすでに一キロ以上は凍りついていた。更に魔理沙が森を見渡すと木に謎の傷跡があることに気がついた。

 

「……なんだろう。まるで握りつぶそうとしたような……__ッ!?」

 

 その時、魔理沙はその木の後ろに何かを見つけて顔色を悪くした。

 

「どうした?なにかあったのか?」

 

「そんな…嘘だろ…?」

 

「これは……!」

 

 パラガスが魔理沙に続いて木の後ろを覗き込むとそこにはアリスの人形がボロボロになって転がっていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

まさかの超強化!冬の妖怪レティ・ホワイトロック ★

「そんな……ここにアリスの人形が落ちてるってことは……。」

 

「……やはりここで何かあったのか……?」

 

「わからねえ……わからねえけど、もしかしたらアリスはもう……っ!」

 

「……魔理沙……。」

 

 力なくへたりこむ魔理沙にパラガスは何も言うことが出来なかった。そんな二人の後ろ。森の更に奥から突然大きな唸り声が響き渡った。

 

『グォオオオオオ!!』

 

「むっ!?」

 

「……今の唸り声……なんだ?」

 

「……どうやら奥に何かいるようだな……。どうする。いくか?」

 

「……ああ。もしかしたらアリスをやったやつかもしれない……。油断はできないぜ……。」

 

「怒りに身を任せるな……。冷静さを欠いては勝てるものも勝てん。下手すれば取り返しのつかんことになるやもしれん。」

 

 魔理沙の静かな怒りを抑えるようにパラガスは言った。

 

「分かってる。私は落ち着いてるぜ……。」

 

「……。」

 

「さあいこうぜ。アリスの敵討ちだ……!」

 

 魔理沙は低めの声でそう言うと、奥へと走っていった。

 

「……敵討ち…か。アリス……あいつは本当に死んだのだろうか……?」

 

 パラガスは一人走り出した魔理沙を見て小さく呟き、魔理沙を追いかけた。

 

 ~無名の丘~

 

 ここは無名の丘。普段は穏やかで暖かい草原もとてつもない冷気で凍えきってしまっており、妖怪の姿すら確認できない、まさに別世界というにふさわしい光景だった。

 霊夢は持ち前の勘を頼りにここまでやってきたようだ。

 

「ここら辺の冷気は他とは段違いね……。間違いなく異変の元凶がいるはずだわ。」

 

 霊夢は少し空を飛び、辺り一帯を見渡すが何も見つからない。

 

「うう、寒いわね。こんな所に長居してたらこっちまで凍っちゃうわよ。ちょっとー!誰かいないのー?……なんて……呼ばれて出てくるわけないか……。」

 

「いいえ。出てきてるわよ?」

 

 突然の声に驚いて振り返るとそこには薄紫色の短い髪にターバンのようなものを巻き、首にマフラーを巻いた女性がニコニコと笑っていた。

 

「……ってなんだレティじゃない。なんであんたがここに?」

 

「うふふ、なんででしょうね?」

 

「……まさか、あんたがこの異変の元凶ってわけじゃないわよね?」

 

「さあ?闘ってみればわかるんじゃない?」

 

 そのレティの返答に霊夢は微かに違和感を覚えた。いつもだったらのんびりした雰囲気なのだが、今日のレティはどこか挑発的に感じた。

 

「……あんた。なんかいつもと違わない?」

 

「さあて……どうかしらねっ!!」        冬符『フラワーウィザラウェイ』

 

 なんとレティは会話の最中にもかかわらず突然スペルカードを霊夢へ放ったのだった。

 

「なっ!?」

 

 霊夢は咄嗟に結界を張りレティの弾幕を防ぐ。だがその弾幕に霊夢は激しく動揺した。

 

「なにこれ!?いつもとは桁違いの密度じゃない……!」

 

「うふふふふ!それそれそれ!」

 

「明らかに様子もおかしいし……!どうなってるのよ!」

 

 レティは明らかに様子がおかしかった。普段はおっとりしていてここまで好戦的ではないというのもあるが、なによりもレティでは考えられないほどの弾幕の強さにさすがの霊夢も驚きが隠せない。

 

「この強さ……咲夜くらいの力ってところかしら……!どこでこんな力を身に付けたか知らないけど、あんたがこの異変の元凶で間違いなさそうね!悪いけどさっさと終わらせるわよ!!」

 

 霊夢は結界を張りながらレティの弾幕の間を飛び回る。

 

「はあ!」        霊符『夢想封印』

 

 弾幕を掻い潜ってレティ目掛けて夢想封印を放つがレティはそれを簡単にかわして見せた。

 

「うふふ!鬼さんこちら♪」

 

「失礼ね!誰が鬼よ!」

 

「貴方しかいないじゃない。」

 

「何言ってるのよ、私はちゃんと優しいわよ!」

 

「そんなわけないじゃない。冗談ばっかり~♪」

 

「なんですって~!?」

 

「怒ると判断力が鈍るわよ。」        寒符『コールドスナップ』

 

 レティは強い冷気を両手から発して無数の弾幕を霊夢へ飛ばした。

 

「くっ!」

 

 霊夢は迫り来る無数の弾幕を紙一重でかわし続ける。そんな様子を見てレティはクスクスと笑いだした。

 

「どうしたのかしら?さっさと終わらせるんじゃないの?」

 

「あんた、ほんとにどうしたってのよ!昔、問答無用で退治したことはあったけど、それを根に持ってるわけ!?人里に被害を出してまで私を誘き出して!」

 

 声を荒げる霊夢にレティは首を傾げた。

 

「人里?いいえ。私はただこの寒さで随分力が上がってるみたいでそれをたまたま通りかかった貴方で試しているだけ。人里なんてしらないわ。」

 

「な!?(どういうこと?人里の氷はレティの仕業じゃない?レティはただ寒さでパワーアップしてるだけ?)」

 

 霊夢はわけが分からなくなってきていた。だがレティは話しながらも弾幕の手を緩めるつもりがなく、考える余裕すらできなかった。

 

「あ~もう!じゃあなんであんたはそんなに好戦的なのよ!」

 

「さあね。よくわからないけど、私は今凄く気分が良いのよ!もっともっと楽しませて頂戴!」

 

 レティの様子を見て、霊夢はレティがこの異常な冷気によって気分までハイテンションになってしまっていると考えた。そして霊夢はひとつの結論にたどり着いた。

 

「はあ……しょうがないわね。貴方が元凶じゃないってんなら、尚更早く終わらせてもらうわ!貴方を倒して異変の元凶を探し出して退治して終わりよ!」

 

 霊夢が出した結論はいたって単純なものだった。例え相手が異変の元凶じゃなくとも、邪魔をするなら退治する。それが霊夢の出した答えだ。

 

「ふふふ、今の私は簡単にはやられないわよ?」

 

「言ってなさい。確かに少し手こずるかもしれないけど、所詮はその程度よ。貴方が私に勝つことなんて出来ないわ。」

 

「じゃあ、その力見せて頂戴!」

 

 レティは高密度の弾幕を周りに張り巡らせながら霊夢へ向かって突っ込んできた。それを霊夢は弾幕の隙間を潜り抜けてレティの背中を蹴りつけた。

 蹴りつけられたレティは地面に激突しそうになるも、直前で体制を立て直し空へと急上昇する。

 

「まだまだ!」

 

 レティはすぐさま霊夢へ向かって弾幕を放つ。だが霊夢はそれをすべて結界で防御した。

 

「今度はこっちの番よ!」        霊符『夢想封印 集』

 

 霊夢は相手を囲むように夢想封印を放った。いつもならこれで終わるはずの闘いだが、レティはその夢想封印を軽々とかわして急激にスピードを上げて霊夢へ向かってきた。

 それをお祓い棒でいなし、レティを振り返る。

 

「危ない危ない。当たったら少しはダメージがあったかもね……ってああ!?」

 

 レティをいなしたお祓い棒を見ると、なんと氷漬けになって砕けてしまっていた。

 

「ちょっとー!壊れちゃったじゃないの!どうしてくれんのよ!」

 

「あらあらごめんなさい。うっかり氷漬けにしちゃったかしら~?」

 

「うぐぐ!もう怒ったわよ、覚悟しなさい!」

 

 今度は霊夢がレティに向かって飛び出した。そしてレティを攻撃するわけではなく、高速でレティの周りを飛び回り元の位置へ再び戻る。

 そんな霊夢にレティは首を傾げて聞いてきた。

 

「何してるの?そんな程度じゃかく乱にもならないわよ?」

 

「でしょうね。だってかく乱じゃないもの。」        神霊『夢想封印 瞬』

 

 すると霊夢が通った後からたくさんのお札が現れてレティを囲った。

 

「!!」

 

「さあ、これで終わりよ!」

 

 霊夢が合図するとレティを囲っていた無数のお札が一斉にレティ目掛けて高速で飛んで行った。だがしかし、レティはそれをなんとか防いでいた。

 

「こん……なもの……!まだ終わらないわよ!」

 

 そう言ってレティはすべてのお札を防いで見せ、口元を緩ませた。しかしその安堵したのも束の間、霊夢がいつの間にか目の前に移動していたのだ。それも特大の霊気の玉を片手に構えて。

 

「言ったでしょ?終わりだって。」        宝符『陰陽鬼神玉』

 

 そして霊夢は完全に油断していたレティに直接そのスペルカードを叩きこんだ。

 

「あぐぅ!?」

 

 レティはそのスペルカードになすすべなく直撃してそのまま地面に滑り込んだ。そしてそのまま目を回して気を失った。

 それを確認した霊夢は地に降りた。

 

「ふぅ……やっと終わった。さあ、早く元凶を探しに行かないと__っ!?」

 

 その瞬間、霊夢は後ろからとてつもない力を感じて大きく飛び退いた。すると後ろには真っ白な髪で両目の下から頬にかけてヒビのような痕があり、耳にはイヤリングをつけ、ところどころ氷の結晶のような飾りが着いた青いラバースーツの男が立っていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「その体から溢れでる冷気……いえ凍気とでもいうのかしら?あんたがこの異変の本当の元凶ってわけね。今度こそ終わりにしてやるわ。」

 

 男はしばらく黙っていると小さく口を開いた。

 

「……あんたは?」

 

「博麗霊夢。博麗神社の素敵な巫女よ。あんたを退治させてもらうわ!」

 

「……俺を退治…?さっきの闘いを見ていたが……出来るのか?あの程度の実力で……。」

 

「何よ。見てたの?のぞき見なんて趣味が悪いわね。……いいわ。だったら、私の本気を見せてあげる。かかってきなさい!」

 

「……本気か。期待させてもらおう。」

 

 男は無表情で霊夢と対峙した。果たして霊夢はこの男を退治することが出来るのであろうか。そしてこの男は何者なのであろうか……?

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

森を凍らせる者 氷の魔人を打ち倒せ!

 ここは魔法の森の最深部。ここまで来てもまだところどころ草木が凍っている様子だった。

 魔理沙とパラガスは唸り声の元凶を探してここまで走ってきたがなかなかそれを見つけることが出来ないでいた。

 

「くそっ!どこにいるんだよ!」

 

「魔理沙。お前たちが言う、魔力とやらは感じられんのか?」

 

「わからない……なんというか、魔力に近い何かは感じる。でも出どころがわからないんだ。そっちこそ、あの気とかいうやつは感じないのか?」

 

「先程から探ってはいるのだが、お前と一緒で出どころがわからん。それにどこか異質だ。」

 

「異質?」

 

「ああ、そうだ。この気……生気をまるで感じないのだ。」

 

「……じゃあ、幽霊だとでもいうのかよ?」

 

「わからん。ただ相手は得体の知れん化物だということだ。……不用意に突っ込むのは危険かもしれんぞ。」

 

「わかってる。……アリスが負けたかもしれない相手だ。パラガスも油断するなよな。」

 

「ああ。足を引っ張らぬよう気をつけるとしよう。」

 

 二人は唸り声の主について話ながら足を進める。すると魔理沙が何かを見つけた。

 

「パラガス、あの奥……!」

 

 魔理沙が指差す場所を見ると木々の隙間から動く物体を見つけた。

 

「氷が動いている…?」

 

 パラガスが言ったようにそこに見えたのは氷の塊だった。その氷塊はゆっくりと森の中を移動している。それを隠れて観察していた二人だったがそこに氷塊から突然形を変えて鋭い爪となって魔理沙を襲ってきた。

 

「え?」

 

「魔理沙!!」

 

 氷塊の爪があと少しのところまできたその瞬間、パラガスは魔理沙を突き飛ばし襲い来る氷塊の爪を左腕で受け止めた。

 

「パラガス!」

 

「ぬうう……!ハア!!」

 

 パラガスは受け止めた爪を力任せに弾き飛ばし、突き飛ばした魔理沙を抱えてその爪から大きく距離を取った。

 

「わ、わりい。助かった……ってパラガス!おまえその腕……!」

 

 パラガスの左腕は先の氷塊の爪によって大量の血が流れていた。その血の量に魔理沙は顔を青くした。

 

「……気にすることはない。それよりも戦闘準備に入れ。ついに姿を見せるぞ。」

 

 先ほどの氷の爪の周りに強い様々な気が混ざり合い、人型になっていく。そして5メートルはあろう巨大な氷の化物が完成した。鋭い爪。獣のような牙が生えた大きな口。

 厳つい体つきという、どこか獣に近い姿に変貌したそれを見て魔理沙は小さく息を飲み込んだ。

 

「はは……そうか。あの爪、あの体つき、そしてあの尋常じゃない冷気!あいつがアリスをやりやがったのか……!!」

 

 魔理沙は立ち上がり敵を睨みつけ、持ってきた箒を握り締めた。

 

「氷の魔人といったところか。……魔理沙。いけるな?」

 

「当たり前だぜ!」

 

「グォオオオオオ!!」

 

 氷の魔人の大気を揺らすほどの雄叫びによって闘いの火蓋は切って落とされた。

 

「くらえ!」        星符『メテオニックシャワー』

 

 魔理沙は両手から星型の魔法を大量に氷の魔人へ飛ばした。スペルは氷の魔人に直撃し激しい轟音が鳴り響く。

 

「デッドパニッシャー!」

 

 そこにパラガスが右手で緑色のエネルギー弾を追撃として放つ。その攻撃も氷の魔人は避ける素振りもなく受け止め、再び森に轟音が鳴り響いた。

 だが爆風の中から現れた氷の魔人はまったくの無傷であった。

 

「グォオオオオオ!!」

 

「ぬう……ダメージは無しか……!」

 

「じゃあこれはどうだ!」        恋符『マスタースパーク』

 

 魔理沙は取り出した八卦炉に魔力をため、氷の魔人へ解き放った。さすがの巨体もこの超火力によって吹き飛ばされ、木々をへし折って岩山に激突した。

 

「私の最高クラスのスペルだ。これをくらって無事だったやつなんてそうそういないぜ……!」

 

 岩山に減り込んだまま、氷の魔人は大きく口を開けた。

 

「……いやまだだ!構えろ魔理沙!!」

 

 すると氷の魔人の口から特大のエネルギー波が飛び出した。

 

「くっ!!」

 

 二人は紙一重でそのエネルギー波をかわすと、そのエネルギー波が通過した森が一瞬にして氷漬けになった。

 

「あっぶねえ……っ!」

 

「次がくるぞ!気を抜くな!!」

 

 氷の魔人は首を激しく曲げ続けながら、がむしゃらに口からエネルギー波を連発し続ける。その度に森が氷漬けになっていった。

 二人は何とかそのエネルギー波をかわして空へと飛びあがった。 

 

「はぁ……はぁ……!なるほど、森が氷結したのはこの技が原因か……!」

 

「はぁ……はぁ……くそっ!私のマスタースパークでさえ対して効いてないってのかよ……!」

 

「いや……間違いなく効いている。だが決定打にはなっておらん。あいつの外側の硬さは異常だ。……やつの体の内側に超高火力の攻撃を当てられればあるいは……。」

 

「……内側か…。だったら私に考えがある。パラガス。少しの間だけ時間稼ぎを頼めないか?」

 

「いいだろう。やってやろうではないか。一分あれば足りるか?」

 

「ああ十分だ。頼んだぜ。」

 

 小さく頷いたパラガスはそのまま氷の魔人に向かって右手に気を込めながら飛んで行った。

 

「グォオオオオオオ!!」

 

 雄叫びをあげる氷の魔人の足元が鈍く光ると、地面から緑色のエネルギー弾が大爆発を起こす。それによって岩山の一部は崩れ、氷の魔人がよろける。

 

「吹き飛べ!」

 

 その隙を逃さず、パラガスは強烈なエネルギー波によって氷の魔人を吹き飛ばした。

 

「集まれ、私のありったけの魔力……!」

 

 パラガスの時間稼ぎが始まった瞬間、魔理沙は八卦炉に魔力を溜め始めた。

 

「グォオオオオオオ!!」

 

 氷の魔人はパラガス一人に狙いを定め、巨体とは思えないスピードでパラガスへ襲いかかった。

 激しい攻撃の乱舞をパラガスはなんとかかわし続け、隙あらば氷の魔人を殴りつけ、蹴りつけ、がむしゃらに攻撃を繰り返すも、あまりの強度に傷一つつけられない。

 

「ぐぐっ、ハア!」

 

「グォオオオ!!」

 

 パらガスは一度距離を取るため、氷の魔人の顔に目掛けてエネルギー弾をぶつけて後ろへさがり息を整える。

 

「はぁ……はぁ……。ふん、サイヤ人であるオレが手も足も出んとは情けない話だ……。」

 

 左腕に鋭い痛みが走る。魔理沙には気にするなと言ったその傷は想像以上に深いものだった。  

 現にパラガスはこの闘いで左腕は一切使っていない。痛みを堪えての闘いはパラガスの予想以上に自らの体力を激しく削っていった。

 

「オレの体も限界……か。だが、最後まで足掻かせてもらうとしよう。」

 

「グォオオオオオ!!」

 

 氷の魔人はパラガスに向けて口からエネルギー波を放った。

 

「ハァアアア!!」

 

 そのエネルギー波にパラガスは正面から持てる全ての力を込めたエネルギー波でそれを相殺させた。自らのエネルギー波が相殺されたとに気づいた氷の魔人は即座に次を打ち込もうと口を開ける。だがパラガスはその場から動かなかった。なぜなら__

 

「頼んだぞ!魔理沙!!」

 

「任せとけ!!」

 

 __時間稼ぎはもう終わったのだから。

 

「いくぞおおおおお!!」        『ブレイジングスター』

 

 魔理沙は箒に乗ったまま自分の後方へ向けてマスタースパークを放ち、その勢いを推進力に変えて超光速で氷の魔人の胸部に激突する。

 あまりの勢いに圧倒的な強度を誇る氷の魔人の胸部に小さな穴が開く。

 その小さな穴に魔理沙は八卦炉をブチ込んだ。

 

「くたばっちまえ!!」        魔砲『ファイナルスパーク』

 

 氷の魔人の胸部に手を突っ込んだまま、魔理沙はとっておきの切り札を放った。

 マスタースパークをも遥かに上回る光線を直接内部で炸裂された氷の魔人は、これに耐えることができず大爆発と共に砕け散った。

 だが、魔理沙自身も至近距離の爆発によって、右手に大怪我を負い。空を舞った。

 

「魔理沙!!」

 

 痛む体を押さえつけパラガスは落ちてくる魔理沙をしっかりと受け止めた。

 

「……へへ、ちょっと無理しちまったけど……勝ったぜ……。」

 

 魔理沙はゆっくり目を開き、弱々しくも喜びに満ちた声でそういった。

 

「あまり無理をするな。寿命が縮まる。」

 

「……それはお互い様だぜ。」

 

 二人は先ほどまで氷の魔人がいた場所を見つめる。魔人の体はすでに砕け散っており、氷が霧状になって宙を舞っている。

 

「……これで、アリスの仇は取れたよな……。」

 

「……そうだな。これで__。」

 

 すると突然二人の周りからいくつもの重低音が鳴り響いた。

 

「「!?」」

 

「「「グォオオオオオオ!!!」」」

 

 聞き覚えのある嫌な雄たけびを轟かせ、二人をぐるりと囲むように十体近くの氷の魔人が現れた。

 

「ば…馬鹿な……っ!!」

 

「そんな……一体でもこのザマだってのに……こんなにっ!」

 

 あまりに絶望的な状況。魔人たちは一斉に二人に襲いかかる。それをパラガスは魔理沙を抱えたままなんとかこの場から逃げようとする。

 だが氷の魔人たちはそれを許さない。たくさんの手がパラガスと魔理沙を鷲掴みにした。

 

「ぐ……!もはやここまでか……っ!!」

 

 どうしようもない状況に覚悟を決めるパラガスと魔理沙だった。氷の魔人が腕に力を込め始めたその時。

 

「激烈光弾!!」

 

「「「グォオオオオオ!!」」」

 

 巨大なエネルギー弾がパラガスたちの上を通り過ぎ、数体の魔人を一撃で葬り去った。予想外の出来事に二人は目を見開いている。

 

「パラガス!無事か!」

 

「魔理沙さんも大丈夫ですか!?」

 

 二人の窮地を救ったのはあちこち傷だらけになったピッコロと早苗だった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

山頂に魔人現る!もう一人の超強化者

 ピッコロと早苗がパラガスたちの元へ現れる少し前、生い茂る木々の中ピッコロと早苗は大きな足跡を追って山頂へと足を 運んでいた。

 足跡をたどるにつれて辺りの氷結が大きくなっていくのがわかった。

 

「ここもこんなに凍りついて……一体どうなっているんでしょう?」

 

「さあな。この足跡の主がやったのか。はたまた全く別のやつの仕業か。どちらにせよ放ってはおけん。さっさと行くぞ。」

 

「はい、行きましょう。ってちょっと待ってください。あそこに倒れてるのって……妖精?」

 

「妖精だと?」

 

 早苗が指差す場所には一人の少女がうつ伏せになって倒れていた。早苗はすぐに少女のもとへ駆け寄った。

 

「ううっ……。」

 

「大丈夫ですか?というか貴方……。紅魔館の近くにいた妖精さんじゃないですか。なんでこんな遠いところに……?」

 

 早苗の呼びかけに気づき。大妖精はゆっくり体を持ち上げた。その様子は襲われたような状態ではなく、どちらかといえば非常に疲れきった状態のようだった。

 

「あ、貴方は守谷神社の巫女さんですか……?」

 

「はいそうです。東風谷早苗です。一体何があったんですか?」

 

「お願いします……っ!チルノちゃんを、止めてください!」

 

「え?」

 

 早苗は思わず呆気にとられた。いつものチルノなら頑張れば大妖精でも止めることは十分可能なはずだったからだ。だが大妖精の切羽詰まった顔を見て早苗は気を引き締め直した。

 

「あの子に何かあったんですか?」

 

 その問いかけに大妖精は小さく頷いた。

 

「……最近、幻想郷のあちこちが凍っちゃってるのは知ってますよね?その影響か気温とかが場所によっておおきく違うんです。そして今日、チルノちゃんの様子がおかしいことに気づきました。」

 

「それはどんな風にですか?」

 

「なんというか……その、ものすごく元気になってて。すこし暴力的っていうか……。とにかくいつもとは全然違うんです!……今だって、いつもはこんな遠くまで遊びに来ないんですけど、チルノちゃんがなにか興奮した状態で、ここまで飛んできちゃったんです。」

 

「……そのチルノちゃんはどこに?」

 

「……さっきここら辺で見かけたすっごく大きな怪獣を追いかけて飛んでいっちゃいました。私は止めたんですけど、全然聞いてくれなくて……。」

 

「おおきな怪獣……?」

 

「おそらく、オレたちが追っている生物と同じだろう。」

 

「そっか!それなら……!」

 

 早苗はなにかを思いついたようで笑顔になり、大妖精を見つめる。

 

「安心してください!私たちがチルノちゃんを連れ戻してあげます!」

 

 思い切り胸を張って早苗はそう言い放った。

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「ええ!任せてください!ね?ピッコロさん。」

 

「……なぜオレもなんだ?」

 

「だって目的の生物と一緒にいるかも知れないんですよ?何かあったら大変じゃないですか!だから是非協力してください!」

 

 あまりにまっすぐな目で頼まれたピッコロは肩を落とし、小さくため息をつく。

 

「仕方あるまい。見つけたらオレたちが保護しよう。それでいいな?」

 

「はい!ありがとうございます!それでは私たちはすぐに向かいます。一人で大丈夫ですか?」

 

「わ、私は一人で大丈夫です。で、でも気をつけてください!……今日のチルノちゃん、凄く強いんです。」

 

「?わかりました。では気をつけます。すぐ戻りますので待っていてくださいね?さ、行きましょう!ピッコロさん!」

 

「ああ。……少々時間をくった。少し急ぎで行くぞ。」

 

 そうして二人は大妖精を置いて足跡を追って走り去った。それから二人は山頂へとたどり着くいた。すると山頂は全てが氷結しており、さらに雪まで降り積もっていた。明らかに異常な光景に早苗は驚きを隠せずにいた。

 

「さ、寒いぃぃ!なんですかこの光景!今ってまだ暑い季節ですよね!?なんでこんなに雪が降ってるんですか!」

 

「オレが知るか。おいこら!オレのマントにくるまるな!」

 

「だって寒いんですもん!ちょっとくらい許してください!」

 

 早苗はピッコロのマントにくるまってピッコロにしがみついていた。さすがにピッコロもこれでは動きようがない。

 

「ええい!わかった!貴様にも服を出してやるから離れろ!これでは動けん!」

 

「え?ピッコロさん服なんて持ってるんですか?」

 

「持っていはいない。だがオレの魔術で出すことは出来る。分かったらとっとと離れろ。」

 

 早苗は渋々マントから体をだしてピッコロと向き合うとピッコロは早苗の頭上に手を広げた。すると薄茶色のコートが現れ、早苗に着せられた。

 

「わあっ!ど、どうやったんですか!?ピッコロさんって魔法使いか何かだったんですか!?」

 

「魔術といっただろう。それとオレは魔法使いではない。もたもたしてないでさっさと探すぞ!」

 

「はい!……って、あ!ピッコロさんあれ!!」

 

「今度はなんだ!」

 

 早苗が指差す場所を見るとそこには巨大な氷の魔人が這いつくばった状態で徘徊していた。

 その大きさは10メートルを超えていて、腕は4本もあり、背中には大きな刺のようなものがたくさん生えていた。どうやらその刺からこの雪を噴出しているようだ。

 

「……見つけたか。でかしたぞ、早苗。」

 

「えへへ~。」

 

「気を緩めるな。奴がいつこちらに気づくかもわからん。」

 

「はい。ピッコロさん。ここで見ていてください。」

 

 早苗の言葉を聞いてピッコロは早苗を振り返る。

 

「ほう?おまえ、一人でやる気か?」

 

「ええ。異変解決というのがどんなものかお見せします!」

 

 早苗は自信満々にそう言い放った。

 

「ふん、いいだろう。おまえの異変解決がどんなものかここで見させてもらおう。もちろん作戦はあるのだろ__」

 

「そこの氷の化物!待ちなさい!」

 

「__う…な……?」

 

 早苗は素早く空に飛び出し、大声で叫びだした。

 

「私は東風谷早苗。貴方を退治しに来ました!覚悟しなさい!」

 

「あ、あのバカ!まさか作戦も何もないのか!?」

 

 あまりに堂々と真正面から飛び出した早苗にピッコロも動揺を隠せない。氷の魔人は早苗の声に気づき、這いつくばったまま体を回し振り返る。

 そして早苗を目で捉えると、大気が震えるような雄叫びをあげた。

 

「グォオオオオオオオ!!」

 

「いきますよ!!」

 

 早苗は上体を屈ませて、一気に加速して魔人の近くまで飛ぶ。そしてその勢いのまま魔人にお払い棒を突き立てる。

 

「ってあれ?」

 

 だがその攻撃は魔人の頭部に直撃するも、ヒビ一つ入っていなかった。あまりの硬さに早苗は一瞬思考が停止する。そこへ魔人は大きく口を開いた。

 

「いかん!避けろ早苗!!」

 

「っ!!」

 

 ピッコロの声で早苗はすぐ気を取り戻し、体を捻って魔人の顔からズレる。魔人の口から放たれたエネルギー波が早苗がいた場所を通り過ぎていった。

 

「あ、危なかった~……!」

 

「まだだ!早くそいつから離れろ!」

 

 氷の魔人は攻撃を外すと、すぐさま早苗の方へ首を曲げてエネルギー波を連発で放った。

 

「わっ!ちょっ!あぶなっ!!」

 

「くそっ!見ていて危なっかしい!待ってろ、オレも闘う!」

 

 紙一重で攻撃をかわし続ける早苗だがその闘いぶりは見ていて気が休まる ものではなく、流石のピッコロも加勢に入ろうと飛び立つ。

 するとそこに突如いくつもの巨大な氷の塊が早苗とピッコロめがけて飛んできた。

 

「うぇえ!?」

 

「なんだ!?」

 

 その氷塊をなんとか避けた早苗とピッコロは驚いて氷が飛んできた方向を見るとそこには一人の女性が腕を組んでこちらを睨みつけていた。

 

「あんたたち。あたいのえものに勝手に手を出すなんていいどきょーしてるじゃない。」

 

「あの……貴方誰ですか?」

 

 突然の乱入者に早苗もピッコロも少し戸惑いはしたものの、警戒してその女性を見る。

 女性は明らかにサイズがあっていない青いワンピースのような服を着ており、スカートの下のドロワが完全に出てしまっている。

 水色の綺麗な髪は腰に近いところまで伸びていて背中には立派な氷のような羽が生えていた。

 

「あたい?あたいはチルノ!さいきょーの妖精だ!」

 

「………え?」

 

 早苗は再び思考を停止させたが無理もない。チルノと名乗った女性は明らかに早苗が知ってる妖精とは見た目が異なるからだ。

 早苗が知っているチルノは大妖精に近いくらいの子供であって、このような大人びた女性らしい体つきではなかった。

 

「貴様がチルノか。ちょうどいい、探す手間が省けたぜ。オレたちはおまえの友人に頼まれて来た。おまえの敵ではない。」

 

 特にチルノと面識がなかったピッコロはチルノの変貌にまるで気づいていなかった。

 

「え?大ちゃんが?じゃあ、あんたたち。あたいの邪魔をしにきたんじゃないの?」

 

「そうだ。わかったらさっさと戻れ。あの娘が心配していたぞ。」

 

 早苗はかなりの動揺を隠せないままチルノをまっすぐ見た。

 

「そ…そうです!あの妖怪?は私たちが退治しますから、貴方はあの子のところに戻ってあげてください!」

 

 だが早苗がそう言うと、途端にチルノの様子が変わった。

 

「……なんだ。やっぱりあたいの邪魔するんじゃん。」

 

「え?」

 

「あの怪獣はあたいが先に目をつけたんだ!だからぜったいにあたいがやっつける!それを邪魔するなら、あんたたちもまとめてあたいがやっつけてやる!!」

 

 チルノは大声で言い放つと早苗、ピッコロ、魔人の全てに向かって巨大な氷の刃を放った。

 

「きゃあ!」

 

「ふん!」

 

「グォオオオオオ!」

 

 早苗はその刃を回避し、ピッコロは正面から殴り砕き、魔人は大きく口を開けて咀嚼した。

 

「ちっ、面倒な女だ。早苗、あの女はおまえが闘え!オレがあの化物の相手をする!」

 

「わ、わかりました!チルノちゃん?を落ち着かせてから加勢します!それまでお願いします!」

 

「いや、おまえはそっちに集中しろ。」

 

「え?で、でも相手は妖精ですよ?いくら私だって妖精くらいに負けたりしません!」

 

「……どうかな。妖精がどの程度の力なのかは俺にはわからんが、今あいつから感じる力はおまえとほぼ同等クラスだ。」

 

「!!……ほんとなんですか?」

 

「間違いない。だが油断せず集中して戦えば負ける相手ではない。……それに引き換え、あの化物はまだ力が未知数だ。おまえでは危険すぎる。」

 

「……任せても大丈夫なんですよね?」

 

 早苗はピッコロをとても心配そうに見つめて問いかける。だがピッコロの表情には余裕が見えた。

 

「当たり前だ。オレを誰だと思ってやがる?さっさと片付けてこの異変を終わらせてやろう。」

 

 それは修行をつけてもらっていた早苗にとって心から安心できる言葉であった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

強化チルノを倒せ!ピッコロ直伝の必殺技!

 普段ならば花が咲き乱れる美しい草原である山頂は猛吹雪によって雪原と化していた。

 まるで真冬のような光景となった山頂にてピッコロと早苗はこの光景を創り出した魔人。

 謎の成長を遂げたチルノと三つ巴の状態になっていた。

 

「さて、始めるとしよう。」

 

「あ!逃がさないぞ!」

 

「行かせません!貴方の相手は私がしましょう!」

 

 その場から消えたピッコロを追おうとするチルノの前に早苗が立ちふさがる。 ピッコロはそのまま魔人の目の前へ移動した。

 

「グルルルル!」

 

「そう睨むな。すぐに片付けてやろう。」

 

 口角を上げニヤリと笑うピッコロの挑発に乗り、魔人は巨大な右腕をピッコロに向けて叩きつけるがピッコロは真正面から受け止める。魔人の攻撃の威力に衝撃をくらった大地は大きく抉られる。

 

「ハァアアアア!!」

 

 ピッコロはそのまま魔人の右腕を両手で掴み、自らに引き寄せてその顔面を左足で蹴りつける。重たい蹴りの威力に魔人は遥か後方まで滑り込む。

 

「グォオオオオオ!!」

 

「確かに硬いな。これではまともにダメージは与えられんか。」

 

 魔人は這いつくばりながらピッコロ目掛けて猛スピードで向かってくる。それを見たピッコロは右手を前に突き出して気を込める。

 

「爆力魔波!!」

 

 そのまま向かってくる魔人へ爆力魔波を繰り出す。直撃をくらった魔人は一瞬その場で動きを止めるがその体は傷一つない。

 

「これも無駄か。これだけの硬さになるとなかなか骨が折れるな。」

 

「ガパッ」 

 

 動きを止めた魔人は今度は大きく口を開きそこからエネルギー弾を繰り出した。それをピッコロは右腕で弾き飛ばす。だが__

 

「なに!?」

 

 右腕の弾いた箇所が完全に凍りついており、二の腕がその場に崩れ落ちた。

 

「チィッ!(あいつの気は触れたものを凍らせるのか!)」

 

 追い打ちをかけるように次々と飛んでくるエネルギー弾を今度は触れないように気で全て撃ち落とし、魔人の背後に回り左腕に強く気を込める。

 

「お返しだ!」

 

 強く気を込めた左腕の手刀により強固な魔人の右足を叩きつける。するとヒビすら入らなかったはずの魔人の右足が切り離され、魔人はバランス を崩し横倒れになる。

 すかさずピッコロは強く気を込めた右足で魔人のもう片方の足も蹴り砕いた。

 

「グォオオオオオ!!」

 

「どうやらこの方法なら貴様にもダメージを与えられるようだな。」

 

 ピッコロは攻撃する箇所に最大限に気を溜めることによって。強固な魔人の体にもダメージを与えていた。これは昔、新ナメック星にてビッグテケスターの機械兵との闘いの時と同じ戦法である。

 

「グォオオオオオ!!」

 

 魔人は下半身を引きずりながらピッコロを睨みつけ、雄叫びを上げる。

 

「痛覚はないのか?厄介だな。だが……。」

 

 ピッコロは左手と両足の全てに最大限の気を溜めて構える。

 

「すぐに粉微塵にしてやろう。」

 

 少し離れた場所で闘っていた早苗とチルノはピッコロと魔人の闘いの凄まじさに思わず目を奪われていた。

 

「凄い…。」

 

 小さく吐き出した賞賛の声。次元が違う戦いを見て息を呑む音。

 

「……ハッ!思わず見入っちゃった!さっさとあんたをやっつけなきゃいけないのに!」

 

「そ、そうでした!私も集中しろって言われてたのに!」

 

 お互いに我に返り首を振って対峙する。どこか緊張感が抜けてしまった早苗は再び集中しなおす。だがチルノは違う。

  姿形は大人のようで力も早苗に匹敵するほどにまで成長しているが、頭の中身までは成長しておらず相手の力量が測れずに完全に油断している様子だった。

 

(ピッコロさんの言ったとおりだ。あの様子なら集中して闘えば勝てる!)

 

「早く決着つけて、あの緑のお化けもあたいがたおす!」

 

「ピッコロさんはお化けじゃありません!ちょっと妖怪に近いだけです!」

 

「?それってお化けと何かちがうの?」

 

「……と、とにかく!あなたを倒して大妖精ちゃんの所へ送り届けます!覚悟してください!」

 

「かくごするのはそっちだよ!凍っちゃえ!」        氷符『アイシクルフォール』

 

 チルノはつららのような形の弾幕を早苗に向けて放つ。いつもなら躱すのもわけないスペルカードだが今のチルノの放ったそれは明らかに弾の大きさも量も桁違いだった。

 

「はっ!!」        大奇跡『八坂の神風』

 

 早苗はその弾幕に対して吹雪の風を利用してスペルカードを放ちそれを相殺する。

 どちらも広範囲のスペルカードのため衝撃で降り積もった雪が吹き飛ばされた。

 

「なかなかやるじゃん!あたいのほうが強いけど!」

 

「言ってくれますね!私だって負けませんよ!」

 

 早苗はすぐにチルノの後ろへ回り込みお祓い棒を振り下ろした。だがチルノはそれをひらりとかわして逆に早苗の横腹を蹴りつけた。

 

「うぐっ!」

 

「残念でした!」

 

 蹴りをくらった早苗は大きく横に飛ばされる。そこにチルノは追撃の弾幕を放ってきた。

 それを早苗は飛び回って回避する。

 

(強い!まさかこれほどのパワーアップをしてるなんて!)

 

 早苗はチルノの隙を探しながら弾幕を避け続ける。そんな早苗にチルノはイライラし始めた。

 

「ちょろちょろするな!これでもくらえ!」        氷符『アイシクルマシンガン』

 

 チルノが放ったスペルは高速の氷弾を大量に撃ち続けるというものだった。先ほどまでの弾幕と違ってスピードが桁違いになり、早苗は避けるのがやっとの状態だった。

 

「このままじゃ負けてしまう……!こうなったら!」

 

 すると早苗はなぜかその場に止まって動かなくなった。それを見たチルノはチャンスと思い大量の氷弾を早苗にぶつけた。だがその早苗は陽炎のように消えてしまいチルノは混乱する。

 

「あれ?消えちゃった?どういうこと?」

 

「たあ!!」

 

「え!キャアア!」

 

 混乱するチルノの後ろから早苗が突然現れてチルノのがら空きの背中を叩きつけた。

 チルノは背中をさすりながら早苗から少し距離をとった。

 

「ど、どういうこと?今あたいの氷があんたを直撃したはずでしょ?」

 

「ふふん!あれはただの残像です!」

 

「ざんぞう?なにそれ?」

 

「……えっと……分身の術みたいなものかな……?」

 

「分身!すごい忍者みたいだ!」

 

「私は巫女ですよ!」

 

「どっちでもいいよ、それより早くつづきをやるぞ!いいかげん面倒になってきたから次で終わらせてやる!」

 

「望むところです!でも終わるのは貴方ですよ!」

 

「言ったな!じゃあこれを見てもそんなことが言えるか!?」

 

 するとチルノは頭上に超特大の氷塊を創り出した。それは妖精では到底創り出せないほどの質量で早苗は息を飲んだ。

 

「さあ、これであたいの勝ちだ!」

 

 そしてチルノが両手を振り下ろすとその氷塊が早苗目掛けて飛んできた。

 

「はぁああああ!!」

 

 なんと早苗はその氷塊を正面から受け止めようとした。そしてそれを受け止めると抑えきれずにどんどん後ろへ押されていく。

 

「はっはっは!どうだどうだ!」

 

「こ…こんな攻撃……!ピッコロさんの修行に比べたら……なんでもありません!!」

 

 そう言って早苗はその氷塊にゼロ距離で弾幕を撃ちだして無理やり破壊しようとした。

 すると氷塊にだんだんヒビが入り、早苗は一気に全力の弾幕をヒビの中に放った。

 

「やぁあああああ!!」

 

 そしてチルノが放った超特大の氷塊は砕け散り辺りへ落ちて行った。それを見たチルノは驚き目を見開いていた。

 

「あ…あたいの全力の氷がこわされた!?」

 

「はぁ…はぁ……!」

 

「で、でもその体力じゃあたいに勝ち目なんてない!次で本当に終わりに……し…て……?」

 

 チルノは気づいた。いつの間にか自分の周りが無数の弾幕で囲まれていたことに。

 

「え……なんで……?こんな弾幕……張るひまなんてなかったはず……!」

 

「……先ほどまで貴方の弾幕を避け続けている最中にこっそり雪の中に仕込ませてもらいました。それを今の氷塊を受けてめて、注意が私に向かっている時にすべての弾幕を貴方の周りに配置したんです。」

 

「そ…そんな……!」

 

「終わりです!ピッコロさん直伝!魔空包囲弾!」

 

「きゃああああ!!」

 

 早苗が両手を交差させるとチルノを囲っていた無数の弾幕が一斉にチルノへと飛び交った。

 チルノは避けることも防御することもできずにそれをまともにくらい積もった雪の上に落ちた。

 すると別人のように変化していたチルノの体がみるみる元の姿に戻っていった。

 

「……終わった……みたいですね。」

 

 早苗は肩の力を抜いてチルノの元へ降りた。ピッコロからもらった服はすでにボロボロになってしまっており、着ていてもあまり意味がないほどだった。

 

「せっかく出してもらったのに……仕方ないですね。」

 

 早苗はボロボロになったコートを脱ぎ捨ててチルノを抱きかかえた。

 そして遠くの木の陰で休ませようとしたその時、遠くから大きな破壊音が鳴り響き、氷のつぶてが飛んできた。

 その方角を見るとピッコロがバラバラに砕け散った魔人の前に立っているのが見え、早苗は急いでチルノを抱えたままピッコロに駆け寄った。

 

「ピッコロさん!終わったんですか?」

 

「早苗か。見ての通りだ。」

 

「そうですか……よかった……ってピッコロさん!その右腕……!」

 

 ピッコロの右腕は先ほどの闘いで氷漬けにされて砕けてしまっていた。

 

「心配するな。……フン!」

 

 ピッコロは凍っている部分を引きちぎると右肩に力を込め始めた。

 

「カァアアア!!」

 

 すると力を込めた右肩から新しい腕が生えたのだった。早苗はそれを見てギョッとした。

 

「ええ!?ピ、ピッコロさんってやっぱり妖怪じゃないですよね!?」

 

「そんなわけないだろう。バカを言うな。それよりもこれを見てみろ。」

 

 ピッコロは首を傾け、倒した魔人の一部を見た。

 

「これは……あの魔人の背中にあった刺ですね。これがどうかしたんですか?」

 

「よく見てみろ。こいつはくたばったのにまだこの刺から雪が出たままだ。」

 

 言われた通りにその刺をよく見ると、上のほうで大量の雪が空へ向かって飛び出していた。

 

「本当ですね。でももうこの魔人は退治できたんですよね?だったらなんで……?」

 

「……待てよ?ここの空はこんなに白かったか?」

 

「え?」

 

 ピッコロにつられて早苗は空を見上げた。すると空の色がなんと真っ白に染まりかけていたのだった。

 

「い、いけない!はやくこの刺を壊しちゃってください!このままじゃ何が起こるかわかりません!」

 

「そうだな、そうしよう。」

 

 ピッコロは右手に気を込めて残った刺をすべて粉々に砕いた。だが空は白く染まったままで変化がない。

 

「……早苗。そのガキを先ほどの妖精の元へ送ったらさっさと行くぞ。何か嫌な予感がしやがる。」

 

「え?は、はい。わかりました!」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

魔人からの逃走 白銀に染まる幻想郷

最近闘ってばかりですみません。


 山を下りる途中で大妖精の元にチルノを送り届けた二人は再び山頂へと来ていた。

 

「……やはりだ。」

 

「何がですか?」

 

「見てみろ。幻想郷の空がどんどん白く染まっていっている。」

 

 早苗が空を見上げてみると空は先ほどよりも更に白く染まっており、どんどん曇った空を侵食しているようだった。

 

「な、なんで!さっきの刺はもう壊したはずですよね!?それなのになんで空がどんどん白くなっていってるんですか!」

 

「……もしかするとあの魔人は一体だけではないのかもしれん……。早苗!ここ以外に異変が起こっている場所はどこだ!?」

 

「え…えっと!たしか人里や魔法の森のほうでも凍った木が見つかっているって聞いています!」

 

「人里には悟飯がいるからとりあえずは安心だろう。ならば魔法の森とやらに急ぐぞ!案内しろ!」

 

「はい!あっちの方角です!」

 

 二人は早苗の指した方角へ向かって急いで飛び立った。飛んでいる途中で幻想郷のあちこちの空が白くなりかけてるのを何度も見かけた。曇っているのにも関わらず、まるで晴れているかのような光景だった。

 

「どうなっているんですか!この幻想郷で一体何が起こってるんです!?」

 

「オレが知るか!とにかく今は急ぐぞ!」

 

 更にスピードを上げて飛んでいく二人、その目線の先には魔法の森が見えてきた。

 魔法の森は半分以上が凍り付いてしまっていてそれどころか先ほどの魔人と同じ咆哮が森の奥から響いてきて二人は魔人が一体ではないことを確信した。

 そして森の奥、開けた場所にパラガスと魔理沙が魔人たちに囲まれているのを発見した。

 

「ピッコロさん!あれ!!」

 

「わかっている!はぁああああ!!」

 

 ピッコロは飛びながら両手を合わせて気を集中させた。

 

「激烈光弾!!」

 

 __こうして現在。パラガスと魔理沙を助けたところにつながったのだった。

 

「パラガス!無事か!」

 

「魔理沙さんも大丈夫ですか!?」

 

「お…おまえたち、なぜここに?」

 

「話はあとだ!さっさとその女を連れて逃げろ!」

 

「だ…だが!」

 

「さっさとしろ!まとめてやつらに殺されたいのか!?」

 

「くっ……!」

 

 パラガスは魔理沙を抱えてその場から走り出した。

 

「お、おいパラガス!いいのかよ!あの化け物はまだあんなにいるんだぜ!?」

 

「あいつなら大丈夫だ!オレやおまえよりも遥かに強い!それよりも今は生き残ることを考えろ!」

 

 だがしかし、そんな二人の前にも新たな魔人が数体現れた。そして一斉に口を大きく開けた。

 

「「!!?」」

 

「しまった!パラガス避けろぉーー!!」

 

 魔人たちの口から一斉に放出されたエネルギー波に二人が飲み込まれそうになったその時、パラガスは咄嗟に魔理沙をピッコロたちの元へ投げ飛ばした。

 一瞬の出来事に魔理沙は唖然としたまま飛ばされ、急いで駆けつけた早苗に抱きかかえられた。

 目の前でどんどん氷漬けになっていくパラガスを見て魔理沙は我に返った。

 

「お…おい!パラガス!なにやってんだよ!?」

 

「……は…早く逃げろ!」

 

「で…でも!」

 

 戸惑いその場からなかなか動き出せないでいる二人に魔人たちはじわじわと近づいて来る。

 そこにピッコロが飛んできて魔人たちを蹴り飛ばした。

 

「おまえら何をグズグズしている!あいつの行動を無駄にするつもりか!!」

 

「っ!!すまねえ、パラガス……っ!!」

 

 早苗は魔理沙を抱きかかえたままその場から飛び出した。だが魔人たちもそれを逃そうとせず、二人の前に立ちふさがった。

 そして魔理沙はその魔人を見た途端に顔色を更に悪くした。なぜなら……。

 

「……アリ…ス……?」

 

 魔人の体の中に氷漬けになったアリスの姿があったからだ。

 

「な、なんでアリスさんが魔人の中に!?」

 

「そんな……どういうことだよ!!」

 

 魔人は大きく拳を振り下ろした。動揺していた二人はその攻撃に反応することができないでいる。

 そこに再びピッコロが駆けつけその攻撃を受け止めてそのまま倒そうとした。

 

「ま…待ってくれピッコロ!そいつの中に私の友達がいるんだ!」

 

「なんだと!?」

 

 ピッコロは魔人を見つめてアリスの存在に気が付いた。

 

「くそっ!これでは手が出せん……!」

 

「ピッコロさん!ここは引きましょう!数が多すぎます!」

 

 早苗の言葉通り、魔人の数はどんどん増える一方だった。だがここで逃げればこの森の外に魔人たちが来てしまう恐れがある。そう考えたピッコロはある決断をした。

 

「……おまえたちだけ逃げろ。」

 

「……え?」

 

「ここで逃げればやつらはここ以外にも手を出し始めるだろう。ここはオレが残って全員まとめてここで食い止める。わかったらさっさといけ!」

 

「で、でもそれじゃあピッコロさんが……!」

 

「……諏訪子との約束がある。」

 

 突然出てきた名前に早苗は動揺した。

 

「諏訪子さまとの約束……?なんのことですか!一体なんの約束を!?」

 

「おまえに何かあった時、必ずおまえを助けてやってくれとな。だからいけ。……心配するな。オレはあの程度のやつらに遅れはとらん。」

 

「ピッコロさん……。絶対ですよ!絶対に負けないでください!!」

 

 早苗は魔理沙を抱えたまま魔人たちを食い止めるピッコロに背を向けて、とにかく全力で森を抜けた。そのまま二人は守矢神社まで飛んで行った。

 

 魔人は各地にも現れていた。別の森の中にいた悟空たちもまた魔人に襲われて悟空がそれと闘っている間にフランと美鈴は紅魔館へ全速力でむかっていた。

 

「ねえ!悟空大丈夫かな!?」

 

「大丈夫です!悟空さんならあんな化け物に負けたりしません!それよりも早く紅魔館へ戻らないとお嬢様たちが心配です!」

 

「うん……そうだよね……!はやく紅魔館に戻ってお姉さまに謝らなくちゃ!」

 

 美鈴は今まで感じた中でもとびきりの危険を感じていた。それは悟空と初めて対峙した時よりも遥かに大きい。そんな気配を魔人から感じた。

 そしてその魔人を生み出している何かが存在しているかもしれないという考えが頭から離れない。紅魔館に近づくにつれて得体のしれない邪悪な気を感じてそれが確信へと変わりつつあった。

 

(みんな……無事でいてください……!)

