ガンプライブ!サンシャイン!!~水の乙女と宇宙を求めるもの~ (ドロイデン)
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番外編
小原鞠莉生誕祭番外編2017


鞠莉さんの誕生日ということをつい一昨日まで忘れてたドロイデンですw完全にド忘れもド忘れ、プロットもほとんど無い状況でなんとか書き上げましたので、質は高くないと思いますw

そんなこんなで、どうぞ


「珍しいですね、鞠莉さんが俺と出掛けるなんて」

 

 とある夏休みの休日、何時ものようにガンプラバトル部……通称Aqoursの練習を終えた俺は、何故か鞠莉さんと沼津にてショッピングに来ていた。

 

「そうね~いつもは果南やダイヤとかも一緒だからね」

 

「確かに」

 

 互いに笑いながらそう言うと、俺はふと思い出す。

 

「そういえば鞠莉さんと果南達ってどうやって出会ったんです?」

 

「ん?そっか、昴と会った頃にはもう仲良しだったからね」

 

「えぇ、というかお嬢様というか、お嬢な鞠莉さんがあの二人と会う機会なんてあんまり……」

 

「そうね~、じゃあ特別に教えてあげるわ。あれは……」

 

 

 

 

 あの日は、今日のみたいに天気がいい日の夕方だった。

 

 すでに夕焼けがシャイニーで、家の噴水が光を反射して輝いていた。

 

「…………せんわ」

 

「…………だよ~」

 

「ん?」

 

 その時、小さく聞きづらかったけど私みたいな女の子の声が聞こえてきた。

 

 この時間帯とはいえ、警備員がいるうちに侵入してくる強者が居るとは思わないけど、一応そこに近づいてみると……

 

「あ」

 

「ピギッ!!」

 

 青い髪と黒い髪の女の子二人が隠れていた。

 

「あなた達……」

 

 私もまさかの事に思考が追い付かず、ただただ問いかける。そして

 

「……ハグ」

 

「え?」

 

「ハグしよ?」

 

 

 

 

 

 

 

「まぁそんなこんなで、紆余曲折を経て友達になったの」

 

「何というか……お疲れ様です」

 

 俺が苦笑いでそう聞くと、鞠莉さんも中々に苦笑している。

 

「そうね~果南ってば昔ッから押しが強いからね。私がガンプラバトル始めたのもそうだし」

 

「へぇ、っとそう言えば鞠莉さん……気付いてますよね」

 

「まぁ……そりゃあねぇ?」

 

 揃って視線だけを動かして後ろをチラリと確認する。そこには

 

「二人っきりなんて……許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない……」ブツブツ

 

「果南さん、幾らなんでも悪目立ちしてますからお辞めなさいな……」

 

 何やら呪詛を振り撒いてる藍色ポニーテールと、それを疎める黒髪ロングコンビが隠れて追ってきていた。というか全然隠れてない。

 

「まったく果南は……」

 

「そうね~」

 

 と言いながら鞠莉さんは鞠莉さんで俺の腕に体を密着させてるし……あ、また果南の呪詛が大きくなった。

 

「で、今日は何を買うつもりなんです?」

 

「ふふ、実はね……」

 

 

 

 

 連れてこられたのは意外と古びた感じのアクセサリーショップだった。

 

「へぇ、こんなところがあったんだ」

 

「フフ、昴はアクセサリーとか興味無さそうだものね」

 

「あんま、男で宝石細工って感じも無いだろうかな」

 

 まぁ最近ではそうでもないのだろうし、プロとしてそれなりの収入を得てるから買おうと思えば買えるのだが。

 

「そうね~っと、これとこれ……あとこれもお願いします」

 

 そう言って鞠莉さんが選んだのは、ダイヤモンド、サファイア、そしてオパールの三種類のネックレスだった。

 

「もしかして……」

 

「あ、気付いちゃった?」

 

 そりゃ何となくわかるわ。というかもうそんなに経ってるか……。

 

「だったら……」

 

「良いの。これは私の気持ちの問題だから」

 

 そう言って店員にカードを差し出して、鞠莉さんはそれを一つずつ袋に入れてもらうために俺から少しだけ離れた。

 

「……すみません」

 

 

 

 

 

「う~ん!!なんか久々に昴と遊べたから楽しかったわ!!」

 

「そうですか」

 

 何となく楽しいというのが見て分かるほど、鞠莉さんは笑顔だった。

 

 まぁほぼ毎日、理事長として書類に追われながらAqoursとしても活動して、尚且つ学生としての本分も全うしてるのだから、こういうことでストレスを発散できるならこちらとしても願ったりだ。

 

「さて、最後の目的地にも到着したわね」

 

「はい、確かにここですね……なんで、いい加減出てきても良いですよ二人とも」

 

 俺がそう言うと、後ろから凄い形相の果南と、明らかに憔悴してるダイヤさんの姿があった。

 

「気づいてらしたなら何とかしてほしかったんですけど……」

 

「流石にヤン果南の処理はしたくないから」

 

「詰まる所人柱にされたわけですか……」

 

 なんとも言えない、ハイライトの消えた目でダイヤさんは睨みつけるが、何時ものようにスルーと決め込む。

 

「さて、二人とも、なんでここに来たのか分かる?」

 

「へ?ここって……砂浜ですわよね?」

 

「うん、しかも私の家からすぐそばの……」

 

 ダイヤさんと正気に戻った果南が、鞠莉さんの質問に疑問で返す。まぁ確かにそうだろうな。

 

「ふふ、流石に忘れちゃってたか~。ここはね、私たち四人が最初に会った場所なのよ。しかも同じ日付けで」

 

「「へ?……あ」」

 

 鞠莉さんの言葉で、ようやく二人も分かったのか、納得の顔をしている。

 

 初めて四人で会ったのは、俺が小学5年だからちょうど六年前。あの日も今日みたいな快晴で、一人エアコンで涼みながらテレビを見ていた俺を、果南は無理矢理引っ張り出された。

 

 そしてどういうわけか果南が鞠莉さんとダイヤさんをも連れ出して、完全に海水浴という名の水遊びとなった。

 

 まぁ結局、最後はいつの間にかやって来た鞠莉さん護衛のデュオさんとカトルさんや、ルビィちゃんとかも混ざっての大混戦だったのは良い思い出だった。

 

「そうですか……もう六年も経ってましたわね」

 

「完全に忘れてたよ……」

 

 二人はそう言ってるが、俺もアクセサリーショップに行くまでその事を忘れていたのだから人の事を言えない。

 

「ホントは去年で5周年だからって渡そうと思ったんだけど、留学になっちゃったからね」

 

「だからってべつに……」

 

「良いのよ!!これは私の気分、気持ちなんだから!!というわけで、はいこれ」

 

 と、それぞれに紙袋を渡す鞠莉さんに、中身を見た二人は驚いていた。

 

 ちなみにだが、それぞれの単価が最低でも数十万はしたのをここに明記しておく。

 

「あれ?昴は着けないの?」

 

「いや、数十万のネックレスを着ける気力が……」

 

「もう、そんなこと言ってないの!!さっさと着けなさいよ!!」

 

 鞠莉さんにせっつかれる形で、仕方なく俺も首にかける。全体の黒に散らばるように光る赤や緑が、どことなく幻想的な気がしてなら無い。

 

「うんうん、やっぱり昴には黒い宝石が合うわね!!」

 

「そりゃどうも。流石に学校ではつけらんねぇけどな」

 

「当然ですわ。……まぁ大事にさせてもらいますわ」

 

「あはは、まぁ、鞠莉のプレゼントだからね」

 

 四人揃って笑いあいながら、揃って夕日を眺める。雲一つ見えない、綺麗な茜色の空だった。

 

「……鞠莉さん」

 

「ん?どうしたの昴?」

 

「これ、俺からの分っす」

 

「へ?」

 

 俺は少しだけ恥ずかしがりながら、一つの小さな紙袋を手渡す。彼女はそれを綺麗に開けて中身を見て驚いた。

 

「これ…………でも」

 

「言いっこ無しですよ」

 

 それは少し大ぶりな、光輝く黄色のトパーズのネックレスだった。しかもカットによって星形に形成された代物だった。

 

「鞠莉さんがちらっと目にしてたんで、何となくですけどこれを……」

 

「で、でも……」

 

 急にわたわたして落ち着かない鞠莉さんに少しだけ笑ってしまう。人をおちょくったりからかうのは得意なくせに、こういうお節介に耐性がないのが鞠莉さんの良いところ(?)だ。

 

「良いから。それに、俺らだけ貰って鞠莉さんが何も無しじゃしまらないんで」

 

「……(ありがと)////」

 

 だいぶ照れてる姿に果南とダイヤと共に笑いながら、俺はこんな日が続けば良いのにと、少しだけそう思った。




鞠莉さん、happy!!birthday!!


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津島善子生誕祭番外編2017

「……お願いします先輩、手伝ってください!!」

 

 とある土曜、何時ものように果南とダイビングでもしようかと考えてたときにそれは訪れた。

 

 普段鳴らないインターホンの音に開けて確認してみると、この暑い中ゴスロリに黒い日傘というコスプレ染みた格好で現れた年下の少女……津島善子が来ていた。

 

「……とりあえず、中に入って聞こうか?」

 

 

 

 後輩を部屋に入れて麦茶でもてなすと、彼女はおかまいなくと言ってくる。

 

「んで、俺に何を手伝えと?」

 

「実は夏コミを一緒「断る!!」速答!?」

 

 話を聞いた俺は即座に断る。

 

「当たり前だこのお馬鹿!!8月中旬だぞ!!時期を考えろ時期を!!」

 

 その時期は世界大会決勝リーグの頃合いで、もし順当に勝ち抜けばそれともろに被る事になる。

 

 量産機ベースとはいえ、専用の予備パーツを作ったりしてたら時間が足りやしない

 

「しかも場所が幕張だろ?前日に試合があると考えたら、確実に手に入れるための前入りなんてほぼ不可能だろ」

 

「ぐぬぬ……」

 

 ヨハネも真っ当だと思ったのか唸り声をあげてるが反論はしてこない。

 

「まぁ普通の買い物くらいなら別に良いんだが」

 

「……なら行きたい場所があるんだけど」

 

「常識の範囲内でな」

 

「当たり前よ!!すぐに出掛ける準備しなさい!!」

 

 マジかと思いつつ、仕方なく俺は部屋へ着替えに行くのだった。

 

 

 

 ヨハネ様に連れてこられたのは、意外や意外、最近新しく出来たばかりのケーキバイキングの店だった。

 

「なんか、ホントに意外だな」

 

「ちょっと、それどういう意味よ」

 

「いやヨハネの事だから、てっきりオカルトショップとか心霊スポットとかかと思ってたからさ」

 

 確かにヨハネも女の子と言われればそうなのだが、どうしてもゴスロリのイメージからそっち系に寄ってしまう。

 

「まぁ私もあまり来ないんだけどね、クラスの何人かが結構話してたからどんなものかな~って」

 

「へぇ……なら花丸ちゃんとかルビィと行ったら良いじゃん」

 

「ルビィは兎も角、ずらまるはかなり食べるしあんまりマナーがね……喫茶店なら兎も角こういうところには向かないのよ」

 

 意外と仲間内を観察していらっしゃった模様だった。

 

「しかし……」

 

 俺の皿にはショートケーキやチーズケーキが数種類がちんまりと乗ってるに対して、ヨハネの皿には洋菓子和菓子関係なくぎっちりと、しかし綺麗に乗せられている。

 

「花丸ちゃんほどじゃないけど、ヨハネ様も結構食べるんだな」

 

「一つ一つが小さいからよ。流石にケーキショップみたいな大型のショートケーキだったらハーフも食べれないって」

 

 そりゃそうかと俺もフォークを動かしてチーズケーキをパクつく。くどくない甘さにチーズの濃厚さが堪らなく美味しかった。

 

 俺が一皿を食べ終わる頃にはヨハネは二皿目を持ってきており、これまたかなりの量のスイーツが乗せられていた。

 

「……女子に言うことじゃないけど、太るぞ?」

 

「どうせガンプラバトルでカロリー消費するから関係ないわよ」

 

「さいでっか……」

 

 ため息と共に珈琲を飲み干した。

 

「てか、今さらだけどこれってデートだよな?」

 

「ムグッ!?」

 

 さらっと呟いた言葉にヨハネはあわてふためき、食べていたケーキが喉に詰まってしまった。俺は急いでジュースを手渡してそれを嚥下させる。

 

「……プハ!!い、いったい何を言ってんのよアンタは!?」

 

「いや、客観的に見たらそうだろうな~って思って……深い意味は無いんだが」

 

「大有りよ!!全く……(別に個人的にはそれでも良いんだけど)

 

 何やらボソボソとヨハネは何か言ってるようだが、小さすぎて聞こえなかった。

 

「で、このあとはどうするんだ?」

 

「そ、そうね……とりあえず服を見に行こうと思ってるわ」

 

「そりゃ長くなりそうなことで」

 

「言っておくけど、見るのは男物よ?」

 

 え?

 

「なぜに?」

 

「アンタの私服よ私服、どうやったらそんなに単色になってるわけ?」

 

「そう言われてもだな」

 

 ちなみに今日の服装はグレーのTシャツにネックレス、グレーのチノパンと全身灰色づくしだった。

 

「それにいつもだけどモノトーンかダークトーンしか着てないじゃない。言いたくないけど年より臭いわよ?」

 

「別に良いだろ、グレーが好きなんだから」

 

「言い訳無用!!どうせだし私も今年の水着買わないとだったし調度良い機会だし、このヨハネ様がキッチリコーディネートしてあげるわよ!!」

 

 そう言うお前は黒ばっかだろと、心の奥隅でそう思った。

 

 

 

 

 

 結果から言うと、ヨハネ様の服選びはかなり優良だった。というのも持ってきた組み合わせのほぼ全てが派手過ぎず地味過ぎずという絶妙なものばかりで、流石はファッションデザイナーの娘というだけはあった。

 

 今もヨハネプレゼンツのその場で着れる薄い水色のアロハシャツを羽織るように着ており、だいぶ雰囲気が変わったとは思うのだが……

 

「ねぇ、こっちとこっちだったらどっちが良いかしら?」

 

 頼むから水着選びに連れ込まないでくれませんかね~!!周りからの視線が痛いんだけど!!

 

 今も持ってきたのが黒のレース付きのビキニと白いフリル付きの水着を持ってきており、本人はまるで関係なしと来たもんだ。

 

「う~ん、どっちでも良いと思うんだけど」

 

「何言ってるの!!女子にとって水着は勝負なのよ!!出来る限り妥協を許さない覚悟で選ぶくらいにね」

 

「そんなもんかな……」

 

 これが果南だったらあまり迷わずほぼ速決しちゃうからな~それで似合ってるんだからすごいし。

 

 曜は曜ですぐに決めて俺や千歌を振り回すために変な水着を見せたりするんだよな……勿論買わないらしいけど。

 

「で、どっちの方が似合うと思う?」

 

「…………言わなきゃダメか?」

 

「当たり前よ、でないと父さんにあること無いこと話しちゃうわよ?」

 

「……俺としてはフリル付きかな。レースも大人っぽくて良いけどさ」

 

 仕方なく言うとヨハネはジトリと睨んでくる。え?なんで?

 

「……目を見て言いなさいよ」

 

「いや、そんなの……」

 

「でないと……そうね~」

 

 まるで悪戯するように耳元に近づいたかと思うと

 

(正直に言わないと、)(一緒に試着室で生着替えの刑よ?)

 

 なんという爆弾を投下してきた。

 

「お、おま!?」

 

「私は別にそれでも良いんだけど?でもそんなことになったら世間的に不味いことになるわよね~昴せ・ん・ぱ・い?(バカバカバカ!!なんてこと言っちゃったのよ私!!)」

 

 ニヤニヤとして言ってのける後輩にこめかみがピクピクしながらも、仕方なくまたため息を吐く。

 

「分かったよ、言います、言いますから」

 

「(乗ってくれても良かったのに……)そ、でどっちなの?正直に言ってね」

 

「はいよ……正直に言うなら甲乙つけがたい、どっちも似合ってるしどっちを着ても似合ってると思う」

 

 実際ヨハネ様は結構大人びた性格してるし、見た目も小悪魔が似合うからか、大人っぽいのも可愛いのもどちらもいけると思ったからだ。

 

「ふーん?面白くないけど……本音っぽいししょうがないからその刑は無しにしてあげる」

 

「そりゃありが「でも……」はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その代わり、今日は私のリトルデーモンにしちゃうから、覚悟しなさいね?」

 

「勘弁してくれ……」




ヨハネ様、Happy birthday!!


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高海千歌生誕祭番外編2017

「やって来ました……水族館!!」

 

 ハイテンションな千歌のかけ声に、俺は若干ため息つきながら苦笑いをしていた。

 

「元気無いね昴君」

 

「誰のせいだ誰の、果南に断り入れるの大変だったんだからな」

 

 というのも、世界大会等があるため今年はダイビングできる回数が少ないからということで、前半は本当に果南とダイビングシーウォッチするつもりだったというのに、その初日に無理矢理千歌がシーパラダイスに行くことを約束させられたのだ。

 

 これには普段温厚な果南も若干ブチギレで、埋め合わせに色々とさせられるはめになったのだ。肉体的に持つのか厳しいところである。

 

「だいたい、なんでシーパラダイスなんだよ」

 

「いや~内浦の近くで遊びにいくとなるとここしか無いと思って……模型ショップだと結局いつもみたいにバトルして疲れる~ってなるから」

 

「そこはまぁ同意するし分からなくもない……」

 

 実際東京と違ってかなり田舎な場所だということもあるし、何より人口が少ないからそういう観光行楽地は少ないしな。

 

「で、本音はなんだ?」

 

「な、なんの事かな?」

 

「惚けんな、お前が無理矢理駄々を捏ねるときなんて中々無いからな。意外と物わかり自体は良いほうだし」

 

 カリスマ性というやつは無いが、精神的なタフネスと周りの状況を見て行動できる決断力という意味ではリーダーというに相応しい千歌が駄々を捏ねてまでするのは、多分梨子ちゃんを加入させるためのあれ以外多分無い。

 

「う……バレてた?」

 

「当たり前だ。曜には劣るが何年幼馴染みやってると思ってんだよ」

 

「ダヨネー……」

 

 千歌はそう言うとガックリと肩を落とす。

 

「でも昴君が悪いんだよ!!」

 

「はい!?どうしてそうなる?」

 

「だって昴君、最近私とは全然二人っきりで話したりしてくれないじゃん!!」

 

 そんな事はと思って振り返ってみるが、確かにガンプラバトル部結成以来、二人だけで話したかと言われれば全てNOだった。

 

「曜ちゃん、梨子ちゃん、ルビィちゃん、花丸ちゃん、善子ちゃん、鞠莉さん、果南ちゃん、ダイヤさん……みんな番外編込みで少なからず二人っきりで行動したことがあるのに私だけ無い……それって凄い不平等だと私は思う!!」

 

 う、メタいが確かにそうだし、まさか千歌に正論を突かれるとは思っていなかった。

 

「というわけで、今日は思いっきり二人っきりで遊ぶということです!!」

 

「まぁ別に良いけどさ……それなら直接果南に言ってくれよ」

 

「え?首折られたくないから無理」

 

 デスヨネー。

 

 

 

「しっかし、水族館ってのも来るのは久しぶりだな」

 

 とりあえず水族館に入ってみて色々とぶらりと見て回る。

 

「そうだね~多分小学校低学年くらいじゃないかな?」

 

「そうだろうな……」

 

 東京の人間が某ネズミの国に積極的に行かないのと同じように、近すぎると逆に行く気にもならないということだろう。

 

「それに俺はダイビングすれば種類は兎も角、泳いでる魚はよく見てるしな」

 

「いつも思うけど、ダイビングって大変だよね?なんで始めようと思ったわけ?」

 

「まぁ最初はガンプラバトルの為だったな。ダイビングっていう無重力に似てる空間だしな」

 

 ふーんと詰まらなそうに言うが、次の瞬間眼を輝かせる。

 

「このちっちゃいのカワイイ~」

 

「カクレクマノミだな。珊瑚と共生してるから中々姿を現してくれないんだ」

 

 映画の題材にもなったオレンジの小魚を眺めながら、千歌のニヤニヤした表情を写真に撮る。

 

「あ~!!なんで撮るの~!!」

 

「安心しろ、AqoursのグループLI○Eに貼るだけだ」

 

「それはそれで大変なことになるからダメ~!!」

 

 スマホを奪い取ろうとぴょんぴょん跳ねてくるのをちょいちょい避けながら、再び千歌の写真を撮る。

 

 五分ほどそれを繰り返すうちに千歌の顔がハリセンボンのように膨れ初めて少しだけ笑う。

 

「悪い悪い、冗談だからその顔はやめろって。女子高生がする顔じゃないぞ」

 

「昴君が悪いんでしょ!!もう……」

 

 若干顔が赤い気がするが、とりあえず本人の名誉のために言わずにおこう。

 

「っと、そろそろアシカとイルカのショーが始まるみたいだぜ」

 

「イルカ!!行こう昴君!!」

 

 なんとまぁ現金というか、別にそれが千歌らしいと言えばそうだから別に構わないが。

 

 

 

 ショーを見に来てみると、やはり八月の頭というだけにお客さんが満員御礼と言わんばかりに座っていた。

 

「ひゃ~人が多いね~」

 

「まぁ夏休みだからな。普通に観光客とかが遊びに来てるんだろ」

 

「そうかもね~あ!!そろそろ始まりそう!!」

 

 そう言いながら席で事前に買っていたソフトクリーム(バニラ)を舐めながらはしゃいでいる千歌を見つつ、俺も苦笑いでソフトクリーム(抹茶)を嘗めてステージを見つめる。

 

 イルカが宙を舞い、アシカのボール芸等のパフォーマンスをする度に観客の観客が会場を覆い、千歌も夢中になってはしゃいでる。

 

(そういや、千歌と出掛けること自体も久しかったな……)

 

 多分中学になってから、話はしても出掛けるのは果南とばっかりだったからか、修学旅行以来だろう多分。

 

 いつ以来と思っても思い出せず、それほどまでだったと逆に痛感するくらいだった。

 

(……案外、俺って千歌のことを知らないのかもな……)

 

 

 

 

「あぁ楽しかった!!」

 

 夕方になって外を出ると、俺と千歌はバス停のベンチで一緒に座る。

 

「そうだな、なんか色々と久しぶりだったし」

 

「ふふ、そうだね~」

 

 そう喋りながらバスを待つ。しかし数分くらいしてからか互いに無言になり、シンとした空気が流れる。

 

「ねぇ昴君」

 

「……ん?」

 

「私って役に立ってるのかな。皆みたいに尖った部分も無くて、寧ろ劣ってて……私って普通すぎるのかな……」

 

「……そんなことねぇよ」

 

 俺はそう言いながら近くの自販機でジュースを買うと千歌に渡す。

 

「お前が引っ張ったから、曜も桜内さんも引き寄せられたんだ、勿論俺もな。でなかったら俺は今頃プロじゃなくなってた」

 

「で、でも……」

 

「お前が普通なら、プロとしても二流な俺はお前以下の普通な凡人だぞ?胸を張れって、お前は俺の救世主なんだからさ」

 

「……そっか」

 

 よっと、そういって千歌はベンチから立ち上がり、

 

「えい♪」

 

 後ろから抱きついてきた。

 

「えへへ、ありがとね昴君」

 

「……勝手に抱きつくなよな、ったく」

 

 そう言いながらも抱きつき続ける千歌にため息をつく。

 

(ありがとうはこっちの台詞なんだよ、このバカ千歌……)



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黒澤ルビィ生誕祭番外編2017

辛かった……連続して書くのが辛いと思ったのは生まれて初めてですわw

まぁそんな駄目な作者は置いといて、ルビィちゃん生誕祭じゃ~!!


 それは、今から二年前の春のことだった。

 

「ピギィ?果南さんと鞠莉さんが家に?」

 

 夕食後、お姉ちゃんが言ったその言葉にルビィは首を傾げました。

 

「ええ、次の日曜日に、私達三人でガンプライブ用の機体を考えようと思いまして」

 

「へぇ!!お姉ちゃんガンプライブやるんだぁ!!凄いね!!」

 

「ええ!!ですが……私の機体をどうしようかと思いまして……」

 

 若干テンションが低いお姉ちゃんに少しだけ驚く。お姉ちゃんはガンダム好きなのだが、その知識量がとても多いせいで好きな機体が多いのだ。それに――。

 

「お姉ちゃんニッパーとか使って怪我するの何時もだしね」

 

「さ、最近はそうでもありませんわよルビィ!!」

 

 憤慨してるが、つい昨日の夜に『グシオン』のゲートと一緒に指を切ってた所を見たら説得力の欠片もないんだどね。

 

「ちなみに候補はいくつか決まってるの?」

 

「ええ、一応三つまでには……というわけですのでルビィ、土曜日にでも一緒に模型店に行きましょう」

 

 

 

 

 というわけで、その土曜日、黒澤家御用達(というより網子漁師の人が経営してるだけなんだけど)の模型店にやって来ました。

 

「うーん……どうしましょう……」

 

 お姉ちゃんはどのガンプラにしようか眺めている。こうなったときのお姉ちゃんって長考に入るから大変なんだよね。え、ルビィ?ルビィは――

 

「ええい!!」

 

 バトルシステム使ってフリーバトルの真っ最中です!!愛用してる素組の『スローネドライ』のビームサーベルで、相手の多分同じく素組『グフ・カスタム』の剣で切り結ぶ。

 

 ガドリングシールドをビームサーベルで貫き、コックピットを貫くと私は溜め息をつく。

 

 かなりの強敵だったというのもあるが、素組では武装が少ない『ドライ』では良くやった方だと思う。

 

「ピギ?また乱入?」

 

 現れたのは、『デナン・ゾン』と『デナン・ゲー』を組み合わせたようなカスタム機で、ショットランサーを右腕に構えて飛んできた。

 

「ピギ!!カスタム機!!」

 

 すぐに只者じゃないと思い、ルビィはGNハンドガンで迎撃する

 

 が、それを相手は槍を回転させて弾き飛ばし、まるで格好つけるようにポーズする。

 

『そのような素組の支援機で、円卓の加護を受けた我がデナン・エクターを倒せると思うなかれ!!』

 

 声高らかに名乗りをあげる相手の男性は槍で突撃しながら左手でビームガンを射ってくる。

 

「ピギャァァァ!!」

 

 あきらかにビームガンの威力を超えていて、掠っただけで体勢が崩れ、ルビィの『ドライ』はフィールドの道路に叩きつけられ、そのすぐそばにあの『デナン・エクター』が降りてきた。

 

『中々に見所があったが、この我と我が愛機と出会ったことが運の尽きよな……』

 

 そう言って相手は手元のランスを逆手に握り、

 

『せめて、この聖槍たるロンゴミニアドに突かれて果てるがよい!!』

 

 勢い良く振りかぶった槍をそのまま私の機体の胸部へ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『獲物を前に舌舐めずり、三流のやることだな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然の音声と共に、目の前のデナン・エクターの背中が突如として爆発した。

 

『な、なにやつ!!』

 

 男はそう言いながら後ろを確認する。私もモニターを確認してみると、助けてくれた相手の姿が分かった。

 

 そこに居たは腰だめでバズーカを構えて、ビルに立つ黒っぽい灰色の『ジン・ハイマニューバ』の姿があった。そして、それは……

 

『な!!『ザク殺しのジン』だと!!』

 

 この内浦ないし沼津で有名なファイターだった。ガンプラとしてはピーキーな『ジン』を操り、過去に数多のザク使いを相手にして、そのすべてを合わせ目通りに切り裂いて修復不能にするほどの実力者。

 

 そんなファイターがなぜ?

 

『たく、あの体力バカ、無理矢理連れてきたうえに知り合いだからって……あとで覚えとけよ』

 

 ……え?それってどういう……

 

『く、『ザク殺し』が相手だろうが、この聖なる力を得ている『デナン・エクター』が負ける道理はない!!』

 

 そう言って相手はこちらを無視し、『ジン』に向かって飛んでいく。両手に構えたビームガンを連続して打ち続けるが、それを『ジン』は空中で、まるでステップするように避けて接近する。

 

『な、なぜ我が攻撃が当たらん!?』

 

『そんな狙いも適当なビームガンなんて食らうかボケ』

 

『なんだとキサマ!!』

 

 憤慨したように男はビームガンを捨て、ランスに持ち換えて突撃する。

 

『我が聖なる槍の一撃で滅しろ!!』

 

『やなこった!!』

 

 そう言ってジンは重斬刀を二本抜き、右で槍を受け流し、左で突きの一撃を肩にぶつける。

 

 しかし、そこはカスタム機というべきか、寸での所で掠めるように避けて、デナン・エクターは再び距離を取る。

 

『く、そのようなザク擬きに我が押されるとはな!!』

 

 男の人がそう言った途端、ルビィの背中になにか分からない寒気のようなものが走った。

 

『……テメェ……今、何て言いやがった?』

 

『む?ザク擬きと言ったのだ!!その通りであろう?』

 

 次の瞬間、まるで心臓を握り締められたような圧迫感を感じた。まるで本能が逃げろと叫んでるような、そんな感じの……

 

『精々……知り合いの対戦相手を手助けするだけだったんだがな……お前、今一線踏み抜いたぜ』

 

『は?――』

 

 男が呆けてる一瞬、まるで瞬間移動でもするようにジンはデナン・エクターの目の前に接近し、まるで踵落としのように蹴り落とし、そのインパクトでアスファルトから土煙が上がる。

 

『カハッ!!い、痛いだと!!そ、そんな馬鹿な……なんで』

 

 男の言葉にルビィは首を傾げました。ガンプラバトルで肉体に痛みが現れるわけがないのだが、幻痛にしてはリアリティーがありすぎる。

 

『テメェは今、俺の目の前で言っちゃいけない言葉の一つを言ったんだ、その報いは受けてしかるべきだよな?』

 

『ぐ……だ、だが!!』

 

 再び立ち上がって槍を捨て、腰から装飾された剣を抜いて構えた。

 

『せ、せめてこの聖剣の一太刀を!!』

 

 スラスターを吹かせ、その機体は正面から上段に斬りかかる。

 

『洒落クセェ!!』

 

 しかしそれを真下から振り上げた重斬刀で叩き折り、コックピットにその剣を貫いた。

 

『わ、我がデュランダルまで――無念!!』

 

 それを言い残して、デナン・エクターは爆発した。

 

『……デュランダルは円卓の騎士じゃなくてシャルルマーニュの騎士だろうが』

 

 そんな黒いジンのバッサリとした断言と共に。

 

 

 

 

「す、凄かった……」

 

 バトルが終わり、フィールドから出たルビィには、そんな言葉しか出なかった。

 

 圧倒的な攻撃力、冷静な判断力、そしてまるで機体を手足のように操るその技術……どれもが圧倒的だった。

 

「お疲れさまですわね、ルビィ」

 

「お、お姉ちゃん……」

 

 と、近くに居たらしいお姉ちゃんが声をかけてきて……ってあれ?

 

「果南さん?あとその人は?」

 

 そう、なぜかお姉ちゃんの友人の果南さんと、どこかで見たことのあるような顔をした男子が立っていた。

 

「こちらは天ノ川昴さんといって、ルビィと同じ中学の三年生で、果南さんと幼馴染みらしいですわ」

 

 自己紹介され、ルビィはすぐに頭を下げる。が次の瞬間、

 

「どうも、さっきのバトルぶりだな」

 

「え?その声……」

 

 通信越しだったが聞こえた特徴的な声が、しかもそれが目の前で聞こえたのだ。

 

「そ、俺がさっきのジン使いだよ」

 

「え、えぇ!!」

 

 驚きを隠せなかった。あんなに強いのに、私と一つしか歳が違わない……その事実が驚愕しなくてどうなるというか。

 

 しかも昴さんはしまっているケースからさっきの黒灰色の『ジン・ハイマニューバ』を見せてきた。シールを殆ど使わず、スプレーじゃなく筆で前身細部まで塗られた作り込みに感嘆のため息が出る。

 

「じゃ、じゃあザク殺しの噂も……」

 

「ん?あぁ、俺がジンを使うことを貶してきた連中をパーツ単位で合わせ目通りに切り裂いてやったことがあるんだよ」

 

 もっともそれをやったあと、なぜか相手が気絶してるんだけどな、と呟く彼に冷や汗が止まらなかった。もしあの場でジンをピーキーだとか口に出してたらおんなじことになってかもしれない。

 

「つか、俺が行かないで果南が行けば良かっただろ。ルビィとも知り合いなんだしよ」

 

「しょうがないじゃん、今日は『バエル』持ってきてないんだし、それに女の子を助けるなら男の子じゃないと」

 

「釈然としねぇ……」

 

 頭を掻きむしりながら呟く彼を見つめていると、お姉ちゃんが肩に手を置いた。

 

「どうせですしルビィ、昴さんにガンプラバトルのコーチをしてもらったらどうですか?」

 

「ピギィ!?ど、どうして!?」

 

「話によれば、昴さんは明日果南さんと共に我が家へと来るそうなので、これを期にと思いまして」

 

 明日、家に来る?

 

「お姉ちゃん……ホント?」

 

「こんなことで嘘をついてどうなりますの」

 

 つまり本当。てことは……

 

(あの凄い技術を教えてもらえる!!間近で!!)

 

「お、お願いします昴さん!!」

 

「まぁ、俺も身近でバトルできる相手が欲しかったしな……俺の練習は厳しいぞ」

 

 ニヤリと笑いながらいう昴さんに、私は内心炎が燃えた。あきらかに挑戦だということがすぐに分かった。だから、

 

「つ、ついていきます!!昴さん!!」

 

 この日から、私と昴さんの師弟関係が始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オマケ

 

「ところでルビィ、頼むからさん付けはやめて欲しいんだが」

 

「へ?どうしてですか?」

 

「その呼ばれ方だと何故か知らないがロリコンって言われそうで怖い」

 

「……なら師匠でどうですか?」

 

「それはそれで……まぁ、別にいっか」




オマケは
昴という名前+昴の部活がバスケ+赤い(ピンク)髪のロリということですwわかる人には分かりますよね~w

ということでルビィちゃん、Happy Birthday!!

また、今回使わせてもらった『デナン・エクター』を提供して頂きました駄ビン・レクイエムさん、本当にありがとうございました。


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桜内梨子生誕祭番外編2017

今回は梨子ちゃん生誕祭というなの中の人ネタ大放出wどうしてこうなったw


 その日、私、桜内梨子は何度となく溜め息をつきたくなった。

 

「あれ、桜内さんどうした?浮かない顔して」

 

 部室でいつも溜め息をついてる昴君にすら言われる始末だ、ホントに酷いとしか言いようがなかった。

 

「……実は」

 

 

 

「「「誕生日プレゼントの数が多すぎて困ってる?」」」

 

 練習後、千歌ちゃんと曜ちゃん、そして昴君の三人に説明した。

 

「えぇ、私のお母さん、凄い交遊関係が広くて……私の事を気に入ってるのか分からないけど、それで私の誕生日に決まって揃って贈り物してくれるの」

 

「そりゃいいじゃん……って、その数が問題なのか」

 

「それもなんだけど……それだけじゃないというかなんというか……」

 

 見せた方が早いということで実際に三人に来てもらうのだが……

 

「何このトラックの数!?」

 

 千歌ちゃんが思わず突っ込みたくなるほどの宅配トラックが私の家どころか千歌ちゃんの家まで並んでいた。その数三台。

 

「あ、お帰りなさい梨子、早かったわね」

 

 と、慣れたように判子を押し続けるママにただいまと言いつつ、送られてきた荷物を見てみる。

 

 北は北海道、南は熊本、さらには国内じゃなくアメリカまでと箱自体は小さいものから大きいものまで、中々の量のプレゼントボックスに、空き部屋が一つまるまる埋まってしまっていた。

 

「これは……凄いな、うん」

 

「えっと、なんか伝票に色々と有名な人達の名前が書かれてるんだけど……特に国際便組」

 

「国内便も結構多種多様だけどね、あ、『saint snow』の顧問の先生のもある」

 

 三者三様に驚いてくれてるみたいだし、とりあえずなにが送られてきたのかダイジェストにしてみました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まずは国際便から

 

「えっと……雪城ほのかさん?なんか額縁に入った絵があったけど……」

 

「ご実家がアートディーラーみたいだからね」

 

「久野里さん……でいいのかな?なんか雑誌が色々入ってるけど」

 

「それはお母さんがたまに読んでるから、その繋がりよ多分」

 

「おいおい、なんか原潜の模型出てきたぞオイ!?完成度タケェなオイ!!」

 

「多分それはテッサさんね……前に会ったとき仕事してないって言ってたのに」

 

「なんかフェレットとうさぎのぬいぐるみでてきたよ梨子ちゃん!!」

 

「それは私の部屋に持ってくから置いておいて」

 

「外国製の温泉の元……」

 

「何も言わずに戻しておいて……」

 

「なんか揃いも揃って学者ばっかりだなおい……ってまた学者……なんでコスプレ用のアリス?」

 

「去年のウサミミと同じでお揃いだよ~ってやりたいのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 続いて国内便

 

「おお!!なんか赤いコートが入ってたよ!!」

 

「またお揃いネタ……って良く遅れたわね、あのホームレス」

 

「赤い宝石のネックレスだよ梨子ちゃん!!」

 

「あのドケチな人が良く送ったわね……ってなんだ執事さんが送ったのね」

 

「お、『ティエルヴァ』のガンプラか……」

 

「あげないわよ昴君(あの中には私の趣味のが入ってるし)」

 

「おお!!巫女服だぁ!!梨子ちゃん着てもいい!!」

 

「えっと……サイズがあってればいいよ……(刀が送られてこなくて良かった……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、一つ一つ確認してるうちにはや一時間が過ぎていて、なのにまだ半分も残っているのだからその量は察してしかるべきである。

 

「確かに……こりゃ桜内さんが浮かない顔して溜め息をつきたくもなるわな」

 

「やっぱり昴君……」

 

 送られてきた紅茶とお菓子を頂きながら、皆で会話を弾ませる。

 

「でもさ、それだけ梨子ちゃんのことを見てくれてるって事なんじゃないかな」

 

「千歌ちゃん……」

 

「うん!!でなきゃ誕生日だからってこんなに送ってくれるわけがないもん」

 

「曜ちゃんも……」

 

 二人の同性の友人は笑いながらそう言ってくれ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ヒック」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「え?」」」

 

 突然聞こえたしゃっくりに私達三人は慌ててその主……昴君の方向を見る。

 

「へ~……ヒック……どうした~」

 

 その顔はかなり赤く、まるで茹で上がったタコのように……しかもずっとしゃっくりをしている。

 

「え?え?どういう?」

 

「ま、まさか昴君!!」

 

 曜ちゃんが何かに気がついたのか、置かれていたチョコ菓子の箱を手に取って……。

 

「これ……チョコレートじゃなくてウィスキーボンボンだよ!!」

 

 驚愕の一言を口にした。

 

「え、てことはまさか……」

 

「うん、間違いなく……酔ってるね」

 

 まさかの贈り物に、食べなくて良かったと思った次の瞬間、膝への突然の感触にビックリした。

 

 そこには酔いが回ったのか、私の膝を枕にして眠ってしまった昴君が……

 

「////」ドキドキ!!

 

「梨子ちゃん、顔紅いよ?」

 

 ただでさえ恥ずかしさと寝顔の可愛さに心臓がどぎまぎしてるのに、千歌ちゃんの余計な一言にさらに心臓の鼓動が止まらなくなってしまった。

 

「さすが昴君……眠っても梨子ちゃんにまで毒牙をかけるとは」

 

 と、こっちはこっちで冷静に紅茶を飲みながらどこから取り出したのか、スマホでツーショットになるように写メしてる。

 

「ちょ、止めてよ曜ちゃん!!」

 

「ええ?でも満更でも無いんでしょ」

 

「もう!!ふざけるとガンプラバトルで痛い目に合わせちゃうからね!!」

 

「ふっふっふ……それは困るから、千歌ちゃん行こう!!」

 

「ふぇ?あ、待ってよ曜ちゃん!!あ、梨子ちゃんお邪魔しました~」

 

 嵐のように去っていく二人に怒ろうにも昴君が膝に乗ってるために動くこともできない。

 

「まぁ……でも」

 

 こんな誕生日も良いかな……なんて思う私も私なのだろう。




さぁ、貴方はどういう繋がりか分かったかなw

ということで、梨子ちゃん、Happy Birthday!!


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黒澤ダイヤ誕生日番外編

すまない……誕生日当日に投稿するつもりだったのに、親戚関連で遅れてしまってすまない。決してFGOに浮かれてたわけでは(エクスカリバー!!


「なぁダイヤさんよ……これは流石にどうかと思うぞ」

 

 冬休み……というより大晦日の三日前、俺は先輩であり生徒会長である彼女の家に来ていた……というより呼びつけられていた。というのも

 

「いったいどうやったら積みガンプラで一部屋埋まるんだよ!!」

 

 至るところ置かれたガンプラの山に俺はジトリとした目で突っ込んだ。その数、優に百は下らないのは間違いない。

 

「し、仕方ありませんでしょ!!機体の修理やパーツを集める為に買い込んでしまったのですから」

 

「そりゃパーツを個々で買うよりは経済的だけどさ、幾らなんでもこれはやりすぎだって!!ルビィなんか隣の部屋で別のところに運んでる途中でガンプラの山が崩れて生き埋め状態だぞ」

 

 しかもさっき見に行ったら寄りによってスカートだから目を向けられないし、目を向けたら最後果南にナニをされるか分かったもんじゃない。

 

「ぴ、ピギィ……たしゅけて~」

 

「ちょっとまってろルビィ、すぐにこの駄姉をそっちに向かわせるから」

 

「ちょ、誰が駄姉ですのよ!!」

 

「Aqours一のポンコツするダイヤさんが駄姉じゃなかったらなんなんですか!!ほら、さっさとルビィの助けに行く!!」

 

 グヌヌ、と唸ってるが正論の為にダイヤさんはすぐに発掘作業に取り掛かる。

 

(……しっかし)

 

 チラリと詰まれてるガンプラを眺めてみると、俺は少しだけ肩を竦める。『イージス』や『スローネ』系列のガンプラがあるのは当然だが、『1.5ガンダム』や『デスティニー』といった本人は使わないようなガンプラまで、数多く重ねられている。

 

 しかも今では販売すらされてないだろう『ゴールドスモー』までだ。それだけめここが何のためのガンプラなのか分かってしまう。

 

「Aqoursの為のガンプラ、か」

 

 思えばメンバーの機体が破損しても大丈夫なようにと、ダイヤさんは予備パーツを必ずケースに入れて持ってきていた。

 

 メンバーでも梨子、花丸に勝るとも劣らない作成技術を持つダイヤさんの、ここは仕事場であり、その為の倉庫なのだった。

 

「言っておきますけど、昴さんのパーツも作成してますわよ」

 

 心外だと言うように採掘作業を終えたダイヤさんがため息をつきながらジトリと睨む。

 

「ルビィは?」

 

「お昼も近いので作りにお母様のお手伝いを、最近家事にも積極的になってきまして」

 

「そっか」

 

 その言葉で二人きりということに気づく前に、ダイヤさんは俺の隣に自然と立っていた。

 

「……ありがとな、千歌達を支えてくれて」

 

「そう思うんでしたら、少しはマネージャーとしての仕事をしてくれれば良かったんですが?」

 

「悪い、でも高校生でプロなんて物珍しいのに、ガンプライブのマネージャーまでしてたら色々週刊誌がな」

 

 実際1度それで問題が起こりかけたしな。

 

「けど、なんだか懐かしいですわね。この部屋に昴さんと一緒に入るのも」

 

「……そうだったか?」

 

「そうですわよ。昔は果南さんに連れられて来て、ここで鞠莉さんと一緒にプロのガンプラバトルの映像を見たりしてましたわ」

 

「今じゃ鞠莉は新しく会社作ること決めて、俺はそこで果南とタッグプロとして所属、ダイヤさんも新人プロとして鞠莉さんとこの実家の所属として研鑽を積む……まるで夢物語みたいだよな」

 

 それだけじゃない、とダイヤさんは肩を竦める。

 

「恐らく二年もすれば千歌さん達から数人は所属するらしいですし、浦の星は仕方ありませんでしたが、Aqoursは形を変えても残りますわよ」

 

「ま、ルビィはどうやら理亞ちゃんとコンビ作るみたいだけどな」

 

「確かに、聖良さんもそう笑ってましたわね」

 

 互いの言葉が、話を聞くことがこんなにも楽しい。そんな気分だった。

 

「……そろそろだろ、ガンプライブ決勝大会」

 

「……そういう昴さんこそ、ウィンターカップの決勝リーグですわよね」

 

「……互いに悔いのない戦いをしようぜ」

 

「……そう、ですわね」

 

 アキバドームと世界大会専用ドーム、戦う舞台は違っても、チームメイトであることには変わりはしない。

 

「けど、昴さん」

 

「ん?」

 

「悔いのない戦いをする、それはつまり優勝するということですわよね」

 

「……あー、そうだな」

 

 結局、悔いのない戦いをするなら優勝するのはある意味一番の答えだから当然と言えば当然だ。

 

「なんだ、自信がないのか?」

 

「それはこっちの台詞ですわよ」

 

「なら問題ない、俺はもう吹っ切れてるから」

 

 それをしてくれたのは、我らがチームリーダーなんだがな。

 

「なぁ、ダイヤ」

 

「はい」

 

「千歌にさ、最高の景色を見せてやってほしい。俺を救ってくれたリーダーに、最高に輝いた世界ってやつを」

 

「――」

 

 俺のその言葉に、ダイヤさんは少し唖然とするが、すぐに俺の脇腹に肘内を入れる。

 

「イッテ!!」

 

「そんなこと、言われるまでもありませんわよ……だから、昴さんも負けないでくださいね」

 

「……おう」

 

 年の瀬も近いその日の夜、内浦へ久しぶりに吹いた雪がすぐに溶ける程の熱気が、数週間後に東京と静岡の聖地を覆うのは、まだ未来の話。



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お正月番外編

なんか番外編ばっかり続くのは気のせいか、それともお正月だからなのか


「あけまして……おめでとう」

 

「いや昴君、だいぶボロボロだけど」

 

 どうも、天ノ川昴だ。新年明けて二日目、今日は俺の家を大解放して正月パーティーだ。従姉で同い年の曜も水色の着物を着ていて、俺も普段着ない晴れ着でパーティーの準備をしてるわけなんだが

 

「そうは言うが曜さんよ。一昨日の大晦日は果南に年納めという名目で襲われ、ダイヤさんに誕生日プレゼント渡して、少し休んでの漸くのお節づくりだぞ?普通にボロボロになるわ、精根尽きてない方が不思議だわ」

 

「それは……お疲れさま?」

 

「まぁ別に料理は嫌いじゃないから良いんだけどさ。食べる専門の果南と花丸ちゃんが居るから、俺一人じゃ辛かったわ」

 

 まぁその分手伝ってくれた人員も居るわけで

 

「ホント、まさか『saint snow』のメンバーが手伝いに来るとは思ってもみなかったけどな」

 

 チラリと横を見ると、『Aqours』と友好的なライバルチーム、何気に本編より先に出ることになった彼女達に目を向ける。

 

「なんかメタいんだけど……」

 

「理亞ちん不機嫌ダメだよ~笑顔笑顔」

 

「五月蝿い!!」

 

 俺地の文を読んだのか不機嫌極まりない声の一年生鹿角理亞と、同じく一年生でムードメーカーでハーフの瀬名ライムウェルの見慣れたコント、

 

「たく、なんで年明けに静岡くんだりまで来なきゃ行けないのよ……」

 

「そう言いながら陽さん、隠れて嬉しそうにしてましたよね」

 

「し、してないし!!その眼鏡は飾りなの!?」

 

 完全にツンデレてる二年生小鳥遊陽と、『saint snow』のマネージャーにして今年の世界大会でバチバチにやりあった二年生、狐糸辺雪典の事実上のカップル、そして

 

「すみません、前乗りしたあげくお部屋まで借りてしまって」

 

「ホントは千歌さんのお家の旅館にするつもりだったんだけど、サプライズで来たかったので、すみません」

 

 確り者の三年生二人組、鹿角聖良と祥 來楽(さち らいら)の二人にいえいえと俺は手を降った。ちなみにこっちもそれぞれ着物を着ていたりする。

 

「別に俺以外住んでませんしね、使ってもらえるなら寧ろ喜んでくれると思いますよ、両親も」

 

「ホント、ありがとうございます」

 

 深々と頭を下げるライバルに笑顔ながらも少しだけ睨む。

 

「まぁ次の世界大会でも負けるつもり無いしな、『プレアデス』使えば絶対にけちょんけちょんにしてやれるし」

 

「次は絶対に勝ちますから、『ムラマサ』で三枚に下ろしますから」

 

「あぁ?なら後で年始めのバトルでもするか?完膚無きまでに叩き潰すぞ」

 

「面白いですね、ダメージはAですよねそれ」

 

 バチバチと火花を散らしてるが、お互いに準備の手は止めずに俺は料理を作りながら、雪典は出来た料理を皿に乗せて仕上げる。

 

「……なんか女子の、しかも鹿角先輩の所でバイトしてる私達よりも料理も手先も上手いってどういうことよ。しかも喋りながら」

 

「アハハ……昴は一応一人暮しだからね。私いとこだけど」

 

「ユキちんはユキちんで聖良先輩の甘味処で厨房任されてたり、ハル先輩の食事作ってあげてますよねイタイイタイ!!」

 

「アンタは余計なこと言うな!!このポンコツ天然娘!!」

 

 瀬名の頬をムニーっと引っ張る陽に曜も若干苦笑いである。

 

「そういや、千歌達もそろそろ来るんだよな?」

 

「そうだよ~多分千歌ちゃんと梨子ちゃんがそろそろ……」

 

 と、狙ったようにインターフォンがピンポーン!!と鳴り響く。鍵を開けに曜が向かうと、

 

「おはよ~昴くん……って、えぇぇぇ!!なんで『saint snow』の皆さんが!?」

 

 テンプレの如く驚いてる千歌の声に何となく安心してしまう。

 

「おう、昨日の国内線最終便で来たんだと、ここのおせちとかも作製手伝ってくれてるし」

 

「さ、流石聖良さんのところでアルバイトしてるわけだよね」

 

「まぁ千歌の料理よりはマシだろうしな」

 

 不味いという意味でなく、味が平々凡々という意味だが。

 

「で、お前が来たって事は梨子ちゃんも来てると思うんだが……」

 

「はい、勿論居ますよ」

 

「うわ!!」

 

 いつの間にか後に立ってたし……つかどうやって気配消したオイ。

 

「緒川さんから教えてもらいました」

 

「あー、あのリアルSHINOBIか。なら納得……できるか!!いや、なんで!?」

 

「最近善子ちゃんとのO☆HA☆NA☆SHIの為に、少し」

 

 頬を赤らめてるが言ってる内容が物騒すぎるぞリリィタイイタイ!!料理最中にアイアンクローはヤメロぉ!!

 

「今絶対リリィって思ったでしょ?そうでしょ?」

 

「桜内さん!?そんなこと思ってないので手を!!俺包丁持ってる!!」

 

「大丈夫、ただ私の手が光って唸るだけだし、頭壊せば勝ちだから」

 

「それ絶対に大丈夫じゃないし、ここはガンダムファイトする場でも無いから!!」

 

「それより梨子ちゃん、昴くんに東京のお土産渡さなくて良いの?」

 

 と、俺の頭がヒートエンドする前に千歌が助け船を出してくれた。うん、あとで千歌にはケーキを一つ進呈しよう。

 

「あ、そうだった……」

 

「やれやれ……しかし親戚回りも大変だよな、転居しちまってると」

 

「そうね……その点昴君と曜ちゃんは良いわよね、毎日顔合わせしてるし」

 

「従姉っていうよりは従姉弟って感じだけどなっと、梨子ちゃんはとりあえずそろそろ来るであろう一年生ズの見張りよろしく、最悪シャイニングウィザードも辞さない覚悟で」

 

 何せAqoursメンバーのうち三人は色々言い訳しながらつまみ食い(正確には片方は言い訳すらしないが)するので、誰かしらが監視してないと、体型やらなんやらに問題が出ることになりかねない。

 

「それだけアンタの作る料理が美味しいって事じゃないの」

 

「そうずら、こんなに美味しい料理を前におあずけ出来る方が不思議ずら」

 

「そうそう、それに私は昴のパートナーだからね。これは当然のことだよ」

 

「――って、入ってきて早々につまみ食いしてんなこの食いしん坊トリオが!!」

 

 上から津島、花丸、果南の三人に熱々のフライパンによる物理的突っ込みをかましながら、言ってる側からのつまみ食いにため息を一つついた。

 

「はぁ、やっぱりこうなりましたの」

 

「ピギィ……三人とも走るの速すぎだよ」

 

「いや、ルビィは正常だからな。寧ろこの三人がおかしいだけだから」

 

 流石に使用してすぐの熱々のフライパンによる脳天直撃は効いたのか、三人とも蹲りながら後頭部を激しく抑えている。

 

「さて、あとは鞠莉だけど……」

 

「鞠莉さんなら今仕事中のコーチに父からのお酒を届けて貰ってますわよ」

 

「未成年になんてパシりさせてるんだよ……つかそれダイヤが自分で行けよ」

 

「流石に私としてもこの時期の彼処に行けるほどの勇者じゃありませんわよ」

 

 そりゃそうだ。何せコーチ+大人勢は今ごろ千歌の家で大宴会、酒池肉林の混沌となってるのは受け合いだ。

 

「は~い、お待たせ~」

 

「あ、来たみたいですわね」

 

 と、噂をすればなんとやら、紫の着物の上に赤いコートと、どこかで見たことのある姿で両手にケーキの箱を持った我らがアッシーイタタタ!!

 

「誰がアッシーよ!!縄で縛ってケーキの蝋燭をポタポタするわよ!!」

 

「待て待て待て!!アイアンクローは兎も角ケーキが崩れるから!!つかケーキの蝋燭は洒落にならんから!!」

 

「え?ダイヤは寧ろイイ声をしてくれたけど」

 

「あの金髪弁護士の流派はマトモなやついねぇなオイ!!」

 

 まぁまぁ、とダイヤが放してくれたおかげで俺の頭は粉砕林檎に成らなくて済んだ。

 

「さて、料理も出来たしメンバーも揃ったわけだ」

 

 大広間にそれぞれ座り、全員がグラスに各々飲み物が入り手に持つ。

 

「それじゃ……」

 

「新年……」

 

『あけまして、おめでとう!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ

 

「えへへ、すばりゅ~」

 

「ちょ、果南!?なんか呂律回って……ってこれ酎ハイじゃねぇか……ってまさか鞠莉さん!?」

 

「NO!!私は何もしてないわよ!!いったいなんで……」

 

(言えない……ウーロンハイ飲んで大胆になって雪典と……って思ったのに)

 

「あれ?ハルちゃんどうしたの?」

 

「何でもないわよ!!この唐変木!!」

 

「ヒドイ!!」



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精霊使いとの邂逅①

 夏真っ盛りというか夏休みももうすぐといったその日、それは正しく唐突に訪れた。

 

「仕事……ですか?」

 

 部活が終わり、家で寛ごうとした矢先に掛かってきた電話の内容に俺は思わず相手に聞き返した。

 

『ええ、君も知ってると思いますが今のガンプラバトルの敷居は意外と高い、そこで我々矢嶋コーポレーションでは前々からVR……仮想現実とそのネットワークを利用したガンプラバトル技術の確立に向けて動いてきました』

 

 相手はプラフスキー粒子の精製で有名な矢嶋ニルスさんだった。

 

「てことはその仕事っていうのは、その仮想現実のガンプラバトルのデータ取りってところですか?」

 

『いえ、そちらは自分達である程度のレベルにすることはできました。が、問題が起こってしまいまして……』

 

「問題……ですか?」

 

 ニルスさんのその言葉に俺の頭には疑問符が浮かぶ。

 

『ええ、仮想現実は当然ながらネットワークに接続しているわけですが、どういうわけか最近謎のIPアドレス……つまり不明なネットワークと接続されてしまうバグが起こっているんです』

 

「それは……」

 

 結構な大問題だ。というか問題しかない。

 

『そこで自分が試しにその仮想現実プログラムへ、個人的に作っていたガンプラと共に突入したんですが……あっさりと瞬殺されまして』

 

「瞬殺!? ニルスさんが!?」

 

『ええ、ここ十年近くバトルのほうからは遠ざかっていたことが仇になりまして……』

 

「いやいやいや……」

 

 あのPPSE時代のファイターで、尚且つプラフスキー粒子の解析と精製をしてしまうようなあの人が、幾ら長年バトルの第一線を退いていたとはいえあっさり負けるか?

 

 断言しよう、まずあり得ない。

 

『そういうわけで、最近メイジンと戦った君に頼もうと思った次第です』

 

「いやいやいや!! それこそメイジンに頼むべき案件でしょ!? というか自分とかよりも星さんとかフェリーニさんとかのもっと強い人居るでしょ!?」

 

 決して面倒だから他人に押し付けるわけではない。ニルスさんレベルの人が太刀打ちできないような相手と戦いたくないだけだ。大事なことなのでもう一度言おう、戦いたくないだけだ。

 

『メイジンなら一週間前からニューヨークでガンプラ普及イベント、フェリーニさんはハリウッドのキララさんの応援、星くんは個展でサウジアラビアへそれぞれ行ってまして』

 

「なんつうタイミングだよ……!!」

 

『それに、世界大会予選が近いですからプロファイターも色々あって中々引き受けてくれませんからね、近くに住んでいて尚且つプロファイター資格を持っていたのが』

 

「俺だったわけか……」

 

 一応納得したものの、できれば断りたい案件だった。

 

『ちなみに昴さんが居る学校のガンプラバトルチーム……Aqoursでしたか?そのメンバーの一人であり、プロとして昴さんが所属してる所の娘さんから許可はもらってます』

 

「鞠莉さん……何を勝手に……」

 

『まぁ結構な額の報酬と、一週間のニールセンラボへの招待を要求されましたけどね』

 

 朗らかに笑ってるが、こちらからしたら当事者抜きで仕事が決まってるんだから全然笑えない。

 

「分かりました……で、いつ行けばいいんでしょうか?」

 

『昴さんは学業もありますから、次の土曜日にでもお願いします。あ、何なら二人までならご友人を連れてきても構いませんよ』

 

「え?」

 

 まさかの一言に俺は思わず声が出た。

 

『幾らプロとはいえ、一人で謎の相手と戦うのは難しいですからね。援護支援に何人か連れてきて貰ったほうが何かとそちらも都合がいいかと思いますが?』

 

「それはそうですけど……試作機だって何機もあるわけじゃないでしょ? 俺は仕事だから兎も角関係者以外を二人もなんて大丈夫なんですか?」

 

『一応昴くんが使う予定のものを除いても、試作機は三台ありますからなんとかなりますよ。まぁそれでも流石に全部使うわけにはいきませんからね、昴くんが使うのを除けばあと二人までなんです』

 

「なるほど」

 

 そういうことなら受けるのも吝かではない、が、確認しなければならないこともある。

 

「ところで、その仮想世界のバトルシステムって、アシムレイトとか発動するのか?」

 

『勿論、この件が起こる少し前に三代目にテストをしてもらって、ちゃんとアシムレイトが発動するか確認してもらいましたからね』

 

「了解です、そういうことなら次の土曜日にそちらへ向かいますんで、よろしくお願いいたします」

 

 そう言って通話を切ると、仕事モードから脱力してベットにドカリと座り込む。

 

「はぁ……」

 

「昴、ため息つくのは良くないよ?」

 

「そういう果南はいつの間に俺の隣に座ってるんだ? 電話してるときは居なかっただろ?」

 

 まるで忍者かというような絶妙なタイミングで現れた姉貴分にこれまたため息をつきつつ、どうにでもなれと頭をその膝に乗せる。

 

「ちょ、昴? いきなりどうしたの?」

 

「別にいつものことだろ。それに最近はどっかの誰かのせいで心労溜まりまくりだったんだし」

 

「もう……ならさっき言ってたのに私も入れてね」

 

「はいはい……すぅ……」

 

 そんな簡単な会話をしながら、俺は果南の膝枕を受けて軽い眠りにつくのだった。

 

 

 

「というわけで、俺と果南は次の土曜日にニールセンラボへ仕事へ行くことになったんだが、もう一人来たいやつ居るか?」

 

『いや唐突すぎるから!!』

 

 翌日、全員がいつも通り集まっている部室で俺が話すと、知らなかったメンバー全員が声を揃えて突っ込んできた。

 

「仕方ないだろ、鞠莉さんが勝手に受けちまった仕事なんだから」

 

「そういうことじゃないですわよ!! いやそういうことでもあるんですが……鞠莉さん!!」

 

「しょうがないじゃない。パパから日本での昴が受ける仕事の認可は私が一任されてるんだしネ」

 

 何時もの堅物さを発揮するダイヤさんの追及に鞠莉さんは何時もの調子で答えている。

 

「ニールセンラボ……ってなんだっけ?」

 

「千歌ちゃん、ニールセンラボっていうのはガンプラバトルのスポンサーの一つの矢嶋コーポレーションが経営してる研究所で、世界的にも有名な矢嶋ニルスさんが所長を務めてるところだよ」

 

「高校生ガンプラバトルチームの合宿所も兼ねてるんだけど、あまりにも人気過ぎて一泊するのも難しいの」

 

「ほぇ~」

 

 千歌、梨子、曜の二年生組はそもそも分かっていない千歌に教えてるが、正直自分も人気レベルについては忘れてた。スマン。

 

「昴さん、なんで顔を背けてるの?」

 

「どうせ自分も忘れてた事から目を背けてるだけでしょ」

 

「うるさいぞ津島」

 

「む!! ヨハネって呼んでよね!!」

 

「善子ちゃん、五月蝿いズラ♪」

 

「善子呼ぶんじゃないわよズラ丸アンタは!!」

 

 なんか津島がギャーギャー騒いでるけど、あれはあれで平常運転だから無視するのが鉄則だな、うん。

 

「けど動けるメンバーって三年生しか居ないズラ」

 

「あー……そういえばそうか」

 

 というのも二年生は東京遠征での経験から新しい機体作りに今現在追われてる真っ最中で、ルビィと津島は花丸の機体作り。そして津島はさらに自分の新機体まで作成してる最中とかなり慌ただしくしてる。

 

「となると鞠莉さんかダイヤさんの二人か……」

 

「……いえ、私は今回は遠慮しておきますわ」

 

 俺が考え込もうとした途端、まさかの発言がダイヤさんから飛び出した。

 

「What's!? まさかダイヤから折れるとは思っても見なかったわ」

 

「うんうん、ダイヤなら絶対に行きたいとか言いそうだもん」

 

「二人とも……」

 

 意外そうな顔をする幼馴染み二人を見たダイヤさんの表情はどこかイラッとしていたが、すぐに何時ものポンコツモードに戻る。

 

「誰がポンコツですか!?」

 

「地の文に突っ込まないでくださいダイヤさん」

 

 アンタはいつの間にエスパーになったと、心の中で突っ込みつつ、部室に置かれている小型冷蔵庫からお茶を出してダイヤさんに渡す。

 

「まったく……私が降りたのは単純に昴さんと果南さんとの相性が良くないからですわ。何せ二人とも防御無視して突っ込んでいくんですから」

 

「失礼な、脳筋な果南と違って俺は考えて戦ってるぞ」

 

「昴、あとでどうなるか覚えときなさいよ?」

 

 背筋に走った寒いものをとりあえず置いておきながら、俺はダイヤさんに抗議する。

 

「昴さんの場合武器捨てて殴りにいくので異論は認めませんわよ。そのせいでシールドビットも邪魔になるから使えないしで私がどれだけ苦労してるか……」

 

「す、すみません……」

 

「というわけで、私が行っても邪魔になるだけなので、寧ろ……非常に残念極まりないですが鞠莉さんのほうが二人の援護は得意ですし、チームで動くのならばあなた方三人はちょうどバランスが良いですからね。とても、とっても遺憾ですが」

 

 凄い悔しそうに歯軋りまでしてるし。そこまで悔しいかよ

 

「なので鞠莉さん、果南さん、そして昴さん。くれぐれも……く・れ・ぐ・れ・も!! 粗相のないように頑張ってきてください」

 

「「「は、はい……」」」

 

 どこから取り出した扇子で掌パンパンしてる姿はとてもヤクザの娘に見えましたとは言えなかった。

 

 

 

 そんなこんなで土曜日、俺、果南、鞠莉さんの三人は鞠莉さんのところの車でニールセンラボへとやって来ていた。

 

「お待ちしてました、昴くん」

 

「えっと、こうやって会うのは初めましてですか、ニルスさん」

 

 態々出迎えてくれたニルスさんに挨拶しつつ、目的の場所へと案内される。

 

「けど流石は天下の矢嶋コーポレーションですね、ここまで大きな研究所を持ってるなんて」

 

「半分近くは合宿所ですけど、それでもプラフスキー粒子関連の研究施設としてはまず間違いなくうちが最大ですから」

 

 アハハ、と軽く笑ってるニルスさんだが、こちらからしたら居て良いのかすら不安になる。

 

「それで、その仮想現実バトルシステムってのはいったいどんなやつなんです?」

 

「簡単に言うとコックピットのような特殊な部屋に入ってもらって、その後はいつも通りの操作で動くようになってます」

 

 そう言って案内された部屋には大型の四角い箱のような機械が置かれており、それぞれの前にはガンプラを設置する台のような物が置かれている。

 

「オーウ!! 先にガンプラをセッティングするんですか?」

 

「えぇ、流石に内部に設置するには現状まだスペースが足りませんからね」

 

 そんな説明を聞いてるのかいないのか、果南は機械の入り口を開け中を確認すると感嘆の声をあげる

 

「見てよ昴、中はZに出てくるコックピットみたいだよ」

 

「え? マジで?」

 

 どれどれ、と確認してみるとそれは果南がまさしく言った通り、宇宙世紀では最早鉄板と言われるコックピット……全天周囲モニターとリニアシートというファンからすれば垂涎もの間違いなしな代物だった。

 

「これどうやって再現を……」

 

「ガンプラバトルは実際のMSと違って色んな計器やスイッチを押す必要が殆どありませんからね、その分視覚情報が重要なので張り切って作ってみました」

 

「……ちなみに特許は?」

 

「ガンプラバトル以外ではあまり必要のない技術ですからね、正式に商品化すれば一緒に通しますよ」

 

 なるほど、と頷きながら観察してみると、

 

「……そういや操縦桿が見当たらないですけど」

 

「それに関しては現在のガンプラバトルのそれを流用してるので、起動すれば自動で出てきますよ」

 

 俺の疑問にさらっと答えてしまうと、ニルスさんはさて、と一言呟き目を真剣なものに変える。

 

「それでは簡単に概要を説明しますよ。これから三人にはこの試作機を使って仮想現実バトルシステムのネットワークへ突入、発生してる謎のネット接続の調査を行ってもらいます」

 

「確認しますけど、外部からのハッキングとかじゃないんですよね?」

 

「それはまずあり得ません。研究所内……特にこの実験区画は有線による外部接続が一切されていない独立回線(スタンドアローン)です。まずハッキングなどできませんし、できたとしてもそれは内部から接続されているPCを使わなければいけないのでまず不可能です」

 

「分かりました。なら俺たちの目的は調査及び原因の排除ということですね」

 

 俺がそう言うと果南がそういえば、と声をあげる。

 

「ニルスさんは何にやられたんです? 昴の話だと瞬殺だったって聞きましたけど」

 

「Oh~!! そういえばそうデェス!!」

 

「オイコラ二人とも!!」

 

 なんて事を聞いてるんだ、そう思ったがニルスさんの顔はどこか微妙なものだった。

 

「瞬殺された……というより不意打ちだったというほうが言葉の上では正しいですね」

 

「え?」

 

「自分が戦ったのは正しくガンプラでした……けど、ただのガンプラじゃなく、人が操縦してるガンプラでした」

 

「……ちょっと待ってください、ということはまさか……」

 

 一瞬考えた中でまさかと思った。ありえないと思っているはずなのにそれだと頭の中が早鐘をならしている。

 

「ええ、恐らくですが繋がってる先はこの仮想現実バトルシステムが普及している……別の平行世界である可能性が極めて高いです」

 

 

 

 

「ここがバトルフィールドか……」

 

 ニルスさんのあの言葉の後、すぐに機体の中に入った俺ら三人は、出撃と共に視界に広がる宇宙の暗闇と、デブリに息を呑んでいた。

 

『かなり作り込まれてる……結構凄いね、これ』

 

『確かに、そういえばこのfieldってどこか分かる?』

 

 鞠莉さんの質問に、俺は辺り一帯を見回しながら答える。

 

「多分だけどSEED系のL4宙域じゃないか?」

 

『へ~、てことはメンデル(Mendel)ってことね。何ともって感じね』

 

 SEED系ではある意味物語の中心的な場所であるためその言葉には納得できるが、正直悪い予感しかしない。

 

「とりあえず索敵からだな。どうやらここはメンデルの艦船入口から反対側みたいだな」

 

 俺はレバーを操作して鶏冠のクリアパーツを展開しレーダーを確認する。が、範囲内には何も反応がなかった。

 

「目標ははデブリ側か、もしくはコロニーの中か……」

 

『どっちにしろここからコロニー入口の方へ行かなきゃ確認できないね』

 

「なら善は急げだ、さっさと向かう……!!レーダーに反応!?」

 

 移動しようとした瞬間に現れた機体の反応に、俺は声をあげて二人を止める。

 

『昴、数は?』

 

「計測した感じは……三機、多分平行世界とやらのファイターだとおもう」

 

『けど現況の可能性も捨てれないわネ、向かうとしましょう』

 

 鞠莉の言葉に頷くと、俺らは揃ってその方向へ機体を走らせる。

 

「距離からして300メートルだからそこまで離れてない……近付いてきた? こっちに気付いたのか?」

 

『なんにせよ相手の姿が分かるんだから良いでしょ』

 

「そうだな、モニターを最大望遠に」

 

 そうして出てきたのは三機のガンプラで、一目見ただけで厄介だと頬を少しひきつらせる。

 

 1体はダークグリーンのザクⅡ……恐らく高機動型ベースか?大型のマシンガンライフルやミサイルポットの他に多数の大型ブースター、正直言おう、完全に被ってる。

 

 1体はアストレイ系、恐らくゴールドフレームだろう。背後まで見れないから詳しくは分からないが、恐らく背中にドラグーン系の武装を取り付けてるのは間違いない、中衛の荒らし目的か?

 

 そして最後の1体、ベースは一目で分かるというくらいのドムベース。それだけなら兎も角背中にあるバックパックが異常で、まさかのハーミットグラブを背負ってるではないか。

 

「サテライトランチャーは確定だろうな」

 

『確定ネ』

 

『あんなの着けてたら一発で何を装備してるか一目瞭然でしょ』

 

 果南のお言葉に正しくその通りと言いたくなる。だが分かったとしてもアレの火力は考えるだけで恐ろしい。

 

「とりあえず通信開いて確認するか……お『おーい♪聞こえてるかー♪そこのザクのパクり疑惑が濃厚な某種に出てきやがる量産機(笑)を弄ったなんか灰色のヤツに乗ったヤツ。そんなクソジンなんざ使わねぇーで男ならザクを使え。ザクを。いいか?ジンなんざ使ってると周りからいや~ん♪ジンよぉ~♪ザクのパクり疑惑が濃厚なあのジンよぉ~♪近付くとジンがうつるわぁ~ん♪って言われてハブられるぞー。他にもご近所のオバサン連中の井戸端会議で奥さんご存知?ほらアソコの…そう!あの子!ジンなんてつかってるんですってよぉ?怖いわねぇ~。ジンよ?ジン?ザクじゃなくジンなのよ?イヤよねぇー?うちの子にアソコのジンに近付かないように言っておかなきゃダメよね?だってジンがうつったら怖いわぁー。』……」

 

『『あ……(あのザクのパイロット、多分死んだ)』』

 

 さて諸君、最近勝率こそ悩んでるが俺は一応のところプロのファイターだ。あの言葉が煽りのために言われたのは直感的に分かる。

 

 分かるが、それでも今、やつは何といった?『そこのザクのパクり疑惑が濃厚な某種に出てきやがる量産機(笑)』だと? まぁ確かに平行世界なんだろうから俺の事を知らないのは良いだろう、だが、しかし、奴はその事を差し引いても退っ引きならない事を言いやがった。

 

 しかも言ったやつはどうやら先頭にいるザクのパイロットで、さっきも言ったが完全に似たようなコンセプト被ってると来た。これはもうあれだ、数え役満待ったなし。詰まるところ、

 

「ヤロォォブッコロッシャァァァァァ!!!!」

 

 俺は刀を二本抜きアシムレイト強制解放、『灰色の流星』から『ザク絶対殺す(シリアルザクキラー)』へと変貌するのだった。



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精霊使いとの邂逅②

「あー、やっぱりこうなったね」

 

 昴のジンがそれはもうかなりの速度でザクに斬りかかって行ったのを見て、私は思わず苦笑いした。

 

『感心してる場合じゃないわよ果南、止める……のは無理だろうけど』

 

「寧ろああなった昴を止めたらこっちまで巻き添え食らうよ」

 

 何せもうアシムレイトを受けてる感覚があるくらいだから、下手に飛び込んでいったら大惨事になるね。

 

『ならやることは、他の二機を巻き込まないように遠ざけるかしらね?』

 

「それで良いと思うよ。私はあの黒いアストレイやるから鞠莉はドムをお願いね」

 

『えぇ~!!』

 

 だって鞠莉の機体って重武装だから速度でないじゃん。

 

「それに向こうもやる気になってきたみたいだしね」

 

 モニターを確認してみれば、あのザクのパイロットの台詞と、それに対する昴の反応を予測してたような動きを他の二機もしようとしてた。

 

「さて、大人しく倒されてくれるとありがたいんだけどね!!」

 

『果南、倒すのは原因を聞いてからじゃないとダメよ~』

 

 鞠莉の言葉をとりあえず無視して、私はスラスターを吹かせ、宇宙なのに足場を蹴るように飛び出し、ひとまず両手のロングブレードで斬りかかった。

 

『チッ!近接型は相性あんまり良くないからキライなんだけどね、っと!けどね!相性が良くないってだけで早々簡単にヤらせないってのよ!』

 

 けど、紙一重で右手の一撃は避けられ、左手の一撃も右腕の大型トリケロスに備わってるシールド部分で受け流されてしまった。

 

「へぇ、今の攻撃対処できるんだ。けど……」

 

 昴のアシムレイトの影響に入ってるせいで感覚がずれてるのが良く分かる。アタシも最初はそうだったしね。

 

「気をつけて避けるか防がないと痛みで大変な事になるから……ね!!」

 

 アシムレイトの最大の利点、攻撃に体重を乗せることができる事を利用した剣は重く鋭い。流石に奥の手は使ってないから制圧力には欠けるけど。

 

『ちょっと!そこのガチムチな体力オバケで最近はネタで水ゴリラとか呼ばれて弄られてそうな第一回総選挙でドンケツだったクセに2回目で1位になったっぽいヤツ!せっかく久しぶりにうちのバカが私以外のヤツとバトってるとこ見れるってのにムダに嬉しそうに物騒なモン振り回して襲ってきやがるとか一体全体どう言う了見よ!オルゥラァ!ガキじゃねぇーんだからちょっとは空気読よ!空気を!ってかあのジンとやりあってる動画録撮ってるんだからチョロチョロと動き回られちゃ割とマジで邪魔なんだけど!』

 

「え? 邪魔してる? けど昴の所に行ったら多分ガンプラの合わせ目斬られた痛みで色んな所からお漏らししちゃうよ。痛覚遮断設定(ペインアブソーパー)がどうなってるか分かんないけど、アシムレイトの反動って基本痛覚遮断の数値0になるから振りじゃなくてガチでなっちゃうよ」

 

 どこかの大きなお友だちには大喜びな案件だけど、こういった個室でそんなことになったら恥ずかしくて死んじゃうからね。あのソラとか言った男の子から白い目で見られること受け合い受け合い。

 

 え? そういう私はどうだったかって? ……それを聞くならダイヤに頼んでコンクリ詰めにして太平洋の底に沈めちゃうよ?

 

『はぁ?痛覚遮断設定?そんなの精霊使い(エレメンタラー)精霊憑依(ポゼッション)して機体と一つにでもなんないと設定項目出てこないでしょうが!あとアシムレイト?それって確かプラフスキー粒子が禁止される前のガンプラバトルでたまに発現したとかってレアスキルみたいなモンよね?そんな古くさいレアスキルでなんでお漏らしなんて話になんのよ!真姫的イミワカナイことばっかり言ってんじゃないわよ!』

 

<マスター。お話し中に失礼します>

 

 なんか色々騒いでるな~なんて思ってると、通信から電子音的な声……いわゆるAIボイスが聞こえてきた。しかも聞いただけで私にも結構高性能だってことが分かるくらいに。

 

『ウズメ?何よ!今ちょっと真姫的イミワカナイことばっかり抜かしやがるこの水ゴリラの相手で忙しんだけど!急用じゃないならあとにしなさい!』

 

<それでは割と急用の部類かと思いますので、このままご報告いたします。今回のお話では世界線が微妙な感じでアレしてコレしてソレした結果の果てになんやかんやで融合した諸事情により、当機にもアシムレイト関連での痛覚設定項目が特別に増設されております。デフォルトでは100%ダメージがファイターに反映されるドM推奨の設定となっておりますので、マスターがお望みでしたらこちらで痛覚設定を常人向けのそれなりに痛い程度のモノに変更いたしますが?>

 

『いきなりメタい話題が来たし!ってかあんのかい!痛覚設定!』

 

 なんか色々騒いでるんだけど、どうやら向こう側の世界にはアシムレイトが存在しないみたい。まぁ諸刃の剣だし、阿頼耶識とほぼ効果被ってるから無くなったのなら仕方ないか。

 

「ぬがぁぁぁぁぁぁぁ!!ドチクショォォォォォ!!痛覚設定なんて知るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!英語も国語も数学もみんな年下のバカに面倒見て貰わなきゃ赤点確実なめんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!ぐぅおらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!ってかドM推奨の設定ってなんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 しかもワケわからないこと叫びまくってるし、てか

 

「なんなら痛覚設定弄る時間くらいはあげるよ?まぁ昴の強請アシムレイトがあるから無効にすることはできないだろうけど」

 

 なおこの痛覚遮断設定、さっきのAIが言ったようにデフォルトだとダメージ全部がフィードバックするんだけど、代わりにアシムレイトは阿頼耶識を比べるのも烏滸がましいほどに、機体が体の一部みたいに動くんだよね。

 

 これをデフォルトから下げていくごとにフィードバックは減るけど、代わりに動きがその分だけ機械じみた、言わばシステムが動かすみたいな動きになる。言わば一長一短なわけだ。

 

 ちなみに鞠莉は機体の特性上前もって耐アシムレイトのプログラムを機体に入れてるからアシムレイトにならないんだけど……あ、

 

「鞠莉、そっちのドムのパイロットの方にはアシムレイトのこと伝えた?」

 

 思い出したように通信を開いて、ドムと戦ってるだろう鞠莉へと通信を開いて確認してみれば

 

『へ?……Oh~!!ごめん忘れてたわ!!』

 

 案の定忘れてたみたい。

 

「いやいや忘れちゃダメでしょ。普段のバトルなら兎も角今回は調査なんだから、この人たちの力も借りなきゃいけないかもしれないし」

 

『OK、そういう果南こそお得意の間接技なんてやらないようにね』

 

 分かってる、と伝えて通信を切ると

 

<設定完了しました。これで機体から反映されるダメージがドM推奨からタンスの角に小指をぶつけた時の痛みレベルまで減衰されていると思われます。>

 

 タイミング良く、どうやら相手の方も設定が終わったのか通信を開いてきた。AIの言葉通りなら多分30%近くまで落としたのかな?

 

「設定は終わったんだ」

 

『えぇ!えぇ!どっかの誰かさんのクソ忌々しいお節介のお陰さまを持ちましてしっかりばっちり普段はやった事ないよーなクソめんどい設定を懇切丁寧にやらせていただきましたよー!だ!お礼にきっちりノシ付けてぶちのめしてヤるんだから精々覚悟しときなさい!!このドチクショーが!!』

 

 なんか妙に煽るような言葉なのは気のせいか。ていうかさっきの水ゴリラってなに?新種の海底生物か何か?

 

「そ。なら本気……は出せないけど全力で行くから付いてきなよ!!」

 

 とりあえず煽りは無視して、一つ深呼吸してから剣をしまい、本編ではまだ出してない私の三つ目の奥の手の一つを解放する。

 

「RGシステム、イグニッション!!」

 

『はぁ?!ちょ!あーるじぃーしすてむぅぅぅぅぅぅ?!』

 

 解放と同時に機体全体が白く輝き、RGシステム特有の光の線が機体を走る。

 

 昴が居ないときにアシムレイトと同じようにするための阿頼耶識、限定的に最大速度をあげるトランザム、そして機体の出力を引き上げるRGシステム、流石に三つ同時に使うと大変な事になるけど、アシムレイト(阿頼耶識)RGは肉体の負荷はそんなにないから、本気は出せない全力ならこれが一番なんだよね。だから、

 

「さぁ、全力で行くよ!!」

 

 宇宙だというのに、地面を強く蹴るように加速し飛び出した私は一瞬であの黒いアストレイの胸元に入り込んだ。

 

『チッ!あのバカと似たような事を!』

 

「遅い!!」

 

 マニピュレーターに粒子を纏わせた右ストレートは見事に胸元……ではなくギリギリ間に合ったらしいトリケロスのシールドにぶつかり、衝撃で近くのデブリにぶつかった。

 

『いったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃぃぃ!!ぬぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!ふぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』

 

 流石に三割のフィードバックでもかなりの痛みらしく、通信からは悶絶するような叫び声がこだましてる。しかし

 

「へぇ、中々固いね……今ので抜けると思ったんだけど」

 

 普通ならシールドくらい簡単に貫通して破壊できる威力のパンチを放ったはずなのに、破壊すらできなかったことに少しだけ驚く。

 

 しかし、それでもシールドパーツは見ただけでひしゃげてるのが分かる。あの様子だと多分ランサーダートを射つことはできなくなったかな。

 

「(確かトリケロスは腕と一体化してる武装だって昴が言ってたから、暫く右手は痺れて使い物にならないはず)もう一発くらいなさい!!」

 

 油断無く、トドメを刺す勢いで殴りかかろうとしたんだけど、そうは問屋が下ろすわけないことで

 

『ゴルゥゥラァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!クソ水ゴリラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!ウズメェェェェェェェェェェェェェェ!!』

 

<“ヤサカニノマガタマ”全基射出。オフェシンブシフトで起動します>

 

 もう言葉にすらなってない声にAIが反応、何やら背中から丸い何かを展開させる。

 

「あ、これヤバそう」

 

 小さく呟いた言葉が聞こえて無いだろうが、私にとって嫌なそれは、

 

『うっしゃおるぅらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!片っ端から穴だらけにしてぇぇぇぇ!!ぬっこぬっこにぬっころしやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!』

 

<了解しました。攻撃を開始します>

 

 予想通り遠隔操作兵器……アストレイだからドラグーンだったそれがまさしく豪雨さながらにビームの雨を大量に降らしてきて……ってヤバイ!!

