幼女の友人幼女戦記 (AMEKO)
しおりを挟む

プロローグ

始めまして。
書きたくなったので書きました。

未熟者故に知識違い、ごちゃる文法、おかしな展開がありましょう。
そちらの方感想ご指摘のほどお願いします。

追記・書き直し始めました。話の流れは基本的に変えず、必要不必要に応じ追加し削り、クオリティ上昇させるべくちまちまやりたいと思います。


神童と呼ばれた子供も、歳を重ね真っ当に育ったのならもうそれはただのおっさんだ。

本当の神童や鬼才というものはそもそも真っ当に育つことは無いというのが、かつて神童と呼ばれていた自分の考えだ。

所詮私はズルして育った秀才止まりの偽物だったわけだが、それでもそこいらの凡夫と違い一応大手会社に就職し、優秀な営業マンという評価を得る出来るおっさん程度にはなれている。

 

優れた業績、会社でのそこそこの人間関係と少しの深い友人達。暇な時間を有意義に楽しめる趣味に欲望のみで繋がった軽やかな肉体関係。

自分でも不思議なことに未だ独り身ではあるがそこに不満など無く、充実した人生を送っていると言える。

納得のいく人生になるよう努力したこの二回目は、不本意な結果をもって終わりを迎えた。

 

何の変哲もない退社後の定時帰宅の途中のことだった。

自分の所属する会社には一人だけ友人と呼べる者がいる。大学時代からの腐れ縁みたいなところがあるが、紛れの無い私の友人だ。

彼は人事部に所属しており、今日はまた重労働を行ったような疲労感を伴った顔を浮かべながら共に駅のホームにて電車を待っていた。

一見して鉄面皮のような無表情を携えているが、無意識に体が発するサインと彼の癖からそれなりにストレスを感じていることがわかった。

彼のような人間には回り道をするようにトークを回して何があったのか聞き出すよりも、直球で聞き出す方が話が早い。

そうして聞き出した話によると、どうやらリストラを通告された社員の無意味な喚き声を散々聞かされていたようだ。

その社員の情報は自分の頭の中にもあった。

というかリストラさせるように人事部に告げたのは何を隠そう自分自身だった。

 

彼のストレスの原因は紛れもなくリストラされた無能にあるが、そのストレスの責任の一端があると思わなくもない。

電車を待つ間無能がどれほど無能だったか、仕事でのミスや会社での人間関係の悪化させたかやセクハラ行為の暴露など、つらつらと彼に喋りかける。

ストレスの緩和方法は数種類あるが、今の状況や彼にあった緩和方法はこの場合簡単なもの、我に正義アリ、正当化である。

自己の正当性は彼も認識しているだろうが他の人間にも認められているというのはまた効果の違うものだ。

実際彼に非は無く、無能が無能であったがためであるのだから。

 

彼はわずかに苦笑や小さな頷きで返答するのは彼が無口なわけではなく、ここが公の場であり人事部の人間だからというリスク回避のためであるが、そうでなければこのお喋りが好きな彼は皮肉たっぷりに無能をこき下ろしていただろう。

悪口を一人駅のホームで彼に語る自分がヘイトを稼ぎかねないが、自分の会社での立ち位置はある程度気安くも信頼できる上司という立場、多少聞かれていたとしても早々崩されない信頼関係は構築済みだ。

 

 

もしリスクがあるとするのならば、それは今しがた私たちをホームから電車の前に突き飛ばした無能くらいだ。

 

 

 

―――お電車、通過いたします。

 

 

 

 

急展開となって申し訳ないが、一つ聞いてもらいたい。

あなたは神と言われる存在が実在することを知っているだろうか。

実に怪しい切り口であり新手の宗教勧誘のようであるが待ってもらいたい。これほんとの話。

自分は元は無神論者のようなものだった、そもそもとして現世へ介入しないのであれば正直居ようと居まいとどうでもいいと思っていた。

が、昔ある経験により神と呼ばれる存在の実在を知り、無神論者ではなくなった。

まあ結局彼らは現世へ介入しないのでどうでもいいと思うことは変わらなかったが。

 

自分と彼の目の前にいる存在は、神と呼ばれるに納得できる威光を備えた者であった。

だが彼が神と認めず存在Xと定義された者は、見た目からして以前あった神とまた違う存在のようだ。

 

「貴様は神の存在を以前知ったはずだ。なら何故祈りを行わなかった?」

 

気を動転させながらも存在Xと対話とも呼べぬ問答を行い、およそ煉獄と予想される場所へ先に旅立った彼はついぞ自分という存在に気が付かなかった。

まあ曲がりなりにも神の威光というのは人間の思考領域を侵す威圧感があり初見の者ならば視野が狭くなったとしても仕方が無いだろう。

まあ彼の狼狽を後ろから黙って笑いながら傍観していたのでは仕方がないのだろうが。

 

「一度のみではありますが、あなたと違う神に対してはその祈りという行為を行ったことはありますよ?ただそれは以前お会いした神個人の行動に対しての祈りであり、有象無象の神々に祈る必要性が無かっただけの話です」

 

この神と名乗る存在Xにあの祈りをカウントされなかったのなら、つまりあの神への祈りは届いたということなのだろうか。

祈りなどという無意味な行為は自分の趣味ではないが、あれはあの神個人への感謝の行為でありこの知らんのに信仰とやらを吸われなかったのならば実に結構だ。

 

「祈りを行い信仰を供給したのは確かだ、先ほどのあやつよりは矯正が望みえるか…」

 

嫌いなワードが身としてこの場にあるかわからない耳に飛び込み、にっこりと笑みが浮かぶ。

矯正、矯正ときましたか。私の嫌いな事を私に突き付けますかそうですか、議論いたしましょう。たとえ不快な言葉を突き付けられてもこちらは文化人、話し合いで解決するのが理性的な文化人の流儀でしてね。話し合いも出来ぬ愚かな者として神を名乗るお積りで?それとも自ら生み出し進化した物を愚かな猿と決めつけ超常の暴力で従えるのが神の流儀というわけでございましょうか?あ゛?

 

「言葉一つでこうも激昂するとは、まったく、人とはなんとも愚かしい」

 

「当然思考は覗いているわけですか、まあいいでしょう。ともかくまあ聞けよ糞老害」

 

「神と知りながらも敬えぬ貴様だがまだ祈ることは出来る、それだけが救いというものよ。貴様を輪廻の輪へ戻す、天使を呼ぶのでしばし待っておれ」

 

存在Xに対話を行う気は無いと組み立て途中の弁舌を引っ込め輪廻転生という次の事態へ頭を回す。

 

「私を輪廻の環へ戻すと、それは通常業務での話でしょうか?」カス

 

「…語尾に罵倒を思考してもこちらには伝わっておるぞ?愚かしい」

 

知っとるわ屑。

 

「何もない無垢な魂へ戻し現世へ返す。その行為を通常業務というのならそうであろう。ほう、自我の消滅が恐ろしいか」

 

人の根源的な恐怖に対する興味とは何とも悪趣味なことで。彼が悪魔もしくは存在Xと定義するのも納得というものだな。

意思伝達手段が思考するのみで行われるのならばもう口を開く必要もない、開きたくもない。傲慢が口から漏れ出してくせえんだよ。

ええそうですね、自我の消失というものは正直実に耐えがたいものです。

そこでどうでしょう、彼と同じようにかの世界へ飛ばしもう一つサンプルを増やすというのは。

先ほど飛ばした彼ですが結構捻くれておりサンプルとしては特殊であり、幾ばくか普通な私を比較サンプルにと思いまして。

 

「二度目の転生を行う貴様も大概特殊であろう...。まあよい、では貴様もあの世界へ飛ばしてやろう」

 

ええ人とまともに対話も行えない欠陥存在よ、契約成立で。

今までの問答から信用も信頼も置けない取引相手ではあるものの仕事はちゃんと行うことは欠片ながらも期待いたします。

くれぐれも自己については損なうことなきようよろしくお願い致します。

 

くれぐれも自己については。

くーれーぐーれーもー!

 

「うるさいわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ごきげんよう平和を享受する羨ましき皆々様。

今世では初めましてというべきでしょう、ティアナ・リースフェルトと申します、以後よろしく。ちなみに名前でお判りかもしれませんが初めてのメスです。

 

この世はどうやら近代と呼べる時代背景に魔法が乗っかっている摩訶不思議な世界なようです。どんなメルヘンを見られるのかと期待するも正直孤児院の生活では何も関係が無く、孤児としての貧乏的な日々を粛々と過ごしています。

 

苦しい食糧事情、クソ餓鬼、シスターのお手伝い、不愛想な餓鬼、クソ餓鬼。なかなかに退屈しない日々と言えなくもない生活、楽しいかと言えばまあ嘘になりますが。

気がかりであるどこかへと消え去った友人を探しに行くなんてこの幼い体では非現実的であり、おとなしく日々シスターから頼まれ教会へお祈りする幼女のお供をする日常。

そんな苦しくも退屈な日々が変わったのはあくる日の健康診断で魔導適性が認められたことから始まりました。

 

さて、私が籍を置く国は戦争帝国であります。

魔法が発見され使えるかどうか判断しかねる時に帝国は予算をつぎ込み、結果突出した戦闘力をもつ魔導士を多く抱え他国を凌駕する軍事力を得た戦争をするためにあるような国家。

 

その魔法ですが、これが誰にでも使えるわけではなく魔導適性を持つ者は限られています。故に帝国は適性があるとわかった者には粉を付けます。

 

人はそれを赤札という。

 

今回の健康診断で赤札を渡された者は私とお祈り幼女の二人のみ。

戦争に行くのだ。かつて平和の国で過ごしていた者としては実に勘弁していただきたい。この隣の子も戦争に行くことを理解しているのかストレスの動作をしている。

 

「「・・・」」

 

まああれだ、考え方を変えるのだ。会社視点のみでは営業など出来ない。お客様視点も視野に入れることが業績に繋がることであり、つまりは多角的な視野を常に持ち続けることを忘れてはならないということだ。

ここの生活は苦しい。そして未来があるのかと言えば実際苦しい。まあ碌な未来はあまり思いつかない。

しかしどうだろう、軍に入るという選択肢は考えてみるとそう悪くは無い。教養を身に付けれ、元軍所属という職歴も孤児院でお手伝いやそこらへんで食い扶持を稼いでいたというよりはまだ良い。

 

出世だ、これは出世なのだ。

幸いにして人の機微を察するのは得意、出世する上でこれは有効に作用する。前世でそれは経験済みだ。なおかつ軍でこの技能は重宝されるだろう。マジカルがすべて何とかしてくれるのならば正直素のステータスでやっていくしかないのだからなんとも心許ないのだが、感情の機微を察知する技能はフィジカルによるものでありやはり私は有用。いつの時代もやはり最終的にはフィジカルだ。

 

自身の有用性の再認識と将来のヴィジョンを描くころにはお祈り幼女も精神を持ち直したようで、互いに微笑みあいながらいつも通りに無言で寝床へ戻る。

 

明日の朝からはきっと忙しいことになるのだろう。就職活動はお早めに!これは前々世からの忠告だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の朝、ターニャは軍に向かう支度を終えていた。

いや早すぎるだろ。

 

さっさと出て行くターニャを追いかけるため急いで荷物を纏め挨拶もそこそこに孤児院を出た。

 

「ターニャ!」

 

「ん、ティアナさんですか」

 

ターニャに追いついた時、いかにも面倒なのが付いてきたという渋顔を抑え込んだような冷徹顔を拝むことになったが、可愛い要素が多くて別に嫌な気持ちにはならない。

美人は得だ。最も今は美幼女だが。

 

「ティアナでいいよ、同い年なんだから」

 

「そうですか」

 

「そうですよ、今年でそうですね―

 

 ―たしかもう30中盤のおっさんだろ?俺ら。なあターニャちゃん?」

 

人形染みた大きなお目目がパチクリと瞬く可愛いリアクションをありがとう。こちらはニヤニヤとした顔で答えさせてもらおう。

 

目頭を押さえ大きなため息を吐いたターニャはステキなジト目でこちらを睨みつけてくる。

 

「随分とおねーさん役が身についていたじゃないかカマトト野郎」

 

「相手の望む役を演じるなんざ営業でクソほどやったからな、木こり(首切り)一役とは違うさ」

 

「切った木に一緒潰された奴の言葉は流石違うな」

 

「ブーメランなそれ、というかこの話は互いにやめようか!」

 

「で、いつから気付いてた」

 

「気付いたのは昨日、だって喋んなかったし」

 

「あー、まあ、そうだな」




主人公―普通の現代社会に生きて転生して再度転生したら幼女になっていた元男。彼とは大学で知り合って以来の仲。原作知識無し。

以前あったことのある神―おっぱいが大きくて美人だったのは覚えてる。

聞けよ糞老害―嫌いな物。ちなみに素は口が悪い。

「うるさいわ!」―言わせたかっただけ。

「「・・・」」―タ「鬱だ、いやでもこれ出世~」「あ、この癖こいつあいつだわ(気付いた」

前々世からの忠告だ!―せやで(白目

30中盤のおっさんだろ?―てめーはちげーだろ(マジレス

パチクリターニャ―可愛い。

ニヤニヤ―幼女が悪い顔で嗤ってる。作者の趣味。

書き直しで大きな変化は無し。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

1話 軍学校

やあ皆様方、こちら新生ティアナ・リースフェルト。

帝国軍魔導士官学校から失礼いたします。

 

ええ、そうです、軍学校です。

齢十にも満たぬ私たちですが、孤児院出であり碌な資金もない私たち二人がまともな教育機関に入れる余地は無く、あまりない選択肢から道中議論を交わした末の選択は、帝都に着き次第すぐさま軍学校に入ることでした。

軍というのは能力さえあれば上に上がっていける実力主義なもの。軍学校も当然実力主義であり、能力が備わっているのならば年齢関係なく門戸を開いている。

しかしながらまさかこんな幼女二人が門を叩く事態など想定していない。

こんな子供、しかも女の子に何が出来るかと試験を受けるまでに一悶着あったものの、試験が始まってしまえば筆記は問題なく、体力兼魔導テストは魔導適正で押し切った感があるがなんとか合格。

審査官が自分でも信じられないといった顔で合格を告げてくるが、こちらは幼女の皮を被った大の大人二人なのだ。

 

基礎学問は前々世、特に前世で散々やったもの。

だが戦時中ということでその系統の授業で省かれた。

それは良いのだが、興味のあった魔導学というものを学ぼうにもまず戦場に必要な魔導学をみっちり叩きこまれ、幼子には厳しい基礎体力訓練や野外演習で体力を使い果たす日々。

任意で普通の魔導学を学ぶのは可能だが一年の頃は余力なんて残すことも出来ず泥のように眠る日々で学ぶ余裕は生まれず一年が終わった。

 

魔法を使うすべは確立され現在も発展し続けている、しかし魔法はどこから発生しているのか。

果たして魔力を発生させる体内器官があるのか、脳味噌が進化したのか、はたまた違う法則によるものか非常に興味をそそられるのはついぞ治らなかった厨二病の性。

二年になり多少の余力を残せるようになり、今後はこちらを主に調べようかと思います。ええ、趣味です。

 

 

 

 

 

「帝国魔導士士官学校へのご入学、おめでとうございます。私は貴官ら二号生の指導先任を拝命したティアナ・リースフェルト一号生です」

 

成績優秀者は、新しく入学する一号生に対する教育の一端を任される。

成績優秀ということは実務実戦において優秀だということではないのだが、それでも優秀であるということは昇進を期待されてもおかしくはない人材ということ。

昇進、上位の階級に行くのならば当然、部下を扱えることは前提条件。

成績優秀者が二号生の指導先任を任されるのはその予行演習ということなのだろう。

 

「まず一つ、貴君らに問います。貴君らが兵士になるには一体なにが必要でありましょうか」

 

とはいえやはりこれも訓練であり試験だ。

部下を扱う適正が無ければ、当然評価はマイナス。

たとえ自身にやる気が無くとも、内心面倒くさいと思っていようとも、顔はキリリと引き締め入学したての一号生を氷の表情で見下す。

 

「銃を、砲を、魔力を、武力を正しく扱う訓練。地を読み、敵を読み、戦術を知り、戦略を描くための座学。魔力を扱い、空を駆け、人智を超越した魔法の力を身に着ける訓練でしょうか」

 

自分が今やっていることは当人に告げずの訓示、演説の訓練だ。

それも練習無し、内容を考える時間も無し。本当にいきなりやれと言われ草案もなく喋らされている。

 

まあ、このように突然出撃命令を下されてこのような演説まがいのことを行うことは、以前の戦争では当たり前だったのだろう。

出撃前の士気統制力がどれほどあるかの資質、確かにこの方法はその資質を見るのには合理的ではあるが、十分でないと判断された場合どうなるのだろうか。

補修などで演説講習でも開かれるのか?是非とも参加してみたいものだ。

 

「否であります。それらの技術は出来るものが培うものであり、貴君ら新兵未満の一号生に必要なものではない。二号生の貴君らが兵士となるために必要なこととは、もっと簡単なことです」

 

実際、このようなお子様ボディでも出来る威圧的な演説テクニックは無いのだろうか。

身振り手振りでもって自身を大きく見せる技術などを行おうにも、この体では小さすぎて滑稽。

したがって姿勢は直立不動、表情は氷のように動かさず目線は見下すように。

語りかける声は静かに、されど力強く、タイミングが来るまでは鷹揚もなく、ただ静かに。

 

「必要を成すこと」

 

腕をゆっくりと体の前にかざす。

長い間動かなかったからこそ、静から動へと変化したアクションはその効果を大きく上げ、人の心理を大きく動かす要因となりうる。

そして声の鷹揚も大きく、熱を込めるように。

 

「国を守り、民を守り、誇りを守り、戦友を守らんと願うならば、まず貴君らはたとえいつ如何なる事態が起ころうとも、冷静に、そして適切に行動せねばなりません」

 

見下すような上からの目線をゆっくりと下げ顎を引き、一人一人を見つめるように向き合う。

 

「鍛えましょう、私と教官殿でもって地獄のような訓練を施しましょう。血反吐を吐き涙枯れつくすまで絞りつくしましょう」

 

体の前に掲げた手をグッと握りしめる。

キュって感じに小さなおててが締まった。だめだ、締まらない。

 

「そうして貴君らが軍人へと、祖国を守り、民を守り、誇りを守り、共に戦う戦友を守るため、必要を成せる軍人へ成れるように!!」

 

声を次第に大きく、拳をゆっくりと上部に持って行く頃には張り上げんばかりに。

だがその大声に反して氷のような表情は一貫しており、視線は一号生より外されることはない。

こちらの声を聴こうとしている、集中しているという前提条件の元であれば、人の意識の誘導はそう難しいものではないと実感する。

必要なのは非日常的な何かしらの要素と、没入感を高めるテクニック。

演説の内容などそれっぽいことを適当に言っていればいいのだ、言ってしまえば盛り上がれれば何でもよい。

 

「たとえ火と鉄の試練が訪れようとも祖国を守れる軍人へと成れるように!」

 

眼下の二号生を見る。

訓示に自分が出てきた時のがっかりしたような、期待外れのような当初の目線から一転。倒錯するように、熱が入ったように、求めていたものを与えられたかのように目がぎらぎらとしている。

まあ、そういうのが欲しいのだろうと思いくれてやったのだから、盛り上がるのは当然だろう。

客が求めるものを提供するのが営業というものだ。まあ欲しいものと誘導するのも営業の仕事であり、欲しかったものと思わせるのもまた営業の技。

一流の営業マンは、一流の詐欺師でもあるのだ。

 

「ライヒ!ライヒ!ライヒ!」

 

感情に熱を感じる輩はどうせ叫ぶのが好きだろうという偏見の元、拳を突き上げ演説によって与えられた熱を吐き出す機会を与える。

 

「ライヒ!」「ライヒ!」「ライヒ!」

 

熱に浮かされた誘導しやすい馬鹿、もしくは熱心な愛国者の声を皮切りに全員が帝国への愛国心を叫ぶ。

もはや自分が声を出さずとも、こうして拳を掲げているだけで彼らは帝国よと叫び続けるだろうが、時間は有限でありいつまでもこのようなことをやっている時間は無い。

 

ほどよくボルテージが上がりきったタイミングで拳を振り下ろす。

輪唱していた声は今やピタリと鳴りやみ、痛いほどの静寂がこの場を支配する。

どうやら空気の読めない人間はいないようで、静寂が少し気持ちが良かった。

 

「貴君ら、もう一度だけ言おう、復唱したまえ」

 

振り下ろした拳を腰の後ろに回し両手を組み、体、顔の角度、視線まで全てを最初の不動のポーズに戻す。

違う点があるとすれば目の前の二号生の意識とその眼差し。

息を吸い込み、鋭く言い放つ。

 

「必要を成せ!」

 

「「「必要を成せ!!!」」」

 

ふむ、二号生のモチベーション上げならびに士気統制の訓練として、これは上々の成果ではないか?

満足げに壇上を降りる際、教官の顔をチラリと見やると異常者でも見るかのような視線を送られた。

 

え?もしかして趣旨違った?

 

 

 

 

二号生が言うことを聞くよう洗礼、もとい教育してからは実戦形式での教育、日々の学問に訓練、ターニャと行う予習や前世での歴史的解釈を交えた今の世界状勢講釈。最後のはほぼターニャの趣味。

 

ルーチンワークと化してきた日々の中、変わったことがあったと言えば、二号生の洗礼、銃殺刑だろう。

 

兵士とは必要に駆られ人を殺すことがある職業だ。いざという時引き金を引けない兵士に用は無い。

二号生の授業内容の一つ、銃殺刑は引き金を引ける者かそうでない者かを選別するものだ。

 

的は強姦殺人強盗テロ犯と、世に不必要なゴミ共がズラリと張り付けにされている。

 

「さて犯罪者諸君、代表してあなた。最後に言い残すことは?」

 

命乞いをして二号生の決心を鈍らせないよう、薬で頭の逝った強姦殺人犯を選び猿ぐつわを外す。

 

 

「へへお嬢ちゃん、これ外しちゃくれねえか?気分が良くなる飴ちゃんと俺様の逸物で天国に連れてってやるからよぉ、ヒヒヒヒヒッ」

 

「ドラッグ決めないと天国にイかせられない粗チン野郎はお断りしてますの、ごめんあそばせ」

 

おっと確かに薬物と性欲で脳味噌がおかしくなっている屑を選んだのだが思ったより酷かった。

だがまあこうして喋らせておくと初めての人殺しという重圧は勝手に軽くなり引き金も軽くなるというもの。

人殺しというものは善良なる者の精神を壊しかねない行為であり、メンタルケアの手間と屑のお喋り、どちらが手間が少ないかというと後者だろう。

 

「さて、諸君。人殺しは初めてでしょうがあなた方が行うのはこのような社会的に必要性の無い屑の掃除です」「最後にそのちっちゃいお口でしゃぶってくれよ」

 

「これらは世に病魔を振りまき悪をなす害悪、これを排除することは軍人の義務であり」「そのちっちゃいXXXで扱いてくれてもいいんだぜ?すぐにぶっ壊れちまうだろうけどなぁギャハハハハ」

 

「怠ることの許されない義務です。我々はこの世の秩序を乱すこれらに正義の鉄槌を落とすためこれより銃殺を執行」「おい聞いてんのか、ちっちゃいおててで扱けっつってんだよ。溜まってんだよ、おい聞いてんのか!」

 

「うるさい!」

 

―切断術式

 

腹を一閃、デロンと中身がこぼれ出てくる。

しまった、少し深すぎた。

パフォーマンスとして猿轡を外したがこのゴミが元気すぎてついやってしまった。

今はまだぎゃあぎゃあ煩いがこれではすぐ死んでしまう。

別に死ぬのは良いが銃殺によって殺されるのがこれの最後の役目であって、私によって殺されるのは趣旨が違うんだよ。

 

治療術式を展開、バイタルは少し持てばいいが練習ついでに少し真面目に行使しよう。

真面目にとはいっても片手間にではあるが。

 

「えー…、では正義の鉄槌として銃殺刑をここに執り行う、構え!」

 

モツがこぼれたままの治療術式だったが少しずつモツは体内に戻されつつある、魔法の力ってスゲー。

 

死刑囚のすぐ横で術式を展開しながら腕を振り下ろすと銃撃音が綺麗に重なり、防核術式に血しぶきが飛ぶ。

万が一銃弾がこちらに飛んできても大丈夫なように展開していたのだが、無駄に軍服を汚されずに済んでなによりだ。

ビクンと体が銃弾に震えるが、術式は関係なく腹部を中心に肉体を修復し続ける。

たとえ頭に銃弾を受け生死が不明であろうと肉体の修繕は行われるのか、興味深いが治療術式をカット。役割は終わった。

 

「本日の授業はここまで、吐くならトイレで吐け。解散!」

 

 

 

銃殺を終えた二号生達を解散させ、興味本位がてら先ほどの強姦魔の死体のもとへ向かう。

 

 

「おやおや、悪運の強いゴミだなおい。生きてんのか」

 

「腐れ、XXXめ」

 

「すまんな、あの外した下手くそは後でファックしてやるからさっさと死ぬといい」

 

なんとゴミは生きていた!まあどうでもいいが。

腹の出血はマシとはいえ今なお続いているし、運良く貫通したとはいえ顔はぶち抜かれている。もって数分とはいえ本当によく生きているものだ。

 

まあそれはどうでもいいとしてここに戻ってきたのは私の趣味によるもの。

以前話した魔法はどこから発生しているのかという話だ。

 

魔力を貯蔵する体内器官というものが一つの仮説としてあるのだが、この世界基準で内臓が作られているのだとしたらこの世界に住む者にはきっとわからないだろう。

なにせこの世界では当たり前にあるものなのだから比較しようがない。

 

しかし私は違う世界、違う知識を持った異世界人。

魔法の無かった世界の人体構造を知っており、逆に言えば前世で無かった内臓器官を見つけることが出来たのなら、即ちソレが魔導器官と言えるのではないかと。

 

帝国は魔導の運用法を研究してはいるが、魔力がどこから発生しているかというものは仮説はあるものの実際はまだわかってはいない。

なおかつ時代が発展していないのか、私が図書館で見つけられなかっただけか軍学校だからなのか、医学系統の蔵書は少なく人体の資料は見つけられなかったのだ。

 

故にこの腹を裂かれた死刑囚は都合が良く、こうしてモツを拝見させてもらっている。

 

切断術式で再度腹を切開しまずは内臓を検分。

むわっとした血の香りが周囲に立ち込める。

 

大腸、小腸、胃、肝臓、これなんだっけ、膵臓、ああ脾臓だあれ。

 

あとは上の方裂かないと無理そ― 「ティアナ一号生、…なにをしている」

 

死刑囚を解体していると訓練場の入り口から声がした。

 

「これは教官殿、ああ!失礼いたしましたこんなに散らかしましてお恥ずかしい限りで」

 

教官殿沈黙、いくら死体になるために連れてこられたと言っても死体を処理するのは他の者だ。掃除の手間は出来るだけ少ない方が良い。辺り一面の血だまりは掃除が大変だろう。

初めての腑分けにちょいと夢中になりすぎた。

 

「なにを、しているかと聞いている」

 

「はっ、人体とはどうなっているか知的興味に基づいて死体の解剖を行っておりました!」

 

「そう、か」

 

「はい、本で読んだ通り様々な内臓がどこにどう入っているか実際に知ることが出来、実に興味深い体験となりました!」

 

丁寧に並べてあった内臓に教官どん引きしている、けどここは子供の無邪気さでゴリ押そう。

子供の無邪気な笑顔は人に伝播する。だがまあナイフ片手、背景に血だまりと腹が裂かれた死体じゃ流石に無理があるか。

 

「ティアナ一号生は、医学に興味があるのかね」

 

「はい、しかしながら図書室には蔵書が少なく、こうして自習していた所存であります」

 

ん?これは後方チャーンスというやつでは?

日々ターニャと後方勤務プランについて話し合っているのだが医療員というのは前線で酷使される可能性もあるが後方で仕事に励める可能性の高い職と結論付けられていたのだ。

問題は我々にコネが無いこと。

しかし教育機関というものは様々な方にコネがあるものだ、きっと医療機関にもコネがある。

 

千載一遇のチャンス!悪いなターニャ!俺は後方に下がるぜ!

 

「そうか」「はい」

 

にっこり笑顔で応じる。

 

「ティアナ一号生、貴官の知識欲は素晴らしい。が、無断で解剖をしていい理由にはなりえない」

 

ああ、まあ、そうだな。そうだった。

人体の解剖は無断で行うことはたとえ犯罪者相手だろうが犯罪行為だったな。そりゃそうだ。

 

「よって罰を命ずる、ここ掃除しなさい」

 

「はっ!」

 

黙認!こうして逃れようのない犯罪行為を目の当たりにして黙認していただけるとは!

そっと安堵の息を吐き後ろを振り返ると、ピクピク白目で痙攣する腹を裂かれた男の死体のグロ映像。

血溜まりのなか綺麗に並べられた内臓、むせ返る血の匂いとアンモニア臭、そして微かなイカ臭さ。

 

「教官殿」「なんだね」

 

 

 

「やりすぎましたことをここに反省いたします」

 

深い溜息で応えられた。

 

 

今にして思えば、生かしながらの方が魔力反応を調べられたか?

いや、魔力反応は機材が無ければ観測しづらいし別に死んでても問題なかったか。

 

とりあえず清掃員さーん、モップ貸してー。




訓示―うん、正直わかんね。

幼女に馬鹿にされクルもの―(ご褒美では)ないです。

ターニャ班―お察し。

「うるさい!」切腹―顔に血が掛かりまくってる、かわいい(錯乱

悪いなターニャ!俺は後方に下がるぜ!―ここにフラグがあるじゃろ?



さて次どうしようか。

追記・書き直し終わり、視点変更を終わりに持ってきました。

追記・さらに書き直しました。もうしません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話 転入生

転生ものというのが前々世、ネットの中で流行り、読み漁っていたことを微かに覚えている。

創作物に対して自分の考えたオリジナル主人公をぶっこみ、無双して原作改変をしたりしなかったり。

 

そして私は転生者という存在で、二度の転生を経てこの幼女ボディとなったわけだが。

果たして私の自我は自我と言えるものだろうか。

 

私がその転生者として書かれた姿なのだとしたらここは書き物の中で、私は作者という存在の操り人形であり、自我という自我は作者の思考であり、私は私でないナニカではないのか。

と、ふと考えることがある。

 

だがしかしこんなナンセンスな思考を作者が許すだろうか、物語の進行を阻害するこのような思考は邪魔の一言であって不必要だ。

実際、二度の転生というのも無駄な工程だろう。私が作者だったとしたらまず一回目の転生でぶっこむ。

前々世の私は程よく捻くれており、若い感情と未熟な自制心、厨二的事象への憧れがあり、作品を掻き乱すに適した存在であったと思う。

 

しかし前世では現代社会で成熟した大人になってしまい、転生者としての魅力というものは落ちぶれたものだろう。

 

しかしながらだ、ここ魔法の世界へレッツ転生された。

 

前世での懸念は社会人になり忙しく働いているうちに消え去ったが、再びこの問題が浮上してしまった。

無駄な転生という工程があるため小さくなっているものの、この問題は悪魔の証明のようなものであり消えるものではない。

 

だがもしも、もしもだ。

作者という存在がいるのならだ。

 

―作者様お願いします、楽に生きさせてください。もしくは存在XをXXXしてくれることを切に願います。

 

 

 

まあそんなことを考えてても結局無駄でしかないから忘れるに限るんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銃殺刑より数日後、私は魔導医術大学の門を叩いていた。

 

前世で医療関係は少し齧った程度だが知識はある。が、魔法での医術でそれが通用するのかは全くの未知。

 

未知故に、面白い。

 

期待と不安が共存する久しく感じていなかったこの感覚を胸に、私は教壇の前に立った。

 

「本日より魔導士官学校より転入いたしました、ティアナ・リースフェルトです」

 

医療術式の集中研修という形で医大に送り込まれた後方のアイドル、ティアナちゃん9歳!

胡乱な視線を子供らしい絵になる微笑みで受け流し席に着く。

 

 

ああ我が友ターニャよ、先日私の銃殺刑と同様に色々とやらかし、ついには前線へ飛ばされた哀れな同胞よ。

私はやらかした、お前もやらかした。

しかし私はこうして後方へ、お前は前線へ。

なにが違うんだと言いたいのだろうが、やはりお前は周囲からの視点の見込みが甘いんだ。

 

ターニャ・デグレチャフが掲げた防疫官という役割は、戦争を控える帝国の視点としては間違いない。

彼の歴史や状況を加味した冷徹な状況分析は私も信を置くところ。

 

だが彼は矮小なる人間のことを信じるが故に、愚かな人間を『肉袋』、知性ある人間を『人間』とでも思ってしまっている。

 

だがどちらも当たり前の話だが人間であり、彼らは環境によってその生き方になっただけの話だ。

学校とはその血袋を人間に仕立て上げる環境であり、奴は間違えた。

 

私は『教育』、育てることを重視した。

愚かしきをそれとなく周りに修正することを誘導し、指導し矯正し育成に励んだ。

 

奴は『防疫』、選別し排除することを重視した。

試練を与え排除し、軍にとってのリスクを排除し続けた。

 

奴の方法は悪くは無い。

しかし周りがどう見るかと言えば、前世での最期や今回飛ばされた場所を見ればわかることだろう。

前世で私が巻き込まれたのは非常に不服だが。

 

 

 

閑話休題。

 

 

ここ医大に私がどのくらい居るのかと言うと、実際のところそう長くは無い。

ターニャと同様短期間に優秀な成績を修めた私ならばと、優秀な先輩を一人付け短期間習熟してこいと。

 

2年だ。

二年でできる限り勉強してこいとのことだ。

 

子供の脳味噌は確かに天才的で、スポンジのようにどんどん物事を覚えていくがやはり詰め込みが過ぎるというものでは?

 

正直きつくない?

 

 

 

そんな素朴な泣き言は優秀なる先輩には通じなかった。

 

「まずこの3つの術式を覚えろ」

 

凄い濃い隈のある人が私の前に立つなり指導担当だの一言で挨拶を済まし、嫌々指導しますという顔をして3つの術式を提示してきた。

 

脳に覚醒作用のある物質を分泌する術式に自身の状態を把握する観察術式と体の調整に使用する術式。

 

「これは試験などでは出ないと思われますが、というか見たこともないんですが」

 

「オリジナル、嫌ならさっさと出て行って」

 

なんだって自分がこんなことなんて面倒くさそうな顔をしている先輩。

さらっとオリジナル術式を構築するあたり確かに優秀なのだろう、オリジナル術式を自慢したいがために覚えさせようとしている様子ではなく何らかの意図があるのだろう。

 

「必要なことなんですね?」

 

「無駄は嫌い」

 

短い返答にさっさと失せろという副音声が聞こえるが主音声に聞こえないためそのまま先輩の指導を受ける。

 

脳味噌に特定の物質を分泌する術式は普段から使用している。

なんせこの体は子供の物、保有するエネルギーは当然他の者より少なく、眠気を抑えるためによく使用していた。

 

これは私が普段使用していた物より洗練されており、他のことにも応用が効きそうな有用な術式であった。

今度ターニャにも教えてやろう。

 

次に観察術式。

起動してみると、大量の体内情報が頭に流れ込んできて酔った。

必要な情報の選別もしていないのかと先輩にやんわりと苦言を申したのだが、選別したうえでこの情報量だそうだ。

必要なことだと自身を納得させ数度展開、先輩殿の質問に数回答え及第点を貰えたので要練習とのこと。

 

そして調整術式。

最初の覚醒術式は脳に有効な作用を与えるが、デメリットもある。それを抑えたり他に振り分けたり出来る術式だと。

おっぱいは欲しいが自分には欲しくないので他に振り分けておこう。

 

 

 

「ところで先輩、これらはどういった使い方を想定しているのですか?」

 

「うん?君が不眠不休で勉強するためのものだよ」

 

え?...え?

 

 

 

先輩ことジビラ・ラングハイム先輩。

先輩殿は生徒先生から広く知られる、MADだった。

 

十数年の付き合いとなる眼の下の隈、その付き合いの始まりの日のことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視点:ジビラ・ラングハイム

 

いつものように研究費と実験台をせびりに行くと、そこには待ってましたと言わんばかりの先生がいた。

どうにも嫌な予感がしたが、それは的中。

研究費と実験台は出す、代わりに幼子のお守をしろと。

 

冗談ではない。

論理性に欠けるあの生き物をよりによって子供嫌いの私に預かれと?

