べート・ローガがヘスティアファミリアに入るのは間違っているだろうか【リメイク版】 (爺さんの心得)
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白兎は弱者であり、凶狼は強者である
竈の女神と凶狼の邂逅。そして強き瞳を持つ白兎




 リメイク1話目……こんなにも変更するとは、思わなかった……。





 

 

 

 

 魂が抜けた抜け殻のようだ、と誰かが言ったような気がする。

 この冷めていく魂を燃やす炎など、今の彼には存在していなかった。

 ヤケクソの酒盛り。ヤケクソの罵倒。舌が饒舌になっていく内に、周りの人間は彼を陰で罵り、そして自分を悲観の被害者として被る。

 彼はそれを冷ややかな目で見ていた。そして気分が良くなったら、直ぐ様その冒険者を罵倒する。

 そして血が昇った冒険者を完膚無きまでに倒れ伏せさせるのが、彼の日常と化していた。

 

 

 君は、魂が抜けた人間のようだ。

 

 

 

 誰かがそう、彼に言ったーーー。

 

 

 

 

 

 今の彼には、ヤケクソの酒と惨めな自分、そして強者だと思い上がった自分への侮辱しか残っていなかった。

 かつての仲間と馬鹿騒ぎして、喧嘩して、笑いあった酒場で、自分は自分を嘲笑し、そして自分を傷つける。

 まるで操り人形のように黙々とソロで潜り、どこかへ改宗(コンバージョン)することも無く、ただ彼は、飢えた狼はモンスターを狩り続けた。

 いつからだろうか、彼の運命が簡単に覆ったのは。

 ああ、自分が「強者」だと思っていた奴が出現してからだ。彼の人生が変わったのは。

 その琥珀の双眼には何も映らず、ただ深淵の闇が広がるだけ。

 侵食する。彼の心が。

 侵食する。彼の言葉が。

 思い描いた未来が塗りつぶされ、新たなる未来が疎かに描き始められた時だった。

 

 

 「荒れてるなぁ青年!あまり荒れすぎると帰ってこれなくなるぞ?」

 

 

 皆から邪険にされ、嫌悪され、憎悪を向かれる彼に、声をかける女神がいた。

 その女神は慈悲の目を彼に向け、寛大な心を彼に向けていた。

 そしてその慈悲の目にはーーー懐かしい、母の目に似たようなものを感じた。

 だから彼は、その目を向けてくる女神に吠えた。

 

 「関係ねぇだろ。失せろ」

 

 「いや、関係あるね。今そうなった」

 

 しかし彼女はその吠えを切り捨てた。

 この言葉を吐けば、大体の奴らが苦し紛れに離れていくというのに、彼女はそれすらも受け止めて、いや追い払って、彼に声をかけた。

 

 「君のことはいつも見てたよ」

 

 「……勧誘にでも来たのかァ?テメェみてぇな女神なんて、記憶にないがな」

 

 「そりゃそうさ。ボクはまだファミリアすら作ってないんだからね」

 

 ファミリアすら存在しない女神。

 つまりーーー今ここで彼が入れば、弱小ファミリアの仲間入りだ。

 直ぐ様彼の瞳が、弱者を蔑む瞳へと変貌する。

 しかし女神はその瞳を真正面から受け止め、さらには言葉を重ねた。

 

 「うん、君がそんな目になるのは当たり前だな。まぁ、何故今頃になって君の前に姿を現したのかと言うと、君の言う通りーーーボクは君を勧誘しに来た」

 

 「ハッ!誰がまだファミリアすら作ってねェ神のところなんざ行くかよ!こっちから願い下げだ」

 

 「君の言い分はご尤もだ。そのような台詞を何回も言われたよ。今まではその言葉で惨めに帰るボクだったけど、今回のボクはひと味違う」

 

 そう胸を張る女神に、彼はげんなりとした。

 厄介な類に捕まった。こういう神は何回でも執念に勧誘し続ける。彼が一番避けたい神の類であった。

 ここは一旦逃げた方がいいであろう。自分の足なら、例え神だとしても追いつけるはずがない。

 このまま逃げれば、またあの空っぽな日常へ戻るのだ。

 今の自分には、その方が幾分か心地がいい。

 

 

 「君は今、改宗出来る状態だろう?」

 

 そんな彼の気持ちも知らないのか、目の前にいる女神は呆気なく聞いてきた。

 彼は嗤いなから答える。

 

 「だったらどうした。諦めもせずに、テメェのファミリアにでも入れって言うか?さっきも言ったが、俺は弱いヤツのところにはーーー」

 

 「そうだよ。ボクのファミリアに入ってくれないか?いやはや、ボク一人で生活をやりくりするのはちょっと苦痛でね……そろそろファミリアを作らないとボクが飢え死になってしまうかもしれないんだ」

 

 「おい人の話聞けよ」

 

 彼がきっぱり断ろうとすると、女神はそれを遮って、いらない情報まで提示してきた。

 彼はさらにその顔を歪ませ、面倒臭そうに舌打ちする。

 

 「いやいや。こんな神様を救うという聖人の心が君にもあるだろう?そうだろう?ん?ん?」

 

 「いや逆だろ」

 

 「毎日金欠のボクには君の方が神様に見えるよ!」

 

 「堂々と胸張って言えることじゃねぇだろ」

 

 「兎に角ボクを養ってください!というか本当にファミリア作らないとマジでボク飢え死になってしまう!ヘファイストスの仕送りもなくなってしまうんだ!頼むこの通り!」

 

 (こいつプライド捨てやがった……)

 

 散々上から目線から勧誘してきたというのに、女神はその神というプライドすら捨てて土下座をかましてきた。もはや滑稽にしか見えない。

 彼はその女神の頭を見下しながら、少しだけ考えた。

 ハッキリ言って、作られてもいないファミリアに入るのは嫌だ。自分が追いかける眷属も、自分を追いかけてくる眷属もいないファミリアに入るなど、誰が得するのか。正直、このファミリアに入るメリットが見つからなかった。

 この女神がとても良い女神で駄神だというのは直感的に分かるし、こいつのファミリアに入って何を得るのか見いだせない。

 よって、彼がここに入る明確な理由は確実にない。

 

 「……ハァ。そもそも、何で俺なんだよ。他に誰かいんだろ」

 

 そもそも何故自分を勧誘しに来たのか。もっと勧誘しやすい奴などごまんといるはずなのに、態々自分の所に来るのがわからないのだ。

 そう呆れ混じりに吐き捨てれば、女神はパッと顔を上げて、キョトンと答えた。

 

 「勧誘に何でとかあるのかい?」

 

 「……いや、そういう問題じゃ」

 

 「そうだなぁ。理由をあげるとするならば……」

 

 (こいつ尽く言葉を遮りやがる)

 

 彼が女神に苛立ちを感じていると、女神はそれすらも跳ね除けそうな満面の笑みで答えた。

 

 「君が気になったから、かな」

 

 「……しょうもねぇ理由」

 

 彼が溜め息混じりに貶すと、「しょうもないとはなんだ!」と女神は怒号した。しかし次には、また慈悲の女神として彼を見つめていた。

 

 「言っとくけど、ボクは大真面目だよ。君をボクのファミリアに迎え入れたい。そして、君と一緒にファミリアを築き上げたい」

 

 「……勝手にしとけよ。俺は底辺の弱小ファミリアには興味ねぇ」

 

 そう吐き捨て、彼は彼女に背を向ける。こんな事を言えば、いくら彼女がいい神だからと言っても自分を見限ってくれるであろう。そして自分に失望して、勧誘しなくなるであろう。

 

 この時ばかりは、そう思っていた。

 

 

 

 

 「じゃあ勝手にさせてもらうよ。これからは何回でも、君を勧誘しに行くからね!」

 

 

 

 「……は?」

 

 

 女神は指を鳴らして、ドヤ顔した。この自信満々に言った言葉に、彼は直ぐ様軽口を返すことすら叶わなかった。

 

 「どんなに断られても、どんなに突っ張られても、ボクは君を勧誘し続けるとここに誓う!」

 

 「…………いやいやいやいやちょっと待て」

 

 「誰が待つもんか!こんな一世一元の大チャンス、逃すわけにはいかないんだよ!」

 

 「人の話聞けオラ」

 

 「兎に角今回のボクは本気だぞ!というわけで、覚悟しときたまえ!必ず君をボクの眷属にする!」

 

 「フザケンナああああああああああああああああッッ!?」

 

 

 これからの事が安易に予想され、怒号を轟かせた彼。そんな彼を真剣な笑みで受け止め、女神は背を向ける。

 取り敢えず、今日の所は帰るらしい。しかし先程の彼女の言葉が本当であるとするならばーーー彼女はまた、自分を勧誘しに来るのだ。

 

 「それじゃあーーーべート君、また明日!」

 

 

 

 本当に、厄介な神に捕まった。

 

 

 

 

 

 これが彼、べート・ローガと、慈悲の竈の女神、ヘスティアの、最高で最悪の邂逅であった。

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーそして、時は数年。

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 ブシュッ、と鮮血が飛沫をあげ、視界を一瞬だけ真っ赤に染め上げる。手から伝わる肉を切る感触は、今の彼にとっては伝わらないと言っても過言であった。

 小さくくの字に曲がる双剣を持つ手を下ろし、息を吐く。さすがに下層からここまで駆け登るのは、いくら彼でも疲労なしでは行けなかった。

 じわりとベタつく額の汗を拭い、彼は辺りを見渡す。白い霧に包まれたダンジョン10階層には、自分の他には誰もいない。

 

 「……ハァ」

 

 溜め息を吐いた彼は、モンスターを剥いで魔石を抜き取る。それをバックパックに乱雑に入れ、回復薬(ポーション)をグイッと呷った。

 たちまち彼の体や疲労は癒される。体が軽くなったことを確認すると、彼はザッと背を向けて走り出した。

 

 ーーー常人とは思えない、スピードを繰り出して。

 

 そこからどんどん上へと登っていく。途中で襲ってくるモンスターを、ついでと言わんばかりに殺しながら。

 やがてーーー摩天楼施設(バベル)を抜け、ダンジョンの外へと繰り出す。彼は軽く欠伸をして、体を解した。

 

 「ッ〜〜……久々ッだなおい」

 

 彼は暫くダンジョンに篭りきりだった為、こうして外の空気や陽の光を浴びるのは久々であった。暖かな日光が彼を心地よさへと誘い、また『戻ってこれた』と実感する。

 

 「さてと……」

 

 一頻り日向を堪能した彼は、背負っているバックパックを一瞥して、こう吐き捨てる。

 

 「あの駄神に納品してくるか……」

 

 

 

 

 彼の名は、べート・ローガ。

 

 

 

 

 未だに都市に轟いていない弱小ファミリア【ヘスティア・ファミリア】の唯一の眷属であり、オラリオ屈指のーーーーLv.5である。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 元【ヴィーザル・ファミリア】団長べート・ローガを欲しがる神は少なからずいた。しかし、べートの悪評は瞬く間に都市に広がり、さすがの神たちも、べートよりも今のファミリアを優先したのだ。

 ゆっくり、じっくり勧誘していけばいい。何故なら彼は強さにしか拘らないから。

 そう確信めいたことを呟いたのは誰だったのか。そして、誰もそれを信じて疑わなかったのは何故なのだろうか。

 だから彼らは、べート・ローガが何処の馬の骨かも知らない無名のファミリアに入った事に、酷く驚愕してショックを受けた。

 そんな神々に向けてヘスティアが言った言葉は、まだ傷が癒えない彼らにとってはまだ新しい傷である。

 

 

 そんな彼らの嘆きすら耳に入っていないべートは、換金したヴァリスが入ったバックパックを背負ってホームへと帰っていた。

 都市から離れた石畳の道を歩き、立ち止まる。

 立ち止まった先には、半壊している教会があった。女神像の顔や腕が崩れているところを見れば、この教会は長い間手入れされていないことを悟らせる。

 べートはその女神像を横目で流しながら、その地下ーーー『自身のホーム』へと、降りた。

 ギシギシと劣化している木の階段を降りれば、少しだけ光が漏れている部屋の扉がある。

 べートはそれを、少しだけ勢いを付けた蹴りで、豪快に開けた。

 

 「今帰っーーーーー」

 

 「べート君お帰りいいいいいいーーーーーーーーー………グハァッ!?」

 

 その流れで、幼い容姿のロリ巨乳の女神に回し蹴りしながら。

 回し蹴りが直撃したロリ巨乳女神ーーーヘスティアはその場で蹲り、べートはズカズカと入ってゴロリとベッドに寝そべった。

 

 「ふ、ふふ……いきなり手荒いただいまだな……べート君……」

 

 「そのまま寝てればよかったのに」

 

 「最近のべート君冷たい辛い」

 

 「だったら毎回抱擁してくんのやめろ」

 

 「えー……」

 

 「うぜぇ」

 

 べートに蹴られた腹を擦りながら、ヘスティアはべートの端へ腰を下ろす。ギシリ、と二人分の負荷がかかり、その体の部位をシーツへ染み込ませていく。

 

 「ステイタス更新はいいのかい?」

 

 「後でいい」

 

 「今日はどうだった?」

 

 「……いつも通りだ」

 

 「……そう」

 

 "いつも通り"。

 この言葉を意味するは、"今日も調子が悪かった"。

 ヘスティア・ファミリアには、未だに眷属はべートしかいない。べートがいるからこそ、このファミリアは保っているも同然なのだ。

 だからヘスティアもーーーそして、べートも責任を感じた。

 

 「ごめんよぉ。今日も勧誘を頑張ったんだけどーーーー皆、君に怯えているみたいなんだ」

 

 「…………」

 

 「不甲斐ない神ですまない。……やっと、君とファミリア(家族)になれたというのに」

 

 「……別にぃ?入りたくなきゃそれでいいだろ。富と名声が欲しいダセェ奴らなんて来たらこっちから願い下げだ」

 

 「……ッ……いや、そうだな!ボクのファミリアに入るのは、強さを求め、そして己の信念を貫く者のみ!ハッハッハー!……ハァ……」

 

 不安を打ち消すために笑ったものの、帰って虚しくなった。また座り直したヘスティアは、プラプラと足をばたつかせる。

 ヘスティアの勧誘が尽く失敗するのは、少なからずべートのせいでもあった。

 べートの悪評は健在である。彼の罵倒のせいで惨めになった冒険者も少なくない。よって、彼のいるファミリアなど絶対に入りたくないという決意が、数々の冒険者に実っているのだ。当然、それはヘスティアとべートもわかっている。

 でも、だからこそ、入ってもらいたい、とヘスティアは焦燥した。

 このままでは、彼は前に進めない。

 こんな素敵な彼を、ここで留めさせるわけには行かないのに。

 べートの安らかな寝息が密かに聞こえてくる中、ヘスティアはもう一度頭を抱えてーーーー。

 

 

 

 そして、キィ、という控えめな音に、バッと顔を上げた。

 

 

 

 

 「……あ、の……」

 

 扉の間から覗かせるのは、とても綺麗なルビーの瞳を持つ、兎のような白い髪の少年だった。

 少年は控えめに、申し訳なさそうに、ヘスティアに向けて目を座らせる。

 

 「あ、あの……の、ノックしても、返事がなかった、ので……す、すみません……ッ!か、かかか勝手に開けてしまって!」

 

 「……いやいやいやいや!べ、別にいいよ!?と、ところで少年は何の用だい!?こんな何も無いところに来て!」

 

 扉を閉めようとする少年を必死に止めて、一番疑問に思っていることを問う。

 少年は少しだけ迷ったあと、体を滑り込ませて、そしてまた申し訳なさそうに俯く。

 やがて意を決したかのように、そのルビーの瞳を強く輝かせ、ヘスティア達にこう言った。

 

 

 「ぼ、僕をーーーーヘスティア・ファミリアに入れてくださああああい!?」

 

 

 

 「「………………は?」」

 

 

 

 ヘスティアと、いつの間にか起きていたべートは、揃ってそう零すしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 これは、強さに飢えた凶狼と、慈悲で心優しいロリ巨乳女神、そして純粋鈍感白兎が送る、眷属の物語(ファミリア・ミィス)である。

 

 





 皆さん外伝8巻は何回読みましたか?え?私?七回目突入します!!暇ある時にはずっと8巻読んでます!!
 というわけでリメイク版です!前作感想ありがとうございます!皆さん優しすぎて私心が痛い!
 さて本日の変更点……というか、ほぼ変更しました。
 まずベルきゅんですが、ヘスティアが勧誘する訳でもなく真逆の自分から行くという。たぶんエイナちゃんに不安そうにヘスティアファミリアを紹介されたと思うんですが、殆どのファミリアの入団を拒否られた彼なら来ると思うんです!というわけでこんな感じ。
 出会いは完全に作り直しました。何回か考えたんですけど、やっぱりべートきゅんは一発で落ちるヤツじゃないだろうと判断し、こうなったらいっぱいアタックすればええやん!という結論に。え?その話?まだ明かしませんよ(黒笑)
 さて……真面目な話は終えて……。


 ーーーツンデレべートきゅんうまあああああ!赤面するべートきゅん可愛いいいいいいいい!!Twitterで皆から「ツンデレ(笑)」されてニヤけるやばい誰か俺を殴れ!
 何度読んでもあのシーンは口角が上がってしまう……本当赤面べートきゅん美味しい……だからもうこれだからツンデレは美味い!

 リーネちゃんは聖人。これからはリーネ様と呼びましょう()

 さて……リメイク版も閲覧して下さりありがとうございます!では最後はあの台詞で!せーのっ!


 べート・ローガぁー!だぁーい好きぃーー!!!




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冒険者の産声




 やだこのべートきゅん、前作より厳しいわ!





 

 

 

 

 貧弱そうな見た目だから却下、と入団を拒否られて何回目だろうか。それ位にベルは既存の眷属から突っ張られ、そして大きくショックを受けた。

 意気揚々と冒険者達が行き交うメインストリートを、ベルはトボトボと歩く。これで、殆どのダンジョン系ファミリアには拒否られてしまった。主神に立会もさせてもらえず、ただのその場の偏見で、自分は追い出されてしまった。

 だがそれは仕方の無いことだと、ベルは自身の体を見下ろす。全く鍛えられていない体に、一目見ただけで分かる弱い見た目。これでは、入団させてくれるのは難しい……と、ベルは自身の弱さを呪った。

 だがそれでも、ベルには叶えたい夢と野望がある。それを遂行させるには、必ず何処かのファミリアに入らなければならない。もうこの際、自分を認めてくれるファミリアを、ダンジョン系じゃなくてもいいから、何処か入れてくれるファミリアはーーーと、ベルがヤケになっていると、ふとエイナが渋っていた、あるファミリアのことを思い出した。

 

 

 ベルのアドバイザーとなったエイナに、何処か良いファミリアはないかと聞いた時、エイナは快く色々なファミリアを紹介してくれた。どれもこれも良さそうなファミリアでーーー中には素行が悪そうなファミリアもあったがーーーベルが目を引くには充分なものだった。

 そんな時だ。ある程度紹介してくれたエイナの顔に、少しだけ不安そうな顔が残ったのは。

 

 「どうしたんですか?エイナさん」

 

 ベルが問うと、エイナはフルッと首を振ったが、やがて渋々と言った感じである事を喋った。

 それが、エイナが最後まで渋っていた、あるファミリアの事であった。

 

 「えーと……ちょっとだけ、目立ってるファミリアが一つだけあってね……そこもダンジョン系ファミリアなんだけど……」

 

 「何処ですか!?教えてください!」

 

 「……【ヘスティア・ファミリア】って、聞いたことない?」

 

 ベルは記憶を巡らせたが、そのファミリアには聞き覚えがなかった。

 エイナは、言葉を濁らせながら話す。

 

 「別に神ヘスティアが悪いって訳じゃないの。ただ……その神ヘスティアの、眷属が問題で、ね」

 

 「何かやったんですか?」

 

 「……まぁ、色々とやらかしている人ね……酒が回れば罵倒は勿論、事あるごとに周囲の冒険者に最悪な言葉を浴びせる……そうね、あの人のことを例えるなら、一匹狼かな?」

 

 「こ、怖い人ですね……」

 

 「その人の行きつけの酒場では、その人がいるだけで直ぐに乱闘。器物損壊は勿論、悪気がないのが、他の冒険者の怒りの琴線に触れているのよね。まぁ……あの人が強いのは事実なんだし、言い返せない冒険者が多数かしら」

 

 そんな人がいるなんて、とベルは素直に驚愕する。しかし神ヘスティアが良い神なら……と、ベルはそのファミリアの情報を、頭の隅にポツンと立てた。

 

 「そのせいか、ヘスティア・ファミリアはずっとその人一人だけしか眷属がいなくてね。神ヘスティアも頑張っているのだけれど、皆その人を怖がったり嫌悪したりで、全然増えないって専ら噂になってるわ」

 

 「噂になる程にですか……」

 

 「その噂を作った人は殆どが神々なんだけど……まぁ、どうしようもなくなった時にでも、このファミリアの事を思い出して。神ヘスティア自体は良い神だから、きっとベル君を入団させてくれるはずだよ」

 

 そう笑顔で送り出してくれたエイナに、ベルは元気よく返事を返した。

 

 

 

 

 

 今、そのどうしようもなくなった時だ。

 場所は事前に聞いているため、ベルは早足にヘスティア・ファミリアのホームへ行く。このダンジョン系ファミリアが、唯一の救いなのである。

 ボロけた石畳の道を歩いた先には、古びた教会があった。手入れもされていない半壊の女神像にベルはペコリとお辞儀した後、その女神像の下ーーー地下へ、下りる。

 少しだけ腐っている木の階段を降りた先に、光が漏れている部屋の扉があった。恐らく、そこがヘスティア・ファミリアのホームなのだろう。そして今、誰かいるのは確実だ。

 すぅっ、と息を吸って、吐く。少しだけ緊張が解れ、ベルはドアノブに手をかけた。

 

 

 そして、意を決して、その扉を控えめに開けた。

 

 

 

 絶対に入団するという、強い意志を持って。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 そんなベルの決意は、今粉々に砕け散りそうであった。

 目の前で仁王立ちしている狼人。左頬に青い刺青を入れ、その屈強な体で、こじんまりとしたベルを見下ろしているーーー否、正確には睨みつけているのだ。

 

 (こ、この人が噂の……)

 

 ベルはエイナの言葉を思い出し、密かに確信する。この人が、例の噂の中心なのだと。

 確かに怖い。そして確かに何かやらかしそう。それを目の前の青年に言ってしまえば拳骨は愚か、飛び蹴りでは済まされないであろう。

 

 「……あ、あの……?」

 

 「入団したい」という事を言ったら突然起き上がってきたこの狼人に、一先ず声をかけてみた。しかし帰ってきたのは狼人の人を殺しそうな目で、ベルの意識は直ぐに遠のいていく。

 これは、この空気は良く知っている。この人も、自分を貧弱で使えなさそうな男として見ているのだ。

 なら、ここも駄目なのか、とベルが消沈しようとした時。

 

 「ちょ、ちょっと待ってくれ少年!き、君はボクのファミリアに入団したいと!そう言ったんだよね!?」

 

 このファミリアの主神ーーーヘスティアが、慌ててベルに声をかけてきた。

 ヘスティアの焦り声で、我に返る。そうだ、今回は神様も立ち会っているのだし、この人の独断では判断出来ない。エイナ自身も「神ヘスティア()良い神」と言っていたし、もしかしたら入団させてくれるかもしれない。

 ベルは勢いよく首を縦に振った。

 

 「そ、そうです!ボク、ヘスティアファミリアに入りたいんです!よ、よよよろしければーーーー!!」

 

 「神の慈悲で入団するたァ、いいご身分だな、お前」

 

 だが、そのベルの希望を早々に打ち砕く者がいた。それは言わずもがな、あの噂の狼人であった。

 狼人の言葉に、ベルの言葉が詰まる。

 

 「大方、俺が認めてなくても神が入団さえ認めてくれれば何でもでいい……とでも思ってんだろ?ハッ、さすが、雑魚の考えることは違うぜ」

 

 確かに、彼の言う通りだ。

 ベル自身、入団さえ出来れば何処でも良かった。英雄になる為にはダンジョンへ趣き、そして恩恵というものが必要となる。言ってしまえば、ファミリアとはその踏み台と言ってもおかしくなかった。

 ベルは歯噛みする。この狼人が言っていることが殆ど間違いでないことに、悔しがる。

 

 「知ってるかァ餓鬼。テメェみてえな考えを持った奴の末路をーーーー一つは眷属に怯え逃げる。一つはファミリアの空気に耐えられなくて逃げる。一つは精神的に、肉体的に追い詰められ、孤独となって孤立する。一つはパーティの囮となって使われる。まだまだあるぜェ?禄にファミリアの事も調べず、ただ裕福そうだから入団して後悔するっていう雑魚も、表面上だけ見て判断するダセェ奴らもーーーー大方、テメェも殆どのファミリアに入団拒否されて、最後の希望でここに来たんだろ」

 

 「ッッ!?」

 

 べートの指摘は完璧だった。殆どのことに的を射ている。

 確かに、ベルは強いファミリアに入ろうとした。エイナに情報を貰って、片っ端からファミリアの入団を試みた。

 しかしーーー全員が、ベルの表面上だけで判断し、突き放していった。

 もし、ここで自分も、「ファミリアに入れれば何でもいい」と思ってしまったのならーーーそれは、自分を突き放したあの人等と、同格になるのではないか?

 表面上だけを見て、内側を知ろうともしないーーー愚か者に。

 

 「……俺はそんな雑魚を迎え入れるわけにはいかねェんだよ」

 

 狼人はそうベルに言って、ヘスティアの方を一瞥する。ヘスティアはグッと口を噤んだままで、何も言葉を発しようともしない。

 そしてべートは、その真意と熱意を、一言に詰め込む。

 

 「このファミリアに、そんな軟弱者はいらねェーーーーそんな奴を迎え入れちまったら、このファミリアは……強くなれねェんだ」

 

 覚悟を持たない冒険者はこのファミリアには要らない。

 自分の足でまといになるのなら、このファミリアには入るな。

 このファミリアを没落させたいのなら、そんな奴は要らない。自分一人で十分だ。

 "お前はいらない"。

 その全てを一喝されたようで、ベルはギュッと握り拳を作る。

 

 「……………………確かに、そういう考えを持っているのなら、ボクも入団させるか判断しかねる。自分の意思で、このファミリアに入団したいという強い想いがあるのなら別だけど……」

 

 今まで口を開かなかったヘスティアが、ベルの瞳を覗き込む。そして不安に瞳を揺らせ、そして失望を混じり入れた声色で、ベルの確信をつく。

 

 「君、彼がーーーべート君が、怖いのだろう?」

 

 「……ぁッ」

 

 「……ボクも数々の冒険者を勧誘したけど、皆彼を怖がっているんだ。勿論、入団しようとした子もいたよ。だけどねーーーー嫌々で無理矢理入団させるのは、さすがのボクも堪えてしまったよ」

 

 悲しそうに目を伏せるヘスティアの声色は、ここまでの苦労を全て吐き出すような、ストレスにも似たものを感じた。

 ベルは先程の言葉ーーーこれまでの言葉を、思い出す。

 

 『どうしようとなくなった時にでも、このファミリアのことを思い出して』

 

 なんだこの発言は。こんな余り物を渋々受け取るような言葉は。そして何故、自分はこの言葉に肯定してしまったのか。

 絶対に入団するという強い意志を持って?違う。ヘスティアが言っている強い意志とは、自分が抱いている強い意志とは全くの別物だ。

 彼らはーーー本気で「強く」なろうとしている眷属を、探しているのだ。

 ヘスティアは、狼人ーーーべートと共に強くなろうとしている眷属を。

 べートは、このファミリアが強くなる為に、足でまといにならない「強者」としての眷属を。

 叶わない、とベルはカチカチと震え出す。

 その震えを見たヘスティアは、残念そうに息を吐いた。

 

 「……怯えさせて済まないね。でもね、そうなったらこのファミリアはいつか崩壊する恐れが出てくるんだ。だからね、べート君の事を認めてくれる眷属が、一番好ましいのだよ。……悪いけど、君の入団を認めることは、できなーーーー」

 

 「…………凄い、です」

 

 「…………え?」

 

 ヘスティアがベルの入団を拒否しようとした時、ベルの言葉から予想外の言葉が漏れた。ヘスティアは勿論、べートもその言葉に目を見開き、視線がベルに集中する。

 相変わらず、ベルの体は震えているーーーしかし、それは"怯え"からではなかった。

 

 「このファミリアは、本当に凄いです……!僕、感激しました!」

 

 「え?え?」

 

 「ヘスティア様も、この人も、ファミリアの為に体を張っていることが凄く伝わって……!僕、益々ここに入りたいと思いました!」

 

 「ちょ、ちょっと待て!?待ってくれ!君の決意が何か変わっているのは気の所為かい!?」

 

 「気の所為ではありません!最初は確かに、この人やヘスティア様が言った通り、何件も拒否されて自暴自棄になっていた僕は、もうファミリアに入ればそれでいいと思いました。……でも二人は、そんな僕を叱り、そして改めさせてくれたんです!そんな二人がいるこのファミリアなら……!」

 

 興奮気味で捲し立てたベルは、バッ!と顔をあげる。その喜々とした表情と輝く瞳にヘスティアが呆然とすると、ベルは思い切り言った。

 

 「ーーーー英雄に、なれる!僕が望む、英雄に!!」

 

 ベルの決意が、ヘスティアファミリアのホームに響き渡った。

 「英雄になれる」。その言葉が木霊して、べートにも、ヘスティアにも、全て響き渡る。

 彼の、ベルの表情は、もうべートが嫌う表情でも、ヘスティアが渋る表情でもない。

 彼はーーー「冒険者」の表情をしていた。

 もう、あんなくだらない迷いはない。誰もが認める冒険者の目に、ヘスティアも穏やかになっていった。

 

 「……英雄、か。いい夢じゃないか!」

 

 「……ふぇ!?あ、え、と……は、恥ずかしいです……!」

 

 「何を恥ずかしがる!子供達はそのような夢を持った方が可愛げがあるぞ!ーーーさてベル君。先程の言葉、訂正しよう」

 

 「え?」

 

 ヘスティアは腰を手を当て、ベルの視線と交差させた。

 

 「ボクは君を見誤っていた。今の君なら、べート君と一緒に強くなり、そしてこのファミリアの素晴らしい冒険者になる。ベル君ーーー今度は、ボクから言わせてくれ」

 

 『ヘスティアファミリアに、入団するつもりは、ないかい?』

 願ってもない、逆勧誘が成立した。

 ヘスティアの言葉にベルの頭が真っ白になり、ふとべートの方を振り返る。

 べートの表情は依然変わらず、ベルを睨みつけたままだった。

 しかしーーーその瞳が少しだけ和らいでいることに、ベルは気づく。

 つまり、少なからず彼も、ベルを少しだけ認めている、と捉えてもいいのだろうか。

 ベルはべートとヘスティアを行き来し、そして緊張した趣で、そして嬉しそうに、こう言った。

 

 「ーーーはい!このファミリアに、ヘスティアファミリアに入団させてください、神様!」

 

 ここに、一人の冒険者の卵が、産み出された。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 古びた教会に設置されている参列席。その一つに腰を掛け、ボロボロになっている女神像を見つめる狼人ーーーべートがいた。

 べートの瞳には女神像しか映っておらず、他の感情が見え隠れしない。

 今頃、先程入団が決まった少年は、ギルドに行って冒険者登録でもしている所であろう。

 

 「…………チッ」

 

 べートは舌打ちを零す。それは誰に対してもない、無意味な舌打ち。

 灰毛の耳がピクピクと揺れる。下から誰かがやって来るのは、それだけで分かった。

 

 「……べート君」

 

 やって来たのはヘスティアだった。先程はベルの入団に大層喜んでいたというのに、今では少しだけ申し訳なさそうに顔を伏せている。

 

 「すまないね。ボクの判断で、ベル君の入団を決めてしまって」

 

 「……別に。あの餓鬼は他の雑魚共よりマシだ」

 

 「……聞いてもいいかい?」

 

 ヘスティアはべートの横に移動し、彼に問いた。

 

 

 「彼ーーーベル君の事は、認めているのかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 「……まだ、認めるわけには、いかねェだろうが」

 

 

 

 その応えは、虚しく教会に響き渡った。

 

 

 

 







 主な変更点→べートきゅんちょろくない。
 リメイク後はこれで。誰でも仕方ねえな入ってやるよ気分で入られたら嫌だなぁという気持ちで。ベルきゅんはそういうのは抱いてないと思うけど、敢えてこういう風にしました!あとべートきゅんなんかクールになってる!ツンしかないよ!
 この後の話は少しだけ変更して、後は前作とは変わりないと思います。ので、早く投稿出来ると思います。手早く1章を投稿して2章いっくぞー!

