コズミックプリキュア (k-suke)
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登場プリキュア紹介

この作品のプリキュアの登場人物その他のネーミングは、野球用語がモチーフになっています。

そしてプリキュアの能力はいろんな作品が元ネタになってます。

よかったら色々探してみてください。


 

 

コズミックプリキュア

 

 

 

元はAI及びエネルギーに問題のある失敗作のレスキュー用アンドロイドだったが、精霊の国の特別警備隊員でもあった二人が憑依したことで、起動に成功した。

 

 

 

電子頭脳にはレスキュー用の医療知識等が徹底的に詰め込まれており、不気味の谷を越えるために人工血液を循環させている。

 

 

元がアンドロイドであるため、身体機能も変身せずとも十分にプリキュア並みで、彼女たちの変身はどちらかといえばマイナスエネルギーを浄化するフォームチェンジに近い。

 

 

人間の数十倍の視聴覚機能に加え、あらゆる電子機器にハッキング可能なハイパーリンク機能を持ち、ボディの強度も数千メートルの深海での作業も難なく行えるほど頑丈。

 

瞬間換装可能なレスキューツール、マルチハンドを武装転用して戦う。

 

 

元ネタは仮面ライダースーパー1のファイブハンド

 

 

 

 

 

リーフ / キュア・リリーフ

 

 

髪はボリュームのある濃いピンク。

 

コスチュームは消防車を意識させる赤を基調にしたフリルのついたドレス

 

名前元は当然リリーフピッチャー

 

 

 

内臓マルチハンド

 

 

非常用電源として使え、電撃光線を放つ青い腕のブルーハンド

 

レーダーと偵察用ミサイル センサーアイ を放つ黄色い腕イエローハンド

 

 

浄化技としては、虹色の球を亜音速で投げつける「プリキュア・レインボール」

 

 

 

 

 

 

 

ダイーダ / キュア・ダイダー

 

 

髪は五本の金髪のポニーテール。

 

コスチュームは白を基調にしたフリルのついたドレスで、救急車を連想させる。

 

名前元は代打

 

 

 

 

内臓マルチハンド

 

 

瓦礫の撤去等に用いることため、超怪力を出せる赤い腕 レッドハンド

 

右手がバーナー、左手からは冷凍ガスを放つ緑の腕 グリーンハンド

 

 

浄化技としては、光のスティックで光の斬撃を飛ばす「プリキュア・シャイニングスイング」

 

 

 

 

合体技としては、リリーフの投げたレインボールをダイダーが光のスティックで打ち返すことで威力を倍加させる「プリキュア・レインボー・ツインバスター」

 

 

 

 

 

 

 

三冠号

 

 

 

移動手段として用いる音速ジェット 

 

最高速度マッハ2.5、ステルス機能やVTOL機能を搭載していて、潜水艦としての運用も可能な万能機

 

 

避難物資や消火剤等の散布もできる反面、武装と呼べるものが搭載されていない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライナージェット

 

 

 

サーフボードのように乗ることのできる小型ジェット機とカノン形態の二つをとる新兵器。

 

ジェット形態では翼部分に空気の刃をコーティングさせて対象物をすれ違いざまに切り裂くことが可能。

 

 

カノンモードでは二人の持つプラスエネルギーを圧縮・増幅させて発射し、マイナスエネルギーだけを浄化する砲撃、「プリキュア・ウォークオフ・フラッシャー」を使用可能。

 

 

デザインイメージは、光戦隊マスクマンのジェットカノン

 

 



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第1話 「ピンチ一発、大逆転! (前編)」 

日本 某県 甲子市 童夢小学校

 

 

ごく普通の一日が今日も終わりを告げ、多くの生徒達が下校し始めていた。

 

 

そんな中、息急き切って走る一人の少年がいた。

 

この少年の名は速田(そくだ) (ごう)

 

この童夢小学校の四年生である。

 

 

豪は、前を歩いている少女を呼びながら駆け寄った。

 

 

豪「あっ、いたいた。ラン、おいラン!!」

 

ラン「あら豪。何の用よ」

 

この少女は遠藤(えんどう) ラン。

 

この二人は同学年のいとこ同士なのである。

 

 

豪「決まってんだろ。あれだよ、どうなってるんだ!?」

 

ラン「あれって?」

 

豪「じいちゃんが作ってるやつだよ、どうなんだ?」

 

ラン「ああ…あれだったら今日中に完成するとか言ってたけど……」

 

豪「ホントか、やった!!」

 

ラン「何喜んでるのよ。豪のおもちゃじゃないのよ!? それにあんなものが本当にできると思ってるの?」

 

大興奮の豪に対して、ランはどこか冷めたような口調で呆れたようにそう言った。

 

 

 

豪「できるさ、俺達のじいちゃんが作ってんだぜ!! すぐ行くってじいちゃんに言っといて!!」

 

そう言い残し、豪は走って行ってしまった。

 

 

 

そんな豪の後ろ姿を見送ると、ランはため息とともにつぶやいた。

 

ラン「分かってるでしょうに…。おじいちゃんが作ってるから、あてにならないのよ…」

 

 

 

 

 

同市内にある海に面した崖の上。どこかおかしなデザインをした、少し大きめの一軒家が建っていた。

 

ここは、遠藤平和科学研究所。

 

…と、いう名前を自称している建物である。

 

 

 

 

「だからして……この配線がこうなるから……ここのところをこうプログラムし直して…」

 

 

タブレットを操作しながらそう呟き、食事をしているのはこの自称研究所の唯一の所員にして所長、遠藤(えんどう) (ひろし) 博士。

 

豪とランの祖父でもある。

 

 

遠藤「何としてでも、こいつらを一刻も早く完成させねばならん。さもなくば恐ろしい悪魔が…」

 

 

 

決意の表情をしながら、おかずに箸をのばすと一匹の猫がそのおかずを咥えて行ってしまった。

 

 

遠藤「悪魔ー!! こら、ワシのおかず!!」

 

 

その猫は窓から外に出ると、帰宅してきたランに駆け寄った。

 

ランは微笑みながらその猫を抱き上げると挨拶した。

 

ラン「ただいま、ヒット」

 

 

 

 

 

 

 

 

研究所内 台所

 

 

 

遠藤「まったく!! 飼い主のおかずを盗むとはなんちゅうやつじゃ」

 

ラン「おじいちゃんが、ヒットの餌を用意し忘れたからでしょ」

 

憤っている遠藤博士を諌めるようにランがそう言った。

 

 

遠藤「ん? 何を言うか。餌ならちゃんと用意してやっておるじゃろうが。あのワシの作った全自動餌やり機があるじゃろう」

 

ラン「あれは一度も使ってません。最初に試した時、餌と水がバケツひっくり返したみたいにいっぱい出てきてヒットが埋もれちゃったじゃない。あれ以来ヒットはあの機械に近づきもしないわ」

 

遠藤「あっ、そうじゃったな…」

 

 

 

ラン「んもう…。あっそれより食器洗い機直してくれた? 昨日から調子が悪いって言ってたやつ」

 

 

ランがそう尋ねると、遠藤博士は自信満々に答えた。

 

遠藤「もちろんじゃ。あんなものお茶の子さいさいじゃ。ついでに大幅に性能をアップさせておいた。お前の両親が外国に行ってしまって、ここの家事一切は任せっきりじゃからな。これで少しは楽ができるぞ」

 

ラン「ふ〜ん。じゃあとりあえず使ってみるけど…」

 

疑いの目を向けながら、ランは遠藤博士が食べた後の食器を機械に入れ、スイッチを押した。

 

 

低いモーター音とともに機械が動き始めると、大きく全体が振動を始め、入れた食器や皿が飛び出してきた。

 

 

ラン「きゃあああ!!」

 

ランが大慌てでスイッチを止めるも、皿や食器はあたり一面に飛び散って粉々に割れてしまい、台所は惨憺たる有様になっていた。

 

 

 

ラン「おじいちゃん、どういう修理の仕方したの!?」

 

博士「いや…ちょっと強力すぎたかな。あははは…。 う、ごめんなさい…」

 

憤るランに誤魔化したように遠藤博士は笑ったが、ギロリと睨まれてしまい、小さくなって謝った。

 

 

 

 

 

そんな時、豪が挨拶もなしに研究所に入ってきた。

 

豪「爺ちゃん、あれは!? って、うわっ、どうしたんだ、これ!?」

 

 

割れた食器やコップで足の踏み場もないほど散乱した台所を見て、豪は驚きの声を上げた。

 

博士「あれ…ああ、そうじゃった。わしには重要な研究が残っとるんじゃった!!」

 

ラン「またそうやってごまかす…」

 

 

そんな遠藤博士に、ランは呆れたような声を漏らした。

 

博士「ラン、今日はついにわしの研究が完成する日じゃ。晩飯はすこし豪華にな」

 

博士は本棚の本を一冊取り出すと、その裏にあったボタンを押した。

 

 

するとその本棚は横にスライドし、隠し階段が現れた。

 

 

そしてその階段を下りながら遠藤博士は話し始めた。

 

遠藤「豪、ラン、いいか!? 今、世の中にはマイナスエネルギーが満ち満ちておる。マイナスエネルギーとはいわば負の感情から生まれる闇のエネルギーのことじゃ。このままなんの対応もせず放っておくと世界は階段を転げ落ちるように暗黒の世になってしまう。…じゃからこそ」

 

豪・ラン「「世界平和のために、研究に励んでおるのじゃ!」」

 

 

博士「その通り、二人ともよく知っとるなぁ…」

 

豪「まあ、毎日聞いてるからね」

 

ラン「もう、耳にタコができるぐらい。でもそのマイナスエネルギーっていうのが本当にあのガラクタでわかるの?」

 

 

遠藤「ガラクタとはなんじゃ。あれはわしが開発したマイナスエネルギー検知器じゃぞ。大きなマイナスエネルギーを感知すればこの地球のどこだろうとも即座に反応するのじゃ」

 

 

ラン「そうは言うけどねぇ…」

 

ランは一階の居間に置いてあるマイナスエネルギー検知器を思い出してため息をついた。

 

 

マイナスエネルギー検知器。

 

 

名前だけはかっこいいが、外見はどう見てもガラクタのつぎはぎに、裸電球がつないであるだけのものでしかなく、ランはイマイチ信用していないのである。

 

 

 

 

 

地下の研究室に着くと遠藤博士はスイッチを入れ、研究所のコンピューターを起動させた。

 

遠藤「特に、あのDr.フライがこの世に存在する以上、放っては置けんのじゃ!! あいつは科学者の皮を被った極悪人じゃ!!」

 

豪「だけどあんまり有名じゃないね…」

 

ラン「…っていうより誰も知らないんじゃない」

 

 

 

遠藤「みんな、気づいとらんだけじゃ。奴は邪悪な研究をして地球を滅ぼそうと考えておる! そのために、わしもこうして地下へ潜伏してじゃな……」

 

豪「どうでもいいけど、ここのこといつまで秘密にしとくの!? 俺、みんなに自慢してやりたいんだけどなぁ…うちのじいちゃんはあんな戦闘機が作れるぐらいスゲェって」

 

豪の指差した先の窓からは、1機のコンコルドのようなシルエットのジェット機が見えた。

 

 

遠藤「それだけはいかん! ここをみんなに知られたらえらいことになる。そう、特にくだらん奴らに知られたら、マスコミは来るわ、野次馬は来るわ、そうなったらあいつらにも…」

 

そこまで話すと、遠藤博士は慌てて口を押さえた。

 

 

ラン「あいつら?」

 

 

遠藤「あ、いや、ゴホン。そうなったらわしは研究する暇もなくなるに決まっておる。とにかく、このことは秘密にしといたほうがいいんじゃ…」

 

 

 

豪「ふーん、それより早く見たいな!! あれが動くところを…」

 

遠藤「おう、あれじゃろ」

 

 

そう言って遠藤博士が奥のドアを開けると、そこには2体の無機質なロボットがあった。

 

豪「うわぁー!! スッゲェじゃん、本当に作っちゃったんだ、アンドロイドを」

 

 

その豪の言葉に、博士は得意そうに言った。

 

遠藤「当たり前じゃ、わしの発明に不可能はない…。ただまだ一つだけ問題があってな」

 

豪「問題?」

 

遠藤「うむ。こやつらにはレスキューに必要な様々な装備を搭載し、必要な知識は完璧にプログラムした。そしてそれを駆使して世界中の災害や事故における危機を救うことになるのじゃ。ただ…自立して動くためのAI、つまり人工知能のプログラムがなかなか難しくてな…」

 

豪「えっ…じゃあ動かないの?」

 

不安そうな豪に対して、遠藤は自信満々に答えた。

 

遠藤「なーに、すこし手こずっただけじゃ。あとは人工皮膚をコーティングして、データをデバックしてロードすればいいだけじゃ」

 

 

そう言って遠藤博士はパソコンの画面に、二人の女の子の顔を出した。

 

一人はどこかほんわかした感じのするショートヘアの女の子、もう一人はどこかきつそうな目つきをしたポニーテールの女の子だが、どちらも優しい印象を与える顔であった。

 

豪「じいちゃん、誰この二人?」

 

ラン「このアンドロイドにつける顔よ」

 

豪は驚いて尋ねた。

 

豪「えっ、女の顔なのかよ!?」

 

 

遠藤「うむ、わしも男と女どちらがいいか悩んだんじゃがな。レスキューには優しさの象徴でもある女性の方がいいという結論に達したのじゃ」

 

 

そんな会話をしている間にもプログラムは進んでいき、ついに遠藤博士の手が止まった。

 

 

遠藤「よーし、できたぞ。あとはデータをロードするだけじゃ、ランそっちの準備はいいか」

 

 

ラン「OKよ」

 

遠藤「そうかそうか…ってお前は何の準備をやっとる?」

 

ランはヘルメットを被り、防御用のメガネをした挙句に消火器を抱えていた。

 

 

ラン「何よりもこっちの準備が大事よ」

 

遠藤「わしを信用しとらんな!?」

 

ラン「されてると思ってたの!?」

 

 

 

博士「くぅ〜なんちゅう情けない孫じゃ。いいか見とれ、いよいよこの二人に命が吹き込まれるのじゃ!! 行くぞ……」

 

その言葉とともに、遠藤博士はレバーを引いた。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、謎の黒いエネルギーの球体が突如現れ、どこかの海中に落下していった。

 

その薄暗い海中には、何かの研究室のような物があった。

 

実は、ここが先ほど遠藤博士の話にもあったDr.フライの秘密研究所であり、

Dr.フライが遠藤博士と同じように、筋骨隆々とした大男と、細身の男のアンドロイドを作成していたところであった。

 

Dr.フライ「ん? おおーっ!!」

 

その2体のアンドロイドがどこか禍々しい光に輝き始め、動き始めた。

 

 

Dr.フライ「や、やった。き、兆しじゃ。暗黒世界招来の兆しじゃ!!」

 

 

 

 

 

 

一方、それと同時に、遠藤平和研究所の一階に置かれたマイナスエネルギー検知器がものすごい反応を示し始め、ついには爆発し燃え上がった。

 

 

しかし、地下室にいた博士達は、光り始めた目の前のアンドロイドに気を取られており、それに気がつかなかった。

 

豪「うぉーっ!!」

 

遠藤「さあ、目覚めよ!!」

 

テンションが上がっていた遠藤博士だったが、その時非常ベルが鳴り響いた。

 

 

ラン「やっぱり!!」

 

博士「待て!! まだ正常じゃ」

 

しかし光り輝く2体のアンドロイドは、素人目にもわかるほど危ない雰囲気を醸し出し始めていた。

 

豪「じいちゃん、やばいよ! もうやめたほうがいいって」

 

その不安そうな豪の叫びに答えるかのように、天井のスプリンクラーが作動し一面が水びだしになった。

 

ラン「きゃあ冷たい!!」

 

 

遠藤「ありゃあ…大事なデータの入ったパソコンが水浸しになってしまう!」

 

遠藤博士は大慌てでアンドロイドにエネルギーを注いでいたレバーを戻し、スプリンクラーを止めた。

 

ランもアンドロイドに消火器をかけ、なんとか軽いボヤで済んだ。

 

遠藤「はあ〜っ…」

 

遠藤博士はがっくりと肩を落とし、ため息をついていた。

 

 

ラン「ほんとにもう! 私の言った通りじゃない」

 

豪「じいちゃん、大丈夫だよ。じいちゃんならきっと動かせるよ……だからそんなに気を落とさないで」

 

そんな遠藤博士に対して、ランと豪は各々の感想を漏らしていた。

 

 

 

すると再び非常ベルが鳴り響いた。

 

 

ラン「あれ? また!?」

 

遠藤「ん? 火事は消したはずじゃが…」

 

近くのモニターをつけると、そこには一階が炎上している光景が映っていた。

 

 

ラン「大変!!」

 

豪「早く消さないと!! 119番」

 

遠藤「待て! そんなことをしたら秘密の研究が…」

 

ラン「家が燃えちゃったらそれどころじゃないわよ!! 豪、早く電話して」

 

制止する遠藤博士を振り切って、豪は持っていた携帯で119番をした。

 

 

遠藤「ええい、消防車が来る前に火を消すんじゃ!! 急げ」

 

 

その後悪戦苦闘の末、どうにか居間の一部が真っ黒になったレベルで鎮火することに成功した。

 

 

 

 

しかし時すでに遅く、救急車に消防車、おまけにパトカーまでもが研究所に到着していた。

 

 

遠藤「ようし、もう大丈夫じゃ! この感じからすると出火元はこいつか… アチッ!!」

 

一階の惨状から、出火元を分析した遠藤博士が検知器に触れるが、検知器はかなりの高温になっており、慌てて手を引っ込めた。

 

遠藤「ということは…いかん!! 猛烈なマイナスエネルギーを検知したのじゃ!! ついに悪魔が復活したか…世界の危機じゃ!!」

 

 

その時チャイムが鳴り、扉をドンドンと叩く音が響いた。

 

「消防署のものです。通報があってきました。大丈夫ですか!?」

 

 

 

それを聞いた遠藤博士は、大慌てで指示した。

 

遠藤「まずい!! 豪、秘密の扉を閉めるんじゃ」

 

 

豪「うん!!」

 

豪とランは奥へと行き、本棚のスイッチを入れたが、扉はまるで動く気配を見せなかった。

 

 

豪「あれ? おい、どうしたんだよ!?」

 

ラン「どうしたのよ!? 早く閉めて!!」

 

豪「閉まんないんだよ!!」

 

ラン「えーっ!!」

 

 

二人が慌てている頃、遠藤博士は消防隊員と応対していた。

 

 

遠藤「やあ、ご苦労さん! どうかしましたかね」

 

消防隊員「火事はどこです!?」

 

遠藤「火事? 火事なんか知らんぞ?」

 

隊員達「え? ですが、確かにここが火事だから来てくれと子供の声で連絡が…」

 

遠藤「いたずらではないのか? (なんとかごまかさんと…)」

 

 

なんとかすっとぼけようとする遠藤博士にパトカーから降りてきた中年の刑事が話しかけた。

 

 

「遠藤博士、またおとぼけですか!?」

 

遠藤「ん? 河内(こうち)警部。またやな奴が…」

 

 

 

 

研究所内では豪とランが懸命に本棚を戻そうとしていたが、子供の力では動くはずもなかった。

 

ラン「そうだ、豪、中のボタンを押してみて!」

 

豪「うん!」

 

豪が中のボタンを押すと本棚が動き、扉が閉まった。

 

ラン「何だ、簡単じゃない。 ああよかった」

 

しかし当然のことながら、豪は閉じ込められてしまった。

 

豪「ちょっと! 俺はどうすりゃいいんだよ!?」

 

ラン「しばらく我慢しなさいな、男でしょ」

 

豪「ちぇっ。 しゃあねぇ、さっきのアンドロイドでも見てよっと」

 

豪は舌打ちをすると地下へと階段を降りて行った。

 

 

 

その頃研究所の玄関では、遠藤博士が河内警部を中に入れないように頑張っていた。

 

遠藤「いかん! うちの中を調べるのは許さん!!」

 

河内「出火元を調べるのを邪魔する気か!!」

 

遠藤「出火はしとらん!!」

 

 

そんな会話にランが割って入った。

 

ラン「ちょっと礼状は? 礼状がなきゃ不法侵入よ!?」

 

河内「お嬢ちゃん、警察をなめたらアカンよ。近所からも苦情が来とるんだよ、ここで妙な発明をしとるとな…」

 

ラン「フン! その近所の人って誰よ? ここに連れてきなさいな!!」

 

ランは気丈にそう言い放った。

 

 

河内「ええぃ、とにかく調べさせてもらうぞ!」

 

そう言い捨て、河内警部は強引に所内に入っていった。

 

 

遠藤「こら、勝手に!!」

 

 

 

その騒ぎの中、空から二つの光の玉が舞い降り研究所内へと入っていったが、そのことに誰も気がつかなかった。

 

 

 

 

 

研究所内

 

 

河内「やっぱり焼けとるじゃないか!」

 

遠藤「いいや、消えとるんじゃ」

 

河内「屁理屈を…。しかし、かなり立派な一軒家に加え、見た所内装にも高価なものが揃ってますなぁ。随分金かかったでしょう!?」

 

遠藤「そ、それはじゃな……」

 

その言葉に、遠藤博士の目は泳ぎ始めた。

 

 

河内「聞くところによると、博士は無職だそうですが、一体どうやってこんなものを…」

 

そんなことを話しているうちに、河内警部はマイナスエネルギー検知器に手を置いてしまい

 

 

河内「アッチャー!!」

 

その熱さに悲鳴をあげてしまった。

 

 

 

 

 

研究所 地下室

 

 

豪「あーあ、いつになったら出られるんだか…」

 

 

そんなことをぼやいていると、先ほどの光の玉が地下室に入ってきて、アンドロイドに吸い込まれるように消えていった。

 

豪「ん? なんだ今の」

 

 

するとアンドロイドが突如光輝き始めた。

 

豪「うわっ!!」

 

 

豪はその眩しさに思わず目を閉じてしまい、光が収まったのを感じゆっくりと目を開いていくと、目の前の光景に目を見開いた。

 

 

そこにいたのは、無機質なアンドロイドではなく、15歳前後の少女達であった。

 

 

「dsp o I dz lvp z:ww」

 

「.seiv pdo ps fdee」

 

そして、その少女達はなにやら訳のわからない言葉を話し出した。

 

 

 

豪「ど、どうなっちゃったの!?」

 

目の前の現実に混乱していた豪は、必死に絞り出すようにそう言った。

 

 

「dslofo;: ど、どうなっちゃったの!?」

 

その少女の一人が豪と同じことをたどたどしく繰り返した。

 

 

豪「しゃ、しゃべった……」

 

「dospoe しゃ、しゃべった……」

 

今一人の少女もまた同じようにたどたどしく繰り返した。

 

 

 

豪「あ、あれ? この二人の顔どこかで… あ、ああ!!」

 

 

 

 

 

外では河内警部が必死に抵抗しつつも、救急隊員に無理やり連れて行かれていた。

 

 

河内「放せ!! 俺はまだあのじいさんに聞きたいことがあるんだ!!」

 

救急隊員「いいえ、かなり重度の火傷です。病院に行かなきゃダメです!」

 

河内「あのじいさんは5年前の事件の…」

 

 

抵抗虚しく、河内警部は救急車に押し込められてしまい、救急車は発車した。

 

ラン「さようなら〜!!」

 

遠藤「もう来なくていいぞ〜」

 

 

 

 

笑顔で見送った遠藤博士とランは、ほっと一息をつくと研究所内へと走っていった。

 

 

 

ラン「豪、お待たせ。 もういいわよ」

 

本棚の扉を開けると、豪が飛び出してきた。

 

 

豪「やったよ!!」

 

遠藤「どうしたんじゃ!?」

 

豪「じいちゃん、ついにやったよ!」

 

ラン「やったって、火事でなにか漏らしたの!?」

 

豪「ちがわい! アンドロイドが完成したんだ!!」

 

 

ラン「えっ!?」

 

遠藤「ま、まさか……」

 

 

すると二人の少女が、豪の後ろから階段を登ってきた。

 

 

豪「さっき突然動き出したんだよ」

 

遠藤「お、おーっ。やはりわしに間違いはなかった。オホン! わしは、お前らを作った遠藤博士じゃ。よろしくな」

 

博士が歓喜の声とともに手を伸ばすと、どこかキツ目の顔をしたポニーテールの少女が軽く腕を回しながら答えた。

 

 

「作ったっていってもこの体をよね。まあ、リーフが見つけたにしては割と使い勝手は良さそうだけど…」

 

 

遠藤「なに?」

 

 

「ぶーっ、なによダイーダちゃんってば。私に何もかも押し付けたくせに」

 

どこかほんわかした感じのショートカットの少女が、ふくれっ面をしながらそう反論した。

 

 

「何言ってんの。普段からぼけ〜っとしてるんだから、たまには働きなさいな」

 

 

遠藤「な、何を言っとるんじゃこいつらは!?」

 

全く脈絡のない会話を始めた二人に、遠藤博士は戸惑っていた。

 

 

 

豪「ああ、なんかさっきからこんな感じでさ。 リーフとダイーダっていう名前なんだって」

 

遠藤「なんじゃそりゃ? わしは、そんな名前のプログラムをした覚えはないぞ」

 

豪「えっ?」

 

 

ラン「ちょっと、どうでもいいから服を持ってあげなさいよ。二人とも裸じゃない。用意はしてあるから!!」

 

首を傾げていた遠藤博士と豪を叱りつけるように、ランはそう怒鳴った。

 

 

 

リーフとダイーダも服を着て(着付けはランがやり、そこでまたひと騒動あったが、それについては省略する)、どうにか一息ついたところで、改めて自己紹介が行われることになった。

 

 

 

 

 

 

遠藤「えーっ、改めて聞くが、お前さん達は一体なんなんじゃ。わしの作ったアンドロイドがただ動いただけじゃなさそうじゃが…」

 

 

ダイーダ「私達は、光の園と呼ばれる世界に住んでいる精霊で、特別警備隊員の一員なんです。あらゆる次元世界を暗黒の世にしようとするものを追って来たんです」

 

リーフ「私達はこの世界じゃ、実体のないエネルギーみたいなものになっちゃうんです。何かと一体化して体を得ようと思っていたら、ちょうど強いプラスエネルギーをこの近辺で感じたから…」

 

 

遠藤「ふーむ、世の中には科学では解析できんこともあるもんじゃな」

 

 

現実離れした話に、目を丸くしつつも、遠藤博士はそう唸った。

 

 

 

豪「でもすげぇよ。あっ紹介するね。俺は速田 豪。それから、いとこの遠藤 ラン。ちっこいのはヒット」

 

 

ラン「よ、よろしく…」

 

ランがたどたどしく頭を下げると

 

 

リーフ「よろしくね」

 

リーフは微笑みながら、ランの頭を叩いた。

 

ラン「あ痛!!」

 

 

豪「ちょっとなにすんだよ!?」

 

リーフ「あれ? こうやって頭に手をぶつけるんじゃないの?」

 

豪の抗議にリーフはキョトンとした顔で尋ねてきた。

 

 

ダイーダ「まったく、そうじゃないでしょ。行く先の世界の文化をあらかじめきちんと勉強しなさいといつも言ってるでしょ。そういう時は、手を開くんじゃなくて、こう握りしめて…」

 

 

遠藤「どっちも違う!! …まぁ違う世界の存在なのじゃから、いろいろ知らんこともあるじゃろう。その辺はおいおい学んでいけば良い」

 

 

 

 

 

 

 

するとそこに、再び警報音が鳴り響いた。

 

 

豪「なんだ!? また火事かよ?」

 

遠藤「いや違う、これは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

甲子市 市街地

 

 

 

 

この甲子市は中堅規模の街であり、それなりに人口も多く、発展もしている。

 

その市街地のビルが突如として、何棟も倒壊してしまい、火災が起きる等甚大な被害が出ていた。

 

 

市民「何だこれ?」

 

市民「わかんねぇ…、 おいレスキュー隊はまだかよ」

 

 

倒壊したビルの中には何にも人がいることは明らかであるが、さらなる倒壊が起きるかもしれないという恐怖と、燃え盛る火のため、誰も近づけないでいた。

 

 

 

その光景は緊急のニュース速報で報道されていた。

 

レポーター「ご覧ください。突如として起きた謎の倒壊事故。倒壊したビルの中に閉じ込められた人々の安否が心配されます。 レポーターの甲斐 節子がお届けしました」

 

 

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

研究所でもそのニュースを聞いた遠藤博士達は、突然のことに険しい顔をしていた。

 

 

ラン「いきなりビルが倒壊って、どういうこと!?」

 

豪「信じられねぇ、みんな大丈夫なのかな」

 

遠藤「うーむ、やはりあの火事は、悪魔の出現を予言しておったのじゃな」

 

 

 

リーフ「ダイーダちゃん…、これって…」

 

ダイーダ「ええ、あいつらね…こうしちゃいられないわ!!」

 

 

 

遠藤「リーフとダイーダといったな。二人とも、現場の人達の救助を頼めるか?」

 

 

遠藤博士がそう尋ねると、リーフとダイーダはにっこりと笑って答えた。

 

リーフ「もっちろん!!」

 

ダイーダ「あいつのために苦しむ人々を救うのが私達の使命よ」

 

 

その言葉に遠藤博士は力強く頷いた。

 

遠藤「よし、頼むぞ。初仕事じゃ。豪、二人を案内してやれ」

 

 

豪「オッケー!! 二人ともこっちだよ」

 

そう言って豪は二人をシートが置いてある奥の部屋に案内した。

 

 

豪「これだよ。二人ともこのヘルメットを着けてこのシートに座って」

 

リーフ「うん、わかった♪」

 

ダイーダ「で、これがなんなの?」

 

 

 

ダイーダの疑問に答えるかのように、二人の座ったシートが下に降りていった。

 

リーフ「わっわっわっ」

 

 

 

 

そして、奥にあったもう1つのシートに豪が同じようにヘルメットをかぶって座った。

 

豪「へへへ、このチャンスを待っていたんだ!」

 

 

 

そしてシートは先ほどの格納庫にあったジェット機のコックピットに移動、固定された。

 

 

リーフとダイーダが自分たちのAIにプログラムされてたデータをもとに、ジェット機を起動させながらつぶやいた。

 

 

ダイーダ「なるほど、これならあいつが暴れてるところにすぐに駆けつけられるわね」

 

 

リーフ「よーし、準備オッケー」

 

 

 

そうしているとコックピットのモニターに遠藤博士が映った。

 

遠藤博士は研究所の奥にある指令室のようなところにいるらしく、そこから指示を出していた。

 

 

遠藤「そうじゃ、そいつは世界中のあらゆる場所に駆けつけることのできる特殊ジェット機、その名も三冠号」

 

 

豪「三冠号か…、すっげぇ!! じいちゃん早く出してよ」

 

リーフとダイーダの後ろから、豪が顔を出しそう促した。

 

 

ラン「豪! そこで何してるの!? 豪は降りてらっしゃい!」

 

豪「やだよーだ!」

 

 

豪の姿を認めたランは驚いて怒鳴ったが、豪はアカンベーをしながらそう言った。

 

遠藤「ええい、今は時間がない。とにかく情報はこちらから指示する。冷静に行動するんじゃぞ!」

 

豪「了解!」

 

遠藤「お前には言っとらん、リーフとダイーダに言っとるんじゃ!」

 

ダイーダ「いい、リーフ冷静に行動よ」

 

リーフ「りょーかい」

 

 

 

三冠号が発進準備を整えるとともに、崖の一部の岩肌が開き、滑走路となった。

 

遠藤「いよいよじゃ… よし、発進!!」

 

その掛け声とともに、三冠号が発進していった。

 

 

第1話  終

 



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第2話 「ピンチ一発、大逆転! (後編)」 

甲子市 市街地

 

 

 

 

 

火は燃え広がる一方であり、消防も駆けつけて作業に当たっていたが、なかなか鎮火する気配がなかった。

 

 

消防隊員「くそっ!! なかなか鎮火しないから、救助に入ることもできん!! 中の人達がまずいぞ!!」

 

 

隊員達が焦る中、三冠号が飛来した。

 

 

消防隊員「なんだあれは? 救援か?」

 

 

 

豪「うわぁ、ひでぇ……」

 

 

三冠号のコックピットでは、豪が地上の状況を見てそう感想を漏らしていた。

 

するとコックピットのモニターに遠藤博士の顔が映った。

 

遠藤「右端のスイッチを押せ。わしの開発した特殊万能消火弾が投下される」

 

 

ダイーダ「右端…これか!!」

 

すると三冠号から消火弾が投下され、たちまちのうちに地上の火事は鎮火していった。

 

消防隊員「おぉ、すごい!!」

 

 

リーフ「よ〜し、火は消えた。中の人達を助けないと」

 

 

遠藤「うむ、いいか二人とも。お前達の使っているアンドロイドのボディにはレスキューに必要な様々な装備が内蔵されておる。中でも瞬間換装可能なマルチハンドはお前らの力の基本となるべきものじゃ」

 

 

豪「マルチハンド…」

 

 

遠藤「うむ、三冠号はこちらで自動操縦に切り替える。リーフ、お前の腕をイエローハンドに換装しろ」

 

 

リーフ「りょ〜かい。チェンジハンド・タイプイエロー!!」

 

 

その掛け声とともに、リーフの両腕が小さなロケットが装備された黄色の腕に変わった。

 

遠藤「そのイエローハンドにセットされた偵察ロケット、センサーアイには、X線やサーモグラファー等が内蔵されていて、半径10km四方の情報を詳細に手に入れることができる。それで、倒壊したビルの内部状況や要救助者の位置を割り出すんじゃ」

 

 

リーフ「はい!!」

 

 

その返事とともに、リーフはコックピットハッチを開け、右腕を空にかざし、センサーアイを発射した。

 

するとリーフの電子頭脳にセンサーアイから次々と情報が送られてきた。

 

リーフ「…ふんふん。こうなってああなって…こことこことここに…。よし、全部わかりました〜!!」

 

 

遠藤「よし、そのデータをダイーダにも転送するんじゃ。二人とも、要救助者の救助じゃ」

 

 

リーフ「行くよ、ダイーダちゃん」

 

ダイーダ「ふっ、任されて!!」

 

その威勢のいい返事とともにリーフとダイーダは、上空の三冠号から飛び降り、倒壊したビルの上に降り立った。

 

 

 

 

 

ダイーダ「よし、ここの瓦礫を撤去するのが最短ルートね。じゃあ私も使ってみますか。チェンジハンド・タイプレッド!!」

 

その掛け声とともにダイーダの両腕は一回り大きなゴツゴツした赤い腕に換装した。

 

 

ダイーダ「ヌゥオオオオ!!」

 

すると、ダイーダは自分の何倍もの重さのありそうな瓦礫を片手で軽々と持ち上げ、投げ飛ばしていった。

 

 

 

ラン「すごい力…」

 

その様子を三冠号のカメラを通して見ていたランは、驚きながらそう呟いた。

 

 

遠藤「フッフッフッ。あのレッドハンドは大型トラックをも片手で持ち上げるほどのパワーが秘められておるのじゃ。主に被災地における瓦礫などの撤去を迅速に行うためのものじゃ」

 

 

瓦礫の撤去を行い、通路を確保したダイーダはリーフと一緒にそのまま倒壊したビルの中へと入っていった。

 

 

 

 

 

ダイーダ「えーっと、さっきの情報によるとこっちの方に…」

 

 

「ううっ、痛て〜よ〜」

 

「助けてくれ〜」

 

 

中を進んでいると、多くの怪我をした人達が痛みに呻き声をあげていた。

 

ダイーダ「大丈夫ですか? しっかりしてください!!」

 

リーフ「もう大丈夫ですよ!」

 

 

そんな人達を励ますと、ダイーダとリーフは目にも止まらぬスピードと正確さで、次々と応急処置を施していった。

 

ダイーダ「あっちから外に出られます。私は奥に向かいますので、すいませんが自力で歩ける人は自力でお願いします」

 

 

リーフ「足に大きな怪我した人は私が運びます。ダイーダちゃん奥の方はお願い」

 

 

 

怪我人「おぉ、ありがとう」

 

怪我人「助かった、天使みたいな人達だ」

 

 

そうしてリーフは怪我人を連れて出口に、ダイーダは奥へと向かっていった。

 

 

 

 

奥へ向かっていったダイーダは、そこで未だくすぶっている火と、歪んでしまった鉄の防火扉に足を挟まれて動けない人を見つけた。

 

 

「熱いよ〜、助けて〜」

 

ダイーダ「待っててください、まずは火を消さないと。チェンジハンド・タイプグリーン!!」

 

すると今度はダイーダの両腕が、何かの噴射口のようなもののついた緑色の腕に換装された。

 

そのまま左腕を前に差し出すと、真っ白いガスが吹き出し、たちまちのうちに火が消えた。

 

 

ダイーダ「なるほど、この緑の腕は左手からは超低温の冷凍ガスが出て… 待っててください、すぐに足が動くようにします」

 

そう言って足を挟まれてる人のところに行くも、下手に扉をこじ開けてしまうと、連鎖的に瓦礫が崩れダイーダもろともに埋まってしまいかねなかった。

 

ダイーダ「これは、この部分だけを焼き切るしかない… 少し熱いけど我慢してください」

 

 

そして今度は右腕を差し出すと、バーナーのような炎が噴射し、鉄の扉をバターのように焼き切った。

 

ダイーダ「右手からは超高熱のプラズマジェット火炎… こりゃ便利だわ。 っと、この人で最後ね」

 

 

そうして救助した人に応急処置を施した上でおぶり、ダイーダもまた出口へと向かっていった。

 

 

 

一方、外では到着していた救急車にリーフが怪我人を引き渡していた。

 

 

リーフ「あ、お願いします。こちらの人は腕の骨折。あちらの人は頭に裂傷。それでそっちの人が…」

 

 

手際よく怪我人の状況を説明していくリーフに救急隊員は戸惑いながらも、感心していた。

 

 

救急隊員「すごいなあの子」

 

救急隊員「おまけにこの人達の応急処置。こっちが教わりたいぐらいに完璧だぞ」

 

 

 

そんな時、一台の救急車の中で騒動が起こっていた。

 

 

救急隊員「おい、まずいぞ。機械のバッテリーがあがってる。これじゃあ…」

 

 

その声は車内にだけ響いたものだったが、リーフの超高性能集音器のついた耳はそれを聞き逃さなかった。

 

 

リーフ「バッテリーが… ようし、チェンジハンド・タイプブルー!!」

 

その掛け声とともに、リーフの両腕は稲妻模様の走った青い腕に換装された。

 

そのまま先ほどの救急車に駆け寄ると、その両腕で救急車にタッチした。

 

するとリーフの青い腕から電流が流れ、たちまちのうちにバッテリーが回復した。

 

 

救急隊員「ん、なんだ? 急にバッテリーが…まあいい、いけるぞ!!」

 

 

豪「じいちゃん今のは?」

 

上空の三冠号から今のリーフの行動を見ていた豪は、遠藤博士に尋ねた。

 

遠藤「ブルーハンドは電流を発生させ、モーターを動かしたり電気をつけることができるのじゃ。つまり、災害時に何らかの障害で発電所や発電機がストップしても、リーフがいればたちどころに電源を回復することができるのじゃ」

 

 

豪「すっげぇ!! 完璧じゃん!!」

 

 

 

 

 

 

ダイーダ「リーフ、この人で最後よ。そっちは?」

 

リーフ「あっ、ダイーダちゃん。うん、こっちもオッケー!!」

 

 

そうこうしているうちに、ダイーダが最後の怪我人を連れて出てきた。

 

 

救急隊員「いやぁ、助かりました。おかげでこの惨事なのに、犠牲者がほとんど出ないで済みました。しかし、君達は…」

 

すると突如地震が起き、巨大なモグラのような怪物が出現した。

 

 

 

救急隊員「か、怪物!?」

 

突如出現したその怪物に、皆はパニックになっていた。

 

 

 

豪「な、何なんだあいつ!?」

 

それは上空の三冠号にいた豪も例外ではなかった。

 

 

リーフ「このマイナスエネルギーは…」

 

ダイーダ「あいつの手先ね…、それでこの事態を引き起こしたのも…」

 

 

そんな会話をしていると、巨大モグラの怪物は人々に襲いかかろうとしていた。

 

 

リーフ「させない!! エレキ光線発射!!」

 

 

そう叫び、リーフが先ほどのブルーハンドを怪物に向けてかざすと、稲妻のごとく電撃が放たれ、それを浴びた怪物は電撃ショックとともに苦悶の悲鳴をあげた。

 

 

ダイーダ「ハァアアア!!」

 

ひるんだ怪物に飛びかかったダイーダは、そのまま飛び蹴りを食らわせ、怪物を蹴り飛ばした。

 

 

蹴り飛ばされた怪物はかなりのダメージを受けたようだったが、そのまま立ち上がり、リーフとダイーダに爪を振りかざし襲いかかってきた。

 

 

リーフ・ダイーダ「「くっ!!」」

 

なんとかその振り下ろされた爪を受け止めるも、動きの止まったところを狙ってもう片方の爪が横薙ぎに襲いかかってきた。

 

 

リーフ・ダイーダ「「キャアアア!!」」

 

 

モグラ怪物の攻撃を受けて吹き飛ばされた二人を見て、遠藤博士は慌てて指示を出した。

 

 

遠藤「いかん!! お前達のボディはそもそもがレスキュー用じゃ。一般的な人間より身体能力ははるかに高いが、そんな巨大な怪物と戦うことは想定しとらん!! 逃げるんじゃ!!」

 

 

その指示は二人に通じたが、彼女達は立ち上がりながら首を振った。

 

 

リーフ「逃げるなんてできないよ」

 

ダイーダ「そういうこと。あいつらを倒すことが私達の使命だもんね」

 

 

 

ダイーダ「あいつは、この世界の生き物にマイナスエネルギーの塊が取り付いているみたいね… と、するなら…」

 

リーフ「うん、それを浄化すればいい!! ならやることは一つ!!」

 

 

そうして二人は顔を見合わせて力強く頷きあった。

 

 

 

 

 

 

 

そして

 

 

リーフ・ダイーダ「「ゴー!!」」

 

 

その掛け声とともに、二人はジャンプしてトンボを切った。

 

 

その瞬間、二人の体は光に包まれ、着地した時には姿が大きく変わっていた。

 

 

ショートカットだったリーフは、ボリュームのある濃いピンクの髪に変化し、着用している服も、ごく普通の服からフリルのついた赤を基調にしたドレスのようなものになっていた。

 

 

 

ダイーダのポニーテールは、一本から五本にまで増え、背中にかかるかかからないかだったそれも、腰まで伸びて金色になっていた。

 

 

そしてリーフ同様のデザインの純白を基調にしたフリルのついたドレスを着用していた。

 

 

 

そして怪物をキッと睨むと二人は名乗りをあげた。

 

 

「闇を吹き消す光の使者 キュア・リリーフ!!」

 

「悪を蹴散らす光の使者 キュア・ダイダー!!」

 

 

リリーフ・ダイダー「「ピンチ一発、大逆転! コズミックプリキュア!!」」

 

 

 

その光景に、遠藤博士は完全に混乱していた。

 

 

遠藤「な、何じゃ!? 変身したじゃと? わしはこんな設計はしとらんぞ!」

 

ラン「もしかして… あの二人が、光の精霊がアンドロイドに乗り移ったからじゃないの!?」

 

 

 

リリーフ「ダイーダちゃん、先に行くよ!!」

 

ダイダー「オッケー、任せた!!」

 

 

そう言って一歩前に出たリリーフは、野球のピッチャーがボールを投げるように振りかぶった。

 

 

するとリリーフの手の中に、虹色の光の玉が輝き始めた。

 

 

リリーフ「受けなさい!! プリキュア・レインボール!!」

 

 

その叫びとともに、リリーフは虹色の玉をものすごい勢いで怪物に向かって投げつけた。

 

その音速に達するかというような速度で投げつけられた光の玉を怪物は回避することもできず、玉はまともに土手っ腹を貫通した。

 

 

するとその貫通した穴から、黒い靄のようなものが溢れ出し始め、怪物は苦しみ始めた。

 

 

 

それを見たダイダーは、光のスティックのようなものを取り出した。

 

 

ダイダー「これで決めてやるわ。プリキュア・シャイニングスイング!!」

 

そう叫びながら、ダイダーはスティックを野球のスイングのように一振りした。

 

 

すると光の斬撃が飛んでいき、怪物を真っ二つに切り裂いた。

 

 

その切り裂かれたところから、さらに大量の黒い靄のようなものが溢れ出し、ついに怪物は力尽きたように倒れた。

 

 

 

リリーフ・ダイダー「「ゲームセット!!」」

 

そして二人がそう叫ぶと同時に大爆発が発生し、その後には一匹のモグラが目を回して気絶していた。

 

 

 

遠藤「何? それはモグラか?」

 

遠藤博士の通信に、リリーフ達は答えた。

 

 

リリーフ「はい。おそらく何者かが、この生き物にマイナスエネルギーを大量に注ぎ込んだことで変異したと思われます」

 

ダイダー「この生き物も大変な目にあったわね。でももう大丈夫よ。マイナスエネルギーの浄化は完了したから」

 

 

遠藤「はぁ〜。 わしの想像をはるかに超えとるなぁ」

 

 

 

その光景を物陰から悔しそうに見ている存在があった。

 

それは、あのDr.フライの秘密研究所にあったあの二体の男のアンドロイドだった。

 

 

 

 

その後、モグラを手当てした上で放してやり、変身を解除したリーフとダイーダは豪と一緒に三冠号で帰路に着いた。

 

 

豪「すごかったな! コズミックプリキュア、スッゲェかっこよかった!!」

 

上機嫌でそう告げた豪に、リーフとダイーダは厳しい表情で告げた。

 

 

リーフ「そう喜んでばっかりはいられないんだよね〜」

 

豪「え?」

 

ダイーダ「そうそう。次元皇帝パーフェクトとの戦いがこれから始まるんだから…」

 

 

 

 

第2話 終

 



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第3話 「国会爆発 5秒前 (前編)」

遠藤平和科学研究所

 

 

 

平日の昼下がり、リーフとダイーダが居間のテレビを食い入るように見ていた。

 

 

リーフ「ふんふん。なるほど、この世界にはいろんな文化があるんだね〜」

 

ダイーダ「学ぶことが多いから大変だわ。リーフ、感心するだけじゃなくて、しっかり覚えときなさいよ」

 

リーフが感心したように頷きながらそう言うと、たしなめるようにダイーダが忠告した。

 

 

 

リーフ「ぶーっ! ダイーダちゃんだって、まだよくこの世界のこと知らないでしょう」

 

ダイーダ「私は朝からずっとこれを見続けて、大体のことはもうわかったからいいのよ。あなたの方が心配なの」

 

リーフ「じゃあ見ててよ。もうすぐランちゃんが帰ってくるから、それでちゃんとできるって見せてあげる」

 

 

ふくれっ面をしたリーフは、見ていろと言わんばかりに玄関に移動していった。

 

 

 

 

 

ラン「ただいま〜」

 

少しして帰宅したランを、リーフはにっこりと微笑んで出迎えた。

 

 

リーフ「いらっしゃいませ♪ ご注文をどうぞ♪」

 

 

ラン「はぁ?」

 

そのセリフにランは思わず変な声をあげてしまった。

 

 

そんなリーフに、ダイーダは叱りつけるように言った。

 

 

ダイーダ「ほら、言わんこっちゃない。変なこと言うからランが戸惑ってるじゃない。もっとちゃんと勉強しなさい!!」

 

 

リーフ「あっれ〜、違ったっけ?」

 

 

ラン「一体どうしたの、これ?」

 

リーフ「いやね、この世界のこといろいろ勉強しようと思って、あのテレビっていうの見てたんだけど、出迎えの挨拶ってこうじゃないの?」

 

ラン「…いやまぁ、それも出迎えの挨拶なんだけど…」

 

ランは頭に手をやりながら、困ったようにつぶやいた。

 

 

ダイーダ「いろいろ種類があるから、状況で使い分けなきゃいけないのよ。 まったく、こういう家族を迎える時には…」

 

 

一呼吸おいてダイーダが続けた。

 

ダイーダ「何しに来たの!! もうここにあなたの居場所はないのよ!!」

 

 

リーフ「あぁ、そうだったそうだった。やっぱりダイーダちゃんは物覚えがいいなぁ」

 

感心したように頷くリーフに、ランが怒鳴った。

 

 

ラン「どっちも違うわよ!! 「おかえり」って一言言えばいいの!! 一体二人とも何見てたの!?」

 

 

 

 

 

豪「やっほー!! リーフ姉ちゃん、ダイーダ姉ちゃん、いる?」

 

 

しばらくして豪が遊びに来たが、どこからも返事がなかった。

 

 

豪「あれ? みんないないのかな?」

 

豪にとって、ここは勝手知ったる他人…ではなく祖父の家。

 

遠慮なく堂々と上がりこんで行くと、居間ではランがリーフとダイーダに向かっていろいろと教えていた。

 

ラン「いい二人とも。これはドラマって言って本当のことじゃない、架空のお話なの。だから、これをあんまり本気にしちゃダメ。 この世界のことを学ぶなら他のことで学んで」

 

 

そのセリフにリーフは首を傾げながら尋ねた。

 

リーフ「? ねぇ、嘘とわかってるのにさ、なんでそれに対して誰も何も言わないの? この世界じゃ嘘をついてもいいってことなの?」

 

ラン「えっ? それは…その…これは、みんなが嘘とわかってて…楽しめるから…かな…」

 

 

その質問にランが詰まると、続けざまにダイーダの質問が飛んてきた。

 

 

ダイーダ「? 嘘をつき合って、騙して騙されるのが楽しいの? なんだか変わった価値観ね」

 

ラン「いや…そういうわけじゃなくて…だから…その…え〜っと…」

 

完全にしどろもどろになっているランを見かねたように、豪が飛び込んできた。

 

 

豪「あーもう!! 止め止め!! とにかくさ、この世界のことを学びたいんだったら、ニュースを見た方が早いよ。それだけは全部本当のことだからさ」

 

そう言ってテレビのチャンネルを切り替えると、そこでは国会中継をやっていた。

 

 

リーフ「これなーに? なんか年取った人がいっぱい集まってるけど…」

 

豪「これは、国会って言ってね。この国をどうすれば良くなるのかをみんなで相談してるところなんだ」

 

豪が得意げにそう話すと、リーフの質問が飛んできた。

 

 

リーフ「へぇー、なんで博士はここに行かないの? どうすれば世界が平和になるかを考えてる人なんでしょ?」

 

 

豪「えっ? いや…じいちゃんはさ、ほら国会議員じゃないから…」

 

 

リーフ「コッカイギイン?」

 

豪「そう、国のみんなが選んだ人達がここで相談するんだ」

 

 

リーフ「ふーん。例えばどんなことを?」

 

豪「えっ? そ、それは…」

 

 

ダイーダ「それにさ、ずいぶん人が多い割に喋ってる人なんてほんの少しみたいだけど、一体なんのためにこんなにいるの? 相談するだけならもっと少なくてもいいんじゃない?」

 

 

豪「あ〜え〜う〜、そ、そんな難しいこと俺に聞かないでよ!!」

 

 

矢継ぎ早に放たれる素朴な質問に答えきれず、困ったように大声を張り上げた豪に、リーフとダイーダは顔を見合わせて首をかしげた。

 

 

豪「大体じいちゃんはどうしたんだよ? どっか出かけてるの?」

 

ダイーダ「博士なら、地下室よ。二日前に私とリーフのボディのメンテナンスをした後、ずっとこもりっぱなし」

 

 

豪「えっ? それからずっと!? ラン、何で止めないんだよ?」

 

ラン「いや、何度も言ったけど、全然こっちの話聞かないんだもん」

 

 

 

 

そんな会話をしていると、ゾンビのような顔をした遠藤博士がぬーっと現れた。

 

 

豪「じ、じいちゃん!?」

 

ラン「す、すごい目の下のクマ!」

 

 

そしてフラフラと歩いたかと思うとそのまま倒れてしまった。

 

 

豪「じいちゃんしっかり!!」

 

慌てて豪達が駆け寄ると遠藤博士はうわごとのようにつぶやいていた。

 

遠藤「…わからん、リーフ達のボディのデータは穴が開くほどチェックした。計算も何千回も繰り返した。しかしどうしてもわからん。一体全体なんでアンドロイドのボディが変身するんじゃ!? それにあのマイナスエネルギーを簡単に浄化した力も解析できん。一体何がどうなってあんな力が出る!?」

 

 

 

ラン「…まさか、それをずっと?」

 

 

 

呆れたような声を漏らしたランをよそに、リーフとダイーダはAIにプログラムされた医療関係データから、遠藤博士の体調の分析を行っていた。

 

 

ダイーダ「ふむ、栄養不足と睡眠不足による過労というところね。おまけに脱水症状を起こしかけてるわ」

 

リーフ「えーっと、じゃあまずは体液に近い濃度の水分を取ってもらおう。それから栄養分のあるものを摂取した上で十分な睡眠をとれば、すぐよくなるわ。えーっと必要な栄養素は…」

 

 

テキパキと手際よく遠藤博士の診察と看病を行う二人を見て、豪とランはポツリと漏らした。

 

豪「こういう知識は完璧なんだよなぁ…」

 

ラン「すっごいアンバランス…」

 

 

 

 

 

薄暗い海中、ここにあるDr.フライの秘密研究所にて、筋骨隆々とした大男と、細身の男が跪き、黒い靄のようなものに報告をしていた。

 

 

「申し訳ありません、パーフェクト様」

 

「まさか、あいつらがこんなところまで来るとは思わなかったもんで」

 

 

「まあいい。追っ手の存在がわかっただけでも価値がある」

 

そんな二人に低くそしてドスの聞いた声で、パーフェクトと名乗る存在はそう答えた。

 

 

「追っ手だと? なんたることじゃ! 我が野望を邪魔する輩、それは何者じゃ?」

 

そうしわがれた声で尋ねたのは、杖をついた小柄な老人。

 

この男がDr.フライである。

 

 

「コズミックプリキュア、光の国の特別警備隊員だ」

 

Dr.フライ「何? 特別警備隊員?」

 

パーフェクト「心配など無用だ、Dr.フライ」

 

驚きの声を上げたDr.フライに、パーフェクトは言い聞かせるように、余裕たっぷりにそう言った。

 

 

「無論ですとも」

 

「パーフェクト様はその名の通り完璧な存在でございます」

 

 

その態度にDr.フライも安心したか、高笑いとともに提案を述べた。

 

Dr.フライ「ならば、早速次の作戦に取り掛かろう。成功すれば、日本を即座に我々のものにできる。失敗しても日本の機能は麻痺してしまうじゃろう。 我々の共通の目的を達成しやすくなる。 ガッハッハッハッ!!」

 

 

パーフェクト「全ての世界を暗黒の世に」

 

 

「「全ての世界を暗黒の世に!!」」

 

 

 

 

 

 

一時間ほど一眠りした遠藤博士はようやく落ち着いたらしく、苦笑いをしながら醜態を詫びていた。

 

遠藤「いやぁすまんすまん。つい年甲斐もなく夢中になりすぎた。 しっかし調べれば調べるほど不思議なもんじゃ。 お前さん達のエネルギーを補充する必要がほとんどないとはな。一定時間スリープ状態になっただけで、エネルギーの完全回復に加え簡易的なメンテナンスまでしとる。 原理が気になって気になってのう」

 

 

 

リーフ「博士、世界平和のために懸命になられるのは構いませんが、自分の体のことも考えてください」

 

ダイーダ「何かあった時には、私達も困ります。まだ知らないことも多いんですから」

 

 

遠藤「うむ、そうじゃったな。世界平和のためにもわしは倒れるわけにいかん!! いつあのDr.フライが行動を起こすかわからんのだからして…」

 

 

そんな会話をしている最中、突如居間のマイナスエネルギー検知器がけたたましい警戒音を発した。

 

 

 

遠藤「この音は…いかん!! 強烈なマイナスエネルギーを検知したな!!」

 

その警戒音を聞くや否や、博士はベッドから飛び起きた。

 

 

ラン「ちょっとおじいちゃん、起きて大丈夫なの?」

 

心配したようにランがそう言うも

 

 

遠藤「何を言うか! 世界の危機を前にのんびりと寝ておれるか!!」

 

 

そのまま居間を走り抜けて奥の司令室に行こうとすると、つけっぱなしだったテレビの国会中継では異変が起きていた。

 

 

筋骨隆々とした大男と、細身の男が、国会議事堂に乱入していた。

 

その二人はサングラスをかけてはいるものの、どう見ても悪人とわかる顔つきをしており、国会議員ではないことなど誰の目にも明らかであった。

 

そして、その二人は静止するSPを殴り飛ばし、演説を行っていた議員を投げ飛ばし堂々と演壇に登っていった。

 

 

遠藤「な、なんじゃあいつらは!?」

 

その異様な光景に驚いていると、細身の男が話し始めた。

 

 

 

「聞け、人間ども。我々は次元皇帝パーフェクト様の使いだ。パーフェクト様の要求を伝える。直ちにこの島国の支配権を譲渡せよ」

 

 

 

 

 

数十分前

 

 

雲ひとつない青空、ふと日が陰ったかと思うと、上空から突如として巨大な飛行物体が国家議事堂に向けて降下してきた。

 

 

その飛行物体は巨大なカラスのような姿をした怪物であり、甲高い声で一声鳴くと、議事堂にクチバシを突っ込み巨大な穴を開けてしまった。

 

 

そしてその穴から、怪物の背中から飛び降りたサングラスをかけた筋骨隆々とした大男と細身の男が、全身を黒いタイツで包んだような人間を引き連れて、議事堂の中へと侵攻していった。

 

 

SP「なんだお前たちは!?」

 

SP「今は議会の最中だ。ここからは立ち入り禁止だぞ」

 

 

そうやって制止するSP達を、ハエでも払うかのように手を振って跳ね飛ばし、二人の男達はどんどんと進んでいった。

 

 

SP「くっ!!」

 

殴り飛ばされた一人のSPが、殴打された後を押さえながら、苦悶の表情を浮かべ、防犯シャッターを下ろした。

 

SP「こ、これで…」

 

 

少しは時間が稼げると思ったSPだったが、その期待はあっさり裏切られた。

 

 

「ぐおぉおお」

 

 

筋骨隆々とした大男は常軌を逸した怪力を発揮し、そのシャッターをパンチ一発でぶち破ってしまった。

 

 

SP「おのれ!!」

 

駆けつけた一人のSPが止むを得ず発砲したが、直撃したにもかかわらず、二人の男は平然としていた。

 

 

SP「防弾チョッキか!?」

 

戸惑いつつも再度発砲するも、細身の男は手の平を前に突き出し、銃弾を防いだ。

 

 

SP「ば…化け物…」

 

 

事ここにいたり、目の前の存在がようやくまともな人間でない事を悟ったSPはガタガタと震えだした。

 

そんなSPを、ゴミを捨てるかのようにつかみ上げて投げ飛ばすと、二人の男達は議会場へと乱入した。

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

遠藤「いったいなんじゃあいつらは!? 訳のわからん事を」

 

豪「次元皇帝パーフェクト…って、こないだ姉ちゃん達が言ってた奴?」

 

 

リーフ「うん、そうだよ」

 

ダイーダ「連中、いきなり行動に移りだしたわね」

 

テレビを見ていたリーフとダイーダは、険しい表情で頷いた。

 

 

ラン「いったい、あの人達は何をしようとしてるの?」

 

 

ダイーダ「あいつらはこの世界を暗黒世界に… って、こうしちゃいられないわ」

 

リーフ「うん、行こう」

 

 

豪「あっ、待って俺も」

 

ラン「豪はダメよ」

 

出動しようとした二人についていこうとした豪を、ランは慌てて止めた。

 

 

豪「なんで止めるんだよ!?」

 

ラン「こっちのセリフよ。なんであんたが行かなきゃいけないの!」

 

 

豪「だって、二人ともこの世界の事何にも知らないんだぜ。誰かついててやらなきゃ」

 

 

その豪の言葉に、ダイーダとリーフも頷いた。

 

ダイーダ「…ふむ、この世界の事を知ってる人がいればやりやすいかもね」

 

リーフ「うん、いろいろお願いね。豪くん」

 

 

もはや反論しても無駄だと悟った遠藤博士は、三人に指示した。

 

遠藤「えぇい、仕方ない。大至急出動じゃ。 リーフ、ダイーダ、豪を頼んだぞ!  豪、お前も二人をサポートしてやるんじゃ!!」

 

 

そのまま、三人は奥の部屋へと移動していき、ヘルメットを着用ののち、シートに着席。

 

特殊ジェット機、三冠号へと乗り込んだのだった。

 

ラン「ちょっとおじいちゃん。本当にいいの、豪なんかをあの二人につけて」

 

遠藤「仕方なかろう。誰かサポートする奴は必要じゃろうが、わしら三人のうち、前線に行けるとしたらあいつしかおらん」

 

司令室にて準備をしながら、遠藤博士はやむを得ないというようにランにそう話した。

 

 

 

遠藤「いいか、下手に接近すれば国会議員を人質に取られかねん。ステルスモードで高空から接近するんじゃ」

 

 

リーフ・ダイーダ「「了解!!」」

 

 

その返事と共に崖の一部の岩肌が開き、三冠号は発進し、同時にステルスモードを起動させ姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

第3話  終

 

 



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第4話 「国会爆発 5秒前 (後編)」

国会議事堂

 

 

 

 

議員「次元皇帝パーフェクトだかなんだか知らんが、日本の支配権を渡す事などできん!!」

 

毅然としてそう答えた議員がいたが

 

 

「ぐだぐだウルセェ!! 話をしに来たんじゃない。命令しに来たんだよ!!」

 

細身の男はそう叫ぶと、懐から時計のようなものを取り出し演壇に叩きつけた。

 

 

「あと五分でこの建物ごと爆発する。いい返事を期待している」

 

 

議員「バ、バカな事を。お前たちも吹っ飛ぶぞ」

 

そう忠告した議員を、大男は鼻で笑った。

 

 

「あいにく、オレ達は頑丈な体でね。 自分達の心配をしな、ガッハッハッ」

 

 

 

 

この様子は中継されており、当然日本中がパニックになっていた。

 

 

 

レポーター「日本の皆さん。この状況をご覧になっておられるでしょうか。これはドラマではありません。突如として起きた国会議事堂を占拠した次元皇帝パーフェクトの使いと名乗る男達。いったい日本はどうなってしまうのでしょうか。レポーターの甲斐 節子がお届けします」

 

 

 

 

そして警察もすでに出動し、機動隊員が国会議事堂を取り囲んでいた。

 

 

河内「ええい、やむを得ん。こうなれば強硬手段だ。大至急突入し、賊を取り押さえ、人質を救出し時限爆弾を解体するんだ!!」

 

 

機動隊員の指揮をとっていた河内警部だったが、部下に止められた。

 

機動隊員「無茶です!! 今突入するのは危険すぎます」

 

 

河内「馬鹿野郎!! 日本がどうなるかの瀬戸際で、危険だなどと言っておれるか!!」

 

そう怒鳴り突入しようとしたが、

 

機動隊員「ダメです!! 内部の状況もよくわからないのに、下手に突入したら人質となっている議員が即座に殺されかねません」

 

 

その言葉に河内警部は歯ぎしりをした。

 

河内「でぇい、万事休すか」

 

 

 

 

その頃、国会議事堂付近の上空には、ステルスモードの三冠号が飛来していた。

 

 

豪「あの建物が国会議事堂だよ。 でもあの怪物が見張ってるからこれ以上近づくとまずいよ」

 

豪の言う通り、カラス型の巨大な怪物が国会議事堂の上空を我が物顔で旋回していた。

 

 

ダイーダ「よし。あいつの死角になるようなタイミングでここから飛び降りて、一気に内部に突入するわよ」

 

リーフ「オッケー、ダイーダちゃん。豪くんしっかりつかまっててね」

 

 

 

豪「へっ?」

 

疑問に思う間もなく、リーフとダイーダはヘルメットを脱ぎ捨てると、豪を抱きかかえて三冠号から飛び降りた。

 

 

かなり低空を飛行していたとはいえ、それでも地上まではゆうに数百メートルはある。

 

それをパラシュートもなしに飛び降りられたのだから、豪としてはたまらなかった。

 

 

 

豪「ギョ〜え〜!!!」

 

 

その絶叫がこだまする中、リーフとダイーダは無事に国会議事堂の屋根に降り立ち、内部に突入した。

 

 

 

 

議会場の中では、議員達が必死に交渉を行っていた。

 

 

議員「もし、要求を飲むと言ったら、その爆弾は止めてもらえるのか?」

 

一人の議員が不安そうにそう尋ねると

 

 

「ああ、止めてやるよ」

 

「すまん、止め方を聞いてなかった」

 

「あらら、じゃあしょうがねぇやな」

 

 

議員「き、貴様らはじめから…」

 

 

 

一方、一応無事に議事堂内に潜入していたリーフとダイーダの超高性能集音器のついた耳にも、その会話は聞き取れた。

 

 

ダイーダ「あいつら…」

 

リーフ「行こう、ダイーダちゃん」

 

頷きあうと、二人は風のようなスピードで議会場へと走って行った。

 

 

豪「ひぃひぃ、もう見えなくなった。あんなのに追いつけるもんか。オリンピックに出たらぶっちぎりで世界新だよ、もう」

 

 

 

 

 

 

議会場

 

 

「さて、もうすぐ爆発だが、返答はどうした?」

 

「早くしないとドッカーンだぜ。どのみち爆発するけどな」

 

 

二人の男が歯噛みしたり、震えたりしている議員を見下したようにそんなことを言っていると、ドアが勢いよく開き二人の少女が飛び込んできた。

 

 

リーフ「あなた達、随分となめた真似をおやりになってくださいましたわね!!」

 

ダイーダ「てめぇら、許さんぜよ!!」

 

 

いったいどこで聞いたんだとツッコミたくなるようなセリフを口にして、議会場の周囲を取り囲んでいた黒タイツ達を蹴散らし、リーフとダイーダが演壇にいる二人の男へと飛びかかった。

 

 

リーフ「ヤアァアア!!」

 

そのまま、リーフの廻し蹴りが細身の男の頭に直撃し、男は転がっていった。

 

 

 

ダイーダ「ダーッ!!」

 

ダイーダもパンチを繰り出し、大柄の男を殴りつけた。

 

 

しかし、この男はダイーダの強烈なパンチに体勢こそ崩すもののダメージはほとんど受けていないようだった。

 

 

「ヘッヘッヘッ、久しぶりだなぁダイーダ。あいさつとしては随分だなぁ、え?」

 

その言葉に一瞬ダイーダは戸惑うも、あることに思い当たった。

 

 

ダイーダ「あんた…まさか、ゴーロ!! その姿はいったい!?」

 

 

ゴーロ「驚くこたぁねぇだろ。テメェと同じだ!!」

 

そう叫ぶと、ゴーロはその巨体を利用した体当たりをお返しとばかりに行ってきた。

 

 

ダイーダ「ぐっ!!」

 

そして体勢の崩れたダイーダの首を掴み、両手で持ち上げると同時にギリギリと絞め上げた。

 

ゴーロはダイーダを上回る怪力を発揮しており、必死に足掻くもダイーダはその手を振りほどくことができなかった。

 

ダイーダ「く、くそ…」

 

 

 

 

リーフ「ダイーダちゃん!!」

 

ダイーダのピンチに駆け寄ろうとしたリーフだったが、ゾロゾロとアリのように寄ってくる黒タイツに行く手を阻まれてしまった。

 

 

「行かせねぇぜリーフ。今までの礼はさせてもらう」

 

 

リーフ「私を知ってる… まさかと思ったけど、あいつがゴーロなら…あなたはファルね!!」

 

 

ファル「ご名答。かかれマイナー!!」

 

ファルがそう言うと、黒タイツは数の暴力で一斉にリーフに襲いかかった。

 

 

 

 

豪「ひぃひぃ、やっとついた。ああっ!!」

 

 

息を切らせながらも、なんとか追いついてきた豪は議会場でリーフとダイーダが苦戦しているのを目の当たりにするも、今自分がやるべきことを理解していた。

 

豪「何してるの! 姉ちゃん達が戦ってる間に早く逃げて!!」

 

豪は閉じ込められていた議員達に駆け寄ると、急いで脱出するように促した。

 

 

議員「な、なんだ? 子供?」

 

議員「なんでこんなところに?」

 

 

ヘルメットのため顔こそわからないものの、明らかに子供である豪を見た議員達は戸惑っていた。

 

 

豪「何ぼーっとしてんの!? 早く今のうちに!!」

 

そんな議員達に再度脱出を促したところ

 

 

議員「だ、ダメだ。時限爆弾がある。このままでは脱出する前に爆発する!!」

 

議員達の何人かは、なんとか演壇から時限爆弾を取り外そうと悪戦苦闘していたが、がっちりと固定されてしまっておりビクともしなかった。

 

 

豪「えっ!? わっもう時間が!! 姉ちゃーん!!」

 

 

 

ダイーダ「くっ、ご、豪」

 

 

ゴーロに締め上げられていたダイーダはその豪の叫びに奮起した。

 

ダイーダ「チェ、チェンジハンド・タイプレッド!!」

 

その掛け声とともに両腕を一回り大きなゴツゴツした赤い腕に換装すると、凄まじい怪力でゴーロの腕を振りほどいた。

 

 

ゴーロ「何?」

 

ダイーダ「ウォォォリャアアアア!!」

 

突然のパワーアップにゴーロが戸惑っている隙をついて、ダイーダは渾身の力で大きくゴーロを殴り飛ばした。

 

 

ダイーダ「爆弾が… ええい、ここから取れないんだったら!!」

 

そしてそのまま演壇に駆け寄ると、演壇ごと時限爆弾をひっぺがした。

 

 

議員「なんて力だ…」

 

 

 

 

 

リーフ「よっ、はっ、とっ」

 

ゾロゾロと襲い来るマイナーの攻撃をさばきつつ、単身戦っていたリーフだったが、これではらちがあかないと判断した。

 

リーフ「えぇい、チェンジハンド・タイプブルー!!」

 

その掛け声とともに、両腕を稲妻模様の走った青い腕に換装すると、腕を掲げて叫んだ。

 

 

リーフ「エレキ光線、連続発射!!」

 

 

するとリーフの腕から、電撃光線が周辺に向けて乱射され、取り囲んでいたマイナー達は感電して黒焦げになって消滅した。

 

 

リーフ「この子達…この生き物にマイナスエネルギーをとりつかせたの!?」

 

見ると、マイナー達が消滅した後には小さなアリが何匹も転がっていた。

 

 

ファル「まあな、しかしクソの役にも立ちゃしねぇ」

 

そう吐き捨て一人逃げ出そうとしたファルにリーフの怒りは爆発した。

 

 

リーフ「あなたという人は…自分達の都合で命を弄んで…許さない!!」

 

そう叫ぶや否や、リーフは腕をファルに向けてかざし、電撃光線を浴びせた。

 

 

ファル「グアアアーッ!!」

 

それをまともに浴びたファルは苦悶の悲鳴とともに、ダウンしてしまった。

 

 

 

ゴーロ「ダイーダー!!」

 

一方殴り飛ばされたゴーロは、怒りのままにダイーダに飛びかかったが、レッドハンドのパワーに軽く受け止められ、片手で持ち上げられてしまった。

 

 

豪「ダイーダ姉ちゃん。早く爆弾を!!」

 

ダイーダ「わかってる。リーフ!!」

 

リーフ「オッケー!!」

 

 

豪の叫びに応えるかのように、ダイーダは持ち上げていたゴーロをそのままレッドハンドの強烈な力で真上に投げ飛ばした。

 

ダイーダ「飛んでけー!!」

 

その勢いは議事堂の天井を突き破り、ゴーロは上空へと投げ出されてしまった。

 

 

リーフ「こんの〜!!」

 

そしてリーフは倒れたまま動けなくなっていたファルの両足を掴み、ジャイアントスイングの要領で振り回し、今空いた天井の穴から同じく上空へ投げ飛ばした。

 

 

ダイーダ「持って行きなさい。忘れ物よ!!」

 

そして、その投げ飛ばされた二人を狙ってダイーダは爆弾付きの演壇を投げつけた。

 

 

豪「みんな伏せて!!」

 

そう豪が叫ぶと同時に、時限爆弾はタイムリミットとなりゴーロやとファルを上空で巻き込み大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

河内「な、なんだ? 何が起こった!?」

 

突如として上空で起きた大爆発に、国会議事堂を取り囲んでいた警察は驚いていた。

 

 

ゴーロ「がはっ…」

 

ファル「くっそ…」

 

その爆発に巻き込まれ、地面に叩きつけられたゴーロとファルだったが、先の言葉通りかなり頑丈であるらしく、大ダメージこそ負っていたが、まだまだ大丈夫そうであった。

 

 

河内「む!? あの二人は例の賊か!! とりおさえろ!!」

 

 

二人の姿を認めた河内警部は、即座にそう指示を下し、議事堂を取り囲んでいた機動隊員は一斉に飛びかかった。

 

 

 

ファル「くそっ、ここは引くしかない」

 

悔しそうにそう呟き指を鳴らすと、上空を旋回していた巨大な怪物カラスが急降下してきた。

 

 

その巨体には、さしもの機動隊員も恐れおののき、足が止まった。

 

 

その隙にゴーロとファルは姿を消した。

 

 

 

 

そして十数メートル上空をホバリングしていた巨大な怪物カラスは、くちばしを振りかざし、機動隊員に襲いかかった。

 

機動隊員「う、うわ〜っ!!」

 

機動隊員達もこの状況では、悲鳴とともにパニックとなってしまっていた。

 

 

 

しかし、次の瞬間怪物カラスは何かの体当たりを受けて大きく吹き飛び地面に叩きつけられていた。

 

機動隊員「な、なんだあの飛行機は?」

 

 

その体当たりを加えた何かとは、特殊ジェット機 三冠号であった。

 

議事堂から出てきたリーフ達が遠隔操作で急降下させ、体当たりを仕掛けさせたのである。

 

 

リーフ「ふぅ。三冠号が間に合ってよかった」

 

ダイーダ「あの二人は取り逃がしたのは残念だけど、とりあえず被害はなさそうね」

 

 

ダメージを受けた怪物カラスだったが、その瞳は未だ禍々しい光を携えており、今戦うべき相手が誰かわかっているかのように、リーフとダイーダを睨みつけていた。

 

 

 

ダイーダ「やる気満々みたいね。リーフ、行くわよ」

 

リーフ「うん!!」

 

 

闘争心をむき出しにしている怪物カラスに対して、二人は力強く頷き合い

 

 

リーフ・ダイーダ「「ゴー!!」」

 

 

その掛け声とともに、ジャンプしてトンボを切った。

 

 

その瞬間、二人の体は光に包まれ、着地した時には姿が大きく変わっていた。

 

 

ショートカットだったリーフは、ボリュームのある濃いピンクの髪に変化し、着用している服も、ごく普通の服からフリルのついた赤を基調にしたドレスのようなものになっていた。

 

 

ダイーダのポニーテールは、一本から五本にまで増え、背中にかかるかかからないかだったそれも、腰まで伸びて金色になっていた。

 

そしてリーフ同様のデザインの純白を基調にしたフリルのついたドレスを着用していた。

 

 

 

そして怪物をキッと睨むと二人は名乗りをあげた。

 

 

リリーフ「闇を吹き消す光の使者 キュア・リリーフ!!」

 

ダイダー「悪を蹴散らす光の使者 キュア・ダイダー!!」

 

 

リリーフ・ダイダー「「ピンチ一発、大逆転! コズミックプリキュア!!」」

 

 

 

 

河内「な、なんだあいつらは…」

 

 

目の前の状況についていけない河内警部だったが、同じようにその光景を見つめる豪は対照的に大興奮だった。

 

 

豪「待ってました!! コズミックプリキュア!!」

 

 

 

 

そんなコズミックプリキュアに対して、怪物カラスは大きく羽ばたき強風を巻き起こして吹き飛ばそうとした。

 

その暴風に周辺の瓦礫は吹き飛ばされ、木も根元から倒れたりしていたが、コズミックプリキュアの二人にとってそんな強風はそよ風に等しいものであった。

 

 

ダイダー「ふん、こんなもので」

 

そう余裕そうに言うと、ダイダーは光のスティックのようなものを取り出した。

 

 

ダイダー「受けなさい。プリキュア・シャイニングスイング!!」

 

そう叫びながら、ダイダーはスティックを野球のスイングのように一振りした。

 

 

すると光の斬撃が飛んでいき、怪物の羽根を片方切り落とした。

 

と、同時に周辺の暴風は止まった。

 

 

 

 

悲鳴をあげて、羽を切り落とされた痛みに苦しんでいる怪物を見てリリーフは申し訳なさそうに振りかぶり、右手の中に虹色の光の玉が輝かせ始めた。

 

 

リリーフ「ごめんなさい!! プリキュア・レインボール!!」

 

 

その叫びとともに、リリーフは虹色の玉を音速に達しているのではと思えるような速度で投げつけ、怪物の頭部に直撃させた。

 

 

 

リリーフ・ダイダー「「ゲームセット!!」」

 

 

 

すると怪物の全身から黒い靄のようなものが溢れ出し、怪物カラスは甲高い鳴き声とともに大爆発した。

 

そして、その爆心地には、羽根の折れたカラスが一羽、傷だらけになりながらもなんとか飛び立とうともがいていた。

 

 

 

リリーフ「ごめんなさいね、ゾウさん。連れて帰って手当てしてあげるわ。とりあえず応急処置を…」

 

 

ダイダー「だから違うってば。これはゾウじゃなくてコウモリよ」

 

 

そんなとんちんかんなことを言い合いながら、二人はカラスの手当てをあっという間に終わらせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

豪「ふぅ〜、めでたしめでたし」

 

 

豪が安堵の声を漏らしていると、ダイダーが豪を抱え上げて、微笑みかけた。

 

 

ダイダー「さっ、帰りましょう。 さっきはありがとう、助かったわ」

 

豪「へへっ…」

 

 

リリーフ「ふふふっ… 三冠号!!」

 

 

そして、リリーフとダイダーは豪とカラスを抱えて三冠号へと飛び移った。

 

 

 

 

 

帰路につく最中、ステルスモードを起動したため、突如として見えなくなった三冠号に驚きながら、河内警部はつぶやいた。

 

 

河内「あいつらは…一体…」

 

 

 

第4話 終

 

 



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第5話 「容疑者 遠藤博士!? (前編)」

 

 

 

 

甲子市 童夢小学校 休み時間

 

 

 

 

男子生徒「なあなあ。見たかよ、こないだのニュース」

 

男子生徒「見た見た。コズミックプリキュアだろ」

 

男子生徒「突然現れて悪者をあっという間にやっつけちまったもんな。かっこいいよなぁ」

 

男子生徒「ん? 豪、お前何にやけてんだよ」

 

 

豪「あ、いや別に」

 

クラスメイト達がコズミックプリキュアのことを褒め称えるのを聞いて、豪は実に気分が良かった。

 

 

豪(くぅ〜色々教えてやりたいなぁ)

 

秘密にしなければならないとわかっていてもムズムズする口を抑えるのに豪は苦労していた。

 

 

 

 

一方

 

 

 

 

女子生徒「あのプリキュアって人達、美人な上強かったね」

 

女子生徒「憧れちゃうわよね」

 

ラン「う、うん。そうだよね」

 

 

ラン(褒めてもらえるのは嬉しいけど、秘密守るのが大変だわ。でもばれちゃったら大騒ぎになっちゃって、生活が大変だし…)

 

ランの方もランの方で色々と周りに話を合わせるのに苦労していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甲子市内 交番

 

 

 

ここは市内のとある交番であり、ここからは遠藤平和科学研究所が一望できた。

 

そこに一台のパトカーが到着すると、当番の警察官が敬礼とともに出迎えた。

 

 

警官「あっ、河内警部。ご苦労様です」

 

河内「うむ、ご苦労。どうだ様子は?」

 

 

警官「様子と言いますと…?」

 

河内「あの研究所のことだ。何か最近変わったことはないか?」

 

河内警部は遠藤平和科学研究所を見上げながらそう尋ねた。

 

 

警官「いえ、特段変わったことは…。まぁ強いて言うならお手伝いが入ったぐらいですかね」

 

河内「お手伝い?」

 

警官「ええ、ショートカットの女の子とポニーテールの女の子です。二人ともメガネをかけたちょっと可愛い子です。 でもあそこが何か…」

 

 

河内警部は厳しい目で研究所を睨みながらその疑問に答えた。

 

 

河内「覚えてるだろう?  5年前に起きた連続銀行襲撃事件を。白昼堂々次々に銀行が襲われて合計30億円近い金が盗まれた。そしてその際に警官が一人殉職した。俺はな、あそこのジジイがその事件に関与していると睨んでるんだ」

 

警官「え? 一体何の根拠があってですか?」

 

 

河内「俺の勘だ。ただ実際あの事件の直後だろう、あの研究所ができたのもな」

 

警官「はぁ、そう言われれば…」

 

河内「いつか、尻尾をつかんでやろうと思ってるんだ。邪魔したな」

 

そう言って河内警部はパトカーを研究所の方へと走らせていった。

 

 

警官「…河内警部、まだあの事件を引きずってるのか。無理もないな、殉職したのがあの人の尊敬してた先輩なんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

 

 

近くにパトカーを止めた河内警部は、忍び込むように研究所の敷地内へと入っていった。

 

 

木陰に身を隠し、茂みに隠れつつ近づいていき、近くの窓を覗こうと顔を上げると驚きの声を発した。

 

河内「どぅわぁあ!! な! な!」

 

 

 

ちょうど顔を上げたところに、たまたま茂みの反対側にいた厚底のメガネをかけたリーフの顔があったためである。

 

 

リーフ「あ、いってらっしゃいませ。何かご用でしょうか」

 

河内「ご用って… ああ君か、ここに入ったお手伝いってのは」

 

 

その言葉にリーフは明るく頷いた。

 

リーフ「はい、リーフと言います。あなたはどなたでしょうか」

 

河内「リーフか…俺は警視庁の河内というものだ」

 

 

リーフ「ケーシチョー…何をするところですか?」

 

河内「何って…警察を知らんのか? 人のものを盗んだりする悪いやつ、いわゆる泥棒や強盗を捕まえたりするのが俺の仕事だ」

 

その言葉にリーフは満面の笑みを浮かべた。

 

リーフ「わぁ、そうなんですか。あなたも正しいことのために頑張っている素晴らしい人なんですね」

 

 

そのセリフに悪い気のしなかった河内警部は少し照れながら尋ねた。

 

河内「まぁなぁに、それほどでもないさ。しかし、お嬢ちゃんみたいな可愛い女の子がこんなところで何をしてるのかな?」

 

 

リーフ「はい、お嬢ちゃんみたいな可愛い女の子はこんなところで勉強してるところです」

 

河内「あん? 勉強? こんなところで?」

 

その言葉に怪訝そうな顔をした。

 

 

 

するとリーフは近くをひらひらと飛んでいたチョウチョを指差して尋ねた。

 

リーフ「はい、これがチューリップですよね?」

 

河内「は? チューリップ?」

 

 

続けてリーフは跪くと、足元のスミレを同じように指差して尋ねた。

 

リーフ「これが、雀ですよね」

 

河内「はぁ?」

 

河内警部が戸惑っていると、リーフの言動に気づいたか、窓越しにリーフと同じようなメガネをかけたダイーダが話しかけてきた。

 

 

 

ダイーダ「リーフ、まだそんなこと言って。早く物の名前ぐらい覚えなさい」

 

リーフ「あれ、そうじゃなかったっけ?」

 

 

ダイーダ「違うわよ。その飛んでるのがトンボ。下に生えてる花がヒマワリよ。ちゃんと覚えときなさい」

 

 

河内警部は目の前でとんちんかんな会話をしている二人にしばらく開いた口が塞がらなかったが、気を取り直してダイーダにそう尋ねた。

 

 

河内「あ〜、オホン。君もここのお手伝いかね?」

 

 

ダイーダ「はい、ダイーダと言います。リーフこの人は?」

 

リーフ「あ、コーチさんっていうケーシチョーだって」

 

ダイーダ「ふーん。で、何しに来たのこの人」

 

 

 

 

河内「あぁ、ちょっと色々聞きたいことがあってね。 二人ともここのジジイが最近何をしてるか知ってるかな?」

 

 

リーフ「ジジイ? ジジイってあの分厚い青いズボンのことだっけ?」

 

ダイーダ「全く、地面が揺れる自然現象の事よ」

 

河内「あーもう! 遠藤博士のことだ!!」

 

先ほどから漫才のような会話を繰り返している二人に少しイライラした河内警部はそう怒鳴った。

 

 

ダイーダ「どういうって…最近じゃ私達にこのメガネってのをかけろって言ったよね」

 

リーフ「うん。研究所の一員らしく見えるし、カムフラージュにもなるって言ってた」

 

厚底の眼鏡をいじりながら答えたそう二人だったが、その言葉に河内警部は敏感に反応した。

 

河内「カムフラージュだと? おい、それはどういう意味だ!!」

 

 

 

 

 

 

ラン「リーフさん、ダイーダさん。そんなデカの質問に答える必要なんてないわよ!!」

 

河内警部が強い口調で尋ねた時、ちょうどランが豪とともに帰ってきて、毛嫌いするようにそう叫んだ。

 

リーフ「あっ、ランちゃんおかえり…でいいんだよね?」

 

ダイーダ「そうよ。豪、いらっしゃい」

 

 

 

河内「ったく、最近の子供は。大人に対しての口の聞き方をどう習っとる。河内警部と言えんのか」

 

自分をデカと呼んだランに対して、不満そうな口調で河内警部はつぶやいた。

 

 

 

ラン「ふん、何よ! 勝手に人の家の庭に忍び込んで! それじゃ泥棒と一緒じゃない!!」

 

 

そのセリフにリーフは首を傾げながら聞いた。

 

リーフ「ねぇ、泥棒って悪い人だよね。この人はそれを捕まえる人だって言ってたけど… この人本当は悪い人なの?」

 

ラン「そうよ。わるーい人!!」

 

 

そのランの言葉にダイーダも目つきと口調が変わり、窓から飛び出した。

 

ダイーダ「ちょっとリーフ、ダメじゃないそんな人と仲良く話してちゃ。ったく、ぼんやりしてるんだから」

 

 

河内「ちょっ、待て待て待て。人聞きの悪いことを言うな、俺はただちょっと調べ物を…」

 

 

雲行きが怪しくなってきたことに、河内警部は戸惑いながら言い訳を始めた。

 

 

 

その時、研究所の玄関が勢いよく開き、遠藤博士がチューブのようなものを両手に、歓喜の声とともに飛び出してきた。

 

 

遠藤「ついにやったぞ!! 見ろ見ろ、わしの新発明じゃ!!」

 

河内「ん? 出たな遠藤博士!」

 

 

遠藤「げっ!! お主は!! おっとっとっ」

 

予想外の人物がいた事に驚いた遠藤博士は躓いてしまい、持っていたチューブを放り投げてしまった。

 

 

豪「おっと」

 

そのうちの一本は豪の手の中に飛んでいき

 

 

河内「ん? なんだこりゃ、何か犯罪の匂いがするな」

 

もう一本はあろう事か、河内警部の手の中に飛んで行った。

 

河内警部はチューブの匂いを嗅ぎながらそうつぶやいた。

 

 

遠藤「こら返せ!! それは大事な試作品じゃ」

 

河内「試作品? 貴様、さてはこれを使ってまた銀行強盗を!!」

 

 

遠藤「バカモン!! そんな事は考えとらん!! ほら返せ!!  それは取り扱いを間違えると危険なものじゃ!!」

 

河内「なら、なおさら渡せるか!!」

 

 

 

追いかけっこをしている二人を眺めながら、リーフはなんとなく尋ねた。

 

 

リーフ「ねぇ、遠藤博士が何か悪い事したの?」

 

豪「じいちゃんがそんな事するわけないじゃないか」

 

ラン「そうよ、あのデカが変なのよ。言いがかりばっかりつけてきて」

 

 

憤慨している豪とランに対して、ダイーダは冷静な意見を述べてきた。

 

ダイーダ「でも、それにも何か理由があってのことじゃないかしら。あのコーチって人、ただ言いがかりをつけるような人間には思えないわ」

 

 

その意見に豪とランは迷わず反論した。

 

豪「でも、絶対じいちゃんは疑われなきゃならないことはやってないよ!!」

 

ラン「そうよダイーダさん。ちょっとドジだし変わってるけど私はおじいちゃんを信じてるわ!!」

 

 

そんな二人にダイーダも微笑みながら答えた。

 

ダイーダ「まぁ、わかってるけどね。でも遠藤博士もそうだけど、あのコーチって人もかなり純度の高いプラスエネルギーの持ち主だから、疑う気になれないだけ」

 

 

ラン「プラスエネルギー? マイナスエネルギーじゃなくて?」

 

 

リーフ「そう。純粋に平和や正義を願う心が生み出すエネルギーのこと。私達もここの研究所が出すそれに惹かれてきたの」

 

豪「へぇ、そうなんだ」

 

 

 

 

ダイーダ「でもあの二人、お互い悪人じゃないのに、どうして仲良くできないのかしら?」

 

 

豪「さぁ?」

 

ラン「それができれば、世の中はもっと平和なんでしょうけどね…」

 

ダイーダの素朴な疑問に、豪とランはため息まじりにつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

遠藤「こりゃ、いい加減にせんか!!」

 

河内「黙れ!! これは危険物として押収する!!」

 

そう叫んでチューブを持った手を勢いよく振り回した結果、力余ってチューブを握りつぶしてしまい、たまたまその先にあった木にチューブを持った手を叩きつけてしまった。

 

 

河内「ん? な、なんだ!? 手が取れなくなった!?」

 

そう、叩きつけた手が木にぴったりと張り付いてしまったのだ。

 

 

その様子を見ながら、遠藤博士は満足そうに頷いた。

 

遠藤「ふむ、完璧にひっついているようだな」

 

 

河内「おい!! これは一体なんなんだ!?」

 

遠藤「人の話を聞こうとせんからじゃ。それはわしが発明した新型の瞬間強力接着剤じゃ。既存のどんな接着剤よりもはるかに強力でな。一度つければ象が引っ張りあっても剥がせんぞ」

 

 

河内「なに? くそ、この!!」

 

河内警部は必死にあがいて手を剥がそうとしたが、遠藤博士の言葉通りビクともしなかった。

 

 

遠藤「まぁ、安心せい。さっき言ったが、それは試作品じゃ。接着力は弱めにしてあるからそのうち取れるじゃろう」

 

 

その言葉に河内警部は不安そうに尋ねた。

 

河内「おい、それはどのぐらいだ?」

 

遠藤「そうじゃのぉ…大体6時間ぐらいかの」

 

 

河内「6時間!? それまでこうしていろというのか!?」

 

 

ラン「ヘン、いい気味よ。天罰だわ」

 

大慌てしている河内警部を見て、ランはアカンベーをしながらそう言った。

 

 

遠藤「フフフ。さて、じゃまあ完成祝いに饅頭でも食うか」

 

豪・ラン「「わーい!!」」

 

 

河内「こらーっ!! 俺を放っていくのか!!」

 

そう叫ぶ河内警部を無視して、全員研究所の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

お茶を入れて饅頭を皆で頬張っている中(リーフとダイーダは食べれないが)、豪がふと尋ねた。

 

 

豪「ねぇ、一度聞いときたかったんだけどさ、パーフェクトってどんなやつなの?」

 

ラン「そういえばそうね。まだちゃんと聞いたことなかったわ」

 

 

その言葉に、リーフとダイーダはいつもと違う神妙な面持ちで語った。

 

 

リーフ「次元皇帝パーフェクト…、突然変異で生まれたマイナスエネルギーの塊みたいな奴よ」

 

ダイーダ「初めは私達もなんとか共存できないかって話し合いをしてたんだけど、てんでダメ。世界をマイナスエネルギーだけの暗黒の世にしないと気が済まないらしいの。 そりゃ私達だって、プラスエネルギーには満ちていてほしいけど、マイナスエネルギーが完全になくなっていいなんて思ってないわ」

 

 

豪「どうして? その方がいいんじゃないの?」

 

遠藤「いや、ダイーダの言うとおりじゃろう。マイナスエネルギーは確かに生命にとって決してよくないものじゃ。じゃが、毒が使いようによって薬になるように、マイナスエネルギーが完全になくなることは決していいことではない」

 

ラン「そうかしら?」

 

遠藤博士の言葉に、ランはいまいち納得しきれていないようであり、それを見たダイーダが話し始めた。

 

リーフ「そうよ。例えば遠藤博士が何か発明をする時、必ずなんでも成功するわけじゃないでしょ。失敗することもある。でもそれが却っていい方向に働いたり、次に向かって頑張ろうって思える力にもなる。そういうことよ」

 

 

ラン「なるほど、よくわかったわ」

 

遠藤「ほぅリーフ。よくわかっておるではないか」

 

リーフの言葉に気分をよくした遠藤博士だったが

 

ラン「でも失敗ばかりしていいってわけじゃありませんからね。リーフさんやダイーダさんの食費はかからないとはいえ家計が大変なんだから。 こないだいろいろ注文した研究資材だって、失敗の繰り返しですぐなくなっちゃったじゃない」

 

遠藤「ちぇっ、厳しいのう」

 

 

ランの厳しい一言に拗ねてしまった。

 

 

 

豪「ははは…。ねぇでもだとしたら、姉ちゃん達がプラスエネルギーに惹かれてここに来たみたいに、パーフェクトはマイナスエネルギーを出す悪い奴のところに行ってるってこと?」

 

 

リーフ「可能性はあるわね」

 

ダイーダ「ゴーロやファル… パーフェクトが産み出した手下だけど、あいつらが私達みたいにアンドロイドの体を持ってたところを見ると、まず間違いないでしょうね」

 

 

遠藤「そんな奴がいるとすれば世界にただ一人。Dr.フライだけじゃ!!」

 

 

リーフ・ダイーダ「「Dr.フライ?」」

 

 

 

 

 

 

 

海底 Dr.フライの秘密研究所

 

 

パーフェクト「Dr.フライ、次の策はあるのか?」

 

Dr.フライ「もちろんじゃ。この世の中は欠陥だらけじゃからのう。わしの頭脳を持ってすれば策など簡単に思いつく」

 

自信満々なDr.フライだったが、それを見るファルやゴーロの目は冷ややかだった。

 

 

ゴーロ「けっ、えっらそうに何様のつもりだ」

 

ファル「まぁそう言うな。パーフェクト様もおっしゃっていたが、我らはこの世界のことをよく知らん。そう言う意味であいつは都合のいい存在ということだ」

 

 

 

パーフェクト「ほう、して策とは?」

 

Dr.フライ「わしの価値を認めようともせなんだ愚かな人類を日干しにしてくれるのじゃ。根こそぎな」

 

 

そのセリフにパーフェクトはどこか不満げな声を漏らした。

 

パーフェクト「Dr.フライ、皆殺しはやめろ。奴隷として使える労働力がなくなると後々面倒だ」

 

Dr.フライ「安心せい、うじゃうじゃと無駄に増えとる使えぬ人間が死ぬだけじゃ。労働力に使える最低限の人数は残るじゃろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

 

リーフ「Dr.フライか…人間の中にもそんな奴がいるんだね」

 

ダイーダ「誰もかれもがいい人間ばっかりじゃない、か… わかってはいるけどちょっと複雑ね」

 

遠藤博士からDr.フライのことを聞き、リーフとダイーダは複雑な表情とともに、珍しく沈んでしまっていた。

 

ラン「でもおじいちゃん、その話本当なの? そんなひどい人がいるなんて信じられないわ」

 

 

遠藤「信じたくない気持ちはわかる。じゃがな、誰もそのことを知らんだけで、現実にDr.フライという男はおる。じゃがな、その野望を挫くために私等のような者もおるんじゃ」

 

 

そんな重い空気を切り裂くように、居間のマイナスエネルギー検知器が警報を発した。

 

 

遠藤「むう、言ったそばから。一体なんじゃ!?」

 

 

リーフ「待ってください、外で何か話し声がする」

 

ダイーダ「ええ、緊急事態って言ってるわ」

 

豪「えっ、何? 河内警部の声しか聞こえないよ」

 

豪は耳を澄ましてみたが河内警部の怒鳴り声以外、声らしきものは何も聞こえなかった。

 

 

遠藤「この二人の耳は特別製じゃからな。どこから聞こえる?」

 

リーフ「外の…あのパカートだっけ? あの中から」

 

リーフはそう言いながら外を指差した。

 

 

ラン「パトカーね。で、何て言ってるの?」

 

ダイーダ「緊急事態発生…中央流通センターが襲撃…各員は直ちに現地へと…だって」

 

それを聞いて遠藤博士の顔色が変わった。

 

 

遠藤「中央流通センター? いかん!! あそこは最大級の流通センターじゃ。物資の流通が滞れば、日本中が大パニックになる!! リーフ、ダイーダ、直ちに出動…っと、今三冠号を発進させるのはまずいな」

 

豪「あっ、そっか庭に河内警部がいるんだ…」

 

ラン「んもう、どこまでも迷惑な人ね」

 

 

庭で動けなくなっている河内警部のことを思い出し、皆頭を抱えた。

 

 

ダイーダ「大丈夫です。三冠号がなくても現場に至急向かえます」

 

リーフ「うん、行こう豪くん」

 

 

豪「えっ? 行くってまさか走って?」

 

 

 

 

 

河内「くそう!! 携帯はパトカーの中に置いてきたし、誰か俺を助けようというやつはおらんのか!!」

 

 

どんなにあがいても木に張り付いたままビクともしない手を前に、河内警部がそう叫んでいた。

 

そして、そんな横をリーフ達三人が駆け抜けていった。

 

河内「おいこら、お前ら! 俺を無視するな、剥がすのを手伝え!!」

 

 

そんな河内警部の叫びを無視して、三人はパトカーへと駆け寄った。

 

 

そのままリーフとダイーダがパトカーの扉に手を当てると、電子ロックが解除され、パトカーのエンジンがかかった。

 

これはダイーダとリーフの持つ電子機器へのハイパーリンク機能である。

 

本来は、災害時に特殊な電子ロックがかかってしまった扉を強制的に解錠したり、動かなくなったプログラムを強制起動させたりするのに使うものである。

 

 

ダイーダ「よし、これで動くわ」

 

リーフ「行こう! さぁ乗って!!」

 

豪「えっ!? ちょっと待っ!!」

 

戸惑う豪を無理やりパトカーに押し込むと、ダイーダはパトカーを発進させた。

 

 

 

ダイーダ「飛ばすわよ!!」

 

リーフ「えーっと、確かこれをつけると早く走れるんだよね」

 

ダイーダの声に応えるように、リーフはパトカーのサイレンのスイッチを入れた。

 

 

河内「こらーっ!! パトカー泥棒!!」

 

河内警部の叫びをよそに、三人を乗せたパトカーはサイレン音とともに猛スピードで走り去っていった。

 

 

その車内では、リーフとダイーダを豪が引きつった顔で注意していた。

 

豪「二人ともまずいよ。免許もなしに、しかも勝手にパトカー動かしちゃ」

 

 

その言葉に二人はキョトンとした表情を浮かべていた。

 

ダイーダ「そうなの?」

 

リーフ「悪いことに使うんじゃないのにいけないことなの?」

 

 

 

 

 

ラン「知〜らない…」

 

遠藤「あいつらには、一般常識の他に道徳や倫理も教えにゃ…」

 

遠藤博士とランもまた、その光景を引きつった顔で見送った。

 

 

 

第5話  終

 



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第6話 「容疑者 遠藤博士!? (後編)」

 

中央流通センター

 

 

 

様々な物品の流通の中心地であるこの建物に、マイナーを大量に引き連れたファルとゴーロが来ており、手当たり次第に暴れまくっていた。

 

 

ファル「ふん、こんな程度で生活がマヒしかねんとはな。人間などくだらないものだな、ゴーロ」

 

人間を見下したように、そう吐き捨てたファルに対して、ゴーロは下品に笑いながら返事をした。

 

 

ゴーロ「ヘッヘッヘッ。まぁいいじゃねぇか。おかげでこっちも楽できるってもんよ」

 

 

ファル「ふっ、それもそうだ」

 

 

彼ら二人はもちろん、マイナー達でさえ、普通の人間や並みの警官程度では止めることができず、様々な商品を保管している倉庫は、商品もろとも片っ端から破壊され、火災も発生していた。

 

 

消防や救急も駆けつけてはいたものの、消火やけが人の救助をマイナーに妨害されてしまい、近づくこともろくにできない有様だった。

 

 

ゴーロ「へっ、情けねぇやつらだ」

 

「一体、あなた達はなんでこんなことをするのですか!!」

 

 

建物の上で文字通り人を見下しながらそう吐き捨てたゴーロに対して、救急で来ていた一人の女医が気丈に言い放った。

 

 

ファル「ふん、自分の身もろくに守れん有象無象だ。少しは減ったほうが貴様らも気分がよかろう」

 

 

「なんてことを! どんな人にもその人にしか持ち得ないものがあります。一つの一つの命が無限の可能性です、それを!!」

 

 

「ちょっ、京香(きょうか)先生。危ないですってば」

 

(じつ)先生のおっしゃることはよくわかりますが、今はダメです」

 

 

すぐ横で救急隊員が止めるのにもかかわらず、その女医 実 京香は一歩も引こうとしなかった。

 

 

ゴーロ「けっ、ならその可能性をもうひとつ消してやるよ」

 

 

そう嘲るように言い放ち、ゴーロが建物の一部を大きく抉り取り、京香先生に向けて投げつけた。

 

 

 

 

 

 

京香「え?」

 

あまりにも現実離れした光景に、京香はとっさに反応できず、ポカンとして立ち尽くしてしまった。

 

 

そして、目の前に巨大なコンクリートの塊が迫ってきているのだと理解した時には、すでに逃げられない状況だった。

 

 

このままでは押しつぶされると覚悟を決めた瞬間、サイレン音とともに1台のパトカーが飛び込み、その塊を跳ね飛ばした。

 

 

 

ダイーダ「ゴーロにファル!  えぇい、このメガネっての戦うには視界の邪魔ね。豪、預かってて」

 

リーフ「私のもお願い」

 

 

そう告げると、二人は厚底メガネを豪に投げ渡し、パトカーから飛び降りていった。

 

 

 

ダイーダ「あんた達、これ以上勝手な真似はさせないわよ!!」

 

リーフ「多くの人を傷つけて許さない!!」

 

 

毅然とした声とともに、二人はマイナーの大群に立ち向かい、片っ端からこれをなぎ倒していった。

 

 

パトカーの中に残された豪が、外の様子を伺うと、奥の燃えている建物の三階ぐらいの窓から何人かが助けを求めているのが見えた。

 

 

豪「姉ちゃん!! 奥の方の燃えてる建物に逃げ遅れた人がいる!!」

 

ダイーダ「え?」

 

 

 

 

ファル「ちぃっ、プリキュアめ。いつもいつも」

 

舌打ちとともに苦々しく顔を歪めてファルがそう吐き捨てた。

 

 

ゴーロ「今日こそ消滅させてやるぜ!!」

 

 

その声とともに建物から飛び降りて向かってきたゴーロをいなし、うまく関節を決めながらリーフはダイータに対して叫んだ。

 

 

リーフ「こいつらは私が引き受けるから、ダイーダちゃんは逃げ遅れた人の救助を!!」

 

 

ダイーダ「わかったわ、お願いね」

 

 

リーフのことを心底信頼しているというように返事をすると、ダイーダは燃え盛る建物へと向かっていった。

 

 

 

ファル「貴様一人で戦えるか?」

 

リーフ「できるよ! あんた達なんかに絶対負けない!」

 

小馬鹿にしたようにリーフを嘲るファルに対して、リーフは胸を張ってそう言い返した。

 

 

 

 

 

 

ダイーダ「くっ、早くしないと間に合わない」

 

建物の近くまでたどり着いたものの、火はかなりの範囲で燃えており、建物の中から回っては間に合わないと判断したダイーダは、大ジャンプして窓から飛び込んだ。

 

 

ダイーダ「大丈夫ですか? 今すぐ火を消します。チェンジハンド・タイプグリーン!!」

 

するとダイーダの両腕が、何かの噴射口のようなもののついた緑色の腕に換装された。

 

 

ダイーダ「超低温冷凍ガス噴射!!」

 

 

その掛け声とともに左腕を前に差し出すと冷凍ガスが吹き出し、たちまちのうちに火が消えた。

 

 

「おお、助かった」

 

「ありがとう」

 

ダイーダ「怪我をしてる人はいますか? 簡単な応急手当を行いますので、こちらへ」

 

 

 

 

 

 

リーフは単身、ファルとゴーロを相手に善戦していたが、その二人に加えて大量のマイナーである。

 

さすがに多勢に無勢であった。

 

 

リーフ「くっ、さすがにこの数は…」

 

悔しそうにそう呟いたリーフに対して、あざ笑うかのようにゴーロが尋ねた。

 

 

ゴーロ「さすがに…なんだ? 限界か?」

 

 

リーフ「まだまだー!!」

 

 

 

片膝をついていたリーフだったが、気合一発立ち上がった。

 

 

そんなリーフに対して一斉にマイナー達が襲い掛かった。

 

 

身構えたリーフだったが、次の瞬間マイナーの大群は蹴り飛ばされていた。

 

 

ダイーダ「よく言ったわリーフ。さすが私の相棒ね」

 

リーフ「ダイーダちゃん!! 逃げ遅れた人は?」

 

 

ダイーダ「バッチリよ。向こうにいたキューキューキューシャーのところに届けておいたわ」

 

 

 

そうして、ダイーダはゴーロ達を険しい目で睨み付けた。

 

 

ダイーダ「よくも派手にやってくれたわね! 自分達のしたことを少しは噛み締めなさい!!」

 

 

そう言い放つと、ダイーダはグリーンハンドの右腕を差し出して叫んだ。

 

ダイーダ「受けなさい! 超高熱プラズマ火炎!!」

 

 

次の瞬間、超高熱の火炎がダイーダの右手から放射され、彼女達の周辺を取り囲んでいたマイナーの大群は一瞬で消し炭になり、ファルとゴーロも火だるまになった。

 

 

ファル・ゴーロ「「ぐあああ!!!」」

 

 

ダイーダ「どうよ、少しは参ったかしら? そうならもう観念しなさい!!」

 

 

一瞬でボロボロになってしまったファルとゴーロだったが、それでもなお往生際は悪かった。

 

 

 

 

ファル「なんの…」

 

ゴーロ「誰がてめぇらなんかに…メイジャー!!」

 

 

その声に反応して、巨大なバッタのような怪物が出現し、リーフとダイーダに襲い掛かった。

 

 

ダイーダ「なっ!?」

 

その怪物の不意の攻撃をかろうじてかわした二人だったが、大きな隙を作ってしまった。

 

 

リーフ「あっ、こら!! 待ちなさい!!」

 

その隙にファルとゴーロは逃げて行ってしまった。

 

 

ダイーダ「悔しいけど、今はこいつをなんとかしないと」

 

 

せっかく後一歩まで追い詰めたのにと、リーフは歯ぎしりをしていたが、今はそれどころではないとダイーダが冷静に告げた。

 

 

ようやく被害が沈静化し出したこの場でこんな怪物が大暴れしたら元の木阿弥である。

 

リーフもそれを理解したため、怪物を止めるべく立ち向かっていった。

 

 

 

 

 

巨大なバッタの怪物と戦っていたリーフとダイーダだったが、その怪物はバッタだけあり機敏に右に左にと跳ね回り、二人の攻撃をかわしていた。

 

さらに、彼女達が変身しようとすると体当たりで妨害してきたため、変身することもできず苦戦していた。

 

 

おまけにそうやって飛び跳ねる度に、あたりの物を踏み潰すため被害は大きくなる一方だった。

 

 

ダイーダ「くっ、早く倒さないと!!」

 

リーフ「でもこれじゃ変身できないから、マイナスエネルギーの浄化ができない。まずいよ」

 

 

焦れば焦るほど、リーフとダイーダはバッタ怪物に追い詰められていっていた。

 

 

豪「このままじゃ姉ちゃん達が… そうだ!!」

 

二人が苦戦しているのを見ていた豪はふとあることを思いつきパトカーから飛び出していった。

 

 

 

豪「えーい、これでもくらえ!!」

 

豪は飛び跳ねているバッタ怪物が着地する瞬間を狙って、その足元に何かを投げつけた。

 

 

 

すると、途端にバッタ怪物の足が止まってしまった。

 

 

リーフ「え?」

 

ダイーダ「今のは?」

 

 

豪「やった!! じいちゃんの発明が役に立った!!」

 

 

豪が投げつけたのは、先ほど遠藤博士が発明した接着剤のチューブであり、バッタ怪物は必死に飛び跳ねようともがくも、文字通り地面に足が張り付いたように動けなくなってしまった。

 

 

ダイーダ「今よ!!」

 

リーフ「うん!!」

 

それを理解した二人は今がチャンスとばかりにトンボを切った。

 

 

リーフ・ダイーダ「「ゴー!!」」

 

 

その掛け声とともに二人の体は光に包まれ、着地した時には変身完了していた。

 

ショートカットだったリーフは、ボリュームのある濃いピンクの髪に変化し、着用している服も、ごく普通の服からフリルのついた赤を基調にしたドレスのようなものになっていた。

 

 

ダイーダのポニーテールは、一本から五本にまで増え、背中にかかるかかからないかだったそれも、腰まで伸びて金色になっていた。

 

そしてリーフ同様のデザインの純白を基調にしたフリルのついたドレスを着用していた。

 

 

 

 

 

リリーフ「闇を吹き消す光の使者 キュア・リリーフ!!」

 

ダイダー「悪を蹴散らす光の使者 キュア・ダイダー!!」

 

 

リリーフ・ダイダー「「ピンチ一発、大逆転! コズミックプリキュア!!」」

 

 

ダイダー「速攻で決めるわよ!!」

 

リリーフ「うん!!」

 

ダイダーは光のスティックを取り出しリリーフにそう促すと、リリーフの方も大きく振りかぶり手の中に虹色の光の玉が輝かせ始めた。

 

 

 

ダイダー「プリキュア・シャイニングスイング!!」

 

リリーフ「プリキュア・レインボール!!」

 

 

 

その二人の叫びとともに、光の斬撃と虹色の玉がバッタ怪物に向かって放たれ、見事命中した。

 

 

リリーフ・ダイダー「「ゲームセット!!」」

 

 

 

その声とともに怪物の全身から黒い靄のようなものが溢れ出し、バッタ怪物は悲痛な叫びとともに大爆発した。

 

 

 

その爆発が収まった後には一匹のバッタがいたが、すでに息絶え絶えになっておりそのまま死んでしまった。

 

 

 

リリーフ「あいつら命を弄んで… 絶対に許さない!!」

 

 

リリーフは地面に拳を叩きつけ、悔しそうにそう叫んだ。

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

パトカーに乗り、帰宅したリーフ達三人を遠藤博士は笑顔で出迎えた。

 

 

遠藤「うむ、皆よくやってくれた。あの程度の被害で済んだのもお主らのおかげじゃ」

 

 

しかし、遠藤博士の明るい様子と裏腹に、リーフとダイーダは浮かない顔をしていた。

 

 

ラン「どうしたのリーフさん?」

 

そんなリーフにランが心配そうに尋ねた。

 

 

リーフ「…私はあいつらに利用された命を助けられませんでした。褒めてもらえるようなことはしてません」

 

うつむいたまま暗い顔でそうリーフはつぶやいた。

 

 

遠藤(何があった?)