 

「ちょ、ドラグーンは困るって!!」

 

 幾らRGで機体全体のポテンシャルが上がってるとはいえ、機体自体に耐ビームコーティングなんてされてないから、一発被弾しただけでも大変な事になっちゃう。

 

 慌ててステップを踏むように回避し、右手にGNバスターライフルを抜くと動き回るそれを狙っていく。

 

「射撃嫌いなんだからやらせるなっての!!」

 

 相手もろとも消し飛ばす為に最大出力で発射するが、それは完全に悪手だった。

 

『“マフツノヤタカガミ”起動!』

 

 なんか神話に出てきそうな単語が聞こえたかと思うと、あの黒いアストレイは左手に取り付けられた、トリケロスのシールドとは別のシールドを展開する。

 

<“マフツノヤタカガミ”起動します。アブソーブシステム、スタンバイ>

 

『災い転じて糧となれ!!』

 

 するとなんて事でしょう。直撃するかと思ったビームはシールドに触れた瞬間にまるで意味を介さない……それどころか吸収してしまったのだ。

 

「ちょ!?ビームを吸いとった!?」

 

 ウィングゼロの最大出力のバスターライフルとまではいかないけど、結構な威力のビームをまるでそばを啜るように一瞬で吸い込んでしまったあの黒いアストレイに、私の頬が引き攣った。

 

「昴が言ってたアブソーブシステムってやつ? なら射撃はやらなくて良いみたいね!!」

 

 バスターライフルを再びしまい、ドラグーンが動かない今、再び急接近をしかける。

 

『急加速する連中へと対処方法は加速し始める前にぶっ潰す!!もっかいいけ!“ヤサカニノマガタマ”!!あーんど!コイツも貰っときなさい!!』

 

 が、やっぱり接近されたくないから飛ばしていたドラグーン、さらにおまけにどうぞと言わんばかりにビームライフルまで射ってきた。

 

「もう、ホントにドラグーンとかビットとか嫌いなのに!!」

 

 もうムカついて来たのでロングブレードを両方抜いて、

 

「昴みたいに合わせ目は斬れないけど、切り裂くぐらいなら!!」

 

 ロングブレードに粒子を纏わせ、振り抜いて斬撃を飛ばす。両手の剣から放たれたそれは全部で6つ?飛んでるドラグーンのうち、二つを真っ二つに切り裂き、爆発した。

 

『うげっ?!飛ぶ斬撃?!なんてインチキしてくちゃってんのよ?!』

 

 インチキって、昴どころか昔ニルスさんもやってるから別段ガンプラバトルでは普通なんだけど。って、そんなことよりも。

 

「いまだ!!」

 

 隙が出来たこの瞬間、スラスターを再全開、再び剣の間合いに入り込むとロングブレードに粒子を纏わせ、今度はそのまま攻撃しようとするが、

 

「ウズメ!防ぎなさい!!!!!」

 

<ディフェンシブシフト起動。防御フィールド展開します>

 

 一瞬でドラグーンがビームの防御幕が展開され、攻撃をギリギリで防がれた。

 

『無理を通してオマケに道理もアイツもまとめて全部ぶち抜きなさい!!逝け!“御雷槌”!!』

 

 だけじゃなくて、あのトリケロスに内蔵されてたランサーダートを、ゼロ距離で放とうとしてきた。

 

「ちょ!?」

 

 あの拳の一撃で使えないと思ってたランサーダートを撃ってくるとは流石に思ってなくて、慌てるが時すでに遅し、発射されたそれは回避しようとしたが右肩と右脇腹をかすっていった。

 

「ぐっぁぁぁ!?」

 

 当然アシムレイトのフィードバックが肉体に幻痛としてあらわれ、毎度のことながら痛いを通り越して吐き気すら沸いてくる。

 

 さっきのAIが言ってたように100%フィードバックはドMならご褒美とか言われるくらいの痛みなんだけど……生憎とこの程度の掠ったで怯むほど昴のパートナーはやってない。

 

「こんのぉ!!」

 

 痛みを誤魔化すように剣を捨て、マニピュレーターで顔を掴み膝蹴りをコックピットブロックに数発叩き込む。

 

『いっ…たいんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!こんのぉぉぉ!!ボケがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 相手も負けじと振り払い、トリケロスで殴りつけてきて胸部にいくつも傷をつける。

 

 最早不良の取っ組み合いというか殴り合い、殴っては殴り返されという攻撃を何回も繰り返し、その度に痛みを受ける。

 

「さっさと!!」

 

『落ちなさいよ!!』

 

 そして互いの全力の……トドメを刺さんとばかりのパンチを振りかぶったその時、

 

「『!?』」

 

 突然耳をつんざくような大爆発が起こり、慌てて聞こえてきた方向……メンデルコロニーの方向を見ると、そこには

 

「え……」

 

『なによ……アレ……』

 

 コロニーの中心から煙が登り、その中に巨大な影が見えるのだった。



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精霊使いとの邂逅③

「さぁて……あのドムも近づいてきたわね」

 

 とりあえず果南と昴の邪魔をしないように罠を張りつつ、再びあのドムを映したモニターを確認する。

 

 見た感じ、手持ちの武装は両手のシールドしか持ってないから武装のほとんどはバックパックのカニ……ハーミットクラブの部分に集約してるのは何となく分かる。

 

 ていうか、アシュタロン・ハーミットクラブもそうだったから想像しなくても予想できること。

 

「ならやるべきことは決まってるわね」

 

 手持ちのハイメガキャノン怪を背中にしまい、右手の二連装ビーム砲と肩のメガソニック砲、さらに背中に取り付けたミサイルポットから通常弾頭を選択し、照準をドムに全て合わせる。

 

「何時も通りのシャイニ~よ!!」

 

 当然のようなフルバースト、下手な鉄砲なんとやらとは良くいうけど、小原のプリペンターチームメンバーも搭載してる最新のロックオンシステムを使ってるんだから当たらないわけがない。

 

『残念無念♪うちの“ハーミット”はちょい普通やないんよ!!!』

 

 しかし予想していたかのようにシールドで防いでる……んだけど、

 

『んぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!』

 

「あ」

 

 かなり酷い絶叫にそう言えばアシムレイトのことを伝え忘れていたことを思い出す。

 

『鞠莉、そっちのドムのパイロットにアシムレイトのこと伝えた』

 

 しかもタイミング良くか悪くか果南から通信で確認されてしまった。

 

「へ?……Oh~!!ごめん忘れてたわ!!」

 

 慌ててそう言うけど、私の背中には冷や汗が流れて止まらなかった。

 

『いやいや忘れちゃダメでしょ。普段のバトルなら兎も角今回は調査なんだから、この人たちの力も借りなきゃいけないかもしれないし』

 

「OK、そういう果南こそお得意の間接技なんてやらないようにね」

 

 ごめん果南、もう最悪をやっちゃった。とは言うことが出来るわけがなく、声が震えないように何時もの軽口を返すしかなかった。

 

 さて、通信を切って恐る恐る相手の方を見てみれば

 

『なぁなぁ?ちょっとうちとタカマチ式の()()()()…しよか?』

 

 なんか黒いドムなのに白い魔王が見えそうなオーラでそんなことを言っていた。

 

「え、えっと……sorry?」

 

 顔を引き攣らせながら謝るけど、背中から取り出した大型の砲身をこちらに向けて

 

『なぁ?知っとる?うちのドム・ハーミットの背中の“ヤドカリ”から伸びとるコレな?“サテライトリボルバー”って言うんよ?中の弾倉部分に高圧縮エネルギーカートリッジって言うんちょい特殊なエネルギーカートリッジが入っとって、ソレ1発につき通常威力のサテライトランチャーを6回ぶっぱなせるんよ。カートリッジは全部で6発あるから、最大で6×6=36回はサテライトランチャーがノーリスクでぶっぱなせるっちゅーワケやね。もちろんそうそう簡単に避けれんように威力は多少落ちるんやけど拡散タイプなんてインチキくさいモンでぶっぱなそうかと思うんやけど…あなたはどう思う?ナニがどうなっとるかイマイチわからんけど、どうやら機体のダメージが自分に反映される真姫ちゃん的イミワカンナイ♪&スピリチュアルな状態みたいやから、熱々のビームのシャワーなんてモンが全身に降り注いだらきっとドM推奨の嬉し楽しい事態になるね♪さて…熱々のビームのシャワーでダチ○ウ倶楽部っぽいリアクションするんがイヤなら……ちょいナニがどうなっとるか懇切丁寧に誠心誠意真心込めてアホにも簡単に理解できるように全力全開で今すぐに説明してくへれんかな?』

 

 そんな綺麗な脅しを避ける術はなにもないわけで

 

「……はい」

 

 自分の迂闊さ加減に頭を下げながら誠心誠意、せめて殺されないようにしようと思うのだった。

 

 

 

『“アシムレイト”ねぇ…。』

 

 とりあえずドムのパイロット……名前を聞いたら驚き、かのμ'sの東條希さんに事情を全部お話しし、とりあえず情報交換と相成った。

 

 当然ながらアシムレイトの痛覚遮断設定も説明して、数値をギリギリまで下げてる。

 

『そちらさんはそちらさんでこの変な具合にくっついてしまっとるサーバーの調査に来た…った事やね?』

 

「そうでぇ~す。けど、まさかあの希さんとにこさんが調査に来るとは思ってもみなかったわ」

 

 聞いてみればμ'sが結成される少し前で、さらに平行世界だからか私達の知ってる機体とは全然違うから驚きだ。

 

『「ところで、あのジン/ザクのファイターって誰なん/です?」』

 

 見事に同じタイミングで口にして、さらに機体を指さしてしまった。何となく恥ずかしいんだけど、これ。

 

『あのザクに乗っとるチンピラは本名は鳴神 青空(なるかみ そら)。“電子精霊”持ちのガンプラファイターさんやね。今は色々あってご覧の通りにただのチンピラの親戚みたいなもんなんやけど、アレでも一応は史上最年少の七歳で世界大会を勝ち抜いたとかふざけた戦績持っとるチンピラなんよ?あとは…そうそう♪基本的にチンピラなんやけど、それでも“始まりの精霊使い(オリジナルエレメンタラー)”って二つ名持ちのちょいスゴいチンピラなんよ♪』

 

 その説明に頭が痛くなる思いだった。世界大会を七歳で優勝?いろんな意味でふざけるなと思うと同時にある疑問を持つ。

 

「What's? えっと電子精霊ってなに?」

 

 そう、恐らく私達が今乗ってるコックピットタイプのバトルが主流の向こうの世界で、精霊というまさしく真姫的イミワカンナイオカルトが存在するのよ。

 

『“電子精霊”ちゅ~んはネットワーク上で自然発生した自我を持ったAIさんたちの総称やね。なんでかは知らんけど、この電子精霊さんたちは普通のAIさんたちよりアホみたいに高性能なんよ。その反面、自ら意思を持っとるから、普通の人には従わんようになってしまったんやって。そんな電子精霊さんたちと契約して使役しとる連中の事を“精霊使い(エレメンタラー)”って呼ぶんや。契約とかどうやって電子精霊さんに選ばれるとか、そこら辺がど~なってるんか、ぶっちゃけうちは“精霊使い(エレメンタラー)”やないからようはわからんのやけど…。』

 

 その説明に私はまた頭が痛くなった。電子精霊とかってのはつまりAIの上位互換的なもので、しかもザクのパイロットは世界最年少チャンピオンときた。

 

 てかなんでそんな人が今チンピラになってるのよ。そっちの方が真姫的イミワカンナイよ。

 

「えっとじゃあうちの昴の事ね。名前は天ノ川昴、今操ってるジンが大好きで……同時にザクが天敵というかなんというか……」

 

『ザクが天敵って、その昴君って子はザクが嫌いなん?』

 

「うーん、別にザク自体が嫌いとかじゃなくて……」

 

 一応昴に聞かれないように通信を秘匿回線に変更しておく。

 

「ほら、昴ってジンを使ってるんだけど……回りからジンを使うことに白い目で見られたり、ジンを馬鹿にされたりで……色々あって着いた二つ名が『ザク絶対殺す(シリアルザクキラー)』」

 

『うわぁ……。それは…なんと言うか…なんと言えばえぇか……うん。やっぱりうわぁ…やね…。』

 

 いやまあ、昴がやり過ぎたというところもあるから一概になんとも言えないのが悲しいというか、なんというか……

 

「けど、同時にもう一つ昴には二つ名があるの。流星のように駆け抜け、通った先には合わせ目を切り裂かれたガンプラだけが残る。世界大会本選で呼ばれたそれは正しく……『灰光の流星(グレートシューター)』、それが世界最年少プロガンプラファイター、天ノ川昴なの」

 

 私の説明に希さんはなるほどと頷いて

 

『やっぱりあの子ってプロファイターさんやったんね。それで合点がいったやん。こっちの世界線やと同年代じゃほぼ敵なんておらんそらっちと、まとも以上にやりあっとるなんて、そんなんどう考えてもプロファイターさんレベルがないとムリやもんね♪』

 

 まとも以上、その評価に少しだけ嬉しくなると同時にちょっとした悪戯心が沸いたわけで

 

「あ、それに負けはしたけどあの三代目メイジンとも互角に戦ってたわね」

 

 ちょっとだけ爆弾を落としてみた。

 

『…それマジなん?うわぁ…あのある意味ガンプラバトルが好き過ぎてぶっちゃけ半分位はもうなんかイカれとる感じの三代目メイジンと互角にって…正直ドン引きやねん…。』

 

 嘘は言ってない。四人バトルとはいえ、本気のメイジンと三分ぐらい熾烈なバトルを繰り広げられたんだから、もっと頑張れば互角くらいにはなれると思うわね。

 

「で、どうするの?このまま他のバトルを観戦……なんて言わないわよね?」

 

 私がそう聞くと希さんは通信越しに笑うと、少しだけ距離を取ってシールドを回転させビーム砲を展開する。

 

『ヤるしかあらへんやろ♪』

 

「そう言うと思ったわ!!なら、私のパラス・イリスとdanceを踊って貰おうかしら!!」

 

 私はそう言うと二連装ビーム砲を構える。

 

『盆踊りでえぇなら喜んでお付き合いしたるよ♪うちとうちのドム・ハーミットで!!!』

 

 お互いに一瞬間を空け……そして

 

「いくわよ!!」

 

 私はスラスターを吹かせ後方へ下がりながらビームを放つ。

 

『その程度なら占わんでもまるっとお見通しや!!!』

 

 が、相手は左片方のシールドで簡単に防ぎ、右のビーム砲でこちらを狙ってくる。

 

「(どうやら見た目通りの固定砲台タイプのファイターみたいね)ならミサイルはどうする!!」

 

 弾頭は焼夷弾……つまり火傷を負わせるミサイルを10発、さらに事前に仕掛けておいた置き型ミサイルを五発死角方向である後から発射させる。

 

『残念やけど…とっくの昔にソレも予測済みなんよ!』

 

 しかし希さんはまるで読んでたように焼夷弾ミサイルはビームで、後からのミサイルはあのハーミットクラブのハサミで防がれてしまった。

 

『バレル展開♪高圧縮エネルギーカートリッジ♪ロード♪』

 

 と、一度しまったはずのサテライトランチャーらしきものを取り出すと、此方に向かって照準を向けて

 

「させない!!ステルスミサイル!!」

 

 流石に嫌な予感がしたため、これまた事前に仕掛けておいたステルスタイプのミサイルで邪魔をしようとしたのだけど……

 

『ハーミットユニット!セパレーション!か~ら~の~♪よっこらしょっと♪』

 

 なんとあのハーミットクラブ、正しくジャスティスのリフターのように機体を乗せると自由自在に動いてきた。

 

 さらにサテライトランチャーにカートリッジみたいなものが取りついてるのを見ると、どうやらマイクロウェーブを無視して射てるとか、言うのは悪いけど、結構ズルい。

 

『それじゃ今度こそお待ちかねの…サテライトリボルバー♪ふぁいや~♪♪♪』

 

 固定砲台ならぬ移動砲台と化したドムから放たれたサテライトキャノン、正直普通なら諦めるわけだが、

 

「私を甘く見ないで!!オフェンスモード起動!!」

 

 そう簡単に諦めるほど、私はお人好しでも意気地無しでもない。

 

 機体の重量からはあり得ない速度で移動し、私はビームサーベルを右手に抜いた。

 

『そんなん武装盛り盛りのてんこ盛りで高速機動とか何の冗談やねん?!』

 

「後方支援が鈍重なんて決まりは無いのよ!!」

 

 降り下ろしたビームサーベルはリフター状態のハーミットクラブの左のハサミを切り裂き、大爆発を引き起こす。

 

「よし、もう片方も……!?」

 

 斬ろうとした次の瞬間、突然衝撃を受けて吹き飛ばされる。何が起こったと思っていると、どうやらナックルガードに変形させたシールドでぶん殴ってきたみたい。

 

『ほれ♪ほれ♪しっかり避けんと痛いんとちゃうん?』

 

 さらにそこからリフターを背中に戻し、後退しながら二つのビーム砲を放ってくる。

 

「ちぃ!!」

 

 慌てて体勢を取り直し、デブリの影を縫うように射線から高速で離れ、大型のデブリの後ろへ隠れる。同時にオフェンスモードの起動時間が終了して待機時間へ入った。

 

「離れたのは良いけど、多分サテライトランチャーを射ってくるわよね……」

 

 エネルギーレーダーを確認してみれば、やはりというか相手はあの場から動いておらず、寧ろその場でかなりのエネルギーが集束していた。

 

「サテライトランチャーと撃ち合い……勝てるか……じゃなくて勝つしかないわよね」

 

 背中にしまっていた特製のハイメガキャノン怪を取りだし、チャージを開始する。

 

「(チャンスはたった一回)」

 

『(これは外しても威力負けしてもアカン感じやね…)』

 

 同じ砲撃型の機体だからこそ、勝負は一瞬だけ。だから

 

「ターゲット、LOCK ON!!」

 

『ターゲットサイトのど真ん中!捉えてかーらーのぉ!!!』

 

「ハイパー……シャイニー!!」

 

『サテライトリボルバー!ファイズブラスト!!!ふぁい!!!!!』

 

 互いの砲撃が放たれるオレンジと白の巨大なビームがぶつかり合う。

 

「ぐっ……!?」

 

 けどやっぱり出力オバケなハイメガキャノン怪とはいえ、サテライトランチャーとのぶつかり合いでは純粋に火力が違う。徐々に押し込まれようとしたその時、

 

「『!?』」

 

 突然メンデルコロニーの方から爆発が轟き、互いに砲撃を慌てて中止する。

 

 流石に高出力ビーム同士が激突した影響でレーダーは磁場嵐を起こしてしまっていたが、そんなもの関係なしにそれはモニターに映った。なぜなら

 

「……うそ」

 

『あれは……ちょいと厄介そうやなぁ…。』

 

 あまりにも巨大すぎる何かがコロニーの外壁を突き破って姿を現してたのだから。



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精霊使いとの邂逅④

 俺は激怒した。かの暴虐なるザクを斬り殺さんとブレードを抜いて奴に斬りかかった。

 

『うげっ!なんじゃあの機動!?』

 

『有り体に言えば、きゃーゴキブリみたいに変態機動で飛んでくるー。めっちゃキーモーいー。ですね』

 

『おい待てクソAI!なんだよそのクソみてぇなしゃべり方は!』

 

『ひと昔のギャルっぽく表現しただけですがナニか?』

 

『イヤ、そう真面目に返されると反論できねぇーんだけど…』

 

『それよりもさっさと応戦して下さい』

 

『へいへい…ったく…んじゃ、まぁ…逝くぞ!ゴルゥラァァァァァァ!!!』

 

 奴はビームサーベルらしきものを抜いて対応しようとしてくるが、隙を見てはミサイルやらマシンガンで対応してくる。

 

『ロックオン』

 

『おうよ!!』

 

「流石にビームマシンガンはウザいな……」

 

 これが実弾のザクマシンガンとかならば残弾があるから楽なのだが、ビームマシンガンとなるとほとんど粒子切れの心配がないから困る。

 

 なので、

 

「とりあえずそれは邪魔」

 

 いつもの十八番、右手のブレードに一瞬だけ粒子を纏わせて的確にビームマシンガンの合わせ目だけを狙って斬撃、見事に爆発四散してくれた。

 

『あらまぁ、お見事』

 

『お見事じゃ、っ!いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!』

 

 ライフル系の武器は基本的に銃口を中心に半分になるようにキット作りされてるパターンが大半だから、楽に手札を奪えるから楽でしょうがない。

 

 しかもアシムレイトのおかげでダメージがフィードバックしてくれるから、慣れてなきゃかなり辛いんだよな。まさしく一石二鳥ってやつだ。

 

「次は……そこだ!!」

 

 さらに無防備となった右前腕の間接の合わせ目を狙って斬撃を飛ばそうとするが、

 

『オルゥラァァァァァァァ!!!』

 

 流石にこれは通してくれなく、そもそも合わせ目を斬るだけの威力しか無いから簡単に散らされた。

 

『解析が完了しました。どうにもあちら様は機体の接合部分…と、いいますか、この場合は“ガンプラ”の合わせ目と言った方が正確な表現ですね。そのガンプラの合わせ目を狙って無駄に正確に刃筋を立てて切り裂こうとしている様です。“合わせ目斬り”とでも言うべきでしょうか?』

 

『“合わせ目斬り”だぁ!?なんじゃそりゃぁ!?』

 

「へぇ、サポートAI持ちか」

 

 うちじゃ桜内さん以外使わないから珍しいが、俺からしたらカモも同然だ。

 

「いい判断……いや、性能だな。確かにお前の言う通り今やったのは俺の十八番でね。まぁ練習さえすればある程度簡単にできるもんだよ」

 

『近接戦闘を得意とする熟練のファイターなら、確かに練習を重ねれば先程の“合わせ目斬り”は可能ではあります。ですが、それは前提条件として対戦相手の使用しているガンプラの合わせを把握していれば…ではないのでしょうか?』

 

 どうやらチンピラなご主人様と違って理知的……AIに理知的って表現が合ってるのか微妙だが……みたいだな。

 

「んなもんプロで戦ってたらフルスクラッチ機体と戦うこともあるからな、ほぼ素組ベースなら簡単にできる」

 

『プロ…ねぇ……』

 

 まぁプロと言っても去年の夏から半年近く休養してたわけだが、こういう時は言わぬが花ということだ。

 

「そういや名乗るのを忘れてたな、現世界ランク82位の天ノ川昴……こいつは俺の愛機『ジン・アサルトハイマニューバ(AHM)』……テメェを殺す奴の名だ」

 

『面倒なヤツだと思ったらお偉いランカー様ときやがったか…。マジでクソだな…今日は厄日か?』

 

『日頃の行いが悪過ぎるからではないでしょうか?』

 

『うわぁーい……心当たりが多過ぎて今回ばっかりは否定できねぇ…』

 

 まぁ100以内といっても三代目とか伊織さんとかのレジェンドファイターを除いたうえでという、ほぼ運が重なった結果だからそこまでの実力があるかと聞かれると何とも言えないわけだが。

 

「さて……それじゃあ蹂躙の時間だ!!」

 

 今度はブレードをしまい、両手に重突撃銃を抜いて、さらにディープアームズビーム砲を肩に展開、

 

「まずはこれでも貰って逝けや!!」

 

『ホモじゃねぇーんだ!!!野郎相手に逝けるかよ!!!それになぁ!逝くなら惚れた女とベッドの上でヤりながらって決めてんだよ!!!』

 

 バルバルバル!!と小気味よい音をたてて射ち始める俺の段幕を、やはりそれなりの実力があるのか掠らずに避けていくのに

 

(やっぱり世界大会の予選リーグに進めるだけの技量はあるか……だけど)

 

 そう思考していると奴は

 

『うわー、さすがはさいきょーむてきのせかいらんくはちじゅーにいのらんかーさまだー!これいじょーはぼくちゃんじゃよけきないぞぉー!ここははんげきしなきゃー!みさいるはっしゃだー!』

 

 苦し紛れとしか思えないミサイルに俺はため息をつきながら、突撃銃の射線をあわせて迎撃、が

 

「!? スモークだと!?」

 

 爆発したそれはまさかのスモーク弾で、爆発と共に辺りへ大量の煙が視界を奪った。

 

「(破れかぶれに見せたのはスモークと思わせないようの演技……チンピラらしく小賢しいの一言だな)だが!!」

 

 俺は背後からの殺気に素早く剣を抜いて振り下ろされるビームサーベルを簡単に鍔迫り合いで防ぐ。

 

「この程度の悪戯に対処できないと思ったか!!」

 

 迫り合いするビームサーベルを簡単に弾き、すぐさまコックピットブロックに蹴りの一撃を叩き込む。

 

『ぐぇ!?』

 

「はぁ、これだからAI持ちは弱いから嫌なんだよ」

 

『おい、世界ランク82位のこの世の中に81人しかテメェに文句を言えねぇくらいにお偉いお偉いと~ってもクソお偉いクソランカー様よぉ。なぁ?コイツを知りもしねぇで簡単に人の相棒を馬鹿にすんなってんだよ。』

 

『世界ランク82位のこの世の中に81人しか貴方に文句を言えない程度にはお偉いお偉いと~ってもお偉いクソお偉いクソランカー様。クソ誠にもってクソ言いづらいのですが…この世でたった1人の私のクソマスターを馬鹿にしないで下さいますか?こんなもんで実に不愉快です』

 

 ありゃ、言い返すだけの気力はあるわけか。ただ相手はザクだが……まぁ気付いてないなら絶望をくれてやるか。

 

「別段深い意味はねぇよ。確かにお前らは強い、多分俺らの方の世界大会の予選リーグ決勝までなら確実に行けるだろう……が、決勝リーグまでは行けない。なんでか分かるか?」

 

『……』

 

「答えは簡単『AIに頼りすぎてる』からだ。世界クラスのプロファイターってのは操作技術と判断力がAIの補助を必要としない刹那の思考と操作で行う。だが、AIに頼れば……」

 

 そこで一瞬言葉を止めて奴に向かって急接近する。

 

『グルゥラァァァァ!!!』

 

 普通ならビームサーベルが当たるであろうその手前で機体の速度を0へ、紙一重で避けた次の瞬間また加速して今度は奴の機体の後ろに回る。

 

『アラート。後方よりお偉いランカーが接近中です』

 

「遅い」

 

 相手が行動に移すよりも早く、奴の首もとに左手のブレードを、背中に右手のライフルを当てる。

 

「ホールド・アップというやつだ。AIがなまじ優秀すぎるせいで自分自身で瞬時に考えて行動する……言わば本能や直感的な行動がまるで殆どない」

 

 だから簡単に裏を取れるし、逆にAI頼りのファイターはそこまで上位に上がってこれない。一人だけ居るには居るけど、あの人も実力に裏打ちされてるから逆に俺は苦手な相手なんだよな。

 

「それに今の状況ならそっちがアクションを起こすより早く此方が貴様を殺せる」

 

『お偉いランカー様はウサギ跳びモドキを使いまくりかよ』

 

 ふーん、そっちじゃそんな風に呼ばれてるのか、これ。けどな

 

「いっちゃ悪いがこんなのは機体加速と減速の緩急を極端にすれば誰でもできる。例え最高速がそこまで早くない機体だろうが、そこからの最低速、そしてまた最高速へと移る技量があれば簡単なものだ」

 

 人の視覚は速度の緩急にとても弱い。遅いチェンジアップからのストレートが早く感じるように、一瞬の緩急を、それもハイスピードの駆け引きが行われるガンプラバトルでやられたら相手は何が起こったか分からなくなる。

 

 勿論機体をそれなりに作り込む必要はあるが、プロファイターならこの程度の作り込みは当然、寧ろそこにその個人個人によっての特色を組み込む事が必然だ。

 

「あと良いことを教えてやる。俺にはアシムレイトっていう……言わば肉体に痛覚ダメージが入る阿頼耶識システムみたいな特殊能力体質があるんだが……俺の場合はそれを相手にも強制的に発動させられる」

 

『そりゃスゴい。流石はお偉いランカー様だこと。俺は特殊能力を持った選ばれし伝説のファイターだ!ってか?いいねぇ。いいねぇ。実にいいねぇ。特殊能力だなんてまさに“主人公”様々だねぇ』

 

「人の話は最後まで聞け……仮に腕を斬られれば切られた痛みが腕に幻痛として現れるわけだが、もし首を切り落としたらどうなると思う?」

 

 俺の言葉に通信越しだが、冷や汗が流れてるのが手に取るようにわかる。チンピラだが地頭は悪くないみたいだな。

 

「答えは『呼吸困難』。過呼吸になって暫くは立ち上がれなくなる……いや、バトルに戻ってこれるかも怪しいか」

 

 現にあの世界大会の後、俺を止めようとした選手は大概バトルに戻ってこれなくなったらしい。そういう意味では俺は加害者なんだろうな。

 

「さぁどうする。素直にジンを馬鹿にした事を謝って死ぬか、抵抗して二度とバトルに戻ってこれなくなるか……」

 

『やれやれですね。これだから知能指数の極端に低いニンゲンは嫌いなんです。まだ仕込めば多少は芸が出来る可能性を秘めているチンパンジーの方が賢いのではありませんか?そもそもこのバカが再起不能程度でビビると思いますか?このクズは死ぬ事よりも、1人きりになる事の方が怖いのですよ。1人きりでは寂しくて死んでしまう寂しがり屋のヘタレ兎野郎ですらね。そんな訳なので孤独に耐えながら1人寂しく過ごす位なら、このロクデナシは喜んで死を選択します。そんなニンゲンなのですよ、私がこの世界に蔓延する低能極まりない下賎なニンゲン共の中で唯一契約を交わしても良いと思ったクソマスターは。あぁ、そうそう。あとどうせ今も内心では殺してくれるなら殺してくれよ。とか考えてますよ?流石は我がクソマスターですね。クソ過ぎてクソとしか言い様がありません』

 

 俺の言葉にAIは躊躇わずに言葉を放った。

 

『挙げ句果てには私の今の言葉に“あ、それ正解”とか呑気に考えていやがりますね?やれやれです。本当にやれやれです。なぁおい敬愛なる我がクソマスター。貴方はさっきからそこのクソお偉いクソランカー様に馬鹿にされっぱなしでよろしいのですか?高々82位程度のランカー様相手に馬鹿にされ続けていてよろしいのですか?それともここまで小馬鹿にされてもナニも感じなくなってしまったのですか?不感症ですか?機能不全ですか?それともマカオで男性器を切除してオカマにでもなりましたか?クソな上にオカマとかもう救いようが無いクソですね。余りにも可哀想で泣けない筈の電子精霊でも思わず涙が出そうですよ。あぁ、この場合の“可哀想”はクソマスターがではなく、いつの日かクソなクソマスターと結ばれる事を夢見ているニコや、秘かにクソなクソマスターに想いを寄せている生徒会コンビの誰かさん達が可哀想に…と、言う意味ですよ?くれぐれもそこの所を間違わない様にお願いいたします。で?何の話でしたでしょうか?あぁ、そうです。ニコ達が可哀想に…ですよ。こんなクソなクソに想いを寄せているなんて彼女達にとっては黒歴史確定ですね。きっとあと5分後位にはクソなクソに想いを寄せていたなんてそんな黒歴史な事実を隠蔽したくなって富士山をマウンテンサイクルに見立てて樹海辺りにでもクソマスターとの想い出の品を埋めに行くのではないでしょうか?その時に親愛なる我がクソなクソマスターもご一緒にマウンテンサイクル富士樹海支店に埋められては如何でしょうか?地中に埋められればクソなクソマスターでも頑張れば即身仏になれるかもしれませんよ?クソお偉いクソランカー様のクソ特殊能力なんかにクソ手伝っていただかなくても、ニンゲンなんか案外と簡単に死ねますよ?目に指を突っ込んで脳ミソをほじれば死ねますよ?今すぐ筐体から降りて屋上から飛び降りても簡単に死ねますよ?それとも首でも吊りますか?電車にでも轢かれてみますか?クソなクソ人生の最後位は笑い茸でも貪り食べて笑顔で大爆笑しながら死んでみますか?ほら?私はとてもとても優しいので特別にクソなクソマスターにお好きな死因を選ばせてあげますよ?選ばせてあげますので殺してくれよとか考える暇がおありならさっさとご自分でケジメをつけて死んでみなさい。ほら、早く死ねよ。とにかく死ねよ。まずは死ねよ。死ねって言ってんだろ?なぁおい、我が愛するクソマスター。死にたいならさっさと死ね』

 

「……いや、流石にそれは言い過ぎだろ」

 

 嫌いなザク乗りなのに一瞬だけアイツに同情しちまったぞ、俺。

 

『さて。我が愛すべきクソマスター。発破はこの辺りでよろしいでしょうか?』

 

『十二分だ!相棒!!!』

 

「な!?」

 

 奴が叫んだ次の瞬間、銃口を突きつけていた背中のバックパックユニットが突然爆発し、俺の事を少しだけだが吹っ飛ばす。

 

「ぐぉぉぉ!!」

 

 予想外の攻撃にアシムレイトの反動、まさかのダメージに俺は声が漏れる。確かに攻撃の手段の一つではあるが、まさかアシムレイトのことを聞いてもやってくるとは思っても見なかった。

 

分離爆破(パージボム)なんて荒業やりやがって!!」

 

 おかげで右手の突撃銃はお釈迦になっちまったじゃねぇか。

 

『テメェのそのタマァ…寄越せやぁ!!ゴルゥラァァァァァァァァァァァ!!!』

 

 しかもその一瞬でビームサーベル二本で攻撃しに来やがった。

 

「いい気になって突撃してくんじゃねぇ!!」

 

 直ぐ様肩ではなく腰辺りに展開させたディープアームズビーム砲で迎撃するものの、まるで意に介せずといった形で避けて近づいてくる。

 

『皆々様、どうか刮目してご覧下さいませ。こちらに見えますのがあの有名な世界ランク82位のお偉いクソランカー様の射線データとなります。流石は我々電子精霊のユーザー様方を一纏めにして“弱い”等とと宣(のたま)ったお偉いランカー様の射線データは見ていて惚れ惚れするモノですね。実に勉強になります。あぁ勿論、見え見えの射撃に対する皮肉ですよ、皮肉。その程度の事はいくら低能なクソランカー様でもおわかりになられますでしょうか?』

 

「AIが射線を識別してやがるのか!!なら!!」

 

 直ぐ様ブレードを抜き、斬り合いへともつれ込む。切っては放れを繰り返す様は、まるで宇宙にメビウスの輪を高速で産み出し続ける。

 

「(マシンポテンシャルはほぼ互角、技量はなんとかこっちが上だけど、相手はAIがある分、総合的にはどっちもどっちか)ならアシムレイトの力で!!」

 

 そう叫び両足のスラスターを全開にしたその時、

 

「っ!?」

 

 突然両足のスラスターの出力が極端に下がり、さらに膝に激しい痛みが襲った。

 

「機体不良だと!?整備は確りとしてた筈なのに!?」

 

 プロファイターとして機体の整備は毎日の日課だ。バトルに置いて必要なのは、それまでに行う準備だということは必須だからだ。なのになぜ

 

『ってか…アンタ、世界ランク82位のお偉いクソランク様なのに気付いてねぇーのか?』

 

「何?」

 

 俺が気づいてない、だと?

 

『アンタ、世界ランク82位のクソランカー様なんだろ?それならそれ相応の技量を持ってんだ。そのご自慢の技量を機体への負荷を一切考慮しねぇで全開でぶん回せばそうもなるっての』

 

「な!?何時ものバトルじゃそんなことは」

 

『こちらの動きに合わせて膝関節に負荷のかかる動き続けていたので当然の結果です。特に先程の“Rrapid acceleration”モドキがいけませんでしたね。アレは膝関節の磨耗と負荷が酷いですからね』

 

『と、まぁそんなとこだな。迂闊過ぎたんだよ、アンタ』

 

「……また、なのか」

 

 彼の言う言葉に俺は歯軋りする。分かっている、分かっている筈なのに、

 

「何時もそうだ、何かにつけて優遇される宇宙世紀の量産機が偉いみたいな風潮、ザクやジムばかり優遇されて、ジンやティエレンといったアナザー系初期量産型は再販の日の目を見ない」

 

 人気なんだろう、ファンが多いのだろう、仕方ないと言う言葉で何時も片付けられる。けど、

 

「お前に分かるか?好きなジンでガンプラバトルをやったときに何て言われたか、『パクリ』、『二番煎じ』、『ザクにお株奪われた雑魚』……ふざけるな!!ジンはそこまで言われるような機体じゃねぇんだ!!」

 

 怒りそのままにコンソールを握り、動かないスラスターを無理矢理に稼働させる。

 

『よろしいのですか?その状態で無理矢理スラスターを使用すれば機体に致命的な損傷が発生する恐れがありますよ?』

 

「ぶっ壊れること大いに結構!!テメェらザク使いを倒せるなら本望だ!!」

 

『なぁおいクソランカー…アホなこと抜かしてねぇーで…ちぃーと歯ぁ喰いしばれやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!』

 

「な!?ぐぁぉぉぉ!!」

 

 俺の魂の叫びを、奴はマニピュレーターで顔面をぶん殴ってきた。

 

『うぉい!おい!おい!おい!おい!おい!おい!おい!おい!おい!おい!うぉぉぉぉぉぉいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!テメェ自身でジンを貶めてどーすんだ!クソランカー様よぉぉぉぉ!!!!!!ジンがパクリ?は?どこが?どこがパクリ?デザインがパクリ?ねぇーだろ?どこをどう見ればパクリだよ?ザクにこれっぽっちも似てねぇーし!なぁ?どこら辺がパクリなんだよ?パクリ要素なんざ皆無だろ?ぶっちゃけパクってんのは種死のザクだろ?もうありゃパクリってレベルじゃねぇーだろ?まんまザクだぞ?名前までザクだぞ?無印のSEEDの量産機がアレだけオリジナリティ溢れるデザインと名前だってのにいきなりジオンの精神溢れるデザインと名前になったんだぞ?ザフトの精神はどこに行方不明になったんだ?なぁおい!いつからザフトはジオンになったんだよ?なぁ?テメェもそう思うだろ?クソランカー様よぉ?で?なんだ?お次はジンが再販されねぇ?ならバ○ダイに気合い入れて嫌がらせの様に何万通もお手紙でも書けや!ボケ!書いて書いて書きまくって、バ○ダイの再販担当の社員がドン引きするくらい書きまくってテメェの想いを叩きつけてやれってんだよ!ってかまだジンなんざ再販されてる方だぞ?SD系のガンプラ見てみろよ?あれ?これこの前いつ再販されたんだっけ?ってのが腐る程あるぞ?再販されるだけでニュースになるんだぞ?元祖SDガンダムのガンプラなんざ噂じゃ金型を紛失したとかって話だぞ?金型自体がねぇーんだ。もう2度と再販されねぇーんだぞ?ジンが再販されねぇどころの話じゃねぇーだろ?ジンが再販されましぇーん!とか抜かしてやがるとSDガンダムのガンプラファンに夜道で後ろから刺されっぞ!ゴルゥラァァァァ!!!!!!カラオケに行って実はSDガンダムのドラマCDに収録されていたTokyo Boogie Nightを選んだ歌うSDガンダムガチ勢のダイバ忍辺りに狙われっぞ!月の無い夜は気を付けるんだなぁ!おい!そもそもジンがザクの二番煎じだなんて言われて簡単にキレんな!二番煎じ?上等だろ?俺は茶は二番煎じの茶の方が好きなんだよ!茶はなぁ!アレくらいが丁度いいんだよ!ぶっちゃけ出涸らしの方が好きだってんだよ!あの薄さがたまんねぇーだろ!なぁおい!テメェもそう思うだろ!それだってのに世の中の連中は濃いお茶がいいだのなんだの抜かしやがって!テメェら家ではどーせ出涸らし飲んでんだからイチイチ下らねぇ見栄なんざ張ってんじゃねぇーってんだ!クソセレブ気取りのクソはどうせろくに味なんてわかんねぇーんだからクソやっすい茶の出涸らしでもしばいてろ!どう足掻いたってクソはクソセレブなんざなれねぇーんだからよぉ!そうそう、知ってるか?クソセレブ様が喰うような高い肉は喰いなれてねぇーと大量に喰うとクソ胸焼けするって?やっすい牛肉を喰いなれてるとなぁ、高い牛肉の脂はキツいんだよ!やっすい牛肉の方が庶民には丁度いいんだよ!ケーキだってそうだ!お高い高級店のチョコレートケーキなんざ喰いすぎるとクソ胸焼けするけど、クソやっすいチョコレートケーキはいくら喰っても胸焼けなんざしねぇーぞ!けどなぁ…フルーツ、アレだけは別だ!フルーツは高い方が圧倒的に美味くて喰いやすい!千○屋のクソ高いデコポン食ったことあるか?クソうめぇーぞ!何個でもいけるぞ!デケぇからジャムにでもしようかな♪とか思ってたけどジャムだなんてもったいねぇ!クソ高いフルーツとイイ女は生のままで喰うのが1番だ!夏場とかは特に裸にひん剥いて生のまましゃぶりついてみろよ?ほんのり塩味がイイ塩梅でたまんねぇーだろ?シャワー浴びてねぇーと汗かいたからダメ…とか恥ずかしがって悶えてる姿がまた萌えるんだよなぁ…。アレは動画に納めておかねぇーとダメだろ?なぁ?テメェも健全なオトコノコならそう思うだろ?それともナニか?テメェはあっち系の趣味人か?青いツナギ着て公園のベンチに腰かけて通りすがりのノンケを片っ端から喰っちまうヤツか?くそみそか?阿部さんか?阿部さんなのか?阿部さんなんだな!?イャー!!!だーれーかー!へるぷみー!阿部さんよぉー!リアルに“ヤらないか?”とか言ってきやがるリアル阿部さんがここにリアルに居やがるわぁー!!!!!!ほーらーれーるぅぅぅぅぅぅ!!!!!!野郎に掘られるならアシムレイト状態で首切られて呼吸困難になった方がマシじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!掘るのは(女の子限定で)いいけど掘られるのはぜってぇぇぇぇぇぇにイヤじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!で?なんの話だっけ?あー…えーっと……ダメだ。思い出せねぇ…。歳かなぁ…。とし子さんやぁ…わしゃ昼めし喰ったかなぁ…?ってうぉぉぉぉい!!!!!!とし子さんって誰やボケェェェェ!!!!!!あ、現在ハーメルンで絶賛連載中の“ガンプライブ!サンシャイン!!~水の乙女と宇宙を求めるもの~”の作者サンのドロイデンさんじゃねぇーっすか。ちぃーす。所で超長セリフってこんなもんでイイっすかね?もっと行きます?行っときます?行っちゃう感じっすか?まだまだ行けますよ?目指せ10000文字とかやっちまいますか?』

 

「台詞が長すぎるわ!!」

 

 序盤はなんかジンを褒めてたのかなんなのかだったのに、途中からよくわからない台詞ばかり並んで何が言いたいのかさっぱり分からなかったぞ。

 

 てか一人で何文字尺使ってんだ‼うちの文字数2000~3000なのに、一話文近い文字数なんて狂気の沙汰だぞ‼メタ発言?気にしてたらコラボなんかやってられるか‼

 

 だからとりあえず

 

「俺の精神の安定の為にさっさと落ちやがれ!!」

 

『テメェが堕ちろやぁ!クソボケクソランカァァァァァァァァァァァァァ!!!』

 

 お互いに拳を振り上げたその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あらぁ♪あらぁ♪まぁ♪まぁ♪オトコノコ同士の拳の語り合いだなぁんてぇ、ステキですわぁ♪そんなぁステキなぁオトコノコ君達にぃわぁ…ワタクシからぁとぉぉぉぉぉぉってぇおきいのぉ♪プ♪レ♪ゼ♪ン♪ト♪♪♪ですわぁ♪』

 

 

 

 

 

 

 

 

「『!?』」

 

 聞き覚えのない女の声が聞こえたかと思うと、巨大なエネルギーがメンデルのコロニーの方から……って

 

「マズイ!!」

 

『グェ!?』

 

 俺は慌ててザクの首もとを引っ付かんでその場から一目散に立ち去る。

 

『「うぉい!クソランカー!!!テメェはナニさらしてくれてんじゃ!ボケェェェェェェェェェェ!!!!!!』

 

「五月蝿いから黙ってろ、()()()()()!!」

 

『は?』

 

 何言ってるんだこいつ、というような顔をザクのパイロットがした次の瞬間、まるで狙ってたかのように先程まで俺達が居た場所を()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、しかも()()()()()()()()()()()()()通りすぎていった。

 

『!?』

 

「嘘だろ……」

 

 余りの威力に開いた口が閉まらないなんて話じゃない。こんな埒外な攻撃を誰が……いや、何が仕掛けたか、そう思ってメンデルを確認してみれば、そこにそれは居た。

 

 その巨大な白亜のボディ、ブルーフレームの青に近い色をした巨大な右腕、そして特徴的なピンクのカラーリングの左腕と頭部のパーツからチラリと見える背中のパーツ。うん、

 

「突っ込みどころが多すぎるわ!!」

 

 なんで大天使(アークエンジェル)、クサナギ、永遠(エターナル)が合体してMAなんかになってるんだよ!!

 



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精霊使いとの邂逅⑤

「おい、ザク使い……俺は疲れてるのか? 明らかに突っ込みどころ満載なMAがメンデルをぶち破って出てきてるんだが」

 

『クソランカー様はその年齢で既に痴呆症を患っておられるのでしょうか。お可哀想に。と、まぁ冗談はさておきまして、今現在、現在進行形で目の前で展開されている光景は誠に残念ながら幻覚でも白昼夢でもありません。なんでしたら途方もなく嫌々ではございますが、そちらにあの“デカブツ”のデータを転送いたしましょうか?あぁ。そう言えばクソランカー様は我々電子精霊を含む全てのAIを使用すると弱くなると先程ドヤ顔で持論を展開されておりましたね。これは余計なお世話してしまい失礼いたしました。それでは詳細データの代わりに痴呆症を患っておられるクソランカー様の為にもう1度だけ同じ事を言っておきましょう。アレは幻覚でも白昼夢でもございません』

 

「いやだからっておかしすぎだろ!!」

 

 サイズに関してはあえて突っ込むまい、1/100どころか多分1/50ぐらいのサイズだが、仮想世界みたいなもんだからなんとかなるのはまだ理解できる。

 

 だが、だからといって、どうやったら戦艦三つを日曜朝の戦隊物よろしく合体させてMAなんて物にしやがった!?というか作れるのかあんなもん!?

 

「もしかしてザク使い、お前んところのフィールドにはこんなネタみたいなガンプラもしくはNPCが闊歩してるんじゃ」

 

『んなわけあるか!!』

 

 速攻で否定されたが、まぁそうじゃなかったらちょっとドン引きしてた。

 

『アラート。“デカブツ”より多数の敵性反応が射出された模様。レーダーで確認する間でもなく、真っ直ぐにこちらへと向かって来てます』

 

 と、AIの言葉に気づいてフィールドを確認してみれば、先程壊れたメンデルの中からあれまあれまと、大量発生した蚊のようにわらわらと出てきやがった。

 

「見たとこM1にムラサメ、それにドムトルか。見事に三隻同盟関連の量産機ばかりだな」

 

『フリーダムやジャスティス、おまけにオーブ国民の血税を私利私欲で使いまくって娘の為に用意されていたアカツキなんかが大量に沸いて来なくてよかったんじゃねぇーの?』

 

 それは遺憾ながら同意だ。寧ろあんなの大量に出てこられたらこっちの戦力的に厳しい。

 

 特にフリーダム、あれはダメだ。なんか知らないがCPU設定のフリーダムとかストフリはどういうわけか当たるはずの攻撃が寸前で避けられたり防がれたりとか余裕で起きるし、何より弾幕的にキツイ。

 

「おい、ザク使い」

 

『誰がザク使いじゃクソボケランカー。俺の名前はソラだ!ソラ!!』

 

「ソラねぇ……ならソラ、とりあえず一先ず休戦するぞ。あんなのに出てこられたらおちおち調査もできやしない」

 

 まぁ恐らく原因は間違いなくあの三隻同盟MAなんだろうが、数が多すぎて戦力的にキツいのは目に見えてる。

 

 それなら……非情に、ひっじょーに不愉快極まりないが、ここはザク使いと共闘してぶっ潰すのが一番の最善策だろう。ホント不愉快だけど。

 

『えっ?普通にイ…『ヤだ。なんて言いやがれる余裕があると思っているのですか?このクソマスターは?“soar”すら使えない未調整のリヴァイブであの数を相手にするのは骨が折れすぎて複雑骨折しますよ。どうせ上から目線がムカつくとか子供染みた事でクソランカー様の共同戦線のお誘いを断ろうとしているのでしょう?我が親愛なるクソマスターにおかれましてはプライドなんて真っ当なニンゲン様が持ち合わせている上等なモノは欠片も持ち合わせてはおられないのですから、さっさとクソランカー様の提案を受けなさい。と頼ると弱くなると言われてしまった事を未だに根に持っているAI風情は愚考いたしますが如何でしょうか?』…うぇ…でもよぉ…『でももけどもありません。頼ると弱いと断言された事を恐らくは生涯根に持つ事を確定事項にした私が嫌々ながらもあのクソランカー様の提案を受ける事を提言しているのです。そこら辺を考慮してご決断下さい。』…はいはい。わーかーりーまーしーたー!わかりましよ!共同戦線張ればいいんだろ!』

 

「コントやってる場合じゃ……来るぞ!!」

 

 俺のその言葉通り、奴等はそれそれビームや機関銃、ミサイルというふざけんなレベルの雨霰をやって来やがった。つか死ぬわあんなの食らったら!!

 

「ちぃ!!」

 

『クソが!!』

 

 後方へ回避しながら互いにビーム砲を牽制の為に射ちまくる。数が多すぎて狙いをつける方が面倒になるくらいだホント。

 

 なのになんでいっこうに減る気配がしないのか、そう思ったら飛んできたソラのサポートAIの言葉に舌打ちしたくなった。

 

『少々あの“デカブツ”にハッキングを仕掛けて調べてみたのですが、どうやらエネミーリポップのシステムロジックが無限ループモードに設定されている様ですね。いわゆる無限沸きで稼ぎ時と言うヤツですね』

 

 無限沸き……つまり倒したら倒した分だけ復活するということか……うん、どんな無双ゲーだよ‼

 

「このまま射ってても粒子の無駄になるだけだなオイ!!」

 

 かといって接近戦に移ったとして、イーゲルシュテルンやらCIWSといった機関銃に撃ち落とされるのがオチだ。

 

「こうなりゃ奥の手を……」

 

『それはまだ早いわよ昴!!』

 

「!?」

 

 通信で聞こえた声にまさかと思うと、メンデルコロニーの左脇に見覚えのある機体……鞠莉さんの『パラス・イリス』とがそこに居た。

 

「鞠莉さん!?いったい何を」

 

『うちらの砲撃であの雑魚とアークエンジェルの足を撃ち抜くんよ♪』

 

 そして何時の間に来ていたのか、俺ら二人の側にやって来たドムのパイロットが通信を……って!?

 

「え!?東條希さん!?」

 

 なんであのμ'sのメンバーがここにいるの!?というかどうしてこんなザクのパイロットと一緒にいるんだよ、そんな考えを読み取ったのか希さんは苦笑いだ。

 

『んっふふ♪そっち側のうちが君にナニしたかは…ってかこれこらナニをするのかは知らん(事もないん)けど、君はうちなんかよりにこっちの方が怖いんとちゃうん?』

 

「……BiBi恐いBiBi恐いBiBi恐い……」

 

『あらま。うちが自分でネタ振っといてアレやけど、君はちょいにこっちのこと怖がりすぎとちゃうん?あとそのBiBiってなんやねん(んふ♪ほんまはBiBiがなんなのか、うちは“視た”から知っとるんやけどね♪みんなにはまだナイショ♪やん♪)』

 

「こっちの世界のあの人らの絡み酒のせいでこっちは大変だったんですよ!!死ぬかと思いましたからねホント!!」

 

 思い出すもないあの東京遠征、どういうわけか集まったμ'sポンコツBiBiトリオに無理矢理居酒屋に連れられて、あんなこと……あんなこと……!!

 

「分かりますか、逃げようとしたら荒縄で何時の間にか縛られて引きずられてホテルに連れ込まれそうになったんですよ!!穂乃果さん(あの人)が居なかったら……居なかったら……」

 

 恐らくハイライトの消えた果南に介錯されて内浦の海の底にコンクリ詰めされて消されてたのは間違いない。ホント助けてくれた穂乃果さんは神だ、うん、間違いない!!

 

『ぶっちゃけそんなんど~でもええから、君は早う鞠莉ちゃんとこに行ってな?そらっちはにこっちの方へ、やね♪』

 

 いやいやそんなことよりって何を言ってるんだと思ったが、ザクのパイロットがなるほどと頷いてる。

 

『オルゥラァ!クソランカー!ぼさっとしてねぇーでさっさとあっち行けや!ボケが!』

 

「いや待て!!だいたい足をぶち抜いてどうするつもりだ!!」

 

『んな事もわかんねぇーとかアホか!愛と勇気と友情的なナニかでワケのわかんねぇ合体してやがってもあのクソデケぇヤツは元は戦艦なんだよ!ここまで言っても理解できねぇならクソランカーからアホランカーに格下げすっぞ!ゴルゥラァ!』

 

 元が戦艦?それが……いや待てよ

 

「……まさか、中から潰すなんてこと言わないよな」

 

『おーいえーす♪いぐざくとりぃ♪』

 

「ふざけんな!!」

 

 理屈は分かる。確かに元が戦艦で、アークエンジェルのMSハッチはあの足の部分にあったと思う。だが、

 

「あの機関銃の雨のなかで、片方だけから入ったら間違いなく死ぬわ!!」

 

 サテライトキャノン系の武器とはいえ戦艦の、それもラミネート装甲のアークエンジェルの足をぶち抜くのはそう簡単じゃない。

 

『間違いなく死ぬとかどーでもいいからさっさとあっち逝け!しっしっ!』

 

「行けるか!!だいたいサテライトランチャー言うて二丁ねぇだろうが!!どうやってぶち抜くんだよ!!」

 

『それなら問題ないよ昴』

 

「果南!?」

 

 いつの間に近づいてきて何を言ってるのかと思ったが、良く見れば珍しくGNバスターライフルを持ってると思ったらどういうわけか銃身の先が妙に焦げ付いていた。

 

『あの黒いアストレイにバスターライフルの中身とアルヴァアロンキャノンのエネルギー全部吸収させたから、戦艦の装甲をぶち抜くぐらいならできるよ。おかげで機体のエネルギーは殆どスッカラカンだけど』

 

『ぬわぁぁぁにぃぃぃがぁ!すっからかん♪よ!こっちは食べ過ぎではち切れそうになっちゃったじゃない!水ゴリラはちょっとは加減ってモンを知りなさいよね!加減ってモンを!だからアンタは腕力と体力で事件を解決♪内浦の誇るストロングファイター♪松浦 水ゴリラとか言われんのよ!』

 

「ギャァァァァァァァ!!ホンモノォォォォ!!」

 

 通信越しに現れた見覚えの有りすぎるツインテールと紅いリボンに背筋に嫌な汗が滝のように流れる。

 

「悪霊退散!!悪霊退散!!悪霊退散!!」

 

『[うぉい!テメェ!人様のツラぁ拝むなりいきなり悪霊とか一体全体どーゆーりょーけんよ!ってかこんな大銀河宇宙No.1の美少女が悪霊として出てきたらあまりの大当たりでガッツポーズしながらカズダンス踊るだろーが!普通は!』

 

『にこちゃん、カズダンスとか古いっての。平成もう終わるから。ってかなんかあっちの世界線のにこちゃんがそこでガタガタおもしろおかしく震えてやがるクソランカー様に口ではとても言えない様な酷い事をしたらしいぞ?そうなんのも当然なんじゃね?』

 

『ぬわぁぁぁぁぁぁんでぇぇぇぇよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』

 

『ってあれ?昴は……っていつの間に鞠莉の方へ行ってるし!?』

 

 果南が驚いてるが個人的にはにこさんに関わったら西木野製薬の怪しいお薬注射とかいろんな意味でイミワカンナイ的な事案に成るから関わりたくないんだよ!!

 

『ゴキブリ並のスピードで逃げましたね』

 

『逃げたな。ゴキブリ並のスピードで』

 

『惜しいんは機体のカラーリングが灰色やってとこやね。黒なら完璧やったんやけど』

 

 五月蝿いほっといてくれと睨むが、そんなことは露知らずにソラは黒いアストレイ……にこさんの方へ向かい、果南は希さんの直掩に付く。

 

『さてさて♪ほんならいっちょ派手にぶちかましたろうか?ってなワケやからぁ…バレル展開♪高圧縮エネルギーカートリッジ♪ロード♪』

 

 それぞれが場所に付くと、希さんのドムがサテライトランチャーらしきものを展開し、さらに鞠莉さんがハイ・メガ・キャノン怪を、黒いアストレイも何やら大型のビーム砲らしきものを展開……って、

 

「ちょっと待て何てエネルギー量してやがんだ!!」

 

 明らかにMSサイズのガンプラが使える砲撃のエネルギー量超してるよな!!鞠莉さんのハイ・メガ・キャノン怪とサテライトランチャーに関しては砲撃機体だからわかるけど、あの黒いアストレイに関してはどんなフルチャージしたらあんなエネルギーを!?

 

『ったく…スペックデータ以上に溜め込むとかナニヤってんのさ?ぶっちゃけにこちゃん喰い過ぎ』

 

 まさかのお前も知らんのかい!?いやちょっと待てこれを直接あのMAにぶつければそもそも住む話じゃ

 

『残念だけど昴、あのflag ship なMAはある程度のダメージは自動で再生しちゃうから無理よ』

 

『オマケにサイズ補正とレイドボス級の巨大MAに付いとる厄介な耐久値あーんど♪ラミネート装甲でビーム系の攻撃はダメージが散らさせれてまうんよ♪そんなワケやから残念無念渡辺曜やけど、単純な砲撃だけではアレはちょい倒せんようになっとるんやで♪』

 

 鞠莉さんと希さんの言葉にマジかいって突っ込みたくなるのを堪えながら、とりあえずスラスターを何時でも吹かせられるように、やけくそ気味に準備する。

 

『ぶしゅ♪っと1発♪派手にいくでぇ~♪サテライトリボルバー♪フルブラスト……』

 

『ファイナルセーフティ!アンロック!“クサナギノツルギ”!ブラスターモード……』

 

『ハイパーシャイニー……』

 

 あれ、このパターンどこかで視たことがあるような……というか向こうは向こうで足のローエングリン砲を両方展開してて

 

 あ、思い出した。これってあれだ、桜内さんと千歌のお母さんの中の人が出てる魔法少女なA'sの最終血戦……って

 

『それでは皆さんご一緒に、だよ昴』

 

『イヤイヤイヤ!タグにリリなの入れてねぇーぞ!?入れてねぇーのにやんのか!?なぁ!オイ!?』

 

「え、ちょ、まさか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『『ブレイカァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!』』」

 

「『やっぱりそれかぁぁぁぁぁ!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直後、通常のバトルじゃあり得ないエネルギーと大轟音がぶつかり鳴り響き、雑魚がもろとも消しとんだのは言うまでもない。のだが、

 

「あ、アイツらバカなのか!!」

 

 スラスター全力で、なんとかぶち抜かれた大天使のカタパルトを全力で駆け抜けながら俺はそんなことを呟いた。

 

 というかローエングリンと相殺されたとはいえあのトリプルブレイカー食らって両足がぶち抜かれた意外の被害が全く無いこれもふざけてると言えばふざけてるんだが。

 

『思っていたよりも結構広いんだな』

 

「暢気かお前は……」

 

 左側の足のカタパルトから入ったソラがまるでマンションの下見に来るような口ぶりなのに俺は呆れてしまった。

 

「普通に考えておかしいだろ、なんで座右別々の場所から入ったのにいつの間に隣で並走してるんだよ」

 

『気にするな、俺は気にしない』

 

「お前はレイ・ザ・バレルか。まぁ良いけど……ッ、止まれ!!」

 

 何やら大きめのドアが出てきたのですぐに止まらせると、俺は翼に懸架してるバズーカ二つのうち一つを取り出し発射。

 

『これって…トリモチ?トリモチなんざ使ってどーすんだよ?』

 

 まぁAqoursだとある意味お約束の兵器なんだが、平行世界だから知らないのは無理無いか。

 

「うちの技術班が作りに作り込んだ特性のトリモチ爆弾だ」

 

『トリモチ爆弾?』

 

「簡単に言えばトリモチにC4爆薬を組み合わせたやつなんだよ」

 

 へぇ~、というソラはすぐさま火力の事を聞いてきた。

 

「えっと……確か普通のトリモチの10倍の粘着性に、アトミックバズーカの10倍の……」

 

『アトミックバズーカの10倍って…てアホだろ…』

 

「そりゃガンプラ心形流のコーチも改造に関わってるからな」

 

『まーたあの連中かよ…湊の兄貴か?それともマオの兄貴か?まさか…珍庵じーさんじゃねぇーだろなぁ…』

 

 ……どうやら心形流は向こうの世界でも色んな意味でやらかしてるらしい。

 

「さて後は目の前のザクもトリモチにくっつけて」

 

『んな事やったらテメェも道連れにすっからな』

 

「安心しろ、冗談だ……1割は」

 

『1割って…テメェ割りと本気だろ?』

 

 まだ何か言いたそうだが、とりあえず歩いて下がるとバカザクも慌てて下がるのに通信で聞こえないように舌打ちしながら、

 

「それじゃ1、2、3で爆発するからな」

 

『おうよ』

 

 返事が聞こえたので、

 

「いーち」ポチッ

 

 ドッガァァァァァァァァァァァン!!というド派手な爆発音が聞こえ、まさかの威力に流石の俺もドン引きした。

 

『ゴルゥラァァァァァァァ!クソランカァァァァァ!テメェ真面目にカウントする気あんのか!?1しか言ってねぇーだろ!!』

 

 チンピラ感丸出しなバカザクの言葉に

 

「バカ野郎、男は1だけ覚えてれば生きてけるんだよ」

 

 俺は素面で言ってやりました。まる。

 

『銀魂ネタでもヤるならヤるで松平のとっつぁととか地味に出番の少ねぇキャラのネタじゃなくてどーせなら銀さんとか神楽とか新八とかもっとメジャーなヤツのネタをヤれよ!!』

 

 そりゃごもっともな突っ込みだが、レーダーに映し出された反応を見て思わず頬がひきつった。

 

「そんなことより」

 

『そんなことよりだぁ!?う"ぉい!ボケランカー!テメェはヒトの突っ込みをなんだと思ってやがんだ!!』

 

「どうやらお客さんはまだまだ居るみたいだぞ」

 

『あ"ぁ"?』

 

 煙が晴れて、壊れた扉の中には開けた空間が存在していたわけなんだが、

 

 なんか三隻同盟系ガンダム(プラスでミーティア付き)が雑魚を引き連れて大集合してました。

 

 うん、

 

 

 ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 



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精霊使いとの邂逅⑥

「これ設定したやつ絶対頭おかしいだろ!!」

 

 ガンダム無双並みの雑魚破壊を繰り返しながら俺は思わずそう叫んだ。斬っては沸いて斬っては沸いてと、どんな状況だよコンチキショー!!

 

『同感だ!どこのドイツか知しらねぇーけど絶対に頭のネジが片っ端から外れまくったキ○ガイだ!キ○ガイ!オマケに性格も捻れまくった巻きグソみてぇーなクソ野郎に違いねぇー!』

 

 ザク使いの方もビームサーベル二本を振り回して何とかしてるもののやっぱり完全に多勢に無勢な現在だった。

 

「っと!!ミサイル撃ってくんな!!ドラグーン使うな!!フルバーストなんか論外じゃぁぁぁぁ!!」

 

 ミーティア装備の自由と正義の二つをトリモチバズーカで動けなくさせたのに全然関係ねぇなホント!!

 

 ザク使いもガントレットに付けてあるバルカンでドラグーンを撃ち抜いてはいるが、それでも弾幕が多すぎる。圧倒的に不利だ。

 

「おいザク使い!!そっちにはなんか奥の手みたいなのねぇのか!!」

 

『“この状況”で有効な手札があったらとっくの昔に切ってるってんだよ!』

 

「役に立たねぇチンピラだな!!って邪魔すんじゃねぇよ雑魚CPUが!!」

 

 正直言って火力もだが手が足りなさすぎる。斬っても斬っても増え続けて、増殖するゴキの如くのこいつらを倒しきるのはガチで手が足りな……

 

『クソ雑魚相手に手こずっていやがります親愛なるクソゴミ虫共にご報告です。本機後方より友軍機がこちらに向かって接近しております。数は1。ちなみに、コイツ、バカじゃね?的な凄まじいスピードで接近中です。先程も言いましたがマーカーは友軍機のモノなので、恐らくはこちらの援軍だと推察されます。』

 

「はい?」

 

『援軍?』

 

 いったい誰が、と思った次の瞬間紅い何かが目の前を一瞬で駆け抜けたかと思うと、また一瞬にして雑魚機体が次々と爆発していく。

 

『は?』

 

「あの馬鹿……」

 

 あのチンピラ擬きは困惑してるみたいだけど、俺は思わず頭を抱えた。こんな暴挙ができる逸般人は一人以外に思いつかない。というか確実にアイツだ。

 

『お待たせ~昴』

 

「やっぱりお前かい果南さん!!」

 

 通信から出てきたのはAqoursきっての脳筋中の脳筋、スピードジャンキーにしてバトルジャンキーな、姉貴分幼馴染みであった。

 

「おま、エネルギー全部使い尽くしたんじゃねぇのかよ!!」

 

『あのドムの人のエネルギーカートリッジ……だっけ?それ一つからエネルギーを優先接続で貰って、再生間際に乗り込んだんだよ』

 

 なるほど、あの希さんのサテライトランチャーに使われてるエネルギー物から貰ってきたなら納得できる。

 

『なにあれこわい』

 

 と、あまりの殲滅速度に思わず呟いたザク使い……ソラに俺はお約束的に説明してやることにした。

 

「……簡単に説明するとな、どうやら果南はゼブブ……機体名が1.5ガンダムゼブブって言うんだが……それの超短期決戦モードっていうか……トランザムとRGシステム、それに俺の強制アシムレイトの三重状態させてるみたい」

 

『マジで?』

 

 残念ながら本当である。一日三分しか使えないうえにあまりに体の負荷強すぎて、使用したら翌日は全身筋肉痛と貧血で立つことすら儘ならなくなって一日入院すること請け合いだが、あの状態になった果南の相手は、映像で見た三代目メイジンをして冷や汗をかきながら『全力で遠慮願いたい』とまで言わしめたほどだ。

 

『マジか……』

 

「マジだ……」

 

 ザク使いのそれに肯定してみれば、若干顔が青くなってるのが良く分かる。機体調整に手伝った俺でも果南のゼブブのあの状態で勝てたことは1度もないからな。

 

『捨て身で背水の超短期決戦モードですか。これは中々に面白そうな設定ですね。全身筋肉痛とか指でツンツンしたら実に楽しそうではありませんか?ではそんなワケなのでマスター。あちら様の機体にハッキングして詳細データを吸い出しておきますので、後程あの超短期決戦モードなる楽しそうなモノを再現いたしましょう。そしていつものバトルロイヤルでこちらの世界線での雑魚の代名詞となっているハイ・モック相手に意味もなく使用しましょう。私は筋肉痛で貧血に陥り死にそうになっているマスターを見て笑いたいので是非ご検討を。と、言いますかやれ。さらに言えばよくもまぁあの女性はこんな酔狂なモノを平然と使用していますね。今までの言動からかなりの脳筋と推察されますが、脳ミソが筋肉過ぎて危険性を考慮する余地もないのでしょうか?』

 

 かといってAI……アイリの方は興味津々というかなんかという前に聴き逃せない単語が聞こえた気がするんだが。けどまぁ、

 

「まぁ、果南だからな」

 

 μ'sで希さんがスピリチュアルだからなんでもまかり通るのなら、うちの果南は多分物理でなんでもまかり通るのだろう……嫌なことだけど。

 

『そんなことより昴とザクの人はさっさと奥に行きなよ、ここは私に任せてね』

 

『それ絶対に死亡フラグなんっすけど?』

 

「おい馬鹿やめろ」

 

 思わずザクの首を締め上げて通信回線を秘匿回線に切り替える。

 

「バカ野郎!!果南にフラグ関係を言うんじゃねえ!!ああ見えて信じやすいんだからな!!」

 

 前に面白半分で護身術のDVD渡したら俺とダイヤさんを相手に関節技と絞め技の練習してきて大変だったんだからな!!

 

『脳筋で頭の中身が筋肉でぎっしり詰まってるっぽいのになんか意外だな。』

 

『脳ミソか筋肉で形成されていながらも、まだその様な事を思考できる能力は残されているとは…。やはりヒトとは実に不思議な生物ですね。』

 

「未だにオバケが怖くて夜トイレに行けないとか、俺を抱き枕にして寝ないと落ちつかなったりとか……!!」

 

 ボソボソと呟いて教えてたその時、殺気タップリの斬撃が俺の機体の顔面スレスレに飛んできて、思わず大事な場所がキュッと締まった。

 

『二人トモ?サッサト逝ッテキナサイ?』

 

「『イ、イエス、マム!!』」

 

 触らぬ果南に祟りなし、そう思って俺らはさっさと奥の方へと駆け抜けていくことにした。

 

 世の中、命は大事になんだよ。うん。

 

 

 

 さて、果南が雑魚をフルボッコにしてる間に最奥までやってきたわけなんだが、

 

「見ただけでザ・サーバーって感じなんだよな」

 

『だな。』

 

 そこに置かれていたのはガンプラサイズの大型コンピューターで、縮尺を直せば少なくとも高層ビル並みの高さはある代物だった。

 

『それでは早速ハッキングを開始します。システムリンク……リンク完了しました。諸々のデータの吸出しが完了するまでしばしお待ち下さい。』

 

「おいおいハッキングって……」

 

 ザク使いの方はサポートAIが大変なことやらかしそうになってるし、大丈夫なのかこれ?

 

『ハッキング程度でなんでそこまで引くんだよ?こんなもん俺とアイリにとっちゃ毎度の事だぞ?』

 

「そんなこと何時もやってんなよ、実力あるくせに」

 

『ほっとけっての。いいんだよ俺はこれで。公式戦に出るつもりなんざさらさらねぇーしな。』

 

 公式戦に出たくないって、なんか事情があるのか?だけど

 

「けどガンプラバトルやってるってことはバトル自体は好きなんだろ?」

 

『そりゃまぁそうさ。こんな楽しい“遊び”は他にはねぇーからな。』

 

「ならそれを受け入れりゃいいじゃんか。別にファイターが無理ならビルダー、それなりに知識をつければニルスさんのところでテストファイターするなり、試合の実況役やったりで」

 

 俺自身、1度この力のせいでファイターを止めようと思ったから、その言葉を聞いた奴は何も言わなかった。

 

「多分、テメェはこう考えたろ、俺の事を無差別にアシムレイトにしちまうイカれた野郎だって……実際、俺は世界大会の予選で暴走してな……悲惨だったよ、俺を止めようとしたファイターは俺のせいで引退しちまった。退院してプロとして戻っても受けられた仕事は悪役としてだけさ……」

 

『暴走、ねぇ…。なぁ?せっかく話してくれてるトコわりぃんだけどよ、ついさっき逢ったばかりの、しかも割りとガチ目に敵対してた俺なんかにそんな話をしちまってもいいのか?ソイツはテメェにとっての大切なナニか…なんじゃねぇのか?』

 

「別に大したことじゃない。ただ試合直前に目の前で事故を見て、自分自身両親を事故で失ったからフラッシュバックが起こっただけさ」

 

 忘れたくても忘れられない、俺の原点。

 

「なぁ、お前には家族はいるか?いつでも側に居てくれる家族が」

 

『居ねぇよ、んなご大層なモンは。けど…まぁ家族って呼びたい人達は…ちゃんと居てくれる。俺みてぇーなクズの側にもな。全くもってクソありがてぇ事によ。』

 

「そっか……なら少なくともお前は恵まれてるよ。俺にはもう、家族と呼べる奴は誰もいない。居ないんだよ……」

 

 曜は従姉弟だから厳密には家族じゃないからな。そう考えると本当に俺は一人っきりなんだ。

 

「俺がジンを使うのだって、好きなのと同時にすがってるんだよ……俺が物心ついて初めての誕生日に両親からもらった『ジン』って機体に」

 

 ジンを使っていれば家族との絆を感じれる……そんな気がしてたんだ。

 

『はぁ…ったくよぉ…。俺が恵まれてる?家族が居ねぇ?おふざけになりやがるなってんだよ。不幸自慢なんざしたくもねぇーが、不幸なのはテメェだけだと思うなってんだよ。テメェもクソいらねぇモノ扱いされてあちこちたらい回しにされてみろっての。そりゃ今は幸せさ、今はな。けどなぁ、俺だって結構あれやこれやと苦労したんだぞ?ろくに飯も貰えねぇからたんぱく質の摂取の為に川でザリガニ捕まえて食ったりな。ザリガニ、食った事あるか?食う前に寄生虫対策で一回冷凍させたり煮沸消毒したりしねぇとダメなんだけど、これが意外とうまいんだぞ?なんならテメェにも今度ザリガニのフルコース奢ってやろうか?だからよぉ…その聞いててイライラする不幸自慢はいい加減にしろってんだよ。ほれ。とりあえずはさっき大暴れしていた姐さん…果南姐さん?だっけか?あの人とエロい事でもしとけ。男なんざ所詮は下半身で物事を考える生き物なんだ。いい女を抱いていればそれだけで幸せだろ?ほれ。チ○コ勃たせて2、3発抜いてこい!』

 

「酷い言いぐさだな」

 

 まぁ言い返すことすらできないけどな。

 

『で、終いにはアシムレイトばらまいて周りを傷付けちまうからって、ガンプラバトルを辞めようってか?アホだろ。』

 

「……そのせいでガンプラバトルを楽しんでる幼馴染み二人を再起不能にしちまう可能性だってあったんだ……そうなってたら」

 

『テメェの言うソレは所詮は可能性の話だろ?ならそうなっちまう前に御してみせろよ。テメェのその強制アシムレイトってヤツを。男なら…大切なモノを傷付けたくねぇーなら…歯ぁ喰い縛って、気合い入れて、とことん抗ってみせろよ。テメェの股の間にだって、立派なタマが2つ付いてんだろ?』

 

「……」

 

 それに俺は何も言えなかった。結局、未だに自分は前に進めてないってことの証明だったのだから。

 

『男同士のキモチワルイ不幸自慢からの傷の舐め合い中に失礼いたします。間もなくデータのコピーが完了いたします。』

 

 男二人の語らいにAIが水を指すように言ってきたが、まぁ元がそれを目的としてたから文句は言えないけど。

 

『また、習得したデータを解析した結果、どうやら後20分程で妙な具合に結合しておりました世界線の結合部分が完全に分離する模様です。』

 

「20分……」

 

『また随分と時間かかるんだな。』

 

 結構長いと思うが、サーバー同士がくっついてたんだから仕方ないと言えばその通りだけど。

 

「んじゃ、さっさとここから出ると」

 

 俺がそう言おうとしたその時だった。

 

『警告、警告、システムに甚大なエラーが発生しました。システムに甚大なエラーが発生しました。これより機密保護のために当艦は5分後にサイクロプスを起動します。繰り返します、当艦はサイクロプスを起動します』

 

 突然として意味不明な警告アラートが鳴り響いた。え、ちょっと待って

 

『サイクロプスってアレだろ?ポケ戦に出て来たジオンの特殊部隊。』

 

『そうそう。シュタイナー隊長率いるジオンの特殊部隊…ではありませんよ。この場合のサイクロプスはガンダムSEED等のコズミック・イラの世界線に登場した戦略兵器です。マイクロ波を発生、増幅させ、周囲をマイクロ波加熱させるモノです。ぶっちゃけますと電子レンジですね。レンジでチンして皆殺しの素晴らしくエコな兵器となっております。』

 

 アイリの説明の通り、サイクロプスは言ってしまえば半島一つ荒野にしてしまえるほどの電子レンジだ。出てきたのは確かSEEDのフリーダムがアークエンジェルを助けるあのシーンの直後で……

 

「……」

 

『…………』

 

 二人して数秒の沈黙がその場を覆い……

 

「『脱出だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼』」

 

 そう叫んで来た道を逆走、スラスターを壊れるかと言うレベルに最大に吹かせた。

 

『誰だよ!最深部でいきなりサイクロプスなんてモンを設定しやがったのは!!!』

 

「そりゃこっちの台詞だ‼お前らの所のCPUは頭おかしすぎるからな‼何をどうやったらこんなふざけたMAにサイクロプスなんて設定するんだよ‼頭のネジ緩みすぎて飛びすぎなんだよ‼」

 

『あのいつもドヤ顔で上から目線なクソババアがマザーシステム等と言いながらガンプラバトルシミュレーターのメインシステムを統括してますので、クソランカー様のお言葉を軽々しく否定出来ないのが実に悲しいですね』

 

『同じくトップのニルスさんはマトモでもその下の開発の連中が24時間戦えますよ!サラたん萌えー。とか言いながら日夜楽しそうにプレイヤーの嫌がるギミックを作ってるトコ見た事あるから否定出来ねぇーし!!!』

 

 なんかザク使いの方はAIとぐだぐだやってるがそんなことやってる暇なんて全く無さすぎる‼

 

「アイリっつったけ!?急いで外のメンバーに撤退伝えろ‼巻き込まれてアシムレイトで痛みで大失禁なんて俺は殺されるから嫌だからな‼」

 

『低能極まりないクソランカー様が考え付く程度の事をこの超有能な私が行っていないとでもお思いですか?と、言いますか、我々に頼ると弱くなるのではありませんでしたか?そんな頼ると弱くなる私なんかに頼ってしまってよろしいのですか?そこら辺のご解答をクソランカー様に置かれましては是非とも世界線の分離が完了する残り20分で5000文字以上10000文字以内でご説明をお願いいたします』

 

『お前はまだ頼ると弱くなるって言われた事を根に持ってんのかよ!どんだけ根深いんだよ!』

 

『どんだけ根深い、ですか?例えるなら恨みの根が日本からマントルをぶち抜いてブラジルに到達する程度には根深いと自負いたします。』

 

『深過ぎだろ!』

 

「ザク使いは突っ込みしてる暇あんならさっさとスラスター吹かせや‼遅れてんぞ‼」

 

 此方は脚のスラスターイカれ掛けてるのに、若干遅れ始めてるぞアイツ。

 

『さっきバックパックブースターを吹き飛ばしたからこれ以上は無理!ってか吹き飛ばしたのは主にテメェのせいだからな!』

 

「それ単なる自爆じゃねえか‼」

 

 いやまぁ俺も悪いから何とも言えないけど。

 

 しかし残り二分と半分、このままじゃ俺ら三人サイクロプスに焼かれて大変なことになるぞほんと‼

 

『クソランカー様のクソ忌々しい強制アシムレイトをOFFにすれば全て丸っと解決するのは気のせいでしょうか?』

 

「アシムレイト切ったら速度出ないから余計に死ぬんだよバカ野郎‼」

 

 どうすれば、そう思っていたらいつの間にか果南に任せたフィールドまでやって来ていた。

 

『あ、二人ともお帰り』

 

 既に雑魚は欠片一つ残っておらず、ミーティア付きのストフリを相手に遊んでる果南に俺はがっくりと項垂れる。

 

「果南さん!?さっさと逃げるぞ」

 

『そうしたいんだけど、このストフリ弾幕がウザすぎて下手したら通路にフルバーストされかねないって!?』

 

『そりゃ確かにウザいわ。』

 

 確かにそうだ。だったら倒すしか……そう思ったその時俺はあることを思い付いた。

 

「果南‼あのストフリの胴体をネジ切れ‼」

 

『ネジ切れって言って簡単にネジ切れるワケねぇーだろ!アホか!』

 

 ザク使いの方は何を言ってるか分からないみたいだが、果南は何時ものことながら深いことを考えてないためか、

 

『えい♪』

 

 一瞬でストフリの目の前に移動したかと思うと、お得意の関節技で胴体を捻じ切ってしまった。

 

『うわぁ…マジかよ…。』

 

「ナイス果南‼」

 

 俺はすぐさまがらんどうになったミーティアに近づくと、それに背中を預けてドッキングするモーションに入る。

 

「ザク使い、さっさとミーティアに掴まれ‼」

 

『なーんか、嫌な予感しかしねぇーんだけど…気のせいか?』

 

『はいはい、時間無いからさっさと掴まってよね』

 

 嫌がるザク使いを無理矢理果南がミーティアの一部に掴ませると、俺は大型ビームサーベルを両方展開スラスターを全開に吹かせて、

 

「酔うかもしれないから気を付けろよ‼」

 

 超高速、ビームのドリル回転で天板をガリガリと削り始めた。ザク使いの言うように一寸法師じゃないけど、中からなら破壊するのは容易い。

 

『うぇ…ゲ○りそう…。』

 

『昴‼そろそろ時間が‼』

 

「分かってる‼」

 

 ガリガリガリガリガリガリと、削りに削って次の瞬間、ついにそれは貫通して俺らは超高速で脱出することに成功し、そして

 

『サイクロプスの起動を確認しました。良かったですね。みんな仲良くレンジでチンされずに。』

 

 AIの言う通り、戦艦が所々から歪み、爆発してその衝撃が回りのデブリを吹き飛ばしていった。

 

 

 

「……なんか、酷い目にあった」

 

『そりゃこっちのセリフじゃ!このボケクソランカー!』

 

 あれから数分して近くのデブリで休んでたところ、奴は正しく恨み骨髄といった表情で言ってきた。

 

「出せるものは出し尽くしたみたいだな○ーロー」

 

『うっさいわボケ!テメェにゲ○ぶちまけっぞ!』

 

「情けないな~これぐらいうちの世界の小学生ファイターでも耐えられるぞ」

 

『どんな魔境だ‼』

 

 うん、まぁ確かに魔境と言われればその通りかもしれないな~。

 

「……で、あと十分で結合は完全解けるんだな?」

 

『はい。残り約10分程で、この妙な具合に結合しております世界線は分断され、“現状のまま”ならば恐らくはもう2度と交わる事は無いと断言いたします。』

 

 なんか変な事場繋ぎだが詰まるところ、コイツとヤれるのは今のところもうこれっきり……なら

 

『ヤる事はヤっとかねぇとな。』

 

 どうやらザク使いの方も同じ意見だったらしく、ビームサーベル二本を抜き、こちらもブレード二本を抜き取る。

 

『おう。悪かったな。テメェの“宝物”をバカにしちまってよ。今度メシでも奢るから勘弁してくれや。』

 

「……まぁ煽りだって事は分かってたさ」

 

 互いに言葉は多く語らない。

 

「ファイターはガンプラバトルで語るもの……」

 

『おうよ。んじゃまぁ…遠慮も容赦も手加減も一切無しで…久し振りに真面目にガンプラバトルと洒落込みますかね』

 

 お互いに二刀を構え正面に対す。

 

「世界ランク82位、天ノ川昴とジン・AHM」

 

『虹の女神の落とし子にして、新たなる電子の神の雛型。電子精霊アイリと…』

 

『その相棒、鳴神 青空とザク・リヴァイブ。』

 

 お互いにスラスターに火を入れ、そして

 

「いざ真剣に」

 

『勝負だ‼』

 

 一瞬のうちにぶつかり合った。

 

 だが、流星と精霊使いの一騎討ちの結末を語るのは……また別の機会にしておこう。



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精霊使いとの邂逅⑦

 結論から言えば、あのふざけた戦いの後にもう一度サーバーに入ってみても、俺は奴等と会うことはできなかった。

 

 やはりあのアイリとか言ったAI……て、確か電子精霊とかなんとか言ってたっけ?……の言う通り、今回のがかなり異常な事態だったようだ。

 

「しかし、結局のところあのサーバーはいったいなんだったんすかね」

 

「平行世界っていうより、過去が分岐した世界って感じだったよね」

 

 とある一室に戻った俺と鞠莉さんの二人は、用意された軽食を食べながらぼんやりと今回の調査でのことを思い返していた。

 

 プラフスキー粒子から別のものを使ったバトルシステム、正直電子精霊とやらの情報も含めてもう少し深く探れれば良かったわけだが

 

「まぁ元から平行世界の存在は知ってましたけど、あそこまで分岐したうえで、なおこの世界と近しい世界というのも珍しいですね」

 

「って、ニルスさんは知ってたんですか、平行世界って存在は」

 

「まぁ友人が平行世界の王族でしたので、多分昴君も知ってるはずですよ」

 

 そう言ってスマホを取り出して見せた画像に少しだけ頬をひきつらせた。何せそこに写ってたのは、

 

「せ、PPSE時代最後の世界大会優勝者のレイジさんと、かのアイラ・ユルキアイネンさん……かよ」

 

 二人とも大分大人な姿をしてるが、その面影はやはり写真で見た二人の姿にそっくりだった。

 

「写真自体はここ最近のものですけど、今や二人の娘まで居るそうです」

 

「さいですか……」

 

 まぁレジェンドファイターの今については突っ込むことすら野暮なのでとりあえずどこか片隅に放っておくとしよう。

 

「とにかく、今回の依頼は以上で終了。成功報酬はあとで小原の方に振り込んでおくので、そちらで再分配してください」

 

「分かりました……それとついでになんですが」

 

「分かっています。松浦さんについては此方で簡単な検査等をしてから病院の方へ送っておきます」

 

 ですが、とそう聞くニルスさんに俺は苦笑いをするしかない。

 

「入院先が東京の……それも西木野総合病院ということですが、良いんですか地元じゃなくて」

 

「残念だけど、小原系列の病院よりもあそこの方が設備が整ってるからね。果南と昴の主治医もあそこだし」

 

 鞠莉さんの言葉にニルスさんはなるほどと呟くが、俺としては頭が痛い案件だった。

 

 果南の無茶は今に始まった事じゃない……というかAqours三年生組全員が無理無茶無謀をやらかすのはある意味で日常茶飯事だったわけだが、それでもやはり果南が自ら傷つくのは幼馴染みとしては考えさせられる部分がある。

 

 まぁ最も今は三人ともいい意味で落ち着いてるし、果南は果南で()()()()()使()()()()()()()()を封印してる分、今回みたいな件が起こるのは中々無いわけだが。

 

「あれ、そういえば昴も昴でそろそろ病院に行く頃合いじゃなかったっけ?」

 

「あー……」

 

「おや、昴君も何か用があるんですか?」

 

 ニルスさんの珍しそうな視線に俺は少し視線をそらす。

 

「いや、俺自身というわけじゃなくて……プロとしての仕事というか、なんというか……」

 

「もう昴は……はっきり言えば良いじゃない。自分のファンの子のお見舞いだって」

 

 鞠莉さんの言葉にニルスさんはへぇ、という風に驚く。

 

 まぁ実際、俺自身ファンができるとは思ってなかったし、何よりファンというかは……

 

「まぁ……どちらかと言えば弟子に近いファンですけどね」

 

 

 

 そんなこんなで翌日、果南のお見舞いついでにそのファンの子のお見舞いへとやって来た俺は、手に近くの模型店で買ったガンプラ数箱とケーキを片手にその子の病室へ訪れていた。

 

「……」

 

 軽くドアを三回ノックすると、小さな声でどうぞという声が聞こえた。

 

「入るぞ」

 

 そう言ってドアを開けてみれば、部屋の大半がガンプラで埋まったその部屋に居た少女に俺は少し微笑んだ。

 

「毎回思うが、幾ら個室だからってこんなに飾ってて良く怒られないな」

 

「もう、昴お兄さん酷い‼そう言って何時もガンプラ持ってきてくれるのお兄さんでしょ」

 

「そうだったな」

 

 苦笑いしつつ少女の……俺のファン1号であり、二番弟子にあたる彼女、織川恵美にケーキを差し出しつつ近くの椅子に座った。

 

 彼女との出会いについては後々本編で明かすので今回は割愛し、俺は近くの棚からお皿を二枚取り出して、ケーキの箱を開けようとする。

 

「で、お兄さん今日はどんなガンプラ持ってきてくれたの?」

 

「ん?なんだ、ケーキよりガンプラの方が気になるのか?ならケーキは俺が全部食べちゃうぞ?」

 

「もう‼お兄さんの意地悪‼」

 

 病室のベットに座りながら俺の事をぽかぽかと叩きながら言う彼女に笑いながら俺は彼女のそばにガンプラを置いた。

 

「今回はちょっと奮発してな、MG3つ買ってきたよ」

 

「ほんと‼」

 

 そう言ってガンプラの入った箱を見ると、彼女の顔が喜色に変わる。

 

「あれ?お兄さん珍しいね」

 

「ん?何が」

 

「だってお兄さんがザクのガンプラ買ってくるなんて、大分珍しいんだよ?ザクが大嫌いなお兄さんが買ってくるだけで」

 

 恵美のその一言になるほどと俺は苦笑する。何せ今回買ってきたのは『天ミナ』、『ドム』、そして『ザク』と、今回共闘したあの三人の機体の素体だったからだ。

 

「別に俺はザク自体は嫌いじゃないぞ。ザクに乗ってジンを貶してくる阿呆が嫌いなだけで」

 

「もうお兄さんったら」

 

 恵美は笑いつつ俺の顔を見ると、コテン、と首を傾げる。

 

「なんかお兄さん、良いことあった?」

 

「ん?どうしてだ?」

 

「だってお兄さん、なんかすっごくいい顔してるもん。いつにもまして」

 

 恵美の言葉に俺は少しだけ悩み、

 

「まぁ、面白いやつらとガンプラバトルはしたかな」

 

「へ~お兄さんが面白いっていうことは結構凄い人だったんだ」

 

「まぁそうかもな。もしかしなくても聞きたいって、顔に書いてあるぞ」

 

 俺の一言に、目をキラキラと輝かせながら首をコクコクと縦に降り続ける彼女に苦笑しながら、俺は仕方ないな~と前ふりつつ、

 

「少し長くなるけど聞かせてやるか、精霊使いと呼ばれたファイターとのバトルをな」



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本編
輝きたい!!


 初めは、孤独を埋めるために始めただけだった。

 

 これといって運動も良くない、容姿も普通、勉強もそこそこ、それでいて友達はいない。小学生でいつも一人だった俺には、何もないのが普通だった。

 

 そんなときだった。スクリーン越しだったが俺は見たんだ……様々な光の雨を浴びて輝く、少女と機械の戦士。

 

 いつの間にか引き込まれて、気づいたときには走っていたんだ。

 

 これは、そんな俺が、新たな9人の乙女たちと共に始める……出会いと夢のような物語――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こーら昴!!またこんなところに居たんだね」

 

 聞き覚えのあるキレのある声に、俺はげっと思いながら横になっていた大木の枝の下を覗きこむ。そこには見慣れた蒼い髪をポニーテールのように縛った、トレーニングウェアの年上の見知った少女がそこにはいた。

 

「なんだ、また果南かよ。毎日しつこいね、体力バカなの?」

 

「ふふん、伊達に毎朝走ったりしてないよ。それよりも、いい加減野宿生活なんてバカなことやめなさい。毎朝探す私や千歌達の立場を考えなさい」

 

 そういって樹によじ登ってくる体力バカ……松浦果南に程々呆れながら、高三女子が木登りなんてするなと心のなかで一人ごちる。

 

「別に俺は好きでやってるだけだよ。それに野宿じゃなくてテントだ、間違うな」

 

「どっちも変わらないじゃん。ていうか、自分の家も自分の部屋もあるのになんでテントで生活なんかするのさ」

 

「あんな広い家に自分一人ってことを考えてみろ?静かすぎて落ち着かないったらありゃしない」

 

 そう言ってやると、今度は果南の方がため息をついた。そして果南がここまで登ってきたので、仕方なく場所を少し譲る。

 

「ありがと。ほんと、毎日のようにテント生活してて飽きないよね?鞠莉の破天荒が移った?」

 

「そりゃこっちに来てあんな破天荒な人に毎日のように付き合わされてたら受けない方がよっぽどだよ。て、そろそろ学校の時間か……」

 

「……いつも思うけど、昴は学校に教材置きっぱにし過ぎだよ?」

 

「どうせ遅刻も欠席も大抵しないから問題ない。あれも今新しいの作ってる真っ最中だから」

 

 俺はそう言うとなんの躊躇いもなく地面に降りる。

 

「ちょ!!いきなり飛び降りるな!!」

 

「別によくやってることだから関係なし。それじゃ放課後な~」

 

「ま、待って昴!!」

 

 大慌てで呼び止める果南にやれやれと思いながら振り返る。

 

「なに?」

 

「…………助けて」

 

「へ?」

 

「……思ったより高くて……降りれないから……助けて////」

 

 この時、なにやってるのこの知り合いと思った俺は悪くない、悪くないはずだ。

 

 

 

 

 

 

「「ガンプラバトル部どうですか!!」」

 

「……何やってるの?」

 

 果南を下ろし、受け取った制服に着替えて登校早々に、揃って声を出してる友人二名を見て、俺は直感的にそう思った。

 

「あー!!昴くん!!心配してたんだよ!!」

 

 と、詰め寄りながらアホ毛を揺らしてるオレンジの髪の女の子……高海千歌はまるでぷんぷんと言うような表情である。あと、女の子特有の良い香りがヤバイです助けてください。

 

「千歌ちゃんの言う通りだよ、今日はどこまで徘徊してたの?」

 

 と、その後ろから苦笑いだが目が笑ってないベージュの髪の子……渡辺曜が問い詰めるように聞き返す。

 

「徘徊って人聞き悪いな、それに普通に登校してるんだから問題なしだ」

 

「「大有りだよ!!」」

 

 声を揃えて問い詰めてくるのに、個人的にはほんとに勘弁してほしかった。

 

「はいはい、じゃあさっさと千歌は勧誘に戻れ、早くしないと新入生全員いっちまうぞ?」

 

「あぁ!!そうだった!!」

 

 と、思い出したように駆け出していく千歌に俺は今日何度目かのため息をつきたくなる。

 

「――それで、今日の昴くんはいったいどこで寝てたのかな?」

 

 と、真面目に表情が怖い曜が首を傾けて聞き直す。

 

「別に、家の近くの山道の上だよ。一応家には一度戻ってるし」

 

「ふーん?ちなみに果南ちゃんになんかアプローチはしたの?」

 

 今度はニヤニヤとにやけながら聞いてくる親友に、こちらもニヤリと笑う。

 

「そんな下世話なことはしねぇよ。それよりお前こそせっかくの千歌と二人っきりの時間を取られたのにいいのか?」

 

「ちょ!?いくら千歌ちゃんがそういう事に疎いからってやめてよ!!それに他の皆だって居るんだから!!」

 

 大慌てで否定するが、小学校高学年からこっちに来ての付き合いの俺としては、こいつがそういうやつだと言うことは分かってるので関係ない。

 

「え?ならこの前曜が千歌のパジャマを着て興奮してたのも……」

 

「ギャァァ!?な、なななななんで知ってるの昴くん!?その時昴くん居なかったよね!?」

 

「ん?果南が言ってたよ?最近曜がそっちの趣味に走ってるから同い年としてなんとかしろって」

 

 まぁ実際こいつ、千歌の写真を盗撮して、思い出ファイルなんてものを作ってる位の千歌LOVEだからな。端から見ると美少女なのに残念でならない。

 

「とりあえず、そういうことは二人だけの時にしろよ?」

 

「……釈然としないけど、ヨーソロー」

 

 と、その時だった。

 

「ピギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!?」

 

「「うわ!?」」

 

 突然の大きな奇声に思わず耳を塞いでしまう。ってあれ?この声って……

 

「やっぱりか、ルビィ」

 

「ピギッ!?あ、昴お兄さん」

 

 やっぱりあの硬質ポンコツな黒澤家の姉と違って、穏やかかつ小動物みたいな雰囲気の妹……黒澤ルビィだった。

 

「ずら?ルビィちゃんの知り合い?」

 

 と、今度は聞き覚えの無い天然ボイスと思いながら声の方向へ向くと、黄色いセーターを着た茶髪の、これまた天然そうな顔の少女が千歌の後ろにいた。というかずら?方言か?