 

断固拒否の構えを見せるが研究費と実験台を盾に迫る汚い大人の策略に渋々折れ、その子供がどうしようもない場合こっそりモルモットにしても良いことを条件にその件を了承した。

 

 

初め見た印象は、まあ流石に知性の欠片もないガキが来るわけないかという少しの安堵だった。

 

「まずこの3つの術式を覚えろ」

 

覚醒を促し、自己観察を行いコンディションを整える3つでワンセットの術式。

 

大抵の怪我は魔力で治せるのが今の魔導医学だ。

しかしそれは魔力が続く限りの話であって、場合により魔力を使わない手術は今でも行われることが多い。

しかも急患が続いた場合下手すれば何十時間も手術室に張り付き斬った貼ったの大仕事だ。

 

そんな時、眠くて手が狂いましたなんてことで患者を殺したんじゃ遺族やらなんやら後が面倒くさいので作り上げたワンセットの術式だ。

 

これがどういうものかの説明は実体験してもらうから元から説明する気は無かったが、私が必要なものだと言うとやけに大人しく術式の練習に入った。

素直な子供と言えば聞こえは良いが、素直な子供は温度の無い瞳でこちらを見極めるようなことはしない。

気持ちの悪いガキを押し付けられたと悲観したのは言うまでもない。

 

しかしこんなガキだ、情を湧かせる必要など無いと割り切れて、不眠の指導生活がスタートできた。

 

 

 

指導してみるとわかったが、ティアナ・リースフェルト、彼女は優秀だった。

教えたことをしっかり覚え、曖昧に教えてみるとしっかり言及し、今まで教えてきた知識から違うとわかる微妙な嘘をすぐさま見抜き、私の言葉を鵜呑みにせずに学ぶ姿勢。

 

理解に時間のかかるそこらの凡夫とは違い短時間で私の指導を吸収してくれるというのは、やってみるとなかなかに面白い。

人を物として捉えろという私の教えは教わるまでもなく備わっていたため、彼女が吐くかどうかの同期との賭けには私が一人勝ち。

 

魔女の弟子なんて言われてもいるが、最近そのからかい文句を否定しなくなってきたあたり、私は彼女に情でも湧かせてしまったのかもしれない。

 

なんせ彼女は賢く、そして可愛い。

なにより間違えた時のお仕置きとして神経に痛みを誤認させる干渉術式を起動した時、彼女の苦痛を堪える小さな悲鳴が何とも可愛らしい。

 

何事も無かったかのように失敗を謝りなんでもない風を振る舞うが、声も体も震え、涙目で口を真一文字に引き締める姿のなんとそそることか。

 

おっと間違ってもそこらの少女愛性倒錯者と一緒にしてくれるな?

私は、違う。違うぞ。

 

睡眠時間を三日に一度に削り指導に当たっているのは決してそういう不純な動機などではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視点回帰:ティアナ

 

睡眠時間を削ってまでの先輩殿による個人授業は、恐ろしい勢いで私の精神を蝕みはしたが。

実に効果的に作用し、この短い期間で相当な量の知識を蓄えることとなった。普通の学生はもう置き去りにしたのではないか?

 

置き去りにされた転入時のクラスメイト達はこちらの才能に嫉妬することなく、すれ違うたびに憐憫の眼差しでチョコレイトなどをくれたりする。

 

やめろ、肩ポンするな、頭撫でるな。チョコレイトは寄越せ、脳味噌に糖分は常に足りてないんだ。お菓子おいてけ!なあそれお菓子だろ!

 

そんな地獄のマッド個人レッスンが終了したのは、ノルデン地方にて戦争の兆しありと召集を掛けられた為であった。

 

 

戦争だ。

ターニャよりこれからの戦況分析を聞き覚悟はしていたのだが、とうとうこの日が来てしまった。

幸いにして先輩と私は医療班として前線に赴くため、ターニャのような戦闘要員と違って生存率はそう低くは無いだろう。

 

 

 

 

そう覚悟し前線へ赴き、到着した頃には戦争は始まっていた。

 

砲撃の音が鳴り響き、右往左往し血肉をぶちまける敵歩兵。

意気揚々と国境を越境してきた協商連合軍は、帝国自慢の砲撃部隊により的確に追い返されつつあった。

 

「喜べティアナ君、勝ち戦だ」

 

「そのようですね」

 

勝ち戦ということは?つまりは命の危険は少ないということだ。

なおかつこれはキャリア的にも美味しいと言えるだろう、ターニャ的に考えて。

 

しかし勝ち戦と言えど戦争は戦争。

 

死にかけている兵が居るため至急出動を求むとのことで、護衛の味方と共に飛行術式でかっ飛んでいく。

医者のやることはどこでも結局変わらず、湧いてくる怪我人の治療で忙しくなりそうだと思っていたら。

 

 

緊急の患者はターニャちゃんでした。

 

 

「...なにしてんの」

 

「..........」

 

素でびっくりしつつもマジで死にかけているターニャを治すべく主治医となる先輩のサポートに入る。

観察術式にて全体を把握しカルテに書き込む。

 

四肢に広範的な被弾があり、歯が欠けている、宝珠でも噛んだか。

胴体にも複数被弾がありよくもまあここまでズタ襤褸になれるものだと感心するほどである。

 

む、カフェイン中毒の兆し有り。背が伸びなくなるかもしれんが黙っておいてやろう。

 

書き込んでいる間にもターニャの体は先輩の手によって修繕が進んでいく。

術式で観察しているが、実に的確な処置で、なおかつ私に教えたとおりに効率的な修繕を施している。

授業で教わることと現実が違うことはごまんとあるが、先輩の教えは実戦で行うことを考えられた十全なる指導だったようで。

正直ここで観察をしていても既知を繰り返される単なる作業風景を眺めるようで面白くもない。

 

「そういえばティアナ、この通り観測員潰れちゃったみたいだしさ、暇ならちょっとやってきなよ」

 

「い、いえ、医療員を前線へ出すわけには」

 

「大丈夫大丈夫、こう見えて優秀だから。死にかけてるこの子の次に優秀だって聞いてるから」

 

何故知ってる、お前は自分の好奇心の行く方向にしか興味の湧かないマッドではなかったのか。

 

「あの、先輩?」

 

「だからCPに観測員志願って連絡入れといて」

 

「あのー、先輩ー?」

 

聞いてますかー?嫌なんですけどー?

 

「はっ、失礼します」

 

というかなんで一般兵がホイホイ言うこと聞いてんの?

 

「先輩、先輩って偉いんですか」

 

「うんまあ、コネで」

 

どういうコネだ。

多少の押し問答とお仕置き術式の末、私は観測用の装備を背負い北方の空へ飛び立つこととなった。

 

「解せぬ」

 

「これも仕事だお嬢ちゃん、キリキリ飛びな」

 

流石にあんなことがあった後だ、僚機が一人付き、奴よりはマシかと気持ちを入れ替え飛行術式を展開させる。

起動させ飛び立ったはいいが、以前より飛行術式の反応が悪い。

 

常時起動を命じられた観測術式の範囲を拡大させると、術式の複数起動しすぎと出た。

時代が進み改良されてきた演算宝珠といえど、その処理能力は3つ4つ5つと起動させては流石に動作が重くなるようだ。

 

飛行術式と防殻術式以外をカットし、快適な空の旅を始める。

 

 

 

10分後、死ぬほどの睡魔に襲われた。

 

そうだ、私の普段の生活を見直してみろ。

 

朝7時朝食、昼飯の12時まで部屋で先輩と勉強、午後解剖などを交えながら勉強、夕食後も勉強。

時計の針が真上に通りかかった時、三日に一度寝れるが、三日に二日は夜食を挟み勉強。そして朝へ以下ループ。

休憩は朝昼晩各1時間ずつ。

 

なんだこれ。

 

そんな生活をしていれば、術式で誤魔化していた疲労や眠気はカットされた瞬間に牙を剥き、瞼は凄まじい重量となる。

 

覚醒術式を急ぎ起動、これ以上の術式は観測任務に支障が出るため起動できないが一応は眠気は飛んでいった。

代わりに調整術式が起動できないため体内環境がぐっちゃぐちゃ、吐きそう。

 

「お嬢ちゃん、人が死ぬところなんて子供は見るべきじゃねえ、機械が観測自体やってくれるから雲でも見てな」

 

手足の血流が滞ってきたのか痺れてきた、クソッ、B級映画のように人の吹き飛ぶサマを見て気を紛らわせているがやっぱ気持ち悪い。

 

「戦争なんざ真面目に見るもんじゃねえよ、まったく、なんでこんなガキ前線に出しやがってんだよ上は」

 

仕方がない、調整術式を規模を抑えて起動。観測術式無しじゃ大雑把な調整など望むべきもないが無いよりはマシだ。

ちらりと横を見てみるとおっさんがこちらを心配そうに見て話しかけて来ていた。

oh、聴覚も逝ってやがる。CPの指令が聞こえないのは不味い、聴覚復帰に調整を割いているとこの体調不良に回せるリソースがほぼ無いじゃないか。ファック!

 

「――――Pより観―班、弾着観―を送―れたし」

 

「こちらフェアリー09了解、観測結果をそちらに送ります」

 

「CP、観測結果を受信、そのまま観測を継続されたし」

 

「フェアリー09了解」

 

危ない、もう少し気付くのが遅れたりしてたら命令無視となるところだった。

何も聞いてなかったけどおっさん話しかけて来てありがとう。

 

「お兄さん、我々は我々の役割を果たしましょう、私は大丈夫です」

 

酷いものだ、任務が終わり次第バタンキューする未来が見える。

おっさんの諦めたような溜息も今は聞こえる、聞こえすぎるほどに聞こえる。

感覚が鋭敏すぎる、また聴覚が狂ったか。

 

「真面目過ぎるガキも困ったもんだ...」

 

延々と続く砲撃とおっさんの声をBGMに観測任務は、長い間続いた。




開幕―転生ものを読み漁っていた弊害、自分ってオリ主なんじゃ...。
   まあ気にしても仕方がないので忘れよ。まあオリ主なんですがね。

医大入学―ティアナ班の方が銃殺刑が早くやらかしたので先に転入、ターニャがやらかしたのを
     知っているのは。まあ、神の声聞いたんだよ(震え声
     まあ、時々戦争後の声が入ってるということでここは一つ、あとで書き換えるかもし
     れません(土下座

ティアナによるターニャ分析―実際ターニャがどう思っているかはわかりませんがティアナはそう
              分析した。

優秀なるマッド先輩―ターニャにもマッドが付いてるんだからティアナにも付けないと(謎理論

おっぱい―まあ、要らないよね。

憐みの肩ポン―下手すれば殴られるから気を付けよう。

カフェイン中毒を黙認―よし、これで今世は身長抜けるな!

成長ホルモン―深い眠りにより出ると言われている、つまりは、わかるな?

おっさん―良い人



クオリティの低下を感じる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話 北方の空

アメコです。
ニーズに噛み合ったのか多くの皆様が見てくださっているそうで。
感謝を。

では、YESというバンドのRoundaboutを聞きながら書いた3話です、どうぞ。


ノルデンの空からこんにちは、ティアナ・リースフェルトです。

 

開戦から帝国は好調に戦線を上げてきましたが、しばらくすれば兵站の関係もあり戦線の押し上げが止まり、この寒空の中仲良く戦争中でございます。

 

開戦直後、私は不眠による体調不良で観測任務後にノックアウトした次第ですが、親愛なる先輩様が居たことが何よりの不幸。

即座に回復され後方に下がることも出来ず、日々前線で医療班として従軍することとなっております。ふぁっく。

 

打撲創傷筋肉痛神経痛骨折火傷炎症麻痺胃潰瘍内臓損傷内臓破裂失血四十肩に五十肩に痔。

戦場で治療できるものはもう大抵は治した気がしますし、戦場で治すものではないものも治した気がします。

 

まあ治したからと言って次の患者が居なくなることは無く、痛みに暴れる患者にスタンガンを打ち込み今日も治療の日々です。

 

こうして労働に勤しんでいると、先輩の教えてくれた不眠術式のありがたさがわかるというもの。

激務で寝る時間も碌にないが、寝る時間を削ればなんと自分の時間が少し作れるんです。

ブラック企業かな?軍か。

 

こちらの治療練度を見ることなくなぜか一人前だと免許皆伝を与えてくださった先輩殿は、魔力無しの手術が思う存分に出来ると嬉々として別の場所で治療に勤しんでいる。

マッドにとってはここはきっと天国なのでしょう。

 

 

 

 

で、だ。

時折私が再び飛行術式を起動しているのは何故でしょうか。

 

この手には少々大きいライフルを抱え、中隊の一員として隊についていく。

3日に一度の睡眠後に召集されたため体調は良好、飛んで戦闘する分に不眠術式が無くとも支障は無い。

 

「中隊長より各位、間もなく敵砲兵地点へ到着する、装備の確認を怠るな」

 

今回の任務は別部隊が観測主狩りを行っており、敵魔導師がそちらに戦力を割いて防御の薄くなった砲兵隊を攻撃するというもの。

選ばれた部隊は歳食ったおっさん集団もといベテランが集う一個中隊、通称オールド部隊。

だがしかし、その中に何故私が入っているのか。私はピチピチぞ。

 

「ようリースフェルト准尉、昨日はよく眠れたか」

 

「ビンデバルト少尉、お久しぶりです」

 

最初の観測任務以来、“数度出撃”しているがあれ以来僚機として付いてくるおっさん。

名をハンス・ビンデバルト、30前半経験豊富のお人よし少尉殿。よくポーカーで毟られているのを見かける。

 

戦場では普段のお人よしを見せず冷静にやるべき役割を全うする良き兵士だ。私以外には。

 

「ビンデバルト少尉、私は見ての通り子供ではありますがその前に一兵士、そう心配せずとも十全に役割は果たせます」

 

「馬鹿野郎、子供を心配するのは大人の義務だ」

 

「そうそう、子供は後ろで菓子でも食ってゆっくり寝てろってんだ」

 

「中隊長まで、中隊長もこのまえ一緒に組んで飛びましたよね、その時私活躍しましたよね!?」

 

いや、別に前線で戦える兵士として評価され前線で撃ちまくりたいということではないが、活躍したという事実に目を向けられず子ども扱いされるのはどうも納得がいかない。

私を話の肴に緊張の緩和を図っているのは理解している。

それぞれ話し込んでいるおっさん共も馬鹿にするような意図は無く、むしろ子供に対する心配の色が濃く見える。

 

拗ねた振りを装い話の流れに乗りながらも装備の確認、地理や砲兵部隊の情報を頭の中で精査していく。

 

「そう拗ねるな嬢ちゃん、別に誰も本気で言っちゃいねえよ」

 

「ええそうですねー、わかってますよー」

 

「中隊長より各位、お喋りの時間はそこまでだ。CP、こちらオールド01、そろそろ作戦地域に到達する」

 

―こちらCP、了解した、砲撃開始まで所定の位置にて待機せよ。

 

「オールド01了解」

 

待機場所の塹壕に入るとピリリとした空気が隊を支配する、先ほどまで呑気に話し込んでいた姿とは打って変わり、戦の匂いで軍人と言う人を殺す精密機械と成り果てる。

人をこうまで切り替える戦の空気というものに思わずにやりと口が歪む。

人が変わっていく姿というのは前世前々世で散々見てきたが、所詮は平和の国でのこと。

それと比べてみるとなんと劇的なことか、人らしさというものを冷たい理性の仮面で覆うも、その内側の顔は最も感情を露わに現しそれはもうドロドロの感情を渦巻かせる。

その様が何よりも愉快でいつも堪え切れずクスクスと笑みを浮かべてしまう。

 

「リースフェルト准尉、いつも戦闘前は嗤われますが戦争はお好きで?」

 

「いえいえ、私はこの空気が変わる瞬間が好きなのですよ、普段だらしないおじ様方が格好良くなるこの瞬間が」

 

「おやおや、諸君。我々は普段だらしないおじ様と思われてるらしいぞ?」

 

小さな笑いが起こる中、定時、砲撃の轟音が連続して轟く。

我らが友砲兵部隊は的確に敵要点に弾をぶち込みその役割を果たしている。

 

「ええ、ですから。これから格好良い姿をたっぷり見せてくださいね、おじ様方」

 

ウィンク一つ、この体は良い。リップサービスは効果を発揮しやすいし体の未成熟から手を出す輩もほぼいない。

微かに存在する性倒錯者共は周りが勝手に排除してくれる。前世でこの体だったら以前の二倍の業績を稼げた。

やはり美人は得であり可愛いは正義。

 

ターニャには無理だろうがな。

あいつがこれをやったら精神崩壊ものだ、あと私の腹筋も崩壊する。

 

隊員が私の頭を乱暴に撫でまわすのを内心痛いからやめて欲しいが大人しく撫でられる。

そうだ!可愛がれ!いざという時に私を逃がす心構えをさせてやる!あ、髪が指に絡まってる痛い痛い。

 

「では中隊、時間だ」

 

演算宝珠に魔力を回し飛行術式と防核術式を起動、銃を構え突撃姿勢で指示を待つ。

 

「この可愛らしいお嬢さんに、我々の無様な姿を見せるでないぞ?年甲斐もなく気張りたまえ」

 

「オールド中隊我に続け!」

 

叫び声を上げ僚機と共に戦場に飛び出し、目に見える敵と砲に砲撃術式を打ち込み被害の拡大化に努める。

とはいっても大方は砲撃隊が耕した後なので残り物も少なく、抵抗も少なくちょろい仕事と言える。

 

「中隊長より各位、敵魔導師を確認、規模は中隊との報告、対魔導師戦闘用意!」

 

こうまでやられた陣地ならばさっさと放棄すればいいのにと思うが、敵さんは何故かやる気に満ち満ちている。

 

「CPによると敵はネームド部隊、各位注意せよ」

 

ネームド部隊。

人口の少ない航空魔導師、いずれも精鋭であり、その精鋭を5人でも落としたのなら気を付けるべき敵エースとして登録され、名前の覚えられるネームドとなる。

そのエース達を贅沢に複数有した精鋭。通称ネームド部隊。

こちらもベテラン揃いとはいえ苦戦は避けえないやもしれぬ。

 

「ビンデバルト小隊、これより戦闘に入る。やれるな嬢ちゃん」

 

「それが私の役割なれば」

 

それと四人一組の小隊で一人を贔屓するのは良くないと思いますよ?

近くの小隊と合流し2個小隊でまず突貫してくる敵の勢いを削ぐ。

 

「砲撃術式用意、これで仕留めるなんて思うな、時間を少し稼げば味方が包囲し奴らは籠の鳥だ、まず勢いを削れ!」

 

真正面からぶつかり合うような軌道をせず迂回する軌道をしつつ弾丸を交換し合う。

被弾ルートの隊員の防御を行いながら撃ち合うが、思ったより勢いが削がれず依然相手の士気は高い。

 

「やっこさん元気がいいなクソが」

 

駆け付けた小隊も攻撃に加わるが敵魔導師は衰えぬ速度と連携によって寄せ付けず籠に収まろうとはしない。

 

他小隊が頭を押さえつけようとするが逆に被害多数で撃破されている。あぁ、チョコ分けてくれるおっちゃんが!

 

数度の打ち合いで負傷兵多数、削れたには削れたがこちらの損傷の方が多い。

流石は練度の高いネームド部隊、敵ながら見事なものである。

 

(いいねぇ、若さ溢れるその気概、おじさん関心しちゃうわ)

 

「これはまずいな、一時後退し体勢を立て直す」

 

「ではその間の時間稼ぎは私にお任せを、ちょいとかき回して参りましょう」

 

演算宝珠を用いて脳内麻薬を生成、興奮作用と反応上昇を行い即座に突貫を開始する。

 

「おい、待て嬢ちゃん!」

 

 

真っ直ぐ敵に突っ込む私に向かって即座に9つの弾丸を認識。

体の周りに防護壁を生成する防殻術式をカット、防殻に引っ掛かってしまえばその衝撃により速度が殺され強襲の効果が削がれてしまう。

危険?いや、当たらなければいいだけの話だろう?

認識さえしてしまえば隙間だらけの弾丸の壁を小さい体を生かして擦り抜け敵左翼の敵を魔力で強化した銃剣で首を斬りつける。

 

「一対多は私が得意とするところでして、なに、落ちはしませんよ」

 

下に落ちていく死体の死角を取り下方より再度すれ違いざまに銃剣突撃するが防核術式を抜き相手に突き刺さる前にライフルに受け止められる。

 

「お兄さん方、ちょっと遊んでくださいな」

 

「なっ、子供!?」

 

動揺する敵魔導師を至近距離から顎に蹴りを入れる。この固い軍靴のことだ、子供の力とはいえ脳震盪が起きてもおかしくは無いはず。

間髪入れず手に宿した切断術式で心臓と宝珠を貫きとどめをさす。

生暖かい鮮血を顔面に浴びる童子の姿はさぞかし狂気じみていたのだろう、死体諸共多数の弾丸がこちらを消し飛ばそうと襲い掛かる。

 

多数の弾丸とすれ違い貫通術式を起動、ちまちま高速で移動しながら一人また一人と風穴を開けていく。

 

前世では痴情のもつれで夜道後ろから包丁で刺し殺そうとする女と営業くらいにしか使えなかった認識力だったが、今世では良く機能する。

魔力の起こりから後ろで術式の起動を認識、敵兵を巻き込む乱数回避機動を行い誤射を誘発。

フレンドリーファイヤーを視認。

 

「おやおや、どうやら小さな子供の苛め方はあなた方協商連合の教導には入ってなかったみたいですねぇ」

 

「黙れこのクソ餓鬼!」

 

クスクス嗤ってやるとぶつかるような勢いで肉弾戦を挑んできた敵兵、しかし激昂した相手ほど御しやすいものは無い。

刺突とすれ違いざまにスタンガンを打ち込み麻痺した相手の肩を銃座にする。

 

「ばぁん!ばぁん!アハハハ!」

 

術式で興奮しすぎたせいか笑いが止まらない。

後頭部にキスをして銃座から離脱、男の後頭部にキスなんぞしても気持ちが悪いだけだが撃ち抜かれて壊れてしまった銃座君の最後の顔が面白かったので良しとする。

「愉悦でありますな~!」キャハハハと自分が出しているとは思えない甲高い子供の笑い声を響かせ下方に重力も使い速度を稼ぎ全速離脱。

 

私を追いかけてくる銃弾の雨を擦り抜け防殻術式を起動、並びに調整術式を用いて普段のコンディションに戻していく。

ちょいと興奮作用が効き過ぎたか?未だ興奮が収まらなくて口角が下を向いてくれない。

 

子供一人に散々やられた敵ネームド部隊は隊列も整えず鬼の形相で追撃してくるが、それを体勢を整え終えたオールド部隊が横っ腹から銃弾で殴りつける。

 

時間稼ぎにしては暴れすぎた感はあるが、あのままただ引いて体勢を整えるには被害がさらに増えていただろうことは想像に難くない。

その時部隊の取る選択肢としては少数が死兵となり命を懸けた時間稼ぎ。

結果私の突貫により体制を整えるための被害は無く、上々の結果と言えるのではないか?

 

 

 

「ティアナ無事か!おい血塗れじゃないか!」

 

「ビンデバルト少尉、これ返り血ですから私は大丈夫ですよ?それよりもこの調子では無事勝てそうですね、いやーひやひやしましたよー」

 

「リースフェルト准尉、帰ったらお説教な」

 

「えー、小官は役割を十全に果たしたと思うのですがー」

 

敵部隊を単独で掻き乱し時間を稼ぎちょいちょい撃破して無傷で切り抜け部隊の勝利に導く。

普通に勲章ものじゃない?ねーなんで説教!

 

「中隊長よりリースフェルト准尉、貴官の貢献に甚く感謝する。この勝利は貴官の貢献あっての物と言えよう。だが、あとでお説教だ」

 

解せぬ。

 

 

 

 

 

 

「ところで先輩、なんで私時折前線に駆り出されてたんですかね」

 

お説教から解放されへとへとになりながら医療班宿舎に戻ると、親愛なるマッド先輩は湯浴みの最中であった。

普段白衣に隠れてはいるがプロポーションは抜群。しかし性格、てめーがダメだ。解剖したがるその性質、てめーもダメだ。

 

私もお湯を失敬しつつ返り血を洗い流しつつどうせ知っているというか元凶であろう先輩へ聞いてみる。

 

「ずっと治療ばかりだと気が滅入ると他の医療スタッフに聞いてな、気分転換として突っ込んでおいたぞ」

 

「やっぱり元凶でしたか」

 

これから何かあれば先輩のせいってことにしていいような気がしてきた。

罰としてちょっと揉ませて?敏感だからダメ?あ、そう。そのセリフ俺の心のお(自主規制

 

「楽しかったろう?」

 

何を言っている、命を懸けた戦場でそんな楽しむだなんて、うん、まあ。

 

「まあ、少しは」

 

素直に肯定するには不謹慎にも程があるセリフをそっぽを向いて答え、道徳心の欠けた先輩は綺麗に微笑んだ。




治した怪我―参考webサイト、温泉の効能。

現地医療班―絶対魔力足りないと思ったため魔力を使用しない普通の医術も活躍するだろうという勝手な設定。

オールド部隊―だんでぃー部隊。それとなく媚び媚びしてめっちゃ可愛がられている。
       もちろん計算の元で。

可愛いは―正義。

(おじさん関心しちゃうわ)―てぃあな・りーすふぇると9ちゃい

戦闘描写―前書きで書いた通りRoundaboutを聞きながら戦闘描写に入っていたらティアナちゃん突貫してた。ちょっと待て作者はあんま戦闘描写やったことないんだから突っ込まないでティアナさん!?

前世で得たチート―もう書いたからわかっただろうけど作品でちゃんと書くべきだと書きながら気付いたのでいずれちゃんと作品内で書きます。
         チートチートはしていない、はず、だよな?

「愉悦でありますな~」―愉悦した。

お説教―一旦引くと言ったのにいきなり部隊の一人が突貫しました。そらお説教。

おっぱい―美乳。



お気づきだろうか、ここまでターニャとの絡みが碌にないということに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話 プロパガンダ

友人と接するターニャという私の想像物、ターニャの一面を表現できたらなという目的の一つがこれです。
原作のターニャから乖離しないように気を付けはしたものの、俺のターニャはこんなんじゃない!といった方は読み流すか、これがこの小説のターニャだと別認識を持ってお読みください。

では作者の今現在珍しい原作回です。


やあ平和の国にて平穏を享受する羨ましき皆様方、ターニャ・デグレチャフです。

私はついこの間、孤軍奮闘の末死にかけた証として授与者はほぼ二階級特進して、生きて授与されることは珍しい銀翼突撃章を授かりました。

 

無論仕事ぶりを評価されるのは良いのですが、待ち受ける先にはプロパガンダとして利用される哀れな軍人。

正直勘弁していただきたいものです。

 

この体が癒え次第授与式があり、私の活用(プロパガンダ)が始まるのですが、授与者一覧を見てみるとそこには私の悪友、ティアナの名前が載っておりました。

羨ましいことに前線で死のリスクが少ない医療班となることが出来たようで、ナイチンゲール記章のような何かでも授与されるかと見てみれば、授与されるのは突撃章。

 

あいつはなにをやっているのだろうか。

 

何故?どうして医療班として治療に勤しんでいるはずのあいつが、突撃章を貰っているのか。

北方では医療班ですら前線に駆り出されるほど人材不足なのか?戦争初期においてそれはありえないだろう、ではなぜ?

 

と、しばらく困惑したものだ。

 

授与式のため帝都に赴くと、久方ぶりに悪友ティアナと再会。

尋常ではない目の下の隈に驚くが、何でもないように話しかけてくる様子に戦争の無益さ悲惨さを改めて感じた。

 

「ようターニャ、思ったより元気そうだな」

 

「ああ、まあ大分回復したが。お前こそ大丈夫か?すごい隈だぞ」

 

「まだ一徹だから大丈夫だ」

 

戦争は人を変えるというが、これは無いだろう。

医療の現場は常に激務と聞くが曲がりなりにも数少ない友人がこうなってしまったというのはやるせない物を多少は感じ思わず天を睨みつける、存在Xに災いあれ!

 

「前線に出ないとはいえ、随分と激務のようだな」

 

「前線が無くならない限りはそりゃあ激務さ、更に言うのなら俺は優秀な医療員でね、引く手数多さ」

 

聞くところによると医療魔導師の医術は凄まじく、よっぽど酷い損傷で無ければ医療魔導師の手によって大抵は回復出来るという。

腹に風穴の空いた魔導師を3日で回復させたこともあるらしく、一時後方に下がったのち前線に復帰させたそうな。もっともそれは腕の良い医療魔導師に限った話で、私が撃墜された時はその腕の良い医療魔導師の手により修復されたようだ。

 

こうして後遺症もなく回復したことは感謝したいが、その十全なる医術故に再度前線に駆り出されそうなこの現状は素直に感謝しきれないものだ。

 

「そういえばターニャ、ノルデンで死にかけてたけどなにやったんだ?」

 

「聞いてないのか?銀翼突撃章まで授与されるくらいだから広まってると思ったのだがな」

 

「いや、聞いてる」

 

ではなぜと聞くと、私視点での話が聞きたいそうな。

こいつは誰かの話だけで満足せず複数の人から話を聞き多角的に情報を集める傾向がある。

曰く、たいして人を信じていないそうだ。信じるのは自分と自分が決めた少数だけだと。

 

私がその時のことを心情含め話してやると、案の定ゲラゲラ笑いやがったので一発殴っておく。

私がその少数に入っているからといって死にかけた体験を笑っても許されると思うなよ。

 

軽く謝ってくるティアナに今度はこちらが何故突撃章なんぞ授与されてやがるんだと詰問する。

 

「出撃中にネームド部隊と交戦して隊が劣勢だったから突っ込んで掻き回したら突撃章貰ってた」

 

「まずなんで出撃してるんだ」

 

馬鹿っぽい回答に思わず飽きれた目線になるが、やつはヘラヘラ薄笑いを浮かべながらなんてことない顔をしている。前世でもイラッとしたが見た目が整っていると猶更ムカつくなその表情。

 

少し冷めたコーヒーを口に運ぶと平和だったあのころを思い出す。

やつが馬鹿な話と有用な話をごちゃまぜにしたまま話し、コーヒー片手に相手をし、やつは火のついてない煙草を手に時折社や社員にとっての爆弾話を投下する。

 

ちらりと見てみると手は煙草でも持っているような指の形。

 

「ああ、お前と話すときはいつも持ってたからな」

 

「お前今吸ってないだろうな、流石にこの体には有害が過ぎるぞ」

 

「うんまあ、手に入れるには周りの眼が厳しくてな...」

 

つい言ってしまったがそこらへんは自分で自制出来るだろう、煙草の有害性はやつも自覚している。自覚しつつも喫煙をやめることは無かったが。

 

 

私達は授与式までの間、久しぶりに軍人の仮面を外し語り合った。

やつが敵となる数日前のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視点回帰:ティアナ

 

久しぶりの友人との語らいと愛おしき睡眠を終えると、授与式のお時間だ。

戦意向上のためとはいえこうして盛大な授与式というのは元一般サラリーマンは受けたことが無く、珍しい経験をさせてもらった。

 

それにしても授与式で付けられたターニャの二つ名が実に傑作だった。

 

『白銀のターニャ』

 

現代日本において一般的な感性を持つターニャにとって、これからサインを書くときいちいち『白銀のターニャ』なんて厨二チックな名前で書きこまざるを得ないのは非常に不快だろう。

だがしかし、私は面白い。他人事だから。

 

式が終わりターニャが一人になる頃を見計らって指をさしてゲラゲラ笑ってやったら割と本気で殴られた。腹ァッ!

 

 

 

 

「広報の宣伝任務でありますか」

 

授与式から間もなく、任務が課せられた。

白銀のターニャをメインにメディアのインタビューを受け、軍の印象を上げてこいと。

常々思っていたことだが、帝国は外交下手くそか。子供が軍人として活躍する、それも一人ならば珍しいのがいるといった印象だろう。

が、複数となると自身の子供たちまで戦争に行かせられるのかという要らぬ不安を掻き立てる可能性を発生させてしまう。

 

戦略や戦術に詳しくロジカルで効率主義な有能な参謀とターニャは評価した。彼が言うからには確かに有能で、このプロパガンダが確かに有効なのは認める。

が、おそらくそこには感情の理は含まれていない。

 

感情論は確かに非論理的で嫌いだ。だが感情を排して良いというわけではないのだ。

何故なら、感情を持つ愚かな者こそ人間なのだから。

 

「了解致しました、精一杯フォロー致します」

 

しかし私は一軍人上に具申する権限は無く大人しく了承する。

上層部の外交下手や国政環境に思いを馳せるよりも考えることがある、ターニャの精神保護である。

 

ターニャと私ティアナ、前世の男視点としても間違いなく美少女だ。自慢ではなく。

それが広報の仕事となれば美少女の面を前面に押し出すことは想像に難くない。

ターニャはおそらく口調仕草どちらにも指導が入り、服装もターニャの許容範囲から大きく外れたものを強制され多大なるストレスを負い、最悪精神がやられかねない。

 

慣れてない人間にとって営業は多大なるストレスであり、適正の無い者は冗談抜きで精神科に掛かったのを前世で見て来た。

曲がりなりにも友人がそうなるのを見過ごすという判断は無い。

 

 

そう、見過ごす判断は無いのだ!

決して可愛く装ったターニャが見たいわけではない!ホントダヨ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして、今日はよろしくお願いします」

 

目を見てお行儀よく握手を行うターニャに続き、この顔に見合った素敵な微笑みを貼り付け握手する。顔を少し傾けるのがポイントだ。

 

口調や演技の指導や服の選別は私がすべて私の手を入れ帝国主体の元、私プロデュースのターニャ・デグレチャフのお披露目インタビューが始まった。

この絵になる握手も私がお手本となり指導に当たった。

あの時のブルータスお前もかという裏切られた表情、そして敵を見るように切り替わった表情は私の愉悦心をくすぐったが、私がテコ入れしなかったらもっとひらひらしてたんだぞお前。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。ターニャ・デグレチャフ少尉です。ターニャと呼んでください」

 

「よろしくお願いします。ティアナ・リースフェルトです。私の方はティアとお呼びください」

 

あだ名呼びは人の距離感をぐっと近づける心理効果を持つことが多い、重要なのはさりげなさか初見でそれを行うかどうか。が、今回は初見で行って問題ない。何より可愛い私達がそれを行うのだ、子供嫌いでなければ有効に決まっている。

 

「ああ、これはどうもご丁寧に」

 

「私達は、こっちがローマリー。私はリリーよ。よろしくね」

 

インタビューを行うのは男女二人組、ある程度素の笑顔で握手を返す男性は営業員としては及第点、感情なぞ切り捨てて仕事したまえ、素の感情を仕事中に出すのならば他の営業で嫌な相手に当たった時どこかしら歪みが出るぞ。

 

「ミスター・ローマリー、ミス・リリーですね」

 

その分ターニャはよくやっている、不慣れな営業で自身の感情を押し殺し役割に殉じようとしている。精神面に問題が無ければ営業課に欲しかった人材だった。

 

「しかし、驚いた。帝国軍から、確かに伺ってはいましたが・・・」

 

「こんなに、小さいおこちゃまだとは、思っていなかったと?」

 

-1ポイントだターニャ、とはいえ元々失点なく耐えられることなど無いと予想はしていたが。

やつの歪みまくった精神は見下されることに対して過剰に反応する、子供であるというのは自分にとっては利点だが、やつには欠点でしかない。

 

「ああ、いや、これは失礼」

 

「ごめんなさいね?ローマリーは、レディに対する礼儀を知らないの」

 

男が失点を犯し女性がフォローする、これはそういうやり口か?

