紅蓮の闘志、黄金の牡丹 (ザキール本多)
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第零話 日常

 血走った人々の目、彼らは口々に×××を非難し、投石する。

 彼が、×××が罪人だなんて、そんなことはありえない。

 そんな私の想いを、言葉を否定する様に磔にされた×××の背から真紅のマントが飛び去ってゆく。真紅のマントは英雄の証。そう言って彼の背に真紅の翼を与えたのはかつての私。×××は静かに、それでいて確かに、私を見て首を横に振った。まるでもういいんだとでも言うかのように、それでも私は×××の無実を信じた、叫び続けた。

 

「彼が罪を犯すような人ではないと、貴方がたがよく知っているのではないですか!」

 

 人々の目は悪意をなみなみと注いだような暗い赤色に染まっていて、誰一人として私の言葉に耳を傾けるものはいない。だとしても、それでも、私は彼の親友として止まるわけには行かない。止めるわけにはいかない。必死に説得を繰り返した、何度も何度も同じ言葉を繰り返した。彼は、×××は無実だと誠意をこめて、何度も繰り返した。だが、熱狂した人々にその言葉は届かない。やがて日が落ち、彼は引き立てられ、処刑された。処刑人の腕が悪いのか、斧が何度も彼を×××に振り下ろされる。いっそ一回目で死ねたらどれだけ幸せだっただろう。だが彼は一度たりとも悲鳴を上げなかった。それは×××の×××としての誇りか、それとも……

 

「ッッ!」

 

 夢、とてもいやな夢。たびたび見るけれど、なぜこんな夢を見るのかわからないしそもそも建物や処刑手段からして現代のものではない。

 そう、あれは何も関係ないこと。私には何の接点も無いただの夢。

 頭を振ってずるずると堂々巡りを始めそうな思考を断ち切る。そんなことを考えるより先にやることがいくらもある。

 

 朝食はいつもどおり、買い置きのサンドイッチで済ませ、鏡の前に立つ。髪型にこだわりがあるわけでもないのでひっつめにする。どうせ愉快なクラスメイトたちにいじられるのだからいろいろこだわっても仕方ないとあきらめているのもある。地味な私の胸元で光るのは妙に凝ったロケット。家族がいるわけでもないし、だからといってあの家族の写真をこれの中に入れようとは思わない。そもそも家族の写真がこの家にあるかも怪しい。

 脱線した思考を矯正し、かばんの中を確認する。忘れているものは無いようだ。寝る前にもやっているのだが2度やってしまうのはもはや癖になっているからだろう。ここまでやって始業80分前、少々早起きしてしまったらしい。

 時間はある。気になる話を耳に挟んだし、彼を訪ねてもいいだろう。

 

 

 

 コンとドアをノックし、家から徒歩五分のところに住む不良少年の家を訪ねる。返事が無いうえ起きてくる気配も無い。合鍵を使って容赦なく乗りこんで不良少年をたたき起こす。

 

「一体誰……ぼたんか」

 

「凌牙が先日も学校に来なかったと聞きましてね。私としても一度引っ叩いておかなくてはと思いまして」

 

 不良少年こと神代凌牙は寝ぼけ眼のままでおそらく私の話を聞いていません。頭の上に疑問符が見えそうなくらいに現状を把握していません。

 こうなったら一度決闘して目を覚まさせる必要があります。まったく面倒な人です。

 

「「決闘!」」

 

・・

・・・

 

「オーバーレイユニットを一つ使い、潜行母艦エアロ・シャークの効果を発動!俺の手札は4枚、よって1600ポイントのダメージを相手に与える!」

 

 Win 神代 凌牙

 

 私はパタパタと制服についた埃を払いながら立ち上がる。

 

「目は覚めましたか、凌牙」

 

「ああ、十分だぜ」

 

 神代くんが家から出てくるのを見届け、手首の時計に目を落とし、走れば閉門には間に合うかな。などと考えていると

 

「乗れよ、俺のせいで時間を取らせたみたいだしな」

 

「凌牙。貴方、意外と気が利くんですね」

 

 折角なので凌牙のバイク(のような何かであり、免許はいらないと本人は言い張っている)の後ろに乗って登校。彼が登校するところも見届けられるし、私は遅れない。一石二鳥というヤツですね。 

 




 思いつきではじめたのでどこまで続くかわかりません。それでも応援していただける方に私は最大限の感謝を送ります。
 初回デュエルは熱くしたいので次話に回します。


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第一話 ゴシップ好きに碌なやつはいない

「ぼたんってカレシ出来たの?」

 

 昼休み、今朝の神代くんとの決闘で事故をやらかした暗黒界デッキをどう弄ったものかと思案していると、そんな言葉が投げかけられた。

 

「ひなた、それはどういう意味ですか?」

 

 声を掛けてきたのは夏野ひなた。小学生の頃から彼女とは付き合いがあるのですが、彼女は厄介事を素晴らしい頻度で抱え込む能力があります。主人公体質とでも言えばいいんでしょうかね、彼女は恐ろしく厄介な案件を月イチ以上のペースで持ち込んできます。案件そのものの処理から後処理まで、妹のこかげさんをも巻き込んでなんとかするのがもはや日常と化しています。

「んー、だってぼたん、今朝男の人と二人乗りしてガッコ来たんでしょ。結構噂になってるよ」

 

 彼氏。というのはこの場合凌牙を指すのでしょうか?

 

「ふふ、面白い冗談ですね。凌駕は璃緒にベッタリですし、恋愛沙汰はありえませんよ」

 

 小さく笑ってそう言ってみせる。

 

「ぼたんって反応が淡白だよねー」

 

 自身としては笑っているつもりなのだが、表情筋は私の思ったとおりの仕事をしてくれなかったらしい。日常とは儘ならないものである。

 

「そもそもこういう色恋沙汰で強い否定をしても肯定の裏返しととられるパターンが非常に多いですからね。適当にあしらって自然消滅するのが最もクレバーなやり方ですよ」

 

「はぇー、そんな風に割り切れるって凄いよねー」

 

「別に凄いというものではありませんよ。一種の諦めの境地みたいなものです」

 

 そこまで言い切ったところで、他のクラスから女子がやってくる。噂好きな女子がこうやって襲撃してくるのは想定済み。想定より相手のほうが行動が早いようだが相手側は統制が取れていない。他のクラスからも襲来してくる前に移動を開始するのがベターである。

 なぜ、先ほどは諦めていると発言したにもかかわらず逃げを選ぶのか、一つはああいう手合いは相手するのが面倒だということが挙げられ、もうひとつにはああいう女子は行間をありえない方向に読み解き、事実を180度……は言い過ぎでも175度程度はたやすく捻じ曲げてくるので非常に危険である。言葉攻めで疲れたところでポロっと発言した一言と尾ひれが付きまくった噂でオーバーレイするくらいのことは平然とやってくる。噂好きの女子とはそういう生き物だ。だから逃げる。精神的なスタミナは相手の領分だが、デュエルのためにちゃんと鍛えているので噂なんぞにかまけているああいう手合いよりはフィジカル面で優れている。その自信があるからこその逃げである。

 精神攻撃もデュエリストなら必修科目って事は理解しているが、それは後回しでも問題ない部類だと思っているので女子どもの精神攻撃で耐性をつける気もさらさらない。そもそも精神攻撃をされるような状態って言うのはクリアマインドに達しなければならないとかああいう人種であって私はそういうのにかかわる人間じゃないし、だから何も問題ないのだ!

 

 

 

 キーンコーンカーンコーンとお決まりのチャイムがなって授業の終了を告げる。普段であればデュエルスペースに直行するか直帰の2択なのだが、今日ばかりはそんなことを言ってられない。女子という生き物は大変獰猛でかつ執拗で、学校に、ショッピングモールに、商店街に、奴らは跳梁跋扈しているのだ。住所を突き止めスネークしてくる大変危険な人種もいないとは言い切れない。高校生が出歩いていれば補導されるような時間まで逃げおおせれば完全な回避が可能となる。のだが……これはあまりにも自意識過剰というものか。

 

 

 

「フォーチュン、フォーチュン、リルリルリー!幸せな話、教えてなの」

 

 警戒しながらも校門を出て5分くらい歩いたところで追って無しと胸をなでおろした瞬間だった、そんな風に笑いながらこちらに向かってくる少女がいた。うん、完璧にヤバイ奴だよね。割と理解できない内容を口走りながらこちらへ歩みを進める。

 

「フォーチュン、フォーチュン。幸せいっぱいおしえてなの」

 

「お断りします」

 

 即答すると少女の様子が急変する。信じられないものを見るような目でこちらを見た後で、先ほどの鳥が歌うと表現すればいいようなかわいらしい声から一変、ドスの効いた低い声に変わる。

 

「デーモン、デーモン、デルビルビー。幸せ独り占めはいけないなの。ちゃんと皆で分け分けするの」

 

 あちらさんはデッキを引き出し、どうやら臨戦態勢のご様子。面倒ですが仕方がありません、こういう手合いは勘弁ですが、デュエルそのものは好きですしね。全力でお相手して差し上げましょう。

 

「いいでしょう、のめしてあげますよ」

 

「「決闘!」」

 

 化野 歓那 先攻

  LP4000 手札5

 

 澱姫 ぼたん 後攻

  LP4000 手札5

 




 決闘まで行きませんでしたね。熱いデュエルというだけは簡単なんですが、なかなかコレだというものが書けない今日この頃。
 それもこれも作者のデュエルスフィンクスが悪いんだ。


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第二話 少女二人

 多分、あんまり熱いデュエルじゃないです。でもこれが作者のデュエルスフィンクスの限界なので温かい目で見てあげてください。


「フォーチュン、フォーチュン。先手は私なの!ドロー!」

 

 目の前の少女(対戦データを見る限り化野歓那というらしい)のわざとらしいとってつけたような語尾(前についているのだから語頭が正しいのかもしれない)は意図してつけたような不自然さがなく、流れるように言葉の一部として発されている。そんな風に聞こえる、何故?情報が無い故にソレに対する答えは見出せない。見出せないのに、デュエルに関係ないのに、頭の片隅で思考の堂々巡りが止まってくれない。

 

「フォーチュン、フォーチュン。私は〈デーモン・ソルジャー〉を召喚なの。おまけに〈二重召喚〉を発動して、手札から〈魔界発現世行きデスガイド〉を召喚なの。〈魔界発現世行きデスガイド〉の効果を発動してデッキから〈トリック・デーモン〉を召喚なの!」

 

 〈デーモン・ソルジャー〉攻撃力1900

 〈トリック・デーモン〉攻撃力1000

 〈魔界発現世行きデスガイド〉攻撃力1000

 

 デーモンデッキ。デュエルモンスターズの始まりから存在する〈デーモンの召喚〉などをエースとして利用する上級モンスター主体のデッキ。

 そして場の流れはランク3モンスターエクシーズを展開しにかかっている。直接のシナジーこそないが〈発条機雷ゼンマイン〉あたりなどは場持ちもよく効果も強い、警戒を厳にする。

 

「フォーチュン、フォーチュン。私は〈魔界発現世行きデスガイド〉と〈トリック・デーモン〉でオーバーレイなの!彼方からやってきて!幸せを運ぶ青い鳥!エクシーズ召喚!〈No.49 秘鳥フォーチュンチュン〉!」

 

 〈No.49 秘鳥フォーチュンチュン〉守備力900

 

 No.というシリーズは耳慣れないシリーズだ。一体効果なのか、皆目見当がつかない。

 

「フォーチュン、フォーチュン。私はカードを二枚伏せて、ターンエンドなの」

 

「ドロー、スタンバイ飛んでメインフェイズ」

 

 化野 歓那

  LP4000 手札0

  〈デーモン・ソルジャー〉攻撃力1900

  〈No.49 秘鳥フォーチュンチュン〉守備力900

  セットカード2枚

 

 澱姫 ぼたん

  LP4000 手札6

 

 手札

  真源の帝王

  堕天使ゼラート

  汎神の帝王

  神縛りの塚

  堕天使の戒壇

  アドバンスドロー

 

 悪くない手札です。圧倒してしまいましょうか。

 

「私は〈汎神の帝王〉を発動!手札の「帝王」魔法・罠を1枚墓地に送ってカードを2枚ドローします」

 

 ドローカードは〈堕天使イシュタム〉と〈終末の騎士〉。いいですね、好調な流れです。

 

「手札の〈堕天使イシュタム〉の効果を発動。手札の「堕天使」カードとこのカードを墓地に送ることでカードを2枚ドローします、私は〈堕天使ゼラート〉を墓地に送りカードを2枚ドローします」

 

 ドローカードは〈レベル・スティーラー〉に〈死者蘇生〉、いいカードです。勝ちが見えているといっても過言ではないくらいに

 

「私は〈終末の騎士〉を攻撃表示で召喚。〈終末の騎士〉の効果によりデッキから〈駄天使スペルビア〉を墓地に送ります。手札から〈堕天使の戒壇〉を発動、私は墓地の〈堕天使スペルビア〉を守備表示で特殊召喚し、〈堕天使スペルビア〉の効果を発動。〈堕天使スペルビア〉は自身が蘇生に成功したとき、墓地の天使族モンスター一体を蘇生できます。現れなさい、〈堕天使イシュタム〉!」

 

 〈終末の騎士〉攻撃力1400

 〈堕天使スペルビア〉守備力2400

 〈堕天使イシュタム〉攻撃力2500

 

「さらに〈堕天使イシュタム〉の効果を発動。1000ライフポイントを支払い、墓地の「堕天使」魔法・罠カードの効果を適用できます。これにより私は墓地の〈堕天使の戒壇〉の効果を適用、〈堕天使ゼラート〉を守備表示で特殊召喚し、〈堕天使イシュタム〉の効果により〈堕天使の戒壇〉はデッキに戻ります」

 

 〈堕天使ゼラート〉守備力2300

 

「〈堕天使ゼラート〉の効果を発動、手札の闇属性モンスター一体を墓地に送り相手フィールド上のモンスターをすべて破壊します。私は手札から〈レベル・スティーラー〉を墓地に送り効果を発動」

 

 〈堕天使ゼラート〉の目からビームが放たれ、相手フィールドを焼き払った……かと思うと、一羽の小鳥が必死に逃げ惑い生き延びていた。

 

「フォーチュン、フォーチュン。〈No.49 秘鳥フォーチュンチュン〉はオーバーレイユニットを一つ使って破壊されないの。それと、墓地に送られた〈トリック・デーモン〉の効果によって私は〈迅雷の魔王スカル・デーモン〉を手札に加えるなの!」

 

 エースが手札に加わりましたか。ですが、このターンを防ぎきれなければそのエースも当然現れません。

 

「私は〈堕天使スペルビア〉と〈堕天使ゼラート〉でオーバーレイ。〈神竜騎士フェルグラント〉をエクシーズ召喚します。そして〈神竜騎士フェルグラント〉はオーバーレイユニット一つを取り除き、モンスター一体の効果を無効にできます。私は〈No.49 秘鳥フォーチュンチュン〉の効果を無効にします」

 

 〈神竜騎士フェルグラント〉攻撃力2800

 

「バトルフェイズに移行、〈終末の騎士〉で〈No.49 秘鳥フォーチュンチュン〉を攻撃します」

 

「フォーチュン、フォーチュン。〈攻撃の無力化〉を発動なの!バトルフェイズはおわりなの」

 

「凌がれましたか。ではメイン2は放棄、ターンエンドです」

 

 化野 歓那

  LP4000 手札1

  〈No.49 秘鳥フォーチュンチュン〉(効果無効)守備力900

  セットカード1枚

 