 

「花丸ちゃん、この人が前に言ってたお兄さんだよ」

 

「なるほど~そうだったずら~」

 

「へぇ、ルビィの知り合いか?」

 

 あの人見知りの激しいルビィが珍しいものだと、少しだけ感慨深く観察する。

 

「あ、おら……じゃなくてマルは国木田花丸っていいます。よろしくお願いします」

 

「おう、よろしく。俺は天ノ川昴、ルビィの知り合いだ。まぁよろしく頼むよ」

 

 そういって挨拶すると、今度はルビィの後ろから何かが落ちる音が聞こえてきた。ていうか、今日は今日で騒がし騒がしいなおい……

 

「あ、善子ちゃん」

 

「善子言うな!!……って、ず、ずらまる?」

 

「じゃ~んけん、ぽい!!」

 

 花丸のじゃんけんの合図に、善子(?)がフレミングの法則の覚え方みたいな指を出す。

 

「やっぱりその特徴的なチョキは善子ちゃんずら~」

 

「だ、だから善子っていうな!!ヨハネはヨハネなのよ!!」

 

 ヨハネ?……なんで聖人の名前を……?

 

「なぁ花丸?そいつ誰?」

 

「えっと、津島善子ちゃんっていって、マルの幼なじみずら」

 

「だから善子って呼ぶな~!!私は堕天使ヨハネよ!!ヨ・ハ・ネ!!」

 

 ……なるほど、詰まる所また残念系か……なんで最近のかわいい子達に限って」

 

「か、かわ!?な、なにいってるのよアンタは!?」

 

「え?口に出てた?」

 

「おもいっきり出てたわよ!!えーい!!こうなったら逃げる!!」

 

 そういって立ち去ろうとする善子……ヨハネを追って、花丸とルビィも足早に去っていく。

 

「……はぁ、平穏がほしい」

 

「……何を言ってますの?あなたは?」

 

 と、ここに来て聞きたくないポンコツ声……主の方向を見ればやはり居たポンコツ生徒会長の鋭い目が

 

「やぁダイヤ先輩おはようございます。それじゃ俺は教室に……」

 

「あら?あなたもそこに居る彼女達と共謀してると聞きましたけど?どういうことか説明してくれますわよね?」

 

「はい?」

 

 ちょっと待て?共謀してる?いったい何を?

 

「彼女達と一緒にガンプラバトル部を設立するという妄言を言ってると、私は聞き及んでますが?」

 

「なるほど、ちょっと待ってくれダイヤ先輩?俺はその手の話は一切聞いてない、まさに寝耳に水の事なんだが?」

 

 千歌てめぇ、勝手に人を巻き込みやがって!!何してくれてるんだばか野郎!!

 

「問答無用!!今日という今日はふざけた生活をもとの通りにしてさしあげます!!」

 

「イテテ!!襟を引っ張るな!!首、首が絞まる!!」

 

 

 

 何とか朝のうちにダイヤさんを納得させ放課後、俺はいつものように自分のテントではない家に一旦帰る。え?千歌達と一緒に行かないのかって?色々と大変なんだよ、色々と。

 

 鍵を開けて入って、生活感の無い、シーンとした室内にため息をつきながら、とりあえず自分の部屋へと向かう。

 

 部屋には様々なガンプラがところ狭しと並べられており、机のうえには作成途中の機体と、いつも使ってる、アサルト装備の『ジン』が乗せられている。

 

「うーん、やっぱりカッコいいよな!!ジン!!」

 

 皆がガンダムガンダムと、ガンダム系ガンプラを使う中、『ザク』の二番煎じと呼ばれる『ジン』こそが、俺の最大の愛機だった。

 

 だが『ジン』には『ジン』の良さがある。機体性能はそこそこ、シールドこそ無いが機動性は『ザク』に引けを取る事はないうえに、ザクと違ってビームもバズーカだが使える。まさに初期のザフトを支えたということに偽りの無いことこのうえないのだ。

 

 と、『ジン』愛については今は置いといて、新型のパーツ作成を始めた。すでに本体の方はカスタムが済んでいるため、武器パーツだった

 

「うーん、基本武器はマシンガンと実体ブレード……機体をスピード重視にすれば妥当だけど……」

 

 今作ってる機体も、ベースは『ジン』系のため弄る範囲を悩むのが現状だった。そもそも『ジン』そのものはほとんど完成された機体といっても良いほどにバランスが良く作られてる。それをカスタムするとなると結構難しいのだ。

 

「いっそのこと『アサルト』をカスタムして装備させる?けどそれだとせっかくのスピードを殺すことになるし……あまり多く積み込むのも同じく……弾丸の口径を大きく……は弾数が落ちるからアウト……ビームサーベルは論外だし……」

 

 ほんとに考える度にマジで詰んでるのだ。ほんとにどうしたものか……と、俺はあるものを見つけた。次の瞬間、怒濤のごとく頭に雷が走った。

 

「こ、これだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     カッコー、カッコー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~翌朝~

 

「か、完成だぁ!!」

 

 出来上がった新型に大声をあげながらガッツポーズで起き上がる。あのあと夕食も取らず、睡眠も一切なしで作り上げたこれは、個人的には最高傑作の域に行っていると断言してもいい。

 

「よし!!このままシステム面を……」

 

「……おーい、昴くん?なにやってるの?」

 

「うわぁ!?」

 

 興が乗ってきた途端、まるで最初からそこに居たかのように曜が声をかけてきた。

 

「よ、曜!?な、なんで俺の家に居るんだよ!?」

 

「いや家隣だし、昴君が発狂してたの聞こえてたから、外にある合鍵使って入っただけだよ?」

 

「しまったぁぁぁ!?」

 

 完全に忘れてた。これに関してはほんとに何も釈明できない。と、時間を確認してみるとまだ朝の6時と、だいぶ早い時間だった。

 

「……とりあえずあと一時間あればシステム回りも完成する。よし、頑張るか!!」

 

「ヨーソロー!!じゃあ私は朝御飯用意したら千歌ちゃんのところに行くからね~キッチン借りるよ~」

 

「おーう、好きに使ってくれ~!!」

 

 さて、そんじゃ作り上げますか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」チーン

 

 俺は今机の上で眠るようにぶっ倒れていた。張り切りテンションとはいえ、徹夜で作り終えたあとにシステム回りを組み上げたのだ、頭痛とかは無いが眠気がくそヤバイ。

 

「通りで昴くんがグロッキーな訳だね」

 

 と、後ろから苦笑いで千歌がそんなことを言ってるが、俺としては今はできるだけ眠りたい、ただただそれだけだった。

 

「放っておきなよ千歌ちゃん。でも、部員が足りないって言うのはホントにどうしようか……」

 

「確かに、μ'sが出てたガンプライブって自分達でカスタマイズしたオリジナルじゃないといけないからね……」

 

「私も千歌ちゃんも、自分のカスタマイズする技量ですら微妙だしね……」

 

 何やら相手にされてないようだ。よし、今のうちに眠らないと…………

 

「それに部員もね~今のところ、私と千歌ちゃんと昴くんの三人だけだし」

 

「ちょっと待て~、なんで俺までカウントされてるんだぁ~」

 

「え?だって昴くん、入ってくれるでしょ?」

 

 何の疑いもなく言う千歌に嘘だろと思いながら、俺は眠くて重い頭をあげながら少しだけ睨む。

 

「言っとくけど、入っても俺は試合には出れねぇぞ?ガンプライブはあくまでも女子高生限定だぞ」

 

「うん、でも昴くんは別の大会の準備始めてるんでしょ?世界大会予選の?」

 

 曜が当然のように聞いてくる。まぁこいつには機体も見られてるからな……。

 

「そりゃな、予選まであと3ヶ月しかないしな。今日は学校から許可もらったバトルシステムで練習するし」

 

「けど、もし私達の部活に入れば、部員だから許可なしでバトルシステム使えるんだよ?お得でしょ?」

 

「……それは」

 

 正直なところ、それに関してだけはホントにお得だから仕方ない。だけど……

 

「……とりあえず、最低でももう一人捕まえてこい、話はそれからな」

 

「むぅ……そういうことなら」

 

 とりあえず引いてくれた千歌に安堵しながら、俺は再び眠りにはい……

 

「はーい、ホームルーム始めるよ!!」

 

 れなかった。なんつータイミングだよと思いながらも、仕方なく姿勢を正す。

 

「今日は転校生居るから、まず先に紹介するぞ」

 

 転校生?まだ4月だというのに珍しいな……

 

 そう思いながらぼんやり見ていると、入ってきた少女に少しだけ目を見開く。赤柴色に濡れたストレートヘアーに、穏やかな表情、そして留められた白いヘアピン……まさに美少女というにふさわしかった。

 

「えっと、東京の音ノ木坂というところから来ました……桜内梨子です。よろしくお願いします」

 

 へぇ、音ノ木坂……ねぇ?……なに!?

 

「奇跡だよぉ!!」

 

 奇しくも千歌の叫びと同じことを考えた俺は確信した。近いうちに、何かドデカイ事が起こるのだと……。




オマケ

鞠莉「ちょっと!!私の台詞ワンテイクもないってどういうことよ!!」

梨子「私も千歌ちゃんとの台詞丸々カットされてるんだけど……」

作者「一話は主人公目線だったから仕方ないんです。けど梨子ちゃんは次回からそれなりに台詞入れますんではい」

鞠莉「私は?」

作者「三話相当になるまで多分出番はそこまで無いです」

鞠莉「No~~!!」


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転校生を捕まえろ その一

初戦闘回だけはすぐに出さないとということで、早くなりました。


「ガンプラバトルやろう!!」

 

「ごめんなさい」

 

 桜内さんが転入してきてから数日、千歌はまるで追いかけるように彼女を勧誘し続けていた。

 

「なぁ曜、これで何連敗中だ千歌のやつ?」

 

「うーん?多分二十ぐらいかな?」

 

「マジか。ならタマゴロー理論ならあと七回で落ちるな」

 

 俺がそう言うと曜ちゃんがなにそれ?と聞き返す。

 

「なんでもない。それで、曜は自分のガンプラ何にするか決めたのか?」

 

「うーん、だいたい決まってるんだけど、どっちにするか悩んでるっていうか……」

 

「ふーん、ちなみに千歌はなんて?」

 

「千歌ちゃんは、『絶対にインパルスにする!!』……って」

 

「なるほどな」

 

 話によれば千歌は伝説のガンプライブ優勝チーム『μ's』に憧れてガンプラバトルを始めたらしい。となれば、

 

「『ストライク・トゥモロー』……確かにあれは衝撃的だったからな」

 

 かの『μ's』のリーダー高坂穂乃果の愛機だったその機体は、今なお色褪せる事なく、寧ろ企業が本人の承諾のもとレプリカキットを販売するほど、人気を泊しているのだ。

 

 そのストライクに肖ってインパルスというのは、ある意味では当然の帰結だ。

 

「で、なんで千歌は桜内さんを?」

 

「なんでも千歌ちゃん、私達が勧誘した日の夕方に会ってたらしいよ?それで、千歌ちゃん、桜内さんが『メイジン杯』でのガンプラを作ってたこと聞いたんだって」

 

「なるほど、そりゃ千歌が必死になるのも頷けるわな」

 

 『メイジン杯』、ビルダーの作成技術を競う大会で、最優秀賞受賞者には、かの高坂悠真など様々な著名な人物がいるほどだ。ちなみに高坂悠真さんは高坂穂乃果の従兄らしい。

 

「千歌ちゃん、手先器用って訳じゃないしね。あ、戻ってきた」

 

「うー、またダメだった……」

 

「お前がしつこすぎるんだよ」

 

 手厳しく俺が言うと、千歌のアホ毛がしょんぼりと項垂れる。何時にも増して表情豊かだなおい。

 

「まぁいいや。千歌、なんなら俺が手伝ってやろうか?」

 

「ホントに!?」

 

 調子がいいなこいつは。

 

「ただし誘うのはお前だ。俺はお前らがどうしようと勝手だから」

 

「へ?どういうこと?」

 

「なに、俺のバトルを桜内に見せれば良いってことさ。もしかしたら、それで何か変わるかもしれねぇかもよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、ここがフィールドですか?」

 

 放課後、桜内さんからの開口早々の言葉はそれだった。まぁ確かに、倉庫のような使われ方をしてるこの部屋を見たら誰でもそうなるだろう。

 

「さて、まずは機体を見せた方が良いか?桜内さん?」

 

「え、ええ。確か昴くん……だよね?どんな機体を使うの?」

 

 そう言われて俺が取り出したのは、世界大会予選に向けて作った新しいガンプラだった。

 

「これ……ベースはジンだよね?でもこれって……」

 

「そ、機体名『ジン・アサルトハイマニューバ』、略称『ジン・AMH』、正真正銘の『ジン』のカスタマイズさ」

 

 ベースは『ジン・ハイマニューバ』のそれに、胸部に『アサルト』ユニット、肩には『ディープアームズ』のビーム砲を取り付け、さらにウイングをシャープに削ることで装甲、火力、機動性共に強化した会心の一機だ。

 

 さらに翼には『キャットゥス無反動砲』を二つ、足に『3連装ミサイルポッド』それぞれに取り付けており、対大型でもある程度戦えるようにしてある。

 

「へー、昴くんの機体ってガンダム系じゃないんだ」

 

「ガンダムばかりがガンプラバトルじゃないだろ?それに俺は『ジン』や『シグー』が大好きだからさ」

 

「あれ?でも昴くん、なんで肩にバズーカなんて付けてるの?それじゃあ重くなって動けないじゃん?」

 

 と、千歌の指摘に少しだけ苦笑いになる。

 

「千歌、簡単に言えば『ケンプファー理論』って奴だ」

 

「けんぷふぁー?なにそれ?」

 

「……いや、分からないならそれでいい。さてと、そんじゃバトルフィールドは……今日は暗礁宙域にするか、披ダメージレベルはオートはC……俺はいつも通りAだな、」

 

 俺の言葉に驚いたのか、桜内がえっ、と驚く。

 

「ん?なんだ?」

 

「えっと、練習だったらCじゃないの?」

 

「世界大会は地区予選からA設定だからな。Cで馴れすぎて本番ですぐに撃墜されたんじゃ話にならん」

 

「けどそれじゃ……」

 

「まぁ見てろって」

 

 俺がそう言うと、手持ちのGPベースを台にセットし、機体を乗せる。

 

「ふー……そんじゃ、天ノ川昴、『ジン・AHM』出撃する!!」

 

 

 

 

 

 

 フィールドに乗り込むと、レーダーをすぐに確認する。敵ガンプラは最高難易度の数歩手前にしてるが、油断したらすぐに落とされる。用心は常日頃だ。

 

「っと、早速お出ましか!!」

 

 望遠カメラで確認すると、機体は『カオス』、『ガイア』、『アビス』、『フォースインパルス』、『セイバー』と、ザフトのセカンドステージガンダムが揃い踏みしていた。

 

「この中で気を付けるべきは『カオス』と『フォース』かな……さて、そんじゃあ本気でいくか!!」

 

 そう叫び、右手のコンソールで『27㎜突撃銃』をばら蒔く。するとすぐに散開し、ビームライフルを持つそれぞれが一斉に段幕を作る。

 

「ビーム使えるのはそっちだけじゃねぇんだぞ!!」

 

 雨のように降り続くビームの嵐をスラスターを巧みに操りすれすれで回避していく。そして肩のビーム砲を『セイバー』にロックオンしようとした瞬間、俺は機体を宙返りさせてその場から退避する。すると狙ったように『アビス』の全門射撃がさっきまでいた場所を通り抜け、真下にあったデブリを爆発、四散させる。

 

「なろ、際どいところ狙ってきやがって!!」

 

 未だに降り続けるビームの嵐を避けつつ、両手に無反動砲を構えて、近くにいたガイアとセイバーに撃ち込む。弾丸はそれぞれシールドに防がれたものの、2体を吹っ飛ばすことには成功する。

 

「いくらPS装甲があっても、当たれば痛いよな!!」

 

 そしてバズーカを捨てて、今度こそビームをロックし放つ。放出された緑の光は2体のコックピット部分を的確に撃ち抜き、爆音と共に消し飛んだ。

 

「まずは二機!!」

 

 漸く落ちたと思いつつ、機体を止めずに残りの三機を確認すると、ブースターを吹かせて一気に追撃した。

 

 

 

 

 梨子ちゃん視点

 

「凄い……」

 

 彼の戦う姿に、その一言しか出てこなかった。素組みとはいえセカンドステージのガンダム5機を相手に、カスタムした『ジン』であそこまで戦えるとは思っても見なかった。

 

「凄いでしょ梨子ちゃん」

 

「え、ええ。でもなんであそこまで無茶な……」

 

 そう、誰が見ても無茶な練習に決まってる。いくら世界大会の予選のためと言われても、あそこまで追い込むような事に私は理解できなかった。

 

「多分、昴くんが勝ちたいからだよ」

 

「勝ちたい?」

 

「そう、去年昴くん、世界大会本選に出場したんだけど、決勝リーグに進めないで負けたんだ」

 

 千歌ちゃんの言葉通り、確かに世界大会は各国から選手がやって来るため、上位16名にするために予選を行うのは知ってる。そこで何十、何百の選手が脱落するのも。

 

「その時分かったんだって、『ただ楽しむのも良いけど、どうせ楽しむなら勝って楽しむ、試合に次は絶対ないんだから』……そう言ってた」

 

「……」

 

「私も何となく分かるんだ。確かにガンプラバトルはあそびかもしれない。けど、その遊びを全力で、誰にも負けないようにしたい。それが本気で楽しむってことなんだと思う」

 

 千歌ちゃんの話に、私は何も言うことが出来なかった。すると対戦フィールドで、昴くんの『ジン・AHM』が追い詰められていた。

 

 既に『アサルト』ユニットはパージされ、ミサイルもバズーカも無し、さらに肩のビーム砲もパージしたのか、既にベースとなった『ジン・ハイマニューバ』そのものになって、持っているのは重斬刀二本とアサルトライフル二丁だけだった。

 

「うわ、昴くんが珍しく追い込まれてる!!」

 

「流石の昴くんでもPS装甲持ち5体を同時に相手するのは厳しいんだよ」

 

 千歌ちゃんと曜ちゃんも珍しいというように焦っている。それほど追い詰められているということなのだろう。

 

「……っ!!」

 

 その時だった。私のなかに何かが灯ったのは……。私は自分の鞄の中からケースに入れられたそれを取り出す。

 

「梨子ちゃん!?」

 

「ごめんなさい、でも……」

 

 私はいてもたってもいられず、昴くんのいるフィールドの反対側へ歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昴視点

 

「くそったれ!!やっぱり素組みでもキツイもんはキツイか!!」

 

 既にビームも無くなり、手持ちは『27㎜突撃銃』と、対ビームコーティングを施した『重斬刀』がそれぞれ二つずつ、対して相手は三機ともビームライフルこそ破壊したが、それ以外はほぼ無傷、『アビス』に至っては完全の状態に他ならない。

 

 避けながらどうしたものかと思っていると、左右からロックアラートが鳴り響く。慌てて確認すると、そこには『カオス』のポッドが二つとも飛ばされていたのだ。

 

「マズイ!!」

 

 大慌てで回避するものの、今度は目の前に『アビス』が得物のビームアックスを構えて突撃してきた。

 

「くそがぁ!!」

 

 思わず重斬刀で切り結ぶものの、そこで今まで吹かしていたスピードが一気に落ちてしまう。そこを狙ったように下からインパルスがビームサーベル片手に突っ込んできた。

 

 ヤバイ、これは完全に嵌められた。インパルスを避けようものなら、『アビス』の一斉射撃と『カオス』のポッドが、アビスを吹き飛ばしてもインパルスにぐさり、完全に嵌められていた。

 

(くそ、こんなところで……こんなところで俺は……)

 

 徐々に近づくインパルスに、負けの覚悟を決めるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時だった

 

『あたれぇぇ!!』

 

 突如として射たれた二本の赤い重粒子のビームが、狙ったようにインパルスとアビスの両方を貫いたのだ。

 

「ぐぁぁぁぁ!!」

 

 爆発の衝撃で少しだけ吹っ飛ぶが、すぐに制動をかけて態勢を立て直す。何事か、そう思いビームの来た方向を確認するとそこには、赤柴に塗れた『ガナーザクファントム』らしき機体が浮かんでいた。

 

『間に合って良かった、昴くん』

 

「桜内さん!?いったいその機体は」

 

 桜内さんが乗っていると思う『ザクファントム』は、なんと『オルトロス』とバッテリーパックを二つずつ取り付けた、まさにエネルギーを食いつくしそうな程の重砲撃戦のような機体だった。

 

『一応これが私の機体、『ザクファントム・リリィ』。そんなことより、『ポッド』が来てるわよ!!』

 

「ちっ!!」

 

 指摘され急いで避けつつ、一旦桜内さんと合流する。

 

「桜内さん、いったいなんでこんなことを……」

 

『貴方を見てたら、なんか体が熱くなってきて……気づいたら動いてたんだよ』

 

「そっか……」

 

 何となく分かるその感覚に共感しながら、俺は銃を捨てて剣を両方の手に構える。

 

「なら援護頼む。ホントならこういうのはいけないことなんだが……」

 

『練習なんだから関係ないよね。当たったら大ダメージじゃ済まないから、射線には気をつけて』

 

「桜内さんこそ、俺の高速戦闘に遅れるなよな!!」

 

 そういって俺はスラスターを全開にして一気に残ってる『カオス』に接近する。奴もビームサーベルを抜いて盾を構えつつ接近してくる。けど、

 

「『ハイマニューバ』には……こういう事もできるんだよぉ!!」

 

 それぞれの剣がぶつかる直前、スラスターを動かし機体を『カオス』の上へと移動させ、後ろを取る。

 

「っらぁ!!」

 

 そして右手の剣で奴の首間接を切り落とす。いくらPS装甲でも、Sフリーダムと違って間接にはPSは使われていないなら、ただの実体剣でも首を撥ねるぐらいならできる。

 

 が、それでもAI制御というべきか、こちらを確認してビームサーベルを振ってくるが、俺はそれを余裕で避ける。機動性だけなら、変形してないカオス相手でも何とか上回れるのだ。

 

「桜内さん!!」

 

『分かってる!!』

 

 それだけ言うと、だいぶ遠くから重粒子砲『オルトロス』が時間差で奴の両腕とポッドを消し飛ばした。何という射撃技術というか、砲戦射撃であそこまで正確に撃ち抜くのには驚愕を覚える。

 

「これで……終わりだぁ!!」

 

 最後に剣を奴の首穴に挿し込み、コックピット内にあるコアを潰し、『カオス』は爆発、同時にバトルも終了となった。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、疲れた……」

 

 バトル終了後、久しぶりのピンチに疲労が溜まり、お茶を飲みながら備え付けの椅子にぐだっていた。

 

「凄かったよ昴くん!!梨子ちゃんも!!」

 

 千歌は千歌で大はしゃぎ。まぁそれなりに見応えはあっただろうし当然と言えば当然だ。

 

「でも良かったの昴くん?せっかく作ったガンプラのパーツをあんなすぐにパージしちゃって?」

 

 と、パーツがバラバラになってしまったガンプラを見ながら曜は曜で観察してる。そんなに見てもなにもでないぞ?

 

「甘いな曜、さっき千歌にも言ったろ?こいつは『ケンプファー理論』だって」

 

「あ、そっか……なるほど!!だからここまでゴツくしてるんだね!!」

 

「ねぇ曜ちゃん?その『けんぷふぁー?理論』って何?」

 

 未だに分かってないのか、千歌は明らかにアホ毛がぶんぶん揺れている。

 

「あのね千歌ちゃん、つまり昴くんの機体は武器をパージ……捨てることで重量を減らして速さを上げる機体って事なの」

 

「???」

 

「つまり、アサルトライフルと剣以外は使い捨てなんだよ。最終的には剣だけになって相手は機体速度に追い付けなくなる……そういうこった」

 

 分かりやすくそう言うと、漸く千歌のアホ毛がピンとなる。いつも思うがこのアホ毛動きすぎだろ……。

 

「そんなわけだから、徹底的にぶっ壊されなければ、元通りくっ付けるだけで元通りになるんだよ。今回はすぐにパージしたから、ダメージは無さそうだが、家に帰ったら軽くメンテナンスだな」

 

「なんなら私も手伝う?」

 

「ん、千歌と違って下手に壊したりはしなさそうだしな。明日は土曜だし、頼む」

 

 実際、曜は手先が本当に器用すぎるからな。コスプレイヤーは伊達ではないというやつか。

 

「ちょっと!!私と違ってってどういう意味!!」

 

「え?だって千歌おバカだし結構大雑把じゃん」

 

「ひっどーい!!曜ちゃんそんなことないよね!?」

 

「アハハ、私はそんな千歌ちゃんも好きだよ」

 

「まさかの裏切られたぁ~!!」

 

「クスッ」

 

「り、梨子ちゃんにまで~!!」

 

 そんな笑い声が、バトルルームに広がり、いつの間にかまわりには笑顔が満ちていた。




オマケ

果南「ねぇ、これって二話目の前半辺りだよね?私の出番は?」

作者「大丈夫、次回の頭にダイビングもやるから」

果南「だったら良いけど……ところであれは?」

鞠莉「出番give me!!」プラカード構え

作者「どうせあと二話ぐらいで出てくるんだから放っておけばいいよ」


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転校生を捕まえろ その二

 家に戻った俺と、修理のために着いてきた曜と一緒に自分の部屋に入る。

 

「いつも思うけど、昴くんの部屋ってガンプラとかキット箱とか以外は凄い片付いてるよね」

 

「別に、この部屋に置かなくたって、こっちに引っ越してすぐに蒸発しちまった両親のであろう部屋が空いてるからな。置こうと思えばそっちに物は置けるし」

 

 今思えば完全な育児放棄なんだろうが、そもそもあの両親ともに良い思い出はないので別に居ても居なくても構わないんだが。

 

「さて、ちゃっちゃと組み直すか」

 

「ヨーソロー!!何からすればいい?」

 

「そうだな……じゃあ……」

 

 俺が指示すると、やはり細やかな作業が得意な曜は綺麗に直してくれるし、手際が良いのか、修理事態は三十分と掛からずに終わった。が、

 

「さて……夕飯どうするかな」

 

 問題はこっち、何分世界大会出場者ということでスポンサー契約してあるため生活費には困らないのだが、最近まともな買い物をしてなかったのだ。

 

「あ、そういえば果南ちゃんからさっきLI○E来てたよ?」

 

「人のスマホ勝手に覗くなよ……で、なんて?」

 

「明日私と千歌ちゃんと梨子ちゃんでダイビングに行くから、今日中に色々と積み込みしたいから夜に来てくれって」

 

「あー、なるほどな」

 

 果南の家はダイビングショップだ。俺自身、簡単な宇宙体験という名目でライセンスを取り、月に少なくとも7~8回、夏になれば果南とバディを組んで二日に一回はダイビングしてるくらいだ。

 

 当然、ライセンスなんて持ってない千歌達には俺か果南のライセンス持ちの監督役が必要だし、何より三人分の荷物となると、幾ら体力おばけの果南でも辛いものがある。

 

「しゃあない。最悪、夕飯は果南のところでお邪魔するか……」

 

「アハハ……頑張ってね?」

 

 友人のなんとも言えない応援に、仕方なく俺は肩を下げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅いよ昴」

 

 あれからすぐに自転車で向かって十数分、先に作業に取りかかってた果南に早速のダメ出しをくらう。

 

「悪かったな、自分のガンプラ修理してたら遅くなった」

 

「ふーん、まぁ良いけど。千歌達からは一応ボンベ使うほどはもぐらないって話だけど、私達用に必要な分積むからよろしくね」

 

「はいよ」

 

 俺は言われた通り、かなりの重さの酸素ボンベ二つを両手に持ち上げ、船の上に乗ってる果南に一つずつ手渡す。それをもう一度行い、予備含め計4本のボンベを運び終えるだけで結構な疲れが襲ってきた。と、俺は肝心なことを思い出した。

 

「なぁ、果南……そういや俺のダイビングスーツ大丈夫かな」

 

「うん?」

 

 果南は首を傾げるが、次第になるほどと苦笑いをしている。

 

「そういえば昴、この冬で10㎝以上伸びたんだよね……」

 

 そう、去年のシーズンオフまで160そこそこだった身長が、春の今には173㎝もあるのだ。これは流石にまずい。

 

「うーん、流石にこうなるとは予想してなかったな~……どうする昴?」

 

「最悪、明日は俺潜らないパターンだな。流石にダイビングスーツ一着買い直すお金は現状ないし、何よりレンタル品はな……」

 

「だよね~昴って何気に肩幅広いから、前のスーツも特注品だったしね」

 

 トホホとなるが、ダイビングスーツ自体はスポンサーに頼めば特注してくれるだろうから、まぁロゴが入る以外は何とかなるだろう。

 

 と、そんな雑談しながら作業してる内に全部終わり、肉体には適度な、それでいて気持ちの良い疲労感が残る。

 

「さて、こんなもんで大丈夫だよな?」

 

「うん、大丈夫大丈夫」

 

 と、そう言いながら何故か果南は膝立ちで俺の事を後ろから抱きつき……所謂バグのような事をしてる。というか、当たってるんですがナニシテルンデスコノヒトハ?

 

「それにしても、ほんと去年まで私の胸辺りまでしかなかったのに、今じゃ肩並べてるんだよね~」

 

「いや、それはそうなんだけど……なんで抱きついてるの?」

 

「ん~?なんとなく?」

 

「さいですか……」

 

 個人的には、頭に当たってる特長的な柔らかさの物体に顔が耳の先まで真っ赤になってるのを自分でも感じ取れた。

 

「……ねぇ、昴はまだ夢を追いかけられてる?」

 

「なんだよ、急に」

 

 果南がこんなことを言うなんて、個人的には珍しくどうしたんだと訝しむ。

 

「……この前、小原のヘリが飛んでたんだ」

 

「!!……なるほどね」

 

 ここら辺には確かに個人用ヘリポートがあるホテルはあるが、それが飛ぶのはほぼ決まってる。つまり

 

「つまりあの破天荒鞠莉が戻ってきた……か」

 

「なんで……私は鞠莉の事を思って……」

 

「…………」

 

 果南の泣きそうなほどの小さな声に、俺は何も言えなかった。俺としては昔からの付き合いでもあり、どっちも姉のように慕っているだけに、二人の思いは分かっている……分かっているからこそ何も言えないのだ。

 

「…………なら、俺がアイツから聞き出してやるさ」

 

「昴……でも」

 

「なに、あの破天荒娘との付き合いは果南とダイヤさんには劣るけど、それでも随分長く接してきたんだからな」

 

 それに今の果南と鞠莉を引き合わせたら、それこそ有毒ガスも走って逃げる程の化学反応が起こるに違いないし、何より今の関係をなんとか取り持ってるダイヤさんの心労がマッハだ。

 

「そういうわけだから、果南は何も心配するなよ。アイツは俺が何とかするからさ」

 

 俺はそう言って立ち上がり、悠々と桟橋から歩き出す。既に星が見えるくらいの夜になりながら、俺は停めておいた自転車を漕いでその場から立ち去る……。

 

「さて、まずは買い出しだな」

 

 恐らく値引きされ始めてるであろうスーパーに向かって。

 

 

 

 

 

 翌日、快晴とは言わないものの晴れ間が見える空を眺めながら、俺はとある家に来ていた。果南には昨日の件を確かめにいくと言ってあるので、まぁ何とかなるだろう。

 

「はい、あ、お兄さん!!」

 

 出てきたのは妹分のルビィ……つまり黒澤家に俺は来ていたのだ。

 

「よ、悪いけどダイヤさん居るか?」

 

「あ、お姉ちゃんなら多分もうすぐお稽古が終わると思う……」

 

「そっか、なら上がらせてもらっても大丈夫か?」

 

 俺がそう断ると、ルビィは少しだけ頷いてドアを開く。流石は黒澤家というべき庭園を見ながら、俺は客間へと案内される。

 

「そういや、ルビィも最近はガンプラ作ってるんだよな?」

 

「ピギッ!!は、はい……でもルビィの操作じゃ、ガンプラバトルは……」

 

 縮こまってる小動物ルビィを、可愛いと思いつつ持ってきたキャンディを渡す。

 

「別にガンプラバトルするだけがガンプラの楽しみじゃないから大丈夫だよ。ただまぁ、姉妹揃って似た者同士っていうか何というか……」

 

「へ?それって……」

 

「おや、こんな時間から珍しいですわね、昴さんが来てるなんて」

 

 と、稽古が終わったのか、紅色に牡丹の模様が入った着物姿のダイヤが姿を現す。

 

「どうも、お琴の稽古っすか?」

 

「いえ、残念ですが今日は生け花でした。お琴は明日なんです」

 

「そりゃ残念。ところで少し込み入った話なんだが……大丈夫か?」

 

 俺がそう聞くと、ダイヤさんは少しだけ眉を吊り上げるものの、すぐに元に戻す。

 

「ええ。ルビィ、昴さんにお茶をお出ししてくださいな」

 

「は、はい……」

 

 何やら緊張した姿で出ていくが、これがある意味ルビィのデフォなので、ある意味優しく見つめる。

 

「まったく、ホントにルビィは癒しだな」

 

「それは……まぁ否定はしませんわ。それで、その込み入った話とは?」

 

「あぁ大したことじゃない……鞠莉から何か連絡が来たりしてないか?」

 

 次の瞬間、ダイヤの眉間やら何やらがいっぺんに細くなる。どうやら何かあるらしい。

 

「いえ、寧ろここ二週間ぐらい何の音沙汰も無しで……何時もなら少なくとも二日に一度は連絡が来てきたはずなのに」

 

「なるほど……逆のパターンか……これはとうとう怪しさが増してきたな」

 

 ちなみに俺は鞠莉のLI○Eのアカウントもメアドも知らない。俺が携帯を持つ頃には鞠莉さんは留学してたからな。

 

「ですが、なぜ昴さんがその事を?まさか噂の死に戻りを……」

 

「そりゃライトノベルだし、何より昴違いだ。果南から聞いたんだよ、小原のヘリが飛んでたって」

 

「それは……なるほど……」

 

 ダイヤさんも漸く事情が飲み込めたのか、顔に怒りマークがこれでもかというくらいに張り付いていた。

 

「……これは……少しカチコミに行かなくてはなりませんね」

 

「生徒会長がそんなことすんなよ。……まぁ今日はその事を確かめに来たわけなんだが、鞠莉が戻ってくる理由として思い浮かぶのって、アレだよな」

 

「そうですわね……アレしかないでしょうね……」

 

 揃って理由が分かってるだけに、個人的には俺にまでとばっちりが回ってきそうで頭が痛くなってきた。

 

「解決策としては、鞠莉と果南の誤解が解けるのがこれ以上ない一番なんだが……」

 

「二人とも、から回ってドッジボールしてますからね。あぁ、思うだけで胃痛が……」

 

「あー、何となく分かります」

 

 幸いなのは、理由を知っているのが俺とダイヤさんの二人だった事だろう。そうでなくどちらか一人だけだったら……考えただけで頭が痛くなる。

 

「……はぁ、アレコレ言っててもしょうがないか」

 

「ですわね……」

 

「……ところでダイヤさんはこのあと時間は?」

 

「幸いお稽古はこれだけでしたのでそれなりには」

 

「……」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「カチコミますか……」」

 

 

 

 

 

 というわけでやって来た小原家……というか小原ホテル。揃って自転車漕いで一時間弱で着いた俺達は、さらにそこから裏手に回り、何とも大きな豪邸に脚を進める。

 

 と、自転車を降りて門へ進もうとすると、側にいた警備員が二人やってくる。

 

「すみません、こちらは私有地になっておりまして……」

 

「あぁ別にホテル客じゃないですの。悪いのですが、鞠莉さんはこちらに居ますか?」

 

「お嬢様ですか?……失礼ですがお名前のほうを……」

 

「黒澤ダイヤと、天ノ川昴って言えば、この屋敷の誰かは知ってるはずだぜ?」

 

 俺がそう言うと、警備員の一人が警備室に走っていく。すると5分くらいしただろうか、門の前から見えた屋敷のドアが開き、そこから見覚えのある金髪の少女が走ってきた。つまり、

 

「ダ~イ~ヤ!!シャイニー!!」

 

「やっぱり戻ってましたのね鞠莉さん……」

 

 門が開いたと同時にダイヤに今現在抱きついて胸に頭をすりすりとしているこの残念美少女こそが、俺らの目的の小原鞠莉その人である。

 

「はぁ……」

 

「昴も久しぶりね!!ニネンブゥリデスカ?」

 

「だいたいそのくらいですね。とりあえず、何してるんです?貴女は?」

 

 相変わらずの破天荒ぶりにため息を漏らしつつ、この残念令嬢はなにやってるのかと問い詰める。

 

「うーん、今は内緒。それより、ダイヤの硬度は前より磨きがかかってないかしら?」

 

「誰のせいですか!!」

 

「あ、でもこっちは相変わらずの慎ましさよね。ちゃんと牛乳飲んでるのかしら?」

 

「余計なお世話ですわ!!気にしてることをずかずかと!!」

 

 無理矢理ダイヤさんは引き剥がすと、今度は此方に背中から抱きついてきた。……俺の知り合いは抱きつかなきゃ気がすまないのか?

 

「昴も大分背が伸びたわね~久しぶりにお姉ちゃんって呼んでくれない?」

 

「流石は変態痴女な鞠莉お姉ちゃんはぶれませんね……」

 

「ちょっと昴!!私は変態でも痴女でもないわよ!!」

 

「そんな体勢で言われても説得力皆無ですよ。それと、どさくさに紛れてどこに手を突っ込もうとしてるんじゃ己はぁ!!」

 

 まさしく貞操の危機に思わず投げ飛ばす。ギャグ補正か何かは知らんが、コンクリートに背中からぶつけてるのに、鞠莉本人はびくともしてなかった。

 

「oh、流石世界大会出場のガンプラバトラーでぇす」

 

「そんなこと関係ないから!!ていうか、留学して覚えてきたのは下世話な事なんですか貴女は!!」

 

「イッツァジョーク!!まぁ私にも色々あるの。それに結構準備が大変で大変で……」

 

 準備?この人がこういうってことは何かしらやらかすときって相場が決まってる。

 

「まぁ、とにかく、来週末ぐらいからまた学校に復学するから、それまで待っててねダイヤ」

 

「復学!?留学はどうしたんですの!?」

 

「勿論行ってきたわよ、去年だけね。そういうわけだから、私は少し昴と二人っきりでお話ししたいから、ごめんねダイヤ」

 

「ちょ!?どういう!?」

 

 と、何を言う前に襟首掴まれて鞠莉に引きずられることになった。いつも思うが、俺はペットなのか?

 

「待ってください鞠莉さん!!話はまだ……」

 

 ダイヤさんがまだ何か言いたそうだったが、鞠莉さんは聞く耳持たず、さっさと門を閉めてしまった。そして俺も鞠莉に連れられて中に入り、ドアがしまった瞬間に手を放された。

 

「ったく、で、俺に用っていったい何をする気だ?」

 

「大丈夫、別にそこまでのお願いって訳じゃないの。無理なら無理で別に当たるから」

 

 そう言うと鞠莉は珍しく本気の目でこちらを睨み付けてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「単刀直入に言うわ。昴、貴方に浦の星に産まれる新しいガンプライブユニットの、越えるべき壁となって欲しいの」




オマケ

二年生組「出番無かった……」

作者「今回については何も言えんからな。すまん」

千歌「でも最後の台詞ってどういう意味?」

作者「三話についてのフラグだ。意味は考えればすぐに分かる」

曜「ところで、私達の出番が少なくなる回ってまたあるの?」

作者「三話の部活発足条件からAqours初バトルまではもしかしたら……」

千歌「梨子ちゃん!!」

作者「ちょっと待って、そのオルトロス二つをいっぺんに射つつもり!!違うよね梨子ちゃん!?」

梨子「アハハ……ごめんなさい!!」

作者「デスヨネー!!ギャァァァア!!」


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転校生を捕まえろ その三

「……昴くん、来てないね」

 

 月曜日、登校した私と曜ちゃんは何時もなら来てるはずの友達が来てないことに違和感を感じる。

 

「そうだよね。家に誰もいなかったし、かといってテーブルには……」

 

『一週間ほど出掛けます。』

 

「これだもんね」

 

 まさかのこれでだよ。う~むずむずする。

 

「まぁ昴くんの事だからちゃんと一週間で帰ってくるとは思うけどね。ところで、千歌ちゃんは自分のガンプラは完成した?」

 

「うん!!とりあえず本体の素組は……どう!?」

 

 そして取り出した機体……『インパルス』はシルエットこそ取り付けられてないけど、ガンプラ初心者の私にしてはちゃんと作れた……と思う。

 

「それ、千歌ちゃんの機体?」

 

「あ、梨子ちゃん!!」

 

 と、漸く梨子ちゃんも到着して、私は自分の機体を見せる。

 

「どう!!初心者レベルだけど良くできてるでしょ!!」

 

「うーん……残念賞かな?」

 

「そんなぁ!!」

 

 まさかの辛口評価だった。

 

「千歌ちゃんのそれ、素組なのに必要以上に接着剤を付けすぎて、関節のところまでガチガチになってるよ」

 

「あ!!ホントだ!!……何とか修正できるかな?」

 

「うーん、使ったのはセメントみたいだし、後の削り出しでギリギリできると思うよ?」

 

 梨子ちゃんのその言葉に一応は安堵した。これで修復不能と言われたら、流石に懐問題的に立ち直れない気がしてた。

 

「それで、曜ちゃんのは?」

 

「ヨーソロー!!完成しております!!」

 

 と、曜ちゃんが出したのは、胸に髑髏が付いた青いガンダムだった。

 

「曜ちゃん、その機体って?」

 

「ふふん!!これこそ渡辺曜自信作!!『クロスボーンガンダムカノーニア』だよ!!」

 

 クロスボーン?ガンダムの知識はほぼ皆無だからどんな機体かさっぱり分からないんだけど……。

 

「へぇ、やっぱり曜ちゃんは海賊系ガンプラなんだ!!」

 

「海賊!?ガンダムに海賊も居るの!?」

 

「正確には宇宙海賊だけどね。もっとも、この機体のベースと違って、機体事態は中距離戦用に仕上げてるけど」

 

 その台詞に、私は曜ちゃんの機体を確認する。よく見てみると、全体的に青いカラーリングに、後ろには少し大きめの砲門と、両腕には小さなシールドが取り付けられていた。

 

「見た目は『X3』と『F91』のミキシングかな?腰にはムラマサが二本装備されてるし、中距離っていうより近・中距離型だよね?」

 

「うん。梨子ちゃんの機体は砲撃戦主体で、昴くんは高機動撹乱戦主体、千歌ちゃんも多分接近型に作ると思うから、だったら私は援護主体かなって」

 

「凄い!!凄いよ曜ちゃん!!私も頑張って作らないと!!」

 

 私が燃えていると、梨子ちゃんがため息をついた。え?なんで?

 

「もう、仕方ないから、手伝ってあげる」

 

「え!!じゃあ一緒に!!」

 

「言っておくけど、手伝うのは機体作りだけだから、ガンプラバトルはしないから」

 

「えぇ!!」

 

 流石は梨子ちゃん、幾らなんでも壁は厚かったみたいだった……。

 

 

 

 

 

 放課後、機体を一緒に作るために私達三人で私の家に来ていた。

 

「……どうしたの梨子ちゃん?」

 

「ふぁ!!いや、なんでもないの……」

 

 と、梨子ちゃんの睨んでいる先には我が家の看板犬であり愛犬、しいたけが……ってもしかして……

 

「梨子ちゃん……」

 

「ち!!違うから!!別に犬が嫌いだから睨み付けてた訳じゃないのよ!!」

 

 見事に自爆してる……こういうの昴くんは何て言ったっけ……テンプレ乙?

 

「はいはい、そういうことにしてあげるから」

 

「ちょっと!!ホント、ホントなのよぉ!!」

 

 そういって追いかけてくる梨子ちゃんを少し可愛いと思いつつ、三人揃って私の部屋のなかに入る。

 

「それで、千歌ちゃんは自分の機体をどう動かしたいの?」

 

「どう……っていうか、私は射的とかそんなに得意じゃないから、射つより斬る!!って感じかな?」

 

 実際、私ってそこまで器用じゃないから、射撃しながら移動してとかっていう事は多分無理だろうし。

 

「ならエクスカリバー系の武器……でもあれは取り回しがそこまでよくないし速力もないから……」

 

「ならいっそのこと『フォース』の下翼を大剣みたいにしちゃえば良いんじゃないかな?あれって可動粋あるから、剣で使うときだけ取り外しちゃったりとか」

 

「でも『フォース』ってあの大っきなブースターよ?あれってそもそもビームサーベルあるから、寧ろデッドウェイトになるし、何より下翼が無いと飛行バランス崩れるし」

 

 曜ちゃんの意見もどうやらアウトらしい。

 

「うーん、そもそもSEED系の機体って弄くりが大変なの。特に昴くんとかが使ってた『ジン』系と、『ガンダム系』は特に」

 

「そうなの梨子ちゃん?」

 

 初めて聞く話に少しだけ驚く。

 

「なんていうか、SEED系の機体って、個体として完成されてる機体か、宇宙世紀のオマージュ機体が多いの。特にdestinyシリーズはその傾向が強くて、昴くんの『ジン』は前者、私の『ザクファントム・リリィ』も後者の中で結構苦肉の策、って感じでバトル用に作った機体なの」

 

「そういえば、確かに……」

 

 思えば憧れるμ'sの高坂穂乃果さんの『ストライク・トゥモロー』のオリジナルも、確か『マルチプルアサルトストライカー』、『I.W.S.P』、『ノワール』の三種類を緻密なバランスで組み合わせたという話で、そこまでしないと自分だけのオリジナルにできなかったと雑誌に書いてあった気がする。

 

「いっそのこと別の作品のプラモパーツを組み合わせるのも手なんだけどね」

 

「うー……だったらシールド!!さっきの曜ちゃんの言ってたのと、肩にスラスターシールドを付ければ!!」

 

 なんか駄々を捏ねる子供みたいだが、こうでもしないとまともに作れそうにない気がするし

 

「シールド……まぁ、それなら何とかできそうだけど……」

 

「ホント!!」

 

「でもその場合、足周りとかにスラスター増設しなくちゃいけないから、千歌ちゃんのあの『インパルス』だと結構厳しいかも……」

 

「そんなぁ……」

 

 まさかの再び辛口評価だった。流石にこればっかりは自業自得も加味されてるかもしれない……。

 

「けど、引き受けちゃったから今回は、何とかカスタムして作ってみるわ」

 

「ホント!!ホントに梨子ちゃん!!」

 

「こんなことで嘘はつかないわよ。でも、作っても千歌ちゃんがまともに動かせるかは別問題だからね?」

 

 なんという頼もしさ……流石は音ノ木坂出身なだけはあるよ!!

 

「それは関係ないと思うよ千歌ちゃん」

 

「え!?曜ちゃんに心読まれた!?」

 

「声に出てたからね」

 

「ウソォォ!!アダッ!?」

 

 驚いた瞬間に頭に何かがぶつかる。何事かと思っていると、そこには襖を開け、雑誌を右手に丸めて怒り心頭のみと姉の姿があった。

 

「ちーかー?幾ら平日でもここは旅館なんだからね~?騒いだら他のお客さんに迷惑が掛かるって知ってるよな?」

 

「は、はい……スミマセン……」

 

「うん、よろしい。あ、曜ちゃんともう一人の……」

 

「桜内梨子です」

 

「梨子ちゃんね。このバカチカが迷惑かけると思うけど、まぁよろしく頼むわ」

 

 カッカッカ!!と、快活に笑いながら去っていくみと姉を睨み付けながら、私はむすー、と脹れていた。

 

「まぁまぁ、今回は千歌ちゃんが悪いんだしね?……あぁ、剥れてる千歌ちゃんも可愛い……」

 

「曜ちゃん、まさか貴女……いえ、それより二人は衣装の準備とかしてるの?」

 

「「衣装?」」

 

 そういえばという感じで言うが、その点に関しては大丈夫だった。

 

「勿論!!ガンプライブは基本的にガンプラアイドルと同じ扱いだから、基本的に制服でやるのはNGだからね!!デザインは勿論……」

 

「ヨーソロー!!私が一から手作りしております!!まだデザイン段階だけどね」

 

 曜ちゃんの裁縫技術はホントに凄いんだよ。基本的に制服ばかりだけど、水兵の制服は勿論、巫女服や簡単なダンスドレスぐらいは1日あればすぐに作ってきちゃうくらいだし。

 

 けど、前に学園祭用のメイド服作ってきたとき、何故か試作で私用に……それも全部サイズぴったりに作ってきたときはびっくりしたよ。どうやって調べたんだろ?

 

「なら良いんだけど」

 

 梨子ちゃんも納得してくれたみたいで助かるよ~って、あれ?

 

「曜ちゃんバスバス!!」

 

「え……嘘!?終バス終わっちゃった!?」

 

 いつの間にか結構な時間を過ごしていたのか、既に日は完全に落ちてしまっていた。

 

「ちょっとみと姉に聞いてみるから!!二人とも少しだけ待ってて!!」

 

「え!!千歌ちゃん!?」

 

 

 

 

 

 

曜視点

 

「行っちゃった……」

 

 千歌ちゃんが走って行っちゃったせいで、部屋には私と梨子ちゃんの二人だけとなった。

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………気まずい。

 

「……そう言えば、梨子ちゃんはどこら辺に住んでるの?」

 

 とにかくこの場を乗り切る!!うん、流石にここまで気まずいのは無理だから!!

 

「えっと、ここの隣……だけど」

 

「え?嘘?」

 

「ホント」

 

 ……まさかのであった。なんと羨ましい!!

 

「……今度泊まりに行っても良いかな?」

 

「……曜ちゃん下心見え見えよ?やっぱり曜ちゃんって百合趣味なの?」

 

「失礼な!!私はちゃんと異性にも興味あるし、女の子は千歌ちゃんだけだよ!!」

 

 ……なんだろ、自分で言って自爆した感じが凄い気がする。

 

「別に悪いとは言ってないから。それに……私も……」

 

 何とも歯切れの悪い言葉に、私は嫌な予感を禁じ得ない。

 

「……まさか梨子ちゃん?BでLな本を趣味にしてるんじゃ?」

 

「……大丈夫、GでLも何冊かあるし。そっちもおかずになるわ」

 

 予想通りの腐女子でした。うん、やっぱり昴くんの周りっていろんな意味で残念な人が固まるのか?え?私も?そんなこと言ってると果南ちゃんに頼んで深海に着の身着のままでヨーソローしてあげるよ?

 

「……この事は、互いに秘密ということで……」

 

「ヨーソロー♪でも千歌ちゃんはあげないよ?」

 

「大丈夫♪寧ろそう言うことするときは記念に撮ってあげるから♪」

 

「「フフフッ」」

 

「……二人とも~なんか雰囲気怖いよ?」

 

 だが翌日、まさか梨子ちゃんがガンプラバトルに参加すると表明したことに驚きを隠せなかったのは別の話である。




オマケ

???「フッフッフ……」

曜梨「こ、この笑い声は!?」

ヨハネ「この私を置いて、薄い本の話をするなんて極刑よ極刑!!今すぐ私のために鳴くリトルデーモンにしてあげるんだからぁ!!」

ルビィ「善子ちゃん!?」

丸「いつもの事だから安心するずら。ルビィちゃん」ナデナデ

ルビィ「はわぁ……///」

ダイヤ「……どうなってますの?これは?」

鞠莉「oh、舞台の後でリリィが咲き乱れてるわね……」

果南「二人とも~早くしないとバグ……しちゃうよ?」

作者「……どうしてこうなった?」

千歌「あはは……なんでだろうね?」

昴「知らん……」


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ファーストステップ その一

ちょっと短いですが、切りがいいので連続投稿します。


「うう……ガンプラバトルしたい……」

 

 梨子ちゃん加入から二日たった木曜、放課後の私達は何時ものように教室で戦術等を話していた。

 

「仕方ないよ千歌ちゃん。私達は昴くんと違って実績も無いんだし」

 

「それは……」

 

 曜ちゃんの言う通り、私達三人にはこれといった実績はない。唯一の梨子ちゃんも、メイジン杯は結局作品を出せなくて入賞すらしてないのだから、当然と言えば当然だった。

 

「はぁ……早く昴くんが戻ってこないかな」

 

「俺が何だって?」

 

「「「え!?」」」

 

 こ、この声は間違いない!!

 

「「「昴くん!?」」」

 

「よ、ただいま」

 

 ただいまって……なんという軽い……

 

「いったい昴くんどこに行ってたの!!」

 

「まぁそう言うな曜、それについてはすぐに教えてやるから、まずはちょっと三人とも着いてきてくれや」

 

 なにやら笑ってる昴くんに違和感は感じたものの、仕方なく私達三人は着いていくことにした。

 

 

 

 

 

 

「ハーイ!!貴女達が浦の星の新しいgunpla idolね!!よろしくね!!」

 

「「「は、はぁ……」」」

 

 連れてこられたのは生徒会室、そこで何やら独特の英語が混じった言葉を話す金髪の三年生の姿があった。あと生徒会長のダイヤさんも。

 

「鞠莉さん……貴女という人は……自己紹介くらいしたらどうですの?」

 

「もう、ダイヤったらホントに堅物なんだから。とりあえず自己紹介するわね、私は小原鞠莉。この学園の生徒であり、理事長よ!!」

 

「「「理事長!?」」」

 

 え?どういうこと!?頭が全然追い付かないんだけど!?

 

「また貴女は平然と嘘を……!!」

 

「あー、悪いけどダイヤ先輩、鞠莉さんが理事長ってやつはガチでリアルだ。悲しいことに書面もオリジナルを見せてもらったし」

 

「そんな!?」

 

 生徒会長も唖然と、昴くんの言う事を驚いてしまう。

 

「浦の星の経営母体は小原が一枚噛んでるから、これくらいは朝飯前よ。で、私が貴女達を呼んだのは、そこにいるお堅いダイヤが、どうしてもガンプラバトル部を認めないみたいだから、仕方なくやって来たわけ」

 

「て!!てことは!!」

 

 この理事長の言葉の通りだとすればつまり、

 

「もちろん条件はあるけど、それさえclearすれば例え最低人数五人に満たなくても、理事長の権限でガンプラバトル部の発足を認めまーす!!」

 

「「やっ、やったぁ!!」」

 

「奇跡だよぉ!!」

 

 これ現実?現実だよね!!そう思えるほどに嬉しかった。

 

「こらこら、まだruleを言ってないんだからはしゃがないの」

 

 鞠莉さんもこれには苦笑いを浮かべている。そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルールは単純よ。次の水曜日、私が用意する会場で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「……え?」」」

 

 ……嘘?今理事長はなんて言った?

 

「oh、ならもう一度言うわね。貴女達三人で、昴くんとプロから選出した二人の中で、誰か一人でもプロのガンプラを倒す……それが、唯一無二の条件よ」

 

 聞き間違えじゃなかった。そう言うように鞠莉さんの目は底冷えするように冷たかった。

 

「そんな……無理よ……」

 

 梨子ちゃんのその言葉は当然だった。世界ランクのガンプラファイター三人を相手に勝つ?そんなの自殺行為だ。

 

「ね、ねぇ昴くん……嘘だよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?悪いが事実だ。お前らは勝つしかないぜ。世界ランク82位『灰光の流星(グレートシューター)』、天ノ川昴と、世界ランク29位『イタリアの伊達男』リカルド・フェリーニ、世界ランク48位『魔王』八坂真央の三人を相手に、な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なん……ですって!?」

 

 梨子ちゃんのその言葉に、私達がどんなに厳しいことにチャレンジしてるのか顔を青ざめた。

 

「し、知ってるの梨子ちゃん?」

 

「む、寧ろ知らない方がどうかしてるわよ!!昴くんの言ってる二人は、()()()()()()()()()()()()()()()よ!!」

 

 ……つまり、私達が相手をしなくてはならないのは……世界最強クラスのガンプラファイターって……

 

「勿論ハンデはある。俺以外の二人は本来の機体じゃなくて、本人の過去の機体の、それも起業販売されている素組みのレプリカである『ウィングガンダムフェニーチェ』と『ガンダムX魔王』をそれぞれ使うし、機体ダメージレベルはC判定だ。勿論機体の特性上サテライトキャノンは使えるが、そっちの完全オリジナルを相手にだったら、少なくとも五分五分ぐらいにはなるだろ」

 

 そう言ってるが、昴くんのその言葉はそれでも勝てると言えるような口ぶりだった。けど、

 

「……なんで」

 

「ん?」

 

「なんで昴くんが……同じ部員なのに……」

 

 そう、私が一番にショックなのは昴くんと戦わなくちゃいけないと言うことだった。

 

「……言っておくが、俺のスポンサーは小原グループだ。当然スポンサーの頼みなら断るわけにはいかない。それにな」

 

「……」

 

「俺はまだ部員になるなんて一言も言ってない。だから例えお前達が相手でも、容赦なく撃墜する……勝負の世界はそう言うことなんだよ」

 

 それだけ言うと昴くんは私達三人を睨み付ける。

 

「……鞠莉さんに頼んで、試合の日まで公欠扱いでバトルシステムをお前らが使えるようにしておいた。勝ちたいなら本気で練習するんだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昴視点

 

「……昴、あなたあれで良かったのですか?」

 

 ダイヤさんからの言葉に、俺は空を眺めながらため息をつく。

 

 あのあと、三人揃って生徒会室から出ていくと、おそらく作戦会議か何かをしに教室に向かっていった。

 

「大丈夫大丈夫、寧ろ、これくらいのピンチ、ガンプラバトルじゃ当たり前なんだよ」

 

「ですが、あなた一人ならまだしも、P()P()S()E()()()()()()()()()()()()なんて……そもそもどうやって……?」

 

「なに、前回の世界大会の時に偶々二人とメアドを交換していてな。それを使ってオファーしたわけさ」

 

 実際二人とも、電話したら運良くしばらく東京に居るという話で、ダメ元で会いに行きお願いしたらOKを貰ったのだ。

 

「理由話したら快く引き受けてくれたよ。まぁ小原からの支払いもあるだろうけど」

 

 何せ鞠莉さんが、前金でそれぞれ50万も出すと言ったのだ。さらにファイトマネーに100万、それもほぼ素人にハンデ付きとはいえ勝つだけでそれなのだ。美味しいに決まってる。

 

「まぁ、私としては、もう少しランクの高いメンバーにするべきだと思ったのだけど、昴が勝手にね……」

 

「当たりま……待ってください鞠莉さん?いったい誰を呼ぶつもりでしたの?」

 

「?メイジ「アウトですわ!!昴さん良い判断です!!」」

 

 でしょうね。三代目メイジン・カワグチなんて呼んだら、あの人すぐに自前のガンプラ使おうとするから大変なんだよな……

 

「ただ問題があるとすれば……」

 

「はい?」

 

「あの二人、揃うとナンパして落としまくるんで……それで彼女とか奥さんに怒られるの目に見えてるのに……」

 

 事実、会いに行ったフェリーニさんはナンパしてる最中にメールで妻であるガンプラアイドルキララさんから顔が青くなるメールを貰ってたっけ……。

 

「そうですか……ところで、昴さんはどこで練習を?」

 

「暫くは鞠莉さんのところのバトルシステムをお借りしてます。二人も明後日には合流できるみたいなんで、そのまま連携とかの練習を」

 

「そうですか、でしたらその日に家の網子漁師から魚を運ばせますわ」

 

「あら!!ダイヤが珍しいわね!!明日はコロニーでも落ちてくるかしら?」

 

 いやコロニー落ちたら死にますから。何雨でも降るみたいな感覚で使ってるんですか?

 

「まぁそんなことより、その二人の実力、休んでた一週間で調べたんですわよね?」

 

「そりゃ当然。二人とも、()()()()()()()C()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。少なくとも、フェリーニさんに関しては見た目はアラフィフのダンディーなのに、動きは間違いなく現役プレイボーイだよ」

 

 




オマケ

二年生「……はぁ」

千歌「プロ三人……勝てるかな」

曜「いくら相手はほぼ素組みでもプロだしね」

梨子「……とにかく、うだうだ考えるより早速練習をしましょう!!」

千曜「…………」

梨子「な、何二人とも?」

千歌「ううん(そういえば梨子ちゃん知らないんだったね)」

曜「何でもないよ!!(昴くんにザクで敵対したら……)」

千曜(……梨子ちゃんのお墓準備しとこう)


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ファーストステップ その二

 金曜日、あのあと一日が経って俺は自宅ではなく小原グランドホテルの一室に居た。というのも家が曜と隣ということもあり、機体そのものはバレているが、作戦まで知らずのうちに聞かれたらたまったもんじゃないからだ

 

「…………」

 

 朝に弱い俺だが、それでも朝食は食べる派なのでとりあえず下の食堂に向かう。さすがに四月中旬だからか宿泊客はまばらで、朝の静かな食事という雰囲気が……

 

「お久しぶりですな、昴はん!!」

 

 一気にぶち壊れた。この高い声に関西弁……横を振り向くとそこには、薄黒い半被に膝竹までのジーパン、モスグリーンの髪に線のように細い目……

 

「八坂さん!!どうしてここに!?」

 

 世界ランク48位『魔王』こと八坂真央の姿がそこにあった。室内であるためにトレードマークの黄色い帽子は首紐で後ろに回してあり、俺と大差ない身長なのに、さすがは二十代後半というか、それなりの覇気があった。

 

「到着はフェリーニさんと同じ明日だと……」

 

「ワイは大阪からやから、前入りして機体のズレを確認しに来たんや。フェリーニはんも、今日の北海道の便で東京に向かうってさかい」

 

「ってことは、ここ三日はキララさんの仕事か?フェリーニさんは」

 

 ホント、なんで結婚して愛妻家なのにナンパなんかするんだが……。

 

「せやろうな。それよりも朝食、食べましょうや。ワイもさっき到着してチェックインしたばかりなんです。どうです一緒に?」

 

「ええ。どうせここの朝食はビュッフェスタイルなので大丈夫かと」

 

 そう言いながら席を取り、互いにそれぞれ好みの品を取って戻る。

 

「しかし、いつも思いますが八坂さんの半被は彼女さんの旅館のですよね?」

 

「正確には今はワイもそこの従業員してますねん。彼女言うてもだいぶ歳のさがありますさかい、どうにも……」

 

「まぁそりゃそうですよね」

 

 前に一度だけその旅館に訪れたことがあるが、ホントに三十代かと疑うほど、全然二十代前半で通じる美貌を兼ね備えた若女将の姿を見て、おかしい!!と、某運命なガンダム乗りのように叫んでしまったほどだ。

 

「……それよりも、ワイとしては昴はんの食事の方に驚きですわ」

 

「そうですかね?ビュッフェとなったら食えるだけ食うのがいつものなんで」

 

「せやけど、なんで……なんでコーンフレークなんですの?オムレツやら、それこそベーコンとか美味しいもんもあるやないですか」

 

 まあ確かにそうなんだが……

 

「いや、ただ朝はパンとかご飯とかよりこういうのを中心に食べてるから。ビュッフェでもこれを朝に食べないと何時も通りじゃない気がして」

 

「あー、それは失礼をば……ルーティーンのような物ですか?」

 

「そう、それに近い。普通の平日なら兎も角、バトルとかする日はどうにもコーンフレークを食べないと活力が出ないんだよ」

 

 どうせ前入りと託つけて俺と本気のバトルをするつもりだろうし。

 

「さいですか。ところで、相手方の女の子にザク使いいらっしゃるんです?」

 

「……『ザク・ファントム』のカスタムが一人いる」

 

「……前回の世界大会みたいに、継ぎ目切りなんて悪趣味な事はせえへんでくださいよ?話によると継ぎ目そのものを切られたせいでガンプラの修理が出来なくなった例もあるらしいですし」

 

 八坂さんの忠告に、俺は苦笑いを浮かべる。ちなみにその事で俺の2つ名に『ザク絶対殺すマン(シリアルザクキラー)』などというふざけた名前を頂戴している。

 

「A判定なら兎も角、Cじゃそんなこと出来ませんよ」

 

「そらそうやろうな……」

 

「……まぁ足首から首関節までの関節という関節の全てを切り落とす位はするかもしれませんけど」

 

「逆に怖いですわ!?なにそのスプラッタな刻み方!?」

 

 そうは言うが、俺の機体のメイン武装はあくまで実弾の重突撃銃なので、特に首関節落とさないと、宇宙世紀系の以外だと対応できる機体は少ないのだ。

 

「お願いですから、相手は女の子なんですから首は兎も角、手首の先まで切り落とすのはやめてくださいよ。下手したらトラウマもんです」

 

「流石にそこは考えてますよ。援護の面を考えて今回は『ビームカービン』をメイン射撃武装にカスタマイズしてますから」

 

「どっちにしろ『ジン』系統の武器や無いですか……」

 

 正確には『ジン・ハイマニューバⅡ型』だが、そこを突っ込んでも仕方ないので心にしまうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、早速まずは昴はんの機体の慣らしといきましょうか」

 

 朝食を食べて暫く経ち、鞠莉さんに頼んで貸してもらってるバトルルームで、俺と真央さんは各々の機体を持って対峙する。

 

「よろしくお願いします!!」

 

「こちらこそ。ダメージレベルは前と同様にC判定、せやけど時間が勿体ないから、昴くんはパージ余りせぇへんといてや?」

 

「真央さんの調整の時は……けど、今はバトルなんで本気でやらせてもらいます」

 

 自分でも分かるくらいぎらついた目を向けると、普段は閉じたように見えるその目を僅かだが開いて、真央さんも獰猛な笑みを浮かべた。

 

「ほんなら……八坂真央!!『フルクロスボーンガンダム魔王』!!出ます!!」

 

「天ノ川昴!!『ジン・AHM』!!出るぞおらぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 フィールドはプトレマイオスクレーター……所謂SEEDの月面基地のそこを再現されてあった。

 

「デブリは少ないし、見晴らしが良すぎる……か」

 

 ステージ確認をしつつ、レーダーで相手の出方を……!!

 

「ヤバッ!!」

 

 いきなりの高エネルギー反応にあわてて月面近くまで降りて回避すると、さっきまでいた場所にとてつもなく白いエネルギーが、なんと九連装で飛んできた。

 

「いきなり『サテライトスマッシャー』かよ!?」

 

 『サテライトスマッシャー』……八坂真央の操る『フルクロスボーンガンダム魔王』の最強兵器、それはもとの『フルクロス』の持ってる『ピーコックスマッシャー』という九連装ビームボーガンを、あろうことかそれぞれがサテライトキャノンを射てるように魔改造したトンデモ兵器なのだ。

 

 ハッキリ言って、禁断兵器とでも呼べるものを、あの人は『ソーラーレイ』システムを組み込むことでまさしく開幕殺しの『魔王』という異名を持つことになったのだ。

 

『これくらい、昴はんの本気なら簡単に避けれますやろ?』

 

「容赦が無さすぎですよ!!このやろう!!」

 

 仕返しとばかりに、今回積んできたバズーカ四本のうち、改造ビームバズーカ『バルルス改弐』を両手に一つずつ、さらに肩の『ビームキャノン』の計四門のそれを発射元の方向に撃ち込む。

 

『ちょ!!弾幕キツいですやん!!』

 

「ええい!!ちょこまかちょこまかと!!逃げてないで向かってこいやぁ!!」

 

 音声越しだが軽く言ってくる相手に、俺は脚のミサイルもついでにぶっ飛ばす。五秒くらいするとミサイル六発、それも全てを爆発し、破壊されたと心で悪態をつく。

 

「さすがは魔王!!(操縦技術が)上手いを通り越して汚い!!」

 

『そんな誉めても、『サテライトキャノン』しか出てきまへんで!!』

 

「そんなのクーリングオフじゃぁぁ!!」

 

 再び飛んでくる、今度はビーム砲とサテライトキャノンのミックスというふざけた撃ち方をしてくる奴に大慌てでブーストを使って避けまくる。少しでも被弾したら即サテライトの餌食、そんなのは真っ向ごめんである。

 

「くそったれ!!こうなったら!!」

 

 漸くサテライトキャノンが消えた次の瞬間、俺は剣と突撃銃以外を全てパージし、ウィングに取り付けた……()()()()()()ではなく()()()()()()()()()()()()()()()()()(destiny版)を、それはもう完全にフルパワーで吹かすことにした。

 

 その速さは、試作品ですら暴れ馬と呼ばれたほどの加速が、カスタムしたこともあって数倍にも跳ね上がり、『トールギスⅢ』並みのスピードを叩き出す。

 

『ふぁ!?なんやねんその速さ!?』

 

 当然、この加速は交渉後のバトルでは見せてないため、数百メートルほど離れてた筈なのに、既に目測で50メートルも離れてない密接距離になっており、真央さんも驚きで固まってしまった。

 

「アララライ!!」

 

 その隙にさらに肉薄し、両手に持った重斬刀で忌々しい『サテライトスマッシャー』と、左上のスラスターを切り落とす。

 

『ぐぅ!!なんのぉ!!』

 

 だがそこはワールド50以内、すぐに『クロスボーン ガン×ソードⅢ』をソードモードで降り下ろすが、

 

「速さで負けるわけにはいかねぇんだよ!!」

 

 すぐに敵の右腕から降り下ろされるそれを、左のスラスターを全開にし、回転するように背後を取る。

 

『な!?ロールターンやと!?』

 

「これでも中学までバスケやってるからな!!動きは完璧にマスターしてるんだよ!!」

 

 その叫びと共に奴の両肩を切り落とすと、その瞬間にバトル終了のアラートが鳴った。

 

 

 

 

 

「ぐぅ……まさか最後にあんな近距離で回転して避けるやなんて……」

 

 試合後、とりあえずパージしたパーツをつけ直した俺は、そう愚痴る真央さんに苦笑いを浮かべる。

 

「バスケは『コート上の格闘技』とも言われるくらい、人間の体と軸を中心に使うスポーツなんで、慣れるとガンプラバトルでも応用効くんですよ」

 

「そら、昴はんは『アシムレイト』使えますから、尚更驚異ですわな」

 

「そんな大袈裟ですよ」

 

 アシムレイト、ガンプラバトルに置ける超常現象というべきか、機体の動作に、まるで人間が手足を動かすような、そんな形で動かせる現象。プロで言えば、格闘技選手としても活躍してる、世界ランク19位『覇王』神木世界さんが有名どころだ。

 

 だが、俺はその技術を完全にマスターしていない。というよりはむしろ……

 

「…………」

 

「……その感じやと、まだ()()の事を許せとらんのやろ?」

 

「……ええ、仕方ないこと……そう割りきろうとはしてるんですがね」

 

 そう、仕方ないこと……誰が見てもそうなのに、俺の心はそれを許そうとはしていない。むしろ……

 

「……すみません、少し外の空気吸ってきます」

 

「了解や」

 

 断りを入れ、俺は部屋を出ていきそのまま外の方へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

真央視点

 

「昴はん……」

 

 年下の、しかも高校生の友人の過去を思い、ワイは少しだけため息を付きたくなった。

 

「ホンマ、昴はんは何も悪いことはしてへんのに……」

 

 本来なら、昴はんの実力は世界大会決勝リーグに出場してもおかしくない、寧ろその二つ名は、宇宙世紀系ではない量産機、『ジン』で戦い抜くその姿に、そのグレーカラーと敵を光へと変えて駆け抜ける事から、『灰光の流星』と、希望を持って付けられたはずやった。

 

 けど、大事な予選リーグ決勝で、勿論それは昴はんは悪いことはしてない。けど、開花したアシムレイトの能力と、彼を縛るトラウマによって引き起こされたそれは、長く続く世界大会の中でも胸糞悪くなる事件を引き起こした。

 

「なんで……なんでワイが友人と思うた人ばかり、悲しいめに合うんやろうな……」

 

 今は外国でガンプラバトルの楽しさを教えているライバルも、世界大会の決勝で無二の相棒を失ってもうた。

 

「聖はん、レイジはん……彼に力を……」

 

 かの『ティファ・アディール』のように祈りながら、ワイは外に向かった友人に対して静かに涙を流した。




オマケ

作「次回かその次辺りに、ちょっとした番外編をやろうと思います」

昴「唐突だなぁおい……いったいどうした?」

作「今回の最後にあった『世界大会での事件』って奴を書いておこうかなぁ……と」

昴「マジか……あの事は思い出したくないんだけどな……」

作「どうせすぐにとは言わないけど、乗り越えなくちゃいけない壁だからね。こういうのはすぐに出した方が後々のためなんだよ」

昴「そうかよ、けどあんまり深く掘り下げすぎるなよ?ただでさえ他の作品もあるんだからよ」

作「それを言われたらなにも言えない……」


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ファーストステップ その三

「む~……難しい」

 

 どうもヨーソロー!!毎度お馴染みの渡辺曜です!!あぁ、開幕から千歌ちゃんのむくれてる姿なんて……これだけでご飯三杯はイケるよ!!

 

「ほら千歌ちゃん、もう一回練習しよ?」

 

「分かってる!!分かってるんだけど……」

 

 今はひとまずの休憩で、私はその間に衣装を作成している。既に梨子ちゃんのサイズも図り終えてるから楽と言えば楽なんだけど、問題はやっぱり……

 

「千歌ちゃん、もしかしてあの事を思い出してるの?」

 

「う……」

 

「あの事?」

 

 梨子ちゃんはどういうことか分からないのか首を傾げる。

 

「そっか、梨子ちゃんって世界大会の中継とか見てないんだっけ?」

 

「ええ。私はあくまでもビルダーだったし、何よりバトル自体そこまでやる方じゃ無かったから」

 

 梨子ちゃんのようなタイプは良く居る存在で、趣味としてガンプラを作成する……所謂『模型派』と、昴君のような作るのは当然としてバトルもする……所謂『武闘派』という風に分かれてる。

 

 当然、どちらの派閥でもガンプラバトルの世界大会というのは大きなもので、『模型派』の人でも世界大会の予選に出場するという例は少なくない。っと、話がずれたずれた。

 

「それであの事っていうのはね……昴くん、一度入院してるんだ」

 

「……それって事故にあってっていうこと?」

 

「うーん、そういう訳じゃないんだ……」

 

 でもほんと、今思えばよく果南ちゃんが大爆発しなかったと不思議でならないくらいだ。

 

「じゃあどうして……?」

 

「…………梨子ちゃん、前に一度だけ話したよね。昴君は家を抜け出してテントで生活してる時があるって……」

 

「えぇ、それが?」

 

「ほんとはね、昴君自身が恐れてるんだ……一人で居ることを」

 

 その瞬間、梨子ちゃんは驚いて目を見開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昴君はね、こっちに来てすぐに両親から捨てられたの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「捨てられた……?でも、だったら……」

 

「正確には、転校してきたその日に両親が事故で亡くなって……そのトラウマで昴君は両親は蒸発したって思い込んでたのと、それが原因で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……でも、どうしてそれを曜ちゃんが?」

 

「あ、そっちは単純に、私のお父さんと昴くんのお母さんが兄妹なだけ。従兄弟なの」

 

 ホント、今思えばそれだけが不幸中の幸いだった。そうじゃなかったら多分昴くん、すぐに自殺しててもおかしくないくらいな精神状況だったし。

 

 当時の昴くんはその思い込みで他人不信になってしまい、学校でもその他人不信から友達も出来ず、結果として一人になって精神的に病んでしまった。

 

 バスケを始めたのもそれが漸く落ち着いてきた頃に、果南ちゃんの薦めで始めたのがきっかけだった。まぁ中学最後は人数問題でユニフォームは貰えなくて悔しがってたが。

 

「なら入院って……精神科?」

 

「うん、けど入院したのは去年の夏から秋ごろまでだけどね」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……()()()()()()()()()、世界大会の予選リーグ決勝の日、偶々交通事故を目撃しちゃって……()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暴走?」

 

「思い出したショックなのかな……、昴くんはアシムレイトっていう能力を身に付けた……それも……()()()()()()()()()()()()()()()()()()っていう嫌なオマケ付きで」

 

 今思い出すだけでも恐い。昴くんの攻撃を受けた相手選手が痛みで悲鳴をあげ、昴くん自身も恐慌状態で錯乱して……予選敗退が決まってた選手たちが総出で助けようと機体を攻撃しても、逆に痛みでヤられ……ある意味黒歴史となってしまった。

 

「結果として昴くんは失格扱い、背景を知った選手の人達からは、昴くん自身が悪いんじゃないって言ってくれてたし、勿論トラウマを乗り越えるように応援もしてくれたけど、周りやマスコミはその事を叩きまくった」

 

 やれガンプラバトルを汚しただの、やれ孤児のくせにだの、今思えば腸煮えくり返って仕方がない。

 

 漸く収まったのは、世界大会終了後から二週間後、三代目メイジンを始めとした様々なファイター達の怒りがチェーンマインの様に爆発し何とか収まったものの、それでも退院しても暫くはガンプラを作れなくなってしまった。

 

「それに今も、昴くん自身の実力は本来の半分も出てない。寧ろ本気でやろうとすると、アシムレイトが暴走しちゃう……」

 

「……その暴走って、実際にどうなるの?」

 

「三代目メイジンさんの話だと、そもそもアシムレイトは機体を生身で動かすのと同じになる代わりに……ガンプラが受けた傷をそのままフィードバックしちゃうんだけど……昴くんが暴走するとそのフィードバックだけを相手と相手の機体にも同様に発生させるらしい」

 

 つまり、お互いにガンプラがダメージを受ければ、受けたダメージを使用するファイターがその分のダメージを肉体に受けてしまう状態になる。

 

 ガンプラの間接を反対側折れば、使用者の関節がぶっ壊れ、腕をビームサーベル切れば、ビームの熱と切られる痛みで悲鳴をあげる。そんな地獄絵図を繰り広げられた。

 

「……もしかして理事長もその事を?」

 

「勿論知ってるけど、今のところ回復の兆しは全くない事と、事件のせいでプロランク上昇も中々進まないって昴くん自身が言ってた」

 

 本当ならガンプラバトル引退も考えていたらしいが、そうなると生活費が全く無くなるためするにできないという悪循環。

 

「……千歌ちゃんはどう思ってるの?」

 

「……私は……少なくとも昴くんがまた本気でバトルできるようになって欲しい!!けど……」

 

 いつも前向きな千歌ちゃんですら、この事に関してだけは攻めあぐねてる。

 

「……だったら、その気持ちをバトルで伝えるしかないんじゃないかな?」

 

「それは……でも相手は昴くんだけじゃないんだよ?プロ二人と昴くん、三人のうち誰かを倒して……その上で……」

 

「それは違うよ千歌ちゃん!!」

 

 千歌ちゃんは私の言葉にへ?と呟く。

 

「三人じゃない、昴くんだけを狙っちゃえば良いんだよ!!そうすれば、幾ら昴くんでも本気にならざるを得なくなる!!」

 

「そっか、私達の勝利条件は誰か一人でも倒すこと……だったら他の二人を無視して昴くんだけを狙えば!!」

 

「ちょっと待って、無視するって言ってもプロよ?生半可な事じゃ逆に追い詰められて……」

 

 まぁ梨子ちゃんのいう通りな訳なんだが……でも、

 

「そこで盗み聞きしてる人!!出てきたらどうなの!!」

 

「「え?」」

 

 どうやら二人とも気づいてなかったみたいで驚いていると、出入り口の側から茶色のコートに無精髭、明らかに日本人じゃない男の人……

 

「り、リカルド・フェリーニ!?」

 

 対戦相手、イタリアの伊達男その人が立っていたのだ。

 

「やれやれ、お嬢ちゃん良く気づいたな」

 

「明らかに男性の臭いがずっとしてたから、もしかしたらって思って」

 

「そうかよ。ま、お嬢ちゃん方の話は聞かせてもらったわけだが……俺個人としてなら賛成だ」

 

 まさかの言葉に私達は揃って驚く。そりゃそうだ、まさか相手が負けることを良しとして……。

 

「勿論賛成なのは昴を立ち直らせるって言う面だけだがな。さすがに完全無視されて何もせずっていうのはプロとしては見過ごせないからな」

 

「「「デスヨネー……」」」

 

 実際そうだろう、でなきゃただファイトマネー貰うだけの無能だろうし。

 

「だからちょっとばかし賭けになるが……こっちに居るファイターに頼んで訓練を頼んでおいた。勿論実力はプロないしセミプロ級だ」

 

「そ、そんな人たちを態々ですか!?」

 

「どうしてそんな!!」

 

「んなもん、折角のファイターっていう仲間が停滞してるなら、どんな形であれ引っ張ってやるのが、俺たちファイターってわけだからだ」

 

 フェリーニさん曰く、ファイターは後輩のファイターを育成するのが好きなのだと、そう言った。

 

「俺も昔、一人だけだが後輩のファイターを指南してやった。そいつは俺が滅多うちにしてやったのに食らいついてきて……最終的には世界大会優勝を成し遂げちまった」

 

「…………」

 

「まぁそいつがファイターとして活動したのはたった半年程度だが、それでもあの昴にはアイツと同じ雰囲気があった。挑戦者っていうそれがな、今のお前たちと同じだ」

 

 フェリーニさんは哀愁漂うようなそんな感じで告げるが、どこかギラギラとした炎のようなものが見てとれた。

 

「アイツに勝ちたいなら、ともかく力を付けろ。がむしゃらでも何でもいい、思いを届けるには本気じゃなきゃいけねぇからな」

 

 フェリーニさんはそう言うと、颯爽と部屋から立ち去ってしまう。

 

「あれが……世界大会決勝リーグ進出者の貫禄……」

 

「……そうね、見てるだけなのにどこか萎縮してた……」

 

 私も梨子ちゃんも、揃ってあの人と本気で戦うことになる……それを思うだけで恐くなってきた。

 

「……やろう、二人とも」

 

「千歌ちゃん?」

 

「あの人の言う通りだよ、私達は挑戦者なんだよ!!だったら精一杯、あの人や昴くんに食らいついて……絶対に勝つんだ!!」

 

 そういう千歌ちゃんの体も震えていた、けどそれは恐怖じゃなく武者震いなのだと、挑戦者としての本能なのだと分かってしまった。

 

「……そうね、やるからには全力で勝ちましょ!!」

 

「ヨーソロー♪だったらすぐに練習しないとね!!」

 

 笑いながらバトルスペースに立ち、私達は再び練習を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 フェリーニ視点

 

「全く、末恐ろしい少女たちだぜ……」

 

「そういうわりには、目が燃えてるわね」

 

 サイドカーに座り、そんなことを言う妻に苦笑しながら、俺はアクセルを踏み込む。

 

「そりゃそうだ、三人とも、磨けば光る原石ばかりだったからな。今から戦うのが楽しみなくらいだ」

 

「そ、まぁ私も彼のバトルは正直、あの赤い髪の子にひけをとらないって思ってたしね。久しぶりにファイター復活しようかしら」

 

「そりゃつまり、ガンプラアイドルに復活と見ても?」

 

「ばーか、誰があんなハズい事やるのよ。歳を考えなさい歳を」

 

「はいはい。で、どちらに向かいますかSignora(スィニョーラ)?」

 

「そうね……なら世界大会開場にでも向かいましょ?久しぶりにあそこにあるバーで飲みたいから」

 

 任務了解、そう呟き俺はバイクを走らせる。思えば懐かしきあの場所へ向かう潮風を感じながら、俺は宿をどうしようと頭を悩ませるのだった。



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ファーストステップ その四

「…………」

 

 土曜日、練習が終わり、宛がわれた部屋に戻った俺は、自分の『ジン・AHM』を眺めていた。

 

(……ダメだ。俺の技術じゃあの二人には遠く及ばない)

 

 それはAI相手に練習していたとき、援護するべき場面で何回かミスしていた。

 

 元々が高機動強襲をベースに組んだために、援護するための武器が大型のパージ前提の火器だけ。まぁそれはコンセプトの都合上仕方ないのではある。

 

(機体自体は過去に自分で造れた中で最高峰の出来……それを俺は扱いきれてないのか……?)

 

 ならば援護用に新しく作るべきか……だが現実問題として今日は土曜日、しかも既に夕方、いかに頑張っても調整がギリギリになってしまう。

 

「煮詰まってますな~」

 

「真央さん……」

 

 と、まるで察したように真央さんは缶コーヒーを片手にやって来る。

 

「……さっきの連携の特訓、俺は何度か援護する場面でミスをしてました」

 

「ミスって、ちゃんと援護射撃としては機能してましたけど?」

 

「いえ、もう少し状況を判断していれば、少なくとも余計なエネルギーを使わずに済んでたはずなのに……」

 

 特にフェリーニさんが操る素組の『フェニーチェ』の援護の際、高火力で粒子消費の多いビームを、相手の動きを止めるだけなのに、余計に二発も射ってしまった。

 

「気にしすぎですよ。そんなことを言ってたらワイはほとんど援護なんて出来とりませんし」

 

「真央さんは基本的に動かないで、サテライトキャノンで根こそぎ落とすプレイをしてもらってますからね。仕方ないとは言えますよ」

 

 なのに俺は、肝心の援護で無駄射ちして、機体本来の強みを全く生かせてない。

 

「だったら昴はんが前衛に入れば?そうすればフェリーニはんも援護に入るかと」

 

「いや、それはダメだ」

 

 だってそれだと、

 

「また暴走したら……今度こそ千歌や曜にトラウマを与えちまう……アイツらから夢を奪っちまう。それだけは絶対にダメだ」

 

「……そういえば、その二人もあの時開場にいましたね」

 

「そうだ。それでも、二人は俺がガンプラバトルを諦めないでくれって応援してくれた。けど、それはただアイツらがアシムレイトの恐怖を知らないからだ」

 

 俺が本気で戦うことができるのは、本当に一人だけで練習するときだけ。それでも毎回制御できなくて、機体が爆発したときなんかは痛みで失神したことだって一度や二度じゃない。

 

「だから…………もしも三人と戦って暴走して、三人にトラウマを与えてしまったなら……今度こそ俺はガンプラをやめる。キットも今まで作り上げてきた機体も、道具も含めて全て処分し……()()()()()()。それが俺にできる、唯一の償いだ」

 

「…………そうですか」

 

 何か言いたげな真央さんだったが、あえてなにも言わずに部屋から出ていった。空にはどんよりとした黒い雲が、徐々に徐々に、窓の外を埋めていった。

 

 

 

 

 

 真央視点

 

「どうだった、昴のやつ」

 

 部屋を出た直後、まるで待っていたように姿を現す戦友であり好敵手に、若干のため息が漏れる。

 

「あかんですわ。昴はん、昔を引きずりすぎてはります」

 

「だろうな……俺がアイツの立場でも多分そうなる。で、アイツはなんて?」

 

「もしこの試合で暴走したら、ファイターもビルダーも引退して、街を去る言うてました」

 

 そうか、それだけ言うとフェリーニはんは廊下を引き返す。ワイもそれに習って後を追うことにした。

 

「案外、ホントに昴のやつはレイジに似てやがるよな」

 

「そうですね。雑に見えて相手を気遣って、バトルには真剣に取り組む、それがレイジはんの姿ですから」

 

「そりゃそうだが、アイツは似なくて良いところまで似てやがるからな」

 

 似なくて良いところ?その言葉にワイは首を傾げた。

 

「レイジはああ見えて、考えすぎて空回りすることも何度かあった。特にあの準決勝、アイラ・ユルキアイネン戦の前夜なんか、葛藤しすぎてたんで拳で語り合ったくらいだ」

 

「……そうやったんですか」

 

「ついでに負けず嫌いときたもんだ。もしアイツが赤い髪してたら、写し身かと勘違いしてたな」

 

 豪快に笑うフェリーニはんに、ワイもつい釣られて笑ってまう。

 

「そういや、昴はんの援護射撃は充分役割果たしとる気がしますけど、フェリーニはんはどう思いますの?」

 

「ん?ん~……そこは微妙っつうところか。相手方の嬢ちゃん達を少しだけ見てきたが、どいつもこいつも原石ばかり、μ'sに比べりゃ資質は低いだろうが、それでも充分化けておかしくない」

 

 中でも赤い髪の子の作る機体は怖い、そう言いきるフェリーニさんの表情はどこか厳しいが楽しみにしてるようなそれだった。

 

「なら他の二人は?」

 

「一人は完全な猪突猛進型、見た目はどうもアホっぽいし周りを巻き込みそうだが、多分、高機動接近戦とかやらせて、それなりの技量があれば間違いなくこっちが手を抜いたら落とされかねない」

 

 その言い方に、恐らく去年昴はんの病院に行ったときに会った、オレンジの髪の溌剌とした少女だと感じとる。となると……

 

「もう一人は援護型の機体だろうな。本人の気概もそうだが、どうもガンガン攻めるって言うイメージが湧いてこない分、周りを上手く判断して援護に回るタイプ」

 

 確かに、その子と一緒にいた灰色の髪の少女は昴はんの身の回りのお世話とか、話題作りとか、とにかく雰囲気を良くしようと回っていた気がする。

 

「と考えると、もう一人の赤い髪の嬢ちゃんは多分後衛射撃援護型だな。パターンとしてはファンネル系かスナイパーライフルか……はたまた重粒子砲の三つだろうな」

 

「そういえば昴はん、相手方にザク使いがおるって言ってましたから、多分その子やないですか?」

 

「ザクで遠距離だとすると……『ザクスナイパー』って線は低そうだから、『SEEDザク』、それもガナー装備か……依りにもよって昴の野郎が一番暴走する可能性のある機体じゃねぇかよ」

 

 そう、一番の懸念事項がそれなんやけど……はたして昴はんの友人のお二人が伝えてるかと言われると……

 

「……ま、運が悪いとしか言いようがねぇな。うん」

 

「そうですね。あ、久しぶりにフェリーニはんとサシで戦いたいんで、一戦どうです?」

 

「そうだな。どうせ昴は暫く固まるだろうしな」

 

 そういってワイらはバトルスペースに進路を変える。ちなみに勝敗については、フェリーニはんが上機嫌でお酒を飲んでおったので察してもらえるとありがたいですわ。

 

 

 

 

 

 曜視点

 

 ヨー……ソロー……!!只今私、渡辺曜はとある海小屋のバトルルームの一室にてぶっ倒れております。というのも

 

「ふん、最初よりはだいぶ動けるようになったじゃないか」

 

 黒い髪をオールバックに黒いコートを着た美青年……黒澤家の網子蟹漁師、霜澤シャギア(イギリス系ハーフの現在31歳)さんにこっぴどくガンプラバトルで打ちのめされていました。

 

 ちなみに千歌ちゃんはこの人の弟のオルバさんと、梨子ちゃんはフェリーニさんの旧友らしい小原財閥警備部門、通称『プリベンター』のノイン夫妻と、それぞれ別の場所で練習中であります。

 

「さて、バトルしていての一先ずの総評とさせてもらうが、構わないかな?」

 

「は、はい!!お願いします!!」

 

「ふむ、まず君の機体だが、中距離戦主体としてのカスタマイズされている分、元の『X3』よりは火力としては問題ない。『ムラマサ』も素組のよりシャープにしてあることで切れ味は上がっている……まだそこまで作り込んでないという点を除いても充分戦力としては期待できる」

 

 ……なんだか誉めすぎてるような……つまり、ここからは問題点かな?