 

 二人は森を抜けて霧の湖に出るとそこにはありえない光景が広がっていた。あの広い湖がすべて氷漬けになっていたのだ。二人は嫌な予感がして急ぎ湖を越えた。

 するとそこに見えたものは目を背けたくなるような現実だった。

 

「……そんな…っ!」

 

「美鈴……なんなのこれ?なんで紅魔館が凍っちゃってるの!?」

 

 二人の目に映ったのはすべてが氷漬けになった紅魔館だった。そしてそこにレミリアたちの魔力などはまるで感じない。それどころか先ほどまで感じていた邪悪な気も消えてしまっていた。

 だが紅魔館の庭を見てみるとそこには無数の魔人が徘徊していた。

 

「あれはさっきの魔人……!まさかお嬢様たちはあいつらに……?」

 

「……嘘。」

 

「妹様……?」

 

「嘘……嘘……嘘……っ!」

 

「妹様!落ち着いてください!」

 

「いやぁあああああああ!!」

 

「妹様、駄目です!止まってください!!」

 

 フランは魔人たちにレミリアたちが殺されたと思い込み、美鈴の制止を振り切って怒りに身を任せて魔人たちに向かって飛んでいく。

 魔人たちはそれに気が付くと一斉にフランへエネルギー波を放った。それをフランはすべてかわしながら拳を前に突き出した。

 

「バラバラになっちゃえ!!」

 

 フランは自身の能力を発動させて目の前の魔人をバラバラに砕いた。そのまま庭に着地すると片っ端から魔人を始末していく。

 

「消えちゃえ……っ!消えちゃえ……っ!!」

 

 次々と魔人を破壊していくフランだったが目の前に現れた数体の魔人を見た途端にその手を止め、目を見開いた。

 

「……お姉さま…?」

 

 魔人たちの中にいたのは傷だらけで氷漬けになったレミリアや咲夜たちだった。それを見た瞬間にフランから怒りによって溢れ出ていた禍々しい魔力が消える。

 魔人はそんなフランにも容赦なく拳を叩きつけ、フランは紅魔館の外壁に激突して地に膝をつく。

 

「ゲホッ…ゲホッ……!な…なんでお姉さまたちがあいつらの中に……?」

 

 思案するフランだったが突然後ろの壁から別の魔人の手が突き出され鷲掴みにされてしまう。

 魔人はどんどんフランを掴む力を上げていき、体が軋む音が聞こえだした。

 

「あ…あああ……!!」

 

「妹様!!」

 

 美鈴はフランを掴む魔人の手を全力で蹴り上げて魔人の手を緩ませた。その隙にフランは魔人の手から逃れて再び地に膝をついて息を吐き出した。

 

「はぁ…はぁ……!駄目……あいつらを壊したらお姉さまたちまで壊れちゃう……どうすれば…。」

 

「妹様、ここは逃げましょう!逃げてお嬢様たちを助ける方法を考えるべきです!」

 

「でも……!私にはお姉さまたちを置いて逃げるなんて……!」

 

 レミリアたちを置いて逃げるという行為に強い罪悪感を感じて逃げることに躊躇っているフラン。  

 すると遠くから更に別の魔人からのエネルギー波が飛んでくるのが美鈴の目に入った。

 

「妹様、危ない!!」

 

「え……?」

 

 美鈴は咄嗟にフランの前に飛び出してエネルギー波を受け止めた。

 

「くっ!!」

 

「美鈴!!大丈夫!?」

 

 エネルギー波を受け止めた美鈴の体はみるみる凍り付いていった。

 

「そんな……!やだよ!美鈴までいなくならないで!!」

 

「妹様……!逃げてくだ…さ…い。」

 

「美鈴ーー!!」

 

 美鈴はついに全身凍り付いてしまった。フランは地面にへたり込み涙を流す。

 

「うぐっ…ひっく……もう駄目…。私の能力ではみんなを助けることなんてできない……!ごめんね。美鈴……!」

 

 フランのすぐ隣に魔人が近づいてきて大きく手を振りかぶった。

 

「ごめんなさい……お姉さま……。」

 

 そしてついにレミリアが恐れていた出来事が現実のものになろうとしたその時。

 

「だぁああああ!!」

 

 超サイヤ人に変身した悟空が現れて魔人を遠くまで殴り飛ばした。

 

「フラン!諦めんのはまだ早え!いくぞ!」

 

 悟空はへたり込むフランをわきに抱えてその場から飛び出したのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

博麗神社に現れた男 凍結の戦士アスイ

 ここは守矢神社。早苗と魔理沙は魔人たちから逃れて身を休めていた。

 

「これでひとまず手当はおしまいです。」

 

「ああ。ありがとうな早苗。」

 

「それで、何かわかったことはあったの?」

 

 治療を終えた二人に諏訪子が問いかける。しかし二人は無言のまま首を横に振った。

 

「……正直、あいつらが何なのかさっぱりわからねえ。でもパラガスはあいつらから生気を感じないと言ってた。」

 

「生気を感じない……。生き物じゃない?」

 

「生き物じゃないとすると……もしかして、あの魔人を操っている人がいるんじゃないでしょうか?」

 

「その可能性はあるな。だとするとそいつを倒せばパラガスやアリスを助けることができるかもしれない!早苗!そいつを探しにいくぜ!」

 

「はい!行きましょう!」

 

「待て!」

 

 立ち上がり部屋を出ようとする二人を神奈子が呼び止めた。

 

「今体力を失った状態のおまえたちが行ったところで元凶を見つけることが出来ても返り討ちにされるだけだ。今はとにかく体を休めてからにしたほうがいい。」

 

「ですが急がないとピッコロさんが!」

 

「ピッコロ強くて頭がいい。きっとそいつらを上手く巻いてどこかに隠れているはずさ。今はそれを願うしかない。」

 

「……でも!」

 

「早苗。さっきも言ったが今行ったところで返り討ちにあうだけだ。それこそおまえたちを逃がしたピッコロやパラガスが報われないと思わないか?」

 

「……それは…。」

 

「……早苗。神奈子の言うとおりかもしれないぜ。今は一度休もう。その間に対策を練るんだ!」

 

「魔理沙さん……。そうですよね……。今は大人しく休みます。」

 

 二人は座りなおしてこれからの対策について話を始めるのだった。

 一方その頃フランを抱えて逃げた悟空は人里の悟飯の元へ来ていた。

 

「フラン。少しは落ち着いたか?」

 

「うん……。助けてくれてありがとね。悟空。」

 

「悟飯、人里は大丈夫なんか?」

 

「何体か人里の近くにもあの魔人は現れましたが全部ボクが倒したのでとりあえずは。」

 

「そうか。ここはおめえに任せといても大丈夫そうだな。」

 

「はい、任せてください!必ず守り通してみせます!」

 

「さて……フラン。」

 

「……なに?」

 

「レミリアたちを助けんのにはおめえの能力が必要だとオラは思う。」

 

「!……そんなわけないよ。私の能力じゃ壊すことは出来てもみんなを助けることなんてできない……。」

 

「いいや、出来る。おめえの能力で中にいるレミリアたちを除いた氷をぶっ壊すんだ。」

 

「!?そ…そんなの無理だよ!私はそこまで上手く能力を上手く使いこなせない!だからお姉さまだって私をお外に出してくれなかったんだよ!?」

 

「フラン……おめえはまだ自信がないだけだ。能力で中にいるレミリアたちも壊しちまうのが怖えんだろ?」

 

「そんなの……怖いに決まってるよ!当たり前じゃない!もし失敗してお姉さまたちが壊れちゃうって考えたら……私はっ!」

 

 そう言うとフランは俯き押し黙ってしまった。

 

「じゃあフラン、今からオラと特訓しねえか?」

 

「……特訓?」

 

「ああそうだ。おめえが自信が持てればぜってえに上手くいく。だから自身が持てるようにオラと特訓すんだ。レミリアたちを助けるためにもな。」

 

「お姉さまたちを助けるために……。」

 

「どうだ?」

 

 フランは考え込みしばらく俯いたままだったが覚悟を決めて顔を上げた。

 

「悟空。私やるよ!絶対にお姉さまたちを助けたい!それに……まだ謝れてないから…!」

 

「よく言ったぞフラン!さっそくオラと特訓開始だ!」

 

「うん!」

 

 悟空とフランはこうしてレミリアたちを助けるための特訓を開始した。だがそうしている間にも異変の規模はだんだん広がっていた。

 それは幻想郷全体へと広がっていき、各地が大騒ぎになっていった。

 その時修行中のホウレンと妖夢は……。

 

「空が白く……。ホウレンさん、これは一体?」

 

「霊夢もいつまで経っても帰ってこねえし、一体何が起こってるんだ……?」

 

 白く染まる空を見上げていると境内の階段を何かが上がってくる音が響き二人はそろって階段に目を向ける。

 

「……霊夢じゃないな。なんだ?この重たい足音は……。」

 

「そもそも人間の足音じゃありませんね……気を付けてください。」

 

 妖夢は階段から目をそらさずにゆっくり刀を抜いた。ホウレンもまた拳を構えてそれが上がってくるのを待った。すると階段を上がってくる足音が急にピタリと止まったかと思うと境内の地面が階段からどんどん凍り付いてきた。

 

「っ!妖夢!」

 

「わかってます!」

 

 二人は飛び上がり凍り付くのを回避した。今二人が立っていた場所はすぐに凍り付いてしまい、境内のすべてを凍り付かせた。

 

「おいおい……勘弁してくれよ。霊夢に怒鳴られちまうじゃねえか。」

 

「そんなこと言ってる場合ですか!あれを見てください!」

 

 妖夢が指さしたのは境内の階段だった。そこには数体の氷の魔人が上ってきていた。

 

「あいつらがやりやがったのか!よーし、すぐに倒してこの氷を解かさせてやろう!」

 

 やる気満々で魔人と闘おうとしたホウレンだが魔人の後ろから誰かが歩いてくるのが見えた。

 それはなんと勇儀だった。勇儀は魔人が目に入るとニタリと笑って魔人たちを蹴り飛ばしてホウレンたちの元へやってきた。

 

「悪いねえ。獲物を横取りしたかい?」

 

「いや別にいいけど、あんたは?」

 

「私は星熊勇儀。あんたがホウレンだね?」

 

「なんで俺の名前を……。」

 

「トランクスの知り合いだから……って言えば通じるかい?」

 

「なるほど。納得したよ。」

 

「勇儀さん。あの魔人がなんなのか知ってるんですか?」

 

「私も詳しくは知らないよ。だけどなかなか強いやつだって話を聞いてね。トランクスに止められたのを無視してやってきたってわけさ。悪いけどあいつらは譲っておくれ。」

 

 話をしている間に魔人たちは境内まで登ってきた。魔人の強さを知らないホウレンは魔人と勇儀の闘いに少しだけ興味がわいた。

 

「うーん、まあいいか。頼むよ。」

 

「そうこなっくちゃ!よーし、腕がなるねえっ!」

 

「グォオオオオオオ!!」

 

 魔人の雄たけびと同時に勇儀は魔人に向かって一直線に走り出し、そのまま魔人の腹を思い切り殴りつける。勇儀の強烈な一撃で魔人は少しだけ宙に浮き上がった。

 そこに更にもう片方の腕でもう一度魔人の腹を殴りつけると魔人は階段を転がり落ちて行った。

 

「さあ次だ!まとめてかかってきな!」

 

「「「グォオオオオオオ!!」」」

 

 魔人たちは標的を勇儀一人に絞って一斉に襲い掛かっていった。

 

「それそれそれっ!!」

 

 だが勇儀はそれを次々となぎ倒していく。その姿はまさしく鬼そのものであった。

 

「私の一撃でヒビすら入らないなんて……随分と硬いじゃないかい!今度は本気でいかせてもらおうか!!」

 

 そう言うと勇儀が纏っていた妖気が急激に上がっていき妖気を感じ取れないホウレンでさえひしひしと力が伝わってきた。

 力を解放した勇儀は魔人たちとの距離を一瞬で詰めて、その顔面を殴りつける。

 すると先ほどまでヒビすら入らなかった魔人の顔に大きくヒビが入る。それを勇儀は見逃さずに魔人の体をよじ登って今度はそのヒビの入った顔を蹴り砕いた。

 

「まずは一体!さあどんどんいくよ!!」

 

 勇儀はそのまま次から次へと魔人を打ち砕いていった。

 

「へえ……。あいつめちゃくちゃ強いじゃねえか。力だけなら霊夢よりも上じゃねえのか?」

 

「あの方は山の四天王と呼ばれていた鬼ですからね。凄く強いのは知っていましたがこれほどとは思いませんでした。」

 

「鬼か……ほんとになんでもいる世界だよな……ん?」

 

「どうかしましたか?」

 

「いや……何か変な気が階段を上がってくる……。」

 

「変な気……誰でしょうか……?」

 

 ホウレンが気を感じ取ったと同時に魔人たちが突然大人しくなって勇儀から距離をとりだした。変に思った勇儀はホウレンたちの目線に気が付き、階段に目をやる。

 すると階段を上がってくる男がいた。その男は霊夢と対峙した男であった。

 

「……俺の造った魔人たちをここまで圧倒するとは、なかなか強いやつがいるじゃないか。」

 

「へえ……。あんたが造ったって?ってことはあんたがこいつらの親玉かい。わざわざ私と闘いに来てくれたってんなら歓迎するよ。」

 

「……そのつもりだ。あんたみたいな強いやつに残られると厄介なんでね。」

 

 突然現れた男と勇儀は境内で睨みあう。猛々しく笑う勇儀に対して男は無表情のままだった。

 

「残られると厄介……?何言ってるんだあいつ……。」

 

「私は星熊勇儀。あんたの名は?」

 

「……俺はアスイ。覚える必要はない。すぐに何もわからなくなる。」

 

「そうかい、随分自身があるみたいだねぇ。まあそんなことはいいさ。とっとと始めようじゃないか!私の弾幕、受けてみな!」        力業『大江山颪』

 

 勇儀の周りから突如激しい熱風が吹き荒れる。そしてそのまま巨大な球体の弾が無数にその風に乗ってアスイの元へ飛んでいった。

 

「……ふっ!」

 

 すべてが直撃しかけたその時アスイが腕を横に振り切ると勇儀が放った弾幕がすべて凍り付き、地に落ちて砕け散った。

 

「私の弾幕が凍り付いた!?」

 

 勇儀が動揺した瞬間にアスイは懐に入り込み、どこからか取り出したダガーで斬りつけてきた。

 それにギリギリで反応した勇儀はその攻撃をかすりはしたものの何とか避けて見せた。

 

「なかなか速いじゃないかい。それにそんな武器なんて隠していたなんてねぇ。」

 

「……今ので致命傷を与えるつもりだったんだが。驚いたよ、いい反応速度だ。」

 

「驚いたって顔じゃないぞ?さっきからずっと無表情のままさ。」

 

「……いつもこうなんだ。ちゃんと驚いてはいたさ。」

 

「そうかい。じゃあもっと驚かせてあげようじゃないか!」     四天王奥義『三歩必殺』

 

「いけない!ホウレンさん、回避してください!」

 

「ちょ、おい!」

 

 勇儀が一歩踏み出した。するとその瞬間に勇儀の周りに超高密度の弾幕が張られた。

 それは周囲すべてを巻き込むほどの広さでホウレンと妖夢はなんとかそれを上空に飛んで回避した。一方アスイは持っていたダガーで片っ端から弾幕を弾き落としていた。

 

「耐えて見せな!」 

 

 更に勇儀がもう一歩踏み出す。さきほどよりも更に範囲が広く、高密度な弾幕が張られてアスイを前と後ろから襲い掛かる。

 だがアスイはそれすらも無表情のままですべて防いでいた。

 

「さあ、これが最後だ!」

 

 勇儀が三歩目を踏み出したその瞬間。今までで最大の規模の弾幕が辺り一帯に張られた。

 これで決着がつくかと思うほどのスペルカードだったが……。

 

「……フン!!」

 

 アスイは三歩目が発動したと同時に地面に思い切り手をついた。すると勇儀の放ったすべての弾幕が一瞬で凍り付いてしまったのだ。

 

「これも凍らせてくるのかい!だけど、弾幕が効かないなら今度は肉弾戦で__」

 

「__……悪いな。もう終わりだよ。」

 

 いつの間にやら勇儀の後ろにアスイが現れて勇儀を氷漬けにした。あまりに一瞬の出来事だったため、ホウレンたちは何が起こったのかすら把握できない。

 だがホウレンはアスイが非常に危険なことだけはすぐに理解できた。

 

「……次はあんたたちだ。」

 

「妖夢!逃げろ!!」

 

「で、でも勇儀さんが!」

 

「いいから逃げろ!俺があいつを引き付けておく!!はぁああああ!!」

 

 ホウレンは超サイヤ人に変身してアスイ目掛けて突進した。その勢いのままホウレンはアスイを殴りつけるもその手を軽く掴まれて防がれる。

 すると掴まれたホウレンの手が徐々に凍り付いていった。

 

「っ!くっそ!!」

 

 ホウレンは咄嗟にもう片方の手でアスイの顔に気弾を放ってその手から逃れる。だが右手の先は完全に凍り付いてしまっていた。

 

「くっ……!だぁああああ!!」

 

 ホウレンは残った腕でとにかくアスイに連続でエネルギー弾を放ち続けた。境内は激しい爆音と土煙で覆われた。ホウレンは気弾を撃ち続けながらも妖夢に声をかけた。

 

「なにしてんだ!早く逃げろ!逃げてみんなにこのことを知らせるんだ!」

 

「……っ!わかりました、待っていてください!必ず助けを連れてきます!!」

 

 ホウレンを助けるべく妖夢はその場から逃げる覚悟を決めた。そして急いでそこから離れようとしたその時、アスイが妖夢の目の前に現れた。

 

「なに!?なんであいつがあっちに!!」

 

 気弾を撃つのをやめて土煙の中を見るとそこにはアスイにそっくりな氷像がバラバラになって落ちていた。

 

「……入れ替わってやがったのか!くそっ、妖夢!!」

 

「……まずはあんただ。お嬢さん。」

 

 アスイはゆっくりと手のひらを妖夢に向けて気を溜めた。

 

「っ!きゃあああ!!」

 

 アスイのエネルギー波が妖夢に直撃したかと思われた時、アスイと妖夢の間にホウレンが入り込んでそのエネルギー波から妖夢を守った。そしてホウレンは氷漬けになって境内に落ちた。

 

「え……?ホウレンさん?」

 

「……順番が変わってしまったか。」

 

「そ…そんな……!!」

 

 妖夢はすぐに境内に降りてそのホウレンを見つめた。

 

「嘘ですよね……?ホウレンさん……ホウレンさんっ!!」

 

 妖夢の必死の叫びもホウレンには届かず、むなしく空を切るだけであった。

 凍り付いた博麗神社に妖夢の悲痛の声が鳴り響いた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

地底への襲撃 魔人たちの集結

 凍り付いた境内でホウレンの名を叫び続ける妖夢。その後ろにアスイがゆっくりと迫ってきた。

 

「……そう悲しむな。すぐにおまえもそうなる。」

 

「許せません……なにが目的でこんなことするんですか!?」

 

「……目的か。簡単に言えばこの幻想郷の侵略ってところか。」

 

 何故かあっさりと話したアスイの目的に妖夢は信じられないといった表情をする。

 

「幻想郷の侵略……!?そんなこと貴方一人でできるわけありません!!まさか、まだ仲間がいるっていうんですか!?」

 

「……侵略に来たのは俺一人だ。だが俺には兵がいる。それがこの魔人……『永久氷塊魔人』だ。……すでにこいつらは幻想郷の各地に送り込んである。この世界が氷に覆われるのも時間の問題だ。」

 

「そんな魔人なんて……幻想郷トップクラスの実力者たちには通用しません!」

 

「……おまえの言うとおり、こいつらは頑丈なのが取り柄なんだがここの実力者には通用しない場合がある。……そういった輩がいる場所にはこの俺が直接向かっている。ここのようにな。……だが博麗の巫女には少し手こずらされた。厄介な技をいくつも持っていたからな。」

 

「博麗の巫女って……まさか貴方!霊夢さんと闘ったんですか!?」

 

「……闘った。というよりもすでに始末したといったほうがわかるか?」

 

「そんな……あの霊夢さんまで……っ!!」

 

「……もう話はこれまでだ。そろそろ終わらせてもらうぞ。」

 

「っ!!」

 

 アスイが妖夢に向けて手を伸ばしたその時、いくつもの気弾がアスイ目掛けて飛んできた。アスイはそれを後ろに飛んで回避して気弾が飛んできた空を見上げる。

 

「妖夢さん、大丈夫ですか!!」

 

「ちっ、すでにホウレンの野郎はやられてやがる。」

 

 現れたのはトランクスとベジータだった。二人は妖夢の前に降り、超サイヤ人に変身してアスイと対峙した。

 

「……その力……あの博麗の巫女とそこの男以上か。……少々分が悪いな。」

 

「安心しろ。貴様はオレ一人で相手をしてやる。」

 

「……お言葉だが、ここは引かせてもらおう。今はまだ相手をするには早いからな。」

 

「オレが逃がすと思うか?はぁああああ!!」

 

 ベジータはアスイに向かって一気に加速して殴り掛かる。しかしアスイはいつの間にかただの氷像に入れ替わっており、簡単に砕け散ってしまった。

 

「ちぃっ!……そこだ!!」

 

 ベジータは瞬時にアスイの居場所を把握して気弾を放った。その気弾は魔人たちによって防がれ、その間にアスイは姿を消した。

 アスイが消えた後に魔人たちは砕け散ってしまい、その場に残ったのはボロボロになって凍り付いてしまった境内と全身を氷漬けにされてしまったホウレンと勇儀、そして無事だった三人だけだった。

 

「……逃がしたか。逃げ足の速い野郎だぜ……。」

 

「あの……助けていただきありがとうございました。」

 

 妖夢は深々と頭を下げて二人にお礼の言葉を言った。

 

「妖夢さん。ここで何があったのか教えていただけますか?」

 

「はい。ご説明させていただきます。……実は。」

 

 妖夢は博麗神社で起こったことをすべて二人に話した。

 

「なるほど……あの二人が簡単に敗れるなんて……。アスイとは何者なんでしょう?」

 

「何者であろうと関係ない。次にあったら今度こそぶっ倒してやればいいだけだ。」

 

「ですが、相手の力はまだ未知数。あの口ぶりだと強さの他にまだ別の何かを隠し持っているかもしれません。万が一の為にも対策を考えないと。」

 

「ちっ、仕方ない。それよりも貴様、たしか妖夢とか言ったな?」

 

「は、はい。なんでしょうか!」

 

「今からホウレンとあの女を永遠亭に連れて行く。永琳に見せたらもしかするとこの氷の解かし方がわかるかもしれんからな。貴様もついてこい。」

 

「わ、わかりました。私もご一緒します。じゃあ私はホウレンさんを運ばないと……。」

 

「いえ、貴方も疲れているでしょう?あの二人はオレと父さんで運ぶので貴方は一緒についてくるだけで大丈夫です。」

 

「そうですか?では、すみませんがお願いします……。」

 

 三人はホウレンと勇儀を担いでベジータに案内されながら永遠亭へと飛び立った。

 それから十数分後。三人は永遠亭に着いてホウレンと勇儀を永琳の元へ運ぶとすぐに治療が始まり、三人は他の部屋で待機していた。

 

「父さん、オレはこのあと一度地底に戻ろうかと思います。」

 

「なぜだ?」

 

「地底はまだあの魔人たちの侵略の手が回っていません。もしかしたらあの男も強者が揃っている地底まで足を運ぶ可能性があるからです。地底までやられたらそれこそあいつの思うつぼですからね。」

 

「なるほど。ならばオレもついていこう。あの男ともう一度闘うにはそれが一番手っ取り早い。」

 

「……妖夢さん。貴方はどうしますか?」

 

 一人静かにホウレンたちの治療を待つ妖夢にトランクスが声をかける。

 

「私は……ここに残ります。ホウレンさんのことが心配ですし。」

 

「わかりました。ホウレンさんと勇儀のことよろしくお願いします。」

 

「ここは迷いの竹林の中とは言えやつに見つかるのも時間の問題だ。十分に警戒はしておけ。」

 

「はい。ありがとうございます。」

 

 話を終えると丁度よく永琳と鈴仙が部屋に入ってきた。

 

「治療の結果が出たわ。残念だけどあの氷を解かすことは私には出来ないわ……ごめんなさい。」

 

「あの氷、とても硬くてまるで鋼鉄で出来てるんじゃないかってくらいなんですが、それ以前に普通の氷とは全然違う性質で出来ているみたいなんです。」

 

「違う性質?」

 

「そう。貴方たちがここに運んだと時、あの二人を少しでも冷たいと思ったかしら?」

 

「そういえば……冷たさは感じなかったような……。父さんはどうでしたか?」

 

「オレも同じだ。それがどうかしたのか?」

 

「冷たくなく強度もあり尚且つ温めても解けない氷……。ひょっとしたらあの氷は中にいる人を閉じ込めておくための特殊な氷なんじゃないかと私は見ているわ。」

 

「閉じ込めておくための氷って……一体何のために?」

 

「さすがにそこまではわからないけど、少なくとも中にいる人たちは無事よ。安心しなさい。」

 

「そ、そうですか!よかった……!」

 

 ホウレンたちが死んでいないことを知って妖夢は胸を撫で下ろした。

 

「とにかく二人の無事がわかってよかった。じゃあオレと父さんはこれから地底へ向かいます。」

 

「もう行くんですか?ベジータさんまで。」

 

「まあな。鈴仙、せいぜい氷漬けにされないようどこかに隠れているんだな。」

 

「もう!私だっていざとなったら闘えますよ!」

 

「ふっ、そうか。永琳、そういうわけだ。ホウレンたちを頼んだぞ。」

 

「ええ。貴方こそ気を付けていってらっしゃい。」

 

 トランクスとベジータは地底へと向かって、永遠亭から飛び立った。それから少し時間は過ぎて地底へとたどり着くと地底が妙に騒がしかった。

 

「父さん、急ぎましょう!もしかしたら魔人がすでに攻めてきているのかもしれません!」

 

「そいつは好都合だ。行くぞトランクス!」

 

「はい!」

 

 二人は急いで騒ぎの中心となっていた旧都へと向かった。旧都に降りたつとそこには5メートルほどのサイズの氷の魔人が数体とアスイと思われる後姿が見えた。

 

「トランクス。おまえは魔人共をやれ。おい貴様、今度は逃がさんぞ。覚悟しやがれ!」

 

「……。」

 

「おい、聞いているのか?」

 

 アスイは黙っているだけでまったく口を開こうとしなかった。そのままアスイは無言で振り返り、ベジータに襲い掛かってきた。

 氷でできたダガーでベジータの首を狙うもベジータは首を傾けてその攻撃を軽くかわした。

 

「フン!!」

 

「……!!」

 

 ベジータは攻撃をかわした後すぐにアスイの腹に拳で重たい一撃を入れる。その攻撃の重さにアスイはその場に膝をついた。

 

「……どうした?さっきのおまえはこんなものじゃなかったはずだ。本気を出せ!」

 

「……。」

 

 ベジータの言葉にまるで反応がないアスイの様子に魔人の相手をしながらもトランクスは疑問を抱いた。

 

「(なぜさっきから何も喋らないんだ?それに魔人たちもアスイを助けにいく素振りすらない……。__っ!!まさか!!)__父さん!そのアスイは偽物です!!」

 

「なんだと?どういうことだ、トランクス!」

 

 するとベジータの目の前にいたアスイはみるみる姿を変えていき、一体の氷の魔人に変わった。

 

「なっ!?ど、どうなってやがるんだ!!」

 

 トランクスは超サイヤ人に変身して魔人たちを一掃するとすぐにベジータの元へ駆けつけた。

 

「恐らくこいつらはオレたちを地底に閉じ込めておくための罠です!急いで地上に戻らないと閉じ込められてしまうかもしれません!!」

 

「なんだと!!」

 

「父さん!早くそいつを片付けて地上へ!」

 

「くそったれ!チャアアア!!」

 

「グォオオオオオ!!」

 

 ベジータも超サイヤ人に変身すると目の前の魔人を消し飛ばした。そして急いで地上へと向かおうとするが時すでに遅し、幾層にもなった氷によって入口がふさがり、その氷から次々と氷の魔人が生み出されて旧都を襲い始めたのだ。

 

「く、くそっ!まんまと罠に嵌められたってのか!!」

 

「父さん、とにかく今はあの魔人たちを倒しましょう!このままでは旧都が氷漬けにされてしまいます!」

 

「仕方ない……!やるぞ、トランクス!!」

 

「はい!!」

 

 場所は変わって再びここは永遠亭。妖夢は凍り付いたホウレンをすぐそばで見守っていた。

 その時、鈴仙が病室に駆け込んできた。

 

「お、お師匠様!大変です!!」

 

「騒がしいわね。そんなに慌ててどうかしたのかしら?」

 

「それが……地底につながる道がすべて氷漬けになってしまったみたいなんです!」

 

 鈴仙の言葉に妖夢が椅子から立ち上がり鈴仙に問いかける。

 

「地底への道が塞がれたってことですか……?じゃ、じゃああの二人は!?」

 

「多分、地底に閉じ込められてしまったと思われます……。」

 

「そんな……。」

 

「それだけじゃありません!どうやらあの魔人たちが人里に集まり始めているみたいなんです!」

 

「ベジータたちはもしかしたら罠に嵌められたのかもしれないわね……。まずいことになってきたわ……。人里を魔人たち全員から守り切れる人なんて誰もいないわ。」

 

「お師匠様、ここは私が向かいます!少しでも多くの人を助けに行かないと!」

 

「……私も行きます。」

 

「妖夢さん?」

 

「いつまでもホウレンさんの傍にいるわけにはいきませんから……。」

 

「助かります!お師匠様、いいですよね?」

 

「……そうね。いってきなさい。でも、危ないと感じたらすぐに逃げ帰ってくるのよ。わかった?」

 

「「はい!」」

 

 行く直前に妖夢は凍ったホウレンに手を触れた。

 

「ホウレンさん。私、行ってきます……。どうか見守っててください。」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人里を守れ!集まった六人の戦士

 妖夢と鈴仙は人里の人間を助けるために全速力で人里に向かって飛んでいた。竹林の入り口付近までくるとすでに凍結が進んでしまっていて、もはや一刻の猶予もない状況に迫っていた。

 

「竹林が凍りかかって……!?永遠亭にまで凍結が進むのも時間の問題かもしれない……!」

 

「もしかしたら私たち以外にも人里に向かっている人がいるかもしれません。もしいるとしたら急いで合流しないと……!」

 

 二人は全てが白銀に染まった幻想郷を進む。そして人里が見えてくると同時に何体もの氷の魔人の姿も確認できた。これはまずいと額に汗を流す二人だったが、その魔人たちは突然粉々に砕け散ってしまった。

 

「「え?」」

 

 一瞬何が起こったのかわからない様子の二人。魔人たちが砕け散った場所をよく見てみると、そこには超サイヤ人に変身した悟飯が人里に侵入する魔人たちを片っ端から相手取り、撃退している姿が見えた。

 

「悟飯さんが魔人たちの進行を止めている!私たちも行かなくては!」

 

「はい!__っ!?妖夢さん止まって!!」

 

「っ!?」

 

 鈴仙の声に反応して急ブレーキすると、今通ろうとしていた場所に氷の柱が出来た。鈴仙に止められていなければ今頃この柱の中で凍り付いていたであろう。

 

「……よく反応した。褒めてやろう。」

 

「貴方は……っ!」

 

 近くの岩山から声がして上を見上げるとそこにはアスイが立っていた。

 

「妖夢さん。この人は……?」

 

「この人がホウレンさんたちを氷漬けにして更にこの幻想郷を侵略しようとしている男です……!」

 

「ってことは……この人を倒せば幻想郷は平和に戻るってわけね!」

 

「はい。……ですがあの人は私たち二人で勝てるほど弱くはありません。でも、どうやら逃げることは出来なそうです。」

 

 妖夢は刀を抜いてアスイを見上げる。するとアスイもまたどこからかダガーを取り出した。

 

「……そういうことだ。さっきは逃がしたが丁度いい。……人里を制圧する前におまえたちを始末させてもらうとしよう。」

 

 アスイがダガーを振り下ろすとそこから水色の斬撃が二人に向けて飛ばされた。

 妖夢がその斬撃を斬り伏せようとしたその時、遠くから声が聞こえてきた。

 

「妖夢!その攻撃に触れるな!!」

 

「__っ!くっ!!」

 

 妖夢はギリギリでその斬撃をかわした。その斬撃が当たった場所を見るとそこからたくさんの氷が飛び出していた。

 

「……誰だ?」

 

「よう、やっと会えたな……!おまえがあの魔人たちの親玉だな!?」

 

「貴方を倒して氷漬けにされた皆さんを元に戻してもらいます!!」

 

 現れたのは守矢神社に身を潜めていた早苗と魔理沙だった。二人はにしっかり体を休ませたようで体力気力ともに万全の状態であった。

 

「魔理沙さん!早苗さん!お二人ともご無事だったんですね……!」

 

「……誰だか知らんが俺を探していたようだな。……だが残念だが俺は高見の見物をさせてもらおう。……魔人たちよ。来い。」

 

「「「グォオオオオ!!」」」

 

 アスイが合図をするとあちこちに散らばった魔人たちの一部が猛スピードで四人を囲った。そしてアスイはそのまま岩山の上で四人を見下ろした。

 

「くそっ!こいつらか……!」

 

「待ってください魔理沙さん!この魔人たちの中……!」

 

「っ!?紅魔館の連中じゃねえか!こいつらもやられてたのか……!?」

 

 よく見ると魔理沙たちを囲っている魔人たちの中にはレミリア。咲夜。パチュリー。小悪魔。そして美鈴の姿があった。

 

「……中に人がいては迂闊に倒すことはできない。……手も出せないままそいつらにやられるといい。」

 

「ふっざけんなぁあ!!」

 

「魔理沙さん!!」

 

 魔理沙は箒に乗って魔人たち頭上を越え、アスイに向かって飛び出した。だがそんな魔理沙の前に更なる魔人が現れてその動きを止めた。

 そしてその魔人の中身に魔理沙たちは大きく目を見開いた。

 

「霊夢……!!」

 

「グォオオオオオ!!」

 

 霊夢の魔人は雄たけびを上げて魔理沙を他の三人の元へ投げ飛ばした。魔理沙は勢いよく地面へと叩きつけられる。

 

「ぐぐっ!……くそ、見かけないと思ったら霊夢まで……!!」

 

「あの時言った霊夢さんを始末したというのはこういうことだったんですね!?」

 

「……そういうことだ。そいつらの力は中に入っている人間から直接力を奪っている。……つまり中にいるそいつらの実力とほぼ同等ということだ。おまえたちでは勝てない。」

 

「へっ、霊夢やレミリアの実力を持ってる上にあの硬さかよ。嫌になってくるぜ……。」

 

「どうしましょう……霊夢さんたちの実力は私たちよりも上です。魔人たちの対策はあってもそもそも勝てるかどうか……。」

 

「それでもやるしかねえ!早苗、行くぞ!」

 

 魔理沙と早苗はそれぞれ体の一部に魔力や霊力を集中させ始めた。

 

「はい!妖夢さん、それに鈴仙さんも自分の力を攻撃する一点に集中させてください!そうすればあの魔人たちの体も砕くことが出来ます!そしてなるべく手足を狙ってください!手足さえ砕いてしまえば魔人は動けなくなります!」

 

 二人の魔人への対策とは早苗が山の頂上で見たピッコロの闘い方を参考にして自分たちの力を一点に集中させて攻撃することだった。

 そうすることによって魔人たちの硬質な体も打ち砕けると判断したのだ。

 

「な、なるほど!わかりました!鈴仙さん、私たちもやりましょう!」

 

「力を集中……!よし、わかりました!」

 

 早苗の話を聞き、妖夢と鈴仙もまた体の一部に力を集中させた。

 

「……魔人たちへの対策を持ってきたか。面白い。……おまえたちがどこまで魔人たちを抑え込めるか見ものだな。」

 

「まずは一番厄介な霊夢からだ!みんなで一斉にいくぞ!」

 

「「「はい!!」」」

 

 魔理沙の指示に従い全員で霊夢の魔人へ標的を定め、それぞれが攻撃を始めた。

 

「たあ!!」

 

 鈴仙は霊夢の魔人の足を狙い、ばらまくのではなく一点に集中させて弾幕を放った。だが霊夢の魔人はその弾幕をひょいっと足を上げてかわして鈴仙に向けて腕を振り下ろした。

 その腕を妖夢が庇うように刀で受け流し、攻撃を回避した。

 

「その腕もらったぁあ!!」        恋符『マスタースパーク』

 

 霊夢の魔人の伸び切った腕を狙って魔理沙がマスタースパークを放つ。このマスタースパークは通常のマスタースパークと違い魔人に対抗するために範囲を小さく絞って貫通力を大幅に上げたものだ。

 派手な弾幕を好む魔理沙も今回ばかりは魔人を倒すために色々と対策をしてきたのだ。

 

「グォオオオオオ!!」

 

 魔理沙の放ったマスタースパークによって霊夢の魔人の片腕に穴が開き崩れ落ちる。

 

「よし、効いた!どうやら身体能力は同等でも能力までは使えないみたいだぜ!」

 

「そのようですね!この調子で動きを止めてしまいましょう!」

 

「グォオオオオオ!!」

 

 四人の後ろからレミリアの魔人が氷の槍を突き立てる。四人はそれをそれぞれ大きく横に飛んでそれを回避した。だがそれぞれが別の魔人と対峙する形になってしまった。

 魔理沙には霊夢。早苗にはレミリア。鈴仙にはパチュリーと小悪魔。妖夢には咲夜と美鈴がそれぞれ目の前に近づいてきた。 

 

「くそ!分断されちまったか……!」

 

「こうなったら仕方ありません!各自魔人たちを抑え込みましょう!」

 

「ええ!?わ、私のところには二体もいるんだけど!!」

 

「それは私も同じです!でもやるしかありません!」

 

 魔人たちは中にいる者たちに近い闘いかたでそれぞれが攻撃を仕掛けてきた。だがそれは本来の霊夢たちに比べると巨体のせいかなんとか見切れる程度のスピードだった。

 妖夢は美鈴の魔人の繰り出す体術を刀で受け止めながら咲夜の魔人にも目を配らせてギリギリの闘いをしている。

 しかし妖夢は刀に力を集中させながら攻撃を受け止めることで逆に魔人たちの手足に傷を負わせていた。

 

 鈴仙はパチュリーの魔人による口から放たれる氷のエネルギー波に苦戦しながらの上手く二体の魔人を相手取っていた。

 パチュリーの魔人と小悪魔の魔人は本人たちがもともと肉体派ではなかったため他に比べると幾分か闘いやすく、鈴仙一人でも十分に押すことが出来た。

 

 だが魔理沙と早苗の相手は違う。霊夢とレミリアの魔人は力だけじゃなくそのスピードまでもが本人に近い実力だった。

 早苗と闘っているレミリアの魔人は空を飛び回りながら大きな槍を振り回して早苗を翻弄してきた。 恐らくレミリアのグングニルが力の一部として反映されているのだろう。魔人の体に合わせてかその槍はリーチが長く数メートルはあり、早苗は避けるのが精一杯だった。

 

 そして魔理沙が闘っている霊夢の魔人。さきほどの攻撃で腕を一本失くしたにもかかわらずとてつもない強さで魔理沙を追い詰めていた。

 

「さすが霊夢の力だ、一人じゃさすがに厳しいぜ……!早苗に妖夢も苦戦してるな……鈴仙!その二体を抑えつけたら他のやつらのサポートも頼む!」

 

「わかってる!もうすこし待って!」

 

 それぞれが別の魔人と闘いを始め苦戦を強いられる中、いつの間にか岩に腰かけていたアスイが立ち上がった。

 

「……人里に随分強いやつがいるな。仕方ない。……魔人たちよ。そいつらを氷漬けにしてしまえ!」

 

「「「グォオオオオオ!!」」」

 

 アスイの言葉に反応して魔人たちは一斉に口を大きく開き、特大のエネルギー波を放った。

 

「まずいっ!みんな避けろぉおお!!」

 

 四人はそのエネルギー波をなんとか回避しようとしたが近距離での広範囲攻撃を完全に避けきることが出来ず、体の一部をかすらせてしまった。

 するとかすった場所からどんどん体が凍り付いてきた。 

 

「や…やばい!早く凍り付いた部分をなんとかしないと私たちまで氷漬けにされちまうぞ!!」

 

「そ、そんな!でもどうすれば!?」

 

 三人が慌てる中、妖夢は息を飲んで刀を握りなおした。

 

「……こうなったら、凍った場所を斬り落として止めるしか……っ!」

 

「よ、よせ妖夢!そんなことしたら大怪我じゃ済まないぜ!?」

 

「でもこのままでは誰も助かりません!ならばいっそ覚悟を決めるしか……!」

 

 妖夢が覚悟を決めて自らを斬りつけようとしたその時だった。

 

「そんな必要ないよ!」

 

 突然声が聞こえてきたかと思うと四人の体の氷がすべて砕け散った。

 

「……俺の氷が砕かれただと?」

 

「こ、これは一体。」

 

「間に合ってよかった。おめえたちよく頑張ったな。」

 

 そこに現れたのは人里に身を潜ませていた悟空とフランだった。二人の恰好はボロボロになっていて激しい特訓の後が残っていた。

 

「魔人たちは私たちに任せて!貴方たちはあいつを!」

 

「フラン……!ありがとな!でも全部任せるってわけにはいかないぜ。それにあの魔人たちの対処方法も伝えとかねえと!」

 

「ううん、大丈夫。私の能力でみんなを助けて見せるから。安心して、魔理沙。」

 

「え?で、でもおまえ。能力をまだ使いこなせないはずだろ?」

 

「大丈夫。きっと上手くいく。それに悟空だってついてるもん。」

 

「そういうことだ。ただフランが魔人から全員を助けるのは時間がかかる。それまでおめえたちだけであいつを止められるか?」

 

「……私は四人がかりでもかなりきついと思います。でもやってみせます!ホウレンさんたちを助けるためにも!」

 

「そうか。じゃあそっちは任せっぞ。フラン準備はいいか!」

 

「うん!いつでもいけるよ!」

 

「よし始めっか!だぁあああ!!」

 

 悟空は超サイヤ人に変身して魔人たちを闘いを始めた。その間にフランは魔人たち全てに向けて意識を集中させ始めた。

 

「ここはフランたちに任せよう。私たちはあいつを!」

 

 魔理沙たちは岩山の上にいるアスイを見上げた。アスイはそれを見て小さく息を漏らすと組んでいた腕を解いてダガーを取り出した。

 

「……仕方ない……俺が直接おまえたちを凍らせてやるとしよう。」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

復活の時はきた!怒りのパワーを呼び覚ませ!

 ついに闘う意思を見せたアスイはダガーを取り出し魔理沙たち四人を冷たい視線で見つめた。異変の元凶であるアスイを倒そうと四人はより一層力を込めて構えた。

 

「貴方を倒してこの幻想郷の平和を取り戻してみせます!たあ!」   大奇跡『八坂の神風』

 

 早苗がスペルカードを発動するとアスイの周りに凄まじい風が起こり、更に周りを弾幕が覆った。

 だが弾幕はアスイの周りを回るだけで攻撃はしてこなかった。

 

「……目くらましか。甘い……!」

 

 アスイは気配を察知して後ろの弾幕に向けてダガーを振り、斬撃を飛ばした。そこにはアスイを後ろから狙っていた鈴仙がいたが鈴仙はその斬撃を紙一重でかわした。

 

「あ…あぶなかった~!まさかあの弾幕の中からでもこっちの動きが読めるなんて……!」

 

「こっちは四人とはいえあの男の力はまだ未知数です!油断していたらすぐに氷漬けですよ!」

 

「なるほど……!だったら小細工なしの全力でいくぜ!」

 

 魔理沙は箒に乗ってアスイの上空に回り、八卦炉に魔力を溜める。

 

「くらいやがれ!」        星符『ドラゴンメテオ』

 

 そのまま真下のアスイを岩山と弾幕ごと広範囲のレーザーで撃ちぬいた。アスイはそれをダガーで受け止めるが足元の岩山が砕けてしまいそのまま地面に押し付けられた。

 

「……ハア!」

 

 アスイはダガーに力を籠めるとそのまま魔理沙のドラゴンメテオを真っ二つに切り裂いた。

 そして上空にいる魔理沙を見ると魔理沙はすでに次のスペルを用意していた。

 

「これならどうだ!!」      恋符『マシンガンスパーク』

 

 魔理沙はアスイ目掛けて大量のマスタースパークを放った。一発一発を全力で放ったその破壊力は並大抵のものではない。

 さすがのアスイもその攻撃を回避しなくてはダメージを受けると判断した。

 

「させません!!」        

 

 その行動をすかさず妖夢が斬撃による弾幕をいくつも張り巡らせてアスイの動きを止めることによってアスイは降り注ぐマシンガンスパークを全て体で受け止めることになった。

 激しい爆音。舞い上がる土煙。魔理沙はとにかくたくさんマスタースパークを撃ち終えると疲れ果ててフラフラと妖夢の元へ降りたった。

 

「……妖夢。サポート助かったぜ……。」

 

「お役に立ててなによりです。それより大丈夫ですか?」

 

「ああ……随分魔力を使っちまったけど、まだ闘える。」

 

「……無茶しすぎです。」

 

 二人の元へ鈴仙と早苗が駆けつけてくる。

 

「魔理沙さん!ご無事ですか!?」

 

「あんなにたくさんマスタースパークを撃って……それじゃあ最後まで魔力が持ちませんよ?」

 

「構わないさ。その前にあいつを倒してやる……!」

 

「……今の連携はなかなかだったぞ。」

 

「「「!!」」」

 

 土煙の中からアスイの声が聞こえてくる。今の攻撃で倒してはいないと分かってはいたものの、いざその声を聞いて四人は息を飲んだ。

 それぞれが本当は心のどこかで今の攻撃で倒れて欲しいと思っていたのだろう。

 だが土煙の中からアスイはゆっくりと歩いて出てきた。それどころか服が若干破れて口から少しだけ血を垂らしている程度のダメージだった。

 

「ちぇっ、私の全力のスペルでその程度かよ……。」

 

「……少しは諦める気になったか?」

 

「冗談じゃない、諦めるわけないだろ!」

 

「そうです!貴方はなんとしてでもここで倒してみせます!」

 

「……そうか。……ならばそろそろ俺からも攻撃させてもらうとしよう!」

 

「__っ!?げふっ……!!」

 

 アスイは瞬きの瞬間に早苗の懐に入り込んでその腹に掌底突きを当てて早苗を後方に吹き飛ばした。

 

「早苗!?」

 

「……よそ見をしている余裕があるのか?」

 

「っ!くそっ!!」

 

 魔理沙は後ろから聞こえてきたアスイの声に反応して箒を振り回した。だがアスイはそれを軽く避けると魔理沙に回し蹴りを当てて早苗とは別の方向に吹き飛ばし、更にすぐ隣の妖夢をダガーで狙った。

 

「くっ!やあー!!」

 

 妖夢はそのダガーを片方の刀で受け止めてもう片方の刀でアスイを斬りつける。アスイはそれを飛び上がって回避し、そのまま妖夢の顔を蹴りつけた。

 たまらず妖夢はその場でよろけて更にもう一発蹴りをくらって地面に滑り込む。

 

「これ以上好き勝手はさせない!」        狂夢『風狂の夢(ドリームワールド)』

 

 鈴仙は大量の弾幕を放ってアスイを完全に包囲した。

 

「少しでも動けば弾幕の餌食!貴方は動けないわ!」

 

「……動く必要はない。」

 

 そう言ってアスイは目を見開いて全体に気を放出した。するとアスイを囲っていた弾幕が一瞬にしてすべて凍り付き、そのまま砕け散った。

 

「!!」

 

「……吹き飛べ。」

 

 アスイは鈴仙に向けて手を伸ばして強い衝撃波を放った。衝撃をくらった鈴仙は踏ん張ったものの耐えきれずに地面を転がった。

 

「うう……ちょっと強すぎじゃないの?」

 

「……おまえたちでは俺に勝つことはできない。諦めて降伏するなら逃がしてやってもいいが?」

 

「あ…諦めるわけにはいきません……!私は絶対にホウレンさんたちを救って見せます!」

 

「妖夢の言うとおりだぜ。だいたい降伏したところで幻想郷が支配されちまうなら凍っちまったほうがましってもんだ!」

 

「……ならば望みどおりにしてやろう……!」

 

 アスイは目を鋭くしてより一層体から放つ凍気を強めた。

 

 ~永遠亭~

 

 闘いが激しさを増す中、永遠亭で凍り付いたホウレンは意識だけが戻り始めていた。

 

(……俺はどうなったんだ?)

 

 ホウレンは意識がぼんやりとしたまま体を動かそうとするが凍ってしまっているため何も動かない。仕方なくそのまま自分の状況を頭の中で整理し始めた。

 

(俺は確か……アスイとかいう男と闘ってそれで……。)

 

 アスイと闘った時のことをゆっくりと思い出す。そして最後に自分がどうなったのかを思い出して意識がはっきりと戻った。

 

(そうだ、俺は妖夢を庇ってアスイに氷漬けにされちまったのか……!あの後どうなったんだ?妖夢は無事なのか?くそっ!誰かいないのか!)

 

 すると部屋の中に永琳が入ってきた。

 

(誰か入ってきた!頼む気づいてくれ!)

 

 必死に自分が意識を取り戻したことを永琳に伝えようと体に気を込めると永琳はわずかな力の乱れに気づきホウレンのことを見た。

 

「……もしかして貴方!意識が戻ってるの!?」

 

(よし!気づいてくれたか!頼む、氷を何とかしてくれ!)

 

「……話すことは出来ない……か。でもなんとなく言いたいことはわかるわ。ごめんなさい。私の力では貴方を覆っている氷を解かすことは出来ないの。」

 

(そ、そんな!ちくしょう、俺はここから動くこともできねえのか!!)

 

「貴方に状況を説明しておいてあげたほうがいいかもね。貴方はアスイという男に凍らされてここに運び込まれたの。ベジータたちにね。それと妖夢はそのベジータたちに助けられたから無事よ。」

 

(ベジータが助けてくれたのか……!よかった!)

 

「……でもね。それから魔人たちが人里に向けて一斉に行動を始めたの。それから人間たちを助けるために妖夢もウドンゲも人里に向かったわ。」

 

(な、なんだと!?ってことは妖夢たちはあの魔人たちのところにいるってのか!!)

 

「そしてベジータとトランクスもまた敵の策略で地底に閉じ込められてしまって助けに行くことが出来ない。幻想郷はかつてないほどの大ピンチかもしれないわ……。」

 

 話を聞き終えたホウレンは自分も人里に向かいたいという気持ちでいっぱいになり、なんとか氷を砕こうと気を高め始めた。

 

(壊れろ!壊れてくれ!俺はこんなところで凍ってる場合じゃねえだろ!!)

 

 ホウレンは凍り付いたままで超サイヤ人に変身して更に気を上げ続けるが氷はまったく壊れてくれない。

 

「もしかして中から氷を砕こうとしているの?危険よ!下手したら貴方まで粉々になってしまうかもしれないわ!」

 

 永琳の制止を声を聞きながらホウレンはそれでも気を高め続けた。そして限界まで気を高め終えてもなお、氷は壊れてはくれなかった。

 

(駄目なのか……?俺はあいつらを助けに行けないのか?くそ……くそっ……!!)

 

 ホウレンは激しく怒りを覚えた。アスイに対して、魔人たちに対して、そして何よりも負けたことによってで妖夢たちを危険な場所に行かせてしまった不甲斐ない自分に対して……。

 怒りが頂点に達したとき、ホウレンの気が急激に膨らみ始めた。激しい気の上昇によって大気が震え始める。

 

「なに?この大気の震え……もしかして貴方の力なの?」

 

(俺は……絶対にあいつらを助けに行くんだ!!だぁあああーー!!)

 

 その時ホウレンの体が激しく光るとホウレンを覆ってた氷がすべてはじけ飛んだ。

 驚いた永琳はすぐにホウレンを見るとそこに髪の毛が更に激しく逆立ち、体の周りに電撃のようなものを纏ったホウレンが息を切らして立っていた。

 

「はぁ……はぁ……っ!!」

 

「あ…貴方、あの氷を無理やり壊して出てきたっていうの!?そんな無茶して下手したら死んでいたかもしれないのよ!」

 

「……人里への方角を教えてくれ。」

 

「……貴方まさか助けに向かうつもりなの?」

 

「そうだ。頼む。」

 

 ホウレンは真剣な眼差しで永琳を見つめた。少しの間考えた永琳だったがホウレンから激しい怒りを感じて、止めるのは無駄と判断した。

 

「はぁ……。医者としては止めたいところだけど、何を言っても駄目そうね。……いいわ。私が竹林の出口まで案内してあげましょう。でも私はここを守らなくてはいけないからそこまでしか行けないわ。」

 

「ああ。それで充分だ。」

 

「じゃあついて来なさい。急ぐわよ。」

 

(今行くぞ妖夢。今度は絶対に守りきってみせる!)

