カツン、カツン、カツン・・・・・・。
30個もの聖晶石を部屋の中央に描かれた魔法陣の上に置いて準備完了。
「さってと、んじゃまぁ楽しい楽しい召喚を始めようか」
「楽しい楽しい爆死の間違いじゃろうて・・・」
魔法陣の前に立つのは藤丸立香とアーチャー織田信長。今2人は召喚ルームにて英霊、もしくは礼装の召喚を行おうとしている。
「うるさいなぁ・・・。そもそもなんでノッブがここにいるのさ・・・」
「そりゃお主が爆死する様を笑いたいからにきまっておろう」
「言ってろ、今度こそ☆5を引き当てる!」
「んで?そう言ったのは今回で何十回目かのう」
半笑いで返され立香は言葉に詰まる。
「こ、今度こそ引きますし〜・・・?これまでもちょくちょく☆5引いてますしーー!」
「そうか、では10連召喚の回数と☆5サーヴァントの数を数えるがよい」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「さ、召喚しようか」
「引けるとよいの」
「はい・・・」
そんなこんなで立香が召喚口上を唱えると、魔法陣が光り、聖晶石が粒子となって消える。
魔法陣から光球が飛び出し、1本線が放たれ、収束する。
「ぐ、礼装・・・!」
次に光球が飛び出して放たれ光の線は・・・1本!
「また礼装〜〜!!!」
1本、3本(☆3)、1本、1本、1本、3本(☆3)、1本。
「ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ・・・・・・」
「次でラストじゃのう」
いよいよ最後となった召喚。放たれた光は、3本。表れたクラスカードはライダー。
「色は銀、クラスはライダー・・・。いったい何人目の牛若丸ですかー・・・メドゥーサさんなんですかー・・・!」
「む?待てマスターよ、あのクラスカード色が変わったのじゃ」
そう、先のライダーのクラスカードは立香が目を離した途端その色を黄金に変えたのだ。
「っしゃあ☆4以上確定だ!!!」
クラスカードは光の粒子として散り、人型に集まり直す。
色白の肌、細身な体躯。長い髪は後ろで簡素に束ねられその先端は燃えている。
赤い瞳に黒い髪。昭和の赤い軍服を身に纏い、黒い外套を羽織る少年が召喚された。
「ライダーとして顕現した。第六天魔王織田信な、が・・・・・・」
1秒・・・2秒・・・3秒・・・。
状況理解に3秒費やし、状況を理解する。そして理解した瞬間に元から白かった顔は更に青白くなり、目の端に涙が浮かぶ。
「ほう・・・。で、お主の名は?」
「織田・・・、織田信勝です・・・」
先ほどまで笑っていた信長の顔が険しくなる。
「召喚早々にわしの名を騙るとは何事じゃ信勝ーーーー!!!」
「ごめんなさい姉上ーーーー!!!」
ーーーーーー
「姉上に、怒られた・・・」
涙をそっと拭いながら信勝は立香と信長の後をついていく。
「ふん、いつまでもめそめそするでないわ。第一、呼ばれた時に偽名を名乗るとは何を考えておるのじゃ。しかもわしの名を名乗りよってからに」
「ごめんなさい姉上・・・」
「まぁまぁノッブもその辺で許してあげなよ。とりあえず信勝君、今からこのカルデアを案内するよ」
「は?何いきなりマスター面してるんですか。僕に馴れ馴れしくはなしがべぇ!?」
立香を睨み悪態をつく信勝にノッブが無言で腹を殴る。
「信勝貴様、サーヴァントとして呼ばれた身でありながらマスターに悪態をつくとは、何を考えておる?事と次第によっては・・・」
火縄銃を一丁取り出し引き金に指を当て信勝に向ける。
「ごふ・・・。ご、ごめんなさい姉上、信勝は反省しましたお命だけはご容赦を・・・」
「ノッブ、銃は仕舞おう?信勝君もこう言ってるし、オレは大丈夫だから」
「ふん・・・。立香がそう言うのであればよい、許す。行くぞ信勝」