 では最後はこの言葉で。

 べート・ローガぁー!だぁーい好きぃー!!



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牛の血は弱者の証




神様達は平常運転です。




 

 

 

 

 ベルがヘスティアファミリアに入団して数日。ベートはダンジョンに訪れていた。

 背中に背負ったバックパックに回復薬(ポーション)を詰め込み、万全の準備を整えている。様々な方面から来るモンスターを瞬殺しながら、ベートはさらに下へ下へと降りていく。

 第二十二階層。ベートが軽々とソロで潜れる階層のギリギリラインだ。

 ここからはソロでは厳しいところもあるが、ここよりも深いところをベートは潜ったことがある。多少苦戦はするが、死にはしない。ベートはそう確信している。

 だが今日は長居をするつもりはなかった。今日はこの短時間でしっかりと魔石を集め帰る予定である。

 理由は最近潜りすぎとヘスティアに注意されたからだ。今のファミリアはベートが稼いだヴァリスで保っていると言っても過言ではない。だがその代償にベートが無茶をするので、見かねたヘスティアが「深くまで潜るのは禁止!!」とベートに言い放ったようだ。

 もちろん反対したが、ヘスティアの言い分も最もだし、これ以上無茶をして支障が出ても困る、とベートは苦渋の決断に踏み切る。だが二十二階層までは行かせてくれと懇願し、そこまでならとヘスティアの許しも得た。

 貯める時は、貯める。狩る時は、狩る。その意志を持って、向かってくるモンスターの群れへ、自ら突っ込んで行った。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 「こんなもんか」

 

 バックパックに溜まった魔石の重さから、ベートはそう決めつける。疲れきった体に回復薬を流し込み、傷や疲労を癒した。

 周りにはモンスターの死骸がうじゃうじゃといる。もうすぐ、黒い粒子となって消えるであろう。

 モンスターからあるだけの魔石やドロップアイテムを手に入れたし、帰るとしよう。とベートは瞼を返し、上に続く階段へ登り出した。

 リヴィラを通り抜け、階層主がいるはずの広間を抜け、どんどん上へ登る。

 途中、冒険者とすれ違った時に睨まれたが、どうせいつものことだと直ぐに忘れた。

 

 「よっ……と」

 

 持ち前の俊足で軽々と階層を上がる。今の階層は十五階層。この後は、ものの数分で地上へ登れること間違いなしであろう。

 あまり遅くさせるのも、とベートはヘスティア達のことを思い浮かべ、少しペースを早める。いつもはダンジョンに一週間くらい篭もりきるのだが、入団したベルに有らぬ疑いをかけられても迷惑だ。

 ペースを速めたおかげか、一気に五階層分を駆け上がることが出来た。霧がかかる第十階層を、モンスターを殺しながら歩いていく。もちろん、魔石やドロップアイテムを忘れずに。

 

 「………………!」

 

 九階層へ続く階段を登ろうとした時、上の階層から何かの音が轟くのが聞こえた。

 聴覚や臭覚に優れている彼は、その情報から記憶にあるモンスターへと当てはめていく。

 そして、ピッタリと一致するモンスターがいた。自分がLv.2の時、苦戦しながらも勝ったモンスター。

 

 「この足音や臭い……ミノタウロスかっ?」

 

 Lv.2にカテゴリされている、『ミノタウロス』。並の冒険者じゃ全く歯が立たないモンスター。その硬質や強靭な力に一時期ベートが生死を彷徨ったものの、今では軽々と倒すことが出来る。

 そのミノタウロスの足音が、上の階層で響いている。

 何故だ?上層には、ミノタウロスなんて存在しなかったはずだ。なら考えられる可能性はーーー誰かが倒し損ね、ミノタウロスがここまで逃げてきたということ。

 

 「チッ……!」

 

 いつもは放っておくのだが、同じ眷属の少年ーーーベルのことを思い浮かべると、いてもたってもいられなくなった。

 もしこのままベルがいる上層まで登ってしまっては、新米冒険者が次々に虐殺されてしまう。その中に、ベルの姿もあるのかもしれない。冒険者に憧れていた彼だ。恐らく今日も潜っているはず。ならここで仕留めておいて損はない。

 いくらべートがベルの事を認めていなくても、Lv.1にLv.2にカテゴリ化されているミノタウロスを戦わせるのはさすがのべートも躊躇する。

 そんな事にならないよう、持ち前の俊足で階段を駆け上がろうとした時だった。

 

 「待って!」

 

 後ろから、小鳥のさえずりのような美しい声がベートに向かってかけられた。

 あ?と彼が不機嫌そうに振り向くと、霧に紛れているある少女が視界に入る。

 長く繊細な金色の髪。上質な軽装の装備。そして輝くは、彼女の手に持っている不壊属性(デュランダル)の武器。

 ベートは彼女を知っている。いや、このオラリオで彼女を知らない冒険者はいない。

 

 「あの、その、こっちにミノタウロスは来ませんでしたか?」

 

 彼女の名はーーーアイズ・ヴァレンシュタイン。

 二つ名は『剣姫』。そしてーーーベートが越えたいと思っている、人物。

 アイズはしどろもどろになりながらも、要件を伝える。どうやらあのミノタウロスは彼女が取りこぼしたモンスター……いや、遠征の帰りに『ロキ・ファミリア』が取り逃がしたミノタウロスの一体だそうだ。

 はた迷惑な奴らだ、とベートは心の中で悪態をつきながらも答える。

 

 「ミノタウロスの姿は見てねえが、ミノタウロスの音や臭いは上の方でしてる。恐らく、ここから上層に向かったんだろう」

 

 「!……ど、どうしよう……」

 

 わかりやすくアイズが狼狽える。かの剣姫のこんな姿を拝めることが出来たのは正直心地いいが、こちとら団員の命がかかっているのだ。今のベートにとっては、その姿さえも苛立ちに変換されてしまう。

 ベートはあからかさまに重く溜息を吐く。

 

 「ミノタウロスをぶっ殺すんだろ?俺ならミノタウロスの場所は探せる。付いてこい」

 

 「!…………あ、ありがとうございます」

 

 アイズが感謝を述べた後、直ぐに走り出した。

 だが同じLv.5でも、脚では圧倒的にベートの方が速い。どんどん引き離されていく距離を、アイズは必死に食らいついていく。

 途中、向かってくるモンスターを蹴り殺したり斬り殺したりして、彼らは五階層まで駆け上がってきた。まだミノタウロスの臭いは残っており、未だに何処かを動き回っている。

 

 「この階層が強いな……ミノタウロスはまだここにいやがるってわけか」

 

 「ッどこ?」

 

 ベートは臭いと音、アイズは鋭い視覚で探っていく。

 静寂が訪れ、モンスターも生まれてこない空間。息を潜め、ミノタウロスの動向を完璧に察知していく。

 

 ーーーーーうわあああああ!!

 

 「!?」

 

 突如、ミノタウロスが大きく動いた途端、冒険者の悲鳴も響いてきた。

 まだ少年のように高い声の悲鳴が、この迷宮内で響いている。同時に、モンスターの攻撃も轟音と化してベートの耳に入っていた。

 

 「チィッ!雑魚が見つかったのか!」

 

 「どこっ?どこに……!」

 

 「こっちだ、剣姫!こっちにミノタウロスがいる!」

 

 ミノタウロスの居場所を完全に把握したベートは、アイズの返事も待たずに飛び出した。

 ここからそう遠くはない。自分の脚力だったら一瞬で追いつく。ここで、ミノタウロスで、騒ぎを大きくするためにはいかない。

 音と臭いが近くなった。同時に、追いかけられている冒険者の匂いも嗅ぎ分ける。

 

 (…………あ?この匂い……ッ!)

 

 その匂いを嗅いだ瞬間、ベートの動きが疎かになった。

 いや、そうならざる終えなかった。

 この匂いは、つい数日前に覚えた匂い。入団して間もない、あの新米冒険者の匂い。

 

 「あいつ……!」

 

 今、ミノタウロスに追いかけられているのはベルだ。

 だが早過ぎる。何故もうこの五階層にいるのだろうか。まだ彼には経験が足りないというのに。

 

 「うわあああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

 『ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

 

 「くっそ!!」

 

 疎かになった足を無理矢理動かし、ベートはベルの元へ急いだ。

 そして、追いかけた先には、ベルがミノタウロスに追い詰められている場面だった。

 

 「ッ!!」

 

 ベートはすぐ様、ミノタウロスを殺しにかかる。

 

 

 

 ーーーだが、それよりも早く金髪の戦士が斬撃を繰り出した。

 

 

 

 

 ブシャリ!とミノタウロスから血潮が噴き出す。壁にも、地面にも、少年にもかかったどす黒い血液を見て、ミノタウロスは確かに狼狽えた。

 

 「ふっ!!」

 

 その隙を逃さず、アイズは見事な剣捌きでミノタウロスを切り刻んだ。

 絶叫にも異なる異質な咆哮は、無念にも迷宮内に吸い込まれていく。ゴトリ、と落ちた魔石には目もくれず、アイズは呆然とへたりこんでいる白兎に、手を伸ばした。

 

 「……大丈夫、ですか?」

 

 

 ーーーここから、白兎(ベル)の新たなる冒険の一ページが描かれる。

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

 「あーあ。ベル君もベート君もダンジョンに行っちゃったし、暇だなぁ」

 

 今日は何も予定がないヘスティアは、一人用のベッドを存分に使っていた。

 ここの拠点の備品は、全てベートが買い揃えたものだ。最初の頃の自分は全然稼ぎがなく、懸命に稼いだベートがあれよこれよと色々買い揃えたもの。だが本当に必要なものだけで、他の必要にならないものは一切買っていない。

 ヘスティアはその一つのベッドに顔を埋め、ぷくりと顔を膨らまる。もちろん、対象は眷属達だ。

 

 「男の子っていうのは、本当に冒険が好きなんだなー……」

 

 でももうちょっと休んでもいいだろー……、とポカポカとベッドに愚痴を零していると、扉の方からガタリ!という音が聞こえてきた。

 ヘスティアがバッと顔を上げると、扉の先からなにやら慌てた音が響いている。

 

 「ーーーおい!兎野郎がこっちに来なかったか!?」

 

 扉を壊す程の勢いで扉を開けたのは、ベートだ。

 若干汗を滲ませている彼に余裕が無いように感じる。その琥珀色の眼の焦点が合わないところを見るに、彼に何かあったのかと察することが出来た。

 ヘスティアはカチカチと固まりながらも、震えながらも伝える。

 

 「べ、ベル君の事かい……?い、いや……来てない、けど?」

 

 「じゃあギルドか!」

 

 そう聞いたベートは、扉を壊したまま走り去ってしまった。

 冷たい風が入る中、ヘスティアは枕を抱いたまま意気消沈するしかなかった。

 

 「…………なん、だったんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「この兎野郎おおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 「ひえっ、ベートしゃあん!?」

 

 ギルドの扉を蹴ってスライディングして入ってきた狼人の青年に、ベルは顔を青くした。

 同じく、ベルと話していたエイナも彼の方を凝視して、目をぱちくりとさせている。

 事の発端を生み出した狼人……ベートは、船若と言っても過言ではない怒号の表情で、ベルに詰め寄った。

 

 「よォ兎野郎、探したぜェ?テメェがきったねェ牛野郎の血を浴びやがるから、探すのに手間かからせやがって……」

 

 「べ、ベートさん……お、落ち着いて……」

 

 「落ち着いてだァ?おいおい、まだ雑魚の段階だっていうのに五階層へ潜ったのは何処のどいつだ?余裕ぶちかまして意気揚々と潜って死にそうになったのは何処の兎だ?挙げ句の果てには惨めに悲鳴上げながら血だらけで街中駆けたダッセェ臆病な白兎は何処のドイツだ!?あァ!?」

 

 「ご、ごめんなさい!!このとおり!!この通りですううううう!!」

 

 凄みのある剣幕でまくし立てられ、ベルは見事なジャパニーズ土下座を繰り出す他なかった。エイナはエイナでベートの意見に賛同していて助け舟を出してくれそうにない。

 今だけ、この場を地獄だと思ったベルは悪くない。

 

 「大体なぁ!テメェは礼を言うことも出来ねえのか腰抜けが!」

 

 グサッ!

 

 「あんな変な奇声上げられたら、同じ団員の俺にまで迷惑が降りかかるだろ!」

 

 グササッ!

 

 「くっせぇミノタウロスの血をばらまきやがって、あの腑抜け共が一体どんな目でテメェを見てやがる!?」

 

 ゴツンッ!

 

 「だからテメェは一生雑魚なんだよ!大口叩くならあんな惨めな姿を晒すな!俺はそういう奴が大っ嫌いだ!」

 

 ゴゴゴツンッ!

 

 「あの、ローガ氏、ベル君、もうノックアウトです」

 

 さすがに見兼ねたエイナが、ベートを宥めた。

 ベルはプスプスと音を立ててズゥーン、という効果音がつきそうな程に落ち込んでいる。だがベートは反省する気がないらしく、逆に言い足りないようだ。

 

 「ハッ、自業自得だろ。これで反省しやがれ」

 

 「…………はぃ」

 

 「これに懲りて、もう私のいいつけを破っちゃダメよ。ベル君?」

 

 「承知しました……」

 

 「じゃあ魔石、換金してきてね」

 

 「わかりました……」

 

 フラフラと、魔石の入った袋を換金所へ持っていく。

 ギルドの横へ位置づけられている換金所に魔石を置くと、直ぐに二、三枚のヴァリスが出された。

 

 「二〇〇〇ヴァリスくれぇか……ちんけなもんだな」

 

 「うっ……こ、これから稼ぎます……!」

 

 「……ハァ。チッ」

 

 「あ、待ってくださいベートさん!」

 

 早々に出ていってしまったベートを、ベルは追いかける。背後でエイナが引き止める声がするが、ベートは振り返らず、唯一ベルだけが満点の笑みで返した。

 

 「さようならー!また明日ー!」

 

 「…………もうっ」

 

 声では怒りが混じっていようと、表情はとても優しそうである。

 ベートとベルがもう完全に見えなくなるまで見送った後、エイナは背伸びをして自分の仕事へ戻るのだった。

 

 

 

 (………大丈夫、かな?ベル君……あんなの絶対ベル君が呑まれちゃうよ……)

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 「ハァ……」

 

 「そ、そんなに溜め息を吐かないでください……」

 

 夕方、殆どの冒険者がダンジョンから帰っている時間帯で、ベルとベートは肩を並べて歩いていた。

 先程ベートからお叱りを受けたベルだが、今では少しだけ立ち直っている。そもそも自分が悪いので仕方が無いと理由をつけて。

 一方、ベートはここまでの疲労が出てきたのか、ことある事に溜め息を吐いていた。溜め息を吐くと幸せが逃げると聞いたことがあるが、全くもってその通りかもしれない。

 

 「べ、ベートさああん……!何か言ってくださああああい……!」

 

 「うるせェ黙れ」

 

 「ごめんなさい……」

 

 ベートが小さく怒鳴るだけで、ベルがしゅんと項垂れる。今のベートに逆らったらダメだと、脳が信号を送ったかのように反射的に謝った。

 そんなベルを一瞥して、またベートが「はああ……!」と、溜め息を吐いた。本当の白兎になってしまうのではないのかという少年の頭を、思いっきり叩く。

 

 「イッッッダアアアッッッ!?!?」

 

 Lv.5の半分ほどの力を食らったベルは、その場で蹲った。どうやら相当痛かったらしい。当たり前だ。ベルとベートの間には超えられない壁が存在している。そんな攻撃を地べたで存在するベルがくらったら、堪らない攻撃なのである。

 天と地の差がある攻撃をしたベートは、悪びれることなく歩き出した。

 

 「ま、待ってくださああああい!!」

 

 その後ろを、頭を抑えながら涙ぐむベルが、追いかける。

 一連の情景が一瞬にして起こったメインストリートは、いつも通り活気に溢れ、彼らの姿を覆い隠す。

 誰にも注目されることなく、彼らは主神が待っているであろうボロボロの教会へ、足並みを揃えずに歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おい、知ってるか」

 

 「あ?何がだよ」

 

 ふと、メインストリートを住宅の屋根で防寒していた男神達。その内の一人が、隣にいる男神へ何かを問いかける。

 もちろん問いかけられた男神は何が何だかわからず、聞き返す。

 男神……わかりやすく言えば、猫目の男神はニヤニヤと悪い笑みを浮かべて話し始めた。

 

 「あの凶狼(ヴァナルガンド)だよ!見ただろお前も」

 

 「ああ、見たがそれがどうかしたのか?」

 

 「あの凶狼が、嫌がらずに、まるで親のようにあのガキを殴ったのをお前は見なかったのか!?」

 

 その情報(ネタ)に、もう一人の男神……金髪の男神が、雷でも落ちてきそうな勢いで、驚愕した。

 

 「なん……だと……!?あの凶狼が!?」

 

 「一大事だろ……!?あの凶狼がだぜ!?」

 

 こりゃスクープスクープ!!とはしゃぎ始める男神達の背後で、ヌッと数珠を身につけた男神が現れる。

 

 「おおっと!俺も忘れてもらっちゃ困る!」

 

 「誰だ貴様!?」

 

 「俺達は今重大な話を……!」

 

 「ハッハッハ!極上の情報(ネタ)を持ってきたというのに、そんな態度をしていいのかねぇ!?」

 

 「「くれぇ!!いやください!」」

 

 数珠の男神に、二人の男神はジャンピング土下座をしてさらなる情報を求め始めた。

 それに上機嫌になりながら、数珠の男神はニヨニヨと、凶狼が去った道を一瞥する。

 

 「俺は見てしまったのさ……あんなにツンツンしている凶狼が……」

 

 「「凶狼が……!?」」

 

 「ーーー一人の駆け出しの少年を探すために、血相を変えて街中探し回っている姿を!!」

 

 「「ツンデレキタコレええええええええええええええええええ!!」」

 

 数珠の更なる情報に、二人の男神はさらにヒートアップする。

 

 「今まで暴言吐いてた男がぁ!?」

 

 「「男がぁ!?」」

 

 「今まであしらって『雑魚は興味ねェ』って格好つけてた男が!?」

 

 「「男がぁ!?」」

 

 「一人の少年の為にあんなに体をクタクタとさせて探し回った!?」

 

 「それって何処のツンデレええええええええええ!!」

 

 「俺、今日程神でよかったと思ったことないよ……!!」

 

 「ここからあの子のツンデレが発揮するんだね……!長かった……!」

 

 「思えばあの時からだな……!「テメェのことなんて一度も考えたことねぇ!」と、めっちゃ美人の子を罵って去っていき、それをネタにして神会で荒れたあの日を思い出す……!」

 

 「そして次の日、ダンジョンで死にそうになったその美人ちゃんを助けたんだろォ!?」

 

 「しかも「助けたわけじゃねェ。狩りたいから狩った」って決め台詞を吐いたっていう噂だ」

 

 「「ツンデレテンプレキタアアアアアアアアアアアッッッ!!」」

 

 男神達が何で盛り上がっているのかわからない下界の者達は、ただ騒いでいる男神達に冷たい目を送るだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 







主な変更点
〇ベル→兎野郎
〇罵倒1文追加
〇エイナさん不安そう


という訳で連続投稿でっす!神様の会話のところは消そうと思ったんですけど、やっぱ神様には平常運転して欲しいなと思って良かれと思って残しておきました!
ソードオラトリア1話観ました。とにかくべートきゅん可愛すぎないか?戦ってる姿カッコイイけど何あれ、枝に乗っかって見下してるべートきゅん可愛くないか!?岡本さん最高やんけ!しかもティオナちゃんとの喧嘩も凄い可愛いしさぁ!あとあと笑い声とかも本当に癖になって思わず「可愛いいいいいい!!」って叫んだジャマイカ!本当彼は罪な狼人……!!

さぁそれでは最後は素敵な言葉で!


べート・ローガぁー!だぁーい好きぃー!



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羨望する凶狼に幻の熱を



 べートきゅんは天使、はっきりわかんだね。




 

 

 

 

 

 「ベルくうううううううん!!大丈夫かい!?け、怪我はないかい!?どこか具合が悪いところとか!?」

 

 「だ、大丈夫ですよ神様ああああああああああああ!!」

 

 ベルとベートがホームに帰って待っていたのは、ヘスティアタックルであった。

 ベルが何でドアが壊れているのだろうという疑問を持った瞬間に、ヘスティアがベルに抱きついて体のあちこちを調べ回る。

 正直、何故こんなに心配されているのかベルにはわからなかったが、ベートの含み笑いで何故か全てを悟ったような気がした。

 

 「ベート君が慌ててベル君の場所を聞いてくるから何事かと……ッ!!」

 

 「おう駄神じっとしてろよぶっ殺す」

 

 「え、ちょ、待って、待ってくれべート君!そ、そんな殺意に溢れーーーにょわああああああああ!?」

 

 ああ、やっぱり心配してくれてたんだ。

 頬の伸ばし合いっこをしている二人を、ベルは何とも和やかな瞳で見つめることが出来たのであった。

 

 

 若干頬が赤くなっているヘスティアが稼いできてくれたお金で、今回の夕食はじゃが丸くんパーティとなった。

 各自、お好みの塩をかけてじゃが丸くんを吟味し、今回のことに話題を膨らませていく。

 

 「ミノタウロスにあったぁ!?ほ、本当に大丈夫だったのかい?」

 

 「はい、ヴァレンシュタインさんに助けていただいて……」

 

 「そして自分から逃げていったと」

 

 「ぐっ……」

 

 「まぁ、そのヴァレン某君のことは別にいい。問題はーーー君がそのヴァレン某君に恋心を抱いている事だぁ!?」

 

 「絶対、神にかけても無理なことだな」

 

 「神様もベートさんも酷いです!?」

 

 容赦ない言葉に、ベルは涙目になる。だがベートもヘスティアも悪びれることなく、ただ黙々とじゃが丸くんを食べ進める。

 やがてじゃが丸くんパーティが終われば、次は眷属達のステイタス更新である。……最も、今回はベートは更新しないため、ベルだけになってしまうが。

 

 「………………?」

 

 「神様?」

 

 ステイタス更新をし終わり、ヘスティアがベルのステイタスを確認していた時だった。

 突然ヘスティアの動きが止まり、ある一点を凝視し始める。不審に思ったベルが声をかけたが、ヘスティアは「何でもない!」と少しどもって、紙に写し始めた。

 

 「はい、ベル君」

 

 「ありがとうございます……やっぱり、あまり上がっていませんね……」

 

 「そんなことはないさ。ミノタウロスに追いかけ回されたのか、敏捷が結構上がっているよ。もしかしたら、ベート君に追いついてしまうかもね」

 

 「ほざけ。そんな簡単に抜かされてたまるか」

 

 「ぶー。ベート君のいけずー!」

 

 「子供かテメェ!?」

 

 「で、でも!僕頑張りますね!ベートさんに追いつくために!!」

 

 そう言って、ベルはニッコリと笑う。

 ベートはグッと喉を詰まらせ、また溜息を吐いた。

 

 

 

 

 「で、お前なんか隠してるだろ」

 

 「ギクッ」

 

 ベルがぐっすりと眠った後、ベートとヘスティアは教会の中で向き合っていた。

 ヘスティアの手には、先程ベルに渡したものと同じ紙が握られている。

 神聖文字(ヒエログリフ)は、普通なら下界のものは読めない。なので神が共通語(コイネー)に直して下界のものに翻訳したものを見せている。

 その翻訳した紙を、ヘスティアは大切に持っていたが、不審がったベートがそれを追求しようとしていた。

 

 「ぐぬぬぬぬぬ……」

 

 「オラ吐け。楽になるぞ」

 

 「ぬぬぬぬぬ……ベート君なら……まだいいか……」

 

 悩んだ末、ヘスティアは持っていた紙をベートに渡す。

 ーーーそう、何も弄っていない、本当のベルのステイタスを。

 

 「…………憧憬一途(リアリスフレーゼ)?んだこりゃ」

 

 訝しげにその単語を口にしたベートは、何かを知っているであろうヘスティアの方を見る。

 ヘスティアはぷくりとそっぽを向いていたが、やがて悔しそうに、絞り出すように話した。

 

 「…………君なら察せれると思うよ。憧れる人を追いかける気持ち……その憧れる人は少なくともヴァレン某君。……つまり、そのスキルは……」

 

 「ほぼ恋心で出現したといっても過言ではないと」

 

 「ううううう!!ヴァレン某いいいい……!!」

 

 わなわなとこの場にいないアイズに恋敵を覚えるヘスティア。それを冷めた目で見ていたベートは、またステイタスの用紙を見る。

 憧憬一途……誰も発現したことのない、レアスキル。自分のスキルは狼人としてのスキルが多いため、レアスキルはない。

 しかもLv.1からだ。まだまだ未熟な彼の、第一歩となりえるかもしれない。このレアスキルは。

 

 「…………」

 

 不意に、ズキリと胸が痛み始める。

 ベートはその胸の痛みに気づきながらもそのままにし、グシャリ、と羊皮紙を握りしめる手の力を強めた。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 憧れる人を追いかけることによって、彼はーーーベル・クラネルはさらなる進化を遂げる。ベートはそう直感していた。

 もちろん、それで強者となるのなら別にいい。寧ろなってほしいものである。無様で惨めに晒していた彼に、もうならない為なら。

 だがベートはーーーその彼の姿を想像すると、非常に腹が立った。

 

 「がるぅあああああああああああああああああああああ!!」

 

 向かってくるモンスターの大群を、ベートは蹴り一つで殲滅する。

 攻撃をする暇もなかったモンスターは、たちまち黒の粒子となって魔石だけが零れ落ちた。

 

 「……ハァ……」

 

 ダンジョン32階層。

 未だに人が訪れない大広間に、ベートは何時間もこの場でモンスターを狩っていた。

 ベルにスキルが発現したその後、彼は直ぐにダンジョンに潜りモンスターと死闘を繰り広げる。

 まだ階層主が現れない時間帯まで篭もり続ける彼の額には、若干汗が滲み出ていた。

 

 「………………」

 

 手元にあるポーションをじっと見つめ、やがてそれをバックパックに仕舞う。何時間も狩り続け疲労が溜まり、傷も出来ているというのに、彼は回復は愚か、休憩することもなかった。

 モンスターがダンジョンから生まれ、標的をベートに定める。

 ベートはそのスパルトイの大群を鼻で笑い、強化された敏捷と威力と共に、モンスターの軍勢へ再び突っ込んだ。

 

 「がるぅあ!!」

 

 目の前のモンスターの頭蓋骨を、膝でぶっ壊す。

 そして向かってくる周りのモンスターは、地面に手をつけて回し蹴りで潰す。

 バラバラと魔石が散らばっていき、そして敵の数も増えていく。数多のモンスターボロボロと、母なる大地から産まれてくる。

 

 「ぐるるるる……!!」

 

 ギラリ、と眼光を凄ませ、ベートはその大群を睨むように見据えた。

 ああ、イライラする。

 とても、収まりきれないくらいにイライラする。

 何体も何体もモンスターを狩っても、全然この苛付きが収まらない。

 奇声をあげたモンスター達が、ベートに向かって突っ込んできている。

 

 「ーーー糞がぁ!!」

 

 対してベートは、吠える。

 獰猛なる野獣と化す彼を止められるものは、今この場にいない。

 ただ彼は、モンスターを狩る『モンスター』でしかない。

 

 (ーーーああ)

 

 俺は今、何でイライラしてるんだっけ。

 モンスターの頭、腕、首、四股を潰しながら、ベートは今更そんなことを考え始めた。

 そうだ、ベルがレアスキルを発現した時からだ。

 そのレアスキルが、ベルに大きな成果を上げるかもしれないと、自分でそう思ったんだ。

 Lv.1で。

 

 (……何だ、考えれば簡単な事じゃねえか)

 

 モンスターはもう、死んだ。

 モンスターがいる証拠になるのは、モンスターの体から出てきた魔石だけ。

 ベートはその一つをガシャ!と踏み潰し、舌打ちを零した。

 

 (大人気ねぇ、俺も)

 

 彼はこの感情を知っている。

 まだ駆け出しの冒険者が出したレアスキル。そうだ、それを見て、予測して、想像して。

 

 

 (ーーー嫉妬、なんてな)

 

 

 

 自分にも、あんなレアスキルがあれば強くなれるかもしれない。

 自分のスキルと魔法は、この『傷』を思い出させる枷だ。魔法は自分の心によって発現し、それは魔法にも反映される。そうーーー弱い自分が、現れるのだ。

 べートは魔法が嫌いだった。昔の自分を重ねているようで。

 だから魔法は使わなかった。もう過去を振り返らない為に。

 その時、ふと背中に熱いものを感じた。

 

 「……?」

 

 背中ーーー恩恵がある場所。

 怪我をしたわけでもないのに、何故ここがいきなり熱くなったのだろう。

 しかしそれは一瞬の出来事だったので、別に深く考えなくていいであろう。

 べートは洞窟の天井を見上げる。自然の光すら差さない、宵闇の中心に立ち尽くす彼に、ダンジョンがそんな彼を嘲笑うかのように、次々にモンスターを産み出す。

 

 「……糞がッ」

 

 べートは回復薬を呷り、湧き出したモンスターーーー「モンスターパーティ」に、身一つで突っ込んでいった。

 

 

 

 

 その時に、また背中が熱くなったことに、べートは気づかなかった。

 

 






 変更点→最後のべートきゅん視点
 ここもあまり変更点が見当たらなかったので今日中に上げてしまおう……!あと3話やね!
 日刊ランキング28位ありがとうございます!嬉しい限りでございます!いやはや神さま仏さまリーネ様ああああ!読者様にはリーネ様がたくさんおりますね!
 前作を閲覧してくださった方々も楽しんでもらえて何よりです。これからどんどん頑張りますよ!

 さぁ最後は皆!せーの!

 べート・ローガぁー!だぁーい好きぃー!!