刑事などが良く行うコンビネーションだ。

相手は情報屋、好感度稼ぎは女性が徹底し行い稼いだ好感度で口が軽くさせる。スキャンダルは当然情報価値が大きければ大きいほど良い、ただの子供であればこの方法は有効に作用しうる。まあ私達はただの子供達ではないので無意味なのだが。

 

「大丈夫、気にしてませんよ」

 

そういってターニャはコロコロと笑う。

偉いぞターニャ!さっきの失点は無かったことにしてやる!しかしこいつのこんな表情を見られるとは思わなかった。

 

「でも、本当に驚いたのは事実だよ?」

 

「まあ、そうね」

 

「そうですか?」

 

首をかしげ、口元に指を伸ばし考える素振り。思考の元行われるぶりっこは見ていて痛々しいものがあるがこれは見ていて可愛らしい、なぜかって?可愛いからだ。しかしなぜそこで自ら死ににいくんだ。

魔力を認識。

案の定自分で精神にラリアットを入れてしまったようだ。

 

「ターニャは人一倍頑張り屋さんですから、それを見て私も頑張ろうって思わせてくれるんですけど」

 

傍目から慈愛の眼差しでターニャを見るように装う。

ターニャが精神的ダメージを負った時、私が会話を繋ぎ時間稼ぎを行いターニャの精神の均衡を保つ時間を与えるのが自分の役割だ。

本当はもっと出しゃばり負担を減らしたいところだが、インタビューのメインはターニャであり、主にターニャに喋らせるよう指示が出てしまっているためあまり自分は喋れないことになっている。

 

「あなた達お人形みたいに可愛いもの。こんな可愛い子達が、と言われてもちょっと想像できないのよ」

 

まあ確かに言わんとすることはわかる。

たーにゃ・でぐれちゃふ9歳!ぐんじんです!なんて言われても真っ当な精神ならばごっこ遊びとしか思えないのは確かだ。

だが現実は非情なり、リアルでは、ターニャ・デグレチャフ少尉、軍人だ。我が職務は無能を排する防疫官である。である。

 

「本当ですかー?」「本当よ」

 

うふふあははとターニャと女性記者が笑いあっているが、ターニャの眼がよく観察しないとわからないが虚ろだ。

軍務と関係ない談話に入るようなので私が出しゃばる、メインの話題から離れた話なので監視員からの目線での注意は飛んでこない。

 

 

ジョークだが、とターニャが語った男性が知っている女性の10の秘密は、12345678910、だけだという話。

だが実際には女性の秘密とは10では到底足りないことを自分は知っているし、なおかつ秘密というものが大抵えぐいと話すとやつは微妙な、そして嫌そうな顔をした。

 

そんな女性経験豊富な自分がどうやって10以上の秘密があることを知り、なおかつ実際男性の身で知れたかというと、私の持つ能力がそれに関係する。

前世で生と同時に得た能力、厨二病を完治させなかった以前の自分は『全認識』と名付けていた。

 

 

『全認識』は一定の範囲内すべてを認識するというもの、後ろに人が居ればわかるし、反応さえ間に合うのならば飛んでくる弾丸さえ認識する。

欠点は許容量の問題で認識するものが多すぎるとあっという間に頭痛を引き起こし、長時間使用もアウトということ。そして視界でないというところがミソだ。

 

視界だったならポーカーなどで馬鹿勝ち出来たのだが、カードの柄は認識できないし後ろに人が立った時もシルエットで判断できなければ誰かも解らない。

しかしながら私はポーカーが強い。

私が認識するのは表情、正しくは微表情というもの。

どんなに感情を隠しても感情の起こりというものは消せず、それは一瞬顔に浮かんでくる。

その微表情がどういうパターンか記憶し、全認識によって識別し読み解き、相手の感情を判断する。

 

営業に有用であったし、これによって女性の秘密を暴きだし、相手の会社のスキャンダルをよく掴んだものだ。

 

 

この経験があり相手を喜ばせるのは慣れたもの、相手の服装のこだわりを見抜き聞き出し褒める。

最初の一手が決まりプラスの感情に少しでも傾けばもうこちらのもの、私のもう一つの任務の始まりだ。

 

ファッションやブランドの話からどんどん話を派生させ、国の内政や市民感情、記者の視点や一市民からの視点の聞き出し。

所謂世論調査といったものだ。

 

記者というものは情報通でなければならず、自分の視点を持っているがそれとは別にちゃんと俯瞰した視点も持ち合わせている。日本の記者にはなかなか無い者だ。

どちらの視点も参考になり有用な情報だ。

 

久方ぶりの営業だが腕は衰えていないようだと話し込んでいると、監視員から咳払い。情報収集はここら辺で終いで良いようだ。

 

「すみません、話し込んでしまって。お二人とお話しするのが楽しくて」

 

「あらあら、私たちもつい話し込んでしまったわ」「ちょっと話過ぎたかな、聞き上手なんだね」

 

監視員からの視線に内心罰が悪そうな顔をして、インタビューを主軸に戻す。

ターニャはどうやら精神を持ち直したそうで、大丈夫そうだ。

 

「では改めて、本題に入るけど良いかな?ターニャちゃん」

 

「はい、大丈夫です」

 

別にターニャは碌に喋っていなかったが、あちらさんはこちらへの距離感を詰めてきたようで、ターニャがちゃん付けされていた。笑う。

 

冷めた紅茶で口を潤わせ、ターニャのインタビューを清聴する。

軍に入った経緯は無論出世欲のためだが、ターニャは故人を上手く活用し切り抜けた。子供が軍に入るというマイナス面を匂わせず、好戦的な雰囲気を出すこともなく良い回答を行いターニャは軍に入る経緯を語り終えた。

 

「ありがとう、では次にティアの話も聞かせてもらっていいかな?」

 

「はい、もちろん」

 

 

さて、自分は知っての通りターニャと同じ孤児院で育ったが、自分が捨てられた時にあったものはティアナ・リースフェルトという名前の書かれた紙切れ一枚。

ターニャのように軍人だった親の故人がいるわけでもなく、私の出生に利用できる要素はこれといってない。

だが今の自分は医療魔導士、それに孤児院育ちという要素を絡めれば人の心を揺さぶるストーリーを組み上げることはそう難しいものではない。

 

 

「私、ターニャは同じ孤児院で育ちました」

 

「そこではシスターのお手伝いや子供の世話などを任され慎ましく暮らしていました。あ、ターニャもよくお手伝いしてくれましたよ」

 

微笑まし気にターニャを見やるが、はい、嘘を言いました。こいつなんもしませんでした。

むしろ俺の世話を受けるガキやってました。正直面倒だった。

 

「シスターに勉強を教えてもらいいろんな事を知るうちに世の中には魔法が、それも人々を癒す魔法があることを知って、病気や怪我を治すお医者さんになってみたいとシスターに言ったことを覚えてます」

 

覚えていません、言ってないもの。

 

「ある日の健康診断で、私に魔導適正を認められた時、私と同じく魔導適正があったターニャやシスターと相談して、次の日にはターニャと一緒に帝都に向かいました」

 

実際には相談などせず、なおかつターニャに置いて行かれそうになった。

 

「今思うと性急だったと思いますけど、あの時の私は早く帝都に行ってお医者さんになるための勉強がしたかったんです」

 

「軍学校に入るのには勇気がいりましたが、これも人々を癒すためと頑張り、教官殿からの推薦もあり短い間ですが帝都にある医療大学に短期入学ができ、素晴らしい先輩方にいろいろと教えていただき、無事私は医療魔導士となることができました」

 

素晴らしい先輩方が本当にいたのならば、自分は魔女の魔の手から救い出され、短期入学という区切りをどうこうして今頃医大にて勉学に励んでいたのだろう。

まあその短期学習にもかかわらず自分を一端の医療魔導士に仕上げた魔女の手腕は、ある意味素晴らしい指導とも言えるか。

到底感謝は出来ないが。

 

「勉強の末あって目標だった医療魔導士となり、実際に怪我をした人々を癒した時、改めて私の道はこれなんだと実感が沸きました。きっと今このお仕事に誇りと充実感をもっているのは、人を救う尊さとその術を教えてくださったシスターと医大の先輩方のおかげなんだと思います」

 

満ち足りているかのような明るい笑みを浮かべる。おい、感心してないでさっさとシャッターを切って撮れ。

何のために前日睡眠時間を与えられ取り切れなかった隈をメイクで誤魔化していると思っている。

各方々のイメージアップや前線の健闘具合など、その後も口を回し続け情報部によるあかるいぷろぱがんださくせんを遂行する。

医療魔導士にふさわしくない突撃章に触れないのは恐らく情報部の手回しによるものだろう。

今回自分に求められている役割は軍人としての勇猛果敢さアピールではないし、その役割は今回ターニャの領分だ。

 

健気な子供を慈しむような眼差しで、なおも自分を主体としたインタビューを続けようとするが、自分は今回のインタビューの主役ではないためターニャへ話題を振り、ターニャにその後の場を譲る。

 

とはいえ語るべきことは語った。

あとは事務的な台本を読み上げるだけであり、ターニャは長ったらしくつまらない帝国公式の防衛見解と同様のことを、子供らしくたどたどしい演技で垂れ流す。

たとえ子供の大根芝居を演じる大根芝居であろうと、それを行うターニャの姿は可愛らしいものだが、内容に目を向けると眠くなるのは避けがたい。

それはインタビュアの二人も同様であるが、眠気よりもこんな子供になんてものを読ませているのだという憤りが見て取れる。

 

「これもお仕事ですから」

 

ここまで身と心を削り任務をこなすターニャが、機嫌を損ね出来損ないの記事でも書かれでもすればなんと嘆き憤るだろうか。

お仕事を懸命にこなしているのだとアピールしなだめ、これを頑張って覚えたターニャちゃんを褒めてあげるように行動を誘導していく。

 

記者に褒められ表面上は奥ゆかし気に喜ぶターニャ、だがその瞳に光は無く、視線は虚空を彷徨い、体の反射は苛立ちの感情を示している。

 

きっとこやつは今こう思っていることだろう、存在Xに災いあれ!と。

まあ情報部が悪いんだが。

 

「ターニャかーわいー」

 

インタビューを終え個室に戻り、ニヤニヤとターニャを煽ってやると、指導期間と先ほど溜めたストレスを発散するように本気で一発殴られた。

 

腹ァッ!




章―突貫で書いたので調べもの不足でただ突撃章としか書いていない。ここは是非ミリオタ読者様のご協力を願い出たいところであります(土下座

悪友ティアナ―ターニャ「あいつは間違いなく悪性だ」しかし友は否定しない。

ゲラゲラ―実際にはケラケラと濁点が消えて可愛い、はず。

とりあえず殴っておく―男性同士固有のスキンシップ、腹パン。

煙草―元喫煙者、煙草吸わない人の前では火をつけない良識的な喫煙者。成長したら吸わせる、なぜって?作者の趣味だよ。

ターニャの衣装―原作よりフリルが控えめになり少女趣味からもうすこし大人しい服となった。が、ふりふりは断固といって阻止出来なかった。すまない、ターニャ...(笑)

ティアナのインタビュー―営業1位は伊達じゃない!記者の採点を行うほど余裕があった。

全認識―前々世であった神様からのチート、捻くれ物の彼は誰も彼もが使うチートを嫌がる捻くれ物だった。
    駅の込み合うホームは認識するものが許容範囲を超えるため切っていたため、木偶君に気付けなかった。

微表情―ノーゲームノーライフより、観察力と記憶力さえあれば素で出来るんじゃないかな、全認識は見逃さないように補っている形。素で出来る空さんぱねぇっす。

腹ァッ!―幸子ぉ!腹パンさせろ!


こちら原作であったインタビューでございまして、元のターニャ視点は取り除きティアナ視点のみ書かせていただいてます。
その時のターニャ視点が見たいという方は是非原作をお買い求めいただきたく思う所存であります。
原作を見ながら書いたのでその時の原作ターニャを見ながらでも改めて楽しめるように書いたので、是非にお買い求めを(ダイレクトマーケティング

追記・書き直しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話 ライン戦線

皆様GWをいかがお過ごしでしょうか。

私は仕事です。


随分と長くなった前線での医療研修が不意に終わり、私はめでたく後方の医大に戻ることとなりました。

お久しぶりです、ティアナ・リースフェルト、医大の運動場より失礼します。

 

自分で言うのもなんですが、優秀な医療魔導師が前線から離れられるのかと不思議ではありましたが、謎はこの言葉で解決です。『魔女先輩が元凶』。

 

人間非常に辛い経験をすると、その経験を上限値として、それよりはマシな状況は耐えられるように作られています。

前線での激務を経験した私は、以前の詰め込みに対して耐性を得たために、まあ大丈夫かと思っていたのですが、一緒に帰って来れた先輩殿は私の限界を見抜くことが得意なお方。後方に下がったのに関わらずさらなる課題の追加で机上で死にかけました。

 

 

さて、後方のデスマーチにて医大の勉学を終えた私は当初の予定通り軍学校に戻り、晴れて嫌々渋々軍人として従軍と思いきや、先輩の実験に付き合わされることになり軍学校への復学が遅れることになりました。

その実験とは、拳にて敵の粉砕を可能とする強化術式の開発。

 

銃と魔法の世界、強化術式くらいあるだろうと思っていたのですが、意外にもその術式は未開発でありました。

一応開発はされていたのですが、筋肉が爆発したり肉体バランスが崩壊し二階級特進したりとうまくいかなかったところ、それよりも汎用性が高く手軽に扱える切断術式が開発され、肉体強化系統の開発は中止され廃れていきました。

先輩殿が強化術式の開発を行い、被験者として私が選ばれた時には勿論反射的にお断りの返事をしましたが、詳しく話を聞いてみると爆発の危険性は無く、二階級特進の可能性も低いため、渋々引き受けた次第。

 

術式構成としては。

防殻術式を応用した外皮を構成。射出術式を調整し速度の生成。二階級特進の成果、肉体術式での体の補強。

この三つを同時起動し厚さ20mmの鉄板を拳で無傷で抜いた時、実験の成功とする。とのこと。

 

被験者として望ましい者は、体の強弱に左右されず術式で粉砕できるとアピールするために素の力が弱い者、魔導適正が一定よりあり繊細な調整と術式の複数起動ができる者。肉体術式はまだ不安定な術式のため自分で体内を制御できる者。

これ先輩でも出来ますよね?当てはまってますよね?という私の言葉は黙殺され、「だって私痛いの好きじゃないし」とはコメント。いや自分でやれよ。

 

「強化術式実験、一回目を開始します」

 

グラウンドにあるもの。

幼女、鉄板、離れた場所にいる先輩と観測用機材とモニタリング用に拉致られた哀れな学生。いや哀れとは言ったものの誰が一番哀れかというと、無論自分に決まってる。

 

術式を起動、肉体は筋力を軽く強化し外皮を形成。

術式自体は既に先輩が開発し終わっており、この実験は主にどの術式に魔力を注ぐかのバランス調整が主となる。

その後調整された3つの術式を不眠術式のように一纏めの式にして一つに術式にすればこの実験は正式に完了される。

 

「逝きます」

 

誤字に非ず。

射出術式を起動、主に術式の試験なので体にあまり力は要れず自動的に進んでいく腕に合わせて体のバランスを取り、術式制御に意識を割り振る。

 

拳が鉄板に接触すると轟音と衝撃が辺りを揺らし、拳は鉄板をへこました。

鉄板は抜けなかったがそれよりも自身の肉体を確認。

 

視認した限りまず腕が折れている。

防殻による拳の保護は問題無く怪我は見られない、筋肉の状態は腕が麻痺しているため確認できないため観察術式による確認に移る。

確認した限りまず腕が折れている。

防核で保護していた拳に損傷は無いが、筋肉は所々引きつりを確認、殴った衝撃は防核に覆われた拳は守ったが、軽減しきれなかった衝撃が腕を傷つけたといったところか。

さらには肩が外れかかっている。これは射出速度を調整すれば問題無いか、しかしそれでは鉄板を抜くには威力が足りなくなる。

というかそもそも敵を殺すのに20mmの鉄板を抜く威力は必要ないのでは?この衝撃力で十分だろう。

 

「せんぱーい、腕折れました、痛いです」

 

「確認してるよ、じゃあ術式調整したからもう一発いってみようか」

 

「いやだから腕折れてますって」

 

「もう一本は折れてないだろう」

 

一本は折れて痛いんですってばー、という言葉は無視され改良された術式を受信する。

モニター係がひょろい体を酷使して鉄板を変える間に、ぶつくさ文句を言いながら術式によって麻酔生成され麻痺した腕を無事な左手で慎重に真っ直ぐに戻してから治療術式を展開させる。

 

小さな破片となった骨の欠片で折れた骨を継ぎ接ぎし、一応繋がったところで鉄板の入れ替えが終わり実験は再開される。

 

「はぁ...、第二回目開始しまーす」

 

今度は腕まで外皮が覆われる、肉体の補強は骨の補強がメイン。

しかし不思議と嫌な予感がするのは何故だろうか。

なんだろう、風、確実に吹いて、いや私が勢いよく射出されているだけか!ハハッ!

 

轟音と衝撃。

 

「ティアナごめーん、勢い良すぎたー」

 

朦朧とする意識、全認識によれば鉄板を貫通した腕によりかかって頭から血を流している幼女という構図。

頭部より出血、打撲多数あり、左指、全滅。

慌てて駆け寄ってくるモニター係の男を認識しつつ、鎮痛術式を起動。

 

「痛ってぇ」

 

痛みのあまり十数年ぶりに涙が出てきそうだ。

治療術式を展開、まず頭部を治療する。反射的に防殻術式を起動できたおかげで被害は切り傷だけで済んだことが不幸中の幸いだ。

 

「随分な有様だなティアナ、おいおいそう泣くな、どれ私が治療してやろう」

 

泣いてないわい、と言いたいところだが己の意思とは関係なくポロポロと目からは涙が。

この体は痛みへの耐性が低いと言いたいところだが、そういえばまともな怪我なぞ全認識があってからは縁が無く、数十年ぶりの痛みで心の方が耐えられなかったようだ。

やってしまったという顔をした先輩はこちらを抱きしめながら治療術式を展開、指がビキビキと音を上げる。

 

―ウヒョー、おっぱ

 

涙を堪えるように顔を胸に押し付ける。

初めてまともに治療術式を受けたが、全身がじんわりと暖かくなり意外と心地が良い。温泉に浸かってる気分だ。

心理的にもこれはなんとも絆される、医療魔導師は基本的に良い印象を受けやすいと言われていたがこういうことか、マッサージと称してこれを使うのもいいかもな、営業に使えそうだ。

 

「ティアナ、治療終わったぞ、左手は二日ほど安静だな。...ティアナ?」

 

思えばこうして人に抱かれたのはいつ以来だろうか。

前々世では人嫌いを自称しいつしか本当に一人孤独な人生を過ごし、前世では精神年齢を理由に人に甘えることが出来ず、なおかつ有能に生きようと圧倒的速さでの親離れしたため母のぬくもりなぞ記憶の片隅にも無い。

先輩殿は性質は最悪なれども“母性”だけはある、しかしポンポンと自分の頭を撫でる姿から意外と良い母親になるのかもとつい思うほど。

しかし彼女はマッド、なんて世の中だ。

 

「寝たか、今日の実験は終わりだな」

 

この実験が終了したとき、おそらく私はまた前線へ赴くのだろう。

先輩殿がまたこの実験のような引き留め工作を行うという希望的観測もあるが、これ以上の引き留めは厳しいということは先輩も理解している。先輩殿は無駄が嫌いであり、それ故に無駄を行うことが出来ない人なのだ。

 

狸寝入りのつもりだったが、本当に眠くなってきた。

連日徹夜の勉学に今回の実験で疲労は溜まっており、今までの経験から寝れる時にはどんな体勢でも寝れるようになり、この体が揺られる一定のリズムは耐え難い眠気を誘発される。

 

「先輩…ありがと…」

 

しかしこの脳味噌はやれるときに好感度を稼ごうと半自動的に動く。これは前世で染みついた性質であり習性ともいえる。

決して素面で言えないことを状況に乗じて言ったわけではない。そうではない。

 

(すごいニヤニヤしてる、気持ち悪いほどにニヤニヤしている、正直気味が悪いぞ先輩殿)

 

(実は起きてること知ってるんだがなにこの可愛い生き物、前線に送られる前にもう拉致っちゃおうかな)

 

(ん?あれは魔女とその弟子?魔女があんなご機嫌だなんていよいよ弟子の解剖か?ティアナちゃん可愛かったんだけどなぁ、お別れかー)

 

周囲に誤解を振りまきながら拉致られるティアナの明日はどっちだ!

 

 

 

 

 

 

後日、無事実験は終了し、私は軍学校へ復学。

即日卒業と相成りまして、晴れて西方戦線へと飛ばされた次第にあります。

 

「ティアナ少尉?」

 

「ターニャ少尉ではないですか、若いの引き連れてお散歩ですか?」

 

帝国西方の地、フランソワ共和国から宣戦を布告され西方の前線を押したり引いたり引いたりの過酷な戦場に、医療魔導師として従軍。

ライン戦線と名のつく程度に戦線が硬直していた時期。

いつも通り黄色く見える太陽を拝みに行くと、我が友ターニャ・デグレチャフは、部下らしきを引き連れ出撃準備を整えているところであった。

 

「ええ、今日はまた、一段と酷いお顔で」

 

「なに、たったの4徹、ライン診療所の地獄はまだまだこんなものではありませんってー」

 

はーっはっはーと空元気で笑う幼女と、うわぁとドン引きする幼女とその部下がそこにいた。

というか、私達だった。

 

ライン戦線はまさしくこの世の煉獄ともいえる場所、どうやら彼ら新兵達ははここに来たばかりのご様子。

新兵が何日生き残れるかの賭け事が平然と行われ、次の日には賭けた張本人が二階級特進するようなそんな狂った戦場。

果たして彼らは何日持つのやら。

 

「デグレチャフ小隊長、彼女は?」

 

「おや失礼、ティアナ・リースフェルト少尉だ。良ければあなたの名前を聞かせて貰ってもよろしいかいレディ?」

 

以前はもう少し年相応の可愛らしい仮面(表情)を被っていたが、どうにもここにはそぐわないため、仮面の付け替えをした。

キャラクター設定は人生にお疲れの気障なロリババアのためこのように気障ったらしい口調となっている。

 

「は、はい!ヴィクトリーヤ・イヴァーノヴナ・セレブリャコーフ伍長です!」

 

「クルスト・フォン・バルホフ伍長です!」「ハラルド・フォン・ヴィスト伍長です!」

 

「あいよ、よろしくね」

 

野郎二人に名乗れと言った記憶は無いんだがな。可愛い子以外どうでもええわ。

という本音は顔に出さずにおく、いつの日か贔屓は良くないと言ったのは私自身なのだ、有言実行の時来たれり、だな。

 

「ティアナ少尉、私たちはこれからそこいらを散歩でもして親睦を深めようと思っていたのですが、よろしければ貴官もいかがでしょう」

 

新兵達に見えない角度でターニャが悪い顔をしているため、まあ言葉通りにただお散歩を楽しむという事ではないのは言うまでもない。

装備を整え、後ろに新兵を付けて、ライン戦線に居る。

となれば散歩とはつまりライン戦線を駆けずり回ることを言っている。

 

「ふむ、ちょうど眠気覚ましが欲しかったところでして、よろしければご一緒させていただきたい」

 

あの血と死の匂いが満ちた診療所に居ると本当に気が滅入ってしまって仕方がないのだ。ここは一つドカンと砲撃音でも聞いて気分転換としよう。

 

よろしい、では準備をしてきたまえ。と言われたので診療所に戻り、置いてあった装備一覧を手早く装着していく。

装備を整えながら同僚に「ちょっと戦争行ってくるよ」と言うと、苦笑いと共に他の人員に伝達していく。

患者が列をなしている中随分とわがままな要求だが、この診療所の中で最も優秀で最も働いているのは自他共に認める私。

睡眠時間を削っての医療活動は他の人員の睡眠時間を生み出し、各医療員のレベルを割り出し適当な患者を割り振り効率化も行う。

共和国と戦争開戦から診療所に居る最古参の私は、その仕事ぶりから割と優遇されているのだ。

 

「6番トリアージ悪化、18番と19番が仮病だから叩き出しといて、あと他は任せて問題無いだろうから。居ない間は頼むね」

 

「はい、いってらっしゃい婦長」

 

「私はただの医療魔導師ですよせんせ」

 

ライフルを担ぎ軽く手を振り診療所から出る。

いつの間にか広まっていた通り名だったが、面白がって呼んでいるうちに定着してしまったものだ。

本当の婦長まで時折呼んでくるものだから新人が長い間勘違いしていることが珍しくないが、個人的にも社会人としてもやめていただきたい。

 

 

「揃ったな、ではゆこうか諸君」

 

砲撃と銃弾と爆撃の定期便。

ライン戦線の火の洗礼。

 

塹壕の中で砲撃から身を隠し、浸透してくる敵を弾丸で押し返し、砲撃によって人員の薄くなった地点に援護として塹壕の中走り回る。

衝撃を受けている新兵をせっつき次の地点に蹴り転がしていく、その場に留まっても対して良いことが起こることはそうは無い。

 

こんな新兵を任せられてターニャは大変だと他人事のように野郎二人を引きずり回すが、戦争の狂気に酔った彼らは銃をぶっ放すことに夢中でちょくちょくこちらの命令を聞かない。

セレブなんとかという子はあんなにも素直だと言うのに、いつの間にかこちらには野郎二人、あちらはターニャとツーマンセル。面倒なの回しやがってターニャの野郎。

 

「おい、次の地点に移動だ坊やたち」

 

「ハッハ、死ね、死ね!」「お、おい、クルスト伍長」

 

またである。

見たところクルスト伍長は闘争精神が不要なほど高く、人の話をあまり聞かない。

そしてハラルド伍長はクルスト伍長よりはマシだが、主体性が乏しく、着いていく人を見極める目も碌にないようだ。

おそらく二人は二階級特進コース間違いなし、同僚との賭けに使える有用な情報を得れた。思う事はただそれだけだった。

 

今度は蹴り倒し踏みつけ最終通告。

これで歯向かって来たのなら即座にここで射殺するのだが、私の隈に彩られた形相と殺意が漏れたのか、怯えて大人しくついてきた。なんだ、つまらん。

良き上官であるのなら、ここで教育を施すのだろうが、私は気分転換でここに来ただけでそんな義務は無いし、やるとしてもそれはターニャの役割だ。

大人しくなった二人を小突き回していると、あっという間に定期便の時間は終わった。

 

 

ゲーゲー吐いている新人共を捨て置きターニャの所へ行くと、こちらの方も無事セレブな新兵が生き残って吐いていた。

ターニャがわざわざ労力を割いてまで無能を守るとはまったく考えられないため、彼女はそれなりに使える人材なのだろう。

 

セレブちゃんは余裕が無さそうだったので一言二言一方的に喋り、ターニャに別れを告げる。

毎回私の仕事場に行列を作る定期便後の第二の定期便、中身は大量の怪我人で行き先は診療所。

今までの経験上呼び戻されることは確定だが、自ら赴いた方が仕事場での私の評価は良くなるだろう。

 

 

硝煙の匂いを漂わせながら血と死の匂いに満ちた診療所にただいまを言うと、大量の呻き声で迎えられたが。

果たしてそれは怪我人か医療員か、定かではなかった。




いつものを書きたいけど書く余裕が無いので後日追加です。
書く時間があまりなく、難産で何回も書き直したのでおかしなところが割とあるだろうと思います。

けど頑張って書いたよ、栄養(感想)をください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話 通常業務

注意!
た ば こ は 20 歳 か ら !!
お酒もね。


セレブリャコーフ視点

 

「8番動脈切れてるぞ!先そっち繋げろ!」

 

兵士と怪我とは切っても切れぬ関係。

小隊長殿にいつものように戦場で扱かれていると、敵魔導師と接敵。交戦し撃退できたものの敵貫通術式が掠めたのがつい先ほどのこと。

小隊長殿が大事を取って一緒に下がってきてくれたのですが、顔には一切出さずとも部下を大事にするそのお姿を見て、やはり小隊長殿は素晴らしいお方なのだなと思いました。

 

「14番状態悪化、レーリャに変われ!イワンはレーリャの患者のフォロー!急げ!」

 

小隊長殿に見送られ診療所に入ると、リースフェルト少尉の怒声が鳴り響く医者にとっての戦場がそこにはありました。

自身も患者の治療に当たりつつも、どうやってか他の患者を診ることもなく状態を把握し、他の医者に指示を回す。

鬼気迫るとはまさしくこのような様なのでしょう。

 

「っち、レアン!あと20秒でそっちへ行く、それ以上状態を悪化させるなよ!」

 

「きついっす!」

 

「持たせろ!」

 

小さい手を素早く動かし、魔力を用いない針と糸での縫合でその患者の治療を15秒で終わらすと、その患者の横にメモを書き殴り、飛びつくように状態が悪化したという患者の治療を開始。

医療術式を起動させ素早く手を動かしながらも、ミスをした原因、フォローの仕方、適切な対処を医者に教え込んでいます。

そのレアンという方も真剣な顔をして話を聞き、リースフェルト少尉の手元を観察。そこに子供と侮る姿などどこにもなく、医者の姿だけがそこにはありました。

 

「少し休憩に入る、次はミスるなよレアン」

 

「はい、ありがとうございました婦長」

 

婦長じゃないって言ってもほんと君らは聞かんな。とブツクサ言いながら、リースフェルト少尉は私のように軽傷と判断された人のエリアで治療行為を始めました。

 

「え?休憩?え?」

 

「そうだ、命が掛かっていないこんな怪我人の手当はまあ、休憩みたいなものだよ。久しぶりだなセレブリャコーフ伍長」

 

薬を塗ったり薬を処方して手早く診療所から軽傷者を送り出していると、思わず漏れた呟きを拾ってこちらへ来るリースフェルト少尉。

確かにこのような傷、すぐさま命に関わることは無いですが、その理屈はおかしいと言わざるを得ませんよ。

 

「はい、お久しぶりですリースフェルト少尉。あの、休憩はしっかり取った方がよろしいかと」

 

「人手が足りてりゃそうするさ、けど人手が足りてないのはここじゃどこもそうだろう?」

 

西方ライン戦線はどうにか戦線を維持、しかしそれは大量の物資と人命を賭しての維持。

人手不足となるのはどこも同じようです。

 

リースフェルト少尉に怪我をした腕を出すと、腕お腹足首と、今の怪我と違うところまで触診し始めました。

触診とは関係なく胸も揉まれましたが、同じ女性でなければセクハラですよ!

 

「睡眠不足に疲れの溜めすぎ、小さい怪我とはいえ放っておくのも良くない」

 

「これは医者としての言葉、私もここじゃそれが仕方ないとはわかってるけど、それでも言うのが私の仕事でね」

 

「あと、これは私の言葉だけど。セレブリャコーフ伍長、よく頑張ったね」

 

医療術式によって体がポカポカとしている中、慈愛の表情でそうおっしゃられたリースフェルト少尉は、まるで天使のようであらせられて。

こうして明確に労われたのが随分と昔のこと、つい涙ぐんでしまっても無理はありませんでした。

小隊長殿は行動によってそれを表すお人、周りの方もこう素直に言ってくることなど無いのです。

 

「軽傷者に魔力を使うのは非効率だから普段はやらないんだけど、女の子の体に針で縫った後なんかあるのは嫌だろう?だから、これは秘密でな」

 

そう言うリースフェルト少尉はいたずらっ子のような顔でした。

見てみると腕にあった傷は勿論、小さい火傷の痕や以前の掠り傷などが綺麗さっぱり消えており、体調は万全で心なしか肌の艶も戻っている気がします。

 

「セレブリャコーフ伍長、どんなに大きな怪我をしてもここに来たのなら必ず生かしてみせる。だから必ず、生きて帰ってきなさい」

 

「は、はい!ありがとうございます!」

 

リースフェルト少尉はいつも少し皮肉気な表情を浮かべていて、私は少し苦手かもしれないと思っていましたが、こんな優しい表情をする人をそんな風に思っていたなんて少し恥じてしまいます。

准尉は慈愛の人でありました。

私のような人員は他にも沢山いて、しかしそれでもその一人一人にきっと気を配ってくれるのでしょう。なんと優しい人でしょうか。

 

最後にポンポンと私の頭を撫でて次の患者へ診察するその一人の医者の姿は、いつまでも私の記憶にあり続けるのでしょう。

戦争が終わったら医者は無理でも、看護婦にでもいいから成れたらという私の夢が、一つ刻まれました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視点回帰:ティアナ・リースフェルト

 

私の診療時間が終わり、死体となった兵士からかっぱらった煙草を吸う。

私のような年齢のお子様が煙草を吸っている姿を見れば、良識ある大人は必ずと言っていいほど喫煙を止めてくる。

こんな子供に有害すぎる物、それはまあ止めましょうさ、私だって止める。

が、私に関しては止めるな。仕事終わりは吸わせてくれ。

 

そんな健康というものに喧嘩を売っている子供の良識のある大人対策、それは良心を利用するというものだ。

アンニュイな雰囲気を醸し出し、医者という身分証明と、救えなかった患者の代わりに最後の一服をしているとでも言えば、半分ほどは黙認する。

半分ほどは俺が代わりにと強奪していき、三分の一が煙草に不慣れでむせる。

普段吸わないなら本当にやめてほしい、返してよ。

 

未だ至福の強奪犯が現れない内にゆっくり味わうが、日本の煙草と比べるとやはり不味い。

それでも耐えられないほどではないのでニコチンを存分に味わう。

 

「またですか婦長、本当にやめた方がいいですよ煙草」

 

「うん?レアンか。あと婦長じゃないって言ってろうに、やめろ」

 

最近ぼちぼち育ってきた医療魔導師見習いのレアン、煙草を強奪してむせた中の一人だ。

今は上司権限で半強制的に黙認派に入っている。

 

「はぁ~、今日もいっぱい死にましたね」

 

「そうだな」

 

今日もまた患者を見送ったのか落ち込んだ様子のレアン、患者の死を思うことが出来るなんてまだまだ若いな。と擦り切れた私が思う。

現実、先ほどセレブリャコーフ伍長に対して必ず生かしてみせる。だなんて啖呵を切ったものの、どうやっても人の命は零れ落ちるものだ。

もって数分や数時間の命があるとする、その命に時間と労力を割いてもその患者が死んでしまえばその労力は無に帰すのだ。

それよりもその労力を確実に助けられる患者に振り分け、助からない患者は切り捨てられる。

 

仕方のないこと、とは医者は言ってはいけないのだろう。

 

「ライン戦線初期はもっと酷かったらしいですけど、今がこれなら初期はどんなだったんですか」

 

「ああ、―――地獄だったなあそこは」

 

紫煙を吐き出し、煙の向こうに地獄の景色を思い出す。

今ほど医療環境は整っておらず、衛生的に不十分な環境での連続執刀。いつまでも診察待ちに居座り続ける死体の主。暴れる兵士をやむなく射殺することもあり、演算宝珠とピストルは手放せることはなかった。

 

「そんな医療現場じゃ精神を壊した医者が続出してな、一人あたりの負荷は減ることなんてなかった」

 

減る医者、増える患者。しかし治療をやめることすら思考に浮かばないほどのオーバーワーク。

 

「いっぱい死んだな、執刀中に患者を殺した数はもう両手に数えきれないほどだ」

 

「それ、婦長は悪くありませんよ」

 

我ながら悪趣味だが、人の感情が満ち溢れた死に様を見るのが好きだ。見ていて面白い。しかしあそこでの体験は、そう楽しいものではなかったのは確かだ。

 

「婦長言うな。私が一度倒れた事があったんだが、その時はもう酷い有様だったな。指示系統はもうめちゃくちゃで非効率に好き勝手に治療して、私が起きた時には物資も碌に残っていなかったよ」

 

医療物資が無ければ医者の出来る治療法は限られ、救える患者も当然少なくなり更なる死体の山が築かれた。

当時私主導の元診療所を運営し管理していたが、私が倒れたが故に無制限に物資を使った時期が発生した。しばらくは死亡率を抑えられ書面上の数字は向上。しかし私が起き物資の問題に突き当たった時、当然その数字は以前より悪くなり、その責任は私のせいだ。なんてひたすら罵られた。

長期的な視野で死亡者を抑えるべく立ち回り、効率的に患者を殺す医者がどんな気持ちか、など相手はまあ、知ったことではなかったのだろうな。

罵倒を受けながら一周回った無の感情とはこういう事なのかと私は知った。

今でも相手を撃ち殺さなかったことは勲章物の自制心だったと思う。

 

「それでも婦長は医療を続けられたと聞いています」

 

「なんだ、そこらへんは聞いてるのかい?まあそうだね、それが私の役割だからね」

 

わざわざ仕事の合間に顔を見せてくる馬鹿そうなお偉方に罵倒されながらの仕事は眠気対策にちょうど良かったほどだが、無視しているのかと殴り飛ばされるのは仕事の邪魔になるから勘弁してほしかった。

そんな情けない姿を見せても指示を聞き着いてきてくれた現場スタッフには、珍しく素直に感謝する思いだ。

たとえその時の状況が彼らのせいだったとしても、彼らは医者として患者を救うための行動をしたのだ。

そして今に繋がる効率的な仕事現場は、彼らの献身あってこそ。恨みは無い。

だが、婦長と呼ぶのはいい加減やめたまえ。

 

「婦長、煙草一本貰えますか」

 

「むせるぞ、やめとけ」

 

「じゃあ婦長が煙草やめましょう、そうしたらやめます」

 

私は一本煙草を差し出しライターも貸し出す。

慣れない様子で煙草に火をつける彼をからかいつつ、私は格好つけスマートに二本目の煙草に火をつける。

 

慣れていないのに思いっきり煙を吸い込み、案の定むせた彼を笑いながら、ターニャの入れたコーヒーを飲みたいと思った。

 

あいつの入れるコーヒーは素人意見でも美味く、煙草にはコーヒーと相場が決まっているからだ。

出撃前夜の夜は、紫煙渦巻き過ぎて行った。

 

「生きて帰ってきてくださいね婦長...」

 

 

 

 

 

 

 

 

血と死臭の染みついた診療所勤務の医療魔導師へ軍から前線への出動応援依頼が来る。

それは皆様お分かりの通りおかしなことです。

しかしながら、この私軍学校を卒業した職業軍人であったため、出撃できるね?と命令が下った次第にあります。

 

「第2診療所勤務、医療魔導師ティアナ・リースフェルト少尉。命令のためデグレチャフ小隊に合流させていただきます」

 

「うむ、小隊長のターニャ・デグレチャフ少尉だ。貴官の応援に感謝する」

 

合流を指定された部隊はターニャ班、顔見知りが故に茶番感が拭えないが、これも社会人として必要な茶番でもある。

とうとうお前も前線勤務かという皮肉気な顔が覗くターニャに着けていた表情(仮面)が剥がれかけるが、ここは他の部隊員も見ているため我慢して維持。

俺だって行きたかねーよ。

 

行きたくはない、逝きたくはないが、命令は遵守されるもの。

命令されてしまっては仕方がないのが職業軍人の辛いところだ。

 

「貴官は私とセレブリャコーフ伍長のツーマンセルについてもらう」

 

わかっているな?という視線を感じる。

ふむ、私の肩書は医療魔導師というもの。航空魔導師という肩書も名乗れはするが、その肩書の役割ではなくあくまでサポートに徹し、手柄は譲れといったところか。

まあ別に軍功が欲しいわけではないので異論はない。

 

「了解致しました、よろしくお願いします」

 

「よろしくお願いしますねリースフェルト少尉」

 

セレブちゃんが可愛らしく微笑んで挨拶してくれる。唯一の癒しかよ。

 

今回自分が所属するターニャ小隊は機動防御が主な任務となる。

拠点防衛や反攻時の陽動。

つまり以前ターニャとお散歩した時のように戦場を走り回りながら敵を押し返し、攻勢に出る時には囮役となる。

 

随分と刺激的な職場だなおい。

 

「準備は出来ているか?出勤の時間だ、行くぞ」

 

「はい、戦場勤務経験はあまりないのでお手柔らかに」

 

「はっ、軍学校で散々私を落としておいてよく言う」

 

いや、実戦経験がもう違いすぎるしエレニウム95式なんてチートアイテムも持ってねえんだよ。あの時と一緒にするな。

セレブリャコーフ伍長がなにやら驚いた顔をしているが、今は多分無理だからな。本当に。

 

「では地点Bに移動する、全員遅れるなよ」

 

飛行術式を起動。

睡眠を取っているので体調は問題無く、緊急時のドーピングが可能な状態。いざという時に頼れるものがあるというのは、命を賭ける戦場においては一つの安心できる要素となる。

 

不幸なことにターニャの持つエレニウム95式という新型演算宝珠は、神の加護(呪い)によって自身の意思と無関係に神を称えてしまう不具合を起こしているらしい。

しかし私の全認識はあの存在Xと違う超常から与えられたもの。私の自由意思は尊重されている。

ターニャに呪いのアイテムを押し付ける悪徳業者とは大違いだ。

 

「CPより通達だ、B地点は既に敵の襲撃を受けている、急ぐぞ」

 

片や宝珠に、片や頭に。異なる神の加護を手に、泥臭い戦場へ駆け込む。

たとえチートを、優れた能力を持っていたとしても、いつの間にか死んでしまう戦場で自身をどこまで使えるかが生き残るための一つの答え。果たして今日も外れを引かずに生き残れるか。

 

 

戦場での一日が、始まる。




休憩―きゅうけい!

