※修正中。幼馴染を守っていたら、少しだけ人間卒業していたらしいです。 (奈々歌)
しおりを挟む

Prologueだけど、多分、俺とあいつの物語は既に始まっているんだと思うんだよね。

初めまして、奈々歌です。

読みずらい場所があるかもしれませんが、どうかよろしくお願いします_(._.)_


それではどうぞ!


「不幸」について考えたことはあるだろうか?

「不幸」とは簡単に言えば「幸福」ではないことをそう呼ぶだろう。

 不幸には明確な定義や形、存在などはなく、不幸を感じるのは時と場合、そして人それぞれの物差しで決まることが多い。

 大きな不幸を経験した人が他の人の小さな不幸を聞いたり、見たりしても「それくらい」と不幸として感じることがないように。

 そしてこの世の中には二種類の人間がいる。

 一つは多大なる「幸」を受け、優秀な功績や社会的な大成功を収める人。もう一つは反対に「幸」ではなく「不幸」を背負い、せっかくの才能を発揮出来ないでいる人。あなたはどちらに入るでしょうか?

 彼は後者を選びました。いえ、選ばされた、の方があっているかもしれないですね。でも、彼は後悔していません。彼女達の笑顔が見られるのなら――。

 これは「負の業」を持つ少女達と出会い、救う為。奮闘する普通な少年のお話――。かな?

 

 

 †

 

 

 春先のまだ少し肌寒い早朝。少年の一日の始まりは大体いつも同じだ。

 枕元に充電器を挿したまま放置している携帯から起床用に設定していたアラームではなく、着信を知らせるメロディ音が鳴り出す。

 少年は寝ぼけ眼を擦りながら、手探りで携帯を探し出すと、着信画面に照らし出されている相手の名前を確認することなく電話に出ていた。

 確認なんてしなくてもこんな朝っぱらに電話を掛けてくる人物なんて『あの子』しかいない。そう思いながら少年は彼女の名前を口にしていた。

 

「今、何時だと思う? 杏」

 

「おはよう、蒼ちゃん! 今日もいい天気だね!」

 

「杏、俺の話聞いているのかな?」

 

 寝起きのため、ガラガラの低い声で電話に出ていた少年とは対照的に、電話の向こうからは可愛らしく、曇りのないよく通った元気な少女の声。

 現時刻は五時。まだ日も昇り始めて間もない早朝だというのに、テンションの高いこの子は俺の家の隣に住んでいる「花小泉 杏」。小学校からの幼馴染だ。

 そして蒼ちゃんと呼ばれていた少年の名前は「千歳 蒼一」。低血圧のため、杏の朝のテンションが少し辛いです。

 蒼一は寝癖がついている頭をぽりぽりと掻きながら苦笑を浮かべていると、彼女が早起きだった理由に大方の検討がついていたからか、杏に尋ねていた。

 

「今日は随分と早起きだな。やっぱり初日、だからか?」

 

 季節は春。春と言ったら入学式。ということで今日から俺も杏も高校生となる。学校は別々だけれど。

 

「うん! 私、今日すっごく楽しみだったから目が覚めちゃったみたいなの。だから早く登校してみようかなって。それで今日は私一人で行ってみるから安心してっていうことで電話したんだけど………」

 

 中学に入学した時も杏は張り切っていて、今みたいに早起きしていた。あの時は早く行こうと手を引かれ、道に迷い、遅刻ギリギリだったのはいい思い出だ。

 

「そかそか。杏も立派になったな。じゃあ俺はお言葉に甘えて二度寝するからよ」

 

「うん、お休み! あ、でも学校に遅刻しないようにね? それじゃ、私は行ってきます!」

 

「あいよー。『気を付けて』、な」

 

「はーい!」

 

 蒼一の強調した言葉の意味を理解しているのかしていないのか分からなかったが、杏の元気な返事を耳に残しながら通話は終了した。

 携帯を枕元に再び放り投げた後、二度寝すると言っていたはずの蒼一はベッドから起き出し、体を伸ばす。そして大きな欠伸を一つしつつ、自室を後にする。

 

「さてと、身支度しますか………。三十分くらいしたら杏の母親から電話来るだろうし………」

 

 そんなことを一人呟きながら、一階へと続く階段を降りて行く。朝食にと適当に見繕ったパンや昨日の夕食の残りなどを食べると、食器を流し台に置き、洗面所で寝癖を直していた。

 蒼一が学校の制服に着替え、最後に鞄の中身を確認し出した頃。ベッドに置いたままにしていた携帯が音を鳴らし小刻みに震え出した。手に取り着信画面を確認すると、表示されていた件名は「花小泉家」。

 

「あれ、意外と早かったな。まだ二十分しか経ってないけど―――」

 

 窓際の縁にある小さな置時計で時刻を確認すると、杏が「行ってきます!」と出て行った報告の電話からまだそんなに時間は経っていない。

 入学式の日からある意味絶好調だな、と内心思いながら、蒼一は電話に出ていた。

 

「おはよう、蒼君。杏ったらもう五回も戻って来ちゃって………。いつも通り、お願い出来るかしら?」

 

「予想はしていたので、今から向かいます」

 

 電話の向こうは杏の母親。「いつも通り」と言っていたのには訳がある。

 俺と杏が知り合ったのは、俺が隣に越してきた小学校の頃。確か五年生の半ば位だったはず――。その頃から俺は杏と一緒に学校に通うのが当たり前だった。

 何故かと言うと………。まぁ、後々理解して頂けるだろう。

 携帯を制服のポケットにしまうと、玄関のドアを施錠し、蒼一は家を出たのだった。

 

 

 †

 

 

 隣の家まで来ると、表札の下にあるインターホンを鳴らす。

 

「はーい! 今行くねー!」

 

 インターホンに内蔵されているマイクから元気な声が聞こえてくる。この声は杏だ。

 暫くして、玄関のドアが開くと、少し黄色がかった金髪の毛先が肩にかかるか位まで伸ばし、後ろでお団子のように髪をまとめている小柄な少女、杏が姿を見せた。

 その後ろには杏の母親「花小泉 桜」さんの姿も見える。

 

「やっぱりダメだったか?」

 

「うん、ごめんね蒼ちゃん。高校は別々になっちゃったから、あんまり蒼ちゃんに迷惑かけたくなくて頑張ってみたんだけど……」

 

「――杏」

 

 申し訳なさそうに落ち込んでいる杏の頭に蒼一は手を乗せ、名前を呼ぶと、優しく撫で始めた。どうしてなのか分からないと言いたげな表情で杏が見上げてくる。

 

