『外物語』 (零崎記識)
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番外編
『外物語』1周年記念短編 むやみバースデイ


一周年記念じゃオラァァァァァ!

(☝ ՞ਊ ՞)☝ウエェェェェェェェイ!

キタ━━━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(  )━(゚  )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━━!!

└(┐卍^o^)卍ドゥルルルルル └(┐卍^o^)卍ドゥルルルルル └(┐卍^o^)卍ドゥルルルルル └(┐卍^o^)卍ドゥルルルルル └(┐卍^o^)卍ドゥルルルルル └(┐卍^o^)卍ドゥルルルルル └(┐卍^o^)卍ドゥルルルルル └(┐卍^o^)卍ドゥルルル

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……失礼、取り乱しました。

どうも、記念日狂喜乱舞系作者の零崎記識です。

1年間『外物語』をご愛読いただき誠にありがとうございます。

今回は1周年記念として、コメントに合った話を短編として書かせていただきました。

それではどうぞ。

ヤンデレを書いてみたかったんや……。

注意、本作にはR―15相当の性的描写があります。 ヤンデレ要素が入ります。



001

 

―――これは、一人の鬼の狂愛の物語。

 

荒廃した建造物が立ち並ぶ無人の町。

 

動物はおろか、草の一本も生えない死んだ町。

 

その中心に聳え立つ、豪奢な城。

 

その美しい外見は、死の町の中で唯一異彩を放っていた。

 

その異物のような城の一室に、彼女達はいた。

 

「はぁ……」

 

全ての窓がカーテンで覆われ、完全に光が遮られた部屋。

 

数少ない燭台の蝋燭の火が薄暗く部屋を照らす。

 

部屋の中央にある豪奢で大きなベッドの上で、女は溜息を漏らす。

 

蝋燭の火が女の白い肌と赤い唇、そして黄金に輝く金髪を艶めかしく彩り、その圧倒的な美貌を前に、溜息一つですら女の妖艶さを一層助長させる。

 

女は恍惚とした笑みを浮かべ、その腕の中にあるモノを愛おしそうに強く抱きしめる。

 

それは、人間だった。

 

彼女がこの世で最も愛する男だった。

 

しかし、男の顔は、女によって彼女の豊かな胸に埋められており、ピクリとも動く様子はない。

 

それもその筈、何故なら、その男には()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

彼の四肢は半ばから綺麗に切断されていた。

 

達磨となった男を抱きながら、女は耳元でささやく。

 

「愛しておるぞお前様……この世の何よりも、うぬを愛しておる。儂にはお前様しか要らぬ。お前様のみが肝要で、お前様のみが重要で、お前様のみが必要じゃ。それ以外は何も要らぬ。儂が欲しいのは、お前様だけじゃ」

 

女の言葉に男は返事をしたのか、モゴモゴという音が女の胸の間から発せられた。

 

それを聞いた女は満足げにまたより一層男を抱きしめる。

 

「そうか、お前様もそう思うか。やはり儂らは一心同体……という事じゃな」

 

果たして男がどう答えたのか定かではないが、女は一方的に男に語り掛ける。

 

その眼は、まるで、黄金の深淵のようであった。

 

「なぁ……お前様よ」

 

「…………」

 

「儂は今、幸せじゃ」

 

そう言って、女は男の頭を撫でる。

 

「愛してるぞお前様。世界で一番、世界の何よりも、世界そのものよりも、お前様だけを愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してるアイシテル」

 

壊れたラジオのように、女は愛の言葉をささやき続ける。

 

その姿は狂気に満ちていた。

 

身体全体で女の体温を感じながら、男は思う。

 

『あぁ、何でこうなってしまったのだろうか』と。

 

002

 

昔々の物語。

 

今から遡ること約600年前。

 

一人の吸血鬼が生まれた。

 

キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードと名付けられた彼女は、後にこの世界において最強にして頂点の存在となり、その名は伝説として轟いた。

 

そして時は戻り現代。

 

気まぐれにふらりと立ち寄った田舎の町で、彼女は命の危険にさらされた。

 

無残にも手足を捥がれ、彼女は死を覚悟した。

 

しかしながら彼女は偶然通りかかった『例外』によって、命を救われた。

 

彼女は一目見て、彼が自分と同じ存在だと直感した。

 

雷に打たれたような衝撃。

 

それはある種、一目惚れのようであった。

 

生まれながらに孤独だった彼女は、生まれて初めて仲間と出会った。

 

生まれて初めて誰かに助けられ、生れて初めて彼女は『感謝』という感情を知った。

 

思えば、彼女が初めて出会った仲間とのつながりを求めて彼に惹かれてしまうのも無理もない話だったのかもしれない。

 

その後も、例外は彼女に尽くした。

 

奪われた手足を奪還し、知らぬ間に取られていた心臓で作られたもう一人の自分からも、彼は見事に彼女を救って見せた。

 

そして、彼は言った。

 

「お前が欲しい」と。

 

「お前と一緒に生きたい」と。

 

その一言が、彼女にとっては何よりも魅力的な言葉だった。

 

生まれながらに異常で、吸血鬼になってからは強力すぎた彼女は、常に孤独で、誰かに必要とされた経験が無かった。

 

それ故、対等な目線に立ち、しっかりと彼女自身を見て「必要だ」と彼が差し伸べた手を取った時、彼女はこの上なく喜びを感じた。

 

こうして、伝説の吸血鬼は恋に落ちたのだ。

 

身を焦がすほど激しく、狂気のような恋に。

 

だというのに……。

 

「何故じゃ……」

 

儂は…こんなにもうぬを思っているのに……。

 

儂にはうぬしかおらぬというのに……。

 

何故うぬは、儂を……()()()()見てくれぬのじゃ。

 

彼女が恋に落ちてから二ヵ月。

 

あの後も、彼女は彼と共に様々な怪異に遭遇してきた。

 

例えば猫

 

例えば蟹

 

例えば蝸牛

 

例えば猿

 

例えば蛇

 

様々な怪異と出会い、そのこと如くを解決してきたが、それに伴い、彼の周りには次第に人が増えていった。

 

怪異に出遭った少女たちが、彼の周りに集まるようになったのだ。

 

勿論、彼としては意図した結果ではない。

 

ハーレムを作ろうという気など更々ないし、少女たちに対しては一定の距離を置いて接している。

 

中には好意を伝えた少女もいたが、しかし彼はキッパリと自分の伴侶はキスショットであると公言している。

 

キスショットを蔑ろに扱ったりもしていない。

 

それは彼女自身とて分かっている。

 

しかし、彼が自分以外の少女達と話すのを見るたび、楽しそうに会話をする少女達の顔を見るたびに、彼女の中で黒い炎が燃え上がり、しきりに彼女の脳内に囁くのだ。

 

『欲しい……欲しい……彼の全てを自分の物にしたい』と。

 

彼女の中で日に日に勢いを増す黒い炎は、身を焦がすような苦しみを与えながら彼女の心を焼いていく。

 

徐々に強くなる苦しみに苛まれ、彼女は気が狂ってしまいそうであった。

 

―――いや、ひょっとすれば、彼女はもう既に狂ってしまっていたのかもしれない。

 

003

 

あぁ……欲しい……欲しい……欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しいホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイ‼

 

彼の笑顔が欲しい。

 

彼の温もりが欲しい。

 

彼の優しさが欲しい。

 

彼を喜ばせたい、悲しませたい、怒らせたい、楽しませたい。

 

彼の感情の全てを向けて欲しい。

 

思考の全てを自分に向けて欲しい。

 

五感全てで自分を感じていて欲しい。

 

淫靡な劣情を彼にぶつけて欲しい。

 

髪の毛の一本一本から足の爪に至るまで、彼の全てを愛でたい。

 

血の一滴に至るまで吸い尽くしたい。

 

彼の全てが欲しくて欲しくてたまらない。

 

足りない……今のままじゃ満たされない。

 

24時間365日、常に彼と触れ合っていたい。

 

一秒たりとも離れたくない。

 

だが……そうするには邪魔なものが多すぎる。

 

彼の周囲の人間が、彼の生きる社会が、自分の渇きを満たすのには邪魔すぎる。

 

ならどうする…?

 

どうすれば彼は自分だけを見てくれる?

 

どうすれば彼の全てが手に入る?

 

彼を殺して自分の物にする?

 

しかし彼は不死身の身体。自分らのような不死身にとって死ぬことは至難の業だ。

 

通常の手段ではまず不可能と断言してもいい。

 

『心渡』を使うか?

 

アレは確かに対怪異にとっては最強の武器だ。だが彼は完全な怪異ではない。

 

ある程度は不死身性を殺せるだろうが、完全に殺しきることはできない。

 

そもそも彼を殺したところで手に入るのは彼の『肉体』だけだ。

 

それではダメだ。

 

それでは足りない、満たされない。

 

自分が欲しいのは彼の『全て』だ。

 

『肉体』と『命』を貰ったところでそれは彼の全てではない。

 

それではどうする?どうすればいい?

 

彼の全てを手に入れるには……

 

―――あぁ、こんなことを考え付くなど、自分はもう狂っているのだろう。

 

これはまさしく狂気の沙汰。

 

しかし、確実に彼を手に入れられる手段でもある。

 

ならば狂っていてもいい。

 

彼を手に入れるためならば、鬼にだってなろう。

 

彼に付きまとう邪魔なものは皆、コワシテシマエバイイ…。

 

さぁ…()()()()()()()

 

004

 

「……ここは?」

 

目が覚めると、俺は見知らぬ部屋のベッドに横たわっていた。

 

どういう訳か、裸の状態で。

 

「――目が覚めたか」

 

急な展開に状況を飲み込めずにいると、頭上から聞きなれた声が聞こえる。

 

声の方向に目を向ければ、そこにはキスショットがさかさまに俺の顔を見下ろしていた。

 

後頭部に当たるやわらかい感触から察するに、どうやら俺は、彼女に膝枕をされているらしい。

 

そして、彼女の全てを飲み込む黄金の深淵のような眼を見た俺は、全てを思い出した。

 

「キスショット、俺に催眠をかけて連れ去ったのはどういう訳か説明してくれ」

 

それは、何の変哲もない日常で起こった。

 

いつものように学校へ行き、いつものように友人と会話し、いつものように家へ帰った。

 

そして、何の前触れもなく事件は起こった。

 

「お前様……」

 

「ん?どうしたキス――――」

 

背後からキスショットに声をかけられ、振り向いた俺は、唐突にキスショットの魅了の魔眼に掛かり、意識を失った。

 

いくら例外の俺と言えども、警戒していない親しい相手から突然催眠をかけられたら抵抗のしようがない。

 

こうしてまんまとキスショットに眠らされた俺は彼女によって見たこともない建物に連れてこられたという訳だ。

 

回想終了

 

「お前様が悪いんじゃよ?儂はこんなにも、狂おしいほどお前様が欲しくて欲しくてたまらないのに、お前様は儂の物になってくれんかった。だから()()()()()()()をとってしまった」

 

「それで誘拐か…だがこんなこと、絶対長続きしないぞ、こうしていつまでもここにいれば、俺の家族や友人が俺を探し始めるだろうからな」

 

現代日本で一人の人間が消えるというのは結構な事件だ。

 

ましてや俺の両親は警察官だ、警察による捜索が始まるのも時間の問題だ。

 

だが、俺の言葉にキスショットは妖しく笑みを浮かべただけだった。

 

「あぁ、その心配はないじゃろう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()からのう」

 

「は―――?」

 

頭が真っ白になった。

 

こいつ―――今なんて言った?

 

「世界を……滅ぼした…………?」

 

「そうじゃ」

 

「お、おいキスショット、流石にこんな状況で冗談を言うのは……」

 

「冗談ではない、見よ」

 

キスショットがカーテンのかかった窓を指さすと、カーテンが開かれ、外の光景が露わになった。

 

「ッ―――!?」

 

絶句した。

 

何故なら、窓の外に見えた光景には、()()()()()()のだから。

 

建物は愚か、草木すらも見当たらない荒野がどこまでも続いていた。

 

いや、厳密には()()()()()()()らしき残骸は所々にあるのだが、それがまた、彼女の言う『世界の滅び』に説得力を与えた。

 

「何で……こんなことをしたんだ」

 

「邪魔じゃったからじゃ」

 

絞り出すような俺の問いに、キスショットは簡潔に答えた。

 

「儂はお前様の全てが欲しかった。お前様には、儂だけを見て、儂の事だけを考えて、儂の事だけを感じて欲しかった。じゃがそれには、邪魔なものが多すぎた。学校に行けば学問に気を取られ、友人と話せば会話に気を取られ、家に帰れば家族に気を取られる。そこに儂が入り込む隙が無い」

 

「そんなことは無い!俺はいつもお前のことを考えて―――」

 

「そうじゃな、確かにお前様はいつも儂の事を気にかけてくれておった。じゃが、()()()()()()()()()()。儂はお前様の全てが欲しい。お前様の意識全てを儂に向けて欲しい。儂以外の事は考えないで欲しいのじゃ。じゃが、それにはあまりにも邪魔が多すぎた。お前様の暮らす社会やお前様の人間関係が、儂にとっては邪魔じゃった。だから―――世界ごと社会も人間も消して、儂とお前様の二人だけの世界を作ったのじゃ」

 

「………」

 

狂気に満ちた目で嬉々として自分の悪行を語る彼女に、俺は何も言えなかった。

 

「しかし、案外簡単なモノじゃったよ。世界を滅ぼそうなど考えたこともなかったが、人間とは存外に愚かで脆弱な存在じゃった。隣国のトップをスキルで操って一発核を撃たせたら後は儂が何もせずとも勝手に戦火が広がっていきおった。実に滑稽じゃ。世界とは存外に脆いものじゃな」

 

「第三次世界大戦……」

 

キスショットの言葉で俺は何故世界が滅びたのかを察した。

 

現在…いや、今となっては過去の出来事となった世界情勢は、核による抑止力を背景に各国が睨みあっている状態だった。いわば、ナイフを互いの喉元に突き付けあいながら会話をしているようなものだ。

 

表向きは平和を謳っていても、裏ではいつでも相手を殺す殺意があったのだ。

 

そんな緊張状態は、非常に微妙なバランスで成り立っていた。

 

冷戦のときと同じだ。互いに攻撃しないことで互いを抑え込んでいる。

 

なら一度突き崩してしまえば、あとは簡単だ。

 

キスショットが持ち込んだ火種があっという間に燃え上がって世界は核の炎に包まれたのだろう。

 

その結果、世界中の人間は死に絶え、核によって人間以外の生物すらも生きられない環境になり、観測する存在である人間を失ったことで怪異すらもいなくなり、世界は滅びた。

 

不死身の身体を持つ俺とキスショットを残して…。

 

「今やこの世界に存在するのは儂とお前様のみ…儂にはお前様しかおらぬし、お前様にも儂しかおらぬ。それでよい、お前様の全てを儂に委ねよ。その代わり儂の全てをお前様に捧げよう。そうして儂と共に、永劫の時を二人で生きるのじゃ……は「はは「ははは「はははは「はははははははは「ははははははははははははははははは!」

 

狂ったように凄惨に笑うキスショットを見て、俺は後悔した。

 

あぁ……なぜ気づかなかったのか…。

 

もっと俺がキスショットに気を配っていれば、こんなことをさせずに済んだのに…。

 

世界を滅ぼしたのは……俺だ。

 

俺がそうさせてしまった。

 

無力だった。

 

例外だなんだと言われても、身近にいる女一人救えなかった。

 

俺がもっとキスショットを見ていれば。

 

俺がもっとキスショットを知ろうとしていれば。

 

俺がもっとキスショットの気持ちに敏感だったら。

 

後悔は尽きない。

 

しかし、もう遅い。

 

既に手遅れだ。

 

時間を戻しでもしない限り、滅びた世界は元には戻らない。

 

死んだ人間は蘇らない。

 

あの平穏で幸福な日常は二度と帰ってくることは無いのだ。

 

俺はこの先、このどうしようもない後悔を抱えて、滅んだ世界で、キスショットと永遠に生きるのだろう。

 

「キスショット……」

 

ゴメンな…と、謝りながら、俺は彼女の顔に手を伸ばした。

 

伸ばした―――()()()()

 

「ッ!?腕が……ッ!?」

 

伸ばしたはずの俺の両腕は、肘の手前あたりから先がなくなっていた。

 

いや、腕だけではない、よく見ると、両足もまた、太もものあたりから先が無くなっていた。

 

「キスショット…まさかお前……」

 

「お前様の四肢は、眠っている間に『心渡』で切り落とさせてもらった」

 

「俺の手足をどこへやった?」

 

「安心せい、ちゃんと儂が丁重に保管しておる。ここにな」

 

そう言ってキスショットは自分の腹を指さした。

 

「食ったのか!?」

 

「否、()()()()()()と言ったじゃろう。お前様の四肢は、『心渡』と同様、儂の体の中に入れてある」

 

「返してくれる気は……ないんだろうな…」

 

『心渡』を使ったということは、俺の手足は再生力ごと切り離されているという事だ。

 

これは春休みのキスショットと同様に俺は弱体化しているという事だ。

 

吸血鬼のスキルは使えず、手足は再生しない。

 

唯一再生する手段があるとすれば、キスショットの持っている手足を再び俺の身体に取り込むしかない。

 

つまるところ、状況は完全に詰んでいるのだ。

 

「食事や排泄の心配ならば不要じゃ。お前様の世話は、全て儂が焼いてやる」

 

こちらを覗き込む彼女の金眼が光ったかと思うと、途端に頭がぼうっとしてくる。

 

どうやらまた魔眼を掛けられたらしい。

 

ふわふわする頭の中、彼女の声だけが鮮明に響く。

 

「お前様はただ……儂に全てを委ねておればそれでよいのじゃ」

 

突然右側からも声がしたかと思えば、そこにはもう一人のキスショットがいた。

 

見た目は高校生くらいだろうか。

 

恐らくキスショットの分身体と思われる彼女は、一糸まとわぬ姿で、俺の右側にいつの間にか横たわっていた。

 

密着する彼女の素肌から、ダイレクトに温もりを感じる。

 

「お前様が望むなら、儂はなんだってしてやる」

 

左側からも声。

 

左を見ると、そこには同じく12歳くらいのキスショットが右側と同じ状態で横たわっていた。

 

「お前様の欲望は、全て儂が引き受けよう」

 

ズシリと、体の上に何かが乗っているのを感じる。

 

すると、そこには8歳くらいの彼女が、俺の腹部の上に横たわていた。

 

体中がキスショットの体温に包まれ、徐々に彼女達との境界線が薄れていくような錯覚に陥る。

 

レロォ…と、左右の二人が滑らかな舌を俺の胸部に滑らせる。

 

甘い痺れが脳を埋め尽くし、意識にもやがかかる。

 

上の彼女が体中を愛撫し、甘い痺れがさらに強くなる。

 

「愛しておるぞお前様……この世界の何よりも」

 

そして最後に本体の彼女が覆いかぶさるように唇を重ねた。

 

それはまるで、獣が肉を貪るようであった。

 

キスショット(口づけするように食らう)の名の通り、彼女は俺の口内を食らうように舌で蹂躙する。

 

歯茎から舌の裏まで、あらゆる場所を余すことなく舐め尽くす。

 

思考が痺れ、視界が白い靄に包まれる。

 

左右の二人が両耳を舐め始め、ジュルジュルという淫らな音が脳内に響き渡る。

 

あぁ……堕ちる。

 

ここで意識を手放せば待っているのは退廃的な堕落の道だと、本能が警告していた。

 

しかし、分かっているうえで『それも悪くない』と思えてしまう自分に、内心苦笑する。

 

お前と一緒なら、堕落したって構わない。

 

あぁ……狂っているのは俺も同じだったらしい。

 

―――愛してるぞ、キスショット。

 

そう心の中でつぶやくと、俺は意識を手放した。

 

005

 

【ざんねん!! きみの ぼうけんは これで おわってしまった!!】

 

「……なぁ、そろそろこの状況の説明をしてくれないか?」

 

いきなりこんなところに呼び出して俺は一体何を見せられているんだ……。

 

【どうだった?ヤンデレBAD ENDルートは」

 

「どうって……未来予知か何かか?俺がこのままいけばこうなるっていう警告のつもりか?」

 

【いいや?別に未来予知ではないし、警告でもないよ。これはあくまでも単なる可能性の世界さ。君の選択次第で無数に分岐する物語のほんの一つでしかない】

 

「じゃ何のために俺を呼んだんだよ」

 

【まぁ単なる暇つぶしと、君にこういう不幸な結末を見せたらどう思うのかっていう好奇心みたいなものだね。それで?君はこのバッドエンドをどう思った?】

 

「……まぁこれはこれでアリかなって思ったさ」

 

【へぇ、世界は滅んで君の家族は死に羽川翼という友人も失って手足を捥がれてずっと堕落していく結末が、君的にはアリなんだ。君かなり変わってるね?】

 

「そう言う言い方をされると誤解を招くが……そうだな、別に進んでこうなろうとは思わないけれど、なってしまったらなってしまったでこれはこれで一つの幸せなんだと思うぜ」

 

【幸せって…誰一人幸福になっていないじゃないか】

 

「幸福も不幸も、個人の価値観でしかないだろ?不幸にしか見えない結末でも、本人たちが幸せならそれも一つのHAPPY ENDじゃないのか」

 

【ふーん…君がそう言うならそうなんだろうさ、君の中ではね】

 

「俺だって生半可な覚悟でキスショットを旅の相棒に選んだわけじゃないんだぜ?あいつがどんな奴でも、どんなことをしても、俺はあいつを受け入れて一生添い遂げるって決めてるんだ」

 

【君の家族や羽川翼はどうなるのさ、実際にキスショットが彼女達を手に掛けても、君は同じことを言えるのかい?】

 

「言えるさ。多分滅茶苦茶悲しむだろうけれど、もしかしたら立ち直れないかもしれないくらい凹むかもしれないけれど、それでも俺はキスショットを嫌いになんてならない」

 

【君も大概狂ってるねぇ】

 

「まぁな」

 

【まいいさ、君がそこまで言うならもう何も言わないよ、精々彼女と添い遂げればいい。それで幸せになっても不幸になっても、それはそれで一つの物語で、君の選択だ。僕は『観測者(オブザーバー)』として、それを見守るだけさ】

 

「じゃ、俺はもう行くぞ」

 

【うん、頑張ってね。愛しのキスショットちゃんによろしく】

 

「余計なお世話だ!」

 

そう言って俺は黒い門に手をかける。

 

これから先、俺がどんな物語を紡いでいくのか、それは分からない。

 

だが、何があっても後悔だけはしないように生きようと思う。

 

そうすれば結末は自ずと最高のものになるはずだから。

 

【あ、そうだ無闇君】

 

「あぁ?なんだよ」

 

【ハッピーバースデイ。これからも良い物語を】

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「無闇だぜー!」

【作者だよー!】

「いやー1周年か…よくもまぁ続いたもんだな」

【ホント、自分でもビックリだよ】

「まぁ正確にはこのあとがきを書いている時点で一周年と6日過ぎてるんだけどな!」

【それは言わないで!こっちも大学始まって忙しかったんだよ!】

「でも一周年だから何かやりたいと思ったわけか」

【そう】

「で、この結果がこれか」

【ハイ】

「頭おかしいんじゃね?」

【どこが!?】

「何でよりにもよって一周年記念の短編がヤンデレルートなんだよ!もっと他にあるだろ!」

【まぁこちらとしても色々考えてはいたんですけれどね。原作の世界に無闇君をぶち込んでみるとか、原作主人公との会話とか】

「じゃあ何でそれをやらなかったんだよ…」

【単純に話が思いつかなかったぜ!】

「想像力の限界!」

【でもまぁ、せっかくだし何かやりたいなーと思ってはいたのでネタを探していたんですよ。そしたら以前冗談で書いたヤンデレルートを見てみたいとコメントしてくださった読者がいたので……】

「日頃の感謝を込めて書いてみたと…」

【はい】

「で本音は?」

【ヤンデレと微エロを書いてみたかったんだ!】

「結局お前の願望じゃねぇか!」

【いいじゃないかヤンデレ!愛が重い一途な女の子が大好物なんだよ!】

「お前の好みなんざ知るか!」

【金髪巨乳の美人なお姉さんに体の隅から隅まで愛でられ尽くされるとか最高じゃないか!】

「やめろやめろ!聞いてもいない性癖と欲望をここぞとばかりにぶちまけるな!」

【この魅力が分からないとは何て奴だ】

「それはこっちの台詞だ…」

結果発表

【さーてさてさて、この一年でどれだけこの作品が読まれたか結果発表していくぜ!】

「なぜ態々自分から傷を抉るような真似を…」

【それではまず投稿話数の発表だ!】

【この一年で投稿された『外物語』の話数は何と―――12話だ!】

「圧倒的に少ねぇ!?遅筆にも程があるだろ!」

【こ、これはしかたないんだ!リアルで学生やってる身としてはやらなきゃならないことが多くて何かと忙しかったり書く気が全く起きなかったりでどうしても更新頻度が遅いのは仕方ないことなんだ!】

「前半はともかく後半は個人的な気分の問題じゃねえか!」

【いやでも気分が乗らないといい作品は書けない訳で…】

「気分が乗っていても言うほど良い作品書いてないだろ」

【それはとりあえず置いておいて、次はUAの発表だよ!】

【現在の総UA数は―――13216!】

「なぁそれって多い方なのか?」

【さぁ…?】

「発表した意味は?」

【特になし!】

「無いのかよ!」

【うーんUAって言うのはこの小説が今までに何回読まれたかって数字だから…それが1万ならまぁ多い…のか?】

「大体一日に37人が読んでる計算になるな」

【うーん判断に困る数字だ…】

「ま、どう思うかは読者に任せよう」

【それでは最後にお気に入り登録者数の発表!】

【この一年で『外物語』をお気に入り登録してくれた読者様は―――なんと286人!】

「ま、初投稿でこの数ならそこそこ多いと言ってもいいんじゃないか?」

【いやー本当、こんな作品でもお気に入り登録してくれる人は結構いるものだね。感謝感謝だよ】

「そう思うならもうちょい更新早めろや…」

【ハイ…デキルダケゼンショイタシマス】

「あ、コレやらないフラグだ」

主人公の名前

「そうだよ!何だよ『零崎無闇』って!完全に厨二ネームじゃねえか!」

【無闇君の名前は西尾維新先生の『クビシメロマンチスト』に出てくる。『零崎一賊』由来になっているって言うのは前にも話したけれど、じゃあ下の名前をどうするって話になったんだけれど…】

【苗字の『零』にかけて『無』って文字を取り入れたかったんだよね】

「で、案の定行き詰ったと」

【まあね、それであれこれ名前案を考えて、だったら下の名前も『戯言シリーズ』からとってしまえないかなーと思ったわけだよ】

「まぁ西尾維新さんの作品の登場キャラは主人公からモブに至るまで独特な名前してるもんな」

【アレすごいよね。あのネーミングセンスは結構尊敬してる】

「で、見つかったのか?」

【まぁ流石に『むやみ』って名前はなかったけれどね。それでも似たような名前があってそれを少しもじって生まれた名前が『無闇』というわけだ】

「その名前には何かしら意味とかあるのか?」

【いや?何かホラ…『無』と『闇』ってかっこいいじゃん?】

「理由それだけかよ!?」

【まあ後付けになるけれどあるにはあるよ?『無』と『闇』そして『闇』が『無い』から同時に『光』を表し、それは『昼』と『夜』、そして何処までも続く『無限の空』、つまり『世界』、『物語』を意味する……とかね】

「おぉ…結構ちゃんとしてる…」

【ぶっちゃけこういう設定は後になってからの方がいいアイデアが浮かんだりする】

「創作者として致命的すぎないかそれは?」

【だからこうしてあとがきとかで後付けで思いついた設定をさも最初からあったかのように話してるんだけれどね?】

「せけぇ!?」

【『闇無くして光と為す、我、世界の理を司る者なり!』なんて台詞をいつか無闇君に言わせてみたいものだね】

「いや……それは流石に恥ずかしいからやめてくれ」

【君の答えは聞いてない!】

「強引!?」

『観測者』について

「アイツか…なんだかんだ言って一番謎が多いよな」

【ぶっちゃけてしまうと、観測者は一番謎めいてはいるけれど、その謎は全く話の本筋には関わってこないんだけれどね】

「そうなのか?てっきり後々になって重要になってくるキャラかと思ったが…」

【全然、アレは自分で言っていた通り『観測者』で『傍観者』だからね。基本的には君の物語を外側から眺めているだけの存在で、物語そのものには一切関与してこないよ】

「ふむ…この小説を読んでいる読者と同じ立場ってことか?」

【その通り。重要ではあるけれど基本的にはただ見てるだけ。それが『観測者』さ】

「ほーん」

【というか、アレは『キャラクター』と言えるかも怪しい存在なんだけれどね】

「どういうことだ?」

【『観測者』はその役割としてあらゆる物語を『観測』する存在だ。故にいろんな『物語』から影響を受けているわけなのだけれど…立場上、アレはあらゆる物語に対して常に『中立』でなければならない】

「矛盾だな。最も影響を受けているのに、最も影響されてはいけないってことか」

【そう、その二つの矛盾を実現するとああなるという訳。アレには最初から『自分』という物が存在していないんだ】

「アイツの一人称がいちいち違うのはそのためか」

【どんなに影響を受けても、影響される『自分』が存在しないんだから常に中立でいられる。それが『観測者』さ。まぁ彼の正体を語ったところで、それは話の本筋には全く関係ないんだけれどね。何なら謎めかしたままにしておいた方が良いレベル】

「身も蓋もねぇ……」

【ね?この上なく『中立』な『傍観者』でしょ?】

「赤の他人と大差ないな…ところで一つ聞きたいんだが…」

【何だい?】

「アイツのモデルってハガレンの―――」

【君のような勘のいいガキは嫌いだよ】

「やっぱりかよ!道理で聞き覚えのある台詞とか見覚えのある黒い扉があるとおもったわ!」

【しょうがないじゃん!だってハガレン大好きなんだもん!】

「開き直るなァ!」

【好きなキャラは大総統】

「聞いてねぇよ!?」

【まあ二次創作なんだし、多少は…ね?】

「お前後でどうなっても知らねぇからな?」

【ちなみにハーメルンに投稿する前に完全な自己満足として書いていたこの物語のプロトタイプみたいな小説では、無闇君が真理を見せられてそれすらも『くだらねぇ』って言ってのけた無闇君の異常性が気に入られて旅に出された…っていうプロローグだったりするんだぜ?】

「いやパクリが露骨すぎだろ!」

終わりに

「お、そろそろ締めたほうがいいんじゃないか?」

【そうだね、それではこれにて『外物語』一周年記念短編は終了となります】

「一年間、俺の物語を応援してくれた読者の皆様、本当にありがとな」

【これからも『外物語』を楽しんでいただけると幸いです】

「更新遅いけれど、気長に待っててくれると嬉しいぜ」

【「それでは、本編で!」】







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混物語編
第忘話 『きょうこバランス』


過度な期待はせずに気楽に見ていくことをお勧めします。
感想・批評は歓迎ですが暴言・悪口は炎上の原因となりますのでおやめください。

注意:この章は単純に混物語のストーリーを無闇君で置き換えた番外編です。
   本編との時系列的なつながりはありません。



001

 

掟上今日子。

 

またの名を『最速の探偵』

 

曰く、彼女に掛かればどんな事件もたった1日で解決されるという。

 

これだけの情報のみを聞くと、読者の皆様方は彼女の事を『恐ろしく仕事が速い名探偵』と思う事だろうが、実際の所彼女の事情は複雑である。

 

掟上今日子を正しく説明するならば、彼女は『最速の探偵』なのではない。()()()()()()()()()()()()()()()なのである。

 

どういうことなのか、その理由は彼女の『特異体質』にある。

 

掟上今日子の特異体質、それは()()()()()()()()()()()()()()()という体質である。

 

掟上今日子は昨日までの記憶を持ち越すことができないのだ。

 

とは言ったものの、実を言えば毎日0時0分0秒キッカリタイマーが作動して自動的に彼女の記憶が消されるとかそういうわけではない。

 

記憶のリセットにはトリガーとなる行為がある。

 

掟上今日子の記憶は彼女の『睡眠』によってリセットされる。

 

つまり、眠らなければ24時間経過しても記憶を保持することが可能なのだが、しかしさしもの最速の探偵とは言っても、そう何日も眠らずにいられるわけでは無い。

 

俺みたいな正真正銘の人外ならともかく。いくら優れた頭脳の持ち主であっても人間である彼女にとって連続で起きていられる期間は少ない。

 

精々3日4日と言ったところだろうか。

 

故に彼女は『最速』であり、そうあらねばならないのだ。

 

勿論、だからと言ってそれで彼女が常人より優れた洞察力や推理力を持ったありふれた呼び方をするなら『名探偵』であることに変わりはないのだが。

 

そんな彼女についたもう一つの異名が『忘却探偵』

 

守秘義務という観点においてこれほど優れた探偵はいないだろう。

 

秘密も何も、忘れてしまえば関係ない。

 

掟上今日子には今日しかない。

 

しかし、誰よりも彼女は今日を大事に生きている。

 

002

 

問題:公園のベンチで若い女性が眠っているのを見かけたら、あなたはどうしますか?

 

答え:面倒ごとの予感がするので見て見ぬふりしてサヨウナラ

 

という訳で俺はその場で踵を返してその場を立ち去った。

 

 

第忘話『きょうこバランス』END

 

 

―――という訳にもいかないのでとりあえず俺はその女の様子を観察した。

 

女は真っ白な髪をしており、恐らく美人と言える容姿をしている。

 

服装は首元のゴムが伸びてしまっているセーターにデニムのロングスカート。キッチリそろえられたブーツに頭の横にはメガネが置いてある。

 

ふむ…公園で寝泊まりなんて女性としての警戒心の欠片もないことをしていることからホームレスか何かだと思ったが…身なりは若干ラフすぎるような気もするが一応綺麗だ。

 

どこぞのアロハおやじみたいな小汚さは感じられない。

 

「さてそーすっと話はもっとややこしくなるぞ」

 

ホームレスではないとするとこの女は何故こんなところで態々不用心にも寝ていたのかという話になってくる。

 

女のそばには特にこれと言った手荷物はなく、着の身着のままである。

 

そこはかとなく事件の匂いがする…。

 

誘拐にでもあって逃げ出してきたとか、そんな可能性が頭に浮かぶ。

 

「とりあえず通報はすべきだよなこれは……」

 

さてこの場合、警察と病院どっちを先に呼んだものだろうか?

 

普通に考えて病院か?いやでも特に怪我しているようには見えないし警察を呼ぶべきだろうか?というか先にこの女を起こして事情を聴いておくべきか?

 

「さて、どうするかなコレ」

 

携帯を取り出しながら悩んでいると、不意に女が目を覚ました。

 

こちらがさっきから色々悩んでいることは露知らず、彼女はよく寝たと言わんばかりに伸びをしてメガネをかけ、キョロキョロと周りを見渡し、俺と目が合った。

 

「……えーと、どちら様?」

 

それは寧ろこっちの台詞である。

 

003

 

掟上今日子

 

年齢:25歳

 

職業:探偵

 

置手紙探偵事務所所長

 

一日ごとに記憶がリセットされる特異体質

 

最速にして忘却探偵。

 

こちらが事情を説明すると彼女はセーターの左腕をまくって素肌に油性ペンで書かれたプロフィールを読み上げた。

 

何だその斬新な自己紹介は…

 

と思ったが左腕のプロフィールは特異体質を持つ彼女が記憶を失う前に書き残した備忘録のようだ。

 

続けて右腕には『現在仕事中』の文字。

 

「ふむ、どうやら私は仕事でこの町を訪れ、そしてうっかり眠ってしまったようです」

 

うっかりにしては度が過ぎてないかそれは…。

 

つまりそれは仕事の内容も綺麗さっぱり忘れてしまったことを意味する。

 

難儀な体質だな…。

 

本来睡眠とは記憶の整理を行い記憶を定着させる重要な行為のはずなのだが、逆に記憶を初期化してしまうのはどうなっているのだろうか?

 

『忘れる』という機能も本来は脳による情報の取捨選択であって重要度が低い情報から優先的に忘れていくはずなのだが一切合切まとめて消えてしまうのは最早『忘却』というよりは『消去』と言ったほうが正しい。

 

脳科学による研究を真っ向から覆しそうである。

 

因みにどこぞの禁書目録みたいに完全記憶能力でも持っているのかと思って聞いてみたがそんな能力は持っていないとのこと。

 

「本当に何も覚えてないのか」

 

「はい、全く何も覚えていません。何故ここにいるのか、どうやってこの町に来たのか、そもそも何をしていたのか何もわかりません。阿良々木君は何か心当たりないですか?」

 

「初対面の人の事情を聞かれてもなぁ……」

 

「手掛かりになるような情報でもいいんです。最近、この町で、おかしな出来事や変な事件などは起こっていませんか?

 

「んー……」

 

正直起こりまくっている。

 

魑魅魍魎が跋扈するこの町でおかしな出来事や変な事件は日々起こっている。

 

だが、それは探偵が出張ってくるような話ではない。

 

彼女の言っている変な事件とやらはもっと現実味のある奴だ。

 

「この町で何もなければ、範囲を広げていただいてもいいのですけれど」

 

それならばいくつか心当たりがある。

 

隣町で起こった事件で『探偵』が必要になる事件と言えば……

 

「確か…隣町の美術館で盗難があったとか聞いた覚えがある」

 

他にも派手な交通事故やら火災やらも起こったらしいが、『探偵』が必要になる事件といったならこれだろう。

 

「盗まれた美術品の捜索又は奪還……これが多分掟上さんの請け負った仕事なんじゃないか?」

 

「確かに……物や人を探すのは仕事のうちに十分入りますね。ではそのように仮定しましょう」

 

そう言って彼女はロングスカートをまくった。恐らく、他にどこか備忘録が書かれていないか調べているのだろう。

 

俺はその間空を見上げておく。

 

アーイイテンキダナー

 

というか、何故俺はこんなことをしているのだろうか……。

 

俺はただ、散歩中に通りかかっただけなんだがなぁ……。

 

「もう阿良々木くん、もうこちらを向いていただいて結構ですよ」

 

どうやら備忘録の捜索は終わったようだ。

 

「で?何か分かりました?」

 

「いいえ全く。何も書いてませんでした」

 

どうやら進展はないようだ。

 

「うーん。困りましたねぇ。私は一体、どんな調査をしている最中だったのでしょう―――私の事ですから、こういうときのための備えを怠っている筈がないのですが」

 

忘れてたんじゃねーの?忘却探偵だけに。(激寒)

 

まぁ真面目な話、彼女の体質を一番理解しているのは彼女自身である。特異体質というハンデを背負って仕事をするにあたって、確かにその辺の注意は人より念入りに施してあるはずだ。でなければ『忘却探偵』なんてやってられないのだから。

 

となるとだ…

 

「備えを怠ったのではなく、必要なかった。という事では?」

 

「詳しくお願いします」

 

「仕事に関する情報は既に必要なくて、だからこそ備忘録は残さなかった。むしろ守秘義務に則ってあなた自身が意図的に忘れたのではないかという事だ」

 

「つまり()()()()()()()()()()()()()と?」

 

「まぁ右腕の備忘録を見る限りまだ完全に終わっているわけじゃないだろうけれど。『記憶』が必要な仕事、情報を集めて、それをもとに推理してって言う作業は恐らく既に終わっていると考えられる」

 

「仮に私の仕事が盗まれた美術品の奪還として、美術品を盗んだ犯人を突き止めて美術品を取り返すところまでは完了している、という事ですね。後は取り返した美術品を依頼主に返還して依頼を完遂する……これが()()()私のやることというわけですね」

 

「証拠もないただの推測だから、あまり信用しすぎないほうがいいがな」

 

「勿論色々な可能性があることは分かっていますが、私も現状それが一番あり得そうな可能性だと思います」

 

阿良々木くんは名探偵ですね―――と忘却探偵は言った。

 

いや……割といい加減に思いついたことを言ってみただけなんだけどなぁ……。

 

さも俺が忘却探偵の思考をトレースしたみたいな口振りだが、初対面の人間の、さらに特異体質持ちの探偵の性格や行動など俺が知るわけがない。

 

別にこんなのは推理でも何でもない。

 

「さて、となると奪還した美術品の場所が問題になりますね。阿良々木くん何か知ってますか?」

 

「知るわけないでしょう」

 

流石にそこまでは分からん。まぁ、貴重な美術品なのだから屋外に置いてあったり地面に埋めてあったりはしないだろう。更に大事な美術品をまた盗まれたら元も子もないのだから人目につかないところで彼女自身しか手が出せないようになっている場所がベストであろう。そう考えるとそうだな……どっかのコインロッカーの中とかだろうか?

 

「そうですか。では阿良々木くん初対面のあなたにこんなことをお願いするのは大変心苦しいのですが、一つ、お願いを聞いていただけませんか?」

 

「死んでくださいとかじゃなければどうぞ」

 

悪いがそれは無理だ。

 

死にたくないとかそういう事ではなく単純に俺は死ねない。

 

不死身だからどうやったってそれだけは不可能だ。

 

「そんな物騒なお願いではありませんよ」

 

そう言って彼女は俺に背中を向けた。

 

「後ろ、見てもらえますか?」

 

背中に両手を入れてゴソゴソしながら彼女は言った。

 

「はい、下着は外したので。セーターとシャツをまくってください。見えるところは全て調べたので、後何か書いてあるならもうそこしかないはずです」

 

まぁ背中は自分で見れないしな。

 

何か言ってセクハラだと思われるのも嫌なので俺は何も言わず粛々と確認に取り掛かった。

 

かくして、掟上今日子の残した最後の備忘録は見つかった。

 

俺としては何もこんな書きづらいところに書かなくともと思ったが、何を思ってそこに備忘録を残したのかは昨日の彼女のみぞ知る。

 

乱れた字でたった三行。

 

ミルクチョコレートコーヒー 140円

フルーツコーラ 130円

バターティ 150円

 

004

 

あのお使いリストのような備忘録に何の意味があるのかは知らないが、取り敢えず俺達は書かれていた3つの飲料を探してみることにした。

 

と言っても場所は俺が知っているんだがな。

 

あの名前を聞いただけで相当甘いことが既に予想できる飲み物だが、普通のコンビニや商店に売っているようなメジャーなものではない。俺が通う私立直江津高校からの帰り道においてある自販機のみで売られているのだ。

 

あの自販機……メーカーが大々的に売り出す前の試作品のテストのためかどうか知らないけれど見たことない飲み物ばっかなんだよなぁ…。

 

中には明らかに地雷臭がするのもあったりして俺が買ったことは無いのだが……。

 

「その自販機と美術品に何の関係があるんでしょうねぇ……?」

 

「俺に聞かれても……まぁ無理して背中に備忘録を残したくらいだからただ飲みたかっただけということは流石に無いだろうけれど……」

 

だったら手の平にでも書いておけという話だ。

 

「私一人で飲むにしては3本は多すぎますしね、糖分も高そうですし」

 

つまり飲むために備忘録を残したわけでは無いのだろう。考えられる可能性としてはその三本に何かしら美術品の場所が読み解けるヒントがあるとか?

 

いやいや、自販機の飲み物だぞ?常識的に考えてそんなヒントなんてあるわけがないだろ。

 

昨日の忘却探偵があらかじめ細工しておいたとか?

 

それこそあり得ない。コンビニで売ってる飲み物ならともかく、自販機の中の飲み物だ。メーカーの人間でもない限り鍵がかかった自販機の中にある飲み物に細工などできるわけがない。

 

とすると備忘録の飲み物は別にどうでもよくて、重要なのはむしろ自販機そのものか?

 

備忘録は単純にどの自販機かを特定するためだけのもの……。

 

だったら値段まで書いておく必要は無いよな?

 

ん、値段?値段か……。重要なのは飲み物ではなくその値段にあるという事か?

 

飲み物の代金は合計で140+130+150だから…全部買ったら420円か?

 

これになんか意味があるのか?

 

あ、そうだ値段で思いだした。

 

「そういえば掟上さん、お金ありますか?」

 

「いえ、それが私、お財布も持っていないみたいですので。まあお財布も個人情報の塊ですからね」 

 

徹底してるなぁ……いや、だからこその忘却探偵ということか?

 

探偵の仕事にどれだけコストがかかるのかは知らんが正真正銘着の身着のままでいたらできることだって相当限られてくるだろうに……。

 

世の中金とまでは言わんがやっぱりこの人間社会、金がないとできることが相当限られてくる。

 

時間をかければ金がなくてもできることはあるが、忘却探偵にとって時は金より重いはずで何よりも大切にするべきもののはずだ。

 

第一、彼女が俺と遭遇してなかったら一体どうするつもりだったのだろう。

 

背中の備忘録は鏡なりを使えば確認できなくもないとして、そこに飲み物と値段が書かれているなら明らかに『買え』って言ってるようなものだろうに。

 

昨日の忘却探偵は一文無しの彼女にどうやって飲み物を買わせるつもりだったのだろう。

 

まさかその辺を考えてなかったわけでもあるまい。

 

「ポケットとかに折りたたまれた紙幣なりクレジットカードなり入ってないんですか?」

 

だとしたら、絶対に何かしらの手段を残していると考えるべきだ。

 

「ちょっと待ってください……あ、何かカードのようなものが入ってました」

 

ゴソゴソと彼女がスカートのポケットを探って取り出したのは交通系ICカード、まぁ所謂SUI〇AとかPA〇MOとかみたいなアレである。

 

確かに自販機の中には交通系ICカードを使えば購入できるものもある。今俺達が向かっている自販機も確か対応していた筈だ。

 

「でもおかしいですねぇ」

 

「何が?」

 

「確かに本当に無一文で外出するほど私は愚かではないようです。下着の下にも備えとして現金がありましたが。これを使うとは思いにくいんです」

 

「あぁ、確かに」

 

ICカードは現金と違ってデータとして履歴が残るのだ。どの駅から電車に乗ってどこで降りたか。物を買ったなら幾ら使ったのか。ちゃんと履歴として残ってしまうのだ。

 

それで過去の足跡を残すのは忘却探偵としての主義に反するだろう。

 

「つまり…過去のあなたは備忘録の飲み物を買うためだけにカードを持っていた可能性が高いと…?」

 

日常的に使わないのであれば今この時のため、つまりそれで飲み物を買わせるためだけにカードを所持していたと考えられる。

 

「多分そういうことですねえ。いやあしかしポケットの中は盲点でした。体のメモ以外にもちゃんと私はメッセージを残してくれていたんですねぇ。これからはちゃんと注意きゃいけません。と言っても、明日になれば忘れちゃうんですけれどね」

 

忘却探偵流の自虐ネタだった。

 

特異体質により彼女は過去を引きずらない。しかし、過去に得られた教訓や経験則も明日に持ち越せないとなると…やはり不便である。

 

ま、それでも彼女はそうやって生きていくしかない訳なのだが。

 

外野が何を言おうが思おうが、それは結局独り相撲にしかならない。

 

何故なら、明日になればそんなことは彼女の中では全て無かったことになるのだから。

 

そんなことを考えつつ歩き続けて数十分。

 

「これがそうなんですか?」

 

「えぇ、間違いなく」

 

「そうですか」

 

そう言いつつ忘却探偵は自販機を隅々まで見分する。

 

「うーん特に意味のありそうなものは見当たりませんねぇ。爆弾でも仕掛けられているのかと思ってましたが」

 

こえーよ。どんな推測だよ。

 

「自販機自体に意味はないようですね…では阿良々木くん」

 

そういうと彼女はICカードを差し出してくる。

 

「え?何?何事?」

 

「このカードで飲み物を三本全て買ってみてください」

 

「はぁ…まあいいけれど」

 

自分でやればよくね?と思いつつ俺は言われた通りICカードで飲み物を買う。

 

リーダーにカードをかざし、残高が表示される。

 

2890円

 

ここから飲み物を買ったため420円が引かれて残り2470円

 

俺は買った飲み物を忘却探偵に渡す。

 

彼女は渡された飲み物を色々な視点から観察する。

 

成分表示に掛かれている一文字も逃さないという気迫を感じる。

 

「うーんダメですねぇ。この飲み物自体にもヒントは無いようです。というわけで、はい、阿良々木くん」

 

そう言って彼女は買った飲み物をこちらに押し付けるように渡す。

 

「阿良々木くんが買った物なので阿良々木くんがちゃんと全部飲んでください」

 

「いや、買ったのは俺だが元々はあなたの金なんだからそっちの物では?」

 

「では報酬です。いろいろと手伝っていただきありがとうございます」

 

「報酬なら受け取る義務もないのでは?」

 

押し付けられたものを報酬とか言われてもなぁ…。

 

「……」

 

遂には無言になりやがった…。

 

首をコテンと傾げながらただ微笑んでこちらを見つめてくる忘却探偵からは無言の圧力を感じた。

 

「あー…はいはいわーったわーった分かりましたよ。飲めばいいんだろ」

 

このままでは埒が明かないので俺は仕方なく飲むことにした。

 

うげぇ…あっっっっまい!

 

クソみたいに甘ぇ…。

 

口の中が糖分でいっぱいである。

 

「どうですか?何かわかりました?」

 

「分かるわけないだろ…」

 

分かったのはこの飲み物のメーカーの頭がおかしいことくらいだ。

 

「ふーむそうですか。では残る可能性は一つですね」

 

「可能性?」

 

「はい。阿良々木くん。『にしなお』という場所に心当たりはありますか?」

 

005

 

忘却探偵のICカードの残高、2890円から飲み物三本分の値段が引かれた現在の残高2470円。

 

つまり2,4,7,0

 

に、し、な、おである。

 

この町は3つの駅に囲まれておりそれぞれ東直駅、南直駅、西直駅である。

 

西直(にしなお)

 

そこが俺達の目的地。

 

かなりの距離があるが、なるべく足跡を残さない主義の忘却探偵は当然徒歩を選んだ。

 

「阿良々木くんは後悔ってしたことあります?」

 

「数えきれないほど」

 

何でもできる俺だが、後悔しないわけでは無い。

 

「では阿良々木くんは後悔することは悪いことだと思いますか?」

 

「いや全く。後悔そのものは別に悪いもんだとは思わんよ」

 

『後悔』…後になって悔いるとか印象悪い文字使っているからマイナスにとらえられがちだが後悔って言うのは言い換えれば『教訓』だ。

 

例え後悔したところでそれでまた次同じ後悔しないようになればその後悔は己の糧として間違いなくプラスになっているのだ。

 

「だが、ただ単にたらればを並べ立てて自分の選択を悔やみ否定するだけの無益な後悔は間違いなくマイナスだ。それは時間の無駄だし、何も生み出さない。どころか、意味のない自己否定は心に無力感を植え付け、人を堕落させる」

 

そうなってしまったらおしまいである。

 

「だからそう、重要なのは()()()()()()()()()()だ。後悔を己の教訓として糧にしようとする姿勢だ。よく人は後悔が無い人生が最高だというが、そんなものは絵空事に過ぎない。成功したって失敗したって後悔はするときはする。仮に生まれてから成功ばかりの人生であったとしてもそこに後悔が無いとは限らない。どうやったって人は後悔するんだ。だったら少しでもそれを有益なものにしようという心構えこそ肝要になってくる」

 

「そうですか……私は何分、後悔という物ができない人間ですので、阿良々木くんの言うちゃんと後悔するということがどういう事なのか実感がないもので分かりませんが、しかしだからこそ私は阿良々木くんの言う通りちゃんと後悔できる、後悔して、それを経験として糧にし、次に繋げられる人を…後悔できる人が羨ましい」

 

人は誰しも自分が持っていないものを求めるんですかねぇ…と、彼女は微笑んだ。

 

掟上今日子には今しかない。

 

過去を振り返ってもそこには何もなく。

 

未来を想ってもその想いは明日に繋がらない。

 

しかしだからこそ、彼女は『今』この時を誰よりも後悔しないように生きているのかもしれない。

 

確かに後悔しても明日になればリセットされる。

 

だがそれは『今』を蔑ろにしていいわけでは無い。

 

掟上今日子には『今』しかない。しかしだからこそ、()()()()()は与えられた『今日』を誰よりも大切に生きる。

 

そうして生きた今日を明日の自分に託しているのかもしれない。

 

例え、その意思が受け継がれなくとも

 

忘却探偵はその日その日を全力で生きる。

 

そんな話をしていると、俺達は西直駅に到着する。

 

「それで?ここからどうするんだ?」

 

「勿論、駅に来たのだから本来することをするまでです。ICカードを使って改札を通ります。阿良々木くんのICカードの残高は大丈夫ですか?」

 

「問題ない」

 

「では、レッツゴーです」

 

そう言って彼女はそそくさと改札を通る。

 

俺達のICカードからは初乗り料金として150円が引かれる。

 

2470円から150円が引かれて現在残高は2320円

 

改札を抜けた忘却探偵はそのままコインロッカーを目指す。

 

なるほど。割とあてずっぽうな予想だが的を射ていたようだ。

 

コインロッカーはその名の通り、硬貨を投入しカギをかけるロッカーである。

 

だが、彼女は鍵らしきものは所持していなかったように思える。

 

しかしそう見えて彼女は既にカギを持っている。

 

「時に阿良々木くん、聞いておきたいことがあるのですが」

 

実は交通系ICカードには電車に乗ったりジュースを買う他にもう一つ使い道がある。

 

「―――このICカード、自販機等での購買の他コインロッカーの『鍵』として使えると思うのですが、この推理は当たっていますか?」

 

006

 

後日談というか、今回のオチ

 

かくして、掟上今日子はICカードを使ってロッカーを解錠した。

 

現在の彼女のICカードの残高と同じナンバー2320番のロッカーの中にそれはあった。

 

中にあったのは『置手紙探偵事務所所長 掟上今日子』と書かれた名刺が一枚とブロンズ像が一体置いてあった。

 

恐らくこれが忘却探偵が依頼で奪還した美術品だろう。

 

「阿良々木くんの推理どおり、どうやら隣町の美術館から盗まれた美術品の奪還…というのがこの度私が受けていた依頼のようですね。そして依頼自体はすでに終わっていることも的中している。実に驚きの推理力です」

 

「本職にそう言ってもらえるとは光栄だね」

 

「そして仕事を終え一安心した私はあの公園で眠りについた…というのが、どうやら事の真相であるといったところでしょうね」

 

回りくどいなぁ…。

 

何というか手の込んだマッチポンプのようだ。

 

自分で残した謎を自分で解く。

 

今回彼女がやったことを客観的に見ればそうなる。

 

だが、掟上今日子にとって昨日の自分と今日の自分は別人であると言ってもいい。

 

一見意味不明な備忘録にICカードを使って初乗り料金、飲み物の値段からヒントを残す手腕は見事なものだったと言えよう。

 

まぁ俺としては中々楽しかったし。

 

とはいえ、俺にとってはちょっとした推理ゲームのような経験でも掟上今日子にとってはきっと全て必要があって仕事でやったことなのだろう。

 

あのブロンズ像を取り返すのにどんな紆余曲折があったのか知らないが、恐らく掟上今日子が忘却探偵であることを交渉材料にしたのであろう。

 

そして犯人の事を忘れる代わりにブロンズ像を返してもらった…てところだろうか。

 

ブロンズ像を奪還した後は犯人の情報が万が一自分の口から漏れないように早急に記憶をリセットする必要があった。

 

記憶を失っても再びここに戻ってくるためのヒントを備忘録に残して昨日の彼女は今日の彼女に依頼の仕上げを託したのだ。

 

とかなんとか推測を並べ立てはしたものの、真相は闇の中だ。

 

それを知る者は既にこの世にいない。

 

昨日の掟上今日子は今日を託していなくなった。

 

「ありがとうございました、阿良々木くん、本当に助かりました。では、私はこのまま電車で帰らせてもらいますね」

 

コインロッカーに入っていた名刺に掛かれていた事務所の所在地に従い忘却探偵は家路についた。

 

なるほど、あの名刺はブロンズ像をロッカーに入れた人間が間違いなく掟上今日子である証明であると同時に家へのナビゲーションだった訳だ。

 

「いろいろ付き合わせてしまって、すみませんでした」

 

「いや、良い暇つぶしになったよ。推理ゲームみたいで」

 

「そう言っていただけるなら何よりです、何のお礼もできませんが、よろしければ記念にどうぞ」

 

そう言って彼女は名刺を差し出した。

 

「阿良々木くんならばもしかして私の力など必要ないかもしれませんが、ご入用の際には是非、忘却探偵にお声がけください。どんなことでも最速で解決して、そして忘れて差し上げますから」

 

「まぁ万が一の時はよろしく頼む」

 

そして忘却探偵は去っていった。

 

結局、あれ以来彼女と『この世界』で邂逅したことはない。

 

彼女からもらった名刺はちゃんと机の引き出しの中に入れておいたはずだが、いつの間にか無くなっていた。

 

今思えば、彼女は俺と同じである種のイレギュラーだったのかもしれない。

 

俺が阿良々木暦と成り代わってから1年間、抜かりなく情報収集していた筈なのだが、思えば『忘却探偵』など聞いたこともない。

 

恐らく彼女は、また別の『物語』の人物なのだろうと俺は結論づけた。

 

阿良々木暦と掟上今日子、本来交わるはずのない異世界の人物によるたった一度の交流。

 

一体何の因果か、物語かは知らないが、起きてしまったクロスオーバー。

 

この先、どんな物語があるのかは知らないが恐らく俺が『阿良々木暦』として彼女に会うことは二度とないのであろう。

 

しかし旅を続ければいつの日か俺は彼女の世界で別の誰かとして彼女に会えるのかもしれない。

 

なぁに二度目三度目の初対面など忘却探偵にとっては珍しくもないだろう。

 

そう考えると、案外また会える可能性は高いのかもしれなかった。

 

忘却探偵掟上今日子

 

あなたの秘密を忘れます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「無闇だぜー」

【作者だよー】

「おう作者てめぇ何やってんだよ」

【開幕から辛辣だね!?】

「ったり前だろお前本編ほったらかしで何番外編なんかやってんだ」

【仕方なかったんだ!だって私クロスオーバーとか大好物なんだもん!むしろクロスオーバーがやりたくて小説書いてるんだもん!そんな私が混物語とかいう公式クロスオーバーを読んだら自分でも書きたくなるに決まってるじゃないか!】

「決まっているのか…」

【決まっています】(鋼の決意)

【と、いう訳で筆者の衝動に任せて始まった『外物語』混物語編、これからもやっていきます】

「これからしばらくはそっち優先で更新する気なのか?」

【そうなるね】

「また本編が遠のく…」

【書いてる途中で気が乗ったらそっちも書くかもしれないからそれで許してヒヤシンス】

「ムカつく」

【まぁ私も実はこれ一本で混物語は終わらせようとしたんだけれどね?無闇君なら多少のゴリ押し力押しも効くし一話につき約5000文字程度でパパっと終わらせようと思って書いたら予想以上に伸びちゃってさぁ……】

「見切り発車だからこういうことになるんだよなぁ」

【という訳で次回予告】

「次回は『戯言シリーズ』及び『最強シリーズ』から人類最強の請負人、哀川潤が登場か」

【実は筆者の中で彼女は割と無闇君というキャラを作るにあたって結構な影響を与えた人物だったりするんだよね】

「あの理不尽オブ理不尽を相手にせにゃならんとは気が重いぜ…」

【一応ヒロイン候補なのだけれどね、混物語での傍若無人さを見てちょっと筆者彼女をヒロイン化する自信無くしちゃった】

「やめてくれよ…」(絶望)

【という訳で次回、第強話『じゅんビルド』】

「質問や指摘は感想欄で受け付けてるぜ」

【「ではまた次回」】


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序章
終わる世界(モノガタリ) 始まる物語(セカイ)


注意
筆者は小説初投稿の初心者です。あまり過度な期待はなさらないようお願い申し上げます。
感想・批評は自由ですが暴言や悪口は炎上の原因になりますのでご遠慮下さい。



「くだらねぇなあ………」

 

どんよりとした灰色の雲が空を覆う街の中、彼は一人、吐き捨てるようにそう呟いた。

 

彼の目に映る景色は、空を覆う雲のように灰色で全てが取るに足らない物に思えていた。

 

彼は世界に何も求めていなかった––––––––––––––––

 

彼は人間に何も期待していなかった––––––––––––––

 

彼は自分に何も感じていなかった––––––––––––––––

 

この世界の全ての存在、全ての事象、全ての現象が彼にとっては只々『下らない』

 

つまるところ、彼は生きることにうんざりしていた。

 

何をしても上手くいく。

 

何をしても失敗しない。

 

何をしても––––ままならない。

 

求められるままに搾取され、最後には世界の全てから否定された彼は、世界に絶望していた。 

 

「くだらねぇ……世界も、人間も、動物も、植物も、微生物も、炎も、水も、電気も、土も、宝石も、光も、闇も、時間も、空間も、点も、線も、平面も、立体も、雨も、風も、雪も、雲も、雷も、神も、悪魔も、現実も、幻想も、物語も――そして俺自身も、本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に―――――全くもってこの上なく『くだらねぇ』よなあ…………」

 

彼は、常に勝者だった。

 

彼は、いつも成功していた。

 

彼は、生まれながらに頂点だった。

 

だからこそ、彼は世界と相容れなかった。

 

世界にとって彼は

 

あまりにも万能で

 

あまりにも最強で

 

そしてあまりにも―――例外すぎた。

 

世界から拒絶された彼にとって、その目に映るすべてのものは皆平等に見えた。

 

皆平等に()()()()()()()

 

世界は残酷だった。

 

世界は彼を拒絶したが、彼が存在することは認めているのだった。

 

「こんなくだらねぇ世界………もうどうでもいい、だが俺ですら俺を終わらせることができねえ………誰でもいいからよぉ、終わりにしてくれねえかなぁ………」

 

こんな世界に価値などない―――彼はこの世界を見限っていた。

 

だが、彼が自分で世界から去るには彼は強すぎたのだ。

 

どのような方法をもってしても、彼は世界から去ることができなかった。

 

だからそう、彼の命が燃え尽きるまで、彼はこの灰色に染まった無価値な世界を孤独に生きなければならないのだ。

 

「だがそんな人生、俺はまっぴら御免だ」

 

そう呟くと、彼は忌々し気に曇天の空を睨んだ。

 

「(こんな世界に未練はねぇ、誰でもいい………俺が世界にとって拒絶の対象だというのなら………最後まで責任とって俺を殺してみろ………いやもういっそ、殺すとはいかなくとも、せめて別の世界に追放するなりしてみやがれ!)」

 

自暴自棄だった。

 

ある意味どんな刑罰より残酷な状況の中で、彼に蓄積されてゆくはけ口がないストレスは彼を徐々に蝕みつつあり、彼は存在しない何者かに怨念のようなその心のドロドロとした感情をぶつけた。

 

もちろん、そんなことをしてもストレスが消えるだけでなく、逆に虚しさだけが残ることにより、さらなるストレスをため込むことになるだけであった。

 

そう―――――――()()()()()

 

【オッケー分かった、じゃあ世界を終わらせよう】

「何っ――――――――――――――!?」

 

その瞬間だった。

 

『世界の終わり』についてこれを読む人はどのような状況を思い浮かべるだろうか?