部下を心配して一時後退を取り付け診療所まで送り届けるお優しいターニャ小隊長!―おさっし!

胸揉み―「ほぅ、また育ったね」「准尉!」ってセレブリャコーフが赤面なんてしてませんよ。

セクハラ―セクシャルハラスメント。

医療術式と心理効果のテスト―セレブリャコーフが純粋すぎてよくわかんなかった!

贔屓―可愛かったり美人だったりすると魔力を使って贔屓します。なおほぼおっさんの模様。

一人一人に気を配るティアナ―湿布バシーン!塗り薬ベタァ!薬ぽいっちょ!湿布バシーン!(ご褒美

喫煙―20歳になるまでは絶対に吸わないでください。出来れば一生吸わないのがいいよ。

馬鹿そうなお偉方―精神の均衡を保とうとしています。二階級特進しました。

わかっているな?―目線だけで通じ合う、ホモ、いや百合か。

悠木碧理論―ターニャとの絡みはBLにも百合にも通常のラブにもなりうる無限の(以下略

いやー、物語動かないですね自分の小説。
とりあえずセレブリャコーフ助手フラグ立てたくらいかな?今回は。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7話 戦争日和

今週中に書ききるのは無理かと思いましたわ。


さて、ここ地獄のライン戦線について詳しく説明をしていなかったことを失念していたことを謝りたい。

事はノルデン地方での協商連合による国土侵犯から始まった。

協商連合内での政治的ゴタゴタの末、軍事的パフォーマンスやらだろうが、重要なのはその相手に選んでしまったのが我が祖国帝国ということ。

 

いくら戦争国家とはいえ国際法を守らねば非難され批判され、世界対帝国の不利なゲームが行われてしまう。

しかし協商連合からルール違反を犯してくれたせいで、帝国はルールを守り清く正しい戦争の火蓋を切った。

 

帝国側は戦争を拒む理由は無い、なんせ一対一で戦えば間違いなく勝てるのだから。

当初の想定通り帝国は領土の防衛に成功し、主力をノルデン地方に集め速やかに協商連合の制圧に向かう。

 

戦力は帝国の北側に集中し、戦線はどんどん押し上げられ勝利は確実と言えた。

 

そこに待ったをかけたのが帝国の西方に位置する共和国だった。

 

共和国は北方の協商連合が蹂躙されていく様を見て思ったのだろう。

協商連合が終わったら次はどこだ、あの鋭利な矛を帝国は次にどこに向けるのだろう。恐ろしい、ああ恐ろしい。

恐ろしいが、おや?その帝国の矛は北ばかり向いていて大層無防備な横腹が見えるじゃあないか。

 

帝国を倒すには今しかないと共和国は帝国へ宣戦布告。

そう、共和国の見たとおり帝国の横っ腹は実に無防備であった。

 

国のそこいらから急いで戦力を掻き集め、兵の質に関わる帝国軍の根幹ともいえる教導隊すらも投入し帝国の全力を持って共和国からの防衛にあたる。

北方の主力から西方へさっさと戦力を送って欲しいところだが、送る部隊の再編は遅々として進まないのが現状。

 

ここライン戦線が出来るまでの話は終わりだ。

幸いにして、帝国兵の練度が高いことがこの戦線を維持できている理由であり原因であり。その練度は戦場の神と信仰される砲兵を見ればわかる。

 

 

 

「神を称えよ!その名は砲兵!!素晴らしいリズムだ」

 

まず一発ぶっ放し、観測データをもとに修正射をぶっ放し、敵を吹っ飛ばすに十分な位置を把握して効力射をぶっ放す。

我が友砲兵部隊は効力射に移るまで実にスムーズで、その練度を敵国に身を持って味あわせている。ターニャが日頃口にする費用対効果的にも、これは満足のいく結果だろう。

 

砲撃の重音をBGMに大の大人がはしゃいでいる中、ターニャとシュワルコフ中隊長がのんびりと雑談をしている。

いつ見ても思うが、幼女とおっさんの構図はアンバランスが過ぎてなんだか微笑ましい気がする。話している内容が120m砲弾で耕した後の仕事の話という、物騒な話でなければだが。

 

「いつもそうだが、毎度騒がしいものだな」

 

「リースフェルト殿はこの砲撃音がお嫌いで?なかなか素晴らしいリズムではないですか」

 

「うん?いや、この音自体は嫌いではないよ。ハートが揺さぶられるいい音だ」

 

だがこの不規則性をリズムと呼称するな。

リズムとはもっと規則性を伴うものであり、ノリとビートでもって客を沸かせるものだ。こんなクソみたいな音の連続をリズムと言うことは許さんぞ。

 

「音楽性の違いですな」

 

「ああ、音楽とはもっと素晴らしいものだ。後方に戻ったら私が良いものを聞かせてやる」

 

「リースフェルト殿は音楽をやられるので?それは是非聞きたいものですな」

 

「ああ、一応大体の楽器は出来る、と思う。だがまだ望む機材が出来てなくてな、アンプやエフェクターどころかそもそもエレキギターがな...」

 

「あんぷ、えふぇく...?聞いたことのない機材ですな」

 

前世でエフェクターやアンプの回路などいろいろ弄ってきたため部品さえあればアンプエフェクターは頑張れば作れる。

だがこの近代では現代でクラシックなどに使われる楽器までしか開発されておらず、エレキなんてものはどこにも無いのだ。

後方に居た頃ちょくちょく部品を失敬して記憶にあるエフェクターを作ったものの、作ってみてから鳴らす元の音が無かったのは笑い話にもならない。

 

絶対わからないだろうが今世で音楽に触れていなかった鬱憤を晴らすべく一方的に話に乗ってくれた隊員に語る。

自分の理解から外れた事を捲し立てられても正直引くだけだろう、現に引かれている。が、音楽とは情熱であり私の魂の表現方法だったものなのだ。

 

「リ、リースフェルト殿は音楽がお好きなのですね」

 

「ああ、大好きだ。愛している」

 

音楽をやっている時の自分は、普段と違って目がぎらついているとよく言われたが、多分今もそうなっていたと思う。

あれをリズムとかぬかしやがるのが悪いのだ。

 

「頃合いだな。中隊、突撃発起用意。撃ち漏らしを狩るぞ!」

 

「ティアナ少尉、音楽の話はそこまでだ。軍曹、ティアナにその話をするのは止した方がいい、彼女は音楽馬鹿の節がある」

 

「まだ話したりないのですが、お仕事の時間でしたらしかたありませんねターニャ少尉。軍曹も失礼しました」

 

軍曹が止めてくれて助かったとターニャに視線で礼を送っているが、正直まだ話したりないぞ。

詫びを言ったものの憮然とする私を無視してターニャはニコニコと砲撃地点を見つめる。

 

「仕事の時間ですな、いつもこれくらい楽しいと良いといいのですが」

 

「少尉、好き嫌いはいかんな。身長が伸びんぞ?」

 

「シュワルコフ中隊長殿、私は被弾面積が小さいことを喜ぼうと思うのですが」

 

「はい!私は好き嫌いが少ないので小さくても良いというターニャ少尉より大きくなれますよね中隊長!」

 

大きくなりたい子供のようにビシッと手を上げ進言すると周りからクスクスと微笑ましいといった笑い声。

ターニャと違って道化を演じ、隊の緊張をほぐすことに貢献することは別に苦ではない。

 

「好き嫌いが少ないことは良いことだが、デグレチャフ少尉の言い訳には実に説得力がある。小さいままのデグレチャフ少尉に降参だな」

 

ターニャから子供の力とは思えないローキックが私の足に突き刺さる。結構痛い。

 

「宜しい、好き嫌いの激しいデグレチャフ少尉に独り占めされぬよう、各自奮起せよ!」

 

「お前は好き嫌い少なくても嫌い方は私より酷いだろ、あと今度も私の方が身長抜くからな」

 

上司が喋っている中他に聞こえないように再度ローキックと文句を言ってくるとは、結構イラッとしたなターニャ。

黙ってもう一発蹴られ、仕事へ意識を向ける。

 

「突撃!我に続けぇえええ!!」

 

塹壕から一斉に飛び出し、眼下の敵部隊に向かって勢いよく飛翔する。

歩兵対魔導師というものは、いわば人対戦車のようなものだ。眼帯付けた伝説の特殊潜入員でもなければ相手にはできまい。

とはいえ戦車の装甲と違って数を揃えた銃弾の雨、統制射撃が魔導師を落せる一つの策であるのだが、砲撃によって陣地をグチャグチャにされているなかそれもない。

よって今のような状況、魔導師には魔導師をもって対抗するのだが、共和国魔導師は不幸にも砲弾によってミンチにでもされたのか出てくる様子はなく、帝国魔導師はいじめっ子のようであった。

 

「各級司令官と無線手を狙え!」

 

もはや勝敗を決していると言えるのだが、敵の損害は帝国が喜ぶべきこと。

他の隊員と共に司令官らしき人物と無線らしきを背負った人物を滅多打ちにする。爆炎術式も交じっていたのでまあ間違いなく死んだろう。

敗北を知る司令官というのは生かしておいてもこちら側に得の無いもの、敗北を糧に成長されても困る。

 

蹂躙された敵陣地から散発的に飛んでくる銃弾の密度からして、敵の抵抗は微弱。

もはや残敵掃討の体を成しているため、今日の仕事は終わりに近いだろう。

 

「や、あの二人はダメだと思ったが、セレブちゃん育ったな」

 

「仕事中だぞティアナ少尉。が、まあそうだな。顔を青くして嘔吐していた頃が懐かしい」

 

余裕があったため観察していたが、最初の頃ふらふらと危なっかしく飛んでいたのに比べ今は割と普通に飛べており、多少の被弾はあれど防殻を抜かれた様子もない。

いやはや、鍛えてみるものだ。とターニャの呟きに対して、絶対育ててないだろ。という突っ込みを我慢し心の中でセレブリャコーフ伍長によく自分で育ってくれたと賞賛を送る。

 

逃げる敵兵を後ろから纏めて吹き飛ばす。

自らが放った銃弾が命を終わらせたことに対する感慨は何もない。

長く生きすぎたのか、元々擦り減っていた物が擦り切れたのか、作業ゲーをやっているかのように人を殺せている。

しかしそれは二度の人生を経ての物。二度目の人生だというのに隣で淡々と人を撃ち殺すこの金髪幼女は果たして何を思っているのだろうか。

前々から思っていたがこいつは普通の人の感性から結構外れている。

だからこそこうしてつるんでいるのだが、この人であることを否定するような戦争で、果たしてこいつはどう変わっていくのか。

 

「やれやれ、戦場にあって余念がすぎるな、これは」

 

ターニャ・デグレチャフ、今世でお前は何を思う?

 

鏡のように、自身を何も映さない瞳がじっとターニャを観察していたが、誰もそれに気づくことはなかった。

 

 

「中隊長より各位、三百秒後に友軍が砲撃再開予定。離脱に入れ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「集結を確認、損害なし。各位装備以外に消耗もありません」

 

集結地点に到着し報告が終わると、緊張の糸が切れたセレブリャコーフ伍長がフラフラと寝床へ歩いて行き、対してターニャは「寝る、おやすみ」ときびきびしてさっさと寝に入ってしまった。

 

自分はそれを見送り体内調整術式を起動、その状態のまま煙草に火をつける。

流石に煙草の悪影響を緩和しなければこの歳で吸おうとは思わない。まあ緩和しているというだけで依然悪影響ではあるのだが。

 

「やあリースフェルト少尉、私にも火もらえるかな」

 

「シュワルコフ中尉殿、しばしお待ちを」

 

懐からマッチを探る。

以前煙草を吸っている時にやんわりとやめるよう言われたが気にせず吸っているとそれ以降何も言わず、時折一緒に吸いながら雑談するようになった仲だ。

 

「おや、すみません。マッチが切れてしまったようで」

 

火を着けてもらおうとわざわざしゃがんで待っていたシュワルコフ中尉は少し残念そうに自分のポケットに手を突っ込む。

 

「失礼、少しそのままで」

 

口に咥えている煙草を固定し、中尉の煙草に接着させる。所謂シガーキスというやつだ。

別に直接接吻するわけでもなし。男性同士だったら同性愛を疑われるものだが、今の私は美少女。相手に負の感情が芽生えるわけもない。

 

「これこれ、年頃の女性が行うものではないぞ」

 

「年頃というには幼すぎる自分を見て勘違いする輩もおりますまい」

 

「ふむ、だとしたら私はそれを注意せねばならないな」

 

それと目線で刺された煙草、仕事終わりのこれをやめるつもりはない。

 

「はっ!以後注意いたします!」

 

互いにクスクスと笑いあい、共に空に向かい紫煙を吐き出す。

 

「どうですか、集結の具合は」

 

「未だに再編の途中だと、今しばらくは変わらん」

 

子供に対する話題など持ちえまい、こちらもそういう話をされても返答に困るためこちらから仕事の話を振る。

ターニャの小隊に入ってからしばらく経つが、集結の具合からまだしばらくは泥と硝煙に塗れて飛び回ることになるようだ。

 

「中隊長殿。この前線に長くいるとはいっても、その殆どが診療所勤務、私は戦闘員としてしっかりやれているのでしょうか」

 

「撃破数は既にエース級、共同撃破も多数。優秀なサポーターという評価だと私は聞いているが?」

 

「数字だけ見れば立派なものですが、それはターニャ少尉の助力があってのことでしょう。彼女の火力のおこぼれを貰っているのが実際です」

 

謙遜も含んだが、実際ターニャの持つエレニウム95式は凄まじい。まさしくチートアイテムだ。

呪われているが。

私が少し突出し敵部隊を掻き回し、ターニャが後ろから狙撃術式でもって確実な撃破を行い、乱れた敵部隊をさらに自分が掻き回し、撃破を重ねる。私たちの基本コンビネーション。セレブリャコーフは添えるだけだ。

私のみでは少々火力不足で、実際の航空魔導師としての実力はなかなか落ちないというだけなのだ。火力をターニャに依存してしまっている。

言ってしまえば、私はあまり必要ないほどターニャは優秀なのだ。

 

「エレニウム95式は貴官にも使えると聞いたが?」

 

神の遺産エレニウム95式は、転生者ということがトリガーなのかわからないが、私にも扱える。

試しにターニャから借りてみた時に、口から自動的に垂れ流される讃美歌と共に起動している間は自身の記憶が消失。

記憶が戻った時には今にも引き金に指を掛けやばい形相のターニャが目の前にいたのは至極驚いた。讃美歌嫌いすぎるだろ。

 

「あれはターニャの物です、起動できるというだけで十全に扱えるわけではありませんよ」

 

お断りである。

あんな自身を差し出すようなもの。

 

「まあ大丈夫であろう、ここで飛び続けている。それは一つの証明だ」

 

「ああ、そうでしたね」

 

ただ生きる。それだけのことが難しいライン戦線で飛び続けていることは確かに有能の証明と言える。

短くなった煙草の火を足で捻じり消していると、シュワルコフ中尉が無線から連絡を受けている。その顔色はよろしくない。

 

「リースフェルト少尉、急ぎ仕事の時間だ」

 

「はい、シュワルコフ中隊長殿。命令となればどこへでも」

 

中尉も煙草を捻じり切り、共に集合場所に向かう。

さして休めていないが、ライン戦線ではある意味いつも通りだ。

非情な現実はいつも唐突に訪れる、ここではその頻度が少しばかり他より多いだけだ。

 

「よろしい。さて、中隊諸君、よろしくない知らせだ」




音楽の話ーいらなくない?と思ったけど、戦後もしかしたら楽器弾いてるかもよ、とフラグ蒔き。

シガーキスー少し目を丸くしてるおっさん(漫画版容姿)と幼女のシガーキス、控えめに言って、これは萌えでは?

ターニャは優秀なのだー自身の有能性を自覚していないわけではない。が、ターニャだけで良いんじゃないかなとよく思っている。

「セレブちゃん育ったな」―おっぱいのことではない。

ティアナ・リースフェルトの二つ名を募集いたします、詳しくは活動報告の方まで。
よろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8話 ラインの護り

戦場での二つ名募集、ご協力ありがとうございました。
前回は戦場での二つ名ということでしたが、どうせですから活動報告の方に戦場や軍内部、戦後。場所時間関係なく二つ名募集枠を設置しておきます。
ご協力お願いします。

それと今までなんで言ってなかったんでしょうね、評価感想誤字修正ありがとうございます。励みになっております。

今回の作業BGM―岸田教団。岸田教団はいいぞー。


「よろしい。さて中隊諸君、よろしくない知らせだ」

 

速やかに呼集された中隊はシュワルコフ中隊長の淡々とした態度に、嫌なものを感じる。

普段と違うこの様子は厄介事の予兆である。覚えておくと心の準備だけは出来る、戦場に出ることがあればぜひ覚えておこう。

 

「急報だ。第403強襲魔導中隊が、浸透突破中の敵魔導二個中隊と不意遭遇戦に突入した」

 

おそらくは新手の魔導師。

こちらは人員不足でヒイヒイ言っているのにまだ新手を送り込める余裕があるとは羨ましい限り。

 

敵の大規模攻勢の尖兵と見られる敵後続の進軍を確認。

砲兵隊が進軍を阻止すべく砲撃を開始したのだが、戦場の神砲兵と対を成す存在、戦場の眼こと観測員が襲われているとのこと。

観測員の仕事は砲撃の弾着観測が主な仕事だ。

砲撃を適当にぶっ放すよりも敵密集地帯に放った方が効率が良いのは子供でもわかること。

たとえ制空権が取れておらず敵魔導師に狙われる可能性があろうとも上は飛んで観測してこいというほど重要な仕事だ。

 

「403と合流せよとの事だ、直ちに進発する」

 

再度の出撃で下がった士気を回復させる時間もないのか、急ぎ出撃とのこと。

 

「同時に弾着観測員の救援だ。こちらも敵中隊に襲われているとのこと。援護が求められている。ああ、両少尉は以前北方で経験していたな」

 

「はい、二度と御免ですが」

 

だろうな、白銀の二つ名を獲た切っ掛けとはいえ、死にかけるほど壮絶な状況でなければ銀翼突撃章など得られない。

そこまでの状況に追い込まれるのが観測員なのだ。

自分も同じ意見ということで黙って頷く。

 

「なるほど、では...デグレチャフ少尉。銀翼をぶら下げる貴官の小隊ならば救援は可能かね?」

 

「遅滞ならばともかく、救援は難しいでしょう」

 

「その95式を入れてもか?」

 

「.......小官とティアナ少尉はともかく、セレブリャコーフ伍長は限界でしょう」

 

ちらりと話に出てきたセレブリャコーフ伍長に目を向けると未だこの緊急事態について来れておらず未だ呆けている様子。

観測員を助けに行くということは必然的にそれを襲っている敵中隊と交戦が予想される。

この様子では交戦に耐えられないだろう。それをターニャはシュワルコフ中尉に具申する。

 

この小隊の責任者はターニャなのでどうするかは彼に任せていると、セレブリャコーフ伍長が私も着いていくと進言。

ダメだ大人しくしていろというターニャと着いていきますと引かない伍長で一悶着あったが、シュワルコフ中尉の決定でセレブリャコーフ伍長は着いていくことになり、ショーンズの分隊と共に救援任務に赴くこととなった。

 

「伍長、戦闘が予想されるためあまり魔力を使うことはできないが、少し整えてやる」

 

調整術式を起動、疲労が残っておりそれを取り除くというわけではない誤魔化しのようなものだが、多少はマシにはなるだろう。

 

「すみません、感謝します」

 

「いいさ、言ったからにはくれぐれも墜ちてくれるなよ」

 

自身の魔力は自身の生存力に直結しているため出来うる限り残しておきたいところだが、顔見知りが墜ちるというのは気分の良いものではない。

 

「はい、先ほどの言葉を違える気はありません!」

 

「リースフェルト少尉、セレブリャコーフ伍長だけ贔屓でありますか?」

 

「ショーンズ軍曹、貴官はライン最古参でしょう?よもやこのような可愛い伍長と一緒だと?ご冗談を」

 

からかいの言葉を掛けてくるショーンズ小隊長をいなしながら調整を終わらせる。準備完了だとターニャに目配せを行う。

 

「よろしい、では仕事の時間だ」

 

 

 

 

 

救援地点に飛行していると、司令部より不幸な知らせが届いた。

 

「各位に通達。友軍観測員は撃墜された。繰り返す、友軍観測員は撃墜された」

 

何たることだ、とターニャが呟く。

まるで友軍が墜とされたことを嘆く軍人のようだが、あれは無駄骨となった出撃を嘆いているだけだ。見ず知らずの観測員に同情する奴ではないことは長い付き合いをしてきた自分がよく知っている。

 

「......聞いての通りだ小隊諸君。間に合わなかったのは遺憾だが、間に合わなかったなりに仕事はしなければならない」

 

「デグレチャフ少尉殿、小隊単独では荷が重すぎませんか」

 

引くには敵に近づきすぎているため、この後は交戦が予測される。

小隊でもって中隊を撃破することは、当然数の有利を覆す必要があり、なかなかに厳しいことは言うまでもない。

しかしターニャが言うには、敵魔導中隊は観測手狩りで消耗しており、帰るための余力も残さねばならず、全力戦闘が出来るほど元気が良いわけでもない。

さらには観測手捜索である程度散らばっており各個撃破が望みえり勝算は低くないとのこと。

 

「つまりだ、疲弊した小隊を潰すことを6回繰り返せばいいだけの簡単な任務だ」

 

他の列強と違い、精鋭揃いなのが帝国魔導師の特徴。数が同数ならばこちらに無能が紛れ込んでいない限り負けることは無いと思われる。

 

「小隊諸君。私とリースフェルト少尉が3個小隊。残りは君たちのものだ。そう難しくもないだろう」

 

以前ターニャは単独をもって中隊を相手取ったことがあり、一人でも小隊を相手にしても大丈夫だろうが、ターニャと組んでいるときはサポートに徹するという約束事があり、安定して軍功を稼げるということで問答無用でバディを決められた。

まあターニャの戦闘力は非常に高く、組む相手として不満は無いが。

 

「小隊長殿だけエース願望でありますか?」

 

「良い質問だな軍曹。いやなに、私はあと十機も落とせば規定で恩給と恩賜の休暇だ。そろそろ休みが欲しいのだよ」

 

撃墜スコアが50台に乗れば、休暇給料ボーナス独立行動裁量権と色々と恩賞があるのだ。

ターニャのスコアは40前後、95式の呪いによって記憶があやふやな部分があるため実際の数よりも少ないとされるが、それでも十分な撃墜数である。

私の撃墜スコア?聞いてくれるな。

スコア20に届きそうとか医療魔導師に見られなくなるだろう?戦闘に駆り出される戦闘員として見られたくは無いのだ。

 

優雅な休暇に思いを馳せ会話するターニャ。

だがしかしそれもまだ本国が戦争に経済が切迫されておらず、ある程度余裕を持っているためそうして休暇に思いを馳せれる。

戦争が長引けば後ろに下がれても、戦争が長引いた分できる贅沢の質は下がるもの、私も質の高い贅沢を行うために今からでもスコアを稼ぐべきか。

 

「戦争は、勝っているうちに楽しむものだからな」

 

以前周りに聞かれないように聞いたターニャによる今後の予測によると、今の戦争はこの世界で初の第一次世界大戦に発展する可能性が高く、この帝国は最悪の場合世界を相手に戦争を行うことになりかねないと。

勝てるかどうかを考えるのは参謀の役割だ、私のような兵士の役割ではない。しかしこの戦うだけの役割に殉じることによって未来は開けるのだろうかとふと考える。

先ほど考えたスコア稼ぎを贅沢のためだけでなく、敗戦国となることを回避すべく上に意見を通せる地位まで上り詰める、その一歩として使うことも視野に入れるべきか。

2度の人生を経て自分が上で指示を下すよりも下で働いている方が適正が高いことは自覚している。

 

ちらりと隊員と会話しているターニャを見る。

こいつは無能には手厳しいがやることをしっかりやっている者にとっては良い上司になりうる。

そして今の戦時下、ミリオタ知識を存分に生かせば英傑といえる有能極まりない参謀になれる可能性も持ち得ている。

現代知識というものは有効に使えばそれだけでチートなのだ。ターニャが参謀入りを果たし、その知識チートを存分に活かせばあるいは、帝国のこれからに未来があるやもと思わざるを得ない。

 

問題は、ターニャが徐々に大の戦争狂と勘違いされていることだが。

 

「私だって平和の方が好みだ。ショーンズ軍曹、貴官はどうだね?」

 

「小官とて、少尉殿と同意見であります!」

 

飛行中にもかかわらず見事な敬礼でおどけて見せた軍曹を締めに会話を任務前の発破掛けにシフトしていく。

こうして仕事に必要なことをしっかり行えるターニャは、十全に行いすぎるが故に戦争狂と勘違いされているのだろうか。

今度真面目に考えを纏めよう、そろそろ救援信号のあった地域だ。

 

「リースフェルト少尉、前から言っているが戦場でいきなり考え事に耽る癖はやめたまえ」

 

「考え事でしたか、ずっと黙っているものですから体調でも悪いのかと」

 

「失礼、夕食はまた芋かと考えておりまして」

 

ああ、食べ盛りですからね少尉達は。とからかいの言葉には苦笑いを返しておく。

私はいいがターニャが不機嫌になって後で私が蹴られるんだ、そのからかい方はやめてくれ。ほら、ターニャちゃんがイイ笑顔をしているじゃないか。

 

「諸君、そろそろ仕事の時間だ。歓迎会の趣向を凝らさねば」

 

意識を切り替え戦闘のため高度を上昇させる。

航空戦では相手より高度を取れれば一つの優位状況となりうる。

 

「どうされるおつもりで?」

 

発破を気持ちよく掛けられるための一つの問い。

答えはわかりきっているだろうが、お約束をテンポ良く済ませられるのは悪くないのだ。

しかしショーンズ軍曹はよくわかっているな、有能だ。

 

「せいぜい歓迎してやるさ。鉛と魔力光は私のおごりだ。各位戦闘機動に入れ!」

 

「パスポートとビザを提示できない不法入国者はどうしますか?」

 

戦闘目前でも緊張に縛られずジョークを口走る軍曹にターニャも流石に笑顔にならざるを得ない。

 

「叩き返せ!!!」

 

獰猛な笑みを浮かべ言い放ったターニャのデカい一発をもって戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

「Maydey Maydey Maydey」

 

泡を食ったような切迫した前線域管制官の声からその記録は始まった。

 

「散開!散開!」「畜生!一小隊まるごとやられた!敵はどこからだ!」

 

その記録は共和国106、107中隊が壊滅され、生き残った隊員の演算宝珠にあった交戦記録。

遠距離より狙撃術式というにはあまりにも太すぎる光学術式でもって、まず一小隊が撃墜された。

再びまとめてアレにやられるのは愚の骨頂、即座に散開を指示し敵位置を魔力から逆探知させる。

 

「魔力反応逆探成功!!敵影...こ、高度六千と、一万二千!!?」

 

航空魔導師が実際戦闘機動を行えるとされるのは高度六千フィートである。

高度六千で待機する帝国魔導師もおよそ精強な魔導師であることがわかるが、それを凌駕する高度一万二千という数字の前には霞まざるを得なかった。

 

「上昇!上昇せよ!!六千の敵を除け高度八千で応戦!六千の敵はおそらくは護衛だ!そいつを除ければ勝機はありうる!」

 

今までの常識から考えられない高度から高出力の光学術式、恐らくはその高度で戦うことに特化したものだと予測し、交戦が望みえる高度に上昇を指示。

 

「隊長!それは高度七千でも無茶です!」

 

「抑えねば地上部隊は帰国できん」

 

「ごもっともです。...やるしかありませんな」

 

悲鳴のような進言に答えるのは非情なまでの現実。

非常時にあってもこの冷静な判断は帝国のエースに対抗すべく創設された精鋭部隊ゆえと言えよう。

高度順応手順を飛ばし高度を上げていく。降り注いでくる光学術式の雨を躱しながら長距離観測術式にて敵情報を検索。

 

「おお、神よ...」

 

目標の個体魔力素を元に敵情報をライブラリで検索した結果、登録魔術師という最悪な結果を見せつける。

『登録魔術師』通称ネームド。

撃墜スコアが30を超えた敵兵はライブラリに登録され、警戒すべき好敵手として認知される。

 

一人は撃墜数30後半、『幼き死神(リトルデッド)』。彼女に触れられた者はたとえ基地に帰還したとしてもその悉くが死亡していることから名づけられた忌み名。

もう一人は撃墜数驚異の六十台を記録する正体不明のネームド、『ラインの悪魔』。その正体を見て生きて帰った者は誰もいないネームドだ。

最近その二人のネームドがコンビを組んでおり、そのコンビの通称は『双翼の悪魔』。

 

共和国にとっての災厄のコンビ、双翼の悪魔が我々を狙っている、悪夢でしかなかった。

 

片や重魔力系の空間爆撃や精密な光学狙撃式でもって狙撃兵のよく使われる手段「友釣り」などでもっての多大な被害。部隊の半数が壊滅されたこともある。

そして片や近接格闘戦での内臓損壊、その場で墜とされることはなくとも戦闘能力は喪失、帰還途中に死に絶えるのはまだ良い方と言える。

両者のいやらしいところは、戦闘で辛うじて生き残り、貴重な航空魔導師を死なせまいと治療に傾注したとしてもほぼ全てが死亡するところだ。

医療品の消耗は厄介であるし、軍医達の手が拘束されるもほぼ助からないもしくは重大な後遺症を抱えることとなり戦線復帰は絶望的。二人による被害のおかげで地上軍の軍医はまるで足りていない現状に追いやられている。

さらに、航空魔導師の消耗は戦術に影響するほど。

単独の個が戦略を、軍を相手に渡り合うこの現実はまさしく災厄であり、彼らの撃墜は必ず成さねばならない物事の一つと言えた。

 

「双翼の悪魔どもめ!今日こそ、今日こそ貴様らを叩き落としてやる!」

 

「貴方とは初見になるはずだが?」

 

「悪魔どもですって少尉、随分と有名になったものですね」

 

クスクスと嗤い待ち受ける死神と、一万二千で狙いをつける悪魔に見つめられ、高度六千で戦闘は開始された。

挨拶代りの光学術式はひらひらと、いっそ優雅と言えるほどの回避機動でもって死神はこちらの銃撃を回避していく。

時折降り注いでくる上空からの狙撃術式に気を取られると死神が近づいてくる挙動を見せてくるので統制射撃によってこちらに近づけまいとする。

 

情報によれば死神の射撃精度はそこまでのほどではない。

それもそうだ、死神は見た限り十になるかどうかの子供、ライフルはその手にはあまりある大きさだ。

特異なのはその回避能力と近接格闘戦での攪乱力。近づかれた場合その脅威度は跳ね上がるが、遠くにいる場合の脅威度は実のところ低い。

 

問題は上空で構える悪魔の方だ。

戦闘を行いつつ徐々に高度を上げてゆき現在の高度は七千。

一方的にこちらを狙い撃つラインの悪魔の撃墜を望みえるにはおよそ八千が必要ライン。その高度に上がるまで死神を遠ざけつつ悪魔の狙撃を回避する。その行為による消耗はあまりにも大きい。

 

「やむをえん、先に死神を狙え!」

 

じわじわと削り殺されるのはまずいと判断。

通常の非誘導系術式では当たる気配はないため、空間爆撃系か誘導系射撃式を選択。

中隊長の指示のもと統制射撃が行われるが、魔導照射を感知したのか死神は全力回避でもってその弾幕を潜り抜けていく。

 

「あれを回避する?化け物か!」「上空より強力な魔力反応!デカいの来ます!」

 

死神に目を向ければ、悪魔が目を光らせる。

個人が発しているとは到底思えない魔力を響かせ、砲撃のような一撃をぶちかましてくる悪魔。

避けるために隊を大きく散開させ回避するが、数名が回避しきれずそれによって墜とされた。

悪魔に目を向ければ、死神が鎌を振りかざす。

大きく散開し一時的に統制力を失った中隊は、死神にとって近づくことは実に容易なこと。

 

「おにーさん、あそびましょ!」

 

悪魔の放つ魔力光に紛れるようにして一人の隊員の後ろに忍び寄った死神は、咄嗟に展開した防核ごと人体を容易く貫く。

 

「おにーさん温かい」「アベル!この餓鬼!!」

 

温かい血に浸るイカレタ子供を、もはや助かるまいと隊員ごと光学術式で撃ちぬこうとするが、その死体を盾として持ち運び次の獲物に近寄る。

機動力は落ち当たるようになったものの防殻を抜き撃たれるのはかつての仲間、気が狂いそうな光景を生み出した死神は、ぼろぼろになった死体を人形が壊れちゃったなどと言い放ち容易く捨て、その力を十全に解き放ち、蹂躙が始まった。

 

未だ上空の狙撃は止まらず、内側では死神が狂笑を響かせ暴れまわる。

高度は悪魔にアプローチ可能な上空八千に到達、だからどうしたというのだ。既に中隊はぼろぼろで双翼の悪魔の遊び場となっている。

 

「上空より強大な魔力反応!」「と、止めろ!せめて奴だけは!!」

 

トドメとなる強大な魔力反応を感知、襤褸切れのようになろうとも共和国の精鋭部隊、なりふり構わない一斉全力射撃を行うが、余りにも硬い防殻はそれらすべてを通さない。

 

「去ね。不逞の輩よ。ここは我らが帝国、我らが空、我らが故郷」

 

「汝らが祖国に不逞を為すというのならば、我ら神に祈らん」

 

「主よ、祖国を救い給え。主よ、我に祖国の敵を撃ち滅ぼす力を与えたまえ」

 

魔力欠乏症寸前で、もはや飛ぶことすら危うい中、神に祈る子供の姿を見る。

無垢、あまりにも無垢に神に祈りを捧げるその姿はまるで神が遣わした天使のようであって、銃を落としその手は自然と胸の前で組まれていた。

未だ抵抗を続ける隊員を背に、朗々と紡がれる神への祈りを最後の時とし裁きの時を待つ。

 

「運命を嘆くことなかれ。おお、主は我々をお見捨てにならず!!」

 

信仰心とはこのようなことかと最後の時を待っていると、ふと、神の声が聞こえた気がして、体の奥から不思議な魔力を感じ、意識がブラックアウトした。

 

「遥か道の果て、我らは約束された地に至らん」

 

 

 

 

 

幼き声、衝撃、灼熱、光。唯一の生存者である私の、戦場での最後の記憶。

戦場から帰ってきた私は軍法会議に掛けられ、敢闘精神の喪失をもって軍衣を剥奪された。正体不明のネームド『ラインの悪魔』の情報を持ち帰った功績により処刑を免れたのは温情なのであろう。

軍人をやめた私は、神の名を広める神父になるべく教会に所属することとした。

 

あれは天啓であったのだろう、神の名を広めよと。

この歳になって新しいことを始めるのはいろいろと大変であるが、主の名を広めるためと考えれば不思議と力が湧き出るというもの。

今でも礼拝堂にて神への祈りを捧げていると、時折神の気配を感じることがある。

 

今思えばラインの悪魔と呼称される彼女はきっと、今の戦争を終わらすべく遣わされた平和の使徒であったのだろう。

 

「世に平穏のあらんことを」




小官とティアナ少尉はともかく―ハブられる傾向にあるセレブリャコーフ。

撃墜スコア20手前―戦闘時撃墜はあまりしていないためこの数字。敵基地でいっぱい死んで敵カウントでは30を超えネームド登録されている。

ターニャ参謀上司―意見が通れば現代知識チートで歴史を変えかねないと思われる。幼女戦記を敗戦物から改変するとしたらターニャを参謀入りさせるのが近道なんじゃないかな。

夕食の芋―適当に答えたらショーンズが手榴弾投げてきやがった。ターニャに被弾し幼女ニッコリ。

六千待機のティアナ―普通の演算宝珠なので六千待機、優秀なはずだが95式に影を薄くされた被害者。

一万二千待機の悪魔―おそらくその高度で行動することに特化したものと判断、護衛を除ければ碌に戦闘機動も出来ないはず、いけるやろ!という予想。まあ無理なんですけどね。

『幼き死神』『双翼の悪魔』―募集にて採用。ありがとうございました。もっといいのがあれば容赦なく付け替えるのでよしなに(無慈悲

「おにーさん、あそびましょ!」―恐怖を煽るため敵兵には無邪気な子供を装っている。作者の趣味ではない。作者の趣味では、ない。

トドメの空間爆撃―「ターニャ、そろそろ疲れた」「(95式を使うのは出来るだけ避けたいのだが、仕方あるまい。墜ちてくれても困る)...わかった」祈り中に全速離脱。

「世に平穏のあらんことを」―最後のくだり要らないかなーと思ったけどこのセリフを入力した瞬間に消せなくなった。世に平穏のあらんことを(フロム脳

作者の趣味―ロリババア。


書き終わり一晩寝かしての投稿です。
プレビュー見直しながら編集中、しっかり寝落ちして一晩寝かせました。
今後も一週間一話投稿は続けたいですが、ギルティギアレブ2出ちゃったからな。ギルおじ滅したい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9話 帝都の休日

遅くなりました。
あとなんかもう、書き方忘れました。


前線で戦う者誰しもが羨み、そこに行くことを一度は望む場所はどこだろう?