「別に迷惑なんて思ってないから、んな顔すんなよ。お前には似合わねーぞ?」

 

 杏は笑顔が似合う子だ。まだ幼さを残す顔に天真爛漫な性格、そんな彼女だから今の俺がいるようなものだ。昔の俺は今とは違ったからな……。

 

「ありがとう、蒼ちゃん!」

 

 蒼一の笑顔に、杏の表情も次第に笑顔に戻っていく。そして蒼一に抱き着いていた。

 

「あらあら、朝からお熱いこと」

 

「からかわないで下さいよ、桜さん」

 

 口元に手をあて、ふふっと微笑を浮かべる杏の母に苦笑いを返す蒼一。杏との身長差的に周りから見たら俺達は兄妹ぐらいにしか見えないだろう。

 

「ほら、杏。もう行くぞ。俺が遅れる」

 

 未だに抱き着いている杏にそう声を掛けると、杏は少し残念そうに離れた。

 杏の学校はここから歩いて二十分もあれば到着するが、蒼一の学校は杏の学校から更に歩いて一時間は掛かる場所にあるのだ。

 現時刻は立ち話もあり、もうすぐ六時。八時半には入学式が始まるため、八時には学校に着いておきたい。なんでそんなに早いのかは知らないが……。

 

(杏の学校は九時からって、言っていたのになぁ……)

 

 同じ学校に通えていたらもう少し寝ていられたかもしれないが、これは杏の「安全」の為だ、頑張ろう。それと朝一の抱擁は役得だったしな。

 

「じゃあ、おかーさん、行ってきます!」

 

 杏は大きく手を振り、母に見送られながら二人は並んで歩きだす。

 さて「今日も」頑張りますか。

 

 




評価・感想貰えると嬉しいです!

誤字脱字・気になったところがありましたら報告お願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

桜並木って綺麗だけど、彼女の前ではあまり見入っている暇がないんだよね。

奈々歌です。

書き方安定しません(笑

早速、評価感想ありがとうございます!


それではどうぞ!


「彼女」は俺の恩人だ。

 あの時俺は暗闇にいた。先の見えない真っ暗な深い深い闇の中に、たった一人で。

 でも最初からそうだった訳ではない。皆がいた。仲間がいた。血は繋がっていなかったが、そこには家族があった。

 でも失ってしまった。自分が弱かったせいで。

 心も体も傷つき、苦しみ、『光』を求め、彷徨っていた。

 

 ――どうしたの? 大丈夫?

 

 ふいに背後から声を掛けられ、見上げる。

 そこには「光」があった。

 それは明るくて、眩しくて、それでいて優しく温かくて。まるで皆がいた頃を思い出してしまうような……。

「彼女」から差し伸べられた柔らかく小さな手が俺の黒く汚れてしまった手を掴み、引き上げてくれた。深い闇の底から。

 

「杏」は俺の恩人。

 きっとこれは恩返しなのだろう。

 だから俺は「彼女」の為に頑張れるんだ―――。

 

 

 †

 

 

 桜の花弁が舞う通学路。真新しい制服で身を包んでいる新入生達。春の暖かな陽気を浴びながら、蒼一と杏は歩いていた。

 

「見て見て、桜が綺麗だよ蒼ちゃん!」

 

 桜並木が続いている通学路を歩いていると、杏は蒼一より一歩先へ前に出る。そして振り返えり、目を輝かせながら桜の花たちを指差していた。

 

「昨日も同じこと言ってたぞ、杏」

 

「あれ? そうだったっけ?」

 

 本当に覚えていないと言った表情を浮かべる杏に蒼一は苦笑する。まぁ、杏らしいと言えばらしいのかな、と。

 ぽんっと杏の頭に蒼一は軽く手を乗せると、杏は笑顔を見せてくれた。それに蒼一も微笑み返し、二人は再び歩き出していた。

 

 彼女と通学路を歩いている中、蒼一は常に「警戒」を怠らない。

 普通の学生達はそこまで通学中「警戒」をすることはないだろう。流石に人混みや満員電車などでは「警戒」の色を見せるだろうけども。

 周りを見ているだけでも、携帯を触りながら、好きな音楽をイヤホンをして聴きながら歩いている人学生や社会人がいるくらいだ。

 そんな中でも皆が皆、交通のルールを守り行動しているから問題が起きないことが多いのだろう。だが「危険」は常に潜んでいるものだ。

 だから、ちゃんと気を付けような?

 

(あれ、俺誰に言ってんだろ? まぁいいや。それはそれとして――)

 

 この子、杏はそれとは何段階も次元が違う「危険」に遭う場合が多い。いや、多すぎる。

 特に「水運」の「不幸」が多い気がする。今日も川、用水路、マンホール……。それらが杏を襲い、五回も家まで帰ってきたのだ。

 杏は何故こんなにも「不幸」な目に遭うのだろう?

 このことに気が付いたのはいつからだっただろうか――。

 

 蒼一がそんなことを思っていると、杏が突然駆け出していた。杏は元々好奇心旺盛な部分もあり、自分の好きな物が目の前にあると、走り出してしまう癖がある。

 

「猫さんだ! ほら蒼ちゃん、見て、可愛いよー!」

 

「転ぶぞ、杏。ただでさえお前は――」

 

 蒼一はそこまで言い掛けると、体は既に行動に移っていた。そう、杏に「危険」が迫っていたからだ。

 杏を守っていく内にどうやら聴覚がやたら良くなったらしく、杏に迫る「危険」への音を聞き分けるのが上手く、とても鋭くなってしまった。

 蒼一の耳に届いた「危険」が迫る音。それは杏の上空から「弾丸」が発射された音だった。

 杏の上空には小さな黒い影。「弾丸」を発射――いや、投下したその影の正体は「鴉」。

 

(あの角度、落下速度、規模の大きさ……直撃コースだな)

 

 蒼一の手は反射的に動き、道端に落ちていた手頃な小石を拾う。この間約コンマ三秒。「弾丸」に向かい投擲。この間約コンマ一秒。

 一秒にも満たない動作で投げられた小石は音の壁を超え、微弱ながらも衝撃波を生みながら飛んで行った。

 

 小石は見事「弾丸」に命中し、「弾丸」は近くの家の石塀に着弾。壁を白く染め、中心に小さな黒い濁点を描く。音を超えた小石は空の彼方へと消えていった。

 どこに落ちようが知ったことではない。杏を守ることが出来たのだからな。俺は悪くないぞ。うん。

 

「ん? 蒼ちゃん、何してるの?」

 

 どうやら杏は猫に逃げられたようで残念そうに戻って来ていた。すると、投げ終わった格好でいる蒼一を見て不思議に思ったのか、そう尋ねてきた。

 