 

隕石の落下

 

大噴火

 

大洪水

 

大地震

 

疫病の蔓延etcetc……

 

様々な『世界の終わり』を思い浮かべるでしょうが、この瞬間その全てが一度に一瞬にして起こり、最後には宇宙がまるでビッグバンの逆再生のように刹那にして消滅した。

 

こうして、彼、『零崎無闇』の世界はあっけなく消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いってぇな…………体中が痛ぇ………クッソ……何だってんだよまったく」

 

【何って、君のお望みどおりに世界を終わらせてあげたんじゃないか】

 

「――――――誰だてめえ!」

 

ありとあらゆる災害に一度に飲み込まれ、意識を失った無闇が全身の倦怠感と鈍痛を感じながら目を覚ますと、そこは何もない『無』の空間だった。

 

ノロノロと体を起こしながら呟きに返答したのは、世界が終わる前に無闇が聞いた声だった。

 

その声の主を言葉にすることは、無闇には難しかった。

 

無理やりにでもその存在を形容するならば『無』という言葉が一番しっくりくる気がした。

 

存在が希薄で

 

輪郭が曖昧で

 

形が不定形な

 

そんな存在が無闇の前にいた。

『無』は無闇が起き上がるのを確認するように間をあけると、その希薄で曖昧で不定形な姿を人型のようなものに変えていった。

 

人型もどきになった『無』は言った。

 

【やあ、『例外』】

 

「お前……何者だ?」

 

【通りすがりの仮面ライd………じゃないよ違う違う………仕切り直そう、えーと確か最初は……】

 

気の抜けるような『無』の振る舞いだが、無闇は警戒心を最大にしたままじっと『無』を見つめていた。

 

「(得体の知れないやつだ………いったい何が目的かわからない以上警戒は最大にしておかねーと)」

 

無闇が警戒心MAXで『無』を観察していいると、『無』は大仰な仕草をつけて語りだした。

 

【私は、君たちが『神』とよぶ存在、あるいは『世界』、あるいは『宇宙』、あるいは『真理』、あるいは『全』、あるいは『一』………そして、私は『君』で、私は『傍観者』であり、『観測者』だ」

 

「あぁ?結局なんだってんだよ?お前の正体は一体『何』なんだ?」

 

【俺に『正体』なんてものはないよ、君が好きに決めるといい】

 

「得体の知れないやつだな…………名前とかはないのかよ?」

 

【無いね、でもまあ便宜上僕を表す記号がないと話しづらいって言うならそうだな…じゃあ『観測者(オブザーバー)』とでも呼ぶといいよ】

 

「なら単刀直入に聞くぞ『観測者(オブザーバー)』、お前の目的はなんだ?」

 

【目的?何それ?オイシイノ?】

 

「とぼけるな、わざわざ俺の世界を滅ぼして俺をここに連れてきたのはどういうつもりだと聞いているんだ」

 

【どういうつもりも何も、君が世界の終わりを望んだからその願いを叶えてあげただけって最初に言ったじゃないか】

 

「なぜだ?なぜ俺の願いを叶えた?別にお前にメリットがあるわけでも無いだろう」

 

【メリットがなきゃ叶えちゃダメなのかい?そんなのカラスの勝手でしょうに」

 

飄々とした態度の『観測者(オブザーバー)』に無闇はイラつきを隠し切れずに顔を顰めた。

 

【おーおー怖い顔しちゃって、でもまあぶっちゃけた話メリットはなくとも目的はある】

 

「何………?それはなんだ?」

 

【俺の目的は君だよ零崎無闇君】

 

「俺だと……?」

 

【別の世界に行ってみたいって思ってたでしょ?だからその願い私が叶えてあげようと思ってさ……だから零崎君にはちょっと、異世界に行ってもらうよ】

 

「は?」

 

そんな「ちょっとコンビニにお使い行ってきて」みたいな調子で突拍子もないことを言われた無闇は不覚にも拍子抜けしてしまった。

 

「それが………お前の目的?何でそんなことを…」

 

【君が『例外』だからだよ、その身に余るほどの例外性を持て余ていた君を、異世界に送り込めば一体どんな『物語』が生まれるのか……ってね】

 

「物語だと?」

 

【そう………………物語だ】

 

観測者(オブザーバー)』が腕をひろげたように見えた瞬間真っ白な空間が突然がらりと一変した。

 

そこは漆黒の空間に無数のシャボン玉のような球体が浮かぶ場所で、球体には様々な景色が映し出されていた。

 

「ここは………」

 

【ここは観測界だ】

 

「『観測界』?一体何を観測するんだ?」

 

【『物語』さ】

 

「物語?」

 

【そう、世界には様々な『物語』が存在する……映画やドラマ、漫画やアニメ、小説や音楽、絵画といった人間の創作物に限らず、生きとし生けるものたちの一生すらも物語になりうる、そこに主人公がいて、登場人物がいればそれがフィクションでもノンフィクションでも、それは『物語』として成立し『世界』として独立する】

 

【故に物語は無数に存在し、世界は無限に増え続ける】

 

【しかし物語とは、観測されなければ物語足りえない】

 

【私は無数の物語を観測する『観測者(オブザーバー)』として、数多くの物語を見てきたんだ】

 

【そして君を見つけたんだ】

 

【これまで見てきた物語のなかでも類を見ないほどこれほどまでに不条理で、理不尽で、例外的な存在に俺の好奇心は掻き立てられた】

 

【だってそうだろう?物語は無数といえども()()()()()()()()()()()()()()()()()存在なんて見たことも聞いたこともない】

 

【僕は感動すら覚えたね】

 

【でも、それ以上に惜しいと思った】

 

【これほどまでに例外的な存在が何もなさずに物語を終わらせるなんて冗談じゃない】

 

【でも君は世界に拒絶されていた】

 

【あの世界では君はどのような物語にも関与できない状態だった】

 

【だから………滅ぼした】

 

【僕は君を排斥したあの世界への興味を失った】

 

【『観測者(オブザーバー)』の僕が興味を失った時点であの世界の滅びは決定されていたんだ】

 

【私はそれを速めただけのこと】

 

【でも、僕自身君が生き残るとはまさか思ってもみなかった】

 

【期待以上の例外だよ君は】

 

【あとは簡単な話さ、異世界に行きたい君と君の物語が見たい俺】

 

【利害は完全に一致している】

 

【あとは……君の意思だけだ】

 

【君を受け入れてくれる世界を探す旅に出てみないかい?】

 

【もちろん無理強いはしない】

 

【YESならば私は君を異世界に連れて行こう】

 

【NOならばあの世界に限りなく近い世界に君を連れて行こう】

 

【選んで、零崎無闇】

 

【この権利を行使するか破棄するか、選択するんだ】

 

【さぁ――――――どっちを選ぶ?】

 

無闇は瞑目し、ゆっくりと口を開いた。

 

「俺は…俺の答えは言うまでもねえよ………………『YES』だ。異世界なりどこへなりと連れていけ、そこに俺が望む世界があるのならな」

 

表情のない『観測者(オブザーバー)』の顔がニッと笑ったような気がした。

 

【そうこなくっちゃね】

 

「ところで、俺はどこの世界へ行くんだ?」

 

【それはね―――――】

 

観測者(オブザーバー)』が手を一振りした瞬間、無数にあった球体が消え、一つの大きな球体が残った。

 

【この世界が、君の最初の異世界だ】

 

【君はこの世界の主人公に成り代わって物語を紡ぐんだ】

 

【君の魂と肉体はそのままに、この物語の主人公になるんだ】

 

【この世界が何の世界かは自分で確かめるといい、そのほうが面白いでしょ?】

 

「ああ、お気遣いどうもな」

 

【あぁそれと――――――君が全力で暴れるとこの世界が壊れる可能性があるから能力を制限させてもらうよ?この世界で君が出せる力は限界でも君の全力の1%まで、この世界で得た力に関してはその限りじゃないけどね、Ok?】

 

「OK、異論はないぜ」

 

【うん、じゃ……………行ってらっしゃい】

 

観測者(オブザーバー)』がそう言った瞬間、球体に大きな黒い扉が現れた。

 

扉はゆっくりと開いていき、その奥は暗闇に満ちた空間が広がっていた。

 

無闇は扉に歩み寄ると、『観測者(オブザーバー)』に向き直った。

 

【それじゃ、いい物語を】

 

「あぁ、せいぜい暴れまわってやるから覚悟しておけよ」

 

無闇はそれだけ言い残すと、扉の奥の暗闇に身を投じた。

 

 

 

序章は終わり、例外の例外による例外的な異世界冒険譚が今幕を開けた。

 




どうも、零崎記識です。今回はこの作品を最後までお読みいただき誠にありがとうございました。小説投稿サイトへの投稿はこれが初めてで、読み苦しい点があったかと思いますがコメント欄にてご指摘を受け付けておりますので具体的な改善点と改善策を書き込んでいただければ参考にしたうえで改善努力をしていきますのでよろしくお願いいたします。


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『傷物語』
001


筆者は小説投稿初心者です。
過度な期待はせずに気楽に見ていくことをお勧めします。
感想・批評は歓迎ですが暴言・悪口は炎上の原因となりますのでおやめください。


001

 

「知らない天井だ……………」

 

いきなりネタ発言かよと思った人もいるだろうけれど、マジで冗談抜きでそんな状況なのだ。

 

あの後―――異世界につながる黒い門を潜り抜けた後、俺は知らないベッドに寝ていて、知らない天井を見上げていたのだ。

 

情報収集のため一先ず部屋を漁ると、学ランと生徒手帳を発見した。

 

そこに書かれていた高校の名は『直江津高校』

 

生徒の名は『阿良々木暦』

 

ここまで分かれば皆さんもう察しはつくと思うが、そう、この世界は『物語シリーズ』の世界だったのだ。

 

生徒手帳によれば、俺が成り代わった時点では『阿良々木暦』は高校一年生だった。

 

「っつー事は時系列で言えば『傷物語』の前ってことになるな」

 

俺は部屋にあったカレンダーを確認する。

 

「確かあれは高校3年に進級する春休みの出来事だったから………約一年後か……」

 

時計やカレンダーを確認したところによれば現在は3月20日、どうやら春休み中のようで、4月には二年生に進級するらしい。

 

原作開始まではおよそ一年あるということになる。

 

「さしずめこの一年の空白期間は俺がこの世界に適応するための猶予期間(モラトリアム)ってところか………アイツ(観測者)も随分と気を利かしてくれるな……」

 

しかしまぁ、ありがたいことには変わりない。

 

「じゃ俺は精々ご厚意に甘えて有意義にこの時間を使わせてもらいますかね」

 

そう言って俺が行動し始めようとしたその時だった。

 

バタン!

 

「兄ちゃん!朝だぞコラ!」

 

「いい加減起きないとダメだよ………ってあれ………?」

 

扉を蹴破らんばかりに乱暴に開けて騒がしく入ってきたポニーテールで背が高いジャージの少女とたれ目で和服姿の少女が俺を見るや否や、ポカンとした顔で固まった。

 

言わずもがな、阿良々木暦の妹達にしてファイヤーシスターズの異名をとる阿良々木火燐と阿良々木月火である。

 

「あれ?兄ちゃん起きてたんだ……」

 

「珍しいこともあるんだね」

 

どうやら、阿良々木暦は結構なお寝坊さんだったということがうかがえたセリフだった。

 

「全く、人がせっかく起こしに来たってのに何で起きてるんだよ」

 

「本当だよ、妹の仕事を勝手に取らないでほしいものだよ」

 

訂正、こいつらもこいつらで原因の一端なようだった。

 

「…まいっか、起きてるならさっさと降りて来いよ兄ちゃん」

 

「そうそう、お兄ちゃんがこないと朝ごはん食べられないんだからね」

 

そう言い残すと二人は心なしかがっかりしたように部屋を後にした。

 

「さて………」

 

一人部屋に残った俺は机の上に置いてある手鏡を見た。

 

そこに映っていたのはこの俺零崎無闇の顔ではなく、男にしては長い黒髪にぴょこんとだったアホ毛がトレードマークのように存在を主張するこの物語の主人公、阿良々木暦の姿だった。

 

「だが、何もかも一緒って訳でもない」

 

鏡に映る阿良々木暦の顔には元々の阿良々木暦とは決定的に違う箇所があった。

 

「は、吸血鬼でも無いのに赤い目なんて、不気味でしかねえよなぁ」

 

赤く、紅く、緋い、まるで鮮血のように真っ赤な目がこちらを見返していたのだ。

 

無闇は、この目が自分の異常性の表れの象徴に思えてならなかった。

 

まぁ、そんな事はさておくとして––––––

 

「姿形は完全に阿良々木暦だが、肉体のスペックはどうやら俺のものだな、となれば肉体そのものは俺のものだが主人公に成り替わるに当たって外見だけ変えたってところか」

 

恐らく、この世界に順応するための措置なのだろう。外見さえ変えてしまえば中身が変わったことなど幾らでも説明がつく。

 

「何はともあれ、先ずはこの辺りの探索だな。直江津高校とか、主要な建物の場所を把握しておくべきだな」

 

俺は当面の目標を情報収集に定めた。

 

この街には何があって誰が住み、そしてどういう物語を辿っていくのか、それを知らなければ何もできないのだから。

 

「まぁでも、せっかく貰ったチャンスだ。この世界、好きに生きてみるか」

 

そうして俺はようやく湧いて来た異世界の実感とともにこの世界で生きていく決意を固め、部屋のドアのドアノブに手をかけ、外へ踏み出したのであった。

 

002

 

あれから一年の月日が経った––––––

 

勝手にキンクリした事は申し訳ないが二年生のうちは本当に何もないただの猶予期間(モラトリアム)なので特筆すべき事は何一つ無いのだ。

 

授業の出席数を計算し最低限授業に参加し後は全て探索と情報収集、やったことといえばこれだけだ。

 

そんなこんなで俺は再び春休みに突入しているのであった。

 

事が始まったのは終業式直後の午後のことだった。

 

その時の俺は高校の周辺をウロウロと散策していたように思える。

 

別に情報収集が目的では無い。

 

それはもうこの一年で終わっている事で、今となっては必要のない事だった。

 

ならば何故俺は今もこんな事をしているのかと言うと、言ってしまえば今までの習慣が抜けなくなったのだ。

 

この一年で俺にはどうやら、放浪癖がついてしまったようだ。

 

と言うか、これくらいしか楽しみがないのだ。

 

勉強やスポーツも、俺の前では味気ないものでしかない。

 

そんな訳で、何も考えずに特に理由もなく徒然なるままに歩き回ることの方が今の俺の趣味となっている。

 

とは言ったもののそれにも限度があって、そろそろ高校の駐輪場に停めてある自転車を取りに戻ろうと、校門前の交差点に差し掛かった時だった。

 

何気なく校門に目をやると、一人の女子生徒が出てくるところだった。

 

「あいつは確か……羽川翼とか言ったっけか」

 

人に対しては興味が薄い俺にしては珍しく、俺は目の前の女子生徒の名前を朧げながら知っているのであった。

 

どうやら彼女は長い髪を後ろで一本にまとめている三つ編みの位置を調整しているようだった。

 

前髪を一直線に切り揃えていて、全く改造していない校則通りにスカート丈はきっちり膝下10センチ。

 

黒いスカーフ。

 

ブラウスの上には校則指定のスクールセーター。

 

同じく校則指定の白い靴下にスクールシューズ。

 

まるで優等生を絵に描いたような姿である。

 

というか、実際彼女は優等生だ。それも度を越した。

 

話に伝え聞く限りではその性格は公明正大なしっかり者の委員長と言った感じ。

 

五教科六科目で六百点満点を取る学力。

 

俺が彼女の名前を覚えていたのはこのためだ。

 

高校のテスト結果が張り出される時にいつも俺と同率一位をキープしてる名前だったからだ。

 

例外の俺はともかくとして、普通に考えたらどれだけ勉強をしたとしても全教科満点を取ることなどそうそうあるものではない。

 

にも関わらず彼女の名前は常に例外の俺と同じところにあるというのだから、興味も湧く。

 

しかしまぁ、だからと言って俺と彼女に接点がある訳でもない。

 

というか、ロクに話したことすらない。

 

俺が彼女を一方的に知っているだけで、俺の興味はそこで止まっている。

 

彼女の方も同様だろう。

 

ロクに授業に出ていないせいで俺が高校でどのような評価を受けているのかは知らないが(というか興味もないが)彼女が俺に抱く印象などいつも自分と同じところに名前がある人程度だろう。

 

俺がほとんど学校に行かないものだから顔すらも知らないということもあり得るのだ。

 

まぁ、言ってしまえば所詮他人同士の関係に過ぎない。

 

知り合いにも満たないのだ。

 

だからまぁ、ここで彼女にエンカウントしたこともただの偶然な訳で、これから起こるハプニングも不幸な偶然であり、俺に非はないと言っておこう。

 

彼女は三つ編みの修正に夢中で正面から歩いてくる俺には気付いていないようで、俺の方もここで偶然会ったからと言って別に話しかけるような興味も抱いていないので俺はそのまますれ違うつもりだった。

 

その時だ。

 

何の前触れもなく、風が吹いたのだ。

 

別段強くも弱くもない、何の変哲も無い普通の風だ。

 

普段の彼女ならちょっとスカートを抑える程度に止まったであろう風だ。

 

しかし不幸なことに、彼女の両手は三つ編みの修正するために後頭部に回されていたのだ。

 

そのため、無防備なった彼女のスカートは面白いように綺麗にめくれ上がった。

 

こちらから見ると何だか、成年向け雑誌のグラビアのように扇情的なポージングをとっているように見えたので、誠に偶然とは面白いものである。

 

白い下着だった。

 

それだけ。

 

俺がサービス精神溢れる性格だったならここで彼女の下着を一瞬見えただけではありえないくらい事細かに描写するところだが、生憎俺はそこまで親切じゃ無い。

 

事細かな白い下着についての描写が見たければ原作を読んでくれ。

ともかく、俺が今時古風なラッキースケベの原点ともいえるハプニングに遭遇した際に抱いた感想としてはこれだけである。

 

下着が見えた程度で発情したりなど俺はしない。

 

とは言え流石にこんなことが起これば彼女とて前方の俺に気づく訳で。

 

「………………」

 

「………………」

 

変な空気になった。

 

というか気まずい空気だ。

 

「………………」

 

「えっへへ」

 

ここで笑えるとは器がでかいことだが、しかし俺のほうは至って無言で無表情だったため、かえって妙な空気が漂った。

 

「………………」

 

まぁいい、ここは彼女のためにも見なかったことにしておくのが吉か。

 

そう思って、俺は交差点を渡ってさっさと駐輪場に向かうため、彼女の側を通り過ぎようとした。

 

だが…

 

「なんて言うか、さぁ」

 

この女、あろうことか話しかけてきやがった。

 

俺の気遣い返せ。

 

せっかく人が無かったことにしてやろうとしたのに……。

 

「見られたく無いものを隠すにしてはスカートって、どう考えてもセキュリティが低いよね。やっぱりスパッツていうファイアウォールが必要なのかな?」

 

「………………」

 

知らねぇよ。

 

というかどうでもいい。

 

なら俺はウイルス扱いかよ…。

 

全く、たかが下着ごときで何でこんな面倒なことになるんだか…。

 

不幸中の幸いか、ここには俺と彼女以外人はおらず、あの古き良きラッキースケベの目撃者は俺だけのようだった。

 

「ちょっと前にマーフィーの法則って流行ったけどさ。そこに付け加えるべきかもね。後ろに手を回しているときに限って前向きにスカートが捲れちゃう、とか––––後ろは普通に警戒するんだけど前は意外と盲点だったり」

 

「………あのさぁ、さっきから人がせっかく気を遣って無かったことにしてやろうとしてるんだから少しくらいその意を汲み取ってくれませんかねぇ」

 

「あははゴメンね……でも見えたならいっそ見えたって言ってくれた方が女子的には気が楽なんだよ」

 

どうでもいい情報だった。

 

というか、下着が見えた程度のことで大袈裟だ。

 

「何か女の子に対して失礼なことを言われた気がしたんだけど…」

 

「…気のせいだろ」

 

心を読まれた。

 

マジか。

 

最近の女子高生は読心術が使えるらしい。

 

女子力ってすげー。

 

閑話休題(そんなことはどうでもよくて)

 

「……じゃ俺はこれで」

 

俺としてはもうさっさと帰りたい気分だったので俺は羽川の横を通り抜けて自転車置き場へ向かった。

 

のだが………

 

「ちょっと待ってよ!」

 

と背後から制止の声がかかる。

 

羽川である。

 

ええい……こちとらさっさと帰りたいだけなのに何を引き留めてくれとるんじゃい…………。

 

「まだ何か用か?今日の黒歴史を思い返して布団でうわああああああってするなら誰にも聞かれないようにしろよ」

 

「どんなアドバイス!?こっそり悶絶するときの注意とか聞いてないよっ!」

 

「よし分かった、仕方ないから俺も一緒に謝ってやるよ。だから、な、職員室行こうぜ?正直に言えば先生も許してくれるって」

 

「学校の備品壊した小学生!?」

 

「ところで女子は『創作ダンス』で何してんの?」

 

「やめてやめてそれを思い出させるのはほんとに勘弁して!」

 

「黒歴史を思い返して布団で(ry」

 

「まさかの無限ループ!?」

 

「で?結局ユーは何の用なのかな?」

 

「誰!?もはや誰なの!?」

 

「ほれほれはよ言えハリーハリー」(ノシ・ω・) ノシ バンバン

 

「さっきと性格が違いすぎる!?」

 

「表面だけで人を判断するなど未熟者め……出直してくるがいいわ!」

 

「理不尽!?せめてキャラぐらいは統一してよ!」

 

「人は皆仮面を被るものさ………そうしているうちに皆本当の自分を見失ってしまうんだ…………悲しきかな…」

 

「急に深いこと言いださないで!?」

 

「それが今回お前が得るべき教訓だ………」

 

「なぜだか分からないけどそのセリフは今言うには早すぎる気がするからやめて!」

 

「お前は何でも知ってるな」

 

「何でもは知らないわよ知ってることだ………ってだから!そのセリフを私に振るのはまだ早いって時系列的に!」

 

「やだなぁ時系列とか一体何を言ってるんだよ小説の世界じゃあるまいし」

 

危ない会話だった。

 

閑話休題(という夢を見た事にして)

 

「で?何の用なの」

 

「急にテンション変えるのはやめて……」

 

ゼェゼェ………と息切れした様子の羽川。その顔には疲れが如実に表れていた。

 

「えーっと何だったけ………今のやり取りのせいでド忘れしちゃった」

 

「そうか、じゃあな」

 

「ここで帰ろうとしないで!?」

 

「んじゃはよ話せや」

 

「阿良々木君帰ろうとしてたのになんで学校に戻っていったのか気になって………」

 

「自転車通学だからだよ言わせんな恥ずかしい」

 

「何で!?」

 

「というか、なんで俺の名前知ってんのさ」

 

「えぇ?それは知ってるよ同じ学校じゃない」

 

規模が大きすぎる………。

 

その言い方だとお前は直江津高校の全校生徒の名前を網羅していることになるが………。

 

あながちありえなくもないような気がして怖い。

 

やだ……この子の委員長力、高すぎ………。

 

「それに阿良々木君は学校でも結構な有名人だよ、知らなかったの?」

 

あぁやっぱ目立ってたか………。

 

ほとんど学校に行ってないくせに成績だけいいもんだからなぁ………。

 

カンニングの常習犯とでも思われてるのか……。

 

「そうだとしても、俺が阿良々木暦だってなんでわかったんだ?」

 

そう、俺がどれだけの悪名を轟かせているのかは知らないがこいつと俺はほとんど接点がないのだ。

 

そんな中こいつはどうやって俺が悪名高い阿良々木暦だと特定したのだろうか。

 

「それは一年前から急に成績を伸ばした赤目とアホ毛が特徴の男子生徒がたまに出没するらしいって噂だったからね、一目見て分かったのよ」

 

学校の七不思議に登場する怪異みたいなことにされていた。

 

マジかよ………。

 

出没って………そんな不審者みたいに………。

 

「私、前から阿良々木君とは話してみたいと思ってたの」

 

実際に話してみたらすごく疲れたけど…………と羽川は小声で付け足した。

 

フヒヒwwwサーセンwwwww………自分でやっときながらキモすぎワロタww

 

「ふーん優等生の羽川翼様ともあろうお方がこんな不登校児ごときに興味を持ってもらえるとは光栄だね」

 

「あれ?何で阿良々木君私の名前を?」

 

「皆に聞きまわったんだよ【Wanted!】ってな」

 

「まさかの指名手配!?」

 

「バッカモーンそいつがル〇ンだ!」

 

「私怪盗じゃないよ!?」

 

「奴は大変なものを盗んでいきました。あなたの……命です」

 

「物騒!?それもう怪盗ですらないよ!」

 

というのは冗談で本当は三つ編みメガネの巨乳な絵にかいたようなテンプレートな委員長がいるらしいっていう噂を去年情報収集しているときに耳にしたことがあるのだ。

 

というか………

 

「有名人といやぁお前もかなりのものだけどな」

 

何せ、情報収集をしていたとはいえほとんど学校に行ってない俺ですら知っているのだ。

 

こいつの知名度もなかなかのものだろう。

 

「ちょっと、やめてよ」

 

羽川が心底嫌そうな表情を浮かべた。

 

彼女がここまで不快そうな表情を浮かべたのはこれが初めてである。

 

「そうゆう冗談は嫌いなの、からかわないでちょうだい」

 

「………そうか」

 

なるほど……こいつ、自分が強いことを自覚していないのか………。

 

いやむしろ、()()()()()()()()()()()()()と言ったほうが正しいか。

 

まあいい、そんなのはこいつの生き方であって、どう生きるもこいつの自由なのだから他人の俺が口を出す筋合いはないか。

 

そう思い、俺はそれ以上の追及を止めた。

 

だが………

 

「気に入らねぇな………」

 

「え?何か言った?」

 

「何でもねえよ」

 

思わず口をついて飛び出してしまった言葉は幸い羽川には聞かれなかったようで俺は適当に誤魔化した。

 

そう、俺にはこいつの生き方が気に入らないのだ。

 

俺と渡り合えるほどの能力を持っている時点で、こいつは異常なのだ。

 

常人とはかけ離れた能力を持った圧倒的強者。

 

その立場にいながら、こいつはそれを自覚してない。

 

あくまでも自分は周りと一緒なんだ、異端じゃない、例外なんかじゃないと思っている。

 

周囲に溶け込むために、それは仕方のないことなのだろう。

 

そうやって強さに鈍感でいれば、それを周りは勝手に「謙虚」と受け取る。

 

多くの人間は自分より優れた存在を認めたがらない。

 

出る杭は打たれるということだ。

 

こいつは自分で杭を打つことによって周りに打たれないようにしているのだ。

 

だから………気に入らない。

 

こういうタイプの奴は自分を正当化するために自分の物差しで無理やり相手を測ろうとするのだ。

 

言うなれば、メートルの物差しでセンチ単位を測ろうとするようなもの。

 

自分にできてほかの人間にできないことなどないと思っているのだ。

強者のはずなのに弱者だと言い張る欺瞞。

 

自分より弱い人間がいることを認めない現実逃避。

 

俺から見たこいつの生き方は、酷く歪で、気に入らなかった。

 

あぁ本当に…昔の俺みたいで心底気に入らない。

 

まぁ、それを態々口に出したりはしないがな。

 

「阿良々木君はさ………」

 

そうやって一人、思考の海に沈んでると不意に羽川が口を開いた。

 

「吸血鬼って信じる?」

 

「はぁ?」

 

いきなり何を言い出してんだこいつ……。

 

一体何を言い出すと思えば吸血鬼ときたか………。

 

そう思ったところで俺は一つの可能性に思い至る。

 

ああなるほど、何を突拍子のないことを言い出すのかと思えばこの女、下着を見られて恥ずかしいから俺との会話によって記憶の上書きを目論んでいるのか。

 

フッ……だが甘いな優等生、黒歴史ってのはいくら上書きしようと鮮明に残るものなのだよ。

 

今はこうして会話することで気を紛らわすことができるがそれは一時しのぎにしかならんのだよ。

 

そして一人になったとたんに思い返す羽目になるわけだ。

 

それでもって冷静になってよくよくかんがえるとほとんど面識のない男子に吸血鬼の話なんてしたことを思い返してさらに黒歴史を増産する羽目になるのだよ。

 

(ΦωΦ)フフフ…げに恐ろしきは黒歴史スパイラル。

 

恥の多い人生を送ってきましたとは彼の文豪もよく言ったものよ………。

 

でもまあ、それでお前の気が済むって言うならその無駄話に付き合ってやるのも吝かではない。

 

あれはただの偶然であって俺に非は全くないけど。

 

『俺は悪くない』

 

「――――で?その吸血鬼がどうしたんだよ」

 

「いや、最近ね、ちょっとした噂になってるんだけど。今、この町に吸血鬼がいるんだって。だから夜とか、一人で出歩いちゃ駄目だって」

 

「へー、噂ねえ…しかも吸血鬼…今時古すぎて逆に斬新だな」

 

「まぁ怪談としてはポピュラーすぎるほどポピュラーだし、今では怪談だけでなくサブカルチャーの至る所で見かける話だしね、正直語りつくされている感あるよね」

 

「吸血鬼といやあ貴族っぽいイメージが定番だが、こんな田舎町まで何しに来てるんだか」

 

「それは吸血鬼に会ってみないことには分からないね」

 

「つーか吸血鬼みたいな人外が相手なら何人でつるもうと結局は意味ないんじゃ……」

 

「あはは……それは言わないお約束ってやつだよ阿良々木君」

 

むぅ……こいつ黒歴史の上書きを企んでいる割には快活に笑うな……

 

これはあれだろうか、黒歴史に耐性がなさ過ぎて恥ずかしさが天元突破するあまり脳内が吹っ切れたとみるべきだろうか……表面上は平静を保ってるけど心の中はヒャッハーしてたりして………ヤダこの娘怖い。

 

「なんだか途轍もない風評被害を被った気がした!」

 

「気のせいだ」

 

だから心読むなって、こえーよ女子力……。

 

試してみるか。

 

(ファミチキください)

 

「こいつ!直接脳内に………!」

 

「いきなりどうした」

 

「あれ……私何であんなこと言ったんだろ…………ゴメン阿良々木君、今のは忘れて……」

 

女子力SUGEEEEEEEEEEE!!

 

なんてことだ………これが真の女子力……。

 

そうか……学園都市在住の某『心理掌握(メンタルアウト)』の力は実は超能力じゃなくて女子力だったのか……。

 

衝撃の新事実。

 

私の女子力は53万です。

 

ガチートなんてもんじゃねえ!?

 

逃げるんだぁ……勝てるわけがないよぉ………

 

「この噂には目撃証言もあるらしくてね」

 

「目撃証言?何か、金髪で貧弱貧弱ゥが口癖の汚らしいアホでも見たのか?」

 

「誰!?妙に具体的だしいろいろ危ないよ阿良々木君!?」

 

「え、違うの?俺が知ってる吸血鬼ってこんな感じなんだけど」

 

「阿良々木君の吸血鬼のイメージがいろいろおかしい!?」

 

なんでだろう………もはや吸血鬼が実在したとしても女子力の前には無力のような気がする………。

 

はッ!つまり女子力=波紋ということか!(迷推理)

 

ということは女子力を身につけたこいつらは波紋戦士と同等の力を持つということに………!(錯乱)

 

羽川翼………恐ろしい子ッ!

 

女子高生の力は世界一イイイイイイイイ!!

 

っべーよ、まじやっべーよ女子力((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

 

「阿良々木君?急に震えだしてどうしたの?」

 

「な、何でもないであります!」

 

「えぇ!?何で急に軍人口調になったの!?」

 

閑話休題(茶番はこれくらいにして)

 

「うちの学校の女子だけじゃなくて―――この辺の学校に通ってる女子の間では、有名な話。っていうか女の子の間だけではやってる噂なんだけど」

 

「それはまたありがちな………」

 

怪談や都市伝説に付属する設定としてはもはや定番と言ってもいい。

 

まさかこれにも女子力が………。

 

女子力万能説。

 

提唱者は俺。

 

「金髪の、すごく綺麗な女の人で―――背筋が凍るくらい、冷たい目をした吸血鬼なんだってさ」

 

「えらく細かいディーティールだな。それって単純に金髪の人を吸血鬼って思いこんでるだけじゃねーの?」

 

何を隠そう、俺たちが住んでいるこの町、ド田舎中のド田舎である。

 

都会と隔絶されすぎて髪を染めるような人がいないのである。

 

偶々ここに訪れていた外国人とかを見間違えた可能性がある。

 

「確かに現実的に考えればそうかもしれない」

 

でもね――――と羽川は続ける。

 

「街灯に照らされて、金髪は眩しいくらいだったのに――――影がなかったって」

 

あぁ、なるほど。

 

そんな特徴もあったっけか。

 

「影がない……ねぇ………それ本当に確認したのか?お前が言ったとおりの人物がいるとするなら、影なんて見ないでその人だけにしか意識行かないと思うけど」

 

「まぁ確かに信憑性には乏しいけれど、飽くまでも噂だからね、でもそのおかげで女の子が一人で外を出歩かないようになるなら治安維持的な側面ではあながち捨てたものじゃないよね」

 

まぁそうだ。

 

それには疑う余地はない。

 

というか俺はそれが狙いで大人の誰かが流した噂じゃないかと思っていた。

 

「でも―――私はね」

 

ここにきて、羽川の声にシリアスな響きが入る。

 

「吸血鬼がいるなら、会ってみたいと思うのよ」

 

「へぇ………」

 

怖いもの見たさ………ではないのだろう。

 

その時の羽川の表情を、俺は忘れない。

 

何かを渇望する者の目をしていた。

 

それと同時に、何処か諦めているようにも見えた。

 

それは以前、俺がまだ俺の世界にいた時のこと、俺が世界に絶望する前の段階にしていた顔とそっくりだった。

 

だからあえて聞いてみる。

 

「血を吸われて………殺されてもか」

 

「殺されるのは……嫌だけど、そうだね、会ってみたいっていうのは違うかも。でも、そういう―――人より上位に存在、みたいのがいたらいいなって」

 

その時、俺の時間が止まった。

 

おいおい……それってまさか…俺が思う通りの意味だとしたら………こいつは―――――――――

 

「―――じゃないと、色々報われないじゃない」

 

その瞬間、俺の体を電流が駆け巡った。

 

間違いない………こいつは――――俺だ。

 

「そうか……お前も……そうなんだな」

 

羽川に聞こえないような小さな声で俺は思わずそう呟いた。

 

「いけない、いけない」

 

羽川は慌てたようにそう言った。

 

「阿良々木君、話しやすい人なんだね。なんだか口が滑って、ちょっと訳の分からないことを言っちゃったような気がするよ。不思議と親近感がわくというか…親しみやすい人なんだね」

 

恐らく、今の一言は彼女が胸の奥に秘めておきたかった彼女のアイデンティティにもかかわることなのだろう。

 

そして、それを俺に吐露してしまったのはきっと偶然ではない。

 

羽川のほうも、きっと俺が同類であることを無意識的に悟ったのだろう。

 

この時、俺は生まれて初めて決意した。

 

羽川翼の物語に、絶対に関与することを。

 

クソッ……こうなると知っていればもっと早くからこいつとかかわるべきだった…。

 

「こんなに話しやすいのに、阿良々木君は何で友達がいないの?」

 

俺の中の名状しがたい感情を知らずして、羽川は聞いてきた。

 

その問いに対し、俺は

 

「必要ないからな」

 

とだけ述べた。

 

「どういう事?」

 

「自分で言うのもなんだが俺は普通の人間より優れている、だから大抵のことは自分でできるから誰かとつるむ必要性を感じない。だからつるまない。そういう事だ」

 

「でもそれじゃ寂しくない?」

 

「全然、周りのことなんか興味ないからな。だが……」

 

俺は羽川の目をじっと見ながら言った。

 

「お前は別だ」

 

「えっと…なんで?」

 

「お前と俺は似た者同士って話してて分かったんだ」

 

「似た者同士……」

 

「世界が生きにくいんだろう?だから必死に受け入れられようとしてるんだろ?」

 

「えっ………それってどういう……」

 

「誰にも理解されないその強さ故の苦しみ………俺なら分かる。なぜなら――――」

 

俺は羽川のすぐ近くまで近づいた。

 

困惑というより驚愕したような羽川の表情が鮮明に見える。

 

「――――俺も、お前と同じだからだ」

 

「阿良々木君と………同じ…」

 

「お前のことがもっと知りたい、だから―――――――――俺と友達になってくれ」

 

我ながら、全く歯の浮くような恥ずかしいセリフである。

 

完全に告白するときのセリフだ。

 

あーあこりゃ黒歴史確定だな。

 

だが、そんなことは知らん。

 

たとえもう一度やり直すことになったとしても、俺は同じセリフを言うだろう。

 

なぜならこれが、俺の正直な気持ちであり全てだからだ。

 

これ以外の言葉を俺は持たない。

 

「え、えっと……」

 

羽川は面食らったような表情をしていた。

 

しかし、すぐに気を引き締めると優しく笑った。

 

それは、この俺が不覚にも見惚れてしまいそうになるくらい魅力的な笑顔だった。

 

「分かった、こちらこそよろしくね阿良々木君」

 

そう言って羽川は手を差し出してきた。

 

握手のようだ。

 

俺は何も言わずにその手を握った。

 

「ねえ阿良々木君、携帯出して」

 

「何で?」

 

「何って友達になったんだから電話番号とメールアドレス交換しようよ」

 

「あ、そっか」

 

そう言いながら、俺は言われた通りに携帯を出す。

 

「じゃあ赤外線で送るね」

 

そう言って羽川はものすごいスピードで携帯を操作した。

 

いや、マジではやいんだけどアレ………。

 

なんかもう指の残像とか見えてるんだけど………。

 

女子力はどうやらクロックアップもできるらしい。

 

もっと先の世界へ加速するのは少女のほうだったか………。

 

そうして、俺の携帯の電話帳には『羽川翼』の名前が追加されのであった。

 

「それじゃあ阿良々木君、また明日ね」

 

「ああ、またな」

 

あの後、俺の携帯の番号とアドレスを羽川に送り、明日図書館で勉強する約束をして俺たちは別れた。

 

しかしその約束は誰もが思いもしないような事態により破られることになるのだった………。

 

 

 




どうも、零崎記識です。
羽川さんはヒロインにするつもりはなかったのに。
うちの主人公ですら落とすとは羽川さんマジぱねえっす。
というか無闇君がチョロすぎィ!!どうしてこうなった。
もっとクールなキャラにするつもりだったのに………。
夜のおかしなテンションに身を任せた結果がこれだよ!

ここからは補足です
原作知識について
無闇君が元いた世界には『物語シリーズ』は存在します。
ただし、無闇君はあらすじ程度しか見たことがありません。
なので原作キャラのことは名前しか知らない上に誰がいつ出てくるどんな奴かは知りません。
せいぜい「あぁそういえばそんな名前の奴がいたな」程度です。

容姿について
無闇君のもともとの容姿は黒髪赤眼の中肉中背です。
顔は皆さんが思い浮かべるクールキャラを想像してください

他にもご質問などありましたら気軽に聞いてください。
尚、ストーリー進行上の理由により答えられない場合がございますので何卒御了承下さい。

それでは最後までお読みいただきありがとうございました。


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002

筆者は小説投稿初心者です。
過度な期待はせずに気楽に見ていくことをお勧めします。
感想・批評は歓迎ですが暴言・悪口は炎上の原因となりますのでおやめください。



003

俺が羽川と出会い、そして友達になったその夜のこと。

 

「うわぁぁぁぁ………うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………無いわーマジ無いわーいくら感情が高ぶってたとはいえあのセリフはないわ…………マジ引くわー無いわー……」

 

俺氏、絶賛黒歴史回想中である。

 

何が「お前のことがもっと知りたい(キリッ)」だよ………。

 

完全にギャルゲーのセリフじゃないですかヤダー。

 

お前直前まで適当に相手してたくせにいきなり手の平クルーするなよ………。

 

あー鬱だ………死にたい。

 

もうなんか、恥ずかしいとか通り越して早急にこの世から退場したい。

 

いや、羽川がいるからしないけどさ………。

 

ベッド上で転げまわる男子高校生の姿が、そこにはあった。

 

あるぇー俺ってこんな感情豊かだったっけ………?

 

前の世界で「くだらねえ………」とか言ってたキャラはどこ行ったんだよ……。

 

キャラ設定ブレイクするの早すぎませんかねえ作者ぁ!

 

こういうのってもうちょい紆余曲折あってからなるものだろ………。

 

それで長い付き合いの最初からいる仲間とかに

 

「変わったな……お前」

 

とか言われるのがこの場合のテンプレだろ……。

 

何色々すっ飛ばしてキャラブレイクしてくれっちゃってんですかねぇ………。

 

あー恥ずかしい………。

 

いやまぁ後悔はしてないんだけどさあ………。

 

くそう………まさか俺が黒歴史を作る羽目になるとは………。

 

羽川翼、恐るべし!

 

原作キャラは伊達じゃなかった………。

 

あ―駄目だこれ、ちっとも恥ずかしさが紛れねえ。

 

しかしそうしているのにも疲れ、俺は体を起こした。

 

「夜風にあたってくるか」

 

らちが明かないので、俺は外を散策して心を落ち着かせることにした。

 

夜の町をゾンビのような足取りで歩く俺。

 

傍から見れば完全に不審者である。

 

しかし、夜の風に当たったおかげで頭が冷えたのか、俺の心は先ほどよりも穏やかになっていた。

 

「羽川翼か………」

 

羽川翼、その名前を俺はこの世界に来る前から知っている。

 

あらすじ程度にしか知らないライトノベルシリーズに頻繁に登場していた名前だ。

 

今日会ってみるまで俺はそいつが誰でどんな奴なのかは知らなかった。

 

しかし言わずもがなわかるかと思うが、彼女は原作キャラだ。

物語の進行に関与する重要な存在。

 

主人公であるこの俺が成り代わった阿良々木暦と原作キャラである彼女が出会えば、それは物語の始まりを意味する。

 

「いよいよ本番………ということだな」

 

今まではただの猶予期間(モラトリアム)

 

ゲームで言うのならチュートリアルってところだ。

 

物語はまだ、始まってすらいなかったのだ。

 

そして、羽川との出会いはきっと序章だ。

 

幕が上がり、ここから俺の物語が始まるのだ。

 

さぁ――――――

 

「……うぬ」

 

――俺の物語を―――

 

「そこの………うぬじゃ」

 

―――――――始めようか。

 

声をかけられた方向に目をやると、そこには美しい金髪にシックなドレスを身に纏い、思わず平伏したくなるくらい高貴な雰囲気を漂わせた―――血も凍るような美しい女が、そこにはいた。

 

「儂を………助けさせてやる」

 

―――その四肢を無残にも捥がれて瀕死の姿で。

 

しかし、俺にとってはどんな芸術家も表現することは不可能とすら思える神聖さすらも感じられる女の美しさも

 

その完成された美を見る影もなく無残に破壊された様子も

 

全て―――――女の背筋が凍るほど冷たい金色の眼の前では()()()()()()()()()()

 

俺は強い衝撃とともに、強烈な『既視感(デジャヴ)』に陥った。

ははっ………マジかよ。

 

女の眼にはこの世の全てに対する絶望があった。

 

その眼は、もはやこの世の全てに対する一切の興味を失っっていると語っていた。

 

俺はその眼を知っていた。

 

それは、万能すぎるがために、強すぎるがために、誰にも理解されずに今まで生きてきた者の眼。

 

『究極の孤独』を味わって精神が死にかけているものの眼。

 

前の世界にいた頃、俺が―――――毎日鏡の中に見ていた眼だ。

 

こいつは………()()()()()()()()()()()だった。

 

――――こんな短期間に二人も『同族』と出会うなんて………。

 

「聞こえんのか、おい―――――」

 

ここで初めて、女と俺は目を合わせた。

 

時が止まった。

 

女の金眼がギョッと見開かれ、女と俺はしばし見つめ合った。

 

時間にしてほんの数秒だったはずだが、俺には永遠にも近い時間に感じた。

 

「何者じゃ………うぬ」

 

「お前の――――『同族』だ」

 

「『同族』じゃと……うぬ…吸血鬼か」

 

「いや、人間さ。ただ少し『例外』なだけのな」

 

「『例外』………なんじゃそれは……?」

 

「『例外』とは、読んで字のごとくこの世の法則すらからも外れた圧倒的強者にして全てにおける異端者だ。体こそ人間だが、俺の力は人間を超えている。お前もそうだろう吸血鬼、お前の眼は強すぎるあまり究極的な孤独を味わう者の眼をしている。退屈で退屈で、この世の全てのものが取るに足らなくて、もう生きることさえうんざりしている。そうだろう?」

 

「見透かしたようなことを………」

 

「見透かしているんじゃない、()()()()()()。だって、お前は―――――」

 

俺は女に歩み寄って目線の高さを合わせた。

 

「お前は―――――()()()()()()()

 

そう言って俺は、女に首筋を差し出した。

 

「お前は………間違いなく俺の『同族』だ。だから――――俺がお前を助けてやる。俺の血を吸え吸血鬼」

 

「良いのか?血を吸えばうぬは死ぬぞ」

 

「血を吸われたぐらいじゃ俺は死なねえよ。たとえ今世界が滅んだとしても、俺は死なない。『同族』のお前なら分かるだろう?」

 

俺がそういうと、女は頷いて俺の首元に口を近づけ

 

「…………ありがとう」

 

俺の耳元で小さくそういうと、俺の首にその牙を突き立てた。

 

その言葉は、女が生まれて初めて言った言葉だった。

 

孤独の中で生きてきた女は、初めて『感謝』という感情を知った。

 

――――世界の外にあるとある場所、真っ白な空間が広がる場所で、全ての物語の行く末を見守る『観測者(オブザーバー)』が無闇のいる世界を見ながら言った。

 

【ついに始まったね】

 

【ここからが、本当の物語の始まりだ】

 

【人の領域を超えた力を持つ者が、ついに今、人ならざる者と出逢った】

 

【例外の人間と怪異の王、彼らがその魂をつなぐとき、例外はその存在を一つ外し、怪異の王は怪異すらも逸脱するもう一つの『例外』となる】

 

【世界の法則ですら、もはや二人を縛ることはできない】

 

【さぁ………『例外の例外による例外的な物語』の幕開けだ】

 

異変が起きたのは、女が血を吸い始めてすぐのことだった。

 

「―――――ッ!?なッ―――これは一体ッ!?」

突如として、女は胸を押さえて悲鳴を上げ始めた。

 

「おいッ!?どうしたんだ吸血鬼ッ!何があったッ!?」

 

「がッ………あああああああああああああッ!!!儂の………体がッ!………存在ごと書き換わっていく…………!?あああああああああああああああああああああああああ!!!!………ああッ!…………アアアアアアアアアアアアAAAAAAAAAAAAAAAッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

この世のものとは思えないほどの絶叫をあげ、女は糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。

 

「クソッ何だってんだ一体!!」

 

俺は突然倒れた女を受け止めながら、怒鳴るようにいった。

 

俺は女を息を確認し、どうやら気絶しているだけらしいということを確認した。

 

とは言えこれからどうするべきか…………。

 

家族の眼がある手前、四肢をもがれた美女を家に連れて行くわけにもいかない。

 

どこか、一目のない場所に行かないと……。

 

そう考えた時、俺の頭にはある場所が思い浮かんだ。

 

伊達にこの一年町を探索してきたわけじゃない。

 

俺は女を横抱きにすると、そのまま立ち上がってその場所を目指した。

 

血まみれの美女を、お姫様抱っこして運ぶ俺。

 

もし人に目撃されようものなら通報待ったなしである。

 

ヤベぇよ………………………

 

「っと、着いたか」

 

目的地に着き、俺は前の建物を見上げた。

 

ここは、俺が調べたところによると4年前に潰れた学習塾の廃ビルである。

 

近くに誰もいないことを確認すると、俺は廃墟へと足を踏み入れた。

 

美女を抱え、人目を気にしながら廃墟に入っていく姿はどこからどう見ても不審者そのものである。

 

近所の噂になったりしたらどうしよう………。

 

極力そのことについては考えないようにして、俺は廃墟の階段を上る。

 

「ったく………さっきから一体この違和感は何なんだ………」

 

ここまでの道中、俺の体には妙な違和感が襲っていた。

 

それはまるで、自分の体が根本から書き換わっていくような感じだった。

 

まずいな………今は気力でどうにかしてるが、そろそろ限界が近い……。

 

気を抜けばどうなることか………。

 

徐々に強くなる違和感を押し殺しながら、俺は二階にある一番近い教室に入り、机の上に女を下した。

 

「―――――ッ!!ああああああッ!!!」

 

そこで緊張の糸が切れたのか、俺の体を一気に違和感が駆け巡った。

 

俺の体が、精神が、魂が、俺を構成するすべての要素が根こそぎ書き換えられていく。

 

俺の存在そのものが、『ナニカ』から外れていくのがわかる。

 

しかし俺にはどうしようもなく、俺は強烈な違和感を感じながら気を失った。

 

004

 

唐突に意識が回復した。

 

自分を構成する要素が軒並み書き換わり、生まれ変わったかのような気分だった。

 

「俺は一体………どうなったんだ」

 

俺は瞑目し、自分の内側に意識を向けた。

 

その結果として俺は自分の内側に人間としての要素のほかに、『もう一つの要素』が追加されていた。

 

「これは……吸血鬼か」

 

恐らく少しでも女に血を吸われたからであろう。

 

俺という存在が、吸血鬼という存在を()()()()()のだ。

 

自覚してみればなんとなく感覚が研ぎ澄まされたような気がするし、薄暗い廃墟の中なのによく見える気がする。

 

「……っつーことはまさか………」

 

俺はふと思い立って、廃墟の窓のほうへと歩く。

 

どうやら今は真昼のようだ。

 

俺は日の光が差し込むところに、おもむろに自分の右腕を突き出した。

 

太陽の光に照らされた俺の右手には()()()()()()()()()()()()

 

この体は今、吸血鬼のようになっているというのに。

 

「やはりそうか」

 

しかし俺はこうなることを知っていた。

 

俺の内部を探った結果、俺の肉体と魂は人間でもなく、吸血鬼のでもない『全く新しい存在』に書き換わっていた。

 

それは強いて言い表すなら『例外』とでもいうべきもので、人や吸血鬼の法則から外れたまさに例外的な存在になったのだ。

 

人でありながら人のように弱くなく。

 

吸血鬼でありながら吸血鬼の弱点が効かない。

 

反則(チート)ともいうべき存在に変わっていた。

 

そしてそれは、俺の血を吸って魂で繋がったあの女も同じ………。

 

「⁉そうだっ!吸血鬼は⁉」

 

彼女の存在を思い出した俺は急いで彼女を寝かせておいた机のベッドに駆け寄った。

 

「手足が………再生してる………」

 

そこには、四肢を切り落とされて血まみれになった女の姿はなく、ただ完全なまでの美を誇る美女の姿があった。

 

「おい、起きろ吸血鬼」

 

俺は女を起こすために体を揺する。

 

完璧なプロポーションを誇る女体が揺さぶられ、もうなんかいろいろすごい光景になっているが、そんなことはどうでもいいので今はおいておく。

 

「うーん……あと五分」

 

「そんなベタなセリフ言ってないで起きてくれ吸血鬼」

 

「あと気分……」

 

「セブンイ〇ブン?」

 

「いい気分……」

 

「起きてるだろお前」

 

「なんじゃこんな昼間から騒がしいのぅ………」

 

やっとのこと起きてくれた女は大あくびをしながら伸びをする。

 

うーん……美人は何しても画になるのな………。

 

そんなことを思いながら、俺はまだ若干寝ぼけ眼の女に尋ねた。

 

「体の調子はどうだ?」

 

「まぁ悪くはないのう、少しだけじゃが吸血鬼のスキルを使えるところまで回復した」

 

「そうか、それは良かった。そこでお前にも訪ねたいのだが………」

 

「皆まで言わずとも分かっておるわい。儂はどうやら、うぬの血を吸ったことで吸血鬼とは違う別の存在に変わってしまったようじゃ」

 

「やはりお前もか」

 

「うむ、そのせいで吸血鬼の主従関係もだいぶ拗れておるわい。儂とうぬは、互いに主人でも、従僕でもない、主従関係から逸脱した例外的な関係になっておる。まさかこんなことになろうとはのう………さしもの儂も驚きを隠せん………それにしても『同族』か、なるほど、魂が繋がっている今じゃから理解できる。うぬは()()()()()()()()()、そういう存在だったのじゃな。肉体は明らかに人間じゃが、その本質は人間の範疇を大きく超えておったわけじゃ………まさかうぬのような存在がこの世界にいるとはのう、世界は広いのう」

 

「じゃあやはりあの時気を失ったのも………」

 

「うむ、うぬという『例外』の血を吸ってうぬと魂でのつながりが構築された時、儂の存在もそれに引っ張られて魂が書き換わったせいじゃろう。結果肉体がそれについていけず気を失った………まあこんなところじゃのう」

 

「……すまないな、こんなことになるとはさすがに予想していなかった」

 

「別に謝る必要はない、むしろ、弱点が消えて感謝しておるくらいじゃ」

 

「そうか…お前がそう言うのならまぁいい」

 

「じゃがこうなってしまった以上、うぬと儂は一蓮托生じゃ。のう我が同族よ」

 

「そうだな、俺とお前は魂で繋がった一蓮托生、いわば運命共同体だ」

 

「ならば、改めて儂の名を名乗ろうぞ、よく聞くがいい我が同族よ、この儂こそが『怪異の王』にして『怪異殺し』と呼ばれ、かつてこの世の全ての頂点だった存在。『鉄血』にして、『熱血』にして『冷血』の元吸血鬼、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードじゃ」

 

自己紹介長えよ。

 

よく一息で言えるな………。

 

「なあ、それフルネームで呼ばなきゃダメか?」

 

「ふむ、本来ならハートアンダーブレードと呼ばせるつもりじゃったが、まぁうぬは儂の『同族』であって眷属ではないからのう、うぬと儂の立場は対等じゃ。故に特別じゃ、好きに儂の名を呼ぶといい」

 

「それじゃあキスショットって呼んでもいいか?ほかの名前より言いやすい」

 

「キスショット………そうか、うぬも儂をそう呼ぶのか」

 

「何だ?ひょっとして何か不味いのか?」

 

「いや何、ちょっと昔のことを思い出しただけじゃ、気にするな。うぬが儂をキスショットと呼びたいならば儂は別に構わん。そう言ったじゃろう」

 

「そうだな、お互い、長い付き合いになりそうだ」

 

ともかく――――と、俺は一拍おいてから俺はニヤリと笑った。

 

「―――ようこそ『外』の世界へ。歓迎するぞキスショット」

 

「かかっ、歓迎されてやるわい」

 

それに対し、キスショットは凄惨な笑みで答えた。

 

こうして俺は、生まれて初めて『同族』との邂逅を果たしたのであった。

 




どうも、零崎記識です。
遂に今作のメインヒロインが登場しましたね。
最初の予定では彼女だけをヒロインにする予定だったのですが羽川さんのヒロインパゥワーによって急きょ変更せざるを得なくなりまして予定が大幅に狂ってしまいました。
マジでどうしよう………。
しかし………しかしここで今度こそ私は断言します!
『物語シリーズ』におけるヒロインはキスショットと羽川翼だけになります。
よって、ガハラさんとか、他阿良々木ハーレムメンバーのヒロイン化はありません。
個人的にはガハラさん達も好きではあるのですがこのシリーズのコンセプト上、彼女たちがヒロインになることは難しいんです。
ガハラさんや他原作ヒロインのファンの皆様には申し訳ございませんが広い心で温かく見守ってくれると幸いです。


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003

筆者は小説投稿初心者です。
過度な期待はせずに気楽に見ていくことをお勧めします。
感想・批評は歓迎ですが暴言・悪口は炎上の原因となりますのでおやめください。



005

「さて、自己紹介も済んだところで我が同族よ、折り入って一つ頼みがあるのじゃが…」

 

「頼みか、まあ聞くだけ聞こう。何だ?」

 

まぁ、予想はついているけどな………。

 

「うぬの血を吸ったことで物質創造スキルなどといった一部のスキルは一応回復した。じゃが儂の力はいまだに大部分が失われておる。これは儂の手足が存在力ごと削り取られていることが原因じゃ。そこでじゃ――――――」

 

ドラマツルギー

 

エピソード

 

ギロチンカッター

 

キスショットは三人の名を告げた。

 

「この三人から儂の手足を取り戻してはくれぬか?勿論ただとは言わん。儂が完全な力を取り戻した暁にはうぬの願いを何でも一つ叶えようではないか」

 

神龍みたいなこと言うな………。

 

まぁ別に報酬がなくともやるつもりだったけれどさ………。

 

「OK、分かった。その頼み引き受けよう」

 

「うむ、頼んだ」

 

「それでキスショット、さしあたって確認しておきたいんだが、その三人は所謂ヴァンパイアハンター、ってやつでいいんだな?」

 

「そうじゃが、それがどうかしたか?」

 

うーむ………だとしたら解せないな……。

 

「いやな、お前ほどの奴が、本当に()()()()()()()()()()()()()()()に負けたのかって思ってな」

 

それがずっと疑問だった。

 

こいつが……俺が俺と同じく『例外』だと直感した程の存在が並大抵なわけがない。

 

事実こいつは俺の血を吸ってその存在を俺と同レベルのところまで昇華させた。

 

俺の血は、いわば劇薬だ。

 

肉体は一応人間のそれだが、そのスペックはまるで違う。

 

当然そんな肉体に流れている血が普通の人間と同じなわけがない。

 

そこから得られるエネルギーには天と地ほどの差があり、並大抵の吸血鬼が俺の血を吸えば急激に流れ込むエネルギーに耐え切れず破裂する。

 

こいつのように『例外』になれる素質があって初めて俺の血を受け入れてその存在を『例外』へと昇華できるのだ。

 

分かりやすく例えるならば俺の血から得られるエネルギーを海に存在する全ての水として、それを受け取る吸血鬼を器としたとき、キスショットならば地球。それ以外ならまあ、当然個体差はあるとして精々25mプール程度だろう。

 

俺の血を並みの吸血鬼が吸うことは25mプールに地球上にある全ての海水を無理やり詰め込むようなものである。

 

耐えられるはずがない。

 

故にキスショットは『例外』なのだが、そんな彼女が高々ヴァンパイアハンターごときに負けるとは思いにくいのだ。

 

俺の疑問に、キスショットは苦い顔で答える。

 

「完全に油断しておった…………うぬの言う通り、たかがヴァンパイアハンター程度、三人がかりでも儂のフルパワーをもってすれば問題なかったはずなのじゃ……」

 

「じゃあなぜ……?」

 

「理由は正直儂でも分からん。強いて言うなら油断したとしか言えん。あの時はなんだか体調も悪かったし、油断があだになったという事じゃろう」

 

釈然としないな……。

 

ん?いや待てよ()調()()()()()()…………?

 

人間じゃあるまいし、吸血鬼が体調を崩すことなんてあり得るのか………?

 

少なくとも自然に悪くなるということは無いだろう。

 

とすれば………人為的に悪くなるように仕組んだ奴がいるとすれば……。

 

やれやれ……この依頼、意外と面倒かもしれねえな……。

 

「ともかく、さしあたっての標的はその三人のヴァンパイアハンターだな、居場所とか分からないのか?」

 

「分からん」

 

「そうか……だったら虱潰しにさがすしか………」

 

「いやその必要は無かろう、奴らは吸血鬼退治の専門家じゃ、夜にでも町を出歩けば向こうから光に集う羽虫のように集まってくるじゃろう」

 

「俺は正確には吸血鬼じゃないけどな」

 

「何、夜というのは最も吸血鬼の力が高まる時間じゃ。何もしなくとも吸血鬼の因子を持ったうぬなら簡単に見つかるだろうよ」

 

とにもかくにも―――――

 

「全てはうぬの働き次第じゃ。期待しておるぞ、我が同族よ」

 

そうして俺は、キスショットの部品を取り戻すため、夜を待った。

 

すっかり日が暮れ、街灯の少ない田舎の町中が闇に包まれた時間に、俺は動き出した。

 

といっても特別なことをするわけじゃない、キスショットと出逢ったあの夜のようにただ町を散策するだけである。

 

そういえば家に連絡入れてなかったな……。

 

そんなに時間をかけるつもりもないし………早ければ今夜で終わるが……まぁ一応余裕は持っておくか…。

 

俺は携帯を開いてメールを作成する。

 

文面はそうだな……。

 

『旅に出ます。探さないでください』

 

…………。

 

これは無いな。

 

ここは無難に………。

 

『ちょっと自分探しの旅に出てきます』

 

こ れ は ひ ど い。

 

却下だな、うん。何でこんなの思いついたんだろ………。

 

謎だ…………。

 

コンビニじゃねえんだぞ…………。

 

『友達と勉強会を開くため数日間外泊します』

 

これでいいか………。

 

色々と突っ込みどころがあるとは思うが無難な文面ができたと思うので送信する。

 

送信先は月火だ。

 

あいつは結構空気を読むのがうまい。俺のメールに多少穴があってもあいつなら上手く察してくれるだろう。

 

そんなことを考えていると、月火から返信が来た。

 

『分かった、お母さんたちには上手く言い訳しておく』

 

ほらな、思ったとおりだ。

 

『友達がいないお兄ちゃんがこんなメール送ってきたってことは相当切羽詰まってるんだね、何かあれば助けるから頑張ってね』

 

…………。

 

あの野郎…………。

 

いや友達はこれまで居なかったけれどさ………。

 

俺に友達がいちゃそんなに変かい…………。

 

今も羽川しかいないけれど………。

 

羽川………

 

「そういや、アイツにも連絡しないとな」

 

約束破っちまったわけだし……。

 

でもなぁ…………なんて説明するよ?