 

 ホウレンは怒りのパワーによってついに自らを覆っていた氷を砕き復活を遂げた。

 果たしてホウレンはみんなを助けることが出来るのであろうか。

 そして悟空とフランは魔人たちからレミリアたちを救うことが出来るのであろうか……。

 




ちょっとリアルの方が忙しくなってきたので少しだけ更新ペースを落とします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

追い詰められたアスイ 凍結の戦士の真髄

 ホウレンが復活してからアスイや魔人たちとの闘いは更に厳しさを増してきていた。

 フランが魔力を集中させている間、悟空がすべての魔人たちの相手をするという形になっており悟空は超サイヤ人になりつつも相手の体を壊さないように心がけていた。

 

「もうちょっと……悟空、頑張って耐えて……!」

 

 魔人たちは動かないフランを無視して厄介な悟空の元へ集まり一斉に攻撃を仕掛けていた。

 悟空その攻撃を難なくかわし続けてフランのために時間を稼いでいるが時々攻撃を受けて徐々にダメージを蓄積させてしまってる。

 

 いつもなら笑ってこの闘いを楽しんでいるであろう悟空も今回は魔理沙たちが危険な敵と闘っているため、その表情に笑顔はなかった。

 

「だりゃりゃりゃりゃ!だりゃああ!!」

 

 悟空は魔人たちを次々となぎ倒し、転ばせて時間を稼ぐ。

 

「おめえたち!もうちょっと耐えてくれ!あと少しでそっちに行けっかんな!!」

 

 悟空が声をかけた先にはアスイと闘い傷だらけになった魔理沙たちがいた。

 

「出来れば急いでくれ!私たちもどこまでこいつと闘えるかわからねえ!……くそっ、どんなスペルカードを使ってもあいつの力ですぐに凍らされちまう……!」

 

「かと言って近接攻撃で仕掛けても体を掴まれたら最後。全身を氷漬けにされてしまいます。流石に厳しいですね……。なにか対抗手段かあればいいのですが……。」

 

「おまえの奇跡でなんとかできないのかよ。」

 

「……無理です。そもそもこの状況でどんな奇跡を起こせばいいんですか?」

 

「そうだよな……。ちくしょう!せめて霊夢クラスのやつが一人でもいれば……!」

 

「霊夢さんクラスの実力者はほぼ戦闘不可能にされてしまってますからね……。今人里を狙ってきたのも、実力者の数が大きく減ったからだと思います。」

 

「全部あいつの作戦通りってことか……。」

 

 二人が話している最中も妖夢と鈴仙がアスイと闘っていた。妖夢が刀で直接攻撃を仕掛け、鈴仙が弾幕でサポートをしてなんとか闘えている。

 だがそれも長くはもたず、二人まとめて魔理沙たちの元へ吹き飛ばされてしまった。

 

「うわ!だ、大丈夫かおまえら!」

 

「っ痛~!だ…大丈夫よ。まだやれるわ!」

 

「わ…私もです……!」

 

「そうか……。おまえたちが闘ってくれてたおかげで少し魔力も回復したことだし、私ももう一度闘わせてもらうぜ!」

 

「魔理沙さん、私に作戦があります。」

 

「お、何か思いついたか!」

 

「はい。みなさん耳を貸してください。」

 

 四人がこそこそとしている間アスイはなぜかそれを眺めているだけで攻撃してこなかった。

 それを妖夢は横目にその様子を見ると無表情のままだが若干口角が上がっていてむしろ次にどんな手を打ってくるのか期待しているようにも見えた。

 それを不思議に思いながらも妖夢は早苗の作戦を頭に入れた。

 

「わかった。その手で行こう。二人もいいな?」

 

 聞かれた妖夢と鈴仙は顔を見合わせてお互いに頷いた。

 

「あいつはなぜか動いてない。余裕かましやがって……今に見てろよ……!」

 

「魔理沙さん、お願いしますよ。」

 

「任せとけ。おまえらこそ、へますんなよ。」

 

「わかってますよっ!」

 

「「「はあ!!」」」  

 

 奇跡『客星の明るすぎる夜』

 

 狂視『狂視調律(イリュージョンシーカー)』  

 

 獄神剣『業風神閃斬』

 

 魔理沙を除いた三人が一斉にスペルカードを発動させてその場全体を弾幕で覆った。

 

「……今度は広範囲の同時攻撃か。」

 

「本来の弾幕ごっこでは反則ですがこれは闘い!反則も何もありませんからね!」

 

「……闘いに反則などない。確かにその通りだ。……だがこの程度では闘いにおいて反則にすらなりはしない。」

 

 アスイはもはや前も後ろも見えないほどの高密度の弾幕をあえて凍らせずに軽々と避けていった。

 アスイが弾幕に注意が向いているうちに魔理沙はアスイの後方に回り込んで最大まで溜めた八卦炉を構えた。

 

(これでもくらいやがれ!!)      魔砲『ファイナルマスタースパーク』

 

 今までで最大。超高火力のマスタースパークを魔理沙は解き放った。アスイはそれに気づくとすぐに受け止める姿勢になった。

 そしてファイナルマスタースパークを真正面から受け止めていた。

 負けじと魔理沙も残った全魔力を八卦炉に込めて踏ん張る。

 

「……こ…凍らせることが間に合わないほどのエネルギーだというのか……!」

 

「いけぇええーー!!」

 

「……ぐっ…うぉおおおおーー!!」

 

 アスイを押し始めたように見えたがあと少しのところでアスイは力を解放してファイナルマスタースパークを凍り付かせてしまった。

 凍ったファイナルマスタースパークはアスイが殴り砕いた。

 

「……はぁ…はぁ……。少し肝が冷えたぞ……。……だが俺には届かなかったようだな。」

 

「__隙あり!!」        天星剣『涅槃寂静の如し』

 

「……っ!!?」

 

 ファイナルマスタースパークを受け止めたことによって隙が出来たアスイの真後ろに突然妖夢の姿が現れアスイを斬りつけた。

 アスイは常に戦場のすべてに気を張っていたがこの一瞬、妖夢が放ったスペルカードには気づくことが出来なかった。

 

 なぜならこのスペルカードは妖夢が集中力を極限まで高め、気配を完全に消して音すらも聞こえなくするものだからだ。

 気配も音も無くなった状態の妖夢の接近にファイナルマスタースパークとぶつかり合っていたアスイが気づくことは不可能に近かった。

 

 そしてアスイは急いで後ろを振り向き防御をしようとするも間に合わず、その斜めに斬り降ろされた一閃を体に浴びて血が噴き出した。

 

「……ぐっ……!し…しまった……!」

 

「どうですか……?その深手を負ってはもうまともに闘うことが出来ないはずです!諦めて降参してください!」

 

「そうだぜ……。そもそもその出血じゃあ、治療しないと間に合わねえレベルだ。さっさと幻想郷を元に戻すんだな。」

 

「……フ、フフフフ!」

 

「何笑ってんだよ、早くしねえとおまえも死ぬぞ。さっさと降参しろって!」

 

「……ハッハッハッハッハ!降参だと?それはおまえたちの方だ……!」

 

「……なに?」

 

 出血しながらも高笑いを続ける姿は目の前にいる二人には異様なものにしか見えなかった。

 そしてそれは少し遠くにいる早苗と鈴仙にも同じように見えていた。

 

「な、なにを言ってるんでしょう。あの男……。」

 

「出血で頭がおかしくなったのかな……?」

 

「……こ…ここまで追い詰められるとは思わなかった。……少しでもおまえたちの闘い方に興味を持ったのが甘かったか……。……だがもうそれもこうなってしまったら仕方がない!俺の真の姿でおまえたちを氷像にしてやろう!!」

 

「真の姿……だと?」

 

「……凍てついた白銀の空よ。俺のもとに冷気を送れ!」

 

 アスイが両手を広げて空を見上げると幻想郷を覆っていた白い空が全てアスイの元へ集まっていく。そして白が抜け落ちた空は最初のどんよりとした曇り空へと戻った。

 

「な、なんだ?空が元に戻った……いや空を覆っていた白い冷気を吸収したのか……!?」

 

 するとアスイの周りで目に見えるほどの冷気が渦巻き、アスイの体を覆いつくした。

 そしてその冷気が晴れるとそこにはさきほどまでのラバースーツではなく、真っ白な装束を身に纏ったアスイが立っていた。

 その冷気はいままで感じたものとは桁違いのものであり、四人は思わず背筋を凍らせた。 

 

「……『凍零白呑装束(とうれいしらのしょうぞく)』……これが俺の奥の手だ。」

 

「そ、それがどうしたってんだ!そんな技を出したところでその出血じゃまともに動くこと…すら……__っ!?」

 

 魔理沙と妖夢はアスイの胸を見て目を見開いた。さっきまで出血していたはずの場所がなんと凍り付いて傷口を塞いでしまっていたからだ。

 

「……傷など凍らせてしまえばなんともない。」

 

「そ、そんな!あんなに深かったはずなのに!!」

 

「ち、ちくしょう……!」

 

「……俺の凍零白呑装束はあらゆるものを凍らせる。」

 

 アスイが手を開くとその両手に長い氷の刀が現れた。

 

「……さて、終わりにしよう。」

 

 どうしようもなくなった四人は覚悟を決めて歯を食いしばった。だがその時、空から一筋の光が妖夢の前に降りたった。

 

「……なんだ?」

 

「今度は何が……っ!あ、貴方は……!!」

 

 そこに現れたのは電撃のような気を纏ったホウレンだった。

 

「ホ、ホウレンさん!!」

 

「……遅くなって悪い。あとは任せてくれ。」

 

「で、でも……!」

 

「大丈夫だ。俺を信じてくれ。」

 

「……ホウレンさん……。」

 

 それを遠目で見ていた悟空はその姿に動揺した。

 

「あの姿……!そうか……あいつ超サイヤ人の壁を!」

 

 迸る気に気づいているのは悟空だけではなかった。それは目の前にいるアスイも感じていた。

 

「……おまえは確かに凍らせたはず……!なぜ動いている!……それにその強大な気はなんだ!?……おまえに一体何があったというんだ!!」

 

「……さあな。だが今の俺は前みたいにはいかないぜ……!今度こそみんなを守り切ってみせる!!」

 

「……ハ…ハッハハハハ!!面白い……決着を付けよう!……お互いの全力でな!」

 

 ホウレンは妖夢たち四人が下がったのを確認してから構えをとった。

 ついに最後の闘いが始まる。ホウレンはアスイの奥の手を打ち破れるのか……。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

氷を砕く一撃!見せろホウレンの超パワー!

ホウレンが到着してからも悟空はフランのために魔人たちと闘い続けていた。

 魔人たちはアスイの変身に呼応して更に力を増し始めた。

 

「あいつらからすげえ力を感じる。あいつが変身したせいか?こりゃオラも油断できねえな。」

 

 改めて気合を入れなおす悟空にパチュリーの魔人が攻撃を仕掛けてきた。

 パチュリーの魔人は体から先ほどまでとは桁違いの氷弾を生み出すとそのまま悟空目掛けて飛ばしてきた。

 

「だりゃりゃりゃりゃ!」

 

 だが悟空はその氷弾を片っ端から叩き落してパチュリーの魔人まで一気に距離を詰めて壊れない程度に蹴り飛ばす。

 すると今度は咲夜の魔人が軽快な動きで悟空に忍び寄りそのまま悟空を殴りつけた。

 

「くっ!ハァアアーー!!」

 

 悟空は咲夜の魔人の攻撃を受け止めつつ、その腕を掴んで近くにいた小悪魔の魔人を巻き込みながら咲夜の魔人を投げ飛ばした。

 

「「グォオオオオオ!!」」

 

 そこにレミリアの魔人が槍を構えながら上空から突進、霊夢の魔人が地上から悟空目掛けて超スピードで襲い掛かる。

 悟空はそれをギリギリまで引き付けてからその攻撃をかわすことによって魔人たちがお互いにぶつり、そのまま左右に吹き飛んだ。

 そして悟空は空中で体を回転させながら美鈴の魔人の目の前に着地した。

 

「今度は美鈴か……。よし、かかってこい!」

 

「グォオオオオ!!」

 

「悟空!魔人たちを私のところに引き寄せて!!」

 

 美鈴の魔人が悟空に襲い掛かったその時、フランが大声で叫んだ。ようやくフランが魔力を集中させ終えたのだ。

 それを聞いた悟空は待ってましたといった顔で瞬間移動を使いフランの後ろに移動する。

 急に消えた悟空に辺りを見渡す魔人たちだったが、悟空の姿を見つけると一斉にフランの元へ集まってきた。

 

「「「グォオオオオオ!!」」」

 

「お姉さま……みんな……今助けてあげるからね……!!」

 

 フランが手を突き出した手を握り締めると魔人たちに集中させた魔力が一気に膨れ上がり、魔人たちの体の中から紅い光が溢れ始めた。

 

「これが私の特訓の成果……!お姉さまたちを覆った氷なんて……みんなみんな、壊れちゃえええーー!!」

 

 フランが叫んだその瞬間、溢れ出た紅い光が魔人たちの体を覆い、眩い光を放った。

 

「「「グォオオオ……オ……オ……。」」」

 

 次の瞬間、レミリアたちを覆っていた氷が一斉に弾け飛び粉々になった。フランは自身の能力を使いこなし見事レミリアたちを救うことに成功したのだ。

 

 氷から解放されたレミリアたちはその場に倒れこんだ。それを見たフランはすぐにレミリアの元へ駆け寄った。

 

「お姉さま!お姉さま、目を開けてっ!!」

 

「……フラ…ン……?」

 

「お姉さま?生きてる?生きててくれてるよね!?」

 

「……ふふ。大丈夫……私は生きてるわよ。貴方のおかげでね……フラン。」

 

「!!……お姉さま、なんで……?」

 

「……氷の中に囚われている中、貴方の声が聞こえてきたわ。……私たちを助けるって。」

 

「お姉さま……その……私!」

 

「ごめんさい、フラン。」

 

「え?」

 

「本当は貴方を外に出してあげたかった……。でも私は貴方のことを心配しすぎてそれを拒み続けた。……貴方の力を信じきれてなかったのは誰でもない、私自身だったのよ……。でも現実は違った。貴方は能力を使いこなし、運命すら乗り越えて悟空と一緒に私たちを救って見せた。」

 

 フランはレミリアの言葉を聞き逃さないように涙を堪えて黙って聞き続けた。

 

「……フラン。強くなったわね……。もう貴方は一人前の吸血鬼よ。これからは自由に好きなことをして生きなさい。……もう貴方を縛る者はいないわ。」

 

 その言葉を聞いた瞬間、涙を堪えきれなくなったフランはボロボロと大粒の涙を零した。

 

「……ちが…うのっ!私、は……ずっと、お屋敷から…逃げちゃったことを…謝りたくて……っ!」

 

「……そんなこと……もういいのよ?」

 

「よく、ないよ……っ!お願い…私にもお姉さまに謝らせて……っ!お姉さまばっかり言いたいことを言って……ずるいよ……っ!」

 

「仕方ない子ね……。いいわ……聞いてあげる。」

 

「ごめん、なさい……っ!お姉さまは…私のことを思って……!止めて…くれてたのに……っ!私は、自分勝手なことばっかりで……っ!お姉さまの…っ気持ち…なんて、考えたこともなかった……っ!本当に……ごめんなさい……っ!!」

 

「……フフ。いいわ……許す。」

 

 笑顔で答えたレミリアにフランはギリギリで抑え込んでいた感情が一気に溢れ出した。

 

「うう……うわぁあああん!!ごめんなさい!ごめんなさいぃぃ!!」

 

 レミリアは自分の胸に顔をうずめて泣き続けるフランの頭を優しくなで続けた。

 吸血鬼姉妹の喧嘩はお互いの心からの謝罪によって無事に解消されたのだった。

 

「……ホウレン、後は任せたぞ。おめえがこの闘いに決着をつけるんだ。」

 

 悟空は遠くにいるホウレンに闘いの行く末を託し、倒れた仲間たちの元へ歩き出した。

 

 そしてその頃、ホウレンとアスイは互いに力を解放したまま睨みあっていた。緊迫した睨み合いの中、今まで無表情をつらぬいていたアスイは楽しそうに口元を緩めた。

 

「……やはりこの世界に来てよかった。こんな緊迫感はあの男と闘って以来初めてだ……!」

 

「誰のことを言ってんだか知らねえけど、随分余裕じゃねーか。」

 

「……余裕?違うな。俺はただ楽しいだけだ。……さあ、もっと俺を楽しませてくれ……!」

 

「おまえを楽しませてやる義理はねーけど、前よりはずっと闘えるぜ?死んでも恨むなよ……悪いが今俺は手加減してやれそうにねえ……!」

 

「……それでいい。そうでなければ面白くない!……話はここまでだ。いくぞ!」

 

 アスイはホウレンの間合いに一瞬で踏み込み、氷で創られた二本の長剣で斬りつけてきた。

 ホウレンはその長剣をどちらも最小限の動きでかわしてアスイの腹を殴りつけた。

 

「ごふっ!!」

 

「ハァアアアアー!!」

 

 アスイは重たい一撃を踏ん張って耐えようとするも敵わずに後方へ吹き飛んだ。

 

「……今の俺に触ったな?」

 

「?それがどうした。」

 

「……俺を殴りつけた手……よく見てみるといい。」

 

「!!」

 

 ホウレンはすぐに自分の右手を見るとその手は完全に氷で覆われていた。

 

「……俺の凍零白呑装束は触れたあらゆるものを瞬時に凍らせる……!……例えそれがエネルギーであろうと煮えたぎるマグマであろうと関係ない。……おまえの右手はもう使えんぞ!」

 

「……そうかよ。」

 

 その瞬間、ホウレンの姿が消えて凍ったはずの右手でアスイを殴り飛ばした。アスイはそれに驚き、体勢を整えながらホウレンの右手を見た。

 すると凍っていたはずのホウレンの右手は元に戻っていた。

 

「……なんだと……!?……なぜ凍ったはずの手が元に戻っているんだ!!」

 

「ここに来るまでの間、俺なりにおまえへの対策を考えてみたんだ。」

 

「……対策だと?」

 

「そうだ。それがこれだ……!」

 

 ホウレンが体に気を込めるとぼんやりとホウレンの体の周りに薄い気の膜が出来ていた。

 

「……まさか、気でバリアを張って凍結を防いだと言うのか……!?」

 

「そのまさかだよ。上手くいってくれてよかったぜ……。もしこれが失敗したら俺には打つ手がなかった。……おまえならもうわかっただろ?こうなった以上その技は意味がねえ。ここからはお互いの純粋な力と力のぶつかり合いといこうぜ……!!」

 

「……フ、フッフフフ。俺の切り札まで封じられたか……。……だが凍零白呑装束の能力は凍らせるだけではない!それをみせてやろう!」

 

 二人は相手に向かって一直線に突進して、お互いの拳と長剣がぶつかり合った。

 ホウレンはバリアを張ることによって武器による攻撃を体で受け止めることが可能になっていた。

 アスイの目では追えないほどの剣舞がホウレンを襲う。ホウレンはなんとか拳で斬撃をいなしながらも体中に小さな切り傷を負っていった。

 

 二人は何度も何度もぶつかり合いを続け、そのたびに辺りに強い衝撃が起こった。

 その衝撃は離れて見ている妖夢たちにまで届いていた。

 

「す、すげえ衝撃だ……!ホウレンのやつ、霊夢と闘った時よりも実力が上がってないか!?」

 

「実力だけじゃない……雰囲気がいつもと違う。」

 

「雰囲気が違うってどういうこと?」

 

「ええと……ホウレンさんは闘っているときいつも優しい目をしているんです。たとえそれが真剣な闘いだとしてもその目はどこか優しい。……ですが今のホウレンさんの目は違うんです。なにか凄く強い怒りを感じる……。」

 

「そりゃそうだろ。あんだけ好き勝手に幻想郷で暴れて、更に自分まで氷漬けにされたら誰だって怒って当然だぜ。」

 

「そうなんですけど……でも違うんです。怒りの矛先が相手に対してじゃない……まるで自分を責めているようで……。」

 

 妖夢の考えは正しかった。ホウレンはアスイに対しても怒りを感じてはいるものの、最も怒りを感じているのは不甲斐ない自分自身に対してだからだ。

 だがそれを知っているのはホウレン本人だけ。そしてこれからも誰かが知ることはないのだろう。

 

「……ハァアアー!!」

 

 アスイは長剣で挟むように左右からホウレンを斬りつけてきたがホウレンはそれを飛び上がって回避し、両足に気を集中させた。

 

「うらぁ!!」

 

「!!」

 

 ホウレンはその両足でそのまま真下の長剣を勢いよく踏みつけて長剣を砕いて、がら空きになったアスイの顎を殴りつけ吹き飛ばす。

 すぐさまホウレンは倒れるアスイの元へ走り出すがその瞬間、アスイが地面を氷漬けの状態に変えてしまい、ホウレンは氷に足を滑らせてバランスを崩してしまった。

 そこにアスイはすかさずホウレンの周りを何層にもした氷の檻で閉じ込めた。

 

「いまさらこんなんで俺が止められるかよ!」

 

「……だろうな。だが数秒あれば十分だ……!」

 

 アスイは空に向かって手を伸ばし、エネルギー弾を一発だけ放った。

 ホウレンはすぐに檻を破壊して外に出ると上空の空だけが再び白く光り始めて何かが大量に降り注いできた。

 

「……さあ今度はどうする?」

 

 ホウレンは落ちてくる物体をいくつかかわした。落ちてきていたのは氷でできた鋭くとがった槍のようなものだった。

 

「……俺の気で造り上げた氷の槍だ。……おまえのバリアなど簡単に貫いてやろう!」

 

「危ねぇもん落としやがって……!だけどな、まだ甘いんだよ!」

 

 ホウレンは拳を空に突き出して気を集中させた。

 

「まとめて消えろ!ガーネットインパクト!!」

 

 ホウレンは降り注ぐ氷の槍もろとも白く光る空を強力な気弾でかき消した。

 白い光がかき消された空は再び薄暗い雲へと戻る。

 

「……どうだ。今の技も俺には通用しねえぞ。そろそろ諦めろ。」

 

「……諦めろだと?それは出来ない。……幻想郷の侵略は重要な任務だ。たとえこの体が壊れようとも……俺は任務は遂行しなくてはならない……!」

 

「任務……?おい、そりゃどういう__」

 

「……おぉおおおお!!」

 

 ホウレンを無視してアスイは突然気を溜め始めてどんどん周りの冷気がアスイに集まっていった。

 そしてアスイは右手にすべての冷気と力を集めた。

 

「……受けてみろ、これが俺の最後の力だ!」

 

 アスイの右手には全てを込めた巨大な氷のガントレットが生成された。

 離れて立っているのにもかかわらず、とてつもない気と冷気を感じ、さきほどまで余裕があったホウレンも固唾を飲む。

 

「いいぜ……!おまえの氷を俺が真正面から打ち砕いてやるよ!!はぁああああ!!」

 

 ホウレンはアスイの全力に答えるべく、自らもまた右手に持てるすべての力を込めた。

 強大なエネルギーに周りが耐えきれず地面にはひびが入った。

 

 お互いのすべてを込めた最後のぶつかり合い。二人は同時に目の前の敵目掛けて走り出した。

 

「「ウォオオオオオオ!!!」」

 

 そして次の瞬間二人の拳と拳がぶつかり合った。電撃のオーラを纏ったホウレンの拳と冷気を纏ったアスイのガントレット、二つの強大な力のぶつかり合いに地面がどんどん削れていき、陥没していった。

 

「……俺は負けられない!俺は……おまえを凍らせて、任務を達成しなければならないんだ!」

 

 アスイは更に力を込めてホウレンを徐々に押し始める。

 

「……アスイ。わりいけど俺にも負けられねえ理由があるんだ。」

 

 ホウレンから遠く離れた場所では魔理沙たちが腕に力を込めて応援してくれている。

 そして妖夢はまるで願うように手を合わせて見守ってくれている。

 それを感じて、ホウレンもまた更なる力を解放した。その力はアスイの限界よりもずっと上をいくものだった。

 

「だから、その任務とやらは諦めやがれ!」

 

「……俺が…押されている!?」

 

「この幻想郷は……俺が……俺たちが守り切ってみせる!!」

 

 その時、ホウレンの拳がアスイのガントレットを打ち砕き、そのままアスイの顔面を殴りつけた。

 

「ぐぁあああああ!!」

 

 アスイはそのまま陥没した地面の層に減り込み動かなくなった。

 

 

 

「悪いな……俺の勝ちだ……。」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

闘い終えて…… 戻ってきた夏

 ホウレンはついに強敵アスイとの死闘に勝利して超サイヤ人を解いた。

 それを見届けた魔理沙たちは一斉にホウレンの元へ駆け寄ってきた。

 

「ホウレン!あいつは!?死んだのか?」

 

「お体は大丈夫なんですか!?早く治療しないと!」

 

「というかどうやって氷から出てこれたんです!?永遠亭は大丈夫なんですか!?」

 

「おいおい落ち着けって……アスイなんだけどな。まだ生きてるよ。そうだろ?」

 

 ホウレンが話しかけると掠れた声でアスイは笑った。

 

「……確かに生きている。だが装束を保つ力が無くなってしまってはもはや長くはないだろうな……。」

 

 そういうアスイの胸からは血が流れ出ていた。装束が解けたことによって凍らせていた傷が解けてしまったのだ。

 

「最後に聞かせろ。任務ってのはなんのことだ?誰から頼まれて幻想郷を襲いやがったのか教えてくれ。」

 

「……残念だが教えられない。依頼者は教えない主義でね……。」

 

「そうかい。おっと、さっさとおまえを治療しねえと手遅れになっちまうな。話の続きはそれからにしよう……っておいおまえ!なにやってんだ!?」

 

 アスイは最後の力を振り絞って自分自身を徐々に氷漬けにしていた。

 

「……治療は必要ない。俺はここで死ぬ。……最後に最高の緊迫感をくれたこと感謝する。」

 

「何言ってんだ!死ぬ必要なんてねえだろ!」

 

「……甘いな。俺とおまえの闘いは命を懸けたものだ。少なくとも俺はそう思っている。……負けたほうが命を失うのもまた道理。」

 

「それは……っ!」

 

「……凶悪な敵に対して情けは必要ない。甘いままでは守りたいものを守ることなど出来はしないんだ。……もしもこの先この世界を守るために闘い続けると言うのなら覚えておけ。」

 

 アスイを覆う氷がついに顔まで迫ってきた。

 アスイは最後にホウレンと遠くにいる悟空を交互に見ると、ゆっくり目を閉じた。

 

「……じゃあな。この世界のサイヤ人……。」

 

 その言葉を最後にアスイは完全に氷に覆われて粉々に砕け散った。

 

「……あいつ、サイヤ人のことを知ってたのか。」

 

 ホウレンの元へ魔理沙、鈴仙、早苗がやってくる。

 

「ホウレン、助かったぜ。ありがとな。」

 

「いやいいんだ。それよりおまえたちボロボロじゃねえの。大丈夫か?」

 

「あまり大丈夫ではないですかね……。もしかしたら骨にひびが入ってるかもしれませんし……。」

 

「奇跡の力で治せねえの?」

 

「いや……どうなんでしょうね?試したことがないのでわかりません。」

 

「仕方ない、今からみんなで永遠亭に来てください。治療してあげますから。」

 

「お、サンキュー鈴仙!いこうぜ早苗!」

 

「そうですね。お世話になります。ホウレンさんもどうですか?」

 

「俺はいい。でもあとから向かうから先に行っててくれ。」

 

「わかりました。では失礼します。」

 

 そして三人は悟空たちと合流して紅魔館の住人たちを担いで永遠亭へ飛んで行った。

 ホウレンはアスイがいた場所をぼんやりと眺めた。

 

「……甘いままでは守りたいものも守れない…か。そんなことは俺だってわかってる……。でも割り切れねえんだよ……。」 

 

「ホウレンさん。」

 

「……妖夢か。どうした?みんなと一緒に行かなくてよかったのか?」

 

「いえ、あの……ホウレンさんが落ち込んでるように見えたもので……。」

 

「……そうか。気を遣わせちまったな。でも大丈夫だ。」

 

「ホウレンさん……。」

 

「おまえまで辛気臭い顔すんなよ。さ、行こうぜ。」

 

 ホウレンは心配する妖夢の横を歩いて通り過ぎた。

 

「ホウレンさん、一つだけ言わせてください。」

 

「ん?なんだよ。」

 

「……お疲れさまでした。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数時間後。魔理沙と早苗は治療を終えるとすぐに魔法の森へ向かった。

 そして魔法の森に着くと氷はまだ解けてはいないものの魔人たちの姿は一体も見当たらないことに安心して、目的の人物たちを探し始めた。

 

「誰を探している?」

 

 聞こえたその声に二人はすぐに振り返るとそこにはボロボロになったピッコロとその両手には抱えられたパラガスとアリスがいた。

 

「ピッコロさん!ご無事だったんですね……っ!」

 

「当たり前だ。おまえたちこそ無事……とは言えんか。とにかく生き残ったようで安心したぞ。」

 

「ピッコロ!アリスとパラガスは生きてるよな……!?」

 

「……ああ。生きている。だが起こすなよ?今は寝かせておいてやったほうがいい。」

 

「ああ……よかった……っ!ちくしょう、パラガスにアリスめ。起きたら私をこんなに心配させたこと後悔させてやるからな……!」

 

「あはは、お手柔らかにしてあげてくださいよ?この二人だって被害者なんですから。」

 

「わかってるよ!でも、何か言わねえと私のもやもやが晴れねえんだ!」

 

「何をしている。さっさとこいつらを運ぶぞ魔理沙、おまえの家に案内しろ。」

 

「おう!私についてきてくれ!」

 

 二人を担いだまま三人は森の入り口へと歩き出した。

 

 

 ~博麗神社~

 

 霊夢は一人、神社の境内で空を眺めていた。自分が敵に利用されて異変を解決するどころか異変を起こす側になってしまったことを霊夢は気にしていたのだ。

 

「……はぁ。私は今回なんにも出来なかったわね……。なんのための博麗の巫女なんだか。」

 

「そんなこと気にしてんのか?おまえ」

 

 するといつの間にかホウレンが境内を歩いて霊夢の元へ来た。

 

「……あんた、帰ってきてたの?妖夢は?」

 

「あいつは帰ったよ。幽々子が心配だって言って。」

 

「そう……。」

 

「まったく、おまえらしくないぞ?助かったんだからそれでいいじゃねえか。」

 

「……確かに今回は貴方たちのおかげで助かったわ。でもね、それはあくまで貴方たちが幻想郷にいたからよ。……もしも幻想郷に貴方たちが迷い込まなければ、今頃幻想郷はあいつに支配されていたわ。」

 

「……かもしれねえな。でももう闘いは終わったんだ。そんなこと気にしても意味ねえだろ?」

 

「いいえ、あるわ。……私はね?努力は実らないものだと思ってたのよ。だから修行だって一度もしたことがないの。」

 

「それなのにあの強さか……おまえ天才じゃね?」

 

「よく言われるわ。最初からこの強さだったし、負けたことなんてなかったからこれでいいって思ってた。……でも今回の異変でそんなことも言ってられないかもって思ったの。」

 

「……。」

 

「……『努力なんて実らない』なんて、きっとただの言い訳。……私はただ自分の才能に甘えてただけだったんだわ。だから私はもう甘えない。修行を積んで、次にあんな大規模な異変があっても貴方がいなくたって解決できるように頑張る。」

 

「そうか……。じゃあ、おまえも俺と妖夢と一緒に修行するか?」

 

「遠慮しとくわ。……私は貴方とは別に強くなってみせる。すぐにあんたなんて追い抜かしてやるんだから!」

 

 そう言って振り返った霊夢の顔はまるで憑き物が落ちたようにすっきりとした笑顔をホウレンへ向けたのだった。

 

 

 ~迷いの竹林~

 

 レミリアたちが治療を終えてベッドに寝ている間、悟空とベジータは外で話をしていた。

 

「……ベジータ。おめえホウレンのこと、気づいたか?」

 

「当たり前だ。……まさかあいつがあの変身を遂げるとはな。」

 

「ああ、間違いねえ。ホウレンのやつ、超サイヤ人の壁を越えやがったんだ。」

 

「やはり、あいつはただのサイヤ人ではないのかもしれんな……。」

 

「……そうかもな。」

 

「それで、オレをわざわざ外に呼び出したからにはそれだけじゃないだろう?」

 

「……ああ。オラはな、まだ闘いは終わってねえ気がするんだ。」

 

「どういうことだ?」

 

「それはわかんねえ。けどもしかすっとアスイの他にもこの幻想郷を狙ってるやつらが現れるんじゃねえかってさ。」

 

「その時は今度こそオレがぶっ倒してやるぜ。」

 

「ずりいぞベジータ!」

 

「ふん、早い者勝ちだ!」

 

「ちょっとお二人とも!玄関の前で騒がないでください!患者が起きちゃうじゃないですか!」

 

 

 大ピンチに陥った幻想郷はアスイを倒し、無事に異変は解決された。

 

 そして各々が様々な思惑を残しつつ、幻想郷に夏が戻ったのだった。

 

 人々の間でこの騒動は、世界が凍った異変……『凍界異変』と呼ばれた。

 

 

 

 




これで第二章はおしまいです。次回から第三章始めますのでよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三章 常識を覆す者たち
厄介ごとの予感?あの世とこの世の噂


また戦闘が多くなりますがお付き合いください。


 ホウレンたちは様々な死闘を乗り越えてついにアスイを倒し、無事に異変を解決させた。

それから二週間ほどの時間が過ぎて、幻想郷全体に広がった凍結はほぼ無くなっていた。

 

 ここは博麗神社。ホウレンは妖夢と共に修行をしていた。

 

「やあ!」

 

 妖夢はホウレンに向けて木刀を振り下ろした。

 

「おっと!」

 

 ホウレンは体を捻ってそれをかわして手のひらに気弾を作り、そのまま妖夢に向けて放った。

 

「くっ!なんの!」

 

 その気弾を妖夢は木刀で軌道を逸らして回避した。

 そして逸らされた気弾は神社に向かって飛んでいった。

 

「「あっ!!」」

 

 しまった!と思った二人だったが気弾は神社に当たることなくその一歩手前で止められた。

 そこには少し怒った顔をした霊夢が立っていた。

 

「ホウレン!気弾は神社が壊れるから修行中には撃つなっていったわよね?」

 

「わ、悪い!つい熱くなっちまって……。」

 

「妖夢!あんたも軌道を逸らすなら逸らすで別の場所に逸らしなさい!」

 

「ごめんなさい!うっかりしてました!」

 

「まったく……毎日毎日修行ばっかりして疲れないわけ?」

 

「そりゃまあ、体を動かしてるから疲れるけどよ。その分強くなれると思うと全然気にならないぜ。」

 

「私もです。日々努力を重ねて一人前になるまでは精進は怠りません!」

 

「やれやれ……それはそうと妖夢、あんた結構長い時間いるけど大丈夫なの?」

 

「え?……今何時くらいですかね。」

 

「もう夕方よ。そろそろご飯の時間だわ。」

 

「た、大変!私今日はこれで失礼します!」

 

「おう、気を付けてな。」

 

 慌ただしく帰り支度をする妖夢だったが急に何かを思い出して振り返った。

 

「帰る前に一つだけいいですか?」

 

「ん?なんだよ。」

 

「昨日人里に買い物に行った時に聞いたんですが、ここ数日の間に幻想郷のあちこちで顔立ちが整った人や強い力を持った人の元に見知らぬ女性が現れて闘いを挑んでくるって噂を耳にしたんですよ。」

 

「なんだそりゃ。強いやつの所ってのはわかるが顔が整ったやつに闘いを挑む理由があるのか?」

 

「さあ?わかりませんけど、念のためお二人も気を付けたほうがいいですよ。話はそれだけです。」

 

「そうか、わざわざありがとよ。」

 

「貴方も気を付けなさいよ。一応強いんだから。」

 

「はい。それでは失礼します。」

 

 そうして妖夢は急ぎ足で冥界へ帰っていった。

 それから少し時間は過ぎて霊夢とホウレンは夕食を食べていた。

 

「……ねえ、ホウレン。」

 

「なんだ?」

 

「さっき妖夢が言ってた噂だけど、貴方はどう思う?」

 

「ん~そうだなぁ……。変わったやつがいる、としか考えてないな。」

 

「はぁ……まあ、貴方はそうよね。」

 

「なんだよ、何か気になることでもあるのか?」

 

「まあね。……噂の女。何か怪しい気がするのよ。もしかしたらアスイの時みたいに何かを企んでいる可能性だってあり得るわ。」

 

「おいおい、あんなやつがそう簡単に現れるかよ。心配しすぎなんじゃねえか?」

 

 霊夢の考えを否定しつつもホウレンはアスイが闘いの中で言っていた言葉を思い出していた。

 

『幻想郷の侵略は重要な任務だ。たとえこの体が壊れようとも……俺は任務は遂行しなくてはならない……!』

 

(まさかあいつに任務を任せたやつが自分から動き始めた……?)

 

「どうしたの?急に黙り込んで。」

 

「いや、なんでも……ないってわけじゃないか……。」

 

「何よ。やっぱり貴方も何か引っかかってるの?」

 

「ああ。実はな。アスイと闘っていた時、あいつは幻想郷を侵略することを任務だって言ったんだ。任務ってことはそれを任せたやつがいるってことだろ?もしかしたらそいつが動き始めたんじゃねえかって思ってさ……。」

 

「貴方ねえ!そんな大事な情報なんでもっと早く教えなかったのよ!」

 

「言うべきかどうか迷ってさ。でも考えてみたらおまえには話しとかないとまずいよな。」

 

「そうよ。私は博麗の巫女なんだから幻想郷の危険に関わることは全部教えなさい!そうじゃないと対処できないでしょ!」

 

「痛ててっ!?わかった、わかったよ!今度からこういう大事な情報はすぐに話すから!箸で耳を引っ張るのはやめろ!」

 

「分かればいいのよ。このくらいで勘弁しといてあげるわ。」

 

 霊夢はホウレンの言葉に満足して箸を戻した。

 

「痛てて……。そりゃどうも。」

 

「ホウレン、貴方明日暇よね?」

 

「明日?そうだな。明日は妖夢も忙しくて修行には来れないらしいから暇だ。」

 

「ちょうどいいわ。明日あの噂の女を調査しにいくわよ。」

 

「動きが早いな。それに俺も連れていくのか?」

 

「ええ。……もしもその女が私よりも強かったら貴方に頼るしかないもの……。」

 

 そう言った霊夢は悔しそうな顔を隠すように俯いてしまった。

 

「……わかった。俺も行く。一緒にその女を探しに行こう。闘いになったらおまえの力も頼りにしてっぜ?」

 

 ホウレンは霊夢の気持ちを察して励ますように霊夢の肩に手を置いた。

 

「……気を遣わせちゃったわね……ありがと。」

 

 霊夢の感謝の言葉にホウレンは笑顔で答えた。

 そして次の日。霊夢はいつまで経っても起きないホウレンを叩き起こす(物理的に)と朝ごはんを済ませてから噂の女性を探しに博麗神社を飛び立った。

 

 一方その頃、地獄では一つの問題が発生していた。

 それは凶悪な亡者や強い亡者の元にだけたびたび見知らぬ者が現れるというもので地上の噂とほぼ同じものだった。

 それを問題視した四季映姫は地獄にいる獄卒たちとブロリーに探索命令を出した。

 地獄中を探し続けること三日間。その人物はいまだ見つかってはいない。

 

「ブロリー様!第三班、針山付近には亡者以外の人影はない模様です!」

 

「こちら第五班!血の池周辺も異常ありません!」

 

「チッ。なかなか姿を見せんな。」

 

「我々は引き続き捜索を続けます!ブロリー様は四季様へのご報告、よろしくお願いします!」

 

「わかっている。さっさといけ。」

 

「「はい!!」」

 

 獄卒たちは再び元の配置の場所へ向かって走り去った。

 

「はぁ……なぜこのオレがこんな面倒なことを……。」

 

「ブロリー。そっちはどうだい?」

 

 ため息をつくブロリーに話しかけてきたのは小町であった。

 

「……おまえか。残念ながら何一つ状況は進んでいない。」

 

「やっぱりか。」

 

「おまえはこんなところまで来て一体何の用だ。まさかこのことのためだけに来たわけではないだろう?」

 

「ご明察。ちょっとした噂を川の向こう岸で聞いてね。それを映姫様に報告しようかと思って来たんだよ。お前さんもどうせ報告だろ?一緒に行こうじゃないかい。」

 

「……どうせ同じ場所に向かうんだ。好きにしろ。」

 

「じゃあ遠慮なくついてかせてもらうとするよ。」

 

 二人は並んで映姫の元へ歩き出し、少し経ってから映姫の元へ到着した。

 

「映姫様、いますかー?」

 

「小町ですか。それにブロリーも、例の人物の情報は掴めそうですか?」

 

「さっぱりだ。本当にそんなやついるのか?ただの見間違いじゃないだろうな。」

 

「確かな情報ですよ。私に嘘の情報は通用しませんからね。」

 

「……そうだったな。」

 

「映姫様。実は向こう岸でとある噂を耳にしまして。」

 

「ふむ。それはなんですか?」

 

「はい。それがどうやら幻想郷のあちこちで地獄と同じことが起きてるらしいんですよ。」

 

「つまりどういうことだ。」

 

「向こうにも強いやつに近づく輩がいるってことだよ。」

 

「なるほど……厄介ですね。もしもその人が地獄に現れた者と同一人物だとしたら放っておくわけにもいきません。すぐに対処を考えなければ。」

 

「何をそこまでする必要がある。別にそこまで危険なわけでもないだろう。」

 

「甘い!そもそも本来は死人以外はあの川を渡って地獄に来ることは出来ないはずなんです!にもかかわらずに川を行ったり来たり出来る人物なんて貴方を除いて他に存在しません!つまりその人物はただ者ではないということです!だから私たちが対処しないと万が一のことがあってからでは__」

 

「もういい、わかった!」

 

「人の話は最後まで聞きなさい!そもそも貴方は!」

 

「あちゃ~こりゃ長くなるね……。」

 

 いつものように映姫の説教が始まってしまいブロリーはがっくりと肩を落としたのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

謎の人物を追って 道具屋香霖堂へ

 捜索を始めてからホウレンと霊夢は様々な場所へ足を運んでみたがなかなか手がかりを見つけることが出来ないでいた。

 そこで二人は強者が揃っている紅魔館へ足を運ぶと、門の前で話をしている悟空と美鈴の姿があった。

 

「おーい悟空ー!」

 

 ホウレンの呼びかけに気づいて悟空と美鈴は二人の方へ歩いてきた。

 

「ホウレンに霊夢じゃねえか。なんでここに?」

 

「ちょっと今人探しをしててさ。悟空たちの所には来てないか?闘いを挑んでくる女。」

 

 悟空と美鈴はお互いの顔を見合わせて考え込んだ。

 

「オラのとこには来てねえぞ。」

 

「私もです。その女性がどうかしたんですか?」

 

「ええ。実はね__」

 

 霊夢は事の成り行きを二人に話した。

 

「__と言うわけよ。」

 

「なるほど、確かにこの間の異変のことを思うとその女性はとても怪しいですね……。」

 

「でしょ?だから今ホウレンと二人であちこちを探し回ってるんだけど、なかなか見つからないのよねー……。」

 

 二人がそう話している間に悟空はホウレンに楽しそうに聞いてきた。

 

「なあなあ、その女ってつえぇのかな?」

 

「さあ、どうだかな。会ってみないと分からねえけど……。」

 

「オラのとこにも来てくんねえかなぁ!」

 

 心から言っているのであろう。ワクワクした様子の悟空にみんなは呆れかえった。

 

「貴方は相変わらずね。もしも貴方のところに現れたら倒しちゃってもいいわよ?」

 

「ほんとか!やったー!」

 

「いいのか?」

 

「ええ、だってこの人貴方よりも強いんでしょ?だったら何の心配もいらないじゃないの。」

 

「ああ~……それもそうだな。」

 

 霊夢の言うとおりホウレンは超サイヤ人の壁を越えたとはいえ、まだ悟空には敵わないのだ。だからホウレンも霊夢の言葉に納得せざるを得なかった。

 

「でも一つだけ覚えといて欲しいんだけど、もし噂の女が凶悪だったり、実力が強かったりした場合は出来れば捕まえて私の所に連れてきてくれないかしら?」

 

「オラは構わねえけど、なんでだ?」

 

「情報を聞き出したいのよ。もしもアスイと関わりがあるとしたら幻想郷を狙ってる可能性だってあるわ。それを未然に防ぐためにはどんなものでもいいから情報が欲しいのよ。まあ勿論?噂の女がアスイとはまったくの無関係って可能性も十分にあり得るけど……。」

 

「……わかった。覚えとく。見つけて、もしわりいやつだったり、つええやつだったりしたらおめえのとこまで連れてけばいいんだな?」

 

「ええ、お願い。それじゃあ私たちはそろそろ行くわ。」

 

 霊夢が立ち去ろうとしたその時、悟空は霊夢を呼び止めた。

 

「なあ!今の話ベジータにも教えていいか?」

 

 霊夢は少し考えると一人の人物が頭に浮かんだ。

 

「ベジータって……あの永遠亭にいる人?」

 

「そうそう。実は今日久しぶりに組手の相手を頼んでてさ。あとから来るんだよ。」

 

「……あの人の実力は知らないけど貴方と組手が出来るってことは強いのよね?だったら言ってもいいわ。」

 

「よかったー!もし言わなかったらあいつその女のこと殺しちまうかもしんねえかんなぁ……。」

 

「あいつ、手加減ねえもんな。」

 

「だったら尚更言っておいてよ?死体なんて渡されても困るんだから。じゃあ今度こそ行くわ。」

 

 霊夢は悟空たちに背中を向けて飛んで行った。ホウレンは悟空たちに軽く手を挙げて別れを告げてから霊夢を追いかけた。

 

「気ぃ付けろよー!」

 

「霊夢さん、ホウレンさん、頑張ってくださーい!」

 

 悟空と美鈴の言葉を聞きながら二人は次の目的地へと一気に加速していった。

 

 ~人里~

 

 二人が次に来たのは人里だった。人里の強者など限られているが情報は集まりやすいと考えたのだ。二人は人里に着くとすぐに二手に分かれて情報を探し始めた。

 だが噂を聞いたことはあるが見た者はなかなか見つからず、ホウレンはやれやれといった具合に頭をかいた。

 

「全然情報が集まんねえな。おいあんた!」

 

 ホウレンは近くを通りかかったおじさんに声をかけた。

 

「なんか用か?兄ちゃん。」

 

「ちょっと聞きたいことがあってよ。最近ここいらで聞くっていう噂についてなんだけどよ。」

 

 おじさんは少し考えると何かを思い出したのか、手をポンと叩いた。

 

「ひょっとしてあの噂のことか?」

 

「そうそう!その噂について知ってることを教えて欲しいんだけどいいか?」 

 

「おう、いいぞ。確かそいつは少し前にやって来たみたいでな。里でも見かけることがあるらしい。」

 

「里にも現れるのか。」

 

 謎の人物は人里にすら現れる。これは大きな収穫かもしれないと考えた。

 

「見かけるだけじゃねえ、里に来て二人で飯を食ってたって話も聞いたことがあるな。」

 

「二人?噂のやつは一人だけじゃないのか?」

 

 自分が知っている噂と少し違う話にホウレンは顔をしかめた。

 

「何言ってんだ。最初からそいつらの噂の話をしてんだろ?話を続けるぞ。なんとその二人は一緒に住んでいるかもしれねえらしいんだ。」

 

 

 

 

「……ん?」

 

 おじさんの言葉にホウレンは一瞬反応が遅れた。おじさんが話す内容がどこか自分が知りたがっている情報と違っていたからだ。

 

「それどころじゃねえぞ?どうやらそいつは他の女とも仲良く里を歩いてたらしい。」

 

「ちょっと待て、あんた一体なんの話を……?」

 

「いやーまさか博麗の巫女様に男が出来るなんてなぁ。」

 

 ここでホウレンはおじさんが誰のことを指した噂を言っているのか気づいた。しかしそれは明らかな誤解であるということもだ。その噂の内容にホウレンは頭が痛くなる。

 

「しかし博麗の巫女様というものがありながら他の女と浮気なんざ、度胸のある男だぜ。」

 

「……おっさん、その噂なんだけどさ。俺が聞きたいのと違うやつだ。……それとその噂なんだが……誤解__」

 

「ホウレン。情報が入ったわよ。」

 

 噂の内容が勘違いであることをおじさんに伝えようとするとそこに霊夢が現れた。

 あまりのタイミングの悪さにホウレンは顔を引きつらせた。

 

「ちょっと?なんて顔してんのよ。ほら、さっさと行くわよ。」

 

「おまえ、なんつータイミングで出てきてんだ……!」

 

「はぁ?何言ってんだか知らないけど、急ぎなさい。早くしないと逃げられちゃうわよ!」

 

「待て!今重要な訂正をこのおっさんにしなくちゃいけなくてだな……っておい!聞けって!」

 

 ホウレンの抵抗空しく霊夢に腕を掴まれ半ば引きずられるようにその場からいなくなった。

 残されたおじさんはその姿をポカンとした表情で見送った。

 

「なんだ、あの兄ちゃんが噂の男だったのか。……ひょっとしてあの兄ちゃんが聞きたがってたのって別の噂のことだったか?」

 

 ようやくここでおじさんは内容の食い違いに気が付くのだった。

 そしてホウレンは訂正を諦めて霊夢の後ろをついて飛んでいた。

 

「はぁ……まさか、あんな噂が流れてるなんてな。あれじゃあ俺が最悪な野郎じゃねえか……。」

 

「なんの話?」

 

「なんでもねえ。そのうち誤解が解ける日が来るさ。……多分。」

 

 霊夢はホウレンの言葉に首を傾げるがまあ大したことないだろうと判断し、再び前を向いて飛び始めた。

 

「それはそうと、今度はどこに向かってんだ?」

 

「魔法の森よ。さっき慧音から話を聞いたんだけど、どうやら悟飯のところに噂の女が現れたらしいわ。なんかよくわかんないことをべらべらと話してからこっちの方角へ姿を消したってね。」

 

 ホウレンが話を聞いて回っている間に霊夢はしっかり情報を掴んできたようだ。

 

「そうか……ようやくまともな情報が入ったってわけだ。」

 

「そういうこと。……ってことでまずは魔法の森の入り口、香霖堂へ向かうわ。」

 

「香霖堂?どこだよそりゃあ。」

 

「ついて来ればわかるでしょ?そこで最初にそこの店主、霖之助さんに話を聞くわ。」

 

「霖之助……か。ちなみにそいつは強いのか?」

 

「いえ全然。でもまあ人間と妖怪のハーフだから一般人よりは強いかもね。」

 

「そうか。じゃあそいつが襲われることはなさそうか……いや待てよ?なあそいつって顔はどうなんだ?」

 

「え?うーん……そこそこ整ってるんじゃないかしら。でもどうして?」

 

「噂の女って確か強い力を持ったやつと他になぜか顔がいいやつの所にも来るんじゃなかったか?だったらその霖之助ってやつもあぶねえかもしれないぞ。」

 

「……完全に忘れてたわ。ただの噂のおまけくらいにしか考えてなかったけど、確かに貴方の言うとおりだわ。霖之助さんの所に急ぎましょう。」

 

「ああ。」

 

 二人はスピードを上げて香霖堂へと飛んで行った。

 

 ~香霖堂~

 

 香霖堂。ここでは冥界や妖怪が使う道具、更に魔法の道具だけに限らず外の世界の道具までも販売している幻想郷唯一とも言える店だ。

 ここの店主、森近霖之助はこの間の凍界異変の際に氷の魔人からの被害を受けて店の周りがボロボロになってしまい、その後片付けをようやく終わらせたようだ。

 

「やれやれ、やっと片付いたか。ようやくこれで一休みできそうだ。」

 

 霖之助はお茶を入れると椅子に腰かけてそれを飲んだ。

 すると香霖堂の扉が勢いよく開き、霖之助は驚いてお茶を噴き出した。

 

「霖之助さん!無事!?……って何やってんのよ。」

 

「げほっげほっ!い、いや気が抜けたところに突然人が来たもんだから驚いてしまってね。」

 

 霖之助は手ぬぐいで零したお茶を拭き取り始めた。その様子を見て霊夢とホウレンは安心した。

 

「その様子なら無事みたいね。安心したわ。」

 

「うん?何のことだい?」

 

「いいえ、こっちの話。それよりも聞きたいことがあるんだけど、いいかしら?」

 

「ああ、構わないよ。とその前に、そちらは?」

 

「俺はホウレン。霊夢の所で世話になってるサイヤ人だ。」

 

「そうか君が。霊夢や魔理沙から話は聞いているよ。この霊夢に勝ったんだってね。大したもんだよ。」

 

「へへっまあな。」

 

「霖之助さん余計なこと言わないで!あんたも調子に乗らない!」

 

「わりいわりい、霖之助……でいいか?」

 

「好きに呼んでくれて構わないよ。」

 

「そうか、じゃあ霖之助。俺たちがここに来たのはちょっと人を探しててな。ここら辺に変な女が来なかったか?」

 

「私たちはそいつを探してるの。情報があったら教えて頂戴。」

 

「変な女……と言うのは知らないがさっき変な男なら来たよ。」

 

 いきなり情報が違うことにがっかりしながらも霊夢は霖之助に質問した。

 

「それってどんな?」

 

「ああ、急に店に入ってきて妙な話を振ってきたんだ。『人としての限界。常識を超える力を手に入れてみたくはないか?』ってね。」

 

「それで、おまえはどうしたんだ?」

 

「もちろん断ったさ。見るからに怪しかったからね。」

 

「妙な話を振ってくる男……。ひょっとして今回の噂って実は二人いたのかしら?」

 

「わからん、でも噂の女と似たようなことをやってる辺り無関係ではなさそうだ。」

 

「そうね。霖之助さん、そいつがどこに向かったかわかる?」

 

「その男なら森の奥へ歩いて行ったよ。止めたんだけど聞かなくてね。」

 

「よし、行こうぜ霊夢。」

 

「ええ。霖之助さん、ありがとね。さあ行くわよホウレン!私の後についてきなさい!」

 

「おう!じゃあな霖之助!」

 

 二人はドタバタと店を出て走り去った。

 

「……なんだったんだ?」

 

 霖之助は首を傾げながらも再び椅子に座り、お茶を飲みなおしたのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

噂の人物発見!魔理沙たちの連携

 ここは魔法の森。未だ氷があちこちに残った森の中をホウレンと霊夢は走り回っていた。

 途中氷で足を滑らせて転んだり、いつもと違う森の様子に軽く迷ったりもしながら二人は進んでいた。

 

「霊夢!おまえの勘って本当にあてにしていいんだよな!?かれこれ30分くらい走ってる気がするんだが!」

 

「しょうがないでしょ!森の様子がいつもと違うから道がよくわかんないのよ!」

 