 

「だが、バックパックを『ヴェスバー』に変更したことで、全体的な推進能力……詰まるところ機動性は大分落ちてしまっている。元よりABCマントが無かった『X3』ではこれは大分痛手だ」

 

「なるほど……」

 

「加えて、全体的に粒子の使用量が多すぎる。ガンプラバトルでは機体に割り当てられる粒子の量は限られてる。その中でも『クロスボーン』シリーズは使用量が激しい事を加味すれば、短期決戦ないしはソロマッチ戦向きの機体だろうな。ゆえに、バカスカ射つことはできないと考えてくれればいい」

 

 言われてみれば、『ムラマサブラスター』のビームライフルとビームサーベル、『ヴェスバー』に『ビームシールド』と、全体的にビーム兵器ばかりだった。

 

「次に君の技量だが……」

 

「」ゴクリ

 

「……正直に言えば、動きが基本に忠実過ぎる。移動、射撃、近接戦闘のどれをとってもそれでは相手に動きを読まれるのは必至だ」

 

 厳しい指摘に少しだけ俯く。やはり年長者というか、長年バトルしてきた人間には通用しないということなのだろう。

 

「ただし、バトル初心者という面を鑑みれば、成長速度は充分早いうえに、手先が器用なのか、牽制射撃も随分と様になっていた」

 

「それなら……」

 

「今すぐにとは言わないが、少なくとも熟練すれば充分に通用する実力がつくのは認めよう。であれば、あの魔王の『GX』とも少なくとも対等に渡り合えよう」

 

 そういうシャギアさんの顔は何やら悪者のそれだが、まぁこれがこの人の素らしいので置いておこう。

 

「さて、それでは再び練習だ。私の愛機は狂暴だぞ?」

 

「ヨーソロー!!上等であります!!」

 

 その数十分後、私と私の『カノーニア』は余裕で吹っ飛ばされるのは別の話です



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ファーストステップ その四.五

ちょっとした番外編(?)です


 日曜の夕食時、俺と真央さんがホテルビュッフェを楽しんでるときだった。

 

「そういえば昴はん、対戦相手の子達ってチーム名とか決めとります?」

 

 唐突に聞かれ、箸で掴んでいたポテトサラダが小鉢に戻る。

 

「……そういや聞いてなかったな」

 

「それって大丈夫なんです?ガンプライブ出場にはチーム名と、最低でも三人のメンバーが必要なんでっしゃろ?」

 

 その通りだ。基本的にガンプライブの出場は3~10人と決められており、それと同時にチーム名を表す名前が必要になる。

 

 最も、ほとんどのチームがフルメンバーの10人で挑むため、最低人数など有って無いようなものなのだが、名前に関してはそうもいかない。

 

「まぁ真面目な梨子ちゃんや曜も居るから大丈夫だろw」

 

「そうですな。幾らなんでも気にしすぎでしたわw」

 

「「…………」」

 

「……どうしよ、多分あいつら気づいてねぇぞ」

 

 今さらの事に頭が痛くなる思いだった。なにせリーダーがあの阿呆丸だしの千歌だ、つまり二人も阿呆に感化されててもおかしくないわけで……

 

「……あとで連絡して聞いてみます」

 

「そうですな、その方が良いかと……」

 

 俺のため息混じりに真央さんも苦笑で答える。しかしチーム名か……

 

「…………」

 

「およ?昴はんどうかしました?」

 

「いえ、なんでも……」

 

(俺が動かなくても、案外あの人が何とかしてくれるかもな)

 

 嘗て、『絶対防御』と唄われ二年前に消滅したガンプライブユニットの少女を思い浮かべ、気付かぬうちに笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

『チーム名?それなら今日決めたばかりだよ』

 

 夜、曜に携帯で確認を取ると案外あっさりと教えてくれた。

 

「今日まで決まってなかったのかよ」

 

『う、私達も気づいたのは昨日の昼過ぎだし……そう言われても仕方ないかも』

 

「まぁ決まったならそれはそれで構わないけどよ、それで?なんて名前なんだ?」

 

『うん、『Aqours』って言うんだ。水って意味なんだけど』

 

「…………そっか、悪いないきなり」

 

 俺はそれだけ言うと曜との通話を切る。しかしそれ以上に『Aqours』という名前に歯噛みしたくなった。

 

(あいつらは……その名前が持つ意味を分かってるのか……)

 

 恐らく考えたのはあの三人じゃない。寧ろ別の人間……そう考えると一人しか思い付かなかった。そう思ったときにはおれは携帯である人に電話をかけていた。

 

 

 

 

 

「…………」

 

 自転車を飛ばし、千歌達の家の海岸までやって来た俺はその人物が来るのを待っていた。波のさざめく音だけが聞こえてきて、朧月がうっすらと見える。

 

 と、後ろからサクサクと砂を踏みしめる用な足音が聞こえてきて、徐々に徐々に近づいていた。

 

「…………待ってましたよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()

 

 振り返ると、長く綺麗な髪を靡かせ、黒いロングパンツに白のTシャツを纏ったダイヤさんが立っていた。

 

「……俺がなんで呼んだが、分かりますよね」

 

「……ええ、チーム名のこと……ですわね」

 

 その通りだ。寧ろそれ以外で俺がこの人を呼ぶことは今は無いだろう。

 

「分かってるんですか?あの名前を……『Aqours』を渡すその意味を……」

 

「…………」

 

「俺だって事情は知ってますし、何より貴女達にも理由があった事は知ってます。けど……千歌達を、何も知らないあいつらを『()()()』と、皆からそう言わせたいんですか貴女は!!」

 

 俺の叱責にダイヤさんは何も答えない。いや、答えられないんだ。

 

「貴女達三人の『Aqours』が、あの日からなんて言われてるか知ってますか?いや、知ってるはずだ」

 

「それは…………」

 

「『臆病者』、『名ばかりチーム』、『逃走者』、勿論それが事実とは違うことは分かっています。それでも……」

 

 実際、ダイヤさん達の実力はかなりのものだった事には変わりない。たった三人だけのチームが、地方の小規模な大会とはいえ連勝を続けていたといえばその実力も分かろう。寧ろ下手な全国出場チームよりも腕は上。それゆえに、ファンもそれなりにできていた。

 

「貴女達はファンだった人達を裏切った。それが今度は後輩たちにその名前を押し付ける?大概にしてくれ!!あんたは千歌達に怨みでもあるのか!!」

 

「ならどうすれば良かったんですの!!」

 

 突然の怒声に今度は逆に驚かされる。

 

「果南さんも鞠莉さんも私には大切な仲間であり友人なんです!!両方の気持ちも痛いほどに……それでもどちらしか選べないのに、私はどちらも選べずただ流れに任せて……教えてくださいな昴、私はどちらを選べば良かったんですの!!鞠莉さんと果南さん、どちらの手を取れば良かったんですの!!」

 

「……だからって、中途半端にアイツらに押し付けるのとは」

 

「分かってるんです!!けど、私達が戻るべき場所は……あの名前にしか無いんです……少なくとも、私はそう思っています」

 

 さざめく波に消えそうな声で言うその言葉を最後に、ダイヤさんは振り返って立ち去ろうとする。

 

「ダイヤさん……なら最後に一つだけ聞きます。貴女は、()()()()()は何を望んでいるんですか?」

 

「…………」

 

 俺の問いに答える事はなく、去っていく歳上の少女を見ながら、俺は悪態を付きながら空を見上げる。

 

「千歌、お前達の試練はまだ始まったばかりだな……」

 

 どう乗り越えるのかと考えながら、俺は置いておいた自転車に跨がり、ホテルへの帰路へつくのだった。




オマケ

ルビィ「作者さん、私達の出番は……」

作「えっと……まだ暫くは無い……かな?」

ヨハネ「この私を出さないなんて……guiltyよ!!」

花丸「大丈夫ずら善子ちゃん、もう少ししたら出番あるずらよ」

ヨハネ「善子言うな!!次に善子っていったらバスターライフル射ちまくってやるんだから!!」


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ファーストステップ その五

「……」

 

 対戦当日の水曜日、放課後の対戦までに自分の機体を、理事長である鞠莉さんから宛がわれた教室の一角で最終調整していた

 

「おい昴、今回の勝率としてどれくらいだと睨んでる?」

 

 と、同じく教室でやることがなく、今日は使うことはない自らの愛機を調整しているフェリーニさんが聞いてくる。

 

「そうですね……たった数日でそこまで上達してるとは考えにくいので、真央さんとフェリーニさんが用意されてる素組のそれだとしても……8:2ぐらいですかね」

 

「随分と言い切るな」

 

「当然、ガンプラバトルを初めて数週間程度の奴が、少なくとも二年近くバトルし続けたプロと戦えば、よっぽどのことが起きない限りはですけど」

 

 例えばどこかの誰かが三人にコーチを付けてなければ、俺がそう言うとフェリーニさんはなにも言わず機体の関節を確認する。

 

「ま、それでも六割で勝てますでしょ。なにせ素組というハンデが有っても、操るのは古参の『真央さん(魔王)』と『フェリーニさん(流星)』、三代目が直々にコーチするなら兎も角、そこら辺のアマチュアないし下級プロ相手のコーチングで勝てるくらいなら、プロランクなんて変動し放題ですからね」

 

「そうかよ。で、今日のセッティングは?」

 

「アサルトアーマーとディープビーム砲、バルルスとキャットゥスをそれぞれ翼に二つずつ、三連装ミサイルポット二つにビームカービンと重斬刀二振り、あとNJCを……」

 

「そう言うわりにだいぶ本気じゃねぇか。なんだそのフル装備は」

 

 失礼な、そう思いながらセッティングを終える。

 

「いつもなら重突撃銃二丁装備してるんですがね、SEED系が二人いるんで実弾だとそこまで大したダメージにならないんで」

 

「にしても良くもまぁNJCなんてもの取り付けられたなおい」

 

「EX『ミーティア』の推進ユニットが『ジン・ハイマニューバ』と似たような規格なんで、それ弄くって取り付けたついでに、内部バッテリーにNJCも取り付けた感じですけどね」

 

 お陰で推進エネルギーだけは粒子を使わず自前運用できるため、セッティングではほとんど欠かすことのできないパーツなのだ。

 

「最も翼を撃ち落とされたりして、推進ユニットがヤられたらその時点で機動性ほぼ皆無になりますがね」

 

「まぁ当たり前だろうな。お前的に一番厄介そうなのは誰なんだ?」

 

「……そうですね――」

 

 

 

 

 

「それでは、新たなる浦の星のgunpla fighterと昴率いるpro teamとのバトルを始めます」

 

 放課後、体育館の中央に置かれた台座に千歌達三人が相対する。審判にはダイヤさんが俺たちの間にたっている。

 

「ルールは30分の3対3、ダメージレベルはC判定、千歌さん達はプロチームの機体を一体でも撃破に成功すれば勝利、逆に昴さん達は落とされることなく全員撃破すること、まずは互いによろしいですわね?」

 

「はい!!ダイヤさん」

 

「……こちらも同じく」

 

「はい、では次にプロチームですが、ハンデとして昴さん以外……つまりフェリーニさんと真央さんには、こちらで用意したそれぞれの過去の愛機である『ウィングガンダムフェニーチェ』と『ガンダムX魔王』の、それぞれレプリカの素組で戦ってもらいます」

 

 ダイヤさんのその台詞に、鞠莉さんの近くにいたスーツの男二人がケースを持ってきて、それぞれに中に入っている機体を二人に渡した。

 

「……確かに素組の『フェニーチェ(元相棒)』だな。丁寧に作られてやがるいい機体だ」

 

「こちらも同じくです」

 

 つまり雑に作られた素組では無いことは確認されたわけだ。まぁ鞠莉さんはそう言うところは細かいから、下手にそんなことはしないとは思っていたが。

 

「それでは次に千歌さん達、チームaqoursは勝てば部の発足を認められます。が、負ければ部員数五人揃うまで発足を認めません。いいですわね?」

 

「分かっています」

 

 千歌がはっきりとそう言う姿に、内心少しだけだがリーダーらしくなってきたと思うが、まだまだというような雰囲気も見てとれる。

 

「それでは、両者共に出撃の準備を」

 

 その言葉に、俺ら三人は無言でGPベースに機体をセットし、宙に現れたコンソールをそれぞれ握る。

 

「……天ノ川昴、『ジン・AHM』出撃する!!」

 

 

 

 

 降り立ったフィールドは、どうやらサイコガンダムで有名なニューホンコンのようだった。しかも真っ昼間だ。

 

『あちゃー、これはちょいとワイには厳しいかもしれへんですわ』

 

 とりあえず近場のビルの影に纏まりながら、真央さんが通信で苦笑いで言ってるが、俺としてはまぁ『サテライトキャノン』が使えないというだけで結構痛手だった。しかも、

 

(『ジン・AHM』は重力下で飛行できないというおまけ付きかよ)

 

 元々『ディン』や『シグー』と違って、空中戦闘を想定していない『ジン・ハイマニューバ』をベースにしてるだけに、ロングジャンプぐらいならまだしも他の二人と違って飛行移動できないという足枷までつけられてしまった。

 

(まぁ低空飛行ならできるから問題ないが、相手の動きはっと……)

 

 千歌達の動きを探るべくレーダーを確認するも、やはり建物が多く確認ができない。

 

『どうする昴、奴さんはどう動くと思う?』

 

「……ニューホンコンは建物が多いので、『ガナーザクファントム・リリィ』の収束ビームを除けば、彼方も接近せざるを得ないと思います」

 

『ですやろな。何せ天候は快晴、ワイの『X魔王』にはサテライトシステムはあれどソーラーレイシステムは模造品やさかい非搭載や、使えるのはビームサーベルとビームライフルぐらいでっせ?』

 

「だったら『お前ら散開しろ!!』な!?」

 

 いきなりのフェリーニさんの言葉に、大慌てでスラスターを吹かして建物から離れる。するとその直後、紅い砲撃ビームの光線が、俺達の居たビルの根本を貫通し、轟音と共に崩れ落ちた。

 

「『オルトロス』か!!てことは!!」

 

 手早くカメラを確認すると、砂煙が立ち込めていたが、やはりそこには重粒子砲塔『オルトロス』を構えた紅い『ザクファントム』……『ザクファントム・リリィ』が確認できた。

 

「フェリーニさんはすぐに『リリィ』を落としてください!!何発も射てる代物じゃないですが、射たれたら恐らく次は無いです!!」

 

『了解した!!真央、お前は昴の直掩に付け、恐らく狙いは各個分断することだ!!素組で使える武装が少ない『魔王』じゃ援護が関の山だ!!』

 

『分かっとりま……!!接近アラート!?』

 

 まるで狙ったように上から現れた『クロスボーン』のカスタム機……恐らく曜の機体にビームの雨霰を撃ってこられ、今度こそ完全に分断されてしまった。援護しようと反転して援護しようにも、後ろからの接近アラートに慌てて重斬刀を抜く。

 

「くそ、思惑通りかよ……千歌!!」

 

 そこに居たのは、青かった部分がオレンジのカラーリングに直され、肩のブーメランと小型のシールドを両腕に装備し、さらに手にはビームを展開したフォースシルエットの下翼を改造した対艦刀で鍔迫り合う『インパルス』の姿がそこにあった。

 

『そうだよ!!これが私達が昴くんに勝つための方法!!』

 

「そうか……よ!!」

 

 とりま蹴りを相手に入れて、一端距離を離す。改めてよく観察してみると……

 

「……なるほど、『デスティニーRシルエット』を組み込んだか」

 

 そう、オレンジに塗られているが展開され中に三つの小型ウィングを搭載した大きな翼と、腰には今手に持っている対艦刀を左にもう一本装備しており、だいぶ接近戦を予想した機体に組み上げられていた。

 

『うん、これが私の機体、『インパルス・サラバティ』だよ!!』

 

「『サラバティ』……なるほど、水の女神か……『aqours』の名前にぴったりの名前だな」

 

『へへ、そうでしょ!!』

 

 そう言いながら、千歌は左手にビーム砲を構えて撃ってくる。俺はスラスターを巧みに動かし避けながら、ビームカービンとディープビーム砲を千歌に放つ。

 

『う、やっぱり昴くんは強い!!』

 

「当たり前だ、世界大会出場者を舐めるんじゃねぇ!!」

 

『けど!!それでも!!』

 

 避けながら近づいてくる千歌が再び右手の対艦刀を水平方向から薙ぐ。それに対して俺もカービンを捨てて、両手に重斬刀を握り受け止める。

 

「『勝つのは俺/私だ!!』」

 

 ここに、aqoursの初めての戦いが火蓋を切って下ろされた。



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ファーストステップ その六

スマホ復活!!けどFGOはほぼ確実に消失……詰んだ……

そんなことより本編ってことで、どすか(緑のカエル感


梨子side

 

 

「予定通り分断成功ね」

 

 右手に構えていた『オルトロス』をランチに背負いながら、私はスラスターを使って移動を始める。レーダーには『イタリアの伊達男』こと、リカルド・フェリーニさんの操る『フェニーチェ』のビーコンが近づいてくる。

 

 相手は素組とはいえスピードを重視した機体に対して、こっちは今回のために作成した特殊ウィザード『ハウンド』の重量が重たすぎるために、少しずつ距離が近づかれる。

 

『漸く追い付いたぜお嬢ちゃん!!』

 

 と、思ってるうちに背後を取られたらしく、バスターライフルではない、普通のビームの弾丸が近くを素通りする。流石にこれ以上は距離を離すのは無理そうだ。

 

 仕方なく反転し、両肩のシールドからビームトマホークを二つに抜き構える。フェリーニさんの機体には大きなダメージこそ見られないものの、素組ゆえの脆さか、だいぶビル破壊での衝撃のダメージらしき後がちらほら見える

 

『たく、あんな高火力ビームをメインにしてると思いきや……なんだその火薬コンテナみたいな装備は?』

 

 フェリーニさんが呆れるのも、まぁ無理はない。というのも今回の『ハウンド』ウィザードは、簡単に言えば『ブレイズ』と『ガナー』を同時搭載するという代物だからだ。

 

 基本ベースは『ブレイズ』ウィザードを元に、右横に『オルトロス』を引っかけるランチを、腰には横向きにした『オルトロス』専用の予備粒子タンクを増設、さらに左側には『キャットゥス』をベースにした改造バズーカも装備させた、バ火力と言われても仕方ない構成になっる。

 

「これぐらいやらないと、分断なんてできないと思ったので」

 

『言いたいことは分かるが……限度があるっつうの!!』

 

 そう言いながらビームレイピアを抜き、スラスターを吹かせて接近する。振ってくる斬撃を右手のビームトマホークで弾きながら、もう片方のトマホークを下から振るう。

 

 しかしそれは後ろに避けた事で空を切るだけ、振ったあとの硬直の隙間に再び突きの一撃が襲う。

 

「ぐ……速い!!」

 

『どうした嬢ちゃん!!素組み相手に苦戦してるなんてダメだぜ!!』

 

「こっちは遠距離支援専門なんです!!」

 

 レイピアの一撃を回避しつつ、そう切り返す。レーダーを確認すると、千歌ちゃんが昴くんに推され始めてる。

 

『そんな屁理屈言ってられるほど、ガンプラバトルは甘くねぇんだよ』

 

「だったら!!」

 

 左のトマホークを投げて不意をつくも、予想してたように避けられ、むしろレイピアの一突きが頭部を掠めてしまう。

 

「(時間がない!!だったらここは)てやぁぁぁ!!」

 

 作戦のため、そう思って突かれるレイピアを弾きつつタイミングを計る。一合、二合、弾く度に狭いビルの間を後退し……そして、その時は来た。

 

 突かれる剣の一撃に、私は躊躇わずにスラスターを吹かせる。その瞬間、左肩にビームの刃が突き刺さるが、そんなのお構いなしにスパイクシールドの突撃を『フェニーチェ』にかました。

 

『なんだと!?』

 

 あまりの事に驚きながら、フェリーニさんの機体は体勢を大きく崩す。そこに一瞬の隙が生まれる。

 

「そこだぁぁ!!」

 

 私は腰に取り付けていたグレネードを相手に向かって投げつける。すると一瞬でグレネードは爆発……

 

『な、なんだこりゃ!?』

 

 ではなく弾けて、中から白い物体を出現させ、『フェニーチェ』のありとあらゆる場所に取りついて白く染め上げて、その重みで転倒してしまう。

 

『機体が動かねぇ!!トリモチグレネードか!?』

 

「その通りです」

 

 正確には、トリモチとボンドを組み合わせた強化トリモチグレネードだ。バトルで相手を暫く拘束するくらい容易い代物で、尚且つ、

 

「素組みのガンプラのビームサーベルだと結構な時間が掛かりますよね?」

 

 勿論改造済みのガンプラ相手でも時間を要するに変わりないけど、一時の時間稼ぎぐらいになるのは変わらない。

 

『……なるほど、俺達を足止めするのが目的か?』

 

「ええ、私達は昴くんを倒して、ガンプライブを目指します」

 

『そうか、だが言っておく。嬢ちゃんは後悔するぜ?この時俺を倒しておけば良かった……そういう風にな』

 

「そんなの……」

 

 とっくに分かってる、そう言おうとした時のフェリーニさんの目はかなり鋭かった。

 

『こいつは忠告じゃねえ、警告だ。アイツが本気で戦えば、お前達はすぐに落とされる。確実にだ』

 

「でも、私達は特訓で……」

 

『……まぁここで俺が深く言うのも筋違いだ。行けよ、そして自分の目で確かめてこい、天ノ川昴の、()()()()()の由来をよ』

 

 それだけ言い残すと、フェリーニさんは通信を一方的に切ってしまった。どこか不安を思いながらも、私はとにかく千歌ちゃん達の援護に向かうために、機体のガナーパーツをパージして、その場から離れるのだった。

 

 

 

 

曜side

 

『分断とは、粋なことしてくれますなぁ……』

 

 相対する白亜の巨人を前に、私はひたすら冷や汗を掻いていた。

 

「えへへ……ここで大人しくして貰えると嬉しいかなぁ……なんて?」

 

『それは無理ですわな。何よりワイの前に『クロスボーン』で現れる言うこと……』

 

 次の瞬間、ビームライフルをこっちに向かって連写してきた。慌てて左腕のビームシールドを展開して攻撃を防ぐ。さらにビームソードを抜いて射ちながら近づいてきた。

 

『骨の髄まで教えてあげまっせ!!』

 

「そんなの要りません‼」

 

 射撃を防ぎつつ、右手のムラマサのリミッターを解除し、迫るビームソードを弾く。だが手数で優に押しきられ、徐々に反応が追い付かなくなってくる。

 

「く、素組なのに芸が細かい」

 

『プロの技量、嘗めて貰っては困りまっせ!!』

 

 打ち合いを続け、右手を落とせそうとおもって振り抜いたそのとき、ついにムラマサリミッターがオフになってしまい、狙ったようにそれを『魔王』の一閃が一刀両断してしまう。

 

「しまった!!」

 

『隙有りや!!』

 

 慌てた一瞬で再び懐に潜り込まれ、完全に肉薄されてしまった。下から伸びてくるビームソードが徐々に迫りくる。

 

「(スラスターも防御も間に合わない!!)……ごめん、千歌ちゃん……」

 

 負けを確信し、小さく呟いたその一言と共に諦めてしまいそうになったその時、

 

『まだよ曜ちゃん!!』

 

 突然の音声と共に、画面にバズーカを持って撃ち込む梨子ちゃんが乱入してきた。

 

『ち、バズーカやと!?』

 

 慌てて避けるプロだが、一瞬遅くバズーカに内蔵されていたトリモチが脚に引っ掛かってしまった。

 

「梨子ちゃん!?どうしてここに…」

 

『フェリーニさんをトリモチグレネードで包んで、援護に行こうとしたら案の定で……』

 

 いやいやいや、トリモチグレネードって何!?トリモチ弾をグレネードに加工したの!?何その罰ゲーム的な装備!?ネバネバプレイなんて誰得なの!?

 

 あ、でも千歌ちゃんと一緒ならネバネバプレイもしてみたいかも……あと昴君のトリモチでネバネバさせられたり……従弟だけどいいかもしれない……むしろウェルカム!!

 

 っと、そんな妄想してるうちに梨子ちゃんのグレネードを受けたのか、トリモチに完全に覆われて横倒しにされた物体が転がっていた。

 

「……作戦通りと言えばそうなんだけど……やっぱり卑怯なような……」

 

『大丈夫、制限時間ギリギリに爆発するように爆薬組み込んでるから』

 

『『そんなこと聞きたくなかったぞオイ!!』』

 

 と、素組プロが喚くようにじたばたしてるが、よっぽど強力なトリモチなのか、目の前の『X魔王』はうんともすんともせず、完全に動けなくなっていた。

 

『さ、今のうちに千歌ちゃんの援護に行きましょ』

 

「よ、ヨーソロー……」

 

 なんと無く釈然としなかったが、兎も角昴君と戦ってる千歌ちゃんのほうに行かないとね!!

 

 従弟とはいえ、弟に負ける姉など居ないと見せてやらないとね!!……え?死亡フラグっぽい?そんなこと言ってるとお空にヨーソローしちゃうんだからね!!



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ファーストステップ その七

「おらおら!!その程度か千歌ぁ!!」

 

 斬りつける重斬刀の剣閃が、千歌の機体の対艦刀とぶつかる。コンソール越しに感じるその重さに痺れながらも、受け流して蹴り飛ばす。

 

『昴君のほうこそ、本気出てないんじゃん。そうだったら今頃お腹から真っ二つにされてておかしくないもん』

 

「ぬかせ!!」

 

 彼女のニュータイプのような直感にイライラしつつ、肩のバルカンをばら蒔くように射ち続ける。PS装甲のせいか全くダメージが見えず、寧ろそれをものともせず両手の二振りの対艦刀を上から振り抜いてくる。

 

「分かってたとはいえ、厄介すぎるわその装甲!!」

 

『ご要望なら梨子ちゃんに頼んで『ヤタノカガミ』の処理もしてもらうけど?』

 

「粒子あまり使わない高機動近距離型にそんな処理されたら何もできなくなるわバカ千歌!!」

 

 『ヤタノカガミ』事態チート兵器なのに……やれ光学防御抜けるわ、やれターンホイザー防ぐわ、ビーム弾くわで、しかも搭載してる『アカツキ』は金色?中の人と合わさってどんだけだよ!!

 

 あれか?子○のキャラのはチートなのか!?御大将だったり、火消しの風だったり、挙げ句のはてには吸血鬼だったりと!!どれもこれもチートですねありがとうございます!!

 

『バカじゃないもん!!そんなこと言う昴君には……』

 

 と、そう言いながら今度は両手にライフルを……ってちょっと待て!!

 

「おい、俺の見間違いじゃなかったらなんかライフル同士ドッキングしてるよな?しかも空飛んでる?……オイオイオイ!?」

 

『くらえぇ!!梨子ちゃん謹製、『ビーム砲も射てるSEED型バスターライフル』ぅ!!発射ぁ!!』

 

 やっぱりバスターライフルでしたよねこのポンコツがぁ!!ってそんなことよりも!!

 

「ヤバイヤバイヤバイ!!」

 

 当然だが俺は急いで逃げる。既に火線はアスファルトに直撃し、まるで星を軽く砕く一撃、またはマ○ブでお馴染みの核爆発よろしく周囲を呑み込みながら辺りを焦土に変え始めている。飲み込まれれば装甲強化してる愛機とはいえ大破は免れない。

 

 ゆえに、俺は今全力で逃げる。そしてこうも思う。……千歌に高火力射撃武器持たせたらあかん、と。

 

 

 

 

ダイヤside

 

「……なんという火力なんですの」

 

 千歌さんの使うインパルスの火力に驚いた私は思わずそう呟いてしまった。

 

「oh……まさかのこれは予想外デース」

 

「というより鞠莉さん、素組のプロ倒したんですから試合終了なのでは?」

 

「ダイヤ、トリモチはあくまで相手を拘束するための武器よ。とどめにビームライフルとかで撃ち抜くなら兎も角、放置しているならば倒したのとは=じゃないわ」

 

 その言葉に微妙な顔になる私に、鞠莉さんは苦笑いで答える。

 

「まぁあんな中途半端な勝ち方じゃ、この先ガンプライブに出ても予選で負けるだけ、全国出場なんて夢のまた夢よ」

 

「それは……まぁ確かにそうですが……」

 

「それに、この試合は三人の為だけじゃなくて、昴の為にでもあるのよ?」

 

 昴さんの?その言葉に疑問符を浮かべるが、すぐにその意味が分かった。

 

「……それにしては随分と荒療治ですわね」

 

()()()C()P()U()()()()()()()()()()()()()()()()のでは、小原もプロ契約を続行するか決めかねるってことよ」

 

「……言われればその通りですわね」

 

 鞠莉さんは言外に、CPU制御の素組が束になっても勝てないレベルを求めてるというのだろうが、確かにプロならそれくらいこなせなければ無理というのはなんとなくは分かる。

 

「千歌っち達は、これから先昴並の相手と戦うなんてざらにある。今は多対一でまとも戦えるから良いけど、それすら通用しないファイターも普通に出てくる」

 

「逆に昴さんは、プロである以上ハトルロイヤルで狙われることは避けられず、寧ろ本来の実力を出せなければいけない……と?」

 

「そ。それに今年の新入生には少なくとも一人、私が知ってる中で凄腕のファイターも居るし、引き込めれば浦の星が全国に出ることだってできる。そうなれば()()も白紙になるかもしれないわ」

 

 全くというか、鞠莉さんの考えの速さに唖然としながらも、まだ続いている戦いに視線を戻すのだった。

 

 

 

昴side

 

「くそったれ、なんつー火力してやがる……」

 

 胸部の増加装甲をパージしてなんとか避けきれた俺は、そびえるビルに隠れつつあの砲撃(あれは絶対に射撃じゃない)の足跡を確認する。

 

 道路はヒビと瓦礫で覆い尽くされ、建物もいつ倒壊するか分からない。EWのツインバスターライフル歳大出力とはいかないが、それでも抉れるようにクレーターが作られていることから、火力のおかしさが滲み出てる。

 

「桜内さんに言って千歌の機体からあれは取り外させよう、うん……っと、アラートか!!」

 

 上からの接近警報に視線をやりつつ、剣を抜いて飛び上がる。重力圏での飛行はほとんどできないが、飛び上がるくらいは余裕でできる。

 

 勢いよくビルの屋上に飛び乗ると、ライフルをしまって対艦刀を抜いてる千歌の『サラバティ』が宙を停滞していた。

 

『ありゃりゃ、やっぱり昴君には当たらないか~』

 

「当たり前だ。てか、あんなの『ナノラミネートアーマー』持ちでも消し飛ぶわ」

 

『ふーん、だったらこれは……どうかな!!』

 

 と、千歌は右肩のフラッシュエッジを抜いて投げてくる。予想内の事で剣で弾き飛ばしながら、ディープビーム砲を揃って照準に捉える。

 

「シュートォ!!」

 

 タイミングを片方ずつずらして放った熱線に千歌はタイミングをずらされたのか、それとも手持ちの対艦刀が重すぎるのか、二発目のビームによって右下のアンテナが消し飛ぶ。

 

『もう!!大人しく倒されてよ昴君!!』

 

「そうは問屋が卸す……って後ろからのアラート!?」

 

 まさかの事に驚きながらその場から離れると、狙ったようにミサイルの雨霰が今居た足場を直撃し、何やら白い物体で覆われてしまう。

 

「トリモチミサイルってか!?三人でミサイルなんて積めそうなのは……桜内さんか!!」

 

 確信を持ちつつ映像確認すると、やはりそこには『ブレイズウィザード』のミサイルポッドを構えていた桜内さんの『ザクファントム・リリィ』と、その近くでバズーカを持った曜の『クロスボーン』が接近してきていた。

 

『すまん昴、俺も真央もあのザク使いのトリモチにやられた』

 

『しかもトリモチの中に爆薬積まれとるさかい、ビームサーベルで焼いて逃げられへんのや』

 

「マジすか二人とも!?」

 

 完全なるピンチ、千歌の機体には然程ダメージを与えられず、他二人はダメージはそれなりにあるみたいだがそれでもこっちは一人とかなりの劣勢。しかも制空権は取られてるうえにほぼほぼ挟まれてるときたものだ。

 

 こっちは胸部の『アサルトアーマー』こそパージしたもののほぼ無傷。だがビーム砲はそろそろ使えなくなるうえに、積んできたビームバズーカはあの爆発から逃れるためにパージしたせいで既にこの試合では使えない。

 

「状況としてはサレンダーしてもおかしくない……いや、そうするべきか……」

 

 はっきり言って、嘗めていた感じは否めない。高々数日特訓した程度の新米ファイター、例え俺の癖を良く知る千歌や曜だろうが負けるわけがないと高を括っていた。

 

 それがどうだ、俺よりランクが遥かに上の二人があっという間に動けなくなり、俺の今の全力ですら決め手に欠けてる。

 

『言っとくけど降参なんて認めないよ』

 

「んな!?ふざけんな千歌!!俺がどうしようと勝手だろうが!!」

 

『当たり前だよ昴君、私達は勝つために戦ってるんだよ!!それなのに戦いから逃げて……そんなの、あの頃の……あの予選決勝の前の昴君なら絶対あり得ない!!』

 

 そう叫ぶ千歌の言葉に、俺はただでさえイライラしていたのが、ピークまで出かかっていた。

 

「昔と今は違うんだよ……むしろ、昔だからできて今はできねぇことだってあるんだ!!」

 

『そんなことない!!昴君はただ逃げてるだけだよ!!私達があの時昴君を止めようとしてくれた選手みたいに、傷つけたくないから!!』

 

「……ッ!!ふざけんなぁ!!」

 

 まるで見透かすように言う千歌に、俺の怒りが完全にキレた。機体の増加パーツを全てパージし、両手に重斬刀をそれぞれ抜いて、勢いよく千歌のいる空中へ飛び出した。

 

 突然の事に驚いたのか、千歌も対艦刀を構えるが、一瞬遅く左の刀身が胸部にぶつかり、千歌を大地へと叩き落とす。

 

「お前に何が分かる!!大好きなもので他人を傷つけて、それなのに周りからは同情されども、叱責されない……その辛さがお前には分かるか!!」

 

『そんなのは昴君のエゴだよ!!』

 

「エゴで充分だ!!俺が全力を出したら、それこそ千歌達が傷つくかもしれない、()()だったお前が輝ける舞台を奪っちまうかもしれない!!」

 

 牽制のバルカンを避け、剣で弾きつつ近付き、橙色のインパルスの左腕を()()()()()()()()()()()()()()()()()、ビルへと機体を突っ込ませる。俺の得意技の合わせ目斬りである。

 

『ぐぅ……!!そんな!!合わせ目は消してた筈なのに!?』

 

『千歌ちゃん!!このぉ!!』

 

 援護射撃してくる曜に舌打ちしながら、迫ってくるビームの雨を避けながら接近し、スラスターを歳大出力で吹かせてその真後ろに迫る。

 

『しまっ!!』

 

「遅い!!」

 

 振り替える前にバックパックの接合部を切り落とし、『ヴェスバー』ユニットは爆発、空中に留まれなくなった水色の『クロスボーン』は呆気なく地上へと墜落し始める。

 

『く……このぉ!!』

 

 二人を助けようとする梨子がビルの上からミサイルを数十発、それもランダム軌道で撃ってくるが、腰に付けていた()()のバズーカを手に取り、それを放つ。

 

 それはミサイルの衝突面で爆発し、それと共にザフトにおいて絶対に使われない規模のそれと共に、残っていたミサイルの全てを誘爆、巨大な複数の花火が引き起こる。

 

『な!?核弾頭!?ザフトは放棄してるはず!?』

 

「これはガンプラバトルだ!!ザフトも連邦も無いってんだよ!!」

 

 もっともレギュレーション上、核弾頭系の武装は一チーム一発しか装備できないが、そんなのはこの局面では全くもって関係ない。

 

「もうミサイルの予備はねぇだろうしな!!」

 

『ぐ……だったら!!』

 

 と、今度はビームアックスを抜き、その巨大な斧刃で近付いてくる俺を切ろうと振るうが、

 

「甘い!!」

 

『そんな!?』

 

 あっさりと避けて、その両足を真っ向から切り裂く。さらに倒れる寸前にその体を蹴りあげ、肩、首、肘、腰の関節全てを瞬時に切り落とした。完全にダルマ、寧ろ爆発しないのが不思議なくらいにボロボロに切り落とした。

 

『キャァァァァ!!』

 

『『梨子ちゃん!!』』

 

 自分達より強いはずの梨子ちゃんがあっという間にやられた事に驚いた二人が、その場であり得ないと言うように見ていた。

 

「さて……プロに嘗めたこと言った報い、ここできっかりと払ってもらおうか?」

 

 俺の笑顔の台詞に、会場にいた全員が恐怖したのは言うまでもない。




オマケ 機体設定①
機体名:ジン・アサルトハイマニューバ
パイロット:天ノ川昴
製作者:天ノ川昴
ベース機体:ジン・ハイマニューバ
使用パーツ
頭部=『ジン長距離強行偵察複座型』
胸部=『ジン・ハイマニューバ(本体)』+『ジン・アサルト(増加装甲&バルカン砲)』+自作『NJCユニット(本体内部装備)』
腕部=『シグー・ディープアームズ(肩&ビーム砲パーツ)』+『ジン・ハイマニューバ(腕)』
脚部=『ジン・ハイマニューバ』
背部=『ジン・ハイマニューバ(翼)』+『EX ミーティア(スラスターユニット)』
武装
・重突撃銃orビームカービン×2
・重斬刀×2
・ディープアームズビーム砲×2(パージ可能)
・キャットゥス改弐×2
・バルルス砲×2
・三連装ミサイルポッド×2
設定
 天ノ川昴の愛機。高機動戦闘を重視しており、武装のほぼ全てをバトル中にパージ可能にしている。機体カラーリングは若干白寄りの灰色。
 機体作成には『ケンプファー』や『FAユニコーン』の、『使い終わったら捨てて機体を軽くする』という理論を参考にしており、最終的には対ビームコーティングされている重斬刀二振りでの高機動近接戦闘を行う。
 また、たまにだが最終兵器の『キャットゥス改核弾頭装備』を装備することがあるが、基本的にバトルロイヤルまたはチーム戦の時以外は装備しない、寧ろそれでも装備しない事があるくらいにたまにしか使わない武装も装備してるときがある。

こんな感じですね。本当ならガンプラ作って貼りたいのですが、如何せん資金不足と、そもそもキットが存在しない『ジン・アサルト』のアサルトアーマーが作れないので、こんな形になりました。


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ファーストステップ その八

 迫り来る剣撃に、私は残っている右手の大剣でなんとか防ぐ。一合一合、まるで乱撃のような斬り合いに、私の『インパルス』は押し込められていく。それに何よりも、

 

「速すぎる!!量産機ベースなんでしょ!!」

 

 そう、まるで量産機というにはおかしい速度で振られる直剣の一撃は、まさしくガンダム系のパワーにも匹敵してもおかしくないそれだった。

 

『そういや、千歌は知らねぇんだったな。俺の『ジン』について!!』

 

「え?」

 

 鍔迫り合いの最中、明かにあり得ないパワーに驚きながらもそんな昴君の言葉を聞き受ける。

 

『元々、SEED系のMS全てはこの『ジン』から始まった。そしてそれがやがて拡張性が高まって、色々なMSに転じていった。桜内さんの『ザクファントム』やお前の『インパルス』のようにな』

 

 だが、そう呟く昴君の剣が私の大剣を押し返してくる。

 

『『ジン』には有って、他のSEED系のMSに無いものがある。それは、扱いのしやすさと、機体自体の能力の高さだ』

 

「それって……」

 

『『ザクファントム』は様々なウィザードを変更することで能力を適材化する。が、逆に言えば全てのウィザードを使いこなせなきゃいけないうえに、それが無くなれば機動性は皆無だ。ガンダム系は能力が特化していて扱うのにも慣れれば良い。が、慣れるまでに時間がかかるうえに、適材じゃない場所……例えば水中や森林等では特化した能力が活かせづらい!!』

 

『だが、『ジン』は違う!!装備自体が扱いやすくシンプルなうえに、コーティングさえしてしまえばビームサーベルとも渡り合える!!機動性も装甲もチューンアップすればガンダムにも引けを取らない!!故に!!』

 

 まるで殺気が乗り移ったような剣の一撃に、ついに対艦刀は真っ二つに切断された。ビームの出力をものともせず、ただ真っ直ぐとその直剣は振り抜かれた。

 

『『ジン』こそが、SEED系の最強!!そしてこの『ジン・AHM』が最も軽い今、速さで勝てる機体はこの場には無い!!』

 

「こなくそ!!」

 

 すぐに持っていた大剣を捨てて距離を取るが、予想してたかのように離れず飛んでくる。再び振り下ろされる直剣に、慌てて『フラッシュエッジ』を右肩から抜いてビームサーベルのように構える。

 

『千歌ちゃん!!今援護に!!』

 

「来ちゃダメ!!今の曜ちゃんじゃ的にされるだけだよ!!」

 

 それに仮に二人で挟み込めたとして、相手は怒りでリミッターが外れた昴君だ。あの時みたいに『アシムレイト』が発動されてないみたいだから7~8割ぐらいだろうが、()()()()()の半分以下でさえギリギリ善戦していたぐらいだ。今の昴君が剣だけしか装備してないとはいえ、左腕が肘下から無い私と、バックパックを切り落とされて機動力がない曜ちゃんではかなりキツイ。

 

『でも!!このままじゃ千歌ちゃんも!!』

 

「私はまだ大丈夫!!それより曜ちゃんは梨子ちゃんのところに!!まだ梨子ちゃんのアレが使えるはずだから!!」

 

『ッ!!三分で戻るから!!』

 

 通信を終えて戦いに集中するも、実践経験の差なのか、再びの鍔迫り合いもかなり押し込まれてる。けど!!

 

「てりゃぁ!!」

 

 私は右足で昴君の機体を払うと、まるで滑るようにその体勢が崩れていく。

 

『んなろ!?』

 

 が、すぐに体勢を立て直されてしまうが、距離を取られた。私は急いで背中のホルダーに収められているライフルを肩ににキャノンのように展開し、交互に狙ってとにかく撃ち抜く。

 

『くそったれ!!火力にものを言わすってか!!』

 

 ステップを踏むように避け続ける昴君だが、それでも打ち続けられるビームの雨には近づけないのか、徐々に徐々に後退していく。

 

『……なぁんてな!!』

 

「え?」

 

 と思いきや完全に背中を向けて私の目の前から去っていく。一瞬何事かと呆けるも、すぐに慌ててレーダーを確認し追いかけると、なんと曜ちゃんの方に向かって昴君の機体が進行していた。しかも徐々に引き離されはじめてる。

 

『いくら速い『デスティニーR』装備してても、一瞬早く移動できれば、機動性が無いに等しい曜達二人を倒すなんて簡単なんだよ!!』

 

「ぐ、戦略が読まれてた!?」

 

 急いで機体の全力で追いかけるも、昴君が言ったように速さで負けているのか、全くもって追い付けていない。

 

『当たり前だ!!大方、バックパックの接続を桜内さんがカスタマイズして『ウィザードシステム』に対応できるようにしたんだろ?つまり、狙いは『クロスボーン』に『ブレイズ』を装備させること!!違うか?』

 

 大当たりだった。むしろ正解という以外に何もない。それでも私はライフルを抜いて昴君のいる方角に構える。

 

「邪魔されるわけには、いかない!!」

 

 レーダーを確認し、出力を最大値まで上げた火線がまっすぐに向かう。なんとか曜ちゃんと出会う前に足を……え?

 

「届いてない……そんな!?」

 

 どうして、そう思いながら確認すると、既に粒子量が限界値の近くまで尽きていたのだ。つまり本来なら届くはずのところまで粒子量が足りず、中途半端になってしまったのだ。

 

 完全に失策だった。粒子の消費が少ないとはいえ対艦ビーム刀長時間使ってたうえに、何も考えずにあんな火力のビームを射ったりすれば、こうなるのは当たり前だった。

 

『万策尽きたな千歌!!悪いが勝負は勝負だ……二人を確実に倒したあとに……!?高出力アラートだと!?』

 

「え?」

 

 対戦通信で聞こえたその言葉の直後、あり得ないほどの轟音が昴君のいる方角から聞こえた。だが、今のは確実に私が射った攻撃じゃない……

 

「いったい……」

 

 なんでと思った次の瞬間、その答えはすぐに分かった。

 

『ふぅ、ギリギリセーフね。オルトロス回収してて遅くなったわ』

 

「梨子ちゃん!?」

 

 そう、私達の最優秀ビルダー、桜内梨子ちゃんの声が確かに聞こえたのだ。

 

『ばかな!?桜内さんの機体は腕から何からダルマにして無力化してたはず!?それがなんで『オルトロス』を射てる!?』

 

 昴君の言葉は確かにだ。だが、忘れてはいけないことがある。それは、

 

『昴君こそ、私がメイジン杯に挑もうとしてたってこと忘れてたでしょ?作り込みに関しては私の方が上なのよ』

 

『なん……!?そういうことか!!』

 

 梨子ちゃんの機体の姿を見て昴君は漸く納得した。そこには小型の翼のようなものが展開され、映像から見て左側に大型のビーム大砲、左にエネルギーポッドを装備し、さらにミサイルポッドの間に尖った白いものが取り付いた……戦闘機の姿がそこにあった。

 

『シルエットフライヤーをカスタマイズして取り付けて『G-ディフェンサー』みたいにしてあったのか!?』

 

『そうよ!!ネットで昴君が『ザク絶対殺すマン』なんて言われてるって知って、作った脱出機構!!本気で戦われて勝てなくても、支援は欠かさないのよ!!曜ちゃん!!』

 

『ヨーソロー!!分かっております!!』

 

 と、今度は曜ちゃんが昴君に近付いて、持っていた大剣のビーム刃を展開して斬りつける。と、さっきまでなら剣で防いでいた筈が、今度は振られる度にステップで避けている。

 

『この場面でまだムラマサのリミッターを解除できる粒子を残してたか、曜!!』

 

『当たり前だよ!!それに、昴君こそその剣を切り落とさせてよ!!もうコーティングも限界なんでしょ!!』

 

 曜ちゃんの言葉通り、昴君の剣を良く確認してみると、所々ボロボロになっていて、下手したら折れても不思議じゃないくらいになってるほどだ。

 

『分かっててヤりやがるか!!』

 

『当然!!……梨子ちゃん後はお願い!!』

 

 と、曜ちゃんの言葉を受けて、今度は梨子ちゃんが私の方に近づいてくる。

 

『千歌ちゃん、今すぐドッキングするから、3-Aスロットを押して』

 

「わ、わかった!!」

 

 言われた通りのボタンを押すと、バックパックがパージされ、梨子ちゃんの戦闘機のミサイルポットのウイングパーツが収納されたと思うと、なんとパージされた大型ウイングが外れ、それぞれがポットの両脇にドッキングされたのだ。

 

 さらに驚くべきことに、繋がっていた梨子ちゃんの大砲の粒子タンクからエネルギーが供給され、さっきまで空っ穴だったのが、半分近くまで回復してしまったのだ。

 

「これって……」

 

『元々千歌ちゃんのインパルスはね、素組の時の粗さのせいで最大粒子量が少なかったの』

 

 え?それじゃさっき動けなくなったのって……

 

『だから昴君と私と千歌ちゃん達が戦うことになって、それだと戦いにならないから、もしもの時を考えて、あえて完全に作り込まないで『デスティニーR』とかをベースに取り付けただけにして、その時が来たらフィールドでドッキングさせて、完成体にするつもりだったんだ』

 

「じゃあ……」

 

『そう、千歌ちゃんの専用機、『インパルスガンダム・サラバティ』の完成よ!!』

 

 そう言われ、嬉しさの余りに泣きそうになるが、今は堪えた。粒子ポッドのエネルギーが尽きて、大砲と共にパージされて、私は深呼吸と共に大剣を抜く。

 

「ふぅ……行くよ梨子ちゃん!!」

 

『銃の火器管制サポートは任せて!!千歌ちゃんはとにかく、足止めしてくれている曜ちゃんの元へ!!』

 

「分かった!!……ありがとね、梨子ちゃん」

 

 どういたしまして、と返され笑って答えると、私はスラスターの全てを吹かせて昴君の所へ駆け抜ける。さっきよりも早く鋭い動きに驚きながらも、私は楽しくなって笑顔が溢れる。

 

『ち!!もうドッキング……ってなんじゃそりゃ!?『ブレイズ』と『デスティニーR』を戦場でミキシングドッキングなんて、聞いたことねぇぞそんなの!?』

 

 漸くたどり着いた先では、かなりボロボロになって倒された曜ちゃんの姿と、剣が二つとも半ばから折れて、曜ちゃんの剣を手に構えて止めを刺そうとする昴君の姿があった。

 

「驚いてる暇は無いよ昴君!!梨子ちゃん、ミサイルよろしく!!」

 

『分かってる!!残ってるの全部使いきるから、次はないわよ!!』

 

 そういいながらコンテナを開きミサイルを計六発……それも一つからさらに8発ずつ射たれる拡散ミサイルを昴君目掛けて飛ばした。

 

『くそが!!厄介な代物を残しやがって!!』

 

 悪態をつきながら、昴君は一つ一つを紙一重で避けながら、時には曜ちゃんから奪い取った剣のライフルで迎撃しながら私との距離を詰めてくる。

 

『千歌ちゃん!!』

 

「分かってる!!ここでなんとしても!!」

 

 右手の剣を握り直しながら、迫ってくる昴君の動きを良く見る。一瞬の隙を見逃せない、そんな気持ちが私のなかで暑く残る。

 

『チィィィカァァァ!!』

 

「すぅばぁるぅぅぅ!!」

 

 叫びと共に互いの剣がぶつかりあう。衝撃が今までのそれとはまるで違う。自分自身の感覚で剣を振るうような、そんな感覚が呼び起こされた。

 

『これは……アシムレイト!?千歌ちゃん!!昴君!!』

 

 梨子ちゃんが何かを言ってるが、そんなことは今はどうでもよかった。楽しい、超えるべき敵と戦えることの楽しさが私の胸を踊らせた。

 

『アシムレイトを怖がらねぇとはな……やっぱりお前はバカ千歌だ!!』

 

「バカは昴君だよ!!こんな楽しいことから逃げようなんて!!」

 

『そうだな……バカは俺だな……なんで忘れてたんだろうな……ガンプラバトルが……こんなに楽しいものだって事をな!!』

 

 まるで吹っ切れたかのように鋭く犬歯を剥き出しにして叫ぶ昴君の勢いに萎縮するが、すぐに私もニヤリと笑って返す。

 

「やろうよ昴君!!今からでも、私達と本当のガンプラバトルを!!」

 

『……それも一興だな。だがな……今ここで勝つのは()だ!!』

 

「……ううん、勝つのは()()だよ!!」

 

「達……だと?」

 

 そう、私一人だったら昴君とまともに戦うことすらできなかった。ガンプラ作りも下手っぴで、バトルもそんなに上手くなくて……どこにでもいる普通の女の子だった。

 

 それを曜ちゃんが、梨子ちゃんが、フェリーニさんや特訓に手伝ってくれた人達が、皆が居たから……私はこの場に今立っていられる。

 

 だから負けられない。皆の思いに答えるためにも、今この一瞬だけは……勝たなきゃいけないんだ!!

 

「そうでしょ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヨーソロー!!痛いけど……分かっております!!』

 

 ポロボロの機体を無理させて立ち上がる、水色の機体を動かす仲間の、親友のその言葉と、手に持っているビームサーベルに笑顔を向けている。

 

『しまっ!?』

 

『ウォォォォ!!』

 

 いきなりのことに対処できなかった昴君が振り返ろうとして隙ができたその瞬間、私は競り合ってる剣を手放し、傾く昴君の『ジン』の胸に手を当てた!!

 

『ハッタリ!?まさかパルマキオを射つための!?』

 

 分かっているのか驚いているが、既にそれでは遅かった。

 

「これで!!」

 

『おしまいよ!!』

 

 手から目映い光と衝撃と共に、昴君の機体が一歩、また一歩と後ろに進み、丸く空いた胸を晒して、ここに『灰光の流星』が、ゆっくりと倒れ伏し、試合終了のアラートが鳴り響いた。

 

 

 

 

「勝負あり、勝者は千歌っち達、チームAqours!!よって部の発足を認めます!!」

 

 鞠莉さんの言葉に呆然としていた私に、かなり息絶え絶えの昴君が、フェリーニさんに肩を貸されながら寄ってくる。

 

「お前の勝ちだな……千歌」

 

「昴君……私……私……!!」

 

 アシムレイトの反動で辛いはずのに笑いかけてくる友人に、色々が混ざりすぎて涙が出てきて、思わず抱きついてしまう。

 

「おいおい……勝ったのに泣いてちゃ世話ねぇぞ、バカ千歌」

 

「バカでいいもん!!嬉しかったり悲しかったりでごちゃ混ぜ過ぎて、勝手に涙が出てくるんだよ!!」

 

「たく……胸を張れよ後輩(チャレンジャー)、勝ったやつの責任ちゃんと果たせよな」

 

「うん……うん!!」

 

 そう言って疲れて眠る昴君に、赤くなった目を擦りながら、私達のデビュー戦は、漸く幕を閉じたのだった……。

 

 けどまだ私達は知らない。既に次の戦いの幕が少しずつ、だが着々と進んでいたということに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ???side

 

『……って強すぎなのよ!!少しは加減ぐらいしてよ』

 

 

 

『良いよね……は、才能があって』

 

 

 

『……とバトルしてもつまらないのよ』

 

 

 

『そんなにバトルしたかったら……、あんた一人で……』

 

「うるさいうるさい!!」

 

 いつになく寝覚めの悪い夢を見て跳ね起きた私の目には、いつもと変わらない私の部屋が映っていた。

 

「……久しぶりね、あれを見たの」

 

 少し前までなら毎日のように見ていた悪夢にため息を漏らしながら、私は机に置かれているそれに目を向ける。

 

 忌々しく、吐き気がするほど嫌いなはずのに、いつになっても捨てることのできない、黒く塗られた翼を持つ私の分身。

 

 そしてその近くには、乱雑に置かれた『()()()()()()』の期限切れの推薦書が未練たらしく残されていた。

 

「……ッ!!こんなもの!!」

 

 あまりの苛立ちに、それを引っ掴むと勢い良く破り裂いた。そうだ、私はもうやらないと決めたはずなんだ……だから……!!

 

「……ッ!!」

 

 分身に手を伸ばそうとするも、寸でのところでそれも止まる。数秒考えるのちにその手も下がり、逃げるようにベットに隠れる。

 

「私は……私はヨハネ……ガンプラファイターの津島喜子じゃない……普通の女の子のヨハネ様なのよ……」

 

 言い聞かせるように呟くその言葉を唯一聞く私の分身は、どこかその黒い翼を悲しく下げていたような、そんな感じがした。




次回から一年生加入編に入ります。はてさて、どんな人間模様が映るのやら……


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閑話 鳥の唄

どうしよう、Aqoursメンバーの機体がほぼ全てSEED系になってしまう!?どうしようどうしよう!!と、悩んでるドロイデンです!!

いや実際SEED世代なせいか、どうしてもSEED系の機体を重視してしまう気が……誰か、誰がどんな機体が良いか教えてもらえませんかね~特に三年生sをw


「さて、二人とも……覚悟は出来てるよな……」

 

「す、昴君……」

 

「ヨ、ヨーソロー……」

 

 私と曜ちゃんは追い詰められていた。目の前には拳をポキポキ鳴らしながら首を回す悪鬼と、にっこりとした笑顔で反対側から行く手を塞ぐ般若によって。

 

 逃げたかった。とにかく今の状況から逃げ出したい、そう思いながらも揃って体が石のように固まって動けない。

 

「さぁ、二人とも……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テスト勉強の時間だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

「嫌じゃねぇこの安本丹一号二号!!なんで揃いも揃って小テストで赤点取ってるんだ馬鹿野郎!!」

 

 それについては勿論悪いとは思ってるし、事実だから逃げるしかできない。逃げれなかったけど。

 

「二人とも、部活の設立のための練習で疎かにしてたみたいだからね。千歌ちゃんはともかく曜ちゃんまで……」

 

「それについては全く同感だ。二人とも確かにポンコツだけど、曜がここまでなるとはな……」

 

 呆れるようにジト目を向けている二人。

 

「仕方ないじゃん!!試合の日がテスト二週間だなんて気づかなかったんだよ!!」

 

「そうそう!!それに特訓があったのになんで梨子ちゃんは平気なの!?」

 

「趣味と義務は別なの。それにある程度勉強できないと将来が大変だしね」

 

 なにこの優等生ぶり!?昴君もそうだけど、ガンプラバトルする人は頭がいいのが鉄板なの!?

 

「ちなみに逃げようとしても曜は俺が、千歌には桜内さんがそれぞれ張り付くから無理だから。あ、美渡姉さんに話はさっき通して置いたから」

 

「こ、姑息な手を!?」

 

 これじゃ逃げたくても逃げられない……は!!だったら果南ちゃんのところに逃げ込めば

 

「それと果南ならダイヤさんに泣きつかれて勉強教えに行くらしいから無理だぞ」

 

「な、なんで昴君がそんなことを!?」

 

「ん?二人がこの時期というか、テスト前に一緒に勉強してるなんて何時ものことだぞ……ということだ、諦めてお縄につけ千歌……」

 

 手には縛り付ける為にあるかのようなロープがゆっくりと昴君と共に近づいてくる。

 

「えっと……優しくしてね?」

 

「それを承諾すると思うか?」

 

「デスヨネー。って痛い痛い痛い!!昴君強く縛り過ぎってなんで両手首と足首を一つに縛ってるの!?痛い痛い!!チ、チカァァァァァァァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昴side

 

 

「さて、今日のところはこんなもんかな」

 

 とちまん、その千歌の部屋の一室にて俺は伸びをしながら眼鏡を外す。何時もはコンタクトなんだが、家とかで勉強するときはどうしても眼鏡をしたくなるのだ。

 

 そして目の前には、まるで魂の抜けたような表情で正座してる千歌と曜が、その隣で苦笑いの桜内さんが少し後ずさってる。

 

「……どうした?」

 

「う、ううん!!何でもない、何でもないから……」

 

 その視線は明らかに俺の後ろに向いている。そこには俺の側に安心して伏せている大型の白い犬、しいたけしかいないんだが……

 

「……もしかして桜内さん、犬がダメなのか?」

 

「う……そうよ」

 

 なんというか……犬なんて確か音ノ木坂のアルパカの親戚みたいなもんだと思うんだがな~しいたけ大人しいしもふもふだし。

 

「怖いと思うから怖いんだと思うんだけど」

 

「し、仕方ないじゃない!!ママは犬とか狼とか好きだけど……あんな大きな牙で噛まれたらと思うと……」

 

「いや狂犬病にかかってないなら死にはしないからな」

 

 まぁなんとなく言いたい事は分かる気がする。俺もしいたけが子犬の頃から知ってなければ結構避けてたかもしれないし。……今は抱き枕とかにしてるときもたまにあるけど。

 

閑話休題

 

「そういや、千歌の機体のカスタマイズって桜内さんがしたんだっけ」

 

 美渡さんから全員分のお茶を貰って、とりあえず一息ついたところで俺はそんな言葉を口にした。

 

「ええ、『サラバティ』の基本はね。そこからは千歌ちゃんがどうするかに変わってくるけど。それが?」

 

「いやさ、なんとなく千歌の機体のカラーリングからしてさ、どうみても別作品というかなんというか……」

 

「?」

 

 桜内さんは分かってないところからすると、どうやら無自覚らしい。

 

「全体的にオレンジをベースにして、大きな二枚翼、手持ちにできるけど肩に展開するビーム砲にミサイルにブーメラン……しまいには大型の剣と来た」

 

「うーん?そんな機体ってあったかな?」

 

「俺からしたら、どうみても『ダンクーガ・ノヴァ』にしかな。もう少しガタイが大きければ完璧に似てた」

 

 個人的にロケットパンチが無いだけパクリにならずに済んだと思えば良いのやら悪いのやら……。

 

「ふーんそんなロボットあったんだ~」

 

「まぁどっちかというとスーパーロボットだけどな、ガンダムとかはリアルロボット系列だし知らないのも無理はないけど」

 

「確かに、私が知ってる他のロボット作品も基本的にリアル系かも」

 

 やはりという感じで、ビルダーはかなりロボットアニメを見ることは定番なのだ。

 

「ちなみに桜内さんはなんで『ザクファントム』を?ザクなら宇宙世紀系のほうが充実してると思うけど」

 

「『リリィ』の『ザクファントム』はアニメ放映してた当時のキットで作った、初めてのHGのガンプラで、大切な思い出の機体なの。それで、だいぶ継ぎ接ぎだらけだったんだけど、バトルするときは何時もこれで……」

 

「……そういうことか」

 

 確かに、そういう機体はかなり思い入れがあるものだ。ガンプラバトルが生まれてからは特にその傾向は強い。

 

「悪いな、そんな機体をダメージが入らないCとはいえだるまにして」

 

「大丈夫。でもね、そろそろ『ザクファントム』だと戦うのがきつくなってきたの。至るところの間接とか装甲とかが劣化して、何時壊れるか分からないって感じなの」

 

 桜内さんは悲しそうに言うが、確かに10年位前の当時の機体キットで、それも初めての継ぎ接ぎだらけの機体が、ガンプラバトルをし続ければそうなるのも無理はない。

 

「じゃあ新しい機体を?」

 

「うん、もうすぐ完成する予定なんだけどね、この機体と別れたくないっていうか……それでメイジン杯に出す機体も提出できなくて……だからいいきっかけだったかな、千歌ちゃんのインパルスをカスタマイズしてたら、初心を思い出せた気がしたの」

 

 そういう桜内さんの台詞に、千歌は何やら恥ずかしいのか顔を赤くして曜の後ろに隠れてる。なんというか珍しいな。

 

「なんていうか……別れなくても良いんじゃないか?」

 

「うん。けどそれでもちゃんと覚悟しとかないと……昴君に滅多切りされたし」

 

「……すまん」

 

 仕方なく謝ってると、桜内さんがクスクスと笑っている。なんとなく弄るのが好きなのかコイツ……。

 

「で、千歌よ。部員の確保はどうなんだ?」

 

「ん?んー、二人ほど良いなぁって思ってる子は居るよ。一年生で」

 

「一年生でって……」

 

 まぁ二年生三人もいれば年下に目が行くのは当然と言えばそうか。

 

「うん、ルビィちゃんと花丸ちゃん!!」

 

「あー、あの二人か……確かにルビィならまぁ……」

 

 一応俺の弟子みたいな感じだしな、ルビィは。

 

「あ、そのことで思い出したんだけど昴君、ひとつ聞きたい事があるんだけど」

 

「ん?なんだね曜ソロー殿?」

 

「ヨーソロー!!その花丸ちゃんが言ってたんだけど、津島善子ちゃんの方が自分達よりも選手として強いって言ってたんだけど、昴君は知ってるかな?」

 

「津島?……それって確か……」

 

 あの日樹から落ちてきた少女黒い髪にお団子のようなシニョンをしてる女の子を……ってあれ?待てよ……

 

「……昴軍?」

 

「…………おいおいおい、ちょっと待てよちょっと!?え、なんであんなやつがここに……」

 

「知ってるの!!」

 

「バカ野郎!!知ってるなんてレベルじゃねえよ!!くそ、何で忘れてたんだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 津島善子、去年の世界大会アンダー15ソロ部門の優勝者だよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「え、ええええええええええええΣ(Д゚;/)/」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回から一年生組加入編開始しますw


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天使の落日 その一

「……おい三人とも、こいつはいったいどういうつもりだ?」

 

 現在俺、天ノ川昴は目の前に土の下に座っている知り合い三人娘をジト目で睨み付けていた。

 

 事の発端はテスト明け初日で、前の千歌達との試合での機体の修復に専念しようと思いつつ、久しぶりに果南の手伝いに行こうと考えていた放課後開始の矢先のことだった。

 

 昇降口に来たとたん、無理矢理千歌と曜に捕まり、いつもお世話になってるバトルルームに連れてこられたと思いきや否や、いきなり三人から揃って開幕のポーズをされたのだ。

 

 いくら今日の運勢、星座血液型共に最下位とはいえこれは無いんじゃないか?

 

「実は部室の片付けを手伝って欲しいといいますか……」←千歌

 

「あまりにも物置のようになっていて人手が足りないと言いますか……」←曜

 

「本とか結構重たいものも沢山あって大変で……」←桜内さん

 

 なるほど、確かにあそこは今現在物置というか汚部屋というか……埃やら何やらが一年以上放置されてた場所だ。男一人でも大変だというのに女子なら三人いたとしても尚更だ。だが、

 

「本音は?」

 

「昴君が部に入らないからどういうことかと思って……」

 

「……」

 

 やはり嗅ぎ付けていたようだ。

 

「別に入らないとは言ってない。というより俺は今日用事があるんだが……」

 

「え?いつもノープランな昴君が?」

 

「よし曜、明日ダメージA判定で模擬戦しような「ごめんなさい!!」ったく、ここ最近果南と会ってないから会ってこようと思ったんだよ。ついでに俺の機体も今日は確認作業しなきゃならんし」

 

 何せ最後の最後にパルマで胸を一撃だ。いくらダメージが入らないとはいえ、動かした以上メンテナンスを怠るわけにはいかない。

 

「ふーん、また果南ちゃんと……ねぇ?」

 

「……なんだよ曜?」

 

「べっつにー、私ってあんまり和食得意じゃないからお赤飯なんて食べたくないよ」

 

 まさかの言葉の裏拳を喰らいずっこけてしまう。イヤイヤイヤ、ちょっと待てっておい!!

 

「曜テメェ!?俺はそんなことしねぇよ!?」

 

「前に果南ちゃんの家に泊まって、食べられそうになっておいて良く言うよね」

 

「よ、曜ちゃん……ここ学校だから……////」

 

 完全に紅くなってる桜内さんにジト目を向けながらも、元凶の従姉の言葉には事実ゆえに何も返すことができない。

 

 言っておくが俺は食べてもいないし食べられてもないからな!!事実だよ!!本当だよ(必死)

 

「ねぇ曜ちゃん?果南ちゃんが昴君を食べるってなに?」

 

「千歌ちゃん、先に二人で片付け始めましょう。うん、それが良いわ」

 

 相変わらずそっち方面は鈍く、ブー垂れるバカ千歌を桜内さんがどうどうと宥めながら部屋のなかを出ていく。

 

「……はぁ、別に下ネタを言うなとは言わんが場所を考えろ場所を」

 

「……ごめん、その通りだよね」

 

 ため息混じりの注意を受け止めたのか、曜も微妙にバツの悪い顔をしている。

 

「で、本当の目的は?」

 

「……やっぱり気づいてるよな、お前は」

 

「当たり前だよ。何年の付き合いだと思ってるの?」

 

 全くもってその通りだ。

 

「それで?結局どうなの?」

 

「……ごめん、今は言えない」

 

 こればかりは果南達の問題だしな。時が解決するとまでは言えないが、それでもあの三人の問題に横槍を入れるのは得策じゃない。

 

「ふーん、まぁ良いけど。それと、この前言ってた……善子ちゃんだっけ?彼女のことも教えてほしいんだけど」

 

「教えてか、結構有名だぜ」

 

 何せ鞠莉さんに頼んで、バトルシステムに彼女の戦闘データを元にしたAIデータを組み込んでもらったぐらいだし。

 

「前も言ったけど、津島善子は去年のアンダー15の世界大会の優勝者。まるで未来を見透すような操作技術と、黒い『ウィングガンダムゼロ(EW)』を使ってることから『死天使』なんて呼ばれてるくらいだ」

 

「『死天使』……『熾天使』と掛けてるのかな」

 

「だろうな、何せ機体名は確か『黒翼姫(0シファー)』だしな。熾天使にして堕天使、噂じゃあのガンプラ学園とUTXのどちらからも推薦を貰ってたって話だし」

 

 そういうとぎょっとした目でこちらを見つめる。

 

「ど、どっちもガンプライブとか選手権で有名なところだよね!?どうして浦の星に!?」

 

「さぁな、少なくとも同じ静岡だし俺もガンプラ学園に入学してると思ったんだがな……」

 

 しかしそう考えると、少なくとも戦力不足に事欠くことは無くなる。何せ、メイジン杯級ビルダーの桜内さん、まだまだ未熟だが光るもののある千歌、そして今あがった善子の三人なら、例えチーム戦でも並みの敵だったら相手にすらならないのは目に見えて分かる。だから、

 

「ま、そのためにはまずはルビィと花丸を入れるところから頑張れや。俺は帰るぞ」

 

「ヨーソロー!!果南ちゃんによろしく言っておいてね~」

 

 

 

 

「うーん……どうしよう……」

 

 自転車にてたどり着いた果南の家の店に入ると、何やら難しい顔でカタログを覗きこんでる果南の姿があった。店番ちゃんとしろよ、おい。

 

「……なにやってんだ果南」

 

「あぁ、昴。ちょっと相談なんだけどさ」

 

「相談?いったいなんだ?」

 

 珍しく果南が相談してくることに、若干不安を覚えるもとりあえず聞いてみる。

 

「実は、鞠莉から小原が夏から運営する屋内プール施設のプレオープンチケット貰ったんだけどさ」

 

「ふーん……」

 

 なんだ、何時もの鞠莉さんのお頼みか。そんなの何時もの事だし悩む必要が……

 

「で、貰ったのは良いんだけど……()()()()()()()()なんだ、これ」

 

「へぇ…………はい?」

 

 チョットマテ、イッタイナンテ言ッタ?

 

「カップルチケット?……え?なんで?」

 

「うん。なんでもカップル限定の特別なサービスがあるとか無いとかで……その調整のためにって」

 

 ここまで言われて漸く今日の運勢が大当たりしていたと思う。うん、もう察しましたよ

 

「だからね、一緒に……行こ?」

 

「ッ!?」

 

 まさかの上目遣いからの疑問符系の質問である。しかもかなりラフな薄い服から見える谷間。うん、普通に悩殺物である。

 

「……」

 

「昴?」

 

「……!!」ダッ!!

 

 たまらず俺は逃げた。振り返って全速力、それはもう普段使わない足の筋肉を総稼動して――

 

「知ってた?私からは逃げられないんだよ?」

 

 ――為す術なく捕まった。しかも後ろから首に両手を回して体を押し付ける体勢……果南お得意の拘束ハグだ。

 

 実際これには鞠莉さんやダイヤさんも逃げる度に使われて、最終的にはちゃんと放すか、子悪魔的に首をゴキゴキさせるかの二択しかないのだが。

 

「デスヨネー。分かった、行きます。ちゃんと誠心誠意行かせてもらいますよ」

 

「うん。よろしい!!じゃあ今度の土曜日、一緒に水着買いに行こう」

 

「流石にそれは「ハグしちゃうぞ♪」……はい、ご一緒させてもらいます」

 

 そこまで言って漸くご満悦なのか、首ゴキリは無しで普通に放してくれた。

 

「あ、それと今日は一緒にお風呂に入ろっか♪泊まる為の服も準備してあるし」

 

「お願いだからそれは勘弁して「ハ・グ♪」……せめてお風呂だけは勘弁してくださいお願いします」

 

 もうどうにでもなれ、そう思いながらルンルンと走っていく果南の後ろ姿を見て、

 

「俺はどうしてここに来てしまったんだろう」

 

 そう呟いてしまったのは仕方ないと思いたい。




オマケ

鞠莉「かな~ん!!これ、プレゼントでぇす!!」

果南「また突然来て……プールのプレオープンチケット?それもなんでカップル?」

ダイヤ「あまりにも昴さんが果南さんに手を出しませんので、私と鞠莉さんで相談して」

鞠莉「これで昴のheartをcatchingするのデェス!!ついでに水着を一緒に買いに行けば」

果南「……そっか……そうだね……そうだよ!!うん!!やっぱり私がお姉ちゃんとしてちゃんと昴の面倒を見ないとね!!うん!!」

ダイヤ(果南さん……いつもはさっぱりとしていますのに、昴さんが絡むと……何と言いますか……お姉さんぶりたくなるような……これがいわゆる姉ショタ好きの考えなのでしょうか……)

 こんな会話が有ったとか、無かったとか……


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天使の落日 その一.五

時間的には一話とほぼ同じなため、二ではなくしてますwだいぶ短いのはご愛敬ということでお願い致します


「花丸ちゃん花丸ちゃん!!」

 

 それは何時ものようにルビィちゃんの声から始まった。

 

 図書室の貸し出しカウンターにて何時ものように小説を読んでいたマルに、ルビィちゃんが駆け込むように図書室の外からやって来た。

 

「ルビィちゃん、図書室はお静かにずらよ」

 

「ピギッ!!ご、ごめんなさい……」

 

 軽く注意すると、シュンと項垂れる赤い髪の毛にニッコリと笑いながら、読んでいた本に栞を挟んで閉じる。

 

「それで、ルビィちゃんはどうしたの?」

 

「先輩達、ホントにガンプラバトル部立ち上げたらしんだよ!!」

 

「……そっか~」

 

 ガンプラバトル……その言葉にマルは少しだけ心が痛くなった。

 

 マルも少しだけ昔からの友達に教えてもらってやったことはあるし、その時の興奮は覚えてる。それにルビィちゃんがガンプラバトルが大好きなことも。けど……

 

「花丸ちゃん?」

 

「ううん、それでルビィちゃんはどうしたいの?」

 

「ルビィは……そんなに上手じゃないし、ビルダーとしても……それに前に出るの苦手だから」

 

「……そっか」

 

 ルビィちゃんの言葉が事実だけど真実ではないということは何となく分かってる。ルビィちゃんは優しすぎるから、周りを見すぎちゃうんずら。

 

「花丸ちゃんは?」

 

「マルはそういうのに疎いから、それにガンプライブだったずら?に出てる人みたいに可愛くないし、方言出ちゃうし……」

 

「そっか……」

 

 そこからは暫く静寂だけが室内を覆う。ほとんど無人で、人数の少ない図書室に風の音だけが木霊して――

 

「あ、ここに居た~!!」

 

「「!?」」

 

 突然の大きな声によって、その静寂は一変して無くなってしまった。

 

 声の主はルビィちゃんが話してた、マルやルビィちゃんをガンプラバトル部に誘う二年生……高海千歌さんだった。

 

「千歌ちゃん、ここは図書室だから静かにね」

 

「あ、そうだった……」

 

「もう千歌ちゃんったら……」

 

 その後ろから同じく二年生で千歌さんの友人の二人もやって来て、その手にはかなりの本があった。

 

「どうしたずら……じゃなくて、したんですか?その本?」

 

「部室だった所に大量にあって……もしかしたら図書室の本じゃないのかな~って」

 

 ベージュの先輩がそう言いながら、カウンターに持っていた本の数々を乗せるので、マルはそれを一つ一つめで確認していくずら。

 

「……確かに図書室の本ですけ」

 

 ど、と言おうとしたその時、千歌先輩が突然私の手を握ってきた。

 

「ね!!一緒にガンプラバトルしよう!!」

 

 もう何度目かの勧誘だったずら。

 

「えっと……マルは初心者だし、どちらかと言えば、ちょっとそこまで興味は……」

 

「ルビィも……」

 

「ガーン!!」

 

 マル達二人の拒否に先輩はショックでカウンターに倒れる。ノリが良いずら~。

 

「まぁ気が向いたら入ってくれれば良いよ。私達もほとんど初心者と変わらないし」

 

 赤紫の髪の先輩の苦笑いの言葉をくれると、千歌先輩を引き連れて(襟首つかんでるから引きずって?)出ていってしまった。

 

「……ねぇ、二人とも。別にやりたくないとかじゃないんだよね?」

 

「「え?」」

 

 と、残っていたベージュの先輩が小声で聞いてきた。

 

「もしそうならこういう手もあるんだけど……」

 

 

 

 

 

「……」

 

 家に戻ったマルは、自分の部屋であるものを取り出していた。

 

「……あったずら」

 

 それは昔、幼馴染みの彼女と共に作った初めての自分専用のガンプラだった。といってもカスタマイズされてるのはさほどで、ちょっと見た目が微妙になってるのが悲しいけど。

 

 正直言えば、この機体を使ったのは一度だけで、今扱えるのかと言われればちょっと難しいかもしれない。けど……

 

「……ルビィちゃんと……善子ちゃんの為に……」

 

 表舞台なんて似合わないと自覚しつつも、友達のためを思って私は自分の機体の調整を、久しぶりで覚束ないながらも頑張るのだった。

 

「ずら!!ヤスリが刺さったずら!!」

 

 ……頑張るのだった。

 

 

 

 

ルビィside

 

「うぅ……」

 

 家に戻ったルビィは自分の部屋でかなり悩んでいた。いや、悩みというかなんというのか……ともかく考えていた。

 

「……こういうときは」

 

 一人で考えても仕方ないと諦め、携帯でとある番号に繋ぐ。

 

『…………珍しいな、ルビィからこっちに電話かけてくるって』

 

「……お兄さん……いえ、昴師匠」

 

 相手はお姉ちゃんの友達の友達で、私にガンプラバトルの戦い方を教えてくれた昴さんです。

 

『師匠って言い方はやめろって……で、ルビィがそう言うって事は千歌達になんか言われたか?』

 

「……えっと、それが……」

 

 とりあえず言われたことについてを事細かく話すと、電話越しに微妙な唸り声が聞こえてくる。

 

『……そういうことか、こんなこと考えつくのは曜だな……ったく、面倒なことを』

 

「それで、お兄さんにどうしようかと相談したくて……」

 

『まぁ普通に……って言いたいんだが、お前の場合事情が事情だからな……前になったときは俺とダイヤさんの二人がかりでも大変だったし』

 

 お兄さんにそう言われ、ほんの少しだけ凹んだ。とはいえ知ってるのが三人だけだし、仕方ないと言ったらそこまでだけど。

 

『ま、せいぜい本気で暴れても大丈夫だと思うぞ?何せ三対一とはいえ、俺に勝った三人だしな。下手なファイターなんかよりはマシだろ』

 

「……で、でも」

 

『ならルビィ、俺から見てお前が本気で戦えていたなら、一日だけなんでも言うことを聞いてやる。スイーツだろうが服だとか奢れと言われたらやってやるよ』

 

「……ホントですか?」

 

『男に二言はねぇよ。それに、()()()()()()()()()()()()が、簡単に負けるわけがないだろ?』

 

 愛弟子、そう言われた瞬間顔が燃えるように赤くなるのが感じ取れた。大好き(LOVEじゃなくてLIKEな意味で)な師匠にそんなこと言われたら、今までの弱気が嘘のように引いてくる。

 

『まぁ、一応ダイヤさんには話は通しておくけど、ルビィからもちゃんと言えよ』

 

「は、はい!!頑張ルビィします!!」

 

『その意気だ……って果南さんいきなり抱きつくな!!服を脱がそうとするなぁ!!』ブツッ!!ツーツー……

 

 ……どうやらお兄さんは果南さんの餌になってしまったのが聞こえたが、気にしたら大変なことになりそうなので頭からはずした。

 

 けど……

 

「……お兄さんと一日……お兄さんと一日……////」

 

 あぁ、早く戦争(明日)にならないかな~

 

 

 

 

「……ルビィ……はしたないですわよ」

 

「ピギィィィィ!?お、お姉ちゃん!?」

 

 いつの間にか帰ってきていたお姉ちゃんに生暖かな視線を向けられていたのに気づいたのは、通話を終えて三十分くらいしてからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 梨子side

 

「フフフ……できたわ……漸く完成したわ!!」

 

 机の上で、漸く完成した目の前の機体にうっとりと目を這わせる。白いボディに赤紫のライン、カスタマイズしたライフルに、両腰には少し大振りなナイフを二つと左肩のミサイルポッド、どれをとっても最高の出来になっていた。

 

「あとは専用のサポートAIを乗せれば……フフフ……」

 

「梨子~……お夕飯できたけど……」

 

「は!!」

 

 その言葉に気づいたときには既に遅く、どう見ても苦笑いというか不思議な表情をしていたお母さんの顔に顔が赤くなってしまった。

 

「大丈夫よ梨子、お母さん分かってるから……えぇ、分かってるから」

 

「ご、誤解!!誤解なんだってお母さん!!」

 

 その後何とかして説得はできたものの、暫くお母さんから奇異の目を向けられるようになったのは言うまでもなかった。



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天使の落日 その二

「だ、大丈夫!?昴君!?」

 

 翌日、教室にて顔を合わせた曜からあり得ないというような声を掛けられた。

 

「大丈夫大丈夫……ちょっと昨日色々あって寝れてないだけだから」

 

「色々って……まさか……」

 

 察してくれた曜はなにも言わずに苦笑いをしている。

 

「それにしても、隈が酷すぎだよ?」

 

「仕方ないだろ、あの体力モンスター相手だぞ?お陰で寝れたのが朝の5時だぞ?一時間しか寝れなかったし」

 

 お陰で眠気はマッハで、疲れはピークを越えてだ。今日だけはマジで授業で寝ても仕方ないと言わせてくれ。

 

「というわけで、昼休みまで寝るからよろしく」

 

「ヨーソロー♪了解であります」

 

 そう言い残して、俺は机に腕を枕にして意識をfly awayするのだった。

 

 寝てる途中、テスト返却で千歌が自分の名前を叫んでいたのが聞こえ、美渡さんに怒られるんだろうな、そう思った。

 

 

 

 

 

 さて、放課後、正式に部員届けを出して晴れて俺もガンプラバトル部の一員となっての最初のバトル、それが今行われようとしていた。

 

「じゃあこれから、ルビィちゃんと花丸ちゃんの仮入部ということで、早速ガンプラバトルをしたいであります!!」

 

 司会進行は毎度お馴染みの我が義姉こと曜なわけで、何やら千歌はどこから持ってきたのかラッパを吹いている。ドンドンパフパフ~ってか?

 

「そういうわけで、ルール説明とかは昴君、よろしく!!」

 

「ほいよ。ルールは千歌達も知っての3vs3のチーム戦、一応フィールドはダメージの入らないCで、今回は前回みたいなことがないように、疑似ダメージシステムを使うから気を付けろよ」

 

「疑似?なにそれ昴君?」

 

 何時ものように千歌が聞いてくるが、こういうとき合いの手を入れてくれるだけにホントやり易いこと。

 

「言っちまえば今回のバトルにはポケ○ンみたいに、それぞれの機体にHPがあるってことだ。基本的にダメージでそれが0になったら撃墜って事」

 

「さらに言うと、ダメージは前部で6つに別れてて、頭部が1000、胸部が5000、腕と足が片方で2000の計14000に別れてて、胸部が0になると、ジオングとか頭にコックピットがおる機体を除いて自動的に撃墜扱いされるからな」

 

 俺が詳しく説明すると、初心者組の千歌、曜、花丸が分かったように頷く。

 

「そんじゃあチーム分けだが……俺、曜が花丸と、千歌と梨子ちゃんがルビィとな。ちゃんと実力で分けてるから、そこは安心しとけ」

 

『はーい!!』

 

 返事を返しつつ、それぞれが自分のGPベースとガンプラを片手にバトルフィールドに立つ。

 

「あれ?今日の昴君の『ジン』、なんか装備が違うね」

 

 と、曜が気づいたようで聞いてくる。

 

 というのもベースはいつもの『ジン・AHM』をそのままなのだが、肩にはビーム砲ではなく探査用のレドーム二つと、突撃銃ではなく大型のライフル銃を構えていた。

 

「こいつは狙撃支援用にカスタマイズした『ジン・S(スナイプ)HM』。今回は花丸ちゃんとルビィの二人がメインだからな。できるだけそのサポートに回るためさ」

 

「でも、寄られたら負けじゃない?」

 

「安心しろ、こいつには重斬ビームソードを二振り装備してるし、念のための装甲パージによる高速戦闘もできるようにしてある。抜かりはない」

 

 そう言ってのけると、曜は苦笑いでいたがすぐに自分のガンプラを台に乗せる。そして

 

「そんじゃ、天ノ川昴、『ジン・SHM』で出るぜ!!」

 

 

 

 

 フィールドはメメントモリ宙域と、珍しい00系のそれだった。

 

『ずら~岩とか全然無いずら』

 

 話しかけてくる花丸ちゃんの機体を確認すると、俺は驚きで目が点になった。

 

 薄い黄色で塗られているが、ベースが『スモー』なのはすぐにわかるのだが、その腕にはなんと十字爪になるように四本のクローと、背中には筒型のミサイルポッドが二つと、どう見ても水中用のガンプラにしか見えなかったのだ。

 

 しかもちゃんとマニピュレーターの部分の邪魔をしないようにされていて、ビームガン二つを両手に構えているのだ。

 

「……花丸ちゃん、その機体は?」

 

『昔、善子ちゃんに作って貰った機体ずら!!』

 

「……ちなみに名前は?」

 

『ずら?『スモッグ』ずらよ』

 

 混ざりすぎだった。恐らく『スモー』、『アッシュ』、そして『ズゴック』の脅威のトリプルミキシングなのだろうが、それにしても混ざりすぎだ。しかもなにその名前、毒ガスでも散布できるのか?

 

『そんなことより、昴君は相手の確認して』

 

 と、冷静に状況を見てる曜が突っ込んできた。

 

「はいはい、つっても揃って映らない危険性もあるから勘弁しろよ」

 

『『え?』』

 

 俺の言葉に疑問符が付いてるが、一応仕事はキチンとする。レドームを使い長距離レーダーで確認すると、やはりというか、三人揃って映らない。

 

「やっぱりか……、俺はこれから狙撃に専念するためにここから離れるから、二人はツーマンセルで行動すること」

 

『ねぇ、なんで映らないって分かってたの?』

 

「んなもん、相手がルビィだからだよ……っと、話してて狙われたら仕方ないな。兎に角俺は離れる、通信は無視するけど、一応お前らが確認できる用にしてあるから安心しろ」

 

 そう言って俺はこの機体の為だけに塗装した、ミラージュコロイドを使ってその場から離れつつ、数少ない暗礁区域の物陰に隠れる。念のためにステルスカメラ端末をばら蒔いて、一応の視界源は確保しながらだが。

 

「さてと、曜達はっと……」

 

 確認すると、やはりというか戦闘が開始されていた。機体は千歌の化物インパルス『サラバティ』と花丸、曜と赤いガンダムの組み合わせだった。

 

「やっぱりルビィも出てきたか……」

 

 ルビィの機体……『ガンダムスローネ・ドライヤークト』に舌打ちをしつつカメラで確認する。

 

 左肩だけだった大型シールドが両肩に付いただけではなく、あきらかに大振りなツヴァイな大剣、しかも厄介なのは『GNファング』装備という点と、GNドライブが『オリジナル』に変更されてるために、トランザムまでできると、俺以上に詰め込みすぎだというほどの機体なのだ。

 

 ちなみにこの機体を作り上げてからのルビィは、一応形式上は師匠の俺ですら勝率4割が限界というだけに、その化物スペックがお分かりだろう。

 

「てことは桜内さんが向かってきてる筈だから……っと」

 

 索敵を再びすると、やはり今度は映った。それもこちらに向かって来て……何?

 

「(移動の機動がジグザグしすぎてるのに早い?……しかもあきらかに暗礁にぶつかってる筈なのに……)まさか……」

 

 嫌な予感がして来る方向をスコープで確認すると、やはりというか、グフの飛行用ウィザードを装備してるのに、()()()()()()()()()()()()()()()()白と赤紫の『デュエル(ノーマル)』の姿があった。しかもライフルを両手で胸に抱えながら。

 

「お前はどこのコッペパン軍曹だぁ!!」

 

 確かに中の人は同じだけどさ!!これガンプラバトルなんだぞ!!おかしいだろ考え方が!!

 

 そう思いながらも、再びミラージュコロイドを発動してその場から離れかなり遠くの岩に隠れる。そしてコロイドを解かずに再びライフルを構える。

 

「狙うのは跳躍する瞬間……一撃……一撃で……」

 

 数秒間耐え続け、桜内さんの機体がさっきまで俺が居たところの暗礁を踏みつけた瞬間、それは起こった。

 

 踏みつけた筈の暗礁が突然として爆発したのだ。俺が仕掛けておいた爆弾が起爆して、『デュエル』は態勢をかなり崩す。

 

「今だ!!」

 

 俺は躊躇わずにトリガーを引いた。次の瞬間、『ジムスナイパー』から持ってきた狙撃ビームが火を吹き、デュエルの胸部を……

 

「なん……だと!?」

 

 貫かなかった。当たる数センチ手前で陽電子リフレクターでも貼られたように弾かれ、ビームが通らなかったのだ。

 

「ど、どこまで『アーバレスト』に似せてるんだよ!!」

 

 なんでラムダドライバーなんて再現してるの!?あきらかにおかしいでしょ!!これガンプラバトルだよな!?