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憧憬の兆し

 つんでれ





 

 

 ほぼ八つ当たりでダンジョンに潜っていたベートが地上に戻ったのは、既に日が落ちている時間帯だった。

 バックパックに詰まっている魔石は、これまでよりも集めていると言っても過言ではないであろう。また貯金に回さねば、とベートは疲れにより出た欠伸を噛み締める。

 ギルドへの道を辿ると、徐々に民間人や冒険者が多くなっていく。まだ商売をしている商人の通りを通りながら、ギルドの木材の両扉を開けた。

 

 「……あ。ローガ氏」

 

 ベートを迎い入れたのは、ベルのアドバイザーでもあり、ベートの良き理解者でもあるエイナだった。手元にある資料はある冒険者の資料であるところを見るに、まだ業務中なのだろう。

 

 「……テメェはあの兎野郎の」

 

 「はい。ベル君のアドバイザーを務めさせていただいている、エイナ・チュールと申します。噂はかねがね」

 

 「ハッ、禄な噂なんて流れてねェけどなぁ」

 

 嘲笑して返すと、べートは顔を伏せて、こんな事を聞いていた。

 

 「……あの兎野郎はどうだ?」

 

 「え?あ、はい。ベル君は今日もダンジョンに向かっています。でもいつもより凄い励んでいたような……いえ、別に今までサボっていたわけではありませんよ?なんか、今日のベル君は今まで以上に張り切ってたような……」

 

 「いや、いい。理解した」

 

 必死に伝えようとしていたが、それをベートは遮り、止める。ベルが何故突起になっているのか、ベートは既に分かりきっているからだ。

 あの剣姫を越えるために、今ベルは頑張っている。そう思うと、先刻までベルに発現したスキルに嫉妬していた自分が馬鹿馬鹿しくなってきた。しかしそれと同時に、何故こんな事を聞いたのだろうかという疑問が拭いきれない。

 

 「チッ」

 

 それを隠すように舌打ちをかましたベートは、エイナを過ぎ去って換金所まで歩く。

 十八階層以下の魔石は全て迷宮の楽園(アンダーリゾート)で換金してきた。後は道中やってきたモンスターをここで換金するだけである。

 やがて出された魔石はヴァリスとなって帰ってきた。二万三千ヴァリス。それに迷宮の楽園で換金した金額を足せば、いつもの三分の一の稼ぎとなった。

 この稼いだ金額の殆どをファミリアの財産に注ぎ込もう、と換金したヴァリスを袋に入れ、ギルドを後にしようとする。

 

 「……ローガ氏!」

 

 ふと、エイナに呼び止められ、ベートは振り向いた。

 ハーフエルフでありながらもその美しい相貌は目を引くものだ。夕日の光によって彼女のエメラルド色の双眸は、いつにも増して煌めいている。

 エイナはベートの琥珀色の瞳をジッと見つめて、やがてふんわりと笑った。

 

 「……ベル君のこと、支えてあげてくださいね」

 

 「……馬鹿野郎が。それはテメェの仕事だろうよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギルドを出て暫く歩く内に、時間帯は既に宵となってしまった。

 今帰ったら、恐らくヘスティアは「遅い!」とベートに突っかかり、そしてベルは苦笑するであろう。そうなっては後々面倒なので、少しだけホームの帰路を早足で帰る。

 

 「……あ?」

 

 だがその時、ある店で立ち止まっている見慣れた姿に足を止めた。

 いつもの茶色の外套に、雪のような真っ白な肌。彼ーーーベルはある酒場で、右往左往としていた。

 

 (何やってんだあいつ)

 

 そもそも彼は何故ここにいるのだろう。ホームでヘスティアと仲良く晩飯を摂っていたのではないのか。そもそもヘスティアは何処へ行ったのか。

 数々の疑問を抱きながら、取り敢えず聞けばわかるだろうとベルに近づいた。

 

 「おい」

 

 「っあ……ベートさん!」

 

 ベートが声をかけると、ベルは嬉しそうに顔を輝かせた。

 ベルに何をしているのか問う前に、ベートは酒場を見上げた。

 ここは確か……自分が冒険者になった日から通っている、見慣れた酒場「豊穣の女主人」である。何故ベルがこの酒場の前で右往左往していたのか、もしやこの酒場に入るのを戸惑っていたのだろうか。別に戸惑う必要性はないと思うのだが、とベートが心底疑問に思っている時、酒場から一人の少女が顔を出した。

 

 「あ、ベルさん!」

 

 灰色の髪を一つに束ねた、緑のメイド服を着込む少女は、ベルの姿を視界に収めると嬉々として駆け寄ってくる。

 「こんばんわ、シルさん」とベルは恥ずかしそうに彼女ーーーシルに挨拶した。

 シルはニッコリと笑って、ベルがこの酒場に来たことの喜びを告げる。それにさらに真っ赤になったベルと、それにまた頬を緩ませるシルのやりとりを、ベートは黙って観戦していた。

 

 「……所で、そちらのお方はーーーーあ、ベートさん!」

 

 漸くベートの存在に気づいたシルは、ベートに笑顔を向けた。

 

 「チッ、気づくのが遅いっての。……薄々気づいちゃいるが、どうせ、またあのやり方で此奴をここに呼び込んだんだろ?」

 

 「えっ」

 

 「シーッ、秘密ですよ」

 

 確信犯的なシルの笑顔に、ベートはまた舌打ちを零した。

 実は昔、ベートは彼女のやり口にハマりかけたのである。ある日ホームに帰宅途中の時に彼女、シルに「魔石を落としましたよ」と呼びかけられたのだ。

 その時は一瞬落としたのかと思ったが、彼は音にも敏感である。もし落としたのなら即座に気がつくし、そもそも先程全ての魔石を換金してきたので、落ちていることは普通なら有り得ないのだ。

 即座に疑いをかけたベートは彼女に凄みをきかせ、淡々と言葉を紡いでいった。そして驚く程あっさりと白状した彼女に、今度はベートが度肝を抜いた。しかもちゃっかり「宜しくお願いしますね!」と店の宣伝もしていき、そして用が済んだとばかりに店の奥に姿を消したのである。

 こればかりはさすがのベートも「はぁ?」となった。そしてあの女に文句でも言ってやろうと態々酒場に足を運んだのだがーーー料理は美味く、そして酒場の雰囲気も全て気に入ったので、「騙されたとしても金が増えるだけだったしまぁいいか」で、妥協したのである。

 以来時々酒場に来ては飲み明かし、ヘスティアにブーブー言われていたが……そういえば、Lv.が上がるにつれて来れていなかったな、とベートはふと思い出した。

 Lv.5になってからというもの、殆どの時間をダンジョンに費やしていたので、そもそもこういう場所に来るのも久々なのだ。酒場から聞こえる冒険者の汚い笑い声も、ベートにとっては昔のように思えてきた。

 

 「……丁度いいな。俺もここで飯食ってくか」

 

 「本当ですか?ありがとうございます!」

 

 「ええ!?」

 

 「ああ?ンだよ兎野郎、そんないかにも意外そうな顔しやがって」

 

 「いえ……ベートさんとこうして一緒に食べれるの、初めてだなぁと思うと……つい」

 

 「……気まぐれだ」

 

 べートはそう突っぱねる。

 こうやってベルと一緒に、何処かの店へ入って食事するのは初めてだ。いつもはホームで駄弁って、ヘスティアの猛攻撃を遠目で見て、そしてそのまま時間が過ぎていく。会話も殆どヘスティアが出してくれ、それに相槌をうっているようなものだ。

 

 「……ハッ。おいシル。さっさと席に案内しろ」

 

 「了解しました。お客様二名入りまーす!」

 

 ベートは、ベルの腕を取って、店の中へ入ったシルの後を追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼らに設けられた場所は、人目につきにくいカウンターの角の二席だった。これはシルの配慮なのであろう。

 ベルを隅っこに追いやり、ベートはその隣へ腰を下ろす。するとこの店の主人である彼女ーーーミアがニカリと笑ってこちらに話しかけてきた。

 

 「やぁベート!久しぶりじゃないか。大きくなったもんだねぇ!アンタの隣にいるのが、シルが連れ込んだ冒険者かい?聞けばアンタ、私達料理人を困らせる程の大食漢らしいじゃないか!」

 

 「!?!?!?」

 

 「お前……まさかファミリアの資金まで食らうほど……?」

 

 「違いますよベートさぁん!?シルさん!?どういうことですかこれ!?」

 

 ミアに驚きの事実にベルは瞠目し、それに乗ったベートは少しだけ怒りを混じり合わせてベルに一言言い、それをベルは一喝して恐らく全ての元凶であるシルに問いかける。

 シルは数秒間たっぷりと間を開けて、可愛らしく「てへっ」と答えた。その悪気のない笑顔にベルの声が弱くなっていく。

 

 「……変わってねぇな」

 

 「うふふ」

 

 「うふふじゃないですよー!?」

 

 「ミア酒」

 

 「あいよ!」

 

 「そして無視しないで注文しないでくれますかぁ!?」

 

 メニューを見て悲鳴を上げたりお金がなんだで悲鳴を上げたり、本当に忙しいヤツである、とベートはしれっとオススメを頼み、それにまたベルがムンクの叫びのようになるのは別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「~~~相変わらずここの店は酒がうめえなぁ!!」

 

 顔を赤くさせ、ダンッ!とジョッキを雑に置いたベートは、笑い声を上げながらそう言った。それにミアは「当たり前よ!」と自信満々に胸を張る。

 ベルは仕方なしにベートと同じオススメを頼み、黙々と一口一口食していた。今はパスタに突入しており、口の周りをパスタソースで汚しながら食している。

 

 「あああ……たっぐよぉ、昨日のテメェにはほんっっとうに世話が焼けるぜェ……」

 

 「ええ……またその話、ですか?」

 

 「酔ってますね」

 

 「酔ってねえよォ!」

 

 シルが冗談交じりに言うと、ベートは食ってかかった。そしてまたジョッキを仰ぎ、中の酒を空にさせる。

 頬を赤くさせ、呂律も回っていない。いつもの澄まし顔は何処へやら。今のベートはヘラヘラとだらしなくしているーーーただの酔っ払いである。

 

 (……酔ったベートさんって別人だなぁ)

 

 ベルはムグムグと口の中を動かしながら、隣のベートを見据えた。そしてこれまでのベートとの関わりを思い出す。

 思えば、最初の頃はこうやって食事をすることなど、有り得ないと思った。日々睨まれ罵倒され、時には嫌な思いをしたけれど、それがベルの原動力となり、いつしかべートを見る目が変わっていった。しかしーーーそこまで、関わりはなかった。

 確かに、会話が少ないと言えば少ないと言える。彼はいつも遅くまでダンジョンに潜っているので、顔を合わせるとしたら夕食後くらいなのだ。ヘスティアの話によると、ベルが来る前は一人で泊まり込みでダンジョンにいたという有り得ないことをしでかした男である。

 そんな男が彼とはーーー信じられないだろうな、とベルは複雑な顔をした。

 

 (……そういえば、ベートさんの戦ってる姿、見たことないなぁ)

 

 ベートはソロでダンジョンに潜る。何処かのファミリアとパーティも組まず、かと言って同じファミリアのベルとは……組む気にはなれなかったのであろう。そのせいか、ベルはベートが戦っている姿を、今まで見たことがなかった。

 

 (どんな風に戦うんだろう。神様の話だと、敏捷が速いって言ってたから……撹乱してから倒すやり方なのかな)

 

 モンスターを混乱させ、その隙に攻撃をするーーーベルのベートの戦いの予想はこれだった。敏捷がとても良いのなら、そのような使い道をしても何も咎められないであろう。実際ベートがどのように戦っているのか知らないベルは、こうやって予測するのも実は楽しかったりする。

 

 「……見てみたいなぁ」

 

 「何が」

 

 「ーーーふぇっ!?」

 

 ポツリと声に出していたのを、顔を近づけてきたベートに聞き返された。急にやってきたベートの顔にベルは吃り、思わず椅子から落ちそうになるのを防ぐ。

 そんなベルの行動にベートは首を傾げながらも、いつの間にかおかわりを頼んだのか、新たな酒が入ったジョッキをグイッと一気飲みをし始めた。

 

 (……いつか、見れるだろうな)

 

 その綺麗な横顔に少し見惚れ、そして新たな楽しみを作ったベルの耳に、他の客のざわめきが入る。

 何事か、とベルが目線だけで店の出入口を見るとーーーー途端に、ベルの目が瞠目した。

 

 「おい、ありゃ……」

 

 「ロキ・ファミリア……」

 

 他の客達が、次々とその名を口にする。

 【ロキ・ファミリア】都市最強を誇る【フレイヤ・ファミリア】と同等の強さを持つ、オラリオ屈指の探索系ファミリアである。【勇者(ブレイバー)】フィン・ディムナを初めとした逸材の冒険者が集う、冒険者にとっても憧れの存在のファミリアなのだ。

 どうやら今日、ロキ・ファミリアは遠征の帰りだったらしく、打ち上げの予約をしていたらしい。

 だがベルはそんなの関係なく、ただある一人の少女にしか目がいっていなかった。

 

 

 

 「……な、んで……」

 

 

 

 まるで絹糸のように流れるような金髪。

 ふっくらとした、少女特有のある頬。

 そして引き締まった腰に、少女でありながらもそれ程の大きさを持つ双丘。

 ベートも彼女を見て、目を細めた。その少女は、昨日ベルを救った恩人であり、ベートが超えるべき相手でもあった。

 その美しさと可憐さを持つ、少女の名はーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 「……アイズ・ヴァレンシュタインさん……」

 

 

 アイズ・ヴァレンシュタイン。

 二つ名【剣姫】の異名を持つ、オラリオ屈指のLv.5であり、誰からでも愛されている美しき少女の名であった。

 

 

 

 




 べートきゅんのキャラが変わっているので地味に変えています。彼は酒を飲むと性格が変わるアレ。
 そろそろ第1章の終わり、前作に追いついてきました!リメイク後も宜しくお願いします!!

 べートきゅん可愛いよおおおおおお!!8巻もう10回目だよおおおおおおお!!べート・ローガぁー!だぁーい好きぃー!!



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白兎は『弱者』となる

 彼と彼女は、僕の憧れである。




 

 

 

 「皆遠征ご苦労さん!!さぁ飲めやー!!」

 

 ロキがジョッキを高く突き上げると、ロキ・ファミリアはたちまち熱気に包まれた。皆酒や食事を騒ぎながら堪能し、遠征帰りの疲れを癒す。

 それはかの【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインも、こくこくと小さな口に飲み物を運んで、宴にノっていた。

 

 (はわわわわ……!)

 

 それを影で見つめるのが、へっぽこ白兎である。

 ベルはアイズの姿を見つけた途端、カウンターの下へ滑り込み、身を隠していた。顔を真っ赤にし、頭を押さえてぐわぐわと足掻いている様は、とても滑稽で見苦しいものだった。

 

 「ミアァ!!酒追加ぁ!!」

 

 ーーーそれをスルーしているベートもベートである。今のベートは完全に酔っ払っており、ベルの姿などもう見ていなかった。今ベルを見ているのは、心配そうにベルを覗き込むシルだけである。

 

 「ベルさん、大丈夫ですか……?」

 

 「だっだだだだだだだだだだいじょぶだいじょぶ」

 

 嘘をつけ。

 ベルの目は焦点を合わせておらず、まるでサウナの中にずっといたかのような、とてつもない熱に覆われている。ただ単に恥ずかしいだけなのに、これではここに氷を置いただけで溶けてしまうのではないのかという程に真っ赤で熱かった。

 ここで大体察してしまったシルは、ベートに助けを求めようとしたが……。

 

 「大体よォあのロリッ娘女神もそうだよなんでいつまでたっても底辺ファミリアでさぁしかも仕事量増やしやがってこんなんほかの奴らに舐められるぞゴラァ神としてのぉぉ威厳をもてええええ……!このやろぉぉ……」

 

 何個ものジョッキが転がっているのを見て、シルは考えるのをやめた。

 

 

 

 

 

 

 

 「そういえばよぉ!俺見ちゃったんだよなぁ!」

 

 ロキファミリアの宴が始まって数時間、あるグループの会話がベルの耳に届いた。

 それは、ベルがいる席の後ろの丸テーブルにいる冒険者達の会話だった。

 彼らの顔が真っ赤に染まっているところを見ると、彼らも酒の飲みすぎで酔っているのだろう。しかしベートのように眠くなっている訳ではなさそうだ。人はそれを酔い潰れそうと言う。

 

 「あ?それって、ダンジョンで焦らしてた奴か!?やっと言うのかよ!何を見たんだ?」

 

 「へへへっ、聞いて驚くなよぉ」

 

 「勿体ぶらずにさっさと言えよこの野郎!」

 

 「わ、わかったって!……めっちゃ笑えるから覚悟して聞いとけよ?」

 

 何故だか、ベルは耳を塞ぎたくなった。ここで彼らの会話を聞いて、何かが起こるような気がした。それは決して良いものではなくて、とても悪い何かを。

 三人のうちの一人が、下品な声である話題を口にする。

 

 

 

 「どっかのひよっこ冒険者が、あの剣姫に助けられたのをよぉ!」

 

 

 

 

 時が止まった。

 一人が「はぁ?」と、上げて落とされたような落胆の表情で続ける。

 

 「それがどうしたんだよ。別に全然面白くねえぞ」

 

 「いやいやそれがさぁ!そいつ、剣姫に助けられたんだけど、剣姫に手を差し伸べられたら真っ赤になって逃げてったんだよ!ミノタウロスのくっせー血を浴びてさ!」

 

 「うわっ、ダッセー!それって俺達の横を通り過ぎたやつ?」

 

 「そうそう!防具も何も身につけずに貧相な格好でさ!あれじゃあ無様にミノタウロスから逃げ回ってたって容易に予想はつくぜ!」

 

 「いや、ミノタウロスはまじやべぇから!っていうか何でミノタウロスが上層にいたんだろうな?」

 

 「さぁなぁ?もしかしたら、あのダッセー雑魚を追い払うために来たのかもな!お前にはまだ早いでちゅよーってな!」

 

 「有り得る!」

 

 ギャハハハッ!!と、下品な声が響き渡る。他の冒険者も騒いでいるのに、ベルの耳には彼らの会話しか耳に入ってこなかった。

 彼らの言っている雑魚とはーーー自分のことだ。ミノタウロスの血を被って、そしてアイズの前から逃げ出したのも、自分だ。

 まさか、見られているとは思わなかった。自分のあんな無様な姿を見られていたなんて。

 カウンターの下から一歩も動けず、ベルは頭を抱える。ベートが静かになったのは、酔い潰れたのかということを確認する暇も、今の彼にはなかった。

 ただ、彼らの会話が終わればいいのに。そう願い続けた。

 しかし現実は残酷で、彼らはさらにベルのことを吊るし上げる。

 

 「そもそも防具も何もなしに5階層に来るなっての!」

 

 「良くあれで生き残れたよなー。そこだけは本当に関心するよ……雑魚だけど、な!」

 

 「ていうかそいつ何で真っ赤になってたわけ?それがいまいちよく分かんねえ」

 

 「おっま、わかんねえのか?あれは十中八九、剣姫に惚れてるんだよ」

 

 「ブハハハ!!剣姫にッ、惚れる!?うっわーやっちまったなそいつ!叶わねえ恋だっていうのによぉ!」

 

 「Lv.1とLv.5が釣り合うかっての!テメェはただの引き立て役だっての!それに、剣姫にはあの神がいるから、そもそも求愛なんてしたら俺らがぶっ潰されるだろ!」

 

 「言えてる言えてる!どうせ剣姫は強いやつにしか靡かないしー!」

 

 止めろ。止めてくれ。

 これ以上、自分を惨めにさせないでくれ。

 自分の中に、どす黒い何かが紛れ込んでくる。それは自分の体の隅々まで侵食しようと行動し、余計彼らの会話が耳に入ってきた。

 このどす黒い何かを、自分は知っている。

 

 「まぁ、そうだよなぁ!」

 

 止めてくれ。お願いだ。

 聞きたくない。聞きたくない。

 しかし、運命は、残酷に彼の道を作り上げていく。

 

 

 

 

 「俺達雑魚が、アイズ・ヴァレンシュタインに釣り合うわけが無いよなぁ!!」

 

 

 

 

 

 その瞬間、ベルの中で何かが千切れた。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 「ベルさんッ!!」

 

 シルのその呼び声に、ベートの頭は覚醒する。ベルが勘定も払わずに出ていったことは、ベートにも理解出来た。そして、先程からベルの事をネタにしている外道な冒険者の会話も、頭に残っている。

 ベートは確かに酔っている。だが、これくらいで酔い潰れる程ではなかった。だから今何が起こっているのか判断出来るし、自分が今どうするべきかも分かっている。

 

 「…………」

 

 ベートは最後の一滴まで酒を飲み干し、周りにも聞こえるほどにジョッキを力強く、叩きつけるように置く。

 それだけで、周りの人間の会話は止んだ。皆が皆ベートに注目し、そしてざわりと騒めく。

 

 「おい、彼奴……」

 

 「ああ……凶狼(ヴァナルガンド)

 

 「この店にいたのか……」

 

 ベートは、コソコソ話す彼らに一睨みを利かせた。それだけで彼らは黙り込み、目を逸らし、何事もなかったかのように飲み続ける。

 真っ赤に火照った頬は徐々にひいていき、元の白い肌を見せる。酔いも醒めてきたのか、ベートはベルが去った店の出口を見据えた。

 

 「……はぁぁぁ……世話のかかるヤツ……」

 

 重く溜め息を吐いたベートは、席を立つ。懐から数枚のヴァリスをカウンターに置き、彼は歩き出した。

 

 「ちょっと、本来の勘定より多いよ」

 

 「あのへっぽこ兎の分だ。そんでその後ぶんどる」

 

 何故多めに出したのかという質問に応えたベートは、先刻ベルをネタにしていた三人組に近づいた。

 三人組は突然のベートの姿に驚き戸惑い、ベートに目線を合わせない。忙しない目線にベートの目が細くなると、彼らは一様にヒッと、小さな悲鳴を上げた。

 

 「生憎だが」

 

 ベートが、静かに口を開いた。酒場の人間全ての視線が、ベートの背中に突き刺さる。

 ベートの声は重く、低くのしかかっていた。

 

 「俺は今、テメェらに持ち合わす時間はねェ。テメェが散々笑いものにした兎を回収しなくちゃならねェからなぁ」

 

 ーーーだから、一言だけ忠告してやる。

 

 それは、ただの言葉ではない、『忠告』

 Lv.5からの忠告は、Lv.1の冒険者でも少なからず嬉しい気持ちはある。だが、相手はあの凶狼だ。人を見下し、蔑み、暴言を散らす、あの凶狼なのだ。何を言われるのか、堪ったものではない。

 ベートは彼らに向かって、小さく一歩を踏み出す。それだけで彼らはまた小さく悲鳴をあげ、イスをガタリと鳴らした。

 しかし、彼らに逃げ道はない。

 

 ベートは彼らのうちの一人ーーーベルを一番嘲笑していた冒険者に顔を近づけ、告げた。

 

 

 

 

 「ーーーーーーー」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 ダンジョン六階層に近づくと共に、肉の切れる音と少年の雄叫びが、洞窟内で轟く。

 それは悲鳴にも近い、そして屈辱の叫び。

 べートはそれを感じ取り、ゆったりと、しっかりとした足取りで、あるルームへ足を踏み入れる。

 中心に立つ血だらけの少年の姿を見つけた時、べートの足はピタリと止まった。

 

 「……雑魚は雑魚だな」

 

 べートの口から吐き出されるのは、侮蔑の一言であった。

 ベルの肩が小さく揺れ、ベルはそのままグラリと地面に倒れ込む。べートの言葉によって倒れたのか、はたまた体力の限界でそうなったのかは定かではない。

 べートは、その少年の姿に眉を顰め、口を開いた。

 

 「テメェがあのダセェ奴らの言葉をどう受け取ったのかは知ったこっちゃねぇ。だがなーーーーそうやって一心不乱に、何も考えずに己を傷つける行為をするだけの冒険者として存在し続けるなら、失せろ」

 

 「………………」

 

 「何の意味もなしえねぇことなんざ続けて、何の得がある?自分は強いって調子に乗るか?それともあの雑魚共に、自分は強くなりました、貴方達よりもと報復でもするか?」

 

 「………………な、ら」

 

 べートがベタベタと言葉を並べた時、今まで黙って聞いていたベルは、震える声でこうべートに問う。

 

 「……あな、たは……なんで……あんな、ことを……?」

 

 「………………」

 

 「じぶんは強いって……調子に乗る……?そん、なの……べートさんも、やってるじゃな、いですかぁ……!」

 

 それは、単なる反論。

 今までべートの罵倒、侮辱を間近で受けていた、ベルの初めてのべートへの反論だった。

 彼はいつもべートに言っていた。「弱者は強者には釣り合わないと」。

 ならそれは、その言葉はーーーべートは、自分が強いと豪語していると同じではないか。

 だとすると、今まで言っていた言葉はべートにも向けられるはずだ。そしてそれは、べートにも言えることのはずなのに。

 ーーー何故、自分は当てはまらないような口振りをするんだ。

 ベルの言い分が言い終わると、べートはわかりやすい、ベルにも聞こえる程に溜め息を吐いた。

 そして、一言だけ、その応えを口にする。

 

 「俺は『強者』で、テメェは『弱者』だ」

 

 「ーーーーッ」

 

 「それ以外の他に何がある?強者が弱者を蹴落として得る得なんていくらでも存在する。強者に身の程を知って朽ち果てる雑魚を区別してやってるんだ。逆に俺は誉められるべきだと、思うけどなぁ?ーーーだが俺は、強者になって調子に乗ったことなんざ、今はしてねぇ」

 

 経験したことのある口振りに、ベルの目が最大まで開かれた。

 そして、べートのある一言が、ベルの心に突き刺さる。

 

 「じゃあ聞くがなぁーーーーテメェが憧憬する相手は、そんな雑魚を甚振るダセェ奴なのか?傲慢になるようなやつか?ーーーテメェには、ソイツはどう見えている」

 

 自分が憧憬する相手はそんな奴か?と聞かれ、浮かぶは金髪の美しい、剣姫。まるで舞踏会でクルクルと舞うかのように、その血を浴びて戦う、容姿端麗の麗しき都市の姫。

 ーーー彼女は今で満足しているのか?

 否、とベルは即座に否定した。

 彼女はまだ強くなる。弱者に目を向ける時間など、ないはずなのだ。

 つまりーーー傲慢なことをするより、自分の『剣』を磨くに決まっている。

 彼女は弱者をいたぶらない。というか、べートとは逆の『強者』だ。

 べートが悪魔なら、彼女は天使。役立たずは切り捨てるべートとは違い、彼女は弱者に手を差し伸べ、更なる高みへ共に目指してくれる、そんな彼女。

 ーーー僕は、彼女のような人になりたい。

 ベルの背中が熱くなる。それに突起されたかのように、ベルは手をついて、立ち上がった。

 ーーー傲慢する暇があるなら、彼らを憎む暇があるなら、自分を憎み、自分へ深い傷を負わせ、そしてそれと共に登ってゆけ。

 この傷は、不利益なことではない。べートが嫌う、「何の意味もない傷」じゃない。

 

 これはーーー英雄へと近づく、決して消えることのない「傷」となる。

 

 

 彼女も、自分のように己を傷つけ、今の地位にいるはずだ。

 

 自分に巻き付く鎖が徐々に解かれ、そして彼女は、ニッコリと微笑んで、口を動かす。

 今はその言葉は聞こえないけど、でもーーーーこの枷と傷と共に、そしてあなたが、僕にそれを聞かせてくれるのなら。

 

 

 僕はあなたを憧憬として、高みを目指そう。

 

 

 

 

 

 ウォーシャドウが生み出され、立ち上がったベルにへと群がる。

 べートがじっと見つめる中、ベルはふらりと、べートの方を振り返った。

 その瞳にはーーーー拭えない、決意の光が灯っている。

 ベルは、口を開いた。彼が応えなくても、嫌がってでも、これだけは彼にーーーべートに聞きたかった。

 

 

 「べート、さん」

 

 

 

 

 『貴方は、僕が強くなれると、思いますか?』

 

 

 

 

 それは一欠片の不安。誰もが抱く、迷いの言葉であった。

 

 べートはその言葉を聞き、静かに目を伏せ、そしてーーーー冷たく冷酷な瞳で、こう返した。

 

 

 

 

 「強くなれねぇなら、巣に篭ってろ。雑魚はそれがお似合いだ」

 

 

 

 

 ベルは満足そうに微笑み、そして構える。

 たとえこの身がボロボロになろうとも、たとえ彼に認められなくても、ベルは歩み続けると決めたのだ。

 ウォーシャドウがベルに攻撃を仕掛ける。四方八方から向かってくるウォーシャドウに、ベルの頭は冷静だった。

 憧憬が思い浮かばれる。思い浮かぶは、あの金髪の美少女とーーーそして、自分を見守る、勇ましい狼人の背中。

 

 (ーーーああ、そうか)

 

 ベルは、ウォーシャドウを切り裂きながら、気づいた。

 

 

 (貴方は、もう既にーーー僕の、憧れの人だったんだ)

 

 

 

 

 彼の冷徹で冷酷な琥珀の瞳にーーー憧憬の兆しを思い出しながら、ベルはモンスターを切り裂き続けた。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 どうしてあんな言葉が出たのか、自分でもわからない。

 まるで昔の自分を重ねたかのような発言に、彼は舌打ちした。

 だが背に腹はかえられない。もう彼は、自分の言葉を理解しているのか定かではないがーーー立ったのだ。自分の足で、しっかりと。

 強者に蹴落とされることもなく、ただ無様に寝転がるわけでもなくーーー自分の二足で立ち、そして拙くても戦うーーーまるで猛獣のように戦う白兎に、彼の口角が無意識に上がる。

 影のモンスターが全て消え去り、ルームの中心に立ち続ける血だらけの彼は、もうあの時のような牛の血を被った「雑魚」ではない。

 

 「ーーー上出来だ」

 

 

 白兎は、「弱者」へと昇格した。

 

 彼はーーーべートはほくそ笑み、意識を失っている白兎の元へ、踏み出した。

 

 

 




 友達に前作のやつを見せたらこう言われました。

 友達「あとがきの愛が凄いなおい」

 私「(っ'ヮ'c)ファァァァァァァァァァァwwwwww」

 今回はベルの成長シーン。前作とは違いとてもシリアスとなっています。原作を読んでみたら、やっぱりべートきゅんは所々「自分は強くなった」と、言葉を悪くすると調子に乗ってるシーンがあるなぁという勝手な偏見で決め、そしてその度に自分を改めてまた強くなるというシーンが……あると……思うんですよ……?(震え声)
 ちなみに8巻の好きなシーンはいっぱいあるんですけど、レナちゃんとのデートとか、最後のレナちゃんの言葉とか、リーネ様とべートきゅんとか、全力疾走で逃げるべートきゅんとかいっぱいあるんですけど、一番震えたシーンはロキ様が出てきたところですね。全てを見透かしてべートきゅんをサポートしつつも、やっぱり遠くなっていくことに悲しくなるのがヤバイです。そしてべートきゅんの「俺はまだ雑魚だったってことだ」という言葉も私の涙腺に触れて「べートきゅうううううううん!!!」と顔を伏せました。ロキファミリア色々やばすぎなぁい?
 というわけで本編に戻ります。次回はちょっと文を足しての投稿で、1章が終わるわけですね!リメイクも閲覧していただきありがとうございました!また次の投稿でお会いしましょう!

 べート・ローガぁー!だぁーい好きぃー!!