 

豪(実は…)

 

 

落ち込んでいる二人に何があったのかヒソヒソと尋ねた遠藤博士は、小さく咳払いをして諭すように二人に言った。

 

 

遠藤「リーフ、ダイーダ。そんなに落ち込むでない。確かに救えなかった命があったのは悲しいことじゃ。じゃがな、何もかもを助けられるなどというのは思い上がりじゃぞ」

 

 

リーフ「え?」

 

 

遠藤「そんなことができるとすれば、それは本物の神様じゃ。じゃが、わしらはそんなものになれんし、お主らにもそうなって欲しいとは思わん。わしらはわしら自身の手でできる限りの事をしていきたい。お主達にはそれの手伝いをして欲しいのじゃ」

 

 

ダイーダ「遠藤博士… はい!」

 

リーフ「ありがとうございます!!」

 

遠藤博士の言葉に二人は心の底から安堵に満ちた表情をした。

 

 

遠藤「うんうん」

 

 

ラン(優しすぎるのも問題よね)

 

豪(助けられなかった命ったってバッタ一匹だぜ。ちょっと大げさだよな)

 

 

 

 

 

そんな大団円のような空気の中、怒鳴り声が響いた。

 

 

河内「コラー貴様ら!! 人のパトカーを勝手に乗りまわしやがって!! 逮捕してやるからな!!」

 

 

豪「あれ? 河内警部まだいたの?」

 

 

遠藤「ほう、こいつらを逮捕するのか? しかしそうなるとパトカーのドアをロックもせず、エンジンをかけっぱなしだったお前さんの責任問題にもなるがよいのか?」

 

 

実際はそういうわけではないのだが、効果はてきめんだったようで反論できないまま河内警部は押し黙ってしまった。

 

 

 

 

河内「えぇいわかった、それに関しては大目に見てやる。それより、この手はいつになったら取れるんだ!? もうとっくに6時間経ってるだろうが!?」

 

 

 

河内警部の言う通り、遠藤博士が言っていた時間はとっくに過ぎているのだが、未だに手は木から剥がれる様子が微塵もなかった。

 

 

遠藤「ふーむ、試作品じゃから接着力は多少弱めにしたつもりじゃったが、これは想像以上に強力なものになっているのかもしれんな」

 

 

河内「どういうことだ、それは?」

 

 

遠藤「つまりじゃ、もう永久に剥がれんということじゃ」

 

 

得意そうに語った遠藤博士だったが、その言葉は河内警部の神経を逆撫でした。

 

 

 

河内「ふざけるなイカサマジジィ!! この木を切り倒してでもなんとかしろ!!」

 

 

遠藤「この木はここまで育つのに、お主の年より長い時間がかかっとるんじゃ!! そんなつまらんもんのために切り倒せると思うか!!」

 

 

河内「馬鹿野郎!! じゃあ俺がどうなってもいいってのか!? え!?」

 

 

遠藤博士を力の限り罵る河内警部だったが、その言葉に機嫌を悪くした人間がいた。

 

 

 

ラン「あーっ、なによその態度。おじいちゃんをバカにして!! さすがに可哀想だと思って夕飯のサンドイッチ用意してあげたのに!!」

 

 

そう言うとランは皿に乗せたサンドイッチを河内警部に見せた。

 

 

河内「えっ、あのちょっと、ごめん。おじょーちゃーん!!」

 

ラン「知らない! これは私達の朝ごはんよ」

 

 

すでに6時間身動きが取れず怒鳴りっぱなしだった河内警部は、相当な空腹だった。

 

すがるようにランに手を伸ばすも、ヘソを曲げたランはサンドイッチを持っていってしまった。

 

 

 

 

 

遠藤「ははは、まぁ安心せい。中和剤を作ってやるからしばらく辛抱しとれ」

 

 

河内「それを作るのにどれぐらいかかるんだ!! …いや、かかるのでしょうか?」

 

 

強い口調で尋ねようとした河内警部だったが、現状を思い出し、止むを得ず下手に出た。

 

 

遠藤「まぁ明日の朝にはできるじゃろう」

 

 

そう答えた遠藤博士だったが、そこにリーフ達が口を挟んだ。

 

 

ダイーダ「博士、中和剤を作ろうにも、原料になるものを全部使い切ってます」

 

リーフ「今から注文したとしても、流通センターがあの有様ですから、しばらくかかりそうですよ」

 

 

 

遠藤「えっ? あっそうか。なら仕方ない、文句は流通センターを襲った奴等に言え」

 

 

河内「そんな〜!!!」

 

 

 

河内警部の悲痛なその叫びが一帯に響いたのだった。

 

 

 

第6話  終

 



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第7話 「血液大パニック!! (前編)」

 

海底 Dr.フライ秘密研究所

 

 

 

 

 

薄暗い海底にあるこの研究所の、さらに奥にあるさらに暗い部屋。

 

ここがDr.フライの研究室である。

 

 

この暗い部屋で、根暗そうな笑いを浮かべてDr.フライが何かを作っていた。

 

 

Dr.フライ「ひひひ。できたぞできたぞ、これで生きる価値もないくだらん人間どもをあっさり葬ることができる」

 

 

満足そうに笑みを浮かべると、扉が開きファルが入室してきた。

 

 

Dr.フライ「こりゃ、入るならノックぐらいせい!」

 

そのDr.フライの抗議にも耳を貸すことなく、ファルは机の上のカプセルを手に取り、小馬鹿にするように言った。

 

 

ファル「くだらんガラクタ作りか。せめて何かの役に立つんだろうな」

 

Dr.フライ「ガラクタとはなんじゃ!! 史上最高の大天才フライ様の作ったものに対して」

 

ファル「何が天才だ。そう言うセリフはまともな作戦を立ててから言え」

 

Dr.フライ「これまでの失敗は全て貴様らが間抜けだったからじゃ!! 自分のことを棚に上げおって!!」

 

お互いをバカにしあっていることだけは共通している不毛な会話が続いたが、この言葉はDr.フライにとってもヤブヘビだった。

 

 

 

ファル「よく言う。コズミックプリキュアとまともに戦うこともできないこの体を作ったのはお前だということを忘れたのか。 史上最高傑作が聞いて呆れる。あいつらを作ったやつの鼻くそでも潰して飲め」

 

 

その言葉に、Dr.フライは悔しそうに歯ぎしりをするしかなかった。

 

 

ファル「それより、このゴミはなんなんだ?」

 

 

Dr.フライ「ちぃっ、それは新型のウィルスじゃ。人の血液に混入すれば、赤血球を分解し確実に死に至らしめる」

 

胸を張ってそう言ったDr.フライだったが、ファルは鼻で笑った。

 

 

ファル「ほう、話半分としても面白そうだ。効果を確認してきてやるよ。ありがたく思え」

 

 

そう言い残すと、カプセルを手に立ち去っていった。

 

 

Dr.フライ「おのれ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

 

 

ここの格納庫で遠藤博士とダイーダが三冠号のメンテナンスを行っていた。

 

 

遠藤「いつ何時何が起きるかわからん。至急駆けつけられるようにこいつのメンテナンスは万全にしておかんとな」

 

 

ダイーダ「はい、あいつら次は何を仕掛けてくるか」

 

 

 

そうして作業をしていると、ランと豪が格納庫に入ってきた。

 

 

豪「じいちゃん。どう調子は?」

 

遠藤「バッチリじゃ。三冠号は何時でも発進できるぞ」

 

 

ラン「あれ、リーフさんは? 一緒じゃないの?」

 

ダイーダ「ああ、リーフなら買い物よ。まだまだ流通センターが襲われた被害が大きいみたいでね。 品物を発注しても届くまで時間がかかるから」

 

 

豪「えっ? 大丈夫? 姉ちゃん一人で行かせて」

 

リーフやダイーダはまだまだ日常の知識や常識に疎い。それを知っているため不安そうに豪が尋ねた。

 

 

遠藤「なぁに、駅前のスーパーに行っただけじゃ。そろそろ簡単なお使いぐらいは出来るじゃろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甲子市 棒留駅前

 

 

 

 

リーフ「よし、博士のメモ通りの買い物はできたっと。私だってちゃんと勉強してるんだから」

 

 

なんとか無事買い物を終えたリーフは食料や日用品の入った袋を手に帰り道を歩いていた。

 

 

すると、スピーカーで呼びかけている声がリーフに聞こえた。

 

 

 

「献血にご協力ください。あなたの善意が多くの人の命を救うのです」

 

 

 

リーフ「命を救う…?」

 

 

その言葉に興味を持ったリーフはスピーカーで呼びかけている人に尋ねた。

 

リーフ「あのー、ケンケツってなんですか? 人の命を救うって言ってましたけど」

 

 

「はい、皆さんから大切な血液を分けていただいて、手術や事故などで輸血な必要な人に使うのです。 そうすることで多くの命が助かるんです」

 

 

それを聞いたリーフは目を輝かせた。

 

前回の戦いで助けられなかった命(と言ってもバッタ一匹だが)のことが未だどこか引っかかっていたのだ。

 

 

リーフ「じゃあ、私も提供します」

 

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

 

 

献血車の中に案内されたリーフはまず受付を行った。

 

 

受付「献血は初めてですか?」

 

リーフ「はい、ありったけ採ってください」

 

受付「は?」

 

戸惑う受付の女性に、リーフはニコニコしながら言った。

 

 

リーフ「血液は多ければ多いほどいいんですよね」

 

 

それを聞きつけたか、作業をしていた女医が笑いながら話しかけてきた。

 

「それはそうだけど、あなたの体の健康のことも考えないといけないわ。あんまり血を抜きすぎるとあなた自身が参ってしまうわ」

 

受付「あっ京香先生」

 

リーフ「ええ知ってます。でも私は大丈夫です」

 

その言葉にリーフは自信満々に返した。

 

 

京香「ふふっ、面白い子ね。でもダメよ、気持ちだけ受け取っておくわ」

 

リーフ「はぁ…」

 

 

京香「あなた血液型は?」

 

リーフ「どれが今一番いいんですか?」

 

 

京香「どれがって…まぁいいわ。実際に採血して調べてみましょう」

 

リーフ「はい、お願いします」

 

 

妙にずれたことを真剣な顔で聞いてくるリーフに対し、多少戸惑いながらも誠実に京香先生は接した。

 

 

 

 

 

しばらくしてリーフの献血が終わった後、京香先生は首を傾げていた。

 

 

受付「どうしました?」

 

京香「あの子の血、何か変なのよ。帰って詳しく調べてみましょう。 それにあの子どっかで見たような…」

 

 

京香先生はメガネをかけたリーフの顔を見ながら、そう漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

ラン「リーフさん遅いわね」

 

豪「道に迷ったのかな」

 

ダイーダ「まさか。それだけは心配しなくて大丈夫よ。だってリーフには…」

 

 

お茶を飲みながらそんな話をしていると、リーフが帰ってきた。

 

 

リーフ「たまいだ〜」

 

 

 

 

遠藤「ただいまじゃろ。しかし駅前に買い物に行っただけにしてはやけに時間がかかったな」

 

リーフ「はい、人助けをしていたもので」

 

 

その言葉にダイーダは露骨に不快そうな顔をした。

 

 

ダイーダ「ちょっとリーフ。パーフェクト関連でないことに手を貸したの?」

 

リーフ「? そうだよ」

 

ダイーダ「いい? あいつのことで被害を受けた人たちを助けるのはいいけど、それ以外のことであまり私達が介入するのは避けるべきよ。この世界の人達が自立できなくなるかもしれないわ」

 

 

ダイーダとしては、もともと異邦人である自分達が、他の世界の一般的な問題に介入するのはあまり気が進まないのである。

 

 

 

 

もっともダイーダとて、決してこの世界の人間がどうでもいいというわけではないし、みんなもそれはわかっている。

 

 

遠藤「まあまあ、人助けをしたことをそう咎めることもあるまい。それより何をしてたんじゃ? 道案内か? それとも荷物持ちか?」

 

 

その質問にリーフはにこやかに答えた。

 

リーフ「はい、ケンケツです」

 

遠藤「ほう、それは感心感心… って何—!!!」

 

 

感心したように頷いた遠藤博士だったが、即座に顔色が変わった。

 

 

 

遠藤「い、い、今なんと言った? 何をしてきたと?」

 

リーフ「えっ? だからケンケツって…」

 

 

その言葉に遠藤博士は頭を抱えて崩れ落ちた。

 

遠藤「な、なんということを…」

 

 

ラン「まさか… 名前とか住所とか書いてきたんじゃ…」

 

リーフ「? うん。遠藤リーフって書いたけど… 一体どうしたの?」

 

ランの不安そうな問いかけにリーフはキョトンとして答えた。

 

 

ダイーダ「ほら、やっぱりあんまりいいことじゃないのよ。みんながこんなになるなんて」

 

そんなリーフに対してダイーダが諌めたが、遠藤博士の怒鳴り声がそれを遮った。

 

 

遠藤「そういう話をしとるのではなーい!! わからんのか!? お前らの体に流れとるのは、不気味の谷を越えるための一環とした人工血液。ようするにダミーじゃ。成分分析をすればお前が人間でないと一発でばれちまうじゃろうが!!!」

 

 

必死の形相でそう叫ぶ遠藤博士にようやくリーフ達は事情を理解した。

 

 

リーフ「あーそっかそっか」

 

ダイーダ「そういうことね。全くドジなんだから」

 

どこか他人事のように笑いながら頷く二人だったが、遠藤博士はパニック状態であった。

 

 

遠藤博士「笑い事ではないわ!! なんとかせんと…! そうじゃ!!」

 

 

何かを思いつくと、遠藤博士は研究室へとバタバタと走って行った。

 

 

 

ラン「リーフさんの血を調べた人、腰抜かすんじゃないかしら?」

 

豪「それだけじゃねぇよ。住所もわかってるんだぜ、河内警部の耳にでも入ったら…」

 

青い顔で言った豪のその言葉に、ランもまた真っ青になった。

 

ラン「言わないでよ、考えたくもないわ…」

 

 

 

 

遠藤「ラン、豪!! どっちでもいい腕を出せ!!」

 

そう叫びながら、注射器を片手に遠藤博士が研究室から駆け出してきた。

 

 

豪・ラン「「えっ?」」

 

 

遠藤「お前らの血を採って、リーフの血とすり替えてくるんじゃ! 早くしろ!!」

 

注射器を振りかざしてきた遠藤博士だったが

 

 

豪「や、やだよ。注射なんて」

 

豪は注射を嫌って逃げ惑った。

 

 

遠藤「我が研究所がどうなってもいいのか!? 協力せい!!」

 

豪「じいちゃん、自分のでいいじゃない」

 

遠藤「えっ? あっそうか。わしのでいいんじゃ」

 

それに気がついた遠藤博士は、自分の腕に注射して血を抜き始めた。

 

 

 

ラン「それより病気ですとか言って処分してもらったら? ほらこのパンフレットにも書いてあるわ」

 

 

ランはリーフがもらってきた献血の案内パンフレットを指してそう提案した。

 

遠藤「いやいかん。下手にそんなことを言えば精密検査を受けるはめになりかねん。よし、準備ができた。これを持っていけ!! 早く!!!」

 

 

自分の血を入れたパックを豪に手渡し、遠藤博士はそう促した。

 

 

豪「わ、わかった!!」

 

 

それを受け取った豪は大急ぎで駅前へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

甲子市 棒留駅前

 

 

 

豪「はあはあ。えーっと献血、献血。あれ?」

 

 

十数分後、息急き切って駅にたどり着いた豪だったが、献血車の姿がどこにも見当たらなかった。

 

豪「あのすいません。献血の車はどこに行ったんですか?」

 

 

改札の駅員に慌てて尋ねてみたものの、実にあっさりとした返事が来た。

 

 

駅員「ああ、献血車ならさっき引き上げたよ」

 

豪「ええっ!!」

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

遠藤「何!? もう引き上げた? 最悪じゃ…」

 

 

豪から電話を受けた遠藤博士は絶望の声を出し、肩を落としていた。

 

そんな遠藤博士に対して、リーフが慰めるように肩に手を置いた。

 

 

リーフ「そんなに落ち込まないでください。博士にはご迷惑をおかけしません」

 

遠藤「もう十分かけとる。一体どうすりゃいいんじゃ…」

 

 

 

リーフ「私の責任です。私の血は絶対に取り戻します」

 

 

その言葉に遠藤博士は珍しく激高した。

 

 

遠藤「だから、どうやってじゃ? どこに行ったのかもわからんのに探しようがないじゃろうが!!」

 

 

しかし、リーフはきっぱりと言い切った。

 

リーフ「探せます」

 

遠藤「あん?」

 

 

 

 

 

リーフは研究所の外に出るとマルチハンドを換装した。

 

リーフ「チェンジハンド・タイプイエロー!!」

 

その掛け声とともに、リーフの両腕が小さなロケットが装備された黄色の腕に変わった。

 

 

リーフ「センサーアイ、発射!!」

 

そう叫ぶと、リーフは右腕を空にかざしセンサーアイを発射した。

 

 

イエローハンドに搭載されたセンサーアイには、半径10km四方の情報を詳細にリーフの電子頭脳に送り届ける機能がある。

 

 

それを使ってリーフは自分が献血を行った車を探していた。

 

 

リーフ「見つけた!! 血液研究センターってところに他の血といっしょに運ばれたみたい」

 

 

遠藤「よーし、豪にすぐ戻ってくるように連絡せい」

 

 

 

 

 

 

 

 

血液研究センター

 

 

 

 

ちょうどその頃、ここ血液研究センターでは異変が起こっていた。

 

 

マイナーを大量に引き連れたファルが突然乱入してきたのである。

 

 

所員「な、なんだお前らは?」

 

突然のことに戸惑った職員や警備員だったが、マイナー達に敵うはずもなく、あっさり殴り倒され、センターは制圧されてしまった。

 

 

ファル「さて、血液を保管してある場所に案内してもらおうか」

 

ファルは一人の所員の胸倉を掴み、そう低い声で脅した。

 

 

 

 

一方センター内の血液保管庫では、京香先生がリーフの血を探していた。

 

 

京香「今日集めてきた血液はこの辺り… 遠藤リーフの血液は…と。あっ、あったわ」

 

膨大な量の血液の中からリーフの血の入ったパックを見つけた京香先生は、真剣な顔をしていた。

 

京香「妙な反応を示した血液。変な病気とかだったら大変だわ。きちんと検査しないと」

 

 

そこに大量のマイナーが扉を蹴破って突入してきた。

 

 

京香「なんですかあなた達は?」

 

ファル「その手に持っているものを置いていけ。実験に使わせてもらう」

 

京香「なんですって? 一体何を…」

 

 

気丈に言い返した京香先生だったが、マイナー達の鋭い爪に脅され、やむなく両手を挙げた。

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

 

遠藤「血液センターに行くのにこいつを連れて行け。以前わしが作った物探しロボットじゃ」

 

大人の膝の高さぐらいの大きさの、キャタピラで動くレトロなロボットといったデザインのロボットの埃を拭きながら、遠藤博士が言った。

 

 

豪「これで姉ちゃんの血が探せるの?」

 

遠藤「うむ。リーフの血液成分をインプットしたからな。似たようなものがいくらあっても、目標物だけを即座に見つけることができる」

 

得意げに語る遠藤博士だったが、リーフは首を横に振った。

 

 

リーフ「ううん。私の失敗だもん、私一人でやるよ」

 

 

遠藤「馬鹿もん。あのセンターに集められとる血液の量は数千本になるじゃろう。いちいち探しとったらきりがないわ」

 

 

ラン「それをこのロボットならすぐに見つけられるってことなの?」

 

 

遠藤「うむ、インプットしてある物と同じ物をセンサーが見つけると、こうやってアームを伸ばしてガッチリと…」

 

そう解説しながら、物探しロボットの金属製のアームにコップを握らせようとしたが遠藤博士だったが、ロボットはコップを握りつぶして割ってしまった。

 

 

遠藤「あ、ありゃ? どうなっとる、しばらく物置にしまっていたから調子が…」

 

 

ガチャガチャと物探しロボットをいじり始めた遠藤博士にランはため息をついた。

 

 

そしてそんな遠藤博士をよそに

 

 

ダイーダ「行くわよ。リーフ、豪」

 

リーフ「うん」

 

 

三人はさっさと出て行ってしまった。

 

 

 

そうしていると遠藤博士は思い出したように大声をあげた。

 

 

遠藤「あーっそうじゃった!! こいつを物置に放り込んだのは、アームのパワー制御がどうしてもうまくいかんかったからじゃった。 はぁ…」

 

 

がっくりとうなだれた遠藤博士にランがポツリと言った。

 

ラン「その手のところが金属だからよ。鍋つかみでもつければよかったのに」

 

 

その言葉に、遠藤博士はひらめいたというような顔をした。

 

遠藤「その手があった! ラン、三人をもう一度呼び戻せ」

 

 

 

 

 

 

かくして両手を鍋つかみに改造された物探しロボットを連れて(絵的にはかなりかっこ悪いのだが)、リーフ達は血液研究センターに到着した。

 

 

豪「ここに、献血した血が集められてるの?」

 

リーフ「そうよ。私の調査に間違いはないわ」

 

 

と、得意げに語ったリーフだったが

 

ダイーダ「そもそもこうなったのはあんたのミスでしょうが! 自慢しないの」

 

ダイーダにピシャリと釘を刺されてしまい、ぐぅの音も出なかった。

 

 

 

豪「でも、これからが問題だよ。うまく中に忍び込んで姉ちゃんの血を盗み出さなきゃ」

 

豪としては何気なく言ったつもりなのだが、リーフとダイーダは過敏に反応した。

 

 

ダイーダ「盗むってなによ! そんなことするなら私は反対よ!!」

 

リーフ「ダイーダちゃんの言う通りだよ。悪いことはしちゃダメ!!」

 

 

豪「いや、そうじゃなくて、取り返すってこと」

 

 

慌てて言い直した豪だったが

 

豪(はぁ、大変だよもう)

 

胸中ではめんどくさいという気持ちの方が大きかった。

 

 

内心でため息をつきつつふと顔を上げると、窓に文字が書いてあるのが見えた。

 

 

豪「!! 姉ちゃんあれ!!」

 

 

リーフ「何? えーっと、808だよね。どういう意味だったっけ?」

 

ダイーダ「違うわよ、あれは80$って書いてあるの。確か…お金の単位よね」

 

 

豪「あーもう!! SOS!! 助けてって言ってるの!!」

 

その豪の叫びに、二人の顔つきが変わった。

 

 

リーフ「豪くん。君はここにいて、何かあったら連絡するから」

 

ダイーダ「行くわよリーフ」

 

 

二人はそう言い残すと、メガネを豪に預けセンター内へと走って行った。

 

 

 

豪「ここにいろったって… そうだ、今のうちに姉ちゃんの血を回収しちゃおう」

 

そう呟くと、豪もまた物探しロボットを連れてセンターの中に入って行った。

 

 

 

 

 

一方センター内では、マイナー達によって一つの部屋に所員達が監禁されていた。

 

縛られたりはしていないものの、当然外部と連絡を取れないよう見張られていた。

 

 

京香(誰か通りがかった人が見つけてくれればいいけど…)

 

 

そんな状況下でも、京香先生は一縷の望みをかけて、持っていた口紅を使い、自分の体で隠しつつ、後ろ手で窓にSOSを書いていた。

 

 

先ほど豪が見つけたのは、この文字だったのである。

 

 

 

第7話  終



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第8話 「血液大パニック!! (後編)」

 

 

血液研究センター内

 

 

 

ダイーダ「リーフ、あれ」

 

リーフ「マイナー!! ってことは!?」

 

 

センター内を調べていたリーフ達は、マイナーがうろついているのを見て、一瞬で状況を理解した。

 

 

そして次の瞬間、二人は飛び出しマイナー達を叩きのめしていた。

 

 

リーフ「あなた達、いったい何が目的なの!?」

 

ダイーダ「ロクでもないことをしようとしてるってことだけは確かでしょうけどね!!」

 

 

そうやってマイナー達と集っている間にも、二人の超高性能集音器のついた耳は、センター内の物音を聞き漏らすまいと最大限に感度を上げていた。

 

 

そして、監禁されている人の声をキャッチした時、迷うことなくそちらへ一直線に向かっていた。

 

 

 

所員「一体どうなるんだろう?」

 

所員「わからないよ。こいつら話もできないし、一体何がしたいのか…」

 

 

 

所員達の間で不安が広がる中、監禁されている部屋のドアを力任せに蹴破って、何かが勢いよく飛び込んできた。

 

 

リーフ・ダイーダ「「ハァアアア!!」」

 

 

勢いよく飛び込んだリーフとダイーダは、とっさのことに怯んだマイナー達を流れるように次々と倒していった。

 

ダイーダは隙をみては懐に飛び込み、的確に急所と思わしき場所に肘や掌底を打ち込んでいった。

 

 

一方リーフはマイナーの攻撃を紙一重でかわしつつその勢いを利用して投げ飛ばしていった。

 

 

その二人の戦いぶりは、華麗かつ勇猛であり、先ほどまで恐怖に怯えていた所員達が心奪われ、勇気付けられるには十分であった。

 

ダイーダ「みなさん、大丈夫ですか?」

 

京香「ええ、でも地下の血液保管室に他にもこの人達が…」

 

リーフ「わかった、そっちも助けます!!」

 

 

そう言って走り去っていった二人を見て、所員達は漏らした。

 

 

所員「あの二人、テレビで言ってた二人だよな」

 

所員「ああ、コズミックプリキュア。助かったよ」

 

所員「よかったですね、先生… 先生?」

 

京香「えっ? ええ (あの子、どっかで会ったような…)」

 

 

 

 

血液研究センター地下 血液保管庫

 

 

豪「えーっと、リーフ姉ちゃんが調べた血液保管庫は… あっあのドアだ」

 

物探しロボットを連れて先ほどリーフがセンサーアイで調べた血液保管庫を目指してうろついていた豪は、厳重そうな扉を見つけ駆け寄った。

 

 

豪「あれ? 開いてる… 誰かいるのかな?」

 

 

近づいてみると扉が鍵もかけず開けっ放しになっていたことに、不信感を覚えた豪は、そっと保管庫に忍び込んだ。

 

 

ファル「さてと、外部と連絡は途絶えさせたな。これでゆっくりと実験ができる」

 

豪「!! あいつは! それに実験って…?」

 

保管庫の中でファルの姿を見た豪は、息を殺した。

 

 

ファル「さしあたってはこの血で試してみるか。Dr.フライが作ったこのウィルスが本当に人の血液を分解するか確かめてやる」

 

そう言ってファルは一つの血液パックの封を切り、持ってきたカプセルを投入し、溶かし込んだ。

 

 

しかし

 

 

ファル「なんだ? 何も起きんな。別に成分が変わったわけでもなさそうだ… ちっ!! フライめ、いい加減なものを!!」

 

 

苦々しく顔を歪めてそう吐き捨てたファルをよそに、豪は内心大慌てしていた。

 

 

豪「人の血を分解? そんなものがばらまかれたら大変だ!! 早く姉ちゃん達に…」

 

そーっと急いで保管庫から出ようとした瞬間、連れていたもの探しロボットが勝手に動き出し、ファルの方へと向かっていった。

 

 

豪「こ、こら! どこ行くんだよ戻ってこい!!」

 

 

豪の叫びをよそにもの探しロボットはファルの足元まで行くと、アームを伸ばして持っていた血液パックを奪い取って、豪の元に戻ってきた。

 

豪「げ!! まずい!!」

 

 

ファル「誰だ!! そこにいるのは!!」

 

 

当然見つかってしまった豪は、大慌てでもの探しロボットを抱えて保管庫から逃げ出していった。

 

 

 

豪「なんなんだよこいつ!? おかげで見つかっちゃったじゃないかよ!!」

 

逃げながらふとロボットを見ると、ロボットが掴んでいるものを見て状況を理解した。

 

 

豪「あれ? これリーフ姉ちゃんの血だ。あ、それでさっき何にも起きなかったんだ!!」

 

 

 

そんなことを呟きながら走っていると、曲がり角で誰かとぶつかった。

 

 

豪「いてて… あっ姉ちゃん!!」

 

 

ダイーダ「豪!? 外で待ってろって言ったでしょ!!」

 

豪「ご、ごめん。あっそれよりリーフ姉ちゃんの血は回収できたよ。それにあのパーフェクトの奴ら…」

 

 

後は先ほど血液保管庫で見た一部始終を話した。

 

 

リーフ「あいつらなんてものを…!!」

 

ダイーダ「絶対にそんなことさせない!! 豪、あなたはここの人達と一緒に脱出して!!」

 

豪の話を聞いた二人は怒りに燃えて走り出していった。

 

 

豪「わかった!! 気をつけてね!!」

 

 

 

 

 

 

ファル「ちっ!! とんだ無駄骨だ、引き上げるぞ!!」

 

 

元々、Dr.フライの作ったウィルスの効果を確かめるためだけに来たファルである。

 

もはやここにとどまる理由は彼の中になかった。

 

 

 

リーフ「見つけたわ!!」

 

ダイーダ「ファル! 今日という今日は…!」

 

 

そうして引き上げようとしたファルだったが、血液保管庫を出たところでリーフとダイーダに見つかってしまった。

 

 

ファル「くそっ!! もう嗅ぎつけやがったか! マイナー、連中を足止めしろ!!」

 

 

ファルの命令に従い、何体ものマイナーがリーフとダイーダに向かってきた。

 

 

ダイーダ「くっ! どきなさい!」

 

リーフ「早くしないとファルが…」

 

 

二人はファルを取り逃がしてたまるかと焦ったため、結果数体のマイナーを倒すのに思った以上の時間がかかり、その間にもファルはどんどん逃げていった。

 

 

 

 

ファル「あいつらめ…どうしてこっちの居場所がこうもすぐにわかる…」

 

そうやって愚痴をこぼしつつもセンターから脱出したファルの前に、マイナー達を倒したリーフが立ちはだかった。

 

 

 

リーフ「逃がさないわよ!!」

 

 

慌てて引き返そうとしたファルだったが、退路にはダイーダが立ちはだかった。

 

 

ダイーダ「もう逃げ場はないわ。観念しなさい!」

 

 

ファル「くっ… ん?」

 

 

挟撃され歯噛みしたファルだったが、外に一匹の野良猫と脱出した所員達がいることにふと気がつき、ニヤリと笑った。

 

 

ファル「悪いが、まだまだよ! 出ろ、メイジャー!!」

 

 

そう叫ぶと、ファルは黒いダイヤモンドのようなものを野良猫に向かって投げつけた。

 

 

すると、その野良猫は突如として巨大な化け猫へと変貌した。

 

 

リーフ「なっ!?」

 

ダイーダ「今投げたのは… まさか、マイナスエネルギーの塊!?」

 

 

ファル「その通りだ! さぁどうする? 外の連中が襲われてるぞ」

 

 

そう嗤いながら告げたファルに対して、リーフ達は悔しそうに顔を歪めた。

 

 

ダイーダ「くそっ!!」

 

リーフ「悔しいけど…仕方ない!!」

 

 

 

やむを得ないとばかりに、二人は巨大化け猫を止めるべく立ち向かっていった。

 

そして当然その隙にファルは悠々と逃げおおせたのだった。

 

 

 

 

所員「ば、化け物!!」

 

所員「なんで俺たちがこんな目に!!」

 

ようやく助かったと思ったところで、今度は野良猫が突如として巨大な化け猫に変異して襲ってきたのである。

 

 

踏んだり蹴ったりの状況に、所員達は泣き言を言っていた。

 

 

リーフ「やあっ!!」

 

ダイーダ「はっ!!」

 

 

そんな所員達を救うべく、リーフとダイーダは化け猫に飛びかかり、飛び蹴りを浴びせていた。

 

 

 

ダイーダ「行くわよ!!」

 

リーフ「うん!!」

 

蹴り飛ばされた化け猫は地面に転がり、隙ができたことを確認した二人は頷きあい、トンボを切った。

 

 

リーフ・ダイーダ「「ゴー!!」」

 

 

その掛け声とともに二人の体は光に包まれ、着地した時には変身完了し、赤と白のドレスに身を包み、髪型も大きくボリュームが変わっていた。

 

 

 

リリーフ「闇を吹き消す光の使者 キュア・リリーフ!!」

 

ダイダー「悪を蹴散らす光の使者 キュア・ダイダー!!」

 

 

リリーフ・ダイダー「「ピンチ一発、大逆転! コズミックプリキュア!!」」

 

 

 

 

変身した二人に、巨大化け猫は獲物を見定めたように、するどい爪で切り裂きにかかってきた。

 

京香「危ない!!」

 

 

 

しかし思わずそう叫んだ京香だったが、コズミックプリキュアはこともなげにその爪を受け止めていた。

 

そして

 

リリーフ「ごめんなさい。ちょっとだけ我慢しててね」

 

ダイダー「すぐに元に戻してあげるから」

 

 

二人は巨大化け猫に対して、いかにも申し訳なさそうにそう告げると、大きく投げ飛ばした。

 

地面に叩きつけられ、悶えていた化け猫に対してリリーフは苦悶の表情を浮かべた。

 

 

リリーフ「少しだけおとなしくしてて、チェンジハンド・タイプブルー!!」

 

リリーフは両腕を稲妻模様の走った青い腕に換装すると、右手を化け猫に対してかざした。

 

リリーフ「エレキ光線、発射!!」

 

その掲げた右手から放たれた稲妻に化け猫は感電してしまい、ぐったりとして動きを止めた。

 

 

ダイダー「よし、今ね」

 

チャンスと見たダイダーは光のスティックのようなものを取り出した。

 

 

ダイダー「受けなさい。プリキュア・シャイニングスイング!!」

 

そう叫びながら、ダイダーはスティックを野球のスイングのように一振りした。

 

 

すると光の斬撃が飛んでいき、化け猫に直撃しその体を切り裂いた。

 

 

するとその切り裂かれたところから、黒い靄のようなものが大量に溢れ出し、化け猫は大爆発した。

 

 

リリーフ・ダイダー「「ゲームセット!!」」

 

 

 

 

京香「あの猫… 軽い怪我で済んだみたいね」

 

 

爆心地で気絶していた野良猫を見て、京香先生は安心したように呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

海底 Dr.フライ秘密研究所

 

 

 

 

Dr.フライ「何? 効果がなかった!? そんなはずはないわ!! このDr.フライ様が作ったものに間違いなどない!! 貴様のやり方がまずかったのじゃ」

 

戻ってきたファルの報告を聞いて、Dr.フライは激高した。

 

 

ファル「実際何も起きなかったから、そう言っただけだ。自分の無能さを棚に上げて喚くな」

 

そんなDr.フライに対してうるさそうに顔をしかめ、バカにしたようにファルは言い捨てた。

 

 

Dr.フライ「そんなはずはないのじゃ!! この大天才に間違いなどない… 間違いなどないのじゃ!!」

 

 

そんな風にひたすら喚くDr.フライを無視して、ファルは研究室の机の上のものをメチャクチャにした。

 

Dr.フライ「な、何をするか!!」

 

 

ファル「決まっている、くだらんゴミ作りをしたものを廃棄しているだけだ。これに懲りたら次はもっとましなものを作れ」

 

 

そう吐き捨てて出て行ったファルの後ろ姿をDr.フライは悔しそうに睨みつけていた。

 

 

 

 

 

 

 

血液センター正門前

 

 

 

豪「やれやれ、なんとか全部無事に済んだね。姉ちゃんの血も回収できたし。このもの探しロボットのお手柄だ」

 

リーフ「そうね、やっかいそうなウィルスもばら撒かれる前に回収できたし。よかったよかった」

 

 

上機嫌でそう呟いていた二人に対してダイーダは釘を刺した。

 

ダイーダ「何言ってるの。どっちも結果論じゃない。特にリーフ、事の始まりはあなたの軽率な行動だって忘れないように」

 

 

リーフ「うぐっ、でもまぁそれは、ねぇ。結果オーライって事で…」

 

 

ダイーダ「まったく…」

 

詰まってしまったリーフにダイーダは呆れたようにため息を漏らした。

 

 

豪「でもさぁ、そのウィルスどうするの?」

 

不安そうな豪の質問に、ダイーダは答えた。

 

 

ダイーダ「その辺に捨てるわけにもいかないし、このウィルスはこのパックごと持ち帰りましょう。その上で遠藤博士に分析してもらって、ワクチンを作ってもらった上で焼却処分ね」

 

 

そんな事を話しながら帰路についていると、京香先生と鉢合わせしてしまった。

 

 

京香「あら、あなた達。どうしてこんなところに…」

 

 

豪「やばっ!!」

 

 

まずいとばかりに、何か質問される前に三人は逃げ出した。

 

 

豪「なんか俺今日走ってばっかり」

 

ダイーダ「豪、文句はリーフに言いなさいね」

 

リーフ「ううっ、ごめんなさーい…でいいんだよね?」

 

 

 

 

第8話 終

 

 



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第9話 「深海基地SOS (前編)」

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

 

リーフ「ねぇねぇ、前から気になってたけど、この外にある大きな水たまりってなんなの?」

 

 

ある日リーフがふとそんな事を尋ねた。

 

 

豪「水たまりって… ああ海のこと?」

 

ダイーダ「ウミ? 確かそれは傷口が化膿した時に出てくる液体の事よね」

 

 

そのダイーダのセリフに脱力しながらランが答えた。

 

 

ラン「それは膿。海っていうのは、この星の表面のほとんどの部分を覆ってる水の部分のこと。 ほら世界地図で青く塗られてるところがあるでしょ」

 

 

リーフ「へぇ〜、あれが全部水なんだ」

 

ダイーダ「そっちで生きてる生き物も多くいるんでしょうね」

 

 

遠藤「もちろんじゃ。なにせ海は地球の生命の母でもある。今の地球の生き物はみな元を正せば海の中で生まれたのじゃ」

 

 

 

リーフ「じゃあ、そこの生き物を助けに行くこともあるかもしれないね」

 

ダイーダ「ええ、どんなところにだって助けに行くわ」

 

 

力強くそう語った二人に、みなは頼もしさを感じていた。

 

 

遠藤「実に頼もしいのう。無論わしとてそのつもりじゃ、そのための研究も進めておるぞ」

 

 

そんな会話をしていると、マイナスエネルギー検知器がけたたましい音を立てた。

 

 

遠藤「むっ!! これは」

 

リーフ「またパーフェクトが!?」

 

 

豪「えっと、テレビテレビ」

 

 

慌ててテレビをつけると、そこでは臨時ニュースが流れていた。

 

 

 

『臨時ニュースです。東京湾沖の海底で海底資源を採掘している基地から先ほど巨大な怪物を撮影したとの連絡が入りました』

 

 

ラン「えっ、怪物…ってまさか!?」

 

遠藤「うむおそらく、いや間違いなく連中じゃろう」

 

 

 

『日本アカデミーは、海底に生息している未知の生物ではないかと判断し、直ちに調査団の派遣を決定しました』

 

 

そのニュースに遠藤博士は驚いた。

 

遠藤「いかん、何を考えとる!! のこのこ調査なんぞに行ったら、連中に殺されてしまうぞ!!」

 

 

そう叫ぶと慌てて、車のあるガレージへと走って行った。

 

ラン「待っておじいちゃん」

 

豪「俺逹も行くよ。姉ちゃん達も早く」

 

 

 

リーフ「うん!」

 

ダイーダ「ええ!」

 

 

 

 

 

 

東京湾

 

 

 

 

 

今まさに、潜水艦が調査団の科学者達を乗せ、海底基地へ向け出航しようとしていた。

 

 

そんな港の放送をしようと、レポーターの甲斐 節子が忙しく走り回っていた。

 

節子「もうすぐオンエアよ。カメラの準備はいい?」

 

 

そして港の警護に、河内警部が部下の警官を引き連れてきていた。

 

 

警官「しかし警部。我々が出張る必要があるんでしょうか? たかがこれしきのことで」

 

欠伸混じりにそう疑問を口にした部下を河内警部は一喝した。

 

河内「たるんどる!! いいか、たとえ無意味かも知れずとも、あらゆる任務に全力であたり、人々の安全を守る。それが警察官というものだ!!」

 

 

「なるほど、すばらしいですね」

 

 

河内「そう、人々のために献身的に尽くす警察官。たとえ報われずとも俺逹の働きはお天道様だけがご存知よ」

 

と、そこまで言ったところで、河内警部は今自分に話しかけてきたのが、女の子の声だと気がついた。

 

河内「ん? お前確か… まさか!?」

 

 

リーフ「ダイーダちゃん、先に行かないでよ〜」

 

遠藤「まったく年寄りのことをもう少し考えい」

 

 

そうやって駆け寄ってきた遠藤博士を見て、河内警部の目つきが変わった。

 

 

河内「遠藤!!」

 

遠藤「げっ!!」

 

豪「河内警部!!」

 

 

 

河内「ごらぁ!! 社会の敵がこんなところに何しに来た!?」

 

ものすごい剣幕でそう詰め寄った河内警部だったが、遠藤博士も負けじと言い放った。

 

 

遠藤「調査団の命を救いに来たんじゃ!!」

 

河内「なにぃ?」

 

 

 

ダイーダは空を見上げて先ほどの河内警部の言葉を噛み締めていた。

 

リーフ「どうしたの、ダイーダちゃん?」

 

ダイーダ「いえね、お天道様だけが知っている…か。 いいこと言うなぁ、あの人」

 

 

そんなリーフとダイーダを視界の隅に捉えた甲斐 節子は

 

節子「何あの子達? 顔はまあまあだけど、なんかトロそうね」

 

 

そんな感想を一人つぶやいていた。

 

 

 

 

 

 

河内「Dr.フライ?」

 

遠藤「そうじゃ、調査団の派遣など今すぐ中止させるのじゃ!!」

 

 

事情を説明した遠藤博士だったが、それを聞いた河内警部は大笑いした。

 

 

遠藤「何がおかしい!?」

 

 

そう詰め寄った遠藤博士の胸ぐらを掴んで、河内警部が低い声で言い放った。

 

河内「ふざけるなジジィ。下手な嘘を並び立てて何を企んどる?」

 

遠藤「この目を見ろ!! わしの言うことが信じられんというのか!!」

 

 

その腕を振りほどきながら、そう怒鳴った遠藤博士だったが一蹴された。

 

河内「犯罪者の言うことが信じられると思うのか!!」

 

遠藤「黙れ! 人聞きの悪いことを!! それこそ、お主のくだらん妄言じゃろうが!!」

 

 

 

そんな二人の言い争いにランはため息をついていた。

 

ラン「んもう。だんだん話がずれていってる」

 

 

 

そんな中、遠藤博士は潜水艦に乗り込もうとしている調査団の姿に気がついた。

 

 

遠藤「ん? あ、あれは」

 

河内警部を突き飛ばすと、調査団のところに声をかけながら駆け寄っていった。

 

 

遠藤「おーい!! 不破くん、瀬古くん、佐渡くん。わしじゃよ、大学で同じ研究室にいた遠藤じゃよ!!」

 

 

すると、調査団も遠藤博士に気づいたらしく声をかけてきた。

 

 

不破「お〜、遠藤くんじゃないか」

 

瀬古「いつも変な発明ばかりしていた遠藤くんか」

 

 

遠藤「な、何?」

 

 

佐渡「変なものばかり作るから研究室でみんなから仲間外れにされた遠藤くん、まだ生きとったのか」

 

 

遠藤「く、くぅ…おのれ…」

 

そのコメントに悔しそうに歯噛みした遠藤博士を、河内警部は大笑いしていた。

 

 

河内「はっはっはっ。随分立派な科学者だなジイさん」

 

 

豪「馬鹿にすんな!! じいちゃんはスゲェ科学者なんだぞ!! 世界平和のために頑張ってるんだ」

 

続く遠藤博士への侮辱に、いい加減頭にきた豪はそう怒鳴った。

 

 

河内「世界平和? また随分大きくでたな。一体何をしてるんだ?」

 

豪「聞いて驚くな!! じいちゃんは…モガ」

 

売り言葉に買言葉といった感じで話そうとした豪の口を慌ててランが塞いだ。

 

 

ラン「馬鹿、プリキュアのこと話しちゃうつもり? リーフさんやダイーダさんに迷惑がかかるじゃない」

 

その言葉に冷静になった豪は悔しそうに黙りこくってしまった。

 

 

河内「どうした坊主? 言えないほど恥ずかしい研究か?」

 

その小馬鹿にしたような言葉とともに、嘲笑の渦が一面に巻き起こった。

 

 

遠藤「ええい!! 引き上げじゃ!! もうこんなやつらなどどうなろうと知らん!!」

 

 

いい加減我慢の限界に達した遠藤博士はそう叫び引き返していった。

 

 

リーフ「あなた達、笑っている場合じゃないですよ!! 博士のいうことは本当です。 このままあんなところに行けばただでは済みませんよ」

 

リーフは最後の忠告と言うようにそう訴えた。が

 

 

 

不破「ご忠告感謝するよ」

 

瀬古「いい話のネタができた」

 

佐渡「危険な任務に行く前に気分が紛れたよ。ありがとう」

 

 

まるで真剣に取り合わず調査団は潜水艦に乗り込んだ。

 

 

リーフ「そんな…」

 

ダイーダ「はぁ、仕方がないわ。言うべきことは言ったわけだし、一旦引き上げましょ」

 

そうして止むを得ずリーフ達も引き上げていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

海底 Dr.フライ秘密研究所

 

 

 

 

 

節子『つい先ほど、日本アカデミー選りすぐりの調査団を乗せた潜水艦が出港し、海底基地へと調査に向かいました。 件の怪物の正体が明らかになるのも時間の問題と言えるでしょう』

 

 

その放送を見たDr.フライはゴーロに怒鳴りつけた。

 

Dr.フライ「あれほど見つからんようにしろと言ったではないか大バカ者が!!」

 

 

ゴーロ「けっ、メイジャーを連れていきゃ目立つのは仕方ねぇだろ!!」

 

そうふて腐れるように怒鳴ったゴーロを、ファルが馬鹿にするように言った。

 

 

ファル「ならば連れて行かなければ良かっただけだ。頭の回転の悪さは変わらんな」

 

 

ゴーロ「んだと、このやろう!!」

 

 

 

口論を始めたところに、パーフェクトのドスの効いた声が響いた。

 

 

パーフェクト「やめろ、仲間割れをしている場合ではない」

 

 

ゴーロ・ファル「「はっ」」

 

 

Dr.フライ「そうじゃ、この二人によく言ってやってくれ。わしの命令に従えとな」

 

 

尻馬に乗りそう言ったDr.フライだったが、それに釘をさすようにパーフェクトは告げた。

 

 

パーフェクト「Dr.フライ、貴様は作戦だけを考えていればいい。命令を下すのはこの次元皇帝パーフェクトだ」

 

 

その雰囲気に気圧されたDr.フライは、冷や汗をかきながらも、作戦を改めてゴーロに説明した。

 

 

Dr.フライ「良いかよく聞け、資源採掘用の穴から地底ミサイルを打ち込む。すると海底火山の噴火を誘発させられる。その巻き上がった火山灰で地上には何年も日が差さなくなる。おまけに大地震、大津波。地上は壊滅状態に陥る。まさに完璧な作戦というわけじゃ」

 

 

Dr.フライは得意そうに作戦の概要を説明した。

 

 

Dr.フライ「…なのに、あっさり見つかった上、何もせずにおめおめと戻ってきおって!!」

 

 

そう怒鳴ったDr.フライにゴーロは反論した。

 

 

ゴーロ「ふざけんな、何が完璧だ。その穴は基地の真下につながってんだぞ。どうやってミサイルを打ち込めってんだ!?」

 

 

Dr.フライ「それぐらいは自分で工夫せい!! 貴様の頭が飾り物でないと証明してみろ!!」

 

 

ゴーロ「ちっ!! わかったよ」

 

 

悔しそうに舌打ちをして、ゴーロは出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

海底資源採掘基地

 

 

 

 

ここ、深度3,000メートルにある海底資源採掘基地では、派遣された調査員達が、撮影された怪物の姿を見てしかめ面をしていた。

 

 

不破「ざっと全長40メートル。生物学的にどう考えてもこんな巨大な生物が深海に生息しているとは思えん」

 

瀬古「環境学見地から見ても同意見じゃな。 こんな巨大な生物が生息していれば、この海域にもっと影響が出たはずじゃ」

 

佐渡「わしの科学的見地からしても同意見じゃな」

 

 

そんなことを話し合っていると、突如基地が大きく揺れた。

 

 

不破「な、なんだ?」

 

基地作業員「で、出ました。例の怪物です!」

 

瀬古「何? そんな馬鹿な、そんな生物などいるはずが…」

 

 

しかし、そこには巨大な海蛇のような怪物が彼らをあざ笑うかのように存在しており、基地に体当たりを仕掛けていた。

 

 

そして、その海蛇怪物の口から、ミサイルを携えたゴーロと大量のマイナーが泳いできた。

 

ゴーロ「へっ」

 

ゴーロは、壁をパンチ一発でぶち破ると基地内部に力任せに侵入して行った。

 

 

「浸水だー!!」

 

「隔壁を閉めろー!!」

 

突然のことに基地作業員はパニックになりながらも、必死に浸水を防ぐべく尽力していた。

 

 

ゴーロ「けっ、身の程もわきまえずこんなところにのこのこ来るからだ」

 

そんな作業員達を馬鹿にしたように見ながら、ゴーロはマイナーにドリルミサイルを運ばせた。

 

 

そして資源採掘用のドリルを取り外し、代わりにドリルミサイルを設置させた。

 

 

ゴーロ「これでよし。あとはこの機械を起動させれば勝手にミサイルを地面の底に運んでくれる。人間どもが自分の作ったもので自滅するのは面白い」

 

 

司令室でマイナーの作業状況を確認しながら、ゴーロは一人下劣な笑いを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

 

 

節子『臨時ニュースを申し上げます。数分前、怪物が出たとの通信を最後に、海底基地からの連絡がぷっつりと途絶えてしまいました。調査団や現地作業員の安否が気遣われます』

 

 

その臨時ニュースを聞いて、豪とランの顔色が変わった。

 

ラン「怪物って、やっぱり!?」

 

豪「襲われたんだ。大変だよ!!」

 

 

しかし、遠藤博士はどこ吹く風というように、何かの製作に没頭していた。

 

 

遠藤「ほーれ見たことか、わしの言うことを聞かんからじゃ」

 

 

 

豪「そんなこと言ってる場合じゃないよ、助けに行かなきゃみんな溺れ死んじゃうよ!!」

 

ラン「おじいちゃん、世界の平和を守るんじゃないの?」

 

豪とランは必死にそう訴えたが

 

 

遠藤「知らん知らん。あやつら揃いも揃ってわしをコケにしおって。今更助けてやる義理などない」

 

 

遠藤博士は動こうとしなかった。

 

 

 

豪・ラン「「おじいちゃん!!」」

 

すると、豪達の肩に優しくリーフ達が手を置いた。

 

 

ダイーダ「二人とも、心配しなくて大丈夫よ」

 

リーフ「そんなこと言いながら、博士はさっきから何を作っているんですか?」

 

そんなダイーダとリーフの微笑みながらの質問に、遠藤博士がガチャガチャのカプセルのようなものを手に説明した。

 

遠藤「ふん、小型特殊酸素ボンベじゃ。これ一つで一般的なボンベの約100本分の圧縮酸素が詰まっとる。 十分な量もすでに完成しとる」

 

 

豪「じいちゃん…」

 

ラン「もう、素直じゃないんだから」

 

 

遠藤「やかましい!! とにかく三冠号を潜水艦モードで出撃じゃ」

 

 

リーフ・ダイーダ「「了解!!」」

 

 

遠藤博士の作った小型圧縮酸素ボンベカプセルを鞄いっぱいに詰め込み、豪達三人は三冠号に乗り込んだ。

 

 

ダイーダ「三冠号発進準備完了」

 

豪「よーし、発進!!」

 

そのかけ声と共に、崖の一部の岩肌が開き三冠号は発進した。

 

 

 

 

リーフ「三冠号、潜水艦モード起動」

 

 

ある程度進んだところでリーフは三冠号の第三のモード、潜水艦モードを起動させ、海中へと潜行させた。

 

 

ダイーダ「よし、動作良好。減圧をしながら最高速で海底基地へ向かうわよ」

 

ダイーダの指示通り、三冠号は既存のあらゆる潜水艦を上回るスピードで海底基地へと進路を向けた。

 

 

 

 

 

海底基地周辺

 

 

リーフ「見えた、あれが海底採掘基地だね」

 

ダイーダ「この近辺にメイジャーの反応はないけど、いつ襲ってくるかわからないわ。私達は小型艇で海底基地の救助に向かうから、リーフあなたは三冠号で近辺を見回って」

 

 

リーフ「オッケー!! 豪くんお願いね」

 

豪「もっちろん!!」

 

力強く頷くとダイーダと豪は三冠号に搭載されている小型艇に乗り込み、海底基地の壁にあいた穴から内部へと入っていった。

 

 

 

 

リーフ「よし突入成功。穴を塞ぐよ」

 

それを確認したリーフは、三冠号から弾を発射した。

 

その弾は以前の接着剤を元にした速乾性セメント弾であり、穴を一瞬で塞ぎ浸水を食い止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

海底基地内部

 

 

 

 

ダイーダ「突入は成功したけど、思ったより浸水はしていない… ここからは小型潜水艇じゃ無理ね。降りて走るわよ」

 

豪「うん。どっちに逃げ遅れた人達がいるかわかる? 早くしないとみんな溺れちゃうよ」

 

ダイーダ「もちろんよ、任せなさい。この基地の内部構造は前もってリーフが調べてあるし、集音器の感度を最大にあげて…と。 っ!! いけない!!」

 

 

小型艇から降りて海底基地内の物音を拾おうと、耳の集音器の感度をあげた瞬間、マイナーが向かってきている足音がダイーダには聞こえた。

 

 

そしてそれに気づいた瞬間、マイナーが二人に襲い掛かってきた。

 

ダイーダ「ええい、邪魔よ!! 時間がないんだから」

 

 

そう叫びつつマイナー達と戦いながらも、ダイーダは基地内の逃げ遅れた人の声を拾おうと集中していた。

 

 

ダイーダ「聞こえた!! 豪、負ぶさって」

 

そして、マイナー達を叩きのめし終わったのとほぼ同時に、逃げ遅れた人達の声をダイーダはキャッチした。

 

豪「うん。おっと、じいちゃんの作った酸素ボンベ忘れないようにしなきゃ」

 

そして圧縮酸素ボンベの詰まったカバンを持った豪を背負い、ダイーダは猛スピードで走り出した。

 

 

 

 

その頃、作業員や調査団はなんとか一室に逃げ込んだものの、その部屋にも浸水が始まっていた。

 

 

不破「水が!! 水が!!」

 

瀬古「くそ、水圧でドアが開かない!!」

 

佐渡「誰か助けてくれ!! このままじゃ溺れ死ぬ!!」

 

 

迫り来る水に、科学者としての恥も外聞もなく皆パニック状態であった。

 

 

その時、遠くで壁を力強く叩く音が響き、それがだんだんと近づいてきているのに気がついた。

 

 

作業員「な、なんだ? この音は?」

 

作業員「まさか、救助隊!?」

 

 

次の瞬間、壁をぶち破って両腕をレッドハンドに換装したダイーダが突入してきた。

 

 

ダイーダ「みなさんご無事ですか?」

 

豪「もう大丈夫だよ」

 

 

 

不破「おおっ、君達は!!」

 

瀬古「最近噂の!!」

 

ダイーダ達を見て、閉じ込められていた人々にも安堵の表情が浮かび、多少なりとも冷静さを取り戻したようだった。

 

 

だが、その光景は監視カメラを通し、ゴーロにも知るところとなっていた。

 

 

ゴーロ「へっ、来たかプリキュア。じゃあちょっとゲームを面白くしようか」

 

ニヤリと笑うとゴーロは指令室の機械を操作し、あちこちの隔壁を開き始めるとともに、外部ハッチをも開き、基地内に大量の海水を流し込んだ。

 

 

当然その光景は、周辺の探索を行っていた三冠号のダイーダからも確認できた。

 

リーフ「ダイーダちゃん、大変だよ!! 基地内に大量の海水が流れ込んだ!! すぐ避難して!!」

 

 

その叫びは、二人の通信機能を通じて、ダイーダに届いた。

 

 

ダイーダ「なんですって? 皆さん、また浸水してきます!! 急いで避難を!!」

 

そう叫ぶとともにダイーダは、レッドハンドの超パワーで壁を次々と破って避難ルートを作り、作業員達は全員大慌てでダイーダの後を追った。

 

 

 

一方、リーフは三冠号でなんとか基地内への浸水を食い止めようとしていた。

 

 

リーフ「なんとか、この出入り口のハッチを閉じられれば…」

 

 

何発か先ほど穴を塞いだ特殊セメント弾を発射したものの、水流に流されてしまい、ほとんど効果がなかった。

 

そうしていると、三冠号のレーダーが警戒反応を示した。

 

リーフ「これは!?」

 

 

次の瞬間、海蛇怪物が体当たりを仕掛け、三冠号は大きく揺れた。

 

 

リーフ「キャアアア!!」

 

 

なんとか体勢を立て直したものの、武装と呼べるものが搭載されていない三冠号では、体当たりを繰り返すだけで精一杯であった。

 

 

リーフ「くっ、海中じゃ水圧でハッチが開かない。外に出られないからまともに戦えない。まずいよこれは…」

 

しかし苦戦しつつも、リーフは投げ出すつもりはなかった。

 

 

リーフ「今こいつが海底基地に攻撃したらダイーダちゃんや豪くんだけじゃなくて、大勢の人が危険なことになる。それだけは絶対に避けないと…」

 

 

そう決意の表情で呟くとリーフは果敢に操縦桿を握り、三冠号で怪物の侵攻を防いでいた。

 

 

第9話 終



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第10話 「深海基地SOS (後編)」

 

 

 

 

基地内ではダイーダ達が浸水から逃げ続けていたものの、そのスピードは想像以上でありたちまちのうちに水が追いついてきた。

 

 

豪「姉ちゃんまずいよ。これじゃ逃げきれない!!」

 

 

ダイーダ「確かにこのままじゃ… ん? この先にも確か…」

 

 

その時、ダイーダは近くにある十分な広さのある部屋がある事を思い出し、そして浸水していないことに気がついた。

 

 

ダイーダ「これなら… 皆さんこの部屋に、早く!!」

 

ダイーダは部屋の入り口に駆け寄り、ハイパーリンク機能を使って電子ロックを解除した。

 

 

そしてその部屋の扉が開くとともに全員そこになだれ込み、再び扉を閉めた時と水が追いついてきたのはほぼ同時だった。

 

 

 

 

 

不破「はあはあ、なんとか助かったか…」

 

作業員「ここは…減圧室のようですね。扉も三重になってますからまず浸水はしてこないでしょう」

 

 

瀬古「しかし、これでは出ることもできん。酸素もいつまで持つか…」

 

そんな不安げな空気の漂う中、豪は自信満々に答えた。

 

 

豪「空気の心配ならしなくていいよ。この圧縮酸素ボンベには普通のボンベの100本分の酸素が詰まってるから」

 

佐渡「何、100本分!? そのサイズでか!?」

 

豪「そうだよ。今開けるからね…」

 

そう言って圧縮酸素ボンベの弁を開けようとしたが、大慌てで取り上げられた。

 

 

豪「何すんだよ!! 慌てなくてもいっぱいあるよ」

 

佐渡「そうじゃない!! もしそれが本当ならとてつもない圧力がかかっているはずじゃ!! こんなところで開けたら大変なことになる!!」

 

不破「爆弾みたいなもんじゃ!! 全員吹っ飛んでしまうわい!!」

 

 

豪「ええっ!? (くぅっ、じいちゃんのドジ)」

 

小さく遠藤博士を罵りながら、豪は舌打ちをした。

 

 

 

 

一方、一緒に避難していた主任作業員は、状況を冷静に把握しようとしていた。

 

主任作業員「ここが減圧室なら、万が一の時のために、基地本体から切り離して浮上させられるはずです」

 

ダイーダ「本当ですか!?」

 

その言葉にダイーダは希望を持った。

 

 

主任作業員「ええ。ですが、指令室からの操作が必要になります。これだけ浸水していれば指令室に行くことももう…」

 

うつむきながら絶望の表情とともにそう呟いた主任作業員を励ますようにダイーダは言った。

 

 

ダイーダ「あきらめないでください。私がなんとかします」

 

そう告げてダイーダは走り出し、扉から外へと出て行った。

 

 

主任作業員「無茶です!! 今外に出たらとてつもない水圧でぺちゃんこになってしまいます!!」

 

そんなダイーダを慌てて止めたが、言い終わる前にダイーダは出て行ってしまった。

 

 

不破「何を考えとるんだあの子は!! 死ぬ気なのか?」

 

瀬古「正気の沙汰とは思えん!!」

 

 

 

豪「へへっ、姉ちゃんなら大丈夫だよ。ほら」

 

豪の指差した窓の先には、特に苦もなく指令室へ泳いでいくダイーダがいた。

 

 

それを見た人たちは信じられないという表情とともに口を揃えて言った。

 

 

「「「んなバカな…」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海底基地 指令室

 

 

 

 

 

ゴーロ「へっへっへっ。もうすぐミサイルが岩盤をぶち破って火山活動を誘発する。っと、俺も逃げなきゃやばいな」

 

そう呟いているところに、ダイーダが指令室の扉をぶち破り、大量の水とともに飛び込んできた。

 

 

ダイーダ「話は聞かせてもらったわよ!! そんなふざけたことは絶対にさせない!!」

 

 

ゴーロ「チィッ!! いつもいつもテメェは!!」

 

鬱陶しそうに舌打ちをすると、ゴーロはダイーダに飛びかかった。

 

 

しかし、あっさりとそれをいなされ逆に大きく投げ飛ばされ、ダイーダのぶち破った扉から外へと飛び出していった。

 

 

ダイーダ「よし、まずは減圧室を切り離さないと。えーっとスイッチは…」

 

そしてダイーダはハイパーリンク機能で指令室の機能を把握すると、即座に減圧室の切り離しスイッチを入れた。

 

 

ダイーダ「豪、減圧室の切り離しスイッチは入れたわ。浮上できるわよ」

 

そのダイーダの声は、被っているヘルメットを通して豪に伝えられた。

 

 

豪「本当、姉ちゃん?」

 

 

ダイーダ「本当よ。私はこれからミサイルの回収に向かうわ。先に行ってて」

 

そう告げると、ダイーダは作業用ドリルのスイッチを停止させてから採掘穴へと向かった。

 

 

 

 

しかし、そこに豪の悲痛な叫びが響いてきた。

 

 

豪「姉ちゃんダメだよ!! ドアが水圧で歪んで引っかかってるみたいで、うまく切り離せないんだ!!」

 

 

ダイーダ「情けないこと言わない! 何か方法があるはずよ。大きな力をドアに加えなさい!!」

 

 

そう告げ通信を切るとダイーダはミサイルの回収のため、採掘穴を下っていった。

 

 

 

豪「方法ったって… 俺達にはそんな力はないし、道具だって…」

 

 

そう弱々しく呟いたところで、豪はふと先ほどの言葉を思い出した。

 

 

 

(爆弾みたいなもんじゃ!!)

 

 

豪「そうだ!! じいちゃんの失敗作が使えるかも」

 

 

 

 

その頃リーフは三冠号を必死に操り、かろうじて海蛇怪物の侵攻を食い止めていた。

 

 

リーフ「ダイーダちゃん! 結構ギリギリなんだけどいったいどんな状況? まだかかりそうなの?」

 

 

必死にそう呼びかけるとすかさずダイーダの返事がきた。

 

ダイーダは、かなり地下深くに進んでしまったドリルミサイルのところにようやくたどり着き、起爆装置を解除しようとしたところであった。

 

ダイーダ「もう少し頑張りなさい。こっちもミサイルの回収で大変なんだから」

 

 

その後、起爆装置をなんとか無効化し一息ついたところでダイーダは豪に通信を入れた。

 

 

ダイーダ「ふう、ミサイルは無効化できたわ。豪そっちはどうなの?」

 

 

豪「う、うん。なんとかなると思う。ドアを自動で閉めてください」

 

減圧室内でみんなと同じように、姿勢を低くし耳を塞いだ状態で豪はそう返事をした。

 

 

豪は遠藤博士の作ったありったけの小型酸素ボンベを、三重になっている減圧室のドアの二重目の部分に挟み込んだのだ。

 

 

 

作業員「よし、いきますよ」

 

そしてドアの開閉スイッチを入れると、ドアを締める力で挟まれていたボンベが次々と破裂・爆発しその威力で減圧室は海底基地からうまく切り離され、一気に浮上していった。

 

 

豪「やった!!」

 

佐渡「助かったぞ!!」

 

切り離しが成功したことで、減圧室の中の人々は歓喜の声をあげた。

 

 

 

 

 

 

その頃、海上では連絡の途絶えた海底基地の様子を探ろうと、海上自衛隊の巡視艇が到着していた。

 

 

節子「海底基地との連絡が途絶えて、すでに三時間近くが経過しています。果たして作業員や調査団は無事なのでしょうか」

 

 

そうレポートをしたところ、そこに切り離された減圧室が浮上してきた。

 

 

節子「あれは? どうやら作業員達のようです。無事のようですがいったい何があったのでしょうか?」

 

 

すると次の瞬間、海が大きく揺れ、海蛇怪物がゴーロを頭に乗せて浮上してきた。

 

 

ゴーロ「テメェらよくもやってくれたな!!」

 

 

頭に血が上っていたゴーロはそう怒声をあげ、海蛇怪物を暴れさせんとした。

 

 

まだ浮上しただけの減圧室の中で、身動きが取れない作業員たちは恐怖の悲鳴をあげたが、そこに凛とした声が響いた。

 

 

ダイーダ「ゴーロ!! それはこっちのセリフよ!!」

 

取り外したドリルミサイルを小脇に抱え、三冠号に捕まったダイーダの声である。

 

 

 

ダイーダ「ほら、あんたにとびっきりのプレゼントよ!!」

 

そのまま、ダイーダはミサイルをゴーロに向かって投げつけた。

 

ゴーロ「ぬっ! これは!?」

 

 

ダイーダ「チェンジハンド・タイプグリーン!! 超高熱プラズマ火炎発射!!」

 

そして即座にグリーンハンドに換装すると、右手をかざし超高熱の火炎を発射した。

 

ゴーロ「グオおおおお!!」

 

ミサイルはその火炎で暴発し、ゴーロは爆発とともに悲鳴をあげて吹き飛んで行った。

 

 

 

 

 

一方浮上した三冠号はワイヤーを射出し浮上した減圧室を釣り上げ、巡視艇にうまく着艦させた。

 

リーフ「みなさん、大丈夫ですか? 早く船に避難してください」

 

 

豪「姉ちゃん、サンキュー」

 

 

そしてリーフとダイーダも三冠号から飛び降り、巡視艇に着地した。

 

 

そんな二人を、海蛇怪物は爛々と光る赤い目で睨みつけ臨戦態勢に入っていた。

 

 

 

ダイーダ「ふっ。最後の後始末、行くわよ!!」

 

リーフ「うん!!」

 

それを確認した二人は頷きあい、トンボを切った。

 

 

 

リーフ・ダイーダ「「ゴー!!」」

 

 

その掛け声とともに二人の体は光に包まれ、着地した時には変身完了し、赤と白のドレスに身を包み、髪型も大きくボリュームが変わっていた。

 

 

 

リリーフ「闇を吹き消す光の使者 キュア・リリーフ!!」

 

ダイダー「悪を蹴散らす光の使者 キュア・ダイダー!!」

 

 

リリーフ・ダイダー「「ピンチ一発、大逆転! コズミックプリキュア!!」」

 

 

 

 

 

変身完了したコズミックプリキュアに対して海蛇怪物は牙を振りかざして咬みつこうとしてきたが、二人は後ろに倒れるような体勢でそれをかわし

 

 

リリーフ・ダイダー「「ヤァアアア!!」」

 

その勢いのまま強烈なキックで怪物を蹴り上げた。

 

 

二人のキックの威力の前に怪物は悲鳴をあげて、大きく吹き飛ばされ海面に叩きつけられた。

 

 

ダイダー「よし、チェンジハンド・タイプレッド!!」

 

それを確認したダイダーはレッドハンドに換装し海中へと飛び込んだ。

 

 

 

そして怪物の尾をその超パワーでがっちりと掴み、振り回し始めた。

 

ダイダー「リーフ、行くわよ!!」

 

 

 

 

リリーフ「オッケーいつでもいいよ!!」

 

ダイダーの呼びかけに、リリーフは大きく振りかぶり虹色の玉を手に輝かせながら答えた。

 

 

ダイダー「よし、飛んでけー!!」

 

ダイダーは振り回していた怪物を勢いよく投げ飛ばし、それを目掛けリリーフは虹色の玉を亜音速で投げつけた。

 

 

リリーフ「さっきのお返し、プリキュア・レインボール!!」

 

その玉は怪物の口から飛び込み、一直線に串刺しに貫いて飛んで行った。

 

 

豪「すっげー! タイミングぴったり」

 

 

 

 

そして海蛇怪物は叫び声とともに口から大量の黒い靄を吐き出した。

 

 

リリーフ・ダイダー「「ゲームセット!!」」

 

 

その掛け声とともに怪物は大爆発し、元の海蛇に戻って海中へと泳いでいった。

 

 

 

 

その後、三人を乗せた三冠号は皆から感謝の声に見送られつつ帰路に着いた。

 

 

節子「ピンチとあれば風の如く現れ、疾風のように去っていく。正義のスーパーヒロイン、その名もコズミックプリキュア。いったい彼女達は何者なのでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

翌日 遠藤平和科学研究所

 

 

 

遠藤「謎の少女コズミックプリキュア。海底基地作業員らを救う…か。よくやってくれたぞお前達」

 

新聞の第一面を堂々と飾ったコズミックプリキュアを見て、遠藤博士は満足そうに頷いた。

 

 

リーフ「うーん。こうして褒められるのは悪い気分じゃないね」

 

ダイーダ「ふふっ、まぁね。でもなんでリーフの方だけがアップなのよ」

 

 

しかし、上機嫌なリーフ達と違って豪は浮かない表情をしていた。

 

ラン「どうしたの豪? 何か不満そうだけど。謎のヘルメット少年って書いてあるんだからいいじゃない」

 

ランの指摘した通り、写真こそないものの豪のことはきちんと記事になっていた。

 

 

豪「だってさぁ、考えてみれば助けたのが俺達だってこと誰も知らないんだぜ。散々俺達を馬鹿にした奴らを見返してやれないなんてさ…」

 

そう口を尖らせて言った豪だったが、遠藤博士は微笑みながら言った。

 

 

遠藤「仕方あるまい。それがわしらの宿命じゃ」

 

リーフ「そうだよ豪くん。私達が戦ってるのだって人に褒めてもらうことが目的じゃないんだから。褒めて貰おうとする人は誰からも褒めて貰えなくなる、私達が特別警備隊員になる時に最初に教わったことよ」

 

ダイーダ「そうよ。それに誰も褒めてくれなくても、ちゃんと私達のことを知ってる人はいるわ」

 

 

豪「えっ?」

 

 

思わず聞き返した豪に、ダイーダは上を見上げながら言った。

 

 

ダイーダ「私達の働きは、お天道様だけがご存知よってね」

 

 

 

第10話 終

 



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第11話 「大追跡! コズミックプリキュア (前編)」

 

 

 

 

速田家

 

 

 

ある夜、豪が夕食の前になんとなくテレビのニュースを見ていると、報道特集が始まった。

 

 

節子『先日、国会議事堂に乱入し日本の支配権を要求した、次元皇帝バーフェクトと名乗る一団は、その後も幾度となく各地でテロ行為を繰り返しています』

 

それを聞いた豪はうんうんと頷いた。

 

豪「そうそう。おかげでこっちは大変だったんだから」

 

 

節子『しかし、そんな彼らの蛮行を次々と打ち砕いた謎のスーパーヒロイン、コズミックプリキュア。そして彼女と共にいる謎のヘルメット少年とは? 彼女達はいったい何者なのでしょうか? 』

 

 

すると、テレビにはコズミックプリキュアの映像と共にヘルメットをかぶった豪が一瞬だけだが映し出された。

 

 

豪「わっ俺だ! 俺が映った!!」

 

興奮している豪に豪の母親が叱りつけた。

 

豪母「何バカなこと言ってるの! テレビばっかり見てないで食器並べてちょうだい」

 

 

豪「いや、今俺がテレビに映ったんだよ! ほんとだよ!」

 

豪母「いい加減にしなさい!! それより最近お父さんのところに入り浸ってるけど、勉強はちゃんとしてるの?」

 

ジロリと睨まれてしまい豪は何も言い返せず、しぶしぶ母親の手伝いを始めた。

 

 

豪「ちぇっ、しゃあない。後でランに電話で自慢してやろうっと」

 

 

しかしその夜、何度も携帯にかけたりメールを送ったりもしたものの、携帯は通じず、メールは宛先不明で返信されてきた。

 

 

豪「おっかしいなどうなってんだ。あいつ電源でも切ってんのかな?」

 

 

 

 

 

翌日、土曜日 遠藤平和科学研究所

 

 

 

豪は朝一番に遠藤平和科学研究所に向い、開口一番言い放った。

 

豪「おい、ラン!! 見たかよ昨夜のニュース。姉ちゃん達や俺が映ってたんだぜ」

 

興奮気味に自慢した豪だったが、ランは冷めた様子で掃除機をかけていた。

 

ラン「あらそう」

 

 

豪「なんだよ、妬いてんのか? 昨夜電話もメールも返さないでさ」

 

ラン「んもう! したくても何にもできないの!!」

 

 

そう怒鳴ってテレビのスイッチを入れるも、そこに映るものは砂嵐だけだった。

 

 

豪「なんだ、故障か? じいちゃんに直してもらえよ」

 

ラン「故障じゃないのよ。携帯も見てみなさい、圏外になってるから」

 

その言葉に携帯を取り出してみるも、確かに圏外だった。

 

 

豪「あれ? 一体なんで」

 

その疑問にランが不満丸出しといった感じでふくれっ面をしながら愚痴った。

 

ラン「おじいちゃんのせいよ。変なこと始めたからテレビも見れないし携帯も使えないの」

 

 

豪「えっ、じいちゃんの?」

 

 

 

 

 

地下の研究室では、遠藤博士が大規模な科学実験のようなことを行っていた。

 

豪「じいちゃん、一体今度は何やってんのさ?」

 

 

遠藤「うむ。水の分子を化学的に化合し直して、栄養を多量に含んだ新しい飲料を作っておる。成功すれば新しい非常食としてはもちろん、日々の生活もガラリと変わることになる、のじゃが…。 リーフ、一体どんな塩梅じゃ?」

 

 

得意げに語った遠藤博士だったが、リーフに不安げに尋ねた。

 

 

リーフ「ダメでーす。妨害電波が出っ放しでーす」

 

ダイーダ「いろいろ調べてみましたけど、これは根本的にどうしようもなさそうです」

 

そのリーフとダイーダの言葉に、遠藤博士はため息をついた。

 

遠藤「はぁそうか。まぁ仕方ない」

 

 

豪「ねぇ妨害電波って、テレビが見れなかったりしたのって、このせいなの?」

 

その会話からなんとなく事情を察した豪はそう尋ねた。

 

 

遠藤「まあな、水を電気的に分解して化合し直しとるのじゃが、その際に妙な電波が副産物として発生してな。水の再合成が終わるまで約40時間、明日の昼過ぎまでこの研究所周辺は、通信が不能な陸の孤島じゃ」

 

 

ダイーダ「まあ、この妨害電波もなにかの役に立つかもしれないわね。既存の妨害電波とは性質が全然違うから、普通の妨害電場遮断装置じゃ役に立たないわ」

 

リーフ「極秘の連絡をとったりするのには便利かもね」

 

 

リーフとダイーダはそうフォローしたが、ランは納得が行かなかった。

 

ラン「日常生活には不便極まりないでしょう! 今晩楽しみにしてたドラマがあったのに!! 一ヶ月も前から楽しみにしてたのよ!!」

 

 

遠藤「まあまあ、テレビくらいでそうカリカリするな」

 

なんとかランをなだめようとするも、ランはかなりご立腹だった。

 

 

ラン「するわよ! 大体うまくいくかどうかもわかんないもののために、一ヶ月の楽しみがパァじゃない!!」

 

豪「なんだよ、それぐらいウチで録画しといてやるよ。なんなら見に来りゃいいじゃんか」

 

豪が至極まっとうな提案をしたが、

 

ラン「わかってないわね、リアルタイムで見るから価値があるのよ。それに豪のところに行ったらおばさんが気を使うから、ドラマに集中できないの」

 

 

ランにはランの妙なこだわりがあるようだった。

 

遠藤「ああもうわかったわかった。別にこいつと睨めっこしとかにゃならん訳でもない。明日の日曜日ピクニックにでも行こう。それで機嫌を直せ」

 

 

仕方ないと言わんばかりのその提案にランは少し機嫌が直った。

 

ラン「いいわよ。ただし約束破ったらタダじゃ済まさないからね」

 

ランはこの家の家事一切を担っている。

 

怒らせると怖いことは遠藤博士も重々承知している。

 

 

遠藤「わ、わかった。約束じゃ、絶対に連れて行ってやる」

 

冷や汗を流しながら遠藤博士はそう約束した。

 

 

ラン「ふう、これで1日休めるわ。家事って大変なのよね」

 

疲れたように腕をぐるぐる回すランに、豪が素朴な疑問を口にした。

 

豪「でもさラン、そんなに大変なら姉ちゃん達に手伝ってもらえよ。少しはお前も楽できるだろ」

 

 

 

その言葉にランはため息をつきながら愚痴った。

 

ラン「それが簡単にできれば苦労しないのよ。パンを焼いてといえば右手の火炎放射器で消し炭にするし、掃除してといえば部屋の中に洗剤とバケツの水をぶちまけるし、洗濯手伝ってといえばタンスごとお風呂に叩き込むし…」

 

そのとめどなく出てくる愚痴と、わざとらしく明後日の方を向いているリーフとダイーダに豪は引きつるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

そんなほのぼの?とした空気を破るようにマイナスエネルギー検知器が反応し、けたたましい音を上げた。

 

 

遠藤「むっ何か事件が起きたな!!」

 

豪「あれは使えるの?」

 

リーフ「マイナスエネルギーは電波じゃないからね。ちゃんと検知できるんだよ」

 

 

 

そうして一階に駆けつけ、窓の外を見ると全員あっけにとられた。

 

 

豪「な、なんだあれ?」

 

市街地の上空に、全長100メートルはあろうかという巨大な龍が、我が物顔で飛翔していたのだ。

 

 

遠藤「間違いなく奴らじゃな。コズミックプリキュア出動じゃ!!」

 

リーフ・ダイーダ「「了解!!」」

 

 

そう力強く返事をすると、リーフとダイーダは豪とともに三冠号に乗り込んだ。

 

 

 

リーフ「あんな巨大なメイジャーを作るなんて… 一体何を企んでるのかな?」

 

ダイーダ「考えても仕方ないわ。とりあえず今は至急現地に向かうわよ」

 

発進準備を整えつつリーフはぽつりと疑問を口にし、そんなリーフを鼓舞しつつダイーダが三冠号の起動を完了させた。

 

 

豪「よし、準備できた。三冠号発進!!」

 

 

その豪の掛け声とともに研究所下の崖が開き、三冠号が発進した。

 

 

 

 

 

市街地

 

 

節子「テレビの前の皆さん。この光景をご覧になっておられますでしょうか。

平和な市街地に突如出現した巨大な龍。これも次元皇帝パーフェクトと名乗る者たちの仕業なのでしょうか? 龍は不気味にとぐろを巻きつつ市街地上空を旋回しております。一体何が目的なのでしょうか?」

 

 

突如出現した巨大な龍に市街地はパニックになっており、その状況にもかかわらず、甲斐節子はさすがプロ根性というべきか冷静にレポートを続けていた。

 

 

そんな折、市街地に三冠号が飛来した。

 

 

節子「あっ、あの飛行機は!? みなさん、最近噂のコズミックプリキュアです。彼女達が来てくれました!!」

 

 

 

そして三冠号の飛来を心待ちにしていた存在がもう一人いた。

 

近くのビルの屋上に狙撃銃を構えたファルが待機していたのだ。

 

 

ファル「やっと来やがったかプリキュア。さっさと仕事を済ませるか」

 

そう呟くと、三冠号に狙いを定め弾丸を打ち込んだ。

 

 

さすがに狙いは正確で、弾丸は三冠号の側面に命中し、なにかの装置のような物を取り付かせることに成功した。

 

 

それを確認すると、ファルは舌打ちまじりに愚痴った。

 

ファル「ちっ、せこい作戦だ。さて撤収するか」

 

 

ファルは狙撃銃をしまうと、近くにあった装置のスイッチを切った。

 

すると、上空にとぐろを巻いていた龍は、突如として地面に向かって一直線に進んでいき、そのまま吸い込まれるように姿を消した。

 

 

リーフ「えっ? 消えた!?」

 

ダイーダ「そんな!? あんな巨大な物が!? 着陸して調べるわよ」

 

 

三冠号にはVTOL機能も搭載されている万能機である。

 

龍が消えたと思われる付近に垂直着陸し、リーフ達は調査を開始した。

 

 

 

 

 

一方

 

節子「な、なんと!! あの巨大な物が突如として姿を消してしまいました。そしてコズミックプリキュアは現場に着陸した模様です。この甲斐節子これより彼女達に突撃インタビューを試みようと思います!!」

 

 

そうレポートした途端、カメラマンは仰天した。

 

カメラマン「ちょっと、せっちゃん。危ないって、あんまり近寄らない方がいいよ」

 

そう忠告したが、節子は止まらなかった。

 

 

節子「何言ってんの、あんたプロでしょうが。ほら行くわよ!!」

 

 

そう言い残し走って行った節子に、やむを得ないというような感じでカメラマンもついて行った。

 

 

 

 

 

 

 

リーフ「チェンジハンド・タイプイエロー!!」

 

その掛け声とともに、リーフの両腕が小さなロケットが装備された黄色の腕に変わった。

 

 

リーフ「周辺を探ってみるね。センサーアイ、発射!!」

 

そう叫ぶと、リーフは右腕を空にかざし偵察用ロケット センサーアイを発射した。

 

 

 

一方ダイーダは、巨大な龍が吸い込まれていったと思われる地面を調査していた。

 

 

ダイーダ「おかしいわね。あれだけ巨大な物が吸い込まれていったのに、全く形跡が残っていない」

 

豪「そうだね、穴みたいな物も空いてないし… リーフ姉ちゃんそっちは?」

 

 

リーフ「こっちもダメ。全くセンサーに反応がないよ。突然消えちゃったみたい」

 

 

ダイーダ「どういうことかしら? 大体マイナスエネルギーの残照すら感じないのは不自然すぎるわ」

 

先ほどの龍は普段戦っているメイジャーよりもはるかに巨大な物だった。

 

にもかかわらず、その痕跡すら残っていないことに皆疑問を感じていた。

 

 

 

するとそこに、節子がマイクを片手に走ってきた。

 

 

 

節子「すみませーん。コズミックプリキュアの方達ですね。インタビューをお願いしまーす!!」

 

 

 

豪「うわ、まずい! マスコミだ」

 

ダイーダ「とりあえず何もないみたいだし、引き上げるわよ」

 

リーフ「うん。何も見つからないしね」

 

 

その声を聞いた三人は慌てて三冠号に飛び乗り浮上させた。

 

 

節子「あっ、ちょっと待ってー!!」

 

 

その懇願も虚しく、節子がたどり着いた時には三冠号は手の届かないところまで上昇し市街地を後にしていった。

 

 

節子「くぅ〜、絶対に正体を暴いてやるんだから」

 

 

 

 

 

三冠号で帰還途中、いつものように豪が研究所に通信を入れた。

 

豪「じいちゃん、もうすぐ帰るよ。着陸するから格納庫を開けて」

 

 

しかし、研究所からの返事はなく、モニターにも砂嵐が映るだけだった。

 

 

豪「あれ? なんで? 故障かな」

 

ガンガンとモニターを何度か叩いていると、ダイーダが言った。

 

 

ダイーダ「豪、通信は使えないわよ。水の再合成が終わるまで妨害電波が出てるから」

 

そう言われて豪は現状を思い出した。

 

豪「ああそうか。でもどうすんの? 帰ってきたって知らせなきゃ着陸できないよ」

 

 

リーフ「うーん。仕方ない、私が知らせてくるよ。近くで待機してて」

 

そう告げると、リーフは三冠号から飛び降りて研究所へと向かっていった。

 

 

豪「んもう。あの水本当になんかの役に立つの? 不便なことの方が多いんじゃない?」

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、海底のDr.フライ秘密研究所では…

 

 

 

 

Dr.フライ「よしよし。ファルのやつめ、わしの指示通り奴らの飛行機にうまく発信機を取り付けたな」

 

 

モニターの中を動く光る点を見て、Dr.フライは満足そうな笑みを浮かべた。

 

 

ゴーロ「これで本当にあの忌々しいプリキュアどもを倒せるのか?」

 

ゴーロが疑わしそうな口調でそう呟くと、Dr.フライは睨み返し怒鳴った。

 

 

Dr.フライ「当たり前じゃ。奴らは間抜けにもわしの投影した立体映像につられてのこのこ出てきおった。あの発信機は天才のわしが開発したものでどんな妨害電波や電波遮蔽装置もすり抜けて信号を送ってくる。つまり、この光が止まったところが奴らの拠点というわけじゃ!!」

 

 

しかし、そんなことを言っている間にモニターの光は消えてしまった。

 

それを見てDr.フライは慌てた。

 

Dr.フライ「何? バカな!? こんなことはありえん!! なぜ信号が途絶えた!?」

 

 

ゴーロ「けっ、こんなこったろうと思った。間抜けってのはどこのどいつだよ」

 

そんなDr.フライを見て、呆れたように吐き捨てるとゴーロは立ち去っていった。

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

遠藤「ふーむ。その話から察するに、あの龍はホログラムだったのじゃろう。地面に吸い込まれるように見せたのも時間稼ぎの演出じゃろうな」

 

 

リーフたちの報告を聞いて、遠藤博士はそう分析した。

 

 

ダイーダ「とすると、あれはただの囮で、その隙に奴らは何か他のことを企んでいる、ということですね」

 

リーフ「でも、イエローハンドで周辺を調べたけど、連中らしい姿は10キロ四方には見当たらなかったよ。 だいたい時間稼ぎったって、そんなら姿を消す必要もないと思うけど…」

 

 

遠藤「ふ〜む、今の段階では情報不足じゃな。とりあえずいつでも出動できるように心づもりをしていてくれ。三冠号のメンテナンスと清掃は自動マシーンにやらせておくことにしよう」

 

そう当面の結論を出した遠藤博士に、豪が愚痴った。

 

 

豪「それはいいけどさ。あの地下の実験なんとかなんないの? まともに連絡もできないから不便で仕方ないよ」

 

 

遠藤「ああ、しかしせいぜい明日の昼過ぎまでの…ん?」

 

そこまで言って、遠藤博士は気がついた。

 

 

遠藤「しまった! こりゃまずいぞ!!」

 

 

 

 

 

ラン「ピクニックは中止ですって!! 約束は破らないんじゃなかったの!!」

 

 

案の定、凄まじい勢いで食ってかかってきたランを必死でなだめつつ、遠藤博士は事情を説明した。

 

 

遠藤「仕方ないじゃろう。奴らがいつどこで何をするかわからん。研究所を留守にすれば奴らの行動を通信で知ることもできんし、三冠号も呼べんのじゃからして…」

 

しかし、ランも理性ではわかっていても感情が抑えられなかった。

 

ラン「わかるけどもやっぱり許せない!! あの機械壊しちゃうから!!」

 

 

豪「おいラン、落ち着けって。な」

 

そうやってランをなだめていると電話が鳴った。

 

 

遠藤「お、おう電話じゃ。ちょっと静かにな」

 

これ幸いとばかりに遠藤博士は電話に駆け寄った。

 

 

遠藤「はいこちら遠藤平和科学研究所じゃが… なんじゃ翔子か。うむ来とるよ。うっ、わかったわかった。すぐに帰らせるからそう怒鳴るな」

 

そうやって電話を切ると、遠藤博士はため息をついた。

 

 

遠藤「ふう、どうして我が家系の女はこうも気が強い… 豪、お母さんからじゃ。携帯まで切ってフラフラ遊んどらんと今すぐ帰って勉強しろとな」

 

 

豪「げっ!! んもう、携帯が通じないからこんなことにも迷惑がかかってるよ」

 

 

この一連のことを見てランがふと尋ねた。

 

 

ラン「ねぇ、携帯は無理でも固定電話は使えるってこと?」

 

遠藤「ん? そうじゃな。固定電話は電話線でつながってるからして」

 

 

 

それを聞いてランはニッパリと笑った。

 

ラン「な〜んだ、ならさっきの問題は解決ね。ハイキングに行けるわ♪ リーフさんとダイーダさんも一緒に行きましょう」

 

 

遠藤「おう、さすが我が孫。こうもあっさりいい解決法を思いつくとは。一体どうする気じゃ?」

 

そんなランに遠藤博士は嬉しそうに尋ねるも、ランはにや〜っと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

テレビ局

 

 

 

 

節子がコズミックプリキュアのニュース映像を穴があくほど繰り返し見ていた。

 

 

節子「どっかで見た気がするのよ、この二人。ニュースとかじゃなくて、もっと別の場所で… えーっとどこだったっけ?…」

 

 

頭をかきむしりながら必死に思い出そうとしていると、専属のカメラマンが話しかけてきた。

 

カメラマン「どこってそりゃ、こないだの海底基地の件の時じゃないの? 現場で直に見たじゃん、あの二人が戦うところをさ」

 

 

その言葉に、節子ははたと気がついた。

 

節子「…そうよ、思い出したわ。あの時よ!! なんか見たような気がしたのよ、あの二人!!」

 

 

そう叫びながら立ち上がると、カメラマンを引きずって行った。

 

カメラマン「ちょっとどこ行くの?」

 

節子「日本アカデミーよ。あの時の調査団の人に話を聞きに行くの」

 

 

カメラマン「今から? もうすぐ日が沈むよ」

 

節子「やかましい!! 報道関係者に昼も夜もあるもんか!!」

 

 

 

 

 

 

翌日 日曜日

 

 

 

ラン「うーん、いい天気。絶好のピクニック日和だわ」

 

リーフ「ピクニック… 簡単な旅のことだよね。一体どこに行くの?」

 

 

ラン「高原のアルプス牧場よ。乳搾り体験ができるし、露天温泉もあるっていうから前から行ってみたかったの。 この日のために買った新しい服もあるし、それに似合うブローチも見つけたし、せっかくの日曜日、今日は1日楽しもうっと♪」

 

 

楽しみで仕方がなかったというように、ランはそう言った。

 

ダイーダ「へぇー、牛かぁ。この辺じゃ普段見られない生き物ね。私も楽しみだわ」

 

ラン「そうでしょ、きっとヒットも喜ぶと思うの。いっつもこの辺ばっかりだもんねぇ〜」

 

バスケットの中でのんきそうに欠伸をしている飼い猫のヒットに、ランはそう微笑みかけた。

 

 

遠藤「ラン、豪から今日は来られないと電話があった。 なんでも昨夜散々絞られたあげく、今日は1日監視付きの勉強だそうじゃ。 しかしそれより…」

 

そう告げた遠藤博士はなんとなく寂しそうだった。

 

 

 

ラン「そっか。じゃあ「三人で」楽しんでくるわね」

 

 

明るくそう言ったランに遠藤博士は力なく尋ねた。

 

遠藤「本当にわし一人に留守番を押し付けて行く気か?」

 

 

 

ラン「だって誰かがいないと、連絡が取れないんでしょ。仕方ないじゃない」

 

実にわざとらしく、明るい声でランはそう言った。

 

 

リーフ「じゃあすみません、遠藤博士」

 

ダイーダ「行ってきます」

 

 

 

遠藤「うむ、何かあったらランの携帯に連絡する… 固定電話からならかけられるからな…」

 

誰も同情をしてくれないこの状況に、遠藤博士は悲しそうに三人を見送った。

 

 

 

 

そうやって駅に向かって行った三人だが、影からこっそり後をつける存在がいた。

 

 

カメラマン「せっちゃん。本当にあのメガネの女の子達がコズミックプリキュアなのかな?」

 

節子「馬鹿ね、よく見ればそっくりじゃない。人の顔が覚えられないならマスコミなんかやってんじゃないわよ」

 

 

昨夜、節子は日本アカデミーに赴き、調査団が散々馬鹿にしたという遠藤博士のことについて尋ねたのだ。

 

 

その後徹夜の調査で、ようやく遠藤博士の今の住所を突き止め、朝から見張っていたのである。

 

 

節子「コズミックプリキュアの正体を報道できれば、私は一躍時の人よ。そうなれば売れっ子になって、あっちこっちから仕事が舞い込んで…。 さあ、あの子達の後を追うわよ」

 

 

 

 

第11話 終



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第12話 「大追跡! コズミックプリキュア (後編)」

 

 

 

 

海底 Dr.フライ秘密研究所

 

 

 

 

Dr.フライはモニターの調整を昨日から何度も繰り返していた。

 

Dr.フライ「わしの発信機に異常があるわけがないのじゃ。この史上最高の天才のこのわしの作ったものに…」

 

 

すると再びモニターの中に光る点が現れて動き始め、それを見たDr.フライは興奮気味に叫んだ。

 

 

Dr.フライ「や、やった! やはりわしは正しかった!! これで奴らの拠点がわかるわい」

 

 

 

 

 

 

その頃ランは、電車の中で肩身の狭い思いをしていた。

 

アルプス牧場までは電車で約1時間の距離であり、ヒットの持ち込み許可をもらい、三人で電車に乗った。

 

 

まではよかったのだが…

 

 

 

 

リーフ「ガタンゴトンガタンゴトン。わぁすごいすごい!! ねぇねぇ私達今デンシャに乗ってるんだよね!! 見てよランちゃん、こんなおっきな窓の景色が動いてるよ!!」

 

ダイーダ「うーん、三冠号とはまた違った趣があるわね。自分で操縦しなくていいっていうのと、地上を走る乗り物っていうのがいいのよね。ねぇラン、あの建物なんなの?」

 

 

 

リーフとダイーダが電車内にもかかわらず、大声ではしゃぎまくっていたためである。

 

しかもそれだけでなく、椅子に逆さに座って、しがみつくように窓の外を見ていた。

 

外見は中高生ぐらいであるこの二人が、小さな子供のような態度を取っているのは、はっきり言ってみっともないものであり、周りの乗客も明らかに迷惑そうな顔をして、ひそひそと何かを話していた。

 

 

そして、そんな二人に両肩をつかまれ、間に挟まれてガクガクとゆすられながら話しかけられるランは真っ赤な顔でうつむいていた。

 

ラン「お願い…二人とも話しかけないで…」

 

 

 

 

 

カメラマン「ねぇ、せっちゃん。本当にあのメガネの女の子達がコズミックプリキュアなの?」

 

 

節子「な、何言ってんのよ。世を忍ぶための演技に決まってるじゃない… そうよ、そうに違いないわ。うん」

 

そんな様子を隣の車両から見ていた節子達も引きつりながらそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルプス牧場

 

 

 

 

 

ラン「う〜ん、高原の空気が美味しい!! 来て良かった〜」

 

 

ようやく目的地にたどり着いたランは、電車内での事を忘れるかのように明るく叫んだ。

 

 

リーフ「空気が美味しい? 味覚成分なんて全く感じないけど…」

 

ダイーダ「空気中に酸素が多く含まれてるってことかしら? 研究所周辺より光合成を行う植物が多いから」

 

 

そんなランに対して、雰囲気をぶち壊すような事を二人は口にしていた。

 

 

ラン「気分壊すからあんまりそういう冷静な解説しないでよ。それより二人ともあっち行こう。乳搾り体験ができるって」

 

 

その言葉にリーフは目を輝かせた。

 

リーフ「牛さんに会えるんだ♪ 牛ってあの首が長くて黄色にぶちのある動物だよね、一度見てみたかったんだ」

 

ラン「…それはキリンっていうの」

 

 

ダイーダ「そうよ、牛っていうのはあのもこもこの毛で覆われた動物よ」

 

ラン「それは羊!! もう、現物見ればわかるから!!」

 

 

未だにものの名前がどこか正確に覚えられない二人に辟易しながらも、ランは乳搾り体験コーナーへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

Dr.フライ秘密研究所

 

 

 

Dr.フライ「ふむ、さっきからほとんど動きがない。見つけたぞ、ここが奴らの拠点に違いない!!」

 

 

モニターの中の光点が動きを止めたのを見て、Dr.フライはそう判断した。

 

 

ゴーロ「ホントかよ? あてにできるのかそれは」

 

ファル「さぁな。 天才様のいう事だし間違いはなかろう」

 

しかし、ゴーロ達はDr.フライの判断にどこか懐疑的であり、小馬鹿にしたようにそう言った。

 

 

Dr.フライ「馬鹿な事を言うでない!! この史上最高の天才であるわしの判断に間違いがあるか!! ぶつくさ言っとる暇があれば調べてこい」

 

そんな二人にDr.フライは威張り散らすように怒鳴り散らした。

 

 

ファル「まぁいいか。調べに行くぐらいの価値はある」

 

ゴーロ「俺は行かねぇぜ。こいつの言う事が信用できるか」

 

 

ファルはうまくいけば儲け物ぐらいの感覚で了承したものの、信用していないゴーロはごめんだとばかりに拒絶した。

 

 

ファル「まぁ、何かあれば連絡は入れる。本当に連中の拠点なら、面倒そうだからな」

 

 

ファルはゴーロに対してそう言い残し、出撃していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

アルプス牧場

 

 

 

 

 

その頃ランは牛の乳搾りを楽しそうに体験していた。

 

ラン「思ってたよりも難しいな。でも面白い」

 

 

そんなランをリーフたちは首を傾げながら見ていた。

 

リーフ「ねぇ、これの何が面白いの? ただ水が出てくるだけだよね?」

 

ダイーダ「そうよね、そもそも牛から出てくるこの白い水って何?」

 

 

ラン「ああ、これが牛乳よ。本当は牛が自分の赤ちゃんに飲ませるんだけど、栄養があって美味しいから、人間の飲み物にもなってるの。スーパーとかでも売ってるわよ。うちじゃあんまり買わないけど」

 

 

いつものような素朴な質問を、真剣な顔でしてくる二人に対して、ランはもう慣れたというように解説を行った。

 

リーフ「へぇー。栄養のある飲み物なのか」

 

ダイーダ「博士が今作ってるやつの親戚みたいなものね。ちょっと興味があるわ」

 

 

それを聞いた二人は興味深そうに牛に近づいていった。

 

そしてそのまま、子牛がするように乳牛の乳を直に咥え込み牛乳を飲み始めた。

 

 

突然の行為にランは仰天し、慌てて二人を引きはがして逃げ出した。

 

 

 

ラン「いきなり何するのよ二人とも!! 恥ずかしいったらありゃしない!!」

 

 

リーフ「うん、カルシウム分も豊富だし、タンパク質に脂肪、必須アミノ酸まで含まれてるいい飲み物ね」

 

ダイーダ「カロリーもそこそこあるし、あとはビタミンCが少ないぐらいかしら。博士にも持って帰りましょう。いい研究材料にもなると思うわ」

 

 

二人を引っ張って走りながら説教したランだが、当のリーフ達は舌なめずりをしながら、呑気なことを言っていた。

 

 

 

 

カメラマン「ねぇ、せっちゃん。本っ当にあのメガネの女の子達がコズミックプリキュアだと思ってるの?」

 

節子「私の勘違いだったかしら…」

 

ずっと尾行し、一部始終を観察していた節子だったが、ここまでとんちんかんな事をするリーフとダイーダがプリキュアだとはさすがに思えなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

大慌てで走っていたランだったが、つい足元をおろそかにしてしまい、つまずいて転んでしまった。

 

 

ラン「いった〜い! ああせっかくの新しい服が〜!! もう〜っ! ついてな〜い!!」

 

転んでしまった拍子に服は泥だらけになり、ランの気分は最悪になってしまった。

 

 

ダイーダ「大丈夫? 怪我はなさそうね」

 

リーフ「あーあ、ブローチも取れちゃって… あれ?これは…」

 

 

ブローチを拾い上げたリーフは途端に険しい顔になった。

 

 

ラン「? どうしたの、リーフさん」

 

急に表情の変わったリーフに、何かあったのかとランは尋ねた。

 

 

リーフ「ねぇ、ランちゃん。これどこで手に入れたの?」

 

ラン「どこって… ヒットがどっかで拾ってきたのよ。昨日の夜咥えてきたの」

 

 

その言葉を聞くや否や、リーフはブローチを握りつぶした。

 

ラン「ああっ!! リーフさん何を!?」

 

 

ダイーダ「!! リーフそれってまさか!?」

 

リーフ「うん、発信機だよ」

 

 

 

すると次の瞬間、日が陰ったかと思うとUFOのようなものが飛来してきた。

 

 

節子「え? うそ? UFO? 撮って撮って!!」

 

カメラマン「よしきた!! 未知との遭遇だ!!」

 

 

もはや、リーフたちには興味がないというように興奮気味にUFOの撮影を始めたが、それから降りてきたものを見て、背筋が凍った。

 

 

 

 

 

ラン「あ、あれって?」

 

リーフ「マイナー…に、ファル!!」

 

ダイーダ「リーフ、行くわよ!! ラン、メガネお願い!!」

 

 

その姿を認めたダイーダはメガネをランに預け、リーフ共々走り出した。

 

 

 

 

武装させたマイナーを引き連れ降り立ったファルは、周辺を見回した。

 

 

ファル「ここが本当に奴らの基地か? 何もないようだが… よし、徹底的に破壊して炙り出せ!!」

 

 

その指示に従い、マイナーたちは手榴弾を手当たり次第に投げつけ、マシンガンの斉射を行い、破壊活動を始めた。

 

そしてUFOからは焼夷弾が投下され、辺りは火の海になり始めた。

 

 

当然、高原は大パニックになり、レジャーを楽しんでいた人達は悲鳴をあげて逃げ惑った。

 

 

 

しかしその時、そこに凛とした声が響き渡った。

 

 

リーフ「やめなさい!!」

 

ダイーダ「こんなのどかな高原を破壊するなんて、絶対に許さない!!」

 

 

 

そんな二人の姿を認めたファルは満足そうな笑みを浮かべた。

 

ファル「出やがったか。たまにはフライの作戦が図に当たることもあるものだな。基地の前に貴様らをバラバラにしてやる、かかれ!!」

 

 

その叫びに答えるかのように、マイナー達はリーフとダイーダにマシンガンを連射した。

 

 

ダイーダ「舐めるな!!」

 

リーフ「これぐらい!!」

 

 

その言葉通り、リーフとダイーダは銃弾の雨をかわしながら突っ込み、かわしきれそうもない弾は手で掴み取っていた。

 

 

そのままあっという間に懐に飛び込むと、片っぱしからマイナー達をなぎ倒していった。

 

 

 

 

節子「独占大スクープよ! しっかり撮ってんでしょうね!?」

 

カメラマン「ごめん、さっきカメラ壊れちゃった」

 

節子「馬鹿!! あんたはそれでもプロか!!」

 

 

さすがプロというような意識を持っている節子は、そう言ってカメラマンを怒鳴りつけた。

 

 

カメラマン「ご、ごめん。でもさ、あの二人は絶対さっきの子達と別人だよな」

 

節子「…まあね」

 

 

 

 

 

ダイーダ「まずい!! 火が燃え広がる一方…早く消さないと!!」

 

そう言って燃えている現場に向かおうとしたダイーダだったが、マイナー達に足止めされてしまっていた。

 

 

リーフ「くっ、三冠号!! …って、そうだった!!」

 

三冠号で消火しようとしたリーフだったが、現在通信ができないことを思い出し慌てていた。

 

 

ファル「焦っているようだな。まぁ無理もあるまい!! 行くぞプリキュア」

 

苦戦しているリーフ達を見て、今がチャンスとばかりにファルは飛びかかっていった。

 

 

 

ラン「何やってるのよ、おじいちゃん。早く出てよ!!」

 

一方ランは遠藤平和科学研究所に電話を入れていたが、なかなか出ない遠藤博士にイライラしていた。

 

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

 

 

 

その頃、ようやく水の再合成を終えた遠藤博士は試飲をしようとしていた。

 

 

遠藤「うーむ、思ったより濁ったな。どれどれ」

 

そう呟きながら、コップに合成水を汲んでみると強烈な腐卵臭が漂ってきた。

 

 

遠藤「うえっ!! えげつない匂い!! こりゃとても飲めんな… また失敗か…」

 

 

がっくりと肩を落とした遠藤博士だったが、ふとあることに気がついた。

 

 

 

遠藤「ん? 待てよ。この匂いは…まさか…」

 

 

 

ちょうどその瞬間、研究室の電話が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ファル「どうしたプリキュア? ずいぶん周りが気になっているようだな?」

 

戦いに集中できていないリーフ達を見て、挑発するようにファルがそう言った。

 

 

 

リーフ「くっまずいよ、早くしないと!!」

 

ダイーダ「えぇい、いい加減にどきなさい!! こんなところを襲って何が目的なのよ!?」

 

 

燃え広がっていく一方の牧場を見て、二人の焦りは頂点に達しつつあった。

 

 

ファル「白々しいことを。いくぞ!!」

 

 

ダイーダ「くっ、こうなったらおっつかないかもしれないけど… チェンジハンド・タイプグリーン!!」

 

 

そのかけ声と共に、ダイーダの両腕は噴射口のようなもののついた緑色の腕に換装された。

 

そのまま左手を飛びかかってくるファルに向けて差し出した。

 

 

ダイーダ「超低温冷凍ガス噴射!!」

 