「飛んで探すのはだめなのか!?」

 

「そんなことして相手に見られて逃げられたら意味ないでしょ!」

 

「つーかもうこの森にいないんじゃねえのか!それといった気も感じねえしさあ!」

 

「私の勘を信用しなさい!これでも結構当たる方なんだから!」

 

 仕方なく霊夢を信じて走り続けると森の奥から人の声が聞こえてきた。

 

「霊夢!今の声……聞こえたか!?」

 

「ええ、誰かいるわね……!早くいくわよ!」

 

 そのまま声のする方向へ疾走するとそこには魔理沙とアリス、そしてパラガスの三人組と見知らぬ女性が話をしていた。

 桃色のポニーテール、大きな目をした可愛らしい顔立ち、薄紫色のワイシャツにデニムのズボンを着ているその女性は幻想郷に住む人たちとは明らかに違った服装をしていた。

 

「霊夢?それにホウレンも、なんでこんな所に?」

 

 不思議そうに尋ねてきたのは魔理沙だ。他の二人の同様に霊夢とホウレンを不思議そうに見ていた。

 だが相手の女性は常に表情を崩さずにこちらの様子を笑顔で見ていた。

 

「あんたたちこそ……ここで何してるのよ。」

 

「私たちか?私たちはちょっと三人で魔法の材料を探しに来たんだけど、今あいつに声をかけられてさ。ちょっと話を聞いてたってわけだ。」

 

「霊夢たちはそんなに急いでどうしたの?」

 

「ちょっと人里から人を追ってきたのよ。」

 

「迷子になりながらな。」

 

「余計なこと言わない!」

 

「いで!?殴ることないだろ!ほんとのことじゃねーか!」

 

「ほんとのことでもわざわざ言わなくていいのよ!」

 

「相変わらずおまえたちは仲がいいなー。なあパラガス?」

 

「そうだな。微笑ましいものだ。」

 

「そろそろこっちの話の続きをしていいかな?」

 

 ホウレンと霊夢が騒いでる間に謎の女性は魔理沙たちに話を振った。

 

「あ、わりいな。待たせちまってさ。」

 

「構わないよ。それでボクが聞きたい話なんだけれど__八雲紫について教えて欲しいんだ。」

 

 考えもしなかった問いかけに一同は一斉に女性を見た。

 女性は全員の視線を受けながらもニコニコと笑っていた。

 

「この幻想郷において八雲紫を知る者は強者だけ。そしてあなたたちから感じる力は並大抵のものじゃない。ならば八雲紫についても何か知っているんじゃないかな?」

 

「……私たちの力がわかるのか?」

 

「もちろん。いくら抑え込んでいても溢れる力はごまかしきれないもんね。あなたたちの力は間違いなく今まで話を聞いてきたやつらとは次元がちがう!とても綺麗で美しいものを感じるんだ。」

 

 霊夢は女性の言葉を聞いて確信を持ち、魔理沙の前に出て女性と対峙した。

 

「お、おい霊夢?」

 

「……その口ぶりからすると間違いないわ。あんたが噂の女ね。」

 

「へえ?ボクが噂になっているのかい?」

 

「ええ、最近強いやつや顔が整ったやつの前にだけ現れるって噂よ。心当たりあるでしょ?」

 

「……ふむ、確かにそれはボクだ。あなたたちはボクを探してここまで来たってことかい?」

 

「そういうことになるわね。あなた名前は?」

 

「ボクはファトムだよ。あなたは?」

 

「私は博麗霊夢。貴方から話を聞かせてもらうわよ。なんで紫のことを知りたがってるわけ?」

 

「それは秘密だよ。今はまだ教えられないからね。」

 

「じゃあ他の質問。強者はともかく、なんで顔のいいやつにまで声をかけてたの?」

 

「美しいものを見るとつい話しかけたくなるんだ。つまりただの趣味だね。」

 

「趣味かよ!」

 

「うるさいわよホウレン、急に叫ばないでよね。……それじゃあ最後の質問。あなたは幻想郷の敵?それとも味方かしら?」

 

「ストレートな質問だね。でもそのまっすぐさはボク好みだ。純粋で美しい。」

 

「あなたの好みなんてどうでもいいわ。早く答えなさい。」

 

 ファトムはかかった前髪を手で直しながら口元に小さな笑みを浮かべて答えた。

 

「……敵…といったらどうする?」

 

 その瞬間、ファトムの体から桃色の気が溢れ出てきた。その姿を見て全員が身構えた。

 

「やっぱりね。男は見つからなかったけど、もう一人の方は見つけたわ!ホウレン!こいつを捕まえて神社に連れて帰るわよ!」

 

「おう!」

 

 するとやる気を出して構える霊夢たちの肩に魔理沙が手を置いて後ろに下がらせた。

 

「お二人さんは下がってな。あいつは私たちが相手をする。」

 

「はあ!?」

 

「何が何だかわからないけど、私たちってことはとうぜん私も含まれてるのよね。」

 

「ちょっとアリスまでどういうつもり?」

 

「さあね。魔理沙に聞いて頂戴。」

 

 そう言われて霊夢はすぐに魔理沙をじろりと睨むと魔理沙はニッと笑って答えた。

 

「だってさ。あいつはもともと私たちに話を聞いてきたんだぜ?だったら闘うのも私たちが先ってことでいいだろ?霊夢とホウレンはそこで私たちの闘いを見ててくれよな。ほらパラガスもいくぞ!」

 

「やれやれ俺もか。仕方あるまい。ホウレン、悪いが俺たちが先に闘わせてもらうぞ。」

 

「俺は別に構わねえけどさ。大丈夫なのか?」

 

「心配することはない。我々もこの間の異変で更に強くなったのだ。それを見せてやろう。」

 

 そして魔理沙を中心にアリスとパラガスが隣に並び立ってファトムと対峙したのだった。

 

「ああもう、わかったわよ!あなたたちに任せるわ。絶対に殺しちゃだめだからね?」

 

「わかってるよ。待たせたなファトム。私たちが相手になるぜ!」

 

「あまり美しくないね。三人がかりでボクを倒すつもりかい?」

 

「お望みならば私一人で闘ってやってもいいけど、おまえ隙を見て逃げ出しそうだからな。念のために三人で逃げ場を失くさせてもらうぜ。」

 

「あらら、そこまでバレちゃってたか。仕方ない、あなたたちを全員倒して八雲紫の情報を聞かせてもらうとしようかな。」

 

「倒せるもんならな!まずは様子見をさせてもらうぜ!」

 

 そう言うと魔理沙は無数の弾幕をファトム目掛けて放った。その弾幕の密度は大したものではないが少なくともそこいらの妖怪では受けきれない程度のものであり、普通の人間ならば避けることすらできないはずだ。

 だがファトムは避けようとも防ごうともせずに棒立ちのままでいた。

 

「なかなか力強くて美しい弾幕だね。でもその程度の量じゃ様子見にもならないかな。」

 

 するとファトムは魔理沙の弾幕をすべて両手で受け流して見せた。しかもその場から一切動かずにだ。それを見た魔理沙たちはファトムがただ者ではないことに気が付いた。

 

「手加減してるとは言え、私の弾幕を軽く受け流すなんてな。」

 

「まあね。ボクこんな見た目だけど結構強いと思うよ?だから全力で闘って欲しいかな。」

 

「この状況で相手に全力を出して欲しいなんて、変な奴だな。」

 

「そんなことないさ。どうせ闘うんだ、それならあなたたちの一番美しい所を見てみたい……ただそれだけだよ。」

 

「やっぱ変だぜおまえ。でもそれが望みなら私たちも全力を見せてやってもいいぜ……!」

 

 そう言った魔理沙に合わせてアリスは魔力をパラガスは気を最大限まで高めて見せた。

 それを見たファトムはとても嬉しそうに笑った。

 

「ああ……いいね!気分が高揚してきたよ!」

 

「おまえも力を見せたらどうだ?私たちの力がわかるなら、手加減なんかする余裕はないはずだぜ。」

 

「そうだね。じゃあボクも本気で闘わせてもらおうかな!」

 

 するとファトムの気が一気に膨れ上がり、辺り一帯の落ち葉が吹き飛んだ。 

 魔理沙とアリスは気を探ることが出来ないため、パラガスに小声で反応をうかがう。

 

「パラガス。あいつの力……わかるか?」

 

「……ああ。強いな。正直言って俺たち三人よりも力は上かもしれん。」

 

「ちぇ、また格上が相手かよ。世界って広いな……。」

 

「でも三人でたくさん練習したじゃない。やってみましょ?それに私たちがもしやられたとしても、後ろにはあの二人もいるわけだしね。」

 

「ぐぬぬ、それは嫌だ。絶対に私たちだけであいつを倒してやる……!」

 

「その意気だ。いくぞ。」

 

「おう!」

 

「話は終わったかな?じゃあ始めよっか!あなたたちの最高の姿を見せてもらうよ!」

 

 その言葉と同時に闘いの火蓋は切って降ろされた。最初に動いたのはパラガスだった。

 パラガスはファトムに肉弾戦で挑み、激しくぶつかり合った。

 

「おじさん、なかなか強いね。そこいらの妖怪なんかとは比べ物にならないよ。」

 

「余裕で受け流しながらよく言う。だがこれでは終わらんぞ!ハァ!!」

 

「!!」

 

 パラガスは攻撃の手を一瞬だけ止めて地面に向けて気弾を叩きつけた。

 それによって大量の土煙が舞い上がり視界が悪くなる。

 

「目隠しか……。気も上手く消して姿をくらませている。闘い慣れてるね。でもこんなのすぐに振り払ってあげるよ!」

 

 ファトムは全体に向けて気合を放ち、土煙を振り払うとファトムの周りをアリスの人形たちがぐるりと囲んでいた。

 

「かかりなさい!」

 

 人形たちはアリスの掛け声と同時に全方向から一斉に突撃していった。

 だがファトムはその不意の攻撃にも動揺せず、一体一体攻撃をいなしていった。

 

「なるほど、最初の目くらましはこのためだったんだね。でもこれじゃあボクは倒せないかな。」

 

「それはどうかしら?それ!」

 

 アリスは思いっきり手を引いて見せるとファトムの体が何かに縛り付けられたように棒立ちになった。アリスは人形たちを操る糸を極限に細く強靭なものへと変えていたのだ。

 それを全方向から突撃させたことによって、ファトムに気が付かせずに糸を張り巡らせていたのだ。

 

「これは……!」

 

「今よ!魔理沙!」

 

 最初の土埃と同時に姿をくらませていた魔理沙がファトムの頭上に現れ、魔力が十分に溜まった八卦炉を向けた。

 

「はぁああああ!!」        星符『ドラゴンメテオ』

 

「っ!くっ、動けない!!うわああああ!!」

 

 糸に縛られたファトムは身動きが取れずに真上から振ってくるマスタースパークをまともに受け止めてしまい、周囲に爆風が起こる。

 これで決着かと思ったその時、煙の中からボロボロになったファトムが魔理沙に向かって飛んできた。

 

「なっ!?」

 

「たあ!!」

 

 そしてそのままファトムは魔理沙の持っていた八卦炉を蹴り落としそのまま魔理沙を蹴りの連撃で木に叩きつけて、再び地面に降りてきた。

 

「あ…あれを食らってまだピンピンしてんのか?」

 

「ピンピンなんかしてないさ。だいぶダメージを負ってしまったよ。素晴らしい連携攻撃だった!凄く美しかったよ!でもこれ以上攻撃が当たってしまったらボクも無事じゃ済まなそうだからね。さっきの道具がなければあなたはあれを撃てないはず。ボクの勝ちだよ。」

 

「へっ、残念だけどまだ勝負はついてないぜ!いくぞパラガス!」

 

「ああ!」

 

「まだ諦めないんだね。やっぱりあなたたちは凄く美しい戦士だ。だからその意気に免じてボクがとどめを刺してあげるよ!」

 

 魔理沙とパラガスは左右から遠距離の弾幕と近距離の肉弾戦でファトムを攻めていく、さきほどのマスタースパークのダメージもあってか、ファトムは攻撃を完全に受け流すことが出来なくなってきていた。

 だがファトムは残った力でパラガスを蹴り飛ばし、エネルギー弾を放って魔理沙を吹き飛ばした。

 

「さあ、これで終わりだ__ッ!!?」

 

 手始めにパラガスにとどめを指そうとしたファトムだったが、突然高威力の閃光がファトムを後ろから襲い、ファトムを吹き飛ばした。

 ファトムは地面に倒れながらもなんとか閃光の出どころを見ると、そこには先ほど落とした八卦炉を構えたアリスが立っていた。

 

「な……なんであなたが……その道具を?」

 

 困惑するファトムに魔理沙が歩み寄ってきた。

 

「……さっき私とパラガスがおまえに攻撃を仕掛けたときにアリスが人形を使ってこっそり自分の所に運んだんだ。そしてアリスの魔力でマスタースパークをおまえに撃った。作戦成功だな。」

 

「ええ。でもこれやっぱりきついわ……。魔力が一気に抜けちゃうんだもの。」

 

「もしもの時の作戦まで使うことになるとはな。一対一では俺たちに勝ち目はなかっただろう。だがあえて言わせてもらうとしよう。この闘い、俺たち三人の勝利だ。」

 

 ファトムはその言葉を聞くとクスクスと笑いだした。

 

「……うん。降参だよ。あなたたちの美しい絆、見せてもらったよ。……ボクのことは好きにするといい。」

 

「だとさ。霊夢、連れてっていいぜ。」

 

「まったく、見ててひやひやしたわ。もうちょっと余裕で勝ってよね。」

 

「無茶言うなよ。この女めちゃくちゃ強かったんだかんな。」

 

「知らないわよ。こんな女アスイとかに比べれば弱いでしょ?」

 

 言い合っている二人に倒れたままファトムが話しかけてきた。

 

「……あなたたちさっきから勘違いしているみたいだけどボクは一応『男』だよ?」

 

 その瞬間全員がポカンとした表情でファトムを見つめた。それもそのはず、見た目はどこをどう見ても女性にしか見えない容姿をしていたからだ。

 

「……おまえ、男だったのかよ!ってことはあれか!?霖之助が言ってた男ってこいつのことだったのか!?」

 

「霖之助さん、よくこの人が男だってわかったわね……。正直驚いたわ。でもそれならそうと説明くらいしてくれればよかったのに」

 

「なあ霊夢、こいつを捕まえたら例の噂は解決なんじゃねーか?」

 

「それもそうね。あなた、悪いけど私の神社で話を聞かせてもらうからね。ホウレン、この人運んできて。」

 

「へいへい、よいしょっと!」

 

 ホウレンはボロボロのファトムを背中に乗せてパラガスたちを見た。

 

「みんなありがとな。あとは任せといてくれ。」

 

「わかった。後始末は私たちがしとくからそいつは任せたぜ。」

 

「おう、じゃあな!」

 

 魔理沙たちの手によって噂の人物を捕まえることに成功した霊夢とホウレンはファトムを連れて博麗神社へと戻るのだった。二人はファトムから情報を聞き出すことが出来るのであろうか?

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

仕掛けられた罠 暴走する村人を止めろ!

 魔理沙たちの協力によってファトムを捕まえた霊夢とホウレンは博麗神社に戻り、縛り付けたファトムから情報を聞き出そうとしていた。

 

「こんだけきつく縛っとけば抜け出せないだろ。」

 

「そうだね。ボクもこれじゃあ動けそうにないや。」

 

「さて、聞かせてもらおうじゃないの。貴方が強者に声をかけていたのはなぜ?」

 

「この世界の強者に興味があった。って言ったら信じてくれるかな?」

 

「半信半疑ってところね。だって貴方、紫のことも聞き出そうとしてたじゃない。」

 

「そうだね。ボクはもともと八雲紫に興味があっただけさ。この幻想郷の賢者だなんて一度お会いしてみたいものだよ。」

 

「本当にそれだけかしら?」

 

「どういうことだよ。」

 

「どうもこうもないわ。紫のことを知っている人間なんて限られてる。しかもこの人はどう見ても外来人だわ。外来人が紫の存在を知っているなんてありえないことだもの。」

 

「確かに……。待てよ?じゃあなんでこいつは紫のことを知っていたんだ?」

 

「それを今聞き出そうとしてるんじゃない。わかったら黙ってなさい。ってことで貴方に質問よ。なんで紫のことを知っているの?そしてどうやって幻想郷に来たのかしら?答えなさい。」

 

「残念だけど、どちらも答えられないかな。ボクにだって秘密があるからね。」

 

「いいから答えなさい!正直に答えたらもしかしたら無罪放免かもしれないわよ?」

 

「ないな。」

 

「ないね。」

 

「あんたねぇ……!っていうかホウレン!貴方まで言わなくていいのよ!」

 

「だってよ。おまえ絶対に逃がすつもりないだろ?」

 

「当たり前じゃないの。」

 

「ほらみろ!最初っから逃がす気がねえならあんなこと言うなよな。」

 

「まったくだよ。まあ話すつもりはないんだけどね。ああでも一つだけあなたたちに情報を教えてあげるよ。」

 

「?急に何よ。いったい何の情報を教えてくれるわけ?」

 

「ボクね。人里の人間にも声をかけたんだ。なぜかは教えないけど急いで向かったほうがいいかもね。」

 

「……何を言っているの?」

 

「早くしないと、手遅れになっちゃうかもよ?」

 

 そう言ってファトムはニヤリと笑みを浮かべた。霊夢はその瞬間嫌な予感がして振り返った。

 

「ホウレン!急いで人里に向かう準備をして!」

 

「え?どうしたんだ?急に。」

 

「私はこの人を一時的に封印するわ!外で待ってて!」

 

「わ、わかった。先に出てるぞ!」

 

 切羽詰まった様子の霊夢に動揺しながらもホウレンは霊夢の言うとおりに境内に出て体をほぐして霊夢を待った。

 すると数分ほどが過ぎて霊夢が神社から出てきた。

 

「待たせたわね、急いで人里に向かうわよ!」

 

「おう、飛びながら説明してくれよ!」

 

 二人は急いで人里に向かって飛び出した。道中霊夢はホウレンに説明を始めた。

 

「さっきの話聞いてたでしょ?」

 

「人里の人間にも声をかけたって話か?だったら聞いたが、それがどうしたんだ?」

 

「その後よ!あいつは最後にこう言ったわ。『手遅れになっちゃうかもよ?』ってね!つまりあいつが話しかけた人に何かを仕掛けた可能性があるわ!」

 

「そういうことだったのか……!でもあいつは?一人にしちまって大丈夫なのか?」

 

「私が出る前に封印を施してきたから大丈夫のはずよ!あいつの力じゃ解くことは出来ないわ!」

 

「そうか、だったら逃げられる心配はないってわけか!」

 

「そういうこと!さあ急ぐわよ!遅れないでよね!」

 

「おう!」

 

 数分後。人里に着いた二人は里の様子を二人で確認する。

 すると里が少し騒がしいことに気が付いた。

 そこで二人は走ってきた人間から話を聞くことにした。

 

「ねえそこの貴方!ちょっと話を聞かせてくれないかしら?」

 

「は、博麗の巫女様!ちょうどよかった!」

 

「何があった?」

 

「それが里の人間の一人が急に様子がおかしくなって里のみんなを襲い始めたんです!しかも物凄い強さで……!」

 

「わかったわ。そいつは今どこに?」

 

「あの向こうです!どうかこの騒ぎを鎮めてください!」

 

「任せなさい。いくわよホウレン!」

 

 二人は村人の話に聞いた場所へ向かって走り出した。そして角を曲がるとそこには最早人間と言えるかすら怪しい男が里で暴れていた。

 男は筋肉が異常に膨れ上がっていて体の大きさが通常の人間の数倍になってしまっていた。

 血走った目で辺りを破壊する姿は妖怪よりも妖怪らしい姿とも言えるだろう。

 

「はっはっは!破壊だ!破壊だ!破壊破壊破壊破壊ぃ!!」

 

「なんだありゃ!?本当に人間か!?」

 

「あいつ……!あの人間になにをしたってのよ!?」

 

 二人が人間の変貌に動揺しているとそこに悟飯と慧音が現れた。

 

「だぁあああーー!!」

 

 悟飯は暴れる男の背中を蹴りつけた。

 

「うぎゃ!?クソガキ!痛ぇじゃねぇか!」

 

「何があったか知らないが里の者を傷つけるのは許さん!私と悟飯でおまえを止める!」

 

「あん?てめえ寺子屋の先生じゃねえか。へっへっへ、そんなガキと一緒に俺を止めるだと?笑わせんなよ、先生?今の俺は人間の力を遥かに超えてるのさ!常識なんぞじゃ図れないほどにな!はーはっはっは!!」

 

「悟飯!オレたちも力を貸すぜ。」

 

「ホウレンさんに霊夢さん!ありがとうございます!」

 

「さっさと片付けるわよ!」

 

「あれでも里の人間だ、出来れば殺さないでくれると嬉しい。出来るか?」

 

「仕方ないわね!聞いたわね、ホウレン!手加減していくわよ!」

 

「了解だ!はぁあああ!!」

 

 ホウレンと悟飯は超サイヤ人にならずに気を高めた。そして二人で男に突撃して顔面を殴りつけた。

 

「ごあ!?この野郎!」

 

 男はよろけながらもホウレンに殴り掛かり反撃を試みた。だがそれは敵わず、両足を霊夢と慧音によって蹴り崩されて倒れこむ。

 そこにすかさず悟飯が空から急降下して倒れた男の腹を両足で踏みつける。

 

「ごふっ!!くっ、て…てめぇら!調子に乗りやがってぇええ!!」

 

「見た目通りタフな奴だな。さっさと降参した方が痛い目に合わなくて済むぜ?」

 

「この力を持ちながら降参だと?あり得ねえな!俺はここでてめぇらを皆殺しにしてやるぜ!そして俺が幻想郷の頂点に立つんだ!はーはっはっはっは!!」

 

「呆れた。力の差もわからないのね。慧音。残念だけどこいつはもう人間じゃないわ。私が退治する。」

 

「……そうか。わかった。やってくれ……。」

 

 男の様子を見てもう手遅れと判断した霊夢は男を退治することを決めた。それはすなわち男を殺すということでもあった。

 非情かもしれないがこれもまた博麗の巫女の役割なのだ。

 

「今私が楽にしてあげるわ。覚悟しなさい。」

 

「覚悟するのはおまえだってーの!俺が幻想郷最強だ!」

 

「__邪魔だ。」

 

「「え?」」

 

 霊夢と男が闘いを始めようとしたその時、男の後ろから別の男の声が聞こえてきた。

 すると次の瞬間、暴走していた男は頭に重たい一撃を食らい地面に減り込んだ。

 男を殴りつけたのはなんとブロリーだった。

 

「この程度で幻想郷最強だと?笑わせるな、クズが。」

 

「な……何者だ……?」

 

「……ただの獄卒だ。」

 

「ご…獄卒……?ち…ちくしょう!この俺がてめえみたいなやつにこんな……!!」

 

「さっさとくたばるといい。」

 

「ぐぇっ!!」

 

 そしてブロリーは男を踏みつけると男はそのまま絶命し、動かなくなった。

 

「ブロリーじゃねえか!パラガスから聞いてたけど本当にいたんだな!」

 

「ホウレン!?それに悟飯も、なぜおまえたちが幻想郷にいる?」

 

「俺たちだけじゃねえよ、悟空にベジータ、ピッコロにトランクスも一緒だ。」

 

「……カカロットたちも来ているのか……。ということはおまえたちもあの妙な空間に巻き込まれたのか?」

 

「少なくとも俺はそうだよ。でも悟空たちは違う目的で来たらしいぜ?」

 

「話の途中にすまない。ブロリーさんと言ったか?あいつを止めてくれてありがとう。」

 

「俺はただ目ざわりなやつを消しただけだ。礼を言われる覚えはない。」

 

「だったら一方的に感謝させてもらおう。」

 

「……好きにしろ。」

 

「実際助かったわ。私が手を汚さずに済んだしね。ありがと。」

 

「霊夢か……ちょうどいい。おまえを探していたところだ。」

 

「なに?私に用があってわざわざ地獄から来たの?」

 

「そうだ。映姫から頼まれてな。この辺で強者に声をかけてまわる男を知っているか?」

 

「ええ、知ってるわよ。ていうかさっき捕まえたばかりよ。」

 

「何?もう捕まえていたのか。そいつはどうした?」

 

「今は私の神社で一時的に封印しているわ。あいつがどうかしたの?」

 

「ああ……実はな。」

 

 ブロリーは地獄で起こっていたことと映姫から頼まれた内容をすべて話した。

 

「なるほどね。あいつ地獄にまで顔を出してたってことね。でもそういうことならもう解決じゃない?」

 

「確かにな。そいつの始末はおまえに任せていいか?」

 

「最初からそのつもりよ。私たちで対処するからって映姫に伝えといて頂戴。」

 

「いいだろう。伝えておく。じゃあな。」

 

 ブロリーは踵を返して霊夢たちの前から去ろうとした。

 

「待てよ、ブロリー。久しぶりに会ったんだ。一緒に飯でも食っていかねえか?報告はそれからでもいいだろ。」

 

「断る。おまえたちと仲良く飯を食う気はない。」

 

「そう言うなよ。な、悟飯と慧音もどうだ?」

 

「はい、ボクはいいですよ。」

 

「私はこいつの後始末をしなくてはならないから遠慮しておこう。」

 

「そうか?悪いな。」

 

「なに気にするな。ゆっくり食事を楽しむといい。」

 

「霊夢はどうする?」

 

「そうね。もうお昼過ぎだしあちこち飛び回ってお腹もすいちゃったから私も食べていくわ。」

 

「だってさ、ブロリーもいこうぜ?どうせ地獄に戻ったってすぐに次の仕事だろ?」

 

「……はぁ。わかった。オレも行こう。」

 

「へへ、そうこなくちゃな!よし行こうぜ!」

 

 約三年ぶりの再会を果たしたホウレンとブロリーは四人で飯屋へ向かって歩き出した。

 噂の男は捕まえて、暴走する村人も倒したが果たしてこの噂は本当にこれで終わるのだろうか?

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

暴走する者たち 守りの力を得た妖怪

「いやー食った食った!久々にブロリーにも会えたし言うことなしだな。」

 

「……おまえはあの時と変わらんな。」

 

「そんな簡単に変わることなんてできやしねえよ。でもおまえの方は随分変わったんじゃねえの?」

 

「なんのことだ?オレは何も変わったつもりはないが。」

 

「少なくとも暴れなくなったな。」

 

「おまえ、喧嘩を売っているのか?」

 

「でもブロリーさん、確かに変わりましたよ。昔よりも穏やかになった気がします。」

 

 後ろを歩いていた悟飯に次いで霊夢もクスリと笑いながら言った。

 

「ブロリーも幻想郷での生活になれちゃったんじゃないの?なにせ一年近くいるんだから。」

 

「ちっ、勝手に言っていろ……。」

 

 四人が雑談をしながら歩いていると目の前にスキマが現れて中から紫が出てきた。

 

「霊夢、ちょっといいかしら。それにそっちの三人も。」

 

 少しだけ慌てた様子の紫を珍しそうに見つめる四人だったが、霊夢はすぐにめんどくさそうな顔をして紫の前に出た。

 

「何よ紫。また変な話を持ち込んだんじゃないでしょうね?それに私だけじゃなくてこの三人にもってのはどういうこと?」

 

「あまり時間がない。簡単に説明するわよ。さっき人里で暴れた人間がいたでしょ?」

 

「ええ、でもそいつならブロリーが倒したわよ。」

 

「それにはお礼を言っておかなくてはね。ありがとうブロリー。」

 

「フン……。」

 

「でもそれだけじゃないのよ。その人間以外にも力が暴走している者たちがいるみたいなの。」

 

「「「!?」」」

 

 紫の言葉にブロリーを除いた三人が目を見開いて驚いた。

 

「まさか……あいつあの人間以外にも何か……!」

 

「心当たりがあるの?まあでも今はいいわ。このままじゃ前の異変からようやく落ち着いてきた幻想郷がまた荒らされてしまうかもしれない。だから貴方たちに急いでそいつらを止めて欲しいの。」

 

「完全に油断してたわ……!そういえばあいつはあちこちで声をかけて回っていた。ってことは何かを仕掛けるには十分すぎるほどの時間があるじゃない……!どうして気が付かなかったのよ私ぃ~!」

 

「霊夢さん、今は悔やんでる場合じゃありません!急いでそいつらを倒しに行かないと!」

 

「え、ええそうよね。落ち着かなくちゃ……。紫、そいつらの居場所はわかる!?」

 

「場所は四か所よ。妖怪の山、旧都、冥界、そして地獄よ。」

 

「なんだと……?地獄でも暴れている奴がいるのか?」

 

「ええ。と言ってもそいつらが力を解放したのは今から数分くらい前の話。今なら最小限の被害で間に合うかもしれないわ。貴方の力も貸してほしいの……。」

 

「……さっきのクズと同じくらいの強さだとしたら映姫や小町だけでなんとかなるはずだ。それをなぜオレの力まで必要とする?」

 

「……貴方がさっき倒したやつとは強さの次元が違うからよ。それに地獄に行くことが出来るのは限られた人間だけ。だからお願い。地獄に戻ってそいつと闘って頂戴。」

 

「……そうか。強いのか。」

 

 一言だけぼそりと言うとブロリーは黙り込んでしまった。

 

「ブロリー?」

 

 ホウレンがブロリーの顔を覗き込もうとするとブロリーは踵を返して歩いて行ってしまった。

 

「お、おいブロリー!どこいくんだ!?」

 

「……オレは地獄に戻る。そっちはおまえたちでやるんだな。」

 

「!……おう!こっちは俺たちに任せとけ!」

 

「……。」

 

 ブロリーは無言のまま地獄に向かって飛び立った。

 

「霊夢、悟飯、全員で向かってたら間に合わねえ。俺たちも別れよう。」

 

「そうね。その方が効率がいいわ。悟飯もそれで大丈夫かしら?」

 

「はい、ボクも大丈夫です。」

 

「俺は冥界に向かおうと思う。妖夢たちが心配だしな。」

 

「ボクは地底に行きます。トランクスさんに状況を説明しておかないと。」

 

「じゃあ私が妖怪の山ね。いいわ。早苗だけじゃ心配だしね。」

 

「話は決まったようね。みんな頼んだわよ。」

 

「任せとけ。油断すんなよおまえら!」

 

「あんたこそ、返り討ちに合わないようにね!」

 

「よし、いきましょう!」

 

 話は決まり、三人はそれぞれ別の場所へと飛び出した。

 

 その頃妖怪の山ではすでに暴走した妖怪との闘いが始まっており、妖怪の相手をしているのは早苗とピッコロの二人であった。

 二人は山で暴れる妖怪に気が付いて、急ぎその場に駆けつけていた。

 

「うへへへ!どうした!守矢の巫女さんよぉ?俺様を退治するんじゃなかったのかぁ?」

 

 三メートル近くの体を持ち、鋭く伸びた爪は鋼のように硬い。太ったその体は見た目とは裏腹にあり得ないほどの強度を誇り、早苗はおろかピッコロの攻撃ですらまともにダメージが入らないほどであった。

 

「くっ!なんなんですか、この妖怪!いくらなんでも強すぎますよ……!」

 

「落ち着け、強さ自体はまだなんとかなるレベルだ。だがやつの体は何かがおかしい。いくらなんでも硬すぎる。下手したらあの時の魔人以上の強度だ。」

 

「ピッコロさんの力でもダメなんですか?」

 

「いや、ある技を使えば確実にあいつを倒すことが出来る。だがその技は気を溜めるのにやたら時間がかかってしまってな。やつがそれを待ってくれるとは思えん。」

 

「じゃあ私が時間を稼げば……!」

 

「無理だ。おまえ一人では時間を稼ぐことはできん。」

 

「うう、せめてもう一人味方がいれば……。」

 

「お困りのようですね。」

 

 突然聞こえた声に振り返るとそこには黒の短い髪。黒いミニスカートに白いフォーマルな半袖シャツを着ていて、手にはカメラを持った女性が空から舞い降りてきた。

 

「文さん!どうしてここに?」

 

「暴走している妖怪が出たと聞きましてね。いいネタになるかと思ってやってきたというわけです。ですが思いのほか危険な相手のようですね。」

 

「そうなんです。そうだ!文さんも力を貸してくれませんか?ピッコロさんの技の時間を稼ぐのを手伝ってください!」

 

「元よりそのつもりで出てきました。あんな妖怪を放っておいたら上の人に怒られちゃいますからね。」

 

「力を貸してくれるか。礼をいうぞ。」

 

「いえいえ、その代わりと言ってはなんですが、闘いが終わったらぜひこの間の異変についてインタビューさせてください。」

 

「そんなことならお安い御用だ。では頼んだぞ。」

 

「うへへへ!お仲間の登場みたいだが無駄だぜぇ!今の俺様は今までの俺様とは違う!てめえらみたいなやつ、何人かかってきても無駄なんだよぉ!」

 

「言ってくれますね。天狗の力をあまり舐めないことです。」

 

「だったらかかってこいよぉ!力の差ってやつを見せてやるぜぇ!」

 

 その瞬間、射命丸の姿が消えて気が付くと妖怪の後頭部を思いきり蹴りつけていた。

 だがしかし、妖怪はビクともせずにやにや笑いながら射命丸の足を掴んだ。

 

「いくら速くても攻撃が効かなきゃ意味ねえんだよぉ!」

 

 射命丸はそのまま早苗の元へ投げ飛ばされ、それを早苗が受け止めた。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「くっ……なんなんですか、あの妖怪。硬いなんてものじゃありませんよ?」

 

「わかりません。あんな妖怪が今まで隠れていたなんて……。」

 

「とにかく強敵であることには変わりありませんね……。ピッコロさん、技の準備はどれくらいかかりそうですか?」

 

 そう言ってピッコロを見るとすでにピッコロは技の準備を始めていた。おでこに二本の指を当てて気を集中させながら口を動かした。

 

「……一分だ。なんとか一分だけ耐えてくれればいい。」

 

「一分……。短いようで長い時間ですね……。わかりました。早苗さん、いきましょう!」

 

「はい!」

 

 射命丸はその場から姿を消して目では追えないほどのスピードで妖怪の周りを回った。

 

「今度は何をするきだぁ?目では見えねえが効かなきゃ関係ねえぜぇ?」

 

 敵に当たったところで効かなければ意味がない、射命丸はそれをわかりながらもどんどんスピードを上げて、妖怪の周りを回り続けた。

 そして射命丸のスピードが最高速に達したその時、射命丸は真正面から妖怪に体当たりを食らわせた。

 

「ぬぉおお!?」

 

 超高速でぶつかったことによって威力は数倍にまで上がっており、圧倒的な硬さを持つ妖怪もその突進に耐え切れず、地面を滑りそのまま岩山に減り込んだ。

 

「早苗さん、今です!」

 

「任せてください!」        秘法「九字刺し」

 

 早苗は格子状のレーザーのような弾幕を放ち、そのまま減り込んだ妖怪にぶつけた。

 早苗の弾幕により岩山はバラバラに砕けて崩れ落ち、土埃が宙を舞う中、妖怪は崩れた瓦礫を蹴飛ばして起き上がると下品な声を上げて笑い出した。

 

「ひゃっはっはは!無駄無駄!少し驚いたがこんな攻撃じゃ俺様は死なねえよぉ!!」

 

「くっ!これでもダメですか……!」

 

「参りましたね……。まだ三十秒も経ってません。同じ手は通用しないでしょうし、どうすれば……。」

 

「そろそろ俺様からも攻撃させてもらうぜぇ?」

 

 そう言うと妖怪は大きな口を更に大きく開けてなんとそこから特大のエネルギー波を放ってきた。

 

「まずい!早苗さん、避けて!!」

 

 文は回避することを早苗に叫ぶが早苗は予想外の攻撃に反応が遅れて回避が間に合わなかった。次の瞬間、大爆発が起こり早苗を飲み込んだ。

 

「早苗さん!!」

 

 大爆発の中、無事では済まないと思われた早苗はなんと無傷でそこに立っていた。

 そしてその早苗の前には。

 

「何やってんのよ。闘いの最中でしょ?しっかりしなさい。」

 

 そこにいたのは霊夢だった。霊夢は直撃の瞬間に結界を張り、早苗を守ったのだ。

 

「「霊夢さん!!」」

 

「ここからは私も闘わせてもらうわ。さっさとあいつを倒すわよ。」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

全力の時間稼ぎ 魔貫光殺砲炸裂!

 早苗を助けた霊夢を見て妖怪はわなわなと震え始めた。

 

「博麗の巫女……博麗霊夢ぅ!!」

 

「そうだけどなに?私のこと知ってるのかしら。」

 

「知ってる、知っているさ!てめぇは俺様のことなんか覚えていないだろうがなぁ!!」

 

「?何言ってんのよ。あんたなんかあったことないわよ?」

 

「うるせぇ!!てめぇが覚えてなくても俺様はよぉく覚えてんだよぉ!!」

 

 妖怪は怒りを露わにして物凄い形相で霊夢を睨みつけていた。

 

「霊夢さん、この妖怪に何したんですか?」

 

「知らないわよ。こんなやつ見たこともないわ。ただの勘違いじゃないの?」

 

「ちげぇって言ってんだろうがぁ!!俺様はなぁ、昔てめぇに退治されたカプラス様だ!どうだ思い出したかぁ!?」

 

「いえ、全然。」

 

「な……っ!ほ、本当に覚えてやがらねぇのか?あんだけ俺様のことをボコボコにしておいて?」

 

「ええ、まったく思い出せないわ。」

 

「ふ、ふざけやがって!!ぶっ殺してやらぁ!!」

 

 カプラスは鋭く伸びた爪で霊夢に襲い掛かり攻撃を仕掛けるが霊夢はそれを紙一重ですべてかわして、カプラスの顔面に拳を叩きこんだ。

 

「うへへへ!痛くも痒くもねえぜぇ?しっかりやれよ、博麗霊夢ぅ!!」

 

「くっ!」

 

 霊夢はすぐさま後ろに下がりカプラスから距離をとった。

 

「早苗、文、あいつめちゃくちゃ硬いんだけど、どういうこと?」

 

「私たちにもわかりません。ですがあと少し時間を稼げればピッコロさんの技の準備が整うはずです。なんとか時間稼ぎを手伝ってください!」

 

「なるほど、そういうことね。いいわ。やってやろうじゃない。でもただ時間を稼ぐだけなんてことは言わないわ。少しでもダメージを与えてやるんだから……!」

 

「てめぇらさっきからなにひそひそ話てやがる!俺様を前にして随分余裕じゃねぇかぁ!!」

 

「そりゃそうよ、あんたみたいな硬いだけの雑魚。余裕があるに決まってるじゃない?」

 

「なんだとぉ!?」

 

「霊夢さん、そんなに煽ったら霊夢さんに攻撃が集中してしまいますよ!?」

 

「いいのよ、その方が時間を稼ぎやすいわ。大丈夫、油断なんてしてないから。私に任せて二人は援護をお願い。」

 

「なるほど、わかりました。私たちでサポートしましょう。早苗さん、やれますね?」

 

「わ、わかりました。霊夢さん、あまり無茶しないでくださいよ?」

 

「わかってるわよ。」

 

「舐めやがって……!こうなったらてめぇら全員たっぷり痛めつけてから殺してやるぜぇ!!」

 

 カプラスはズシンズシンと音を立てて爪を振り回しながら霊夢たちの元へ突進してきた。

 それに合わせて早苗と射命丸は左右に分かれて三方からカプラスを囲み同時に弾幕を放つがカプラスはその弾幕をものともせずに突進し続ける。

 

「うっひゃっはっは!効かねえって言ってんだよぉ!」

 

「でしょうね。ならこれならどうかしら!」

 

 カプラスが霊夢の目の前まで来ると突然壁にぶち当った。

 

「!!こいつは結界か?ちっ、めんどくせぇなぁっ!!」

 

「早苗!文!あいつの足元を攻撃して!」

 

「「はい!!」」

 

 霊夢の合図に合わせて二人は大量の弾幕を放ち、カプラスの足元を攻撃して大量の土煙を発生させた。それによりカプラスは回りが見えなくなる。

 

「目隠しなんかして何のつもりだぁ?こんなもんすぐに吹き飛ばしてやるぜぇ!」

 

 カプラスは両手を大きく振り回して土煙をすべて吹き飛ばした。そして視界が良くなるとカプラスの四方すべてを霊夢の結界が囲み逃げ道を完全に失くしていた。

 

「こいつは……!?」

 

「かかったわね。ピッコロ!準備は出来た!?」

 

「ああ、待たせたな……!食らいやがれ!魔貫光殺砲!!」

 

 ピッコロの指先から螺旋を纏った光線がカプラス目掛けて超スピードで飛んでいく、その場にいた全員がその瞬間勝利を確信した。だがしかし……。

 

「ばぁか!お見通しなんだよぉ!!」

 

「「「!!?」」」

 

 その瞬間カプラスは一瞬で地面に潜り、姿を消した。そして魔貫光殺砲は結界を貫いてそのまま遥か彼方まで飛んで行ってしまった。

 

「っ!霊夢さん、下です!」

 

「遅ぇんだよぉ!!」

 

「っ!きゃああ!!」

 

 全員が動揺した隙にカプラスは地面から飛び出しながら霊夢を爪で切り裂いた。

 霊夢後方にいるピッコロの前まで吹き飛ばされて地面を転がる。

 

「霊夢さん!!」

 

「霊夢!意識はあるか!返事をしろ!」

 

「くっ……!大丈夫よ、大した傷じゃないわ……。」

 

「咄嗟に避けやがったみてぇだが、間に合わなかったようだなぁ?いい気味だぜ!うっひゃっはっはっは!!」

 

「私のミスだわ……。結界を足元にも仕掛けるべきだった。まさか地面を潜って逃げるなんて……!」

 

「まだ動けるか……?」

 

「当たり前よ……。あんなやつに負けるもんですか……!」

 

 霊夢はよろけながらもすぐに立ち上がり再び闘う意思を見せた。

 

「そうこなくちゃ面白くねぇ。だがそんなもんで済むと思うなよぉ?もっともっと痛めつけてから殺してやるんだからなぁ!!」

 

「……霊夢。少し耳を貸せ。」

 

「……何?早くしてよね。」

 

「ホウレンと闘った時に使っていたおまえの奥義があっただろう?」

 

「夢想天生のこと?」

 

「ああ、そうだ。あれを使ってもう一度時間を稼げるか?今度はなんとかさっきよりも早く気を溜めて今度こそあいつに魔貫光殺砲をお見舞いしてみせる。」

 

「……今度は当てられるの?」

 

「ああ、安心しろ。今度はさっきのようにはいかん。必ずあいつを仕留めてやろう。オレが気を溜める間にやつを倒せると言うのならそれでもかまわんがな。」

 

「意地悪ね。今の私じゃできないってことくらいわかってるでしょ?……いいわ。やってやろうじゃないの。貴方ホウレンよりも強いんでしょ?期待してるわよ。」

 

「へっ、ならば期待以上のものを見せてやろう。頼んだぞ、霊夢。」

 

「まかせなさい。早苗!文!下がってて。ここからは私がやるわ。」

 

「!?な、何言ってるんですか霊夢さん!そんなの無理ですよ!その傷じゃいくら霊夢さんでも危険です!ここは私と文さんに任せてください!」

 

「大丈夫よ。私が全力でやるには一人の方が都合がいいだけだから……!」   『夢想天生』

 

「あれは……!」

 

 霊夢はゆっくりカプラスの前まで歩き出した。

 

「一人でだとぉ?自殺志願かぁ?うへへへっ!ならば望みどおりに殺してやるよぉ!!」

 

 そして霊夢に鋭い爪を振り下ろすがそれは当たらずに空を切り、カプラスは驚いて目を見開いた。

 その隙に霊夢はカプラスを思いっきり蹴りつけてカプラスは立ったまま地面を滑る。

 

「な、なんだぁ!?なんで俺様の爪が当たらねぇんだ!?」

 

「はあ!!」

 

 霊夢はうろたえるカプラスに更に追撃の弾幕を浴びせた。

 

「っ!!くそっ!こんなもんっ!」

 

 弾幕を全身に受けながらもカプラスは霊夢の元へ走り、再び霊夢を爪で切りつけるがその攻撃も当たることなく空を切った。

 

「やあ!!」      宝符『陰陽鬼神玉』

 

 そこに霊夢は手のひらから巨大なエネルギー弾を創り出し、カプラスに叩きつけた。

 カプラスは抑えきることが出来ずに空中に飛ばされた。

 

「ぬぉあぁあああっ!?」

 

 受け身も取れずに頭から落ちて地面に減り込んだカプラスはすぐに地面から顔を出して霊夢を睨みつけた。

 

「くそっ!痛くねぇ、痛くわねぇが俺様が押されるだとぉ!?てめぇいったい何をしやがったぁ!!」

 

「そんなの教えるわけないでしょ。私にだって意地があるわ。少しは貴方の顔に泥をに塗ることが出来たかしら?」

 

「こ、この野郎ぉ!こうなったらもう手加減しねぇ!全力でてめぇをぶっ殺ぉす!」

 

「やってみなさい!ここで終わるのは貴方の方よ!!」

 

「うぉおおおおお!!」

 

 カプラスの妖気がどんどん強くなり、周りに紫色のオーラが漂い始めた。

 

「とんでもない妖気……。妖怪の山でもこれほどの妖気は滅多に見られませんね……。」

 

「霊夢さん……!」

 

「死にやがれぇ!!」

 

 カプラスが再び霊夢に向かって飛び出すと霊夢は口元に小さく笑みを浮かべた。

 

「今度こそ終わりよ。」

 

「!!?」

 

 カプラスが霊夢を切りつけようとした瞬間、ピッコロが霊夢の後ろに現れた。

 

「今度こそ食らいやがれ!」

 

 そして再び螺旋を纏った光線が霊夢をすり抜けてそのままカプラス目掛けて飛んで行った。

 だが、カプラスは寸前でそれに気づきその光線をギリギリでかわしてしまった。

 

「うひゃっはっはっは!どうやら望みが絶たれたみてぇだなぁ!そんな攻撃、気づいちまえばどうとでもなるんだよぉ!!」

 

「っ!ピッコロ!!」

 

 カプラスは笑いながらピッコロを切り付けた。だが切り付けられたピッコロは陽炎のようにゆらゆらと姿を消してしまった。

 そしてカプラスの後ろからピッコロの手が伸びてきてカプラスを巻きつけた。

 

「うぐっ!?」

 

「残念だったな?そいつはただの残像だ。これで動くことは出来まい!」

 

「ば、バカな!?てめぇの攻撃は確かに避けたはずだろぉ!?」

 

「ああ、避けられたさ。だがあれはただの脅しだ。本命はまだオレの指先に残っている。」

 

 そう言うとピッコロはもう片方の手を見せた。するとそこにはバチバチと強い力を放った指先が見えた。さきほど避けられたのはただの見せかけのエネルギー波だったのだ。

 

「ま、待て!!参った!俺様の負けだ!もうおまえらに手を出さない!だからやめてくれぇ!!」

 

「生憎、昔その手に引っかかり痛い目を見たバカを知っていてな。オレはそんなに甘くない……!」

 

「や、やめろぉおお!!」

 

「魔貫光殺砲ーー!!」

 

 ピッコロの指先から今度こそ本物の魔貫光殺砲が繰り出された。カプラスは巻き付いたピッコロの腕から逃れることが出来ずその光線に胸を貫かれる。

 

「ぐぎゃぁああああ!!?」

 

 カプラスはそのまま地面に倒れこみ、そのまま絶命した。

 ピッコロは伸ばした腕を元に戻して軽く息をついた。

 

「ご苦労だったな。霊夢。」

 

「もう……心臓が止まるかと思ったじゃない……。そんな作戦聞いてないわよ?」

 

「言わないほうが成功率が高いからな。敵を欺くにはまず味方からということだ。悪く思うな。」

 

「やれやれ、たいしたもんだわ……貴方。」

 

「霊夢さん、ピッコロさん!」

 

 二人の元へ早苗と射命丸が駆け寄ってきた。

 

「大丈夫ですか!?すぐに手当てをしますから神社まで来てください!」

 

「お二人ともお疲れ様です。どちらも凄かったですよ。おかげでいい記事が書けそうです。」

 

「あんまり私がやられてたこと書かないでよ?」

 

「わかってますって。……それと神社で今何が起こっているのか聞かせてもらいますからね。」

 

「……ええ。(ブロリー、悟飯、そしてホウレン。……あの三人は大丈夫かしら?)」

 

「そういえばこの妖怪、いったい霊夢さんとどういう関係があったんでしょう?」

 

「ああ、それね。それならさっき闘ってるときに思い出したわ。」

 

「え?そうなんですか?」

 

「ええ、そいつは昔人里の家畜の血を吸って人里に迷惑をかけていたことがあってね。それを私がコテンパンにのしたことがあったのよ。最初はあまりに見た目が違うから気づかなかったけど、あのムカつく笑い方で思い出せたわ。」

 

「そんなことがあったんですか。」

 

「でもこいつはこんな力を持っていなかったわ。まったく面倒な力を面倒なやつの渡してくれちゃって、ほんといい迷惑だわ……。」

 

「まあとにかく私の神社にいきましょう?ピッコロさんも文さんも早く!」

 

「そうだな。今はとにかく霊夢の手当が先だ。」

 

「助かるわ……。早苗、肩貸して?」

 

 こうして妖怪の山の死闘に決着がついた。圧倒的にパワーアップした敵にホウレンたちはどう闘っていくのか。霊夢は三人の無事を願って守矢神社へ向かった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最強の座を狙って 異質な力を持った鬼

 霊夢たちが闘っている時、旧都で人を探して徘徊する鬼がいた。

 その鬼は異常なまでに筋肉が膨れ上がっており、鈍く光った瞳を充血させている。

 

「どこだ……どこにいる!出てこい!トランクス!勇儀!!」

 

「オレを呼んだか?」

 

 鬼は声がした方に勢いよく振り向いた。そこには騒ぎを聞いて駆けつけたトランクスとこいしが立っていた。

 

「トランクス……!ようやく出てきたな!」

 

「トランクス、知り合いなの?」

 

「いえ、まったく見た覚えがありませんが……。おい、おまえは誰だ!なぜオレと勇儀を探している!」

 

「おれのことを覚えてないのか?……いや、無理もない。随分姿が変わっちまったからな。」

 

「姿が変わった……?何を言っているんだ?」

 

「なんだい。あんたらも来てたのかい。」

 

 トランクスたちに続いて今度は勇儀が酒を飲みながら歩いてきた。

 

「勇儀。おまえも来たのか。」

 

「私を探してるやつがいるって聞いてねぇ。誰かと思って来てみれば随分と強そうなやつがいるじゃないかい。」

 

「でもあの鬼なんか様子が変だと思わない?なんだかすごく嫌な感じがする……。」

 

「そうだねぇ。ただのそこいらの鬼とは比べ物にならないくらいの力を感じるよ。こりゃあ楽しめそうだ!」

 

「まったく。おまえは……。」

 

 鬼はトランクスと勇儀の姿を確認すると体を震わせ始めた。

 

「ハッハッハッハ!おれが探していた二人が同時に現れてくれるなんてついてるぜ!ちょうどいいから教えといてやるよ。おれはオーガ。路地裏でおまえを襲って負けちまった鬼だ。思い出したか?」

 

「!!あの時の!そうか、確かにあの時とは姿が違いすぎて気づかなかった。だがあの時のおまえはそれほどの力を持っていなかったはず……何があった?」

 

「……まあ教えてやってもいいだろう。数日前、おれの所に一人の男がやってきた。そして不思議な能力でおれに力を与えてくれたんだ!そこいらのやつじゃ相手にならないほどの力をおれは手に入れて思いついたことがある。それはおまえたち二人を倒し、この旧都で最強になることだ!」

 

「へぇ。いい目標じゃないかい。だけどいくらなんでも私たちを倒すのは難しいんじゃないかい?」

 

「そいつはどうだろうな?さあおれと闘え!トランクス!!勇儀!!」

 

「よーし、じゃあまずは私からやらせてもらおうか?」

 

「え~?先に来たのは私たちだよ?」

 

「いいじゃないかい。トランクスにやらせたらすぐに終わっちまうかもしれないだろ?だったら私にやらせとくれよ。」

 

「どうするのトランクス?」

 

「オレは別に構いませんよ。油断するなよ勇儀。」

 

「わかってるって、この間の異変で痛い目を見てるからねぇ。油断せずに最初から真剣に相手させてもらおうか。」

 

 そう言って勇儀は持っていた杯をこいしに預けて腕を鳴らした。

 

「珍しいじゃねえか。あんたが遊ばずに真面目に闘おうなんてよ。」

 

「ちょっとした心境の変化ってやつさ。私もまだまだ強くならなくちゃならなくてねぇ。ちょうど修行の相手が欲しかったところさ!」

 

「言っとくがおれはあんたらを殺すつもりでやる。手加減なんかするんじゃねえぞ!」

 

「そうかい、なら死んでも恨むんじゃないよ!」

 

 二人は互いに距離を詰めて高速で殴りあう。本来ならば殴り合いなど出来るはずがないオーガであったが力を得たことによってあの勇儀と互角に近い闘いを繰り広げていた。

 

「へえ!やるじゃないかい!だけど、まだまだ甘いねぇ!!」

 

「!!」

 

 勇儀はオーガの攻撃を弾くとその瞬間、オーガの胸に重たい拳を何発も叩き込み吹き飛ばした。

オーガはそのまま民家に突っ込み衝撃で民家が崩れ落ちる。

 

「お、おい勇儀!中に人がいたらどうするんだ!気を付けて闘え!」

 

「トランクス落ち着いて。ここら辺の連中はみんなさっきのあいつの力を怖がって逃げちゃったから今は私たち以外残ってないよ。」

 

「ですが、万が一のことがあったら!」

 

「大丈夫だって。もし周りに妖怪とかがいたら私たちで助ければいいよ。ね?」

 

「……わかりました。勇儀!あまり周りを壊しすぎるなよ!」

 

 トランクスの言葉に勇儀はひらひらと手を振って返事をする。

 

「さて、もう終わりかい?」

 

「ウォオオオオ!!」

 

 すると瓦礫の中からオーガが飛び起きて、再び勇儀に向かって突っ込んできた。

 勇儀はオーガの両手を同じく両手で受け止めて、互いに強く押し合った。

 

「内臓が潰れたような感触があったんだけどねぇ……!まだまだ元気じゃないかい!そうこなくっちゃねっ!」

 

 押し合いの中勇儀は右足を振り上げてオーガの顎を蹴り上げた。

 オーガは口から血を噴き出しながら宙を舞った。そして勇儀はそれを飛び上がって追いかけると今度は両手を合わせてハンマーのようにして振り下ろす。

 それを食らったオーガは地面に叩きつけられて小さなクレーターが出来た。

 

「ぐっ!?」

 

「ほらほら、どうした!あんたの力はそんなもんかい!?」

 

「舐めるなよ……!ぬぅん!!」

 

 オーガは右手に力を込めて落ちてくる勇儀を殴りつけた。

 勇儀はなんとか防御するもそのまま吹き飛ばされてしまった。

 

「……まだそんな力が残ってるのかい。」

 

「当たり前だ。おれはまだピンピンしているぜ?」

 

 闘いを見ていたトランクスはオーガの異常性に気が付き始めていた。

 

「おかしい。あれだけの一撃を食らってピンピンしてるだなんていくらパワーアップしたとは言えあり得ない。」

 

「あいつが異常にタフなだけじゃないの?」

 

「恐らく違うと思います。いくらなんでもタフすぎる。それにおかしいのはそこだけじゃないんです。」

 

「どういうこと?」

 

「……あいつの体の傷がなさすぎる。血を吐くほどの攻撃を受けてかすり傷ひとつないのはどう考えてもおかしいと思いませんか?」

 

「そっか……!確かにあの鬼全然怪我してない!」

 

「これは……もしかしたら勇儀だけではまずいかもしれないぞ……。」

 

 トランクスが心配する最中も二人のぶつかり合いは続いていた。真剣に闘うとは言え、最初は半分くらいの力で闘っていた勇儀も相手の異常性に気づき始めて、今では全力の力で闘っていた。

 

「たぁあああ!!」

 

「うごぉお!?」

 

 激しいぶつかりあいの果てに勇儀の全力の拳がオーガの胸を貫いた。

 

「やった!勇儀の勝ちだ!」

 

「どうやら、心配は必要なかったようですね……ん?」

 

 胸を貫かれて死んだかと思い油断した勇儀の腕を突然オーガががっしりと掴み取った。

 

「「「!?」」」

 

「はぁああ!!」

 

「ぐあっ!?」

 

 オーガは勇儀の腹を殴りつけ、更に自らを貫いた勇儀の腕を引き抜いてそのまま勇儀を振り回して放り投げた。勇儀は腹を抱えながら着地する。

 

「げほっ!あんたその体……いったいどういうことだい……?」

 

「これがあの男から受け取った力……!おれの体はどんな傷も即座に再生できるのさ!この力がなけりゃ、おれなんかとっくにくたばってる。だがこの力があればおれはどんなやつにも負けねえ!つまり最強ってわけだ!」

 

 そう言っている間にもオーガの胸に空いた穴は塞がっていた。

 トランクスが気づいた異常性はこのことだったのだ。

 

「……どうりで私の攻撃を受けてもピンピンしてると思ったよ。随分と厄介な力を手に入れたもんだ。」

 

「そういうことだ。トランクス!おまえも遠慮せずにかかってきていいんだぜ?二人がかりで来てもおれは負ける気がしねえ!それともおれが勇儀を倒すまで眺めてるか!?」

 

「……こいしさん。少し下がっていてください。」

 

「え?」

 

「勇儀。ここからはオレも闘わせてもらうぞ。」

 

「何言ってんだいトランクス!私は一人でもやれるよ!」

 

「このままやれば間違いなくおまえは負けるぞ。それでもいいのか?」

 

「だからって二対一ってのは気に入らないんだよ!」

 

「……おまえの言いたいこともわかる。なら少し休め。ここから先はオレが一人でやる。先にこいつと話していたのはオレだ。オレにも闘う権利くらいあるだろ?」

 

「……ちっ。わかったよ。今回はあんたに譲るさ。ただし!埋め合わせとして今度もう一度私と闘っとくれ。それが条件さ。」

 

「わかった。それで満足ならいくらでも闘ってやるさ。」

 

「言ったね?もう撤回できないよ!」

 

 勇儀は条件を出してこいしの隣までやってきて杯を受け取ると座り込んで酒を飲み始めた。

 

「それと、絶対負けるんじゃないよ?」

 

「わかってる。オレも久々に本気でやろう。」

 

「なんだ、結局一人ずつ闘うのか?……まあいい。オレが本当に闘いたかったのはトランクス、おまえだ!あの時の借り、その命で返してもらうぜ!」

 

「はぁあああ!!」

 

「!!」

 

 トランクスは最初から超サイヤ人に変身してオーガと対峙した。溢れ出る気はオーガを完全に上回っている。さすがのオーガも再生があるとは言えその圧力に息を飲んだ。

 

「言っておくがオレは甘くない。おまえが殺すつもりで闘うなら、オレもそのつもりで闘わせてもらうぞ。やめるなら今だがどうする?」

 

「……そうこなくっちゃ面白くねえ!この旧都でどっちが強いか決めようぜ!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

能力に飲まれた鬼 最強悟飯発進!