 あと日刊ランキング5位ありがとうございますボソッ


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持たれた冀望




 翔ぶ、貴方。





 

 

 

 

 

 今、ベートはヘスティアと対峙していた。

 この一文だけでは何を言っているのか分からないであろう。それもその筈、ベートも何故自分がこんなにも凄まれているのか、心当たりがないのだ。ベルも半裸でベッドに縮こまって、こちらの様子を伺っている。

 しかし大体の予想はつく。ヘスティアが握りしめている紙が、全てを物語っている。

 

 「……ベート君。ボクはね、君にすごーーーーーーく聞きたいことがあるんだけど」

 

 「……ンだよ」

 

 ベートが面倒臭そうに返した直後、ヘスティアは持っていた紙をベートの眼前に叩きつけ、こう迫った。

 

 「この!!ベル君の!!異常なステイタスの伸びは!!一体何なんだい!?」

 

 

 ーーー予想通りすぎて怖ェ。

 

 

 ベートは改めて、自分の察しの良さを恨んだ。

 

 

 

 

 

 全アビリティが異常なまでに上がったベルのステイタスに、さすがのベートも瞠目する。このステイタスの伸びは、ただの努力では計り知れない異質なものであった。

 なら何がこうなったのか。まずヘスティアとベートが目をつけたのは、ベルに最近発現したレアスキル【憧憬一途(リアリスフレーゼ)】だった。いや、十中八九このスキルが原因と見て間違いないであろう。そう、ベルのスキル欄を見るまでは。

 ステイタスで目を見開いていたベートの目に、あるスキルが目に入る。これはベルにも見せるので、憧憬一途の事は消されていたが、それはベートを動揺させるに十分なスキルであった。

 

 「……そのスキルの事についても聞きたいんだよ。そのスキル名、読んでご覧?」

 

 ヘスティアが訝しげに聞いてくる。

 ベートは操り人形のように、そのスキル名を口にした。

 

 

 「ーーー【冀望の凶狼(スペラガンド)】」

 

 

冀望の凶狼(スペラガンド)

・強者を望む限り全アビリティ上昇

・対象が凶狼の場合、比例して成長する

 

 

 

 「……なんだ、こりゃ」

 

 「でもそれ、ほぼ君が原因で出たんだろう」

 

 「……らしいな」

 

 ヘスティアの言葉に何も出てこない。しかし、何故こんなスキルが出たのか。原因を探るのならばーーーベルが嘲笑された、昨日の出来事しか思いつかない。

 しかし自分はベルに何もしていない。ただ言葉を投げかけただけである。なのに何故、こんなスキルが生まれたのか。

 

 「……あ、あのー……神様?ベート、さん?」

 

 今まで蚊帳の外にいたベルが、恐る恐る二人に声をかけた。

 

 「その、何かあったんですか……?スキルとか、何か、聞こえたん……です、けど。もしかして、僕にも念願のスキルが出たんですか!?」

 

 「……あー、うん、デタヨデタヨ」

 

 今更ベルを送り出してから聞けばよかったと後悔するヘスティアだが、こればかりはさすがに我慢ならない。只でさえ剣姫によって発現したスキルのこともあるというのに、今度は自分の眷属によって発現したスキルなど、冷静さを欠けてもしょうがないのだ。

 こればかりは、黙ってはいられないであろう。それに自分の眷属だ。憧憬一途のように、他のファミリア関連のものではない。嘘が下手な彼に言うのは本当に、色々な意味で嫌だが……腹を括ろう。

 ヘスティアはベートから紙をひったくり、それをベルに見せた。

 

 「うわぁ……!ついに念願のスキル!一体どん………………ッッ!?!?」

 

 目線をスキル項目に移した時、ベルが石像のように固まってしまった。フルフルと手を震わすことも、パクパクと口を動かすことも、何もせずにただあのスキルを見つめるベルに、ヘスティアは「ベル君?」と顔を覗き込む。

 ベートはあのスキル名を思い出し、ふと気になったことを口にした。

 

 「……冀望、ねェ……。お前、俺に何を望んでんだ?」

 

 「ーーーーうぇっ!?え、あ、え、えええええとですねぇっ!?あ、あの!いや、えっと……!!」

 

 「あ?」

 

 あの昨夜の出来事に、ベルに何か思いが出来上がったのか。それはベートに対しての、強い願い。ならベルは、ベートに一体何を望んでいるのだろう。それが分からなければ、ベートのモヤモヤは晴れなかった。

 しかしベルは用紙を握り締め、真っ赤になって首を横に振っている。それは明確な拒絶ではなくーーーただの、羞恥。

 つまりベルは恥ずかしがっているのだ。そしてこのスキルにも、ベルにも何となく思い当たることがあるのは確定。

 だからこそ、ベートはその真意を聞き出したかったのだが……。

 

 「ぼ、ぼぼぼぼ僕!さ、早速ダンジョンに行ってきますねッッ!?」

 

 「え、ちょ、ベルく」

 

 「で、ではああああああああ!?」

 

 ベルは今までのものとは比べ物にならない程の速さで衣類を掻き込み、そしてまるで変身したかのように素早く衣類を着て部屋を出ていった。用紙を握り締めたまま。

 

 「……ンだよ、彼奴……」

 

 「……そ、そんなに恥ずかしがること、なのかな……?」

 

 ヘスティアとベートは、未だに直されていない開放感のある出入口を眺めながら、そう呆然と零したのだった。

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 「馬鹿だ馬鹿だ馬鹿だ……ッッ!」

 

 本当に、自分は大馬鹿者だ。

 

 「うわあああああ……!」

 

 こんな、こんな形で現れるなんて。

 

 ベルはメインストリートを抜けた後、噴水の縁に腰かけた。そして握りしめてグシャグシャになった用紙を、もう一度広げる。

 

 「…………ううううう……」

 

 そして、静かに悶えた。

 これは昨日、無我夢中にモンスターを狩りまくっていたベルに形成された、ベートへの強い思いを具現化したものだろう。そうに違いない。

 そう、このスキルを、ほぼベルは理解している。何故このスキル名なのか、何故今、発現したのか。その全てを、ベルは理解しているのだ。

 

 

 

 自分と同じ冒険者に貶され、今の自分の弱さを思い知らされた昨夜。それはベルにとっても忌み嫌う日であり、同時に英雄に近づく一歩だと実感している。

 だから、モンスターを殺しまくった。ただ夢中に、この悔しい思いを、憤怒を、悲しみを振り払うように。

 ウォーシャドウの大群が一時的に止み、ベルの体力が限界に近かったその時、ベルの背後に言葉を投げかける人がいた。それが、ベートだった。

 ベートの言葉は全てベルに突き刺さった。そしてそれら全てが正論だと、深々とベルの心に突き刺さる。

 正直、ベルはこのベートの声を、あの時は全て幻聴だと思っていたのだ。弱者に興味を持たないベートが、自分に喝を入れるために来るはずがないと思い込んでいたから。

 だからベルは答えなかった。

 そして、この幻聴がベルの原動力となる。倒れ伏せていたベルの体をさらに追い込み、そして奮い立たせることで、ベルはさらなる高みを目指す。

 ウォーシャドウの大群が再度現れた時、ベルはモンスター達に噛み付いた。自分の弱さを、醜さを、全てモンスターにぶつけて。

 その間の記憶はない。ただモンスターの肉を斬る感触と、自身に走る痛み、そして誰かに声を投げかけられている体感だけが、ベルに残っていた。

 我に返ったのは、ウォーシャドウを全て殺した後だった。

 その時、ベルはベートの方を振り返る。それはほぼ無意識の行動で、ベルの意識の元動いていたわけではなかった。

 そしてその時に、ベルは見た。

 

 

 

 ベートの眼の奥底に眠っている、『英雄』の瞳を。

 

 

 

 ああ、そうか。

 ベルはその時に悟った。ベートが何故自分なんかに言葉を投げかけるのか、何故自分に構うのか。

 ベートが自分をーーー『弱者』だと思っているから、ここにいるのだ。

 ベルはベートという狼人を幾分か理解していない所がある。彼の評判も、稼ぎも、性格もスタイルも、全てを理解していない。

 しかし、今の彼の瞳は手に取るようにわかる。弱者を見下し、そして嘲笑う眼だ。それは自分が弱者だから、ベートがそういう目をしているから。

 しかしベルは、そのベートの眼にーーー『憧れ』を、持った。

 

 (ーーー遠い)

 

 ベルとベートの間は、とても遠い。螺旋階段のスタートラインにいるベルは、遥か頂上にいるベートに追いつくなど、今は無理な話だ。

 しかし、だからこそ、ベルは駆け上がらなければならない。ベートという「強者」を越えるために、そして自分という「弱者」を進化させるために。

 だからベルはーーーベートの眼に、『冀望』を持った。

 その見下される眼。弱者を見下ろすその眼は、ベルを奮い立たせるには充分だった。

 そして同時に、ベルは望む。

 ベートがーーーもっと、遥か頂上に行くように。

 

 

 自分の英雄の道が、さらに素晴らしい道程になると信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 (なーんてこと思ってさああああああああああああ!?)

 

 全てを思い出して、ベルは頭を抱えた。

 ベルは強者のベートに強い憧れを持った。彼が高みに行く度に、自分もそれを追うかのようにさらなる高みに行けるかもという、全てはベルの強い憧憬によって産まれたものだった。

 こんな事をベートに言ってみろ。絶対に「巫山戯んな」と一喝されるに違いない。というか、彼を憧れてもいいのだろうか。彼は迷惑にしないだろうか。その不安がベルを占めているのだ。

 

 「…………で、でも、これって英雄に近づいたっていう、こと……だよね?」

 

 しかしこれも、強くなるために、ベートが望む強者に近づいたということだろう。そう割り切ってしまえばいいのだ。決してこれからベートに追求されるのが怖いとかそういうのは抱いていない。

 

 「……強くなるって、決めただろ」

 

 もう誰にも、見下されない。ベートにも、あんな眼をさせない。

 ベートの琥珀の眼を思い出す。自分よりも、遥かに「弱者」を実感している強い瞳。彼も底辺から這い上がって、今の地位がある。

 その『憧れ』を、ベルはこれからも背負っていく。

 そしていつかーーーベルが望む『冀望』に、届くであろう。

 

 「……ふぅ。よし!」

 

 用紙を丁寧に折り、落とさないようにポケットに入れ、ベルは自分に喝を入れる。

 

 

 

 これは、一種のスタートライン。

 

 

 

 

 

 まだ彼らの冒険は、始まったばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「君は、憧れを持たれるのは嫌かい?」

 

 ヘスティアは、背を向けて寝転がっているべートに問いかける。

 べートが暫しの沈黙の後、ボソリとその問いに答えた。

 

 「ーーーー別に」

 

 

 その時のべートの表情は、何か昔を懐かしむような、穏やかな表情であった。

 

 







 特にここは変更点が見当たらなかったので最後を付け足しただけですが、もしおかしな所があったら指摘をお願いします。即刻変更します。
 さてこれでリメイク前の分が投稿終了となりました!次は第2章、怪物祭の話に移ります!べートきゅんとアイズちゃん絡ませるぞ^〜。リーネ様とも絡ませるのもいいかもね!
 第1章はベルきゅん成長章ということで、リメイク前も後も読んでくださりありがとうございます!第2章も読んでくれると、今ならべートきゅんの獣耳尻尾が触り放題!(殴)
 さぁ最後はこれで締めましょう!


 べート・ローガぁー!愛してるううううううーーー!!!



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兎も上れば狼も上る
前略※報告



二話のしょんぼりベートきゅんに母性愛が生まれた作者が書いた作品はこちらです。





 

 

 

 

 ダンジョン17階層。現在ベートはその階層を出る所である。溜まりに溜まったバックパックを背負い直し、持ち前の俊足で一気に駆け上がる。

 通り際にやってくるモンスターを蹴散らしながら、ベートは昨夜ーーーヘスティアが『神の宴』に行く前の出来事を、徐々に浮かび上がらせる。

 

 

 

 *

 

 

 

 「何?ヘファイストスに兎野郎の武器を作らせる?」

 

 昨夜、秘密裏にヘスティアに呼び出されたベートは、ヘスティアが出した提案に瞠目した。ヘスティアは至って真剣に、頷く。

 

 「別にヘファイストスに作らせるわけじゃないんだ。ヘファイストスの団員が、出来れば作って欲しいなということを、次の神の宴でヘファイストスにお願いしてみようと思う」

 

 「テメェ、分かってんのか?弱者に強者の武器を持たせれば、弱者は腐れ散る。それくらいテメェも分かってんだろ」

 

 ヘスティアは俯くも、静かに首を横に振る。

 

 「分かってるんだけど、このまま何もせずに、ただ見守る事なんてボクには我慢ならない。お節介だというのは分かっているけれど」

 

 「俺ァ反対だ。まだあいつには早すぎる」

 

 ベートはヘスティアの提案を即刻切り捨てた。

 当たり前のことである。まだ冒険者になってままならないベルに、いきなり都市随一の鍛冶ファミリアの武器を持たせるなど、逆にベルが振り回されてしまう。そうなってしまえば、あの時見たベルの勇姿が、全て無駄になってしまう。それだけは、ベートは何としてでも阻止したかった。

 ヘスティアは何かを考え込み、やがてグッと口を噤んで、顔を上げる。ヘスティアの瞳にベートが映り込み、またベートの瞳にも、ヘスティアが映り込む。

 

 「そうだね、確かにベル君にはまだ早い。……でも、せめて彼の力になりたいんだ」

 

 「だからまだ彼奴に……」

 

 「今じゃなくてもいい!何年でも、何十年先でもいいから!もし君がベル君を認める時が来たら、その時に作ってもらった武器を渡すのはどうだろう!?それだったら君もいいだろう!?」

 

 「………………」

 

 ベートは少し考え込む。確かに"今の"ベルには早すぎると言った。しかし何十年後、もしベルが自分くらいの強さになったら……と、その姿を想像する。それなら、別にヘファイストスで作ってもらった武器を持っても別にいい。

 だが別の問題がある。ベートはそれを提示した。

 

 「……金はどうなる」

 

 ヘスティアファミリアは貧相なファミリアだ。ファミリアの資金は勿論、食材や日用品などは全てベートが担っている。もしその資金が無くなるほどの莫大な値段を取られたら、ファミリアは金欠で終わるかも知れないのだ。

 その不安を突きつけてみれば、ヘスティアが「いや」と首を横に振った。

 

 「これはボク自身が決めたことなんだ。ボクが自分で払う」

 

 「ヘファイストスファミリアだぞ?」

 

 「それでもだ。ーーーー可愛い眷属(子供)のためなら、ボクは何だってする」

 

 ヘスティアは優しく、慈悲の笑みを浮かべる。その笑みは、あの初めて会った時のことを思い出させた。

 

 

 

 *

 

 

 

 

 あの後、結局ベートはヘスティアの提案を呑むことにした。しかし完全に認めた訳では無い。もしベルが「弱者」としてあるまじき行動をした場合は、即刻ヘスティアの提案を切るつもりである。

 いつ武器が作られるかは知らないが、もし作られていなかったら契約破棄の準備でもしようか、と考える。

 

 「…………」

 

 そんなベートの前に、あるモンスターが現れた。フッ、フッ、と荒い呼吸を繰り返し、こちらを見下す牛のモンスター。

 『ミノタウロス』。このモンスターは、ベルの宿敵である。

 そういえば、彼があんなにも急成長したのは、このミノタウロスとの出会いだったはずだ。そしてその後にアイズに助けられ、叶わぬ憧憬を背負うこととなった。

 

 「…………馬鹿馬鹿しい」

 

 ベートは蹴り一つでミノタウロスを粉砕する。ゴトリと残された魔石は、少し考えて手に持って、歩き出した。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 「今年もやるのか?あれ……」

 

 「怪物祭(モンスターフィリア)か……」

 

 「あんなのやる意味あるのかしら……」

 

 ベートが地上に出た時は、既にその話題で持ち切りであった。

 『怪物祭』。ガネーシャファミリアが主催する。調教師(テイマー)同士の戦い。つまるところーーー闘技場みたいなものである。ダンジョンで調教したモンスターを引っ張り出して戦わせるのが、この祭りの真骨頂だ。しかし、本来ならばモンスターは地上に出してはならない。なのでこの祭りに不信感を抱くものも少なからずいる。

 

 (……くだらねぇ)

 

 少なくとも、ベートもその一員だ。わざわざモンスターを引っ張り出して戦うなんて高が知れている。そもそも好き好んでやるはずがない。なので何故ここまでしてこの祭りを続ける意味があるのか、ベートには理解出来ない。

 ギルドに来て、魔石を換金する。今回の収穫もいつも通り。これなら暫くはダンジョンに潜らなくても家計は保てるであろう。

 要件を済ませて、ギルドを出た時だった。グッと突き刺さる好奇の目と、嫌悪の目。それら全ての視線がベートに突き刺さる。殆どの冒険者から向けられた目は、決していいものではない。

 ベートは都市中の嫌われ者である。事ある事に罵声やら喧嘩やらと、素行の悪さを悪評させられたせいか、こうしていつも通りに過ごしてもこうやって好奇の目に晒される。

 

 「……ハンッ」

 

 ベートはそれを一瞥した。反省もせず、否定もせず、指摘もしない。何故ならここで暴れても、「彼らは進化しない」と見限っているからだ。

 ーーー自分を恨むくらいなら、牙を磨け。

 その目を周囲に睨みつけ、彼らを萎みさせたベートは、満足気に残念そうに、メインストリートを歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 ボロ協会の地下深くにヘスティアファミリアのホームがある。やっとのことで扉の修繕を終えたその入口を、ベートは開けた。

 

 「……まだ帰ってきてねぇのか」

 

 ベートは部屋中を見渡して呟く。

 ヘスティアが神の宴に行って二日目の昼。まだヘスティアは帰ってきていない。何日か開けるとは言っていたが、もしやヘファイストスの件で伸びに伸びているとは思いたくもない。

 ……一体どうやって交渉するのだろうと、今更ながらに気になった。

 ベルも帰ってきていない。つまり実質、今ここにいるのはベートしかいない。

 

 「……ステイタス更新してぇなぁ……」

 

 ベッドにゴロリと転がったベートの言葉は、砂時計のように消えていく。

 ベートはステイタス更新を暫く行っていない。なのでそろそろ自分のステイタスが気になり始めたのだ。出来れば早く帰ってきて欲しいが、二日連続で留守となるとさすがに我慢ならない。

 

 「…………チッ」

 

 入口に背中を向ける形でベートは寝転がり、目を閉じる。

 

 暇になったらダンジョンか睡眠。ベート自身が決めた暇を持て余した"遊び"である。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 「えっ……ベートさんが?」

 

 ベルが豊穣の女主人に来たのは、あの時食い逃げをしてしまったツケを払う為である。だがどうやら、そのツケはもう支払われた後らしい。

 ミアが鼻を鳴らす。

 

 「あんたの分だって言われて渡されたんだよ。その後、あんたから金を巻き上げるって聞いたけど?」

 

 「そ、そうだったんですか……後でお金返さなきゃ……」

 

 ベルは食い逃げ分のヴァリスの袋を抱えながら、不安そうに瞳を揺らした。まさかあのベートが自分の分を払ってくれるとは思わなかったのである。

 恐喝されるだろうか。それか凄まれるだろうか。色々なことを考えるだけで胃が痛くなった。自業自得なのだが。

 

 「……ま、これは蛇足だと思うんだけど」

 

 不意に、ミアが頭を掻きながらそう言う。ふっとベルが顔を上げ、ミアの顔を見ると、ミアは遠い、何かを憐れむような目をしていた。

 

 「……あんたが思うように、彼奴は強くないよ」

 

 何故かその言葉が、ベルの心に強く突き刺さった。

 

 

 




 神の宴部分も書こうとしたけど断念しました。
 今回はすごい短い。ごめんね……怪物祭始まったらいっぱい書くからね……!!
 さてソードオラトリア二話。そして皆さん観ましたか?観ましたか?観ましたか??ベートきゅんの姿。あの垣間見るあの映像、



 しょんぼりするベートきゅんが可愛すぎてやばいああああああああああああああああああああああああ!!しょんぼり!!耳が垂れてね!!尻尾が力なく振られてるの超可愛い!!ニコ動でも「可愛いwww」って言われとったけど正にそうだと思う!!うん、絶対そう!


つまりベートきゅんは可愛いんですよ!!ああああもう!!

ベートきゅんそんな所も大好きだああああああああああああああああああああああああ!!!


あ、Twitterアカウント作りました→@g_san_nokokoroe
低浮上ですが突然現れてベートきゅんの話をします。あとがきでも抑えきれなかったらTwitterで呟きまくります。


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三度の飯よりダンジョンだが、やはり飯は食べないと戦は出来ぬ



 ベートきゅんにおんぶされて永遠にベートきゅんの頭を弄り倒したい。




 

 

 

 

 

 「…………ぁ?」

 

 パチリ、とベートが目を開けると、照らす眩しい光がベートの顔を覆った。それを忌々しく睨みつけ、彼は気だるげそうに起き上がる。少しだけ体を伸ばし、まだ覚醒しきっていない頭のまま、辺りを見渡した。

 自身のホームである教会地下。物は散乱しておらず、古ぼけた床や亀裂が入っている壁が見え隠れする。ベッドの側には昨日自分が放っておいたヴァリスが入った袋があり、そこから金色の輝きが覗いていた。

 

 (……ああ、昨日はそのまま寝ちまったのか)

 

 やっとの事で覚醒したベートは、頭をボリボリと掻いた。

 別に地上で寝過ごす事は珍しいことではない。Lv.1の時は疲労で倒れ込んだ時もあったし、酒の飲みすぎで二日も寝込んでいたこともある。今更寝過ごして足掻く方が可笑しい。

 だがこれがダンジョンなら別である。そもそもダンジョンで寝るという行為が自殺行為なのだ。安全に寝床につくには、安全地帯である階層につく必要がある。もし安全地帯以外の所で睡眠を取ればーーーと、最悪な事態を思い浮かべる。

 まぁ、ベートは音や臭いに敏感なので、安全地帯以外で一休みする事など多々あったが。

 

 「……まだ帰ってきてねぇのか」

 

 グルリと見渡し、ベートはそう吐き捨てる。

 物が散乱していない所を見ると、どうやらベート以外は帰ってきていないらしい。いや、若しかしたらベルは一度帰ってきたかもしれない。その後自分に遠慮して、静かに出ていったのかもしれない。有り得る事である。

 

 「ッあ"〜……体動かすかぁ」

 

 コキリ、と首を鳴らしたベートは、ヴァリスが入っている袋をベッドの上に置き、バックパックを背負う。寝過ぎたせいなのか、体がいつもより重くて仕方がなかった。この体を解すために、今日もベートはダンジョンに潜るのである。

 さぁ、いざ行かん、ダンジョンへ。

 ……と意気込んでいた時、ベートの腹からグゥと、可愛らしい音が部屋中に響き渡る。

 

 「……まずは、飯から、か」

 

 昨日の昼食から何も食べていない事を思い出し、ベートは少しゲッソリとした顔で、ホームの扉を開け放った。

 

 

 

 

 

 

 

 「ベートさんにお金、返しそびれちゃったな……」

 

 はぁああ……と深く後悔に追われるベルは、フラフラとメインストリートを歩いていた。バックパックには、ベートに渡す筈の件の勘定のヴァリスの袋が入っている。

 実はあの後直ぐに帰ったのだが、ベートがぐっすりと眠っているもんなので、起きるまで待っている事にしたのだ。しかしなかなか起きず、自分がひょこりと眠りから覚めても、ベートは眠ったままだった。

 どうしようかと考えたベルだったが、ふとベートに渡す筈のヴァリスが入っている袋に目を落とす。あの勘定分ではなく、もっと多めに貢げば、ベートも喜ぶのではないのか?もっと稼いでいけば、ベートも笑顔を見せるのではないか?とベルは考えた。

 そうと決まれば、とベルは早々にホームから出たが、バベルに向かう間に徐々に後悔に蝕われていった。あのまま渡せばよかった。自分の欲のために先送りにするのは良くなかった。自分の馬鹿、と自己嫌悪に浸り続ける。

 もうこのままダンジョンで荒稼ぎして、もし怒られたら全力で土下座しようと考えた時だった。

 

 「そこー!そこの白髪頭ー!!」

 

 一瞬自分のことだと分からなかったベルは辺りを見渡した。しかし明らかに呼び声がこちらに向かっているので、声をした方を見る。

 これでベルの一日がど迫力のある忘れられない、そして成長の一頁となる事など、この時のベルはまだ思いもしなかった。

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 妙に都市がざわついていた。それはまるでお祭りのような、楽しげな声が都市中に飛び交っていた。

 チラチラと辺りを見渡したベートだが、屋台や彼らの会話を盗み聞きし続けれていれば、ある程度状況は掴めてきた。

 今日は怪物祭(モンスターフィリア)なのである。メインイベントはガネーシャファミリアが主催する、モンスター同士の闘技ーーー恐らく、そこを求めて祭りに参加する住民が多数であろう。

 ベートの横を過ぎ去り、楽しげに雑談する住民達を一瞥した。そしてベートはーーーー何も浮かべなかった。

 そもそも、ベートはこんな祭りなどという催しは一回も参加した事がない。そんなものに手を出すくらいなら、ダンジョンで腕を磨く方を優先したいのだ。生温い感情まで付け込まれるのは、ベートのプライドが許さない。

 なので祭りの雰囲気には流されず、ベートはただ無関心に、真っ直ぐにバベルへと向かっていく。今日は祭りだから冒険者は少ないはずだ。久しぶりに長く滞在してしまおうか、と予定を組み立て始める。

 と、ここでベートの腹がまたグゥ、と空腹を訴え始めた。そういえば腹を空かしてこの道を通ったのだった、と今更ながら思い出し、ベートはここから近い酒場へ行こうと進路を変える。

 そう振り返った時だった。

 

 「ッぇ」

 

 「あ」

 

 ドンッ、と振り返った瞬間、誰かの肩が当たり、その人物を倒してしまった。彼ーーーいや、彼女は尻餅をつき、可愛らしく「いたた……」と、痛みを訴える。

 露出が少ない桃色の服装。長く伸びた髪をポニーテールにし、身軽そうな格好をするーーー耳が尖っている、美しい少女。

 エルフの特徴を掴んでいる少女は、こちらを見上げて申し訳なさそうに俯いた。

 

 「ご、ごめんなさい……前を向いていませんでした……」

 

 「…………いや、急に振り返った俺も悪い。立てるか?」

 

 流石に一方的な責任を押し付けるほど、ベートは薄情ではない。少女を立たせようと手を差し伸べようとしてーーー手を引っ込めた。

 エルフは見知らぬ輩との肌の接触を好まない。信じあっている仲間同士としか、肌の合わせ合いをしようとはしないのだ。それを知ってきたベートはすぐ様手を引っ込め、少女が立ち上がるのを待つ。

 

 「……手を差し伸べようとしてくれたんですね、ありがとうございます」

 

 どうやら少女はベートの行動が見えていたらしい。感謝を述べる彼女に、ベートは「別に」と返した。

 

 「テメェらエルフ共は仲良し小好しを好まねえんだろ?」

 

 「よっ……と。いえ、そういう訳ではありませんよ。確かにエルフはそういう人はいますが……少なくとも、私はあまりそういうのは気にしていません」

 

 自身の力で立ち上がり、埃を払ったエルフの少女はそう弁解する。しかしベートはあまり興味無さげに「ふーん」と返し、少女に背を向けた。

 少女とベートはただぶつかっただけである。少女はあまり怪我をしていないようだし、そんなにも気にしていないので、ここで立ち話をするのも時間の無駄であろう。三度の飯よりダンジョンという真髄を持ち合わせるベートは早々に立ち去り、腕を磨こうと歩き出した時だった。

 

 「あ、あの!」

 

 先程の少女がベートを呼び止める。億劫そうに振り返るベートが見た彼女は、何故か緊張していて、視線を彷徨わせていた。

 

 「だ、大丈夫……が、頑張れ、レフィーヤ・ウィリディス……」

 

 聴覚に優れているベートは、彼女のほんの呟きも聞き逃さない。何故自分を励まし、何を頑張ろうとしているのか定かではないが。

 このまま何も言い出さなかったら無視して行ってしまおうと考えていた時、「あの!」と少女の呼び声がまた響く。

 

 「……なんだよ」

 

 不機嫌を全く隠さない低声で答えれば、彼女は少しだけ身を逸らす。しかし、まるで断崖絶壁に踏み込むように前のめりになった少女は、頬を少しだけ赤らめさせてこうベートに提案した。

 

 「あ、朝ご飯がまだでしたら!い、一緒に食べませんか!?」

 

 「断る」

 

 少女の懸命?な提案をベートは速攻で切り捨てる。即答で拒否された少女は、ガックリと項垂れた。

 真逆そんな事の為にと若干拍子抜けしているベートは、今後こそ少女の前から去ろうと背を向く。

 

 「な、なら!あの、少し一緒に周りませんか!?怪物祭!」

 

 「そんなのに行く暇があったら俺はダンジョンを選ぶ」

 

 またも即答されるが、少女は負けじとベートに詰め寄る。

 

 「そ、そうだ!あの私実は一緒に来た人とはぐれてしまって!その人が来る間でもいいんです!一緒にお話しませんか!?」

 

 「独りで待ってろ」

 

 「ぶつかった罰です!れ、レディに怪我を負わせることなんてご法度なんですよ!?」

 

 「それだったら冒険者なんざやるな。てかテメェは怪我すら負ってねぇじゃねぇか」

 

 「うううう……!!」

 

 少女の提案を尽く切り捨てていくベートに、少女はさらに項垂れる。少女の周りに幽霊が憑いているのかと思うくらいに、少女はどんよりとした。

 

 (……何でこんなに執拗に迫ってくるんだ?此奴)

 

 ベートは彼女が何故こんなにも自分といたがるのか疑問に思った。

 こちとら赤の他人なのだ。あまり深く関わらずにそのまま去るのが、ベートは当然の事だと思っている。だがこの少女は初対面にも関わらず、こうしてベートに迫っては迫ってくる。

 はっきり言って、鬱陶しい。

 ……だが、もし自分の事を知っていて、そして自分の秘密が知りたいのだとしたら。

 ベートの名は悪い意味で広がっている。恐らくこの少女の耳にも届いているはずだ。そう考えてしまえば、色々と仮説は浮かび上がってくる。

 自分が罵倒した中に、この少女が信仰する人がいた。それを少女は許さずに、こうして自分に迫っているとか。

 Lv.5の冒険者と同じようなことをやれば、自分も強くなるのではないか、とか。

 ベートのあらぬ噂を流す為に、こうして信憑性のある話を吐かせようとしている、とか。

 浮かべば浮かぶほど碌でのない。しかしこんな事を思い浮かべてしまうほどに、ベートの評判は悪い。それは本人も自覚しているし、そして反省もしない。

 ……切り捨ててしまおうか。

 ベートはまだ落ち込んでいる少女を見下ろして、そう判断する。

 彼女が何を思っているのか知らないが、ここで言葉の滅多刺しをしてしまえば、こうして執拗に迫られる事は今後ともないであろう。

 保険、そう保険だ。今後またこういう事が起きないようにという、保険だ。

 

 「…………朝飯に付き合うくらいなら、別にいい」

 

 そう言った途端に、少女の顔がバッと上がる。瞳を爛々とさせ、とても歓喜溢れる顔をして。

 

 ふとその表情が、記憶の中にいる「彼女」と、重なった。自分より弱くて、貧弱で、脆弱な彼女。自分の力で手に入れた、愛おしかった彼女。

 彼女の笑顔も、この少女のように美しいものだった。

 

 (………………)

 

 ベートは少女と「彼女」を重ね合わせながら、ガッツポーズをしている少女の隣に居続けた。

 

 






 三度の飯よりダンジョン→お前朝飯めっちゃ食いたそうにしてたやんけぇ!!
 どうもどうも爺さんです。え?何でアイズちゃんにしなかったのかって?だってあの子ロキと一緒にいるジャマイカ!
 →じゃあ誰と絡ませよう……リーネちゃんはもうちょっと先で……。
 →じゃあティオナとティオネとはぐれたレフィーヤちゃんにしようっと!
 という訳でこうなりました。レフィーヤちゃんが何故こんなにもベートと一緒にいたがるのかは次回で。

 Twitterアカウント作りました
→@g_san_nokokoroe

 ベートきゅんの事ばっかり喋っています。あとがきでは嫌になる人もいたので、今後はこちらでベートきゅんのことをいっぱい話させていただきます。従いまして、今まで暴走していたあとがきは少しばかり落ち着くと思います。"思います"。
 それではまた次回……!

 ベートきゅうううううううううん!!!愛してるううううううううううううう!!!!