「ありがとうございます姉上!信勝はどこまでもお供します!」
さっきまでのダメージが消えたかのように元気に立ち上がりまた2人の後をついて行く。
「ノッブ本当は撃つ気無かったでしょ?」
信勝に気取られぬよう目だけでノッブを見て、小声で話す。
「さぁ、どうじゃろなぁ。これでもわしは身内であろうと容赦せん魔王じゃぞ?」
「そういうことにしておくよ」
3人はカルデア内を歩いて回り、食堂、浴場、売店、トレーニングルーム、管制室を案内する。
「最後はここ。この部屋が今日から信勝君の部屋だよ、内装は弄ってもいいけど壁や扉を壊したりはしないでね」
「まるで壊した者がいるような口ぶりだな」
「うむ、おったぞ」
「あはは!でしたらその者は中々に馬鹿な奴ですね姉上!」
「その馬鹿が今目の前におるんじゃがのぅ」
信長の顔が笑顔のまま青ざめる。
「ノッブ、あんまり意地悪なこと言わない。信勝君今にも倒れそうだよ」
「立香、お主いやに信勝を庇うのぅ」
「ノッブこそちょっと当たりが強いんじゃない?」
「悪いがこれがわしの常じゃ。お主が爆死する様が見れんかったのは残念じゃが用は済んだ、わしは自分の部屋に戻るぞ」
不機嫌であることを隠すことなく、ノッブは仏頂面で自室へと戻ろうとする。
「あ、姉上!」
「なんじゃ」
「あの・・・後で姉上の部屋に、遊びに行ってもいいでしょうか・・・?」
「・・・・・・勝手にせい」
今度こそノッブは自分の部屋に戻る。
「立香、と言ったか・・・」
「うん。あ、ちゃんとした自己紹介はまだだったね。オレは立香。藤丸立香だよ、よろしく信勝君」
「信勝でいい、僕も立香と呼ぶ・・・」
「分かったよ信勝。オレまだ時間あるし、よかったら中で話さない?」
信勝が小さく頷くのを見て立香は扉を開ける。
部屋に入った2人は、中央に置かれた丸テーブルに向かい合うように座る。
「立香は姉上との付き合いは長いのですか?」
「1年ちょっとかな」
「・・・・・・短い割には随分と慕われているんだな」
「マスターだから、って言うとノッブに怒られるね。ノッブはオレのこと1人の人間として好きなんだと思う。男としてじゃないよ?一緒に戦う仲間だとか、そういう感じ」
「そうか・・・。ここでの姉上のこと、もっと聞かせてくれないか?」
「勿論!」
ーーーーーー
コンコン、扉を2回ノックして沖田は部屋に入る。
「ノッブ、いるなら返事してくださいよ」
「待たずに入ってきたのは誰じゃ・・・」
「まぁまぁそんなことよりお団子食べましょうよ、ノッブの好きな抹茶味のチョコも買ってきましたよ」
「そうか、ならいただこうかのぅ」
ノッブがテーブルにお菓子を広げ、沖田が緑茶を淹れる。どちらが言い出したわけでなく、自然とこういう役割分担となり、日常風景となった。
「ところでノッブ、なにかありましたか?」
「随分と曖昧な問いじゃのぅ、なにかとはなんじゃ」
「いえそれは分からないのですが、ノッブの様子がいつもと違いましたので」
この人斬りにも直感スキルはあったんじゃな、と呆れ半分驚き半分に思うが、口には出さない。
「わしはいつも通りじゃ」
団子を食み茶を啜る。2人だけの茶会であっても、寂しさなどは無く安らぎが場を包む。
「そうですか、ならこれ以上は聞きません」
「うむ」
「話は変わりますがマスターが10連召喚したらしいですが結果聞きましたか?」
「話が変わっておらぬぞ人斬り!」
「成る程今日呼ばれたサーヴァントが原因でしたか」
墓穴を掘るとは正にこのこと。
「はぁ、わしも動揺するのじゃな・・・。まさかお主に嵌められるとはのぅ」
「失礼ですね〜。それはそれとして誰が呼ばれたんです?明智さんでも呼ばれましたか?」
「呼ばれたならばその瞬間に宝具をぶっ放しておるわ」
「ですよね〜。でしたら身内のかたですか?」
「織田信勝、わしの弟じゃ・・・」