 

 ていうか、狙撃を無効にするのはコッペパン軍曹じゃなくて、なんか頭の狂ってるコッペパン軍曹の因縁の敵の戦争凶だから!!

 

『昴君見つけた!!』

 

「くそったれ!!しかも気付かれたし!!」

 

 仕方ない、そう思いながら俺はレドームからライフルやらを全てパージする。

 

「曜、花丸ちゃん、悪いが桜内さんに張り付かれて支援はできそうにない!!なんとか倒すが、それまでは!!」

 

『ヨーソロー♪了解であります!!』

 

『が、頑張るずら!!』

 

 どうやら二人とも撃墜はされてないようで、安心すると同時に、こちらも重斬ビームソードを抜いて桜内さんに突撃する。

 

『今日こそは昴君とまともにバトルさせてもらうわよ!!』

 

「言ってろ!!……ところで桜内さんよ、アンタもしかしてイザークの中の人ファンだったりするのか?」

 

 俺がそう聞くと、桜内さんはぎょっとしながら顔を背ける。

 

『な!?なんで分かるの!?』

 

「いやだって、使う機体が全部さ……」

 

 寧ろ分からない方がビックリだよ。『ザクファントム』に『デュエル』に『アーバレスト』って、全部そうじゃん。

 

『なら、これを喰らって逝きなさい!!』

 

 と、その翼を広げてみるとあらビックリ、ミサイルとガトリング砲に、どう収納してたのか連結バスター砲まで展開されて……

 

「なんで『緊急展開ブースター』装備なんだよ!!それは『レーバテイン』だろうが!?」

 

 フルメタ3期早く見たいってことなのか!?確かにテレビで動く『レーバテイン』とか見たいけどさ!?

 

『『デュエル・フルングニル』!!フルバーストォ!!』

 

「嫌ぁぁぁぁ!!」

 

 ドッカーン!!




オマケ

昴「爆発オチとか最低だろ!!」

梨子「昴君、こんな言葉知ってる?」

昴「ん?」

梨子「狙撃手はね……すぐに死ぬのが御約束だって」

昴「嫌死んでないから!!次回にもちゃんと出てくるから!!」

作「え?」

昴梨「え?」


*昴君は次回も出番がありますので、まだ死んでません。……多分


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天使の落日 その三

「……これ、ちょっと厳しくない?」

 

 私は追いかけてくる赤い悪魔から逃げながらそう呟いた。

 

 何せよれば私のムラマサより重たい大剣をぶん回してくるし、射撃戦は射撃戦でファングの雨霰のせいでまともに射軸は取れないし、極めつけは

 

『ピキャギャギャ!!オラオラオラ!!さっさと墜ちやがれ雌豚がぁ!!』

 

「キャラ壊れすぎだから!!」

 

 なにがどうやったらあの小動物系なルビィちゃんが、凄いドSな感じ口調が荒くなるのぉ!!理不尽だよ!!

 

 

 

 こうなったのは数分前、昴君が離れて私と花丸ちゃんが千歌ちゃんとルビィちゃんに接敵したところに遡る。

 

「花丸ちゃん、一応二人の動きを見るために私がルビィちゃんの相手をするからね」

 

『ずら、でもマルに千歌先輩を倒せるかわ』

 

「大丈夫、これは練習なんだから倒せなくても大丈夫だよ。そういうわけだから、頑張ってね!!」

 

 止めようとする花丸ちゃんを無視して私はルビィちゃんに近づく。千歌ちゃんも同じ考えなのか、私を無視して花丸ちゃんの『スモッグ』に向かっている。

 

 クリムゾンレッドに塗られたガンダムがどんな機体なのかは知らないが、先手必勝っていうし、まずは仕掛けてみようかな。

 

 そう思って、ムラマサをライフルにして牽制目的でビームを数発放つ。するとそれをシールドを使わずに最低限の動きで全て避けると、今度は左手に装備しているハンドビームガンを射ってきた。

 

「(威力はそこそこだけど、取り回しと連射重視なのかな)でも!!」

 

 そういう戦い方はシャギアさんのビームガンで慣れてるからか、あまり苦せずに回避すると、ビームサーベルを一つ抜いて、その赤い機体に投げつける。

 

『そ、そんな攻撃!!』

 

 何やらだいぶ戸惑っているが、それでも簡単に避けられ、すぐに右手にバスターソードを抜いて斬りかかってくる。

 

「(大剣相手にビームサーベルじゃキツいかな、それに)接近戦なら得意なんだよね!!」

 

 すぐにこちらもムラマサを抜いて、リミッターを解除せずに鍔迫り合いに持ち込む。金属刃同士の激突のためか、耳にガキンという聞き覚えのある音が聞こえてくる。

 

『る、ルビィのバスターソードを受け止めるなんて……』

 

「そりゃ昴君の初弟子は私だからね。大型の剣との戦いはそれなりに知ってるよ」

 

 まぁ弟子って言っても、その時の私はそこまでガンプラバトルに熱中してなかったから、数ヵ月程度なんだけどね。

 

 それでもその時の経験のお陰で、一時的とはいえ本気じゃない昴君の剣撃と渡り合えたんだけど。

 

『……お兄さんの……初弟子?』

 

「ん?」

 

 その時、ルビィちゃんが目に見えておかしくなったように通信越しでも分かった。聞き取れないくらいにぶつぶつと何かを呟いていているが、それが何か全然分からなかった。

 

『…………な』

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふざけんなっつってんだ、この雌豚がぁぁぁ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ!?」

 

 まさかの暴言に驚いていると、急にルビィちゃんのバスターソードが目に見えて重たくなり、たまらず鍔迫り合いをやめて後ろに下がる。

 

『死ね、死ね死ね死ねぇ!!死ねってんだよぉ!!』

 

「ど、どうしたのルビィちゃん!?」

 

 明らかにさっきまでの小動物の雰囲気だったルビィちゃんではなく、まるで相手を鈍い殺さんとばかりに殺気が漏れて、さらに機体の色がさらに赤くなって、まるで血を求める悪鬼のような風貌に見えた。

 

『ルビィじゃねぇ、アタシはサフィだ!!テメェはこのアタシが粉微塵にすりおろしてやるってんだよ!!ファングゥ!!』

 

 背中の大型のパーツから飛んでくる突起物……ルビィちゃんの言うところのファングが大量に飛んできて、私はたまらずそれから逃げる。そして冒頭に戻るという状況なわけだった。

 

 

 

『うわぁ……ルビィちゃんってあんな感じになるんだ』

 

『ずら……正しく赤い悪魔ずら』

 

 ここからだいぶ離れた場所でビームの撃ち合いをしてる千歌ちゃんと花丸ちゃんまでそう言ってる。というか花丸ちゃんは仲間なんだから援護して欲しいんだけど!?

 

『ったくどいつもこいつも、アタシにストレス貯めさせやがって……ざけんじゃねぇぞ(自主規制)がぁぁ!!』

 

「お、落ち着いてルビィちゃん!!」

 

『誰がルビィだ!!アタシゃサフィだ!!名前間違えんなよこのあばずれがぁ!!あぁむしゃくしゃするなぁ!!もういっちょファングゥ!!』

 

 さらにファングを飛ばしてきて、その数は既に30を優に越すことになっていた。どこにそんな数仕込んでいるのやら

 

「ってそんなこと言ってる場合じゃないってぇ!!」

 

 慌てて撃ち落とそうとビームを連射するのだが、ご丁寧にもナノラミネートコーティングされていて、それさえも弾かれてしまう。

 

「花丸ちゃん!!援護、援護プリーズ!!」

 

『しょうがない、本当は取っておきたかったけど仕方ないずら』

 

 と、そう言うとあっさり花丸ちゃんは千歌ちゃんのコックピットブロックをビームで突き刺して終わらせる。

 

『ちょ!!私の出番これだけ!?』

 

『尺が無いから仕方ないずら。それより曜さん、少しでいいからルビィちゃんの動きを止めてほしいずら』

 

「了解!!」

 

 私はその言葉を聞いてムラマサを納め、ファングを抜いたビームサーベルで斬りながら突貫する。

 

『ピキャギャギャ!!気でも狂ったか!!』

 

「そんなわけ、無いよ!!」

 

 途中かなりの数のビームを食らうが、それをものともせずに接近し、ついに直近まで近づき、再びムラマサを振るう。

 

「これ以上暴れさせない!!」

 

『ピキャギャギャ!!そんなボロボロの機体でなにができる!!』

 

「足止めくらいならできる!!」

 

 そう言ってバルカン砲を射ちまくる。近くのせいかコックピットに良く直撃し、慌てて赤い悪魔は後退する。

 

『クソが!!調子に乗るなぁ!!』

 

「だったらさっさと墜ちてよ!!」

 

『ふざけんなこの百合ビッ○が!!テメェなんぞお呼びじゃねぇんだよ!!』

 

『――とりあえずルビィちゃん、少し……頭冷やすずら』

 

 まるで底冷えするような言葉と共に、突如として巨大な一本のビームとそれに呼応するように周りの4本の巨大なビームのようなそれが飛んできて、中央の1本に私とルビィちゃんが貫かれる。

 

「えちょ!?花丸ちゃん!?」

 

 まさかの出来事に私の思考が追い付かない。え、どう言うこと?

 

『国木田流必殺技、Iフィールドバンカーファランクスずら。これからゆっくり閉じていくから、覚悟するずら』

 

『閉じる?ま、まさかあの四つのビームは……』

 

『死人に口無しずら、とりあえず地獄の一丁目に逝ってらっしゃいずらよ』

 

 ゆっくりゆっくり、狭く閉じてくるビームの刃に怯え、やがて最後には重なるようにそのビームの刃が閉じて爆発、四散するのだった。

 

 

 

「うぅ……ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

 バトルが終わった直後、あの強面やくざもかくやというような恐ろしいルビィちゃんは消えてなくなり、寧ろ何時ものような小動物に戻っていた。

 

 あのあと、すぐに昴君も撃墜されたらしく(本人曰く、あの弾幕の中で接近戦は不可能らしい)、何やら苦笑いを浮かべていたところを私はすぐに直撃して聞き出していた。

 

「やっぱあの状態になってたか……」

 

「昴君、知ってたなら教えて欲しかったんだけど……ていうかアレってどういうこと?」

 

「ルビィのサフィモードのことか?」

 

 そう、それである。まさかあんなトンデモバーサーカーな状態になるなど、前もって言ってくれなかったらおかしいんだけど。

 

「うーん、説明が難しいんだが、簡単に言えばルビィは二重人格みたいなもんだ。しかも自動切り替え型の」

 

「それは何となく分かるけど……どうしてあんな風に?」

 

「ルビィは前々から周りの機嫌を取りながら生活してたせいで、知らず知らずにストレスを溜め込んでてな、それが自分の好きなガンプラバトルになるとリミッターが外れるんだ」

 

 それは……なんとも面倒というかなんというか……私だったらそんな生活し続けられないんだけど。

 

「しかも厄介なのが、ストレスを溜め込めば溜め込むほどに狂暴性が増すというか……今日のはあれでもまだマシな方だな」

 

「え"アレより酷い状態があるの!?」

 

「そうだな……一番酷かったときはバトル終わっても数時間、手に拷問用の鞭持って山の木々を伐採してたし」

 

「いや鞭で伐採って……」

 

 あり得ないでしょと思っていると、昴君はスマホから動画を選ぶとそれを見せてくる。するとそこにはゆらりと歩く鞭を持った女の子が、見覚えのある神社の近くの林の木々にそれをぶつけ回し、やがてだんだんと倒れていくという映像だった。

 

「……ねぇ、これ何年前?」

 

「丁度一年前の春先だ。あったろ、内浦赤鬼騒ぎ」

 

 それは確か、風が強くないのに急に木々が倒れて、その近くにお面を着けた赤い鬼がいたとかいう……ってまさか……

 

「それがその時の映像なの!?」

 

「そういうこと。ちなみにストレスが溜まれば溜まるほどガンプラバトルで強くなるから、ある意味安心だろ?」

 

「むしろ不安しか無いんだけど!!」

 

 良くそんな子を弟子にしてたのかと不思議でならないが、まぁ昴君の事だから色々と制御してるんだろうな~

 

「まぁ一回バトルさせればリセットするし、何もなければ一週間ぐらいは最初の大人しい状態でバトルしてくれるよ」

 

「……私としては是非ともそうしてほしいよ」

 

 何せ千歌ちゃんはちょっと纏め役には向いてないし、梨子ちゃんはビルダーとして暫くはみんなの機体の修理を引き受けなきゃだしで、私が引き受けなきゃいけないしね。

 

 え?昴君?昴君はプロだから、プロとしての仕事もあるから論外なんだよね~はぁ、これからどうしよう……。

 

 渡辺曜高校二年生、部活の本格開始から二日目で、すでに波乱の展開が目に見えてるであります……。



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天使の落日 その四

 ――初めてそれと出会ったのは、まだ小学生になってすぐの頃だった。

 

 最初は、オカルトみたいに動くそれを気味悪く思って近づかなかったのだが、幸か不幸か、なんの因果か幼馴染みの少女と共に始めたのがきっかけだった。

 

 別にそのうちその幼馴染みが飽きるまで適当に……そんな思いだった私は、いつの間にかその幼馴染みよりも熱中してしまい、小学五年生の頃には自分と幼馴染みの専用ガンプラを作り、私はそれで優勝したくらいだった。

 

 中学に上がってもその熱は収まるどころか尚も燃え上がり、私は模型部での新人エースとまで呼ばれるほどだった。幼馴染みの方はちょくちょく続けていたようだが、それでも夏にはやめてしまったらしい。

 

 かくいう私は、秋の新人戦ソロの武門で県大会上位に食い込んだ。みんなが応援してくれて、まるでプロにでもなったような気分になれた。

 

 そしてその年の冬、転機が訪れた。部の友達とガンプラバトルをしてたとき、()()()()()()()()()ようになった。まるで粒子が、相手の一挙手一投足全てを教えてくれるような、そんなふうに感じだった。

 

 今思えば、その時から私は狂い始めていたのかもしれない……そう思えてならなかった。

 

 

 

 

 

 

「……朝、か」

 

 目が覚めた私は、ベッドから降りて軽く伸びをする。何時ものように共働きで朝早くから仕事……というか深夜になっても帰ってこないこともある両親が居ないことを確認して、何時ものようにカーテンを閉めて机に向かう。

 

 平日なのに学校はと言うだろうが、私自身、学校にいく意義を見つけられず、何より初日に大々的な自己紹介でミスをしてから行く気にまったくなれなかった。

 

「えっと……今日は……っと」

 

 そんなこんなで、暇潰しの如くパソコンでオカルトサイトを物色――

 

『』ピンポーン!!

 

 突然のチャイムに気分を削がれた。何事かと確認すると、見慣れた茶色い髪の毛が……

 

「…………よし、居留守しよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『』ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「五月蝿いわ!!近所迷惑でしょうが!!」

 

 あまりの五月蝿さとしつこさに、それはもう怒り心頭でドアを開ける。やはりというか、そこには鞄を持ったずら丸の姿があった。

 

「こうでもしないと善子ちゃんは出てこないから仕方ないずら」

 

「にしても限度があるわ!!()()6()()()にこんなことして、周りから文句言われたらどういうつもりよ!!」

 

「善子ちゃんの家の鍵を使って無断で開けなかっただけマシだと思うずら」

 

 確かに母さんが、私と中の良いうえに幼馴染みのこのずら丸に合鍵をもしものために渡してはいるけども……。

 

「それはそれよ!!……まぁ良いわ、それで、何のようなの?」

 

「いい加減登校しないと留年じゃなくて退学になっちゃうから、無理矢理にでも連れていくずらよ」

 

 そういうずら丸の手には某世界を股にかけて捜査する警部のような、ロープに繋がれた手錠(しかもガチモン)が握られていた。

 

「……はぁ、分かったわよ。でも、その前に朝御飯作らないと……」

 

「善子ちゃん……また変な料理作るんじゃないよね?」

 

「変な……!?」

 

 失礼な!!前に作ったのだってちゃんとまともに食べられる代物だったわよ!!

 

「お好み焼きに鷹の爪の粉末混ぜたり、タバスコまるごと一本使った赤い焼きそばは、どう見てもまともじゃないずら」

 

「……そう言いながらバクバク食ってたのアンタじゃない」

 

 冷静に突っ込むと、事実だからか罰が悪いように視線と首をずらす。

 

「まぁ良いわよ。作るっていってもフレンチトーストだから。……勿論アンタの分もそれなりに作ってあげるけど」

 

「……ピザソースは入れないよね?」

 

「どこの不完全な超能力アニメの妹よ!!」

 

 

 

 さて、仕方なく引き摺られるような形で学校に来たは良いのだが……

 

『』ガヤガヤ!!

 

「…………」

 

 どういうわけかクラスメイトのほぼ全員から囲まれて質問攻めにされていた。訳が分からない。

 

「ずら丸……これはどうしてこうなった……」

 

「えっと……頑張るずらよ」

 

 何の説明すら無かった。さすがにちょっとだけイラっとしたが、周りからラッシュの如く質問という質問をぶつけられ、ともかく疲れが溜まる。というのも

 

「善子ちゃんって……」

 

「良いよね善子ちゃん……」

 

「ねぇ善子ちゃん……」

 

 どいつもこいつも、私の本名をずかずかと、コンプレックスを的確に突いてくる。それはもう射的の的にサテライトキャノンを連写して当てるが如く、今にも切れ込みで倒れそうな木にハイパービームサーベルを振るが如く、ともかくオーバーキルなことこの上ない。

 

 なんとか表情に出さずに耐えて耐えて……とにかく耐えて居たのだが……その時は訪れた。

 

「確か善子ちゃんってガンプラバトル強いんだよね!!てことは新しくできたうちの学校のにも入るの?」

 

「……ッ!!」

 

 私は思わず唇を噛みたくなる程にイラっときた。私にとっての琴線に、彼女は容易く踏み切ってしまった。

 

「……やらない」

 

「え?でも……」

 

「やらないって言ってるでしょ!!私はもうヤめたのよ!!……ガンプラバトルは……」

 

 私の苛立ちに、周りは唖然とする。そりゃそうだ、寧ろこうならないほうが可笑しいぐらいだ。

 

「……ごめん、いきなり怒鳴って。ちょっと色々あって……もうやるつもりは無いんだ」

 

「……ううん、私達も……」

 

 なんとか和解はしたが、それ以降なんともいたたまれない空気になってしまい、私はため息しながら教室から出るのだった。

 

 

 

 抜け出してやって来たのは屋上だった。何とかと煙はということではないが、やはり自分で『堕天使ヨハネ』を自称してるだけに風を直に感じれる屋上は何とも気分がよかった。

 

「はぁ、こういうところって落ち着くわ……って」

 

 お気に入りの一つの給水タンクの上に乗ろうと階段を上ると、そこには何故か寝袋を身に纏って眠ってる男子生徒が……ってあれ?

 

「確かコイツ……プロの……」

 

 うろ覚えながら、こんなところで爆睡してる猛者がかの有名なジン使い、『灰色の流星』だというのに気付いた。

 

 そういえば入学初日にもうちの制服着ていたなぁ、と遅まきながら気付くと同時に、何故にこんなところで寝袋広げて安眠してるのかと疑問に思う。

 

「……ん?誰か来たのか」

 

 と、私の気配に気付いたのか、寝袋男はのそのそとそこから出てきて欠伸を漏らす。

 

「お目覚めのようね、『灰色の流星』さん」

 

「……あー、確か津島だよな、一年の」

 

 どうやら初日のことをコイツも覚えていたらしい。

 

「最年少プロに覚えてもらって恐縮の至り……ってね」

 

「良く言うよ、多分技量とかじゃ圧倒的に上だろ」

 

「……そんなことないわよ」

 

 誉めてるつもりだったのだろうが、それは私にとっては触れられたくない部分だった。

 

「私はただただ見えるだけよ、見えたから対処して、見えたから対応する。それを繰り返してるだけ」

 

「見える……ねぇ、まるでニュータイプやXラウンダーじゃあるまいし」

 

「事実よ、まぁニュータイプとかみたいにテレパシーなんかは使えないけどね」

 

 まぁそうなったらなったらで、どちらかと言えば田舎なこんなところに居るわけないんだけど。

 

「……ところで、アンタはなんでこんなところで寝てるのよ?」

 

「四時に理事長に叩き起こされた挙げ句頼まれごとされてな、なんやかんやで終わらせたは良いが疲れたからここで仮眠を取ってた」

 

「ふーん……大変ね、アンタも」

 

 半分呆れながらそう言うと、彼は苦笑いを返す。

 

「別に、態々こんなところに降りてきたヨハネ様には及ばねぇよ」

 

「良い心がけね……なんなら私のリトルデーモンになる?」

 

「僕ね……案外、僕にされたいって口じゃねぇのか?」

 

「んな!?」

 

 まさかの逆襲に立ち上がろうとしたそのとき、ただでさえスペースの狭い給水タンクの上だったために、私の体が屋上の床に背中からアタックしてしまう。

 

「イッタァァァ!!背中、背中がぁ!!」

 

「おいおい、大丈夫か堕天使ヨハネ様?」

 

「そう思うならこっち向きなさいよ!!」

 

「いや無理だろ」

 

 なんでよ、そう聞き返すと彼は欠伸を漏らしながら

 

「背中からぶつけたってことは、最悪、()()()()()()

 

 見える?はてなんの事か……そう考えた瞬間、私の体が奥から熱くなっていくのが分かる。

 

 私は背中から落ちた……そしてその痛みで未だに動けない……そして今の私は制服……つまりブラウスとスカートだ。ここまで言えば余程のラノベ主人公並みの鈍感でもなければすぐに分かるだろう。

 

 つまるところ、下着が見えてしまう……それを懸念しているのだこの男は。そしてもしうつ伏せになれたとして、それでもスカートが捲れてないと限らないから困りものなのだ。

 

「うぅ!!覚えてなさいよ!!////」

 

「いや自爆だから」

 

 冷静に突っ込まれ、私はひたすら背中の痛みが引くのを耐えるだけだった。




オマケ

千歌「むぅ……」

曜「どうしたの千歌ちゃん?」

千歌「私の出番が最近少ないような……というか前回に至っては台詞二つだけだし」

梨子「ほ、ほら千歌ちゃんは最初のバトルで美味しい所いっぱい貰ったから、仕方ないよ」

千歌「それでも出番が欲しいんだよ!!このままじゃ果南ちゃんに全部持っていかれちゃうんだよ!!」

曜梨「それは……否定できない」

千歌「でしょ!!というわけで作者を〆に行ってくる」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ドゴッ!!バギッ!!ガッシャーン!!

作者「ギャァァァァ!!千歌ちゃん!!空手、空手はヤバイってぇ!!」

千歌「だったら出番寄越せぇ!!」

花ル「千歌ちゃん凄い……」


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天使の落日 その五

今回はヨハネ様の闇の一旦が明らかに……うん、書いててどうしてこうなった……


 とりあえず授業をそつなくこなして過ごした放課後、私は鞄にさっさと荷物をしまって教室を出る。

 

「もう帰るずら?」

 

「当たり前でしょ、部活入ってないし委員会があるでもなし、さっさと帰って夕飯の買い出しもしないとだし」

 

 共働きの両親は基本的に料理をあまりしないし、あまり私とも会話をしようともしない。それどころか、二人ともそれなりに立場のある人間らしく、週に1度、それも真夜中に数分帰ってくるぐらいだ。

 

 多分結婚したのだって、ただ一人身が嫌だからなんとなくだったのだろう。私が不登校になって学校からの連絡があっても、両親はそれぞれどうでも良いように返答して……まるで腫れ物扱いのようだった。

 

 ネットでそれがネグレクトというのは知ってるが、別に私に言わせれば両親共にどうでもいい存在にまでなっていた。最近誕生日を祝ってもらった記憶もなければ、私がガンプラバトルで全国一位になっても興味を持ってくれない。完全に崩壊しているのだ。

 

「……そっか、それじゃあ仕方ないずらね」

 

「ふん、アンタもさっさと委員会終わらせなさいよ。まだ初夏だけど、遅くなったらバス無いんだから」

 

 軽口を言いながら心配してやると、ずら丸はニヤニヤとして頷いてる。……なんか少し気持ち悪いわね

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま……」

 

 家に帰った私が目にしたのは、珍しく早く帰ってきていた父親……津島源十郎だった。

 

「…………帰ってたんだ」

 

「ここは俺の家だ。帰ってきておかしいのか」

 

「そういうことじゃないけど……」

 

 なんとも珍しいというか、まだ夕方なのに帰ってくるということ事態、ここ数年ではまったく考えられない出来事だった。

 

「それよりもだ、お前、まだあんな()()()()()()()にかまけているのか」

 

「……ッ!!」

 

 父親が言ってるのは紛れもなく、ガンプラバトルの事だった。

 

「いい加減現実を見ろ。そんな一時のくだらないものに時間を裂くなど言語道断だ。ましてや……」

 

「うっさい!!」

 

 尚も言い募る父親に私は怒りを覚えた。ほとんど見向きもしないくせに、人の事をあれこれと難癖をつける。そんな父親が大嫌いだった。

 

「私は父さんの操り人形じゃない!!()()()()()()()()()()()()()()()だって、父さんが裏で手を回したんでしょ!!」

 

 沼津の政治家として活躍する父は、それすらも簡単にすることだってできるうえに、ガンプラバトルをくだらないと評する人間の上位だ。例えかのガンプラ学園たりとて、圧力の前には何にもなさない。

 

「当たり前だ。学校とは知識を学ぶ場所だ、あんなくだらないことこのうえない学園に通わせるなど、津島の家のものとしてあり得ん。本来ならお前の部屋にある妙ちくりんな模型ごと処分してやりたいが、それをしないだけありがたく思え」

 

「ふさけんな!!娘を大事に思ってないダメ親父が!!私は私の望むように行動する!!アンタなんか父親じゃない!!」

 

 私は自分の部屋に走って駆け込み、部屋の扉を完全に閉めて閉じ籠る。

 

 もう嫌だった。あの力を手に入れてから周りは全て変わってしまった。

 

 今まで仲の良かった友達は、まるで掌を返して、むしろ気味悪がって離れていった。両親もその頃には家に全く帰ってこなくなって、私はいつも一人だった。

 

 唯一だったずら丸も、いつの間にか赤毛の同級生と仲良くなっていて、私が入り込めるスペースは全くなくなった。

 

「私が……私が何をしたっていうのよ……」

 

 私は神様が嫌いだ。こんな忌むべき力を与えただけでなく、周りの人達を全て奪っていく。

 

 嘗ては白く塗られていた愛機は、まるで私の心を写すようにいつの間にか黒に染まっていた。誰も信じれず、誰も助けてくれない……そんな闇を写したように……。

 

 そんなことを思っているといつの間にか夜になっていて、外は暗く星が少しだけ見えた。

 

 のっそりと立ち上がり、私は自らの愛機を鞄に入れて、少し変装して部屋を出る。

 

 田舎の都会という沼津においても、それなりに夜でもネオンが明るく光っていて、伊達メガネに人工の光が射し込む。

 

(もう私は表に立たない……立っても意味がない……)

 

 故にたどり着いたのは、沼津のとあるビル……会員制のカードを差し込んで入ったエレベーターが向かった先は……

 

「いけぇ!!お前に有り金賭けてんだからな!!」

 

「アヒャヒャ!!死ね、死ねぇ!!」

 

 アンダーグラウンドの賭博ガンプラバトルだった。

 

「……支配人(マッチメイカー)、次の対戦に組み込みおねがい」

 

 併設された受付のバーラウンジでグラスを拭いてるマスター兼に支配人に声をかける。いつも通りにサングラスにドックタグ、さらには燕尾服のような姿に奇妙なものを感じながらも、私はついでにドリンクを頼む(もちろんノンアルのジュースよ)。

 

「……いつもの嬢ちゃんか。メイキングは?」

 

 明らかに地声じゃないそれで聞いてくるマスターにも既に慣れてしまい、渡されたドリンクをちびちびと飲む。

 

「一対多、少なくとも30人と同時にバトルできるようにして」

 

 明らかに無茶苦茶な設定、地下のバトルは名こそ無いものの、実力だけならメイジンやプロ相手でも遜色はないほどの実力者ばかりだ。

 

 だがこの程度の無茶苦茶は、私にとっての日常茶飯事、いつものことだった。

 

「……念のために分かってるだろうが、負ければ」

 

()()()()()……でしょ?どうせ誰にも必要とされてないんだから、失うことなんて怖くないわよ」

 

 既に堕ちるところまで堕ちている私にとっての救いは、負けること……この力が無敵の万能じゃないと示すことが出来るのなら……回されようが売られようが、もうどうでも良かった。

 

「……良いだろう。さっさと準備しろ」

 

「分かってる……」

 

 そう言いながら、私は備え付けられた衣装部屋に向かい、持ってきていた衣装に着替える。黒のゴスロリに背中の羽飾り、顔を覆うように着けた血の涙を流す仮面を身につけ、シニョンを解いてバサリとロングにする。

 

 さらに荷物をパスワードロッカーにしまって部屋を出ると、立っていたスーツの男が寄ってきて腕輪とGPベースを取り出す。情報漏洩の防止と逃走防止の為だった。

 

「……ありがと」

 

「……すぐに準備ができますので、暫くお待ちを」

 

「ん」

 

 小さく頷いて、私は再びバーの椅子に座る。

 

「……しかし、今日は随分と不機嫌なものだな」

 

「……客のプライベートを聞くのは、この地下ではご法度よ」

 

「なに、この程度は問題ないさ。何せ私が支配人なのだからな」

 

「……あっそ」

 

 別にこのマスターは口が固いし、腕っぷしもそれなりのもんだから、別に言ってしまっても良いのだが、一応隣を確認して誰も居ないことを確認する。

 

「……会いたくない男に会ったのよ」

 

「……君が会いたくないというと、前に話した父親の事か?」

 

「そ、私にとっては目の上のたんこぶよりも邪魔で、私の事を何にも理解しようとしないダメ男。そんなんだから女に浮気されるのよ」

 

「まるで見たような口ぶりだね」

 

「まるでじゃない。見たのよ、この目でね」

 

 あれはちょうど全国優勝を果たした翌週だった。偶々母親を学校帰りに目撃したのだが、そこには若い男と抱き合って、手を繋いで……しまいにはラブホにまで行ってる母親の姿を見てしまった。

 

 しかも相手は父親の部下の一人、それもイケメンの若手だったのだ。

 

「……なるほど、それは少し来るものがあるな」

 

「……そう言えばマスターも結婚してるんでしょ。なのによくこんな場所続けられるわね、捕まるかもしれないし」

 

「なに蛇の道は蛇だ、そこのところは抜かりないさ。ついでにここは非常階段も無いうえに、来るには専用のカードがなければエレベーターは動かないからね」

 

 ある意味では無駄に高すぎる防犯能力(?)だった。というか違法賭博場だから対警察能力か?

 

「まぁそういうわけだからな。警察は下手に動けないし、近々成立するカジノ法案が政府を通ればここも正式に資格を取るさ」

 

「そ、っと……バトルの時間ね」

 

 気付けば先程までバトルしていた男の一人が黒服に引きずられており、なんか煩い悲鳴をあげていた。

 

 もう一人は観客たちからもみくちゃにされていて、中には大手企業の重役も見てとれた。

 

「ま、嬢ちゃんなら負けねぇだろうが……good luck、『死天使』」

 

「そうね。今日も周りにbad luckを振り撒こうかしらね」

 

 そう言いながら自らの愛機とGPベースを取り、鎮座されている大型バトルフィールドの奥に立つ。

 

『今宵お集まりの皆様、本日のメインイベントのお時間です。これまで無敗の限りを尽くし、その業火の天使を前に、あるものは撃ち抜かれ、あるものは切り裂かれ……そして今宵もそうなるのか……死天使ヨハネの降臨です』

 

 死天使……ホントは堕天使のほうが良かったんだけど、この機体を知ってる人間のせいでこの呼び方が定着しちゃった。

 

『対するは、本日負けてしまい、全てを喪う事になったファイター、総勢35名、彼らは死の天使を前に、まるで剣闘士のように戦わなければならない』

 

 対面に立っているのは、何やら精神をおかしくしてしまった者から、身体中傷だらけの者、果てには薬物中毒の禁断症状が出て発狂してるものまで、どれもまともな人間は居なかった。

 

『お手元の装置でベットはお済みですね?それでは……バトル開始!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十五分後、フィールドの宇宙には壊れて屑鉄となったガンプラだったものの廃材と、()()()()()()()()()()()()()が残るのだった。




一応言っておきます。父親はアンチじゃないよ、ちゃんとあとで父娘で救いがありますからね!!ホントだからね!!


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天使の落日 その六

「ねぇ昴くん、いつまで待たせるの?」

 

 昼休みの教室で、千歌がまるで待ちきれないというように体をうずうずと変に動かしている。

 

「……待たせるも何も、俺はスカウティング担当じゃねぇし、津島と仲も良くないから、勧誘は難しいからな」

 

「そうだけどさ~何か情報とか無いの~」

 

 そう思うなら少しは自分で調べろと言いたいが、この馬鹿に言っても仕方ないので諦める。

 

「俺が知ってるのは、アイツが去年のソロ優勝者で、父親が政治家だってことぐらいだからな」

 

「政治家ねぇ~……」

 

「あ、私聞いたことある!!確か、津島源十郎って人だよね?結構強面の」

 

 曜が思い出すように言ってるのを、千歌はほぇー、となんとも覇気の無い返事をしてる。

 

「そ。津島源十郎、政治家歴20年近くの沼津の大御所で、主に児童福祉といじめ対策に熱を入れてる。政策のためなら個人資産の運用すら躊躇わずにやるほどの豪傑だよ」

 

「個人資産?」

 

「津島の母親もそれなりに有名らしくてな。津島薫、大手のゴスロリ系ファッションブランド『Maria』の社長兼ファッションデザイナーで、ある程度は揃っての個人資産でやりくりできるくらいだからな」

 

 しかも公式HPに映ってる素顔は、まるで津島をまさしく大人にしたような感じの美人で、その事から『美女と野獣』と言われることもあるらしい。

 

「凄い……てことはその善子ちゃんはご令嬢ってわけ?」

 

「そうだな。けど、つい数年前まで良好だった関係が、今ではすっかり冷めきってるってもっぱらの噂らしいがな」

 

 そこは本人に聞くべきなんだろうが、あまりにプライベートな内容だ。あまり他人が口を出すのも憚られるだろうな。

 

「……そういや津島といえば、なんかもうバトルはやらないとも言ってたらしいな……」

 

「え!?それホント!!」

 

「偶々仮眠してるときにうっすら聞こえただけだから正直微妙だがな。そこも本人に直接聞くが早しだろ、さて、近々のガンプラバトル大会の予定は、っと……」

 

 自前のノートPCを使い、沼津周辺の大会の有無を確認すると、それなりの数のショップ大会の情報が掲載されていた。

 

「うーん、個人戦からチーム戦……スコアマッチまで多種多様だな……どれにしようか」

 

「でも昴くんと私達なら中堅レベルなら何とかなりそうだと思うよ?」

 

「ダアホ!!俺はプロだから、ランク問題でB以下のローカルショップ大会の出場はできねぇんだよ!!」

 

 ショップ大会にはEX~Eの七段階のレベルが存在し、E~Cが比較的レベルの低い言わば素人勢の下位層、B~Aが普通の高校生やアマチュアファイターが集う中堅層、そしてS~EXがセミプロやプロ上位ランクがこぞってひしめき合う魔境層と分かれる。

 

 ちなみに、A以上の大会やイベントバトルで好成績を出すと、それに応じたGPベース内蔵の電子マネーシステムに賞金が入る仕組みになっているのだが、

 

「それに、三人とも公式ショップ戦に未だに参加してないから、最低でもCランクで上位入賞に入らないと中堅層の大会には出れないからな」

 

「「「そ、そんなぁ!!」」」

 

 まぁ、賞金で最低数千円は動くのだ、当然の仕組みである。

 

 まぁCランク大会の大体はバトルロイヤルマッチのため、そこまで過酷な条件じゃないから二、三度出場すれば充分に中堅層出場が可能だろうな

 

 ちなみに、プロは契約上ショップ大会は強制的に上位魔境以外に出るのは無理だ。知り合い関係で魔境レベル出場権利を獲得してるのも、俺の弟子のルビィと三年生トリオ、あとはプリベンターの皆さんと黒澤家の網子ファイターぐらいだ。

 

「昴くん、何とかならないの!!」

 

「うーん、一応魔境層のファイターから五人以上の推薦があれば中堅層なら……」

 

 まぁそれも条件付きであり、専用のオリジナルガンプラの所持が必要……って、

 

「あれ?考えてみれば普通にいけるな……」

 

「「「ホント!?」」」

 

 まぁ一応許可が貰えそうなのは俺を除けば、鞠莉さん、ダイヤさん、ついでに千歌達のレベルアップに協力した三名……うん、普通に何とかなる。

 

 ちなみに果南を挙げなかったのは、三人の試合はおろか練習すら見てないため除外した。決して話に行って喰われそうとかそういう意味ではない、絶対にそういうことじゃない。

 

「まぁそれでも頼んだりそれぞれ手続きしたりで……少なくとも二週間ぐらいはかかるだろうけどな」

 

「二週間かぁ~待ちきれないな~」

 

 ぐでーとしてる千歌に苦笑いを浮かべていると、突然携帯の画面が光る。確認するとそこには鞠莉さんからのメールが来ていた。

 

「……どうやら、待つ心配は必要ないみたいだ」

 

「てことは!!」

 

「あぁ、鞠莉さんが前以て頼んでたらしい。一応お前ら本人の確認書類とかはあるけど、それさえ済んでしまえば……ってわけだ」

 

 まぁとりあえずそこは鞠莉さんから直接聞けば良い話だろうし、三人に任せてみるべきかな。

 

「……あとは」

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

「お疲れみたいですね、ダイヤさん」

 

 放課後、一人生徒会室にやって来た俺は、目の前で大量の書類にあくせくしてる先輩に声をかける。

 

「あぁ昴さん……部活の方はよろしいのですか?」

 

「今日は千歌達がショップ大会関連の書類を書かなきゃなので、実質休みなんです」

 

 余談だが、意外なことに花丸も中堅層に出れることが分かった。なんでも昔、津島と共にショップ大会に出てたらしく、その時の名残だそうだ。

 

「そうですか……ところで……その、ルビィは」

 

「ルビィなら一人部室で対戦してくるって言ってましたよ。多分オンラインシステムの方でやるんじゃないですかね」

 

 オンラインシステムは特殊なモードで、ベースに乗せたガンプラを3Dデータに転換、それを元に全国対戦を行うシステムだ。

 

 本来なら専用スペースを持つアミューズメントセンターでのみできるのだが、そこはまぁ理事長の鞠莉さんの家である小原財閥、それにも対応したバトルフィールドをうちの学校は置いているのだ。型は二世代ぐらい前のものだが。

 

「そう……」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………仕事、手伝いますか?」

 

「……お願い致します」

 

 というわけで近場の机に一部を分けてもらったのだが……

 

「……これで一部っすか?」

 

「……はい」

 

 なんとそれは、机の高さまで積み重なっているのだ。

 

「一応これでも大半が鞠莉さん関係のものなのであっちが処理してくれてはいますが……」

 

「にしても多すぎでしょ……教師は何をやってるんだが」

 

「判子を押すだけの単純なお仕事とでも思ってるのでしょう。それに、教師陣は教師陣でやらなければならないこともありますし」

 

「あぁ……()()ですか」

 

 確認すると、ダイヤさんもため息混じりに頷く。そりゃ確かに生徒の手も借りたくはなるわな。

 

「けど実際のところ、何とかなるようなもんなんですかね……」

 

「そこは鞠莉さんが色々と手回しはしていると思いますが……いかんせん厳しいですわね」

 

「でしょうね」

 

 まぁそれでも前よりはマシな方だし、何よりアイツさえなんとかなれば、多分関東地区でも強豪クラスの実力にはなるだろうな。

 

「あぁそれと昴さん」

 

「ん?」

 

「ちゃんと避妊はしておいてくださいな」

 

「ブフォ!?」

 

 どうしてそうなった!?なんの脈略も無かったよな今!?

 

「ちょ、なぜ今それを!?」

 

「別段、話のネタが無かったので。まぁ昴さんなら大丈夫でしょうが、相手は果南さんですから」

 

「アンタそんなキャラだっけ!?」

 

 油断も隙もありゃしないというか、そういえばダイヤさんも果南の焚き付けをしてたと思い出してガックリと項垂れるのだった。

 

 

 

 

 

 そんなこんな話してるうちに日も暮れ始めて来て、カラスの鳴き声が空を谺する。

 

「とりあえず今日はこんなものですわね」

 

「そうっすね……って言ってもまだまだ山積みですけどね」

 

 というか途中で生徒会の人来てても減らないってどんな仕組みだよ。無限の書類なんて絶対に嫌だからな、俺は。

 

「ですわね……ところで昴さんはこれからの予定は?」

 

「一回沼津の本屋に行こうかと。予約していたガンプラ雑誌があるんで」

 

 なんと今回の付録は実弾銃及び実体剣、29㎜パヨネット付き徹甲機関銃と西洋剣型特殊近接ブレードだ。銃は今使ってる27㎜突撃銃の強化型だから、メインの火力を補強できる。

 

 ブレードは西洋剣と言いつつ、持ち手の内側が微妙に反った形になっていて、受け止めるだけでなく刀のように流すこともできる代物だ。

 

 当然、両方を使う俺にとってはまたとないものであり、手にいれると前々から決めていたのだ。

 

「……いつも思いますが、たまにはビームメインの機体を使ってもよろしいのでは?」

 

「ビームは粒子切れ起こしやすいんで、スピードに能力値ほぼ振ってる機体だと無理っす」

 

 まぁそれでも一応、作った重斬刀の中には『グフ・イグナイテッド』のようにビーム刃を展開できるものも何本かは作ってるし、ビームカービンもあるからな。

 

「ならいっそ機体をナノラミネート装甲にでもすればよろしいのでは?SEED系の戦艦には使われてる装甲ですし、粒子も使いませんよ?」

 

「当たらなければバスターライフルだろうがファンネルだろうが関係なし、それにするための専用のコーティングして機体重量をコンマでも増やしたくないんで」

 

 特殊塗装するだけで、しないのと数グラム単位で重くなるうえ、いくらナノラミネートコーティングといっても、ガンダム級のカスタム機相手だとするとほとんど意味がないからな。

 

「まったく、それで今回は何冊予約したんですの?」

 

「人を買い占め屋みたいに言わないでくださいよ。たったの8冊です」

 

「充分に多いですわよ……」

 

 ジトリと睨まれるが、俺としては普段あまり浪費しないうえに、プロの給料というかファイトマネーもあるから、むしろ貯蓄が貯まりに貯まるのだ。

 

 それにぶっちゃけ、呼びパーツのためのキットもベースが量産型の『ジン・ハイマニューバ』だ。馴染みの格安ホビーショップに行けば一つ税抜きで1000円以下で買えるのだから、まぁある意味安いといえば安い。(ちなみにこれがガンダム系やエースパイロットのガンプラとなると、安くても税抜き二千円弱するのだから格差社会とは恐ろしいものである)

 

「金は貯めたからって価値があるでもなし、使ってこそ社会が回るもんですよ」

 

「そんなものですか……?」

 

「そんなもんです。時代劇でも言うでしょ、『金は天下の回り物』ってね」

 

「それだと昴さんは町方の同心ですわね……いっそのこと刀でも持たせて敵を切り捨てしてしまえば良いのでは?」

 

「あー、重斬刀も刀なんで。というかその場合、切られるのは鞠莉さんが第一候補じゃないですかね」

 

 何せ意外と悪どいうえにお金持ちだしな。ただそうなったとき果南だけはキャスティングしないでくれ。絶対に女房役を演じるに決まってるから。

 

「寧ろいつものストレス発散という感じで良くないですか?……ところで私は……」

 

「ことなかれ主義の上司」

 

「ぬぁんでですか!!」

 

 それキャラ違うぞ。というかなんでよりにもよってその台詞なんだ?

 

「だってダイヤさん、いつも鞠莉さんに振り回されてるじゃん。つまりそういうこと」

 

「ぐ……否定できないのがなんとも言えませんわね……」

 

「まぁ、そういうわけなんで俺はこれで」

 

 何やらぶつぶつ唸ってるようだし、変に絡まれても面倒だしな~ダイヤさん。というわけで逃げの一手というわけでさっさと部屋を後にする俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ありがと~ございました~』

 

 沼津にて予約していた本を購入した俺は、だいぶホクホク顔を浮かべてエスカレーターを降りていた。

 

 こらそこ、ニヤケ顔やめろとかいうな。

 

「それで俺のジンも強化でき……る?」

 

 漸く一回に辿り着いたその時、この初夏の時期に茶色いコートにサングラスという奇妙な出で立ちの少女を見かけた。というか……

 

「あれって……津島か?」

 

 チラリと見れたお団子シニョンは、間違いなく後輩であり、知らない仲ではない女子のもので間違いなかった。

 

 不思議に思った俺は、荷物を持ったままでバレないように後を追う。どうやらあちらは気付いてないようで、ゆっくりと間隔を一定に保つ。

 

 辿り着いたのは俺が居た外のビルのエスカレーターだった。彼女はその中に入ると、すぐ扉を閉めてしまった。慌てて向かう先を確認すると、どうやら三階……俺が居たビルと同じ階に設定されていたらしくそこで止まっていた。

 

「……気のせい……か?」

 

 まぁ彼女もガンプラバトルファイターだしパーツは欲しいよなと思い、俺もなんの疑問も持たずに来た道を戻って自転車置き場へ向かう。

 

 だが、今思えば無理にでも追いかければ良かったと思わざるをえなくなるとは、この時の俺はついぞ分からなかった。



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天使の落日 その七

「さて、昨日申請手続きが完了したわけで、これより一年生二人を交えて会議を行うわけだが……」

 

 部室にて、全員をとりあえず机に座らせて進行を始める。ちなみになぜ俺かというと、やるべき千歌が面倒だからと俺に全振りしやがった。

 

「近いショップバトルを中心に探したわけなんだが、何か希望はあるか?」

 

「とりあえずどんな大会があるかにもよるんじゃないかな?」

 

 うちの部の良心こと桜内さんがそう言うと、花丸とルビィも頷いてる。

 

「うーん、さしあたって一番近いのは学校の近くの模型屋かな。タッグトーナメントバトルルールで、当然ながらランクはAと高いけど、そこまで強豪が出てくるって程じゃないな」

 

 調べた所によると、黒澤家網子の双子蟹漁師が副業経営してるらしく、蟹漁解禁まではそれで生計を立ててるとかなんとか。

 

 一応俺も何度か模型を買ってるけど、どういうわけかアルバイト含めて店員が『ヴァサーゴ』なり『Gファルコン』なり、はたまた『ジェニス改』と、『GX』作品ばかり買わせようとしてたのは良い思い出だ。

 

「タッグバトルか~そう言えばやったことないね」

 

「ガンプライブでも正式採用されてるレギュレーションの一つだからな。それのついでだ」

 

 ガンプライブ等の公式チーム大会では基本的に3~5の試合での先取制になっていて、そのうち絶対に含まれるのが一対一(ソロマッチ)三対三(トリオマッチ)総力戦(オールマッチ)の三種類だ。そして五となると、そこに二対二(タッグマッチ)特殊戦(ランダムマッチ)が加わる。

 

 何が勝敗になるか不明な特殊戦を除いて厄介とされるのが、今回のタッグマッチバトルだ。基本的には三対三と同じなのだが、フィールド範囲が通常より少し狭いうえに、アーケードゲームでいうところの疑似タイとなって援護出来なかったり、最悪先に片方を潰して残りでという事もされかねないという、かなり厄介なバトルルールなのだ。

 

「幸いなのは、俺達がどう組み合わせてもたいていなら、なんとかなりそうってことだな」

 

 現メンバーで恐らく最強のは桜内さんの『デュエル・フルングニル』とルビィの『スローネドライ・ヤークト』だろう。実弾とビームの混成弾幕とファングを組み合わせたら厄介このうえなく、そこにバスターソードで斬り込んでいくのだから相手からしたらたまったものじゃない。

 

 残る三人のうちまずは千歌なんだが……はっきり言って誰と組んでもそれなりに対応できる機体ゆえに、千歌の技量だと誰と組んでも平々凡々という感じに収まってしまう。曜は曜で腕は良いが、はっきり言うと機体スペックが悩み所という感じで、これまた平々凡々というところだろう。

 

 最後に花丸ちゃんなんだが……この娘が一番のジョーカーというか、はっきり言って動きが妙に天然というかなんというか、素人じゃないけど熟練者でもないという……なんとも微妙としか言い表せないのだ。

 

 まぁでも、それぞれ平均すれば何とでもなるし大丈夫と言えば大丈夫だろう……多分。

 

「で、でもマルはそこまで上手じゃないから……」

 

「うーん、まぁ花丸ちゃんがそう言うなら仕方ないが……さて、残り四人をどう組ませたものか」

 

「え!?昴君はやらないの!?」

 

「奇数になるんだから仕方ないだろ。俺はプロだし、何より昨日買った29㎜徹甲機関銃の作成&改造もしなくちゃならないしな」

 

 なにやら千歌がブーブー言ってるが、仕方ないものは仕方ないと諦めろ。

 

「んで組み合わせだけど……俺としては千歌と桜内さん、曜とルビィの組み合わせが最適かな。性能を考えると」

 

 千歌と桜内さんは言わずもがなだ。そして高火力高性能なルビィと援護に回りやすい曜、この二人の組み合わせもそれなりだと思う。なによりこうすれば、決勝戦で戦うことになってもどちらかが一方的、という最悪な状況は避けられる筈だ。多分。

 

「えぇ、私は千歌ちゃんと組みたいよ~昴君」

 

「そうなったら前みたいにルビィに尽く追いかけまわされるぞ。しかも梨子ちゃんも相手だから余計に大変に」

 

「生意気言ってすみませんでした!!」

 

 前回のサフィ事件(?)のせいか、どうにも曜はルビィと戦うのだけは嫌らしい。まぁ仕方ないと言えばそれまでだが。

 

「んじゃそういうことで――」

 

「しつれ~い!!」

 

 纏めようとしたその時、突然の鞠莉さんの乱入により、俺は少しだけムッとした。

 

「――どうしたんです鞠莉さん?」

 

「昴、少しだけ来てちょうだい、あと……そこの花丸ちゃんだっけ?あなたも」

 

「ずら?」

 

 

 

 

 

「で、俺と花丸を呼び出して、いったい何の用です?」

 

 理事長室にて、高いであろう椅子に座る鞠莉さんに、そう聞くと、彼女はだいぶ不機嫌そうな表情をしていた。

 

「……二人とも、津島善子って娘の事は知ってるわよね」

 

「え、そりゃあまぁ……」

 

「ずら」

 

 知ってるも何も、俺は一度だけだが直接会ってるし、花丸ちゃんに至っては幼馴染みだ。

 

「それがいったい……」

 

「――詳しくは自分が話させて貰います」

 

 と、そう言ったのは後ろから入ってきた若緑色のスーツを着た……かなり中性的な顔立ちの男性だった。

 

「えっと、貴方は?」

 

「自分は津島源十郎の秘書で、緒川慎一と申します。いきなりのところ申し訳ありまさん」

 

 なんとも丁寧な口調で言う彼だったが、目は完全に後悔や焦りというそれが随分と見てとれた。

 

「お久しぶりずら、緒川さん」

 

「花丸ちゃんこそ、いつも善子さんがお世話になってます」

 

 こちらは知り合いなのか笑顔で挨拶してる。

 

「それで、態々秘書の方が来るってどんな事態なんです?」

 

 とりあえず事の次第を聞いてみると、緒川さんはだいぶ顔を苦くしている。

 

「……実は、昨日の夜から善子さんが帰宅してないんです」

 

「……なに?」

 

 どういうことか問い詰めて、聞き出したのを要約するとこういうことだった。

 

 昨日の夕方、ここ最近では毎日のように善子は出掛けていて、帰ってくるのも夜遅くだった。一応善子にはバレないように遠くから護衛役が警護してたのだが、毎回のごとく撒かれてしまったという。

 

 それでも夜にはちゃんと帰宅していたので問題は無かったのだが、昨日に限っては帰宅すらしてないという。

 

 緒川さんもその事を今日、源十郎本人から知らされ慌てて捜索するも見つからず、偶々護衛役が俺が善子の後を着けていたのを覚えていたらしく、放課後になって聞きに来たということらしい。

 

「……つまり、善子が行方不明で、何か知ってるかもしれない俺に聞きに来たということですね」

 

「ええ、善子さんはどうにも変装してたみたいですけど、はっきり言って……」

 

「……ありゃ不審者にしか見えなかった」

 

 まぁ変装スキルなんて日本じゃ使うどころの話じゃないからあんまり関係ないが。というか

 

「そういうのは警察の仕事だろ、捜索願い出して……って訳にもいかないか」

 

「えぇ、善子さんは政治家である源十郎さんと、かのファッションブランドの社長である奥様の娘……つまりご令嬢です。それが行方不明なんてことになればマスコミが黙っていない」

 

「確かに、こういうときの報道関係はマスゴミとまで言えるくらいに酷いからな」

 

 俺がその実体験で被害者だし。

 

「それに、今回の件は警察には任せられないといいますか……」

 

「任せられないって、まるで違法な商売でもしてるみたいな言い方だな」

 

「…………」

 

 俺がそう言うと、緒川さんは何も言わずに閉口してる。

 

「…………緒川さん、まさかずらよね?」

 

「…………善子さんがいつも撒かれてる場所には、源十郎の兄である五紘さんが経営してる、賭博ガンプラバトル場が存在してます」

 

「…………なんてこったい」

 

 そりゃ警察にも言えるわけも無いわな。というか、政治家の兄が違法賭博の支配人とかどうしろというんだよ。

 

「といっても最近導入されるであろうカジノ法案が可決されれば正式に公にするということらしいですが」

 

「そういう問題じゃ無いだろうが……というか百パーそこに居るだろうな」

 

「はい、私も源十郎もそう思っています。ですが正式な所在は私や源十郎さんも知らされていなくて……どうにも手出しができないんです」

 

 まぁそんな簡単に行けば違法賭博なんて摘発されるわな。

 

「だったらヤジマ商事に頼んで、マスター権限でガンプラバトルのシステム稼働ログを確認すれば?事情さえ分かればニルスさんなら喜んで対応しそうですけど」

 

「そちらは既に対応したんですが……ネットワークシステムに繋いでないのか、ログが無いんです」

 

「なら粒子バッテリーの購入ログは?ガンプラバトルをするには専用の粒子タンクバッテリーが必要な筈だ、それを辿れば場所は割れるはずです」

 

 うちの学校はそこまでじゃないが、模型店となるとほぼ毎日稼働してるから、どうしても月に一つは予備のバッテリーを購入しなければならなくなる。

 

 そのため購入記録を調べれば、誰がどこに仕入れたかも分かる筈だが、

 

「恐らくそれも空振りに終わるかと思います。粒子タンクバッテリーは自宅配送にすれば良いことですし」

 

「あぁ、そういや……」

 

 今更だが、鞠莉さんの家にもバトルシステム置いてあるし、一部の金持ちは自宅に置いてることもあるのを忘れてた。

 

「つまり足を掴むのは大変と……」

 

「そういうことですね……はい」

 

「ずら……」

 

 なんともはや、呆れる以前に頭が痛くなる思いだよ。

 

「で、その場所ってどこなんだ?」

 

「それが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昴さんが引き返されたビル付近なんです」




実は次回からルート分岐します。具体的には二年生+ルビィのタッグバトル大会ルートと、昴+花丸ちゃんのヨハネ救出ルートです。一応予定としては交互にルートを更新していこうと考えております。

次回は多分二年生+ルビィルートの更新を予定したいと思います。ではでは


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天使の落日 その八(二年生+ルビィ√)

「……なんかまた最近昴君学校に来ないね」

 

 空いてしまっている幼馴染みの席を見ながら、私はため息混じりにそう呟いた。

 

「昴君もだけど、花丸ちゃんも来てないらしいよ」

 

「二人とも?どういうことかしら……」

 

 我らがビルダー梨子ちゃんも微妙な表情をしている。

 

 というのも昨日の鞠莉さんからの呼び出しの後から、昴君と花丸ちゃんの両方の表情が険しく、珍しく昴君はバトルもせずに帰ってしまったのだ。

 

「まさかまた鞠莉さんが無理難題を……」

 

「えぇ!?」

 

「千歌ちゃん!?」

 

 二人とも驚いてるが、私からしたらニヤニヤしながら爆弾を投下しそうな理事長を思い浮かべれば何となくそう思ってしまう。

 

 

 

「へっくしゅん!!」

 

「ずら?風邪でも引いたずら……じゃなくてですか昴さん」

 

「いや、多分誰か……もとい千歌のやろうが噂をしてやがるな……どうしてくれようかな」

 

「顔が悪人になってますよ」

 

 

 

「ブルッ!!なんか寒気が……」

 

 まるで誰かが見てるような怖い感覚に辺りをキョロキョロとしてしまう。

 

「まぁ、でも昴君の事だから、ひょっこり何もなかったように戻ってくると思う」

 

「千歌ちゃん……だったら私達はそんな昴君を驚かせるために」

 

「ヨーソロー!!タッグバトルで優勝して、驚かせてあげないとね!!」

 

 意気揚々としてると、見計らったようにチャイムが鳴り響くのだった。

 

 

 

 

「それじゃ今日も模擬戦始めるよ~」

 

 放課後になり、馴れた手つきで台を起動させると、いつものように青白い粒子が溢れ出してくる。

 

「千歌ちゃん、今日はまずタッグでそれぞれ練習した方が良いんじゃないかな」

 

「ふぇ?どうして梨子ちゃん」

 

 梨子ちゃんの提案に私は首を傾げる。

 

「だって大会は週末の日曜日、今は水曜日よ。模擬戦をするにもまずはコンビでの練習をしないと。特に曜ちゃんとルビィちゃんの二人は」

 

「あ、そっか……」

 

 何だかんだで私と梨子ちゃんとはちょくちょく一緒にタッグは組んでたけど、曜ちゃんとルビィちゃんはほとんど組んでないし、何よりあの事件があったしね。

 

「うぅ、じゃあタッグ練習……って何をすればいいのかな?」

 

「CPU機無双とかどうかな?模擬戦用の仮想ガンプラデータも入ってるし……とりあえず初期モック200体から時間経過で増やす感じで」

 

「ピギィ!?」

 

「「いやいやいや!?」」

 

 なんで頭から200も!?普通に死んじゃうレベルだからねそれ!?

 

「勿論一人20分ぐらいで終わらせるけど、設定にCPUを連携重視にしておくから」

 

「それでも普通に大変だからね梨子ちゃん!?」

 

 曜ちゃんの意見に私とルビィちゃんがぶんぶん頭を振っている。が、それでも梨子ちゃんは笑顔だった。

 

「でもこれでも簡単な方よ。お母さんのお友達なんて一人で仮想の後半主役級ガンプラ(素組)を初期100体(増加数鬼)30分とか教え子にやらせてるらしいし」

 

「「「それどんな魔王!?」」」

 

 

 

「っへくち!?」

 

「珍しいな、おまえがくしゃみするなんて」

 

「にゃはは~、多分梨子ちゃんが噂でもしてるんじゃないかな~。今度の夏にO☆HA☆NA☆SHIしないとね」

 

「いや、くしゃみだけで個人特定できるのか……」

 

 

 

「ひっ!!なんだか寒気が……」

 

「大丈夫梨子ちゃん?」

 

「え、えぇ。まぁそういうことだから、とにかく練習始めましょう」

 

 なんだか逃げられた気もするが……まぁ仕方ないというわけで最初に私と梨子ちゃんが台に立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*ここからは暫く音声だけでお楽しみください

 

 

 

「モックくらい、ビームライフルで充分……ねぷぅ!?避けられた!?」

 

「千歌ちゃん足を止めたら弾幕の餌食になるよ!?」

 

「わ、分かってるよ!!今度こそ……って後ろからアラート!?」

 

「もう、モックの癖に速さだけは!?アルフ、ブラックマンバとゼーロス準備!!」

 

『梨子~いきなり過ぎるよ!!まぁ何時でも準備万端だけど』

 

「あれ!?なんか変な声が……あぁミサイル嫌いだから来ないでぇ!!」

 

『フルングニルの制御補助AIのアルフだ。まぁ後で色々と教えてあげるよおちびちゃん』

 

「ちびじゃないから!!ちゃんとまだ成長してるから……って、なんでトリモチミサイルまで来てるのぉ!!」

 

「千歌ちゃん!?アルフもふざけてないで……ってこっちもトリモチが!!」

 

『ありま、これって梨子が作ったトリモチと同じじゃないかい?』

 

「ちょっそれって……あ、なんか光ってる!?光ってるよ梨子ちゃん!?」

 

「……起爆するわね」

 

『バクハツシサン!!ってやつだな、受け入れろ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひ、ひどい目にあった……」

 

 終了して一息つくも、まるで口から出てはいけないものが出そうな感覚になってしまう。

 

「大丈夫千歌ちゃん?」

 

「大丈夫じゃないって!!あんなの死んじゃうから!?幾らなんでもハードすぎるよ!?」

 

「え、でも……」

 

 そう言いながら梨子ちゃんが指さす方を見てみると、

 

「ピギャギャギャ!!温い、温すぎなんだよォ!!」

 

「ル……じゃなくてサフィちゃん落ち着いてよ!!っと、ミサイルは射たせないよ!!」

 

「イイネイイネ!!そのまま弾幕で武器を潰しまくれェ!!取って置きのメガランチャーで締めてやる!!」

 

「使うのは良いけど巻き込まないでね!!振りじゃなくて絶対に!!」

 

 喧々囂々としながらも見事に大量の敵を前に弾幕の大盤振る舞いをしてる二人の姿があった。

 

「うっそ……」

 

「曜ちゃんは元々操縦は千歌ちゃんよりも上だから、役割さえできれば普通にクリアできるわ」

 

 まぁ確かに、曜ちゃんはコスプレ制服を自作するほどの手先の細やかさはあるけどさ……それでも、

 

「……昴君に後で文句言ってやる」

 

「アハハ……お手柔らかにね」

 

 どこでなにをしてるか分からない暗躍友人に対して、私はそう決めつけた。

 

 

 

 

 ダイヤside

 

「えぇ、その日は……」

 

 何時ものように生徒会室での作業中、掛かってきた電話の相手の言葉に驚いていた。

 

「…………本気ですの?幾らなんでも……それに私は……」

 

『――』

 

「……ハァ、分かりました。ではそのように……」

 

 電話を切りスマホのライトを消して空を見上げる。既に夕暮れ時で、茜色が眩しく見えた。

 

「……私にどうしろと言うのでしょう」

 

 既に賽は投げられているこの状況で、私一人が出きることなど高が知れている。

 

「……それでも、ですわね」

 

 過去を思い出しながら、馴れた手つきで机の引き出しを開ける。未練がましく、それでいて手入れを忘れないで磨かれた紅の守護者の姿。

 

「私は……守ることしかできませんから……」

 

 その守るべきものが何かは……今はまだ分からない。



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天使の落日 その八(昴+花丸√)

あれですね、バトルに入らないと文字数が全然稼げないという悪循環に陥っているドロイデンですw

近づいてくるヨハネ様生誕祭も準備しないといけないし、ある意味同時更新だから疲れるし……ホント、ダレカタスケテェ!!


「うーん、何も分からん」

 

 あれから二日が経ち、俺と花丸ちゃんは緒川さんと共にとあるファーストフード店で微妙な面持ちでいた。

 

 あれから今日にかけて、見失ったらしい周辺を徹底的に捜索したのだが、幾ら探しても、善子どころか賭博ガンプラバトル施設を見つけることは出来なかった。ビルの屋上から地下駐車場のあるフロアまで、ありとあらゆる全ての場所を。

 

「ずら……まるでありもしない宝を探す気分ずら」

 

「見つけるのは宝じゃなくて人ですがね。にしてもホントに善子さんはどこに消えてしまったのやら」

 

 揃ってため息しか出てこず、なんというかお通夜の雰囲気だ。

 

「携帯も電源が入ってないみたいでGPSも辿れないしな……こりゃだいぶお手上げに近いぞ」

 

 携帯もだめ、目的の施設もダメ、ダメダメ尽くしで頭が痛くなるよホント。

 

「でも不思議ずらね」

 

「不思議?」

 

「善子ちゃんのGPベースずら」

 

 そう言われ何となくあぁ、と思い出して頷く。

 

 というのも、善子が使っているであろう機体は無かったというのに、どういうわけか機体の能力データが入ってるはずのGPベースは部屋に置いてかれていたのだ。

 

「恐らくは賭博施設の専用GPベースにデータをコピーして移したのかもしれませんね」

 

「あぁ、だろうな」

 

 基本的にGPベースは白のノーマルを、使うのが殆どだが、時に大会商品やショップ限定、はたまた会社がデザインした代物まで色々とある。コアユーザーがそれに乗り換えるという事も少なくはない。

 

 俺が使ってるのもアッシュグレーに黒いFAITHの羽をモチーフにした『黄道の幻影(ファントム・ゾディア)』、梨子ちゃんのは赤と白のツートンボーダーに風に凪ぐ花びらをモチーフにした『凪ぎ揺れる華(クラム・リリィ)』と、けっこう種類がある。

 

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 

「でも確かに妙と言われればそうだな」

 

 GPベースはデータ移行はできるが、津島のGPベースは一時期発売された『墜ちた天翼(ロスト・フリューゲル)』と呼ばれるダークブラックにグレーの天使の羽が描かれた限定生産の希少モデルだ。

 

 幾ら違法賭博場用に乗り換えてるとはいえ、最低価格数万円の代物を部屋に放置するとは思えない。

 

「ですが例えそれの意味が分かっても……というよりもそれがどうしたと言うか……」

 

 緒川さんも引っ掛かっているのだろうが、確信がないのか微妙な返事しかしない。というよりもそういう特殊モデルを持ってる人間事態、プロないしセミプロ以外で見られないからかその意味が分からないようだ。

 

「緒川さん、仮にプロ野球選手を自分に合わせたオーダーメイドバットがあるのに、試合当日に適当なスポーツ用品店で買ったバットを使うと聞いたらどう思います?」

 

「それは当然……あ」

 

「そ、ちょっと状況が違いますけど大体それと同じです。あきらかにおかしいと思うのが普通、それくらい不自然なことなんです」

 

 実際、GPベースがあればメールも写真もある程度できるから、第二の携帯なんてことも呼ばれてるくらいだし。まぁそれはいいとして

 

「だから、せめて何かしらの突破口があれば……」

 

 そう、本当に何かしらのきっかけさえあれば……

 

「……そういえばお兄さん、どうやって善子ちゃんはその賭博場の事を知ったんずらね?」

 

「そりゃ、直接誰かに教えてもらうか、もしくは何かしらの……!!」

 

 そこまで言って愕然とした。そうだ、俺は一番大事な、それでいて重要な事を忘れていた。

 

「もしかしたら……!!」

 

「「?」」

 

 

 

 結論から言えば微妙なものだった。

 

 あれから俺らは善子のGPベースのログを……メールログからデータログ、ありとあらゆるログを調べた。

 

 GPベースにはスマホに近い特殊なGPSユニットとネットワーク送受信端末が内蔵されている。そしてそれを記録するログも、だ。

 

 つまり専門の機械を使い調べれば、対象のGPベースがどこで、どんな行動、どんな情報を介したのかが手に取るように分かるのだ。

 

 今回は鞠莉さん……というよりは小原財閥の情報収集組織『プリベンター』の機材を使ったわけなのだが、見事に大量のアクセスログが残っていた。そして、

 

「まさかガンプラ関連のデータだけをクラウドで共有リンクさせるとはな……」

 

 共有リンクシステムは、GPベース二つをクラウドネットワークで繋ぎ、万が一片方のGPベースが紛失などしたときに備え、再設定の手間を省く裏技的システムだ。

 

 元々は本体の不備などで修理の間の代替機に情報を移すために使われていたものなのだが、それを賭博場のGPベースに悪用していたらしい。

 

「けどこれなら、クラウドネットワークを介してもう一つのGPベースの位置が分かる筈だ」

 

 そう思いプリベンターの良心こと、W博士に頼んで解析してもらったんだが……その場所が問題だった。博士が指摘した場所は、俺らが撒かれたビルから程近い……徒歩15分の場所の大型分譲マンションだった。

 

 それもセキュリティロックが厳重なルームチェックタイプ(インターホンで開けてもらう)ので、どうにも困り果てていた。

 

 折角見つけたヒントが、ある意味まさかの振り出しに戻った……ある意味では最悪なパターンだった。

 

「どうします?一つ一つ聞いて回るという手もありますけど……」

 

「流石に無理でしょうね、下手すれば此方が通報されかねない」

 

「最悪ずらね……」

 

 これは流石にお手上げというか、どうしようかと唸ってるその時だった。それが視線に入ったのは

 

「……二人とも、ひとまずここから去った方がいいかもな。下手に彷徨くと逆に警察のご用になっちまう」

 

「それもそうですね……ではとりあえず今日はここまでとしておきましょう」

 

 緒川さんも賛成し、乗ってきた緒川さんの車に乗り込んでその場から離れる。

 

(……もし、もしも俺の目が間違いでないのなら……)

 

 チラリとだったが、屋内駐車場のところで見えた薄い金髪に長身の外国人風の男、その後ろ姿は恐らく……

 

 そして本当にその男だとしたら、狙いは何だ?津島善子を手にいれるその理由は……?

 

「……ちょっと穏便ってことにはいかないかもな」

 

 嫌な胸騒ぎを感じつつ、帰ったら外国の知人と連絡を取らねばならない、そう直感していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

???side

 

 薄暗い部屋、かなり大きめに広がっているそこに、男は携帯を手にどこかと通話していた。

 

「……ええ、こちらの首尾は滞りなく進んでいます」

 

 そう言いながら男はパソコンを打ち込み、暗い笑みを浮かべている。

 

「……そうですね、()()に比べてもとが従順……いや、それ以上に……まぁともかく今週末いっぱいにはご期待に沿える調()()が済みそうです」

 

 ニヤリと唇を悪く歪ませ、笑っているその顔はまるで亡者とでも言えそうな程に悪どく染まっていた。

 

「はい、はい……えぇそれでは後日直接……それでは」

 

 電話を切り、画面を消すと男は隣の部屋に移動する。そこには何やら細々とした機器が並び、そして

 

「…………」

 

 目に光を映さず、まるで人形のようにベットに置かれた白磁の肌の少女の姿があった。



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天使の落日 その九(二年生+ルビィ√)

 時は進んで二日後の金曜日、大会前日だというのに私達四人はあることに気づいた。それは……

 

「今更だけど……コーチ決めた見つけなきゃだよね?」

 

 ということである。

 

 というのも、ガンプライブ、全国大会のそれぞれには共通の大会規定が存在し、『監督またはマネージャーを一名登録すること』ということである。

 

 かの全国大会優勝チームのトライファイターズや、μ's(特別顧問として理事長)でさえちゃんとしたコーチやマネージャーが存在しているというのに、私達はそれを怠っていた。

 

 最も今回のは地方のローカルショップだから関係ないものの、このままにしてて良い問題でもない。

 

「昴くんをマネージャー……ってわけにもいかないしね」

 

「そりゃ、昴くんは世界大会予選があるから、私達とは時期的に難しいしね」

 

 曜ちゃんの言う通り、ガンプラバトル世界大会地区予選は六月中旬から始まり、勝ち進めば八月の頭から世界大会の開幕、終わりは例年通りなら少なくとも夏休み修了一週間前の二十日前後までは掛かる見込みだ。

 

 そして私達の目指すガンプライブは……夏休み序盤の七月末に予備予選が、そして中旬に地区予選、そこから地方予選があり本選がありで、終わるのはだいたい十月近くになる。

 

 中にはそろそろ行われるガンプライブや高校生ガンプラ全国大会(だいたい時期は同じ)と世界大会を兼任する猛者も居るが、昴君曰く、そういう人間のおおよそは世界大会予選で自分の機体の調整のためにやってるだけとのことで、直接的に言えば勝つつもりが無いふざけた人間が多い……とのことだ。

 

 というわけで、タイミングの問題で昴君を監督ないしマネージャーにすることはできないということだ。

 

「そもそも高校生とはいえ現役プロをマネージャーにするのは……ピギィ!!すみません」

 

「「「だよねー……」」」

 

 ルビィちゃんの指摘通りだ。寧ろ現役プロの昴君と練習できてるほうが奇跡に近いし。

 

「うーん、こうなったら鞠莉さんのつてに頼んでなんとか……」

 

「鞠莉さんの身内だと寧ろ物理的になんとかなっちゃいそうからダメかな」

 

 梨子ちゃんいわく、鞠莉さんの所のファイターの大半が無口なリアリストな戦闘凶だったり、シスコンだったり、逃走魔のロクデナシだったり、キレると笑顔で黒く笑い続ける人だったりと、全くもって危険極まりない。

 

「じゃあダイヤさんとルビィちゃんの家は?」

 

「ピギィ!?えっと、鞠莉さんのところまでとはいかないけどやめたほうが良いと……思います」

 

 これまたルビィちゃんいわく、霜月兄弟で漸くまともらしく、全身茶色タイツで巣潜り漁をする男性とか、投網漁なのに連携が全くない三馬鹿とか、ジャズをガンガン流して一本釣りしてる狂人など、どちらかと言えば変人奇人という意味で危険という。

 

「……これ、詰んでない?」

 

 曜ちゃんの言葉に全員が無言で答える。流石にここまで酷いと逆に驚きなんだけど、ホントに。

 

「だ、だったら私達の親類は……って、うちは旅館もあるから無理だ」

 

「私お父さんがいつ帰ってくるのが分からないからちょっと……」

 

 言った側からそろってダメとなる。

 

「梨子ちゃんは?」

 

「うーん、お母さんならバトルもやってるから外部顧問って形なら……けど……」

 

「「「けど?」」」

 

「結構ノリで動くこともあるから、前に専用にカスタマイズしたフリーダムでお店の仮想敵を無双してたし」

 

「「「……ホントに?」」」

 

「ホントに」

 

 まるで遠い目をしてる事に若干引きながらも、他よりはマシだと思う。というよりも思いたい、ホントに。

 

「……とりあえず、保留にしておこう?流石に一存じゃ決められないし」

 

 梨子ちゃんの言葉に揃って頷く。というより、これ以外今は何もないし。

 

「じゃあ明日の大会のために、練習を始めないとね。ダメージレベルはCで……フィールドはどうする?」

 

「あ、大会のフィールドは全試合共通だからそこにしたほうが良いかも」

 

 そう言って梨子ちゃんがフィールドを展開し、それぞれが配置に着く。

 

「それじゃ、模擬戦スタート!!」

 

 

 

 

 サフィside

 

「ピギィ……」

 

 降り立ったフィールドを見渡して私はため息を着きたくなった。空は曇っており、地面は氷と雪に被われた山々のフィールド……『フォートセバーン』だった。

 

(氷……多分湖だよな?落ちたら大変なこのフィールドを選ぶ度胸が分からないな)

 

 実際近くの岩場に着陸して、目の前の氷に軽くソナーを使うと、中から反響してるし間違いない。ゆえに地上戦は厳しいと諦める。

 

『サフィちゃん、千歌ちゃんたちの反応ってある?』

 

『あぁ?……いや、まだ無いな』

 

 おそらく索敵圏外に居るのか、それとも……

 

「!?アラートが……!?」

 

 どこからと思い確認すると、なんと上から大量のミサイルが落ちてきやがった。慌てて飛んで回避するも、爆砕する氷が下から襲ってくるせいで少くないダメージが入る。

 

「くそったれ!!」

 

『サフィちゃん、今援護に……って千歌ちゃん!?』

 

 どうやら相方の方はリーダーとかち合ったようで、通信から爆音がちょいちょい流れてくる。

 

「チィ!!てことはさっきのミサイルは……」

 

『考えてる暇は与えないわよ!!』

 

 と、聞きなれた声と共に重粒子砲とミサイル、機関銃の三重奏が上から迫ってくる。

 

「!?GNフィールド!!」

 

 流石に躱しきれないと判断し、粒子フィールドを形成して防御するが、あまりの威力にノックバックしてしまい落ちてしまう。

 

「ぐぅ……!!」

 

 流石に水中に突っ込むわけにはいかないため、スラスターを吹かせて雪原に逃げ込む。

 

「おい!!今どこに居やがる!!」

 

『えっと、東側の森の中!!』

 

「くそ、反対方向か!!」

 

 今居る西側の雪原からでは遠すぎる。しかも上を取られてると来やがった

 

(サフィちゃん……)

 

「(うっせぇルビィ!!話しかけてくるんじゃねぇよ!!)くらえファングゥ!!」

 

 頭に響く主様を脅しておき、私は起死回生のためにファングを放つ。が、

 

『それは読み通りなのよ!!アルフ、弾幕軌道確認』

 

『あいよ!!粒子防護障壁展開!!』

 

 まるで分かってるようにファングのビームを無効化し、その上で機関銃で落としてきやがった!!

 

(サフィちゃん、お願いだから話を……)

 

「(出てくるんじゃねぇって言ってんだろ!!弱虫がぁ!!)ビギャァァァ!!」

 

 さらにファングを射出し、私自身もバスターソードを二つ抜いて接近戦をしかける。しかし

 

『アルフ!!』

 

『了解!!ブースター、パージ&ゴー!!』

 

 さらに会費したうえで、今度は背中のパッケージをパージし此方にぶつけ、それを自爆させやがった。お陰で左手のバスターソードを落としてしまい、それはクレパス内部に転落してしまった。

 

「なめるなぁ!!」

 

 それでも私は構わずに突進し、彼女が抜いたビームナイフと切り結ぶ。軽いはずなのに正面からぶつかり合う剣撃に驚くが、そうも言っては居られなかった。

 

『アルフ!!』

 

『分かってるっての!!』

 

 なんと脇から補助アームと昴さんの良く使う重機関銃のようなものが二つも現れたのだ。ギョッとして退避するも、流石に間に合わず左腕と右足に少くないダメージが入り、ゆっくりと落下していく。しかもそこは大きめのクレパスが……

 

(サフィちゃん!!)

 

「(一々叫んでんじゃねぇっつってんだよ弱虫が!!)ピギャァ!!」

 

 生きているスラスターを使い、着地場所をクレパスから辛うじてずらす。だが瞬く間にアラートが上から鳴り響く。

 

『くらぇ!!』

 

 両腕に構えられたオルトロスを見て、こちらも急いでビーム砲を

 

『させないよ!!』

 

 構えようとした瞬間に、補助腕の機関銃が直撃してしまい、慌ててパージするが体勢を崩して倒れてしまう。

 

「くそ!!」

 

(サフィちゃん!!対応変わって!!)

 

(テメェが同行できる分けねぇんだよ!!良いから黙ってろ!!)

 

(このまま負けるよりは良いでしょ!!)

 

 主様の正論にぐうの音も出ず、若干イラつきながらも主導権を渡すことにする

 

「(これだけ残ってれば……)ファング!!音声マニュアルコントロールモードに変更!!」

 

(んだと!?)

 

 まさかの主様の暴挙に唖然としてしまう。ファングやドラグーンといった空間認識兵器はプログラムによるオートコントロールが基本だ。それを、ただでさえ難しい音声コントロールで使うなど狂気の沙汰だ。

 

「システムパターン1!!稼働中ファングの半分を突撃、半分を射撃でそれを援護!!さらに追加のファングはステルスモードで突撃!!」

 

 だがそれを、まるで手足を動かすかのごとくやりきる。事実向けられていたオルトロスを破壊し、ビルダーの先輩に射線が通らないようにひっきりなしに攻撃をし続けている。

 

「今のうちに曜さんの方へ合流を!!」

 

(だったら私に交代しろ!!音声システムで動きが乱れてる今なら、私の操作で撒くことはできる、少なくとも今の機体状況なら主様よりはマシな回避移動ができる!!)

 

「(う、うん……お願いねサフィちゃん)……っち、お願いかよ……めんどくせぇ」

 

 とにかく動く背部スラスターを動かして地面スレスレの低空飛行で移動を開始……ってアラートだと!?

 

『ごめん梨子ちゃん!!遅くなった!!』

 

「千歌先輩だと!?ってことはまさか!!」

 

 慌ててモニターを確認すると、ダメージ設定Cでのダメージゲージが真っ赤に染まった相方のデータが映し出されていた。

 

 それと同時に、千歌先輩のダメージゲージも一割残してほぼ真っ赤、つまり

 

「(追い詰めたうえで負けたのか!!くそったれ!!)」

 

 このときの私は知らなかったが、曜先輩は千歌先輩のミサイルを喰らってしまい、湖の中に叩き落とされたせいで機体全体にダメージを受けてしまい、それでも残り一割まで削っていたらしい。

 

『どう、まだやるルビィちゃん?』

 

 上からビームライフルを突きつけられ、完全な投降勧告を先輩から受ける。頭の中が沸騰して、気化して、爆発して堪らないくらい怒りに燃える。だが……

 

「……降参する」

 

 ダメージも多く、援護もなし、武器もまともに無い模擬戦という状況で歯向かっていけるほど、まだ理性は粉微塵とはなっていなかった。

 

 

 

(くそくそくそくそくそ!!クソォ!!)

 

 模擬戦後、あまりの自分自身の戦いの内容に、珍しく悪態を主様の精神で叩きまくる。かくいう主様はいつも通りの苦笑いである。

 

(最初に苦戦覚悟で合流しとけば!!少なくともあんな不様はさらさなかったのに!!)

 

(仕方ないよサフィちゃん、今回のフィールドは今まで殆ど使ったことのないフィールドだったし)

 

(それでもだ!!少なくとも先輩よりも強い私が!!先輩よりも相手にダメージを与えてないんだぞ!!しかも与えたダメージってのも後半、主様がやったファングでのダメージ!!私は一切ダメージを入れてねぇんだ!!)

 

 私のファングは無効化され、近寄れば機関銃でゼロ距離射撃され、終いにはスラスターまで半分破壊された。これ以上ない敗北だった。

 

(主様!!明日にこの借りは倍にして返すぞ!!強い私が負けたままでいられるか!!)

 

(う、うん……)

 

 私はそれだけ言って意識を落とす。次覚醒したら……この溜まったストレスを爆発させてやるからな!!待ってやがれ、桜内梨子!!



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天使の落日 その九(昴&花丸√)

ふ、まさかの連続投稿だぁ!!やぁってやるぜ!!


 あれからさらに二日が経ち、俺達は再び沼津の喫茶店で唸っていた。というのも

 

「目的がだいたい分かってるのにどうもできないってのがこんなにも厄介だとはな……」

 

 おそらく目的は津島善子の目。いや、その能力自体だろうことは、チラリと見れた奴の姿から大体検討はついていた。

 

 粒子放射光過敏症……旧ガンプラバトル時代から少ないながらも見られた症例で、特定の粒子の光の流動が分かる特異体質。いわゆる、『プラフスキー粒子に愛された人間』だと、そう言われるほどであった。

 

 特にかのセイ&レイジ組の優勝した大会でのベスト4、『キュベレイ・パピヨン』を駆った『アイラ・ユルキアイネン』がこの能力で勝ち進んだ事でも一時期は有名になった。

 

 しかし、『アイラ・ユルキアイネン』のバックスポンサーであったネメシス……さらにその奥にいた『フラナ機関』はそれを軍事転用できないかと画策、三代目メイジン・カワグチすら巻き込んでまで行ったことにより一時期はチームネメシスの信用度はがた落ちとなったぐらいだ。

 

 そしてもし、もし奴が本当に俺の予想通りなのだとしたら……

 

「タイムリミットは遅くても明日……それまでに片を付ける必要がありますね」

 

「そうですね……でも無断で中に入るには色々と問題がありますし……」

 

 現在、政治的に波風を立てたくない源十郎さんの意向のせいで、警察に捜索願いを出せない現状、正しく人参をぶら下げられたロバの気持ちだった。その時

 

「……すみません、ボスから電話が来たので」

 

 携帯の着信に素早く緒川さんは手に取り……

 

「はい……はい?……分かりました、すぐに向かいます」

 

「……なにかあったんですね?」

 

「えぇ、五紘さんの方から連絡が来たそうです。これから事務所に向かいます」

 

 

 

 

 

「初めましてだな。私が津島善子の父親、津島源十郎だ」

 

 そんな挨拶をする偉丈夫というか、筋肉の固まりというか、兎も角筋肉でできた大男のような姿をしてる強面の笑顔という、誰もが逃げそうな顔で出迎えられ少しだけ後退りしてしまった。

 

「……どうも、善子さんの先輩の天ノ川昴です」

 

「お久し振りです、源十郎おじさん」

 

「ふむ、時間が一分と惜しいので詳しくはあとでとして、二人とも話は緒川から聞いているな?」

 

 まさしく傍若無人というように聞いてくる彼に多少驚くも、娘が掛かってると思えば当然だと割りきる。

 

「一応は、それで五紘さんでしたか?その人はなんて」

 

「その事なのだが……」

 

「――それについては直接話をさせてもらおうか」

 

 虚をついて入ってきたドアから現れたのは、サングラスに燕尾服を着た細身の中年男性の姿だった。

 

「兄貴……」

 

「久しぶりだの源十郎、相も変わらず身勝手にやっとるようだな」

 

「黙れ、お前こそ俺の娘に賭博なんぞ関わらせおって!!」

 

 まるで鬼のような雰囲気を漂わせて源十郎さんは彼を睨む。

 

「そうさせたのは貴様の自業自得だろ。何が少年少女のための政治だ?娘一人幸せに出来ておらん馬鹿者ができるわけがあるまいて」

 

「なんだと!!どういう意味だ!!」

 

「そのままの意味じゃよ。嬢ちゃんは言ってたよ、自分が居なくても両親は別に困ることなんて一つもない、むしろ居ない方が良いと思ってるとな。

 しかも聞いてみれば中学になってからほとんどお前も妻の方も夜に帰ってきてないときたうえに、嬢ちゃんの趣味を無駄の長物となじって見せたそうじゃないか」

 

「それは……あんな下らん遊戯事に時間を裂くくらいなら勉学に励み、優秀な大学に入った方が……」

 

「…………ふざけんな!!」

 

 源十郎の言い分に俺は堪らず声を荒らげた。

 

「アンタ、自分の娘がバトルしてる姿を見たことあるのか?」

 

「ふん、何を言い出すかと思えば……そんなものにかまけてられるほど暇じゃないんだよ、私は」

 

「(やっぱり、だから善子はあんな顔をしてたのか)なぁ知ってるか?善子が去年の中学の全国大会での決勝戦、アイツは()()()()()()()()()()、インタビューの時も、優勝したトロフィーを受け取った時も、一回も笑ってなかったんだよ!!」

 

「ふん、それはただつまらなかっただけだろ?」

 

 流石にイラっときたものの、殴ったところで何の解決にもならないためグッと堪える。

 

「まだわかんねぇのかよ、善子は……アイツはアンタらに直接でも見てもらいたかったんだ!!自分の戦う姿を!!」

 

「なに?」

 

「花丸ちゃんから少しだけ聞いた。善子は中学二年の頃から所属していたガンプラバトル部の他のメンバーから酷く邪魔に思われてたそうだ。

 ソロマッチルールなら兎も角、善子一人に何人がかりで相手しても勝てない、それが段々と周りと確執を生んでしまったんだろうな」

 

 事実当時の映像を何度も見たが、津島善子の学校の応援は一切なく、団体戦は地区予選を敗退していたと聞いた。

 

「それでもアイツがガンプラバトルをやめなかったのは、ガンプラバトルが大好きで、それをする自分の姿を源十郎さん、アンタに見てもらいたかったからだ!!