 

ファル「ぶおっ!!」

 

 

真正面から冷凍ガスを浴びてしまったファルの体は一瞬で凍りついてしまい、動きが止まってしまった。

 

 

リーフ「ダァァアア!!」

 

それを確認するや否や、リーフは渾身の回し蹴りでファルを大きく蹴り飛ばした。

 

ファル「ぐおおおっ!!」

 

 

蹴り飛ばされたファルは勢いよく転がりながら近くの売店に突っ込み、そのまま倒壊した売店に潰されてしまった。

 

 

 

 

 

ダイーダ「くっ、やっぱり燃え広がり方が早すぎる。消火が追いつかない!!」

 

邪魔者がいなくなり、消火活動に専念できるようになったものの、すでにかなりの範囲が燃え上がっていた。

 

しかも、その間にも上空のUFOは次々と焼夷弾を投下しており、まさに危機的状況であった。

 

 

 

 

ラン「大変だわ、このままじゃ… あっ、来た!!」

 

その光景にランも焦る中、ようやく三冠号が到着した

 

 

リーフ「よし、三冠号。消火弾投下!!」

 

 

三冠号を確認したリーフは即座に指示を下し、万能消火弾を投下させていった。

 

その遠藤博士謹製の消火弾の威力は凄まじく、あっという間に鎮火していった。

 

 

 

 

その光景にUFOは負けじと再び焼夷弾を投下しようとしたが、

 

ダイーダ「これ以上やらせるもんか!! 行きなさい三冠号!!」

 

 

ダイーダの指示による三冠号の体当たりによって阻まれた。

 

 

 

 

 

リーフ「よし、チェンジハンド・タイプブルー!! エレキ光線発射!!」

 

チャンスと見たリーフは両腕を稲妻模様の走った青い腕に換装し、エレキ光線を発射した。

 

三冠号の体当たりで損傷していたUFOはその強烈な電撃に耐えきれず、空中で爆散した。

 

 

 

ファル「くっ、連中一体どこからあの飛行機を…こうなったら!!」

 

 

ようやく倒壊した売店から這い出してきたファルは、悔しそうに顔を歪めると、

黒いダイヤモンドのようなものを取り出し辺りを見回すと、一頭の逃げ遅れた牛が目に入った。

 

 

ファル「出ろ、メイジャー!!」

 

ニヤリと笑いながら、そのダイヤを牛に投げつけると、たちまちのうちに巨大な化牛が出現した。

 

 

リーフ「くっ、あいつまた!! もう絶対許さない!!」

 

生き物を自分達の都合よく利用するファルを、リーフは歯噛みをしながら睨みつけた。

 

 

ファル「黙れ!! この基地ごと貴様らを吹っ飛ばしてやる!!」

 

 

ダイーダ「基地ですって? どういう事よ!?」

 

ファルの言葉に、ダイーダは思わずそう叫んだ。

 

ファル「とぼけるな。ここが貴様らの基地だというのはわかっているんだ」

 

 

リーフ「…なるほど。発信機をつけたのはあなた達って事か」

 

ダイーダ「あの龍の騒動もそれが目的で… でも残念ね。ここは私達の基地なんかじゃないわ!!」

 

 

堂々とそう言い放ったダイーダにファルは驚くとともに悔しそうに顔を歪めた。

 

ファル「何!? くっそフライめ、毎度毎度適当な事を言いやがって!!」

 

 

 

 

リーフ「行くよ!!」

 

ダイーダ「OK!!」

 

二人は頷きあい、トンボを切った。

 

 

リーフ・ダイーダ「「ゴー!!」」

 

 

その掛け声とともに二人の体は光に包まれ、着地した時には変身完了し、赤と白のドレスに身を包み、髪型も大きくボリュームが変わっていた。

 

 

 

リリーフ「闇を吹き消す光の使者 キュア・リリーフ!!」

 

ダイダー「悪を蹴散らす光の使者 キュア・ダイダー!!」

 

 

リリーフ・ダイダー「「ピンチ一発、大逆転! コズミックプリキュア!!」」

 

 

 

ファル「くっそー!! こうなったらせめて貴様らだけでも始末してやる、やれ!!」

 

 

ヤケクソとでもいうようなファルの指示に、巨大化牛は鋭い角を振りかざしてコズミックプリキュアに突進してきた。

 

 

 

リリーフ「なんの!!」

 

ダイダー「これしき!!」

 

 

しかし二人はそれを真っ向から受け止めると、大きく振り回してファル目掛けて投げ飛ばした。

 

 

ファル「ぐはぁっ!!」

 

 

そして巨大化牛はそのまま地面に叩きつけられ、ファルもまた下敷きになって潰されてしまった。

 

 

 

ダイダー「よし! あいつらを一気にまとめて浄化するわよ!! リーフ!! レインボー・ツインバスターを!!」

 

隙ありと判断したダイダーは、光のスティックを取り出し、リリーフに呼びかけた。

 

 

リリーフ「うん、行っくよ〜!!」

 

リリーフも頷くと、大きく振りかぶり虹色の玉を手に輝かせ始めた。

 

 

 

リリーフ「ダイーダちゃん!!」

 

そしてそのまま、その虹色の玉をダイダーに向けて亜音速で投げつけた。

 

 

ダイダー「任せなさい!! ダァリャア!!」

 

 

するとダイダーは、リリーフの投げてきた玉を、スティックを一振りして巨大化牛に向けて打ち返した。

 

打ち返された虹色の玉はひとまわり大きくなり、巨大化牛に直撃すると全体を包み込んだ。

 

リリーフ・ダイダー「「プリキュア・レインボー・ツインバスター!!」」

 

 

そう二人が叫ぶと、巨大化牛を包み込んだ光は目も眩まんばかりに激しく輝き始めた。

 

 

 

リリーフ・ダイダー「「ゲームセット!!」」

 

 

そのかけ声とともに、強烈な二人の合体必殺技の直撃を受けた巨大化牛は、叫び声とともにファルを巻き込んでいつにも増して大きな爆発を起こした。

 

 

 

そして爆発が収まった後には、傷だらけの牛が一頭横たわっていた。

 

 

 

「モゥ〜…」

 

リリーフ「ごめんなさいね。こんな怪我をさせちゃって…すぐに手当てしてあげるから」

 

弱々しく鳴く牛に対して、リリーフ達は心から詫び、目にも留まらぬスピードで手当てを始めた。

 

 

 

 

ダイダー「ファルが見当たらない…、爆発に紛れてなんとか逃げたか…。 まぁ手応えはあったからダメージでしばらくは身動き取れないでしょうけど、やっぱり悔しいわね」

 

ダイダーはファルを仕留め損なったことに悔しそうに顔を歪めた。

 

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

 

 

ラン「ただいま〜…」

 

いかにも疲れ果てたというように、ぐったりした声とともにランが研究所のドアを開けた。

 

 

当然のことながら、あの後牧場で遊べるわけもなく、楽しみにしていた露天温泉もパァ。買ったばかりの服は泥だらけ。散々な日曜日になってしまい疲れきっていたのである。

 

 

リーフ「どうしたのランちゃん? 随分疲れてるね」

 

ダイーダ「この牛乳っていうの飲む? 元気でるわよ」

 

両手いっぱいに牛乳を買い込んだリーフ達の呑気な言葉に、ランはイライラしていたが、もはや言い返す気力もなかった。

 

 

ラン「はぁ…全く…。あれ、なにこの匂い?」

 

 

ため息をつくと、研究所に充満している妙な匂いにランは気がついた。

 

 

するとそこに全身から湯気を出しながら、上気した顔で遠藤博士が出てきた。

 

 

遠藤「おお、帰ったか。おっそれは牛乳か、こりゃいいタイミングじゃ、少しもらうぞ」

 

 

ダイーダ「博士、なんですかこの匂い」

 

リーフ「有毒なガスのようですが…大丈夫なんですか?」

 

 

牛乳を一気飲みすると、遠藤博士は事情を説明し始めた。

 

遠藤「心配はいらん、これは例の合成水じゃ。飲料用としては刺激臭のせいで失敗じゃったが、温泉の成分と同じとわかったのじゃ。まさに人工温泉、わしも今まで入っとったとこじゃ。ラン、お前も疲れとるなら入るといい。疲れが吹っ飛ぶぞ」

 

 

 

その言葉に、ランは肩を震わせ始めた。

 

 

遠藤「ん? どうしたラン?」

 

 

ラン「うるさいうるさいうるさーい!!!  もーっ、最悪よ!!!!  私の休日返してよ!!!!」

 

 

最後の力を振り絞るかのようなランの絶叫が研究所に盛大に響いたのだった。

 

 

 

第12話 終

 

 



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第13話 「わしがDr.フライだ!! (前編)」

 

 

 

 

海底 Dr.フライ秘密研究所

 

 

 

パーフェクト「フライのやつが出かけて行きおった」

 

黒い靄のようなパーフェクトがファルとゴーロにそう告げた。

 

 

ゴーロ「けっ、失敗続きでいい加減みっともなくなって逃げ出したか」

 

あざけ笑いながらゴーロがそう感想を漏らした。

 

 

パーフェクト「大切な用があると言っていた。必要なら手を貸してやれ」

 

ファル・ゴーロ「「はっ!!」」

 

普段Dr.フライに対しての態度などとは全く違い、忠誠心の塊というような返事を二人は礼儀正しく行った。

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

リーフとダイーダが、新聞を広げて声に出して読んでいた。

 

この世界の文字も覚えられるし、社会勉強にもなる。ちょうどいいということなのだが…

 

 

 

リーフ「え〜っと、のーべるしょうえらかんがのきおんなろかいへにむは…」

 

豪「はぁ?」

 

 

リーフが突然口に出したことが全く理解できず、豪は思わず間抜けな声を出してしまった。

 

 

ダイーダ「へらとしどののつわまたしょうものの…」

 

ラン「ちょっと、二人ともどこ読んでるのよ?」

 

 

あまりに訳のわからないことを言い出したダイーダにランは新聞を覗き込んだ。

 

 

ダイーダ「ここよ。ほら、今言ったことが書いてあるわ」

 

ダイーダの指差した記事を見て、ランと豪は頭を抱えた。

 

 

豪「それは、『ノーベル賞選考委員会は』って書いてあって…」

 

ラン「『今年度の受賞者の』って読むの。漢字とカタカナごちゃ混ぜじゃない」

 

 

リーフ「ああ、そう読むんだ。文字の大きさがやけにバラバラだなと思ったんだ」

 

ダイーダ「でも豪達も大変なんじゃない? こんなに文字の種類が多いとさ」

 

 

豪「まあね…」

 

ラン「それは否定しないわ…」

 

 

 

 

リーフ「ふふっ。それよりさ、こののーべるしょうって何?」

 

ラン「うーんとね、簡単に言うと、この世界のために役立つ発明をした人とか、世界平和のために頑張った人とかにもらえる名誉ある世界的な賞なのよ」

 

 

リーフの疑問にランはしたり顔で説明したが、続けての質問に頭を抱えてしまった。

 

 

リーフ「なるほど、じゃあ博士みたいな人がもらえるんだね」

 

ダイーダ「っていうより、とっくにもらってるんじゃないかしら? あの人だったらさ」

 

 

ラン「えっ?」

 

豪「じいちゃんが?」

 

 

顔を見合わせたランと豪は、大きくため息をついた。

 

 

 

 

豪「もらえる訳ないじゃない、じいちゃんがさ」

 

ラン「おじいちゃんなんかがノーベル賞をもらえれば、賞の権威も価値もなくなっちゃうわ」

 

 

 

その言い様にリーフとダイーダは首をかしげた。

 

リーフ「どうして?」

 

ダイーダ「私は遠藤博士のこと立派な人だと思うけど…」

 

豪「いや、だってさ…」

 

そう呟きながら、ふと目線を実験中の遠藤博士の方に向けると再びため息をついた。

 

 

 

 

 

その遠藤博士は、妙にゴテゴテした機械のついたベッドに横たわっていた。

 

ラン「…おじいちゃん、それは何?」

 

遠藤「ん? これはわしの発明した新型の介護用ベッド。寝たまま手元のボタンを操作するだけで食事やトイレの世話まで完璧にやってくれる優れものじゃ」

 

 

うんざりしたようなランの質問に、自慢げに説明しながら、遠藤博士は手元のボタンを操作して、おかゆを作ったり、飲み物を口に運んだりしていた。

 

 

遠藤「どうじゃ! 指一本動けば、世話をしてくれる人間もいらん。緊急時には119番や110番だってできる。高齢化社会にうってつけの発明じゃ!!」

 

 

そう得意げに語る遠藤博士に対して、リーフとダイーダは素直に感心し拍手を送っていた。

 

リーフ「わぁすごい!! こんなに人のために頑張れる人なんて色んな次元に行ってきたけどそうはいないよ!!」

 

ダイーダ「立派な人じゃない。二人ともどうしてこの人がノーベル賞をもらえないなんて言っちゃうのよ」

 

 

遠藤「何、ノーベル賞!?」

 

その言葉に動揺した遠藤博士は手元のボタン操作を誤ってしまい、暴走した介護用ベッドは飲み物を遠藤博士の顔にぶちまけ、作りかけのお粥を頭からかぶせてしまった。

 

 

遠藤「あぢゃあぢゃあぢゃ!!! ぶわっ!!!」

 

 

ベッドの上で悶える遠藤博士に、ランと豪は呆れ返った様な表情をしていた。

 

ラン「二人とも、これでわかったでしょ。おじいちゃんがノーベル賞をもらえるわけないって」

 

 

リーフ「ふ〜ん?」

 

ダイーダ「そういうものかしら?」

 

イマイチ納得できないリーフとダイーダだったが、何とか復活した遠藤博士が叫び出したことで考えが中断した。

 

 

遠藤「ノーベル賞がなんじゃ!! あんなものはただの自己満足に過ぎん。わしには名誉も地位もいらん!! わしの発明が世のため人のために役立てばそれでいいのじゃ!!」

 

 

リーフ「うんうん。やっぱり尊敬しちゃうなぁ」

 

ダイーダ「素晴らしい人だわ。私達も見習わなくっちゃ」

 

その遠藤博士の堂々たる言葉に心から尊敬の眼差しを向けるリーフとダイーダを見て、豪とランはがっくりと肩を落として本日何度目かになる大きなため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

スウェーデン ストックホルム

 

 

 

 

 

今日ここで、ノーベル賞の受賞者の発表が執り行われようとしており、世界中のマスコミ関係者が押し寄せ、今か今かと待ち構えていた。

 

 

「間も無く今年度のノーベル賞の受賞者の発表が行われます。今年度は一体どのような名前が歴史に刻まれるのでしょうか」

 

 

やがて、選考委員長が演台に上がり、厳かな雰囲気の中受賞者の発表が行われようとした。

 

選考委員長「では、発表いたします。今年度のノーベル賞受賞者、まずノーベル物理学賞…」

 

しかし次の瞬間、UFOが突如として発表会場の上空に飛来し、大量のマイナーが会場になだれ込んできた。

 

 

「な、なんだなんだ?」

 

「あいつら最近日本で噂になってる奴らか!?」

 

 

混乱する中あっという間に会場は制圧され、そこに一人の杖をついた老人が現れ、縁談に向かっていった。

 

 

「な、なんだね、君は?」

 

 

Dr.フライ「わしか? わしはノーベル賞の受賞者じゃ」

 

そう言って演台に上がると、選考委員長の持っていた発表用紙を強引に奪った。

 

 

Dr.フライ「何何? ノーベル物理学賞受賞者…ハーバード大学の教授!? ふざけるな!!」

 

そう吐き捨てるとDr.フライは用紙をビリビリに破り捨てた。

 

 

Dr.フライ「貴様ら、一体何を基準にノーベル賞の受賞者を決めた!? 見る目のないボンクラどもが!!」

 

 

その言い様に会場の人間は一斉にブーイングを行った。

 

 

「ふざけるなー!!」

 

「いったい何様のつもりだ!!」

 

 

 

Dr.フライ「黙らんか、アホどもが!!」

 

そのブーイングにイラついた様にDr.フライは怒鳴り散らし、会場を黙らせた。

 

 

 

Dr.フライ「わしの名を知らんということがそもそものボンクラの証じゃ。いいかよく聞け、わしこそが史上最高の天才Dr.フライ様じゃ!!」

 

 

妙に芝居かがった様にDr.フライはそう名乗った。

 

 

Dr.フライ「わしは、やがて全世界を暗黒の世界に変える次元皇帝パーフェクトが選んだこの世界最高の人間じゃ!! わしは暗黒神としてこの世界をひいては貴様らボンクラどもを支配する存在じゃ。このわし以上にノーベル賞に相応しいものは今後未来永劫存在せん!! その証の一端を今見せてやる」

 

 

Dr.フライがそう告げるや否や、会場に巨大な立体映像が現れた。

 

Dr.フライ「特別生中継じゃ、わしの天才ぶりを貴様らにも少しでも理解しやすい様にしてやる」

 

 

 

Dr.フライが下劣な笑いを浮かべるとともに、上空に浮かんでいたUFOが市街地へと高速で移動し液体の様なものを噴射し始めた。

 

するとその液体を浴びた建物や車は、ドロドロに溶け始めた。

 

 

その有様が映し出され、会場は悲鳴の渦に見舞われた。

 

 

Dr.フライ「どうじゃ!? これがわしの開発したHE液じゃ。どんな既存の薬品よりも強力な腐食作用を持っておる。これで誰にノーベル賞を与えるべきかどんな能無しでもわかったじゃろう」

 

いやらしい笑いとともにDr.フライはそう告げた。

 

 

Dr.フライ「さぁ、わしを崇めよ!! わしがこの世界の支配者として君臨することでこの世界には永遠の安息が約束される。よって、わしにこそあらゆるノーベル賞が与えられるに相応しいのじゃ!!」

 

 

この様子は全世界に同時中継がなされており、世界中の人間がテレビに釘付けになっていた。

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

 

無論この研究所でも、その様をみな険しい顔で見ていた。

 

 

リーフ「こいつがDr.フライ…」

 

ダイーダ「顔を見るのは初めてだけど、本当にパーフェクトと繋がってたのね…」

 

 

そこへ、顔を洗ってきた遠藤博士がやってきた。

 

遠藤「やれやれ、やっと米粒が全部落ちたわい。ん?どうしたみんな?」

 

 

豪「じいちゃん、のんきなこと言ってる場合じゃないよ!!」

 

ラン「テレビ見てよ!! Dr.フライって奴がノーベル賞の会場に!!」

 

遠藤「なにぃ!! Dr.フライ!?」

 

 

その言葉に、遠藤博士はテレビにかじりついた。

 

 

遠藤「間違いない! 奴じゃ!! それで奴は一体何をやらかした?」

 

ラン「ノーベル賞を全部よこせって…。さもないと自分の作ったHE液とかいうので街をドロドロにしてやるって言ってるわ」

 

 

遠藤「何!? HE液? ふざけたことをぬかしおって!! 全く変わっとらんな!!」

 

凄まじい目つきでDr.フライをテレビ越しに睨みつける遠藤博士に、リーフとダイーダは以前からの疑問を口にした。

 

 

リーフ「博士、前々から聞きたかったんですけど、どうして博士はDr.フライのことを知ってるんですか?」

 

ダイーダ「それもただ知ってるんじゃなくて相当詳しいようですけど…」

 

 

遠藤「ん? ああ、まだ話とらんかったか。あやつはかつてわしと同じ研究室におったのじゃ」

 

 

豪「えっ!?」

 

ラン「し、知り合いだったの!?」

 

 

遠藤「そうじゃ。じゃがな、わしが世界の平和のために研究をしていたのとは逆に、奴は私利私欲や名誉のための研究ばかりしておった」

 

遠藤博士は険しい顔で過去を語った。

 

遠藤「しかし、そんな奴が世間に認められるわけもなく、やがては功名心に焦り、わしの研究さえも片っ端から奪い始め、ついには学会を追放されたんじゃ」

 

 

リーフ「そうだったんですか…」

 

ダイーダ「許せないわ、あいつ…」

 

リーフとダイーダもまた珍しく怒りに肩を震わせていた。

 

そんな会話をしている間にも、Dr.フライの演説はヒートアップしていった。

 

Dr.フライ『わしの肖像画を世界中に配り、いたるところに飾り付けよ。そして朝昼晩とそれを拝めよ。世界最高の天才、史上初にして唯一のノーベル賞の同時受賞者としてな!! 返事は今から3時間待ってやる』

 

 

 

豪「もう、めちゃくちゃ言ってるよ!!」

 

ラン「このまま言わせたい放題でいいの!?」

 

あまりに自分勝手なことを喚き散らすDr.フライに露骨な不快感を示した豪とランだったが、それは遠藤博士も同じであった。

 

 

遠藤「誰もそんなことを言っとらん。すぐに手は打つ!! みんな、地下の研究室に来い!!」

 

 

 

 

地下の研究室で資料を漁りながら、遠藤博士は説明した。

 

遠藤「さっきも言ったが、Dr.フライはわしの研究を片っ端から盗みおった。今奴が自慢げに見せとるHE液もその一つじゃ」

 

 

豪「えっ!? あれじいちゃんが作ったの?」

 

ラン「なんであんなものを!?」

 

思わず詰め寄ってきた豪とランをなだめるように遠藤博士は事情を説明した。

 

 

遠藤「あれは元々、騒音公害やその他の被害を最小限に抑えて建物の解体や粗大ゴミの処分を行うために開発したものじゃ。それをあんな恐喝の材料に使うとは呆れてものが言えん!!」

 

 

リーフ「そうだったんですか…」

 

ダイーダ「でも作ったのが博士なら、あれを無効にするものを作れませんか?」

 

 

遠藤「もちろん作れるぞ。じゃからこうして過去の研究資料を… ん、あった!! こいつがHE液の資料じゃ!! これですぐにでも中和剤を作れる」

 

ラン「本当!?」

 

 

リーフ「かなりの量が必要ですが、どのぐらいでできますか?」

 

遠藤「うーむ… ここからスウェーデンまで、三冠号を最高速度でぶっ飛ばしても2時間強…とりあえず1時間でできるだけのものを作るぞ!! あとは組成式と調合法をインターネット上で公開すればいい!! みんな手伝え!!」

 

 

ダイーダ「了解!!」

 

 

 

第13話 終

 

 



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第14話 「わしがDr.フライだ!! (後編)」

 

 

 

 

 

 

スウェーデン ストックホルム

 

 

 

 

レポーター「全世界の皆さん。この中継をご覧になっておられますでしょうか。ノーベル賞の発表において発生した、この史上類を見ない一大事件を。すでに会議が始まって2時間、今まさに選考委員会は苦渋の決断を強いられようとしているのであります」

 

 

 

選考委員A「委員長どうします? こんな形であんな奴にノーベル賞を与えることがあっていいんですか?」

 

選考委員B「いいわけはない!! が、しかし…」

 

選考委員C「下手に要求を断れば、どれほどの被害が出るか…」

 

 

選考委員長「ノーベル賞は、世界平和の願いを込めて設立されたものだ。あんな奴に渡すことなど断じてできん!!」

 

 

 

その会議の様子はDr.フライにも知るところとなっており、選考委員のその態度に、身勝手な怒りを燃やしていた。

 

 

Dr.フライ「くぅ〜、ボンクラどもが!! まだわしの偉大さを理解しようとせんのか!! 見ておれ!!」

 

Dr.フライが手元のボタンを操作すると、上空に浮かんでいたUFOが再び市街地へ上空から、HE液を一面に噴射し始めた。

 

そればかりか、マイナー達にもHE液の入ったポンプを背負わせ、破壊活動を行わせ始めた。

 

 

それにより、街はあっという間に悲鳴の飛び交う阿鼻叫喚の地獄絵図へと変わっていった。

 

 

Dr.フライ「どうじゃ、これがわしの天才的頭脳の成果じゃ!! ここまでやってもまだわからんか? 誰がノーベル賞に最も相応しいかが!?」

 

 

耳を塞ぎたくなるようなDr.フライの笑いがテレビカメラを通して世界中に響き渡っていた。

 

 

 

この惨劇は、当然ながら選考委員会にも中継されており、みな苦悶していた。

 

 

選考委員A「くっそ、いたずらに会議を長引かせることもできないとは…」

 

選考委員B「これでは被害が広がる一方です。委員長!!」

 

 

目の前に広がる惨劇を目の当たりにし、ついに選考委員長は苦渋の決断を下した。

 

選考委員長「…やむを得ん。彼の要求を飲もう…。マスコミの皆さんにも協力をお願いして…」

 

 

その言葉にみな苦虫を噛み締めていた。

 

選考委員C「屈辱的だ…」

 

選考委員D「よりによって、あんな奴に平和賞を与えなければならないとは…」

 

 

 

 

 

その頃ロシア上空にて、完成したHE液の中和剤を大量に積み込んだ三冠号が、マッハ2.5という猛烈なスピードで必死にスウェーデンを目指していた。

 

 

豪「まずいよ!! 早くしないとDr.フライがノーベル賞を受賞しちゃうよ!!」

 

ダイーダ「わかってるわよ!! これでも最高速度なんだから!!」

 

 

豪の焦りを理解しつつも、これ以上どうにもできない状況にダイーダもかなり焦っていた。

 

 

リーフ「やっぱり中和剤の組成式や調合法だけでも先にインターネットに流した方がよかったんじゃないのかな?」

 

リーフの感想に、遠藤博士が司令室からモニター越しに悔しそうに告げた。

 

遠藤『いやダメじゃ。効果も実証できとらん状況では、そんなものを流したとて悲しいかなイタズラと思われるのがオチじゃ。今はとにかく急げ!! もうそれしかない!!』

 

 

リーフ「えーい! お願いだから間に合ってね」

 

祈るように叫びながら、リーフ達は必死に三冠号をスウェーデンに向けていた。

 

 

 

そんな様子を司令室で見ながらランはぽつりと呟いた。

 

ラン「急ぐのはいいけど、これ不法入国と領空侵犯ってやつじゃないの? 知らないわよ撃墜されても…」

 

 

 

 

 

 

 

 

スウェーデン ストックホルム

 

 

 

屈辱に顔を歪ませながら、選考委員長が演台でノーベル賞の受賞者の発表を行おうとしていた。

 

 

 

選考委員長「そ、それでは、今年度のノーベル賞の受賞者を発表いたします。…今年度の受賞者は、当選考委員会の厳正なる審査の結果、物理学賞・化学賞・生理学医学賞・文学賞・平和賞・経済学賞その全てを…」

 

そこから先はさすがに抵抗があるのか、最後のプライドが読み上げることを拒否していた。

 

Dr.フライ「どうした? ノーベル賞の全てを誰に与えるのじゃ?」

 

いやらしく笑いながら、Dr.フライがそう尋ねた。

 

 

選考委員長「くうっ… 全てをDr.フライ氏にこそ与えるに相応しいと判断し…、今ここに…授与致します…」

 

 

必死に自分を押し殺すかのようにそう告げ、賞状をDr.フライに対して差し出した。

 

 

その様子を見て、Dr.フライは満足そうに顔を綻ばせた。

 

Dr.フライ「うむうむ。やっとわしの偉大さを理解できたようじゃな。愚民どもを見るがいい!! これが史上初、あらゆるノーベル賞を同時に受賞した大天才Dr.フライ様じゃ!!」

 

 

そう芝居がかったように大々的に宣言すると、Dr.フライは意気揚々と賞状を受け取ろうとした。

 

 

しかし次の瞬間、Dr.フライの頭に何かが飛んできて直撃した。

 

 

Dr.フライ「ごがぁっ!! な、なんじゃヘルメット!? 無礼者が! どこのどいつじゃ!!」

 

 

思わぬ事態にそう叫んだDr.フライに応えるかのように、凛とした声が響いた。

 

 

ダイーダ「ここのこいつよ!!」

 

リーフ「Dr.フライ!! あんたなんか人から表彰されるに最も値しない人間だよ!!」

 

 

Dr.フライ「ぬぁっ!! 貴様らは!!」

 

 

「あれは!?」

 

「コズミックプリキュアって子達か?」

 

「来てくれたのか!?」

 

 

 

みなが口々に安堵の声をあげる中、Dr.フライが逆上したように叫んだ。

 

Dr.フライ「わしが、ノーベル賞にふさわしくないじゃと? 小娘が何を偉うに!! わしの偉大さを理解できんのか? わしの科学はこの世界を暗黒に染め上げ、やがては全人類がひれ伏すものじゃぞ」

 

 

そんなDr.フライに吐き捨てるようにリーフとダイーダは言い放った。

 

ダイーダ「何が偉大さよ。ただあの薬品がすごいってだけであんた自身はとんでもなくつまらない人間よ!!」

 

リーフ「人から認めてもらいたい、名誉が欲しい、そんな人間に与える名誉なんてありはしないわ!!」

 

 

 

Dr.フライ「だ、黙らんか!! それ以上言うならばどうなるかわかっておるのじゃろうな!?」

 

ダイーダ「ほら、それじゃない。自分が認めてもらえるような人間じゃないってわかってるからこんな脅しをするんでしょ? みっともないったらありゃしない」

 

 

その言葉に対して、必死に自分を正当化するように叫ぶも、あっさり返されてしまい、恥の上塗りになるだけだった。

 

 

 

 

Dr.フライ「この大天才のわしを馬鹿にするとはいい度胸じゃ!! わしの偉大さを思い知るがいい!!」

 

そうDr.フライが叫んだと同時に、リーフが三冠号に残った豪に呼びかけた。

 

 

リーフ「豪くん、頼んだよ!!」

 

 

 

 

市街地では、Dr.フライのUFOが再びHE液を撒き散し始めていたが、それと同時に三冠号も市街地上空に移動した。

 

 

豪「これ以上させるもんか!! 中和剤発射!!」

 

これ以上被害を出させまいと、豪が三冠号を操作し、リーフの言葉に従い発射ボタンを押した。

 

 

そして三冠号から噴射された中和剤の効果は見事の一言であり、あっさりHE液を無効化した。

 

 

 

その光景に会場にはどよめきが走り、Dr.フライもまたとんでもなく混乱していた。

 

Dr.フライ「ば、ばかな!? 何が起きたのじゃ!? なぜHE液が?」

 

 

ダイーダ「いまばら撒いたのはHE液の中和剤よ。予想以上の効果みたいね」

 

リーフ「全世界のみなさん。インターネットにアクセスしてください。今の中和剤の組成式と調合法を公開しています!!」

 

 

Dr.フライ「な、なんじゃと!?」

 

会場の人達はその言葉に皆次々とスマホを操作し始め、それが事実であると理解するのに時間はかからなかった。

 

 

「ホントだ、公開されてる」

 

「さっきの見た限りじゃ効果は本物だぞ!!」

 

 

ざわめく会場を見渡し、Dr.フライは悔しそうに顔を歪めた。

 

 

ダイーダ「あなた何か偉そうに言ったわよね? 自分の肖像画を飾れとか、朝昼晩と崇めろとか」

 

 

リーフ「冗談じゃないよ!! あなたみたいに自分のことしか考えない人の顔なんか見たくもないよ!!」

 

 

そうやって言い寄るリーフとダイーダに対して及び腰になりつつも、精一杯の矜持を持ってDr.フライは言い返した。

 

Dr.フライ「黙れ!! わしは世界一の大天才Dr.フライ様じゃぞ!! 口の聞き方に気をつけろ!!」

 

 

そのあまりにも子供っぽいわめき散らし方に、さすがのリーフとダイーダも我慢の限界に達した。

 

リーフ「いい加減にしなさい!! 何でもかんでも自分の思い通りになるとでも思ってるの!!」

 

ダイーダ「何が大天才よ! そんなこと思ってるのはあなただけよ。くやしかったらその根拠を示してみなさい!! 今この場で何かやってみなさいよ!!」

 

 

その言葉に何も言い返すことができず、Dr.フライは悔しそうに歯ぎしりをするしかなかった。

 

 

Dr.フライ「くそぅ!!」

 

そう吐き捨てると、ボールのようなものを取り出し地面に叩きつけた。

 

すると、もうもうとした煙幕が広がり、リーフ達も視界を奪われてしまった。

 

 

リーフ「うわっ!!」

 

ダイーダ「くそっ!! 逃がすもんか!!」

 

急いで後を追おうとするも、マイナー達が足止めに乱入してきたため、そちらに時間を取られてしまった。

 

 

ダイーダ「えぇい、いっつもいっつも邪魔して!!」

 

 

マイナー達はあっさり倒されたものの、その時にはすでにDr.フライは会場から逃げ出した後であった。

 

 

ダイーダ「くそ、逃げられた!!」

 

リーフ「まだ間に合うよ、追いかけよう!!」

 

 

リーフとダイーダは頷きあうと、風のような猛スピードでDr.フライの後を追って会場から飛び出した。

 

 

 

 

 

Dr.フライ「わしをコケにしおって!! どうするか見ておれ!!」

 

UFOを呼び、それに飛び乗ったDr.フライはHE液を会場に向けて投下せんとしていた。

 

 

ダイーダ「あいつ、この建物を溶かすつもり!?」

 

リーフ「させるもんか!!」

 

 

会場から外に飛び出した二人は、Dr.フライのやろうとしていることを敏感に察知すると、そのまま大ジャンプした。

 

 

しかし、二人のジャプ力を持ってしてもあと一歩というところで届かなかった。

 

リーフ「くっ、後ちょっとで…」

 

 

悔しそうに呟いたリーフだったが、そこにダイーダの声が響いた。

 

ダイーダ「リーフ!! 私を蹴り上げて!!」

 

 

その言葉で何をするつもりかを理解したリーフは右脚を伸ばし、ダイーダはその右脚に乗った。

 

 

それを確認すると、リーフは思い切りダイーダを蹴り上げた。

 

リーフ「タァアアア!!」

 

 

 

ダイーダ「ナイス!!」

 

二人の二段ジャンプで、ダイーダは無事にUFOの上に取り付くことができた。

 

 

 

Dr.フライ「な、何?」

 

ダイーダ「ただ撃墜すればHE液で被害が大きくなる… よし、チェンジハンド・タイプレッド!!」

 

その様子をモニターで確認し驚愕しているDr.フライをよそに、ダイーダは両腕を換装した。

 

 

そして、そのレッドハンドの超怪力でUFOに対して何発もパンチを打ち込んだ。

 

 

パンチが一発打ち込まれるたびに、UFOは大きく揺れ、全体が軋み、ボディはヒビだらけになっていった。

 

そしてついにはHE液のタンクにまでそのヒビが入ったらしく、UFOの上部から噴き出してきた。

 

 

 

ダイーダ「よしうまくいった!! おっと、早く退散しないと」

 

 

吹き上がったHE液をすんでのところでかわしたダイーダはそのままUFOから飛び降りた。

 

 

Dr.フライ「うぉっ、い、いかん!! 操縦不能じゃ!!」

 

吹き上がったHE液を自分でかぶってしまったUFOは自分その作用で腐食を始め、墜落を始めた。

 

リーフ「やったね、じとくじごうってやつだよね」

 

ダイーダ「違うっての、自問自答っていうのよ」

 

 

その光景を見て二人はざまあみろというようにとんちんかんなことを言い放った。

 

 

 

しかし、その墜落するUFOを支えるかのように突如として巨大なトンボが二匹現れた。

 

ダイーダ「あれは!?」

 

リーフ「メイジャー? ってことは、ファルにゴーロ!?」

 

 

そのうちの一体は、UFOからDr.フライを助け出して飛び去って行き、(その結果、UFOは墜落し爆発したが)、もう一体はリーフ達に向かって攻撃を仕掛けてきた。

 

 

そのトンボ怪物は素早く飛び回り、ソニックブームを巻き起こしてリーフ達の足止めを行ってきた。

 

 

ダイーダ「くっ、まずい。このままだとこの辺の建物が崩れちゃうわ!!」

 

ダイーダの言葉通り、トンボ怪物の発生させるソニックブームは、周辺の建物や車を振動させ、細かなヒビを入れ始めていた。

 

 

リーフ「ならやることは一つ、行くよダイーダちゃん!!」

 

ダイーダ「O.K!!」

 

二人は力強く頷きあい、トンボを切った。

 

 

 

リーフ・ダイーダ「「ゴー!!」」

 

 

その掛け声とともに二人の体は光に包まれ、着地した時には変身完了し、赤と白のドレスに身を包み、髪型も大きくボリュームが変わっていた。

 

 

 

リリーフ「闇を吹き消す光の使者 キュア・リリーフ!!」

 

ダイダー「悪を蹴散らす光の使者 キュア・ダイダー!!」

 

 

リリーフ・ダイダー「「ピンチ一発、大逆転! コズミックプリキュア!!」」

 

 

 

 

 

レポーター「全世界のみなさんご覧ください。この会場に襲いかかろうとする巨大な怪物に対し、二人の少女が勇敢にも立ち向かっております。コズミックプリキュア、実に雄々しくそして美しい少女達です」

 

 

リリーフ「よし、チェンジハンド・タイプブルー!!」

 

その掛け声と共に両腕を稲妻模様の走った青い腕に換装したリリーフはトンボ怪物に向けて腕をかざした。

 

 

リリーフ「エレキ光線発射!!」

 

しかし、トンボ怪物は的を絞らせまいと空中を素早くジグザグに飛び回ったため、ことごとくかわされてしまった。

 

そしてあざ笑うかのように、口から火炎弾を連射してきた。

 

 

リリーフ「くそっ、それなら!!」

 

その火炎弾の直撃をかろうじてかわしたリリーフは大きく振りかぶり虹色の玉を手に輝かせた。

 

 

リリーフ「これでどう? プリキュア・レインボール・変化球!!」

 

 

亜音速で飛んでくる虹の玉を先ほどと同じようにかわそうとしたトンボ怪物だったが、その玉には回転がかかっていることに気がつかなかった。

 

 

そのため、よけた方向に虹色の玉はカーブして飛んできたため、直撃を受けてしまった。

 

 

リリーフ「やった! 命中!!」

 

 

ダイーダ「よし、これでとどめよ!!」

 

 

リリーフの攻撃を受けて、悲鳴と共に黒い靄を撒き散らしていたトンボ怪物に対して、引導を渡さんとダイダーは光のスティックを取り出した。

 

 

ダイダー「受けなさい。プリキュア・シャイニングスイング!!」

 

そう叫びながら、ダイダーはスティックを野球のスイングのように一振りした。

 

 

それとともに飛んで行った光の斬撃はトンボ怪物の体を真っ二つに切り裂いた。

 

 

するとその切り裂かれたところから、黒い靄のようなものが大量に溢れ出し、きりもみ状態で墜落しながら大爆発した。

 

 

 

 

リリーフ・ダイダー「「ゲームセット!!」」

 

その掛け声とともに、爆発の後からは一匹のトンボがどこへともなく飛んで行った。

 

 

 

 

その頃、もう一匹のトンボ怪物に乗ったDr.フライはそれを操るファルとゴーロに話をしていた。

 

 

Dr.フライ「言いたかないが今回は礼を言っておく。ついでにわしの乗ってきたUFOも回収してくれ」

 

 

ゴーロ「なに寝ぼけてやがる。あれはドロドロに溶けた上、墜落の爆発で木っ端微塵だ」

 

 

その言葉にDr.フライは崩れ落ちた。

 

 

Dr.フライ「そ、そんな… じゃああのUFOに積んでいたHE液の作り方もパァ…」

 

 

そんなDr.フライを見てファルは不思議そうに呟いた。

 

ファル「? 同じものが作れねぇってのか? 自分で作ったもんじゃねぇのかよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

遠藤「いやみんなご苦労じゃった。しかしこれでDr.フライがパーフェクトとつながっていることも証明されたし、世界にも危機感を植え付けることができたな」

 

 

帰還したリーフ達を労うように遠藤博士がそう言った。

 

 

リーフ「うん。でもそうなると連中ますます躍起になってくるんじゃないかな」

 

ダイーダ「これから一層戦いが激しくなりそうね」

 

険しい顔で呟く二人に遠藤博士も頷いた。

 

 

遠藤「うむ、そうじゃな。勝って兜の緒をしめよ、これからもよろしく頼むぞ」

 

豪「俺も精一杯サポートするよ」

 

ラン「私だって出来る限りのことはするわ。あんな奴らに世界をめちゃめちゃにされてたまるもんですか!!」

 

リーフ「ありがとう」

 

ダイーダ「これからも頑張りましょう」

 

 

「「「「オーッ!!!」」」」

 

 

一同は決意も新たに、そう気合を入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

遠藤「ところで…」

 

そこで、ふと遠藤博士が思い出したように尋ねた。

 

 

遠藤「あのHE液の中和剤を開発した人にノーベル賞を与えようなどという話は出なかったかのう?」

 

 

 

リーフ「?? いいえ?」

 

ダイーダ「なんでそんなことを聞くんですか? あの中和剤は世界平和のためにきちんと役に立ちましたから、それでいいんじゃないですか?」

 

 

 

目をパチクリしながらの二人の言葉に遠藤博士はウッと詰まってしまった。

 

 

遠藤「そ、その通りじゃ。ノーベル賞などくだらんものじゃ! あんなもの欲しくもない!!」

 

 

そう言うと一人研究室へと向かっていった。

 

 

遠藤「ノーベル賞なんか欲しくもなーい。くだらんものじゃー」

 

そう言いながら。

 

 

 

リーフ「なんで何度も言うんだろう?」

 

ダイーダ「ちゃんと、世界のために役に立ったのにね?」

 

 

遠藤博士の言動がイマイチ理解できず、首を傾げているリーフとダイーダに対して豪とランは笑いながら言った。

 

 

豪「言葉通りじゃないんだよな」

 

ラン「すっぱい葡萄ってやつよ」

 

 

 

リーフ「何それ? 葡萄ってあの食べ物のだよね?」

 

ダイーダ「ええそうよ。でもそれがすっぱいって、どういう意味なの?」

 

 

 

ラン「ふふっ、おじいちゃんに聞いてみれば?」

 

 

リーフ「うん。そうしようダイーダちゃん」

 

ダイーダ「そうね、興味があるわ。 博士—っ、ちょっと待ってください!!」

 

そのランの言葉に、リーフとダイーダは遠藤博士の後を追っていった。

 

 

 

 

そんな二人を見送りながらランと豪は微笑んだ。

 

豪「絶対教えてくれないだろうけど」

 

ラン「同感」

 

 

 

 

第14話 終

 



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第15話 「リーフとシーフ (前編)」

 

 

 

甲子市 村沢博物館

 

 

 

 

 

ここは市内にある博物館であり、何年かに一度世界的なもの展示されることでも有名な割と大きなものである。

 

 

そして今年がその年で、今回は世界の宝石展が開催されており、最大の目玉として極めて希少な赤いダイヤモンド、しかもその中でも世界最大のもの 通称「真紅のダイヤ」が展示されていた。

 

 

 

そのダイヤモンドを一目見ようと、博物館は連日押すな押すなの大盛況であり、警戒も特に厳重になっていた。

 

 

展示から数日、そこそこ人も落ち着いた中でようやく見にこれたという人達も多数いたぐらいである。

 

 

遠藤博士以下、いつものメンバーもそういう人達である。

 

 

 

ラン「うっわー!! すっごく綺麗!! ねぇみんなもそう思うでしょ!!」

 

厳重に密閉されたガラスケースに入れられ、ケースにも一定の距離から近付けないような展示方法であれども、その「真紅のダイヤ」の美しさはみるものの心を奪い、ランもまた感嘆の声をあげていた。

 

 

豪「ホント、スッゲー綺麗!! 姉ちゃん達もそう思うだろ?」

 

豪もまた感嘆の声とともに、そうリーフとダイーダに振ったが

 

 

リーフ「うんすごいね。見事な光の屈折率だわ。それに絶妙な配合でクロム原子が混じってる」

 

ダイーダ「そのバランスを見極めて、ここまで正確に光が反射するようにカットできるなんて見事な技術だわ」

 

 

その感想にランは脱力していた。

 

ラン「何その感想は? 気分壊しちゃうわ」

 

 

遠藤「ハッハッハッ。この二人に宝石の美しさはまだ理解できんようじゃな」

 

笑いながらそう語る遠藤博士に、リーフ達はキョトンとした顔で返事をした。

 

 

リーフ「いえ、別に珍しくないだけですよ。こんな炭素の結晶体なら、どこかの世界ではもっと大きなものが辺り一面に転がってますから」

 

ダイーダ「でもここまで綺麗にカットされてないけどね」

 

その言葉に遠藤博士は食いついた。

 

 

遠藤「何!? そんな世界があるのか!? 是非とも連れて行ってくれんか!! せめてこれと同じ大きさのもの一個でいいから欲しいのじゃ!! そうすれば、あんな研究やこんな研究も…」

 

 

欲望丸出しというような顔でリーフ達にすがりつく遠藤博士に、背中をポンポンと叩くものがいた。

 

 

遠藤「ええい、誰じゃ!! 今大切な話を!! ってお主は!!」

 

豪「げっ!! 河内警部!!」

 

ラン「どうしてここに!?」

 

 

河内「ここの警備の責任者を任されていてな。この俺の目が黒いうちはこのダイヤには指一本触れさせんぞ!! この盗人が!!」

 

遠藤「誰が盗人じゃ! ただちょっと欲しいと言っただけじゃ!! ごく普通の感想じゃろうが!!」

 

その人聞きの悪い言い方にカチンときた遠藤博士だったが、河内警部は聞く耳を持たなかった。

 

 

河内「ほぅ、認めたな。貴様ら全員窃盗未遂の現行犯で逮捕してやる!!」

 

そう叫んで遠藤博士達を捕まえにかかってきたのだった。

 

豪「無茶苦茶だぜ!!」

 

ラン「とにかく逃げるわよ!! ダイーダさん達も早く!!」

 

ダイーダ「えっ? 少し待ちなさい。この人は悪い人じゃ…」

 

ラン「いいから!!」

 

 

慌てて逃げる中、戸惑うダイーダの手を無理やり引っ張っていったランだったが、

 

リーフ「えっ? みんなちょっと待って… わっ!!」

 

 

リーフの方はこの騒ぎの中、人ごみに飲まれてしまい、離れ離れになってしまった。

 

 

 

 

 

 

しばらくのち、一人になってしまったリーフは、皆を探して博物館の中をうろついていた。

 

リーフ「う〜ん、困ったなぁ。あんまり人前でダイーダちゃんと通信したりマルチハンドを使うなって博士にも言われてるからなぁ… これがドラマに出てきたマイコってやつなのかな?」

 

 

とまぁ、時と場合にもよるにもかかわらず遠藤博士の言いつけを律儀に守っているリーフは、すぐに皆を探せる方法を持っていながらそれを使おうともしなかったため、本当の「迷子」になっていた。

 

 

リーフ「ふぅ。さてと、どうしようかな… あれ?」

 

これからのことを考えていると、近くにあるトイレの中で妙な話し声がした。

 

なんとなく気になったリーフはそちらへと足を運んだ。

 

そこが男子トイレだというのにもかかわらず…

 

 

 

 

「ニグのアニキ、これで俺達も貧乏生活からオサラバっすね」

 

その小柄な若い男は嬉しそうにそう語りかけた。

 

「おうよ。警備員の配置に加えて監視カメラの位置も全部把握したからな。これであの真紅のダイヤは明日の晩には俺達のもんだ」

 

ニグのアニキと呼ばれたサングラスの男は自信たっぶりにそう答えた。

 

 

「これで溜まった家賃が払えますから、アパートを追い出されずに済みますね」

 

「馬鹿野郎サブ! みみっちいこと言うな!! 牛丼の特盛りに卵と味噌汁だってつけられるんだぜ!!」

 

 

そんないかにも小物臭漂う会話をしているところに、リーフは話しかけた。

 

リーフ「あのう〜」

 

 

ニグ「なんだよ! ってお前、ここは男子トイレ!! …じゃねぇ、今の話聞いたな?」

 

 

リーフ「はい、全部聞こえました」

 

いつものようにどこかのほほんとした口調で話すリーフだったが、この二人はかなり慌てていた。

 

 

サブ「あ、アニキ〜どうしよ〜」

 

ニグ「な、情けねぇ声を出すな!! おう、テメェ! ちょっとばかし可愛いと思ってナメんじゃねぇぞ。話を聞かれたからには二つに一つ。俺達の仲間になるか、それとも…」

 

そう必死に強がろうとしながら、懐から果物ナイフを取り出してリーフに向けた。

 

 

リーフ「ぶーっ! ダメですよ!! 刃物を人に向けちゃ危ないですよ!!」

 

そう言いながら、リーフはあっさりとナイフを折り曲げてしまい、その光景にニグは目が点になった。

 

 

ニグ「な、なんだこいつ…?」

 

サブ「アニキ、どうしましょう〜」

 

予想外のことにどうしていいかわからず混乱していたニグとサブだったが、次の瞬間ニグの頭に何かが閃いた。

 

 

 

ニグ「す、すまねぇ。じつは会社を首になっちまって、再就職の当てもなく、どうしたらいいかわからなくなって、つい思い余ってこんなことを…」

 

ニグは地面に手をついて頭を下げながら無理やり悲しそうな声でそう言った。

 

 

サブ「田舎にいる、去年亡くなった病気の両親にせめてうまいもんでも食わせてやろうと思いまして…」

 

それを見ていたサブも同じように地面に手をついて、大根丸出しのような棒読みでそう言った。

 

ニグ・サブ「「どうか哀れと思って見逃してやってください」」

 

 

 

それを聞いたリーフは、本気で気の毒そうな顔をして優しく二人の方に手を置いた。

 

 

リーフ「それはお気の毒に。よくわかりませんけど、私にできることなら力になりますから」

 

ニグ・サブ「「へっ?」」

 

 

リーフ「ダイーダちゃんはあんまりこの世界の人に関わるなっていうけど、困ってる人は見過ごせないですから」

 

リーフはにっこりと笑ってそう言った。

 

 

サブ(こんな泣き落としに引っかかるなんて、珍しいやつですね)

 

ニグ(ばーか、俺の演技力の勝利よ)

 

そんなリーフを見て二人はひそひそと感想を漏らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

アナウンス『遠藤平和科学研究所よりお越しの、遠藤リーフ様。お連れ様がお待ちです。1階正面玄関までお越しください』

 

 

 

豪「来ないねー、リーフ姉ちゃん」

 

ラン「リーフさん、一体どうしたのかしら?」

 

遠藤「まったく、どこをほっつき歩いとる」

 

 

ようやく河内警部を振り切った一同だったが、リーフとはぐれてしまった事に気付き、案内アナウンスを入れてもらっていた。

 

 

ダイーダ「仕方ないわ。博士、緊急回線でリーフと連絡を取ってみます」

 

遠藤「うむ。ん? いや待った」

 

やむを得ないと、ダイーダがリーフと通信をしようとしたが遠藤博士はそれを制止した。

 

 

豪「じいちゃん、なんで止めるんだよ?」

 

ラン「リーフさんを探さないと」

 

 

遠藤「いや、これはいい機会かもしれん。リーフには自力で帰らせよう。可愛い子には旅をさせよじゃ」

 

その言葉にダイーダも納得した。

 

 

ダイーダ「そうね。あの子ぼんやりしてる事が多いから、苦労すれば少しはしっかりするでしょう。 じゃあ帰りましょう」

 

 

ラン「えっ? で、でも…」

 

豪「う〜… まぁ、リーフ姉ちゃんがどうこうされる危険はないだろうけど…」

 

 

釈然としないものを感じながらも、豪とランもリーフを放って帰る事になってしまった。

 

 

 

 

その頃

 

 

 

 

サブ「お前名前なんていうんだ?」

 

リーフ「はい、遠藤リーフという事になってます」

 

リーフを連れたニグとサブが憮然としながら自宅のアパートへと向かっていたが

 

 

ニグ「リーフ… 葉っぱちゃんね。年はいくつだ?」

 

リーフ「年? 今年は20XX年ですよ」

 

ニグ「そうじゃねぇ! お前が生まれたのはいつだって聞いてんだよ」

 

リーフ「ああ! それだったらこの世界の時間で48日と19時間30分前です」

 

ニグ・サブ「「はぁ!?」」

 

 

どこかチンプンカンプンな言動を繰り返すリーフに二人は戸惑っていた。

 

サブ(アニキ、こいつちょっとおかしいですよ)

 

ニグ(頭が弱いのかもしれねぇな… まぁそれならうまく言いくるめりゃ、誘拐犯扱いにだけはならねぇだろう)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海底 Dr.フライ秘密研究所

 

 

Dr.フライ「ついに見つけたぞ。この絶妙なクロム原子の配合率、完璧なカットによる光の屈折率。この真紅のダイヤを使えば史上最強のレーザー砲を作ることができる」

 

件の真紅のダイヤのニュース映像を見ていたDr.フライが歓喜の叫びをあげていた。

 

 

ゴーロ「けっ! まーた一人で盛り上がってやがる」

 

ファル「学習能力のない天才様だな」

 

 

そんな自分を冷ややかな目で見ていたファルとゴーロに、Dr.フライは噛み付いた。

 

Dr.フライ「黙れ!! これを使って作ったレーザー砲なら地上を簡単に焼き尽くすこともできる。暗黒の世界を作り上げられるということじゃ!!」

 

ゴーロ「へぇ〜、割と派手で面白そうじゃねぇか」

 

興味が出てきたようにゴーロがそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

もうすぐ夕飯という時間にもかかわらず、未だに帰ってこないリーフにランと豪は心配という文字をデカデカと顔に貼り付けていた。

 

 

豪「じゃあそろそろ俺は帰るけどさ、姉ちゃんが帰ってきたら連絡入れてくれよな」

 

ラン「うんわかったわ」

 

 

遠藤「心配することはない。必ずリーフは戻ってくる」

 

ダイーダ「そうよ、あの子だって特別警備隊員としての称号、プリキュアを名乗ってるんだから」

 

口ではそう言いながらも、遠藤博士もダイーダもかなり挙動不審であり足をカタカタと言わせていた。

 

豪(姉ちゃん、みんな心配してるんだぜ。どこにいるんだよ)

 

 

 

 

 

 

その頃、ニグとサブの住んでいるかなり年季の入ったアパートにてリーフが夕食の支度をしていた。

 

ニグ「変な奴仲間にしちまったな〜」

 

サブ「でも、いい子ですよ。それに部屋の中に華があっていいじゃないすっか」

 

備え付けの台所で料理をしているリーフを見て、嬉しそうにそういうサブをニグはたしなめるように怒鳴った。

 

ニグ「馬鹿! 泥棒しようって奴らがいいやつ仲間にしてどうするんだよ!」

 

 

そうこうしていると、リーフが微笑みながら鍋を持ってきた。

 

リーフ「さぁできましたよ。いっぱい食べてくださいね♪」

 

その笑みに少しドキリとしながらも、ニグとサブは喜びに打ち震えていた。

 

 

ニグ「うっうっ…女の子の手料理だ」

 

サブ「インスタントじゃない飯なんて何年ぶりかなぁ…」

 

 

鍋から器によそい、声を合わせて嬉しそうに叫んだ。

 

 

ニグ・サブ「「いただきまーす!!」」

 

 

そして箸を一口つけた途端、彼らの顔色が変わった。

 

ニグ「うっ!!」

 

サブ「これは…」

 

そしてそのままトイレへと駆け込み、胃の中のものをありったけ吐いていた。

 

 

ニグ「おぇ〜、なんだあれ? 料理かよ?」

 

サブ「信じられないまずさっす。 何をどうしたらあんな味がでるんすか?」

 

 

そんな二人の会話を聞いて、リーフは味見をすると不思議そうな顔をしていた。

 

リーフ「あっれ〜おっかしいな〜? 栄養素の配合はミリグラム単位で完璧なのにな…」

 

 

 

 

 

そんなこんなで夜も更け、また日が昇ってしばらくして

 

 

 

 

 

ニグ「う、うん…朝か… あれ?」

 

一応リーフに気を使って布団を譲り、毛布に包まって部屋の隅で寝ていたニグだったが、リーフが部屋の中にいないことに気がついたのだ。

 

 

ニグ「おい! 起きろサブ!! あの女はどこだ!?」

 

慌てて隣で同じように寝ていたサブを叩き起こして、リーフの居場所を尋ねた。

 

サブ「ふぁ〜あ。アニキおはよう」

 

 

ニグ「おはようじゃねぇ! あの女がいねぇんだよ!!」

 

サブ「散歩かなんかじゃないんすか〜」

 

焦っているニグとは対照的に、緊張感なく欠伸をしながらサブはそう言った。

 

 

ニグ「馬鹿野郎!! 逃げたに決まってんだろ!! 今頃サツに俺達のことタレこんでるぜ」

 

その言葉に、寝ぼけ眼だったサブの目も一発で覚めた。

 

 

サブ「ええー!! そんな、俺達まだ何にもしてないのに」

 

 

二人は逃げ出すべく慌てて荷造りを始めながら、リーフを罵っていた。

 

ニグ「くそったれ!! 可愛い顔してやってくれるぜ! これだから女ってやつは!!」

 

サブ「あいつ、はじめっから逃げるつもりだったんすね」

 

 

 

リーフ「ただ〜いま〜」

 

そんな中、実に暢気な声とともにリーフが荷物を抱えて部屋に入ってきた。

 

 

ニグ・サブ「「へっ?」」

 

 

リーフ「わぁ、朝からお掃除ですか? 頑張ってくださいね♪ 私も力のつくものを作りますから」

 

 

戸惑う二人をよそにリーフはニコニコと笑って台所に向かった。

 

 

ニグ「オメェ逃げたんじゃねぇのか?」

 

リーフ「逃げる? 朝ごはんの材料を買いに行っただけですよ」

 

 

サブ「な、なんだ…びっくりした…」

 

ホッとしたようにへたり込んでしまったニグとサブだが、そこではたと気がついた。

 

 

ニグ「ん? 朝ごはん?」

 

二人は顔を見合わせると、昨夜の劇物のことを思い出した。

 

 

 

リーフ「さ〜て、栄養満点のものを作りますからね♪」

 

そんな二人をよそにやる気満々というように腕まくりをしたリーフだったが、ニグとサブに大慌てで羽交い締めにされた。

 

 

ニグ「いや、飯は俺達が作るから」

 

サブ「お客さんはゆっくりと座っててください」

 

 

 

リーフ「はあ…」

 

そんな二人の必死さにリーフは首を傾げていた。

 

 

 

 

 

 

その頃、朝一番で遠藤平和科学研究所に入れた豪は、未だにリーフが帰ってきていないということを聞き、ランとともに村沢博物館へと向かっていた。

 

 

豪「一晩中連絡がないなんて、絶対何かあったんだ。なんの手がかりもないけどまずここから探してみないと。 でもダイーダ姉ちゃんはどうしたんだよ?」

 

ラン「リーフさんがどうにかなってればわかるっていうのよ。なんの返事もないなら無事な証拠だって。 かなり心配そうな口調でそう言ってたわ」

 

 

豪「しゃあねぇ。とにかく行くぞ」

 

 

 

第15話 終

 



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第16話 「リーフとシーフ (後編)」

 

 

 

村沢博物館

 

 

 

リーフはニグやサブとともに清掃員の制服を着て、村沢博物館の中にいた。

 

リーフ「これから、このビルのお掃除ですか?」

 

ニグ「まぁ、そんなとこだ。おいサブ、鍵は開いたか?」

 

鍵をいじっていたサブにそう問いかけたが、

 

 

サブ「ダメだ兄貴、電子ロックになってるよ。あのイベントの前までは普通の鍵だったのに」

 

予定外のことにサブは泣き言を言っていた。

 

ニグ「情けない声出すなっての、なんとか開けるんだよ!!」

 

 

 

リーフ「え〜っと、このドアを開ければいいんですね」

 

未だに状況がよく理解できないまま、リーフはドアに手を当て、ハイパーリンク機能を使っていとも簡単にドアのロックを解除した。

 

リーフ「さぁ、開きましたよ」

 

 

 

その光景に、ニグとサブはますますリーフに対する疑念を深め、ひそひそと話し合った。

 

ニグ(こいつ一体なんなんだ?)

 

サブ(魔法少女ってやつだったりして)

 

 

 

そのまま三人は屋上に向かい、窓拭き用のゴンドラを使ってダイヤの展示されている部屋の前の窓まで降りていった。

 

 

ニグ「よし、後はここで夜を待って…と」

 

サブ「もうすぐっすね」

 

自分達の未来に胸躍らせながら、ダンやの展示場への扉を見つめていたニグとサブに、リーフが不思議そうに尋ねた。

 

リーフ「お仕事しないんですか? ほら、この窓汚れてますよ」

 

 

そんなリーフにうるさそうに顔をしかめながらニグは言い放った。

 

ニグ「んなもんどうでもいいんだよ。博物館が閉まるまでここにいるのが仕事なんだよ」

 

 

リーフ「閉まってからお掃除するんですか?」

 

 

サブ「ばーか、違うよ。博物館が閉館したらセンサーが働く前に忍び込んでダイヤをいただくのさ」

 

 

その言葉に、リーフは目をパチパチとさせながら聞いた。

 

 

リーフ「あのう、もしかするとそれはドロボウというやつじゃないんですか?」

 

ニグ「そうだよ。今更何言ってやがる」

 

 

その言葉にリーフの顔つきが変わった。

 

リーフ「ダメです! あなた達みたいないい人がそんなことをしちゃいけません!!」

 

 

サブ「いい人か… いいか、そんな人はいやしねぇのさ」

 

ニグ「俺達だって昔は真面目に働きゃ必ずいいことがあるって思ってたさ。でも、結局世の中でいい目見てるのはずる賢くて要領のいいやつなのさ。だったら俺達だってそんな風に生きなきゃ損じゃないかよ」

 

二人は以前の猿芝居とは打って変わった実感のこもった言葉で、思いの丈を訴えるように告げた。

 

 

 

しかし、その言葉にリーフは真剣な顔で真っ向から反論した。

 

リーフ「違います!! そんなことはありません!! ちょっとそこに座りなさい!!」

 

 

その勢いに、ニグとサブは気圧されてしまい思わずゴンドラ内に正座してしまった。

 

 

リーフ「いいですか? 努力すれば必ず報われるとは言いません。ですが、世の中にはなんの見返りも求めず、みんなのために自分のできることを精一杯頑張って戦っている人だっているんです。あなた達はその人達に面と向かって向き合えますか? 自分のしていることに、堂々と胸を張れますか?」

 

 

ニグとサブはその言葉を聞いて考え込んでしまった。

 

サブ「なんですかね、すっげぇ説得力ありますね」

 

ニグ「言われなくてもわかってんだよ、そんなことは…」

 

 

そんな二人を見てリーフは土下座して言い放った。

 

リーフ「お願いします。自分でいけないと思っていることだけはしないでください」

 

 

ニグ・サブ「「………」」

 

そんなリーフにニグとサブは何も言えなくなってしまった。

 

 

しかし、次の瞬間そんな静寂を破るかのように、爆発音が響き博物館を大きな振動が襲った。

 

 

 

ニグ「な、なんだ? 一体?」

 

リーフ「!! これは!!」

 

 

 

 

 

 

十数分前

 

 

博物館の入り口で豪とランが河内警部を相手に押し問答をしていた。

 

豪「なんで入れてくれないんだよ!! 俺達リーフ姉ちゃんを探しにきただけだってのに!!」

 

河内「うまいこと言いおって。あのジジイに何をしてくるように頼まれた、え?」

 

 

まったく遠藤博士を信用していない河内警部は、豪の言葉すら信じようとしなかった。

 

 

ラン「一体どういう理由でそんな言いがかりをつけるのよ!! 一度しっかり説明してほしいわ!!」

 

そんな河内警部にランは日頃から思っていた不満を口にした。

 

 

河内警部「ふん、全ては俺の長年の勘だ。あのジジイは何か後ろ暗いことがあると告げている。そして、誰かがここのダイヤを狙っとるともな」

 

 

自信満々にそう言い放った河内警部だったが、それを聞いたランと豪は呆れ顔だった。

 

 

豪「なんだよそれ。ただの当てずっぽうじゃん」

 

ラン「まったくだわ、非常識もいいところよ。掲示板にでも書き込んでやろうかしら、勝手な思い込みで無実の人を陥れようとしている無能な警部がいるって。実名入りで」

 

 

河内「ガキにはわからんことだ。名警部の経験を馬鹿にするといつか痛い目に…」

 

 

そう言おうとした次の瞬間、展示場の中で爆発音が響き、その振動で博物館が揺れた。

 

 

 

 

ラン「え? な、何よこれ?」

 

豪「まさか!!」

 

 

河内「くそっ、何が起きた。ええい、まずは館内の人間の安全を確認して、避難させろ!!」

 

その揺れによろめきながらも、展示場に駆け込みながら河内警部は部下にそう下知した。

 

 

そして豪とラン、それに続いて駆け込んで行った。

 

 

 

 

 

 

展示場

 

 

 

 

展示場に飛び込んだ河内警部はその光景に思わず絶句した。

 

 

展示場の壁はブチ抜かれて大きな穴が空いており、もうもうとした埃が立ち込め炎が燃え広がる中、多数のマイナーを引き連れたゴーロがいたからである。

 

 

 

河内「なっ、貴様は以前国会に乱入した賊!! ここに何の用だ!!」

 

ゴーロ「けっ、知れたこと。世界最大のダイヤをいただきに来たのよ」

 

 

河内「なんだと!? ふざけるな、この俺の目の黒い内はそんなことはさせんぞ!!」

 

 

河内警部は一切の物おじもせずにそう言い放つと、ゴーロを取り押さえんと飛びかかっていった。

 

 

ゴーロ「馬鹿が、ただの人間のくせに!!」

 

しかし、やはりというべきかなんというべきか、生身の人間の力でゴーロに敵うはずもなく、ゴーロの繰り出した重い一撃を受けて、河内警部は大きく吹き飛ばされ倒れ伏してしまった。

 

 

ラン「ああっ!!」

 

豪「河内警部!!」

 

 

 

 

一方、ニグとサブもこの状況にこれ幸いとばかりに展示場へ向かおうとしていたが、火の勢いの前に躊躇していた。

 

 

サブ「アニキ、火が強すぎるよ。これじゃダイヤのところに行けないよ」

 

そう泣き言をいったサブをニグは一喝した。

 

ニグ「馬鹿野郎!! このチャンスを逃したら、俺たちゃ一生負け組だぞ。そうなりゃあのおんぼろアパートで野垂れ死だ。それでもいいのかよ」

 

 

その言葉にサブは即座に返した。

 

サブ「やだ!! それだけは絶対ヤダ!!」

 

 

 

ニグ「なら行くぞ!!」

 

サブ「はい、こんな火がなんだ!!」

 

 

覚悟を決めると、二人もまた火の燃え広がる展示場へと飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

ゴーロ「へっ、行きがけの駄賃だ。てめぇらを殺してやるか」

 

ニヤリと笑い、指を鳴らしながらそう告げたゴーロだったが、そこに凛とした声が響いた。

 

 

リーフ「待ちなさい!! そんなことはさせないよ!!」

 

 

ラン「リーフさん!!」

 

豪「よかった、無事だったんだ」

 

リーフの姿を見た豪とランは、さまざまな形で安堵していた。

 

 

ゴーロ「けっ毎度毎度邪魔ばかりしやがって」

 

リーフ「それはこっちのセリフよ」

 

吐き捨てたゴーロに対して、リーフもまたそう告げると単身立ち向かっていった。

 

 

 

リーフ「ヤァアアア!!」

 

そんなリーフに対して四方八方からマイナーが襲いかかったが、いくら数がいようとも所詮は雑兵。

 

リーフの前に手も足も出ず、大半のマイナーは一撃で倒されていた。

 

 

 

 

 

 

展示場になんとか潜り込んだニグとサブだったが、リーフがマイナーと戦っているのを物陰から見て、事態が飲み込めないでいた。

 

 

サブ「なんか変なことになってますね」

 

ニグ「ああ、でもあの子めちゃくちゃ強いな」

 

 

そんなことを呟いていると、ゴーロの下劣な声が響いた。

 

 

ゴーロ「リーフ、おとなしくしてもらおうか。こいつらがどうなってもいいのか?」

 

 

ゴーロはランと豪を捕まえており、いやらしく笑いながらそう告げた。

 

 

豪「リーフ姉ちゃん…」

 

ラン「ごめんなさい…」

 

 

 

リーフ「うっ…、くっ…」

 

 

豪とランが人質に取られてしまった以上どうすることもできず、リーフは歯噛みをしながら構えを解いた。

 

その瞬間、リーフは残っていたマイナーに後ろから羽交い締めにされてしまった。

 

 

ゴーロ「今まで世話になった礼はしてやる。たっぷり味わえ!!」

 

その下劣な叫びとともに、リーフは羽交い締めにされたまま、マイナー達に何発も腹や顔を殴られた。

 

その凄惨な光景にランは思わず目を覆い、豪は自分の無力さに悔し涙を流していた。

 

 

 

 

 

 

 

サブ「あいつら女の子になんてことを…!」

 

ニグ「きったねえことしやがる!!」

 

 

目の前の光景に憤っていると、ふと先ほどのリーフの言葉が思い起こされた。

 

 

リーフ(あなた達は自分のしていることに、堂々と胸を張れますか?)

 

 

 

ニグ「ええい、くそったれ!!」

 

サブ「チキショー! どうにでもなれ!!」

 

半ばヤケクソとでも言うように二人はゴーロへと背後から突進していった。

 

 

 

ゴーロ「うおっ!?」

 

全く予想していなかった方向からの体当たりを受けて、さしものゴーロも体勢を崩してしまった。

 

 

その一瞬の隙にニグとサブは、人質となっていた豪とランの腕を思いっきり引っ張った。

 

 

サブ「葉っぱちゃん。今だよ!!」

 

ニグ「遠慮すんな! 思いっきりやれ!!」

 

 

その声にリーフは勇気付けられるとともに、自分を羽交い締めにしていたマイナーを振りほどき、蹴り飛ばした。

 

 

リーフ「ありがとう! 助かったよ!!」

 

 

サブ「いいってことよ。ほら逃げるぞ!!」

 

ニグ「あんたもしっかりしろ! 立てるか?」

 

河内「お、おお… ありがとう…」

 

 

リーフのお礼の声に、サブは照れながらも豪達を避難させ、ニグは倒れていた河内警部に肩を貸していた。

 

 

 

 

 

ゴーロ「こんのー! 人間ごときが!!」

 

コケにされたと感じたゴーロは、怒りのままにニグ達に襲いかかろうとしたが

 

 

リーフ「させるもんか!!」

 

そんなゴーロに向かってリーフがマイナーを投げつけたため、ニグ達を取り逃がしてしまった。

 

 

 

ゴーロ「くそったれが! ええいまあいい、ダイヤは貰って行くぞ!!」

 

悔しそうに顔を歪めながらも、本来の目的である真紅のダイヤを手に壁の穴から飛び降りていった。

 

 

リーフ「待ちなさい、ドロボー!!」

 

そんなゴーロを逃すまいと、リーフもまた後を追って飛び降りた。

 

 

 

 

 

 

サブ「はあはあ。なんとか無事に逃げられたっすね」

 

ニグ「ああ、なんとかな」

 

 

どうにか無事に博物館から脱出できた面々は息を整えていた。

 

 

河内「いやあ、ありがとう助かったよ。君達は清掃の人達かね?」

 

サブ「え、ええ。まあ…」

 

 

豪「おかげで助かったよ」

 

ラン「ありがとうございます」

 

ニグ「あ、あんまり褒めるんじゃねぇよ」

 

 

口々にお礼を言われ、多少罰が悪そうにニグとサブは頬を掻いていた。

 

 

 

するとそこに地響きとともに、背中にレーザー砲を背負った巨大な亀のような怪物が出現した。

 

 

ニグ「なんだ、なんだ!?」

 

サブ「今度は化け物かよ!!」

 

 

 

ゴーロ「へっへっへっ、このダイヤを取り付ければ世界最強のレーザー砲が完成する…と」

 

 

その亀型怪物に飛び乗ったゴーロは、背中のレーザー砲の先端に真紅のダイヤを取り付けた。

 

リーフ「こらーっ!! ダイヤを返しなさい!!」

 

同じように亀の背中に飛び乗ったリーフだったが

 

 

ゴーロ「うるせぇ!!」

 

リーフ「キャアアア!!」

 

ゴーロの一撃で叩き落とされてしまった。

 

 

ゴーロ「へっ、ざまあみろ。さぁて確かめてやるか、地上最強のレーザー砲の威力をな。 やれ、メイジャー!!」

 

 

ゴーロがそう命令すると、巨大亀は雄叫びを一つ上げると背中のレーザー砲にエネルギーを集中させ始めた。

 

 

リーフ「えっ? 何? このエネルギー量は…」

 

 

リーフが驚いた次の瞬間、巨大亀の背中のレーザーは発射され、近くのビルを一撃で射抜き、倒壊させてしまった。

 

 

豪「げげっ!!」

 

ラン「うそ…」

 

 

 

ニグ「じょ、冗談じゃねぇぞ!!」

 

サブ「あんなんをまた撃たれたら…」

 

河内「くっ、もっと遠くに逃げるんだ!! 皆さんも早く避難してください!!」

 

 

そのレーザーの威力に驚きつつも、逃げる以外に術のないと判断した河内警部はそう指示し、周辺の避難誘導にも当たった。

 

その隙にこれ幸いとばかりに、豪とランも離れていき遠藤平和科学研究所に電話を入れた。

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

マイナスエネルギー検知器がけたたましく鳴り響く中、遠藤博士とダイーダは状況の把握に勤めていた。

 

 

遠藤「村沢博物館で火災か…、それだけにしてはこの検知器の反応度合いは異常じゃ」

 

 

ダイーダ「おそらく、その火災を引き起こしたのが連中なんですよ。豪とランも行ってるし、至急向かいます。リーフ行くわよ……って、ああそうか」

 

 

いつもの調子でリーフに呼びかけてしまったダイーダは舌打ちをしそうな顔をしていた。

 

 

そんな時、遠藤博士の携帯が鳴った。

 

遠藤「おお豪、大丈夫だったか… 何!! 地上最強のレーザー砲!? わかったすぐダイーダとそちらに向かう!!」

 

 

豪からの連絡を聞いた遠藤博士は直ちにダイーダに指示した。

 

 

遠藤「ダイーダ、わしはガレージに行って車の用意をしてくるから、お主は至急用意してほしい物がある。対レーザー砲の特性シールドを作る材料じゃ」

 

ダイーダ「はい、何がいるんですか?」

 

遠藤「うむ、まずは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リーフ「くっ、これじゃ被害がどんどん広がっていく!!」

 

 

なんとかして亀怪物の侵攻を止めようと孤軍奮闘していたリーフだったが、大苦戦をしていた。

 

乱射されるレーザーは発射される直前に射線を読んでかわすしかなく、なんとか近づけても亀怪物のパワーに跳ね飛ばされる。

 

そんなことの繰り返しであった。

 

 

 

リーフ「えぇい、チェンジハンド・タイプブルー!! エレキ光線発射!!」

 

両腕を稲妻模様の走った青い腕に換装し、エレキ光線を発射したが、亀怪物は思ったよりもタフであり、動きを封じることができなかった。

 

 

ゴーロ「へっ、何度も同じ手が通用するか! やれ!!」

 

 

亀怪物の背中に乗ったゴーロがそう命令すると、亀怪物は口からヘドロのような黒い塊を吐き出した。

 

その塊は地面にぶつかると大爆発を起こし、その爆発に巻き込まれたリーフはたまらず吹き飛んだ。

 

 

リーフ「ウワアアアア!!」

 

 

ダメージを受けてなかなか立ち上がれないリーフを見て、ゴーロはニヤリと笑った。

 

 

ゴーロ「へっ止めだ。積年の恨み思い知れ!!」

 

すると亀怪物はリーフにレーザー砲の照準を定めると、今までより大量のエネルギーをチャージし始めた。

 

 

リーフ「くっ…」

 

覚悟を決めたリーフに向かってレーザー砲が発射された瞬間、そんなリーフをかばうように何かが飛び込んできた。

 

 

すると、発射されたレーザーは反射され逆に自身の砲身を破壊し、大爆発を起こした。

 

 

当然、亀怪物はその爆発で甲羅の一部が割れてしまい、そばにいたゴーロも一緒に吹き飛んでしまった。

 

 

 

 

そんな中、自身をかばってくれた存在を見て、リーフは嬉しそうな顔をした。

 

リーフ「ダイーダちゃん!!」

 

ダイーダ「リーフ、大丈夫そうね?」

 

 

 

 

 

 

 

豪「じいちゃん、今の何? レーザーを簡単に跳ね返すなんて」

 

ビルを一撃で倒壊させたレーザーをあっさり跳ね返したダイーダの盾を見て、豪は目を丸くして、到着した遠藤博士に尋ねた。

 

 

遠藤「なーに、そんな大層なもんじゃない。風呂場の鏡に耐熱フィルムを貼っただけじゃ」

 

ラン「そ、そんなのでレーザーって防げるの?」

 

ことも無げにあまりにもくだらない種明かしをした遠藤博士に、ランもまた驚きの声を上げた。

 

 

遠藤「まあ、一発ぐらいならあれで十分じゃ。そもそもレーザー砲などというものが未だにまともに世界の軍や自衛隊に配備されん理由の一つは、エネルギーの効率等に加えてこの程度のことで無効化できるからじゃ」

 

 

 

地面に叩きつけられたゴーロだったが、たまたま近くに転がってきた真紅のダイヤが目に入り、それを奪い返そうとした。

 

 

ゴーロ「くそったれ、せめてそいつだけでも…」

 

 

リーフ「させるもんか、エレキ光線発射!!」

 

 

しかし、そんなゴーロに向かってリーフはエレキ光線を発射した。

 

 

ゴーロ「グオオオッ!!」

 

 

爆発のダメージに加えて、高圧電流を浴びたゴーロは完全にグロッキーになってしまい、身動き一つ取れなかった。

 

 

リーフ「このダイヤは返してもらうよ。ゴーロ、今日こそ終わりだよ!!」

 

 

ダイヤを拾い上げそう告げたリーフだったが、次の瞬間黒い靄のようなものが立ち込めゴーロの姿を覆い隠してしまった。

 

 

ダイーダ「えっ? 何?」

 

その靄は二人のセンサーでも中を透視することができず、やむなく靄の中に飛び込むも、そこにはゴーロの姿はなかった。

 

 

リーフ「消えた!? 一体どこに?」

 

 

姿を消したゴーロに戸惑っていると、突如爆発音が響いた。

 

 

その音に驚き振り返ると、傷付いた亀怪物が苦しみもだえながら、ビルや自動車を破壊して回っていた。

 

 

ダイーダ「いけない!! あっちが先決ね」

 

リーフ「うん!! 行くよダイーダちゃん!!」

 

 

二人は力強く頷きあい、トンボを切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

リーフ・ダイーダ「「ゴー!!」」

 

 

その掛け声とともに二人の体は光に包まれ、着地した時には変身完了し、赤と白のドレスに身を包み、髪型も大きくボリュームが変わっていた。

 

 

 

リリーフ「闇を吹き消す光の使者 キュア・リリーフ!!」

 

ダイダー「悪を蹴散らす光の使者 キュア・ダイダー!!」

 

 

リリーフ・ダイダー「「ピンチ一発、大逆転! コズミックプリキュア!!」」

 

 

 

 

 

 

 

ダイダー「まずいわね、受けた怪我の痛みもあって錯乱してるわ」

 

無差別に暴れまくっている亀怪物を見て、ダイダーはそう分析した。

 

 

リリーフ「早くマイナスエネルギーを浄化してあげないと… ダイーダちゃん、お願い!!」

 

 

ダイダー「オッケー、いつでもいいわよ!」

 

 

 

ダイダーの返事にリリーフは大きく振りかぶり、虹色の玉を手に輝かせ始めた。

 

 

 

リリーフ「よ〜し、お願いね!!」

 

そしてそのまま、その虹色の玉をダイダーに向けて亜音速で投げつけた。

 

 

ダイダー「任せなさい!! ダァリャア!!」

 

 

ダイダーはそれに威勢良く答えると、リリーフの投げてきた玉を、取り出した光のスティックで打ち返した。

 

打ち返された虹色の玉はひとまわり大きくなり、亀怪物に直撃すると全体を包み込んだ。

 

リリーフ・ダイダー「「プリキュア・レインボー・ツインバスター!!」」

 

 

そう二人が叫ぶと、亀怪物を包み込んだ光は目も眩まんばかりに激しく輝き始めた。

 

 

 

リリーフ・ダイダー「「ゲームセット!!」」

 

 

そのかけ声とともに、亀怪物は一際大きな爆発を起こし、その後には甲羅の割れた亀が一匹転がっていた。

 

 

 

ダイダー「傷だらけだけど、命に別状はなさそうね」

 

リリーフ「よかった、すぐに手当てしてあげるからね。 おっと、このダイヤも返さないと…」

 

 

慌てて亀のところに駆け寄った二人は、大怪我をしているものの特段命に別状のない亀の様子を見て心底ホッとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

サブ「あーあ、結局無駄骨でしたね」

 

騒ぎは一段落し、無事に真紅のダイヤも戻ってきたものの、博物館の状況が展示会の続行を行うどころではなくなってしまっていた。

 

 

結局何一つ得られるもののなかったため、サブはそう愚痴ったが、どこか晴れ晴れとしたような感じだった。

 

 

 

ニグ「ばーか、俺がタダで転ぶと思うか? 見ろこれを」

 

そうやってニヤリと笑いながら開いた手の中には、小さな宝石が一つあった。

 

 

サブ「アニキ、これは?」

 

ニグ「あの会場から逃げる時、どさくさ紛れに一つ頂戴したのよ。あの騒ぎなら一個ぐらいなくなってもわかりゃしねぇと思ってな」

 

 

サブ「さっすがアニキだ! これでしばらくはラーメンに卵ぐらい入れれますね」

 

ニグ「おう、焼き豚だって乗せられるぜ」

 

 

そんな風にみみっちくも明るい未来を夢想していた二人に話しかけるものがいた。

 

 

河内「おう君達、探したぞ!!」

 

 

ニグ「げっ!!」

 

サブ「刑事さん…」

 

 

河内「いやあ、俺たちが助かったのも君達のおかげだ。君らは今時には珍しい立派な若者だ。本当にありがとう」

 

 

ニグの両手を握り、心から感謝を述べた河内警部だったが、ニグの顔は真っ青になった。

 

 

河内「ん? なんだ、瓦礫の欠片か何かか…」

 

 

ふと、手のひらに何か小石のようなものの感触を感じた河内警部は小首を傾げながら手を開いた。

 

 

サブ「やば…」

 

ニグ「に、逃げるぞ…」

 

 

恐る恐る距離を取り始めたニグとサブだったが、十分離れる前に河内警部が先に気がついた。

 

河内「あっ!! これは展示してあった宝石!! お前ら!!」

 

 

 

 

次の瞬間、脱兎のごとく駆け出したニグ達と河内警部の追いかけっこが始まった。

 

サブ「やっぱ、悪いことってできないもんなんですね」

 

ニグ「ちくしょー!! やっぱ真面目に働くか!!」

 

 

河内「こら待てー!! 火事場泥棒!!」

 

 

 

 

 

 

 

一方、遠藤博士の車で帰路についた一同はリーフの話を聞いて、驚きつつも呆れていた。

 

 

遠藤「なんとなんと。泥棒の片棒を担ぐところだったとわな。しかし何事もなくて何よりじゃ」

 

ダイーダ「まったく、あんたはボーッとしすぎなのよ。もうちょっと神経を使いなさい」

 

 

 

リーフ「ごめんなさーい。でも、わたし、この世界の人のことがもっと好きになったよ。もっといろんな人と触れ合ってみたいな」

 

 

リーフは謝りつつも、微笑みながらそう言った。

 

 

 

 

第16話 終

 



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第17話 「僕はスーパーマン (前編)」

 

 

ダイーダ「ハァァァ!!」

 

リーフ「ヤァァァ!!」

 

 

リーフとダイーダは、朝早くから突如マイナーを引き連れ市内の銀行を襲撃したファルと戦っていた。

 

 

ファル「ちっ、いつもいつも邪魔をしやがって。鬱陶しいんだよてめぇらは!!」

 

ダイーダ「そう思うんなら、いい加減観念なさい! 少なくとも今ならまだ消滅刑にだけはならないでしょうからね」

 

鬱陶しそうにそう吐き捨てたファルに、ダイーダもまた鬱陶しそうに返した。

 

ファル「冗談じゃねぇ、半永久的に拘束されるなんざゴメンだ」

 

 

ファル(しかしこいつら、一体どうやってこっちの情報を手に入れてやがる。それにこいつらのボディを作ったやつは誰だ…)

 

 

 

そんなことを考えている間にマイナーは全滅してしまった。

 

ファル「ちっ、不甲斐ない」

 

舌打ちをしつつもなんとかして逃走をしようと考えを巡らせていたファルだったが、そもそもが二対一。

 

退路もふさがれており、力押しで逃走できる状況でもなかった。

 

 

ファル(くそ、そもそもフライの奴がくだらんものを作っては失敗をするからこうなる。何が研究資金を調達するための作戦だ)

 

心の中で幾度となくDr.フライを八つ裂きにしながら、周囲を見回していた。

 

 

するとたまたま小さなハエが視界に入り、これ幸いとばかりに黒いダイヤのような結晶を取り出した。

 

 

ダイーダ「!! させない!!」

 

それに気づいたリーフは、ファルが結晶を投げる前に飛びかかり結晶をはたき落した。

 

 

ダイーダ「こんなもので、命をもて遊ばせたりしないわ!!」

 

叩き落とした結晶を遠くに蹴り飛ばすと、ダイーダはファルを険しい目で睨みつけた。

 

 

ファル「く、くそ…」

 

最後の切り札を失ってしまったファルにもはや打つ手はなく、悔しそうに歯噛みをしていたが、突如として黒い靄が彼を包み込んだ。

 

 

 

リーフ「これって?」

 

ダイーダ「こないだの?」

 

 

ファル「このマイナスエネルギーは… パーフェクト様、ありがとうございます」

 

 

そして靄が吸い込まれるように消えていった後には、ファルの姿は影も形もなかった。

 

 

リーフ「逃げられちゃった…」

 

ダイーダ「仕方ないわ、とりあえず被害が出なかっただけよしとしましょう」

 

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

遠藤「うむ二人とも朝からご苦労じゃったな。ニュースでも見たぞ、被害が出なくて何よりじゃ」

 

 

満足そうに頷く遠藤博士に、リーフもまた笑顔で答えた。

 

 

リーフ「はい、ファルを逃したのは残念でしたけど、あいつらに命がもて遊ばれずに済んで本当によかったです」

 

 

そんな中、ランがふと疑問に思ったことを口にした。

 

ラン「でも、あいつら生き物を怪物にできるんでしょ。どうして銀行の人を怪物にしようとしなかったのかしら?」

 

 

ダイーダ「ああ、あいつらはマイナスエネルギーをとりつかせて怪物にしてるんだけど、知能の高い生き物ほど制御しにくくなるのよ。特に人間にとりつかせても下手をしたら理性を保ったままになるから、自分達が逆に襲われかねないの。 だからよ」

 

 

ラン「そうなんだ、じゃあ人が怪物にさせられることだけはなさそうね」

 

ダイーダの話を聞いて、ホッとしたようにランが呟いた。

 

 

遠藤「そういえばダイーダ。おぬしが蹴り飛ばしたあの結晶は回収せんで大丈夫か?」

 

 

ダイーダ「ああ。あれなら蹴り飛ばした時にプラスエネルギーを注ぎ込でたし、基本的にプラスエネルギーが強いこの世界なら、しばらくすれば溶けて無くなりますよ。あいつらが持ってるからずっと結晶になってるんです」

 

 

遠藤「ふむ、ならば一件落着じゃな。 では皆で豪の応援に行ってやるとするか」

 

リーフ「そうだね、豪くん頑張ってるかな」

 

 

 

 

豪は遠藤平和科学研究所に入り浸っている印象が強いが、実はせいぜい二日に一回といったレベルである。

 

それ以外にも地元のサッカークラブに所属しており、持ち前の運動神経もあってレギュラーとして活躍していた。

 

 

そして今日は隣町のチームとの試合なのである。

 

 

 

 

 

 

 

試合場 観客席

 

 

 

 

ラン「豪!! 頑張りなさいよ!!」

 

普段は豪に厳しいランだが、さすがに今日ばかりは心から応援していた。

 

 

そんなランを見て、同じく応援に来ていた豪の母も嬉しそうに話しかけてきた。

 

 

豪母「ランちゃん、来てくれてありがとう。あなたも大変でしょう、兄さん達が海外に行ってるから、お父さんの世話を押し付けられて」

 

ラン「いえ、もう慣れましたから…」

 

 

心底心配そうな叔母に対して、ランは苦笑しつつそう言った。

 

 

遠藤「こりゃ翔子。それが親に対する言葉か」

 

豪母「何言ってるんですか、ろくに働きもしないで変な研究ばっかりして。学生時代、私と兄さんが周りからどんな目で見られたか知ってるでしょう」

 

そう言い放つと、豪の母 翔子はジロリと父親である遠藤博士を睨んだ。

 

 

リーフ「まあまあ、遠藤博士は立派な人ですよ。世界平和のことを真剣に考えておられるんですから」

 

そう言って割って入ったリーフだったが、逆効果だった。

 

 

豪母「家庭内の問題に割って入らないでください。それにあなたもあなたです。学校にも通ってないようですけど、お父さんみたいな人の所にいたら、ろくな人になれませんよ」

 

 

ダイーダ「ふーむ、これが価値観の相違ってやつね。割と興味深いわね…」

 

ラン「冷静な解説しないで…」

 

 

 

 

そんな会話をしている中、ゴールポストに弾かれたボールがランの方へ向けて一直線に飛んできた。

 

ダイーダ「!! 危ない!」

 

ランをかばうように飛び出しボールを蹴り返したダイーダだったが、とっさのことに手加減ができなかった。

 

ダイーダのパワーで蹴り返されたサッカーボールは凄まじい速度で飛んでいき、ゴールネットをあっさり突き破った挙句、その先に生えていた木にめり込んでしまった。

 

選手や観客が唖然とする中、遠藤博士とランはリーフとダイーダの手を引いて慌てて逃げ出していった。

 

豪母「なんなの…あの子…」

 

 

 

その光景をビッチで見ていた豪もぽつりと呟いた。

 

豪「姉ちゃんのバカ…」

 

 

 

 

 

 

 

そうこうしている間にも試合は一進一退で進んでいき、一対一の同点。

 

残り時間もあと数分という所だが、豪のチームのメンバーが一人負傷してしまった。

 

 

 

さすがにバツが悪いため、離れた所から観戦していた遠藤博士達だったが、豪のチームのピンチに気を揉んでいた。

 

遠藤「おや、これじゃメンバーが足りなくなるんじゃないのか?」

 

ラン「ううん、あと一人補欠の子がいたはずよ。 あ、ほら出てきた」

 

 

 

最後のメンバーとしてベンチから出てきたのは、まだまだ素人といったような空気をまとった少年だった。

 

豪「おい、健太。あんまり緊張すんなよ」

 

 

ガチガチに固まっており、まともに動けそうにないその少年の緊張をほぐそうと、豪がそう明るく話しかけた。

 

健太「う、うん。でも万年補欠だって言われてる僕が試合に出ていいのかな?」

 

豪「大丈夫だって、お前あんなに頑張って練習してたじゃん。がんばろうぜ」

 

 

 

 

そうして試合は再開され、健太は必死にボールに食らいつこうと頑張っていた。

 

ドリブルをしている相手選手を、息を切らせながらも必死に追いかけていたが、あとちょっとで追いつくという所で足がもつれて転んでしまった。

 

しかも、その拍子に相手選手を巻き込んで倒してしまった。

 

 

審判「ファール!! ペナルティーキック」

 

 

豪「あっちゃー…」

 

 

結局これが決勝点となり豪のチームは敗北してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

試合後、チームのメンバーは健太のドジを罵っていた。

 

「ったく、万年補欠が出しゃばろうとするから…」

 

「あれならラストは10人で試合した方がよかったよ」

 

 

 

豪「おい、そんな言い方…」

 

健太「いいよ速田くん。僕のせいで負けたのは事実だもん…」

 

 

そうは言うものの、健太の表情は傍目にもわかる暗いものだった。

 

 

 

 

 

翌日

 

 

 

ダイーダ「よし、買い漏らしなしっと」

 

ランから、隣町のショッピングモールで安売りがあるが自分は用があって行けないからと、お使いを頼まれたダイーダは一人帰り道を歩いていた。

 

 

ダイーダ「まったくランは心配性なんだから、私はリーフみたいなドジはしないってのに」

 

 

ダイーダはそうぼやくものの、ランにしてみれば五十歩百歩であり、幼稚園の子供に渡すかのようなお使いメモがいい証拠であった。

 

 

そうして堤防を歩いていると、ガード下で一人サッカーボールを蹴っている少年が目に入った。

 

 

ダイーダ「あら、あの子一人でやってるのかしら? 確かもっといないとサッカーはできないはず…」

 

コート内で一人練習している少年が目に入ったダイーダは、そう疑問に感じ、その少年に近寄って行った。

 

 

 

 

健太「はあはあ、くっそ… もう一度…」

 

 

その一人練習をしていた少年は、昨日の試合での戦犯になってしまった健太であった。

 

もともとあまり体力がある方でもないため、全身汗だくの上、肩で大きく息をしていた。

 

 

ダイーダ「あなた一人でサッカーしてるの? いったいどうして?」

 

突然話しかけられたことに驚いて振り向くと、そこにはメガネをかけたポニーテールの少女がいた。

 

健太「えっと、あなたは…」

 

 

ダイーダ「ああ、初めまして…だったわね。私、速田ダイーダっていうの」

 

 

健太「速田って… ああ、速田 豪くんのお姉さんですか?」

 

ダイーダ「まぁそんなところよ。それよりあなた、昨日の豪の試合に出てた子よね。ここで一人で練習してるの?」

 

 

 

健太「はい、昨日の試合は僕のせいで負けちゃったから… ずっと万年補欠なんて言われてて… 昨日初めて試合に出られたのにあんな様じゃカッコ悪いから。もし次があったら今度こそ活躍できるように練習してるんです」

 

 

それを聞いたダイーダは嬉しそうに言った。

 

ダイーダ「へぇーっ、そうなんだ。偉いわね」

 

 

ダイーダもリーフも、レスキュー時において好印象を与えられるよう、世間の基準ではかなりの美少女にはいる部類の顔立ちに作ってある。

 

そんな美少女に褒められた健太は少し照れながらも悪い気がしなかった。

 

 

健太「い、いえ、それほどでも… でもあんまりサッカーばっかりやってられないんです。僕頭もあんまりよくないから、勉強もしないといけなくて… これから塾に行かなくちゃいけないんです」

 

 

ダイーダ「そっか… でも頑張りなさいね」

 

健太「えっ?」

 

ダイーダ「が・ん・ば・り・な・さ・い。諦めずに目標に向かって努力することはいいことよ」

 

健太「あっ、はい!! 頑張ります」

 

 

 

ダイーダ「ふふっ、そうだ。これ飲みなさい、あなたかなり体内の水分を消耗しているわ。この飲料なら血中濃度が下がることもないから、体に負担も少ないわよ」

 

そう言って、ランに頼まれた買い物の中から、ペットボトルを取り出して健太に渡した。

 

 

健太「あ、ありがとうございます!!」

 

 

思わぬプレゼントに、健太は腰を直角に曲げてお礼を言った。

 

 

ダイーダ「ふふっ。それじゃあね」

 

 

そう言って微笑みながら去っていったダイーダの後ろ姿を見ながら、健太はポーッとしていた。

 

 

健太「いいなぁ、速田くん。あんな美人でやさしいお姉さんがいて… よーし、頑張るぞー!!」

 

 

 

ダイーダもまた、上機嫌で帰り道を歩いていた。

 

ダイーダ「気持ちのいい子に会えてよかったわ。ああやって頑張ってる人が増えるのはこの世界にとってもいいことだしね」

 

 

 

この後、研究所に帰ったダイーダとランとの間で一悶着あったことに関しては、どうでもいい余談であるので割愛する。

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに翌日 放課後

 

 

 

健太がトボトボと通学路を歩いていた。

 

あの後塾に行ったものの、サッカーの練習で疲れていたこともあって塾のテストは散々。

 

今度こそはと夜更かしして勉強したら、今度は寝坊して遅刻するし、授業中も居眠りをしてしまい先生に怒られてしまった。

 

 

健太「こんなに頑張ってるのに、どうしてうまくいかないんだろう。やっぱり僕ダメなやつなのかなぁ…」

 

 

誰よりも頑張っているはずなのに、何もかもがうまくいかない悪循環。健太の気分はどん底に近かった。

 

 

そうやってうつむきながら歩いているにもかかわらず、何かに躓いて転んでしまった。

 

 

健太「イテテ、もうやだよ…」

 

 

愚痴りながらなんとか起き上がると、手の中に小さな黒い石があることに気がついた。

 

 

健太「なんだろう、倒れた拍子に拾ったみたいだけど、ピカピカで綺麗だな…」

 

 

すると、その石は溶けるように黒い煙になっていき、健太はその煙を吸い込んでしまった。

 

健太「あれ… 急にめまい… が…」

 

そしてそのまま健太は気絶してしまった。

 

 

 

 

 

健太「う、う〜ん。僕どうしたんだっけ…」

 

数分後目を覚ました健太だったが、妙な違和感を感じた。

 

健太「どうしたんだろ、なんか体が軽いな…」

 

 

しかし、深く考える前にランドセルの携帯が鳴った。

 

 

健太「もしもし」

 

チームメイト『なにやってんだよ健太、今日の練習サボる気か』

 

 

電話を取ると、チームメイトの怒鳴り声が響いてきたため、慌てて健太は返事をした。

 

健太「わっ、ごめん。すぐに行くよ」

 

 

健太「大変だ、急がないと!」

 

 

走り出した健太だったが、信じられないような速度が出ていることに慌てていたため気がつかなかった。

 

 

 

 

サッカーコート

 

 

 

チームメイトA「健太のやつ遅いな〜」

 

チームメイトB「こないだの試合負けたのあいつのせいなんだから、今日はビシビシしごいてやろうと思ってるのに」

 

豪「おいおい、手加減はしてやれよ」

 

チームメイトC「わかってるって、やる気のない奴に無茶する気はないよ。できると思うからやるのさ」

 

 

 

先日、試合に負けた直後は皆で健太を吊るし上げもしたが、やはりチームメイト。

 

別にイジメがあるわけではないのであり、それがわかるから豪もあまりきつくは言わないのである。

 

 

健太「おーい、遅れてごめん」

 

そんな中健太の声が響き、そちらを振り返った瞬間全員仰天した。

 

 

 

 

「「か、怪物!!」」

 

 

 

 

みなが慌てふためく中、健太はキョトンとしていた。

 

 

健太「ちょっと、みんなどうしたの?」

 

腰を抜かしているチームメイトに近寄ってそう尋ねるも、

 

 

チームメイトD「ち、近寄るな!! あっち行け!!」

 

怯えてしまい、話にならなかった。

 

 

わけがわからず首を傾げていた健太に、一人のチームメイトが勇気を振り絞って尋ねた。

 

チームメイトE「お、お前なんなんだよ!?」

 

 

健太「何って… 健太だよ」

 

 

当たり前のような質問に、健太はごく当たり前のことを言うように答えた。

 

 

豪「お、おい。お前本当に健太か?」

 

健太「しつこいなぁ、いったいどうしたの?」

 

繰り返される質問に健太は半ばうんざりし始めていた。

 

 

そんな健太に、豪は携帯のカメラで撮った写真を見せた。

 

 

 

健太「えっ、な、何これ!?」

 

そこで初めて、健太は自分に起きている異変に気がついた。

 

そのカメラに映っていた自分の姿は、どこか愛嬌こそあるもののまさしく怪獣といったほうがいいような異常なものになっていた。

 

 

豪「それはこっちが聞きたいよ。いったい何がどうなってんだよ?」

 

健太「僕もわかんないよ! でも僕は健太だよ、信じてよ!!」

 

 

混乱しつつも必死にそう訴える健太に、チームメイト達は恐る恐る近づいていった。

 

 

チームメイトA「言われてみれば声は似てるな。よし、お前本当に健太なら答えてみろ。誕生日はいつだよ」

 

健太「6月17日だよ」

 

 

チームメイトB「じゃあ、昨日の塾のテストの問3の問題言ってみろ」

 

健太「ああ、それなら…」

 

 

その後、幾つか質問を繰り返した結果、チームメイト達はこの怪獣が健太だと言うことをなんとか納得した。

 

 

チームメイトC「うーん、お前本当に健太なんだな。でもお前これからどうするんだよ。 このままだと大騒ぎになっちゃうぜ」

 

チームメイトD「そうだよな、もうすぐコーチも来るし…」

 

チームメイトE「でも、こいつが健太ならほっとけないぜ。とりあえず着ぐるみとか言ってごまかそうぜ」

 

 

 

かなり苦しい言い訳とわかっていながらも、とりあえずそういうことにしたチームメイトは怪獣健太、通称ケンターを交えていつも通りの練習を始めた。

 

 

 

しかし、しばらく練習をするうちにみんなは目を丸くし始めた。

 

運動音痴という言葉がぴったり来るはずだった健太だが、怪獣になってしまった影響か、信じられない運動能力を持っていたのだ。

 

 

お世辞にも身軽とは言い難い体格にもかかわらず、目にも止まらないほど早く走れた。

 

さらに、ボールを蹴ればコートの端から端まで届き、しかもキーパーが反応できない速度でネットに突き刺さった。

 

 

チームメイトA「すげぇ…」

 

チームメイトB「あいつ本当に健太かよ…」

 

 

その活躍ぶりにみんなは感嘆の声を漏らしていた。

 

 

 

 

 

そうして夕方になり練習を終えたころ、チームメイトが一人愚痴った。

 

 

チームメイトC「あーあ、今日の宿題難しそうなんだよなぁ」

 

チームメイトD「ああ、おまけに量も多いしさ」

 

 

ケンター「ああ、そうだったね…」

 

ケンターもランドセルから宿題のドリルを取り出しなんとなく眺めていると、次々に答えが頭に浮かんできた。

 

 

ケンター「あれ? どうしたんだろ。問題を見ただけで答えがわかる」

 

チームメイトE「えっ? 本当かよ?」

 

 

せいぜい中の下といったレベルの成績だった健太の言葉に、みなが疑問を持つ中、ケンターは次々と問題を解いていき、わずか数十秒で宿題を終わらせてしまった。

 

 

ケンター「僕、頭まですごく良くなってるんだ! やったー!!」

 

その様子を見て、みなは羨ましそうな顔をしていた。

 

 

チームメイトA「いいなぁ、そうだ俺のもやってくれよ。そんなに早く終わるならいいだろ」

 

チームメイトB「あっ、ずるい俺も俺も」

 

 

次々と宿題を頼む仲間たちに、ケンターは上機嫌で答えた。

 

ケンター「いいよ。ただし、お菓子をくれたらね」

 

 

チームメイトC「ちぇっ、しっかりしてらぁ」

 

 

 

そんな明るい笑いの響く中、豪は一人険しい顔をしていた。

 

豪「やっぱ、ほっとけないよなぁ」

 

 

そして、ケンターの写真を遠藤平和科学研究所に送り一部始終を説明した。

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

豪からの連絡を受けた遠藤博士は驚きつつも、状況を冷静に判断しようとしていた。

 

遠藤「うーむ、少年が怪獣になるとわな… これはもしやDr.フライの仕業か…」

 

 

ダイーダ「いえ。もしかすると、こないだ私が蹴り飛ばしたマイナスエネルギーの結晶をその子が拾ったのかもしれないわね」

 

 

リーフ「ああ、あれかぁ。だったらダイーダちゃんのせいだね」

 

 

どこかのんきそうにそういう二人に対して、ランは焦っていた。

 

ラン「のんきなこと言ってる場合じゃないわよ! 早く元に戻してあげないと大変じゃない!!」

 

しかし、そんなランに対してダイーダはキョトンとした顔で尋ねた。

 

 

 

ダイーダ「どうして? 別にいいじゃない、放っておいても」

 

 

ラン「いいわけないじゃない!! 怪物になっちゃってるんでしょ!! なんとかしてあげないと…」

 

 

ダイーダ「なんとかって? さっきの豪の話聞いた限りだと、誰も迷惑してないじゃない。本人も満足してるみたいだし、それならそれでいいんじゃないの」

 

ラン「そんな… リーフさんも何か言って!!」

 

まるで興味のないというようなダイーダの態度に、ランはリーフに話を振ったが

 

 

リーフ「う〜ん。私もダイーダちゃんに賛成なんだよね。別になんの被害も出てないわけだし… マイナスエネルギーが必ずしも悪いってわけじゃないしね…」

 

 

ダイーダ「そういうこと。 望まれていない干渉はあまりしないほうがいいわ。たとえいい結果になってもね」

 

 

その言葉に釈然としないものを感じつつも、ランは言い返すことができなかった。

 

 

遠藤「まあ、確かに何の被害も出てないのに、無理な干渉をするのもな。しばらくは様子見じゃな」

 

ラン「おじいちゃんまで!!」

 

 

遠藤「だってそうじゃろ。ランだっていらんおせっかいはして欲しくはないじゃろうが。わしだってそうじゃ、自分が満足してることにまで干渉されたくないというのが人情じゃろ」

 

 

 

 

ラン「う〜ん…」

 

 

第17話 終



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第18話 「僕はスーパーマン (後編)」

 

 

 

 

ケンターはチームメイトの必死の説得もあって、なんとか両親にも自分のことを理解してもらい、家で普段通りの生活をしていた。

 

 

だが、怪獣になったこともあってか、食欲も以前の比ではなく、夕飯でその家の一週間分の食料をあっさり食べつくしてしまった。

 

 

 

ようやく満腹になり、満足していたケンターに両親は心配そうに話しかけた。

 

健太母「健太、お前やっぱり明日病院に行きましょう。元に戻る方法がきっとあるから」

 

しかしケンターは、それを断った。

 

 

ケンター「えーっ? やだよ。僕このままでいいや♪ 勉強だってサッカーだって前よりずーっとできるようになったんだもん。元に戻ったらまた何にもできなくなっちゃうよ」

 

 

健太父「なんてことを言うんだお前は!! お母さんを悲しませていいのか!? あんまりわがままを言うと明日から家に入れないぞ!!」

 

そう怒鳴りつけた父親にもケンターはどこ吹く風というようだった。

 

 

ケンター「どうして悲しむの? 僕すごくなったんだよ。なんでもできるスーパーマンなんだよ。あっ、そうだ。 みんなの宿題やらなきゃ、おやつがもらえなくなっちゃう」

 

 

そのセリフを残して、ケンターは部屋へと戻っていった。

 

 

 

残された両親は、あまりのことに情けないやら悲しいやらで頭の中がぐちゃぐちゃだった。

 

 

健太父「お前のせいだぞ、いつもいつも成績のことでガミガミ言うから健太はあんな怪獣の姿がいいなんて言うようになったんだ!!」

 

健太母「何を言うんですか!! いつも仕事だ仕事だって、家のことなんて殆ど私に任せっきりで!!」

 

 

その不毛な夫婦喧嘩は深夜まで続いたが、それをよそに当のケンターは、あっさり頼まれた宿題を終わらせ、ベッドで高いびきをかいていた。

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日の午後

 

 

 

 

ケンターは一人堤防で友達がおやつを持ってきてくれるのを待っていた。

 

 

幾ら何でも学校に行くわけにはいかないため、昨夜30分ほどで終わらせた宿題をチームメイト達に渡して、ここで時間をつぶしていたのだ。

 

 

 

ケンター「あーあ、退屈だなぁ。学校にいかなくて済むと思ったけど、暇なのはどうしようもないや… でもみんな遅いな〜」

 

 

ケンターが、いかにも暇そうな感じで欠伸混じりにそう言った時、チームメイト達の声が聞こえた。

 

 

チームメイトA「おい! 健太!!」

 

 

ケンター「あっ、やっと来た。もう待ちくたびれたよ、早く約束のお菓子ちょうだい。それから他の友達にも紹介してくれた?」

 

 

待ちに待ってたといわんばかりにそう尋ねたケンターだったが、チームメイト達の目は険しかった。

 

 

チームメイトB「うるせー!! お前のせいで散々だ!!」

 

チームメイトC「誰がお菓子なんかやるかよ!!」

 

 

チームメイトの予想だにしない態度にケンターは戸惑った。

 

ケンター「ど、どうしたの? 僕の宿題間違ってたの?」

 

 

チームメイトA「そうじゃねぇよ!! 字が俺のと違うもんだから誰にやってもらったんだってことになって、先生から散々怒られたんだよ!! おまけに罰として宿題倍増だ!!」

 

 

ケンター「そんな… わ、わかった今度は字も変えるよ。だからその宿題やるからさ」

 

 

チームメイトB「もういいよ、お前にやってもらったって、俺達ができるようになるわけじゃないしな。成績が落ちたら怒られちまう。宿題は自分でやるよ」

 

 

 

ケンター「う… じゃあさ、サッカーしようよ。もう万年補欠なんて言わせないから。次の試合で大活躍してみせる!!」

 

 

チームメイトに対して、そう宣言したケンターだったが、仲間の目は冷ややかだった。

 

 

チームメイトC「お前を試合に出せるわけないだろ。漫画じゃないんだから」

 

チームメイトD「だいたい、そんなチートくさいやつと一緒に練習なんかできるかよ!!」

 

 

みなはそう言い捨てると、ケンターを置いて立ち去っていってしまった。

 

 

呆然としているケンターに、ついてきていた豪は言い含めるように話しかけた。

 

豪「なぁ健太、これじゃしょうがないだろ。元に戻る方法を探そうぜ」

 

 

ケンター「うるさい!! みんな僕のこと昨日はあんなにちやほやしてたくせに!!」

 

そう叫ぶとケンターは走り去ってしまった。

 

 

 

 

日の沈む頃、一人トボトボと歩いていたケンターは仲間達に対して一人愚痴っていた。

 

ケンター「なんだいなんだい。みんな僕のことひがんじゃって。勉強もサッカーも僕よりできないくせに…」

 

 

そうしていると、ケンターのお腹が盛大に鳴った。

 

ケンター「そっか、朝から何にも食べてなかったっけ… 今日の晩御飯なんだろう」

 

 

 

家に帰ったケンターだったが、家の鍵は開いておらず、何度呼び鈴を押してもドアを叩いても開けてもらえなかった。

 

ケンター「お母さん、お父さん!! ただいま!! ねぇ開けてよ!!」

 

 

そんなケンターの耳に昨夜の言葉が蘇った。

 

健太父(あんまりわがままを言うと明日から家に入れないぞ!!)