そう、ここ安全な後方こと帝都である。

 

さわやかな目覚め、そこに血の匂いも砲撃音も聞こえない。

朝食、冷たいレーションや無駄に硬すぎるKパンなどではなく、しっかりと火で調理された真っ当な物。

食後のコーヒーは代用コーヒーではなく勿論泥水でもない。芳醇な香りのするちゃんと惹いたコーヒー。

 

ああ、穏やかなる日よ、永遠であれと戦争を経験した身からすると切に願わずにいられない。

 

尊き平和を守るため、私は今日も武器を取る。

 

 

今持つに相応しき我が武器、ペンを片手に陣形のお勉強、法律のお勉強、実戦シミュレーション。

前世で隠れミリオタやっていたターニャと違い、こちらは完全に知識不足により四苦八苦。

正直わからん。

 

昨日もターニャに泣きつきなかなか良いお値段のするコーヒー豆と引き換えに座学を教えてもらい、なんとか優等生の地位に齧りついている。

もはや知識を語りたいだけの絶好調のオタク化したターニャに時折付き合わされ、時折私の目に映るお日様は黄色くなりますが、私は元気です。

 

お久しぶりです皆様、ティアナ・リースフェルト少尉、軍大学一年生です。

 

 

軍大学というところは、誰しもが入れるわけではない。

情報部によって身の回りに不審な関係が無いか調査され、前線での声を聴き、現役の参謀や教導隊に議論され精査されて、ようやく軍大学に入ることが認められる。

 

ちなみにその大学入学審査というものは複数回行われ、私は二次審査合格とのこと。

別にそこに不満は無い、むしろ私のような齢11の子供を一次審査で合格させない正常な判断を評価すべきだろう。

 

 

軍大学の存在理由というのは、将来帝国軍を担う人材の育成となる。

人材育成に力を入れてきたからこそ、今の精強なる帝国が出来たため、その教育は高い水準を誇っている。

 

ターニャほどではないにしろ、喜ぶべきことなのだろう。

なにせ軍大学に入学したということは、エリート街道を歩み出したと明確に認識できる一歩なのだから。

 

未来への道が明確に見えないというものは心にじわじわと負担を掛けていく。

それが戦争中という暗い未来が見えるものであったのなら負荷は倍増、私より明確に帝国の未来を想像しうるターニャだったならば、負荷もまた大きかったのだろう。

軍大学入学の指令を受けとり部屋に戻った時の喜ぶ様は本当に珍しかった。

 

珍しすぎてつい一緒になって喜んでやってさりげないスキンシップという名のセクハラをしたが、今は後悔している。

 

 

さて、ところで皆様は勉学の話はお好きかな?

正直に言えば私はあまり好きではない。

自己投資としての勉学は確かに必要だろう、底辺の暮らしもしくは才能に任せてのごり押し人生で生きていけるのならば必要ないと切り捨ててもらって結構。

必要性を判断基準として生きているものとすればそれは己が考える有意義な人生にとって必須が故に励むのだが、好き嫌いの話をするのならば好きではない。

 

故に、休日の話をしよう。

 

休日は良い。

誰しもがこれには同意するはずだ。

同意できない者は休日にすることを見つけられない怠惰なる者、そもそも同意なぞ求めてはいないため返答は結構。

 

私は前世では複数の趣味を持っていた。

音楽に興じ、バイクで各地を観光し、ゲーセンに通い、読書に耽る。

 

しかしながら今の世の中その最もたる趣味、音楽は未発達なのだ。

エレキギターの原型は近代にはあるものの、主流の音楽は今でいうクラシック音楽。

それも悪くは無いのだが私が聞きたいのはロックであり、私が演奏したいのはロック。

 

それが聞けないことを大いに嘆いたものだが、嘆いていても現状は変わらない。

故に現状を打破するべく今日も技術棟へ通う。

 

望む機材が無いのならば作ってしまえと切り替え、機材のパーツを探し求めた先は帝国技術棟。

今の最新技術が詰まっているところならば望むパーツがあるやもしれぬ、無いのならば技術屋をそそのかし作らせるのみ。

 

技術屋というものは未知の技術があればそれに飛びつき研究し実験したがる生き物がほとんど、私の持つ知識はまさしく未知、誘導することは容易い。

 

「おお、そこにおるのはティアナ殿ではないか!」

 

「げっ、シューゲル主任技師」

 

特にマッドなサイエンティストというものを乗せることは実に容易い、問題は思うように誘導されず爆走し事故ることだ。

その爆速爆走し爆発する筆頭マッドサイエンティスト、アーデルハイト・フォン・シューゲルと縁を結べたことは果たして幸か不幸か。

 

第一声からしてよろしくない声を上げたのだが、マッドは気にせずズカズカとこちらに距離を詰めてくる。

こっちくんなという心の声は届かない。

 

「今日はどうされたのかね、またパーツ探しかね?それともこの前のような試作品を持ってきているのかね?」

 

「いえ、シューゲル殿はお気になさらずお仕事にお戻りください」

 

「以前の試作品と設計図には今までにない着想を得てな、あの増幅回路は実に良かった。着想を元に新兵器を試作したのだがどうだね!見ていくかね!」

 

以前私が作ったエフェクターとその設計図を手に技術棟に向かった時のことだ。

私の持つ知識を元に試作のエフェクターとその設計図を持ち、まずはこれをエサにコネクションを繋げようと技術棟に向かった。

軍人が技術棟に赴くのは珍しいが、無いことでは無いため普通に棟に入り、そこいらの技術屋を捕まえエサを見せびらかた。

まずは客を集め、勝手に一室を借り付けプレゼンをしている時。このクソマッドは設計図とエフェクターを勝手にバラし始めやがったのだ。

 

設計図と見比べればパーツの関係もあり完成度が低いのは自覚しているが、伝手が無い中頑張って作ったものを許可無くばらされれば誰だって怒る。無論私は怒った。

しかしながら常識や倫理観など当然のように喪失しているこのマッド、言うだけ無駄。渋々諦めて渋々質問に答えた。

他の技術屋からも彼は忌避されているのか遠巻きに試作品について議論しているのみだった。

その一件から、シューゲル技師はこちらに対する好感度が高い。

 

個人的にこのシューゲルという人物は暑苦しくてウザいと思うものの嫌いではないのだ。

出歩けば普通の人などどこにでもいて見飽きているが、こういう突飛な人物は有害である可能性が高いもののその人格は希少。

一言で言えば、見ている限りは実に面白い。

 

だがしかし、今軍大学で被っている仮面というのは常識人の仮面。

常識を語るなぞ詰まらなくて仕方ないのだが、軍大学ではそれが最適なのだからしょうがない。

 

「見ていきません、それよりもシューゲル技師、以前お話しした集積回路の進行はどうです?」

 

「うむ、正直に言うと難航しているな。しかしティアナ殿はどこであのような知識を?」

 

「...いえ、回路が集まっていたら便利だろうと思いついただけですよ」

 

現世で当たり前に使われていた集積回路、いわゆるICチップ。

クレジットカードやメモリーカードに使われているものと言えば想像しやすいか。

現代で当たり前のように使われていたものだが、これも今の時代には存在しえない物だったため、技術棟に制作依頼を出している。

機材的に言えばオペアンプというものになる。効果、音が変わる。

 

「しかしそれが難航しているとなると、私の夢は未だ遠いようですな」

 

「これこれ、そう未来を悲観するでない。神は乗り越えられる試練しか与えないのだぞ?神を信じ目標に邁進するのだティアナ少尉」

 

自身の耳と脳味噌に掛けている毒電波フィルターにより不要なナニカを排除すれば、珍しくこちらを励ますような言葉。

このシューゲルという男は哀れにも存在Xの毒電波によって信仰心を植え付けられた被害者なのだ。

恐らくは帝国のトップに位置する高い技術力、奇特な人格、自分の趣味的な開発に協力的な姿勢。

好きな部類かと言われれば素直に頷けはしないが、嫌いな人物ではないのだ。

ただ嫌いな部分が無いかと言われれば、存在Xによる汚染を受けているというところか。

 

「まあ進行具合が聞けたのなら何より、今日は退散しておきます」

 

「うむ、是非試作品を見てもらいたかったのだがな」

 

子供の様に残念がるシューゲル技師にすみません、とさして心の籠っていない謝罪をして技術棟を去った。

開発の進み具合を聞ければこの技術棟に用は無い。

 

 

 

 

 

今日は技術棟を出たのだが、普段であればこのマッドと会話し奇天烈な発言を愉しむこともある。

しかしながら今日はまずいのだ。

 

軍大学では変わった人格によって幼女と侮られずに不足を補うということを行わず、極めて真っ当な人格を有していると周りにアピールする必要性が現れたのだ。

一癖も二癖もある上司など、面倒くさくて仕方がないだろう?

シューゲルという帝国筆頭マッドと和やかに会話する姿を見て、果たして周りはどう思うだろうか。

マッドとお仲間と認定されるのは多くの場合マイナス評価になりかねない。

それを見られるわけにはいかない。

 

 

技術棟から出た私はフラフラと市場を物色しながら今日の予定を考える。

本来は技術棟で一日を過ごすつもりだったのだが、シューゲルと接触した場合、高確率でこいつに引っ張りまわされる。

ちゃんと話を聞く人間というのは彼にとって珍しいのだろうな。

 

だが今日は私が宿舎を出た時から一人、後を付けてくる輩が少なくとも一人いるのだ。

そこいらの服屋に入り適当に服を見繕い個室に入る。

 

私の予想では今日尾行してきた輩はおそらくは情報部の調査員なのだろう。

このような幼子が軍人として今後やっていけるかどうか、普通はまあやっていけないだろう。当たり前の話だ。

しかしながらこうして私とターニャは軍の上に食い込む有益な人材となっている。それが本当に大丈夫か調査する必要性は十二分にあるため、今日こうして私を尾行し調査しているのだろう。

 

着替えた服に隠しナイフや演算宝珠を仕込み、全体のコーディネートを整える。

ふむ、雰囲気を変えるためと装備を扱いやすい服装にするためややボーイッシュなファッションとなったが、やはり私は可愛いな。

 

「すみませーん、会計をお願いします」

 

店を出ると外に待機していた尾行犯と思われる者は案の定着いてきた。

露店などで買い食いしながら帝都の地図を思い浮かべ、釣りに最適なポイントを思い浮かべる。

 

会話をするもの、露店で売買するもの、ラジオを聴くもの、

流石に人が多いと情報量が増し、尾行犯がどれだかわからなくなる。

どうやら尾行犯はなかなかに腕が良いようだ、これは諜報員とみて間違いはないだろう。

 

しばらく歩き人通りの少ない道から路地に入っていき足を速める。

数度路地を曲がり人の来ないであろう細い路地に入ったところで事を仕掛ける。

 

強く地面を蹴りつけ、パルクールの要領で壁を登り、二階ほどの高さで待機。

ほとんど足音のしない尾行犯だが、全認識はその小さな足音を拾いおおよその場所を暴き出す。

上から観察していると、帽子を被った者が小さな鏡で路地を確認し、用心深く進んでいる。

その息遣いからして緊張状態にあるのだろうが、まさか対象がその上から観察しているなど思うまい。

 

「ごきげんよう、お兄さん」

 

壁から手を放し、位置エネルギーを用いて上から押し潰し拘束。

相手の上に乗りながら挨拶など淑女のやることではないが、安心してほしい、私は淑女ではない。

 

「本日のご用件は?場合によってはアレしてコレしてチョメチョメしちゃうぞ?」

 

ナイフをちらつかせオハナシを開始する。

一応ある程度の予測は立てているが、もしかしたら他国の諜報員という可能性も無くは無いのだ。

 

「お転婆さんだなぁ随分と、とりあえずこの物騒な物を仕舞ってくれない?」

 

「チョメチョメしちゃうぞ?」

 

「待った待った!落ち着いて、質問には答える」

 

ナイフを近づけ害意を見せると男は慌てたように落ち着けと言葉を重ねる。

後の印象を考えると、相手の正体のわかっていないこの段階で過激なことを行うのはリスクがあるため出来ないが、威圧することには何の問題も無い。

 

「俺については、お嬢ちゃんなら想像がついてるんじゃないか?」

 

「まあ、多少は」

 

「なら放してくれねえかな、荒事は専門外なんだ」

 

そうは言うものの、この男は今のところ何一つを明言していない。

相手に思考を誘導し、自分の持つ情報を何も明かさずに勝手に相手に勘違いさせる。諜報員の嗜みだろうか。

 

「いや、明言していただかねば拘束は解けませんよ。それと証拠もお願いします」

 

「用心深いな、悪くないぜ」

 

ぼったくれないから好きでもないけどな、と嘯く男は背広の裏側にあるインカムを漁らせ、私はそれで情報部と連絡を取った。

帝国のダミー暗号やら照合で確認を取り、ようやく男の拘束を解く。

なにやら情報部から色よい返答を期待するなどと言われたが、厄介事の気配がした。

このまま何も聞かず帰ってよいだろうか。

 

「見つかっちまったが、今日の仕事はティアナ・リースフェルトの素行調査と、勧誘だ」

 

「勧誘?」

 

素行調査は予想していた、だが勧誘とはいったい。

ますます厄介事の匂いが増してきたぞ。

 

「演技、尾行への察知力と対応力、変装もちゃんとやればいけそうだな、何よりその年齢は武器になる。ちっとばかしそのお顔は綺麗すぎるがな」

 

情報部が言っていたことはこれか。

諜報員、所謂スパイ。

情報工作をする上での手足となる人員。

とはいえスパイの仕事なぞ前世で映画を見た程度、情報不足が否めない。

仕事内容を確認せずに転属はあまり望ましいことではなく、事前情報は多いに越したことはない。

 

「勧誘を受けた場合の私の仕事内容とは?」

 

「基本的には以前と変わりなく軍務についてもらうが、潜入、隠蔽、暗殺が特務として入る。言っちゃなんだが、なかなかハードな役割を求められているな」

 

「どうやら情報部は私を相当評価されているようで」

 

ブラック業務というか、闇だな。厨二病患者大喜びの暗部ではないか、大喜べない。

 

「評価していただきありがたい限りですが、今回の件はお断り...」

 

「ちなみにだ、今日の調査なんだがな、ティアナ・リースフェルト少尉に多重人格の疑いが出てる。今回はその調査も含まれている」

 

言葉を被せるように言い放つ男の言葉は、それはもう悪辣なものだった。

軍大学再選考審議会という場にて、私は二次選考に拾われ大学へ入学することとなったのだが、一次選考に落ちた原因の大きなものとして、精神異常持ちと判断されたことによる。

多重人格という精神異常をきたしている者が上官になることなど無い、その疑いを否定したのは情報部であった。

私の仮面を見抜き、情報部の押しがあったためこうして帝都でぬくぬくとしていられることになる。

 

そしてその情報をこちらに話すということは、つまりこの男はこう言っているのだ。

 

情報部に入るか、精神異常有りと報告され前線に戻るか。好きな方を選べと。

 

私の素直な心の声を言おう。

くたばれ。

 

長い、長い溜息を吐き、私は情報部に入ることとなった。

 

 

 

 

 

「聞けティアナ!参謀入りだ!私は参謀に、後方に入るぞー!」

 

「どうしたよターニャ」

 

「ああ、大学図書室で参謀のトップにいきなりだがプレゼンすることになったんだがな、あの反応は大成功と言っていいはずだ、私の参謀入りは間違いないはずだ!」

 

部屋に帰ってくると完全に浮かれハイテンションのターニャがいた、こういった姿を見るのはいつ振りだろうか。

可愛い子供がはしゃいでいる姿は私の精神に癒しを与えるが、そうやってはしゃいだ姿を見るのは前世で大手企業という名のブラックに入るまえのこと。

 

多分ダメなんだろうなー、と愉悦しメンタル回復の一手を担った。

 

「まあ古い友人のよしみだ、私が上に立ったらお前を秘書として扱き使ってやらんこともない」

 

「ふっ、そりゃどーも」

 

ターニャのプレゼン内容を聞き、自分はきっとその大隊に入るのだろうことを予想し、苦難多き未来に思いを馳せ、私の休日は終えた。




うん、会議で9話するつもりだったけど折れちゃった。
諦めてこんな感じで書いてたけどなんか違うって書き直して迷走しちゃった。
あとストV始めちゃった(戦犯

例のごとくおまけは気力回復してから書きます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10話 温泉回

温泉回だよ!
うほっ!な温泉回ではない!何より私がそんなの書きたくなかったからな、安心したまえ!

とりあえず少しはクオリティ戻ったかな?(戦々恐々


我が心の祖国、日本に住まう日本人の魂と言われるものはいくつかある。

 

霊峰富士山、日本刀、調和の心。そのうちの一つは温泉と言える。

 

ここは帝国保養地として名高いマイネーンの温泉地。古来より湯治場として有名な温泉街、そのうちの一つに我らは大学の野外演習として来た次第であります。

戦場で柔らかいベッドで寝れるわけも無く、塹壕の中硬い土の上で泥のように眠るもまた戦場ではままあること、故に野外演習でもそれに倣い我ら演習組みは塹壕の中眠りにつくこととなります。

 

だがしかし、我が悪友ターニャと私ティアナは、軍関係施設にて宿泊を許されている。

帝国が魔導師を軍事利用する以前に存在していた女性士官は、皇族であり、それを前提に作成された軍規は名目的な軍務奉仕を想定したもの。

魔導師の希少性故に女性士官が増えた今でもその軍規は改正されていない。

 

いちいちそのような軍規を訂正するほど帝国軍人は暇ではないため、私たちは温かいベッドで眠ることができるのだ。

女性であることに感謝しかけたが、軍人となるしか選択肢を与えられなかった存在Xを思い出し、感謝の代わりに祈りを捧げることにした。

 

存在Xに災いあれ!

 

宿舎に到着した私たちは次の日の演習に備え、速やかなる就寝に付くのが道理。

 

しかしながら、私は模擬潜入作戦と称し、ここ付近の見取り図や見回り時間など、目標達成に必要な情報を演習一週間前に入手している。

これを提案した時、諜報教育官は面白がっていたが快く協力していただいたのでこちらには感謝。

 

早々に寝に入ったターニャを叩き起こし、潜入計画通りに見張りを擦り抜け、路地を走り抜け、番頭に賄賂を握らせ、ようやく我々のエデン、温泉へたどり着いた。

 

 

「はぁ~、極楽極楽」

 

「同意しよう、だが寄りかかってくるな、髪がうっとおしい」

 

肌のケアなど欠片も考えていないぞんざいな洗い方をして先に湯に浸かっていたターニャの隣に入り、弛緩していく体をターニャの肩に寄り掛からせるが即座に振り払われる。

風呂であれピシッと背筋を伸ばして入っているターニャは、いつも通り隙が無かった。

 

「どうよ今後は、まだ勝てるかい?」

 

「ああ、北方にいた主力部隊は西方に再配置が完了した。下手を撃たなければまだ負けることはないだろう」

 

趣味に使う時間は今の帝国軍人にはあまりない。

故に話は自然と仕事の話になる。

 

「西方はやや押し込まれはしたもののライン工業地帯は未だ無事だ、そこまで押し込まれていたのならば危うかったのだろうがな」

 

物資を生み出す工業地帯、それが落とされれば当然兵站は滞り飯や銃弾が不足する。

人は飯を食わねば生きられなく、兵は弾が無ければ生き残れない。

当初予定されていた北方から西方への再配置は大幅に遅れを見せていたためライン戦線の戦線死守には甚大な犠牲を払ったものの、よく持たせたものだと。

 

しかしそれでも、ターニャは勝てるとは言わなかった。

 

「そうか、じゃあ今後はどうなると思う?」

 

「恐らくはだが、即応部隊が設立されるだろう。プラン三一五は十分に機能しなかったが、その考え方は間違いではなかった。問題は規模が大きすぎたのだ」

 

参謀が企画したプラン三一五とは、各方面軍が戦線を維持しつつ、中央本隊の集中的な機動運用により敵を各個撃破せんとする戦略だ。

しかしながらその中央本隊の規模は大きく、わかりやすく言えば力は強いが足が遅いのだ。

ターニャの言う即応部隊とは、先日ターニャがセートゥーア准将に企画した即応魔導大隊のことだろう。

 

大隊規模ならば兵站への負荷も少なく、機動力もあり、一定の火力も有している。

人を鉄道やらで運ぶ。たったそれだけの行為で航空機のような機動力をもって戦車や火砲規模の火力を叩きだし、消費する武装は歩兵並。

 

私もその魔導師の一人なのだが、なんとも出鱈目な人種だ。

 

「そこは随分とブラックな部隊になりそうだな」

 

「ああ、恐らくどこの戦場にも引っ張りダコの部隊になるだろうさ」

 

はっはっはー。俺の予想では隊長はあんたなんですがね。

 

「それにしてもティアナ、最近また隈が出てきたみたいだが、また趣味に没頭して睡眠とおさらばしているのか?」

 

そう、帝都に来てからは規則正しい生活が出来ていたのだが、この前情報部に入ってからはまた睡眠時間が削られたのである。

勧誘に来ていた男が諜報部の指導員としてビシバシとスパイ指導、その時間帯は真夜中から朝にかけて行われる。

三徹までなら行動に支障はないと調べられているのか、足音の消し方、雑踏への紛れ方、情報隠ぺいに拷問方法、スパイに必要な技能を容赦なく叩きこまれている。

 

苦笑いしながら趣味と偽り誤魔化しておく。

仕事に関してターニャが口が堅いことは十も承知だが、言ってはならないことを黙っているのは社会人以前に人としての常識だ。

 

「うー、癒しが無いんだよー」

 

「馬鹿、離れろ気色悪い!」

 

誤魔化しがてらターニャに抱き着く。

男同士であったのならば気色悪い限りだが、今目の前にいるのは金髪美少女、もとい美幼女。

若干筋肉質とはいえ数年ぶりの女体、本音を言うのならばセレブリャコーフのような成長した女性に抱き着きたい限りだが、お子様ボディというのもこの際悪くないとしよう。

なにより、若さというものは一つの正義であるし。

 

見た目バシャバシャと子供のように風呂ではしゃいでいるが、抵抗するターニャと私はもはや格闘戦の域にまでその悶着は行われ、いつも通りターニャの鉄拳により収束し、私たちは仲良くのぼせた。

 

「で、帰りはどうするのだ」

 

「えーっと、うん、まあ、頑張るのさ」

 

「おい、忘れたのかおい!」

 

 

 

 

 

さて、本題だ。

昨晩はマイネーンの温泉を堪能したわけだが、今回私達は温泉旅行に来たわけではない。

戦時下において有能な参謀はいくらいても良い。しかして、有能な参謀とはどのような存在か。

 

常に冷静であり、優れた洞察力と判断力を持ち合わせ、極限状態にあっても合理的判断を下せる存在といったところか?

今回はその極限状態を生み出すべく、塹壕の中雑魚寝を強い、起床後には過酷なハイキングが予定されている。

 

「白湯です、どうぞ。お疲れでしょう」

 

私達も本来ならば劣悪な寝床とも言えぬ塹壕内の固い土の上で寝ているのが筋だったのだが、私達は制度を利用し柔らかいベッドで快適な睡眠を取った。

そのことを恨む小さな人間は居ないとは思うが、私とてその心を全て覗けるわけではない。

故にこうしてターニャと共に白湯運びを行いヘイト管理に勤しんでいる。

 

「感謝するリースフェルト中尉、あぁ、体に染み渡る」

 

「いえいえ、今日も頑張りましょう!」

 

グッと両の握りこぶしを目の前で固め可愛いポーズ。

握りこんだ拳からはなにやら血の匂いが漂うが、知らなければ子供の小さな手。この姿を是非とも侮り可愛がり腑抜けるがいい。

 

頭をグリグリと撫でられつつちらりと周りを覗ったところ、私たちが宿舎に泊まったことによる悪感情は、見たところあまり無さそうだ。

若干そういうものとは違う嫉妬の視線も感じるが、これは校内でも感じるもの、無視で良いだろう。

 

解消できる悪感情は出来るだけ解消するのだが、優秀な者を妬む輩は正直どうしようもないのだ。

そういう奴らを懐柔する労力はリターンが釣り合うことはほぼ無い。何せ自身の無能さが故の感情。

そして何より懐柔する旨みが碌にないため無視するに限る。

 

いずれ上の階級に属する同期達に媚を売り、定時にて楽しい楽しいハイキングが始まった。

 

 

通常軍事訓練は、当たり前のことだが幼子が行うことは想定していない。

故に消耗の一手を担う完全装備は規定通りの重さとなっており、私達には少々荷が重い。文字通りに。

しかし一番辛いのはターニャであろう。

私はもはやお得意となった肉体強化の術式にて負荷を軽減しているが、これは医療術式に精通しているからこその芸当であってターニャには扱えないものだ。

 

ぜーはーと非常に消耗している姿を晒している目の前のターニャは、それでも挫けることなく懸命に足を動かす。その後ろでサクサクと足を動かす私の姿は、体力お化けと勘違いされないだろうか?

術式でカバーしているが、私とて疲れてはいるのだ。また温泉に入れる隙間が発生すれば再度抜け出す元気はあるが、確かに疲れているのだ。

ホントウダヨ?

 

 

「ヴィクトール、丘陵に敵の防衛火点を構築したとする。貴様は大隊を速やかに前進せねばならない」

 

参謀教育というものは実に容赦がない。

登山にて疲弊した士官達に戦闘指揮を想定した指揮を質疑する。

間違えれば罵声が飛び、正解すれば難易度を上げた難問が飛んでくる。

 

普段と異なり、劣悪なコンディションに対応することが出来なかったヴィクトールをどやしつけると、教官殿は矛先をターニャに切り替えた。

しかしながらターニャは実に的確に正解と思われる回答を行う。

 

比較的まともとはいえ元ブラック社員、劣悪な労働環境は既に経験済み。まさしく人生経験が違うと言わせてもらおう。

 

 

「ではリースフェルト、今より訓示を行え」

 

「はっ!了解であります!」

 

前線指揮官は作戦前に訓示を行うことが多々ある。

そしてそれは緊急時など事前に用意する時間も無く、その場のアドリブ本番一発勝負が基本となる。

 

「教官、作戦概要はどのようなものでしょうか」

 

いきなり訓示を行えと言われましても、何に対してか知らねば何とも言えぬ。

参謀教育からして、作戦行動前を想定しているのであろうが、その内容があれば今までの経験からしてアドリブでも出来ないことは無いだろう。

 

「作戦目標は防衛火点の攻略。そうだな、先ほどの魔導師と歩兵による散兵戦術としよう」

 

「了解しました、では失礼して」

 

先ほどターニャが答えた散兵戦術とは、簡単に言ってしまえば魔導師が上から襲撃を掛け、歩兵が下から砲撃によって纏まって吹き飛ばされぬよう散らばりつつ攻めるというもの。

しかし魔導師による防衛地点への圧が弱ければ、歩兵は各個撃破の的となり、歩兵がしっかり目標地点まで上がって来れねば魔導師はただの嫌がらせとしかなりえない。

 

訓示では各役割の仕事を伝達し、注意し、鼓舞する。

なかなかの頭脳労働である。

 

「えー、諸君!我々はこれより敵防衛火点に襲撃を掛ける!」

 

「敵火点にて当然迎撃があるだろうが、そちらは魔導師が引き付ける。歩兵は散らばって進むだけの簡単なお仕事だ」

 

まずは目標と戦術の説明、効率的な行動を行うには自分がこれから何を行うのか明確な指針があってこそ。

効率化を望むのならばこれを怠ることはならない。

 

「さて魔導師諸君、敵はわざわざこのような温泉街まで来た団体旅行客、帝国民としては是非とも歓迎してやりたい」

 

「しかしながら彼らはどうやら山岳にてまごついているご様子。諸君らの仕事は彼らに歓迎の意を示すことだ」

 

「銃撃をもって、爆撃をもって、砲撃をもって、擲弾をもって、是非とも彼らを歓迎しようではないか!」

 

簡単だが事態の説明を終えると、次は士気上げのお時間。

戦場ならば適度に下品な表現を用いるのだが、ここは授業の場。士気上げは必要なプロセスと思っているのだが、ユーモアに対しての評価は果たしてされるのだろうか?

教官は確か戦場を経験なされていたはず、恐らく理解は得れるはず。評価が付くかはやはり別問題だが。

 

「ヴィクトール、貴官ならばどう歓迎する?」

 

「はっ、歓迎でありますか?」

 

ヴィクトールに振る意味は特にない。

だが奴が上手く答えればそれに乗っかり、外せば私が今行っている訓示などへの評価は下がる可能性はある。たとえ後で文句を言われても、最初教官の問いに対するミスの挽回の機会を与えたのだとでも言えばよい。

しかし個人的には間違ってくれれば私は嬉しい、軍大学にまで入りエリートコースにまで乗った奴が落ちていくさまは、なかなかの見物なのだ。

 

「そうですね、わざわざ温泉地にまでお越しくださったのです、熱湯をぶちまけて歓迎いたしましょう」

 

「ヴィクトール、貴官の歓迎方法だとこの高地ではあっという間に湯冷めしてしまうぞ?」

 

歓迎方法としては論外だが、この高地での嫌がらせとしては実際なかなかの効果を上げるのでは?まあそんな手間よりも銃弾をプレゼントするほうが断然早いのだが。

 

「しかし熱を持って温泉気分を味わわせるというアイデアは良いものだ」

 

「熱をもって奴らを歓迎しよう、彼らにちんけな花火だと笑われぬよう盛大なる熱を浴びせてやろう!」

 

「では諸君、仕事に掛かろう」

 

 

評価はぼちぼちだった。

 

一対一ならばともかく不特定多数の感情を纏めて上げるのは正直得意じゃないし、そもそもノウハウが無いんだ。

日本は外国のようにスピーチの授業など無い、会社で行われるプレゼンも感情を排した効率重視。

ノウハウが積める経験が無かったことが敗因だろう。

 

しかしターニャにまでユーモアが足りないと言われるとは、屈辱だ。




温泉回―神(読者)がそれを望まれる。

「うー」―どう抱き着くか面倒臭くゲフンゲフンッ

グッ!―散々敵兵の腹ぶち抜いた拳で可愛いポーズ!