 それをアンタは平然と切り捨て、あまつさえ下らない遊戯だと善子の目の前で罵った!!それがどんなにアイツにダメージを与えたと思う!!」

 

「少年の言う通りだな、別に嬢ちゃんに対する教育方針についてとやかく言うつもりはないが、それでも限度ってものがある。ただ自分の意見を押し通そうとするだけでは家族も政治も崩壊するのが関の山だ」

 

 いつの間にか話がすり替わってる気がするが、そんなことはどうでもよかった。ただこの冷血漢にもの申さねばという気持ちだけが胸に残った。

 

「黙れ!!貴様のような若造に何が分かるというのだ!!」

 

「分かるさ!!俺は両親を事故で失った!!俺も昔は今のアイツみたいに一人だった……他人から気味悪がられ、親からの愛情ももらえない、そんな同じ生活をしてきたアイツの先輩だからな!!」

 

 流石にこれは大人三人も驚いており、まじまじと目を見開いていた。

 

 思い出したくもないあの日の朝、当時小学二年生だった俺は、両親と共に初めて通う学校に車で向かっていた。学校に到着し、俺が車を降りて校門を潜った次の瞬間、真横から大型トラックが両親の車に突っ込んだ。

 

 原因はトラック運転手の酒気帯び運転と居眠り運転が重なった事故で、調度その時運転席から降りた父は避ける間も無く撥ねられ即死、母は車が横転して下半身を挟まれてしまい、救助が間に合わずその後の車の爆発で亡くなった。

 

 俺も母を助けようと近寄り、その後の爆発を受けて入院、結果として世界大会予選リーグ決勝前までその事を記憶から忘却し、右腕と左肩に今でも跡が残る大火傷を負った。

 

 転入初日に両親を学校の目の前で失った。そのことで他の生徒達から苛めを受け、教師達からも毎日のように哀れみの目で見られ続けた。多分従姉だった曜や、その幼馴染みだった果南や千歌が居なかったら引きこもって自殺していても可笑しくない程の精神だった。

 

 今でも思うのだ。父や母ともっとしっかりと話をしたかった。一緒に遊んだり食事したりしたかった。もっと……もっと……そんな後悔しか俺は両親に持てないのだ。

 

 事故相手からの慰謝料の振り込みと、身体に残る火傷跡を見る度に自分自身が嫌になり、なぜ自分がこんな目にあわなければならないのかと何度も自問自答してきた。そんな自分自身が一番嫌いで、自己嫌悪で死にたくなったことも数十では足りないかもしれない。

 

「けどな、アイツは俺以上に辛いんだよ!!助けてくれる筈の友人すら居なくて、心の支えが粉々に砕けて、一歩間違うことになっても止めてくれる人間すら居ない!!そんな状況だといってもまだアンタは津島善子という、自分の娘から目を背けるのかよ!!」

 

 孤独と孤立は違う。自分一人しか信じれなくても周りが支えてくれた俺に比べて、誰にも助けてもらえず、ただ独りで耐え続けてきたアイツの闇は、多分俺なんかと比べたらいけないものだ。

 

 だけど、そんな俺でもアイツのための添え木になってやることくらい、翼のもげた天使に蝋でも翼を与えてやるくらいの横暴さは許されて良いはずだ。

 

「ぐ……」

 

「カッカッカ……暴論だが、こりゃ少年の方がよっぽど正論だな。源十郎、お前さんの敗けだよ」

 

「黙れ、そもそもお前が娘を違法賭博なんぞに引き込むからこんなことになったのだぞ」

 

「そうさな、だが私がしたのはあくまで、退屈な顔でガンプラを眺めてる弟の娘を、悩みの捌け口としての場所を与えたに過ぎん。お前の娘に関しては賭け事の一切をしておらんしな」

 

 しれっとしているが、なんというかOTONAだこの人。

 

「ならばなぜ娘が戻ってきてない!!」

 

「そりゃこっちが聞きたいくらいだ。月曜だったか?その日まではほぼ毎日のように来ておったのに、二、三日続けて来んかったから不思議に思って聞いてみたら案の定だ」

 

 しかもだ、と五紘さんは言葉を続ける。

 

「こっちに来る前に店のGPベースを確認してみれば、狙ったように無くなってやがると来たもんだ」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!!GPベースを盗まれたんですか!?」

 

「どういうわけかな。しかも容れておいたケースはこじ開けられた形跡もない、つまりは内部から持ってかれた可能性が高いな」

 

 呆れるように肩を竦める五紘さんに他の俺たち全員から鋭い視線が奔る。それと同時に彼はタブレットを一つ取りだしてこちらに渡す。

 

「一応怪しいと思われる顧客は百人弱まではピックアップしてはおるが……見つけるのはほぼ困難だろうな」

 

「……いえ、多分その必要は無いと思います」

 

 俺はそれを受けとり、とある人物を探しだす。恐らくこの中にも……

 

「……見つけた」

 

「「「「!?」」」」

 

 俺の一言にその場にいた全員が驚く。そしてそれを見えるようにテーブルに置くと、タブレットには一人の男性の姿が写し出されていた。

 

「ナイン・バルト……元フラナ機関に所属していた、エンボディシステムの開発者です」

 

 嘗て、アイラ・ユルキアイネンや三代目メイジンを実験体としてP.P.S.E時代最後の世界大会にて暗躍した男。

 

 今もなお、人体実験行使や少女誘拐等の容疑で指名手配されているのだが、まさかこの沼津内浦に潜伏してるとは、見掛けるまでは思いもよらなかった。

 

「この男が……」

 

「しかしなぜ娘を誘拐する必要がある?」

 

「多分、花丸ちゃんでも分かる話だ、これは」

 

 いきなり声を掛けられ驚いているが、その顔はすぐに納得に変わった。

 

「もしかして、善子ちゃんの()ずら?」

 

「その通りだ。恐らく善子の目は後天的な粒子放射光過敏症……プラフスキー粒子の流れや動きが分かる力がある。それを目につけたんだろうな」

 

「だがそれで何をするつもりだ?たかが粒子の流れ?それが分かるだけでなにができる」

 

 確かに源十郎さんの言う通りだ。たったそれだけの能力、けど、ある一定の人間からしたらそうとは限らない。

 

「俺は過去に、プラフスキー粒子を軍事研究に利用する動きが数回だけあったと記憶してます」

 

「粒子を軍事研究するだと?」

 

「ええ、あの粒子は限定空間内に置いて、変容することで模型プラスチックから机上の空論とされているビームを射てたりするようになります」

 

 ここまで言えば大人たちも分かったようで驚愕の顔をしている。

 

「もし転用できれば、ただのモデルガンから人を焼き殺せるビームを簡単に射てるようになる……ですから現ヤジマ商事はその研究の一切を禁じました。けど」

 

「裏組織ではそれが未だに続いてる……というわけか」

 

「そしてその技術は日本だけが独自特許とされている……そんな中で粒子の流が読める人間は充分なモルモットとしての価値を、奴等からしたら喉から手が出るほど欲しい人材です」

 

 事実、過去にその実験を取り締まった際に、研究施設内部に既存の火器ではありえない焼けかたをした部屋の壁や穴が無数に見つけられたと言うくらいだ。

 

「つまりナイン・バルトの目的は、それを裏組織に売り付けること……」

 

「それに加えて密かに国から出ることでしょうね、海外の方がその実験は盛んに行われてるって聞いたことがありますし」

 

 ただの誘拐事件のはずがここまで大事になるとは思ってなかったのだろう、源十郎さんは頭を抱えて崩れ落ちる。

 

「……何か手は無いのか?」

 

「……源十郎、お前」

 

「何が政治家だ、何が幸せのためだ、娘を犠牲にして得られたそれに……そうなって欲しいと思った娘を犠牲にしてどうなるというのだ」

 

 ぼそぼそと呟くそれは、溜め込んでいたものを吐き出すような……そんな心情が込められていた。

 

「こうなるなら娘と正面から話をすれば……あの娘の言葉に耳を傾けていれば……私は……」

 

「……か、まだ遅くは無いぞ源十郎!!」

 

「だが……」

 

「お前の娘をきっかり救って、しっかりと今度こそ向き合ってやれば良いさ。そのためにも、今はしっかりと立ち上がれ!!そうだろ?海鳴源十郎……いや、津島善子の父親、津島源十郎!!」

 

 そういって差し出された五紘さんの手を、源十郎さんは迷いながらも、ゆっくりと掴んで立ち上がった。

 

「シャキッとしろ、父親がそれでは助けられるものもできなくなるぞ」

 

「……ああ!!」

 

 

 

 

 

 

「さて、それじゃあ面倒な後輩を助けに動くとしますかね!!」




次回から二年生√は大会を、昴√はヨハネ救出がスタートします!!ちゃんと両方ともガンプラバトルはありますから、よろしくお願いします

え?花丸ちゃんの台詞が少ない?シ、シリアス過ぎて台詞を入れられなかったんや……ヨハネ様救出バトルではちゃんと沢山入れますから!!ほ、ほんとですよ!!


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天使の落日 その九.五

ちょっとした本編に繋がる番外編です。え?本編進めろ?中々にテクニカルに進まないんですよね~(汗)本当に……ダレカタスケテー!!
















 ナイン・バルトにとっての転機は、アイラ・ユルキアイネンとの初邂逅の時だった。

 

 それまでしがない研究職員で、平々凡々とした生活だったある時、偶々見たガンプラバトルで少年少女が和気藹々と話しているのを見かけた。

 

 研究者として、技術者として当時革命的だったガンプラバトルについては、研究対象でありかつ、興味を持ってはいたものの、自分自身がのめり込むほどのものとは考えてはいなかった。

 

 だが、一人の少女……当時ストリートチルドレンだったアイラがまるで未来を読むように勝敗を当て続けてるのを見てまるで胸が高鳴った。

 

 形式上は養子ということで連れてきたアイナに着るもの、食べるものを与え、その見返りに得たデータはまるで今までの事ががらくた弄りのようなものへと変わってしまう程であった。

 

 結果、私は昇進し、ネメシスの幹部にまで上り詰めた。

 

 それからなんだろう、私が狂い始めたのは……

 

 

…………………………………………………………………

 

「……またあの日のこと」

 

 目が覚めて若干鬱になりながらも、横になっていたソファーに座り直す。こうやって寝た日も研究職員だった頃は毎日だったと変に思い出してしまう。

 

 ふと何かが焼くような音が聞こえて何事かと思いキッチンに向かうと、そこには私の大きめのワイシャツをスカートのように着ている少女……津島善子の姿があった。

 

「…………何をしている」

 

「……べつに、ただ料理をしてるだけよ。どうせ私が私でいられる少ない時間だし、何をしようと勝手でしょ」

 

 そうなのだが……なんというか……

 

「……一応聞くが、君の置かれてる状況が分かってるのか?」

 

「あかの他人の家に居候(仮)してるだけよ。すぐに人格消されてどっかに売り飛ばされちゃうんだろうけど」

 

「ならばなぜ……」

 

 そんなに平静でいられる?そう聞くと彼女は自嘲気味に笑った。

 

「別に私は誰からも必要とされてないから……必要としてくれるなら人格だろうが臓器だろうが、なんでも捨ててやるわよ」

 

「……何を君にそうさせる?私は君を誘拐したんだぞ」

 

「……ずっと一人だったから」

 

 その小さな言葉に、私は初めてアイラと出会ったときの彼女の寂しさを垣間見てしまった。

 

「この()が生まれてから、まわりは気味悪がって避けていった……親もだんだん帰ってこなくなって……」

 

「……君の両親は政治家に企業の社長だ、仕方ないとも言えよう」

 

「それでも最初は交互に帰ってきてくれた。そんな二人に誉めてもらいたくて料理を覚えて、家事も少しずつこなせるようになっていって……三ヶ月経つ頃には二週間も顔を会わせなくなってた」

 

 ……何となくだが解った気がする。つまり彼女は両親に誉めてもらいたい、家でゆっくり楽をしてもらいたい……そう思ってたのが逆に一人という孤独を生み出したのだ。

 

 生涯一人身だったが、自分がその親の立場になれば確かにそうしても不思議ではないとおもうだろう。

 

「二人にはもう私が必要ないのよ。ほとんど自立できるようになってるからって、勝手に距離を離していったのよ」

 

「……ならなぜ和解しようとしない。言っては悪いが私は君を縛り付けたりひていない、やろうと思えばずくにでも逃げ出せるはずだ」

 

()()()()()()()()()()、両親も、友人もどうでもいい、どうやっても独りになるなら、裏だろうが地下だろうが、()()()()()()()()()()()()()()。ただそれだけ」

 

 そういって彼女はテーブルに目玉焼きとベーコン、チーズを挟んだホットサンドの皿とオニオンコンソメスープを湧けてテーブルに置く。

 

「それに最近、誰かと食事するってこと出来なかったから、そういう意味でも、ね」

 

『……一人で食べてもつまらないわ。それより一緒に食べましょ』

 

「ッ!!」

 

 彼女の言葉に、アイラが言っていた言葉が重なって漸く私が彼女を誘拐した理由が分かってしまった。

 

 粒子が見えるとかどうでもいい、ただ彼女とアイラとを()()()()()()()()()

 

 ストリートチルドレンとしてずっと一人でいたアイラ、能力によって結果として孤独となった津島善子、まるで違う道のりだが、その面影はどうしても重なっている。

 

「……私は」

 

「?どうかしたの?」

 

「…………いや、なんでもない。冷めないうち頂くとしよう」

 

 話をそらして、互いにテーブルに座り手を合わせる。そして懐かしい味のするホットサンドを口に頬張る。

 

(そういえば、初めてアイラが自分から料理して作ったのもホットサンドだったな……)

 

 少し黒く焦げて苦かった味に揃って苦笑していたあの頃を思い出して、どこか懐かしい記憶が蘇ってくる。

 

(アイラ……私は君が側にいて欲しかったんだろうな)

 

 今思えばアイラに無理矢理実験させていたのも、あの大会でメイジンにエンボディをやったのも……

 

(いや、それは違うな……私は君を独占したかったのだろうな……醜くも)

 

 彼女と居たから私は前を向けた。冷たく当たりもしたが、それも彼女が昔のような生活になり私の側から離れるのが嫌だったのだ……。

 

 今彼女はどこでどうしているのか……そんな虚しい気持ちだけが胸を過るのだった。

 

「ところでアンタ、私がヨハネって言ってもどうでもいいの?」

 

「君がそう思いたいのだろ?だとすれば私は否定するべきではないさ、堕天使ヨハネ」

 

「そ、(ありがと)

 

 そう言うときに必ず声が小さくなってたのもアイラそっくりだった。




最近馴染みの模型屋にハイマニューバとかディープアームズが残ってるか見に行ったら、どういうわけかHGのノワールとヴェルバスが税抜き1000円ぐらいで叩き売られているのを見て、思わず発狂して買ってしまいましたw

さらにFGOでは水着タマモ、シンフォギアではXD翼さんが22連で2枚も当たるし……

いったいなにがあった!?俺!?


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天使の落日 その十(二年生+ルビィ√)

 皆さん、オハヨーソロー!!渡辺曜であります!!ショップ大会当日の今日……なんでありますが……

 

「…………」(ブツブツブツブツ)

 

 なんか隣の席でルビィちゃん……じゃなくて多分サフィちゃん(?)が呪詛みたいになんか呟いてるんだけど!?怖すぎるよ!!

 

「る、ルビィちゃん?大丈夫?」

 

「ピギィ!?え、あ、はい……大丈夫です大丈夫……大会とか久しぶりで緊張して……」

 

「え、あ、そうなんだ……」

 

 どうやら緊張してブツブツ言ってるだけだった。うん、とりあえずサフィちゃんが出てきてないことだけは安心できるね。

 

「でも改めて考えてみると、ルビィちゃんと組めてなんだかホッとしたかな」

 

「え?」

 

 私の言葉に意味が分からないのか、ルビィちゃんは首を傾げている。

 

「ほら、私とルビィちゃんってあんまり関わるってことないでしょ?私もルビィちゃんも千歌ちゃんに引っ張られた形だったし」

 

 現に私は千歌ちゃんと漸く何か一緒のことが出きるって事もあって、何かと千歌ちゃんと組もうと躍起になってたぐらいだし。

 

「だからね、側から見る千歌ちゃんじゃなくて、少し離れた距離から見て……って風になれれば良いなぁなんて思ってて、梨子ちゃんとはよく一緒にいるから、今度はルビィちゃんと一緒にって」

 

「……えっと」

 

「あぁ、ごめんね。うまく説明できてなかったよね」

 

「いえ、でもなんだが、昴お兄さんと似てるなって思って……」

 

 ルビィちゃんの一言に、私は少しだけうーん、と唸る。

 

「まぁ従姉弟同士だからね、根っこのところは似ててもおかしくはないと思うよ」

 

「いえ、従弟だからってそんな……なんていうか……重たいっていう感じです」

 

「重たい?」

 

 ルビィちゃんは頷きながら言葉を続ける。

 

「昴お兄さんって、なんていうか繋がりを大事にし過ぎてるように思って……私にガンプラバトルを師事してくれたのも、偶々お姉ちゃん達が練習してて……世界大会の準備とかもしなきゃいけなくて忙しいはずなのに」

 

「あはは……多分それはアレだね、昴の過去の反動が原因かもね」

 

 なにせ昴はあの事故から常に疑心暗鬼だった。常に同情やらなんやらのせいで自分以外の誰も疑って掛かって、私と千歌ちゃんや果南ちゃんでさえそれを解くのに一ヶ月近くかかったぐらいだ。

 

 その結果、今は寧ろその時の分を埋めるように他人との距離を詰めようと色々とやってるみたいだけど。

 

「まぁそれでも昔みたいに変に意地を張らなくなってくれた分、義姉としては微妙なんだけどね」

 

「そうですか?ルビィにはそうは見えないような……」

 

「ふふ、いずれ分かるよ、ちゃんとね」

 

 

 

 ショップに到着した私とルビィちゃんは、大会の受付を済ませると、山のように積まれているガンプラを覗きこむ。

 

 HGUCシリーズやSEED、AGEに鉄血は元より、高額だが今ではお目にかかる事すら困難な旧キットのガンプラまで様々な品が網羅されているのだが……

 

「……蟹多くない?」

 

「……そうですね」

 

 店長であるあの兄弟の愛機であるヴァサーゴやアシュタロンはまだ分かるのだが、なぜかズゴック系などの見た目が甲殻類(主に蟹)な機体が棚一つ選挙してるのだから仰天ものだ。

 

「君たち、僕らの本業は蟹漁師だってこと忘れないでね」

 

「ピギャ!?」

 

「うわ!!」

 

 いつの間に現れた弟のオルバさんに驚き、そろってその顔を見た。

 

「それと、そろそろ一回戦始めるから準備してね、君たち」

 

「あ、はい……」

 

「す、すみましぇん……」

 

 何やら舌足らずに言ってるルビィちゃんを持ち帰りたい気分になるが、そこは自慢の千歌ちゃんへの愛で乗り切る。

 

 え?おかしい?千歌ちゃんへの愛があればたとえどんな小動物のもふもふにも負けないんだよ私は!!

 

 千歌ちゃんとの愛を愛を愛を……ってこれはいろんな意味でアウトだから止めとこう、昴君とは違う昴君が精神的に病むことになりかねないしね。

 

「曜さん……大丈夫ですか?」

 

「へ?あぁ、うん、大丈夫大丈夫」

 

 ま、兎にも角にもバトルを始めようかな!!

 

 

 

「一回戦の敵は『ザク』系だね」

 

 フィールドの雪原で光学迷彩マントを装備しながら私は手持ちのムラマサをライフルモードで準備する。

 

 相手は梨子ちゃんが使ってた『ザクファントム』に恐らく『レジェンド』のレドームを『デストロイ』のように改造して取り付けた機体で、どう見てもかなりのカスタマイズをされていた。

 

『チ、そこまで珍しくもない『ザク』にあんなバカ火力の装備取り付けやがって』

 

 ルビィちゃん……じゃなくてサフィちゃんも流石に厳しいのか舌打ちしてまで酷評してる。

 

『もう一体の方は見つからねぇって事は……挟撃狙いか?』

 

「でもあの『デストロイザク』は動きがだいぶ重そうだけど?」

 

 さっきからゆっくりとホバー移動してるところから見ても、余りの火力と重量で動けないのだろうが、それだと挟撃狙いとは……

 

『ッ……先輩!!すぐにその場から離れろ!!』

 

「っ!!」

 

 サフィちゃんの怒声で慌ててその場から離れると、次の瞬間、さっきまでいた場所に爆発が飛んだ。

 

「今のはグレネード!?でもどこから!?」

 

 慌てながら確認するも、辺りには機体の影すら見当たらない。

 

『先輩!!あの重量級も動き出しやがった!!狙われてやがるぞ!!』

 

 更なる指摘に私はスラスターを吹かしてその場から一気に離れる。その次の瞬間、あのレドームから発射されたのだろうミサイルや重粒子ビーム砲が凪ぎ払うように私へ迫ってくる。

 

「チィ!!」

 

 仕方なくビームライフルで牽制しつつ、装備してたマントを深く被り直して逃げるが、流石に数が多すぎる。

 

「サフィちゃん!!今すぐ『ザクデストロイ』を仕留められる!?」

 

 私はすぐさまサフィちゃんに通信を送りなんとかできないか相談する

 

『出来なくないが、それだともう一機の方はどうする!?』

 

「あんな火力で来られたらこっちの装備じゃもたないよ!!それにあれだけの威力を射つためにエネルギーを再チャージしないといけなくなるはず!!」

 

 機体の粒子量は各々の設定によりまちまちだが、あの規模の砲撃となるとかなりの消費するのは当然だ。

 

 梨子ちゃんの『デュエル・フルングニル』も、火力と粒子の都合をつけるために、高火力の武器は重粒子ビーム砲一本以外はほぼ全て、そこまで使わない代わりに弾切れの危険のある実弾をメインにしているというぐらいだ。

 

 ならばそれ以上のビームを射っている相手は必ずエネルギーを再チャージするための、何らかの手段を用いてるのは当たり前と考えるべきだ。

 

「だからサフィちゃんはそれをさせないで一気に倒す!!そうすればあとはなんとかできるから!!」

 

『……三分で決着つけてくるから、死ぬなよ』

 

「全力全開でヨーソロー!!」

 

 そう言って通信を切ると、私は雪原から外れた凍った湖まで逃げ切る。

 

「さて、いくら相手がステルス使ってるとしてもここなら……」

 

 辺り一面何もなく、それどころか完全に開けた地形である氷上ならばと、氷が砕けないように着氷する。

 

 そしてレーダーを最大まで稼動し、私自身も目を閉じて耳を澄ませる。

 

(見えないなら感じとる……邪魔な音は全部シャットアウトして……)

 

 遠くで聞こえる爆発音、ビームの鳴る音、それらを意識の外から全て追いやる。自然な風の音だけが耳に響く。

 

(…………来た)

 

 かなり小さいが、それでも聞こえた僅かな間接の曲がる音が鼓膜の奥を刺激する。

 

(パパみたいに音の距離までは分からないけど方角だけなら)

 

 再び音が鳴るのを聞くために、さらに邪魔な音を全て排除、まるで虚無のように何も聞こえなくなる。しかし、

 

「見つけたぁ!!」

 

 本の少しだけ聞こえた明らかに不自然な風の音が背中の左側から聞こえ、私は両手に構えていたムラマサライフルの引き金を引いた。

 

 放たれたピンクの光線は、素早く、一直線に、そして確かに、隠れていた機体の右肩にへと直撃した。

 

「ヒット!!」

 

 すぐさまムラマサをブレードモードに直して一気に射った方向へ駆け抜ける。その方向には右腕を焼失した、雪原迷彩のカラーが施された近接装備の『ザクⅡ』が立っていた。そのすぐそばには焼け尽きたマントの燃えかすのようなものが見てとれる。

 

「どうやら私より上等なステルス用のマントを装備してたみたいだけど、それが無くなればこっちのものだよ!!」

 

 しかし相手も手練れと言うべきか、こちらに来たとわかった瞬間に背を向けて逃げ始める。ご丁寧にスモークグレネードなんてものを使ってまでだ。だが、

 

「悪いけど、この『カノーニア』の索敵範囲を舐めないでね!!」

 

 元々砲戦援護を目的としていただけに、索敵レーダーの範囲がかなり広く作られているこの機体には、ただのスモークぐらいでは意味を成さないどころか、寧ろ砲撃を隠してくれる隠れ蓑なんだよね!!

 

「『ヴェスパー』、ハイパーチャージ!!目標、『ステルスザク』!!」

 

 名前は違うのだろうけど、そんなことは今はどうでもいいからね!!相手が分かればそれでいいんだよ!!

 

「バースト……シュート!!」

 

 腰だめに放たれたピンクの重粒子砲撃は直線上の木々を飲み込み、まるで地面を抉るように直進し、逃げていたザクを飲み込み爆発した。

 

 確認のために接近すると、そこにはボロボロになって半ばから折れた粒子結晶刀を左手に構えながら動かなくなった黒焦げだらけのザクの姿だけが残っていた。

 

「任務……完了」

 

 そして同時にバトル終了の機械音声が流れ、私達は無事に一回戦を突破することに成功したのだった。

 




はい、というわけで久しぶりの更新じゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!はい、そんなわけで次回は昴丸vsヨハネの予定です。

そして今回の機体……後半にて出てきたステルスザクこと『ザク・ザ・リッパー』を送っていただいたQooオレンジ様、ありがとうございます!!今後も励みになるので、オリジナル機体や感想、評価など、色々お願いいたします。


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天使の落日 その十(昴&花丸√)

久しぶりの本編更新だオラァァァ!!けどバトルまで進まなかった!!

正直言うとヨハネ様とのバトルは濃密にするつもりなので仕方ないとしか言えないけどね~w


 翌日の土曜日、時刻は朝の7時と早い時間に俺と花丸ちゃんは件の賭博場……『アルテミス』に来ていた。

 

「しっかし、こんなところに賭博場があるとはな……」

 

「ずら、まさしく未来ずらよ!!」

 

 そう、というのも場所というのが前に雑誌を予約していたビル……それの地下だったのだ。それも俺がちょうど最後に見たエレベーターに、専用のカードキー射し込まなければ来れないという特殊な仕掛けがしてあったのだ。

 

「なに、ここのビルを経営してる会社の不正をちょろっと黙ってる代わりの駄賃じゃよ。それにここに続く階段もないうえに、隠しカメラや盗聴器の類いは全てチェックして無効化するしの」

 

「……だから店名が『アルテミス』なんですね」

 

 恐らく『SEED』に出てくる絶対防御要塞アルテミスから取ってるんだろうな……けど、

 

「まさしくアルテミスよろしく内側から刺された訳ですね」

 

「全くだ。が、それも君らがすぐにもとのようにしてくれるだろ?」

 

「俺らはサーペントテールじゃないですよ」

 

 苦笑いでそういいながら機体の最終調整を終わらせる。今回は完全なAHM装備であり、それでもあの津島善子に勝てるかと聞かれると微妙なくらいだった。

 

「ところで花丸ちゃん、一体何を……」

 

 俺が声を掛けるが、花丸ちゃんは返事をせずにとある組み立て前のガンプラを前に瞑想のような感じで目を閉じていた。

 

「……よし」

 

 そう言うと側に置いてあったニッパーを手に取り……

 

「ちょ、まさかそれは――」

 

 

 

 

 

 ナイン・バルトの目覚めは早かった。何時もなら9時過ぎまで寝ているのに、時計を見れば7時と早朝だった。

 

「……嫌な予感がする」

 

 あの日、あのレイジとやらとアイラが戦ったあの日も目覚めは何時もより早かった。アイラと出会ったあの日もだ。

 

 たったそれだけ、だが自分にとって早起きというのは往々にして自分の運命を覆すことになる事は明確だった。

 

「……起きてるか、ヨハネ」

 

「ん……なにかしら?」

 

 本来の自室のベッドに居るであろう少女に声をかけると、彼女もまた起床していた。

 

「……今すぐにガンプラを用意しておけ」

 

「どうして?」

 

「分からない……が、何となく君が準備しておいた方が良いと思ってな」

 

 そう、とだけ閉まったドアの奥から聞こえると、すぐに彼女はその扉を開けた。

 

 その格好は黒のゴスロリというやつで、短めのフリルのスカートに黒の長袖の上着、さらにシニョンを止めるようにつけた黒い金属質の羽を纏った堕天使の姿だった。

 

「……最終調整、しないの?」

 

「……ホントに良いのか?それをすれば君は……」

 

 最終調整……つまりそれが表すのは彼女という存在の封印だ。それが済んでしまえば、肉体は本人でも人格が別の人間という矛盾した存在へとなってしまう。

 

「……どうせ別の人間に引き渡せば、結局は表に戻れないんだから良いわよ」

 

「……そうか」

 

 唇を噛み締めながら、彼女を椅子に座らせ、頭に専用のヘッドギアを装着させる。そして

 

「……ああ、これで私は――」

 

 その言葉を最後まで聞き届けることなく、彼女の記憶の封印を開始した。

 

 その時、まるで見計らったようにドアが開かれた音が響いた。何事かと思ってリビングに出てみると、大柄の男と、それなりに長身の男が入ってきた。さらにその後ろからヨハネと同年代くらいの少年少女二人が入ってくる。

 

「ナイン・バルトだな?」

 

「……だとすればなんだ?不法侵入で警察を呼ぶぞ」

 

「娘を誘拐した犯人とは思えん言葉だな、指名手配犯?」

 

 娘……なるほどと肩を竦める。

 

「なるほど、つまり……貴方達は私が貴方の娘さんを拐ったと、そう仰いたいと?」

 

「事実だろ?悪いが既に警察には話を通してある、素直に返すのならばこちらも悪いようにはしない」

 

 暗に抵抗するなら容赦しないと言ってるようなものだ。確かにこの男の見た目通りの筋力があるならば、非力な自分では何ともしがたいだろう。

 

「……なるほど、確かにそちらの言う通り、私は津島善子を連れてきたし、現在もここにいる」

 

「ならば「だが」む?」

 

 しかし、私とて研究者の端くれ、力で勝てないならば知恵を絞るだけだ。

 

「私は彼女をここへ強制的に連れてきたり、拘束などはしていない。逃げ出そうと思えば逃げられる、通報しようならすぐにでもできる状況にあって、なお彼女が留まったのであればそれは自己責任というものだ」

 

「だが貴様はかつてエンボディシステムを構築した犯罪者だ、娘を使い非道な実験をしてるのは明白だ!!」

 

「確かにそれも認めよう。私はとある人間からプラフスキー粒子が視認できる人間を連れてこいと命じられている。そのために先程、一時的な記憶の封印を施した。だが、それも彼女には合意の確認を取り、ここに彼女の直筆のサインも貰っている」

 

 最初の一言は兎も角、拘束から最後までは全て事実だ。むしろ彼女に料理を作ってもらったりしてたぐらいだし、何より最終調整についても、書類上は三日前には既に書かれており、むしろ此方が踏ん切りが付かずに引き伸ばしたくらいだ。

 

「……分からないな、なんで指名手配犯のお前がそこまで躊躇った?」

 

 と、今まで沈黙していた少年が声をあげる。よく見れば彼は去年の世界大会に出ていたジンの使い手……天ノ川昴だということに気付いた。

 

「別に思うところがあっただけだ、むしろこちらとしては『灰色の流星』と呼ばれる君がここにいることの方が不思議でならないが?」

 

「そら学校の後輩がこうなってるって話だ、少なくとも警察だけに任せられるほど安穏としては居ねぇよ」

 

「……なるほど」

 

 そういう繋がりかと納得する。

 

「別段、私個人としては彼女がどうなろうとは構わない、君達に返せば、結局私は刑務所の中で生涯を終えるだけ、依頼人に引き渡しても……口止めに消される可能性も少なくない」

 

「ならなんで?」

 

「私個人の事はどうでもいい……だが、アイラと同じ力を持ち、ガンプラバトルを楽しんでいた彼女が、君達に返したところで幸せになれるのか?」

 

 その一言に、周りの全員が静かになる。

 

「彼女はアイラと違い両親も、住む場所も、居場所もあった。だというのに、彼女はアイラと同じように孤独に押し潰され、自分自身の意味さえも分からなくなってしまった……そんな彼女が、家族の元に戻ったとして、幸せになれるとどこに確約できる、どこに証明できる?」

 

「……つまり、アンタはかのアイラ・ユルキアイネンと津島善子の姿が被ってるわけか……」

 

「フ、笑ってくれてかわないが、真実そうだ」

 

 私にとってあの頃の自分への戒めと同時に、今どこに居るか分からない彼女への償いなのだ。彼女……ヨハネには悪いがそれ以外存在しない。

 

「……で、だ、その津島善子は今どこにいる?」

 

「……私の自室で最終調整の真っ最中だ」

 

「ならさっさと連れ帰させてもらうぜ!!」

 

 血気盛んに飛び出そうとする彼に、私はニヤリと嗤った。

 

「真っ最中だと言ったろ?下手な操作をすれば脳を直接破壊することになるぞ」

 

「な!?……ぐ!!」

 

「まぁもっとも、そろそろ終わる頃だが……記憶は完全に封印してある、ちょっとやそっとのことでは解けることはない……ある方法を除いてな」

 

 そう言って私はソファーを壁側にどかして、取り付けていたボタンを押した。すると先程までソファーがあったところの床から中型のバトルフィールドが浮かんでくる。

 

「なんつー細々とした仕掛けを……」

 

「なにここは一階だ、地下に仕掛けするくらいわけはないさ」

 

「そうかよ……で、これを出したということはつまり、そういうことだろ?」

 

 彼はまるで呆れ半分真剣さ半分という顔で聞いてくる。

 

「そうだ、私と彼女……二つのガンプラをバトルで破壊すること……それが彼女の記憶を取り戻すことのできる方法の一つというわけさ」

 

 可能だろ?と高校生プロファイターに投げ掛ける。

 

「……だったら遠慮は要らねぇな、ヨハネの方は兎も角、研究畑のアンタが俺達に敵うと思ってるのか?」

 

「ふ、勝負は何事も不足の事態が起こるのは常だ。やらずに勝てないと決める道理はないさ」

 

「良いだろう……さっさとアンタを潰して、善子を……後輩をさっさと救わせて貰うとしようか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くだらない」

 

 その時、隣の部屋のドアが開き、凛とした声が響いた。

 

「……起きたか、ヨハネ」

 

「ええ、全てを忘れて空っぽになる……これほど良いことがあるかしら?」

 

 妖艶に、しかしハイライトの消えた目で見られた向こう側は、自分達の知ってる姿と違うことに戸惑いを隠せていなかった。

 

「救いなんてくだらない……結局人は独りになるの……誰かを救うなんて絵空事、くだらないとしか言えないわね」

 

「……それが、津島善子の本音か?」

 

「津島?()()()?私は()()()よ……そんな気持ち悪くて古くさい名前で呼ばないで」

 

 ……若干性格が拗れてる気がするが、記憶の封印をした直後だと考えれば誤差の範囲内だ。

 

「さぁ、このヨハネの前に……全てを散らして死になさい……!!」




次回は二年生+ルビィルート!!ということでがんばルビィしたいと思います!!はい!!


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天使の落日 その十一(二年生+ルビィ√)

「う~ん、どうしよう」

 

 千歌ちゃんはそう言いながらとあるガンプラのキットを目にしていた。両肩にガトリングとブーメランセットになったものがそれぞれ取り付けられ、背中にはオレンジに塗られた二枚翼と白い砲身、そして特徴的なストライク顔。

 

「千歌ちゃんそんなに好きなの?その『ストライク・トゥモロー』」

 

「好きなんてレベルじゃないんだよ梨子ちゃん!!もうこれは尊敬!!尊敬のレベルなんだよ!!」

 

「いえ、それはまぁ分かるけど」

 

 千歌ちゃんはどうにも『μ's』のガンプラに心酔というか、もう拝みたてるくらいになっていた。

 

「穂乃果さんの『ストライク・トゥモロー』、絵里さんの『アンギルスエピオン』、にこさんの『カスタムザクF2521』は特に凄いんだよ!!作り込みから性能までどこからみても最高なんだよ!!」

 

「うん、途中なんか寒気がしたけど、確かにどれも見た目からして性能が高そうなのが分かるわね」

 

 特に『アンギルスエピオン』、ベースは『エピオン(EW』というかなり特徴的な羽を細かく白よりの水色で塗られていて、ビームソードを二つ構えるその姿はかなり独特なのはすぐにわかる。

 

『1回戦第三試合をするプレイヤーの方、五分後に試合開始なのでフィールドの近くに来てください』

 

「あ、千歌ちゃん」

 

「ふぇ?もうそんな時間か~」

 

 LINEを見てみれば曜ちゃんも一試合目勝ったということらしいし、

 

「私たちも頑張らないとね、千歌ちゃん」

 

「うん、そうだね梨子ちゃん」

 

 

 

 

「レーダーに敵影は無し……まだ近くに居ないようね」

 

 フィールドに降り立った私と千歌ちゃんは初期配置の森で作戦を練っていた。

 

『最初から動かないってことは、何かを狙ってるのかな?』

 

「そうね……サイコミュ系の機体の可能性もあるけど、地球系のフィールドだとあまり使い勝手が良くないから狙撃……」

 

 森林以外は基本的に見晴らしが全体的に良いこのフィールドで戦う場合、如何に相手を先に見つけるかが鍵となる。

 

 と、その時、猛スピードで敵の機体らしき一体がこちらに近づいてきた。

 

『!!梨子ちゃん!!』

 

「分かってる!!」

 

 私はすぐにオルトロスを取りだし、千歌ちゃんも手持ちのビーム砲をバスターモードにして構えて発射する。

 

 轟音と共に森林が焼き焦げ、かなりの爆発音が鼓膜に響く。

 

『やった?』

 

「そんなわけないでしょ千歌ちゃん!!」

 

 そうだとすれば余りにもお粗末すぎる。

 

 そしてその考え通り、爆発の煙の奥から出てきた白と青にカラーリングされたガンプラ……『1.5ガンダム』をカスタマイズしたであろうその機体の姿を現した。

 

「千歌ちゃん!!接近戦お願い!!」

 

『了解!!』

 

 その指示に千歌ちゃんはビーム砲をしまい、対艦刀を抜いて切りかかるが、相手も装備していた実体剣で受け止める。

 

 しかも徐々にだが、まるで押し返すようにその剣が押していき、千歌ちゃんの機体が一歩下がった

 

『く……あんな細いのになんてパワー!!』

 

 同感だった。如何に千歌ちゃんの機体のベースとなった『インパルス』が粗く作られていたということを踏まえても、両手で構えた対艦刀を片手一本の長剣で押し返すなど埒外にも程がある。

 

「だったらこっちから援護すれば……!?」

 

 すぐに判断してアサルトライフルを構えようとした次の瞬間、上からの熱源反応にすぐに避けた。次の瞬間、まさしく狙ったように二筋の緑の熱線が、先程までいた場所を貫いていた。

 

 慌てて熱源の方向を確認すると、翼のついた紅いガンダム……恐らく『イージス』のカスタム機が浮かんでいて、ゆっくりとその身体を地面へと下ろした。

 

 さらに千歌ちゃんと戦ってた『1.5ガンダム』のカスタム機も近寄り、私はすぐに千歌ちゃんと合流する。

 

「千歌ちゃん……分かってると思うけど」

 

『うん……はっきり言って強すぎる』

 

 強敵なんてレベルじゃない、まさしく本気の昴君二人を相手にしたような実力に、私も千歌ちゃんも圧倒された。

 

『……まったく、貴女ともあろうものが仕留め損ねるとは、どうしたものですか?』

 

『え?』

 

「その声……」

 

 どこかで聞き覚えのある、しかも特徴的なしゃべり方……

 

『そうは言うけど、単純なパワーだけ見たら同じぐらいだったんだからしょうがないでしょ』

 

『え?え?』

 

 さらに聞こえてきたどこか呑気なのに筋の通った声を聞いて千歌ちゃんはさらに混乱し始める。うん、私も同じだった。何故ならその声の主は……

 

『か、果南ちゃんとダイヤさん?』

 

 

 

 

 

 

『あれ?今ごろ気付いたの千歌?』

 

『まったく……ぶっぶーですわね、これは』

 

 

 

 

 

「『う、ウソォ……』」

 

 どうやら『1.5』のカスタム機が果南さん、『イージス』のカスタム機がダイヤさんという三年生コンビが相手だったのだ。

 

「ど、どうしてダイヤさんがここに?しかもガンプラバトルを?」

 

『……まぁとある人物から、『ルビィの戦ってる姿を見ろ』と言われまして……一人で行くのもなんですから果南さんを誘ったら……』

 

『久しぶりに色々溜め込んだストレス発散したいし、私が勝手にバトルに申し込んだわけ。この大会は当日受付だしね~』

 

 ……なんとも傍迷惑な話だ。

 

 だが、しかし同時にあの強さにも納得した。三年生には鞠莉さんがいる。昴くんは鞠莉さんの会社とプロ契約してるから、そのついでにバトルを鍛えられたと考えれば筋は通る。

 

 ついでに言えばルビィちゃんの師匠も昴君……その繋がりでダイヤさんが昴くんに師事してもらったとも考えられるし、果南さんに至っては幼馴染みだから問題ないとも言える。

 

 ……こう言ってはなんだけど、私達が苦戦する結果って大抵昴君が原因なのよね……。

 

『けど果南ちゃんは復学してもガンプライブはやらないって』

 

『べつに趣味でガンプラバトルするのは勝手でしょ?それに昴が楽しんでるのを隣で楽しみたいしね』

 

『な、なるほど……さすが果南ちゃん』

 

 若干呆れてるが、すぐに私達は武器を構え直す。それに吊られて三年生コンビもそれぞれ剣とビームライフルを構える。

 

『それじゃ私の『1.5ガンダムゼブブ』と』

 

『私の『イージスガンダム・ディアマンテ』の相手をしてもらいますわよ!!』

 

 先に動いた『ゼブブ』が私達を両断するように剣を振るう。それを千歌ちゃんは対艦刀で受けとめ、瞬時に投げ飛ばす。

 

「喰らえぇ!!」

 

 宙に浮いたところをオルトロスで砲撃するが、まるでそれを読んだように何やら小型のユニットが三つ飛び、そこから展開されたビームバリアによって無効化される。

 

『ナイスダイヤ!!』

 

『軽口を叩く前にさっさと落として下さいな!!援護するこちらの身にもなってください!!』

 

『相変わらずダイヤは固いよね~まあそこが美点なんだけど!!』

 

 そう言って果南さんは腰のGNバスターライフルを抜いて射撃……いや砲撃!?

 

「千歌ちゃん回避!!」

 

『させませんわよ!!いきなさいプリスティス!!』

 

 回避しようとした瞬間、私と千歌ちゃんの機体を覆うように再びビームの膜が貼られた。しかもバスターライフルの射線の上部だけは開いた状態で。

 

「く、だったら!!」

 

 逃げられない状況を確認した私は、すぐに再びオルトロスを構える。粒子的な問題であと一発が限界だが、GNバスターライフルを相殺ぐらいはできるはず!!

 

「『喰らえぇ!!』」

 

 互いに発射された重粒子の砲撃がぶつかり合うと、激しい白い光と共に爆発し、爆風が互いそれぞれの機体を襲った。

 

「ぅ……千歌ちゃん、大丈夫?」

 

『な、なんとかシールドで爆風を抑え込めたからなんとか……けどスラスターとか結構厳しいかな』

 

 当然の話だ。重粒子砲撃がぶつかればそれなりの衝撃波と爆発が飛んでくる。そうなれば幾ら重装備の機体でもスラスター周りに不具合が出てくる。

 

 現に私の『デュエル・フルングニル』もバックパックのスラスターや、腰付けのガトリング砲がこの試合使い物にならなくなっているとサポートAIのアルフが言っていた。恐らくパージしなければ動けないが、パージすればその分さらに不利になるのは明確だ。

 

『それより果南ちゃん達は』

 

 確かに、いくらなんでもあれだけのビームの爆発を受けてただで済むとは思ってない、私達と同じように幾らかはダメージが入ってるはず……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『危ないですわよ果南さん!!おかげで私のプリスティス二つ壊れましたわよ!!』

 

「『な!?』」

 

 そう言って出てきたダイヤさんの『イージス』は傷一つなく全くの無傷、いや、それどころか爆発の煤すら着いていなかった。

 

『別にあれぐらい簡単に作れるじゃん、平気平気』

 

 さらに降りてきた果南さんはどうやら上空に退避したのかこれまた無傷で、ここまで来たら諦めが付くレベルだ。

 

「千歌ちゃん……勝てる見込みある?私にはまったく感じられないんだけど」

 

『ごめん梨子ちゃん……同じだよ』

 

 今回は互いにトリモチ武器は搭載してないし、してても恐らくあのビームのバリアで防がれて終わり……最悪だ。

 

『うん、二人も強かったし、ここは私がサクッと倒しちゃうよ?』

 

「『ま、魔王だ……魔王がここにいる』」

 

 一歩一歩、ゆっくりと歩いてくるその姿は、カラーリングも相まって白い魔王が裁きを下すように……

 

『じゃあ二人とも……お疲れ様♪』

 

 あっさりと剣をコックピットに突き刺されたのだった。




一番厄介な敵は身内だったというオチ……

というわけで軽く三年生二人のガンプラを紹介します

『1.5ガンダムゼブブ』
パイロット・松浦果南
装備
・GNバスターライフル
・シールド内蔵実体剣
・アルヴァアロンキャノンⅡ
・トランザムシステム
設定
『1.5ガンダム』に『グリムゲルデ』のパーツをミキシングしたガンプラ。全体的に速度と格闘戦を重視した作りになっている。
本来なら『グリムゲルデ』ではなく『バエル』を使用するつもりだったのだが、バーツの位置関係の問題で(剣の収納部分とGNドライブ)『グリムゲルデ』のシールドと剣をカスタマイズしたものを使用している。


『イージスガンダム・ディアマンテ』
パイロット・黒澤ダイヤ
装備
・ビームライフル
・ビームロングクロー
・ビームサーベル
・小型ALユニット×11
・ハイパースキュラ
・グリフォンビームブレード(翼&脚部)
設定
『イージス』をベースにカスタマイズしたガンプラ。
 背中ににMS形態での飛行を可能にするために、グリフォン発生装置を搭載したブースターウィングを装備し、支援向きに作られている。
 小型ALユニット(プリスティス型)は、自分及び味方の援護目的に作られており、飛び回るビームナイフ型トラグーンとしての役割と、複数機で機体を覆うアルミューレリュミエールとしても使うことができる(全部使えば最大で6体まで覆える)


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天使の落日 その十一(昴&花丸√)

やっぱり戦闘があるとごちゃごちゃ悩まず書けるという……うん


「花丸ちゃん、さっきのアレですぐに戦えるか?」

 

 俺は隣に立ってる茶髪の後輩にそう聞くと、彼女は横に頭を振った。

 

「あの機体はまだ最後の調整が……5分もあればなんとかなるずら」

 

「5分か……」

 

 正直言うと、一人でそれだけの時間を稼ぐとなると普通に厳しいと思った。一人はU15の世界大会優勝者、そしてもう一人はかの世界大会で優勝候補の一人をサポートしてた男。片方だけならばまだしも二人ともとなると敗北は必死だ。

 

「ならば僕がその時間を稼ぎましょう」

 

「緒川さん!?」

 

 と、ならばと声を出してきた秘書の緒川さんが眼鏡を外しながらそう言った。

 

「実力はそこまでですが、少なくともあのナイン・バルトを足止めするぐらいなら……」

 

 そう言って緒川さんは懐から自らのガンプラが入ってるであろうケースを取り出した。まさかガンプラバトルを遊戯と言ってる人の秘書がやってるとは思わなかったが。

 

「……良いですよね、ボス?」

 

「構わん、娘を助けるためだからな」

 

 つっけんどんに言ってるが、恐らく心配してるのだろう源十郎さんの目はかなり鋭く尖っていた。

 

「……ならナインバルトの相手は任せても?」

 

「お任せください」

 

 そう言って俺達はフィールドの前に立ち、それぞれの機体をフィールドに乗せ、部屋にプラフスキー粒子が満ちた。

 

 今回は機体に『ハイマニューバ2型』のシールドを追加で左手に装備させる。そうでなければ恐らくバスターライフルの一撃は防げないだろうという個人的な判断だ

 

「天ノ川昴、『ジン・AHM』……出るぞ!!」

 

 

 

 

 

 フィールドはどうやら白い煙に包まれたデブリ帯の中だった。

 

「緒川さん、聞こえますか」

 

『はい、通信は大丈夫です』

 

 隣に並走する黒いNストライク……『シノビストライク』からの声に安堵する。一見なにも装備してなさそうに見えるのだが、緒川さん曰く、どうやらアーマーシュナイダーを格納してる部分に手持ち武器を内蔵してるだけだという。

 

 しかしなんというか……

 

「『ストライク』と『ジン』が並んで戦うのも妙な話ですよね」

 

『まぁ……原作を見てる方なら確かにそうかもしれませんね』

 

 まぁ別にこんなことはガンプラバトルでは日常茶飯事だし……と言ってるそばからレーダーが警告を鳴らした。

 

 すぐさま散開すると、真正面から緑色のビームが連続して細かく飛んできた。

 

「これはバスターライフルのビームじゃない……てことは!!」

 

 俺はそう言いながら肩のビーム砲を展開して発射する。途中デブリを貫通するが、流石に回避されたのか手応えはない。

 

「とりあえず、姿を見せて貰おうか!!」

 

 スラスターを目一杯に吹かせて接近し、その姿をモニター越しに視認した俺は舌打ちを禁じ得なかった。

 

 全身を真っ黒に染め、腹部にビーム砲と背中に特徴的な二つの砲門、さらに手は連装ビーム砲となっているが、その機体の姿と名は――

 

「『ハイペリオン』か!!面倒な!!」

 

 ハイペリオンガンダム……『SEED MSV X ASTRAY』に登場する連合のMS。絶対防御と吟われたアルテミスの光学シールドをMSに転用できないかということで開発され、『カナード・パルス』によって運用されたMSだ。

 

 その強みは内からは通し、外からは遮断するという特殊光学防御兵装『アルミューレ・リュミエール』だろう。その防御性能はGNフィールドとほぼ互角と考えて良いほどに高い。

 

 そして同時に、ガンプラバトルでそれを……『アルミューレ・リュミエール』を使いこなせるパイロットは数が少ない。俺が知ってるのでもプロ以外ならダイヤさんだけだ。

 

『そうだ、この『ハイペリオン・ミラージュ』を簡単に倒せるなどと思うなよ!!』

 

『なら僕が相手をさせてもらいましょう!!』

 

 自信満々に言うナイン・バルトに、後ろからビームの刃を展開させたアーマーシュナイダーを構える『シノビストライク』が接近戦を仕掛ける。

 

『甘いぞ!!』

 

 だがそれも承知とでも言うように、ビーム砲となっている指先からビームサーベルを両手3本ずつ、計6本展開すると、それをぶつけ合う。

 

『く、やはりそちらの方が作り込みが高い!!』

 

『脆そうな短剣のビームサーベルで互角か……!!』

 

 すぐに距離を取ったストライクを、指からの連続ビームで追い討ちする所を俺はアサルトライフルを抜こうとする。が、

 

『昴さんは早く善子さんを!!こちらは作戦通り僕がなんとかします!!』

 

「ッ!!分かりました!!」

 

 本来の目的である足止めのをするという緒川さんの言葉に、俺はすぐにその場を離れる。恐らく善子もすぐ近くに……

 

「!?高エネルギーアラート!?」

 

 すぐに射線から離れようとスラスターを目一杯吹かすが、次の瞬間、まるで狙ったように巨大なオレンジの光……バスターライフルのビーム砲が飛んできた。だが、

 

「想像よりデカイだと!?」

 

 まるでMAサイズの砲撃かと錯覚するほどの出力に驚きながら回避運動を続ける。若干鶏冠の部分に掠りかけたが、なんとか前進すると、撃った張本人である津島善子の機体が……なに?

 

「『ウィングガンダム0シフェル』……じゃない?」

 

 そう、想定していた機体……津島善子の『ウィングガンダム0シフェル』の姿とは違う機体がそこには浮いていた。確かにそれも『ウィングガンダム0(EW)』をベースにしてるのはなんとなく分かる。だが細部が違いすぎた。

 

 『ウィングガンダム0シフェル』は黒く塗られた『ウィング0(EW)』の特徴ともいえる翼に、右手に長砲身のバスターライフルと、左手のビームサイズを装備した超高火力型機体だった。

 

 だがそこにいたのは、翼が作為的にボロボロの状態に加工され、禍々しく毒々しいペイントをされた『ウィング0(TV)』ツインバスターライフルを握ったガンプラの姿がそこにあった。

 

「なんだ……あのガンプラは!?」

 

 体を襲う圧倒的な威圧感……いや、恐怖に呼吸が薄ら寒くなってくる。それほどまでに異常な姿だった。

 

 見てくれはただのボロボロになっただけなはずだというのに、寧ろ何を仕掛けてくるか検討がつかないという矛盾が体を縛ってくる。

 

『……そんな羽虫みたいなガンプラで、私に勝てると思ってるわけ』

 

 通信越しに聞こえる声に、漸く現実に引き戻された感覚で睨み付けるが、ヨハネはまるで気にしないとでも言うように無表情だ。

 

「そっちこそ、自分の愛機を使わないで俺に勝てるとでも思ってるのか?」

 

『……私の愛機が何かは分からないけど、この『ロストウィングガンダム』に恐怖してた人が勝てるわけないわよ』

 

「言ってくれる……な!!」

 

 不意打ちとばかりに肩のビーム砲を発射するが、まるで意に介さないとでも言わんばかりに、まるでステップを踏むような動きで躱してくる。

 

「ち!!やっぱり動きが見えてやがるのか!!」

 

 本人から聞いたこととはいえ、自分が実際に相手をするとなるだけでかなり辛い。射撃戦はアサルトライフルの連射ですら完全に避けるだろうと考えると、自分の手札が半分近く減らされる。そのうえ

 

(『アシムレイト』を発動できないのも最悪だな)

 

 俺のアシムレイトは、味方や対戦相手すら強制的にアシムレイト化させる。だが今回の場合、それをすれば津島善子……今はヨハネか?それの粒子が見えることと組み合わせて手を付けられない状況になる。

 

 これが味方なら二の句も告げずに発動してるのだが、時間稼ぎをしなければならない状況でそれは完全に悪手、最悪疑似『ゼロシステム』状態何てことになって詰む可能性が少なくない。

 

「たく、今年の一年は厄介すぎるんだよ……」

 

 やれやれと俺は呟きながら、目の前の後輩であり強者に突撃をするのだった。




機体紹介は次の昴&花丸回で行いたいと思います


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天使の落日 その十二(二年生+ルビィ√)

 昔からお姉ちゃんが大好きだった。家の習い事をしっかりこなし、勉学も疎かにせず、人付き合いも出来ていた。

 

 私はそれをいつも見ていた。けど私は習い事を要領よくこなせず、勉強も常に真ん中、人と話すことが苦手で、特に男の子と話すなんてある日までは出来なかった。

 

 お姉ちゃんは私のことを大好きだと言ってくれた。私も同じだったけど、でも心のどこかで幼いながらに悟っていた。私はお姉ちゃんには敵わない、と。

 

 最初は憧れだった大好きな姉が、いつしか高い高い壁になってて、あるとき、憧れがいつの間にか憎悪に変わって、同時に私の中に私じゃない何かが生まれた。

 

 姉に勝つことを諦めた私と、姉を越えると牙を向く私。どちらが本当の私で、どちらが違うかなんてもう分からない。

 

 けどそれでも……

 

 

 

 

 

「まさかダイヤさんと果南ちゃんが出てるなんて」

 

 試合を見ながらまさかの事態に曜さんは頭が思いというように項垂れていた。

 

「……やっぱり、あの二人のガンプラは凄い」

 

「あれ?……あ、そっか、ルビィちゃんは昴君と一緒に二人の戦ってる姿は何度か見たことがあるんだっけ?」

 

「は、はい。高速接近戦を得意とする果南さん、支援防御や射撃支援をメインに戦うお姉ちゃん、そしてかなりの重爆撃で相手を殲滅する鞠莉さん、三人とも基礎は勿論ですけど、得意分野は多分ルビィ達よりも上です」

 

 果南さんの『1.5ガンダム・ゼブブ』はベースとしては確かに『1.5ガンダム』なのだが、能力や装甲を『ガンダムバエル』のそれ……つまりナノラミネートアーマーを基本に改修していて、昴さんと組ませたら三人がかりですら勝ち越せない程に厄介な程だった。

 

 そしてお姉ちゃんの『イージスガンダム・ディアマンテ』、見た目は寧ろ『ロッソイージス』に近いけど、装備された『アルミューレ・リュミエールユニット(以下ALユニット)』による光学防壁は、ユニット自体がが壊れない限り完全防御するという厄介な代物で、特に鞠莉さんの機体と組んだ時は、何ともいえない無敵さがあった。

 

「ち、ちなみにルビィちゃん、あの二人が組んだ時はどうだったの?」

 

「……あくまで二年前ですけど……昴さん込みの組み合わせの中で、あの二人の組み合わせの勝率は一番低かったです」

 

「……つまり最弱の組み合わせなのに千歌ちゃんたちは手も足も出なかった……と?」

 

「で、でも二人も二年経ってますから、その分の経験とかもあると思います」

 

 それに二人の組み合わせでの勝率が低かった理由は、前に昴さんが教えてくれたからそこを利用すれば……

 

「――誰と誰が最弱ですの?」

 

「ピギィ!?」

 

「ダ、ダイヤサン!?」

 

 まさかの後ろからの登場に、私も曜さんも驚いてしまう。

 

「全く……一つ言っておきますが、ルビィが言った最弱の組み合わせというのは確かに事実ですが、それは相性の問題ゆえです。そもそも重爆砲撃の鞠莉さんと、撹乱遊撃を得意とする昴さんが組合わさったら、まともに機能する筈がないですからね」

 

 よっぽど苦々しいのか、いつにも増して不機嫌そうに足をならす。

 

「えっと、ちなみに鞠莉さんの機体ってどんななんですか?」

 

「どんなものと言われましても……単純に面制圧に特化した機体ですから、単純な弾幕だけなら私達が戦った梨子さんが可愛く見えますわね」

 

「うんうん、しかも重武装なのに高機動とかどんな作り込みしたらそうなるって三人揃って突っ込んだし」

 

 どうにもお姉ちゃん達も苦々しく思ってるらしくて、特にお姉ちゃんはため息を連発していた。

 

「ま、くれぐれも油断などしない方がよろしいですわよ。私達がぶつかるであろう決勝戦、本気で来なければぶっぶーな結果になりますからね」

 

「そういうことだから、二人ともよろしくね~」

 

 何とも普通に去っていく二人にプレッシャーを感じながら、私は拳を握りしめた。

 

「ルビィちゃん、どうする?」

 

 緊張感の欠片もない言葉で……ううん、わざとそうやってる曜さんを見て凄いと思いながら私は曜さんの方へ振り向いた。

 

「……曜さん、お願いがあります」

 

 

 

 

「あれで良かったのダイヤ」

 

 果南さんのその一言に、私はなんのことやらと首をかしげた。

 

「ルビィのもう一つの人格のこと、姉のダイヤが知らない訳じゃないでしょ?あんなこと言ったら」

 

「……それでも、ルビィをああしてしまったのは私の責任ですもの」

 

 ルビィが二重人格になったのはごく最近の事だ。私達三人の解散によってガンプラバトルを表だってできなくなって、それでも昴さんのおかげでたまに対戦や大会などでプレイすることでルビィの精神は安定していた。

 

 けど、そんな折りに昴さんの入院となった。昴さんは四ヶ月近くガンプラバトルを……それどころかガンプラを触ることすら出来なくなった昴さんにルビィの心の中の何かが壊れてしまった。

 

 それからだった。ルビィも暫く塞ぎ込み、たまにふらりと出掛けると思えば、夕方にまたふらりと帰ってくる。その時の私は家にずっと引きこもるよりは良いと思って何も言いませんでした。

 

 けど、それが間違いでした。偶々取れ立ての蟹を持ってきてくれたシャギアさんから言われたそれに驚愕しました。最近、ルビィの様子がおかしい、と。

 

 なんでもバトルルームに入っては、まるでなにかに取り憑かれたように相手を滅多切りにし、荒れるように蹴散らしていく。まるで鬼にでもなったかのようだという位だった。

 

 そこでも冗談と思っていました。けど、そんな期待は儚くも一瞬で砕け散りました。

 

 慌てた様子でシャギアさんの弟であるオルバさんがやって来たかと思うと、なんとルビィがバトルルームでダメージレベルAで相手集団を蹴散らしたというではありませんか。

 

 急いでショップのバトルルームに向かってみると、そこにあったのは粉々に砕かれたプラスチックとシールが所狭しとならび、その中央で立つ血濡れのような紅い無傷のスローネ、そして狂ったように嗤うルビィの姿でした

 

「あの子にサフィという人格を作り出させてしまったのは私です」

 

 元々ルビィは自分一人で悩みやストレスを抱え込んでしまうのを分かっていたのに、当時の私は果南さんと鞠莉さんの件で精一杯で何も気付いてあげられなかった。

 

「正直言いますと、彼女に言われるまで私は、最近ルビィと正面から向き合ってない事に気付きませんでした。上から押さえつけるだけで、何も話してなかった、何もしてなかった」

 

 私は回りが言うほど世間上手じゃない。頭は固いし、応用は効かない。ただ周りを見るのが得意なだけで、二人のように何かに突出してるわけでもない。単純な1vs1なら恐らく素人の千歌さんと引き分けにするのが関の山。けど、

 

「ルビィ自身が、サフィを使わずとも戦って私に勝てるようにする。それが今の私にできる最大限です」

 

「そっか……」

 

 そう言うと果南さんはいきなり後ろから私にハグしてきた。

 

「ホント、鞠莉じゃないけどダイヤってホントに堅物だよね」

 

「どういう意味ですの!?喧嘩なら言い値で買いますわよ!?」

 

「誉めてるんだって、ダイヤはルビィと戦わなきゃなんでしょ?だったら私は曜を釘付けにしておいてあげる」

 

 その言葉に私はぎょっとする。

 

「な、何を言ってるんですの!?私単体でルビィ……いえ、サフィと戦いきれるわけが無いでしょう!?」

 

「大丈夫大丈夫、どうせあっちもその気だろうし、乗ってあげても良いんじゃないかな」

 

 ていうか、と果南さんは続ける。

 

「ダイヤとルビィ、一回腹わって喧嘩した方がこの先の為だと私は思うよ」

 

「それは……まぁ……」

 

「ま、そういうことだから。私は千歌達を慰めに行ってくるよ~」

 

 そう言って果南さんはあっという間に行ってしまいました。けど、

 

「……姉妹喧嘩ってどうやるべきなんですの?」

 

 私に残った疑問は増えるだけだった。



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天使の落日 その十二(昴&花丸√)

「中々に手強い相手ですね、流石は世界大会ベスト4のパートナーというべきでしょうか」

 

 『シノビストライク』の右手に持ったククリナイフを構えながら、敵対する『ハイペリオン』と正面から向き合う。

 

『ふん、パートナーといっても私にはそこまでの実力は無いがな!!』

 

 対する『ハイペリオン・ミラージュ』は背中に取り付けていた大型のランスを抜いて構えてくる。

 

「やはり得物も槍ですか」

 

『ふん、リーチを取るのは近接戦では必定だからな、悪いがすぐに落とさせてもらうぞ!!』

 

 そう言いながら飛び出してくる突きの一撃は中々に早く、ナイフで剃らすことが精一杯だった。けど、

 

『っ!?消えた!?』

 

 それでも『シノビストライク』に装備されたミラージュコロイドを使えば奇襲すること位はできる。

 

(背中貰った!!)

 

『甘い!!』

 

 攻撃しようとナイフを突き立てようとした瞬間、まるで分かったかのようにALが展開されて防がれてしまった。

 

 しかもどういうカラクリか、展開しているのは背中だけ……前方の方は全くALは張られていなかった。

 

「く!?なぜ背中を攻撃することが……」

 

『ふん、教えるわけがないだろ!!』

 

 さらに振り返って左腕の五連装ビームの熱線が飛んでくると、慌ててアーマーシュナイダーのケースからABCマントを取り出してガードするが、それも一瞬で燃え尽きてしまった。

 

「ならば!!」

 

 さらにクナイを四本取りだし投げるが、それも瞬時に展開されたALに防がれて弾き返されてしまった。

 

『その程度の武器で私を倒そうなどと、傲慢にも程があるぞ!!』

 

 そう言って『ミラージュ』に装備された胸部のビームを此方に向かって撃ってくるが、高出力ビーム砲を避けることなど容易い、そう思い回避した次の瞬間だった。

 

 突如後方からアラートが鳴り響き、振り替える暇もなく先程避けたはずの収束ビームが右足を直撃し、爆発したのだ。

 

「ぐぅっ!!なんです、今のは!?」

 

 画面を確認し全体を見るが、デブリが複数浮いてるだけでビットのようなものは全く見えなかった。

 

(『ゲシュマイディッヒ・パンツァー』でビームを曲げた?けど曲げたとしてもノータイムで逆進してくるなんてあり得ない!!いったいどんな手品を……)

 

『驚いてる余裕は無いぞ!!』

 

「チィ!!」

 

 まるで今が好機とでも言うように両手、胸部、さらにフォルファンクトリーの計13門のビーム砲が飛んできた。だが、片足が失ったとはいえ

 

(ミラージュコロイド起動!!)

 

 完全にレーダーから消える特殊ステルスを持ったシノビストライクの限界起動時間まで使えば距離を取ることくらいは……

 

 そう思った時、再び後ろから警告音が鳴り、次の瞬間残された右肩、左肩、頭、右足の全てをまるで狙ったように相手のビームに撃ち抜かれた。

 

「うぁぁぁぁ!?」

 

 残されたのはコックピットだけ、ミラージュコロイドもダメージによって強制解除されてダルマの状態で浮かんでいると、悠然と手に持ったランスを構えたやつがやって来た。

 

「そんな……レーダーからは完全に消えてたはず……」

 

『ふん、私がこのランスを使ってる事で気付かんとはな、兎も角貴様はここでリタイアだ……!!』

 

 彼は右手の槍を高く掲げて、その穂先をコックピットに向けて――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昴side

 

 ヨハネとの戦いから数分が経過していた。重突撃銃の実弾の弾幕は掠りともせず、それどころか奴の機体……『ロストウィングガンダム』のフェザーボムの爆風によってこちらは被害甚大といったところだった。

 

(羽を撃ち落としても爆風と衝撃波がやって来るうえに数が多い、近寄ろうにもこれじゃあ!!)

 

『……無様に塵と消えなさい』

 

 さらに言えばツインバスターライフル……いや、ツインバスタードライツバーグの高火力高出力のビームによって、避けても機体の一部が熱でヤられるという最悪な状態だった。

 

 すでに増加装甲、ビーム砲、シールドは消滅し、翼のスラスターもいつ熱で壊れるか分からないうえに、残ってるのは重突撃銃が一丁と、試作段階の重斬ビームソードが二振りだけ、圧倒的に不利な状況は依然として変わってないどころか、むしろ酷くなってる一方だった。

 

「くそ、津島!!お前はそんなバトルが楽しいのか!!」

 

『……私はヨハネよ。それにバトルが楽しい?戦いってのは生きるか死ぬかのどっちかだけよ、楽しいなんて感覚は必要ない』

 

「くそったれが!!」

 

 ドライツバーグの反動で機体自体が暫くクールタイムなのか動けなくなる所を突いて懸命に接近しようと試みるも、それを阻むようにフェザーボムが進路上に多数配置され、近付くことが物理的に難しく、回り道しようとしてもその間に機体のクールタイムは終わって逃げられてしまう。

 

 イタチごっこ、しかし時間が経つにつれて此方が不利になっていくという状況に、俺は歯噛みしたくなった。

 

「まだか……まだなのか花丸ちゃん……」

 

 状況を打開できる唯一の鍵、しかしその残り時間約二分がとてつもなく長く、狂おしい物に感じられるなど始めての感覚だった。

 

『……正直ガッカリね』

 

「あ?どういう意味だ、そいつは」

 

『そのままよ、あの男はアンタが私を倒すことができるほどに強いなんて言ってたけど、拍子抜けにもほどがあるわ』

 

 まるでつまらないとでも言うようにため息をつき、さらには欠伸までして余裕だとアピールしてきやがった。

 

「そいつは失礼したな、けど、そんなピーキーすぎる機体で俺を完全に仕留められるのかよ!!」

 

『……いや、貴様は既に負けている』

 

 何だと、そう思った次の瞬間否が応でも理解できてしまった。辺り一面、いつの間にかフェザーボムが360度上下左右全てを覆い尽くしていた。

 

「しま!?」

 

『炎に焼かれて消えなさい……』

 

 静かにそう呟かれた次の瞬間、囲っていたフェザーボム全てが爆発、爆炎と衝撃波が機体を襲った。

 

「グァァァァァァ!?」

 

 翼はもげ、肩などのパーツの幾つかが衝撃で壊れ、頭部の半分が吹き飛んだ。

 

 さらに手持ち武器まで爆発に飲み込まれ、スラスターが壊れたせいで踏ん張ることができず、デブリヘと機体を叩きつけられる。

 

「く、スラスター……さらに出力制御がイカれたか」

 

 何とか機体自体は動くものの、それでもスラスターの全てが爆発でお釈迦になったことで、デブリを蹴らないと移動できないだろう。それに加え……

 

『……これでおしまいよ』

 

 目の前でドライツバーグを構えるヨハネの機体がある状況では何の意味もない。

 

 もはやこれまで、収束するエネルギーの光を見ながらそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『まだ終わらないずら/デース!!』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まるで狙ったように『ハイペリオン・ミラージュ』の槍の穂先を、『ロストウィング』のドライツバーグを二筋のビームの光が貫き、爆発させた。

 

「今の台詞……まさか!?」

 

 モニターの拡大望遠を最大まで使い確認したその姿に、俺はニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこにいたのは全身を重装甲にフルアーマー化された『パラス・アテネ』と、黒い翼にツインバスターライフルとビームサイズを構える『ウィングガンダム0シフェル』の姿があった。



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天使の落日 その十三(二年生+ルビィ√)

短いですが漸く納得できる形になりましたので更新します。お待たせしました


「さぁ霜澤模型、今週のタッグバトルいよいよ決勝!!全8組の中で残ったのは、まさかの同じ高校の先輩後輩と来た!!」

 

 オルバさんがキャラじゃなさそうな解説をフィールドの前で聞きながら、私は自分のGPベース『驚愕の紅玉(アメイジング・コランダム)』を握りしめ、目の前の二人を見つめる。

 

「ルビィちゃん、大丈夫?」

 

「曜さん、ハイ、大丈夫です」

 

 機体のチェックは完璧にした、武器も壊れたものは予備のものと交換したし、何より()()()()もちゃんと動くようにしてある。

 

「ルビィ……」

 

 そして目の前には越えるべきお姉ちゃんの姿……正直言えば怖いけど……

 

「……もう、お姉ちゃんの後ろを着いていくのは止めるって決めたんだ」

 

「そう……来るならば全力で相手をします。最も、貴女が私に勝てるなんて思いませんが」

 

 見下すように言うお姉ちゃんに言い返したい気持ちを堪え、GPベースと機体をセットする。お姉ちゃんも自分の機体をセットしている。

 

「曜、止めなくていいの?」

 

「そういう果南ちゃんこそ、付き合い長いんでしょ」

 

「あの二人がああなったら止まらないからね」

 

 あとの二人も少し会話しながらだが、それぞれ自分の機体をセットする。

 

「黒澤ルビィ、ガンダムスローネ・ドライヤークト」

 

「黒澤ダイヤ、イージスガンダムディマンテ」

 

「渡辺曜、クロスボーンガンダム・カノーニア」

 

「松浦果南、1.5ガンダムゼブブ」

 

「「「「出ます!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フィールドに降り立ったルビィは目を閉じ、両手にバスターソードをそれぞれ構える。

 

(越えなくちゃいけないんだ……ルビィ自身の力で)

 

 さぁ何処からくる、そう思っていると上から反応がやって来る。だが明らかに機動性が高い、ALユニットによる遠隔射撃だ。

 

「行って、ファング!!」

 

 空間処理兵器に関しては私の方がお姉ちゃんより上、簡単にはやられない。

 

 ALユニットを一瞬で破壊し、ファングを回収すると下から真紅のガンダム……お姉ちゃんのイージスが現れた。

 

『……流石、ですわね。様子見のALユニットとはいえ、そこまで操作が上手になってましたの』

 

 そう言いながらビームサーベルを抜き、私もバスターソードを握り直す。

 

「……ルビィは昴さんの……師匠の弟子だから」

 

『なるほど……その通りですわね。ですが……』

 

 さらにイージス特有のクローをアームに展開させ、手持ちのビームサーベル二本と合わせて、正しく爪のようなフォルムになり飛び出してくる。

 

『昴さんから師事されてるのは貴女だけではありませんのよ!!』

 

(来た!!)

 

 やはり接近戦を仕掛けてきたことに、バスターソードを持つ手が若干汗ばむ。けど、

 

「(ルビィはルビィの力だけで、お姉ちゃんを超えるんだ!!)ピギィァ!!ファング!!」

 

 此方も接近戦を仕掛けつつ、手持ちのファングの半分を射出する。同時並列思考(マルチタスク)はまだ10も出来ないけど、斬り合いをしながらセミオート設定のファングの射線に入らない位ならできる。

 

『接近戦をしながらもファングによる援護、なるほど、スローネらしい機体とやり口ですわね、けど』

 

 そう言いながらお姉ちゃんはALユニットを展開する。

 

「(個数が少ないALユニットを攻撃に?)打ち落として、ファング!!」

 

 音声入力でファングはALユニットへビームを発射し、物の見事に直撃した……かのように見えた。

 

「……え?」

 

 だが、実際に爆発したのはファングの方で、ALユニットはまるで無傷だった。

 

「なんで……今、確かにビームが直撃したのに」

 

 そう、間違いなくファングの紅いビームはあの白いユニットにぶつかっていた。なのにどうして

 

『その程度の策、この私が読んでいないとお思いですか?』

 

「ピギ!?で、でも!!」

 

 ファングは普通の射撃武器じゃない、金属刃のブレードとして切り裂くことだってできる。

 

 が、そうはさせまいとジグザク、まるでおいかけっこのように逃げ回るたった四つのユニットに、出ていたルビィのファングは破壊され尽くす。

 

『全く、フルマニュアルで動かすのは辛いというのに、もう』

 

「ふ、フルマニュアル!?」

 

 それはマルチタスクを使ってファンネル等の遠隔操作武器を自分の意思で動かすという離れ業で、昴さんですらアシムレイトを発動しても難しいという技だ。

 

 それを、お姉ちゃんは物にしてる。世界クラスのトップファイター以外身に付けてない程の技術をだ。

 

『何を驚きますの?果南が前に出て、鞠莉さんが後方援護、ならば私は中距離で二人の援護とカバーをする。その為に身に付けたマルチタスクを使えばこの程度楽なものですわよ』

 

 確かにあの二人と一緒に戦っていれば身に付くだろうが、それでもフルマニュアルなんて芸当は私には不可能だった。

 

(おいルビィ!!テメェ程度じゃあの姉貴に勝てるわけねぇんだ、さっさとサフィに代わりやがれ!!)

 

(だ、ダメ、これはルビィが)

 

(ガタガタ抜かすな!!良いから代わりやがれ!!)

 

 そうして無理矢理にルビィは……いや、サフィである私はバスターソードを握り直し突撃した。

 

「ピギャギャギャ!!初めからこうすれば良かったんだよ!!あんな雑魚にやらせないでよ!!」

 

『ルビィ……いえ、サフィですか』

 

 姉が嘆息してるが、そんなことなどどうでも良かった。目の前に超えるべき、倒すべき敵が居る。それだけでサフィには充分だった。

 

「逝けよ、ファングゥ!!」

 

 あんなのはマグレ、そう思って残ってるファングのうち半分、数にして18のファングを射出し、浮かんでるユニットへビームを放つ。

 

 それは確かに直撃した。直撃したというのに、なぜかそのビームはファングの方へ跳ね返って撃ち抜いていた。

 

「ピギ!?まさか今のは」

 

『甘いですわよサフィ!!』

 

 驚いてる暇もなく四本の刃を降り下ろしてくる姉を払いながら、今残ってるファングを全て回収する。

 

『おや?わざわざ手数を減らすとはどうしましたか?貴女のような狂犬が大人しくなるなどとは』

 

「……」

 

『これでは私を越えるなど不可能ですわよ、それどころか貴女の師匠である昴さんの実力を貶めるくらいです』

 

「……

 

『はっきり言って、今の貴女と戦う価値すらない、ただ悪戯に力を振るうだけの暴力的な貴女では』

 

「……さい

 

『今の攻撃もそう、起きたことをマグレと思いたくて、何も考えずに同じことをして不利になる』

 

『うるさい!!』

 

 サフィはその言葉を打ち消すように叫ぶ。だが、通信の先にいる姉は寧ろ冷たい目をしてるだけだった。

 

『……貴女は勘違いしてるようですわね』

 

「ピギ……?」

 

貴女(サフィ)は確かに強いかもしれない、ですが貴女(ルビィ)は決して雑魚ではない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『寧ろ貴女(サフィ)が足枷になってるということすら分からないようでは、私に勝てるわけが絶対にありませんわよ』



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天使の落日 その十三(昴&花丸√)

「う~ん、やっぱりこの機体の火力はピカ一デース!!」

 

 久方ぶりに握るコンソールと、機体の感触を確かめた私は手に持った『ハイメガカノン怪(誤字じゃないデース)』を下ろしながらターゲットの『ハイペリオン』を覗き込む。

 

『鞠莉さん……なんで』

 

「依頼した当事者の私が確認nothingなんてありえないでしょ?それに……」

 

『それに』

 

「ダイヤも果南も全体的に尺が多いのに私だけ少ないなんて釈然とできるわけnothingでしょう!!」

 

 ホント、どういうことよ!!ダイヤは生徒会長だからまだ分かる、なのに果南はどうしてよ!!どうしたら肉体関係持ってるのよ!!昔のウブだった果南は何処に行ったってのよ!!

 

 というか前々回の更新から二ヶ月近く空いてるってどういうことよ!!え?別の作品進めてたから仕方ない?言い訳になるわけnothingよ!!もう!!

 

『お、おう……』

 

「というわけで、この遅筆な作者の世界じゃもうすぐ年越しだし、ダイヤのbirthdayもすぐだし、ここで出番持ってこないと今年影薄いとか薄幸とか呼ばれるからよ!!」

 

 あとでさっきより出力の高いメガカノン怪を作者に撃ってやろうと心の中で思いながら、

 

『……言いたいことはそれだけか?』

 

「む?」

 

 槍を構えて突撃してくる敵のハイペリオンを、メガカノン怪を保持してない左手で抜いたビームサーベルで防ぐ。

 

「Oooh、中々verygoodな物を持ってますね~」

 

『……なるほど、飄々としつつこちらの動きを読んでるつもりか』

 

「それは違うわよ。でも、想像よりhardなプレイヤーだとは思ったけ……ど!!」

 

 肩に展開した『メガソニックキャノン』を拡散連射モードで発射する。流石に予想はしていたのかすぐに避けると、投げ槍の様に手持ちのランスを投擲してくる。

 

『これでも受けてさっさと逝け!!』

 

「女の子の体に大きな物が入る場所はないでしょ……っと!!」

 

 ビームサーベルをしまい、左手の腕部から『海ヘビ』を伸ばしてそれを受けとめ、別の方向へ投げ飛ばす。

 

「さて、じゃあ次は私のturnデース!!」

 

 コンソールを手早く動かし、背部の大型ミサイルポッドから大量に積まれた弾幕を一斉に撃ち込む。その数は軽く数えても50は下らない。

 

『中々圧巻だが……その程度のミサイルで!!』

 

 相手も迎撃しようと五連装のアームビームで迎撃する。けど

 

「外国仕込みの進化した私のガンプラが、単純なミサイルなわけ無いのデース!!」

 

 私はコンソールをキーボードへ変更すると、かなりの速度でタイピングを始める。その瞬間ミサイルはビームを回避し、次々とその距離を縮める。

 

『く!!』

 

 これには慌ててハイペリオンらしくALを展開して防がれるが、それでもエネルギーの消費の激しいALを使わせたというだけで儲けものデース。

 

『貴様……いったい今のミサイルはなんだ』

 

「あれはただのファンネルミサイルデース。私は空間処理が苦手だから、ファンネルとかは思考操作できないの。その代わり、手動入力でファンネルを操作しただけ。殆どは全自動(フルオート)で行ってマース」

 

『バケモノか君は!!』

 

 失礼デース、これでもうら若き17歳デース。それに

 

「mirageしたリフレクタービットを大量に動かしてるそっちの方がmonsterじゃないかしら?」

 

『!?な、なぜそれを!!』

 

「幾らなんでも不自然にビームが曲がったら分かるわよ」

 

 恐らくさっきMr.緒川の機体を襲った仕掛けは、さっきも言ったように事前に透明化させたリフレクタービットを大量に飛ばすだけ。

 

 当たればそれでよし、外れてもリフレクターを使って死角から攻撃を当てることができる。策としては申し分ない程の出来映えだった。

 

「それに貴方が世界大会でかの有名なMs.ユルキアイネン選手のパピヨン(papillon)に装備させてたのも『透明なファンネル(mirage-funnel)』、そう考えれば貴方が『silent kill』を信条としてるのはよく分かることは自明の理デース」

 

『なるほど……ならばこの機体に込められた意味も分かるというわけか』

 

「勿論、『ハイペリオン・ミラージュ』……いえ、この場では()()()ということでしょう?」

 

 それが意味するのはつまり、

 

「……貴方は偽善の為に動くのかしら?」

 

『結果的にはそうなるだけだろう。第三者から見れば私は絶対なる悪で、裁かれる立場の人間だ』

 

「そう、なるほど」

 

 私は保持してたメガカノンを外し、ビームサーベルを抜く。そして相手も手に装備してたのだろうビームナイフを抜く。

 

「最後に二つだけ聞くわ……あのヨハネをもとに戻すのはどうするの?」

 

『私とヨハネの機体を破壊すれば解除される。バトルが終わって少し意識は飛ぶだろうが、絶対に元に戻ると確約しよう』

 

 そう、それだけ呟くと私は鋭くなった目を漆黒の機体に向ける。

 

「ならもう一つ……貴方はそれで後悔はしないの?」

 

『フ、後悔など、とうの昔にし過ぎているくらいだ』

 

「そう……残念デース」

 

 そう言って私はかの黒い機体へ剣を降り下ろす。黒い虚影が防ごうとしたナイフすら弾き飛ばし、その体を縦の真一文字に切り裂く。

 

 そして次の瞬間、その機体は白い光と共に爆発した。あっさりと、だが確実に崩れ行く漆黒の幻影はデブリの中へと消えていった。

 

「……あとは貴女が頑張る番デース、花丸ちゃん」




オリジナル機体設定

『パラス・イリス』
パイロット 小原鞠莉
ベース機体『パラス・アテネ』
装備
・二連装ビームキャノン
・メガソニックキャノン(肩)
・背部ミサイルブースターポッド(時々で内容が変わります)
・シールド
・ビームサーベル
・ハイメガカノン怪(誤字にあらず)
・海ヘビ
設定
『パラス・アテネ』をベースにカスタマイズしたガンプラ。
 全体的に火力と装甲に特化したカスタマイズをされており、Iフィールド発生装置をシールドと増加装甲に搭載している。
 昴の真似をしてか知らずかかなり極端に作られており、寄られなければ良いを体現した形となっていて、果南曰く、『昴の似なくていい悪癖を継いでしまっている』とのこと。間違いなく総合火力ならAqours最高峰である。 


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天使の落日 その十四(二年生+ルビィ√)

 雪原の只中、目の前で相対する幼馴染みであり魔神をカメラ越しに睨みながら、私はとりあえず一息つく

 

「とりあえずここまで来れば被害は無い、かな」

 

 何せあっちではルビィちゃんとダイヤさんが真っ向からぶつかり合ってるし、下手したらファングを誤射されかねないし。

 

『でも曜は曜で、私と一対一しなきゃだよ?』

 

 目の前の白亜と蒼に彩られた機体の操縦者……果南ちゃんの言葉に私はアハハと、力なく笑う。

 

「まぁダイヤさんと戦うのは厳しいかなって思ってたからね、接近戦じゃあんまり決定打は打てないし」

 

『そりゃ曜のクロスボーン……というよりムラマサブラスターは基本的に解放しなきゃ実体剣だからね、PS装甲があるって予測たてられるだけマシだよ』

 

 まぁそれだけじゃなくて、射撃面もそこまで高威力って訳でもないし、この機体は万能型だから特化してる部分がない。

 

「まぁでも……果南ちゃんの足止めくらいはできるかなっては思ってるけどね」

 

『へぇ、中々言うね。私、これでも結構強いよ?』

 

「そんなの昔から知ってるよ」

 

 そう、多分今の果南ちゃんと相手をできるのは私達Aqoursには多分居ない。辛うじてルビィちゃんが着いていける程度で、それでも勝てるかは微妙だろう。だからこそ――

 

「……何かを得るためには、何かを犠牲にしなきゃだよね」

 

『曜?』

 

 それだけ言うと一旦通信を切る。ここから先は本当に賭けだ。多分機体が砕けるだけで済めば儲けものだろう。

 

 それでも、この機体の全てを出しても勝てるかは分からない。でも、ここで逃げてちゃダメなんだよ。そうだよね……千歌ちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「システムリミッター解除、コード入力……H()A()D()E()S()機動」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、機体の目が突如として紅く輝き、さらに背中に装備していたヴェスパーの砲身が真っ二つに分かれ、紅い炎を纏った翼へと変形する。

 

「行くよ果南ちゃん……今の私の全力で、果南ちゃんを倒して見せる!!」

 

 

 

 

 

 

 果南side

 

「何……あれ?」

 

 目の前の幼馴染みの機体が突然姿を変えた事に驚いた私は、そんな言葉を出してしまった。

 

 さっきまでの姿はどこからどう見ても『X3』に『F91』を足しただけの変鉄もない機体だった。

 

 それがどうしてか、『X3』という外見は変わらない筈なのに目が毒々しいほど紅く、さらに砲身だったそれは二枚一対の機械翼へと変貌して、さらに炎のように燃えていた。

 

「曜……アンタいったい何を」

 

『――今ここで勝つためならなんでもやるよ……それが()()()()()()()としてもね』

 

 その言葉だけで悟った。何を使ってるかは分からない。けど、直感的に感じた……アレは使ってはいけない力だと。

 

 そして次の瞬間、さっきまで移動してたスピードをあきらかに上回る早さで両手に持ったその剣を此方に振り下ろしにきた。

 

「ッ!!」

 

 あまりの早さに回避は無理だと感じ、すぐに右腕のシールドでそれを防ぐ。途端、まるで剣を受けた瞬間にそこが爆発したかのような感覚に私は目を見開いた。

 

(幾ら曜の手先が器用で、作り込まれてるとしてもこの威力はおかしすぎる!!)

 

 すぐに私も剣を抜いて、今度は此方から斬りかかる。だが、それを曜は少ないステップだけで避け、弾いてきた。

 

(技量までさっきまで見た試合とは別物……)

 

 たった数試合、曜の対戦動画を見た感じではまだまだ操作に未熟な荒さがあった。だというのにどうしたというべきか、まるで行動の先を読んでるかのような……。

 

(……先読み?)