「ああ、何でもない………。って、また噛まれたのか」

 

 杏の指からは少しだが血が出ているのが見えていた。手を出したら噛まれてしまったのだろう。蒼一は鞄から小さな箱を取り出す。「水にも衝撃にも強い丈夫な絆創膏」と書かれた杏の為の常備品の一つだ。

 

「ほら、見せろ。絆創膏貼ってやるから」

 

「えへへ、ありがと、蒼ちゃん」

 

 一緒に出しておいた消毒液で処置をしながら、杏の指にくるくると絆創膏を巻いていく。

 

「可愛いからって噛まれない保証はないんだからな?」

 

「でも、可愛くって、つい――」

 

「相変わらずの動物好きだな……」

 

 杏は大の動物好きなのだが、何故か好かれない。これも彼女の「不運」の一つなのだろうか? 二人は通学路に戻り、杏の学園へと歩いて行く。

 この後にマンホールに落ちかけた。柵が壊れて川に落ちかけた。等々、様々あったが今は置いておこう。きりがないからな……。

 

 暫くして――。

 何回か杏を「危険」から守ること数十分。

 杏の通うことになる学園の校門へと到着していた。学園の名前は「天之御船学園」。学問、運動で超がつくほどの名門高校との評判らしい。

 

「やっぱり蒼ちゃんと一緒だと一回で学校に行けるね!」

 

「まぁな。でも朝の頑張りは偉かったぞ。成長したな、杏」

 

 よしよしと頭を撫でてあげると、杏は嬉しそうに目を細める。この子は気が付いていないんだろうな。アニメや漫画に出てくるお前くらいのポジションの子だと反応は違うぞ?

 

「えへへ、褒められた!」

 

「そこは普通「子供扱いしないでよ!」とか言う所じゃない?」

 

 大体はこう返されるはず。

 というか、少し期待している自分がいる。

 

「ほぇ?」

 

 ある意味期待通り、杏は小首を傾げていた。

 

「聞いた俺が間違ってたよ。んじゃ、俺は自分の学校に行くからな」

 

 そんな杏に一つ息をつくと、蒼一は手を上げ、校門を後にして行く。

 

「うん、終わったら連絡するね!」

 

「はいよー」

 

 蒼一の返事を聞いた後、手を振りながら杏は学園の昇降口へと駆けて行く。転ばなきゃいいけど……。あ、転んだ。すぐに立てたから大丈夫、かな?

 さてさて、俺の方は時間がないので屋根伝いに行きますか――。え? 何かおかしい? いやいやそんなことありませんよ。普通です、普通。はい。

 

 

 †

 

 

『えー、春の麗らかな―――』

 

 体育館に備え付けられている大きなスピーカーから、蒼一が通うことになる学校の校長の声が鳴っている。

 

(長い、怠い、眠たい。そして杏は大丈夫だろうか?)

 

 入学式では何故こうも話の長い人が多いのだろうか。この場にいる新入生の大半はそう思っているに違いない。

 必要で大事なことは分かる。だが、とにかく長い。腰が痛い。パイプ椅子超痛い。

 まだうろ覚えの校歌を歌う時、立ち上がれば腰から音が鳴る。俺ももうそんなに若くないのかな? いやいやまだ十代ですぜ。

 本日は入学式が終われば解散となっている。他にしておかなければならない事といえば自分のクラスが張り出されている校門付近にあった掲示板を見て行くぐらいだ。

 早く終わって欲しいなぁ、杏の学園へ行かねばならないからな。でも早く行ってもあっちが終わってなかったらあんまり意味ないのだが――。

 長い話の末、うとうとと船を漕ぎ出す新入生が見え始めた頃。

 

『以上で、入学式を閉会します』

 

 体育館の大きなスピーカーから校長のおっさん声ではなく、綺麗なまだ歳の若そうな女性の声が鳴り、入学式の終了を知らせる合図が掛かる。

 最後は新入生の皆で席を立ち、礼をして退場していった。

 

「さて、杏の学園に向かいますか」

 




評価・感想貰えると嬉しいです!

誤字脱字・気になる所がありましたら報告お願いいたします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

よく知ってはいけないような力って聞くけど、実際に体感すると凄く怖いものなんだね。


この辺りまでは更新早いです。他のもあるので、頻度低下します_(._.)_

それではどうぞ!


 

入学式が終わり体育館から退場した後、鞄を持ち、蒼一は掲示板を見に校舎から出ていた。

 

昇降口へと続く道を朝とは逆に歩いている時、ポケットに入れていた携帯が振動する。携帯を開いてみるとどうやらメールが届いたようだ。差出人は勿論杏。

 

件名は「こっちは終わったよ!」だ。

 

こちらの入学式が終わったのとあまり時間は変わらなかったようで向こうも終わっていたみたいだった。寧ろ、杏の学校の方が早かったのかもしれないな。

 

そんなことを思いつつ、蒼一は杏にメールの返信を送る。

 

件名。「こっちも今終わったから、今から向かう」と。

 

メールがしっかりと送信されたことを確認すると、蒼一は携帯をしまい、掲示板へと再び歩きだしていた。

 

掲示板に貼られていた紙を見ると、俺が在籍するクラスは一組のようだ。特に興味はないが。

 

一応メモをしておき、その場を後にして行く。これから杏の学園に向かうのだ。普通に向かって行っては一時間掛かる。急がねば。

 

蒼一は来た時同様、屋根伝いに走って行った。だから俺は普通の高校生ですからね? 皆も出来るでしょ? 杏は出来ないって言ってたけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、蒼ちゃん。早かったね!」

 

蒼一が天之御船学園に到着すると、杏は校門の所に寄り掛かりながら待っていた。

 

「悪いな、待たせて」

 

「ううん、蒼ちゃんの学校遠いから仕方ないよ。でも出来れば一緒の高校になりたかったね」

 

俺は受験で杏と一緒にここを受けていた。だけど、結果発表で俺の受験番号は載っていなかったのだ。まぁ、俺そんなに頭良くないし………。

 

そんな事があり、俺が通う学校は第二志望であった滑り止めの高校。他の高校を選んでしまうと電車通学となってしまう為、そこを選んだ。杏のこともあるからな。

 

「それこそ仕方ないって。ここ名門校だからな」

 

学問、スポーツの才能を飛躍させることに重きを置いていると言われる天之御船学園。杏には悪いが、彼女は特別頭がいい訳でも得意なスポーツがある訳でもない。それなのに―――。

 

「なんで私受かったんだろうね?」

 

「さぁ?」

 

二人は仲良く首を傾げ、笑っていた。

 