 

ケンター「ふん、なんだよ。お母さん達まで…」

 

 

 

 

ケンター「いいよ、僕はスーパーマンだもん。なんでもできるんだもん!!」

 

そう言い聞かせるように呟くと、ケンターは商店街の方へと目にも止まらぬスピードで走って行った。

 

 

 

 

 

 

 

甲子市 商店街

 

 

 

 

商店街についたケンターは、美味しそうな匂いにつられて入り口の近くにあったパン屋に入っていった。

 

 

パン屋「か、怪物!!」

 

仰天して腰を抜かしつつも110番をしているパン屋をよそに、空腹に耐えかねたケンターは店の商品を片っ端から食い散らかしていった。

 

 

そして警察が駆けつけた頃には、店の商品は全てなくなってしまいケンターも立ち去った後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ケンター「ふう、お腹いっぱい」

 

日もとうに暮れた中、堤防に腰掛けながら満腹になり膨れ上がったお腹をさすり、ケンターはようやく一息ついていた。

 

ケンター「そうさ、僕はスーパーマンなんだ。なんだってできる。何にも怖くないや」

 

 

どこか自分に言い聞かせるようにそう呟いたケンターに話しかけるものがいた。

 

 

 

ダイーダ「健太」

 

ケンター「あっ、ダイーダさん」

 

 

ダイーダ「豪から聞いたわ。あなたそうなって満足してるって、本当に?」

 

 

そのダイーダの質問に、ケンターは必死になって答えた。

 

ケンター「当たり前だよ! 大満足さ。前の僕はサッカーじゃ万年補欠って言われてたし、勉強だってできなかった。一生懸命努力してるのに何にもできなかっただもん。だからこっちのほうがいい!!」

 

黙ってケンターの話を聞いていたダイーダはおもむろに口を開いた。

 

 

ダイーダ「…そう。みんなは一生懸命練習したり勉強してるのに、あなたは突然なんでもできるようになったんだものね。気持ちはわからなくはないわ。でも、それだけでいいのかしら?」

 

 

ケンター「えっ?」

 

 

ダイーダ「私の知ってる人もね、失敗してばっかりだけど、目標に向かって自分の力で一生懸命頑張ってるし、とっても楽しそう。だから、できる限りのお手伝いをしてあげたいと思う。あなただって、サッカーの練習を一生懸命やってるときの方が今より楽しそうに見えるけど」

 

 

その言葉に、ケンターは何も言えなくなった。

 

 

黙りこくったケンターにダイーダは微笑みながら続けた。

 

ダイーダ「ふふっ。それと、あなたお店のパンを黙って食べちゃったんでしょう」

 

ケンター「えっ、そんなことまで知ってるの? どうして?」

 

 

ダイーダ「教えてあげる。ついてきなさい」

 

 

そう言ってダイーダはさっきのパン屋にケンターを連れて行った。

 

 

 

するとそこでは、健太の両親が必死に謝っていた。

 

 

健太母「すみませんでした、すみませんでした」

 

健太父「店の商品は弁償します。ですからどうか健太を許してやってください」

 

 

 

ケンター「お父さん… お母さん…」

 

それを見たケンターは涙が溢れてきた。

 

 

 

ダイーダ「夕方からあっちこっちに電話して、あなたを探し回ってたのよ。すごく心配そうだったって豪が言ってたわ」

 

 

その言葉に、ついにケンターの涙腺は決壊した。

 

 

 

ケンター「うわーん!! 僕、僕… 元に戻りたいよー!!」

 

 

その泣き叫ぶ声に、健太の両親が慌てて駆け寄ってきた。

 

 

健太父「健太、無事でよかった。探したぞ、お父さんが悪かった」

 

健太母「すぐに病院に行きましょう。きっと元に戻れるから」

 

 

ケンター「ごめんなさーい!! お父さん、お母さん!!」

 

 

 

 

 

 

 

そんな様子を見ていたダイーダのところに、リーフも顔を出した。

 

リーフ「ダイーダちゃん…」

 

ダイーダ「ええ、元に戻してあげましょう」

 

 

 

二人は人目につかない路地裏に行くと、小さい声で叫びトンボを切った。

 

リーフ・ダイーダ「「ゴー!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

健太父「もうすぐ救急車がくる、だからもう泣くな」

 

両親は必死に慰めていたが、ケンターは一向に泣き止む気配がなかった。

 

 

 

そんな空気の中、暖かい光とともに二人の少女 コズミックプリキュアが舞い降りてきた。

 

 

健太母「あ、あなたたちは!! ま、待ってください!! この子はこんなになっても私たちの子供なんです!!」

 

 

健太父「もし、どうこうしようというなら、私が相手になる!!」

 

 

 

そんな両親の姿を見て、コズミックプリキュアは微笑んだ。

 

 

リリーフ「ふふっ、どうもしませんよ」

 

ダイダー「少しだけじっとしてて。元に戻してあげるから」

 

 

ケンター「ほ、ほんと!? 本当に元に戻れるの?」

 

 

ダイダー「ええ、少しだけ我慢してね」

 

 

必死にそう尋ねてきたケンターにそう告げると、ダイダーは光のスティックを取り出した。

 

それを見たリリーフもまた、虹色の玉を手に輝かせ始めた。

 

 

リリーフ「いくよ、それ」

 

 

そしていつもとは違い、リリーフは優しく玉をダイダーに向けてトスした。

 

 

ダイダー「よっ、と」

 

ダイダーもまた、それを軽くノックして、虹色の玉を高く打ち上げた。

 

 

 

打ち上げられた玉は放物線を描いて、ケンターの頭にポコンとぶつかった。

 

 

ケンター「あ痛」

 

 

小さく悲鳴をあげると、ケンターの体から風船の空気が抜けるように黒い靄が吹き出していき、それが収まるとケンターは元の健太の姿に戻っていた。

 

 

 

健太「あ、あ、戻った。戻れたよー!!」

 

自分の体を何度も確かめるように撫で、健太は嬉しそうにそう叫んだ。

 

 

健太母「健太!!」

 

健太父「よかった、よかったな!!」

 

両親もまた嬉し涙とともに健太を力一杯抱きしめた。

 

 

 

それを見届けたコズミックプリキュアは、満足そうに頷くとジャンプして跳び去っていった。

 

 

健太「ありがとー、コズミックプリキュア!!」

 

 

健太と両親の感謝の声に見送られながら。

 

 

 

 

 

 

数日後

 

 

 

健太はチームメイトともにサッカーの練習をしていた。

 

 

しかし一朝一夕でそうそう上手くなるはずもなく、練習についていくだけでやっとであり、健太は肩で息をしつつ全身汗だくだった。

 

 

 

チームメイトA「おい、健太。大丈夫か、あんまり無理すんな」

 

健太「大丈夫。まだやれるよ、絶対今度の試合じゃこないだの汚名返上してやる」

 

チームメイトB「バーカ、倒れでもしたら大変じゃねぇか。少し休めよ」

 

 

口は悪いものの、チームメイトはみんな健太を心配しつつ仲間として付き合っていた。

 

健太もまた、前と同じようになかなか上手くいかないながらも楽しそうに練習していた。

 

 

 

豪もそんな様子を見ながらやれやれといった感じで呟いた。

 

豪「健太のやつ、練習しすぎで今日も授業中居眠りしてたくせに」

 

 

そんな光景を見ていたダイーダ達もまた、満足げに呟いた。

 

 

ダイーダ「やっぱり一生懸命な子は見てて気持ちいいわね」

 

リーフ「うん、私もそう思う」

 

ラン「んもう、だったら早く元に戻してあげればよかったのに」

 

 

そう不満げに言ったランに対して、ダイーダは持論を語った。

 

ダイーダ「本人がそう言わなかったからよ。もし、本当にあのままでいいと思ってるなら元に戻してあげなかったわよ」

 

 

 

ラン「えっ?」

 

 

 

驚くランをよそに、ダイーダは健太に声援を送った。

 

 

ダイーダ「その調子よ、諦めずに頑張り続けなさい!!」

 

 

 

 

第18話 終

 

 



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第19話 「三人の科学者 (前編)」

 

 

 

 

 

とある屋敷にて、緊迫した空気が充満していた。

 

一人の老人と、若い夫婦が家族写真を手に暗い表情でソファーに座り込んでいた。

 

 

警官「河内警部、逆探知の準備完了いたしました」

 

河内「うむ、ご苦労。宝六(ほうむ)博士、それで、お孫さんを誘拐した犯人からの要求は?」

 

 

宝六「うむ、わしの開発した新発明のすべてのデータをよこせとのことでした。さもなければ、孫の命はないと…」

 

 

その言葉に河内警部は憤慨した。

 

 

河内「なんと卑劣な!! しかし、そこまでして欲しがる新発明とは? 博士は世界的に優秀なお方だ、幾つも特許を持っておられる。狙われても不自然ではないのですが…」

 

 

宝六「ああ、それは…」

 

 

宝六博士が話しかけた瞬間、電話が鳴り響き、一同の緊張感は頂点に達した。

 

 

河内「逆探知用意!! いいですか、できるだけ話を長引かせてください」

 

宝六「は、はい」

 

宝六博士は恐る恐る受話器に手を伸ばし、覚悟を決めて電話に出た。

 

 

宝六「もしもし」

 

 

しかし次の瞬間、予想だにしない事態が起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はろ〜!! 宝六、聞こえるか? わしじゃよ、久しぶりじゃな」

 

 

 

緊迫した空気をぶち壊すような能天気な声が受話器から響いてきたのだ。

 

警官「はあ?」

 

河内「な、なんだ? ん、待てよこの声は…」

 

宝六「まさか…」

 

 

そして部屋の扉を開けて入ってきた人物に、一同は驚いた。

 

 

遠藤「やぁ宝六、元気じゃったか?」

 

宝六「遠藤!!」

 

 

河内「ごらぁ貴様何しに来た!! さては貴様、銀行強盗だけでは飽き足らず誘拐まで!!」

 

突然の来訪者に河内警部は面食らったものの、即座にいつもの調子で怒鳴りつけた。

 

 

 

遠藤「人聞きの悪いことを言うな!! 親友の孫が誘拐されたと聞いて助太刀に来たんじゃ!!」

 

河内「なにぃ親友? 馬鹿も休み休み言え!! 貴様のようなヘボ科学者とこの大博士が友人なはずがなかろうが!!」

 

宝六「いや、警部さん。彼は紛れもなく私の30年来の友人です。いやぁ懐かしい、元気そうで何よりだ」

 

 

嬉しそうにそう言って、宝六博士は遠藤博士の手を握った。

 

 

河内「宝六博士、本当に此奴めが博士のご友人なんですか?」

 

疑惑の目で遠藤博士を睨みつける河内警部に、宝六博士は笑いながら告げた。

 

 

宝六「ええ、研究室の頃からずっと一緒だった私の最高の友人です。当時からその才能には素晴らしいものがありましてな。何度嫉妬したことか」

 

 

遠藤「いやいやそれほどでも」

 

 

遠藤博士は多少自慢げに照れながらも、ハタと思い直した。

 

 

遠藤「おっと、積もる話はあとじゃ。まずはお前さんのお孫さんを助けんとな」

 

宝六「ありがとう、気持ちは嬉しいのだが…」

 

 

すると再び電話が鳴り、宝六博士は河内警部に対して頷くと再度受話器を取った。

 

宝六「はい」

 

 

「宝六博士だな。例の新発明のデータは準備できたのか?」

 

 

宝六「ああ、USBにまとめてある。それより…」

 

「ならば伝える。二時間後、外矢地区の廃工場までデータを持ってこい。ガキはデータと交換だ。妙な真似をすればガキの命はないと思え」

 

 

宝六「待て!! 孫の、鶯子(とうこ)の声を聞かせてくれ!!」

 

しかし、その懇願も虚しく電話は一方的に打ち切られてしまった。

 

 

河内「逆探知は?」

 

警官「ダメでした…」

 

 

力なく首を振った警官を見て、夫妻は泣き崩れてしまった。

 

 

 

 

遠藤「今の声は、パーフェクトの一味の…」

 

 

 

河内「それはわかっとる!! しかし、身代金を放棄してまで狙うとは、金以上に価値のある発明ということですかな」

 

その言葉に、宝六博士は一つのUSBメモリを取り出した。

 

宝六「これは大気元素浄化装置です。まだまだエネルギー効率等の問題はありますが、人工衛星に取り付けて使うことで大気汚染を浄化することができるシステムです。ですが、孫が助かるならば惜しくはない!!」

 

 

そう言い放った宝六博士に対して、遠藤博士はなだめるように言った。

 

遠藤「まあまあ落ち着け。お孫さんもデータもどちらも助ける方法を考えねばならん。わしらに任せておけ」

 

 

河内「お前はでしゃばるな!! これは警察の仕事だ!!」

 

遠藤「ほう、ならば警察はどうやって犯人を捕まえてお孫さんを助けるつもりじゃ?」

 

怒鳴りつけた河内警部だったが、遠藤博士の言葉に一瞬詰まってしまった。

 

 

河内「む、むろん策はある。人質の受け渡し場に警官を配備させてのこのこ出てきたところを…」

 

 

遠藤「ああ、ダメじゃダメじゃ。その程度の頭では助けられるものも助けられん」

 

その時、遠藤博士の携帯電話が鳴った。

 

遠藤「もしもし…おう本当か?」

 

 

 

 

ダイーダ『はい。電話線とリンクしてさっきの電話の逆探知に成功しました。 携帯電話からでしたので正確な場所までは無理ですが、至急現地に行けばリーフがレーダーで探索可能な範囲だと思います』

 

 

それを聞いた遠藤博士は宝六博士に告げた。

 

 

遠藤「よし、宝六。悪党どもの居場所がわかった。助けに行くぞ!!」

 

宝六「え?」

 

河内「何だと? 嘘をつくな!!」

 

 

怒鳴りつける河内警部をよそに、戸惑っている宝六博士をつれて遠藤博士は自分の車に宝六博士を連れて行った。

 

 

ダイーダ「博士急いでください」

 

リーフ「あいつらが移動しちゃったら探せなくなっちゃいますよ!!」

 

 

ダイーダ達に急かされるように遠藤博士は車に乗り込み、宝六博士もまた半信半疑ながら後部座席に乗った。

 

遠藤「よし、飛ばすぞ!!」

 

 

それを確認した遠藤博士は、直ちに車を発進させた。

 

 

 

 

 

 

 

リーフ「誘拐なんて卑怯なことして、あいつら絶対に許さない!! 安心してください。絶対にたまごさんは助けて見せますから!!」

 

ダイーダ「たまごじゃなくて、孫の手よ」

 

 

遠藤「まったく。お主らは、まーだものの名前が正確に覚えられんのじゃな」

 

 

 

宝六博士は、車に同乗していたどこかトンチンカンな会話をする眼鏡をかけた二人の少女を見て不安げに尋ねた。

 

 

宝六「えーっと、遠藤。この二人はお孫さんかね?」

 

遠藤「いやいや、わしの助手のようなもんじゃ。今この世界で一番頼りになる奴らじゃからな。 大船に乗った気でいろ」

 

自信満々な遠藤博士だったが、宝六博士は今の会話からしてもどうにも不安で仕方がなかった。

 

 

 

 

 

そうして30分ほど車を走らせると、ダイーダが車を止めさせた。

 

 

ダイーダ「さっきの電話の発信先はこの辺りを中心にしてるわ。まだそう遠くには行ってないと思うけど…」

 

 

リーフ「オッケー、ダイーダちゃん。周りを調べてみるよ」

 

そう言って車を降りたリーフはマルチハンドを換装した。

 

 

 

 

 

リーフ「チェンジハンド・タイプイエロー!!」

 

その掛け声とともに、リーフの両腕が小さなロケットが装備された黄色の腕に変わった。

 

 

リーフ「センサーアイ、発射!!」

 

そう叫ぶと、リーフは右腕を空にかざしセンサーアイを発射した。

 

 

宝六「彼女は一体何を… それにあの腕は…?」

 

 

遠藤「今リーフが発射したセンサーアイには、半径10km四方の情報を詳細にリーフに送り届ける機能があるんじゃ。じきに鶯子ちゃんの居場所がわかるぞ」

 

数十秒後、リーフの電子頭脳に強力なマイナスエネルギーの反応があった。

 

 

リーフ「このマイナスエネルギー反応は… 見つけました。ここから北東3キロのビルです」

 

 

ダイーダ「ゴーロめ。今度こそ決着をつけてやるわ」

 

ダイーダも気合を込めて拳を手のひらに叩きつけながらそう言った。

 

 

 

宝六「遠藤、この二人は一体…?」

 

遠藤「説明が遅れたな。こやつらはわしの作ったアンドロイド体を借りとる、精霊の国の特別警備隊員でな。またの名をコズミックプリキュアじゃ」

 

 

自慢げにそう語る遠藤博士に宝六博士は目を丸くして驚いた。

 

宝六「彼女達があの… いや話には聞いていたが… ということは彼女達が乗っているあの飛行機も?」

 

遠藤「うむ、わしの作品じゃ」

 

宝六「そうか、しかしこれほどのものを作るのは大変だったろう。お前はどうしてそこまでして…」

 

その疑問にリーフ達が答えた。

 

リーフ「私達のことを知っていていたただけたならば光栄です。 実は事情がありまして…」

 

ダイーダ「次元皇帝パーフェクト、そしてDr.フライのことは知っていますね?」

 

宝六「Dr.フライか… 十数年前、研究中の事故で死んだと思っていたが、この間のノーベル賞の件には驚いた。 確かにやつも相応の才能の持ち主だったが、なぜそんなことを… まさか!!」

 

 

遠藤「うむ。Dr.フライはわしの盗んだ研究を再現しきれずに爆発事故を起こしおった。しかし、死んだと見せかけて地下に潜伏し、今ではパーフェクトと手を組んでおってな。鶯子ちゃんを誘拐したのもやつの差し金じゃろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある廃ビル

 

 

ここに誘拐されてきた鶯子ちゃんが監禁されており、泣き叫んでいた。

 

 

 

鶯子「うぇ〜ん!! えんえ〜ん!!」

 

ゴーロ「ウルセェな! 今度はなんだ!?」

 

 

 

鶯子「アイスクリーム!! アイスクリームが食べたいの!!」

 

ゴーロ「いい加減にしろ!! このガキが!!」

 

 

そう言ってゴーロが凄むと、より激しく泣き叫ぶため、止むを得ずゴーロはマイナーに命じてアイスクリームを用意させた。

 

 

そして、アイスクリームを受け取ると鶯子ちゃんは泣き止み、静かに食べ始めた。

 

 

しかし少ししてアイスクリームを食べ終わると再び泣き叫び始めた。

 

鶯子「うぇ〜ん!! 喉乾いたー!!」

 

 

ゴーロ「くそったれ、可愛げのねぇ!!」

 

 

誘拐してきてから万事この調子であり、鶯子ちゃんを監禁している部屋には、大量のお菓子の袋や空き箱、ひいてはジュースの空き缶やペットボトルが足の踏み場もないほどに散乱していた。

 

 

ゴーロ「ええい、殴り倒して大人しくさせてやろうか!!」

 

 

我慢の限界というように拳を振り上げると、部屋を監視していたDr.フライからの通信が入った。

 

 

Dr.フライ「やめんか、大事な人質じゃぞ。丁重に取り扱え!!」

 

それを聞いたゴーロは歯ぎしりをしながら拳を収めた。

 

状況は頭で理解しているものの、怒りのぶつけようがないのである。

 

 

 

 

一方、遠藤博士達はリーフがレーダーで捜索したビルの近くに到着していた。

 

 

リーフ「あのビルの中だよ。内部の構造も把握できてるから早速突入して…」

 

ダイーダ「待ちなさい。人質がいるんだから、迂闊に突入したらダメよ。鶯子ちゃんだっけ、その子が危険だわ」

 

 

早速突入しようとしたリーフをダイーダはそう言って止めた。

 

 

リーフ「う… でもそれじゃ何にもできないよ。ここまで来たのに…」

 

 

そうやって考え込んでいると、遠藤博士が何かを閃いた。

 

 

遠藤「そうじゃ、何重にも暗号化した偽のデータを渡すんじゃ。わしらが囮になって時間を稼ぐから、おぬしらでその隙に鶯子ちゃんを救出するんじゃ」

 

宝六「遠藤、君も行くのかね?」

 

 

遠藤「当然じゃ、親友を一人で危険な目に会わせられん」

 

 

そう言うと小さなスピーカーのようなものを取り出した。

 

遠藤「リーフ、ダイーダ。これは小型マイクじゃ。こっちの状況をリアルタイムで伝えるから、よろしく頼むぞ」

 

リーフ「わかりました」

 

ダイーダ「私達はマルホーンで地下から侵入します。博士もお気をつけて」

 

 

遠藤「マンホールな。頼むぞ」

 

 

 

 

そうして、遠藤・宝六両博士は廃ビルの入口へと近づいていった。

 

 

その姿は監視カメラを通して、ゴーロにも伝わっていた。

 

ゴーロ「あいつらどうしてここが? まあいい、こっちはデータが手に入ればいいんだ」

 

 

 

 

遠藤「こらぁ、誘拐犯ども!! こっちからデータを持ってきてやったぞ!! 出てこい!!」

 

入口で遠藤博士がそう叫ぶと、マイナーが数人出てきた。

 

宝六「孫は、鶯子はどこだ!!」

 

 

その質問に答えるようにマイナーは手振りで両博士をビル内へ案内した。

 

 

 

ダイーダ「よし、こっちも行くわよ」

 

リーフ「うん」

 

それを見届けたリーフとダイーダもまたマンホールからビルの中へ侵入していった。

 

 

 

 

第19話 終



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第20話 「三人の科学者 (後編)」

 

 

 

 

 

遠藤・宝六両博士は、マイナーに脅されるように連れられてビルの一室に案内された。

 

 

遠藤「お前らの欲しがっとるデータはこのUSBの中にある。鶯子ちゃんはどこにおる!」

 

宝六「そうだ! 孫の無事を確認させろ!!」

 

 

「まずは、データを確認してからじゃ」

 

 

そのしわがれた声に振り向くと、そこにはDr.フライがいた。

 

宝六「お前は!!」

 

Dr.フライ「久しぶりじゃのう宝六。相も変わらず人に媚を売るような研究ばかりしおって」

 

 

 

遠藤「フライ!! 貴様…」

 

Dr.フライ「ん? お前は遠藤! これはいい、邪魔者どもが揃うとはな」

 

遠藤「黙れ!! 私利私欲のことしか頭にない極悪人が!!」

 

そう叫んでDr.フライに飛びかかろうとした遠藤博士だったが、鋭い爪を振りかざすマイナーに阻まれてしまった。

 

 

Dr.フライ「ジタバタするな。こちらの要求したデータを確認させてもらおうか」

 

マイナーに護衛をさせ、余裕たっぷりにそう告げたDr.フライに歯噛みしながら、遠藤博士はメモリをマイナーに渡した。

 

遠藤「データはその中に入っている。ただし何重にも暗号化してあるからな。お前程度の頭で解読できるならやってみろ」

 

 

その遠藤博士の挑発的な態度に、Dr.フライは憤慨した。

 

 

Dr.フライ「なめるでないわ!! このわしに向かってその態度。ようし見ておれ!!」

 

 

Dr.フライはマイナーに命じて、部屋にあったパソコンにメモリを刺させた。

 

 

Dr.フライ「ゴーロ、暗号解読ソフトを起動させろ。見ておれ、世界一の頭脳の持ち主であるわしの開発したソフトにかかればこんなものは…」

 

 

 

そんな光景を見ながら遠藤博士は襟元のマイクに囁いた。

 

遠藤(なんとかしばらくは時間が稼げそうじゃ。二人とも頼んだぞ)

 

 

 

 

マンホールから廃ビルの地下にうまく潜入出来たリーフとダイーダも、このやり取りを聞いていた。

 

ダイーダ「よし、とりあえずは作戦成功ね。鶯子ちゃんのところに早く行かないと…」

 

リーフ「大丈夫。センサーアイで調べた時に、人の体温の反応は一箇所しかなかったから場所は特定できてるよ。急ごうダイーダちゃん」

 

 

しかし、ビル内の階段に向かうとマイナーが見張っていた。

 

ダイーダ「まずいわね。下手に暴れるわけにいかないから、見つからないようにしないと…」

 

リーフ「それなら、あそこから」

 

リーフは天井付近にある通気口を指差しながらそう言った。

 

 

二人はそっとその蓋を外すと、見つからないようにその中を這うように進んでいった。

 

 

 

 

Dr.フライ「えぇい、くそ!! 面倒なことをしおって!! まだ解読は終わらんのか!!」

 

解読の進まない暗号化されたデータを前にイライラしていたDr.フライに宝六博士は懇願するように叫んだ。

 

 

宝六「データはもう渡した。孫を連れてきてくれ!! そもそも大気元素浄化装置をいったいどうしようというのだ!?」

 

 

その問いに、Dr.フライは厭らしく嗤った。

 

Dr.フライ「聞きたいか? 装置を逆利用してやるのじゃ。大気中に汚染物質を撒き散らし世界を地獄のようにしてやる。世界のための装置が世界を滅ぼす、考えただけでも気分が良いわ」

 

 

その言葉に、遠藤博士は激昂した。

 

遠藤「なんじゃと!? フライ、貴様それでも人間か!! 科学とは世界のために使われるもの。 そして科学者はその手助けをするものじゃぞ!!」

 

 

Dr.フライ「ふん、その青臭い考えはまるで成長しておらんな。この大天才のわしのことを認めようとしなかった世界じゃ。滅び去ることこそがもっともふさわしいわ」

 

 

宝六「お前というやつは! なぜ学会から追放されたのかいまだに理解しておらんのか!? 天才が聞いてあきれる!!」

 

 

Dr.フライ「黙れ!! 才能など欠片もないくせに、世渡りと子供騙しの才能だけで名の売れた男が!!」

 

 

そんな口論がヒートアップしている間にも、データの解読は進んでいき、ついに解読が完全に終了した。

 

 

Dr.フライ「くだらん話は後だ。これで世界は滅んだも同然。どれどれ…」

 

その知らせを見たDr.フライは満足げに嗤い、解読されたデータを調べ始めた。

 

 

 

その光景を見た遠藤博士は、焦りながら囁いた。

 

 

遠藤(リーフ、ダイーダ!! 超やばい状況じゃ!! まだ鶯子ちゃんは救出できんのか!?)

 

しかしどこからも返事はなく、さらに焦りながら叫んだ。

 

遠藤「おい、どうした!? 聞こえんのか!? そんなはずはなかろう、状況を報告しろ!!」

 

 

そこまで叫んで、遠藤博士はハッと気がついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

遠藤「あっ、そうか。これはマイクじゃからこっちの声は送れても向こうの声が聞けんのじゃ」

 

 

 

そしてちょうどそのタイミングでデータを調べ終えたDr.フライは怒りの形相で遠藤博士を睨みつけた。

 

Dr.フライ「おのれ遠藤!! 小細工をしおって!!」

 

 

 

 

 

遠藤「くっそー! やけくそじゃあ!!」

 

破れかぶれというように、突っ込んでいった遠藤博士だったが、Dr.フライの体は何の手応えもなくそのまま後ろの壁に激突してしまった。

 

 

遠藤「イテテ… くそぅホログラムか」

 

 

悔しそうに遠藤博士がつぶやいたところに、Dr.フライの声が響いた。

 

 

Dr.フライ『愚か者めが、このわしがわざわざこんな仕事をすると思うてか。本物のデータを渡せ!!』

 

 

宝六「わかった。本物のデータはここにある。だから孫を返してくれ!!」

 

 

Dr.フライの再三の要求に、作戦の失敗を悟った宝六博士は観念したというように本物のデータを取り出した。

 

 

それを見たDr.フライは満足そうにゴーロに指示を出した。

 

Dr.フライ『よしよし、素直にそうしていればよかったのじゃ。 さあゴーロそのデータを表示しろ』

 

 

 

 

 

 

ゴーロ「悪いがこのデータは永遠に調べられなくなった。ここでこいつらもろともに吹っ飛ぶからなぁ!!」

 

 

遠藤「何!?」

 

宝六「待て、約束が違うぞ!!」

 

ゴーロの言葉に驚いた遠藤・宝六両博士だったが、一番驚いたのはDr.フライだった。

 

Dr.フライ『いきなり何を言い出す!? データがなくなったら意味がないじゃろうが!!』

 

 

 

ゴーロ「うるせぇ!!!! どいつもこいつもイライラさせやがって!! もうテメェの都合なんか知るか!! よくも俺に「こんな仕事」をさせやがったな!!!」

 

 

我慢の限界と言わんばかりにそう叫ぶと、ゴーロは室内にあった機械を操作し始めた。

 

ゴーロ「これで終わりだ! 全員くたばりやがれ!!」

 

遠藤・宝六「「!!!」」

 

 

全員が覚悟を決めた次の瞬間、天井がぶち抜かれ、ゴーロはその下敷きになってしまった。

 

 

ダイーダ「ギリギリだったわね」

 

リーフ「でもなんとか間に合ったよ。宝六さん、鶯子ちゃんは無事ですよ」

 

鶯子「おじいちゃん!!」

 

そして、両腕をレッドハンドに換装したダイーダと鶯子ちゃんを抱えたリーフがその後に降りてきたのだった。

 

 

宝六「鶯子!! ありがとう、君たちのおかげだ!!」

 

遠藤「おお、ナイスタイミングじゃ!! よし、脱出じゃ!!」

 

人質は救出できた今、もはや用はない。

 

そう判断した一同は出口に向かって走り出した。

 

 

 

そんな彼らの前にマイナーが立ちふさがったが、

 

 

ダイーダ「邪魔よ!!」

 

リーフ「どきなさい!!」

 

 

この二人にとってはそんなものは足止めにもならず、あっさり叩きのめされた。

 

 

 

 

遠藤「ふうふう、これで一安心じゃな」

 

廃ビルから脱出し、一息ついていた一同だったが、突如として地震が起きた。

 

遠藤「おおっ、なんじゃ? 地震か?」

 

 

 

ダイーダ「違います、このマイナスエネルギーは…」

 

 

すると地響きとともに、今現在まで一同がいた廃ビルが巨大な怪物に姿を変えた。

 

 

遠藤「なんと!! あんなビルまで怪物にできるのか!?」

 

 

リーフ「いえ。何か変だなとは思っていたんですが、あのビルはおそらくロボットに改造されていました」

 

ダイーダ「その上でマイナスエネルギーを取り付けたってことね、私達みたいにさ」

 

 

 

そうして状況を解説している中、ビル怪物の屋上にゴーロが凄まじい形相で仁王立ちしていた。

 

 

ゴーロ「こうなったら、てめぇらだけでも叩き潰してやる!!」

 

 

そうゴーロが言い放つと、ビル怪物は巨大な拳を振り下ろしてきた。

 

 

リーフ「!! 危ない!!」

 

とっさにリーフ達は博士達を抱えてジャンプしその攻撃を回避したが、怪物の拳の叩きつけられたところは巨大なクレーターが出来上がっていた。

 

 

リーフ「早く逃げてください!!」

 

ダイーダ「あいつらは私達がなんとかします!!」

 

その言葉を聞いた遠藤博士は二人にこの場を任せることにした。

 

 

遠藤「よしわかった。ここは任せたぞ!! さあ、逃げるんじゃ!!」

 

 

博士達が安全な場所に避難したことを確認したリーフとダイーダは頷き合った。

 

 

リーフ・ダイーダ「「ゴー!!」」

 

 

その掛け声とともに二人の体は光に包まれ、着地した時には変身完了し、赤と白のドレスに身を包み、髪型も大きくボリュームが変わっていた。

 

 

 

リリーフ「闇を吹き消す光の使者 キュア・リリーフ!!」

 

ダイダー「悪を蹴散らす光の使者 キュア・ダイダー!!」

 

 

リリーフ・ダイダー「「ピンチ一発、大逆転! コズミックプリキュア!!」」

 

 

 

 

 

 

 

変身完了したコズミックプリキュアに対して、ビル怪物は雄叫びをあげてズシンズシンと地響きをさせながら向かってきた。

 

 

 

ダイダー「チェンジハンド・タイプグリーン!! 超低温冷凍ガス噴射!!」

 

 

しかしダイダーは冷静に両腕を噴射口のようなもののついた緑色の腕に換装し、左手をビル怪物の足元に向け、冷凍ガスを噴射した。

 

 

その冷凍ガスの威力は強烈で、一瞬でビル怪物の足を凍りつかせてしまった。

 

 

移動中に足の自由を奪われたビル怪物はバランスを崩してしまい、前のめりに倒れ始めた。

 

 

 

 

 

リリーフ「ヤァアアア!!」

 

それを狙ってリリーフは正面からアッパーを打ち込んだ。

 

 

カウンター気味にそれを受けたビル怪物は、ダメージを受けてそのまま尻餅をついてしまった。

 

そして前後に大きく揺れたため、ビル怪物の頭に立っていたゴーロもまたバランスを崩して、地面に叩きつけられてしまった。

 

ゴーロ「ごはあっ!!」

 

 

 

 

ダイダー「よし、今よ!!」

 

リリーフ「オッケー!!」

 

 

チャンスと判断した二人は少し距離をとって向かい合った。

 

 

リリーフ「よし、行っくよ〜!!」

 

リリーフは大きく振りかぶり虹色の玉を手に輝かせ始めた。

 

 

 

リリーフ「ダイーダちゃん!!」

 

 

そしてそのまま、その虹色の玉をダイダーに向けて亜音速で投げつけた。

 

 

ダイダー「任せなさい!! ダァリャア!!」

 

 

するとダイダーは、リリーフの投げてきた玉を、取り出した光のスティックを一振りしてビル怪物に向けて打ち返した。

 

打ち返された虹色の玉はひとまわり大きくなり、ビル怪物に直撃すると全体を包み込んだ。

 

リリーフ・ダイダー「「プリキュア・レインボー・ツインバスター!!」」

 

 

そう二人が叫ぶと、ビル怪物を包み込んだ光は目も眩まんばかりに激しく輝き始めた。

 

 

 

リリーフ・ダイダー「「ゲームセット!!」」

 

 

そのかけ声とともに、二人の必殺技の直撃を受けたビル怪物は、大爆発を起こした。

 

 

そしてその爆発が収まった後には、一寸先がまともに見えないほどの埃がもうもうと立ち上り、見渡す限りの瓦礫の山ができていた。

 

それを目くらましにして、ゴーロはほうぼうの体で逃げ帰った。

 

 

 

 

 

 

宝六「いやあ、ありがとう。何から何まで本当に助かったよ」

 

鶯子「お姉ちゃん達、助けてくれてありがとう」

 

 

心から感謝を述べる二人に、リーフ達もまた微笑みながら返した。

 

 

リーフ「ふふっ、無事でよかったね」

 

ダイーダ「本当、通信を聞いてた時はどうなるかと思ったわ」

 

 

 

宝六「ははは。遠藤、今回は本当にありがとう。何か私が力になれることがあったらなんでも言ってくれ」

 

遠藤「そうか、じゃあ一つ頼みがある。こやつらがプリキュアだということを内緒にしておいてくれんか。特にあの警部さんにはな」

 

 

宝六「わかった。他ならぬ君の頼みだ。約束しよう」

 

 

 

 

 

 

そうして遠藤博士はリーフ達とともに帰路についた。

 

リーフ「いいお友達ですね」

 

ダイーダ「ええ、ああいう絆は大切にしたいですね」

 

遠藤「うむ、友人を失うのは悲しいことじゃ。フライとも、こうなる前に一度話すことができればよかったのじゃがな…」

 

 

 

 

一方、遠藤博士を見送った宝六博士もまた、遠藤博士との友情を噛み締めていた。

 

 

鶯子「おじいちゃん、すごい人達だったね」

 

宝六「ああ、わしの自慢の友達だ。しかし…」

 

宝六博士はふと疑問を口にした。

 

 

 

宝六「あの二人がアンドロイドだというのは本当のようだが、よくテレビで出ているあの飛行機といい、あれだけのもの作るには相当な金がかかったはずだが… 遠藤のやつ、一体どうやってその資金を? まさかとは思いたいが…」

 

 

 

 

第20話 終

 

 



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第21話 「揺れる世界 (前編)」

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

 

リーフ「遠藤博士はどうしたの?」

 

ラン「台所で実験中よ。新しい非常食を作るって言ってたわ」

 

 

ダイーダ「なるほどね、栄養価が高くて長持ちする食品があればいざという時便利だものね」

 

豪「あんまり期待しないほうがいいよ。じいちゃん料理は下手なほうだから」

 

感心したように頷いていたダイーダだが、豪はすでに諦めているようにそう告げた。

 

 

 

 

そんな空気の中、昼寝をしていた飼い猫のヒットが突然何かに反応するかのように立ち上がると、大きな揺れが研究所を襲った。

 

 

豪「これって!?」

 

ラン「またよ!!」

 

 

リーフ「危ない!!」

 

ダイーダ「みんなあの中に!!」

 

 

 

天井からパラパラと破片が落ち家具が倒れてくる中、リーフとダイーダはそれぞれ豪とランを抱えて、部屋の隅に置いてある骨組みだけの物置のようなものに飛び込んだ。

 

 

これはただの骨組みではなく、遠藤博士が製作した免震避難所であり、この中に入っている限り地震の揺れの影響はほぼゼロになるという優れものである。

 

 

 

数十秒後揺れも収まり、豪とランは恐る恐る避難所から出た。

 

 

豪「ふう… 収まったみたいだね」

 

ラン「でもこの地震やっぱり異常よ。これで4日連続、しかも今日は朝から3回目よ」

 

 

 

そこに頭から小麦粉をかぶり真っ白になった遠藤博士が台所から出てきた。

 

 

遠藤「うむ、マイナスエネルギー検知器がはじめの地震で壊れてしまって修理中じゃからはっきりしたことはわからんが、これはもしかすると…」

 

豪「…じいちゃん、先に風呂入りなよ。決まりきらないからさ…」

 

 

 

 

 

 

 

一同は、研究所奥の司令室でこの4日間発生した地震の震源地と思われる場所を整理していた。

 

 

ラン「やっぱり変よ。東京湾から、こう本土に来て… 震源地が規則的に北上してるわ」

 

遠藤「うーむ、こうまで規則正しく正確に移動しているとは… これはただの地震ではないな。しかもこの調子じゃと、次に銀傘山の真下付近が震源地になるぞ」

 

 

 

豪「銀傘山って、たしか関東にある唯一の活火山だよね。もしそこで大きな地震が起きたら…」

 

その分析に豪は青い顔をしていた。

 

 

 

遠藤「うむ。そうでなくとも、近隣には多くの住民や観光客がおるじゃろう。 さすがに避難指示は出始めておるじゃろうが…」

 

 

リーフ「でも、間に合わないかもしれないよ!!」

 

ダイーダ「博士、私達は救援に向かいます。 パーフェクトの一味の仕業ならなおさらなんとかしないと!!」

 

 

遠藤「よし、コズミックプリキュア出動じゃ!!」

 

リーフ・ダイーダ「「はい!!」」

 

 

豪「よし俺も」

 

遠藤博士の指示に力強く返事をした二人に続いて、豪も準備をしようとしたが

 

ラン「あんたはダメ」

 

ランに止められた。

 

 

豪「なんで止めるんだよ」

 

ラン「あんたまたそうやって宿題サボる気でしょ。私だって恥ずかしいし、おばさんからもいろいろ言われてるのよ。今日はここで宿題やんなさい!」

 

 

きつい口調で告げたランの言葉に、豪はぐうの音もでなかった。

 

 

 

 

 

 

 

銀傘山 麓

 

 

 

震源地がこの近辺に近づいていることは世間も重々承知しており、様々な救援が向かい始めていた。

 

 

この車に乗った女医、実 京香も緊急対策本部からの要請を受け、派遣された一人である。

 

 

 

京香「あら、通行止めかしら…」

 

崖下の道を通って付近の病院に向かおうとしていたところ、前方で交通規制が行われていた。

 

 

 

河内「周辺の封鎖は完了したのか?」

 

警官「はい、もう間も無くです」

 

この河内警部もまた、要請を受け部下の警官とともにこの付近に来ていた。

 

 

 

京香「すみません。ここ通れないんですか?」

 

河内「申し訳ありません。土砂崩れの危険がありまして、道路封鎖をしています」

 

京香「しかし、ここからだとしばらく道を引き返さないと… 病院で待ってる方がいるんです」

 

河内「? あなた、この地震騒ぎで派遣されてきたお医者さんですか?」

 

京香「はい、そうです。 実 京香と申します」

 

河内「そうですか… よし! この警視庁の河内、責任を持って先導しましょう」

 

京香「よろしいんですか?」

 

河内「なぁに、別に通行止になっているわけじゃなし。こんな美人のためならば!! はっはっはっ」

 

 

 

 

警官A「まったく、鼻の下伸ばして」

 

警官B「火山が噴火するかもしれないってのに河内警部も呑気なもんだ」

 

 

緊急対策本部からの要請を受けて警視庁から派遣されたというにもかかわらずの態度に、河内警部の部下も呆れたようなため息を付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

一方この付近上空にも、三冠号を操るリーフとダイーダが到着していた。

 

 

ダイーダ「一応避難指示は出てるみたいね」

 

リーフ「その他にもいろいろ救援は来てるみたい。とりあえず周辺の状況を調べてみるよ」

 

ダイーダ「ええ、頼むわ」

 

リーフ「チェンジハンド・タイプイエロー!!」

 

ダイーダが頷くと、リーフは即座に両腕を小さなロケットが装備された黄色の腕に換装した。

 

そしてハッチを開けると、リーフは右手をかざし、センサーアイを発射した。

 

リーフ「センサーアイ、発射!!」

 

 

 

そうして、付近の情報を調べていたリーフだったが突如顔つきが変わった。

 

 

リーフ「大変!! 倒壊した家の中に取り残された人がいるよ!!」

 

ダイーダ「なんですって!! 場所は? すぐに行くわよ!!」

 

 

リーフの知らせにダイーダは操縦桿を切り、三冠号を急行させた。

 

 

 

 

 

 

麓の町は、地震でかなりの家が倒壊しており、瓦礫の山と化していた。

 

 

そこに三冠号が到着するや否や、着陸させる時間も惜しいというように、即座にリーフとダイーダは飛び降りた。

 

 

リーフ「ダイーダちゃん、あの家の中だよ!! 助けてって言ってる」

 

普通ならば到底聞こえるはずもないほどかすかな声だったが、超高性能集音器の付いている彼女達の耳には、助けを求める声がはっきりと聞こえていた。

 

 

ダイーダ「わかってる、行くわよ」

 

 

そうして倒壊した家の中に入っていくと、倒れたタンスと崩れた天井に下敷きになっていた老夫婦がいた。

 

 

リーフ「しっかり!!」

 

ダイーダ「もう大丈夫ですよ!!」

 

 

おじいさん「おお、ありがとう…」

 

おばあさん「助かりました…」

 

 

 

瓦礫を持ち上げ老夫婦を助け出すと、簡単な応急処置を手早く施し、彼らを背負ってリーフ達は猛烈なスピードで走り始めた。

 

 

ダイーダ「もうちょっとだけ我慢してくださいね」

 

リーフ「すぐに病院まで連れて行きますからね」

 

 

背負われていた老夫婦は、そのあまりのスピードに目を丸くしていたが、あまり細かいことを尋ねる余裕はなさそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

銀傘山 麓  病院

 

 

 

 

ここはこの付近で唯一の病院であり、ここ数日の地震の影響もあり、怪我人が大勢収容されていた。

 

 

 

京香「案内ありがとうございました。怪我人はこれからも増えて行くでしょうし… 早く手当をしてあげないと」

 

河内「お願いします。しかしこうまで立て続けに地震が起きるとは、何かの前兆でしょうかねぇ」

 

 

 

到着した京香先生と河内警部がそんなことを話し合っていると、その横を風のようなものが走り抜けていった。

 

 

河内「な、なんだ今の?」

 

京香「何かが通り抜けて行ったような…」

 

 

 

それはもちろん

 

 

 

 

 

 

リーフ「ん? ダイーダちゃん、ストーップ!!」

 

ダイーダ「え? 何?」

 

猛スピードで走っていたリーフはすれ違った人を見てつんのめるように急停止し、ダイーダにも止まるよう言った。

 

 

リーフ「今すれ違った人、確か… よかった、おばあちゃん助かりますよ」

 

 

そうしてダイーダとともに引き返していき、京香先生の前で再び急停止した。

 

 

 

リーフの姿を見た京香先生と河内警部は、突然目の前に現れたことよりも彼女がここにいるということに驚いた。

 

 

河内「お前らはあのジジイの所の! なんでここにいる!?」

 

京香「あなた、確か前に献血に来た…」

 

リーフ「はい、リーフと言います。あなたは確かお医者さんでしたよね、人の命を助ける仕事をしている…」

 

 

京香「え、ええ…」

 

 

戸惑いつつも頷いた京香先生を見て、リーフは良かったというように満面の笑みを浮かべた。

 

 

リーフ「やっぱり! このおばあさんたち怪我をしているんです。倒壊した家の下敷きになっていて…」

 

ダイーダ「応急処置はしたんですが、本格的な検査と手当をお願いします」

 

 

その言葉に、京香先生も険しい顔になった。

 

京香「わかったわ、すぐに手当をしましょう。おじいさんおばあさん、もう少しの辛抱ですよ。 あなたたち、この人たちを診察室まで運んであげて」

 

そう優しく声をかけると、腕まくりをして診察室へと向かっていった。

 

 

河内「こら、俺を無視するな!! なんで貴様らがここにいると聞いているんだ!!」

 

 

完全に無視された河内警部は大声でそう怒鳴ったが、

 

 

京香「ここは病院です!! お静かに願います!!」

 

一喝されてしまい、何も言えなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

病室

 

 

 

しばらくのち手当を終えた老夫婦はベッドに寝かされていた。

 

 

京香「軽い打撲と怪我で済んだみたいね。骨折をしていなかったのは幸いだわ。少し大事をとればすぐよくなりますよ。あなたたちが発見してくれたおかげよ。応急処置も完璧だったわ」

 

おじいさん「本当にありがとう、あなたたちのおかげです」

 

おばあさん「ありがとう、ありがとう」

 

 

ベッドに寝かされた老夫婦は、涙ながらにリーフ達にお礼を言っていた。

 

 

 

 

リーフ「いえ、私達よりあなたの方が立派です」

 

リーフはいつものどこかぼんやりした感じの微塵もない真剣な表情でそう言い放った。

 

 

京香「立派だなんて、そんな…」

 

リーフ「いえ、私はあなたを心から尊敬します。人の命を助けることに自分の人生をかけた人を私は尊敬します」

 

 

突然の言葉に、京香先生は照れながら返事をした。

 

 

京香「そんな、人を助けることを一生懸命やっている人ならあの刑事さんだってそうよ」

 

 

ダイーダ「ええ、私はあの人の方が気に入ってるわ。もちろんあなたもね」

 

リーフ「私もだよ。この人も河内警部もだーい好き!!」

 

 

そんな二人を見て、京香先生は嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 

 

 

しかし次の瞬間

 

ダイーダ「!! また」

 

京香「えっ? キャア!」

 

再び大きな揺れが病院を襲い、病室内にあった棚が京香先生に向かって倒れかかってきたのだ。

 

 

京香先生は下敷きになるのを覚悟したが、いつまで待っても衝撃が襲いかかって来ず、恐る恐る目を開けた。

 

すると

 

 

リーフ「大丈夫でしたか?」

 

にっこりと笑ったリーフが間一髪棚を受け止めていた。

 

 

京香「え、ええ。ありがとう。しかしあなたすごい力ね」

 

倒れた棚を片手で受けとめていたリーフを見て、京香先生はそう漏らした。

 

 

リーフ「いえ、これぐらい… ん!?」

 

ダイーダ「この音は…」

 

突然険しい顔をしたリーフとダイーダは床に耳を当てて物音を聞き始めた。

 

 

京香「えっ、どうしたの? いったい何を…」

 

突然のことに戸惑っていると、そこに河内警部が飛び込んできた。

 

 

河内「みんな!! 大丈夫だったか!?」

 

中の患者の状態を心配していた河内警部だったが

 

 

 

リーフ「静かに!!」

 

ダイーダ「聞こえなくなるから!!」

 

 

河内「おう、すまん。 ってお前らは何をやっとる?」

 

 

 

リーフ「…何か巨大なものが地中を移動してる」

 

ダイーダ「ええ、この数日の地震も今の地震もおそらくこいつの仕業。それにこの音からすると…火口付近に向かってるわ。こうしちゃいられない!!」

 

 

危険を察知すると、河内警部に向かってダイーダは真剣な顔で告げた。

 

ダイーダ「河内警部、この付近の人達を至急避難させてください。火山が噴火させられる可能性があります」

 

 

河内「はぁ? お前らは何を?」

 

突然のことに混乱していた河内警部に対して、ダイーダは頭を下げて告げた。

 

ダイーダ「お願いします。このままでは多くの人が傷つきかねません」

 

 

そんなダイーダの態度に何か感じるものがあったか、河内警部は真剣な顔で頷いた。

 

 

河内「よしわかった。 この病院や付近の住民は俺が責任を持って避難させる」

 

 

ダイーダ「よろしくお願いします。リーフ行くわよ!!」

 

リーフ「オッケー!!」

 

 

そうしてリーフとダイーダは猛スピードで病室から飛び出していった。

 

 

河内「…なんだろうな。デタラメを言ってるように思えんし、自分達だけ逃げた訳でもなさそうだ…」

 

京香「ええ、不思議な子達ですね」

 

 

河内「おっといかん、避難を行わないと。先生手伝っていただけますか?」

 

京香「はい!!」

 

 

その返事と共に、河内警部と京香先生はすぐさま病院の患者を含む周辺の住民の避難をし始めた。

 

 

 

 

 

 

銀傘山付近 地底

 

 

地下数百メートルにある空洞で、巨大な生物が地面に幾度となく前足を叩きつけていた。

 

 

この生物はナマズに機械の足を取り付けたような姿をしており、普通の生き物でないことは火を見るより明らかであった。

 

そして、ナマズ怪物の頭の上では苦い顔をしたファルが腕組みをして立っていた。

 

ファル「ちっ、これでもう4日目だってのにいつになったら火山が噴火するんだ」

 

 

そうやって愚痴をこぼしたファルに通信が入った。

 

Dr.フライ『文句ばかり言っとらんでもっとメイジャーを活発に活動させろ。 この銀傘山は現在もっとも噴火の可能性の高い活火山じゃ。地下のマグマ層に刺激を与え続ければ大噴火は間違いない。 地上を暗黒に染めるための盛大な花火じゃ!!』

 

 

興奮気味のDr.フライだったが、ファルは冷めたものだった。

 

ファル「けっ、前に失敗した作戦の焼き直しだろうが。もう少しましなことを考え付かないのか、大天才様よ」

 

 

Dr.フライ『黙れ!! 同じ失敗は繰り返さん!! 今度はこうして地上の火山を目標にしたのじゃ。しかも見つからんように地下から侵攻するようにしておる。とっと地震を起こして火山噴火を誘発させろ!!』

 

 

ファル「いちいち怒鳴るな。大体ここまでやってもいっこうに噴火する気配もないところを見るに、そもそも根本的に作戦に問題があるんじゃないのか?」

 

Dr.フライ『やかましい!! 貴様のやり方に問題があるのじゃ!! 地中でダメなら直接火口を刺激しろ!!』

 

 

ファル「ちっ、わかったわかった」

 

 

舌打ちをしながらそう告げると、ファルはナマズ型メイジャーを地上へと這い出させた。

 

 

 

 

第21話 終



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第22話 「揺れる世界 (後編)」

 

 

 

火口付近へと向かっていたリーフとダイーダも、近づくにつれて表情が険しくなっていった。

 

 

リーフ「やっぱり間違いないよ。振動が火口の方に向かってる。それもだんだん地上に近づきながら…」

 

地面に耳を当て、リーフは地中を移動しているものの音を聞きながらそう言った。

 

 

ダイーダ「地上に出てきてくれるなら却ってありがたいわね。火口に先回りして迎撃しましょう」

 

リーフ「うん」

 

 

そう頷くと二人は猛烈なスピードで火口へと走って行った。

 

 

 

 

 

 

銀傘山 火口

 

 

 

活火山でもあるこの銀傘山の火口では、連日の地震で噴煙が上がっており危険性が増していた。

 

そんな火口に地響きが起き、手足の生えた巨大なナマズといった怪物が地中から姿を現した。

 

ファル「さてと、この火山を噴火させるのはいいとして巻き込まれないようにしないとな」

 

 

そんなことを呟き、ナマズ型メイジャーに地震を起こさせようとしたその時だった。

 

 

ダイーダ「待ちなさい!!」

 

リーフ「地震を起こして、多くの人を傷つけようだなんて絶対許さないよ!!」

 

先回りしていたリーフとダイーダが凛とした声でそう言い放った。

 

 

 

 

ファル「貴様ら… 黙れ!! 許してもらうつもりもない!! 行け、メイジャー!!」

 

 

 

立ちはだかったリーフとダイーダにそう吐き捨てたファルは、ナマズ型メイジャーに指示した。

 

 

命令を受けてメイジャーは、雄叫びをあげると無理やり取り付けられたような機械の前足を何度も地面に叩きつけ、地震を発生させた。

 

 

ダイーダ「キャア!! っ!! しまった!!」

 

 

地震に足を取られてしまい、揺れとともに発生した地割れにダイーダは足を挟んでしまい身動きが取れなくなってしまった。

 

ダイーダ「く、くそ! これじゃ…」

 

 

 

そしてそんなナマズ型メイジャーは大ジャンプして、そんなダイーダを踏み潰した。

 

ダイーダ「ぐああっ!!」

 

しかもただ踏み潰すだけでなく、何度もスタンピングを繰り返しており、その度に地震が発生していた。

 

 

リーフ「ダイーダちゃん!! って、わっわっわっ!」

 

そのためリーフも揺れに足を取られてしまい、ダイーダを即座に助けに行けなかった。

 

 

 

 

リーフ「な、なんのこれしき!!」

 

それでもなんとか根性で大ジャンプして飛びかかったが

 

 

ファル「甘いぜ!!」

 

ナマズ型メイジャーの生やしているヒゲに弾かれてしまい、大きく吹き飛ばされた。

 

 

なんとか受身を取って着地したものの絶え間なく続く大きな揺れに、リーフも身動き取れなくなってしまった。

 

リーフ「ま、まずい。こんなに地震が続いたら麓の人達も危険だし、何より火山が噴火しかねない…」

 

 

 

 

 

 

銀傘山 麓

 

 

 

 

 

リーフの懸念通り、麓の町では今まで以上に大きな地震が発生したため、建物という建物が大きく軋み、パニックになりかけていた。

 

 

河内「みなさんお気をつけて。慌てずに避難してください!!」

 

京香「服を頭からかぶるなどしてください。頭上にはくれぐれも中止してください!!」

 

 

そんな中、河内警部と京香先生が必死に付近住民の避難を行っていた。

 

さすがというべきか、的確な指示を行ったため、なんとか大混乱になることだけは避けられていた。

 

 

河内「先生、病院内の患者は部下に最優先で避難させました。そろそろ我々も」

 

京香「ええ」

 

 

あらかたの避難が終わったことを確認すると、彼らもまた続けて避難していった。

 

 

 

 

 

 

 

銀傘山 火口

 

 

 

リーフ「なんとかあいつの動きを止めないと… チェンジハンド・タイプブルー!!」

 

リーフは両腕を稲妻模様の走った青い腕に換装し、電撃光線を発射しようとした。

 

 

 

リーフ「わっわっ。だ、だめだ。揺れで狙いが定まらない!! 下手したらダイーダちゃんに直撃しちゃう」

 

 

 

うかつに攻撃することができず躊躇していたリーフだったが、あることを思い出した。

 

 

リーフ「あっ、そうだ!! あれを使えば… 三冠号!!」

 

 

その呼びかけに応え、三冠号が飛来しあるものを投下した。

 

 

リーフ「遠藤博士の作った避難所、この中なら揺れずに済むはず。持ってきてよかった」

 

リーフはその免震避難所の中に入ると、狙いを定めて右手をかざした。

 

リーフ「よしこれなら… ダイーダちゃん行くよ、エレキ光線発射!!」

 

 

その電撃光線は一直線にナマズ型メイジャーに向かっていき直撃、感電させることで動きを一時的に止めた。

 

と同時に、機械の足もショートどこか配線がいかれたらしく動かなくなった。

 

 

ダイーダ「しめた!! チェンジハンド・タイプレッド!!」

 

 

一瞬動きが止まった隙に、ダイーダは両腕を一回り大きなゴツゴツした赤い腕に換装した。

 

 

ダイーダ「ここは危険だから、麓まで降りなさいね!!」

 

そう皮肉たっぷりに言うと、その腕の生み出す超怪力でナマズ型メイジャーを持ち上げ麓めがけて投げ飛ばした。

 

 

 

ファル「うおおおおっ!!」

 

ファルの悲鳴を聞きながら、ダイーダは地割れにパンチを叩き込み挟まっていた足を抜いた。

 

 

 

ダイーダ「よし、うまくいったわ。ここで戦うわけにいかなかったしね」

 

リーフ「うん、下手に爆発させちゃうと火山が噴火しかねないし」

 

 

ダイーダ「ええ。じゃあ、後始末いきましょうか」

 

リーフ「オッケー!!」

 

 

そして

 

 

リーフ・ダイーダ「「ゴー!!」」

 

その掛け声とともに、二人はジャンプしてトンボを切った。

 

 

 

 

 

 

 

投げ飛ばされたナマズ型メイジャーは山道を転がっていき、中腹あたりでなんとか止まったもののかなりダメージを受け、取り付けられた機械の足は折れてしまい、頭に乗っていたファルに至ってはボロボロになっていた。

 

ファル「くっそ、プリキュアどもめ。やってくれる…」

 

そんな愚痴を漏らしながらもなんとか立ち上がろうとすると、目の前にファルにとっては不快感を感じる暖かな光が差した。

 

 

 

 

次の瞬間、光に包まれた二人の少女がファルの前に舞い降りてきた。

 

一人はボリュームのある濃いピンクの髪に、赤を基調にしたドレスのようなものを着用していた。

 

 

今一人は、腰まで伸びた五本の金色のポニーテールに、純白を基調にしたフリルのついたドレスを着用していた。

 

 

 

そしてファルと怪物を険しい顔で睨むと二人は名乗りをあげた。

 

 

リリーフ「闇を吹き消す光の使者 キュア・リリーフ!!」

 

ダイダー「悪を蹴散らす光の使者 キュア・ダイダー!!」

 

 

リリーフ・ダイダー「「ピンチ一発、大逆転! コズミックプリキュア!!」」

 

 

 

 

 

ファル「黙れ!! まだ、こっちにも奥の手はあるんだよ!! やれ、メイジャー!!」

 

 

ファルの命令に、ナマズ型メイジャーは口元の髭を伸ばしてリリーフとダイダーを絡め取った。

 

リリーフ「えっ?」

 

ダイダー「何?」

 

 

戸惑う間も無く、ナマズ型メイジャーはその髭から電撃を流し込んできた。

 

 

リリーフ・ダイダー「「キャアアアア!!」」

 

ナマズ型メイジャーの電撃に悲鳴をあげたリリーフとダイダーを見て、ファルはニヤリと笑った。

 

 

ファル「お返しだ!! 投げ飛ばしてやれ!!」

 

 

その指示にナマズ型メイジャーは雄叫びを一つあげ、首を振り回すようにして口元の髭で絡め取った二人を力任せに振り回した。

 

 

リリーフ・ダイダー「「うわあああ!!」」

 

そしてそのままの勢いで、地面に思い切り叩きつけた。

 

 

 

つもりだったが

 

 

 

ダイダー「なんてね♪」

 

リリーフ「よっと」

 

二人はあっさりと受け身を取り着地した。

 

 

 

ファル「なぁ!?」

 

 

 

驚愕しているファルをよそに、二人は自分達を絡め取っていた髭を引きちぎった。

 

そしてその髭を掴んで逆にナマズ型メイジャーを高速で振り回し始めた。

 

 

リリーフ・ダイダー「「うおおおおお!!」」

 

 

散々に振り回され、目を回していたメイジャーをその勢いのままに近くで呆然としていたファルに向かって叩きつけた。

 

 

ファル「があっ… どういうことだ… なぜ…」

 

 

メイジャーの攻撃が通用しなかったことが理解できなかったファルは、ボロボロになりながら絞り出すようにそう言った。

 

 

ダイダー「あんな電撃、リーフのブルーハンドの方が強力よ。ダメージになんかなるもんですか」

 

リリーフ「いつもいつも生き物をいいように扱って、ちょっとした仕返しだよ」

 

 

 

そのセリフにファルは悔しそうに唇を噛んだ。

 

 

ダイダー「とどめよ、リーフ!!」

 

リリーフ「オッケー!!」

 

 

 

光のスティックを取り出したダイダーの呼びかけにリリーフは大きく振りかぶると虹色の玉を手に輝かせ始めた。

 

 

リリーフ「ダイーダちゃん!!」

 

 

そしてそのまま、その虹色の玉をダイダーに向けて亜音速で投げつけた。

 

 

ダイダー「ナイスボール!!」

 

 

ダイダーはそれを驚異的な視力で捉えると、光のスティックで打ち返した。

 

打ち返された虹色の玉はひとまわり大きくなり、ナマズ型メイジャーに直撃すると全体を包み込んだ。

 

 

リリーフ・ダイダー「「プリキュア・レインボー・ツインバスター!!」」

 

 

そう二人が叫ぶと、ナマズ型メイジャーを包み込んだ光は目も眩まんばかりに激しく輝き始めた。

 

 

 

リリーフ・ダイダー「「ゲームセット!!」」

 

 

そのかけ声とともに、ナマズ型メイジャーは一際大きな爆発を起こし、その後にはピクピクと跳ねるナマズがいただけだった。

 

 

リリーフ「ふう、やれやれだね」

 

ダイダー「この魚はすぐに川にでも放してあげましょう。でもその前に…」

 

 

 

 

 

 

 

ファル「く、くっそ…」

 

 

必殺技の直撃こそ免れたものの、今の大爆発に吹き飛ばされたファルは、両腕がおかしな方向に折れ曲がり、全身傷だらけの上あちこちから火花を吹いていた。

 

 

リリーフ「ファル!! もう逃げられないよ!!」

 

ダイダー「そのアンドロイドのボディごと拘束させてもらうわ」

 

そう言い放ったコズミックプリキュアだったが、次の瞬間ファルの頭上の空間に裂け目のようなものができ始めた。

 

 

リリーフ「え?」

 

ダイダー「何?」

 

 

驚いたのもつかの間、その裂け目から黒い靄のようなものがあふれだすと同時に、どす黒い光弾が発射された。

 

 

リリーフ「!!」

 

ダイダー「まずい!!」

 

危険を感じとっさにその光弾をかわした二人だったが、その判断は正しかった。

 

 

光弾は二人のはるか後方の地面に着弾し、先ほどの二人の必殺技を彷彿とさせるような大爆発を起こした。

 

 

 

 

リリーフ「な、なにあれ?」

 

ダイダー「とてつもない威力… まさか!!」

 

 

そうしているうちに、ファルの姿は消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

銀傘山 麓 避難所

 

 

 

 

河内「やれやれ、とりあえずひと段落ついた。避難も無事完了したし、まずはよかった。しかし、事件があるたびにあの二人を見かけるような気がするな…」

 

 

どうにか落ち着いた中、河内警部はふとそんなことを考え始めていた。

 

 

 

一方

 

 

京香「あのリーフって子、もしかしてここしばらく頻発しているおかしな事件と関係があるのかしら? 一度話を聞いてみたいわね…」

 

 

京香先生もまた、避難した怪我人の手当をしながらそんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

三冠号で帰還しながら、リーフとダイーダも今後のことを考え始めていた。

 

 

ダイーダ「あの攻撃、ほぼ間違いなくパーフェクトだね。いよいよ本格的に攻撃を始めたみたいね…」

 

リーフ「うん、それにメイジャーもだんだん強くなってきてる。私達もパワーアップできないか、遠藤博士に相談してみようよ」

 

ダイーダ「そうね、それがいいわ」

 

 

 

 

 

第22話 終



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第23話 「消える街 (前編)」

 

 

 

宮神市 深夜

 

 

 

ここは、甲子市の隣町である宮神市。

 

草木も眠る丑三つ時、突如として巨大なカエルのような怪物が出現した。

 

 

しかしそのカエル型メイジャーは派手に破壊活動をするでもなく、口から泥のようなものを吐き出して回っていた。

 

 

ゴーロ「これでいい。明日が楽しみだ」

 

 

 

 

 

 

 

翌日 遠藤平和科学研究所

 

 

 

 

遠藤「やれやれ、修理に予想外に手間がかかったわい。しかし、これでいつ何が起きても安心じゃな」

 

 

先の地震騒動で壊れたままだったマイナスエネルギー検知器の修理がようやくにして終わり、遠藤博士は一息をついていた。

 

リーフ「博士。それもいいですけど、私達の体の方のこともお願いします」

 

ダイーダ「パーフェクトたちの攻撃は激しさを増してきています。私達も戦力のアップを考えないと…」

 

 

リーフとダイーダの言葉に博士は難しい顔で唸った。

 

 

遠藤「う〜む。設計図を見直したりして考えとるんじゃがな。なんせ、おぬし達精霊が取り付いたおかげで構造が微妙に変化しとるからな。解析をもう少し進めてからでないとどう改造するかのプランも立てられん」

 

 

ダイーダ「わかりました、もう少し攻撃力が上がればいいんですけど…」

 

リーフ「私はもう少し早く機動力があればいいな。行動に幅ができるから」

 

 

そんな会話をしていると、テレビを見ていたランが叫んだ。

 

 

 

ラン「みんな大変よ、テレビ見て!!」

 

 

遠藤「な、なんじゃあれは?」

 

リーフ「こんなことってあるの?」

 

ダイーダ「驚いている場合じゃないわ。リーフ、調べに行くわよ」

 

 

 

 

 

 

宮神市

 

 

 

どこかスッキリしない曇り空が広がる中、市内はパニック状態に陥っていた。

 

 

節子「テレビの前の皆様。この光景をご覧になりどのような感想をお持ちでしょうか? この一帯は間違いなく昨夜まで住宅街だったのです。にもかかわらず、今ではただの赤茶けた砂漠が広がっています」

 

 

そのレポーター甲斐 節子の報道している通り、市街地はただの砂漠と化しており、一夜にして家を失った人たちが着の身着のまま呆然としていた。

 

 

この異変を聞きつけ、マスコミのみならず救急も駆けつけてきていた。

 

 

京香「怪我をされている方はこちらへ。手当をいたします」

 

 

その中の一人である京香先生をはじめ、駆けつけていた多くの救急隊員がそう呼びかけていたものの、さらに奇妙なことに誰もその声に答えなかった。

 

 

不審に思い、近くの人に京香先生は尋ねた。

 

京香「あの、どうされました? 怪我をされている方は…」

 

 

しかし首を傾げているのは市民達も同様だった。

 

 

市民「いや、誰も怪我はしてないみたいなんだ。昨夜普通に寝てただけなのに、朝起きたら家ごと無くなってたんだ。もう何が何だか、狐につままれたみたいだ」

 

 

その言葉通り、皆着の身着のままでいるものの誰もめだった怪我をしているものはおらず、せいぜい擦り傷ていどでしかなかった。

 

 

京香「そんな… こんなことになっているのにどうして?」

 

 

その光景を崩れ損ねたらしい近くのビルの上からゴーロは満足そうに見下ろしていた。

 

 

ゴーロ「フライの奴め、たまにはまともなものを作る。この調子なら砂漠がこの国を覆い尽くすのも時間の問題だ」

 

 

 

そんな中三冠号が飛来し、それを見たゴーロは嬉しそうに呟いた。

 

ゴーロ「こりゃいい。連中もこれで最後だ」

 

 

 

 

節子「あれは? コズミックプリキュアの飛行機のようです。彼女達もこの異変に駆けつけてくれたようです。ということは、もしやこれは次元皇帝パーフェクトと名乗る者達の仕業なのでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

ダイーダ「博士、現場上空に到着しました。着陸して詳細を調査します」

 

遠藤『いや、待て。 あの砂漠は得体の知れないところがある。うかつに着陸するのは危険じゃ。三冠号は上空に待機させておけ』

 

リーフ「了解。豪くんはここにいて。私達で調査するよ」

 

豪「わかった。気をつけてね」

 

 

豪にそう言うと、リーフとダイーダはそれぞれ三冠号から飛び降り調査に当たった。

 

 

 

 

ダイーダは砂漠に着地するとシャーレで砂をすくい取り、内蔵されているセンサーで砂の成分を解析し始めた。

 

ダイーダ「放射能反応及び毒性はなし。おかしいわね、生命体には無害に等しいわ。じゃあこの惨状は…」

 

リーフ「もしかすると、この砂はこの辺にあった建物だったんじゃないかな。もっと中心部の砂を調べてくるよ」

 

ダイーダ「わかった、お願いね。 私はもう少しこの辺を調べてみるわ」

 

 

リーフはそう言い置くと砂漠の中央部へと足を運んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

リーフ「うーん。ここのあたりが中心だけど、特に変わった様子もないな。この砂が原因みたいだけど、どうすればこんなことができるんだろう」

 

調査をすればするほどこの状況が理解できず、リーフは頭を抱えていた。

 

すると

 

京香「遠藤リーフさん…よね?」

 

そんなリーフの姿を認めた京香先生が話しかけてきた。

 

 

リーフ「わぁ、お医者さん。こないだはどうもありがとうございました… で、いいんですよね」

 

京香「え、ええ。こちらこそどうも。 あなたここで何をしているの?」

 

リーフ「はい、調査でやってきました」

 

無邪気な笑顔でそう答えたリーフに、京香先生の疑問は拡大した。

 

 

京香「調査? なぜあなたがそんなことを?」

 

リーフ「それは、秘密です。 博士にそうしろと言われてるんです」

 

京香「博士? 一体あなたは誰に言われてきてるの?」

 

リーフ「それも秘密なんです」

 

 

ニコニコと笑ってそう告げるリーフに、京香先生はますます疑問が湧き始めた。

 

 

京香「ちょっと詳しい話を聞いていいかしら? 小雨もパラつきだしたしどこか屋根のあるところで…」

 

そう告げた次の瞬間だった。

 

 

リーフ「うぐっ!! 何これ…」

 

突如リーフは胸元を押さえて苦しみ始めた。

 

 

京香「ど、どうしたの? しっかりして!!」

 

リーフ「く、苦しい… 体が…」

 

 

京香「この砂漠、やっぱり何かあるみたいね。肩につかまって。救護班のテントまで行きましょう」

 

 

そうしてリーフは京香先生に連れられて行ってしまった。

 

 

 

 

一方

 

 

 

ダイーダ「さて、もう少し掘り返して探ってみるか」

 

ダイーダもまた、小雨の降り始める中一人調査を続行していた。

 

 

 

するとそこに、節子がカメラマンを引き連れマイク片手に走ってきた。

 

 

節子「すみませーん。コズミックプリキュアの方ですか? ちょっとお話を…」

 

 

しかし、ダイーダのもとに駆け寄っている最中に突如マイクが砂になってしまった。

 

節子「あれ? な、なんで?」

 

 

カメラマン「俺もだ。どうなってんだこれ?」

 

節子の後ろをついてきていたカメラマンも構えていたカメラが砂になってしまい目を丸くしていた。

 

 

その光景を見て、ダイーダも目を光らせた。

 

ダイーダ「やっぱり、この砂に何か問題があるんだわ… ここでの調査だけじゃ限界があるか…」

 

そう呟いた途端、ダイーダの胸に激痛が走った。

 

ダイーダ「があっ!! な、何!?」

 

 

その痛みはとても立っていられるレベルではなく、ダイーダはうずくまってしまった。

 

 

ダイーダ「こ、これ、このままだとまずいわ。豪引き上げるわよ」

 

ダイーダは上空にいた豪にそう呼びかけた。

 

 

豪「わ、わかったリーフ姉ちゃんも早く!!」

 

ダイーダからの通信を受け、豪は三冠号からリーフに慌ててそう呼びかけた。

 

 

 

リーフ「わ、私は大丈夫。ダイーダちゃん達は先に戻ってて」

 

豪「えっ? でも」

 

リーフ「大丈夫だよ。どうにかなる前に砂漠から離れたから。それより急いで、三冠号に何かあったら大変だよ。 私はこの近辺で怪我をした人の救護をしてるから」

 

 

リーフのその言葉に、豪は止むを得ずダイーダのみを回収して研究所へと帰還した。

 

 

 

 

救護班のテントでは、ベッドに寝かされたリーフが必死に苦痛をこらえつつ今の通信を行っていた。

 

 

京香「あなた、今誰と話してたの?」

 

その問いかけにリーフは無理やりにっこりと笑って答えた。

 

 

リーフ「秘密です…」

 

 

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

研究所に帰還したダイーダだったが、普通に動くこともままならず研究室のソファーに横たわっていた。

 

ラン「ダイーダさん苦しそう… 大丈夫?」

 

そう心配そうに声をかけるランに、ダイーダは力なく笑いかけた。

 

 

ダイーダ「ええ、大丈夫よ。 それより博士、何かわかりましたか?」

 

ダイーダから採取した砂を受け取った遠藤博士は、しばらく顕微鏡で観察していたが、ようやく砂の正体を突き止めた。

 

 

遠藤「わかったぞ!! こいつはカビの一種じゃ!! どおりで小雨がぱらつくと活性化したはずじゃ」

 

 

ラン「えっ? カビって… あのカビのこと?」

 

豪「でも、それとあの砂漠と何の関係があるの? それに俺や街の人は無事だなんて…」

 

 

戸惑いながら疑問を口にしたランと豪に、遠藤博士は所見を述べた。

 

 

遠藤「うむ。普通のカビは食べ物や服などの有機物に取り付いて繁殖するんじゃが、このカビは鉄やコンクリートなどに取り付いて繁殖するようじゃな。 しかもそういったものをなんでも食い散らかす非常にタチの悪いもんじゃ」

 

 

それを聞いてランは顔色が変わった。

 

ラン「じゃあ、ダイーダさんも砂になっちゃうの!?」

 

 

遠藤「ああ、それは大丈夫じゃ。リーフもダイーダも精霊が取り付いた影響で金属構造が微妙に変化しとるからな、当面の問題はない」

 

 

その言葉にランと豪は胸をなでおろした。

 

豪「そっか。でも、このカビなんとかしないと砂漠が広がる一方だよ」

 

 

遠藤「それもわかっとる。まぁこのカビは有機物には反応せんようじゃから、さしあたってそれを元にしたコーティング剤を作ってじゃな…」

 

 

そんなことを解説した途端、カビを調べていた顕微鏡が机ごと砂になって崩れ落ちた。

 

 

豪「い!!」

 

ラン「嘘!!」

 

遠藤「しまった!! このカビはなんでもボロボロにして砂にしちまうんじゃ!!」

 

 

 

ダイーダ「博士!! この部屋の隔離を!!」

 

豪「家が砂になっちゃうよ!!」

 

ラン「冗談じゃないわ!! 早くなんとかして!!」

 

 

皆は大慌てで貴重品を運び出し研究室の隔離を行い、遠藤博士は大至急対応策を取り始めた。

 

 

 

 

そして数十分後

 

 

遠藤「よしでけた。対砂カビ用コーティング液じゃ。 豪、お前は三冠号にこれを満遍なく吹きかけてこい」

 

農家の人が使う除草剤のような物にその液を入れた遠藤博士が、同じ物を抱えた豪にそう指示した。

 

豪「わかった」

 

 

 

格納庫にいった豪を見送ると遠藤博士は、研究室に液を吹きかけ始めた。

 

 

遠藤「まったく、フライの奴め。ロクでもないもんを作りおる。研究室が台無しじゃ」

 

ラン「でも、これでもう安心よ。よかったわねダイーダさん」

 

 

ほっと一息ついたランだったが、遠藤博士は首を横に振った。

 

 

遠藤「いやいや、安心するのはまだ早い。これはあくまで被害が広がらんようにするための処置じゃ。根本的な解決にはなっとらん」

 

ラン「えっ? どういうこと?」

 

 

遠藤「つまりじゃ。これはカビた物をラップで包むような物であって、元に戻しとるわけではないんじゃ。 このカビの除去手段はこれから考えねば…」

 

 

 

そう言った瞬間、マイナスエネルギー検知器がけたたましい音を立てた。

 

 

遠藤「げっ!! まずい!!」

 

 

 

 

 

宮神市

 

 

 

突然砂漠と化したこの街で、朝からの混乱がようやく一段落しようかというところに、巨大なカエル型メイジャーが出現し再びパニック状態になっていた。

 

 

 

ゴーロ「人間ども、貴様らの文明がどれだけくだらねぇもんか思い知れ!!」

 

そのカエル型メイジャーの頭上からゴーロがそう見下したように叫んでいた。

 

そしてそれに従い、カエル型メイジャーは口から泥のような物を吐き出し、それを浴びたビルや車は一瞬のうちに砂になっていった。

 

 

人的な被害こそ出てはいないものの、人々が混乱するのも当然であった。

 

 

 

「くそぅ、撃て撃てーっ!!」

 

 

無論、警察をはじめとした機動隊員もこのカエル型メイジャーに立ち向かったが拳銃はもちろんライフルすらこのカエル型メイジャーには通じず

 

 

ゴーロ「けっ、くだらん攻撃だな。やれ」

 

 

挙句、バカにしたようなゴーロの言葉とそれとともにカエル型メイジャーの吐き出した砂に、武装一式が砂になってしまい撤退をやむなくされていた。

 

 

 

 

 

この少し前、救護テントにて胸を押さえ苦しみもだえているリーフがいた。

 

リーフ「く、苦しい… 体が溶けそう…」

 

 

京香「しっかり! 救急車はまだなの?」

 

看護師「それが… ほとんどの救急車が機能停止してしまっているようで、隣町から呼ぶにしても時間が…」

 

京香先生の呼びかけに、電話をしていた看護師が悔しそうにそう告げた。

 

 

京香「なんですって!? 仕方がないわ、この場でできる限りのことをしましょう。聴診器を貸して。 それにしても、他の人はなんともないのにどうしてこの子だけ…?」

 

やむを得ないとばかりに、京香先生はとりあえずリーフの診断を行おうと、上半身をはだけさせ聴診器を当てたが、その途端怪訝な顔をした。

 

京香「? なにこの音? 心音や血流音じゃない、モーターみたいな… ペースメーカーでも入れてるのかしら? でもそれにしては、それらしい手術跡もないし…」

 

そんな疑問が頭の中に渦巻いていた時、突如周りが騒がしくなった。

 

 

 

京香「どうしたの?」

 

「怪物が襲ってきたんです。なにもかも砂に変えちまうやつです。きっと街をこんなにしたやつですよ!! 早く逃げないと!!」

 

 

そう叫びつつ逃げ惑う市民の声を聞いて、リーフは苦しみながらも立ち上がった。

 

リーフ「あいつらが… 行かないと…」

 

足元もおぼつかないような状態で、テントを出て行こうとするリーフを見て、京香先生は驚いてリーフを支えた。

 

 

京香「無理しちゃダメよ。さぁ、安全な場所に避難しましょう」

 

しかし、リーフは京香先生を振り払った。

 

 

リーフ「あなたは逃げてください。私はあいつらをなんとかしますから…」

 

京香「なにを言ってるの!! あなたが行ったからどうなるわけでもないし、第一医者としてそんな体調の人を放っては置けません!!」

 

 

そう言い放った京香先生に対して、リーフもまた真剣な顔で言った。

 

リーフ「じゃあ、あなたは自分の体調が悪いからといって、それを理由に人を助けることをしませんか?」

 

 

京香「え? いえそんなことは…」

 

戸惑いながらも問い掛けを否定した京香先生に、リーフはにっこりと笑った。

 

 

リーフ「私もです。どれだけ傷つこうとも自分の使命を投げ出すつもりはありません。それがこの体を作った人の願いでもあるんです」

 

 

京香「使命? 体を作った?」

 

リーフの言葉に混乱していた京香先生を置いて、リーフはふらつきながらも怪物が暴れているという方へ向かっていった。

 

 

 

 

街中は、カエル型メイジャーが吐き出した砂の影響で一面が赤茶けた砂漠と化しており、しかも小雨が降る中、砂漠そのものが意思を持ったように広がっていっていた。

 

その光景を見てゴーロは満足げに口元を歪めた。

 

ゴーロ「フライの作ったものにしちゃ、なかなかのものだ。今のうちに別の街に行っておくか」

 

 

 

我が物顔で砂漠を広げていたカエル型メイジャーだったが、そこに弱々しい声が聞こえてきた。

 

 

リーフ「…やめなさい。これ以上はやらせないよ…」

 

ゴーロ「ガッハッハッ!! そんなザマでよく吠える。ちょうどいい、この場でテメェをスクラップにしてやる」

 

 

すでにフラフラのリーフを見てゴーロがバカにしたように笑うと、カエル型メイジャーは舌を伸ばしてリーフを縛り上げてしまった。

 

 

リーフ「くっ、くそ。こんなもの…」

 

なんとかその舌を引きちぎろうと足掻くも、万全とは程遠い現状ではどうすることもできず、そのまま振り回されて叩きつけられた。

 

 

リーフ「グアッ… か、体が…」

 

 

ゴーロ「悪あがきはよせ。この砂漠の中で暴れれば暴れる程、テメェはボロボロになっていく。このままバラバラになるのが先か、砂にやられるのが先かどっちだろうな」

 

 

 

第23話 終



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第24話 「消える街 (後編)」

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

 

遠藤「よーし、なんとかできた。あの砂カビだけを除去してその他の影響はなし。名付けてカビキラー光線じゃ、行くぞダイーダ」

 

ダイーダ「はい」

 

大型のライトのようなそれを、壁を背にして立ったダイーダに向けると、遠藤博士はスイッチを入れた。

 

すると暖かい光が照射され、ダイーダの体を照らした。

 

 

豪「どう? ダイーダ姉ちゃん?」

 

心配そうな豪だったが、光を浴びたダイーダは実に心地よさそうだった。

 

ダイーダ「わかるわ、全身からカビが消滅していく」

 

 

ラン「よかったわ、これであのカビを除去できるのね」

 

 

そのダイーダの様子を見てホッと胸を撫で下ろしたランだったが、遠藤博士は渋い顔をしていた。

 

遠藤「そうしたいのは山々じゃがな… この光線はエネルギーをやたら食う上、連続で照射ができん。街一つのカビを除去するのには尋常でないエネルギーと時間がかかるぞ…」

 

豪「そんな、なんとかならないの…」

 

 

豪がそう言った時、ダイーダはふとあることに気がついた。

 

ダイーダ「あら、この光のスペクトルは… 知っています、この光ならいくらでも用意できます!!」

 

 

遠藤「何? わしより先にこの光線を発明したものがおると?」

 

 

 

 

 

 

宮神市

 

 

その頃、リーフはボロボロの体を引きずるようにして戦っていたが、もはや傍目にも限界が近かった。

 

 

リーフ「ハアハア… 前が霞んできた…」

 

すでに視界も半分以上がぼやけ、敵の位置を確認するだけでやっとだった。

 

 

ゴーロ「ぐはは、どうしたどうした? いつもの元気はどこへ行った」

 

 

そんなあざ笑うかのようなゴーロの叫びとともに、カエル型メイジャーは大ジャンプしてリーフの視界から消えた。

 

 

リーフ「くっ、どこに? キャアアア!!」

 

 

目標を目で追いかけることも満足にできず、カエル型メイジャーを見失ったかと思うと、次の瞬間にリーフは踏み潰されてしまった。

 

 

リーフ「ぐう… チェ、チェンジハンド・タイプブルー!!」

 

カエル型メイジャーに踏みつけられながら、リーフはなんとか両腕を稲妻模様の走った青い腕に換装した。

 

そして電撃を放とうとしたが、

 

リーフ「!! ブルーハンドが作動しない!?」

 

カビにやられた影響か、ブルーハンドは機能停止してしまっていた。

 

 

ゴーロ「テメェもおしまいだな。このまま砂になっちまえ、やれ」

 

カエル型メイジャーはゴーロの命令に従い、鋭い爪を振りかざすとそのままリーフの体を引き裂いた。

 

 

リーフ「あああああっ!!!!」

 

 

普通の人間なら一撃で血だるまの真っ二つになるところだが、かろうじてリーフの体は持ちこたえた。

 

しかし、今の一撃で全身を覆っている人工皮膚の一部が引き裂かれ、内部メカがむき出しになった。

 

 

そしてそのままリーフは人形のようにカエル型メイジャーに蹴り飛ばされた。

 

 

リーフ「ぐっ、まだまだ…」

 

なんとか立ち上がろうとしたリーフだったが、

 

 

リーフ「ゲボッ!! がああああ!!」

 

今のむき出しになったメカの部分にカビが侵入してしまい、激痛のあまりのたうち回った。

 

 

 

 

京香「くっ、もうやめなさい!!」

 

やはりリーフを放ってはおけず、近くで様子を伺っていた京香先生だったが、目の前の戦いにさすがに足がすくんでしまっていた。

 

 

しかし、目の前でボロボロにされていくリーフのことが見るに耐えられず、ありったけの勇気を振り絞ってリーフを庇うように飛び込んだのである。

 

 

ゴーロ「なんだぁ? たかが人間が出しゃばるな」

 

 

京香「黙りなさい!! 私は医者です。目の前で命が消えようとしているのを放ってはおけません!!」

 

そう叫んだ京香先生だったが、ゴーロは大笑いしていた。

 

 

ゴーロ「ガッハッハッ!! 命だと? そいつをよく見てみろ。命なんてもんじゃねぇんだよ」

 

 

京香「えっ?」

 

その言葉に思わず振り返り、傷ついたリーフの体から覗くメカを見て京香先生は我が目を疑った。

 

 

京香「これは!? あなたは一体!?」

 

 

 

ゴーロ「けっ、茶番は終わりだ。まとめて吹っ飛びやがれ!!」

 

そう叫んだ瞬間、上空から何かが急降下しゴーロを蹴り飛ばした。

 

 

 

 

 

ダイーダ「リーフ、大丈夫? 全く下手な嘘つくんだから」

 

リーフ「ダ…イーダ…ちゃん」

 

 

 

 

吹き飛ばされたゴーロだったが、再び立ち上がるとダイーダを睨みつけた。

 

 

ゴーロ「やってくれたな。だがリーフはもうスクラップ同然。テメェもこの場で片付けてやるぜ」

 

 

そう余裕そうに笑ったゴーロだったが、それはダイーダも同じだった。

 

ダイーダ「悪いわね、このカビの弱点はもうわかってるのよ!!」

 

 

 

ゴーロ「何!?」

 

ダイーダ「豪、やりなさい!!」

 

 

驚愕したゴーロをよそに、ダイーダは上空の三冠号の豪に呼びかけた。

 

 

豪「待ってました。行っくぜー!!」

 

それに応えるかのように、豪は上空で三冠号を高速で旋回させ、空を覆っていた灰色の雲を消しとばした。

 

 

そして、それとともに降り注いだ暖かな太陽光線は、街を覆い尽くしていたカビを消滅させていった。

 

 

リーフ「体が… 元通りになっていく」

 

ボロホロだったリーフの体もまた、たちまちのうちに万全の状態へと回復していった。

 

 

ゴーロ「し、しまった!!」

 

 

ダイーダ「このカビは、太陽光線に極めて脆い。だから夜や曇りの日を狙ったんでしょ!!」

 

そう言い放ったダイーダの横で、リーフもまた完全に回復していた。

 

 

 

リーフ「よーし、完全に直った。お医者さんは離れてて、行くよダイーダちゃん!!」

 

ダイーダ「ええ!!」

 

 

二人は力強く頷きあい、トンボを切った。

 

 

 

リーフ・ダイーダ「「ゴー!!」」

 

 

その掛け声とともに二人の体は光に包まれ、着地した時には変身完了し、赤と白のドレスに身を包み、髪型も大きくボリュームが変わっていた。

 

 

 

リリーフ「闇を吹き消す光の使者 キュア・リリーフ!!」

 

ダイダー「悪を蹴散らす光の使者 キュア・ダイダー!!」

 

 

リリーフ・ダイダー「「ピンチ一発、大逆転! コズミックプリキュア!!」」

 

 

 

 

ゴーロ「くそう!! ええいやれ!!」

 

悪あがきというように、ヤケクソ気味にゴーロはカエル型メイジャーを突撃させたが、復調したリリーフにとって、もはや敵ではなかった。

 

 

 

 

 

リリーフ「さっきのお返しだよ。エレキ光線発射!!」

 

改めて換装したブルーハンドからリリーフは電撃光線を放ち、ゴーロとカエル型メイジャーを感電させ動きを封じた。

 

 

ゴーロ「ぐわっ! まずい電撃でコーティングが…」

 

ゴーロの体には、先ほど遠藤博士が開発したのとほぼ同様の対砂カビ用のコーティングが施してあったのだが、今の電撃でそれが剥がれてしまった。

 

 

 

ダイダー「今ね!!」

 

チャンスと見たダイダーはカエル型メイジャーの口の中に飛び込むと力任せに砂カビの噴射機とタンクを引きずり出した。

 

 

ダイダー「あんたも味わいなさい!!」

 

そしてそれをゴーロ目掛けて投げつけると、カビが今度はゴーロの体を蝕み始めた。

 

ゴーロ「グオオオ!! こんなことが…」

 

 

 

 

ダイダー「リーフ、落とし前つけてあげなさい!!」

 

チャンスと見たダイダーはそうリリーフに呼び掛けた。

 

 

 

リリーフ「わかった。行っくよ〜」

 

リリーフはダイダーの呼びかけに応え、大きく振りかぶると虹色の玉を手に輝かせ始めた。

 

 

リリーフ「さっきのお返し、プリキュア・レインボール!!」

 

 

 

その叫びとともに、リリーフは虹色の玉をカエル型メイジャーの口に目掛けて亜音速で投げつけた。

 

すると、カエル型メイジャーは叫び声とともに口から噴水のように大量の黒い靄を吐き出した。

 

 

リリーフ・ダイダー「「ゲームセット!!」」

 

 

その叫びとともにカエル型メイジャーは大爆発を起こし、撒き散らされていたカビも太陽光線に浄化されるようにほとんどが消えていった。

 

 

 

 

太陽光線でカビが除去され、なんとか苦しみが収まったゴーロだったが、体は満足に回復していないようだった。

 

 

リリーフ「ゴーロ、もうあなたはフクロウのネズミだよ」

 

ダイダー「ネクタイの納めどきよ。観念しなさい」

 

 

何が言いたいのか一瞬考えてしまうようなことを言いながら、コズミックプリキュアはゴーロを取り押さえようと近づいていった。

 

 

しかし、黒い霧のような巨大な手が突如として上空から現れた。

 

 

リリーフ「え?」

 

ダイダー「何?」

 

 

戸惑っている二人をよそに、その巨大な手はゴーロを掴み取ると、そのまま虚空へと消えていった。

 

 

 

リリーフ「今のは…」

 

ダイダー「パーフェクト…」

 

 

険しい表情で空を見つめていた二人だったが、そんな彼女達に京香先生が話しかけてきた。

 

 

京香「あなた達… 一体何者なの?」

 

 

上空の三冠号からとモニター越しに事態を見ていた豪とランも頭を抱えていた。

 

豪「まずいよ。ありゃごまかしきれないよ」

 

ラン『どうしよう、おじいちゃん』

 

 

遠藤『…やむをえん。リーフ、ダイーダ、その人を研究所まで連れてきてくれ』

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

わけのわからないまま、事情を説明するという言葉に連れられ、京香先生は三冠号に乗せられ遠藤平和科学研究所に来ていた。

 

 

そこで事情を詳細に説明されたものの、ノーリアクションだった。

 

 

豪「えーっと、わかってもらえたのかな?」

 

京香「…まぁどうにかね」

 

 

ラン「その割には静かですよね。 落ち着いているというか…」

 

京香「…というよりも、あまりにも斜め上をいく常識はずれなことに頭がついていってないのよ」

 

 

出されたお茶を一口飲み、大きく深呼吸をした後京香先生は改めて口を開いた。

 

 

京香「まぁ、これが夢でないことだけは確かみたいだし、さっきのリーフさんの体を見てるから信じますけど、まさかねぇ」

 

リーフ「まぁ、目の前で思いっきり変身しちゃったからね」

 

ダイーダ「それだけじゃないでしょ。全く」

 

 

なんとか事情を理解してもらえたことを確認すると、遠藤博士は京香先生に一つ頼み事をした。

 

遠藤「まぁ、わかってもらえたのならありがたい。ただひとつお願いがあってな。このことは内緒にしておいて欲しいのじゃ」

 

京香「内緒というと、ここがコズミックプリキュアの基地だということをですか? 構いませんがどうして」

 

 

遠藤「うっ、それはじゃな…」

 

 

ラン「もし、あのパーフェクトって連中に知れたら大変なのよ。あいつら前にも私達の居場所を探ろうとしてきて、ひどい目にあったんだから」

 

豪「そういうこと。それにあのDr.フライってやつ、じいちゃんの研究を盗んだりしたんだよ。他の研究が盗まれたりしたら大変だよ」

 

 

返答に詰まってしまった遠藤博士だったが、ランと豪が続けて説明したことに京香先生は納得した。

 

 

京香「なるほどね、わかったわ。じゃあ私からもひとつお願いしていいかしら」

 

ダイーダ「何ですか?」

 

 

京香「私にもいろいろお手伝いをさせてもらえないかしら。医師としてあんな人たちのために多くの人が傷つくのはごめんです」

 

その言葉にリーフは喜びの声をあげた。

 

 

リーフ「本当ですか? 素晴らしいことですよ、世界平和のために頑張ろうって人が増えるのは!! こっちこそよろしくお願いします」

 

 

遠藤「うむ、そうじゃな。 では実 京香先生、あなたは世界平和や多くの人命を救うために全力を尽くすと誓えますか?」

 

その言葉に、京香先生はにっこりと笑って答えた。

 

京香「はい、もちろんですとも!!」

 

 

 

第24話 終

 

 



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第25話 「河内警部大奮戦!! (前編)」

 

 

河内「くっそー、また派手にやってくれたな」

 

 

朝早くから、ウサギ銀行の金庫室にて河内警部がそう悔しそうに言った。

 

金庫室の床には大穴が開き、中にあった現金が根こそぎ無くなっていたのだ。

 

しかもご丁寧に警報装置は連絡が行かないようにカットされていた為、朝までわからなかったという始末である。

 

刑事1「最後の巡回及び警戒装置のセットされた時間等から勘案して、侵入したのは深夜2時ごろです。防犯カメラの映像を解析していますが、おそらく望み薄でしょう」

 

刑事2「しかもこの大穴。どう考えても人間業じゃないですよ」

 

 

 

河内「弱音を吐くな。徹底的に近辺を洗い手がかりを探すんだ!!」

 

弱気になっていた部下に河内警部は、そう一括した。

 

「「「はっ!!」」」

 

その指示を受け刑事や警官は気力を取り戻し、きびきびと動き始めた。

 

 

河内「これで2日連続… ここしばらく、パーフェクトとやらの関係で市民も不安になっている。警察への信頼にも関わってくることだ、何としてでも犯人を…」

 

決意の表情と共にそう呟いた河内警部のところに、部下の刑事が小型の端末のようなものを持ってきた。

 

 

刑事3「警部、こんなものが金庫の片隅に落ちていました」

 

河内「ん? なんだこりゃ。随分古い型のパソコンだな」

 

受け取った端末をいじっていた河内警部だったが、その画面に表示された文字を見て目を見開いた。

 

 

河内「こ、これは!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

リーフ「あれが私達の移動などに使う超音速ジェット機 三冠号です」

 

ダイーダ「最高速度マッハ2.5、ステルス機能やVTOL機能を搭載していて、潜水艦としての運用も可能な万能機です」

 

 

京香「信じられないわ、この家の地下にこんなすごい設備があるなんて!!」

 

 

非番である今日、京香先生は改めて遠藤平和科学研究所を訪れ様々な説明を受けており、その凄さに驚きと賞賛の声をあげていた。

 

 

豪「まあね、あんまり表だって言えないけど俺の自慢のじいちゃんさ」

 

鼻の下をこすりながら、豪は得意そうに言った。

 

 

京香「その気持ちわかるわ。これだけのものを作れるなんて。 本当にこれ博士がお一人で?」

 

 

遠藤「ホッホッホッ。三冠号を始めリーフやダイーダの基礎ボディも全てこのわしの設計です」

 

 

京香先生の問いかけに、遠藤博士は自信満々に胸を張ってそう答えた。

 

京香「素晴らしいですわ!! まさに隠れた天才ですね。しかもその才能を世の中のために使えるなんて尊敬します」

 

 

遠藤「なーにそれほどでもないですわい。わーっはっはっはつ!!!」

 

 

ラン「おじいちゃんったら、調子乗りすぎ…」

 

豪「いいじゃないの。褒められるなんてことそうそうないんだから、たまにはさ…」

 

 

京香先生からの賞賛の言葉にふんぞり返って高笑いをする遠藤博士を見て、豪とランは呆れながらもそうポツリと漏らした。

 

 

そして一通りの説明が終わった後、一同は居間で一服していた。

 

 

 

 

 

遠藤「そしてあれがマイナスエネルギー検知器です。パーフェクトの連中がくだらんことをしようとすると、たちまちのうちに反応してわしらにそれを知らせてくれるということなのです」

 

豪「見た目はちょっと悪いけどね。ガラクタのつぎはぎに裸電球がつないであるだけだし」

 

 

 

京香「なるほど。それであなたたちはすぐにあちこちに駆けつけられたということなのね」

 

 

リーフ「はい。私達が多くの命を救うことができたのも、博士のおかげです」

 

ダイーダ「まぁリーフにしちゃ、いい人選だったわね」

 

リーフをどこか小馬鹿にしたようなダイーダの言葉にリーフはふくれっ面をした。

 

 

リーフ「ぶーっ、ダイーダちゃんってばまた私を馬鹿にして」

 

そんなどこか可愛らしいリーフを見て一同は明るく笑ったが、ふと遠藤博士があることに気がついた。

 

 

遠藤「ありゃ? 検知器の電球が切れとるな。こないだのカビ騒ぎで少し壊れたかな?」

 

 

そう呟いて、検知器をいじり始めた遠藤博士を見てランはため息をついた。

 

ラン「全くこれだもんね。だからイマイチ信用できないのよ。研究で失敗も多いから家計も大変だし」

 

 

京香「? そういえば生活費はどうしてるの? 豪くんは大丈夫としてもランちゃんは?」

 

京香先生の疑問にランはどこか暗い声で答えた。

 

ラン「ああ、海外に行ってる私の両親の仕送りなんです。 おじいちゃんってば、自分の子供に頼るって情けないと思わないのかしら」

 

豪「確かカナダの研究室で働いてるんだよな。ロボット作ってるんだっけ」

 

 

京香「なるほど、科学者の血筋というわけね」

 

 

ラン「でも、学費とか生活費とかで月々15万円ぐらい送り続けるのはやっぱり厳しいみたいなんですよね」

 

京香「えっ? たったそれだけ!?」

 

思わず声をあげた京香先生にランは不思議そうに言った。

 

 

ラン「? はい。それでも大変らしいんですけどね、日本の方が物価が高いから」

 

 

京香「えっ? ちょっと待って? え、え?」

 

 

 

 

 

そんな中、研究所のドアが乱暴に叩かれた。

 

ダイーダ「誰かしら? 今開けます」

 

 

ダイーダがドアを開けると、その瞬間河内警部が飛び込んできた。

 

 

河内「遠藤!! 御用だ!!」

 

 

豪「げっ!!」

 

リーフ「警部さん? ご用って何の用ですか?」

 

京香「どうしてここに?」

 

 

河内「おや? 先生はこないだの… っとそれどころではない、貴様ら遠藤をどこに隠した? 正直に白状せんと…」

 

 

どすの利いた声でそう告げた河内警部だったが、遠藤博士は検知器の陰から顔を出しのんきそうに尋ねた。

 

遠藤「ん? わしがどうかしたか?」

 

 

河内「ほう、逃げずに出てくるとはいい度胸だ。銀行強盗が!!」

 

その言いように遠藤博士も険しい顔つきになった。

 

遠藤「いい加減にせんか!! 証拠も無しに毎度毎度人聞きの悪いことばかり言いおって!!」

 

 

しかし、

 

河内「ほう証拠か。ならば見ろ、本日未明襲われたウサギ銀行の金庫に落ちていたものだ!!」

 

河内警部は不敵に笑いながら懐に手をやり、まるでどこかの印籠のように小型のパソコンを取り出して見せつけた。

 

 

遠藤「なんじゃ? その古臭いパソコンは?」

 

河内「とぼけるなクソジジイ!! これは貴様のものだろうが!!」

 

 

きょとんとした遠藤博士をそう怒鳴りつけながら、河内警部はその小型パソコンの電源を入れた。

 

するとそのモニターには、ユーザー名として遠藤博士の名が表示されていた。

 

 

遠藤「ふむ。確かにわしの物のようじゃな」

 

その言葉に河内警部はニヤリと笑った。

 

河内「ようやく認めたな。遠藤博士、署までご同行願いましょうか?」

 

 

遠藤「ああ、構わんよ」

 

興奮気味の河内警部に対して、遠藤博士は実にあっけらかんとした様子で同意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

警視庁 取調室

 

 

 

 

河内「何!! アリバイが確定した!?」

 

 

いかにも刑事ドラマというように遠藤博士を取り調べていた河内警部だったが、部下の報告に戸惑っていた。

 

 

遠藤「じゃから何度も説明したろうが。わしは昨夜なら、深夜から明け方ごろまでヨーロッパに行っとる宝六とスカイプで研究のことについて話しとったと」

 

目の前で慌てている河内警部をよそに、遠藤博士は頬杖をつきながらそう説明した。

 

 

河内「この話が本当だというのか!?」

 

 

刑事「はい、先方に確認の電話を入れたところ間違いないと。通信記録も残っていますので…」

 

 

その報告に戸惑っていた河内警部だったが、ふと何かを思いついたように声を荒げ詰め寄った。

 

河内「そうかわかったぞ!! あのお手伝いどもが実行犯だな!! 遠藤貴様どこまで汚いことを!!」

 

 

しかし

 

 

遠藤「残念じゃがそれも違う。リーフもダイーダも一晩中わしの研究の手伝いをしておったからな」

 

 

刑事「それも確かです。宝六博士のお孫さんもその二人と話したらしく、それがこちらの時間で深夜2時過ぎ。確認したところ、時計が鳴った音が聞こえたので宝六博士もよく覚えていると。 あの研究所からはどんなに急いでも被害のあった銀行まで1時間はかかりますから…」

 

あくびをしながらの遠藤博士の返事に、部下の刑事はそう肯定の報告をした。

 

 

河内「そ、そんな…」

 

遠藤「まぁ、間違いは誰にでもある。しっかり犯人を捜すんじゃぞ」

 

力なく椅子に崩れ落ちた河内警部の肩を叩き、皮肉げにそう告げると遠藤博士は警官に連れられて取調室を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

ラン「あっおじいちゃん」

 

豪「よかった、無事だったんだね」

 

警視庁の入口で遠藤博士が出てくるのを待っていたランと豪が嬉しそうに声をあげた。

 

遠藤「当たり前じゃ、わしゃ何にもしとらんのじゃからな」

 

 

しかし、続けてのリーフとダイーダの声にずっこけた。

 

リーフ「博士、お勤めご苦労様でした!!」

 

ダイーダ「シャバの空気はどうでしょうか?」

 

 

 

遠藤「人聞きの悪いことをぬかすな!! どこで覚えたそのセリフ!?」

 

 

リーフ「どこって、前にテレビで言ってたよね?」

 

ダイーダ「そうそう。警察から出てきた人にこう言っていたわ」

 

 

京香「…それは絶対に違うと思うわ」

 

相変わらずどこかズレているリーフとダイーダに一同は脱力していた。

 

 

 

 

 

節子「すみません。わたくし突撃レポーターでおなじみの甲斐 節子です。連続銀行襲撃犯が逮捕されたと聞いてきたのですが、それは誤認逮捕だったということでしょうか?」

 

そこにマイク片手に甲斐 節子が突撃レポートを仕掛けてきた。

 

 

それに対し遠藤博士は、これ幸いというように警視庁の入り口付近から自分を睨んでいる河内警部を指して芝居っ気たっぷりにレポートに答えた。

 

遠藤「そうじゃ。しかもわしは何もしとらんと正直に答えとるのに、あの刑事は無理やり「自白」させようとしてきた。それもろくすっぽ他のことを調べようともせずじゃ」

 

 

その遠藤博士のレポートを河内警部は歯ぎしりをしながら聞いていたが、節子のインタビュー対象が自分に切り替わった瞬間、顔色が変わった。

 

 

 

節子「失礼します。あなたが取り調べを行った刑事さんですか? 先ほどの話は本当なのですか?」

 

河内「うっ、いや、それはその…」

 

 

返答に詰まってしまった河内警部を見て、節子はカメラから世間に問いかけるかのように話した。

 

 

節子「テレビの前のみなさん。こんなことが許されて良いのでしょうか? 罪もないお年寄りを間違えて逮捕した挙句、自白を強要した警察。まさに権力を笠にきた横暴。警察の威信や実力が疑問視され始めている昨今ですが、そうまでして名誉が欲しいのでしょうか?」

 

 

それを聞いた遠藤博士は、腕組みをしながらウンウンと頷いていた。

 

遠藤「なかなか気合の入ったリポートじゃが、お年寄りだけちと余計じゃな」

 

 

ダイーダ「でも、ちょっと言い過ぎじゃないかしら。あの人だって悪気があったわけじゃないんだし」

 

そう気の毒そうに呟いたダイーダだったが、ランも豪も河内警部にはかなり冷ややかだった。

 

 

豪「何言ってんだよ。言いがかりつけて無理やりじいちゃんを逮捕したんだぜ、自業自得だよ」

 

ラン「そうよ、あんなヘッポコデカ気にする必要なんかないわ。これで少しは大人しくなってくれればいいんだけど…」

 

ダイーダ「…」

 

 

 

 

その後、河内警部は上司から呼び出され叱責を受けていた。

 

 

上司「河内くん、困ったことをしてくれたものだね。 ただでさえ最近では警察への信頼が揺らぎ始めているというのに」

 

河内「しかし、自分はあくまで犯人は遠藤だと信じます。そうでなくとも何らかの関わりがあるはずです」

 

たしなめるように言った上司に対して、河内警部はそう反論した。

 

 

上司「でもねぇ、遠藤氏にはアリバイがあるんだろう。それも完璧に近い」

 

河内「すべては機械の記録に残ったものです。そんなアリバイ工作はやつなら簡単。時間をください、必ずそのアリバイを崩してみせます!!」

 

あくまでも持論を曲げない河内警部に対して、上司はため息をついた。

 

 

上司「わかったわかった、君の熱意には感心するよ。だがね、一度ゆっくり休暇をとって身も心もスッキリさせてからの方がいいんじゃないのかね」

 

 

その言葉に河内警部は肩を震わせ始めた。

 

河内「つまり自分を捜査から外すということですか…」

 

 

上司「警察とは市民からの信頼があってのことだ。最近ではパーフェクトとか名乗る奴らにまるで対処できていないとして、我々よりあのコズミックプリキュアと名乗る正体不明の少女達の方が信頼され始めてきている。そこにマスコミにああいう報道をされてはね。わかるね」

 

 

 

噛んで含めるような上司の言葉に対して、河内警部は拳銃と警察手帳を机に叩きつけながら叫んだ。

 

 

河内「わかりました!! しかし誰が何と言おうとも遠藤のやつはこの事件に何らかの関係があります。自分は一人ででも証拠を掴んで見せます!!」

 

 

そう言い残すと、河内警部は部屋から出ていった。

 

 

 

 

 

翌日

 

 

リーフ「えーっと、お米に缶詰に… これでランちゃんから頼まれた買い物は全部だね。 でもこの世界の人達のたくましさには尊敬するよ。 こないだの騒ぎで街一つなくなっちゃったのに、頑張って復興しようとしてる」

 

ダイーダ「そうね、ああいう力がきっと世界を救う力にもなるんでしょうね。 それよりリーフ、あなた何かした?」

 

リーフ「ううん。ダイーダちゃんは心当たりない?」

 

 

ダイーダ「あるわけないじゃない。でもみんな何でジロジロ見てくるのかしら?」

 

 

 

通行人(スゲェなあの子ら…)

 

通行人(重くないのか…)

 

リーフ達は首を傾げていたが、通行人からすれば、華奢な女の子が自分の体重を超えているのではないかという量の米や缶詰を抱えている光景に驚いていただけなのである。

 

 

 

そんなこんなで商店街を歩いていると、

 

ダイーダ「あら? あれは…」

 

リーフ「刑事さん?」

 

大通りの反対側を歩いている河内警部を見つけたのである。

 

 

 

その河内警部は、八百屋さんになにやら尋ね始めていた。

 

河内「おいあんた。遠藤平和科学研究所に野菜を届けに行くことがちょくちょくあるらしいな」

 

八百屋「へぇ… それが何か?」

 

河内「あの研究所の中で見たことを洗いざらいしゃべってもらおうか」

 

 

割と温厚で知られているこの八百屋さんだが、この横暴な質問の仕方にはカチンときたらしく声を荒げた。

 

八百屋「なんだよアンタ!? なんでそんなこと聞くんだよ。大体アンタどこの人!?」

 

 

河内「俺はこういう…」

 

そう言いながら懐に手をやるも、いつもそこにあったものがなかったことに気づいて顔をしかめた。

 

 

河内「あっ… オホン。訳あってあの研究所のことについて調べている者だ。何か知っているなら話した方が身の為だぞ!!」

 

 

咳払いをし再度質問をした河内警部だったが、いつもの調子で尋ねてしまったため余計に反感を買ってしまった。

 

 

八百屋「それが人にものを聞く態度か!! 商売の邪魔だ、帰んな!!」

 

結果無碍なく追い払われてしまい、悔しそうに歯嚙みをして立ち去っていった。

 

 

リーフ「あーあ…」

 

ダイーダ「…」

 

この一連のやりとりは二人の集音器付きの耳にははっきりと聞こえており、さしものリーフも呆れ返るほかなかった。

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

ラン「あきれた!! あのデカまだ諦めてないの!? 懲りるって言葉知らないのかしら」

 

リーフ達の買い物を台所で整理しながら、話を聞いたランは呆れ果てていた。

 

 

ダイーダ「あら、諦めることなく挑戦するっていうのは悪いことじゃないと思うわ」

 

ラン「方向性が問題なのよ。勝手な妄想を追いかけられちゃいい迷惑だわ」

 

 

 

そんな会話をしている中、遠藤博士が飛び込んできた。

 

遠藤「そうじゃ!! 一晩考えてやっと思い出したぞ!!」

 

 

リーフ「どうしたんですか?」

 

ダイーダ「何を思い出したんです?」

 

 

遠藤「河内警部の持ってきたあの小型パソコンじゃ。あれはフライが20数年前わしの所から盗んでいったもんじゃ!!」

 

 

それを聞いてみんなの表情が変わった。

 

 

ラン「じゃあ銀行強盗の犯人は!!」

 

リーフ・ダイーダ「「Dr.フライ、いやパーフェクト!!」」

 

 

遠藤「うむ。それに奴らのことじゃ、これだけで済むとは思えん。コズミックプリキュア、至急パトロールを頼む」

 

リーフ・ダイーダ「「了解!!」」

 

その返事と共に、二人は研究所を飛び出していった。

 

 

 

ラン「ちょっと!! ここの片付け終わってからにしてよ!!」

 

ランの悲痛な叫びに見送られながら。

 

 

 

 

 

その夜

 

 

 

ゴーロとファルが数人のマイナーを引き連れ、下水道の中を移動していた。

 

ゴーロ「全く、セコイ作戦だ」

 

ファル「仕方がなかろう。この世界では何をするにもカネというものがいるらしいからな」

 

 

辟易したように吐き捨てたゴーロに対して、ファルは仕方ないというように呟いた。

 

 

ゴーロ「チッ、わかったよ。おい、この上が銀行の金庫室だ。とっとと済ませな」

 

舌打ちをしながらそう命じると、マイナーたちは爪を尖がらせ壁を崩し始めた。

 

 

数分後、巨大な穴ができ金庫室がむき出しになっていた。

 

 

ファル「さてとさっさと頂戴して帰るか」

 

ゴーロ「今日は前のより量があるな。もう少しマイナーを連れて来ればよかった」

 

そんなことを言いながら金庫室の中のものを運び出そうとしていていた時だった。

 

 

「じゃあ手伝ってあげましょうか」

 

 

その声に驚き振り返るとそこにはリーフとダイーダがいた。

 

 

ゴーロ「!! テメェら!!」

 

ファル「なぜここがわかった!?」

 

 

 

リーフ「地下を移動していれば見つからないと思ったのかもしれないけど、私のレーダーはこれぐらいの深さなら感知できる!!」

 

ダイーダ「これ以上あんたたちに好き勝手させないわよ!!」

 

 

そう言い放つと、二人はマイナー達に立ち向かいあっさりこれを叩きのめした。

 

 

 

ゴーロ「しゃらくせぇ!!」

 

その光景を見て、ゴーロはダイーダに飛びかかり自慢の怪力で抑え込もうとしたがあっさりいなされてしまい、逆に大きく投げ飛ばされた。

 

ダイーダ「学習能力ってものがまるでないみたいね。少しは頭を使ったらどう?」

 

 

ファル「チィッ、やむをえん!!」

 

その光景を見て、ファルは渋い顔をしながら指を鳴らした。

 

 

 

すると、巨大なカマキリの怪物が大鎌を振りかざし、天井をぶち抜いて飛び込んできた。

 

ゴーロとファルがその鎌に捕まると、カマキリ怪物は飛翔し夜の闇の中に消えていった。

 

 

ゴーロ「プリキュア、この勝負は預けたぞ!!」

 

その捨て台詞を残して

 

 

 

 

 

その後、警察が来る前に退散したリーフとダイーダは、研究所に連絡を入れていた。

 

 

遠藤『今度は大虎銀行が襲われたか!!』

 

ダイーダ「はい。ですが、なんとか連中を撃退して被害は抑えることはできました」

 

リーフ「あいつら逃げ足は早くて、レーダーで追跡可能な圏外に出ちゃって追いきれなかったけど」

 

 

 

遠藤『いや、それで十分じゃ!! 次にやつが襲いそうな場所をフライの行動パターンから分析してみる。 ひとまずお主たちは戻ってきてボディのセルフチェックをしておけ』

 

 

ダイーダ「わかりました」

 

 

 

 

 

そうして引き上げてきたリーフとダイーダだったが、研究所付近であるものを見かけた。

 

 

リーフ「あれ? ダイーダちゃん、あの車見て」

 

ダイーダ「あれは…」

 

 

リーフの指さした方には一台の車が止まっており、運転席には河内警部が座っていたのが、二人の望遠機能のついたカメラアイに映った。

 

 

河内「遠藤、必ず貴様の化けの皮を剥いでやるからな!!」

 

車の中には大量の栄養ドリンクの空き瓶が転がっており、河内警部は異様に充血した目で研究所を睨みつけていた。

 

 

 

ダイーダ「…ホントに熱心な人ね」

 

それが目に入ったダイーダは呆れたようにそう呟いた。

 

 

第25話 終



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第26話 「河内警部大奮戦!! (後編)」

 

 

 

 

 

海底 Dr.フライ秘密研究所

 

 

 

Dr.フライ「全く不甲斐ない! あの小型端末を金庫内においてこいと命じたのは捜査の攪乱による時間稼ぎを狙ってのこと。 なのにプリキュアどもに察知されては意味がないではないか!!」

 

 

そう怒鳴り散らすDr.フライに、ゴーロは吐き捨てるように言った。

 

ゴーロ「けっ! こういうチマチマした作戦は嫌いなんだよ。大体目標額に達するまで何回くり返しゃいいんだよ!? え?」

 

ファル「俺も同感だ。そもそも何度も繰り返せば察知されるのは当たり前だろう。もっと効率のいい方法を考えてみろ、天才様」

 

 

そう見下したように言ったファルに対して、Dr.フライは歯ぎしりをしながら言った。

 

Dr.フライ「ようし、いいじゃろう。あと一度の出撃で済むようにしてやる。狙うべきはここじゃ!!」

 

そう言ってDr.フライはモニターの地図のある一点を示した。

 

 

 

 

 

 

警視庁

 

 

 

無精髭を生やし、ボサボサの頭にヨレヨレの背広を着て、河内警部が上司に詰め寄っていた。

 

 

河内「部長、お願いします。今進言したことを直ちに実行してください!!」

 

上司「しかしねぇ、その話には根拠があるのかね。 次に襲われる場所がそこだという根拠が」

 

 

困ったようにそう尋ねた上司に、河内警部はきっぱりと言い放った。

 

 

河内「自分の勘であります!! 昨夜犯人は銀行の襲撃に失敗したと聞きます。しかしおそらく連中は諦めていません。各地の銀行は厳戒態勢をとっています。とすれば、犯人は効率を考え国立印刷局を襲うと思われます。大至急警備の強化を行ってください!!」

 

 

しかし、さすがにそれで頷くほど上司もバカではなかった。

 

上司「勘だぁ!? バカも休み休み言いたまえ!! 君はまたそんなあやふやなことで行動して、警察の威厳を貶めるつもりかね!! そもそも今君は休暇中だろう」

 

 

そんな上司に河内警部は拳をテーブルに叩きつけて叫んだ。

 

河内「わかりました!! 全責任は自分が負います!!」

 

 

そう言い捨てると、河内警部は部屋を飛び出していった。

 

 

 

 

河内(起きた事件の対処などできて当たり前。起きる事件を未然に防いでこそ、初めて人々を守ったと言えるんじゃないか!!)