 澱姫 ぼたん

  LP3000 手札3

  〈終末の騎士〉攻撃力1400

  〈堕天使イシュタム〉攻撃力2500

  〈神竜騎士フェルグラント〉攻撃力2800(残りオーバーレイユニット1)

 

「デーモン、デーモン。劣勢なの、なんとかしなきゃのドロー!」

 

 ドローカードを確認した相手の表情が急激に明るくなる。

 

「フォーチュン、フォーチュン。攻め込むなの。〈No.49 秘鳥フォーチュンチュン〉をリリースして、〈迅雷の魔王スカル・デーモン〉をアドバンス召喚なの。このとき、〈No.49 秘鳥フォーチュンチュン〉の効果発動なの。墓地の〈トリック・デーモン〉、〈魔界発現世行きデスガイド〉をデッキに戻して〈No.49 秘鳥フォーチュンチュン〉はエクストラデッキに帰ってくるなの。さらにさらにのトッピング!〈迅雷の魔王スカル・デーモン〉に〈デーモンの斧〉を装備なの」

 

 普通に装備されてしまえば攻撃力3500、私のデッキでそれだけの火力を何とかできるカードはそうありません。

 

「〈神竜騎士フェルグラント〉の効果を発動します。エクシーズ素材を一つ取り除き、〈迅雷の魔王スカル・デーモン〉の効果を無効にし、〈神竜騎士フェルグラント〉以外のカード効果を受けなくします」

 

 そこでとった対処はつまり、スカル・デーモンの無力化、およびデーモンの斧の無効化。

 

「デーモン、デーモン。そんなのは受け入れないなの。〈迅雷の魔王スカル・デーモン〉の効果なの、相手のカード効果対象になったときにサイコロを振って1・3・6が出たらその効果を無効にして破壊するなの」

 

 さすがに相手もそこまで甘くは無かったか、と内心で歯噛みつつも2分の1のギャンブル効果であると心を落ち着かせた。

 

「フォーチュン、フォーチュン。永続罠カード〈出たら目〉オープンなの、このカードはサイコロの出目を1か6に変更できるなの!」

 

「つまり、スカル・デーモンの効果が確実に発動する……ッ!」

 

「デーモン、デーモン。正解なの、そこの大きなお兄さんはご退場願いますなの」

 

 スカル・デーモンの効果を受けて、フェルグラントは苦悶の表情を浮かべながら破壊される。

 

「デーモン、デーモン。そっちのおねーさんも、バイバイなの」

 

 堕天使イシュタムも続けて戦闘破壊される。それも1000ダメージのおまけつき。

 

「くっ!」

 

「フォーチュン、フォーチュン。ターンエンド、形勢逆転なの」

 

 化野 歓那

  LP4000 手札0

   〈迅雷の魔王 スカル・デーモン〉攻撃力3500

   〈デーモンの斧〉(スカル・デーモンに装備)

   〈出たら目〉

 

 澱姫 ぼたん

  LP2000 手札3

   〈終末の騎士〉攻撃力1400

 

 相手のフィールドには対象を取る効果に完全耐性もちのスカル・デーモンが一体。シンプルだが、それゆえに恐ろしい性能の持ち主だ。それでも、闇属性モンスターさえドローできれば勝機はあります。

 

「私のターン、ドロー」

 

 引いたカードは〈炎帝家臣ベルリネス〉炎属性モンスターだ。

 

「スタンバイは処理なし。メインフェイズ、〈死者蘇生〉を発動。墓地の〈堕天使スペルビア〉を蘇生、さらにスペルビアの効果で〈堕天使ゼラート〉を蘇生」

 

 ドローに、賭けるしかない。

 

「〈アドバンスドロー〉を発動、〈堕天使スペルビア〉をリリースしてカードを2枚ドロー」

 

 スペルビアが強烈な光に包まれ、二枚の羽を残して飛び立ってゆく。その二枚の羽はカードに姿を変える。そのカードは……〈天帝従騎イデア〉と〈堕天使の追放〉。望んだカードは、手札に入った。

 

「〈堕天使の追放〉を発動、デッキから「堕天使」カード一枚を手札に加えます。私が選択するのは〈堕天使アムドゥシアス〉。さらに〈堕天使ゼラート〉の効果を発動、手札の〈堕天使アムドゥシアス〉を墓地に送り、相手フィールド上のモンスターを全て破壊します」

 

「デーモン、デーモン。そんなの認めない、認めないなの!」

 

 プレイヤーが何を言ったとしても対抗手段を持たなければ破壊される。ゼラートがふんぬと一声上げて羽ばたくとの羽がダーツのようにスカル・デーモンの右胸を貫き、爆散させる。

 

「バトルフェイズ、〈堕天使ゼラート〉で直接攻撃」

 

 リアクションは、無い。

 

「〈終末の騎士〉で直接攻撃」

 

 彼女は何も言わずに固まったままで、デュエル終了の気が抜けたようなブザーがなるまでの数秒間がやけに長く感じられた。

 そしてデュエルが終わった後、雀が一枚のカードを彼女の手元から抜き取り、こちらに飛んできた。そこにあったのは〈No.49 秘鳥フォーチュンチュン〉のカード。雀は追い払っても、追い払ってもしつこくそのカードを私に押し付けてくるので、雀からカードを毟り取り、蹲ったままの彼女に手渡そうと声をかけた。

 

「どこか具合でも悪くなりましたか?」

 

 少女は顔を上げる、先ほどまでの表情とは打って変わり、幽鬼のようなとでも表現されるような、真っ青な顔色をしていた。

 

「困っている人は放っておけない、か。私も随分感化されたんでしょうね」

 

 日々しっかり鍛えたデュエルマッスルのおかげで、人一人抱えていてもそう苦にもせず我が家にたどり着いた。

 まったく我ながら、襲ってきた人間を助けるとかどこの善人だよ。本当に柄にもない。




ぼたん「今日のデッキ紹介、第一回目は私のデッキ【帝王堕天使】です。名前のまんまですね。堕天使は上級、最上級を多く擁しているため堕天使のみでデッキを組むのは困難です。そのため帝王カードで召喚をサポートし、事故率を下げているわけですね。ちなみに弱点は除去能力の低さです。なにせサイクロン一枚入ってませんからね、除去能力はエクストラデッキに依存する形になりそうです。と、こんなものですかね。ではまた次話でお会いしましょう」


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第三話 狩る者、狩られるもの 前編

 基本アニメ効果とは書きましたが、原作効果とは書いてないので……
 まぁ作者のデュエルスフィンクス的に今後もOCG効果のほうが都合がいいときはOCG効果でいくと思いますのでなにとぞ御容赦を


「ん、んん?」

 

 目を覚ますと、私はかなりおおきな部屋にいた。リビング、なんだろうけど凄く上品な家具や絵画の数々はまるで中世のお屋敷をそのまま持ってきたみたいな雰囲気がある。

 

「目が覚めたみたいですね」

 

 きょろきょろと辺りを見回している私の目の前に現れたのは綺麗な黒髪の少女、澱姫ぼたん。彼女は中等部の有名人“シャーク”の恋人と目されていて、私は彼女にコイバナを聞きにいって……それからどうしたんだっけ?

 

「親御さんには連絡を入れておきましたが……体のほうに異常が無いようでしたら帰っていただいてもかまいませんし、送って欲しいのであれば人を呼びますが」

 

 何か……記憶があいまいだけど、彼女にとんでもなく失礼なことをしたような気がする。

 

「ああ、そういえばこのカードは返しておきますね」

 

 彼女がそういって手渡してきたのは〈No.49 秘鳥フォーチュンチュン〉というカード。クローバーを咥えた可愛らしい小鳥のカード、このカードが私のものだった?

 

「返すって何のことなの?私はこんなカード知らないなの」

 

 そもそも私のデッキは【デーモン】であんな可愛らしいカードは似合わないし、それにこのカード自身も私の手の中から逃げ出そうとしているように見える。

 

「この子は私より貴女が持ってたほうが幸せなはずなの!受け取れないなの!」

 

 澱姫さんにカードを押し付けてその場から逃亡。Dパッドに地図を写して、なんとか見知ったところまで走ってきたけど、もう日は完全に落ちてて午後8時って言ったところだと思う。

 

「澱姫さん、素敵な人なの」

 

 なんていうかお母さんみたいな人だと思う。とっても優しくて、綺麗で、勉強も凄いし、デュエルもかなり強いらしい。らしい、というのは彼女は学校のデュエルスペースではデュエルしないのでほとんどの人がその実力をしらないからだ。勿論、私も知らない。

 

「勿体無いこと、しちゃったなの」

 

 ちょっとよくわからない人だったけど、凄く優しそうだったし、頼んだら一回くらいデュエルしてもらえたかもしれないのに。

 

 

 

 不思議ちゃんな化野さんに挑まれた日の、午後11時。私は港湾区にいました。

 

「ぼたんさん、その倉庫で奴らの取引があるはずだよ。負けるなんてないと思うけど、十二分に気をつけてね!」

 

「大丈夫ですよ、こかげ。あまりうじうじ考えていると足元掻っ攫われますからね、精々暴れまわってきますよ」

 

 理由は単純。ひなたさんがまた善意で首を突っ込んだ出来事が、アブない系だったからであり、彼女のおかげで成立してしまった取引をデュエル(リアルファイト含む)でどうにかするためである。

 

「おい、貴様!」

 

 全力全壊、次々に挑まれるデュエルを後攻ワンキルでなぎ倒していくだけの簡単なお仕事。以前は乱闘ルールとやらを利用して延々挑んで着ていましたが、さすがに場が整った状態で襲い掛かるのは単なる下策と気づいたようで最近ではそんな事も滅多になくなりました。

 

「やめろ!それに触るな!」

 

 あらかた片付けた後で、取引されていたものと思しきトランクに向かって歩みを進める。途中、足に縋り付いてくる汚らしい汚物がいたが鍛え上げられたデュエルマッスルの前には障害にもならず、ちょっと遠心力を利用して下腹部に抉りこむように踵を入れたら悶絶して吹っ飛んでいった。壁が微妙にひしゃげたような気がしたが、この倉庫に何かがあってもまっさきに疑われるのはこの屑どもですし、疑われればまずブタ箱行きでしょう。まぁ、こかげのおかげでどの道彼らはブタ箱行きですがね。

 トランクに鍵は掛かっておらず、簡単なロックを外すとそれ以上の抵抗なく開きました。

 

「白紙のカード?」

 

 トランクの中でさも大事そうに仕舞われていた3枚の白紙のカード。何かはわからないがよからぬ取引に使われていたことだけは間違いない。3枚ともデッキケースのエクストラエリアに収納しておく。何故かはわからないけれど、そうするのが正しいと思われたからだ。

 

「……ここでナンバーズの取引が行われることは分かっている!誰だ!誰が所持している!」

 

 突如として現れた一人の少年。彼の言葉に先ほど蹴飛ばしておいた汚らしいおっさんが声を上げる。どうやらもっと痛い目にあいたいらしいですね。

 

「そいつだ!その女が持っている!」

 

 ナンバーズ、とは先ほどの白紙のカードだろうか?そうであるか否かに関わらず〈No. 49 秘鳥 フォーチュンチュン〉は持っているからナンバーズと名のつくカードはどのみち持っていることになるけど。

 

「女、ナンバーズを渡せ」

 

 闇取引の材料になるようなカードがただのカードであるはずが無い。ただ渡す、という選択肢は毛頭ない。

 

「では、貴方はその対価として何を支払いますか?」

 

「ナンバーズは所有者の精神を汚染し、平和を脅かすカードだ。だから我々が回収している。我々が厳重に管理すると約束しよう、だからこちらに渡せ!」

 

 質問と的外れな答えが返ってきますね。デュエリストはこういう生き物だと分かっていても頭に血が上ります。

 

「私は貴方がこのカードの対価に何を払うかという交渉の話をしているのであって、貴方の理念なんぞどうでもいいんですよ」

 

「すでにナンバーズに囚われてしまっているのか、こうなっては奪い取るしかない。デュエルだ!」

 

 あるぇ?今、私が正気を失ってるって判断されるところありましたか?そんなことを考えている間にも少年はデュエルの準備を進めている。受けて立つしかないようです。

 

「「決闘!」」

 

 澱姫 ぼたん

  LP4000

 手札

  エーリアン・ウォリアー

  一族の結束

  カゲトカゲ

  エーリアン・リベンジャー

  「A」細胞増殖装置

 

 茂部 一郎

  LP4000 手札5

 

「私のターン、ドロー」

 

 ドローカードは〈エーリアン・ドッグ〉、悪くない引きですね。

 

「スタンバイはなし、メインフェイズにモンスターをセット」

 

 増殖装置は……やめておきましょうか。次のターンに「エーリアン」モンスターが引ける確証はないですし、ウォリアーを勘ぐられる真似は避けるべきです。

 

「……ターンを終了します」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 さて、どう出てきますかね……

 

「俺は、〈ゴゴゴゴーレム〉を召喚!バトルだ!裏守備モンスターに攻撃!」

 

 〈ゴゴゴゴーレム〉攻撃力1800

 

 増殖装置を出さなかったためか、無策で突っ込んできましたね。あとは効果でリリースされたりしないことを祈るばかりです。

 

「私のモンスターは〈エーリアン・ウォリアー〉戦闘破壊されますが、破壊されるときにあなたの〈ゴゴゴゴーレム〉にAカウンターを2つ載せます」

 

 〈エーリアン・ウォリアー〉守備力1000

 

「エーリアンだと!?」

 

 妙にオーバーリアクションですねぇ。エーリアンなんて……珍しいとは思いますがそこまでレアでもないでしょうに。

 

「俺は〈岩投げエリア〉を発動!さらにカードを一枚伏せて、ターンエンドだ!」

 

 織姫 ぼたん

  LP4000

   手札

    カゲトカゲ

    エーリアン・リベンジャー

    「A」細胞増殖装置

    エーリアン・ドッグ

    一族の結束

   

 

 茂部 一郎

  LP4000 手札3

   〈ゴゴゴゴーレム〉 攻撃力1800

   〈岩投げエリア〉

   セットカード1

 

「私のターン、ドロー」

 

 ドローカードは〈エーリアン・ソルジャー〉、あのセットカードがミラーフォースじゃなければいいのですが……通称お漏らしこと激流葬の危険もありますし、ここはカードを温存しましょうかね……

 

「スタンバイは処理なし。メインフェイズ、私は手札の〈エーリアン・リベンジャー〉の効果を発動、フィールド上から2つのAカウンターを取り除くことでこのカードを特殊召喚します」

 

 〈エーリアン・リベンジャー〉攻撃力2200

 

 無反応。召喚反応系ではないということでしょうか?