妬み―まあ発生するよねそういうの。こいつらでイベント発生させれるけど、どうしようか(予定なし

疲れ―医療術式でどうとでもなる模様。

訓示評価 ぼちぼち―作者の限界...コフッ!(吐血


執筆ペースは只今失速中でございます、申し訳ありません。
初期衝動を思い出すべく原作を読み返し努力はしております。
いえ、決してゲームにうつつを抜かしてなどはッ―――。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11話 異動辞令

遅くなりました。


「嫌だ、拒否する、断固として拒否する!」

 

「命令だ、諦めろ」

 

「いーやーだー!」

 

自らのベットの上で幼子のように腕を振りまわし駄々をこねる中年男性の需要というものは、限りなく零に近い。

零でないことに人類の業を感じざるを得ないのだが、それは精神的な物であって、実際には駄々っ子をするのに相応しい幼女が一人。

そう、職業軍人であり、大学生であり、転生者ということを除けば何もおかしなことは無かった。

 

事の始まりは、ここ最近では珍しくげっそりしたターニャが、人事部の書類片手に帰ってきたことにあった。

 

参謀本部にお呼ばれされたターニャを笑顔でお見送りし、私は自室でお勉強。

軍大学の教育は戦時下ということもあり、不要を削りより実践的な教育課程にシフトされている。

教育に費やす期間は短縮され、しかして必要な知識は教育期間が長かった時期と変わらず膨大。

前世という優位性を存分に活かせているターニャと違いこちらはそういった知識が無い故に、周りに置いて行かれぬよう必死に勉学に励まなくてはならないのだ。

 

決して趣味に入れ込み過ぎてその不足を補っているわけではない。

 

 

ターニャをお見送りしてから夜までぶっ続けで机に齧りついていたのだが、流石に集中力が切れコーヒー片手に休憩を取ろうと机から離れた時、参謀本部へ行っていたターニャが帰ってきた。

そしてただいまを言う事も無く自身が抱えていた書類の一つを押し付けるように差し出し、淹れたてのコーヒーを強奪していった。

 

ターニャの表情から嫌なものを感じるが、ちらりと書類に見える文字列は参謀本部通達というお上からのもの。

出来るならば即座に燃やし尽くし勉学の疲れを癒すべくお外で煙草でも吹かしたいところだが、その選択肢の先に待っているのは最前線ルート一直線。

 

嫌々ながら書類を読むと、航空魔導大隊構想の概要と、その大隊の補佐に付けという辞令であった。

ohナンテコッタイ、どちらにせよ最前線じゃないかF〇CK!

 

その後思わず幼児退行してしまった私をターニャが気色悪そうに見ている。

しかしながら鉄拳を持って精神の安定を強制しないあたり、この気持ちはわからなくもないのだろう。

何せ補佐する魔導大隊の大隊長こそ、目の前で蔑んだ目線で私を見るターニャ・デグレチャフその人なのだから。

 

「コーヒーでも飲んでそろそろ落ち着け」

 

「うん、ありがとう」

 

自身がおかわりするついでに入れてくれたコーヒーにミルクと砂糖を投入する。

彼にコーヒー党に染められて随分経つが、未だにブラックを美味しく飲めない。この体になってからは全くだ。

 

「煙草火着けていい?」

 

「ダメだ、部屋で吸うな外で吸え」

 

「言ってみただけだよ」

 

いつかのように火のついてない煙草を咥え、書類片手にお仕事の話を始める。

 

「まずはこの即応魔導師大隊構想とは?以前言っていた大隊ということでいいのか?」

 

「ああ、内容自体は変わっていないが、規模は新編の増強大隊となった」

 

通常魔導師は四人で小隊、十二人で中隊、三十六人で大隊となる。

そしてそこに中隊分を追加した四十八人は増強大隊と区分され、その増強大隊は主に特殊な任に就くことが多いとされる。

新しい部隊の規模としては十分な数が揃えられており、期待のほどが覗えよう。

 

しかしながら問題が無いわけではなく、一つ挙げるのならば新たな大隊は新編ということ。

あらかじめ組み終わっている大隊を引き抜くことが出来たのならば、ある程度の訓練でもって増強大隊に編成しなおすことにそう時間はかからないだろう。

だが新編、新しく隊を組みなおすとなれば、人の選別、入隊訓練、そして大隊として動くための訓練、その部隊を始動させるまでには膨大な時間を費やすこととなる。

 

いや、そこで時間を掛ければ前線に送られるまでの時間を稼げる、ターニャはそういうつもりなのだろうか。

 

「新編とは言うが、どこから引っ張ってくるつもりだ?」

 

「西方北方以外からだ、流石に精鋭を前線から引っこ抜いてしまうわけにもいくまい」

 

「だろうな」

 

「そもそもとしてだ、私は大隊を率いるつもりなど無い」

 

うん?先ほど命令だの一言で冷徹に拒否を拒否したお方の言葉とは思えないな。

基本的に業務命令を順守するターニャには珍しいターニャの抵抗の意、解釈により回りくどく命令に背くということではなく明確に背くことは本当に珍しい。

 

「まず求人広告を徹底的にブラックにする、過酷な労働環境の中碌に報酬も約束されていない部隊なぞ誰も好んで来るまい」

 

労働には正当な対価を、戦場では労働基準法なぞポイされているが、わざわざブラックな部隊の求人応募に来るやつなど碌にいないだろう。

 

要するにだ、新しい部隊に対する意気込みは十分であります。しかしながら、非常に残念なことですが、元手となる人員は集まらず、集まった人材は能力不足。

誠に遺憾でありますが、この企画はボツとなりますというプランだろうか?

 

意図を把握し、互いにニヤリと。

ターニャと共に案を出し合い、程よく厨二文章を織り交ぜ痛々しさを醸し出し出来上がった草案は、それは見事な物となった。

 

『帝国軍参謀本部 戦務課通達』

 

『常に彼を導き 常に彼を見捨てず 常に道なき道を往き 常に屈さず 常に戦場にある』

 

『全ては勝利の為に』

 

敢闘精神の無いものはここで落とす、一応やる気のあるやつを募集している文章ということでこの後の文面に対する文句は抑える手筈。

 

『求む魔導師』

 

『至難の戦場 わずかな報酬』

 

『剣林弾雨の暗い日々 耐えざる危険 生還の保証なし』

 

『生還の暁には名誉と称賛を得る』

 

『参謀本部第六○一編成委員会』

 

「「これはひどい」」

 

悪ノリ以外の何物でもない草案をゲラゲラと笑い合って、何事も無かったかのように次の話に移る。

 

「さて、これで志願する者は碌に居ないと信じたいものだが、人間の英雄願望というものは存外馬鹿に出来んぞ?」

 

「いやいや、流石にこれは来ないだろう」

 

「いや、一定数は確実に応募が来る。死を厭わぬ馬鹿もしくは戦争中毒のイカレ野郎、そして馬鹿」

 

幼き頃より教育を施され、一定の知能指数を得たはずの日本人でさえ確実に馬鹿が沸く。

消費を目的とする人材であるなら一応使用用途は無くは無いが、この大隊にそういった人員は不要。

そういった無能は書類で落とすにしてもだ、問題は有能なる厄介者達。

 

北方西方で派手にドンパチしている中、果たしてそれ以外の他国の進行に備える方面軍はどう思うのだろうか。

平和を思うべきが軍人の姿、しかし軍人だからこそ、戦場に恋い焦がれる部分がある。

各方面軍に必ず存在する戦場の狂気を嗅ぎ付ける戦争屋や、愛国心や英雄願望を元に集う者達、その多くは有能なのだ。

 

「そうだな。その場合はヘルウィークでもするか?いや、いっそのことあらゆる特殊部隊の訓練方法を取り入れるか」

 

ニヤニヤと自分の世界へ入り込むターニャを眺めコーヒーを口にする。

実に過酷なこの世界だが、ミリオタであるターニャにとってはある意味楽しい世界なのではとよく思う。

 

「高度順応訓練にヘルウィーク、これに耐えるものには一週間のSERE。そして最後に一週間の非魔力依存長距離行軍演習」

 

流石にこれらに耐える人材はおるまい。と実にイイ笑顔を浮かべるターニャ。

こいつの本性はやはりドSだと確信できる笑みだった。

 

「ところでターニャ、私は参謀本部から部隊の補佐としてこれから立ち回るわけだが、無論その訓練時私は補佐としての参加となるよな?」

 

ターニャ考案の特殊部隊訓練ごちゃまぜ地獄コースに参加したいかと言われれば、勿論NO一択だ。

しかしそんな内心を知るであろうターニャはほーう、と呟きニヤリと嗤う。

 

「あぁ、その心情はわかるとも我が友ティアナよ。嫌だろう、嫌だよなあ、私だって嫌だ。だがしかし我らは軍人、軍人とは規律を重んじるものだ。一人だけ特別扱いにしては規律というものは乱れる」

 

「おっとー随分と嬉しそうですね中尉殿ー?」

 

にやにやとした顔を張り付けながら、なおもターニャは嘯く。

 

「嬉しいものか、なにが悲しくて死人すら出かねない地獄のような訓練に長き付き合いをしてきた友をぶち込もうと思うのか。しかしな友よ、知っての通り我が国は只今戦争中なのだ。」

 

「戦争に生き残るのは難しい、これはティアナも知ってのことだろう。その戦争に生き残るための訓練なのだ、生き残って欲しいからこそ私は心を鬼に、心を鬼にして!私は友を長く苦しく辛く耐えがたき地獄のような訓練にぶち込もうと今心苦しくも決意を固めているのだ。わかってくれ、友よ」

 

身振り手振りを加え、私は悲しいといった迫真の表情を持って朗々と紡がれるその言葉は、私に「お前演劇部とか入ってたっけ?」という些細な思考を与えたのみであった。

 

「で、本音は?」

 

「お前が苦しむ様を久々に見たい」

 

「表に出ろクソドS、格の違いを教えてやろう」

 

私は激怒した。必ず、この性悪冷徹幼女を除かねばならぬと決意した。

自己鍛錬は大いに推奨されているが、訓練に使われる銃弾はタダではないため、主に格闘戦などお金のかからない鍛錬が推奨されている。

撃ち合いならばターニャに分があるだろう、しかしながら格闘戦なら私の方が圧倒的に強い。

 

「わかった落ち着けノーコン野郎。実際そうしてやりたいのはやまやまだがな、訓練中不慮の事故でもって私の評価が下がるのはよろしくない。そうした事態を防ぐため医療魔導師として補佐してもらうとするさ」

 

「知ってた、わかってるな我が友よ」

 

「治療に関しては死なない程度、後遺症が残らない程度で良いからな」

 

「あいよ大隊長殿」

 

実に忌々しそうに大隊長はやめろというターニャに笑い、夕飯の支度を始める。

ターニャと二人でルームシェアをしているが、こいつは碌に家事をしない。

そのため家事全般は基本的に私が担当している。

自室で世話を焼いていると、見た目からか本当に子どもの世話をしている気持ちになり、ターニャとの共同生活はそう悪いものでは無いと思わなくもない。

 

「リクエストは?いや、確か参謀本部で食べてきたんだっけ?」

 

「シュラハトプラット、私に美味いシュラハトプラットを食わせろ」

 

シュラハトプラット、ドイツの郷土料理だったか。

確かザワークラウトと豚肉やらウインナーを一緒に蒸すだけのお手軽料理だったと記憶しているが。

 

「ターニャあれ好きだったっけ?」

 

「ティアナ、良いことを教えてやろう。いいか、これは公然の秘密とはいえ口に出してはならない事実だ」

 

「はっ!留意致します!それで中尉殿、その秘密とは?」

 

塩漬けしてあった豚肉やら野菜を取り出し、料理の下ごしらえを行いながら適当に答える。

女にモテるために身に付けた料理スキルだが、やってみるとなかなか面白いもので、時折こいつを家に呼んで振る舞っていた。

 

「参謀本部の飯はまずい!」

 

知ってた、言伝に聞いた限り相当だと知ってた。

 

「不味かった!」

 

 

 

それほど手間のかからないシュラハトプラットを夕食に出すと、なかなかに満足気なターニャが見れた。

 

「ちなみに私は中尉ではなく大尉だ、昇進した」

 

「それはおめでとう」

 

嵐が来る、嵐のような忙しい日々がもうすぐ待ち受けていることを私は予感した。

しかしおいしくご飯を食べているターニャを眺めていると、それでもこれから頑張れる気がしていた。

 

「お父さん頑張るよ」

 

「だれが娘か」




駄々っ子ー幼子最終奥義。

蔑みターニャーやめろ!そんな目で私を見るなぁ!(ビクンビクンッ

ティアナの成績ー優秀なれども綺羅星達には及ばず。

大隊補佐官ー副官にするかは考え中、副官とする場合セレブリャコーフが犠牲となってしまうんだ...。

ターニャとティアナの戦力比ー遠距離ターニャ封殺、中距離ターニャ有利、近距離、ティアナ勝ち。ターニャの嫌なところって負けだとしても損害を発生させそうなところ。相手にしたくはない。

ランキング乗った作者が筆が止まった瞬間にメンヘラ発作するやつー!―私だ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12話 始まりの大隊 前編

まず最初に詫びを申し上げねばなりません。
前話の最後に秘密の任務を始めると入れたのですが、考えた結果その部分を削除し何事もなかったかのように今話に繋げさせていただきました。
期待していた方には大変申し訳ございません。

それでは、大変お待たせいたしました。
始まりの大隊編です。


軍人が行う訓練は、厳しい。

合理性を重視する軍という組織が訓練を厳しくするのには当然理由がある。

苦しい訓練で精神を鍛え、来るべき戦場で逃亡することなく、恐怖に打ち勝つ精神を、苦境を覆す奮戦を行うために、日ごろの訓練は厳しく成されているのだ。

当然厳しい訓練に耐え兼ね脱落する者も多くいるだろう、しかしながら訓練による選別が成されなければ脱落していたはずの者は命を失い、そのものが負っていた責務は味方に降り注ぐ。

 

私が無能を嫌う理由の一つだ。

 

訓練とは戦場のセオリーを学ぶこと。

セオリーとは、戦場での命の守り方でもある。

戦場での命の価値など、時に一発の銃弾より軽いものだ。その価値を大事に守れるのは自分自身であり、他の誰も守ってはくれない。誰も彼も自分という価値を守ることで忙しいのだ。

その価値の守り方、戦争という事象が行われている場合とても単純だ。

 

殺される前に殺せ。

 

兵は自身が守る価値のために日々訓練に励む。殺されないため殺す訓練に励む。

自身、家族、国、名誉。

価値を守るため励みたまえ、私たちは試練を与えよう。

なに、セオリーさえ守っていれば、少なくとも死にはしないさ。

 

 

 

「時間だ、始めるぞティアナ」

 

「りょーかい」

 

時は夜。

ターニャと共に帝国領アルペン山脈、ツークシュピッツェ演習場の宿舎上空に浮かび上がる。

先ほどまで高々度順応訓練を大隊志願兵と共に行っていたのだが、私たち二人は疲れも見せず地獄の訓練を開始するべく準備を行う。

 

より良い苦難を。などとほざくつもりは共に無い。

むしろ落ちるなら落ちろと思っている私たちは、教官失格なのだろう。

今回の訓練はターニャの初期のプラン、兵の練度不足により再編不可能悠々後方コースではなく、大量の志願書によりやむを得ず屈強な肉盾大隊プランに変更しており、この地獄の訓練を潜り抜けてこれるモノを望んでいる。

 

あのような応募書に大量の志願者がいること自体、時代がおかしいのかと目を覆いたくなるものだが、きっと存在Xの仕業に違いないそうに違いない。

 

「魔導砲撃用意、合わせろ」

 

「了解、いつでもどうぞ」

 

ッテェ!という甲高い声とともに発射されたのは威力が抑えられた模擬術式弾だが、当たり所が悪ければ当然死ぬ。

死なない程度とのことなので仮宿舎の廊下や人のいないであろう食堂などを滅多打ちにする。もしそこにいるのならばそれはもう死んでも仕方なかろう。

 

「おはよう諸君、爽やかな朝を迎えられて幸いだな」

 

壮絶な笑みを浮かべおはようのご挨拶に向かっているターニャの後ろで、目視による人員確認。

どうやら今しがた吹き飛ばされた宿舎の中で再度おやすみした者はいないらしく、今回は医療班という名のお飾りで楽ができるのではと多少期待する。

 

「さて、私は諸君らのために手ずから本演習のしおりを作成した」

 

私がしおりを配っている間にターニャが朗々と本演習の説明を行う。

しおり内の地図には三点のポイントが書き込まれており、開始時より第一ポイントに移動。

制限時間は四十八時間以内、悠長に休憩している時間など無く即座に行動せねば間に合わない位置にあった。

魔導師であればひとっ飛びで行ける距離ではあったが、しおりによれば魔力反応に対し観測射撃と魔道誘導砲撃を行うというもの。

一見非魔導行軍を促すものだが、決してその行為を否定するものではない。

 

精密極まりないターニャの狙撃を掻い潜り目標地点まで向かえる人材がいるのならば、それは歓迎すべきことである。

まあそれほど期待しているわけではないが。

 

各隊員はそれぞれに話し合い行動を開始した。

 

雪に埋もれた道無き道を行くのは体力的に厳しいものがあったが、冬の冷たい川を越え険しい山を登り、見事脱落者を出さず第一目標に到達した。

魔導反応を撒き散らし元気にぶっ飛んでいく元気な魔導師は居なかったようだが、どうやら根性はあるご様子。

ポイントに到達した彼らを笑顔で迎え、彼らが実に優秀だった場合のプランBを発動させる。

 

「諸君の有能さ故に、砲兵隊は弾を持て余らせているらしい」

 

砲兵の仕事とは、素早く弾を込め、目標地点に正確にぶっ放すことだ。

今回魔導反応が有り次第その地点にぶっ放し、その後も予測進路に向けぶっ放す予定の弾はなんとも盛大に余った。

砲兵の練度向上も兼ねることで今回砲兵隊を借り受けたのだが、一発も撃つことがなく返却というのは借り受けた言葉を違えるようでよろしくないのだ。

 

楽しく一緒に遊ぼうではないか、と魔力反応を盛大に撒き散らし、ターニャはデモンストレーションとして砲兵隊の定点砲撃をすべて撃ち落とす。一応自分という観測のバックアップがあるが、九五式を使うまでもなく、エレニウム工廠製九七式を用いた魔力誘導干渉術式でもって正確に撃ち落とした。

九五式は魔力演算機の四基同調でもって革新的な性能を叩き出しているが、今回隊に配られた演算宝珠は九五式の半分、二基の演算同調だ。

しかしそれでも既存の演算宝珠よりも遥かに高い性能を持ち合わせており、ターニャの持つ九五式と違い精神汚染も見られない。

ターニャは九七式にも精神汚染が成されると思っているようだが、神々が直接関与した九五式と違い、これは人が作り出した技術の結集物だ。

精神汚染に関しては九五式起動時の魔力に当てられるだけで意識が薄まるほど弱いらしい私の精神汚染耐性が何も反応を示さないため、きっと大丈夫だと思われる。

それにしても年々存在Xに対する耐性が薄まっているのはなんだろうか。

 

ターニャが隊員に与えた定点砲撃に対しての準備時間15分を過ぎ、時間通りに砲撃は開始された。

 

砲撃に使われている弾はほとんどは模擬弾だが、一部目覚まし用の実弾も混ざっており、それを見分け確実に撃ち落とすことにより損害を抑える手腕は見事なものであった。

たとえそれでなくとも一部が崩れればそれが連鎖し瞬く間に砲撃に対する迎撃網は崩れ、天に身を任せることになりかねないなか、訓練生達は一丸となり各役割を守り、誰一人落ちることなく36時間を無事に過ごした。

よくやるものだと素直に感心する。

36時間ぶっ続けて行われた砲撃は鳴りを潜め、安堵の空気が彼らの間に漂う。

 

「諸君、砲兵隊がまだ弾を余らせているという」

 

そこにターニャが絶望を装填した言弾をぶちかまし、この36時間で聞きなれた砲弾の飛翔音。

実戦経験からか素早く復帰したセレブリャコーフの迎撃に続くように再度迎撃を開始するが、一度緊張の糸を切られた後か、砲撃が終わる頃に人数は60人まで減っていた。

 

「怪我人や頭を打ったという者はここに来て診察を受け、脱落者もここへ集まるんだ。意識の無い者で重傷の者は動かさずすぐ知らせるように」

 

脱落者の治療、心理的なケアを設置された簡易診療所にて行うのが今回私に割り当てられた仕事だ。

砲撃を防御しきれず腕を折ったもの、着弾の衝撃で裂傷を負ったものから、砲撃に対する恐怖心への適度なケア。

心理的に弱っているため洗脳染みたケアはできなくもないが、戦場と砲撃は今の時代切っても切れない関係なため、完全に恐怖心を消し去るという処置は戦争中の今は行えない。

恐怖心は時に命を奪いもするが命を守りもする、必要なのは恐怖を抑えつけて動ける程度に恐怖心を取り払うことだ。

この場ではあまり有効な治療を行う時間が無いため演習終了後に回さざるを得ないが、恐怖を緩和させる手段を伝える程度はできる。

 

「リースフェルト中尉殿、すみませんが右腕が折れてしまい治療を頼みます」

 

「うん?貴官は脱落組とは違うだろう?添木でもして演習を続けたまえ」

 

脱落者の治療にあたっていると、未だ脱落者となっていない者が治療を受けに来る。

医療に携わる人の仮面としてはこの状態の者を放っておく気はないが、今は試験中のため脱落していない者に対しての治療は行えない。

 

「しかしこの怪我では今後の演習に差支えが」

 

「ならば脱落したまえ、貴様のような軟弱者は隊には不要だ」

 

一応観察術式で状態を見るも後遺症の残る折れ方ではなく、第二ポイントへの移動は問題なく行えると判断。

脱落者の仲間入りしたいのなら治療を受けられると説明すると、渋々といった顔でこの場から離れ演習に戻っていく。

私の予想ではたとえ怪我をしていなくとも彼は脱落だろう。もっとも、最終的な合否を判断するターニャの視点から考えるに、まだ任務継続可能であるのに引こうとする彼は彼女の望む人材ではないため不合格だろうが。

 

「ではこれより第二ポイントへ移動してもらう」

 

私が仕事に当たっている間に、ターニャと訓練生達はさっさと次の目標地点に移動する。

 

「過酷なものでしたな、いったいこの後の演習では何が待ち受けているか考えると、恥ずかしながら安堵している自分がいます」

 

「安堵したまえ、この後にはドーベルマンや急降下爆撃機が放たれてるなか行軍し、第二ポイントで対尋問訓練後アルペン山脈の登山コースだ」

 

「それは、なんとも」

 

絶句し青い顔になる脱落者、彼が想定していたであろう困難を軽く超える演習コースは、この時点で落ちてある意味幸運であったのだろう。

 

「言ってはなんだが、正直戦場で戦争している方がまだ楽だろうな、もっともこちらは命を失う危機は少ないわけだが」

 

「戦場帰りの貴官がそこまでいうとは」

 

「だがまあ、今回貴官が経験したことはそう無駄にはならないだろう、一仕事終えた後の緊急事態など、戦場ではそう珍しくはないからな」

 

緊急呼集に緊急出撃に緊急退避、戦場では緊急という言葉に事欠かない。

第一ポイントでの仕事を終えターニャのもとへ飛行していくと、前方より魔力反応を感知。

 

長距離狙撃術式から始まり多数の魔力誘導術式が飛んでくる。

出力は抑えられているもののその分のリソースはえぐいほどの誘導に成されている、ライン戦線にしてももう少しましだったぞ。

デコイで誘導し、空間爆撃によって誘導弾を誘爆させ回避し近づいていくと、遥か遠くに見えるは案の定白銀ことターニャ・デグレチャフ。

 

「ターニャ私だ、攻撃中止、攻撃中止!」

 

「デンパガワルイヨウダ、よく聞こえない」

 

嘘をつけ!爆裂術式の雨で面制圧して削りに来るなんて私対策でしかしてこないだろう。

おかげで身体中煤だらけだ。

 

しかしこの九七式は随分といい性能している。

飛行術式と防核術式が並列起動し、一時的に攻撃術式を発動させる。これは以前の宝珠でできたものだが、これに調整術式や不眠術式の並列起動を足そうならば攻撃術式を起動した途端宝珠は機能を停止する。

已むを得ず以前私は防殻術式を切り回避重点の戦闘機動を取っていたのだが、この九七式はその全ての常駐術式を起動させてもまだ余裕があるほどだ。

 

「訓練生共への九七式デモンストレーションにはちょうど良いのだ、しばらく付き合いたまえ」

 

「...遺憾ながら了解」

 

「私秘蔵のコーヒー豆を勝手に飲まれた恨みを知れ」

 

私をコーヒー党に引きづりこんでおきながらうまい豆をちゃんと隠さない方が悪い。

 

爆炎の中を突き破ってくる多数の魔力誘導弾とすれ違うように距離を詰め、想定内だと言わんばかりの爆裂術式を障壁をもって突き破る。

一瞬の停滞も許さないように四方八方から弾丸の雨に気を取られることなく前方からの狙撃術式を回避、以前とは違い防殻術式が常駐できるので多少の被弾はよしとする。

回避力を知っているせいか面制圧が多発する戦闘は、下から見たらさぞ派手に見えるだろうが、相手にしているこちらからすれば堪ったものではない。

 

ターニャの予想を振り切るように前方ではなく後ろに下がりつつ急速上昇、追尾してきた誘導弾を切り返すようにして再度全速力で一直線に飛行し、爆撃の海を抜ける。

全速力とは、文字通りの全速力だ。

 

防殻術式を切り、常駐術式も観測術式以外全てを切り、そのリソースを全て飛行術式に費やす。

こちらに飛んでくる弾丸に向かって進むのだ、相対的な着弾までの時間は先ほどの比ではなく回避は困難になった。

 

「また最後は特攻か突撃馬鹿が」

 

「そいつはどうかな」

 

セオリーから外れた論外の戦闘機動に対しても、面食らうことなくターニャは冷静に狙撃術式を発動。

それが外れることは、あの戦場でスコア稼ぎを手伝っていた私にはとても期待できない。

そして何よりもわかっていたことだ、こういう状況であいつはヘッドショットを狙いに来ると。

 

鉄拳術式を起動。

何もビームを拳で突き破るヒーローごっこがしたいわけではない、そんなことしたら拳が焼き切れる。

鉄拳術式の構成は簡単に言うと自身に張った防殻術式に射出術式を打ち込み、その推進力を威力に変える至極乱暴なものだ。

 

「クイックブーストか、味な真似を」

 

その射出術式の出力を体の横に設定すれば、いつかゲーム画面で見たような急激な横移動が可能となる。

その場の思いつきでやってみたものの、なかなか良い出来だ。

 

「距離千まで到達、そろそろ良いのでは?」

 

「ふむ、まあ良いだろう。協力感謝する」

 

デモンストレーションの終わりを互いに合意すると、訝し気にこちらを見やるターニャに目もくれず、すぐさま高度を下げ森へ降下する。

突発的な思いつきを実験も無しにやるものではないな。

 

防殻術式に受け止めさせているとはいえ、射出術式の衝撃を直に受けるのだ。

腕や背中からならともかく、横っ腹はまずかった。

 

 

森の中ゲーゲーと胃液を吐き出す私と、背中を擦るターニャ。

あたかも心配でついてきたターニャの姿だが、そのような言葉は一切無く、後であれのやり方を教えろと要求するターニャはただの一人の男の子であった。




より良い苦難を―ぷるすうるとらー!

存在X―無実。か、な?

プランB―ねえよそんなもん!

コーヒー豆―隠してはいた。

デモンストレーション―という名の九七式の慣らし。

クイックブースト―アーマードコアが元ネタ、ドヒャアッドヒャアッ!

連続クイックブースト乱発する高機動幼女が二人爆誕したかもしれない。

前話の最後、そろそろオリジナル話を突っ込みたいなー、と適当にぱなしましたが、考えたところ今この現状でやることは別に無いと気付き申し訳有りませんがそのまま原作ルートを続けさせていただきました。
ちなみに残りの演習は後編となります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13話 始まりの大隊 後編

投稿ペース取り戻していきたいかぎり。


俺はいつの間に眠っちまったんだ、確かにこの演習は碌な休みも与えちゃくれないが、俺は眠りについた記憶もないまま夢のような光景を目の当たりにしている。

 

爆撃機から身を隠し、ほんの少しの小休止を取っていた時のことだ。

魔導師は魔力を扱うからか術式を介さず感覚で多少魔力を感知できる。

魔力反応を出さないように気を張って感覚が研ぎ澄まされていたせいもあり、俺たちが出発した第一ポイントから魔力反応を垂れ流し飛ぶ一人の魔導士を確認した。

 

非魔導行軍を言い渡されているのだ、目標地点まで飛んでいく馬鹿はいない。従ってつまりあの魔導師は定期哨戒という設定だと思われる。

やはりそう楽をさせてくれはしないかとあの幼女に対する恨みを脳内に連ねるが、空に伸びる一つの狙撃術式の光によってその考えは否定された。

 

空を飛ぶ魔導師は遠くある場合ただの一つの点。そんな針の穴のような魔導師を正確に射抜く精度の狙撃を行える者はそうはいない。

ほぼ間違いなくこの地獄の演習考案者であり、白銀の名を与えられているターニャ・デグレチャフその人であろう。

次々と放たれる狙撃だったが、それを何ということもなく回避し、次いで放たれた爆撃術式の嵐を防殻術式で潜り抜ける彼はいったい何者か。

 

望遠鏡を覗き込むと、演習開始時に白銀を初めて見たあの衝撃をまたも受けることとなった。

 

医療魔導師として演習に同行し、いそいそとしおりを配っていたただのサポート班かと思っていたティアナ・リースフェルトその人だったのだ。

 

「最近の子供は改造手術でも受けているのか?」

 

「信じられん、あの子はただの医療魔導師ではなかったのか」

 

自分の他からも戸惑いの声が上がる。

当たり前だ、大の大人でもあの攻撃の中逃げに徹して生き残れるかどうかわからないというのに、彼女は引くことなくどんどんと距離を詰めているのだ。

 

「リースフェルト中尉はデグレチャフ大尉の陰に隠れてはいますが、撃破多数の立派なエースなのですよ」

 

声のした方を見ると、かつて白銀殿とバディを組んでいたセレブリャコーフ少尉が自慢げに彼女の解説を始めた。

ライン戦線にて医療魔導師として従軍しつつも、戦力の摩耗を直視した彼女は時折前線に赴き、しばらくすると白銀のバディとして活躍。

卓越した近距離格闘戦は白銀が認めるほどで、白銀のサポートに徹していなければ彼女も二つ名がついていたことは確実であっただろうと。

 

本当に医療魔導師か?と思ってしまうのは仕方ないだろう。

 

死の閃光を掻い潜り喉元のインカムになにかを叫んでいると攻撃は中止され、空に一時の平穏が戻る。

 

『訓練生諸君、デモンストレーションの時間だ。戦場を知らぬ諸君らに彼女ほどの力量を望んではいないが、九七式をちゃんと扱えるならばそこいらの凡夫より多少はマシなはずだ』

 

戦闘が収まったにもかかわらず、動けばあの狙撃術式が降りかかってくるのではという恐れから我々は動けずにいたところ、デグレチャフ大尉から通信が届く。

こちらを侮るような内容ではあるが、その力量の一端を見せつけられては反抗の声も上げられない。

 

『そこで戦場を知っているティアナ・リースフェルト中尉にご協力いただいて九七式のデモンストレーションを行う。各位よく見ておくように。』

 

闘争が再開された。

先ほどの倍近くある狙撃術式は、ただ真っ直ぐ直撃させる軌道だけでなく回避行動を誘導させての二段構えであったり、魔力誘導を付属させて曲がる回避困難な高速光学術式、爆撃術式との併用しての囲い込みなど多様な戦術を見せている。

しかしながらそれらを全て回避し防ぎ突破しているリースフェルト中尉の技量も尋常ではない。

 

「リースフェルト中尉の回避力は正直異常です、あの人時々戦場で防殻術式切って飛ぶんですよ?」

 

その言葉を聞いたものは例外なく絶句した。

人は撃たれれば死ぬ。遮蔽物のない大空で魔導士が飛べるのは防殻術式あってこそだ。

遮蔽物のない大空で唯一敵の弾を防いでくれる防殻術式は魔導師の最後の砦と言っていい。

 

「正気ではない」

 

あはは、などとセレブリャコーフ殿は苦笑いしているが、あははではないぞあははでは。

 

「並みの攻撃では防御させることすらかなわないリースフェルト中尉に防御させるデグレチャフ大尉の力量もまた、尋常ではないのだな」

 

戦術を切り替えたのか、大量の爆撃術式によってあの戦闘区域の空が爆撃の煙に覆われている。

逃げ場などどこにもない爆撃の雨は酸素を消費させ一酸化炭素中毒によっての戦闘不能をも視野に入れた確殺が約束されたエリア。

たった一人を相手にするにはオーバーすぎる火力だったが、それでも彼女は生き延び先ほどの位置より後方から煙を振り払い高度を取る。

追いすがるように爆撃が追い付こうとするが、切り返すようにしてその攻撃を潜り抜け爆風に乗るように圧倒的な速度で距離を詰める。

 

距離を詰める速度が速いほど、射手との距離が近いほど弾速は相対的に速くなる。

リースフェルト中尉の取った選択肢は機動の柔軟性を捨てたほぼ直線の飛行しかできないもの、出なければあの速度は出せまい。

しかし柔軟性をなくせば直撃コースを避けることは叶わず撃墜は確実。

 

そのような機動を取る相手に白銀が外すはずがない。

真っ直ぐ飛行する的に真っ直ぐ閃光が飛び、誰しもが被弾したと思った。

 

案の定閃光はリースフェルト中尉を呑んだ。

 

「おい、防殻術式の光も無かったぞ!」

 

「まさか本当に切って飛んでいたのか!狂ってる!」

 

誰しもが死を想像した。

模擬戦として出力を抑えていたとしても防殻抜きでは死んで当たり前の威力だったのだ。

 

「リースフェルト中尉はそんな無策で突っ込む方ではないでしょう。ほら!まだ飛んでますよ!」

 

唯一生きていることを想像していたセレブリャコーフ少尉が示す先には、こちら側から見えなかった閃光の向こう側でなお速度を落とさず飛行する姿に訓練生一同は安堵した。

 

「しかしどうやって」

 

見ていると速度を殺さず急激にその軸を横に移動させ飛行する姿が見えた。

原理はわからないが回避機動の方法はまだ持ち合わせていたようだ。

 

ようやくリースフェルト中尉がデグレチャフ大尉を射程圏内に捉えると模擬戦は終わりを告げた。

 

『以上で九七式のデモンストレーションを終えるが、最後のアレは参考にしないように。防殻術式のリソースすら割いたサーカス飛行だ、参考にした馬鹿は私が直々に撃ち落としてやろう』

 

できませんという訓練生一同の感想は声に出さずに行軍を再開する。

長い間伏せていたので体はすっかり冷えてしまったが、心は熱く燃え滾っていた。

 

この胸に下げている九七式はこの苦しい演習を乗り切らせるモチベーションを与えたのだ。

 

行軍後の第二ポイントでは苛烈な対尋問訓練が待ち受け、その後も険しいアルペン山脈行軍が待っていた。

しかしながらこの先に革新的な九七式、そしてそれを用いての英雄的な大隊所属は決して消えることのない希望として脱落者は訓練内容に対してあまりにも少なく済んだ。

 

「まったく冗談じゃない、あんな小さな足で踏まれて面罵されて大人をなんだと思っている」

 

「はは、違いない」

 

訓練の終わり際のことだ。

ヘロヘロになりながら皆が白銀殿への悪態を吐く。

しかしながらそこに悪感情はなく狂ったかのように誰しもが笑顔。そういう私も笑顔であった。

 

「しかしリースフェルト中尉は将来美人になるであろうな」

 

「デグレチャフ大尉も美人になるのは確定では?」

 

「あんなおっかないのは勘弁だ」

 

「苛められるのが好きなのには天使のような御仁であろうな」

 

わはははと皆が笑い合い苦しい行軍を潜り抜ける。

あのまま育てば将来は帝国の大英雄となるのは想像に難くない白銀様の部隊だ。

たとえこの部隊の行く先が修羅の道であろうと、帝国のためと胸を張って言える。そんな部隊に入れたのならば、きっとこの先後悔は無いだろう。

 

「何をちんたら歩いている!キビキビ動け!」

 

「白銀様がお怒りだ!総員あと少しでも気を抜くなよ、最後に何が待ってるかわからんからな!」

 

「違いない!」

 

我らはこうして笑いながら戦場へ赴くのだろう、たとえ死が待ち受けるその先であろうと。

 

 

 

 

 

視点回帰 ティアナ・リースフェルト

 

 

「は?身長が一向に伸びない?私に聞くな内科行け私は外科専門だ」

 

魔女にこれでもかと詰め込まれた範囲に内科の仕事内容も入っている気がするが、やはり私の専門分野は実際に執刀経験豊富な外科だ。

まして幼子の発育不足について相談されてもそんな知識など持ち合わせていない。持ち合わせていたら私自身成長しとるわ。

 

演習終了後、私たちは地獄の演習フルコースを潜り抜けた訓練生を引き連れ帝都へ帰還した。

人員的に確定的な大隊結成するにあたり様々な事務仕事に専念していたのだが、九五式の精神汚染が抜けたのかターニャに相談されたことは発育不良についてのこと。この忙しい時期にそんな質問とは、実はまだ精神汚染抜けてないだろ。

 

内科行けと適当にあしらい仕事に向き合いつつ、九五式の魔力に当てられあまり意識の無かった演習後半を思い出そうとする。

存在Xによって意識を奪われているとき、影響が一定のラインまでは仮面に忠実に動くことが確認されている。

何やら治療中に何かを言っていたり発生した雪崩から救出に動く自身や、演習終了後に演説を行うターニャと訓練生を眺めていたことを薄っすら記憶しているが、やはり詳細は記憶ははっきりと再生され得ない。

 

しかしなんだろう、演習終了後から訓練生、いや今後同僚となる大隊候補者からの尊敬の視線が鬱陶しい。

演習開始前はただの医療スタッフかと無機質な視線から変わったまるで天使を見るかのような視線や畏怖の視線。

まあこれは良い、しかしキチガイを見るような視線はいったい何なんだ、眼球刳り貫いてやろうか。

 

仕事のし過ぎで多少気が立っていることを自覚した私は、一服がてら少し散歩することにした。

根を詰めすぎては仕事の効率にも支障が出る、適度な運動は健康にも良いしな。

 

「おや?レルゲン...中佐殿」

 

「あぁ、貴官は白銀のところのティアナ・リースフェルト中尉か」

 

参謀本部に所属している有望株は一応チェックしてあるがその中でもレルゲン中佐は昇進が期待しうる有能な者だ。

以前士官学校で会ったことがあるがそのときよりも心なしかゲッソリしているようにみえる。

 

「お久しぶりです、今日はいかがなされました?」

 

「ああ、今日はデグレチャフ大尉に用事だが、デグレチャフ殿は執務室か」

 

「はい、所用で離れていたもののそろそろお戻りになっていることでしょう」

 

「では丁度良い、貴官もついてきたまえ」

 

「はっ、了解しました」

 

会話も無く早足で執務室まで案内する。

せかせかと歩く子供の私に気を使ったのか歩調を緩めるレルゲン中佐の心遣いにできた人間を感じるが、歩きながら歩幅の関係で苦労しなくなるにはあといったい何年かかることかと少し落ち込んだ。

 

「デグレチャフ大尉、公用使のレルゲン中佐がお見えになられました」

 

 

案内を終えた私は室内にいたセレブリャコーフ少尉が退室を促されるのと違い、大隊編成の補佐という役割があったため扉横にて待機して話を聞くこととなった。

話された内容は以下の通り、ターニャ・デグレチャフの昇進、大隊の前線配備を匂わすもの、対ダキア大公国の戦域拡大予想。

 

全く以って頭の痛い限りである。

現在帝国は二つの戦線を開いている。それにさらにもう一つ戦線を追加しようなら帝国は間違いなく破綻することは私でもわかる。

小国の軍事的弱者ならばおとなしくしていれば良いものを。

 

対ダキアを匂わすことは公用使としての職務を超えた警告だ。

それに対してのレルゲン中佐への感謝を満面の笑みにて返したターニャだったが、いかんせんあいつの間の悪さはどうにも喜劇的だな。

 

対外的な評価は戦争大好きっ子なターニャが戦争に赴くことを暗に告げられているのだ、笑顔でお礼?どうなるかはレルゲン中佐の表情が物語っている。

これから先レルゲン中佐のターニャへの戦争狂という印象が変わることはそうそうあるまい。

 

「リースフェルト中尉、レルゲン中佐をお見送りしろ」

 

参謀との伝手が出来上がり次第私はターニャの印象改善に努める予定だった。

印象を改善し参謀本部に入れる、それが帝国が勝利する一手となりえたからだ。しかしながら印象改善が絶望的な相手を増やすことがお得意のターニャちゃん。

お見送りの短時間の会話でも人は望む印象を与えることができる、が。

 

ほんとどうしようか。




改造手術―ナニカサレてはいるね。

自慢げなセレブ―むふふんといった表情、可愛い。

セレブリャコーフ―書いてて思うけどいちいち名前が長い。

防核術式カット―宝珠の性能上仕方がなかった。九七式では切らなくても大丈夫だが切らないとは言っていない。

評価―ターニャはおっかないけどティアナは可愛い。大丈夫そのうち隊での評価落ちるさ。

魔女先輩―存在を忘れてた。

ターニャとレルゲンの会話―知りたくば原作買ってねというスタンスなので全カット!


