八幡くんの異世界無双記 (カモシカ)
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一話 転生

『どーもこんにちは!女神だよ!突然だけど君死んじゃったんだよねー』

「……は?」

『かくかくしかじかという訳でチート能力とか色々特典あげるから異世界転生して神様の暇潰しよろ!』

「まるまるうまうま……じゃねえよ意味わかんねえよ」

『ちなみに拒否権は無いよ!というわけでー、レッツゴー!』

「は?……はぁ!?」

 

 

****

 

 

と、いうわけでやって来ました異世界。何これ、夢にしては随分とリアルだしがっつり痛覚働いてるんですけど。女神というのも分からんが俺が死んだというのはどういうことか。まあどこぞのラノベよろしく可愛い妹も毒舌美少女の知り合いもアホの子の知り合いも居た訳ではないし未練なんか無いと言えば無いのだが。

 

まあ先ずは周囲の確認をしよう。チート能力だの特典だの何だの言ってたが良く分からんし。

と、先ずは周囲を見渡してみる。どうやら俺は森の中に居るらしい。周りは木々に囲まれ、少し広場のようになっている場所だ。その中心に俺は座っている。ふと足元を見ると、何やら紙切れが落ちている。それを拾って読んでみると……

 

『どーも女神だよ!いきなり転生させちゃってごめんね?まあ一々説明してたら丸一日かかっちゃうから省くけど、君は神様の暇潰し係に選ばれました!いえー!どんどんぱふぱふ!まあそのお礼と言っちゃ何だけど色々特典あげたから頑張ってねー。ちなみに、時々神様の試練が発生するから気を付けて?まあ気を付けてどうにかなるわけじゃ無いけど。ちなみに特典とか能力とか確認するときは頭の中でステータスオープンとかなんとかそれらしいことを呟いてね。じゃ、そういうわけで頑張ってー。 女神』

 

「はあ……」

 

いや、もう意味分からん。夢にしてははっきりし過ぎだしやっぱ現実なのか?まあ何が起こるか分からんし、一応ステータスとやらを確認しておこう。決して厨二ゴコロをくすぐられたわけでは無い。

 

《ステータスオープン》

 

書かれていた通り頭の中で呟くと、視界に半透明のタブレットのようなものが重なる。……わぁお。

 

 

比企谷八幡 Lv.100

 

種族:ヒューマン

 

HP:80793(+2500)

MP:59631(+3000)

AP:75294(+2700)

STR:49852(+1500)

DEF:65233(+1500)

AGI:78432(+2900)

MEN:34673(+2500)

MATK:81329(+10000)

MDEF:89117(+10000)

 

称号:【渡り人】【超越者】【ぼっち】【永久欠神(笑)】【専業主夫志望】

 

スキル:【共通言語】【自動防御Lv10】【自動再生Lv10】【魔力自動回復Lv10】【看破Lv10】【隠蔽Lv10】【感知Lv10】【妨害Lv10】【魔力操作Lv10】【魔法付与Lv10】【蘇生Lv10】【飛行Lv10】【武具召喚Lv10】【魔具召喚Lv10】【身体強化Lv10】【精神強化Lv10】【魔力強化Lv10】【状態異常耐性Lv10】【火炎魔法Lv10】【氷結魔法Lv10】【雷撃魔法Lv10】【烈風魔法Lv10】【土石魔法Lv10】【暗黒魔法Lv10】【光明魔法Lv10】【転移魔法Lv10】【重力操作Lv10】【詠唱破棄】【高速思考Lv10】【結界Lv10】【並列展開Lv10】【念話Lv10】【限界突破】【千里眼Lv10】【地獄耳Lv10】【改変Lv10】【偽装Lv10】【魔力吸収Lv10】【治癒Lv10】

 

所持金:0G

 

 

……お、おう。何だか悪意を感じる称号があるがまあそこは良い。というかそれ以外が意味分からん。いやまあ書いてあることの内容は分かりますよ、ええ。俺だって男の子だし。

というかこれどうやって使うのだろうか。レベルとかなぜか100だしそうそう死なないんだろうが、それでもひょっこり魔物とか出てきたときに殺られないとも限らない。いやまあそもそも魔物とか居るのか分からんけど。

と、そこまで考えた瞬間突然激しい頭痛に見舞われた。何かを無理矢理捩じ込まれるような不快感が頭の中を這いずり回り、声にならない悲鳴を上げる。いっそのこと気絶でも出来た方が楽かもしれないが、どういう訳か意識が遠退いて行くことは無い。

そしてその激痛や不快感と同時に、様々な知識が流れ込んでくる。【スキル】の使い方。この世界での常識。そういった本来この世界に生まれた者なら誰でも知っているであろう知識を俺もまた得たのだ。

 

『やっほー』

「!?」

 

そんなことを考えていると、突然頭の中に声が響く。驚いて回りを見回すも誰も近くには居ない。

 

『そりゃあ頭の中に直接話しかけてるもん』

 

何だと、心を読んできやがる。というか、

 

「……お前さっきの自称女神かよ」

『自称じゃないもん、ほんとに女神だもん』

「あーはいはい申し訳ありません女神さまー」

『よろしい』

 

良いのか。すごい棒読みだったが。

 

『いーのいーの。さて、さっきも説明した通り、君には神様の暇潰しに協力してもらいまーす』

「は?え、やだめんどい。つーか頭痛い」

『じゃあ冥界でブラック労働する?』

「それもやだ。働きたくない」

 

何だよブラック労働って。字面が怖すぎる。どこか知らないけど頑張って冥界の皆さん。

 

『まあ君一回死んでるから、自由に生活する代わりに神様の暇潰しに協力するか、冥界で働くかしか無いよ?』

「是非とも協力させて頂きます」

 

……はっ!働くことへの拒絶反応で反射的に受けてしまった。まあ自由か労働かと言われれば自由を選ぶので当たり前か。

 

『さんくすー。という訳で、君は神様の暇潰しに協力し自由を得ましたー。神様の暇潰しは試練という形でステータス画面に通知されるからチェックしてねー。ではでは、健闘を祈るっ!』

 

そう告げると、女神(自称)の声は聞こえなくなった。と、頭の中に小気味良い鈴の音が鳴る。これが通知だろうか。そう思い開いたままになっていたステータス画面に視線を落とす。するとそこには、

 

 

神様の試練:魔物から皇女を守れ! 制限時間 5分59秒

 

 

と表示されている。それを俺が認識した瞬間、遠くから微かに悲鳴が聞こえてきた。



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二話 雪の姫

「う、うわぁぁぁ!!」

「く、来るな!」

「いやぁぁぁ!」

 

その悲鳴が聞こえてきたのは俺が起きたところから千メートルほど離れたところだ。【千里眼】と【地獄耳】で場所を特定し、【転移】を使って近くまで瞬間移動する。するとそこには

 

「うわぁ……」

 

一つの馬車に群がる無数の魔物が居た。その馬車を守るように十五、六人の鎧を着た騎士と、ローブをかぶった魔法使いのような人たちが応戦している。余程身分の高い人でも乗っているのか、馬車を守る騎士達は皆生半可な強さでは無いようだ。しかし精鋭であろう騎士たちでも数には勝てず、しかも民間人なのか武器も持っていない人たちまで居るようだ。それだけの人数を守りながら無尽蔵に沸き続ける魔物と互角に戦える筈もない。