「まぁ、帰ろうぜ。途中コンビニでお菓子でも買って、入学パーティでもするか。俺の奢りだぞ?」

 

「本当!? わーい!」

 

子供のようにはしゃぐ杏の頭を撫でて微笑を浮かべる蒼一。内心、杏の頭撫でる事多くなってんなと思うのだった。

 

 

そんな二人の姿を校舎から『偶然』視界に捉えていた人が一人。

 

「あら、あの子は確か………。どこかで会ったような………」

 

その後、何かを思い出したのか、不敵な笑みを浮かべていたのをまだ二人は知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰り道、学園から家まで丁度半分と行った所にコンビ二が一件立っている。二人は中に入り、お菓子、飲み物を買っていた。

 

杏は蒼一の持っている買物カゴにお菓子をバンバン入れてくる。嬉しそうにしてるから全部買ってあげますけどね。可愛いし。

 

杏が飲み物を選びに行っている間、蒼一は雑誌コーナーで立ち読みをしていると、目の前の通学路となっている歩道を杏と同じ天之御船学園の制服を着た生徒達が通っていた。

 

何人か仲良しグループなのだろうか、それぞれ固まって帰宅している様子。でも、あれだな。なんか、制服のスカーフにある刺繍ごとに固まっているような………。

 

あれで学年が違うとかなのかな?

 

杏は―――、四つ葉?

 

「蒼ちゃん、これもいい?」

 

杏が持ってきたのは「イチゴ・オレ」。杏が好きな飲み物の一つ。

 

蒼一は読んでいた雑誌を元の棚に戻し、杏の持ってきた飲み物を買物カゴに入れると、もう一杯まで詰め込まれているカゴを見て苦笑しつつ、レジへ会計しに向かった。

 

「なぁ、杏。その刺繍って何か違いがあんのか? 学年分けとか」

 

杏のスカーフを指差し尋ねる。

 

「え? そんなことないと思うけど………。入学式の時、周りに刺繍が違う子もいたから」

 

「そっか。じゃああれはクラス分けか何かかな」

 

さっき見ただけで三種類はあった。炎をモチーフにしたようなのと、万年筆の先っぽみたいなのと、杏と同じ四つ葉だ。

 

となれば、学年が上がってもクラス替えとかはない感じなのかな? 杏は小中とクラス替えで仲の良かった子が違うクラスになると寂しがっていたから、それならそれで。杏の性格上、すぐ仲良しが出来るからな。

 

「どうかしたの?」

 

「いや、何となく気になっただけ―――、って、金額おかしいだろ!?」

 

レジの表示には「二万五千円」と出ていた。どんだけ入れたんだよ、このお嬢さんは………。まぁ買いますけど。ああ、お小遣いが………。

 

今月買いたかった本は何冊か諦めようと、蒼一は心で泣く。

 

『ご利用、ありがとうございましたー』

 

店を出ると、両手に大きな買い物袋を抱えた蒼一の隣で、ついでで買ったドーナツを頬張っている杏。

 

両手が塞がってるから『危険』に合わなきゃいいなと思い帰路につくのだった。

 

何か伏線見たいなのを立ててしまった気がするが、特に何も起きなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

 

杏の家でプチパーティをした後、自分の家に帰宅した蒼一は風呂から上がり、リビングでテレビを見ながらくつろいでいた。すると、インターホンが鳴らされる。

 

(こんな時間に誰だろう?)

 

時計を確認すると、長短の針は十時を差している。もうかなり遅い時間だ。杏の家に忘れ物をした覚えもないし、誰だろうか?

 

少し不審に思いながらも蒼一は玄関に向かい、ドアの覗き口から外にいる人物を窺う。どうやら宅配便の人のようだ。

 

変に警戒し過ぎたかとドアを開けると、「夜分すみません。至急のお届け物でしたので」と申し訳なさそうにまだ若い配送員の青年が手渡してきた。

 

蒼一は受け取り書に判子を押し、お届け物を受け取る。

 

一枚の手紙と小包がセットで届いた。

 

リビングにそれら二つを持っていき、まずは手紙の内容を確認する。至急のお届け物ってのは何だろうか?

 

「何々、………。なんだこれ?」

 

『あなたには明日から「天之御船学園」に通って頂きます。あなたの通うはずだった学校には話は通してありますのでご安心下さい。既に支払ってしまった物などはこちらで返金致しますので。どうやったかは秘密ですけど。詮索するのはお勧めしません。それでは明日からよろしくお願いいたしますね。天之御船学園、教員・小平より』

 

「ははっ………。何か裏で知ってはいけない力が働いているような気がするのは俺だけだろうか………」

 

手紙をテーブルに置き、今度は小包の方を恐る恐る開けてみると、丁寧に梱包されている制服が入っていた。何故かサイズも合っている。刺繍は―――、四つ葉か。杏と同じクラスってことでいいのかな?

 

「まぁ、杏と同じ学校に通えるんだ。良い方向に考えよう………。なんか怖いけどな」

 

その後、杏にこの事を電話で伝えると、喜んでいたのは言うまでもない。大きな音と共に。

 





評価・感想貰えると嬉しいです!

誤字脱字・気になる所がありましたら報告お願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

少しだけ目を離しただけだったけど、案の定大変な事になっていましたね。

今回は特に無し。

それではどうぞ!


携帯のアラームが鳴り、蒼一は目を覚ます。今日は入学二日目―――、になるはずだった天之御船学園編入初日の朝。

 

「ふぁぁぁ………」

 

ベッドから体を起こし、洗面所で顔を洗い、軽く朝食を済ませると、階段を上り自室に戻る。そしてクローゼットに掛けている二つ並んだ学生服の片方、昨日の晩に届いた天之御船学園の制服を掴み、着替えていた。

 

「たった一日しか着てないってのも勿体無い気がするがな」

 

四つ葉の刺繍が入ったスカーフをキュッと首元で締め、鏡で制服姿を一通り確認すると、蒼一は玄関に鍵を掛け、家を後にして行く。

 

向かった先は勿論、隣に住んでいる杏の家。

 

インターホンを鳴らし、マイクから聞こえてくる杏の母親の声が聞こえてくる。もうすぐ準備が出来るとの事なので蒼一は玄関先で待っていると、制服に身を包んだ杏が姿を現した。

 

「本当に蒼ちゃんも同じ制服だ! 一緒に通えるようになるなんて、私すっごくついてるよ!」

 

昨日とは違う制服でいる蒼一の周りを嬉しそうにくるくると走り周り、終いには抱き着いて来た。これは役得、役得。

 

「あらあら、朝からお熱いこと。うふふっ」

 