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ポロリと

私「お、ベルきゅんだ!可愛い」
私「ヘスティア様デカイ……」
私「リリちゃん可愛いあ^〜」

私「ベートきゅんぎだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッ!!!!!」

 ベートきゅん出た時の喜びがやばい



 

 

 

 

 「……………………………………」

 

 「……………………………………」

 

 二人してじゃが丸くんを食す。ちまちまと可愛らしく食べるレフィーヤとは対照的に、ベートはガツガツと半分以上も食べ進む。

 彼らをよく知るものが見たらとても異様な光景だが、祭りの勢いに勝つことは出来ず、すっかりこの雰囲気に溶け込んでしまっていた。

 チラリ、とレフィーヤはベートを見上げた。左頬に刻まれている刺青がとても痛々しく見え、少しだけ目を伏せる。こちらに見向きもしない狼人に若干落ち込みながらも、またじゃが丸くんを食べ進めた。

 ついさっきじゃが丸くん店についた二人の間に会話はない。ただ単に食べ進め、腹を満たすだけ。お互いの事など見向きもしていない(ベートだけ)。

 

 (………………)

 

 チラチラと見上げてくるレフィーヤの視線を鬱陶しそうに感じながら、ベートはふと考えを改めた。

 何故自分はこのエルフと肩を並べているのか、と。

 本来の目的はこのエルフの考えをズタズタに切り捨て、もう自分に関わってこないようにする為であった。だが未だにそれが実行出来ず、内心ベートは焦っている。

 じゃが丸くん店を見つけるのに結構な時間をかけたのだから、かれこれ数十分もこのエルフと共に行動している。何も喋らず、罵倒も浴びせず、突き飛ばしもせず。

 だからベートは再度頭を抱えた。何故自分はこのエルフと共にいるのかと。律儀に一緒に行動せず、さっさと熾烈に罵倒を浴びせて去ればいいだけの話だというのに。というか、これだけ行動しても彼女の仲間がなかなか現れないのが不思議である。

 

 「………………視線がうるせぇ」

 

 「!!!」

 

 あまりにも視線が鬱陶しかったのでベートが注意すると、レフィーヤは驚いた表情を全面的に出してベートを凝視した。大方、かけられる言葉が予想と外れて驚いているのだろうと推測する。そのままさっと逸らして、誤魔化すようにじゃが丸くんを食べる。

 

 (……何がしてぇんだ、こいつは)

 

 そもそも誘ってきたのはそっちだというのに、会話というものを一切もしていない。表面上からしてみてこういう事には積極的に行いそうだが。

 一欠片となったじゃが丸くんを口に放り込み、さてどうしようかと模索した。このまま去ってもよし、待ってもよし。正直面倒臭くて溜まったものではない。

 チラリと、ベートはレフィーヤを見下ろした。こちらの視線に気づきもせずにパクパクと食べ進める姿はとても愛らしく美しい。だがそうは感じなかったベートは、あからさまに溜息を吐いた。

 

 

 もう一度、頭を抱えた。何故自分はこのエルフと共にいるのかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁ……」

 

 レフィーヤがじゃが丸くんを食べ終えるまで待っているベートの口から溜息が漏れる。

 当然、それはレフィーヤも聞こえるわけで、レフィーヤは申し訳なさそうに口を開いた。

 

 「あの……すみません、食べるのが遅くて……」

 

 「そんなのはどうでもいい。俺はテメェが何をしたいのかがわからねぇ」

 

 それをきっかけに、ベートは問いかけた。彼女の真意を探る為に。

 レフィーヤはその問いに「うっ……」と言葉を詰まらせる。キョロキョロと辺りを見渡し、そしてじゃが丸くんに目を落とした所で、恐る恐る口を開いた。

 

 「……どうして、貴方は人を見下しているんですか?」

 

 時が止まる。ベートの針が故障を告げる。

 静かに、確かに問いかけられたその質問は、過去に何回もあった。あの駄神を筆頭に聞いてくる事も多々あった。だから今更それを問いかけてくる者がいるなど、もういないのかと思ったのだ。

 

 「貴方は、人を見下す為に強くなったのですか?」

 

 ズカズカと人の懐に踏み込んでくる少女。過去にもここまで踏み込んできた駄神を思い出したベートは、チッと舌打ちを零す。

 

 「ンなふざけた理由で強くなるかよ」

 

 「じゃあ何で、見下すような発言をするんですか?どうして態と嫌われるような事をしているんですか?」

 

 「……ンだァ?それがテメェの狙いか、エルフ」

 

 そう聞かれると、レフィーヤは言葉を詰まらせた。

 それを呆れる目で見つめたベートは、面倒臭そうに答えた。

 

 「強者は何でも手に入る。強者なら何をしてもいい。態と嫌われる?ハッ、勝手な偏見は御免だな。一々そんなの気にしてちゃ後が持たねェ」

 

 「………………」

 

 「弱者は強者には叶わない。強者は弱者を喰らって生きていく。簡単な事だ。弱者が束になって足掻いた所でーーー(強者)には叶わねぇ」

 

 「………………」

 

 それは紛れもない事実であった。弱者がベートに奮い立たされ襲いかかったとしても、ベートはその者達を全て返り討ちにしてきた。

 強者は全てを喰らう権利がある。弱者は何も、強くあろうとすることも認められない。それがこの世の理であり、真実なのである。そう、ベートは信じて疑わなかった。

 雑魚は引っ込んでいろ。

 戦えもしないのに見栄を張るな。

 ウンザリだ、強がるな、さっさと身の程を知ればいいのにと何度思ったことか。

 ベートがギリッと歯軋りすると、レフィーヤはじゃが丸くんを持つ手を、ゆっくりと下げる。

 

 「……それでも、人を見下していい理由にはならないと思うんです」

 

 「理由なんざこれで十分だ」

 

 「それは貴方の傲慢さを周囲に当たり散らしているだけじゃないんですか? 」

 

 「そう思った時点でテメェはもう雑魚なんだよ」

 

 「…………」

 

 何も言ってこないレフィーヤに向けて、ベートは嘲笑する。

 

 「ほらな。雑魚は何も言わねェ。黙って俺の言い分を受け入れて勝手にキレやがる。それに何の意味があるってんだ。勝手にキレて足掻くなら今自分がやれる事をやれっての」

 

 「………………」

 

 「雑魚は変わろうとしねぇ。ーーーー俺は、そんな奴らが嫌いだ」

 

 それが、問いかけられた答えであった。

 自分に歯向かう力がないのなら、自分に当たる自信が無いのなら引っ込んでいろ。それだけでベートのその相手に対する価値観が決まる。

 つまり、ベートが人を見下す理由はただ一つーーーー「品定め」に他ならない。

 レフィーヤはジッと、顔を歪めてその言葉を聞き入れる。ベートの言葉を全て胸に留め、さらに眉を顰める。

 ベートはレフィーヤの状態を見て頭を掻いた。「話し過ぎた」と今ここで初めて会った少女に語り過ぎた事を後悔し、目線を逸らす。

 全てを話した訳では無い。ただ質問に答えただけである。だがそれだけでも要らないことを話し過ぎた。

 

 「…………それだけなら俺はもう行く。もうテメェと一緒にいる理由もねぇだろ」

 

 「っ」

 

 お前の用は分かった。それがなくなった今、ここまで一緒にいる必要は無い。

 早々にレフィーヤの前から立ち去ろうと、足を人混みの方へ向けた。

 

 「ーーーー分からなく、なってしまいました」

 

 それは、こちらの台詞である。

 

 

 

 *

 

 

 

 すっかり冷めてしまったじゃが丸くんを見下ろすレフィーヤの表情はとても暗い。既に去ってしまった凶狼の背中を追うこともなく、ただジッとそこに佇む。そんなレフィーヤを心配する声などいるはずが無い。

 迷子になったのは本当だ。同行していたティオナとティオネといつの間にかはぐれ、途方に暮れていたところにあの凶狼と出会った。そこまでは完全に偶然である。

 ただの興味本心だった。彼の噂はかねがね聞いていた。人を罵倒して楽しむ狂人。娯楽人、愉快人。そのどれもが酷いものであった。それだけ彼を憎む人がいるという事なのであろう。

 だから気になった。本当に彼は噂の人物なのかと。先ほど自分が倒れた時、僅かだが手を差し伸べようとしたところを彼女は見てしまったのだ。

 ーーー本当は、優しい人?

 そう思ってしまった時点で、彼女は何もせずにはいられなかった。

 

 

 

 結果的に言えば、分からなくなってしまった。質問に答えたらさっさと去ってしまった凶狼の事が。

 そもそも彼がこちらの誘いに乗ったことこそ奇跡に近いのだ。何故乗り気になったのか残念だがレフィーヤには分からない。それでもこちらの誘いに乗ってくれ、尚且つ質問に応えてくれたのは大きな収穫であろう。

 

 「……でも、わからないなぁ」

 

 噂の人そのもの?と問われれば、彼女は言葉を濁すであろう。確かに噂通り人を見下しているようだが、狂人やら愉快人とはとても違う。いや別物だ。つまり世間の誤認なのである。

 彼は本当に優しいのか。それとも噂よりも酷いのか。

 判断出来ないレフィーヤの元に、遠くから自分を呼ぶ声がした。その声の主を察知したレフィーヤは、ハッと目を輝かせる。

 どうやらティオナとティオネが自分を見つけてくれたらしい。そういえば、彼との約束は彼女達が来るまで一緒にいるという事では無かったのでは?

 ……まぁ、あのままでは空気が悪かったし、別にいいか。

 数々の疑問を残しながらも、レフィーヤはじゃが丸くんを持って二人に駆け寄った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その、数十分後。

 

 

 

 

 「モンスターだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!?!?」

 

 

 市民の悲鳴が、都市中に響き渡った。

 

 




 ダンメモがやばい。ベートきゅん強すぎ惚れる。あ、もう惚れてた。
 最新話のベートきゅんもやばい。耳塞ぐベートきゅんまじで可愛い好戦的なところをまじで可愛いモフりたいグヘヘ
 しかも最新刊見ました???ベートきゅん皆に愛されてるんですよ?男女関係なく男女関係なく男女関係なくここ重要混ざりたい混ざらせて。
 しかも漫画8巻ベートきゅんの裸ブゴハァ。私絶対ティオネと一緒に塀をよじ登ってた……腹筋凄い撫で(((

 Twitterフォローありがとうございます〜!ベートきゅんクラスタダンまちクラスタと判断出来る方でしたら迷わずフォロー行きます〜!アンケートなどはTwitterの方でやろうと思っていますので〜。ベートきゅんハァハァみたいなことしか呟いていませんがよろしくお願いします〜!!
 アカウントは前話確認。
 ではこの週テストなので頑張ってきますね(:3_ヽ)_

 ベート・ローガぁー!!の赤面の写真誰か持ってきてーー!!


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怪物祭ーー食人花ーー




ベートきゅんの水着姿の写真何処かに落ちていませんか(迫真)





 

 

 『モンスターが暴れだした』という民間の言葉により、メインストリートは大混乱に陥っていた。モンスターは人を喰らうため興奮した状態で人を襲い続ける。ギルドとガネーシャファミリアの迅速な対応でまだ被害者は出ていないとのことだが、このままではいずれ被害者が出てしまうであろう。

 

 モンスターの咆哮が轟く。轟音と共に建物は崩れさり、あの華やかなメインストリートは一瞬にして地獄と化していた。

 悲鳴が、血が、冒険者の猛声が飛び交う。血気盛んなモンスターは今なおこのメインストリートを荒らし続け、自分らを狩ろうとする冒険者を一捻りしている。

 ーーーだが、そんなモンスターを無傷で狩り続ける猛者もいた。

 

 「い、いやぁ!!」

 

 ニメトルにも及ぶ巨大な猪のモンスター『バトルボア』が、婦人に狙いを定めた。そしてそのまま、荒れているメインストリートをさらに荒れさせて、突進。

 婦人は足を捻って動けない。もうこのまま、生涯を醜く終えてしまうのかと死を覚悟した時だった。

 

 『ブ、ゴァ!?』

 

 横から灰色の狼がバトルボアを蹴り飛ばしたのは。

 バトルボアは驚きの声を上げた後、屋台に突っ込んだ。黒煙が立ち上り、ピクピクと痙攣させてやがて塵となる。ゴトリと紫色の石「魔石」をドロップして、バトルボアは死に至った。

 婦人は自分の側に立っている灰色の狼人に見覚えがあった。いや、見覚えが凄くある。いつも夫が「近づくな」と注意していた人物、その人だったのだから。

 

 「【(ヴァナル)(ガンド)】」

 

 彼の二つ名を呆然と呟いた。

 【凶狼】ーーーベート・ローガは舌打ちを零す。それはモンスターに対してもだが、この事態を招いた大元も含まれていた。

 

 (突然のモンスターの襲撃。モンスターはバベルからは抜け出せれない。……と考えるとすれば、モンスターを連れ出す権限があるガネーシャファミリアがこの事態を招いた張本人だと考えるしかねェ)

 

 怪物祭の主催ーーーガネーシャファミリア。まずベートはこのファミリアを疑った。ガネーシャファミリアは都市で唯一モンスターを地上に運べる権限を持っている。後は調教師(テイマー)などが存在するが、こんな大量のモンスターを軽々と手放すはずがない。となると、ガネーシャファミリアが犯人と考えるしかない。

 だが、あの主神がこんな事をするだろうか?ガネーシャは都市の人々を守ろうと日々行動している。そんな人間が、こんな不幸に陥れる事を易々とやってのけるだろうか?

 と考えて次に思いつくのは、裏切りの可能性。ガネーシャファミリアの中に裏切り者がおり、その者が悪事を働いてモンスターを解き放った。だがモンスターが閉じ込められているであろう所には、必ず見張りが配置するはず。それを全部押し切ったのか?

 

 (ーーー細けェ事は、これを終えてからにするか)

 

 彼らを囲みながら接近して出方を伺っている『トロール』。ベートはそれを見渡し、小さく息を吐いた。

 そして、迎撃。

 トロールが攻撃してきた瞬間、ベートは一瞬にしてトロールの群れを塵にした。魔石がゴトゴトと落ち、ベートは首をコキリと鳴らして、面倒臭そうな顔を浮かべる。

 

 「……す、凄い」

 

 目にも止まらぬ速さでモンスターを処理してみせたベートに感嘆の声が零れた婦人だが、ギロリとベートに睨まれ肩を竦めた。

 

 「何ちんたらしてやがる。足でまといの雑魚はさっさとどっかに失せやがれ」

 

 「…………」

 

 言葉通りであった。婦人は冒険者ではない。ただの民間人で、何も力を持たない。故に、足でまといなのは当然のことであった。

 だが痛む足がそれを許してくれない。相当酷かったのか、足の感覚がない。立ち上がろうとするも足に力が入らず、誤って四つん這いに転んでしまった。

 

 「あ?…………どっか怪我しやがったのか」

 

 それを見たベートは心底面倒臭そうにし、懐から緑色の液体が入った試験管を取り出した。

 婦人が戸惑っていると、無理矢理足を出されてそれを浴びせられる。すると足の痛みが和らぎ、みるみるうちに回復を遂げていった。

 【回復薬(ポーション)】。婦人は使ったことはなかったが、冒険者が狩りに行く際の必須アイテムだと聞いている。

 

 「オラ、治してやったんだからさっさと失せろ」

 

 「!!!あ、ありがとうございます!!凶狼!!!」

 

 婦人はバッ!と立ち上がり、ベートにお礼を言いながら安全な場所へ避難し始める。後ろの目線を感じながら、婦人は彼の認識を改めることとした。

 ーーー良い人じゃない、あなた。

 今度、あの夫にこの事を教えてやろうと心に決めた。

 

 

 

 

 ****

 

 

 この騒動を耳にした瞬間、ベートはもう走り出していた。そして一般市民を襲っているモンスターを一蹴りして殺していった。後は、流れ作業のようにモンスターを狩りまくり、そしてたまたま着いた場所に婦人が襲われる場面に遭遇し、救出したのである。

 言っておくが、助けたのは気まぐれである、とベートは主張した。決して彼女を助けるつもりの為に来たのでは無いと、ベートは強く主張した。

 

 一人の女性を助けたベートはその後、数々のモンスターを処理し続けた。持ち前の脚力や俊足でモンスターを塵にし、被害を減らし続ける。いつの間にかモンスターの咆哮や暴動は静かになっていき、静寂が訪れる。

 

 「……まだあっちにもいやがるな」

 

 僅かな音を拾ったベートは、モンスターの残骸を取り残して走る。民家の屋根を飛び越え、時には攻撃してくるモンスターを次々に蹴り殺していった。

 やがてベートが辿り着いたのは広い広場であった。そこにはまだモンスターがうじゃうじゃと存在しており、逃げ遅れている一般市民を襲っている光景が広がっていた。

 

 「チッ……!!」

 

 血が飛び交うのを目の当たりにしたベートは、まずは手近にいたモンスター三体を蹴り殺す。被害にあっていた女性を避難していた見知らぬ男性に投げ渡し、ベートは次に牡鹿のモンスター【ソードスタッグ】を殺していく。

 

 「あ、あ……凶、狼……!?」

 

 「凶狼が、人を助けてる……」

 

 そんな戯言が聞こえたが、ベートは無視して広場のモンスターを狩りまくった。

 その時間は二分くらいだろうか。思ったよりもモンスターの数が多く手間取ってしまったが、広場のモンスターは全て狩り尽くしたであろう。

 

 「チッ。厄介なモンスターが放たれてねぇだけマシか」

 

 状態異常などのモンスターが放たれたりしていたら、いくらベートでも時間を食ってしまう。しかも一般人がいる中でそのようなモンスターが暴れたりでもしたら、被害が大きくなったりもする。しかし今回はそんなモンスターはいなかったので、今の所何も心配はいらないようだ。

 ベートは野次馬の方を振り返ったが、また視線を戻した。野次馬に手を煩わせる時間が惜しいからだ。そして次にモンスターが現れる場所を探ろうと耳を澄ます。今の所モンスターの音はこの辺りではしない。野次馬は自分の身くらい自分で守るだろうと無視して、次の場所に行こうとベートが足に力を込めたーーーその時だった。

 

 「………………?音?」

 

 足から伝わってくる振動に、ベートは視線を落とす。

 地中から伝わる振動とーー破壊音。ガタガタと地震のように震えだし、それは止まることなく寧ろ大きくなっていく。

 

 「い、いやぁ!?」

 

 「何だ!?何が起こってる!?」

 

 周りにいた野次馬はパニックを引き起こし、ドミノ倒しのように動き始めた。老若男女の悲鳴がさらに恐怖を引き立たせ、この音が異常だというのが嫌でも伝わってくる。

 その音はベートの足元まで迫り、そしてーーーーーー一瞬の静寂、その瞬間に、ベートは跳躍した。

 

 

 

 『ーーーーー!!!』

 

 

 

 ベキベキと広場の地面を破壊しながら、それは現れた。

 ぐにゃりと体長は10、20、いや、それ以上の大きさの極彩色の触手が地面を叩きつけながら地中から姿を現した。頭部と思わしきところには禍々しい配色の花弁が生えており、口から異常な粘液を吐き出していた。

 はっきり言って美しいとはいえない、異色のモンスター。巨大な食人花のモンスターが、ベートの眼下でその全貌を晒す。

 

 「ンだこのモンスター……こんなの知らねぇぞッ」

 

 ベートは上空からそのモンスターを観察しながら、記憶に残っているモンスターノートを引っ張り出した。だがどんなに記憶を駆け巡らせても、あのモンスターの情報どころか、姿を見たことがなかった。

 つまりあのモンスターは、ギルドや冒険者も知らない未知なるモンスターとなる。

 そんなモンスターと相見えるのは危険な行為だが、この状況だ。交戦は避けられないと悟ったベートは、降下と同時に回転して、食人花の頭に重い一撃を食らわせた。

 メキ、と骨が軋む音が聞こえた。ーーーしかし、

 

 『ーーー!!!』

 

 「ッぬお!?」

 

 食人花は頭を振り、ベートの蹴りを押し返す。そしてすかさず触手でベートの体を薙ぎにかかった。

 反動で体を不安定にさせたベートだが、持ち前の身体能力で空中で体勢を立て直す。向かってきた触手を体を捻らせて回避し、割れている地盤へと着地した。

 

 「チッ。硬ぇ」

 

 足からじわじわと痛みが染み渡る。あの食人花はとても硬く、並の冒険者が手も足も出ない事は明白であった。何回でも攻撃すれば行けるだろうが、ベートの足が持つかも分からない。

 なら最初から、全力でやるしかないだろう。

 ベートは全ての力を足に貯め、食人花の頭上まで跳躍した。

 

 『ーー!!』

 

 それを、食人花の触手が追ってくる。

 グワリ!と触手はベートを覆うかのように四方八方から攻撃を仕掛けた。

 

 「ッオラァ!!」

 

 だがそれは、ベートには通用しない。

 ベートの強烈なかかと落としが決まる。攻撃してきた触手を両断し、食人花の頭部を見事に潰してみせた。

 ピクピクと痙攣する食人花はやがて粒子となって消え去る。残ったのは戦闘によってボロボロになった広場と、禍々しい色をした魔石だけであった。

 

 「ンだよ。大したことねぇな」

 

 ケッと物足りなさそうに吐き捨てたベートは、禍々しい魔石を手に取った。

 手に持つだけで異様な空気がビシビシと感じてくる。とても忌々しく、手に持つのが嫌なくらいに気色が悪い魔石。

 こんなのを換金してくれる所があるのだろうか、と模索したーーーその時だった。

 

 『ーー!!!』

 

 「!」

 

 ボゴッ!とベートの背後で地響きが鳴り、新たな触手がベートを襲う。

 もう一体いたのだ。あの食人花が。そう気付いたときには遅く、既に触手は眼前まで迫っていた。

 

 (ーーーやべぇ、当たる)

 

 ここで緊急回避しても吹き飛ばされるのは確実。なら最小限のダメージで凌ぐ為に受け身の体制を取らなければならない。

 ベートは咄嗟に腕をクロスし、その攻撃を受ける。腕から伝わる痛みと浮遊感。そして揺さぶられる脳によってベートの思考は遮断される。

 だがそれは一瞬。直ぐにベートは体をしならせ、地面を掴むかのようにガガガガッ!!と、地面に手をつくことで体を止められた。

 

 (チッ……!!ムカつくなぁ……!)

 

 ベートは地盤を睨んだ。恐らくあの食人花は、まだこの地中に潜んでいる。微弱だが微かな音を、ベートは聞き取っていた。

 さすがに数が増えるのはベートも手に負えなくなってくる。かといってこの食人花は、最低でもLv.4もある程の大型モンスターであった。

 

 (今この付近にいる奴らは大体Lv.3……!!そんな奴らが来ても迷惑なだけだ!)

 

 だったら、自分で倒す。

 救援に来た奴らよりも、自分よりLv.が高いやつらよりも。

 

 (助けなんていらねぇ!!全部蹴り殺す!!!)

 

 助けを求めるなど己の恥。

 そんなのは弱者がやることだ。

 強者は助けを求めない。全て全部、一人で解決してしまう。

 

 それが絶対的強さ。英雄(強者)のあるべき姿。

 

 仲間なんてものは必要ない。

 そんなのは邪魔なだけ。強者の道を潰すだけだ。

 

 「オラ……来いよ、クソ汚ぇ化け物が!!」

 

 ベートに挑発され、食人花はたちまち姿を見せる。

 うねりをあげ、溶液らしき唾液を零し、そしてベートを『獲物』として捉える。

 そしてベートもまた、あの大軍を『獲物』と捉えた。

 

 「行くぜぇ……!!」

 

 上体を落とし、再度足に力を込める。

 一気に頭を潰して、魔石ごとぶっ殺す。それが今、最も最善な事であろう。

 再起不能になるまで潰す。そうだ、これだけ思っていればいい。

 

 今は、目の前の獲物を殺すーーーそれだけしか頭にない。

 

 (………………殺す、殺す、殺すッ!!!)

 

 ベートの熱が高まり、いざ、と右足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ひゃっほおおおおおおおおおう!!!!」

 

 

 

 

 

 

 そして、横からやってきた小柄な女性によって、足を止めた。

 

 「………………ア?」

 

 ベートが茫然と見上げれば、目の前の食人花を次々にぶっ潰すアマゾネスの少女が視界に入った。彼女等は時々食人花の硬さに顔を歪めながらも、その次には軽々と潰していく。

 

 「よっ、ほっ、はっ!!」

 

 「オラァ!!」

 

 アマゾネス特有の立ち回りによって、食人花はたちまち倒されていった。

 ゴロリと、魔石がベートの目の前で落ちる。今正に目の前の獲物を狩らんとしたベートの熱は、今は完全に冷めきっていた。

 

 (ーーーンだ、こいつら)

 

 人の獲物を取った少女等を、ベートは睨む。

 少女等はその視線に気づいたが、悪びれることなく、友好的な態度で話しかけてきた。

 

 「やっほー!大丈夫だったー?」

 

 「あの数の敵を一人でやろうとしたの?なかなか度胸ある男じゃない。ーーーでも団長には叶わないわ」

 

 「ティオネ……」

 

 「………………」

 

 ケッとベートは舌打ちし、戦闘態勢を解く。自分だけ身構えているのが馬鹿らしく思えてきたからだ。

 だがーーー食人花は、まだ地中に眠っている。だからベートは体制は解いたが、警戒だけはそのまま解かずにいた。

 そうこうしている内に、二人はどんどん話を進めていく。

 

 「んー、やっぱあいつ硬いね」

 

 「でもあの時程じゃなかったわね。今回は楽に倒せそうだわ」

 

 「ンー。今日は武器持ってきてないのが痛いなぁ。手いたぁい」

 

 「そんなの根性で治しなさいよ。……あ、レフィーヤ」

 

 「レフィーヤー!!」

 

 ふと、こちらをトタトタ走ってくる少女がいた。ベートがそちらに目を向けると同時に、少女もベートに目を向けて、驚愕を露わにしながら立ち止まる。

 

 「べ、ベートさん……」

 

 「……テメェ、あん時の、」

 

 エルフ、と続けようとした時だった。

 

 

 

 

 『ーーーーー!!!』

 

 

 バキバキバキ、と地盤を破壊しながら、食人花が現れたのは。

 また現れた食人花に、アマゾネスの少女とベートは身構えた。唯一状況を把握していないエルフだったが、三人に習って杖を構える。

 

 「ちょっと、まだ出るの〜!?」

 

 「鬱陶しいわね……!!」

 

 (……俺の足を引っ張るんじゃねぇぞ……!!)

 

 (こ、今度こそ皆さんの力に……!!)

 

 一人は嘆き、一人は舌打ちを零し、一人は獲物を捉え、一人は魔力を高める。

 

 

 

 

 

 第2ラウンドの、開幕であった。

 

 

 






ダンメモ水着イベント告知を見る→皆可愛いお胸デカイ→あれ、男の水着は?→ベルきゅんの水着もなくない?→ベートきゅんのは????????

はい、ベートきゅんの水着姿をとても拝みたい爺さんの心得です。ください。
私の作品のベートきゅんはちょっと辛辣で、仲間に対して厳しめな部分もあります。本編のベートきゅんはちょっとだけ協力プレイ的なのはしていましたが、もしかするとこのベートきゅんは協力プレイ一切せずに単独バンザイ貫くかも知れません。

でも……そっちの方が……説教盛り上がる……(メメタァ)


次回の更新はいつになるのやら。何ヶ月も待ってくれる人がいて感激です。いつの間にか900人も……ありがとうございます!!全員ベートきゅんが好きなんですね!!やっぱりベートきゅんは凄い!!!(YBS)

では今回はこの辺で!せーの!!

ベート・ローガァー!!だぁーいすきぃー!!

※Twitterを始めました。IDは第2章「兎も上れば狼も上る」にて。



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怒りは希望に変貌する

 くそ遅いですがあけましておめでとうございます。今年もベートきゅん、精進致します。


 余談ですが、他の方のベートきゅん小説で私が歓喜のあまりコメントすると殆どの人がこの作品の締めの言葉を言ってくれるんですよ。嬉しくて涙が出ました。ありがとうございます。お礼はベートきゅん10モフでどうでしょうか????





 

 

 ティオナの蹴りが食人花を粉砕し、ティオネの拳が食人花を気絶させ、ベートの動きで食人花を翻弄させる。

 他ファミリアでありながらも、決して良いものとはいえないが連携が取れている三人を、レフィーヤは固唾を飲んで見守っていた。

 今、この場で魔法を発動させては、彼らの迷惑になる。ここに自分を護る人がいない為、必然的に彼らに護ってもらう他ない。

 それだけは絶対に避けたかった。彼らの邪魔だけはしたくなかった。この事を話せば、ティオナとティオネは絶対に自分を護るために戦うであろう。

 だがーーーベートはどうだ。ベートは絶対に、弱者である自分を護ってくれるはずない。そう考えてしまうと、彼女らに護ってもらう自分はおこがましいのではないのか、とレフィーヤは思った。

 だから、彼女達には彼女達で戦ってもらう。

 そして、食人花の勢いが弱まったところで。

 

 (私の魔法で、撃つーーー!!)

 

 武器「森のティアードロップ」を手に構えたレフィーヤは、静かに魔力を高め始めた。

 

 

 

 

 

 

 「ッキリがないわね!」

 

 ティオネが食人花を塵にしながら吐き捨てた。ティオナもこの食人花の数には苦戦しているらしく、「もう痛い〜!」と、体をブラブラとさせながら嘆いていた。

 彼女等は食人花の数の多さに苦戦していた。倒しても、倒しても出てくる無限のモンスター。地中に潜んでいるということは分かったが、その地中に攻撃する術を、今の彼女は持ち合わせていない。いや、持ち合わせたとしても、この広間に被害が出るだけである。

 堪らず舌打ちを零したティオネの前に、一匹の食人花が食らいついた。異臭が鼻をくすぐり思わず顔を顰めたが、ティオネは迎撃しようと拳を振り上げようとする。

 だがーーーそれよりも前に、横から灰狼が食人花を掻っ攫っていった。

 

 「ッーーー!」

 

 強烈な蹴りで食人花を一体消滅させたベートは、直ぐ様次の獲物を狩りに行く。助けられたティオネに一瞥も、声をかけることもせずに、ただ彼は飢えているかのようにモンスターを狩り続ける。

 持ち前の俊足で一気に頭上に食人花の背後に回り、そこから撫でるかのように食人花の頭を蹴りで粉砕した。ゴロリ、と禍々しい色の魔石が転がっていく。

 一体を倒して、また一体。流れ作業のように次々に食人花の数を減らしていく。

 

 「……負けてたまるかっ」

 

 先程助けられた屈辱からか、若干口調が崩れた様子のティオネは、拳一つで障子の頭を貫かせた。

 

 (キリがねぇな)

 

 そしてベートも、彼女達と同じ事を思っていた。

 無限に出てくるモンスターに嫌気が差し、ベートは思いっきり広間の地面を叩き割った。ビキリ、と亀裂が走り、みるみる内にそれは広まっていく。

 「ちょっと!?」というティオネの焦りの声など無視し、ベートはジッと地面を見つめていた。

 

 刹那ーーーー今までのとは比べものにならない巨大な食人花が、姿を現す。

 恐らく突然の衝撃に吃驚して、堪らず姿を現したのだろう。そして、この食人花が親玉と考えるとするならばーーーこいつを討てば、事態は終息する。ベートはそう考えた。

 

 「な、デカ!?」

 

 「おー!ずっと隠れてたんかなー!?」

 

 突如出てきた親玉の食人花に驚きを隠せないティオネと、楽しそうに見上げたティオナに、ベートは言った。

 

 「あいつを討てば、こんなゴキブリみてぇにうじゃうじゃしやがるこいつらも、ちっとはマシになるんじゃねぇか」

 

 「可能性は捨てきれないわね……じゃあ、あいつを」

 

 「てめぇらは雑魚を相手しろ。あいつは俺がやる」

 

 ティオネが向かおうとしたのを遮ったベートは、有無を言わせずに巨大な食人花に攻撃を仕掛けた。「ちょっと!」という声が飛んできたが、当然ベートはそれを無視する。

 食人花はベートを敵として捉えた瞬間、鞭のようにうねっている触手がベートに襲いかかる。あらん限りに振り下ろされた触手は、確実にベートを捉えていた。

 

 「遅せぇ」

 

 しかし、剛球のように繰り出される触手を、ベートはあっさりと避ける。そして触手を伝い、ベートは食人花の顎と思わしき部分をーーーー思いっきり蹴り上げた。

 ゴ、ブと溶解液のようなものを吐き出した食人花は、グラリとふらつく。第一級冒険者の渾身の蹴り上げを食らったのだ、並の冒険者やモンスターなら、既に脳震盪で倒れているであろう。寧ろ、これで耐えている方がおかしかった。

 

 「ーーーーッ!!」

 

 ガリッ!と広間の石畳を砕きながら着地したベートは、さらに痛撃を開始する。

 

 『ガァアッ!!!』

 

 食人花の、我武者羅の攻撃。グワッ!と極太い触手が、ベートに振り下ろされる。その速さはとてつもなく、並の冒険者なら捉えきれずに事切れてしまうに違いない。

 ーーー並の冒険者なら。

 

 「だから、遅せぇっつってんだろ!!」

 

 その怒声のような声が響き渡った次の瞬間、ベートは食人花の頭を踏み付ける。第一級冒険者のほぼ本気の踏みつけ。地盤が割れ、他の食人花の相手をしていたティオナとティオネも「おおっと!」と足をふらつかせるほどに余波が凄まじかった。

 食人花はぴくりとも動かない。しかし、まだ生きているのは分かっている。一度距離を取り、ベートは食人花の行動に目を光らせた。

 このまま長期戦は正直言ってゴメンだ。何か、強力な、それでいて食人花を一撃で消滅出来るようなものがーーー。と考えた、その時である。

 

 

 「【ーーーー誇り高き戦士よ、森の射手隊よ。押し寄せる略奪者を前に、弓を取れ】」

 

 背後から、歌が響いた。

 その透き通るようで、そして覇気も感じら

れる穢れのない歌声。思わずベートは、その歌の方を一瞥する。

 

 「【同胞の声に応え、矢を番えよ】」

 

 その歌の主は、あの時出会ったエルフの少女ーーーレフィーヤからであった。その山吹色の長髪を揺らし、要となる武器を翳しながら、彼女は歌を紡ぐ。

 レフィーヤの魔力が上がっていく。この時点で、彼女が大きな魔法を繰り出そうとしているのは明白。彼女が歌う度に空気は揺れるのがビシバシと伝わる。

 ベートは思わず頬を緩めてしまった。あの時出会った少女は迷惑極まりないが、まさかこんな隠し玉を持っているとは思わなかったのだ。その魔力はどの人間より、いや、下手すればあの『九魔姫(リヴェリア)』に匹敵する力だ。

 これなら、行ける。親玉が伸びていても依然活発に動き続けている彼らを、一網打尽にする事が出来る。

 

 「【帯びよ炎、森の灯火、撃ち放て、妖精の火矢】」

 