 トランクスとオーガの闘いは激しさを増していた。だがトランクスの力がオーガの力を遥かに凌駕しており、オーガは防戦一方になっていた。

 

「ぐぅ……!くそっ!」

 

「どうした!オレを殺すんじゃなかったのか!はあ!!」

 

 トランクスはオーガを殴り飛ばし、オーガは大きく吹き飛ばされながらも体勢を立て直してトランクスを睨みつけた。

 

「ち、ちくしょう!これがてめえの本当の力ってわけか!勇儀のやつとは比べ物にならねえ……!」

 

「いくら再生出来てもスタミナには限界があるはずだ。いい加減諦めたらどうなんだ?」

 

「冗談じゃねえ!おれを止めたきゃ殺してみやがれ!もっとも、この力がある限り無理な話だがな!」

 

「……しかたない。はぁああああ!!」

 

 トランクスは更に気を上昇させると一瞬でオーガとの間合いを詰めて腹に手を当てた。

 

「なっ!?」

 

「消えろ!」

 

「うごぉっ!!?」

 

 トランクスの手のひらから気が放出されてそのままオーガを飲み込んだ。

 オーガの体はバラバラになって辺りに飛び散った。

 

「……終わりだ。」

 

 トランクスは踵を返しこいしたちの元へ歩き出した。

 

「!トランクス後ろ!!」

 

「遅かったな!死にやがれ!!」

 

「なに!?ぐわぁ!!」

 

 トランクスを殴り飛ばしたのはバラバラになったはずのオーガだった。

 隙を突かれたトランクスは大きく吹き飛ばされて民家の壁のぶち当たった。

 

「今のはさすがのおれも死んだかと思ったぜ……!だがこの力の前では意味がなかったみたいだがな!ハーッハッハッハ!!」

 

「まさかあんなにバラバラになっても再生できるなんて……。完全にオレの誤算だった……。」

 

「トランクス、大丈夫!?」

 

「大丈夫です!ご心配なく!」

 

 トランクスが立ち上がったのを確認したオーガは体に気を集中させ始めた。

 

「今のでわかった。おれのこの再生能力はまだまだ底が見えねえ!ならもっともっとこの力を引き出して、誰にも負けない肉体を手に入れてやるぜ!」

 

 そうしてオーガはどんどん気を高めていき無理やり自分の限界を越えようとしていた。

 

「何をする気かわからんが止めさせてもらうぞ!バーニングアタック!!」

 

 トランクスの気弾によってオーガは再びバラバラになった。しかも今度は先ほどよりもさらにバラバラになっており、もはや小さな肉片とも言えるほどだった。

 しかしそれでもオーガの体は一瞬にして元に戻っていく。その異常な光景をあの勇儀も酒を飲むこともせずにただ息を飲んでその闘いを見ていた。

 

 圧倒的なパワーを持つトランクス。異常とも言える再生能力を持つオーガ。二人の闘いは一方的ではあるものの常識で考えることなど不可能なものになっていた。

 

「くそっ!キリがない!どうすればこいつは止まるんだ!?」

 

 何度も何度も消し飛ばすトランクスだったがオーガはどんなに粉々にされても一瞬で元に戻ってしまう。それどころかだんだん体が大きく異質な姿に変わっていった。

 

「もう遅い!おれは今この時を持っておれぇ自身んのぉ限界を超えた!??」

 

「な、なんだ?今あいつの声が……?」

 

「ア…あレっ?変だナ?上手く喋れネぇぞォ?そレにぃこの体ノ中から出てクる力はナンだぁ??せ…制御出来ねェ!!?」

 

 動揺するオーガの体からは異質な気が充満していた。何か気ではない別の力が体から溢れ出ているのだ。

 

「オーガ!おまえは一体何をしたんだ!この尋常じゃない気の膨れ上がりは一体……!?」

 

「う…ウアっ?あ…嗚呼あ……ウゴガァアアアアアア!!!」

 

 オーガが大きく声を上げると次の瞬間、オーガが突然爆発して爆炎の中に姿を消した。

 

「なっ……!?」

 

「あいつ、爆発しちゃったよ!どういうこと!?」

 

 突然の爆発に動揺した三人はただメラメラと燃える炎を眺めていた。

 だがそんな気楽な時間はほんの一瞬にすぎなかった。

 

「……ッ!なんだいこりゃ……この寒気がする気は一体……。」

 

「ウォオオオオオオ!!」

 

「「「!!」」」

 

 鳴り響く唸り声に三人は耳を塞ぎながら揺らめく炎の中を見つめた。

 すると炎を搔き消してオーガがズシンズシンと音を立てて出てきたのであった。

 その姿はついさっきまでの姿とは明らかに違い、先よりも更に数倍にも膨れ上がった筋肉。

 真っ赤に染まった瞳。重たい体を支えるように両手を地面についてバランスを取っている。

 まるでゴリラのような体制でトランクスたちの元へゆっくりと近づいてきた。

 

「あの姿は……!?い、いけない!勇儀!こいしさんを守ってくれ!」

 

「あいよ!」

 

「ウォオオオオオオ!!」

 

 雄たけびを上げてすぐにオーガはその剛腕でトランクスを押し飛ばし、そのまま勇儀たちを狙って走り出した。

 勇儀はこいしの前に立ち、オーガを正面から受け止めてその場で堪えて見せた。

 

「勇儀!」

 

「くっ……ぐぐっ!!は、早く避けな!!」

 

「わ、わかった。ありがとう!」

 

「吹キ飛ベエえェエ!!」

 

 オーガは抑え込まれたまま頭を大きく後ろに下げて一気に勇儀の頭に振り下ろした。

 

「ぐあぁああーー!!?」

 

 とんでもない威力の頭突きによって勇儀は大きく吹き飛ばされてしまう。

 勇儀を吹き飛ばしたオーガはすぐさまトランクスの元へ突進してきた。

 トランクスはそれをかわして後頭部を蹴りつけ、振り返りオーガを見た。

 

「その姿はなんだ!オーガ、一体おまえは何をした!」

 

「何ぃをシタ?何をナニをなにヲ???」

 

「言葉が通じないのか……?」

 

 会話が出来ずにどうしたものかと考えるトランクスの元に勇儀が頭をさすりながら歩いてきた。

 

「無駄だよ。ありゃ完全に能力に飲まれてる。」

 

「能力に飲まれる?一体どういうことなんだ?」

 

「簡単な話さ。あいつはあんたと闘う内に能力を使いすぎたんだ。借り物の能力に頼りすぎて肉体と精神がついていけなくなってる。ま、あんな能力数日で使いこなすなんて無理な話ってやつさ。」

 

 力を酷使しすぎた代償が精神すらも飲み込んでしまった。それを聞いたトランクスはぶつぶつと言葉を発するオーガを横目に勇儀に問いかけた。

 

「あいつを止めるにはどうしたらいい?」

 

「手っ取り早いのは息の根を止めることさ。だけどあの能力じゃそれも難しい……まいったね。本当に厄介な力を手に入れたもんだよ。」

 

「ウアァアアアア!!」

 

 オーガは突然大声を上げると今度は頭上に巨大なエネルギー弾を作り出した。

 

「あいつまさか……この辺一帯を更地にするつもりかい!?」

 

「くっ!させんぞ!」

 

 トランクスはオーガの元へ駆け寄ろうとしたその時。

 

「だりゃぁああーー!!」

 

「うぶぇ!?」

 

 超サイヤ人に変身した悟飯が現れ、オーガを蹴り飛ばした。

 

「悟飯さん!!」

 

 突然助けに入った悟飯を見てトランクスはなぜここに?と言う疑問がありながらも素直に喜んだ。

 そして勇儀は現れた悟飯の気を感じて息を飲んでいた。

 

(トランクスよりも更に上の力を感じる……。とんでもない子供がいたもんだねぇ。)

 

「みなさん無事でしたか!」

 

「はい!悟飯さんはどうしてここに?」

 

「話は後で説明します。今はとにかくあいつを倒してからにしましょう。」

 

 悟飯は体に気を込めてオーガの元へ向かおうとした。

 

「待ってください!あいつはあのセルに匹敵、いやそれ以上の再生能力を持っています!完全に消してしまわない限り何度でも元に戻ってしまうんです!」

 

 それを聞いた悟飯は驚きはしたもののそれならばと気を溜め始めた。

 

「はぁああああ!!」

 

 すると悟飯の髪が激しく逆立ち、辺りに爆風が立ち込める。

 悟飯は超サイヤ人を越えた超サイヤ人に変身したのだ。

 

「こりゃ驚いた……!これほどの圧力は今まで生きてきて初めてだよ……!」

 

「それは……セルと闘った時の!」

 

「これで決着を付けます。二人とも下がっていてください。」

 

 一人で闘おうとする悟飯を手伝おうかと思ったトランクスだったが超サイヤ人を越えた超サイヤ人となった悟飯の手助けをするには自分の力が足りないことに気づき、足手まといにならないように悟飯に任せることにした。

 

「すみません、よろしくお願いします!」

 

「任せたよ。私たちは周りに被害が出ないように動いてるからさ。」

 

「はい。ですがトランクスさん、こいしさんと協力してやって欲しいことが__」

 

 オーガは瓦礫の中から這い出して頭を振った。トランクス以上のパワーでの攻撃に頭の中が揺れて足元がふらつきながらもオーガは悟飯たちを睨みつけ大声をあげて更に気を高め始める。

 

「__出来ますか?」

 

 その間に悟飯はトランクスたちに作戦を話し終えた。

 

「わかりました。やってみます!」

 

「なるほど、それならいけるかもしれない。よーしそうと決まれば早く始めるよトランクス!」

 

「ああ!必ず成功させるぞ!」

 

 トランクスと勇儀はすぐにこいしの元へ走っていった。そして悟飯は一人でオーガの元へ歩き出した。

 

「さあここからはボクが相手だ……!かかってこい!」

 

「アアアアアア!!」

 

 オーガは悟飯に突進して右腕を振り下ろす、悟飯はそれを左手で受け止めてオーガの腹に肘打ちを食らわせる。オーガの腹は弾け飛び体が真っ二つになった。

 だがオーガはそんな状態になりながらももう片方の腕で悟飯を殴りつけた。

 

 しかし悟飯はその攻撃をものともせずにオーガの顎にアッパーを食らわせて更に体が弾け飛ぶ。悟飯はそれでも攻撃の手を休めずに圧倒的な力で攻めていく。

 オーガはバラバラになった体を瞬時に再生して悟飯に反撃を試みるが今の悟飯にはまるで歯が立たなかった。

 

「ぐぅウ!ガァ!!」

 

「逃がさないぞ!」

 

 地底の空を飛んで逃げるオーガを悟飯は追いかけて飛び上がった。

 そして空中でも激しいぶつかり合いを繰り返しながら悟飯はオーガを追い詰めていく。

 だがいくら肉体を打ち砕いてもオーガは瞬時に回復していった。

 

「確かに凄い再生能力だ……!いくら攻撃してもキリがない!だけど!」

 

 悟飯はオーガの攻撃をかわすとその腕を両手でつかんでトランクスたちがいる場所へ向けて思いっきり投げ飛ばした。

 

「トランクスさん!お願いします!!」

 

 トランクスは飛ばされてきたオーガが頭上に来るのを確認すると最大限に溜まった気をオーガに向けて放とうとしていた。

 さきほどまでのオーガであればこの気に気づいて避けることも可能だったかもしれない。

 だがそれを危惧した悟飯はあらかじめこいしの能力でトランクスたちの存在を意識させないように仕向けていたのだ。

 そうすることによって確実にオーガを消し去るために。

 

「完全に消え去ってしまえ!!」

 

「!!?ア……アアァアァアアア!!」

 

 トランクスが放った気は上空のオーガを飲み込んで地底の天井にぶち当たり、そのまま天井を貫いていった。

 そしてオーガの気は完全に消滅した。

 

「……今度こそ本当に終わりだ。」

 

 トランクスは超サイヤ人を解いて空いた天井を見上げた。

 

「やったじゃないかトランクス!私たちの勝ちだよ!」

 

「ああ、おまえも力を貸してくれてありがとう。おかげで完全にやつを消滅させることが出来た。」

 

 勇儀はこいしが意識を別にさせている間、自分の妖気をトランクスに与え続けていたのだ。それによってより早くトランクスの気がオーガを消し去るに足るまで溜めることが出来た。

 

「私の力が少しでも役に立ったってんならそれでいいさ。こいしも頑張ったね。やるじゃないかい。」

 

「へへへ。私はほとんど闘わなかったから最後に手伝えてよかった!」

 

「こいしさんもありがとうございました。」

 

 歓談をする三人の元に超サイヤ人を解いた悟飯が降りてきた。

 

「みなさん、お疲れさまでした!」

 

「悟飯さん!来てくれて本当にありがとうございました。悟飯さんのおかげで恐らく被害も最小限で済んだと思います。」

 

「それにしてもあんた強かったね。まだ子供だってのにたいしたもんだよ!」

 

「でもさ、あんなに力があるんだったら悟飯一人でもあいつを倒せたんじゃないの?」

 

 こいしの言葉に悟飯は少し顔を俯かせて答えた。

 

「……確かに本気でやればあいつを倒すことは可能でした。でもここは地底です。超サイヤ人を越えた超サイヤ人の力ではこの地底すらも壊しかねない。だからトランクスさんの力が必要だったんです。すみません。」

 

「いいんですよ。その力はあのセルをも上回るんですから。……とにかく倒せてよかった。あのままいけばあいつを止められずに地底を廃墟に変えてしまうところでした。」

 

「……あいつ、力に飲まれなきゃもう少しマシな闘いが出来たかもしれないね。少し惜しいよ。」

 

 そう言って勇儀は杯に酒を注いで飲み始めた。

 

(こんなに厄介な力を持ったやつが四人……。ホウレンさんたちが心配だ。大丈夫だろうか?)

 

「悟飯さん?どうかしたんですか?」

 

 その後悟飯はトランクスたちに地上で今何が起きているのかを説明した。

 暴走する者たちはあと二人。冥界と地獄の運命は如何に。




ちょっと小説書く時間が無くなってきた……。もしかしたらもう少し更新ペース落ちるかもしれません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ブロリーまさかの大ピンチ!?封印が解かれし瞬間!

 ブロリーはすでに地獄に到着して闘いを始めていた。相手はここ地獄に存在する一人の亡者であった。亡者は少し筋肉質な女性で金色の短い髪でピアスをしている。

 

「あっはっはっは!凄い、凄いわ!あの獄卒がワタシに手も足も出ないなんてね!」

 

「ちっ……!」

 

 なんとブロリーは完全に押されていた。それもそのはず、ブロリーは映姫に出された条件によって力の半分を封印されていたからだ。

 今のブロリーは超サイヤ人に変身することは出来ても伝説の超サイヤ人になることは出来ない。

 それどころか超サイヤ人でさえ半分の力なのだ。

 

 闘っているのはブロリーだけではなかった。先に闘っていた小町にたくさんの獄卒たち。そして亡者を押さえつけるために自ら出てきた映姫がいた。

 だがすでに獄卒たちはほとんどがやられてしまい横たわっている。

 残っている小町も映姫もボロボロの状態だった。

 

「調子に乗るなよ……!」

 

 ブロリーは超サイヤ人に変身して亡者に殴り掛かった。

 

「それ!」

 

 亡者はブロリーの拳に合わせて自らの拳をぶつけた。するとブロリーの拳が打ち負けて逆に吹き飛ばされてしまった。

 

「ブロリーの力が打ち負けた!?」

 

 驚く小町をよそに映姫は考えていた。

 

(今のままでは私たちが負けて地獄がめちゃくちゃにされてしまうだけ……。だけどブロリーの封印を解いてしまったらそれこそどうなるかわからない。もしかしたら彼も私たちの敵になってしまう可能性だって……。いったいどうすれば……!)

 

 映姫は迷っていたのだ。このまま行けば確実に負けてしまうがブロリーの封印を解けば勝てるかもしれない。しかし封印を解いてしまえばブロリーは力を完全に取り戻してしまい、相手を倒せたとしても今度はブロリーが地獄を荒らし始めるのではないかと。

 

「グォアアアーー!!」

 

 ブロリーは再び亡者との打ち合いに押し負け、はるか後方の血の池まで飛ばされる。

 血の池はまるで隕石が落ちたかのように血が噴きあがり辺りに血の雨が降った。

 

「あの男には感謝しないとねぇ?ワタシにこれほどの力を与えてくれたことにさ!」

 

 そう言って亡者は更に自らの気を高め始めた。地獄全体に届くほどの巨大な気、その力はまるでナメック星で闘ったフリーザを越えるほどの気であった。

 

「さあて、四季映姫。よくもワタシを地獄に落としてくれたね?いままで散々苦しい思いをさせてもらった分、全部返させてもらうよ!」

 

 亡者は明らかな殺気を放ちながら映姫の元へゆっくりと歩み寄ってきた。

 

「くっ!映姫様はやらせないよ!」

 

 小町は大きな鎌を構えて亡者の前に立ちふさがった。

 

「小町やめなさい!貴方では勝てません!」

 

「やぁあああーー!!」

 

 映姫の制止の声を無視して小町は亡者目掛けて弾幕を放った。だが亡者はその弾幕に対してニヤリと笑うと両手を大きく後ろに下げた。

 

「はぁあああーー!!」

 

 そして亡者が下げた両手を前に突き出すと巨大なエネルギー弾が現れてそのまま小町の弾幕を飲み込んで飛んできた。

 

「っ……!?きゃああああーー!!」

 

 小町はそのエネルギー弾を避けることが出来ずに吹き飛び、大爆発を起こして大きなクレーターを作った。クレーターの中心で小町の意識は途切れた。

 

「小町……っ!貴方……なんてことを!!」

 

「ふふっ。邪魔だったから片付けてあげただけよ。それよりも貴方は部下の心配なんてしてる余裕ないんじゃないの?」

 

「くっ!」

 

 再び亡者が映姫に向かって歩き出したその時、血の池が再び噴き出して中からブロリーの咆哮が響き渡った。

 

「ブロリー……!!」

 

「あの獄卒まだ生きてるわけ?しぶといわね~。ま、いいわ。今度こそ殺してあげる!」

 

 ブロリーは降り注ぐ血の雨の中をゆらゆらと歩いて亡者の前までやってきた。

 

「おまえ程度に殺されはしない。死ぬのはおまえだ……!」

 

「へえ?ワタシの力に手も足も出ないのにどうやってワタシを殺そうっての?っていうかワタシはもう死んでるんだけどね。あっはっはっは!」

 

「ならば地獄以上の恐怖を教えるだけだ!」

 

「はん!やってみなよ!!」

 

 亡者は気を鞭のように変化させてブロリーに打ち付けてきた。

 あまりの速度にブロリーは鞭を避けることが出来ず、全身を滅多打ちにされる。

 

「ぐっ、おのれ……っ!」

 

「そらそらそら!どんどんいくよっ!」

 

 亡者の猛攻を手をクロスにして身を守り続けると無理やり手を前に突き出してエネルギー波を放った。

 だが亡者は動揺するも軽々とそれをかわして見せた。

 

「あはは!危ない危ない__おっ?」

 

「ハァアアア……!!」

 

 亡者との距離が離れた瞬間、ブロリーは連続で強力な気弾を放った。

 

「ふふっ!ほっ!それ!そりゃ!」

 

 亡者はブロリーの放った気弾を鞭で弾き落とした。

 弾かれた気弾は地獄のあちこちに飛び交い爆発を繰り返す。

 映姫はそれを見てやはり今のブロリーでは勝ち目がないと考えるも今だ封印を解くべきかに躊躇していた。

 

(あの亡者の力は計り知れない……。ブロリーの力を解放したところで勝てるかどうか。でもこのままいけば確実に全員が殺されるだけ……やはり彼に賭けるしかないの……?)

 

 葛藤を繰り返す映姫だったがそこで二人の闘いに変化が見え始めた。

 

「ダァアアア!!」

 

「っ……!くっ!」

 

 僅かだがブロリーの気弾を亡者が弾ききれなくなってきていたのだ。

 

「っ……調子に乗るな!」

 

 亡者はブロリーの気弾を掻い潜ってそのまま鞭を持っていない方の手でブロリーを地面に叩きつけた。

 凄まじい勢いで叩きつけられたことによって地面は大きくひび割れて瓦解する。

 だがブロリーは叩きつけられた直後にすぐ立ち上がり亡者に向かって拳を振るった。

 その状態から反撃してくるはと思っていなかった亡者はその拳を避けられずに宙を舞いブロリーから離れた場所に着地した。

 

「やってくれるじゃない……!」

 

「ウォオオオオ!!」

 

 動揺する亡者にブロリーは休む暇を与えずに攻撃を仕掛けると亡者はその攻撃を正面から鞭で叩き伏せようとした。だがブロリーはその鞭を受けながらも無理やり亡者に突進した。

 

「なっ!?」

 

 そしてブロリーの拳が亡者の腹に直撃し、亡者はさすがにダメージを受けて腹を押さえた。

 

「ゲホッ!も…もう許さないよ!本気で片付けてやる!!」

 

 頭に来た亡者はついに本気の力を解放し、ブロリーとぶつかり合った。

 その闘いを見ていた映姫はブロリーの変化に気が付いた。

 

(さっきよりも実力が上がっている?)

 

 そう、ブロリーは最初に比べて別人と言っていいほど強くなってきていたのだ。

 ブロリーは力を封印されて地獄で獄卒として働きながらも悟空をそしてあの時のホウレンを超えるために修行だけは欠かさずに行っていたのだ。

 そのその結果、映姫の封印では抑えきれないほどの力がブロリーの中にみなぎっていた。

 

(嘘……封印が解けかかって……!)

 

「ウォオオオオーー!!」

 

「「!!?」」

 

 そしてついにブロリーの気が溢れ始め、封印が解かれた。

 その瞬間ブロリーを中心に爆風が発生しとてつもない気が解放された。

 

「……封印が……解けた……?」

 

「な、なんなの?おまえ一体何をしたってんだ!そんな力どこに……っ!」

 

「……。」

 

 気の奔流の中、封印が解けたことに気が付いたブロリーはニヤリと笑い更に力を上げ始めた。

 

「アァアアアアーー!!」

 

「ち、力がどんどん上がっていく……!そんな、馬鹿な!?」

 

 迸る気がどんどん膨らんでいき一瞬次元が歪んだような感覚に陥るとブロリーの気が大きく爆発して再びブロリーの周辺から爆風が起こった。

 ブロリーは幻想郷に来て初めて変身したのだ……伝説の超サイヤ人に。

 

「あれが……ブロリーの本当の力…なの?」

 

「あ…ああ……。」

 

「……どうした。足が震えているぞ……?」

 

 亡者は圧倒的な気を前に全身が震えあがってしまっていたのだ。だがそれも無理もない。

 ブロリーの力は三年前よりも遥かに増大していて超サイヤ人を越えた悟飯すらも上回っていたのだ。いくら力を得たとは言え亡者とは比べ物にならない。

 震えて動けなくなった亡者を見て、ブロリーはゆっくりと近寄っていった。

 

「言ったはずだ……。」

 

 亡者の目の前まで来たブロリーはその頭を鷲掴みにした。

 

「地獄以上の恐怖を教えると……!」

 

 その言葉に亡者は青ざめて更にガタガタと体を震わせた。

 

「や…やめろ!」

 

「もう遅い……!」

 

 ブロリーはその後、亡者を徹底的に追い詰め、まるでボロ雑巾のようになるまで攻撃をし続けた。

 そして意識を失った亡者を投げ捨てると変身を解き映姫の元へ歩いてきた。

 その様子を見ていた映姫は少し怯えたようにブロリーと向き合った。

 

「……封印。解けてしまったんですね。」

 

「……。」

 

「あの亡者を止めてくれたのは感謝します。ありがとうございました。……もう貴方の力を封印することは出来ないでしょう。どうしますか……?」

 

「……何がだ?」

 

「……力を取り戻したということは私たちの敵に回るのですか……?」

 

 怯えるように言ったその言葉を聞くとブロリーは何も言わずに映姫の隣を通り過ぎた。

 

「ブロリー……?」

 

「その亡者は一番深い地獄にでも送っておけ。小町や獄卒共を運ぶぞ。さっさとしろ。」

 

「!!……ブロリー、貴方……。」

 

「……元の世界に戻れん以上オレに行く当てなどない。それだけだ。」

 

 ブロリーはそう言って小町を抱えて歩き出したのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

霧がかかる冥界 現れた不気味な男

 皆が闘っている間、冥界では一人の男が白玉楼の近くに現れて辺りを攻撃し始めた。

 それに気が付いた妖夢は一人で男の元へ向かった。

 

「待ちなさい!貴方何してるんですか!これ以上の破壊行動は私が許しません!」

 

 男は無言のままで破壊する手を止めて妖夢を見た。男の見た目は細いが鍛えられた肉体にさらさらの短い黒髪で白いシャツを着ていた。

 男は妖夢と対峙するもまったく言葉を発さなかった。

 

「なぜ何も喋らないんです?まあいいです。侵入者は斬り捨てるのみ……さあ覚悟しなさい!」

 

 妖夢は一直線に突っ込み、男を斬りつけた。だが男はその攻撃を最小限の動きでかわし、妖夢に回し蹴りを入れてきた。

 妖夢はその蹴りをなんとか刀で防御するも大きく後ろに滑り込む。

 

「なかなかやりますね。どこのどなたか存じませんが少し本気で行かせてもらいます!」

 

 妖夢は再び男に斬りかかった。それに対して男もまた応戦する。

 だが妖夢は闘っている最中、疑問があった。なぜ男は一切喋らないのかそして自分からは攻撃を仕掛けずにひたすら妖夢の攻撃をかわしてからのカウンターのみの攻撃。

 

 それだけならまだそういった性格、戦闘スタイルだと割り切れるが不思議なことにその男からは一切の霊気や妖気、魔力と言ったものを感じないのだ。

 それは男が人間でも妖怪でも幽霊でもないと言うことになる。

 

(なんなんですかこの人……気味が悪い……!)

 

 得体のしれない者と闘っていることに気が付いた妖夢はいつもよりも神経を研ぎ澄ませて男と闘いを続けていた。

 だがもともと半人半霊でありながらも怖いものが苦手な妖夢はだんだんその男が怖くなってきてしまい、手に震えがきてしまう。

 

「あ、貴方、何者ですか!?名を名乗りなさい!」

 

 若干震えた声でそう言うも男はまるで口を開こうとせずに妖夢の元へ歩き出した。

 するとどういったわけか男が何人にも増えていき妖夢の周りをぐるりと囲んしまった。

 

「なっ!?こ、これは一体……!」

 

 男は動揺する妖夢にもお構いなしで一斉に中央の妖夢目掛けて攻撃を仕掛けてくる。

 妖夢はそれを大きく飛び上がることによって回避した。

 しかし、飛び上がった先にはなんとその男が一人待ち構えていたのだ。

 

「っ!!しまった!きゃあああーー!!」

 

 不意を突かれた妖夢は男の攻撃をまともに受けて、地面目掛けて勢いよく落ちていく。

 受け身も取れずにこのまま地面に叩きつけられるかと思ったその時。

 

「よっと!」

 

 妖夢は到着したホウレンによって受け止められてなんとか衝突を回避した。

 

「ホ、ホウレンさん!?」

 

「わりぃ、遅くなった。大丈夫か?」

 

「わ、私は大丈夫ですがなんでホウレンさんが冥界に?」

 

「ちょっと色々あってな。」

 

「色々って……あ。」

 

 ここで妖夢は気が付いた自分がどんな体制で受け止められたのかを。

 妖夢は背中から落下していたところを受け止められた。つまり今の状況はホウレンにお姫様抱っこされている状態なのだ。

 それに気が付いた妖夢は顔を赤くして慌て始める。

 

「あ、ああ、あの!そ…そろそろ降ろしてください……!」

 

「ん?ああ、そうだな。ほれ。」

 

 ホウレンが降りやすく角度を変えると妖夢は急いでホウレンの腕の中から抜け出した。

 

「顔赤いが本当に大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫です!お気になさらず!そ、それよりも気を付けてください!あの方、何をしてくるかわかりませんよ!」

 

 そう言われてホウレンは男の方を見た。男は全部で八人に増えていて全員が同じ姿をしていた。

 そしてホウレンもまた男の違和感に気が付いた。

 

「……気を感じねえ……。」

 

「気と言うのは貴方方や美鈴さんが使っているものですよね?あの方からは感じないんですか?」

 

「ああ。まったく感じねえ。そんなやつ存在するのか……?」

 

「実はあの方、霊気も魔力も妖気も何も感じ取れないんです。貴方方が使っている気と言うものならあるいはと思ったのですが……。」

 

「それも違ったわけか。じゃああいつは一体なんなんだ?」

 

「分かりません。……でもホウレンさんが来てくれてよかったです。ちょっと怖かったもので。」

 

「おまえ半分幽霊なのに怖がりだもんな。でも今は俺も一緒にいる。……もう怖くないだろ?」

 

 ホウレンの言うとおりいつの間にか妖夢の震えは収まっていた。

 

「は、はい!まだ闘えます!」

 

「よーし、一人ずつ片付けていくぞ。俺に続け!」

 

「はい!!」

 

 ホウレンは超サイヤ人に変身して、妖夢は刀を二本抜いて男たちの元へ走り出した。

 二人が話をしている最中はまるで動きを見せなかった男たちだったが二人が向かってくるのを見て再び動き出した。

 

「待っててくれてありがとよ!こいつはお礼だぜ!」

 

 ホウレンはそう言って手から気弾を放ち男たちを攻撃した。

 気弾の爆発によって一瞬視界が悪くなったところを二人は同時に一人目の男を殴りつけ、斬りつけた。そしてホウレンはすぐにその男にエネルギー波を放ち止めを刺した。

 すると男は体が霧のように消えてしまった。

 

「やっぱり生き物じゃなかったか……。」

 

「恐らく幻術の一種でしょう。この調子であいつらを倒しましょう!」

 

「おう!そっちは頼んだ!」

 

「任せてください!」

 

 二人は左右に分かれて残りの男たちを倒すことにした。

 

「今度は容赦しませんよ!たあああーー!!」

 

 妖夢は二つの刀で男を斬りつけまくった。男はそれをギリギリでかわして妖夢に反撃を加えようとした。だがそれを妖夢は許さず、反撃してきた拳を斬りつけ男の右腕が霧になって消えた。

 その時出来た隙を見逃さずに妖夢は男を斬って斬って斬りまくった。

 すると男はその場に倒れこみ霧となって消えた。

 

「これで二人……。あと六人!」

 

 ホウレンは四人に囲まれて闘っていた。相手の力は今のホウレンにとって大したものではないがホウレンは逆にそのことが気になっていた。

 

(こいつらの強さは大したことねぇ。だけど紫は人里のやつとは次元が違うって言ってたはず。だとするとこいつらとは別のやつがいるのか……?それなら!)

 

「とっとと終わらせて元凶を倒して終わりだ!どりゃああーー!」

 

 ホウレンは襲い来る男の足を掴み他三人を巻き込んで振り回し、そのまま放り投げた。

 

「あばよ!ターコイズブラスト!!」

 

 放り投げたところを狙ってホウレンは技を放って男たちを飲み込むと男たちはあっけなく霧となって消えてしまった。

 

「ふう、こっちは終わりだな。あとは残ったやつの中に元凶がいるはず……。」

 

 すぐに加勢しに向かおうとするホウレンだったがそこに妖夢が駆け寄ってきた。

 

「ホウレンさーん!」

 

「妖夢。残りのやつらは?」

 

「なんとか倒せました。ご協力ありがとうございました。」

 

 あっさりと残りの男たちを倒してきた妖夢にホウレンは首を傾げた。

 

「あれ?一人だけ強いやつとかいなかったか?」

 

「?……いえ、みんな同じくらいでしたけど。」

 

「そうか……紫のやつめ。大したことなかったうえに暴走した様子もなかったぞ……。」

 

「暴走?なんの話ですか?」

 

 ホウレンは地上で何が起こったのかを説明した。

 

「なるほど、それでホウレンさんは冥界に来たんですね。」

 

「そういうこと。まあ聞いてたほどの強さはなかったから、ちょっと拍子抜けだな。」

 

「いいじゃないですか。あの方が更に強かったらもっと被害が出てたかもしれないんですよ?むしろよかったと考えるべきです。」

 

「確かにな。おまえの言うとおりだ。そんじゃ、他のやつらの様子も気になるし俺は地上に戻るとするか。幽々子によろしくな。」

 

 ホウレンは軽く手を振って再び地上へと戻ろうとした。ところが振り返るとその先に先ほどの男が一人、こちらをじっと見ていた。

 

「うおっ!?びっくりした!あ、あいつまだ残ってやがったか……!ってことはあいつが本体か?よーし、今度こそ終わりにしようぜ!」

 

 ホウレンは腕を鳴らして再び戦闘態勢に入る。

 

「待ってくださいホウレンさん!何か……変じゃありませんか?」

 

「?何がだよ。」

 

「周りですよ。ほら、いつの間にかこんなに霧が……。」

 

 妖夢に言われて辺りを見回すと確かに霧が立ち込めていた。そしてその霧は男に近づくほど濃くなっており、二人はこの霧が普通の霧じゃないことを察して辺りを警戒する。

 

「……妖夢。気をつけろよ。どんな攻撃がくっかわからねえぞ。」

 

「ええ……。」

 

 警戒を続ける二人の前で男は目を鈍く光らせた。すると周囲に男とまったく同じ姿をした者たちがどんどん現れ、数えきれないほどの人数にまで増え始めたのだった。

 

「なっ!?」

 

「なんて人数……!これもすべて先ほどと同じ術を!?」

 

 本気で闘えば余裕で勝てる相手とは言え、数えきれないほどの人数にさすがのホウレンも汗を垂らす。いくらホウレンといえど体力が無尽蔵にあるわけではない。

 それは修行で実力が上がっている妖夢との二人がかりでも厳しいものであった。

 

「やべえな。どうすっか……__!!」

 

 その時遥か遠くの方から強大な気が二つ解放されるのを感じた。それは地獄と地底で闘っているブロリーと悟飯のものだった。

 幻想郷では霊気や妖気、魔力やそれ以外の力で満ち溢れていて普段はホウレンたちでも近くでない限りは特定の気を探るのは難しいものである。

 しかし、この二人は今超サイヤ人以上の膨大な気を放出しているため、その気が冥界にまで届いてきたのだ。

 

「悟飯……ブロリー……あいつらがフルパワーで闘うほどの相手がいたのか。俺も弱気になってらんねえよな……。妖夢!いけるか!?」

 

「もちろんです!貴方と鍛えたこの力、まだまだあんなものじゃありません!」

 

「そうか!じゃあ俺も本気出していくぜ!!はぁあああーー!!」

 

 その瞬間ホウレンは気を解放し、超サイヤ人へと姿を変えた。

 

「いくぞ妖夢。こいつら全員蹴散らして俺たちが勝つ!」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

明らかになる作戦 驚愕の真実

 各所で闘いが行われている中、紫は八雲藍とともに幻想郷全体を見通していた。

 それはこの闘いを引き起こした人物が他にも力を与えた者がいるのではないかという疑問からだった。そして幻想郷の中心辺りの草原を見るとそこには見知らぬ男が立っていた。

 

 真っ黒な袴姿に服の上からでもわかるほどの筋肉質な体。厳格な鋭い目つきをしていてボサボサの黒い髪をオールバックにした中年くらいの男性だった。

 

「……あの男。」

 

「あの男がどうかなされましたか?」

 

「ええ……なにかしら。人間が一人であんな所にいるなんて……。」

 

 疑問に思っているその時、男は突然強大な気を発し始めた。

 

「っ……これは!!」

 

 あまりにも大きな気に気を扱う者たちはそれにいち早く気が付いた。

 

 ~妖怪の山~

 

「っ!!な、なんだこの気は!」

 

「え?ピッコロさん、何かあったんですか?」

 

「……また厄介ごと?」

 

 疲れ切った様子の霊夢がうんざりした表情でピッコロに問いかけた。

 

「今幻想郷にとてつもない大きさの気が現れた。……恐らくオレよりも力は上だ。」

 

 ピッコロの発言に三人は息を飲んだ。ピッコロの強さは超サイヤ人状態のホウレンをも凌ぐ、それを知っていたからだ。

 

「……まだ力が暴走してるやつが残ってるってことよね……。あの男はどこまで余計なことしてくれるのかしら……!」

 

「霊夢さん、今は怒ってる場合じゃありませんよ。それよりもどうしますか。早苗さんの神社で休む予定でしたが。やはり行きますか?」

 

「当然よ!そんな化け物放っておけないわ!」

 

 射命丸の問いかけに即答した霊夢はすぐにその場所へ向かおうとした。

 すると突然辺りに霧が立ち込め始めた。

 

「霧……?……__っ!霊夢さん避けて!!」

 

 早苗が叫ぶとその瞬間地面から鋭い爪が突き出してきて霊夢を襲った。

 

「っ!!」

 

 霊夢は左肩に爪が掠るもその爪を回避して距離を取った。掠った左肩からはたらりと血が流れている。

 

「霊夢さん!大丈夫ですか!?」

 

「大丈夫、かすり傷よ。それよりも今の攻撃ってまさか……!!」

 

 全員が爪が突き出た地面を見るとそこからずるりと妖怪が出てきた。その妖怪はなんと先ほど倒したはずのカプラスであった。

 

「あいつまだ生きてたわけ……!?」

 

「いや、そんなはずはない。確かに息の根を止めたはずだ。それにあいつの体には傷が一切見当たらん。どういうことだ……?」

 

「それに様子も変です。なんで一言も喋らないんでしょうか?」

 

 射命丸の言うとおりカプラスは一切言葉を発さなかった。それはまるで冥界に現れた男と同じようにだ。そして霧がどんどん濃くなり始め、なんとカプラスまでもが大量に現れ始めた。

 

「なんだと!?」

 

「な、なんですかこの人数……!こんなにたくさんどうやって倒したら!?」

 

「早苗、落ち着いてやつらの力を探ってみろ。」

 

「え?は、はい。」

 

 ピッコロの言うとおりに早苗はカプラス達の力を探ってみるとカプラス達からはなんの力も感じることが出来なかった。

 

「力を感じない……?これは一体……。」

 

「恐らく幻ね。誰かが幻を作り上げているんだわ。つまりあいつらにはさっきまでの硬さはないってことよ。」

 

「なるほど、それならあんなやつ私たちだけでも余裕ですね。」

 

「そういうことよ。わかった?早苗。」

 

「はい!では早くこの妖怪達を退治してその強い人の場所へ向かいましょう!」

 

「勝てる相手とは言え油断はするな。全力でいけ!」

 

 

 ~旧都~

 

「どうしたの二人とも?急に上を見上げちゃって。」

 

「悟飯さん!今の気づきましたか!」

 

「気づきました!セルに匹敵するほどの気が地上から……!」

 

「なんだい?地上に強いやつが出たってのかい?」

 

「ああそうだ!急いで向かいましょう!」

 

「はい!__っおまえは!?」

 

 急いで地上に向かって走り出そうとすると目の間に死んだはずのオーガの姿があった。

 そしてこのオーガもまたどんどん数を増やし数えきれないほどの人数で四人を囲った。

 

「なんなんだいこりゃ!あいつはさっき死んだんじゃなかったのかい!?」

 

「た、確かに気は完全に消滅したはずです!こいつらは一体……!」

 

「考えてても仕方ありません!早くこいつらを倒して地上に行かないと!」

 

「そうですよね、よしやりましょう!はぁああーー!!」

 

 悟飯とトランクスは再び超サイヤ人に変身してオーガ達との闘いを始めたのだった。

 

 ~地獄~

 

 ブロリー達は他と同じく倒したはずの亡者が目の前に現れていた。

 

「なんだおまえ。まだやるつもりか?」

 

「待ちなさいブロリー!この亡者さっきとは何か違います。」

 

「違うだと?どこがだ?」

 

 するとこの亡者もまた霧と共にどんどん数を増やし始めブロリー達を囲った。

 

「……フン、いいだろう。まだ闘い足りなかったところだ……!映姫、小町を見てろ。」

 

「わかりました。ってちょっと!投げて渡さないでください!落としたらどうするんですか!?」

 

「そんなことは知らん。」

 

 ブロリーはすぐに超サイヤ人に変身して気を高めて、肩を鳴らした。

 

「全員まとめて血祭りにあげてやろう……!」

 

 

 ~スキマ~

 

「これはまさか……戦力を分散されられた?」

 

「ですが一体何のために……?」

 

「それはわからないわ。でも確かなのはすぐにあの男を止めに行ける人がいないということ。……どうやら私たちが行くしかなさそうね。藍、出るわよ!」

 

「はっ!」

 

 

 ~草原~

 

 紫がスキマから出るとそこには力を解放した男が仁王立ちしていた。まるで来るのがわかっていたかのように男はニヤリと笑った。

 

「始めまして。私は八雲紫よ。」

 

「私は式神の八雲藍です。」

 

 男は組んでいた腕を解いて紫達と対峙した。

 

「出てきおったか。待っておったぞ。」

 

「あら?私のことご存知だったかしら?」

 

「無論だ。オレの名はアルメト。訳あってこの幻想郷に参った。」

 

 アルメトの言葉に二人は気づいた。こいつは力を貰い暴走しているわけではないことに。

 

「幻想郷に参ったと言うことは貴方外来人ね?ってことは今回の件とは無関係ってことかしら。……それでアルメト。貴方は何をしにこの幻想郷に来たのかしら?ちょっと今幻想郷は大変なところだから後からなら聞いてあげられるわよ?」」

 

「……幻想郷は大変なところ……そうだろうな。」

 

 アルメトの呟きを聞いた途端に何か嫌な予感がした紫は急いでアルメトから離れた。

 

「藍、早く貴方も下がりなさい!」

 

「え?は、はい!」

 

 紫にそう言われて藍はすぐに紫の元まで走り出した。その様子を見てアルメトは面白そうに笑みを浮かべていた。

 

「……貴方、何者かしら。あのファトムって子のお仲間?」

 

「ほう、よくわかったもんだ。いかにも、ファトムはオレの協力者だ。」

 

「捕まった仲間を助けにでも来たのかしら?でも彼は幻想郷全体を巻き込むほどのことをしでかした張本人。そう簡単に返すわけにはいかないわ。貴方も大人しくするなら合わせてあげてもいいけど?」

 

「ハッハッハ!!そうか、おまえさんらはまだ気が付いていないのか!」

 

 アルメトは突然訳のわからないことを言って笑い出した。二人はそれがどういうことかを考えるが何のことを言っているのかがさっぱりわからなかった。

 

「なんのこと?貴方いったいなにを知っているの?」

 

「フッフッフ……。おまえさんらはどうやらここの者達に力を与えたのがファトムだと思い込んでいたようだな。……オレたちの狙い通りに。」

 

 二人はその言葉に激しく動揺した。この二人に限らず全員が今回の騒動の発端は間違いなくファトムだと思い込んでいたからだ。

 だがアルメトの言葉だとそれが間違いであるということになる。

 

「どういうこと!?だったらなぜ彼は幻想郷のあちこちで声をかけて回っていたと言うの!?」

 

「簡単な話よ。それはおまえさんらを欺き、本来の目的を達成するため。」

 

「本来の目的ですって……?」

 

 するとアルメトは紫を指さした。

 

「オレたちの真の目的は八雲紫。おまえさんだ!」

 

「なっ!?」

 

「目的は紫さま……!?」

 

「そう、オレたちはある方法を使ってこの幻想郷に入ってきた。だがこちらの都合で今はまだ最大で二人しか同時に幻想郷に入ることは出来ない……。だがそれを解決させる方法が存在する。それは八雲紫、おまえさんの力を使うことだ。」

 

 アルメトたちがどうやって幻想郷に入ってきたのかはわからない。だがアルメトの言うとおり紫の力を使えば幻想郷に外の世界の人間を連れ込むことは可能なのだ。

 しかし外の世界から来たはずのアルメトたちがなぜ紫の能力のことを知っていたのかがわからなかった。

 

「オレたちはこの幻想郷に入り、すぐにおまえさんを探そうと思った。だがこの幻想郷には想像以上の強さを持つ者たちが数人いることに気が付いたのだ。そこでオレたちはその力を先に分断することにした。オレの力を使ってな。」

 

「貴方の力ですって?貴方いったい何ができると言うの……?」

 

「おまえさんらの世界で言うところの『程度の能力』と言うものをオレたちも使うことが出来ると言ったらおまえさんはどうする?」

 

「な!?そんなわけない……外の世界に住むものがその力を使えるわけないわ!」

 

「フッフッフ。信じる信じないはおまえさんの自由。好きに受け取ればいい。」

 

「……っ!」

 

「話を続けよう。オレの能力は『常識を覆す程度』と言うものだ。」

 

「常識を……覆す?」

 

「そのとおり。この能力はオレの基本的な能力値を常識では考えられんほどに増大させることができる。そしてこの力を使いこの幻想郷にいる四人の者にこの力の一部を分け与えて回ったのだ。おまえさんらがファトムを探している間にな……。」

 

 力を分け与えた。その言葉に紫はすぐに反論した。

 

「力の一部を分け与えるですって……!?そんなこと不可能なはず!」

 

「言っただろう?常識を覆す程度……と。おまえさんらの常識なんぞオレには通用しない。」

 

 あまりに理不尽な能力を前に紫は言葉を失った。

 

「だがしかしおまえさんらも見事。一人は出来損ないの人間だったとは言え、力を与えた四人をすべて倒してしまうとは思わなかったぞ。だが対策はまだある。残念だがここに助けに来れる者はいない。」

 

「……ならばみんながここに到着するまで私たちが貴方と闘うだけだわ。」

 

「ほう。先の力を見てなおオレと闘う気力があるとは、なかなか肝が据わっているではないか!」

 

 紫と藍は戦闘態勢に入り、顔を見合わせた。

 

(藍わかっているわね?あの男にはどうやっても勝てないわ。なんとか時間を稼いで彼らが来てくれるのを待つのよ。)

 

(わかっています。なんとしてでも時間を稼いで見せましょう。)

 

「八雲紫!おまえさんを捕まえさせてもらおう!覚悟するがいい!!」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

常識を覆す男アルメト ついに参上孫悟空!