 

「認めたくないが……あの女神の言ってたことは事実、か」

 

既に何人か民間人が犠牲になっているようで、血のいやな臭いがする。

……さっさと助けないとやばいな。

 

そうして俺は【自動防御】を発動して魔物の群れに突っ込む。気づいた魔物が手に持った棍棒らしきもので攻撃してくるが【自動防御】によって阻まれ、辛うじて俺に入ったダメージもすぐさま【自動再生】で回復する。

すぐさま【高速思考】と【並列展開】を発動する。体感時間が加速し、どんどん世界がゆっくりになっていく。【武具召喚】によって片手剣を二本召喚し、【魔法付与】によって両手の剣に【火炎魔法】、【雷撃魔法】、【暗黒魔法】を付与する。そして【身体強化】を使って自身の身体能力を底上げし、黒炎と黒雷を纏った剣で手当たり次第に魔物を切り裂く。

魔法を付与した剣は呆れるほどに高い攻撃力を発揮し、【高速思考】と【身体強化】を併用していることもあり一秒に十体程の魔物を殺していた。

 

「「「「「なっ……」」」」」

「っ……え、援軍よ!この隙を逃さず畳み掛けなさい!」

「「「「「りょ、了解っ!」」」」」

 

俺の乱入により一瞬動きを止めた騎士達だが、馬車の中に居た指揮官らしき長い黒髪の少女の指示でまた動き出す。

 

それにしても戦闘に関してはアニメの知識しか無いのに随分戦えている気がする。スキルぱねぇ。と、明らかに【高速思考】の無駄遣いをしながら魔物を殲滅する。

ゴブリンの首を落とし、蜘蛛のような魔物を両断する。付与した魔法の出力を上げ、少しでも剣にかすった魔物を片っ端から黒焦げにしていく。固い装甲など易々と貫き、砕き、破壊していく。そうして三分ほど魔物を狩り続け、ようやく全ての魔物を片付け終えた。

 

「【解除】」

 

俺は発動していた魔法を解除し、周りの惨状を見回す。……うわぁ。我ながら何してんだよ。と、思わず自身の所業に軽く引いてしまうような光景が広がっている。辺りの木々は薙ぎ倒され、魔物の死体が散らばっている。

……臭い。魔物の死体から悪臭が漂っている。あれな、鼻が曲がるような、って表現は別に例えとかじゃないわ。あれ。これはまじで鼻曲がる。もう性根は曲がってるけど。

このまま悪臭に耐え続けられる気がしないので【火炎魔法】を発動し、魔物の死体を焼き払う。ぱちぱちと肉が爆ぜ、むしろ臭いが酷くなるので火力を上げて一瞬で蒸発させる。

ようやく悪臭から解放されて、そういえばあの馬車の人たちは大丈夫かなと馬車の方を向くと、ぽかーんとした顔でこちらを見つめる騎士たちの姿があった。

ぼっちは人に注目されることに慣れていないのでかなりキツい。

すると、さっき馬車の中から指示を出していた少女が近づいてくる。

 

「助太刀感謝するわ。私はガイル王国第二王女、ユキノ・ユキノシタよ。よろしければ貴方の名前を教えて貰えるかしら?」

「え、あ、おう……俺の名前は比企谷八幡だ」

 

端正な顔立ち、流れるような黒髪、凛とした表情。その少女はただの美少女と評するにはあまりに勿体無い。そしてそんな美少女と相対して声が裏返らなかった俺は凄いと思う。いや、これはむしろ【精神強化】の効果か。……スキルに頼らないとまともに人と話せない俺って一体……

 

「そう。ではヒキガヤさん。すまないのだけれど、負傷者の手当てを手伝って貰えないかしら?まともに動けるのが数人だけなのよ」

「ああ、良いぞ」

 

そう言って、俺とユキノシタ……さんは騎士や数人の民間人(ユキノシタさんが言うには貴族らしい)の手当てをする。

 

「《ヒーリング・ライト》」

 

傷ついている騎士達や貴族達に範囲回復魔法を掛ける。一瞬で傷が塞がった人たちを見て何やらユキノシタさん達が騒がしくなったが、スキル一覧に【蘇生】があることを思いだし急いで死んでしまった人のところに向かう。

切り飛ばされていた腕を治癒魔法でくっつけ、【蘇生】を発動する。幸いにも死んでから数分しか経っていなかったため、体から出てしまった魂もほとんど劣化していない。【蘇生】で出来るのは魂を体に戻すことだけだから、劣化した魂を回復させることは出来ないのである。

同じように死んでしまった人たちに【蘇生】をかけ、どうにか犠牲者を無くすことができた。何だか体に力が入らないがこれが魔力切れなのだろうか。……【魔力自動回復】があるからあんまり困らないけど。

 

「あの、ヒキガヤさん。そちらの方々は、もう……」

「ああ。死んじまってたんで【蘇生】しといたぞ。後数時間経てば目を覚ますと思う」

「え……」

 

するとユキノシタさんは困惑しながらも俺が【蘇生】した騎士の一人に近づき、脈を取る。そして目を大きく見開き……

 

「い、生きて、る……」

 

そのまま他の俺が【蘇生】した人たちの脈を一人ずつ確認し……混乱し始めた。いきなり馬車の中に数人を連れて入り、何やら会議のようなことをし始めた。【地獄耳】を使えば簡単に聞こえるのだが、態々馬車に入ったということは聞かれたくない話なのだろう。そんな話を聞こうとするほど俺はクズじゃない。

 

そして俺は何をするでもなくただただぼーっと待っていた。途中騎士達の視線に耐えきれなくなって【隠蔽】で姿を消してみて更に騒然となったりしたが特に問題はない。




ゆきのんの態度が丁寧だけど、いきなり現れて苦戦してた敵を片っ端から軽々と殺してくやつが現れたらこうなる。むしろ普通に接してるゆきのん凄い。


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三話 交渉

その後、ユキノシタさん達は三十分ほど何やら馬車の中で会議をしていた。

その間俺は帰ろっかなーすること無いしじろじろ見られて居心地悪いし。とか思って帰ろうとするも帰るとこが無いことを思い出して軽く絶望したりしていた。……あんのくそ女神、次会ったらマッカン五年分請求してやる。

 

ただ待っているのも暇なのでステータス画面でも確認していようと思い、ステータス画面を開く。

 

(《ステータスオープン》)

 

さーて何か変化はあるかなーっと。

 

 

congratulation

おめでとう!見事試練をクリアした君に、《アーツ》を一つ授けよう!

 

 

NEW!