 

「私は〈エーリアン・リベンジャー〉の効果により、あなたのフィールド上のすべてのモンスター……この場合は〈ゴゴゴゴーレム〉にAカウンターを付与します。行きなさい、ドミネーション・スコール!」

 

 リベンジャーの甲殻がぶわっと開き、そこからフィールド全体に胞子がまき散らされてゴゴゴゴーレムの体が腐食していきます。さすがソリッドビジョン、無駄に凝っていますねぇ。

 

「さらに、私は〈一族の結束〉を発動。私の墓地には〈エーリアン・ウォリアー〉のみ、よって爬虫類族モンスターの攻撃力を800ポイント上昇させます」

 

 〈エーリアン・リベンジャー〉攻撃力3000

 

「攻撃力3000か……」

 

 相手の場には開かずの罠が一枚。ここまで動かなかったということはホントにミラフォの危険がありますね……ここはひとまずリベンジャーだけで様子を見ましょうか。表情からは焦ってそうですが……相手が演☆技☆王でないという確証もありませんしね。

 

「〈エーリアン・リベンジャー〉で攻撃するとき、Aカウンターの数に比例してゴゴゴゴーレムの攻撃力が低下します。インヴェイド・ネイル!」

 

「いいだろう、俺は〈岩投げエリア〉の効果を発動。デッキから〈リバイバルゴーレム〉を墓地へ送ることで、〈ゴゴゴゴーレム〉を戦闘破壊から保護する。さらに〈リバイバルゴーレム〉の効果を発動、守備表示で特殊召喚する!」

 

 ここまできて使わないとは……ブラフでしたね。してやられました。

 

「メインフェイズ2、〈「A」細胞増殖装置〉を発動してターン終了です」

 

 織姫 ぼたん

  LP4000

  〈エーリアン・リベンジャー〉攻撃力3000

  〈一族の結束〉

  〈「A」細胞増殖装置〉

  手札

   カゲトカゲ

   エーリアン・ドッグ

   エーリアン・ソルジャー

 

 茂部 一郎

  LP2500 手札3

  〈ゴゴゴゴーレム〉攻撃力1800

  〈リバイバルゴーレム〉守備力2100

  〈岩投げエリア〉

  セットカード1

 

「俺のターン、ドロー!どうした?おびえているのか?安心しろ、お前のナンバーズは俺が正しく処理してやる」

 

 盤面的には互角、手札も同数、ライフはこちらに軍配が上がっている。つまり相手は状況を覆せる何かを握っているということなんでしょうね。

 

「俺は〈ゴゴゴゴーレム〉と〈リバイバルゴーレム〉をリリース!汝は絶望の権化、我が敵を絶望の舞台で躍らせろ!〈The Despair URANUS〉!」

 

 〈The Despair URANUS〉攻撃力2900

 

 二体のゴーレムが崩れ落ち、その瓦礫の中から黄金の仮面が姿を現す。

 

「〈The Despair URANUS〉は世界に一枚だけのモンスターカード、プラネットシリーズの一角!その力、とくと見るがいい!〈The Despair URANUS〉の召喚時、相手は永続魔法か永続罠、いずれかを選択する。そして俺は選択されたほうのカードを1枚、デッキからセットできる」

 

 永続魔法と永続罠、永続魔法はおそらく一族の結束あたりが飛んでくるだろう。では永続罠は?一体何がくる?エースを守護する進撃の帝王などでしょうか?だとすると、永続魔法のほうがローリスクでしょうかね。

 

「私は、永続魔法を選択します」

 

 相手は召喚権を使っている。これ以上モンスターが出てくるとは考えにくい、ならば一族の結束でリベンジャーが突破されようと問題は無い……はずです。

 

「俺はデッキから永続魔法〈一族の結束〉をセット、発動する!」

 

 〈The Despair URANUS〉攻撃力3700

 

 黄金の仮面がカパッと口を開くと、一枚のカードがフィールドに舞い降りる。そして地面についたと思った矢先、魔法陣が広がり、二体のゴーレムの幻影が黄金の仮面に吸収される。

 

 やはり、ですか。これで向こうのモンスターの攻撃力は3700、戦闘破壊しようとは思えなくなるラインですかね。

 

「そして俺は、永続罠〈安全地帯〉を発動!これで俺の〈The Despair URANUS〉は効果対象にならず、〈岩投げエリア〉の効果で戦闘破壊されない。神と同等の耐性を手にいれた!」

 

「何ですって!?」

 

 くっ、事前に伏せてあったのですか。あと、戦闘破壊耐性は〈安全地帯〉にもあるはずなんですが……いえ、突っ込むだけ野暮というものでしょう。

 

「さらに〈The Despair URANUS〉は魔法&罠ゾーンの表側表示のカード一枚につき、300ポイント攻守が上昇する!この効果により、〈The Despair URANUS〉の攻撃力は4300だ!今、このカードはまさに天空神ウラヌスそのものとなったのだ!」

 

 これは本格的にまずいですかね?確かに神と豪語するだけはあって、神と同等といっても差し支えないほどの耐性を与えてありますし、純粋に上から殴り殺すという手も潰しに掛かっていますね。

 

「バトルだ!〈エーリアン・リベンジャー〉に攻撃!さぁ力の差に絶望せよ!ヴェール・オブ・ディスピアー!」

 

 仮面の口から今度は黒い靄が吐き出される。その靄の中でリベンジャーは苦しみもがいて、体がボロボロと崩れ落ちていく。なんでこうエグイほうに力入ってんですかね、このソリッドビジョンは……

 

「さぁ、大人しくナンバーズを渡せ。そうすれば魂を取る必要も無い」

 

 まさに絶体絶命ってやつですかね。いつのまにやら魂が掛け金になってたみたいですけど……残念ながらどこぞのアホ一名のおかげで命がけなんて珍しいことでもありません。というか今日も一応命がけの仕事ではありましたし、ただの延長戦です。

 行きますよ茂部とやら、手札反応の貯蔵は十分ですか?




ぼたん「すみませんね、今回使用しているデッキは次回のネタに繋がってくるので紹介できないんですよ。代わりに前回のデュエルで化野さんが使用した【デーモン】デッキを見てみましょうか。使用カードからは判明しませんでしたが、デッキとしては【チェスデーモン】に分類されるデッキでした。ちなみに〈出たら目〉を使用していましたが、フォーチュンチュンにラッキーストライプばりの悪さをしてもらうという手もありました。こちらのパターンを採用していれば、もっとチェスデーモンを出せたかもしれませんが……まぁ、作者の気が向いたら番外編とかで書くんじゃないですかね?書かない可能性も大いにありますけど」


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第四話 狩る者、狩られる者 後編

 さて、投降という選択肢はないのですけれど。どうしましょうかねぇ……交渉の糸口はありそうですけども……

 

「ほう、まだやるか。そこまでナンバーズに囚われていたとはな……しかたあるまい、冥土の土産に一つ教えてやる。この〈The Despair URANUS〉はフィールド上に存在する限り、俺のフィールド上の表側表示の魔法・罠カードを破壊できなくなる効果を持っている。つまり、俺の〈The Despair URANUS〉は無敵だ!」

 

 無言を都合のいいように解釈されてしまったようです。全く、こういう手合いは厄介で頭に血が上りますよ。

 

「ナンバーズに囚われた少女よ、お前の魂は俺が解き放ってやる……ターンエンドだ」

 

 完全に聞く耳もたずってところですね。頭抱えていいですかね?

 

織姫 ぼたん

  LP4000

  〈一族の結束〉

  〈「A」細胞増殖装置〉

  手札

   カゲトカゲ

   エーリアン・ドッグ

   エーリアン・ソルジャー

 

 茂部 一郎

  LP2500 手札3

  〈The Despair URANUS〉攻撃力4300

  〈岩投げエリア〉

  〈安全地帯〉

  〈一族の結束〉

 

「私のターン、ドロー」

 

 ドローカードは〈二重召喚〉。当たりですね、計画を一気に前倒しできます。

 

「スタンバイフェイズには〈「A」細胞増殖装置〉の効果で〈The Despair URANUS〉にAカウンターが乗るはずですが……」

 

 ケースが開き、実に体に悪そうな紫色の霧がプシューと漏れ出すが……

 

「残念だが、〈安全地帯〉の効果により〈The Despair URANUS〉は効果対象にならない」

 

 紫の霧は燦然と光を放つ黄金の仮面を避けるようにあたりに漂っていく。効果は不発だ。

 

「メインフェイズに移行。私は手札の〈エーリアン・ソルジャー〉を召喚。さらに手札の〈カゲトカゲ〉の効果によってレベル4モンスターが召喚されたとき、自身を特殊召喚します。そして〈エーリアン・ソルジャー〉と〈カゲトカゲ〉でオーバーレイ!」

 

「来るか、ナンバーズ!」

 

 あ、盛り上げてもらって悪いんですけど来ません。ごめんなさいね。

 

「群れなす蜥蜴の王よ、鱗まといし冷血の王よ。我が呼び声に答えよ。エクシーズ召喚〈キングレムリン〉」

 

 〈キングレムリン〉攻撃力3100

 

「ナンバーズではない……だと?」

 

「すまない、この効果はサービスだから受け取って欲しい。うん、また……なんだ。でも君はこのエクシーズ召喚を見たとき、言い表せない“ときめき”みたいなものを感じてくれたと思う」

 

「ええい、黙れ!」

 

「では効果処理を、〈キングレムリン〉の効果により、エクシーズ素材を一つ取り除き、デッキから〈エーリアンモナイト〉を手札に加えます」

 

 爬虫類限定万能サーチャーキングレムリンさん、サーチャーの割にステータス高いのも魅力の一つ。いきなり地面を掘りだしたかと思えば、まるで「とったどー」とでも言わんばかりに掘り出したアンモナイトを手渡してくる。一応笑顔で受け取っておこう。

 

「そして〈二重召喚〉を発動、今手札に加えた〈エーリアンモナイト〉を召喚します。〈エーリアンモナイト〉は召喚時に墓地のレベル4以下の「エーリアン」モンスター一体を特殊召喚できます。対象は〈エーリアン・ウォリアー〉」

 

 床に突如として穴が開き、蜥蜴男の亡骸が運ばれてきたかと思うとアンモナイトが触手をフルに活用し手術じみたなにかをして、ウォリアーを無理やり生き返らした。ごめんね、エーリアン使い荒くて。でもすぐ墓地に行くのよ、貴方。

 

「私はレベル4〈エーリアン・ウォリアー〉にレベル1〈エーリアンモナイト〉をチューニング!」

 

 ☆4+☆1=☆5

 

「星海に漂う侵略者の砦よ、銀の腕もて鎖を引き払え!シンクロ召喚!〈宇宙砦ゴルガー〉!」

 

 〈宇宙砦ゴルガー〉攻撃力3400

 

「シンクロ……召喚だと!?なんだその召喚方法は!」

 

 ハートランド周辺では流行ってませんからねぇ、シンクロ。こかげちゃんとか普通に使ってますから、認知はされてるはずなんですけどね……認知度低いんでしょうか?

 

「〈宇宙砦ゴルガー〉の効果でフィールド上に表側表示で存在する魔法・罠カードを全て手札に戻します。この効果により手札に戻したカードの数だけAカウンターをフィールド上のモンスターに付与します。〈キングレムリン〉に5つのAカウンターを付与、〈安全地帯〉のデメリット効果により〈The Despair URANUS〉は除外されます」

 

 まさに形勢逆転。相手フィールドの魔法・罠は全て消滅し、さらにモンスターまで排除。ここまで文字通りの逆転というのも珍しいでしょうね。

 

「馬鹿な!この俺の完璧な布陣が!」

 

「ええ、貴方の戦略は完璧でした。だが、しかし。まるで全然、この私にとどかないんですよねぇ!〈宇宙砦ゴルガー〉と〈キングレムリン〉で直接攻撃。受け取りなさい、この熱い一撃を!」

 

「ぐああああっ!」

 

 デュエルが終了すると、少年が吹き飛ばされたのと真逆……つまり私の手元に3枚のカードが飛んでくる。夕方の出来事といい、ナンバーズとよばれるカード群は勝者の元へ移動するような意思、いえ生存本能のようなものがあるんでしょうか?しっかしどうしたもんですかねぇ?オートアンティルール(相手によっては魂まで掛け金になるらしい)の結果がここまで使いにくいカードとは……ついていませんね。うーん、アムドゥシアス2体で無理やり出せますが……出した後は単体の性能でがんばってもらうほか無いんですよねぇ。

 

「ぐっ、まさか貴様もナンバーズを狩る者か!?」

 

「さぁて、ね。敗者に話すことは何もありませんよ。ちゃあんとオネンネしてくださいね?」

 

 意味深な台詞を匂わせておいて、注意が逸れたところを蹴り飛ばして黙らせる。シンプル故に便利な手段です。特にポリ公に引き渡す相手に薬物なんて使えませんからねぇ……ああ、そういえば何匹か検体の確保もお願いとか言ってたような気もするし、2、3匹パクっておきますか。この倉庫に防犯カメラはありませんし、正確に何人いたかを把握するのって難しいのでまずバレないでしょう。バレたらバレたで揉み消しが大変でしょうが……彼に丸投げしましょう。私の知ったことではありません。

 

 

 

「全く、君は粗暴だな」

 

 彼は、このハートランドに居を構える自称医者。スライダー瓶田。前衛的な医療形態であるデュエル医療の完成を目指すこの男は、医学界から白い目で見られ、ついには追放されたらしい。こんな状況でもちゃんと医師免状が有効な辺り、医者は医者なんですよねぇ。

 

「む、ちゃんと見繕ってきましたし。いいじゃないですか」

 

「ふむ……確かに素晴らしいデュエルマッスルの持ち主だ。彼らからは素晴らしいデュエルエナジーが期待できそうだ。だが、それとこれとは話が別だ。あまりに外傷がひどければ生命活動に支障をきたすのは明白。君はもう少し丁重な扱いというものを覚えたまえ」

 

 この自称医者はデュエリストがデュエルする際に発するというデュエルエナジーを用いて医療を行うというトンデモな医者である。ちなみに診察とかいてデュエルと読むレベルのデュエル脳でもある。彼曰く、デュエル中のデュエルエナジーの発散は代謝のようなものであり、デュエルにぶつける感情とデュエリストの肉体的な代謝がうんたらかんたらと言っていた。ぶっちゃけ話が長いので覚えてない。ようはムキムキマッチョなら素人同然だろうとデュエルエナジーが一杯でる、ガリガリのチビだろうと逆境で折れなければデュエルエナジーが一杯出る、マッチョが逆境で燃えてるとやばい量のデュエルエナジーが出るってことらしいです。ちなみに私は闘志とデュエルマッスルを高いレベルで兼ね備えている素晴らしい固体らしいですよ?鍛えてはいるけど私って目に見えてムキムキ系じゃないから筋肉があるって触らずにばれたのって実はこの自称医者だけだと思う。

 

「さて、報酬はいつもの口座でかまわないな?」

 

「ええ、お願いしますね」

 

 まぁ、これは副業の人身売買もどきである。別に奴隷としてデュエルエナジーを吸い尽くすとかそんなんじゃなくてある程度デュエルして満足したら一般社会に返してる(らしい)し、そもそも裏社会にいたようなのをカウンセリングして表社会(定職にはまず就けないらしいけど)に復帰させてるので一応社会貢献してると言えなくは無い事業です。まず認可は下りないでしょうけどね。

 私はこんなことをして金を稼がなくてはならないほど貧困であるかといえば、答えは否である。叔父から普通に生活する分には問題ない程度のお金はもらっているのだが、残念ながらデュエリスト生活には不足しているのでこうやって地道に小遣い稼ぎをしている次第である。普通に叔父さんにいったら増額してもらえそうですが、叔父さんには神代家の親族が色々ちょっかい掛けようとしてくるのを片っ端から潰すために一杯お金を使ってもらってるはずですので、これ以上負担をかけてはいけませんしね。




ぼたん「今回紹介するのは茂部少年の【岩石族】デッキです。今回はあっさり倒してしまったので出せませんでしたが、メガロックドラゴンなどのエース次々にを繰り出していく戦術でこれまでナンバーズを回収してきたそうですよ。ただ、今回はただただ相性が悪かったというだけの話で実はかなりの強者という設定、だそうですよ。それでは、次回も紅牡丹をよろしくおねがいします」



ぼたん「あー、ストックが切れたので投稿頻度は低下するそうです。あんまり期待せずに待ってあげてくださいね。それでは、また」


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第五話 銀河を汚す侵略の胞子

 カイトをすぐに出さないだろうと思ってナンバーズハンターをカイトの口調をベースに書いたらその次話でもうカイトが出る系の話があるらしいぞ。


「あの、昨日はありがとうございました!」

 

 翌朝、そういって朝礼前に頭を下げに来たのは昨日の化野さん。クラス章を見るに隣のクラスみたいですね。

 

「いえ、大丈夫ですよ。それに目の前で倒れられては見過ごすわけにもいきませんし」

 

 彼女が襲ってきたのも、あの少年の言葉を額面どおりに受け取るならカードに操られていたのでしょう。今朝は頭に血が上ってましたが、手放したほうがいいのかもしれませんね。

 

-すてないで-

 

「ッッ!?」

 

 今の、言葉は……

 

-すてないで-

 

 これがナンバーズのカードによる精神汚染ですか……直ちに影響はなさそうですが、これはおそらく兆候。このままナンバーズのカードを所持していれば、おそらくは彼女のように誰かを襲ったりするようになるのでしょう。あと、語頭にフォーチュンとか付けるようになるんですかね?