 

本当のこと………は言えるわけないし。

 

下手に嘘ついても気づかれそうだしなぁ…………。

 

嘘は言わずに本当のことを隠したとしてもアイツなまじ頭がいいから何か察してしまう可能性がデカいんだよなぁ………。

 

下手したらアイツを巻き込むことにもなりかねんし…………。

 

「あれ、これ詰んでね?」

 

打つ手がなさすぎる………。

 

どうしようもねえ…………。

 

そんな風に頭を悩ませていると、三又路に差し掛かっていた。

 

そしていつの間にか俺は囲まれていた。

 

右側正面には身の丈2mを超える巨漢。

 

筋肉の塊のような体躯に、フランベルジュと呼ばれる刃が波打つような形の大剣を二本携えている。

 

奴が………ドラマツルギーか。聞いていた通り、『吸血鬼』みたいだな。

 

あの二本のフランベルジュは物質創造能力で()()()()()()()いるのか。

 

左側正面には、線の細い男が。

 

未だ幼さが残る顔に、殺意にたぎる三白眼。身にまとう白ランが顔と相まって幼さを助長しているが片手で背負うように持った巨大なシルバーの十字架がそれを打ち消していた。

 

奴が…………エピソードか……吸血鬼と人間のハーフ……ならば外見はあてにならないかもな。

 

そして背後には、神父風のローブにハリネズミのような髪型の男。

 

感情の読めない糸目にほかの二人と比べおとなしい雰囲気をまとっている。

 

しかし、俺にはこの男が一番危険のように思えた。

 

奴が………ギロチンカッター…………おとなしめの雰囲気といい、目に見える武器がないことといい…………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことといい……得体のしれない危険さを感じるな………。

 

おいおい………マジかよ…………。

 

こいつら―――――――――

 

こいつらが―――――キスショットの部品を奪ったっていうのか

 

そうだとしたらこいつら―――――

 

こいつらは―――――――

 

こいつらは()()()()()()()()()()

 

この程度の相手にキスショットが負けたのか………。

 

あり得ない……どう考えてもあり得ない。

 

断言する、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

やはり今回の件、敵はこの三人だけじゃない。

 

誰にも気づかれず……キスショットにすらも気づかれずにキスショットを弱体化した存在がいることは間違いねえな。

 

まあいい、今はこいつらから部品を取り戻すのが先だ。

 

俺は両手を握ったり開いたりしながらコンディションを確認する。

 

よし……問題ない。

 

俺が取り込んだ吸血鬼のスキルは、『()()()()()()()()

 

今の俺は………おそらく()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の強さだ。

 

この程度の奴ら……瞬殺できる。

 

―――――これが彼、零崎無闇の例外性の一端。

 

―――――『最適最高化』――――――

 

その能力は読んで字のごとく――――――

 

―――――ありとあらゆる事柄を習熟し、極めるまでの時間の最速化

 

―――――どんなことでも、一度習得した能力や技術ならば、ものの一時間で習熟度が最高レベルまで到達させることができる。

 

――――どんなスポーツや学問も、基礎さえ理解してしまえば大体約一時間でその道のプロフェッショナルの人間と同等になれる。

 

――――さらに30分後には、その能力、技術の真髄に至る。

 

――――彼が世界に拒絶された理由の半分を占める例外性である。

 

さて、俺の方は準備万端だ、いつでもこいつらを瞬殺する準備は整っている。

 

ならば………あとはタイミングだ。

 

戦いが始まった瞬間……片を付ける。

 

そう思ってタイミングを伺っていると、三人のヴァンパイアハンターはじりじりと追い詰めるように迫ってくる。

 

そんな中、エピソードが口を開いた。

 

「あー?んんだよ。超ウケる」

 

見た目通りの乱雑な口調だった。

 

「ハートアンダーブレードじゃねーじゃねーか――――誰だこいつは?」

 

「【にわかには信じがたいが、恐らくはハートアンダーブレードの眷属だろう】」

 

次に口を開いたのは、ドラマツルギーだった。しかしその言葉は、異国のものだった。

 

「いけませんよ、ドラマツルギーさん」

 

俺の後ろでギロチンカッターが穏やかにドラマツルギーを窘める。

 

「現地の仕事は現地の言葉で。基本です」

 

俺を挟んで会話しているというのに、彼らはまるで俺のことが眼中にないような態度だった。

 

「まぁしかし、確かにあなたの言う通りでしょう、ドラマツルギーさん。恐らくは、いえ間違いなく、この少年、ハートアンダーブレードさんの眷属なのでしょうね―――」

 

「マジかよ………あの吸血鬼は眷属を造らないのが主義なんじゃねえのか?」

 

「昔、一人だけ造ったとも聞いていますがね」

 

「【推測だが】……大方、私たちに追い詰められ……やむを得ず、手足代わりになる部下を造ったという事だろう」

 

全く的外れのことを議論する三人。

 

まあでも、俺とキスショットのことは本当に例外的な出来事だから、それも無理はないか。

 

まさか俺もキスショットも最早吸血鬼ですらなくなっていることなんて予想できるはずもないしな。

 

そうだったらそもそもこいつらはここに現れることもないし。

 

こいつらが今――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

こいつらの実力は吸血鬼を相手取る分には申し分ないが、俺という『例外』を相手にするには、足元にも及ばない。

 

「ってえことは何かい?」

 

エピソードが薄ら笑いを浮かべて言った。

 

「存在力を失って、非常に探しにくくなっているハートアンダーブレードの行方は、このガキの身体に訊けば分かるってことかい?」

 

「そういう事になりますね」

 

「この少年を退治すれば、その褒賞はハートアンダーブレードとは別にもらえるんだろうな?」

 

皮算用のようなことを言うドラマツルギー。

 

「ふむ、とするとどうしますか?エピソードの言う通り、この少年からハートアンダーブレードさんの行方を聞き出そうというのなら、ちょとばかり手間をかけなければなりませんが」

 

「俺に任せろや、言い出しっぺだしなあ」

 

エピソードが笑いながら答える。

 

「後遺症が残らない程度に殺してやるよ」

 

「いや、私がやろう」

 

ドラマツルギーも答える。

 

「そういう仕事に一番向いているのがこの私だ。吸血鬼と一番分かり合えるのは、この私だ」

 

「別に僕がやってもいいんですけれどねえ」

 

最後にギロチンカッターが穏やかに答えた。

 

「お二人ともお疲れでしょう」

 

「――――つーかさあ」

 

突然口を開いた俺の言葉に、三人の会話が途切れる

 

「何でお前ら俺に勝つ前提で話してんの?」

 

俺は視線を三人にぐるりと回して不敵に笑った。

 

「3人がかりで襲ったのにも関わらず仕留め損なった獲物の眷属を前にノコノコ現れてペラペラと皮算用とか…本当にやる気あるんですかぁ?」

 

嘲笑を浮かべながら煽るような口調で言う。

 

しかし本当に謎だ…。

 

何故こいつらは、獲物を前にして呑気におしゃべりをしているのだろう?

 

吸血鬼狩りのプロフェッショナルとはいえ、仮にもこちとら怪異の王の眷属のはずだろ?奴らの中では。

 

しかもあいつらは3人がかりと言う数的有利にも関わらず一度討伐に失敗している。

 

普通もっと警戒して慎重になるはずだよな?

 

にも関わらず何故奴らは無警戒にも敵の前でぺちゃくちゃと喋っているのだろうか?

 

何故未だ健在の敵を前にして取らぬ狸の皮算用しているのだろうか?

 

所詮なりたての吸血鬼とナメている?

 

それともそう見せかけてあえて隙だらけに見せることで、罠にかけようとしている?

 

イマイチ判断がつかなかったので、取り敢えずその意図を探るため喋らせておいたのだが…。

 

あぁ、こいつら単純にナメてるだけだわ。

 

喋ってる間におよそ万を超える回数こっそり仕掛けてみたが、特に気づいたそぶりもなかった。

 

割とあともう少しで殺せるってところまで際どい感じに仕掛けたが、全く気づいてない。

 

そこで俺は悟った訳だ。

 

あ、こいつらザコだわ。

 

3人がかりで襲ってきたところで100%俺が勝つ。

 

仮に手足縛って目隠ししても圧勝できるレベルで弱い。

 

とすると何故これしきの相手にキスショットともあろう者が瀕死に追い込まれたのかと言う点だけが不可解だが、コレ以上喋らせておいたところで有益な情報は聞けそうにない。

 

とっとと始末してしまおう。

 

そう思って、俺は不毛な会話を終わらせ、とっとと向こうから仕掛けさせるために奴らを挑発した。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

静寂が訪れた。

 

「ならばいつものやり方だ」

 

ドラマツルギーが口火を切った。

 

「オッケ。早い者勝ちってことだな」

 

エピソードがそれに続いた。

 

「いいでしょう。平等なる競争は、互いのスキルアップに繋がりますからね」

 

最後にギロチンカッターがそう締めくくった瞬間、三人はほとんど同時に飛び掛かってくる()()()()()

 

「――――――だからさあ、言っただろ?」

 

三人が俺に飛び掛かる瞬間、三人の足元の影に三人の身体が底なし沼に嵌った時のように沈み、次の瞬間には影によって身体を縛りあげられ、次の瞬間にはその首が影で形成された断頭台にかけられていた。

 

次の瞬間、俺はパチン!っと指を鳴らし、砂嵐が吹き荒れた。

 

「これで霧化も封じたはずだ。つまりお前らにそこから逃げ出す術はない」

 

まあ、逃げても問題ないんだけどね?

 

そのまま襲ってくれば返り討ちにできるし

 

逃げるなら逃げ出した瞬間には捕まえられるし

 

つまり、こいつらは所謂『詰み(チェックメイト)』ってやつだ。

俺と出逢った瞬間からな。

 

「で?俺を倒してどうのこうのって吠えてたみたいだけどさ、こんなにあっさりしてやられて今どんな気分よ?」

 

俺はドラマツルギーのほうへ歩きながら言った。

 

「馬鹿だよなあ……お前らほんっと馬鹿だよ」

 

俺は断頭台にかけられたドラマツルギーの顔を覗き込む。

 

「態々出てきてベラベラ喋ってないで奇襲でもかければよかったのにな」

 

まあそれでも俺に勝てるというわけでも無いが。

 

「そうすれば少なくとも何もできずにこうして手玉に取られることもなかっただろうに。あーあなっさけないなあ……」

 

そういいながら俺は今度はエピソードの元へ歩く。

 

「実力差も理解しないでなめ腐った結果がこのザマだ、ホント無様だな」

 

俺はとびっきりの嘲笑を浮かべてエピソードの顔を覗き込む。

 

()()()()

 

と言って、ギロチンカッターのほうへ向かう。

 

「でさ、面倒だけど一応聞いておこうか、キスショットの手足はどこだ?」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

ふむ……まあそうだよな。

 

この程度で口を割るわけないか。

 

「……あっそ、答える気はないのな、まあ分かってたけどさ…じゃ、お前らには用はないんでさっさと死んでくれや」

 

そう言って、俺が三人を殺そうとした時だった。

 

「――――――誰だッ!」

 

突如として背中に気配を感じ、俺はその気配の主を影で拘束した。

 

気配のほうへ振り返れば、そこにはアロハ服の浮浪者のように小汚いおっさんがいた。

 

「はっはー、やれやれ困ったね。まさか気づかれるとは思わなかったよ」

 

軽薄な笑いを浮かべるアロハ。

 

それが余裕なのか虚勢なのか、無闇にも分からなかった。

 

「はっはー、君ってばさあ、こおんな住宅街のど真ん中で三人の男をギロチンにかけようとしたり無害なおっさんを縛ったり物騒なこと言ったり、君は本当に元気がいいなあ」

 

軽佻浮薄な態度を崩さずにアロハは言った。

 

「―――――――何か良いことでもあったのかい?」

 

006

 

「――――で、お前は一体何者なんだよ」

 

あれから数分後、二人きりになった俺は突如現れた謎の中年浮浪者に尋ねた。

 

あの後、俺に拘束されたアロハはこともあろうに三人のヴァンパイアハンターの解放を要求してきたのだ。

 

勿論、俺がそんな要求に応じる理由はないので俺はさっさと三人を殺そうとしたのだが、そこでアロハがこんな提案をしてきた。

 

「彼らを解放してくれれば僕が君と彼らの間に立って君に確実にハートアンダーブレードの手足が戻るように交渉しようじゃないか」

 

こんなことを言われてしまえば応じざるを得ない。

 

俺の目的はキスショットの手足の奪還であって殺しではないのだ。

 

正直、ここで要求に応じずにさっさと三人を殺してしまってから自力で手足を探すという手も俺にはあった。

 

三人はどう見てもこの町に最近入ってきたばかりのよそ者だったし、土地勘のない者が物を隠す場所を絞り込んで探せば恐らく見つかっただろうが、俺としてもそれは少々面倒だった。

 

だからまあ、俺としては面倒な手間が省けるなら別にいいかと思いこのアロハの要求を吞むことにしたのだ。

 

それに――――俺にすらも直前まで気づかせずに俺に忍び寄った手腕といい、俺はこのアロハに得体のしれないものを感じていた。

 

こいつの目的が一体何なのか探るためにも俺はこいつの申し出を承諾した。

 

俺の問いに、アロハは相変わらず軽薄な笑いを浮かべて言った。

 

「僕かい?ある時は謎の風来坊、ある時は謎の旅人、ある時は謎の放浪者、ある時は謎の吟遊詩人、ある時は謎の高等遊民」

 

「全部謎じゃねえか」

 

まあ確かに不審者っぽくはあるけれども。

 

「ある時は女声の最低音域」

 

「ある時はアルト………って駄洒落じゃねえか」

 

それに大して面白くもなかった。

 

フツーにつまらない。

 

「ある時はある、ないときはない」

 

「開き直んな、つかはぐらかすな、お前は一体何者なんだよ」

 

「僕はただの……通りすがりのおっさんだよ」

 

つまりただのホームレスだった。

 

納得。

 

俺の見立ては間違ってなかったか………。

 

忍野メメ――――――そう呼んでくれとアロハは言った。

 

何つーか……クッソ似合わねえ名前だな。

 

「それで―――――君の名前はなんて言うのかな?」

 

「あ?」

 

「おいおい、僕にだけ質問するなんて不公平じゃないか、名乗られたら名乗り返すのが最低限の礼儀というものだよ」

 

ホームレスの不審者に礼儀を説かれた。

 

確かに正論ではあるのだが………何だろう

 

お前にだけは言われたくねえよと無性に言い返したくなった。

 

「…………阿良々木暦だ」

 

そんな釈然としない気持ちをグッと堪え、俺は渋々名乗った。

 

「阿良々木暦か――――いかにも波乱万丈って名前だね」

 

「ほっとけ」

 

「さて、自己紹介も済んだところで、行こうか阿良々木君」

 

「何処にだ?」

 

「あの学習塾の廃墟だよ、今は君たちが塒にしているみたいだけど、あそこは僕も目をつけていたんだ」

 

それから、俺たちは学習塾跡へと雑談をしつつ向かった。

 

いや、マジでただの雑談なんだよこれが。

 

「最近の映画業界何でも実写化しすぎ説」

 

とか

 

「最近のアニメはとりあえず美少女だしときゃいいって思ってる説」

 

とか

 

今この状況で話すことかよ………。

 

クッソどうでもいいんだが……。

 

まあそんな話を並べ立てる忍野を適当に相手して(学習塾跡近くに来たときは最早「あー」とか「ほー」みたいな感じになってた)俺たちは学習塾跡へ戻ってきた。

 

「おお!帰ったか」

 

学習塾跡へ戻った俺を迎えたのは喜色満面のキスショットだった。

たぶんこの顔を写真にとって売ればかなりの値になるんじゃないだろうか。

 

しかし、そんな芸術品レベルの笑顔を浮かべていたのも束の間、キスショットは俺の背後にいた忍野に気づいて怪訝な顔をする。

 

「我が同族よ、後ろにいるその人間は誰じゃ?」

 

「ああこいつは只のホームレスだよ。少なくとも敵ではない…と思う」

 

酷い紹介だ。だが的を射ているとも思った。

 

「初めましてハートアンダーブレード、僕は忍野メメ、しがない『専門家』さ」

 

「専門家とな?なんじゃそれは」

 

「一言で言うならば『妖怪変化』または『魑魅魍魎』、『異類異形』なんて呼ばれることもあるけど、まあ所謂『怪異』を相手に中立の立場で交渉を請け負っているのさ」

 

だけど―――――

 

と、忍野はキスショットを観察し、微妙な表情を浮かべたかと思うと、肩をすくめてお手上げのジェスチャーをした。

 

「やれやれまさかこんなことになってるとはね………阿良々木君と出会ったときから変だと思ってはいたけれど、ここにきてやっと確信を持ったよ。いや、言い逃れできなくなったと言ったほうが正しいか、まさかハートアンダーブレードが吸血鬼どころか()()()()()()()()()()()()なんて予想外もいいところだよまったく………例外も―――――イレギュラーも甚だしいね」

 

相も変わらずの軽佻浮薄な口調だが、どこか戸惑っているように見えた。

 

「さて、そうなると話は少しややこしくなるね……とりあえず、今の君たちが一体『何』でどんな関係なのか教えてくれないかな?」

 

忍野は真っ直ぐと俺とキスショットを見据えた。

 

下手な嘘誤魔化しは見破られるだろう。

 

「簡潔に言うなら俺たちは『例外』だ。関係としてはまあ一言で言い表すのは中々困難だが最も近い意味の言葉として当てはまるのは『同族』ってところだ」

 

「『例外』に『同族』………ねえ」

 

俺の言葉を繰り返し咀嚼するように呟くと、忍野は瞑目し深く熟考した。

 

数十秒後、忍野はゆっくりと目を開けた。

 

「オッケー、完全には理解できないけれど、とりあえずそこは棚に上げておいて、ここからは――――――『仕事』の話をしよう」

 

「『間に立つ』ってやつか?」

 

「その通り、僕が連中に頭を下げてお願いする、で、阿良々木君は彼らと1対1でゲームをしてもらう。キスショットの手足を賭けてね」

 

「ゲームだぁ?何だ、ジャンケンでもしようってのか?」

 

「はっはー、まあ僕としてはそれでもいいのだけれどね、彼らがそれで納得してくれればの話だけれど」

 

「何だ、結局バトル展開かよ」

 

「まだそうなると決まった訳じゃないけれど、恐らくそうなるだろうね」

 

「それなら別に三人同時にやっても大して変わらないんじゃないか?」

 

「ハンデだよ阿良々木君。君の実力の程は見させてもらったけれど、3人同時じゃあどうやったって君には勝てないだろう?」

 

「それは逆じゃないか?1対1より1対3の方が明らかに勝率は高いだろう?」

 

「ところがどっこい、そういうわけでも無いのさこれが、ハートアンダーブレードなら分かるだろう?」

 

「うむ、ヴァンパイアハンターのような連中は基本つるむということをあまりしないのじゃ、奴らが吸血鬼を狩る理由からしてすでにバラバラじゃしな、今回儂を襲ったあの3人とて全員が全員違う理由で吸血鬼を狩っておる。故に奴らには協調性というものが無い。むろん、互いが互いの邪魔にならない程度に立ち回る術くらいは心得ておろうがのう、それはチームプレイとは言わん」

 

ああそういえば………あいつら『早い者勝ち』がいつもの手段みたいなこと言ってたな。

 

「それに付け足すなら、ヴァンパイアハンターってのは一種の『職業』だからね、基本その報酬はターゲットを仕留めた者に払われるから、互いが互いの商売敵って言うのも理由の一つに入るね」

 

「世知辛いのう」

 

「まあそんな感じで、ヴァンパイアハンターが3人も共闘しているっていう状況は結構珍しいケースに入るのさ、そのあたりが今回のターゲットであるハートアンダーブレードがどれほど例外的な吸血鬼だったのかを如実に表しているといえるね」

 

「当然のことじゃろう、言われるまでもないわ」

 

キスショットがエッヘンとでも言わんばかりに胸を張った。

 

「そう言った理由で、むしろ彼らは一人で戦ったほうが実力が出せるのさ。それをしないで態々ハートアンダーブレードを3人で奇襲したのは多分、連携はできなくとも3人同時の連続攻撃を仕掛けることで短期決戦にするつもりだったからだろうね。自分より強い敵を相手にするときにその実力を出される前に畳みかけるっていう常套手段だ。まあ結局不慣れな連携もどきをやったせいで結果的にハートアンダーブレードには逃げられちゃったんだけれどね」

 

確かに一理ある………が、そんな戦法を取ったところであの3人がキスショットを瀕死に追い込めるとは思えないんだよなぁ……どんなに群れたところでアリが象に勝てるわけがないのと一緒で、キスショットが本気を出せなくともあの3人なら余裕だと思うんだが…。

 

やはり今回の件、敵はヴァンパイアハンターの三人だけじゃない……。

 

「それにだ、一回勝負にするより三回勝負にしたほうが後に出てくる奴にとっては勝率が高いだろう?これらの事を交渉材料(カード)に彼らと交渉する」

 

「そんなことするより、俺たちが吸血鬼じゃないことを言ったらどうだ?そうすればあいつらと俺たちが戦う理由がなくなるだろ」

 

「そこが今回の件をややこしくしているところなんだけれどね、阿良々木君、君とハートアンダーブレードの間に起こったことは本当に例外的なことなんだよ。僕だってここにきて君から話を聞くまで半信半疑だった。こんなことが起こりうるなんて僕の知る限り『先輩』ぐらいしか予想もできないことなのさ、僕は君たちと実際に会って話を聞いたから何とか信じられるのであってこんな話彼らからすれば荒唐無稽な作り話以外の何物でもないのさ、それでも説得しろって言うならできなくはないけれど、すごく時間がかかる上に完全に彼らを納得させるのは僕には無理だ。それで手足を取り戻したとしてもその後も彼らに余計なちょっかいを出される可能性が高い。それなら君は吸血鬼ってことにしてゲームで決着をつけたほうが後腐れもないし、手足を返すことを彼らが渋った場合の交渉材料(カード)としてそれを使えば交渉をスムーズに進められるのさ」

 

「成程、結果的にゲームをしたほうがメリットは多いというわけか」

 

「そういう事」

 

「キスショット、どうする?俺はこいつに任せてもいいと思っているのだが………」

 

「構わんぞ、此度のことはうぬに一任しておるからのう」

 

「だ、そうだ忍野、依頼料はいくらだ?『専門家』ってなら勿論無料ってわけじゃないんだろ」

 

「そうだねえ………これまでにないケースだけれど、とりあえず今回は吸血鬼ってことにして200万円でいいよ」

 

200万か……まあ()()()()()()()なら普通に返せるか。

 

「今は持ち合わせが無いが、後払いでいいか?期限は?」

 

「ま、そんなに焦らなくともある時払いでいいよ、催促もなしだ」

 

「それはまた随分と気前がいいな、まあ早目に返すようにはしよう、それで交渉成立だ」

 

「じゃ、決っまり~。はっはー、まいどあり~なんつって」

 

忍野は軽薄な口調でおどけるように言った。

 

こうして俺は、忍野の仲介の下、学園異能バトルをすることになったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、零崎記識です。
お待たせいたしました。
私のような初心者の作品をお気に入り登録していただいたり、評価してくださり誠にありがとうございます。これを励みに頑張っていきたいと思います。

ここで補足
遂に無闇君の特異性が一つ明らかになりましたね。
『最適最高化』は分かりやすく言えば物事の上達が滅茶苦茶早くなる成長補正です。
ジャンル問わず、学問、スポーツ、芸術等々、人間にできることは全て対象です。

はい、チートですね。ええ
勘の良い人ならばここでなぜ無闇君がプロローグのようになっていたのか想像つくのではしょうか?
まあ無闇君のカコバナはまだ当分先になりますがここでヒント
俺ガイルの雪ノ下雪乃
はがないの柏崎星奈
戯言シリーズの想影真心
以上のようなキャラを思い浮かべていただければ大体推測はつくと思います。
どんなことでも一時間程度でプロ級になれる人物……。
現実にいたら異常すぎますよね。
そういう事です。

さて次回からは無双編に突入です!
バトルシーン……不安しかないですが何とか描き切って見せます。

質問・ご指摘等はコメント欄へどうぞ
ではまた次回。


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004

筆者は小説投稿初心者です。
過度な期待はせずに気楽に見ていくことをお勧めします。
感想・批評は歓迎ですが暴言・悪口は炎上の原因となりますのでおやめください。


007

 

「という訳で、君の初陣の相手はドラマツルギーに決まった」

 

交渉から帰ってくるなり忍野は唐突にそう言った。

 

何の脈絡もなく話し始めやがった……。

 

という訳って……どういう訳だよ。

 

どうやらこいつには『話の流れ』という概念がないようだ。

 

相手が聞いているいないに関わらず一人で話し続ける面倒なタイプとみた。

 

「……了解した」

 

ツッコミを入れたら負けなような気がしたので、俺は簡潔に答えた。

 

とはいえドラマツルギーか……。

 

ドラマツルギー

 

身長2mを超える巨漢。

 

その体は鎧のような筋肉に包まれ、波打つ刃を持つ大剣フランベルジュを二本携える。

 

キスショットから右足を奪った。

 

吸血鬼殺しの――――()()()

 

重要な情報といえばこのくらいだな。

 

「まさに『毒をもって毒を制す』ってか?」

 

「まあ別段珍しいことでもあるまい、人間も動物も植物も、同族同士で争わぬ生物など、儂の知る限り一種類たりとも存在せんよ。まあ吸血鬼は生物ではないがのう」

 

「そりゃそうだが、なんだって奴は人間側に?」

 

「吸血鬼であるドラマツルギーがなぜ餌である人間の味方をするのかと問われれば、考えられるのはドラマツルギーが吸血鬼として弱いから―――という可能性が高いじゃろう」

 

「あぁ、成程」

 

「食物連鎖において、人間の上位たる吸血鬼は全てにおいて基本的に人間を遥かに凌駕するが、当然人間にも吸血鬼にも個体差というものが存在する。ドラマツルギーは恐らく、吸血鬼の中では弱い部類に入る個体じゃ」

 

「さすがにその辺の一般人に負けるほど弱くはないが、吸血鬼狩りを専門とする奴らに狙われれば生き残れるかは怪しいってことか」

 

「うむ、じゃからこそ、ドラマツルギーは生き残るための術として、自らの天敵になりうる吸血鬼狩りの一員となることを考えたのじゃろう、吸血鬼は生き物と違って食事も睡眠も性行為も必要とせんからのう、物質創造能力を使えば衣食住も調達可能じゃ、要は仲間にしておくだけならばコストがかからない存在なのじゃ。ただ一つ必要なのは――――」

 

「『人間(エサ)』だけってわけか、成程な。奴が言っていた『褒賞』ていうのも恐らくはそれだな」

 

「大方、ドラマツルギーの所属している組織が()()()()()()()()()()()()()を褒賞として支給しているのじゃろう」

 

「どちらにせよ、敵にはなりえないか」

 

「当たり前じゃ、餌である人間に頼らねば生きられないような吸血鬼など、本来はうぬや儂の足元にも及ばん」

 

 

――――という会話をしていた訳だが……。

 

「結論としては、力押しだけで十分勝てるか……」

 

ところ変わってここは学習塾廃墟の外、この街にたった一つしかない大型書店の前。

 

別に用があった訳では無いが、決闘の場所へ向かうためのルートの途中にあったのだ。

 

しかし、今回の俺はいささか迂闊だった。

 

街に一つしかない書店なら、当然知り合いに会う可能性だってあったのだ。

 

そう例えば―――――

 

「―――ひょっとして、阿良々木君?」

 

―――――春休みなのにこんな時間になっても勉強している俺の友達とか

 

本当、迂闊だよなあ……。

 

「よう、羽川」

 

そんな考えを押し隠し、俺は平然を装った。

 

「こんな時間まで勉強しているとはな」

 

「え?これくらい普通でしょ?阿良々木君だって勉強していたんじゃないの?」

 

「悪いが俺は家庭学習などしたことがない」

 

「えー駄目だよ阿良々木君、ちゃんと予習復習はしないと」

 

「いーんだよ俺は例外だから。その証拠に結果は出しているわけだし」

 

「うーんそういわれると言い返せないけれど……」

 

実は授業にすら出なくても十分事足りるのだが…。

 

つまらないことにな。

 

「じゃ阿良々木君、何しにここに?」

 

「いや、ここに用がある訳じゃないんだが……」

 

「なによ?何か後ろめたいことでもありそうな雰囲気だね、まさか目的はエッチな本とか?」

 

「はっ、あんな写真の寄せ集めに興味はないな」

 

「えーホントかなー」

 

「妙に疑うな……」

 

「私のパンツ見たくせに?」

 

「いやあれは不可抗力……」

 

「しかもじぃーっと見たくせに?」

 

「記憶の捏造はそのくらいにしてもらおうか」

 

「だって阿良々木君、無表情だったけれど目をそらしもしなかったじゃない」

 

「一瞬だったからだっつーの、その後何事もなかったようにしようと気遣ってやっただろうが」

 

遣うだけ無駄だったがな……。

 

「なかなか創作物のようにはいかないねー、小説とかの中だったらあの時「見た?」って赤面しながら聞くのがお約束ってやつなのかな?」

 

「いや俺に聞くな」

 

「男子はそうゆうの結構好きじゃないの?」

 

「あらぬ偏見だな」

 

まあ俺以外にはそうかもしれないが……。

 

「ふーん、じゃ阿良々木君は私のパンツに興味ないんだ?」

 

「なんだ?あるって言ったら見せてくれんのか?」

 

「ダーメ、今日は見せてあげなーい」

 

あざといな………だがかわいいことは認める。

 

「今日は?別の日ならいいのか?」

 

「それはどうかなー?」

 

いちいちあざとい、だがかわいい(ry

 

「ところで阿良々木君、なんで図書館来なかったの?あの日に何かあったの?」

 

聞かれてしまったか……。

 

仕方がない、こうなったら虚実織り交ぜて誤魔化すしかないか…。

 

「あぁ、すっぽかして悪かったよ。ちょっとあの後人助けしててさ」

 

「人助け?」

 

「うちの妹がそういうボランティアやっててな、ちょっとしたトラブルがあって俺が動いたんだよ」

 

「あぁ知ってる『栂の木二中のファイアーシスターズ』でしょ?」

 

「何で知ってんだよ……」

 

「有名だもの、彼女たち」

 

妹が厨二臭い名でで知られてやがった……。

 

兄として恥ずかしすぎる………。

 

「そっかそっかー阿良々木君もやってるんだー」

 

「いや俺の場合、アイツらのブレーキ役というか後始末役なんだが……」

 

法の限界に挑んでいるような奴らだからな……今は俺が何とか抑えているが俺がいなくなったりしたらあいつらマジで法に触れかねない。

 

火燐は「法律なんて関係ねえ!あたしが正義だ!」とか言ってるし。

 

月火は「面白ければOK」ってスタンスだから火燐のブレーキにはならないんだよな……。

 

どちらかといえばアクセルだ。

 

「あははーお兄ちゃんって言うのも大変だね」

 

「他人事だと思って…」

 

まあ実際他人事だが。

 

「そういや羽川、お前何でこんな時間に本買いに来てるんだ?」

 

「あー……えっとね、実は本を買いに来たわけじゃないの、ちょっとした散歩のついでというか……」

 

「夜中に散歩とは、危ないことしてるなぁ、不審者にあったらどうするんだよ」

 

黒歴史を忘れるために悶絶して夜中に散歩に出たら見事に吸血鬼と遭遇した人間の発言である。

 

完全にブーメラン発言だった。

 

お 前 が 言 う なって話だよなぁ……。

 

「それを言うなら阿良々木君もでしょう?」

 

おっしゃるとおりである。

 

グウの音も出ねぇ……。

 

「はっはっは、心配するな羽川、俺に掛かれば不審者なんぞ木っ端微塵だわ」

 

「不審者よりずっと物騒な発言だ!?」

 

「まあ流石に木っ端微塵にはしないけれどな」

 

「『しない』なんだ!?『できない』じゃなくて!?」

 

やろうと思えばできる。

 

今なら吸血鬼パゥアで髪の毛一本残さず消し飛ばすことも可能である。

 

いや、やらないけれどね。

 

「そんなわけで俺は大丈夫なの」

 

「そういう問題なのかな……」

 

そういう問題なんです(断言)

 

「俺はこれから帰るつもりだったけれど……お前も帰るつもりなら家まで送っていこうか?」

 

その瞬間、羽川は微かに動揺したように見えた。

 

ふむ……どうやら地雷だったようだな。

 

これは失敗だった。

 

「ありがとう、でも送るのはいいわ。気持ちだけ受け取っておく」

 

「……そっか、んじゃ気を付けて帰れよ。噂の吸血鬼とかに会わないうちにな」

 

「あはは、吸血鬼ならちょっと会ってみたいかもね」

 

「やめとけ、吸血鬼なんて碌なものじゃない」

 

「?…実際に会ったことがあるみたいな言草ね」

 

「そうじゃねえけどよ……だって人を食うんだぜ?そんな奴らからしたら俺たちは只の食糧でしかないだろうし、俺たちから見れば奴らは『化け物』だ。実在したとして俺たちとは絶対に相容れない存在だろうよ」

 

これはちょっとした自虐だ。三重の意味でな。

 

「まあそうだよね……でも…それでも私は……」

 

羽川………やはりお前…。

 

「……まぁ吸血鬼がいてもいなくても、これ以上出歩くのは流石に危ないだろ」

 

「そうだね、じゃ私もそろそろ帰るね。またね阿良々木君」

 

「おう、またな」

 

そう言って羽川は去っていった。

 

さて………予想外に時間かかったけれど、俺も行くとしますかね。

 

俺は羽川に背を向けると指定された決闘場所へ―――――我が母校『直江津高校』へと向かった。

 

008

 

「決闘ねえ……改めて考えてみれば時代錯誤も甚だしいな」

 

決闘場所に向かいながらそんなことを考えて俺は内心苦笑する。

 

この現代社会において今時命を懸けた本物の決闘なんてするような奴は恐らく俺ぐらいだろう。

 

戦国乱世の時代っていう訳じゃあるまいに………。

 

まぁ、ところかまわず暴れまくるわけにもいかないから時と場所を決めて人目のつかないところで戦うって言うのは間違ってはいないのだが……。

 

「そうなると『夜』の『学校のグラウンド』っつーのはおあつらえ向きだよな……」

 

そこそこの広さがあって、誰も注目しないから人目もない――――これほどまでに決闘場所として好条件がそろっている場所は中々無いだろう。

 

しかし、いくらこの街がド田舎とは言っても、学校が直江津高校一つしかないという訳ではない。高等学校までの教育機関はここにもいくつかある。その中でも直江津高校が選ばれたのはなぜか?

 

「まあ単純に俺が行き慣れている場所だからってだけだろうな」

 

穿った見方をすれば地の利を与えるためとも言えなくもないが、恐らくそれは無いだろう。

 

俺がもともと普通の人間だったらプロのヴァンパイアハンターとの闘いにおいて力量の差を埋めるためにそう言った救済措置が取られたかもしれないが、俺はすでに3人を超える力量があることを忍野に示している。

 

あいつが中立の立場であると言っている以上俺に過剰なアドバンテージを与えるような真似はしないだろうから、故に決闘場所が直江津高校であることには単純に分かりやすい場所だからということ以上の理由は無いだろう。

 

「―――っと、着いたな」

 

そんなことを考えているうちに校門の前に到着していた。

 

当然のことだが、直江津高校の校舎や施錠されているため夜に入ることはできない。

 

だが、俺の目的は校舎内に入ることではなくグラウンドへ行くことであって、それだけならば校門を飛び越えてしまえば事足りる。

 

わざわざ吸血鬼のスキルを使わずとも容易である。

 

でもまぁ……なんというか…

 

「誰一人として、今夜ここで異能バトルがあったなんて、夢にも思わないだろうな」

 

明日になれば、春休み中とは言っても部活などでグラウンドを使う人間はいるだろう。

 

しかし自分が知らない間にここで本物の決闘が繰り広げられたとは誰も思わないだろう。

 

そう思うと、何となく奇妙な感じである。

 

『零崎無闇の奇妙な冒険』

 

いや、スタンドは出さないけれども(出せないとは言ってない)

 

キャラ的には吸血鬼だしやっぱDIOかな……。

 

世界(ザ・ワールド)!!!』ってちょっと言ってみたい。

 

閑話休題(そんなことを考えている場合じゃなくて)

 

グラウンドに入ると、そこには既に先客がいた。

 

グラウンドの中央で座禅でも組んでるのか、胡坐をかいて瞑目している筋骨隆々の大男がいた。

 

「待たせたようだな、ドラマツルギー」

 

俺が声をかけるとドラマツルギーはおもむろに口を開いた。

 

「【一つ言っておくが】―――」

 

「何だ」

 

「……あぁ、現地の言葉で―――だな」

 

そう言って奴はゆっくりと立ち上がった。

 

「しかし意外だな、その年で私の言葉が理解できたのか」

 

「まぁ頭は良いほうなんでな」

 

「なるほど、羨ましい限りだ」

 

「それよりも、とっとと本題を言ったらどうだ?不意を打つつもりなら今すぐ始めるぞ」

 

「勘違いするな――同胞よ」

 

「あ?」

 

「私は、お前を退治しに来たわけじゃない」

 

「何だと?」

 

「あの男―――あの軽薄そうな男の言に従って来たのは、決してお前を退治したいがためではないのだ」

 

「……何を言い出すのかと思えば、くだらない戯言か」

 

「戯言などではない、私は本気でお前を勧誘しようと思っている」

 

「何のためにだ?」

 

「以前はエピソードとギロチンカッターがいた手前、このような誘いをかけるわけにはいかなかったが、しかし鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼、ハートアンダーブレードの眷属という稀有な存在は―――殺すには惜しい」

 

「仮に俺がお前の仲間となったとして、メリットは何だ?」

 

「まずは身の安全だ、もしもお前がこの誘いに乗ったならば、私がほかの二人を説得し二度と手を出さないように取り計らおう。それ以外のヴァンパイアハンターにも同様だ。我々の組織は同じ業界においてかなりの影響力を有する。傘下に入ればお前がヴァンパイアハンターから命を狙われることは無くなると保証しよう」

 

「次に定期的な人間の供給だ。毎月最低一人は我々に人間が供給される。態々人間を襲いに行く必要もなくなるという訳だ。更には働きに応じて『褒賞』という形で追加の人間が供給されることもある」

 

「最後は仲間だ。私の下には現在53名の同胞がいる。我々の一員となれば必要に応じて手を借りることや情報を共有することができる」

 

「お前に訊く。私と同じように―――――吸血鬼狩りに身を窶すつもりはないか」

 

「……なるほど、確かにメリットはあるようだな」

 

「ならば――――」

 

「――――――だが断る」

 

「何?」

 

「メリットはあるがどれもこれも俺にとっては別に必要ない。それに、もし俺がお前の組織に入ったとして、最初にやらされることは恐らく――――キスショットの討伐だろう、違うか?」

 

「いや、その通りだ。ハートアンダーブレードの討伐こそがお前に与えられる最初の指令だろう」

 

「なら話にならないな、前提条件が違いすぎる」

 

「―――そうか惜しいな、実に惜しい、お前なら、すぐにでも我々のナンバーワンになれただろうに」

 

「そんな有象無象共のナンバーワンの座なんて別にいらねえよ」

 

「……そうか、ではそろそろ始めるとしようあまり時間をかける訳にもいかないのだろう?」

 

そういってドラマツルギーは腕を回し始めた。

 

「その前に、条件を確認しておこう。後になって言い逃れされるのは御免だ」

 

「良いだろう、確認しろ」

 

「俺が勝てば――――お前はキスショットの右足を返す」

 

「私が勝てば――――お前はハートアンダーブレードの居場所を教える」

 

「これでいいな?」

 

「良いだろう、それではそろそろ―――」

 

「「始めようか」」

 

そう言ったとたん、ドラマツルギーは回していた腕を思い切り打ち込んできた。

 

その巨大な体躯に似合わず、その拳の速度は速く、ヒットすれば岩ぐらいならば粉々にできそうな迫力があった。

 

しかし―――遅い。

 

俺を捉えるにはその拳では遅すぎる。

 

先ずは一発、軽いジャブ。

 

姿勢を低くして拳を回避し

 

ドラマツルギーの手首を下から掴み、手前に引く

 

それと同時にもう一方の腕で鳩尾を抉るように掌底を繰り出す。

 

ドゴォォォォォォォン!!!

 

俺の放った掌底によってドラマツルギーは盛大に吹っ飛ばされ、体育倉庫の扉に激突した。

 

常人ならば即死は免れない一撃だ。

 

「ま、そんなヤワじゃねぇよな」

 

しかし、ドラマツルギーは大してダメージを受けたようなそぶりもなく、漂う土煙の中で悠然と立っていた。

 

ドラマツルギーの筋肉の鎧がダメージを軽減したのであろう。

 

鳩尾を突きはしたが、しかし相手は吸血鬼である。

 

人間の急所が適応されるはずがない。

 

しかし、そんなことは想定内。

 

さっきの掌底は、いわば挨拶代わりだ。

 

「さて、どう来るかな?」

 

そう呟いた次の瞬間、ドラマツルギーの姿が消え、俺の前に唐突に出現した。

 

吸血鬼の霧化能力か……。

 

そう考える暇も与えまいとドラマツルギーはそ両腕をフランベルジュに変えて斬りかかる。

 

だが―――

 

「残念、俺も霧化(ソレ)できるんだよ」

 

ドラマツルギーが振り下ろしたフランベルジェの刃はそのまま俺の身体を透過していく。

 

しかし、ドラマツルギーとてプロのヴァンパイアハンター、攻撃が通じない程度の事では動じず、間髪入れずに次の斬撃を繰り出してきた。

 

だがそれも―――当たらない。

 

続けて3……4発と打ち込んでくるも、その全てが霧化した俺の身体を通り抜けていく。

 

流石に意味がないと思ったのかドラマツルギーは途中で攻撃を止めて距離を取った。

 

じっと俺を観察し、どうすれば俺に攻撃が届くのか考えているようだ。

 

「―――驚いたな、まさか体の一部だけを瞬時に霧化できるとは」

 

「何、別に大したことじゃないさ」

 

「いや、いくらハートアンダーブレードの眷属とは言えど、そこまで霧化能力を使いこなすにはかなりの習熟が必要だ。吸血鬼になって数日程度でできる芸当じゃない。一度目の衝突でも思っていたが……お前はどうやら……少々特殊のようだな」

 

「俺は『例外』だからな」

 

「なぜ仕掛けてこない」

 

「初撃以来何もしてこない理由は何だ、なぜスキルを使わない」

 

「ククッ……」

 

「何がおかしい?」

 

「いつから俺が()()()()使()()()()()()と錯覚していた?」

 

「何?」

 

後方注意(チェック・シックス)だぜヴァンパイアハンター」

 

そう言われて背後を振り向いたドラマツルギーの視界には、虚空から出現している無数の歩兵銃が一斉に向けられている光景だった。

 

撃て(ファイア)

 

そう言うと同時に俺が腕を振り下ろすと、凄まじいほどの轟音と閃光がグラウンドを支配した。

 

銃声が鳴りやむと、そこには満身創痍のドラマツルギーがいた。口からは血が流れ、両手のフランベルジュは罅が入り今すぐに折れそうだ。

 

「まあでも、腐っても吸血鬼だな…人間の武器ぐらいじゃ簡単には死なねぇか」

 

だが―――お前はすでに詰み(チェックメイト)だ。

 

ドラマツルギーの周囲はいつの間にか出現していたさっきよりも更に大量の銃が包囲していた。

 

逃げ場は―――無い

 

「で、どうする?」

 

俺がそう問いかけると、ドラマツルギーはゆっくりとその両手を上にあげた。

 

降参(リザイン)だ。そこまでの重傷を負わせられたら完全に再生するまで十年単位の時間がかかる」

 

「随分と諦めがいいな」

 

「私が間違っていた。たとえ地力で負けていようとも経験で補えれば多少なりとも勝機はあると思っていたが……とんだ勘違いだった。最初から私には勝機など無かった。お前とは……そもそも戦うべきではなかったのだ」

 

お前はあまりにも―――強すぎた。

 

そう呟いたドラマツルギーの身体は徐々に霧化していった。

 

「キスショットの右脚のこと……分かってるな?」

 

「あぁ、約束は守る。お前の怒りを買う結果になるのはこちらとしても勘弁願いたいところだからな。お前にはできればもう二度と会いたくないものだ」

 

「それは同感」

 

さらばだ――――『例外』よ

 

そう言い残してドラマツルギーは霧になって消えた。

 

そして一人残された俺は――――

 

「さて……面倒だが、後片付けしねーとな」

 

戦闘で荒れに荒れたグラウンドを見て嘆息した。

 

その矢先だった。

 

「人影だと?」

 

校舎の陰からこちらを伺っている人影を発見した。

 

目が合った。

 

気づかれたことを察した人影は逃げると思いきやこちらに向かってきた。

 

その人影は俺の眼前まで歩いてくると、そこで立ち止まって俺と正面から対峙する。

 

「――――よう、さっきぶりだな『羽川』」

 

「阿良々木君、今の―――何?」

 

嘘誤魔化しは許さないとでも言いたげな眼で俺を見る羽川。

 

「おかしいと思ったの、これから帰るって言っておいて阿良々木君、家の方向とは全く違うほうに歩いていくんだもの。それも学校の方向に」

 

「まず何で俺の住所をお前が知っているのか聞いてもいいか?」

 

「それくらい当然でしょう?同じ学校だもの」

 

あぁ……そっすか(諦め)

 

じゃもうそれでいいデス(放棄)

 

「それで?今の伝奇小説みたいな事は一体どういう事なの?夜の学校のグラウンドで阿良々木君は一体何をしていたの?」

 

「はっ、どうしたもこうしたもねぇよ、見た通りさ、俺は化け物で、その化け物を狩ろうとする化け物と異能学園バトルの真っ最中だったんだよ」

 

「化け物………って」

 

「『吸血鬼』さ、お前と友達になったその日の晩、俺は死にかけの吸血鬼に遭遇して血を吸われて、俺自身も吸血鬼になっちまったのさ」

 

「それってまさか………」

 

「そうだよ、お前があの日話した噂の吸血鬼だ」

 

「それじゃ阿良々木君はその吸血鬼に戦うことを強制されて……」

 

「勘違いするな、俺が吸血鬼になったのも、今こうして戦っていることも、全て俺の意思によるものだ。俺は自ら進んで化け物になったんだよ」

 

「どうしてそんな………」

 

「どうしてだと?そんなの俺がやりたかったからに決まってるだろうが、せっかく巡り合えた『同族』を助けたくなった――――ただそれだけだ。他に理由なんざ無ぇ」

 

兎にも角にも―――

 

「御覧の通り俺は化け物だ。人間のお前がそばにいれば危害を及ぼされるかもしれないぞ、死にたくなければ今日ここで見たことは忘れて二度と俺に近づかないことだな」

 

「嫌、私は阿良々木君を助ける」

 

「本気で言ってるのか?気は確かか?俺は化け物、吸血鬼だ。俺と一緒にいればお前は俺に食われるかもしれないんだぞ?お前……死にたいのか?」

 

「死にたいわけじゃない、でも、阿良々木君が私を食べるって言うのなら食べればいい。友達のためなら私、命くらい惜しくないわ」

 

狂っている。

 

常人ならば狂気の沙汰としか思えない発言だ。しかし、そこに嘘は一切ないと羽川の眼が語っていた。

 

あぁ……本当にお前は―――

 

「怖くないのか……俺が」

 

「怖くないよ、吸血鬼は怖いけれど、阿良々木君は怖くない」

 

その瞬間、羽川の周囲の地面が抉れた。

 

「これでも―――そう言えるのか?」

 

「言える」

 

毅然とした口調で羽川は言い切った。

 

「目をそらしもしないんだな」

 

「言ったでしょ?阿良々木君なら怖くないって、阿良々木君は私を傷つけたりしないって、私信じてるから」

 

「分からないな、全く理解できない。何故そこまで俺を信頼できる?俺たちは所詮、まともに関わり始めて数日の間柄だろう」

 

「友達だからよ」

 

羽川は真っ直ぐと俺を見据えて言った。

 

「友達を信じるのは当たり前でしょう?そして―――その友達が困っていれば助けてあげたいって思うのもごく普通の事でしょう?」

 

だから―――阿良々木君

 

「私にあなたを―――助けさせてくれないかな?」

 

真っ直ぐに、羽川はそう言った。

 

本当にお前は――どうしようもなく例外だよ。

 

だが―――合格だ。

 

「………」

 

「………」

 

沈黙が訪れる。

 

俺と羽川は暫しの間無言で見つめあった。

 

そして――

 

「―――はぁ……分かった。もう好きにしな」

 

沈黙を破ったのは俺の嘆息だった。

 

「どうなっても知らねえからな」

 

「分かってるわよ」

 

呆れたような表情の俺に羽川はそう言って微笑した。

 

全く、良い友達を持ったよ。

 

「ねぇ阿良々木君、一つ聞いていい?」

 

「何だ?」

 

「今の阿良々木君から見て私って……普通?」

 

やはりそういう事か……。

 

その上で言うが答えはNOだ。

 

普通なわけがない。

 

だから俺はこう言ったのだった。

 

「お前は……どうしようもなく羽川翼だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ま た せ た な ぁ(蛇的な意味で)

……すいません、調子乗りました。

どうも零崎記識です。

言い訳はしません、単純に筆が乗らなくてサボってました。

感想を書いてくださったCadenzaさんとddd32さんとお気に入り登録してくださっている皆さんには申し訳ない限りです。

気分が乗らないと一切筆が進まないどーしようもない筆者の作品ですがこれからも気楽に気長に読んでいただけると幸いです。

西尾先生とはえらい違いですよねホント……マジで尊敬します。

ここからは作品の内容について

うん、言いたいことは分かる。とりあえず落ち着いてくれ。

うん……あのね、筆者実は一回はふざけないとシリアス書けない人なんだ。

だからその手に持った灰皿を一回机に置こうか。

うん、気持ちはわかる。

シリアスなシーンなのに無駄なネタ仕込んでんじゃねえよ!って言いたいのは筆者も同じだ。

ただどうしてもネタが思いついてしまうといいますか……。

この作品、半分くらい筆者のノリで書いてるとこあるから……。

無闇君がふざけているわけじゃないんだ!

彼はあれでも真面目にやってるんだ(舐めプしてるけれど)

タグの『唐突に入り込むネタ』というのもつまりはそういう訳でして………。

だからまぁ……シリアスなシーンでもお構いなしに唐突にネタがぶっこまれているのも皆さんの寛大な心で許していただきたいなーと………。

ネタが笑えなかったらつまらないネタを披露して盛大に滑ってる筆者を笑ってください。

滑ってやんのアイツダッセーm9(^Д^)プギャーwwww

的な感じで。

こんな調子で終始進めていくのでそのつもりで気楽に読んでいただければ幸いです。

ここからは補足。

キスショットとの出会いのシーンの話ですが、あれは無闇君がキスショットに感じた衝撃をキスショットも同様に感じていたからこそのあの反応です。

簡単に言えば目が合ってこいつ……できる!ってお互いに感じたという事です。

具体的には戯言シリーズのクビシメロマンチストにおけるいーちゃんと零崎人識との出会いと大体一緒です。

筆者と主人公の名前について。

お察しの通り筆者と無闇君の『零崎』は西尾維新さんの戯言シリーズ、または人間シリーズに登場する『零崎一賊』からとっています。

しかしはっきり申し上げますと無闇君と零崎との間には接点がありません。

故に無闇君が実は『殺人鬼』という展開にはならないと明言しておきます。

ちなみに筆者の名前の読み方は「ぜろさき しるしき」と読みます。

「れいざき きしき」じゃないですからね?

そんなどうでもいいこと放っておいて次回はエピソード戦ですね。

御覧の通り本作は『主人公最強』『無双』『俺tueeee』の三要素が入っています。

なので、バトルシーンは基本的に無闇君が舐めプしてネタ吐いてボコボコにする展開になります。盛り上がらねぇ……。

『主人公最強』モノってバトルシーンが一番ムズいよね……。

え?単純に筆者の戦闘描写が下手なだけ?

HAHAHAそんなばかな(目そらし)

誰か無双モノの戦闘描写の書き方教えてください(泣)

そんなことはどうでもいいとして、傷物語の結末をどう締めるか悩み中……。

キスショットと戦わせるわけにもいかないんだよなぁ……。

先に言っておきましょう、この先展開の都合上時系列的に未だ登場していないキャラが登場してオリジナルの展開になる場合があるのでその辺のツッコミは無しの方向でお願いします。

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ではまた次回。








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005

筆者は小説投稿初心者です。
過度な期待はせずに気楽に見ていくことをお勧めします。
感想・批評は歓迎ですが暴言・悪口は炎上の原因となりますのでおやめください。



009

 

詳しい事情は明日の夜に話すことを羽川に約束し、彼女には一旦帰ってもらうことにした。

 

戦闘で荒れたグラウンドを元通りにし(十分もかからなかった。吸血鬼のスキルマジ万能である)俺はキスショットが待つ学習塾跡へと戻った。

 

「おぉ戻ったか我が同族よ、結果は…まぁ聞く必要もないじゃろうて」

 

「フルボッコだドン!とだけ言っておこう」

 

もう一回遊べるぜ。

 

「うむ、よくやった。流石は儂の同族じゃ、まぁ心配はしておらなんだよ。儂と同等の存在であるうぬにとってはドラマツルギーごとき、どうやっても敵にはなりえまい」

 

だだのカカシじゃな――と彼女は笑った。

 

「あぁ、奴が潔い性格で助かったよ」

 

そのおかげで手間が省けたからな………引き際を心得て勝てないと分かったらすぐに撤退したあたり、流石はプロってところか。

 

「まぁドラマツルギーは三人の中では一番物分かりの良い奴じゃからのう、他の二人ではこうはいかんじゃろう」

 

「同感だな」

 

ドラマツルギーはいかにも『仕事人』って感じだったからな。仕事はしっかりやるけれど絶対に無理はしない―――そういう奴なのだろう。

 

寧ろそういう奴だから、初戦の相手になったのかもしれないな。

 

他の二人は一筋縄ではいかないだろう。

 

エピソードは面倒臭そうだし

 

ギロチンカッターは厄介そうだ

 

ま、俺が負けることはないがな。

 

「とはいえお手柄じゃな、礼を言うぞ我が同族よ」

 

「どーいたしましてってな」

 

「して、儂は以前、うぬに全ての手足を取り戻した暁には何でも望みを叶えることを約束したが、うぬには何か望みはあるか?何なら世界の半分でも用意できるが」

 

魔王かお前は。

 

まぁお前が力を取り戻せば容易なことなんだろうけれどな。

 

でも実際世界の半分ってふわっとしすぎて全く要らないと思うのは俺だけなのだろうか

 

所詮魔物だから人間の欲しがるものを知らないんだろうな。

 

人型で美人なモンスター娘とかのハーレムとかの方が堕ちる奴は多い気がする。

 

「まぁ、それは全部の手足が戻った時に話すさ」

 

実は既に考えてあったりする

 

が、今は秘密だ。

 

「かかっ……では楽しみにしておくわい」

 

「おう、楽しみにしておいてくれ」

 

そんな会話の後、雑談をして暇を潰しているうちに忍野が帰ってきた。

 

しっかしアイツ、いつもアロハだよな。

 

なんか思い入れでもあるのかってぐらいアロハに拘るのは……マジで何なのだろう。

 

しかも相変わらず小汚い。

 

洗濯とかしているのだろうか?

 

それに引き換え――

 

俺は目線をキスショットにやる。

 

「そういや、物質創造能力ってマジで便利だよな、お前のそのドレスも能力で作っているんだろ?」

 

「そうじゃな、吸血鬼にとっては服は体の一部のようなものじゃ、応用によってはどのような状態にもできる」

 

「全物理学者がマジ泣きするな、それ」

 

まぁそれも仕方ないか……。

 

怪異とはそういうものだ。

 

不合理で不条理で―――不思議なモノ。

 

それが怪異なのだから。

 

それはさておき。

 

「帰ったか、忍野」

 

「帰ったよ~阿良々木君」

 

そんな間の抜けた調子で答える忍野の手にはボストンバッグが提げられていた。

 

恐らく……アレがキスショットの右脚なのだろう。

 

「いやー阿良々木君、圧倒的って感じだったね」

 

「あれでもかなり手加減してたんだがな………勢いで殺してしまわないようにするのにかなり苦労したよ全く」

 

「はっはー言うねぇ」

 

「つーか見ていたんなら部外者が入ってこないようにしておけよ」

 

「無茶なこと言うなよ阿良々木君、僕みたいなおっさんにピチピチの女子高生に声を掛けろだなんてできるわけないじゃないか、そんなことをすれば即警察のお世話になっちゃうじゃないか」

 

「まぁその恰好じゃあな」

 

実体験の可能性が濃厚だ。

 

「それに僕も一応対策はしていた筈なんだけれどねぇ……流石阿良々木君の友達ってことなのかな、あの娘も只者じゃないね」

 

「それは認めるがな」

 

「何にせよ、見られちゃった以上はちゃんと説明しておくべきだろうね―――特にあの娘は賢そうだし、下手な嘘や誤魔化しは通じないだろうね」

 

「確かにな……まぁ見られてしまった時点でそのつもりではあったよ。あいつには『全て』を話すつもりでいる」

 

「でもまぁ、打ち明けることが必ずしも良いこととは限らないけれどね、打ち明けるということは相手を否応なく巻き込むことになる。そうなるぐらいなら突き放す……って言うのも一つの手だよ」

 

「お前も見ていたんなら知ってるだろ、あいつに『突き放す』なんて手は通じない」

 

「そうだね、ま、気を遣って遣いすぎるということもないだろうね。特に相手が女子の時はね」

 

「性別別にこの際関係ないと思うが?」

 

「おやおや、随分と自覚が足りないじゃないか、男子なんて女子とちがってダンスの一つも創作できないんだろう?」

 

「…いや確かにその言い方だとあたかも女子の方がクリエイティブなセンスに恵まれているようだが、それは単純に女子の体育の授業に創作ダンスがあるってだけの話だろうが」

 

そんなことで創造性を測らないでもらいたい。

 

それにダンス程度俺に掛かれば余裕で創作できるし。

 

俺のダンスなめんなよ?

 

マジでキレッキレだからな?

 

キレッキレすぎて『カッター少年』って呼ばれてたこともあるくらいだからな?

 

「しかし阿良々木君、もしも僕たちの日常がアニメ化された際、踊ることができずにあたふたするのは阿良々木君なんだぜ?」

 

「二次創作がアニメ化なんてされるか!」

 

残念ながらアニメ化はもうされている。

 

opでいろんなキャラが踊ったりしていたけれど、結局男連中が躍ることは無かったしな。

 

所詮野郎はお呼びではないのだ。

 

我が末妹の『白金ディスコ』とかは大人気らしいけれどな。

 

「ドラマCDも、もう出ちゃったしね」

 

「おい、話題が危ない方向に行ってるぞ」

 

もうすでに危ないが。

 

「良いじゃないか阿良々木君、メタな話は二次創作の伝統芸みたいなものだろう?いやむしろ、二次創作ならではの特権というべきかな、本家の方でも結構メタい話は出てきてたからこれはもう積極的にやれというフリだね」

 

「そんなわけあるかい」

 

「でも冗談で言ってたアニメ化云々が本当になっちゃってご本家さんはどういう気分だったんだろうね。これぞまさしくND――――」

 

「おいバカやめろ!」

 

ちょ、おま……原作者様を煽るとか何考えてんだ!?

 

原作者様はこの作品書いてるゴミ(零崎記識)とは比べ物にならないくらい凄い人なんだから、冗談でもそういう事は言うな。

 

下手すりゃ垢BANだぞ……。

 

「おい」

 

ここにきてようやくキスショットが突っ込んだ。

 

「雑談は終わったかの?」

 

「ん?あぁ―――はっはー、ハートアンダーブレード、君もなかなか元気良いなぁ、何か良いことでもあったのかい?まぁあったんだろうね」

 

忍野は笑いながら、ボストンバッグのジッパーを開ける。

 

そしてその中に手を突っ込んで――

 

そのまま、キスショットの右脚を取り出した。

 

うん、良い脚線美だ……じゃなくて!

 

「えーまさかのむき出しかよ……」

 

勝手な想像だが、俺は右脚は何かに包まれて保存されているものだとばかり思っていた。ケースに入れられているとか、ビニールに包まれているとか、もしかしたらホルマリン漬けにでもされているかと思っていたが、まさか裸のまま保管されていたとは少し予想外だった。

 

しかし思いの外ぞんざいに扱われていたにもかかわらず、右脚は出血もしていなければ腐ってもいない、世の女性が羨むほどの美しさをそのまま保っていた。

 

しかし……アレだな。

 

この状況、傍から見れば猟奇殺人だ。

 

コ〇ン君とかが出張ってくるレベル。

 

恐怖!吸血鬼バラバラ殺人

 

彼の名探偵もこれは流石に迷宮入りだな。

 

別にどうでもいいがな。

 

「ちゃんと返してくれたんだな、安心したぜ」

 

「そのための交渉人だよ。それくらいは信頼してくれないと困るなぁ―――向こうは吸血鬼退治の専門家かもしれないけれど、こっちだって一応はプロなんだ。プロとして、そういう債務不履行は起こさせないさ」

 

仕事だからね―――そう言いながら忍野は右脚を持ち主に手渡した。

 

受け取るキスショット。

 

うん……何だこの状況。

 

シュールすぎるだろ。

 

「なぁキスショット……それやっぱり―――」

 

「うむ、()()するのじゃ」

 

そう言いながらキスショットは自らの右脚を口の中へと運び、そのまま鵜呑みにした。

 

そしておいしそうに咀嚼する。

 

自分の脚を

 

だから……何だこの画。

 

これを映像化したっていうのかよ……。

 

実際に見た立場として言わせてもらうがな…….