アーツ、《神速》を取得しました。

所持金が、20746Gになりました。

スキル、【鑑定Lv1】を取得しました。

 

 

 

と、表示されていた。

ほーん?アーツ、アーツねぇ。何となくテンプレ感漂うが一応調べておこう。そう思い、《アーツ》と書かれている部分をタップする。……何となくやってみたけど触れるのね、このステータス画面。

すると《アーツ》という物が何なのかという説明が出てきた。何か色々出来るなこの画面。

 

……その説明を読んでみた感じ、どうやらアーツというのはログホラで言う口伝みたいなものらしい。知らない人はまあ特別で強力な必殺技みたいなもんだと思ってくれれば良いだろう。誰に説明してんのこれ。

 

さて、そんな感じでステータス画面を確認していると、漸くユキノシタさんたちが馬車から出てきた。そしてユキノシタさんが初老の男性と一緒にまたも俺の方へ近づいてくる。

 

「ごめんなさい。待たせてしまったわね」

「え、ああ。いや。大丈夫だ」

 

ユキノシタさんが軽く頭を下げて謝ってきたので、俺も若干おどおどしつつも何とか声を裏返らせずに返す。

 

「ヒキガヤ様。先程は私共をお助けいただき、誠に有り難うございました。私、侍従長を勤めております。ツヅキと申します」

「え、あ、はい」

 

近づいてきた初老の男性は深く礼をしながら名乗る。それに若干と言うかかなりというか、とにかく恐縮しながら返事をする。

 

「ヒキガヤさん。助けて貰った上でこんなことを頼むのは気が引けるのだけれども……」

「?……まあ俺に出来ることなら」

 

こちらとしても行くところは無いし、ユキノシタさんは王女とか名乗ってたし上手くいけば泊まるところができるかも知れない。野宿だってスキルがあれば出来るだろうが、かと言ってしたいわけでは無い。

 

「その……護衛をお願いしたいのよ。貴方のお陰で助かったけれど、このまま国まで帰ることは出来そうも無いのよ」

「あ、あぁ。行く当ては無かったからこちらとしても有り難い」

「?行く宛が無い?……貴方ほどの実力者ならどこかの宮廷のお抱えでは無いの?」

「いや。俺も最近こっちに来たばかりでな。お陰でこっちの常識なんかまるで無い」

「そ、そう……では、お願いして良いかしら?」

「ああ」

「有り難う。――ガイル王国第二王女、ユキノ・ユキノシタ。ワタリの神に誓って、この恩は必ず返すわ」

「お、おう」

 

そんな感じで俺がガイル王国とか言うところまで護衛をすることが決まった。

 

 

 

****

 

 

 

俺は【感知】を使って魔物が近づいてくる前に倒し、ついでにさっき取得した【鑑定】を使って色々調べながらガイル帝国へと向かっていた。

その夜。

俺とユキノシタさんは一対一で話し合っていた。内容としては護衛と救援の報酬について、そして勧誘だった。

 

「……では、一先ず貴方に報償として30000Gを与えるわ。その他の報酬は国で話し合った上で決定することになると思う」

「ああ」

ユキノシタさんは金貨が詰まった重そうな麻袋を俺に渡してくる。この世界で30000ゴールドっていうのがどのくらいの価値なのか分からないが、さっきの戦いで得たゴールドも合わせれば少なくとも暫くの間は問題ないだろう。

 

「……それと、もう一つ。出会ったばかりでこんな話をするのもどうかと思うのだけれど……」

「?こっちとしても迷惑どころか助かってんだ。俺に出来ることならするぞ?」

「……大抵のことはやってのけそうな貴方がそう言うと、何でもしてやると言っているように聞こえるわね」

「いや、俺に出来ることなんて大したことねえよ」

「……………………」

 

ユキノシタさんが珍獣を見るような目で見てくる。そんな目をされて興奮するような性癖は無いので即刻止めていただきたい。

 

「……そんで、まだ何かあんのか?」

 

目を更に腐らせながらもユキノシタさんにそう返す。するとユキノシタさんはただでさえ良い姿勢を正し、わざとらしく咳払いをする。

 

「……その……恥ずかしながら、ガイル王国には軍事力と言うものがほとんど無いの。まあ祖父の代に出来た新興国だからというのもあるのだけれど」

「はあ」

「父の代で様々な技術が発展し、新興国でしか無かったガイル帝国は豊かになった。けれど人口は中々増えず、それに伴って兵の数も少ないわ。今は技術力の差もあって戦争には負けていないけれど……」

「将来的にどうなるかは分からんってことか」

「ええ。しかも最近になってさっきのような魔物の異常発生。近隣の小国でも被害が大きいわ」

 

確かに、技術と言うのはどれだけ隠しても流出するものだ。歴史もそれを証明している。……これ一回は言ってみたかったんだよな。

しかもそこにさっきみたいに大量の魔物が発生するのではどうしようも無いだろう。

その後もガイル王国の事情を聞く。というかこいつら自身、疎開先から帰るところだったらしい。

 

「……というわけで、ガイル王国はいつ大国に潰されてもおかしくは無いのよ。今護衛としてここにいる人たちも、数少ないガイル王国の精鋭なの。貴方からしたら弱いのでしょうけど……」

「いや、あの少人数であの数の魔物と戦ってた訳だろ。自分で言うのもあれだが比べる相手が悪い。俺レベル100あるし」

「……はぁ。あなたがどれだけのレベルだろうともう驚かないわ」

 

ユキノシタさんは頭痛でもするのか、額に手をやる。

 

「……まあそれはそれとしても、私としては貴方にガイル帝王国守って欲しい。このままだと、私たちの国は何時か滅ぼされてしまう。それが魔物によってか人間によってかは分からないけど。報酬なら幾らでも渡す。それ相応の地位だって保証するわ。だから、その……」

 

必死に懇願し、己の国を守るために頭を下げるユキノシタさん。こんな美少女に必死にお願いされて断れる訳が無いだろうに。

……まったく。卑怯すぎんだろ。

 

「おう。了解した」

「ガイル王国の軍に……って、そんな簡単に決めて良いの?」

「おう。俺住むところも家族もこっちには無いし。だが一つだけ条件がある」

「な、なにかしら……流石に出会って間もない男に身を捧げたくは無いのだけれど」

 

そう言ってユキノシタさんは綺麗な顔を曇らせ、肩を抱き寄せながら俺から距離を取る。と言ってもさして広くは無い馬車のなかだから意味は無いが。

というか俺そんなに変態に見えるのだろうか。確かに目は腐ってるし本読みながらニヤニヤしてたりするが……あ、これ十分アウトですね。

 

「そうじゃねぇよ……ただ有事の時以外は自由にさせてくれってことだよ」

「……そんなことで良いの?」

 

ユキノシタさんはそんなことと言うが俺にとって物凄く大切なことである。出来るだけ働きたくないし。だがまあどうせ神には試練を出されるんだろうし働くことは確定している。だったらこの提案に乗ってゴロゴロダラダラしながらたまに試練をクリアすれば良い。どうせ住むとこ無いし。

 

「ああ。それで良い。それが良い」

「そう。正式に決まるのは帰ってからになるのだけれど。……これからよろしく頼むわね」

 

そう告げると、ユキノシタさんはにっこりと惚れ惚れする笑顔を浮かべ、手を差し出す。……なに?握手すりゃ良いの?