冥界での闘いはいまだ続いていた。無数に増え続ける男を倒し続けるも終わりが全く見えない。そんな状況に少し焦りを抱き始めた。

 

「地上の馬鹿でかい気が動き始めた……!早く行かねえといけねえってのに……くそっ!こいつら倒しても倒してもキリがねえっ!」

 

「ホウレンさん行って下さい!ここは私がなんとか食い止めます!」

 

「な!?なに言ってんだおまえ!こんな状況で置いて行けるわけねえだろ!」

 

「でもここで闘っていてもなにも解決しません!ならば今一番危険な人を止めるべきです!ここは絶対に私が守り切ってみせますから!」

 

「バカ野郎!いくらなんでもおまえ一人じゃこの量相手は無茶だ!」

 

 言い合っていると突然近くの地面に大量の弾幕が降り注ぎたくさんの男たちを一掃した。

 

「「!!」」

 

「大丈夫よぉ。妖夢一人じゃないわ。」

 

 声に誘われて上を見上げるとそこには幽々子がいた。今の弾幕は幽々子が放ったものだったようだ。

 

「幽々子様!」

 

「私もたまには真面目にやらないとねぇ。そういうわけだから、ホウレンくん。早く行ってきてもらえるかしら?」

 

「……おまえら二人で本当に大丈夫なんだな?」

 

「私これでもまだ妖夢よりは強いのよぉ?だから大丈夫。」

 

「そのとおりです!安心して行ってきてください!」

 

 ホウレンは少し考え込み、覚悟を決めて顔を上げた。

 

「……わかった。すぐに助けに戻るからな!それまで頑張ってくれよ!はぁあああーー!!」

 

 ホウレンは両手に気を籠めて前方に巨大なエネルギー波を撃った。そして一瞬だけ出来た道を高速で抜けて地上への入り口を目指し飛び出したのだった。

 

「ホウレンさん……。頑張ってください……!」

 

 

 ~草原~

 

 紫&藍対アルメトの闘いはすでに始まっていた。

 藍は式神『橙』を呼び出し、紫は様々なスペルを使って奮闘するもアルメトの圧倒的な力を前に苦戦を強いられていた。

 

「くっ!!」         結界『光と闇の網目』

 

 紫はたくさんのレーザーを網目状に放ち、アルメトを狙った。

 だがなんとアルメトはそのレーザーをまともにくらいながらも歩いて近づいてくる。

 

「っ!効いていないの!?」

 

「ハッハッハ!オレの常識を超えた肉体を前にはこのような攻撃なんともないわ!」

 

 アルメトはそのまま拳に力を込めて思い切り振りぬいた。すると拳を振りぬいた場所から爆風が発生し、弾幕を弾き飛ばした。

 

「っ!!(強すぎる……!この私のスペルがまるで通用しないなんて……!)」

 

「紫さま!このままではすぐに捕まってしまいます!お逃げください!」

 

「そうですよ!私たちで時間を稼ぎますからスキマに入ってください!」

 

 藍と橙に逃げることを強く勧められた紫だが紫はすぐに首を横に振った。

 

「それは出来ないわ。私は幻想郷の賢者として絶対にこいつを止めなくてはいけない。貴方たちならわかるでしょう?」

 

「ですがこのままでは!」

 

「……もしここで私が捕まってしまったとしても私は決してあいつらの思い通りにはならないわ。だからお願い。私は貴方たちを置いて逃げたくないの。」

 

「紫さま……。」

 

「世界のため大切な者のために自らを危険な目に合わせるとは見事だ。まあ逃がすつもりなんぞはなっからないがな?」

 

「くっ、紫さまには手を出させんぞ!」

 

 乱は橙と共にアルメトの周りを高速で飛び回りながら全方向から弾幕を放ちはじめた。

 それに対してアルメトは体を捻り大きく足を振り回すとその衝撃によって二人の弾幕は明後日の方向に飛んで行ってしまった。

 そしてアルメトは一瞬にして移動して掌底突きで橙を吹き飛ばした。

 

「橙!!」

 

 橙はアルメトの攻撃を受けて地面に転がり、意識を失ってしまう。

 

「おのれ__っ!!」

 

「__よそ見とは余裕じゃないか。」

 

 瞬きの瞬間にアルメトは藍との間合いを詰めていた。そして腹に拳を一撃だけ入れると藍は腹を抱えてその場に膝をついた。

 

「あ…ぐぅ……っ!」

 

「藍……橙……!!」

 

 藍は腹を押さえながらもなんとか意識を保ち必死に紫の方を向いた。

 

「紫…さま……。お役に立てず…申し訳…ございません・……!」

 

 その言葉を最後に藍の意識は途切れ、地に伏したのだった。

 

「まさか……こうもあっさりと……!」

 

「邪魔な者たちはもうお休み中だ。助けが来る前に終わらせんとな。」

 

 アルメトは腕を回しながら立ち尽くす紫の元へ歩いてくる。だが紫はまるで金縛りにあったかのように動くことが出来なかった。

 始めて出会う遥か上の存在を前に体が言うことを聞いてくれなかった。

 

(ダメ……!これはもうあの人たちじゃないと相手にならない!でも今は誰もここに来れない……ここまでなの……?)

 

「暴れられても面倒だ。少し眠っててもらおうか。」

 

「っ……!!」

 

 そう言ってアルメトは紫に拳を振り下ろした。__だがしかしその拳は紫に当たることなく止まった。いや、止められたと言うべきであろう。

 

「へへっ、おめえすげえ力だな。手が痺れちまったぞ。」

 

 アルメトの拳を止めたのはなんと悟空だった。突然現れた悟空に紫とアルメトは驚き目を見開いた。

 

「紫。わりいな。遅くなっちまった。」

 

「ご、悟空!?貴方どうしてここに……。」

 

 紫は動揺こそしたが悟空が現れたことによってこの最悪の状況に一筋の光を見たような気がした。

 悟空はすでに超サイヤ人の状態でアルメトと対峙していた。

 

「……おまえさん。今どっから湧いて出た?オレが見逃すとは思えんし……。」

 

「……さっきおめえが気を解放したおかげさ。おめえの気を探って瞬間移動でここに来た。」

 

「ほう。瞬間移動……これはまた常識を外れた男が現れたもんだ!ハッハッハ!」

 

 アルメトは大声で笑い、悟空の顔を見ると顔つきが変わり、真剣な顔で悟空の前に立った。

 

「……おまえさん、相当強いな。こいつは楽しめそうだ。」

 

「おめえこそ、こんな気を持ったやつがいたなんてな。セルといい勝負かもしんねえ。」

 

「……。」

 

「どうした?急に黙っちまってよ。」

 

「いや、なんでもない。……フフ、どうやら厄介なやつに当たってしまったようだな。」

 

「……?」

 

「オレはアルメト。おまえさん、名前は?」

 

「オラは孫悟空だ。」

 

「そうか。……孫悟空。いい勝負をしよう。」

 

 アルメトは次の瞬間、自らの気を更に解放して凄まじい気の嵐を体に纏うと挑発的に指をクイっと動かした。

 

「へっ……はぁああああ!!」

 

 悟空はそれに挑発に乗り、気を解放すると悟空からもまた激しい気が発せられた。

 そしてお互いに気を解放した二人は真正面に立って睨みあいを始めた。

 

「紫。おめえはそいつら連れてスキマに入っててくれ。巻き込んじまうかもしれねえ。」

 

「それは困るな。オレの目的はあいつなんだ。逃げられちゃあたまらん。」

 

「……だったらオラを倒してから止めてみたらどうだ?」

 

「……そうさせてもらおう。」

 

 睨み合い黙り込む二人。……そして次の瞬間、二人の右拳が同時にお互いの頬へ打ち込まれ、鈍く重たい音が辺りに響き渡った。

 

「ぐぐっ!」

 

 だがダメージを受けているのは悟空一人だけだった。アルメトは悟空の拳を頬に受けながらも微動だにしない。それに引き換え悟空は大きく体勢が崩れかけた。

 

「オレの肉体にそんなひょろい攻撃ビクともせんわ!」

 

「!!」

 

 体勢の崩れた悟空にアルメトは左拳を振りぬいた。悟空は体を捻ってギリギリでその攻撃をかわし、アルメトの脇腹に回し蹴りを当てるがやはりビクともしなかった。

 そのままアルメトにその足を鷲掴みにされ投げ飛ばされるも悟空はバク転しながら体勢を立て直し瞬間移動でアルメトの真後ろに回り込んだ。

 

「うぉりゃああーー!!」

 

「むっ!?」

 

 そして悟空の全力の蹴りがアルメトの背中に直撃しアルメトは立ったまま地面を滑り込むと悟空の方へ振り返った。

 

「フッフッフ。思ったとおり厄介な男だ。そこいらの戦士とは一味違う。真の強者とも言えよう。だがこの肉体にはどんな戦略も無意味!そして……!」

 

 アルメトは上着を脱ぎ捨て、全身に気を込め始めるとどんどん筋肉が膨張し、例えるならばブロリーのように体が大きくなると一瞬で悟空との間合いを詰めた。

 

「なっ!?」

 

「常識を遥かに超えるスピード!」

 

「くっ!だりゃああーー!!」

 

 悟空は目の前に現れたアルメトに殴り掛かるがアルメトがその攻撃を無視して逆に悟空を殴り飛ばした。するとあまりの威力に悟空の足元がひび割れ、アルメトの殴った正面に爆風が発生する。

 

「うわぁああーー!!」

 

「更に!」

 

 アルメトは悟空が吹き飛んだ先へ一瞬で移動し両手を合わせてハンマーのように振り下ろし、悟空を地面に叩きつけた。叩きつけられた地面は大きく陥没し巨大なクレーターが出来た。

 

「常識を遥かに超えるパワー!これだけでもおまえさんでは絶望的なまでの差が出来てしまう。これでもまだ続けるか?」

 

 身体能力のすべてが常識では考えられないほどの能力を持ったアルメトにとってはまだまだこんなもの序の口ではなかった。

 アルメトは余裕の表情で倒れる悟空を見下ろした。悟空はすぐに立ち上がりアルメトから距離を取り、口から流れる血を拭き取った。

 

「あたりめえさ……。こんなに強いやつに出会えるなんてよ。オラわくわくしてきたぞ!」

 

 はたかれ見れば大ピンチとも言えるようなこの状況においても悟空は楽しそうに笑いそう言った。

 

「……本当に厄介な男だ、孫悟空。だがそんなおまえさんには更に絶望を与えておいてやろう。」

 

「なに……?」

 

「八雲紫!おまえさんもしっかりと聞いておくがいい!オレの協力者、ファトムはおまえさんらに敗れ捕まった……そう思っているだろう!だがそれはとんだ勘違いだ!ファトムはある別の目的のためにわざと捕まったのだ!もしもの時のためにな!」

 

「もしもの時のために?」

 

「……そうだ。万が一このオレが敗れるようなことがあった時、八雲紫を捕まえるのは困難になるやもしれん。その時に博麗神社からこの世界の結界そのものを破壊するためにな。」

 

「なんですって!?」

 

「!!……結界が破壊されちまうとどうなるんだ……?」

 

「この幻想郷と外の世界との境界が崩れ世界そのものが大混乱に陥るだろう。恐らくファトムはすでにその準備を終えている。つまり、もしおまえさんが奇跡を起こし、このオレを倒すことが出来たとしても、もうすべてが手遅れだということだ!」

 

 それを聞いた紫は激しく動揺し、慌てふためいた。

 

「は、早く博麗神社へ行かないと……!」

 

「無駄だ。ファトムの真の実力はこのオレに匹敵する。おまえさん一人が行ったところで何も出来はしない。」

 

「……っ!!」

 

「……どうだ?降参する気になったか?」

 

 悟空すら歯が立たず、博麗神社に向かえる人もいない。紫はもうどうしようもないと思い始めた。

 しかし悟空はそれを聞いても絶望に染まることはなかった。

 それどころか悟空は口元に笑みすら浮かべていた。

 

「悟空……?」

 

「……何がおかしい?絶望的な状況に気でも狂いおったか?」

 

「いや……そうじゃねえさ。……アルメト。残念だけんど、おめえの……おめえたちの作戦は失敗だ。」

 

「なんだと……?」

 

 

 ~博麗神社~

 

 博麗神社ではファトムが封印を無理やり解き、境内で結界の破壊の準備をしていた。

 

「さーて、あとは待機するだけなんだけど……どうやらそうも言ってられないらしいね。」

 

 ファトムが鳥居の方を見るとそこには__。

 

「そういうことだ。残念だったな。」

 

 __そこに立っていたのはなんとベジータだった。

 

 

 ~草原~

 

「ファトムっちゅうやつがわざと負けたって言ってたよな?その時の闘い。オラはベジータと一緒に見ていたんだ。手加減してるってのもすぐに気が付いた。だからオラたちは二人でずっと博麗神社の近くでそいつを見張ってたんだ。」

 

「……。」

 

「だけどそこに突然おめえのでけえ気が出てきておどれえたぞ。」

 

「ちょ、ちょっと悟空?」

 

 説明する悟空に紫がクレーターの上から話しかけてきた。

 

「ん?どうしたんだ紫。」

 

「すぐに気が付いたならなぜ来るのが遅かったの……?」

 

 紫がそう聞くと悟空は少しばつが悪そうにした。

 

「あ……えーとな。……どっちがここに来るかじゃんけんで決めてさ。なかなか勝負がつかなくてよ。それで遅くなっちまったんだ。すまねえ!」

 

「あ、ああそう……。」

 

 あまりにどうでもいい内容に紫はそれ以上何も言うことが出来なかった。

 

「……なるほど。それでおまえさんがオレの元へ来ることになったと。その様子からすればもう一人の者もおまえさんと近しい実力の持ち主というわけか。」

 

「まあな。」

 

「だが甘い!おまえさんと同様の強さだとしてもその程度の実力ではファトムを止めることはできん!そしておまえさんもこのオレを倒すことはできんのだ!」

 

 アルメトの言ったとおり、今の悟空とアルメトでは実力の差が大きく開いていた。普通に考えれば今の悟空に勝ち目など一切ない。だが悟空にはどこか余裕があった。

 

「……そうだな。この姿じゃどう転がっても勝てねえ。だからオラも本気で闘わせてもらうぞ。」

 

「なに……?」

 

 そう言うと悟空は拳を握りしめ、急激に気を高め始めた。

 

「はぁあああーーー!!」

 

 悟空の気がどんどん膨らみ始め、辺り一帯が大きく揺れ始める。

 

「これは……!」

 

「ダァアアアーー!!」

 

 次の瞬間、悟空を中心に爆風が発生し、悟空の気が一気に爆発した。

 アルメト爆風の中、悟空を見るとその姿は先ほどとは雰囲気がまるで違い、圧倒的な圧力を放っていた。

 

「……待たせたな。こいつが超サイヤ人を越えた超サイヤ人……超サイヤ人2ってとこかな。」

 

 そう、悟空はこの三年間の修行で悟飯と同様、超サイヤ人の壁を越えていたのだ。

 髪が通常よりも更に激しく逆立ち、全身から溢れ出る気はプラズマのようなオーラを纏っていた。

 

「……それがおまえさんの真の実力というわけか。確かにオレよりも気は上だ。だがそれだけだ。このオレの能力を前にはすべて無駄なことを教えてやろう!」

 

 ついに本気を見せる悟空と能力の底が見えないアルメトの闘いが今始まる……。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

交わる四人の力 常識越えの激突!

 ファトムが目立った行動を取ることによって、裏で動いているアルメトに誰も気づくことが出来なかった。霖之助の元に現れたという謎の男のことを霊夢たちはファトムのことだと勘違いしていたが霖之助の元に現れたのはアルメトをほうだったのである。

 

 アルメトはファトムを盾に裏で四人の強者を配下にすることに成功したのだ。

 人里の人間。妖怪の山のカプラス。地底のオーガ。地獄の亡者。それぞれが遠く離れた位置で暴れることによって幻想郷の強者たちを分断することに成功したアルメトはその四人からもっとも離れた場所で強大な力を発することによって八雲紫をおびき出した。

 

 更に保険として万が一アルメトが作戦を失敗した時のためにファトムはわざと捕まり博麗神社でもう一つの作戦を実行に移そうとしていた。

 それは最後の手段でもある、外の世界との境界を破壊してしまうというものであった。

 

 アルメトとファトムの作戦は二段構えで行われており、作戦はすべて順調であった。だがしかしその作戦は悟空とベジータが現れたことによって大きくぶれ始めたのだった。

 

 

 ~博麗神社~

 

「やれやれ、見つかっちゃったか。しかも、その様子だとボクたちの作戦バレてた?」

 

「さあな。貴様が何をしようとしているかは知らんが、そう上手くいくと思わないことだ。」

 

 ベジータはまだファトムたちの作戦を知らない。だがベジータは意識を研ぎ澄ませてファトムがおかしな行動を取らないように注意していた。

 

「そっか。作戦自体はまだバレてないんだね。ちょっと安心したよ。」

 

 安心したように胸を撫で下ろすファトム。その表情にはまだ余裕が感じられた。

 ファトムの真の実力はアルメトに匹敵するほどであり今ベジータが放っている気ではファトムの足元にも及ばないからだ。

 ファトムはベジータの全身をじっくり観察してから戦闘態勢に入った。

 

「早く力を解放しなよ。それが貴方の全力ってわけじゃないでしょ?」

 

「当たり前だ。見せてやるぜ。超サイヤ人の壁を越えた姿をな!」

 

 ベジータは気を解放し爆発させた。そして爆風が立ち込める中、ベジータは姿を現した。

 その姿は悟空と同様、超サイヤ人を越えた超サイヤ人。超サイヤ人2であった。

 流石のファトムは自分の想像以上の気を放つベジータに同様を隠せずに目を見開いていた。

 

「……凄いね。まさかこれほどの気を持っていたなんて思わなかった。……ボクも本気でやらないとすぐに負けちゃいそうだ。」

 

「だったらさっさと見せたらどうだ。貴様の真の実力ってやつをな。」

 

「そうさせてもらうよ。はぁあああーー!!」

 

 するとファトムは急激に気を高め始め、その気はアルメトと同じ、またはそれ以上の可能性もあった。ファトムの気の大きさにベジータは満足そうに笑い、拳を構えた。

 

「なかなかの気だ。こいつは楽しめそうだぜ……!」

 

「フフ、存分に楽しむといいよ。ボクこれでも結構強いからさっ!」

 

 そう言ってファトムはベジータに向かって一直線に走ってきた。ベジータはそれに対して右拳で殴り掛かった。だがファトムはその拳を手のひらで受け流してベジータの顔面を殴りつけた。

 

「チッ!はぁああーー!」

 

 ベジータはよろけながらも即座に左の手のひらに気弾を作り出してファトムに放った。

 

「っ!」

 

 ファトムはその気弾を避けきれずに無理やり手で払いのけ、気弾を弾き飛ばした。

 飛ばされた気弾は博麗神社の屋根をかすって空へ飛んで行った。

 そして二人は再びぶつかり合い、激しい闘いを繰り広げた。ファトムは地上戦は不利と見て空へと飛びあがると、ベジータもまたそれを追いかけて空へ飛びあがった。

 

「凄い……!素晴らしい強さだ!あの少女と同じでまっすぐでとても美しい!」

 

「貴様こそ少しはやるようだな。超サイヤ人を越えたオレを相手にここまで闘えた奴は初めてだ。」

 

「それは光栄だね。じゃあこれはどうかな!」

 

 ファトムが手を振り払った。するとそこから突然カプラスが現れ、鋭い爪を振りまわしながらベジータに襲い掛かった。

 

「消えろ。」

 

 ベジータはカプラスの攻撃を片手で止めてその手のひらからエネルギー波を放ちカプラスを消し飛ばした。

 しかしその隙にベジータの周りを囲むようにオーガ、地獄の亡者、人里の人間、冥界の男が立っていた。

 

「面白い、まとめてかかってきやがれ!」

 

 四人は同時にベジータに襲い掛かってきた。ベジータは四人の同時攻撃を受け止め、受け流し、かわして見せた。

 そしてオーガの懐に潜りこみ、右拳で胸を貫いた。するとオーガは姿が消えてなくなった。

 

「なるほど、どういう原理か知らんが幻というわけか!なら話は早い、本体の貴様をぶっ倒してしまえばいいだけだ!」

 

 ベジータは残りの三人の間を潜り抜けてファトムを狙い、殴りつけた。

 だが殴りつけられたファトムはゆらゆらと姿を消してしまった。

 

「なにっ!?」

 

「残念、こっちだよ!」

 

 するとベジータが潜り抜けてきた三人の内の一人がファトムへと姿を変えてベジータを蹴り飛ばした。

 

「ぐぁああーー!」

 

「まだ終わらないよ!」

 

 ファトムは吹き飛んだベジータに向かって連続で気弾を放った。その気弾は飛ばされたベジータに直撃し空中でなんども大爆発を起こした。

 

「__ギャリック砲!!」

 

 煙の中からベジータの声が響き、ギャリック砲がファトムを襲った。ベジータは気弾を何とか防御していたのだ。

 ファトムはそれを更に上空へと飛び上がり回避した。

 

「だぁああーー!!」

 

「!?」

 

 ベジータはその回避を読んでいたようにファトムの頭上へ瞬時に移動し、両手を合わせ、ハンマーのように振り下ろしてファトムを下に叩き落した。

 更にベジータは落ちていくファトムを追い抜かし、下から両足でファトムを蹴り上げ、両手を構えた。

 

「これで終わりだ!ファイナルフラッシュ!!」

 

「う、うわあああーー!!」

 

 ファトムはファイナルフラッシュを避けることが出来ずにそのまま飲み込まれた。ファイナルフラッシュは光の柱となって空を貫いていった。

 そして上空からファトムが博麗神社の境内に落ちたのを確認するとベジータはそのすぐそばまで近づいた。

 

「なかなか楽しめたぜ。だが、これで終わりだ。」

 

 ベジータは地面に減り込み空を見上げるファトムに手をかざして、気を溜め始めた。

 このまま止めを刺すつもりだからだ。だがファトムはまだ意識があるようでポツリと話し始めた。

 

「……参ったね。ボクの完敗だよ……。でも貴方のような戦士と闘えたこと誇りに思う。」

 

「……フン、貴様もな。殺すのは惜しいほどの実力だ。だが止めは刺させてもらうぞ。」

 

「……ご自由に。あーあ、作戦失敗か……。こりゃまたあいつらにどやされそうだ……。」

 

「まだ仲間がいやがるのか。だがそいつらにどやされることはないだろう。どうせここで貴様は終わるんだからな。」

 

「……。」

 

「じゃあな。」

 

 そう言うとベジータは手のひらから気弾を放ちファトムを吹き飛ばした。

 煙が晴れた時、その場所にファトムの姿はもう完全に消えてしまっていた。

 

「……チッ。」

 

 ベジータは超サイヤ人2を解いて、ファトムがいた場所を見て舌打ちをするとすぐに博麗神社を後にして飛び立った。

 

 

 ~草原~

 

 ベジータとファトムの決着がついたころ悟空とアルメトの闘いは苛烈を極めていた。

 最初は余裕を見せていたアルメトだったが、悟空の驚異的な戦闘力を前にだんだん焦りを見せ始めていた。

 

「はぁ……はぁ……!」

 

「どうやらあっちは決着がついたみてえだな。」

 

「っ!?……くそっ!!あのファトムが敗れたというのか!」

 

 アルメトは悔しそうに顔をゆがめる。作戦の一部が失敗したというのもあるがそれよりも自分と同等の力を持つはずのファトムがやられたことがアルメトにとっては信じられないことだった。

 

「どうする。もうおめえに後はねえぞ。」

 

「まだだ……。今からおまえさんを倒し、八雲紫を捕まえればまだ勝機はある!さあ闘いを続けるぞ!オレの能力の真髄をみせてやろう!」

 

「……仕方ねえな。こい!決着つけてやる!」

 

 アルメトと悟空はしばらく睨み合いをすると先にアルメトが動きを見せた。

 アルメトは常識を外れたスピードで悟空の背後を取り、拳を振りぬくが悟空はその攻撃を腰を低くして回避すると振りぬかれた腕を掴み取り、背負い投げでアルメトを放り投げた。

 

 するとアルメトは投げ飛ばされながらも空中で悟空に向かって口から燃え盛る炎を吐き出してきた。

 

「いいっ!?」

 

 炎は悟空を飲み込みメラメラと草原を焼き始めた。

 

「アッチッチッチ!?お、おめえそんなこともできんのか!?」

 

「それだけだと思わんことだ!」

 

 そう言うとアルメトは悟空が立つ場所に向かって大きく足を振り回した。

 その瞬間、とてつもない爆風がまるで重たい蹴りのように悟空を襲い、悟空は防御が遅れて大きく吹き飛ばされる。

 そこへアルメトは追撃にありったけの拳を振り抜き、重たい拳圧を大量に飛ばしてきた。

 

「だりゃりゃりゃりゃりゃ!!」

 

 悟空は地面に着地するとすぐにその拳圧に対して自らも拳を振るい、真正面からすべての拳圧を相殺した。

 

「お返しだ!か~め~は~め~波ぁああーー!!」

 

「ぐっ!?」

 

 悟空の放ったかめはめ波はとてつもないスピードでアルメトを襲った。

 回避が間に合わないと判断したアルメトは両手をクロスにして正面からかめはめ波を受け止めた。

 そして煙が見えなくなってくるとそこには両腕がズタズタになり体中傷だらけになったアルメトが肩で息をしながら立ち尽くしていた。

 

「お、おのれ……!このオレの肉体をこうもあっさりと……!!」

 

「その体じゃもう闘えねえだろ。わりいことは言わねえから降参しろ。」

 

 悟空の勝利宣言ともとれる言葉はアルメトのプライドを大きく刺激した。

 するとアルメトは全身に再び力を込め始め、なんと体についた傷がみるみる塞がっていった。

 

「はぁ……はぁ……!舐めるなよ小僧!この程度の傷でこのオレが降参などするものか!!」

 

 アルメトは悟空に向かって突き進み、怒りに任せて拳を振りぬく……が、悟空はそれを軽く避けると逆にアルメトの腹に重たい拳を叩きこんだ。

 

「ごふっ!!くっ……がっ……っ!!」

 

「だりゃああーー!!」

 

 腹を押さえてよろけるアルメトに悟空は渾身の回し蹴りを顔面に食らわせ、アルメトを吹き飛ばした。アルメトは腹と頭を押さえながらよろよろと立ち上がると血走った眼で悟空を睨みつけた。

 

「な…なんというパワーだ……。こ…このままでは……。」

 

 アルメトは何かないかと辺りを見回すと、遠くにいた紫に目が付いた。

 

「こ…こうなれば!」

 

 するとアルメトは突然悟空に背中を見せて紫の元へ飛び出した。アルメトは悟空に勝つことを諦めて作戦を実行することを優先したのだ。

 

「っ!?やべえ!待て、アルメト!!」

 

 悟空はすぐにアルメトの考えに気が付き、アルメトを追いかけて飛び出した。

 

「邪魔をするな!!」

 

 アルメトは網目状に出来た気を追いかけてくる悟空に向けて放った。

 通常、気で物体を作り上げるのは非常に難しく、気の扱いを得意とする者でも剣状や円盤状などのシンプルな形にしかできないがアルメトは自信の能力によってあり得ないほど複雑な形の気を作り出したのだ。

 

「なっ!?くそっ!!紫!スキマの中に逃げろ!!」

 

 悟空はその網に囚われながらも紫に大声で叫んだ。

 紫はそれに反応するとすぐに倒れている藍と橙を連れてスキマを開き、その中へ入った。

 

「逃がさんぞぉ!!」

 

 スキマが閉じかけたその時、なんとアルメトはスキマに両手を突っ込み、無理やり開こうとし始めた。

 

「嘘でしょ!?私のスキマを力づくで開けようとしているの!?」

 

「やべえ!こうなりゃ瞬間移動で……!!」

 

 悟空はおでこに指を当ててアルメトの気を探った。だがしかし、なぜか目の前にいるはずのアルメトの気がまるで感じられなかった。

 

「ど、どうなってんだ?あいつの気が探れねえ……!?」

 

 悟空がアルメトの気を感じ取れなかった理由、それはアルメトが瞬間移動の方法に気が付き、この瞬間だけ対策をしてしまったからである。

 アルメトは今完全に気を消している状態で能力を発動させていたのだ。

 普通ならな体に負担がかかりすぎて危険な行為だが、能力によって再生が出来るアルメトはそんなことお構いなしでスキマをこじ開けようとしていた。

 

「くっ……これじゃあ間に合わねえ……!」

 

「ハッハッハ!だぁあああーー!!」

 

「ちくしょうっ!……__っ!あ、あれは!!」

 そしてアルメトがついにスキマをこじ開けたその時、悟空の目に一人の人物が映った。その人物は遠くの空から高速で悟空たちの元へ飛んでくる。それを見た悟空は次の瞬間大声を上げた。

 

「ホウレン!!あいつを追いかけろ!!」

 

 悟空の目に映ったのは冥界から全速力で駆けつけたホウレンであった。

 

「っ!はぁあああーー!!」

 

 ホウレンは悟空の叫びに反応し、気を全開に上げてスキマの中に入っていったアルメトを追いかけ、閉じかけたスキマに滑り込むとスキマは閉じてなくなってしまった。

 

「よっしゃー!間に合ったぁ!」

 

 二人が消えた後に悟空はスキマがあった場所を見て歓喜の声を上げたのだった。

 

 

 ~スキマの中~

 

「はぁ……はぁ……!なんだかよくわかんねえけど、間に合ったみたいだな……!」

 

 ホウレンが見つめる先には紫とアルメトが睨み合いをしているところであった。

 アルメトはホウレンに気が付くと紫から目を離し、ホウレンに話しかけた。

 

「……おまえさんは……誰だ?」

 

「俺はホウレンだ。おっさんは?」

 

「オレはアルメトという。ホウレンと言ったな。まさか追いかけてくる者がいるとは思わなかったぞ。」

 

「俺にはいまいち状況が飲み込めねえんだが……あんたが今回の騒ぎの原因ってことでいいんだよな?」

 

「だとしたらどうする?」

 

 ホウレンは深呼吸をして拳と拳をぶつけて気合を籠め、言い放った。

 

 

「俺がぶっ倒す!!」

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

限界超え×限界超え 常識を覆す者たち!

「オレをぶっ倒すだと?ハッハッハ!いくらオレが体力を減らしているとはいえ、孫悟空がいない今おまえさん一人で何ができる!?オレはこのまま紫を連れてこの幻想郷から出る。そして他の協力者たちを連れておまえさんらを全員倒し、オレたちがこの幻想郷を支配するのだ!」

 

「他の協力者だと……?おまえ以外にもまだ仲間がいやがるのか!」

 

「いるとも……訳あってこの世界には最大二人づつしか入ることは出来んが、紫の力を使えば全員をこの世界に呼び出すことが出来る……!そうなればあの孫悟空とて勝ち目はない!」

 

「舐めんじゃねえぞ。悟空だけじゃねえ。俺たち全員はおまえたちに負けるつもりはねえ!そうだろ?紫。」

 

 突然話を振られた紫は動揺しながらもしっかりと頷いた。

 

「……ええ。もちろんよ。貴方のような得体のしれない輩にこの幻想郷は渡さない!誰が来ようと力を合わせて必ず乗り越えて見せるわ!」

 

 紫の言葉は確かな強い意志のようなものを感じた。ホウレンはその言葉に満足そうに微笑み、アルメトもまた何かを考えるような仕草をとった。

 

「……困難を乗り越える。素晴らしい考えだ。」

 

「なんだよ。悪人のくせして、そういう考えには賛同できんのか?」

 

「当然だ。人間は困難に対して、不可能だと思い込み、出来ないと決めつける。それが常識だからだ。だが常識を超えた者にはそれがない。不可能は可能に変わり、出来ないという言葉は無くなる。オレという困難に対して負けることを考えないおまえさんたちは間違いなく戦士だ。」

 

「……勝つことしか考えないのは普通のことだろ?負けることばっか考えてるやつが闘いに参加するかよ。」

 

「それはおまえさんが強いからだ。戦士にも強い者と弱い者がいる。強い者は皆勝つことだけを考えて闘っている。だが弱い者はどうだ?簡単に挫折し、才ある者を妬み、負けることに抵抗が無くなる。自身の限界を決めつけ、勝つことを諦めてしまうからだ。……それらをオレは戦士とは呼ばない。ただの負け犬だ!」

 

 ホウレンは無言だった。アルメトの言葉の全てに賛同することは出来なくとも、考え方そのものは理解できたからだ。

 

「話はここまでだ。おまえさんを倒し、八雲紫はいただいていく。止めたければ常識を捨ててかかってこい!!」

 

「常識なんざ知るか。紫は連れてかせねえよ。悟空の代わりに俺があんたを止めてやるぜ!」

 

 ホウレンは次の瞬間、一気にアルメトと距離を詰めてその腹に右拳を突き入れた。

 だがアルメトの肉体にホウレンの攻撃はまるで効かなかった。

 

「っかってえ……!」

 

「どうした!おまえさんの力はそんなものか!?」

 

「この……!おらぁああーー!!」

 

 ホウレンは仁王立ちするアルメトの腹に無数に拳を叩きこみ続け、更に全力の拳をアルメトの腹に叩きこみそのままその拳に気を集中させた。

 

「ガーネットインパクト!!」

 

 そしてゼロ距離でとっておきの必殺技をぶちかまし、アルメトから大きく距離をとった。

 

「……嘘だろ。」

 

「フッフッフ。痒いな。ひょっとすると今のが全力だったか?」

 

 アルメトはピンピンしていた。それどころか最初の位置から微動だにしていなかった。

 

「おいおい……ちょっと力の差がありすぎだろ……。アスイよりも強いんじゃねえか、このおっさん……!」

 

 ホウレンが無意識にこぼした言葉をアルメトは聞き取ったのか興味深そうに笑った。

 

「おまえさん、アスイと闘ったことがあるのか?」

 

 思ってもいない質問にホウレンは目を見開き、そして同時に考えた。

 アルメトの口からアスイの名前が出てきたということはアスイに任務を与えた人物がアルメト、またはその関係者ではないかと。

 

「……あんた、アスイを知ってんのか?」

 

「質問しているのはオレだ。どうなんだ?」

 

「……ある。アスイは俺が闘い……そして倒した。今度は俺の質問だ。あんたはアスイを知ってるのか?答えてくれ。」

 

「知っているさ。アスイはこの世界に最初に送り込まれた男だからな。」

 

 この世界に最初に送り込まれたという言葉にホウレンは自身の考えが確信に変わった。

 

「ってことは、アスイに任務を課したやつがあんたの協力者の中にいるってことか……!」

 

「ほう。あのアスイがそんなことまで話したか。珍しいこともあるものだ。……しかしおまえさんがアスイを倒したということは、おまえさんまだ本気じゃないな?」

 

「……なぜそう思うんだ?」

 

「その程度の力ではあのアスイを倒すなど不可能だからだ。つまりおまえさんは真の力を隠しているとしか考えられん……違うか?」

 

「……あんたの言うとおりだよ。俺はまだ力を隠してる。正直まだこの力はまだ完全に使いこなせるわけじゃねえんだ……。でもあんたにはそんなこと言ってらんねえな。」

 

 ホウレンは深呼吸をするとゆっくり気を高め始めた。

 そして次の瞬間、ホウレンの気が一気に膨れ上がりホウレンを中心に爆風が発生した。

 ホウレンはアスイと闘った時の力、超サイヤ人2に変身したのだ。

 

「……っ!!」

 

「これが俺の全力だ。これならあんたとだって闘えるはずだぜ……!」

 

「なるほど、アスイが負けるわけだ……。だが孫悟空ほどではない!さあ来い!ここで息の根を止めてくれよう!!」

 

 そう言ってアルメトもまた気を最大限に高めてホウレンを睨みつけた。

 悟空との闘いで消耗しているということもあって、アルメトはホウレンとほぼ同じくらいの気を放っていた。

 

「ホウレン!アルメトは異常なまでの再生能力を持っているはずよ!気をつけなさい!」

 

 紫の言うとおり、アルメトはオーガと同様の再生能力を持っており、たとえ手足が千切れようが頭が消し飛ぼうが死ぬことはない。

 倒すためには完全に消し去ってしまうしか方法はないのだ。

 

「再生ね……。わかったよ!」

 

 ホウレンは返事をすると同時にアルメトの後ろに回り込み、頭に蹴りを食らわせようとした。

 しかしアルメトはそれを腕で防ぐと振り返ってホウレンを殴りつけた。

 ホウレンはその拳を片手で受け止めて、もう片方の手でアルメトを殴りつける。

 

 するとさっきまでビクともしなかったアルメトがダメージを負っているのが分かった。

 アルメトは反撃としてホウレンのがら空きになった体に大量の拳を叩きこんだ。

 超サイヤ人2とはいえ、まだまだ発展途上のホウレンにはその攻撃は十分に強力な攻撃であり、ホウレンは口から血を吐き出しながら吹き飛ばされた。

 

「くっ……!__っ!!」

 

「ウォオオオオオ!!」

 

 地面を転がり、立ち上がろうとするホウレンの真上にアルメトが現れ、両足で踏みつける体制で落下してきた。

 ホウレンはそれを転がってかわし、アルメトに向けて手を構えた。

 

「ターコイズブラスト!!」

 

「むっ!?」

 

 ホウレンのターコイズブラストをアルメトは避けようとするも間に合わず、右腕が飲み込まれ、跡形もなく消し去ってしまった。

 

「……やるな。だがこの程度……ハァアアアーー!!」

 

 アルメトが右腕に気を込めると一瞬にしてアルメトの右腕が再生した。

 

「ほんとに再生できんだな……。あんたもう人間じゃねえよ……。」

 

「常識を超えた存在となったオレが人間などという弱い存在なわけがないだろう。おまえさんが人間である以上、オレに敗北はない!」

 

「ああそうかい!だったら見せてやるよ!人間の底力ってのをな!!」

 

 ホウレンは気を限界まで引き上げてアルメトの間合いに走り込み拳を振り抜いた。

 そしてアルメトもまたホウレンへ向けて拳を振り下ろし、二人の拳がお互いの体に打ち当たる。

 

「ウラァアアーー!!」

 

「ハァアアアーー!!」

 

 互いに声を上げて相手の体に連続で拳を叩きこみ続ける。二人の激しいぶつかり合いで辺りに衝撃が発生し、見ている紫もその衝撃から藍と橙を守るのに必死だった。

 

「ホウレン!決着を急いで!このままではこの子たちが危ないわ!」

 

「わかってる!もう少し耐えてくれっ!」

 

「ハッハッハ!まだオレに勝てると思っているのか!おまえさんの力ではオレを倒すことなどできん!やつらを助けたいならば諦めてオレに倒されるがいい!」

 

「うるせえ!あんたこそオレに負けて降参しやがれ!」

 

「それこそありえん!オレを止めたければオレを殺して見せろ!」

 

「アスイといい、あんたといい……!そんなに命が惜しくねえのかよ!!」

 

「当然だ!命を惜しんでいてはオレたちの野望を実現などできんわ!」

 

「っ!!」

 

 アルメトの拳を顔面に受けたホウレンは大きく後ろに滑り込むもなんとか踏みとどまった。

 

「ハァ……ハァ……野望だと?」

 

「そうだ。オレたち全員の野望だ。それを叶えるにはこの幻想郷は障害になりえる。だから消えてもらわねば困るんだ。」

 

「なんだよ、その野望って……。」

 

「……あるときオレたちは皆一人の男の元に集められた。その男はオレたち全員の想像を遥かに超えた存在だったのだ。そしてその男が計画していたもの……それこそがオレたちの野望。全宇宙の支配……いや、統一とでも言うべきか。」

 

 アルメトの言葉にホウレンは再び目を見開いた。アルメトたちにとって幻想郷の支配はただの足掛かりでしかない。宇宙全体を統一などという、とてつもなく大きな野望があったことに驚きを隠せなかった。そして何よりもアルメトの言った言葉がホウレンの心を大きく揺さぶった。

 

『その男はオレたち全員の想像を遥かに超えた存在だったのだ』

 

 それはつまりその男はアルメトよりも遥かに強いということだ。

 そんな相手であればいくら悟空たちがいても敵わないかもしれない。そんな考えが頭を過ぎったホウレンはアスイの言葉を思い出した。

 

『……凶悪な敵に対して情けは必要ない。甘いままでは守りたいものを守ることなど出来はしないんだ。……もしもこの先この世界を守るために闘い続けると言うのなら覚えておけ。』

 

 アスイの言葉どおりだった。アルメトは死ぬまで闘いを諦めない。ならば殺してしまうしかない。

 だがホウレンはアスイの時と同様にそれをためらっていた。

 

「少し喋りすぎたな……。まあいい。どのみちおまえさんはここで消す。問題はないだろう。」

 

 アルメトはそう言ってホウレンの元へ歩いて近づいてくる。

 

(やるしかねえのか?これから先、この世界を守るってんなら……!)

 

「さあ終わりだ!!」

 

 アルメトは全力で拳を振り下ろし、ホウレンの顔面に拳を叩きこんだ……がその拳はホウレンの手で防がれた。

 

「!!」

 

「世界を守るためなら……俺は……あんたを!倒して進む!!」

 

 ホウレンはその瞬間いままで以上の気を放出して、アルメトを殴り飛ばした。

 

「うぐっ!?な、なんだと!?」

 

「ハァアアアーー!!」

 

 ホウレンはアルメトを追いかけて、更に拳を叩きこむ。

 

「ぐふっ!お…おのれ!調子に乗るなよ若僧が!!」

 

 アルメトはホウレンに向けて超特大の気弾を放った。

 

「こんなもん……!!」

 

 しかしホウレンはその気弾を真正面から受け止めると力任せにその気弾を上空へ弾き飛ばした。

 

「ば、馬鹿な!!なぜオレがおまえさん如きに一方的に負ける!?常識を超えたオレが一体なぜ!?」

 

「あんた気づいてないのか?……あんたの力はどんどん落ちてきてる。俺と闘う前から体力が随分減っちまってるみたいだぜ?」

 

「くっ!孫悟空との闘いの反動か……!」

 

「……これで決めてやる!!いくぞ!!」

 

 ホウレンは一気にアルメトとの間合いを詰め、無数の拳をアルメトに叩きこみ、上空に蹴り上げ、拳に気を最大限に溜め始めた。

 

「これが俺の最大の……!!ターコイズブラストだぁああーー!!」

 

 そして今までで最大級の大きさのターコイズブラストが空中のアルメトを襲った。

 しかしアルメトは残った気を全開まで高めるとターコイズブラストを正面から受け止めた。

 

「ヌォオオオ!!常識を超えたこのオレが……おまえさんのような若僧に負けてたまるか!!」

 

 アルメトが声を上げて更に力を込め始める。するとアルメトの筋肉が更に膨張して巨大化していった。

 

「ズリャァアアア!!」

 

 そしてアルメトはホウレンのターコイズブラストを力づくで打ち消してしまった。

 

「……まだそんな力が……!」

 

 ホウレンは今のターコイズブラストにほとんどの気を乗せていた。それが防がれてしまったことにより、ホウレンは一気に不利な状況に陥ってしまったのだ。

 

「ハァ……ハァ……ハ、ハハハハ。どうだ!おまえさんの最大の技もこのオレの能力の前では無意味なのだ!ハーハッハッハ!!」

 

「ち、ちくしょう……!あとちょっとだったってのに……!」

 

「さて、そろそろ終わりにしようじゃないか!すぐに止めを刺してやるぞ……!」

 

「ホウレン!!」

 

「く……っ!」

 

 ホウレンが歯を食いしばってアルメトを睨みつける。

 

「さあこれで終わ___ッ!?」

 

 アルメトがホウレンに拳を振り下ろそうとしたその時、アルメトの体に変化が起きた。

 振り上げた手が突然ひび割れ、砕けて地面に落ちてしまったのだ。

 

「な…なんだこれは?オレの腕が……いや全身がひび割れているだと……!?」

 

「ど、どうなってんだ……?こいつは一体……。」

 

「体が付いていけなくなったみたいね……。」

 

 二人が困惑しているといつの間にか紫がホウレンの隣にいた。

 

「紫……。」

 

「八雲紫……!今の言葉はどういう意味だ!?」

 

「能力の限界を越えた力を使った代償とでも言うのかしら。貴方はさっきのぶつかり合いで能力以上の力を発揮してホウレンの技を打ち消した。それにより恐らく貴方の体が自身の能力に耐え切れなくなってしまったのよ。」

 

 紫の考察にアルメトはわなわなと震えて鬼のような形相で自分の体を睨みつけた。

 

「ば…馬鹿な……!鍛え上げたオレの肉体が能力に負けたというのか……!?そんな……そんなわけがない!オレは!オレは常識を超えた存在だぞ!おまえさんとの闘い程度でこのオレが……オレ自身の能力で身を滅ぼすというのか!!」

 

「アルメト……。」

 

「認めん!こんな結末オレは認めんぞ!……ホウレン!」

 

「……なんだ?」

 

「オレはこのまま能力で死ぬのはごめんだ!ならば最後は、せめておまえさんとの闘いでの死を選ぶぞ!」

 

 アルメトの目は本気だった。自滅するくらいなら闘いの中での死を選ぶ。

 そんな強い覚悟を感じたホウレンはしっかり頷いた。

 

「……わかったよ。それがあんたの望みなら今度こそ決着をつけようぜ……!!」

 

 そう言って再び構えたホウレンを見てアルメトは口元に笑みを浮かべた。

 そして次の瞬間、二人が同時に飛び出した。

 

「これがオレの限界を超えた拳だぁああ!!」

 

 アルメトは崩れかけた体で残った左腕に全ての力を乗せて思い切り振り下ろした。

 

「うぉおおおーー!!」

 

 そしてホウレンもまた、自身の力を振り絞ってアルメト目掛けて全力の拳を振り抜いた。

 辺り一帯に大きな重低音が響き渡り、特大の衝撃が発生した。

 紫はその衝撃に目を閉じ、再び開けるとそこには拳が砕け、胸を貫かれたアルメトと体をふらつかせながらアルメトの胸を貫いたホウレンが立っていた。

 

「……見事だ。」

 

 アルメトはそう言うと全身がどんどんひび割れ、粉々に砕け散ってしまった。

 ホウレンはそれを見届けるとふらふらと紫の元へ歩み寄り、ボロボロの顔で笑った。

 

 

「紫……勝ったぜ。」

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

紫の願い 新たなる決意

今回はエピローグのような話なのでだいぶ短めです。
ちなみにこの話でついに50話目を迎えました!まだ先は長いな……。


 ここは幻想郷の草原。悟空とアルメトが闘った場所に数人の姿があった。

 すると空中でスキマが開き、中から紫とホウレンが出てきた。

 

「ホウレンさん!」

 

 最初に駆け寄ったのは妖夢だった。

 

「妖夢!冥界の方は大丈夫だったのか!?」

 

「それが……闘いの最中、突然姿が消えてしまって……。」

 

「姿が消えた……?そりゃどういう……。」

 

「そのまんまの意味よ。」

 

 話を割って入ってきたのは霊夢だった。霊夢はボロボロの恰好で早苗に支えられて立っていた。その隣にはこちらもボロボロの恰好のピッコロが立っていた。

 

「霊夢。早苗にピッコロも……そっちも随分手こずったみてえだな。」

 

「まあね。でもあんたほどじゃないわ。」

 

「それで、そのまんまの意味ってのは?」

 

「実はね。妖夢のとこだけじゃなくて私たち全員の所に大量の敵が現れてたのよ。でもそれが突然消えちゃったってわけ。恐らく術者が死んだからだと思うんだけど……誰だったのかしら?」

 

 霊夢が首を傾げているとそこに悟空と悟飯、トランクス歩いてきた。

 

「そりゃ多分ベジータが倒したやつだろうな。」

 

「ベジータが?」

 

「ああ、おめえたちが探してた女がいたろ?あいつだよ。実はあいつ実力を隠してやがったみてえでな。後ろでこそこそ結界を壊そうとしてたらしいんだけどよ。そこをベジータが倒したんだ。」

 

 さらっと言った悟空の言葉に霊夢は顔を青ざめる。

 

「ちょ、ちょっと待って?結界を破壊!?そんな危険なことしようとしてたの!?」

 

「ああ。アルメトが言ってたから間違いねえ。な?紫。」

 

「そうね。悟空の言うとおりよ。ほんと、あの時は心臓が止まるかと思ったわよ。」

 

「ははっ、まあ助かったんだからいいじゃねえか!」

 

 悟空はそう言ってけらけらと笑い始める。それを見て霊夢は疲れたようにため息をついた。

 

「はぁ……まあいいわ。それでホウレン?そのアルメトってやつは倒せたのよね?」

 

「ああ。ちゃんと倒した。勝った……とは言えねえけどな。」

 

「……そう。ならいいわ。早く帰りましょ?また傷を治さないと……。」

 

「待ってくれ。みんなに話があるんだ。」

 

 ホウレンは紫と並んでみんなの顔を見渡した。

 

「闘いはまだ終わってない。むしろこれからが始まりかもしれないんだ。」

 

 その言葉に霊夢は真剣な顔つきでホウレンを見た。

 

「どういうこと?」

 

 ホウレンはアルメトが言った協力者について、そして遥かに強いと思われる男の存在をみんなに話した。それに対してみんなの反応は様々だった。深刻に考え込む者もいればこれからの対策について考える者、そして悟空だけがその強い男に対してワクワクが止められないようでいた。

 

「これから幻想郷はもっと危険な目に合うかもしれないわ。だから私からのお願いがあるの。」

 

 紫は皆に向けて頭を下げた。

 

「この幻想郷を守るために……これからも貴方たちの力を貸して欲しいの。お願い。」

 

 霊夢は紫の様子に少し驚いた。長い付き合いだが紫が頭を下げるところなど始めて見たからだ。

 するとそんな霊夢を置いて次々と仲間たちが返事を返した。

 

「当たり前だろ。今更、逃げようなんて思わねえよ。」

 

「そうですよ!ボクも力を貸します!みんなでこの世界を守りましょう!」

 

 最初にホウレンと悟飯が力強く返事を返した。

 

「オラもだ!そうと決まればもっと修行しねえとな!オラわくわくしてきたぞ!」

 

「オレも協力します。きっと父さんも手伝ってくれるはずです!」

 

 次に悟空が楽しそうにトランクスが真剣に返事を返した。

 

「幻想郷の為です!私たちも協力しますよ!ね?ピッコロさん。」

 

「仕方あるまい。宇宙の統一だか何だか知らんがオレたちが止めてやろうじゃないか。」

 

 更に早苗とピッコロも皆に賛同してくれた。

 

「霊夢さん?」

 

 妖夢に声をかけられて霊夢はハッと我に帰る。

 

「私たちも頑張りましょう!ホウレンさんたちにばっかり頼っていられません!」

 

「……そうね。私は博麗の巫女なんだから、どんなやつが来ても退治してみせるわ!もちろんホウレンたちの力も借りてね。」

 

 皆の返事を聞いて紫は嬉しそうに微笑んだ。

 

「ありがとう……。これからは力を合わせて頑張っていきましょう!」

 

「「「おー!」」」

 

 こうして人里より広まった噂は幕を閉じた。アルメトが言った男とはいったい何者なのか。

 そしてこれから先、どんな強者が幻想郷へとやってくるのか。

 すべては未来でしかわからない。ホウレンたちはいつ来るかわからない脅威に対して改めて気合を入れなおしたのだった。




これにて第三章終了です!次回から第四章を書き始めますのでもしかしたら、いつもよりも投稿が遅くなるかもしれませんがお楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四章 崩天祭
平和なひととき 祭り開催まであと三日!


とりあえず短いですがプロローグです!今回は後書きにも目を通してください!