 

すっげぇエグイ。

 

「なぁ、忍野……」

 

「僕たちは外に出ていようか」

 

別にこの程度で参ってしまうようなヤワな神経はしていないが、しかし、好き好んで見続けていたい光景という訳でも無かったので、俺たちは廊下で待つことにした。

 

「しかし……手足を存在力ごと切り離す―――か、そこまでしないと、人類はキスショットには勝てないとはねぇ」

 

「あの子は貴重種だからね阿良々木君。尋常な手段を使ってはどうやっても勝ち目はないよ」

 

「だからこそ―――尋常()()()()手段を使う必要がある……ってことか」

 

「そう易々と使える手段じゃないけれどね」

 

「連中は決闘の最中に使ってくると思うか?」

 

「いや、無理だね。不可能とまでは断言しないけれど、あの手法は3人がかりで準備を行う必要があるし、かなり時間もかかる、阿良々木君が既に一人を退けた時点で連中があの手法を使ってくることはまずないだろうね」

 

「まさに()()()()()()()()()の手法ってわけだ」

 

「まぁ確かにね、手足を存在力ごと切り離して奪い取り、それを保管しておくことで手足の消滅を禁じ、同時に再生をも禁じる―――何て、全くもってまどろっこしい真似だけれど、考えてみれば()()()()()()としては中々にうってつけの作戦と言える」

 

「そういや次の相手は誰になるんだ?」

 

「順番を決めるのは向こうだから、まだ断定はできないけれど、まぁ多分エピソードになるんじゃないかな」

 

「だろうな、俺もそんな気がしてた」

 

俺の予想だとギロチンカッターは最後に出てくるはずだ。何せ吸血鬼のドラマツルギーや半吸血鬼のエピソードとは違って、ギロチンカッターは『普通の人間』だ、つまり、能力的に見ればあの三人の中で()()()()筈なんだ。だからこそ、奴は策を用いて俺を狩ろうとするだろう。そのためには俺の能力や実力をできる限り知っておく必要がある。となれば奴は他の二人を先に俺と戦わせて俺の実力を見極めた後対策を練ってくるだろう。なら後は消去法だ。次の相手はエピソードになる可能性が高い。

 

キスショットにエピソードのことを聞いておくか……。

 

「さて、そろそろ食事は終わったかな」

 

「だといいがな」

 

俺たちはドアを開け、教室へと戻った。

 

010

 

「―――え?阿良々木君って吸血鬼になった訳じゃないの?」

 

羽川が拍子抜けしたような調子でそう言った。

 

4月1日の日没直後。

 

俺は羽川を学習塾廃墟に招き入れた。

 

別に日中活動しても俺自身は問題ないのだが、ヴァンパイアハンター共と吸血鬼として戦っている以上日中活動しているところを見られるわけにはいかず、しかし幾ら友達とはいえ女子である羽川を夜遅くに呼び出すわけにもいかなかったのでこんな中途半端な時間になってしまった。

 

ちなみにキスショットは寝ている。

 

彼女も最早吸血鬼ではないがこればかりは習慣という事だろう。

 

この学習塾跡には忍野曰く、『結界』が張ってあるらしい。

 

そう『結界』だ。

 

中二病患者大歓喜のあの結界である。

 

しかも結構本格的な奴。

 

結界といえばバリアのように外からの霊的な脅威から内部のものを護るのが主流だが、この結界はむしろ内部のものを封じ込める役割を持っている。

 

この結界は『守護』というよりも『隠蔽』の結界のようだ。

 

キスショットと俺の気配を結界内に封じ込め、ヴァンパイアハンターから隠蔽する効果があり、同時に場所を分かり難くし、案内なしではたどり着けないようにする効果がある。

 

土地勘のない余所者の奴らだけではたどりつくことは不可能に等しい。

 

それは心強い限りではあるが、困ったことにこの結界の効果は誰にでも有効らしく、ヴァンパイアハンター以外の人間も同じようにここにたどり着くことは難しくなっているのだ。

 

当然羽川もその例外じゃなく、俺は日が沈んでから学習塾跡付近で待ち合わせをしている羽川を迎えに行く必要があった。

 

「よぉ」

 

「や」

 

俺は羽川と短い挨拶を交わした後、学習塾跡へと向かった。

 

羽川は、出合った時と何も変わらない態度で俺に接してきてくれた。

 

ありがたいねぇ全く。

 

しかし同時にそれは、羽川の異常性でもあった。

 

『私有地につき立入禁止』

 

そんな看板が貼り付けてあるフェンスを潜り抜け(廃墟になってからかなりの時間が経っているためか、フェンスはあちこちが虫食い状態だ。この廃墟が長いこと放置状態であることがうかがえる)建物の内部へ入る。

 

「暗いから足元注意しろよ」

 

そう言って俺は能力で作った懐中電灯を羽川に渡す。

 

「うん、ありがと。でもすごいね吸血鬼って、何でも作り出せるんだ」

 

「まぁな」

 

しかもノーリスクでだ、どっかの錬金術師兄弟が知ったらマジギレ不可避である。

 

等価交換がなんぼのもんじゃい。

 

石でも真理でも人造人間(ホムンクルス)でも持ってこいやァ…

 

そんなくだらないことを考えながら俺は羽川をキスショットのいる教室へと案内した。

 

正直、元とはいえ吸血鬼の所へ人間である羽川を連れて行くのはどうかとも思ったが、今回の当事者であるキスショットを羽川に見せておきたかったのである。

 

それに、もし何かあっても俺が対処するから羽川には傷一つつけさせない。

 

まぁキスショット自身「ただの人間には興味ありません」って感じだし、大丈夫だとは思うが。

 

多分宇宙人、未来人、異世界人、超能力者を連れて行ったところで同じだろう。

 

彼女にとって人間は最早食料ですらない。

 

完全に家畜以下の路傍の石だ。

 

やったね人類!脅威が減ったよ!

 

路傍の石扱いされてここまでありがたいことって他にないよな……。

 

「ここだ」

 

俺はそう言って教室のドアを開けた。

 

「えっ……?阿良々木君、これって………」

 

教室の内部を見た羽川が驚愕する。

 

まぁ驚くのも無理はない。

 

何故ならそこにあったのは廃墟となった学習塾の教室ではなく、真っ白で罅割れ一つない綺麗な壁と、高級そうなカーペットが敷かれた()()()()()()()だったのだから。

 

まさに『劇的!ビフォーアフター』である。

 

部分的だけれどね。

 

『何という事でしょう!』って言ってくれてもええんやで?

 

「まさか……阿良々木君これも能力で?」

 

Exactly(その通りでございます)!」

 

鋭いなさすが羽川するどい。

 

はい、今回の(犯人)は何を隠そうこの俺である。

 

いやだって、埃だらけであちこち罅割れてる廃墟の部屋なんて誰が住みたがるのよ。

 

そう思った俺は物質創造能力やらを使ってこの教室だけ人が住める状態にリフォームしたのだ。

 

キスショットもちょっとだけ協力してくれた。

 

いま彼女が寝ているベッドも彼女が自分で作ったものである。

 

うん、どこの王族だよってくらい豪華なベッドである。

 

いやー物質創造能力様様だな。

 

能力の無駄遣い?

 

寧ろこれ以上ないほど有意義な使い方ですが?

 

それは兎も角。

 

俺と羽川は部屋の中へと入り、フカフカのカーペットの上に向かい合って座った。

 

「それじゃ羽川、最初から話すからよく聞いて欲しい」

 

「分かった」

 

羽川は首肯する。

 

「俺が吸血鬼になったと言ったな、あれは嘘だ」

 

そしてこの章の冒頭へと戻る。

 

「―――つまり阿良々木君も、そこで寝ているハートアンダーブレードさんも、吸血鬼じゃないってことね」

 

「そうだ」

 

「じゃあ今の阿良々木君ってどういう存在なの?」

 

「詳しく説明するのは難しいが……そうだな、俺の場合はベースは人間で、吸血鬼の持ってる異能とか身体能力とか再生能力とかを抽出して取り込んだ……ってところだな」

 

「ハートアンダーブレードさんの方は?」

 

「キスショットは俺とは逆にベースは吸血鬼で人間のようにこの世界に対して実体を持ったってところだろう。だから人間に語られなくなっても存在が薄くなることは無いし、人間を食わなくとも餓死はしなくなった」

 

「うーん……複雑な状況なんだね。吸血鬼の弱点とかはどうなったの?」

 

「消滅した。俺もキスショットも『吸血鬼』と『人間』という二つの要素を掛け合わせて全く新しい存在になっちまったからな。吸血鬼ならばともかく、別の存在になった今、太陽も聖水もニンニクも弱点にはなり得ない」

 

「まさに無敵って訳だ」

 

「寧ろ『例外』だな」

 

分かりづらければ究極生命体にでもなったと思っといてくれ。

 

まぁ別に宇宙に放り出されたって戻ってこれるけど。

 

「––––私のせい…なのかもね」

 

「何がだ」

 

「阿良々木君がハートアンダーブレードさんに遭遇したのって」

 

「………」

 

ど う し て そ う な っ た

 

い、言えねぇ……。

 

黒歴史作って悶絶したから紛らわすために外に出たら遭遇したなんて言えねぇ……。

 

というかそのことは言ってないはずなのに…。

 

何故バレたし。

 

悟りか?

 

悟りなのか?

 

小五ロリなのかこの娘……。

 

そんなくだらない俺の焦りはどうやら的外れだったようで

 

「噂をすれば影が差すって言うじゃない?」

 

あぁなんだ……そういうことか。

 

「あの諺って怪異なんかでは割と有効な話でね、()()()()()怪異って言うのは向こうの方から寄ってくるんだって」

 

確かにそうだ、怪異というのは人々の人口に膾炙することで存在を強めている。

 

噂されればされるほどに、その存在力は高まり、現実世界に顕現しやすくなる。

 

吸血鬼が怪異の中では頂点といっていいほど強力な力を有するのは、世界中で吸血鬼の話が語られているからだ。

 

つまり噂をすれば怪異と遭遇しやすくなるというのは一定の理があるのだ。

 

だが…………。

 

「確かに、お前の言う通りかもしれないが、別にそこまで深刻に思い詰める必要はないさ」

 

「何で?……だって阿良々木君は私のせいで……」

 

「俺がキスショットと遭って後悔してるって一言でも言ったか?」

 

「それは……」

 

「確かにキスショットと出逢ったことだけはお前から吸血鬼の話を聞いていたことが切欠かもしれない、だが、俺が今こうしていることは………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で選び取った選択の結果だ。あの夜そう言っただろう?」

 

そう、だから羽川が気に病む必要などないのだ。

 

「ともかく俺がこうなったことにお前の責任は一切ない。責任はすべて俺のものだ」

 

誰にも渡したりなどするものか。

 

「分かった、阿良々木君がそう言うのならこの話は終わりにする」

 

「それがいい」

 

的外れな負い目ほど持たれて面倒なものはない。

 

「それは兎も角、羽川こそあの夜、寧ろ自分から吸血鬼を探して歩いていたよな、それに加えてあの時俺にあの質問をした―――ってことはつまり()()()()()だよな」

 

「あはは……()()は流石に露骨すぎたね、勘付かれちゃったか………」

 

「正直初めてお前と会話した時から薄々察してた」

 

ばつが悪そうにはにかむ羽川。

 

「何ていうか―――さ、私も何だか行き詰まててさ……生活に変化を望んだって感じ」

 

生活に変化を望んだ――か

 

なんてことは無い、俺たちのような世代の人間なら皆普通に考えるようなことだ。

 

つまらない日常を破壊してくれる非日常

 

普通の若者なら、誰しもが考えること。

 

なんてことのないありきたりな願いだ。

 

だが、羽川は()()()()()()

 

羽川が望むソレは、普通の一般人が望むソレとは事情が異なる。

 

いや、本質的には同じかもしれないけれど規模が大きく異なる。

 

何より、望んでいる本人が持っている資質に天と地の差がある。

 

羽川が行き詰まり、羽川が変化を望む、羽川のプライベート。

 

きっと尋常じゃないモノであることは想像に難くない。

 

羽川……お前はほんとに俺を助けている余裕なんてあるのか?

 

真っ先に助けなきゃいけない存在を、お前は忘れているんじゃないか?

 

あるいは……もうお前の力でもどうしようもないほどなのか?

 

「現実逃避なんだよね……結局」

 

「逃避か……別にいいんじゃないか、それでも。お前が理不尽な現実に立ち向かわなければいけない道理なんてないだろ。辛い現実からは逃げちまえよ。そうやって心に余裕持ってないとストレスがたまる一方だぞ」

 

ストレスってのはマジでバカにできないからな。

 

現代日本でどれだけの人間がそれのせいで死に追いやられたかっつー話だ。

 

それに、俺は逃避を否定するつもりはない。

 

そうしているうちに時間が問題を解決してくれることもあるし

 

そうでなくても問題から一旦離れて一歩引いて考えることで解決策が浮かぶかもしれない

 

あるいは問題そのものが客観的に見れば意外と大したことじゃないことに気づくこともあるかもしれない。

 

そう考えれば逃避することだって一つの手段だ。

 

俺が今ここにいることも現実逃避の結果と言えなくもないしな。

 

「そうなんだろうね……やっぱり、私って不器用なのかな」

 

「あぁお前はかなり不器用だ」

 

「ストレートだね阿良々木君は」

 

「このほうが気が楽なんだろ?」

 

「あはは……そう言えばそんなことも言ったね」

 

苦笑する羽川。

 

「阿良々木君はさ、もし私が困ってて、自分じゃどうしようもなくなっていたら……その時は……阿良々木君は私を助けてくれる?」

 

「愚問だな、聞くまでもないことだ」

 

助けないわけがない。

 

というか例え拒絶されようと無理やりにでも助ける。

 

友達だからな。

 

「とはいえ今は阿良々木君の問題に集中しなくちゃね、といっても私ができることは何もなさそうだけれど」

 

「そんなこともないさ」

 

お前が変わらずに俺の友達でいてくれるだけで、十分助かってるっての。

 

「そういえば阿良々木君」

 

「ん?どうした?」

 

「阿良々木君の身体…やけに清潔じゃない?」

 

「あぁそれはだな―――」

 

「むにゃむにゃ」

 

不意に、キスショットが目を覚ましたようだ。

 

「風呂などに入る必要など無いわい、吸血鬼の再生能力は肉体を常に最も健康的な状態に保とうとするからのう」

 

「あ、おいキスショット」

 

「ぐぅ」

 

眠りやがった。

 

言うだけ言って寝やがった。

 

起きてるんだか寝てるんだか………。

 

「んーと、まぁつまりそういう事だ。今キスショットが言ってたみたいに吸血鬼の再生能力があれば風呂に入る必要がないってこと。爪も伸びないし、髪だって切る必要は無い」

 

「便利だねー吸血鬼の能力って」

 

羽川は感心したように言った。

 

「ハートアンダーブレードさん―――」

 

「ん?」

 

「噂どおりすごい美人だね」

 

「500歳らしいけれどな」

 

本人に訊いたらそう言ってた。

 

「私の事……目に入ってない感じ」

 

「目を付けられるよりはマシだろ」

 

「それはそうだね」

 

「これで少しは報われたか?」

 

「どうだろう……まだ分からないや」

 

「だろうな」

 

もしお前が、俺があの時直感した通りに俺の『同類』なのだとすれば、この程度のことがお前の望みな訳がない。

 

お前の望みはきっと――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ハーメルンよ、私は帰ってきた!!

どうも、零崎記識です。

えーと……あの……

何と申しましょうか……

その……

マジでスイマセンでしたァ!m(TAT)m

いやー前回盛大に勘違いぶっこいて次回はエピソード戦とか言っちゃいましたがまさかの説明回というね

お気づきの方もいるともいますがこの作品は原作の本の内容に沿って毎回二章ずつの区切りとなっておりまして

前回まで筆者は説明回は一章で終わって次の章ではもうエピソード戦になっているっていう原作持ってるのにも関わらずあり得ない勘違いをしていまして………

それで前話を投稿し終わった後に

さーて次に書く章を確認しておこうかなぁー

ペラ……ペラ(原作を読んでいるところ)

Σ( ゚Д゚)ファッ!?エピソード戦じゃねぇじゃねーか!?

(;^ω^)ヤベェヨヤベェヨドウスルヨコレ…

ってなことがありまして色々考えた結果

(`・ω・´)ヨシッ、次回のあとがきで謝るしかない。

となりましてこの場で謝らせていただく次第です。

次こそは本当にエピソード戦なので安心してください。

(φωφ)フフフさてどうボコボコにしてやろうか……

あ、バサ姉さんは無事です。

原作通りの展開になっちゃうと無闇君がエピソード君をぬっ殺しちゃうので

でもギロチンカッター戦は……

血祭りにあげてやるぅ(ブロリー的な意味で)

残酷な描写タグが仕事をするときも近い……。

てなわけで戦闘描写が盛り上がらない作品ではありますが今後とも読んで下さると幸いです。

新しく感想をくださった匿名希望の魔王さん、夕凪さん。

ありがとうございました。

返信はしてないけれどしっかり読んでます。

いやぁ書く側の立場として読者に「面白い」って言ってもらえることはうれしい限りです。

筆者なんか感想来ているのを確認するたびに内心

キタ――――――――(≧▽≦)――――――

って感じですからね?(聞いてない)

しかもそれからしばらくはニヤニヤが止まらないんですわ(キモイ)

という訳で筆者感想は常時ウェルカムです(露骨な催促)

勿論、批判やご指摘も改善点と改善策を書き込んでいただければしっかり受け止めます。

ここからは補足

無闇君のネタ発言について。

作中の無闇君のネタ発言(主に自重しない筆者の悪ノリのせい)が多々ありますが、だからと言って無闇君が他作品の原作知識があるのかといえばそうでもないです。

彼のネタ発言は原作知識とは一切無関係なモノです。

えぇそうですよ、彼自身はネタとかじゃなく素でアノ発言をしてるんです。

でも彼は至って真面目なんだ!

決してふざけているわけじゃないんだ!

全部零崎記識とかいう必ず一回はふざけないと筆が進まない病にかかった作者の所為なんだ!

シリアスになり切れなくてすんませんマジで。

無闇君とバサ姉の会話について

皆さんもう分かっていると思いますがそうです、あの二人の意味深な会話は全部伏線です。

全然伏せてねえじゃねぇか!

というツッコミが聞こえてきますね、えぇ。

で、何に対しての伏線かと申しますと『猫物語(黒)』に対しての伏線です。

なので『傷物語』ではこのように露骨な伏線(矛盾)が今後も乱立するかもしれないですが『傷物語』では回収しないのでスルーしていただいても結構です。

はぁーもっと上手に伏線張りたいなぁ……。

筆者の未熟な腕では到底無理ですけれど。

そもそも結構行き当たりばったりでその場の思い付きとかノリで小説書いてる時点で到底無理な芸当ですがね。

プロットなんてないです。

強いて言うなら原作がプロットです(キリッ

まぁそれは置いといて

次回予告

ドラマツルギーを退けてキスショットの手足を賭けた決闘は中盤戦に突入!

次の相手は人間と吸血鬼の間に生まれた子供。

ヴァンパイア・ハーフのエピソード!

吸血鬼を憎む彼の戦術とは――――

それでは次回でまた会いましょう!

感想・ご指摘は感想欄へどうぞ

感想への返信は各物語の終わりにまとめて返信します。

ではまた次回。






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006

筆者は小説投稿初心者です。
過度な期待はせずに気楽に見ていくことをお勧めします。
感想・批評は歓迎ですが暴言・悪口は炎上の原因となりますのでおやめください。



011

 

エピソード

 

体格のおよそ三倍、体重のおよそ三乗はあろうかという巨大な十字架を肩に担ぐ。

 

白ランを着ている。

 

ギラギラとした三白眼が特徴。

 

口調や口癖やや幼さが垣間見える。

 

キスショットから左脚を奪った。

 

吸血鬼と人間の間に生まれる。

 

ヴァンパイアハンターにしてヴァンパイアハーフ。

 

以上がエピソードの基本的な情報なのだが……。

 

「何だ、半端者か」

 

「もう……そういう事は言っちゃダメだよ」

 

「だが事実だろ?」

 

「言い方って言うのがあるでしょ?」

 

「はぁ~分かった俺が悪かった」

 

「よろしい」

 

敵わねぇなぁ……ホント。

 

「で、そのヴァンパイア・ハーフってのにはどんな利点があるんだキスショット?」

 

「ヴァンパイア・ハーフは不死力や身体能力、物質創造能力を始めとした吸血鬼としての能力が劣っている代わりに、太陽や聖水、後は十字架といった吸血鬼の弱点が殆どないことが特徴じゃ」

 

「やっぱり半端者じゃないか」

 

「こら」

 

「へいへい」

 

「つまり―――逆の言い方をすれば、利点が半減する代わりに弱点がほぼ全滅するという事じゃな」

 

「それだけか?」

 

「儂が覚えている限りじゃとそうじゃな、何なら、直接脳をまさぐって記憶を掘り返してもよいが」

 

「いややらなくていい、寧ろやらないでくれ」

 

お前の眼中にはいないかもしれんが、ここには羽川もいるんだぞ……。

 

そんなスプラッタな光景見せたらトラウマになるかもしれないだろうが。

 

「ともかく主な利点としてはそれだけか」

 

「うむ、うぬの敵にはどうしたってなり得ぬよ」

 

所詮半端者じゃ。

 

お前までそれ言うのかよ……。

 

羽川も流石にキスショットを窘める気は無いようである。

 

怖いからとかじゃなくて、単純に聞いてもらえないからだろう。

 

「ともかく、脅威にはなり得ないか」

 

「ただし奴の攻撃には当たらないようにするべきじゃろうな」

 

「何で?」

 

「奴がこれ見よがしに担いでおる十字架を見れば分かると思うが、エピソードは恐らく人間離れした身体能力や吸血鬼の能力を用いて吸血鬼の弱点を突くことが主な戦術じゃろう。まぁ当たったところで吸血鬼ではないうぬに通用するはずもないじゃろうが、問題はうぬはあくまでも()()()()()()奴らと戦ってるという事じゃ」

 

「あぁ、明らかに弱点を突いたのに効果がないと吸血鬼じゃないことがバレるかもしれない……ということか」

 

「うむ、故にうぬが奴と戦う時は奴の攻撃を食らわないように努めるべきじゃろうて」

 

「ふむ、縛りプレイか……別に楽勝だな」

 

「かかっ、まぁうぬにとってはそうじゃろうな。適当にあしらってくるがよいわ」

 

「ところで、奴は何で吸血鬼を狩ってるんだ?」

 

人間(エサ)もいらない、能力があるから金もそこまで必要ない、ならばエピソードは何のためにヴァンパイアハンターをしているのか?

 

「私怨じゃよ」

 

「あー……なるほど」

 

「ヴァンパイア・ハーフは稀少である故、断定的なことは言えんが、たいていの場合ヴァンパイア・ハーフという存在は吸血鬼を憎むことになるのじゃ」

 

「ありがちな話だな」

 

吸血鬼にもなり切れず、かといって人間にもなり切れない()()()

 

吸血鬼としても、人間としても異端な存在。

 

そう言った類の存在に与えられるものは得てして『迫害』だ。

 

「中でもエピソードは吸血鬼に対して並々ならん憎悪を抱いておるようじゃ」

 

俺は初めてエピソードと遭ったあの夜のことを思い出す。

 

あの時のエピソードの眼には尋常じゃないほどの憎悪が宿してギラギラと輝いていた。

 

「奴がどんな育ち方をしたのかは知らないが、まぁ知らんほうがいいような育ち方じゃろう、まず確実に碌なことではないのう」

 

だからエピソードは―――憎んでいる。

 

自分を産んだ両親を――

 

自分を受け入れなかった世界を――

 

そして何より――自分自身を

 

嫌って憎んで、恨んで罵って、そうやってさらに怒りを募らせる。

 

きっとエピソードは

 

何もかもが

 

どうしようもなく

 

取り返しがつかないほどに

 

吸血鬼が―――嫌いなのだ。

 

嫌いと嫌いが嫌いで嫌いの嫌いへ嫌いは嫌いを嫌い―――嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで―――嫌いなのだろう。

 

だが、だからと言って負けるつもりは微塵もない。

 

エピソードがいかに吸血鬼が嫌いでもそんなことは()()()()()()()()()()()

 

俺の前に立ちふさがるというのなら完膚なきまでに叩き潰すのみだ。

 

()()』なく―――

 

そんな会話をしたのが三日前――

 

本日4月4日の夜

 

私立直江津高校のグラウンド

 

学園異能バトルの第二ラウンドが始まろうとしていた。

 

そこで一人佇む俺は―――

 

「……遅い」

 

スゲェ暇してた。

 

いやぁ、約束の時間よりも三十分位余裕をもって出かけたはいいものの誰もいないからスゲェ暇。

 

しかも約束の時間を過ぎてるっていうのにエピソードは一向に現れないしさぁ。

 

もう暇で暇でしょうがない。

 

あーあ羽川がいればなぁ……。

 

楽しくおしゃべりできるのに…。

 

ま、無理な話だがな。

 

というか寧ろ何があっても絶対に来ないように釘を刺したくらいだが。

 

『来るなよ!絶対来るなよ!フリじゃないからな!!』

 

ってな感じで。

 

やっべぇ……今考えるとスゲェフラグ立てた気がしなくもない……。

 

これダ〇ョウ俱楽部的なノリで受け取られてたらどうしよう。

 

いや、羽川に限ってそんな受け取り方をする性格してないけれど。

 

まさか…来ないよな?

 

やべぇ……ちょっと不安になってきた。

 

なんかもうエピソードとかどうでもよくなるくらい不安なんだが……。

 

俺の心をここまで揺さぶるとは……。

 

流石バサ姉、侮れない……。

 

略してさすおねだ。

 

俺の一番の天敵って羽川なんじゃね?

 

ヤベェ……もし将来何らかの理由であいつと衝突することになったらどうしよ……。

 

ま、それは無いか。羽川だし。

 

\フラグガタチマシター/(上手に焼けましたー的な意味で)

 

うん?何か今フラグが立った気がするぞ?

 

マジで大丈夫だよな……。←(フラグ)

 

そんなことを考えているうちに、エピソードはいつの間にかそこにいた。

 

霧のように―――現れた。

 

「超ウケる」

 

開口一番、彼はそう言った。

 

相変わらず子供っぽい……。

 

「本当、笑うよな―――ドラマツルギーの旦那が、てめぇみたいなガキに逆退治されちまうなんてよ。どんだけ油断してたんだって話だよなあ―――俺ァ吸血鬼が、吸血鬼退治の連中を含めて嫌いだけど、それでもドラマツルギーの旦那だけは評価してたってのによ――」

 

敵意も悪意も満々か……。

 

結構結構

 

まぁこの程度で腹を立てたりはしないが。

 

というより何というか、全体的に無礼で上から目線なところとか、何となく大人ぶって粋がっている子供みたいで寧ろ微笑ましいまであるんだが……。

 

「で?俺はどうすればいいんだ?ガキ」

 

「どうすればとは?」

 

「勝負すんだろうがよ―何で勝負すりゃいいんだ?別に暴力沙汰じゃなくたっていいんだぜ、俺ァ―お前なんかに何やったって負ける気しねーよ」

 

ヤバイwwますます子供っぽいwwww

 

しかしバトル展開じゃなくてもいいとは良いことを聞いた。

 

はいはいじゃあエピソード君はおじちゃんと一緒にかくれんぼでもして遊びまちょーねぇー(爆)

 

よーしおじちゃん本気出しちゃうぞー(棒)

 

というか真面目な話、これかけっことか言ったらエピソードの奴どうやって勝つつもりでいるんだろ。

 

所詮ヴァンパイアハーフのエピソードの身体能力じゃあどうやったって俺に勝てるはずないのに……。

 

やはり子供だな(確信)

 

「はっはっは、なかなか面白いことを言うねキミ。ご褒美にハンデをやるよ、勝負の内容は君が決めていいよ、勝ったら賞品にアメちゃんでもやろう」

 

「何ソレ超ウケる、いるんだよなーお前みたいに調子こいてるヤツ。モスキートみてぇな能力手に入れただけで世界の支配者気取りの奴。超ウケる」

 

ぶはwww

 

待ってヤバイ本気で吹き出しそうwwww

 

超ウケる二回言ってやんのwwww

 

マジ超ウケるんですけどwwwww

 

お前スゲーなww

 

ここまで俺を(腹筋崩壊的な意味で)苦しめるとはやるじゃないかwwww

 

それを言ったらお前はそのモスキートにもなれない存在なのですがそれはwwwww

 

自虐してまで俺を笑わせに来るとは見上げた芸人魂だなwww

 

よしよしあとでご褒美に後でアイスでも買ってあげまちょーねぇwww

 

「ま。そういう奴には俺が現実を教えてやるんだけれどな、特にお前は教え甲斐がありそうだぜ。だから、今日は特別サービスだ」

 

やめろ…笑うな……。

 

堪えろ俺……。

 

エピソードはウインクして言った。

 

「後遺症が残らない程度に殺してやるよ」

 

「ぶははははwwwもうダメ勘弁してくれwwwwwヒーヒッヒッヒww腹いてぇwwwwwwwwwwwwww」

 

ダメでした。

 

後遺症が残らない程度に殺してやるよ(キリッ

 

だってさwwwwww

 

ウインクは反則だろwwwww

 

痛いwwww痛すぎるwwwwww

 

完全に厨二病じゃないですかヤダーwwww

 

「何笑ってんだよ」

 

「クククッあははははwちょっとまってタイムwwあははははははははははははwww」

 

額に青筋を浮かべるエピソード。

 

「何がおかしいってんだよガキ!」

 

「はははwwwごめんねぇ必死に背伸びして粋がってるエピソードちゃんを見てたら笑いが止まらなくてね……大人ぶりたいお年頃なんでちゅねぇw」

 

「ざけてんじゃねぇぞガキ!本気でぶっ潰すぞ!」

 

「ほら、そうやって直ぐ感情的になるとことか、子供そのものじゃんww」

 

「んだと!」

 

「そもそも人のことをガキガキ言ってくれちゃってるけれどさぁ、お前はそのガキに前に一度殺されかけたの覚えてないわけ?」

 

「あれは只のマグレだっての!俺が本気を出せばてめぇみたいなガキ一捻りだ!」

 

「で、出たーw都合が悪いことは偶然のせいにして言い訳奴~www」

 

「てめぇ……マジでぶっ潰す」

 

「やれるもんなら……やってみな。モスキートにも成れないモスキート以下の半端者が」

 

「ぶっ殺す」

 

「来いよ、お前はこの例外が全身全霊全力をもって限りなく手加減したうえで完膚なきまでにパーフェクトに叩き潰してやるよ」

 

「………」

 

あまりの怒りに言葉もないか。

 

この程度の煽りも流せないとは、やはり子供だな。

 

こういう時は常に冷静を心掛けないと、勝てるものも勝てないだろうに。

 

だからお前はガキなんだよ。

 

「やりあう前に条件の確認だ」

 

「……いいぜ」

 

「お前が勝てば、俺はキスショットの居場所を教える」

 

「万が一にもお前が勝てば、俺はハートアンダーブレードの左脚を返す」

 

「忘れんなよエ・ピ・ソ・ー・ド・君☆」

 

「………そう言っていられるのも今のうちだ」

 

「エピソード君」

 

「んだよ」

 

「ジャーンケーン―――ホイ」

 

とっさにエピソードが出したのはチョキ

 

俺が出していたのは――――グーだ。

 

「ざーんねん、俺が勝っちゃったね」

 

「……殺すッ!」

 

エピソードはそういうや否や、霧となって俺から距離をとる。

 

「悪いがまともにやりあうつもりはねぇ―――単純な力じゃ怪異殺しの眷属であるお前の方が圧倒的に上だからな」

 

「へぇ……じゃどうするんだ?」

 

「こうするんだよ!」

 

そういってエピソードは肩に担いでいたあの十字架を高速で投擲してきた。

 

「おっと危ない」

 

全然危なくないけれど。

 

避ける必要すらないね。

 

俺は体の一部を霧化させ十字架を透過する。

 

そうしているうちにエピソードは既に体を霧化させていた。

 

彼が再び現れたのは、背後の俺から約10メートルくらいの場所。

 

俺をすり抜けたあの巨大な十字架が半分ほど地面に突き刺さっているところだった。

 

「あぁ―――なるほどそういう作戦か」

 

エピソードはああやって俺をじわじわと削り殺すつもりだろう。

 

確かに霧化していれば攻撃を食らうこともないし

 

ああやって突き刺さってる十字架を安全に取りに行ける。

 

おまけに俺は吸血鬼(という設定)だからあの十字架に触ることができない(ということになっている)から武器を奪われる心配もない。

 

子供っぽくはあるけれど、奴も立派なプロフェッショナルという事だろう。

 

リスクを減らし、確実に俺を殺しに来ている。

 

だけど―――

 

「ワンパターンと思われてもマンネリと思われても構わねぇ、何度でも同じことをやってやる。十字架ってのは吸血鬼のどうしようもない弱点なんだからよ!」

 

だけどな――――

 

だけど――――あまりにもショボすぎる!

 

えぇぇぇぇ……

 

あれだけ大口叩いといてそれだけかよ……。

 

もっとなんかすごい隠し玉でもあるのかと思ってたのに……。

 

警戒して損した。

 

言うに事欠いてチマチマ削るだけとか………。

 

なんかもう……ガッカリした。

 

非常にガッカリだ。

 

あーもういいや、なんかもう……萎えた。

 

さっさと終わりにしよ。

 

その時だ―――

 

「あ―――阿良々木君!」

 

あ――あいつ!

 

「まだ諦めちゃ駄目!相手は、霧なんだから―」

 

「羽川!」

 

あれほど来るなって言ったのに!

 

「霧なんだから―――つまりは―――」

 

「……超ウケる」

 

そう言うとエピソードは躊躇なく―――十字架を()()()()()()投擲した。

 

能力で作った十字架だとか材質が吸血鬼の苦手とする銀でできているとかそう言うのを抜きにしても、アレが()()()()()()()であることには変わりない。

 

それが普通じゃない精神性を持ってるとはいえ肉体は普通の人間である羽川が食らえば……無事じゃすまない。

 

かすっただけでも致命傷だ。

 

させるかよ―――

 

羽川に向かって飛翔する巨大な十字架は、しかし突如としてその動きを止めた。

 

「影だと……?」

 

十字架には蛇のように黒い影が巻き付いていた。

 

悪いがエピソード、羽川がここに来た以上さっさと終わりにさせてもらうぞ。

 

「エピソード、お前のその作戦には三つ、致命的な欠陥があるぞ」

 

「ああ!何だってんだよ!」

 

「一つ目―――」

 

俺は影を巻き付けた十字架を手繰り寄せる。

 

「確かに俺自身は十字架に触れないが、だが触れないのは『俺自身』だけだ、つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。従って―――」

 

俺は影を操ってからめとった十字架を幅跳び用の砂場に向けて投擲する。

 

「こうして受け止める手段がある以上、()()()()()()()という手段はみすみす敵に武器を渡してしまうというリスクが高い!」

 

「―――クソがッ!」

 

エピソードが霧になって十字架の下へと向かう。

 

「二つ目―――」

 

俺の姿が掻き消え、刹那にして十字架の下に出現したエピソードの眼前に現れる。

 

「物を投げて取りに行く―――つーことは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして―――」

 

俺は拳を握り、振りかぶる。

 

「いくら霧化していれば物理的な攻撃を食らわないと言ったって、お前は霧になったまま十字架に触れることはできない。つまり()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

「モスキートがァ!!」

 

エピソードは咄嗟に霧化しようとする

 

「そして三つ目―――」

 

すかさず俺は逆の方の手の指を鳴らす。

 

パチンッ!

 

そして砂嵐が吹き荒れ、エピソードは霧化を封じられる。

 

「霧になったっつっても、それは消えて無くなった訳じゃねぇ。霧ってのは、つまり水分だ。だったら―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()っつー事だ!」

 

砂をかぶせるとか、火を放って蒸発させるとか、もしくは氷点下まで温度を下げて凍らせるとか、やりようはいくらでもある。

 

俺の拳がエピソードの顔面に炸裂し、エピソードのは大きく吹っ飛ばされる。

 

「だがな―――」

 

俺は一瞬にして吹っ飛ばされている途中のエピソードに追いつき、片手で首根っこを掴んで持ちあげる。

 

「お前の敗因は―――このどれでもない、てめーの敗因は……たった一つだぜ……エピソード…たった一つの単純(シンプル)な答えだ……()()()()()()()()()()

 

未遂とはいえ俺の友人に手を出そうとしたことを……後悔しろ。

 

そう言って俺はエピソードを地面に叩きつけた。

 

グラウンドに大きなクレーターができる。

 

人間ならまず命は無いがこいつは半分吸血鬼だ。

 

重傷で留まるように手加減はしておいた。

 

エピソードはクレーターの中で完全に白目を剥いて伸びてしまっていた。

 

「勝負あり―――だな」

 

生きているだけ、ありがたいと思え。

 

「阿良々木君!」

 

「馬鹿野郎!羽川!何で来やがった!あれだけ来るなと言っておいただろうが!」

 

「ごめん……」

 

「ここに来たところでお前ができることは何もない!それはお前ならよくわかっていることだろうが!なのに――――何で来やがった!危うく死ぬかもしれないところだったんだぞ!」

 

「阿良々木君のことが!心配だったからだよ……」

 

「――――っ!?」

 

その一言で、俺の怒りはすっかり収まってしまった。

 

全く……それは殺し文句だ。

 

そんなことを言われれば、俺だって怒るに怒れないじゃないか……。

 

「友達だもの……心配するに決まってるよ」

 

「………はぁ~本当にお前は……」

 

やっぱり、羽川翼は異常だ。

 

人外同士の決闘に首を突っ込めば普通の人間は無事じゃすまない。

 

こんな当たり前のことが、聡明な頭脳を持ち、尚且つ人外同士の戦闘という物を一度見たことがある羽川に分からないはずがない。

 

つまりこいつは、本気で俺のことが心配だからここに駆け付けたのだろう。

 

命の危険があることを十分承知の上で―――

 

自分の命よりも、俺のことを優先した。

 

はっきり言って度が過ぎている。

 

所詮俺が釘を刺したぐらいではこいつを止めることは不可能なのだ。

 

あぁもう、本当にお前はどうしようもなく『例外』だよ。

 

この俺にここまで手を焼かせるなんて、前の世界の誰にもできやしなかった。

 

困った友人だよ全く……。

 

だが……最高の友人だ。

 

012

 

あの後、羽川を帰らせた後、いつも通りグラウンドを整備し、気絶しているエピソードに俺の血を少量振りかけることで何とか動ける程度の状態まで回復させ、後は忍野に任せて俺は学習塾跡へと帰った。

 

俺が学習塾跡へと帰ってから大体2時間後ぐらいに忍野は左脚を持ち帰ってきた。

 

見た目に反して仕事は速い。

 

右脚は膝から先だったが左脚は付け根から先だった。

 

まぁだから何って感じだが……。

 

うん、後のことは察してくれ。

 

恐怖!吸血鬼バラバラ殺人再び……。

 

「おかしい……」

 

「何がだ?」

 

左脚を食べ終わった後、キスショットは不可解そうに首を捻った。

 

「奪われたうちの半分のパーツを取り戻したにもかかわらず、スキルが思ったより回復しないのじゃ」

 

「ふむ……想定していた回復量と実際の回復量に誤差があるってことか」

 

「仮にいま残った両腕を取り返したところで、儂の全力には到底及ばん」

 

「つまり、手足以外にも失っている可能性がある……ってことか」

 

「いや、それは無いじゃろう、それがもし仮に本当じゃとすれば、儂に一切感づかせずに儂のパーツを持って行った輩がいるということになろう、それはありえぬよ」

 

「だが他にどう説明をつける?」

 

「…………」

 

「それに、吸血鬼の再生能力は肉体を常に最高の状態に保つんだろ?」

 

「それはそうじゃが、それと何の関係があるのじゃ?」

 

「だがお前、俺が以前何でヴァンパイアハンターの連中に負けたのか聞いたらこう答えたよな『あの時はなんだか()調()()()()()()』って、再生能力で常にベストコンディションを維持しているはずの吸血鬼が、体調を崩すことなんてありうるのか?」

 

「それは……考えてみれば確かに妙じゃ」

 

「少なくとも自然に悪くなることはあり得ないはずだ。となれば―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことじゃねぇのか」

 

「しかしそうなると儂の眼を欺いた存在がいることになるが……」

 

「戦って勝つことは難しくとも、目を欺くだけならばいくらか難易度は低いのかもな、尤も、それでも相当の手腕が無ければ至難の業だとは思うがな」

 

そう言った俺の脳裏には、()()()の顔が思い浮かんでいた。

 

「ふむ……もし仮にそうだとすると厄介なことになるのう、そうだとすれば儂も知らない誰かが、儂のパーツを持っていることになる。流石の儂もどこの誰かも分からない輩を探しだすことは不可能じゃ」

 

「その心配はないかもしれん」

 

「何故じゃ?」

 

「もしも仮に秘密裏にお前のパーツを奪ったやつがいるとして、そいつの目的は推測する限りお前の弱体化だ」

 

「それぐらいは儂にも分かるわい、恐らくは前もって儂を弱体化させてくことでヴァンパイアハンター共に儂を殺させるのが目的じゃろう」

 

「いや、恐らくそれは違う」

 

「何?なら他にどんな理由があるのじゃ」

 

「根拠は二つ。一つはヴァンパイアハンター共にお前を狩らせるのには弱体化が不十分ってことだな。連中によってお前は無残にも四肢を捥がれて瀕死の状態まで追いやられてしまったが、逆に言えば弱体化していたにもかかわらず結局連中はお前を狩り損ねたってことだ。つまり、お前を殺すためには弱体化が不十分だったってことだ」

 

「それはそうかもしれんが、しかしそれは件の輩が儂を弱体化できたのは精々そこまでが限界だったってことではないのかのう」

 

「そこで二つ目だ。二つ目の根拠はメリットだ。お前にそうやって近づいてパーツを抜き取るなんてこれ以上なく危険で命がいくつあっても足りないような真似をするメリットが見当たらない。そこまでやっておいて後はヴァンパイアハンター共に任せるのはなぜだ?それで奴らが仮に成功したとして、そいつには何の見返りもないだろうに」

 

「ヴァンパイアハンター共と裏で繋がっていたのではないか?儂を弱体化させれば報酬を払うと前もって結託していたのではないかの、人間はよくやるじゃろ?」

 

「じゃあ聞くが、お前が連中と戦った時、連中は陰で協力者が動いているような素振りはあったか?ちなみに俺の方は全くない。ゼロだ」

 

「なかったが……そんなことをいちいち口にする必要もあるまい」

 

「じゃあこれで最後だ。お前にすら気付かれずにお前のパーツを抜き取ることができるのなら()()()()()()()()()()()()()………できるんじゃないのか?」

 

「………」

 

俺がそう言うと、キスショットは顎に指を当てて考え始めた。

 

「確かに……できなくはない――かもしれん」

 

「ということはつまりだ、ソイツにはお前を殺す気は無かったんじゃないか?そいつの目的はもっと別のところにあるんじゃないのか?」

 

「儂を殺さずに生かしておく目的……見当もつかんわい。人間にとっては間違いなく殺しておいたほうが有益じゃと思うし……殺す目的は思いつくが生かしておく目的など……」

 

「案外ヴァンパイアハンター共にハンデでもやることが目的だったりしてな」

 

『アイツ』ならいかにもやりそうなことだ。

 

「…………その可能性も…なくは無いのかのう」

 

「ともかく、お前が順調に力を取り戻しているとソイツが知ったら、今度はソイツ自身が出張ってくる可能性がある。そうだとすれば奴が動くのは恐らく……お前がすべての手足を取り戻した時、ギロチンカッター戦の後だとみていいだろう」

 

「じゃったら、今は兎も角ギロチンカッター戦に集中すべきじゃろうな」

 

「あぁ」

 

俺はエピソードが言い残して言った言葉を思い出す。

 

「――――俺の負けだ」

 

去り際にエピソードは存外潔くそう言った。

 

「ったくとんだピエロだよなぁ、つい最近吸血鬼になったばかりの素人かと思ったら、ハートアンダーブレード級のバケモンだったんだからよぉ。そんな奴を相手に強がりとはいえあれだけ調子こいてたって言うんだから笑うぜ、ホント――――超ウケる」

 

だが、俺を倒したぐらいでいい気になってんなよバケモノ――――

 

と、彼は捨て台詞のようにそう言った。

 

「イカレてるのは、俺も大概だがよ、だがあいつの―――ギロチンカッターのイカレ具合は俺なんかとは次元が違う」

 

アイツはマジで――――エグイぜ。

 

この俺ですらドン引きする程にな。

 

そう言い残し、エピソードは立ち去った。

 

「ギロチンカッターか……」

 

同業者からでさえ警戒されるほどの異常さを持つと言われている男。

 

特別な力を持たず

 

一切の武装もなく

 

普通の人間の身であるのにも関わらず、ここまで警戒されるのは一体……。

 

「本当にギロチンカッターは只の人間なんだよな?」

 

「うむ、頭髪の一本一本から足の爪に至るまで、全てが純粋な、純度100%の人間じゃ」

 

「あの服装ってやっぱり…」

 

「うむ、奴は聖職者じゃ」

 

「テンプレートだなぁ」

 

同族狩りの吸血鬼と吸血鬼嫌いの半吸血鬼ときて、最後には聖職者の人間か……。

 

ありきたりというか、お約束というか、むしろ王道というか……。

 

定番中のド定番じゃねぇか。

 

しかもあれだろ、それで聖職者っつー事はギロチンカッターは多分―――――

 

「この国の言葉では……どう表現したものかのう。まぁ直訳でよいか」

 

別に原語で喋ってくれても俺は構わないけれどな。

 

「ギロチンカッターはのう、とある歴史の浅い新興宗教の大司教じゃ」

 

「お偉いさんか――ますますテンプレだな」

 

「その宗教に名前は無い―――儂にとってもよく分からん組織じゃ。ただはっきりしておることは―――――その宗教は教義によって怪異の存在を否定しているという事じゃ」

 

「神は信じるくせに怪異は否定するのか?」

 

「まぁ宗教など得てして部外者から見れば矛盾の塊じゃろう」

 

「そりゃそうだが」

 

「話を戻すぞ―――ギロチンカッターはその宗教において、存在しないはずの怪異の存在を消去する役割を自らに課しておるのじゃ。まあつまりはギロチンカッターは大司教であると同時に怪異を滅ぼすための実戦部隊というか、所謂特殊部隊の隊長ということじゃ」

 

「だとするとやっぱり、奴は―――――」

 

間違いない、確定だ。

 

「裏特務部隊第四グループに属する黒分隊の影隊長――――とか言ってたのう」

 

「………」

 

うわぁ……。

 

スゲェ厨二っぽい……。

 

ともあれ、これで確定だ。

 

俺の予想が正しければ恐らく、ギロチンカッターという人物は―――

 

「ギロチンカッターは―――所謂『狂信者』ってやつか」

 

「うむ、その通りじゃ」

 

あーやっぱりそうか……。

 

そりゃ恐れられるわけだよ。

 

ああいう手合いは教義のためなら―――自らが信仰する神のためなら命すら惜しくないような輩だ。

 

だからこそ『()()()()()()()』何をしてくるか分かったモノじゃない。

 

「実際儂が連中と戦った時も、ギロチンカッターの攻撃が一番苛烈じゃったぞ。奴は端から()()()()()()()()。自分の命がどうなろうと一向に構わないって感じじゃったぞ。『死兵』という奴じゃな。儂もやつの捨て身の勢いに負けてまんまと両腕を奪われてしまったわい。そこからはもう知っての通りじゃ。ギロチンカッターが儂の両腕を奪い取り、次にエピソードが左脚を奪い、儂が慌ててジャンプして撤退した時にドラマツルギーに右脚を奪われた」

 

「そして俺と出逢った――ってことか」

 

「うむ、ギロチンカッターさえいなければ、儂も負けることは無かっただろう」

 

「お前にそこまで言わせるとはな」

 

「ドラマツルギーは『仕事』、エピソードは『私情』で吸血鬼を狩っているのだとすれば、ギロチンカッターは――――」

 

「さしずめ『使命』でヴァンパイアハンターをやっているってことか」

 

「儂が言うのもなんじゃが、信仰というのは本当に厄介じゃ」

 

死を恐れない防御無視の特攻戦術。実際にやられたら厄介なことこの上ないだろう。

 

「じゃがまぁ儂はそれでもうぬが勝つと確信しておるよ。仕事だろうと私情だろうと使命だろうと、うぬが負けることは絶対に無いと思っておる。うぬが見事ギロチンカッターから両腕を取り返し、うぬの願いを聞くのが楽しみじゃわい」

 

「ははっ、お前にそこまで言われたら、頑張るしかねぇな」

 

しゃーない、珍しく気合入れますかね。

 

狂信者が相手だろうと、俺は負けねぇよ。

 

「任せたぞ、我が同族よ」

 

そう言ってキスショットは眠ってしまった。

 

さて……俺も羽川が来る日没まで暇だし、寝るか。

 

吸血鬼の再生能力によって俺やキスショットのコンディションは常に最高に保たれるため。『疲労』することは一切ない。つまり体を休めずとも、そもそも疲れることがないために俺たちは『睡眠』という行為を必要としない。

 

俺たちにとって『睡眠』とは、『肉体の休息』を意味しない。

 

ならば俺達にとって『睡眠』はどのような意味があるのかといえば、主に『精神面』における役割が大きい。

 

つまり俺達にとっての『睡眠』とは『精神の休息』もしくは『暇つぶし』である。

 

これは言ってなかったことだが、キスショットはもちろん、俺も外出は自粛している。

 

前に言った吸血鬼の設定が云々というアレではなく、単純に俺もキスショットも、ヴァンパイアハンター共のターゲットになっているからだ。

 

連中は最早ギロチンカッターを残すのみとなりはしたが、さりとて俺達を狙っている輩がまだ存在することには変わりはない。

 

別に襲われてもどうってことは無いがそれだと忍野が折角お膳立てしてまでやっているこれまでのゲーム(茶番)が水の泡になってしまう。

 

故に俺は基本決闘の時を除いて一切外出はしない。

 

キスショットに至っては俺がここに運び込んでからはずっとこのままだ。

 

暇を持て余すのも仕方がないだろう。

 

故に俺達には寝ることくらいしか時間を潰せる手段がないのである。

 

羽川とおしゃべりしているときは楽しいけれどな。

 

だが、キスショットには話し相手は俺ぐらいしかいない。

 

意外と話好きであるキスショットは、一度会話をすれば結構長々と喋るのだが、そうしているうちに話題が底をついてしまい、最終的にはまた寝てしまうのだ。

 

所詮二人だけの、しかも同じ相手だけの会話では長続きしないのであろう。

 

ちなみに忍野はよく喋る。

 

すんごい喋る。

 

こっちが聞いてなくても構わず喋り続ける。

 

しかし会話の内容そのものは面白く、あいつが日本各地を放浪して蒐集した怪異譚を話してくれる。

 

しかしお前……怪異の情報ってお前にとっちゃあ商売道具みたいなものだろうに……。

 

そうベラベラ喋ってもいいのか?

 

それは兎も角、忍野は交渉に出かけており、羽川との約束の時間もかなり先である今、俺にできることは精々寝ることくらいである。

 

そんなことを考える今日この頃。

 

四月五日の午前。

 

春休みも残すところ後二日。

 

それまでにこの問題が終わることを祈りつつ、俺は眠りについた。

 

吸血鬼は棺桶で眠るらしいが、俺にはそんな趣味は無いので普通にベッドで寝た。

 

キスショット作の豪華絢爛な奴。

 

天蓋とかついてんだぜ?

 

ちなみに寝心地は最高。

 

めっさ寝やすい。

 

ベッドに入ってから10分も経たないうちに俺の意識は途絶えた。

 

夢を見た。

 

夢の中で俺は阿良々木暦と会った。

 

成り代わった役割としての阿良々木暦ではない、正史における、原作の阿良々木暦そのままだった。

 

特に会話はしてない。

 

阿良々木が俺に一方的に一言言っただけだった。

 

「『忍と羽川の事は、お前に任せたぞ――――』か、お人好しな奴だ」

 

誰だよ忍って……。

 

所詮は夢だ。意味など見いだせるわけがない。

 

こんな夢に意味など無いのだ。

 

故に―――あの阿良々木暦も、所詮俺が見た夢の中の人物でしかない。

 

もし本物の阿良々木暦が俺のことを知ったならば、何て言うだろうな。

 

俺は『物語シリーズ』なるものをあらすじ程度しか知らないため、阿良々木暦という人物がどのような人間なのか断言することはできない。

 

でもまぁ、自分の命を投げ打って吸血鬼を助けちまうって言うのだから相当なお人好しなんじゃないかと思うがな。

 

そんな彼ならば、俺に対してどのような感情を抱くのだろう。

 

普通に怒るか。

 

当たり前だよな。

 

そんなことを考えているうちに羽川がやってきた。

 

約束の時間より少し遅れているがそれは結界の所為なので。仕方がない。

 

道に迷ったのだろう。

 

幾ら一度来たことがあるからといって結界の効果は依然として有効だ。

 

つまり彼女はここに来るたびに何度でも道に迷わされるのだ。

 

それでも文句の一つも言わず毎日来てくれるあたり、良い友人である。

 

羽川さんマジ天使。

 

HMTだ。

 

「来たよ、阿良々木君」

 

「いらっしゃい羽川。喉乾いただろ、何か飲む?」

 

「ありがとう、阿良々木君。じゃあダイエット・コーラもらえる?」

 

「オッケー、ホレ」

 

俺はダイエット・コーラを創造して羽川に渡す。

 

「飲み物まで出せるんだ…」

 

「物質として存在していればなんでも出せるぞ、まぁ吸血鬼は飲食する必要がないから出せても意味ないんだがな」

 

「うーん…使いようによっては一人で社会問題を解決できちゃうね」

 

「面倒だからパスで」

 

できなくはないが、色々と面倒すぎる。

 

見ず知らずの他人のことまで面倒を見ようと思えるほど、俺はお人好しにはなれない。

 

本物の阿良々木と違ってな。

 

俺も普通のコーラを出して飲む。

 

うん、旨い。

 

安っぽい味だが、それがいい。

 

ところで思っていたんだが―――

 

「ダイエット・コーラにもいろいろ種類が出てきたが、羽川違い分かる?」

 

「そりゃ分かるけれど」

 

「俺には分からん」

 

というかコーラは普通の奴しか飲んだことがない。

 

ゼロとかト〇ホとか邪道だと思う。(※あくまで個人の見解です)

 

「ふーん。……こんなこと、考えてみました」

 

「聞こう」

 

「新製品開発、某飲料会社が、コ〇コーラと全く味が変わらないダイエット・コ〇コーラを制作することに成功しました」

 

「ほほう」

 

「ただし色がブルーハワイ」

 

「それはコ〇コーラじゃない!」

 

コーラはあの真っ黒な色がいいんだろうが……。

 

最近金色のコーラができたとか聞いたけれど俺は飲む気になれない。

 

楽しい会話だった。

 

割と面白い。

 

成績優秀で公明正大なしっかり者の委員長。

 

俺が羽川と出合う前はそんなイメージによる先入観で勝手に羽川という人間を想像して、きっと堅物なのだろうと解釈していた。

 

ところが蓋を開けてみればそんなことは全くなく、気さくで面白い話もできるし、周りに常に気を配れて、面倒見がいい。

 

本当、最高の友達だと思う。

 

だからこそ――――

 

「羽川」

 

「何?阿良々木暦」

 

「もうここには来るな」

 

「……ま、言われると思ってたけれど、一応理由を聞いてもいい?」

 

「勘違いしないでほしいのは、お前が足手まといになるからこんなことを言っているわけじゃないってことだ」

 

「分かってるわよ、阿良々木君だものね」

 

「次の相手なんだがな、所謂『狂信者』ってやつで、戦いになれば何をするのか分からないような危ない奴なんだ。もしかすれば俺を倒すためにお前すらも巻き込む可能性がある。エピソードの時は助けてやれたが、俺がお前と会っていないときにまで手を出されれば終わりだ。俺ですらどうしようもない。だから羽川、お前には少なくともギロチンカッター戦が終わるまでは自分の身を優先して行動して欲しい。くれぐれもこの前のようなことはしないでくれ」

 

もし仮に羽川が誰かによって傷つけられるようなことがあれば――――俺はソイツに手加減できる自信がない。

 

とことん残酷に、ソイツの一番苦しむ方法でソイツを死に追いやるだろう。

 

俺は本来そういう人間なのだ。

 

何処までも自己中心的で、他人のことなどどうなろうが知ったことではない。

 

それが『零崎無闇』という存在なのだ。

 

「……分かった、そういう事なら仕方ないね。あーあとうとう私もお役御免かー」

 

「いや、お前には一つ、大事な役割が残ってる」

 

「え?そんなのあったっけ?」

 

「待っててくれ」

 

「…………」

 

「新学期、あの学校で。俺のことを待っててくれ」

 

羽川のような人間にとって、何もせずに待っているだけのことがどれだけ大変なことか、どれだけの苦痛、どれだけの不安を伴うものなのか、それは羽川本人でないと分からないことではあるけれど、それでも羽川には、待っていて欲しいのだ。

 

なぜなら――――

 

「またお前とおしゃべりできることを、俺は心から楽しみにしているから」

 

「……おおっと」

 

そう言って、羽川はなぜかそこで一歩下がった。

 

ヤベェ……余りにクサいセリフすぎて羽川さん、ドン引きしちゃったのかも……。

 

もしそうだったら俺、立ち直れないかもしれない。

 

プライドとか投げ捨ててキスショットに泣きつきに行く自信がある。

 

しかし、そんな思いとは裏腹に羽川は

 

「ピピピ、ピピピ、ピピピ」

 

「ん?何の音だ?」

 

「ときめいた音」

 

「えぇっ!?女子ってときめいたときにそんなアラーム音みたいな音が鳴るの!?」

 

女子の心は目覚まし時計だったのか……知らなかった。

 

「危ない危ない、惚れちゃうところだった」

 

ΩΩΩ<ナ、ナンダッテー!

 

こんな良い女に惚れられそうになっているだとぉ!?

 

ヤバイ、メッチャ嬉しい。

 

どれくらいというと今すぐ飛び上がって喜びたくなるくらい嬉しい。

 

「惜しい!でもまだ惚れてはいなかったか……」

 

「あはは、私の恋心はそんなに安くないよ阿良々木君。それに…私なんか恋人にしても幻滅するだけだよ……本当の私はずっと自己中心的で我が儘なの」

 

「ふざけるな、()()()()()()()で俺がお前に幻滅なんてするか!お前こそ俺の心をなめんな、良いか羽川、俺はな、お前が例えどんな裏の顔を持っていたとしても()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()っつーの!だからお前は、安心して俺に惚れてろ!」

 

「………やばい、本気で惚れそうかも」

 

マジか!?

 

聞こえてたよ?

 

今確かに聞こえたよ?

 

俺別に難聴属性とか持ってないからね?

 

鈍感でもないからね?

 

今の言葉小声で言ったつもりだろうけれどちゃんと聞こえてたからね?

 

うん、赤面する羽川も可愛い。

 

写真に撮っておきたいくらい。

 

羽川としても、この返しは予想外だったようでしばらくの間赤面していた。

 

俺は赤面する羽川の顔を完全記憶能力まで使ってしっかりと焼き付けた。

 

羽川はしばらく赤面した後、花が咲いたような笑顔を浮かべた。

 

それは、初めて見る羽川の心からの笑顔だった。

 

「ありがとう……阿良々木君」

 

羽川はそう言うと、俺の頬にいきなり接吻をした。

 

「――――――っ羽川!?」

 

「えへへ…ちょっとしたお礼と、頑張ってのプレゼント」

 

マジでビックリした……。

 

不覚にもドキッとしてしまった。

 

唇じゃないがズキュゥゥゥン!!!て感じ。

 

心臓ぶちぬかれたね。

 

「新学期にまた会えたら今度はお祝いに唇にしてあげるね」

 

MA・JI・DE・KA・!

 

これは俄然やる気になってきたぜ。

 

フハハハハハ最早ギロチンカッターなど恐るるに足らんわ!

 

ボッコボッコにしてやるぜぇ!

 

「じゃ、健闘を祈る」

 

「おう」

 

そう言って羽川は帰っていった。

 

うし、やる気十分だぜ!

 

生まれてから一番やる気に満ち溢れてるぜ。

 

待ってろよ!ギロチンカッター!

 

そんな別れの余韻に浸りつつ一人やる気を漲らせて3時間ぐらいが経った時、忍野が帰ってきた。

 

「大変だよ阿良々木君――――」

 

忍野は珍しく深刻そうな面持ちで言った。

 

「委員長ちゃんがさらわれた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも皆さんこんにちは。

あとがきではフリーダム系作者の零崎記識です。

うん、まず言わせてもらいたいことがある。

ど う し て こ う な っ た

キャラが全く思い通りに動いてくれねぇ……。

特に羽川さんのヒロインパゥアーがヤバイ。

キスショットの影がどんどん薄くなっていく…。

メインヒロインなのに

メインヒロインなのに!(大事なことなので二回言いました)

羽川さんのせいで無闇君が当初決めていたクールキャラからは全く別物になっていく…。

あれれーおっかしーぞぉー(某名探偵並感)

これじゃあ原作の阿良々木君と大差ないじゃないか!

まじでどうしてこうなった。

当初の予定では無闇君は人間に対して心を閉ざした感じのキャラで異世界に行ってであった羽川さんとかキスショットだけには少しだけ心を開いている…って感じにしようと思ってたのに!