 魔法陣が彼女の足元に広がる。それに比例して、彼女の魔力も馬鹿でかくなっていく。それはもうすぐ、歌が終わるということ。終わる瞬間、あの馬鹿でかい魔力が放出される。

 それを感じ取ったベートは、少しずつ食人花の群れから距離を取った。巻き込まれない為である。彼女らは、レフィーヤの事を良く知っているのでたぶん自力で逃げるであろうと敢えて声をかけなかった。

 もうすぐ終わる、この不毛な戦いも。あの魔法を食らえば、この食人花の群れは一網打尽。もう勝利を確信してもいい。

 

 「【雨の如く降り注ぎーーーーーー】」

 

 

 

 彼女の魔力がグッと上がったーーーーーその時であった。

 

 

 

 「、ぇ」

 

 

 その少女の枯れたような声を耳にした時ーーーあれだけの莫大の魔力が、消失した。

 あれだけの莫大な魔力が、一気に消えたのだ。文字通り、ついさっき。どうした、とベートが歌を紡いでいたはずのレフィーヤの方を、振り返った。

 そして、目を疑った。

 

 

 レフィーヤの姿は遥か遠くにあった。屋台と思わしき木材の残骸に、痛ましい姿で転がる彼女の姿。脇腹からは夥しい程の血を流し、少女の美しい髪も血が染まって乱れている。少女の目の前には、鋭利な触手が少女の無様な姿に喜んでいるかのように踊っていた。

 

 「レフィーヤッッ!?!?」

 

 ティオネの悲痛な声が響き渡る。ティオナも、相手をしていた食人花を放ってレフィーヤの方へ駆け寄ろうとした。

 しかしそれを食人花が許さない。彼女の元には誰も行かせまいと、さらに数を増やして妨害してくる。

 

 「ッどいて!!どいてよ!!レフィーヤ、レフィーヤッ!!レフィーヤァアアーーッッッ!!!」

 

 少女の生気のない顔に、だんだんと焦りと怒りが募っていく彼女達。戦いも雑になり、無駄な動きが多くなる。今までの余裕綽々としていた姿はどこに言ったのか、今の彼女たちは、ただの醜い舞を踊る下手な踊り子でしかなかった。

 それを尻目に、ベートは少女の方を一瞥する。生気もなく、虚ろな目でこちらを見つめる少女。髪は乱れ、美しいと称されるであろうエルフの容貌も形無しだ。

 ドロリとした目が、ベートを射抜く。その瞳が、その姿が、その醜い姿が。

 

 ーーーあの酷い状態の幼馴染を、彷彿とさせた。

 

 下半身を食いちぎられ、無残に転がる愛おしかった幼馴染の幻想。虚ろな目でこちらを見ており、魂の息吹さえも吠えない死者の姿。

 

 「……ぁ」

 

 その記憶とレフィーヤの今の姿が、重なり合う。

 恐怖が込み上げ、震えも出てきた。かつての己の弱さが突き刺さり、ぐるぐると感情が渦巻いていく。止めろ、そんな目で見るな、そんな、あの時のあいつと同じ目をするなと、心の中で彼女に激昴する。

 虚ろな目が、コポリと口から垂れる血液が、何も出来ない彼女の姿が。

 

 

 「ーーーーオォオッ!!」

 

 

 その視線から逃れる為に、ベートは再度食人花に立ち向かう。

 ティオネとティオナの邪魔をしていた食人花を一気に蹂躙する。悲鳴を上げることなく、魔石ごと消滅した食人花の数が増えるのは、タイムラグが生じる。

 

 「ーーーレフィーヤ!!」

 

 その隙に、ティオナがレフィーヤの元へ駆け寄った。ぐったりと生気のない顔に焦りが募るも、体を起こそうとした時に仄かな温もりを感じ、ティオナはホッとする。

 まだ生きている。まだ、命の灯火は消えていない。

 

 「誰か回復薬を……ッ!!」

 

 今、ティオナは回復薬を持ち合わせていない。それはティオネも同じで、食人花と応戦しながら、今の現状を変えることが出来ずに歯軋りする。

 

 「大丈夫ですか!?」

 

 バタバタと慌ただしい足音が聞こえて顔を上げると、ギルドの役員達がこちらに近づいてくるのが見えた。近づかないで、と叫びたかったが、その考えをすぐに止めてティオナはレフィーヤを抱えながら彼らに叫ぶ。

 

 「レフィーヤをお願い!!回復薬を持っている人がいたら飲ませて!!」

 

 レフィーヤを安全な場所に寝かせて、ティオナは返事を聞かずに飛び出した。向かう先は食人花の群れ。心做しか数が増えているような気もするが、そんな事はどうでもいい。

 今は、仲間を傷つけられた怒りしかない。

 

 「うちの仲間に、何してんのッ!!!」

 

 ティオナの怒号が、食人花の体に突き刺さる。その反動で空へと投げ飛ばされたが、その滞空時間にティオナはギリッと、拳を作った。

 着地した瞬間、ティオナは走り出す。あっという間に食人花の懐に潜り込んだティオナは、その拳を引く。

 

 「ッアアアッ!!」

 

 そして、仰け反った食人花の頭をぶん殴った。

 先程とは比べ物にならないくらいの、絶大な力。人間が受ければ無事ではいられないであろう。それをまともに受けた食人花は、グフッと人のような声を零して、また倒れ込んだ。

 どうやら自分が相手していたのは、一度ベートに気絶させられた親玉らしい。気付かずに目の前の敵に目を奪われていたティオナは、横から指摘されるベートの声でそうだと気づいた。

 

 「……お前、何人の獲物横取りしてんだ」

 

 「はぁ!?そんな事言ってる暇ないでしょ!こういうのは一番偉いやつをやれば収まるもんだし!!」

 

 「……てか、そいつまだ生きてんのか」

 

 ティオナに親玉を取られ、仕方なく他の食人花を殲滅していたベートの顔色は少し悪いが、着々と良くなっていた。そのベートが目を向けた先には、先程ティオナがぶん殴って倒れさせた親玉がいる。

 親玉はピクピクと痙攣していて、死んでいる様子がない。何ともタフな奴だろう。ベートとティオナの本気の攻撃を食らってまだ生きていることは誇ってもいい。

 

 「生きてるなら上等!!レフィーヤをあんな目に遭わせて……!!何発でも殴ってやる!!」

 

 明らかに頭に血が上っている。目の前の食人花にしか目がいかないようだ。

 ハァ、とベートは溜息を吐いた。こうなっては絡むこちらも疲れるだけ。なら素直に相手を渡してやろう。それならこちらもを無駄な疲労を蓄積させることは無い。

 そう考えて親玉から踵を返したーーーその瞬間。

 

 

 「……!」

 

 

 微かな音を拾ったベートは、即座に振り返った。

 

 「避けろッッ!!」

 

 「えっ」

 

 怒号にも近い叫びをティオナに向けた、刹那。ーーーティオナの体に、蔓が巻き付かれる。

 

 「う、きゃ!?」

 

 ぐわりっ!とそのまま頭上まで持ち上げられたティオナ。ティオナに巻きついている蔓の先を見ればーーー既に復活している、親玉の姿があった。

 

 「不死身かよ……ッ!!」

 

 そう忌々しく吐き捨てながら、ベートはティオナを助けるために体を屈める。

 が、そのベートの動きを牽制するかのように、他の食人花がベートをーー正しくは足元をーー攻撃し始めた。

 

 「しつ、けぇ!!」

 

 迎撃している間にも、ティオナは蔓によって締め上げられる。

 

 「ぅ、あ……!」

 

 「……ッ!!」

 

 ティオネも、ベートも、他の食人花に邪魔をされて、中々助けに入れない状態であった。

 このままちまちまと狩っていてはーー何れは、ティオナに限界が来る。

 何か、なにか突破口があれば。一途の希望にかけたティオネが、ほぼ半狂乱で食人花を狩っていた時だった。

 

 

 

 ーーー風が、吹く。

 

 

 

 

 その風が吹いた瞬間、あれだけ鬱陶しかった食人花が、一瞬で切り捨てられた。

 バラバラとなり、血のアーチを作り出すその中心にはーーー美しき金髪の少女が佇んでいた。

 

 「ーーーアイズッ!!」

 

 金髪の少女ーーーアイズは、ティオネの嬉しそうな声を背中に受けながら、その気持ちに答えるために、親玉に突進した。

 

 

 

 

 




 ベ ー ト き ゅ ん 交 流 キ タ コ レ ! !

 俺 は こ の 時 を 待 っ て い た ! !


 ベートきゅん交流追加は私の中がすげぇ荒ぶりました。これはまじでやべぇと。革命の時だと。まじで公式は良くやった。私の全てをあげたいくらいに本当に公式ありがとう。ありがとう(昇天)
 ベートきゅんが交流に追加したという情報を受け、私はアプデを終えた瞬間すぐさまベートきゅんの交流を連打し続けました。するとどういうことでしょう。彼の声が!!!ツンデーレが!!何度も!!!聞けるんですよ!!!ねぇ!!!!聞けるんです!!!デレとか!!!ねぇ!!!!ずっと繰り返して聞いてた私は正常()
 そしてストーリーもやってみたんですが……めちゃくちゃ可愛かったです!!!!!はい!!!!!やばい!!!!!!まじで変な声出ました!!!!えへへへへ!!!!!!
 そして進めようとしました……しかし、しかし!!!ここで重大なことに気づきました。

 相手が強すぎてストーリー進めれなぁい!!!!!(絶望)

 そして私、今は泣く泣くベートきゅんベートきゅんしています。あのこ本当に可愛くてまじでやばいです誰かベートきゅんの小説とかイラストとかかいてもいいのよ???私全力で支援しますぜひTwitterに上げてください()

 さて、久しぶりにベートきゅんで荒ぶりました。このところ検定とかでギッチギチだったので。時間が出来て良かったです……(涙)あ、検定は無事終わりました。
 ちょびちょび書き足したものなので何か文が変かもしれませんが、ベートきゅんの愛で乗り切りました。どうぞご閲覧ください。
 次の更新もこのくらいかかるかもしれません。修学旅行やら就活やらでギッチギチです(白目)それでも待ってくれてる人がいてあたしうれし……これがベートきゅんの力なのね!!

 では、恒例のこれで締めましょう。


 ベート・ローガァー!!愛してるぅぅぅぅぅぅうううう!!!


【追記】

ベートきゅんショタを見て死亡しました。ザオリクしてください?



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『蛇』

 えへへっ(さらっと復帰)

【追記】
原作を読み直してみたところ、結構改変させてしまって「ちょっとやばいな」と内心でビクビクとしています。原作重視の人ごめんね。食人花そんなにいなかったね。ごめんねごめんね。


 

 その美しき髪を靡かせる少女を、彼は知っている。

 才色兼備、容姿端麗、その戦い、舞う姿は、まるで『戦姫』の如く美しく、目を奪われるほど。

 実際、彼も目を奪われたことが一度だけあった。遠い過去の事であるが、彼はその光景を一度たりとも忘れたことは無い。

 美しく靡く、絹糸のような金色の長髪。細くスレンダーな華奢な体。だがその眼光はギラギラと、目の前の敵を討ち取らんとばかりにギラついている。

 正に、獲物を狩る虎のよう。

 彼はその光景を目にしながら、息を吐くように少女の二つ名を零した。

 

 ーーー「剣姫」、と。

 

 

 

 「ーーーアイズッ!」

 

 『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタインは、仲間のティオネの声を受けながら、突進した。

 ひゅっ、と風を切るように、疾風の如く親玉の食人花に接近したアイズは、重心を低くしてーーー一気に飛び上がる。

 

 (飛びすぎた。でも)

 

 勢いをつけすぎたせいで予想より遥かに上へと飛び上がったが、関係ない。

 ーーーそれよりもっと、攻撃力を高めればいいだけの事。

 食人花が繰り出す数多の触手を、アイズは体をうねらせ、時に鉄棒のように掴み回りながら避ける。そうして食人花の眼前まで迫ったアイズは、手に持っていた剣を構え、振るう。

 

 「ッはぁ!」

 

 勢いよく振られ、食人花の体に傷が作られる。ぶしゅ、と鮮血が溢れ、地を汚す。

 

 『ーーーーー!!?!?』

 

 「っう、あ!」

 

 食人花は絶叫が何かわからない叫びを迸り、痛みを耐えるように悶える。まるで親に縋る子供のように、猛然と暴れ続ける。そのおかげでティオナを拘束していた触手の力が緩み、ティオナは自力で触手から逃げることに成功した。

 触手がブンッ!と暴れ回っているせいで中々近づけれないーーーだが逆に言えば、それは大きな「隙」とも言える。

 

 「ふッ」

 

 軽やかに着地した直後、アイズは食人花の横薙を伏せて交わす。そしてそのまま振り返り、食人花に向けて疾走した。

 風の如きその速さ。本当に彼女が地に足をつけて走っているのかという程に、彼女の体は軽く見て取れた。彼女に翼があるのではと、この時ばかりは誰もが思った事であった。

 目にも止まらぬ速さで食人花の懐に飛び込んだアイズはーーーーその剣を振り上げる。

 

 「はぁっ!!」

 

 アイズの剣は深々と食人花に刺さり、その胴体と思わしき体をぶった斬る。

 真っ二つとなった食人花はグラリ、と大量の鮮血を地面に垂らしながら、倒れ込んだ。

 

 「……終わった、の?」

 

 ドサッ、と尻餅をついたティオネは、そう呆然と呟く。

 あれだけの喧騒が一気に静寂になったことに、まだ頭が追いついていないらしい。惨たらしく転がる食人花の数々から異臭が立ち込めるが、それすらも凌駕するほどの呆気なさが、ティオネの心を占めていた。

 

 「さっすがアイズぅ!やっぱつよーい!」

 

 対して、ティオナはそんな細かいことは気にせずにアイズに飛びつく。少々呆気に取られたアイズだが、やがて微笑を漏らした。

 

 「……やっぱり、アイズは凄いわ……」

 

 渇いた笑いを零したティオネは、今までの苦労を全て吹き飛ばすかのような笑顔をアイズに向けた。

 

 

 

 一方、美少女達の温和な戯れを前に、ベートはジッと既に息絶えている食人花を見据える。

 アイズによって真っ二つにされた、哀れな食人花。他の雑魚食人花も同様、無残な姿で地に伏せている。息絶えていることは明白だ。

 

 (ーーーー本当に、終わりか?)

 

 そんな食人花を睨みながら、ベートは疑念を持つ。

 確かに量が量なだけに面倒であったがーーーどうしてか、嫌な予感が拭えない。このモヤモヤとした気持ちは、一体。

 

 (……まだ騒動は続いてるみてぇだし、出来ればあの駄神の所へ行きてぇが……)

 

 己の主神であるロリ巨乳娘を思い浮かべたベートに焦りが募るも、違和感は拭えない。ベートの視線は、真っ直ぐに地面の方へと向かっている。

 

 「……チッ」

 

 今も尚遠くで響き渡る騒音。まだ悲鳴も上がっているところもあるらしい。やはり気の所為と思って他のところに行こうか、とベートが踵を返そうとした。

 

 

 

 ーーーその時、ゾクリッ!とベートに悪寒が走る。

 

 

 

 その悪寒に突き動かされるように、ベートは反射的に飛び上がった。その際に、今も尚仲睦まじくお互いを労わっている少女達が視界に入り、思わずベートは叫んだ。

 

 「逃げろッ!!」

 

 刹那、彼女の足元に亀裂が走る。

 最初に気付いたのは、やはりアイズであった。足元に亀裂が走った瞬間、アイズは今も抱き着くティオナをそのまま抱えて、跳躍する。

 

 「え、何?う、ああ!?」

 

 一方、反応が遅れたティオネは地中から出てきた「蔓」のようなものに捕まれていた。

 その「蔓」はティオネの腰に巻き付き、彼女を宙吊りにする。そして、べきべきと地面を破壊しながらーーーーそれは現れた。

 

 それを一言で言うのならば、「蛇」だ。長大な体を晒したその蛇の頭は、薔薇のような真紅色に染まっている。身の丈以上ある体躯は、ベート達を悠然と見下ろし、余裕を見せていた。目も、花も、何処にあるのかも分からない『モンスター』。ーーー何故だか、先程戦闘した食人花を連想させた。

 盛大な音を立てて現れた「蛇」は、ギャッ!とティオネを掴んでいた蔓を振り下ろす。

 

 「ッ!」

 

 蔓から放され、強烈な振りで地面に叩きつけられる前に、ティオネは瞬時に受身を取った。だがそれでもダメージは残るらしく、歯を食いしばる。

 

 「ティオネ!」

 

 「待ってティオナ!ーーーまだ、来る!」

 

 姉の危機にアイズの懐から抜け出そうとしたティオナであったが、アイズの張り詰めた声に動きを止める。

 それを狙っていたかのようにーーー「蛇」が再度、攻撃を仕掛ける。

 空中で滞空するアイズ達目掛けて、「蔓」を薙った。目にも止まらぬ速さで振るわれたその蔓を、空中にいるアイズ達は易々と受け止められるわけがなかった。

 

 「ッ!」

 

 地面に叩きつけられるのを想像して受け身の体制を取ろうとした、その時。

 ガキッ!という音と共に、蔓の攻撃が止まる。ハッとして視線を戻せばーーー蔓を受け止める、一人の狼人の姿が。

 

 「ンッガァ!」

 

 灰色の髪を靡かせた彼、ベートは、歯軋りしながらもその蔓を地面に叩きつける。

 

 「チッ、かってぇ……!」

 

 先程の食人花とは比べ物にならない硬さにベートの顔が歪むがーーーそんな暇を、「蛇」は与えてくれなかった。

 轟音を立たせながら蔓に代わるように、止むことなく第2、第3の蔓が彼らを襲っていく。ビュッ!という風を切る音と共に、まだ避ける体制も整えていない彼らを考える隙も与えずに攻撃する。

 

 「ッ!ティオナ、反撃する!」

 

 「分かってる!ティオネ!」

 

 「あんのっっっっクソ蛇がああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!」

 

 「死ねぇっっ!!」

 

 だが、彼らは違う。

 避けれなければーーー迎え撃てばいい。それで、全てが解決する時だってある。

 避ける事を放棄した彼らは、それぞれの武器を培って蔓に真っ向から勝負に出た。アイズは剣を、ティオネとティオナは拳を、ベートは脚で「蛇」に反撃する。

 アイズの斬撃で蔓に傷をつけ、ティオナとティオネの拳で蔓にへこみを作り、空いた隙にベートが入り、その隙を使って「蛇」の脳天らしきところに踵を決めた。

 お互い、今回が"実質"初対面な筈。しかし初対面でありながらここまで息が合うとなると、さすが第一級冒険者と無意識に零してしまうであろう。

 圧巻の協力プレイを見せた彼らーーーしかし、「蛇」はそれで止まる筈がなかった。

 

 『ーーーーーーー!!』

 

 咆哮とは似ても似つかないモノを上げた「蛇」の姿が、変わっていく。

 頭部と思わしきものは花開き、醜い花弁となる。その中心に咲かせる顔と思わしき部分は、体液のようなものをボタボタと垂らす。

 その姿を、彼らはつい先程まで見た事があった。

 その姿は、先程まで戦っていたーーー「食人花」。彼らが『蛇』だと思っていたもよは、先程まで交えていた「食人花」だったのだ。

 

 「嘘……!?あれも、あの気味の悪いモンスターだったの!?」

 

 目の前の現状に驚きを隠せないティオネを尻目に、アイズは真っ先に駆け出す。

 そのモンスターが、一体どんな姿になろうとも、彼女には関係ない。ただただ彼女は、人々の平穏の為にその剣を振るうのだ。

 疾く、疾く、風のように。逸早く懐に潜り込んだアイズの行く手を、食人花の蔓が遮った。

 

 (これなら……ッ!)

 

 自身の技量で突っ切ることが出来る。そう確信したアイズは、いつものように剣を振るった。

 ーーーその時、予想外の事態が起こる。

 

 それには、ベートも見張った。ティオナが叫んだ。ティオネが瞳孔を開いた。現場を目撃していた一般人と冒険者が、放心した。

 

 誰もが言葉を失う光景。ならそれは一体何だと言うのか。

 

 「ーーーーぁ、」

 

 簡単な答えだった。

 甲高い音を上げて、ひび割れていく"剣"。アイズの手の中でボロボロと零れる剣だったものは、無残にも地面に音を立てて、沈んでいく。

 剣姫の持つ剣が壊れたーーーあの、剣が。"何も事情を知らない"者からしてみればそう思うであろう。

 だが、事情を知っているものは違う。

 彼女は遠征中に、何らかの形で自身の愛剣ーーーデスペレートを痛めてしまい、現在鍛冶師に修繕の依頼をした所であった。さすがに丸腰ではと、デスペレートとは明らかに劣化版のレプリカを鍛冶師が見兼ねてアイズに貸したーーーそれが、今現在アイズが持ち合わせている剣であり、今盛大に散っていった剣である。

 ここで今一度確認しておくが、アイズの剣術と魔法は強大だ。なので、それに耐えられる剣が必要となる。それで作られたのが、デスペレートだ。

 だがレプリカの方はどうなのであろうか。アイズ専用に作られたものでもないし、耐久性はデスペレートより劣る。ーーーそんな武器を、アイズがいつも通りに使えば、どうなるか。

 もう察しがついていると思うが、概ねこういうことだ。

 単純な話ーーーーレプリカが、アイズの力に耐え切れず、破壊された。これだけしかあるまい。

 

 「ーーーーー!」

 

 剣が壊れた事により、動揺でアイズの動きが止まる。

 それを逃す食人花ではない。アイズが止まったのを良いことに、食人花は蔓を猛々しく振るった。

 避けられない、直観がそう呼び、思わずアイズは目を瞑り、せめてダメージを減らそうと試みる。

 

 「…………?」

 

 しかし、ダメージがやって来ない。

 恐る恐る目を開けると、視界に灰色の背中が広まった。ハッとして見上げれば、別ファミリアの狼人が、アイズを守るようにして蔓に応戦していた。

 

 「ボサッとしてんじゃねぇぞ!剣姫!!」

 

 アイズの前に立つのはーーーーベートだ。ベートはアイズに激昴しながら、向かってくる蔓を蹴り倒していく。その脚さばきは目を見張るもので、思わずアイズも見とれてしまっていた。

 しかしベートの激昴で我に返り、立ち上がる。攻撃は受けていない。五体満足、傷一つなく彼女はそこに存在している。それだけで十分だ。

 武器を持たぬ彼女に、戦う意味があるのかと問えば、確かに武器を持たない自分はこの場で誰よりも足でまといだと彼女は応えるであろうーーーしかし、それでこの戦いを止める理由にはならない。

 武器がなくなったのなら、新たに調達すればいいだけの事。

 

 (瓦礫もあるからそれも使えばいいし、私は敏捷が高いーーー撹乱することも出来る)

 

 自分の役割は沢山ある。

 自分に適した行動をすれば、この場に貢献出来る。

 だから、諦めるわけにはいかない。

 

 「ーーー行くよ!」

 

 特攻した凶狼の姿を合図に、彼女は自身を奮い立たせた。

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 ーーー私は、何をしている。

 

 血溜まりに沈む中、レフィーヤは朧気な意識で自分に問いかける。もう腹からの痛みは感じない。ただ、口から抑えきれない程の血液をゴポゴポと零しながら、今も尚レフィーヤを呼び続ける若いハーフエルフに身を任せている。

 声が掠れ掠れになっているハーフエルフの声を聞きながら、レフィーヤは再度、自分に問いかけた。

 

 ーーー私は、何をしている。

 

 霞む視界に映る、憧れの人の姿。自分をいつも気にかけてくれる、優しくて逞しい姉貴分達。

 そしてーーー共に戦っている、狼人の姿。

 

 (ーーー違う)

 

 どうしてお前が、憧れ(アイズ)と共に戦っている。

 どうしてお前が、姉貴分達(ティオナとティオネ)と背中を合わせている。

 どうして、どうして。

 

 (ーーー私は、あの場にいない……ッ!!)

 

 食人花の奇襲を受け、早々に戦線離脱してしまったレフィーヤ。今も尚、傷はレフィーヤを蝕んでいる。

 正直、血を流し過ぎたせいで意識は消え入りそうだし、体も痺れてまともに動く事も出来ない。杖を握るのも、一苦労である。

 だけど、だけど、だけど!

 

 (なん、で……何で私は、ここにいる!)

 

 ここにいる理由は何だ。

 彼女らと共に、あの食人花を討ち取るために、自分はいるのではないか。

 彼女と共に並び、彼女と背中を合わせ、高め合わせ、力を合わせてアレを討ち取るのだろう!

 

 (それは貴方の使命じゃない)

 

 彼女らと共に戦う狼人に、レフィーヤは断言する。

 

 (それは、その場所の役目はーー!!)

 

 自分勝手だと自覚している。

 何とも傲慢で惨めな理由だと、自分でも鼻で笑うレベルだ。

 それでも、その場所は譲れない。

 

 ハーフエルフの制止を振り切って、彼女は地面に手をついた。そして、今残る最大限の力を振り絞って、彼女はーーーレフィーヤは立ち上がる。

 傷口から血が溢れ出す。痛覚も戻ってきた。まだ体が痺れるし、意識も朦朧としている。

 それでも彼女は、立ち上がる。

 自分の使命を果たす為。自分の存在意義を示すため。

 もう彼女達に頼るわけにもいかないーーーあの男に、自分の居場所を取られるわけにはいかない。

 

 「ーーー私の名は、レフィーヤ・ウィリディス!!」

 

 エルフの少女は、自らの真名を叫び、決意を顕にした。

 もう、彼女達に迷惑をかけたくない。

 もう、あの男に役目を取られたくない。

 もうーーー自分を、偽りたくない。

 その一心で、彼女は杖を手にし、魔力を高め始める。

 

 

 ーーー千の妖精(サウザンド・エルフ)の猛攻は、ここからだ。

 

 




 ーーー最終投稿日以降の話を大まかに説明しよう。

 最終投稿日から一ヶ月後、修学旅行でエンジョイした。その後、学年末テストが始まりそれで高2の人生が終わった。
 だが休む暇もなく、高3の時代にはあれが待っているーーーそう、進路である。
 元々進路は就職と決めていた私。そんな私に迫ってきたのは、『就活』であった。
 夏休みに入る前に企業を決め、必要な書類を整理、提出。夏休みは日々日々勉強と面接練習に明け暮れ、夏休みが開けた途端に就職試験。
 ああ、一時期はストレスやら緊張やらで体調を崩したさ。倒れかけたし無様にトイレでゲロっちまったさ。
 だが俺は今日ーーーーやっと、安寧が来る。

 就職試験が終わって安心した途端に体調を崩して寝込んだが、そんなのは関係ねぇ。
 昨日が誕生日で盛大に祝ってもらったりお祝いの言葉に舞い上がったりもしたさ。最高に楽しかった。
 そして、そして今日ーーー!


 内定を貰いましたああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!




 そんな色々な事があって、やっと一段落つきました。就活で小説の方に手が回らなくて、少々腕が落ちているところもあるかと思われます。9ヶ月前?より文章力が拙いところもあるかと思われます。
 しかし私はベートきゅんパワーで帰ってきました。ベートきゅんのパンデミックシナリオを見て元気ハツラツとなりました。

 読者様。今まで待っていてくれてありがとう。待たせてごめんなさい。
 ーーーまた今日から、ベートきゅんライフで、頑張らせていただきます!


 ベート・ローガァ!愛してるぅぅぅぅぅぅううう!!!



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それぞれが進化を遂げ、冒険を始める



 エピローグ前のお話。全体的にモンスターの戦闘の終わり際を中心に書きました。
 ベートきゅんの出番が少ないです!!!(絶望)


 

 

 

 

 

 「【ウィーシェの名のもとに願う】」

 

 決意を顕にした妖精の口からーーー歌が零れる。その歌は、この現状であろうと美しく響き、耳を擽り、人々を幻想の世界にへと誘う、天使の歌のようだった。

 その歌に気づいたベートは、食人花の攻撃を避けながら、妖精を振り返った。腹から夥しい量の血を流しているにも関わらず、彼女はしっかりと佇み、その凛とした姿を見せていた。

 

 「【森の先人よ、誇り高き同胞よ、我が声に応じ草原へと来れ。繋ぐ絆、楽宴の契り、円環を廻し、舞い踊れ】」

 

 その時、魔力に反応した食人花が数多の蔓を彼女に向けた。彼女を潰そうと、その鋭利な蔓を彼女に向けて放つ。

 

 「レフィーヤの邪魔するなー!」

 

 しかし、数多の蔓が彼女に攻撃をしようとした瞬間、それはティオナによって分断される。

 他にも、ティオネが叫びながら引きちぎったり、ベートが俊敏な動きで烈断を起こしたり、アイズが魔法を纏って撹乱したりと、彼女らはなん人足りともこのモンスターを妖精に近づけさせなかった。

 そんな彼女の成果もありーーー妖精の歌は、届く。

 

 「【至れ、妖精の輪。どうかーーーー力を貸し与えてほしい】」

 

 歌を紡ぎ終えた彼女は、息を吐くようにその曲名を零した。

 

 「【エルフ・リング】」

 

 刹那、光の爆散と共に鈴の音が木霊する。山吹色の魔法円は翡翠色に変化し、散った光は杖先に収束され、妖精を優しく包み込んだ。光のヴェールを纏う彼女は、目を瞑り、魔力を集中させた。

 

 「【ーーー終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に(うず)を巻け】」

 

 そして(・・・)詠唱がさらに続く(・・・・・・・・)

 完成した筈の魔法にさらに上乗せし、別種の魔法を構築する。魔力が格段に上がり、食人花に狙われる可能性があるにも関わらず、彼女はさらに魔力を収束させていく。

 彼女は、王女のように、優雅に気高く、美しく戦うことは出来ない。いつも迷惑をかけ、守ってもらっているばかり。王女のように並行詠唱も出来なければ、どんな事が起きても冷静に行動することさえ出来なかった。

 そんな彼女でも、評価されるところがあった。それは彼女にしかあらず、この二つ名を名付けるきっかけとなったもの。

 

 「【閉ざされる光、凍てつく大地】」

 

 ーーー召喚魔法(サモン・バースト)

 彼女の種族、『エルフ』の魔法に限り、詠唱及び効果を完全把握したものを行使する事が出来る、前代未聞の反則技(レア・マジック)精神力(マインド)は大量に消耗するが、あらゆるエルフの魔法を使える事が出来るその魔法は、誰もが震慄した。

 その魔法に因んで名付けられた二つ名はーーー「千の妖精(サウザンド・エルフ)」。

 今彼女が歌っているのは、エルフの王女ーーー【九魔姫(ナイン・ヘル)】リヴェリア・リヨス・アールヴの攻撃魔法。

 

 「【吹雪け、三度(みたび)の厳冬ーーー我が名は、アールヴ】!」

 

 極寒の吹雪が放たれ、隙も与えずに全てを凍てつく、王女しか持たない無慈悲で最強の攻撃魔法がーーー今、歌と共に放たれる。

 

 

 「【ウィン・フィンブルヴェトル】ーーーーーッッ!!」

 

 

 

 直後、レフィーヤ・ウィリディスの放った三条の吹雪が、食人花に襲いかかった。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 ああ、分かっている。あの人の隣に立ちたいというこの思いが、無駄な思いだということくらい。

 

 吹雪が放たれる最中、レフィーヤは一気に消耗していく精神力を感じながら、悔しさに歯噛みした。

 自分はいつも、誰かの迷惑になっていた。態々師として就いてくれた王女にも溜息を零され、一喝され。姉妹のアマゾネスや金髪の少女にはいつも助けられる、そんな冒険が嫌だった。

 ーーーもっと自分が、しっかりしていれば。

 こんなモンスターの戦いも、楽に終えれたかもしれないのに。

 アイズの剣が折れずに、もっと優勢になっていたかもしれないのに。

 ーーー凶狼(ベート)に、私の居場所を取られずに済んだのかもしれないのに。

 

 (もっと、もっとーーー!)

 

 あの凶狼に負けないように。

 

 『雑魚は変わろうともしねぇ』

 

 ああ、全くその通りであろう。

 レフィーヤはいつも自分で責めてばかりで、その先に進む事が出来なかった。

 ああ、認めよう。彼の言葉は的を射ている。

 彼が弱者を嫌うのも、分かるかもしれない。

 だから、そんな弱者にならない為に。

 

 (ーーー私はもっと、強くなるっっ!!!)