 

 

そう呟きながら決意の表情と共に河内警部は車に乗り込み、アクセルを踏み込んだ。

 

 

河内(俺は、たとえ一人ででも戦うぞ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイーダ「はぁ〜… 仕方ないわね」

 

 

警視庁の外から耳の集音器の機能を最大にして先ほどの会話を聞いていたダイーダは呆れながらも、ビルの上をジャンプに次ぐジャンプで河内警部を追いかけていった。

 

 

ダイーダ「研究所聞こえる? 私よ。国立印刷局とかいうところに今向かってるわ。そこが次に襲われるって。 リーフ、あなたもすぐにこっちに来て」

 

そしてその合間に研究所に通信を入れた。

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

ラン「ダイーダさん、朝からどこ行ってたのよ?  それにおじいちゃんの分析結果もまだなのにどうしてそんなことがわかったの?」

 

朝早くから飛び出していったダイーダを心配していたランだが、ダイーダからの突然の連絡にさらに困惑していた。

 

ダイーダ『河内警部の勘よ。 でも私はそれを信じるわ』

 

 

一瞬期待したランだったが、その言葉に脱力した。

 

 

ラン「そんなのがあてになるわけないじゃないの! もう」

 

しかしちょうどその時分析を終えた遠藤博士が告げた。

 

遠藤「いや、わしの分析結果でも国立印刷局が襲われる確率が一番高いと出た。あの刑事、あれでけっこう優秀なのかもしれんな」

 

 

リーフ「ようし、すぐに私も行くよ」

 

 

 

 

 

 

ダイーダ(人を守り正義を貫こうとする純粋なプラスエネルギー。私がそれを信じなくってどうするのよ)

 

ダイーダは河内警部を追いかけながら決意を新たにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

国立印刷局

 

 

 

 

正面玄関前に乱暴に車を止め、駆け込んで行った河内警部だったが、当たり前のように警備員に制止されていた。

 

 

警備員「あなたはいったいなんなんですか? ここは一般の方は立ち入り禁止です!!」

 

 

そうやって押さえ込まれながらも、河内警部は必死の形相で叫んだ。

 

河内「放せ!! ここが次に狙われているんだ!! 警備を強化しないと紙幣の印刷機が奪われるぞ!!」

 

 

そんな押し問答をしていると、突然爆発音とともに印刷局が大きく揺れた。

 

 

河内「な、なんだぁ?」

 

突然のことに戸惑っていると壁を崩して巨大なカマキリの怪物が姿を現した。

 

 

河内「あれはパーフェクトの怪物!? ということは一連の事件の犯人は!!」

 

 

 

 

 

カマキリ怪物は両手の大鎌を器用に使って印刷局の壁を崩していき、当然印刷局の中は大パニックに陥っていた。

 

 

河内「みなさん落ち着いて!! 慌てずに避難してください!!」

 

建物が大きく揺れ、瓦礫が崩れてくる中、河内警部は局員の避難誘導を行っていた。

 

 

そんな中、書類棚が倒れ一人の局員が下敷きになってしまった。

 

「うわぁーっ!!」

 

河内「あっ、いかん!!」

 

 

その悲鳴を聞いた河内警部は慌てて駆け寄り、その局員を助け出すと肩を貸して歩き始めた。

 

河内「大丈夫か? さぁ捕まって」

 

 

 

 

一方、カマキリ怪物は建物を崩し続け、ついに印刷機を発見していた。

 

ゴーロ「へぇ、こんなもんでカネが作れるのか」

 

ファル「しかし分からんものだ。あんな紙などわざわざこんなもので作らずともいくらでも作れるだろうに」

 

ゴーロ「まぁいいさ。頂いていこうぜ」

 

カマキリ怪物の頭上でそんな会話をしながら、ゴーロとファルはカマキリ怪物に印刷機を持って行かせるように命じた。

 

 

 

ダイーダ「ダァアアアア!!」

 

 

その時、掛け声とともにダイーダがカマキリ怪物の側面から飛び蹴りを浴びせた。

 

突然の攻撃にカマキリ怪物はもんどりうって倒され、ゴーロとファルも放り出されてしまった。

 

ダイーダ「ゴーロ、ファル!! これ以上はさせないわよ!!」

 

 

ゴーロ「ダイーダ!?」

 

ファル「チッ! もう来たか! メイジャー、印刷機を早く持っていけ!!」

 

 

突然のダイーダの出現にとまどったゴーロとは逆にファルは冷静にそう指示した。

 

 

ダイーダ「させないわ!!」

 

カマキリ怪物に飛びかかろうとしたダイーダだったが、

 

 

ゴーロ「そりゃ、こっちのセリフだ

 

ファル「さて、こないだの続きと行こうか」

 

 

この二人に阻まれてしまった。

 

 

 

 

 

ゴーロ「オラァ!!」

 

ファル「いくぞ!!」

 

ダイーダ「くっ!!」

 

 

なんとか奮戦していたダイーダだったが、二体一という立場がいつもとは逆になってしまい苦戦を強いられていた。

 

 

ダイーダ「ヤァアアア!!」

 

その叫びとともに繰り出した渾身のパンチはゴーロに受け止められてしまい、

 

 

ゴーロ「へっ、ふっ飛べ!!」

 

逆に大きく投げ飛ばされてしまった。

 

ダイーダ「キャアアア!!」

 

 

 

ゴーロ「喰らえ!!」

 

さらにそれを狙ってゴーロは足元の地面を大きくえぐりとると、その塊を投げつけてきた。

 

 

ダイーダ「!!」

 

 

空中でなんとか体勢を立て直しそれをかわしたものの、その塊は建物の壁に直撃してしまい、脆くなっていた壁が大きく崩れ落ちてきた。

 

 

しかも、その下にはちょうど怪我をした局員に肩を貸していた河内警部がいた。

 

河内「ん? うわぁーっ!!」

 

 

 

それを見たダイーダは着地と同時にマルチハンドを換装して飛び込んだ。

 

ダイーダ「いけない!! チェンジハンド・タイプレッド!!」

 

 

怪我人をかばうように身を屈めていた河内警部だったが、衝撃が来ないことに疑問を感じ、顔を上げると目を見開いた。

 

 

そこには一人の少女が巨大な瓦礫を受け止めて、自分たちを守っている光景があった。

 

 

ダイーダ「早く…行ってください!!」

 

巨大な瓦礫を単身受け止めたダイーダは河内警部に背を向けながらそう叫んだ。

 

 

河内「君は… コズミックプリキュアか。ありがとう」

 

そう礼を言うと、河内警部は怪我人に肩を貸して避難していった。

 

 

 

 

ゴーロ「へっ、身動きとれないようだな」

 

ファル「このまま止めと行くか」

 

 

顔を歪ませながら巨大な瓦礫を支えていたダイーダに対して、ファルとゴーロはゆっくりと近づいていった。

 

 

しかし、二人が近づいてくるとダイーダの目つきが変わった。

 

 

ダイーダ「もらった!!」

 

その叫ぶとともに、ダイーダは瓦礫をゴーロとファルに向けて投げつけた。

 

 

 

ダイーダのレッドハンドの超パワーは大型トラックをも片手で持ち上げられる。

 

この瓦礫も巨大とはいえレッドハンドのパワーの前ではそこまで手こずる重さではなかったのだ。

 

 

ゴーロ・ファル「「何!?」」

 

完全に油断していた二人はなすすべなく、瓦礫の下敷きになってしまった。

 

 

 

 

ダイーダ「これでよし、と。  印刷機の方は!?」

 

 

一息つく暇もなく、カマキリ怪物の方を見ると今まさに印刷機を持ち上げようとしているところであった。

 

 

しかし次の瞬間、上空から三冠号が急降下し体当たりをカマキリ怪物に食らわせた。

 

その奇襲にカマキリ怪物はたまらず吹き飛び、せっかくの印刷機も取り落としてしまった。

 

 

リーフ「ダイーダちゃん。大丈夫?」

 

ダイーダ「なんとかね、それより行くわよ!!」

 

三冠号から飛び降りてきたリーフに対してダイーダは合図を送り、リーフもまた頷いた。

 

 

 

リーフ・ダイーダ「「ゴー!!」」

 

 

その掛け声とともに、二人はジャンプしてトンボを切った。

 

 

その瞬間、二人の体は光に包まれ、着地した時には姿が大きく変わっていた。

 

 

ショートカットだったリーフは、ボリュームのある濃いピンクの髪に変化し、着用している服も、ごく普通の服からフリルのついた赤を基調にしたドレスのようなものになっていた。

 

 

 

ダイーダのポニーテールは、一本から五本にまで増え、背中にかかるかかからないかだったそれも、腰まで伸びて金色になっていた。

 

 

そしてリーフ同様のデザインの純白を基調にしたフリルのついたドレスを着用していた。

 

 

 

そして怪物をキッと睨むと二人は名乗りをあげた。

 

 

リリーフ「闇を吹き消す光の使者 キュア・リリーフ!!」

 

ダイダー「悪を蹴散らす光の使者 キュア・ダイダー!!」

 

 

リリーフ・ダイダー「「ピンチ一発、大逆転! コズミックプリキュア!!」」

 

 

 

ダメージを負ったカマキリ怪物は、大ジャンプして大鎌をコズミックプリキュアに対して振り下ろしてきた。

 

 

ダイダー「なんの!!」

 

リリーフ「これぐらい!!」

 

 

その単調な大振りはあっさり軌道を見切られ、避けられてしまった。

 

 

そんなコズミックプリキュアを追いかけんとしたカマキリ怪物だったが

 

 

 

リリーフ「? 今ので鎌が地面につき刺さってるよ」

 

ダイダー「おまけに抜けなくなったみたいね。今のうちに決めてやるわ!!」

 

 

間抜けにも自分から身動き取れなくなってしまったカマキリ怪物に対して、ダイダーは光のスティックのようなものを取り出した。

 

 

ダイダー「これで決めてやるわ。プリキュア・シャイニングスイング!!」

 

そう叫びながら、ダイダーはスティックを野球のスイングのように一振りした。

 

 

すると光の斬撃が飛んでいき、カマキリ怪物を真っ二つに切り裂いた。

 

 

その切り裂かれたところから、大量の黒い靄のようなものが溢れ出していき

 

 

 

リリーフ・ダイダー「「ゲームセット!!」」

 

二人がそう叫ぶと同時に大爆発が発生し、その後には一匹のカマキリが這っていた。

 

 

 

それと同時に瓦礫の下から這い出したゴーロとファルは気付かれぬように逃げ帰っていった。

 

 

 

 

 

河内「あなたたちのおかげで、大切な印刷機を守ることができました。本当に見事な活躍でした」

 

コズミックプリキュアに対して、河内警部が心から感謝の意を伝えていた。

 

 

ダイダー「いえ、あなたが避難指示を完璧に行ってくれたおかげで、私達も思い切り戦うことができました。ありがとうございました、河内警部」

 

ダイダーが敬礼とともにそう告げると、避難していた局員の中からどよめきの声が上がった。

 

 

「警部? あの人刑事さんだったのか」

 

「それで避難の指示が完璧だったわけだ」

 

「やっぱりこういう時には警察の人が頼りになるなぁ」

 

 

 

口々に自分を褒め称える声に少し照れ臭そうにすると、顔を引き締めてダイダーに向かった。

 

 

河内「自分は職務を全うしただけです。そちらこそご苦労様でした」

 

河内警部はそう告げるとダイダーに対して、敬礼を返した。

 

 

そして誰からともなく始まった感謝の拍手の中、三冠号は飛び立っていった。

 

 

 

 

河内(コズミックプリキュア。実に頼もしい少女達だ。俺も負けずに頑張るぞ!! 世界平和のために!!)

 

 

 

第26話 終

 

 

 



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第27話  「壊滅! コズミックプリキュア (前編)」

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

 

いつものように、遠藤博士およびリーフとダイーダが格納庫で三冠号のメンテナンスを行っていたが、今日は少し様子が違っていた。

 

 

リーフ「えーっと、いつも使ってるドライバーは…と、ここにしまったはずなのにな…」

 

そんなことを呟きながら探していると、リーフの目の前を猛スピードでドライバーが飛んできて、壁につき刺さった。

 

リーフが険しい顔で飛んできた方を見ると、レッドハンドに換装したダイーダがいた。

 

リーフ「…」

 

 

 

無言のままメンテナンス作業が進んでいく中、今度はダイーダの使っていたドリルが止まった。

 

ダイーダ「あら、バッテリーが… 昨日充電したと思ったのに…」

 

 

そう呟いた直後、電撃光線がダイーダの持っていたドリルに向かって放たれてきた。

 

それによりバッテリーは一瞬で回復したものの、ダイーダ自身も感電してしまった。

 

ダイーダは全身から黒い煙を上げながら、ギロリという効果音が聞こえそうな目つきでブルーハンドに換装したリーフを睨みつけていた。

 

 

 

そんな二人を見かねたように遠藤博士は口を開いた。

 

遠藤「あのなぁ、二人ともいい加減にせんか。あれに関してはもう少し検討するから早く仲直りをじゃな…」

 

 

そこまで口を開いたところで遠藤博士は二人に睨まれてしまい、小さくなって押し黙ってしまった。

 

 

 

そんな様子を見ながら、豪とランも大きくため息をついていた。

 

 

京香「一体どうしたの、あの二人? 喧嘩でもしてるの? それに博士も何かあったのかしら?」

 

研究所を訪ねてきていた京香先生がそう尋ねると、豪とランはため息をつきながら口を開いた。

 

 

豪「いやね。誰のせいってわけじゃないけど、確かに強いて言うならじいちゃんのせいっていうか…」

 

ラン「ただまぁ、だからって誰の味方もできないから余計にタチが悪いんですよね…」

 

 

京香「はぁ?」

 

 

 

 

 

ことの始まりは先日の銀行襲撃事件の夜に遡る。

 

 

あの夜、遠藤博士はヨーロッパに行っている宝六博士とスカイプで話していたのだが、その内容というのがリーフとダイーダのパワーアップに関してだったのである。

 

 

設計図を宝六博士の元に送り、改善案を考えていたのだが

 

 

遠藤「どうじゃ、お前さんの意見は? わしの方でも色々考えてみたんじゃがな。別の視点からも見てもらいたくてな」

 

宝六『遠藤、悪いが私も君と同意見だ』

 

その言葉に、遠藤博士は大きくため息をついた。

 

 

遠藤「うーむ。お前さんなら何か良い案があるかと思ったんじゃがな…」

 

 

宝六『ため息をつきたいのはこっちだ。遠藤よ、君はある意味で最も意地の悪い男だな。こんなものの改良案を考えさせるんだからな』

 

 

激化していくパーフェクトとの戦いに備えて、リーフとダイーダのパワーアップを検討していた遠藤博士だったが、どうにも良い案が浮かばず宝六博士にも相談していたのだ。

 

 

 

 

宝六『そもそも、このアンドロイドのボディだがエネルギーに限界がある点とAIの問題を除いて基本設計がほぼ完璧だ。そして、彼女達精霊が宿ったことでその問題もクリアされた。細かなパーツの駆動部分の無駄をなくすことぐらいは可能かもしれんが、性能そのものが大きく跳ね上がるような改良の余地などもはや全くないと言って良い。 遠藤、君はやっぱり天才だよ』

 

宝六博士の呆れたような褒め言葉に、リーフとダイーダは困惑の表情を浮かべていた。

 

リーフ「と、いうことは、私達はこれ以上パワーアップできないということですか?」

 

ダイーダ「何かこう、新しいマルチハンドを作るとかも無理なんですか?」

 

遠藤「それはわしらも考えたがな。そもそもアンドロイドを2体作ったのは、そのマルチハンドの問題もある。1体に内蔵・瞬間換装が可能なのが通常の腕に加えて2種類が限界だったんじゃ。それ以上は技術やプログラムがどうしても追っつかんかった」

 

遠藤博士のその答えに、宝六博士は何かがひらめいた。

 

 

宝六『いや待て。内蔵させることは不可能でも、新しい武器や装備を持つことは可能かも知れん』

 

リーフ「本当ですか?」

 

宝六『しかし、その場合でも現行の君達の力を上回るものを作ることは難しいだろう。 なんせ君達だけでレスキュー活動を行えるように設計されているだけに、世界最高峰の性能が付与されている。 現存の技術ではやはり無理が…』

 

 

その言葉に、ダイーダはある提案をした。

 

ダイーダ「だったら、エネルギー源を私達のプラスエネルギーで補ってみればどうでしょう。 その力はまだ解析できないと言ってましたよね」

 

遠藤「ん? おおその手があったか!! よし、ならばそのプラスエネルギーを応用したものを考えて見るか」

 

 

遠藤博士もポンと手を叩いてそう頷いた。

 

 

リーフ「よーし、じゃあ早速始めよう!!」

 

 

その後銀行襲撃事件があったことで数日この話は止まり、事件解決後早速開発が始まったのだが…

 

 

 

 

 

 

ダイーダ「だーかーらー何度言わせるの!! あいつらを手早くそして確実に倒せるようにしないといざという時の被害が広まる一方でしょ!!  それにプラスエネルギーを最大に活かすことでマイナスエネルギーを浄化できるじゃないの!! 火力を重点に置いたものを開発すべきよ!!」

 

 

リーフ「わかってないのはダイーダちゃんだよ!! まずあいつらの行動を即座に止めに行けるようにしないと、それこそ被害が出るじゃない。何か起きた後じゃ遅いんだよ!! 小回りがきくすぐに現場に駆けつけられるようなものを!!」

 

 

新しい装備を作るといったことで意見はまとまったのだが、何を作るべきかというところで、意見が真っ二つに分かれてしまったのである。

 

 

ダイーダ「いくら現場に素早く駆けつけられても、あいつらとの戦いで負けちゃったら何にもならないでしょう!! あんたこの前の砂カビの事件でボロボロにされたの忘れたの!? まずはパワーアップが大事よ!!」

 

リーフ「パワーアップったって、武器を持ってウロウロできるわけないじゃない!! こないだの事件の時みたいに、一人で行動するときにいちいち担いで行くつもりなの!?」

 

 

平行線を辿り続ける議論に、遠藤博士もまた耳をふさぎながら怒鳴った。

 

遠藤「えぇい、静かにせんか!! もう少し冷静になって話をしろ!! どちらのいうことにも一理あるわけじゃからして、うまくその折り合いをつけて…」

 

 

しかしリーフもダイーダもその言葉に耳を貸そうともせず、夜を徹した激論の末に喧嘩別れしてしまった。

 

 

 

 

 

 

ラン「幸い取っ組み合いの喧嘩にだけはならなかったけど、あれからずっとあんな調子よ。一週間近くお互いに口も聞いてないわ」

 

豪「おまけにせっかくの新兵器も何にもできてないみたい」

 

 

京香「そうなの… 早く仲直りしてくれるといいんだけど」

 

 

 

そんなことを話し合っていると、突如居間のマイナスエネルギー検知器がけたたましい警戒音を発し、その警戒音は格納庫にも鳴り響いた。

 

 

豪「げげっ!!」

 

ラン「よりによってこんな時に!!」

 

 

 

 

 

 

 

格納庫にも常備されているテレビをつけると、緊急ニュースが報道されていた。

 

キャスター『全国の皆様、非常事態です。約5時間前、未確認飛行物体が出たとの情報を最後に、アメリカの首都ワシントンと一切の連絡・通信が行えなくなってしまいました』

 

遠藤「な、なんじゃと!!」

 

ラン「そんな!!」

 

 

 

キャスター『事態を把握しようと現地入りした各国の政府機関や報道機関も、ワシントンに近づくと突然連絡が途絶えています。ただいま、当チャンネルの甲斐節子記者が決死の突撃レポートを敢行中です。えーっ、甲斐さん今どの辺りですか? 』

 

 

 

 

その頃、甲斐節子はワシントンの近くをヘリコプターで飛行中だった。

 

 

節子(フッフッフッ。危険な仕事かもしれないけど、これに成功すれば私の株は上がる。そうすればもっと売れっ子に…)

 

そんな野心を燃やしていると、日本への中継を行うことになり、息を整えて放送に入った。

 

 

節子「はい、こちら甲斐です。現在ワシントンまで約3キロの地点にいます。果たしてUFOは実在したのでしょうか? そしてワシントンでは何が起こっているのでしょうか!? この甲斐節子決死の突撃レポートを行い、必ずや世界の皆様に真実を報道させて…」

 

 

そこまで報道した途端、画像が乱れ始めついにはブラックアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

キャスター『甲斐さん!? どうしました!! 返事をしてください!! 』

 

テレビの中で必死にそう呼びかけているキャスターを見て、遠藤博士は険しい表情をしていた。

 

遠藤「こりゃ、えらいことになっとるかもしれんぞ。早速調査を…」

 

 

そう呟いていると、キャスターが新たな紙を受け取り驚いたような表情と共に話し始めた。

 

レポーター『ただいま、ワシントンから緊急の中継が全世界に発信されている模様です。ご覧下さい』

 

 

すると画面が切り替わり、一人の初老の男性が映った。

 

 

 

 

京香「あの人はアメリカ大統領!?」

 

皆が驚いていると、アメリカ大統領が悲痛な面持ちで会見を始めた。

 

 

大統領『アメリカ合衆国の国民、および全世界の皆さん。重大な発表をいたします。我がアメリカ合衆国は…、ただいまをもって…』

 

 

どこか言いづらそうに途切れ途切れに話しをしていると、耳障りなダミ声が響き渡った。

 

 

『何を口ごもっておる。とっとと宣言せんか!!』

 

 

豪「!! この声、Dr.フライ!?」

 

 

大統領『次元皇帝パーフェクトに…』

 

『様をつけねぇか!! 白豚が、記憶力がねぇのか?』

 

ダイーダ「ゴーロ!?」

 

 

合間に響き渡る声に、屈辱に顔を歪ませながら大統領は言い直した。

 

 

大統領『次元皇帝パーフェクト様に… 無条件降伏し… 今後はその意思に…』

 

『御意志だ。 もっと敬意を払え』

 

リーフ「ファルまで!!」

 

 

 

大統領『御意志に従うことを… ここに宣言いたします…』

 

 

 

遠藤「なっ、何い!!??」

 

京香「そんなことが!!??」

 

 

 

そう言って頭を下げた大統領を見て驚愕していると、画面が引いていきDr.フライがアップで映った。

 

 

Dr.フライ『聞いたか!? ただいまを持ってアメリカ国民はわしらの奴隷となるのじゃ。 もちろん逆らえばこれじゃ』

 

 

そう言いながらDr.フライは首に手刀をチョンチョンと当てる動作をした。

 

 

ラン「アメリカ国民を奴隷にって!?」

 

遠藤「馬鹿な!! あの広大な国家に住んどる何億人もの人間をどうやって奴隷にする気じゃ!! しかし、こうしてはおれん!! コズミックプリキュア、直ちに出動を…」

 

 

そう言って振り返ると、いつも並んで立っていることの多いリーフとダイーダが、顔も見たくないというようにお互いにそっぽを向いていた。

 

 

ダイーダ「ほら見なさい。連中がこんな大規模な作戦に出る前に、強力な武器を作っとくべきだったのよ!!」

 

リーフ「ぶーっ!! いざという時にすぐに助けに行けなきゃなんにもならないじゃない!! そういう時のために…」

 

 

 

遠藤「えぇい、いい加減にせんか!! 喧嘩しとる場合ではなーい!! アメリカが占領されれば冗談抜きで世界が滅ぼされかねん!! 大至急出撃して連中を叩きのめしてこんか!!」

 

 

 

 

 

変わらぬ口喧嘩を一括されたリーフとダイーダは渋々といった感じで三冠号に乗り込み、発進準備を行った。

 

 

リーフ「豪くん、そっちの準備ができたか聞いて」

 

準備を進める中、リーフが豪にそう尋ねた。

 

 

豪「…だってさ。どうなのダイーダ姉ちゃん」

 

 

ダイーダ「とっくに完了してるわよ。どっかのぼーっとしてるうすのろと一緒にしないで!! って伝えて」

 

 

その言葉に豪はため息をつきながら司令室に連絡を入れた。

 

豪「三冠号発進準備できたよ。じいちゃん格納庫開けて」

 

遠藤「よしわかった。豪、すまんが二人のことを頼んだぞ」

 

 

豪「う〜、わかった。 なんとか頑張ってみる」

 

 

明らかに嫌そうな顔をしながら豪がそう言うと、格納庫が開き三冠号が発進していった。

 

 

 

ラン「大丈夫かなぁ…」

 

京香「あの二人を信じましょう。今はそれしかないわ」

 

 

発進していった三冠号を見て、不安げに呟いたランの方に手を置きながら、京香先生はそう言った。

 

 

 

遠藤「全く、あいつらもあいつらじゃ。あれを見る限りお互いに仲直りしたかろうに…」

 

 

 

 

 

 

 

その頃アメリカでは大地を覆い尽くさんばかりの大量のマイナーが各地で暴れ回っており、各都市は次々と占領されていた。

 

 

 

キャスター『ただいまシカゴでは、巨大なクマのような怪物にビルが次々と破壊されており、人々は次々と捕らえられ連行されていっているようです。

残っていたアメリカ空軍も必死の抵抗をしているようですが、そちらも巨大なタカのような怪物につぎつぎと撃墜されているとの情報が入っています。

同様の被害がすでに、ニューヨーク・テキサスなど各都市や州で起こりそのすべてが現在音信不通となっています』

 

その報道とともに、アメリカの地図がアップになって映された。

 

 

キャスター『今までに入りました情報を統合いたしますと、すでにロッキー山脈を挟んで東側の地域は、ほぼ全域が制圧されていると思われます』

 

 

その報道を聞いた遠藤博士達は、険しい顔つきで考え込んでいた。

 

遠藤「まずいな。ここまで制圧されてしまっていては、いかにあいつらでも二人だけではアメリカを奪還するのは困難を極めるぞ」

 

京香「多くのアメリカの人達が捕えられているとなると、そのすべてが人質になっているようなものですから、下手に行動もできませんし…」

 

 

ラン「それより、どうして普通の人達を捕まえていくのかしら?」

 

 

ポツリと言ったランの疑問に遠藤博士は反応した。

 

 

遠藤「ん? どういうことじゃ?」

 

ラン「だって、労働力が必要ならあの兵隊 マイナーにやらせればいいんだし、戦闘機とか戦車や核ミサイルとかが欲しいなら軍の基地を制圧すればいいだけじゃない。どうしてわざわざ普通の人を奴隷にする必要があるのかしら?」

 

 

京香「言われてみれば…」

 

遠藤「うむ。ラン、お前今とんでもなくいいところに気がついたのかもしれんぞ!!」

 

 

 

第27話 終



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第28話  「壊滅! コズミックプリキュア (後編)」

 

 

 

 

アメリカ 西海岸上空

 

 

 

豪「ここがアメリカの西の端。まだパーフェクト達もここまでは来てないみたいだけど…」

 

三冠号のモニターを操作しつつ豪がそう言うと、どこか棘のある会話が始まった。

 

 

リーフ「もっと早く到着できたら、ここまで占領されずに済んだかもしれないね」

 

ダイーダ「あれだけの数相手にどうやって戦うつもりなのかしら? 今の力じゃ到底無理よ。それぐらいわからないものかしら?」

 

 

 

豪「もうーっ!! いい加減にしてよ!! それよりこれからどうするかだよ!!」

 

そんな会話にイライラしたように豪が叫ぶと、遠藤博士から通信が入った。

 

 

遠藤『聞こえるか? お前ら、今どの辺りにおる?』

 

豪「じいちゃん? 今ちょうどアメリカ西海岸についたところだよ。まだこの辺は大丈夫みたいだけど…」

 

 

遠藤『本当か? ならちょうどいい、至急ロサンゼルスに向かってくれ。 今襲われ始めたとの情報が入った』

 

 

豪「わかった、すぐ行くよ。姉ちゃんたちもいい?」

 

ダイーダ「私はいいけどね。 どっかののろまはどうだか…」

 

リーフ「早く動こうなんて発想がないくせによく言うよ。力押ししか頭にないよりはいいと思うけどな」

 

 

豪「…とにかくいいんだね。早くロサンゼルスに行こう」

 

小学生である自分でもやらないような低レベルの喧嘩にうんざりしながらも、とりあえず豪は三冠号をロサンゼルスに向かわせた。

 

 

 

 

 

ロサンゼルス

 

 

このロサンゼルスの空港は、アメリカ脱出を図ろうとする人でごった返していた。 おまけに皆が我先にと搭乗しようとするので、混乱をきたしてしまい却って手続きが遅れる悪循環となっていた。

 

「どけ!! 俺達が先だ!!」

 

「金なら出すぞ!! 早くしてくれ!!」

 

「お願いします、乗せてください!! 赤ん坊がいるんです」

 

 

そんなパニック状態の中、突如として空が陰ったかと思うと、離陸間近だった旅客機が大爆発し木っ端微塵に吹き飛んだ。

 

 

あまりの光景に言葉を失い、先ほどまでのパニックが沈静化してしまったが、直後悲鳴とともに一層のパニックが巻き起こった。

 

 

旅客機を爆破した張本人である、巨大なタカを思わせる怪物が我が物顔で舞い降り、同時に大量のマイナーがその背中から飛び降りてきたのだ。

 

 

人々は恐怖とともに逃げ惑ったが、元々すし詰め状態で混乱していたところに加えての大パニックである。

 

とてもではないがまともに避難などできるはずもなく、他人を押しのけて逃げようとするも、人々は次々とマイナーの打ち出した粘着ネットに捕らえられていった。

 

 

 

ファル「ふっ、無様なものだ。普段愛だの絆だの騒いでいても一皮むけばこんなものか」

 

そんなエゴに満ちた人をタカ型怪物の目に取り付けてあるカメラ越しに見て、ファルは見下したように吐き捨てた。

 

 

 

すると、上空から暖かな光とともに何かが舞い降りてきた。

 

 

ファル「むっ、この光は!!」

 

 

そしてその光は着地とともに、二人の少女の姿に変わり、人々を捕らえていたマイナー達と戦い始めた。

 

 

 

「あれって!?」

 

「コズミックプリキュアって子達だ!! 来てくれたんだ!!」

 

「助かったぞ!!」

 

 

 

リリーフ「マイナー!! これ以上は()が許さないよ!!」

 

ダイダー「()がいる限り、人を連れ去るなんてさせないわ!!」

 

 

人々の歓喜の声に包まれながら、リリーフとダイダーはマイナーと戦い人々を解放していた。

 

 

 

 

 

リリーフ「チェンジハンド・タイプブルー!!  エレキ光線連続発射!!」

 

リリーフは両腕を稲妻模様の走った青い腕に換装し、電撃光線を四方八方に発射しマイナーを黒焦げにしていた。

 

ダイダー「チェンジハンド・タイプグリーン!! 超高温プラズマ火炎、超低温冷凍ガス、同時発射!!」

 

ダイダーもまた、両腕を噴射口のようなもののついた緑色の腕に換装し、火炎と冷凍ガスを周囲に噴射し、右方から襲い来るマイナーを消し炭に、左方からのを凍結させていた。

 

 

 

そうやって戦っていた二人だったが、時間が経つにつれて少しずつそれを見守る人々からどよめきの声が上がり始めた。

 

 

「何だ? あの二人、確かに強いけど…?」

 

「なんかてんでバラバラに戦ってるみたい…?」

 

 

 

遠藤『ええい!! あの二人は此の期に及んで!!』

 

三冠号から中継される映像を見て、遠藤博士が司令室から頭を掻き毟ってそう愚痴っていた。

 

 

豪「えっ? どうしたのじいちゃん? 二人ともちゃんと戦ってるよ。いつもより強いかも…」

 

確かに豪の言う通り普段よりもはるかに手早く、そして確実にマイナーを倒し人々の救助をしていた。

 

しかし、その危うさに遠藤博士は気がついていた。

 

 

遠藤『いつもと違って連携がまるで取れておらん!! お互いを完全に無視しておるんじゃ!! このままでは…』

 

 

 

ラン『ん? ちょっと!! あの怪物はどこいったの!?』

 

ランが怪物の姿が見えなくなっていることに気がついた途端、タカ型メイジャーが雄叫びと共に口から火炎弾を発射し三冠号の後方に直撃させた。

 

 

豪「わぁあああ!!」

 

突然の攻撃に三冠号はバランスを崩してしまい、失速を始めた。

 

 

 

 

 

リリーフ「豪くん!!」

 

それを見たリリーフは慌てて三冠号に飛び移ると、追撃の火炎弾を浴びせようとしていたタカ型怪物に対して右手をかざした。

 

リリーフ「やらせないよ!! エレキ光線発射!!」

 

 

その電撃でタカ型メイジャーはダメージを負い三冠号への攻撃はそれた。

 

 

しかし完全に地上の状況を無視して攻撃したため、タカ型メイジャーの放った流れ弾が地上にいたダイダーの周辺に着弾した。

 

 

ダイダー「キャアアアア!!」

 

 

その火炎弾の巻き起こした爆発にまともに巻き込まれたダイダーは悲鳴とともに吹っ飛んでしまった。

 

 

ダイダー「イタタ… あのドジ、おかげでひどい目にあったわ」

 

 

そんなことを愚痴りながら立ち上がろうとすると、背後の建物を突き破り突如として巨大なクマの怪物が出現した。

 

ダイダー「なっ!?」

 

驚く暇もなく、ダイダーが立ち上がる前にクマ型メイジャーは爪を振りかざして襲いかかってきた。

 

 

ダイダー「ぐ、ぐうっ!!」

 

 

その攻撃をとっさに受け止めたダイダーだったが、いつもの怪物より一回り巨大なそのクマ型メイジャーと押し相撲の格好になってしまい身動きが取れなくなってしまった。

 

 

 

一方、上空のリリーフも三冠号の翼につかまりながら戦っていたが、縦横無尽に高速で飛び回るタカ型メイジャーを捉えきれず苦戦していた。

 

 

リリーフ「くっ、速すぎる!! 三冠号じゃ小回りがきかないから追いつけない!!」

 

 

二人のプリキュアが完全にメイジャーにかかりっきりになってしまったため、

マイナー達は再び人々を捕まえ始めていた。

 

 

 

リリーフ「ああっ!! させるもんか!!」

 

地上の様子を見て飛び降りようとしたリリーフだったが、タカ型メイジャーがそれを防がんと向かってきた。

 

 

リリーフ「もうどいてよ!!  豪くんお願い!!」

 

豪にそう呼びかけると、豪もヤケクソとでも言うように三冠号の操縦桿を倒した。

 

 

豪「えぇい!! どうにでもなれ!!」

 

 

それによりタカ型メイジャーに三冠号が体当たりする形となり、タカ型メイジャーは悲鳴とともに墜落していった。

 

 

 

それを確認するやリリーフは慌てて飛び降りたものの、時すでに遅く人々の大半は捕らえられてしまっていた。

 

 

リリーフ「その人達を放しなさい!!」

 

なんとか数体のマイナーを叩きのめしたものの、多勢に無勢。

 

 

多くの人達はマイナーに取り囲まれ、人質にされてしまった。

 

リリーフ「くっ!! もっと早く動けたら…」

 

 

迂闊に動くこともできず悔しそうに歯噛みしていると、豪が三冠号から叫んだ。

 

 

 

豪「姉ちゃん!! ダイーダ姉ちゃんが苦戦してるよ!! 早く行って!!」

 

 

その言葉に振り向くと、先ほど墜落していったタカ型メイジャーが、クマ型メイジャーと戦っていたダイダーに攻撃を仕掛けていた。

 

 

 

 

クマ型メイジャーとなんとか互角の勝負をしていたダイダーだったが、予想外の攻撃の前にその均衡が破られてしまった。

 

 

ダイダー「うあっ!! くそ、こいつら…」

 

 

タカ型メイジャーの火炎弾を地面に転がりながらなんとか避けると、両腕を噴射口のようなもののついた緑色の腕に換装した。

 

ダイダー「チェンジハンド・タイプグリーン!! 超低温冷凍ガス発射!!」

 

 

左腕をかざして発射した超低温冷凍ガスでタカ型メイジャーの動きを鈍らせたダイダーだったが、一息つく暇もなくクマ型メイジャーが横から襲いかかってきた。

 

ダイダー「アアアアアッ!!」

 

横薙ぎに振り払われた巨大な爪をまともに食らったダイダーは悲鳴とともに大きく吹き飛ばされてしまった。

 

 

ダイダー「く、くそ… もっと力があれば」

 

 

そんなことを愚痴りながらなんとか立ち上がろうとした時、ダイダーは信じられない光景を見た。

 

 

 

 

なんと、クマ型メイジャーがタカ型メイジャーを背中に背負ったかと思うと、どす黒い稲妻が二体の全身を包み、それが収まった時には二体は合体し、しかもふた回りほど巨大化してしまっていた。

 

 

豪「な、なんだよあれ…」

 

 

もともとメイジャーは既存の生物を怪物にしたような醜悪かつ凶暴そうな姿をしていたが、今目の前にいる合体メイジャーは怪獣と呼んだ方がふさわしい姿をしていた。

 

そのタカ・クマ合体メイジャーが唸りのような雄叫びをあげると、周辺の空気はビリビリと震え、地面さえも揺れたようだった。

 

ダイダー「あいつ、さっきまでのダメージもなくなってる」

 

 

舌打ちをしそうにそう呟いた瞬間、ダイダー目掛けて熱線とでも呼ぶような強力な火炎砲がタカ・クマ合体メイジャーの口から放たれてきた。

 

 

ダイダー「!!!!」

 

とっさに横に飛んだことでかろうじて直撃だけは免れたものの、その火炎砲の威力は常軌を逸しており、一撃でダイダーの後方にあった管制塔を跡形もなく吹き飛ばしてしまった。

 

 

 

リリーフ「うわぁあああ!!」

 

そしてその余波を受けたリリーフも爆風に吹き飛ばされ尻餅をついてしまい、ダイダーに至ってはかなり深刻なダメージを負ってしまった。

 

 

ダイダー「なんて…威力よ…」

 

先ほどまでの戦いのダメージもあって、立ち上がることもまともにできなくなったダイダーにタカ・クマ合体メイジャーは追い討ちのようにどす黒い稲妻を放った。

 

 

ダイダー「ガアアアアア!!!!」

 

 

その直撃を受けたダイダーは悲鳴とともに気絶してしまった。

 

 

 

リリーフ「ダイーダちゃん!!」

 

 

慌てて立ち上がったリリーフだったが一歩遅く、気絶したダイダーはタカ・クマ合体メイジャーの爪に捕らえられてしまった。

 

 

リリーフ「この!!」

 

リリーフは飛びかかるも、タカ・クマ合体メイジャーはそれよりも早く大きく翼を広げて猛スピードでダイダーを連れて飛び去ってしまった。

 

 

 

 

 

ラン『ダイーダさん!?』

 

京香『そんな!?』

 

 

研究所の司令室でも目の前の光景に、ラン達が悲痛な叫びをあげていた。

 

 

 

 

リリーフ「くそ!! 豪くん三冠号で追いかけるよ!!」

 

 

そう呼びかけたリリーフだったが、そこに遠藤博士から通信が入った。

 

 

遠藤『ダメじゃ、一度退却しろ!!』

 

その言葉にリリーフはもちろん、豪や司令室のラン達も耳を疑った。

 

 

リリーフ「た、退却!?」

 

ラン『おじいちゃん!?』

 

豪「じいちゃん何言ってんだよ!! ダイーダ姉ちゃんが!!」

 

 

 

遠藤『わかっておる。 しかしここを含めてアメリカ全土の人間が人質になっていることを忘れるな。 下手に暴れれば被害が増える一方じゃ』

 

 

 

一瞬非情なようにも聞こえたが、唇を噛み締め両手を血が出るほど強く握りしめている様子を見て、遠藤博士が断腸の思いでそう告げたことは、誰の目にも明らかであった。

 

 

リリーフ「ダイーダちゃん… ごめん!!」

 

 

今にも泣き出しそうな顔でそう謝ると、リリーフは三冠号に飛び乗り退却していった。

 

 

 

 

 

「プリキュアが… 負けた…」

 

「俺たちゃどうなるんだ…」

 

退却していった三冠号を見て、残された人々は絶望の表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

その光景はマイナーに取り付けてある小型カメラを通じてDr.フライ、ファルやゴーロ達の知るところとなっていた。

 

 

ゴーロ「けっ、ざまあみやがれ!! 痛快だぜ!!」

 

ファル「ああ、あのリーフの顔は実に愉快だった」

 

 

Dr.フライ「ひゃっひゃっひゃっ!! プリキュアが逃げ出しおった!! これで邪魔者は居ない。人質も用意できた。 早速この世界を暗黒に染め上げてやるとするか!!」

 

 

 

 

 

第28話 終

 

 

 

 



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第29話 「友情の新必殺武器 (前編)」

 

 

 

アメリカ ニューヨーク

 

 

 

 

世界一の大国アメリカの中でも、最大の都市ニューヨーク。

 

 

超高層ビルが立ち並ぶこの都市も、Dr.フライ率いるメイジャーや文字通り蟻のように大地を埋め尽くすマイナー達によって蹂躙し尽くされていた。

 

 

都市の一部は無残に破壊され荒野と化しており、そこではアメリカ全土から連行されてきた人々が、奴隷のように働かされていた。

 

 

倒壊したビルの一部である巨大なコンクリートや土砂を、まるで古代エジプトで行われていたように運ばされていた。

 

ろくな休みもないまま働かされていたため力尽きる人も続出していたが、そんな人達に対する慈悲などまるでなかった。

 

 

「はぁはぁ… もうだめ…」

 

そして今また一人の女性が力尽き倒れ伏すと、見張りをしていたマイナーが容赦なくマシンガンで撃ってきた。

 

 

その倒れた女性は一瞬で蜂の巣になり、それを見て悲鳴をあげた者達にも黙れというように弾丸がお見舞いされた。

 

 

その光景を見た人々は、恐怖に怯えながらも言いなりになるしかなかった。

 

 

 

節子「わたくし、突撃レポーターの甲斐節子です。なぜこんな目に会わねばならないのでしょう? それに連中は私達を働かせて一体何を作らせているのでしょうか?」

 

同じように連れてこられ働かされていたレポーターの甲斐節子は、もはや職業病とでも言うようにブツブツとそう呟いていた。

 

 

そんな彼女の視線の先には、一棟だけ無傷で残された超高層ビルがあり、連れ去られた人々はそのビルの改造を行なわされているようだった。

 

 

 

 

人々が奴隷として働かされている光景をその超高層ビルの屋上から見下ろしながら、Dr.フライは満足そうにいやらしく笑った。

 

 

Dr.フライ「ひゃっひゃっひゃっ!! 実に気分がいい!! 愚かな人間どもがわしの足元で惨めに蠢いておるわ!!」

 

 

ダイーダ「借り物の力に溺れて他人を見下す… どこまでも見下げ果てたやつね。パーフェクトに好かれる理由がわかるわ」

 

 

十字架に磔にされて身動きの取れなくなっていたダイーダが、そんなDr.フライを心底軽蔑したようにそう吐き捨てた。

 

 

するとDr.フライは敏感にその言葉に反応した。

 

Dr.フライ「黙れ!! 負け犬の分際で史上最高の天才であるわしを非難するとはなんたる無礼!! 口の利き方をしつけてやるわ!!」

 

 

そう子供のように当たり散らすと、磔にされているダイーダに対して電撃の鞭を打ちつけた。

 

 

ダイーダ「ギャアアア!!!」

 

 

その激痛に悲鳴をあげたダイーダを見て、Dr.フライは口元を歪めた。

 

 

Dr.フライ「どうじゃ? 以前は効かなかったらしいが、こうして貴様にダメージを与えるぐらいのことはできるのじゃ。 言っておくが少しでも逃げるそぶりを見せてみろ。 ここから見える人間どもを一瞬で死体の山に変えてやるからな。 もっともその十字架は特別製でな、ロボットの運動機能を麻痺させる仕組みだから逃げられまいがな」

 

 

その言葉通り全身にまるで力が入らず、苦々しい表情をしたダイーダを見てゴーロもまた満足そうに嗤った。

 

ゴーロ「いいざまだなダイーダ。だがな、お前の言う通りこのジジイは無能でな。お前を痛めつけるレベルのものしか作れなかったんだ。だから安心しろ、どんなに痛めつけられても死ぬことだけはねぇ、よ!!」

 

そう言うとゴーロはDr.フライの手から電撃ムチを取り上げ、ダイーダに打ちつけた。

 

 

ダイーダ「キャアアア!!!」

 

 

ゴーロ「へっへっへっ。いい声だ。日頃の恨みだ、もっと聞かせろ」

 

そうしてゴーロは幾度となく磔にされたダイーダにムチを打ちつけた。

 

 

 

ダイーダ「キャア!! キャア!… グアッ…! イッ… あうぅ…」

 

だんだんとあげる悲鳴も小さくなっていき、ぐったりとしてしまったダイーダを見てゴーロはようやく満足したように手を止めた。

 

 

ゴーロ「けっ、もう終わりか。まあいい、こいつには最大限の屈辱を味あわせてやるんだからな」

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

帰還した三冠号の整備を自動装置に任せ、遠藤博士は制圧されたアメリカを奪還するべく方法を必死に模索していた。

 

 

遠藤「連中はおそらく何らかの理由で、大量の人間が必要なんじゃろう。だからこそ人々を奴隷にして働かせておるんじゃ」

 

ラン「その何かって?」

 

 

遠藤「残念じゃがそこまではわからん。しかしあの大量のマイナーどもがいる限りアメリカ国民全員が人質のようなもんじゃ。今のままではどうにもできんぞ」

 

 

豪「そんな!! いっぺんにパァーッとやっつけるなんて無理だよ。それに…」

 

そう言って部屋の隅に目を向けると、帰還して以来ずっと塞ぎ込み座り込んでいるリーフがいた。

 

豪「姉ちゃんだってあんな調子だし。オレ達だけであの大群を倒すなんて…」

 

 

うつむきながら気弱にそう呟いた豪の方に手を置くと、励ますように京香先生が言った。

 

 

京香「元気を出しましょう。確かに私達の力は小さいかもしれないけど諦めるわけにはいかないわ」

 

 

 

ラン「そうよ豪! みんなで考えましょう、あのマイナーを倒す方法を」

 

 

豪「方法ったって、俺見たんだぜ。アリみたいにうじゃうじゃあいつらがいるのを。もともとがアリだっていうけど本当にそうなんだってつくづく思ったよ」

 

 

その言葉に遠藤博士は何か閃くものがあった。

 

 

遠藤「ん? そうか! あいつらはアリにマイナスエネルギーを取り付かせたものじゃったな。おまけに変身前のリーフ達の攻撃で簡単に浄化されていた… ようし!!」

 

 

 

すると遠藤博士は即座にパソコンに向かい、スカイプで通話を始めた。

 

 

遠藤「宝六、わしじゃ。聞こえたら返事をしてくれ!!」

 

 

宝六『おお、遠藤か。 アメリカのことでこっちも大騒ぎになっとるよ。 一体どうしたんだ?』

 

かなり深刻な顔をしながら通信に出てくれた宝六博士に、遠藤博士もまた真剣な顔で頼み込んだ。

 

 

遠藤「宝六、お前の作った大気元素浄化装置(第19話、20話参照)のデータを貸してもらえんか」

 

宝六『何? 大気元素浄化装置? それをどうする気だ?』

 

 

 

突然の頼みに当然と言えば当然の反応を返した宝六博士に、遠藤博士は必死に頼み込んだ。

 

 

遠藤「お前の作った大気元素浄化装置のシステムを応用して、マイナスエネルギーの浄化作用のある光線を作りたい。アメリカ上空の静止衛星軌道から太陽光線を利用しそれを照射する。そうすれば、今アメリカを占領しているあの兵隊どもを一掃できる。そうすれば人質も自然解放されるというわけじゃ。 頼む、アメリカのいや世界の平和のためにも!!」

 

 

 

その言葉に少し考え込んだ宝六博士だったが、ゆっくりと頷いた。

 

宝六『わかった。 協力しよう、世界のためにも』

 

遠藤「おお!! ありがとう!!」

 

宝六『なぁに、君の頼みでもあるし、世界のためでもある。データはすぐに送る。頼んだぞ遠藤、世界を救ってくれ』

 

 

そうして話を終えた後、遠藤博士は死んだ目をしているリーフのところに行って話しかけた。

 

 

 

遠藤「リーフ、しっかりせんか」

 

 

リーフ「でも、ダイーダちゃんは…」

 

遠藤「ダイーダはまだ無事じゃ。かろうじてじゃがな」

 

 

その言葉に僅かながら、リーフの目に光が灯った。

 

リーフ「本当ですか!?」

 

遠藤「うむ、ダイーダのボディからの信号は途絶えとらんからな」

 

 

パァッと明るくなったリーフだったが、すぐにまた暗くなってしまった。

 

リーフ「でも、どうやって助けに行けば… それにダイーダちゃんは私のことなんか…」

 

 

遠藤「本当にそう思うか? ならついて来い」

 

 

そう言って遠藤博士はリーフを地下研究室の奥へと連れて行った。

 

 

 

 

 

 

地下研究室

 

 

 

遠藤博士に連れられて地下の奥に来たリーフは、そこにあったものを見て目を見開いた。

 

 

リーフ「これは!!」

 

 

遠藤「ダイーダが夜な夜なこっそり作っとったものじゃ。まぁ小型ジェット機のようなもんじゃな」

 

 

リーフ「でもダイーダちゃん、もっとパワーアップする必要があるって…」

 

遠藤「まぁそれも本心じゃろう。しかしそれ以上に仲直りがしたかったのじゃろうて。お主と同じでな」

 

悪戯っぽく笑いながら告げた遠藤博士にリーフは驚いた。

 

 

リーフ「えっ!? 知ってたんですか?」

 

遠藤「わからいでか。リーフ、友人というものは結局どこかで似てくるものということじゃよ。いっその事これをお前さんのとくっつけてみたらどうじゃ」

 

 

そう言い残すと、遠藤博士は出て行った。

 

 

 

しばらく思いつめていたリーフは、別の部屋に向かいそこに置いてあったものの覆いを取り払った。

 

 

リーフ「…私は仲直りしたかった。でも変な意地張っちゃったから、ダイーダちゃんとうまく話せなくて… これが話すきっかけになればと思ったんだ。ダイーダちゃん、絶対助けるからね!!」

 

リーフはその覆いの下にあったもの、未完成の巨大なバズーカ砲のようなものを見つめてそう決意を固めた。

 

 

 

 

 

 

 

宝六博士から大気元素浄化装置のデータをもらった遠藤博士は、そのシステムを応用した小型人工衛星の制作を不眠不休で行なっていた。

 

 

遠藤「えーっと、ここの配線をこうつないで… プログラムをこう変更して」

 

 

 

京香「博士、少しお休みにならないと体に毒ですよ。昨日から食事も睡眠もとってらっしゃらないじゃないですか」

 

ラン「そうよおじいちゃん。私達にできることは限られてるけどせめておにぎりぐらい食べて…」

 

 

疲れを知らぬが如く、まるで手を止めずに作業を続ける遠藤博士にランと京香先生は心配そうにそう話しかけた。

 

 

 

遠藤「そうはいかん。こんなことをしとる間にもアメリカの人達がどんどん犠牲になっとるんじゃ。休んでなどおれんわ!!」

 

 

そう一喝すると、喋る時間も惜しいというように遠藤博士の作業は進んでいった。

 

 

京香「…仕方ないわ。博士、簡単なお手伝いはします。できそうな作業を教えてください」

 

止めても無駄だと悟った京香先生は、腕まくりをして遠藤博士の手伝いを始めた。

 

 

ラン「仕方ないか。じゃあ私はリーフさんの方を…」

 

 

そう呟くと、ランは地下にこもりっぱなしで作業をしているリーフと豪を手伝うべく地下室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

アメリカ ニューヨーク

 

 

 

人々が奴隷として働かされている中、小型UFOが飛来し着陸した。

 

そしてUFOからDr.フライに連れられたアメリカ大統領が出てきた。

 

Dr.フライ「さぁて大統領。あんたにも働いてもらおうか」

 

そう言い放つと、Dr.フライは大統領を突き飛ばした。

 

 

大統領「くっ…」

 

 

地面に這いつくばりながら、大統領は屈辱に表情をゆがませていた。

 

 

 

 

皆が絶望の表情を浮かべている中、ついに誰かが我慢の限界というように叫んだ。

 

 

「いい加減にしろ!! オレ達は奴隷なんかじゃない!!」

 

「いつまでも言いなりになんかなるか!!」

 

 

しかしそう叫んだグループは、あっという間にマイナーに取り囲まれてしまった。

 

 

ファル「そんなに死にたいか?」

 

マイナーの監督を行っていたファルが見下したようにそう尋ねるとそのグループは声を張り上げた。

 

 

「ふざけるな!! こんな形で死ぬなら殺された方がマシだ!!」

 

「プライドってもんがあるんだ!!」

 

 

 

それを聞きつけたDr.フライはいやらしく嗤いながらファルに命じた。

 

 

Dr.フライ「そうかそうか。ならばこやつらには最大の屈辱を与えるのじゃ。供物にはもってこいじゃ」

 

ファル「それもそうだ。よし連れて行け!!」

 

 

 

 

そうして人々が連れ去られていく中、Dr.フライの姿をたまたま認めた甲斐節子は、あらん限りの声で罵った。

 

 

節子「あんたふざけんじゃないわよ!! それでも人間なわけ!? こんな連中の仲間になって情けないとか思わないの!!」

 

 

Dr.フライ「フェッフェッフェッ。ご忠告感謝する。じゃがわしは自分の意思でこうしておる。この世界を暗黒の世に染め上げるためにな」

 

 

どこ吹く風というようにそう嗤ったDr.フライに節子はさらに噛み付いた。

 

節子「ぶぁっかじゃないの!? 世界がこんな奴らに征服されたら、あんたなんか用済みだってわかんないの? だいたいあんただってどんなに腐ってようとも人間なんだからこいつらの世界で生きてけるわけないじゃないの!!」

 

 

 

Dr.フライ「黙らんか!! わしを馬鹿にする奴は誰だろうとも許さん!! そいつも連れて行け!!」

 

 

節子の言葉に金切り声を上げると、Dr.フライはマイナーに節子を捉えるよう命じた。

 

Dr.フライ「わしを馬鹿にする奴は許さん。わしがそんなことになるはずはないのじゃ。15年前のあの事故でさえわしは無傷で乗り切ったのじゃからな。世間はわしが死んだなどとほざいておったが、それこそが無能の証じゃ」

 

 

 

そんなことを嘯くDr.フライをファルは冷めた目で見ていた。

 

ファル「ふっ、知らないとは幸せなものだ。せいぜい夢を見ていろ」

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

遠藤「よーし完成じゃ!! 名付けてマイナー殲滅衛星。あとはこいつを衛星軌道上まで運べば…」

 

 

京香「やりましたね。でもこれをどうやって打ち上げるんです?」

 

 

遠藤「それは三冠号、つまりリーフに任せる。あいつの方はどんな塩梅かな…」

 

そんなことをつぶやくと、豪とランが息急き切って駆け込んできた。

 

 

豪「じいちゃん!!」

 

ラン「リーフさんが完成したって言ってるわ!!」

 

 

遠藤「おお!! そりゃ本当か!?」

 

 

 

嬉しそうにそう尋ねると、ゆっくりとリーフが作業室に入ってきた。

 

その自信に満ち満ちた瞳を見て、京香先生と遠藤博士は満足そうに頷いた。

 

 

京香「もう心配はなさそうね」

 

リーフ「はい、ご心配をおかけしました」

 

 

遠藤「よし、こちらも準備ができたところじゃ。 いくぞアメリカ奪還作戦開始じゃ!!」

 

 

「「「了解!!」」」

 

 

 

第29話 終



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第30話 「友情の新必殺武器 (後編)」

 

 

 

アメリカ ニューヨーク

 

 

 

 

先ほど口答えしていた人々が、改造中の超高層ビルの屋上にて円を描くようにしてマイナーの爪に脅されており、その中心のひときわ高い位置にダイーダが磔にされていた。

 

 

「一体どうしようってんだ!?」

 

「殺すならさっさと殺せ!!」

 

 

ゴーロ「喚け! てめぇらのその恨みに満ちた負の感情が、マイナスエネルギーを呼び集めるいい供物になる」

 

 

 

ダイーダ「なるほどね。わざわざ人を奴隷にしたのは、そう言った感情を溢れかえらせるためってことね」

 

 

ファル「わかっていれば話は早い。そして貴様はこの世界をマイナスエネルギーで染め上げるための呼び水だ。 プラスエネルギーの塊である貴様は逆に言えばマイナスエネルギーを最も吸収しやすい存在だからな」

 

磔にされたダイーダを殴りつけながら、ファルはそう言い捨てた。

 

 

 

Dr.フライ「どうじゃプリキュア。今まで守ってきた人間の思いが世界を暗黒に染め上げ、しかもお前自身がそれを誘発するのじゃ。特別警備隊員としてこれ以上ない屈辱じゃろ!! ヒャッヒャッヒャッ!!」

 

 

 

 

節子「誰か、助けてくれる人はいないの?」

 

Dr.フライの耳を塞ぎたくなるような下劣な笑い声の響く中、マイナーに捕らえられながら、節子は天を仰ぎ必死に祈っていた。

 

 

 

 

 

その頃

 

 

 

 

 

アメリカ上空、高度3万メートルにて三冠号が到着していた。

 

 

豪「ようしじいちゃん。小型衛星を積んだロケットを発射するよ」

 

 

遠藤「うむ、軌道上へのコントロールはこっちでやる。いつでもいいぞ」

 

豪「OK。発射!!」

 

 

 

その声とともに三冠号のボタンを押すと、小型衛星を搭載したロケットは衛星軌道上へとコントロールされていった。

 

 

遠藤「ようし軌道に乗った。ソーラーパネル展開」

 

 

司令室からの遠藤博士の遠隔操作で、小型衛星はソーラーパネルを展開し始め太陽光線を吸収し始めた。

 

 

ラン「ぶっつけ本番になっちゃったけど、どうかうまくいきますように…」

 

ランは手を組み、目をつぶって必死に祈っていた。

 

 

するとランの肩に手を置き、京香先生が優しく告げた。

 

京香「信じましょう。あなたのおじいさんを」

 

 

 

そしてやがて小型衛星にエネルギーの充填が終わり、発射態勢に入った。

 

 

遠藤「エネルギー充填完了。最大出力でマイナーどもを焼き尽くせ!!」

 

 

遠藤博士が手元の発射ボタンを押すと、小型衛星からアメリカ全土にわたってマイナスエネルギーの浄化光線が発射された。

 

 

 

 

豪「うわーっ!! すっげえ!!」

 

 

三冠号からのその光景は、まさしく光のシャワーといったものであり、鬱々とした空気を一気に消し飛ばす美しさと暖かさに満ち溢れていた。

 

豪は不謹慎と思いつつも、その幻想的な光景の美しさに魅入られていた。

 

 

 

 

そして、その光の降り注いだ地上ではアメリカ全土を我が物顔で蹂躙していたマイナー達が苦しみ始めていた。

 

 

やがてマイナー達から黒い靄のようなものが滲み出し、小さなアリへと戻っていった。

 

虐げられていた人々はその光景に驚きながらも、皆が歓喜の声をあげ、中には憎しみを込めてそのアリを踏み潰している人もいた。

 

 

 

 

その光景を三冠号の望遠モニターで確認していた遠藤博士は、ラン達と手を取り合って大はしゃぎしていた。

 

 

遠藤「やったやった!! 大成功じゃ!! フライの鼻を明かしてやったぞ!!」

 

京香「おめでとうございます!!」

 

ラン「やったわねおじいちゃん!!」

 

 

 

 

一方、地上の状況を確認したリーフは三冠号の後部ハッチを開いていた。

 

リーフ「よーし、ダイーダちゃん。今助けに行くからね!!」

 

 

そうして高度3万メートル上空からリーフは単身ニューヨークに向かって飛び降りた。

 

降下を始めて十数秒後、リーフは力の限り叫んだ。

 

 

 

 

 

リーフ「来なさい!!  ライナージェーット!!!」

 

 

 

 

 

その叫びとともに、三冠号から猛烈なスピードで何かが発進した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アメリカ ニューヨーク

 

 

 

 

 

突如として降り注いだ光にマイナー達が消滅してしまったことによる動揺はここでは群を抜いていた。

 

 

Dr.フライ「な、何!? こ、これはどういうことじゃ!?」

 

ファル「ぐうっ、なんだこの光?」

 

ゴーロ「気分が悪くなってくるぜ…」

 

 

 

マイナー達がアリに変わってしまったことに加え、Dr.フライ以下ファルとゴーロも胸を押さえて苦しみ始めた。

 

 

「よし今だ!! みんな逃げろ!!」

 

 

チャンスと判断し、捕らえられていた人々は皆一目散に逃げ出した。

 

 

屋上の人々の中にはダイーダを助けようとする人もいたが、それはダイーダ自身が断った。

 

ダイーダ「私は大丈夫です。それより早く逃げてください」

 

 

「し、しかし…」

 

さすがに磔状態の少女を一人放って逃げるというのは抵抗があったか、かなり躊躇していた。

 

 

ダイーダ「ためらわないでください。早くしないとあいつらが回復します」

 

 

その言葉に振り返ると、苦しんでいたファルとゴーロがなんとか立ち上がろうとしていたところだった。

 

 

「くっ、すまん!!」

 

 

止むを得ず、苦渋の決断というように皆はダイーダを置いて逃げることを優先した。

 

 

 

ファル「特別警備隊員というのも大変だな。あんな連中でも自分より優先して守らなきゃならねぇとは」

 

 

完全に復調したファルが、一人取り残されたダイーダに対してそう言うも、ダイーダの目は死んでいなかった。

 

ダイーダ「そうでもないわよ。あの人達の心にはきちんとプラスエネルギーが宿っている。私のことを置いて逃げることを後悔していた。その思いは必ず前に進んでいく力になる!」

 

 

ゴーロ「ほざけ!! 貴様はもうこの場で一人だけだ。助かるかもしれねぇチャンスをみすみすフイにした大バカ野郎になるんだよ!!」

 

 

そう怒鳴り散らしたゴーロに、ダイーダは不敵に笑った。

 

 

ダイーダ「そうでもないわよ。助けを断ったのは、きちんと助かるあてがあるからよ」

 

 

ゴーロ「黙れ!! その減らず口が二度と聞けないようにぶっ壊してやる!!」

 

そのダイーダの言葉に何かが切れたゴーロは、ダイーダのボディを打ち砕かんと大きく拳を振りかぶった。

 

 

 

 

しかし次の瞬間、何かが空に光ったかと思うと風を切り裂いて飛んでくる音が聞こえた。

 

 

そしてそれに気づいた時には、ゴーロの目の前を視認することもできないような速度で何かが通過していき、その衝撃波でゴーロは吹き飛ばされた。

 

 

ゴーロ「な、何だぁ?」

 

 

突然のことにゴーロは何が起きたのかまるで理解できていなかった。

 

今の今まで目の前で磔になっていたダイーダの姿も、磔台ごと消えていた。

 

 

ファルやDr.フライもあたりをきょろきょろと見回していたが、そこに上空からダイーダが磔になっていた磔台「だけ」が落ちてきた。

 

 

Dr.フライ「何? プリキュアはどこに行った!?」

 

 

ファル「ん? あそこだ!!」

 

 

ファルが指差した先には、小型のジェット機のようなものにサーフボードに乗るように飛行しているリーフとダイーダがいた。

 

 

 

 

 

 

リーフ「ダイーダちゃん大丈夫? 遅くなってごめんね」

 

心配そうに問いかけるリーフに、ダイーダは手首をぐるぐると回しながら返した。

 

ダイーダ「なぁに、これぐらいどうってことないわ。それよりこのジェット機は…」

 

 

 

リーフ「うん、ダイーダちゃんが作ってたやつだよ。博士から全部聞いたよ、ごめんね変な意地張っちゃったせいで。 私いざという時にダイーダちゃんをすぐに助けに行けないのが悔しくて。 だから機動力のあるものが欲しかったんだ」

 

ダイーダ「いいのよ。私だって意地を張ったのは同じだもの。いざという時に、あなたを苦しめてるやつをすぐに倒せるような力が欲しかったから…」

 

 

その答えに二人は微笑みあった。

 

リーフ「ふふっ。私達、似た者同士だよね」

 

ダイーダ「ふっ、そうね。それよりこのジェット機のデータを送ってくれる?」

 

 

リーフ「わかった。これが新兵器、ライナージェットだよ」

 

リーフは秘密通信機能を使ってこの新兵器ライナージェットの全スペックデータを転送した。

 

 

ダイーダ「…なるほどね。なかなかのものじゃない」

 

そのスペックを確認し、ダイーダは満足そうにリーフを褒め称えた。

 

 

 

 

 

ファル「おのれ、プリキュア!! いけ合体メイジャー!!」

 

 

苦々しく顔をしかめたファルの命令に従い、タカ・クマ合体メイジャーがどこからともなく飛来し、ライナージェットに乗った二人を撃墜しようと高速で飛び回りながら火の玉を吐き出してきた。

 

 

 

リーフ「なんのこれしき!!」

 

しかしリーフはライナージェットをサーフィンのように操り、ひらりひらりと攻撃をかわした。

 

 

まるで攻撃が当たる様子のない状態に、タカ・クマ合体メイジャーはイライラしたように雄叫びをあげると、翼を大きく広げ高速で突っ込んできた。

 

 

爪を鋭く尖らせ、高速で飛び回るライナージェットを捉えようとしたタカ・クマ合体メイジャーだったが、ライナージェットのスピード・機動力はそれをはるかに上回っていた。

 

 

ファル「!! なんだあのスピードは!?」

 

 

縦横無尽かつ猛スピードで飛び回るライナージェットに翻弄されたタカ・クマ合体メイジャーは、ついにそれを見失ってしまった。

 

 

そして次の瞬間、翼を何かに刈り取られてしまった。

 

 

リーフ「どうよ! このライナージェットは高速で飛び回ることで翼に空気の刃をコーティングできる仕組みなんだから」

 

 

翼を失い、地面に落下し叩きつけられたタカ・クマ合体メイジャーを見てリーフとダイーダは力強く頷きあった。

 

 

リーフ・ダイーダ「「ゴー!!」」

 

 

その掛け声とともに、二人はジャンプしてトンボを切りライナージェットから飛び降りた。

 

 

その瞬間、二人の体は光に包まれ、着地した時には姿が大きく変わっていた。

 

 

ショートカットだったリーフは、ボリュームのある濃いピンクの髪に変化し、着用している服も、ごく普通の服からフリルのついた赤を基調にしたドレスのようなものになっていた。

 

 

 

ダイーダのポニーテールは、一本から五本にまで増え、背中にかかるかかからないかだったそれも、腰まで伸びて金色になっていた。

 

 

そしてリーフ同様のデザインの純白を基調にしたフリルのついたドレスを着用していた。

 

 

 

そして怪物をキッと睨むと二人は名乗りをあげた。

 

 

リリーフ「闇を吹き消す光の使者 キュア・リリーフ!!」

 

ダイダー「悪を蹴散らす光の使者 キュア・ダイダー!!」

 

 

リリーフ・ダイダー「「ピンチ一発、大逆転! コズミックプリキュア!!」」

 

 

 

 

ゴーロ「クソがぁ!!!」

 

ファル「行くぞ!!」

 

 

リリーフとダイダーに突っ込んでいった二人だが、半ばヤケクソ気味だったためかあっさりといなされてしまった。

 

 

ダイダー「ゴーロ!! ずいぶんやりたい放題やってくれたわね!!」

 

 

散々なぶられたお返しとばかりに、ダイダーはゴーロのボディに何発もパンチを叩き込んだ。

 

 

ゴーロ「ごふ!! ゲフ!!」

 

その攻撃の前に、ゴーロは呻き声を出して動きが止まってしまった。

 

 

そんなゴーロをヘッドロックで抑え込むと、ダイダーはリリーフの方を見やった。

 

 

リリーフもまたファルを同じように抑えつけており、ダイダーを見やってきた。

 

 

一瞬のアイコンタクトを交わすと、リリーフとダイダーはそのままの体勢で走り寄り、抱えたゴーロとファルの頭をその勢いで正面衝突させた。

 

 

ファル・ゴーロ「「!!!!!」」

 

声にならないほどの衝撃にゴーロとファルはそのまま倒れ込んでしまった。

 

 

豪「すっげえ、息ぴったり!! やっぱこうでなくっちゃ」

 

上空の三冠号で地上のコズミックプリキュアの戦いぶりを見ていた豪は感心するようにウンウンと頷いた。

 

 

 

リリーフ「どんなもんよ!!」

 

ダイダー「自慢じゃないけど、二人一緒なら絶対に負けないわ!!」

 

完全にダウンしているゴーロとファルを見下ろして、リリーフとダイダーは自信満々にそう言った。

 

 

そこに雄叫びと共に、先ほど地面に落下したタカ・クマ合体メイジャーが爪を振りかざして襲いかかってきた。

 

 

リリーフ・ダイダー「「やあっ!!」」

 

 

しかしこの二人はとっさに目の前で倒れ伏しているゴーロとファルを投げつけてタカ・クマ合体メイジャーを怯ませ、距離をとった。

 

 

リリーフ「チェンジハンド・タイプブルー!!  エレキ光線発射!!」

 

ダイダー「チェンジハンド・タイプグリーン!! 超高熱プラズマ火炎発射!!」

 

 

リリーフは両腕を稲妻模様の走った青い腕に換装し電撃光線を、ダイダーもまた両腕を噴射口のようなもののついた緑色の腕に換装し火炎を噴射し、タカ・クマ合体メイジャーに浴びせた。

 

 

 

さすがにこの同時攻撃にはまいったか、タカ・クマ合体メイジャーは弱々しい雄叫びをあげて膝をついてしまった。

 

 

リリーフ「よし、止めだよ!!」

 

ダイダー「ええ!!」

 

 

 

 

 

一方、一人こそこそと逃げ出そうとしていたDr.フライだったが、捕らえられていた人々に見つかり、袋叩きにあっていた。

 

 

「このやろう!! 散々威張り腐りやがって!!」

 

「よくもやってくれたな!!」

 

Dr.フライ「無礼者どもが!! わしを誰だと思っておるか!!」

 

小さく身をかがめ必死に身を守りながら、性懲りも無くそんなセリフを吐く姿はいかにも小物くさくみっともないものであった。

 

 

「知るか!! このままぶち殺してやろうぜ!!」

 

 

殴る蹴るの暴行に加えスコップやツルハシまで抱えたものが出始め、もはや完全に暴徒と化し始めていた。

 

 

Dr.フライ「うるさいわ!! 無礼者どもが!!」

 

そう喚き散らすと、Dr.フライの体から黒い波動のようなものが発生し、取り囲んでいた人達は吹き飛ばされた。

 

「な、なんだ今の?」

 

「なんか変なもんが…?」

 

 

Dr.フライ「ん? なんじゃこれは?」

 

取り囲んでいた人はもちろん、Dr.フライ本人もきょとんとする中、ゴーロとファルがふらつきながら来て、近くの人間を盾にした。

 

 

ゴーロ「プリキュア!! 下手なことをしてみろ!! こいつらの命はないぞ!!」

 

ファル「変身解除して投降してもらおうか」

 

 

ふらつきながらもニヤリと笑いながらそう告げたゴーロとファルだったが、リリーフとダイダーは引かなかった。

 

 

ダイダー「ふっ。来なさい、ライナージェット!!」

 

 

その自信にあふれたダイダーの呼びかけに応えるように、ライナージェットが降下してきた。

 

そしてゆっくりと降下してきたライナージェットを、リリーフとダイダーが両翼を肩に担いだ。

 

 

するとライナージェットの左右からトリガーのついた小さなグリップが飛び出すと同時に、機首が開き何かの発射口のようなものが現れた。

 

 

リリーフ「ライナージェット、カノンモードスタンバイ!!」

 

ダイダー「ターゲットロック!! プラスエネルギーチャージ!!」

 

 

ライナージェットの砲身が自分達の方に向けられ、しかもエネルギーが充填されていくのを見たDr.フライ達は慌てた。

 

 

Dr.フライ「待て!! こちらには人質がいるのが見えんのか!?」

 

ゴーロ「てめぇら、この人間どもを巻き添えにできるのか!?」

 

 

そんな言葉にまるで耳を貸すこともなく、リリーフとダイダーは照準をセットしたままだった。

 

 

ファル「くっ!! 合体メイジャー、連中を吹き飛ばせ!!」

 

 

そのファルの言葉に、タカ・クマ合体メイジャーの口から熱線とでも呼ぶような強力な火炎砲が放たれてきた。

 

 

 

しかしそれより一瞬早く、ライナージェットのエネルギー充填は完了した。

 

リリーフ・ダイダー「「プリキュア・ウォークオフ・ブラスター!!」」

 

 

その掛け声とともにリリーフとダイダーは発射トリガーを引いた。

 

 

リリーフ・ダイダー「「 ファイヤー!!!!」」

 

 

 

 

ライナージェットから放たれた光の奔流とでもいうかのような、眩しくそして温かいエネルギー波は、合体メイジャーの火炎砲をあっさりかき消し、合体メイジャーはもちろんその射線上にいたDr.フライにゴーロとファル、さらには人質までをも飲み込んでいった。

 

Dr.フライ・ゴーロ・ファル「「「グオオオオーッ!!!」」」

 

人質「「「「うわあーっ!!!」」」」

 

 

 

 

 

 

そしてその光がかき消えた時には、合体メイジャーは気絶したクマとタカに戻っており、Dr.フライ達は大ダメージを受けて仰向けになって倒れていた。

 

 

ゴーロ「なんで、人間どもは無事なんだ…」

 

ファル「どうして俺たちだけにダメージが…」

 

 

その言葉通り、人質にされていたはずの人は完全に無傷であり、狐につままれたような顔をしていた。

 

人質「へっ? 今の何なんだ?」

 

人質「ちょっと眩しかっただけで… 何とも…」

 

 

 

 

 

リリーフ「これはプラスエネルギーだけを圧縮・増幅させて発射できるの。だからマイナスエネルギーで塊みたいなあなた達みたいな連中にしかダメージにならないよ!!」

 

リリーフがそう言い放った直後、ライナージェットを反対側で支えていたダイダーが力尽きたように膝をついた。

 

 

ダイダー「よかったわね。私の受けたダメージのせいで威力が半減したみたいで。本当ならこの一撃で維持するだけでもやっとになってたでしょうね…」

 

 

やはりダイダーの受けていたダメージはかなりのものであったらしく、限界のようであった。

 

 

 

Dr.フライ「な… なぜわしにまで…?」

 

 

同じようにダメージを受けて倒れてしまったDr.フライがそう呟いた瞬間、Dr.フライにゴーロやファルの体を黒い靄のようなものが包み込んだ。

 

 

そしてドスの効いた低い声がどこからか響き渡った。

 

 

 

『コズミックプリキュアよ』

 

 

リリーフ「この声は!?」

 

ダイダー「パーフェクト!?」

 

 

パーフェクト『いかにも、我は次元皇帝パーフェクト。 今日のところは貴様らに華をもたせてやる。 しかし覚えておけ、この世界はやがて暗黒の世となることをな。 人間どもよ、お前達の未来は決まっているのだ』

 

 

 

そして高笑いとともにその声が消えて行った時には、Dr.フライ達の姿もまた煙のように消えていた。

 

 

 

 

 

 

一連の事態がとりあえず解決し、リリーフとダイダーはアメリカ国民からの拍手の嵐の中にいた。

 

 

大統領「アメリカ合衆国代表として感謝いたします。本当にありがとうございました」

 

 

リリーフ「いえ、私達は大したことはしていません」

 

ダイダー「それよりも1日も早く、復興できるように頑張ってください」

 

 

大統領「はい! もちろんですとも!!」

 

 

 

その会話に、アメリカ全土から津波のような感謝の言葉が轟々と二人に寄せられた。

 

 

そしてアメリカを覆い尽くすそんな感謝と歓喜の声の中、リーフとダイーダは三冠号で帰還していった。

 

 

節子「コズミックプリキュア。彼女達の大活躍でこの私はもちろん、アメリカもそして世界も救われました。まさに現代のジャンヌダルク。素晴らしいスーパーヒロインです!!」

 

大興奮の中そうレポートをした甲斐 節子だったが、真剣な面持ちで続けた。

 

節子「しかしまだ油断はできません。あの次元皇帝パーフェクトとはいったい何者なのでしょうか? これは一時の勝利に過ぎず、我々はまだ完全に救われたわけではないのかもしれません…」

 

 

 

 

 

 

豪「やれやれ。一時はどうなるかと思ったけど、一件落着だね。姉ちゃん達も仲直りできてよかったよ」

 

 

豪はホッとしたようにそう言ったが、リーフ達の顔は晴れなかった。

 

 

豪「? どうしたの?」

 

 

ダイーダ「あいつら、マイナスエネルギーを呼び集めるために多くの人を奴隷にしていたけど、じゃああの建物は何のために必要だったのかしら?」

 

リーフ「それにこんな大規模な作戦に出たのに、あっさり引いていった。それが気になるんだよね…」

 

 

 

 

第30話 終

 



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第31話 「襲来!! 驚異の火の車 (前編)」

 

 

 

とある山奥の村

 

 

 

 

ここでは電気は役場に電球一つ、水道はなく井戸で水を汲み、調理はかまど。

 

今時珍しいような生活をしている者達の住んでいる総人口は十数名の村である。

 

 

そこに今、異変が起ころうとしていた。

 

 

 

 

 

村長「起きろ! おいみんな起きろ!!」

 

 

草木も眠る丑三つ時、まだ40代ぐらいであろうか、村長が皆を起こして回っていた。

 

 

村人1「村長、どうしました?」

 

村長「見張りから連絡が入った。 何者かがこの村に近づいてきている」

 

村人2「獣とか、迷い人とかじゃなくてですか?」

 

土地柄か、熊やイノシシは当たり前のように出没する。またごくごく稀にだが、道に迷った登山者が訪れることもある。

 

そう思い尋ねたのだが、村長は黙って首を横に振った。

 

 

村長「もっと邪悪な者の気配だ。万が一に備えて、女子供は避難させろ」

 

村人3「わかりました」

 

 

そうして、まだ幼い子供達を避難させた村民達は警戒を強めていた。

 

 

村境で警戒態勢を取っていた村人達は、村や子供達を守ろうと鋤や鍬を持ち、神経をとがらせていた。

 

 

 

村長「来るぞ!!」

 

そんなピリピリした空気の中猟銃を構えた村長は、何かの気配を感じたがその時には既に遅かった。

 

全身を黒いタイツで包んだような怪人が次から次へとまるで蟻のように現れて、鋭い爪でマタギ達を引き裂いていったのだ。

 

反撃をする間もほとんどなく村人達は血だるまになって息絶え、せめて一矢報いんとした攻撃もまるで通じなかった。

 

 

頭領「みんな!! くそ貴様ら!!」

 

一瞬のうちに惨殺されてしまった仲間の仇を討たんとした銃の引き金を引いた村長だったが、

 

村長「な!!」

 

 

目の前のサングラスをかけた筋骨隆々とした大男の胸板はそれをやすやすと跳ね返してしまった。

 

 

あまりのことに驚き動けなくなっていたところ、その大男に頭をつかまれてしまい、村長は身動きが取れなくなってしまった。

 

 

ゴーロ「さてと、お前がここのリーダーか。案内してもらおうか、ここに隠されている秘宝とかいうもののところへな。 さもなきゃガキ共までもこうなるぜ」

 

 

今更言うまでもないが、先ほど村人達を惨殺したものはマイナー達の大群である。

 

村長は子供達の命には変えられないとばかりに、ゴーロ達を山中の滝壺に案内した。

 

そしてその滝の裏の洞窟を進んでいくとそこには、黄金に輝く巨大な竜のような乗り物があった。

 

ゴーロ「これか、空を飛ぶ火の車ってやつは」

 

 

村長「貴様ら、これをどうする気だ!! これがどういうものか分かってるのか!?」

 

満足そうなゴーロを睨みつけながら、村長はそう問うた。

 

 

ゴーロ「わかってるさ。だからこんなところに眠らせとくんじゃなくて俺たちが有効に使ってやろうってんだよ」

 

 

村長「な!! ふざけるな、そんなことはさせん!!」

 

ゴーロの答えに驚愕し飛びかかった村長だったが、

 

頭領「がっ…」

 

 

ゴーロのパンチに体を貫かれ、一瞬で絶命してしまった。

 

 

 

 

 

 

ゴーロ「けっ、脆いやつだ。 おい、とっととこいつでずらかるぞ」

 

マイナー達にそう命じたゴーロに、もみ手で近づいてくる村人がいた。

 

 

 

「あ、あの〜。ちゃんと村への手引きは致しましたし、報酬の方を…」

 

 

ゴーロ「あん、報酬? なんだそりゃ?」

 

 

「そりゃないでしょう。こんなところで狩りなんかやって生活していくのに私はうんざりしてた。そのために見張りもわざわざ手薄にしたんですから。頼みますよ〜」

 

その村人はゴーロに卑屈にそう笑いながら頼み込んだ。

 

 

ゴーロ「チッ、わかったよ。金でいいならたっぷりくれてやる」

 

 

その言葉に村人は目を輝かせた。

 

「やったやった!! 村長も頭が硬いぜ。今時先祖代々伝わる火の車の番人なんて、カビ臭いことやってられないってんだ。都会で面白おかしく暮らしてやるよ」

 

そう嬉しそうに未来を夢想していた村人に、マイナー達がマシンガンを四方から斉射した。

 

 

ゴーロ「たっぷりもってけ。純金製の特別の弾丸だ」

 

 

蜂の巣になって息絶えた村人を見下すようにそう言うと、ゴーロはマイナーとともにその黄金に輝く竜、空飛ぶ火の車に乗り込んだ。

 

 

ゴーロ「さてと、マイナスエネルギーをこいつに取り付ければ操縦は簡単。…よし、発進!!」

 

 

そのゴーロの呼びかけに応えるように、火の車はまさしく威風堂々という言葉が似合うように飛翔した。

 

 

 

 

 

 

ゴーロ「ウッヒョー!! こりゃスゲェ。まずは手始めにあの村を焼き尽くしてやるか。 ガキどもをいちいち探すのも面倒だしな」

 

そのゴーロの指示に従い火の車は村の方へと向かっていった。

 

 

そして村の上空に着くや否や、口から火炎を放ち一瞬にして村を焼き尽くしてしまった。

 

 

ゴーロ「おお、こりゃ想像以上だ。これならプリキュアどもだって手も足も出まい。ガッハッハッ!!!」

 

 

予想以上の火の車の性能に満足しつつ、ゴーロは高笑いとともに引き上げていった。

 

 

 

 

しかし、離れた林の中から全焼してしまった村を悔しそうに見つめる小さな子供達にゴーロは気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

甲子市

 

日曜日の朝、ランと遠藤博士にリーフとダイーダは商店街を歩いていた。

 

 

 

ラン「えーっと、あとはスーパーで卵とトイレットペーパーを… ああそれからポイントがたまってるからそれを粗品と取り替えて…」

 

 

遠藤「おいラン。まだ何か買うのか? もう持ちきれんぞ」

 

 

両手いっぱいに荷物を抱えて、呆れたようにそう漏らした遠藤博士をランはジロリと睨んで怒鳴った。

 

ラン「おじいちゃんのせいで、家計が大変なのよ!! 何よあの電気代20万円って!! 今月も大赤字よ、安売りをしてくれてる時に買い占めないと年越せないわ!!」

 

そして遠藤博士の後ろで同じように大量の荷物を抱えたリーフとダイーダを見やって頼み込んだ。

 

 

ラン「二人とも卵の列には一緒に並んでね。お一人様一個までだからこういう時には助かるわ」

 

リーフ「は〜い」

 

ダイーダ「了〜解」

 

 

 

そうやってある意味最もシビアな話をしていると、反対側から考え事をしながら歩いてくる京香先生に出会った。

 

リーフ「あっ、先生。こんにちは」

 

京香「あらリーフさん、こんにちは。皆さんでお買い物ですか?」

 

 

ラン「はい、も〜誰かのせいで家計が大変で」

 

遠藤「なんじゃその言い草は! 祖父に対する思いやりや敬意とかはないのか?」

 

そんな光景を微笑ましく見た京香先生はクスクスと笑いながら尋ねた。

 

 

京香「豪君はどうしたの? 珍しく一緒じゃないの?」

 

その質問に、ランは機嫌悪く答えた。

 

ラン「先週来た転校生と遊んでるんです。買い物付き合わせようと思ったのに!!」

 

 

 

妙に機嫌の悪いランに疑問を持った京香先生は、ひそひそとリーフに話しかけた。

 

京香(何があったの?)

 

リーフ(なんでも新しい靴を買おうと思ってたのに、今月の電気代の支払いでおカネがなくなったって言ってたよ)

 

ダイーダ(おカネがないと何にもできないって不便よね)

 

 

すると京香先生は急に真面目な顔になった。

 

先日、河内警部と話した時のことを思い出したのである。

 

 

 

 

 

 

回想

 

 

その日、勤め先の病院から出たところ河内警部に呼び止められたのである。

 

河内「先生、お待ちしていました」

 

京香「あら警部さん。どうかしましたか?」

 

河内「いえ、先生は最近あの自称遠藤平和科学研究所に出入りされているとか…」

 

京香「ええ、それが何か?」

 

 

きょとんとしてそう答えた京香先生に河内警部は反応した。

 

河内「わかってるんですか!? あのジジイの正体を!!」

 

京香「正体?」

 

 

 

河内「やつは5年前の30億円強奪事件の最有力容疑者ですぞ!! 今も一体何をたくらんどるか!」

 

 

そうやって叫んだ河内警部だったが、京香先生は笑い飛ばした。

 

 

京香「まさか! あの人は悪い人じゃありませんよ」

 

 

河内「笑い事ではありません!! やつは無就労なのにあんなところに一軒家を構えている。そのカネの出所だけでも怪しいのに、こないだの銀行襲撃事件のようにパーフェクトの事件ともなんらかの関わりを持っているんですぞ!!」

 

 

京香「それはただの偶然じゃありませんか? では失礼します」

 

河内「あっちょっと先生!!」

 

そう告げると呼び止める河内警部を振り切って、京香先生は立ち去っていった。

 

 

回想終わり

 

 

 

 

 

 

 

 

その時のことを思い出した京香先生は、リーフとダイーダに遠藤博士に聞こえないよう小声で話しかけた。

 

 

京香(あの、ちょっと聞きたいんだけど、遠藤博士は本当に悪い人じゃないのよね?)

 

リーフ「もっちろん! すごくいい人ですよ!!」

 

ダイーダ「あそこまで純粋なプラスエネルギーに満ち溢れている人も珍しいぐらいですよ。それが何か?」

 

 

京香(しっ、ボリュームを下げて。あまり言いたくないけどやっぱり気になるのよ。あの基地や飛行機を作るお金、一体どうしたのかしら?)

 

 

リーフ「? 三冠号ってスーパーで売ってたっけ?」

 

ダイーダ「さぁ? ショッピングモールでも見たことないけど?」

 

京香「いやそうじゃなくて、作るにしても何にしても相当のお金がいるはずよ。仕送りとか特許とかがあるわけじゃないみたいだし…」

 

 

リーフ「じゃあ私達の体にもお金がかかってるのかな?」

 

ダイーダ「そうね、いくらぐらいかしら?」

 

京香「いえ、あのね…」

 

 

 

遠藤「ん? 何を話しとるんじゃ?」

 

そこに遠藤博士が尋ねてきたので、リーフはちょうどいいというように質問をした。

 

 

リーフ「博士、私達の体って一体いくらぐらいになるんですか?」

 

 

 

 

遠藤「い、いきなり何を言い出すんじゃ!? 静かにせんか!!」

 

傍目にもわかるほど慌てている遠藤博士を見て首を傾げたリーフに、ランが顔を真っ赤にして怒鳴った。

 

ラン「何言い出すのよ!! 変な風に聞こえちゃうじゃない!!」

 

 

ダイーダ「変な風って?」

 

ラン「変なって… やらしいことしてるみたいじゃない!! とにかく黙って!!」

 

 

 

周りの人達がひそひそと噂をしている中、ホッとしたように胸をなでおろした遠藤博士を京香先生は疑惑の目で見ていた。

 

 

京香(あの様子、何か変だわ。やっぱり何か隠し事があるのかしら?)