少しどころかメッチャ開いてますやん!

扉ガバガバやないかい!

全部羽川さんのヒロイン力が高すぎるのが悪い!

キスショットだけならこんなことにはならなかったのに…。

おのれ羽川翼ァァァァァァ!(鳴滝的な意味で)

もう勘弁してください(泣)

筆者の中の無闇君のキャラがどんどん崩れていく…。

『キャラ崩壊』タグってこのために付けたんじゃないんですけどォォォォ!

まぁ無闇君が楽しそうだから別にいいか(白目)

この小説の主人公、羽川さんじゃないよね?

無闇君だよねぇ!?

書いている筆者自身混乱しそうです。

それは置いといて、お待たせしました。

今回はエピソード戦です。

いやー無闇君、メッチャ煽ってましたねw

あの辺は筆者自身何でああなったのかよくわかりません。

なんか書いてるうちにノリと勢いでああなってしまったというか……。

あそこまで煽るつもりはなかったんだけれどなぁ……。

全く、それもこれもエピソード君がイジりやすいからいけないんだ。

書いてるうちに筆者もエピソード君がなんだか可愛く思えてきてしまったじゃないか(錯乱)

なんか無闇君が説教系キャラになってしまった気がする。

完全にクサいセリフ製造機になってしまった……。

おのれ羽川翼ァァァァァ!(二回目)

それにしてもこの主人公、戦闘中によく喋るなぁ……。

これが筆者の欠点の一つです。

私が小説書くとなんか矢鱈と説明口調になってしまうんですよね……。

ハーメルンに投稿する前に自己満足で書いていた小説があるのですが

こ れ は ひ ど い

って感じです。

もうね、主人公が戦ってる最中なのにマジでよくしゃべるんですわ。

殴る瞬間に滅茶苦茶長台詞を吐くんですよ。

書いた筆者自身、戦闘中にこんなよく喋る奴いるかい!って自分で突っ込んでましたからね?(寒い)

あぁ……語彙力と要約する能力が欲しい……。

言いたいことを綺麗にまとめられないからそうなるんですよね。

戦闘中に説教臭いのは某幻想殺しだけで十分なんだよォ!!!

まぁ筆者何て鎌池先生には遠く及びませんが。

あ、そうそうこの作品、様々な異世界を巡るというのが目的なのでいずれインデックスの世界にも行く予定です。

誰と成り代わりさせようかなぁ……。

幻想殺しかなぁ

セロリさんも捨てがたい……

大穴で『はーまずらぁ』もいいかもしれないですね。

皆さんはどれが見てみたいですかね?

最強になった『最弱』か

全能になった『最強』か

無敵になった『凡人』か

どれも面白そうだなぁ……。

ちなみに無闇君が成り代わった人物は問答無用で

強靭!無敵!最強ォ!

になります。

また、無闇君は全能キャラなので誰に憑依しようと全レベル5を始めとした学園都市全ての能力者がもつ能力をレベル5と同等かそれ以上の強さで使えます。

まさに外道!(チート的な意味で)

まぁ他作品の話はこれくらいにして

ここからは補足です。

今回無闇君の夢の中に登場した阿良々木君ですが

別に何かのフラグになるって訳ではないです。

彼の言っている通り、あれは只の夢です。

だからその手に持ったビール瓶を下ろそうか。

夢です!夢ですからね!?

皆さんの「阿良々木君はこんなこと言わねぇよ!」って言いたい気持ちはわかりますけれど夢ですからぁ!

全部無闇君の想像でしかありませんからぁ!

というか無闇君は勘違いしているようですが無闇君は別に阿良々木と『入れ替わった』わけでは無いです。

あの世界にもともと阿良々木君はいません。

というと語弊がありますが、無闇君が成り代わる前の阿良々木君は消滅してしまったわけではないです。

彼は彼でちゃんと原作の世界に存在しています。

実は作者、この世界が『物語シリーズ』の世界であるとは一言も言ってないんです。

飽くまで無闇君がそう認識しているだけの話。

序章で『観測者』が言っていた通り、物語とは世界であり、今この時も物語、つまり世界は無限に増え続けています。

無闇君が言ったのは『物語シリーズ』

に、限りなく近い世界です。

強いて言うなら『零崎無闇を主人公とした場合の物語シリーズの世界』っていう原作とは別にある別の世界です。

故にその始まりは無闇君が世界に入ってからになるので、それ以前の歴史は考えなくともいいです。

故にそれまで阿良々木暦という存在もいなかったし。

誰も無闇君が阿良々木君になったことに気づかないという事です。

冒頭の『観測者』の説明、さらっと流しはしましたけれどこのシリーズを読むうえで結構重要な概念とかが書かれていますからね?

気になった人はぜひプロローグを見直してみてください。

そんでもってじゃんじゃん深読みしてくれちゃってください。

さてここからは次回の話

いよいよギロチンカッター戦ですね。

いやー今回で無闇君が暴れるフラグを盛大に立てておきましたから、次回は無闇君に大暴れしてもらいましょう。

哀れギロチンカッター……。(合掌)

お前のことは忘れない(大嘘)

では次回予告

零崎無闇vsヴァンパイアハンターの決闘もいよいよ終盤戦。

最後の相手は吸血鬼狩りを使命とする『狂信者』ギロチンカッター

しかし彼は羽川翼を人質に零崎無闇を脅迫する。

しかしそれは、『例外』の逆鱗に触れてしまうという絶対の禁忌だった。

怒りの頂点に達した零崎無闇はどのような行動をとるのか

そして陰で暗躍する者の正体とは

次回「ギロチンカッター、死す」デュエルスタンバイ!

……冗談です。

いやー本当は杏子ちゃんの次回予告を全部アレンジして『嘘予告』ってことにしたかったんですけれど、筆者には難易度が高すぎましたww

では次回、『外物語』第7話でお会いしましょう。

コメントを書いてくださった神皇帝さん、Cadenzaさん、夕凪さん、うるとぅくさん

そしてお気に入り登録していただいている皆様

ありがとうございました。

質問・ご指摘は感想欄へどうぞ。

ではまた次回。






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007

筆者は小説投稿初心者です。
過度な期待はせずに気楽に見ていくことをお勧めします。
感想・批評は歓迎ですが暴言・悪口は炎上の原因となりますのでおやめください。


013

 

ギロチンカッター

 

ハリネズミのような髪型

 

神父風のローブ

 

一見穏やかそうな糸目

 

名もなき新興宗教の大司教にして

 

裏特務部隊闇第四グループ黒分隊の影隊長。

 

教義によって怪異を否定し

 

神の名の下に怪異を消去する。

 

『信仰』によって

 

『使命』によって怪異を狩る

 

キスショットから両腕を奪った

 

()()()()()

 

吸血鬼でも

 

ハーフでもなく―――

 

純粋な――――『ただの人間』である。

 

神のためならば命すらも惜しくはないという――――『狂信者』

 

それが、俺の最後の敵である。

 

 

ヒュゥゥゥゥゥ――――

 

ズドォォォォォォン!

 

凄まじい衝撃と大きなクレーターと共に、俺は着地した。

 

「おやおやこれはまた派手な登場の仕方で」

 

ギロチンカッターは、そう言った。

 

眉一つ動かさず。

 

バカ丁寧に―――そう言った。

 

「てめぇッ……!」

 

俺は今すぐにでもギロチンカッターを八つ裂きにしたいという衝動を必死に抑え、そう言った。

 

場所は直江津高校のグラウンド

 

ドラマツルギーと闘い

 

エピソードと戦った場所。

 

そこでギロチンカッターは俺を待ち受けていた――

 

―――その片腕に羽川の身体を抱いて。

 

武装を持たないその手には、まるで武器のように羽川の首がしっかりと掴まれていた。

 

「あ、阿良々木君――」

 

羽川は一応無事のようだ。

 

傷つけられた様子もなく

 

気絶させられているわけでも無い。

 

当然だ―――『人質』とは、無事でいなければその効果を発揮できないのだから。

 

だが、それは羽川の命を保証するわけでは無い。

 

「ご、ごめん、阿良々木君――私」

 

「勝手にしゃべらないでくださいよ」

 

ギロチンカッター指が、羽川の細い喉に一層食い込んだ。

 

後少し、ほんの少しでも力を入れれば、羽川の首が折れてしまいそうだった。

 

かふ、と、羽川の息が漏れる音が聞こえる。

 

「貴様ぁ……!」

 

ブチンッ!!

 

と、俺の頭の中で血管が切れる音がした。

 

ダメだ…耐えろ。

 

今動くのは悪手だ。

 

本当はギロチンカッターを今すぐに肉塊にしてやりたいところだが、羽川を助けることが最優先だと自分に言い聞かせる。

 

「随分と怖い顔をなさるじゃないですか、そんなにこの娘が大事ですか?ねぇ――」

 

―――バケモノさん。

 

「そいつは人間だ、怪異じゃない」

 

「えぇ存じておりますよ、この娘がバケモノのあなたと友人であることも―――ね」

 

じゃないと人質にならないじゃないですか―――と、ギロチンカッターは悪びれもせずに言う。

 

「仮にも同じ人間だろうに…」

 

「残念ながら、バケモノと友誼を結ぶような輩は人間とは言いません。少なくとも私たちにとっては―――この娘も『バケモノ』です。故に排除します。こんな風に」

 

ギロチンカッターは羽川の首を掴んだまま彼女の身体を持ち上げる。

 

その光景は、さながら首吊りのようであった。

 

「う……ううっ!」

 

うめき声をあげる羽川。

 

この野郎……。

 

殺す。

 

お前だけは、何としてでも殺すッ!

 

一番残酷な方法で殺してやるッ!

 

固く握りしめられた俺の拳から血が滴る。

 

「うるさいですねぇ」

 

そう言って、ギロチンカッターは羽川を下におろした。

 

咳き込むことすら

 

生理現象すら、羽川はさせてもらえなかった。

 

唯々――ぐったりとしていた。

 

ギリッ……!

 

奥歯を噛み砕かんばかりの力で俺は歯を食いしばった。

 

予想はしていた。

 

最悪の予想だが、こうなる可能性もあることは分かっていたのだ。

 

だからこそ、羽川を一度遠ざけようとしたのに…。

 

その可能性を予想できていたなら、対策を打つべきだったのだ。

 

俺が羽川を家まで送り届けていれば、こんなことにはならなかっただろう。

 

なのに俺ときたら……これまでのことが無駄になるかもしれないとか御託を並べて……。

 

結局俺は、羽川を気遣うようなことを言っておきながら自分の事しか考えていなかったのだろう。

 

ったく、何が友達だ。

 

羽川は……自分の命すらも、俺のためならば投げ出せると言ってくれたのに……。

 

お前が羽川に惚れられようとするなんざ十年早い。

 

烏滸がましいにもほどがある!

 

「全く予想外だよ―――」

 

俺に羽川がさらわれたことを告げた忍野は、深刻そうな口調でそう言った。

 

「エピソードが委員長ちゃんに十字架を投げたことは―――まぁ問題ではあるのだけれど。エピソードの立場から言えばあの状況では仕方ないといえば仕方ない。しかしそれでも僕のような立場の人間を含めたこの世界の人間は―――()()()()()()()()というのは一般人を巻き込みたがらないものなんだが」

 

「お前が、羽川との接触を意図的に避けていたようにか?」

 

そう、じつは忍野メメと羽川翼は、両者とも頻繁にこの学習塾跡へと出入りしていたにも関わらず一度も顔を合わせたことが無いのだ。

 

「顔を合わせるつもりはなかったよ。彼女は僕と言葉を交わすべきじゃないと思ってたからね――別に委員長ちゃんに限らず、僕は積極的に一般人を巻き込むつもりはない。向こうから勝手に関わってくる分には止めないけれどね。そういうスタンスだ。だがギロチンカッターは―――」

 

まるで躊躇などしなかったのだろう。

 

『狂信者』とはそういう奴だ。

 

彼らにとって重要なのは『神』と『教義』だけだ。怪異の専門家たちの暗黙の了解やマナーなど、知ったことではないだろう。

 

だから一般人を巻き込むことだって、『神』のためなら平気でする。

 

罪悪感などない。

 

『神』の前に自分の行いは全て正しいと思っているのだから。

 

良心の呵責などあるはずがない。

 

「僕としたことが全く不覚だったよ。相手の器量と力量を完全に見誤っていた」

 

違う……見誤ったのは、誤っていたのは俺の方だ。

 

俺が……気づいていたにも関わらずその可能性を放置したのだ。

 

全く情けない……。

 

「大方、帰り道で尾行されて……最後には捕まったってところか」

 

「尾行されていようと、この中にいれば結界は有効に作用するけれど、結界の効果が働いているのは、飽くまでも『ここ』だけだ―――()()()()()()()()には結界は作用していない」

 

「探せばみつかる―――か。だが奴は何故俺と羽川の関係を?」

 

いや―――そんなの決まっている。

 

聞くまでもないことだ。

 

「恐らく、見ていたんだろうね。ドラマツルギー戦もエピソード戦も。僕が陰から観ていたように。委員長ちゃんが視ていたように―――」

 

「ギロチンカッターもまた、見ていた――という事か」

 

「そうならないように、三人バラバラに交渉したんだけれどね――裏をかかれたよ」

 

「場所と時間は?」

 

人質を取ったということはギロチンカッターは俺と取引するための時間と場所を指定してきているはずである。

 

「時間は4月5日の夜。つまり今晩だ、場所は私立直江津高校のグラウンド」

 

「そうか」

 

それだけ言って俺は教室から出ようとする。

 

「なぁ忍野」

 

「何だい?」

 

「この決闘は――別に具体的なルールを定めていなかったが『一対一』ってことになっているのは確実だと思っていいんだよな」

 

「そうだね、尤も向こうは委員長ちゃんを『武器』だと思っているから、最初から数に入れていないと思うけれど」

 

「だが、それを判断できるのはアイツじゃない。審判はお前だろ?」

 

「確かに僕だよ」

 

「だったらお前に訊こう、忍野。お前から見て、羽川は『武器』か?『人間』か?」

 

「『人間』だよ、間違いなくね」

 

「じゃあ忍野。ギロチンカッターは審判のお前から見れば『ルール違反』をしているな?」

 

「している、けれど僕がそれを言ったところでギロチンカッターは聞き入れないだろうね」

 

「それは知ってる。お前があいつに何か言う必要は無い、ただちょっと、言質をとっておきたいだけさ。忍野、お前から見て『先にルールを破った』のはギロチンカッターだな」

 

「間違いなく」

 

「だったら、俺が()()()()()()()()をしても、目をつぶってくれるな?」

 

「何をするつもりだい?阿良々木君」

 

「決まってるだろ、あいつに――ギロチンカッターに()()()()()()()()()()()

 

俺の逆鱗に触れたことを―――地獄で後悔させてやる。

 

「ドラマツルギーさんもエピソード君も故郷に帰ってしまわれたのでね。僕一人であなた達を相手にするのはいかにもしんどい、こうして人質の一人でも取らないと釣り合いが取れないでしょう?」

 

ふざけるな。

 

例え俺たちが人類にとっては害悪だとしても。

 

どんな理由を並べても。

 

それで羽川を傷つけて良い理由にはならねぇだろうが!

 

「ドラマツルギーさんが右脚を、エピソード君が左脚を、それぞれバカ正直に返しちゃってますからねぇ―騎士道精神っていうんですか?変ですよねぇ」

 

違う。

 

騎士道精神なんかでは断じてない。

 

それはきっと、プロとしての矜持だ。

 

それが例えどれだけ気が進まない事でも

 

自分に対して何の利益がなかったとしても

 

契約を結んだ以上は、それを守る。

 

『信頼』が最も重要だと、忍野が言っていた。

 

プロは、勝手に仕事をするわけじゃない。

 

誰かがソイツ自身をプロとして『信頼』して初めて、『仕事』を依頼するのだ。

 

仕事に徹するドラマツルギーも

 

私情で仕事をしていたエピソードでさえも

 

『プロ』として、ちゃんと契約は遵守するのだ。

 

お前には……絶対に分からないことだろうがな。ギロチンカッター。

 

「ハートアンダーブレードさんはかなり復調しているようですし、あなたとの戦いで怪我をしている余裕はないですよ」

 

「……羽川をどうするつもりだ」

 

「どうもしませんよ、あなたがどうもしないなら――の話ですがね。しかし、あなたがこの娘をどうにかするつもりなら、僕がこの娘をどうにかしますけれどね」

 

そういってギロチンカッターは、羽川を盾のように俺の方へと突き出した。

 

「ちなみに――僕にはあなた方とは違って、人並外れた怪力などは有していませんが、これでも結構鍛えているんです。女の子一人なら、僕でも簡単に殺せます。蘇生させる暇など与えません。一撃で脳を潰します」

 

「悪魔が……」

 

「悪魔?いいえ、僕は神です」

 

ギロチンカッターはもう片方の手を胸の前に当て、誇らしげに宣言した。

 

こいつッ――!

 

『狂信者』だとは思っていたが、まさかこれほどまでとはな……。

 

「故に、僕に敵対するあなた方は存在するべきではありません。僕は神、つまり僕に誓って――あなた方の存在を許しません」

 

神だと――?

 

違うな、お前は神なんかじゃない。

 

「正直あなた程度ドラマツルギーさんやエピソード君だけで十分事足りると思っていたんですがねぇ……あの二人も存外情けない」

 

「良く言うぜ、あの二人を当て馬にして作戦を練っていたって言うのによぉ」

 

忍野によれば、交渉は三人バラバラに行ったが、決闘の順番は相手の都合で決めたのだという。

 

ドラマツルギーは一番槍を

 

エピソードはどこでもよく

 

ギロチンカッターは――殿を志望したそうだ。

 

「別にそんなつもりはありませんでしたよ、エピソード君は一番後輩であるために遠慮しただけでしょうし、ドラマツルギーさんは褒賞目当てでしたからね……あぁいや、そう言えばドラマツルギーさんはきみを仲間に引き入れようとしていたんでしたね。なら、僕やエピソード君にあなたを先に殺されてはたまらないという考えだったのでしょう。まぁ確かに、君の言うことようなも考えていなかったと言えば嘘になります。ただドラマツルギーさんにしろエピソード君にしろ、どちらがハートアンダーブレードさんを退治したところで、結局その手柄は僕の教会が得る運びでしたがね」

 

「楽したかったてことか、悪知恵が回るな」

 

やはりお前は、神ではない。

 

お前はどこまでも―――『人間』だ。

 

卑小で矮小で、そのくせプライドばかり高くて、自分の事しか考えられない―ただの人間だ。

 

化け物よりも、吸血鬼よりもずっと恐ろしい『人間』だよ。

 

「まぁそれも今となっては栓無き事、私は世の中をよくするためならどんな労も惜しみません」

 

雑談が過ぎましたね―――と、ギロチンカッターは言った。

 

確かによく喋る奴だ。

 

人質をとって優位に立ったと思い込んでやがる。

 

「長話が過ぎました、神、つまり僕はこう仰ってます――そろそろ始めましょう。とね」

 

「お前の要求をまだ聞いていないぞ」

 

「おっとそうでした。神、つまり僕はこう仰ってます―――勝負が始まった瞬間、あなたは両手を挙げて―――いや、それでは僕に何か危険が及ぶかもしれませんね、ではこうしましょう。あなたは勝負が始まった瞬間指一本動かさず『参った』と言ってくれればいいんです。勝負は始まった瞬間に決着するという訳ですね」

 

「良いだろう、だがその前に一つ聞かせろ」

 

「何です?神、つまり僕は寛大なので多少の質問には答えましょう」

 

「お前は今回俺の友達だからって理由で羽川を人質に取ったが、もしも俺と関係のない一般人でも、必要があれば使ったか?」

 

「使ったでしょうね、只の人間なんかよりも、神、つまり僕の意思の方がが何よりも重要です。その必要があれば、僕はどんな人間でも人質にするでしょう」

 

「そうか……」

 

ならばもう…遠慮はいらないな。

 

「質問はそれで以上ですか?ならば速やかに―――」

 

「ククッ…」

 

「何がおかしいのです?」

 

「クッ…クククッ……クハハッ!「は「はは「ははは「はははは「あっははは「ははははははは「はは「はははは「は「ははははは「はは「あははは「あーっはははははははははははははははは―――!」

 

「何がおかしいと聞いているのです!」

 

突如として哄笑を上げた俺をギロチンカッターは怪訝な顔で見る。

 

「――これでもさぁ、理解はしていたんだ」

 

「一体何の話ですか?くだらない時間稼ぎは――」

 

「お前たち人間にとって、俺ら吸血鬼ってのは、人間を食らう悪だってことを――これでも一応理解はしていたんだ。だから――お前らがキスショットを殺そうとすることも、人間側の『正義』だって理解はしていた。だから俺もこの決闘では誠実に戦おうって――そう思ってたんだ」

 

実を言えば、俺がやろうと思えばドラマツルギーも、エピソードも、勝負が始まった瞬間吸血鬼の身体能力や異能をフルに使って相手が指一本動かせないうちに簡単に勝負をつけることだってできた。

 

だが俺は、あえてそれはしないことにした。

 

俺達は、人を食らうバケモノ。

 

人間から見れば、俺達は悪以外のなんでもなく、ヴァンパイアハンター共がキスショットを狩ろうとしていることは、人間側の立派な正義なのだ。

 

それを何もさせずに叩き潰しては、あまりにも向こうが報われない。

 

だから俺は、あえて()()()()()()()()()、あの二人を倒した。

 

攻撃のチャンスも、ちゃんと与えてやった。

 

それに、相手が例え罠を張っていようと、奇襲して来ようと

 

どんな汚い手でも()()()()()ならば何も言わないでおこうと決めていた。

 

結局は一人よがりな偽善、あるいは強者の傲慢と断じられてしまえばそれまでだが、俺はそれでも構わなかった。

 

全ては、向こうも向こうで『人間のため』という大義名分があったからだ。

 

だが―――

 

「だが、お前は違う。お前は目的のためならば同族である『人間』すらも犠牲にする!今回だって、俺の友達というだけでお前に敵対すらしていない羽川を人質にとった!そんなお前には最早『人間の正義』は無い!」

 

「何を言うかと思えば、『人間の正義』?まったくもって馬鹿馬鹿しいですね。正義は神、つまり僕にあります、僕が正義です。僕が正しいと思うものが正しくて、悪だと思うものはすべて悪なのです」

 

「だろうな、お前ならそう言うと思ってたよ。これで俺も――――手加減しなくてもよさそうだ」

 

俺はギロチンカッターを睨みつけた。

 

「先ずは羽川からその汚い手を放しやがれッッ!!」

 

その瞬間、羽川を掴んでいたギロチンカッターの腕が付け根からまるで刀で切られたかのように切断された。

 

吸血鬼の異能の一つ、破壊の眼力だ。

 

そのまま使えばギロチンカッターの腕を爆散させてしまい、羽川をも巻き込んでしまうので少しだけ改造した。

 

「縛れ!」

 

俺がそういうや否や、俺の背後から無数の影の手がギロチンカッターに迫り、そのまま黒い十字架となってギロチンカッターを拘束した。

 

あたかも彼の聖人のように。

 

中々皮肉だろ?

 

「羽川ァ!」

 

ギロチンカッターのことは放っておき、俺は崩れ散る羽川を抱きかかえた。

 

「大丈夫か、羽川!」

 

「阿良々木君……ゴメンね…結局足手まといに……なっちゃったね」

 

こんな時まで……お前という奴は!

 

「馬鹿!んなことはどうでもいいだろうが!少しは自分の心配をしやがれ!」

 

「優しいね…阿良々木君は」

 

「……はぁ~全くお前ってやつは……でも、無事でよかった」

 

「あはは……迷惑ばかりかけて……ゴメンね」

 

「それぐらいどうってことねぇよ、友達だからな」

 

「阿良々木君…ギロチンカッターは?」

 

「そこに縛り付けてある」

 

俺はギロチンカッターが拘束されている方向を顎で示した。

 

「そう……頑張ってね、阿良々木君」

 

「おう、任せろ、ギロチンカッター何て俺に掛かれば秒殺だぜ。だから羽川、お前は少し眠ってろ」

 

そう言うと俺は羽川の眼を覗き込んだ。

 

「え………?あら……ら……ぎ…君……?」

 

吸血鬼のスキルの一つ、『魅了の魔眼』で羽川を眠らせた。

 

本当は異性の人間の意思を消し去り、人形に仕立て上げるというスキルだが、これにも少し手を加え、一時的に相手を催眠状態にするものに改造したのだ。

 

俺は眠った羽川を俺の影の中へと沈めた。

 

影の中は外部からの干渉を一切受けない異空間となっているため、そこにいる限り何人たりとも羽川に手を出すことはできない。

 

つまり、この世で最も安全な場所である。

 

「さて――と」

 

それに羽川には、今から始まる惨劇を見せたくないしな………。

 

俺もそろそろ―――我慢の限界だ。

 

羽川を影の中に保護し、俺は拘束したギロチンカッターに向き直る。

 

「悪いな、待たせちまって」

 

「――――――――っ!!」

 

おっといけね、騒がれると面倒だから猿轡をしてたんだった。

 

俺は影で作った猿轡をギロチンカッターから外す。

 

「ぐ――き――貴様ぁ!神である僕にこんなことをして許されると思っているのかァ!」

 

「はぁ?『許す』?誰に向かって口をきいてんだ下等生物が」

 

「許されないぞ!貴様!神である僕にこんなっ――――万死に値する!」

 

「許されないのはてめぇだ!下等生物(ウジ虫)が!」

 

よくも羽川を――――

 

下等生物(ダニ)の分際で、俺の友達をよくも傷つけてくれたな――許さねぇ……お前だけは絶対に楽には死なさねぇ!」

 

そう言うと俺は、両手に二振りの銃剣を創造した。

 

十字架にかけられた聖人の末路といえば、一つしかない。

 

「さぁ―――『()()』の時間だ下等生物(ガガンボ)、小便はすませたか?神様にお祈りは?部屋のスミでガタガタふるえて命乞いをする準備はOK?」

 

「こ――この―――バケモノがァァァァァァ!!」

 

Very Well(よろしい)―――

 

Then Let It Be(ならば)―――

 

―――Slaughter(虐殺だ)

 

「―――殺して並べて(バラ)して揃えて晒して刻んで炒めて千切って潰して引き伸して刺して抉って剥がして断じて刳り貫いて壊して歪めて縊って曲げて転がして沈めて縛って犯して喰らって辱めてやんよ!」

 

その言葉を皮切りに、俺は銃剣を投擲する。

 

「ガッ!―――アアアアアアアアッ!」

 

投擲された銃剣は一方が腕に、もう一方が股間に突き刺さった。

 

相当な痛みであることは想像に難くない。

 

だが―――まだ終わらせない!

 

俺は一瞬にしてギロチンカッターに接近し、その胸の中心に貫手を放った。

 

ズブズブと俺の手がギロチンカッターに沈んでいく。

 

そして俺は、ギロチンカッターの身体の中で拍動する心臓を直接鷲掴みにし、指先から直接吸血した。

 

「いいか、よく聞け下等生物(ゴキブリ)、俺は今からお前を吸血鬼にする。ただし、完全な吸血鬼じゃねぇ、歪な出来損ないだ。身体能力も、スキルも与えられない代わりに、再生能力だけがキスショット級になるように調整する。当然、吸血鬼の弱点も有効だ。そして吸血鬼になったお前を俺がありとあらゆる手段で殺しにかかる。ありとあらゆる苦痛を存分にお前に与えた後、お前には意識を残したまま強制的に俺の奴隷として俺の命令を忠実に実行に移してもらう。具体的には忍野にキスショットの両腕を返還した後、お前はすぐに自分の国へ帰り、お前の教会にいる信者を含めた全員の教会関係者に襲い掛かってもらう。そうしてお前はお前自身が否定したバケモノとなって、お前の仲間に『化け物』と蔑まれながら死んでいけ!」

 

言い終わると同時に俺はギロチンカッターの心臓を握りつぶし、手を抜いた。

 

「あ――あああ――――ああああああああアアアアアアアAAAAAAAA■■■■■■■■!!!」

 

ギロチンカッターが断末魔の叫びをあげる。

 

そうしているうちにギロチンカッターの切り落とされた腕が徐々に再生を始めた。

 

さぁ、殺戮を始めよう。

 

「先ずは『斬殺』だ、お前がキスショットにしたように、今度は俺がお前の四肢を切り落としてやる」

 

そう言いながら、俺は刀を創造する。

 

「先ずは右腕だ」

 

その瞬間、ギロチンカッターの右腕が落ちる。

 

「次に左腕」

 

今度は左腕が

 

「左脚、右脚」

 

左脚が付け根から

 

右脚が膝下から切り落とされる。

 

「最後は――首だ」

 

そう言った瞬間にはもう既に、ギロチンカッターの首が俺の足元に転がっていた。

 

だが、吸血鬼となったギロチンカッターはこれぐらいでは死なない。

 

否、()()()()()()()()()()

 

ニタァ…と、邪悪な笑みを浮かべた俺は再生したギロチンカッターに言う。

 

「まだまだ終わらせねえよ、絞首、銃殺、釜茹で、溺死、電気、火炙り、生き埋め、薬殺、石打ち、鋸、磔、好きなのを選ぶ必要はねぇ、特別コースだ。全部体験させてやるよ!」

 

それから、俺はあらゆる方法でギロチンカッターを殺し続けた。

 

首吊りで殺した。

 

銃で撃ち殺した。

 

煮えた湯で焼き殺した。

 

水の中で溺れさせた。

 

電気椅子で丸焦げにした。

 

火であぶって灰にした。

 

生き埋めにした。

 

毒で殺した、石で殺した、鋸で殺した、磔にして殺した、車で殺した、ハンマーで殺した。芝刈り機で殺した、酸で殺した、凍らせて殺した、爆破して殺した、蹴りで殺した、血を抜いて殺した、病で殺した、皮膚を剥いで殺した、千切って殺した、抉って殺した。

 

殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して―――ありとあらゆる手段を用い、ギロチンカッターを殺して()して()し尽くした。

 

俺は片手でギロチンカッターの顔を掴んで持ち上げる。

 

ギロチンカッターの顔からミシミシと骨が軋む音が響く。

 

「……これで終いだ。死んで()んで()に尽くせ!」

 

そう言って俺はギロチンカッターを頭上へと放り投げ、思い切り拳を振りかぶった。

 

そして、落下してくるギロチンカッターに()()()拳を容赦なく叩き込んだ。

 

パァァァァァァァン!

 

という破裂音と共に、ギロチンカッターは爆散して肉片となってあたり一面に飛び散った。

 

すぐさまギロチンカッターの身体だった肉片は再生能力が働いて人型に寄り集まる。

 

そしてしばらくするとそこには虚ろな目をしたギロチンカッターがいた。

 

「命令だ。ギロチンカッター」

 

「…………」

 

「お前はこれから忍野メメにキスショットの両腕を渡し、すぐさま国へ帰ってお前の所属している教会に行け。そして中にいる者に襲い掛かれ」

 

「…………」

 

ギロチンカッターは無言で頷くと、踵を返して立ち去って行った。

 

吸血鬼のスキルも、身体能力もない出来損ないの吸血鬼では、ギロチンカッターの教会の人間に傷一つつけることは叶わないだろう。

 

奴が所属している怪異狩りの部隊に集団で殺されるのがオチである。

 

再生能力だけは並外れているから中々死ぬことは無いが、しかし、いつかは死ぬ。

 

恐らくギロチンカッターは永遠に続く苦痛を味わいながら、自分の仲間たちに『化け物』と罵られながら死んでいくのだ。

 

それはギロチンカッターにとって、最も屈辱的で、最も嫌悪し、最も恐怖する死にざまに違いない。

 

憐みの感情は一切湧かなかった。

 

いい気味だ。

 

ざまあみろ。

 

これが俺の本質なのだ。

 

全てのものが『無価値であり』

 

全てのものが『どうでもよく』

 

全てのものが『下らない』

 

だからこそ、箍が外れればとことん残酷になれる。

 

救えないほど醜悪な――――俺の本質だ。

 

羽川に見られなくてよかった。

 

俺はそんなことを考えつつ、学習塾跡へと帰った。

 

014

 

翌4月6日 昼

 

吸血鬼にとっては――夜

 

元吸血鬼であるキスショットにとっても500年続けてきた生活習慣という物はそうそう変わるものではなく、例により彼女は寝ている。

 

あの後羽川はどうなったかといえば、彼女を一度影から出して起こし、今度こそ何事もないように俺も一緒に帰った。

 

何故か家まで送られることだけは頑なに拒否したので仕方なく俺は彼女を家のそばまで送っていった。

 

一方今俺は何をしているのかというと―――

 

「遅いな……何やってるんだ忍野の奴」

 

昨晩から帰らない忍野を待ち草臥れていた。

 

あー暇だ。

 

ったく忍野の野郎、両腕は昨日のうちにギロチンカッターが渡しているはずなのに一体どこで油売ってやがるんだ………。

 

俺も寝ようかなー。

 

そんなことを考えながら、俺は次第に睡魔に意識を預けようとしていた。

 

その時だ。

 

ガララ

 

「……ったくやっと来やがったか忍野。遅かったな、待ちかねたぞ」

 

「はっはー、ソレは本来僕のセリフだよ」

 

 

ったく人を待たせていたってのに何意味わかんないこと言ってんだこいつは……。

 

「キスショットの両腕は昨晩のうちにギロチンカッターからもらっていた筈だろ?」

 

「あぁ確かにもらっていたよ、君がそう仕向けたのだからね」

 

「悪いとは思ってないぞ。当然の報いだ」

 

「まぁ確かに、今回のことは委員長ちゃんが君にとってどれだけ大切か知っておきながら仮にもハートアンダーブレードの眷属である(と思っていた)筈の君の実力を軽視した向こうの自業自得といえるけれどね」

 

「それで、昨晩にはもう既に両腕を渡されていた筈なのに今までどこで油を売っていやがったんだ?」

 

「まぁちょっとした野暮用でね。阿良々木君こそ、こうして『夜更かし』してまで僕を待っていたのは何故なんだい?」

 

「お前にちょっとした話があってな。場所を変えるぞ」

 

「……それはハートアンダーブレードには聞かせられない類の話……という理解でいいのかな?」

 

「そんなんじゃねえよ、ただの――個人的な推測さ」

 

「ふーん……ま、いいよ分かった。ちょうど僕の方も君に話があったんだ」

 

ところ変わってここは四階の教室。

 

俺がリフォームしたのは二階の一部屋のみであるため、ここは散らかり放題だった。

 

「まぁ座れよ」

 

「お、気が利くねぇ阿良々木君」

 

俺は椅子を二脚創造して忍野を座らせる。

 

「―――それで阿良々木君、まずは君の話から聞くよ。僕に何の用なんだい?」

 

「なぁ、その前に一つ聞くけど、お前のその火がついてない煙草は何のために咥えているんだ?」

 

地味にずっと気になっていたんだよ……。

 

火種がないのか?

 

「ん?あぁこれの事ね、いやー最近、喫煙者に対して社会の風当たりがすごいでしょ?今じゃ何処に行っても禁煙ばかり……だからせめて、気分だけでもと思ってね?」

 

「そんな世知辛い理由があったのか!?」

 

思ったより生々しい理由だった……。

 

「まぁ尤も、僕は生まれてこの方煙草を吸ったことがないんだけれどね」

 

「そもそも喫煙者じゃないのかよ!」

 

「実はこれには僕のアロハ服と深い関係があってだね……」

 

「ダニィ!?」

 

遂にあのアロハの秘密が明かれるのか…。

 

すげぇ聞きたい。

 

絶対大した話じゃないだろうけれどな!

 

「あれは今から36万……いや、1万4千年前の出来事だったかな……」

 

「あぁ……もういい」

 

まともに喋る気がないことだけは分かった。

 

「はっはー、僕の隠された過去を知りたいならまず課金してもらわないとね」

 

「お前はどこのソシャゲだ」

 

全く……最近はパ〇ドラだのモン〇トだのでいちいち大騒ぎしやがって……。

 

あんなもの、幾らダウンロードは無料だっつってもゲームは課金すること前提なんだからそんなんだったら最初から金使って普通のゲーム買えよ……。

 

やってみたはいいものの、俺には正直何が面白いんだか分からないぞ……。

 

アンインストールはしていないけれどもう何か月もログインしてないなぁ……。

 

それでたまに開いてみるとプレゼントが溜まりに溜まってるんだよなぁ……。

 

しかも気まぐれでログインしたところでやっぱりつまらなくて結局はやめちまうし……。

 

それにおっさんの隠しストーリーなんかに誰が金を払うのかって話だ。

 

あ、でも羽川のキャラがあったら課金する。

 

全種類集めるまで何万でも課金するね、俺は。

 

私服姿の羽川はきっとUSRだな。

 

一億円だって課金してやるぜ。

 

「僕の友達が言うには『あれは詐欺よりも質が悪い』らしいからね実際」

 

「お前に友達なんていたのか」

 

「うん、詐欺師なんだ」

 

「犯罪者じゃねぇか!」

 

しかし不審者と詐欺師か……。

 

あ、うん納得だわ。

 

すげー自然。

 

『類は友を呼ぶ』って本当だったんだなぁ……。

 

「ちなみにもう一人暴力大賛成主義の女友達がいるんだけれど……」

 

「碌な友達がいねぇな!?」

 

誰一人としてまともじゃねぇ……。

 

お巡りさんこいつらです。

 

「ま、茶番はさておき、そろそろ本題に入ってくれないかい阿良々木君。僕は話好きではあるけれども、意味のない話を聞かされるのは、あまり好きじゃないんだ」

 

「……」

 

よく言うぜ…。

 

アレだけ俺に四六時中雑談を振ってきやがったやつが何言ってんだ…。

 

ともあれまぁ、本題に入ろうというのには賛成である。

 

「―――やっぱりさぁ、弱すぎるんだよ」

 

「ヴァンパイアハンターの連中がかい?」

 

「実際に三人まとめて相手して―――さらにその後一人ずつ個別に戦って実力を測っては見たもののさ―――どう考えてもあいつらだけでは()()()()()()()()()()()()()()()筈なんだ」

 

「………」

 

忍野は黙って聞いている。

 

「幾ら歴戦の吸血鬼狩りのプロフェッショナルと言ったってさぁ、『怪異の王』であるキスショットには到底敵うはずもないんだ。それだけキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードっていう存在は()()()()し、あいつらはキスショットにとっちゃ()()()()。どんな手段を用いたところで、()()()()()()()()キスショットに勝てる訳がないんだ」

 

「つまり阿良々木君は、まだ誰か別の人物が関与しているって思っているわけだね?」

 

―――君のような勘のいいガキは嫌いだよ。

 

と、忍野は低い声で言った。

 

「―――なぁんて嘘嘘冗談だよ阿良々木君、でも本当、君は良い勘してるよ」

 

―――そうだよ、僕だよ。

 

「僕が―――トモd……じゃなくて、キr……でも無くて、僕が、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードを弱体化した犯人だ」

 

「―――やっぱり、お前だったんだな」

 

「全く気付かなかっただろう?」

 

「暇を持て余した――」

 

「野郎どもの―――」

 

「「遊び」」

 

「……って何やらせとんじゃい!」

 

「はっはー、ノリがいいねー阿良々木君は」

 

主に零崎記識とかいうバカの所為でな。

 

「……ともかく!お前が俺が睨んでいた通り誰にも知られずにキスショットのパーツを抜き取っていた張本人って訳でいいんだな?」

 

「そだよー」

 

忍野は相も変わらず軽薄にそう答えた。

 

「でも実際、今まで君が散々言ってきた僕が真のラスボスだったなんてまさか思いもしなかっただろう?」

 

「いいや、お前しかいないと思っていた」

 

「へぇー、いつから疑っていたんだい?」

 

()()()()()、最初、あの夜にお前と初めて会ったその時から」

 

「お慕い申し上げておりました?」

 

「そうそうお慕い――じゃねぇよ!気持ち悪い!」

 

俺は男色家じゃねぇ!

 

こらそこ、腐ってんじゃないぞ。

 

「真面目なシーンなんだから茶化すな!」

 

「僕に言われても困るなぁ」

 

全部零崎記識とかいう奴の仕業なんだから。

 

あんの野郎……

 

俺が現実にいたら絶対ぶっ飛ばしてやる。

 

「ともかく、俺は最初からお前を疑っていたってことだ。あんな都合のいいタイミングで現れて剰えそちらからキスショットのパーツが確実に戻るように交渉しようだのと持ち掛けてくるあたり、どう考えたって部外者なわけがねぇだろうが」

 

何が通りすがりのおっさんだ。

 

完全に意図して通りすがってんじゃねぇか。

 

「だとしたら今まで何も言わなかったのは…一体何故だい?」

 

「都合がよかったからだ。お前にどんな狙いがあるのかは知らねぇが、お前の提案自体は俺にとっては都合がよかった。だからとりあえず、連中から手足を取り返すまで、様子を見てお前の狙いを探ることにしたんだよ」

 

「それで連中がを全て退けた今、僕にこうして本当の狙いを問い詰めに来たと」

 

「そうだ」

 

「一応聞いておくけれど、証拠はあるのかい?」

 

「無いな。全ては俺の勝手な推測でしかない、だからこそ今、お前とサシで場を作った。だがその発言は、肯定したことと同じだぜ、忍野」

 

「成程…はっはー、おめでとう阿良々木君。ご名答だよ。拍手を送るよ」

 

「認めるんだな?」

 

「そう、認めるよ。推理小説でトリックを見破られた犯人の如くね。全て洗いざらい吐こうじゃないか、いやー、一度でいいからこういうのやってみたかったんだよねー」

 

「じゃあ、まずは理由からだ。まぁ大体予想はついているがな」

 

「理由ね、推理小説風に言えば犯行動機ってやつだね。では説明してあげよう阿良々木(ワトソン)君、僕がこんなことをした理由は言うまでもなく『バランス』さ」

 

「やはりな」

 

「僕もそもそもは本当に通りすがりでしかなかったんだけれどさあ、ある日夜道を歩いていたら洒落にならないほど物凄い力を持った吸血鬼がいたから――それが『怪異殺し』であることも同時に想像がついたし、それほどの力を持った吸血鬼をヴァンパイアハンターの連中が見逃すわけもないと思ったから()()()()()()()()()()その『心臓』を抜いておいて弱体化させておいたのさ」

 

「『心臓』か――そんな重要な部位を、よくもまぁ抜き取れたものだな」

 

キスショットはヴァンパイアハンター共に奪われた四肢以外、失ったパーツには気が付いては無かったから、抜き取られているなら内蔵のどれかだとは予想はしていたが……。

 

まさかよりにもよって『心臓』とはな―――。

 

人間にとっては1、2を争うほど重要な部位であることは言うに及ばずだし―――

 

『血液』と密接なかかわりがある吸血鬼にとっても、心臓は重要部位である筈なのだ。

 

そりゃあんな格下にも負ける訳だ……。

 

「正直、楽な仕事じゃなかったよ。寧ろこれまでの仕事のなかでも一番骨が折れたし、命の危険を覚悟していた。死ぬかと思ったことも一度や二度じゃないね。それでも何とか大蒜を持って聖水を武器に、コソコソと身を隠しながらなんとかやり遂げたけれど、それでも連中のほうが有利になった訳じゃない。平等だ。どちらの勝率も五分五分で、それ以上でもそれ以下でもなかった。その結果として今回は連中の方にツキがあったってことだろうね。それで連中にハートアンダーブレードが殺されれば、僕の仕事も終わり―――の()()()()

 

「俺の登場か」

 

「まさか予想外だったよ……吸血鬼を自分から血を吸わせてまで助けようとする人物が存在したなんてね。更に驚いたのは、ソイツがハートアンダーブレードをも上回るほどの力を有している人間から外れた『例外』だったことさ」

 

あの時は本当――参ったね。

 

と、忍野は軽薄に笑った。

 

「ビックリ何てモノじゃあ済まなかったねアレは……何せ、昨日今日で吸血鬼になったはずのルーキーが、既に歴戦のヴァンパイアハンターの連中をも軽くあしらえるほどに吸血鬼の力を使いこなしているんだって言うんだから。あの時は珍しく焦ったよ。何とかギリギリで連中を殺させないようにすることには成功したけれど、しかし僕の努力は()()()()()()()()()()()()()()といえる程の存在の出現によって水泡に帰してしまったわけだ。骨折り損のくたびれ儲けとは、まさにこのことだね」

 

「それは悪いことをしたな」

 

ちっとも悪いとは思っていないが。

 

「でも、これ程までのことも、全ては未だ序の口でしかなかったって言うんだから、僕としては笑うしかないよね。いつも笑ってはいるけれど、笑うしかない状況にされたのは流石に初めてだよ」

 

――ヤレヤレお手上げだ。

 

そう言わんばかりに、忍野は肩を竦めた。

 

「君たちの塒に案内されて、君とハートアンダーブレードを見比べて、君から詳しい情報を聞いて、僕ぁ内心腰が抜けそうになったね。何だい『例外』って、『人間』でも『怪異』でもない全く新しい上位存在だって?一体何の冗談だと思ったね。もしかしてこれは夢なんじゃないかとすら思っていた。でも、今までの僕の経験が、それを許さなかった。君だけならまだ何とかよかったものを、()()()()()()()()()()()()()()がいつの間にか吸血鬼でなくなっているんだというんだから、言い訳はできなかった。否、許されなかった」

 

へぇこいつ…あの時は平然を装っちゃいたけれどそんな心境だったのか。

 

「それに君は、ハートアンダーブレードのように弱体化させることはどうやらできそうになかったからね、何とか君に手加減してもらうように必死で場を整えたのさ」

 

「それはご苦労なこったな」

 

意外と苦労人であった忍野である。

 

「君に何でもありの殺し合いをさせてしまえば、連中の命は吹けば飛んでしまう埃のようなものだし、下手したら余波で街に被害が出てしまうかもしれないからね。何とか『ゲーム』という形にして暗黙のルールとして()()()()()()()()、連中を何とか丸め込んで、そこまでやってようやく場が整ったのさ」

 

あー……うん、マジでお疲れ。

 

忍野が苦労人過ぎる…。

 

こんなヘラヘラしてても裏でスゲェ苦労してたんだな……。

 

今までいろいろ言ってきたが悪い気がしてきた。

 

「でもこれで僕の仕事も残すところ最後まで来たよ。これで僕もようやく枕を高くして眠ることができる」

 

「それは最後も―――()()()()()ってことでいいんだな」

 

「そう、いつも通りだよ阿良々木君。君はいつも通りに、僕とハートアンダーブレードの心臓をかけてゲームをするんだ」

 

「やっぱりお前が戦うのか?」

 

全く弱いという訳ではないが、しかし忍野とて普通の人間だ。

 

いくら策を廻らそうと、幾ら罠を張ろうと、幾ら周到に準備しようと

 

アリは所詮、一匹では象には勝てないのだ。

 

どうせ踏みつぶされる。

 

「はっはー、そういう展開も乙なモノではあるのだけれどね、残念ながら僕みたいなおっさんではどうやったって君に太刀打ちすることはできないよ。だから―――()()()()()()()()()

 

「『助っ人』だと?誰だそれは」

 

「それは後のお楽しみってことで。多分()()()()()()()()()()()()()()んじゃないかな?」

 

『夜になれば』…か。

 

夜行性なのか?

 

ドラマツルギーのような吸血鬼でも雇ったのか?

 

「ともかく、君とその『助っ人』が明日の夜に戦って君が勝てば、僕がハートアンダーブレードの心臓を返す」

 

「お前が勝てば?」

 

「勿論心臓は返さない。心臓は『先輩』に送って二度とハートアンダーブレードの体内に戻らないように処置をしてもらう。『例外』になったとは言ってもハートアンダーブレードの力は弱体化していた時とそう変わらない。彼女からは未だ、大半のスキルが失われている。そうなればまたぞろ連中のようなヴァンパイアハンターに狙われて、いつかは殺されることになるだろうね」

 

「分かった。良いだろう」

 

「ああそれと一つ言い忘れていたんだけれど――」

 

「何だ?」

 

「今回は『殺し合い(デスマッチ)』だから、どちらかが死なない限り勝負は終わらない」

 

「お前はそれをさせないために『ゲーム』をしていたんじゃないのか?」

 

「そうなんだけれど――まぁ、何と言うのかな、今回の『助っ人』はかなりのじゃじゃ馬でね―――僕ですら完全に制御することは不可能なんだ。それに力は全力のハートアンダーブレードと同等か、もしくはそれ以上だから、君とぶつかり合えば絶対に手加減何て効かない――そういう相手なんだ」

 

「キスショットと同等だと?」

 

そんな相手が本当にいるのか……。

 

彼女は今更言う事でもないが吸血鬼の中では『貴重種』だ。

 

俺と同等の力を持っている極めて()()()な存在。

 

それほどの存在は本来、世界に唯一無二であったとしても不思議ではないのに、そうそう易々と見つかるようなものなのか……?

 

「戦闘の余波については『助っ人』と僕が張った『人払い』の結界があるから気にしなくても大丈夫だから、阿良々木君は存分に戦っていいよ」

 

「分かった。だが最後に一つだけ聞いていいか?」

 

「いいよ」

 

「それは―――本当に()()()()()()()()()?」

 

()()()()()()()()()()だよ阿良々木君」

 

「……そうか」

 

「じゃ、僕は準備あるからこれで失礼するね」

 

「おい、お前も話があるんじゃなかったのか?」

 

「僕の話は阿良々木君達はまだ『心臓』を取り返す必要があるっていうことと、その相手は僕だっていう事だよ。阿良々木君が察しがよくてこちらも助かったよ」

 

それじゃあ、またね―――

 

そう言って忍野は去っていった。

 

まぁ、色々あったが兎も角。

 

「両腕、ゲットだな」

 

ミッションコンプリート

 

……とは、残念ながらいかないが。

 

明日のラストバトルのこと、キスショットにも教えねーと。

 

それに―――『助っ人』の正体も心当たりがないか聞いてみよう。

 

キスショットと同等の力を持つ存在―――

 

一体……何者なんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前話投稿後に起こった出来事を三行で!

1 評価バーがオレンジに!

2 お気に入り登録が100件増加!

3 日間ランキング17位にランクイン!(一時だけ)

( ゚Д゚)……。

( つД⊂)ゴシゴシ……。

( ゚Д゚)……。

( つД⊂)ゴシゴシ……。

(;゚Д゚)ナン! (;Д゚)゚デス! ( Д)゚ ゚トー!

あ…ありのまま、今起こったことを話すぜ!

私は一昨日、『外物語』の第6話を投稿したと思ったら、いつの間にか日間ランキング17位にこの作品が(一時だけだけれど)ランクインしていて、さらにお気に入り登録者が100件も増えていて、極めつけには感想が評価バーがオレンジになっていた。

な、何を言っているのか分からねーと(ry

どうも、シリアルキラーならぬシリアスキラー系作者の零崎記識です。

突然ですが……。

な に が お こ っ た !?

日間ランキング17位って……。(一時だけだったケド)

予想外の反響に困惑を隠せません。

いやぁー感想もたくさん来てお気に入り登録も一気に増えてうれしすぎてつい顔がにやけてしまいます。

応援していただいている読者の皆様には感謝感謝です。

この期待にはこれからも作品を投稿していくことで応えていきたいと思います。

タマニサボルカモシレナイケレド(小声)

まぁ筆者のことは置いといて、作品の話に参りましょう。

フースッとしたぜ。

ハイ、ということで今回は無闇君ブチギレ回でした。

いやー、あんなふうに激昂するキャラじゃなかったと思うんですけれど、なんであぁなっちゃったんだか……。

きっとヒロイン妖怪ハネカワ=サンの仕業ですな。

それは兎も角、今回はやっと無闇君本来の性格を出せました。

本来無闇君はあぁ言う風に何に関しても無関心で、だからこそとことん冷酷で残酷になれる…というキャラで、そんな彼が唯一関心を持って感情を発露できるのがキスショットっていう感じを予定していたのですが……。

ハネカワ=サンが予想以上のヒロイン力を発揮してグイグイ来るものですから無闇君がどんどん真逆のキャラになりつつあります。

お前原作で阿良々木君落とせなかったからって無闇君にグイグイ行くなよぉ!

という訳でこの作品のハネカワ=サンさんは原作よりもかなりグイグイ行きます。

本気で無闇君を落としにかかってます。

メインヒロインの(←ここ重要)キスショットはここからどう巻き返していくのか楽しみですねぇ。

傷物語って一応キスショットメインの話のはずなのに明らかにハネカワ=サンの方が出番多いんですよね……。

さてここで問題になるのが次の『猫物語(黒)』ですよ

キスショットは傷物語では学習塾跡に居場所が固定されているので自由度が極端に低いです。

なので自由に動けるはずのキスショットがどのような動きをするのかということですね。

アクティブになったキスショットの真の実力や如何に……?

巻き返せるかどうかは神のみぞ知っています。

何でだろう……下着姿で猫耳生やしたブラック羽川さんを見て無闇君が暴走する未来しか見えない…。

彼の吸血鬼パワーは健在ですから下手すれば暴走する無闇君からブラック羽川が逃げ回るハメになりそう……。

「スゲェ!猫耳の羽川だぁー!」

「にゃんか身の危険を感じるにゃー!?」

的な。

まぁそんなことにはならないですよ……タブン。

それは兎も角傷物語の話に戻りましょう。

ちょっとずつ原作との乖離が始まりましたね。

原作では阿良々木君は忍野と戦わずして心臓を入手していましたが今作では心臓をかけて最後のゲームをすることになりましたね。

それもこれも前話から地味にそうなるフラグを潰すように少しづつ原作を改変してきた結果ですね。

ですのでここからはちょっとだけオリジナル展開が入ります。

まぁそこまで原作から乖離する話ではないのですがね。

さて、今回で無闇君が実は舐めプしてた理由が判明いたしました。

彼には彼なりの考えがあったという事ですね。

彼が舐めプしていた理由はざっくり説明してしまえば自分と相手との実力差がありすぎて本当は『戦い』という形にすらもならないはずでしたが、それだとあまりにも相手のメンツを潰してしまうので、一応『戦い』にはなるように手加減していた…という事です。

無闇君なりに気を遣ったという事ですね。

え?ギロチンカッター?

知らない子ですね。

羽川さんに手を出す輩は死すべし。慈悲は無い。

やっと『残酷な描写』タグが仕事してくれました。

今回の戦い、エピソード戦と比べれば無闇君の怒りには天と地の差がありますね。

最高潮を100とすると、エピソード戦のときが50程度で、今回が1000ってところですね。

もうなんか無闇君怒りのせいで吹っ切れちゃって笑い出しちゃいましたからね。

あーあさらったのが羽川さんじゃなければ生きていられたのになぁ……。

そうでなくとももうちょい羽川さんの扱いに気を付けていればあそこまでやられることもなかっただろうに……。

自業自得ですな。

さてここからは補足です。

キスショットの状態について。

『外物語』のキスショットは原作と違って幼女化しません。

それはキスショットが『例外』になったと同時に彼女の存在力が底上げされたことが原因です。

自分の身体を縮めなくとも生命を維持できる程度まで彼女の存在力が底上げされたからです。

しかし、吸血鬼としてのスキルは手足と一緒に奪われており、手足を取り戻すごとにすこしずつ回復しているという事です。

では次回の話

次回はキスショットと無闇君のおしゃべり回がメインですね。

遂に無闇君の願いが明らかに!

……ってもったいぶっておいて申し訳ないのですが、結構普通な願いです。

意外性とかちっともないです。

寧ろその後明かす予定のラスボスの正体のほうが意外ではあるかもしれません。

いや…予想できてるかな……。

まぁともかく、次回はキスショットヒロイン回とだけ言っておきましょう。

次回予告

『外物語』《傷物語編》最終章―――突入

遂にすべてのヴァンパイアハンターを退け、奪われた手足を取り戻したキスショット。

そんな彼女が零崎無闇に聞く彼の願いとは

そして現れる…最後の敵。

ラストステージにしてラストバトルのラストボス

傷つけ傷つけられてきた傷だらけの物語の最後を飾る者の正体とは―――

次回『外物語』第8話 近日更新予定

残りあと2話!

コメントをくださった神皇帝さん、赤頭巾さん、リコッタさん、白黒魔法使いさん

そしてお気に入り登録していただいた読者の皆様

ありがとうございました。

質問・ご指摘は感想欄へどうぞ。

質問をかいてくださった方には可及的速やかに返信したいと思います。

その他のコメントには章の終わりにまとめて返信させていただきます。

それではまた次回。















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008

筆者は小説投稿初心者です。
過度な期待はせずに気楽に見ていくことをお勧めします。
感想・批評は歓迎ですが暴言・悪口は炎上の原因となりますのでおやめください。


015

 

「何?儂と同等の力を持つ存在じゃと?」

 

「あぁ、確かに忍野はそう言った。何か心当たりはないか?」

 

四月六日 夜

 

俺はキスショットに両腕を渡し、キスショットが無事全ての部位を取り戻した後、忍野が言っていた『助っ人』についてキスショットに尋ねた。

 

「うーむ……そんな奴いたかのう…皆目見当もつかんわい」

 

「だよなぁ……」

 

やはり、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードという存在は特別なのだろう。

 

そんな存在がそうそういる筈もないのである。

 

特別とは……ありふれていては『特別』足りえないのだから。

 

「しかし知らぬ間に『心臓』を抜き取られていようとは……思いもしなかったのう」

 

「それだけ忍野の手腕が高いってことだな」

 

あんなナリでも優秀なのだろう。

 

「両腕を取り込んでも儂の力が全力の5割にも届かんのはそういう訳じゃったのか……」

 

「しかしキスショットも心当たりなしかぁ……お前と同格って言うくらいだから有名な奴だろうと思っていたんだけれどなぁ……」

 

「儂はあまり個の存在に関心を抱いたことは無いが、それでも儂と同格の存在が本当にいるのだとすれば、流石の儂も知らないはずがないと思うのじゃが……」

 

「忍野が言うには『夜になれば自分から会いに来る』らしいぞ。夜行性なのかもしれない。ドラマツルギーのような吸血鬼の可能性は?」

 

「じゃとしたらますますあり得んわい、儂も流石にこの世の全ての吸血鬼を知っておるわけでは無いが、それでも儂は吸血鬼としてはオンリーワンでナンバーワンじゃ」

 

「違う怪異の可能性は?」

 

「分からん……」

 

手詰まりか……。

 

やはり会ってみるしかなさそうだな……。

 

「もし仮に全力のお前と俺が戦ったらどちらが勝つと思う?」

 

「どうじゃろうなぁ……そればかりはやってみなければ分からん。『心臓』を取り返してもらう必要がある手前、うぬが勝つと言いたいのはやまやまじゃが……儂も自分の実力にはそれなりに自信を持っておるし、どちらが勝つのかは試してみるまで分からんじゃろう」

 

「同感だ」

 

幾ら俺とは言っても相手は同じ『例外』の素質を持った存在であることだけは確実だ。

 

そんな奴が相手ならば少なくとも俺の方も全力でぶつからなければならないだろう。

 

「―――時に我が同族よ」

 

「ん?なんだキスショット?」

 

「未だ『心臓』が残っているとは言え、儂はすべての手足を取り戻した」

 

「そうだな」

 

「ならば、そろそろうぬの望みとやらを開示する時ではないか?うぬは確か以前こう言いおったよな『全ての手足を取り戻した時に話す』と、今がその時ではないか?」

 

「よく覚えていたなぁ」

 

「ホレホレ早ぅ言うてみい」

 

「何でお前のほうが乗り気なんだよ……」

 

すげぇグイグイ来るなぁ……。

 

「よいではないか、儂何気にずっと気になっておったんじゃ。もう聞きたくて聞きたくてうずうずしておる」

 

「いや…俺の願いにそこまで期待されても困るんだが……」

 

「いやいや、期待も高まろうというものよ、何せ我が同族が欲するものじゃ、大抵のモノは自分で手に入れられる能力を持っておるうぬが態々儂に願う物じゃぞ、地味にずっと考えておったのじゃが全く見当もつかんわい。これは期待するなというほうが無理な話じゃろうよ」

 

私、気になります!的なオーラ全開のキスショットさん……。

 

うわぁ…スゲェワクワクしてる顔だ…。

 

キスショットさんのプレッシャーがぱないっス…。

 

そこまで期待されていたとは思わなかった……。

 

しゃーない、覚悟を決めるか。

 

「分かった、話すよキスショット。だがその前にちょっとしたお喋りに付き合ってくれないか?」

 

「いいじゃろう、うぬにも心の準備という物があろうからのう」

 

「じゃ、場所を変えようぜキスショット」

 

「ふむ、ではたまには外で月でも見ながら喋るとするかのう、正直ずっとこの部屋にいたものじゃから久しぶりに外の空気が吸いたいわい」

 

「いいなソレ、なかなかオツじゃないか」

 

「ついてこい、我が同族」

 

そう言うとキスショットはバサッっと大きな蝙蝠の翼を広げて板が打ち付けてあった窓から板を突き破って外へと飛び出した。

 

俺も彼女に倣って外へと飛び出す。

 

彼女が向かったのはこの廃ビルの屋上……というか、屋根の上だ。

 

月や星の明かりに照らされたキスショットは、とても美しく見えた。

 

どんな絵画でもこの美しさを表現することは不可能なほどの美だった。

 

俺はキスショットの隣に降り立ち、すぐそばに座った。

 

「やはり夜の星空という物は良いものじゃのう」

 

「そうだな……」

 

夜の住人たる吸血鬼だったキスショットにとって、夜空というのは特別なのだろう。

 

「して、我が同族よ。何の話をするつもりじゃ」

 

「特に決めちゃいないが……そうだな、まずはお前の話が聞きたいな。この500年の事を」

 

「残念じゃが、語るべきことはあまりないのう。基本的には退屈な五百年じゃったからのう……唯一語れることがあるとすれば……やはり『あの男』の事かの」

 

「あの男?」

 

「儂の……最初にして唯一の眷属じゃよ」

 

「眷属なんていたのかお前」

 

「そやつは―――戦士じゃった……うぬほどではないが、そやつも儂が背中を預けるに足る、凄腕の戦士じゃ」

 

そして、キスショットは語りだす。

 

「四百年前の事じゃな、若さにかまけて世界中をふらふらとして初めてこの国を訪れた頃に出会った男じゃ」

 

「四百年前の日本の戦士……というと、ソイツは武士か」

 

「この国に来るのは久しぶりじゃが、随分と平和になったものじゃな」

 

「殺伐としていたほうがよかったのか?」

 

「別に…そういう訳では無いわい」

 

「そいつはどんな奴だったんだ?」

 

「『専門家』じゃよ」

 

「忍野と同じ仕事をしていたってことか?」

 

「どちらかといえばヴァンパイアハンター共と同じといったほうが正しいかのう」

 

「怪異狩りか、よく眷属にしたな」

 

「まぁ、そのころはいろいろあっての、儂は奴に敵だとは思われていなかったのじゃ」

 

「ほう……」

 

そう言ったキスショットは、何処か遠い眼をした。

 

「…なぁ、ソイツってやっぱり今はもう……」

 

「うむ、既に死んでおる」

 

「やっぱり……」

 

もしソイツが今も生きているのだとしたら、キスショットは今、こんな状況にはなっていないだろう。

 

「その形見が―――これじゃ」

 

そう言ってキスショットは自分の腹に手を差し込み、腹の中から刀を抜刀した。

 

全長2mはあろうかという大太刀だった。

 

「その刀は?」

 

「銘を『心渡』という。『()()()()』の異名をとる()()じゃ。無名の刀工の一品とのことじゃが、なかなかの業物らしいぞ……ま、儂にはよう分からんがのう」

 

「『怪異殺し』って確か……」

 

「もともとはこの刀の異名じゃ」

 

「ちょっと触らせてもらってもいいか?」

 

「よかろう、ホレ」

 

俺がキスショットから『心渡』を受け取ると、じっくりと見分する。

 

「……スゲェなこれ、刃の鋭さが半端じゃない」

 

そう言いながら俺は『心渡』を返す。

 

「ふむ、我が同族よ、人型の的になるものを用意できるかの?」

 

「あぁ、いいぞ」

 

そう言って俺は能力で人型の肉塊を創造する。

 

なんか髪の毛が尖ってて神父風のローブを着ているが、只の肉塊だ。

 

別に他意なんてないぞ?