FGOフラン水着可愛すぎるんやが?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14話 ダキア

遅くなりました。
え?いつも遅いって?ぜ、是非もないね!(震え声

一部修正いたしました。


ロンタイムズ

 

戦場には、嘘としか思えない真実があり、真実としか思えない嘘が多数存在した。

戦場の噂というものは待機中の兵士が世間話として各個の情報を勝手にまとめ上げ、面白半分で混ぜ合わされたものが大半だろう。

しかしその噂の中にロンタイムズに所属し調べている件が関わるのならば、我々はそれを調べ上げねばなるまい。

 

調べているのは大戦終了後の帝国で、平和の象徴となった一人の少女について。

医療魔導師として戦争初期から従軍し、あらゆる戦場を駆けずり回り人々を癒していった帝国の聖女についてだ。

婦長という名が有名だが、彼女については不自然なほど謎が多い。

人格者であったという彼女を貶めたいというわけではない、真実を追い求める者として私はただ、正しく知りたいのだ。

 

まずはわかっている情報から整理しよう。

彼女の記録は、なんと帝国医療に関わる学校ではなく、帝国士官学校から始まっているのだ。

しかも記録にある彼女の年齢から逆算するに相当幼い頃だ。

恐らくは彼女の出自が関係しているのだろう。

彼女は孤児だった。

これは知られた話であり、戦後多くの戦争孤児を私財を投じて支援した話は帝国の美談として今なお語り継がれている。

その後彼女自身の願いにより帝国医療大学に短期編入、そこで医療の基礎を学ぶ。

 

「やはりここから情報はぱったりと無いな」

 

「アンドリューさんが確かその時代の『xxxxxxxxxxx』について調べてたよな?情報共有をすればなにか発見があるかもしれないか?」

 

彼女の記録はこれより終戦までろくに無くなる。普通に考えれば医療魔導師として従軍していたのだろうが、彼女の従軍記録は不自然なまでに不透明なのだ。

我々が独自に調べたところ、帝国の主な作戦の所々に彼女がいたという噂話が出てきている。

 

先程アンドリュー記者が調べている『xxxxxxxxxxx』というのは、世界大戦資料の重要作戦に度々現れる謎の記号だ。

便宜上我々はその十一のxを『十一番目の女神』と呼んでいる。

それについて調べるならば、過去の帝国が行った重要作戦について調べることとなり、なおかつその重要作戦に現れたとされる彼女の情報も得られるのかもしれない。

 

アンドリュー記者に共同調査を頼み込むと彼は快く受け入れてくれ、共に十一番目の女神、並びに帝国の聖女を調べることとなった。

 

 

「私たちは今、V600というものについて調べている。これは先日新しい編成番号だとわかったばかりなのだがね」

 

「ああ、第六〇一編成部隊ですか」

 

「え?」

 

「あ、え?」

 

知っているの?という視線と、知らないの?という視線が交差する。

彼女について情報を仕入れていた中にそれらの情報が混ざっていたのだが、機密性や情報の確実性は考慮せずただ彼女に関わるかで仕入れた情報は選択されていた。その選択されなかった噂話の中にそのV600の情報はあったのだ。

頭を痛ませ得た情報をサラッと出され思わずといった風にガクガクと揺さぶられるが、知っているものは仕方が無いだろう。

 

後日、第六〇一編成部隊についての取材に出た。

 

出たのだが、正直芳しくないというのが実際のところだろう。

情報が得られなかったというわけではない。

取材に赴いた私たちの耳に入ったのは多数の情報であった。

曰く、プロパガンダ部隊。曰く、即応軍司令部構想の妥協案、曰く、消耗した部隊の再編部隊。

どれも確証を得られる情報でなく、真偽は自分たちで判断せねばならない。

 

しかし彼女については一つ情報が得られた。

プロパガンダだという言葉を受け、激昂のあまり骨折するほど強く机を叩いたという元軍人は治療のため医療室に向かい治療を受けたという。

そこでとても幼い子供に治療を受けたという。

その歳で医療魔導士をやっている人物など一人しかいない、彼女だ。

 

六〇一編成部隊を追っていけば彼女の行動を追えるかもしれない。

 

今後もアンドリュー記者と調査をしていけば彼女の動向が掴めるかもしれない。

一筋の光明をたどることはとても気の長くなる作業かもしれないが、私は諦めることは無いだろう。

 

なにせ、私は彼女のファンなのだから。

 

 

 

 

 

ダキア公国の宣戦布告、越境しつつあるのは約六〇万の兵士。

現状の国内戦力配置からすると絶望的な戦力差といえよう。

しかし遅延戦闘を頼んだデグレチャフ少佐は、軽く蹴飛ばして参りますと気負うことなく意気揚々と大隊を率いて出撃していった。

その中には少し前に話したリースフェルト大尉の姿もあった。

 

子供を戦場に送る、その罪深さはデグレチャフ少佐もリースフェルト大尉も変わりはしない。

しかしデグレチャフのような生まれ持った狂気の子供と違い。リースフェルトは帝国軍人が子供を戦場に送るという恥をまざまざと見せつけられる。

どちらも同じ子供だという博愛主義がいるのなら、奴の目に宿る狂気と生まれから軍人にならざるを得なかった彼女の目を見比べてから言ってみろというのだ。

 

「ターニャも私も、軍人にしかなれなかったのです」

 

彼女は公用使の任を終え送り出す際の少しの会話でこのようなことを言ったが、対してデグレチャフは以前何と言ったか私は今でも覚えている。

 

「他に道はない」

 

溢れ出る狂気を合理的に昇華させたとしか思えない返答。

軍人となるしかなかった。

彼女らの答えは一緒でも意味合いはまるで違うようにしか思えない。

 

「二〇三航空魔導大隊、間もなく接敵します」

 

もう引き返せる段階はとうに過ぎた、彼女が優秀であるという事実と、白銀の戦上手ということを信じるしかあるまい。

居もしない神に祈るのは趣味ではないが、帝国の未来である子供が戦場で死なずに済むというのなら神に、なんなら悪魔にでも祈ろう。

 

いや、悪魔は契約主義ともいう、悪魔に祈る方が多少はマシやもしれんな。

 

 

 

「ん?今いつもの不快な気配ではないものの何かしら不快な思念を感じた気が...」

 

「どうかしましたターニャ・デグレチャフ大隊長殿?尿意でも催しましたか?一緒に着いて行ってあげましょうか?」

 

「ティアナ・リースフェルト大隊補佐官殿、貴官はいつもデリカシーというものに欠けるな。黙って、口を閉じて、飛べ」

 

ギロリと睨みつけてくるターニャはとても十数の眼光とは思えないが、これは外国人の顔の堀の深さ故なのか、ターニャ自身の目つきが凶悪なのか。おそらくは後者だろうな。

肩をすくめ言われた通りターニャの隣で大隊をバックに黙々と飛ぶ。

 

これから飛び込む対ダキアの戦場は航空戦力の確認されていない、空を飛ぶ者にとっては非常に楽しいと予想される戦場だ。

諜報部に入っていると他国の情報が入ってくるが、ダキア公国は技術開発の遅れた弱小国家。たとえ他国の介入があったとしてもこの期間のうちに帝国と渡り合える力をつけられたとはとても思えない。

確かに帝国を殺す一手としてさらなる戦線追加は間違いなく有効だろう。

しかしそれは戦線を維持できる地力があってこその話。

 

その地力がないダキア公国は、戦争する資格も無しに突っかかってきた愚か者といえよう。

 

「ダキア大公国軍先鋒集団、あと二〇で交戦距離に達す!!」

 

敵は上から狙いやすいカラフルな軍服を纏い戦列にて行軍している。

戦列など火器が未発達であった時代の軍事ドクトリン、機関銃一つあれば気持ちよく薙ぎ払える軍事パレードにしか使えないものだ。

 

「大隊長より大隊各位!行動を開始せよ!連中に戦争を教育してやれ!!」

 

今回のような大隊の運用方としては、大隊を構成する四つの中隊の内三個中隊を三方向から襲撃し、残り一個中隊でもって制空権維持に赴くこととなる。

しかしながらこの戦場では事前情報通り空にいる敵は無く、珍しく暇を持て余すこととなった。

 

「ではターニャ大隊長、私もターキーシュートに行ってまいりますね」

 

「ああ、まあやることもないしな、行ってこい」

 

私の立場だが、編成補佐ということで大隊補佐官という肩書を承っている。

立場上ターニャの部下ということだが、大隊内の立場はどこの中隊に所属しているというわけでもなく医療魔導士としてバックアップや欠員の穴埋め戦闘員など、何かと便利に扱われる立ち位置となっている。

実際のところ別の事情もあるのだが、ターニャの許可もあって割と自由に動ける立場だ。

 

基本的にはターニャの横で飛んでいることが多いだろうが、必要があればこのように独自に動く。

まあ今回は暇すぎて離れただけだが。

 

こいつらに弾丸を消費するのは勿体無い限りなので術式を編み戦列を爆破していく。

逃げ惑う一人の兵隊が心の安定を欲して他の戦列に走っていく姿が見えたので先んじるようにその戦列を爆破して遊ぶ。

誰かに見られて何かを言われるのは面倒なのでカモフラージュとして他の戦列にも被害を与える。

 

散発的に飛んでくる旧式のライフルは防殻術式を抜く気配がまるで見えないので半場無視して一人の兵士を観察する。

行く先行く先を爆破され、ようやく自分がもてあそばれていることに気付いたのか、血走った目でこちらを見つけ何事かを喚き散らしながら銃撃を行うが、その弾丸がこの身に当たる、ましてや防殻を抜くことはありえまい。。

 

『ティアナ、悪趣味もほどほどにしておけ』

 

『ちゃんと仕事はしているさ』

 

ターニャにたしなめられたものの、楽しく観察しつつ戦列を爆破する手は休めておらず、効率よく敵の被害拡大に努めている。

お子様にも出来る簡単なお仕事ではあるが、ちゃんとやることはやりつつなのだ、多少は許せ。

 

かつての数少ない友人達は性根が腐っている、愉悦部自重しろ、麻婆食ってろなど散々言われたものだが、楽しいものは楽しいのだ。人生長生きするコツは楽しいことをし続けることと誰かが言っていたからそれを実践しているだけだ。最も長く生きれたことは不思議とないのだが。おかしい。

 

玩具を処分しつつあたりを見渡すと、ダキア兵達は一か所に集まり正方形の隊列を組んでいるのが見えた。

 

『パニックでしょうか』

 

人は孤立することを恐れ、緊急時に群れようとする本能がある。

しかし正方形の中心には前線指揮官らしき男の姿、どうにも意図して行ったように見える。

 

戦況の変化を感じたのでターニャの分隊に合流する。

この変化した戦場についてのんびりと議論中のターニャ中隊だが、実際よっぽどの何かでも起こらなければ戦況は帝国の圧倒的優勢が約束されているのだ、無理もないだろう。

 

「あれはパニックではなく、方陣では?」

 

説明しよう。

方陣とは。銃剣と銃撃、二段の戦列を組み死角のない対騎兵用の陣形だ。

銃剣にて突っ込んでくる馬を足止めし、後ろの戦列の者が狙撃し仕留めるというもの。

むろんその運用は三次元からの攻撃も、遠距離からの銃撃も想定していない前時代的なドクトリンであり、今の時代それをやるのはまさしく時代遅れと言えよう。

 

的が的の形を形成する姿に思わず呆れてしまう。

ターニャは一応ダキアへの列強からの新ドクトリンの可能性を考慮し慎重に一当てするつもりのようだが、この惨状から今更というのは無理があるだろう。

 

実際、教範通りに動きマニュアルに使われているヴァイス中尉を連行し、ターニャと共に方陣に突っ込んだが何事も無く方陣は爆破された。

 

その後特に語ることもないほど抵抗もなく敵先鋒集団を壊滅、敵前線司令部破壊ならびに敵司令官捕縛、確かな功績が刻まれる。

ターニャは出発前の訓示で、対ダキア戦を実弾演習といったが、これでは演習の方がまだ厳しいものだ。

正直実戦とは程遠いものだが、初の実戦でこの戦果というのは大隊の箔付けとしてはまあ良いかと納得。

 

「ヴァイス中尉、部隊の集結は完了したのだな」

 

「はい少佐殿、残敵掃討を?」

 

敵司令部を処理したのち、大隊はターニャの元へ集結。

敵先兵を引っ掻きまわし混乱に陥れさらには司令部も刈り取った、敵の進行は間違いなく止まり司令部からの任務は完遂したと言える。そして次の行動を再設定するのは大隊長であるターニャの役割だ。

 

残敵掃討で戦果の拡大を提案するヴァイス中尉だったが、そんな誰にでも出来る仕事など誰かに任せればよい。案の定却下された。

この大隊はただの大隊ではなく即応大隊なのだ。

機動力と打撃力こそがこの大隊の本文、やはりこの大隊の特異性を理解するにはまだ経験が足らないと見えた。

 

「残敵掃討は友軍に任せる。我らは前進するぞ」

 

「はっ、目標はどちらでありましょうか」

 

友軍の航空艦隊は出撃されており、今この戦場に必要な殲滅力はそちらの方が持ち合わせている。

効率を考えれば大隊がちまちまと爆撃術式を用いるよりもはるかに効率的だ。

 

「首都だ」

 

笑みを、攻撃的な満面の笑みを浮かべるターニャ。

 

「さらに前へ、もっと前へ。行けるところまで行こうではないか」

 

狂気の笑みは感染する、ターニャから大隊へ、私の元へ。

飛行を開始した大隊の中で、私は薄っすらと、仄暗く、嗤った。

 

しかして狂気に染まった笑みは、本当に感染したものかどうかは、誰にもわからなかった。




ロンタイムズ―時系列としては大戦後。原作では世界大戦の謎について調べる記者がいたが、それとは別の記者は帝国の聖女について調べていた。

帝国の聖女―いったい何ースフェルトなんだ...。はたまた別ルートに入った閣下か?いやきっとセレブちゃんだ!(すっとぼけ

視点移動―記者、レルゲン、ティアナとなっております。サラッと視点移動させたかったので実験的に○○視点というのを廃棄しました。

ターキーシュート―七面鳥撃ち。

趣味―愉悦部。

「ビザはお持ちですか?」―ダキア編を一話で終わらせたかったのでカット。とても心温まる愉快なシーンなのでぜひ原作で。

ダキア編―一話で終わらせるには少し余った模様。ポンコツ作者。


フラン引けました!ノッブ引けませんでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15話 行く先は...

遅れて申し訳ありませんでした。

HoI4やってました。
あ、あの時代の世界観を体感していたんですよー。ホントウダヨー。


ダキア大公国首都郊外上空

 

行けるところまで行く、と言ったデグレチャフ大隊長殿はその言葉通り、対ダキア戦での行けるところまでたどり着いた。

道中妨害という妨害もなく進軍し、首都上空まで到達しても未だに妨害は無かった。

散々お粗末なダキア軍隊を見たとはいえ、どこからか唆され戦争に参戦したのだ。流石に首都はそのどこぞの誰かがアドバイスを送り防備を整えているかと思えば、未だ対空射撃もなく迎撃もなく、警報すらも鳴っていないという。

長距離行軍で多少消耗したであろう部下たちを、間抜けな眼下の田舎国家を引き合いに出し笑ってやり、一仕事前の緊張の緩和を行いながら、ターニャは出撃前のことを思い浮かべ、同じくティアナも同じ場面を思い浮かべていた。

 

 

 

情報部通達

ティアナ・リースフェルトの潜入計画書

 

ターニャは事前にティアナがどういう所属でどういう役割を求められているかというのは知っていた。

諜報員などどこの国もやっている。だがその中でも子供という姿で、頭脳は大人顔負けであり人の心を見抜くことに長けている彼は、確かに適任であろう。

参謀本部直轄の大隊の中、一人だけ情報部の管轄であり、大隊の中で確固とした役割を与えられていないということはいずれ大隊から抜け工作員として活動するということは予想できた。

 

だがしかし、なんだこの杜撰な計画書とも言えぬ物は。

 

「あーらら、なんだこりゃ」

 

「ああ、ふざけているな、却下だこんなもの」

 

乱雑に計画書を机に放り投げるターニャ。

とそれを拾い流し読みするティアナ。

 

「ダキア首都への攻勢前に現地に潜入し工作員により亡命者と共に亡命、赴く国が唆したと確認取れ次第その情報を持ち帰ると」

 

「そんなものが計画書だと?情報部は計画書の書き方を知らんらしいな」

 

目的としてはダキアを唆し戦争に加担させた国への政治的批判やプロパガンダ利用。

とはいえダキア攻略後、ダキア上層部を締め上げどこが唆したかなど、唆した相手国は知りません証拠はどこかで終わることも考えられる。

しかしそうした攻撃要素が無いのとあるのとではだいぶ話が違う。我が祖国の政治家共がノーカードで勝負する阿呆な賭博士ではないということは、そう悲観的なものではないはずだ。

 

「なんとも面倒な任務になりそうだ」

 

「却下だティアナ、そんな任務他の者に回せ」

 

「まあ、万が一にも成功したらめっけもんって感じだしな。この計画書は」

 

潜入するまではある程度整えられているようだが、ダキア現地での亡命交渉はその場のアドリブで。そして潜入後に至っては何の計画も書かれておらず、実現性は非常に低いものだ。

 

「そんな物に貴様のような有能な人材を使い捨てられて堪るものか」

 

吐き捨てるような言葉。人間を人的資源という消費品であるかのような言いぐさ。

もしかしたら照れ隠しにそんな言動を取っているのかもとは、今更この合理主義者に対しては当然思わない。

本心だろう。

だがしかし、合理的な思考それのみがターニャの思いだけでなく、人を思いやる気持ち、友を思いやる気持ちもそこには含まれていることを悪友である自分は知っているのだ。

それでなければこんな奴の悪友などやってはいない。

 

だが。

 

「それでも行くよ、ターニャ」

 

「・・・」

 

ターニャが合理性を重視して行動するのに対し、刹那的な快楽を求め合理性を放棄したりする自分とつるんでいるのはよく不思議がられていた。

だが私ティアナの行動原理は、合理主義者と合致するところが多いのだ。

必要性があればそれを行い、その必要性の判断は自己価値基準と合理性に寄るところが大きく、それがゆえに私は合理主義者の友足りえた。

 

「この任務は私が適任だ。私と他の者では成功率の桁が違う」

 

「・・・」

 

「今、そして未来的にも帝国には少しでも手札が必要だ。そのカードが手に入るのなら私はそれを行うさ」

 

「・・・あぁ、お前はそういうやつだったな」

 

憮然としてターニャが言い放つ。

しかしターニャが憮然としていても、拗ねた子供の姿にしか見えないため少し笑ってしまう。

 

「なに、死ぬ気は無いさ。有能である人材なんだろう?なら軽々とこなして見せるさ。だからそう拗ねるなよターニャ」

 

「・・・拗ねてない」

 

コーヒーカップに口を付け表情を隠すも、それを通り越して見通してくるティアナのことが、ターニャは少し苦手だった。

 

 

 

 

 

「私たちには好機です。襲撃を?」

 

セレブリャコーフ少尉の声にハッとし、ターニャとティアナの思考は現在に引き戻された。

 

確かに今現在敵首都上空を抑えている今、襲撃の効果は絶大なものとなるだろう。

だがしかし、戦時国際法は軍事的必要性と人道性が重視されている。

警告無しに首都襲撃などすれば、それは人道に背く行為となり国際法違反だ。

ライン戦線では人道など意味をなさない地獄の戦場であったが、あそこは戦場であったのに対し、ここは一応平和な空だ。

 

無論、戦時国際法の適用範囲と解釈次第でターニャはそれを潜り抜けれるだろう。しかし我々は人殺し集団ではない、軍人という規律を遵守すべき職業者なのだ。

 

「セレブリャコーフ少尉、我々は戦時国際法を無視する野蛮な集団ではないのだぞ」

 

「は、失礼いたしました」

 

消沈する感情を軍人の仮面に押し込むセレブリャコーフ少尉、任務中に感情を抑える姿から成長を感じるものがあるが、時間が有ったら今度一緒に法律についてお勉強させようと頭のメモ帳に書き込まれた。

最も、時間というものがあればの話だが。

 

「全部隊に徹底させておけ。我々は、敵工廠施設を破壊するだけだ。おい、避難勧告を出してやれ」

 

ターニャの指示のもと通信機を国際救難チャンネルに設定する。

 

「少佐殿!それでは、奇襲の効果が失われてしまいます!」

 

常識を語るのは中隊長のヴァイス中尉だ。

自身と同じように呆れたターニャだったが、穏やかに諫めるのは大隊長の役割。

それにしてもどうしてそう正道での考え方しかできないのだろうか。

戦いとは邪道に走ってこそだろうに。戦争は相手の嫌がることが勝利への近道、正道で勝つことなど圧倒的な物量や質あってこそ。

それ以外正道など馬鹿のやることでしかない。

 

「要するに、相手に警戒されなければ良いのです。さ、マイクをよろしいですか?」

 

相手に警戒心を与えずに警告を発するという条件は、今回に限りそう難しいものではない。

通信機からマイクを受け取り、ターニャに寄り添う。ターニャは苦い顔をした。

 

「ティアナだけでいいだろう」

 

「確実性を増すためです。一人より二人、お判りでしょう?」

 

ターニャも同じ考えに至っているのだろう。実に、実に不愉快といった表情でマイクを見つめる。

 

「セレブリャコーフ少尉に...」

 

「デグレチャフ少佐?」

 

「作戦に必要があればわたくしめは、それを行う心持ちは十分にあります!」

 

往生際が悪いターニャに救いの手を差し伸べたのはターニャが名を挙げたセレブリャコーフ少尉だった。

ええい面倒な、私はただターニャが嫌がることをして楽しみたいだけだというのに。

 

「セレブリャコーフ少尉、この策は私とデグレチャフ少佐の二人の方が確実性が高い。いや、だがそうだな、セレブリャコーフ少尉にも協力願おうか」

 

作戦に貢献できることに目を輝かせ喜ぶセレブリャコーフと、対照的に逃げ道を塞がれ瞳を濁らすターニャ。

セレブリャコーフに指示し一本のマイクに対しぎゅうぎゅうと体を寄せ合う。

 

両手に花だな、天国はここだったのか。いや違うな、隣に悪魔がいる。

 

「セレブリャコーフ少尉、あまり気張らないように。友人たちと冗談を話すようにだ、簡単だろう?」

 

「はい、頑張ります!」

 

「おい、始めるぞ」

 

小さいマイクに顔を寄せ、三人のうら若き乙女たちによって、ダキア公国首都への警告はなされることとなった。

 

 

『『『けいこくします』』』

 

この世界のラジオ普及率はそう高くはない、故に首都全域に盛大にこの声が響き渡ったわけではない。

だがしかし二人の幼い声に一人の若い女性の声は、たとえその内容が避難を呼びかけるものであっても真面目にとらえられることは無いと言っていい。

恥辱を噛み殺し精一杯幼さを演出するターニャ、緊張で強張っているものの笑顔で演じるセレブリャコーフ、ニヤニヤと楽しげな私。

 

控えめに言って、ギャグだった。

 

 

「少佐殿達は演劇をやられていたのですか?」

 

「演劇?意味がわからないな」

 

「まあそう不機嫌になりなさんな大隊長殿。見てくだされ!ダキアは今だ警報も鳴らさず偵察も出さず呑気に工廠は営業を続けています。作戦遂行には何の支障も発生していません」

 

「そうだな」

 

「この様子なら私の任務も滞りなく遂行できるであろうことは想像に難くありませんな」

 

「そう、だな」

 

ターニャの不機嫌な返答から変わり返答に一瞬の詰まりが起こる。

 

 

「では二〇三航空魔導即応大隊、大隊長ターニャ・デグレチャフ少佐殿。私ティアナ・リースフェルトは任務遂行のため大隊から離脱いたします」

 

「了解した。セレブリャコーフ少尉、下に降りリースフェルト大尉の装備を回収しろ」

 

「は、はっ!」

 

事情を知らぬ大隊員が困惑の目線を向けてくるが、それらを相手することなくターニャに一つ敬礼を行いすぐさま降下する。

でかい箱のような魔導具と連結された足の装備も外し、マガジンなどを装着するタクティカルベストも外し魔導具の上に置いておく。

これで丈が余りまくりダボダボの航空魔導士用の服も脱ぎ捨てられるが、ダボダボすぎて若干脱ぎ辛い!

 

「リースフェルト大尉、これからどのようになさるか聞いてもよろしいでしょうか?」

 

「好奇心は身を滅ぼすぞセレブリャコーフ少尉」

 

ダボっとした服を全て脱ぎ去り、魔導具の裏に仕込んでいた服を取り出し見聞する。

これから潜入任務だというのになぜ動きづらいスカートをチョイスした。情報部は馬鹿か。

 

「まあいい。先ほど言った通り私に下った命は潜入任務だ。ダキアを唆した敵国へのな」

 

ダキア内部にいる工作員と接触し、対帝国は敗北すると予測した賢き上院議員の隠し子として敵国に亡命。

もしその上院議員が私を敵国への生贄としたのならば私は絶体絶命というものなのだが、そこは情報部を信じるしかないのだろう。

人に運命をゆだねるなどしたくはないのだが、軍人は基本、任務に逆らえない生き物なのだ。

 

「お戻りのご予定は」

 

「未定だ。一生を祖国の外で過ごすやもしれんな」

 

「...これでお別れなんて嫌ですよ」

 

しおらしいセレブリャコーフの言葉に答えず、ほぼすべての準備を終える。

 

「セレブリャコーフ少尉、これを頼む」

 

最後に胸元から九七式を外し、セレブリャコーフ少尉の手に預ける。

 

「戻った時に返してくれ」

 

エレニウム九七式は帝国の最新技術とも言えるものだ。

量産化可能な域に落とし込んだ九五式の劣化版とはいえ各国の演算宝珠より性能は格段に上だ。

これを敵国に渡すことはあってはならない愚行であろう。

 

「では、達者でなセレブリャコーフ」

 

「はい」

 

崩した敬礼に対してピシリと返された敬礼に苦笑を浮かべ、ダキア郊外の森から街中に紛れ込んでいった。。

 

 

 

防弾性もない布の服。装備は小さな隠しナイフが一つ。

ひのきのぼうと布の服よりは攻撃力が多少高いとはいえ演算宝珠が無いのはやはり痛い。

 

もし裏切りが発生すれば、少し鍛えた程度の身体機能では生き残ることは難しいと言える。

演算宝珠の有用性と、魔導師の非人間性を再度認識した。

 

「すみません、少し道をお尋ねしていいですか?」

 

「ん?どうしたお嬢ちゃん、どこに行きたいんだい?」

 

「修道院への道を」

 

事前情報にてある程度の地図は頭に入れてあったのだが、ダキアへの出撃は緊急的なもの。再度地図を頭に叩き込む時間的余裕はあまりなく、修道院の細かい位置など正直おぼろげにしか覚えていなかった。

情報部から指定された合流場所は、何の因果か修道院だった。

ある存在の介入が感じなくもない所だが、場所の性質上密会を行うにも適しているというのもある。

 

親切なおじさんに道を教えてもらい早足で向かっていると、後方から幾筋もの光が伸び、着弾音と凄まじい轟音が鳴り響いた。

 

「ふむ、誘爆したか。...かーぎやー!と言うべきかな?」

 

派手な花火のように吹っ飛んだダキア工廠を見ながら、ブラックジョークが好きな同郷である彼女ならば花火に対する感嘆符を言っているだろうと小さく微笑みながら呟く。

最も本物は空で火種を撒き散らすのに対し、こちらは爆破に伴い煉瓦や屋根が地上に降り注ぎ辺りは惨劇に見舞われているが。

 

熱された煉瓦をヒョイと避けながらそのまま早足で目的に向かうと、奇跡的に被害の無い修道院に辿り着いた。

 

修道院内には男が一人、長椅子の端に座っていた。

その男の後ろに座り、手を合わせ祈りを捧ぐポーズを取る。

 

しばらくすると、踵で床をコツッと叩く音が一つ。目の前にいる男からだ。

こちらも床を靴で二度鳴らし咳払いを一つして座り心地が悪いと身動ぎをして椅子を小さく軋ませる。

 

小さな音と仕草で自身が確かに工作員だという合図を返し、その後も声無きやり取りで簡易的な作戦会議を行う。

よもや映画で見たようなこんな真似を本当にする日がこようとは、小さな感動と共に言葉もなく男と共に修道院を出た。

 

扉を開けた時、ようやく男がこちらを見たのだが、無表情に隠された微表情は、驚き、疑念、抑制など。

 

本当にこのようなお子様がスパイとして来たという驚愕。世界情勢を俯瞰的に見る必要性のある職業柄、本当に亡命するのやもという疑念。任務に集中するための自戒といったところか。

思考はどうあれ任務に集中してくれそうならば問題は無し、よろしくという意を込め微笑むと、顔の裏に理解不能と浮かべながらも微笑み返され、関わりを避けるように手早く上院議員の元へ預けられた。




ティアナが諜報員―ターニャ「知ってた」

必要性―必要ならば社畜にもなるし何徹もするし人助けもするし仮面も被るし人も殺すし裏切るし自分を死地に追いやりもする。

相棒のブラックジョークに聞こえずとも答えるティアナ―これはもう、相思相愛の百合では?(錯覚


はい、久しぶりの更新でございます。
エタる気は全くなかったにもかかわらず、はんばエタっていましたね。

違うのです!歴史物が故にね、どうしても調べものがね、発生するのですよ。
そこで色々と調べものをしているうちに【Hearts of Iron 4】、通称HoI4というその時代を体験できる戦略ゲーがあるじゃないかと辿り着いてしまったわけでゲームしてましたごめんなさい(ジャンピング土下座


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16話 ノルデンにて

大変遅くなりました。
苦手な描写、苦手でない書き方、仕入れた知識や新しい試みなどいろいろと試してみてはいますが筆の遅さは何としても克服すべき事柄だと恥じ入るばかりであります。

全体としてのプロットだけでなく一話毎にプロットをちゃんと組み、『なんか会話』とか未來の自分にブン投げ過去の自分に殺意を湧かせる不毛なことはもう、やめよ。くたばれあの時の自分。

ああ、それにしても寒い。冬眠したい(切実

あ、UA100,000ありがとうございます。投票者の方も90人、お気に入りも約1,900人と大変ありがたい限りです。
励みにします。


酷く頭が痛い。

頭どころか身体中の至る所から痛みが奔っている。

 

今まで経験した痛みを軽く超えてきたこの感覚は、実に劣悪な目覚めを迎えたことを忌々しくも実感させてくれる。

 

気だるげに瞼を開き、目覚め特有のぼんやりとした視界は一人の人物を捉える。

ブラウンの髪を肩口まで伸ばした少女らしき人物は、自分が目覚めたことを認識すると誰かを呼びに部屋から出て行った。

その声は目覚めたばかりの脳髄に響くが、その判断は正しいものだと納得しまともに機能し始めた視界であたりを見渡す。

 

そこは小さな部屋だった。

ベットが一つ、隙間風に揺れるカーテン、洋服棚などの収納具。

何の変哲もない近代の洋室といった風。馬鹿な予想が頭の中に浮かび上がるが、判断には少し早い。

じっくりと部屋を観察していると、不意にドアが開き先ほどの少女とその親らしき人物が部屋に入ってきた。

 

「起きたのね、よかったわ」

 

大人の女性が体を触診し健康状態を簡単に確認。

その様子は手慣れた感じではなかったものの間違いは無く、すぐに検診は終わった。

 

「怪我は治ってきてるし後遺症もなさそうね。いろいろ聞きたいことはあるけど回復してからにしましょう。それじゃ晩御飯作るからメアリー、相手お願いね」

 

「はーいお母さん」

 

そういうと女性は部屋を出ていき、この部屋には自分と彼女の二人が取り残される。

 

「体は大丈夫?もう診てもらったから横になってて大丈夫よ」

 

「大丈夫です。すみませんがここは?」

 

今の自分が最も望むことは、ひとえに情報だ。

目が覚めたら見知らぬ地、何か一つでも既知の情報を欲し少女に尋ねるとここはレガドニア協商連合。戦争から離れた北方の山奥だという。

予期せぬ事態に痛む頭を押さえ、事態の把握に努める。

 

「私はメアリー・スーです。あなたの名前は?」

 