 

 

 

 

 

すると、その時突如として遠方で大爆発とともに火柱が上がった。

 

 

遠藤「な、な、何じゃあ? いきなり?」

 

 

ダイーダ「あの爆発は… リーフ行くわよ!!」

 

京香「待って! 私も一緒にお願い」

 

リーフ「わかりました。しっかりつかまっててくださいね」

 

 

リーフは京香先生を背負うと、ダイーダ共々メガネと荷物を放り出して爆発のあった方へと走って行った。

 

 

ラン「え〜っ? タイムサービスどうするの?」

 

 

 

 

 

 

 

爆発現場にたどり着くと、そこは一帯が瓦礫の山と化しており多くの人々が苦しんでいた。

 

「いで〜よ〜」

 

「助けてくれ〜」

 

 

 

京香「これは…ひどいわ…」

 

ダイーダ「京香先生、手当をお願いします。瓦礫の下になってる人達は私とリーフで救助します。 チェンジハンド・タイプレッド!!」

 

そう言うとダイーダは両腕を一回り大きなゴツゴツした赤い腕に換装し、その超パワーで瓦礫をまるで小石をどかすかのように撤去を行い、下敷きになっていた人達を救助していった。

 

 

リーフ「もう大丈夫です。気を確かに」

 

そして助け出された人達はリーフが次から次へと目にも留まらぬスピードで応急処置を行っていった。

 

 

京香「すごいわね… っと感心してばかりいられないわ。私だって医者なんだから」

 

リーフの応急処置の技術に見惚れながらも、京香先生も自分のなすべきことを全力で行っていた。

 

 

そしてしばらくすると、救急車が駆けつけ多くの救急隊員が処置を始めたため、なんとか人手不足は解消され、被害にあった人々は救助されていった。

 

 

そしてホッと一息ついていた時だった。

 

 

街の反対側で再び大爆発とともに火柱が上がったのだ。

 

京香「えっ? また?」

 

 

再び起きた大爆発に誰もが驚愕していた時、上空に黄金の龍を思わせるようなものが姿を現した。

 

 

リーフ「な、なにあれ? あんな巨大なものがなんでわかんなかったの?」

 

ダイーダ「ステルス機能があるんでしょう。三冠号と同じだわ」

 

 

 

この二人もまた驚いているとその龍から耳障りのする声が一帯に響き渡った。

 

 

Dr.フライ『聞こえるか、アホども! わしは世界一の天才Dr.フライ様じゃ!!』

 

 

 

ダイーダ「!! あいつまた!!」

 

 

Dr.フライ『48時間以内に無条件降伏をせよ。 さもなくばこの空飛ぶ火の車で日本全土を焦土と化してやるぞ』

 

 

京香「!! なんですって!!」

 

 

その宣言に人々がどよめく中、リーフとダイーダは前に出て毅然とした声で言い放った。

 

 

リーフ「Dr.フライ! あなたの好き勝手になんか絶対させない!!」

 

ダイーダ「私達がいる限り、あなたのそしてパーフェクトの望むような世界になんかさせないわ!!」

 

 

そしてリーフとダイーダは力強く頷き、ジャンプしてトンボを切った。

 

 

リーフ・ダイーダ「「ゴー!!」」

 

 

 

その瞬間、二人の体は光に包まれ、着地した時には姿が大きく変わっていた。

 

 

ショートカットだったリーフは、ボリュームのある濃いピンクの髪に変化し、着用している服も、ごく普通の服からフリルのついた赤を基調にしたドレスのようなものになっていた。

 

 

 

ダイーダのポニーテールは、一本から五本にまで増え、背中にかかるかかからないかだったそれも、腰まで伸びて金色になっていた。

 

 

そしてリーフ同様のデザインの純白を基調にしたフリルのついたドレスを着用していた。

 

 

 

そして怪物をキッと睨むと二人は名乗りをあげた。

 

 

リリーフ「闇を吹き消す光の使者 キュア・リリーフ!!」

 

ダイダー「悪を蹴散らす光の使者 キュア・ダイダー!!」

 

 

リリーフ・ダイダー「「ピンチ一発、大逆転! コズミックプリキュア!!」」

 

 

 

 

 

 

リリーフ「よーし、ライナージェーット!!」

 

 

そのリリーフの呼びかけに応え、空を切り裂いてライナージェットが飛来してきた。

 

リリーフ「はっ!!」

 

ダイダー「やっ!!」

 

 

それを確認するや否や、二人は大ジャンプしてライナージェットに飛び乗り、火の車に立ち向かっていった。

 

 

 

 

Dr.フライ「来おったか、コズミックプリキュア。 ちょうどいい、見せしめに叩き落としてやれ」

 

ゴーロ「へぇへぇ」

 

空飛ぶ火の車の中でコズミックプリキュアが飛来してくるのを見たDr.フライはそう命じ、ゴーロはいかにも面倒くさそうに返事をした。

 

 

すると、そのゴーロのやる気のなさそうな返事とは裏腹に、空飛ぶ火の車はその龍を象った全身を覆う黄金の鱗から、四方八方にミサイルを斉射してきた。

 

 

ダイダー「なぁっ!?」

 

リリーフ「ちょっ、ちょっとタンマ!!」

 

 

 

 

 

ありの入り込む隙間もないほど一面に斉射されたミサイルを前に、コズミックプリキュアもライナージェットをサーフボードのようになんとか操りながら、回避し続けるだけで精一杯になってしまった。

 

 

 

リリーフ「こ、これじゃ近づけないよ!!」

 

ダイダー「なんとかあいつの上に回って!! 動きを止めてやるわ!!」

 

 

そして二人は、ミサイルをなんとか避けながら火の車の上部へとライナージェットを飛ばした。

 

 

ダイダー「よし、この位置なら… チェンジハンド・タイプグリーン!!」

 

 

うまく火の車を見下ろすような格好になると、即座にダイダーは両腕を噴射口のようなもののついた緑色の腕に換装した。

 

ダイダー「超低温冷凍ガス発射!!」

 

その掛け声とともに左手をかざすと超低温の冷凍ガスが噴射され、たちまちのうちに火の車が凍りつき始めた。

 

 

ダイダー「やったわ!!」

 

リリーフ「よし、このまま一気に…」

 

 

 

近づこうとした途端、火の車は龍を模した口を動かし強烈な火の玉をライナージェットに向けて発射してきた。

 

 

リリーフ・ダイダー「「!!!!!」」」

 

その光景に目を見開き、かろうじて直撃だけは避けたものの驚きはひとしおだった。

 

 

ダイダー「嘘でしょ!? ほとんど全体が凍りついてたのに!?」

 

リリーフ「今の火炎で、それもほとんど溶けちゃってるよ!!」

 

 

常軌を逸した火の車の性能に驚愕していると、ライナージェットが突如として失速しはじめた。

 

ダイダー「何!?」

 

リリーフ「いけない!! 推進システムが損傷してる!!」

 

 

 

あまりに予想外のことに一瞬反応が遅れてしまい、回避行動を取るのが遅れたため先ほどの攻撃がライナージェットの推進部をかすめてしまったのだ。

 

 

リリーフ「わっ、まずいよ!! 全然スピードが出ない」

 

ダイダー「これじゃ狙い撃ちにされる!!」

 

 

 

その懸念どおり、姿勢を崩したライナージェット目掛けて火の車は先ほどの火の玉を再発射してきた。

 

 

リリーフ・ダイダー「「キャアアアア!!!!!」

 

 

その直撃を受けた二人は火だるまになって地表へと落下していき、轟音とともに地面に激突した。

 

 

リリーフ「ぐう…」

 

ダイダー「くそ…」

 

 

大ダメージを負いながらもなんとか立ち上がろうとしたところに、火の車は止めとばかりにミサイルを一斉に発射してきた。

 

 

そして連鎖的に起きた大爆発の中にコズミックプリキュアの姿は飲み込まれていった。

 

 

 

爆発の中に姿を消したコズミックプリキュアを見て、Dr.フライの下劣な笑い声が響いた。

 

 

 

Dr.フライ「ひゃっひやっひやっ!! どうじゃ愚民ども、頼みの綱のプリキュアもこの火の車の前には無力じゃ!! さっき言った通り48時間待ってやる。良い返事を期待しているぞ」

 

 

その胸糞の悪くなる声とともに、火の車は去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

京香「リーフさん!! ダイーダさん!! 無事なら返事をしてください!!」

 

 

先ほどミサイルが雨霰と直撃したところは一面が瓦礫の山になっており、炎が未だあちこちにくすぶり凄惨な状態となっていた。

 

 

そんな中、京香先生は一縷の希望を信じ必死にそう叫んでいた。

 

 

遠藤「こ、これは!?」

 

ラン「嘘でしょ!?」

 

先の戦いを見たこの二人も大慌てで駆けつけたものの、目の前の光景に言葉を失っていた。

 

 

遠藤「リーフ!! ダイーダ!! 返事をせんか!!」

 

ラン「お願い!! こんなことで倒れたりしないでしょ!! 返事をして、リーフさん!! ダイーダさん!!」

 

 

 

 

 

そんな悲痛な叫びの響く中、気の抜けたような声が聞こえてきた。

 

リーフ「ふぁ〜い…」

 

 

その間の抜けるような声に振り向くと、全身泥まみれの真っ黒な上、ボロボロになったリーフとダイーダがいた。

 

 

遠藤「お、お主ら無事じゃったか!? しかしどうやって助かった?」

 

 

ダイーダ「ギリギリでレッドハンドに換装して地面に大穴開けてそこに潜りました… それでもかなりきつかったですが…」

 

 

ふらつきながらもそう答えたダイーダにランと京香先生もホッと胸をなでおろしていた。

 

 

京香「そ、そう。なんにせよ無事でよかったわ」

 

ラン「とりあえず一度帰りましょう」

 

 

とはいえ、リーフもダイーダもズタボロになってしまっており、歩くこともやっとだったため、ランと京香先生に支えられながら研究所へと向かった。

 

 

 

遠藤「なんでわしが一人でこれを持って帰らにゃならん…」

 

なお、墜落した時に離れた場所に落ちたライナージェットは比較的無傷だったものの、推進システムがいかれてしまっていたため遠藤博士が背負って帰るはめになった。

 

 

もちろん、大量の買い物も一緒にである。

 

 

 

第31話 終



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第32話 「襲来!! 驚異の火の車 (後編)」

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

遠藤「ひいひい、もう動けんぞ… 次からは絶対に車で行こう、なっ」

 

 

どうにか研究所まで帰り着いたものの、へとへとになってしまった遠藤博士はソファーで横になりながらそうぼやいていた。

 

 

 

ラン「だらしないわね。リーフさんとダイーダさんは大丈夫?」

 

リーフ「うんありがとう。少し休めばエネルギーも回復すると思うわ」

 

ダイーダ「ライナージェットも4時間もあれば修理できるでしょうけど、問題は…」

 

 

京香「あの龍の乗り物ね。まさかあなた達があそこまで一方的にやられるなんてね…」

 

 

リーフもダイーダも悔しそうにうつむいていた。

 

リーフ「悔しいなぁ… 全く歯が立たなかった」

 

ダイーダ「ええ。マイナスエネルギーで強化されてたみたいだけど、元々の性能も驚異的だわ」

 

ラン「Dr.フライって、あんなすごいものを作れたのね…」

 

ランがため息をつきながらそう呟いた時、遠藤博士はなんとか復活した。

 

 

遠藤「いや、あれはおそらく奴が作ったものではない!!」

 

 

ラン「えっ、どういうことおじいちゃん?」

 

京香「いったいなんの根拠でそんなことを?」

 

 

二人の疑問に対し、遠藤博士は語った。

 

 

遠藤「考えてみい。アメリカ占領騒ぎからまだ二十日ほどじゃぞ。あれだけの性能のものが一朝一夕に作れると思うか?」

 

 

リーフ「確かに… あれがあの時にあったら絶対使ってるよね」

 

ダイーダ「ということは… どこからか奪ってきた、ということでしょうか?」

 

遠藤「うむ、その可能性は高い。徹底的に調べるんじゃ。何か攻略法がわかるかもしれん!!」

 

 

リーフ・ダイーダ「「了解!!」」

 

 

 

 

 

 

かくして、遠藤博士がライナージェットを修理する傍ら、ランと京香先生は図書館へ向かい、リーフとダイーダはハイパーリンク機能を駆使してインターネットから情報を収集していた。

 

 

 

リーフ「う〜ん。あれに関する話題はいろいろ出てるけど、どこで作られたかって情報は噂話の域を出てないよ」

 

ダイーダ「こっちもよ。どこの国にもあれを開発していた形跡がない。設計図の痕跡すら残っていないわ」

 

 

 

その話を聞いて遠藤博士は顔をしかめた。

 

 

遠藤「もしかすると、極秘兵器として紙媒体でしか情報がないのかもしれん。しかしそうなると探しようが…」

 

 

そんな折、突如として遠藤博士のパソコンに図書館に行っている京香先生からスカイプが入った。

 

 

京香『博士、わかりましたよ!! あの龍の乗り物のことが!!』

 

遠藤「何!? どうしてわかったんじゃ!?」

 

 

ラン『大学の図書館で調べてたら、たまたま古い文献に乗ってたの。ほら、これよ!! 』

 

 

ランの見せたその古い本には、確かにあの龍の乗り物を思わせる絵が描いてあった。

 

 

 

 

 

遠藤「なるほど、空飛ぶ火の車… 古代中国で作られたオーパーツのようなものじゃな」

 

京香『はい。その兵器を危険視した人たちによって、それが日本の山中に封印されたと書いてあります。実物を見なければ眉唾ものですけど…』

 

 

ダイーダ「それをあいつらが奪ったってことか。しかし、あんな危険な兵器なのに、そういう事態を想定しなかったのかしら?」

 

リーフ「待って。ほら書いてあるよ。万が一のために機能を停止させる宝玉とともに現地の人に託された、って」

 

 

それを聞いた遠藤博士は、Dr.フライの意図に気がついた。

 

 

遠藤「そうか!! やつめ、やけに降伏するまでの時間的猶予を与えたと思ったら、この機能停止装置を手に入れてないんじゃ!!」

 

ラン『そっか!! 占領した後に火の車が使えなくなったんじゃ、元も子もないもんね!! 』

 

 

遠藤「うむ。しかしそうなると時間との勝負じゃ。間違いなく連中も躍起になってこの停止装置を探しとるぞ!!」

 

 

 

その時、ランの携帯が鳴った。

 

ラン『はいもしもし。あ、おばさん。  いえ、うちには来てません。  はい、たぶんそうです。  わかりました、それじゃ』

 

そうして電話を切ると、ランはため息をついた。

 

リーフ「どうしたの?」

 

 

ラン『おばさん… 豪のお母さんからよ。 豪が帰ってこないけどうちに来てないかって。まああんなことがあったんじゃ、心配するのもわかるけど』

 

 

ダイーダ「今、転校生のところに行ってるって言ってたわね」

 

ラン『そっ。悪いけど迎えに行ってくるわ』

 

 

遠藤「ああ待て。今一人だけで出歩くのは危険じゃ、リーフ、ダイーダどっちかついてってやれ」

 

 

リーフ「わかりました。ランちゃんそっちに行くから少し待ってて」

 

 

 

 

その頃、豪はともに遊んでいた転校生の家、築ウン十年というようなアパートにいた。

 

 

先ほどの空飛ぶ火の車の攻撃に、近くにあったここに避難したのである。

 

 

豪「ちっくしょう。Dr.フライのやつめ…」

 

 

窓から見える街の惨状に豪は悔しそうにそう言った。

 

 

「あいつら…また…」

 

 

しかしそれ以上に悔しそうにそして憎々しげな目をしていたのが隣にいた転校生だった。

 

 

豪「右京? って手から血が出てるじゃん!! 大丈夫かよ」

 

ふと豪がその転校生、中尾 右京の手を見ると悔しさのあまり硬く握り締められた手に爪が食い込み、血が滴り落ちていた。

 

 

右京「平気だよ、これぐらい… あの時のことに比べたら…」

 

 

「ただいま」

 

 

その時部屋のドアが開き、一人の女性が入ってきた。

 

 

右京「あっ、左京姉さん。街はどうだったの?」

 

 

その言葉に左京 右京の姉は俯きながら悔しそうに答えた。

 

左京「ひどいものよ。あちこちが破壊されて、人もかなりパニックになってるわ」

 

その言葉に、右京は意を決したように叫んだ。

 

右京「姉さん、俺やっぱり村に帰るよ。どうしても父さんたちの仇を討ちたいんだ!!」

 

左京「右京!!」

 

 

 

豪「仇? おい、それどういうこと?」

 

豪の質問に、右京はバツの悪そうな顔をした。

 

 

右京「あ、いや何でも…」

 

 

 

 

そこにドンドンとドアをノックする音が響いた。

 

 

左京「どなたですか?」

 

右京と左京の姉弟は身構えながら尋ねた。

 

 

 

ラン「遠藤ランと言います。すいませんけど、速田豪が来てませんか?」

 

豪「えっ、ラン? ああ俺いるよー」

 

 

右京「知り合い?」

 

豪「いとこさ」

 

 

その言葉に右京は少し安心したか、ドアを開けると仁王立ちしたランがいた。

 

 

ラン「ああいた。もう豪、おばさんにちゃんと連絡ぐらいいれなさいよ。こっちが迷惑だわ」

 

豪「悪い悪い。でもこの状況で携帯がなかなか… ってリーフ姉ちゃん!? 無事だったの?」

 

 

リーフ「何とかね。ダイーダちゃんも無事だよ」

 

 

その言葉に豪はホッと胸をなでおろしていた。

 

豪「よかった〜。やられちゃったのかと思ったよ。 あの龍すっげえ強かったから」

 

 

リーフ「ふふっ、心配かけてごめんね。でも今あの火の車の機能を停止させる方法を探してるところだから」

 

 

リーフがそう話した途端、右京と左京の顔色が変わった。

 

 

右京「豪くん。この人達なんなの!?」

 

左京「なぜ、火の車の秘密を知ってるんです!? 目的は何ですか!?」

 

険しい目でリーフを睨みつけてきた右京と左京に、豪とランはもちろん、当のリーフもとまどっていた。

 

 

豪「えっ? ちょっ、ちょっと!?」

 

ラン「ご、豪。この人達が転校生なのよね?」

 

 

リーフ「? ? ?」

 

 

 

 

 

 

半ばパニック状態になっていた事情を豪やランから聞いた左京と右京の姉弟は、ようやく落ち着きを取り戻していた。

 

 

 

左京「…なるほど、つまりあなた達は何とかあの火の車を止めようとしている方達で、その停止システムを探っているところだと」

 

 

右京「俺達が豪くんと知り合ったのはただの偶然ってことか。ごめんね、変なこと言って」

 

 

そうやって頭を下げてきた右京に豪は笑いながら言った。

 

 

豪「いいっていいって。それより驚いたな。君達があの火の車を守ってきた一族だなんて」

 

 

左京「ええ。古代中国で突発的な偶然で生まれた超兵器、それが空飛ぶ火の車。ですが、当時はもちろん今の基準でも驚異的な性能を持つそれが悪用されめことを恐れた人々の手で、中国から遠く離れた日本の山中に密かに運び込まれ、封印されたのです」

 

 

 

ラン「そして、あなたたちはそれを代々守り続けてきたってこと? 悪用されたりしないように」

 

 

右京「うん。山の中で文明と縁遠い生活をしてきたけど、村のみんなは楽しそうだった。なのに、あいつらが突然攻めてきて… 村長だった父さんも、村のみんなも、村そのものまで!!」

 

 

右京は悔し涙を流しながら、拳を床に叩きつけた。

 

 

リーフ「ダメだよ、無茶しちゃ。手当てしてあげる」

 

 

血の滲んだ右京の拳を見て、リーフはその手当てを目にも留まらぬスピードで行うと、真剣な顔で尋ねた。

 

 

リーフ「あのそれで、あの火の車を停止させる宝玉というのは…」

 

 

左京「はい、我が家に伝わる家宝の宝玉のことです。右京」

 

 

右京「はい、これです」

 

右京はポケットから小さな袋を取り出すと、その中に入っていた宝玉を取り出した。

 

豪「うわぁ、スゲェ綺麗な石」

 

豪の感想通り、その宝玉は水晶のように透き通り虹色の輝きを放っていた。

 

 

ラン「これであの火の車を止めることができるの?」

 

左京「はい。この宝玉を村の奥の龍ヶ谷にある石板にはめ込むことで、火の車の機能を停止させることができるようになってるんです」

 

 

ラン「ってことは、そこに行かなきゃいけないってこと?」

 

 

ランの驚いたような言葉に、左京はこくりと頷いた。

 

左京「おそらく、村を襲った連中もこれを探しています。ですから今村に向かうのはかなり危険が…」

 

 

右京「関係ねぇよ!! 俺は村に帰る。父さんたちの仇を討ちたいんだ!!」

 

 

 

そう怒鳴った右京を左京は必死に止めた。

 

 

左京「馬鹿なこと言わないの!! 父さんたちが私たちを逃したのが一体何のためかわかってるの!?」

 

右京「だから泣き寝入りしてろってのかよ!! 俺はそんなの嫌だ!!」

 

 

 

 

リーフ「よ〜し、わかった。私とダイーダちゃんとでそこまで送るよ。 三冠号ならすぐだし」

 

 

目の前で激論をかわし合っているところにリーフが割って入り、そう告げた。

 

 

その言葉に、右京と左京はキョトンとしていた。

 

 

 

ラン「まぁ、そういう発想になるわよね…」

 

豪「でも、そうでもしないとさ…」

 

 

 

 

 

研究所への道すがら、豪とランは事情をより事細かに説明していた。

 

 

左京「コズミックプリキュアか… この町の近くにいると話は聞いていたけど…」

 

ラン「なるほど、それでここに越してきたんですね。でも、あなたたちはどうしてそれを知ってるんです? その…ずっと山の中で過ごしてたって言ってましたよね?」

 

 

左京「情報そのものは時々下山して仕入れているんです。村が時代から取り残されたりしないように」

 

 

豪「そうなんだ。でさ、ちょっと頼みたいんだけど、このことは秘密にしててよ」

 

 

右京「もちろんさ。俺達の口は堅い。ずっと火の車のことを秘密にしてきたし、その気持ちもわかるから。 何より君の頼みだもの」

 

 

 

そんなことを話しながら歩いていると、ふと先頭を歩いていたリーフの足が止まった。

 

ラン「? どうしたのリーフさん」

 

 

リーフ「みんな逃げて!!」

 

 

リーフがそう叫んだ瞬間、大量のマイナーが突如として現れ襲いかかってきた。

 

 

リーフ「くっ!!」

 

 

戦い始めたリーフだったが、四方八方から襲い来るマイナーから皆をかばう格好になってしまい、苦戦していた。

 

 

 

左京「アアッ!!」

 

そんな中、左京がマイナーの攻撃を受けて頭から血を流して倒れてしまった。

 

 

リーフ「!! いけない!! 豪くん、ランちゃん、二人を連れて逃げて!!」

 

 

ラン「わかったわ。左京さんしっかりして!! 豪、別々に逃げるわよ。うちで落ち合いましょう!!」

 

ランは倒れてしまった左京に肩を貸すと、豪にそう提案した。

 

 

 

 

豪「わかった。右京、行こう!!」

 

右京「うん!!」

 

 

 

そして、豪とランはマイナーの追撃を受けないよう二手に分かれて逃げ出した。

 

 

無論、そんな彼らをマイナーは追撃しようとしたが

 

 

 

リーフ「行かせないよ!! チェンジハンド・タイプブルー!! エレキ光線連続発射!!」

 

リーフは両腕を稲妻模様の走った青い腕に換装し、電撃光線を放つことでそんなマイナーをなんとか一掃し、残りのマイナーも叩きのめした。

 

 

リーフ「ふう、これでよし。ランちゃんの方を追うのが先ね。あの人怪我してたし手当もしてあげないと…」

 

 

 

 

海底 Dr.フライ秘密研究所

 

 

火の車を一旦格納し、政府がどのような返答をするかを待っていたDr.フライだったが、ファルからの連絡を受けて顔色を変えた。

 

 

Dr.フライ「宝玉を奪い取るのを失敗したじゃと!? 一体何をやっとるんじゃ!?」

 

 

 

ゴーロ「プリキュアが無事で、しかも早々に嗅ぎつけてたんだからしょうがねぇだろうが」

 

ファル「そもそも、マイナーだけやればいいとかぬかしたのは天才様だろう。責任を転嫁するな」

 

 

Dr.フライ「ええい、元はと言えば火の車を奪った時にあの宝玉を奪い損なったからこんなことになっとるんじゃぞ! あれがある限りいつ火の車の機能が止まるかわからんのじゃぞ!!」

 

 

そう怒鳴り散らしたところで、Dr.フライはあることに気がついた。

 

Dr.フライ「ん、まてよ。そうじゃ、連中は火の車の機能を停止させるために例の村に向かうに違いない。そこを待ち伏せて今度こそ連中の息の根を止めるんじゃ!! 火の車を発進させろ!!」

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

リーフ「もうすぐ研究所につきます。そうすればきちんとした手当ができますからね」

 

左京「ありがとうございます。しかし応急処置の手際はさすがですね」

 

 

頭の止血を行ったものの、ふらつく左京に肩を貸しながらなんとか研究所までたどり着いた。

 

 

 

ラン「ただいま!! おじいちゃん開けて!!」

 

 

ランがドンドンと乱暴にドアをノックすると、遠藤博士がぶつくさ言いながら出てきた。

 

 

遠藤「そんな乱暴に叩くな、ドアが壊れる。…ってその人はなんじゃ? ひどい怪我ではないか!!」

 

 

 

リーフ「応急処置はできてますけど、本格的な手当を。京香先生はいる?」

 

 

 

 

左京の手当をしながら、京香先生は彼女の身の上を聞き、心から同情していた。

 

 

京香「そんなことが… あの人達、絶対に許せないわ!!」

 

ダイーダ「それにしてもリーフ、連中が来たなら連絡を入れなさいよ。私が行けばもう少し楽だったでしょうに」

 

 

リーフ「えっ? だってあまり人前で秘密通信は使うなって… それに検知器は作動しなかったの?」

 

それを聞いて、遠藤博士は言いにくそうに頬をかいた。

 

 

遠藤「あぁあれか… マイナーが暴れまわった程度では感知せんように調整しとったのをころっと忘れとってな。こないだのアメリカ占領騒ぎでやかましくて仕方なかったもんでな。それでそのままな…」

 

 

ラン「んもう、おじいちゃんってば。 どこか抜けてるんだから」

 

 

ランは呆れたようにほっぺたを膨らませたが、ふと気がついた。

 

ラン「そういえば豪は? 格納庫にでも行ってるの?」

 

 

遠藤「ん? 豪がどうかしたか?」

 

 

きょとんとした遠藤博士の問いに、ランは戸惑いながら続けた。

 

 

ラン「どうしたって… バラバラで逃げて、ここで落ち合おうって…」

 

 

ダイーダ「えっ? 誰も来てないわよ」

 

 

それを聞いた左京は、青い顔をして叫んだ。

 

左京「まさか… 右京ってば、村に向かったんじゃ!!」

 

ラン「!! 豪のやつも一緒に!!」

 

 

それを聞いた遠藤博士は思わず立ち上がった。

 

 

遠藤「いかん!! 連中が待ち伏せしとる可能性が高い!! 危険すぎるぞ!!」

 

 

ダイーダ「すぐに行きましょう!! リーフ、三冠号の準備を!!」

 

 

格納庫に向かおうとしたダイーダとリーフだったが、遠藤博士に呼び止められた。

 

 

遠藤「待て!! 三冠号では山の中の二人を探すのは困難を極める。それに連中が襲ってきた時、丸腰の三冠号では太刀打ちできん。ライナージェットを急いで修理するぞ!!」

 

 

 

リーフ「わかりました!! 急ごうダイーダちゃん!!」

 

ダイーダ「OK。修理は進めてるから後2時間ぐらいで終わりそうよ」

 

 

 

 

そして、全力でライナージェットを修理し始めて2時間後

 

 

 

 

リーフ「よし、修理完了!!」

 

ダイーダ「博士、出撃します!!」

 

 

遠藤「よーし、コズミックプリキュア。直ちに豪達を探し出し、火の車の機能を停止させるんじゃ!!  後からわしらも行く」

 

 

リーフ・ダイーダ「「了解!!」」

 

 

 

リーフ「ライナージェット、ジェットモードスタンバイ完了!」

 

ダイーダ「よし、発進」

 

 

ライナージェットにサーフィンのように乗り、リーフとダイーダは出撃していった。

 

 

 

遠藤「よし、頼むぞ二人とも。さっ、わしらも準備じゃ」

 

司令室で二人の出動を見送った遠藤博士はそう促したが、ランが何か考え込んでいた。

 

 

京香「どうしたのランちゃん? 気になることがあるの?」

 

ラン「いえ、何かしら。何か忘れてるような…」

 

 

 

その時、司令室にリーフ達から緊急通信が入った。

 

 

リーフ『すいません、聞こえますか!! 緊急事態です!!』

 

そのただならぬ様子の声に、司令室には緊張が走った。

 

 

遠藤「どうした!! 一体何があった!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイーダ『私達、どこに行ったらいいんでしょう? 場所知らないんですけど』

 

 

その通信に全員脱力してずっこけた。

 

 

 

第32話 終



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第33話 「激闘!! 驚異の火の車 (前編)」

 

 

とある山奥

 

 

 

電車を乗り継ぎ、到着した山の中を豪と右京は歩いていた。

 

 

しかし道は舗装されているわけではない獣道であり、しかもそう呼ベそうなところもほとんどない文字通り道無き道といった有様であった。

 

道無き道を歩き続けることしばらく、サッカーで鍛えたこともあり同年代の中では体力に自信のあった豪だが、さすがにへとへとになっていた。

 

 

 

豪「あ、あとどのぐらいなの?」

 

息を切らせながらそう尋ねた豪に、まったく疲れた様子を見せずに右京が答えた。

 

右京「この先に大きな木があるんだ。それを曲がってしばらく歩くと沢があるから、それを上流に向かって行くと、小さな崖が…」

 

 

 

その言葉に豪はへたり込んでしまった。

 

豪「ちょっ、ちょっとタンマ。少し休ませてくれよ。でも右京、すごい体力だな」

 

 

汗ひとつ掻いていない右京に豪は感心するように言った。

 

 

右京「俺はずっと山の中で生活していたからね。これぐらいはなんてことないさ」

 

 

そんなことを話しながら笑いあっていると、突如として周辺の木々がざわめき始めた。

 

 

右京「!!」

 

ただならぬ気配に右京が顔をしかめた瞬間、ファルに率いられたマイナーが何体も出現し豪達に襲いかかってきた。

 

ファル「見つけたぞ。捕まえろ!!」

 

 

 

豪「こ、こいつら!!」

 

右京「逃げるぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、左京から改めて村の場所を聞いたリーフとダイーダはライナージェットを急行させ、村の近くの山脈上空に到着していた。

 

 

 

ダイーダ「左京さんに聞いた限りだと、この山脈の中にあるらしいけど、上からだとわからないわね」

 

 

リーフ「なんとか豪くんを探してみるよ。チェンジハンド・タイプイエロー!!」

 

その掛け声とともに、リーフの両腕が小さなロケットが装備された黄色の腕に変わった。

 

 

リーフ「センサーアイ、発射!!」

 

そう叫ぶと、リーフは右腕を空にかざしセンサーアイを発射し、山中の探索を開始した。

 

 

そして数秒後

 

 

リーフ「いた!! 豪くん達だよ。マイナーに襲われてる!!」

 

ダイーダ「!! なんですって!! 急行するわよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

突如マイナーに襲いかかられたものの、戦うすべのない豪達は必死に逃げ出したが、体力的に余裕のあった右京はなんとかマイナーをかわしつつも逃げ出せたものの、疲れ切っていた豪は走ることもまともにままならず捕らえられてしまった。

 

 

右京「豪くん!!」

 

 

ファル「小僧。このガキの命が惜しかったら宝玉を渡せ。そうすればこいつは解放してやる」

 

豪「俺はいい、早く行ってくれ!! お父さんの仇を取るんだろう!!」

 

 

そのファルの言葉と豪の叫びを聞いた右京は苦悩していた。

 

確かに自分が戻ってきた理由は父親の仇討ちである。

 

だが、だからと言って出来たばかりの友達を見捨てるような真似はできない。

 

 

 

しばらく悩んだのち、やむをえないとばかりにポケットから宝玉の入った袋を取り出した。

 

豪「右京!!」

 

右京「豪くん。やっぱり君を見捨てられない」

 

 

 

そんな右京の姿を見たファルは冷めた風に吐き捨てた。

 

ファル「友情劇か、くだらんものだな。まぁいい、宝玉さえ手に入ればな」

 

 

 

しかし次の瞬間、ファルは後頭部に膝蹴りをくらい地面に倒れ伏してしまった。

 

 

ファル「がはっ!!」

 

 

突然のことに戸惑っていると、間髪いれず蹴り飛ばされてしまいダメージをさらに食らった。

 

 

ファル「ぐっ、貴様ら!!」

 

 

顔をしかめつつようやく前を向くと、ファルはすべての事情を理解した。

 

 

 

リーフ「ファル!! 豪くんは返してもらうよ!!」

 

ダイーダ「豪、無茶しすぎよ!!」

 

 

豪「姉ちゃん、ごめん」

 

 

リーフ「ここは私達が引き受けるから」

 

ダイーダ「早く宝玉で火の車を停止させて!!」

 

 

その言葉に豪と右京は頷き、リーフとダイーダに後を任せて走り出した。

 

 

豪と右京が行ったのを確認すると、リーフとダイーダはそれを追いかけようとするマイナー達を片っ端から蹴散らしていった。

 

 

 

ファル「行かせるか!!」

 

後を追おうとしたファルだったが、その進路はリーフ達に妨害されてしまった。

 

 

リーフ「行かせないってば!!」

 

ダイーダ「あなたの相手は私達よ!!」

 

 

 

その状況にファルは歯ぎしりをすると黒いダイヤモンドのようなものを二つ取り出し周りに投げつけた。

 

 

すると、周りにあった木と岩がどす黒い稲光と共に、岩石の巨人の全身に蔦が絡み合っているというような合体メイジャーとなった。

 

 

リーフ「ええっ!!」

 

ダイーダ「くっ!! またこんなものを!!」

 

 

 

 

あっけにとられているリーフとダイーダに、合体メイジャーは雄叫びをあげると口から石飛礫の弾丸を雨あられと浴びせてきた。

 

リーフ「イタイ痛いイタタタ」

 

ダイーダ「くっ、やってくれる!!」

 

 

 

ファル「やれ、合体メイジャー!! プリキュアを片付けろ!!」

 

目の前の二人が一瞬ひるみ、突破口ができたことを確認すると、そう言い残しファルは豪達を追っていった。

 

 

リーフ「こら待ちなさ… うわっ!!」

 

そんなファルを追いかけようとしたリーフだったが、岩・木合体メイジャーが伸ばしてきた蔦に全身を絡め取られて持ち上げられてしまい、身動きが取れなくなってしまった。

 

リーフ「ぐああっ!! 動けない…」

 

 

 

ダイーダ「リーフ!!   チェンジハンド・タイプグリーン!!  超高熱プラズマ火炎発射!!」

 

 

リーフの危機に、ダイーダは両腕を噴射口のようなもののついた緑色の腕に換装すると、右手をかざし火炎を発射しリーフを絡め取っていた蔦を燃やし尽くした。

 

ダイーダ「リーフ、大丈夫?」

 

リーフ「ありがとう。でも、できればもうちょっと穏やかに助けてほしかったかな…」

 

 

さっきの火炎は当然のようにリーフにも浴びせられたため、服はもちろん全身が黒焦げになっていた。

 

 

ダイーダ「仕方なかったのよ。それより行くわよ!!」

 

リーフ「うん!! 早くしないといけないしね」

 

 

二人は頷きあうと大ジャンプしてトンボを切った。

 

 

リーフ・ダイーダ「「ゴー!!」」

 

 

その掛け声とともに二人の体は光に包まれ、着地した時には変身完了していた。

 

ショートカットだったリーフは、ボリュームのある濃いピンクの髪に変化し、着用している服も、ごく普通の服からフリルのついた赤を基調にしたドレスのようなものになっていた。

 

 

ダイーダのポニーテールは、一本から五本にまで増え、背中にかかるかかからないかだったそれも、腰まで伸びて金色になっていた。

 

そしてリーフ同様のデザインの純白を基調にしたフリルのついたドレスを着用していた。

 

 

 

 

 

リリーフ「闇を吹き消す光の使者 キュア・リリーフ!!」

 

ダイダー「悪を蹴散らす光の使者 キュア・ダイダー!!」

 

 

リリーフ・ダイダー「「ピンチ一発、大逆転! コズミックプリキュア!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

豪「く、くそ… パーフェクトのやつらめ。こっちはもうヘトヘトだってのに…」

 

まともな道路ではない山道を逃げ続けたこともあり、すでに疲れ切っていた豪は肩で息をしながらそう愚痴った。

 

 

しかし、後ろからはマイナーやファルが来るであろうことは想像がつくため、足を止めるわけにもいかず、必死に鞭打って前に進んでいた。

 

 

右京「豪くん。しっかりして」

 

 

こちらも豪よりはマシとはいえ、やはりかなり疲弊しており、走って逃げるということは難しそうだった。

 

 

 

そんな時、突如爆音が響き、しかも何かが向かってくるような音が聞こえた。

 

 

右京「何だ!? またあいつらか!?」

 

 

身構えた豪と右京だったが、次の瞬間、林の中を突っ切って一台の車が現れた。

 

 

ラン「豪!!」

 

京香「豪くん!!」

 

左京「右京!!」

 

遠藤「見つけたぞ!! 二人とも無事か!?」

 

 

 

右京「姉さん!?」

 

豪「じいちゃんにラン!? 京香先生まで、どうしてここに!?」

 

 

豪の疑問に、こっちのセリフとばかりにランは怒鳴りつけた。

 

ラン「何言ってんのよ!! ウチで落ち合おうって言ったのに勝手なことして!!」

 

遠藤「リーフ達から、お主達を見つけたと通信が入ってな。近辺を探しとったんじゃ。 それより二人とも乗れ、石板のところまで急ぐんじゃ」

 

 

左京「右京、あんたって子は!!」

 

右京「姉さんごめん。でも俺どうしても父さんの仇を…」

 

 

そんな右京を左京は力一杯抱きしめた。

 

左京「気持ちはわかるわ。でもあなたが死んだら、私は一人ぼっちになっちゃう。お願いだから無理しないで」

 

 

その言葉に右京は何も言えなくなってしまった。

 

 

遠藤「水を差すようで悪いが、話は後にしてくれ。石板のところまで道案内を頼む」

 

左京「わかりました!!」

 

 

 

 

そして山道を進み多少開けた河原に来ると、ふと京香先生が尋ねた。

 

京香「しかしすごいですねこの車。こんな山道を問題なく走破できたなんて」

 

遠藤「フォッフオッフォッ。これはこのわしが作り上げた、ボンドカーも真っ青な万能カーです。これぐらいは朝飯前ですぞ」

 

京香「そ、そうなんですか…(やっぱり変だわ。どこにそんなお金があるのかしら)」

 

 

遠藤「しかしかなり来たが、あとどのぐらいで石板のところにつけるかのう」

 

左京「あと少しです。この川を遡れば」

 

 

 

そんな話をした時、ランが空を指差して叫んだ。

 

 

ラン「!! ちょっと、アレアレ!!」

 

豪「あれは!!」

 

右京「火の車!!」

 

そこには黄金の龍を象った乗り物が悠々と飛行し、自分たちを獲物と見定めたように向かってきていた。

 

 

 

 

 

 

その上空の火の車の中ではDr.フライがゴーロに命令を下していた。

 

 

Dr.フライ「ガキどもめようやく見つけたぞ。宝玉が奪えなくとも、もろともに殺してしまえば問題ない。さぁやってしまえ!!」

 

ゴーロ「チッ、テメェ誰に口きいてやがる。あぁ?」

 

 

Dr.フライ「黙らんか!! 元はと言えば貴様が雑な仕事をしたからじゃ!! 責任を取れ責任を!!」

 

ゴーロ「くそっ!! わかったよ」

 

 

目に見えて不快そうに吐きすてると、ゴーロは渋々ながら火の車で爆撃を開始した。

 

 

 

 

 

ラン「キャアアア!!」

 

遠藤博士の車の周りでは絶え間なく爆発が起こり、爆煙が上がり轟音が鳴り響く中ランは耳を塞いで悲鳴をあげていた。

 

 

 

遠藤「ええい、なんのこれしき!! みんな姿勢を低くしとれよ」

 

 

遠藤博士は、車を必死に左右に切り返して爆撃を必死にかわしていたが、悔しそうに顔を歪めた。

 

 

遠藤「くぅっ。林の中に逃げ込めば蒸し焼きにされかねんから、川沿いを逃げ回るほかはない。こいつに搭載させとる障害物回避センサーのおかげでなんとかなっとるが、これだとジリ貧じゃぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、岩・木合体メイジャーと戦っていたコズミックプリキュアも苦戦を強いられていた。

 

 

 

リリーフ「ヤアァァ!!」

 

大ジャンプして飛びかかるも、岩・木合体メイジャーは突如として景色に溶け込むように姿を消してしまった。

 

 

リリーフ「また!! くそ、どこに」

 

 

耳のセンサーを最大にして周囲を警戒するも、全く気配らしきものが感じられず焦っていると、リリーフの足元の地面が突如として大きく隆起し、上空に吹き飛ばされてしまった。

 

 

ダイダー「リーフ!!」

 

そんなリリーフを助けるために大ジャンプしようとしたダイダーだったが、足に蔦が絡みついてジャンプの勢いを殺され、ひっくり返ってしまった。

 

ダイダー「く、まるで思うように動けない!!」

 

そう舌打ちをした瞬間、リリーフが上空から降ってきて地面に叩きつけられた。

 

 

リリーフ「イタタ。このメイジャー、この周りの土や木と同化できる能力を持ってるよ」

 

 

リリーフは地面に打ち付けたところをさすりながら、岩・木合体メイジャーの能力を分析していた。

 

 

ダイダー「つまり私達は、あのメイジャーの中で戦っているといったほうが正確なようね」

 

 

そんな分析をし合っていると、再度出現した岩・木合体メイジャーは岩石の塊である両腕をロケットパンチの要領で打ち出してきた。

 

 

リリーフ・ダイダー「「!!!」」

 

 

間一髪で直撃はかわしたものの、着弾による爆発の衝撃波は二人の予想を上回っており、大きく吹き飛ばされた。

 

 

ダイダー「がはっ… 参ったわね。 こんな山の中じゃあまり無茶に暴れられないし」

 

リリーフ「うん、山火事になったりしたら大変だよ。でもあまり時間を取られるわけにいかないよ、火の車が近づいてきてるのも見えたし。早く豪くん達を追いかけないと…」

 

 

こうしている間にも、豪達が襲われているかもしれない。

 

それを思うとリリーフは気が気でなかった。

 

 

ダイダー「こうなったら一気に決めるわよ。来なさい、ライナージェット!!」

 

そのダイダーの呼びかけに応え、空を切り裂いてライナージェットが飛来してきた。

 

 

岩・木合体メイジャーはそれに気がつくと、ライナージェットを撃ち落そうと石飛礫の弾丸を発射しようとした。

 

ダイダー「させないわ、チェンジハンド・タイプレッド!!」

 

ダイダーは両腕を一回り大きなゴツゴツした赤い腕に換装すると、力任せに合体メイジャーを投げ飛ばした。

 

 

さしもの合体メイジャーも、レッドハンドの怪力の前にひっくり返ってしまい、なかなか起き上がれないようだった。

 

 

それを確認すると、二人は大ジャンプしてライナージェットの両翼を肩に担ぐ格好で保持した。

 

 

すると、するとライナージェットの機首が開き、何かの発射口のようなものが現れた。

 

リリーフ「ライナージェット、カノンモードスタンバイ!!」

 

ダイダー「ターゲットロック!! プラスエネルギーチャージ!!」

 

 

 

リリーフとダイダーは、ライナージェットの照準を合体メイジャーを中心とした周辺一帯にセットし、自分達のプラスエネルギーをチャージしていった。

 

 

そして倒れていた合体メイジャーがなんとか動けるようになり、ジャンプ中の二人に岩石の両腕を発射しようと構えたのと、二人が発射トリガーを引いたのはほぼ同時だった。

 

 

 

リリーフ・ダイダー「「プリキュア・ウォークオフ・ブラスター!! ファイヤー!!!!」」

 

 

 

ライナージェットから放たれた光の奔流とでもいうかのような、眩しくそして温かいエネルギー波は、合体メイジャーはもちろん周辺を飲み込んで行った。

 

そしてその光が収まったときには、合体メイジャーは跡形もなく浄化されており、山林は何事もなかったかのような静寂を取り戻していた。

 

 

リリーフ「ふう。マイナスエネルギーだけを完全に浄化できるのは便利だね。被害を気にしなくていいから」

 

ダイダー「それはいいけど、チャージ効率をもう少しアップさせましょう。これじゃ緊急時に使うのが大変だわ」

 

 

 

何はともあれ、合体メイジャーを浄化させたリリーフとダイダーはライナージェットに乗り大急ぎで、豪達の後を追っていった。

 

 

 

 

 

 

豪「じいちゃん!! 今度は右!! 早く早くハンドル切って!!」

 

 

遠藤「がなりたてるな!! わかっとる!!」

 

 

身を守るものが何もない河原では逃げ回るほかはなく、必死に火の車からの爆撃をかわしていた遠藤博士だったが、ついに限界がきた。

 

車のすぐ横を爆撃されてしまい、その爆風に車が吹き飛ばされてしまった。

 

 

遠藤「どぅおおおお!!!」

 

ラン・京香「「キャアアア!!!」」

 

 

車内に悲鳴が響く中、車は横に転がっていき、ついには横倒しのまま止まってしまった。

 

 

 

遠藤「くそ、これ以上は無理じゃ!! みんな降りて走るんじゃ!!」

 

左京「幸いもう少しです。急ぎましょう!!」

 

 

横倒しになった車から、大慌てで全員降りて走り出したところに、火の車からの爆撃が降り注ぎ、直撃を受けた車が大爆発とともに炎上した。

 

 

その爆風に吹き飛ばされ、ひっくり返ってしまった遠藤博士は火の車を睨みつけて叫んだ。

 

遠藤「わしの車が!! おのれ、フライのやつめ!! 覚えとれ、請求書を送りつけてやるからな!!」

 

 

豪「それどころじゃないってば!! じいちゃん早く!!」

 

 

愚痴っていた遠藤博士を急かすと、一同は必死に駆け出した。

 

 

その光景を上空から見ていたDr.フライは目を見開いた。

 

Dr.フライ「ぬあっ、遠藤!? ちょうどよいわ、あいつをここで片付けてしまえばワシの研究に対抗できるものはいなくなる。まとめてやってしまえ!!」

 

 

ゴーロ「ったく、ウルセェ、な」

 

傲慢に命令をしてくるDr.フライにイライラしながらゴーロは火の車で爆撃を続けた。

 

 

 

執拗に爆撃を繰り返してくる火の車から必死になって逃げていた遠藤博士たちだったが、車でも逃げきれなかった爆撃を、走って逃げきれるはずもなくたちまちのうちに周囲を炎に囲まれてしまった。

 

 

ラン「アチチ! これじゃ逃げられないわよ!!」

 

右京「くそぅ、ここまで来て…」

 

悔しそうに歯ぎしりをしつつ、上空の火の車を右京は文字通り親の仇のように睨みつけると、火の車はトドメとばかりに龍を象ったその口から特大の火の玉を放たんとカッと口を開いた。

 

 

 

 

しかし火の玉を発射しようとした瞬間、何かが火の車に横から体当たりを食らわせた。

 

 

そのため、一瞬とはいえバランスが崩れ発射しようとした火の玉は狙いを外れ、川の中に着弾してしまった。

 

もっとも、その火の玉の威力で川の水は根こそぎ蒸発してしまい、一面にもうもうと水蒸気が立ち込めていたが。

 

 

 

そして次の瞬間には上空からガスが噴霧されて、たちまちのうちに遠藤博士たちを取り囲んでいた火と立ち込めていた高熱の水蒸気は消失した。

 

 

 

 

豪「ダイーダ姉ちゃん。サンキュー!!」

 

遠藤「グッドタイミングじゃ! 助かったぞい」

 

 

目の前の光景に上空に目を向けた豪と遠藤博士は、ライナージェットを操るリリーフとダイダーを見て、そう礼を言った。

 

 

ダイダー「お礼はいいわ。それより早く行って!!」

 

両腕をグリーンハンドに換装したダイダーは、ライナージェットを操りながら皆にそう促した。

 

 

リリーフ「あの火の車は私達が食い止めるから!!」

 

 

そう叫んだリリーフに、ランは思わず驚きの声をあげた。

 

 

ラン「大丈夫なの!? さっきやられたばっかりじゃない!!」

 

リリーフ「時間稼ぎぐらいならなんとかなるよ!! でも長くは持たないから急いで!!」

 

 

京香「わかったわ!! みんな急ぎましょう!!」

 

遠藤「うむ、ぐずぐずはできん。わしらは今やるべきことをやるんじゃ!!」

 

左京「あともう少しで石板があります。この川の源流です」

 

右京「絶対にあいつらに一泡吹かせてやる! 見てろよ!!」

 

 

 

リリーフの返事に、一同は時間を無駄にできないとばかりに走って行った。

 

 

それを見届けたリリーフとダイダーは、ライナージェットを操り火の車に向かっていった。

 

 

 

 

先ほどのプリキュアたちの会話は、火の車の中にも伝わってきておりDr.フライが歯ぎしりをしていた。

 

Dr.フライ「おのれ遠藤め! プリキュアどもとつるんでおったのか!! ぐわぁ〜っ、やれ、連中を殺してやるのじゃ!!」

 

 

ゴーロ「うるせえってんだ!! いちいち怒鳴るな、このくたばりぞこないが!!」

 

 

そう怒鳴りながら、ゴーロは火の車で、ライナージェットを操るコズミックプリキュアに攻撃を開始した。

 

 

 

 

第33話 終

 

 



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第34話 「激闘!! 驚異の火の車 (後編)」

 

 

 

黄金の龍を象った空飛ぶ火の車は全身から四方八方にミサイルを発射し、ダイダーの操るライナージェットを撃ち墜とさんとしていた。

 

ダイダー「な、なんの!! 回避することにさえ専念してれば、なんとか…」

 

 

 

 

Dr.フライ「ええい、ちょろちょろと!! 早くあんなカトンボなど撃ち落せ!!」

 

一斉に斉射を行っているにもかかわらず、ことごとくそれを回避するライナージェットにイライラしたようにDr.フライは怒鳴りつけた。

 

 

ゴーロ「だからうるせえってんだ!! いい加減にしろ!!」

 

Dr.フライの命令口調に対して、我慢の限界というようにゴーロはそう吐き捨て、操縦を放棄し、Dr.フライの胸ぐらをつかんで持ち上げた。

 

Dr.フライ「な、何をするか!?」

 

ゴーロ「そこまで言うならテメェでやりやがれ!!」

 

 

戸惑っているDr.フライを操縦席にたたきつけるように座らせると、ゴーロはうんざりだと言わんばかりに火の車から飛び降りた。

 

 

 

Dr.フライ「チィッ、あのポンコツが!!  まぁいい、あんなのにやらせるより大天才のわしがやればプリキュアなんぞ…」

 

 

冷静に考えればゴーロをポンコツと批判するのは、そのボディを作った自分自身を批判することになるのだが、Dr.フライはそれに気がついていなかった。

 

 

 

 

Dr.フライ「プリキュアめ、消し飛ぶがいい!!」

 

一人残されたDr.フライは、火の車の最大の武器である火炎の玉を発射させんと、龍を象ったその口を開かせた。

 

 

 

しかし次の瞬間、地上から放たれた電撃に一瞬火の車がショートしてしまい、放たれた火の玉はかなり威力とスピードが落ち、ライナージェットを操るダイダーにあっさりとかわされた。

 

 

 

Dr.フライ「ぬうっ!! 無駄な抵抗をしおって!!」

 

Dr.フライは地上でブルーハンドに換装したリリーフを見て、いまいましげに呟いた。

 

 

リリーフ「とんでもない性能だよ。この電撃で一瞬感電するぐらいなんて…」

 

リリーフのブルーハンドは、最大で五万ボルトにもなる電撃を放てる。

 

それにリーフ自身のプラスエネルギーによる浄化作用が加わっているため、耐性のないものならば一撃で分解できる。

 

 

にもかかわらず、マイナスエネルギーで強化されている火の車にはダメージらしいダメージになっていないことに、リリーフは改めて脅威を感じていた。

 

 

ゴーロ「リーフ!!」

 

リリーフ「!! ゴーロ!!」

 

 

ゴーロ「へっ、こりゃちょうどいいぜ。 むしゃくしゃしてたんだ、テメェで憂さ晴らしだ」

 

リリーフ「くっ…」

 

 

嬉々として飛びかかってきたゴーロに、リリーフは上空のダイーダのことを気にかけながらもやむなく応戦せざるをえなかった。

 

 

 

ダイダー(まずい… リーフがゴーロの相手をしてたんじゃこの火の車と一対一で戦うことになる。いつまで持ちこたえられるか…)

 

地上で戦っているリリーフの様子を見ながら、ダイダーは迫り来る目の前の現実に焦りを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

遠藤「ひぃひぃ… あとどのぐらいで着くんじゃ…」

 

日頃研究室にこもりっぱなしでろくな運動もしていない上、この中では初老というべき年齢に差し掛かっている遠藤博士は、道なき山道を歩き続けたため死にそうな顔で息を切らしていた。

 

 

 

ラン「んもう、だらしないんだから。しっかりしてよおじいちゃん」

 

遠藤「バカモン、年寄りをいたわらんか」

 

 

京香「で、でもランちゃんも相当タフね。あの二人に負けてないんじゃない?」

 

 

さすが地元とでもいうように、息一つ乱さず進んで行く左京と右京の兄弟を見やり、京香先生は肩で息をしながらそう漏らした。

 

 

ラン「あ〜っと、なんやかんやで家事とかやってますから体力がつくんです。先生はそんなことないんですか?」

 

京香「えっ? そ、それは… その…」

 

 

仕事柄夜勤も多いからというのもあるが、食事はほとんどが外食かインスタントに冷凍食品。部屋の掃除は月に一度するかしないかに加えて、洗濯物は山積み。

 

とても褒められる私生活を送っていない京香先生にはランがまぶしく思え、バツが悪そうに目を逸らした。

 

 

左京「もう少しです。みなさん頑張ってください」

 

右京「あっ、姉さんあれ!!」

 

 

そう声を張り上げた右京の指差した先には、龍が彫り込んである3メートルぐらいのサイズの石板が茂みの中に佇んでいた。

 

 

豪「あれがそうなのか!?」

 

右京「うん、そうだよ。ありがとう豪くん。君のおかげでここまでこれた」

 

 

右京はそう言って、心からの感謝の言葉を豪に伝えた。

 

 

豪「いや、それほどでもないって」

 

得意そうにそう言った豪をランはピシャリとたしなめた。

 

 

ラン「調子に乗らない。あんた自身はほとんど何もしてないでしょうが!! それより早く行きましょう、リーフさん達だって長くは持たないわ」

 

 

遠藤「う、うむ。休んどる暇はないな」

 

 

 

そうして決意も新たに石板に向かい走り出そうとした瞬間、辺りの茂みからマイナーが大量に出現し、取り囲まれてしまった。

 

 

豪「げげっ!!」

 

左京「ここまで来て…」

 

 

 

ファル「ふふっ、あと少しだったのに残念だったな。貴様らを殺しあの石板も破壊させてもらう!! やれ!!」

 

 

その言葉とともにファルが指を鳴らすと、取り囲んだマイナーは一斉に襲いかかってきた。

 

 

右京「ウワァァアア!!」

 

 

 

 

 

 

ダイダー「くっ、まずい。かわし続けるのも限界になってきた…」

 

 

かなり小回りの効く飛行ができるとはいえ、ライナージェットはどうしても直線的な動きが主体になる。

 

必死にかわし続けていたものの、行動パターンを読まれ始めたのかかなりギリギリになり始めていた。

 

Dr.フライ「どうじゃ!! この大天才のわしが操縦すればプリキュアを追い詰めるなんぞお茶の子さいさいじゃ」

 

必死に砲撃をかわし続けるダイダーを見て、Dr.フライはそう得意そうに嗤った。

 

 

 

 

 

 

 

ゴーロ「くたばれリーフ!!」

 

ゴーロはその怪力で辺りにあった木を引っこ抜いて、力任せに振り回していた。

 

 

リーフ「わっわっわっ!!」

 

その振り回される木によって、辺りの岩はかたっぱしから砕け、木々はなぎ倒されていた。

 

 

喰らう訳にはいかないと必死に避け続けた結果、リリーフは接近することもままならず、絶え間なく続く攻撃にマルチハンドを換装する隙もなかった。

 

 

リリーフ「くっ!!」

 

やむなく大ジャンプして距離をとったリリーフだったが、それを見計らったかのように、ゴーロは振り回していた大木を投げつけてきた。

 

 

リリーフ「うわっ!!」

 

突然のことに驚いたリリーフだったが、飛んできた大木をなんとか叩き落としホッと一息をついた。

 

 

しかし次の瞬間、大木の陰に隠れて飛んできた岩石の直撃を食らってしまった。

 

 

リリーフ「キャアアア!!」

 

その一撃に地面に叩き落とされてしまったリリーフは、ダメージで立ち上がれなかった。

 

 

ゴーロ「くたばれ!!」

 

そんなリリーフにゴーロは飛びかかりマウントポジョンで殴りつけてきた。

 

 

リリーフ「がふっ…!!」

 

完全に抑え込まれてしまったリリーフは、なすすべなく一方的に殴りつけられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ファル「馬鹿な… 一体何をした?」

 

 

遠藤博士たちを襲ったマイナーとファルだったが、マイナーは全てがただのアリに戻っており、ファルに至っては何が起きたのかも理解できず、全身が痺れて動くこともままならないまま仰向けになって倒れていた。

 

 

 

豪「すげぇ威力…」

 

ラン「こんなにうまくいくとは思わなかったわ…」

 

 

その光景に目を疑っていたのは豪やランも同じであり、手に持ったおもちゃのような銃を手に、半ば呆然としていた。

 

 

京香「博士、この銃は一体…」

 

 

遠藤「わしがいつまでもこやつらに対して有効な手立てを考えんとでも思っておったか。こないだのアメリカ占領騒ぎの時に作ったマイナー殲滅衛星の技術を応用して作ったアンチマイナービームガンじゃ。これがあればわしらでもマイナー程度なら倒すことができるぞ」

 

 

自慢げに銃を構えてそう語った遠藤博士だったが、即座に顔つきを変えた。

 

 

遠藤「さあ今のうちじゃ。石板に宝玉をはめ込め!! マイナーはともかくこのファルとかいうやつには一時的に痺れさせるレベルの効果しかない!!」

 

ラン「それ早く言ってよ」

 

その言葉に、一同は慌てて石板のところに向かっていった。

 

ファル「ま、待て… くそ動けん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

右京「父さん、見ててよ」

 

石板のところにたどり着いた右京は、虹色の宝玉を取り出すと、万感の思いを込めて石板に彫り込まれた龍の目の部分にはめ込んだ。

 

 

左京「右京…」

 

遠藤「うむ」

 

皆が見守る中、はめ込まれた宝玉は一層輝きを増し始め石板そのものを虹色の光で包み込んだ。

 

 

ラン「きれい…」

 

京香「何て暖かな光…」

 

 

 

 

ようやく動けるようになったファルだったが、その光景を見て全てが終わったことを悟った。

 

 

ファル「チッ、もうダメだな。撤退だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴーロ「リーフ、バラバラにしてやるぜ!!」

 

 

ゴーロはリリーフをマウントポジションに捉えたまま、頭部を砕かんと両手でリリーフの頭を握りつぶしにかかってきた。

 

 

リリーフ「ぐ…ああ…あ…」

 

ゴーロにパワー負けした挙句、ダメージを負っていたリリーフはなすすべがなく、頭を潰される激痛に顔を歪めていた。

 

 

 

ダイダー「くっ、リーフ」

 

ダイダーは、ライナージェットで火の車の攻撃をギリギリでかわし続けながら、悔しそうな顔をしていた。

 

リリーフの危機はダイダーも十分認識していたが、自分自身に救援が欲しいこの状況ではとてもではないが助けに行けなかった。

 

 

そしてそこにリーフの悲鳴が聞こえてきたことで、ダイダーの気がそれてしまい、回避が一瞬遅れてしまった。

 

 

 

それを狙った火の車の砲撃がライナージェットをかすめ、姿勢が大きく崩れてしまった。

 

 

ダイダー「キャアアア!!」

 

 

Dr.フライ「手こずらせおって、止めじゃ!!」

 

失速しかけたライナージェットにとどめの一撃を食らわさんと、Dr.フライは火の車の龍の口を大きく開かせた。

 

 

ダイダー「!!!」

 

目の前に大きく開いた龍の口に、ダイダーも覚悟を決めたその瞬間、黄金に輝いていた火の車は突如として全体が赤茶けた黄土色に変わり、動きが止まってしまった。

 

 

Dr.フライ「な、なんじゃ!? どうしたというのじゃ!? ええい、動け動かんか!!」

 

突如として操縦不能に陥った火の車に、Dr.フライは半ばパニック状態に陥り、でたらめに操縦桿を動かし始めた。

 

しかし、そんなことで復調するはずもなく火の車は失速しはじめた。

 

 

ダイダー「えっ!?」

 

突然のことに戸惑っていたダイダーだったが、すぐに事情を理解した。

 

 

ダイダー「そっか、みんなが宝玉で火の車の機能を停止させることに成功したんだ!!」

 

 

それを理解するや否や、ダイダーはライナージェットの姿勢を立て直し地上のリリーフのところへと急行した。

 

 

 

 

ゴーロ「もう少しだ。くだけ散れ!!」

 

リリーフ「ぐ…あああ…」

 

メリメリという音がするほどにゴーロに頭を締め付けられていたリリーフは、なんとかしてゴーロの手を引き剥がそうとしていたが、どうにもできずもはやこれまでかと感じていた。

 

 

しかし次の瞬間、馬乗りになっていたゴーロに何かが突撃して跳ね飛ばした。

 

 

ゴーロ「ぐおぉ、なんだ!?」

 

それはライナージェットをサーフボードのように操ったダイダーであり、ゴーロを吹き飛ばすと同時に、リリーフも救出していた。

 

ゴーロ「チィッ、あいつら!!」

 

その光景を見て憎々しげに呟いたゴーロだったが、そこにファルから通信が入った。

 

 

ファル『おい、もういい。 今回の作戦は失敗だ、引き上げろ』

 

ゴーロ「けっ、まあそこそこ楽しめたしよしとするか」

 

 

通信を受けたゴーロは多少不本意だったようだが、まぁいいかとばかりに引き上げて行った。

 

 

 

 

 

 

 

リリーフ「ゲホゲホ、助かったよダイーダちゃん」

 

ダイダー「間に合ってよかったわ。それより行くわよ、今こそ火の車と決着をつけるの!!」

 

リリーフ「うん!!」

 

 

 

リリーフの力強い頷きに、ダイダーはライナージェットを失速し始めた火の車に向けて突撃させた。

 

リリーフ「Dr.フライ、あなたのような人をこれ以上放っておくわけにはいかない!!」

 

ダイダー「リーフの言う通りよ。多くの人を傷つけたあんただけは許さない!! チェンジハンド・タイプレッド!!」

 

 

 

 

Dr.フライ「ええい、この骨董品が!! ちゃんと動けというのに!!」

 

 

失速し墜落を始めた空飛ぶ火の車の中で悪態をついていたDr.フライだったが、モニターに映った光景に、顔色を変えた。

 

Dr.フライ「何!? あやつら体当たりする気か!? 避けろ、避けんかー!!」

 

 

Dr.フライは必死になって操縦桿をガチャガチャと動かしたが、火の車は完全に操縦不能に陥っていた。

 

 

 

リリーフ・ダイダー「「うおおおお!!!」」

 

 

そしてそんな火の車に対してライナージェットの勢いを利用して、ダイダーはレッドハンドの超パワーでパンチを打ち込んだ。

 

 

その威力は激烈で、二人の乗ったライナージェットは火の車のボディをぶち抜き、翼にコーティングされた空気の刃でさらにボディを大きく切り裂いた。

 

 

 

ボディが大破し、もはや爆発も時間の問題となった火の車だったが、リリーフはこれではまずいと慌てた。

 

 

リリーフ「まずいよ!! あのまま山の中に墜落したら一体が火事になっちゃう。それにあれを動かしてたマイナスエネルギーが一面に撒き散らされたら…」

 

 

ダイダー「落ち着きなさい。だったら墜落軌道を変えて、マイナスエネルギーも浄化するのよ」

 

たしなめるような冷静なダイダーの言葉に、リリーフも冷静さを取り戻した。

 

リリーフ「あっ、そうか。じゃあ頼むよ」

 

 

そう言い残すと、リリーフはライナージェットから飛び降りると空中で虹色の玉を手に輝かせ始めた。

 

 

リリーフ「ダイーダちゃん!!」

 

そしてそのまま、その虹色の玉をダイダーに向けて亜音速で投げつけた。

 

 

ダイダー「任せなさい!! ダァリャア!!」

 

するとダイダーは、リリーフの投げてきた玉を、取り出した光のスティックを一振りして火の車に向けて打ち返した。

 

 

打ち返された虹色の玉はひとまわり大きくなり、火の車に直撃すると全体を包み込み、それと同時に光の玉をぶつけられたことで墜落コースが山の中腹から谷底へと変わっていった。

 

 

リリーフ・ダイダー「「プリキュア・レインボー・ツインバスター!!」」

 

 

そう二人が叫ぶと、火の車を包み込んだ光は目も眩まんばかりに激しく輝き始めた。

 

 

 

Dr.フライ「ヌアーッ!! だ、脱出、脱出じゃ!!」

 

もはやこれまでと脱出しようとしたDr.フライだったが、その瞬間自分の置かれている状況に気がついた。

 

Dr.フライ「ぬ? ハッチが開かん!? まさか!? 脱出装置まで機能停止しとるのか!? 誰か、わしを脱出させろー!! 脱出させてくれー!!」

 

 

その叫びも虚しく、火の車は谷底に墜落し大爆発を起こした。

 

 

 

リリーフ・ダイダー「「ゲームセット!!」」

 

 

 

 

 

 

その光景は石板のところにもいた遠藤博士達の目にも届いており、右京は万感の思いで見つめていた。

 

 

右京「やったよ父さん… 仇を討ったよ!!」

 

涙を流しながら歓喜の叫びをあげていた。

 

豪「やったな、右京」

 

左京「右京…」

 

 

豪達もまた達成感に満ち溢れた清々しさを感じていた中、リーフとダイーダを乗せたライナージェットが飛来した。

 

リーフ「ヤッホー!!」

 

ダイーダ「みんな、大丈夫そうね」

 

 

リーフもダイーダもかなりボロボロになっており、それが激戦を物語っていたが、無事な姿を見て一同は一安心していた。

 

 

ラン「リーフさん、ダイーダさん!!」

 

京香「あなた達もお疲れ様」

 

 

遠藤「うむ、二人ともよくやってくれた」

 

 

 

 

左京「本当に何から何までありがとうございました」

 

右京「父さんの仇を討てたのも、全部みなさんのおかげです」

 

心からの感謝の意を込めて、深々とお礼をする右京と左京にリーフとダイーダは申し訳なさそうに返した。

 

 

ダイーダ「いえ、そんな。頭を下げるのはこっちです」

 

リーフ「うん。空飛ぶ火の車、壊しちゃったもんね。あなた達の大切なものだったんでしょう」

 

 

しかし、左京はゆっくりと首を左右に振った。

 

 

左京「いえ、確かに大切なものでしたが、あれは私たちを縛り付けていた呪いのようなものだったかもしれません」

 

右京「あれを守り続けることで、俺達は何もできなかった。でもこれからはこの世界で自由に生きていけるんだと思う」

 

 

その答えに遠藤博士は満足げに頷いた。

 

 

遠藤「うむうむ。世界は広いのじゃ、どこまでも空は広がり、未知のものや多くの人々がいる。それらを知っていくことが人生なのかもしれん。見よあの美しい夕焼けを! あれが世界なのじゃ!!」

 

 

ラン「おじいちゃんってば、カッコつけちゃって」

 

 

その言葉に一同の間には、笑い声が響き渡った。

 

 

遠藤「ったく、締めぐらい決めさせんか」

 

 

憮然としつつも、遠藤博士は火の車の墜落した方をどこか悲しそうに見つめていた。

 

 

遠藤(フライ。お主は自分の尺度でしか世界を見ることができなかったんじゃな。なぜ、周りの人々やわしらを見ようとせなんだんじゃ… 今更言っても遅いがな。せめて安らかに眠れ… )

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火の車の墜落した谷底では、その残骸が一面に飛び散りまだ幾分か火もくすぶっていた。

 

そんな中、瓦礫をかき分けて何かが蠢いていた。

 

 

Dr.フライ「ぐ、ぐぬ… わしは死なんぞ…」

 

 

Dr.フライは力を振り絞って、瓦礫の下から這い出るとなんとか一心地ついた。

 

 

Dr.フライ「ひぃひぃ。ざまあみるがいい、わしがこの程度のことで死ぬわけはない。何しろわしは史上最高の…」

 

いつものセリフを口走ろうとした瞬間、Dr.フライは驚愕に目を見開いた。

 

 

彼の腹部には鉄の棒のようなものが深々と突き刺さり、よく触って調べると背中まで貫通していたからだ。

 

しかし驚くべきはそれではなかった。

 

 

 

Dr.フライ「な、なぜじゃ!? これほどのものが突き刺さっておるのに、痛みも感じなければ血すら出ておらん!?」

 

 

恐る恐るその鉄の棒をつかみ、体から引き抜いてみたもののまるで抵抗なく抜けた上に、出血もしなかった。

 

 

おまけに体に開いた穴からは、黒い靄のようなものが溢れ出たかと思うと、たちどころにその穴もふさがってしまった。

 

 

さしものDr.フライも、この状況には混乱していた。

 

Dr.フライ「ど、どうなっておる!? 傷が消えた!? わしの体に何が起きとるんじゃ!?」

 

 

 

 

 

数日後 夜、遠藤平和科学研究所

 

 

あの後、結局右京と左京は甲子市を出て、田舎へと再度引っ越すことにした。

 

やはり、ずっと山奥で暮らしていただけにどこか都会暮らしには馴染めなかったようであった。

 

 

豪「あーあ、せっかく仲良くなれたのになぁ」

 

 

右京とは気の合う友人になれたと思っていだけに、豪はどこか元気がなかった。

 

京香「まぁまぁ。引越し先の住所とかは聞いてるんだから、手紙を送ってあげるといいわ。年賀状なんかもね」

 

遠藤「それは良いことじゃ。人との絆は大切にな。 っとリーフ、そっちの配線をつないでくれ」

 

豪「それもそっか。よーし書くぞ!! って、じいちゃんはここんとこ何やってるの?」

 

 

何か作業をしながらの遠藤博士の言葉に、豪は元気を少し取り戻したが、続けて質問をした。

 

 

遠藤「うむ、右京くんが残していったあの宝玉の利用方法についてじゃ」

 

 

ラン「えっ? あれって、ただの火の車のストップ装置じゃないの!?」

 

豪「もしかして、結構高く売れるとか?」

 

 

ラン達の疑問に、遠藤博士が得意そうに解説をした。

 

遠藤「いや、成分としてはただの石英みたいなものじゃから、宝石としてはそんなに価値はない。じゃがその真価は別のところにあるのじゃ」

 

 

京香「どういうことですか?」

 

すると、作業を手伝っていたダイーダが解説をした。

 

ダイーダ「あの宝玉からは、火の車をストップさせるために何か特殊なエネルギーが常時、しかも半永久的に発生しているみたいなんです。あの石板はそれを増幅させるシステムだったようです」

 

 

遠藤「つまりじゃ、それをうまく利用すれば、電気代やガス代がかからずに済むかもしれんということじゃ。それだけではないぞ、こいつを解析して人工的に生成できれば世界のエネルギー問題まで解決できるかもしれん」

 

 

その言葉にランの目は輝いた。

 

 

ラン「本当!? ああ、もしそうなればこの若さで所帯染みた悩みを抱えなくても済むのね!!」

 

京香「それだけじゃないわ、もしかしたら世界的な大発明になるかもしれないのね」

 

豪「スッゲェよじいちゃん!!」

 

リーフ「やっぱり、博士はすごい人だよね」

 

ダイーダ「ふふっ、そうね」

 

口々に誉めたたえる言葉を聞き、遠藤博士は実に気分が良かった。

 

遠藤「はっはっはっ!! わしに不可能はなーい!! っと、これで完成じゃ。まずは我が家の電気をこいつで賄わせてみるか。 リーフのブルーハンドでは一時的な非常電源にしかならんが、こいつは違うぞ」

 

 

 

準備を終えた遠藤博士を、ランは涙ぐみながら見つめていた。

 

ラン「ああ… ついに、ついに… おじいちゃんの発明が我が家の役に立つ時が来たのね…」

 

 

遠藤「あのな、わしをなんだと思っとったんじゃ。いくぞ、スイッチオン!!」

 

 

仰々しくスイッチを入れると低い音とともに装置が動き出し、それと同時に装置に組み込まれた宝玉が虹色に輝きだした。

 

 

豪「うわ〜っ…」

 

ラン「きれい…」

 

 

その宝玉の作りだした幻想的な光景に、一同は心を奪われていた。

 

 

 

 

 

 

 

が、次の瞬間

 

 

 

豪「あれ? 真っ暗」

 

 

突如として室内の照明が落ちてしまい、一寸先もろくに見えなくなってしまった。

 

 

ラン「ど、どうなってるのこれ?」

 

遠藤「わしにもわからん。それになぜ非常灯に切り替わらんのじゃ? えぇい懐中電灯、懐中電灯はどこじゃ」

 

 

突然の停電に皆が慌てふためく中、リーフはマルチハンドを換装した。

 

 

リーフ「ちょっと待ってて、すぐ明るくするから。チェンジハンド・タイプブルー!!」

 

 

リーフがブルーハンドで壁にタッチすると、そこから放たれた電流でなんとか電源が回復した。

 

 

京香「あっ、ついたわ。便利なものね。でもどうして急に停電なんか…」

 

 

今の停電には遠藤博士も首をかしげていた。

 

 

遠藤「おかしいのう。この宝玉のエネルギーなら家庭用電力など簡単に賄えるはずなんじゃが… エネルギーが多すぎてブレーカーでも落ちたのかのう」

 

 

 

そんな中、電力量を調べていたダイーダもまた首をかしげながら報告をした。

 

 

ダイーダ「博士、今調べましたがエネルギーが増えるどころか、ものすごい量の電気が消費されてますよ。おまけにそれでも足りずに予備の非常バッテリーまでゼロになってます。今はリーフのブルーハンドの電気で明かりがついてますけど…」

 

 

その言葉に、遠藤博士は納得したように手を叩いた。

 

 

遠藤「ああ、そういうことか。この宝玉のエネルギーは当然そのままでは使えないから、通常の電気に変換せにゃならんのじゃが、その際にかかる電力量が想像してた数値を超えとったんじゃな」

 

 

京香「えーっと、つまりこの宝玉のエネルギーを普通に使えるようにするには、これで賄える以上の電気が必要だということですか?」

 

 

遠藤「まぁ、簡単に言えばそういうことじゃな」

 

 

したり顔で解説した遠藤博士だったが、同時に肩を震わせたランの怒声が響いた。

 

 

ラン「それじゃ意味ないでしょう!!! この装置やらなんやらにまたどれだけお金使ったのよ!!!」

 

 

遠藤「ま、まぁ落ち着け。失敗は成功の母というじゃろ。こういったことも科学の発展、ひいては世界平和及び人類の未来にきっと役立つ…」

 

 

遠藤博士はなんとかなだめようとしたが、ランの怒りは完全に爆発していた。

 

 

ラン「なーにが人類の未来よ!! 世界平和よ!! 私の未来と我が家の平和はどうなるのよ!! うちの真っ赤っかな家計簿をいっぺん見てみなさいよ、こんなんでまともなお正月が迎えられると思ってんの!!! え!?」

 

豪「お、落ち着けラン。なっなっ」

 

 

ラン「うるさーい!!!! うちの家計の火の車もなんとかして!!!!」

 

あまりに切実なランの叫びが研究所を大きく揺るがせたのだった。

 

 

 

第34話 終



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第35話 「マルチハンド強奪作戦 (前編)」

 

 

 

 

 

 

海底 Dr.フライ秘密研究所

 

 

 

 

Dr.フライ「パーフェクト!! パーフェクトはどこにおる!?」

 

 

数日ぶりに、この海底の秘密研究所に帰還したDr.フライは開口一番そう叫んだ。

 

 

ゴーロ「なんだ、まだ生きてやがったのか。しぶとい奴だ」

 

ファル「それは当たり前だ。何しろ天才様だからな」

 

嘲笑うようなファルの言い方に、ゴーロもまた同調して嘲笑った。

 

 

ゴーロ「へっ、それもそうだ」

 

 

 

そんなファルとゴーロに対して、Dr.フライはイラついたように返した。

 

Dr.フライ「やかましいわ!! 貴様らなどに用はない! パーフェクトはどこにおる!!」

 

 

その言葉に、ファルとゴーロの顔色が変わった。

 

ゴーロ「テメェ、今なんとぬかした? あぁ?」

 

ファル「貴様ごときが偉大なる次元皇帝パーフェクト様を呼び捨てにするとはどういうつもりだ!」

 

 

Dr.フライ「だ、黙らんか!! どうしても聞きたいことがあるのじゃ!! 居場所を教えろ!!」

 

そう怒鳴りつけたDr.フライだったが、ファルに胸ぐらを掴みあげられてしまった。

 

ファル「でかい口をたたくな。貴様ごときに教えてやる義理はない、身の程をわきまえろ!!」

 

 

Dr.フライ「ぐ…」

 

首を締め上げられたDr.フライだったが、冷静になると違和感を覚えた。

 

Dr.フライ(やはりおかしい。こやつらの力で締め上げられているのに特に息苦しさも感じんとは…)

 

 

そんな中、黒い靄のようなものが立ち込めるとドスの効いた低い声が響いた。

 

パーフェクト「やめろファル」

 

ファル「はっ、パーフェクト様」

 

 

 

 

 

パーフェクトの静止に、ファルは一切の口答えをすることもなくDr.フライを解放した。

 

 

Dr.フライ「チィッ、おのれ…」

 

 

自分の抗議には耳を貸そうともしなかったくせに、パーフェクトの言葉はあっさり聞くファルを咳き込みながらも睨みつけていたDr.フライだったが、思い直すとパーフェクトに向かい合った。

 

 

Dr.フライ「貴様に聞きたいことがあるのじゃ」

 

パーフェクト「なんだDr.フライ」

 

 

Dr.フライ「わしの体のことじゃ。空飛ぶ火の車の墜落に巻き込まれ、土手っ腹を鉄パイプが貫通したにもかかわらず、死ぬどころか血も出なかった。おまけにその傷もすぐに治った。何か知っているなら答えろ!!」

 

 

凄まじい形相で迫ったDr.フライだったが、パーフェクトは冷ややかに答えた。

 

パーフェクト「貴様が知る必要はない。貴様はただこの世界を暗黒に染めるために次の作戦を考えていればいい」

 

 

 

Dr.フライ「そんな言葉で納得できるか!! 知っていることを答えろ!! さもなくば…」

 

そこまで言って、Dr.フライははたと気がついた。

 

 

パーフェクト「さもなくばなんだ?」

 

明らかに怒気を含んだ声にDr.フライは息がつまるような思いをし、冷や汗を吹き出しながら言葉を絞り出した。

 

 

Dr.フライ「い、いや。そ、そうじゃ。あの忌々しいコズミックプリキュアを始末するアイデアがあるのじゃ。奴らを始末できれば、知っていることを教えてもらえんかのう…」

 

 

必死に下手に出て、もみ手をしながらの言葉にパーフェクトも幾分か怒りが和らいだようだった。

 

パーフェクト「よかろう考えてやる。奴らを始末できればな」

 

 

そう言い残すと、黒い靄の姿をしたパーフェクトは消えていき、Dr.フライはホッと胸をなでおろしていた。

 

 

 

ゴーロ「けっ、くだらん見栄を張りやがって。本当に連中を始末できるのかよ」

 

 

見下したようなゴーロの言葉に、Dr.フライは躍起になって反論した。

 

 

Dr.フライ「わしをなめるな。奴らの戦力をダウンさせ、お前らをパワーアップさせるいい方法があるのじゃ」

 

 

ファル「ほう?」

 

 

Dr.フライ「奴らのボディはおそらく遠藤が作ったものじゃ。それにこの前アメリカで奴らの片割れを捕らえた時に、内部構造は一応スキャンしてある。それを使えば…」

 

 

 

 

 

 

 

その頃、テレビ局内では今まさに特番のニュースが放送されんと慌ただしく動き回っていた。

 

 

 

「いやぁ、節子ちゃん。こないだアメリカで捕まったって聞いたときはどうなるかと思ったけど、よくこんなネタ仕入れてきたね」

 

「全くだ、これを公表したら世界中が大パニックになるぞ」

 

口々に褒め称えられる言葉を聞いて、甲斐 節子は得意の絶頂にいた。

 

 

節子「なーに、運が良かっただけですよ。一時はこっちもどうなるかと思いましたから(ふっ、なめんじゃないわよ。休日もクリスマスも返上した私の血の滲むような努力の賜物よ)」

 

 

 

 

 

 

先日のアメリカ占領騒ぎの後、節子はアメリカ全土を取材して周り、復興しつつあるアメリカの報道をしつつ、Drフライの情報を仕入れていたのだ。

 

 

15年前にDrフライが起こしたらしい研究中の事故。そのことをDrフライ本人から聞いていた節子はその情報を必死に探し、ついに大スクープという事実をつかむことに成功したのだ。

 

 

節子「私はジャーナリストとして世界にこの事実を報道する義務があるのよ。このことが世間に知れたら…」

 

 

グフグフと不気味に笑いながら、節子は近い将来の輝かしい栄光を夢想していた。

 

 

 

一方、会見場の外では万が一に備えて警察が重々しく警備に当たっていた。

 

 

河内「いいか、会見の内容が内容なだけに次元皇帝パーフェクトどもが襲ってくる可能性は十分ある。気を引き締めて警備に当たれ!!」

 

「「「了解!!」」」

 

 

パーフェクトの事件に遭遇する率が高いため現場をよく知っているだろうということで警備の総指揮を任された河内警部は、気合を込めて警備に当たっている警官に下知した。

 

 

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

ラン「おじいちゃん!! 早くこっち来てよ!!」

 

ランが遠藤博士の手を引きながら今のテレビの前に連れてきていた。

 

 

遠藤「一体なんじゃいきなり? 騒々しいのう」

 

年末の掃除をしている最中、いきなり地下の研究室から引っぱり出された遠藤博士は迷惑そうな顔をしていた。

 

豪「のんきなこと言ってる場合じゃないよ、じいちゃん」

 

 

リーフ「あ、博士。この番組みてください」

 

遠藤「ん? 緊急記者会見? しかも全世界同時放送? なんの記者会見じゃ」

 

 

ラン「Drフライの重大秘密ですって。もしかして何かわかったのかも」

 

 

必死の形相でそう告げたランだったが、遠藤博士は冷め切った様子だった。

 

遠藤「なんじゃ、くだらん」

 

 

豪「何言ってんだよ!! くだらないわけないじゃないかよ」

 

まるで興味を示さない遠藤博士に豪は怒鳴ったが、遠藤博士自身はどこ吹く風というようだった。

 

 

遠藤「だってそうじゃろうが。フライの事など、わざわざ聞く必要もないほどわしは知っておる。おまけにやつならこないだの火の車の墜落に巻き込まれておそらく… 今更な…」

 

 

少しばかり暗い顔になった遠藤博士をよそに、テレビの中では会見が始まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

節子『みなさん、今日は重大な事実を発表いたします。 ここ数ヶ月世界中でテロ活動を行っているDr.フライと名乗る人物のことについて、衝撃的な事実が判明いたしました』

 

 

節子は冷静かつ真面目な顔で会見を行いつつも、カメラのフラッシュに全身を焚かれる高揚感に満ち満ちていた。

 

 

節子(くっくっくっ、この発表で世界は蜂の巣を突いたみたいな大騒ぎになるわ。そうなれば私の名前も歴史に刻まれることに…)

 

 

そんな気持ちを顔に出さないよう必死にこらえつつ、節子は続けた。

 

 

節子『Dr.フライ、本名フライ=ストラクアウトですが、彼は20年前他人の研究を盗用した咎で学会を追放されました。しかしその後も研究を続けていたある日、実験に失敗して爆発事故を起こしました。そして現在に至るまで行方不明になっていたのですが…』

 

 

 

そこまで会見を行った途端、突如として会見場が大きく揺れたかと思うと突如として画面がブラックアウトした。

 

 

 

 

ラン「えっ? 何?」

 

テレビを見ていたラン達が驚いたのと居間のマイナスエネルギー検知器がけたたましく鳴り響いたのはほぼ同時だった。

 

 

ダイーダ「まさか!!」

 

 

 

次の瞬間、再び映ったテレビにはDr.フライがアップで出ていた。

 

 

遠藤「なっ!? フライ!? あやつめ、あの大爆発の中で生きておったのか!!」

 

ダイーダ「よくあの状況で脱出できたものね。しかもほとんど無傷みたいだし」

 

 

てっきり空飛ぶ火の車とともに死んだと思っていたDr.フライが生きていたことに一同が驚く中、Dr.フライは芝居掛かったように喋り始めた。

 

 

Dr.フライ『聞こえるかコズミックプリキュア。 この会見場にいる間抜けどもはわしらが預かった。 助けたければ板当城まで来るがいい。 ヒャッヒャッヒャッ』

 

 

 

その挑戦状とでもいうような言葉を最後に、再びテレビはブラックアウトした。

 

 

 

ダイーダ「あいつ性懲りも無く!!」

 

リーフ「ぐすぐすしてられないよ。すぐ行こう!!」

 

 

至急出撃しようとしたリーフとダイーダだったが、豪が慌てて引き止めた。

 

 

豪「待った待った。これ完全に罠だよ」

 

ラン「そうよ、きっと連中何か企んでるわ」

 

 

だが、リーフとダイーダは首をゆっくりと横に振った。

 

 

ダイーダ「それぐらいは私たちにもわかるわ。でもだからって放っておけない」

 

リーフ「こうしてる間にも、連れ去られた人達はきっと不安と恐怖でいっぱいなんだよ。そんな人を少しでも早く助けてあげたい」

 

 

その言葉に豪達は何も言えなくなってしまった。

 

 

遠藤「よし、コズミックプリキュア。至急さらわれた人々を救助に向かえ。ただし、十二分に注意するんじゃぞ」

 

 

リーフ・ダイーダ「「了解!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃会見場であったビルの一室は、蜘蛛のように六角形の目が三個ついた顔に、蜂のように黒と黄色のストライプの入った体の全長20メートルというサイズの合体メイジャーが吐き出した巨大なネットに入れられていた。

 

もちろん、節子をはじめとした会見場にいた人はそのまま閉じ込められており、危険を察し会見場に飛び込んだ河内警部もまた同様であった。

 

 

節子「私、突撃レポーターの甲斐節子です。先日のアメリカ騒ぎに引き続き再びパーフェクト達の手に捕らえられてしまいました。しかしこれはおそらく私が掴んできていた情報が都合の悪いものだということの証左なのでしょう。ジャーナリストの一人として私は必ずや…」

 

河内「あの嬢ちゃんもプロ根性というか職業病というかよくやるね〜」

 

パニックを起こしている人や恐怖に震えている人が大半で、撮るものも聞くものも全くと言っていいほどいない中一人レポートを行う節子を見て、河内警部は感心と呆れの入り混じったような声を漏らしていた。

 

 

河内「っと、こっちも負けてられんな。みんな必ず助かる希望を捨てるんじゃないぞ!!」

 

 

河内警部もまた、警察官として捕まっている人々を必死に励ましていた。

 

河内(やっててなんだが、この程度のことしかできん自分が情けない。結局頼みの綱はコズミックプリキュアか。警察官失格だな)

 

 

自分自身の無力さに半ば嫌気がしながらも、河内警部はできることを懸命に行っていた。

 

 

 

 

 

板当城跡

 

 

ここはとある平原にある古い城跡であるが、名所としての価値はほぼゼロに等しく訪れるものもほとんどいない。

 

 

だが、今現在この城の地下はDr.フライ達の秘密基地と化していた。

 

先ほどの蜘蛛・蜂合体メイジャーの能力で土蜘蛛や蜂が巣を作るように改造させたのである。

 

 

Dr.フライ「ようし、人質の確保はできた。あとは連中が来るのを待つだけじゃ。貴様らも準備はいいか?」

 

蜘蛛・蜂合体メイジャーが帰還したのを確認すると、Dr.フライはゴーロとファルに確認した。

 

 

ゴーロ「そりゃこっちのセリフだ。俺達の改造の方は本当に大丈夫なんだろうな?」

 

疑惑の目を向けてきたゴーロにDr.フライはカッとなって言い返した。

 

 

Dr.フライ「いい加減にしろ!! このわしの技術が信用できんのか!?」

 

ゴーロ「出来るわきゃねぇだろ!! 大体ただのパクリじゃねぇか!! プリキュアの腕を使えるようにしたってだけだろ!!」

 

ファル「そもそも、連中のものと同じかそれ以上のものを作ろうとなぜしない? おかげで手間がかかって仕方がないだろう」

 

 

不満ばかり口にするゴーロとファルにDr.フライはイライラしながら怒鳴った。

 

Dr.フライ「やかましい!! 説明はしたはずじゃ!! 連中の最大の武器を奪ってしまえば、プリキュアは弱くなりこちらは強くなる。そんな簡単なロジックもわからんのか!!」

 

 

実のところを言うと、Dr.フライもこんな手間のかかることはしたくはなかった。

 

しかし、先日のアメリカ占領の時に撮影していたダイーダのレントゲン写真からでは、マルチハンドの瞬間換装システムを解析するだけで手一杯であり、彼自身の技術ではマルチハンドそのものの製造も不可能だったからの措置である。

 

 

もちろん、そんな自分の無能さを認めるようなことはおくびにも出さず怒鳴りつけた。

 

 

Dr.フライ「ほれ、ブツブツ言っとらんと手筈通りにやるんじゃぞ」

 

 

ゴーロ「チッ、わかったよ」

 

不服そうな顔をしつつも、とりあえず作戦を遂行するべくゴーロとファルは所定の場所に向かおうとした。

 

 

Dr.フライ「あ、待て」

 

ファル「なんだ、まだ何かあるのか?」

 

 

Dr.フライ「ゆめゆめ忘れるでないぞ。プリキュア二人から二種類ずつ計四本。全てを奪い取るのじゃぞ」

 

 

 

 

ちょうどその頃、リーフとダイーダそれに豪を乗せた三冠号が板当城跡付近の上空に到着していた。

 

 

豪「あれがあいつらの言ってた板当城跡だよ。ここから見る限りただの石垣だけだけど…」

 

 

ダイーダ「たぶん地下に基地が広がってるんでしょう。私とリーフで潜入するから豪はこのまま上空で待機してて」

 

豪「わかった。人質を救助したらすぐ逃げられるようにだね」

 

 

ダイーダ「ふふっ、だいぶわかってきたじゃない」

 

豪「まぁ、長い事やってるからね」

 

 

微笑みながら褒めてきたダイーダに豪は少し得意になって返した。

 

 

ダイーダ「本当に立派よ。長い事やっててもなかなか出来ない子もいるんだから」

 

リーフ「ぶーっ、それ誰の事?」

 

ダイーダ「さぁ?」

 

 

豪「ははは…、それより頼むよ姉ちゃん達」

 

 

リーフ「うん!!」

 

ダイーダ「行くわよ!!」

 

 

力強い返事と共に、リーフとダイーダは三冠号から飛び降り板当城に向けて降下していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

板当城

 

 

 

リーフ「ダイーダちゃん。あそこ」

 

ダイーダ「さらわれた人達ね。気絶はしてるみたいだけどとりあえず無事みたいだわ」

 

 

板当城跡の周囲にうまく着地し、連れ去られた人達を発見したリーフとダイーダだったが、見張りらしいものがいない事に首をかしげていた。

 

 

ダイーダ「おかしいわね、マイナーの一人や二人いても良さそうなものだけど」

 

リーフ「来いって言ってたから、見張る必要もないって事かな?」

 

 

そんな事を話していると、地面に蜘蛛の巣のような影が映った。

 

リーフ・ダイーダ「「!!」」

 

 

それに気づいた二人が即座に飛びのいたのと、巨大な蜘蛛の巣が降ってきたのはほぼ同時だった。

 

 

ダイーダ「くっ、やっぱり!」

 

リーフ「メイジャー!!」

 

 

 

上空に現れた蜘蛛・蜂合体メイジャーは蜘蛛の巣が命中しなかったと見るや、さらに続けて刺し箸ほどのサイズの針をマシンガンのように彼女達に目掛けて発射してきた。

 

 

リーフ「あいつが会見場の人をさらったんだね」

 

ダイーダ「ぐすぐすしてられない。行くわよ!!」

 

その針をなんとかかわすと、リーフとダイーダは頷き合い距離をとった。

 

 

リーフ・ダイーダ「「ゴー!!」」

 

 

 

ジャンプしてトンボを切ったその瞬間、二人の体は光に包まれ、着地した時には姿が大きく変わっていた。

 

 

ショートカットだったリーフは、ボリュームのある濃いピンクの髪に変化し、着用している服も、ごく普通の服からフリルのついた赤を基調にしたドレスのようなものになっていた。

 

 

 

ダイーダのポニーテールは、一本から五本にまで増え、背中にかかるかかからないかだったそれも、腰まで伸びて金色になっていた。

 

 

そしてリーフ同様のデザインの純白を基調にしたフリルのついたドレスを着用していた。

 

 

 

そして怪物をキッと睨むと二人は名乗りをあげた。

 

 

リリーフ「闇を吹き消す光の使者 キュア・リリーフ!!」

 

ダイダー「悪を蹴散らす光の使者 キュア・ダイダー!!」

 

 

リリーフ・ダイダー「「ピンチ一発、大逆転! コズミックプリキュア!!」」

 

 

 

 

リリーフ・ダイダー「「ハアアア!!」」

 

 

勢いよく飛びかかったコズミックプリキュアだったが、その途端蜘蛛・蜂合体メイジャーは、小さな蜂に分裂して二人の攻撃をかわした。

 

 

ダイダー「なっ!?」

 

驚くダイダーをよそに、無数の蜂に分裂した蜘蛛・蜂合体メイジャーはしばらく二人の周囲を飛び交ったかと思うと、どこへともなく飛んで行ってしまった。

 

 

ダイダー「えっ? 逃げた?」

 

リリーフ「と、とにかく今のうちにさらわれた人達を」

 

 

ダイダーは戸惑いつつもリリーフの意見に賛成し、さらわれた人達の元へと向かった。

 

 

 

リリーフ「大丈夫ですか? しっかりしてください!!」

 

ダイダー「もう安心ですよ。東の方に行ってください。救援が来ていますから」

 

 

「おおっ、ありがとう助かったよ」

 

「でも、何人かはあいつらに連れてかれて…」

 

 

リリーフ「えっ?」

 

リリーフがその言葉に反応したのと、悲鳴が聞こえたのはほぼ同時だった。

 

 

節子「キャー!! 助けてー!! こら離せー!!」

 

振り返ると、ファルが節子を捕まえて枯れ井戸らしきものに押し込もうとしているところであった。

 

 

リリーフ「!! やめなさい!!」

 

それを見るや否やリリーフは飛びかかっていったが、一瞬遅くファルは枯れ井戸の中に入ってしまった。

 

 

ダイダー「待ちなさい!! 深追いしちゃダメ!!」

 

しかし、ダイダーの懸念も虚しくリリーフも躊躇なくあとを追っていった。

 

 

やむなくダイダーもあとを追おうとしたが、すでにその入り口はふさがっていた。

 

ダイダー「まずい!! 分断された」

 

 

敵の狙いを察知したダイダーだったが、そこにゴーロの声が響いてきた。

 

ゴーロ「へっ、単純なやつだぜ」

 

 

その声に振り返ると、ゴーロが気絶した河内警部を肩に担いで立っていた。

 

 

ダイダー「河内警部!! あんたその人に何したの!?」

 

ゴーロ「ちょっと眠ってもらっただけだ。こないだ世話になったからな」

 

ダイダー「ゴーロ!!」

 

そのまま地面に開いた穴に飛び込んでいったゴーロを見て、ダイダーも後先考えずその穴に飛び込んでいった。

 

 

 

 

第35話 終



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第36話 「マルチハンド強奪作戦 (中編)」

 

 

 

 

 

板当城 地下

 

 

 

ゴーロを追ってやっと人が一人通れるかというような狭い地下通路をダイダーは進んでいた。

 

ダイダー「こらーっ、待ちなさい!!」

 

ゴーロ「誰が待つか!!」

 

 

 

ダイダー「くっそ、電波がまるで通じない。リーフと通信ができないけどあの子大丈夫かしら」

 

 

しばらくすると、ゴーロの先は行き止まりになっており足が止まっていた。

 

ダイダー「ふっ、もう逃げられないわよ」

 

ゴーロ「へっ」

 

しめたと思ったダイダーだったが、ゴーロは行き止まりの壁をどんでん返しのようにくぐって逃げてしまった。

 

 

ダイダー「あっ!! こら」

 

慌てて追いかけようとしたダイダーだったが、ロックされてしまったらしい突き当たりの壁は頑丈でパンチで殴ってもビクともしなかった。

 

 

ダイダー「えぇい、丈夫な壁ね」

 

舌打ちをしそうな顔でそう呟いていると、すぐ後ろにも壁が降りてきてダイダーは閉じ込められてしまった。

 

 

ダイダー「えっ?」

 

 

すると戸惑う間もなく、頭上から重さ十数トンはあるような巨大な鉄球がダイダーを押しつぶさんと落下してきた。

 

 

ダイダー「くっ!! チェンジハンド・タイプレッド!!」

 

その掛け声とともにダイダーの両腕は一回り大きなゴツゴツした赤い腕に換装され、落下してきた鉄球をあっさりと受け止めた。

 

本来、災害時における瓦礫等の撤去を迅速に行うためのものであるレッドハンドには大型トラックをも片手で持ち上げるほどのパワーが秘められているのだ。

 

 

 

ダイダー「ヌゥオオオオ!! ダァリャア!!」

 

そしてそのままダイダーはその鉄球を上に向かって落下した時の勢い以上の速度で投げ返した。

 

 

ダイダー「よし、ハァッ!!」

 

鉄球が飛んで行ったのを確認すると、すかさずレッドハンドの怪力で突き当たりの壁をぶち破り、その先へと飛び込んだ。

 

 

 

ダイダー「ゴーロ!! 出てきなさい!!」

 

ゴーロ「さすがだな、ダイーダ」

 

その先の部屋でゴーロを探していると、部屋の上のほうの窓からゴーロが話しかけてきた。

 

 

ダイダー「!! その人を離しなさい!!」

 

気絶したまま肩に担がれていた河内警部を解放するよう叫んだダイダーだったが、ゴーロは下劣に笑い始めた。

 

ゴーロ「そうだな、テメェの態度次第だな」

 

ダイダー「なんですって? どうしようってのよ!?」

 

 

ニヤリと笑うとゴーロは要求を告げた。

 

ゴーロ「テメェのその赤い腕。何度も見てるがすげぇパワーだな。惚れ惚れしちまうぜ。どうだ、その腕とこの男を交換ってのは?」

 

 

ダイダー「なぁ!?」

 

 

予想の斜め上をいくゴーロの要求に素っ頓狂な声をダイダーは上げ、レッドハンドを見つめて考え込んでしまった。

 

 

ゴーロ「さぁ、どうした?」

 

 

ダイダー(たとえあいつに渡したって、マルチハンドは私とリーフでさえ互換性がない。どうせ使えっこないか)

 

そう考えたダイダーはとりあえず取引に応じることにした。

 

ダイダー「オッケー。渡すから河内警部を返しなさい」

 

そう告げると、ダイダーはレッドハンドをゴーロに向けて射出した。

 

 

 

ゴーロ「ガッハッハッ、確かにもらったぜ!!」

 

しかし、レッドハンドを受け取ったゴーロはそのまま河内警部を連れて行ってしまった。

 

 

ダイダー「!! 待ちなさい卑怯者!!」

 

 

何を今更というような感じもするだろうが、河内警部を助けたいという思いでダイダーの思考も多少鈍ったと考えておきたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リリーフ「うわーっ!!」

 

 

ファルを追って枯れ井戸に飛び込んだリリーフだったが、想像以上に深く落ち続けていた。

 

リリーフ「アイタ!! たたた…」

 

落ち続けること数十秒、ようやく止まったリリーフだったが腰を打ち付けてしまい痛みに顔をしかめていたが、すぐに周りの異変に気がついた。

 

 

リリーフ「あれ? わっ真っ暗」

 

 

リリーフの周辺は一筋の光もない闇の中で、リリーフのアイカメラを持ってしてもほとんど何も見えなかった。

 

 

手探りで周りを探り壁らしきものに手を当てた時、ハイパーリンク機能が作動しあるものに気がついた。

 

 

リリーフ「あれ? これは電気回線… 照明装置はあるんだ。ようし、チェンジハンド・タイプブルー!!」

 

その掛け声とともに、リリーフの両腕は稲妻模様の走った青い腕に換装され、そのまま壁にタッチした。

 

すると電流が流れ、たちまちのうちに照明が点灯して辺りを照らし出した。

 

ブルーハンドは、緊急時の非常用電源として開発されたレスキュー用装備のため、リリーフはいかな状況でも即座に電源を回復させることができるのである。

 

 

 

リリーフ「よし、これでよく見える。ファルを追いかけないと…」

 

ほっと一息をついたリリーフだったが、その瞬間助けを求める声が響いた。

 

 

節子「助けてー!!」

 

 

上から聞こえてきたその声に慌てて見上げると、節子が足を縛られて逆さ吊りにされていた。

 

 

リリーフ「ああっ!! じっとしててください、すぐ助けますから」

 

ジャンプして助けに行こうとしたリリーフだったが、ファルが物陰から現れそれを制止した。

 

 

ファル「待ちなリーフ。下手に動くとあの女の命はない」

 

その言葉によく上を見ると、壁から無数の銃口が突き出しているのが見えた。

 

 

リリーフ「ファル、あなた…」

 

 

 

ファル「あの女を助けたいなら条件は一つだ」

 

リリーフ「何よ!?」

 

 

ファル「あの能無しのジジイの作ったこのボディは不便でしょうがねぇ。その便利そうな青い腕と交換で返してやる」

 

ファルはリリーフのブルーハンドを指差してそう要求した。

 

 

リリーフは自分の腕を見つめると、ファルに念を押すように尋ねた。

 

リリーフ「本当にこの腕と引き換えにあの人を解放してくれるんだね?」

 

ファル「ああ、約束してやる」

 

 

 

その返事にリリーフは覚悟を決めた。

 

リリーフ「わかった。じゃあ1,2の3で交換だよ」

 

ファル「よし、1,2の…」

 

リリーフ「3」

 

 

3の声とともにリリーフはブルーハンドをファルに向けて射出し、ファルは銃口を構えていたマイナーに命じて節子を吊り下げていたロープを撃ち切らせた。

 

 

節子「ぎゃああああ!!!!」

 

 

頭から真っ逆さまに落下した節子だったが、それはリリーフにがっしりと受け止められた。

 

リリーフ「大丈夫ですか?」

 

節子「え、ええありがとう…」

 

 

節子の無事を確認すると、リリーフは睨みつけるように顔を上げながら怒鳴った。

 

リリーフ「ファル!! あなたなんてことするのよ!!」

 

 

しかし、そこにはファルの姿はすでになかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴーロを追ってさらに通路を進んでいたダイダーは、やがて一つの部屋にたどり着いた。

 

 

ダイダー「ここまで一本道だったけど、ゴーロのやつはどこに… 河内警部も無事ならいいけど…」

 

 

そんな心配をしていると、突如として左右の壁に穴が開いて何かが飛び出してきた。

 

それは子供の頭ほどの大きさの二匹の蜂であり、一匹は鋭く尖った針を連射してきた。

 

ダイダー「くっ、この針下手に刺さったら私の体も貫通しかねない」

 

 

必死に針をかわしていると、それを狙ってもう一匹の蜂が火の玉になってダイダーに突撃を仕掛けてきた。

 

 

その波状攻撃をなんとか避けると、ダイダーは両腕を噴射口のようなもののついた緑色の腕に換装した。

 

ダイダー「チェンジハンド・タイプグリーン!! 超高温プラズマ火炎、超低温冷凍ガス、同時発射!!」

 

 

右手から噴射したプラズマ火炎で針を連射してきた蜂を焼き尽くし、火の玉になっていた蜂は左手からの冷凍ガスで凍りつかせた。

 

 

ダイーダのグリーンハンドは、災害時の前線においての消火活動や金属製の扉などを焼き切ったりする作業に用いるものであり、単独でそれが行えるようにするための高性能である。

 

 

二匹の蜂の動きが止まったことを確認すると、ダイダーはあたりに呼びかけた。

 

ダイダー「ゴーロ!! 小細工はやめて出てきなさい!!」

 

 

すると一方の壁がせり上がり、河内警部を捕らえたゴーロが姿を現した。

 

ダイダー「河内警部!!」

 

 

河内「すまん… プリキュア」

 

 

捕まってしまったことを心底申し訳なさそうに詫びる河内警部を無視して、ゴーロはダイダーに要求を叩きつけた。

 

 

ゴーロ「こいつの命が惜しけりゃ、その緑の腕を俺によこせ!!」

 

 

ダイダー「ふざけんじゃないわよ!! 誰があなたの言うことを信じると思っんてのよ!!」

 

 

先ほどのことを忘れていないダイダーはそう怒鳴りつけたが、ゴーロは河内警部の首をつかんで持ち上げながら再度要求を繰り返した。

 

 

ゴーロ「聞こえねぇのか? こいつの命が惜しけりゃよこせ!! さもないと…」

 

 

河内「ぐあっ…」

 

首を絞められた上、全体重が首にかかった河内警部は苦しそうに呻き声を出した。

 

しかし、この状況でも目は死んでおらずゴーロを睨みつけていたが、そういつまでも持つものでないとダイダーもわかっていた。

 

 

ダイダー「えぇい、わかったからその人を放しなさい!!」

 

 

その叫びにゴーロは河内警部をつかんでいた手を離し、地面に落っことした。

 

河内「ゲホゲホ… プリキュア…」

 

 

咳き込んでいる河内警部のことなどもはや眼中にないように、ゴーロは同じことを繰り返した。

 

ゴーロ「おら、早くよこせ!!」

 

 

ダイダー「でぇい、持ってけ!!」

 

そう吐き捨てると、半ばヤケクソ気味にダイダーはグリーンハンドを射出した。

 

 

ゴーロ「ヘッヘッヘッ、ありがとよ」

 

 

グリーンハンドを受け取ったゴーロは、もう用はないとばかりに喜んで部屋を出て行った。

 

 

 

ダイダー「大丈夫ですか、河内警部?」

 

河内「すまん、俺なんかのために…」

 

ダイダー「気にしないでください。あなたのような立派な人を助けられれば惜しくありません。さっ、行きましょう」

 

 

自責の念に駆られていた河内警部を励ますと、ダイダーは脱出せんと先へ進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴーロ「おい、こっちはもう終わったぜ。そっちはどうだ?」

 

ダイダーのマルチハンドを奪いきったゴーロは、中央監視室のようなところで機械の操作をしているファルに尋ねた。

 

 

ファル「ああ、リーフの電撃を出す青い腕は奪った。今連中を外に出すようそれ以外の通路を閉鎖しているところだ」

 

 

 

ゴーロ「ん? リーフのやつの腕がもう一つあるだろう。それはどうした?」

 

ファル「ふん、どうせただのレーダーだ。そんなものあってもなくても大差はない。それに何から何まであのくたばりぞこないの言うことを聞くのも癪だ」

 

そのファルの言葉にゴーロももっともだというように頷いた。

 

 

ゴーロ「それもそうだ。じゃあ連中をバラバラにしてやるとするか」

 

 

 

 

 

 

 

リリーフ「しっかりつかまっててくださいね。もうすぐ出口ですから」

 

 

節子を背負い通路を猛スピードで走っていたリリーフは、空気の流れなどから出口が近いことを感じ取っていた。

 

節子「あ、ありがとう。助かりました(この子やっぱりどっかで見た気がするのよね。 次はこの子達のことを追っかけてみるか、今度こそ正体突き止めてやる)」

 

そうして通路の突き当たりにあった扉を開くと、そこは城跡の裏の原っぱであり、河内警部とダイダーがそこにいた。

 

 

ダイダー「よかった、無事だったのね?」

 

リリーフ「あれ? どうしてここにいるの」

 

ダイダー「どうしてじゃないわよ、後先考えないで。心配したんだからね」

 

 

 

河内「あんたもプリキュアに助けられたんですか?」

 

節子「ええ。あっそうだ、あなたたちプリキュアにも伝えたいことがあるんです。Dr.フライのことについて」

 

 

その言葉に一同の目つきが変わった。

 

 

河内「そういや、あんたそれを記者会見で話すって言ってたな」

 

リリーフ「Dr.フライの秘密って言ってましたけど」

 

ダイダー「いったいなんなんです? あいつの過去はある程度聞いてますけど」

 

 

節子「聞いて驚かないでください。実はDr.フライは…」

 

 

そこまで話しかけた瞬間、周辺から大量のマイナーが襲いかかってきた。

 

 

ダイダー「くっ、河内警部。その人を避難させてください!!」

 

河内「よしわかった、任せとけ。 さあこっちへ」

 

 

節子の避難を河内警部に任せると、リリーフとダイダーはマイナーの群れと戦い始めた。

 

リリーフ「やあっ!!」

 

ダイダー「だあああっ!!」

 

 

いつものようにマイナーと戦っていたリリーフとダイダーだったが、二人ともだんだんと違和感を感じ始めていた。

 

 

ダイダー「くっ、マルチハンドを換装できないから手こずって仕方ない」

 

リリーフ「えっ? そっちもなの!?」

 

悔しそうにそう愚痴ったダイダーにリリーフもまた驚きの声をあげていた。

 

 

いつもと違いマルチハンドで大量のマイナーを一度に倒せないため、一体一体を徒手空拳で倒すしかなく、二人はかなり苦戦していた。

 

 

 

河内「くそっ、こっちに来るな!!」

 

そうしている間にも、避難した河内警部のところにもマイナーは襲いかかっており、必死に拳銃で応戦していたもののマイナーには効果が薄かった。

 

 

ダイダー「河内警部!! でぇい邪魔よ!」

 

 

河内警部の危機を前に、ダイダーは駆けつけたかったのだが近くのマイナーに阻まれてしまい、進むことができなかった。

 

 

 

そんな時、どこからか発射されたビームの直撃を受け、河内警部に襲いかかろうとしていたマイナーが一瞬でアリに戻ってしまった。

 

節子「えっ? 何?」

 

 

豪「姉ちゃん大丈夫!? 捕まってた人は安全な場所まで運んだよ」

 

驚いた節子がビームの飛んできた方を見ると、ヘルメットをかぶりアンチマイナーガンを構えた豪がいた。

 

 

節子「あの子、前に海底基地を助けたヘルメット少年!!」

 

河内「プリキュアの仲間か」

 

 

豪「姉ちゃん達、加勢するよ!!」

 

豪はアンチマイナーガンを連射し、リリーフとダイダーの戦っていたマイナーを片っ端からアリに戻していき、援護を受けた二人も勇気付けられていた。

 

 

リリーフ「ありがとう」

 

ダイダー「助かったわ」

 

 

 

 

豪「ヘヘッ」

 

二人からの感謝の言葉に得意そうにしていた豪だったが、河内警部に肩を掴まれた。

 

河内「おいお前、あの二人が誰か知ってるのか? 教えろ、あいつらは誰だ!?」

 

ヘルメットで顔が隠れているせいか、豪と気づかぬまま河内警部は真剣にそう尋ねた。

 

 

節子「そうよ、教えなさい。みんな知りたがってるのよ」

 

 

豪「え、えと… それは… あ、危ない!!」

 

 

返事をするわけにいかず戸惑っていた豪だが、突如として箸ほどのサイズの針が飛んでくるのが見えたため慌てて叫んだ。

 

 

 

 

なんとかその針を避けた豪達には、蜘蛛・蜂合体メイジャーが上空からその針をマシンガンのようにコズミックプリキュアに目掛けて発射している光景が映った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイダー「くそっ!!」

 

リリーフ「あんな上じゃ、簡単に攻撃できないよ」

 

遠距離攻撃ができず、なんとか隙を見つけようと攻撃から逃げ回っていたリリーフとダイダーだったが、そんな彼女達目掛けて電撃の光線がどこからともなく飛んできた。

 

 

ダイダー「えっ!?」

 

リリーフ「これって!?」

 

 

なんとか直撃を避けたものの、発射されたものに驚愕していると、そこにファルの声が響いてきた。

 

 

ファル「へっ、リーフ。貴様のこの青い腕、思った以上に便利だなぁ」

 

その声に振り返ると、そこにはファルとゴーロを率いたDr.フライがいたが、

なんとファルはブルーハンドを装着していた。

 

 

リリーフ「な、なんで!? マルチハンドは私達でも交換できないのに!?」

 

リリーフとダイダーがありえないはずの光景に驚愕していると、Dr.フライが得意そうに笑った。

 

Dr.フライ「驚いたか!? 大天才であるわしの頭脳を持ってすれば、貴様らの武器の解析など簡単なことじゃ。それをこいつらに使えるようにしたのじゃ。やれ、プリキュアを破壊しろ!!」

 

ファル「ふっ、行くぞ! エレキ光線発射!!」

 

 

 

リリーフ「うわわっ!! わっ、わっ!!」

 

ダイダー「くっ!! やってくれる」

 

連続で次々と放たれる電撃光線をリリーフとダイダーは必死になってかわしていたが、やはり電撃より素早く動き続けることは不可能である上、合間を縫って仕掛けてくる蜘蛛・蜂合体メイジャーにも対応しなければならなかったため、ついに電撃の直撃を浴びてしまった。

 

 

リリーフ・ダイダー「「キャアアアア!!!」」

 

 

 

ゴーロ「今度は俺だ。いつもの礼をさせてもらうぜ!!」

 

ゴーロは両腕をレッドハンドに換装するとリリーフとダイダーに向けて突進していった。

 

 

ダイダー「な、なんの…」

 

リリーフ「負けるもんか…」

 

 

電撃のショックが抜けきらないものの、なんとか立ち上がった二人はゴーロに向かって大ジャンプし飛び蹴りを放った。

 

 

 

 

レッドハンドの超パワーは二人の飛び蹴りを物ともせず軽く受け止めてしまった。

 

ダイダー「なぁっ!?」

 

 

ゴーロ「どうした? ずいぶん攻撃が軽いぜ」

 

ゴーロは驚いたリリーフとダイダーの足を掴んだまま、勢いよく振り回し始めた。

 

 

リリーフ・ダイダー「「アアアアアア!!!」」

 

ゴーロ「へっ、飛んでいけ!!」

 

 

そのまま投げ飛ばされた二人は軽く百メートル以上飛んでいき、その先にあった崖に頭から突っ込んでしまった。

 

当然崖は崩れてしまい、瓦礫の中に二人は埋まってしまった。

 

 

豪「そんな!? あいつらがマルチハンドを使ってる!!」

 

節子「あれって、私達を助けるためにプリキュアが渡した腕よね…」

 

河内「くそ、俺達のせいで…」

 

 

驚きやら悔しさやらが入り混じった感情で、目を覆わんばかりの光景を見ていた一同とは裏腹に、Dr.フライは実に上機嫌であった。

 

 

Dr.フライ「ひゃっひゃっひゃっ。実に気分がいい、ズタボロになったプリキュアを見せれば遠藤のやつも悔しがるじゃろう」

 

 

 

第36話 終



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第37話 「マルチハンド強奪作戦 (後編)」

 

 

 

 

レッドハンドの怪力に大きく投げ飛ばされ、叩きつけられた瓦礫の中から何とか這い出して来たリリーフとダイダーだったが、今更ながらにマルチハンドの性能の高さに驚いていた。

 

 

ダイダー「敵に使われて初めてマルチハンドの性能がすごいってわかったわ」

 

リリーフ「ホント、博士って天才なんだね」

 

 

 

ゴーロ「まだまだ行くぜ、今度はこいつだ。凍り付け!!」

 

ゴーロは次にグリーンハンドを装着すると、左手をかざし超低温冷凍ガスを噴射してきた。

 

 

リリーフ「うあ…」

 

ダイダー「あ…」

 

 

その真っ白い超低温のガスをまともに浴びてしまった二人は、たちまちのうちに全身が凍りつき、身動きが取れなくなってしまった。

 

 

ファル「おやおや。プリキュア、ずいぶん寒そうだな。おい、今度は温めてやれ」

 

凍りついた二人を見て意地の悪そうにファルが言うと、ゴーロもその尻馬に乗った。

 

 

ゴーロ「おうそうしてやろう。俺は優しいからな、ありがたく思え」

 

するとゴーロは続けてグリーンハンドの右手をかざし、超高熱のプラズマ火炎を発射してきた。

 

 

 

リリーフ・ダイダー「「ギャアアアア!!!」」

 

 

その火炎で確かに二人の氷は一瞬で溶けたものの、全身が火だるまになってしまい、のたうちまわった。

 

 