玄関から杏より遅れて来た桜が微笑ましそうに二人を見ている。でもそのセリフは………。

 

「桜さん、昨日も同じこと言ってましたよ?」

 

「あら? そうだった?」

 

杏と同じでこの人もどこか抜けている所がある。まぁ、それが杏にも遺伝しているのだろうが。杏は母似なんだなとつくづく思わさせるよ。

 

(この親にしてこの子あり。ってやつかな)

 

そんなことはさておき、時間も時間だったので、蒼一は抱き着いている杏に一声掛けると、二人は桜に見送られながら学園へと歩き始める。

 

 

 

学園へと向かう通学路を歩いて行く途中、蒼一が遠くに橋が見える道を指差すと、隣にいる杏にある提案をしていた。

 

「今日は昨日見つけた近道から行ってみようか」

 

「そんな道あるの? 何だかわくわくするね!」

 

「いや、別にしないかな。ははっ」

 

昨日の帰りにたまたま見つけた通路を使おうと言うと、杏は興味深々といった表情で反応する。だが―――。

 

「あ、悪い杏。その前にちょっと忘れ物思い出したから取って来るわ」

 

「うん、分かった! じゃあここで待ってるね」

 

「すぐ戻ってくるから、ごめんな」

 

蒼一は杏に背を向け来た道を引き返す。この時、引き返した事であんなことになるなんて思いもしなかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――、行ってきます。

 

一人の少女が誰もいない玄関へと言葉を掛けると、天之御船学園の制服を着ている少女は庭先にある身の丈ほどの大きさの門を開け、学園へと歩き出していた。

 

「確かこの道を進んで、見えてくる橋を―――」

 

まだうろ覚えの通学路を歩いて行く。学園には受験の時と昨日行われた入学式でしかまだ行ったことない。迷わなきゃいいけど………。

 

正直高校なんてどこでもよかった。どこの高校を選んでも『あの人』と一緒になんてなれないのは変わらないのだから。

 

でも、家の近くの高校に受かることが出来たのは運が良かったのかもしれない。あまり『あの人』から離れることがなくて済むし、学校が終わったら会いに行ける時間が多く取れる。

 

これから通うことになる天之御船学園。あそこは凄い名門校だと聞いているのだけれど、『変な噂』を聞いたことがある。それに私は『無理矢理』と言っても間違いではないような形で入れられたようなものだし………。

 

(これから三年間、無事に、平穏に過ごせるといいのだけど………)

 

少女はそんな事を思いつつ、道を進み、橋に差し掛かると、どこからか動物の泣き声が聞こえてきたのだった。

 

「この声は………、犬かしら? 近くから声がするけど、どこにも犬なんていないわよ、ね。気のせいかしら?」

 

だけど、声が止む様子がない。やはり近くにいるようだ。少女は「もしかして」と橋の下を覗きこむ。すると、そこには―――。

 

「い、いたぁ―――! えっ!? どうしてそんな所に!?」

 

覗いた先には橋の突き出した鉄骨に自分と同じ制服をきた子が引っかかっていた。

 

見る限り制服の襟の部分が掛かっているようで、先ほどから聞こえていた声はその少女が抱きかかえていた犬のものだったらしい。

 

「ん? あ、誰かそこにいるの?」

 

ぶら下がっている子が橋の上にいる少女に気が付いたらしく、声を掛けてくる。

 

「あ、あなた大丈夫!? どうしてそんなことに―――」

 

少女は焦りながらも、その声に返答する。そして理由を聞いていた。どうしたらそうなるのか見当も付かない。

 

「んとね、このワンちゃんが橋から落ちそうだったの。それで何かこうなっちゃったみたい。えへへ」

 

「えへへ、じゃないわよ!」

 

自分の状況が分かっているのか分からない様子にツッコミをいれつつ、少女は平穏に過ごしたいと思っていた矢先、なんでこんなことに遭遇してしまったのだろうと心の中で嘆く。

 

「だ、誰か助けを―――、いや、そんな時間………。ああ、もう!」

 

辺りを見回しても誰も通り掛かる様子がない。ここは一応学園への通学路になっているから生徒の一人位通ってもおかしくないのだが………。

 

どこかに探しにいきたい所だが、引っかかっている制服が破けるのが先になってしまいそうだった。心なしか風も強くなっているような気もするし、最悪な状況になりつつある。

 

「今助けるからじっとしてて!」

 

少女はそう呼びかけると橋の柵の間から手を伸ばす。だが届かない。仕方がないと少女はヒール型の靴を脱ぎ、柵をまたいで、引き上げようとする。

 

柵を手すり代わりにしながら近づいていく。その時少女は気が付いた。この子がぶら下がっている鉄骨の色が左右の物と違うことに。

 

(この色、もしかして腐ってる!?)

 

よく見ると、鉄骨は色も違えば所々穴が開いている。

 

引き上げた時、急に折れて自分も引っ張られてしまうことを想像してしまった少女は一瞬躊躇してしまっていると、ふいに声が聞こえてくる。

 

「ねぇ! 名前教えて貰えないかな?」

 

「いきなりなんで―――、瑠璃よ! 雲雀丘瑠璃!」

 

呑気な質問に対して、疑問を持ちながらも少女は『雲雀丘 瑠璃』と名乗っていた。

 

「じゃあ、ヒバリちゃんだね! この子のことお願い!」

 

ヒバリちゃんと呼ばれると、抱えていた犬が瑠璃の胸元に飛んでくる。瑠璃は驚きながらもしっかりと受け止めていた。

 

「ちょ、あなたはどうするのよ!」

 

「大丈夫だから心配しないで!」

 

大丈夫と言いながらも支えていた鉄骨が先の行動で限界がきたようで、バキッっと音を立てて折れてしまう。

 

このままでは下の川に落ちてしまう。

 

「きゃあああああ!!」

 

瑠璃の悲鳴が響く中、水が大きく巻き上がるような音が川岸からしてきた。

 

「声が聞こえたから急いで来てみれば………。さすが杏だな」

 

水面を走ってくる人影が一つ。そう、音を出したのは蒼一だった。

 

蒼一は杏の落下地点に向け、大きな水しぶきを上げながら水面を蹴ると、空中で接近し、見事杏をお姫様抱っこの形でキャッチしていた。そしてそのまま対岸へと着地する。

 

「少し目を離せばこれだ。まぁ、忘れ物した俺が悪いんだけど………」

 

抱っこしている杏を降ろし一息つく蒼一。珍しく焦って来たのか息が上がっていた。

 

「ありがと蒼ちゃん、助かったよ! やっぱり今日の私はついてるね!」

 