 季節は春。アルメトとの闘いからすでに半年ほどの月日が流れていた。

 あれから敵の襲来はなく、ホウレンたちは束の間の平和を堪能していた。

 そんな中、人里では桜が咲く季節に乗じて春祭りを開催しようと準備に勤しんでおり、博麗神社の霊夢とホウレンもまた、その準備の手伝いに精を出していた。

 

 ~人里~

 

 里の住人に頼まれ、重たい荷物を運びながらホウレンはあちこちを行ったり来たりしている。

 人並外れた力を持ったホウレンたちはとても助かる存在であり、たくさんの人から色々な手伝いを頼まれていた。

 

 もちろんタダ働きではなく、少しばかりのお給料もいただいていることもあり、霊夢もやる気を出して手伝いに勤しんでいる。

 

「ホウレン。ちょっとこっち手伝って。」

 

「おう、何すりゃいい?」

 

「ここんとこ押さえといてくれればいいわ。あ、ついでにそれ張りつけといて。」

 

 霊夢が指示したのは大きな飾りを高いところに飾り付ける作業だった。

 ホウレンは指示どうりに飾りを押さえて張り付け始めると霊夢はその飾りの反対側を持って少し離れた場所へ飛んでそれを張り付け始めた。

 するとそんな様子を見て村の男たちが数人集まってきた。

 

「いやー。ありがとうございます。お二人のおかげで祭りの準備が順調で助かっております。」

 

「ホウレンさん。それが終わったら向こうの方もお願いできますか?」

 

「わかった。終わったら向かうよ。」

 

 青年と話をしていると飾りつけが終わった霊夢がホウレンの元へ降りてきた。

 

「終わったわ。ありがとね。」

 

「巫女さま。祭りの準備ご苦労様です。」

 

「ええ。お給料も貰ってるわけだし、ちゃんと働かないとね。」

 

「報酬は弾ませていただきますよ。三日後の祭りにはぜひお二人も来てください。」

 

「楽しみにしてるぜ。なあ霊夢?」

 

「そうね。でも貴方とは絶対に一緒に回らないわ。」

 

「そうか……って、なんでだよ!俺なんかしたか!?」

 

「別に。妖夢とでも一緒に回りなさい。私は私で楽しんでるから。」

 

「おいおい、どうしたんだ?別に三人で回ればいいじゃねえか。……何かあったか?」

 

 真面目に霊夢の顔を覗き込むホウレンに霊夢は呆れたようにため息をついた。

 

「あんた……忘れてないでしょうね。あんたと私が人里でどう思われてるか。」

 

「どうって……あ。」

 

 実はホウレンと霊夢は半年ほど前に人里の住人の間で付き合っているのではないかという噂が流れていたことがあった。しかもホウレンは他の女性(妖夢)と二股をかけているというものだ。

 その噂について霊夢に黙っていたホウレンだったがその後、結局バレて二人で人里に訂正しに来たことがあったのだ。

 

 なんとか住人たちの誤解は解けたものの二人はその時の影響か、一部の住人たちから時々からかわれたりもしている。

 それを思い出したホウレンは霊夢がなぜ自分と一緒に祭りを回りたくないかがわかった。

 

「思い出したみたいね。ならわかるでしょ?貴方と一緒に祭りを回ったら、どれだけからかいの対象にされるかわかったもんじゃないわ。」

 

「な、なるほど。」

 

「まったく、おかげでこっちが恥ずかしい思いをするんだから……。」

 

 ブツブツと文句をいいながら霊夢はその場から去っていった。

 

「……意外と気にしてんのな。あいつ。」

 

「巫女さまも女の子ですからねぇ。そりゃ気にしてしまうでしょう。」

 

「つってもあいつあの性格だぜ?普段ならもっとこう……平然としてそうなんだがなぁ。」

 

「さすが、恋人のことをよく理解してるようですね。」

 

「誰が恋人だ。いい加減、そのネタでからかうのやめろよ。」

 

「ははは!すみません。反応を見るのが楽しくってついやってしまうのです。どうかお気を悪くしないでください。」

 

「まったく……そういや次の手伝いの場所はどこだっけ?」

 

「ああ、案内しますよ。ついてきてください。」

 

 一人の青年がそう言って向こうへ歩き始めるのを見て、ホウレンはそれについていった。

 すると青年についていくホウレンは二メートルはあろう人物とすれ違った。

 その人物は全身を布で覆ったような恰好をしており、フードを深くかぶっていたため顔まではハッキリと見えなかった。

 

「愉しい祭りになるぞ。あと三日だ。」

 

「え?」

 

 すれ違いざまに呟かれた声にすぐ振り返ったホウレンだったがその人物はすでにそこにはいなかった。

 

「……今のやつはいったい……?」

 

「ホウレンさん!何やってるんですか?こっちですよ!」

 

「あ、ああ。わりい!今行く!」

 

 ホウレンはその人物を不思議に思いながらも青年の元へ向かい歩き出したのだった。

 

 

 __祭り開催まで あと  3  日

 

 

 




新章スタートしました!ここでちょっと個人的に重要なことがあるのでよろしければ俺の活動報告を見てください!そして意見をいただけると助かりますのでよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

逃げ出した猿を追って 霊夢の大変な一日

 翌日、ホウレンと霊夢は別々の場所で祭りの準備に勤しんでいた。

 朝早くから手伝いに来ているわけではなく、だいたいお昼の少し前くらいから人里に降りてきて、軽く準備を手伝ってからそのまま人里で昼食も済ませて午後から本腰を入れる予定だ。

 資料の紙に目を通しているとそこにレミリアと咲夜が日傘をさしてやってきた。

 

「働いてるわね。進展はどう?」

 

「珍しいな。おまえが里まで来るなんて。まあ見ての通り順調だよ。」

 

「それは何よりね。二日後の祭り……私たちも遊びに来るわ。」

 

「おお、そうか。そいつはいいな。それで今日はどうしたんだ?」

 

「どんな規模でやるのか直接見に来たのよ。この様子だとなかなか大規模な祭りになりそうね。……実はね、今回の祭りにフランを連れてきてあげるつもりなの。」

 

 レミリアが言った言葉にホウレンは驚いた。ホウレンもスカーレット姉妹の話は霊夢たちから聞いていたからだ。

 

「能力の扱いが成長してるとはいえ、こういったイベントには人が多いでしょ?そういう場所ではあの子もまだ不安があるみたいなの。でもここ半年であの子は本当に成長したわ。だからそろそろあの子にもこういう楽しさを味わって欲しいのよ。」

 

「そうか……。きっと喜ぶと思うぜ?」

 

「ふふ、そうね。連れてくるなら思いっきり楽しんでもらわないと。そのときは他にも何人か連れて来ると思うわ。ってことで準備頑張ってちょうだい。咲夜行くわよ。」

 

「はい。ホウレン、仕事頑張りなさいよ?」

 

「言われなくても頑張るよ。おまえも付き添い頑張れよな。」

 

 咲夜はそれに笑顔で答えるとレミリアと共に里の奥へ歩いて行った。

 

「嬉しそうな顔してたな。まあ当然か。……しかし平和だなぁ。」

 

 ホウレンは眩しい日差しに目をつぶりながらも空を見上げた。半年前の激しい闘いが嘘のような穏やかな時間を過ごすホウレンたち。

 ホウレンたちは当初の時空の歪みを戻すことよりも幻想郷に迫る敵たちを倒すことを目的として過ごしている。

 

 と言ってもそれは敵が攻めてくるのを待つことしかできないものでただ時間だけが過ぎてしまっており、時空の歪みもまるで解決できていないのが現状であった。

 しかしホウレンたちもその時間の間に更に修行を積み、半年前とは比べ物にならないほど腕を上げていた。

 

「……早く本当の意味で平和にしねえとな。」

 

「なにサボってんのよ。あんた仕事は?」

 

 後ろから話しかけてきたのは霊夢だった。

 

「ああ、ちょっと今レミリアたちにあってな。少し話をしてたんだよ。」

 

「そう。なんでもいいけど、仕事はしっかりしなさいよね。」

 

「はいはい。わかってるよ。」

 

「ところであんた。この辺に子猿を見かけなかった?首に赤いスカーフを付けた猿なんだけど。」

 

「見てねえけど……その猿がどうしたんだ?」

 

「それがね?祭りのときに猿を使った芸をする人がいるんだけど、その人の猿がいつの間にかいなくなっちゃったらしいのよ。さっきから探してるんだけど……どこ行っちゃったのかしら?」

 

「心当たりはねえのか?」

 

「うーん……。あ、そういえば。飼い主の人がその猿を連れて寺子屋で芸を披露したことがあるって話を聞いたわね。もしかしたらそこにいるかも。」

 

「なるほど、俺が行ってこようか?」

 

「いいわ。貴方は準備の方を続けて頂戴。力仕事なら貴方の方が向いてるしね。猿は私が探しておくわ。」

 

「わかった。準備の方は俺に任せとけ。」

 

「任せた。じゃ、私は寺子屋に行ってくるわ。サボるんじゃないわよー。」

 

 そう言って霊夢とホウレンは別々に行動を始めたのだった。

 

 ~寺子屋~

 

 時間はお昼時、霊夢は寺子屋まで足を運び、慧音が授業を終えてくるまでの間に周辺を探してみるも猿を見つけることは出来なかった。

 それから少し時間が経ち、慧音が出てくると霊夢はすぐに慧音の元へ行った。

 

「慧音。ちょっといいかしら。」

 

「霊夢?貴方がここに来るなんて珍しい。私に何か用か?」

 

「ちょっとね。今日ここに猿が来なかった?赤いスカーフを付けたやつ。」

 

「ああ、あの猿か。確かに来たな。」

 

「やっぱりここに来てたのね。その猿は今どこにいるの?」

 

「それがさっきまで子供たちに囲まれて遊んでいたんだが急に逃げるように教室を飛び出して行ってしまってな。まだ寺子屋の中にいるとは思うんだが……。」

 

「なるほど、じゃあ慧音。悪いんだけどその猿を探すのを手伝ってくれない?その方が早く済みそうだし。」

 

「そうだな……。このまま放置しておくわけにもいかんし、どのみち後で探すつもりだったんだ。協力しよう。悪いが昼休みの間だけしか手伝えないがいいか?」

 

「構わないわ。あと他にも手伝ってくれる人っていないかしら?」

 

 慧音は少し考えると子供たちがいる教室を覗き込んだ。

 

「悟飯!ちょっといいか?」

 

 慧音が呼んだのは悟飯だった。悟飯は教室で子供たちと一緒に授業を受けていたのだ。

 悟飯は慧音に呼ばれると教科書をしまって廊下に出てきた。

 

「何ですか?慧音さん。ってあれ?霊夢さんどうしてここに?」

 

「そっか、ここには貴方もいたわね。」

 

「そういうことだ。悟飯、少し手伝ってもらいたいことがあるんだがいいか?」

 

「はい。なんでしょうか。」

 

「さっき赤いスカーフを付けた猿が教室に来ていただろう?あの猿を霊夢が探しているみたいでな。今から一緒に探してくれないか?」

 

「突然ごめんなさいね。お昼休みの間だけでいいの。お願いできるかしら?」

 

「なるほど、分かりました。ボクで良ければ手伝いますよ。」

 

「ありがと。助かるわ。それじゃ手分けして探しましょうか。私はここの内装に詳しくないし出来ればどっちかについてきて欲しいんだけど……。」

 

「なら悟飯を連れていくといい。私は他の先生にも協力を頼んでみよう。それでいいか?」

 

「わかりました。では行きましょう!霊夢さん、ボクについてきてください。」

 

「ええ、案内よろしくね。じゃあ慧音、そっちはお願いするわ。もし外に逃げちゃったら私に教えて頂戴。」

 

「ああ、わかった。じゃあまた後でな。」

 

 霊夢は別の部屋に向かう慧音に背を向け、小走りで先に行った悟飯の元へ駆け寄った。

 

「悟飯。まずはどこに向かうのかしら?」

 

「そうですね。とりあえず教室以外の場所だから……そうだ、物置部屋から探してみましょう。こっちです!」

 

 悟飯の案内に従ってついていく霊夢。もちろん歩きながらも猿がいないか細心の注意を払って辺りを見渡している。

 

「……。」

 

 いくら隠れてしまっているとは言え、猿がずっと同じ場所にいるとは考えにくい。いつ逃げ出してしまうかもわからないのだ。

 

「…………。」

 

 もし外に逃げ出してしまい、そのまま見失いでもしたら探し出すのは今よりもずっと困難なものになるであろう。

 

「………………。」

 

 つまり霊夢はなるべく急いで猿を見つけ出したいわけであって……。

 

「……あの、悟飯?」

 

 悟飯は霊夢に呼ばれると立ち止まり振り返った。

 

「なんですか?」

 

「その……走ったりしちゃダメなの?」

 

「何言ってるんですか霊夢さん。廊下は走っちゃいけないんですよ?走ったら他の人にぶつかったりして危ないですからね。」

 

「あ、うん。そう……ね。その考えは正しいと思うんだけど……出来れば急いでもらえると助かるかな~?」

 

「あ、そうですよね。すみません。じゃあちょっとだけ早歩きでいきますね!」

 

 そう言って早足で廊下を進み始める悟飯を見て霊夢は小さくため息をついた。

 

「……あの子、変なところで真面目なのよね……。」

 

「霊夢さーん?どうしたんですかー?」

 

 急いでいたことを忘れて呆れていた霊夢は少し離れたところからの呼びかけで我に返り、走ることは諦めて早歩きで悟飯の後を追いかけたのだった。

 そして廊下を曲がったところにある小部屋の前まで来ると悟飯が立ち止まった。

 

「……ここが物置部屋です。」

 

「さて、あの猿はいるかしらね……。」

 

「可能性は高いと思います。見てください、扉が少しだけ開いていますよ。」

 

 悟飯の言うとおり物置部屋の引き戸は少しだけ開いていた。単なる閉め忘れの可能性もあるが今の状況では逃げた猿が引き戸を開けて中に入ったという可能性も十分にあり得る。

 

「……開けるわよ。準備はいい?」

 

 霊夢は引き戸に手をかけ悟飯に問いかける。そして悟飯が頷くのを確認するとゆっくりと引き戸を開けて二人は中に入りすぐに引き戸を閉めた。

 部屋の中は薄暗く、いろいろな教材や備品、段ボールなどが所狭しと置かれていた。

 

「ではボクは部屋の奥を探してみます。」

 

「じゃあ私はこっち側ね。何かあったら教えて頂戴。」

 

 そう言って物陰を覗き込む霊夢に手前側を任せ、悟飯は部屋の奥の方へ進んでいった。

 その場所は荷物が重なっていて霊夢がいる場所からは死角になっていた。

 悟飯もまた棚の上や荷物の隙間などを見て回るとシーツを被せてある箱から気配を感じた。

 

「もしかして……?」

 

 悟飯はゆっくりとその箱に近づき、シーツをずらして中を覗き込んだ。するとそこには何かに怯えるように丸まって震えている猿がいた。

 

「よかったぁ、見つかって。さあ、出ておいで?」

 

 悟飯が両手を広げて猿を箱から出そうとしたその時。

 

「キキィー!!」

 

「え?う、うわあ!」

 

 猿は突然暴れだし、驚いた悟飯の股の間を潜り抜けて入口の方へ向かって走り出した。

 

「れ、霊夢さん!そっちに行きました!捕まえてください!」

 

「え!?あ、ちょ、ちょっと待って!」

 

 悟飯の声に霊夢はどこか焦った声で答えた。しかし猿はすぐに引き戸を器用に開けるとそのまま廊下を走り去ってしまった。

 

「しまった逃げられた!霊夢さん、追いましょう!……霊夢さん?」

 

 返事がないことをおかしく思った悟飯は急いで部屋の手前側に戻り、霊夢の様子を見た。

 するとそこには隙間に頭を挟んで身動きが取れなくなっている霊夢がいた。

 

「霊夢さん、どうしたんですか!早く追わないと見失っちゃいますよ!」

 

「ごめん!でもちょっと待って!頭のリボンが引っかかっちゃって……っ!う…上手く抜けらんないのよ……っ!」

 

「ええ!?だ、大丈夫ですか!?」

 

「だ…大丈夫ではないわ……っ!っていうか手伝って!」

 

「わ、わかりました!とりあえずリボンを外しますからじっとしててください!」

 

「痛たた!も、もうちょっと丁寧に取ってよ~!」

 

「す、すみません!こういうのやったことがないもので……!」

 

「うう、私としたことがこんな恥ずかしいミスをするなんてぇ……。」

 

 

 

 

 

 一方その頃、別の場所では慧音が他の先生の協力を得て、各部屋を探しながら外廊下を進んでいた。

 

「ん?あれは……!慧音先生!いました!スカーフを付けた猿です!」

 

「なに!どこですか!?」

 

「向こうです!こっちに向かって走ってきます!」

 

 男性教師が指を指した先には廊下を勢いよく走ってくる猿の姿があった。

 

「様子が変だな……。とにかく捕まえるとしよう。先生、念のためそこに待機してください。」

 

「わかりました!」

 

 慧音は後ろで男性教師に待ち構えてもらい、向かってくる猿に対してその場で腰を下ろし、両手を広げた。

 すると猿はそれに気が付き、走る速度を落として慧音から少し離れた場所で止まった。

 

「……大丈夫だ。おいで、怖いことなんて何もないぞ?」

 

 慧音の優しい声色に少し警戒心を緩めたのか、猿はゆっくり慧音の元へ歩き始める。

 

「……いい子だ。」

 

 そしてだんだんと距離が狭まり猿は慧音の元へたどり着き、捕まえることに成功__

 

「けいねせんせー!お昼いっしょに食べよー!あれ?二人ともなにやってるの?あっ!さっきのおさるさんだ!!」

 

 大きな声を出したのは年齢で言うと6~7才くらいの少女だった。少女は猿を見た途端に目を輝かせて男性教師の横を潜り抜けて慧音の元へ走り出した。

 

「あ、こら待ちなさい!今は行っちゃいかん!」

 

「けいねせんせー!私にも触らせて!」

 

「ひゃっ!?」

 

 男性教師が少女を止めようとするが間に合わず、少女は慧音の背中に飛びついた。

 それに驚いたのか猿は後ろに飛び退きいつでも走り出せそうな体制を取り始めた。

 

「こ、こら!今大事なところだから離れなさい!」

 

「ほら、慧音先生の言うことを聞きなさい!いい子だから…な?」

 

「いーやー!私もおさるさんとあそぶ―!」

 

「キキィー!!」

 

 慧音たちが少女の対応をしていると突然猿は外へ向かって飛び出してしまった。

 

「あ!猿が外に!」

 

「しまった!このままでは逃げられてしまう……!」

 

「あ~!おさるさん待ってー!」

 

 急いで追いかけようとする慧音と男性教師だったがすでに猿は敷地の端へ到達していまい塀を上りそのまま別の場所へ飛び出そうとした。

 だがその瞬間、廊下の端から凄まじいスピードで何かが飛んでいき、猿の周りを囲った。

 すると猿の周りを囲むように赤色の結界が張られ、猿はそのまま結界に当たって体勢を崩したまま落ちていった。

 

「あれは……!」

 

「悟飯!お願い!」

 

「はい!」

 

 慧音が驚き振り返る間に悟飯は姿を消し、ギリギリで落ちてくる猿を受け止めて見せた。

 

「……よかった。怪我はなさそうです。」

 

「キ、キィ……?」

 

 突然の出来事に男性教師や少女、恐らく猿も何が起きたのかわからないといった感じで目をパチクリさせていたが慧音だけは事の状況を理解しているのか肩を撫で下ろしていた。

 

 ~それから数分後~

 

「あはは!おさるさんかわいいー!」

 

「キィ!キキィ!」

 

「お猿さんと遊んだらちゃんとお昼を食べに行くんだぞ?」

 

「はーい!」

 

 猿はすっかり落ち着き、少女と戯れていた。

 そのまま猿と少女を男性教師に任せて霊夢、悟飯、慧音の三人はすぐ隣で少女が遊び終えるのを待ちつつ話し始めた。

 

「やれやれ、なんとか一件落着と言ったところか。二人ともさっきは助かったよ。あまり役に立てなくてすまなかったな。」

 

「いいのいいの、むしろあそこで猿を止めていてくれて助かったわ。おかげで私の結界も間に合ったしね。」

 

「そうか……ん?霊夢、随分髪が乱れているが何かあったのか?」

 

「うぐっ。い、いえ?別になーんにもなかったわよ?ね、悟飯?」

 

「え?でも霊夢さんさっき__「わー!わー!何のことだかさっぱりだわ!」」

 

「……?まあいい、それよりもあの猿のことなんだが。霊夢たちが何かしたのか?私たちの所に来た時ずいぶんと様子がおかしかったが。」

 

「いえ?別に何もしてないけれど……。悟飯あんたは?」

 

「ボクも特に変わったことは……。あ、でもそういえば物置部屋で見つけた時すでに様子が変でした。……なにか怯えてるような感じで。」

 

「ふむ。確かに私の時も随分と警戒していたな。さっき教室で遊んでいたときはそんな様子はまるでなかったんだがなぁ……?」

 

「でも慧音先生。確かあの猿が寺子屋に入ってきたときも随分焦っていたみたいでしたよ?」

 

「そうなの?」

 

「あぁ、確かにそうだったな。何かに追われている……と言うよりは何かを恐れて逃げて来たと言うのがしっくりくる。霊夢、あの猿の飼い主はどんな方なんだ?」

 

「うーん。あんまり接点がないから詳しくは知らないけど、見世物としてたまに猿を使った芸をしたりする普通のお兄さんだったわよ?ここにも前に芸を見せに来たって言ってたわ。」

 

「……思い出した。確かにここに昔来たことがあったな。あの猿のことも大切にしていたようだったし飼い主が原因と言うわけではないか……。」

 

 三人が猿の様子について意見を出し合っていると少女が猿を連れて慧音のスカートをちょいちょいと引っ張った。

 

「おっと。どうしたんだ?」

 

「えっとね、おさるさんといっぱいあそんだから次はお昼食べなくちゃ!けいねせんせーもいっしょに食べよー?」

 

「じゃあお猿さんはもういいのか?」

 

「うん!楽しかったよ!また来てくれるとうれしいな!」

 

「そうか。じゃあ先に教室に戻ってなさい?私もすぐにいくよ。」

 

「はーい!おさるさん、またねー!」

 

 少女は満面の笑みを浮かべながら猿に手を振って教室へ戻っていった。

 

「さて、それじゃこの子を連れて戻りますか。ほら、こっちにおいで。」

 

「キィー!」

 

 霊夢が手を差し出すと猿は器用に霊夢の手を上り、肩にしがみついた。

 

「ん。よろしい。二人とも協力ありがとね。またお祭りの時にでも会いましょ。」

 

「ああ。もう逃げられないようにな?」

 

「霊夢さん、お祭り楽しみにしてますね。準備頑張ってください!」

 

「ええ、じゃあまたね。」

 

 そう言うと霊夢はそのまま浮かび上がって里の中心の方へ飛んで行った。

 

「……。」

 

「慧音先生、どうかしたんですか?」

 

「ん、いやちょっとな。(あの猿の怯え方……まるで動物的な本能が危険を察知してどこかへ隠れようとしたみたいだった。……何か災害でも起こらないといいんだが……。)」

 

 何とか逃げ出した猿を捕まえることに成功した霊夢はその後、猿を飼い主の元へ返し再び祭りの準備に取り掛かるのだった。

 果たしてこのまま何も起きずに無事祭りを開催することが出来るのであろうか……。

 

 

 __祭り開催まで あと  2  日

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

高みを目指して 妖夢と萃香の力比べ

今回は今年最後の投稿になります!


「ここに来るのも久しぶりだなぁ。二人とも元気かな?」

 

 ここは博麗神社。境内に足を踏み入れたのは妖夢であった。

 ホウレンと修行をするようになってから妖夢は週に三回くらいの頻度で博麗神社に顔を出していている。更に白玉楼でも仕事がないときには自ら進んで修行を行っており、その実力は幻想郷の数いる強者たちにも匹敵、またはそれ以上ではないかと囁かれている。

 

 二人が外にいないことを確認すると妖夢は靴を脱いで縁側に上がり、部屋の前に立った。

 

「こんにちわ!ホウレンさんいらっしゃいますか?」

 

 妖夢の元気な声とは裏腹に部屋の中からは物音一つしなかった。

 

「?おかしいな。気配はあるのに……。ホウレンさん?霊夢さん?どちらかいらっしゃらないんですか!?」

 

 妖夢が大きめの声で呼びかけると今度は中から微かに声が聞こえてきた。

 

『……う…んぅ……?』

 

「あ、誰かいるんですね?よかった。入りますよ?」

 

 誰かいるとわかった妖夢は一言声をかけてから引き戸を開けて部屋の中に足を踏み入れた。

 そして部屋に入ってみるとそこには……。

 

「グー…グー……。」

 

 テーブルの上で大の字になって眠っている少女が一人いただけで霊夢とホウレンの姿はなかった。

 

「……なんだ、眠ってたんですね。萃香さん、起きてください萃香さん!」

 

「んんっ……ふぇ?」

 

「おはようございます。ちょっとお聞きしたいことがあるんですがいいですか?」

 

「ふわぁ~……。なんだ妖夢じゃん。どうかしたの?」

 

 テーブルの上で胡坐をかいて眠たそうに欠伸をしている少女は伊吹萃香であった。

 萃香はいつも幻想郷のあちこちを自由気ままに行き来しており、それが天界であろうと地底であろうとどこにでも現れる神出鬼没な鬼だ。

 

 萃香がここで眠っていたことに妖夢が驚かないのは彼女の特性を知っているという理由だけではなく、そもそも萃香が過去に異変を起こして霊夢に解決されて以来、霊夢を気に入ったらしく頻繁に博麗神社に訪れることがあったからだ。

 故に週三日くらいで来ている妖夢もすっかり慣れてしまっている。

 

「あの、ホウレンさんと霊夢さんはどちらに?」

 

「あ~あの二人ね。あの二人ならお昼くらいから人里に行ってるよ。」

 

「お買い物ですか?」

 

「いんや?なんか人里でおっきいお祭りをやるんだってさ。だからここ数日はそれにかかりっきりでね~。私の相手もしてくれないんだよ~。」

 

 萃香はわざとらしくがっくりと肩を落として見せると傍らに置いてあった伊吹瓢で酒を飲み始めた。

 

「お祭りですか……。それなら私もお手伝いしに行った方がいいかもしれませんね。」

 

「プハッ!……と言ってもお祭りはもう明日だよ?もうほとんど終わってるはずだから大丈夫だって。」

 

「あ、そうなんですね。……でもせっかく二週間ぶりくらいに来たのに運が悪いなぁ……。」

 

「帰ってくるまで待ってれば?」

 

「流石に準備で疲れて帰ってくる人に修行の相手なんて頼めませんよ。仕方ありません、今日はもう帰るとしましょう。では失礼しました。」

 

 妖夢は萃香にお辞儀してそのまま部屋を出ていこうとした。

 

「ちょ~っと待った。」

 

 すると引き戸に手をかけたところで萃香が妖夢を呼び止めたのだった。

 振り返ると萃香は再び伊吹瓢で豪快に酒を飲んでいた。

 

「プハッ!ここに来たってことは今日はもう暇だろう?だったら私に付き合ってくれないかい?」

 

「えと……何にでしょうか?」

 

「決まってるさ。……この私と力比べをしようってことだよ。」

 

「あ、貴方とですか……!?急にどうして?」

 

「ん~?……まあ気まぐれってやつかな。あの男との組手で随分強くなってるみたいだしね~。どこまで実力が上がったのか見せておくれよ。」

 

(……萃香さんと力比べ……。以前の私ならほとんど勝負にならずに遊ばれてしまっていました。試してみたい……今の私の実力がどこまで通用するのか……!)

 

「どうすんのさ。やるの?やらないの?」

 

「……やります。萃香さん、ぜひ手合わせお願いします!」

 

「よ~し!そうと決まれば外行こ!外!久しぶりに暴れるぞ~!」

 

「あ、あまり周りの物を壊さないでくださいね?霊夢さんに怒られちゃいますから……。」

 

「わかってるって。ちゃんと気を付けて闘うよ。」

 

「よかった……。それなら安心して闘え__」

 

「壊れない可能性は二割くらいあるから運が良ければへいきへいき!」

 

「__ませんでした!す、萃香さん。場所を変えましょう!山の途中に開けた場所がありますからそこでやりましょう!」

 

「え~?別にここでもいいんじゃないの?」

 

「よくありません!いいから来てくださいぃぃ!」

 

「わ、わかったって。そんな引っ張らなくてもちゃんとついて行くよ。」

 

 

 それから数分後。二人は山の途中にある開けた場所へとやってきた。周りを木々に囲まれたその場所はとても広くまるで草原のようでもあるがあちこちに闘いの痕跡が残されていた。

 

 妖夢と萃香は一定の距離を保った状態でお互いに軽く体を動かしてウォーミングアップを行っている。

 

「この場所。随分と壊れてるけど、ひょっとしてあんたたちの修行場なのかい?」

 

「ええ、そうです。境内で派手な修行は出来ませんからね。ここなら物を壊す心配もありません。お互い全力で闘えます!」

 

「ふふふ、なら妖夢は私に全力を出させてくれるんだろうね?」

 

 その瞬間、萃香からとてつもない妖気が発せられた。その妖気はそこいらの妖怪とは比べ物にならないほどの圧倒的な力。星熊勇儀と肩を並べる『山の四天王』と呼ばれた鬼が力の片鱗を見せたのだ。

 これは萃香にとって悪戯のようなものだがそれと同時に妖夢の力を試す意味もあった。大抵の者ならば今の妖気を間近で感じてしまうと足がすくんで動けなくなったり、動揺して集中力が低下したりしてしまう。それ故に試したのだ。もしこれで妖夢に何かしらの変化があれば本気を出す必要はない。それが萃香の考えであった。そして妖夢は__

 

「当然です!むしろ手加減なんてさせてあげませんからね!」

 

 __今の妖気を間近で感じてもそこに一切の動揺はなかった。むしろ今のでよりやる気を出しているようにも感じられる。ここ一年の間でいくつもの修羅場をくぐってきた妖夢にとって萃香の悪戯は闘争心を高める結果にしかならなかったのだ。

 その反応に萃香は少しきょとんとしながらも楽しそうに口元を緩めた。

 

「……こりゃ思った以上に楽しめそうだ。さ~て、そろそろ始めようか!あんたの力……私に見せてみなよっ!!」

 

「わかりました。ここ一年近くで鍛え上げた私の剣技をお見せしましょう!」

 

「それじゃ、まずは小手調べ!」

 

 そう言うと萃香は自らの髪の毛を引き抜き、それを触媒にして小さな分身をたくさん作り出した。

 

「!分身……っ!?」

 

「いっけ~!!」

 

 萃香の合図と共にたくさんの小さな萃香が妖夢の周りを囲み、いろいろな角度から攻撃を仕掛けてくる。だが妖夢はその攻撃を全て最小限の動きでかわして、逆に空中で隙だらけになった分身を全て一刀両断してみせた。すると斬られた分身が元の髪の毛に戻り、ひらひらと宙を舞った。

 

「これしきの分身では小手調べにもなりませんよ!」

 

「みたいだね。じゃあこれならどうかな?」        鬼符『濛々迷霧』

 

 萃香は驚いた様子もなく指を鳴らした。すると妖夢の周りを舞っていた髪の毛が霧状に変わり、そのまま妖夢を包み込んだ。まるで早朝のような濃く深い霧の中で妖夢は視界が狭まり、相手の攻撃が読みにくくなってしまった。

 

(……霧全体に気配を感じる。これでは正確な位置を掴むことが出来ません。逆に私にはどこからでも攻撃可能のはず……厄介ですね。)

 

 萃香は『密と疎を操る程度の能力』の使い手でそれはあらゆるものの密度を自在に操ると言うものだ。物質は密度を高めれば高熱を帯び、逆に密度を下げれば物質は霧状になる性質がある。この特性を使うことによって萃香は自らの分身を作り出したのだ。

  更に萃香は髪の毛を霧状に変化させた中に自らも霧状に変化して混ざった。つまり妖夢が霧全体から気配を感じるのは妖夢を包み込んでいる霧そのものが萃香であるからだ。

 そして次の瞬間、妖夢の背後で霧が腕を形成してそのまま妖夢に殴り掛かった。

 

「……っ!そこです!」

 

 しかし神経を研ぎ澄ませていた妖夢は背後からの攻撃に即座に反応してその拳を叩き斬った。斬られた拳はその瞬間に再び霧に変わり恐らくダメージにはなっていないであろう。魔理沙曰くこっちからは何もできないのに向こうからは攻撃し放題の狡いスペルカードだそうだ。

 すると今度は全体の霧がうごめきだし、無数の攻撃が妖夢を襲った。

 

「……っ!」

 

 全方位から襲い来る攻撃に対して妖夢は咄嗟にもう片方の刀を抜いて二刀流で対応するがすべての攻撃を防ぐことは難しく、徐々にダメージを受けてしまう。

 

「くっ……!(このままじゃ手も足も出ない……!だったら!)」

 

 すると妖夢は刀を振る速度をどんどん上げ始め自分の刀の届く範囲すべてを高速で斬りつけていく。そうすることによって全体からの攻撃を全て防げているのだ。

 しかしその動きは萃香からすれば、ただがむしゃらに刀を振っているだけに等しい。いくら攻撃のすべてを防げてもそんな動きをしていればいずれ体力が底を尽きるであろう。それに比べて萃香がこのスペルカードで体力を減らすことはない。このまま闘いを続ければ間違いなく自分が勝利するであろうと確信していた。

 

(修行したっていってもやっぱりまだまだ半人前か。と言ってもこの攻撃はちょっとやりすぎだったかな?まあいいや、もう終わりに__)

 

「やああーーー!!」        六道剣『一念無量刧』

 

「っ!?」

 

 萃香が妖夢に止めを刺そうとした瞬間、妖夢の刀を振り回す速度が最大にまで達した。超高速で振りまわされた刀は通った場所に数多の残像を残してただ近づくすべての攻撃を斬り刻む。それだけならまだ状況はさきほどとさして変わらないはずだった。

 だが妖夢の狙いは最初から攻撃を防ぐことではなかった。妖夢は霧の中では何をやっても無意味と悟り、すぐに霧を無効化する方法を考えていた。そして辿り着いた答えはシンプルなものだった。

 

「吹き飛べぇええーーっ!!」

 

「っ……!うわああああ!?」

 

 それは超高速で刀を振るいその風圧によって周りの霧を吹き飛ばすという力業であった。そしてその力業は見事成功し、霧はすべて周囲に拡散され萃香も声を上げながら元の姿に戻り、空中で体勢を立て直そうとするも強い風圧に邪魔されてうまく体勢を立て直せずにいた。

 

「見えた!はあっ!!」

 

 妖夢は姿を現した萃香を目で捉え、強く踏み込んで萃香の元へ一気に飛び上がった。

 

「やるじゃんか……!でもまだ甘いよ!」

 

 萃香は風圧を力任せに拳を振るって拳圧で相殺させると一直線に飛んでくる妖夢の上を乗り越えてその攻撃をかわした。

 

「絶好のチャンスを逃したね!もう次はない__っ!?」

 

 妖夢をかわしてその後ろ姿に攻撃を入れようと空中で振り返った萃香の目に映ったのは、なんと今攻撃を外して通り過ぎていったはずの妖夢であった。それも妖夢の射程圏内に入ってしまうほどの距離をこの一瞬で詰められている。

 

(ありえない!いくら速く空を飛んでもあの一瞬で方向転換して私にここまで接近するなんて!)

 

「たああーーー!!」

 

「あぐっ!?」

 

 勝負は一瞬の動揺が敗北を招くこともある。萃香はそれを十分に理解していた。だがそれはあくまで実力が近い相手か格上の相手との闘いでの話だ。萃香は妖夢と力比べをしようと思ったのは本当に気まぐれで軽く遊び相手になればいいというくらいの軽い気持ちであった。

 鬼としてのプライドが無意識の内に妖夢をずっと格下の存在だと思い込んでしまっていたのだ。 萃香は地面に叩き落されながらその考えが間違いだったことに気が付いた。

 

「……どうやら甘かったのは私の方だったみたいだね~。」

 

 そう言うと萃香はとびきりの笑顔を見せて、立ち上がり上空の妖夢を見上げた。すると妖夢はすでに次の攻撃のために刀に霊力を込めて大きく振りかぶっていた。

 

「あんたのこと甘く見てたよ。だからこれはそのお詫びさ!私の全身全霊のスペルカードであんたを負かしてやろうじゃないか!」

 

 霊力が込められて青白く光る巨大な刀を構えた妖夢に対して、萃香は山の四天王の奥義であるスペルカードで迎え撃とうと拳を構えた。そして妖夢が一気に急降下して萃香目掛けて刀を振り下ろした。

 

「勝つのは私ですっ!!」        断迷剣『迷津慈航斬』

 

「い~や私だっ!!」          四天王奥義『三歩壊廃』

 

 次の瞬間、二人のスペルカードがぶつかりあい大きな衝撃が辺り一帯を包み込んだ。その衝撃に木々はざわめき上空にあった雲までもが吹き飛んでしまった。小さく陥没した地面に立っていたのは……。

 

「はぁ…はぁ……驚いたよ。まさか奥義を使うことになるとはねぇ。」

 

 

 

「あんたにここまで追い詰められるとは思ってもみなかったよ。正直舐めてた。」

 

 

 

「……これからも頑張んなよ。あんたはもっと強くなれるはずさ。鬼である私が保証するよ!」

 

 

 

「……なにせ山の四天王と呼ばれた私を倒したんだからね。自信持ちなよ。」

 

 その場に立っていたのは妖夢だった。無言だった妖夢は萃香の言葉を噛み締めると顔を上げて大きく頭を下げた。

 

「はい……!手合わせありがとうございました!!」

 

 

 

 それから少しの間、疲労回復のために二人は日に当たって休憩をすることにした。すると萃香が隣に座っている妖夢にある話を始めた。

 

「あんたがそんなに強くなったってことはもしかしたらあいつらも強くなってるかもしれないね~。」

 

「?誰のことですか?」

 

「半年前にあちこちで大きな闘いがあったでしょ?その時そのあちこちで闘った連中のことだよ。霊夢だけじゃなく魔理沙にあの人形遣い、守矢の巫女どころかあの勇儀まで随分手こずったらしいじゃないか。」

 

「そうですね。あの時の敵はみんな今までの幻想郷では考えられないほどの強さでした。」

 

「そう。それであんただけじゃなくてみんなこの半年の間に実力をどんどん上げてるって聞いてるんだよ。信じらんないよね~。あの勇儀が修行するってこともだけど何よりも霊夢が修行をしてるってのが一番信じらんないよ~。」

 

「あはは、霊夢さんは元々そういったことは一切やらない方でしたからね……。」

 

「……でもまあ、こんだけ強いやつらが集まってるにも関わらず更に強くなろうってんだからこの幻想郷はそう簡単には落とせないと私は思うよ。」

 

「……だといいんですけど。」

 

 萃香の言うとおり幻想郷の強者たちの一部は半年前に比べて遥かに力が増したのは事実である。だが妖夢は不安を搔き消すことが出来なかった。この先どんなに強いやつが幻想郷を責めてくるかわからない。もしかしたら自分たちよりも強い敵が来るかもしれない。そうなったとき自分は役に立つことが出来るのであろうか?

 妖夢は弱気な考えを振り払おうと頭を振って空を見上げた。

 

「……さて、それでは私は帰ります。」

 

「ん?もう帰るの?」

 

「はい。今日は手合わせ本当にありがとうございました。それでは私はこれで。」

 

 妖夢がその場から立ち去ろうとするとぐっと後ろに引っ張られて腰を抜かした。何かと思い後ろを見ると萃香が妖夢の左手を掴んでいた。

 

「あの……萃香さん?どうしたんでしょうか?」

 

 妖夢が問いかけるが萃香は何も言わずに妖夢の襟のところを掴むとずるずると引きずって歩き出した。

 

「え?あの……ど、どこに行くんでしょうか?」

 

「決まってんじゃん!せっかく遊びに来たんだからもうちょっと付き合ってよ~。」

 

「ええ!?別に遊びに来たわけじゃないんですが!?」

 

「い~からい~から!一人で飲むより二人で飲んだ方が楽しいよ~?」

 

「ってこんな時間からお酒ですか!?わ、私は遠慮しますよ!」

 

「聞こえな~い。さあ神社に戻ろ~!二人で乾杯だ~!」

 

「ちょ……えええええ!?」

 

 

 

 それから数時間が経ち夕方を過ぎた頃、ホウレンと霊夢が神社に帰ってくるとそこには満足そうに眠っている萃香とその腕の中で酔いつぶれている妖夢の姿があったという。

 

 

 __祭り開催まで あと  1  日

 

 




意見を聞いたところ変えても問題なしと判断しましたので次回からこの作品のタイトルは変更となります。まだ名前は決まってませんがぜひこれからも楽しんで読んでいただけると幸いです!ちょっと早めですが皆さんよいお年を!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

災害の予兆 復活のセル!?

今回からこの作品のタイトルが変わりました。これからはこのタイトルでやっていきますのでよろしくお願いします!


 いよいよ今日は人里による大規模な春祭り。数日にわたる準備期間の成果に加え天気も良好、暖かい日差しの中での祭りの開催に人里全体が活気に満ち溢れていた。

 ホウレンは昨日博麗神社にいた三人を誘ってみたものの霊夢はやはり噂を気にして別行動。萃香は先約があるらしくどこかに行ってしまい結局妖夢だけが一緒に祭りに行くことになった。

 

「賑わってるなー。天気もいいし、今日の祭りは大成功だな。」

 

「ですね。その……出発が遅くなってすみません。」

 

「気にすんなって。萃香の酒に付き合ったら大抵のやつはああなるよ。」

 

 妖夢は先日萃香の酒に付き合わされたことでホウレンたちが帰って来た時にはすでに酔いつぶれて眠ってしまっていて、そのまま博麗神社に一泊していた。そして今日の朝二日酔いでうなされていた妖夢を介抱してから祭りに誘ったため、すでにお昼を過ぎてしまっていたのだ。

 

「……わ、私本当に変なことしてませんでしたよね?」

 

「大丈夫だって、何度も言ったけど俺たちが帰って来た時には妖夢はもう爆睡してたよ。……まあ萃香と飲んでた時のことは知らねえけどさ。」

 

「はぁ、今度萃香さんから直接聞いておかないと。……そういえば眠った私を布団に運んでくださったのって霊夢さんですか?あとでお礼を言わないと。」

 

「ああそれは俺だ。」

 

 

「…………え?」

 

「最初は俺も霊夢か萃香が運ぶと思ったんだけどさ。萃香は酔っぱらってフラフラしてて危なっかしいし、霊夢は準備で疲れたからイヤ。なんて言いやがってな?だから俺が抱きかかえて布団まで運ばせてもらったよ。」

 

 それを聞いた瞬間、妖夢は顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。不思議に思ったホウレンは妖夢の顔を覗き込もうとするが妖夢は頑なに顔を見せようとしなかった。

 

「おーい、妖夢?なんで顔を隠すんだよ。汚れでもついたか?」

 

「な、何でもありませんっ!!」

 

「お…おお、そうか?ならいいけどさ……お?おい妖夢あそこ見てみろよ。」

 

「?なんですか。」

 

 ホウレンが指さした場所を見てみるとそこにはいくつも出店があり、そこには見覚えのある後ろ姿があった。従者たちに傘を差してもらいながら楽しむ姉妹とその横で大量の食い物を食い歩く男だ。ホウレンたちはそれに話しかけることにした。

 

「お姉さま見て見て!これ可愛い!」

 

「そうね。でももっと美しいものの方が高貴な私たちには似合うと__」

 

「美鈴!次こっちね!」

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!走ると傘から出ちゃいますよー!」

 

 レミリアの言葉を無視してフランは傘を差していた美鈴を引っ張って走り出した。

 

 

「…………もっと美しいものの方が高貴な私たちには似合うと思わない?悟空。」

 

「へ?オラにそんなこと聞かれてもなぁ。よくわかんねえよ。」

 

「……貴方に聞いた私が愚かだったわ。」

 

「大丈夫です。お嬢様なら何を付けても綺麗ですわ。」

 

「おーい!レミリアに咲夜に悟空!」

 

 ホウレンたちは声をかけながら三人の傍へ近寄ると三人もそれに気が付きこちらを振り向いた。

 

「ホウレンに妖夢じゃねぇか!おめえたちも遊びに来たんか?」

 

「まあな。悟空こそこういうのに来るなんて珍しいじゃねえか。」

 

「悟空は荷物持ちのためについて来てもらったのよ。咲夜と美鈴は私たちの傘を持たなきゃならないからね。」

 

「貴方が自分で持てばいいんじゃないですか?」

 

「嫌よ。手が疲れちゃうじゃない。」

 

 妖夢の指摘に対して即答したレミリアにホウレンと妖夢は半笑いで傘を差す咲夜を見る。咲夜は特に不満はないようでレミリアを見たまま微笑んでいた。

 

「……まあいいです。今日は五人で来たんですか?」

 

「そうよ。ホウレンにはこの前言ったと思うけど今回はフランを連れてきてるわ。危ないかもしれないけれどいざとなったら私たちが何とかするから安心しなさい。まあフランなら絶対に大丈夫でしょうけどね。」

 

 そう言ったレミリアは自身に満ち溢れていた。フランは凍界異変以来、徐々に能力をコントロール出来るようになってきていて狂気に飲まれるようなことは一切なくなっていたからだ。そのことが嬉しくてしょうがないのかレミリアはまるで自分のことのように誇らしげな顔をしている。

 

「別に不安になんて思ってねえさ。存分に楽しんでってくれよ。」

 

「ええ、そうさせてもらうわ。それじゃあそろそろフランたちを追いかけようかしらね?咲夜、行くわよ。」

 

「かしこまりました。ほら悟空、貴方もよ。」

 

「ああわかった。おめえたち、またな!」

 

 三人はフランたちを追って人ごみの中へ消えていった。

 

「あんまり食い過ぎんなよー!……つうかさ。妖怪が人里の祭りに来て里のやつらは何も思わねえのかな?」

 

「何をいまさら……。そんなこと言ったら私だって半人半霊ですよ?それにアリスさんだってたまに人里で人形劇などで里の皆さんを楽しませてるみたいですし慧音さんだって半分妖怪です。里の人間にとって害さえなければどの種族も恐怖の対象にはならないんですよ。それにこの祭りには霊夢さんも来てますからね。博麗の巫女が徘徊している場所でわざわざ悪事を働く妖怪はいません。」

 

「なるほど。なら俺たちは最低限気を配ってりゃ大したことは起きなさそうだな。」

 

「それがそうとも限らないんですよ。」

 

「うぉっ!?」

 

 背伸びをしながら会話をしているホウレンと妖夢の間に突然入ってきた声にホウレンは驚いて後ろを振り返る。するとそこには深く帽子を被った記者のような恰好の女性がいた。

 

「確かに霊夢さんのいる所で悪さをするような馬鹿な妖怪はいないと思うんですけどね?霊夢さんの存在を気にしないほどの妖怪がいる可能性があるんですよ。」

 

「いや、ちょっと待て。急に話に入ってきたがあんた誰だ?」

 

「ん?おっとこれは失礼。この恰好でお会いするのは初めてでしたね。」

 

 そう言うと女性は深く被った帽子を上げてしっかりと顔を見せた。

 

「私ですよ。清く正しい文々。新聞でお馴染みの射命丸文です!」

 

「なんだおまえか。」

 

「ちょっとちょっと!もうちょっと反応してくださいよ!なんで私ってわかった途端に微妙な顔するんですかー!」

 

「日頃の行いじゃないですか?何が清く正しいですか、実際の記事の内容はその言葉とはほとんど真逆じゃないですか。」

 

「あやや、これは手厳しい。」

 

「それよりもさっき言ってたのってどういうことなんですか?今の霊夢さんを無視できるほどの妖怪だなんて……。」

 

「それはですね。数日前に妖怪の山でちょっと問題が発生しましてね。そこそこの力を持った妖怪が大量に死体で見つかったんですよ。」

 

「それってただの妖怪同士の殺し合いってわけじゃねえのか?」

 

「ええ、確かにそれだけなら私たちもそう判断するところなんですがねぇ。それだけじゃないんですよ。」

 

「と言うと?」

 

「さきほど言った数日前あたりから動物の様子がおかしいんです。動物は危機察知能力が比較的高いのは知ってますね?私たち天狗が調べたところ幻想郷ほとんどの動物がどこかへ逃げるように移動を始めているみたいなんですよ。それが何かの災害の前触れかと考えた上司たちの命令でその何かについて調べているところにその妖怪たちの死体の山と来たもんです。もう上司たちは災害に匹敵する力を持った妖怪が山を荒らしに来たと思い込んでるんですよ。」

 

「……おいおい、それなのにおまえここにいていいのか?」

 

「ほんとは不味いんですけど、すでに山では天狗たちが警戒状態、更に守矢の方々も動きを見せているようですからそちらに任せてきました。……万が一のことを考えて…ね。」

 

 すると射命丸は先ほどまでの軽い雰囲気とは一転して普段は見せないような真剣な顔つきに変わった。その雰囲気の違いに今の状況が普通ではないことを察して二人も緩んだ気を引き締めて射命丸に向き合った。

 

「……少し場所を変えましょう。ここから先はあまり里の住人には知られないほうがいいかもしれません。」

 

 三人は祭りの会場とは少し離れた人気のない路地裏へ移動すると周囲に人の気配がないか確認してから話を再開した。

 

「……さて、話を聞かせてもらうぜ。さっきの様子からすりゃ、実際は妖怪の山だけの問題じゃないんだろ?」

 

「そのとおりです。……そもそも災害に匹敵する妖怪。そんなものがこの狭い幻想郷の中で突然現れるなんてあり得ないと思いませんか?そんなやつがいるならとっくの昔に存在が知られているはずです。」

 

「なら月の都から降りてきたのでは?あそこに住む方々は強者揃いですし、まだ隠れた実力者がいても不思議じゃありません。それに今の霊夢さんの実力を知っている方は地上でもあまりいませんから月の方がその実力を知らずに攻めてきたとか……。」

 

「それはありませんよ。」

 

「どうして言い切れる?」

 

「お忘れですか?現在、幻想郷と外の世界を繋ぐ結界はひどく不安定な状態です。そして月の都は結界の外にあります。いくら月にも実力者がいるとは言え、この方々が全員で力を合わせてやっと入ってこられるような場所に入れるほどの強さを持っていると思いますか?」

 

 現在ホウレンたちは当初の目的である異変の解決よりもこの幻想郷を狙う未知の敵たちへの対策を優先している。そんな裏側では紫や霊夢だけではなく紫以外の賢者もこの結界の歪みを探り続けているがやはり進展はない。

 この結界の異変に関しては実は月の都の者たちも気が付いており、現状向こうからはどうすることもできない。例外としてヘカーティア・ラピスラズリだけが結界を行き来できるのだがその方法は本人にしかできないような代物であり、なんの解決にもなっていないのだ。

 

「……そうか、そもそも俺たちの入り方が特殊だっただけで実際は幻想郷に入ること自体が難しいのか……!」

 

「そういうことです。」

 

「……ならやっぱり災害の前触れなんでしょうか?そうなると対処のしようが……。」

 

「……いえ、私たちにはまだ心当たりがあるはずです。災害とも言えるほどの実力を持ち、結界を越えて幻想郷に侵入できる存在に……。」

 

 その瞬間、二人は射命丸の言わんとしていることに気が付いた。そしてそれを考えた途端に今がどれだけ危険な状態であるかを悟り、先ほどまでのお祭り気分が一気に緊張感へと変わった。

 

「……あいつらの襲撃か……っ!」

 

 ホウレンの言う『あいつら』とはこの幻想郷を狙う未知の敵たちのことだ。詳細は不明だがやつらはなんらかの方法で結界を越えて幻想郷へ侵入することができる。厄介なことにやつらがいつ結界を越えたのかを感知することができず、アスイやアルメトが侵入した時はその存在に気が付くのにだいぶ時間がかかってしまった。

 もしもその時と同じようにこちらに気づかれずに幻想郷に侵入しているとしたら、すでに何かを仕掛けられていても不思議ではない。

 

「あくまで私の憶測ですがね。……すでに守矢の方々には伝えてあります。それに霊夢さんにも。何も起こらなければそれはそれで構いません。ですが万が一この考えが正しければこれから先何が起こっても不思議じゃないってことです。」

 

 ここで射命丸は一度話をやめ、無言になることで二人に話を整理する時間を与えた。少しの沈黙の中、ホウレンは覚悟を決めたように拳を握り締めている。妖夢はホウレンに比べて緊張が強いようだがそれでも覚悟は決まったようだ。

 射命丸はそれの表情を見ると満足そうに頷き、二人に背を向けて歩き出した。

 

「ご清聴ありがとうございました。あとは私も独自に居場所を探ってみますのでいざ闘うとなったらよろしくお願いします。」

 

「射命丸!……危険そうな時は絶対に逃げろよ。あと無茶だけはすんな!わかったか!?」

 

 ホウレンの本気で心配する声にに射命丸はなんだかおかしくなり小さく笑った。そして今度は振り返っていつものような明るい笑顔を見せた。

 

「わかってますよ!貴方たちが来てから面白いネタに困らないんです!それを記事にするためにもドジは踏みません!それでは、お二人ともデートの続きを楽しんでくださいねー?」

 

「なっ…で、デートって……っ!?そ、そそそんなんじゃないですよっ!!」

 

 突然からかわれた妖夢は思わぬ指摘に顔を赤くして大声で反論する、とその瞬間射命丸がカメラのシャッターを切ってニコニコ笑った。

 

「……え、あっ!」

 

「油断大敵ですね~。いい表情が撮れました♪ではでは、さよーならー!」

 

 射命丸は妖夢が何かを言う前に別の場所へ走り去っていった。

 

「ちょ、ちょっと!今の消してくださいよ!?」

 

 走り去る後ろ姿に必死に声を上げる妖夢だが、恐らく射命丸は絶対に消さないだろうなと考えると頭を抱えて座り込んだ。

 

「もう……真面目に話してると思ったらすぐこれなんですから。」

 

「いいんじゃねえの?あいつはやっぱああじゃねえとな。それにおかげで緊張は解けたろ?」

 

「……少しは。」

 

「ほら立てよ。とにかく今俺たちにできることは何もねえ。今日の所はこの祭りを楽しもうぜ?」

 

「……。」

 

 ホウレンに手を差し伸べられた妖夢は素直にその手を取って立ち上がった。

 

「ありがとうございます。」

 

「よし、じゃあ戻ろうぜ。祭りはまだまだ長いんだからな!」

 

「……ですね。行きましょうホウレンさん!」

 

 

 そうして二人は祭りの最中常に警戒は続けながらも祭りを存分に楽しんだ。そしてあっという間に日が傾きかけていた。人里の中央、やぐらの周りには踊りを踊る人たちで賑わい、それを見る人たちも集まって、より一層賑やかになっていた。

 そこにホウレンたちもやってきて再び悟空たちとばったり出会いみんなで踊りを見て楽しんでいた。

 

「悟空、今日の祭りはどうだったよ?」

 

「ああ!いろんな食い物があって楽しかったぞー!」

 

「おまえらしいな。フラン、おまえはどうだった?」

 

「私?私はもう大満足だよ!外のしかも里のお祭りに来れるなんて夢みたい!またこういうお祭りがあるといいなぁ。」

 

「あるある、これから先もこういうお祭りはいくらでもあるさ。またその時はレミリアたちに連れてきてもらえよ?」

 

「うん!お姉さま……いい?」

 

 フランは少し不安そうに隣のレミリアに問いかけた。レミリアは少し間をおいてフランの頭に手を置き優しく撫でながら言った。

 

「もちろんよ。何度でも連れてきてあげるわ。」

 

「……!ありがとうお姉さま!」

 

「こら、抱き着かないの。子供じゃないんだから。」

 

「えへへっ、ごめんなさい。」

 

 仲の良い姉妹のじゃれあいを従者たちは優しく見守っていた。和やかな一時を過ごしながら踊りを見ている。すると咲夜の目に変わった格好の人物が映った。

 一般男性に比べて随分と大きな身長、全身が隠れるような茶色い布地に顔が見えないほど深く被ったフード。どれをとっても怪しい見た目をしていた。

 

「咲夜さん、どうかしたんですか?」

 

「……美鈴、あそこにいる人何か変じゃない?」

 

「え?どこですか?」

 

「ほら、あの深くフードを被った背の高い人よ。」

 

「ん~…あ、本当ですね。何というか見た感じ怪しいって雰囲気を出してますけど、大丈夫でしょうかあの人?」

 

「まあ近くに霊夢もいるみたいだし、何かあっても問題ないかしらね。」

 

「そうですね。一応私たちもいますし。」

 

 咲夜と美鈴の会話が耳に入ったホウレンは何気なくそのフードの人物を見ていた。するとその人物は人ごみをかき分けてやぐらに向かって歩き出した。

 

(……?あいつ…この前すれ違ったやつに恰好が似てるけど雰囲気が違う。でもあの雰囲気、どこかで……。)

 

 その人物は人ごみを抜け、踊りを踊る開けた場所に出るとやぐらに手のひらを向けた。

 

「いけない!魔理沙さん、止めますよ!」

 

「わかってる!」

 

 するとその人物の後方から射命丸と魔理沙が飛び出してきて、その人物を挟み込むと魔理沙がその人物の頭に八卦炉を突き付けた。

 

「手を下ろしな。さもないとゼロ距離でマスタースパークをお見舞いするぜ?」

 

「貴方が人間じゃないことはわかっています。大人しくした方が身のためですよ?」

 

 突然の出来事に住人たちが一斉にざわめき出す。そんな中ホウレンたちは嫌な予感がして人ごみをかき分けて射命丸たちの元へ向かって進み始めた。

 

「おい、聞いてんのか?早くその手を下ろせって言ってんだ。それとも、ここでぶっ飛ばされるのがお望みか?」

 

「……フッフッフ。」

 

 ここでようやくフードの人物が声を出すとその声を聴いた瞬間、悟空とホウレンは顔色を変えた。忘れるはずのない声。しかし二度と聴くはずがない声だ。

 

「何笑ってんだ?言っとくけど、ここで暴れようったって無駄だぜ。ここには私たち以外にもいっぱい強いやつが来てんだ。あんたが何をしようと逃げらんねえぜ?」

 

「はなから逃げるつもりなどない。それに強いやつとやらがたくさん来ているのも好都合だ。もちろんおまえたちもだぞ?霧雨魔理沙に射命丸文……。」

 

「!……おまえなんで私たちの名前を……?」

 

 名前をいい当てられ動揺する二人を無視してその人物はやぐらに向かって歩き出した。

 

「ま、待ちなさい!」

 

「くそっ!こうなりゃ取り押さえるぞ!」

 

 二人は焦ってその人物を取り押さえようと飛びかかった。射命丸のスピードと魔理沙の魔法があれば押さえられる……そう思っていた。

 

「二人ともよせ!そいつはおまえたちが敵う相手じゃねぇ!!」

 

「「__ッ!?」」

 

 ホウレンの言葉はすでに遅かった。二人がフードの人物に飛びかかった次の瞬間、二人の腹に拳が減り込んでいた。

 

「ぐ…こ、この野郎……!」

 

 よろけて腹を抱えながら後退しつつも魔理沙は八卦炉をフードの人物に向けて魔力を溜め始めた。本当はさっきの脅しの時に魔力を溜めていたが今の攻撃によって魔力が分散してしまったのだ。しかしフードの人物がそれを待つはずもなく、魔理沙に手のひらを向けた。

 

「どいてろ。」

 

「ッ……うわぁああ!?」

 

 フードの人物は魔理沙に向けて特大の衝撃波を放ち、魔理沙を吹き飛ばした。魔理沙はそれに耐え切れずに人ごみに突っ込んでいった。それによりようやく住人たちは危険に気がついて逃げまどい始め、やぐら周りは一気に大パニック状態になった。

 

「ま…魔理沙さん……っ!くっ……貴方いったい!?」

 

「すぐにわかる。黙って見ているがいい。」

 

 そう言ってフードの人物は宙に浮かび上がり、やぐらのてっぺんに立った。

 

「文さん!大丈夫ですか!?」

 

「よ、妖夢さん……。私は…まだ大丈夫…です。それより魔理沙さんを……。」

 

「安心してください!そちらには美鈴さんたちが向かってます!それよりあの人はいったい誰なんですか!?」

 

「わ…わかりません……。ですが…早く止めないと…何をしでかすか……!」

 

「やれやれ、せっかくお祭りを楽しんでたって言うのにとんだ邪魔が入ったものね。いいわ、私が消してやる。」

 

「レミリア、おめえでも無理だ!相手が悪すぎる!」

 

「なによ悟空。貴方がそんなに取り乱すなんて珍しいわね。」

 

「ホウレンさんもです。お二人ともいったいどうしたんですか?」

 

 不思議に思う三人をよそに悟空とホウレンはやぐらに立つフードの人物を睨みつけるように見上げた。

 

「っ……なんで…なんであいつが生きてやがんだ……!!」

 

 ホウレンの言葉に反応したのかフードの人物は大きく高笑いをした後に身に着けているものを脱ぎ捨てた。

 

「おどれえたぞ……まさかおめえが生きてたなんてな。セル!」

 

 なんとフードの人物は三年前に死んだはずのセルであった!不敵に笑うセルの目的はいったい何なのであろうか?今、幻想郷に再び脅威が訪れる……!