ファル「遊びは終わりだ。メイジャーこいつらを片付けてしまえ!!」

 

そのファルの呼びかけに応えるように、蜘蛛・蜂合体メイジャーは雄叫びをあげて蜘蛛の巣を口から吐き出し、リリーフとダイダーを絡め取ってしまった。

 

 

リリーフ「うわっ!!」

 

ダイダー「くっ、動けない!!」

 

 

身動きが取れなくなってしまった二人に、蜘蛛・蜂合体メイジャーはとどめをささんとお尻の部分の特大の針を向けた。

 

 

 

 

豪「あっ、姉ちゃん達が…」

 

河内「くそう、銃は弾切れ… ん、そうだ小僧。さっきの銃を貸せ!!」

 

 

豪「えっ、あっ、うん。って、大丈夫なの?」

 

河内「なめるな、俺は警察官。銃のプロだ!!」

 

豪から手渡されたアンチマイナーガンを構えた河内警部は、そう力強く言い放った。

 

 

そしてその言葉通り、放たれたビームは的確にゴーロとファル、そして蜘蛛・蜂合体メイジャーに直撃し、一時的にだが動きを止めることに成功した。

 

 

ゴーロ「グア…」

 

ファル「くそ、これはこないだの…」

 

 

ゴーロとファル、そして蜘蛛・蜂合体メイジャーまでもが全身が麻痺してしまい動けなくなったのを見たリリーフとダイダーは、その隙になんとか拘束を解いて大ジャンプして距離をとった。

 

 

ダイダー「頼んだわよ!!」

 

リリーフ「オッケー!! チェンジハンド・タイプイエロー!!」

 

その掛け声とともに、リリーフの両腕が小さなロケットが装備された黄色の腕に変わった。

 

 

 

 

 

 

全身の痺れがとけて動けるようになったゴーロとファルだったが、イエローハンドを装着しているリリーフを見てせせら笑った。

 

ファル「馬鹿が。そんなもので何ができる」

 

ゴーロ「とうとうヤキが回ったらしいな」

 

 

しかし、そんな彼らをDr.フライは叱責した。

 

Dr.フライ「こりゃ!! あいつらの腕は必ず全部奪えと言うたじゃろうが!!」

 

 

ゴーロ「けっ、いちいちやかましいんだよテメェは」

 

ファル「あんなレーダー、あってもなくてもどうでもいいだろ」

 

 

 

自分達への注意がそれたその一瞬をリリーフは見逃さず、すかさず右手をかざした。

 

リリーフ「センサーアイ、発射!!」

 

 

勢いよく発射されたセンサーアイは、ゴーロ達の足元に命中した。

 

 

 

 

そして次の瞬間

 

 

 

 

 

ゴーロ「ぐおおおおおっ!!」

 

ファル「がああああっ!!」

 

 

打ち込まれたセンサーアイは大爆発を起こし、ゴーロとファルを大きく吹き飛ばし大ダメージを与えていた。

 

 

ファル「く、くそったれ… あれが小型ミサイルだったとは…」

 

ゴーロ「しかもなんて威力だ…」

 

 

倒れ伏し立ち上がることもできないほどのダメージを負ったゴーロとファルを見て、Dr.フライは怒鳴りつけた。

 

Dr.フライ「アホどもが!! 何があるかわからんから全てを奪えといったのじゃ!!」

 

 

 

リリーフ「よーし、もう一発」

 

リリーフは続けて左手をかざし、左手にセットされたセンサーアイを蜘蛛・蜂合体メイジャーに向けて発射した。

 

 

 

打ち込まれたセンサーアイは同じく大爆発を起こし、蜘蛛・蜂合体メイジャーは土手っ腹を抉り取られるような格好になってしまい、苦しそうな雄叫びと共に倒れこんでしまった。

 

 

このイエローハンドは、広範囲の被災地の様子を正確に把握することを目的に作られたものであるが、その際に発見した即座に向かえないような遠隔地の瓦礫等で埋まってしまった場所を撤去できるようになっており、この機能はそのためのものである。

 

 

 

リリーフ「これで撃ち尽くしちゃっただけど、うまくいったよ」

 

ただし、欠点として当然ながら両腕の分二発で打ち止めである。そのため弾切れという心配のないプルーハンドの存在もあり、普段これを武器として使わないのである。

 

 

 

 

 

 

ダイダー「これで十分よ。行くわよゴーロ!!」

 

センサーアイを撃ち尽くしたリリーフだったが、これで十分というようにダイダーは光のスティックのようなものを取り出した。

 

 

ダイダー「受けなさい。プリキュア・シャイニングスイング!!」

 

そう叫びながら、ダイダーはスティックを野球のスイングのように一振りした。

 

 

すると光の斬撃が飛んでいき、ゴーロに直撃しその体を切り裂いた。

 

 

ゴーロ「ぐああああっ!!」

 

 

 

それに続いて、リリーフは大きく振りかぶり虹色の玉を手に輝かせ始めた。

 

リリーフ「くらえファル!! プリキュア・レインボール!!」

 

 

そうしてリリーフは、ようやく片膝をついてなんとか立ち上がろうとしていたファル目掛けて、虹色の玉を亜音速で投げつけた。

 

 

ファル「ぎゃあああ!!!」

 

 

リリーフの投げつけた虹色の玉は、ファルの土手っ腹を貫通し駄目押しとでもいうべきダメージを与えた。

 

 

二人の必殺技の直撃をゴーロとファルはそのショックでメカニックの一部が故障したらしく、奪い取ったマルチハンドが飛び出していた。

 

 

リリーフ「しめた!! チェンジハンド・タイプブルー!!」

 

ダイダー「チェンジハンド・タイプレッド!! 続けてグリーン!!」

 

 

それを見た二人はすかさず、マルチハンドを奪い返した。

 

 

 

ダイダー「よし、異常なしっと」

 

リリーフ「やっぱりこうでなくっちゃ」

 

 

 

Dr.フライ「ううっ、まずい。ここは撤退じゃ」

 

旗色が悪いことを悟ったDr.フライは、ひとりこそこそと逃げ出そうとしていたが、その前に河内警部が立ちはだかった。

 

河内「どこに行く気だ、Dr.フライ。この河内が逃がしはせんぞ!!」

 

 

Dr.フライ「ええいどけ!! わしを誰だと思っとるか!!」

 

河内「ただの世界的テロリストだ!! この場で逮捕してくれる!!」

 

Dr.フライ「く、くそう… わしの偉大さをわからんアホめが…」

 

 

いつものセリフを一蹴されたDr.フライは、なんとか逃げ出そうとしていたが、それを見逃す河内警部ではなかった。

 

河内「おかしな動きをするな。さもなくば撃つぞ」

 

 

アンチマイナーガンを構えた河内警部だったが、それを見たDr.フライは笑い始めた。

 

 

Dr.フライ「ん? ぶひゃひゃひゃ!! その銃で撃つのか? そいつはマイナーやあのポンコツどもには効果があっても、物理的破壊力や殺傷力はないな」

 

河内「何ぃ!?」

 

 

豪「クゥッ、あいつそれを一目で…」

 

確かにDr.フライの言う通り、このアンチマイナーガンはマイナスエネルギーを浄化するものであり、反動がなく豪のような子供でも容易く扱えるものの、物理的破壊力は皆無である。

 

一種の安全装置であるのだが、それを一目で見抜いたDr.フライの眼力も敵ながら天晴れなものであった。

 

 

 

河内「でぇい、くそ!!」

 

豪の様子を見て、Dr.フライの言葉が真実だと悟った河内警部はヤケクソ気味に引き金を引き、Dr.フライに向けてビームを撃った。

 

 

Dr.フライ「ギャアアアア!!」

 

 

 

河内「あん?」

 

 

 

するとなぜか直撃を受けたDr.フライはダメージを受けてしまい、全身が麻痺して倒れこんでしまった。

 

 

豪「えっ!? なんで?」

 

 

その様子に豪は驚いていたが、一番混乱していたのはDr.フライだった。

 

 

Dr.フライ「な、なぜじゃ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リリーフ「ライナージェット、カノンモードスタンバイ!!」

 

ダイダー「ターゲットロック!! プラスエネルギーチャージ!!」

 

 

 

リリーフとダイダーはライナージェットを呼び出すと、カノンモードで保持し、合体メイジャーと未だまともに動けないゴーロとファルに照準をセットし、自分達のプラスエネルギーをチャージしていった。

 

 

 

 

リリーフ・ダイダー「「プリキュア・ウォークオフ・ブラスター!! ファイヤー!!!!」」

 

 

 

その掛け声とともに、ライナージェットから光の奔流とでもいうかのような、眩しくそして温かいエネルギー波が発射された。

 

 

しかし合体メイジャーは最後の力を振り絞るように、ゴーロとファルの盾になるように倒れこんだ。

 

 

ファル「くっ、撤退するぞ…」

 

ゴーロ「おう…」

 

 

苦痛に顔を歪ませながら、浄化されまいとばかりにゴーロとファルは撤退していった。

 

 

 

 

 

 

河内「Dr.フライ、このまま逮捕して連行してやる!!」

 

全身が麻痺してしまってしたDr.フライに馬乗りになり胸ぐらを掴みながらそう吠えた河内警部に、Dr.フライは怒鳴り散らした。

 

 

Dr.フライ「黙らんか!! わしこそがこの世界を暗黒に変え、君臨する大天才の…」

 

 

全く懲りもせず同じことを喚くDr.フライに、節子が吐き捨てるように言った。

 

 

節子「いいかげんにしろってのよ!! この大嘘つきが!!」

 

Dr.フライ「なんじゃと!? もう一度言ってみろ!!」

 

 

節子「何度でも言ってやるわよ!! あんたは大嘘つきのペテン師よ!!」

 

Dr.フライ「貴様、誰に向かって…」

 

節子「それはこっちが聞きたいわよ!! あんたは一体誰よ!?」

 

おきまりのセリフを遮るように節子は尋ねた。

 

 

Dr.フライ「あん? どういうことじゃ?」

 

 

ぽかんとしたDr.フライに節子は言い聞かせるように語り始めた。

 

 

節子「いろいろ調べさせてもらったわよ。Dr.フライ、本名フライ=ストラクアウト。 20年前同じ研究室の同僚の研究を盗用した咎で学会を追放。その後は強盗や詐欺まがいのことをして糊口をしのぎつつ、密かに研究を続けていた」

 

節子は、復興中のアメリカで仕入れてきた情報を次々と告げた。

 

 

節子「しかしそんなある日、根城にしていた廃工場で実験に失敗、爆発事故を起こした。その結果、その爆発に巻き込まれたことと崩れた工場の下敷きとなり…」

 

 

 

 

節子「死亡」

 

 

 

 

河内「なっ!?」

 

豪「えっ!? そ、それ本当!?」

 

 

節子の言葉に河内警部も豪も凍りついてしまい、豪は必死に絞り出すように尋ねた。

 

 

節子「間違いないわ。身元不明の死体として処理されていたし顔もかなり崩れていたけれど、当時の写真をコンピューター解析して復元してもらったら、まちがいなくそいつの顔だったわ!!」

 

 

節子はDr.フライを指差してそう叫んだ。

 

節子「さぁ答えなさい!! あんたは誰よ!! 何の目的でそいつになりすましてるの!?」

 

 

 

豪や河内警部も節子の言葉に驚愕していたが、一番驚いていたのはもちろん本人であった。

 

 

Dr.フライ「わしが死んでいた… 馬鹿な… しかしわしはこうして…」

 

 

 

誰もが動けないでいた中、不快感を感じる嫌な風が吹き始めた。

 

 

河内「ん? 何だこの風は?」

 

 

 

その風に一瞬気を取られた時、Dr.フライの姿は忽然と消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

遠藤「ぬぅわにぃ!!?? フライの奴が死んどったじゃと!?」

 

ラン「豪!! それ本当なの!?」

 

 

あの後、河内警部と節子を三冠号で送り届けた後研究所に帰還した豪は、聞いた話を全て話した。

 

 

豪「うん、間違いないって。 その時の死亡診断書もあるって言ってた」

 

 

京香「本当みたいです。見てください、今臨時ニュースでやっています」

 

京香先生の言う通り、テレビでは節子が改めて会見を開き、豪に語った話を再度語っていた。

 

 

 

ラン「で、でもDr.フライが本当に死んでたんなら、じゃあ、あいつは誰なの?」

 

豪「バカ言え、誰かがあいつのふりしてるんだよ。なんでかわかんないけど…」

 

 

遠藤「いや、あやつは間違いなくDr.フライ本人じゃ。わしが見間違えるはずはない!!」

 

ラン「じゃ、じゃあ、もしかして幽霊!?」

 

皆が色々言い合っていると、考え込んでいたリーフとダイーダがおもむろに口を開いた。

 

 

リーフ「生きている死体… もしかすると…」

 

ダイーダ「考えられるわね… あの男の単調な言動から察するに…」

 

 

京香「どういうことなの? 何か心当たりが?」

 

 

リーフ「はい、おそらくあいつは…」

 

 

 

 

 

 

海底 Dr.フライ秘密研究所

 

 

 

Dr.フライ「パーフェクト!! わしが死んでいたとはどういうことじゃ!?」

 

海底の秘密研究所に帰還したDr.フライはパーフェクトに対してそう叫んだ。

 

 

 

パーフェクト「ほう、ようやく気がついたか。どうもこうもないそういうことだ」

 

 

Dr.フライ「それで納得がいくか!! ん? まさか貴様が!?」

 

 

パーフェクトの答えにある推測を立てたDr.フライに対して、ファルとゴーロがせせら笑いながら答えた。

 

 

ゴーロ「そういうことだ。テメェはとっくに死んでんだよ」

 

ファル「死体となっていた貴様にパーフェクト様がマイナスエネルギーを取り付けて蘇らせたのさ。この世界の時間で5年前にな。 いわば貴様は死体メイジャーだ」

 

 

自分の推論が当たっていたとはいえ、その言葉にDr.フライは愕然とした。

 

 

Dr.フライ「ば、馬鹿な… なぜそんなことを?」

 

 

 

パーフェクト「決まっている。この世界に進行するにあたって水先案内人が必要だったのだ。貴様の死体には死してなお高濃度のマイナスエネルギーが蓄積していた。それに目をつけ貴様を蘇らせ、この基地やそいつらのボディを作らせたのだ」

 

 

Dr.フライ「なぁっ!?」

 

 

ゴーロ「そういうことだ。テメェはハナからそのための存在だ」

 

ファル「せいぜいこれからも役に立て、大天才様。自分を事あるごとに大天才というのもメイジャー化した影響だ。もっともその自慢の頭もパーフェクト様のおかげだがな」

 

 

そうしてゴーロとファルはDr.フライを見下して嘲笑ったが、Dr.フライはやがて小刻みに震えだした。

 

 

ファル「ん? どうした」

 

 

Dr.フライ「フハハハハハハ!!! 愉快じゃ!! 実に愉快じゃ!!」

 

 

ゴーロ「ん? ついにおかしくなったか」

 

 

 

突然笑い始めたDr.フライに首を傾げたゴーロだったが、当のDr.フライは堂々と言い放った。

 

 

Dr.フライ「これが笑わずにいられようか。死してなお、この世界への復讐をやり遂げられるとはな。そしてその思いある限りわしは不死身ではないか。感謝するぞパーフェクト!! ヒャーッハッハッハッ!!!」

 

 

ゴーロやファルが戸惑いの表情を向ける中、Dr.フライは一人満足そうに笑い続けた。

 

 

 

 

第37話 終

 



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第38話 「親子ゲンカにご用心 (前編)」

 

 

 

 

警視庁

 

 

 

河内「私は断固として反対です!!  部長、再検討を行ってください!!!」

 

河内警部が必死の形相で、上司に何かを食ってかかっていた。

 

 

上司「これは決定事項なのだよ。今更君一人の反対で覆るようなことではない。それに君だって事情は理解しているだろう」

 

 

河内「そ、それは確かに… あの次元皇帝パーフェクトの一派どもとは幾度となく関わり、煮え湯を飲まされ無力さに悔し涙を流してきました。ですから…」

 

上司「警察としても市民の安全を守るという義務がある以上、戦力の増強を考えねばならん。あのDr.フライが本当は何者なのかは知らんが、少なくとも連中は国際的なテロ集団であることだけは確かだ。事態は国内だけの問題ではない、海外の頭脳や力を借りて協力して対抗する必要がある。それぐらいはわかるだろう」

 

 

そこまでは河内警部も理解しているし納得もしていた。

 

問題はその先なのである。

 

 

河内「自分とて馬鹿ではありません。そこまでは理解もしておりますし、賛成であります。ですがその先です。なぜコズミックプリキュア、彼女達までもが確保及び迎撃の対象にならねばならんのですか!? 彼女達は我々のために戦ってくれている味方ですぞ!! 何度も助けられた私が言うのだから間違いありません!!」

 

 

河内警部は机を力任せに何度も叩きながら叫んだ。

 

 

上司「そう一方的に決めつけるのは短絡的すぎる。私だって彼女達の言動を見ていれば信じるに足る存在であることはわかっている」

 

河内「ならばなぜ!?」

 

上司「だが、ならばなぜ彼女達は堂々と正体を明かして行動しようとしないのかね?  そして彼女達は本当に正義感だけで戦ってくれているのかね? 正体も目的も正確にわからん存在を無条件に信じることはできない、万が一の事態に備える必要がある。そういうことだよ。 私だってプリキュアが敵にならないことを祈っているのだよ」

 

 

その言葉に、河内警部は押し黙るしかなかった。

 

 

 

 

 

上司「すでにこの件に対しての専門家とでもいうべき存在が、日本に向かってきているそうだ。君は至急迎えに行くと共に警視庁までの護衛を行うように」

 

 

そう言って上司は一枚の写真を出した。

 

 

その写真の少女は中学生ぐらいの年齢で、日本人によく似た顔立ちをしていたが、髪はプラチナブロンドのロングヘア、右目が赤で左目が青のオッドアイであった。

 

 

 

河内「誰ですか? この中学生は?」

 

写真を受け取った河内警部はそれに写っていた日本人離れした外見の少女を見て、怪訝そうな顔をして尋ねた。

 

 

上司「君の護衛対象だ。名前は四季(し き) ゆう。詳しいプロフィールはトップシークレットだが、この件に関しての専門的な知識や技術を学習した存在ということだそうだ」

 

河内「こ、こんな子供がでありますか!? 納得できません!!」

 

 

上司「例のコズミックプリキュアの二人も同じぐらいの年だろう。とにかくあと数時間で到着するらしいから至急港に行くように。新年早々申し訳ないが、いいね」

 

 

 

 

 

命令には逆らえず、憮然としつつも河内警部は部下を率いてその少女の乗った船 ダイヤモンド号が到着するという予定の港へと向かった。

 

 

河内「全くなんで今時飛行機で来んのだ? 天才少女なのかもしれんが理解できん」

 

 

 

 

 

 

 

甲子市

 

 

ある男性がスマホのマップアプリを起動しながら街中を歩いていたが、目的地になかなかたどり着けないようで、キョロキョロと辺りを見回していた。

 

 

「やれやれ、ほんの5年ほどで街並みも変わるもんだなぁ。子供の頃から住んでた街なのに、道に迷うとは思わなかったな。 年明けで人通りも少ないし、さて…」

 

 

 

そんなことをぼやいていると、ようやく両手いっぱいに買い物をぶら下げたメガネをかけた少女を見つけた。

 

「あっ、おぉい君」

 

 

 

 

リーフ「はい?」

 

彼が話しかけたのは、ランから買い物を頼まれていたリーフであった。

 

 

 

「ちょっと聞きたいんだけど、この家はどこにあるのかな? 道に迷ってしまってね」

 

 

差し出されたスマホに表示されていた住所を見て、リーフはにっこりと微笑んだ。

 

リーフ「ああここなら知ってます。ご案内しますよ」

 

 

 

「いやぁ助かったよ。しばらくぶりに日本に帰ってきたら街並みがかなり変わってたもので、道に迷ってしまってね」

 

 

リーフ「そうですか、パーフェクトの関係で街を離れていく人もいるようなので…」

 

 

どこか暗い表情でうつむきながらリーフはぼそぼそと告げた。

 

 

リーフ(私達がパーフェクトをもっと早く倒していれば、ここの世界の人達をこんなに苦しめることはなかった。情けないな…)

 

 

むしろ実際には、彼女達のおかげで被害がこの程度で済んでいるのだが、救えなかった命があったことも確かであるためリーフは心を痛め続けていたのだ。

 

 

「ああ、あのテロ集団か。しかし心配しなくていいよ、もうすぐあいつらはいなくなる。連中への対策が完成したからね」

 

暗い表情を浮かべていたリーフに、男の人は励ますように言った。

 

 

リーフ「えっ? 本当ですか?」

 

「ああ、本当さ」

 

 

自信満々に語るその態度を見て、リーフは嬉しく思っていた。

 

リーフ(この世界の人が自分達でパーフェクトと戦う手段を手にしようとしてる。すごいことだなぁ)

 

 

 

そしてしばらくのち、二人は目的地の家にたどり着いた。

 

 

「全く父さんってば、こんな崖の上に家なんか建てて。ごめんねこんなところまでつき合わせちゃって。荷物重かったでしょ」

 

両手いっぱいに荷物を抱えたリーフに申し訳なさそうに謝ったが、当のリーフは全く気にしていなかった。

 

リーフ「いえ、これぐらいなんてことありませんから。じゃ私はこれで」

 

そうして頭を下げると、リーフは目の前の家のドアを開けた。

 

 

リーフ「ただいま〜。ランちゃん、買い物行ってきたよ〜」

 

 

 

 

その言葉にリーフに案内されてきた男の人は目を白黒させていた。

 

「…ここで間違ってないよな、こんな無駄な看板も出てることだし…」

 

 

そのドアのところにかけられた看板にはデカデカとこう書いてあった。

 

 

「遠藤平和科学研究所」と

 

 

 

 

 

 

 

ラン「ああ、リーフさんありがとう。ちゃんと買ってきてくれた」

 

リーフ「うん、何度も確認したから大丈夫。あっ、それとお客さんだよ」

 

その言葉に入口の方を見たランは驚きの声をあげた。

 

 

 

ラン「お父さん!?」

 

 

 

 

 

 

 

遠藤「なんじゃ央介、帰ってくるなら連絡ぐらいよこせばいいのに。まぁせっかく年明けに帰ってきたんじゃ、ゆっくりしていけ。ラン、おせちの残りはまだあったか?」

 

ラン「まだあるわよ。ちょっと待っててね」

 

 

台所でおせちの残りを準備しているランに、リーフと京香先生は何気なく話しかけていた。

 

京香「あれがあなたのお父さん? カナダに行ってるっていう」

 

ラン「はい、そうです。リーフさん案内してくれてありがとう」

 

リーフ「どうしまして。しばらくぶりでお父さんに会えて嬉しいんじゃない?」

 

ラン「まぁね。手紙や電話は時々してたけど、やっぱり会えるのは嬉しいわ」

 

その言葉に、リーフはウンウンと頷いていた。

 

 

リーフ「そうだよね。お父さん…か」

 

 

どこか遠い目をしているリーフに、京香先生はふと尋ねた。

 

京香「そっか、あなたも元の世界にお父さんがいるのよね」

 

リーフ「うん。私が特別警備隊員になってからは、あちこちの世界を飛び回ることになっちゃって、もうずっと会ってないけど」

 

ラン「そうなんだ… リーフさんも会いたい? お父さんに」

 

リーフ「会いたくないって言ったら、嘘になるかな。やっぱり…」

 

どこか寂しそうなリーフを見て、ラン達はそれ以上何も聞けなかった。

 

 

 

遠藤「いやぁしかし久しぶりじゃな。元気そうでなによりじゃ、ランのお母さん、珠子さんも一緒に帰って来ればよかったのに」

 

遠藤博士は久しぶりに帰ってきた息子を歓迎していたが、当のランの父親 央介は渋い顔をしていた。

 

 

 

央介「前置きは終わりにしましょう。お父さん、あの二人はなんですか?」

 

遠藤「あの二人とは?」

 

央介「あのメガネをかけた女の子と女性の方です! まさか妙な弱みでも!!」

 

人聞きの悪いことを言い放った央介に、遠藤博士も反論した。

 

 

遠藤「変なことを言うな!! あの二人は世界平和というわしの考えに共感して協力してくれとるんじゃ!!」

 

央介「またそんな妄想を!! 母さんが事故で死んでからそういう研究に熱を入れたのはわかりますけど、一人でできることになんか限度があるでしょう!!」

 

遠藤「お前は父親の才能をバカにしおって!!」

 

央介「バカにもします!! 失敗作のガラクタばかり作って!! 何かまともなものを作ったことがあるんですか!?」

 

遠藤「ぐっ!! それは…」

 

 

遠藤博士の作ったものは現実に素晴らしいものがあり、世界の危機を幾度となく救っているのだが、それを堂々主張できず押し黙ってしまった。

 

 

央介「ほらごらんなさい。僕と妻でさえあれを作るのにどれだけの援助が必要だったか」

 

 

親子ゲンカを聞きながら、京香先生はランにこそこそと尋ねた。

 

京香(博士の奥さんって事故で亡くなられてたの?)

 

ラン(うん。お医者さんだったんだけど、車に撥ねられそうだった子供を助けてその代わりに…)

 

リーフ(そうなんだ… だから私達みたいなのを作ったのかな、人助けで助けた方が死んだりしないように)

 

 

 

 

央介「とにかく!! ランは連れて行きます!! これ以上お父さんのようないい加減な人に任せられません!!」

 

突然の発言に一同は耳を疑った。

 

ラン「えっ!? 連れて行くって!?」

 

 

遠藤「突然何を言うか!! そもそもじゃ、夫婦揃って仕事で海外に行くことになった時に、ランには日本の学校に行かせてやりたいと言ってわしに預けたのはお前本人じゃろうが!!」

 

央介「それは私の間違いでした!! やはり親子は一緒に暮らすべきです!!」

 

 

そう怒鳴るとランの方に振り向き、笑顔で告げた。

 

央介「ラン、一緒にカナダへ行こう。実はお前にとびっきりの知らせがあるんだ。新しい家族が増えるんだぞ」

 

 

ラン「えっ!?」

 

京香「まぁおめでとうございます」

 

遠藤「ほうそれは確かにめでたい」

 

めでたい知らせに皆が喜びの声を上げる中、央介は続けた。

 

 

央介「今こっちに向かってきている。すぐに会えるぞ」

 

遠藤「ん? 待て。お前は珠子さんを一人でこちらに向かわせとるのか!?」

 

央介「それが?」

 

そのあっさりした返事に、遠藤博士は激昂した。

 

 

遠藤「お主は何を考えとる!? この物騒な時によりにもよってそんな危険なことを!!」

 

 

央介「パーフェクトとか名乗る連中のことですか。もうその心配はいりません。僕らが全てを解決してみせますから」

 

遠藤「何を偉そうに、この若造が! お前ごときに何ができる!!」

 

央介「お父さんよりはマシです!!」

 

 

 

 

 

 

再び親子ゲンカが再開される中、リーフが首を傾げていた。

 

リーフ「ランちゃんとお父さんは仲がいいし、ランちゃんと博士も仲がいいのにどうして博士とお父さんで喧嘩になるのかな?」

 

京香「その理由が簡単にわかれば、世界はあっという間に平和になるんでしょうけどね…」

 

 

リーフの質問にため息をついていた京香先生はふと気がついた。

 

 

京香「そういえばダイーダさんは? 私が来た時から姿が見えないけど」

 

リーフ「新年の挨拶だって言って、豪くんのところに行ってるよ

 

ラン「やめといたほうがいいって言ったんだけどね…」

 

 

ランもまた、速田家で騒ぎが目に浮かび大きくため息をついた。

 

 

 

 

 

速田家

 

 

 

その頃、ランの反対を押し切り豪に新年の挨拶に行くと言ったダイーダは豪の母親に門前払いを食らっていた。

 

 

ダイーダ「どういうことなんでしょうか? この世界の暦で一周前の日にお世話になった人に挨拶に来ただけなんですが」

 

 

豪母「どうもこうもありません!! 全く変に回りくどい言い方して」

 

 

そこで一呼吸おいて続けた。

 

豪母「いいですか? あなた方と付き合いだしてから豪の成績が下がる一方。夜も遅くなることがあるし、変な遊びに付き合わせてるんじゃないでしょうね?」

 

 

その言葉にダイーダは毅然と反論した。

 

ダイーダ「まさか。遊びなどでは決してありません。この世界のため、ひいては豪自身のためにもなることです」

 

 

しかし、その反論は火に油を注ぐだけだった。

 

 

豪母「何が豪のためですか!? ここ最近テストでは半分もろくに取れない有様ですよ!! あなたもいい年してお父さんのところでフラフラと遊んでないで、学校にきちんと行ったらどうですか!?」

 

 

豪「いやあのね。ダイーダ姉ちゃんは決して遊んでいるわけじゃ…」

 

その会話をこっそり聞いていた豪はおずおずと話しかけたが、母親にひと睨みされてしまい小さくなってしまった。

 

 

ダイーダ「学校なら私はとっくに卒業しています。それにあそこではどんな学校に行くよりも多くのことを学べます」

 

 

その言葉に豪の母親は呆れたように漏らした。

 

 

豪母「どうだか。お父さんのガラクタ作りを手伝って何が学べるのかしら。一度あなたの親に会ってみたいですわ」

 

 

その言葉にダイーダはどこかカチンときたように返した。

 

ダイーダ「私も一度会ってみてもらいたいですね。あなたのような親にはきっといい影響を与えると思いますから」

 

 

豪母「何ですって!? 私が親としてなっていないみたいなものの言い方をしますね!?」

 

ダイーダ「そう言っています。わからないならあなたはその程度の親ということではないですか?」

 

 

豪母「な、な、な、何と失礼な!!! どういう意味ですかそれは!!!」

 

豪の母はダイーダの言葉に怒りで肩を震わせながら怒鳴りつけた。

 

 

豪「ぴ〜え〜…」

 

目の前での舌戦を間近で聴いていた豪は、生きた心地がしなかった。

 

 

 

 

第38話 終



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第39話 「親子ゲンカにご用心 (後編)」

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

 

央介「何度も言いますが、ランは私が引き取ります!! いいですね!!」

 

遠藤「ええかげんにせんか!! 勝手ばかり言いおって!! ランの事を考えたことがあるのか!?」

 

 

遠藤博士の言葉に、央介は何かを閃いたような顔をした。

 

 

央介「じゃあランに決めさせましょう。ラン、お前はお父さんと来るよな」

 

 

にっこりとランの方に振り返りそう言った央介だが、当のランは戸惑っていた。

 

 

ラン「い、いきなり言われても…」

 

先ほどから突然の話ばかりで混乱していたランを見て、リーフが一歩前に出て告げた。

 

 

リーフ「ぶーっ!! ランちゃんも困ってますよ。少し時間をあげてください」

 

 

央介「う、うむ。わかった少し時間をおこう。もうすぐ母さん達も到着するだろうからな」

 

 

リーフの言葉に少し興奮も治まった央介だったが、続けて言葉に再び興奮した。

 

 

リーフ「でも、ランちゃんのお父さんってずいぶん勝手な人なんですね」

 

央介「何ですって!? 君はいきなり失礼だろ!!」

 

 

京香「ちょっとリーフさん」

 

京香先生が止めるのも聞かず、リーフは話し続けた。

 

 

リーフ「だって、そうじゃないですか。自分は遠藤博士のところから離れてるのに、ランちゃんはいけないんですか? それにランちゃんを引き取ろうっていうのも自分の都合みたいですよ」

 

ラン「リーフさん…?」

 

 

皆が静かになった中、リーフの話は続いた。

 

 

リーフ「私が進路を決めた時には、みんなが大反対しました。先生も友達も誰も賛成してくれませんでした。でも、両親だけは違ったんです」

 

央介「賛成してくれたということかね?」

 

央介の問いかけに、リーフはゆっくりと首を横に振った。

 

リーフ「いいえ、そうじゃないです。反対しなかったんです。私の好きにやれって」

 

 

 

 

 

 

 

ダイーダ「私の両親は周囲が反対する中、賛成も反対もしませんでした。ただ一つ、『私の好きにすればいい。ただし責任を持て』とだけ言いました」

 

豪母「何それ? ただの放任じゃないですか」

 

ダイーダの話を一笑に付した豪の母だが、ダイーダは構わず続けた。

 

 

ダイーダ「ですが、少なくとも私の意思を尊重し、何かあっても私の居場所であってくれると言ってくれました。でもあなたはどうですか? 豪のためと言いながら、一番気にしているのは自分の体面じゃないですか?」

 

 

その言葉にある種の図星をつかれた豪の母は押し黙ってしまい、ダイーダの言葉に全く反論できなかった。

 

 

ダイーダ「豪には自分の意思があります。もちろん、今の豪にやらなければならないことや学ばなければならないことはまだまだ多くあるでしょう。でも、あなたが親だからといって、その学ぶべき全てのことやその学び方を決める権利はないはずです」

 

 

その言葉にぐうの音も出なくなった豪の母親を見て、豪の父親が笑いながら家から出てきた。

 

豪父「ハハッ。一本取られたな。しかし君は今時に珍しいしっかりした子だな。お義父さんも人を見る目はあるということかな」

 

豪「父さん…」

 

 

豪父「豪、ダイーダさんに上がってもらいなさい。それと、学校の勉強もきちんとすること。いいな?」

 

豪「うん!!」

 

 

父親の言葉に、豪は力強く頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

リーフ「私はそんな両親のことを心から尊敬して感謝しています。あなたもランちゃんにとってそんな親であってほしいです」

 

央介「う〜む…」

 

その言葉に、央介はうなり声とともに考え込んでしまった。

 

 

 

 

 

ラン「リーフさん…」

 

遠藤「やれやれ、こっちも耳が痛いのう」

 

 

遠藤博士が苦笑していると、今に備え付けてあったマイナスエネルギー検知器が突如としてけたたましい音を発し始めた。

 

 

央介「な、なんですか、このガラクタは!? 突然鳴り出して」

 

 

遠藤「ええい。こんな時に何事じゃ!?」

 

慌ててテレビをつけると、ニュース速報が流れていた。

 

京香「東京湾沖を航海中の船ダイヤモンド号が巨大な怪物に襲撃… これは!?」

 

 

 

そのニュースを見て央介はテレビにつかみかかった。

 

央介「な、何? ダイヤモンド号!? 珠子が乗ってる船です!!」

 

 

央介の叫びにランは真っ青になった。

 

ラン「えっ!? お母さんが!?」

 

京香「そんな!?」

 

 

遠藤「リーフ!! 大至急… って、えぇい!!」

 

央介の手前、あまり大げさなことはできず遠藤博士はリーフに耳打ちした。

 

 

遠藤(裏口からライナージェットを担いで出撃しろ。ダイーダには緊急通信で連絡して途中で拾っていけ)

 

リーフ(了解)

 

 

リーフは頷くと地下の格納庫へと向かって行き、ライナージェットを背負って央介に見つからないよう裏口から出て行った。

 

 

リーフ「急がないと… ライナージェット発進!! ダイーダちゃん応答して!!」

 

 

研究所から少し離れたところでライナージェットにサーフィンのように乗ると、ダイーダに緊急通信を入れた。

 

 

 

 

 

その頃、ダイーダもまた速田家でニュース速報を見て事態を把握していた。

 

 

豪「怪物ってまさか」

 

ダイーダ「ええ、きっとパーフェクトだわ。 ん?」

 

 

速田家にも緊張が走る中、ダイーダにリーフからの緊急通信が入った。

 

 

ダイーダ「ええ、こっちもニュースで見たわ。なんですって!? ランのお母さんがあの船に乗ってる!? わかったわ、すぐ合流する」

 

豪「って、姉ちゃん今の話本当?」

 

ダイーダ「ええ、こうしちゃいられないわ」

 

 

 

豪母「…あなた誰と話してたの? それにランちゃんがどうしたの?」

 

突然独り言を言いだしたダイーダに首をかしげていた豪の母だが、その疑問に答える間もなく、ダイーダは飛び出していった。

 

ダイーダ「すいません。私行きます!!」

 

 

豪母「ちょっと、質問に答えなさいよ!!」

 

飛び出していったダイーダを追いかけようとした豪の母だが、ダイーダは一瞬で視界から消えていた。

 

 

豪母「足の速い子ね…」

 

豪「ま、まあね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

東京湾沖

 

 

日本に向けて航行中だったダイヤモンド号は、蛸の足のような触手を生やした巨大なカニといったキメラ怪物に襲われていた。

 

 

船全体がその蛸の足のような触手に絡め取られてしまっており、乗客たちはパニックの中避難しようとするも、その足に阻まれてしまい救命ボートにたどり着くこともできなかった。

 

 

おまけにその怪物は巨大なハサミを何度も船体に振り下ろしてきており、船全体がきしみ始めていた。

 

 

乗客「まずいぞ!! このままじゃ沈没も時間の問題だ!!」

 

乗客「誰か助けてー!!」

 

 

 

珠子「まずい、このままじゃ… せめてあれだけでも…」

 

この船に乗り合わせていたランの母、珠子は何かを守るように揺れる船内を壁伝いに必死に歩いていた。

 

 

すると、蛸・カニ合体メイジャーが船体を抑えている中、ゴーロがぞろぞろとマイナーを率いて船内に乗り込んできた。

 

 

ゴーロ「この船に乗っているはずだ。とっとと探してこい!!」

 

ゴーロがそう命ずると、マイナー達は混乱している乗客に目もくれず、何かを探し始めた。

 

 

乗客「なんだあいつら? 誰かを探しているのか?」

 

 

その間にも、蛸・カニ合体メイジャーは船体をギリギリと締め付けており、側面にはヒビが入り出していた。

 

 

船長「くっ、海上自衛隊はまだか? もうもたんぞこれは」

 

船長以下乗員全員が焦る中、空に何か光るものが現れた。

 

 

乗員「ん? 何だ? 今何か光ったぞ!!」

 

それはたちまちのうちに船に接近し、近くを飛び回ったかと思うと、船体を絡め取っていたタコの足を片っ端から切断していった。

 

 

乗員「おい、あれは!?」

 

乗員「コズミックプリキュア、来てくれたんだ!!」

 

 

 

 

ダイーダ「よし、これで救助船が来るまでの時間は稼げそうね」

 

リーフ「でも浸水が始まってるし、もう沈むのも時間の問題だよ。せめてあのメイジャーを倒さないと」

 

 

ライナージェットで蛸・カニ合体メイジャーの周辺を飛び回り、翼にコーティングした空気の刃で蛸の足を切断したリーフとダイーダだったが、時間的猶予がほとんどないことも理解していた。

 

 

ダイーダ「ええ、速攻で決めるわよ!!」

 

リーフ「うん!!」

 

 

リーフ・ダイーダ「「ゴー!!」」

 

 

 

その掛け声とともに、二人はジャンプしてトンボを切りライナージェットから船の甲板へと飛び降りた。

 

 

そしてジャンプとともに光に包まれた二人は、着地した時には姿が大きく変わっていた。

 

ショートカットだったリーフは、ボリュームのある濃いピンクの髪に変化し、着用している服も、ごく普通の服からフリルのついた赤を基調にしたドレスのようなものになっていた。

 

ダイーダのポニーテールは、一本から五本にまで増え、背中にかかるかかからないかだったそれも、腰まで伸びて金色になっていた。

 

 

そしてリーフ同様のデザインの純白を基調にしたフリルのついたドレスを着用していた。

 

 

 

そして怪物をキッと睨むと二人は名乗りをあげた。

 

 

リリーフ「闇を吹き消す光の使者 キュア・リリーフ!!」

 

ダイダー「悪を蹴散らす光の使者 キュア・ダイダー!!」

 

 

リリーフ・ダイダー「「ピンチ一発、大逆転! コズミックプリキュア!!」」

 

 

 

 

コズミックプリキュアが到着したのを確認したゴーロは、マイナー達に作業を急がせていた。

 

ゴーロ「来やがったか。連中がメイジャーの相手をしている間に終わらせるんだ。急げ!!」

 

 

蛸・カニ合体メイジャーは変身完了した二人を見ると、蛸の足を切り飛ばされたお返しとばかりに、巨大なハサミを振り下ろしてきた。

 

 

ダイダー「甘い、チェンジハンド・タイプレッド!!」

 

その掛け声とともにダイダーの両腕は一回り大きなゴツゴツした赤い腕に換装された。

 

そしてそのレッドハンドの怪力に、振り下ろされたハサミはあっさり受け止められ、逆にたたき折られた。

 

 

 

悲鳴とともにのけぞった蛸・カニ合体メイジャーに続けてリリーフの飛び蹴りが炸裂した。

 

リリーフ「ヤアアアア!!」

 

 

その一撃で蛸・カニ合体メイジャーは大きく吹き飛んだ。

 

 

リリーフ「よし止めだよ!!」

 

蛸・カニ合体メイジャー船から完全に引き剥がすことに成功したことを確認すると、リリーフはダイダーに向き合うと大きく振りかぶり、手の中に虹色の玉を輝かせ始めた。

 

 

 

リリーフ「ダイーダちゃん!!」

 

そしてそのまま、その虹色の玉をダイダーに向けて亜音速で投げつけた。

 

 

ダイダー「任せなさい!! ダァリャア!!」

 

するとダイダーは、リリーフの投げてきた玉を、取り出した光のスティックを一振りして蛸・カニ合体メイジャーに向けて打ち返した。

 

 

打ち返された虹色の玉はひとまわり大きくなり、蛸・カニ合体メイジャーに直撃すると全体を包み込んだ。

 

 

リリーフ・ダイダー「「プリキュア・レインボー・ツインバスター!!」」

 

 

そう二人が叫ぶと、蛸・カニ合体メイジャーを包み込んだ光は目も眩まんばかりに激しく輝き始め、ついには大爆発を起こした。

 

 

 

リリーフ・ダイダー「「ゲームセット!!」」

 

 

 

その後、リリーフとダイダーは遅ればせながら救助に来た海上自衛隊の船に乗員乗客の避難を行ったのち、ライナージェットで帰還した。

 

 

乗員「いやぁ、さすが噂通り。おかげで助かりましたね」

 

船長「うむ。船を失い、積荷も一部失ってしまったが、お客様がご無事で本当に良かった。彼女達には感謝しなければな」

 

 

乗客たちも、中には荷物を失ってしまったことに憤るものもいるにはいたが、大半は命拾いしたことを喜び、コズミックプリキュアに感謝していた。

 

 

珠子「まぁ命あっての物種だし、ある程度の諦めもつくけれども… やっぱりここまで来て悔しいわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

警視庁

 

 

 

河内「は? 来日は延期… でありますか?」

 

上司「そうだ、今しがた先方から連絡が入った。件の船がパーフェクトの一味に襲われたため、来日は無期限延期ということだそうだ」

 

ため息混じりに河内警部の上司は話を続けた。

 

上司「全く、仮にも連中と戦おうというものが襲われたことで引き返すとは。専門家が聞いてあきれる」

 

 

河内「はぁ… しかしそのことで一つ聞きたいことがあるのですが」

 

上司「なんだね?」

 

河内「パーフェクトの襲撃を受けたダイヤモンド号ですが、乗員乗客は全員コズミックプリキュアに救助され、海上自衛隊に保護されました。ですが、乗船名簿を確認しても四季ゆうといった少女の名が確認できなかったのですが…」

 

上司「そんな馬鹿な。あの船に乗っているのは間違いなかったはず。偽名でも使っていたのではないかね?」

 

河内「いえ、それが乗員や乗客に確認しても、誰一人そんな少女は見たことがないし知らないと」

 

 

河内警部の報告を聞いて、上司は首をかしげていた。

 

 

上司「どういうことだ? 先方に事情を問い合わせてみる。君はもう一度だけ確認を取ってくれたまえ」

 

河内「はっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

ラン「お母さん!! 無事でよかった。ニュースを聞いたときはびっくりしたよ」

 

珠子「ごめんなさいね。心配かけちゃって」

 

あの後、海上自衛隊に保護された乗員乗客は、簡易的な手続きの後解散ということになった。

 

その足で珠子はここに来たのである。

 

 

京香(リーフさん、ダイーダさん。お疲れ様)

 

リーフ(いえ、大したことは。でもみんなを助けられてよかった)

 

ダイーダ(でも、あいつら一体なんであの船を襲ったのかしら?)

 

 

 

 

央介「いやぁ、しかし無事でよかった。ほっとしたよ」

 

心の底から安堵し胸をなでおろしていた央介だったが、その様子を見て遠藤博士が苦言を呈した。

 

 

遠藤「馬鹿もんが!! 自分の奥さんを一人で放っておいてなんじゃその言い草は!? 珠子さん、愚息が迷惑をかけて申し訳ない。お腹の子は大丈夫ですかな?」

 

 

その言葉に珠子はキョトンとしていた。

 

珠子「はぁ? 私は妊娠などしていませんが…」

 

 

 

ラン「えっ? だって新しい家族が増えるってお父さんが…」

 

戸惑うランの言葉に、珠子は事情を察したように頷いていた。

 

珠子「確かにね。ランの妹と言えなくもないけど…」

 

 

 

 

 

 

 

海底 Dr.フライ秘密研究所

 

 

 

 

Dr.フライ「目当てのものは手に入ったか?」

 

ゴーロ「ああ、プリキュアのやつらもメイジャーに気を取られたおかげでやりやすかったぜ。船ごと沈めておいたから、荷物の一つや二つなくなっててもわかるまい。しかし、あの積荷で本当に連中を倒せるのか?」

 

 

その言葉に、Dr.フライは自信たっぷりに答えた。

 

Dr.フライ「もちろんじゃ。極秘に開発していたようじゃが、わしのハッキング能力をなめるでないわ。あれはプリキュアを破壊することさえ容易にできる最凶の秘密兵器じゃ」

 

 

ダイヤモンド号から強奪してきた一つのコンテナを前に、Dr.フライは勝利を確信した高笑いをしていた。

 

 

 

 

第39話 終

 

 



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第40話 「こんにちは、プリキュアおばさん (前編)」

 

 

 

 

日本 某県 甲子市 童夢小学校

 

 

 

 

三学期が始まり、さしあたっての一日が終わった中、生徒達が下校し始めていた。

 

 

そんな中、豪は先を歩いていたランを呼びながら駆け寄った。

 

 

 

豪「あっ、おい待てよ。ラン、おいラン!!」

 

ラン「あら豪。何の用よ」

 

豪「何の用じゃねぇよ。お前本当におじさん達についてかなくってよかったのか?」

 

 

ラン「いいのよ、なんやかんやで日本での生活が気に入ってるし。それにおじいちゃん一人でほっとけないでしょう」

 

 

あの後、久しぶりに両親と過ごしたランだが、カナダに行こうという父親 央介の誘いを断り、日本で暮らすことを伝えた。

 

 

さすがに央介はがっかりしていたが、母 珠子はランの好きなようにしなさいということで納得してくれた。

 

 

豪「まぁ、お前がいいならいいけどさ… 寂しくないか?」

 

ラン「平気よ、リーフさんやダイーダさんもいるしね」

 

 

豪「そっか… でも考えてみれば姉ちゃん達にも家族がいるってことは、パーフェクト達を倒したらさ…」

 

ラン「…そうよね」

 

 

先日のことで改めて分かったことだが、リーフとダイーダが遠藤平和科学研究所にいるのは、パーフェクト達を倒すという目的のための手段である。

 

戦いが終われば彼女達とは別れてしまうことになる。

 

彼女達が元の世界に家族がいるということは、自分達とは文字通り住む世界の違う存在なのである。

 

 

そのことをランと豪は今更ながらに実感していた。

 

 

どこか暗い面持ちで通学路を歩いていると、二人の顔を一層曇らせる人物が待ち構えていた。

 

 

河内「お前ら、ちょっと聞きたいことがある」

 

 

豪「げっ!! 河内警部」

 

ラン「無視するのよ。行きましょう」

 

 

河内警部の姿を認めた豪は露骨に嫌そうな顔をし、ランもまたそんな豪に対して無視するように言って通り過ぎようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前を素通りしていく豪とランを見て、河内警部は後を追いながらイラついたように話しかけ続けた。

 

河内「俺の質問に答えろ」

 

ラン「答えませーん」

 

 

 

河内「コラお前ら!! 俺の話を聞け!!」

 

ラン「聞こえませーん」

 

 

 

河内「お前らなら知ってるはずだ」

 

ラン「知りませーん」

 

 

 

 

 

 

河内「遠藤央介。あのジジイの息子で、お前の父親だろう」

 

 

その途端、ランの足は止まり、ものすごい形相で河内警部を睨みつけた。

 

ラン「何よあんた、今度はお父さんにまでいちゃもんつけようっての!?」

 

 

 

河内「そうじゃない。あの人が奥さん つまりお前の母親と一緒に作ってたというロボットのことについてだ。何か知ってることがあれば何でもいいから教えろ!!」

 

豪「ロボット?」

 

 

怪訝そうな顔をした豪に、河内警部は続けた。

 

河内「そうだ。カナダの警察からの援助を受けて対犯罪者用のロボットを作っていたらしいということまでは、何とかこっちもつかんでるんだ。だが、それがどんなので、今どういう状態でどこにあるのかがさっぱりなんだ。お前らなら何か知ってるんじゃないか?」

 

 

 

いつものようにどこか高圧的に問いかけてくる河内警部に、あまり気分の良くなかったランはかなり刺々しく返事をした。

 

 

ラン「知らないわよ!! お父さん達とはずっと手紙でしかやり取りなんかしてないし、仕事の内容なんかこれっぽっちも聞いてないわ!! 豪帰りましょ!!」

 

そうやって河内警部を振り切って歩き出したランに駆け寄ると、豪は小声で話しかけた。

 

豪(おい、ひょっとして河内警部が話してることってこないだのやつじゃないか? ほら、おばさんの妊娠騒ぎの)

 

ラン(そうでしょうけど、あんなのに話す義理なんてないわよ)

 

 

先日、ランの母 珠子が妊娠したのではという話が出ていたが、あれは央介の言い回しに問題があった。

 

なんでも夫婦二人で共同開発したロボットができたので、それが新しい家族ということだったのだ。

 

 

それを聞いた研究所の一同は呆れるやら拍子抜けするやらだったのだが、ランはそんなことをあえて話す気にはならなかった。

 

 

目の前でこそこそと何かを話し出した二人に、河内警部は必死になって質問を繰り返した。

 

河内「おい! 何か心当たりがあるのか? 教えろ!! さもないととんでもないことになると俺の勘が告げているんだ!!」

 

 

 

ラン「何が勘よ、毎度毎度適当なこと言ってるだけでしょうが」

 

河内「この!! 大人を馬鹿にするのもいい加減に…」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜♪〜♫〜♪〜〜♪〜♫〜♪〜♫〜♫〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

 

 

 

 

するとその時、どこからか弦楽器のメロディーが流れてきた。

 

 

豪「これギターかな? きれいだけど何か冷たい感じがする」

 

河内「いや、ギターの音じゃないな。いったい誰がどこで?」

 

 

キョロキョロと辺りを見回していると、ランが上を指差した。

 

 

ラン「えっ? あ、あそこよ!!」

 

 

その先には黒光りのする女性用スーツに身を包み、電柱のてっぺんに腰掛け小さなハープを弾いている、透けるような白い肌をした少女がいた。

 

 

しばらくハープを引いていたその少女は、弾いていたハープを背中に背負うと突然電柱から飛び降り、あっけにとられていた三人の前にゆっくりと歩み寄ってきた。

 

 

 

豪「うわっ、真っ白できれいな人。だけど白髪って…」

 

ラン「馬鹿! プラチナブロンドっていうのよ。でもこの人…」

 

 

どこか得体の知れない目の前の少女に戸惑っていると、河内警部が何かに気づいたように叫んだ。

 

 

河内「あーっ!! お前は、確かダイヤモンド号で日本に来る予定だった…」

 

その声を上げた瞬間、その少女は一瞬で河内警部の懐に飛び込み、右手で胸ぐらを掴んで持ち上げた。

 

 

 

 

 

 

「警告する。この子らに対して手を出すな。記録しておけ」

 

 

その直後、少女は掴み上げていた河内警部をそのまま後ろにあるゴミ捨て場に向けて、軽々と半月を描いて投げ飛ばした。

 

 

ゴミ捨て場に頭から突っ込み気絶してしまった河内警部をよそに、その少女はランと豪の方に振り返ると無表情に問いかけた。

 

 

 

「確認する。顔認証により、99.99%の確率で遠藤ラン、速田豪と判断する。 ボディに破損はないか?」

 

 

 

しかし、いきなり河内警部を数メートル投げ飛ばした目の前の少女に、豪とランは真っ青になって後ずさりをすると、一目散に逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

豪「なんなんだよあの人? 人間離れしてるぜ、あの力」

 

ラン「知らないわよ!! とにかく逃げるの、変なことに巻き込まれたら大変だわ」

 

 

そんなランと豪の後ろ姿を黙って見送ったその少女は淡々と何かを呟き始めた。

 

 

「検索する。道路状態及び周辺の建造物等を把握。追跡を開始する」

 

 

するとその少女は大ジャンプし、近くの家の屋根の上に飛び乗ると豪とランの後を、そのまま屋根の上を走って追いかけて行った。

 

 

 

 

 

 

 

しばらく走り、息を切らしながら公園にたどり着いた豪とランは先の少女のことについて話し合っていた。

 

 

豪「ホントなんなんだよ。俺達のこと知ってたみたいだけど」

 

ラン「それにあのヘボ警部があの人のこと知ってたみたいな感じだったわ。 でもなんか不気味ね、生気が感じられないというか」

 

 

どこか奇妙な印象のした少女に不気味さを感じていると、二人の目の前に突然何かが降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

豪「いっ!?」

 

ラン「なんで?」

 

 

全力で走ったにも関わらず、件の少女があっさり追いついてきたこと。その少女が息ひとつ切らしていないこと。何より、近くのビルの上から降りてきたことに豪とランは驚愕していた。

 

 

「質問する。なぜ逃走した? 理解ができない」

 

淡々としたその問いかけに、ランは戸惑いながらも何とか返した。

 

 

ラン「な、何でって。いきなり人を投げ飛ばしたりしたら怖いわよ。私達にも襲いかかってくるかもしれないじゃない」

 

「否定する。私はお前達に対しての攻撃行動はとらない。あの男は遠藤ランに対して敵対行動を取っていたため排除しただけだ」

 

 

豪「え? ランを守ったってことかよ?」

 

「肯定する」

 

 

その極めて淡々とした機械的な会話に薄ら寒さを感じながらも、ランは思い切って尋ねた。

 

 

ラン「…あなた、いったい誰? 私を守るって何のために?」

 

 

 

 

 

 

 

「通達する。私の認証IDコードは四季ゆう。遠藤ランの姉妹として登録されているためだ」

 

 

 

 

豪「ランの姉ちゃん? どういうことだよ?」

 

意味がわからず首を傾げた豪に、ゆうは淡々と答えた。

 

 

ゆう「否定する。私は遠藤ランの妹という認識をしている」

 

ラン「はぁ? わけわかんないこと言わないでよ? それとやめてくれないかしら、その話し方。まるで機械みたいで…」

 

 

そこまで話してランと豪はハッと気がついた。

 

 

豪「ま、まさか… あんた…」

 

ラン「お父さん達が作ったっていうロボット…」

 

 

ゆう「肯定する。私の製造責任者は遠藤央介と記録されている」

 

 

あっさりと自分達の疑問に答えた目の前の四季ゆうという少女に、豪とランは口をあんぐりと開けて感嘆のため息をついていた。

 

 

豪「ひえ〜っ、スッゲー!! 人間そっくり!!」

 

ラン「こ、これお父さん達が作ったの? すごいわ!!」

 

 

 

ゆう「質問する。それがそれほどのことか? ラン、お前も遠藤央介の作ったものだろう」

 

 

その質問にランは顔を真っ赤にして叫んだ。

 

ラン「い、い、いきなり何言い出すのよ!! 変なこと言わないで!!」

 

豪「? どうしたんだよラン、変な顔して」

 

ラン「うるさい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

その後ゆうは公園のベンチに腰掛けるとハープを弾き始めた。

 

優雅にハープを演奏する彼女の肩にはまるで敵意を感じないように自然に小鳥がとまり、豪とランもその音に聞き惚れていた。

 

 

豪「きれいな音だね。なんでこんなの持ってるの?」

 

ゆう「説明する。特に行動をする必要がない場合に、機能を停止していては再起動に時間を要する。そのために簡易的な動作を行うためのものだ」

 

ラン「…スクリーンセーバーみたいなものかしら」

 

ゆう「肯定する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆうの弾くハープを聞きながら、ランと豪はホッとしていた。

 

豪「いやぁ、初めはどうなるかと思ったけど、よかったよかった」

 

ラン「本当。後でお父さんにも電話してあげなきゃ。きっと喜ぶわよ。ゆうさんのことこないだパーフェクトに襲われたせいで海に沈んだと思ってるだろうし」

 

 

豪「いや、それよりさ。河内警部が言ってたじゃん。ゆう姉ちゃんは犯罪者鎮圧用ロボットだって。ってことはさ…」

 

ラン「あっ!! リーフさんやダイーダさんと一緒に!!」

 

豪「そう、パーフェクト達と戦ってくれるかもしれないんだ!!」

 

 

世界を救う新しい戦士が今目の前にいる。

 

ランと豪はそんな未来を夢想し心躍らせていた。

 

 

ゆう「…リーフ、ダイーダ」

 

 

ゆうは小さく呟くと、ハープを弾くのをやめゆっくりと顔を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然演奏をやめたゆうに小首を傾げていると、何かが空を切り裂いて飛んでくる音が響き、ゆうの肩にとまっていた小鳥たちも怯えたように飛び立っていった。

 

 

ラン「この音…」

 

豪「ライナージェット?」

 

 

 

 

それに気がついた時、リーフとダイーダが上空のライナージェットから飛び降りてきた。

 

 

リーフ「豪くん、ランちゃん。大丈夫!?」

 

ラン「え、ええ。大丈夫って何が?」

 

 

地面に降り立つや否や必死の形相で自分達の無事を確認してきたリーフに、ランは戸惑っていた。

 

 

ダイーダ「強烈なマイナスエネルギーを検知したのよ。検知器が一発で壊れちゃうぐらいの。てっきりとんでもないのがいると思ったんだけど」

 

豪「いや、別に何にもないけど…」

 

 

そんな会話をしている中、ゆうがゆっくりと歩みを進め、リーフとダイーダの前にやってきた。

 

すると

 

リーフ「…ねぇ、この人誰?」

 

ゆうを見たリーフが警戒するようにそう尋ねてきた。

 

 

ラン「あ、ああ。紹介するわ。この人は…」

 

 

ランがゆうのことを説明しようとした時、それを遮るようにゆうが返事をした。

 

 

ゆう「通達する。私の認証IDコードは四季ゆう。リーフ、ダイーダ。遠藤 博の作ったお前達の姪となる」

 

 

 

豪「ま、まぁ、姉ちゃん達はじいちゃんが作ったんだから、ある意味でゆう姉ちゃんの叔母さんってことになるだろうけどさ。それにしたって…」

 

ゆうの言葉にひくついていた豪が、ふと視線を動かすと、険しい顔をしたランがいた。

 

 

豪「ん? どうしたんだよラン」

 

ラン「…どうしてリーフさんとダイーダさんがおじいちゃんが作ったロボットの体だって知ってるの? お父さん達が知ってるわけないのに」

 

そのランの言葉に、豪はハッと気がついた。

 

 

強大なマイナスエネルギー。そして先日のパーフェクトの船への襲撃。それらが全て繋がった瞬間、ゆうは淡々と告げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆう「遂行する。私の使命はコズミックプリキュアの破壊。ただ、それだけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

第40話 終



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第41話 「こんにちは、プリキュアおばさん (後編)」

 

 

 

 

ゆう「遂行する。私の使命はコズミックプリキュアの破壊。ただ、それだけ」

 

 

 

 

 

 

その全く感情のこもらない言葉とともに、ゆうはいきなりリーフ達に殴りかかった。

 

 

リーフ・ダイーダ「「!!!!」」

 

 

 

 

文字通り目にも留まらぬスピードで繰り出されたパンチをリーフ達はかろうじて避けたが、そのパンチは二人の後ろにあった外灯を一発でへし折ってしまった。

 

 

豪「げげっ!!」

 

驚愕する豪をよそに、ゆうは続けてリーフに後ろ回し蹴りを振り返りざまに放ち、大きく蹴り飛ばしていた。

 

リーフ「キャアアア!!」

 

 

ダイーダ「リーフ!!」

 

 

吹き飛んだリーフに気を取られたダイーダだったが、次の瞬間には目前にゆうが迫っていた。

 

 

ゆう「警告する。よそ見をするな」

 

 

警告とともに繰り出された拳を必死に受け止めたダイーダだが、ゆうのパワーにそのまま後ろに押し戻されていた。

 

 

ダイーダ「チェ、チェンジハンド・タイプレッド!!」

 

その掛け声とともに両腕を一回り大きなゴツゴツした赤い腕に換装すると、そのパワーで逆に押し返そうとした。

 

 

 

 

ダイーダ「な、なんですって!?」

 

 

ダイーダのレッドハンドは片手でも大型トラックを持ち上げるほどの怪力があり、巨大なメイジャーを軽々と振り回すことも簡単にできる。

 

 

しかし、今目の前の少女はレッドハンドに換装したダイーダと互角の押し合いをしていた。

 

 

ダイーダ「なんて…パワーよ…」

 

 

まるで感情が読み取れない目の前の少女を、ダイーダは歯を食いしばりながら押し返そうとしていたが、自分が押し戻されないようにするだけで手一杯であった。

 

 

 

リーフ「ダイーダちゃん!! チェンジハンド・タイプブルー!! エレキ光線発射!!」

 

 

なんとか立ち上がったリーフは、ダイーダのピンチを目の当たりにし、即座に稲妻模様の走った青い腕 ブルーハンドに換装すると、電撃光線を発射した。

 

 

 

 

 

 

とっさに離れたダイーダはなんともなかったが、一瞬行動が遅れたゆうは電撃の直撃を浴びて全身がショートしてしまった。

 

 

 

 

リーフ「ダイーダちゃん!!」

 

ダイーダ「ええ、一気に行くわよ!!」

 

 

 

 

 

リーフ・ダイーダ「「ゴー!!」」

 

ゆうの動きが一時的に止まったことを確認すると、二人はジャンプしてトンボを切った。

その瞬間、二人の体は光に包まれ、着地した時には姿が大きく変わっていた。

 

 

ショートカットだったリーフは、ボリュームのある濃いピンクの髪に変化し、着用している服も、ごく普通の服からフリルのついた赤を基調にしたドレスのようなものになっていた。

 

 

 

ダイーダのポニーテールは、一本から五本にまで増え、背中にかかるかかからないかだったそれも、腰まで伸びて金色になっていた。

 

 

そしてリーフ同様のデザインの純白を基調にしたフリルのついたドレスを着用していた。

 

 

 

そして怪物をキッと睨むと二人は名乗りをあげた。

 

 

リリーフ「闇を吹き消す光の使者 キュア・リリーフ!!」

 

ダイダー「悪を蹴散らす光の使者 キュア・ダイダー!!」

 

 

リリーフ・ダイダー「「ピンチ一発、大逆転! コズミックプリキュア!!」」

 

 

 

変身完了したコズミックプリキュアだが、そんな二人を見てランは自分でも思いがけないことを口走った。

 

 

ラン「ちょっ、ちょっと待って。その人は悪い人じゃないのよ。…いや、人でもないんだけど。 と、とにかく私のお父さんの作ったロボットなの。だから…」

 

 

リリーフ「ランちゃん!? でもこのマイナスエネルギーは…」

 

ダイダー「落ち着いて、まずはあいつを浄化しましょう。そうすればきっと…」

 

 

豪「いや分かるけどさ。そこんとこもうちょっと穏便に…」

 

 

そんなことを話している間に、ゆうは回復しリリーフとダイダーを感情のない目でじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

ゆう「確認する。バトルモードへの移行を行ったと判断する。対抗のため、兵装の安全装置を解除する」

 

 

 

 

 

豪「えっ?」

 

 

全く抑揚のない声でつぶやかれた物騒なことに戸惑いの声をあげた豪をよそに、ゆうは左手を親指・人差し指・中指の三本を立てて前に突き出した。

 

ゆう「チェインジ!!」

 

 

そう叫ぶと、突き出した左手の指を立てたまま、手の甲を内向きにして顔の前へと横向きに持って行き、人差し指と中指の間から赤い右目を光らせた。

 

ゆう「スイッチ・オン!!」

 

 

次の瞬間、黒い電流のようなものが火花をあげてゆうの全身を走り、一瞬ののちにその姿は変わっていた。

 

 

彼女の着ていた黒いスーツは、フリルのない落ち着いたデザインのロングスカートの黒一色のドレスに変わっており、同じく黒一色の肘まである手袋とブーツを着用していた。

 

 

その黒さは抜けるような色の白い肌やプラチナブロンドのロングヘアと相まってより一層黒く、そしてどこか美しく光を放っていた。

 

 

 

 

豪「へ、変身した… ゆう姉ちゃんもプリキュア…」

 

 

突如として変身したゆうに驚いていた一同をよそに、彼女は左手に黒い靄のようなものをまとわせると、それをいわゆるデスサイズへと変化させた。

 

 

ラン「で、でも、何よあれ… まるっきり死神…」

 

 

 

そのランの怯えたような言葉に彼女はどこか嬉しそうに呟いた。

 

「なるほど… 死神か。肯定する。バトルスタイルコードネーム、キュア・デッド」

 

 

リリーフ「キュア…」

 

ダイダー「デッド…」

 

 

凍りついたリリーフとダイダーに対して、デッドは左手のデスサイズを向けて冷たく宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

デッド「破壊する。ターゲット、コズミックプリキュア」

 

 

 

 

 

 

 

その言葉を淡々と言い終わるや否や、キュア・デッドはデスサイズを振りかざし、リリーフとダイダーに突っ込んできた。

 

 

 

リリーフ「くっ!!」

 

ダイダー「速い!!」

 

 

リリーフとダイダーはとっさに目の前の豪とランを抱えて左右に分かれて跳躍したため、振るわれたデスサイズをギリギリでかわしたが、その代わりに後ろの大木を割り箸のように真っ二つにしてしまった。

 

 

 

驚愕のあまり言葉も出なかった一同に、デッドは振り返りざま右手の指を向けてきた。

 

 

リリーフ「!! 危ない!!」

 

ダイダー「逃げなさい!!」

 

 

 

直感的に危険を感じたリリーフとダイダーは、抱えていた豪とランを乱暴に突き飛ばしたが、それで正解であった。

 

 

二人に向けたデッドの右手の指先からは弾丸がマシンガンのように発射されてきたからである。

 

 

リリーフ「ガァアア!!」

 

ダイダー「グゥウウッ!!」

 

 

普通の人間なら1秒とかからず血だるまの蜂の巣になったであろう銃弾に、なんとか耐えられたのは、リリーフとダイダーのボディの性能故ではあるが、ダメージを負ったことに変わりなかった。

 

 

うめき声とともにうずくまってしまったリリーフの懐に即座に飛び込んだデッドは、手にしたデスサイズの柄の部分をリリーフの腹部に叩きつけた。

 

 

ダイダー「リーフ!!」

 

後ろから飛びかかったダイダーだったが、デッドが首ひとつ動かさないまま放った後ろ蹴りにあっさり蹴り飛ばされてしまった。

 

ダイダー「がはっ!!」

 

 

 

そしてデスサイズの柄の部分を押し当てていたリリーフを、そのままダイダーに向けて投げ飛ばした。

 

 

リリーフ「うわーっ!!」

 

 

正面から激突し、動きが止まってしまったリリーフとダイダーはなんとか体勢を立て直しデッドの方を見やると、片膝を立てている姿が目に入った。

 

 

リリーフ「あれ? なんか変…」

 

立てている左膝が何か不自然な形で折れていることに気がついた瞬間、左太ももに内蔵されていたであろうそれが白煙を上げて発射されていた。

 

 

ダイダー「ミ、ミサイル!?」

 

 

気づいた時にはすでに遅く、足元にはミサイルが着弾し、凄まじい爆発音と爆煙とともに、リリーフとダイダーは吹っ飛んだ。

 

 

 

リリーフ・ダイダー「「キャアアア!!」」

 

 

 

 

 

 

爆発に吹き飛ばされる中、ダイダーは足が何かにつかまれるのを感じた。

 

ダイダー「ッ!! 何!?」

 

 

見ると、ダイダーの足を掴んでいたのは「左手だけ」であり、うっすらと晴れた爆煙の向こうには、その左手とワイヤーでつながったデッドがいた。

 

 

ダイダー「こいつ、左手を飛ばせるの!?」

 

いかにもロボットというような武装に驚愕していると、その左手はデッドの方に戻っていき、当然つかまれていたダイダーも引き寄せられた。

 

 

そして引き寄せられた先でデッドの右のカウンターパンチをくらい大きく吹き飛ばされ、地面に倒れ伏してしまった。

 

 

ダイダー「ガアッ!!」

 

 

そんなダイダーに追撃を加えんと右手のマシンガンを向けたデッドに、リリーフはそうはさせじと飛びかかろうとした。

 

 

しかし

 

 

リリーフ「えっ? うわっ!!」

 

 

先ほどのミサイル攻撃に紛れて投げたのであろうデスサイズが、ブーメランのように戻ってきたため、それをかわさざるをえなくなり救助が一瞬遅れた。

 

 

結果、デッドの右手のマシンガンが火を吹きダイダーに直撃した。

 

 

 

 

ダイダー「ウガァアアア!!!」

 

 

銃撃に苦しむダイダーをなんとか助けんと、リリーフは手の中に虹色の玉を輝かせ始めた。

 

 

リリーフ「くらえ!! プリキュア・レインボール!!」

 

 

亜音速で投げつけられた虹色の玉を、デッドはかわすこともできずまともにくらい大きくのけぞった。

 

 

 

それを見たダイダーは転がりながらなんとか体勢を立て直し立ち上がると、両腕を噴射口のようなもののついた緑色の腕に換装した。

 

ダイダー「チェンジハンド・タイプグリーン!! 超低温冷凍ガス発射!!」

 

 

差し出した左手から真っ白い超低温の冷凍ガスがデッドに向けて噴射された。

 

デッドは左手で保持したしたデスサイズをバトンのように振り回して防御していたが、全ては跳ね返しきれず体が凍りつき始め動きがにぶり出した。

 

 

それを確認したリリーフは即座にライナージェットを召喚した。

 

リリーフ「よーし、ライナージェーット!!」

 

 

 

 

リリーフ「ライナージェット、カノンモードスタンバイ!!」

 

ダイダー「ターゲットロック!! プラスエネルギーチャージ!!」

 

 

飛来したライナージェットをカノンモードで保持すると、キュア・デッドに照準をセットし、自分達のプラスエネルギーをチャージしていった。

 

 

 

だがそうしている間にもデッドの氷は溶け出しており、動きが回復し始めていた。

 

 

 

リリーフ・ダイダー「「プリキュア・ウォークオフ・ブラスター!! ファイヤー!!!!」」

 

 

 

その掛け声とともにライナージェットから光の奔流とでもいうかのような眩しくそして温かいエネルギー波が発射されたのと、デッドがデスサイズを大きく横薙ぎに一振りし、黒い波動のようなものを発射したのはほぼ同時だった。

 

 

 

両者の攻撃そのものはお互いなんの影響もなくすれ違ったのだが、当然デッドの放った波動はリリーフとダイダーをライナージェットごと吹き飛ばし、デッドはライナージェットの放った光の中に飲み込まれていった。

 

 

 

 

 

 

リリーフ・ダイダー「「うわあああああ!!!!」」

 

デッド「!!!!!」

 

 

 

これまでのダメージの蓄積と相まって、仰向けに倒れ変身解除してしまったリーフとダイーダの横では、小破したライナージェットがバチバチと火花をあげていた。

 

 

リーフ「やった… のかな…?」

 

ダイーダ「たぶん…」

 

 

 

何とか首だけ動かしてデッドの方を見たリーフとダイーダだったが、その瞬間凍りついた。

 

 

 

間違いなくライナージェットの攻撃は直撃した。

 

にもかかわらず、デッドは変身解除されることなくデスサイズを構えて立っていたのである。

 

 

 

もっとも、合体メイジャーをも一撃で浄化する攻撃を受けて完全に無傷だったわけではないようであったが。

 

リーフ「耐え…切った…!?」

 

ダイーダ「嘘…でしょ…」

 

 

 

デッド「賞賛する。さすがは私の叔母だ。この程度でなければ戦い甲斐がない。 が…」

 

身につけたドレスのようなコスチュームをボロボロにしながらも、驚愕していたリーフとダイーダに対して、デッドはデスサイズを大きく振りかざした。

 

 

デッド「宣告する。これでデッドエンドだ」

 

 

その光景を見て、ランと豪は思わず飛び込んだ。

 

 

ラン「もうやめて!!」

 

豪「戦う理由なんてないじゃんかよ!!」

 

 

そんな二人を見て、デッドは淡々と警告した。

 

 

 

デッド「警告する。ラン、豪。そこから離れろ」

 

 

ラン「どかないわ!! あなたはこんなことをするために作られたんじゃないでしょう!!」

 

デッド「否定する。私の行動目的はプリキュアの破壊だ」

 

 

豪「ふざけんなよ!! 今姉ちゃん達がいなくなったらどうなんのかもわかんないのかよ!!」

 

冷たくプリキュアの破壊を宣告したデッドに噛み付いた豪だったが、その返事は輪をかけて冷たいものだった。

 

 

デッド「肯定する。私の目的であるプリキュアの破壊、それによる結果の想定はプログラムされていない」

 

 

 

リーフ「豪くん、ランちゃん… 下がって…」

 

なんとか立ち上がったリーフは愕然としている豪とランに下がるよう告げ、ふらつきながらも前に出た。

 

 

ラン「で、でも…」

 

ダイーダ「あいつの目的は私達でしょう。なら、ランや豪にも手は出さない。そうでしょう?」

 

 

デッド「肯定する」

 

 

リーフ「ほら、そう言ってる。二人とも逃げて…」

 

ふらつきながら豪とランの前に出たリーフとダイーダに対して、デッドは大きくデスサイズを振り上げた。

 

 

 

豪・ラン「「!!!」」

 

 

 

 

豪とランが息を飲んだその瞬間突如としてデッドの動きが止まった。

 

 

ダイーダ「えっ?」

 

 

 

デッド「中断する。勝負は預ける」

 

そう言い残すと、デッドは大ジャンプして近くのビルの屋上に飛び移るとそのまま、ジャンプを繰り返してどこへともなく去っていった。

 

 

ラン「逃げた… んじゃないよね…」

 

豪「…どうなってんの?」

 

 

 

突然戦闘を中断し立ち去っていったキュア・デッドに一同は狐につままれたような気持ちであった。

 

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

遠藤「何!? 央介の作りおったロボットがフライに奪われて、しかも改造された!?」

 

豪「うん。しかもキュア・デッドって言ってコズミックプリキュアを倒すのが目的だって」

 

 

あの後、なんとか研究所に引き上げた一同は遠藤博士に今日の出来事の一部始終を話していた。

 

 

当然、それを聞いた遠藤博士や京香先生は絶句していた。

 

 

京香「Dr.フライ。このあいだの空飛ぶ火の車に続いてそんなものまで奪うなんて…」

 

 

遠藤「うーむ許せん!! よりによって平和利用と犯罪者鎮圧用のロボットを開くに利用するとは!!」

 

 

みなが憤る中、ランは一人浮かない顔をしていた。

 

 

ラン「でも…あの子 四季ゆうさん… 悪い人に思えない… あのパーフェクトのところにいる奴らやDr.フライみたいな嫌らしさが感じられないというか…」

 

 

豪「ラン… まぁそりゃ… 俺だって… 最後に逃げた理由も気になるしさ」

 

 

 

ゆうのとった言動を思い返してみても、彼女を悪人と判断するような行動が豪やランには思い浮かばなかった。

 

確かにコズミックプリキュアと戦ったが、それだけであり、豪やランには危害を加えようとしなかった。

 

ファルやゴーロ、ひいてはDr.フライ本人のような嫌悪感がまるで感じられなかったのである。

 

 

遠藤「う〜む。一度央介のやつにいろいろ聞いてみるか。お主らがそこまで言うなら、何かあるのかもしれんな」

 

 

 

 

第41話 終

 

 



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第42話 「死神のプライド (前編)」

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

遠藤「全く央介のやつめ。一体何を考えとるんじゃ!!」

 

自分の息子に対して、遠藤博士はここ二三日異常に機嫌が悪かった。

 

 

 

京香「ダメですよ。あまりカッカカッカすると体に良くありません」

 

リーフ「先生の言う通りですよ博士。あまり血圧が高いと体の負担も大きくなるし」

 

ダイーダ「イライラしてるといい考えも浮かびませんよ。まず頭を冷やしてください」

 

 

 

そう言って遠藤博士をなだめようとしたリーフ達だったが、焼け石に水であった。

 

 

遠藤「これが起こらずにいらりょうか!! 特にラン、お前は自分の父親の不始末が情けなくないのか!!」

 

 

ラン「いや、まぁ… そりゃ驚いたけど、お父さんの言い分も理解できなくもないというか…」

 

 

あの後、何度も事情を問いただし、数日がかりでようやくキュア・デッド、四季ゆうのことについて央介から聞き出した遠藤博士だったが、その開発経緯について完全に頭にきていたのだ。

 

 

なかなか白状しなかったその理由は、その資金の調達元にあったのだ。

 

なんでも、もともとは警察に配備する予定だった犯人の捜査や逮捕及び鎮圧用として開発されていたが、資金の面で開発が滞りかけてしまったのだ。

 

そんな時資金提供を持ちかけてきたのが軍であったのだ。

 

軍としてはDr.フライ対策できる戦力を欲しており、さらには万が一に備えコズミックプリキュアとも戦えるような戦力を、ひいては強力な兵士を欲していたため、両者の利害が一致したというわけである。

 

遠藤「あ〜情けない。初めから人を傷つけることを前提に科学を用いるとは。わしは息子の教育を誤った」

 

 

ラン「でも、ゆうさんを作るためにお金がどうしても必要だったんでしょ。仕方なかったとも言えるんじゃ…」

 

遠藤「目的と手段が逆転しとる!! 警察用ロボットとはいえ、本来の目的は市民を守ることのはずじゃ!! 軍と協力などすれば破壊が主目的になるのは目に見えとる!! そして事実そうなっとるじゃろが!!」

 

 

そう怒鳴りながら、自分の息子に半ば無理やり提出させた四季ゆうの設計図をパソコン画面に表示させた。

 

 

遠藤「見ろこれを!! コンクリート上の足跡すら確認し探索できる機能や短時間の単独飛行機能。さらにはダイーダのレッドハンド以上のパワーをデフォルトで搭載し、完璧とでもいうべき格闘術のプログラムまでされておる。そこまではまだよしとしても…」

 

 

少しずつ設計図をスクロールさせつ、遠藤博士は怒鳴り続けた。

 

 

 

遠藤「右手の指のマシンガン、左足に搭載された小型ミサイル、左手のワイヤー式ロケットパンチ…全身武器の塊じゃ!! おまけにそれらがマイナスエネルギーで強化されとるもんだから、小国の軍隊ぐらいなら難なく単騎で壊滅させられるぞ」

 

 

京香「それほどの戦闘力が…」

 

 

遠藤「リーフ達が変身するのがマイナスエネルギーを浄化するためのものだとしたら、キュア・デッドへの変身機能とてこの武装の安全装置のロック解除みたいなもんじゃ。全く…」

 

ラン「…でもねぇ」

 

 

遠藤博士の言い分はランも十分承知している。

 

しかし、普段遠藤博士の研究費のせいで家計を圧迫されている身の上としては、父のとった行動を一概に否定しきれないのである。

 

そして何より、キュア・デッドこと四季ゆう。ランの妹を自称しているあのロボットのことをどうしても憎めないのである。

 

 

ラン「あっそうだ。それよりゆうさんが突然攻撃をやめてどっかいっちゃったのって理由わかったの?」

 

暗くなってしまった研究所内で、何とか空気を変えようとランは強引に話題を転換し、そう尋ねた。

 

 

遠藤「ああ、あれか。あのロボットに搭載されとるAIのバックアップ機能らしくてな」

 

 

京香「というと?」

 

 

遠藤「つまり、四季ゆう、彼女が行動をすることで蓄積されたそのログが一定量を超えるとAIに負担がかかり行動不能になる可能性がある。そのためそうなる前に3時間ほど強制スリープ状態にして蓄積したログの圧縮並びにAIの最適化を行うようにできとるらしい」

 

リーフ「ってことは、その時間は完全に無防備ってこと?」

 

遠藤「そうなるな。じゃからとどめをささずに引き上げたのじゃろう」

 

 

ダイーダ「でも、そんな大きな弱点をどうしてDr.フライは放置してるのかしら?」

 

ダイーダの当然ともいえる疑問に遠藤博士は呆れたように答えた。

 

遠藤「あやつのことじゃ。奪ったはいいが、攻撃対象をお前さん達コズミックプリキュアに変えるだけで精一杯じゃったんじゃろう。下手に弄れば壊しかねんからのう」

 

 

京香「許せませんね。人のものを強奪しておいて、自分は偉いみたいな言い方をするとは。 それを改良しきれない段階で大した技術がないと認めているようなものなのに」

 

遠藤博士の感想に、京香先生も憤っていた。

 

 

 

ラン「でも、ゆうさんの動きが完全に止まる時間があるなら、その間に回収して直してあげることもできるってことよね?」

 

遠藤「まぁそうじゃが… 現状では破壊を優先したほうがいいと思うがな…」

 

リーフ「そうだよね。あの子のマイナスエネルギーはメイジャーに取り付けているものなんか比べ物にならないぐらい強力だし」

 

ダイーダ「おまけにあの戦闘力… まともに戦って勝てるかどうかわからないものね。その隙を狙って破壊したほうが…」

 

 

ラン「ダメ!! お父さんの作ったロボットだもん、そんな簡単に壊すなんて言わないで!!」

 

 

 

遠藤博士達の意見を即座に却下したランに、リーフとダイーダは顔を見合わせるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

海底 Dr.フライ秘密研究所

 

 

 

Dr.フライ「先の戦いでは今一歩のところで制限時間が来てしまったが、今度こそコズミックプリキュアを破壊するのじゃぞ、よいな」

 

ゆう「肯定する。私の行動目的はプリキュアの破壊だ。奴らとの決着は必ず私がつける」

 

自分の言葉を素直に肯定したゆうにDr.フライは満足そうにうなずいていた。

 

 

Dr.フライ「うむうむ。よし行け、コズミックプリキュアをその手で破壊しろ!!」

 

ゆう「肯定する」

 

 

淡々と返事をして出撃していったゆうを見て、Dr.フライは満足げにいやらしく笑った。

 

Dr.フライ「クックックッ。世界を救うためのロボットがプリキュアを破壊する、こんな気分のいいことはないわ。さて…」

 

そうしてゴーロやファルの方に向き合うと厳しい表情で告げた。

 

Dr.フライ「次はお前らじゃ手筈通りに行動するんじゃぞ」

 

 

ゴーロ「けっ、胸糞悪ぃ。あんな奴にリーフやダイーダをぶっ殺させるのかよ」

 

 

いかにも面白くなさそうに吐き捨てたゴーロに、Dr.フライが釘をさすように言った。

 

Dr.フライ「貴様らが失敗ばかりするからじゃ。連中の対策はあれに任せておけばいい!!」

 

 

ファル「…まぁ、連中を気にせず行動できるってのはいいことだな。それで今度はどんな素晴らしい作戦を天才様は考えついたんだ」

 

 

Dr.フライ「フェッフェッフェッ。警察や自衛隊はもちろん、万が一があってもプリキュアどもでさえ手出しできん兵器を考えついたのじゃ。そのための装置もすでに開発済みじゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

甲子市 童夢小学校 休み時間

 

 

 

豪「それで? 結局ゆう姉ちゃんにはどういう対応をすることになったわけ?」

 

ラン「なんとか破壊せずに回収して修理することを目標にしようってことでおじいちゃんもリーフさんもダイーダさんも納得してくれたわ。無理言ってるのはわかるけど…」

 

 

豪「まぁ、気持ちは俺もわかるよ。ゆう姉ちゃんってただ操られてるだけだもんな。だからかな、敵って感じがまるでしないのは」

 

 

 

あの時、リーフやダイーダが来なければ、豪はゆうを完全に仲間として扱い研究所に連れて行っていただろう。

 

それぐらい彼女が敵であるという印象がまるでなかったのだ。

 

ラン「ああ、それは他の理由があってね。なんでもゆうさんの顔っておばあちゃんの若い頃が参考にされてるみたいなの。…まぁだからおじいちゃんが余計怒ってるんだけど」

 

 

その話を聞いて、豪の表情は曇った。

 

 

豪「そっか… なんとか姉ちゃん達が仲良くなれればいいんだけど。 前にやった野球大会の時みたいにみんなで楽しく過ごしてさ…」

 

 

ラン「あれはそういうもんじゃなかったでしょ。あの後しばらく大変だったんだから…」

 

 

 

 

実は数ヶ月前、リーフとダイーダは町内会の対抗野球大会に選手として出場していた。

 

 

なんでも、ピッチャーとして当てにしていたらしい中学のソフトボール部員であるパン屋の女の子が、絵画コンクールで入賞した友人の授賞式にいくとかで参加できなくなったための代役であったのだ。

 

 

しかし、軽く投げても300キロ以上を余裕で出す球を投げるリーフとそれを簡単に素手でキャッチするダイーダである。

 

 

結果、総投球数81球による27奪三振完全試合と、全打席場外ホームランという驚異的な記録が出てしまった。(無論、相手は敬遠しようとしたがその球でさえ飛びついて打っている)

 

 

その後の騒動に関してはここでは省略するが、しばらくまともにリーフ達に買い物を頼むこともできないぐらいだった。

 

 

 

豪「でもさ、いろいろ教えたいんだよ。ゆう姉ちゃんにもさ。いっぱい楽しいことがあるって」

 

 

ラン「そうね、知らないだけなのよ。きっと…」

 

 

 

そんなことを休み時間の教室で話していると、チャイムが鳴り先生が入ってきた。

 

 

先生「さぁみんな席につけ。授業を始めるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして授業が進んでいく中、生徒達が突如としてざわつき始めた。

 

先生「こらどうした。静かにせんか」

 

それを見た先生は、静かにするように促したが生徒達は耳を押さえたり顔をしかめたりしていた。

 

 

生徒「先生、なんか変な音がするんです」

 

生徒「携帯からだ。何の音だよこれ」

 

 

しかし

 

 

先生「何も聞こえないぞ。みんなに空耳が聞こえるのも変な話だが…」

 

 

首を傾げていると、生徒達の目がうつろになり、まるで操られるように一斉に席を立って教室から出て行ってしまった。

 

 

先生「お、おいどうしたんだ!? みんな教室に戻れ!!」

 

 

慌てて引きとめようとした先生だが、他のクラスの生徒達も同じようにうつろな目をしており、まるで言葉が耳に入らないようだった。

 

 

先生「どうしたんでしょうこれは?」

 

先生「わかりません。突然生徒達が」

 

 

そしてそのまま生徒達は何かにとりつかれたようにどこへともなく歩いて行ってしまった。

 

 

 

 

この現象は市内全域で起こっており、いたるところで混乱が発生し、いなくなってしまった子供達の親の悲痛な嘆きがこだましていた。

 

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

マイナスエネルギー検知器がけたたましく鳴り響く中、リーフがイエローハンドで町内の状況を探っていた。

 

 

リーフ「博士、超高周波での変な音波があっちこっちから聞こえます。おそらくこれが原因ではないかと…」

 

ダイーダ「おそらくじゃないわ、間違いなくこれが原因よ。人間の聞こえる範囲ギリギリの周波数だけども、これを聞いた人間は催眠状態に陥って同時に流された指示に従ってしまうようになってる。問題はどうして子供達だけに作用して、どこから流しているかだけど…」

 

 

リーフとダイーダが調査・分析を行っていると、病院に行っている京香先生からも連絡が入った。

 

京香『もしもし、リーフさん、遠藤博士、聞こえますか?』

 

リーフ「先生、どうしました?」

 

 

京香『知ってると思うけど、病院でも診察を受けに来た子供達がどこかに行ってしまったの。ただ、小児病棟に入院してる子や集中治療室の子達は特に影響がなかったみたい。一体何が原因なのか…』

 

 

それを聞いて、遠藤博士は原因に思い当たった。

 

 

遠藤「そうかわかったぞ!! フライのやつめ、携帯電話やスマートフォンをジャックして強制的に催眠音波を流したな。おそらくモスキート音を利用したものじゃから、子供達にしか聞き取れんのじゃ」

 

 

京香『そうか、携帯電話の持ち込みが制限されているから病室の子には効果が…  でも一体どんな目的で…』

 

 

その時、テレビの電源が強制的に入りDr.フライがアップで映った。

 

 

Dr.フライ『間抜けな日本政府に告げる。今子供達を催眠状態にしているのは、大天才のこのわしじゃ。こやつらはわしの指示一つでどうにでも動く』

 

 

画面が引いていくと、Dr.フライの後ろに子供達が一列に並んでいる映像が流れた。

 

そしてDr.フライが手を叩くと子供達が殴り合いを始めた。

 

 

リーフ「なっ!!」

 

ダイーダ「なんてことを!!」

 

 

皆が絶句する中、Dr.フライがやめるように命じると皆嘘のように静かになり再び整列した。

 

 

Dr.フライ『見ての通りじゃ。子供達を無事に返して欲しければ、一人につき金塊1キロを用意しろ。 3時間以内に兵殺谷まで持ってくるがいい、さもなくば…』

 

その言葉とともに、子供達の手にマイナー達が刃物を握らせる映像が流れた。

 

Dr.フライ『こやつらを同士討ちさせてやる。子供達の殺人ショーを全国ネットで放映してやるわ。さぞかし視聴率が取れるじゃろう。ヒャッヒャッヒャッ』

 

 

その胸糞の悪くなる笑いを最後に、画面はブラックアウトした。

 

 

 

ダイーダ「今、ランと豪もいたよね。早く助けに行かないと!!」

 

遠藤「わかっとる!! リーフ、ダイーダ。目標兵殺谷、三冠号で至急出動!!」

 

 

リーフ・ダイーダ「「了解!!」」

 

 

 

先の放送で日本中が大パニックになる中、臨時閣僚会議が開かれ、どう対処するかの話し合いが始まっていたが、子ども一人につき10キロの金塊という条件に皆が頭を悩ませていた。

 

 

そんな中、一足先に三冠号が子供達の救助に向かうべく急行していた。

 

三冠号で兵殺谷へ向かっている中、リーフはぽつりと口にした。

 

 

リーフ「あの子… 四季ゆうだっけ、なんとかできると思う?」

 

ダイーダ「はっきり言って難しいわね。なんせライナージェットでも浄化しきれないとなると相当強力なマイナスエネルギーが取り付けてあるわ。あの真っ黒な鎌だってマイナスエネルギーの塊みたいなものだったし…」

 

 

ダイーダの感想に、リーフはため息をついた。

 

リーフ「やっぱりか… でも、なんとかしてあげたいんだ。ランちゃんのためにもさ」

 

ダイーダ「まあ…ね。私だってそうよ。せっかくこの世界の人達がこの世界のために作ったものだもの。この世界のためになってほしいわ」

 

 

 

そんなどこか暗い空気の中、突如として三冠号が大きく揺れた。

 

 

ダイーダ「な、何? 気流はそんなに乱れてないはずよ!?」

 

リーフ「レーダーにも何も… え? 誰かが上に乗ってる?」

 

 

レーダーにも何の反応がないことに疑問を感じたリーフだが、尾翼の部分を映すサブモニターに人の足らしきものが映り込んでいるのを見て仰天していた。

 

 

ダイーダ「誰かって… まさか!!」

 

 

現在三冠号は上空数千メートルを飛行中である。

 

こんなところに生身で来ることができる存在など一つしか心当たりがなかった。

 

 

ハッチを開けて外に出たダイーダは、平然と尾翼に腰掛けハープを弾いている少女を見て、やっぱりかというように顔をしかめた。

 

 

ダイーダ「四季…ゆう…!」

 

 

ゆうの方もダイーダの姿を認めるとハープを弾くのをやめてゆっくりと立ち上がった。

 

 

ゆう「確認する。コズミックプリキュアだな」

 

ダイーダ「そうよ」

 

 

ゆう「了解した。私と勝負をしろ」

 

 

そう告げると、ゆうは飛行中の三冠号のボディをゆっくりと踏みしめるようにコックピットへと近づいてきた。

 

 

ダイーダ「ちょっ!? こんなところで戦えるわけないでしょ!!」

 

 

戸惑いながらそう口にしたダイーダだったが、ゆうは淡々と否定した。

 

 

ゆう「否定する。貴様達及び私の身体能力ならば、この状況下での戦闘力の減退率は地上でのそれの2%程度でしかない」

 

 

ダイーダ「くっ… 時間がないのに」

 

 

確かに、ゆうはもちろんリーフやダイーダも飛行中の三冠号の上で戦えないわけではない。

 

だが、今この場で戦うには三冠号を自動操縦にする必要があり、どうしても時間をロスすることになる。

 

 

 

 

 

一刻を争うこの状況では、時間を無駄にしたくなかった。

 

 

歯ぎしりをしていたダイーダに、三冠号を操縦していたリーフからの秘密通信が届いた。

 

リーフ(ダイーダちゃん)

 

ダイーダ(!! オッケー、任せたわ)

 

 

小さく頷いたダイーダは、構えを取りゆうを迎え撃つ体制に入った。

 

 

 

そんなダイーダの姿を見たゆうは、どこか嬉しそうに微笑むとダイーダに向けて跳びかからんとした。

 

 

 

しかし次の瞬間

 

 

三冠号が錐揉み回転をし、上に乗っていたゆうをその勢いで振り落しにかかった。

 

 

ゆう「!!!!」

 

 

あらかじめ知らされていたダイーダはハッチのヘリに捕まったことでなんとか踏みとどまったものの、ゆうはとっさに反応できずに三冠号から振り落とされ雲の中に消えていった。

 

 

ダイーダ「ナイスよリーフ」

 

そんなゆうの姿を見届けたダイーダは、リーフにサムズアップを送った。

 

 

リーフ「ちょっと悪いことしちゃったかな。でもあの子なら大丈夫だよね」

 

ダイーダ「深く気にしなくても大丈夫よ。あの子短時間なら飛行できるらしいし、この高さなら私達だって大丈夫なんだから。あの子ならなおさらよ」

 

 

少し罪悪感を感じていたリーフをそう言って励ますと、ダイーダは現場への急行を促した。

 

ダイーダ「さっ、急ぎましょう。早く豪達を助けないと」

 

 

その言葉にリーフも頷き、兵殺谷へと三冠号を向かわせた。

 

 

 

ゆう「状況分析完了…飛行システムの回復まではまだ時間を要する。 ならば…!!」

 

一方三冠号から振り落とされたゆうは、落下しながらも、左手を親指・人差し指・中指の三本を立てて前に突き出した。

 

ゆう「チェインジ!!」

 

 

そして突き出した左手の指を立てたまま、手の甲を内向きにして顔の前へと横向きに持って行き、人差し指と中指の間から赤い右目を光らせた。

 

ゆう「スイッチ・オン!!」

 

 

次の瞬間、黒い電流のようなものが火花をあげてゆうの全身を走り、華麗に空中で何度も回転して着地した時にはその姿は変わっていた。

 

 

彼女の着ていた黒いスーツは、フリルのない落ち着いたデザインのロングスカートの黒一色のドレスに変わっており、同じく黒一色の肘まである手袋とブーツを着用していた。

 

これが彼女のバトルスタイル キュア・デッドである。

 

 

デッド「検索する。コズミックプリキュアの追跡に最適なルートを確認。追跡を開始する」

 

 

淡々と呟くと、猛烈なダッシュでデッドは三冠号の後を追いかけて行った。

 

 

第42話 終

 

 

 



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第43話 「死神のプライド (後編)」

 

 

 

兵殺谷

 

 

虚ろな目をした大勢の刃物を持った少年少女達が向かい合った状態で整列しており、その後ろには蚊のような羽と口をした巨大なネズミとでもいうようないかにも醜悪な合体メイジャーが鎮座していた。

 

 

その合体メイジャーの背中に乗ったゴーロは、イライラしながら政府からの返答を待っていた。

 

 

ゴーロ「けっ、3時間もこいつらの見張りをしてるなんて退屈で仕方ねぇ。悲鳴一つ上げねぇもんだから面白くもなんともねぇ」

 

 

そう吐き捨てたゴーロにDr.フライからの通信が入った。

 

Dr.フライ『聞こえとるぞ、そんなに暇ならハーメルンシステムのチェックでもやっとれ』

 

 

ゴーロ「なんだよ、ちゃんと機能してるか不安なのか」

 

いかにも小馬鹿にしたようなセリフに、Dr.フライは噛み付いた。

 

 

Dr.フライ『黙らんか!! いつもいつもわしの指示を無視して勝手なことをするから失敗しとるんじゃろうが!! そのハーメルンシステムが増幅・変換したメイジャーの出す音波は、人間の耳に入れば脳神経に作用し催眠状態に陥る。 ただ、そのためには音波を発生させ続けなければならんのだ。 大事な人質がいなくならんように万全を期すのじゃ、わかったな!!』

 

 

そう念を押し一方的に通信を切ったDr.フライに、ゴーロの不満は増していった。

 

ゴーロ「くそっ、くたばりぞこないの分際で偉そうに。 しかし作戦が失敗してまた奴にでかい面をされるのも癪だ。 いい加減あのくたばりぞこないとも縁を切りたいぜ」

 

 

そんなことを愚痴りながら、ゴーロはネズミ・蚊合体メイジャーの胸に取り付けてあるハーメルンシステムのチェックを渋々ながら行い始めた。

 

しかし、元来細かい作業があまり得意でないゴーロはイライラし始めていた。

 

 

ゴーロ「くそっ、あの野郎。いつもいつもあてつけみたいに俺にこんな仕事を割りあてやがって」

 

 

すると、周囲を見張っていたマイナーが突如慌ただしくなり始めた。

 

 

ゴーロ「ん? なんだ?」

 

異変を察知した瞬間、マイナー達が次々と吹き飛んでいた。

 

 

 

リーフ「ゴーロ、見つけたわよ!!」

 

ダイーダ「おとなしく子供達を解放しなさい!!」

 

その叫びとともにマイナーを片っ端から蹴ちらすリーフとダイーダを見て、ゴーロは先ほどまでの隠逸な気分が吹き飛んでいた。

 

 

ゴーロ「へっ、こりゃいい。テメェらで憂さ晴らしだ」

 

 

ダイーダ「何言ってんのよ、おとなしく観念しなさい」

 

そう警告したダイーダに、ゴーロはニヤリと笑った。

 

 

ゴーロ「おとなしくするのはテメェらだ。身動き一つしてみろ、ここのガキ連中の命はない」

 

 

その言葉とともにゴーロが少し手を動かすと、向かい合わせに一列に並んだ子供達が手に持った刃物を振り上げ、一歩ずつ近づき始めた。

 

 

ゴーロ「あのくたばりぞこないが言ったよな。下手なことをすればこいつらの殺戮ショーを特等席で見物することになるぜ」

 

リーフ「なっ!!」

 

絶句してしまったリーフだったが、ダイーダは諦めず呼びかけた。

 

 

ダイーダ「みんな正気に戻って!! 豪、ラン!!」

 

しかし、その必死の呼びかけにも豪やランを始めとする子供達は無反応だった。

 

 

 

ゴーロ「無駄だ、こいつらにテメェらの言葉なんか届かねぇ。さっきのセリフを返すぜ。観念しておとなしくしな」

 

 

ダイーダ「あんたってやつは…!」

 

 

卑怯すぎるやり口に歯ぎしりしながらも、リーフとダイーダは両手をあげるしかなかった。

 

 

 

ゴーロ「へっ、ようやく立場が分かったか。さてたっぷりと痛めつけてからバラバラにしてやる」

 

 

イヤラしげな笑みを浮かべてながら、ゴーロは指を鳴らして近づいてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リーフ「…がはっ…!!」

 

ダイーダ「ゲブッ…」

 

 

ゴーロ「ガッハッハッ、実に痛快だ。テメェらの苦しむ顔は最高だぜ!!」

 

 

 

ダイーダ「くそっ、このままじゃ…」

 

リーフ「でも、子供達が… ランちゃんや豪くんが…」

 

 

何もできないまま、一方的に嬲られ続けたリーフとダイーダだが、刃物を手に今にも殺し合いを始めそうな子供達が視界にある以上、どうすることもできなかった。

 

 

 

ゴーロ「とどめだ。マイナー、しっかりそいつらを押さえてろよ」

 

ボロボロになって倒れ伏していたリーフとダイーダを無理矢理立たせて、マイナーに羽交い締めにさせると、とどめとばかりにゴーロはぐるぐると大きく肩を回した。

 

 

 

しかし次の瞬間、ネズミ・蚊合体メイジャーの胸に取り付けてあったハーメルンシステムが大爆発を起こして木っ端微塵になっていた。

 

当然ネズミ・蚊合体メイジャーは胸の部分が抉り取られるほどの大ダメージを受けて、悲鳴とともにひっくり返ってしまっていた。

 

そしてそれと同時に催眠音波も停止し、子供達は手にした刃物を取り落とすと、糸の切れた操り人形のように倒れていった。

 

 

ゴーロ「な、何が起きた?」

 

ゴーロは突然のことに事態が把握できず、パニックになってしまった。

 

 

ダイーダ「はっ! 今よ!!」

 

リーフ「あっ! うん!!」

 

 

混乱していたのはこちらも同じだったが、一瞬早く正気に戻った二人は自分たちを羽交い締めにしていたマイナーを叩きのめすと、ゴーロに飛びかかった。

 

 

リーフ・ダイーダ「「ハァッ!!」」

 

 

ゴーロ「ぐあっ!!」

 

 

二人に殴り飛ばされたゴーロだったが、たまたまその近くで倒れていた豪とランを見て、しめたというように立ち上がった。

 

 

ゴーロ「動くな!! 動けばこいつらを殺すぞ!!」

 

 

気を失っている二人の首を捕まえて、そう言い放ったゴーロにリーフとダイーダの不快感は頂点に達していた。

 

ダイーダ「あんたね、いい加減にしなさいよ」

 

リーフ「どこまで卑怯なの!?」

 

 

ゴーロ「なんとでも言え。勝ちゃそれでいい、勝ったほうが強いんだよ」

 

下劣に笑いながらそう嘯いたゴーロだったが、次の瞬間風のようなものが懐に向けて突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

ゴーロ「な…」

 

気がついた時には、ゴーロの土手っ腹には右拳がぶちこまれており、しかもその拳は完全に体を貫通していた。

 

 

 

リーフ「えっ?」

 

突然のことに戸惑っていたリーフ達だが、すぐに全てを理解した。

 

ダイーダ「キュア…デッド…」

 

 

 

 

デッド「否定する。こんなことでしか戦うことのできない貴様は、『弱い』」

 

そう言い捨てると、右腕をまるでまとわりついたゴミを払うように大きく振って、ゴーロを投げ捨てた。

 

そして解放された豪とランを大切なもののように優しく抱きとめ、地面に寝かせた。

 

 

 

ゴーロ「テメェ… 何を…」

 

ボディを貫かれたことによる損傷は相当なものだったのか、ゴーロはやっとというようにその言葉を絞り出した。

 

 

しかし、デッドはそんなゴーロを冷たい目で見下し淡々と告げた。

 

 

デッド「警告する。この二人に手を出すな。 そして何より、貴様ごときがプリキュアと汚い手を使って戦うな」

 

 

ゴーロ「う、うるせぇ!! せっかくプリキュアを倒せたチャンスに。よくも邪魔しやがったな」

 

貫かれた土手っ腹をおさえ、ふらつきながら立ち上がり殴りかかったゴーロだが、それをあっさりいなすとデッドはまるで感情を感じさせない警告を繰り返した。

 

 

デッド「再度警告する。貴様のボディの損傷を計算から除外しても、貴様の身体機能および兵装から勘案される私に勝利できる可能性は限りなくゼロに近いものである。早急に戦略の転換を行い、撤退することを推奨する」

 

 

ゴーロ「黙れ!! イライラする話し方をしやがって!!!」

 

いらつきが頂点に達したゴーロは、なりふり構わずデッドに殴りかかっていったがその拳はデッドにかすりもしなかった。

 

ゴーロ「くそったれ!! くそったれ!!」

 

 

ムキになって必死に攻撃を繰り返したゴーロだが、デッドは余裕綽々といったように最小限の動きで完全にそれをいなしていた。

 

 

 

 

 

 

デッドとゴーロが自分達そっちのけで争い始めたことに、あっけにとられていたリーフとダイーダだが、起き上がってきたネズミ・蚊合体メイジャーを見てようやく正気に返った。

 

 

リーフ「あっ、ダイーダちゃん!!」

 

ダイーダ「え、ええ、行くわよ!!」

 

 

リーフ・ダイーダ「「ゴー!!」」

 

正気に返った二人はジャンプしてトンボを切った。

 

 

その瞬間、二人の体は光に包まれ、着地した時には姿が大きく変わっていた。

 

 

ショートカットだったリーフは、ボリュームのある濃いピンクの髪に変化し、着用している服も、ごく普通の服からフリルのついた赤を基調にしたドレスのようなものになっていた。

 

 

 

ダイーダのポニーテールは、一本から五本にまで増え、背中にかかるかかからないかだったそれも、腰まで伸びて金色になっていた。

 

 

そしてリーフ同様のデザインの純白を基調にしたフリルのついたドレスを着用していた。

 

 

 

そして怪物をキッと睨むと二人は名乗りをあげた。

 

 

リリーフ「闇を吹き消す光の使者 キュア・リリーフ!!」

 

ダイダー「悪を蹴散らす光の使者 キュア・ダイダー!!」

 

 

リリーフ・ダイダー「「ピンチ一発、大逆転! コズミックプリキュア!!」」

 

 

 

 

リリーフ「よーし、ライナージェーット!!」

 

そして名乗りをあげるや否や、リリーフはすかさずライナージェットを呼び寄せ、カノンモードで保持した。

 

 

リリーフ「ライナージェット、カノンモードスタンバイ!!」

 

ダイダー「ターゲットロック!! プラスエネルギーチャージ!!」

 

 

そしてなんとか立ち上がり、自分達に向かってきたネズミ・蚊合体メイジャーに照準をセットし、自分達のプラスエネルギーをチャージしていった。

 

 

リリーフ・ダイダー「「プリキュア・ウォークオフ・ブラスター!! ファイヤー!!!!」」

 

 

 

その掛け声とともにライナージェットから光の奔流とでもいうかのような眩しくそして温かいエネルギー波が発射され、その光の中ネズミ・蚊合体メイジャーは断末魔の悲鳴をあげて浄化されていった。

 

 

 

 

 

ゴーロ「くそっ、テメェのせいで!! ぶち壊してやる!!」

 

ネズミ・蚊合体メイジャーの最期を見たゴーロは、全てが失敗に終わったことを悟り、その元凶でもあるデッドに怒りのままに殴りかかった。

 

 

 

デッド「警告はした」

 

その端的な返事と共に、デッドは半壊状態だったゴーロを力任せに蹴り飛ばした。

 

 

ゴーロ「!!!!!!」

 

 

ダイーダのレッドハンドを凌駕するパワーを持つデッドに思い切り蹴り飛ばされたゴーロは、悲鳴にならない声をあげ彼方に吹き飛んで行ってしまった。

 

 

 

 

リリーフ「豪くん、ランちゃんしっかりして」

 

気絶していた豪とランだがリリーフの呼びかけに、段々と意識を取り戻していった。

 

豪「あれ? 姉ちゃん?」

 

ラン「ここは一体?」

 

 

とりあえず怪我のなさそうな二人を見て、リリーフはホッと胸をなでおろしていた。

 

リリーフ「よかった、大丈夫そうね」

 

ダイダー「他の子も大丈夫よ。かすり傷程度だし、心配はいらないわ」

 

 

同じように気絶していた子供達の様子を見たダイダーも、大きな怪我を誰もしていないことにホッとしていた。

 

 

 

豪「あっ、そうだ。なんか変な音が聞こえてきて…」

 

ラン「そうそう。それで突然眠くなって… それから…」

 

 

少しずつ状況を思い出し始めた豪とランに、リリーフとダイダーは続けた。

 

 

リリーフ「みんなパーフェクトに操られてたんだよ。でもね、デッドが助けてくれたんだ」

 

ダイダー「彼女がいなかったら私達も危なかったわ」

 

 