 

-だいじょうぶ-

 

 やはり、私の思考は筒抜けのようです。さて、どうしたものでしょうね。交渉しようにも思考が筒抜けというのは随分と痛い条件です。それに相手は問答無用で精神を潰しに来るかもしれません。

 

―……―

 

 む、だんまりですか。ならばこちらもあちらについて考えるのはやめたほうがいいのかもしれませんね。相手にただ情報を与えるのも馬鹿らしいですし。

 

「やっほー、ぼたん」

 

「おはようございます、ひなた」

 

 今日の、今の私は笑えているだろうか?ナンバーズの片鱗を味わった私は日常生活を変わらず送れるのでしょうか?

 

「ぼたん、顔真っ青だよ。医務室行って来た方がいいって」

 

 やはり無理だった様です。自身がのっとられるかもしれないと聞いて平然としてたらそれはそれで恐ろしいのですけどね。

 

「だいじょうぶですよ。私がこれまで一度でも怪我や病気をしましたか?」

 

「見たこと無いから心配してんでしょ!」

 

 あらら、安心させるつもりが逆効果だったようです。その後も十数分に渡り心配され続けたのでしぶしぶ医務室に行くことにしました。無論異常なんてないんですけどね。

 

 

 

 ふぅ、今日は散々ナンバーズに振り回されました。体育の授業を初めとする教室移動全てにおいて、私のデッキケースを背負った小鳥が付いてくるのです。そのうえどれだけ文句を言おうと、何を聞こうと返事は9割がた「すてないで」でまともな会話さえ成立しませんでした。

 

「ぼたん、いるか?」

 

 疲れて何をする気力も涌かずに家で突っ伏していると珍しく来客。彼のほうから尋ねてくるなんてめったに無いのに、明日は槍でも降りますかね?

 

「おや、珍しいですね。凌牙」

 

「なぁ、ぼたんはナンバーズって知ってるか?」

 

 現在それに振り回されているという情報を出すべきかどうか逡巡する。もっとさりげなく出せればあとで何か言われても文句は言わせないように使えるんですが、残念ながら現在の彼はそのことで頭が一杯みたいで欠片でも情報を出そうものなら彼の通り名“シャーク”の如く噛み付いてくるでしょうね。

 

「まあ突然言われても分からないよな。ナンバーズってのは噛み砕いて言うと凄く危険なモンスターエクシーズのことだ。持ってるだけで頭がおかしくなっちまうんだ」

 

「ほう。で、そのナンバーズがどうしたんです?」

 

 一応無知ロールを貫いておきましょうか。必要そうなら機を見て明かせばいいですしね。

 

「俺の後輩がそのナンバーズを追いかけてる、面倒なことに首を突っ込みそうになったら首根っこ捕まえて押しとどめてくれないか?」

 

 おや、普段の周囲の全てが敵だとでも言いたげな凌牙はどこにいったんでしょうね。

 

「ふふ……凌牙が他人を気にかけるなんて珍しいですね」

 

「うるせぇ!余計なお世話だ!」

 

「貴方のソレも余計なお世話かもしれませんよ?」

 

「っ!」

 

 ふふ、意地悪な発言でしたかね?彼が他人を気に掛けるなんて珍しいから、からかってみたくなったというほんとにそれだけなんですけどね。

 

「で、その後輩たちの画像データとかあります?なければ名前を教えてくださいね」

 

 

 

 集めた情報を元に凌牙の後輩とやらを見に行くだけのつもりがマズイことになりました。彼らは所謂裏通りの占い師に手がかりを占ってもらいにいったという情報が手に入ってしまったからです。法外な金をふんだくられるか、さもなくば……

 いえ、ソレを防止するために私が来たのです。とはいえ、限界まで姿は見せたくありません。裏通りに住む以上、襲われることに対して対策をせずにいられませんからね。セキュリティシステムを無力化して掻っ捌くのが理想系、といったところでしょうか。

 

 そう苦もなく占い師の館にたどり着いたわけですが、正面から入場するわけには行きませんので、まずは外周をぐるりと回りましょうか。

 入り口から丁度反対側、ビンゴな窓を見つけましたよ。この形式の窓は簡単に外れるんで安全管理上まずいってのはよく聞く話なんですけどね。残念ながらこの館の主は知らなかったようです。

 さて、さくっと潜入できたはいいんですが……来客が招かれるという地下のドームにどうやって行きましょうかね。それにしても石造りだなんて住むこと考えてなさそうなのに妙に生活臭にあふれてるんですよねぇ。さぁて、どこか地下に通じてるところはありませんかねと壁をノックして、妙な違和感に襲われる。何か、感触がおかしいような?

 もう一度ノック、すると微かにではあるが足元の壁が揺れている。この奇妙な感触といい、ゆれる壁といい……壁を下から持ち上げる。やはり、壁ではなかった。厚手のカーテンに石造りの壁のようなタイルを張っているだけであった。そして、その先に広がっていたのは……観客席、とでもいえばいいかのような空間。中央の舞台ではデュエルが行われており、一際大きな椅子に男が腰掛け、舞台のなかで一人の少女が立っている。

 

 デュエルをしているのは凌牙からもらったデータにあった一人、九十九遊馬。それと対峙しているのはこの館の主、ジンという占い師。

 

「現れよ!No.11!幻惑の瞳を持つ支配者!ビッグ・アイ!」

 

「現れよ!CNo.39!混沌を光に変える使者!希望皇ホープレイ!」

 

 お互いにナンバーズを呼び出しあい、勝負を制したのは九十九遊馬。彼も監視しなくてはならないだろうが、それ以上にジンのほうが気がかりだ。裏の人間である以上、面子というものは非常に大事であり、義務教育中の子供に負けたとあらばそれを撤回させねば彼の今後の商売にも関わる。つまり、ジンは高確率で九十九遊馬を襲撃することが予想される。にもかかわらず、九十九遊馬は奥の部屋に囚われていたのだろう友人たちと呑気に帰宅してしまった。無論、ジンには目もくれず、だ。

 

「ふふふ、甘い奴らだ。私にまだナンバーズが残されているとも知らないで」

 

 ジンがそう呟き立ち上がろうとする。処分するとすれば今が絶好の機会。そう思い、ジンの前に飛び出そうとする私の耳に口笛が響く。

 

「狩らせてもらおう!お前のナンバーズを!」

 

 突如として現れた青年はそう叫ぶや否やジンにデュエルを挑み、ジンの場が整う前に制圧、一方的としかいえない展開を見せ付けました。

 

「そこにいるのは分かっている。隠れていないで出てこい!お前もナンバーズを持っているのだろう?」

 

 やれやれ、けったいなのに絡まれましたよ。バックれたいのが正直なところですが、ナンバーズを狩るという発言から九十九遊馬に被害が及ぶ可能性を考え、思考を排除方向へスライド。

 

「貴方が、ナンバーズを狩る者……とやらですか?」

 

「そうだ、人は俺をナンバーズハンターと呼ぶ」

 

「話は……通じなさそうですね」

 

 脳裏には昨晩の少年。彼もまた、ナンバーズを求めるものであり、彼には話が通じなかった。そして化野さん。彼女もナンバーズに囚われていて、話が通じなかった。おそらく、目の前の青年も話が通じないのであろう。

 

「「決闘!」」

 

 澱姫 ぼたん

  LP4000

  手札

   〈エーリアン・キッズ〉

   〈ディメンション・ガーディアン〉

   〈エーリアン・テレパス〉

   〈一族の結束〉

   〈横取りボーン〉

 

 天城 カイト

  LP4000 手札5

 

「先攻はこちらですね。ドロー」

 

 ドローカードは〈「A」細胞散布爆弾〉ですか。できればリベンジャーとセットで欲しいところでしたね。

 

「スタンバイフェイズは処理なし。メインフェイズに移行、私は〈エーリアン・キッズ〉を召喚。カードを3枚セットしてターンエンドです」

 

 〈エーリアン・キッズ〉 攻撃力1600

 

「俺のターン、ドロー!俺は手札から〈フォトン・スラッシャー〉を特殊召喚!このカードは自分フィールドにこのカード以外のモンスターが存在しないときに特殊召喚できる!」

 

 〈フォトン・スラッシャー〉 攻撃力2100

 

「エーリアン・キッズはモンスターが特殊召喚された際、そのモンスターにAカウンターを一つ与えます。ドミネーション・シュート」

 

「いいだろう。俺は、〈フォトン・クラッシャー〉を召喚。2体のモンスターをリリースし、特殊召喚!闇に輝く銀河よ、希望の光となりて我が僕に宿れ!光の化身、ここに光臨!現れろ、〈銀河眼の光子竜〉!」

 

 〈銀河眼の光子竜〉 攻撃力3000

 

「やりなさい、エーリアン・キッズ!ドミネーション・シュート」

 

 これで戦闘ダメージは300軽減できます……一時しのぎではありますが無いよりマシでしょう。

 

「〈銀河眼の光子竜〉、奴を叩き潰せ!破滅のフォトンストリーム!」

 

「攻撃時に〈ディメンション・ガーディアン〉を発動、〈エーリアン・キッズ〉を戦闘、効果破壊から保護します」

 

「ならば、〈銀河眼の光子竜〉の効果を発動!このカードと戦闘を行うモンスターをゲームから除外する!これで〈ディメンション・ガーディアン〉は対象不在により不発となる。そしてバトルフェイズ終了時この効果で除外されたモンスターはフィールドに舞い戻る。これで俺はターンエンドだ」

 

 ダメージより耐性を潰しに来ましたか。ですが、キッズが自ターンまで持ちこたえてくれたのはありがたいですね。

 

 澱姫 ぼたん

  LP4000

   〈エーリアン・キッズ〉 攻撃力1600

   セットカード2

  手札

   〈エーリアン・テレパス〉

   〈一族の結束〉

 

 天城 カイト

  LP4000 手札3

   〈銀河眼の光子竜〉 攻撃力3000

 

「私のターン、ドロー」

 

 ドローカードは〈「A」細胞培養装置〉ですか。今はまだ有効活用できませんが、ターンが進むほどに真価を発揮するいいカードではありますし、いい引きだと思っておきましょう。

 

「スタンバイフェイズは処理なし。メインフェイズに移行、〈エーリアン・テレパス〉を召喚します。そして、〈エーリアン・キッズ〉と〈エーリアン・テレパス〉でオーバーレイ、2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚。群れなす蜥蜴の王よ、鱗纏いし冷血の王よ、我が呼び声に応えよ。エクシーズ召喚、現れなさい、〈キングレムリン〉」

 

 〈キングレムリン〉 攻撃力2300

 

「〈キングレムリン〉の効果を発動。オーバーレイユニットを一つ取り除き、デッキから爬虫類族モンスターを手札に加えます。私が選択するのは〈エーリアンモナイト〉」

 

 キングレムリンは今回も地中からエーリアンモナイトを掘り出してきてくれた。毎度大変ですねとつい他人事のような言葉をかけてしまったが私がそう指示したのではないかと変な事を考えてしまう。思考がわき道にそれるのはよくない癖だ。

 

「そして、手札から一族の結束を発動。ターンを終了します」

 

 〈キングレムリン〉 攻撃力3100

 

 コレで不用意な手出しは出来なくなったはずです。次のターンにゴルガーをだしてしっかり処分してあげましょう。

 

「俺のターン、ドロー!〈銀河眼の光子竜〉で〈キングレムリン〉を攻撃!」

 

 !?モンスターを出しても来ないのにがら空きのフィールドを作る何の意味が?いえ、次ターンの〈キングレムリン〉によるサーチは妨害できますか。わりと考えているんですね。

 

「効果を発動し、両者を除外。そのままバトルフェイズを終了し除外されたモンスターは帰還するが、銀河眼の光子竜の効果によってエクシーズモンスターを除外した場合そのオーバーレイユニットを吸収し、一つにつき500ポイント攻撃力が上昇する!」

 

 〈銀河眼の光子竜〉 攻撃力3500

 

 打点上昇能力を隠し持っていましたか。ま、次のターンで破壊することに違いはありません。攻撃力を上げても無意味です。

 

「俺はカードを一枚伏せてターンエンドだ」

 

 澱姫 ぼたん

  LP4000

   〈キングレムリン〉 攻撃力3100 ORU(オーバーレイユニット) 0

   〈一族の結束〉

   セットカード2

  手札

   〈「A」細胞培養装置〉

   〈エーリアンモナイト〉

 

 天城 カイト

  LP4000 手札3

   〈銀河眼の光子竜〉 攻撃力3500

   セットカード1

 

「では私のターン、ドロー」

 

 ドローカードは〈カゲトカゲ〉ですか……いまの手札ではありがたみがありませんね。

 

「私は〈エーリアンモナイト〉を召喚。〈エーリアンモナイト〉の効果によって墓地の〈エーリアン・テレパス〉を蘇生します。そしてレベル4〈エーリアン・テレパス〉にレベル1〈エーリアンモナイト〉をチューニング。星海に漂う侵略者の砦よ、銀の腕もて鎖を引き払え。シンクロ召喚、〈宇宙砦ゴルガー〉」

 

 ☆4+☆1=☆5

 

 〈宇宙砦ゴルガー〉 攻撃力3400

 

「それがシンクロ召喚か。なるほど……貴様がそうだったのか」

 

 なにか一人で勝手に納得されてるようですがシンクロなんて別に珍しいものでもないんですがねぇ……

 

「私は、手札から〈「A」細胞培養装置〉を発動します。そして〈宇宙砦ゴルガー〉の効果を発動。私は〈一族の結束〉と〈「A」細胞培養装置〉を手札に戻すことで2つのAカウンターを発生させ、〈銀河眼の光子竜〉に付与します。その後手札に戻した2枚を再度発動します」

 

「フン、何をするつもりかは知らんが……俺の〈銀河眼の光子竜〉は戦闘破壊出来んぞ?」

 

「そして〈宇宙砦ゴルガー〉の効果によって〈銀河眼の光子竜〉に付与された二つのAカウンターを取り除き、〈銀河眼の光子竜〉を破壊します」

 

「何だと!?」

 

「やりなさい、ゴルガー。マーダー・カノン。なお、〈「A」細胞培養装置〉の効果によってAカウンターが一つ培養されます」

 

 とても冷酷に潰しに行っているつもりなのですが、ちゃんと恐怖は与えられているのでしょうか?これ以上ナンバーズ狩りを行わせないためにトラウマものの恐怖を植えつけられたら一番楽なんですけどね。

 

「〈キングレムリン〉で直接攻撃、バイト・オブ・レプトル」

 

「俺は罠カード、〈攻撃の無力化〉を発動!バトルフェイズを終了してもらう」

 

 天城カイト、彼の額に若干の汗が滲んでいる。恐怖はともかく焦りは与えられたようです。

 

「では、ターンを終了します」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 ドローカードを見つめる表情が硬い。どうやら起死回生のカードは引けなかったようですね。

 