 

「……おう」

 

俺はそれに応じ、ユキノシタさんの雪のように白い手のひらを優しく握る。

どうやら、俺は無事に住処を得ることが出来そうであった。



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四話 仮面の姫

タイトルは適当です。


「《雷拳》」

 

俺は【雷撃魔法】を発動し、両手の拳に雷を纏わせる。さらに【身体強化】によってただでさえ高レベルの身体能力を大幅に強化する。それにより俺は馬車を襲ってきた愚かな魔物――12体ほどのゴブリン――の内の一体を殴り飛ばす。いや、殴り飛ばすと言うより貫く。もちろん拳で。

腹に風穴が空いたゴブリンは何が起きたのか理解できないまま即死する。そしてそのゴブリンを貫いた勢いのまま三体同時に殴り、貫く。

 

「《武具召喚:両手剣》、《魔法付与(エンチャント):獄炎》」

 

俺はスキル【武具召喚】によって両手剣を召喚し、【魔法付与】によって地獄の炎(そんなイメージの火炎と暗黒の混合魔法)を纏わせる。頭でイメージしながら口にも出すと更に早く発動が出来るらしい。まあ【詠唱破棄】があるからあんま関係ないっちゃ無いのだが。

 

そして残りの八体の憐れなゴブリンは漸く仲間が殺されたことに気づき、慌て始める。そんな中一体のゴブリンが俺に気づき、ゴブリンにしては速いスピードで俺に殴りかかってくる。しかし俺のスピードに勝てるはずもなく、俺は左上から斜めに切り下ろして四体のゴブリンを上下に両断する。そしてその場で回転し、さっきの勢いを殺さず左下から切り上げる。そしてまたも四体のゴブリンを両断する。

 

「終わったぞー」

 

俺は後ろで戦闘を見ていたユキノシタさん達に声をかける。

実際、わざわざ魔法を使う必要なんか全く無かったのだがまあ練習として使っていた。それに自分の力で出来ることと出来ないことを見極めとかないといざというとき失敗しかねん。

 

「え、ええ。ありがとう……いまさらだけれど、どうやったらそこまで強くなれるの……というか本当に人間……?」

 

若干ユキノシタさんが引いているような気がするが気にしない。気にしたら負けだ。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

その日の夜。護衛二日目の夜となるこの時間。俺はまたしてもユキノシタさん、改めユキノシタの相手をしていた。

 

「ヒキガヤくん。思ったのだけれど貴方のその目は『魔眼』なの?」

「何だそれ。これは気付いたらこうなってた。『魔眼』なのかは知らん」

 

ユキノシタは俺のことをヒキガヤくんと呼ぶようになり、俺も彼女をユキノシタと呼ぶようになった。というか強制的にそうなった。第二皇女の命令なんて断れる訳がない。まあ気楽だからこっちのが良いのだが。

 

「そう、なの?あなたのあの強さに『魔眼』は関わっていないとでも言うのかしら?……だとしたら本格的に貴方が人間だとは思えなくなってくるのだけれど」

「いや、俺はれっきとした人間だから。人を魔物か何かみたいに言わないでくれる?」

「大丈夫よ。あなたのその目はどちらかと言うとゾンビだから。良かったわね。元は人間よ」

「それは結局魔物なんだよなー……」

 

まあ俺の目を見ればあながち冗談とも言えなくて返答に困ったりする。……ちゃんと人間だよな……?

 

「ふふっ、冗談よ」

「そうかよ」

「ええ。そうよ」

 

ユキノシタは気を許してくれたのか、時々こんな感じで冗談を言ってくる。内容はキツかったりもするが別に悪口って程じゃない。それにこのテンポの良い気楽な会話が気に入ってたりする。

 

「そんで、明日の昼には王都に着くんだよな?」

「ええ。その予定よ」

「じゃあ明日で一応護衛は終わりか」

「ええ。最後まで気を抜かないようにね」

「おう。王女様直々に頼まれたらやるしかねぇな」

「ふふっ。……無理はしないでね」

「Lv100なめんな」

 

実際レベルのお陰なのか【身体強化】のお陰なのか、昨日寝ずの番をしたが体に不調は見られない。七徹くらい余裕で出来そう。

 

「そうね。ならお願いするわ……お休みなさい」

「おう。お休み」

 

 

 

****

 

 

 

「ユキノちゃーーーん!!!」

「ね、姉さん。暑苦しいわ……は、離れて!」

「良かったよー!!!ユキノちゃーん!えへへ、ユキノちゃーん!」

「うぐっ……!?く、くるし、だめ、姉さ、ん。は、はなし……て」

「ちょっ!おいっ!窒息してる!」

 

王都で一番に出会ったのはハルノ・ユキノシタ。ユキノシタの姉でありこの国の第一王女らしい。

そして重度のシスコンだ。妹に会った瞬間抱きついて窒息させかけるぐらいにはシスコンだ。

 

「おーい。ユキノシター、生きてるかー」

「…………」

「あ、や、やばいっ!すぐ回復術師呼んでくる!」

「あ、大丈夫っすよ。俺回復魔法も使えるんで」

「そ、そうなの!?は、早く!早く回復して!」

「言われなくてもやりますよ……《小回復》」

「……ん、こ、ここは」

「ユキノちゃーん!さっきはごめんねー!」

「はいストップ」

 

俺が回復魔法をかけてユキノシタは意識を取り戻したが、またもユキノシタさん……まぎらわしいな。ハルノさんでいいや。ハルノさんが抱きつこうとする。今度は勿論止めた。片手で。

 

「は、離しなさい!ていうかなんで止められるの!?私レベル30あるんだけど!?」

 

ユキノシタに聞いた話だと、この世界の一般的な兵士はレベル10ほどらしい。そう考えるとハルノさんのレベルは相当に高いと言えるだろう。そしてそれに伴って身体能力も高くなる。レベル差が10もあれば物理だけで勝つなんてことも出来るらしい。つまりハルノさんを止めるには最低でも同レベルである必要があるのだ。ステータスのパラメータの片寄り方によっても変わるだろうが、ユキノシタが言うにはガイル王国で最強なのはこのハルノさんだそう。自分を止められる人間いるとは、まして自分より年下であろう俺に止められる筈が無いと思っているのだ。

だが相手が悪い。なんせ俺はレベル100なのだから。俺にとってハルノさんを止めるというのは息をするより簡単なのだ。

 

「……ユキノシタが怯えてるんで落ち着いてください」

「怯えてなどいないわヒキガヤくん。変なことを言わないで頂戴」

 

ハルノさんに窒息させられかけた上に追い討ちをかけられそうになって怯えていたが復活した。どうやらこいつは重度の負けず嫌いらしい。

 

「あ、ご、ごめんねユキノちゃん……ん?君今呼び捨てにしなかった?というかユキノちゃんもヒキガヤくんて……ど う い う こ と か な?君?」

 

!?な、何だこの威圧感……!や、やばい、これ返答をミスったら死ぬ!確実に!魔物の群れとか比じゃない!なにこれ!なにこのラスボス感!

 

「……はぁ。ヒキガヤくんは、魔物に囲まれていた私たちを助けてくれたの。命の恩人よ」

「え、そうなの?ユキノちゃんを狙う毒虫とかじゃ無いの?」

「そんな筈がないでしょう。名前も私がそう呼んでくれるように頼んだのよ」

「そ、そう……へぇ。この子が魔物を。まあ実際私より強いみたいだしね。認めたくないけど」

「ど、どうも。比企……ハチマン・ヒキガヤです」

 

どうやらこの世界での名前の名乗り方はこっちのが正しいらしい。ユキノシタは普通に名乗っても分かってくれたが、これから暮らしていく土地の作法に合わせた方が良いだろう。【共通言語】があるから大丈夫だとは思うが。

 

「ふーん。ヒキガヤくん、か……あ、私の名前はハルノ・ユキノシタ。詳しい話は後で聞くとして……よろしくね。ヒキガヤくん」

「っ……は、はい」

 