「おめでとうございます!これで姉弟仲よk・・・!?」
椅子を倒しながらノッブは勢い良く立ち上がり、沖田の胸倉を掴む。
「どうしたんですかノッブ、らしくないですよ?」
「すまんな・・・どうやらわしは自分が思う以上に気が立っておるようじゃ・・・」
掴む手を離すと、椅子を起こし座り直す。
「詳しく聞くのは野暮というものですね。なにがあったか聞きませんが、嬉しくないわけではないんですよね?」
「まぁの・・・。あやつはわしの弟じゃ、弟が座に上がるまで英雄視され、更には同じマスターの元に呼ばれたのじゃ、嬉しくないわけなかろう」
薄く微笑み、茶を啜る。思い出すのは幼き日の思い出。姉上姉上と鬱陶しいぐらいに引っ付いてくる信勝をノッブは可愛く思ったものだ。
「じゃが同時に辛くもある。わしは織田を継ぐ者として、いや・・・姉としてあいつに戦場に立ってほしくないんじゃ。生前も寺に入れて静かに暮らさせてやればと今でも思うとる」
「本当にらしくないですね、そんな弱気なノッブ初めて見ましたよ」
「ふん、わしだって感傷に浸るときぐらいあるのじゃ」
「マスターは基本的にはレベルマファウマ、スキルもある程度上がらなければ戦闘には出しませんよ。今までがそうだったじゃないですか」
「だとよいがのぅ・・・」
コンコン、とドアをノックする音が響く。
「誰じゃ、名を名乗れ!」
「オレだよ、立香だ!ノッブ、入っていい?」
「マスターか。よい、入れ!」
プシュ、という音と共にドアが開く。そこにはマスターである立香と再臨した信勝が立っていた。
「ライダーの種火と再臨素材が余ってたからさ、第2まで再臨させたんだ。レベルも60まで上げてるよ」
「それで?その姿のお披露目だけが目的か」
「いいや、フリークエストで信勝の宝具とかスキルとか試そうと思ってね。一緒に来てもらえたらなって」
「場所はどこじゃ?」
「第5特異点から選ぶつもりだよ、レベル的にも相性的にも不利になりにくいしね。ちなみに保険としてフレンドからクー・フーリン[オルタ]連れてくるから安心してよ」
「姉上・・・」
立香の後ろでそわそわとした様子の信勝を見てノッブは小さく溜息を吐く。
「仕方ない、ついて行ってやろう」
お菓子屋お茶を片付けクエストに向かおうとしたノッブは、立香とのすれ違いざまに小声で呟く。
「信勝を危ない目に合わせたら承知せんぞ」
「頑張るよ」
睨むノッブに立香は苦笑いで答えるしかなかった。
ー第5特異点・シャーロットー
BATTLE1
「ここに出るエネミーはケルト兵やドルイド、後はシャドウサーヴァントかな。シャドウサーヴァントは攻略の際に倒したから、今はケルト兵とドルイドだけかな。ほら、来たよ」
森の中からケルト兵が5人現れる。
彼らは本物の人間ではなく特異点を構築する魔力から発生する魔物の類、倒しても魔力となって消えるだけである。
「弓と槍。沖田さんは槍3人を、ノッブは弓を優先して!弓を倒し次第ノッブは沖田さんの援護を!」
「承知!」
「承ったのじゃ!」
沖田は菊一文字を抜くと、迫る槍兵3人に向かう。
ノッブは火縄銃を召喚すると後ろで控える弓兵を狙い撃つ。
「立香、僕はなにをすればいい」
「信勝は今回は見学だよ。1週目は2人の戦いを見ながら戦闘の流れを覚えてもらって、2週目から参加。1週目でもドルイドが出たら戦闘してもらうかな」
「分かった」
2人が話している数秒の間に、ケルト兵は槍兵1人にまで減っていた。
「これで最後です」
静かな声音で呟き、胴への左薙袈裟斬り、からの首への左薙で最後のケルト兵を倒す。
「沖田さん大勝利ー!マスターマスター!敵を全員倒しましたよ!」
「ふふん、あれはわしの援護あってこそ、故にこれはわしの手柄じゃ」
「いいえ!ノッブは2人、私は3人倒してますからこれは数的に沖田さんの手柄ですしおすし!」