「俺は〈フォトン・リード〉を発動、手札の〈デイブレーカー〉を特殊召喚する。そして〈デイブレーカー〉は特殊召喚したとき手札から〈デイブレーカー〉を特殊召喚できる。俺は2体の〈デイブレーカー〉でオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、悪夢に染まりし混沌の箱よ、悪意の中より希望をもたらせ!〈No.85クレイジーボックス〉!」

 

 カシャンカシャンと箱の側面がスライドして穴を作り出し、穴の内側から爪やらなにやらがはみ出ています。なんというか割と悪趣味な外見ですね。

 

「クレイジーボックスの効果はダイスの出目によって変化する。オーバーレイユニットを一つ使って、ダイスロール!」

 

 まるでサイコロを振るかのようにクレイジーボックスが激しく回転した後、地面に落ちバタン、バタンと数回転がって止まる。

 

「出目は3、よって俺は一枚ドロー出来る。俺は〈死者蘇生〉を発動、墓地の〈銀河眼の光子竜〉を蘇生する!」

 

「ではそこに割り込ませていただきましょうか。罠カード、〈横取りボーン〉を発動します」

 

「何だ、そのカードは!?」

 

「相手が特殊召喚したターンにのみ発動できるカードで、貴方の墓地のモンスターを私の場に蘇生するカードですよ。勿論対象は〈銀河眼の光子竜〉です」

 

「っ!」

 

 おお、とても動揺していますねぇ。エースモンスターを奪われるときにまともじゃいられないって奴ですね。デッキを愛している証拠ですね。

 

「そして、対象不在によって貴方の〈死者蘇生〉は効果を発動できません。残念でした」

 

「クッ!クレイジーボックスは攻撃宣言できない。ターンエンドだ」

 

「では、私のターン。ドロー。スタンバイフェイズの処理なし。メインフェイズに移行、〈宇宙砦ゴルガー〉の効果によって〈一族の結束〉を手札に戻して再発動。Aカウンターを二つ取り除き〈No.85クレイジーボックス〉を破壊。バトルフェイズに移行、〈宇宙砦ゴルガー〉で直接攻撃。星薙ぎのサイリウムメーザー。続けて〈銀河眼の光子竜〉で攻撃、裏切りのフォトンハウリング」

 

 天城 カイト

  LP4000→0

 

 澱姫 ぼたん  Win

 

 彼のデッキケースから一枚のカードがはらりと舞い落ちる。なるほど、闇属性の指定があるモンスターは彼には扱えないでしょうね。主力のフォトンモンスターは全て光属性ですし。おっと、わき道にそれている場合ではありません。今日は全身全霊をこめて心をポッキリと折ってから帰らねばならないのです。

 

「さて、天城カイトさん?」

 

「ああ、何だ?」

 

 デュエル中の覇気はどこへやら割と芯がポッキリ逝った顔をしています。

 

「貴方は何故ナンバーズを集めるのですか?」

 

「何故お前に、いや……話しておこう。俺の」

 

 彼が話し始めようとしたところでDパッドが着信だとがなり立てる。彼を手で制して(するまでも無く黙ってくれたみたいですけど)通話をオンに。通話相手はこかげですか。いやな予感がしますよ。

 

「どうなさったんです?今日は何も無いはずでは」

 

『それが大変なの!お姉ちゃんったら闇デュエルの出場届にサインしちゃってたみたいなの!』

 

「あのバカ!だから書類はちゃんと確認しろと……位置と最短経路を割り出してDパッドに送信してください」

 

『ええ、もう作業には取り掛かってるわ。第4廃棄ブロックのほうに向かってもらえる?』

 

 それだけ伝えると一方的にブツリと通話が切れてしまいました。

 

「ごめんなさいね。急用が入りましたので、お話はまた今度にしましょう。それでは」

 

 

 

 自分以外に動くものなき広間で天城カイトは一人語散る。

 

「アレが“プラウラー”か」

 

 噛み締める、澱姫ぼたんという存在を。彼女のデッキはエーリアン。まさに彼女はこのハートランドシティへ侵攻を開始した侵略者だろう。数々の闇取引が彼女によって潰された。どこにいるか分からない、だがどこかを彷徨っている。ゆえに彼女は“放浪者(プラウラー)”と呼ばれるのだ。

 

「俺は……勝てるのか?」

 

 あの侵略者に、澱姫ぼたんに。そのいずれも天城カイトは続けることが出来なかった。




 カイトのメンタルはかなり強靭だと思っていますが……ちとやりすぎちゃったかな?銀河眼が絡んだカイトがどこまで壊れるのかアニメうろ覚えの作者には分からなかったので結構ぶっ壊してみました。
 ぶっちゃけカイトのイメージって8割以上がハルトォォォォォォ!だからなぁ……(汗

ぼたん「本日も元気にデッキ紹介のコーナー!今日のデッキは天城カイトの用いる【フォトン】です。デメリットがあるけど高い打点の持ち主が多い下級と銀河眼周りの充実したサポートが特徴ですね。特に銀河眼の光子竜は輝光帝ギャラクシオンを出せればデッキからこんにちわしますからね。フォトンモンスターを2体並べるのは容易でしょうし【フォトン】相手ならば1ターン目からエースが飛び出してもおかしくありません。っとこんなところですかね。それでは、ターンエンド」


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第六話 その鮫、銀河さえも牙咬せんとす

 原作再現シーン。ですがアシゴで自滅はダサいので随分と弄りました。原作キャラVS原作キャラということもありアニメ効果もポンポン出てきますので混乱するかもしれません。非OCGカードは使わないようにしていますがそのうち出てくるやもしれません。


 カイトはテラスの手すりに身体を預け、沈み行く夕日を眺めていた。考えていたのは先日ナンバーズの回収に失敗したあの少女……“放浪者”についてだ。彼はこれまでナンバーズハントに失敗したことは無かった。いや、以前に一度中断されたことがあったか。だが、そのデュエルにおいても敗北は無かった。

 だが、あの少女はただカイトに勝利しただけではない。〈銀河眼の光子竜〉を奪い、〈銀河眼の光子竜〉で止めを刺しに来た。〈銀河眼の光子竜〉は、カイトの相棒は“放浪者”に囚われたままである。

 カイトは考える。たとえ〈銀河眼の光子竜〉を欠こうともナンバーズの回収に支障はきたさないと、ナンバーズの回収を行わねばならないと。だがどうして足がすくむ。怯えているのか?あの“放浪者”の影に。

 

「俺以外の誰がハルトを救える?ナンバーズを集め、ハルトを救えるのは俺だけだ」

 

 臆していては戦う前から負けているも同然である。そう分かっていても、カイトは己を刺す濡羽の双眸を脳裏から消すことが出来なかった。

 

「カイト、どうやら君は先日の敗北を引きずっているようだね」

 

 緑尽くめの男、Mr.ハートランドがカイトに語りかける。いつの間にか彼もテラスに来ていたらしい。

 

「再戦の機会は必ず生まれる。そう、ワールドデュエルカーニバルでね。だから君は彼女との再戦に備え、英気を養っておきたまえ。それと……」

 

 Mr.ハートランドは懐から小さなケースを取り出す。

 

「〈銀河眼の光子竜〉だ。彼女に奪われてしまったからには代えが必要だろう?」

 

「っ!」

 

 さまざまな感情が入り混じった複雑な表情のまま、カイトはMr.ハートランドの手から〈銀河眼の光子竜〉をひったくった。

 

「君の熱いデュエルがこのハートランドに平和をもたらすことを期待しているよ」

 

 カイトはMr.ハートランドの言葉には返事を返さずテラスを後にした。

 

 

 

「はぁ……」

 

 どうしてこうなった。今の澱姫ぼたんの心情を一言で表す言葉であるが、事の発端は数日前に遡る。

 

「ぼたん先輩!お昼ごはん一緒に食べましょう!」

 

 化野歓那。彼女が事あるごとに突撃してくるようになったのが確か3日前、謝られた翌日である。そして昨日、ひなたと歓那が喧嘩を始めてしまった。いつの間にか私が賭けられていたんですがこれってどういうことなんでしょうね?

 

「アンタは昨日負けたでしょ!だから今日は私の番」

 

 しっしっと口に出しながら手で追い払うひなた。善意の塊みたいな彼女がそんな行為をするなんて珍しいですね。んん?最近、珍しいことに出会ってばかりですねぇ。嵐の前触れ……でなければいいのですが。

 

「あの、ひなた?これは恋人同士がやるような行為では?」

 

 ええ、現実逃避しても始まりませんね。右で幼馴染が、左で後輩がお互いを威嚇しながら私の口におかずを運んでくるんですよ。絶対に対象が間違ってますからね?全員女な事に疑問を抱きましょうね!?

 

「さて、そろそろ休憩終了の放送が入る頃です。二人とも教室に戻りましょうか」

 

 結局まともに食事が取れませんでしたよ……その分おやつ食べるからいいんですけど。食事回数減らすと太りやすいから嫌なんですよねぇ……

 

 

 

「この表の式は吸熱反応を起こす化学式だ。テストに出るから覚えるようにッ!?」

 

 5限目のいつもと大差ない退屈な授業の最中に窓の外から轟音が飛び込んできました。

 

「あれは……体育棟のほうですかね?」

 

「工事の音……じゃないよね」

 

 騒然とする教室、あわてる教員。それらを尻目に体育棟のほうに目を向けていると体育棟から中等部への渡り廊下を走る影が一つ。

 

「アレは……」

 

 見間違いであって欲しいのですが……念には念をです、追いかけましょうか。教員は指示を受けて教室から出て行ってしまいましたし、今が好機です。

 

「すみません、少々お花摘みに」

 

 言い訳をして教室から離脱、中等部のほうへ駆け出します。

 

 

 

「逃がさないであります!」

 

 青髪の少年に襲い掛かるロボット、その図は事情を知らないものが見れば映画の撮影か何かだと思ってしまうほど現実離れしていた。

 

「ッちィ!しつこいんだよ!」

 

 青髪の少年が滑り込むように脚払いをかけ、ロボットが体勢を崩す。

 

「これはマズイであります!」

 

 だがロボットも床にドリルアームを突き刺し、ほどなくして体勢を立て直すが……

 

「さて、奴はどちらにいったでありますか?」

 

 少年を見失ってしまった。だが、ロボットは次元科学の結晶であり、高度なハッキング能力を持っていたため捜索のための目を増やす行動に出る。それは学校の防犯カメラへのハッキングである。手近な一機からマザーへ接続し、ものの数分で学校中のカメラが彼の目となった。

 

「見つけたであります!上でありますね!ドリドリドリィ!」

 

 天井にドリルを突き刺し、くり貫き、ロボットの通る空間を無理やり確保して上に上る。普通に階段を上ったほうが早い気もするのだが、このロボットはどこか抜けているらしい。

 

 

 

「どうやら、完全に撒いたみてぇだな」

 

 神代凌牙が屋上で息を切らしながらそう呟くと、床に亀裂が走り先ほどのロボットが姿を現す。

 

「さぁ!そのペンダント寄越すであります!」

 

「オービタル、勝手な真似は止せ」

 

 そのロボットをどこからか現れた黒衣の青年が制す。

 

「カシコマリ!」

 

 そして黒衣の青年は凌牙に歩み寄り、言葉を発す。

 

「そのペンダントを渡してもらおうか?」

 

 言葉尻が変わっただけで内容に一切の変化が無い。だが、凌牙はそれ以上に黒衣の青年が気にかかった。噂に聞くナンバーズハンターとやらの特徴に合致するからだ。

 

「てめぇ……まさかナンバーズハンターか?」

 

「だったらどうする?貴様もナンバーズを持っているのか?」

 

「持っている。と言ったら?」

 

 青年の視線が強くなる。凌牙への認識をただの障害物から狩るべき対象へと変化させたようだ。

 

「ならば好都合だ!ペンダントとナンバーズ、どちらも力尽くで奪うまで!」

 

「「決闘!」」

 

 神代 凌牙

  LP4000 手札5

 

 天城 カイト

  LP4000 手札5

 

「先攻は俺が貰った!ドロー!」

 

(ナンバーズのカードは確かに強力だ。だが、俺にも対抗策がある!)

 

「俺は手札から魔法〈テラ・フォーミング〉を発動!この効果によりデッキからフィールド魔法カード一枚を手札に加える。俺は〈伝説の都 アトランティス〉を手札に加えて、発動するぜ!そして俺は手札から〈ビッグ・ジョーズ〉を特殊召喚する!このモンスターは通常魔法カードを発動したターンに特殊召喚できるモンスターだ」

 

 〈ビッグ・ジョーズ〉攻撃力1800→2000

 

「俺は〈ビッグ・ジョーズ〉をリリースし、アドバンス召喚!来い!〈ジョーズマン〉!」

 

 〈ジョーズマン〉攻撃力2600→2800

 

「俺はカードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 さぁ、かかってこい。ナンバーズ!

 

「俺のターン、ドロー!俺は〈フォトン・サーベルタイガー〉を召喚!〈フォトン・サーベルタイガー〉は召喚に成功したとき、デッキから〈フォトン・サーベルタイガー〉を手札に加えることが出来る。だが、〈フォトン・サーベルタイガー〉が場に一体しか存在しないとき、〈フォトン・サーベルタイガー〉の攻撃力は800ポイント下がるがな」

 

 〈フォトン・サーベルタイガー〉攻撃力1200

 

「俺は速攻魔法〈フォトン・リード〉を発動!この効果により、俺は手札から〈フォトン・サーベルタイガー〉を特殊召喚する。〈フォトン・サーベルタイガー〉が場に2体並んだことにより、下がった攻撃力が元に戻る」

 

 〈フォトン・サーベルタイガー〉攻撃力2000

 〈フォトン・サーベルタイガー〉攻撃力2000

 

「俺は2体の〈フォトン・サーベルタイガー〉でオーバーレイネットワークを構築!すべてをその忌まわしき力で溶かしつくせ!現れろ〈No.30 破滅のアシッド・ゴーレム〉!」

 

 〈No.30 破滅のアシッド・ゴーレム〉攻撃力3000→3200

 

「来たか、ナンバーズ!」

 

「行け!アシッド・ゴーレム!アシッド・スプラッシュ!」

 

「俺は永続罠〈潜海奇襲〉を発動!このカードはフィールド魔法〈海〉が発動されているときにレベル5以上の水属性モンスターが戦闘を行う場合、ダメージ計算を行わずに相手モンスターを破壊する!そして〈伝説の都 アトランティス〉は〈海〉として扱う効果を持っている!やれ、ジョーズマン!」

 

 ジョーズマンが海中に潜り、アシッドゴーレムの喉笛を噛み千切らんと躍りかかる。だが、そのジョーズマンは軽くあしらわれ空中で身動きが取れないところにアシッドゴーレムの拳が襲い掛かる。

 

「何!?」

 

「俺は手札から速攻魔法〈禁じられた聖典〉を発動させてもらった。この効果によってこの戦闘の間このカード以外のカード効果は無効になり、モンスターの攻撃力は本来の数値に戻る」

 

「何だと……」

 

 〈ジョーズマン〉攻撃力2800→2600

 〈No.30 破滅のアシッド・ゴーレム〉攻撃力3200→3000

 

「ぐあああっ!」

 

 凌牙 LP4000→3600

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

 神代 凌牙

  LP 3600 手札 2枚

   〈潜海奇襲〉 

   〈伝説の都 アトランティス〉

 

 天城 カイト

  LP 4000 手札 2枚

   〈No.30 破滅のアシッドゴーレム〉攻撃力3200 ORU 2

 

「俺のターン、ドロー!」

 

(レベル6以上のモンスターが来ねぇ……ジョーズマンの強化を考えてアトランティスを選んだのは失敗だったか?)