「ティーレ・ヌースフェルトです」

 

「ティーレさんね、よろしく」

 

滑らかに自分でない名前を語るこの口と表情は自然に、勝手に親愛の笑みを彼女メアリーと交し合う。

 

「それにしてもよかったわ。森の中で傷だらけになって倒れてたのを見た時はもう死んじゃってたと思ったから」

 

チリチリと脳内にノイズが奔る。

その時の状況を聞き出そうと思考は動き出そうとするが、それは阻害されるように歯は固く嚙み締められ、不快感と共に何者かの記憶が瞼の裏に上映される。

 

『よろしく頼む、この子は私の娘の―』『ミスター、予定ない者の同行は―』『仕方がない、護衛対象は二人だ』『移動を開始する、くれぐれも逸れないようにお願―』

 

「ちょっと、顔が真っ青よ!?」

 

記憶の再生による負荷と、病み上がりという状況が重なったのだろう、力無くベットに倒れこむ。

 

『もうすぐ国境線となりま...クソッ、偵察部隊だ』『工廠爆破といい手が早すぎる』(まったくだ。現場の有能ぶりに対し情報部は何をしている!任務に支障が出るだろうちゃんと泳がせろ!)『お父様怖い!』『落ち着きなさい、兵隊さん達が必ず守ってくれる』『ブレイク!ブレイクッ!!』『ミスター!走ってください!子供はこちらで担ぎます!』

 

間に挟まれた声無き声と、その後の恐怖を訴える声。

それはまるで先ほどから自分の声から発生しているとは思えない天使のような子供のような声。

 

 

そう、自分から発せられる聞き覚えの無い澄んだ声に、あまりにも自分と違う子供の体に気が付く。

 

「メアリーさん、自分がどういう状況で森に倒れていたのか、教えてもらってもいいですか」

 

思考を記憶から現実に移り変える。

 

「自分が何故森で倒れていたか、どうやら覚えていないどころか何も記憶が無い」

 

「そんな」

 

沈痛な面持ちでそっと抱きしめてくるメアリーの成長具合に神経を集中させながら、厨二的結論を出す。

 

(転生...だろうな)

 

「私は思い出さなければならない、そしてどこかへ帰らねばならない。そんな気がするんだ」

 

窓の外、振り続ける雪の空をじっと見つめ、胸に湧き上がるなにか感じ、そっと意識を失った。

 

 

 

 

 

転生、正しくは憑依という言い方が合っているのだろう。

私を見つけたという少女、メアリー・スーとその母親と生活していくうえでいきなりフラッシュバックするこの体の記憶は、恐らくこの体の記憶。

 

拾ってくれたうえタダで衣食住の世話までしてもらっているというのは無職であった頃を思い出すものだが、身体が動くのに何もしないというは私の信条が許さず、お手伝いの日々を過ごしている。

過ごしているのだが、それを阻害するものがそのフラッシュバックだ。

 

前回のように倒れて体をぶつけないよう膝を抱き込み座り込む。

 

「大丈夫?お水持ってくるね」

 

「いや、しばらくすれば大丈夫、だ」

 

顔の目の前に映りこむメアリー・スーを塗りつぶすように視界が暗転していき、記憶が映しこまれる。

再生される記憶は途切れ途切れだが、今回は随分と血の色が多かった。

 

苦悶に呻く人、喪失感に嘆く人、血みどろになりながらも懸命な人。

そしてヒトとモノを瞬時に判断し、視界いっぱいの内臓を弄繰り回しながら指示を行う自分らしき人物。

 

「メアリー、今日の夕ご飯なんだっけ」

 

「今日?確かイノシシのお肉が取れたからそれを使うって言ってたわね。どうする?食べれそうにないなら...」

 

「いや、まあたぶん大丈夫だろう。ありがたくいただこう」

 

フラッシュバックは収まったが生々しい臓腑が目に焼き付いた。

お嬢様、軍人、医者と、確定的な記憶とはいえないおぼろげな記憶が今まで流れたのだが、果たして自分はいったい何者だったのだろうという疑問が膨れ上がる。

段々と記憶は過去に遡っている気がして、それと同時に俺という中身が喪失していっている感覚と、私が更新されていく感覚が起こる。

 

「また記憶を見たの?」

 

「ああ、そうみたいだ」

 

「記憶が戻りそうでよかったわ。けどなんだが、段々と変わっていく感じがして少し怖いわ」

 

「うん?」

 

そういうと、大丈夫と断ったはずの水をおせっかいにも手渡してきた彼女は言う。

 

「記憶が戻っていくたびになんだか、男の人みたいに喋り方が変わっていくでしょ?」

 

水に口を付ける動きが止まり、思い出す時に流れる疲労から流れる脂汗とは違う汗が流れ出る。

 

(言いくるめ、騙し、処理。どうにも物騒な選択肢ばかり思い浮かぶのは何故だろうな)

 

自分の中で何かがせめぎ合うのを感じながらも女性の口調を意識しながら会話を繋げる。

 

「何故、なんでしょうね。まだ私にもわからなくて」

 

「喋りやすいならその男の子っぽい喋り方でも大丈夫よ。なんだかお父さんみたい」

 

「そういえばメアリーのお父さんは?聞いても?」

 

自分は人の家庭を知りたいような人に興味を湧かせる人物であったか?と疑問が浮かぶが、口や体がいつの間にか勝手に動くのはこの体になってからは今更かと身に任せる。

今まで生活していた中で目にした人物は目の前にいる彼女とその母親、それと近所に住む老人など。

父親らしき人物は今まで見たことは無かった。

 

「大丈夫よ。お父さんは軍人なの」

 

この近代らしき時代、父親が蒸発もしくは死亡しているということを予想の中に入れていたが、どうやら父親はご存命の様子。

 

「軍人ですか、そんなに軍人っぽい喋り方してました?」

 

「まあ、ちょっとね。こんなに小さい軍人さんもそうそういないでしょうけど」

 

「確かに」

 

小さくクスクスと笑い合う。

 

「お父さんは今戦争中でなかなか帰ってこないけど近いうちに一度帰ってくるって手紙に書いてあったわ」

 

「その時はメアリーが寂しい時にお父さん役をこなせる様しっかり観察せねばなりませんな」

 

「まあ、なら私もティレが寂しくないようにお母さん役練習しなくちゃね」

 

わざとらしい偉そうな軍人口調で茶化し彼女が冗談を返し会話を弾ませる。

 

「メアリー、ティレちゃん。ごはん出来たわよー」

 

「「はーい」」

 

雑談をしている間に出来た昼ご飯を頂いたが、近代欧州の飯という物珍しさのみが評価点だった。

不味くなければ良いという割り切り、診察後にお昼寝という文化を楽しみ、勉学の時間を過ごすこととなる。

 

「先生、ここ教えてもらっていいですか?」

 

「はいよ」

 

一日の中、メアリーは昼寝後に勉強を行うのだが、その間やることが無く暇な私はその勉強を覗き込み、メアリーが躓いていた問題を事も無げに答えを当てた。

メアリーにその問題を解説し教えてから、いつの間にやらこの時間はメアリーの家庭教師となっていた。

この体はなかなかにスペックが高い。たとえこの身が頭脳明晰で見た瞬間答えがわかろうとも、元の私は非才の塊。

才能有りし人が言う何がわからないのかわからないとかいうことに悩まされることは無く、わからないであろう箇所を分析し適した解き方を教える。

 

人に物を教える適正は自分ではそれなりにあるとは思う。しかし私が教えるのに適しているのは非才の者のみ。

 

メアリー・スー。

彼女は才能人間なのだ、困ったことに感覚派の。

 

「先生の教え方は学校の先生よりわかりやすくていいわ」

 

「メアリー、君の感覚は学校の教育とはたぶん相性が悪い。ちなみに私の教え方とも相性は悪い」

 

「ええ!でも他の誰よりわかりやすいわよ?」

 

驚きをあらわにする彼女はそういうが、教育に擬音を使用する教育方法など私も初めてなのだ。そしてなぜそれで理解させられたのか私としても謎。

 

「それにしてもティレって頭良いわよね。私の方がお姉さんのはずなのに勉強教えてもらってるし」

 

「メアリーも十分頭良いさ」

 

それにこちらは前世というアドバンテージとこのスペックの高い脳味噌のおかげだ。

石を投げればそれの計算式が頭に浮かび、石が落ちる前に答えは導かれ計算した落下地点に落下する。その計算能力はこの脳味噌だけではなく記憶にある経験によるものが大きいような気がする。

 

「頭の良し悪しの話は置いといて、勉強の続きだ」

 

「はーい先生」

 

間延びした返事をして勉強に戻るメアリーと、それを見守る自分。

 

家事を手伝い、メアリーとおしゃべりし、時折記憶を思い出し、勉強の教師をしながら穏やかに過ごす。

この平穏に浸かりながら暮らすのも悪くないと日々を平和に暮らす。

 

 

終わりが来たのは彼女の父親が帰ってきてからだった。

 

 

 

 

髪を短く切り、さして手入れをしていない髭を伸ばした軍人らしい厳つい顔をした男だった。

でれでれと娘にじょりじょりと髭を擦りつけ嫌がられ落ち込んだ一場面を勘定に入れなければ、軍人らしく自分に厳格であろうとする雰囲気をしていた。

 

「始めまして、しばらく前からお世話になってます。ティーレです」

 

「アンソン・スーだ。記憶を失っているそうだな。大変だろうがしばらくはうちでゆっくりするといい」

 

互いに握手を交わし、表面上は和やかに。しかし互いに慎重に。

 

「手紙に書いてあったティーレさんの事情について私の方でも調べたのだが、それを話したいからすまないが二人だけで話したい」

 

「さすがパパ!何かわかったのね!」

 

「ああ、だがまずティーレさんのみに話す。部屋で待っててくれ」

 

「私も聞いちゃダメなの?」

 

「メアリーさん、なにか考えあってのことでしょうしまず私一人で聞きますよ」

 

「うん、わかったわ」

 

「良い子だ」

 

どことなく不安げな顔をしているメアリーの頭をぐりぐりと撫で部屋に送り出すアンソン・スー、そして小さく手を振る私。

小さく手を振り返す彼女に微笑みながら共にリビングに向かう。

 

「可愛いだろう私の娘は」

 

「ええ、同意しましょう。それに彼女はとても聡明だ」

 

「ああ、それに気立てもいい。自慢の娘だ」

 

「将来は良いお嫁さんになりそうですね」

 

「娘は嫁にやらん」

 

「・・・」

 

「やらん」

 

「・・・」

 

帰ってきて早々娘自慢、溢れ出る親馬鹿臭に緊張感を削がれそうになるが、親馬鹿とはまた違う真剣なアンソンの眼光に射抜かれ、場は緊張感を保たれていた。

 

「そんな可愛い娘と愛する妻の住む家に久々に帰ってきたのになんだ、なぜお前のような者がいる」

 

「・・・」

 

リビングに着いたにもかかわらず互いに座ることなく向き合って話し合いが始まる。

 

「我が祖国に何の用だ、『血濡れ』」

 

「『血濡れ』、ですか」

 

「近距離魔導白兵戦のプロフェッショナルであり日々返り血に染まり着いた忌み名は『血濡れ』。西方では随分と暴れまわっているな。相方の『ライン悪魔』の情報はともかく血濡れ、お前の報告書ならいろいろと出回っている」

 

そうか、アウトレンジ戦法や殲滅が主のターニャの情報はあまり出回っていないのか。

まあ私の情報が流出することは私が接近主体の戦法を使うことからわかってはいたが、それにしても血濡れって。そんな返り血で真っ赤になることなどあまりなかったと思うが。

 

「同胞を幾人も討ち果たした貴様をただ生きて返すつもりはない。手紙に書かれている通り貴様の記憶が戻っていないというならこれから独房の中でゆっくりと思い出すといい」

 

懐から素早く引き抜かれた拳銃を体に引き寄せるように構え照準を行い引き金に指をかけるアンソン。

ティアナは袖口に隠し持っていたテーブルナイフをアンダースローで投げ込み拳銃を衝撃でもって叩き落す。

 

同時に踏み込み距離を詰めるティアナだったが素早いローキックの牽制に阻まれる。

たとえ牽制の蹴りであろうが挌闘戦では重量は戦闘の優劣を決める一つの重要な要素、軍人の牽制一発がこの子供の身には堪える。

 

「やはり記憶は戻っているようだな」

 

「まず一発弾丸をぶち込み様子を見るとは、さすがいきなり越境行為を行った国の軍人といえるな」

 

「撃つつもりは無かったさ、しかし貴様がやり返したとあってはな」

 

「ぬかせ」

 

もう片方の腕を振るいいくつか隠し持っていたテーブルナイフの一つを逆手に構える。

アンソンは背中に装着していた軍用ナイフを構え、同時に魔力の気配が漂う。

 

最悪だ。

相手は現役の軍人、しかも魔導師と来たものだ。

防殻術式を起動させられたのならもう攻撃を入れられる余地はほぼ無い、つまりは対魔導士戦闘を歩兵装備以下のちゃちなナイフ一本でやれというのだ。無理難題にもほどがある。

 

コンパクトに振られるナイフに合わせナイフを振るおうものなら一撃でこちらのナイフがおしゃかだ。

素早く振るわれる斬撃を回避し、伸びた手にナイフで切りつけるが防核術式の堅い感触。

生身で魔導師を制圧するには挌闘戦で関節の攻撃や絞め技が有効だが、それを相手は承知しているのかナイフを振るう手の戻しは早く、それを行う隙はほぼ無い。

最も、こちらは力の弱い子供の身でありそれを行うには深く踏み込まねばならず、しっかり間合いを取られては踏み込むには多大なリスク。

 

「降伏勧告すら、無しとは、子供を甚振る趣味がおありで?ッ!」

 

「貴様をただの子供とのたまう現役軍人などおるまいよ。それに妻は元医者だ、即死しなければ何とかはなる」

 

ナイフを掻い潜りながらの口撃も意味をなさず、徐々にナイフが衣服にかすり始める。

 

(どうしようもない糞ゲー感、やばいな)

 

能力を駆使し斬撃の軌道、ナイフや腕のリーチ、行動のほんのわずかな癖、踏み込みの深さを認識し情報を収集、回避に適応させる。

 

(ちょっと楽しくなってきた)

 

振れども振れども敵の返り血でしかそうなる気は無いといった風に血濡れと呼ばれたティアナに傷がつくことは無い。

それどころか攻撃が見切られ始め、効かないとはいえ手首の頸動脈を何度もナイフで撫でつけられる。

防核術式によりその攻撃が効くことは無いが、命に係わる器官を何度も脅かされるというのは心理的に負荷がかかる。

 

「アンソン殿はこうして、幼女の衣服を細切れにしていくのが趣味なのですかな?はっはっは、良いご趣味で。おっと」

 

反射的に言い返したくなる気持ちを攻撃に込め、アンソンは戦闘に集中する。

これまでの攻撃で衣服はズタボロだ。ナイフで引き裂かれた衣服は牽制の蹴りにより引き千切られ、布より素肌が多く時代を先取りしすぎたファッションのようだ。

 

「お父さん?どうしたのドタバタと...」

 

「メアリー!部屋に戻ってなさい!」

 

と、これまでの挌闘戦でどったんばったんしていたため様子を見に来たメアリーが目にしたものは、服をズタズタに引き裂き幼女に迫る父親の姿と、メアリーをしっかり感知し持っているナイフを死角に置き涙目で助けを求める視線を送るティーレの姿。

 

「メアリー、た、助け」

 

「メアリー!部屋に戻りなさい!」

 

「お父さん最低っ!」

 

一瞬の硬直。

意識を塗りつぶすように強く床を踏み鳴らし距離を詰めにかかるティアナに対し、先ほどまでと違い精細さを欠いた咄嗟の突きで対応する。

それを回避し手首を握り内側に捻り、そこから重心を利用し倒れ掛かってくるアンソンの胸に手を当てそのまま一回転させ背中から地面に叩きつける。

衝撃と捻りにより緩んだ拳からナイフを素早くもぎ取り、胸にある宝珠に手を当てナイフをアンソンの首に添える。

 

「形勢逆転だな」

 

「え、え?何がどうなってるの」

 

宝珠に適度な魔力を流しエラーを誘発。

首に添えたナイフから一筋の血が流れたことから防殻術式は機能不全を起こしたことを確認。

 

動きの止まったアンソンの体をまさぐり、拘束用装備を探し出しそのまま使用。ついでに使える装備を引っぺがす。

 

「家族には手を出すな!」

 

「民間人に手出しをする気は無い。ほれ、口開けろ」

 

猿ぐつわを噛ませアンソンの拘束を終えると、すぐさまこの家を出る準備を始める。

 

「メアリー、しばらく世話になった。今日でお別れだ」

 

緊急用にアンソン家が用意してあった緊急避難バッグの中身を選別しながら、現状の把握に努めているメアリーに話しかける。

 

「改めて自己紹介しよう、とはいっても本当の名は名乗れんが」

 

冷蔵庫にある食料をバックに詰め込む手を止め、改めてメアリーに向き直る。

 

「帝国軍航空医療魔導師、大尉を拝命している。そうだな、友人は私をティアと呼ぶ、そう呼んでくれ」

 

「帝国魔導士...、ティア...」

 

帝国式の敬礼を行いながら目線で感謝と非礼を詫びる。

メアリーは賢い子だ、与えられた情報を咀嚼し素早く現状を認識しているのを感じる。

 

「騙すような真似をしてすまなかったな、たとえ敵国であろうと民間人に危害を加える気は無い。それにすぐ出ていくから安心してくれ」

 

「ティアが記憶を失っていたのは、本当?」

 

聞くこと、聞かねばならないことは他にいくらでもあるだろうに、メアリーがしてきた質問は私の記憶喪失についてのことだった。

 

「記憶を失っていたことは本当だ、この私という人格が戻ったのもつい最近のことだ」

 

「そう、ならいいわ」

 

「?」

 

思っていた展開パターンのどれとも一致しない疑問と回答。

諦めるようでもなく、悲しみや怒りを抱くでもなく、仕方ないといった風にこちらに微笑んでくる。

 

「あなたのあの優しさが本当だったなら、それでいいわ」

 

懐かしくも忌まわしい過去の自分、とうに捨て去った優しさを再び演じれば最も穏やかに彼女への別れを迎えられる。

血の通わぬ冷徹な仮面はそう囁いた。しかし私のルールはそれをさせず、私は素の私を表し別れを告げることにした。

 

「たとえ記憶を失ってからの私が優しかろうと今の私は帝国軍人だ。国防のため人を殺し、侵略のため人を殺し、命令により人を殺す。その中には無論協商連合の兵士も殺してきた」

 

警告、自己にとって利益などどこにもない、ただの警告。

 

「メアリー、敵と味方をくれぐれも間違えてくれるな。君にとって味方は今気絶している君の父親であり、敵は私だ。歩み寄る相手を間違えてはいけない」

 

「随分とおせっかいな敵さんね。それよりもこっちの空は冷えるわ、今ジャンパー持ってくるからちょっと待ってて!」

 

「ねえ聞いてる?」

 

「おかーさん、ティアが旅立つって!」

 

「聞いてー?おーい!...アンソン、どういう教育している。ここを出ていくのが不安になったぞ」

 

聞く耳を持たずリビングから出ていくメアリー、思わずアンソンを問い詰めようとするがおーっとアンソン氏も困惑の表情だー。

迅速にこの家を出ていく必要があるにもかかわらず猿ぐつわを外し娘さんの教育計画について話し合いを始めてしまう。

 

「民間人への攻撃は条約によって禁止されているが実際は何が起こるかわからん。正直大丈夫か娘さん」

 

「私は軍属で家になかなか帰れないから妻に一任していたが、正直私も今不安になった...」

 

「帝国軍はお国柄規律を重視しているから比較的マシではあるが、東のコミー共の脅威は帰るたびちゃんと教えろ、必ずだ」

 

帝国の東に位置する連邦は粛清粛清大粛清の国民虐殺国家だ、侵略した国の扱いなど碌なものではないのは情報部やターニャから聞き及んでいる。

 

「帝国領となれば統制のため多少の抑圧はあれど何事もなければ穏やかに暮らせるが」

 

「させんよ、我が祖国は帝国の侵略を凌ぎきる」

 

「二正面で戦争している帝国に苦しめられてる協商連合程度が?はっ」

 

拘束され寝転がされているおっさんとヤンキー座りで顔を近づけて会話している幼女がガンをつけ合っていると、扉の向こうで制止を呼びかける母親を振り切りメアリーが上着を持ってきた。

 

「ティア、これなんか暖かいわよ。どうかしら?」

 

「待て、それは私が娘に対してプレゼントした物であって貴様にむぐぐ」

 

「...すまない、いつか借りは必ず返す」

 

再び猿ぐつわを噛ませ、メアリーから上着を借り受ける。

成り行きではあったがアンソン家には多大な借りが出来てしまった。

戦場での貸し借りや仕事面での貸し借りはあるが、私的な貸し借りはターニャ以外には思えば初めてのことであり、いつ返せるかわからない借りなど思えば三度の人生の中で本当に初めてだ。

 

仕事時、必要性に駆られればいくらでも非情になれれども、私生活では恩義は返すのが私のルール。

受けた恩義を心にしかと刻み、飛行術式を起動させ旅立つ。

 

 

目指すは協商連合レガドニア首都。

冷たい寒空の中、渡された上着は確かに暖かかった。




メアリーママン―この話を書くに当たり一番困った存在。勝手に設定ぶち上げました。

ティーレさん―いったい何ースフェルトなんだ...。偽名は適当に浮かんだものを使いました。

情報部―無能。

メアリーの成長具合に神経を集中―(おぉぉおっぱ――)

一度目の男―人生の負け犬。自分への決め事は絶対の有言絶対実行の若干サイコパスで社会不適合野郎。

協商連合元ネタ地域でのお昼寝―寒さに強い子にするため雪が降っている中、外で昼寝するそうです。ヨクワカラナイ。

擬音授業―「この公式をカカッと代入してな」「なるほど!」(何故必要のない擬音入れるだけで理解度が上がる、なぜ擬音抜くだけで理解度が下がる...)

お父さん最低攻撃―父親に絶大なダメージ。作者自身も書きながらどうしようと困りながらいつの間にか電波を受信し無理やりこれで解決させた。ギャグ。

血濡れ・航空医療魔導師―二つ名募集枠にて頂いた案を採用させていただきました。案を出して戴いたお二方、ありがとうございました。

血濡れ―原作様『幼女戦記』の発想元の一つ、『リリカルなのはAnother~Fucking Great!~』の主人公に付く『血濡れのマリア』からリスペクトの意を込め使わせていただきました。こちらも大変面白い作品ですのでどうぞ。


メアリー―きっと元は良い子。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17話 帰還思考

エイリアンが攻めてきた、地球防衛しなきゃ(使命感


手配書が配られ厳戒態勢の中、潜入員は果たして任務を行えるだろうか。

事前に仕入れていた重要人物には護衛が張り付き、施設にも警備がおり、浮浪者の見た目をしていようと逐一顔をチェックし手配書と見比べる巡回の兵士。

 

「おい餓鬼、ちょっと顔見せ...あっ」

 

「あっ」

 

巡回兵と鬼ごっこしながらの首都の情報収集だが、私の手配書が撒かれ厳戒態勢が敷かれていた。

重要人物の周辺には厳重な警備が敷かれ、施設には対子供スパイ用の巡回も回っておりアリ一匹通さない構え。

 

「うん、無理だ、おうち帰ろう」

 

そもそもだ、この潜入任務だが始まりから躓いていており、最大の誤算は情報部のダキア公国軍の戦力を見誤っていたことだ。

ダキア公国にて始まった潜入任務。数だけは立派だが前時代的軍事ドクトリンや兵装のダキア軍は、ターニャ率いる即応魔導大隊に鼻先を叩き折られ、続く帝国軍に蹂躙されたのだろう。

要人の隠し子として潜入予定だったが、想定より早く侵略してきた帝国兵に補足され、逃げるときに肝心の要人は死亡。潜入作戦の前提はここですべて崩壊した。

一応国まで持ち帰られたが、その時点で私に価値という物は無く、ただの子供なら生き残りはしないだろうとそこら辺の森の中へ投下。

スー家に拾われ九死に一生を得たのだが、そうでなければ今頃冷たい体を雪の中に埋もれさせていてもおかしくは無かった。

 

スー家での療養後首都へ向かうも、アンソン・スーが無線か何かで連絡したのだろう。首都には情報が回り、碌に情報収集もできなかった。

仕方なく任務は断念。

この任務失敗は情報部の責任だ、私悪くない。

スパっと思考を切り替え帰国の手段を模索するが、帰国手段の提供を行ってくれる予定の現地潜入員はこの状況で迂闊に接触することは躊躇われた。

現地潜入員がバレれば帝国にとっては不利益となるため独自に帰国ルートを考えなければならない。

 

上の失態により現場の人間が被害を食らう話などいくらでも聞いてきたし見てきたことではあるが、まさか自身が体験しようものとは。

一生傍観者でいたかったよまったく。

 

 

さて、帰還するにあたり常識的な手段はいくつか思い浮かぶが、今ある情報の中で一つ気になる情報がある。

それは短期間首都にて潜伏していた時に立ち聞きしたことだが、帝国軍がノルデン方面に多数展開。協商連合軍はそれに対抗するため大部分をノルデンに集め、互いに睨み合っている状況が発生していると。

 

素直に考えれば、帝国は北方攻略のため攻勢準備といったところだろうが、なんと現在の季節は冬だ。

冬季攻勢を行うことがどれほどの愚策であるかはターニャから歴史的講釈を交え聞かされていた。もし帝国が冬季攻勢の愚を犯そうものなら私は亡命してやるとも。

しかし参謀本部が冬季攻勢を許可するのだろうかという疑問がある。

なにせ参謀本部にはターニャが評価したゼートゥーア准将殿がいるのだ。

ターニャがはっきりと有能だと言い切る人物は、そうはいない。いてもそのほとんどは歴史上の人物だ。

そんな人物が上にいる参謀本部が冬季攻勢を許可したというのは考えづらい。

何かしらの意図があるはず。そしてその意図に私の帰還を絡めることが出来たのなら、それは私にとって最上の結果といえよう。

 

少なくともノルデンに軍の大半が割かれているのは恐らくは事実。

参謀本部が無能でなければこれから何かしらが発生する可能性が高い。

参謀の意図を推察し、帰還するためのヤマを張り祖国へ帰る可能性を探るため頭を回す。

 

 

まずはプランA。

帝国北方軍のノルデン攻勢時、戦闘の混乱に乗じ帰還という流れだ。

ある意味一番安パイな考えと言っていいだろう。

混戦の中狙い打たれる可能性も、帝国兵に味方と認識されず撃ち抜かれる可能性もある危険な選択肢だが、一番帰れる可能性が高いように思えるルートだ。

 

だが待ってほしい、これはノルデンで戦闘が行われた時、つまりは冬季攻勢を選択したということ。

自分が所属する国がそこまでの泥船だという現実を見せつけられながらの帰還というのは気持ちの良いものではない。

つまりこれは選択肢としてあってないようなものだ。

 

次にプランBだ。

協商連合のどこか主要地域に潜伏し、何かが起こることを期待し、そのなにかに乗じて帰還。

博打要素が強いどころではない、もはやただの博打だ。参謀本部の意図を推測していけば博打要素は少なくなってゆき、帰還の可能性は高まる...はずだ。

 

プランC、このままノルデンか他国で穏やかに暮らす。

まあ、プランBに備えるも何も起こらず、冬季攻勢が行われた時の選択肢。

限りある兵士を冬季攻勢にて消耗したのならば、帝国は北方もしくは西方の攻勢を跳ね除ける衝撃力を失い、遠からず詰みとなるだろう。

帝国に置いてきたターニャが気がかりになるが、あいつのことだからきっと逞しく生きる。何食わぬ顔をして戦後他国で再会したとしても私はなにも驚かない。

 

 

まあプランBで様子を見てだめそうならプランCに移行が妥当か。

 

プランBについて考察を深めていこう。

協商連合軍の大部分は帝国軍の集結によりノルデンに拘束されているため恐らく後方は手薄になっていると予測する。

帝国北方軍のノルデン集結が本命作戦の助攻であるのならば、本命は恐らく後方地点への襲撃。

しかし襲撃地点がノルデンより近すぎればノルデンから援護が届き、遠ければ補給線の維持に支障が出る。

丁度良い地点をいくつか選択肢に挙げるが、そこには当然のように沿岸要塞が築かれている。

 

...うーん、正直わからん。

 

攻略されないための沿岸要塞だ。

突破できる策を見透せるのならば今頃私は参謀入りだが、私より頭の回るターニャが参謀入りしていないのに私が参謀入りしているわけがない。

だがターニャが突破口を開く作戦を思いつき、それを元に戦略を組まれこの現状が生まれているという可能性は無いわけではない。

僅かな可能性と言わざるを得ないだろう。

だがしかし、帝国の未來がある選択肢があるとすればそこ。私が賭けるとすればその可能性だ。

 

となると、最後は東か西だ。

丁度良い攻撃予想地点は主に二つ。

自身が知りえている情報から推測できるのはここまでであり、これ以上は運頼みとなる。

 

「表が出たら東、裏が出たら西だ」

 

適当なコインを一つ取り出し、親指で宙にはじき出す。

手の甲にて受け止められたコインが記したのは、表だ。

東への移動ルートを試算しながらふと硬貨に描かれているその顔を見て、行き先を西に変える。

どこの硬貨だかわからないが、神が描かれていた。

酷く曖昧で、印象的な、感情的な理由だが、私にとっては十分な理由たりえた。

 

「西だとオースフィヨルドあたりか。移動はまあ、なんとかなるだろう」

 

あの地形からして海から飛び出し帝国の船を見つけ保護してもらう手段も取れる。

飛行術式を起動し強硬的に帝国への帰還を目指す地として、そう悪い地点ではないか。

 

 

オースフィヨルドへの移動だが、基本は魔力反応を出さないため非魔道行軍となるのだが、これには協商連合の飛行補助魔導具が大活躍した。

飛行補助の魔導具は各国様々な形を取っている。

例えば帝国ならば腹にでかい箱状の魔導具を抱え、足の固定具から出力するような形だ。

飛行慣熟訓練に時間が掛かり適正も問われるが、飛行時の自由度は他の追随を許さないほどだ。

対して協商連合軍の飛行補助魔導具だが、背中に飛行補助魔導具の箱を背負い、スキー板状の固定具から出力するようになっている。

雪に慣れた雪国らしい補助具であり、非魔道行軍時にはなんと普通にスキー板として使うこともできる。

おかげさまで雪国での行軍にもかかわらず速度を出しながらの順調な非魔道行軍。この地域に適している有効な魔導具と言えよう。

 

「ワンエイティーン!!イェーッ!」

 

スキーのトリックをキメながらの楽しい行軍時間は、自己認識を容易く上回り、想定よりも体感としても早くオースフィヨルド近くに到着した。

と、遠方の空に小さな影。

素早く木の影に伏せ、スキーで冷えた体に鞭を撃ちジッと空を観察。

観測術式を一瞬起動し、一瞬の間に瞼に焼き付け記憶と照合。

 

「帝国の航空機か、なぜこんなところに?」

 

北方軍と協商軍が激突し航空戦が発生したにしてはおかしい、ノルデンから離れたこの地で航空機が飛ぶとすれば戦線離脱したにも関わらず敵地に飛ぶ方向音痴な阿呆か、何らかの作戦行動か。

希望的観測が入っていないといえば嘘になるが、張ったヤマが的中したことを期待せざるを得ない。

オースフィヨルドに異変が無いか素早く体を起こし、魔力という動力を入れ一息に飛んで確認しに行きたい気持ちを抑え、遠くに見えるオースフィヨルド沿岸の様子を伺う。

 

オースフィヨルド上空に黒い影が複数、観測術式を起動。

 

「パラシュートが複数、空挺降下か。...いい的だな」

 

着陸を成功させるための援護射撃もなく、無謀と言える空挺降下作戦。陽動にしてもわかりやすすぎる捨て石、案の定迎撃の対空射撃の火に焼かれ、パラシュートは穴だらけになる。が、様子がおかしい。

対空射撃が直撃するその瞬間、わずかに見えるのは防核術式の魔力光。

航空魔導師による空挺作戦か。通常の兵士と違い着陸できる可能性は高く作戦効率は通常の比ではない。

航空魔導師は空挺などせずともかっ飛んで強襲というのがこの世界での認識であったが、実際に目にしてみると敵の対応は目に見えて遅れ、非常に有効な作戦であることがわかった。

そしてその空挺部隊の数を数えてみると、その数即応大隊分。

使い物にならなくなったパラシュートを外し先導するように先頭を飛ぶその小さな矮躯は、見間違えようもない我らがターニャ・フォン・デグレチャフその人。

ヤマ感が当たったことに喝采を上げたい気分だ。

 

戦闘隊列を素早く組んだ即応魔導大隊は沿岸に設置されている砲台を手当たり次第に攻撃。沿岸要塞の防衛力を瞬く間に削ぎ取りにかかる。

一拍遅れ迎撃に上がるのはオースフィヨルドに駐屯していた魔導大隊。

緊急時のため隊列が乱れてはいるが、この緊急事態に対しあまりに早い出動だ。

即応魔導大隊は中隊ごとに分かれ砲台の無力化に勤しんでいたが、敵のスクランブルに対し一個中隊が敵魔導大隊迎撃として割かれる。

敵大隊に対し一個中隊で相手をするとは思い切ったことをする。

対魔導師戦闘のため高度を上げ、その行動に対し敵も高度を急速に上昇させていく。

互いに航空戦の有利を得るため高度を上げているが、敵に注意を向け自分のいる地点は全くの死角、援護するのならば今が絶好の機会。

その場に伏せたままライフルを構え、狙撃体勢を取る。

 

「狙撃は苦手なんだがなあ。長距離光学術式展開!狙いよーし、発射ァ!」

 

死角からの光学術式による高速での射撃、ターニャの悪魔的な勘の良さでもなければ回避しえないタイミング。

十二分に魔力を込めた光の弾丸は、冷え冷えとしたオースフィヨルドの空気を切り裂き、ただ、ただ空へ通り過ぎた。

 

「大外れ...」

 

 

観測術式により強化された視界には、慌てふためきながらも上昇を続ける敵大隊の唖然とした表情と、ターニャのゴミを見るかのような、この身に降り積もる雪よりも冷たい視線がよく見えた。

 

「い、いや。試射だから、今当てるからほんと!」

 

口からこぼれ出た戯言と共に二射目を放つ。

だが警戒された狙撃など航空魔導士にそう当たるものではなく、涙目で発射された五発の弾丸の内、二発の直撃コースも余裕をもって躱される。

ちらりとターニャに視界を移すと、親指で喉を掻き切る仕草と、高度を上げて切り込めというハンドサイン。

どうやら無線封鎖しているようだーと現状把握に思考を逃避させ、やけくそな気持ちで飛行補助魔導具に魔力を叩き込む。

ああ、この込み上げてくる涙はなんだろう。きっと久しぶりの再会が嬉しいんだ、間違いない。

やけくそな気持ちで高度を上げ、乱戦に入る準備を整える。

ああそうだ、メアリーに借りたジャケット置いてくるのを忘れた。血で汚れなければ良いが。

後悔を心の隅に残しながら、敵の注意を拡散するため肺に空気を取り込み、どうでもいい戯言を吐き出しながら速度を上げる。

 

 

「この欠陥宝珠が悪いんだ!協商連合は二流技術者だな!ちゃんとしたもん作れよバーカ!!」

 

「叫んでないでさっさと切り込めこの下手くそ!」




ティアナ警戒網―能力をフル活用すれば侵入できなくはないが、実際のところモチベーションが死滅しているため任務放棄。ティアナおうち帰るってさ。

各国の飛行補助魔導具―アニメ設定資料集参考。それぞれ理由あっての形だったので考察深め勝手にスキー行軍可能と設定ぶち上げました。おかしくはないはず...ですよね?

ワンエイティーン―ジャンプし180度回転するスキーやスノボーのトリック。久しぶりのスキーで楽しくなっちゃうティアナさん。満喫。

狙撃―適正、非常に低い。


今年最後の更新となりそうです。
4月から投稿し始め、散々迷走してしまいましたが、沢山のアクセスや評価感想に背を押されました。本当にありがとうございました。
これからも完結目指して続けます故未熟ではありますが生暖かい眼差しでお付き合いください。
それでは良いお年を~(スタンピートで街を廃墟にしながら


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。