そう言えば王族相手に色々やらかしたな、俺。もしかして処刑とかされるのだろうか。……あぁ、まだ死にたくないなぁ。

妖艶な笑みを浮かべたハルノさんの外面に謎の威圧感を感じながら、俺はそんなことを考えていた。



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五話 試験

短いです。そして書きたいところまではこの位の長さとクオリティです。


ユキノシタの姉であるハルノ・ユキノシタと出会い、不敬罪で縛り首にされかけるも何とか助かり今に至る。異世界転生でテンションが上がっていたとはいえ、なぜあんな行動を取ってしまったのか。王族にあんな態度取ったらそりゃ捕まるわ。

とは言え明日にはガイル王国の王様、つまりユキノシタの父ちゃんに合わなければならない。めんどい。王族相手に色々やらかしておいてまだ言うかって感じだがめんどい。

 

 

 

 

****

 

 

 

「……そんで、俺は一体何をやらされるんですか」

「ん?……いやー、ユキノちゃんが君をスカウトしたでしょ?だからどれ位強いのか見せて貰おうと思って」

「はあ……」

 

それなら何故俺は五人の騎士に取り囲まれているのでしょうか。しかもここ闘技場か何かですよね?何故いかにも貴族っぽい方々で席が埋まってらっしゃりますのん?

 

「ちなみに負けたら縛り首だから。昨日の不敬罪で」

「ぐっ……」

 

とはいえこれを乗り越えれば晴れて自由の身(制限つき)だ。それに【鑑定】で見た感じこいつらのレベルは20から25程。いくら五体一でも負ける心配は無いだろう。

とは言え油断をしたら足元を掬われるというのは前の世界からの常識だ。全力は出さないが、かと言って出し惜しみはしない。

 

「はーい。と言うわけで審判は私、ハルノ・ユキノシタが行いまーす」

 

ハルノさんはどうにも自由奔放で、護衛で疲れていた俺をこうして謎の試験に引っ張り出す位には横暴だ。眠いだけだから別に良いっちゃ良いのだが。

 

「ルールとしては、相手が降参するか戦闘不能になったら勝ち。後遺症が残るような怪我をさせるのも禁止。他は自由だよー。何か質問はある?……無いみたいだね。と言うわけで、両者構え」

 

その合図と共に、俺を囲んでいる騎士達がそれぞれの得物を持つ。あるものは武骨な片手剣と円楯を、ある者はどでかい両手斧を、ある者は二本の杖を、ある者は短槍を、ある者は弓を、それぞれ構える。

そして俺は【武具召喚】を使用し、フィンガーガードがついた刃渡り二、三十センチほどのナイフを二本召喚する。剣だと攻撃が過剰になるからな。

俺は素手で戦うのかと、しかも五対一なのかと戸惑っていた騎士達が今度は別の戸惑いを見せる。いくら魔法も含めた技術において秀でているガイル帝国といえど、虚空から武器を取り出すようなスキルや魔法は存在しないのだろうか。

 

「……始めっ!」

「すまないが、こちらも命令には従わなければならんのだ。恨むなよ……らあっ!」

 

その合図と共に、何やら語りかけてきた片手剣と円楯を持つ騎士が肉薄する。そしてその手に持った片手剣を俺の手首を狙って降り下ろした。

しかしそれは態々【自動防御】を使う必要もなく、レベル差によるステータスの開きが騎士の攻撃を受け止める。俺の防御力が騎士の攻撃力を圧倒的に上回ったのだ。

 

「なっ……!」

 

闘技場に居た全員が自分の目を疑っただろう。何せ闘志も覇気も感じられなかった青年が、ハルノよりは弱いとしてもガイル王国内において相当な力量を持つ騎士の一撃を受け止めたのだから。しかもスキルや魔法を使った訳ではない。即ち単純なステータスによって、熟練の騎士の鋭い一撃を防いで見せたということだ。それを理解し、俺は今一度女神とやらに押し付けられた力の強大さを思い知る。騎士の攻撃には反応出来なかったわけだが。

 

「……ありゃりゃ、こりゃユキノちゃんも相当ヤバイの連れてきたねー……」

 

そう呟いたハルノさんの一言はその場に居た全員の気持ちを代弁しているのかも知れない。……いや、流石にそれは自惚れか。

 

「おいおい、よそ見してて良いのかい?――《ダンシング・スピア》」

「どっせぇぇぇぇい!!!――《アースシェイク》ぅぅぅぅ!!!」

「『虚空に舞いし清らかなる風よ、我が導きの元、千の矢となれ』――《旋風千矢》」

 

短槍を持った騎士と両手斧を持った騎士の攻撃が殺到する。正面からは大地を揺らすほどの威力を秘めた斧の一撃が迫り、背後からは踊るように繰り出される槍の連撃が俺を狙う。

さらにその隙間を縫うかのように、魔力によって形作られた千の矢が俺にだけ当たるよう放たれる。魔法やスキルによる効果なのかあの騎士の技術なのかは定かではないが、どちらにせよ相当な実力者であろう。

 

「……【自動防御】」

 

しかし【自動防御】によってそれらの攻撃は全て弾かれた。ぱないわ。このスキル。

 

「ぐっ!……ならばっ!――《獅子咆哮》っ!」

「援護するっ!――『気高く荒々しき魔力よ、彼の者に力を与えよ』――《リインフォース》」

 

杖を二本持った魔術師風の男から強化魔法《リインフォース》を受け、退避していた片手剣の騎士はスキルを使用する。瞬間、騎士の持つ剣が赤く光り、目にも止まらぬ速さで突き出される。至近距離で放たれたその剣戟はまさに神速の一撃。

しかしそれはあくまでその騎士と同レベルの場合である。レベル100である俺にとって、その一撃は大したことの無い速度なのだ。しかしまだ俺は攻撃をしていない。これは俺の強さを見る試験なのだから何かスキルを使った方が良いだろう。

 

「【高速思考】【並列展開】【魔力強化】――《ファイヤーボール》」

 

瞬間、騎士の体が炎に包まれる。【火炎魔法】の初級魔法である筈の《ファイヤーボール》は、九万を越える俺の魔法攻撃力と【魔力強化】の力で必殺の一撃となった。勿論本当に殺してもいけないので大分手加減しているが。

しかしそれでも圧倒的なその魔法は、たったの一撃で片手剣の騎士の意識を刈り取った。

 

「【詠唱破棄】、【身体強化】、【魔法付与(エンチャント):雷風】――《神速》、《ザ・ライトニングサイクロン》」

 

俺は【魔法付与】によって二本のナイフに雷と風を纏わせる。そして【身体強化】によって身体能力を上げ、さらに《神速》によって文字通り光速となり騎士達の周りを駆け抜ける。風の魔法によって一瞬だけ三メートルほどの竜巻が起こり、その中を雷が駆け巡っていく。勿論そんな攻撃を受けて立っていられる筈もなく、竜巻に巻き込まれた四人の騎士達は同時に膝を着いて崩れ落ちた。

それらを《神速》によってもののコンマ数秒で成し遂げ、試験は終了した。



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六話 指令

試験が終了してからはまさに阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

ある貴族は俺を悪魔だのなんだの言い出し持つものも持たず逃げ去るし、俺が自分で倒した騎士達を回復させれば奇跡だのなんだの騒ぎだすし……

とにかく大変だった。それはもう大変だった。そして何故かその勢いでガイル王国軍に正式に参加することが決定したし、俺の提示した条件も受け入れられた。まあ理由の大部分があんなバケモノと連携なんて出来る筈が無いからと軍の連中が頼み込んで来たかららしいが。