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

破滅を呼ぶ祭典 崩天祭開催

遅くなりました!更新です!


 セルが現れ射命丸と魔理沙を攻撃したことによって、やぐらの周りは大パニック状態で祭りの和やかな雰囲気は一気にかき消されてしまっていた。そんな中その場に居合わせたホウレンを含む幻想郷の強者たちはピリピリとした緊迫感の中、やぐらのてっぺんに佇むセルと対峙していた。

 

「久しぶりだな、孫悟空とその仲間たちよ……。わたしのことを覚えていたようで安心したぞ。フッフッフ。」

 

「……忘れるわけねえさ。それよか……おめえ、どうして生きてやがんだ?おめえはあの時自爆して確かに死んだはずだ!それになんでその姿に戻ってやがんだ!まさかおめえ、また18号を吸収して完全体に戻ったっちゅうのか!!」

 

 悟空が指摘した通りセルの姿は完全体の姿であった。だがセルは三年前の闘いで悟飯に追い詰められた際に18号を吐き出して完全体を維持できなくなり、そのまま自爆してしまったはずであった。

 

「その話はあとでゆっくりと聞かせてやろう。残念ながら今は悠長に話している時間がないものでね。」

 

 するとセルは目を閉じて大きく息を吸い込み始めた。

 

「あいつ、何をするつもりかしら?」

 

「お嬢さま、念のためお下がりください。何をしてくるかわかりません。」

 

 全員が警戒する中セルは突然とてつもない声量で叫び始めた。

 

 

「幻想郷の強者たちよ聞こえるか!!」

 

 

「あぐっ……!?な、何よこのバカでかい声は!?」

 

「こ、鼓膜が破けちゃいそうです……っ!」

 

 大気が揺れるような大声に思わずホウレンたちは耳をふさいだ。セルの声は人里全体はもちろん、周囲の山々にまで届くほどであった。

 

 

「わたしの名はセル!!ある目的でこの幻想郷にやってきた!! 」

 

 

「ぐっ……あ…ある目的……?」

 

 

「それは……この幻想郷の破壊だ!!」

 

 

「「「!?」」」

 

 セルの発言にその場にいた全員が目を見開いた。

 

 

「だが安心するがいい!!今すぐに破壊するわけではない!!」

 

「今から貴様らにはゲームに参加してもらおう!!」

 

 

「げ、ゲームだと……!?」

 

 

「今この幻想郷にはわたし以外にも、もう一人戦士が来ている!!」

 

「今から二時間以内、ちょうど太陽が沈む頃までにその戦士を見つけ出し、倒せば貴様たちの勝ちだ!!」

 

「その戦士の名はディグラ!!生き残りたくばこの男を捜し出し、倒して見せろ!!」

 

「だがもしも時間を一秒でも過ぎてしまえば……この幻想郷全体の空より数多の隕石が地上に振り注ぐことになるだろう!!」

 

 

 衝撃の発言に全員が凍り付いた。数多の隕石が降り注ぐなど普通に考えればありえないことだがセルの自信満々な顔と、明かされたもう一人の戦士の存在によって全員がそれを完全に否定することは出来なかった。

 

 

「貴様たちがどこまで抗えるかを見せてみろ!!『崩天祭』の開催だ!!」

 

 

 セルは言葉を言い終えると今度は悟空たちを見て普通の声で話し始めた。

 

「フッフッフ。早く捜しに行かなくていいのかな?二時間などあっという間だぞ?」

 

「お、おまえ!今の話はどういうことだ!?」

 

「どういうことも何も今説明した通りのことだ。二時間以内にディグラを見つけ出し倒すことが出来なければ幻想郷は滅びる……ただそれだけのことだ。すでにこの幻想郷の遥か上空には数えきれんほどの大岩が浮かんでいるのだ。」

 

「ふーん……。でもそれって上空の大岩を先にすべて壊しちゃえばいいじゃないの。セルとか言ったかしら?そんなこともわからないなんて随分と頭が悪いのね。」

 

 薄ら笑いを浮かべながら説明するセルに対して、レミリアはたいして驚きもせずにセルを小馬鹿にした。この時点でレミリアはセルのことをまったく恐れていない。それはセルが気を抑えているからというのもあるがそもそも幻想郷の住人のほとんどが悟空たちが使う気を感じることが出来ないのだ。もちろん種族によって魔力、霊力、妖力などの力を感じ取ることは出来る、しかし気を感じ取れる者は幻想郷に数えるほどしか存在しない。

 

「そうしたいのなら止めはせん。壊せればの話だがな。」

 

「なんですって?」

 

「大岩の周りにはわたしが生み出したセルジュニアたちが大量に待ち構えている。これを突破するのは孫悟空たちですら時間がかかるだろう。少なくともキミには無理な話だがね。レミリア・スカーレット。」

 

「……私のことも知ってるのね。でもその実力までは知らなかったのかしら?今ここで貴方を殺してやってもいいのよ?」

 

 そう言ってレミリアは目を紅く光らせて、全身から魔力を溢れさせた。

 

「レミリア、よせ!さっきも言ったろ!おめえが勝てる相手じゃねえぞ!」

 

「貴方は黙ってなさい。そもそも今ここでこいつを捕まえてディグラとかいうやつの居場所を吐かせた方が手っ取り早いわ。咲夜、私が傘から出ないようにしっかりついてきなさいよ?」

 

「かしこまりました。」

 

 完全にセルを倒すつもりでいるレミリアを見てセルは微笑を浮かべた。

 

「貴様の言うとおりだ。今ここでわたしを倒せばディグラの居場所はわかるだろう。だが肝心なところが抜けているぞ?今この場所にわたしと闘える者はいないということだ。」

 

「……随分舐められたものですね。私たちだけに限らず、ホウレンさんや悟空さんですら貴方と闘えないと言うんですか?」

 

「そういうことだ。ただし貴様ら幻想郷の戦士たちと孫悟空たちとでは少々意味が違うがね。」

 

「……どういう意味です?」

 

「確かに孫悟空たちならば今ここでわたしと闘うことは可能だ。だがわたしたちが闘えば間違いなくここは跡形もなく消え去るだろう。」

 

「「「!!」」」

 

 セルの言葉に悟空とホウレンを除いた全員が衝撃を受けた。セルの言っていることが正しければ悟空とホウレンはセルと闘うことが出来ない。実際にセルと闘うともなれば超サイヤ人2にまでなる必要があるがそんな力で闘えば本当に人里が消し飛んでしまうということを悟空とホウレンは充分に理解していた。

 

「……悟空たちが闘えない理由はわかったわ。じゃあ今度は私たちが闘えない理由を教えてもらおうかしら?」

 

「フッフッフ。そんなもの説明するまでもないと思うがね。こちらは言葉通りの意味だ。貴様らではわたしと闘う実力すらない……理解できたかな?」

 

「……ええ、理解したわ。……やっぱり貴方はここで殺す……!もちろん里に被害が出ないようにスマートに消してやるわ!」

 

 そう言ってレミリアは咲夜と共にやぐらのてっぺんのセル目掛けて飛び出した。

 

「おめえたち、やめろー!!」

 

「この超高速の槍、避けられるものなら避けて見なさい!!」   神槍『スピア・ザ・グングニル』

 

 悟空の制止の言葉も無視してレミリアは深紅に染まった槍をセルに向けて解き放った。そのスペルは前に悟空と闘った時のものよりも遥かに速く、そして遥かに強力な魔力を帯びていた。レミリアもまたフランの能力の特訓に付き合ったことで力を上げていたのだ。

 

「ハァッ!!」

 

 しかしセルはその瞬間気を急激に上昇させて片手でグングニルを受け止めて上空へと弾き飛ばした。弾かれたグングニルはそのまま雲を貫いて消えていった。

 

「!!」

 

「レミリア・スカーレット、並びに十六夜咲夜。残念ながら貴様たちはここで脱落だ。」

 

「っ!!」

 

 セルは向かってくる二人に向けて指先から光線を放った。だがその光線は二人に当たらずに地面を貫いた。

 

「ほう。咄嗟に能力を使って回避したか。」

 

 そう言ったセルの目線の先は民家の屋根の上を向いていた。それにつられてホウレンたちもそちらに目を向けると咲夜がレミリアを抱えた状態でセルを睨みつけていた。

 

「さきほどのレミリア・スカーレットの技といい、十六夜咲夜の咄嗟の行動といい、どうやらわたしが知っている貴様らとは違うようだ……。これも孫悟空たちがこちらの幻想郷にもたらした影響と言ったところか。」

 

「……どういう意味かしら?」

 

 レミリアはセルの言葉に違和感を感じてセルに直接問いかけた。

 

「なに、そのままの意味だ。わたしが知っている貴様たちならグングニルはあれほどの強さではなく、時を止めるまでの反応ももっと遅かったはずだと、ただそれだけのことだ。」

 

「それもちょっと気になるけど、そっちじゃないわ。私が聞いてるのは貴方が言った『こちらの幻想郷』ってところよ。……それはいったいどういう意味なのかしら?」

 

 それに対してセルは小さく笑うと首を横に振った。

 

「教えてやりたいところだがその質問には答えられんな。自分たちの頭で考えてみるといい。と言ってもわかったところでこの崩天祭は止められんがな。」

 

「……貴方いったい何なのよ。なんで私やお嬢様、それに他の連中のことまで知っているの?しかもスペルに能力まで知っているなんて……いくらなんでもおかしいわ!」

 

 咲夜の問いかけにセルは何も答えようとはしなかった。自分たちの情報が筒抜けになり焦っている顔を見て楽しんでいるのだ。さきほどのセルの言い方からするとセルは咲夜の能力を知っている。それがそもそもおかしいのだ。咲夜は日常的にその能力を使ってメイドの仕事を行っているがあまり外でその能力を使うことはない、と言うよりは使う必要がないのだ。つまり咲夜の能力を知っているということは紅魔館での咲夜を知っているということになる。だがこれだけならまだ誰かがばらしたと考えれば済むであろう。

 しかしレミリアのスペルであるスピア・ザ・グングニルはレミリアは強敵と認めた相手にしか使わない、言わば滅多に見れないようなスペルである。そんなスペルをまるで知っていたように弾き飛ばして見せたセルが咲夜にはひどく不気味な存在に見えた。

 

「セル!その崩天祭とかいうやつの最中おめえはどうすんだ?オラたちがディグラっちゅうやつを捜すのをおめえが妨害でもするんか。」

 

「違うな。わたしはこのゲームに参加するつもりはない。」

 

「何……?」

 

「このゲームはディグラが言い出したものでわたしはそのゲームの駒を提供しているだけに過ぎん。セルジュニアたちはこのゲームに参加しているが今回わたしはゲーム開始の合図さえ済ませてしまえばただの観客ということだ。」

 

 そう言うとセルはやぐらから飛び降りて悟空とホウレンの前に着地した。

 

「そう警戒しなくていい。わたしは今闘うつもりなどない。おまえたちがこのゲームを終わらせるのをじっくりと待たせてもらうつもりだ。おまえたちならば勝とうが負けようが死ぬことはないとわたしは思っているよ。」

 

「……つまりおめえはこのゲームの間は大人しくしてるってことでいいんだな?」

 

「無論、そのつもりだ。」

 

「……俺は信用できねえよ。こいつは二度も地球をぶっ壊そうとしたやつだぞ!?そんな奴が大人しくしてるって言ったところで信じられるわけねえだろ!」

 

「そう思うならわたしを見張っていればいい。ただしディグラを捜す要員が無駄に減ってしまうことになるがな。」

 

「くっ……!」

 

「さあどうする?こうやって話している間にどんどん時間は過ぎていくぞ。」

 

 セルを見逃してゲームに専念するか、数人がかりでセルを倒してしまいディグラの居場所を聞き出すか、悩んだホウレンだがセルを倒したところでセルがディグラの居場所を吐くとも思えない。そうなったらそれこそ時間の無駄だろう。だがここでセルを見逃してしまえばセルが本当に大人しくしているという保証はどこにもない。たとえゲームに勝ったところでセルに幻想郷がめちゃくちゃにされては意味がないのだ。どちらを選ぶか決断できず時間だけが過ぎていく中、妖夢に介抱されていた射命丸が立ち上がった。

 

「私がセルについて行きましょう。」

 

「し、射命丸……!」

 

「ほう?もう回復したのか。どうやら貴様も他の連中と同じで随分とパワーアップしているようだ。」

 

「そういうことです。こんなチャンスは中々ありませんからね。貴方が何なのか取材するついでに本当に大人しくしてるかしっかり見張らせてもらいますよ?」

 

 射命丸がセルを見張る。それを聞いた時、急にホウレンは頭が痛くなった。理由はわからないがここで射命丸を行かせることが不気味なくらい怖く感じた。

 

「な…何言ってんだ……。一人でセルについて行くなんていくらなんでも危険すぎだ!それなら俺か悟空のどっちかが行った方がいい!」

 

 謎の頭痛を抑え込んでホウレンは必死にそれを止めようとする。

 

「ホウレンさん、私だってさっきの攻撃で実力の差くらいわかってます。……ですが考えてみてください、幻想郷全体に大岩を落とせるということはそれだけの範囲をカバーできるほどの強力な力、あるいは能力を持っているってことです。私たち幻想郷の誰かがそのディグラを見つけたとして、もしもこのセルに近い実力を持っていたらどうしますか?」

 

「そ、それは……。」

 

「ホウレン、セルは確かにとんでもねえやつだ、だけどすぐにバレるような嘘をつくやつじゃねえ。それにセルジュニアが従うっちゅうことは文の言うとおりそれくらいの強さを持ってるってことだ……だろ?セル。」

 

「ご名答。わたしとてそこいらの雑魚のゲームに付き合うほど暇ではない。少なくとも今のわたしに近い実力、そしてわたしにはない能力を持っている。半端な強さでは闘うことすらできんだろうな。」

 

「っ……!」

 

「……ホウレン、今はとにかく文に任せとけ。いざとなったらオラが瞬間移動で助けに行くさ。」

 

「でもおまえ……幻想郷では瞬間移動が使えないんじゃねえのか……?」

 

「まあな。だけどもしセルが文を殺そうとするか暴れだしたりすりゃ間違いなくでけえ気を出す。そうなりゃ気を感じ取って瞬間移動が出来る、だから安心しろ。」

 

「……あ…ああ。そう…だよな?」

 

 悟空の言ってることは本当だ。いざとなれば瞬間移動で助けに向かうことができる、頭では理解しているがなぜか恐怖感を消すことが出来ない自分に軽く混乱しているようで頭を抱えた。

 

(なんだ…?なんで俺はこんなに怯えてる?大丈夫だ…いくらセルが強いとはいえいざとなれば悟空がすぐに助けに行ける……!絶対に大丈夫のはずだ……!)

 

「……そうだ…すぐに助けに来れる……あの時みたいには……あの時…?__ッ!?」

 

 ホウレンは無意識の内に呟いた一言が自分でも何のことなのかわからなかった。しかしその瞬間ホウレンの頭の中に突然何かの声や情景が浮かび上がった。

 

 

『早く!みんなが殺されてしまう前に早く助けを呼ばないと!!』

 

 

 それは見知らぬ星の荒野で必死に飛ぶ女性の姿とそ同じく飛んでいる自分の視界であった。共に飛んでいる女性はどこか懐かしく思えるが姿がぼやけてハッキリとは見えない。

 

 

『なんでだよ……!なんで信じてくれねえんだ!?早く…早く助けに行かねえとあいつら全員殺されちまう!』

 

 

 場面が変わり今度は異星人たちに何かを必死に説得している姿が映った。だがその異星人たちはまるで話を信じようとしない様子だった。

 

 

『あ…ああ…うわぁあああああ!!どうして…・どうしてこんなことに……!』

 

 

 更に場面は変わりそこに映った光景はボロボロになった荒野に数十人以上の死体が転がっているという凄惨な現場であった。

 

 

『俺の…せいだ……。俺が…もっと早く助けを連れて来れば……こんな……。』

 

 

 膝から崩れ落ち、徐々に視界が歪んでいく、そしていつの間にかホウレンの頭の中はとてつもない罪悪感と恐怖感で満たされてしまっていた。気が付けば目から涙が大量に零れ落ちている。

 

「お、おいホウレン!どうしたんだ!?」

 

「……あれ…?俺…なんで泣い…て__」

 

「ホウレンさん!?」

 

 自分が泣いていることに気が付くと途端にホウレンは意識を失って倒れてしまった。いったいホウレンに何が起こったのだろうか?幻想郷の滅亡を賭けたゲーム『崩天祭』が幕を開けたのだった。

 

 

 __滅亡まで あと  01 : 55




更新がだいぶ遅いときは活動報告に何かしら状況の報告をしてますんで気になった方はそちらをご覧ください


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

遊びたがりの強いやつ?謎の大男現る ★

めちゃくちゃお久しぶりです。
あり得ないくらい遅くなりましたが投稿です。


「ホウレンさん、しっかりしてください!ホウレンさん!」

 

 妖夢は必死に気を失ったホウレンに呼びかけるがホウレンはピクリとも動かない。

 

「自ら戦力を減らしてしまうとは愚かなやつだ。と言っても、所詮孫悟空たち以外の雑魚どもでは何人いたところで役には立たんだろうがな?たかがそいつ一人が消えたところで何も変わりはしないだろう。」

 

「っ……ホウレンさんは雑魚なんかじゃありません!それに私たちだって貴方が思ってるよりもずっと闘えます!」

 

「それは失礼した。だがひとつ訂正しておこう。そもそもわたしは貴様らのことなどなんとも思っていない。等しく取るに足らん雑魚でしかないのだ。」

 

「っ!!」

 

 見下すように吐き捨てたセルの言葉に耐え切れず妖夢は立ち上がり刀に手をかけた、そんな妖夢を制止するように悟空がセルと妖夢の間に立った。

 

「ご、悟空さん。」

 

「……妖夢落ち着け。ここでおめえが斬りかかっても何も変わんねえぞ。おめえの気持ちもわかっけど今は堪えろ。」

 

「っ……はい…。」

 

 妖夢は悔しさに下唇を噛み締めながらも刀から手を離し再びホウレンの隣に膝をついた。

 

「セル、とりあえず今はおめえの言葉を信じる。だけどもしも文のことを襲ってみろ、そん時はすぐに駆けつけて今度こそおめえをぶっ倒してやるかんな。」

 

「フッフッフ、そう来なくては面白くない。くれぐれもゲームに負けて死ぬなどというつまらん結果にならんようにするのだな。」

 

 そう言うとセルは悟空たちに背を向けて歩き出した。覚悟を決めた射命丸もまた大きく深呼吸してセルの後を追って歩き出す。

 

「文!無茶すんなよ!」

 

 悟空の言葉に小さく頷いて射命丸はそのままセルと共にどこかへ立ち去ったのだった。

 

 

 それから悟空たちは一度話し合いをするため魔理沙たちも含めて一か所に集まった。

 

「わりい…あんな状況だったってのに私は身動きが取れなかった。最初あいつの動きを止めたときはこっちが有利だったはずなのに……情けねえ……っ」

 

「……それは私も同じよ魔理沙。あれだけ啖呵を切っておきながらあいつに傷ひとつつけられなかった。それどころか咲夜の咄嗟の判断がなければ今頃二人そろって死んでたかもしれないわ。」

 

「もうわかったろ?セルの強さは今までのやつらとは比べ物にならねぇ、あいつはその気になれば幻想郷どころかこの地球だってぶっ壊せちまうってこと、忘れんじゃねえぞ?」

 

「地球を壊せる!?あ……コホン。……確かにセルに挑んで情報を聞き出すのは難しそうね。仕方ない、ディグラとかいうやつの言いなりになるのは癪だけどこの崩天祭とやらをさっさと終わらせてやろうじゃない!」

 

「おお~!お姉さまやる気満々だ~!!」

 

「そう言えば妹様の能力で上空の大岩を破壊したり出来ないんですかね?」

 

「その大岩が見えるところまで近づければ一個づつ壊せると思うよ!」

 

「それは危険だと思います。確か大岩の周りにはたくさんの敵が配置されているはずですから、フランさんが近づけばその敵が一斉にフランさんを狙って襲い掛かってくるでしょう。それに今はまだ太陽が降りてませんから吸血鬼であるレミリアさんとフランさんに激しい戦闘は不可能です。」

 

「むぅ~!でもそれじゃあ私とお姉さまは何も手伝ってあげられないよ!何か私たちにも出来ることってないの!?」

 

 吸血鬼であるレミリアとフランは本来、日の光を浴びると肉体に大きなダメージを負ってしまうこともあり、浴びすぎると死に至る可能性も十分にあった。このまま二人を崩天祭に参加させるにはあまりにリスクが高い。どうしたものかと考え込んでいると空から聞きなれた声が聞こえてきた。

 

「簡単よ。あんなたちはここでそこの情けない顔で眠ってるやつを守ってあげればいいわ。」

 

 一同は声に反応して屋根の上を見上げるとそこには霊夢と悟飯が立っていた。

 

「おめえたち!いままでどこにいたんだ?」

 

 霊夢と悟飯は屋根から軽く飛び悟空たちの前に降りた。

 

「あんだけ騒ぎになったのよ?悟飯にも手伝ってもらって住人を少しでも安全な場所に誘導してたのよ。」

 

「里の皆さんは全員無事です。それよりもお父さん、なんでセルが幻想郷にいるんですか!?そもそもセルはあの時死んだはずじゃ……!?」

 

「ああ、オラもそう思ってた。けどあいつは間違いなくセルだ。しかもあいつ、完全体の姿どころかあん時よりもうんと力上げてんぞ。もしかすっと超サイヤ人2でもギリギリかもな……。」

 

「そ、そんな……!」

 

「セルの話は聞いたな、悟飯?」

 

「はい、一刻も早くディグラってやつを捜さないと!でもセルのことを放っては……!」

 

「セルのことは大丈夫だ。今んとこはだけどな。」

 

「どういうことです?」

 

「説明は後だ。とにかくオラと悟飯は幻想郷を飛び回ってディグラっちゅうやつを捜すぞ!」

 

「私たちもバラバラに捜し回りたいところだけど……魔理沙はどう思う?」

 

「……いや、ディグラってやつはさっきのやつと近い実力だって言ってた。私たちが一人で見つけたとしても、なにも出来ないかもしれない。」

 

 確実に止めるつもりだったはずが一方的にやられてしまったことに魔理沙は悔しそうに眉をひそめている。レミリアや咲夜も同じく表情を曇らせていた。

 

「……そうね。ならせめて二人一組で行きましょう。少なくとも他の誰かが来るまでの時間稼ぎにはなるわ。魔理沙は私と来てくれる?」

 

「わかった。」

 

「ならば私は美鈴さんといっしょですね。よろしくお願いします!」

 

「わかりました!」

 

 魔理沙の言葉に同意した霊夢は魔理沙と、そして妖夢と美鈴が二人で行動することになった。

 

「悟空と悟飯は一人でも大丈夫よね?」

 

「ああ。悟飯と話をしたらオラたちは別々にディグラを探してみる。」

 

「いい?知り合いに会ったら協力してもらいなさい。少しでも目を増やすの。見つけてどうしようもないと思ったらなんでもいいからすぐに合図を出すのよ?誰かが気づければすぐにでも集まれるわ。」

 

「咲夜。貴方は妖怪の山に向かいなさい。守矢の連中と合流してディグラを捜し出すのよ。」

 

 霊夢の言葉にうなずくとレミリアは咲夜に命令を下した。

 

「承りました。ですがここも安全とは限りません。お嬢様たちもどうぞお気をつけて……。」

 

「わかってるわ。少なくともさっきみたいな醜態はさらさないわよ。早く行きなさい。」

 

「はっ!」

 

「それじゃあ行くわよ!」

 

 そして霊夢の号令で各々が各地に飛び出したのだった。

 

「咲夜ー美鈴ー頑張ってねー!!」

 

 遠ざかる咲夜や美鈴に向けてフランは大きく手を振って見送る。

 

「やれやれ、また厄介なことになったわね。」

 

 眠るホウレンを見つめながらレミリアはポツリと呟いた。

 

 

 

 

 それから少し過ぎ幻想郷の空を飛び回る霊夢と魔理沙は更に上空を見上げて見る。

 そこにはセルによく似た化け物がうようよと飛び回っているのが微かに見えた。

 

「あの数……確かに直接大岩とやらを壊すのは相当キツイわね。」

 

「でもあんなにちっこいのに本当にどうしようもないのか?」

 

「さあね。それが出来るならとっくに悟空たちがやってるはずだし、それに問題の大岩が全然見えないのよね……それだけ高い位置に浮いてるのかしら……?」

 

「案外、私たちを焦らせようってだけのブラフだったりしてな。」

 

「はっは!残念。それは本当のことだ。」

 

「「__っ!!?」」

 

 突如耳元で男の声が聴こえた。楽しそうにからかうような声色に二人は即座に反応し、大きく距離を取って声の元を睨みつけた。そこには二メートルはあろう巨体の男が黒衣の布で全身を覆うようにして浮いていた。

 

「どうだ驚いただろう?はっはっはっは!!」

 

「なんだこいつ、いつの間に私たちの後ろに……!?」

 

「まさかとは思うけど、あんたがディグラってわけじゃないわよね?」

 

「さてどうだろうな?だがまあ、オレのことはただのサービスキャラとでも思えばいいさ。」

 

「嘘つけ!そんな図体のサービスキャラがいてたまるか!!」

 

「はっはっはっは!!」

 

 まるで緊張感がない男とは裏腹に、霊夢と魔理沙は額に汗を浮かべて男を睨み続ける。

 二人は気を感じることは出来ない、だが男からは何か得体のしれないものを感じていたからだ。

 

「そう睨むな。この広い幻想郷でノーヒントでのかくれんぼっていうのはあまりに酷だと思ってな?おまえたちににチャンスを上げに来ただけだ。」

 

「はあ?チャンスだあ?そんなもんなくても今目の前にいるあんたを逃がさなければこっちの勝ちだろ。私たちを舐めすぎだぜ!」

 

「ん~~。そういうつもりじゃなかったんだが。まあいい、そんなことよりせっかくの祭りだ!最初のゲームを始めようじゃないか!」

 

 そう言うと男は黒衣を剥ぎ取りその姿を露わにした。明らかに人間の見た目ではない体。

 暗い赤色のゴツゴツとした岩が鎧のようになっており、腰には黒い布を巻いている。

 赤みがかった銀色の髪をした大男だ。  

【挿絵表示】

 

 

「ゲーム?何のことだか知らないけど、観念してもらうわよ!」      神霊『夢想封印』

 

「私たちの前に出てきたこと、後悔させてやるぜ!」      恋符『マスタースパーク』

 

「おっと!」

 

 男は霊夢の夢想封印を軽々と避けきり、押し寄せるマスタースパークを跳び箱を飛ぶように飛び越えて見せた。

 

「くっ!」

 

「くそっ!セルの言った通りか、こいつもとんでもなく強いぞ……!」

 

「そんなに焦るなって!最初のゲームは鬼ごっこでどうだ?おまえたち二人がオレを捕まえることが出来たら、オレの居場所のヒントをひとつ教えてやるぞ!」

 

「オレの居場所って、やっぱりおまえがディグラってやつじゃねえか!?」

 

「何がヒントよ!居場所も何も、あんた目の前にいるじゃないの!バカなんじゃないの!?」

 

「はっはっはっは!!」

 

「ああもう、調子が狂うわね……!なんなのよあんた!」

 

「お察しの通り!オレこそがこの崩天祭の主催者のディグラだ!そしてこの幻想郷を何度も攻めてきた連中の仲間……いや、協力者の一人ってほうが正しいか?よろしく頼むぜ!博麗霊奈!霧雨魔理華!」

 

 開き直ったように男はディグラと名乗った。霊夢と魔理沙は仲間と協力者を言い直したことに引っかかりはしたものの、最後に口にした名前に思わず__

 

「「は?」」

 

 __声を合わせて困惑したのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

遊びの始まり なんでもありの鬼ごっこ

「……博麗…霊奈?」

 

「……霧雨…魔理華?」

 

 不思議そうに眉をひそめる二人を前にディグラは顔を傾げた。が、すぐに納得が言ったように手の平を叩いた。

 

「なるほど、こっちでは名前が違うのか!そりゃ悪かったな。おまえたちはなんて名前なんだ?」

 

「(こっちでは?)……博麗霊夢よ。」

 

「霧雨魔理沙だ。ってかなんで私たちのこと知ってるんだ!?ちょっと間違ってたけどさ!」

 

「はっはっは!気にするな。こっちの話だ。どうしても気になるってんなら、おまえたちがゲームに勝てたらヒントのついでに教えてやるよ。」

 

「……仕方ないわね。やるわよ魔理沙。」

 

「ああ、話してても埒が明かないぜ。今すぐこいつを捕まえておしまいだ!」

 

 二人は覚悟を決めディグラを睨みつけた。やる気になった二人を見て嬉しそうにするディグラを見る霊夢と魔理沙の内心はひたすらに困惑していた。

 なぜこんなにも早くディグラは現れたのか。この男の目的はなんなのか。なぜ自分たちの名前?を知っていたのか。わからないことばかりではあるがただひとつハッキリとしていることがあるとすれば、このゲームが幻想郷を左右するであろうということだけ。

 

(さっきのマスタースパークに誰かが気づけばこいつを確実に捕まえられるかもしれない。ああもう、はやく誰か来てよね!)

 

「なに簡単だ。逃げ回るオレに触れるだけだ!もちろんどんな手を使っても構わないぞ!全力で逃げ回るオレを楽しませてくれ!じゃあ、始め!!」

 

 始まりの合図と共にディグラは超高速で真上に飛び出すと縦横無尽に空を飛び回り始める。

 とてつもないスピードだが前の異変から力を上げた二人はディグラの速度をしっかりと目で追えていた。

 

「凄いスピードだけど、全然追えるわ……!魔理沙!私が弾幕で逃げ道を失くすからあんたはあいつを追いかけて!」

 

「おう!任せとけ!」

 

「まずはこれ!」      境界『二重弾幕結界』

 

 二重弾幕結界は相手も巻き込んだ大型の結界を張るというスペルだ。これにより、飛び回るディグラの行動範囲を狭めることに成功した。

 

「お?結界か!」

 

「これならあんたも遠くへは逃げられないでしょ!でもまだ終わりじゃないわよ!」  夢符『封魔陣』

 

 さらに霊夢は大量のお札で結界の内部をぐちゃぐちゃに掻きまわしていく。が、ディグラはそれを躱したり、追尾する霊力の弾を気で搔き消したりして上手く結界の中を飛び回る。

 それを魔理沙は後ろにマスタースパークを打ち、それを推進力に超高速で飛ぶスペル『ブレイジングスター』で追いかける。

 

「思ったよりも大したスピードじゃないな!あっという間に捕まえてやるぜ!」

 

「驚いた!どうやらオレが知っているおまえたちとは強さがまるで違うみたいだな!だが、まだまだオレはこんなもんじゃないぞ!そら!」

 

 そう言うとディグラは更に加速して魔理沙を突き放す。

 

「何っ!(なんだ今の加速。魔力や気とかいうやつじゃないのか?まるで体が急に軽くなったみたいな……)くそっ、私ももっとスピード上げていくぜ!」

 

 魔理沙はマスタースパークの火力を更に上げて負けじとディグラに食らいつく。

 ディグラの加速にどこか違和感を感じたものの徐々にその差を詰めていき、あと少しというとこまで追いつくと思いっきり手を伸ばした。

 

「よし!捕まえ__うぐっ!?」

 

 魔理沙の手がディグラに触れそうになったその瞬間、全身が鉛のように重くなったような感覚になり、箒の上で大きくバランスを崩してしまう。

 突然の異常事態に苦しくなり息が荒くなるが、落ちないようになんとか箒にしがみつきゆっくりとスピードを落としてその場にとどまった。

 

「はぁ…はぁ……体中の重さが消えた……。な、なんだ今の感じは?」

 

「ちょっと魔理沙!あと少しだったのに何やってんのよ!」

 

 遠くから霊夢が大声でまくしたてる。しかし弾幕の手は一切緩めずに結界内を蹂躙し続けている。

 弾幕をなかなかディグラに当てられないことに苛立ちを感じる。が、霊夢もまたディグラの違和感を感じ取っていた。

 

(……おかしいわね。あいつに弾幕が当たる瞬間、どうしても弾幕の制御が難しくなる。霊力の弾なら問題ないのにお札だけが思うように動かなくなるのはなんで?)

 

 霊夢のスペルはお札を直接敵に飛ばすものと霊力の弾を飛ばすものが多く使われている。もちろん結界や陰陽玉といった特殊なものもあるが基本は最初の二つだろう。

 今の霊夢は複数のスペルを同時に使用しているためその弾幕の密度は本来の弾幕ごっこでは間違いなく反則であろう。

 なぜならそもそも避けられるスペースが存在しないスペルなどありはしないからだ。たとえどれほど高密度なスペルでもどう考えても理不尽なスペルでさえ、必ず逃げる穴は存在する。

 

 しかし今の霊夢は少なくとも結界を含めても三つ以上のスペルを使用しているため、もはや人間のサイズではどうしようもないほどの高密度の弾幕である。

 それを二メートルはあろう巨躯で避けきれるわけがない。実際には全て躱されているというわけでわなく搔き消されているものもあるがそれは霊力の弾だけだった。

 

(ああもう、まただわ!やっぱりお札だけがどうしても上手く扱えなくなる!あいつが何か細工でもしてるんじゃないの!?)

 

(待って。……そうよ、なんであいつはお札は搔き消さないの?)

 

 霊夢の違和感の正体はそれだった。ディグラは弾幕に当たりそうになったとき、その一部を気で搔き消してそこから逃げている。しかし何故かお札だけはあまり搔き消そうとしないのだ。

 最初は制御出来ないお札なんて気を使って消すまでもないだけだと思っていた。しかしそれは間違いだったのかもしれない。

 

「……ひょっとしてあいつ。お札にはすでに何かしているの?私が気づかないうちに?(そう言えばさっきの魔理沙も様子が変だったわね……。よし。)魔理沙!ちょっとこっち来なさい!」

 

「ああ?なんだよ霊夢!私ならもう大丈夫だぞ!」

 

「いいから早く!」

 

 大声で呼ばれた魔理沙は渋々霊夢の元に近寄った。その間霊夢は結界以外のスペルを一時的にやめる。突然追ってこなくなった弾幕にディグラは不思議そうに霊夢たちを見下ろしていた。

 

「んん?なんだ作戦会議か?……いいな!本気でやってくれるのはオレとしても嬉しい!次はどんな方法でオレを楽しませてくれるんだ?」

 

 そう解釈して一人で盛り上がるディグラを尻目に二人はお互いの身に起きていることの情報共有を済ませてひそひそと話し合いを続けた。

 

「そう。あいつに近づいた瞬間に体が重くなったのね。」

 

「ああ。あんな感覚始めてだったぜ。」

 

「……そういえば私のお札も制御が難しくなるのはあいつに当たる寸前でだったわね。」

 

「そうなのか?」

 

「ええ、つまりこれは。」

 

「そうだな。これは。」

 

「「あいつの周りだけなにかが発生している。」」

 

 二人が出した結論はこうだ『ディグラは何か特殊な力を自身の周りに発生させ続けている』

 それが何なのかも魔理沙の感じた重さで何となく察しがついた。

 

「おいおまえ!なんか能力みたいなのを使ってるだろ!さっき思い出したけど、セルの野郎も言ってたしな!」

 

「……ほほう?」

 

 魔理沙の発言を楽しげに、興味深そうに耳を傾ける。その反応を見て霊夢は続きを喋り始める。

 

「あんたは多分、『周囲の重さを操ることができる能力』を持ってるんじゃない?魔理沙に捕まりそうになった瞬間、魔理沙が重くなったのがその証拠よ。私のお札も霊力の弾と違って実物だからね。突然お札が重くなれば、私だって感覚が狂って上手く制御できないもの。だから重さを変えられない霊力の弾は搔き消すしかなかった……違うかしら?」

 

 霊夢の考察を聞いたディグラは感心したのか大きく拍手しだした。

 

「すごいな!この短い時間にオレの能力をそこまで当てるとは!」

 

「へっ、私たちはもともと『~~程度の能力』とかを使ってるからな。たとえ別物の能力だったとしても原理は似たようなもんだろ?なら私たちにはお見通しだぜ!」

 

「はっはっは!素晴らしいな!満点を上げたいくらいだ!……でも惜しい!」

 

「何がよ。」

 

「なに本当にちょっとしたことがだよ。ここまで当てられたご褒美としてオレの事、おもにこの能力について答えを教えてやろう。そもそもオレの能力はおまえたちの『~~程度の能力』とは別物と言っていたがそこがまず間違いだ。」

 

「……どういう意味だよ。」

 

「どういう意味も何もそのままさ。これはオレが生まれ持った能力なんかじゃなく、正真正銘おまえたちと同じ『~~程度の能力』そのものだよ。」

 

「「!?」」

 

「ど、どういうことだよ!おまえ、幻想郷の住人だったのか!?」

 

 魔理沙がそう聞くのも無理はない。『~~程度の能力』とは外の世界には一切存在しない幻想郷独自のものだからだ。それを扱えるということはディグラは幻想郷の出身、あるいはそれに関わる何者かということになる。

 

「それもハズレだ。オレは幻想郷の住人じゃない。惑星グラビってとこで育った普通の人間さ。」

 

「惑星グラビ……ってあんた宇宙人なの!?いや、その見た目的には驚くところじゃないかもだけど!」

 

「なにを驚いてるんだ?おまえたちの仲間のサイヤ人だって宇宙人じゃないか。」

 

「あ~まあ、そうだけど……。」

 

 ちなみに霊夢たちはホウレンたちがサイヤ人であり宇宙人であることは聞いていた。聞いていたがあまりにもホウレンたちが普通の人間と見た目が変わらな過ぎて少し忘れていたのだった。

 

「話を戻すが、次の間違いは本当に惜しい。オレの能力をおまえは周囲の重さを操ると言ったな?」

 

「……違うのかしら?」

 

「ああ少しだけな。……少しくらいならいいか。そら!!」

 

「「ッ!!?」」

 

 その瞬間、二人は全身がズシンと重くなるのを感じた。それだけじゃない、結界内の全ての物体が変化しているのだ。下を見ると地上で木々が重さに耐え切れずへし折れていき、岩や石ころは地面に減り込み始めていた。

 

「オレの能力は『重力を操る程度の能力』が正解だ。こうやってオレの周りだけじゃない、少なくともこの結界の中全てを変えることだってできるのさ。」 (パチン)

 

 ディグラが指を鳴らすと周囲一帯の重さが消えた。二人は突然戻った体に思わずよろつくがなんとかディグラを見上げて冷や汗を掻く。

 

(嘘でしょ……?重力を操るとかどんな能力よ!それにあの範囲、数百メートルは能力が発動するってことなの?)

 

「だがまあ、この能力だけならそんなに驚くことでもないだろう?この幻想郷にだって規格外の能力をもった奴がわんさかいるはずだ。ありとあらゆるものを破壊する吸血鬼!死を操る亡霊!創造の力を持った二柱の神!数えればキリがない!つまりおまえたちが本当に驚いているのは幻想郷の住人以外が能力を使えていること……だろ?」

 

「あんた、本当にどこまで私たちのことを知ってるのよ……!」

 

「答え合わせはここまでだ。あとはこのゲームに勝ってからにするんだな。さあどうした!おまえたちもまだそんなものではないだろう!」

 

「もう、こうなったら念のための様子見は終わり!本当の本当に全力でかかるわよ!」

 

「ああ!ここで確実に終わらせるぜ!」

 

 実のところ二人はディグラを捕まえた後のことを考えて力を温存していた。ここでディグラを捕まえて崩天祭を終わらせたとしてもその後にはセルとの闘いが控えているからだ。すでにセルの恐ろしさを知ってしまっている二人はここで力を使い切るわけにはいかないと考えたのだ。

 しかしそんなことも言ってられないと考えを改めて霊夢は霊力を、魔理沙は八卦炉に魔力を全開まで引き上げたその時__

 

「あら。楽しそうね。私も混ぜてもらってもいいかしら?」

 

「「「!!」」」

 

 __ディグラのすぐ後ろに八雲紫が現れた。

 

「……ほらな?規格外の奴なんてどこにでもいるってわけだ。」

 

 幻想郷最強クラスの妖怪八雲紫の登場にディグラは楽しそうに笑った。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

溢れる怒り 八雲紫の超全力!

今後ちょっと短くなるかもしれません


 口元をひらひらと扇子で仰ぎながら現れた八雲紫。いつものように楽し気な雰囲気を醸し出しながらもその瞳は明らかな怒りを宿していた。

 

「あなたね?この幻想郷を破壊しようなんて宣うのは。自己紹介は必要かしら?」

 

「必要ないな。むしろあんたが出てきてくれるとは驚きだよ。幻想郷最重要人物の八雲紫。」

 

「あら、私の名前は間違えないのね?」

 

「間違えるも何もないだろ。あんたはどこの世界でも『八雲紫』でしかない。違ったか?」

 

「……。」

 

「ちょっと、紫!あんた見てたんならもっと早く出てきなさいよ!」

 

「もうそんなに怒らないでちょうだい?未知の相手だもの、観察するのも悪い手じゃないでしょ?」

 

「そうだけど!今そんな場合じゃないでしょーがー!さっさとこいつを捕まえなきゃいけないの分かってんでしょ!?」

 

「ええ、だから私が出てきたの。」

 

 少しトーンの下がった声色で一言告げる。扇子をパチンと閉じたその瞬間、紫の妖気は膨れ上がる。それに比例するように尋常じゃないほどの怒気と殺気が交じり合い、少し離れた地上から二人を見上げていた霊夢と魔理沙ですら、その異質な妖気に息を飲んだ。

 八雲紫が怒ることはほとんどない。しかし『幻想郷そのものに危害を加えること』それこそが紫にとっての大地雷であった。

 

「この幻想郷を滅ぼそうとする侵略者には……そうね。念のためまだ死なれては困ることだし、今確実に捕まえておくのがベストかしら?それとも崩天祭とやらのルールどうりに貴方をここで倒してしまってもこの祭りは終わるのかしらね?」

 

「ハッハッハ!その質問の答えは捕まえるが正解だ。例えここにいるオレを倒したとしてもこの祭りは終わらない!ならゲームのルールに則ってオレからヒントを貰うのがおまえたちのベストってことだ。おまえたちがノーヒントでこの祭りを終わらせたいってことなら話は別だけどな!」

 

「ふぅ……仕方ないわね。霊夢、魔理沙。あなたたちはそこで休んでなさい。」

 

「……本気?」

 

「もちろんよ。あのセルとかいう化け物も控えてるんだから、少しは温存しておきなさい。」

 

「……わかったわよ。魔理沙、下がるわよ。」

 

「いいのか?」

 

「紫の強さはあんたも知ってるでしょ?それがあんなブチギレ状態で戦ったら、私たちの方が危ないわよ。たーだーし!この周りの結界は解かないからね!万が一逃がしたりなんかしたら洒落にならないんだから!」

 

「大丈夫よ。……でも結界があろうがなかろうが関係はないわ。」

 

 そう言った次の瞬間、ディグラの視界に映る景色が一変した。空中にいたはずの自分が瞬きの瞬間に結界の底に足を付けていたのだ。

 ディグラは動揺をすぐに切り替え、周囲を警戒するが少し遅かった。すでにディグラの周りにいくつものスキマが出来上がり、暗い闇と目が合った。

 

「弾幕ごっこなんてぬるいことは言わないわ。圧倒的な暴力で動けなくしてあげましょう。」

 

 全てのスキマから一斉に鋼鉄の槍が飛び出し、ディグラを滅多刺しにする。弾幕ごっこではあり得ない相手を確実に殺す殺意の塊のような攻撃だ。だがそれくらいしないと動きを止められない相手だと紫は感じ取っていた。

 

「悪くないが残念だな!こんななまくらじゃオレの体は傷ひとつ付かないぞ!」

 

「ええ、そうでしょうね。でもその状態じゃこれは躱せない。」

 

「ん!?」

 

 身動きが取りずらいディグラの真上に大きなスキマが現れ、妖気を纏った数台の廃列車が一直線にディグラに落下してそのまま押しつぶし、そして大爆発を起こした。

 

「重さはともかく、至近距離の爆発は重力じゃどうしようもないでしょう?私の妖気もたっぷり込めてあげたわ。」

 

 煙を上げる列車の残骸からディグラは高速で空へ飛び上がり、紫から一気に距離を離れた。

 

「やるな!血を拭ったのは随分久しぶり__ぐあっ!?」

 

 しかし先回りするように現れたスキマから超高密度の弾幕が直撃し、ディグラは紫の方向へ押し戻されていく。

 

「これで終わりよ!」

 

「ぐううう……!落ちろぉお!!!」

 

 紫が手を伸ばし、あと少しと言うところでディグラは自身に重力を発生させて無理やり下に落ちる。

 

「逃がさないわ!」

 

 紫は迫りくる自らの弾幕を落下したディグラ目掛けて追尾させ、更にスキマを大量に開くとそこから濃厚な妖気が込められた球体が結界内を跳ね回る。

 

「__逃げ場が……ないっ!!」

 

 全方位からの弾幕はついにディグラを捕らえる。結界にヒビが入るほどの大爆発が直撃したディグラは結界の底に大の字で横たわっていた。

 間髪入れずにスキマで移動した紫は、ボロボロになったディグラに馬乗りになって首元を鷲掴みにして宣言したのだった。

 

「捕まえた。」

 

 これにて決着。最初のゲームは八雲紫の完全勝利で幕を閉じた。




能力バトルは書くのが難しいですね……!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。