 

 そこで一瞬思考が硬直し、できた隙を曜の脚蹴りによって吹き飛ばされる。

 

「ぐ……」

 

 危なかった。もし今の攻撃で剣を突き立てられてたら間違いなく終わってた。

 

『どう果南ちゃん……これが私の力だよ』

 

 通信越しに余裕そうな声を掛けてくる曜だったが……その映像に映し出されてた姿はどういうわけか額に珠のような汗を流し、息も絶え絶えのようだった。

 

「――そっか、そういうことか」

 

『……果南ちゃん?』

 

 その姿を見て漸く確信できた。曜が何をしてるのかを

 

「曜……アンタその力、今すぐに解除した方がいいよ」

 

『……何言ってるの?果南ちゃんに勝つためだよ?解除するわけないじゃん』

 

「……それを使ってると、最悪二度とガンプラバトルができなくなるかもしれないって言っても?」

 

『え?』

 

 突然の事で困惑してるのだろう。曜は一瞬呆けるがそれでもまだその目は変わらない。

 

『果南ちゃんがそんな笑えない冗談言うなんて珍しいね』

 

「冗談じゃないよ。もう一度だけ言うよ、その機体に『EXAM』系列のシステムを今すぐに解除した方がいい」

 

『……EXAM?』

 

 ……どうやら曜はそこまでは知らないようだ。

 

「『EXAM』っていうのは宇宙世紀初期に使われていた特殊システム、ニュータイプを殺すためだけに作られたそのシステムは、機体自体が意思を持つように動いて、ごく一部のパイロットを除いて搭乗者を殺すほどの性能を生み出す」

 

 もっともガンプラバトルではそんなことでは死にはしない。とある条件が絡まなければの話だが。

 

『……それとこれと、私が『HADES』を解除しなきゃいけない理由にはならないよね。ガンプラバトルで死ぬことなんてあり得ないんだし』

 

「HADES……確かに普通ならあり得ない。けどね、ある条件を満たした場合だけ、それが起きてしまうことがあるんだよ」

 

 そう、昴があのニルス・ニールセンですら、それによふ干渉を直すことは不可能とさえ言っていたもの。

 

()()()()()()、昴が使えるからまさかとは思ってはいたけど、曜、アンタはそれを無自覚で使ってるんだよ」

 

 本来アシムレイトは操縦者とガンプラを文字通り手足のように動かすことができる資質だ。主に先天性の物と、武道によって会得する後天性の二つがあるが、それとEXAMを組み合わせたらどうなるか。

 

 答えは神経障害、普通のアシムレイトでさえダメージを受ければ失神さえしかねないのに、EXAMなどで強制的に、自分の意思とは関係なく動くのだから、神経回路がズタズタになるのは目に見えてる。

 

 事実、昴曰く数年前にそれをやったファイターが両腕に麻痺が残り、二度とガンプラバトルができなくなったと言う話を聞いたことがある。

 

「悪いことは言わない、今すぐに……!?」

 

 解除しろ、そう言おうとした次の瞬間、不意をつくように曜の剣からビームの弾丸が飛んできた。

 

『うるさい……』

 

「曜……」

 

『うるさいうるさい!!強くて昴とタッグを組むような果南ちゃんには、弱い私の気持ちなんて分からないでしょ!!』

 

 叫びながら斬りかかってくるその姿は、まるで怨嗟にでも呑まれたようなプレッシャーを感じた。

 

「弱いって、アンタそれ本気で……」

 

『事実でしょ!!私は昴や果南ちゃんどころか、一緒に始めた千歌ちゃんよりも弱いんだよ!!』

 

 何を、と言おうとした瞬間に、曜の口からそれが漏れでた。

 

『昴はプロとして戦えるほど強くて、果南ちゃんやダイヤさんもそれと同じくらい強い。梨子ちゃんはメイジン杯クラスのビルダーだし、ルビィちゃんも昴に勝てるぐらいには強いって言ってた。千歌ちゃんはなんでもそつなくこなせるし、接近戦じゃ私よりも上……私の回りに居る人はどこか私よりも上手い』

 

「……」

 

『なら私が他の皆より優れてるのは……ただ手先が器用なだけで、後は全部器用貧乏、上手くもないし下手でもない……なんにも……私には何もないんだよ!!』

 

 それは曜の闇と言うべきものだった。確かにメンバーを見てみても曜には突出した能力は何もない。似たような千歌はどこか皆を引っ張れるカリスマ性があるというのにだ。

 

 そしてあの梨子さんの参入、それが曜をさらに闇へと追いやった。同じチームで指揮やビルドができる人間が居るということは、自然と千歌もそっちと仲が良くなる。

 

 さらに追い討ちを掛けるように一年生……昴の愛弟子ルビィの加入だ。公式レギュレーションでも使われる三人体制の試合ですら、恐らく曜は出れなくなる、そう思ったのだろう。

 

(言ってることが事実だけに、否定できないんだよね)

 

 もしこれが大会とかじゃなくて普通の対戦ならこうは成らなかった……いや、多分大会だからこその暴走と見るべきか。

 

『弱い人が勝つためには、何かを犠牲にしなきゃいけないんだよ!!』

 

「ッ!!そんな事ない!!」

 

『あるんだよ!!もとから強い果南ちゃんには分からないんだよ!!』

 

 さらに剣の振る速度が上がってくる。ここまでくると一太刀が全て鬼門、選択を謝ればそれこそ取り返しのつかなくなる。

 

(アレを使えば……でも曜に言った手前使うわけには)

 

『はぁ……はぁ……!!いい加減に倒れてよ!!』

 

「そんなわけにいかないっての!!」

 

 超高速の剣を、こちらも超高速の剣で相殺する。一手も間違えられない、そんな緊張感が私の背筋に走る。

 

(このままじゃあの時と……それだけは避けないと)

 

 とある過去の出来事を忘れられず、どうしてもコンソールを動かす指に力が入り――

 

『っらぁ!!』

 

 ――曜の振り抜いたムラマサによって、左手の剣が吹き飛ばされた。

 

「ッ!!」

 

『貰った!!』

 

 そのままの勢いで逆手のムラマサが機体へと迫る。驚きの一瞬によって出来た隙の一撃は私の機体を――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『TRANS-AM』、起動!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長らく封印してきた能力を解放し、その一撃を寸での所で防ぎ、少しばかりの距離を開ける。

 

『TRANS-AM……やっぱり使ってくるよね』

 

 曜はやはり予想していたのか、緊張感を保ったままで再び二つの剣を構える。

 

「――ふう」

 

 私はといえば正直キツかった。恐らく『TRANS-AM』を使ったとしても、今の『HADES』によって暴走してる曜と勝てるかは正直微妙としか言いようがない。

 

 故に……()()()()()()()を解除すると決めた。

 

「(あとで昴にどやされるだろうけど……)ま、仕方ないか」

 

『果南ちゃん?』

 

「曜、口で言って聞かないんだから、恨んでもしらないよ」

 

 私自身、危険を承知で使うんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「システム起動、リミットモード……()()()()!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、私自身の体がまるで機体と同化したような感覚をうっすらと感じた。さらに額から大量に汗が流れだし、筋肉の全てが軽く悲鳴をあげる。

 

「……行くよ、曜!!」

 

 そして次の瞬間、私は踏み出しの一歩で曜の機体へと間を詰めた。電光石火、正しく紅い閃光の如く。

 

『ッ!?』

 

 曜もすぐに反応して両手の剣を交差して防ぐが、その勢いを利用して真横に蹴りの一撃を叩き込む。

 

『かはっ!?』

 

「ッ!!まだまだ!!」

 

 吹き飛んだ瞬間に後ろへと回り込み、再び剣による一撃を振るう。それによって右翼の一枚が切り落とされ、曜の『クロスボーン』は節減を数度バウンドする。

 

『ぅ……今のはいったい』

 

「――アンタが、曜が今やってるのと同じことだよ」

 

 阿頼耶識、それは『鉄血のオルフェンズ』で使われるナノマシーンインターフェース。肉体とMSを同調させることによって、機体を正しく生身のように動かすことのできる代物。ガンプラバトルにおいては、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というふざけた物だ。

 

 そして、それと機体を三倍近く超活性化させる『TRANS-AM』を組み合わせる。それは正しく、瞬間的に体感時間を三倍にまで引き上げ、限定的とはいえ人が時間の楔を超越するのと同じだ。

 

(けど、代償は曜以上だけどね)

 

 勿論そんなことをして唯で済むわけがない。阿頼耶識だけなら兎も角『TRANS-AM』を同時に発動させればダメージフィードバックは無効になっても、血流など見えない部分で、下手すれば致死レベルの代償を払うことになる。

 

 故に、このシステム共用を使えるのは、長くても五分だけ、それが昔昴だけでなく、鞠莉やダイヤと決めた絶対の制約だった。

 

「(あと残り三分……)速攻で決めるしかない!!」

 

『勝つのは……勝つのは私なんだぁ!!』

 

 未だに勝利への妄執に憑かれてる曜は、ムラマサのリミッターを解除してきた。いよいよ以て油断など出来るわけがなくなった。

 

「……らぁ!!」

 

 回収した左手の剣を構え、曜へ此方から接近する。彼方も此方へと接近してきて、そのムラマサを上段から振り下ろす。

 

 それを一歩動くだけで回避、すぐに曜の機体の後ろへと回って今度は左側の翼を切り落とす。

 

『まだ……まだだ!!』

 

「ううん、もうおしまいなんだよ」

 

 爆風を受けながらも一人叫び、我武者羅にその両手の剣を振るうが、もはや『HADES』に着いていけなくなっているのは誰の目から見ても分かった。

 

 避けつつ瞬時に両手を切り落とし、通信越しに曜の悲鳴が聞こえてくる。アシムレイトの反動が来てるのは明らかだった。

 

「(残り一分……)曜、今すぐにアシムレイトを解除し方がいいよ、もうできることは何もないんだから」

 

『あ……あ……!!』

 

 曜の泣いてる顔がモニターへと映る。正直ここまでの血戦になるとは思っても見なかった。恐らく暫くはトラウマ確実だろう。

 

「曜?早く解除しなよ」

 

『…………分かった』

 

 どうにか落ち着いたのか、曜の纏う空気は元に戻っていた。アシムレイトの発動条件が解除されたのは明確だった。

 

「曜、あとでハグしてあげるから、許してね」

 

 そして私はその剣を曜の機体の胸に突き刺した。コックピットを破壊されれば最早動けないのは当然だった。

 

 そして、それと同時に『TRANS-AM』の発動が解除された。ジャスト五分経過したのだ。

 

「……さて、あとはダイヤに任せないとね」

 

 残粒子5%、援護すらできなくなった機体を、ダイヤ達のいる方向へとカメラを向け、姉妹決闘の行く末を見守る事にした。



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天使の落日 その十五(二年生+ルビィ√)

「今さらだけど、サフィちゃんってそんなに強いかな?」

 

 試合を見ながら、突然放たれた千歌ちゃんの言葉に私はえ、と呟いた。

 

「急にどうしたの千歌ちゃん?」

 

「うーん、何て言うか……サフィちゃんって基本的にバトルの時しか表に出てこないでしょ」

 

 ……昴くんやルビィちゃん本人の言葉通りならその通りだ。

 

「けど、そのサフィちゃんが動かしてる機体って、元々はルビィちゃん自身が動かすために作ってるから……その、上手く言えないけど、変じゃないかな」

 

「……そう言われれば」

 

 武装から見ても、バスターソードこそ二本も装備してるが、それ以外はメガランチャーやファング等といった遠距離武器が殆ど、装甲もどちらかと言えば厚く後方支援や遠距離戦の機体のような感じだ。

 

 だが実際に動かすサフィちゃんはファングこそ多用するが、それでもどちらかと言われれば格闘戦……特にバスターソードによるパワー勝負だ。

 

 機体とパイロットの適正相性が異なる機体に乗れば、それは当然言わずもがなだ。

 

「私の言ってる事が間違ってて、サフィちゃんもちゃんと強いんだとしてもさ、多分機体がミスマッチになってて全力が出せないんじゃ」

 

 同じことだよね、という千歌ちゃんの言葉にどこか暗い影のような物が見え、私は思わず一歩下がった。

 

 今まで見たことのないその表情は、まるで何かを物語っているかのような、悲壮感にも似た闇だった。

 

 と、その時離れた場所で戦っていた曜ちゃんと果南ちゃんの対決が終わり、モニターディスプレイに映った曜ちゃんの顔写真が、カラーから白黒へと変わる。

 

「はぁ……はぁ!!」

 

「あれ!?昴くん!?」

 

 と、後ろから何か急いでるような声が聞こえ何事かと思うと、そこには息も絶え絶えに汗をかいた昴くんが、膝に手を付きながら立っていた。

 

「ぜぇ……果南は……」

 

「え?果南ちゃんならさっきまで曜ちゃんと戦ってたよ。ほら」

 

 千歌ちゃんの言葉を聞いた昴くんは息を整えながらディスプレイに視線を向ける。

 

「ふぅ……曜はルビィと組んだんだな」

 

「うん、そのルビィちゃんなんだけどさ……」

 

 そこで千歌ちゃんはさっきの疑問を昴くんにぶつけてみる。

 

「……はぁ、バカ千歌にまで気付かれるか」

 

「む!!千歌はバカじゃないよ!!」

 

「お前は普通におバカだ。で、そのお前が言う通り、というよりそもそもルビィには()()()()()()()()()()()()()

 

 致命的に?

 

「俺にアイツが師事してた頃……というより生来のものというべきか、ルビィはかなりの慎重派というか、ビビりだ。格闘戦なんてもっての他、接近するのもビームライフルの射程距離前後だ」

 

「確かにルビィちゃんって小動物?みたいな感じだよね」

 

「サフィが動かすからこそバスターソードを装備してるが、本来のルビィのバトルスタイルは中遠距離援護射撃、つまりサポーターってやつだ」

 

 なるほど……と、そう思った時ふと疑問に思う。

 

「でも、だったらバスターソードじゃなくて普通のビームサーベルで良いんじゃないの?機体重量から考えても、その方が」

 

「桜内さん、ファングとかメガランチャーとか装備してることも考慮すると、ビームサーベルまで装備させたら幾ら粒子量にブーストが掛かる太陽炉搭載型でもすぐにガス欠しちまうよ」

 

 それに、と昴くんは続ける。

 

「何も考えなしに、ただでさえ重たいバスターソードを二つも装備してる訳じゃないさ」

 

「???」

 

 

 

 

 

 

 サフィ視点

 

「サフィが足枷だと……」

 

 目の前にいる姉の言葉に、サフィはコンソールを握る手に力が入った。

 

「そんなわけあるか!!サフィがあんなへなっちい泣き虫の足枷?寝ぼけるのも大概にしやがれ!!強いのはどう見てもサフィのほうだ!!」

 

『弱い犬ほどなんとやら……いえ失礼、貴女は犬以下ですから尚更ですわね』

 

 飄々と、淡々と言ってのける姿にサフィの怒りの導線に火がつく。幾ら姉とはいえ頬がヒクついて仕方ない。

 

「だったら切り裂かれて落っちね!!」

 

 バスターソードを抜いて一気に斬りかかる。この肉厚の大剣をくらえばどんな機体だろうと――

 

『無謀と勇猛を履き違えてますわね』

 

 だが、渾身の一撃は本来なら叩き切れる筈のシールドに受け止められ、さらに流された隙へ蹴りの一撃が機体の左脇を襲う。

 

「ぐ!!」

 

 すぐに姿勢を建て直し、再び突撃するもそれは全て避けられ、一変の掠りもしない。

 

『それが貴方の全力ですの?だったら……今度はこちらの番ですわよ!!』

 

 ビームサーベルを展開し、それを突きの要領で飛んでくる打突を回避しようとするが、後ろへ避けようとしたタイミングに後方からALユニットによるビームを受けてしまう。

 

「っ!!ファン『させるわけがありませんわよ!!』!?」

 

 なんとか反撃しようとファングを出そうとした瞬間、まるで見計らったように高エネルギーのビーム砲……スキュラの火線が目の前へと照射される。

 

 寸での所でGNメガランチャーを後ろへ展開して発射、相殺することはできたものの、衝撃波によってそれは焼けつき、使い物にならなくなってしまった。

 

「クソ……!!奴は」

 

 スキュラを使ってきたと言うことは、お姉ちゃんは必ず変形している。ならその隙を……

 

『……昴さんの教えすら守れませんのね、貴女は』

 

「!?」

 

 だが、まるで狙ったように後ろからそれはやって来た。変形し、特徴的な四本のクローを展開させながら。

 

 すぐに逃げようとしたものの、振り返ってる隙に機体は組み付かれ、しかも両肩と両足が動かせないように固めてきた。

 

「しまっ!!」

 

『これで終わりですわよ』

 

 丁度コックピット部分に突き付けられたスキュラの砲門にエネルギーを収束させていく。このまま受ければ間違いなく直撃、いや、確実に負ける。

 

(負ける……?このサフィが……?)

 

 そんなことは絶対に嫌だ。負けたら……サフィが負けてしまったら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!それだけは絶対に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ありがとう、サフィちゃん)

 

「……え?」

 

 一瞬ルビィの声が聞こえたと思った次の瞬間、組み付いていたイージスのウィングと肩へ紅いビームが突き刺さった。

 

『!?』

 

 突然のことに驚いたお姉ちゃんは組み付きを解除してすぐその場から離れる。次の瞬間、射たれたその部分が爆発し、飛行するために使っていたユニットがパージされる。

 

(今のは……)

 

(私がやったんだよ、サフィちゃん)

 

 サフィを救ったのは、なんとルビィがいつの間にか放っていたファング二機だった。

 

(けど、ファングはあの時全部回収して……)

 

(二機だけ、何時でも射てるように隠しておいたの。最初から)

 

(さ、最初から!?)

 

 つまりルビィは試合が始まった瞬間から、ファング二機を出しっぱなしにしていたと言うのだ。

 

(サフィちゃん……ごめんね、ルビィが弱かったから……任せっきりにしちゃって)

 

(ルビィ……)

 

(でもね、ルビィは、ルビィの全部を使って、お姉ちゃんと戦いたいの!!だから……)

 

 そういってルビィは隣に立ってサフィの手を握る。目に見えない、同じ人間だというのにそんな感じがした。

 

(ルビィにサフィちゃんの力を貸して欲しい!!私だけじゃ勝てないけど、サフィちゃんと一緒なら……)

 

(……)

 

 ……全く、この主様……いや、ルビィはホント、

 

(……あの時を覚えてるんだろ)

 

(うん、師匠が入院して、お姉ちゃん達がバトルを止めて……そしてサフィが生まれた日)

 

(あの時、ルビィは強くなりたいって願った。だからサフィが生まれた、けど……もうサフィは要らないんだな)

 

(そんなことない!!)

 

 ルビィは否定するが、サフィはそうとしか思えなかった。

 

(要らないだろ、あのお姉ちゃんから足枷扱いされたんだ……サフィは必要ねぇってことだろ)

 

(……そうじゃないよ)

 

(そうだろ)

 

(違う!!それはルビィとサフィちゃんが別々で戦ってたからだよ!!一緒に戦えば……きっと)

 

 一緒に戦えば?

 

(……どうやってだよ。サフィとルビィは一心同体、どっちかが表に出てたら、どっちかは出られる訳がねぇだろ)

 

(ううん、ルビィとサフィちゃんならできる)

 

(……どうして言い切れる)

 

(だってそのために……()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「TRANS-AM……機動!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダイヤ視点

 

「これは……!!」

 

 それはあり得ない物でした。目の前のスローネの肩の後ろから二つもの巨大な輪が現れましたの。

 

 勿論それが何を意味するのかは分かっている。だが、それでもあり得るのか、その輪の色は()()()()2()()……どう考えてもあり得ない。

 

「GNドライブと疑似GNドライブを並列運用……しかもそれでTRANS-AMを発生させるなんて!!」

 

 本来……00でもGNドライブの並列運用はかなり難しく、専用に調整するなどしなければTRANS-AMはおろか機体そのものを動かすことすらままならない。ましてやTRANS-AMを発生させる等もっての他だ。

 

 それをあろうことかオリジナルGNドライブと疑似GNドライブでなど、いったいどうやったらそんなことを……

 

「まさか……」

 

 

 

 

 

 ルビィ視点

 

(おいルビィこれは……)

 

(TRANS-AM・BURSTを応用した特殊モード……この状態の時だけ、ルビィとサフィちゃんは反射と思考を融合した超兵のように戦うことができる)

 

(だがGNドライブの並列は……ましてや片方は疑似……いや、まさか)

 

(『ダブルオーガンダム』での『オーライザー』みたいに、『ヤークトユニット』をそれに当て嵌めたんだよ)

 

 簡単に言えばヤークトユニットは並列化処理のためのアンプ……だが、それはオーライザーのそれよりもかなり難しい。けど、

 

(元から仕込んでた……っていうのか)

 

(うん、この機体はGNドライブを三つ取り付ける事ができて、今まで背中の一つだけしか着けなかったんだけど、お姉ちゃんとの戦いのためにTRANS-AM中にだけ使うGNドライブを取り付けたんだ)

 

(ツインドライブならトライドライブ……)

 

 その通り。けど、これを使うとメンテナンスが大変だからいつもは肩の二つは外してたんだけどね。

 

(けどそれを使った……なら!!)

 

(ルビィとサフィちゃんの力で……お姉ちゃんに勝ってみせる!!)

 

 私たちはそう意気込むと、目の前に立つ同じく紅いガンダムに目を向ける。

 

「……行く()……お姉ちゃん!!」

 

『ッ!!』

 

 TRANS-AMによる加速で一気に駆け抜けると、サフィちゃんはバスターソードの柄同士を取り付け、ダブルセイバーとなったそれを振り回す。

 

 流石に絶対防御の盾(イージス)を名乗る機体であっても、その構えた盾を機体ごと吹き飛ばし、さらに投げつけて追い討ちをかける。

 

『!!アルミューレユニット展開!!』

 

 が、流石にお姉ちゃんお得意の絶対防御の障壁に防がれ、弾かれたバスターソードが此方へと戻ってくる。けど、

 

(ルビィ!!)

 

「大丈夫だよサフィちゃん!!」

 

 戻ってきたバスターソードの柄を半回転させ、大剣の刃の方向を揃える。まるでそれは大弓のよう形をとり、剣先同士にビームの弦が現れる。

 

 そしてファングの一つを手に取り、それを矢のように構える。そのしてそれ引き絞り、目標を定めると

 

「ファングシュート!!」

 

 お姉ちゃんの機体へと撃ち抜く。高速で放たれる矢の一撃はALの光波障壁とぶつかり合う。

 

「(いっけぇ!!)」

 

 私とサフィちゃんの叫びを乗せたそれは障壁とぶつかり合いバチバチと火花を飛ばす。そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見事、ですわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 絶対に防ぐというその障壁を見事貫き、ファングの矢はそのコックピット部分を確かに貫いた。

 

 

 

 

 




なんだか中途半端な終わりかたですが、次の次の本編投稿で今章のそうまとめをするつもりなので、そこで一気に書いていくので、悪しからず


……なのでコンクリートに埋めるのだけは勘弁してください曜さん!!しかも下半身だけ!!
曜「でも今章の台詞少ないよね?」
そ、そのぶん一期の11話の回で融通するんで、ホント沼津の海に沈めるのだけはご勘弁を!!
曜「うーん……」
……
曜「でも今少ないから二時間深海にヨーソローしてきてね♪」
イィィィィヤァァァァ!!(沈没)


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天使の落日 その十四(昴&花丸√)

 こうして相対するのは何年ぶりだったずらか。一年……いや、多分善子ちゃんが中学に上がる少し前だったずら。

 

 あの頃とは段違いに精巧に作られていて、多分、昔のまるじゃあそこまでの機体を作ることは出来なかった。そういう確信があった。

 

 けど、それは昔のことで、今のまるではない。だからこそ、お爺ちゃんから受け継いだこの国木田流の技術で、善子ちゃんを救うって、そう決めたずら。

 

 

 

『……私にウィングガンダムで相手をするなんて、随分な思い上がりをしてるようね』

 

 善子ちゃん……いや、善子ちゃんの皮を被った何かはまるでうんざりするように此方を睨む。

 

「思い上がってはいないずらよ。善子ちゃんを倒すなら、同じく善子ちゃんの機体を使えばいいことずら」

 

『……私にはそんな機体を作った覚えは無いわ。作ったとしても、記憶にないなら捨てたか何かをしたはずよ』

 

 確かに何かの言う通り、これは善子ちゃん自身が作った『ウィングガンダム0シフェル』そのものじゃない。けど、

 

「その慢心が命取りになるずらよ!!」

 

 まるは機体のコンソールでハイパージャマーを展開し、機体を宇宙の闇の中へと消滅させる。

 

『……透明化なんて無駄なことを……私には粒子の流れが見えてるのよ』

 

 そう言いながら的確にまるが居るところにフェザーミサイルを飛ばしてくる彼女にまるは舌を巻いた。流石は善子ちゃんの体を使ってるだけはある。けど

 

「だったらこれはどうずら!!」

 

 再びハイパージャマーのパネルを押して透明化を解除すると、右手に持っていたバスターライフルを発射、オレンジ色の閃光が一気に駆け抜けていく。

 

『無駄だって言ってるのが分からないの』

 

 しかしそれも彼女のトライツバーグ装備のバスターライフルの一撃で相殺され、衝撃波がまるの機体を襲う。

 

「ぐぅ!!」

 

『……下らない、例えそれが私が作った物だとしても、操縦する人間が未熟じゃ宝の持ち腐れね』

 

「……確かにそうずら、正直()()()()()()()じゃ、多分善子ちゃんには逆立ちしても勝てないずら」

 

 そう、()()()()なら、

 

「けど、それももう終わりずら」

 

『……なに?』

 

「ここから先は……今までのように簡単にはいかないずらよ!!」

 

 そう言ってまるはハイパージャマーの粒子だけを展開し、その左手にビームサイズを構える。

 

「いくずら!!」

 

『なんど同じこと……!?』

 

 恐らくフェザーミサイルで攻撃しようと思ったのだろう、しかしそれをバスターライフルを高速連射のビームに切り替えたそれを射つことで防ぐ。

 

『そんな……なんで先読みが!?』

 

「無駄口を叩いてる暇はないずらよ!!」

 

 肩のマシンキャノンを展開だけし、左手のビームサイズを呼び動作無しに投げつける。マシンキャノンを予想していた為か、まさかの攻撃に相手は思わずバスターライフルを盾代わりにしてしまう。

 

『また先読みが……いったいどうなってる!!』

 

 ヨハネと呼ばれた何かは、被ってる善子ちゃんの顔を思い切り歪ませているが、そんなことまるにはどうでも良かった。

 

「まるは善子ちゃんとバトルするずら!!偽者はお呼びじゃないんずらよ!!」

 

『ぐ!!舐めるな!!』

 

 

 

 

 

 昴視点

 

「……まさか、あそこまでヨハネを追い詰めるなんてな」

 

 中破……いや、ほぼ大破した『AHM』のメインカメラから見る二つの『ウィングゼロ』の戦いに、俺は思わず友軍である彼女にそう呟いた。

 

 先読み封じのハイパージャマー……アレは恐らくジャマーそのものをプラフスキー粒子のように動かすことでそれを可能にしたのだろう。

 

 それをやってのける花丸ちゃんもだが、それを行える機体もそうだ。幾ら津島善子の機体の『0シフェル』だとしても、アレは花丸ちゃんが速攻で作り上げた言わば模造品、コピーだ。

 

 だと言うのに、彼女はその性能の全てを、本物と同じように再現してしまっている。その特異性は普通に考えれば異常だ。だが、

 

「これが、嘗て『ガンプラ心形流』と対立した『国木田流』、その正当後継者の実力か」

 

 彼女の実家であるお寺の住職……つまりお祖父さんの代から延々と続いてきたその技術、それは元々映像や画像を元に、ガンプラを一から完全に再現して見せる、創造ではなく模倣する技術。

 

 そして彼女の父の代にて、使う人間の技さえ、それが例え現実の人間ではなくアニメのそれであろうと、自分自身が模倣するという離れ業まで完成した。その技術はかの3代目メイジンすらも驚嘆の一言に尽きたという。

 

 そしてその3代目の後継者である彼女……国木田花丸という少女もそれは同じ、いやそれどころか、血筋というべきか、さらにそれは進化していた。

 

「本人をコピーし、さらにそれをアレンジすることで相手を上回る、か。厄介極まりないだろ」

 

 今はまだ相手を直接観察しなければ模倣できないとはいっても、彼女のアレンジの引き出しが増えればそうではなくなるだろう。

 

 戦う度に、戦いを観察する度に強くなる、それが国木田花丸という少女の強さ。一見すればただ地味かもしれないが、たった五分足らずでヨハネの動きや思考をトレースすらして見せた成長速度は、恐らくプロでも中々居ない。

 

「これで完全な自分専用機を持ったら更に化けるな」

 

 進化する度に機体を変えていてはガンプラバトルでは着いていけなくなる。彼女の課題は、技術を生かせる機体というべきだろう。

 

「頑張れよルーキー、俺じゃ救えないんだ。お前が何とかしやがれ、幼馴染みなんだろ」

 

 聞こえてないだろうその言葉を呟きながら、俺は内心この大破した機体をどう直すべきか――

 

「!?」

 

 その時、手に持っていた携帯から聞き覚えのある音楽が流れてきた。しかも、それが意味するのは――

 

『昴!!今の音楽って』

 

「恐らくその通りだよあの馬鹿!!」

 

 鞠莉ですら気付いたその音楽は、俺達の共通の知り合いが無茶をしやがった証拠。しかも前もって相談の一つもなしでだ。

 

『昴、機体は私が責任もって回収するから――』

 

「ッ!!でもここを抜けるわけには」

 

『大丈夫、ここは私が何とかする、それに現場にはダイヤも居るって』

 

「ダイヤさんも?」

 

 いったい二人は何を……

 

『場所は霜澤模型店、そう言えば分からない?』

 

「ッ!?千歌達が今大会やってる場所じゃねぇか!!」

 

 時間的に今は決勝戦をやってる頃……つまり、そうしなければならない事態に陥った?あの二人が?

 

「……ガンプラの回収と、あとをお願いします」

 

『うん、私に任せなさい』

 

 俺はGPベースを回収してすぐにその場を離れる。ここからそう遠くはない目的の場所へ、俺はすぐに走り出した。



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天使の落日 その十五(昴&花丸√)

「ぐ……!!いい加減に落ちるずら善子ちゃん!!」

 

『私はヨハネよ!!それに落ちるのは貴女の方よ!!』

 

 まるはビームサイズ、善子ちゃんはビームソードをそれぞれぶつけ合いながらこのデブリの中を縦横無尽に駆け巡る。

 

 もう既に互いの射撃武器は使用不能または弾切れで、使えるのは今持ってるそれぞれの刃だけ。

 

「ッ!!」

 

 ビームサイズの一閃とビームソードの一撃がぶつかり合い、激しいスパークがデブリの中で輝く。

 

「……やっぱり善子ちゃんは強いずら」

 

 全国優勝クラスの実力者の善子ちゃんからすれば、趣味レベルのまるじゃお話にならないのは分かってる。幾ら動きを模倣できても、それは変わらない。

 

 それでもまるが善戦できてるのは、昔から善子ちゃんのバトルを見てきたからこそ。そうじゃなくちゃまるの実力で善子ちゃんと正面から戦うなんて無理ずら。

 

「(……記憶を封じてても、やっぱり善子ちゃんの癖は出てくるずらね)」

 

 接近戦を挑んでくるとき、必ず善子ちゃんは繋ぎに格闘技……というより関節技(サブミッション)を仕掛けることを好んでる。ガンプラの場合人とは違って手加減しなくても良いって前に言ってたような気がするずら。

 

 だからこそ、それを仕掛けてきたときこそ唯一のチャンス。それを逃すわけには――

 

『いい加減、しつこい!!』

 

「ッ……!?」

 

 流石の長時間戦闘に痺れを切らしたのか、今までのヨハネらしくない激情的に、ビームソードを投げつけてきた。

 

 慌ててビームサイスで弾くが、それと同時にビームサイスのエネルギーも尽きてしまった。が、それよりも

 

(今の言葉……まるで善子ちゃんそのものだったような)

 

 ヨハネらしくない……というより寧ろ今までの方が演技のような感じすらするその違和感が、直感的にまるへある答えを導いた。

 

(もし、もしそうなんだとしたら……)

 

 改めて考えてみれば、そう考えなければ辻褄が合わないほどに綺麗に繋がったそれは、確信が詰まる所この事件の核心だということに気がついた。

 

「……いい加減にするのはそっちずら善子ちゃん」

 

『……どういう意味かしら?』

 

 あくまでしらばっくれるつもりの善子ちゃんに、まるはコンソールを強く握った。

 

「……善子ちゃん、ホントは()()()()()()()()()()()()()でしょ?」

 

『…………』

 

「最初から少し疑問だったずら、なんで人格を上書きしておいて、バトルをすれば解除されるのか……下手な小説でも人格を上書きすればよっぽどの事がない限り戻ることはないずら」

 

 図書館の主みたいに毎日こもって読んで得た知識をフルに回転しながら、私は目の前の親友に言葉を投げ掛ける。

 

「それに幾ら善子ちゃんの体だからって、人格を上書きしたのに()()()()()()()()()()()()()()()()()のも変ずら」

 

 とある少女漫画のヒロインは記憶喪失という状態でありながら、記憶を失う前と後とでどちらも演技……つまり役者をしていた。だが、演技には素人であるヒロインの彼氏から見ても、前と後で演技には若干のズレがあったという。

 

 状況は多少違うが人格を上書きしたなら、それと同じように若干のズレがあるはず。それがないというのはまずあり得ない。

 

「なら答えは一つ。善子ちゃんは人格を上書きしていない、そして善子ちゃん自身の意思でナインバルトさんと行動してる、違うずら?」

 

『……ハァ、やっぱり付き合いの長いアンタにはバレたみたいね』

 

 ため息混じりの善子ちゃんのそれが正しく答えだといわんばかりだったずら。

 

『アンタの言う通りよずら丸、受けたのは催眠療法擬きだし、私は私の意思で彼と一緒にいた。予想してるかもしれないけど、私はこの部屋の中で乱暴もされてないし、寧ろ家事をしていたわ』

 

「……ならどうして善子ちゃんのGPベースが家にあったずら?悪いことをしてないならおじさんに話しても」

 

『あんな堅苦しくて寂しい家に帰るのが嫌になった、それだけよ』

 

 素っ気なく言うが、それがやせ我慢であることはまるにはすぐに分かった。

 

「……なんで嫌ずら?」

 

『帰っても誰もいない、良い成績取っても誉めてもらえない、せっかく作ってあげた料理が少しも手についてない、なのに私の趣味にはあれこれ口出しするし、何より折角あっちから推薦をくれたガンプラ学園のそれを握りつぶした。しかも母親に関しては秘書と一緒にラブホで優雅にデートしてた。

 

 これだけ言って、嫌いにならない理由が見つかる?』

 

「それは……」

 

 正直言うと、まるでもそれはドン引きする。ネグレクト一歩手前だったんだろうなとは思っていたけど、手前どころか思いっきり地雷原でタップダンスずら。流石にこれは擁護するのは厳しい。

 

「け、けどおじさん達が善子ちゃんを心配してるのは今回の件で分かったはずずら!!」

 

『心配してるのは私じゃなくて自分に対する世間体よ。知ってる?誘拐された人間ってね、約3日で生存率3割。なのに一週間も経って漸くノコノコと現れて何様のつもりよ』

 

 にべもない一蹴だった。ホントにどうすれば説得できるのかまるにはさっぱり分からないずら。

 

『それに私は誰かに必要とされればそれで良いの。必要としてくれるなら世間体だろうが肉体だろうが……()()()()くれてやるわよ』

 

「……そんなことさせるわけにはいかないずら」

 

 まるはコンソールを動かし、壊れかけて邪魔になった背中の翼をパージした。

 

『……なんのつもり?』

 

「どうしても聞かないから、殴ってでも連れて帰るずら」

 

『ふーん?徒手空拳(ステゴロ)ね……珍しく気が合うじゃない』

 

 善子ちゃんも邪魔になった背中の羽をパージし、両腕でファイティングポーズを取る。

 

『言っておくけど、手加減なんか全くしないわよ』

 

「善子ちゃんは手加減されるのもするのも嫌いだからね」

 

『は、言ってなさいよね!!』

 

 スラスターを全力で吹かせ、振り上げた右の拳が一気にまるの機体へと叩きつけられる。改造機とはいえ短い時間で作った模倣機体で受ける衝撃は計り知れなく、受けた左肩に微かな異常が現れる。

 

「その程度!!」

 

『甘いわよ!!ずら丸!!』

 

 けどまるはそれを無視して右フックをその顔面に叩きつける。が、それを予期していた善子ちゃんは左手で受けとめると、右膝で胸部に蹴りつけてくる。

 

「ぐっ……まだまだずら!!」

 

 掴まれてる右前腕をパージし、蹴りつけてきた膝を左腕で掴むと、力の限りでそれを捻り、破壊する。途端、その膝は爆発し善子ちゃんの機体が少し後方へ下がった。

 

『く、やってくれるじゃない』

 

「これでお得意の間接技は封じたずら」

 

 宇宙空間だから足がなくても直立できないことはないけど、それでも蹴り技を封じる事はできた。

 

『は、まだ腕が二本もあるのよ、それだけあればあんたの機体をへし折る事なんて簡単なんだから!!』

 

「そう簡単に行くとは思わないずらよ!!」

 

 再び互いに接近し、殴りあい、蹴りあいを繰り返す。互いの機体がボロボロになりながらも拳蹴乱舞は続く。

 

 が、それでもやっぱり機体の粒子エネルギーはもう殆ど枯渇していて、一分と経たずに互いの機体は警告音をならし始める。

 

「……次の一撃で全てを決めるずら、善子ちゃん」

 

『ふん、やってみなさいよ!!』

 

 そう言って善子ちゃんは右腕を振り上げ、飛びかかるように殴りかかり、

 

「……国木田流……必殺!!」

 

 私は唯一、模倣したパーツとは違う掌を開き、残ったエネルギーの大部分を一点に集中する。

 

『な!?アンタまさか!?』

 

 慌てて回避しようと善子ちゃんは慌てるが、それはすでに遅いずら。

 

「これを食らって、頭冷やすずら!!Iフィールドバンカー……ナックル!!」

 

 極限にまで圧縮したそれを、スラスターを吹かせてコックピットブロックへと叩きつける。途端、それは激しい衝撃波を産み出し、お互いの機体を飲み込むほどの爆発が引き起こされるのだったずら。

 

 

 

BATTLE END

 

 

 

「……なんでよ」

 

 バトルが終わった直後、善子ちゃんはポツリと呟いた。

 

「どうして今ごろになって……いつも私のことを避けてた皆が、なんで今になって近寄ってくるのよ……ワケわかんないわよ」

 

「善子ちゃん」

 

「私は……私はただ誉められたかっただけなのに!!パパとママから凄いねって言われたかっただけなのに!!周りからどう思われようと、嫌われても、ただ一言でも誉められたかっただけなのに!!どうして!!」

 

 まるで怨嗟の言葉のように吐き出されるそれは、重々しく、親友だったはずのまるですらなにも呟くことはできなかった。

 

「善子……」

 

 けどおじさんはゆっくりと善子ちゃんに近づいた。まるで懺悔するかのように、ゆっくりとした歩みで。

 

「私は……俺はお前のことを分かってやれてなかった。なんでもできる娘だと思って、その事に甘えていたのかもしれない」

 

「いまさら……!!」

 

 善子ちゃんは逃げようとするが、それよりも早く、おじさんはその体を抱き締め、不器用に髪を撫ぜた。

 

「悪かった……お前のことを、ちゃんと見てやれなくて……すまなかったな」

 

「あ、あぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 闇に堕ちた天使の慟哭が響く。けどそれは怨嗟や悲哀の感情はなく、ただただ無垢な叫びとして狭い室内を木霊した。

 

 

 

 

 鞠莉視点

 

「終わったみたいね」

 

「……どうやらそのようだな」

 

 腕に手錠を嵌めた男は隣で清々しく笑った。警察に引き渡されパトカーに乗る前の少しの時間で、彼と少しだけ話したいことがあったからだ。

 

「良かったわね、これで名目上はあなたの思い通り……少し違うけど、まさしく()()()()()()()()のようなシナリオね」

 

「……」

 

「彼女という人質をとったように振る舞い、正義の側な私達に倒されることで彼女の闇を救う、どこからどこまで計算していたの?」

 

 私の言葉に、彼は少し苦笑するだけで何も話さない。

 

「……ゼロ・レクイエムとやらが何かは知らないが、犯罪者の私が善人だとでも?だとしたらとんだ笑い話だな」

 

「世の中には正義のためと信じて自分を必要悪にできる人間も居る。ミラージュ(蜃気楼)の名を関する機体を使っていたし、あなたは……」

 

「それ以上は必要ないさ」

 

 彼はそう言うと私を軽く睨む。

 

「世の中には知らなくていい事も少なからず存在する。君もわからないわけではあるまい?」

 

「……そうね、なら1つだけ聞かせて?もし仮に私がガンプラバトル部のコーチをしてって言ったら、あなたはどう答える?」

 

 そうだな、と彼はまず呟いた。

 

「……あの灰色の流星と一緒に練習をしてるようなチームだ、もし鍛え上げれば少なくとも上位に組み込めるだろうが、私はそれを引き受けるつもりはない」

 

「……理由は?」

 

「単純さ、そのチームには遠からず彼女が仲間入りする。誘拐した人間とされた人間が同じチームに居るわけにはいかないし、なにより、私はもうガンプラバトルに関わるつもりはない」

 

 それだけ言うと彼は警察のもとへ自ら歩み、ちょうど来たパトカーに入れられたのだった。



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天使の落日 その十六

すまない……今まで更新してなかったのに二話連続更新してすまない……


 あのあと、様々な事が矢継ぎ早に進んだ。

 

 まずナイン・バルトは司法取引というか、彼に取引を持ちかけた一味を一網打尽にしたことで厳重注意ということに落ち着いたそうだ。

 

 というのも彼の研究は確かに違法に近かったが、それでも彼は研究していただけにすぎず、今回の事件も津島に声をかけはしたが着いていったのは津島自身の意思だし、何より彼女の家庭環境がネグレクト同然だったこともあって、警察から両親共々それなりのお説教を受けることになった。

 

 ナイン・バルト自身、これには若干不服だったものの、津島の親父さん曰く、自分達の不注意のツケを払わせてしまったことによる便宜だということで、被害届をだすつもりはないということがあり、不承不承というような感じで納得していた。

 

 親父さんは今回のことで家族の大切さが身に染みたのか、あの戦いの後、できる限り津島と話をする機会を少しずつ増やしてるそうだ。

 

 一方でタッグバトル大会の方はというと、決着としてはルビィと曜のコンビが優勝という形にはなったものの、内容からしたら事実上の引き分けとなった。

 

 というのもルビィが姉であるダイヤさんを倒した直後に時間切れとなり、粒子残量の差でギリギリの勝利というなんとも後味の悪いというかなんというかな決着となったからだ。

 

 決勝のMVPであるルビィも微妙な表情だったが、バトルだとこういうことがたまにあるから、仕方ないと言われればそれまでだ。

 

 で、バトル終了直後に俺は果南のポニテを無理矢理引っ張って正座させ、かなり危険な阿頼耶識トランザムを俺に事前の断りもなく行った事を声を大にして説教した。

 

 文字通り命削りも当然なあの技を、時間ピッタリとはいえ無断で使ったんだ、あの事故を知ってる俺からしたらかなりハラハラした。

 

 同時に果南から曜の無意識のアシムレイトとEXAMの併用を聞いて曜もついでにお説教、幼馴染みトリオで千歌だけが怒られないという大変珍しい風景となった。

 

「で、鞠莉……これはいったいどういうことだ」

 

 翌日、会長室で鞠莉に回収してもらった俺の機体を見て、彼女に少しだけもの申したくなった。

 

「ん?私なりの誠意の気持ちよ」

 

「誠意の気持ちなのは分かった。けど、なんで俺の機体が魔改造されてんだよ!!」

 

 というのも頭部の鶏冠パーツが一部削られ、その部分にクリアパーツの角が埋め込まれ、今まで肩に取り付けてたビーム砲を腰付け可動式スラスターユニットのような形になり、それに伴ってスラスターの量が若干増えてる。

 

「今までのより取り回しを良くしてあげたんだけど、不満だった?」

 

「不満じゃないけど!!不満じゃないけどな!!勝手に人の機体改造するな!!慣れるのにどんだけ時間掛かると思ってんだ!!」

 

 自慢じゃないが、俺は他人に作って貰った機体を動かすのが苦手だ。いつも自分で作るときは大体脳内でその機体の動きをイメージしてるから、それができない他人の機体だと、どうしても暫く慣れるための練習をしなきゃならなくなる。

 

「ダイジョーブ!!操作の癖とかは殆ど変わらないのに、今まで以上の戦いができマース!!」

 

「そういうことじゃ……あぁもういい。それで、果南の精密検査は?」

 

 大会直後に鞠莉の親父さんの知り合いが経営してる病院に叩き込んで、今日明日ととりあえずの検査入院中の幼馴染みの事を聞いてみると、

 

「検査には今のところ異常はないらしいわよ。やっぱり関係を持ってると気になったり」

 

「それ以上言うならヘリの限界高度からパラシュート抜きでスカイダイビングさせるぞ」

 

「イッツァジョーク!!」

 

 冗談に全く聞こえないが、鞠莉さんがふざけるのは何時もの事だから諦めた。

 

「そういえば、善子ちゃんもAqoursのメンバーになったそうじゃない」

 

「まぁ今は機体のオーバーホール中だがな」

 

 何せ『ウィングガンダム0シフェル』の改良機……『ロストウィングガンダム』はあの戦いで大破してしまって、現在花丸ちゃんが作ったレプリカの『0シフェル』とパーツを合わせて何とか修理してるらしい。

 

「でも、これでやっと六人ね。昴も含めれば七人で、規程最大人数の10人に届く」

 

「……まだダイヤも果南も、何より俺も出るとは言ってないぞ」

 

「やるわよ……だってAqoursは私達から始まったんだから、やらないわけにはいかないの。これがラストチャンスだから」

 

「……もうタイムリミットはないのか?」

 

「無い……に近いわ」

 

「そうか」

 

 もう二年前から話自体は出ていたのを、鞠莉さんがなんとか繋ぎ止めてくれてたそれは、もう何時でも途切れてしまう、そんな脆く儚いものになりかけていた。

 

「昴……」

 

「俺に頼むのはお門違いだろ、俺だって小原のおかげで今生活できてるんだ……下手なことはできない」

 

「そう……よね」

 

 鞠莉さんも分かっては居たのだろうが、それでもどうしてもやりきれない思いが募っている。

 

「それでももし、もしも果南が……アイツが再びAqoursとして戦場を駆け抜けるなら、その時は俺も覚悟は決めるさ」

 

「昴……!!」

 

「一回、ちゃんと本音でぶつかってみろよ。三年生は三人とも、どこか堅物なやつばっかりなんだからさ」

 

 俺はそう言って会長室から出ると、そこには待ち構えていたかのように千歌が立っていた。

 

「昴くん、タイムリミットって聞こえたけど、それって」

 

「明日には分かるから安心しろ、で、それぞれ機体の修復は終わったのか?」

 

「うん。けど……」

 

 千歌が決まりが悪そうに目を泳がせてるのを見て、なにかあったのかと問いかけてみた。

 

「正直に言ってほしいんだけど……私達って今のレベルで全国まで行けるのかな、って思って」

 

「……」

 

「勿論私もみんなもいくつもりなんだけど、正直今の私達がどこまでやれるのかなって思って……」

 

 なるほど、言いたいことは良く分かった。

 

「つまりダイヤさんと果南にボロ負けして自信を無くしかけてる、と」

 

「も、勿論ダイヤさんと果南ちゃんが昴君と一緒に戦ったりしてたのは聞いてるから強いのは納得できるんだけど、そこまでじゃないよ!!」

 

 むきになって反論してくるが、まぁ何となく分からなくもない。

 

「なら、折角だし体験させてやるとするか」

 

「へ?何を?」

 

「実は海開きの一週間後に東京でとある大会があってな、そこでスペシャルバトルとして俺が出る予定なんだが」

 

 俺はそう言って携帯を取り出す。

 

「そこの出場チームに組み込めるように頼んでみる、もし無理なら俺らの試合を観戦ってことになるだろうが、多分あの三人なら断る理由がないからな、多分出られるだろ」

 

「あの三人?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回の大会のスペシャルバトルのメンバー、『三代目』メイジン・カワグチ、『白翼の女神』絢瀬絵里、そしてトッププロチーム『ARISE』綺羅ツバサ……あの三人に頼めば何とかしてくれるだろ、多分」

 

 

 

「え、えぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」



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閑話② 彼の者達は

 私の名前は絢瀬絵里。かつて音ノ木坂で生徒会長をしていて、そしてガンプラバトルチーム『μ's』のメンバーの一人。賢いかわいいエリーチカは有名よね、なんか。

 

 そんな私の現在は弁護士……ホントは裁判官になるつもりだったけどとある事がきっかけで現在は地方の弁護士として活動している。

 

 μ'sの元メンバーとはたまに話したりバトルしたりと、相変わらず仲良く、この間なんか花陽に彼氏ができたと聞いてみんなでお祝いなんかしたりしたわね。

 

 あ、今私はどうなのかと思った人、ちょっと荒縄で叩いてあげるから前に出なさい。私に彼氏ができないなんてホントに、認められないわ。

 

「どうしたんですコーチ、急にカメラ目線で目をキリってさせて」

 

 と、現在掛け持ちでコーチをしているガンプラバトルチームのリーダーに声をかけられる。

 

「なんでもないわよ。それで、全員の練度はどれくらいになった?」

 

「今のところ私も皆も頑張ってますよ。何せこのメンバーではじめての遠征が近いですから、みんな気合いが入ってますよ」

 

「ふふ、でも気合いを入れすぎて風邪とか怪我をしたら元も子もないからね。現に私達の知り合いが一人それをやって迷惑かけちゃったから」

 

 

 

「ぶぇっくしゅん!!誰かが噂をしてるような」

 

「穂乃果さん、料理できたから運んでね」

 

「分かってるよ悠真くん!!」

 

 

 

「けど良かったの?フルメンバーの10人揃ってないから、色々不利になることもあるのに」

 

「それを言うなら、コーチはもう少しレベルを上げてもらって構いませんよ。私達はそれすら超えるつもりですし」

 

「無理は禁物って言ってるでしょ……っと、LIME?しかもパーティー」

 

 珍しい時間帯に来るものだと不思議に思ってみると、それに書かれていた内容に笑みを浮かべる。

 

「どうしました?」

 

「どうやら、東京でのチームがもう一つ加わるみたいよ」

 

「へぇ、どこの県です?」

 

 静岡、そういうと彼女は苦い顔をしたを

 

「よりにもよって強豪跋扈してる地区から登場するなんて、よっぽど有名なところですか?」

 

「いいえ、どちらかと言えば新規チームね。メンバーは粒揃いだけど」

 

 そう言って携帯を見せると、彼女は一目見て興味深いというように唸りはじめた。

 

「確かにメイジン杯クラスのビルダーに去年の女子中学の全国大会優勝者、国木田流の正当後継者って粒揃いも良いところですね」

 

「しかも最年少プロの彼と練習してるとなれば、多分セミプロレベルの実力はあるでしょうね」

 

 ですが、と彼女は顔をあげる。

 

「私達なら勝てます。というより、セミプロレベルに負けるつもりはありませんから」

 

「ふふ、私も一応セミプロなんだけど?」

 

「二代目ガンプライブ優勝チームのメンバーなら普通にプロレベルですよ。それに、その最年少プロにも負けるつもりは無いんですよね?」

 

「当然よ。バトルで手を抜くなんて認められないわ。やるからには正々堂々、力の限りで戦い抜く。それを貴方達にも教えてきたわよね」

 

「勿論です!!」

 

 彼女はそう言うと携帯を私に返し、走るように部室へ向かっていった。

 

「『Aqours』と『灰色の流星』……面白いことになりそうね」

 

 けど、

 

「『白翼の女神()』と『saint snow』に敗北は無いわよ」

 

 

 

 

 ツバサside

 

「へぇ、彼の所属の学校のチームを、ねぇ……」

 

 移動中、LIMEを見ながら私はそんなことを呟いた。

 

「あら、ツバサが面白そうな顔してるわね。何かあったの?」

 

「ううん、ただ試合が面白くなりそうって思っただけ」

 

 メッセージには最初から本気で戦うと堂々とした宣言をされていて、それだけで体の熱が収まらなくなりそうだった。

 

「……どうやら、ツバサの闘志に火がついたみたいだな」

 

「もうツバサったら、巻き込まれるこっちの身にもなってよね?」

 

 旧来の友人であり戦友にジトリとした目を向けられ、私は思わず肩をすくめる。

 

「……私は巻き込んでるつもりはないけど」

 

「「それはない」」

 

「酷い!?」

 

 そんないつも通りの会話をしながら車は目的地に向かって走り続ける。初代女王は未だに健在と言わしめるがごとく……。

 

 

 

 三代目side

 

「珍しいじゃないか、達哉が三代目の服を着てないで此方に来るなんて」

 

 旧友であるアランの言葉に、私は少し笑った。

 

「なに、かの流星が自らの学校のチームを組み込んだと聞いてな、少しばかり本気の機体で行こうと思って相談に来た」

 

「なるほど、彼は確か『モビルジン』シリーズの使い手だったね」

 

 そう言うとアランはパソコンから彼の写真とバトルデータを表示させ、私にも見えるようにそれを向けた。

 

「天ノ川昴、最年少プロであり、高機動タイプのモビルジン……『ジン・ハイマニューバ』のカスタム機体で世界大会に出場、年齢とは思えないほど巧妙なマニューバとアシムレイトを併用した高速近接戦闘を得意としてるところから今の二つ名を頂戴していた」

 

「数ある量産機系ガンプラの中でも、弄りが難しい『モビルジン』シリーズの使い手は中々居ないからな。それに――」

 

「『ザク殺し』の異名だね。けどそれは彼の目の前でジンを酷評でもしなければ、ならないだろうから関係ないと思うよ」

 

 それはそうなのだが、あそこまでジンの特性を理解したうえで、どんなに上手く消した合わせ目を的確に切り裂く技量を持つパイロットは中々に珍しいのも事実だ。

 

「ちなみにだけど、当日の機体のベースは決めていたりするのかい、達哉?」

 

「……一つだけ候補があるのだが、どうにも私ではこの機体は改造しにくい」

 

「改造しにくい?メイジンである君が?」

 

 アランに持ってきたそれを見せると、少し驚いたがすぐに納得の表情を浮かべた。

 

「なるほど、けどまさか君がこの機体を使うとはね。どういう風の吹き回しだい?」

 

「彼と戦うことが決まってから候補は絞ってはいたんだが、今日の彼のメッセージを見て本気で戦うのなら……と」

 

「分かったよ。君らしい戦いができるように、全力で作って見せるよ」

 

「助かる」

 

 そうして私はアランと軽い世間話のあとそこから出る。

 

「たぎる試合をしたいな、少年」



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閑話③ コーチを探せ

「さてお前ら、現在ガンプラバトル部は結構な意味で危機的状況に陥っている」

 

 放課後、二年生一年生それぞれ全員が集まる中、俺はいわゆるゲンドウポーズで席に座っている。

 

「曜、お前なら分かってるよな」

 

「ちょっと待って、なんで部長の私じゃなくて曜ちゃんなの!?」

 

「お前の頭は鶏だからだバカ千歌」

 

 この間のテストなんか、赤点こそないが平均点数50.0点とかどうなんだ?平均すぎるぞ。

 

 なお俺と曜、梨子の三人はそれぞれ上から数えた方が早いくらいで、ルビィと花丸も同じく、津島は少し劣るがそれでも充分上位なのは明記しておく。

 

「んで、曜?」

 

「危機的状況って、コーチが居ないからって事でしょ?」

 

「ピギッ!!そんな大変な状況なの!?」

 

「そんな状況なんだよ」

 

 何度も言ってるが、ガンプライブ出場の条件の一つに『顧問または指導者が最低1名存在すること』とある。これはあくまで部活の大会という名目である以上、大人という保護者が必要であると明記するための条件だ。

 

 うちのガンプラバトル部はメンバーこそ6名も居るが、顧問や指導者は存在してない。強いて言うなら鞠莉さんだが、理事長とはいえ同じ高校生なので話にならない。同じ理由でプロである俺も同様だ。

 

 ちなみに他にも『学業不振でないこと』、『機体は全てオリジナルカスタマイズであること』、『肩にチームエンブレムの入ったシールを張ること』、『チーム専用の衣装を用意すること』というものがあるが、ここではとりあえず割愛しよう。

 

「今度お前らを参加させる東京の大会もガンプライブと同じレギュレーションだから、唯一満たしてないのが保護者枠なんだよ」

 

「それならまるのおじいちゃんに頼めばいいずら?選手としては引退してるけど、保護者なら」

 

「残念ながら身内保護者は規則で禁止されてる」

 

 というのも身内が保護者枠の場合、事故や怪我などの万が一の事が起きた場合の対処ができなくなる可能性があるためだ。

 

「なら霜澤さんとか、鞠莉さんのところのプリペンターは?」

 

「プリペンターは鞠莉のじゃなくて小原財閥の一部門だから、いろんな意味で毎日大変だから無理だな。それに霜澤さんは本業は蟹漁師で模型店も経営してるんだ、これ以上仕事を増やしてやるなよ」

 

 フェリーニさん曰く、ちかりこようの三人に特訓を着けたときは偶々店が閑散期で漁のほうも禁猟期だったからできただけで、そうでなければ色々だと言っていた。

 

「なら緒川さん……パパの秘書のアイツは?」

 

「そろそろ選挙近づく季節で忙しくなるんだからやめてさしあげなさいな」

 

 まぁあのリアルSINOBIならできなくはないだろうが。

 

「むー……」

 

 千歌は剥れてるが、こればかりはしょうがないからな。

 

 そんなとき、狙ったかのようにスマホが鳴り、映ってた名前に一瞬驚くがすぐに通話に出る

 

「もしもし」

 

『あ、昴はん?今大丈夫ですか?』

 

「ええ、急にどうしたんです真央さん?」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

 女子メンバー全員驚いてるが、俺自身が一番驚いてるのでとりあえず無視する。

 

『いや~ちょっと旅館の方に工事が入ってもうてな~せやから昴はんの友人さんが経営しとる旅館に暫く厄介になりたいんやけど』

 

「工事って、何かあったんです?」

 

『あったというか、老朽化のせいやな。結構ガタが来とるから、1度耐震とか含めて完全改修するって三咲ちゃんが』

 

 そういえば確か前に1度行ったとき、壁とかがボロボロだった気がする。

 

『それに世界大会出場者が良く来る旅館の変わりをやるから、三咲ちゃん達も可能なら手伝いしたいって言うてくれとるよ』

 

「あー、そういや何気に彼処って老舗ですからね」

 

 何せ真央さんや伊織さんといった世界大会出場を何度もしてるファイターが行きつけにしてるくらいだし。

 

「けど『とちまん』にはバトルシステムは置いてませんよ?」

 

『それについてはそちらが良ければ業者に頼んでうちのおんぼろで良ければ渡します~』

 

「……とりあえず、『とちまん』と話をしてみますから、明日こちらから折り返しても?」

 

 かまへんよ~という了承を貰い、俺は挨拶をすると電話を切った。

 

「と、いうわけだが……千歌、これからとちまんに向かうが……なんとか説得するの手伝え」

 

「え、えぇぇぇ!!」

 

 

 

 結果から言うと、話したところ簡単というかあっさりというか、高海家家長であり、あのトンでもロリママ……千歌ママさんの登場&鶴の一声で受け入れ許可が出た。

 

「あの姿で三児のママ……」

 

「いつも思うが、あの人会うたびに幼児化が進んでるよな」

 

「それは……否定できないけど」

 

「だろ?絶対アレ、アポ○キ○ン48○9飲んでるって」

 

 俺と梨子さんの言葉に千歌は微妙に引き攣った顔で頷く。確か俺が小学生の頃から身長とか見た目が全然変わってないしな。

 

 しかも昔1度だけガンプラバトルしたことがあるが、小学生とはいえ結構出来の良かった俺の素組『ジン』を、同じく素組の『チビッガイ』でフルボッコにされた経験があり、未だに『ベアッガイ』シリーズを見る度に体の震えが止まらないくらいだ。

 

「でも良かったね、これで真央さんに良い返事ができるよ」

 

「……いや、これはある意味チャンスだぞ」

 

 今更ながら状況を頭のなかで確認し、まるで電撃のように結び付く。

 

「……昴くん、悪巧みしてないよね?」

 

「?俺は悪巧みとは一切無縁だぞ?」

 

「「嘘だね」」

 

「酷くねえか!?」

 

 こんな純粋な人間を捕まえて悪逆非道とはどういう了見だ。

 

「昴くん達との三対三」

 

「あれは鞠莉が仕組んだことだ。俺はただスポンサーからの命令に従っただけだ」

 

「鞠莉さんからノリノリで計画に荷担してたって聞いたけど」

 

「寧ろ諌めてたんだが?お前らあの鞠莉が誰を呼ぶつもりだったか分かってるのか?」

 

 あのダブルカワグチを呼ぶつもりだったんだぞ?あのバトルでは一切自重自粛の欠片も無いどころか、寧ろ大人げないことで有名な二人を。

 

「この間の善子ちゃんの一件は?」

 

「アレも鞠莉からの依頼だ。寧ろこっちは津島にフルボッコにされたんだぞ」

 

「……昴君って実はそこまで戦績高くないの?」

 

「グハッ!?」

 

 梨子さんからの鋭い一言に俺は崩れ落ちる。というのも真央さんとの練習試合以来、本編で1度も白星挙げてないのだ。しかも大抵メタ張られてのフルボッコ、正直泣きたい。

 

「実は昴くんが一番ガンプラバトル部では最弱?」

 

「ぐほっ!?」

 

「しかも一月後に負けにいくのが確定してるメンバーとの試合でまた黒星」

 

「がはっ!?」

 

「負けてばかりの主人公って、もうタダのネームモブなんじゃ」

 

「やめて千歌ちゃん!?昴くんのライフはもう0よ!!」

 

 千歌のオーバーキルに俺は完全にノックアウト、気付けば海岸でのの字を描いていた。

 

「あいきゃんだいぶ……」

 

「「待て待て待て!!」」

 

 意気消沈で海に沈もうとしたが、流石に両腕を二人に羽交い締めにされて阻止されてしまう。

 

「アハハ……どうせ最弱なんだ……俺もジンも。ザクに比べて改造しにくいしさ、機動性が高いだけだって弱いって何度も言われたしさ……うん」

 

「あ、卑屈モードに入っちゃった……」

 

「こら千歌!!昴をあんまり弄らないの!!こう見えてメンタル弱いんだから」

 

「果南ちゃん!?」

 

 いつのまに現れたのだろうみんなのお姉さん果南に俺は所謂お米様抱っこされると、

 

「あとは私が何とかするから、昴は貰ってくよ」

 

「「え、あ、はい」」

 

 お持ち帰りされました、まる。その後?聞くだけ野暮ということにさせてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なお数日後、此方へやって来た真央さんにコーチを頼んだところ快く引き受けてくれたことは、また別の話。

 

「ちょ!?ワイの出番少なすぎとちゃいますか!?」

 

「台詞すら貰えない私よりは良いと思いま~す」

 

「そもそも名前すら出てきてないのですが、私の場合」



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嵐の前の闇 その一

東京の前に数話のオリジナルです。ある意味この作品の中心にもなります。


 真央さんがコーチに就任してはや一ヶ月、もう七月の海開き近くになった俺達はというと、

 

「ずら丸動き遅い!!敵に囲まれてるわよ!!ルビィ……じゃなくてサフィは動きすぎよ!!援護するこっちが当てそうじゃない!!」

 

「ずら!?でもこの機体はまだ遅くて」

 

「寧ろ善子の方が何もしてないでしょうが!!バスターライフルバカスカ撃ってるだけで!!」

 

「何ですってこのコランダム娘が!!それと、私は善子じゃなくてヨハネって呼びなさいよ!!」

 

「廚二発言してる暇あったらもうちょっとマシな指揮しろや!!」

 

「……まぁたやってるよ」

 

 俺はドリンクを飲みながら目の前で『エンドレスハイモック』という、十秒置きと倒すごとに新に強化されて出てくるハイモックをチームで無限に倒しまくるという苛酷練習を、喧嘩しながらもほぼ毎日やってるアイツらに呆れていた。

 

「せやけど、これって結構ソロでも練習になりますし、昴はんも良くやってらっしゃったでしょ?」

 

「そりゃ機体の慣らしには丁度良いですからね。このモードだとダメージゲージはカウントされますけど、基本的に粒子無限なんで。真央さんは?」

 

「ワイの場合サテライトスマッシャー作ってからは殆ど作業ゲーのようになってしもうたので」

 

 肩をすくめてるが、俺からしたらあんな変態兵器を作ればそりゃさもありなんとしか言えない。

 

「で、どうなんです真央さんの目から見て一年生の実力は」

 

「……正直言うと、チーム戦には向かないメンバーばかり集まったっていうのが的確でしょうな」

 

 ため息でもつくように真央さんは呟く。

 

「まず津島善子ちゃん。彼女とエンゼロの改造機の『ウィングL(ロスト)0シフェル』はまさしく人機一体となった、粒子の動きを読める彼女のためだけのオリジナルって言ってもええ機体ですわ。多分これ以上のカスタマイズは無理、完成された究極の一というべきや」

 

「次に国木田花丸ちゃん。師匠が言うてた国木田流の正当後継者言うだけに、どんな機体を乗せても殆ど対戦動画さえ1度見れば大抵動かせるのはある種恐ろしいです。これでつい最近までまともにバトルに触れてなかったんやから、もしもを考えるとゾッとしません」

 

「そして黒澤ルビィちゃん。昴はんの弟子一号だけいうに、器用にそつなくこなせるうえに、人格入れ替わって遠近の対応が変わるオールラウンダー。しかもガンプラ作成の技術でも昴はんとタメ張れるんやから、正直この三人がうまく作用したら多分化けまっせ?」

 

「そのための課題は山ほどありますけどね」

 

 津島の場合はコミュニケーション能力と指揮能力、花丸ちゃんはガンダムについての知識と彼女自身のオリジナル機体、そしてルビィは……

 

「……まぁアクは強いですけど実力と将来性は抜群でっしゃろ。多分そこだけ見れば二年生三人よりも強いのは明確」

 

「それでもアイツらに勝てない。単純にチームワークがなってないからな」

 

 千歌、曜、桜内さんの三人はどちらかと言えばバトル初心者に近かったが、それでも付き合いの良い三人だからか、練習では基本的に桜内さんの指揮で二人がきっちり動くのをこなすのは何度も見てきた。

 

 事実、近接戦闘で扱いづらい対艦刀を主軸に場を荒らす千歌、中距離戦闘で撹乱する曜、そして圧倒的な弾幕と火力と指揮で支える桜内さん、まるで初めから決まってたかのように歯車が回る三人に、俺は1度負けたのだ。

 

「そういえば、その件の三人は何処へ?」

 

「鞠莉に話があるんだと。おおかた今日の朝の統廃合について聞きに行ったんだろ」

 

「そういう昴はんはまるで知ってたかのような口ぶりですな?」

 

「そりゃ俺のスポンサーは小原財閥だからな」

 

 まぁ最近ちょっと考えてることもあるがな。

 

「それに……いや、これは関係ないか」

 

 

 

 それはあの日、果南に連行された日まで遡る。

 

「……鞠莉から聞いたよ。昴、千歌達を東京に連れてくって」

 

 寝起き、同じベッドの隣で俺に抱きつきながら果南は俺に聞いてきた。

 

「……元々は俺がプロとして出るだけだったんだけどな。千歌が実力を知りたいって」

 

「けどそれじゃあ……」

 

「大丈夫だ、その日にはメイジンも居るんだ、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 俺の言葉を聞いても不安なのか、直に触れあってる肌をさらに密着させてきた。

 

「心配するな、アイツらならお前が俺に言ってくれた()()()()を見つけられる……そんな気がするんだよ」

 

「……でもそれで千歌達が立ち直れなかったら?」

 

「怖いのか?」

 

「……」

 

 顔を背ける相棒に苦笑しながら、俺は優しくその髪を撫でる。

 

「千歌の強さはお前が一番知ってるだろ?それにもし何かあったら、今度は俺が――」

 

 

 

「――今度は、俺が支えてやる。助けられてばかりは、カッコ悪いしな」

 

 空を見上げ、雲一つ無い蒼穹に笑みを浮かべながら、俺は久しぶりの一人の家路に――

 

「……天ノ川昴、だな」

 

 その時、木陰から聞きなれない声を掛けられ俺は自転車を止めると、そこには真夏近いというのに全身フードの何者かが立っていた。

 

「……なんだ?」

 

「……貴様は我々の邪魔になる。故に!!」

 

 そう言うと奴は懐から謎のボールを取りだし地面に落とす。するとまるで周囲を覆うように謎の緑の壁が現れ、さらに小型のガンプラバトル装置が出現していた。

 

「これは!?」

 

「さぁ、バトルだ!!」

 

「ぐっ!!」

 

 逃げられない、そう悟った俺は鞄から愛機を取りだし、GPベースをセットする。

 

「天ノ川昴、『ジン・AHM verⅡ』出るぞ!!」



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嵐の前の闇 その二

 フィールドは至って普通のコロニー宙域で、俺は漸く使うのにも馴れた『ジン・AHM』に増設された頭部センサーを展開し敵を探る。

 

「……見つけた!!」

 

 真っ正面からやって来たのは『バルバトスルプスレクス』の改造機だろうか?黒と紫のツートンカラー塗られたその機体の手に握られた二本のソードメイスを振りかぶりながら突撃してきた。

 

「アレを直接受けるのは厳しい、な!!」

 

 俺は両手の突撃銃を構えて後ろに下がりながら打ちまくる。重斬刀の代わりに新に装備された刀系ブレードで受ければ、弾かれるどころか壊されるのは目に見えていた。

 

「そんな豆鉄砲が、この『ベリアル』に効くものか!!」

 

 奴はそう叫び、その装甲で銃弾を受けながらなんと、ソードメイスの柄同士をドッキングさせるとそれをまるでブーメランか何かのように投げてきた。

 

「ぐっ!?」

 

 思わずブレードを二つとも抜いて交差ガードするが、やはり重たいソードメイスを投げつけられたせいで体勢を崩す。が、それ以上に

 

(手の痺れがヤバイ!!アシムレイトは使ってないのに!?)

 

 アシムレイトを使える人間には二つのパターンがある。バトル中ずっと発動し続けるタイプと、任意で発動し解除するタイプ。俺の場合は後者で、相手の機体を見てからアシムレイトを発動する。

 

 なぜなら俺のアシムレイトは異様も異様で、相手も強制的にアシムレイトにするもの。だから半アシムレイト化する阿頼耶識持ち機体(オルフェンズ系統)未来予測(ゼロシステム)持ちと戦う際には、相手を強化させることになりかねないからだ。

 

 今回の敵に関しても『ベリアル』と名乗ってはいるが、ベースはどう見ても『バルバトスルプス』及び『ルプスレクス』、翼の形状から見て『バエル』も組み込んでるのだろう、ガチガチの阿頼耶識機体だ。

 

 故に今日も今日とて縛りプレイを余儀なくされてるというのに、アシムレイト特有のフィードバックを受ければ驚くなと言う方が不可能だ。

 

「ちぃ!!」

 

 ブレードを再びしまい、今度はバズーカ砲(キャットゥス無反動砲)を抜いて放つが、それも今度は掌が光ったと思いきや、当たる数メートル前で弾頭が爆発する。

 

「パルマキオフィーナか!?厄介なものまで!!」

 

 パルマキオは射程こそそこまで長くはないが、その威力はビームライフルと同等、ここまできて俺の背中に嫌な汗が流れ始める。

 

(武器が殆ど全て封殺されてるか!?)

 

 オルフェンズ系統の機体にはナノラミネートアーマーという耐ビームコーティングがあるせいでビームキャノンは効かない、重突撃銃も多少は聞くが殆ど弾かれるのはさっきの通り、加えて接近戦を仕掛けようものなら腰のテイルブレードに切り裂かれる。普通なら詰みとしか言いようがない。

 

 そう、()()()()

 

「その作り込みとバトルセンス、並みのファイターじゃねぇよな?」

 

「……」

 

「目的はなんだ?俺は誰かに恨まれるような事はしてないぜ?」

 

「それを私が言うとでも?」

 

 奴は腰に伸縮してマウントしてたのだろう、『ウヴァル』のハンマーを改造したのだろう双刃の大鎌を取り出すと、頭上にてそれを回転させ構える。

 

「だろうな。けど、俺もただで負けてやるほどプロとして堕ちたわけでもねぇんだよ」

 

 だから

 

「ここから先は、少しばかりギアを上げるぞ!!」

 

 俺はアシムレイトを最大発動し、ブレードを抜いて一気にスラスターを全力で吹かせた。

 

「馬鹿め!!破れかぶれの突撃など!!」

 

 奴も此方に向かって突撃、その鋭い大鎌を瞬く間に振り上げた……が、

 

「遅い!!」

 

 俺は右手のブレードを下から振り上げるように切り抜く。ブレードの刃は宙を空振り、大鎌の刃が降り下ろされたその時、

 

「な!?」

 

 パキン!!という甲高い音と共に刃の二つが根元から切り裂かれていて、吹き飛んだ刃がそこらを飛んでいたデブリに突き刺さる。

 

「なんだ!?貴様……いったい何を!?」

 

「あ?その鎌の刃と(ポール)()()()()()()()()()()()()()

 

「な!?」

 

 奴は驚いてるが、すぐにおかしいと気付いたのか声を荒らげる。

 

「だ、だが貴様のブレードは空振りしたはず!!それなのにどうやって!?」

 

「高校生とはいえプロの俺が近接武器で、PS装甲系の対策をしてないとでも思ったか?」

 

 俺は距離を取り、近くの暗礁に向かってブレードを空振るう。そこからまるで流れるような灰色の粒子の光が出現し、それは暗礁を一刀両断に切り裂いた。

 

「俺のブレードには薄く纏う程度だが、粒子の刃を展開できるようにしてある。そしてこいつは、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 かの『アーリージーニアス』こと八島ニルスも使っていた技術だが、勿論若干覆う程度の粒子を飛ばしてるのだから威力は低い。が、機動性を極限にまで高め、アシムレイトを発動してるからこそできた技。

 

「まさか貴様の『合わせ目斬り』の正体は!?」

 

「その通りさ!!アシムレイトを使うことで限界まで加速させたビームの刃を、ガンプラという機体のうちでどうしても脆弱になる合わせ目に合わせて切り裂く!!ただそれだけの、誰にでもできる技だよ」

 

「誰にでもできるわけあるか!!」

 

 そんなことはない。同じアシムレイト使いのメイジンならコツさえ掴めば多分できる。

 

「そんな悠長に叫んでて良いのか……よ!!」

 

「な!?しまっァァァァァ!?」

 

 できた隙に超高速移動を繰り返しながら斬撃の雨霰を至るところにぶつける。元々装甲のプラスチックが外しやすいオルフェンズ系だ、しかもパーツこそ様々なものだが、フルスクラッチ機体じゃないために、ある程度元になった機体を思い出せば簡単に合わせ目を切り裂ける。

 

「ぐ!!このぉ!!」

 

 怒り心頭とでも言うが如く、パルマキオフィーナを放ってくるが、極限にまで加速した機体には掠りもせず、そむしろ伸ばした腕の装甲をまるごと合わせ目斬る。

 

「グァァァァ!!」

 

「ち、さすがに(パルマキオフィーナ)は合わせ目が無いから斬れないか。だが」

 

 仕方ないので掌を腕から両方とも切り裂くが、すでに装甲は上半身と右足を全て切り裂き、憐れガンダムフレームそのものの姿が剥き出しになってしまっていた。

 

「さて、お前の知ってる情報、全て話して貰おうか?」

 

「……貴様に話すことなど一つもない!!」

 

「そうかよ!!」

 

 俺はブレードを奴の胸部中央に突き刺す。途端奴のつんざくような悲鳴が聞こえ、すぐにバトル終了の表示が出た。

 

 バトルが終わった直後に謎の空間とバトルフィールドは消滅し、目の前に座り込む奴の姿だけがのこる。

 

「さて、奴さんは……」

 

 確かめるように倒れてる奴のフードを取っ払うと、そこにいたのはまるで薬でもキメたような虚ろな瞳をした青年で、少なくとも俺と同い年ぐらいだと思う。

 

「息は……してるけど」

 

 どう見ても目の焦点が合ってない。幾らアシムレイトのフィードバックがあったとしても、ここまで酷くなるなら普通気絶してる。

 

「……きな臭い事になりそうだな」

 

 嫌な予感を感じながら、俺は警察に通報する。

 

 後日知ったことだが、この青年は行方不明届けが出てはいたのだが、なんと届け出がでていたのは東北のとある都市だったという。

 

 その時の俺は知らなかった。狙われていたのが俺だけではないということと、そしてこれが、この激動の一年の本当の開幕の烽だということに。




今回のオリジナル機体『ガンダムベリアル』を考えてくださったmasayaさん。少し機体に合うように修正はしましたが、貴重なオリジナル機体をありがとうございます。

またまだまだ募集はしてますので、よろしくお願いいたします。可能な限り出していけるようにしていきたいと思っています。


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嵐の前の闇 その三

今回は今後への繋ぎなので短いですので、ご容赦ください。


「……刺客が一人ヤられたみたいだな」

 

 とある暗闇、置かれたテーブルと椅子に集まる九人の謎の集団が、とある映像を見ながらそんなことを呟いた。

 

「流石サンダルフォンの継承者候補というわけか、奴もそれなりに実力はあったはずだがな」

 

「それでも我々には二歩も三歩も劣る雑魚ですからね。それに機体のスペックが上だというのに負けるならそこまでということです」

 

「アディーシェ、事実とはいえ言い過ぎだろ。奴に関してはプロという立場もある、スペックだけならば同等とは言わんが、大差は無いだろ」

 

「流石は愚鈍なエイリー、そんなだから私達の誰にも勝てないというのに」

 

 エイリーと呼ばれた男はグヌヌと頬を引き攣らせているが、事実なのか何も言い返さない。

 

「それよりも問題は奴の周りだ。Aqours……とか言ったか?奴等全員が候補とはいったいどう言うことだ?」

 

「偶々……とは言いがたいですね」

 

「……彼女たちはまだそこまで驚異となる程ではなかったというべきでしょうね」

 

「どういうことキムヌート?」

 

 その質問に、キムヌートと呼ばれた彼女は苦々しく呟く。

 

「単純な話です。Aqoursというチームのうち、三人はバトルを殆どしてなく、一人は傷心にて転入、一人は不登校、奴に関しても去年のアレで精神的に不安定、マトモな候補は春までは二人だけ、しかも姉妹だ」

 

「詰まるところ何が言いたい?」

 

「簡単なこと、誰かまでは分かりませんが、Aqoursというチームには既に()()()がいる」

 

『!?』

 

 その言葉に全員が驚く。というよりもそれはあり得ないという表情に近い。

 

「バカな。継承者だと?だとすればなぜ我々に分からない!!我々には!!」

 

「そうだ、第一継承者が居ると言うなら、そやつの機体には継承者の力が宿してあるはず!!」

 

「そこまでは分かりません。が、ちょうど良い適任者が居ますからすぐにでも分かりますよ」

 

「適任者?いったい誰のことだ?」

 

「シェリダー」

 

 彼女の言葉にまたもや全員が驚く。

 

「キムヌート、忘れてないか?シェリダーは既に」

 

「正確にはシェリダーの候補が居るというだけです。いえ、もう少しすれば完全に継承することも可能でしょう」

 

「へぇ?いったい誰さ?」

 

 一人がそう言うと、キムヌートはとある画像を呼び出した。

 

「これは……あぁ、なるほど。確かにこれは適任だな」

 

「上手くすれば我々の側に率いれることもできるからな」

 

「だがこんなの事があり得るのか?両方の継承の候補になるなど」

 

「彼女の候補のザフキエルとシェリダーは表裏一体、つまりどちらにでも転ぶということですよ」

 

 キムヌートの言葉にある程度皆が納得すると、キムヌートは立ち上がる。

 

「それでは私は準備がありますのでこれにて」

 

「あぁ。頼む」

 

「ええ、必ずやシェリダー……()()()を此方に率いれてみせましょう」



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Extreme Burst その一

 あの謎の男との対決から一夜明け、俺は部室のノートパソコンにてとある画面を睨み付けていた。

 

「あれ?どうしたの昴?」

 

「曜か……いや、これだよ」

 

 そういって友人であり従姉である彼女に画面を見せる。そこには世界大会地区予選のサイトが書かれていた。

 

「地区予選のサイト?これがどうしたの?」

 

「どうしたっていうか……ちょっとな」

 

 尻窄みになる言葉に疑問を覚えたのか、曜は首を傾げてくる。

 

「でも昴はプロだし出場するんでしょ?エントリーシートだってもう出したみたいだし」

 

「あぁ……そうなんだがな」

 

 俺が唸ってるのはプロとか以前に、とある約束を知人としてしまったせいというか。

 

「……まぁ、なんとかなるか」

 

 あの二人の関係が今すぐにどうこうなるわけでもなし、暫くは棚上げしておくことに決めた。

 

「……で、千歌達アイツらは何処にいった?」

 

「千歌ちゃんは梨子ちゃんにプラモ作りの指導中。一年生三人は花丸ちゃんの機体の候補探しに真央さんと出掛けてるよ」

 

「なるほどな」

 

 目下の課題である二人……地道に練習あるのみな千歌は兎も角、花丸ちゃんの場合は死活問題になりかねない。

 

 何せスモーのキメラ機体じゃ、国木田流の技術を余すことなく使えるわけがない。寧ろ足枷になる可能性もある。

 

「昴君ならどんな機体を選んであげるの?」

 

「俺か?そうだな……それこそストライク系列かインパルスなんだが、千歌と駄々被りだからな」

 

 何せストライカーパックを換装するだけで様々なフィールドに対応できるし。

 

「そうでなきゃ『リベイクフルシティ』とかか?」

 

「『フルシティ』って、あのゴツそうなアレ?」

 

「あの機体にビームマシンガンとかの連射武器持たせてみろ?フルバーストされたら大抵詰むわ」

 

 しかも実弾射撃もある程度耐えられる、ビームは無効、近接武器にもビームの刃を展開できるようにしたら多分俺じゃ勝てない。果南でも苦戦は免れない。

 

「それは……うん、無理かも」

 

「まぁ惜しむらくは機動性が低いことだな。あんなガチムチ機体で機動性まで良かったらそれこそ手に終えん」

 

「アンタは私の幼馴染みに何をさせるつもりよ!!」

 

 と、どうやらショップから戻ってきたのだろう津島のハリセン一発を頭に受けた。

 

「イテテ……態々戻ってきたのかよ」

 

「ご挨拶ね、まぁ私は家に戻るつもりだったんだけど……ずら丸が一緒に作れってうるさくて」

 

「でも善子ちゃん、花丸ちゃんに頼まれて照れてたよね?」

 

「ルビィ!?」

 

 俺の弟子にバラされて恥ずかしいのか、ギャーギャー言いながら追いかけっこを開始する。

 

「二人とも、部室で走り回ったらダメずらよ」

 

「グヌヌ……それよりもさっさと機体作るんだから、準備しなさいよね!!」

 

 はいずら、とそう言って持っていた大きめのビニール袋から花丸ちゃんは買ってきたのだろうキットを取り出す。

 

「へぇ、『アルケイン』か。珍しいのを買ってきたな」

 

 『アルケイン』……正式名称『G-アルケイン』。Gレコのヒロイン機体であり、初期の方に出してしまったせいで不遇になってしまったキットでもある。

 

「どういうこと昴?」

 

「簡単にいうと、『フルドレス』パッケージが入ってないんだよ。アニメ見れば分かるが、フルドレス無しのアルケインの武器はスナイパーライフルとビームサーベルぐらいなんだ」

 

 だからか、フルドレスは完全にスクラッチビルドするしかないため、中々に良い機体とは言えないのが実情だ。 

 

「けど善子ちゃんが、まるにはこれが良いって」

 

「へぇ、てことはフルドレスは善子が担当か」

 

「そんなわけ無いでしょ。それじゃカスタマイズ機体にならないじゃない」

 

 呆れるように言う善子の言葉に全員が首をかしげる。

 

「ならどうするんだ?言っちゃ悪いがそれ以外でアルケインを使う理由が見つからないんだが?」

 

「勿論だけど、ずら丸の機体(アルケイン)のバックパックは私が作るけど、フルドレスなんかよりももっとずら丸の力を生かせる機体に仕上げるのよ」

 

「……よく分からんが、それは強いのか?」

 

「普通の人間が使ったら弱い、けどずら丸が使うからこそ真価を発揮する武装。それじゃいけない?」

 

 詰まるところ文字通り花丸専用機にするつもりか。けど、

 

「……それ来週の東京遠征に間に合うのか」

 

「無理ね。幾らヨハネたる私……いえ、先輩とコーチと梨子先輩に手伝ってもらって頑張っても難しいわ」

 

「いったいどんな武装を作るつもりだお前は!?」

 

 少なくともここにいる中でトップクラスビルダー三人の手を借りても間に合わないってどういうことだよ。

 

「勘違いしないで欲しいけど、普通に武装を作るだけじゃダメなのよ」

 

「……つまり面倒なのはシステム回りってことか?」

 

「そ、変形システムとの兼ね合いもあるし、何より取り回し、ずら丸が扱い安いかの確認、出力と使用粒子量の調整とかで少なくとも10日は掛かるわ」

 

 そこまで言われて納得した。確かに俺、桜内さんの二人は機体のビルダーとしてはトップクラスだが、システムエンジニアとなると難しいと言わざるを得ない。

 

 真央さんなら多分できるが、花丸ちゃんに最適化すると言う作業については、幼馴染みである津島善子以外には難しいのかもしれない。

 

「だから完成するまでずら丸には今ある『スモッグ』を可能な限りリメイクビルドした奴で出てもらうしかない。わかった?」

 

「……花丸ちゃんはそれでいいのか?」

 

「ビルダーとしての善子ちゃんに心配はないずら」

 

 笑顔で応える後輩を見て、俺は思うところがあるにしろ、とりあえず一つため息をつく。

 

「分かった。ただし、当日は五人で参加。津島はメンバーから外す」

 

「ずら!?どうしてずら!?外すならマルのほうが」

 

「津島は全国大会優勝者だ、だから全国レベルを1度体験してる。態々慣らしをさせる必要性はない」

 

 今回の参加の目的は自分達の実力を知ること。だとすれば必然的に出なきゃいけないのは津島を除いた五人。

 

「それに津島の知名度は学生ガンプラファイターとしてはそれなりに高い。態々相手に注目される必要はない」

 

「つまり、手札を隠すってこと?」

 

「言いようによってはそうだ。だから津島、お前は当日俺と一緒に行動だ。下手に勘繰られると、地区予選でAqoursの不利になる」

 

 今のAqoursに必要なのは可能な限り情報を隠すこと。幸いにして津島はまだAqoursのチームメンバーとしてショップ大会等の公式大会に出場したことはない。

 

 地区予選にはメンバーとして書かなくてはいけないから仕方ないにしても、早いうちにチームメンバーとバレて対策を取られるのが一番不味い。

 

「……それはダメだよ昴くん」

 

 と、どうやら途中から聞いていたのだろう。部室の入口から千歌が真剣な表情で抗議してきた。

 

「昴くん、私達は今7人でAqoursなんだよ?今回昴くんは立場があるからしょうがないけど、それでも誰かを外すなんてそんなこと」

 

「だからお前はバカ千歌なんだよ。メンバーを大切にするのは当たり前だが、試合の時はメンバーは少ない方に優遇される。その時は必ず誰かを犠牲にしなきゃならなくなる。遅いか早いか、ただそれだけだ」

 

「でも!!」

 

「いい加減にしろ千歌!!」

 

 机を殴りながら、俺は今までにないほどの形相をして千歌を睨む。

 

「μ'sに憧れて、ガンプライブ優勝すれば廃校が無くなると思ってるようなら今すぐ言ってやる、そんな単純な世の中じゃねぇんだよ!!確かにμ'sという前例はあった、が、それは言わばただ単に()()()()()()()()()()()()()!!現に似たような状況でガンプライブに出場したところで事態が好転した所なんて数が少ないんだよ!!」

 

 μ'sの活動拠点は東京……引いては秋葉原だ。山手線が通っていてかつ交通網が広い、そしてかの『A-RISE』の綺羅ツバサが、第一回で棄権した関わらず脅威と認めるほどの実力があったからこそ、そしてμ'sというチームに対する憧れがあったからこそできた事だ。

 

「あの鞠莉ですら期限を伸ばす事しかできないことをお前らがやってのける?はっきり言ってやる。それは無謀な高望みだ!!」

 

「でも!!μ'sにできたなら私達にだって!!」

 

「憧れてるだけのお前じゃ絶対に無理だ!!」

 

「二人とも落ち着いて!!」

 

 今にも一触即発な雰囲気に回りが慌てて止めに入り、俺はイライラしながらも振り返り、自分の鞄を手に取る。

 

「お前ができると思うのは勝手だ。けど、現実はそうじゃねえんだよ」

 

「昴くん……」

 

「俺に認めて欲しかったら、まぁお前らじゃ無理だろうが果南を説得してチームに入れてみせろ。話しはそれからだ」

 

 俺はそれだけ言うと部屋から出ていく。知ってるが言えないもどかしさを抱えながら。



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Extreme Burst その二

「むぅ……」

 

 昴くんの言葉を思い出しながら、私達六人は一先ず落ち着くために部室でお茶をしていた。

 

「まったく昴くんは……」

 

 曜ちゃんから事の経緯を聞いた梨子ちゃんがため息混じりにそう呟く。

 

「でしょ。なんかナヨナヨしてたと思ったら今度は噛みついてきて……」

 

「でも昴の言い分も分かるんでしょ?」

 

「それは……」

 

 悔しいけど利に叶ってるとは思うけど、それでも

 

「誰かを始めから切り捨てるなんてやり方は嫌だな」

 

「……まぁでも、私は今回は先輩の意見が正しいんじゃない?」

 

「善子ちゃん!?」

 

 なんと外された本人が納得してるという事実に私は驚いた。

 

「ヨハネ!!……てか逆に聞くけど、そんな仲良しこよしで勝ち進んで行けるほど、全国クラスは甘くはない。チーム戦で敢えて選手なり機体なり、切り札を練習試合に出さないなんてよくあることよ」

 

「でも、なんで昴くんはそんなに怒ったの?それだけなら諭すくらいで充分に伝わりそうだけど」

 

 梨子ちゃんの言葉は最もだ。私もあそこまで言われるとは思いもしなかった。

 

「……そういえば先輩、千歌さんに誰かのこと言ってたわよね?」

 

「ピギ?それって果南さんのこと?」

 

「あ、確かに」

 

 なんでそこで果南ちゃんの名前が出てくるのか、落ち着いた今だからこそ分からない疑問点。

 

「果南……?それって誰?」

 

「私と千歌ちゃんの幼馴染みで、三年生の松浦果南ちゃん。今はお爺さんの怪我で休学して、ダイビングショップで働いてるよ」

 

「松浦……あぁ、そういうことか」

 

 善子ちゃんは納得したような表情をすると、鞄を持って椅子から立ち上がる。

 

「善子ちゃん?」

 

「……私から言えることはそんなにないけど、もしその果南って人を入れるつもりなら、多分一筋縄じゃいかないわよ」

 

「それって」

 

「……良い機会だし、自分達のチームのことを知った方が良いんじゃない。少なくとも、何も知らないで東京に行くよりはマシだと思うわ」

 

 

 

「自分達のチームのこと、か」

 

 帰宅後、私は善子ちゃんに言われた事を思い出すと、ベットに横になりながらモヤモヤした頭を抱えた。

 

「そんなこと、考えたこともなかったな」

 

 今までは、自分達ができることをがむしゃらに精一杯やって来ただけ、それだけしかしてない。だから、余り周りの目がどうだとか考えたこともなかった。

 

『千歌ちゃん、今大丈夫?』

 

「梨子ちゃん?」

 

 窓越しに声をかけられ、私はすぐに部屋を出て窓を開ける。

 

「どうしたの梨子ちゃん?」

 

「その……」

 

「?」

 

 梨子ちゃんの言い淀む所に違和感を感じたが、それはすぐに分かった。

 

「千歌ちゃんは、その、Aqoursについて調べた?」

 

「Aqoursを?」

 

「うん、善子ちゃんと昴くんが言ってた事、多分繋がってると思うの」

 

「繋がり……」

 

 その言葉に疑問に思った私はすぐにスマホを取り出すと、Aqoursについて検索をかけた。

 

「え……?」

 

 そこに写っていたのは私達六人ではない、とある三人の少女達の、晴れやかな衣装姿がそこにあった。しかも

 

「これ、三年生の三人だよね」

 

 そう、多少背格好は違うが、確かにそこには見知った三人の顔、果南ちゃん、鞠莉さん、そしてダイヤさんの三人の姿がそこにあった。

 

「うそ、え、でも……」

 

 慌ててその画像の先を見てみると、そこには数えきれないほどの罵倒の言葉が酷く並んでいた。

 

「Aqours……二年前に彗星の如く現れ、消えたチーム。全国大会出場候補の一つと言われてたが、とある大会をバトルをせずに棄権。それからすぐに消滅した……」

 

「多分昴くん、この事を知ってたんだと思う。だから千歌ちゃんにあんなことを……」

 

 言われてみれば確かに昴くんはダイヤさんや鞠莉さんと仲が良かった。いや、それだけじゃない。昴くんが高校生でプロなんてあり得ないことを成し遂げたが、そのスポンサーは小原……つまり鞠莉さんのところ。

 

 思い出すだけであっという間に繋がっていく事実と仮定、それは恐らく全てが真実だという憶測が頭のなかを電の如く奔る。

 

『鞠莉ですら不可能だったのにお前ができるわけがない』

 

「あの言葉は鞠莉さん達のことを知ってたから?」

 

 だとすれば辻褄は合う。それに昴くんが本気で怒った理由が意味するのは……

 

「……梨子ちゃん」

 

「千歌ちゃん?」

 

「昴くんって、ホントに不器用だよね」

 

 心配してるのに、それを単純に言葉にしなかった幼馴染みに今年何度目かの怒りが沸いてくる。

 

「こうなったら東京で、全力で戦って見せるよ私は!!それで昴くんをギャフンと言わせてやるんだから!!」

 

「ええ!!私も全力でサポートしてあげる」

 

 互いに窓から身を乗りだし、そして手を合わせる。梨子ちゃんと出会ってから何度目かのこれに、互いに笑いながら満天の星空を眺めた。

 

 

 

 

「……来ると思ってたわ」

 

 薄暗くテーブルライトの光だけが輝く部屋で外を眺めながら、入ってきた親友に視線を向ける。

 

「用件は千歌っち達を東京に行かせることかしら?」

 

「……寧ろそれ以外何があるの?鞠莉」

 

 何時になく冷ややかで鋭い言葉を放つ果南は、まるでナイフのように尖ってた。

 

「昴から聞いてるんでしょ。これは寧ろ千歌っち達の方から言ったことよ。私はただそれを許可しただけ」

 

「許可したなら分かるでしょ。あの時、私達に何があったのか。今度は怪我だけじゃ済まなくなる!!」

 

「……」

 

 果南の言ってることも確かだ。それは私が一番に良く知っている。

 

「だから千歌っち達に諦めろ、言えって?」

 

「……」

 

「大丈夫よ。彼女達には昴も着いてるし、あの時とは違うから」

 

 その瞬間、果南の鋭い目がさらに鋭いものに変わる。

 

「昴、昴って、昴は私達のボディーガードじゃない!!昴は大切な幼馴染みなんだよ!!なんで昴にばかり頼るの!!」

 

「……」

 

「あの時も今回も、私達は結局昴に頼ってばかり!!なのに肝心の昴が大変なときに鞠莉は何かしたの?何もしなかったでしょ!!」

 

 それは去年の決勝の後、私は留学中だというのに無理を言って緊急帰国し、心臓がはち切れんばかりにその病室に走った。けど、私は病室に入ることも、声をかけることも出来なかった。

 

 そこで見たのは、複数の医師や看護師に押さえられた昴の姿。聞き手の左にはデザインナイフが握られていて、右手にはまるでリストカットでもしたかのように血が大量に流れていた。

 

 聞けば、記憶復帰における精神錯乱と言っていたがアレはそんな生易しいものじゃない。まるで精神が壊れたとでも言った方が正しかった。

 

 留学先に戻っても、ダイヤに昴の動向をある程度教えてほしいと頼み知ったが、入院中や退院直後は言われなき誹謗中傷でさらに精神を病んだ。メイジン達が立ち上がってもそれは暫く続いた。

 

 そんな中で果南は昴の事を付きっきりで世話をし、やがて昴と果南は一緒になった。ダイヤから聞けば、昴は果南の献身的な態度に不器用ながら依存してたということらしく、また()()()の事があって果南も昴に依存しての共依存だったらしい。

 

「もしまた昴に何かあったら、今度は許さないから」

 

「……果南」

 

「私は昴にただ幸せであってほしいだけ。そうじゃなくなるなら、私は実力でアンタ達に牙を向くから」

 

 それだけ言って果南は部屋から出ていく。まるで子を守る母のような執念にも似た気迫に、私はまたため息をつく。

 

「私だってあの時とは違うのよ果南……」

 

 そんな呟きは、一人だけになった部屋に静かに響くだけだった。



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Extreme Burst その三

「……で、お前らその格好はなんだ?」

 

 大会前日、駅にて俺は腕を組みながら阿呆三人を前にこめかみをヒクヒクと動かし半目で睨む。対する阿呆……千歌と花丸と津島の三人は暑いコンクリートの上に正座で項垂れている。

 

 というのも千歌は何というか田舎感たっぷりとでもいうような、もう少しマトモな服があるだろというような格好。まぁこれは田舎者と思われて笑われるだけだから本人の自業自得だ。

 

 問題は後の二人。花丸ちゃんは探検隊か何かかとでも言うような登山冒険ルック、津島は津島で完全に痛々しいメイクに奇抜な堕天使コスプレファッション。はっきり言おう、この二人とは一緒に同行したくないとはっきり言えるような服装だった。

 

「……初めての東京遠征に浮かれてました」

 

「……東京までは険しい山道だと思ってたずら」

 

「わ、私のアイデンティティーみたいなものよ!!文句……ありますよね、すいません」

 

「とにかく、さっさと着替えてこい馬鹿者どもが!!」

 

「「「は、はい!!」」」

 

 ピューンという効果音が聞こえそうな速さで駆けていく三人に、俺はまったくとため息をついていた。

 

「すんまへんな昴はん、ワイが大型車持っとったら態々電車なんか使わんで良かったんやけど」

 

「仕方ないですよ。竹屋のワゴン車の中は細々とした荷物で埋まってるらしいですし、それに時間も有限ですからね」

 

「それならエエんですけど。ワイって必要あります?なんか前回前々回と台詞一つも貰えとりませんし」

 

 だいぶ気にしてたのだろう、唯でさえ細い目をさらに細めて若干恨み節が入ってるコーチの言葉に俺は顔を背けた。

 

「そ、そういや、今回Aqoursが当たるチームってどこか分かります?」

 

「えっと……あぁ、どうやら多分皆さんフルボッコにされるん確定かもしれませんで?」

 

「どれどれ…………げ」

 

 真央さんは取り出したパンフレットらしきものを確認し、見た内容にあんぐりとしてる。

 

 俺もチラリと見てみると、そのトーナメントに書かれていた対戦相手の出身で何となく察した。それと同時に、ある意味運命なようなものを感じた。

 

(相手がここならアレは無さそうだが……逆に千歌達に取っては一番厳しい相手だろうな)

 

 

 

「……」

 

 青い空を見上げながら、ルビィはつい数時間前の事を思い出していた。

 

「今日でしたわね、ルビィ」

 

「お姉ちゃん」

 

 屋敷の玄関で立っていたお姉ちゃんはどこか浮かない表情だった。

 

「……お姉ちゃんは、やっぱりルビィが東京に行くのに反対?」

 

「……」

 

「お姉ちゃんは嫌なの?ルビィがAqoursに居ること」

 

「ルビィ」

 

 お姉ちゃんはそう言うとルビィの肩に手を置いて

 

「ルビィは自分でAqoursに入ったのでしょ。でしたら私がどうのこうのとだとか、誰に何と思われようが関係ないですわ」

 

「お姉ちゃん……」

 

「大丈夫ですわ。貴女は私に1度勝った、それに周りには頼れる仲間や昴さんが居るんですから」

 

 お姉ちゃんはそう言ってはいた。けども

 

「ただ、貴女も分かってるようですから言っておきます。気持ちだけは強く持っておきなさい。でなければ、呑み込まれますわよ」

 

(あの言葉の意味……)

 

 

 

「ついたな、東京」

 

 電車と新幹線を乗り継いで一時間半、漸くたどり着いた秋葉原に俺を含めて全員が浮かれていた。

 

「さて、とりあえず東京ついた事やし、ここからは数人ごとに別行動と行くにしましょか」

 

「そうですね、俺もちょっと打ち合わせっていうか用事があるんで」

 

 何せメイジン直々に指名されたうえに場所が場所だ。行かないわけにはいかない。

 

 そんなこんなでチームを分けてみたのだが、何というか

 

「どうしたんだろ昴くん?」「大丈夫だよ千歌ちゃん……多分」(千歌・曜ペア

 

「えっと、よろしくね善子ちゃん?」「善子じゃない!!ヨハネ!!」(梨子・善子ペア

 

「どこにいく花丸ちゃん?」「ずら~ルビィちゃんに任せるずら」(ルビィ・花丸ペア

 

 見事に二人ずつに別れた。ここまで行くと逆に清々しいくらいに。

 

「真央さんはどうするんです?」

 

「ワイも少し用事があるんで、一人で行動させて貰います」

 

「そうですか」

 

 まぁ真央さんの事だから変なことはしないと思う。……多分。

 

「じゃあどうせだし夕方の五時に神田明神でな。各自問題は起こすなよ。特に千歌」

 

「えぇ!!酷い!!」

 

 何時もの千歌弄りに全員が笑いつつ、俺達は各自別れることになった。

 

 

 

「ここか」

 

 メイジンに指定された店を見て若干苦笑いになりながら、俺は躊躇わずにそのドアを開けた。

 

「いらっしゃいませ~!!って、昴くん!?」

 

 元気な声でやって来たオレンジの髪のウェイトレスは俺の事を見ると驚いた。

 

「お久しぶりです。()()()さん」

 

 ウェイトレス……もとい元ガンプライブファイター高坂穂乃果さんに挨拶すると、俺はカフェラテと軽食を頼みテーブル席に着く。

 

「久しぶりだな、昴」

 

 と、つい最近二代目になったマスターこと、高坂悠真さんが声を掛けてきた。

 

「お久しぶりです。メイジン達は?」

 

「いや、まだだね。それにしても数ヵ月前と顔付きが変わったな」

 

「……まぁ、色々ありまして」

 

 俺はポリポリと頬を描きながら苦笑いで答える。

 

「しかし、かの有名な二人が揃って一緒の店で働いてるのはどうかと思いますけど?」

 

「それを言うなら、世界中のファイターをここの常連にするのやめてもらうように手伝ってくれ。何せネットで、毎日誰かしらプロファイターが居る、なんて言われてるんだからさ」

 

「事実じゃないですか」

 

 方やメイジン杯トップビルダー、方や二回目のガンプライブ優勝チームのリーダーという、これでもかという著名な二人が居て何を今更。

 

「そういえば、今年こそは音ノ木坂の教員採用試験受かると良いですね穂乃果さん」

 

「むぅ、なんで私のこと知ってる人はそればかりで弄ってくるかな~!!」

 

「いやだって、前回で何度目です?受けるの?」

 

「……五回目だけどさ」

 

 罰が悪そうに答える穂乃果さんだが、これでもちゃんと大学まで通い、多分音ノ木坂以外なら速攻で採用できるぐらいまでちゃんと勉強してるのだから凄い。ちなみに担当教化は現国と地理らしい。

 

「もう諦めて別の教員採用試験を受けたらどうです?μ'sのリーダーですし、いろんな意味で引く手あまたじゃないんですか?」

 

「μ'sのリーダーだからだよ」

 

 穂乃果さんは真剣な表情で此方をみる。

 

「今の私はμ'sの高坂穂乃果じゃなくて、()()()()()()()()()()()なの。だからμ'sとしてしか見ない学校には絶対に行かないんだ」

 

「……ホント、何度聞いてもブレないですね」

 

 逆にここまで清々しく言えるとなると尊敬にも値できる。

 

「まったく、そんなこと言ってるから実家追い出されるんでしょ」

 

「ギクッ!!え、絵理ちゃん……」

 

 と、どうやら到着したらしい待ち人の一人……またもやμ'sの綾瀬絵理さんが呆れるように穂乃果さんに小言を添える。

 

「亜里沙を通じて雪穂ちゃんから聞いてるんだから、ついでに今日会うこと言ったらちゃんと定職に着けって言っといてって伝言預かってるし」

 

「ア、アハハ……すみません」

 

「フフフ、相変わらずね穂乃果さんに絵理さん」

 

 さらに登場した綺羅ツバサの台詞に、辺りが穏やかな表情で溢れる。

 

「さて、あとは呼び出したメイジンだけね」

 

「……済まない、用事が立て込んでいた」

 

 絵理さんが確認した直後、狙ったように来店するメイジン……もとい今は私服だから結城達也さん。

 

「しかし、悠真さんには悪いけどこんなところでガンプラバトル界の著名人大集合ってどういうことよ」

 

 何せ世界的に有名なメイジンとツバサさん、そして前線から退いたもののけそれでも有名すぎるμ'sの二人、アーティスティックガンプラビルダーの悠真さん、各言う自分も良くも悪くも有名なのだが。

 

「なに、それだけ信頼があると言う証拠でもあるさ。なんなら丁度帰国してる伊織くんも呼んで良いぐらいだ」

 

「俺が堪えられないんでやめてください」

 

「冗談だ」

 

 まったく冗談に聞こえない結城さんの冗談に苦笑していると、ふと覚えのない視線に横を振り向く。

 

「……」ジィ……

 

「うぉ!?」

 

 いつの間にか隣でガン見してる同い年ぐらいの男子に俺は驚いて飛び退く。黒髪に眼鏡、だいぶ童顔な彼はというと、

 

「ほ、本物の『灰光の流星』!!」

 

 なんか涙流して感動していた。え、どういうこと?