 

「誰かに似ておらんか?」

 

「気の所為だろ」

 

「いやコレ明らかにギr――」

 

「関係ない」

 

無いったらないのだ。

 

俺は『()()()()()()』を用意しただけなのだから。

 

目の前にあるのはただの的、それだけである。

 

「……まぁ良いか」

 

そう言ってキスショットは『心渡』を水平に一閃。

 

一直線の見事な水平斬りだった。

 

「今儂が斬ったところを確認してみるのじゃ」

 

言われて俺は、先ほど水平に斬られたところを確認する。

 

「無傷だと……」

 

確かに横薙ぎにされたはずの的には、しかし傷一つなかった。

 

チッ……無傷か。

 

「見ての通り『心渡』の切れ味は折り紙付きじゃ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()にな。まぁ儂の腕があっての話じゃがの」

 

「つまり、逆に言えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことか」

 

「その通り、この刀は()()()()()ことのみに特化しておる」

 

「故に『怪異殺し』……という訳か」

 

「怪異に限らん、怪異でも神でも、()()()()()()()()()()すべてに有効じゃ。かすり傷でも致命傷になり得る」

 

何というチートアイテムだ……。

 

流石にそれは反則過ぎませんかねぇ…。

 

しかも持ち主がキスショットって……。

 

絶望しかねぇ……。

 

『鬼に金棒』どころじゃないよコレ。

 

「斬られたのが全力のお前でもか?」

 

「まぁ、そうじゃな。儂はそもそも斬られる前に対処してしまえる故、儂自身が斬られたことは無いのじゃが……『心渡』は()()()()儂の身体を切断するじゃろう。そうなれば不死身であったところで意味などないわい」

 

「何という反則アイテム……」

 

某デスゲームのとげ頭さんも大激怒不可避ですわ。

 

チートやチーターやろそんなん!

 

だってコレ、あのヴァンパイアハンターの連中が三人集まって準備しないとできないことを斬るだけでできるんだろ?

 

キスショットですら殺せるアイテムなんてチート以外の何物でもないですやん……。

 

「見たところ変わった素材でできているみたいだが……何でできているんだ?コレ。お前の怪力にも耐えられるなんてよほどだろう」

 

「この刀はのう、儂の眷属が自らの血肉で作り上げた刀じゃ」

 

そう言ってキスショットは自らの腹に『心渡』を収納した。

 

恐らく、変身能力で自らの体内を刀の『鞘』に作り変えているのだろう。

 

「そいつが死んだ理由ってのはやっぱり―――」

 

「うむ、『自殺』じゃ」

 

「そうか……」

 

「吸血鬼の死因の九割を占める、よくある理由じゃよ」

 

「退屈は人を殺す……か」

 

「純正であれ元人間であれ、大抵の吸血鬼は200年も生きれば死をえらぶものじゃ。しかしあの男は……吸血鬼になって僅か数年で死を選んだのじゃ」

 

―――そんな数年では……大して何も変わらんというのに……。

 

「自らが人類の敵になることに…吸血鬼に『()()()()()』ことに耐え切れなかったのか……」

 

「当時の儂には…想像もつかんかったことじゃ。寧ろ感謝されているとまで思っておった。何せ『()()()()()()』は…儂にとっては人間が牛や豚を食らう事と同じ程度の認識でしかなかったのじゃから……何が悪いのか皆目見当もつかんかった」

 

だろうな…。

 

吸血鬼にとって、『人間を食べる』ことは極々当たり前の、当然のことでしかないのだ。

 

彼女に対して『人を食べるな』というのは、人間に対して『飯を食べるな』と言う事と同じこと。

 

『飢えて死ね』と言っていることと等しいのである。

 

そんな理不尽なことを言われても、キスショットはちっとも理解できなかったのだろう。

 

所詮それは、人間の都合だ。

 

吸血鬼に同じ価値観を求めようなどナンセンスにもほどがある。

 

「そうしているうちに―あの男は死んでいきおった。日の光の中に身を投げ、全身が火達磨になって焼け死んでいく様を態々見せつけるように……最期まで儂に怨嗟の言葉を投げつけて……あの男は……灰になりおった」

 

「じゃあ『心渡』は……」

 

「儂を殺すためにあの男が創ったのじゃろうな」

 

「皮肉な話だな」

 

「以来儂は二度と眷属を作らないと誓ったのじゃ。それから儂は……ずっと一人で生きてきた」

 

―――ずっとずっと暇じゃった。

 

「誰にも理解されないまま、気が付けば儂の名は伝説になっておって、どこへ行っても無用なトラブルばかりに付きまとわれておったわい。500年の月日を生きたが……儂はもう、死にたくて死にたくて仕方がなかった――儂はこの地へ、死に場所を探しに来たのじゃ」

 

「分かるよ」

 

俺も―――かつてはそうだったから。

 

()()()()()()()()―――の話じゃがな」

 

「……」

 

「まさか死に場所を探すつもりでこの地を訪れたはずが、こんなところで『同族』に出会うとは―――さすがの儂も内心驚いたものじゃわい」

 

「俺もだよ」

 

「それからは退屈せんかったな……うぬはやることなすこと無茶苦茶じゃった。特に、うぬと出逢って吸血鬼でなくなってしまったことは……儂の人生最大の驚愕と言ってよかろう」

 

「だろうな…」

 

そうそうあることでもあるまい。

 

500年吸血鬼として生きてきたのに、いきなり別の存在に変わっちまったのだからな。

 

驚かないはずがない。

 

「――さて、儂の話はこのくらいじゃ。今度はうぬの話をしてみよ」

 

「俺の話か?」

 

「儂にばかり過去を話させといてうぬも話さないのは不公平じゃろう」

 

「つってもなぁ…俺の人生にも語るべきことなんてないし……大方キスショットと同じような詰まらない話だぞ」

 

「よいよい、聞かせろ」

 

「そうだな……俺の人生は、それはそれは退屈なものだったよ」

 

そう言って、俺は自分の過去を語った。

 

この身に宿る例外性の事を――

 

求められるままに搾取され、最後には孤独になったこと――

 

全てのものが取るに足らなくなって、世界の全てに絶望したことを――

 

すべて――話した。

 

「――っと、俺の過去はこんなものだ。正直人に聞かせるような話じゃないがな」

 

「そうか……じゃからあの時、うぬは儂を『同族』と呼んだのじゃな」

 

「あぁ、あの時のお前の眼は、過去の俺とそっくりだったからな。お前が俺と同じ存在であることは、一目で分かった」

 

「しかし……じゃとすれば妙じゃな、うぬの過去が本当であるとすれば、うぬは今、ここにいるはずがないではいか、そうだとすればうぬはまるで――」

 

「まるで、異世界から来たよう人間のよう――だろ?」

 

「うむ」

 

「そう、お前の言う通りだ、俺は元々、()()()()()()()()()()()

 

「ほう……」

 

「なぁキスショット」

 

「何じゃ我が同族よ」

 

「お前は、この世界がもし『作り物』だとしたらどう思う?」

 

「何?」

 

「これはある人物の受け売りなんだが―――」

 

俺は立ち上がり、『アイツ』のように語りだす。

 

「世界には、様々な『物語』がある。それは映画やドラマ、アニメやゲーム、小説や音楽といった、人間の創作物に限らない、この世に生きとし生ける者たちの一生すらも、物語になりうるんだ。人間一人の一生だって、ソイツを主人公とした物語であると言える。俺には俺の、お前にはお前の歴史があるように、それぞれが違った物語を歩み、違った物語を生きている。故にこの世界とは、様々な存在が生きる物語の集合により生じた、物語の重なりであると言えるんだ。つまり物語とはそれ一つで独立した『世界』であって、俺もお前も、それぞれが違う物語、違う世界を生きる別々の存在だ。即ち物語とはこの世にいる存在の分だけ存在し、今この時も、物語、つまり世界は無限に増え続けている。しかし物語とは、誰かによって観測されなければ物語として存在できない。俺はな、キスショット、そういう無数にある世界の全てから隔絶された場所、どんな物語にも干渉しない例外的な場所で物語を観測する存在、『観測者(オブザーバー)』によって様々な物語を、様々な世界を旅するべく『この世界』に送り込まれたんだ」

 

「それは中々に興味深い話じゃのう」

 

「この世界は誰かの手によって作り出された『創作物』で、過去も現在も未来も、さながら『物語』のようにすべてが決まっているとしたら……お前はどう思う?」

 

「んー別段そこまでおかしな話ではないかのう」

 

「へぇ…どうして?」

 

「儂は……今でこそ怪異では無くなりはしたがもともとは怪異じゃったからの。怪異とは人間が語り継ぐ都市伝説、街談巷説、道聴塗説という、言わば人間が作り出した『物語』の登場人物じゃからのう。つまり怪異とは、人間が作り出した『創作物』じゃ。儂らは人間の語り継ぐ『物語』に基づいて存在し、行動する。吸血鬼が血を吸うのも、全ては人間が『吸血鬼は人の血を吸う存在』として語り継いでいるからじゃ。即ち『怪異』とは、『物語』であると言え、うぬの言に従うならば『怪異』とはまた『世界』であると言えよう。であるのならば儂らという存在はそれぞれ独立した『物語』を生きる『別世界』の存在であるし、つまり儂らという存在の一つ一つが別の『世界』であることの証左じゃ。故にうぬが別世界の人間であり、この世界も無数にある世界のうちの一つであるということは、別段儂にとって奇妙でもなんでもないわけじゃな」

 

「成程なぁ……そう言われれば確かにそうだ。『物語』によって成立し、観測されることによって存在し、そして一つ一つが別の『物語』として独立している……そう考えれば怪異とはその存在そのものが一つの『物語』でまた一つの『世界』である……ってことか……成程、これは一本取られた」

 

「じゃからまぁ、この世界が儂らには及びもつかないような存在によって作られた『物語』であり『世界』であり『怪異』であるとしても、そこまで違和感は無いのう。まぁ、流石に『世界そのものが怪異である』とは、なんともスケールの大きい話じゃなぁ…とは思うがの。して、うぬは何故世界を巡る旅に出たのじゃ?」

 

「最初はただの『現実逃避』だ。俺の力を世界に拒絶され、世界に絶望した俺は『観測者(アイツ)』によって世界は無限にあることを知って、だったらそのうちどれか一つは俺ですらも受け入れてくれる世界があるかもしれないと期待して『観測者(アイツ)』の誘いに乗った。ただそれだけの理由だった。だが、今は違う」

 

「何が――違うのじゃ?」

 

「旅の目的そのものは変わっちゃいない。だがそれとは別にもう一つやりたいことができたんだ」

 

「やりたいこととな?」

 

「この世界は、どうやら俺の求める世界ではなかったようだが、しかし、そんな世界でもお前や羽川のように俺と同じように強すぎる力を持つが故に、俺と同じように孤独である奴がいることが分かった、俺はそういう奴らと共に理解しあえるような関係を作りたいんだ。だからさ―――キスショット」

 

俺は、キスショットの金色の眼をじっと見つめながら言った。

 

「俺と――共に異世界を旅する最初のパートナーになってくれないか?この世界が退屈で仕方がないというのなら、俺と一緒に様々な世界を旅しないか?俺のそばで―――共に生きてくれないか?」

 

静寂が訪れる。

 

しばらくの静寂の後、キスショットが口火を切った。

 

「――――は」

 

「キスショット?」

 

「は「はは「ははは「はははは「あっははは「ははははははは「はは「はははは「は「ははははは「はは「あははは「あはははははははははははははははは―――!」

 

キスショットは――笑った。

 

心底愉快だと言わんばかりに――笑った。

 

とても凄惨に――笑った。

 

「まさか!こんな――こんな辺境の!極東の地で!死に場所を探しに立ち寄ったつもりの場所で!ここまで熱いプロポーズを受けることになろうはの!儂が生れ落ちてから五百年余り経つが!こんなことは初めてじゃ!いやはや『人生万事塞翁が馬』とはよく言ったものじゃわい!のう!『()()()()()()()()』!そこまで熱心に頼み込まれたとあってはとても断れぬではないか!よかろう!その誘い乗った!五百年も生きてきて、最早十分と思っておったが!うぬと共にこの命尽きるまで世界を巡るのも悪くないのう!ここではない新たな世界、新たな物語をうぬと旅するなど!儂としても心が躍ってしまうではないか!」

 

「そうか、これからもよろしくな、相棒」

 

「かかっ!儂の命尽きるまで、どこまでもうぬについていこうではないか!」

 

「―――盛り上がっている中、悪いのじゃがのう」

 

「「―――ッ!?」」

 

突如として背後から割り込んできた見知らぬ声に俺たちは驚愕した。

 

驚いて俺が背後を見ると、そこには―――

 

()()()()()じゃな、我が仇よ」

 

「キスショットが――()()だとっ!?」

 

そこにいたのは、()()()()()()()()()()()だった。

 

「キスショット?否、我が名は『()()()』じゃ」

 

『忍野忍』と名乗ったもう一人のキスショットは、しかしどう見ても頭からつま先までの全てがキスショットとうり二つであった。

 

まるで、鏡から出てきたようにそっくりだった。

 

いや……違う。

 

姿形はキスショットと同じだが、忍野忍はその体から神々しいオーラを放っていた。

 

――まるで、()()()()()()()()()()()()

 

「何故キスショットと同じ姿なんだ!」

 

「同じ姿であるのは当然であろう、儂は――」

 

忍野忍はキスショットを指で示して言った。

 

「儂は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()故な、姿が同一であるのも当然じゃろう」

 

「その身にまとったオーラ、お前……何者だ?」

 

「儂は……神じゃ。あの小僧の手により、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの心臓を核に、神として作り出された存在じゃ」

 

「忍野に……?お前が忍野の言っていた『助っ人』か!」

 

「いかにも、儂は明日の晩、うぬと殺し合いをする仇として作りだされた者よ」

 

「何をしにここへ来た!」

 

「今日は只の顔合わせじゃ。今うぬとやりあうつもりはない。それに――儂が用があるのは寧ろ()()()じゃ」

 

「―――ぐあぁっ!―――な―何をする!――放せ!放さぬか!」

 

「キスショット!?」

 

慌ててキスショットの方を見ると、キスショットは忍野忍が作り出した影の手によって、忍野忍の影に取り込まれているところだった。

 

「キスショットォ!」

 

俺はすぐさまキスショットに駆け寄ろうとするも、その行く手を見えない壁のような力によって阻まれてしまった。

 

「明日の決戦に備えて、万全になるよう準備をしておきたいからのう、儂の残った身体を返してもらいに来たのじゃ」

 

「クソッ!何だこの壁!」

 

俺が全力で殴りつけても見えない壁は依然として俺を阻み続けた。

 

「無駄じゃ、神の力で作った障壁じゃぞ?核ミサイルを撃ち込まれてもビクともせぬわ」

 

忍野忍はそう言って影の中にキスショットを取り込んでいく。今やキスショットは胸のところまで影に飲み込まれてしまっていた。

 

「ぐぅっ!この――無礼者がぁ!今すぐ儂を放さんかぁ!」

 

このままじゃ埒があかねぇな……。

 

だったら忍野忍自身を叩くだけだ!

 

そう決心すると、俺は間髪入れずに吸血鬼の身体能力をフルに使って忍野忍に殴りかかった。

 

しかし―――

 

「それもまた、無駄じゃ、神である儂に触れることは例えうぬでも叶わん」

 

キスショットへの道を阻んでいる見えない壁と同じものが、忍野忍の前にも展開されていた。

 

「ぐあぁぁっ!―――」

 

そうしているうちに、キスショットは既に首元まで飲み込まれてしまっていた。

 

「キスショット!」

 

手足を飲み込まれ抵抗ができなくなったキスショットは見る見るうちに影の中へと沈んでいく。

 

もう自分ではどうにもできないことを悟ったキスショットは、俺と目を合わせると、優しく笑った。

 

「お前様―――後は……任せたぞ」

 

「キスショットォォォォ!」

 

そう言い残して、キスショットは完全に影に沈んだ。

 

「では儂はこれで去るとしよう、我が仇よ、明日の夜、楽しみにしておるぞ」

 

――精々儂を退屈させないように足掻くがよい

 

そう言い残して、忍野忍は飛び去った。

 

その直後――

 

「――やぁ、阿良々木君」

 

俺の背後から聞きなれた声がした。

 

「何しに来やがった、忍野」

 

俺は振り向いて忍野を睨みつけた。

 

「はっはー、そう睨むなよ、相変わらず元気がいいなぁ、何か良いことでもあったのかい?」

 

「何しに来やがったと聞いているんだ忍野メメ!」

 

「怒鳴るなって、悪かったと思ってるよ」

 

「どの口が言ってんだ!」

 

「いやホントに悪かったって、忍ちゃんのことは僕が謝るから、とりあえず僕の話を聞いてくれ、それともこういえば少しは聞く気になるかな?キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードを助けたければ僕の話を聞くことだって」

 

「……」

 

「僕が何を言っても言い訳になるかもしれないけれど、ハートアンダーブレードが攫われたことは、僕の意図したことじゃないんだ。忍ちゃんの完全な独断専行さ」

 

「戯言を……」

 

「本当なんだって、言っただろう?今回の『助っ人』はかなりのじゃじゃ馬だって。僕でも制御はできないって」

 

「忍野忍は、お前が作り出した神だと聞いたぞ」

 

「そう、忍野忍はまごう事無き『神』だ。つまり人間の僕に制御できる存在じゃない。僕ができることは、彼女に対して『交渉』して神様らしくお願いを聞いてもらう事だけさ」

 

「忍野忍は何者なんだ?」

 

「彼女はね、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの心臓を核として、この街に存在するある神社に昔祭られていた『御神体』を依り代に、僕が作り上げた神なんだ」

 

「体は?心臓とご神体だけでは体を形成することはできないだろ、忍野忍の身体は『何』でできているんだ?」

 

「剣でできている……分かった分かった真面目に話すから睨まないでくれ。忍ちゃんの身体を形作る元となったのはね、『よくないもの』だよ」

 

「『よくないもの』?随分曖昧だな」

 

「簡潔に言ってしまえば怪異になる以前の『存在』にもなり切れない『素材』さ。これが寄り集まると、怪異ってのは生じやすくなる。僕はそういう物の『吹き溜まり』となっている場所から『よくないもの』を集めてハートアンダーブレードの心臓を核、ご神体を骨子にして『忍野忍』という神を作り上げたのさ」

 

「『吹き溜まり』とは何だ?」

 

「そう言う霊的なものを集めやすい環境にある場所というのが存在するのさ。ホラ、偶にテレビとかで見るだろう?所謂『パワースポット』とか『心霊スポット』とか言われている場所のことだよ」

 

「何故奴はキスショットを攫ったんだ?」

 

「恐らく、吸血鬼のスキルを万全に使えるようにするためだろうね、幾ら神になったとは言っても忍ちゃんが持っているのは心臓一つだけ、吸血鬼にとって心臓は最も重要なパーツではあるけれど、でもそれが吸血鬼の全てってわけじゃない、心臓一つだけしか持っていない彼女は、使える吸血鬼のスキルにも限りがある。だからハートアンダーブレードを攫って影に取り込むことで自分の吸血鬼のスキルを補完しようって考えだったんだろう」

 

「あの見えない障壁はなんだ?吸血鬼のスキルにはあんなもの無かったぞ」

 

「あれは忍ちゃんが()()()()持っているスキルだね。所謂『()()()』ってやつさ」

 

「キスショットはどうなる?」

 

「未だ大丈夫のはずだよ、スキルを補うために影に取り込んだとは言っても、彼女ほどの存在と同化しきることは時間をかけなければ無理だ。恐らくは明後日の朝までに忍ちゃんを倒せれば、ハートアンダーブレードは助かる」

 

「だから明日の勝負で決着をつけろ…という事か」

 

「そういう事」

 

「場所と時間は?」

 

「いつも通りさ、これまでと同じ時間同じ場所でゲーム開始だ」

 

「……分かった」

 

「今回のことは本当に悪いと思っているよ。だから君には忍野忍の情報をすべて話したつもりだ。これで許されるとは僕も思っていないけれど……。僕は結界を張る作業が途中だからもう行くね…頑張れよ、阿良々木君」

 

そう言って忍野は立ち去った。

 

俺は、忍野忍を打倒するべく、頭をフル回転させて一人策を練り始めた。

 

016

 

四月七日 夕方

 

学習塾跡二階

 

「……阿良々木君」

 

「来たか……羽川」

 

いつもの場所、いつもの時間に、羽川は訪れた。

 

「そりゃ来るよ、突然メールに『話がしたい』なんて送られてきたら」

 

そう、いつもとは違い、羽川は自分でここに足を運んだわけでは無い、俺が呼んだのだ。

 

「一体どうしたの?いつになく消沈しているようだけれど……」

 

「あぁ…そんな風に見えるのか、今の俺」

 

「見える。だっていつもの阿良々木君は自信に満ち溢れている顔しているもの」

 

……そんな風に思われていたのか。

 

「―――初めてなんだ」

 

「何が?」

 

「こんなこと――初めてなんだ…こんなにも……自分が無力だと思わされたのは…」

 

「―――それは、いつもそのベッドで寝ている筈のハートアンダーブレードさんの姿が見えないことと…何か関係あるの?」

 

「相変わらず鋭いな、お前……」

 

本当に心でも読めるんじゃないだろうか。

 

「キスショットが攫われた」

 

「……誰が…攫ったの?」

 

「忍野忍とか名乗る神だ。どうやら忍野の奴が今回の決闘のために用意した相手らしい」

 

「何のために?人質?」

 

「その神は、キスショットの心臓を核にして作られていてな、忍野が言うには、奴は足りない『パーツ』を取り返しに来たんだそうだ……だというのに俺は…何もできなかった……目の前であいつが攫われかけているというのに……俺は…それを止めることができなかった」

 

「だから……落ち込んでいるのね」

 

「初めてだったよ……あそこまで無力だったのは…俺は『例外』で…不可能なんてなくて……何でもできるって……そう…思っていたんだ」

 

「だけど、初めて自分が何もできないような状況に直面して、自信を失ってしまったと」

 

「まぁ……我ながら女々しい話だが…そういう事だな」

 

「だから私を呼んだの?」

 

「……」

 

「自信を無くしてしまった阿良々木君は、このまま戦いに行くことが怖いから、誰かに励ましてもらいたかった…だから私を呼んだの?」

 

「違う…そう言う訳じゃない」

 

「じゃあどういう訳なのよ」

 

「俺にも分からねぇ…何せこんな経験…今までしたことがなかったからな……この感情にどう整理をつけたらいいのか分からなくなっちまって……あれこれ色々考えたけれど、俺一人じゃどうにもならなかった…だったら誰かに話を聞いてもらえれば、この感情に整理がつくかと思ってな」

 

「だから私を呼んだ…誰かに話を聞いてもらいたくて、友達である私に白羽の矢を立てた…」

 

「まぁ、そういうことだな」

 

「ありがとう」

 

「は?何でお前が礼を言うんだ?」

 

「だって、阿良々木君が私を頼ってくれたことって、今まで無いでしょ?だから、これで阿良々木君に迷惑かけた分が一つ返せるな…と思って」

 

「そんなことを気に悩んでいたのか?」

 

「そう『こんなこと』をいちいち私は気にしていたの。友達が大変な状況にあるのを知っているのに、私が友達にしてあげられることは何もない……正直かなり自分の無力さを思い知らされた気分だったわ。ちょうど今の阿良々木君と同じように……ね」

 

「……」

 

「阿良々木君はさ、失敗したことある?」

 

「無い」

 

即答である。

 

生まれてから一度も…俺は失敗したことがなかった。

 

いや……一度だけやったな。それもデカいやつ。

 

俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「私はあるよ。それもたくさん」

 

「何?」

 

「意外だった?でもね阿良々木君、何でもできる人間なんていないの、誰だって何かしらの欠点があるものなの」

 

そんなことは知っている。

 

だからこそ『欠点がなさ過ぎた』俺は人間から…世界から拒絶されたのだから。

 

「だからこそ、失敗しない人間なんて言うのも、本当は存在しないはずなんだよ。でも阿良々木君は……どうやら他とは随分と違うようだから…今まで失敗したことがなかった。だからこそ今、阿良々木君は失敗そのものじゃなくて『()()()()()()』に戸惑っている」

 

「失敗した……自分…」

 

「阿良々木君は強い人だから、ただ失敗したぐらいじゃそこまで落ち込まないと思う、今の阿良々木君は落ち込んでいるというより()()()()()()のよ、自分がこれまで失敗したことがないから…いえ、()()()()()()()()()()()()()()()()()、阿良々木君はそれを知って驚いて、戸惑っている」

 

「そう……なのか…」

 

「だから阿良々木君はさ、きっと答えを出してもらいたかったんだと思う。()()()()()()()()()()()()()()()私に答えてもらいたかったのだと思う。自分の中にある戸惑いの正体を…私に解き明かしてもらいたかったのだと思う」

 

「俺は……」

 

何も言葉が出なかった。

 

図星だった。

 

羽川の言葉は俺の胸の中にストンと落ちていき、まるでジグソーパズルを完成させるために足りない最後のピースを見つけたような気分だった。

 

「阿良々木君は多分、ただ失敗しただけならすぐに『次失敗しないようにする』ために動くことができる人だと思うの、原因を究明して対策を立てて、今度は成功することができる…阿良々木君の能力なら、それは全部きっと、簡単にできてしまうこと」

 

返す言葉もなかった。

 

認めるしかない。

 

「でも…阿良々木君は戸惑っている、生まれて初めて失敗して、それまで積み上げてきた『前提』が覆されて、阿良々木君は自分の正しさに疑問を持ち始めている」

 

「……」

 

「本当はもう、阿良々木君は忍野忍っていう神様を倒して、ハートアンダーブレードさんを取り返す術を思いついている」

 

「……ははっ」

 

本当に……こいつは何でもお見通しだ。

 

どこまでも…見透かされている

 

「でも阿良々木君は不安なのよ、それまで信じてきていた『自分の正しさ』を覆されて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、分からなくなってしまって、不安になっているのよ」

 

どこまでも…見透かしてくれるよお前は…。

 

だが…不快な感情は全くわかない。

 

寧ろ、すごく清々しい。

 

頭の中に掛かっていた靄が一気に晴れていき、思考が冴えわたっていく。

 

カチリ

 

と、脳内で歯車がかみ合うような音がして、全身に力がみなぎってくる。

 

「でもそれは結局、個人の問題だから、私が答えを出したところでそれは結局『私の答え』でしかなくて、阿良々木君がそれで納得できるわけがない。だから阿良々木君は、自分自身で『自分の答え』を見つけなければならない」

 

忍野忍と戦わなければ…それは分からない。

 

「でもね、答えを見つけてあげることはできないけれど、自信を取り戻すアドバイスみたいなものなら、私にもできる」

 

――信じて…阿良々木君。

 

「阿良々木君は今、自分を信じられなくなっている。だったら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を信じて」

 

その瞬間、俺の脳裏にキスショットが残した言葉が蘇る。

 

そうだ―――

 

キスショットはあの時――俺に言ったんだ。

 

『後は任せた』って――

 

キスショットは、俺を信じて後を託してくれた。

 

だったら、俺がこんなところでいつまでも燻っているわけにはいかない―――

 

それに―――

 

「私も、阿良々木君を信じているから」

 

俺を信じてくれている友人の前で、いつまでも腑抜けているわけにはいかないよな。

 

「あは、阿良々木君いつもの顔になってる」

 

「ありがとう、羽川。もう大丈夫だ」

 

「いいよ、友達だもの」

 

「お前は何でも知ってるな」

 

「何でもは知らないわよ――知ってることだけ」

 

全く……お前ってやつは――

 

ここまで俺を理解してくれる存在は…かつてどこにもいなかったよ。

 

親も、親戚も、友人も

 

誰一人として、前の世界に俺を理解してくれる『理解者』は世界のどこにもいなかった。

 

だが今――こうして俺は『理解者』と出逢う事ができた。

 

感謝するぜ『観測者(オブザーバー)』――

 

お前のおかげで――俺は――

 

「頑張ってね、阿良々木君」

 

―――こんなにも良い友人と出逢えた。

 

「おう、絶対に勝って、今度こそ新学期にお前と会おうと約束するよ」

 

「そう、じゃあこれは餞別」

 

「え」

 

その瞬間、俺の身体に温かい感触が広がる。

 

羽川が俺に抱きついて来たのだ。

 

「は――羽川さん?」

 

「えへへ、女の子にここまでさせたんだから、絶対に約束守ってもらうんだからね」

 

oh......

 

マジかい。

 

これは何としてでも負けられなくなったぞ。

 

だが、もとより負ける気は無い。

 

「心得た」

 

俺はそう言って、羽川を抱きしめ返したのであった。

 

昨日キスショットによってぶち破られた窓から外を見ると、もう日が沈んでいた。

 

約束の時間が、間近に迫っていいた。

 

さて―――囚われになったもう一人の『理解者』を、取り返しに行きますか。

 

「じゃ、羽川、行ってくるぜ」

 

「行ってらっしゃい、阿良々木君」

 

さぁ――『最終決戦』だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




日間ランキングにまたしてもこの作品が!

でも一瞬で消えてしまった……。

無念!

どうも

シリアスを ぶち壊すなら 得意です

その『幻想』(シリアス)をぶち殺す!

シリアス殺し系作者の零崎記識です。

日間ランキングの壁は厚かったよ……。

でもまぁ、こんな筆者の作品が一瞬とはいえランキング入りすること自体、奇跡のようなもんなのですけれどね。

これも読者の皆様のおかげでございます。

ありがたや~(>人<)

さて毎回恒例となりつつある筆者の叫びを一つ

や っ て し ま っ た ー !!!

あー恥ずかしい恥ずかしい!(ゴロゴロ…

完全に筆者の中の無闇君のキャラが崩れ落ちました。

あーセリフがいちいちクサいよー!

いやね、キスショットとのあのプロポーズもどきのセリフは当初から決めていた通りなのでそこまでではないのですが……。

やっぱり羽川さんですよ……。

ま た お 前 か !

もうマジでこれ以上無闇君に黒歴史量産させるのやめてくれませんかねぇ……。

どうか勘弁してください(切実)

羽川さんが出てくると、なんでこんな甘ったるい雰囲気になってしまうのか……。

ブラックコーヒーを飲みたくなってしまった方は申し訳ありません。

全部ヒロイン妖怪ハネカワ=サンってやつの仕業なんです!

筆者自身、書いてて砂糖吐きそうでした。

あぁ^~羽川さんがグイグイくるんじゃぁ^~

羽川さんが可愛い過ぎて辛い。

何故うちの羽川さんはこんなにもヒロインなのか……。

キスショットの立場はぁ!?

やはり羽川さんがメインヒロインを奪い取るのは間違っている!

略してハネガイル!

伝説のぼっちも彼女の前にはきっと陥落するでしょう。

それはさておき、今回のラスボスの登場ですね。

皆さん色々と考えていたと思いますが……。

えぇ、キスショットに匹敵する力の持ち主とは、キスショット自身でしたというオチです。

ひえぇ……石を投げないで!

な ん じ ゃ そ り ゃ あ ‼

という皆さんの声が聞こえてきそうですねハイ。

いやー筆者自身、このラスボスが一番の関門でした。

無闇君の願いは今回書いた通りなので彼が原作のようにキスショットと闘いになる理由がなかったんですよね。

それで彼女以外でラスボスにふさわしいキャラを色々と考えてはみたのですが……。

候補としては4つでした。

1、原作通りキスショットとやり合わせる

2、影縫・斧乃木ペアと無闇・キスショットペアでタッグマッチ

3、心臓で強化した死屍累生死郎と戦う

4、吸血鬼にしたギロチンカッターを心臓で強化して戦う

以上の4つが筆者が考えていた展開で、一番有力なのは2でした。

1は最初から却下で

3は2の次に有力でしたが展開の都合上却下

4は途中まではそれもありかなと思っていたのですが無闇君が激おこしてしまったので没に

006を投稿した時点までは筆者自身2でいこうと思っていたのですが……。

突然ひらめきがありましてね、キスショット自身と戦わせられないなら『もう一人』キスショットを作ってしまえばいいんじゃね?

となりまして…。

そちらのほうがラスボスって感じですし急遽そちらを採用しました。

それでできたのが神キスショット『忍野忍』です。

彼女には吸血鬼+神の力が備わっているので、キスショットよりその分上です。

無闇君よりも下手したら強いかもしれません。

冒頭で説明した通り、無闇君が今使える力は元の力の1%だけで、彼は本当の意味での全力を縛られています。

もし無闇君が全力だったら圧倒的なんですがね……。

ではここからは補足。

忍野忍を神として作り出すための依り代にした『ご神体』とは

そうですアレです。

『囮物語』やら『恋物語』やら『終物語』やらで散々やらかしてくれたアレです。

『北白蛇神社』にかつて祭られていた通称『クチナワさん』のご神体です。

原作の阿良々木君がエロ本に栞みたいに隠していたあのお札ですね。

アレを今使ってしまうということは……

つまりいくつかの物語の重要な伏線を潰したことになりますな。

そして後々そのつじつま合わせに苦労すると。

これが二次創作の宿命でしょうか……。

それと忍野忍を構成する『よくないもの』ですが……。

アレは北白蛇神社で集めてきたモノではありません。

別の『吹き溜まり』で忍野が集めてきたものですな。

これが何を意味するかは原作を読んでいる皆様なら分かるはずです……。

何で3を除外したのか、という理由にはこういう意味がありますね。

では次回の話

いやーついに後1話となりました!

次回にて『外物語』《傷物語編》は完結となります!

長かったなぁ……。

でもまぁ『外物語』はまだ終わらないのですがね。

次は『猫物語(黒)』編に突入します!

羽川さんメインの話ですよ!

嫌な予感しかしねぇ……。

では次回予告

最終決戦――開始!

キスショットを攫った彼女に瓜二つの神、『忍野忍』

キスショットの強力な吸血鬼のスキルに加え、神通力まで得た存在に、零崎無闇はどう立ち向かうのか!

打倒忍野忍に彼が用意した秘策とは――

果たして彼は、彼のパートナーを救い出すことはできるのか――

次回『外物語』《傷物語編》最終回 近日更新予定!

感想をくださったCadenzaさん、神皇帝さん、cojoitaさん、夕凪さん

そしてお気に入り登録していただいている読者の皆様

ありがとうございました。

質問・ご指摘は感想欄へどうぞ。

ではまた次回


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009

筆者は小説投稿初心者です。
過度な期待はせずに気楽に見ていくことをお勧めします。
感想・批評は歓迎ですが暴言・悪口は炎上の原因となりますのでおやめください。




017

 

忍野忍

 

キスショットと鏡に映ったように瓜二つの容姿。

 

キスショットの『心臓』を核に

 

とある神社の『御神体』を骨子に

 

『吹き溜まり』の『よくないもの』を肉に

 

『専門家』忍野メメによって作られた――

 

人造の――『神』

 

全力のキスショットと同等の力に加え、『神通力』をも有する。

 

『最後』にして『最強』にして『最大』の敵。

 

『吸血鬼』『ハーフ』『人間』と戦ってきて――最後は『神』か。

 

まるでオールスターだ。

 

 

「―――来たか、我が仇よ」

 

「来たぞ、忍野忍」

 

四月七日 夜

 

直江津高校のグラウンド

 

俺は、忍野忍と相対する。

 

「――一つ、聞いていいか?」

 

「何じゃ?」

 

「お前は――一体何のために俺と戦う?」

 

「無粋なことを聞くでないわ、そんなことはうぬならばとうに理解していることじゃろうに」

 

「お前の口から聞きたいんだよ。忍野忍としての、お前の答えがな」

 

「ふん、『忍野忍』か……」

 

彼女は忌々しげに言った。

 

「忌々しい名じゃ…この名前のせいで、儂はあの小僧に縛られておる」

 

「名前には力がある――か」

 

「儂はな、我が仇よ、神は神でも『式神』じゃ。あの小僧によって、うぬを倒すことだけを目的に作られた存在なのじゃ。確かに、多少の自由はある。じゃが、儂は根本的にあの小僧の言いなりじゃ。自由が利くとは言ってもそれはあの小僧の命令に反しない限りにおいての話じゃ。あの小僧の命令に逆らうような行動は絶対に取れない」

 

「つまり―――好きで俺と戦うわけでは無いと?」

 

「いや、そうは言っておらん。うぬとの戦いは、儂にとっても楽しみで仕方がないことじゃ……ただ、今の状況は儂が『戦う』というより『戦わされている』ような気がしてのう、心から自由にうぬと戦えないことが……どうにも惜しく思えてのう」

 

「お前は―神なんだろう?だったら、人間の束縛など、容易く抜け出せるんじゃないか?」

 

「神とて人の創作物よ、怪異と何も変わらん。その存在意義に背けば、儂らは即刻『世界』から排除される。人が儂にかくあれと命じ続ける限り、儂はそれに逆らえんし、人が儂に命じ続けぬ限り、儂は存在できん。所詮は怪異も神も、人間の奴隷よ」

 

「怪異も神も――同じ……」

 

「そう――故に儂は、儂の意思など何も関係なくうぬと戦う。そうあれと作られたために…そうせよと命じられた為にな。それが儂の『存在意義(レゾンデートル)』じゃ――そしてうぬの問いに、儂はこう答えるであろう。儂がうぬと戦うのは、『()()()()()()()()()()()()()()()』じゃ」

 

「そうか…」

 

「儂は…うぬが羨ましいわい……何物にも縛られず、自由にいられるうぬが…『例外』が、とても羨ましい」

 

「そんなに良いものでもないさ、何物にも縛られない、いや――何物でも縛れないって言うのは…つまり、()()()()()()()()であることと同義だからな…異端者は排除されるのが、この世の常だ」

 

「かかっ…所詮、『隣の芝は青い』……ということかのう」

 

「違いない」

 

「さて、お喋りはこのくらいでよいじゃろう。そろそろ始めようではないか」

 

「同感だな」

 

さぁ――

 

最後の戦いを――

 

――始めよう

 

「死ぬがよい我が仇!」

 

「死んでもらうぞ俺の敵!」

 

そして衝突。

 

俺は自分の力をあらんかぎり生かし、最速の拳を叩き込んだ。

 

しかし――

 

「ぐっ――!」

 

「無駄じゃ!」

 

だがそれは昨日の焼き直しのように、俺の拳は忍に届くことは無かった。

 

やはり力押しではダメかッ……!

 

「今度はこちらの番じゃ!」

 

そう言うや否や、忍は手刀で俺の顔面目掛けて横薙ぎにする。

 

俺は後ろに反り返って手刀を躱し、バク転の要領でそのまま忍を蹴り上げる。

 

「無駄じゃと言っておろうが!」

 

が、防がれる。

 

脚でもダメか……。

 

だが、そんなことは想定済み。

 

俺は忍の障壁を足場に、そのまま背後に跳ぶ。

 

「これでも食らえ!」

 

キッ!

 

と、俺が忍を睨みつけると、その周囲の地面が地雷のように爆発する。

 

最大出力の破壊の眼力だ。

 

それでも忍は依然として無傷。

 

「いい眼力じゃが…それも無駄じゃ」

 

吸血鬼のスキルでもダメか…。

 

「だったらこうだ!」

 

俺の影から伸びる無数の黒い刃が忍を切り刻まんと迫る。

 

「当たっても問題ないが…偶には迎撃せんと芸が無いのう」

 

今度は忍が眼力を放つ。

 

一瞬にして影の刃は吹き飛ばされ、俺の方まで衝撃波が押し寄せる。

 

「クソッ!」

 

すぐさま能力で壁を創造し、防御。

 

だったら…!

 

俺は全力のキックで壁を蹴り飛ばす。

 

瓦礫となって吹き飛んだ壁は、忍に散弾銃のように炸裂する。

 

それでも――無傷。

 

「単調な攻撃ばかりじゃのう、うぬ、本当にやる気あるのかの?」

 

「言ってろ」

 

今のは只の目くらまし。

 

本命は――

 

撃て(ファイア)ッ!」

 

忍の背後に創造した、億を超える戦車の大砲だ。

 

砲身だけを虚空から出現させた戦車が、一斉に火を噴く。

 

凄まじい爆音と破壊が齎され、土煙が立ち込める。

 

「かかっ!今のは少しびっくりしたぞ。が、無意味じゃ」

 

背後からの不意うちでも効果なし…。

 

「どうした?手品は終わりか?」

 

「はっ!まだ終わらせねぇよ!」

 

ダンッ!

 

と、俺が地団駄を踏むと同時に、忍の足元の地面が突起となって襲い掛かる。

 

「儂の護りに隙はない。どこから攻撃しようと無意味じゃ」

 

下からの攻撃も失敗か。

 

だが、それも想定内。

 

「なら反応できないような攻撃をするだけさ!」

 

次の瞬間、忍の足元の土がセメントのように溶け、その足首を取り込んで固まる。

 

「これでどうだ!」

 

俺が空に作り出した雷雲が光り、忍目掛けて雷撃が落ちる。

 

閃光、轟音。そして衝撃。

 

「何でもやるのう…面白い手品じゃ。じゃが、それで儂を傷つけることはできんよ」

 

「反応できない速度でもダメか……」

 

どうやら忍の神通力は常に彼女の周囲を囲っているようだ。

 

それなら押しつぶす!

 

俺は忍の頭上に巨大な鉄の重りを創造し、忍目掛けて落とす。

 

「大盛りサービスだ!」

 

更に十を超える同じ重りをその上に落とし、最後には忍の周囲の地面を操り、サンドイッチのように挟み込む。

 

「発想は評価するが……儂の障壁はそんなに甘くはない」

 

次の瞬間、忍を挟み込んでいた地面がバラバラに切り刻まれ、中から手刀を構えた忍野忍が出現する。

 

「圧力もダメ…全く頑丈なことだ」

 

本当に隙が無い。

 

厄介な……。

 

「ふむ……攻撃を受け続けるのにも飽きたわい、では、今度はこちらから攻めるとするかの」

 

その瞬間、忍の姿が掻き消え、刹那にして俺の眼前に現れる。

 

彼女が選んだのは――貫手。

 

最速の攻撃手段だ。

 

しかし、彼女の手刀は俺の身体をすり抜けた。

 

その間に俺はバックステップし、間合いをとる。

 

「……霧化か」

 

「あまりナメてもらっても困るな」

 

「ナメておるつもりはないわい、さぁ、もっともっと戦おうではないか!もっともっと儂に生きる実感をくれ!」

 

「戦闘狂が!」

 

忍は刀を創造し、俺は銃剣を右手にに一本、左手にに三本創造し、鉤爪のように指に挟む。

 

再びの衝突。

 

忍による左下からの切り上げを左手の銃剣で逸らし、即座に右の銃剣で斬りつける。

 

バキィィン!

 

という音を立てて右の銃剣が折れる。

 

間髪入れずに彼女は俺の頭上から一直線に刀を一閃。

 

新たに創造した右の三本と、左の三本の銃剣を交差し、刀を受け止める。

 

「ははは楽しいのう!決められた戦いとはいえ!命じられた戦いとはいえ!こうして誰かと本気で戦うことはこんなにも心が躍る!なぁ!我が仇よ!」

 

「俺は全然踊らねえよ!」

 

そう言うや否や、俺は破壊の眼力で忍の足元を吹き飛ばす。

 

「おっと!やるではないか!」

 

バランスを崩した忍は背中から翼を生やし、空へと飛び立つ。

 

俺もすぐさま翼を生やし、彼女を追った。

 

忍はぐんぐんと高度を上げていき、やがて雲の層を突き破って月の光が照らす空へと飛び出る。

 

グラウンドの上空。地上から約20㎞の地点で俺たちは睨みあう。

 

「さぁ空中戦の開幕じゃ!」

 

その瞬間、忍の背後から無数の槍が顔をのぞかせる。

 

同時に俺も虚空に無数の剣を創造し、次の瞬間、両者の創造した無数の武器が一斉に射出される。

 

無数の武器が飛び交う中、俺達は三度衝突する。

 

互いが互いを貫かんと射出する武器を掴み取り、ぶつかり合って火花を散らす。

 

一合、二合、三合と、ぶつかり合うたびに俺たちは加速する。

 

衝突しては離れ、また再び衝突する。

 

打ち合わせるたびに武器は折れ、その度に俺たちは武器を変えて打ち合い続ける。

 

その速度は、最早音速を超えていた。

 

月明りが照らす夜空に、金属音が響き渡り、所々で火花が散る。

 

「どうしたどうした!その程度か我が仇よ!既に万を超えて打ち合っておるが、儂には未だに傷一つ負ってはおらぬぞ!」

 

「はっ!そう言うセリフはお前が俺に一つでも傷を負わせてから言いやがれってんだ!」

 

しかし、忍の言う事も又事実。

 

武器の扱いは俺の方が若干上のようだが、俺は何度となく忍に攻撃を仕掛けたというのに、忍の障壁を破ることが未だにできていない。

 

高速の連続攻撃もダメか……。

 

体力の方は問題ないが、しかし俺にはタイムリミットがある……グズグズ戦ってもいられないな……。

 

となると……やはり『アレ』しかない。

 

「食らえ!」

 

俺は手に持ったものを忍に投げつけた。

 

「小賢しいわ!」

 

俺が投げつけたものを忍が剣で両断する。

 

その瞬間、忍の目の前で突然光が弾けた。

 

「目くらましとは!姑息な真似を!」

 

しかし、スタングレネードも所詮は人間の武器。神である忍に対しては一瞬目をくらませる効果しか期待できない。

 

だが、一瞬もあれば十分だ。

 

「何処じゃ!」

 

忍はあたりを見回す。

 

だが、どこを探しても俺の姿を見つけることはできなかった。

 

「ということは恐らく…上じゃ!」

 

忍が上を見上げると、空から人影が真っ直ぐに自分に向かって落ちてくるのが見えた。

 

「やはりそこじゃったか!」

 

その瞬間忍は無数の剣を落下してくる俺に向かって一斉射出する。

 

俺は、見る見るうちに蜂の巣になり、忍に向けて落下する。

 

「これで終いじゃ」

 

そして、俺は忍が突き出した剣に頭から貫かれた。

 

しかし――

 

「妙じゃな……手応えがない…?」

 

ピッ……ピッ…

 

「まさかッ!?」

 

忍の耳が電子音を聞き取ったその瞬間、忍が貫いた俺だと思われていた人型の物体は、盛大に血液をまき散らして爆発した。

 

「―――落ちろぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

次の瞬間、爆発に紛れて現れた俺は忍の無防備になった腹に音速を超えたドロップキックを叩き込む。

 

「無駄な足掻きをッ!」

 

当然俺のキックは忍の障壁に阻まれるが、そんなことは関係ない。

 

俺はそのまま忍もろともグラウンドへと墜落する。

 

衝撃波と爆発音。

 

俺は立ち込める土煙の中から抜け出し、忍を墜落させた場所から距離をとる。

 

土煙が徐々に晴れ、俺たちが落ちた落下地点が露わになる。

 

そこは、今までになく巨大なクレーターとなっており、その中心に、忍は横たわっていた。

 

地上20㎞上空から、弾丸と同じ速さで隕石のようにグラウンドに叩きつけられて――

 

「かかっ!まんまとやられたわい、まさか囮なんぞに引っかかってしまうとはのう、いやはや油断はしているつもりはなかったんじゃが……儂も焼きが回ったかのう!」

 

それでも尚、彼女は傷一つ負ってなかった。

 

「今のは儂も流石にヒヤッとしたわい、儂のこの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がなければどうなっていたことやら…」

 

そう言って、彼女はむくりと起き上がった。

 

衝撃で中身にダメージを与える作戦も……失敗か。

 

一切のダメージを遮断する障壁か……。

 

成程、道理で何をしても無傷なわけだ。

 

「それで、今のがうぬの最大の策とみるが、うぬに打つ手は残っておるのか?」

 

「正直、もう殆ど残ってねえよ、しかしなんだソレ、反則じゃねえのか?」

 

「『反則』とは異なことを言う、うぬは鳥に空を飛ぶことが卑怯だと申すのか?神が神の力を使って何がおかしい?全ては使えぬうぬが悪いのじゃ」

 

「ははっ!確かにな!」

 

「時に提案なのじゃが我が仇よ」

 

「提案だと?聞くだけ聞こう」

 

「どうじゃ、ここらで決着をつけようではないか」

 

「何?」

 

「じゃから、前座のじゃれ合いはこれまでにしてここらで互いに本気を出そうではないかと言っとるのじゃ。うぬも短期決戦は望むところじゃろう?」

 

そりゃ確かに俺にとっちゃ都合が良いが……。

 

「分からねぇな、何故お前から短期決戦を提案した?お前にとってはむしろ戦いが長引いた方が都合がいいだろうに」

 

長く戦えば戦うほど、こいつはキスショットと同化し力を取り戻していく。

 

制限時間が無い分、時間に関してはこいつにはかなりのアドバンテージがあるのだ。

 

それを態々放棄してまで短期決戦にする理由が俺には見当たらない。

 

「野暮なことを言うな我が仇よ、儂が時間切れでうぬに勝ったとして、それで満足できるわけないじゃろう。本気のうぬを真っ向から打ち破ってこそ、真の勝利と言えよう」

 

「まるで今まで俺が本気じゃなかったような言い草だな」

 

「隠すこともなかろう、あるんじゃろう?『本命の策』が」

 

「何を根拠に」

 

「うぬはさっき『策は殆ど残っていない』と言った。そう()()と…ということは、うぬが今まで隠していた策があると言うことじゃろう?」

 

「ハッ!バレちまったなら仕方ねぇ、正直、もう少し温存して起きなかったんだがな」

 

「随分と自信があるようじゃな」

 

「あぁ、とっておき中のとっておきの、切り札の中の切り札だ、多分、これが成功すればお前を確実に殺せる」

 

「ほう、それはまた随分と大きく出たものじゃ、ならば、ここまで健闘したうぬに敬意を表し、儂も真っ向から相手になってやる。うぬの『本命』を、儂の全力を持って正面から打ち破ってくれようぞ!さぁ決着をつけようぞ我が仇よ!」

 

「後悔するなよ!」

 

「来い!我が仇ぃ!」

 

「行くぞ!忍野忍ぅ!」

 

そう叫ぶと俺は、一直線に忍に駆け出した。

 

もう、この作戦に掛けるしかない。

 

「何が来るかと思えば、玉砕覚悟の特攻か!よかろう!ならば華々しく、儂に散らされるがよい!」

 

「嗚呼ァァァァァァァァァァァ!」

 

俺は絶叫しながら忍に向かって突き進む。

 

「死ぬがよい!我が仇ぃ!」

 

振りかぶられた忍の拳が、俺に向かって突き出される。

 

全力のキスショットと同じ力を持つ存在の全力の拳が、俺を仕留めるべく襲い掛かる。

 

ガキィン!

 

「な―――何ィッ!?」

 

忍の拳は、俺にヒットする前に()()()()()()によって阻まれる。

 

「何故うぬがッ!それを――――『神の力』を使えるッ!?」

 

驚愕する忍。

 

当然俺がそんな大きな隙を逃すわけがなく、すかさず俺は手を合わせ、手の平から大太刀を出現させ、そのまま忍の振りかぶられた片腕目掛けて一閃する。

 

大太刀の刃は、難攻不落だった忍の障壁を切り裂き、片腕を切断する。

 

返す刀でもう片方の腕を切断。

 

「ぐ――うぅッ!!」

 

「ハァァァァァァァ!」

 

咄嗟に後ろへ跳ぼうとする忍、だが俺の刀はそれよりも速く彼女の両足をまとめて切断する。

 

「くぉッ――!」

 

「これで――終わりだアァァァ!」

 

四肢を失い、体制を崩して仰向けに倒れこむ忍の喉に、俺は大太刀を――妖刀『心渡』を突き刺し、そのまま地面に縫い付ける。

 

ヒューヒュー、と、忍の息が漏れる音が静寂が訪れたグラウンドに響く。

 

俺はゆっくりと忍の喉から『心渡』を引き抜く。

 

「か――かかっ……まさか…うぬが『怪異殺し』を持っている…………とはな…予想外……じゃったわい」

 

「昨日、じっくり見させてもらったからな」

 

物質創造能力は物質として存在していればなんでも作り出せる。

 

たとえそれが、この世に一本しかない妖刀であったとしても、それが存在していれば創造できる。

 

「『怪異殺し』……この世に非ざるものを葬る妖刀か…確かにそんなものを持ち出されれば……儂の『神の力』とて切り裂ける…か……かかっ、その可能性は失念していたわい」

 

「これは俺にとっても最終兵器だった。確かにこれならお前の障壁を切り裂けるが、最初に出してしまえば警戒されて長期戦は避けられなかっただろう。だから…ここぞという時まで取っておいた」

 

「なるほどのう……うぬがあの手この手で儂の障壁を破ろうと試みておったのは…全て…儂の神通力の性質を調べ…本命の策を成功させるための…布石……じゃったのじゃな」

 

「まぁな、ついでに言うとあえて色々やってお前が俺にはどうやっても障壁を破る手段がないことを思い込ませる狙いがあった」

 

「かかっ……まんまと騙されたわい…儂は…うぬの目論見通りに……『心渡』の存在を失念させられていた……わけじゃな」

 

「目には目を、歯には歯を、反則(チート)には反則(チート)を、お前の障壁を破るには、正直この手しかないって思ってたぜ」

 

勿論どの作戦も忍を仕留めるつもりでやってはいたが、しかし成功すれば御の字という考えがあったのも事実。

 

「儂の……完敗じゃ…なぁ……我が仇よ…一つ聞かせてくれんかの…」

 

「何だ」

 

「うぬが最後に……儂の『神通力』を真似したのは…一体……どういうトリックじゃ?」

 

「あれは…俺の『例外性』の一つだよ」

 

『最適最高化』と並ぶ、零崎無闇の持つもう一つの例外性――

 

―――『完全模倣能力』―――

 

彼が世界から拒絶された、もう半分の理由を占める例外性である。

 

「その効果は、字の如くだ。ありとあらゆるスキルを模倣する能力――それが『完全模倣能力』だ」

 

どんな技能も、一度見れば、一度感じてしまえば模倣できる力。

 

どんな能力も、一度習得さえすれば、最速最短で極められる力。

 

この二つの能力によって、俺は万能であり、常に最強でいられた。

 

この二つの能力のせいで、俺は人から疎まれ、世界に拒絶された。

 

「例えそれが神の力でも…俺は人という、吸血鬼という枠組みから『外れて』習得できる。故に俺は俺自身をこう呼ぶ――『例外』――とな」

 

「そういう…こと…じゃったのか……うぬのような存在がこの世界にいるとは…世界は広いのう」

 

「そろそろ……終わりにするぞ」

 

「よかろう…とどめを……刺せ…儂の首を落とし、中にあるものを抜き取るがよかろう」

 

「言い残すことはあるか?」

 

「無い、早うやれ」

 

「…承知した」

 

俺は、『心渡』を振り上げると、忍の首目掛けて一閃する。

 

ゴトリ…。

 

と、忍の首は地面に落ち、ついさっき首が乗っていた彼女の胴体から、何やらお札のようなものが顔を覗かせていた。

 

俺は躊躇なくそれを抜き取る。

 

恐らく、これが『忍野忍』の神としての本体だ。

 

そして俺はそのまま胴体に手を突っ込み、力強く脈打つ心臓を抜き取る。

 

その瞬間、忍野忍の身体が『よくないもの』となってあたりに散らばった。

 

そして、あたりに散らばった『よくないもの』はある一点へと収束していく。

 

「迎えに来たぜ、相棒」

 

「全く…もう少し早く迎えに来ぬか、お前様よ」

 

日が昇り始め、朝の光が照らすグラウンドで、『例外の人間』と『怪異の王』が二人、笑っていた。

 

018

 

後日談

 

というか、これからの話。

 

流石に連日に及ぶ異能バトルの疲れが出たのか、俺はその夜、自宅へと久しぶりに帰り、何も食べず、風呂にも入らずベッドで寝た。

 

そして俺は、泥のように―いや、『死んだように』眠った。

 

肉体的な疲れというよりも寧ろ、精神的な疲れが溜まっていたようで、俺は気絶するように眠った。

 

そのせいか、俺は翌日、珍しく寝坊した。

 

この一年、俺は妹たちに起こされるよりも早く起きてきたので、久しく起こされることは無かった訳が、今回は妹たちの方が先に起きた。

 

この一年俺を起こせなかったことでフラストレーションでも溜まっていたのか、今まで起こしてこれなかった分、彼女たちはパワフルだった。

 

パワフルすぎて、寝込みを襲撃されたのかと思ったくらいだ。

 

そんなひと悶着があった後、俺は学校へと向かった。

 

走って向かった。

 

吸血鬼パワーをもってすれば、自転車を漕ぐよりも走ったほうが速いのだ。

 

何故か途中で人間のはずなのに尋常じゃないスピードでダッシュしてる女子高生を見かけた。

 

同じ学校の、多分下級生。

 

そんな彼女をぶっちぎってやってきたのは直江津高校。

 

今俺がいるのは体育館の中。

 

三年生のクラス分けが掲示されていた。

 

人が混みあってよく見えなかったので、姿を消して飛んで上から近付いた。

 

「おぉ……羽川と同じクラスだ」

 

初日からテンション上がるぜ。

 

これからは毎日学校に行こう。

 

と、俺は心の中で固く誓った。

 

そうして一人、体育館の隅でガッツポーズをしていると…。

 

「やっほー、阿良々木君」

 

「おう、羽川じゃねぇか」

 

「同じクラスだねー」

 

「だなぁー」

 

「なんだかうれしそうだね、阿良々木君」

 

「ん?そうか…?」

 

「顔に出てるよ」

 

「まぁうれしくなるのも無理ないさ、何せ友達と一緒のクラスになれたんだからよ」

 

「私も嬉しいよ」

 

「この幸せが…いつまでも続けばいいのに…」

 

「この後不吉なことが起きるみたいな伏線張らないで!?」

 

「そう……あの時は思っていたんだ」

 

「勝手に回想シーンに入らないで!」

 

「そして冒頭に戻ると…」

 

「作品のジャンルを捏造しないで!?ループ物じゃないから!巻き戻らないから!」

 

「クッ……未来は変えられないのか!」

 

「既にループしてるようなフリしないで!?」

 

「やはりアトラクタフィールドの収束には逆らえないのかっ……!」

 

「何言ってるの!?」

 

「いや…絶対に辿り着いて見せる!この俺、マッドサイエンティストの鳳凰院狂真の名にかけて……!必ず!運命石の扉(シュタインズ・ゲート)へと辿り着いて見せるっ!必ず!行って見せるっ!!世界変動率(ダイバージェンス)1%のその先へ!」

 

「だから何言ってるの!?」

 

「待っててくれ、羽川…必ずお前を救って見せる!」

 

「私何があったの!?やめて急に優しい眼で私を見ないで!阿良々木君の中では私どういうことになってるの!?」

 

「エル・プサイ・コングルゥ」

 

「わけがわからないよっ!」

 

そうやって俺は楽しく羽川とおしゃべりしている時だった。

 

「―――ほぅ、儂を放っておいて随分と楽しそうじゃな」

 

「げっ……キスショット」

 

俺が後ろを振り向くと、そこにはいい笑顔で俺の肩を掴んでいるキスショットがいた。

 

「ま、待てキスショット、別にお前のことを忘れていたわけじゃないんだ!ただ友達と一緒に話していたら楽しくてつい…な」

 

「ほーう、つまりお前様は、儂というパートナーを放っておいて、まず先にそこの小娘の方を優先した……という事じゃな」

 

「落ちつくんだキスショット!話せばわかる!」

 

「よかろう、今日の夜、たっぷりと儂と語り合おうではないか」

 

「それだけは勘弁してくれ!お前と『アレ』やるのはマジで疲れるんだって!」

 

「なぁーに疲れたら儂が癒してやるわい、さぁ行くぞお前様よ!」

 

「HEEEEYYYYあァァァんまりだァァアァ!」

 

そう言って俺はズルズルとキスショットに教室へと引きずられていくのであった。

 

そして放課後。

 

クラス担任との顔合わせやら自己紹介やら、そんな新学期に行うあれこれの後、俺は家路についていた。

 

「――でもまぁ、まさかあの後、キスショットが俺の家に『ホームステイ』として仲間入りして、尚且つ『留学生』として直江津高校に入学してくるとはなぁ」

 

「なんじゃ、不満か?」

 

「別にそうじゃないけれどさ、お前が人間に交じって生活するとは、ちょっと意外でな」

 

「まぁ、大抵の人間には興味ないわい」

 

「知ってる」

 

何せリアルで「ただの人間には興味ありません」を言ったやつだからな。

 

――留学生のキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードじゃ

 

――儂の名を呼ぶときは『ハートアンダーブレード』と呼ぶように。

 

――言っておくが儂はただの人間には興味が無い

 

――気安く話しかければうぬら全員食らうのでそのつもりで

 

なんて自己紹介ならぬ事故紹介をぶちかましてくれやがった訳だ。

 

しかし意外にも評判はよく、キスショットの芸術品以上の美貌と高慢な喋り方が相まってどこかの国のお姫様という根も葉もないうわさが学校中に広まった。

 

そのおかげでキスショットは神聖にして不可侵の存在として認識され、男子も女子も、彼女に羨望の眼を向けている。

 

「ったくお前があんなこと言うから俺まで目立っちまったじゃねえか」

 

あの事故紹介によってキスショットは一躍直江津高校一の有名人になったが、それと同時に俺の知名度も跳ね上がった。

 

当然だろう、あんな事故紹介があった後に俺にだけは普通に話しかけてくるのだから。

 

それゆえに俺とキスショットの関係をあれこれと噂しあった後、最終的に俺達にはアンタッチャブルでいることが暗黙の了解となってしまった。

 

「かかっ、まぁ良いではないか、うぬとて儂とは違う意味で大抵の人間には興味がないはずじゃ、徒に話しかけられるよりも、放っておかれたほうがありがたかろう、寧ろうぬは、儂に感謝するべきではないかの」

 

「……いやその理屈はおかしい」

 

例えそうだとしても、キスショットは別に俺を慮ってやったわけでは無いのだから、少なくとも俺が彼女に感謝する筋合いはない。

 

「なぁ、お前様よ」

 

「どうしたキスショット?」

 

「あの学び舎、本当にただの学び舎かのう?」

 

「あぁ……やっぱり気づくか」

 

「儂は別にあの小僧ように『専門家』という訳ではないが……それでも怪異があれほどまでに一点に集中しておることが異常であることくらいは分かるぞ」

 

「まぁ…あの密集具合は俺も正直驚いたけれどさ」

 

吸血鬼を取り込んだことによって怪異に敏感になった俺は、新学期になって内心で驚愕したものだ。

 

何せ俺の学校の生徒にはかなりの確率で怪異とかかわっている人間が紛れ込んでいるのだから。

 

「『蟹』に『猿』に『人魚』に『人狼』に『土人形』――体育館だけでもこれだけの怪異の気配がしておったわい――それに、怪異の気配は学び舎だけではない……()()()()()が、怪異の気配に満ち溢れておる」

 

「だから…忍野はここに残ったのかもな」

 

「ふん……あの小僧か、アフターケアなんぞ見え見えの方便を使いおってからに」

 

あの決戦の後、全ての仕事を終えた忍野はまたぞろ何処かへと旅立つかと思われていたが、どういう訳からしくもなくあの風来坊は未だにあの学習塾跡を塒にこの街に留まっている。

 

彼曰く俺たちのアフターケアだそうだ。

 

見え透いた方便であることは明白である。

 

彼は『専門家』としてこの街に異常なほどに怪異が集まっていることに当然気付いており、恐らくはその理由を調査するために留まっているのだろうと思われる。

 

「気を付けたほうがいいかもな…忍野曰く『怪異を知れば怪異に惹かれる』――だったか?俺もお前も、怪異ではないとはいえ、しかし怪異を()()()()()()()ことに変わりはないしな」

 

「儂の経験上、怪異は大きな力をもつ存在に惹かれるのじゃ、故に儂は、これまで決して一か所に長く留まるということをしてこなかった。そうでなくとも大きな力を持つ者というのは、得てして無用なトラブルを引き寄せやすいものじゃ」

 

「確かにな……だがま、この先どんなトラブルが降りかかろうと、お前と一緒ならきっとどんなことがあろうと大丈夫さ、だろ?相棒」

 

「かかっ!当然じゃ、儂とうぬがそろって、できないことなど一つもないわい、どーんと構えておればいいのじゃどーんと」

 

「全く相変わらずだなお前は……だが、お前の言う通りだ」

 

「この先にどんな『世界』が、どんな『物語』が待ち構えておろうと、儂はうぬについていくだけじゃ、我がパートナーよ」

 

「おう、頼りにしてるぜ、相棒」

 

「こちらの台詞じゃ」

 

この春、俺達は様々なモノを傷つけ、様々なモノに傷つけられてきた。

 

そして俺達は傷を負い、血を流す。

 

しかし、傷は……いずれ癒える。

 

そして俺たちは立ち上がり、また前に進んでいくのだ。

 

そしてまた傷を負う。

 

傷だらけになりながらも、俺達は進んでいく。

 

地に流れた血は、やがて赤い道となって、俺達の軌跡を示すだろう。

 

そして気が付くのだ。

 

自分の背後に作られた赤い道は、自分が確かにこの世界にいたことを示す、確かな証明で、この世界に俺達が刻み込んだ『傷跡』であると。

 

傷は…いずれ癒える。

 

だが傷は……傷跡となって残る。

 

傷は消えても…傷跡は消えない。

 

俺達は……世界を巡り歩く旅人だ。

 

これから先、きっと俺達は、幾多の世界に傷跡を残すのだろう。

 

俺達は…確かにここにいたと主張するがごとく、傷跡を…『物語』を刻み続ける。

 

これから始まるのは、誰もが傷つけ傷つけられる傷だらけの『傷物語』

 

物語は――()()無くては始まらない。

 

 

『外物語』《傷物語編》―――『完』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




……。

返事がない、只の屍のようだ。

どうも、ただのしかばね系作者の零崎記識です。

傷物語を早く完結させたくて連日執筆していたら遂に力尽きました。

では今日の叫び

我 が 生  涯 に 一  片 の 悔 い な し !(ガクッ

ヤムチャしやがって……。

という訳で遂に『傷物語』完結しましたね。

こんなに早く完結できたのも皆様の応援がモチベーションとなっていたからです。

本当にありがとうございました。

それでは今回の話について

キスショットと無闇君の『アレ』については皆様のご想像にお任せします。

え、ただの運動じゃないんですか?(すっとぼけ)

まさかキスショットが人間社会入りするとは…。

書いていませんでしたがあの時のキスショットの容姿は高校生相当の容姿です。

映画の傷物語でエピソード戦が終わった後の姿ですね。

え?どうやってキスショットが直江津に入学したのかだって?