 

「俺は手札から〈強欲なウツボ〉を発動!手札の〈イーグル・シャーク〉と〈パンサー・シャーク〉をデッキに戻し、カードを3枚ドローするぜ!」

 

(ドローカードは……ここまで回してもまだレベル6以上はこないか。次のターンは凌ぐしかねぇ。だが、凌ぐための罠がないんじゃあどうしようも……)

 

 そのとき屋上のドアが勢いよく開かれた。

 

「凌牙!」

 

「ぼたん!?」

 

「“放浪者”か!」

 

(ぼたんが来たところで目の前の状況は変わらな……待てよ?「エクストラデッキは埋めておいたほうがいいですよ」なんて言って渡してきたカードがあったはずだ。そうだ、アレならこの場を凌げる!)

 

「俺は〈ダブルフィン・シャーク〉を召喚!このカードはエクシーズ召喚の素材とするとき、2体分の素材として扱う!俺は一体の〈ダブルフィン・シャーク〉でオーバーレイネットワークを構築!回れ発条!唸りを上げろ!〈発条機雷ゼンマイン〉!」

 

 〈発条機雷ゼンマイン〉守備力2100

 

「ほう、ナンバーズではないのか。だが、守りを固めたところで俺を倒すことなど出来んぞ!」

 

「ぶっつぶしてやるから覚悟してやがれ、俺はこれでターンエンドだ」

 

「ならば見せてもらおうか?俺のターン、ドロー!この瞬間アシッドゴーレムの呪いが発動し、オーバーレイユニット一つを消費しなければプレイヤーに2000ポイントのダメージが降りかかる。俺はアシッドゴーレムのオーバーレイユニットを消費する」

 

 〈No.30 破滅のアシッド・ゴーレム〉ORU 2→1

 

「俺は手札から〈フォトン・サンクチュアリ〉を発動!二体のフォトントークンを特殊召喚する!」

 

 〈フォトントークン〉攻撃力2000

 〈フォトントークン〉攻撃力2000

 

「そして俺は2体のフォトントークンをリリースし、特殊召喚!光の化身、ここに光臨!現れろ〈銀河眼の光子竜〉!」

 

 〈銀河眼の光子竜〉攻撃力3000

 

「魔法カード〈強制転移〉を発動、貴様の〈発条機雷ゼンマイン〉と俺の〈No.30 破滅のアシッド・ゴーレム〉のコントロールを入れ替える!そして〈発条機雷ゼンマイン〉を攻撃表示に変更」

 

 〈発条機雷ゼンマイン〉攻撃力1500

 

(何故だ?アシッドゴーレムは確かに激しいデメリットを持ったモンスターだが、それでも攻撃力3000のモンスターを相手に渡すなんらかの理由があるはずだ……)

 

「俺は〈銀河眼の光子竜〉で〈No.30 破滅のアシッド・ゴーレム〉を攻撃」

 

「送りつけてまで無駄死にさせに来たのか?ナンバーズはナンバーズでしか破壊できないことを忘れたのか!」

 

 だが、カイトの顔に焦りなどの表情は全く見られない。

 

 (何だ、何を考えている?)

 

「俺は〈銀河眼の光子竜〉の効果を発動!このカードと戦闘を行うモンスターをバトルフェイズ終了時まで除外する!そして〈発条機雷ゼンマイン〉で攻撃!マイン・バースト!」

 

「ぐおおおっ!」

 

 凌牙 LP3600→2100

 

「そしてバトルフェイズ終了時、フィールドに舞い戻った〈銀河眼の光子竜〉は除外した相手モンスターエクシーズのオーバーレイユニットを吸収し、一つ吸収するごとに攻撃力を500ポイントアップさせる!」

 

 〈銀河眼の光子竜〉攻撃力3000→3500

 〈No.30 破滅のアシッド・ゴーレム〉ORU 1→0

 

「ッ!アシッドゴーレムの効果でダメージを与えるのが狙いか!」

 

「ふっ、俺はこれでターンエンドだ」

 

 神代 凌牙

  LP 2100 手札 2枚

   〈No.30 破滅のアシッド・ゴーレム〉攻撃力3200 ORU 0

   〈潜海奇襲〉

   〈伝説の都 アトランティス〉

 

 天城 カイト

  LP 4000 手札 0枚

   〈銀河眼の光子竜〉攻撃力3500

   〈発条機雷ゼンマイン〉攻撃力1500 ORU 2

 

(ドローすればアシッドゴーレムの効果で俺のライフは残り100になる。それにアシッドゴーレムの攻撃力は〈銀河眼の光子竜〉より下。〈発条機雷ゼンマイン〉を攻撃したらその効果によってアシッドゴーレムが爆殺されちまってがら空きのフィールドでターンを渡すことになる……どうする、俺?)

 

「怖気づいたのならサレンダーしてナンバーズとそのペンダントを渡してもらおうか?」

 

「怖気づいた?違うな、てめぇをぶっ潰す算段をつけてたんだよ!ドロー!」

 

「威勢がいいことだが、アシッドゴーレムの呪いを受けてもらおうか!」

 

「ぐあああっ!」

 

 凌牙 LP2100→100

 

(だが、ドローカードがこれなら……俺にも運が回ってきたぜ!)

 

「俺は〈ジェノサイドキングサーモン〉を攻撃表示で召喚!コイツは本来レベル5だが、〈伝説の都 アトランティス〉の効果によってレベル4になっているぜ!そして俺は〈海〉を発動!フィールド魔法が共存できないことによって〈伝説の都 アトランティス〉が破壊され、〈ジェノサイドキングサーモン〉のレベルは5に戻るぜ!」

 

 〈ジェノサイドキングサーモン〉攻撃力2400→2600

 〈No.30 破滅のアシッド・ゴーレム〉攻撃力3200→3000

 

「行け!〈ジェノサイドキングサーモン〉!〈銀河眼の光子竜〉に攻撃!ジェノサイド・リッパー!」

 

「なるほど、〈潜海奇襲〉の効果で〈銀河眼の光子竜〉を破壊しに来たか。だが、アシッドゴーレムはオーバーレイユニットが無いとき攻撃できない。貴様の攻撃はこれで打ち止めだ。そして俺は次のターン、ターンエンドを宣言するだけで俺の勝利は確定する」

 

「くっ!」

 

「凌牙!これを使いなさい!」

 

 ヒュンと凌牙の頬を掠めたカードを右手でキャッチ。凌牙はそのカードを確認し、ぼたんの意図を把握した。

 

「俺は〈No.30 破滅のアシッド・ゴーレム〉でオーバーレイネットワークを再構築!ランクアップ、エクシーズチェンジ!陰惨なる部屋に篭りし鬱々たる魔女!〈ダウナード・マジシャン〉!」

 

 〈ダウナード・マジシャン〉攻撃力2100

 

「〈ダウナード・マジシャン〉はオーバーレイユニットの数だけ攻撃力が上昇する!今のオーバーレイユニットは一つ、よって200ポイント攻撃力アップだ!」

 

 〈ダウナード・マジシャン〉攻撃力2100→2300

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー!くっ……〈発条機雷ゼンマイン〉を守備表示に変更してターンエンドだ」

 

 神代 凌牙

  LP100 手札 1枚

   〈ジェノサイドキングサーモン〉攻撃力2600

   〈ダウナード・マジシャン〉攻撃力2300

   〈潜海奇襲〉

   〈海〉

 

 天城 カイト

  LP4000 手札 1枚

   〈発条機雷ゼンマイン〉守備力2100 ORU 2

 

「俺のターン、ドロー!俺は〈ジェノサイドキングサーモン〉で〈発条機雷ゼンマイン〉を攻撃!このとき〈潜海奇襲〉の効果によって〈発条機雷ゼンマイン〉を破壊する!」

 

「〈発条機雷ゼンマイン〉のオーバーレイユニット一つを取り除き、破壊を無効にする!」

 

「まだだ!〈ジェノサイドキングサーモン〉で戦闘破壊!」

 

「〈発条機雷ゼンマイン〉のオーバーレイユニットを使う!」

 

「〈ダウナード・マジシャン〉で〈発条機雷ゼンマイン〉を破壊だ!」

 

「くっ!」

 

「〈ダウナード・マジシャン〉は戦闘終了後にオーバーレイユニットを一つ消費するぜ。これによって〈ダウナード・マジシャン〉の攻撃力は元に戻る。そしてゼンマインの破壊効果はエンドフェイズに生き残っていなければ発動されない。よって俺のモンスターは破壊されない!」

 

「ちぃっ!」

 

 〈ダウナード・マジシャン〉攻撃力2300→2100

 

「次のターンでぶっ潰してやる。ターンエンドだ!」

 

「俺のターン、ドロー!俺は手札から〈銀河零式〉を発動!墓地の〈銀河眼の光子竜〉を効果を無効にして特殊召喚する!この効果で特殊召喚された〈銀河眼の光子竜〉は攻撃力が800ポイントダウンする……が貴様を倒すには十分だ!」

 

 〈銀河眼の光子竜〉攻撃力2200

 

「う、そ、だろ……」

 

「随分がんばったようだが、これで仕舞いだ。やれ、〈銀河眼の光子竜〉!〈ダウナード・マジシャン〉を破壊しろ!破滅のフォトンストリーム!」

 

「ぐあああっ!」

 

 凌牙 LP100→0

 

 Win 天城 カイト

 

「凌牙!」

 

 ぼたんが駆け寄るも凌牙は彼女を突き飛ばし、カイトの飛ばした半透明の手に青白い球体を抜き取られた。

 

「……これは!?オービタル、ペンダントを回収しろ!」

 

「カシコマリ!」

 

 オービタルと呼ばれたロボットがそう発声すると同時に時が止まる。

 

「そうは行きませんよ!」

 

 体勢を立て直したぼたんがオービタルの前に立ちふさがる。

 

「退くであります!」

 

 オービタルがドリルアームを駆動させ、持ち上げたところでその腕に飛び蹴りをかますぼたん。不安定なところにバランスを崩すような一撃を受け、大きく体勢を崩すオービタル。無理な着地がたたり、バランスを崩すぼたん。両者の隙を縫って、カイトが凌牙の首元からペンダントを奪う!

 

「あっ!」

 

「三十六計逃げるが勝ちであります!」

 

 そう言うや否やオービタルは翼のような姿に変形し、カイトを連れてとびさってしまった。

 

「天城、カイト!待ってなさい、今度こそ叩き潰してあげますよ!」




ぼたん「本日のデッキは【シャーク】ですね。この作品ではもう少し上級モンスターなどを増やした【魚族】デッキなんですけどね。〈伝説の都 アトランティス〉や〈忘却の都 レミューリア〉を用いたレベル操作などが特徴のデッキです。その特性上多彩なエクシーズ、シンクロモンスターを操ることが出来るのですが、凌牙はなぜか上級モンスターを多用しますね。もっとエクストラデッキ使えばいいのに」

凌牙「アドバンス召喚が多くなったのはお前が原因だからな、ぼたん」

ぼたん「えぇ?責任転嫁はよくないですよ?」

凌牙「これは責任転嫁でもなんでもねぇ。純然たる事実なんだよ」

ぼたん「あはは……そんなことありませんよ。私は夕食の支度があるので失礼しますね」(バタバタと出て行く)

凌牙「逃げやがったか」


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第七話 神代凌牙奪還作戦

 キャッシーちゃんは不憫可愛いと思います。もっとキャッシーちゃんの可愛さを引き出せれば……ッ!悔やまれるばかりです。


「ええ、はい。神代くんは気を失っているようなので病院へ連絡をお願いできますか」

 

 Dパッドで教員に連絡をいれ、凌牙を病院に搬送してもらう。そして天城カイトが凌牙から奪ったナニカを取り戻すためにも天城カイトを追いかけなくてはなりませんが、相手は単独飛行が可能なため今から追うというのは現実的ではありません。ゆえに策を講じます。

 

「もしもし、こかげさん。今日は何時から予定空けれますか?できるだけ急いでもらいたいのですが……ええ、では2時間後」

 

 とりあえず情報収集も一応やっておきましょうかね……ナンバーズハンターについてといったところですか。

 

「アストラルー!」

 

 中等部1年生が数人、屋上へと突入してきて、少しするとこちらに気づき声をかけてきました。

 

「シャーク!なぁアンタ!シャークに何があったんだ?」

 

 声をかけてきた彼は以前凌牙に頼まれて様子を見た少年、九十九遊馬。凌牙はただの後輩だといっていましたが……

 

「シャーク?ああ、凌牙のことですか。侵入者……カイトと名乗る青年に襲われたんですよ。そして凌牙から何かを奪っていきました」

 

「シャーク……魂を持っていかれたのか……俺が必ず助けてやるからな!」

 

「ちょっと待ってください、魂ですって?」

 

「ああ、カイトはデュエルに勝ったときに相手から魂を抜くんだ」

 

 なるほど、以前ジンという男にも同じようなことをしていましたね。魂を抜く、ですか。そういえば以前港湾倉庫でやりあった男もそんなことを言っていましたね。

 

「なるほど、そうですか。彼のことは私も追って見ましょう。それと凌牙を迎えに教員が来るはずですので立ち去っておいたほうがいいと思いますよ。非難命令にも従わずにいたって言うのは色々と心象悪いでしょうしね」

 

「そ、そうか!じゃああとでお見舞いに行くからシャークの病室とかちゃんと教えてくれよな!」

 

「ええ、それでは」

 

 やはり、凌牙にも友人が出来たんですねぇ……感慨深いものです。さて、ナンバーズハンターの情報は……と、ハートランドに出入りする様子が度々目撃されているが、詳細は不明。といったところでしょうか。さすがにこういうところに流れている程度の情報で足取りはつかめませんか。

 

「彼が被害者かね?」

 

 おっと、教員のお出ましですか。意外に早かったですね。ほとんど九十九君たちと入れ違いじゃないですか?あれから3分と経っていませんよ。

 

「ええ、気を失っているようです。先ほどから呼びかけに応えないので危険な状態の可能性もあります。できれば救急車を呼んでいただきたいのですが」

 

「ああ、その話はすでに聞いている。あと2分ほどで駆けつけるだろう」

 

「ありがとうございます。あとはお任せしますね」

 

 ふぅ、意外とすんなり抜け出せましたね。ありがたいことです。さて、一応こかげにメール飛ばしておきましょうか。

 

 

 

「メールでも聞いたけど、この男はなんなの?」

 

「人の魂を奪うという凶悪犯ですよ。私の友人も被害にあいましてね」

 

「ん、わかった。それじゃあアタシに任せときなさい!必ず見つけ出してやるわ!」

 

 こかげはそういうと大型のPCに齧りつき、無数のデータの羅列と格闘し始めた。

 

「データ走査プログラム?サイバー警察にしては随分と法をぶち破りそうな手を使ってくるのね」

 

『バグマン!バグマン!』

 

 画面のあちらこちらを爆弾の頭部をもった子供たちがせわしなく駆け回る。

 

「ハックされてません?大丈夫です?」

 

「今、何とかしてるのよ!ああ!腹立つわっ!無駄な遊び心加えちゃって!よし、害虫駆除完了!続けていくわよ!」

 

 爆弾小僧たちがピクセルに分解され消滅していき、そこから数分と立たずに画面に次々と防犯カメラ画像が表示されていく……

 

「港湾区の辺りに潜伏しているんですかね?」

 

「そうみたいね、港湾区を重点的に探すわ」

 

「人間が潜伏しているのなら、他の建物と比べて消費電力量とか多いんじゃないですかね?」

 

「そうね、そのセンで行くのはアリだと思うわ!ネットワーム出動よ!」

 

 データの羅列がウネウネと動き出したかと思うと画面に表示された港湾区のマップの建物にムカデのような動きで吸い込まれていきます。

 