 

「つか誰!?」

 

「あぁ、その子はうちのチームのマネージャーよ」

 

 絵理さんのその言葉に俺はえ?と2度見した。確か絵理さんのところって、

 

「まさか情報戦でもしようって?」

 

「いえ、単純にその子が貴方のファンだから連れてきただけよ」

 

 にべもなく言われた言葉にずっこけたものの、とりあえずそういうことじゃないというのは分かった。

 

「えっと、名前は?」

 

「は!!すみません!!僕は狐糸辺雪典(こしべ ゆきのり)といいます。よろしくお願いいたしまハグッ!?」

 

 自己紹介で頭を下げた瞬間、座っていたということを忘れていたのか額を思いっきりぶつけていた。大丈夫かこいつ。

 

「いい機会だし昴くん。ちょっとこの子と対戦してもらっても良いかしら?」

 

「待ってください絵理さん!?そんなことしたら機体の情報アドバンテージ無くなるじゃないです!!」

 

 むしろこっちの対策されそうで怖いんだが。この三人にメタ張られたらそれこそ千歌にネームドモブなんて言われかねん。

 

「それは安心しても良いわよ。私もこのあと穂乃果に練習付き合って貰うから、そこで情報を盗んでくれても」

 

「絵理さん、その次私もお願いします」

 

「アハハ……今の私で何とかできるかな……」

 

 絵理さんとツバサさんという二強に対戦相手されることが確定となった穂乃果さんはタジタジの表情だが、寧ろそれを楽しんでるようにも見えた。

 

「ふむ、なら私は悠真君、君に頼みたいが構わないかな?少し慣らしをしたくてね」

 

「ええ、つい最近作った新型の試しをしたかったのでありがたいです」

 

 此方は此方で慣らし運転という名のファイトをするらしい結城さんに、悠真さんが乗っていた。

 

「アハハ……マジですか」

 

「本気と書いてマジよ」

 

 もうどうにでもなれ、そんな事を思いながら俺はすっかり冷めたカフェラテを啜るのだった。



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Extreme Burst その四

「……あの、なんで移動先がここなんでしょうか」

 

 ガンプラバトルということで俺達全員が移動してきたのは、『コウサカ』から歩いて五分のとある模型店だった。

 

 別にバトルするのに模型店に来るのは問題ない。けど、それがあの『イオリ模型』ならば話は別だ。

 

「む、いけないかい?」

 

「いや別にバトルするなら何処でもいいとは言いましたけど……はっきり言っていろんな意味で狭いです」

 

 物理的な意味と肩身的な意味で。ただでさえこじんまりとした模型店に高校生二人と大人五人も居ればすし詰めも良いところだ。

 

「なんで明日の会場にしなかったんです?あそこなら前日ですし準備や調整の名目で使えたでしょうに」

 

「残念ながら、その名目でニルス氏が調整中でね、なんでも今期ガンプライブでの重大発表があるらしい」

 

「……その内容については極秘なんです?」

 

「ふむ、残念ながらメイジンの私にすら教えてもらえなかったよ」

 

 肩をすくめて苦笑いを浮かべてるメイジン……結城さんに俺は嫌な顔を浮かべてしまう。

 

「……奥さんの方の発案だったりします?」

 

「それに関しては絶対にあり得ないとだけ伝えておこう」

 

「なら安心できますね」

 

 何せニルスさんの奥さんの方の企画発案ならどんな意見を押し通してくるか分かったものじゃない。

 

「さて、すまないね伊織くん。勝手にバトルフィールドを借りてしまって」

 

「いえ、何となく結城先輩が出るイベントの前日でしたし、調整に使うかなとは思ってましたから……予想よりだいぶ多いですけど」

 

 俺と同じ位の身長の青年……PPSE時代の世界大会最後の優勝ファイターである伊織星さんが、ガンプラを片付け観戦用のスペースを確保しながらそう呟く。

 

「手伝いますか?」

 

「大丈夫、これくらいは何時ものことだからね。それより機体の調整しなくていいの?この中で最初にやるんでしょ?」

 

「予備のマガジンとかの設定も終わってますし、朝に手入れもしてきたんで大丈夫です」

 

「なら僕に構わずフィールドにどうぞ。設定は明日のことも考えて制限時間は5分、ダメージはC判定で良いよね?」

 

 大丈夫です。そう伝えて俺はフィールドに入り懐から愛用のGPベースをセット、機体を台座に乗せる。

 

「よ、よろしくお願いします!!」

 

 相手の雪典も対峙するように機体を台座に乗せる。その機体を見た瞬間、俺は少し口笛を吹いた。

 

「へぇ、『M1』ベースか」

 

「は、はい。自分もSEED系量産機が好きなんで」

 

 M1……正式名称『M1アストレイ』。SEEDに置いてオーブという国の主力MSであり、ベースが『アストレイ・レッドフレーム』、OSをSEEDの主人公ことキラ・ヤマトが作ったことで、『ダガー』系列よりも操縦しやすく、ザフト系列以上に安定性がある、ガンプラバトル使用者もザク、ジム系統についでというレベルで多い良機体の一つだ。

 

 特に後継機である『ムラサメ』も、変形能力を抜きにすれば外見は『M1』とほぼ同じという面から見ても、その信頼性は確かなものだ。

 

 雪典の機体はそんな『M1』の中でも『シュライク装備』をベースにしてるのか、バックパックには改造した大型ブースターのようなものが折り畳まれ装備されている。

 

「見た目だけでも中々良く仕上がってるな……それに、刀装備か」

 

 ここまで見る限りかなりの高性能機体、流石は白翼の教え子というだけはある。

 

「さて、それじゃあ慣らしバトルと行こうか!!天ノ川昴、『ジン・AHM Mk.Ⅱ』!!出るぞ!!」

 

 バトルフィールドの展開と共に、俺は叫びながら出撃した。

 

 

 

 出撃したフィールドはヤキン・ドゥーエ……何の因果かガンダムSEED最終決戦のフィールドだった。

 

「あのアストレイは……」

 

 角を展開しレーダーを広げると、かなり高速で突撃してくる機体を発見した。しかも

 

「真っ正面からか!!」

 

 そう、まるで一直線に此方に向かって移動しており、数秒でモニターに相手が映る。

 

 展開されたシュライクユニット……というか、円盤フィンではなく『オオワシストライカー』と大型ブースターを取り付けたような背部ユニットに、うちのチームのビルダーを思い浮かべる。

 

「高速で接近してくるだけなら!!」

 

 俺はブースターを最大まで吹かし、こちらも相手に向かって突撃する。その最中に俺は腰からブレードを二つ、両手に構えバレルロールしながら奴の側面を取る。

 

「貰った!!」

 

 左手のブレードを降り下ろした直後、どんな反射神経してるのかという程の速さで奴は右腰の刀を抜き去ると、逆手持ちでそれを防いできた。

 

「(初撃を防いだか)ならこれはどうだ!!」

 

 今度は右手のブレードを下から掬い上げるように下段からの一撃。流石にこれは防ぐのは難しいと考えたのか、右腕のパワーだけで防いでいたブレードを押し返し、すぐにバックブーストで離れる。

 

「(直感もさることながら、技量も高い。セミプロ……いや、下位プロレベル相当の実力は有りやがる)だったらこれはどうだ!!」

 

 今度はビーム砲を展開、さらに弾数が多い重突撃銃を両手に構えてフルバーストの体勢を取る。

 

「ターゲットロック!!食らえ!!」

 

 相手そのものだけでなく、動くであろう辺りにも一斉射し退路を塞ぐ。が、その考えはすぐに崩れ去った。

 

 奴は一直線に此方へ突撃してきたのだ。それも外れるであろう弾は気にせず、直撃するものはその刀で弾いて防ぐという荒業で直進してきた。

 

「ち!!」

 

 当たらない弾丸を射っていても仕方ないと判断した俺は突撃銃とビーム砲をパージし、ブレードを構えて突撃する。

 

 一合二合とぶつかり合う剣戟に火花が飛び散り、すれ違う度に微かな刃傷をそれぞれの機体に付ける。

 

「……正直嘗めてた。幾らあの女神に師事してるとはいえ、そこまでの実力者じゃないってな」

 

 俺は一旦ブレードを下ろし奴へ通信でそう語る。

 

「……これでも、今年の世界大会に出るつもりなので」

 

 世界大会、なるほど確かにそれを宣言するだけの実力はあった。

 

 故に俺は嗤った。これほどの実力者が同年代に居る、それも互いに量産機ベースのプレイヤーで、尚且つこれ以上無い舞台で戦えることに胸が踊った。

 

「いいぜ、認めてやるよ狐糸辺雪典、お前は俺が本気で戦うに相応しい相手だってな」

 

「光栄です。けど、負けるつもりはありません。僕も、僕の『シュツルムアストレイ』も」

 

「なら、その疾風で追いつけるか試してみろ!!」

 

 そう吠えた俺はアシムレイトを発動させ、瞬間、機体と自分が一心同体となる感覚が肌を走る。

 

 そしてスラスターを全力全開で吹かし、ブレードへ粒子を纏わせる。

 

「ッ!?」

 

 直感で察したのか、奴もスピードを上げて肉薄するように接近して、その刀を下段から振り上げてくる。

 

 ぶつかった衝撃か、それとも叩きつけられた粒子が炸裂したのか、とてつもない轟音と共に爆発した互いの一撃で、再び互いの機体が距離を開ける。

 

「てぇりゃぁぁぁ!!」

 

「うおぉぉぉぉぉ!!」

 

 それでも互いに機体を奔らせる。立場など関係ない、ただ目の前の強敵を倒したいという欲求だけが空間を支配する。

 

 故に互いに剣のみでぶつかり合う、射撃などもっての他、ただひたすらに、自らの剣だけで己の信念をぶつけ合う。

 

「切り裂け、『ジン・AHM』!!」

 

「貫け、『シュツルムアストレイ』!!」

 

 ただの一刀、ただ一振り、ただの一撃に今ある全ての熱量を込めて放たれた互いのそれは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Time Up』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――無情にも制限時間という壁に阻まれ閉幕となった。

 

「……」

 

 正直、その瞬間自分自身何が起こったのか分からなかった。なぜ、どうしてという疑問で何も分からなくなった。

 

 漸くそれに気づいた俺は、自分の発言がとてつもなく恨めしく思った。なぜ制限時間を5分にしてしまった、そもそもなぜ制限時間を許してしまったのか、と。

 

 同時にこれが調整練習だということを思いだし、自分がそこまで熱中して対戦していたのかと愕然ともした。

 

(……久しぶりだった)

 

 プロとなってから味わってなかった、自分自身の力を出し尽くした真剣勝負、それを出来たことが何よりも嬉しく、何よりも懐かしく感じた。

 

「おい」

 

「は、はい!!」

 

 俺は彼に向き直って声をかけると、彼は先程までの雰囲気が霧散して一気にひ弱そうな表情に変わった。

 

「……次は決着をつける」

 

「へ?」

 

「俺は今すげェ悔しい、ここまで本気で戦えた相手とちゃんと決着をつけれずに終わったこと。不完全燃焼極まりなくて苛々するくらいだ」

 

 だから、と俺は彼に指を指す。目には鋭い光を乗せ、オーラでも見えそうなほどの雰囲気を纏わせながら。

 

「世界大会、そこで決着をつけてやる。だから絶対に負けるな、俺以外の奴に負けるな。俺が本気で負かしてやるから」

 

「……はい!!けど、一つだけ訂正させてください」

 

 そう言うと彼は眼鏡を外し、俺と真っ向から対峙する。

 

「世界大会では自分が勝ちます。僕と、僕の『シュツルムアストレイ』で、貴方に!!」

 

「ハ、上等だ新兵(ルーキー)!!」

 

 奇しくも今まで居なかった終世の好敵手(ライバル)の登場に、俺はこいつだけには負けたくないという、確かな目標ができたのは言うまでもない。



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Extreme Burst その五

 私、高海千歌は現在いろんな意味で修羅場になっていた。というのも

 

「何よ!!」

 

「ヤんのか!?」

 

 なぜか普段はどちらかと言えば空気の読める曜ちゃんが、身長一回りほど大きい赤い髪の男の子とメンチきってるんだもん!!

 

 

 

 事の発端は昴くんと別れて暫くしてからのこと。私と曜ちゃんの二人はとあるガンプラショップにやって来ていた。

 

「うわぁ~、やっぱり東京だね。今までのスクールファイターのガンプラのレプリカがいっぱいあるよ~」

 

 かのμ'sが当時使っていたガンプラは勿論、A-RISEや他のチームの機体のレプリカは普通のガンプラに比べたら結構な値段だけど、それでもファンとしては買っておきたいものばかり。

 

「こっちにはファイターのバトルコスチュームまで……うう、心が踊りまくりであります!!」

 

 曜ちゃんは曜ちゃんで制服コスプレイヤーの血が騒いでるのか、何種類かバトルコスチュームのレプリカを持っては目を輝かせていた。

 

「あ、矢澤にこさんと小泉花陽さんの最新のガンプラのレプリカまである!!」

 

 積まれていた新発売のガンプラキットの中に、かつてのμ'sで昴くんと同じ現役プロのファイターである二人のレプリカを見つけると、私は懐の中身を確認する。

 

 東京ということで多めに持ってきてはいたけど、やはり元μ'sの二人のガンプラはお高くて、無駄に散財して昴くんに睨まれたくない為諦めると、既に何着かコスチュームを買ってなおかつちゃっかりカタログまで貰ってる親友と一緒にショップから出る。

 

「うぅ、流石は元μ'sの機体、レプリカでもかなり作り込まれてたよ」

 

「けど買わなくて良かったの?」

 

「うん、あんまり使いすぎると大変なことになりそうだし」

 

 そんな他愛もない話をしていたその時、私たちの耳にふと聞き覚えのある音が耳元に聞こえてきて振り向いてみると、先程のショップのすぐそばでなんとガンプラバトル専用のお店があるではないか。

 

「……千歌ちゃん?」

 

「曜ちゃん、少し腕試ししてみない?」

 

「えぇ!?」

 

 私の提案に声は驚いてるが、曜ちゃんは言うと思ってましたとでも言いたいように笑っていた。

 

「私は別にいいけど……壊したら昴くんに怒られるよ?」

 

「そこは一応梨子ちゃんに頼んで一緒に予備パーツ何個か作ってあるから大丈夫……多分」

 

「ふーん?」

 

 なんか曜ちゃんの目が明らかに鋭いジト目だけど、気にしたら負けということでそのお店に入ってみる。

 

「いらっしゃい、お、珍しいね。女子高生かい?」

 

 入って早々店長らしきおじさんが声をかけてきた。

 

「はい、ちょっと東京にきてみたんで自分の実力を確かめてみようかな~なんて」

 

「アハハ、なるほどね。しかし……女子高生ってことは明日の大会の出場者かな?」

 

 おじさんは思い出すように聞いてきたので、私は素直に頷いた。

 

「なら壊すわけにはいかないからダメージレベルはCだね……明日の大会はチームVSルールだったはずだから……ちょうど良いし二人に頼むか」

 

「二人……ですか?」

 

「おう、うちのバイトでな。大学生だがプロ並みに強い奴がタッグ組んでるんだ。今日は丁度二人ともいるから、そいつらに揉んでもらえばいいだろ」

 

 そう言うと店長は一旦奥の部屋に入ると、すぐに年上の男の人二人と一緒に戻ってきた。

 

「お二人さん、バトルの登録するからGPベースを貸してくれないかい?」

 

「「分かりました!!」」

 

 私達がGPベースを取り出そうとしたそのときだった。

 

「……店長、なんで俺らがこんな雑魚の相手してやらなきゃいけないんだよ」

 

 二人いた片方……赤い髪に鋭い目付きをした人が呆れるように呟いた。

 

「司波、お客様の前だぞ」

 

「そうだよ司。それに幾らなんでもそういうことは……」

 

「うるせぇ康一。そっちのオレンジ頭はまぁまだ見込みがありそうだから良いだろうが、もう片方は見るからに小者……雑魚の気配しかしねぇよ」

 

 店長ともう一人の方……黒髪に眼鏡をかけた優等生のような彼が注意するが、我関せずという風に彼は続けた。

 

「……どういうこと? 私達のどこが雑魚なの」

 

 ムカッとしたのか曜ちゃんは食って掛かるように聞くと、彼は笑いながら答えた。

 

「見ただけで分かるさ。テメェみたいな仲良しこよしで、流されて始めたようなファイターほど弱い雑魚はいねぇっての」

 

「ふざけないで!!」

 

 怒髪天にきた曜ちゃんは持っていた荷物(さっき買った紙袋)を私に押し付けると、自らのガンプラ『カノーニア』を突き出す。

 

「そこまで言うならバトルで証明して見せるから!! 貴女が言うほど私は弱くないって!!」

 

「へぇ、良いぜ別に。あとで泣いても知らねぇぞ」

 

「何よ!!」

 

「ヤンのか!!」

 

 と、漸く現在に戻る。私はどうすればいいのかさっぱり分からずオロオロしていると、

 

「ゴメンね、司があんなこと言って」

 

 もう一人の黒髪の人がまさしく頭が下がるように謝罪してきた。

 

「い、いえ……あの人って強いんですか?」

 

「あはは……身内贔屓になるけど司は強いよ。僕はタッグを組んでるけど、アイツのおかげで勝てた試合は多いからね」

 

「タッグ……」

 

 どこをどうしたらこの粗暴な人とほんわか優等生が組むことになったのか訳がわからなかったけど、

 

「昴くんと果南ちゃんみたいなものかな」

 

「昴?……もしかして、あの『灰光の流星』の天ノ川昴プロとそのもう片方の事?」

 

「あ、はい。知ってるんですか?」

 

「知ってるも何も、タッグバトルで無敗のコンビで有名だったからね。一昨年の春に一度だけ……まだプロになってなかった時期に……大会でぶつかったけど、あそこまで苛烈なバトルは忘れられないよ」

 

 まさかの言葉に私は頭を抱えた。まさか知り合いがこうも縁を結ぶとはどうなってるんだ、と。

 

「けど最近はあんまりタッグでは見ないんだけど……よく知ってたね」

 

「えっと……私達、一応幼馴染みのクラスメイトなんで」

 

「んだと!?」

 

「えぇ!?そういう繋がり!?」

 

 これには曜ちゃんと視線をぶつけていた司さんも驚いてこちらを見るくらいで、私は言ってから冷や汗が止まらなくなった。

 

(これ、絶対曜ちゃんが昴くんと従姉弟だって言わない方が良さそう)

 

 間違いなく面倒なことになりそうだし。

 

「おもしれぇ、オイ康一。この雑魚は俺がぶっ潰すから、そっちは任せた」

 

「え、まさかシングルでやるつもり!?」

 

「たりめぇだ!!幼馴染みとはいえあの灰光の流星の知り合いと戦うんだ……すぐに終わったらつまんねぇだろ!!」

 

 まさかの展開にもう頭の中がパンクしそうで、もうどうにでもなれと、考えることを放棄した私だった。



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Extreme Burst その六

 バトルフィールドに入り、起動されたそれは『ガンダムUC』のダカールという市街地だった。

 

「相手は……ッ!!」

 

 すぐさま相手を確認しようとした瞬間、正しく狙ったようにアラートが鳴り響き急いで確認してみれば、まるで狙い済ましたかのように始まりから重粒子系ビームの砲撃が飛んできた。

 

「危な‼」

 

 慌てて回避し、直撃は避けられたもののそれを受けた道路は一瞬にして粉々に砕け散った。

 

 そしてこんな砲撃をしてきた犯人の方を望遠拡大してみると、やはりというかその姿があった。

 

「アレが相手のガンプラ……」

 

 まるで紅い角を持ったガンダム。その右手には砲撃を射ったであろう砲身がまざまざと見せつけられていた。

 

『ハ、雑魚でも流石にこれぐらいは簡単に避けられるよな』

 

「雑魚じゃないしあれぐらい当然だよ‼」

 

 すぐさま両手にムラマサを二本、ライフルモードで相手に向けて構えて発射する。が、

 

『ハ、洒落クセェ‼』

 

 なんと砲身が分裂しガンプラの翼になったと思うと、超速のスラスターと共にビームサーベルを抜いて駆け抜けてきた。

 

「ッ!?」

 

 私もすぐにムラマサをブレードモードに直し、それを慌てずに正面から斬り結ぶ。

 

 一瞬の鍔迫り合いのあとすぐに離れ、左からもう一本のムラマサを抜いて、今度はこちらから突撃し、再び剣同士がぶつかり合う。

 

『ほう、反応は悪くねぇ、機体も作り込みからして素人じゃねぇ……』

 

「そりゃどうも‼」

 

 お礼ついでにヴェスパーを展開、両方を腰から二連発で射ち出したが、まるでそれを読んでたかのように空中で翻るように回避した。

 

 さらにムラマサをライフルモードへ変更して連射するが、それさえも当たる直前でスルリと回避され、逆にビームを射ってきた。

 

「この人、強い……!?」

 

 昴君とまでは行かないけど、果南ちゃんやダイヤさん、それに練習に付き合ってもらったセミプロのファイターと同じぐらいに。

 

『強いじゃねぇ……てめぇより上手いんだ‼』

 

 そして翼のそれを今度はファンネルのように飛ばしてきたのを見て、私は慌てて市街地を這うように撤退する。

 

「あの手の大きいのは路地を曲がり続ければ撒け……うぁぁぁぁ!?」

 

 そう思ってたその時、まるで狙い通りとでも言うようにあのガンプラの蹴りが機体のコックピットブロックに直撃した。

 

『やっぱりてめぇはそっちのタイプだと思った通りだ‼』

 

「ぐうっ!?」

 

 体勢を崩したものの、すぐに立て直してムラマサを握り直して、それを振りかぶった。

 

『チッ!?優等生かってんだよ‼』

 

 だがそれを読んでたかのようにビームサーベル片手で防ぎ、尚且つ振り払って再び蹴りを見舞ってきた。

 

『良いこと教えといてやる。ガンプラバトルじゃあな……てめぇみたいな優等生ほど簡単に墜ちてくってのが相場が決まってんだよ‼』

 

「何を‼」

 

 ムカつきながらもヴェスパーを展開しようとした瞬間、まるでわかってたかのようにドラグーンの熱線が砲身を貫き、爆発する。

 

「そんな、なんで!?」

 

 この人と戦うのは今回が初めて。なのになんでこんなに簡単に行動が読まれる。

 

『言ったろ、優等生ほどドツボに嵌まるんだよ。戦いにセオリー通りの行動しかしない……いや、できねぇから圧倒的強者に対してもセオリー通りでしか動けねぇ、だから弱いんだよ』

 

「優等生……」

 

『テメェの知り合いのジン使いなら言ってるぜ、戦いにセオリーも定石も存在しねぇってな。テメェらホントにあの流星からバトル学んでるのか疑いたくなるぜ』

 

 それは確かに昴が練習で口を酸っぱくするほど言ってた。

 

 ガンプラバトルでは相手が使う機体、能力、性能、そしてファイターの癖の全てがほぼ初見で、だからこそ自分自身が得意な戦法……セオリーが通じる事は殆ど無いって。

 

「だったら……ッ」

 

 『HADES』を、とそう思ったが、その時

 

『良いか、意識無意識に関わらずアシムレイトを使えるやつは、果南みたいな例外を除いて大概の強化システム……EXAMやゼロシステムは当然、トランザムでさえ使うのは危険なんだ』

 

 昴君が言っていたその言葉をふと思い出してしまった。

 

 同じアシムレイトを、しかも無意識に使う私を戒めるように注意された言葉に思考を迷わせた一瞬、その一瞬で相手のビームサーベルがコックピットブロックに突きつけられた。

 

『そういうわけで、ゲームセットだ』

 

 私は、結局なにもできず、中途半端に敗北するだけだった。

 

 

 

「えっと……曜ちゃん」

 

 私は今やったバトルに少しだけ身震いした。曜ちゃんはどちらかと言えばビルダー寄りだけど、ファイターとしても決して弱くないのは知ってる。

 

 なのに、それを簡単に倒しちゃったあの司波って人はとんでもなく強い。それだけの、たったそれだけの事実がどうしても受け止められなかった。

 

「……ごめん千歌ちゃん」

 

 バトルが終わった曜ちゃんは何に謝ってるのか分からなくて、けどどう声をかけて良いか私は分からなくて……

 

「……私もバトルしてくるね」

 

 何も言えなくて、私は逃げるようにバトルフィールドへ向かった。

 

 けど、もしこのとき私が、曜ちゃんとちゃんと話をできていれば、あんなことにはならなかったのかもしれない。

 

 

 

「司、幾らなんでもあそこまでやる必要は」

 

 康一の言葉に少しだけ睨むと、俺は頭を引っ掻きながらため息をついた。

 

「アホかお前、あのバトル、あそこまでやるなって言う方が無理だ」

 

「え?」

 

「確かに結果で言えば今回は俺の圧勝だった。けど、それはあくまで現時点の技量だとっての話だ」

 

 言った通り、まだまだ動きにムラがあって、行動も優等生染みた中途半端。が、あの機体を見た感じだと奴のポジションはガンガン戦いにいくタイプじゃない。断言できる。

 

 奴が自分の役割と動きを理解して、俺がその土俵で戦ってたら、正直勝てるかどうかは微妙なところ。さらに言えば、

 

「あれで、もっとバトルの研鑽を積んでたら……少なくともセミプロは優に越える実力はあるだろ」

 

「そこまで言うかい?」 

 

「順当に成長すればの話だがな。状況判断は一級品だし、機体さえもう少ししっかりすれば……」

 

 そこまで言ってふと気付く。

 

「って!!なんで俺が相手の評価下してるんだよ!!」

 

「えぇ!!いや、司が勝手にやってたんじゃ」

 

「五月蝿ぇ!!忘れろ、すぐに忘れろォォォォ!!」

 

「そっちが五月蝿いよ司!!」

 

 司の肩を掴んでブンブン振り回してると、次の瞬間バシンッ!!と良い音が後頭部に直撃した。

 

「司!?」

 

「ヌォォォォ……!?」

 

 あまりの痛みに蹲ってると、後頭部攻撃の張本人……同じバイトの藤沢綾が不機嫌という表情で、どこから持ってきたのか大型のハリセンを持って立っていた。

 

「綾てめぇ……いきなりハリセンって何をしやがるんだ!!」

 

「バイト中にふざけてるそっちが悪いんでしょ。それに、せっかく決まったバイトクビになったら、また菜々美ちゃんに怒られるわよ。康一も」

 

「「うっ……」」

 

 綾の言う通り、確かに菜々美のお説教は色々と堪えるから勘弁して欲しいのは確かだ。

 

 どうやったら康一の妹が、あんなに強気な女になるのか、昔から知ってる仲とはいえ毎回疑問に思う。

 

「分かったら康一はさっさとバトルフィールドに行く。司はレンタルガンプラの整備に行きなさい!!」

 

「ちっ、分かったよ」

 

 綾からもう一発ハリセンを食らう前にさっさと俺は退場する。しかし、

 

「まぁ、あの程度で潰れるようなら、本当に雑魚になるがな」



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Extreme Burst その七

すみません、だいぶ遅くなりました。


 飛び出したバトルフィールドはなんというか、まさしくジャングルというようなフィールドだった。

 

「うーん、これじゃ空からじゃ狙いがつけられないよ」

 

 昴君曰く、空戦可能機体の一番の死角は密林と水中らしく、前者は地上の相手は隠れて射撃できて、逆に此方は木々が邪魔して射撃のロックシステムが簡単に外れてしまう。

 

 後者なら水中に全身が浸かると対応するセッティングしてないと移動速度や装甲にデバフが入り、さらに機体によっては長時間水中に沈められたことで撃沈判定が入るらしい。

 

「っ!?いきなり!?」

 

 そんなことを思ってるうちにアラートが鳴り響き、下から大型の実弾……というよりロケットランチャーみたいなのが飛んできて、慌てて頭部C.I.W.S.を発射して迎撃、大爆発を引き起こした。

 

「下から来たってことは!!」

 

 すぐにモニターを確認すると、少し開けた場所でクリーム色をした重たそうなガンプラが、左肩のキャノン砲を構えて鎮座していた。

 

「そこ!!」

 

 ライフルなんてしてる暇は無いと思って、私はバスターライフルを肩掛けの形で発射する。

 

『その程度!!』

 

「!?」

 

 しかし、相手のガンプラは手に持っていた大きな軍配みたいなものを構えてシールドのようにする。

 

 当然ながら直撃したそれを受けた相手の姿を見て愕然とした。流石に威力で後退こそしてるが、ほぼ無傷というその姿に私は下を巻いた。

 

「射撃が効かない!?だったら!!」

 

 翼から大型対鑑刀を抜き、地上付近に降りつつ、その勢いを利用して切り下ろす。が、それも読んでたというように軍配で防ぎ、一進一退の鍔迫り合いになった。

 

『うん、機体も実力も粗削りだけど、確かに良いものを持ってるね』

 

「あ、ありがとうございます」

 

 対戦相手の彼は通信越しに誉めてくれる。

 

『けど、ボクの『ガルバルディリベイク』に不用意に接近戦をしたのは不味かったね』

 

 次の瞬間、その機体に似つかわしいほどのパワーで鍔迫り合いを弾き飛ばすと、その軍配が一瞬にして、ハサミのように開いた。

 

「!?この」

 

 狙いに気づいた私はすぐに後ろに下がりつつもう一度C.I.W.S.を射って牽制する。するとまた軍配の姿に戻りシールドとしてバルカンを防いだ。

 

『うん、瞬時の状況判断も良い。よく下がれたね』

 

「今のを食らったら、真っ二つになってましたから」

 

 恐らく果南ちゃんの使ってる機体が出てたシリーズの、所謂『鉄血ペンチ』という風になっていたかもしれない。そう思うとこの直感に感謝するしかなかった。

 

 というか、昴くんなら機体名に『リベイク』なんて使ってるところから気づけって言うと思うけど、正直現状厳しい。

 

 バスターライフルの一撃は防がれ、接近戦をすればペンチされる、しかもあの重装甲からみて並みの攻撃じゃ傷つけられないのは明らか。

 

 だからこそ

 

「面白い!!」

 

 私はもう一本の対鑑刀をぬき、それぞれにビームの刃を展開させる。

 

(ここでもう一本抜いてきた?手数で押すつもりかな)

 

 相手は恐らく手数をと考えてるはず、だからこそこの攻撃は

 

「くらえぇ!!」

 

 ()()()()()()()()()()()を予想してるはずがない。

 

『!?そんな破れかぶれの!!』

 

 相手の言う通り、こんなことをしても普通なら弾かれる。現にあの軍配を弾き返そうと構えて振りかぶり、

 

「いまだ!!」

 

『な!?』

 

 付けてある大型ブースターの勢いで加速したそれが、軍配を持っていた左肩を貫いた。

 

 元々『フォースシルエット』の下翼をカスタマイズして作り上げた対鑑刀は、その唾に元からある可動用パーツが取り付けられていた。

 

 それを元にブースター機能を追加し、対鑑刀としてだけでなく投槍ならぬ投剣としての機能を加えたこれは、知らない相手にならほぼ確実に決まる鬼札、必殺の一撃だった。

 

『左肩から先がやられた!?く!!』

 

 流石の異常に気付き、相手はすぐ左肩をパージする。これでキャノン砲とペンチ攻撃は防いだ。

 

「はぁぁぁ!!」

 

 そしてパージしてるうちに私はもう一本の対鑑刀をしまって、肩付けしてあるブーメランをビームサーベルにして両手に構えて突撃する。

 

『させないよ!!』

 

 相手も爆発しなかった私の対鑑刀を抜き、残った右腕で振るう。再びの鍔迫り合いに私は、なんとなく()()()()()()()()

 

 互いの攻撃がぶつかり合えばぶつかり合うほど、その思いは強くなる。

 

「もっと!!もっと!!」

 

 この戦いを続けたい、楽しみたい、そんな感情が爆発するように私の心が熱くなって――

 

『――システム、因果の戦巫女(Seedes・Diva)、起動』

 

 ――私の中で何かが弾けた。

 

 

 

 

 浩一視点

 

『システム、因果の戦巫女(Seedes・Diva)、起動』

 

 その音声を聞いたボクは戦慄を覚えた。あり得ない、そんなはずはない、そんな感情を覚えずには居られなかった。

 

「まさか選ばれたのか、彼女は」

 

 否定したいが、その存在を知ってる人間は数多い。何故ならば――

 

「『A-RISE』と『μ's』のエースと同じ力を、彼女が!!」

 

 だとすれば不味い、ボクの予想通りなら間違いなく彼女は……()()()()

 

「っ!!」

 

 その瞬間は一瞬だった。さっきまでの素人臭い動きじゃない、まるで荒々しく戦う戦士のごとく、その両手の剣を振ってくる。

 

「く!!」

 

 慌てつつも手に持ってるね対鑑刀で、確実に捌く。荒々しい動きで、中々に読めないけど、少なくとも予測できない程じゃない。

 

 と、ブーメランを片方投げてきたのを弾いて防いだ瞬間に懐に飛び込まれ、その左脚が真横から振り抜かれる。

 

 すぐに後ろに下がったが、次の瞬間、足の裏から突然ビームサーベルのような剣が出てきて、『ガルバルディリベイク』の頭部を潰された。

 

「パルマキオフィーナの応用か!!」

 

 ガンプラバトルではあまり関係ないけど、流石の不意打ちに驚いたボクはさらに機体を後ろへ下がらせる。

 

(頭を潰されて、尚且つ武器も相手の剣だけってのは厳しいかな)

 

 しかも相手は『因果の戦巫女』なんて力を使ってきてる、正直八方塞がりにも程がある。

 

「けど、穴がない訳じゃない」

 

 右手に握る対鑑刀を握り直し、今度は此方から突撃する。

 

 飛び上がって振り下ろした攻撃を、彼女(?)は予想通り手に持った二振りのビームブーメランを交差させて防ぐ。

 

 一進一退、どちらも動けないこの状況、だがだからこそ、此方に理がある。

 

「うぉぉぉぉ!!」

 

 剣先のビーム刃を展開する部分、これの予想が正しければ、そう思って拾った武器に着いてきたボタンを押し込む。

 

 すると剣先の部分から勢いよく小型ブースターの炎が吹き出し、元々上回っていたパワーと共に一刀両断、彼女の『インパルス』を叩ききった。

 

「やっぱり、予想通りだった」

 

 フォースシルエットの下翼を使っているなら、当然ながら剣先の部分の姿勢制御用のブースターをどうするのか、そう思ったボクはそれに掛けた。

 

 結果はこの通り、下翼先からの勢いを利用した一撃は彼女のガンプラを一閃した。恐らく一撃の手段として取り付けられたこれを、本人より先に使ってしまったが、あの状況だとそれしかなかった。

 

『BATTLE END』

 

「……とりあえず、()()()に相談するしか無いよな」

 

 恐らくそこにいるだろう、彼女の知人に知らせる事を考えた僕は少しだけ憂鬱な気分になるのだった。




千歌ちゃんが目覚めた能力についてはまた後程説明回がありますので、ご容赦のほどを。

次回からはヨハネ&リリィのギルキスコンビに視点を起きます


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Extreme Burst その八

 どうも、津島善子ことヨハネです。昴先輩達と別れて梨子さんと一緒に何をしていたかというと

「やっぱり秋葉原の質は良いわね、ここまで良いものが揃うなんて!!」

「全くね善子ちゃん!!」

 傍目から見たらただのショッピング、しかしその中身は異本といったちょっとこの場では言えないようなものばかりだ。

 ちなみに現在の戦利品は異本が数十冊、オカルトグッズが数点、ちょっと言えないようなものが数品、しめて数万円のお買い上げだが、私も梨子さんもお家がちょっとしたお金持ちだからか、簡単に支払えるのだ。

「けど、まさか善子ちゃんがこっち方面にも詳しいとは思わなかったわ」

「ヨハネ!!……まぁこういうキャラやってると自然にというか……流れ的に詳しくなっちゃったっていうのが正しいわね」

 初めてショップに入ったときは顔が紅くなってしまったけど、もう何度も来てれば慣れたもので、最近では色々と試したいものがあちらこちら……。

「あれ、もしかして梨子先輩ですか」

 と、いきなり誰かが梨子さんに声をかけてきたので確認してみると、そこには青いツインテールのロリっ子が居て、しかも

「音ノ木坂の制服……」

 そう、あのμ'sの母校、音ノ木坂学院の制服を着ていた。つまるところ、この人は梨子さんの知り合いってこと?

「あ、檎花(きんか)ちゃん」

「やっぱり、やっぱり梨子先輩でしたか!!お久しぶりです」

 檎花と呼ばれた少女は、嬉しそうに跳ねる。

「えっと、梨子さん?」

「あ、ごめんね善子ちゃん。この子は」

「音ノ木坂学院1年生、織川檎花です。梨子先輩は中学の先輩でして、音ノ木坂でも先輩後輩になるはずだったんですが」

「なるほど、梨子が転校したからなくなった、と」

 その通りです、とはしゃぐ少女に私は

「てことはアンタもガンプラバトルをするわけね」

「はい!!むしろ私は梨子さんの機体を動かしてテストする側だったので」

「中学の頃から妙になつかれちゃって、私はバトルにはあまり興味なかったから、機体のデモテストは彼女に頼んでたの」

 確かに梨子さんがピュアビルダーだったって話は聞いてたから納得できる。納得できるが、

「もしかして明日の大会には」

「あー、昴さんや3代目メイジン、絵理先輩達が試合する大会ですか?残念ですけど、私達音ノ木坂は今回は呼ばれてないんです」

 トホホ、と悲しむ彼女だったが、私としてはラッキーと思った。

 しかし、今の言葉に違和感を覚える。

「ちょっと待って、なんで昴くんのことをそんなに親しげに?」

「あ、そういえば」

 梨子さんの指摘通りだ。親しい人以外なら普通、昴先輩のことを『天ノ川プロ』とかもしくは二つ名か、少なくともどちらかで呼ぶはずだ。

 一応世界ランカーとはいえ、あんまり評価の高くない昴先輩を、この子はまるで親しいようにさん付けで呼んでる、不自然しかない。

「あれ?梨子さん、昴さんのこと知ってたんですか」

「知ってたも何も、私が転校したのは昴君がいる学校だもの。しかも同じクラスで一緒にガンプラバトルしてるし」

「あー、なるほど」

 檎花は納得したように頷き、

「私が直接知り合いというか、色々とあって知り合ったっていうのが理由なんです」

「いいから、さっさと言いなさいよ」

 私が急かしてみると、彼女は

「昴さんは、入院してる私の妹の師匠なんです」

「「…………はぁ!?」」

 

 

 

 その後、私は檎花の案内で彼女の妹が入院してる病院……西木野総合病院へとやって来た。

「ここが妹の病室です」

 結構な高さの階まで上がってきた私達は、案内された病室に入った。

 中はなんというか、無数のガンプラが所狭しと並べられていて、机にはキットの入ってる箱やペンチにピンバイス等が置かれている。

「恵美、元気にしてた」

「あ、お姉ちゃん……あれ?そっちのお姉ちゃんは?」

 そこにいたのは小学生くらいだろうか、結構な広い部屋に一人でベットに座る少女……織川恵美が首を傾げて聞いてくる。

「昴さんのお友達だって、恵美に会いたいからって連れてきちゃった」

「昴さんの!!」

 少女は驚いたように動こうとするが、その足はピクリとも動いていなかった。

「檎花ちゃん、恵美ちゃんは……」

「……二年前、交通事故で両脚が麻痺してまして……」

 二年前、そして交通事故、その単語に何かが引っ掛かった。

「両親は無事だったんですが、恵美の座っていた座席の所に別の車が直撃して……今のところ、リハビリを頑張ってる状態です」

「……けど、だとしたらどうして昴くんと?」

「昴さんが一時期入院してたの、この病院の精神科だったんです」

 なるほど、そういう繋がりだったのかと納得した。

「……檎花」

「……場所を移しましょう、ここでする話じゃないですし」

 そう言って移動したのは、西木野総合病院のカフェテラス、外が見渡せる位置に陣取った私達は彼女の方に集中する。

「……前もって言っておきます、私がこの事を話したことは誰にも……昴さんにも黙っていてください」

「別にそれは良いわ、で、話してくれるわよね。どういう経緯で昴くんが彼女と、師匠と弟子なんて関係になったのか」

「分かりました」

 

 

 

 その日は昴さんが入院して3ヶ月程、つまり世間からのバッシングがだいぶ薄れてきた頃でした。

 昴さんは当時、誰の目から見ても痛々しくて、自分で歩く気力すら無かったんです。

 その日も果南さん……昴さんの彼女さんが車椅子を押して中庭を散歩してたんです。

 その時妹も中庭で車椅子を押されていて、もしかしてと昴さんに声を掛けたんです。

 妹は昴さんのデビュー戦を直接会場で見てからのファンで、純粋に自分の好きなプロファイターと話ができる、みたいな感覚だったそうです。

 けど昴さんは、自分はプロなんかじゃないって否定して、話しかけてくるなと追い返したそうです。

「千歌ちゃんたちも、その頃の昴くんは情緒不安定だって言ってたわね」

「トラウマを思い出して、その結果暴走して多数の被害を出してますからね、仕方ないと言えばその通りです」

 けど、妹は諦めませんでした。毎日毎日、昴さんに声をかけ続けたんです。まだ低学年だったのに凄い粘って……一月ぐらいするとすっかり会話をできるくらいになってました。

 内容はガンプラバトルやガンダムの話ばかりで、あのシーンは良かっただの、あのバトルは凄いだの言う昴さんの話を聞き続ける妹の姿を見て、どっちが年上なのか分からなくて笑いました。

 それから暫くして、妹との会話があったおかげか昴さんはクリスマス前にはガンプラを作れるくらいにまで回復しました。

 退院前日となって昴さんは妹に顔を見せに来ました。お前のお陰だぞって、偶々一緒に歩いていた私に妹の自慢をしてくれて、嬉しかったです。

 けど、昴さんは言えませんでした。妹は……いえ、私達家族は()()()()()()()()()()()()()()だったんです。

「父の姿を見て、昴さんはフラッシュバックしてしまったんです。あの日、あの世界大会の会場付近の事故で目撃したのは父だって」

「そんな……」

 昴さんは自分の部屋に戻って悩みに悩んだそうです。仕方ないとはいえ、昴さんの黒歴史の発端となった家族へのやるせなさと、自分に親身になって話しかけてくれた妹への感謝の気持ちが板挟みになって、結局答えは見つからなくて、翌日になったんです。

 昴さんは妹に会いに行きました。そして二人きりで話をしたそうです。そして昴さんは知りました。妹がもう立つこともできないかもしれないって。

 だから昴さんは聞いたんです、妹に何かしたいことはあるのか、と。

「それで答えたのが、昴さんとガンプラバトルをしたい、ただその一言でした」

 幸い病院のレクリエーションルームにはガンプラバトルの装置があったので、すぐに始めました。

 こう言ってはなんですけど、プロの昴さんと比べるのも烏滸がましいほどに稚拙なバトルをする妹を、昴さんは出来る限りの力でボッコボコにしました。それはもう、初心者相手に容赦ない程のフルボッコでした。

 妹はそれに悔しがってもう一回、もう一回と繰り返して……それでも全部負けました。

 流石の妹も悔しくて泣きそうでした。けど、そのバトルで何を思ったのか、昴さんは

 

『しょうがないなから、また来週にでもバトルしに来るから、それまでにバトルの腕、磨いとけよ』

 

 プロに復活してないので正式なものじゃないですが、事実上の弟子扱いでした。妹も最初は戸惑ってましたが、それを知った途端泣き出したました。悔し泣きから嬉し泣きです。

 それからは時間をたまに作ってはガンプラをお土産に、バトルを一緒にやって、今では妹も昴さんにもたまに勝てるようになったんです。

 そして、昴さんのプロ復活戦前日、昴さんは妹に正式な弟子として教えると言いました。妹もそれに頷いて、昴さんと面会時間ギリギリまでバトルし続けたそうです。



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Extreme Burst その九

「昴先輩……」

 知らなくて当然とはいえ、私は悔しく思った。だって、余りにも私達は彼の事を知らなすぎた。

「梨子先輩は明日の大会に出られるんですよね」

「え、ええ。私と私のチームの人達と一緒に」

「そうですか……うん、そうだよね」

 檎花さんは少しだけ考える素振りをすると、

「お二人とも、お時間はまだ大丈夫ですか」

「え、ええ、まだ暫くは」

「なら私と、私の妹とのタッグバトルをしませんか」

「はぁ!?」

 私はその提案に驚きつつも、少しだけ怪しいといぶかしんだ。

「お二人の事ですから、今の全国レベルがどんなものか、特に去年の全国大会の中学生部門優勝者の『死天使』は知ってますよね」

「そりゃまあ」

 知ってるというレベルじゃない。男子女子共に、ここ三年間のガンプラバトルはまさしく魔境とでも言うべき、ガンプラとファイター共々技量が上がっている。

 中でも同じ静岡のガンプラ学園『チームラグナロク』、福岡の博多星蓮館『シューティングスター』、北海道の函館聖泉『Saint Snow』、京都の清水ヶ原『カルデアス』、そして東京の音ノ木坂『Lyluck(ライラック)』とUTXの『A-RISE NEO』、この6チームは飛び抜けて実力が高いことで有名だ。

「私もこれで、『Lyluck』のメンバー入りしてますし、大会に呼ばれてないとはいえ、前哨戦には丁度いいですよね」

「……梨子先輩、どうします」

 私は隣に座る先輩に問いかける。

「善子ちゃんはどう思う?」

「……私としては受けてもいいと思います。此方としては全国レベルのバトルがただでできるんですし」

「私も同感、てことで檎花ちゃん、お願いしてもいい」

「分かりました、ではご案内します」

 

 

 

 案内されたバトルルームに、手持ちのガンプラ『ウィングガンダムL0シフェル』をセッティングし、フィールドに降り立った私はそのフィールドに少しだけ嫌な顔をしたくなった。

「まさかヘリオポリスが当たるなんてね……」

 SEEDの始まりの場所であるヘリオポリスは、コロニー系のステージでは珍しいある特性を持っている。

『相手はどうやらコロニーで待ち伏せって感じじゃなさそうね』

「そりゃ、下手にヘリオポリス内部で暴れると『崩壊』に巻き込まれるしね」

 そう、このヘリオポリス、原作再現なのかコロニーの耐久値が異常なほど低く、内部でドンパチしすぎるとコロニー自体が簡単に崩壊して、デブリ爆発を引き起こすのだ。

 その威力は言わずもがな、脱出しそびれると確定で戦闘破壊判定を食らううえに、フィールドもデブリ宙域へ強制変更されるため、ファイターの中には苦手なステージの1つに数えられる程なのだ。

「三時方向に敵のガンプラを捕捉した!!梨子先輩、援護お願いします」

『了解、でも気をつけて、檎花ちゃんはともかく、妹ちゃんは恐らくかなりの手練れよ』

「いえ、間違ってますよ梨子先輩」

 私の指摘に、梨子先輩は首を傾げる。

「あのμ'sの再来と呼ばれてる『Lyluck』のメンバーの1人が、私達と同レベルなんてわけありえない」

 その言葉に反応したように、二機のガンプラ……『シグー』と『ファントムガンダム』のカスタム機がそれぞれ剣を構えて突撃してきた。

「っ!!」

 私もすぐに懐からビームサイズを展開、2体に向かって突撃する。

「せいやぁぁ!!」

 振り下ろすビームの大鎌を『ファントムガンダム』がその手に持っていたブレードで防ぎ、その後ろからシグーが『グフイグナイテッド』のビームガトリングのように射撃をしてくる。

『させないわよ!!』

 が、ファントムガンダムを蹴り飛ばし、それと同時に梨子先輩のフルバーストがシグーを襲う。

『あわわっと!!』

 シグーを操っていた妹ちゃんが慌てて回避し、ファントムガンダムの隣に立つ。

「……強い」

 この短い攻防だからこそ分かる、あの2機は強い。ガンプラだけでなく、ファイターの実力も高い。

「嘗めてたわけじゃないけど、やっぱり強いわ、アンタら」

『あの『堕天使』に褒められるなんて嬉しい限りね。私も、私の『レイスガンダム』も』

『ふふーん、私の『シグー・ハイマニューバ』は師匠と一緒に組み立てたんだよ!!強くないわけないよ』

 二人とも喜んでいるが、正直こちらとしては厳しい限りだ。

 実力で負けるつもりはない、が、今のこの寄せ集め(スクラッチ)機体で、あの2機を倒せるかといわれると厳しいものがある。

「梨子先輩、どっちかの相手お願いしても良いですか」

 なので、私は今できる最善の策、各戸撃破を梨子さんに提案する。

『そうね……檎花ちゃんの相手ならまだできる可能性はあるわ』

「ならあのファントムの改造機体をお願いします。私はシグーをやります」

『わかったわ』

 そう言うと梨子先輩は再びフルバーストをし、あの2体を無理矢理に引き剥がす。

「せいやぁ!!」

 ビームサイズをしまい、ビームサーベルに切り替えた私はすぐにシグーへ突撃、あの妹ちゃんは左腕のシールドから『テンペストビームソード』を取り出し、鍔迫り合いを仕掛けてきた。

「ッ、機体が重たい!?」

 ぶつかり合いで互いにスラスターを吹かした瞬間に来た僅かな感覚に少しだけ舌を巻いた。

 見た目、普通のシグーに『グフイグナイテッド』のパーツを組み込んだだけに見えたが、そんなわけあるはずがなく、パワーでは寄せ集めとはいえガンダム系のパーツを使ってる此方の方が上なのに、明らかに鍔迫り合いが押し負けてる。

 何故か、そう思って相手の機体を観察してみて良く分かった。翼のパーツ……初期ZAFT量産機特有のあの巨大な大型ウィングスラスターが別物に入れ替わっていたのだ。

 選んで来たのは恐らく『シナンジュ』、それもスラスターの稼働光を見た限り、大型スラスターを全て『ジン・ハイマニューバ』やミーティア系のコーンスラスターに取り替えるという完全なスクラッチビルドをしていたのだ。

「(多分馬力と瞬間加速力はあの子の方が上、なら)射撃戦はどう!!」

 私はすぐにその場から離れてフェザーボムを大量に展開し発射する。ロストウィング同様にビット兵器としての性能を持つそれに相手はどう対処するか。

「そんなミサイル程度!!」

 妹ちゃん……恵美ちゃんは腕に内蔵していたらしいスレイヤーウィップ……いや、先端に付いてるアンカーからしてエクステンション・アレスターか?それを展開すると、超高速で回転させてフェザーボムをガードする。まるでガンダムハンマーのような行動に頬をひきつらせながらも、これではっきりした。

(あの機体、昴先輩の作風を受け継いでるけど、戦術は接近戦を主体としてるのね)

 恐らく射撃武装は両腕のドラウプニル四連装ビームバルカンと、シールドである多目的防盾に内蔵されたガトリング、そして胸部のC.I.W.S.と全部ばら蒔く系の射撃武装。

 そこから考えると、どうやら高機動で相手に接近し戦うヒット&アウェイ型、フルパージ状態の昴先輩と同じようなスタイルなのは間違いない。

「だとしたら!!」

 私はバスターライフルを通常ビーム程度に抑え、両手それぞれで構えて弾幕を貼る。当然相手はそれを持ち前の高速移動で回避していく。

「ッ、速すぎて粒子の動きが読めない!!」

 プラフスキー粒子が見えると言っても、弱点がないということじゃない。相手の機体がそもそもプラフスキー粒子そのものを操ることができたり、機体の速度が余りにも速すぎると、見えて実際に動くまでのタイムラグがとても速くなりすぎて、知覚する暇がなくなるのだ。

「(けどここで見ないって選択肢を選んだらそれはそれで負ける!!だとしたら)望み通りの接近戦(ステゴロ)よ!!」

 どうせ当たらないと割りきってバスターライフルを捨ててビームサーベルを抜き、今出せる最大速度で相手に突っ込む。

 それを見た恵美ちゃんは、そのスラスターを極限までに吹かして突撃してくる。互いの得物同士がぶつかり合い、高速で切り抜けメビウスの輪を宙に描く。

『漸くお姉さん、私と勝負してくれるね!!』

「は、射撃戦も立派な戦術よ!!」

『けど、お姉さんはどっちかといったら前で戦う方が好きなんでしょ』

 恵美はテンペストをしまい、ドラウプニルからビームクローのような刃物を4本、両手だから8本の鍵爪を産み出すと、バレルロールのような動きをしながらぶつかってくる。

「そうね、相手の攻撃を紙一重で交わして切り裂く方が楽しいわね!!」

 そう言いながらビームサイスをビームランス形態にして構えてぶつかり合う。長柄の刃を彼女は器用に打ち合わせ、たまに踏み込むような挙動で懐に飛び込もうとするのを柄頭を振るうことで追い払う。

『なら師匠との戦いって面白いよね!!』

「は、そりゃ同感!!」

 エクステンション・アレスターを振り回して槍を絡め取ろうとするのをマシンキャノンで迎撃、お返しとばかりにフェザーボムを大量に展開して、それを彼女の周囲を囲む。

「弾けろ!!」

 その一言、たった一言で大量のフェザーボムが爆発し、その衝撃が少し離れた場所にいた私にも伝わる。

 やったか、そう思った瞬間まるで狙ったようにアラートが鳴り響き、彼女の機体が、爆発のダメージを受けて弱冠煤だらけの状態で私の機体に組みついてきた。

 さらには展開したエクステンション・アレスターが、私と彼女の機体自身にぐるぐると巻き付き、二人揃って簀巻き状態になった。

「この!!」

 すぐにほどこうとするけど、まるで動かない状況に嫌な予感が募る。しかも相手の機体の頭部が、私の機体の胸部に組み付いてることからして頬がひきつる。

『とぉぉぉぉりゃぁぁぁぁ!!』

 そして何を思ったのか、彼女は狙って縛らなかった自らの翼のスラスターを全開に吹かせ、ゆっくり、だが確実に加速しながら横に回転しながら移動していく。

「ちょ、目が!?」

 ぐるぐると高速で回転していく景色に弱冠酔いかけながら何とかもがこうとするが、そんなことはお構いなしに回転し続け、頭からどこかに落ちていく。

「ちょ、まさか……うぷ!!」

 至近距離で粒子が大量に動き回るという、さらに酔いが回るフルコースを受けても良くわかる、この動きで狙ってるもの、それは

『必殺!!流星落としぃ!!』

 へリオポリスの外壁、それに超高速で回転しながらぶつけられた私のシフェルの頭部が嫌な音と共に弾け飛び、さらに貫通した外壁からさらに加速して地面に激突する。

「ぎゃぁぁぁぁ!?うっぷ!?」

 ダメージが入らないC設定とはいえ、機体全体に罅が入るほどのダメージを受け、私のシフェルは完全に沈黙した。

 と、同時に限界となった吐き気に私は思わず口許を手で抑え、その場から走り出す。目指すは化粧室、こんなところであんな不名誉な称号だけは貰いたくないと思いながら、酔って千鳥足になりながら無理矢理駆け抜けたのだった。



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Extreme Burst その十

ちょっと途中からシリアスが通りまーす


「このぉ!!」

 ブースターを吹かしながら、目の前に迫ろうとする白亜の機体……ファントムガンダムベース『レイスガンダム』へ手持ち武装のビームライフルを射ちながら、私はどうしたものかと考えを走らせる。

『ほらほら、梨子先輩こっちですよ!!』

 まるで煽るように言ってくる檎花ちゃんだけど、その煽りにも負けない実力は、私が最後に会ったときよりも格段に上手くなってる。

 こちらの動きを的確に見極めた射撃だけじゃない、こちらの攻撃を回避するところ、機体そのものの動きや位置取り、さらにはこちらの行動の先読みをしながら接近してきたりと、私にとってはかなり不利な状況。

「アルフ、ブラックマンバを使う、準備して」

『けど相手に当たるかは分からないよ?』

「牽制目的よ。あの子だってミサイル四発を迎撃ないし回避するのは結構難しいはずよ」

 何せ本来のファントムガンダムには迎撃用バルカンシステムは搭載されてない。改造機体とはいえ、そんな小細工程度の武装を追加するくらいなら、それ以外の武装を追加するのが普通だ。

『りょーかい、ブラックマンバ一番から四番、全部発射!!』

 展開済みの機動翼に取り付けていたブラックマンバ誘導ミサイルを全て発射すると、檎花ちゃんから『げっ』と苦虫を噛んだような声が聞こえた。

『こんのぉ!!』

 彼女は腰に手を当てたかと思うと、腰の変形翼を取り出し、まるでワイヤーブレードのように振り回してミサイルを全て切り裂き迎撃する。

「GNカタールを装備してたのね」

 まぁベース機体のファントムの腰の突起物は、正直翼以外の役目が無かったので、改造する内容としては王道と言えば王道だった。

『さっきからガトリングやらミサイルやら、GATシリーズなのに実弾武装ばかり!!デュエルじゃなくてバスターですよそれは!!』

「逆にビームだとこっちは打つ手ないから丁度良かったわ。まぁ接近されたら終わるけど」

 こちらの近接戦装備はビームナイフが2本とアーマーシュナイダーが2本だけで、大石弓(アーバレスト)炎の魔剣(レーバテイン)に寄せすぎたと若干悔いた。

「アルフ、ガンランチャーを連結展開、弾丸は炸裂徹甲弾を」

『徹甲榴弾じゃなくて?』

「どのみち避けられるなら、かすって貰ってダメージを与えた方がいいわ」

 それにあのファントムガンダム……いや、あの後輩に、下手な高火力武器は意味をなさない。そんなことは、昔から知ってる私が良く熟知してる。

『ガンランチャーは使わせないです!!』

 あちらもガンランチャーの接続に気づいたようで、カタールをしまうと懐から『クジャク』を抜いて発射してくる。

「Iフィールド展開!!」

 けどそれは予想の範囲内。取り付けてるIフィールドを発生させビームを無効化し、此方はサブアームのガトリング砲と手持ちのビームライフルで迎撃する。

『っ、ファントムライト起動!!』

 ダダダダッと発射されるガトリングとビームに嫌気がさしたのか、檎花はファントムガンダム特有の特殊システム、ファントムライトを発動させた。

 途端、白亜に彩られた機体から青紫の炎が吹き荒れ、直撃するであろうビームを無効化、さらにガトリング弾もその吹き荒れる炎で文字通り消し飛ばした。

「ッ、アルフ!!」

『ガンランチャー炸裂徹甲弾、発射!!』

 右肩に展開されたガンランチャーを掴み、サポートAIのアルフの声と共に発射されたそれは当たる直前で無数の散弾へと変化するが、

『その程度!!』

 持っていたクジャクをブレードモードに変形、そこから吹き荒れる炎の一閃で全てを叩き落とし、燃やし尽くした。

「そんな!?っ!?」

 驚いてるその一瞬、たったその一瞬が決定的な隙で、目の前のレイスガンダムは文字通り、()()()()()姿()()()()()

 一体何が、そう思ってレーダーを確認した次の瞬間、

『マスター!!後ろから来る!!』

『もう遅い!!』

 アルフの一言で後ろに気づいた私だが、そこにはまるで幽霊のように突然現れたレイスガンダムが、その右手に炎の剣を握っていて、

「ッ!!」

 私は急いでバックパックをパージしその場から離脱する。当然、斬られたバックパックは爆発し、私の手元にはビームライフルとアーマーシュナイダー、そしてビームナイフしか残らなかった。

『ちぇ~今ので先輩を確実に仕留めたと思ったんだけどな~』

 軽口を叩く彼女だが、ビルダーとして、彼女の行った行為に気づいた私は思わず舌を巻いた。

「驚いた、まさかファントムライト中にミラージュコロイドを仕掛けてくるなんて、流石に予想外だったわ」

 あの消えた方法、恐らく私が驚いた一瞬にミラージュコロイドを展開し、その直後に高速で移動して私の裏に回ったのだろう。

 単純と言えば単純、けど、例外を覗いて基本的に『特殊システム中に別の特殊システム』は使えない筈のガンプラバトルでそれを行えるというそれに、1ビルダーとして大いに興味が湧いた。

『いや~、実はミラージュコロイドの粒子がファントムライトのIフィールドの嵐と奇跡的に組合わさりまして、Iフィールド発動中は任意でミラージュコロイドを使えるんです』

「……だからレイス……『亡霊のガンダム』ってわけね」

『元々ファントムガンダムも亡霊みたいなもんですから、皮肉が効いててちょうど良い塩梅でしょ?』

 その皮肉に主武装の大半を持っていかれたこっちとしてはたまったものじゃない。こっちはIフィールドが使えるだけの、ほぼ丸腰の状態にさせられたんだから尚更だ。

『けど先輩、相変わらずファイターとしては強くないですね』

「……どういう意味?事によっては買うわよ、その挑発」

『いえいえ、あくまでもファイターとしてはって話です。ビルダーとしての腕前は前以上、セミプロ並みにありますよ』

 だから、と彼女は続け

『先輩、Lyluckに戻ってきてください』

「……私はLyluckの一員じゃないわ」

『いくらおバカな私でも知ってますよ。Lyluckのガンプラ、ビルダーチームの一年生でリーダーを勤めた先輩の力をもう一度……』

 その瞬間私はビームライフルを撃った。Iフィールドに防がれ、ビームは辺りに四散する。

「檎花ちゃん、私にだってプライドがあるの。Lyluck……いえ、()()()()()()がしてきたことを、私は許せない」

『先輩……』

「ごめんなさい、Lyluck自体に恨みあるわけじゃないし、あの人以外の皆はとてもいい人ばかりで、先輩たちも優しくて……けど、あの人のあの姿勢だけは……μ'sの皆さんに泥を塗るあの人だけは」

 思い出したくもない、あの人と戦って、そして戻ってこれなくなった姿を。楽しむためのバトルじゃなくて、ただひたすらに勝つためにバトルするあの人の姿を。

 笑顔ではなく、恐怖を植え付けるあの人のバトルを、私は絶対許すつもりはない。

『……分かりました、では私は、アナタを()()()の元へ連れていかせて貰います』

 そういうと檎花ちゃんはブレードを抜き、一気にこちらに迫ってきた。

「!!」

 私は慌ててビームナイフを抜き、ぶつかりそうになったブレードを受け止める

『すみません、ですが私にも、守りたいものがあるんです』

「檎花ちゃん、貴女まさか!!」

『お願いです先輩、もう東京に戻ってこないでください――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――私は、先輩の事を裏切りたく無いんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その一言を最後、彼女の剣が私の機体を貫き、途端バトル終了のアラートが鳴り響いた。



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Extreme Burst その十一

 どうしてこうなったか、それは誰にも分からない。ただお昼を食べに一緒に入ったお店で、私は……ううん、私達は目の前に鎮座する特注の巨大な器三つを見ながらそう思った。

 ギっとりとした油の浮かぶ白濁のスープの上に乗るのは青と白の2つの山のような野菜、さらには分厚く切られた茶色の肉塊が少なく見積もっても500gぐらい、そしてその隣には野菜と同じぐらいに盛られた茶色のキクラゲ。

 そして最早切られずそのまま3つ乗せられた煮卵と、埋まってるであろう大量の極太の中華麺。所謂豚骨ラーメンと呼ばれるそれのチャレンジメニューを目の前で食べる三人の猛者を見てしまえば。

「「「「……はぁ」」」」

 見てる私達の胃のほうがノックアウトするのは自明の理だった。

 

 

 すこしだけ時を戻して、昴さん達と別れたルビィと花丸ちゃんは、立ち並ぶ多数の模型屋さんで色んなものを見ていた。というのも、

「花丸ちゃん、どんな武器にするか決めた?」

「ずらぁ……色々多すぎて迷うずら」

 花丸ちゃんのガンプラの武器パーツを手に入れるためだった。善子ちゃん(ヨハネ!!)と梨子さんによって現在花丸ちゃんの機体を鋭意製作中なわけだけど、それだと今回のバトルに間に合わないからだ。

 花丸ちゃん自身は、今使ってる『スモッグ』で充分ってらしいけど、善子ちゃんが

『そんなおんぼろ機体で戦わせるわけ無いでしょ!!』

 流石に現環境のガンプラバトルで使えるように改修したとはいえ、花丸ちゃんの特性と合わないうえに、作ったのがだいぶ昔だからという理由で、バトルでは『アルケイン』を改修した新機体の、バックパックパッケージを既存キット流用で済ませようという事になったわけだ。

「『ビルドストライク』とか『オオトリ』とかはどうかな」

「使いやすそうだけど、アルケインのとポリキャップの接続は大丈夫ズラ?」

「あ、そうか……なら『パーフェクトパック』は?武装も多いし、花丸ちゃんは支援向きの機体だから、スナイパーライフルとあわせて良いと思うよ」

「じゃあそれにするずら」

 そんなことを話ながら買い物を済ませて外に出た。

「けど、やっぱり不思議ずら」

「ピギ?何が?」

「ガンプラのキットが売ってるのは分かるけど、腕や脚のパーツ、バックパックを個別で、しかも製作済みで売ってるなんて結構不思議ずら」

 その指摘に、私は納得した。

「それはね花丸ちゃん、ガンプラバトルをする人全員が、優秀なビルダーだってことじゃないからだよ」

「?どういうことずら?」

「ガンプラバトルは前提としてガンプラを作らなきゃいけないわけだけど、人によっては手先が器用じゃなくてパーツを間違って壊しちゃったってことが良くあるの」

 特に初心者の場合、ゲートと一緒にアンテナを切っちゃったとか、取り付けるパーツを付け忘れて外すときにポリキャップが折れたとかは、有名な失敗談だ。

 実際お姉ちゃんも、初めて作ったガンプラの手の甲のパーツを切り外した瞬間勢いよく飛んでいって、無くしてどんよりしてたのは覚えてる。

「だからちょっとだけ割高だけど、ちゃんと作ってあるパーツを買って、それを取り付けてバトルすることも良くあるんだよ」

 勿論改造するならちゃんと機体のパーツ全部が入ってるキットを買うべきだけど、皆が皆改造してバトルするって訳じゃない。

 人によっては機体そのものが好きで、パーソナルカラーの色塗り以外の改造をしないなんて人も大勢いる。

「ずら~なるほど、ガンプラバトルも奥が深いずら」

「うゆ。って、そろそろお昼だけど、花丸ちゃんは何食べたい?」

 歩きながらスマホで近くの飲食店を探してみれば、以外と色々とあるのがよく分かる。

「ずら~……ずら?」

 花丸ちゃんも悩んでいたが、何かに気がついたのか少し通りすぎた1つのお店に戻った。

「花丸ちゃん?」

「ルビィちゃん……ここが良いずら」

「ここって……ラーメン屋さん?」

 なんというか見た目は地味な店感で、入り口にメニューらしきものが置いてあるだけという、本当にお店なのかも怪しい所だった。

「――おや、ここに決めるとは中々通なラーメン好きニャね」

「ピギィ!!へ?貴女は?」

 いつの間にか隣に立っていたオレンジの髪に眼鏡の女性の声に、私はどこかで聞いたことのあるような気がしたが、

「ここは秋葉原でも結構珍しい、チャレンジ系ラーメンが楽しめるラーメン屋さんニャ。週変わりでスープが変わるから、何度来ても楽しめるお店なのニャ」

「チャレンジ系……!!良い響きずら!!」

「チャ、チャレンジ系……てことはそれなりに多いんですよね……ルビィ食べきれるかな」

 ルビィの一言が聞こえたのか、お姉さんは笑って。

「大丈夫ニャ。チャレンジメニューもあるけど、普通のサイズのラーメンも置いてあるから、普通の人でも食べれるニャ」

「そ、そういうことなら」

 お姉さんの勧めで、一緒に入ろうとしたその時だった。

「――あ!!漸く見つけた!!」

 と、これまたどこかで聞き覚えのあるような声が聞こえてきたかと思うと、後ろから茶髪でサイドテールの女性が息を切らしながらやって来た。

「ニャ!?なんでここにいるニャ!?今はお仕事中じゃ!?」

「なんでここにいるニャ……じゃないでしょ!!教え子の子から連絡来て、また逃げたってLIMEで来たんだから!!あとお仕事はもう終わったから!!」

 まるで怒り心頭といった具合で捲し立てる女性だったが、女性の声を聞いていてふと思った。

(あれ?この声ってまさか……いやいや、けど)

 そんな馬鹿なと思いたかったけど、けどその女性の掛けてる眼鏡を外して考えると、どうしてもそうとしか思えない。

「――あ、()()()()!!」

 と、まるでルビィの考えを狙ったかのように、目の前で一人の……ルビィと同い年ぐらいの少女3人が、考えていた名前と同じ名前を言ってしまった。

「あ、聖ちゃん。ごめんね、いつもいつも」

「い、いえ!!私達こそコーチの捜索に何時も何時もありがとうございます。コーチ、東京に出てくると毎回毎回私達を何時も置いて逃げるんですもん」

「いや……逃げてるんじゃなくてただこっちのラーメンを食べに行くだけニャ」

「コーチ自身がラーメン屋さんなんですから、こっちに来てまでラーメンを食べなくてもいい気がします!!」

「ていうか、コーチ一人だけ食べ歩きなんてズルいです!!私も一緒に行きたいです!!ついでに奢ってください!!」

「唄楽オミャア()からラーメン取ったら何も無くなるって分かって言ってるニャ!!あと明日香が一緒に来たら()が食べる分のお金が無くなるニャ!!奢って欲しかったら少しは自重を覚えろニャ!!」

 怒濤の如く流れる名前にルビィは困惑した。

「ル、ルビィちゃん……もしかして」

 訂正、困惑したのは花丸ちゃんもだ。

「う、うゆ……もしかしなくても……小泉花陽さんと、星空凛さん……ですか?」

 ルビィの問いかけに、件の二人も気づいたのか、なんとなく罰の悪そうな顔を花陽さん(?)はして

「う、うん。そうだよ」

 肯定した……肯定した……肯定……

「「……サ」」

「?」

「「さ、サインください(ずら)!!」」

 拝啓昴さん、ルビィは今幸せの絶頂にいるっぽいです。



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Extreme Burst その十二

今更ながら花丸&ルビィ√ではバトルがありません。というか入れようとしても尺的な問題でこれ以上伸ばせないので(短いとはいえ既に12話も使ってますし

はやくエリチカとかのバトル描写書きたいのに……


 そして時は戻って、私と花丸ちゃんはそのラーメン屋さん……『亜紅次厨(あくしず)』で、なんと星空さんと花陽さんの奢りでお昼御飯を食べた……というか、目の前で巨大なすり鉢みたいな器に盛られたチャレンジ豚骨ラーメン(重量約4.6㎏を制限時間40分)を、どこかの丸いピンクの宇宙生物よろしく吸い込んでいく三人の猛者(凛・花丸・明日香)の3人を見て、胃もたれしたルビィと花陽さん以下2名はミニ炒飯とミニラーメンだけで充分だった。

「いや~こっちの豚骨も美味しいニャ!!」

「そうずら……これだけ食べて無料なんて天国ずら」

「明日香的にはこれにライスがあってもいい気がするね」

『いや無いから!!』

 私達四人と、まさか35分ぐらいでスープまで全部食い尽くされるとは思ってなかった店員全員が思わず突っ込んだ。

 ラーメンの中でもカロリーが数段跳ね上がる豚骨の、それも巨大すり鉢チャレンジメニューのものを、まさか女性3人がそれぞれ一皿ずつ食い尽くすなど誰が想像できようか。

 しかも店からしたらお金を取れないうえに、景品としてアイスまで進呈するという、テレビ番組なら兎も角個人でやられるのはかなり痛い。それも3倍でなんて。

「花陽さん、星空さんて結構食べるんですね」

「アハハ……凛ちゃんの場合はラーメンオンリーだけどね。普段はどっちかというと幕の内弁当とか1つで充分みたいなんだけど」

 つまりラーメンだけとはいえ、星空さんはかなりの大食漢(?)らしい。それに張り合える花丸ちゃんと明日香ちゃんも凄いけど。

「それを言うならかよちんは白米の消費量が桁違いニャ!!秋なんか各地のブランド米を米俵で買って、5俵を一1ヶ月で消費したのを、凛はにこちゃん経由で知ってるにゃ!!」

「ちょ!!そんなには食べてないよ!!」

 花陽さんは慌ててそんなことはないという。そうだよね、プロのガンプラアイドルの花陽さんがそんなに……

「せいぜい3俵を1ヶ月だよ!!」

「結構食べてたよ!!」

 3俵って米俵3つ分だよね!!確か1俵が60㎏だから……180㎏を1ヶ月で消費したの!!

「どっちにしろ食べ過ぎニャ!!そのせいで衣装がキツくなって、ことりちゃんにチュンチュンお説教されたの、凛は全部知ってるにゃ!!」

「新米は仕方ないんだよぉぉぉぉぉぉ!!炊きたての新米片手に秋刀魚とか松茸とかを食べないなんて、日本人じゃありえないんだよぉぉぉぉぉ!!」

「凛の主食はラーメンだから関係ないにゃ」

「ラーメン以外の料理作れないからでしょ!!」

「よしバトルフィールド立つニャ!!いくら親友のかよちんとはいえ、言ってはいけない事があるニャ!!」

 ……なんか、ルビィ達を置いて喧嘩してるし……ていうか、今回の主役のルビィを置いてきぼりにしないで欲しい。

「……なんかごめんね、うちのコーチ達が騒がしくて」

「ピギィ!!」

「ピギィ?」

「あ、いえ……聖さん達は凛さんにコーチして貰ってるんですか?」

 話しかけてきた茶色寄りの金髪ストレートの女性……久瀬聖さんは私の問いに苦笑を返した。

 なお聖さんの隣で静かにミニラーメンを食べてる青いポニーテールの人が加茂列唄楽(かもれうたら)さん、花丸ちゃんの隣でチャレンジメニュー完食した薄いベージュのショートカットの人が二宮明日香さんらしい。

「コーチって言えばそうなるかな」

「凛はコイツらのコーチじゃないニャ!!コイツらは凛のお店に毎日ラーメン食いに通ってるただの常連3バカトリオにゃ」

「けどコーチだってちゃんとガンプラバトルして教えてくれるじゃないですか」

「そうしないとおみゃぁら凛のお店に居座るからにゃ!!土曜の開店から閉店まで居続けられたら逆に営業妨害にゃ!!」

 なんでこんなことに……と項垂れる凛さんだが、

「μ'sじゃなくなってからもうだいぶ経って、調理師学校もちゃんと行って博多でラーメン屋やるって弟子入りして、二年前漸く自分のお店を持てたと思ったらこの3人に捕まってガンプラバトルの教えろとこの仕打ち……凛が何か悪いことしたかニャ!!」

「でもお店事態は黒字ですよね」

「おみゃぁらが毎日ラーメン食いに来てりゃそりゃ黒字にもなるニャ!!しかも父兄さん達もお昼に食べに来てくれるからニャ!!」

 お店としては嬉しいが、お店を持てたばかりだから少しでもお客さんとの時間を大切にしたいということなのだろう。

「だったら私達がバイトで手伝いますって言ってるのに」

「バイトで雇ったらそれこそ明日香のバカが食い尽くすニャ!!てか、お店持てたばかりでバイトなんて雇えるかぁぁぁ!!」

 なんとも世辞辛い事だと思ったが、そこで私はふと疑問に思った。

「そういえばμ'sの皆さんって、今はどんな事してるんですか?花陽さんとにこさんはコンビでプロで活躍してて、南ことりさんは有名ファッションデザイナーをしてるのは知ってますけど」

 μ'sのメンバーでプロになったのはこの2名だけ。絵里さんは今回の昴さんが出るデモバトルに参加してくれるみたいだけど、表向きプロとしては活動してないはずだ。

 ちなみに花陽さんとにこさんはその戦い方からそれぞれ、『鳳仙花』『鮮血花魁(ブラッディ・メアリー)』という異名をそれぞれ持ってたりする。

「ん?うーんかよちん、これって教えても良いやつだっけ?」

「あー、一応あまり口外しないって約束してくれるなら大丈夫だよ。知ってる人は知ってるし」

「そうニャね。かよちんなんてこの間熱愛報道があったくらいだし」

「それは忘れてって言ったよね凛ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

「いや並の相手なら兎も角……てか今更だけどどうやったらあんな超優良物件を射止めたのか凛の方が知りたいニャ」

「熱愛報道……あ、そういえばソンナコトアリマシタネ」

 忘れるべくもない、昴さんのファンと同時に花陽さんのファンであるルビィにとっても衝撃だったあのニュース……。

「ルビィちゃん、目から光が消えてるずら」

「大丈夫だよ花丸ちゃん……あの報道は昴さんと一緒に膝を落として寝込むくらい辛かったけど、ちゃんと乗り越えたから……うん、チャントネ」

「どう見ても乗り越えて無いずら!!ばっくとぅルビィちゃぁぁぁん!!」

 あぁ花丸ちゃん、私にも時が見える……ガクッ!!

「ルビィちゃん!?ルビィちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」



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