君のような勘のいい(ry

そこはあれです、吸血鬼パワーでどうにかしていると思っておいてください。

ここからは補足

『完全模倣能力』について

遂に無闇君のもう片方の例外性が開示されましたね。

皆さん覚えていたかな……。

いやー本当は『パーフェクト・トレース』とかにしようかと思ったのですが片方だけ英語だったりルビ振っていたりしたらなんかダサい気がしてあえて漢字オンリーです。

『最適最高化』のルビ…筆者では思いつかなかったのでもしよろしければ皆さんで考えてくださったものを感想欄に書き込んでいただければ採用するかもです。

『完全模倣能力』はあれです、西尾維新ファンの方なら分かると思いますが『刀語』の登場キャラ、作中最強の実力をもつ主人公の姉、鑢七実の『見稽古』の上位互換です。

一度見るだけで完全に習得は可能ですし、目で見なくとも習得することはできます。

実は『最適最高化』で説明した一つの事柄を極めるまでにかかる時間が1時間ちょいって言うのはあくまでも『最適最高化』単体で使った場合においてです。

実を言うと『完全模倣能力』は技能のみを模倣するのではなく、習熟度そのもの、相手の『強さ』そのものを習得できます。

つまり『完全模倣能力』で習得した技能に対する相手の習熟度の分だけ、その時間は短縮されます。

即ち、写し取った相手が強ければ強いほど時間は短縮されます。

例えばスポーツ

よくオリンピックとか世界〇〇とかテレビでよく中継されていますよね

無闇君はそれを見るだけで、そこで活躍しているトップクラスの人間と同じ技量を持つことになります。

それと『完全模倣能力』と『最適最高化』はあまり分けて使われません。

ソレ二つで一つの能力って言っても過言ではないくらいです。

つまり『完全模倣能力』で習得した能力を

『最適最高化』で高めて完全に自分のモノ、自分の強さとして昇華すると

ということは理論上、無闇君に負けはありません。

だって相手の強さをそのまま写し取ってしまえるんですもの。

どうやったって引き分けにしか持ち込めません。

そしてさらに強くなっていくので無闇君の方が大抵の場合は勝ちます。

ハイ、チートですね。

ガチートなんてもんじゃないですね。

仕方無いじゃないか!最近羽川さんのせいでキャラ崩壊してたけれど本来彼はそういうキャラなんだもの!

まぁまとめると、ありていに言ってしまえば零崎無闇というキャラはこの世に存在する才能全てを持ったすさまじいまでの才能の塊です。

天才を超えたチート

チートを超えたバグ

バグを超えた例外です。

まあここまで言ってしまえば無闇君が前の世界でどんな目に遭ったのか予想はつくと思います。

何気にヒントらしきものも散りばめていますし。

では次回の話

『猫物語』突入キターーーーーー!

みんなブラックコーヒーは持ったな‼

最早メインヒロインといっても過言ではない我らが羽川さんの話だぞ!

うん…筆者の中の悪ノリの悪魔が囁きまくる章になりそうだ。

シリアス?知らんな。

一寸先は闇!

どうなるのかは筆者自身にも分からない!

という訳で『外物語』《黒猫編》『つばさファミリー』でお会いしましょう!

感想をくださったアリア@@さん、赤薔薇さん、夕凪さん

そしてお気に入り登録してくださった読者の皆様

ありがとうございました。

質問・ご指摘は感想欄へどうぞ

ではまた次回







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黒猫編
つばさファミリー その壹


過度な期待はせずに気楽に見ていくことをお勧めします。
感想・批評は歓迎ですが暴言・悪口は炎上の原因となりますのでおやめください。

ハッピーニューイヤー!

大変長らくお待たせしました!

今年も『外物語』をどうぞよろしくお願いいたします!


001

 

羽川翼について、語ろう。

 

あの誰よりも公明正大で、頭脳明晰で、完全無欠な委員長、羽川翼の物語を今更ながらに語り聞かせよう。

 

今回のことは春休みに比べれば些細なことだったと、後になって思う。

 

怪異とかを抜きにすれば、誰にでも起こりうるありふれた不幸話。

 

後の詐欺師ではないが、今回の物語から得るべき教訓があるのだとすれば、『善良なだけの人間など存在しない』だろう。

 

善良なように見えて、それは周囲に対して()()()()()()()だけだ。

 

光があれば影があるように

 

表があれば裏があり

 

白があれば黒がある。

 

これはそんな当たり前の話に過ぎない。

 

一人の不幸な女の子の、長年被り続けてきた化けの皮、否、()()()が剥がれる物語。

 

さて、それではお聞きいただくとしよう。

 

あれは、ゴールデンウィークのことだった―――

 

002

 

ゴールデンウィーク

 

四月末から五月初めにかけての大型連休。

 

家族や恋人、友人で旅行に出かける人も多いだろう時期である。

 

『黄金週間』とは随分大層な名前を付けられているものだが、しかし大抵は途中で平日が入り込む飛び石連休だったりするので、『黄金』というネーミングは流石どうなんだと、個人的には思うのだ。

 

精々『鍍金』くらいが妥当だろう。

 

黄金……に見えるけれど実はそうでもなかったみたいなガッカリ感をよく表せていると思う。

 

メッキウィークに改名すればいいのに。

 

ということでゴールデンウィーク改めメッキウィークのまさに初日の現在。

 

俺が何をしているのかって?

 

それは―――

 

「何二度寝してるんじゃ、死ね」

 

「うおぉぉぉ!?」

 

絶賛、命の危機です。

 

寝ている俺の眉間目掛けて容赦なく振り下ろされた刀をすんでのところで回避する。

 

「ぬぉぉぉぉぉ!?」

 

その次の瞬間に俺の腹を掻っ捌こうと一閃された刀を背中が床と平行になるくらい後ろに反って躱す。

 

だが、まだまだ襲撃は終わらない。

 

「って危ねぇぇぇ!?」

 

リアルマトリックスから体勢を戻す隙も無く俺の上から刀が迫る。

 

ギリギリで俺は白刃取りに成功した。

 

まさかゴールデンウィーク初日から寝込みを襲撃されてリアルマトリックス避けをさせられた挙句に真剣白刃取りをすることになるとは……。

 

全く『黄金』じゃねぇ…

 

むしろ血にまみれている。

 

『鮮血週間』だ。

 

『ブラッディウィーク』だ。

 

あ、ちょっとかっこいい。

 

じゃなくて!

 

「な、何しやがるんだキスショット!」

 

「二度寝するようなパートナーは死んでいいに決まってるじゃろう。せっかく儂が起こしてやったというのに寝るとはいい度胸じゃ。死ねばいいんじゃ、死ねばいいんじゃ、死ねばいいんじゃ」

 

「お前初っ端からキャラ設定滅茶苦茶になってんぞ!?」

 

前回とつながらねえよ!

 

寧ろ前回よりバイオレンスになってるじゃねえか!

 

こんな時に『鉄血』になられても…

 

「やかましいわ!三ヵ月も放っておきよって!おかげで前回までどんなキャラだったか忘れてしもうたではないか!」

 

「それは俺の所為じゃねぇ!!」

 

全部あのバカ作者(零崎記識)の所為だっつの!

 

閑話休題(誠に申し訳ございません)

 

「で?こんな朝っぱらから俺の寝込みを襲撃したのはどういう訳なんだキスショット」

 

「いや朝っぱらとはいうがの、もう昼といっても過言ではない時間じゃぞ」

 

「いいだろ別に、休みの日くらい惰眠を貪ったって」

 

「完全にダメ人間の台詞じゃな」

 

「うぐ……」

 

確かに……。

 

自分で言っといてアレだが俺も同じこと思った。

 

「ま、まぁ俺のことは一先ず置いておくとして」

 

「目をそらすな」

 

ふぇぇ…キスショットからの目線が痛いよぉ…。

 

ついでに読者からの目線も痛い。

 

あ、イタいのは俺そのものか。

 

「それで?さっきの凶行の理由は何だったんだ」

 

「いやの、儂もあの一件以来吸血鬼というキャラを卒業してしもうた訳じゃろ?」

 

「うん…まぁ、そうだな」

 

「それで儂も心機一転、新しいキャラを開拓していこうと思ったのじゃが……」

 

「その結果があの狂人かよ!」

 

お前暴力系ヒロインはやめとけって……。

 

絶対人気でないから。

 

某ロボット学園の某モップさんとか滅茶苦茶叩かれてるから…。

 

「儂は原作と違ってロリ属性は無いからのう、最大の萌え要素が無い儂は考えたのじゃ、ならば別の属性を自分で付加してしまえばよいとな!これでこの作品の評価はレッド突入間違いなし!」

 

「おいバカやめろ!」

 

アウトォォォ!

 

限りなくアウトを極めしアウトだ!

 

レッドなのは評価欄じゃねえ!

 

この作品がレッド(カード)(退場)だ!

 

それにさぁ……

 

「だからって『アレ』はないだろ『アレ』は、お前は一体何を目指していたんだ」

 

「最近漫画で見た『やんでれ』なるものを実践していたつもりじゃったのだが……」

 

……。

 

毒されすぎだろ…お前。

 

それにしてもヤンデレか……。

 

それ、こいつには一番付いたらダメな属性じゃね?

 

嫌だぁぁぁ…不死身にされて永遠にnice boatされるのだけは嫌だぁぁぁ……。

 

流石の某誠君もそこまでされる程罪深くはないと思うんだ。

 

だが誠〇ね。

 

それか『儂と我がパートナー以外はこの世界にいらない!』とか言って人類全員滅ぼしたりして……。

 

実現性が高すぎて怖い!

 

こいつならやりかねない!

 

ということはキスショットのヤンデレ化=人類滅亡じゃないですかヤダー

 

それだけは絶対に阻止せねば!

 

何で俺、こんな何気ない日常の中でも人類の命運背負ってるんだ……。

 

「しかしお前様よ、儂にはどうしても解せぬのじゃが……」

 

「何が?」

 

「なぜ『やんでれ』は自分の血を態々料理に仕込むのじゃ?人間が血を吸ったところで意味など無かろうに、吸血鬼じゃあるまいし」

 

あー……成程。

 

元吸血鬼にとっては血は食料だもんな。

 

カルチャーギャップってこういうのを言うんだろうなぁ……。

 

「それはだな…」

 

うーん何と説明したものか……。

 

「『ヤンデレ』は吸血鬼にあこがれている女の子を指すからだ!」

 

大嘘である。

 

「おぉ!そうじゃったのか」

 

だが、人間の文化に疎いキスショットは簡単に信じた。

 

「そう!だから『鉄血』にして『熱血』にして『冷血』の伝説の吸血鬼であらせられるところのキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードにとって『ヤンデレ』は目指すものじゃないんだ!」

 

「ふぅむ…成程、それは知らんかったわい、ならば仕方ない、『やんでれ』を目指すのはやめにしておくとするかの」

 

ふぅ……。

 

何とか危機は去ったか。

 

心配しなくともお前にはもう一つ重要な属性が付いてるって。

 

そう……BBAという名の立派な属性がな!

 

ドゴォ!

 

「む…なんか不愉快なことを言われた気がするのじゃが……」

 

ABUNEEEEEEEE!!!

 

今のはマジで死ぬかと思った。

 

目線を顔のすぐ横に移すと、そこには壁に突き刺さったキスショットの拳があった。

 

まさか心を読まれたのか……!?

 

アレ?こいつ吸血鬼だよな……?

 

覚じゃねえよな……?

 

金髪のBBAで吸血鬼で覚って……。

 

お前は一体何想郷の妖怪なんですかねぇ……。

 

こいつが弾幕勝負に参戦するとかどんな悪夢だ……。

 

皆まとめて蹂躙する未来しか見えねぇ……。

 

『心渡』とかあの世界ではチートでしかないんだよなぁ……。

 

多分あの世界にある物の殆どは斬れるぞ。

 

斬れないものなど……あんまりない!

 

斬れなければ物理で殴る。

 

勝ち目がねぇぇぇ……。

 

もはや出禁食らうレベル。

 

何でも受け入れる世界なのに……。

 

俺はとりあえず強そうなやつを煽ろう。

 

弾幕には枕で対抗しよう。

 

某奇跡の人に

 

「どれだけ非常識なんだお前!」

 

とかツッコませて

 

「おまいうwww」

 

って返したい。

 

某烏のブンヤに

 

「速さが足りない!」

 

とか言ってみたい。

 

いっそ俺が異変起こすのもいいかもしれない。

 

いやぁ夢が広がり(悪だくみが捗り)ますなぁ。(ゲス顔)

 

閑話休題(話が逸れた)

 

「ふむ『やんでれ』がダメとなると……どの他にどのキャラ付けをするべきかのう…」

 

「え、諦めてねぇのかよ…」

 

勘弁してくれ…。

 

「いやいや、キスショット、そもそもキャラ付けなんてお前には必要ないって」

 

「どういう事じゃお前様?」

 

「良いかキスショット、キャラ付けって言うのは魅力が足りないキャラを魅力的にする手段であって、既に十分魅力にあふれているお前には必要ないんだ」

 

「そ、そうか…改まって言われると照れるのう」

 

赤面しながらはにかむキスショット。

 

あら可愛い

 

さっきの発言は方便的な意図がかなりの割合で含まれていたが、こうしてみると強ち間違いではないと思う。

 

「それに、俺は今のままのキスショットが一番魅力的だと思う」

 

ありのままの姿見せていこうぜ?

 

これで良いんだって自分信じろよ。

 

大丈夫だって、お前なら何も怖くない!

 

「ほ、本当か!?」

 

「あぁ、本当だ」

 

パァーって感じにキスショットが笑う。

 

花が咲いたような笑顔って感じのやつ。

 

実際笑顔一つでこんなにも魅力的なんだから、ホントこいつってチートだよなぁ……。

 

絶世の美女って、こいつのためにある言葉だと思う。

 

ある種の神々しささえ感じるくらいである。

 

あのバカ作者(零崎記識)も、映画版の冷血編のキスショットの笑顔シーンにやられてたし……。

 

「ならば仕方がないのう!お前様がそう言うのなら儂はこのままでいるとしよう!」

 

「おう、それが良い」

 

変なキャラ付けしようだなんて考えないでくれ。

 

ホント頼むから。

 

こんなことで滅亡しかける人類に申し訳ないから。

 

「儂がどうかしておったようじゃ、確かに儂らしくもなかった。冷静に考えれば、儂にとって重要なのはお前様だけで萌え要素がどうのなど、要らん心配じゃった」

 

「そのままのお前が一番だぞ」

 

「んふふ~儂もお前様が一番じゃ」

 

うーん……にしてもこいつのキャラ崩壊が著しい。

 

あの一件以来、こいつはずっとこんな感じだ。

 

もうデレデレである。

 

あぁ……あの頃の高貴なキャラは何処へ…。

 

いやまぁ、顔もスタイルも極上品の美女に好意を向けられて嬉しいっちゃ嬉しいのだが…。

 

寧ろ嬉しくないない奴なんていないだろ普通。

 

好意的に接してくるのもいいが、キリッとして高貴なキャラも同じくらい好きなんだよなぁ。

 

こいつはそうしていたほうが様になるというか…。

 

それでたまにこうやってデレる一面を見せてくれればもう破壊力抜群よ。

 

俺でも堕ちると思う。

 

いや、既に堕ちてるか。

 

キャラ付けとか関係なく、どんなキスショットでも全部好きになれる気しかしないからなぁ……。

 

俺はもうこいつを嫌うことができない。

 

ぐぬぬ…これが惚れた弱みか…。こいつといい羽川といい……。

 

うわっ…最近の俺、負けすぎ……?

 

この二人に対してはもう『過負荷(マイナス)』並みに勝てる気がしない。

 

某負完全さんみたく、これからは二重括弧で括弧つけて喋ろうかな……。

 

『また』『勝てなかった』

 

なんつって

 

あ、でも気持ち悪がられて引かれそうだからやっぱり止めよう。

 

パクリはよくないな、ウン。(漂う今更感)

 

閑話休題(茶番が長すぎた)

 

……。

 

どうでもいいが、この作品『閑話休題』で遊びすぎじゃないだろうか?

 

特殊ルビとはいえ自由にもほどがあるだろ。

 

閑話休題(だって遊びやすいんだもの)

 

「さてお前様」

 

「何だよ改まって……」

 

「『恋バナ』をするぞ」

 

「え?何だって?」

 

聞き間違いか?

 

難聴系主人公になった覚えはないんだが……。

 

「じゃーかーらー『恋バナ』とやらをするぞ」

 

「オーケー聞き間違いじゃなかったか」

 

『恋バナ』とか、こいつに似合わない単語が出てくるもんだから一瞬自分の耳を疑っちまったぜ…。

 

「さてはお前、月火に何か吹き込まれたな?」

 

『恋バナ』そんな浮ついた話が大好物な年齢にある女子が、この家には二人いる。

 

俺の妹共だ。

 

ただし、火憐は基本脳筋だから恋愛とかそういう浮ついた感情はあんまり分かっていない。

 

しかし彼氏はいるらしい。

 

多分、意味合いとしては『伴侶』ではなく『番』だろうがな。

 

消去法で、こいつにまた要らんことを吹き込んだのは月火になる。

 

「お前様よ」

 

「何だ」

 

「『恋』とは何じゃ?」

 

「……」

 

いきなり哲学的な問題をぶち込んできやがったな……。

 

「……生憎、その問いに答えるには俺には経験が不足していてな」

 

前の世界を含めても、俺は生まれてこの方恋なんてしたことが無い。

 

俺と対等に並び立てるほどの存在がこれまでいなかったからだ。

 

簡単に例えるならば、犬や猫が好きな人は沢山いるだろうが、そいつらを普通『異性』としては見れないだろう?

 

そういう事だ。

 

つまるところ、俺はステージがあまりにも違いすぎたのだ。

 

それが覆ったのは僅か一か月前に過ぎない。

 

「じゃがお前様よ、儂の見たところお前様はあのメガネの小娘に好意を抱いているのではないのか?見たところ随分と仲が良さそうではないか」

 

「いや……確かに羽川のことは好きだが、これが『恋』とか言われると少し疑問なんだよなぁ」

 

「ならばお前様は『恋』とは何だと考えておるのじゃ?」

 

「はい?」

 

「お前様の感情を『恋ではない』と結論付けるならば、まず前提として『恋とは何か』を知っている必要があるわけじゃろう?ならばお前様は一体何をもって『恋』を定義するのじゃ?」

 

「弁証法かよ……」

 

小難しい話になってきたなぁ……。

 

「んーあれだ、一般的に言えば『恋』ってのは誰かの『異性としての魅力』を根拠にする感情だろ?」

 

「まぁ、そうじゃの」

 

「だが俺は、羽川を()()()()()欲しいと思っているわけでは無いんだ。人間としてのあいつは好きだ。友達としても勿論好きだ。女としてのあいつも……まぁ好きではあるんだが、そこまで強い感情にはならない」

 

「釈然とせんのう……」

 

「自分の感情を明確に語れる奴なんていないだろ」

 

そもそも感情自体が不明確な物なのだから。

 

「まぁ、俺が羽川に好意を抱いていること自体は否定しないがな。人間として、友人としてあいつは最高だと思うし、一緒にいてくれれば普通に嬉しいし楽しいが……」

 

「あくまでも『女として』ではない…ということじゃな」

 

「魅力を感じない訳ではないんだがな、ただそれは俺にとってはあまり重要じゃないってだけで」

 

「うーむしかし、お前様の小娘に対する好感度はとても友情では説明つかんと思うのじゃが……」

 

「何でそんなに根掘り葉掘り聞こうとしてくるんだよ……」

 

「お前様じゃからじゃな」

 

「答えになっているようでなってない回答をどうも」

 

「で?どうなんじゃ実際」

 

「えぇ…コレ言わなきゃダメ?」

 

「ダメじゃ」

 

「あーそうだな……こんな答えしかできなくて悪いが、実は俺にもよく分からん」

 

「何故じゃ?」

 

「確かに自覚はしてるんだ、俺が羽川に向ける感情は友人に向けるソレを大きく逸脱している。それは認めるが、だからと言って女として見ているわけでも無い。どころかそれすらも大きく超えた感情のようにも思えるし……」

 

「さしものお前様も、感情の問題は一筋縄ではいかぬということかの……かかっ」

 

「ところでお前はどうなんだよ」

 

「む?」

 

「俺にだけ喋らせてないで、お前の『恋バナ』とやらも聞かせろよ」

 

そう言うと、キスショットはニヤリと笑った。

 

「何じゃ、儂の処女性がそんなに気になるのか?えぇお前様よ」

 

「誰もそんな話はしていないだろ……」

 

話が一気に下世話になったな……。

 

さっきまでの真面目さはどこに……。

 

「かかっ!まぁ安心せい、昔一人眷属を作りはしたが、儂が本当に心から対等と認めた相手はお前様だけじゃよ」

 

「そりゃ嬉しいね」

 

「いや、軽く流しておるがコレかなりすごいことなのじゃよ?儂が本気で惚れこんだ男なんてこの500年に一人もおらんかったんじゃから」

 

「お、おぅ……結構ドストレートに言うんだな」

 

「もうベタ惚れじゃ」

 

「ベタ惚れなのか…」

 

全く包み隠さねぇなぁ……。

 

こっちの方が気恥ずかしくなってくるんだが……。

 

バタンッ!

 

「もう!お兄ちゃんいつまで寝てるつもりなの!」

 

と、柄にもなく『恋バナ』なんぞをしたせいで漂う微妙な空気を俺の部屋のドアごと打ち破るように、月火が俺の部屋に突撃してきた。

 

「アン姉さんも、お兄ちゃんを連れてくるように頼んだのに何お兄ちゃんと仲良くお喋りしてるの」

 

そうそう、うちの家族はキスショットの事を『アン』と呼んでいる。

 

ハート『()()』ダーブレードという訳だ。

 

俺は普通に『キスショット』だけどな。

 

「おぉ、そう言えばそうじゃったな」

 

「その結果があの凶行かよ!?」

 

どんな頼み方されたら『俺を起こしてきて』が『寝込みを襲ってきて』になるんだ…。

 

「ところでお兄ちゃん、アン姉さんと一体何を話してたの?」

 

「『恋』とは何じゃということを語らっておったのじゃ」

 

「恋!なぁんだアン姉さん、それなら恋愛経験皆無のお兄ちゃんじゃなくて私にしてくれればよかったのに!ファイアーシスターズは恋愛相談も請け負っているんだよ!」

 

「ぶん殴るぞお前……」

 

俺を流れるようにディスってんじゃねえ。

 

「恋愛相談だぁ?お前は兎も角、火燐にそんな真似ができるのかよ」

 

「火燐ちゃんを荒事専門の戦闘員と思ったら大間違いだよお兄ちゃん、火燐ちゃんも恋愛相談には乗ってるよ、全部成功したことがないだけで」

 

「ソレ明らかに向いてねぇじゃねえか!」

 

相談しただけ損じゃん……。

 

恋敗れた相談者に合掌…。

 

ウチの脳筋妹がすいません。

 

「大丈夫大丈夫、私の成功率は100%だからプラマイゼロだよ」

 

「それはそれで異常だな……」

 

もしそれがホントならお前は将来結婚相談所に就職するべきだ。

 

ぜひともこの国の少子化解決に尽力してもらいたい。

 

「んじゃそんな恋愛マスターの月火に質問だが」

 

「ふっふっふ……何でも聞いてくれて構わないよ恋愛素人君」

 

(♯^ω^)ピキピキ…

 

「おい落ち着けお前様、うぬの力で本気で殴りに行こうとするな」

 

「HA☆NA☆SE☆キスショット!一発でいいからこいつを殴らせてくれ!」

 

「いや一発でも大ごとじゃから!絶対ただじゃすまぬから!」

 

「ちょっとだけ!ちょっとだけだから!」

 

「そんな女をなし崩し的に手籠めにするクズ男みたいなセリフは止めい!」

 

「ちょっとコツンとするだけだから!」

 

「そんな軽く小突くだけみたいな言い方してもダメじゃ!」

 

「血祭りにあげてやるぅ」

 

「落ちつけぇ!」

 

「お兄ちゃん達ってホント仲いいよね……」

 

閑話休題(クールダウン中)

 

「それで?私に聞きたいことって何なの?」

 

「あぁお前ってさ、彼氏いるだろ?」

 

「うん蝋燭沢君。それが?」

 

「じゃあ聞きたいんだが、『人を好きになる』って、一体どういう感じなんだ?」

 

「妹にする質問じゃないよね、ソレ…」

 

うん、俺もそう思う。

 

「うーん…と言っても、それは感情の問題だから…言葉で言い表すのは無理だよ。強いて言えば『何となく』としか言いようがないよ」

 

「『何となく』か」

 

「そう『何となく』、『何となく』好きかなーって思って、『何となく』好きだなーって感じて、『何となく』好きだって分かる。恋なんてそんな感じだよ」

 

「相手のここに惚れたとかは無いのか?」

 

「そりゃ後から優しいとか、カッコいいとか、お金持ちだとか、色々と理由をこじつけることはできるよ?でもそういうのって、全部好きになった後の話なんだよね。『彼のこういうところが好き』って言うことはできるけれど、『彼がこうだから好き』って言うことはできないんだよ」

 

「そういうもんか」

 

「そういうものだよ」

 

じゃあ私は下に行ってるから、お兄ちゃんたちも早く降りてきてよね。

 

そう言い残し、月火は去っていった。

 

「うーん結局、今までの話で分かったことは、『何も分からない』ってことだな」

 

色々と小難しい話を並べた割には、得られたものは何もなかった訳だ。

 

「まぁ、高々例外と吸血鬼と小娘が議論しあったところで感情が説明できれば苦労は無いという事じゃな」

 

「そう言われると何かすげー事やっていたように思えるから不思議だ」

 

実際はただの不毛な議論だったのに…。

 

さて、このままこうしてたらまた月火が機動隊の如く部屋に突撃しかねないので、そろそろ下に降りるとするか。

 

ガチャ

 

「ただいまー」

 

キスショットと共に下に降りると、そこでどうやらジョギングに行っていたらしい火燐と玄関で鉢合わせた。

 

「あ、兄ちゃん起きたんだ」

 

そう言って靴を脱ごうとする火燐は、まるで着衣水泳でもやったかのようにずぶ濡れだった。

 

「兄ちゃんを起こすという魔王と戦うにも等しい大役を、月火ちゃんとアン姉さんに任せて大丈夫かと思ったけれど、どうやら無事起こせたようで安心したぜ」

 

「兄の目覚ましを世界を救う事と同列に語るなよ……」

 

いや、世界ならさっき人知れず救ってきたところだけれどさ…。

 

寝ている魔王を暗殺して永眠させようとする勇者を止めてきたところだけれどさ…。

 

魔王が世界を救うRPGってなんやねん。

 

勇者が魔王の倍凶悪なんですがそれは……。

 

「で、お前その()どうしたんだ?」

 

そう、こいつがずぶ濡れになっているのは着衣水泳をしたわけでもゲリラ豪雨に襲われたわけでも無く、大量に汗をかいた結果だ。

 

根拠は臭いである。

 

言葉では言い表せないほど強烈に汗臭い。

 

正直鼻をつまんでこいつを今すぐ風呂場にぶち込んでやりたいところだが、汗まみれのあいつに触ることすらしたくないので今はひたすら耐えている。

 

この強烈な臭いを前に顔色一つ変えずに応対している俺の精神力を誰か褒めて欲しい。

 

見ろ、キスショットなんか臭いを体内に入れないように必死に口閉じてるんだぞ。

 

顔を見れば明らかに表情が引きつっている。

 

「何をどうしたらそんな妖怪濡れ女みたいになるんだよ」

 

というか、お前身体大丈夫なのか?

 

明らかに人間が出せる汗の量を上回っている気がするのだが……。

 

「いや、あたしジョギングってそんなにしないから、加減がわからなくてさ。ペース配分を間違っちまったようだ」

 

「ほう」

 

「意外と長かったな。42.195キロ」

 

「お前フルマラソンを走ってきたのか!?」

 

節子、それジョギングやない、マラソンや

 

「だってほら、今日はゴールデンウィーク開始祝いのジョギングで、イメージは聖火ランナーだったから」

 

「聖火ランナーは42・195キロも走ったりしねえよ!」

 

混ざってる混ざってる

 

「えーでも国と国を繋ぐんだからそれくらいは走るんじゃねーの?」

 

「そもそも聖火ランナーは一人じゃなくて多くの人数で区間ごとに区切って走るんだよ。もし仮にお前の言う通りだとしても、国々の間隔が42・195キロは短すぎる!」

 

ご近所さん過ぎるだろ!

 

「いや兄ちゃん、42・195キロは長かったよ」

 

「そりゃ車使ってもそれなりの距離だし長いことは長いだろうが」

 

「うん。実感してる。これ以上なく実感してるいくら42・195キロといっても精々100メートルの10倍かと思っていたんだけどな」

 

「……」

 

絶句した。

 

あ…ありのまま、今起こった事を話すぜ!

 

おれの妹が42・195キロを1キロだと思っていた

 

な…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

頭がどうにかなりそうだった…頭が悪いとか脳筋だとか、そんなチャチなもんじゃあ、断じてねえ。

 

もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。

 

「そっかそっか、疲れるわけだ。ようやくこんなにヘロヘロになった理由が分かったぜ」

 

あ、キスショットも若干青ざめてる。

 

お前元とはいえ怪異に怯えられてんじゃねぇよ…。

 

「で、兄ちゃん。ゴールテープはどこだ。用意してくれてるんだろ?」

 

「あぁ?ねぇよそんなもん」

 

「あれ?おかしいな。月火ちゃんに頼んでおいたはずなのに」

 

「何言ってんだ?お前は未だゴールしてないぞ?」

 

「え?」

 

「いやだから、42・195キロがお前の目標だったんだろ?ってことはメートルに直せば42159メートルだ。ってことは100メートルの約420倍だぜ?お前が走った距離じゃ全然足りねえよ」

 

「えぇ、そうだったのか!?分かったぜ兄ちゃん!じゃあ、あたしちょっと今から走りなおしてくるから月火ちゃんに伝えといて!」

 

そう言って、火燐は家を飛び出していった。

 

「………」

 

妹のあまりのバカさ加減に言葉も出ない。

 

「鬼かお前様…」

 

「いや、流石にあれは騙される方が悪いだろ…」

 

普通に『だから何?』で済ませて欲しかった…。

 

本当、どうやったらあんなに残念な頭で生きていけるんだ……。

 

「風呂でも沸かしといてやるか…」

 

創造したゴールテープを玄関に張りながら、俺はせめてもの罪滅ぼしをするのであった。

 

その後、ゴールテープを切って真っ白に燃え尽きている火燐を数十分後に発見し、速やかに風呂場にぶち込んだ。

 

風呂から上がって復活した火燐に月火と同じことを質問したところ

 

「顔見てこいつのガキを産みてーなーって思ったら、それが好きってことなんじゃねーの?」

 

と言った。

 

俺の妹は、本能で生きる女だった。

 

003

 

家で駄弁っていただけなのに、もう既に1万文字近くも書いている。

 

という訳で、ここからはさっさと展開を進めようと思う。

 

家で遅めの朝食をとった後、特にやることもなかった俺は散歩に出かけた。

 

そうしてあてもなく彷徨い歩いていると、道中で羽川を発見した。

 

うーん、でもなんか様子がおかしいな……。

 

俯きながら歩く羽川の表情は、心なしか消沈しているようであった。

 

何かあったのか?

 

そう思うや否や、俺の足は彼女に向って歩き出していた。

 

「よう、羽川」

 

背後から声をかけると、羽川は驚いたように振り返った。

 

そして、羽川の顔を真正面から見たことで俺は気付いた…。

 

気付いて――――しまった。

 

羽川の顔の左側をほとんど覆い隠すようなガーゼに、気づいてしまった。

 

「阿良々木君じゃない、元気してた?」

 

「おう元気してたぜ、そう言うお前は、どうやらそうでもないようだが」

 

そう言うと、羽川は一瞬はっとしたような表情を浮かべ、より一層表情を曇らせた。

 

「え、えぇっとね阿良々木君……これは――」

 

「ちょっと見せろ」

 

そう言うや否や、俺は羽川の顔の左半分を覆っていたガーゼを剥がす。

 

ひどい傷だ

 

「打撲の痕に切り傷か……」

 

痛々しかった。

 

頬の部分は青黒い痣になっており、眼の高さの位置には深めの切り傷ができていた。

 

「誰かにひどく殴られたようだな、切り傷は恐らく、メガネごと殴られたことによる傷だろう、かなりの広範囲に痣ができていることから、強い力で何度も殴られた……ってところか」

 

俺は羽川にガーゼを張りなおしながら言う。

 

「で、何があったか説明してもらってもいいか?」

 

「……うん。じゃあ歩きながら話そっか」

 

追い詰められて遂に観念した犯人のように羽川は語りだした。

 

「阿良々木君はさ……妹いるでしょ」

 

「ああ、手のかかる奴らが二人な」

 

「あはは、立派にお兄ちゃんしてるんだね」

 

「不本意ながらな」

 

「仲がいい家族だね」

 

『家族』

 

その言葉を発した瞬間、羽川の眼に影が差し込んだ気がした。

 

「私には――家族がいないの」

 

「いない……か」

 

「うん、誰一人」

 

家族がいない。

 

字面だけ見れば、天涯孤独の身であるとしか捉えられないだろうが、それはあり得ない。

 

俺や彼女が通う直江津高校は私立だ。

 

当然、授業料だって決して安くは無い。

 

その上、自分の生活費までも彼女一人で稼いでいるというのは無理がありすぎる。

 

一体どれだけのバイトを掛け持ちしているんだって話だ。

 

だから恐らく、家族ではなくとも彼女を扶養している人はいるのだろう。

 

それを、彼女は家族とは呼ばないだけで…。

 

「お父さんとお母さんと私、三人で暮らしてるの」

 

「だが、家族じゃない」

 

羽川は無言で頷いた。

 

「今のお父さんとお母さんは、本当のお父さんとお母さんじゃないの」

 

「血のつながりが無いってことか」

 

「そう、昔の事なんだけれどね、私と同じくらいのある女の子がいて、その子がある日身ごもって生まれたのが私」

 

「私生児ってことか」

 

「そうなるね」

 

「父親は?」

 

羽川は首を振った。

 

「分からない。調べようによっては分かるかもしれないけれど、そんなことしたところで向こうにも、私にも良いことは一つも無いから調べても仕方のないことだけれどね」

 

「今の母親は?血のつながりが無いってことは……」

 

「そう、違う人。私を産んでくれたお母さんは、すぐに自殺しちゃったから」

 

「自殺……」

 

「ベビーベッドの上で首を吊って」

 

モビールみたいだった。

 

と、羽川は冗談めかして言う。

 

「ただ、自殺の直前に、産みのお母さんは結婚していたんだよね。ほら、子育てって、手間と時間も沢山かかるけれど、それと同じくらいお金もかかるじゃない?やっぱり10代の女の子がシングルマザーするには無理があったってことなんだろうね」

 

「それで金目当ての結婚か…」

 

「相手にしてみれば、いい迷惑だっただろうけれどね、愛情もないのに結婚した相手が早々に死んで、残ったのは強引に押し付けられた赤の他人同然の赤ん坊だけだって言うんだから」

 

そんな風に自嘲する羽川は、見ていてとても痛々しく映った。

 

「それが…私の最初のお父さん」

 

「『()()()』ってことは…」

 

「そう、その人も今のお父さんとは別の人」

 

「最初のお母さんの自殺の原因は、正直分からない。もともと繊細な人だったっていう事もあるらしいんだけれど、お金目当てに結婚するには彼女は少し、ロマンチスト過ぎたみたい」

 

淡々とした調子で、羽川は言った。

 

「その最初のお父さんがね、私はほとんど覚えていないんだけれど、真面目な仕事人間って感じの人らしくてね、子育て何てできない人だったんだって。で、また結婚。今度は子育て目当てってことなるのかな。だったらベビーシッターでも雇えばよかったのにね。まぁ真面目な人だったらしいから、教育上母親がいないのはよろしくないとか考えちゃったのかな?」

 

と、羽川はろくに覚えていない最初の父親をフォローする。

 

「で、そのお父さんは結局働きすぎで過労死しちゃったんだ。で、残されたお母さんが今のお母さんで、その再婚相手が今のお父さんってこと」

 

以上、おしまい。

 

と、羽川は笑顔でまとめた。

 

要するに、押し付け押し付けられを繰り返して盥回しにされた挙句にたどり着いたのが今の両親という事だ。

 

成程、家族じゃないというのもうなずける話だ。

 

戸籍上は家族なのだろうが、羽川の家族は所詮赤の他人同士の関係…ということだ。

 

「本当―――なんでなんだろうね」

 

―――何で私たちは…家族になれないんだろう。

 

「私はこんなにも……『娘らしく』しているのに」

 

―――『()()()』……しているのに。

 

「血が繋がっていなくても家族になれるって――私も昔はそう思ってたんだけれどね。流れに流れてやっとたどり着いた家だったから、仲良くしようとか思ってたんだけれどね。ままならないもんだよ」

 

ままならないし―――

 

つまらないよ―――

 

『行き詰っている』

 

春休みの時に、羽川が言っていたことだ。

 

俺もそうだった。

 

どうやら、得てして現実というのは、ままならないものらしい。

 

やはり俺と羽川は、よく似ている。

 

似通っている。

 

この上なく相似形だ。

 

「ごめんね阿良々木君」

 

唐突に、羽川はそう言った。

 

「今、私、意地悪なことを言ったよね」

 

俺が何か言う前に、畳みかけるように羽川は言う」

 

「いきなりこんなこと言われたって、反応に困るでしょう?だからどうしたって感じだし、そもそも阿良々木君には関係ないし――でも、なんだかちょっと同情しちゃうようで、筋違いの同情しちゃう自分に罪悪感を覚えちゃうでしょう?悪いことをしちゃったような、そんな……嫌な気分になったでしょう?友達のプライベートを覗き見しちゃったみたいで、重い気分になったでしょう?」

 

まるで自分の罪を懺悔するように、羽川はまくしたてる。

 

「だから話したんだ」

 

「……」

 

「阿良々木君が話せって言ったことにかこつけて、本当は断れば阿良々木君はあっさり引いてくれたはずなのに、私はそれを免罪符にして阿良々木君で、憂さを晴らした」

 

こんなのは愚痴でもない、ただの――――

 

「欲求不満の……解消だよ」

 

違う。

 

「解消されたようには、とてもじゃないが見えないけれどな」

 

お前は何も悪くない。

 

だから――そんな風に世界一自分が嫌いですみたいな顔するな。

 

「別に、俺でよければ好きなだけ憂さを晴らせばいい、欲求不満なら好きなだけ解消してもいいから、そんなに自分を責めるな。卑下するな。お前の愚痴くらい、いつでも聞いてやるよ」

 

だって俺達は―――

 

「友達……だろ?」

 

「……阿良々木君はさ……いい人だね、優しくて、良い人」

 

だから……今だけはその優しさに甘えさせて……

 

「続き……聞いてくれる?」

 

「おう、どんとこい」

 

「私が自分の身の上を知ったのはね、小学校に入る前だったの。あの人達―――本当に私のことが邪魔みたい」

 

お前は私たちの家族じゃない―――

 

羽川の両親は冷徹にも幼い羽川との間に境界線を引いたのだ。

 

「だから……殴ったのか?」

 

羽川は俯く。

 

「なぁ羽川」

 

「何かな、阿良々木君」

 

()()()()()()()()?」

 

そして俺は、羽川の禁断の領域に踏み込んだ。

 

「―――誰にも言わないって約束してくれる?」

 

「約束しよう」

 

そうして、羽川は重い口を開く。

 

「お父さん…今朝、お父さんに殴られたの」

 

「……そうか」

 

正直、そうじゃないかとは思っていた。

 

羽川の痣を見る限り、かなりの強い力で殴られていたため、羽川の母親があくまでも普通の成人女性程度の腕力しか持っていないと仮定すれば、恐らくは父親にやられたのだろうと、おおよその見当はついていた。

 

「お父さんの持ち帰った仕事にね、うっかり私が口を出しちゃったから、殴られました。お母さんは、それを黙って見てました。だから―――全部私の自業自得なの」

 

「そんなわけあるか」

 

()()()()()()()()()()そんなになるまでお前が殴られなければいけない理由は無い。

 

「だってほら、考えてみてよ阿良々木君。もし阿良々木君が40歳くらいでさ――見も知らぬ十七歳の子供から、知ったような口を利かれたとして?ちょっと腹が立っちゃっても、かちーんと来ちゃっても、それは仕方がないと思わない?」

 

「思わねぇよ」

 

俺は羽川の言葉を切り捨てる。

 

「俺には分からない。何故その程度の事でお前がそんなになるまで殴られなければいけなかったのかも、お前が何で自分を殴った父親と、それを黙って見ていた母親をそこまでして庇おうとするのかも、何より、何故大ケガするくらい殴られておいて、お前が()()()()()()()()()のかも、俺にはさっぱり理解できない」

 

なぜお前は、さっきから加害者のフォローばかりしているんだ。

 

「ここは泣くところだろう?悲しむところだろう?怒るところだろう?なのに何故、お前は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

痛かったんだろう?辛かったんだろう?悲しかったんだろう?

 

なのに何故――――

 

「お前は、()()()()()()()()()()()()()()()()?なぜ平然と笑っていられる?」

 

「だって……それは…」

 

「『()()()()()()』?」

 

「そう……()()()()()()…殴られても仕方ないのよ」

 

成程……。

 

そういう事か。

 

それがお前の……答えか。

 

「阿良々木君、約束してくれたよね?『誰にも言わない』って、約束して……くれたよね」

 

切実な顔で言う羽川。

 

「あぁ、安心しろ。誰にも言わねえよ」

 

それを俺は、渋々受け入れるしかなかった。

 

俺に被害があったわけでも無いのに、これ以上干渉するべきではない。

 

羽川(被害者)がそう言っている以上、俺は口を出すべきではない。

 

だが……

 

「お前は……本当にそれで良いのか?」

 

「お願い。黙っててくれたら私何でもするから」

 

「ん?今何でもするって(ry」

 

シ リ ア ス 終 了 の お 知 ら せ

 

「あ、阿良々木君?」

 

「何でも?本当に『何でもする』って言ったな?」

 

「い、言ったけど…あれ?私がおかしいのかな?今結構シリアスなシーンじゃなかった?」

 

「ンなもん知るかい!羽川が一生絶対服従するって言ったことに比べればそんなの小さい小さい!」

 

「一生絶対服従とは言ってません!」

 

「でも回数指定してなかったじゃん、ということは無限に聞いてくれるっていう事だろ?」

 

「一つです!一つだけ何でも言うことを聞くから!」

 

「む、しまった訂正されてしまった」

 

「本当もう頭痛いよ…」

 

「よし決めた!じゃあ叶える願いを無限にしてくれ!」

 

「定番だけど厚かましすぎる!?確かによくあるけれど!」

 

「ダメか…」

 

「ダメです」

 

「じゃあ死んだばっちゃんを生き返らせてくれ!」

 

「それも定番だけど普通に無理だから!実現可能な奴にして!」

 

「オラに元気を分けてくれぇ!」

 

「サ〇ヤ人だったの!?」

 

「頼む!」

 

「切羽詰まったように言ってもダメ!」

 

「ダメか」

 

「せめて私にできる範囲にして…」

 

「じゃあお前、俺の女になれよ」

 

「なってもいいけれどその似非ホストキャラはやめて!」

 

「え?いいの?」

 

「まぁ…何でもって言ったわけだし……まさか冗談だったの?」

 

「い、いやその…普通に断られるかと思ってネタでやってました」

 

「もう、それで結局どうするのよ」

 

「うーん」

 

ただいま思考中……

 

「よし!」

 

「決まったの?」

 

「あぁ、だがとりあえず人目につかない場所に行こう、話はそれからだ」

 

羽川を近くの茂みに連れこんだ

 

羽川を近くの茂みに連れ込んだ

 

羽川を近くの茂みに連れ込んだ

 

何故だろう…同じことを3回言っただけなのに犯罪臭がヤバイ。

 

いや、でも一応合意の上だから問題ない……よな?

 

「で?阿良々木君はこんなところで私に一体何をさせようって言うのかな?」

 

「俺が言うのもアレだが、羽川、なんか異様に落ち着いてない?」

 

「女子の方が意外といざという時は潔いものなんだよ阿良々木君」

 

「そういうもの…なのか?」

 

「あーあ、私の初体験ってこんな所なんだ」

 

「いや度胸ありすぎだろ!」

 

死地に向かう兵士並みに覚悟決めてやがる……。

 

やばいな女子。

 

「それとも何?叫び声でも出して欲しいのかな?」

 

「やめてください(社会的に)死んでしまします」

 

「さぁ、もったいぶってないで早く言いなさい!」

 

「お、おう、じゃあ言うぞ……」

 

「聞きましょう」

 

何だろう、羽川に度胸がありすぎて最早余裕すら感じる。

 

だが、ここで折れたら男が廃る。

 

俺も覚悟を決める!

 

「羽川」

 

「何」

 

「俺に、そのガーゼの下舐めさせてもらおう!」

 

(○◇○;;J) <ヘ、ヘンタイダー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「無闇だぜー!」

【作者だよー!】

「ここであったが百年目ぇぇ!」

【モルスァ!?】

【ぐ、ぐふ…いきなり何をするんだい】

「るせぇ!よくも今まで無駄なネタでシリアス台無しにしてくれやがったなぁ!悪ノリが過ぎることといい、更新頻度の遅さといい!お前には言いたいことが山ほどあるんだ!」

【ま、待て悪かった、謝るからその高く振り上げた拳をいったん下――――】

「問答無用!」

【タピオカァ!?】

「ふぅ、やっとすっきりした」

【ひどい目に遭った……でもこれでやってみたいことリストの一つ、『キャラとのド突き漫才』にチェックっと】

「何だよそのリスト!?」

【ハイハイ、ということでね、前章とはあとがきの書き方をガラッと変えて、こうしてアニメ版の次回予告の形で私筆者の零崎記識と本作の主人公零崎無闇君で執筆中の裏話とか次回予告とかをしていこうと思います】

「無視か!」

【ホラ無闇君、自己紹介して】

「野郎……あーどうも、『外物語』主人公の零崎無闇だよろしく頼む」

【ハイということでやっていきたいと思います。では早速カンペ出して】

「テレビ番組か!?つか誰が出してんだそのカンペ!?」

【えーでは最初の話題はですね…】

「聞けや!」

投稿が遅れた理由

「オラ吐けキリキリ吐けやこのバカ作者、事と次第によっちゃ脳天ぶち抜くぞ」

【分かった分かったから創造した銃を眉間にグリグリしないでお願いだから】

「とっとと吐け」

【アッハイ。えーそれはですねぇ……主に理由は三つありまして……】

【一つ目がリアルの事情ですね、私リアルでは学生でして…傷物語の最終話を投稿したのがちょうど夏休みの最後の方だった訳で、その後学校が始まってプレゼンやら課題やらで忙しくなりまして……執筆する時間が夜にしか取れなかったことですね】

【二つ目は展開の行き詰まりですかね、傷物語は無闇君主体で結構ストーリー自体は単純だったんですけれど、黒猫編は中心が羽川さんで家族の問題って言う非常に難しい複雑なテーマなので、どういう風に始めてどういう風に締めるか、って言うのが結構手探りでやっている状態で、なかなか筆が進まなかったんです】

「三つめは?」

【三つめはその……私も執筆の参考のためにほかの方々の作品を見ているんですが……】

「が?」

【皆さんの作品が面白すぎて読むことだけに熱中して執筆するのを忘れてました】

「天罰!」

【ナムサン!?】

「ホホォォウ?お前いい度胸だなコメント欄で散々失踪したんじゃないかって心配させてたくせに面白すぎて執筆忘れてだぁ?随分とナメ腐ったこと言ってくれるじゃねぇか」

【誠に申し訳ありません!】

「おまえただでさえこんなネタ満載のカスみたいな作品を読んでくれる方々だぞ?もっと大事に扱わんかい!」

【おっしゃる通りでございます!】

「ということでなるべく生存報告とかはまめさせるから、これからもこの作品をよろしく頼むぜ!」

【なにとぞよろしくお願い申し上げます】

「よし、次行くぞカンペ出せ!」

【君順応早くない?】

何で今回だけこんなに文字数多いの?

【それはですねぇ……新年を祝っての大盛サービスです!】

「本当は?」

【キスショットと駄弁るシーンが思いの外長くなってまとまり切りませんでした】

「やっぱりか……」

【仕方ないじゃないか!原作の会話シーンはどう考えたって無闇君のキャラじゃなかったんだもの!】

「まぁ……妹の胸揉んだり下着見せ合ったり金巻き上げたりしてるからなぁ……」

【無闇君はそこまで変態じゃないので、あとキスショットとの兼ね合いもありますし】

「オイ、さらっと俺にちょっとは変態性があるみたいな発言止めろ」

【え?違うの】

「違うわ!」

つ今回の最後

【やっぱ変態じゃん】

「へ、変態ちゃうわ!」

【まぁムッツリ変態な無闇君は置いておいて、002の話に戻りましょう】

「ムッツリ変態!?」

【002は原作と違って阿良々木家の一員として暮らしているキスショットの様子を描写したかったってのがありますね、他にも無闇君が羽川さんを実際どう思っているのかとか、そう言う喋らせておきたい情報を詰め込んだらいつの間にかあんなに長くなっていしまいました】

「つまり思い付きで話作ってるコイツの自業自得って訳だな」

【キスショットの扱いがホント難しい……】

「原作だと、アイツ幼女姿で学習塾廃墟で膝抱えて終始無言だからな」

【個人的にはちゃんとヒロインさせてあげたいところなのですが、今のとこと無闇君のストッパーって言うかツッコミ係になってますからね…】

「傷物語での羽川の役割みたいだな」

【ですね、でもなぜかあの娘はその上で頼んでもいないのにヒロインしてましたけれど】

「まあ、お前の推しキャラだしな……アイツ」

【原作だとあんなに苦労してるのに報われませんからねぇ彼女。それをどうにかしてやりたいって気持ちは無きにしもあらずですね】

「そんなあいつを掘り下げるのが今回の章なわけだが……」

【まだ結末がはっきり決まってない…】

「どうすんだよお前……」

【いやだって羽川さんはホント難しいんだって!黒猫編が終わっても化物編でまた来るし、やるかどうか未定だけど白猫編だってあるからその兼ね合いもあってどうするかがホント難しいキャラなんだって!】

「原作でもアニメでも、相当愛されてるからなアイツ……」

【という訳で私としてのもうその場その場のノリと勢いでどうにかするしかない状況です】

「それで後々苦しくなってくるだけだっつーのに、本当学習しないなこいつは…」

【仕方ないじゃないか!この作品は100%ノリで書かれた二次創作なんだから!】

「西尾先生のキャッチコピーをパクるな」

次回予告

「もう次回予告か」

【初回だけあって結構喋ったと思うけれどね】

「ほらやるならさっさとやれ」

【ではでは、次回は原作004~005までの予定です】

「いよいよ今回の物語が始まるな、というか、まだ始まってすらいなかったのかよ」

【前置きが長いのも、物語シリーズの特徴っちゃあ特徴だよね】

「まぁそうだが…」

【原作では忍野が登場したり、忍ちゃんのドーナツ好きが発覚したりする章だね】

「キスショットもドーナツ好きにするのか?」

【当然。うちのキスショットのドーナツ愛はぱないぜ?】

「確かにアイツのドーナツ愛は原作でもかなりのものではあったが……」

【お菓子やスイーツをおいしそうに食べる女の子って、イイヨネ】

「結局はそれが目的かい!まぁ確かに認めるけどさぁ」

【という訳で!次回はキスショットのドーナツ愛が可愛い回…に、なるといいな!】

「願望!?」

【「次回、『つばさファミリーその貳』!」】

【なるべく早く投稿できるように善処いたします】

「確約しろや!」

「あ、えーとこの作品を読んでいただいた読者様ならびにお気に入り登録をしてくださった皆様、ありがとうございました」

【質問・意見はコメント欄へどうぞ!】

【「ではまた次回!」】




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つばさファミリー その貳

過度な期待はせずに気楽に見ていくことをお勧めします。
感想・批評は歓迎ですが暴言・悪口は炎上の原因となりますのでおやめください。

お待たせしました。

執筆は気分ですが読む方は毎日欠かさない零崎記識です。

他の方の作品が面白すぎて才能の差を感じます。

切実に文才が欲しい今日この頃。



004

 

……さて。

 

羽川の謎の気迫に影響されてとんでもないことを口走ってしまったが、ちょっと俺に弁解をさせて欲しい。

 

うん、言いたいことは分かる。

 

前話で

 

『女?恋?興味ないね(クラウド感)』

 

みたいなことを言っておいて内心ド変態かこのムッツリが

 

……と、ツッコミを入れたくなるのも無理はない。

 

ただ、俺としても最初の予定ではこんなことを言うつもりではなかったのだ。

 

単純に羽川の傷を治させろ…と、最初は言うつもりだった。

 

吸血鬼の体液には治癒効果があるのだが、当然俺にもそれは当てはまる。

 

まさに『唾つけときゃ治る』を地で行く能力だが、別に俺は本当に唾をつける気は無かった。

 

針でも使ってちょっと血を出してそれを塗り付けて治療を施すつもりでいたのだ。

 

いたのだが……。

 

「……ほら、舐めるなら早く済ませなさいよ………やるならちゃんとやってよね」

 

羽川がガーゼを外し、頬を突き出す。

 

この何故か妙に積極的な羽川に押されて思わずあんなことを口走ってしまったのだ。

 

一応、彼女を茂みに連れ込んだのは吸血鬼という化物の異能の発動を見られないように…という、真っ当な配慮があっての行動で、やましい下心があったわけでは無く、犯罪臭がどうのというアレも只の冗談だった。

 

うん、いやマジで。

 

冗談……だったんだよ?

 

絶対服従とか、俺の女に~とか、本気で言ってたわけじゃないからね?

 

しかし、『吐いた唾は飲み込めない』とはよく言うもので……。

 

「い、いや羽川、実はだな……」

 

「何かな阿良々木君、まさか『さっきのお願いは雰囲気に呑まれてしまっただけで、本気じゃなかったから訂正させてくれ』……なんて言う訳がないよね?阿良々木君は一度言ったことを覆して女の子に恥をかかせるような骨なしチキンじゃないよね?」

 

「お、おぅ……そうだとも」

 

「だよね、よかった」

 

羽川さん、さっきから俺の逃げ道をことごとく潰してきます。

 

もう勘弁してください(土下座)

 

大魔王(羽川翼)からは逃げられないのか……。

 

やはり魔王()じゃ勇者(キスショット)大魔王(羽川翼)には勝てなかったよ。

 

「因みに後回しにしようとしたら悲鳴を上げて阿良々木君に襲われたーって言いながら街中走り回るから」

 

「俺、何かお前に恨まれるようなことした?」

 

一体何がお前をそうさせるんだ……。

 

クッ……これは腹括らないとダメか……。

 

……ってか、何で俺の方が追い詰められてるんだ?

 

何で俺が覚悟決めてるんだ…?

 

何でお前はそんな堂々としてるんだ……?

 

普通逆じゃない?

 

おかしくない?

 

あるぇーどうしてこうなった?