「はいはい2人とも、まだ後2BATTLEあるんだからこんなところで喧嘩しない」
「「は〜い」」
BATTLE2
「次は槍兵5人。ノッブは援護に徹して沖田さんに前へ出てもらうよ」
「これは沖田さん大活躍間違いなしですね!行きますよノッブ!」
「指図するでないわ人斬り!」
縮地で距離を詰め、即座に1人首を跳ねる。
「まず1人・・・」
ケルト兵が警戒するももう遅い、距離を開けようとするも即座に詰められ心臓を貫く。肉を貫いた刀を肋骨の隙間から振り抜き、左から迫る槍を弾く。
「遅いですね」
懐に潜ると同時、その胴に向かって右下から刀を振り上げる。
「残り2人」
今の沖田はいつもの子供のように無邪気で、犬の様にはしゃぐ女の子ではなくただ1人の人斬り。斬ることに迷いはなく、美しく鋭い太刀筋で敵を屠る。
吠えて同時に突撃するケルト兵。沖田は飛んで避けようとしたとき突然吐き気が込み上げてくる。
「コフッ・・・!?」
病弱が発動し吐血する。
こんなときに・・・!自分のスキルを恨んでも生まれた隙は取り返せない。槍2本が目の前に迫った瞬間、発砲音が連続する。
「貸しじゃ沖田」
「帰ったら団子でも奢りますよ!」
斬・・・
2人分の首を切り落とし2BATTLE目が終了する。
「沖田さんお疲れ様、体は大丈夫?」
口元の血を拭って沖田はいつもの笑顔を浮かべる。
「大丈夫ですよマスター!沖田さんはまだまだやれます!まだまだ斬れますとも!!」
「ふん、あれはわしの助けあってこそじゃろうて・・・」
「銃の腕前、お見事でした!さすがです姉上!」
「ありがとうノッブ。ノッブのおかげで沖田さんは怪我せずにすんだよ」
帽子の上から頭をポンポンと軽く叩く。
「と、当然じゃ!なんせわしじゃからな、是非もないね!」
顔を赤くし背を向けて、踏ん反り返るノッブをみて3人は思う。
(ノッブ可愛い)
(ノッブ可愛いですねー)
(姉上、可愛いです!)
「さ、次が最後だ。気を抜かずに行こうか」
BATTLE3
「最後の敵編成はどんなんだろうね」
「また槍兵が多ければ沖田さん大活躍なんですが・・・」
「先の戦いがその編成だったじゃったろうに、流れを考えれば今度は弓兵が多いか、もしくはドルイド混じりじゃろうな」
「立香、ドルイドというのはどんなやつなんだ?」
「うーん、茶色いローブを羽織ってて魔法で戦う感じかな。近くにケルト兵の護衛がいることが多いよ」
「成る程、ちゃうどあんな感じか?」
信勝の指差した先、そこには黒いローブを見に纏い、両隣に槍兵2人を護衛につけるエネミーが立っていた。
「うーん、距離があってハッキリしないけど多分あれかな」
立香達が気づくとほぼ同時、エネミーもこちらに気付く。戦闘態勢に入ったのか、懐から黒い水晶を取り出した。その瞬間・・・。
ビイイイイイイイイイイ!!!!
けたたましいサイレンが鳴り響きカルデアから通信が入る。
『直ぐそこから離れるんだ立香君!』
「何があったのダ・ヴィンチちゃん!?」
モニターからは慌てた様子のダ・ヴィンチが映るも、そこにはノイズが多く混じっている。
『分からない!でもその近くに高魔力反応がある!魔神柱程ではないがそれに近い、妨害魔力も放たれていて通信が安定しないから強制帰還もできないうえ、後衛もそちらに送れない状況だ!だから直ぐそこから・・・』
通信はそこで途切れる。
周囲を見渡せば黒い靄が所々で噴き出し、スケルトンが現れる。
「立香、これは相当厳しい状況じゃな・・・」
「はは、ここまで来ると笑うしか無くなるよ・・・。後衛メンバーが来れないらしいからフレンドにも頼れない。妨害魔力のせいで強制帰還もできないさらにはこのスケルトンの数だよね、百は超えてるしまだまだ沸いてる」
「絶望的と言えますね、しかも剣、槍、弓の三騎士ですか・・・。どうしますか?諦めます?」
立香は全身に嫌な汗をかきながらも笑ってみせる。