 

そして軍への参加が決まったのは良いが、通常の軍への参加ではなく俺一人で一軍扱いなのである。こんなところでもぼっちスキルが発揮されている……まあ面倒な上下関係とか無いから寧ろ感謝すべきか。兵なら【土石魔法】でゴーレム作れば良いし。

 

「……ここか」

 

ハルノさんに指示された通りに王宮の一室へと入る。案内くらいしてくれても良さそうなものだが誰も引き受けてくれなかったのだから仕方ない。

 

「……あら、ようやく来たのね。遅刻ガヤ君」

 

バタン。

 

……中に誰かが居た気がするな。疲れてるのか幻聴まで聞こえてきたぞ。よし。さっさと部屋で休もう。流石に徹夜で護衛した後に試験までして疲れたよ。うん。さっきのもそのせいであって決して中にユキノシタなど居ない。

 

「ちょっと。何故閉めるのよ」

 

そう自己暗示をかけもう一度ドアノブを掴もうとすると、部屋の中から少し拗ねているユキノシタが現れた。誰か、嘘だと言ってくれ。

 

「……なんで居んだよ」

「何故って、まだ報酬を渡して無いじゃない。誰も貴方に近づこうとしなかったから私が直々に渡しに来て上げたのよ。感謝しなさい」

 

そう冗談目化してユキノシタが微笑む。それだけでまあ良いかと思えてしまうあたりやっぱり美人は得だと思う。

 

「……はぁ」

「ため息なんて吐くものじゃ無いわよ」

「あぁ。うん。分かった。分かったからさっさと用事を済ましてくれ」

「ええ……ほら、これ」

 

そうしてユキノシタから渡されたのは、雪の結晶があしらわれた腕輪だ。大きすぎず小さすぎずの丁度良いサイズである。

 

「それがあればこの国の大抵の場所に入れるわ。もちろん他人の私室や宝物庫には入れないけれど。それとあなたのこの国での階級は地方司令官と同等位に考えて貰えば良いわ」

 

この国での地方司令官の扱いがどの程度かは分からないが悪いわけではないだろう。寧ろ何処の誰とも分からない俺を迎え入れてくれただけ感謝すべきである。

それに大抵の場所に入れるならば図書館にも入れると言うこと。俺は自分の力に知識や経験が追い付いて居ない状況だから少しでも知識は増やさなければならない。

 

「おお。ありがとな」

「あなたの働きに対する対価なのだから、これくらい当然だわ。あなたは何人もの命を救ったのよ」

 

そう言って優しく微笑みかけてくるユキノシタ。そう言うことを不意打ちでやるのはずるいと思うな。

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

「あ、あの!」

 

王宮の図書館で魔法や魔物など、一般常識では補えない知識を仕入れるため一人黙々と本を読んでいたらいきなり話しかけられた。実際は大分前からこの部屋に居たのだがずっともじもじしていただけなので放っていたのだ。

 

「……えっと、どちらさまで?さっきからずっと居たみたいだが」

「あ、え、えっと、ユイ・ユイガハマ二等魔法官でしゅ!……です」

 

最後噛んでたが誰かは分かった。二等魔法官ということは軍所属だろう。見た感じバリバリの戦闘タイプには見えないので回復術士だろうか。

 

「はぁ、ハチマン・ヒキガヤ特殊遊撃軍司令官です。一人だけだが……一人、だけだが」

 

ほんとまじふざけんな。気楽とか言ってたの何処の誰だよこんちくしょう。一人ってことは書類仕事も戦闘も全部一人でやるってことだろうが!しかも任務中に神の試練が来たらと思うとまじでキレたくなる。

 

「あ、あの、その……あの時は、ありがとうございました!」

「は?」

「えと、覚えてない……ですよね」

「あ、ああ。すまん」

 

ありがとうと言われるようなことをした覚えは無いのだが……俺が名乗っても特に間違えたとかそういう素振りは見せなかったし俺への言葉で合っているだろう。周りには俺達以外に人居ないし。

 

「……ゆきのん、じゃなくってユキノ様の馬車が襲われた時に」

「……ああ、あの時か。じゃあお前はあの時の護衛の一人か?」

「は、はい」

「そか。無事で良かった」

「あ、ありがとうございます」

 

そう言ってユイガハマはまたもじもじし始める。コミュ力高そうな見た目してるが人は見かけによらないってか。

そして勿論俺のコミュ力で気の利いた話題など提供できる筈もなく、お互いに沈黙する気まずい空間が出来上がった。【隠蔽】で隠れたいがそんなことをすれば更に面倒なことになると思う。

 

しかしそんな気まずい空間は、ある伝令によって一瞬で壊された。

 

「ヒキガヤ様!」

「うおっ!なんだよ一体。どうした、何かあったのか」

「し、指令です!王都より南西の森に魔物の大群が出現!速やかに討伐せよとのことです!」

「ま、魔物!?」

 

偶然居合わせたユイガハマが怯えているようだがそんなことを気にしていられない。

 

「数と種族は?」

「は、はい!現在確認できているだけで一千から二千程度。しかしまだ増えています!種族はオーク、ゴブリン、トロールが確認されています!」

「……分かった。直ぐに行く」

「はっ!ただ今第一軍から第三軍が討伐へ、残りは王都の守備をしております!」

 

第一軍か第三軍を出動させると残りの戦力は千五百程度だったか。こりゃさっさと殲滅しないとヤバイな。

 

「ユイガハマは自分の軍に戻れ。俺は直ぐに出発する」

「は、はい!」

 

ユイガハマに自軍に戻るよう言い聞かせ、俺は【転移魔法】を使用して森へと向かう。

森に着いた途端、頭の中で鈴の音が鳴り試練の発生を知らせる。

 

(《ステータスオープン》)

 

 

神様の試練:増え続ける魔物を討伐し、王都を守れ!

制限時間:44分59秒

 

 

そして、俺のガイル王国軍としての最初の任務が始まった。



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七話 規格外

「…………うわぁ」

 

【転移魔法】で跳んできた俺を待っていたのはモンスターの群れ。それも伝令の言葉とは違い千や二千の数ではない。だがしかしそれもそのはず。どういう原理なのかは知らないが、こうして戦場を見ている間にもモンスターは増え続けているのである。

 

「お、おい!援軍はまだか!」

「さっきハチマン様に連絡が行った。直ぐ向かってくれるそうだ」

「そうか。試験を見たときは恐ろしかったが味方なら頼もしい」

 

……えー。何これ。何で俺こんな期待されちゃってるのん?そういうのほんとやりにくい。というか王都の門の辺りまで魔物来ちゃってるし。しかもまだ一軍すら到着してないし。戦ってるのはただの門番だと思われる。

 

「……【高速思考】【並列展開】【自動防御】【自動再生】【身体強化】【武具召喚】――《神速》」

 

【高速思考】と【並列展開】を使用してスキルを多重に展開する。【身体強化】を使って身体能力を底上げし、【武具召喚】によって片手剣を二本召喚。そのまま《神速》を使って、上空から門より少し離れた位置に突っ込む。

 

「【魔法付与(エンチャント):黒氷】――《カース・オブ・フリージング》」

 

【魔法付与】を使って両手の剣に【氷結魔法】と【暗黒魔法】を付与する。《神速》によって光速となっている俺はひたすら剣を振り回す。数が多いお陰で適当に振ってても当たる。