「杏は本当に前向きって言うのか、何と言えばいいのか………」

 

襟元が乱れてしまっている杏の制服を直してあげながら、苦笑いをしつつ、そんなことを呟く。そんな二人の所に瑠璃が走って来た。

 

「ちょっと、あなた大丈夫?」

 

橋の上にいた為、杏がヒバリと呼んでいた少女の姿を杏初めて見る。蒼一も。瑠璃はさらりとした鮮やかな紺色の髪が腰までかかり、翡翠色の瞳をした少女だった。

 

「あ、ヒバリちゃん。ワンコ大丈夫だった?」

 

手を振りながら元気に名前を呼んでくる杏に瑠璃はホッと胸をなで下ろす。

 

「さっきの犬ならもう逃げちゃったわよ。それより怪我は?」

 

「大丈夫だよ、蒼ちゃんが来たからどこもぶつけてないし」

 

「でも、杏。手からまた血出てるぞ?」

 

蒼一に指差され、杏は犬を抱えていた方の手から血が出ているのに気が付く。

 

「あ、本当だ。ワンコに噛まれてた所かな?」

 

その様子に二人共小さくため息を漏らすと、蒼一が鞄から常備品である絆創膏を出そうとする。だが、先に瑠璃の方がポケットから白いハンカチを取り出しており、杏の怪我をしている手を掴んでいた。

 

「はい、これで我慢して頂戴」

 

「えっ!? これ、いいの?」

 

杏の手には白いハンカチが巻かれていた。それを見た蒼一は手にしていた絆創膏をそっとしまう。目の前の光景が微笑ましかったからかな?

 

「杏、やっぱり今日はついてるのかもな」

 

「うん!」

 

蒼一は杏に微笑むと、杏は満面の笑みで返す。

 

「………?」

 

瑠璃は二人の会話に首を傾げていたのだった。

 




評価・感想貰えると嬉しいです!

誤字脱字・気になる所がありましたら報告お願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

入学初日から転校したんだけど、多分相当珍しいと思うのは俺だけなのだろうかね。

他の更新も頑張ります(笑

それではどうぞ!


先の出来事もあり、杏と蒼一は瑠璃も合わせて学園へ向かうことになった。向かう途中、瑠璃は隣を歩く杏にある事を尋ねる。

 

「そういえばあなた、名前聞いてなかったわね。何て言うのかしら?」

 

「あ、私、『花小泉 杏』って言います! 中学校の頃は杏って呼ばれることが多かったかな?」

 

ビシッと敬礼のように頭に手を当てながら杏は名乗っていた。だが瑠璃はその名前を聞いてから何かを考えるように思案顔を見せる。そして―――。

 

「そう。………、じゃあよろしく、『はなこ』」

 

「『はなこ』? んん?」

 

杏はどうしてそう呼ばれたのか分からない、といった顔を見せながら蒼一の方を見てくるが、蒼一も小首を傾げていた。

 

(ちょっと、意地悪だったかしら………)

 

気づいてくれない二人の様子に、瑠璃は少し恥ずかしくなったのか薄く頬を赤らめながら理由を話し出す。

 

「わ、私がヒバリになるんだったら、あなたははなこでいいでしょ?」

 

「ああ、なるほど。花小泉の最初を取って、は・な・こ。な?」

 

「あ、そっか!」

 

瑠璃の説明で蒼一は納得がいったようでポンッと手を叩く。蒼一が強調してくれたおかげか杏もやっと気が付いたようだった。

 

「可愛いね、はなこ! ありがと、ヒバリちゃん!」

 

「別にそんな喜ぶようなことしたつもりなかったんだけど………」

 

瑠璃の手を握り、満面の笑みを浮かべる杏。まさかこんなにも喜ばれるとは思っていなかった為、瑠璃は戸惑っている様子だ。

 

「杏はいつもこんなんだから気にしなくてもいいからな?」

 

蒼一は微笑しながら戸惑っている瑠璃に話掛けていた。

 

杏の調子に瑠璃のような反応をされるのは初対面の場合だとよくあることなので蒼一は見慣れている。自分もそうだったから。

 

「え、ええ。分かったわ。ところであなたの名前は?」

 

これがこの子の標準なんだなと思いつつ、瑠璃は蒼一にも名前を聞いていた。そう言われ、蒼一は思い出したように口を開く。

 

「俺? ああ、そう言えば教えてなかったな。俺は『千歳 蒼一』」

 

「じゃあ、千歳君でいいかしら?」

 

「何でもいいよ。よろしくなヒバリ」

 

「あなたもそう呼ぶのね。まぁいいけど………」

 

瑠璃は口篭もった声で何を呟いていたようだったが、何と言ったかまでは聞こえなかった。だけど瑠璃は視線を蒼一から逸らす。なんか顔が赤いような? 気のせいか。

 

「ねぇねぇヒバリちゃん、蒼ちゃん。何か聞こえない?」

 

杏に言われ二人は気が付く。鐘の音が聞こえてくることに。ああ、確かこの鐘は学園の―――。んん? 予鈴だったよな?

 

「まずいな」

 

「まずいわね」

 

入学早々に遅刻は流石に不味い。急げばまだ間に合うかもしれない距離だ。

 

「杏、ヒバリ、急ぐぞ!」

 

「言われなくても分かってるわよ!」

 

蒼一は杏の手を引き、駆け出す。その後ろを瑠璃が追う。橋での出来事に時間を取られすぎた。こんなことがあるから普段から早めに家を出ているというのに………。

 

「駄目だな、このペースだとギリギリ間に合わない。仕方ないか、杏」

 

「『あれ』だね、分かった!」

 

走りながら通りかかった公園の柱時計を確認すると、このまま走っても五分ほど遅れてしまいそうだった。蒼一はこんな時に中学の頃からよく使っていた手を使用することを杏に伝える。

 

杏はその一言で理解したようで、立ち止まり、しゃがんだ蒼一の背中におぶさった。

 

目の前の状況に理解が追いついていない様子の瑠璃を蒼一は杏をしっかりと背負った後、お姫様抱っこする。

 

「ちょっ!?」

 

「悪いな、非常事態だから許して頂戴ね」

 

いきなりの事で瑠璃は無意識に蒼一の胸元にしがみつく。ああ、後で怒られそうだなと思いつつも、その状態で蒼一は駆け出していた。既に定番と化した屋根伝いで。

 

この二人、軽いな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、間に合った………」

 

息を荒げている蒼一。楽しそうにしている杏。未だ頬を赤らめている瑠璃。どうにか遅刻せずに三人は学園へ入ることが出来ていた。

 