「んー、港湾区第4埠頭倉庫の消費電力量が異常な上に権利者はハートランドシティで詳細情報がSSSシークレット指定されているわ。これはとんでもなくキナ臭いわね」

 

「分かりました、第4埠頭ですね」

 

「こっちはセキュリティのブチ抜きを試みてみるわ。お姉ちゃんが被害に遭う前に頑張ってきなさいよ!」

 

 ああ、珍しくこかげがやる気を出したかと思えばやはりそういうことでしたか。本当にお姉ちゃんっ子ですねぇ。

 

 

 

「さてと、第3埠頭……第4埠頭っと、ここですね」

 

 何故か海上に円形の土台を埋め立て、そこに建てられた倉庫群、埠頭倉庫。一応閉じられている門扉を飛び越えて内部へ踏み込むと、そこには先ほどの中等部組の姿がありました。

 

「どうしてここにいるんです?」

 

「あ、アンタはさっきの!クソ、ここのゲートが開かないんだよ!」

 

「ゲートの開錠ですか。こかげ、どうなっていますか?」

 

 Dパッドの通話を繋げっぱなしにしていたこかげに確認をとる。

 

『ネットワームを圧縮処理して侵入させてあるわ。コンソールでevolanihって入力したら解凍できるわ』

 

「了解です。ささっとやってしまいますよ」

 

 コンソールに指定されたパスワードを入力しているだけですが、中等部の面々のキラキラした視線が痛いです。

 

「さぁ、開きました。とっとと天城カイトから凌牙の魂を返していただきましょう」

 

 倉庫の扉が重苦しく開く。入り口付近はカムフラージュのためか雑多な荷物が積まれ、埃を被っていた。そして暗がりの中から2つの影が現れる。一つは多脚型のロボット、もう一つは二足歩行ではあるが5メートルはあろうかという大型のロボットであった。

 

「おやおや、大歓迎ですね。行きますよ!」

 

 まずは多脚型の足に一回転の回し蹴りを叩き込み、体勢を崩します。そして二足歩行型の拳を多脚型へ逸らし、被弾の回避と敵へのダメージを両立。さらに放置されていた鉄パイプを握りこんで動きが止まった二足歩行型のアイカメラを破壊します。

 

「そういえばこかげ、ミントちゃんはこういうの好きですっけ?」

 

『嫌いだよ、大嫌い』

 

「じゃあ別にスクラップで大丈夫ですね」

 

 そのまま鉄パイプでゴリゴリと頭部の内側の配線を掻き乱し、二足歩行型を行動不能に追い込み、多脚型のほうはそもそも二足歩行型の拳でフレームがひしゃげたためかうまく動けないようです。別にたいしたことしてないんですからそんなキラキラした目で見ないで下さいよ。

 

「さぁ、先を急ぎましょう」

 

「強くてかっこよくて綺麗で……すごいです!」

 

「とどのつまり、憧れます!」

 

 憧れるとか直接言われると中々照れますねぇ……などと考えながら異様に広い倉庫の地下空間を走っていると、通路の前後で隔壁が降り四足歩行のロボットが前後に2体ずつ計4体で私たちを取り囲みます。

 

「っ!ここは私が引き受けます!前方のコンソールからネットワームプログラムの解凍処理を行えば、この区画のシステムをハックして隔壁を開けられるはずです!」

 

「任せてください!」

 

 さて、先ほどとは違いこの空間に武器となるものはありません。この状況をどう攻略したものでしょうかねぇ……

 

 鋭い爪がぼたん目掛けて振り下ろされる。だがしかしその爪は空を切り、床材を浅く切り裂く。前方からの爪攻撃を後ろとびにかわしたぼたんの胴を食いちぎらんと後方に控えていた機械犬が動きを見せるが、ぼたんは下あごを蹴り飛ばして床に着地、片手で一瞬全体重を支えた後、スライディングに移行し噛み付かんとした機械犬の後ろ足を蹴りぬく。

 

「今のうちだ!行け!委員長!」

 

 2匹を同時に相手取ったぼたんに対し機械犬たちの警戒度が上がった隙を見逃さず、委員長と呼ばれた少年はコンソールにたどり着く。無論、少年を委員長と呼んだ恰幅のいい少年もただ叫んだわけではない。機械犬の胴に体当たりをかまし、大きく体勢を崩すことに成功しているのだ。だが、相手は機械。いくら攻撃しても人の力では板金の皮膚に大きなダメージを与えることはできない。一方、人間は被弾イコール死、とまではいわなくても骨折以上の大怪我は間違いないだろう。確実に全ての攻撃を回避しなくてはならないという状況は死線を潜ってきたぼたんには平気でも、一般人である他の面々の精神を確実に蝕んでいた。

 

「クソッ!デュエルならこんな奴らに負けねぇのによ!」

 

『デュエル』

『デュエル』

『デュエル』

『デュエル』

 

 4体のロボットが恰幅のよい少年の悪態に反応して変形を始める。

 

『『『『デュエルモード、スタンバイ。侵入者をデュエルによって排除します』』』』

 

「へへっ!デュエルなら負けねぇぜ!」

 

「キャット、遊馬のためならがんばれるんだから」

 

「受けてたってやるぜ!」

 

 皆が口々に闘志を示す、やる気は十全のようだ。

 

「いえ、遊馬君は先に行ってください」

 

「何でだよ、委員長!」

 

「遊馬君のデュエルはナンバーズ頼りです。アストラルがいないときはナンバーズが無いんですよね?」

 

「ああ、そうだぜ?」

 

 委員長の言いたいことを理解できずに返事を返す遊馬。

 

「だから!今の遊馬君じゃコイツらに勝てないってことですよ!分かったらさっさとアストラルを迎えに行ってください!」

 

 委員長はトンと遊馬を突き放すが、その言葉の裏に隠された意味を理解し遊馬は駆け出した。

 

「分かったぜ、委員長。鉄男、キャットちゃん、負けるなよ!」

 

 ああ、青春していますねぇ……素晴らしい友情です。っと、感動してないで目の前のコレを片付けちゃいましょうか。

 

「『決闘!』」

 

 オービタル4

  LP 4000 手札5

 

 澱姫 ぼたん

  LP 4000

   手札

    〈アテナ〉

    〈トレード・イン〉

    〈ワン・フォー・ワン〉

    〈堕天使スペルビア〉

    〈堕天使テスカトリポカ〉

 

 おっと、恐ろしく恵まれた初期手札ですねぇ。素晴らしい引きです。

 

『こちらの先攻、ドロー。〈A・O・J サウザント・アームズ〉を召喚。永続魔法〈機甲部隊の最前線〉〈マシン・デベロッパー〉を発動。〈マシン・デベロッパー〉の効果、機械族モンスターの攻撃力が200ポイントアップ。ターンを終了』

 

 〈A・O・J サウザント・アームズ〉攻撃力 1700→1900

 

 ふむ、A・O・Jデッキですか。光属性メタデッキですが、幸いサウザント・アームズは全ての光属性モンスターに攻撃するだけです。アテナの攻撃力に届いていない以上、私のデッキにとって障害ではありません。

 

「私のターン、ドロー。スタンバイフェイズの処理はなし」

 

 ドローカードは〈堕天使ユコバック〉なんて素晴らしい引きなんでしょう。今日はツイてますねぇ!

 

「メインフェイズ、私は〈トレード・イン〉を発動、手札の〈堕天使スペルビア〉を墓地に送りカードを二枚ドローします」

 

 ドローカードは〈神の居城―ヴァルハラ―〉と〈堕天使ルシフェル〉。これはすばらしい手札です。

 

「〈神の居城―ヴァルハラ―〉を発動。効果により手札より〈アテナ〉を特殊召喚します。そして〈ワン・フォー・ワン〉を発動。手札の〈堕天使テスカトリポカ〉を墓地へ送り、デッキから〈天帝従騎イデア〉を特殊召喚。〈天帝従騎イデア〉の特殊召喚時効果によりデッキから攻撃力1000、守備力800のモンスター一体を守備表示で特殊召喚します。私が選択するのは〈冥帝従騎エイドス〉、〈冥帝従騎エイドス〉の特殊召喚時効果によって、私はこのターン通常召喚とは別にアドバンス召喚する権利を得ます。私は〈堕天使ユコバック〉を召喚、〈堕天使ユコバック〉の効果によって私はデッキから〈堕天使の戒壇〉を墓地へ送ります」

 

 〈アテナ〉     攻撃力 2600

 〈堕天使ユコバック〉攻撃力 700

 〈天帝従騎イデア〉 攻撃力 1000

 〈冥帝従騎エイドス〉守備力 800

 

「すげぇ、あっという間にモンスターが4体も……」

 

「デュエルも強いなんてますます憧れます!」

 

「そして追加された召喚権で〈天帝従騎イデア〉〈冥帝従騎エイドス〉の二体をリリースし〈堕天使ルシフェル〉をアドバンス召喚。〈堕天使ルシフェル〉のアドバンス召喚時、手札、デッキから「堕天使」モンスター一体を特殊召喚できます。私は〈堕天使マスティマ〉を選択。天使族モンスターが特殊召喚されたことによって〈アテナ〉の効果が発動。600ポイントのダメージを相手プレイヤーに与えます。〈アテナ〉の効果を発動し、〈堕天使ユコバック〉をリリースして墓地の〈堕天使スペルビア〉を特殊召喚。〈アテナ〉の効果で600ポイントのダメージを与え、〈堕天使スペルビア〉の効果によって〈堕天使テスカトリポカ〉を特殊召喚。もう一度〈アテナ〉の効果が発動し、600ポイントダメージを与えます」

 

 〈堕天使ルシフェル〉  攻撃力 3000

 〈堕天使マスティマ〉  攻撃力 2600

 〈堕天使スペルビア〉  攻撃力 2900

 〈堕天使テスカトリポカ〉攻撃力 2800

 

 オービタル4 LP 4000→2200

 

「フィールドに最上級モンスターが5体も!?」

 

「壮観ね……」

 

「しかも相手のライフを半分近くまで削っています!」

 

「〈堕天使ルシフェル〉の効果を発動、フィールド上の「堕天使」モンスターの数だけデッキを上から墓地に送り、その中の「堕天使」カードの枚数分だけライフポイントを500回復します」

 

 墓地へ送られたカード

 〈背徳の堕天使〉

 〈カオス・ソルジャー―開闢の使者―〉

 〈帝王の烈旋〉

 〈堕天使ディザイア〉

 

 うっ、ディザイアが落ちましたか。出来ればこのターンで決めたいですねぇ。

 

「「堕天使」カードは2枚、よってライフを1000回復します。バトルフェイズへ移行、〈堕天使マスティマ〉で〈A・O・J サウザント・アームズ〉を攻撃」

 

 澱姫 ぼたん LP4000→5000

 

『〈A・O・J サウザント・アームズ〉効果発動。光属性以外のモンスターとの戦闘時、このカードはダメージ計算を行わず破壊される』 

 

 よし、自壊効果のおかげで〈機甲部隊の最前線〉の効果で後続を呼ばれることもありません。いっきに片をつけてしまいましょう。

 

「〈アテナ〉〈堕天使ルシフェル〉〈堕天使テスカトリポカ〉〈堕天使スペルビア〉で直接攻撃」

 

 オービタル4 LP 2200→-8100

 

 Win 澱姫 ぼたん

 

 敗北したロボットはクレーンでどこかへ運ばれていきました。まさかデュエルだけで切り抜けられるとは……そういえば宝石店のショーケースも暗号とか鍵とかじゃなくて詰めデュエルらしいですし、ほんとこの世の中はデュエルで解決できることが多すぎです。まぁ解決できない物事もあるんですけどね。

 

 

 

『最重要ブロックへの侵入者を確認。機密保全のため爆破します』

 

 ビーッ、ビーッという警告音とともに照明が赤く明滅しながらアラートメッセージがスピーカーから垂れ流されます。

 

「くそっ!まだ遊馬が戻ってきてねぇぜ!?」

 

「でも逃げなければ僕たちも危ないですよ!?」

 

「遊馬を見捨てて逃げたら女が廃るわ」

 

 中等部の少年少女が口々に口論する。今はそんなときでないというのは分かっているのでしょうが、それにしても優先順位を間違えすぎです。

 

「九十九君を信じましょう。こういうものは大体脱出口があると相場が決まっています。それに九十九君が生き残ったときに貴方たちは九十九君をひとりにしてしまうつもりですか?」

 

「うっ、それは……」

 

「今は信じましょう、彼のことを。急いで脱出しますよ」

 

 そう言って、入り口を目指そうとすると灰髪の少女が奥のほうへ向かって駆けていく。

 

「私は、後悔したくないから!あのとき遊馬を助けに行っていたらなんて後から後悔したくないから!だから!」

 

「分かりました。では皆さんは脱出していてください」

 

「貴女はどうするんですか!?」

 

 委員長と呼ばれていた少年が驚愕する。

 

「彼女と一緒に限界まで捜索します。ですが、これ以上は危険だと判断すれば有無を言わさず連れ出します、よろしいですね?」

 

「キャット!遊馬を必ずつれて帰ってくるわ!」

 

「ッ!任せたぜ!」

 

「鉄男君!それでもいいの!?」

 

「俺だって遊馬を見捨てるようなことはしたくねぇよ!だけどよ、しかたねぇじゃねえか……」

 

「鉄男君……」

 

『あと5分で爆破シーケンスを起動します』

 

「しんみりしてる暇はありませんよ。急ぎなさい」

 

 

 

「遊馬!遊馬!」

 

『爆破シーケンス起動まであと3分。至急退避してください』

 

 必死に遊馬の名を叫び、奥へ奥へとひた走るキャッシー。

 

「これ以上は危険です、戻りますよ!」

 

「でも!まだ遊馬が!」

 

 パシン!鋭い音が倉庫の廊下に響く。ぼたんがキャッシーの横っ面を張ったのだ。

 

「いいかげんになさい!」

 

「ヒウッ!」

 

「私が宣言し、貴女は受け入れました。ですからここは私に従いなさい。分かりますね」

 

「っで、でもぉ!」

 

 大粒の涙を溢しながらぼたんに抗議するキャッシー。だが、ぼたんは彼女の手を取り入り口のほうへ向かって移動を始めている。

 

『爆破シーケンス起動。重要ブロックより、順次爆破します』

 

「うひいいいいい!やべぇよアストラル!」

 

「ッ!遊馬!」

 

 通路の奥から悲鳴とともに駆け抜けてくる青髪にピンクの前髪の少年、九十九遊馬だ。

 

「出来れば使いたくありませんでしたが、事が事です。来なさい!」

 

 一枚のカードを手にそう叫ぶとぼたんの右手に紅の模様が浮かび上がり、床を割って厳格な顔つきのケンタウロスが現れた。

 

「な、何だ!?」

 

「早く乗りなさい!急いで脱出しますよ!」

 

「お、おう!?」

 

 ドォン、ドォンとゆっくりと爆音が近づいてくる中を威厳に溢れたケンタウロスが走り抜けていく。

 

「そういえば、凌牙の魂はどうなったんですか!」

 

「コイツは返しておくって言って手放したから多分シャークのところに帰ってるはず」

 

「ならよかったです」

 

 

 

 倉庫のあちらこちらから煙が噴出し、もういつ倒壊してもおかしくない。

 

「遊馬……」

 

「クソッ……やっぱり、探しに行くか?」

 

「いえ、遊馬君を、キャッシーを、信じましょう」

 

 倉庫の中から「飛びますよ」という言葉が反響して、数瞬のちにぼたんとキャッシーを抱えた遊馬が飛び出し、直後に爆炎が巻き起こり倉庫が炎上。一瞬でも脱出が遅れていれば3人は焼死していただろうほどにギリギリのタイミングであった。

 

 機械の翼を広げ、海上を飛び去っていく影が一つ。

 

「天城カイト……次こそは潰します」

 

 影はぼたんを見据えたのち、何も言わずに飛び去っていった。

 




ぼたん「今日の対戦相手のデッキは【A・O・J】でしたね。全体的に光属性メタの色合いが濃すぎて扱いづらいという印象でしょうか。〈リミッター解除〉と〈A・O・J アンリミッター〉の同時使用で攻撃力4倍とかロマンはありますがなんというか使いづらいです。シンクロモンスターは優秀なんですが……素材指定が無いのでエクストラデッキに挿してあげると時々活躍するかもしれませんよ?〈A・O・J カタストル〉なんかはグッドスタッフ的な扱いをうけていましたしね。それではこのあたりで」


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第八話 澱姫ぼたん、アイドルデビュー!?