相手の血液の一部を凍結させる魔法を【暗黒魔法】と組み合わせることで大幅に強化した。具体的には斬った相手の水分全部が凍るようにした。我ながらえげつない。

 

「お、おい!ゴブリン共がどんどん死んでってるぞ!」

「き、きっとハチマン様だ!」

「やべえ。俺の【探知】でも追えない速さで動いてるぞ。ありゃまじで悪魔かもしれんな」

「お、おい!聞こえたらどうすんだよ!」

「そうだぞ!噂では王女様方のお気に入りらしいんだ。あんまり変なこと言ってると消されるぞ!」

「あ、ああ。すまん」

 

…………聞こえてるんだよなー。後ろで何か起きたとき直ぐ駆けつけられるように【地獄耳】を展開してるから丸聞こえなんだよなー。まあ良いけど。

 

そんなこんなで約三分経過。やっと第一軍が到着。しかしそのころには魔物が生まれる速度が倍以上になっており、俺が魔物を倒す速度と新しく魔物が生まれる速度が拮抗してしまった。結果数の差が浮き彫りになる。基本的には魔物のレベルはガイル王国兵より高い。魔物としては最下級のゴブリンでさえ平均レベル15だ。しかし魔物というのは余り数も多くなく、総じて知能も低いため騎士達も戦えていたのだ。

しかしそこに来て人間側の最大の利点である数の優位性が失われたのだ。当然、騎士達の士気もだだ下がり。俺の平穏のためにもさっさと俺が倒してやろうと広域殲滅魔法を使おうとするも、良く考えたらここで俺が広域殲滅魔法を使ったら森ごと吹っ飛ぶ訳で。そうなったらガイル王国の産業にも大ダメージ。即ち俺の平穏が崩れ去ると言うわけである。よろしくない。それは大変よろしくない。ならばどうにか騎士達に戦って欲しいものだが……

 

「皆、聞いてくれ!」

 

いきなり、戦場に凛々しい声が響いた。絶望しかけていた騎士達は一斉に上を向く。しかし俺は魔物をちぎっては投げを繰り返している。まあ今俺が手を休めたら魔物が王都に雪崩れ込むからな。

 

「今、ここには大量の魔物が居る!これまで見たことも無い夥しい数だ!我々だけでは勝利は覚束ないだろう!だが思い出してくれ!我らの後ろに在るものを!守るべき者を!」

 

金髪の爽やか系イケメンにして俺が試験の時剣を受け止めた騎士、即ちガイル王国第一軍司令官。その名はハヤト・ハヤマ。俺と同じ17才でありながら一軍を率いるリア充。いや今はリア充関係ないわ。

 

「家族を!友を!恋人を!故郷を!失う訳には行かない!さあ、剣を持て!杖を掲げろ!弓を弾け!馬を駆れ!我らが力を、見せつけろ!」

 

落ち込んだ戦意を回復させるため、ハヤマが行った演説。その内容は単純で、噂に聞く彼の理知的な雰囲気とはかけ離れる。しかし単純だからこそ、心に響くものがあるわけで……

 

「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉお!」」」」」

 

けっ、アホらし。全く、何でそんなことで熱くなれるのかねぇ。俺にはまったく理解できそうに無い。むしろ嫌悪するし悪寒がする。

……だが、まあ。異世界で位、バカやったって良いだろ。こっちでは今んとこ腐らなきゃいけねーよーな。そんなつまらんことはされてない。だから、まあ。受けた恩の分は働くというか。まだどうにも素直になれねぇが、まあ。―――いっちょやるか。

 

「おい!ハヤマ!」

 

ゴブリンどもが来れないように森全体を【土石魔法】を使って壁で覆い、【飛行】を使って最短距離でハヤマの元へ向かう。

 

「ヒキガヤ!……さん」

「ヒキガヤで良い。それより、俺が兵を増やす!それなら魔物達(クソども)殲滅できるな!?」

「あ、ああ。後一万五千ほど……いや、一万居れば勝てる。だがそんなことが出来るのか?」

「愚問だな。俺はお前より強いんだぜ?お前こそ俺の兵に功績奪われるなよ」

「はっ、愚問だな。俺は君より指揮は出来るんだ」

 

ハヤマとの打ち合わせもそこそこに。俺は図書館で学んだ知識、【土石魔法】の魔法使いが使うゴーレム。それの改造版を用意する。

 

「【魔力強化】【魔力自動回復】【詠唱破棄】【魔具召喚:魔核石】――《クリエイトゴーレム:沈黙の土石兵団》」

 

【土石魔法】魔法使いは己の魔力を大地に注ぎ込み、周囲の岩石を操ってゴーレムを作ると言う。だがそれには魔力が届く範囲である必要がある。ここに今回のミソがあるのだ。俺の【魔具召喚】は魔力を持つか、何らかの魔法やスキルが組み込まれた物を召喚するスキルである。そして今回召喚したのは術者の魔力を貯めておける『魔核石』という魔具である。ゴーレムが魔力で動くなら、この『魔核石』を核にしてやれば動くのではないか。実戦でははじめて使うが、ミニチュアサイズのゴーレムでやったら動いたので大丈夫だろう。

第一軍の兵数は一万二千。対して魔物共は報告された数を大きく上回り現在二万程。ハヤマは一万で何とかするとかほざいてたが無理だろ。というわけでゴーレムを三万体ほど創った。結構ごっそり魔力が持ってかれた気がする。まあ回復するんですけどね。

 

「ふぅ。これで行けるか、ハヤマ」

「………………………」

「カシャッ……ハヤマ?」

「……はっ!」

 

ぽかーんとしていたハヤマの顔を【魔具召喚】で召喚した記録石で撮影してからもう一度声をかける。写真は後で王都で売りさばく。

 

「ヒ、ヒキガヤ。俺はどうやら疲れているようだ。なんせゴーレムが大量に見えるんだから。あはは、三万くらい見えるよ。こりゃ本格的にまいってるな」

「安心しろ、ハヤマ。あれ全部俺の創ったやつだから」

「……本気で言ってるのか君は!!!」

「うぉっ」

 

いきなりハヤマが喚き出した。レベル差が七、八十はあるはずの俺をがくがく揺さぶっている。

 

「あれだけのっ!数のっ!ゴーレムなどっ!世界中の魔法使いをっ!集めてもっ!創れるわけがっ!無いだろうっ!」

「んなっ、ことっ、言われてっ、もっ……つーか、離……せっ!」

 

強引にハヤマの腕を振りほどく。あいつほんとはレベル八十くらいじゃねえの……

まあともかく。殲滅、開始。




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八話 殲滅

「ああ……何なんだよ一体……」

「何ってゴーレムだぞ?」

「そんな訳あるかっ!何で全部の個体がレベル三十なんだよ俺より高いじゃないか!!??」

「ぬぇっ……だからお前声でけえ。何?ホントは熱血キャラ?」

「君のせいだ君の!!!」

 

とまあ良く分からないが八つ当たり紛いなことをされながらももう一度考える。全ゴーレムレベル三十はやり過ぎただろうか、と。確かに一般兵はレベル十ちょっとしか無いし、こいつの一軍でもレベルは二十前後しかない。そう考えればまあやり過ぎなのだが、こうしないと被害が大きそうだし良いだろう。