 

 いつか、あの人達と並べるように。

 そんな夢を抱きながら、レフィーヤの意識は暗転した。

 

 ーーー意識を失う前に、背中に仄かな暖かみを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 事態が収束した。

 レフィーヤの放った魔法が食人花を凍りつくし、そこにティオナ達が追い討ちをかけたことで、ここの騒動は沈静した。もうこの辺りにモンスターの気配は無いし、一先ず安心と言っていいであろう。

 ベートは小さく息を吐きながら、倒れたレフィーヤの傍に寄る彼女達を垣間見る。あの大規模な魔法を放ったせいか、それとも血を流し過ぎたのか。恐らく両方に原因があると思うが、レフィーヤの顔は青白く、ぐったりとしていた。エルフのギルド員が慌てて回復薬を飲ませて、取り敢えず一命は取り留めたらしいが。

 

 (……にしても、な)

 

 レフィーヤの魔法の事も気になるが、問題は今回の騒動についてである。特に、今回出現した食人花は、異様であった。

 

 (レベルも高かったし、数も多かった。それにあんなモンスター、ガネーシャファミリアが態々ダンジョンから連れてくるか……?)

 

 連れてくるとしても、怪物祭に相応しい獰猛なモンスターを連れてくるに違いないであろう。それにあの食人花は連れてくるだけで一苦労であるし、瀕死の状態まで追い込むのは至難の技だとベートは考える。レベル5の冒険者が束になっても中々倒れなかったとなると、と考えたところで、ベートは眉を顰めた。

 

 「……チッ、臭ぇな」

 

 ーーーこのモンスター騒動、何か裏がある。自分には関係の無い、黒い事情が。

 ふと、少女達はあの食人花と関係があるのではないかと思ったが、今彼女達に聞くのは無理であろう。ほとぼりが冷める時に聞こうにも、ベートの悪名で中々欲しい情報を得られないかもしれない。

 

 (……まぁ、俺には関係ねぇし。忘れるか)

 

 しかしこの件に関しては、ベートが介入する理由がない。

 故にベートは楽な道を行く。この件に関われば、何かとベートにも因縁がつけられ、食人花のようなモンスターとも戦えるであろう。

 強者のモンスターと戦えるのは嬉しい。ーーーしかし、関係の無い事柄に首を突っ込むのは正直面倒だ。

 

 「……さて、駄女神の所にでも行くか」

 

 最早、この広場に用はない。自身の主神の安否を確認する為にベートは歩き出したが、その時、視界の端にベートの目を引きつける光が差し込んだ。

 

 「あ?」

 

 ベートが視線を下に降ろせば、恐らく食人花の魔石であろう物が転がっていた。しかし、その魔石は何処か違っていた。通常の魔石は毒々しい紫色をしているが、この魔石はおどろおどろしい黄土色であった。

 気味が悪い。ーーーしかし、あの食人花の事を少しでも知りたいのは事実。忘れようとは言ったが、僅かな情報を持っていても損ではないであろう。

 

 (それに、これを拾えば、何かの交換材料になるのかもしれねぇ)

 

 本当にそんな場に居合わせるのかは分からないが、念の為だ。魔石を拾い上げて仕舞ったベートは、改めて駄女神の元まで歩き出した。

 

 

 

****

 

 

 

 地上のダンジョンとも呼べるダイダロス通りにも、モンスターは入り込んでいた。

 突如迷い込んできたモンスターに、ダイダロス通りの住民は我先にと家に駆け込み、外の世界を自主的に閉ざしていく。未だ聞こえる喧騒に怯え、恐怖し、足が竦む。

 

 『ここで、ステイタス更新をする』

 

 その一方で。

 ベル・クラネルは、一世一代の大仕事を果たそうとしていた。

 

 『ベル君、君があのモンスターを倒すんだ!』

 

 モンスターによってダイダロス通りの一角まで追い込まれた場所で、敬愛する主神(へスティア)はそんな事をベルに示唆する。

 

 『む、無理ですよ神様!僕が、そんな事ーーー!!』

 

 無論、ベルは反論した。あのモンスターと自分との実力差は、天と地だ。叶う筈がないと。そんな事をするなら、逃げて他の冒険者に助けを乞うた方が良いと。

 

 『ーーーここで君があのモンスターを倒さないと、さらに大きな被害が出る。だから、君があのモンスターを倒すんだよ!ここにいる冒険者は、君しかいないのだから!』

 

 しかしへスティアは、それでも尚引き下がらなかった。

 強情に粘るへスティアに、ベルは歯噛みする思いで、弱々しくへスティアに反論する。

 

 『……でも、僕の武器じゃ、あいつに攻撃を通すことも……』

 

 『攻撃が通ればいいのかい?』

 

 その反論に、へスティアは食いつく。

 え、とベルの呆然とした言葉に目もくれず、へスティアは背負っていたある『物』を、ベルに渡した。

 ベルがそれに瞠目するのを見て、へスティアは自信ありげに最後のひと押しをする。

 

 『その武器があれば、あのモンスターにも攻撃が通る。ここでステイタス更新をすれば、君はもっと強くなって、あのモンスターを倒すことがてきる!決断は今だ。もう一度言うよ、ベル君ーーーー君が、あのモンスターを倒すんだよ!』

 

 己の手で光る漆黒の短刀を見詰めたベルは、主神の真っ直ぐな瞳と揺るぎないその思いに押され、力強く頷いた。

 

 

 そして、今。

 

 

 

 

 「ああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」

 

 ベルは、雄叫びを上げながら『シルバーバック』に疾走する。手には漆黒の短刀をきつく握りしめて。ボロボロになりながら、彼はそれを構えた。

 

 『ーーッ!』

 

 シルバーバックが、先程と同じように腕を振り下ろす。先刻まで、この冒険者はこれで根を上げていたのだから、今回もこの攻撃をすれば容易く事を終えることが出来ると、シルバーバックは野生の勘でそう信じていた。

 しかし、そのシルバーバックの予想は大きく外れる。

 ベルに向かって振り下ろされた拳。轟音と共に割れる石畳に満足気に頷こうとしたーーー刹那、視界の端に走る、白い影を見つけた。

 

 『!?』

 

 それは、ベルであった。

 先程まで、惨めに歯向かい、逃げ回っていた、冒険者であった。

 シルバーバックは瞠目した。どうして先程の攻撃でやられない、と。どうしてこいつは生きているのだ、と。

 

 『ウアアアアーーーッッ!』

 

 焦りが募ったシルバーバックのやけくそ気味の大振り。それもベルは躱していく。

 何度も、何度も、何度も。先程の同じ攻撃を繰り返すも、それは軽々といなされていく。

 何故だ、どうして当たらない。どうして奴は死なない!?そんな焦燥が徐々にシルバーバックを占める、その矢先。

 シルバーバックは、英雄の兆しを見た。

 

 

 

 体がとても軽く、動きやすい。

 まるで、自分が自分でないみたいだ。とベルは自負する。

 自分の動きに戸惑っているシルバーバックを見て、ベルは「自分は本当に進化している」と改めて自覚した。

 たったの一度のステイタス更新でここまで進化する事が出来るなど、誰が思うのだろうか。

 先程までとは比べ物にならない動き。体がついていけなくなるかも、という不安も密かにあったが、それも心配いらないようだ。

 ーーー実を言うと、ステイタス更新で大幅に力が増大したとはいえ、ベルはあのシルバーバックには勝てないのだ。あのシルバーバックに正面から突っ込めば、ベルは間違いなく敗北する。それは揺るぎない事実である。

 で、あれば。ベルに残された勝利条件とは。

 余裕が出てきたベルは、自身のアドバイザーの言葉を思い出す。

 

 『いい?ベル君。どんなに強大なモンスターであっても、そのモンスターには必ず弱点が存在する。これはどのモンスターにも共通して言える弱点なの。これを知っておけば、迷宮に潜っても生き残る確率は上がるし、モンスターも倒しやすくなるわ』

 

 その、弱点、

 しっかりと『モンスターの弱点』を確認したベルは、シルバーバックの大振りを避けて、その勢いのままシルバーバックの懐に潜り込む。

 そして彼は、シルバーバックの胸部を見据えた。

 

 『モンスター共通の弱点。それは、中に眠っている魔石を砕く事。それでモンスターは死に至る。大体のモンスターは胸の辺りに魔石があるから、覚えておいてね』

 

 ーーーモンスターの命とも言える魔石を、砕く事。

 それがベルに残された使命。ベルに残された勝利条件。

 不意に、ベルは憧憬と冀望を思い浮かべた。自分よりも、遥か高みにいる彼らをどうしてここで思い浮かべたのかは分からない。

 ただ、そこで思ったのは。

 

 (ーーー僕は、冒険する事が出来る)

 

 ーーーー瞬間、彼は短刀を構えてシルバーバックに突進した。

 

 「うおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」

 

 勝てる、という絶対的自信と、死ぬ、という逃れられない恐怖。

 それらを全部振り切るベルの雄叫びは、ダイダロス通りに浸透する。

 狙うは胸部、モンスターの命!

 ーーーそこを、破る!

 

 進化したベルについていけれないシルバーバックは、彼が何をしようとしているのか、全くわからなかった。

 ただ、これだけは分かった。

 

 

 「う、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」

 

 

 ーーー自分は、負けたのだと。

 直後、胸に破裂するような痛みが走り、シルバーバックは絶叫を上げた。

 最後に彼が見たのは、憎たらしい程に澄んだ青と、冒険者(ベル)の勇ましい英雄の顔つきであった。

 

 






 (レフィーヤちゃんにベートきゅん関連のスキルが出来ることは)ないです。へっへー!騙されたー!(ウザイ)
 これ以上オリスキル作っちゃうと作者が(把握ミス等で)死んじゃう!ベルきゅんだけにするの!
 この話を書くためだけに原作一巻を読み直しました。シルバーバックの戦闘は何度読んでも熱くなりますね……ベルきゅんの最初の脅威、シルバーバック。ちょっとというか結構変わったところがあるかもしれませんが、自分的には納得いっているのでもういいです(満足気)
 次回はエピローグ、怪物祭終わりとなります。実はこの後の展開思いついてねぇ!!リリちゃん編は書こうと思ってるんですけどそれだけで終わっていいのかと!!ちょっとオリ話混ぜようかなと!、考えてましてね!!プロット考えてきますすいません!!
 沢山のお祝いの感想ありがとうございます!頑張った甲斐がありました!これからもよろしくお願いします!ではいつもの。

 ベート・ローガぁー!愛してるぅーー!!!!!


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それぞれの思いを募り、新たな冒険へ



 最後のテストも終えたので投稿。実は最後の部分で凄い悩んでたなんて言えない……!



 

 

 

 

 

 ーーーモンスターの大規模騒動から、数日。

 

 あの後、ベートがベルの元に辿り着いた時には、既に決着が着いていた。『シルバーバック』を討ち取った後に、安堵によって数々の疲労が押し寄せて倒れたへスティアをおぶったベルに、ベートは丁度合流したのだ。

 疲労が回復したら直ぐに目が覚めるとのことなので、へスティアの事はベルに任せて、ベートはその間ファミリアの資金調達を行う事にした。ベルも動けない今、ファミリアを支えるのは自分しかいない。

 

 モンスターの騒動についてだが、第三者の介入によって引き起こされたものとされた。詳しい事は分からないが、モンスターの警備にあたっていたガネーシャ・ファミリアの冒険者数人が、全員倒れていたとの事。その隙をついてモンスターが解放された、というのが事件の全貌だという。

 その後にガネーシャ・ファミリアがどうなったのかは知らない。ベートには興味もない事であった。

 

 

 

 あの時拾った不気味な魔石を手で弄びながら、ベートは思案する。

 

 (ガネーシャ・ファミリアがどうなったのかは知らねぇが、あのファミリアだってそんな簡単に倒される冒険者じゃねぇはずだ)

 

 少なくとも、Lv4ぐらいはいたであろう。そのLvのものが簡単に倒されるとなれば、この事件を起こした者は彼らと同等のものか、またはそれ以上の者となる。

 

 (きな臭ぇな……やっぱ、これ拾うんじゃなかったな)

 

 不気味な魔石を見て、ベートは今更ながらの後悔に溜息を吐く。

 何かに使えるかも、と思って拾ってきたが、何となくこれを持っていると嫌な予感がして堪らなかった。

 ーーー売っぱらって金にした方が得かもな。

 

 「……金になるか、確かめるのもありだよな」

 

 よし、とベートは腰を上げ、外に出る。

 本拠地を出たベートは、それを懐に入れて足早に歩き出す。早くこれを処分して、楽になりたい気分であった。不気味な魔石といっても珍しいのには変わりないので、恐らく高値で買い取ってくれるであろう。それを全てファミリアの資金に回そう。

 そうしようと心に決めて、ベートはギルドの換金所に向かった。

 

 

 

 

 「ーーー買い取れないね」

 

 そして換金所の人間を、思いっきり殴りたくなった。

 不気味な魔石を手に換金所に出してみれば、たっぷりの時間を置いた後にこの一言。苛立ちが募っても仕方がない。

 

 「……何でだ」

 

 「見た事ないからだよ、こんな魔石。鑑定でもしないと駄目だね。時間はかかるけどやるかい?」

 

 「いい。時間の無駄だ」

 

 バッ、と魔石を懐に入れて、ベートは換金所を後にする。

 さて、本格的にどうしてしまおうか。ギルドで換金出来ないとなると、他にこの魔石を売れる所はない。あるとすれば、ならず者達が集まるダンジョンの街くらいだが、ギルドですら分からないとなると、あそこも難しいであろう。

 所持したままなのは大変危険な気がするが、売れない以上これは交換材料として取っておこう。

 「……潜るか」

 

 目的の無くなったベートは、丁度いいと迷宮へ行く事を決め、足を進める。ここまでの苛立ちの発散や資金集め、彼には色々と仕事がある。それを果たす為に、今日も彼は迷宮へと潜るのであった。

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 

 「ぐぬぬぬぬぬぬ……!」

 

 その頃、レフィーヤは無念との勝負に打ち負けていた。

 自身のファミリアの『黄昏の館(ホーム)』、その一室で、レフィーヤは枕を抱き締めながら悔しい叫びを押し殺していた。時々、耐え切れずにバタバタと足を忙しなく動かす事もある。

 

 (ーーー悔しい、悔しい)

 

 その思いが、レフィーヤの心を隙間なく占める。

 モンスターの騒動、食人花との強制戦闘、そのどれもがーーー殆ど、レフィーヤは足を引っ張っていた。食人花の時は最後の最後で役に立ったのかもしれないが、殆どの場面、彼女は無様に地面に沈み込んで、後は皆に任せっきりだった。

 それが何よりも悔しかった。自分はまだ未熟という現実が、さらにレフィーヤを思い詰めさせていた。

 

 「……」

 

 だが、レフィーヤが悩んでいたのはそれだけではない。

 思い起こすは、食人花との強制戦闘。微睡みの中で朧気に見えた、あの人(アイズ)の仮の剣が折れる瞬間。

 それを狙ったのか、食人花の攻撃が彼女に直撃する……その直前に、一人の狼人(ベート)が、彼女を救った。

 その後は背中を合わせてのコンビネーション。強さも同等で、技量も自分と比べて遥かに高い。

 簡単に言えば……まるで、相棒。そんな雰囲気を、二人からレフィーヤは感じ取った。直感だが。

 

 (……もし、凶狼が私だったとしたらーーー)

 

 ーーー『大丈夫ですか、アイズさん』

 

 ーーー『レフィーヤ……!ありがとう……!』

 

 ーーー『ここからは私が援護します。アイズさんは体制を整えて、直ぐに攻撃準備に』

 

 ーーー『うん、ありがとう。レフィーヤに任せるね。信じてる、から。ーーー大好き、だよ?』

 

 「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………うへへ」

 

 自分と凶狼の立場を入れ替えて妄想を繰り広げたレフィーヤの頬は、完全にだれ下がっていた。少々余計な部分があったのは否めない。しかしレフィーヤはとても満足そうに枕に顔を埋めている。

 こんな事が現実に起こりうるはずがないと分かっていても、それがレフィーヤの動力源である。アイズ無しでは生きられない、そんな体になってしまったのだ。

 もしあそこで、アイズを失ってしまったら……そう考えるだけで、体が震える。

 

 (そう簡単には死なないと分かっていても、やっぱり怖い)

 

 あの攻撃が、アイズの急所(クリティカル)になっていたら。

 為す術もなくぶっ飛ばされて、地に伏せていたらーーーああ、考えたくもない。

 

 (その点に関しては、凶狼(ヴァナルガンド)に感謝ですね)

 

 今、丁度くしゃみを出しているであろう青年に、レフィーヤは取り敢えずの謝礼を心の中で彼に零す。

 

 「〜〜〜〜〜だから、悔しい!」

 

 強くならなければ。

 あの凶狼のように、憧憬(アイズ)の隣に立っても不自然でない程に鍛えて、強くなって!

 そして凶狼に言うのだ。『雑魚でも、彼女の隣になれたぞ』と。ざまぁみろ!と。

 雑魚も焚き付けられれば、凶暴な獣になるという事を、彼に思い知らせてやる!

 

 (さぁ、そうと決まれば自主練自主練!)

 

 今まで抱き締めていた枕を放って、レフィーヤは軽快に部屋の外に出た。

 目指すはダンジョン。己を高める為には、まずそこしかない!

 そこでまずは、並行詠唱が出来るようにならなければ。今まで度々とリヴェリアに鍛えられてきたが、実は並行詠唱を全く取得出来ていない。それもこれもレフィーヤ自身が未熟だったため。だから今日からは『ああ、また失敗した。もう嫌だ』とネガティブになる甘い自分に喝を入れる、そして必ずや並行詠唱をものにすると心に誓った。

 まずは一階層から。その後に徐々に下層に行って慣らしていこう。常日頃から言われていた並行詠唱の特訓。見ていてくださいリヴェリア様……!と、レフィーヤは固い意思を持って、『森のティアードロップ』を手に、バベルへと向かうのであった。

 

 

 

 

 そして神は、この娯楽を逃すわけがなかった。

 

 

 

 

 「あ」

 

 「あ?」

 

 ばったりと、森人と狼人はバベルの前で鉢合わせる。

 一人は己を高める為。一人はファミリアの資金集め(暇潰し)の為にバベルへと足を運んでいた。なのでこの邂逅は全くの偶然、ということはお互い理解している。

 だがレフィーヤはベートと顔を合わせた途端、目を吊り上がらせてビシッ!とベートを指差し、

 

 「絶対に!!!!負けませんから!!!!」

 

 と、ベートに高らかに宣言した。

 キョトン、と目を丸くしたベート。ふんっ!と鼻息荒く指を下ろした彼女は、満足したかのようにいの一番にバベルに駆け込む。……バベルの入口付近でまた「負けませんから!!!!」とわざわざ振り返って叫ぶ彼女には、何も言うことはあるまい。

 

 「…………………………………………あ?」

 

 一方、よく分からない意思表示を勝手に突きつけられたベートは、ただ立ち尽くすしか無かった。

 そしてその後、ベートのレフィーヤの印象に「よく分からねぇことを言い出すよく分からねぇ女」と刻まれることとなった。

 

 

 

 

 (負けない、負けないもん!!!)

 

 そんな彼女が宣言した言葉をもう一度、今度は違う人物に言い張ることになるということを、この時の彼女は知る由もなかった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 「よく映えるわね、あの子」

 

 かの美神が、ふと感想のように零した。彼女が見詰める先には一つの鏡。その鏡には、真っ白な兎のような少年と、凶暴な灰色の狼の青年が映し出されている。

 彼女は狼を視界に入れて、弧を描く。

 

 「この子のおかげで、あの子はまたさらなる輝きを出した……」

 

 恍惚そうに歪めるその姿すら、美しく目眩を起こしそうである。

 彼女はねっとりと、熱烈な視線を彼ら二人に向け、蕩ける甘いビターチョコのような声色で言う。

 

 「もっと、もっと見せてちょうだい。私にその輝きを、穢れのない純白の姿を---」

 

 神はさらに望む。もっと、至高の存在を求めて。その輝きを求めて。

 今日も美神は、美しい輝きを放つ白兎を観察するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 第一関門突破、と言ったところであろう。

 

 「あれ、何かアイズ嬉しそう。何かあった?」

 

 「……そう?」

 

 「あらホント。いつもより目の輝きが一段と」

 

 「……うん」

 

 

 

 しかし、彼らの冒険はまだ始まったばかりである。

 

 「神様。僕はもっと強くなりたいです。もっと、もっと、ベートさんみたいに」

 

 「……うん、頑張れ、ベル君。応援してるぜ!だけど無茶はするなよ!ベート君も心配するからさ!」

 

 「はい!」

 

 

 これはまだ序章。プロローグに過ぎないのだ。

 

 「【解き放つ一条の光、聖木のゆが---】きゃあああ!えいっ!……………………また失敗……」

 

 

 

 

 ほら、また次の冒険が待っている。

 

 白兎がさらなる高みへ上り詰めるための、第二の関門が待ち構えている---。

 

 

 

 

 「お兄さん方、お兄さん方!サポーターをお探しですか?」

 

 「探してねぇし望んでもねぇ、帰れ雑魚」

 

 「ベートさあああああん!?」

 

 

 

 

 







 これにて第二章は終わりです。次はやっと第三章。あのくそ可愛いパルゥムちゃん回です。
 この第二章色々とありましたねぇ……一時期長く行方をくらませてしまい、その説は本当に申し訳ございませんでした。長いこと期間はあけていてもちゃんと帰ってきますからね!
 実は当初はこんなにお気に入りや評価が来るとは思ってもみなかったんですよ。ベートきゅんってああいうキャラですし、好きな人は少ないかなぁと思っていたんですよ。それが覆されましたね。何だよ皆ベートきゅん大好きじゃーん!!仲間ー!!
 そんな皆様のおかげでここまで来れました。次の第三章でお会いしましょう。
 それでは恒例のあれで締めくくります。


 ベート・ローガぁー!!愛してるぅぅぅぅうううう!!


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雄牛は求める、かの存在を
凶狼は唖然とし、白兎はそっと目を逸らした


アルゴノゥト編最高です!!!!!
アニメベートきゅん最高です!!!!!!
ユーリってキャラなんですか!!!!!しゅ!!!!!!!き!!!!!!!!
オラトリア十二巻やばいです!!!!!!!





 

 

 

 「---なぁ、ベート君や」

 

 その日の夜、各々で夕食を吟味していた際に、ふとヘスティアがベートの名を呼ぶ。じゃが丸くんにかぶりついていたベートは視線だけを寄越し、ヘスティアの次の言葉を待った。

 

 「ベル君とチームを組むつもりは」

 

 「あるわけねぇだろ」

 

 「ですよねー」

 

 少し期待を持って話を切り出したヘスティアを、ベートは一刀両断する。あからさまに落胆したヘスティアは、ガジガジとじゃが丸くんをハムスターのように貪り始めた。その姿はまるで苛立ちをぶつける子供のよう。

 因みに話に出されたベルは最初はビックリしたものの、ベートの速攻拒否で若干項垂れている。

 

 「……何でそんな話なんてしたんだよ、俺が組むわけねぇだろうが」

 

 不機嫌そうに、ベートは先程の提案を言い放ったヘスティアを言及し始めた。

 ベートは万年孤独でダンジョンに潜ってきた単独冒険者(ソロプレイヤー)である。ベートと組みたいという変わり者の冒険者もいなかった為、必然的に単独で行動するしかなかったのだが。

 しかしそれが返って気楽でいいと思うのがベートだ。自分のペースは乱されなくて済むし、何より調整が可能。いちいちパーティの面々に気を配る必要なし。一時期は単独(ソロ)万歳と心の中で喝采したことだってある。

 単独の為、儲けはそこらのパーティよりは劣るし、何より下の階層に安易な気持ちで行けないというデメリットを持つが、そこはベートの実力でカバーすればなんら問題なんてなかった。

 つまり、単独は何かと都合がいい。だからベートはパーティ編成をする気などもっとうない。

 ……にも関わらず、ヘスティアはベルとパーティを組まないかと提案した。これは何か裏がありそうだとベートは深読みするが、ベル大好きなヘスティアの事だ。そう大したことでもないのであろう。

 

 「んー、単独より二人一組(ツーマンセル)でやった方が効率がいいのかなと思って。二人でやれば収入も増えると思うし……」

 

 「レベルの差を考えろ。そうするんなら分かれて貯めた方がマシだ」

 

 ヘスティアの考えを、ベートは真正面から反論した。

 最もな意見であろう。ベートはこの都市の第一級冒険者。対してベルはまだこの都市に来てまだ一ヶ月の新米冒険者である。こんな凸凹コンビがパーティを組めば、どちらか一方(というか確実にベル)がサポーター扱いになるのは間違いない。

 さらに言えば、この凸凹コンビでパーティを結成するならば、出向く階層は一階層から下の上層だけである。百歩譲って十階層まではギリ行けるかどうか(主にベルが)。否、七階層すら厳しそうである(主にベルが)。そうなると、普段のベートの収入とさほど変わりはないであろう。

 なら分かれた方がマシ。その方が資金も増えるし、ベルの訓練にもなる。だから易々とLv1とLv5だけで組んではダメなのだ。出掛けた芽を潰してしまうことになるのだから。

 ……因みにこの考え方は、単純にベートが戦うことを我慢すれば済む話なのだが、それだと稼ぎにもならないしパーティを組む意味もないので割愛することとする。

 

 「そっかぁ……レベルの差かぁ……」

 

 「か、神様。僕は大丈夫ですよ!」

 

 「でもベル君、君、次は七階層に挑戦するんだろう?さすがにあのナイフを持っているからと言って、単独は……」

 

 「……は?七階層?」

 

 何気なしに口にしたヘスティアの言葉に、ベートは食べる手を止めて聞き返す。それにヘスティアが「うん?」と首を傾げるが、ベートはジロリとベルを睨む。

 

 「ちょっと待て、おい兎野郎。テメェ七階層に行くつもりなのか?」

 

 「は、はい……!アビリティもEまで到達しましたし、もう大丈夫かなぁって……!」

 

 「Eだぁ……?」

 

 訝しむベートに、ベルは必死にコクコクと何十回も頷く。本当です、本当ですと何度も訴えているのがビシバシと伝わってくる。

 

 「……一ヶ月で、Lv1で、Eねぇ……?」

 

 誰かに問いかけるように零しながら、その『誰か』にベートは視線を向けた。その後、その『誰か』がさっと視線を逸らすのを見るに、やはり『あれ』が原因だということに確信を持つ。

 普通、新米冒険者が一ヶ月でアビリティEに到達するのは極めて異例な事である。アビリティはS、A、B……Iまであり、最初は誰しもがIから始まる。そのIからEまで行くのは至難の技だ。地道に努力し続けても、並の冒険者では最短で一年はかかるであろう。

 ---普通ならば、の話だが。

 

 (……兎野郎にはあのレアスキルがある。恐らくそれが関係しているに違いねぇ)

 

 『憧憬一途(リアリスフレーゼ)

 ベルに突如発現した前代未聞のレアスキル。想いの丈に比例して効果が向上。そして---早熟する。

 恐らくこれに影響されて、成長スピードが異常な程に上がっているのだろう。だから一ヶ月でアビリティEまで進めることが出来た。この仮説が妥当である。

 憧憬(アイズ)を惚れれば惚れるほど猛るように成長する……なんとも反則なスキルだ。最早脅威である。

 

 (……この兎野郎が嘘をつくわけでもねぇし、この駄神も、こいつ(兎野郎)の不利益になりそうなことは言わねぇだろう)

 

 となると、本当と信じた方が何も考えなくて済む、とベートは自己完結する。

 ……しかし、問題はそこでは終わらない。

 

 「……別にテメェが七階層に行くのは止めねぇけどよ……」

 

 「……?」

 

 ベートは服立てにかけられているベルの装備を見る。

 何の防護も施されていない布切れ(コート)に、ギルドから支給された胸当て(もうボロボロ)。服装もそこらの平民と何ら変わらない。

 ---心許なさすぎる。あれで七階層に行けば、死ぬ確率は限りなく100に近い。寧ろあんな装備でよく七階層に行こうと思ったなと、ベートはベルの軽率な行為に呆れて溜め息を吐いた。

 ベートの溜め息に釣られてベルも視線を追う。視線の先が自身の装備だということに気づいたベルは、「あっ」と声を漏らした。

 

 「……………………」

 

 「……………………」

 

 「…………見ないであげてくれベート君!!ベル君のライフが尽きてしまう!!」

 

 「神様やめてください!?」

 

 ヘスティアの必死のフォローも、ベルにとっては生傷をさらに抉られるしかない。ヘスティアが真面目にベートに言うのもプラスして効いているのであろう、ベルは涙目を通り越してもう泣いている。

 

 「…………あの支給品もボロボロなのに、あんな装備でさらに下に潜ろうとしたのか?雑魚は考えることが甘ちゃんだな」

 

 「うぅ……!」

 

 ベートの辛辣な発言にグゥの声も出ない。ベルは何も言い返せずに、ベートの言葉を真意に受け止める。

 いくら伸び代がいいからといって、丸裸同然のあの装備でさらに下に潜るのは命を捨てるも同然。ベートのこの罵倒も当然の言葉である。

 しかし、しかし、とベルは身を縮こませながら、ボソボソとベートに反論した。

 

 「ぼ、僕も分かってはいるんですけど……その、お金がなくて。だから、あの、装備を新調する事が出来ない、と、いうか……」

 

 「いくらある?」

 

 詰まりながらも最後まで伝えたベルに、すかさずベートは返す。

 ベルは視線をめいいっぱい横に逸らし、絞り出すように「……一万、ヴァリスです」と答えた。

 

 「あ?一万もあれば十分じゃねぇか。下手すりゃ一式が買える」

 

 「……え?」

 

 「は?」

 

 驚きを隠せないベルに、思わずベートは聞き返す。何か変なことを言ったか、自分は至極真っ当な答えを出したはずだが、とベートは己の発言を見返し、首を傾げた。

 

 「え、と……一万で一式が買えるなんて、ないんじゃないんでしょうか……?あの、ヘファイストス・ファミリアでも、一式だけで数十万も……」

 

 「そんな所に行かなくても、手頃な値段で手に入れられる新人鍛冶師が打ったテナントに行けばいいじゃねぇか」

 

 「え?なんですかそれ」

 

 「は?」

 

 「え??」

 

 ……ああ、なるほど。思わずまた聞き返してしまったが、そういえば彼はこのオラリオに来てまだ一ヶ月の新人だ。ベートの言う事が分からないのも無理はない。とベートは腑に落ちる。

 

 「……バベルにはヘファイストス・ファミリアの他に、新人鍛冶師が打ったテナントも存在する。そこに行けば、たとえお前の寂しい懐でも買えるものが多いだろ」

 

 中々噛み合わない応酬の真相に達したベートは、渋々ながらも、まだ無知に等しいベルに多少ながら知識を与える事にする。

 へぇ、と感心する声を漏らしたベルの体は、身を乗り出している。彼の話に興味津々なのであろう。

 

 「じゃあ、そこに行けば僕の手持ちでも買える装備があるって事ですか?」

 

 「まぁ、大抵は行けるだろ」

 

 素直に肯定すると、ベルは分かりやすく目を輝かせた。自分でも買える、自分だけの装備に夢膨らませたのだろうか。目はキラキラと「早く買いに行ってみたい」と物語っている。

 

 「何!?バベルに行くのかベル君!ならボクも同行して---!」

 

 「テメェ明日仕事だって言ってたじゃねぇか」

 

 「いやあああああああああ思い出させないでくれベート君!!!」

 

 ここぞとばかりに乗ろうとしたヘスティアを、ベートは現実的に論じて押し込める。頭を抱えて絶叫するヘスティアを無視して、ベートは話を続けた。

 

 「まぁ、そこで装備を整えて行った方がいいだろ。詳しい事はアドバイザーにでも聞くなり連れてもらったりしろ」

 

 「……分かりました。明日、エイナさんに聞いてみようと思います!ありがとうございます、ベートさん!」

 

 「……今回だけだ」

 

 素直じゃないなぁ、という生暖かいヘスティアの視線に、ベートは睨みを効かせて返す。別に心配とかそういう気で助言したのではない断じて。死因が装備の新調不可能とかそういう格好の悪いもので言われるのが嫌なだけだ断じてそうだ。

 じゃが丸くんを食べ終えたベートは、ベルとの会話を早々切りつけて、明日の予定を組み立てる。明日は何階層まで行こうか。十八階層まで行ってしまおうか。ああ、そのついでだ、あの不気味な魔石でも持って鑑定所に行ってみるか。どうせ分からないだろうが、適当な額を言って買い取ってくれるかもしれないし。