杏と瑠璃は二人で教室へと歩いて行く。蒼一は編入生ということなので、一旦職員室に向かうと昇降口で別れていた。

 

(信じられない。ありえない。こんなこと………)

 

小中学校と品行方正で通ってきた私がいきなり遅刻ギリギリで登校なんてありえないわ。それに男の子にあんなことをされながらなんて―――。

 

それに加えて………。

 

「ヒバリちゃん、私と同じクラスだったんだね!」

 

瑠璃が自分の教室へと入ると杏も同じ教室だったらしく声を掛けてきた。席も隣のようだ。一学年七クラスもあるはずなのに、なんて確率。

 

「これからよろしくね、ヒバリちゃん!」

 

「え、ええ。そうね………。よろしく、はなこ」

 

いきなりこんな変な子と知り合うなんて………。さっきの千歳って男の子もそうだし。

 

ここの学園生活がいきなり平穏ではなくなりそうな予感がしてきた瑠璃は、杏の嬉しそうな屈託のない笑みにぎこちない笑みで返していた。

 

「私、この学園に受かることが出来るなんて思ってもなかったんだよね。一緒に受けた蒼ちゃんの方が受かりそうだったんだけど………」

 

「私も同じよ。別に勉強が得意って訳でも運動が出来る訳でもないし………。ましてや何か秀でている才能なんてある訳ないし―――」

 

文武両道。各人の才能を飛躍させることを目的としたこの天之御船学園。一体どうして私もはなこもあっさりと受かったのだろうか?

 

「ねぇねぇ、ヒバリちゃん。ヒバリちゃんが好きなのって何かな?」

 

「私の好きな人は………、って、いきなり何を聞いて来るのよ!?」

 

瑠璃は何かを言い掛けると、自分が口走ってしまったことに気が付いたようで、ボンッと一気に顔を火照らせる。

 

「もしかしたら好きな物が受かった理由になる事があるのかなーって思ったから………」

 

「そ、そういうことね。わ、私は趣味で料理はよくするけど―――、あなたは?」

 

どこかホッとした様子で胸を撫で下ろした瑠璃。そして今度は瑠璃が杏に聞き返していた。

 

「私は動物さんが好きなんだー! 色んな動物さんがね、私を見ると走って寄って来てくれるの! 今朝のワンちゃんみたいに甘噛みしてくれる子もいるから可愛いんだぁー」

 

「今朝のって………、あれ思いっきり噛まれてたじゃない! あれのどこが甘噛みなのよ!?」

 

杏の手に巻かれている白いハンカチをビシッっと指差しながら、瑠璃はツッコミを入れる。甘噛みであんなに出血するはずがない。どう考えても本気の噛みでしょうと。

 

二人がそんな会話をしていて声が大きくなっていたのか、瑠璃の前の席に座っていた少女がくすくすと小さな笑みをこぼしながら振り返ってくる。

 

「ふふっ、すみません。お二人の会話が面白いものでしたのでつい」

 

少女は淡い桃色の長髪を三つ編みで結い、左右に腰まで垂らしている。眼鏡をかけており、御淑やかな雰囲気をしているのが印象的だ。

 

「すみません、私のような気持ち悪い女がお二人の会話を盗み聞ぎしてしまって………。さぞ気分を害されたでしょう………」

 

「別にそんなことないけど………」

 

先程受けた印象からは考えられない自虐的なことを話してきたので、瑠璃は若干引き気味だったが、否定しておいていた。御淑やか?

 

「まぁ、なんてお優しい方なのでしょうか。まるで天使のよう………。いえ、女神様ですね!」

 

少女は両手を胸の前で合わせ目を細める。そんなに嬉しかったのかしら?

 

「は、はぁ………? 別にそんな大げさに表現しなくても―――」

 

「ねぇねぇ、名前は何て言うの?」

 

対応に困っている瑠璃とは変わって、杏は名前を尋ねていた。それには少女も嬉しそうに答える。

 

「私は『久米川 牡丹』と申します。病気で貧弱で皆さんにご迷惑ばかりかけてしまう先しか見えませんが、どうか宜しくお願いいたします」

 

牡丹と名乗った少女は二人に手を差し出していた。杏と瑠璃も手を出すと、瑠璃は遠慮気味にそっと軽い程度で握手を交わす。

 

(あんまりよろしくしたくないわね………、平穏に三年間過ごしたいし)

 

「よろしくね、ぼたんちゃん!」

 

杏の方は瑠璃とは違い、おもっいきり握り返していた。すると、バキッっとまるで骨が折れたような音が聞こえてくる。

 

「何、今の音は………」

 

最初に反応したのは瑠璃だった。予想はつくが、まさか―――。

 

「すみません、手の甲に少々ヒビが入っただけですので、お気になさらず………」

 

「気にするわよ!? 大丈夫なの!?」

 

「はい、元々ちょっとしたことで折れてしまいますので慣れています。貧血などにもなりやすいので道端で倒れたりも―――」

 

病弱、貧弱と言ってはいたが限度って物があるでしょう、と内心思う瑠璃。あの杏でさえ、どうしていいか分からずあたふたしているくらいだし………。

 

(何でこんなにも変な子ばかり入学早々知り合うのよ!)

 

学園に来る前、平穏に過ごしたいと思っていたはずなのにどんどん平穏から離れていってる気がしてきた瑠璃。もう遅いような気もするが。

 

「このクラスは一体なんなのよ………」

 

瑠璃がそう呟いた時、教室の扉が開く。時間は既に朝のホームルームの時間だった。開かれた扉からは先生と思われる人物が姿を現す。

 

「はいはい、皆さん。席について下さい。皆さんが入学しての最初のホームルームを始めますよ」

 

ああ、この先どんな学園生活が待っているのだろうか、と気が重くなっていく瑠璃なのであった。

 




評価・感想貰えると嬉しいです!

誤字脱字・気になる所がありましたら報告お願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

何か恐ろしい単語が聞こえたんだけど、多分、気のせいなんだろうね。


修正作業からの逃避更新(笑

こっちは息抜き用だから、スラスラ書ける。メインにしたら、一週間で三話はいけるかな?


それではどうぞ!