 

「ああもうっ!帰ったら話を聞かせてもらうぞっ!」

「はいはい」

「絶対だからな!面倒でも逃げるなよっ!」

「おーう。後もう少しで壁壊れんぞ」

 

と、俺が予告した通りに壁は崩れ、中から怒り狂った魔物共が溢れてくる。魔法でぱぁっと吹っ飛ばすのも楽しいが、何分騎士達が居るので自重する。

 

「ぐっ……誇り高き我が一軍の(つわもの)達よ!兵は揃った!ハチマン殿のゴーレムだ!私を下した男の援軍だ!それが弱い筈無いだろう!信じろ!諸君の隣に居るのは戦友だ!我らが街を守らんとする同士だ!我らが王国に仇なす愚か者共を!…迎え撃てっ!!!」

 

その言葉と共に騎士達とゴーレムが動き出す。ちなみにゴーレムは半自動制御なので一回指示を受ければ魔力切れまで動ける。

ハヤマは宣言通り騎士達を操り、何のスキルかは知らないが約四万二千の兵を一切の無駄無く動かし続ける。ちなみにゴーレムの兵装は三種類だ。両手用の盾を二枚持つ防御特化のゴーレムが一万七千。両手用のアックスを二本装備した攻撃特化のゴーレムが一万。杖を装備した魔法特化が三千だ。それぞれの種類のゴーレムに【重力操作】で軽量化と魔法特化には火炎、氷結、雷撃、烈風、土石の五属性が【魔法付与】によって使えるようにしてある。その辺の情報もハヤマには伝えてあるので大丈夫だろう。

 

「くっ……魔物の出現が早すぎる。ヒキガヤっ!原因は分かるか!?」

「今探してる!」

 

【看破】【感知】【鑑定】【千里眼】【地獄耳】を併用して探す。大気中の魔力の流れ……異常無し。地脈の状態……異常無し。なら一体全体何が……?

……ん?あれは、魔法陣?なんで森のど真ん中に魔法陣なんか……っ!?魔物が出現した。あそこから沸いてくるのか。だがそれにしては随分と数も沸く速度も遅いが……ああ。一杯在るわ。真ん中のが一番でかいが他にも沢山ある。だがまあ原因は見つけた。なら後は魔法陣を潰せば良い。

 

「ハヤマ!原因を見つけた!今からそれを潰してくる!」

「了解!何か俺たちに出来ることはあるか!?」

「そうだな……とにかく数を減らせ!俺はこれ以上魔物が沸かないようにする」

「ああ!……みんな聞け!魔物の増殖はヒキガヤ殿が止める!それまでの時間を稼ぐぞ!」

「「「「「おぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」

 

ハヤマが兵達に喝をいれる。これまでもレベル差がある魔物相手に良く戦っていたが、目に見えて動きが良くなる。何だか気分が乗ってきたので回復した魔力を少し使って全体に回復魔法をかけ、APを消費しもう一度《神速》で森の至るところにある魔法陣に向かう。全体に回復魔法をかけたからか周りがというかハヤマが理解できないものを見る目でこちらを見ていた。俺今《神速》使ってんだけど。何であなたは俺が見えるんですかね?

 

「……俺は、君が嫌いだ」

 

知らねーよ。

 

 

 

****

 

 

 

ヒキガヤの魔法は訳が分からない。最初に出動した筈の俺達第一軍より早く到着してるし、森全体を壁で囲うし、三万のゴーレムを召喚するし、何故かゴーレムなのに魔法が使えるやつがいるし!

俺の剣を単純なステータスだけで受け止めたときからただ者では無いと思っていたがこれほどとは……彼はやっぱり人間ではないな(混乱)

 

「はぁ……アーツ解放《完全戦場掌握(パーフェクトゲーム)》」

 

だが俺にだって強みは有る。俺のアーツ《完全戦場掌握》は、兵一人一人の脳内に直接指示を出す、戦場を上から見下ろす、敵の弱点を探る。そんなことを可能にし、スキルレベルMAXにもなれば十秒先を読むことさえ可能とする。まあ今はレベル4だから四秒先が限度だがね。

そしてこのアーツは軍を率いて戦うことに特化している。勿論俺だって白兵戦でこのアーツを使うことも有るが。

 

ヒキガヤが森の中に消えてからも、あちこちから立ち上る噴煙に彼の強大さを思い知る。ユキノ様が彼を連れてこなかったらこの国はどうなっていたことか。よしんばこの魔物達を退けてもいずれは大国に潰されていた。そう考えるとヒキガヤには感謝しかない。

《完全戦場掌握》を使ってヒキガヤの動きを追うが……訳が分からない。魔法を付与した投げナイフで死角に有る筈の魔法陣を正確に破壊している。何のスキルか魔法かはたまたアーツか。俺じゃなかったらこの速度は認識すら出来ないだろう。しかも魔法陣を破壊したナイフは軌道を変え、次の魔法陣を破壊。更に軌道上の魔物を巻き込んで殺していくという徹底ぶり。…………敵じゃなくて良かった。

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

あれから一分で魔法陣を破壊し尽くした訳だが、いくら一軍でもトロールやオークは荷が重いだろう。というわけで俺が直々に殺してやる。まだ一軍のやつらは森の中心。即ち俺やトロール達が居るところにはたどり着いていない。ならば内側からも殺せば良い。

 

「……よう、流石にあの数にはビビったが俺の敵じゃないぜ。なあ、トロール、オーク(雑魚共)

 

俺の言葉が通じたとは思えないが、獲物を見つけたと言わんばかりにトロール達は襲いかかってくる。

 

「――【限界突破】」

 

俺の持つなかで最もチートと言えるスキル、【限界突破】。これはその名の通り自身のレベルと種の限界を突破するスキル(お前は既に突破してるとか言うな)。具体的には消費魔力×レベルの数字を全ステータスにそれぞれ加算すると言うもの。俺はゴーレムを大量召喚したことで9000程度まで落ち込んでいた魔力を5000消費し、【限界突破】を発動した。

 

それによって加算される数値は実に五十万。これで完全に俺は人間の域を脱してしまった気がしないでもないが今は良い。だってトロールとかレベル50以上有るしー、その割には千は居るしー。というわけで騎士達がトロールやオークに殺られない内に俺が殺っちまおう。

……いや、もう全部殺すか。

 

「じゃあな。良い練習台だったぜ」

 

十メートル程離れていたトロール達の群れに向かって空の拳を一閃。それだけで衝撃波が巻き起こり、トロール達が跡形もなく消し飛ぶ。騎士達が相手をして減ったのもあり、残りの魔物は一万三千。

 

二十メートル離れたオークの群れと取り巻きのゴブリン達の方向に向かって空を蹴る。鎌鼬が発生し、器用に木だけは避けてオーク達を切り刻む。残りは一万。

 

魔力を直径一ミリ程の魔力弾に変換。【感知】によって残りの魔物達の位置を特定し、一度上空に放った一万を越える魔力弾を魔物達に注ぎ込む。練りに練り上げられた魔力弾は寸分違わず急所に当たり、あるゴブリンは頭を弾かせ、あるオークは腹が消し飛び、あるトロールは四肢と頭が胴体からおさらばする。残りは……0。

 

 

いきなり戦っていた魔物が消えた騎士達は呆然としていたが、まあ何はともあれ。殲滅、完了。



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