 取り敢えず明日は十八階層まで行こうと目的を決めた、その時だった。

 

 「……ちょっと待ってくれベル君。君、明日アドバイザー君に防具の事について相談しに行くんだよね?」

 

 ヘスティアが突然話を掘り返してきた。それにベルは「はい」とにべもなく答える。

 

 「……もしかして、そのまま一緒に防具を買いに行く流れだったり?」

 

 「え?それはどうでしょう……かね?」

 

 「俺が知るか」

 

 ベルに話を振られて、ベートは興味無さそうに答えた。そんな事は知らないし興味もない。余っ程の世話焼きのアドバイザーならしそうだが。

 しかしヘスティアはこの返答に不満げらしい。彼女はムンムンと唸りながら念仏のように言う。

 

 「確かベル君のアドバイザーは女性だったはず、もしそのアドバイザー君とベル君が話に盛り上がって後日一緒に防具を見に行く約束をしたならばそれはデートと言っても過言ではないのかいやデートだ絶対にそうだ絶対阻止してやる」

 

 何かを決意したらしいヘスティアが、ふんす!とベートを見た。そしてベートにビシッと指をさし、「ということで!」と声を高らかと上げる。

 

 「ベート君、ベル君が防具を買いに行く時は君も付いて行ってくれ!」

 

 「断る」

 

 即答だった。当たり前である。何故駄神の私情なんかに付き合わなければならない。

 

 「頼む!この通りだベート君!ベル君が他の女とデートしている所なんて見たくないんだ!あわよくばそのアドバイザー君がベル君に惚れるなんて事もあるんだぞッ!?それは絶対に阻止しなければならないんだ!分かるかい!?」

 

 「分かるわけねぇだろうが」

 

 しかしヘスティアは退かず、ベートの腕に縋り付いて泣き出した。その言葉の羅列は思いっきり私情満載で、思わずベートは顔を歪めて塵でも見るかのような目でヘスティアを見下す。

 

 「そこを!!そこを何とか!頼むよベート君一生のお願い!!僕はベル君を何処ぞの女の子に取られたくないんだ!頼むよおおおおおお!!」

 

 「うるせぇ!くっつくな!鼻水つく!離れろ!!」

 

 それでもめげない、女神ヘスティア。自分の醜態など気にもせずに、ただ自分の思い優先でベートに縋る。神じゃなかったら一発で殴り飛ばしていたところだ。

 

 「……あの」

 

 ヘスティアの頭を力いっぱいに押し返し、何とか拘束を解こうとしているベートに、ベルが控えめに口を出す。二人の視線を受けたベルは、申し訳なさそうに彼らに言った。

 

 「……ベートさん、明日、僕と一緒にバベルに行きませんか……?」

 

 

 

 

 

 ---翌日。

 

 

 

 「……どうしてこうなった」

 

 隣のベルが彼の呟きに苦笑を漏らし、「すいません」と軽く謝った。

 今、ベートとベルがいる場所はバベル前の噴水広場である。相変わらず冒険者達で溢れ返っており、皆次々にダンジョンの入口へ足を運んでいた。

 あの夜、ベルの誘いにベートは渋々と了承したのがきっかけだった。あのまま行けばヘスティアが面倒臭い事になるのは確実だし、しょうがない決断であった。そうだと思いたい。

 ので、今ベートはベルの共にバベルの中へ入ろうとしている。非常に不本意だが。非常に不本意だが。

 

 「えっと……バベルの何処に行けばいいんでしょう……」

 

 「付いてこい」

 

 辺りを見渡したベルに、ベートは一言だけ告げて足早にバベルの中へ入る。それをベルは追いかけ、彼もバベルの中へ。

 バベルの中はやはり人で賑わっていた。ダンジョンへ向かう武装した冒険者に、上へと昇る一般人など、様々な人達が行き交っている。ベートとベルは、後者の方に付いて行った。

 エレベーターで上の階まで昇る。やがて着いた先では、ベルでは絶対にお目にかかれない代物達がズラリと陳列していた。

 

 「おお……!」

 

 思わず感嘆の声を上げる。

 この武器や防具達は、全てがヘファイストス・ファミリアで造られた物だ。聞けばこのフロア全体は、ヘファイストス・ファミリアのテナントだという。さすが大規模なファミリアは違う、とベルは感動に目を輝かせ、さり気なく展示されている武器の値段を見た。

 

 「アッ」

 

 そしてその武器を見て、卒倒しそうになった。

 黄金色に輝く長剣。その傍に立てかけられている値段表には、ベルの貯金に0を五つも足した値段が書かれていた。その値段で、この武器がどれだけ貴重な素材で、素晴らしい鍛冶師に打ってもらったのかがわかる。

 ……ここまでの物を買えるまで何年かかるんだろう、と遠い目をしたベルは、とぼとぼと少し先を歩いているベートの後を追った。

 

 

 またエレベータに乗って上へ。そして着いた先は、先程の光景と一変していた。

 

 「……?ここ、は……」

 

 先程の煌びやかな装飾とは異なり、ベル達が着いた階は薄暗く、まるで洞窟の中にいるかのような部屋であった。辺りを見渡すと、数多の鍛冶師が大声を張り上げて、自分が打ったであろう武器を売り出している。

 明らかに空気が変わった空間。狼狽えていると、ベートがやっとの事でベルに声をかけた。

 

 「ここはヘファイストス・ファミリアに所属する末端の鍛冶師達が打った武器のテナントだ。末端の鍛冶師達は、ここで武器を売り出して名を上げている」

 

 「ここが……?」

 

 「そこにある武器の値段を見てみろ」

 

 言われた通りに出入口付近に展示されていた槍の武器を見ると、そこにはベルの貯金でも余裕で買える値段で提供されていた。

 

 「あれ、安い……」

 

 「未熟な鍛冶師達が売った武器だ。ブランド名が使われている上級鍛冶師(ハイ・スミス)共と同じ値段なんて使えねぇ。……ここなら、新人の冒険者でも買える武器があるだろ」

 

 確かに、ベートの言う通り。これならベルの持ち金でもある程度の防具や武器は整えられる。こんな場所を知らなかったベルは、さらなる自分の強化を想像して胸踊らせた。

 新しい玩具を見つけた無邪気な子供のように顔を輝かせたベルに、ベートは興味無さげに言う。

 

 「武器でも何でもいいからさっさと買ってこい。こんだけあるんだ、テメェでも気に入るものはあるだろうよ」

 

 「---はい!ありがとうございます、ベートさん!」

 

 そうベートが言うや否や、ベルはさっと駆け出してより防具や武器が集まる棚へ消えていく。その背中を見届けたベートは、欠伸を隠さずにして、億劫そうに肩を竦めたのであった。

 

 (……それにしても、ここに来るのも久々だな)

 

 ふと、ベートはこの光景を見るのが久方振りだと感じる。

 昔のベートは良く装備を酷使させて破壊し、よくこの場所に赴いて買っていたものだ。しかし最近はそんな事があまりなく、この場所に赴く機会もすっかり減ってしまっていた。

 これもLvが上がるにつれ慣れてきたのか、それともただ単に昔よりかはマシになったのか。---この場合は後者か。

 兎にも角にも、ベートは最近ダンジョンに深く潜り込んでいない。大体が自分より格下の敵で直ぐに殲滅してしまうので、装備もそこまで消耗しないのであろう。

 

 (……十八階層より下に潜るか)

 

 この後の予定を密かに変更した所に、トタトタとこちらに向かって走ってくる音がした。顔を上げると、ベルが小走りでこちらに駆け寄ってくるのが見える。

 

 「あ、ベートさん。ちょっといいですか?」

 

 「……?」

 

 少し嬉しそうな、それでいて戸惑いが隠せないベルにベートは訝しむ表情を浮かべるが、ここで拒否する理由もないので、仕方なくベルの後を着いていくことにした。

 やがてベルに連れてこられた場所は、一つの防具一式が置かれている箱だった。見た感じ『ライトアーマー』らしいが……これがどうした、という目をベルに向けると、彼は目を逸らしながら「この装備、どうですか?」と聞いてきた。

 

 「あ?……持ち上げてみる限り、軽いから良いんじゃねぇのか?しかし、ここまで軽いのは初めてだな、まだこんな装備を作れる奴もいたもん---」

 

 ライトアーマーを持ち上げて賞賛し、何気なくこのライトアーマーの製作者の名前を見ようとそちらに目を向けたベートの言葉が、不自然に止まった。その瞬間、さらにベルの表情が困惑と申し訳なさに染まったのをベートは知らない。

 そんな事より、ベートはその名札に視線を奪われていた。

 製作者の名前は「ヴェルフ・クロッゾ」。別にこれはいい。その名前の噂は聞いた事あるが、それはベートにとってはどうでもいい。

 問題は---この防具の名前である。

 製作者の名前の上には、基本防具の名前が記載されている。されていないものもあるが、されているものが殆どだ。防具や武器の名前は大体はお洒落な名前が殆どであるから、その名前を目にしたベートにとっては衝撃に言葉を失っていた。

 

 「…………兎鎧(ピョンキチ)

 

 ベートは呆然と、その防具の名前を口にする。

 兎鎧(ピョンキチ)兎鎧(ピョンキチ)だ。この防具にこんなファンシーな名前だ。一気に蛇足感が増している。

 正直に口悪く言えば---ダサい。ダサすぎる。もっとマシな名前を付けてあげればいいのに、とベートは思った。

 

 「………………」

 

 「………………」

 

 ベートは兎鎧(ピョンキチ)を手にしながらベルの方を見る。ベルは超高速で顔を逸らした。

 

 「……………………」

 

 「……………………」

 

 「……………………」

 

 「…………………………」

 

 「……………………………………」

 

 「……………………………………………………………………………………………………な、名前がそれですけど買ってもいいですかベートさん!?!?いえ買わせてください!!」

 

 沈黙に耐えきれなくなったのか、ベルがベートに言いよってそう懇願した。

 一目惚れなんです!!お願いします!!と土下座でもしそうな勢いだ。そんなに欲しいのか。正直ベートがドン引きしてしまうほどにベルの勢いが強い。

 

 「…………………………買えばいいんじゃねぇか……?」

 

 「ありがとうございますッッ!!」

 

 勢いに押される形でそう言えば、ベルは本当に土下座でもしそうな勢いで感謝を述べた。

 買ってもいい、とベートは思う。名前以外を除けば普通に良作であるし、自分に合ったと思えば即座に買えばいいのに、何を危惧したのか。ベルの一連の行動に疑問が耐えないベートであったが、やがて考えるのが面倒臭くなったのかまた欠伸をし、ベルが意気揚々と防具「兎鎧(ピョンキチ)」を買う姿を見つめるのであった。

 

 

 

 




最近ダンメモが火を噴いてると思うの。
アルゴノゥト編って何???って思いながらプレイしたらね、普通に前編後編胸熱展開で泣いた。普通に書籍化かアニメ化か映画化していいと思う、しないの?(真顔)していいと思う(確信)
アルゴノゥトかっこよかったっす……。


十二巻もやばい展開でしたね……十一巻があれだったからそれからどうなるのかという鬱な気持ちで読んだんですが、いやはや大森大先生は凄いとしか言えないくらいの十二巻でした……。ベートきゅんファンの人は読んでくれ……頼む、あいつ最高にかっけぇんだ……。推しが活躍するところ読むの本当にうれち……。

てか本当にベル君やばいわ(十二巻読んだ感想)

本当に皆、十二巻読んで。まじやばいから、現場からは以上です。
それでは締めに移させていただきます。また今回も期間が空いてしまい申し訳ございません。それでも待っていてくれた方ありがとう!ダンメモやダンまち二期、さらに本編外伝の勢いに負けずに頑張ろうと思います!それでは最後に!

ベート・ローガぁー!愛してるぅーーー!!!



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相手が狼でなければよかったのに



前回の投稿から一年になる迄に書き終わらねばという思いで書き終えました。
また半年くらい期間開くと思います(宣言)


 

 

 

 

 

 「——今日はありがとうございました、ベートさん」

 

 あれから。

 何とも微妙な作品名でありながらも性能はベートが認める程に素晴らしい防具「兎鎧(ピョンキチ)」を購入したベルと、ただただ店内を歩き回っていたベートは、防具を購入した後、直ぐにバベルを出た。外に出ればひょっこりと顔を出している夕陽が徐々に隠すところで。ベートとしてはそれ程時間はかかっていないと思っていたが、どうやら結構時間はかかっていたらしい。

 防具が入った木箱を大切そうに抱えるベルは、隣で黙々と歩くベートに感謝の言葉を零した。人々の喧騒から離れた路地裏で零れた言葉だからか、ベルの感謝の言葉は一語一句ベートの耳に伝わる。

 

 「……あ?」

 

 ベートはベルの感謝の言葉に訝しげな顔をした。目線をベルの方に向け、「意味がわからない」といったような声色を発して、ベルの返答を待つ。

 

 「僕、冒険者についてまだまだ分からない事だらけで……今回もベートさんに教えてもらわなきゃ、もしかしたらずっとギルドの支給品だけでダンジョンに潜っていたかもしれなかったですし。だから、ありがとうございます、ベートさん」

 

 「……俺はテメェがまだあんな貧弱な装備を使って、ファミリアが下に見られるのが嫌だっただけだ。勘違いするんじゃねぇぞ。全ては俺がやりたくてやった、ファミリアを見下されるのが嫌だったからやっただけだ。決してテメェの為にやったわけじゃねぇ」

 

 「それでも、嬉しいです」

 

 たとえベルの為ではなかったとしても、それでも付き合ってくれたことには感謝するしかない。

 ベルはまだオラリオに来て、冒険者になって一ヶ月しか経っていない新米だ。ダンジョンの事も理解していないことは沢山あるし、装備や規則だってまだ頭が追いついていない。一人でやるにはとても体が辛くなってくる。

 しかしベルにはベートがいた。同じファミリアのベートが。

 ベートがいてくれたからこそ、ベルは着々と冒険者の知識について学ぶ事が出来ているのである。勿論、アドバイザーのエイナだって感謝している。しかしそれでもベルにとって「冒険者」を教えてくれたのはベートであった。

 ベートはベルにとって、「先導者」のような存在であった。自分の一歩先を行き、夢への道をその逞しい背中と凄まじい力で導いてくれる、そんな存在がベートであった。

 だからたとえベートがベルの為にやっていなかったとしても、ベルにとってはそれは「導いていること」と同義なわけで。だからベルはベートに感謝を述べたのである。冒険者としての「当たり前」を教えてくれてありがとうと。新たな出会いを導いてくれてありがとうと。ベートがバベルの事について話さなければ、もしかしたらベルは一生あの作品に出会えなかったのかもしれないのだ。感謝以上のことをしてのけたい。

 

 ふへへ、とだらしなく頬を緩めたベルに、ベートは決まりが悪そうに舌打ちを零してそっぽを向いた。照れているのか、否違うこれはウザがられているな。そう確信出来る程に結構親密になった関係に、ベルが頬をさらに緩ませたその時であった。

 

 「……」

 

 不意に、ベートが歩みを止めた。

 遅れてベルも足を止め、少し後ろで立ち止まっているベートの方を振り返る。どうして止まったのだろう。その理由を聞こうと口を開こうとしたが、次の瞬間ベルは何故ベートが足を止めたのか、その理由を知ることになる。

 

 トットットット。ベルとベートの少し先の方で、何かが走っているような音が聞こえた。ベルはその音を聞いた時、ほぼ反射的に音がした方に顔を向ける。ベルが顔を向けた先には曲がり角があって、どうやらこの駆ける音はあの曲がり角の先から発しているらしい。

 成程、ベートが足を止めたのはこれが原因か。常人よりも遥かに抜きん出ている聴力を持っているベートは、この走り音にベルよりも先に気付き、怪しんだ為足を止めた。これが理由だろう。

 

 警戒を強めたベルは、その足音の正体を少しでも探ろうと耳を澄ませた。が、その足音は案外近くにあるらしく、ベルが耳を澄ませたその時には、既に足音の正体は姿を現していた。

 ダッ!と曲がり角から出てきたのは、汚れたフード付きローブを羽織っている子供であった。深くフードを被っている為顔がよく見えず、男か女かは判断がつかない。彼は曲がり角から勢いよく飛び出してきた後、真っ直ぐにベルの方に向かっていく。

 

 「ぶっ!」

 

 そして彼はベルの腹に頭をぶつけ、ぶつけられたベルは呻き声を発しながら倒れ込んだ。

 中々強いタックルであった。倒れた時頭を少しぶつけてしまったので片手で頭を抑えれば、背後にいたベートから「何してんだ」と呆れた声が飛んできた。

 

 「い、いえ。誰かが……」

 

 「ンなの見れば分かる……」

 

 「あ、ごめんなさい!大丈夫ですか!?」

 

 呆れた溜め息が漏れるベートにうへへと笑うベルであったが、直ぐに衝突した人物に謝罪した。何が原因とはいえぶつかったのだ。こちらにも非があるかもしれない。一概にぶつかって来た人が悪いとは言えないのだ。

 ぶつかって来た彼は「いてて」と()のような高い声で呻いた後、顔を上げる。その時にベルとベートは、初めて彼の姿を見た。フードに隠されていた、フードの奥の顔を。

 まだ幼さの残るふっくらとした顔に、まとまりのない栗色の髪。つぶらな瞳は愛らしさを彩り、さらに小柄も相まって可愛らしさを引き立てている。

 

 (……女の、子?)

 

 何処からどう見ても、女の子(・・・)であった。

 恐らく小人族(パルゥム)の、女の子。まだ小さく幼い体の女の子が、ベルとベートの前に座り込んでいるのである。

 

 彼、否彼女はベルの顔を凝視した後、顔を引きつらせた。

 

 「あ、貴方はヘスティア・ファミリアの……!?」

 

 悪名が知れ渡っているベートだ。そのベートと同じ仲間のベルは、色んな意味で噂で囁かれているのだろう。

 少女は目の前の人物が「粗暴なベート・ローガの仲間」として知った途端、直ぐにその場から逃げようと後退りするも、ダン、ダンと大きな音が背後から聞こえると、ひゅ、と顔を蒼白とさせた。

 

 「……?」

 

 少女の様子に唯ならぬ事態と判断したベルは、彼女の背後から聞こえる荒々しい音に注意を向ける。

 やがてやって来たのは、一人の冒険者であった。ならず者、という表現が正しい小汚い装備を身につけている彼は、少女を見つけるとギラリと瞳を怒りに添えて、少女に近寄ってくる。

 

 「追い詰めたぞ、糞ガキ……!」

 

 「ひっ……!」

 

 最早怒りでは収まらない範疇の環状に陥っている冒険者が歩み寄ってきたのを理解した少女は、喉を引き攣らせながら後退した。しかしベルが彼女の行く手を阻んでいる為、ドン、とその小さな体は道から出て行けず、ベルの体にぶつかる。

 まずい、まずい!焦りが荒波のように心の中を支配する。もう頭の中は真っ白。どうやってこの場を切り抜けれるのか、少女には正常な判断もつかなかった。

 

 (……追われていた、のか?)

 

 一方、その殺伐とした空気を目の前で見ているベルは、少女の様子に直ぐに思い付く限りの事情を察する。

 一目瞭然とは言えないが、「追われていた」というのは間違いないだろう。この少女が何かをしたのか、はたまた少女の存在がいけないとか、思い付く理由はこれくらいだ。

 普通なら、介入しない方が得策。変な事に首を突っ込んで、いらない因縁を付けられることもない。現にベートも間に入らずに傍観に徹している。くだらない事に手は出したくないのだろう。

 

 (……)

 

 それでも、ベルは。

 

 (———この人は、この子に何をするのだろうか?)

 

 安易に見過ごす事など、出来なかった。

 

 「……あ?」

 

 気付けばベルは少女の前に庇うように立っていた。腰に差しているヘスティアナイフの鞘に触れながら、男と対峙していた。

 男は苛立った様子で、今更ベルの事を認識した様子である。舌打ちが零れそうな顰めた顔で、男はベルに向かって怒りを混じえさせながら問うた。

 

 「なんだァてめぇ。そこをどけ、俺はてめぇの後ろにいるガキに用がある」

 

 「ど、どきません……!」

 

 「あぁ……?」

 

 なるべく穏便に済ませようとしたのだろう、口調はなるべく優しく言った男であるが、ベルはそれを拒否した。

 さらに男の苛立ちが募る。「なんで退かねぇんだ。さっさと退け、殺すぞ」と脅しをかける。普通ならば怯えて去るはずの脅しであるが、それはベルには効かなかった。

 

 「だ、だって退いたら貴方、この子に酷いことをするんでしょう……!?」

 

 「——ンなことてめぇに関係ねぇだろうが!さっさと退け!」

 

 ついには声を荒らげた男にベルは肩を揺らすも、少女の前から足は動かない。

 チィ、と舌打ちを零した男は、唾を吐きながらベルに叫ぶように言う。

 

 「大体、お前はそのガキと何も関係がねぇだろうが!!無関係な奴が安易にこっちの世界に踏み込んでんじゃねぇ!!そんな奴を庇って何になる!」

 

 その問いに、ベルは少しだけ口ごもった後に、恐る恐る答えた。

 

 「——お、女の子だから?」

 

 「…………ぶち殺すッ!!」

 

 意味不明、理解出来ない、どうしてこの場でそんな事が言える!巫山戯ているのか!

 ベルの巫山戯た答えに、男の堪忍袋の緒が切れた。腰に差していたサーベルを取り出し、それをベルに向け戦闘態勢に入る。

 ベルはそれを見て一瞬だけ体が仰け反ったが、直ぐに切り替え『ヘスティア・ナイフ』を取り出し、構えた。その時、背後で怯えていた少女の目が煌めいたのをベートは見逃さなかった。

 

 「今更後悔すんなよ、坊主!」

 

 じり、と男が寄ってくる。それに下がりそうになるのを必死に耐えて、ベルはキッ、と男を睨み付ける。

 

 (やばい、やばいやばい!?対人戦なんて全くやってないから、これはまずい!?)

 

 しかしベルの心中は穏やかではなかった。心の中で、この状況がいかに最悪かを必死にぶちまけるベル。

 ベルは冒険者になった今でも、人との戦闘は全く経験した事がない。0にも等しい。ベートとも拳を合わせた事もないし、喧嘩も経験した事がない。いつもモンスターと刃を交えるだけで、意思を持った物にナイフを向けることは初めてなのだ。

 勝てる見込みがない。勝利のビジョンが思い浮かばない!絶望にうちひがれそうになるも、彼の背中には怯えて縮こまる女の子がいる。それがベルの弱い心を叱咤していた。

 ここで女の子を見捨てたら、後で絶対後悔する。だからここで護らなければ。女の子を、絶対に。

 

 「——べ、ベートさん!その子を、お願いします!」

 

 しかしやはり一人で護りきるのは自信が無い。

 だからベルは丁度一緒にいたベートに少女を預けた。信頼のおける相手に頼れば、少女の事を顧みずに戦闘に集中できると踏んだから。

 

 「……は?」

 

 「えっ」

 

 「あっ?」

 

 そしてベルの咄嗟の判断に、各々は別の反応を起こした。

 突然名を呼ばれたベートは「嘘だろ巻き込むんじゃねぇよ」と迷惑そうに。少女は「何であの男の名を口にした」と驚き、男は「何で今この場であの男の名が出てくる」と戦慄した。

 ……そしてこの場で聞こえた第三者の声に少女がそっ、と角の先を覗き込めば、そこにはかの悪名高いベート・ローガが、退屈そうに壁に凭れているのが見えた。

 

 「ヴァ、【凶狼(ヴァナルガンド)】!?」

 

 「はぁ!?【凶狼(ヴァナルガンド)】だとぉ!?」

 

 どうやら少女と男はベートの存在に今まで気付かなかったらしい。

 少女はベートの姿を認識した途端ベルの足にしがみつき、ベートの名を聞いた男は先程の威勢は何処へやら、すっかりへっぴり腰となって戦いていた。

 

 「……チッ」

 

 あれ?何か僕おかしなこと言いました?と元凶のベルが戸惑っているのを見て舌打ちを零したベートは、面倒臭そうに少女と男が見える位置まで歩く。今までベートの姿を確認出来なかった男は、あの粗暴で凶悪なベートが姿を現した途端、ひぃと小さな悲鳴を上げた。

 

 「ふ、ふざけんじゃねぇぞ!何であの【凶狼】がここに……!…………?ちょっと待て、てめぇ良く見たら、あの【凶狼】のとこの白兎!?」

 

 「……白兎?」

 

 何とも可愛らしい呼称で呼ばれたベル。やはりベートのせいでベルの存在は公に広まっているらしい。

 くそ、くそ!と悔しそうに男は悪態をつくが、そのサーベルを下ろす素振りはない。当然だ、自分は何も間違った事はしていないのだから。

 そもそもの話。明かしてしまえば、男が少女を追っていた理由は、少女に物を盗られたからである。それを取り返そうとしたところにベルが立ちはだかったのだ。自分は物を取り返そうとしていただけなのに、少女の方が悪だというのに、何故か悪役ポジションにいるのが男は解せなかった。

 これは正当防衛。物を取り返そうとして何が悪い。だから悪くない、自分は悪くない!

 

 「———おい」

 

 だけど、いやだけど。

 気付けばベートが男の前に立っていて。ベートは気だるそうにしながら、兎一匹は殺せそうな目で男を見下していた。

 男の目から涙が濁流のように零れる。足が竦み、呼吸すらも出来ない。今の男は狼に睨まれているか弱い小動物だ。勝てるわけが無い。

 そう、男は間違っていない。多少言動が手荒な事を除けば、男は何も間違った事はしていないのだ。

 ただ、言うとすれば。

 

 「—————失せろ」

 

 「ひぃいいいいいいいいいいいっ!?!?」

 

 相手が悪かった(・・・・・・・)、ということである。

 

 

 

***

 

 

 

 

 みっともなく逃げる男の情けない姿をぼさっと見送ったベートは、後ろに振り返った。そこには未だにナイフを納刀させていないベルと、へたりこんでいる少女がいる。

 

 「す、すみませんベートさん……助かりました」

 

 「テメェが起こした事はテメェで解決しやがれ、兎野郎。俺をコキ使おうとするな」

 

 「ごめんなさい……」

 

 謝りながら、ベルはナイフを鞘に納める。

 騒動が鳴りを治めたのを機に、ベルはへたりこんでいる少女と目線を合わせて、手を差し伸べた。

 

 「大丈夫?立てる?」

 

 少女はその手とベルの顔を交互に見て……そして次の瞬間、脱皮の如く走り出した。

 「うぇ!?」と驚くベルが、慌てて少女が走り去った方に顔を向けたが、そこには少女の姿はもうなかった。

 何かやってしまったのだろうかとショックを受けるベルに、ベートは頭を掻きながら言う。

 

 「放っておけ。あんな面倒臭そうな奴に関わっていると碌な事がねぇ」

 

 「う、うーん……」

 

 ベートなりの助言ではあったのだが、何処かベルは腑に落ちない様子だ。このお人好しが、とベートはベルのいいところを態と貶す。

 

 「——お見事でした、【凶狼(ヴァナルガンド)】」

 

 その時、コツン、と、革ブーツの靴音が路地裏に反響した。

 先程の少女や男の足音とは違う、新たな音。警戒を上げてベートが音のした方に顔を向ければ、夕日を背にこちらに歩んでくる女性がいた。青柳色のエプロンドレスに、フリルがあしらわれたカチューシャを柳色の髪の上に被せている、見目麗しい森人(エルフ)の女性だ。

 ベートはその女性に見覚えがあり、記憶を少しだけ遡る。その間に、森人の女性は柔らかい笑みを浮かべながら二人の近くまで歩いた。

 

 「威圧だけで敵を退けるとは、さすが第一級冒険者。格が違いますね。私が間に入る隙もありませんでした」

 

 「……あー、お前、酒場の女か」

 

 「……相変わらず、他者に関心のない御方だ」

 

 「リューさん!」

 

 ベルが近づいてきた森人の女性の名を口にし、彼は顔を綻ばせる。

 森人の彼女の名前は『リュー・リオン』。ベルとベートが贔屓にしている豊穣の女主人に務める従業員だ。常に毅然とした態度をとっており、それでいて優雅で気品のある佇まいが目を引く美しい女性だ。腕に抱えている果物や野菜が沢山入った袋を見るに、買い出しの最中だったのだろう。

 リューはベルを視界に入れ、顔をベルの方に向ける。

 

 「どうも、クラネルさん。お元気そうで何よりです」

 

 「いえ……」

 

 「しかし、あのような事は少し控えた方が宜しいかと。対人戦経験のない貴方を考えれば、あの行動はハッキリ言って早計だと思います」

 

 「すみませんでした……」

 

 リューの厳しいコメントに、ベルは項垂れ謝罪を口にする。さすがに無謀過ぎた行動であった事は自覚しているようだ。

 あの男と殺意を持って対峙してわかった事であるが、あの時一番力量が上だったのは確実に男の方であった。もしベートがあの場におらず、ベル一人だけで立ち向かっていたとしたら、ベルは無様に男の猛攻をただただ受けるしかなかったであろう。

 もっと状況をよく見ないから。そんな説教じみた幻聴がベルの心に突き刺さり、うう、と涙目になる。

 

 「……よくあの兎野郎が経験がないって分かったな」

 

 「見た感じ、経験が無さそうでしたので」

 

 「……そうかよ。で、テメェは買い出しか」

 

 「はい、ミア母さんに頼まれました」

 

 「……こんな路地裏を通って帰るとはねぇ」

 

 「この道が近道なので、帰宅時間を早めるにはいいかと。……貴方方はダンジョンには行っていないのですね」

 

 主にベート達の体の方を見て言ったリューに答えたのは、立ち直ったベルであった。

 

 「はい。今日は僕の装備を買いに行ったんです」

 

 「クラネルさんの?……成程、良い判断ですね。さすがにいつまでもギルドの支給品では、これからの冒険は心許ないですし」

 

 良い物は手に入りましたか?という問いに、ベルは満足気に頷き、「明日、その装備を来てダンジョンに潜ろうかと思うんです」とさらに答える。

 まるでプレゼントを与えられはしゃぎまくる子供のようなベルに、リューは微笑ましいものを見るかのような目でベルを見た。

 

 「ガキみてぇにはしゃぐな、みっともねぇ。さっさと帰るぞ」

 

 溜め息を吐いたベートの言葉にベルが空を見上げれば、既に夕陽は沈みかけており、宵闇が訪れようとしていることが分かった。

 さすがに遅くなるのは頂けない。このままではヘスティアに心配されてしまう。自身の主神を思ったベルは、名残惜しそうにリューに「それでは」と別れの挨拶を口にする。

 

 「ええ。またお時間がある時に、豊穣の女主人にでも寄ってください」

 

 「はい!」

 

 「ふんっ」

 

 ベルは笑顔で、ベートは鼻を鳴らし、リューに背中を向ける。

 その時、リューの口から「——【凶狼】」と、ベートの二つ名が零れた。その声はベートにしか届かず、上機嫌で先に行くベルには届いていない。

 立ち止まったベートに、リューは投げかけるように言った。

 

 「……クラネルさんが助けた小人族ですが、気をつけた方がいい」

 

 「……ハッ、言われるまでもねぇ」

 

 それは忠告だったが、その忠告の内容はベートの予想の範囲内だ。

 リューの忠告を簡単にあしらったベートは、歩き出す。先を往くベルの元へ。突然立ち止まったベートに気付き、不思議そうに立ち止まったベルにベートが軽い蹴りを入れるのを、リューはずっと見詰めていた。

 

 

 





書いてる途中に誤って全てを消してしまい一回挫け、ベートきゅんの新イベにモチベを取り戻し執筆を再開したものの忙しい毎日に体調を崩し……の悪循環。お待たせしました、続きです。
当初はもう少し長くなる予定だったのですが、キリがいいですしここで一旦切りました。えへへ。
ちょくちょく書いていたしたけれど、最近は本も知識も何も取り入れてない状態だったので文才能力は著しくないですが、それでも楽しんでくれたら幸いです。私としてはリューさんに「凶狼」って言わせれたこととベートきゅんの凄みが書けたことで満足なんですけどね!
ではまた半年後くらいで!(確定)

ベート・ローガぁー!!また新イベも楽しみにしてるよー!!愛してるぅー!!


あと漫画ついにベートきゅん編始まる???????



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