 無事凌牙の魂が帰ってきてから数日後……

 

「昨日はひなたさんがずっと傍にいたなの!だから今日は私の番なの!」

 

「歓那。アンタのこと、認めたわけじゃないからね」

 

 放課後、教室で何故か私を巡って火花を散らすひなたと化野さんがもはや日常の光景としてクラスメイトにも認知され、「ああ、また始まったよ」程度の認識で終わるようになってしまった今日この頃です。全く、いつもので流される身にもなってくださいよ。いつも勝手に収まるの待ってるので収拾のつけ方を身に着けなかった私にも責任があるのかもしれませんが。

 

「こうなったら!」

 

「決闘よ!」

 

「「決闘!」」

 

 化野 歓那

  LP 4000 手札 5枚

 

 夏乃 ひなた

  LP 4000 手札 5枚

 

「こっちが先攻なの、ドロー!〈終末の騎士〉を召喚なの!〈終末の騎士〉の効果でデッキから闇属性モンスターを墓地に送って、カードを2枚伏せてターンエンドなの」

 

 〈終末の騎士〉攻撃力 1400

 

 ぼたんは基本的に何を墓地へ送ったかは宣言するようにしているが、周囲の人々は意外とそれを行わない。主な理由は二つ、まず一つはいちいち宣言するとテンポが悪くなるから。特に序盤に墓地肥やしを行う場合、あまりそれに執心していると観客の興が削がれるというプロデュエルというものがあるが故の理由と、もう一つもプロデュエルに関連する事柄だが、死者蘇生などのカードによって新たなカードが出てくるというインパクトを与え続けることで観客を沸かすためである。これがいちいちエースカードを墓地に落とす宣言をしてしまえば、蘇生カードで帰ってくるなという先の展開が読めてしまうからだ。そして、この先の展開が読めるというのは主に本場アメリカにおいてウケが非常によろしくない。このような理由から、デュエルモンスターズで墓地へ送るカードはあまり宣言されないのである。

 

「アタシのターン、ドロー!〈暗黒界の雷〉を発動よ!デッキ側のセットカードを破壊するわ!」

 

「させないなの!チェーンして〈針虫の巣窟〉を発動!私のデッキの上から5枚を墓地に送るの。これでカードを破壊できなくなったことによって、貴女は手札を捨てることが出来ないなの!」

 

「言われなくても分かってるわよ!〈暗黒界の取引〉を発動!お互いに一枚ドローして手札を一枚捨てるわ。この効果で〈暗黒界の策士 グリン〉を捨てて、グリンは手札から捨てられたときに魔法罠カードを一枚破壊できるわ。セットカードを破壊!」

 

「破壊されてやるわけにはいかないなの!〈デーモンの雄叫び〉発動なの!ライフポイントを500支払って、墓地の〈ヘル・エンプレス・デーモン〉を特殊召喚なの!そして手札から捨てた〈トリック・デーモン〉の効果で私は〈ジェネラルデーモン〉を手札に加えるなの」

 

 歓那 LP 4000→3500

 

 〈ヘル・エンプレス・デーモン〉攻撃力 2900

 

「〈暗黒界の門〉を発動よ!〈暗黒界の門〉の効果で手札を捨てて一枚ドロー!手札から捨てられた〈暗黒界の武神 ゴルド〉の効果で自身をフィールド上に特殊召喚!〈暗黒界の門〉の効果で悪魔族モンスターの攻撃力は300アップするわ!」

 

 〈暗黒界の武神 ゴルド〉攻撃力 2300→2600

 

「〈暗黒界の門〉で強化されるのは〈ヘル・エンプレス・デーモン〉も同じなの」

 

 〈ヘル・エンプレス・デーモン〉攻撃力 2900→3200

 

「狙いはそっちじゃない!〈暗黒界の武神 ゴルド〉で〈終末の騎士〉を攻撃!ブロウ・オブ・ダークネス!」

 

 〈終末の騎士〉     攻撃力 1400(戦闘破壊)

       VS

 〈暗黒界の武神 ゴルド〉攻撃力 2600

 

 歓那 LP 3500→2300

 

「きゃあっ!」

 

「アタシはカードを1枚伏せて、ターン終了よ」

 

「〈デーモンの雄叫び〉の効果で特殊召喚されたモンスターはエンドフェイズには破壊されるなの。だけど〈ヘル・エンプレス・デーモン〉の効果発動なの!このカードが破壊されるとき、墓地から闇属性・悪魔族・レベル6以上のモンスターを特殊召喚できるの!来て!〈戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン〉!」

 

 〈戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン〉攻撃力 3000→3300

 

 化野 歓那

  LP 2300 手札 3枚

   〈戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン〉攻撃力 3300

 

 夏乃 ひなた

  LP 4000 手札 2枚

   〈暗黒界の武神 ゴルド〉攻撃力 2600

   セットカード1枚

 

「私のターン、ドロー!手札の〈ジェネラルデーモン〉を墓地に送ってデッキから〈伏魔殿―悪魔の迷宮―〉を手札に加えて発動するなの!〈暗黒界の門〉はなくなるがいいの!〈伏魔殿―悪魔の迷宮―〉の効果で私のフィールド上の悪魔族モンスターの攻撃力は500ポイントアップするの!」

 

 〈戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン〉攻撃力 3300→3000→3500

 

 〈暗黒界の武神 ゴルド〉攻撃力 2600→2300

 

「〈ジェノサイドキングデーモン〉召喚なの!このカードは「デーモン」がフィールドにいないと召喚できないけど、〈戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン〉がいるから大丈夫なの!」

 

 〈ジェノサイドキングデーモン〉 攻撃力 2000→2500

 

「バトルなの!〈ジェノサイドキングデーモン〉!〈暗黒界の武神 ゴルド〉に攻撃なの!」

 

「ふっ、読みが甘いわね。〈聖なるバリア ―ミラーフォース―〉発動よ!」

 

「ふえぇ!?そんなぁ……何も出来ないよ、ターンエンド」

 

「それじゃ、これで終わりね。私のターン、ドロー!〈暗黒界の武神 ゴルド〉で直接攻撃!」

 

「いやぁぁぁぁあ!」

 

 歓那 LP 2300→0

 

 Win 夏乃 ひなた

 

「また負けた……、ぼたん先輩ぃ……アレ?」

 

「いないわね」

 

「ああ、澱姫なら……」

 

 一人の男子が語るにはどうしてぼたんがいなくなったのか、それは1ターン目が終了したあたりに遡る……

 

「カードを2枚伏せて、アタシはターンエンドよ」

 

 ここまでぼたんも普通にデュエルを観戦していたのだが……

 

「あ!ぼたんちゃん!いいところに!着いてきて!」

 

 と、廊下を歩いていた女子に腕を引っ張られどこかへ連れて行かれたのである。

 

「アンタねぇ!どうして引き止めなかったのよ!」

 

「澱姫を引っ張っていけるような奴相手に俺が太刀打ちできる訳ねぇだろ!?」

 

「ったく、使えないわね……で、誰よ。ぼたんを連れて行ったのは」

 

「ピンク色の髪をした奴だったと思ったが……やめろって!見たのが本当に一瞬なんだって!」

 

 ひなたがネクタイを使って男子生徒の首をギリギリと締め上げたがそれ以上の情報は出てこなかった。

 

「ごっふ、夏乃は澱姫のこととなると途端に暴力的になるのがいけねぇよなぁ……」

 

「何か言った?」

 

「いえ!なんでもございませぇん!」

 

 

 

「嶺さん!そろそろ事情を説明してくれてもいいんじゃないですか?」

 

「まだ駄目、事務所まで着いてきて!」

 

 その頃ぼたんは、学生アイドル嶺開花に手を引かれ、彼女の事務所まで走らされていた。

 

「松田さん!代役できそうな人連れてきたよ!」

 

「え、代役ってどういうことです?」

 

「まぁまぁ、そこまで損な話でもないから大丈夫だよ」

 

 嶺は具体的な内容をはぐらかしながら事務所の中へとぼたんを引っ張っていく。

 

「嶺ちゃん!彼女が代役候補かい?」

 

「そう、どうかな?」

 

 中にいたグレーのスーツを纏った男性が値踏みするようにぼたんを頭の上からつま先まで見回す。

 

「えと、あの……私みたいなデカ女はアイドル的な需要はないと思いますけど……」

 

 当のぼたんはやや引き気味になり、顔も引きつっていた。

 

「ふむ、身長190cm、上から92/66/90といったところですか。素晴らしい体形ですね」

 

「ひっ」

 

 松田の発言にぼたんは完全に一歩退いた。3サイズを当ててくるような男相手に引かない女子もいないだろう。

 

「ああ、反応見るに当たってるね。やっぱ、引くよねー」

 

「そもそも私なんで連れてこられたんですか!変態に見せるためですか!」

 

「あー、ごめんね。ちゃんと説明するとね」

 

 ゴールデン枠の番組である、Skip!up!Music!の来週の放送がアイドルデュエリスト特集だが、この事務所に所属しているアイドルデュエリストは2名。嶺開花と蝶野さなぎ。そしてこのタッグで番組に出演するはずだったのだが、なんと蝶野さなぎにダブルブッキングが発生し時間的に猶予のあるこちらの番組を切らざるを得なくなったそうな。そのため、撮影日までにアイドルデュエリストとして一応の体裁を保てそうな人材を探していたとか。

 

「はぁ……いえ、別に協力するのはかまいませんがね」

 

 ぼたんとしては嶺開花と付き合いが無いではないため、無碍にするのもどうかと思い、この話を受けることにした。

 

「素晴らしいよ!嶺ちゃん!」

 

「やったぁ!これであとは当日までにぼたんちゃんを仕上げるだけだね!」

 

「え、あの……ちょっと待って下さい!?」

 

 ぼたんの悲痛な叫びは聞き入れられずダンスレッスン教室へと拉致られることになった。

 

 

 

「はい、ワン、ツー!ワン、ツー!」

 

「あの、嶺さん?これ、サイズ足りてませんよね?」

 

「あー、ごめんね?ウチにぼたんサイズの人ってあんまいないからさ……」

 

「そうですか……」

 

 ぼたんは身長を気にしているようだが、嶺が気にしているのは別の場所であり、会話がかみ合っているように見えて実はかみ合っていない。

 

「アナタ、センスあるわね!このままほんとにアイドルデビューしちゃったら?デビューがゴールデン番組なんて普通は出来ない経験よ」

 

「やりませんよ!?やりませんからね!?」

 

「あら、ほんとに応援ってだけなのね。勿体無い……」

 

 ダンスコーチからそんな風に声が掛かる。一応事情は説明されているらしい。

 

「にしても……たった2時間でもう振り付け完璧じゃない。やっぱりセンスあるわね!」

 

「まぁ、演劇部の手伝いとかで振り付けを覚えるような機会が多かったですから。そのせいかもしれませんけどね」

 

「んもぅ、それにしても手足が長くてダンスが映えるわね!これは逸材だわ!」

 

「どれだけ褒められようとやりませんからね!?」

 

「あら、残念」

 

 

 

 その後もほぼ特訓不要で完璧にこなしていたのだが……ひとつ、ぼたんのある弱点が露呈してしまった。

 

「はい、笑って、笑って!」

 

 こう……ですかね?

 

「ぼたんちゃん、頬が引きつってるよ!もっとリラックスして!」

 

 え、と……こうですか?

 

「スマイルだよ!スマァイル!大丈夫、ぼたんちゃんなら出来るって!」

 

 こ、こうですか?いいかげん、表情筋がキツいのですが……

 

「頑張れ、頑張れ、出来る!気持ちの問題だ!どうしてそこで諦めるんだ、そこで!」

 

 ・

 ・・

 ・・・

 

「死滅しました、これは完全に表情筋が死にました」

 

 珍しくぼたんがノックアウトされていた。

 

「いやぁ、今日の先生凄かったね。あんなに厳しくやってるの初めて見たよ」

 

「他人事ですねぇ……こちらは非常にキツいものがありましたよ。やっぱりプロの世界は容易に足を踏み入れていいものじゃありませんって。他の事務所とかにパートナー頼んだらいかがです?」

 

「もう断られたあとなんだよね。そもそもアイドルしながらプロリーグに出てもおかしくない腕前のデュエリストが少ないって言うのもあるんだけど」

 

「私なんてプロデュエリストには及びませんよ」

 

 そう応えるぼたんの顔には卑屈な自嘲が色濃く映っていた。

 

「そうかな?アタシはぼたんちゃんの腕前はプロに通用するレベルだと思うけどな。ぼたんちゃんの実績が無いのって大会に参加してないからでしょ?」

 

「ええ、まぁ。強くなることに興味があるわけじゃないですしね。楽しければそれでいいんですよ」

 

 カラカラと笑うぼたんの瞳は刻一刻と沈み行く赤を捕らえていた。

 

「そういうものかなぁ?」

 

「そういうものです。ああ、そういえば嶺さんのデッキってどういうデッキでしたっけ?」

 

「ん?アタシ?アタシのデッキは魔力カウンターを多用するデッキだよ」

 

「ふむ、了解です。タッグデュエルをするからにはパートナーらしいデッキも用意しなくてはなりませんからね」

 

「別に暗黒界でも大丈夫じゃない?」

 

「暗黒界は絵面的にまずいでしょうよ。仮にもアイドルの使うデッキなんですし……蝶野さんのデッキは何なんですか?被らないほうがいいですよね」

 

「えっとねぇ……さなぎちゃんのデッキはマドルチェだったかなぁ」

 

「ああ、可愛くて強いデッキですね。アイドル的にもデュエリスト的にも問題ないラインですし、魔法使い族もいるはずですから嶺さんとの相性も極端に悪くは無いと……まぁシャトーとエンディミオンがカチあうのをうまく処理できればという前提が付きますけどね」

 

「ぼたんちゃんってデュエルのことは何でも知ってるよね」

 

「知らないカードだって山のようにあると思いますよ?何せデュエルモンスターズの世界は広いですからね。私自身もカードプールが広いという自負はありますけどね」

 

 話に一区切りつき、帰ろうという時間には陽は完全に落ち、夜の闇が広がっていた。

 




今回は特に新規のデッキなどが出てこなかったので日常風景でも流しましょうか

~他愛の無い会話~

嶺「ぼたんっておっきいよね」

ぼたん「まぁ鍛えてますから?」

嶺「ううん、胸の話」

ぼたん「知ってましたか?大胸筋をちゃんと鍛えると土台が高くなる分大きく見えるんですよ?」

嶺「それ抜きにしてもおっきいよね?」

ぼたん「それはちゃんと食べてるからじゃないですかね?ダイエットとか言って食事を抜くのは感心しませんよ?ちゃんと一日7食食べましょうね」

嶺「どう考えても多いから!」

ぼたん「大丈夫ですって、鍛えてたら肥満にはなりませんよ。食べてるだけだったらどうなるか保障しませんけどね」


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