 

「はい、皆さん初めまして。このクラスの担任になりました『小平』と言います。よろしくお願いしますね」

 

教室に入って来た先生は自己紹介をすると、にっこりと微笑む。それを見た瑠璃が最初に抱いた印象は、とても優しそうなイメージだった。

 

天之御船学園は勉学と運動の名門校。厳しく、怖そうな先生が来ても可笑しくないな、と思っていた部分もあり、少しホッとする。

 

小平は手に持って来たプリントを教卓でトントンと整えると、口を開いた。

 

「さて、この学園についての説明をする前に、先に転校生を紹介しますね。千歳君、入って来て下さい」

 

先程、小平が入って来たドアが再度開き、廊下から一人の少年が入って来る。瑠璃も彼には見覚えがある。というか、朝からあんな事をされて忘れるはずがない。

 

「あ、蒼ちゃんだ! おーい!」

 

「やめなさい、はなこ」

 

蒼一の姿を見ると、杏は席に座ったまま嬉しそうに大きく手を振り出す。だが、流石に瑠璃が制止を掛けていた。

 

二人を見て、苦笑しつつ、蒼一は教壇の横に立ち、自己紹介を始める。

 

「千歳 蒼一です。初日から転校して来るという珍しい事になってしまいましたが、皆さん、宜しくお願いします」

 

今度は苦笑ではなく、誰にでも良く捉えられるような微笑みを浮かべていた。それから軽く一礼すると、小平の方を向く。

 

「では、空いている席に座って下さいね」

 

小平にそう促されると、「はい」と軽く返答をし、席を探す。どうやら空いている席は杏の前のようだ。

 

大体は教室の後ろの方になるのが定番なのだと思うのだが、杏の席は教室の真ん中寄り。こう不自然に空いている席を見ると、ここでも見えない力が働いているような………。気にしないで置こうか。

 

 

「さて、千歳君の紹介も終わりましたし、説明に入りますね」

 

小平はプリントをそれぞれの席が並んでいる列の先頭に座る生徒へ配り始めた。そして前から後ろへと、プリントは手渡しで流れて行く。

 

クラスの全員に行き渡ったのを小平は確認すると、学園に関しての説明を始める。

 

「―――、はい。この学園について、皆さん、各々が調べて来ていると思いますが、天之御船学園は一組から三組までが勉学中心のクラス。四組から六組までが運動中心のクラスとなっています」

 

(………、どういうこと?)

 

瑠璃は疑問を感じる。この学園を受験する前、そんな学科に分けられるなんて話は聞かされなかった。でも、もしそうなら一体―――。

 

小平の説明に教室内の生徒達は小首を傾げていた。きっと、瑠璃と同じく、思う疑問は皆同じだろう。

 

「では、この七組は何のクラスなのか。という疑問が浮かびましたよね?」

 

小平はふふっと小さく口元を緩めると、体を反転させ、背を向ける。

 

「この七組では、皆さんに………」

 

小平は白チョークを手に取り、黒板へチョークの腹を使用して、太く、大きく文字を書いていく。書かれた文字は漢字が二文字。

 

「―――、皆さんには『幸福』になって貰います」

 

「………。はい?」

 

クラスの皆から間の抜けた声が上がる。今、先生は何と言った?

 

「皆さんには『幸福』になって貰います。そう言いましたよ?」

 

大事な事なので二度言ったのか、生徒達の反応を見て、もう一度言ったのか。どちらでもいいが、生徒達にはちゃんと聞こえていた。ただ、理解が追いついていないだけ。

 

「『幸福』になる?」「どういうこと?」。教室が徐々に騒めき出す。まぁ、無理もない。

 

「あ、あの先生………。どうして何でしょうか?」

 

クラスの女生徒の一人が手を上げ、小平に質問を投げ掛ける。他の生徒達もその質問の返答に注目を向けていた。

 

「戸惑ってしまうのも無理はないでしょうね。でも、理解する為の時間はこれから沢山ありますので、問題ありませんよ。ただ、一つだけ、今の内に理解していて貰いたい事はあります」

 

小平は持っていたチョークを粉受けに置き、ビシッと人差し指を生徒達に向ける。

 

「ここにいる皆さんは、大なり小なり、全員『不幸』なのです」

 

その一言で、教室の騒めきがより一層大きさを増した。「不幸っ!?」「意味が分からない!」「ここにいる全員!?」。生徒、各々が左右のクラスメイトと顔を見合わせ、疑問を交わす。

 

「先生!」

 

そんな中、瑠璃がガタリと音を立て、椅子から立ち上がると、教室を飛び交う他の声よりも声を出した。

 

「はい、どうしましたか? えっと………、雲雀丘 瑠璃さん」

 

手元にある名簿を確認し、瑠璃の名前を呼ぶ小平。

 

「失礼ですけど、私は先生に言われるほど、不幸ではないと思うのですけど? この教室にいる皆もきっとそう思っているはずです」

 

瑠璃の言葉に生徒達も頷きを見せる。いきなり不幸だなんて受け入れられるはずがない。理解する為の時間はある? そんな事、時間があったって―――。

 

「この教室にいる皆さんは受験する前に、こちらでしっかりとした極秘の調査が行われています。そして、今私の手元にはその情報があります。雲雀丘 瑠璃さん、あなたは本当に何も心当たりが無いと言えますか?」

 

小平の手元にある、情報が書かれているという名簿が数枚捲られている所を見ると、瑠璃の不幸に関して調査された報告に目を通したのだろう。

 

瑠璃も小平に言われ、心当たりがあったのか、何も返さずに静かに席に座り直していた。一体どんな事が書かれてしまっているのやら………、怖いね。ああ怖い。特に知られたくない過去がある人からしたらね。

 

瑠璃の様子から、いつの間にか教室で騒いでいた生徒達も静かになっていた。皆も何かしら心当たりがあったらしい。認めたくないだけで。教室が静粛に包まれる。

 

だが、静まり返った空気を小平が破った。

 

「安心して下さい。そんな皆さんを七組に集めたのも、授業や学園生活を通して、不幸を克服して貰い、幸せを掴んで頂く為なのですからね」

 

この教室で一人だけ、ニコニコと微笑みながら話す小平。ああ、もう一人いたよ。杏が後ろで凄く楽しそうにしている。杏の事だから、「皆で幸せになれる!」とか思っていそうだな。

 

「このクラスの授業では、幸福になる為の特別授業の他に、毎日、皆さんの幸福度の測定も行います。今日はこのHRが終わり次第、二者面談をしますので、本日の測定はその後にしましょう」

 

(二者面談か………)

 

極秘調査とかの情報が合っているかの確認だろうな。というかいつの間に調査されたのか? 全く気が付かなかった。杏に気を取られ過ぎていたかな?

 

まぁ、取り敢えず。この教室のクラスメイト達が思う事はほぼ同じはず。

 

―――、ああ、普通の学園生活を送るのは無理なんだな、と。

 





ハルヒ何となく見直していると、オタク生活に戻りたくなるこの頃。仕事が忙しいぜ泣。

評価・感想貰えると嬉しいです!

誤字脱字・気になる所がありましたら報告お願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。