絶望的な状況なんて何度も味わってきた。数で不利、立地で不利、相性で不利、個体戦力で不利。何度と無く劣勢に立たされた。そしてそれを何度も超えてきた。ならば今回も、今回だって乗り越えられる。立香はそう信じていた。
「信勝、悪いけど参戦してもらうよ。準備はいい?」
「勿論、僕だってサーヴァントだ。いつでも行ける」
信勝はいつの間にか馬を召喚し跨っていた。
「よし、じゃあ行くよ皆!沖田さん、信勝はスケルトンを各個撃破、ノッブは僕の側で2人の援護と剣、弓を撃って!」
返事をすることすら面倒だと言わんばかりにそれぞれがそれぞれの仕事に取り掛かる。
沖田は手近なスケルトンに近付きその首を跳ねる。心臓、脳の無いスケルトンが相手であれば動けない程に体をバラすか首を断ち、頭部からの魔力供給を止める他ない。
そして今回のように数が多い場合は足を斬り一時的に動きを止めることも選択肢に入れながら、振り抜いた刀の位置で次の行動を決める。
一方信勝は沖田とはがなく方向に沸くスケルトンを相手取り、銃と刀を上手く使い分け頭部を破壊する。沖田程のスピードは無いものの確実に一体一体を倒して行く。
そしてノッブは相性有利な剣のスケルトンと、沖田にとって不利な弓を狙いながら火縄銃を連射して行く。
「ノッブ!NPは!?」
「ふん!これだけの数を撃ったのじゃ、とうに溜まっておるわ!」
「OK!沖田さん一旦下がって!ノッブ、あの奥のドルイドの方向に宝具をお願い!」
「了解じゃ!」
ノッブは溜まった魔力を一気に消費し三千もの火縄銃を出現させる。
「三千世界の屍を晒すがいい!天魔轟臨これが魔王
の三千世界じゃ!!」
三千の火縄銃が一斉に火を吹いた。花火のように乾いた音を連続で響かせながら発射方向のスケルトンを次々に粉々にしていく。
大量のスケルトンが破壊されていくも一向に奥のドルイドには届かない。なぜならスケルトンが破壊されれば他のスケルトンが態々射線に入り壁となるからだ。
「くっ・・・削りきれなんだ・・・!」
弾丸を打ち切った火縄は消えていき、ノッブも苦い表情を見せる。ノッブの宝具で確かにスケルトンは大量に消えたものの発生源を倒しきれなかったためまたスケルトンが補填されていく。
「立香、提案がある」
後方から戻ってきた信勝が告げる。
「駄目だ・・・!」
だが立香はその提案を聞く前に却下する。立香は分かるのだ、信勝が何を提案しようとしているのか。
信勝の第2スキルを使えばこの大量のスケルトンを除去しドルイドまでの道を切り開けるかもしれない。だがそのスキルにはデメリットがある。信勝の即死だ。
初陣で信勝を死なせたくない、ノッブとの約束を破りたくない。その思いが信勝の提案を却下させる。
「なんじゃ信勝!お主ならこの状況をどうにかできると言うのか!?」
「そうです姉上!この信勝は姉上のため、ひいてはマスターのため、この状況を打破したくあります!どうか迷うマスターの背を押してあげてはくれませんか!?」
ノッブは軽く振り向く。よく言うた!そう褒めるつもりで。だが立香の顔を見た瞬間、何かを察した。
また前を向き湧き出るスケルトン達に銃弾を浴びせつつ沖田の援護をする。
「立香よ、わしとの約束は気にするな。1サーヴァントとの約束を優先してその命を落とすなど、笑い話にすらなるまい。何をするかは知らん。だが1人のサーヴァントとして言うてやる、生きるのじゃ。生きるために、わしらを使うがよい。信勝も、わしのバカな弟も今はお主が生きるために全力で使うがよい」
ごめん・・・。火縄銃の音にかき消されたはずのその声は、確かに2人の耳に届いていた。
「さぁ、先ずは僕の宝具をお見せしましょう。無能な僕を英霊にまで押し上げてくれたこの宝具を・・・」
僕に従う愚かな家臣よ
今こそ謀反を起こす時、今こそ命を捨てる時
全てを捨てて、『勝利』をもたらせ!