 

「じゃあ……い、行くぞ?」

 

「来なさい」

 

こうしていても埒が明かないので、覚悟を決めて俺は舌を羽川の頬に近づける。

 

そして……

 

ベロンッ

 

この味は!……()()()()()()()()『味』だぜ……。

 

……現実逃避は止めよう。

 

「一回だけでいいの?」

 

「十分でございます」

 

「ふーん……ちなみにどんな味だった?」

 

「へ?」

 

「だから、私のほっぺはどんな味だった?阿良々木君」

 

「いや、あの……言わなきゃダメですか?」

 

「それくらいは聞く権利があると思うな」

 

えぇぇぇぇ……

 

こんなのどう答えろと……。

 

仮に『美味しかった』なんて言ってみろ

 

下手すればセクハラものだぞ。

 

「羽川、自分の味を詳細に把握しても何の役にも立たないと思うぞ?」

 

「そうだね。で味は?」

 

「いやだから、知ったところで意味はないし俺もお前も恥ずかしい思いをするだけだから聞かない方がいいって」

 

「確かにね。で味は?」

 

「あの、だから「で味は?」

 

「いや「で味は?」

 

「だから「で味は?」

 

「羽川?「で味は?」

 

「あのさぁ…「で味は?」

 

「RPGの村人かお前は!」

 

もうヤダこの娘。

 

自分の味気になりすぎだろ……。

 

蛇かな?(白目)

 

流石に食べられないから……。

 

食ったらダメな奴だから。

 

「……で味は?」

 

「……」

 

あ、コレ言うまで永遠にループするやつや……。

 

「…………鉄の味の中に……その、ほんのり甘さがありました」

 

「そう、甘かったんだ私って」

 

い、いや吸血鬼的な味覚かもしれないですし

 

『血』が甘かったんだよきっと。(震え声)

 

とはいえ、流石にもう羽川も満足したようで、俺達は茂みから出た。

 

閑話休題(そんなことがありまして)

 

ふぅ……女友達の傷を治療しようとしただけですんごく精神的に疲れたでござる。

 

確かに俺でストレス解消すればいいとは言ったけれどさぁ。

 

『俺になら好きなだけ愚痴っていいぞ』っていうつもりで言ったのだが、ちょっとあれは予想外だった。

 

「阿良々木君」

 

「ん?」

 

俺が1人、内心で嘆息していると、前を歩く羽川が、前を向いたまま話しかけてくる。

 

「―――ありがとね、いろいろと」

 

どうやら、俺の真意は彼女にはお見通しだったようだ。

 

「あぁ、取り敢えずガーゼはしておけよ。流石にお前の親父も怪我人を殴ったりはしないだろ?」

 

「どうだろうね、怪我してるからって殴るのを躊躇うほど、私は大切に思われていないから。仮にそうだったとしても、今度は右側を殴られるのが関の山じゃないかな?」

 

あはは、何だかキリストみたいだね。と冗談めかす羽川。

 

「『愛の反対は憎しみではなく無関心だ』なんて言葉があるけれど、そう考えれば、強ち間違ってはいないのかも。愛ゆえに殴られるのが神様なら、無関心に殴られる私は……何だろうね?」

 

「お前はお前だろ」

 

お前は羽川翼だ。

 

人の子として生まれ育った普通の女の子。

 

良いことがあれば喜び、許せないことがあれば怒り、嫌なことがあれば哀しみ、面白いことがあれば楽しむ。

 

誰かを好きになったり、憎んだりも普通にする……人間だ。

 

だから…そんな聖人みたいに笑うなよ。

 

嫌なことがあったなら悲しめよ。

 

理不尽には怒れよ。

 

そんなろくでもない父親は憎めよ。

 

お前は……人間なのだから。

 

「結局、お父さん達は私の事なんてどうでもいいのよ。私が怪我をしていようといなかろうと、私がいてもいなくても、……私が生きていても、死んでいても。お父さんたちは気にしない」

 

「それは最早……」

 

「『家族とは呼べないのではないか』…そうだね、『家族』の在り方は色々あるけれど、もし仮に『家族』というものを定義するための条件が『愛情』なのだとしたら、その真反対の私たちは、法律上は『家族』なのだとしても、その本質は『家族』とは真逆に位置するんだろうね。どれだけ外面を取り繕っても、どれだけ私が仲良くしようと努力しても、そこに『愛情』が存在しないなら、私たちは『家族』にはなれない」

 

「…………」

 

だから何でお前は……そんな残酷で悲しいことを平然と言えるんだ。

 

哀しみを押し殺して平静を装っている。というならまだわかる。

 

だが、彼女をどう見たところで、彼女自身が本気で悲しんでいるようには見えなかった。

 

どう見ても異常だ。

 

親に殴られて大怪我をして、客観的に自分の家族を分析する。

 

俺が思うに、羽川翼という人間には()()()()という物が全く感じられない。

 

他の人間ならば憤っていても、失意に沈んでいても、憎悪に身を焦がしていても、全くおかしくないような境遇の中、彼女には怒りも、悲しみも、憎しみも、全く見られない。

 

まるで、初めから存在しないかのように。

 

だが、そんなことはあり得ない。

 

感情というのは、別々に分けられるようなものではない。

 

哀しみがあるからこそ、人は喜びを感じるのだ。

 

どれか一つだけ欠落しているなんてそんな都合のいいことは無い。

 

一部の感情の欠落は、他の感情の欠落と同義なのだから。

 

もし羽川翼という人間に負の感情が存在しないならば、正の感情もまた存在せず、羽川翼という人間は機械のような人間になっている筈なのである。

 

だが、現に存在する羽川翼には、しっかりとした感情がある。

 

彼女は普通に笑うし、普通に喜ぶ。

 

ならば、やはり悲しみや怒りも、彼女は感じている筈なのだ。

 

それが意味することは、つまり…。

 

羽川翼という少女は、自分の負の感情を無意識下まで押さえつけ、正の感情のみを彼女は知覚している…という事。

 

『いい子』でいるために、彼女は幼いころからそうやって感情を押さえつけているのだろう。

 

我が儘を言うような子は『いい子』じゃない。

 

――故に彼女は欲を殺した。

 

泣きわめいてうるさい子は『いい子』じゃない。

 

――故に彼女は哀しみを殺した。

 

親に反発する子は『いい子』じゃない。

 

――故に彼女は怒りを殺した。

 

誰かを嫌うような子は『いい子』じゃない

 

――故に彼女は憎しみを殺した。

 

殺して殺して殺して…彼女はいろんな自分を無意識まで押し殺して『いい子』であり続けたのだ。

 

だが、押し殺したといっても、それは彼女が意識していないというだけで、無い訳ではない。

 

彼女の無意識下では、今まで彼女が殺してきた負の感情が存在している筈である。

 

そして、それは日々増え続けている。

 

『堪忍袋』というものが、もしもあるのだとすれば、彼女の無意識下で膨らみ続けるそれは、今やどれほどの大きさになってるのだろう。

 

そして、彼女が感じる負の感情が、彼女の無意識のキャパシティを超えて()()()()()とき、あふれ出した負の感情によって、彼女は一体どうなってしまうのだろう。

 

その想像は、何故か俺の中では真実味を帯び始めていて、近いうちに、それは現実に起こるような予感がした。

 

その予感に俺は少し、恐怖を感じるのであった。

 

閑話休題(暗い話はここまでにして)

 

その後の俺達は、先ほどまでの話題を切り上げ、打って変わって他愛のないおしゃべりをしながら散歩を続けた。

 

俺も羽川も、先の話題はもう蒸し返さない。

 

何故か、蒸し返してしまえばこの楽しい時間が壊れてしまうような気がしてならなかったのだ。

 

特に羽川は、まるで俺とこうして話していれば、家族の問題など初めからなかったことになると信じているかのように、いつもより饒舌に喋った。

 

途中、不幸にも車に轢かれた白猫を羽川と埋葬してやった。

 

尻尾が無かったことが軽く気にかかったが、そう言う種類の猫だろうと結論付けた。

 

どういう訳か、忍野の顔が頭に浮かんだ。

 

何故だろう?

 

まぁ確かにあいつは根無し草な奴だから、野良猫とどこか通じるところがあるかもしれない。

 

見るからに『自由』ってやつだからなぁ…。

 

すると、こうして野垂れ死んでいる猫を見てアイツが思い浮かんだのは何だろう、あいつも近いうちにどこかで野垂れ死ぬという予感だろうか。

 

放浪の果てに野垂れ死ぬ忍野か…。

 

ありうる。

 

あぁーでもアイツ、あれで結構しぶといからなぁ。

 

無人島でも普通にサバイバルしてそうな、謎の生命力がある気がする。

 

まあそんなことはどうでもいいとして、とにかく俺達はそうやって些細なイベントこそあったが、何事もなく適当に歩き回った後、別れた。

 

家に帰ると、何やら深刻そうな顔のキスショットが玄関で仁王立ちしていた。

 

「帰ったかお前様よ」

 

「……どうした?そんな所でつっ立って」

 

「話がある」

 

005

 

「な、なんじゃこのわっか状の食べ物は!?こんなにうまいものを食べたのは生まれて初めてじゃ!こんなに素晴らしい食料がこの世界に存在しようとは!正に甘味の詰まった指輪の宝石箱じゃ!儂は今、猛烈に感動しているぞ!やっぱり自殺なんてしなくてよかった!生きてるって素晴らしー!ぱないの!」

 

「うん、お前が感動しているのは分かったから、取り敢えず落ち着け」

 

周りの人からの目線が痛いから。

 

「全く、深刻そうな顔して改まっているもんだから何事かと思ったが、まさか『ミスタードーナツに連れていけ』とは……」

 

現在俺はキスショットの頼みで街外れにあるミスドへ来ていた。

 

玄関で待ち受けていたキスショットにミスドのチラシを見せられ、連れて行けと言われたのだ。

 

何でも、以前から知ってはいたが、如何せん土地勘のない彼女には場所がわからなかったそうだ。

 

で、そんな彼女はといえば、俺の呆れたような言葉も耳に入らんとばかりにトレーの上に山積みになったドーナツをすごい勢いで食べている。

 

全種類10個ずつ買わされた……。

 

それもまた、周囲からの視線を集める一因であることは言うまでもない。

 

「仮にも伝説の吸血鬼が、たかが人間のファストフードごときにどれだけ喜んでんだよ」

 

「たかがとは何じゃたかがとは!ドーナツはまぎれもなく人類最高の発明じゃ!儂が保証する!人間はもう少し自らが発明した物の偉大さを自覚するべきじゃ!ドーナツの発展のためなら儂は協力を惜しまんぞ」

 

「それでいいのか怪異の王……」

 

ドーナツにつられる怪異ってどうよ?

 

……まぁでも――

 

「モグモグ……はぁ~幸せじゃ……」

 

蕩けるようなうっとりとした表情をするキスショットを見ていたら、それでいい気がしてきた。

 

彼女が幸せなのだからそれでいいのだろう。

 

キスショットもまた『例外』なのだから。

 

吸血鬼とか怪異とか、そんな柵に拘らず自由に生きて幸せになることには何の問題もないのだ。

 

「……おい、食べかすが口についてるぞ」

 

食べるのはいいがもうちょい綺麗に食べろよな…。

 

「む、どこじゃ」

 

「ここだここ」

 

そう言って俺はキスショットの口についていたドーナツのカスをとってやる。

 

「全く、んながっつかなくてもドーナツは逃げたりしな――」

 

その瞬間、俺ですら視認できないほどの速さで俺が取ってやったドーナツのカスがかすめ取られ、気が付いた時にはキスショットドーナツのカスを口に放り込んでいた。

 

「このドーナツは儂のじゃ、例え食べカスであろうと渡さん」

 

「食い意地張りすぎだろ!?」

 

訂正、『例外』でも最低限の節度くらいは気にするべきだと思う。

 

文字通り山盛りになったドーナツを平らげたキスショットは、ものすごく名残惜しそうにしながら俺と共にミスドを出た。

 

「うぅ……さらばじゃこの世の楽園よ……」

 

「随分ありふれた楽園だな」

 

日本国内だけでも1294箇所もあるんだが……。

 

ありがたみの欠片もない。

 

「週一で連れてきてやるから」

 

「そんな!あんまりじゃ!後167時間45分20秒もここに来れないなんて!」

 

「ドーナツに依存しすぎだろ……」

 

若干涙目になってるし。

 

怪異の王ェ……。

 

「う~~うううあんまりじゃ……」

 

あ、泣き始めた。

 

「HEEEEYYYYあァァァんまリじゃァァアァ!」

 

柱の男みたいな泣き方するなよ……。

 

お前は食われるほうだろ。

 

「……あ~分かった分かった、週3ぐらいで連れてきてやるよ。これでいいだろ」

 

「フースッとしたわい」

 

あのさぁ……(諦め)

 

こんなのが最強の吸血鬼とか世の中おかしい……。

 

閑話休題(異様に疲れた)

 

一旦家に帰って翌日の4月30日の午前0時過ぎ。

 

キスショットと俺は忍野への差し入れとして買っておいたドーナツを持参し馴染み深きあの学習塾跡へ向かった。

 

「……おいキスショット、いい加減忍野への土産用に買ったドーナツを付け狙うのは止めろ」

 

昼に散々食っただろ…。

 

「あんなアロハ小僧になんぞくれてやらんでもよろしい!あの小僧にとってドーナツは過ぎた食料じゃ、高貴で誇り高い儂にこそドーナツは相応しい」

 

「今のお前のどの辺が高貴で誇り高いんだよ」

 

貴さも誇りも微塵も感じられないんだが…。

 

好物ってのはここまで性格を変えてしまうのか?

 

「そうは言うがのお前様よ、実際肉食獣の前に新鮮な生肉をぶら下げて我慢しろというのは酷過ぎやしないかの?」

 

「お前肉食獣と同レベルなのかよ…」

 

尊厳もへったくれもあったモノじゃない。

 

眼を獣のように輝かせてドーナツを狙うキスショットから必死にドーナツを護りながら、ようやく俺達は廃墟へと到着した。

 

「やぁ阿良々木君遅かったね、待ちかねたよ」

 

言わずと知れた二階の教室の一つ。

 

春休みに俺とキスショットがリフォームして寝泊まりしていた教室に忍野はいた。

 

相も変わらず胡散臭い…。

 

映画版傷物語では躍動感あふれる迫力満点の疾走シーンでスタイリッシュに登場したり、アニメ版終物語では久々に登場して、随分と美味しい所を持っていったりしているようだが、一目の前にいるこいつにはカッコよさの欠片もない。

 

ただの怪しくて小汚いおっさんだ。

 

「はっはー、どうやらハートアンダーブレードから僕のお土産を随分頑張って守り通してくれたようだね、ごくろーさん阿良々木君」

 

「あぁ、差し入れにと思ってな」

 

俺は忍野にドーナツを渡す。

 

おいキスショット、歯噛みするな親の仇を見るような目で忍野を見るな「ぐぬぬ…」とか言うな。

 

「ドーナツね、これはありがたい。何を隠そう、僕は甘いものが大好きでね。特にミスタードーナッツの中ではオールドファッションが好みなのさ。何せ古風な男だからね」

 

「ファッションのファの字もないお前が言っても説得力無いけれどな」

 

古風もくそもない、お前は只のおっさんだ。

 

それじゃ、いただきます。

 

そう言って忍野は箱に入っていたドーナツを一つ摘まんで取り出すと、見せびらかすかのように食べ始めた。

 

絶対わざとやってる……。

 

おいやめろ、キスショットの眼がそろそろ人を殺しそうな目になってきてるぞ。

 

吸血鬼には視線で物をぶっ壊すスキルがあるんだからマジで洒落にならねぇぞ。

 

お前が殺されようとしても俺は助けないからな?

 

やだよ俺こんなキスショットの相手するの。

 

「小僧が……その選択がいずれ身を滅ぼすことになると覚悟しておくがいい……」

 

お前もドーナツ一つで大物みたいなセリフを吐くな。

 

色々と台無しだ。

 

閑話休題(だんだん便利になりつつある)

 

「それで阿良々木君、態々家族が寝静まったのを見計らってこんな夜中に僕を訪ねて来たってことは、何か用があるんだろ?」

 

「あぁ、俺の用はこれだよ」

 

俺はそう言って影の中からかなりの厚みがある封筒を取り出して忍野に投げ渡した。

 

「春休みの依頼料だ。キッチリ200万入ってる」

 

「あぁお金ね、へへまいど~なんつって」

 

そう言って忍野は200万円の札束が入った封筒をぞんざいにズボンのポケットに入れる。

 

財布もないのかよ……。

 

「悪いな、結構準備に手間取っちまった」

 

「構わないさ、ある時払いでいいって言ったのは僕だしね」

 

え?一体どうやって学生の俺が200万円なんて大金を用意できたのかって?

 

そうだな、一言で言うなら……

 

吸血鬼のスキルって滅茶苦茶便利だよな。

 

……はい、今俺が物質創造能力で偽札作ったり金やダイヤを作って売っぱらったと思った奴、後で体育館裏な。

 

そんなガチな犯罪はしてねえよ。

 

俺が使った能力は『分身』だ。

 

容姿は勿論、性別や髪の色までバラバラに作った俺の分身を作って日本国内のあらゆるところで働かせている。

 

彼らには俺の持つ才能を一部だけ与えてある。

 

種類は様々だ。

 

科学の才能、野球の才能、歌の才能etcetc……

 

学問、スポーツ、芸術、ありとあらゆる分野における才能をそれぞれ一つずつ分身は持っており、それぞれがその分野におけるトップクラスの能力をふんだんに使って様々な場所で大活躍している。

 

ある者は常識を覆す論文を発表し世界を驚愕させ

 

ある者は最強のアスリートとして世界で活躍し

 

ある者は最高の歌手として世界中で人気を集め

 

他にも上げればキリが無いが、俺の分身たちはこのようにあらゆる分野において数々の功績をあげて一人一人が巨額の金額を稼いでいる。

 

彼らの稼いだ金は彼らがその中から生活に必要な分だけを引いて後は全て俺にまわってくるようになっている。

 

俺が先ほど言った『準備』というのは、彼らが社会に溶け込んで活躍の下地を整えるまでの下準備の事だ。

 

俺の分身と俺本体の関係はもちろん、分身同士の関係すらも全く無いようにするのは骨が折れた。

 

俺の能力や吸血鬼のスキルをフル活用して最速で準備を整えたが、それでも活躍までに一ヶ月近く費やした。

 

だがその甲斐あってか、今は全てスムーズに上手くいっている。

 

で、今現在俺の手元には国家予算を超えるほどの金が集まっているわけだが……。

 

正直多すぎて使い道が全くない。

 

消費が供給に対して極端に追い付いていない。

 

今のままだと、恐らく数か月後には経済を左右できるレベルの額が集まっている。

 

因みに、この分身から俺への莫大な金の流れを誤魔化すことが、最も準備で苦労したことだ。

 

お陰で分身だけで構成した銀行を設立する羽目になった……。

 

こうして、俺はほぼ合法的に莫大な金を稼ぐことに成功した。

 

ま、戸籍を作るのにちょっとばかし法に触れたかもしれないが、別に犯罪目的じゃないからセーフってことで。

 

以上、『零崎無闇の完璧☆分身お金稼ぎ(ほぼ合法)』の方法だ。

 

さぁ皆もこれで億万長者だ!(無茶振り)

 

閑話休題(これで何回目?)

 

「そういや、お前はいつまでこの街にいるんだ?」

 

「まだもう少しはいるつもりだよ。この街の怪異譚の収集もしたいし、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの来訪が引き起こした怪異の対策も必要だし、君たちが及ぼした影響の調査もあるし、まだまだやることは多いね」

 

「へー結構真面目に仕事してるんだな」

 

一日中遊び歩いてるようなイメージだった。

 

「まぁ今のところ、ハートアンダーブレードの観察って言うのが目下の課題なわけだが……」

 

「キスショットの観察?」

 

「怪異ってのは人間の信仰に大きな影響を受けるわけだけれど、では怪異から外れてしまった存在である元怪異のハートアンダーブレードはどうなのか……とか、それが周囲にどんな影響を与えるのかって言うのを調べて報告しろって言われていてね」

 

「影響ねぇ……」

 

俺は横目でキスショットを見る。

 

「ふん、儂にドーナツを献上するなら調べさせてやらんでもない」

 

お前そればっかだな……。

 

「こいつのこの豹変ぶりも、怪異から外れた影響って奴か?確かに俗っぽくはなったが……」

 

「それに関してはまだ何とも言えないね、ハートアンダーブレードが怪異だったならば彼女の性格の変化は魂レベルで繋がっている君の影響を強く受けた結果……ということで話は分かりやすかったんだけれど……」

 

「これが俺の影響の結果ぁ~?」

 

俺は別にこんな中毒みたいなレベルでドーナツが好きなわけじゃないんだが……。

 

それが本当ならかなり凹むぞ……。

 

「親の期待通りに子が育つとは限らないだろ?でも子は親の影響を強く受けて育つ。概ねそういうことさ」

 

「親の良い所に似ることもあるし、悪いところも似ることだってあるってことか?」

 

「そゆこと」

 

「だからって何をどう影響を受けたらこんなドーナツジャンキーみたいになるのか……」

 

「ドーナツジャンキーとは失敬な、ドーナツ信仰者と言うがいい」

 

「既に宗教レベルなのかよ……」

 

「今ならギロチンカッターの気持ちがわかるかもしれん。儂はドーナツのためなら死ねる」

 

「不死身が何言ってんだか」

 

しかもそれ、本末転倒じゃね?

 

死んだらドーナツ食えないじゃん。

 

「時に阿良々木君、委員長ちゃんは元気かい?」

 

「あぁ?」

 

藪から棒に何だよ一体……。

 

今日俺が羽川と会っていたことを知っている?

 

あるいはただの偶然か……。

 

そういえば、春休みの頃から忍野はやけに羽川を警戒している節がある。

 

確かにあいつは色々と異常だが、しかし怪異とは関係ない以上、忍野の管轄外だと思うのだが……。

 

「別に羽川は怪異と直接関わってはいないぜ?まぁお前見たいなプロの専門家にしてみれば、ああいう怪異を知っていながら、怪異の脅威を恐れていながら怪異に関わる素人は厄介な存在かもしれないけれどさ」

 

「僕にとってだけじゃない、彼女は誰にとっても厄介だよ」

 

忍野は真面目な口調でそう言った。

 

「阿良々木君にとっては……違うのかもしれないけれどね。君の相棒であるハートアンダーブレードの来訪は、この街の怪異事情を随分と歪めてしまったけれど、それに則って言うなれば、委員長ちゃんの在住はこの町の人間事情をそれなりに歪めてしまってるだろうね」

 

「人間事情の……歪み…」

 

歪み。不和。仲違い。

 

奇しくも、俺は今日羽川が『家族』という最も身近で最も基本的な人間関係において。深刻な歪みが存在することを聞いたばかりだ。

 

勿論俺は、忍野に羽川の事を話してはいない。

 

だが忍野は、春休みの一件で羽川の異常性を知っている。

 

彼女の歪みを――知っている。

 

「人間関係の歪みって言うのは、誰にとっても共通で最も厄介な問題だよね。何せ、明確な答えや最善策があるわけでも無いし、解決は当事者同士だけでしかできないんだから。だから人間関係の歪みって言うのは人を不安にさせやすい。そしてその場合人は、怪異に縋りやすい」

 

―――人間関係の歪みは、怪異を惹き寄せるんだよ

 

「『目には目を』ってことでも無いけれど、解決法が不明確な問題を前にしたとき、人は不明確な物に縋りたくなるのさ。例えば恋愛成就のお守りとかね。普通に考えればあんなものがあったところで実らない恋は実らないし、別になくても恋は実るさ。でも何故か、そんな意味のないものに縋る人は大勢いる。別に普段から神を信仰しているわけでも無いのに、そう言う時は神に縋る。つまりそういうことだよ」

 

―――まぁ、そんな不明確な物を糧にしている僕が言えた義理じゃないかもしれないけれどね。

 

と、忍野は軽薄に笑って肩を竦めた。

 

「兎に角、委員長ちゃんの存在はこの町に怪異が蔓延る下地を整えちゃっているってことだよ。それに加えて怪異を引き寄せるハートアンダーブレードの存在だ。まさに相乗効果だ。やばいなんてものじゃないね。ハートアンダーブレードの方は一応僕が対策しているけれど、委員長ちゃんは野放しだ。というより、専門外の僕には手が出せないと言ったほうが正しい、だから友人である阿良々木君に聞きたいんだけれどさぁ―――」

 

―――委員長ちゃんは元気かい?

 

「元気ではある、多分な」

 

元気じゃない子が『良い子』でないとあいつが考えているなら、元気であろうとするだろう。

 

「それはつまり、元気だけれど問題が無いわけじゃない……そう捉えて良いかな?」

 

「お前に任せる。ただ具体的に何があったのかは言えないからな」

 

「なら、アプローチを変えよう。君が言えないことは言わなくていいから、()()()()の事を話してくれよ。何から何まで言えないって訳じゃないんだろ?」

 

「……分かったよ」

 

まぁそういう風に言われては断る理由がない。

 

俺は忍野に今日の出来事を羽川に口止めされていたことを伏せて話した。

 

そして、あの猫の件になると、忍野は目を細めた。

 

()()()()()()()()?それは確かなのかい?」

 

「あぁ、銀っつーか白っつーかそれは曖昧だが、尾が無かったことは確実だ」

 

「そうか……ねぇ阿良々木君、少し前に君に話したこと……覚えてる?」

 

「あぁ?ちょっと変わった怪異譚を調べてるって話か?確か尾無しの銀色の猫が……」

 

その時、俺はハッとした。

 

そうか……そういう事か!

 

あの猫を見た時に覚えた引っかかりはこれの事か!

 

「忍野……まさか…………」

 

「気づいたかい?阿良々木君」

 

忍野は俺の眼を見据えて言う。

 

「マズいことになった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「無闇だぜー!」

【…………】

「おい、挨拶しろよ作者」

【……諸君、私は戦争が好きだ】

「は?」

【諸君、私は戦争が大好きだ】

「何言ってんの?」

【つー訳で戦争じゃオラァ!!!】

「いきなりどうした!?」

【どうもこうもあるか!来る日も来る日も花粉飛ばしやがって!お陰で眼は痒いし毎朝目やにで眼開かないし鼻水は止まらないし鼻詰まりで寝苦しいしこちとらもう我慢の限界に来てるんじゃボケェ!】

「あぁ……花粉症か。そりゃご愁傷様」

【こうなったら半径10キロ圏内にある杉の木を一本残らず燃やし尽くしてやるわ!行くぞ無闇君!これは戦争じゃあ!】

「あーうん、気持ちは分かるが落ち着け。今はホラ、次回予告しないと」

【……確かに。という訳でどうも、杉の木を一本残らず駆逐したい系作者の記識です】

補足のコーナー

【二次創作の扱いについてだね】

「この作品における重要なテーマである『物語と世界』の話だが、一つ一つは独立した別々のモノだと作中で述べたが、しかし実際、二次創作は『原作』という大元の物語の存在があってこそ成立しているわけだが……これは独立しているとは言えないんじゃないか?」

【独立はしているよ?ただ『原作』との関係があるってだけで】

「どういうことだ?」

【イメージ的には一本の木かな。まず大元である『原作』という幹があって、そこから『原作』に『もし〇〇が△△だったら』というifの条件で枝別れして、その枝についている葉の一つ一つが二次創作って感じかな】

「つまり、大元で繋がってはいるが葉の一枚一枚は別々の『物語』であると」

【そゆこと。これには主に作中の歴史なんかが大きく影響を受けるね。まず『原作』の歴史があって、枝分かれしたifの条件によってそれぞれ歴史は変化していくのだけれど、設定したifの条件には影響を受けない場合はそのまま『原作』の歴史が引き継がれているんだ】

「この作品の場合だと、俺がこの世界に来た後からが変化した歴史で、その前までの歴史は『原作』そのままってことだな」

【そうそう、そうじゃないと登場人物が皆生まれてこなかったこととかになっちゃうから】

「成程な」

次回予告

【次回は原作006~007までの予定です】

「いよいよ本編開始だな」

【そうだね、今まではプロローグというか、イントロダクションだったからね】

「全5章も費やしてやっと本編か」

【本編部分全295ページあるうちの なんと150ページもこの導入部分に費やしてるから本当びっくりだよね】

「さて、次回はいよいよ怪異化した羽川、通称『ブラック羽川』が出てくるわけだが…」

【フフ……フフフフフフ……】

「おいなんだその不安になる笑いは」

【猫耳……羽川……無闇君暴走……悪ノリし放題】

「おい何かいま不穏なワードが聞こえたぞ!どういうことか説明しろ!」

【次回、『つばさファミリーその參』!】

「聞けよオイ!?」

【質問・意見はコメント欄へどうぞ】

「マジで頼むぞ……」

【確約しかねる】(ΦωΦ)

「悪い顔だ!?」

【「ではまた次回!」】






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つばさファミリー その參

過度な期待はせずに気楽に見ていくことをお勧めします。
感想・批評は歓迎ですが暴言・悪口は炎上の原因となりますのでおやめください。

「よう、今回だけ前書きを担当する零崎無闇だ」

「かなり待たせちまったみたいですまないな」

「え?記識の奴(バカ作者)はどうしたんだって?」

「はっはっは、奴には投稿を大幅にサボった罰として……」

地 獄 の 業 火 に 焼 か れ て も ら っ た ぜ





006

 

道端で猫が死んでいる。

 

この状況だけで、一体どれほどの人が死んだ猫がまさか怪異であると思うだろうか。

 

この何気ない日常の光景の裏に非日常が潜んでいることをどれほどの人が疑うだろうか。

 

例え予め情報を得ていたとしても。

 

こんな唐突に前触れもなく怪異が現れるなど、誰が予想できようか。

 

車に轢かれた猫を埋葬してやる。

 

文字に起こせばなんてことは無い。

 

あまりにも普通で―――

 

あまりにも当然で―――

 

あまりにも日常で―――

 

そこに非日常の存在は感じられなかった。

 

そして、そんな当たり前の光景を前にして、彼女もまた、当たり前の行動をとった。

 

車に轢かれて血まみれで、内臓も飛び出している猫の死体を、少しの躊躇いもなく、寧ろ慈しむように抱きかかえ、彼女は言った。

 

「阿良々木君、手伝ってくれる?」

 

死んだ動物を埋葬してやる。

 

彼女の行動は何も間違ってはいない。

 

道徳的で、倫理的で、人道的な

 

『正しい』行動だ。

 

模範的な人間の行動そのものである。

 

正に美徳。

 

しかし、その正しさも美しさも、彼女の歪さを知る俺から見れば、悲しいものに見えた。

 

美徳は、悪徳があってこそ映える。

 

それが無い彼女の行動は、何処かプログラムに従った動きのようで、機械的だった。

 

そうすることが正しいから行動しているのではなく

 

そうすることしかできないから

 

そうするしか取るべき行動を知らないから

 

彼女の行動は、そうやって、本来あるはずの選択肢を全て最初から殺して『正しい』選択肢を突き進んでいるようであった。

 

そんな彼女の異常性の前には一匹の猫の死など埋没してしまっていた。

 

閑話休題(回想終了)

 

 

食肉目ネコ科ネコ族の哺乳類。

 

鋭い爪を持ち、主に鼠、小鳥を狩る。

 

夜行性で夜目が効く目を持つ。

 

犬と並んで人に懐きやすいため、愛玩用にペットにしている家庭も多い。

 

「障り猫」

 

それが今回、羽川が遭遇した怪異の正体だ。

 

「今回の件についての落ち度は僕にある。怪異は何の理由もなくそこに現れたりはしない。怪異の出現には、それに相応しい理由があるって言うのが、僕の持論なのだけれど、だからと言ってそれが必ずしも分かり易いものとは限らないし、猫という動物は猫又や火車のように日本では怪異として馴染み深いけれど、それ以上に猫という動物は日常にありふれている。()()()()()()()()()

 

確かに。

 

例えば、その怪異がもしトラやライオンだったら俺も一目で気づけただろう。

 

「見た目の特徴だけ伝えて障り猫がどういう怪異なのかを話さなかったのは完全に僕の失策だ。それを君が知ってさえいれば委員長ちゃんが障り猫と遭遇するであろうことは君にも容易に想像がついただろうに」

 

「……どういうことだ?」

 

()()()()()()()()()――()()()()()()()()()()()()()さ阿良々木君」

 

―――アイツだけはマジでヤバイ。

 

軽薄な口調の中で、この一言だけには焦りが混じっているように聞こえた。

 

「委員長ちゃんの歪さに、障り猫は誂えたかのようにピッタリだ」

 

「怪異にはそれに相応しい理由がある……か」

 

「委員長ちゃん程、障り猫に()()()()人物はいないだろうね。だからこそ―――()()()

 

「そんなにヤバイのか、障り猫って怪異は」

 

「いや、障り猫そのものは大した怪異じゃない。そこのハートアンダーブレードと比べれば雑魚も雑魚。存在としては天と地の差がある弱小な怪異さ。それが()()()()()()()()()()()()()()ヤバいんだ。あの娘の異常性は、その辺の怪異なんか目じゃない。それこそ車に轢かれた猫を弔ってやったっていう日常の何気ないエピソードですら、彼女に掛かれば大事件に発展しかねない」

 

例えば―――と、忍野はキスショットに目を向ける。

 

「阿良々木君と事のついでのように話した吸血鬼の噂話が、君という例外的な人間と、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードという例外的な怪異を引き合わせた……こんなできすぎた偶然、裏に何らかの作為があるのではないかと疑いたくなる偶然を、彼女は何気なく、意図せずに引き起こす」

 

だからこそ―――

 

「そんな委員長ちゃんが障り猫という相性抜群の怪異と出逢って、()()()()()()()()()()()()

 

忍野は、確信しているように断定した。

 

「俺は……どうするべきだ?」

 

「ここは二手に分かれよう。僕は君達が埋めたという猫を()()()()()()()()。つまりは墓荒らしだね。罰当たりな行為だけれど、もしそこに埋まっているのが普通の猫なら何の問題もない。ハッピーエンドだ。罰が当たるなら甘んじて受けよう。僕は和太鼓のような男を自称しているからね」

 

「お前が和太鼓なのかはどうでもいいが、とにかく俺は猫を埋めた場所を教えればいいんだな?」

 

「概ねの場所を口頭で教えてくれればいいよ、後は自力で猫ちゃんのお墓には辿り着けるから」

 

ふむ…伊達に放浪してないってことか?

 

俺も一年かけたフィールドワークのお陰でかなり土地勘はある方だが、こいつもこいつで自分なりのノウハウを持っているのだろう。

 

なら、ここはこいつを信用しておくか。

 

「分かった。場所は時間が無いようだから手短に話す。それで?俺達はどうすればいい?二手に分かれるんだろ?」

 

「阿良々木君には、委員長ちゃんに()()アプローチしてもらう。つまり君は()()()()()()()()()()()()顔を見て、眼を見て、話をして、彼女の無事を確認するんだ」

 

「適材適所か……」

 

「そうそう、まさかこんな見ず知らずのおっさんが真夜中に女子高生の家を訪ねる訳にはいかないからね。僕はあの青い服は苦手なんだ」

 

日本の警察は仕事熱心であることがうかがえた台詞だった。

 

お巡りさんは有能である。

 

「その点阿良々木君なら問題ないだろう?吸血鬼の身体能力ならまず捕まらないし。仮に逮捕されてもスキルを使えば簡単に脱獄できるだろう?」

 

「通報される前提で話してんじゃねぇ」

 

確かにこんな時間に友人とは言え同級生の女子の家を訪ねるなんて非常識だとは思うけれど……。

 

うーむ……羽川が無事だった場合は彼女の両親にはなんて説明しよう……。

 

困った……非常に困った。

 

「あなたの娘さんの友人ですが娘さんはもしかしたら今日埋葬した猫の霊に取り憑かれているかもしれなかったのでその確認に来たのですが娘さんの様子はどうでしょうか?」

 

なんて、馬鹿正直に言えるわけもないし……。

 

変な宗教の勧誘と思われて門前払いされるのは確実だな。

 

下手すりゃマジで通報されかねん。

 

確認だけして後はスキル使って記憶消すか?

 

……マジで犯罪染みてきたな。

 

ま、いいや。(ヤケクソ)

 

バレなきゃ犯罪じゃないからセフセフ。(暴論)

 

『吸血鬼のスキルで人の記憶を消してはならない』

 

なんて法律はないし。(詭弁)

 

――という訳で、俺は羽川の安否を確認しに羽川の家へと向かうのであった。

 

閑話休題(アニメ的には黒齣)

 

「――やれやれこんな時間に女子の家に夜這いに行くとは、我が相棒は随分と節操が無いのう」

 

「人聞きの悪いこと言うなよ……」

 

「じゃがこんな夜更けに若い男が若い女の家に行くなど、どう見ても夜這いにしか見えんじゃろ」

 

「うぐ……」

 

確かに問題ではあるけれども……。

 

自分でもそう見えるって自覚はしているけれども……。

 

「しかも吸血鬼のスキルを使って空まで飛んで行くとは、よほどあの小娘が大切と見える」

 

「まぁ、大切な友達だからな」

 

ごうごうと風を切る音を聞きながら、俺達は月を背にして夜を飛ぶ。

 

「じゃからお前様の行動は既に友人に対するソレを大きく逸脱しておると言っておろうが」

 

「そ、そうか……?」

 

「生涯の伴侶は一人だけしか認めんなんて貞操観念をお前様に押し付ける気は無いが、ハーレムを作るなら作るでそれ相応の器を示してもらわんとな」

 

「いや、そんなつもりは微塵もないのだが……」

 

「まず全員に平等に愛を注ぐことは基本じゃが、愛情を分割して注ぐようではだめじゃな、全員に100%の愛情を注げるようにならねばならん」

 

「俺がハーレム作る前提で話を進めるな」

 

「当然儂にもこれまでと同じか、それ以上にしてもらわんとな。ちゃんと満足させてくれないと、儂も嫉妬に狂って何をするかわかったものじゃないぞ」

 

「やめろ!番外編の話を本編で持ち出すな!」

 

メタいなぁ……。

 

黒齣(閑話休題)

 

あ、逆になっちった。

 

「ところでお前様よ、お前様はあの小娘の家の場所は把握しておるのか?」

 

「明確には知らないが、以前近くまで送っていったことがあるからな。大体の場所は分かる」

 

「意外じゃな、お前様の事じゃからもう既に特定しておるものと思っておったが」

 

「アイツの家の事は敢えて考えないようにしていたんだよ。アイツ、自分の家の位置とか、『家族』に関係することは極力隠しておきたかったみたいだからな」

 

「意外に紳士なんじゃな」

 

「意外とはなんだ意外とは……っと、喋ってる間についたみたいだぜ。この辺のはずだ。降りるぞ、キスショット!」

 

「承知した!」

 

そう言うや否や、俺達は翼をたたんで真っ逆さまに急降下する。

 

そして、地面に衝突する直前で翼を広げ、ふわりと音もなく着地する。

 

さて、確か羽川の家はこの近くのはずだが……。

 

「―――にゃおん」

 

俺があたりを見回していると、不意に背後から鳴き声が響く。

 

どうやら、羽川の家に行く必要はなさそうだ。

 

だが、手間が省けたことを喜ぶわけにはいかない。

 

何故なら、それが意味することとは即ち―――

 

「よう、こんな夜更けに女とデートとはいい御身分だにゃあ―――例外」

 

―――羽川は、()()()()()という事なのだから。

 

視界に映る白、白、白。

 

どこまでも純白に、彼女はそこにいた。

 

白くて

 

白無垢で

 

白々しくも

 

その白さはまるで、障り猫という怪異の本質に対する皮肉のようであった。

 

鴉の濡れ羽のような艶やかな黒髪は透き通るような白髪に

 

ただでさえ白かった肌は病人のように更に白く

 

変わっていた。

 

変じていた。

 

変化していた。

 

猫の怪異だからだろうか、そんな彼女の服装は上下の真っ黒な下着のみというあられもない恰好であった。

 

全裸じゃないだけ障り猫の主人への気遣いがうかがえる。

 

闇のような黒を纏った白無垢な彼女。

 

それはまるで、今の羽川と障り猫の関係性を暗示しているようであった。

 

―――だが、()()()()()()()()()()()()

 

白無垢に変化した容姿も、扇情的な下着姿も、()()()()()()()()()

 

問題なのは―――重要なのは……そう。

 

彼女の頭に『()()』が生えていることだ。

 

もう一度言おう

 

彼女の頭に『猫耳』が生えているのだッ!

 

「にゃおん」

 

彼女は鳴く。

 

猫のように。

 

ゴロゴロ……と、喉を鳴らす。

 

その仕草は、完全に猫そのものであった。

 

「――お前、ご主人の友達だろ?」

 

その乱暴な口調は、羽川とは似ても似つかないものだった。

 

「お前のことはよく覚えているにゃ。ご主人が俺を埋めた時に一緒にいたお前のことは、ご主人の次位に印象的だったからにゃ」

 

障り猫はギラリと目を輝かせる。

 

「それにしても伝説の吸血鬼、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードと同等の存在。俺にゃんかじゃ及びもつかねーような最強の存在が二人もそろって態々ご主人の様子を見に来るとは驚いたにゃ」

 

そう言うと猫は何かをこっちに放った。

 

ドサッと音を立てて何かが地面に落ちる。

 

それは人だった。

 

中年の男女の二人組。

 

彼らに見覚えは無かったが、大体の想像はつく。

 

「そいつら、ご主人の『両親』ってやつらしーぜ?まぁ俺にはよくわかんにゃいけれど」

 

ゴミを見るな眼で猫は羽川の両親を見る。

 

「そいつらはもう()()()()()()だから、適当に処分しておいてくれにゃ。お前がそいつらを食おうが血を吸おうが、どうするかは任せるにゃ。にゃんにゃら殺してもいいにゃ。ご主人には()()()()()()()が、お前らなら『食料』ぐらいにはにゃるだろうにゃ。ご主人の代わりとして俺から頼むにゃ」

 

「…………」

 

「おい、さっきから黙ってにゃいでにゃんか言えよ、例外」

 

猫が先ほどから一言もしゃべらない俺に対して怪訝な眼を向ける。

 

俺はゆっくりと姿勢を低くし、手を地面につく。

 

「お前様…?」

 

いきなりクラウチングスタートの態勢をとった俺にキスショットも怪訝な眼を向ける。

 

二人に『何だコイツ?』みたいな視線を向けられるが、関係ない。

 

On(オン)Your(ユア)Mark(マーク)

 

Set(セッ)

 

パァン!

 

スターターの音を脳内で再生しながら、次の瞬間、俺は刹那的な速さで猫の背後に移動する。

 

「にゃあッ!?」

 

猫が咄嗟に後ろをむこうとするがもう遅い。

 

俺は両手でしっかりと猫耳を触る。

 

「すっげぇ!猫耳だ!猫耳の羽川だ!羽川の猫耳だぁ!!」

 

「にゃあぁぁぁぁぁ!?」

 

猫耳を撫でまわし、隅から隅まで感触を楽しむ。

 

何だか力が抜けていくような気がするが

 

そんなことは関係ない。

 

プールの水をストローで吸われている程度の感覚しかないので問題はない。

 

今はこの猫耳羽川を愛でることが先決だ。

 

「あぁもう可愛いなぁ可愛いなぁ」

 

「にゃぁぁぁ!変態にゃぁぁぁぁぁ!」

 

怪異の脚力をフルに使って羽川が大きく跳躍し、逃走を図る。

 

だが、その程度で俺から逃れることはできない。

 

着地地点に先回りした俺は大きく手を広げて羽川を待ち構える。

 

「お か え り」

 

「にゃぁぁぁぁぁぁぁ何でいるにゃぁぁぁ!?」

 

「ほ~らたかいたかぁ~い」

 

いや、ニュアンス的には『他界他界』と言ったほうが適切だろうか。

 

吸血鬼という人外の、それもキスショットという例外的な怪異と同等のスペックを持つ俺による高い高いである。

 

それはもう上に放り投げたとかそう言う次元ではなく上空向けて射出したとか、そう表現されるべきものだった。

 

力加減を間違えればそのまま地球から飛び出し、そのまま昇天(物理)してしまうだろう。

 

ま、そんなミスはしないけれど。

 

「にゃぁぁぁああああああああ!?

 

手足をジタバタさせながら落ちてきた羽川をしっかりキャッチ。

 

そしてッ!

 

すかさずッ!

 

羽川をッ!

 

撫でるッ!

 

撫でるッ!

 

撫でまわすッ!

 

あ、一応言っておくと俺が触ってるのは猫耳とか尻尾だけだから。

 

胸やら下半身やらそう言うアレな部分には一切触れてないから。

 

元々人体には存在しない器官を触ってるだけだからこれはセクハラではない。

 

「ホレホレここか?ここが良いのかぁ?」

 

「にゃあッ!ダメッ!そこは……そこは敏感にゃのにゃぁぁぁぁッ!」

 

こ れ は セ ク ハ ラ で は な い。

 

イイネ?

 

「俺の撫でテクで昇天しな!」

 

「悔しいにゃ……でも…力が抜けるにゃぁ~」

 

「フハハハ快楽に堕ちろ……堕ちたな(確信)」

 

「何を――しておるのじゃこの戯けがぁぁ‼

 

その瞬間、音を置き去りにして飛来したキスショットの跳び膝蹴りが俺の側頭部にヒットし、痛みを感じる間もなく俺はぶっ飛ばされた。

 

だが、それで終わりではない。

 

盛大に吹っ飛ぶ俺に追いついたキスショットが俺の顔を掴んで上に放り投げる。

 

雲を突き抜けて投げ飛ばされた俺の上空にキスショットが先回りし、そのまま両手を組んだ拳で俺を叩き落とす。

 

あ、コレドラゴン〇ールとかでよく見る奴だ。

 

てかさっきからキスショットが無言なのが怖い!?

 

もうさっきから

 

(〈●)言〈●〉)

 

↑こんな殺意に満ち溢れた顔してんの!

 

超KOEEEEEEEEEE!!

 

オマエヲコロスと言わんばかりの表情のキスショットの攻撃はまだ止まらない。

 

墜落する俺をまたしても待ち構えていたキスショットは間髪入れずに格ゲーの達人みたいな空中コンボを決めてきて俺はサンドバッグ状態でボコボコにされた。

 

K O ‼

 

YOU WIN‼

 

PERFECT‼

 

そして俺の意識は途切れた。

 

「やれやれ世話のかかる相棒じゃ」

 

そう言ってキスショットはただの屍と化した相棒を嘆息しながら担ぎ上げる。

 

「お、おい……俺が言うのもにゃんにゃんだがよう、大丈夫にゃのか……『ソレ』」

 

「ん?なんじゃまだいたのか。心配せずとも手加減はしておいたわい」

 

「いや、どう見ても本気でボコボコにしてたようにしか見えなかったにゃ」

 

「なぁにたったの10回程度しか死んでおらん」

 

「にゃあんだそれなら安心……ってにゃるか!やっぱり殺す気だったじゃにゃいか!」

 

「うるさいのぅ…高々たった10回死んだ程度じゃろう?こんなの死んだうちに入らんわい」

 

羽川は悟った。

 

あ……ダメだコイツら価値観が違いすぎる

 

と。

 

「ま、まぁ一応礼を言うにゃ」

 

「ふん、自惚れるでない。儂はただ我が相棒ともあろう者が愚かにも暴走して醜態を晒すのを止める義務が相棒たる儂にあるからそれを果たしたまでじゃ。断じてうぬのためなどではないわい。ホレ、用が無いなら疾く去るがよいグズグズしてると折角鎮圧した相棒がまた起きて暴走するぞ」

 

「お、おう、そうさせてもらうにゃ」

 

「それと一つ忠告じゃ」

 

「忠告とにゃ?」

 

「儂は別にうぬの事などどうでもよい。故にこれからうぬが何をしようとしても儂は関心もなければ興味もない。手助けもせぬし邪魔もせぬ。それは恐らく我が相棒も同じじゃろう。じゃが、うぬがもしも仮に我が相棒の親族に手を出せば我が相棒とてうぬの事は捨て置けなくなるじゃろう。分かるか猫?」

 

「つまりお前ら怪異殺しと例外に邪魔されたくにゃければ例外の家族には手を出すにゃ……ということだろ?」

 

「然り、狙う相手はよく考えて選ぶことを勧める」

 

「分かったにゃ。虎の尾を踏まにゃいように精々気を付けるにゃ。にゃはは、俺は猫にゃのに虎とは傑作にゃ。あばよ怪異殺し、気絶してる例外にはよろしく言っておいてくれにゃ」

 

そう言い残し、羽川は夜の闇に消えた。

 

007

 

「ハッ!ここは誰?私はどこ?」

 

「目が覚めたか」

 

羽川が去ってから数分後、俺はキスショットの肩の上で目を覚ました。

 

「……何で俺はお前に担がれてるんだ?」

 

「さぁ?なぜじゃろうな」

 

「……というか、気を失う前までの記憶が曖昧なんだが、キスショット、お前何か知らないか?」

 

「何処まで覚えてるんじゃ?」

 

「猫耳生やした羽川がいたとことまでは覚えてるんだが……そこから先がさっぱり……」

 

「あぁうぬ、盛大に鼻血吹いて倒れてたぞ」

 

「えぇ!?俺そんなギャグみたいに気絶したの!?」

 

「うむ、下着姿の猫娘に興奮しすぎたんじゃな」

 

「えぇぇぇぇ!?」

 

そんな女に全く耐性が無い童〇のような振る舞いを俺がぁ!?

 

マジかよ……。

 

今更女の下着姿程度で発情なんて俺がするわけないんだがなぁ……。

 

でも嘘ではないっぽいし……。

 

えぇぇぇ……マジでそんなこと俺がやったのかぁ?

 

ふーむ相手が羽川だったからだろうか?

 

それで猫耳って言う要素もプラスされて破壊力が倍率ドンッ!

 

でもって俺、昇☆天ッ!

 

……みたいな。

 

あーでも確かに……。

 

「あの猫耳は可愛かっt―(無言の腹パン)ンナフッ!?って何しやがるキスショット!」

 

「さあな」(▼皿▼)

 

「あの……キスショットさん?キスショット女史?何故に汝は怒りたもうているのでせうか?」

 

「怒ってなどおらぬ」

 

「いやその顔は絶対怒っ…てないですねすいませんでしたハイ」

 

猫耳程度儂だって生やせるのに……

 

「え、何でお前が猫耳生やすの?」

 

「番外編(ボソッ」

 

「それはマジでやめろぉッ‼いややめてくださいお願いしますッ!」

 

「うぬはアレじゃな、難聴系でこそないものの鈍感系主人公じゃな」

 

「本当に何の話!?」

 

閑話休題(茶番乙w)

 

「…………ぬおっ!ビックリしたぁ……」

 

翌朝。

 

春休みに俺達が使用していたリフォーム済みの教室内のベッドで目を覚ました俺は、いきなり視界一杯に飛び込んできたキスショットの顔のドアップに驚かされることになった。

 

「何で別々のベッドで寝ていた筈なのにすぐ横にいるんだよ……」

 

寝相が悪いってレベルじゃねぇぞ。

 

そう心の中で呟きつつ、俺はキスショットの頭を撫でる。

 

絹を通り越して最早液体なんじゃないのかと疑いたくなるくらいサラサラな金髪に触れる俺の指は何の抵抗もなくスルリと通っていく。

 

僅かにキスショットの寝顔が綻び、つられて俺も頬が緩む。

 

何故俺達がここで寝ているのかというと、昨日俺達は『羽川の様子を確認する』という本来のタスクは紆余曲折あったものの無事……とは言い難いものの達成したので俺達は再び夜空を飛んで学習塾跡まで戻った。

 

俺としてはさっさと羽川の事を忍野に報告して帰りたかったのだが、肝心の忍野がまだ猫の墓荒らしから戻ってきてなかった。

 

取り敢えず忍野が戻るまで待つことにしたのだが、そうしているうちにキスショットが飽きて寝てしまったのだ。

 

仕方なく俺はキスショットをベッドまで運び、俺の方も夜中だけあって非常に眠かったので家族にメールだけして俺もここで寝ることにしたという訳である。

 

ああそれと、羽川の両親については救急車を呼んで適当に目立つ場所に放置しておいた。

 

まぁ今頃は病院にいるだろう。

 

仮にまだあそこで倒れているのだとしても俺にはどうでもいい。

 

知ったことじゃない。

 

というか、俺的にはあの場でぶち殺しておいても良かったくらいだ。

 

とは言え、義理とはいえ娘を本気でぶん殴る様な糞親父とそれを助けようともせず黙って見ているだけの糞婆でもいなくなったらいなくなったで色々面倒だ。

 

先ず真っ先に羽川に疑いの目が向けられることは想像に難くない。

 

そうなれば羽川家の家庭事情は警察の手によって暴かれることになるだろう。

 

今まで羽川が必死に隠してきた問題、自分の出生やその後の生い立ち、羽川家での生活のことまで全てが衆目に晒される。

 

そしてそれに虫のようにうじゃうじゃとマスコミ共が群がって事は大きくなる。

 

望まれない誕生から盥回しの幼少期、ネグレクトやDVと、いかにもマスコミが好みそうな悲劇的なネタのオンパレードだ。

 

羽川の両親は勿論、羽川の血縁上の父親、ネグレクトに気が付かない行政が無関係な奴らから散々非難され、羽川自身は悲劇のヒロインとして望んでもいないのに勝手に祭り上げられ、欲しくもない同情と憐憫を集めることになる。

 

『可哀想な娘』のレッテルを貼られることになる。

 

あまり他人の人格について断定するようなことは言いたくないが、羽川はそれを望まないことだけは確実だ。

 

閑話休題(それはともかく)

 

扉を開けて誰かが教室に入ってくる。

 

「やぁ阿良々木君、こんな昼過ぎまで美女と同衾して熟睡とは羨ましいね」

 

教室のドアを開けて入ってきた忍野は開口一番にそう言った。

 

「昼過ぎ?ちょっと待て今何時だ?」

 

携帯を出して確認すると12:15と表示されていた。

 

「ほんとに昼過ぎだ……」

 

「はっはー、まあ昨日は色々あったからね。阿良々木君も疲れていたんだよきっと」

 

「吸血鬼の再生力で疲労とは無縁のはずだが…」

 

「普段ならそうだろうけれど、相手は『障り猫』だからね、無理もないよ」

 

「羽川が関係あるのか?」

 

「それが障り猫が『障り猫』、と呼ばれている所以だよ。障り猫に触られた者は障りを受けて生命力を吸い取られてしまうのさ」

 

「エナジードレインか……」

 

「阿良々木君やハートアンダーブレードみたいな吸血鬼が行なうソレとは意味合いが異なるけれどね。吸血鬼にとってエナジードレインは『食事』だけれど、障り猫のソレは『呪い』だ。障り猫に『触る』若しくは『触られる』ことで勝手に発動する条件反射、性質みたいなものさ」

 

「あれ…だけど俺いつ羽川に触ったんだっけ?」

 

「心当たりが無いのかい?」

 

「いや…羽川に会ってからの記憶がなくてな……」

 

「オイオイしっかりしてくれよ、その歳でもう呆け始めたのかい?」

 

「気が付いたらキスショットに担がれてたからなんか知ってると思うんだけれど……」

 

「ふぅん……」

 

忍野は何かを察したのかキスショットに意味ありげな視線を送ると、軽薄に笑った。

 

「はっはー、阿良々木君、委員長ちゃんの事に躍起になるのもいいけれど、ハートアンダーブレードの事もちゃんと気にかけてやらないとダメだぜ?」

 

「そんなのお前に言われるまでもないが…」

 

「ま、それならそれでいいのだけれど、ハーレムを作る気苦労何て、僕には縁のない話だし」

 

「いやだから…キスショットにも言ったがそんなものを作る気はさらさらないんだが…」

 

「そうかい?でも僕にはなぜか君が、具体的には5人もの女の子を攻略して『阿良々木ハーレム』を作るって僕が初期メンバーになる予感がするんだけれどなぁ……」

 

「つっこみどころが多いから順番にツッコませてもらうが…まず俺はそんな悪趣味な集団を組織するつもりはないし、5人とか言うやけに具体的な数字がどこから出てきたのか謎だし、仮にそんな組織が将来できたとして何でハーレムなのにお前がメンバーなんだよ!俺に男色の趣味は断じてないぞ!」

 

こよ×メメだのメメ×こよには絶対ならないから!

 

閑話休題(ネタが切れそう)

 

「『呪い』……『障り』ねぇ…つまり今の羽川も障り猫に取り憑かれている状態……ってか?だがあれはどう見ても()()()()()()()()()というよりかは()()()()()()()()()()()()って言ったほうが正しいような気がしたぞ。猫耳や尻尾まで生やしてアレはどう見ても猫そのものだったぞ」

 

「肉体変異を伴う怪異であることは確かだけれど、でもわからんね。その辺りは、これから調べてみるしかない」

 

「どちらにせよ、『手遅れ』であることには変わりないがな」

 

「阿良々木君に教えてもらった、猫ちゃんのお墓を軽く荒らしてみたけれどさ――()()()()()()()()()()()。場所を間違えたとかじゃなければ、事態はおよそ最悪と言っていい」

 

「……そうかい、んじゃ、俺はお役御免だな」

 

「そうだね、ここからは僕の領分だ。でも妙に落ち着いてるじゃないか阿良々木君、この前委員長ちゃんがさらわれた時は鬼みたいに怒ってたのに」

 

「まぁ、これでも俺はお前の専門家としての仕事の腕は評価してるんだぜ?お前がいれば本当に最悪な事態になる前に収拾をつけてくれるってな。どうしてもダメな場合は俺が動いて強引に解決することもできるしな。何より、羽川が人間だろうと怪異になろうと俺が羽川の友達であることには変わらない。障り猫が羽川の人格を乗っ取って本来の羽川を消してしまうとかだったら俺も焦るけどよ、どうも()()()()()()()()()()っぽいんだよな」

 

「ふーんそうかい、ま、信頼して任せてくれるというならそれに越したことはない。僕は僕で仕事に専念するだけだからね。怪異が怪異の事を解決するって言うのはバランスが悪いのも確かだ」

 

「あぁ、任せた」

 

「任された」

 

 

 

 

 

 




「無闇だぜー」

【作者だよー】

「あ、何だ蘇ったのか」

【蘇ったのかじゃないよ!原子レベルまで爆破されて木端微塵にするとかバイオレンスにも程が無い!?】

「本編を最後に投稿した日を言ってみろ」

【2、2018年3月22日……】

「このあとがきを書いてる日を言ってみろ」

【2019年1月5日……】

「2018年以内に投稿した話数を言ってみろ」

【番外編含めて3話デス……】

「ギルティ‼」

【くらうんっ!?】

「あーもうこれは許されないわ、俺でもフォローできないほどのサボりだわ」

【いや、フォローしてもらったこととか一回m……】

「だまらっしゃい‼」

【言論統制っ!?】

「お前さぁ……これはないよ、幾ら元々読み専だったとはいえこれは無い、前々からフラグ立ててきた悪ノリがなかなか思いつかなかったからってこれは無い、キスショットの存在で原作乖離が目立ってきてオリジナル要素出さなきゃいけないからってこれは無い」

【うわぁぁぁぁぁぁフォローと見せかけた裏話の暴露で私をネチネチと攻撃するのをやめろぉぉ!!!】

「いやーそれにしたって約10ヵ月も投稿しないのはもう学生だからとか不定期更新だとかの言い訳じゃあ擁護できないわ、完全にサボってるとしか言えないわ」

【正直申し訳ないと思ってますハイ...】

「お前そんなんだから日に日に評価者数が減っていくことになるんだぞ」

【あぁ地味に気にしてたことをいわないでくれぇ‼︎】

「ホントやる気あるのか?」

【やる気はあるんですよやる気は……ただノリと勢いが足らんのです……本当は色々と書いてみたい小説があるんデス…アイデアだけは沢山あるんですよアイデアだけは】

「例えば?」

【例外シリーズの2作目以降とか…無闇君にはもっといろんな世界で暴れてもらいたかったりするんです。ダンまちとかSAOとかデアラとかハイスクールD×DとかRE;CREATORSとか……あとストライクウィッチーズ×艦これ×ガルパンで空陸海のクロスオーバーとか…例外シリーズ以外だと俺ガイルの八幡性格改変とかハリポタの主人公最強ものとかジョジョのクロスも書いてみたいし東方とかも実はオリ主案6人も作っちゃうほどだしラブライブ×バンドリとかも興味あるしヤンデレも書いてみたいしああああああもう書きたいものが多すぎるううう!!!】

「マジでアイデアだけは豊富だな……だったら一つくらい書けばいいじゃねぇか」

【そ れ が で き た ら 苦 労 し な い よ !】

「お、おう」

【確かに書きたい衝動的に書いてしまいたい、でもね無闇君考えても見てくれよ……ただでさえこの更新頻度の遅さだよ?衝動的に書いた新作の方にかまけていたらこの先さらに外物語の更新が遅れること間違いなしだよ!あぁぁぁ時間もやる気も圧倒的に足りないいいいい】

「いや時間はともかくとしてもやる気はお前次第じゃねえか!」

【兎に角本当は書きたくて書きたくてたまらないけれどそれをやったら全部が中途半端でグダグダになりそうだから我慢するしかないんだぁ!】

「まぁ現に暇つぶし用に書いたマイクラ小説は全く更新されないもんな」

【アレは本当の本当に気分がノッた時にノリだけで書くための小説だから作者の中では扱いが少し違うのだけど……まぁそういうことだよ】

「複数の作品を両立して投稿してる作者だって一杯いるんだけどな。結局はやる気と文才が足りないってだけじゃねぇか」

【そうともいう】

次回予告

「次回は原作008~009までの予定だ」

【羽川さんのお宅訪問(不法侵入)とかファイアーシスターズとの添い寝とか】

「次回は頼むから年内に投稿してくれよ……投稿話数に比例してどんどん間隔があいてるような気がするぞ……」

【ハイ、ガンバリマス…】

「生存報告もこまめに上げるべきだな」

【うーん生存報告と雑談用にツイッターでもやろうかなぁ…】

「次回、『つばさファミリーその肆』!」

【質問・意見はコメント欄へどうぞ】

「コメント・評価・お気に入り登録してくれた方々とその他この作品を読んでいただいている読者の方々、どうもありがとうございます」

【「ではまた次回」】


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