『愛募り想い重ねし我が謀反』
宝具名を叫んだ瞬間、信勝の後ろに甲冑わ纏い馬に乗る兵士が召喚される。その数、1700。
「さぁ、僕を祭り上げた馬鹿な家臣供、今こそその命を捨てて我が敵を葬され!!!」
オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
地鳴を起こす程の雄叫びと共に一斉に騎馬隊が全方位へと散りスケルトンに突撃していく。
「無能な僕ではこの宝具は1分と保ちません。ですが、この宝具が解けると同時スキルを使います。その時があの術者を倒すチャンスです、逃さないでくださいね」
数多のスケルトンを屠った軍勢は徐々に消えていき、最後の1人が消えたとき、信勝が刀を首筋に当てる。
「あとは頼みました、姉上」
そう告げた信勝は、己の首を切り落とした。
「帰ったら、お説教じゃ馬鹿者が・・・!」
スキル 託した想い(焔)
効果 仲間の攻撃力、宝具威力、Bastar威力
上昇、NPチャージ。デメリット(即死)
「再び見せてやろう、魔王の三段撃ちを!!!」
三千世界の屍を晒すがよい!
天魔轟臨これが魔王の三千世界じゃ!!!
1回目よりも威力を増し、次々とスケルトンは破壊されていく。術者を護るためスケルトンが壁となるよう射線に入るも勢いは止まらずジワジワとドルイドに弾丸が迫る。
「はあああああああああああ!!!」
残った魔力すら使い果たし、宝具が消滅する頃には視界一杯に広がっていたスケルトンは全て破壊されていた。
「沖田!」
「信長さん、貴方の想い・・・受け取りました・・・!」
一歩音越え
二歩無間
三歩絶倒!
『無明三段突き』!
ドルイドとの距離を一瞬で詰め、その体に宝具を放つ。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオ』
沖田の宝具を受けたにも関わらず、ドルイドは地獄の底から響かせるような絶叫を上げながら膝から崩れるのを堪える。
「まだ倒れませんか・・・!」
「いいや終いじゃ」
ダァァン!
最後の力を振り絞って放った弾丸は、ドルイドの眉間を貫いた。
勢いのままに体を仰け反らせ、背から倒れたドルイドは、数秒と経たず消えていく。
「ははっ・・・沖田さん、大、勝、利・・・」
体力を使い果たした沖田はその場に倒れ伏す。
『立香君!立香君!!大丈夫かい!?怪我はないかい!?さっき信勝君がズタボロで帰ってきたから心配したんだよ!』
「大丈夫だよ、ダ・ヴィンチちゃん。皆ボロボロだから強制帰還お願いしていい?」
『分かった、今すぐ君達を呼び戻すよ!』
ーカルデア・医務室ー
あの戦いから2日後、先に回復したノッブ達は未だ治癒の終わらない信勝の見舞いに訪れた。
「信勝よ・・・」
「はい姉上・・・」
ベッドの上で正座し、目にいっぱいの涙を浮かべ震える信勝。それを真正面から睨むのは仁王立ちした魔王、信長だ。
「貴様、覚悟は出来ておるんじゃろうな・・・」
「は、はい・・・」
どんな説教、どんな仕置きがくるのか恐怖する信勝をノッブはそっと抱き締めた。
「馬鹿者が・・・無茶をしおってからに。じゃがお主のお陰でマスターもわしらも助かった、礼を言うぞ、信勝・・・」
「あね、あ・・・あ゛ね゛う゛え゛〜〜〜〜!!!!」
大粒の涙を零し、子供のように泣きながら信勝もノッブに抱きついた。
「よく頑張ったのう信勝、大手柄じゃ」
「ひぐ、うっ・・・あ゛ね゛う゛え゛・・・!」
顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにする信勝の頭をノッブは優しく撫でる。その光景は、いつの時代も変わらぬ幼き姉弟の姿に思えた。
それから更に2日後。完全に回復した信勝は、今日もノッブの後ろをついて行く。
「あ、織田姉弟。2人は今日も仲良いね」
「勿論ですとも立香殿!いつの時代、どんな場所であろうとも、信勝は姉上のお側におります!」
「ふん、わしは少し鬱陶しいがのぅ」
「あ、姉上〜・・・!」
「あ〜もうこれしきのことで泣くでないわ!」
「あ、またノッブが信勝君を泣かしてますよマスター」
「な!?おのれ人斬りどこから沸きおったのじゃ!?」
「信勝君がいつでもノッブといるように沖田さんも常からマスターの側についているんですー♪」
元から騒がしかったノッブと沖田。そこに更に信勝が加わり一層騒がしくなる。
口では信勝の召喚に文句を言いながらも、ノッブの顔は嬉しそうに思えた。
〜fin〜
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