豪・ラン「「えっ?」」

 

 

その言葉に驚いた豪とランは慌てて辺りを見回すと、立ち去ろうとしているデッドを見つけて慌てて駆け寄った。

 

 

豪「ね、ねぇ待ってよ。俺達を助けてくれたって本当!?」

 

デッド「肯定する。お前達を死なせるわけにはいかない」

 

 

その言葉に嬉しくなったランはそうあってほしいと願うように尋ねた。

 

ラン「あなた、本当は私達の味方でコズミックプリキュアと一緒に戦う正義の戦士なのよね。そうよね?」

 

 

しかし、その願いはあっさり裏切られた。

 

デッド「否定する。コズミックプリキュアが『正義』ならば、私は『悪』だ」

 

豪「そんな… でも、姉ちゃん達を助けてくれたんだろ。それはなんでなんだよ?」

 

その言葉に愕然としながらも、懸命に豪は説得しようとした。

 

 

デッド「回答する。コズミックプリキュアの破壊は私の使命である。私以外のものに卑怯な手で破壊されるわけにはいかない」

 

 

ラン「…やめてよ、そんな悲しいこと言うの。あなたは変なプログラムを入れられてるだけなのよ。おじいちゃんならきっと直してくれるわ、だから…」

 

 

デッドの回答に涙をこらえながら必死にランは訴えた。が

 

 

デッド「拒否する。私が私であることを否定されたくない」

 

そう冷たく言い放つと、デッドはリリーフとダイダーを見遣った。

 

 

デッド「警告する。邪魔が入った今回は見逃すが、次はない。必ず貴様達を破壊する。ボディのコンディションは完璧にしておけ」

 

 

そう淡々と宣言するとデッドはどこへともなく飛び立っていった。

 

 

 

そんなデッドの後ろ姿を見送ると、ランはありったけの想いを込めて叫んだ。

 

 

ラン「わからずやー!!!」

 

 

 

 

 

海底 Dr.フライ秘密研究所

 

 

Dr.フライ「くそう、派手にやってくれおって…」

 

デッドに破壊されたゴーロのボディを修復していたDr.フライだったが、かなり破損度合いが大きく難航していた。

 

 

その作業の傍ら、近くにあったモニターには今回の作戦の顛末がニュースで報道されており、Dr.フライは憎しみのこもった目つきでそれを睨むように見ていた。

 

 

節子『Dr.フライと名乗る男の子供達を人質に取った悪魔のような作戦はプリキュアの手で完膚なきまでに打ち砕かれました。さらに救出された子供達によると新しいプリキュアが助けてくれたとのことです』

 

画面に映った子供達は皆口々に黒いプリキュアに助けられたことを嬉しそうに話しており、心から感謝しているようだった。

 

節子『この子供達の笑顔をご覧ください。こんなに喜ばしいことはありません。三人となったプリキュアは必ずやパーフェクトを倒し平和な世界を作ってくれるでしょう。突撃レポーターの甲斐節子がお届けいたしました』

 

 

Dr.フライ「おのれ… あやつは一体どういうつもりじゃ!? 問いただしてやる!!」

 

 

 

 

そんな中、轟音とともに作業室の壁を力任せに突き破ってゆうが入ってきた。

 

 

Dr.フライ「なんちゅう入り方をするんじゃ!! ドアから入ってこい!!」

 

ゆう「拒否する。この方が早い。 そもそも一刻も早く来いと言ったのは貴様だ」

 

 

その尊大な態度に歯ぎしりしながらもDr.フライはゆうに詰問した。

 

Dr.フライ「えぇい、ならばなぜわしの作戦を妨害した!? 納得できる理由を説明せい!!」

 

 

ゆう「反論する。コズミックプリキュアを破壊するという私の行動の妨害をしたのは貴様らだ」

 

Dr.フライ「何ぃ!?」

 

ゴーロ「なにぬかしやがる!! あと一歩で連中を倒せたんだぞ!! 邪魔しやがったのはテメェだろうが」

 

そのセリフに作業台の上のゴーロは当然のように噛み付いたが、ゆうは冷たい目で見下して続けた。

 

 

ゆう「警告する。あんな下劣な手で連中を貴様ごときが倒すことは許さん」

 

ゴーロ「んだと!! テメェ何様だ!?」

 

 

ゆう「回答する。私はプリキュアを破壊する死神。そして貴様のような能無しのくたばりぞこないが作ったガラクタ人形ではない」

 

Dr.フライ「なっ!?」

 

 

ゆう「宣告する。ガラクタと死体もどきはそれ相応のことをしていればいい。コズミックプリキュアを破壊するのは私の役目だ」

 

 

その言葉とともに、ゆうは今度は作業室の天井を突き破って飛んで出て行った。

 

 

崩れてくる天井の破片をかぶりながら、ゴーロはDr.フライに吠えた。

 

ゴーロ「テメェ!! よくもあんなやつを連れてきやがったな。いい迷惑じゃねぇか!!」

 

Dr.フライ「黙らんか!! コズミックプリキュアを破壊するという目的のためにはあのレベルのロボットが必要だったんじゃ!! 次からはプリキュアを相手にすることをしなければいいんじゃ、いいな!!」

 

 

そう怒鳴りつけながらDr.フライは胸中でつぶやいた。

 

 

Dr.フライ(そう、わしの目的のためにはあやつが必要なんじゃ。見とれよパーフェクト、わしを利用しようとした報いは受けてもらうからな)

 

 

 

 

第43話 終

 

 

 

 

 



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第44話 「鬼は内、福は外 (前編)」

 

 

 

甲子市内 某所

 

 

 

「ただいま節分フェア実施中でーす。恵方巻きをどうぞ」

 

 

もう直ぐ節分ということで、街中ではフェアが行われておりそれなりに賑わっていた。

 

 

スーパーの前では客引きが行われ、鬼のお面をかぶった人がパフォーマンスをしており、空には愛嬌のある鬼の形をした飛行船が浮かんでいた。

 

 

 

リーフ「へぇ〜賑やかだね。あっちこっちでお祝いみたいなことしてるよ」

 

ダイーダ「なんやかんやで博士って街の人に好かれてるのね」

 

 

リーフとダイーダの感想に一緒に買い物に来ていたランと豪は諦めの極致のような大きなため息をついていた。

 

 

 

豪「あのね。確かに今日はじいちゃんの誕生日で、俺達はそのパーティの準備をしに来たんだけどさ…」

 

ラン「あれは節分っていうイベントで、おじいちゃんの誕生日とは全く無関係なの。わかる?」

 

 

ランと豪の言葉に、なんとなく事情を理解したリーフは疑問を口にした。

 

 

リーフ「ふーん。じゃあさ、セツブンってどんなお祭りなの?」

 

ダイーダ「あそこにいる人のかぶってる赤いお面と何か関係あるの?」

 

 

豪「えっ? どういうって… 豆をまいたり、のり巻き食べたりで… え〜っと…」

 

ダイーダ「中身がよくわからないことを、どうしてみんなしてやるのかしら? 一体なんの意味があるの?」

 

豪「あう…あう…」

 

改めて言われてみれば節分というものがよくわからない豪はしどろもどろになってしまい、ダイーダの矢継ぎ早の質問に完全にお手上げになっていた。

 

 

 

 

ラン「んもう情けない。授業で習ったじゃない。今日は冬から春になる季節の変わり目なのよ。それでそういう時期には、家の中に悪い鬼が入ってくるから豆をまいてそれを追い払おうって日なのよ」

 

 

授業で習ったばかりのウンチクを得意そうに語ったランだが、リーフとダイーダの疑念は増していた。

 

 

リーフ「マメって、あのお豆だよね。それで鬼が追い払えるの?」

 

ダイーダ「でも、そんな強いプラスエネルギーは感じたことないわ。何か特別な装置にでも繋ぐのかしら?」

 

 

ラン「あ〜う〜… と、とにかく今日はおじいちゃんの誕生日なんだし、その準備をしましょう、ねっ」

 

 

強引に話を打ち切ったランは、早足でスーパーの中へと入っていき、どこか釈然としないながらもリーフとダイーダも後を追っていった。

 

 

鬼のお面をかぶった男は、そんな一同を見送るとお面を外した。

 

するとお面の下からは鬼警部の顔が出てきたのだった。

 

 

河内「あのジジイも人並みに誕生日を孫に祝ってもらえるだけの人徳はあるのか。しかし好都合だ。こっちもあの家に行く口実ができた」

 

 

河内警部がそんなことをつぶやいていると、空から何か黒いものがパラパラと一面に降り注いできた。

 

 

河内「何だこりゃ? なんかのゴミか? ったく年に数日しか使わんのはわかるが飛行船の掃除ぐらいしとけってんだ」

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

 

ラン・豪「「おじいちゃん、誕生日おめでとう!!」」

 

 

リーフ・ダイーダ「「博士、おめでとうございます」」

 

京香「これからも宜しくお願いします」

 

 

遠藤「いやあありがとう。こんな賑やかな誕生日は久しぶりじゃ」

 

 

皆に誕生日を祝われ、遠藤博士は嬉しそうにコップの酒をあおった。

 

遠藤「しかし、せっかくの誕生日なんじゃからもう少しいい酒を用意してくれてもよかったんじゃがな」

 

少々不満そうに愚痴った遠藤博士だったが、ランに諌められた。

 

 

 

ラン「だーめ、それだって京香先生に無理言って買ってきてもらったんだから。それに新学期に向けて色々物入りなのよ。そろそろ年度末に向けてのことも考えないといけないし」

 

遠藤「その話をするな!! せっかくの誕生日に気分が悪くなる」

 

 

豪「じゃあさ、せっかくの節分だし、パァ〜っと豆まきして嫌な気分なんか追い払っちゃおう」

 

京香「それはいい考えね」

 

遠藤「よし、一丁やるか。 ほれ、お主達もな」

 

 

豪の提案に乗り気になった一同は、用意していた豆を手に準備を始めた。

 

 

リーフ「…やっぱりこれ、ただの豆だよね」

 

ダイーダ「これがどうして効果があるのかしら?」

 

手渡された豆を、首をかしげながらいじっていたリーフとダイーダを、微笑ましげに見ながら遠藤博士は簡単に説明した。

 

 

遠藤「まぁ、効果があるかは知らんがな。一種の縁起担ぎみたいなもんじゃ。よ〜しいくぞ」

 

 

そうして今まさに豆を巻こうとした時、呼び鈴が鳴った。

 

 

 

 

 

遠藤「誰じゃ? 全くタイミングの悪い」

 

 

ぶつくさ言いながらドアを開けた遠藤博士だったが、そこにいた人物を見て一層気分が悪くなった。

 

 

河内「ハッピーバースディ、遠藤博士」

 

京香「河内警部!?」

 

遠藤「何しに来おった!? ラン、豪、鬼が来たぞ!! 豆、いや塩をまけ!!」

 

ラン「わかってるわよ!! 鬼は外!!」

 

 

河内「待て待て、俺は純粋に博士の誕生日を祝いに来たんだ。たとえ敵同士でも、一年に一度誕生日ぐらいは祝ってあげませんとね」

 

自分をいきなり追い出そうとするランや遠藤博士に、河内警部はわざとらしくそう言った。

 

 

 

 

 

遠藤「ざーとらしい。お前さんなんぞにわざわざ誕生日を祝ってほしくないわい!! とっと往ね!!」

 

 

しかし、河内警部はニヤニヤしながら一本のビンを出した。

 

河内「ふふふっ、これは俺からのプレゼントだ」

 

 

遠藤「こ、これは!? 幻の銘酒と言われた大銀河!! こりゃラン、何をしとる。早く入れて差し上げなさい」

 

差し出されたそのビンを見た遠藤博士は途端に気分が良くなり、河内警部を研究所内に招き入れてしまった。

 

 

ラン「んもう。物欲に負けて。 なんか企んでるに決まってるのに」

 

呆れたように不満を漏らしたランの肩に、そっとダイーダが手をやった。

 

ダイーダ「大丈夫よ。いつも言ってるじゃない、あの人は悪いことをする人じゃないわ」

 

 

ラン「でもねぇ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠藤「いやあ河内くん、君はかなりイケる口じゃな」

 

河内「あったり前だ。これぐらい飲めなきゃ刑事なんかやってられるかってんだ。 さっもう一杯」

 

 

遠藤「おう、どうもどうも」

 

注がれた酒を一気に飲み干すと、遠藤博士は実に上機嫌に河内警部の肩を叩いた。

 

遠藤「はっはっはっ。酒もうまいし、いい気分じゃ。君はなかなかいい奴じゃな」

 

河内「わかってもらえて嬉しいですな。ガッハッハッ」

 

 

すっかり出来上がってしまった二人は、長年の友人のように意気投合していた。

 

 

 

ラン「…なんであんな簡単に仲良くなれるのかしら?」

 

リーフ「決まってるじゃない、二人ともいい人同士なんだもの。仲良くなれない方がおかしいんだよ」

 

ウンウンと頷いていたリーフだが、京香先生はポツリと現実的な感想を口にした。

 

 

京香「酔っ払いなんて、あんなものなのよ。よく見てるからわかるわ…」

 

 

 

 

 

河内「う〜い、ちょいと失礼」

 

遠藤「お〜い、どこへ行く? もっと飲もうじゃないか」

 

河内「いやぁ、飲みすぎちゃって。トイレ貸してもらいますね」

 

 

酔いがかなり回っているのか、河内警部は多少ふらつきながら部屋を出て行った。

 

 

 

トイレで用を足すと、河内警部は先ほどまでの弛緩しきった顔は何処へやら、急に真剣な顔になった。

 

河内「さてと。うまく潜り込めたが、もっと奥の部屋を調べてみないとな」

 

そうして、河内警部はトイレの天井を外すとそこから天井裏へと忍び込み奥へと進んでいった。

 

 

河内「必ず、どこかに奴が強奪した30億円の証拠があるはずだ。見てろ遠藤、今日という今日は必ず貴様を逮捕してやる。 貴様に殺された先輩の無念を必ず晴らしてやるからな」

 

 

決意の表情で暗い天井裏を這いながら進んでいた河内警部だったが、突然目の前の景色が歪んだ。

 

 

河内「む、いかん飲みすぎたか。ええいあれしきの酒で…」

 

 

何かを振り払うように頭を振りながら、進んでいった河内警部だったが、天井板の薄い所に手をついてしまい、踏み抜いて落下してしまった。

 

 

河内「イテテ… ん? なんだここは?」

 

河内警部の落ちたところは研究所奥の司令室であり、予想外の設備に戸惑っていた。

 

 

河内「なんでこんな設備がここにあるんだ。映画の鑑賞用なんかじゃなさそうだし…」

 

 

湧き上がる疑問を抱えながらもさらに進んでいき、奥の扉を開けた時河内警部の驚きは頂点に達した。

 

 

河内「こ、これは!? 間違いなくプリキュアが乗っているジェット機。なぜこれがここにあるんだ!?」

 

自動装置で整備されている最中の三冠号に驚愕した河内警部だったが、再び目の前が歪み足元もふらつき始めた。

 

 

河内「な、なんだこれは? 酒のせいじゃ… ない… ぞ…」

 

 

そのまま倒れ込み、河内警部は気絶してしまった。

 

 

 

 

 

 

ラン「まーったく。やっぱりうちのこと探りに来てたのね」

 

三冠号の格納庫には、万が一に備えて警報装置が備え付けてある。

 

河内警部が格納庫に立ち入ったためブザーが鳴り響き、結果倒れている河内警部を見つけたわけだが…

 

 

リーフ「京香先生、これは一体どんな病気ですか? 身体中にこんな黒い斑点ができるなんて、私のデータベースにもないから手当のしようが…」

 

居間のソファーで横になり、高熱でうなされている河内警部の診断をしながら、京香先生も難しい顔をしていた。

 

京香「私もわからないわ。こんな病気見たことも聞いたこともないもの。病院に搬送して本格的な検査をしたほうがいいわ」

 

 

遠藤「いや待て待て。こやつには三冠号や司令室を見られとるんじゃ。外に出したら何を口走るやら…」

 

ダイーダ「何言ってるんですか!? 命に関わるかもしれない病気だったらどうするんです!? こういう人を助けることが私達の使命のはずです!!」

 

あまり気乗りのしなさそうだった遠藤博士だったが、ダイーダに一喝されてグゥの音も出なかった。

 

 

遠藤「う〜わかったわかった。リーフ、ダイーダお前さん達で河内警部を病院まで連れて行け」

 

ダイーダ「はい!!」

 

 

ダイーダが返事をした途端、居間のマイナスエネルギー感知器が鳴り響いた。

 

豪「!! これってまさか!?」

 

遠藤「そのまさかじゃろうな」

 

 

 

 

苦々しい顔をしながらテレビをつけると、そこには各地の病院の様子が映し出されていた。

 

 

キャスター『臨時ニュースを申し上げます。現在県内各所で謎の奇病が蔓延しております。患者はみな高熱に加えて、全身に黒い斑点が浮かび上がっております。この奇病は全く原因が不明であり、新種のウィルスではないかとも言われていますが、感染源も特定できない状況です』

 

 

遠藤「何ぃ!? こやつと全く同じ病気ではないか」

 

 

遠藤博士が驚いた時、テレビに砂嵐が走りDr.フライがアップで映った。

 

 

Dr.フライ『ヒャッヒャッヒャッ。節分に因んで、わしの送った「鬼」は気に入ってもらえたかな。今世間を騒がしとる病気のウィルスはわしがばらまいたものじゃ』

 

ダイーダ「!! なんてことを!!」

 

京香「バイオテロ!! 許せないわ!!」

 

 

一同が憤る中、Dr.フライの芝居がかった話は続いた。

 

Dr.フライ『無論「福」、すなわちワクチンは用意してある。これが欲しくばわしに降伏し日本国の支配圏をよこせ。 このウィルスに感染したものは12時間で確実に死ぬ。 ああ、感染者からワクチンを作ろうとしても無駄じゃ。こいつは人体に入ると途端に性質が変わるからな。よーく考えて返事をすることじゃ』

 

 

 

その放送が終わるか終わらないかのうちに、遠藤博士は指示した。

 

 

遠藤「リーフ、ダイーダ。直ちに出動、ウィルスの感染源を特定しろ!! 感染する前のウィルスを手に入れればワクチンが作れるかもしれん!!」

 

リーフ・ダイーダ「「了解!!」」

 

 

 

 

 

甲子市内

 

 

三冠号が整備中のためライナージェットで出撃したダイーダは、市内を飛び回ってはみたものの、

 

ダイーダ「おかしいわね。これだけ広範囲にウィルスを巻き散らそうと思ったらかなり大規模な装置がいるはずよ。メイジャーらしきものも見当たらないし、気配も感じない… リーフそっちはどう?」

 

リーフ「こっちもだよ。イエローハンドで周りを探ってみたけど半径10キロ怪しいものが見当たらないよ」

 

ダイーダ「リーフ、ちゃんと探したんでしょうね。早くしないと河内警部が…」

 

必死の捜索にもかかわらずまるで手掛かりの無い状況にダイーダは焦り始めていた。

 

 

 

遠藤『落ち着けダイーダ。焦っていたのでは注意がそれて見つかるものも見つからんぞ』

 

ダイーダ「は、はい。すみません」

 

司令室からの連絡にダイーダも少々冷静さを取り戻した。

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所 司令室

 

 

 

遠藤「これだけ探して見つからんとなると、何かに感染源を偽装しとるのかもしれん。もしくは超高空からばらまいたか…。  よし、ダイーダはライナージェットで高度を上げて探ってみろ。リーフはセンサーアイの感度を最大に上げて下水道も確認するんじゃ。わしは被害の発生した地域を調べて感染源を絞り込んでみる」

 

リーフ・ダイーダ『了解』

 

 

 

高熱で足元がふらつき目もかすむ中、遠藤博士達の後をつけて司令室の入り口にたどり着いた河内警部は、この通信を聞いて全ての状況を理解した。

 

 

河内「そうか… ここはコズミックプリキュアの基地だったのか…」

 

そのままやっとの思いで司令室の扉を開けた河内警部だったが、力尽きたように倒れてしまった。

 

 

 

京香「警部さん!? ダメですよ安静にしていないと」

 

河内「お、鬼だ。鬼の飛行船がススを…」

 

 

慌てて駆け寄った京香先生に、河内警部は最後の力を振り絞るようにそう伝えた。

 

京香「鬼の飛行船? スス? どういうことかしら?」

 

 

豪「鬼の飛行船… !! それって!!」

 

ラン「あれよ!!」

 

 

それを聞いた豪とランは何かに思い当たり、かじりつくように通信マイクを握った。

 

 

 

豪「姉ちゃん。さっき買い物に行った時に見たあの飛行船だよ」

 

ラン「あいつがウィルスを撒き散らしてたんだわ!! 急いで!!」

 

 

そう叫んだ豪とランだったが、その途端急に胸を押さえ始めた。

 

 

豪「うああっ…」

 

ラン「これって…」

 

 

苦しみ始めた豪とランの顔にもまた黒い斑点が次々と浮かび始めていた。

 

 

 

遠藤「ラン! 豪! くそうフライのやつめ!! リーフ、ダイーダ急いでくれ、頼む!!」

 

 

倒れてしまった二人の孫を抱きかかえながら遠藤博士は必死の思いで叫んだ。

 

 

 

 

 

 

甲子市

 

 

 

ダイーダ「ラン、豪!! くそっ、リーフ聞こえたわね。あの飛行船の現在位置は!?」

 

リーフ「うん、ダイーダちゃんの位置から北北東に2.7キロ。私もそっちに向かってる」

 

 

研究所からの最後の通信を聞いた二人は、全力で現地へと急行していた。

 

 

 

 

 

その頃、我が物顔で上空を飛んでいた鬼の飛行船の操縦室ではDr.フライが上機嫌で笑っていた。

 

 

Dr.フライ「ヒャッヒャッヒャッ!! 病気程度で右往左往しおって、人間とは弱いものじゃのう。偉大なるわしのような体を持てなかったことを嘆くが良い」

 

 

そんなDr.フライをファルは冷めた目で見下していた。

 

 

ファル「よく言うぜ。その体を与えたのはパーフェクト様だろうが。テメェはただ死んでただけだろうがよ。 それより見ろ、プリキュアどもが嗅ぎつけてきたが大丈夫なんだろうな」

 

ファルの指差したモニターには、ライナージェットで向かってくるダイーダの姿があった。

 

 

Dr.フライ「わかっておるわ。これはただの飛行船ではないし、連中の相手はあやつにさせるから心配はいらん」

 

 

自信たっぷりな言葉とともに、Dr.フライは操縦室のボタンを押した。

 

 

 

 

 

ダイーダ「見つけた!! あいつがウィルスを!!」

 

ライナージェットでリーフの指示した場所に急行していたダイーダは、鬼の飛行船を見つけると鋭い目つきで睨みつけた。

 

 

しかしその途端鬼の飛行船は突如として爆発し、中から二本足で歩く牛の角を二本生やした虎のメイジャーが姿を現した。

 

 

ダイーダ「くそっ、やっぱりメイジャー。飛行船の力で飛んでたから気配を感知できなかったのね」

 

 

悔しそうに舌打ちしたダイーダをよそに、牛・虎合体メイジャーは地上に着地すると手にした金棒から大量の黒いススを撒き散らし始めた。

 

 

それは例のウィルスであり、突如出現した牛・虎合体メイジャーに驚いた人々の上に次々と降り注いだ。

 

 

「うわーっ!!」

 

「逃げろー!!」

 

 

人々は慌てふためいて逃げ出したが、まともにススを浴びてしまった人も多く、その人達は皆黒い斑点を浮かべてバタバタと将棋倒しのように倒れていった。

 

 

リーフ「くっ、皆さん急いでください。このススに触れないように建物の中に避難してください!!」

 

その場に駆けつけたリーフは避難誘導を行っていたが、ススの撒き散らされる速度の方が早く、目の前で人々が感染して倒れていく様を見て、歯ぎしりをしていた。

 

 

 

ダイーダ「いけない、早くなんとかしないと!!」

 

上空からその光景を見ていたダイーダは、慌ててライナージェットを急降下させていったが、突然ライナージェットの推進部に何かが投擲された。

 

結果、推進部の詰まったライナージェットは爆発を起こした。

 

 

ダイーダ「きゃあああ!! なっ何!?」

 

リーフ「ダイーダちゃん!!」

 

思いがけない事態に悲鳴をあげながら、ライナージェットもろともダイーダは墜落していき、リーフもまたそちらへと猛烈なスピードで駆け出していった。

 

 

 

 

 

 

第44話 終



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第45話 「鬼は内、福は外 (後編)」

 

 

 

 

ダイーダ「イタタ… なんなのよ急に?」

 

突然墜落してしまい、普通の人間ならば間違いなく全身打撲で死んでいたところであるが、さすがというべきか多少ダメージを負った程度で済んでいた。

 

 

 

リーフ「ダイーダちゃん、大丈夫?」

 

ダイーダ「ええ、なんとかね。それよりあのメイジャーをなんとかしないと…」

 

駆けつけたリーフに無事を報告し、早くメイジャーのところに行かなければと立ち上がったダイーダに、リーフもまた頷いた。

 

 

リーフ「うん。あいつがウィルスを撒き散らしてるなら急がないと被害が広がる一方だよ。ワクチンも作らないといけないし…」

 

 

 

 

〜♪〜♫〜♪〜〜♪〜♫〜♪〜♫〜♫〜♪〜♪〜♪〜

 

 

するとその時、どこからかハープのメロディーが流れてきた。

 

 

リーフ「これって、豪くんが言ってた…」

 

リーフがそのことに気づくや否や、近くのビルから透けるような白い肌にプラチナブロンドの髪をなびかせた黒いスーツの少女が飛び降りてきた。

 

 

ダイーダ「四季ゆう… さっきのはあなたね」

 

 

ゆう「肯定する。リーフ、ダイーダ、変身して私と勝負しろ」

 

 

文字通り機械のような口調で告げるゆうに対して、リーフは必死の思いで叫んだ。

 

 

リーフ「待って!! 今私達はあなたと戦ってる場合じゃないの!! 早くしないとDr.フライのウィルスで多くの人が死んじゃうの!!」

 

 

だが、リーフの必死の嘆願もゆうには馬の耳に念仏であった。

 

 

ゆう「回答する。この先にワクチンを持って行きたければ私との勝負がお前達の最優先事項となる」

 

 

ダイーダ「くっ、ランの言った通りのわからずやね。仕方がないわ、リーフ行くわよ!!」

 

 

ゆうの回答に、ダイーダは舌打ちをしそうな顔でリーフに同意を求めた。

 

リーフ「…仕方ない、オッケー!!」

 

 

リーフもまたやむをえないというように頷くと、ダイーダ共々トンボを切った。

 

 

リーフ・ダイーダ「「ゴー!!」」

 

 

 

 

その瞬間、二人の体は光に包まれ、着地した時には姿が大きく変わっていた。

 

 

ショートカットだったリーフは、ボリュームのある濃いピンクの髪に変化し、着用している服も、ごく普通の服からフリルのついた赤を基調にしたドレスのようなものになっていた。

 

 

 

ダイーダのポニーテールは、一本から五本にまで増え、背中にかかるかかからないかだったそれも、腰まで伸びて金色になっていた。

 

 

そしてリーフ同様のデザインの純白を基調にしたフリルのついたドレスを着用していた。

 

 

 

そしてゆうをキッと睨むと二人は名乗りをあげた。

 

 

リリーフ「闇を吹き消す光の使者 キュア・リリーフ!!」

 

ダイダー「悪を蹴散らす光の使者 キュア・ダイダー!!」

 

 

リリーフ・ダイダー「「ピンチ一発、大逆転! コズミックプリキュア!!」」

 

 

 

コズミックプリキュアの変身を見届けたゆうは、それに返すように左手を親指・人差し指・中指の三本を立てて前に突き出した。

 

ゆう「チェインジ!!」

 

 

そう叫ぶと、突き出した左手の指を立てたまま、手の甲を内向きにして顔の前へと横向きに持って行き、人差し指と中指の間から赤い右目を光らせた。

 

ゆう「スイッチ・オン!!」

 

 

次の瞬間、黒い電流のようなものが火花をあげてゆうの全身を走り、着地と同時にその姿は変わっていた。

 

 

彼女の着ていた黒いスーツは、フリルのない落ち着いたデザインのロングスカートの黒一色のドレスに変わっており、同じく黒一色の肘まである手袋とブーツを着用していた。

 

バトルスタイルへのチェンジが完了すると、デッドは左手に黒い靄のようなものをまとわせてデスサイズへと変化させて構えると冷たい声で宣言した。

 

 

デッド「破壊する。ターゲット、コズミックプリキュア」

 

 

 

 

少しの間にらみ合っていた三人のプリキュアだったが、示し合わせたようにお互いに突っ込んでいった。

 

 

リリーフ「ハアアア!!」

 

ダイダー「ヤアアア!!」

 

 

突っ込んでいった勢いそのままにパンチを繰り出したリリーフとダイダーだったが、デッドは手にしたデスサイズの柄の部分でそれを難なく受け止めた。

 

 

リリーフ「えっ!?」

 

リリーフが小さく戸惑いの声を上げたかと思うと、デッドは手にしたデスサイズを一振りしてリリーフとダイダーを押し飛ばした。

 

 

そして押し飛ばされた二人を狙って、デッドは右手の指先のマシンガンを発射してきた。

 

 

 

 

ダイダー「ぐぅっ!! プ、プリキュア・シャイニングスイング!!」

 

投げ飛ばされて姿勢が崩れたところを狙って放たれた弾丸を、体をよじることでなんとか直撃だけは避けたダイダーは、光のスティックのようなものを取り出して一振りし光の斬撃を放った。

 

 

しかし、そんな苦し紛れの攻撃をデッドは余裕を持って避け、デスサイズを振りかざして飛びかかっていった。

 

 

リリーフ「わっわっわっ!!」

 

ダイダー「くっ、早すぎる!!」

 

着地と同時に振るわれてきたデスサイズを必死に避けるも、次々に右に左にと猛スピードで振るわれてきたため、避けるだけで手一杯になってしまいまるで反撃ができなかった。

 

 

しかし、ある一撃を放った時に後ろのビルの壁を誤って切り裂いてしまい、ほんのわずかだが振りの速度が鈍った。

 

 

リリーフ・ダイダー「「!!」」

 

 

その一瞬を見逃さず、二人は左右に分かれてデッドを両脇から掴み大きく投げ飛ばした。

 

リリーフ・ダイダー「「ヤァアアアア!!!」」

 

 

 

だがデッドは空中で一回転してあっさり姿勢を立て直すと、左膝を折り曲げた。

 

リリーフ「!! あれは!!」

 

 

そして二人がそれに気づくと同時に、デッドは太ももからミサイルを地上に向けて発射してきた。

 

 

 

リリーフ・ダイダー「「キャアアア!!」」

 

 

即座に攻撃を返されたリリーフとダイダーは回避も防御もできないままミサイルの直撃を受け、大爆発とともに吹っ飛ばされた。

 

 

 

リリーフ「い、イタタ… ん?」

 

ダイダー「これは…」

 

 

体を押さえながら立ち上がった二人は、切り裂かれたビルの中にあるものを見つけて目を丸くした。

 

 

デッド「解説する。それはお前たちが必要としているものだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

コズミックプリキュアがキュア・デッドと戦っている頃、牛・虎合体メイジャーの肩に乗ったDr.フライがさも得意そうに笑っていた。

 

 

Dr.フライ「どうじゃ愚かな人間ども。このわしの開発した特製ウィルスの威力は身にしみたであろう。恐れ入ったならわしに忠誠を誓え。誓ったものからワクチンを分けてやる」

 

 

すると、その言葉とともに牛・虎合体メイジャーの片方の角の中から何かの液体が詰まった人間ほどのサイズのガラスケースをせり出させた。

 

 

Dr.フライ「これがそのワクチンだ。言っておくが下手なことをすればこいつを爆破してやるぞ。そうすれば感染した人間は死ぬだけだ」

 

 

その宣言に人々の間には動揺が走っていた。

 

 

「ど、どうするよ」

 

「で、でも…」

 

さすがに抵抗があるのか皆尻込みしていた中、感染した子供を抱えた一人の母親が叫んだ。

 

 

「忠誠を誓います。ですからワクチンを!! この子を助けてください!!」

 

 

それを皮切りに、人々が次々とDr.フライに対して降伏し始めた。

 

 

「お、俺もだ!! ワクチンをくれ」

 

「頼む死にたくない!!」

 

 

 

無論中には断固として反対を叫ぶ人もいたし、降伏し始めた人々もDr.フライがどういう人間かはわかっていた。

 

しかし、追い詰められた今やむをえないというところだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

市内のそんな光景はテレビ中継されており、遠藤博士も一部始終を見ていた。

 

 

 

遠藤「いかん、こりゃえらいこっちゃ!! 京香先生、豪とランを頼みますぞ!!」

 

 

ウィルスに感染し、高熱に苦しんでいる豪とランを京香先生に任せ、遠藤博士は三冠号の整備を途中で打ち切って発進準備を始めた。

 

 

京香「どうされるんですか!?」

 

遠藤「あのワクチンの入ったカプセルをなんとかせにゃ、フライの奴隷にされちまう。あのカプセルを固めてちょっとやそっとでは壊せん様にしてやるんじゃ。 リーフもダイーダも足止めをくらっとる今、わしがやらねばならん」

 

 

京香「お一人で大丈夫ですか!?」

 

遠藤「なーに、平気じゃ」

 

 

そうして遠藤博士は特殊なコーティング剤の詰まった投下弾を三冠号に搭載して出撃していった。

 

 

 

 

 

三冠号を見送った京香先生は、豪とランの当面の看病を終えると河内警部の看病をしに別室へと向かった。

 

 

京香「警部さんもしっかりしてくださいね。もう直ぐワクチンが… あら?」

 

ドアを開けると横になっていたはずの河内警部の姿が見当たらなかった。

 

 

京香「一体どこに… まさか!?」

 

 

 

 

 

 

 

甲子市内

 

 

人々が周辺に群がりひれ伏すようにワクチンを求めてくる様を、牛・虎合体メイジャーの肩から見下ろしながらDr.フライは限りない満足感を味わっていた。

 

Dr.フライ「ヒャッヒャッヒャッ、実に気分がいい。ほれ、もっとわしを崇めよ。この偉大なる大天才、Dr.フライ様をな!!」

 

 

ファル「けっ、相変わらずくだらん男だ。ん?」

 

Dr.フライの矮小さに嫌気がさしていたファルだが、上空から何かが接近してくるのに気がついた。

 

 

 

 

ファル「あれは連中のジェット機。あの女しくじったな。 やれ、メイジャー!!」

 

 

飛来してきたものが三冠号であることに気がついたファルは、舌打ちをすると牛・虎合体メイジャーに攻撃を指示した。

 

 

牛・虎合体メイジャーは雄叫びを一つあげると目からビームを発射して三冠号に攻撃を仕掛けた。

 

 

 

遠藤「むおおーっ!! 何のこれしき。フライ、これ以上は貴様の好きにはさせんぞ!!」

 

 

 

必死に操縦桿を握りしめギリギリでビームを避けながら、遠藤博士は牛・虎合体メイジャーの頭部のカプセルに照準をセットした。

 

 

遠藤「見とれフライ。特殊コーティング弾を喰らえ!!」

 

その叫びとともに投下レバーを力強く引いた遠藤博士だったが、レバーが動かなかった。

 

 

遠藤「ん? 何じゃ? どうなっとる?」

 

必死にレバーを引こうとするもビクともせず、そのうちハッと遠藤博士は気がついた。

 

 

遠藤「し、しまった!! 整備途中で慌てて引っ張り出したから投下装置のロックを外し忘れた!!」

 

 

 

そんなことをしている間にも、牛・虎合体メイジャーはビームを連射してきており、操縦に不慣れなことも合わさって、遠藤博士は回避するだけでもやっとになってしまった。

 

 

 

 

 

遠藤「ええい、ロックを外すには操縦を自動操縦に切り替えて発射口まで行かねばならん。しかしそうすると攻撃をかわしきれんし… かといってこのままではロックが外せんし… くそう、体が二つ欲しい!!」

 

 

どうにもならない現状に頭を抱えていると、後部座席からやっとの思いで話しているというような声が聞こえてきた。

 

 

河内「その仕事、俺がやってやる」

 

遠藤「河内!? お主いつ乗り込んだ!?」

 

 

驚く遠藤博士をよそに、高熱で真っ赤な顔をした河内警部は息を切らしながら続けた。

 

河内「こんな時こそ警察官の出番だ。投下ハッチのロックを解除してくればいいんだな」

 

遠藤「馬鹿を言え!! 病人にそんな危険な真似がさせられるか!! お前はここで操縦桿を握っとれ!!」

 

 

河内「馬鹿はお前だ。この俺が、しかもこんな体調でジェット機が操縦できると思うか?」

 

 

遠藤「くぅう、勝手にせい!! 落っこちても知らんぞ!!」

 

その言葉に遠藤博士は押し黙るしかなく、突き放すように言うと操縦桿を握りなおした。

 

 

 

 

河内「…遠藤博士」

 

遠藤「何じゃ!?」

 

 

河内「これまでのことは謝る。地球をあのパーフェクトの一味から守ってくれ、頼むぞ」

 

そう言い残すと河内警部はふらつきながら操縦席を出て行った。

 

 

遠藤「河内…」

 

 

それを見送った遠藤博士は一人つぶやいた。

 

遠藤「死ぬなよ。お前さんとはもう一度笑って酒を飲みたいんじゃ」

 

 

 

 

 

目の前がぼやける中、河内警部は三冠号の中を壁伝いに必死に歩き投下弾の搭載されている箇所にたどり着いた。

 

河内「遠藤博士、これが俺からの本当の誕生日プレゼントだ!!」

 

 

そして、最後の力を振り絞るようにロックのボタンを解除した。

 

 

それと同時に投下弾は発射されたが、それに巻き込まれる形で河内警部も三冠号から振り落とされてしまった。

 

 

河内「ウワァーッ!!!」

 

 

 

遠藤「あのバカモンが!!」

 

吹き飛ばされた河内警部を見た遠藤博士は慌てて三冠号から捕獲ネットを射出し、どうにかキャッチすることに成功した。

 

 

遠藤「ふぅっ、世話を焼かせおって」

 

 

 

 

一方、発射された投下弾は牛・虎合体メイジャーの頭上で破裂し、コーティング液を頭からかぶせることでカプセルを固めることに成功していた。

 

 

Dr.フライ「ぶわっ!! 何が起きた!? ええい、わしに逆らったな!!」

 

 

思わぬ反撃を受け、カッとなったDr.フライはカプセルについていた爆破装置のスイッチを入れた。

 

 

ファル「なっ、何やってやがる!?」

 

 

驚くファルをよそに、カプセルは牛・虎合体メイジャーの頭上で爆発を起こしたものの、カプセルそのものは無傷のまま地面に転がっていった。

 

結果、頭上で爆発の起きた牛・虎合体メイジャーだけがダメージを負う格好になってしまった。

 

 

 

そして牛・虎合体メイジャーの周辺に群がっていた人々は、その転がっていったカプセルの方に我先にと向かっていった。

 

 

 

Dr.フライ「なっ!? 愚民どもめ、どこに行くか!? わしに忠誠を誓ったはずであろうが!?」

 

醜く叫んだDr.フライに、ファルが呆れたような声を漏らした。

 

 

ファル「馬鹿か、連中が従ってたのはあのワクチンがあるからだ。そんなこともわかってなかったのか」

 

 

Dr.フライ「チッ、まあいい。まだまだ切り札はこっちにあるのじゃからして…」

 

 

舌打ちをしたDr.フライだったが、次の瞬間どこからか電撃光線が飛んできた。

 

 

 

 

 

Dr.フライ「ギョエエエ!! 何!?」

 

ファル「くっ、これは… リーフの電撃光線…」

 

 

感電してしまったDr.フライだったが、ファルの方は状況が理解できていたようだった。

 

 

 

ダイダー「チェンジハンド・タイプレッド!!  ダァアアア!!」

 

 

そして次の瞬間、レッドハンドに換装したダイダーが雄叫びと共に飛びかかり牛・虎合体メイジャーの金棒を持っていた腕をへし折った。

 

 

ダイダー「オォォリャアァァァァア!!!」

 

ダイダーは、さらなるダメージを受けて苦悶している牛・虎合体メイジャーの足を掴むとレッドハンドの怪力で思いっきり振り回して叩きつけた。

 

 

Dr.フライ「グオオオッ!! く、くそ。足が固まってしまって逃げられん!!」

 

ファル「チィッ!! さっき液体のせいか!!」

 

 

先ほどのコーティング液をまともに浴びていたDr.フライとファルは足が牛・虎合体メイジャーの体ごと固まってしまっており、身動きが取れなくなっていた。

 

 

リリーフ「Dr.フライ! あなたは絶対に許さない!!」

 

ダイダー「この場で終わりにしてあげるわ!!」

 

 

 

流石のこの二人ももはや堪忍袋の緒が切れたか、怒りの目つきで睨みつけていた。

 

そしてリリーフは、虹色の玉を手に輝かせ始めた。

 

 

リリーフ「ダイーダちゃん!!」

 

そしてそのまま、その虹色の玉をダイダーに向けて亜音速で投げつけた。

 

 

ダイダー「任せなさい!! ダァリャア!!」

 

するとダイダーは、リリーフの投げてきた玉を、取り出した光のスティックを一振りして打ち返した。

 

 

打ち返された虹色の玉はひとまわり大きくなり、牛・虎合体メイジャーに直撃すると全体を包み込んだ。

 

 

リリーフ・ダイダー「「プリキュア・レインボー・ツインバスター!!」」

 

 

そう二人が叫ぶと、牛・虎合体メイジャーを包み込んだ光は目も眩まんばかりに激しく輝き始めた。

 

 

 

 

リリーフ・ダイダー「「ゲームセット!!」」

 

 

 

その叫びとともに、牛・虎合体メイジャーは大爆発を起こした。

 

そしてその爆心地には動物園からでもさらってきたらしい虎と牛がボロボロになって横たわっていた。

 

 

ダイダー「あいつらとことんしぶといわね。爆発で吹っ飛びながら逃げて行ったわ」

 

カメラアイで捉えたDr.フライとファルの姿にダイダーは舌打ちまじりにそう愚痴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、遠藤博士はカプセルを覆っていたコーティング液を溶剤で溶かしていたのだが

 

 

 

遠藤「くそ、想像以上にコーティング剤が強力じゃった。早くせんといかんのに…」

 

 

なかなかワクチンを取り出せない状況に、周辺の人もだんだん殺気立ってきていた。

 

 

 

 

リリーフ「みなさん落ち着いてください。ワクチンはここにあります」

 

ダイダー「お医者さんはいますか? 急いでみなさんに注射してください」

 

 

そこにリリーフとダイダーが同じようなカプセルに入ったワクチンを持ってきてそう呼びかけていた。

 

 

その言葉にみな歓喜の声を上げてかけ寄り、近くの病院からは医師が派遣され、各々の病院にはワクチンが配布されていった。

 

 

 

 

 

 

遠藤「おい、あのカプセルは一体…」

 

 

リリーフ「デッドが持ってきていたんです。Dr.フライの秘密基地から」

 

ダイダー「あのメイジャーの持っていたカプセルの中はおそらく全く別のものです。少なくともワクチンじゃないと思いますが…」

 

 

その言葉に遠藤博士は納得したように頷いた。

 

遠藤「なるほどな、フライの考えそうなことじゃ」

 

 

だが、そこで遠藤博士は、しかしと続けた。

 

遠藤「しかしどうしてデッドはワクチンを… それにお前さんたちはあのキュア・デッドと戦っていたんじゃないのか?」

 

 

 

リリーフ「戦っている間に、デッドの制限時間が来て強制中断になりました。戦っているとログが蓄積する時間も早まるみたいですね。おそらくどこかで機能停止してるとは思いますが…」

 

 

ダイダー「それと、彼女がワクチンを持ってきた理由ですが、まぁらしいといえばらしいですね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海底 Dr.フライ秘密研究所

 

 

 

Dr.フライ「なぜワクチンを勝手に持ち出した!? あれがまだこちらの手にあれば愚民どもを従わせる材料になったというのに!!」

 

無断でワクチンを持ち出したことをDr.フライは怒鳴り散らしていたが、肝心のゆうはまるで気にしていないように回答した。

 

ゆう「回答する。プリキュアが感染者のことを考えることで私との戦闘をおざなりにしかねないと判断したからだ。連中とは全力を出し合った勝負の果てに破壊してこそ意味がある」

 

 

 

ファル「ふざけるのも大概にしろ!! 貴様は誰の味方だ!?」

 

ゆう「反論する。私は自分の目的を遂行しているだけだ。その目的に貴様達が勝手に競合しているだけだ」

 

 

ファル「この、でかい口をたたくな!!」

 

 

目の前のゆうに対してイラついたように飛びかかったファルだったが、あっさりあしらわれた挙句、アッパーパンチを食らって天井にめり込んでしまった。

 

 

ゆう「警告する。私の破壊対象はコズミックプリキュアだ。だが、私に対して敵対するというならば最優先でそちらを破壊する。少ないメモリーに記録しておけ」

 

 

そう言い捨てると、もはやここに用はないとばかりにゆうは壁をぶち破って出て行った。

 

Dr.フライ「ぬあああっ!! 隔壁をぶち破りおって!! 早く浸水を止めんと!!」

 

ゆうのぶち破った壁から水が入ってきたことにDr.フライは慌てて修理をするために飛び出して行った。

 

 

 

 

 

ファル「くそがっ!! 面倒極まりないやつだ!!」

 

 

なんとか天井から降り立ち、そう吐き捨てたファルだったが黒い靄のようなものが立ち込めるとドスの効いた低い声が響いた。

 

パーフェクト「落ち着けファル」

 

ファル「はっ、パーフェクト様」

 

 

かしこまって敬礼をしたファルにパーフェクトは続けた。

 

 

パーフェクト「あやつは放っておいてもコズミックプリキュアと戦うのならば、それを利用してやればいいだけだ。もしくは捨てておけ」

 

ファル「は、はぁ。 しかしあやつ、我らにとっても害が大きいかと」

 

 

パーフェクト「構わん。利用価値のあるうちは利用してやれ。 あいつのようにな」

 

 

その言葉にファルはニヤリと笑った。

 

ファル「はっ、了解いたしました」

 

 

するとパーフェクトは満足したように消えていった。

 

 

ファル「さすがはパーフェクト様は器が大きい。最近お姿をお見せになられなかったが、きちんと考えてくださっている」

 

 

 

 

その会話の一部始終をDr.フライは物陰からこっそりと聞いていた。

 

Dr.フライ「ふん、そんなことだと思っておったわ。しかし最近パーフェクトのやつが姿を見せんところを見ると、わしの作戦は順調のようじゃな」

 

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

テレビのニュースで、Dr.フライのウィルスに感染した人は皆回復し、死者が一人も出なかったことに対する喜びとコズミックプリキュアに対する感謝の言葉で市内が溢れていることを報道していた。

 

 

そしてこの研究所でもいつもとは一味違った笑いが響いていた。

 

遠藤「やれやれ、これで一件落着。めでたしめでたしじゃな」

 

河内「ふっ。この研究所の科学力に、コズミックプリキュアの力、そしてこの敏腕刑事の力が合わさればまさに鬼に金棒。怖いものなどない。ハーッハッハッハッ!!」

 

 

 

河内警部の高笑いを聞いて、豪とランは顔をしかめていた。

 

 

ラン「全く調子いいんだから」

 

豪「今までのことを水に流そうって言われても、いきなりなぁ」

 

 

 

そんな二人の方をダイーダは微笑みながら優しく叩いた。

 

 

ダイーダ「ダメよ。こうやって絆を結んでいけるってことはいいことなんだから。河内警部、改めてこれからも宜しくお願いします」

 

河内「うむ。さすがに警察が全面的にバックアップするのは難しいだろうが、俺は全力でサポートする。こちらこそ宜しく頼むぞ」

 

 

力強く頷き合ったダイーダと河内警部を見て遠藤博士や京香先生もウンウンと頷いていた。

 

 

 

 

が、河内警部は遠藤博士に向き合って真剣な顔で言い置いた。

 

 

河内「で、だ。遠藤博士、あんたが正しい人間だということは認めよう。ただし、だからと言って義務がなくなるわけではないですからな。そのことはよ〜く覚えておいてくださいよ」

 

遠藤「な、なんのことじゃな」

 

 

目に見えて動揺しだした遠藤博士に、河内警部は呆れたような顔で続けた。

 

河内「おとぼけも大概にした方が良いですぞ、遠藤博士。期日も近いわけですし、計算はきちんとな」

 

 

 

そう言い残して河内警部が帰った後、リーフは遠藤博士に当然の疑問をぶつけた。

 

 

リーフ「今の話どういうことですか? 一体何の義務と計算があるんです」

 

 

遠藤「な、何でもない。知らんでいい、知らんでいいことじゃ!!」

 

 

 

第45話 終

 



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第46話 「死闘!! 海底研究所 (前編)」

 

 

 

 

 

甲子市内 商店街

 

 

 

今日も今日とて、ランが遠藤博士と京香先生と一緒に商店街を回って日用品の買占めを行っていた。

 

 

 

ラン「えーっと、後は醤油とお砂糖を…と」

 

遠藤「おいラン。醤油と砂糖なら今のスーパーにもあったじゃろうが。なんでここで買わんのじゃ?」

 

 

ラン「ここのスーパーは、野菜とかは安いけどそういうのは高いの。必需品はかちわりマーケットで買わなくっちゃ」

 

遠藤「かちわりマーケット… って、バカモン、こことまるっきり正反対ではないか!! 30分は歩かにゃならんじゃろうが!!」

 

 

さっきからあっちこっちの店でつまみ食いのように買い物をするランに、遠藤博士は疲労もあって思わずブー垂れたが

 

 

ラン「何言ってるのよ!! かちわりマーケットじゃ砂糖とか醤油がここより5円も安いのよ。もったいないじゃない!!」

 

 

ランはとんでもないことを言うなと言わんばかりに目を丸くして叫んだ。

 

 

京香「…私より経済観念がしっかりしてるわね」

 

下手な主婦より主婦をしているランに、京香先生は複雑な思いを込めた目で見ていた。

 

 

 

遠藤「全く、なんでわしを引っ張り出すんじゃ。リーフとダイーダに頼めばいいじゃろうに」

 

 

当然とも言える愚痴を言った遠藤博士だったが、それを聞いた途端ランはどこか表情を曇らせた。

 

 

ラン「…どんな顔して一緒にいたらいいかわかんないのよ」

 

遠藤「何?」

 

 

京香「あの四季ゆうさんのこと? でも、あなたが気に病む必要は…」

 

ラン「それもあるけど、リーフさんもダイーダさんもいつか別れなきゃならないんでしょ。いつまでも一緒にいられる人達じゃないって思うと…」

 

 

俯いてしまったランに、遠藤博士はそっと肩に手を置いて話しかけた。

 

 

遠藤「ラン。確かにあやつらは異邦人かもしれん。しかしじゃな、わしらとともに戦い、過ごしてきた時間は確実に存在しておる。その間に結んだ絆や思い出は決してなくならんものじゃ」

 

ラン「本当に?」

 

 

遠藤「当たり前じゃ。多少説得力には欠けるかもしれんが、お前の何倍生きとると思っとる」

 

京香「そうよ。私も医者をやっているからよくわかるわ。別れたくないと願って願われた人でも、永遠に別れなくちゃいけない時があるの。でもあの二人とは遠く離れるだけ。そういう別れにならないように、できる限りの事を精一杯頑張りましょう」

 

 

ラン「…はい!!」

 

 

二人の言葉にどうにか納得がいったか、ランは顔を上げて笑顔を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

そんな三人を物陰からこっそり見ている女性がいた。

 

レポーターの甲斐節子である。

 

節子「見つけたわ。こないだのバイオテロの時にいたあのおじいさん。前にも一度調べたけど、やっぱりあの人はコズミックプリキュアと何か関係がある。今日こそは…」

 

決意の表情とともに、マイク片手に節子は遠藤博士に話しかけた。

 

 

節子「あの〜すみません、ちょっとお話しよろしいでしょうか。あなたが遠藤 博さんですね。隠れた大天才という噂の」

 

マイクを向けられたことに加え、珍しく持ち上げられた遠藤博士は気分良く応じた。

 

 

遠藤「いかにもその通りじゃ。して、わしに何の用かな? 何でも質問してくれたまえ」

 

自慢げにふんぞり返った遠藤博士だったが、続けての質問に顔色が変わった。

 

 

節子「では大天才の遠藤博士にご質問です。あなたとコズミックプリキュアとはどういうご関係なのですか?」

 

 

 

遠藤「えっ? な、何のことかのう?」

 

予想外の質問に冷や汗を吹き出し、必死にすっとぼけようとした遠藤博士だったが、節子の質問は止まなかった。

 

 

節子「どうしてとぼけられるんですか? 先日のバイオテロ騒ぎの時にあなたがプリキュアのジェット機から降りてきているのを何人もの人が見ているんですよ」

 

遠藤「ひ、人違いではないのか? ほ、ほら世の中には自分に似ている人が三人いると」

 

 

節子「私は突撃レポーターです。人の顔は見間違えません。堂々とおっしゃってください。 あなたと彼女達の関係は? コズミックプリキュアとは一体誰なのですか?」

 

 

遠藤「ノ、ノーコメントじゃ!! 逃げるぞ!!」

 

 

場所が商店街のど真ん中ということで多くの人がおり、周りの人々がざわめき出す中、大慌てで逃げ出した遠藤博士達だったが、節子はしつこく追いかけてきた。

 

 

節子「待ってくださーい!! どうして逃げられるんですか? 何か言えない事情があるんですか?」

 

 

 

一緒になって逃げながら京香先生は遠藤博士に前々からの疑問を口にした。

 

 

京香「博士、どうしてここまで秘密にするんですか? 別に公表しても…」

 

遠藤「いかん!! それだけは絶対にダメじゃ!! もしそんなことになればあいつらが来てしまう!!」

 

 

ラン「そうですよ!! パーフェクト達に知られたら何されるかわかんないですよ!!」

 

京香「それはそうだけど…(でも本当にそれだけかしら? 何か他に事情があるんじゃ… それにあいつらって…)」

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼らの前に一台の黒塗りの車が止まり進路を妨害した。

 

節子「ナイス!! そのまま足止めして!!」

 

 

 

遠藤「ん? だ、誰じゃ?」

 

疑問に思う間もなく、車から降りてきたのはゴーロとファルだった。

 

 

節子「ああっ!!」

 

遠藤「!! お主らは!! グオオッ!!」

 

予想外の存在に驚くも、遠藤博士はいきなりゴーロに首をつかんで持ち上げられた。

 

首に全体重をかけられた遠藤博士は顔を真っ赤にしてジタバタしていたが、だんだんと動きが鈍くなってきた。

 

 

ファル「おい、殺すなよ。大事な人質だ」

 

ゴーロ「けっ、わかってるよ。ん?」

 

 

 

ラン「何すんのよ!! おじいちゃん放してよ!!」

 

自分をポカポカと殴って来るランをゴーロは鬱陶しそうに一瞥すると一緒に掴み上げた。

 

ゴーロ「ついでだ。こいつらも連れて行くか」

 

ファル「ふっ、たまにはいいことを言うな」

 

 

ラン・京香・節子「「「!!!」」」

 

 

逃げ出そうとするも、あっさり全員捕まってしまい、そのまま黒塗りの車に押し込められてしまった。

 

 

遠藤「わしらをどうする気じゃ!? レポーターまで巻き込みおって」

 

 

後部座席に押し込められながらも、遠藤博士は気丈に振る舞っていた。

 

ゴーロ「言ったろ。人質だよ。せいぜいおとなしくしてな」

 

遠藤「なにぃ!?」

 

 

 

そんな会話をしつつも、遠藤博士は腕時計の緊急信号装置兼小型マイクをオンにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

遠藤博士からの緊急信号を受け、留守番をしていたリーフとダイーダの間に緊張が走った。

 

リーフ「この会話、博士達がパーフェクトにさらわれた!?」

 

ダイーダ「すぐに行きましょう。 豪、準備はいい?」

 

 

豪「もちろん!! じいちゃん達を助けに行こう!!」

 

 

力強く頷き合うと三人は三冠号に乗り込み出動していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

信号の発信された方に三冠号の進路を向けていたリーフだったが、行き先に疑問を感じていた。

 

リーフ「なんか変だよ。この行き先からして、どこかの陸に向かってるわけじゃないみたい。海の真ん中だよ」

 

ダイーダ「もしかすると連中のアジトかもしれないわね」

 

 

 

豪「じゃあ、ちょうどいいじゃん。一気に連中を倒しちゃおうよ!!」

 

 

やる気十分に告げた豪だったが、ダイーダは黙って首を振った。

 

 

ダイーダ「ダメよ、連中だってバカじゃないわ。私達が来ることぐらいは計算してるはずよ。何かがあるとみていいわ」

 

リーフ「それより何より、まずはみんなを助けることが先だよ。博士達に何かあったらそっちの方が大変だしね」

 

 

 

豪「うう…」

 

二人の正論に豪は何も言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

海底 Dr.フライ秘密研究所

 

 

先の黒塗りの車は途中から空を飛び、さらには海上に出るや否や小型の潜水艇となり、海底深くにあるDr.フライ秘密研究所と連れ込まれていた。

 

さらわれた遠藤博士たちは、ゴーロとファルに脅されるようにしながら研究所内を進んでいた。

 

 

遠藤「何と!! フライの奴め、こんなところに基地を作っておったのか!!」

 

京香「こんな海底にこんなものが作れるなんて… 一度死んだ人間という利点を最大限に生かしているわね。こういうところに基地を作るなんて普通は補給が大変だから作らないのに…」

 

 

 

節子「全世界の皆様。この突撃レポーターの甲斐節子、全くの偶然ながら諸悪の根源のアジトへと潜入することに成功いたしました。果たして私たちにはこれから何が待ち受けているのでしょうか」

 

 

ラン「…プロね」

 

この状況にもかかわらずペースを崩さない節子に、ランはプロ根性の凄まじさを感じていた。

 

 

 

Dr.フライ「ほう。お前さんはわしのことを報道しおったレポーターか。なら今度はここのことも報道してもらおうかの」

 

 

 

その言葉に振り返るとそこにはDr.フライがマイナーを引き連れ、薄笑いを浮かべて立っていた。

 

Dr.フライ「ようこそ我がアジトへ。歓迎するぞ」

 

 

 

遠藤「フライ、この悪党が!!」

 

激昂してフライに飛びかかろうとした遠藤博士だったが、フライは引き連れたマイナーの陰に隠れてしまい歯嚙みをするしかなかった。

 

 

Dr.フライ「ヒャッヒャッヒャッ、遠藤。こうして直に顔を合わせるのは何年ブリになるかのう」

 

 

遠藤「黙らんか!! 貴様死してなおなんの恨みがこの世界にあるんじゃ!!」

 

 

Dr.フライ「恨みじゃと? これは正当な報復じゃ。わしのことを認めもせず、迫害したこの愚かな世界へのな」

 

 

京香「そのためにパーフェクトのいいなりになって、自分が情けないと思わないの? いいように使われてるだけじゃない!!」

 

 

 

Dr.フライ「黙れ愚民ども!! わしこそが不老不死にして永遠の大天才Dr.フライじゃぞ」

 

 

Dr.フライの子供のような叫びに、引き連れていたマイナーが一斉に飛びかかり、遠藤博士たちは押さえつけられてしまった。

 

 

Dr.フライ「傷つけるなよ。大事な人質じゃからな」

 

 

節子「ひ、人質?」

 

 

ゴーロ「何度も言っただろう。テメェらを捕まえておけば、あの忌々しいコズミックプリキュアが必ず助けにここに来る」

 

ファル「その間に、こっちの作戦を遂行させてもらう」

 

 

遠藤「作戦? フライ、貴様何をやらかす気じゃ!?」

 

 

フライ「クックックッ、今教えずともすぐにわかる。そしてわかった時にはもう遅い。この世界はマイナスエネルギーに包まれた暗黒の世界となるのじゃからな」

 

仰々しく告げて立ち去ろうとしたフライをランが呼び止めた。

 

 

ラン「待ちなさいよ!!」

 

Dr.フライ「ん?」

 

 

ラン「あの子は… ゆうさんはどこにいるのよ!!」

 

Dr.フライ「ふん、あやつならばプリキュアを探してどこぞへと行きおったわ。まったくあいつの電子頭脳に貴様らの住所でもプログラムしてあれば手間も省けたものを」

 

吐き捨てるようなDr.フライの言葉にランは噛み付いた。

 

 

ラン「何よ言い草!! お父さんたちがどんな思いでゆうさんを作ったと思ってるの!?」

 

 

Dr.フライ「ガキンチョが。機械など役に立つか立たんかでしかない。思い入れをするなどナンセンスじゃ」

 

 

Dr.フライのどこ吹く風といったようなセリフに、ランは怒り狂ったがマイナーに押さえつけられていてはどうすることもできず悔し涙を流していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、リーフ達を乗せた三冠号は潜水艦モードで深海を航行中だった。

 

 

ダイーダ「深度2千メートルか。豪、減圧はしてるけど呼吸は大丈夫?」

 

豪「平気さ。それよりじいちゃん達のところまでどのぐらいでつけそう?」

 

リーフ「博士の信号はまだ出続けてるから場所もわかるし、もう直ぐだよ。ん、あれって!?」

 

 

リーフの示した先には、明らかに人工物と思える巨大なものが海底に鎮座していた。

 

 

豪「あれって、やっぱり…」

 

ダイーダ「あれが…連中のアジト。あそこにパーフェクトがいる… リーフ、ステルス機能をオンにして。 気を抜かないように」

 

真剣な顔で目の前の巨大な人工物を真剣な目で見つめたダイーダは、リーフにも気を引き締めるように促した。

 

リーフ「わかってる。行くよ」

 

その言葉にリーフも真剣な表情で簡潔に返し、三冠号のステルス機能をオンにしてゆっくりと近づいていった。

 

 

 

そしてある程度まで近づいたところで周囲をセンサーで探知すると、妙なことに気がついた。

 

ダイーダ「変ね。ここの周辺に迎撃装置や監視カメラらしきものが見当たらないわ」

 

豪「こんなところだからじゃないの? そんなの無くても見つからないと思ってさ」

 

 

ダイーダ「…そうかもしれないけど、やっぱり気になるわね」

 

リーフ「確かに罠かもしれないけど、行かなきゃしょうがないよ。 このまま突撃するよ」

 

疑惑の表情を浮かべていたダイーダに、リーフが作戦を提案した。

 

 

 

ダイーダ「ふっ、それもそうか。豪、アンチマイナーガンの準備は?」

 

豪「バッチリ!! 徹底的にメンテしといたよ」

 

 

リーフ「よーし、突撃!!」

 

 

その叫びとともにリーフは三冠号を目の前の建物に突撃させ、壁をぶち破った。

 

 

 

 

 

第46話 終



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第47話 「死闘!! 海底研究所 (後編)」

 

 

 

 

 

海底 Dr.フライ秘密研究所

 

 

 

三冠号で突っ込み、内部へと突撃を敢行したリーフ達にマイナーが次々と襲いかかってきた。

 

 

リーフ「えーい!! どきなさいよ!!」

 

ダイーダ「あんたらに構ってる暇はないのよ!!」

 

 

そんなマイナーを片っ端から叩きのめしていたリーフとダイーダだったが、次々と襲い来るマイナーにいい加減うんざりし始めていた。

 

 

ダイーダ「いいかげんにしろってのよ!! チェンジハンド・タイプグリーン!! 超高温プラズマ火炎、超低温冷凍ガス、同時発射!!」

 

ダイーダは両腕を噴射口のようなもののついた緑色の腕に換装し、右手から噴射したプラズマ火炎と左手からの冷凍ガスでマイナーを一網打尽にしていた。

 

 

リーフ「チェンジハンド・タイプブルー!! エレキ光線連続発射!!」

 

リーフもまた両腕を稲妻模様の走った青い腕に換装し、電撃光線を連続で放ちマイナーを蹴散らしていた。

 

 

 

豪「この!! このこのこの!!!」

 

豪も負けじとアンチマイナーガンを連射し、マイナーを浄化して元のアリに戻していた。

 

 

 

ダイーダ「おかしい。マイナーしか出てこないなんて、どういうこと?」

 

リーフ「ここが連中のアジトなら少なくともゴーロやファルがいるはず。それすら出てこないとなると…」

 

 

戦い続け、内部を突き進んでいったリーフとダイーダだったが、いつまでたってもマイナーしか出てこないことに疑惑が膨らんでいった。

 

 

豪「やっぱりこれ、罠だってこと?」

 

ダイーダ「ありえるわね。前にマルチハンドを強奪した時みたいに何か企んでるか… それとも…」

 

 

リーフ「私達をこっちに呼び寄せておくことが目的なのかもしれないよね」

 

 

豪「じゃあ、もしかしたらこうしてる間にも何かが起きてるかもしれないってこと?」

 

 

リーフ「可能性の話だけどね。でもだからって引き返すわけにもいかないし」

 

ダイーダ「やな作戦ね。こうなったら一刻も早く博士達を見つけて脱出しましょう、それしかないわ。 それに河内警部にも連絡はしておいたし、あの人がいるならしばらくは安心できるわ」

 

 

そんな会話をしている間にも続々とマイナー達が現れて、三人の進路を妨害せんとしてきた。

 

 

ことここに至っては、前に進んでいくしかないと判断したリーフとダイーダは、力強く頷き合った。

 

 

 

リーフ・ダイーダ「「ゴー!!」」

 

そのまま二人はジャンプしてトンボを切った。

 

 

その瞬間、二人の体は光に包まれ、着地した時には姿が大きく変わっていた。

 

 

ショートカットだったリーフは、ボリュームのある濃いピンクの髪に変化し、着用している服も、ごく普通の服からフリルのついた赤を基調にしたドレスのようなものになっていた。

 

 

 

ダイーダのポニーテールは、一本から五本にまで増え、背中にかかるかかからないかだったそれも、腰まで伸びて金色になっていた。

 

 

そしてリーフ同様のデザインの純白を基調にしたフリルのついたドレスを着用していた。

 

 

 

そしてマイナー達をキッと睨むと二人は名乗りをあげた。

 

 

リリーフ「闇を吹き消す光の使者 キュア・リリーフ!!」

 

ダイダー「悪を蹴散らす光の使者 キュア・ダイダー!!」

 

 

リリーフ・ダイダー「「ピンチ一発、大逆転! コズミックプリキュア!!」」

 

 

 

 

 

 

 

その頃、独房のようなところには京香先生とラン、そして節子が閉じ込められていた。

 

 

節子「くっそ〜、あんのインチキ野郎め。覚えてなさいよ、絶対に正体を突き止めてやる!!」

 

 

憤っていた節子に、ランはため息をついていた。

 

 

ラン「正体もクソも、あいつはDr.フライ本人よ。パーフェクトの力で生き返らされたのよ」

 

 

節子「? どういうことよ? それにあの遠藤博士 あなたのおじいさんよね。Dr.フライのこと知ってるの?」

 

 

節子の質問に、京香先生は仕方がないというように話し始めた。

 

 

京香「この状況で隠してても仕方ないから話すけど、博士はかつてDr.フライと同じ研究室にいたのよ」

 

節子「ええっ!? そういえばあいつのいた研究室の他の人の名前にそんなのが…」

 

 

驚いていた節子に、ランは続けた。

 

 

ラン「この際だからついでに話すけど、コズミックプリキュアは今うちにいるわ。リーフさんとダイーダさんって言って…」

 

節子「え? あああのぐるぐるメガネをかけた女の子たちでしょ…ってまさか!?」

 

 

京香「そうあの二人がコズミックプリキュアよ。正確には博士の作ったロボットの身体に、光の精霊が宿った姿らしいけど」

 

 

続けざまの爆弾発言に節子はパニックになりながらも激しい後悔をしていた。

 

 

節子「くぅっ!! 前に牧場まで付いて行った時に、切り捨てずにもっとしっかり調査していれば… 甲斐節子一生の不覚!!」

 

ラン「えっ? あの時付いてきてたの? 全く…だからマスコミって嫌いよ」

 

 

 

京香「それより博士は無事かしら? 一人だけどこかに連れて行かれたけど…」

 

目の前の喧騒に半ば呆れていた京香先生だったが、一人連れて行かれた遠藤博士の心配をしていた。

 

 

すると突然彼女達が閉じ込められていた牢屋の扉が力任せにこじ開けられた。

 

 

ラン「えっ? なっ何!?」

 

 

 

 

 

一方、一人連れて行かれた遠導博士はある部屋で椅子に縛り付けられていた。

 

 

遠藤「貴様ら、いったい何が目的じゃ!? 老人をこんな目に合わせおって!!」

 

目の前のゴーロとファルを睨みつけるように怒鳴った遠導博士にゴーロは鬱陶しそうに顔をしかめた。

 

ゴーロ「チッ!! どうしてシジィってのはどいつもこいつもやかましいんだ」

 

 

ファル「まぁいい、どうせ貴様ももうすぐ死ぬんだ。最後に教えておいてやる。デビルの塔を建築するのさ」

 

 

遠藤「デビルの塔? なんじゃそれは?」

 

 

ゴーロ「この世界の暦で半年に一度暗黒世界というべき異世界との壁が薄くなる時がある。その時その場所にデビルの塔を建設し、負の感情を集めて供物とすることで、一気にマイナスエネルギーをこの世界に流し込むことができる。そうなれば…」

 

 

遠藤「この世界はマイナスエネルギーで溢れた暗黒の世界になる!! そうか以前お前らがアメリカを占領したのは… そして失敗後すぐに撤収したのも!!」

 

 

ファル「そういうことだ。タイミングが命なもんでな。今度は邪魔されないようにプリキュアをここに釘付けにしておくために貴様らを人質にさせてもらった」

 

 

その企みを聞いた遠導博士は激昂して暴れたが、まるで拘束は緩む様子がなかった。

 

 

遠藤「ふざけるな!! そんなことは絶対にさせん!! 言え!! いったいどこでそんなふざけたことをするつもりじゃ!!」

 

 

ゴーロ「テメェが知る必要はない。ここでプリキュア共々死ぬんだしな」

 

ファル「連中が入って来れば、入り口の分解光線があいつらをズタズタにする。そして同時に貴様も道連れだ!!」

 

遠藤「なっ何ぃ!?」

 

 

驚愕した遠藤博士に、ゴーロはゲヒゲヒと笑った。

 

ゴーロ「俺たちゃやさしいからな。大切なコズミックプリキュアと一緒にふっ飛べ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜♪〜♫〜♪〜〜♪〜♫〜♪〜♫〜♫〜♪〜♪〜♪〜

 

 

するとその時、どこからかハープのメロディーが流れてきた。

 

 

 

ファル「ん? これは!!」

 

その音に気付き険しい表情をするや否や、何かが壁をぶち破って飛び込み、ファルは大きく蹴り飛ばされていた。

 

 

ゆう「通達する。プリキュアを破壊するのは私の使命だ。余計なことをするなと警告したはずだ」

 

明らかに見下したように自分たちを冷たい目で見てくるゆうに、ゴーロは怒り狂って飛びかかった。

 

 

ゴーロ「ほざけ!! 毎度毎度邪魔しやがって!!」

 

 

 

 

 

 

しかし、ゆうはその突進をあっさり受け止めるとさらに見下したように言い放った。

 

 

ゆう「嘲笑する。学習能力すらないとは所詮はガラクタだな」

 

 

そしてそのまま、ゴーロを先ほど蹴り飛ばしたファルに向けて投げ飛ばした。

 

 

 

ファル「ぐああああっ!!」

 

ゴーロ「グオオオッ!!」

 

その投げ飛ばされた先では、プリキュア用として設置していた分解光線の発射装置があり、それに叩きつけられたゴーロとファルは大爆発とともにどこかへと吹き飛んで行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

そしてその隙に椅子に縛り付けられていた遠藤博士はゆうに助けられていた。

 

 

 

ゆう「遠藤博。私の祖父に相当するものと認識している。ボディに破損はないな」

 

 

遠藤「あ、ああ。お主が四季ゆうか? 央介がわしの妻に似せて作ったロボットという」

 

 

ゆう「肯定する」

 

 

遠藤「…そうか。なぜわしを助けた?」

 

髪や目の色こそ違えど、死んでしまった自分の妻の若い頃に瓜二つの顔をしたゆうに複雑な感情を抱きながら遠藤博士は当然ともいえる質問をした。

 

 

ゆう「回答する。人質作戦などは悪人の行う下劣な戦術でしかない。お前たちのような人質がいては、コズミックプリキュアが全力で戦わない。ランたちもすでに脱出ポッドまで案内した」

 

 

あくまでもゆうは正面切って戦おうとしているだけであり、プリキュアの破壊を目的に行動している。

 

それがわかってもなお、遠藤博士は質問せざるをえなかった。

 

遠藤「四季ゆう。お主は一体何なんじゃ?」

 

 

ゆう「回答する。私はプリキュアを破壊する死神である」

 

 

全く迷いがないゆうの答えに遠藤博士も何も言わなかった。

 

 

そうこうしているうちに、リリーフとダイダーが部屋の中に駆け込んできた。

 

 

リリーフ「博士、無事ですか… って!?」

 

ダイダー「あなたは!?」

 

豪「じいちゃん!? …にゆう姉ちゃん!?」

 

 

 

ゆう「来たな、コズミックプリキュア。 遠藤博、豪を連れて行け。 脱出ポッドはこの先だ」

 

 

 

 

 

リリーフとダイダーの姿を認めたゆうは、遠藤博士に脱出ルートを指示すると、左手を親指・人差し指・中指の三本を立てて前に突き出した。

 

ゆう「チェインジ!!」

 

 

そして突き出した左手の指を立てたまま、手の甲を内向きにして顔の前へと横向きに持って行き、人差し指と中指の間から赤い右目を光らせた。

 

ゆう「スイッチ・オン!!」

 

 

次の瞬間、黒い電流のようなものが火花をあげてゆうの全身を走り、一瞬ののちにその姿は変わっていた。

 

 

彼女の着ていた黒いスーツは、フリルのない落ち着いたデザインのロングスカートの黒一色のドレスに変わっており、同じく黒一色の肘まである手袋とブーツを着用していた。

 

 

デッド「バトルスタイルコードネーム、キュア・デッド。破壊する。ターゲット、コズミックプリキュア」

 

 

冷たく名乗りをあげると、デッドはデスサイズを振りかざし、リリーフとダイダーに突っ込んでいった。

 

 

 

 

ダイダー「くっ」

 

リリーフ「なんの!!」

 

なんとかそれを受け止めたリリーフとダイダーは、逆にデッドを蹴り飛ばした。

 

 

デッド「賞賛する。さすがは叔母だ」

 

 

地震の攻撃を受け止めて反撃してきたことに、デッドはどこか嬉しそうに微笑むと再び攻撃を仕掛けていった。

 

 

 

豪「ちょっ!! 姉ちゃん達やめてよ!! 戦う理由なんてないってば!!」

 

 

必死の思いで叫んだ豪だったが、目の前で繰り広げられている戦いは一向に止まる気配がなかった。

 

 

すると、さっきの爆発の影響か、天井が崩れ始めたかと思うと海底研究所そのものが大きく揺れ始め、周辺から浸水が始まっていた。

 

 

その状況にこれ以上ここに留まるのは危険と判断した遠藤博士は、豪の腕をひっつかんだ。

 

 

 

遠藤「やむをえん。豪、ここは脱出じゃ」

 

豪「で、でも!?」

 

遠藤「あいつらは三人ともわしらが死ぬことを望んどらん。それだけは確かじゃ。その思いを無駄にするな!!」

 

 

ぐずる豪を無理やり説得すると、遠導博士は力の限り叫んだ。

 

 

遠藤「わしらは先に行く。お前らも早く脱出するんじゃぞ!!」

 

 

リリーフ「わかりました!!」

 

ダイダー「必ず後から行きます!!」

 

 

デッド「警告する。行きたければ私との勝負を済ませてからだ」

 

 

激闘を繰り広げていたコズミックプリキュアとデッドの返事を背中で聞きながら、遠藤博士は豪を連れて走り出した。

 

 

豪「姉ちゃん達、三人とも死なないで」

 

 

後ろ髪を引かれる思いだったが、やむをえないとばかりに豪も駆け出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リリーフ「ヤァアアアア!!」

 

ダイダー「ハァアアア!!」

 

 

デッド「…」

 

 

コズミックプリキュアは気合の入った雄叫びと共に、デッドは無表情に戦い続けていたが、海底研究所の揺れは激しくなっていき、隔壁のいたるところから浸水が始まり天井は崩落を続けていた。

 

 

 

リリーフ「くっ、さすがにこれ以上は…」

 

ダイダー「限界に近い… 私達も逃げないと…」

 

 

リリーフとダイダーも限界が近いと判断し、目の前に天井が崩落してきたことでさすがのデッドも矛を収めた。

 

 

デッド「状況を分析する。これ以上の戦闘は困難と判断する」

 

 

淡々と解説をすると、デッドは崩壊してきた天井の穴から飛び出していった。

 

 

ダイダー「行きましょう。あの子なら大丈夫よ」

 

リリーフ「うん。死なないでね、デッド。あなたはこの世界の可能性でもあるから…」

 

 

 

 

 

 

崩壊していく海底研究所の中、脱出ポッドに乗り込んでいたラン達は遠藤博士の到着をギリギリまで待つつもりだった。

 

節子「早くしないと逃げることもできなくなるわよ。そしたら私達まで…」

 

逃げることを提案していた節子だったが、ランと京香先生は頑として動こうとしなかった。

 

京香「助けに来てくれたリーフさん達を見捨てていけません」

 

ラン「それに、逃げようったってあなた一人でそれ動かせないでしょ」

 

 

二人の正論に節子は何も言えなくなってしまった。

 

そんな会話をしていると、豪を連れた遠藤博士が頭を守りながら必死に走ってきた。

 

 

 

ラン「おじいちゃん!! 豪!!」

 

遠藤「心配かけたな。さぁ脱出じゃ」

 

 

脱出ポッドに乗り込んだ遠藤博士は、手早くポッドを起動させていった。

 

 

京香「リーフさん達は?」

 

遠藤「あやつらは別ルートじゃ。心配はいらん。よし準備できた。いくぞ!!」

 

 

そうして崩壊していく海底研究所から脱出していく中、当然ともいえる疑問が噴出し始めていた。

 

京香「にしても、Dr.フライは一体何を考えてるんでしょう」

 

遠藤「うーむ。なんでもデビルの塔とかいうのを建造すると言っておった。以前アメリカに侵攻したのもそれが理由だったようじゃ」

 

 

ラン「私達を人質にしたのはそのための時間稼ぎってこと? リーフさん達を呼び寄せておくために?」

 

 

遠藤「あわよくば、基地諸共に始末するつもりだったのかもしれんな。こうも簡単に基地が崩壊するとはとても思えんし…」

 

 

それを聞いて京香先生は驚愕の表情を浮かべた。

 

 

京香「基地をそんな簡単に放棄したってことは、連中とてつもなく大掛かりなことをするってことですよね!?」

 

その言葉に脱出ポッドの中に緊張が走った。

 

 

節子「それって連中が最後の大勝負を仕掛けるってことですか? そうなったら…」

 

節子が青い顔をしていると、崩壊していく海底研究所からかなりボロボロになった三冠号が発進してきた。

 

 

リリーフ『みんな大丈夫!?』

 

三冠号からの通信を聞いて、豪は心からほっとした表情を浮かべていた。

 

 

豪「姉ちゃん。よかった〜…」

 

 

ダイダー『安心してられないわ。パーフェクトが初めからここにいなかったところを見ると、連中の作戦がかなり進行しているとみていわ』

 

 

ダイダーの通信に、遠藤博士も真剣な表情と共に告げた。

 

遠藤「うむ、こうなったら総力戦じゃ。絶対に敗北することは許されんぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、一足早く別の脱出ポッドで海底研究所から逃げ出していたゴーロとファルは、ボロボロの体を引きずるようにしてDr.フライに噛み付いていた。

 

 

 

ゴーロ「テメェ、ありゃどういうつもりだ!? 俺達まで巻き添えにする気だったのか!?」

 

Dr.フライ「何を言うとるか。プリキュアどもが大暴れしたから崩壊したんじゃろうが。まぁどうせ放棄するつもりだったせいで、最近メンテナンスをサボっておったというのもあるじゃろうが」

 

 

ファル「ほざけ!! おかげでこっちは死にかけたんだ。おまけにあの女、こっちにばっかり攻撃してきやがって!!」

 

 

コズミックプリキュア以上に自分達に攻撃を仕掛けてくるゆうにファルは我慢がならないというように不満をぶちまけた。

 

 

 

その時、周囲に黒い靄のようなものがうっすらと立ち込めるとドスの効いた低い声が響いた。

 

パーフェクト「落ち着けゴーロ、ファル」

 

ゴーロ・ファル「「はっ、パーフェクト様」」

 

 

かしこまって敬礼をしたゴーロとファルにパーフェクトは続けた。

 

 

パーフェクト「間も無くデビルの塔が完成する。あとは呼び水となりやすいように奴隷となる人間を連れてくるのだ。よいな」

 

 

 

それだけを言い置くと、黒い靄は逃げるように消えていった。

 

 

ゴーロ「一体どうしちまったんだ、パーフェクト様は? 前は俺達を助けてくれたってのに、最近は放置しっぱなしだ」

 

 

ファル「お姿もほとんどお見せにならなくなったしな。この世界にい続けることでエネルギーを消耗しておられるのかもしれん」

 

 

疑念の沸いていたゴーロとファルに対して、Dr.フライはやる気十分というように呼びかけた。

 

 

Dr.フライ「ならば、いち早くデビルの塔を完成させるのじゃ。今回はマイナスエネルギーを全開にすればいいだけじゃからな。建物の建設をする手間が省けて良いわ」

 

 

ゴーロ「よし、いいだろう」

 

ファル「マイナーどもに、マイナスエネルギーの結晶は取り付けさせたんだな?」

 

 

Dr.フライ「もちろんじゃ。いくぞスイッチオン!!」

 

 

すると、山のいたるところに仕掛けられていた大量のマイナスエネルギーの結晶が爆発し、みるみるうちにどす黒い霧が噴出し山の全体を覆い隠していった。

 

 

Dr.フライ「日本一の山か。ここが世界を暗黒に染め上げる起点となるのじゃ。覚悟しておけ人間ども!!」

 

 

 

その叫びとともに、Dr.フライの眼前では富士山の荘厳だった姿が見るのも禍々しい姿へと変わっていった。

 

 

 

 

第47話 終

 



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第48話 「大爆発!! 富士山麓 (前編)」

 

 

 

 

雄大かつ荘厳な姿をたたえていた名実ともに日本一の山、富士山。

 

 

しかし、今やその姿は魔の山と言う単語がぴったりくる醜悪かつ不気味な姿となっていた。

 

そしてここを起点として、暗雲が世界中に広まり始め、富士山周辺では昼間にもかかわらず夜間のようになっていた。

 

 

その光景は世界中の報道機関が緊急ニュースとして報道しており、大混乱を巻き起こしていた。

 

 

Dr.フライ「ヒャヒャヒャヒャ!! どうだ愚民ども、もっとおびえろ。混乱しろ。その負の感情が全てこの世界を暗黒に変える力となるのじゃ!!」

 

 

その報道を流す小型端末を脇に置きながら、富士山頂から下を見下ろしていたDr.フライは実に気分よさそうに高笑いをした。

 

 

Dr.フライ「さて、あとは奴隷どもをとらえてきて、最後の工事をやらせるだけじゃ。負の感情に満ちた奴隷が暗黒世界襲来の良き供物となるじゃろう。行けマイナーども!!」

 

 

Dr.フライの命令に従って、大量のマイナーが富士周辺の町を襲撃し片っ端から人々を連行していっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テレビ局

 

 

 

 

この異常事態に局内も上を下への大パニックに陥っており、取材に出かけるもの情報を収集するもの、番組編成の緊急変更その他でごった返していた。

 

 

そんな中、険しい顔でモニターを睨みつけていた甲斐節子をようやく専属のカメラマンが見つけた。

 

 

カメラマン「あぁせっちゃん、やっと見つけた。取材行くんだろ」

 

節子の性格をよく理解しているこのカメラマンは、いつものように突撃取材を敢行するであろうことを見越して準備を万全に整えていた。

 

しかし、今日の節子の返事はいつもとは違っていた。

 

 

節子「ごめん。取材はあんた一人で行って。私他に行かなきゃいけないところがあるの」

 

 

 

カメラマン「えっ!? ちょっ、ちょっと待った。なら俺も一緒に…」

 

予想外の返事を残して走り出した節子に驚きつつも、慌てて追いかけていこうとしたカメラマンだが、節子に止められた。

 

節子「ごめん、そこカメラ禁止なのよ」

 

 

一人取り残されたカメラマンは呆然としながらつぶやいた。

 

カメラマン「せっちゃん一体どうしたんだ? いつもなら大スクープって言って飛んでいくのに…」

 

 

 

節子(事ここに至って、スクープなんか追ってる場合じゃない。できる事なんて限られてるけど、プリキュアの手助けをしないと…)

 

 

これまでいろいろな報道をしてきたが、それは全て名誉欲。

 

ひいては自分のためである。

 

人のために全力で頑張って戦っている人がいるというのに、あまりにも恥ずかしい事であった。

 

それを今更ながらに痛感した節子は、遠藤平和科学研究所に向けて車を飛ばしていた。

 

 

 

 

 

 

 

警視庁

 

 

 

 

上司「河内くん。それはどういう事かね?」

 

河内「ですから今申し上げたとおりであります。しばらく単独で行動させていただきたいのです」

 

この非常時に突拍子もないことを言うなとばかりに、河内警部を怒鳴りつけた上司だったが、河内警部の表情は崩れなかった。

 

 

上司「いいかね。富士山が連中に占拠され、あのような姿に変えられてしまった。以前アメリカが占領された時と同じような事態がこの瞬間にも起こるかもしれんのだよ」

 

 

そんな河内警部に対して、上司は必死に感情を押さえ込み、噛んで含めるように状況を説明した。

 

 

 

 

河内「それは重々承知しております。ですから単独行動を許可していただきたいのです」

 

 

上司「君は本当に状況を理解しとるのかね!? 単独で動いて何をするつもりなんだね!?」

 

 

全く意見を変えない河内警部に、上司は当然とでも言える質問を行った。

 

 

河内「はっ、状況を誰よりも理解しているからであります。私は過去幾度となく次元皇帝パーフェクトの一派どもの事件と関わり、はっきりとわかったことがあります。それは悲しいかな我々だけの力ではあの連中に対抗できないということであります」

 

 

上司「それは我々も嫌というほどわかっている!! だがだからと言って何もせんわけにいかんだろう!! 君が一人で動いたところで何かが変わるのかね!?」

 

 

河内「変わります!! いえ変えてみせます!! 詳しいことは今は説明できませんが、必ずや事態を打開してみせます。では」

 

 

言いたいことはすべて言ったというように敬礼をすると、河内警部は上司の制止も聞かず部屋から出ていった。

 

 

 

河内(この状況が危機的だということぐらい俺でもわかる。以前のアメリカの時は彼女達のおかげで何とかなったが、今回もうまくいくとは限らん。彼女達の力がギリギリ届かなかった時のために、できることを全力でやるんだ!!)

 

 

 

 

 

 

速田家

 

 

豪母「豪!! どこに行くの!? 世の中がこんなことになってるって時に!!」

 

 

世の中がパニックになっているという状況にもかかわらず、一人家を飛び出そうとしていた豪に、豪の母は怒鳴りつけた。

 

 

母親としては当然の感情であろうが、豪も譲る気は無かった。

 

 

豪「じいちゃんとこだよ!! こんな時だからこそ行かないと!!」

 

豪母「何バカなこと言ってるの!! それとこれと何の関係があるの!?」

 

豪「わけは全部終わってから話すよ!! 無事に終わったらね!!」

 

 

豪母「豪!! 待ちなさい!!」

 

 

そう言い残すと、豪は母親の制止も振り切り遠藤平和科学研究所に向けて走って行った。

 

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

 

研究所地下の格納庫では、先日のDr.フライの海底研究所の爆発でボロボロになった三冠号の修理が急ピッチで行われていた。

 

 

遠藤「えぇい、今更もう潜水艇モードへの切り替えシステムなどいらん。修理手順からオミットして… その代わりに装甲材質を強化すると同時に出力と推力をアップさせて…」

 

 

このギリギリの状況下で三冠号の改良を行っている遠藤博士に、ランが差し入れを持ってきた。

 

 

ラン「おじいちゃん、テレビの報道はもちろん、ネット上でもすごいことになってるわ。 富士山麓の自衛隊はほぼ壊滅してるっていうし、もう少し作業を早くできないの? 改造なんかしなくていいじゃない」

 

 

遠藤「えぇい、みなまで言うな!! あの状況下に対応させるようにせんと返り討ちにあうのがオチじゃ!! 可能な限りの強化はしておかんと…」

 

 

頭をかきむしりながらの作業ロボットへのプログラム変更に、遠藤博士は軽いパニック状態に陥っていた。

 

 

豪「じいちゃん!!」

 

遠藤「やかましい!! 今度はなんじゃ!?」

 

そこに威勢良く飛び込んできた豪にイラついたように怒鳴った遠藤博士に、豪も少しひるんでしまった。

 

 

豪「うっ、ごめん。それより節子さんから連絡入ったよ。ヨーロッパに行ってる宝六博士を日本に呼ぶ手はずがついたって」

 

 

遠藤「何!? 本当か!!」

 

 

豪「うん。こんな状況で空港がパニックになってるけど、テレビ局が呼んだってことでスムーズにいったみたい」

 

 

遠藤「よっしゃ!! あやつが来てくれれば作業がはかどる。あれを応用したものを完成させれば…」

 

 

 

 

 

 

 

一方、リーフとダイーダは交代でボディのメンテナンスを行っていた。

 

光の精霊でもある彼女達が取り付いたことで簡易的なメンテナンスは自動で行うことは出来るものの、一度徹底的にやっておくべきと判断したのである。

 

 

京香「よし、リーフさん。あなたのボディの骨格部分と関節部分のチェックは万全よ」

 

リーフ「ありがとうございます先生。でもすごいですね、遠藤博士でさえ私達が取り付いた所為で変質したこのボディのチェックは大変だったのに」

 

京香「それほどでもないわ。骨格と関節の部分は機械になってるとはいえ、人間のものとあまり変わらないもの。もっとも私じゃその部分だけで精一杯だけど」

 

 

京香先生もできることを手探りながらも探しており、リーフとダイーダののチェックを手伝っていた。

 

 

ダイーダ「リーフ、ボディのチェックが終わったらライナージェットの最終調整よ。それからあっちの方も準備しておきましょう」

 

 

京香「あっちって? 遠藤博士が用意しようとしてるもの?」

 

ダイーダ「それとは別の秘密兵器です。捕まってる人達を助けるためのものです。それが無理でも奴らの作戦の進行を少しでも遅らせることができれば…」

 

 

 

 

 

皆がそれぞれできることをやっている中、河内警部が飛び込んできた。

 

 

河内「いやぁスマンスマン。公務員はいざという時になかなか融通がきかなくて困る」

 

 

ラン「あっ河内警部」

 

ダイーダ「河内警部、待ってました。実は是非とも協力してほしいことがあるんです」

 

 

河内「おう、なんでも言ってくれ。この河内、全力で手助けさせてもらうぞ!!」

 

ダイーダの真剣な表情とともに告げられた頼みに、河内警部もドンと胸を叩いて力強く応じた。

 

 

 

 

 

 

一時間ほどして、どうにか修理の終わった三冠号で富士山麓に向かいながら、ダイーダは同行を頼んだ河内警部に作戦の概要を説明していた。

 

 

河内「なるほど。奇襲を兼ねた救出作戦か」

 

ダイーダ「はい。いっぺんに捕らえられた全部の人を助けるのは困難ですが、可能な限りの人を救助したいんです。それに…」

 

リーフ「アメリカの時にもそうだったけど、人を捕まえて奴隷にして働かせるのは、マイナスエネルギーを蓄積させることが本当の狙いらしいんです」

 

二人の説明を聞いて、河内警部はかねてからの疑問が一部氷解していた。

 

河内「ふ〜む。あの戦闘員、マイナーだったか。あいつらに作業をやらせないのはそういう理由もあるのか。だからこそ人々を救出すれば奴らの作戦をわずかでも遅らせることができるということか」

 

 

 

ダイーダ「連中の作戦はタイミングが大切みたいなんです。上手く時間を稼ぐことができれば、以前の時のように撤収に追い込めるかもしれません」

 

リーフ「あいつら、自分達の基地を爆破しちゃったしね。この場をしのぐことができれば…」

 

 

河内「大逆転可能ってことか。よし行くぞ」

 

作戦の意図を理解した河内警部は気合を入れていたが、そんな河内警部にダイーダは申し訳なさそうに言った。

 

 

ダイーダ「すみません。連中のところに潜入するなんて危険なことに一緒に来てもらって。ですが、さすがに豪や博士には荷が重すぎますので…」

 

 

河内「何を言うか。市民の安全を守るのが警察官の仕事だ。お前さん達だってそうだろう。精霊の国の特別警備隊員さん」

 

暗くなった空気を打ち消すかのような河内警部の自信に満ちた堂々たる言葉に、ダイーダも力強く頷いた。

 

 

 

 

 

 

リーフ「見えた。あれがフジサンだよね」

 

河内「ああ。全く碌でもないことをやってくれた連中だ。日本人の誇りをあんな姿にしやがって」

 

ダイーダ「秘密兵器も準備はできてるわ。このまま突っ込むわよ」

 

 

リーフ・河内「「了解!!」」

 

 

 

 

第48話 終



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第49話 「大爆発!! 富士山麓 (後編)」

 

 

 

富士山頂

 

 

 

ファル「ふっ。以前にやった時よりはるかに大量のマイナスエネルギーが集まっている。デビルの塔が完成するのも時間の問題だ」

 

ゴーロ「そうなったら奴隷どもを供物に捧げて、暗黒世界とこの世界をつないでやる。そうすればパーフェクト様は真の次元皇帝となり、永遠にあらゆる次元を支配し続けられる。楽しみだぜ」

 

 

奴隷としてさらってきた人間達の放つマイナスエネルギーの量と質にファルとゴーロは満足そうに嗤っていた。

 

 

Dr.フライ「うむうむ。間もなく真の次元皇帝が誕生するというわけじゃな。わしも楽しみじゃて。  ぐえ!!」

 

Dr.フライもまた満足げに頷いていると、上空から何かが急降下してきて踏み潰された。

 

 

 

 

 

 

 

ゆう「質問する。わざわざ呼びつけるとは何の用だ」

 

自分を踏み潰したまま、淡々と質問をするゆうにDr.フライはわめき散らした。

 

 

Dr.フライ「いきなり何じゃその態度は!? まずは降りんか!!」

 

 

ゆう「拒否する。時間の無駄だ。このままでも要件は口にできるはずだ」

 

Dr.フライ「えぇい、ならばはっきり言っておく。この世界を暗黒に染める最終作戦を実行中じゃ。わしらのやることにいちいち反発するでないぞ!!」

 

 

歯ぎしりをしながらも釘を刺したつもりだったDr.フライだったが、当のゆうはくだらない話だと言わんばかりに立ち去っていった。

 

 

ゆう「時間の無駄だったな。貴様らのようなくたばりぞこないとガラクタが何をしようが関係ない。私の邪魔をくれぐれもするな。その足りないメモリーに記憶しておけ」

 

 

明らかに侮蔑を含んだそのセリフを残して。

 

 

 

ゴーロ「あのアマ!! ぶち壊してやろうか!!」

 

ファル「放っておけ。この世界が暗黒世界となればどうせあいつは用済みだ。コズミックプリキュアを抑え込む時間稼ぎになればそれでいい」

 

 

ゆうに対して怒り狂っていたゴーロを、ファルはそう言ってなだめていた。

 

もっとも当のファルもかなり恨みのこもった目をしていたが。

 

 

 

ファル「それに、コズミックプリキュアがこの辺に近づけば…」

 

ゴーロ「ああ、連中はバラバラだぜ。 ついでにあいつも吹っ飛んじまうかもな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、到着した三冠号は、ステルス機能を駆使して富士山の付近を飛行していた。

 

リーフ「えーっと、まずいな。あのフジサンから妨害電波みたいなのが出ててセンサーがうまく働かない。ぼんやりとしか情報が収集できないよ」

 

三冠号の上に乗り、イエローハンドに換装して発射したセンサーアイで警備の手薄なところや人々が捕らわれたところを探っていたリーフだったが、うまく探査できない状況に顔をしかめていた。

 

ダイーダ「確かにね。三冠号のモニターも乱れてるわ」

 

河内「連中め。外界の情報を遮断することで捕まえた人達の不安をより一層煽ってるな」

 

 

苦々しそうに呟いた河内警部は、仕方ないとばかりに持ってきていた双眼鏡で周辺を見回していた。

 

 

河内「あの兵隊どもはぐるりと富士山を一周して警備してるな。このままこのジェット機で中に突っ込んでもすぐに取り囲まれるがオチだ。 近くの樹海に着陸してそこから歩いて侵入した方が良さそうだ」

 

河内警部の案にダイーダも賛成だった。

 

ダイーダ「それが一番良さそうですね。さすがです」

 

 

河内「ハハッなぁに。じゃあ行こうか」

 

リーフ「はい!!」

 

 

 

かくて、ステルス機能をオンにしたまま静かに樹海に降りた三冠号を、地上スレスレでホバリングさせたまま待機させ、三人は樹海を進んでいた。

 

 

河内「しかし、なんで着陸させないんだ?」

 

リーフ「一度着陸させちゃうとまた飛び上がるのに時間がかかるんです」

 

ダイーダ「幸いこの三冠号は垂直離着陸が可能ですので、こうしておけば捕まってる人達を救出した後すぐに飛び立てます」

 

 

 

実に合理的に物事を考えている二人に、河内警部は改めて感心していた。

 

河内「はあ〜考えるね〜。 っと、じゃまあ、あの兵隊どもの隙をついてうまく潜入しないとな」

 

ダイーダ「ええ、その秘密兵器もうまく使わないと…」

 

 

河内警部に背負ってもらっているカバンを見て、ダイーダは作戦を考え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜♪〜♫〜♪〜〜♪〜♫〜♪〜♫〜♫〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

すると樹海の中に似つかわしくないハープの冷たくも美しいメロディーが流れてきた。

 

 

河内「!! このメロディーは!!」

 

リーフ「四季ゆう!!」

 

ダイーダ「出てきなさい!!」

 

 

その呼びかけに応えるかのように、近くの樹の上から、ゆうが透けるような白い肌にプラチナブロンドの髪をなびかせて飛び降りてきた。

 

 

ダイーダ「…あくまで私達と戦うつもりなのね」

 

ゆう「肯定する。スリープ状態が解除されたばかりの今こそ決着をつけさせてもらう」

 

 

ゆうは、淡々としたそのセリフとともに、まるで感情を感じさせない赤と青のオッドアイでリーフとダイーダを見据えていた。

 

 

河内「本当にあいつがロボットなのか? どう見ても人間だがな」

 

 

話は聞いていたが、髪や目の色そして纏う雰囲気は人間離れしているものの、見た目はまごうことなき人間であるゆうに河内警部は改めて驚いていた。

 

 

リーフ「まぁ私達のボディもそうなんですけどね。それより刑事さん、あなたは先に行ってください。アンチマイナーガンは持ってますよね」

 

河内「あ、ああ。出てくるときに遠藤博士から渡された。しかし…」

 

ダイーダ「大丈夫です。すぐに私達も行きますから」

 

 

ダイーダの決意に満ちた言葉に、河内警部も力強く頷いた。

 

 

河内「よしわかった。先に行ってるぞ!!」

 

 

 

駆け出していった河内警部を見送ると、ゆうはリーフ達に尋ねてきた。

 

ゆう「質問する。これで憂慮なく戦えるか」

 

 

リーフ「ええ」

 

ダイーダ「いつでもいいわよ」

 

 

その言葉を最後に、三人はしばらく微動だにせずにらみ合っていた。

 

 

空気が張り詰めていく中、リーフとダイーダがトンボを切ったのとゆうが左手を親指・人差し指・中指の三本を立てて前に突き出したのは同時だった。

 

 

 

リーフ・ダイーダ「「ゴー!!」」

 

ゆう「チェインジ!!」

 

 

その二つの掛け声とともに、三人の少女達の姿は大きく変わっていた。

 

ショートカットだったリーフは、ボリュームのある濃いピンクの髪に変化し、着用している服も、ごく普通の服からフリルのついた赤を基調にしたドレスのようなものになっていた。

 

 

 

ダイーダのポニーテールは、一本から五本にまで増え、背中にかかるかかからないかだったそれも、腰まで伸びて金色になっていた。

 

 

そしてリーフ同様のデザインの純白を基調にしたフリルのついたドレスを着用していた。

 

 

 

ゆうの着ていた黒いスーツは、フリルのない落ち着いたデザインのロングスカートの黒一色のドレスに変わっており、同じく黒一色の肘まである手袋とブーツを着用していた。

 

 

 

 

リリーフ「闇を吹き消す光の使者 キュア・リリーフ!!」

 

ダイダー「悪を蹴散らす光の使者 キュア・ダイダー!!」

 

 

リリーフ・ダイダー「「ピンチ一発、大逆転! コズミックプリキュア!!」」

 

 

 

二人の名乗りに応えるように、デッドもまたデスサイズを手に宣告した。

 

 

デッド「破壊する。ターゲット、コズミックプリキュア」

 

 

 

 

 

 

 

デスサイズを手に突っ込んでいったデッドだったが、ダイダーは即座にマルチハンドを換装した。

 

 

 

ダイダー「チェンジハンド・タイプレッド!!  ダァアアア!!」

 

 

レッドハンドの怪力をもってしてもデッドの突進は止まらなかったが、ダイダーはデスサイズをなんとか奪い取って投げ捨てることには成功した。

 

 

ダイダー「ヤァアアア!!」

 

そして即座にデッドの土手っ腹にパンチを食らわせて殴り飛ばした。

 

 

 

しかし、吹っ飛んでいったように見えたデッドだったがさほどダメージを受けたようには見えず、倒れこんだりうずくまることもなかった。

 

 

ダイダー「くっ、当たる直前自分で後ろに飛んだ!?」

 

 

戸惑う間もなく、デッドは左手のワイヤー型ロケットパンチを射出しダイダーの首をつかんできた。

 

ダイダー「ぐっ!?」

 

 

そしてそのままワイヤーを巻き取ることでデッドはダイダーの方へと飛びかかっていった。

 

 

リリーフ「ダイーダちゃん!!」

 

危険を察知し飛びかかろうとしたリリーフも、デッドに行動を先読みされてしまい、右手のマシンガンを足元に打ち込まれて足が止まってしまった。

 

 

 

ダイダー「がふっ!! ゲフッ!! ゴフッ!!」

 

ダイダーの懐に飛び込んだデッドは、さっきのお返しとばかりに首をつかんだまま膝蹴りを何発も叩き込み、その度にダイダーはうめき声をあげた。

 

 

 

 

リリーフ「ダイーダちゃん!! チェンジハンド・タイプブルー!! エレキ光線発射!!」

 

ダイダーのピンチに、リリーフはブルーハンドに換装すると、なりふり構わず電撃光線を発射した。

 

 

電撃の直撃を浴びたデッドは感電し、一瞬動きが止まってしまったため、それを見計らってリリーフはデッドに飛びつき大きく投げ飛ばした。

 

リリーフ「大丈夫!?」

 

 

同じく電撃の直撃を浴びたダイダーだったが、コーティングを施しておいたことでダメージは少なくて済んでいた。

 

ダイダー「な、なんとかね。チェンジハンド・タイプグリーン!! 超低温冷凍ガス発射!!」

 

そして、両腕を噴射口のようなもののついた緑色の腕に換装すると、左手から真っ白い超低温の冷凍ガスがデッドに向けて噴射された。

 

 

電撃のショートと冷凍ガスの凍結というダブルパンチに完全に動きが止まってしまったデッドを見ると、リリーフとダイダーは頷き合った。

 

 

リリーフ「よし、これで時間は稼げるよ。今のうちに!!」

 

ダイダー「ええ!! 行きましょう。河内警部が秘密兵器を持って行ってくれてるわけだし急がないと」

 

 

 

動けなくなってしまったデッドを置いて、リリーフとダイダーは風のように走り出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

河内「ようし。ここからならうまくいきそうだ。作戦通りにこいつを…」

 

マイナーの見張りの状態を調べた河内警部は、突入場所を見定めると背中のカバンを下ろして中を確認していた。

 

 

ダイダー「警部」

 

河内「おお来たか。ここならうまくいけそうだ」

 

リリーフ「さすがですね。じゃあ行くよダイーダちゃん」

 

追いついてきたダイダーとリリーフは頷き合うと、河内警部の持っていたカバンを手に、樹海から飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凄まじい轟音とともに大爆発が起こった。

 

 

河内「うおっ!! 地雷かこれは!?」

 

 

目の前で突如起きた大爆発に河内警部は驚き、とっさに腕で顔をかばったが、それで正解であった。

 

 

今目の前にはかなりショッキングな光景が広がっていた。

 

 

大爆発により、機械の部品が辺り一面に飛び散っていたのである。

 

その部品の中には少女の顔らしきものまであった。

 

 

それはもちろん、リリーフとダイダーの顔である…

 

 

 

 

 

第49話 終

 

 



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第50話 「爆誕!! 次元皇帝 (前編)」

 

 

 

 

 

 

突然発生した大爆発に、マイナー達は何事かとぞろぞろと集まってきており、異変を察知したゴーロとファルも飛んできた。

 

 

 

 

 

そこに広がる光景に驚きつつも、地面に転がっているものを見た二人は静かに肩を震わせ始め、やがて高笑いを始めた。

 

 

ゴーロ「ガーハッハッハッ!!! ざまあみろプリキュアども!! 仕掛けておいた地雷に引っかかったな。木っ端微塵になりやがった」

 

ゴーロは顔の半分がズタズタになっているダイダーの顔を踏みにじりながら実に気分がよさそうだった。

 

 

 

ファル「ふっ。これだけバラバラになれば本体であるあいつらもただでは済むまい。これで邪魔者はこの世界から消えた。あとはパーフェクト様がこの世界を暗黒に染めるのを待つだけだ」

 

ファルもまた、リリーフの首をサッカーボールのように蹴り飛ばすともはや憂はないとばかりに暗黒の未来を夢想していた。

 

 

 

 

〜♪〜♫〜♪〜〜♪〜♫〜♪〜♫〜♫〜♪〜♪〜♪〜

 

 

ファル「!! この音は!!」

 

そんな空気の中、突如として聞こえてきた冷たくも美しいメロディーにファルは苦々しい顔をした。

 

ゴーロ「くそっ!! どこにいやがるあの女!!」

 

憎々しげに辺りを見回していると何かが猛スピードで懐に飛び込んできてゴーロは蹴り飛ばされた。

 

 

ゴーロ「ぐはっ!! てっめぇ…」

 

 

殺意に満ち満ちた目で自分を蹴り飛ばした存在 四季ゆうを睨みつけていたゴーロだが、当のゆうもまたどこか怒りに満ちたような目で二人を睨みつけていた。

 

 

 

ゆう「…コズミックプリキュアは私の叔母であり標的だった。奴らとの戦いだけが私の存在価値だった」

 

 

ファル「だからなんだ!! 何が言いたい!?」

 

 

ゆう「そのコズミックプリキュアを破壊した以上、貴様達に代わりに勝負してもらう」

 

 

ゴーロ「何ぃ!?」

 

 

突然の宣告に一瞬戸惑ったゴーロだが、すぐに好都合とばかりにニヤリと笑った。

 

 

ゴーロ「まぁいい、ちょうど貴様も用済みになったところだ。こいつらみたいに粉々にしてやるぜ!!」

 

ファル「バカなやつだ。素直にパーフェクト様に従っていればよかったものを」

 

 

そんな二人を鼻で笑うようにゆうは告げた。

 

ゆう「嘲笑する。貴様らがプリキュアを倒したわけではない。それでハッタリのつもりか」

 

 

ゴーロ「黙れ!! もう遠慮はしねぇぞ!! やれマイナー!!」

 

 

イラついたようなゴーロの命令に、マイナー達は一斉にゆうに向かって飛びかかっていった。

 

 

 

 

 

しかし、まさに瞬殺というようにマイナーはゆうに叩きのめされていた。

 

 

 

ファル「なあっ!?」

 

どうやって倒したのかすらわからないほどに、あっけなく全滅してしまったマイナーを見て、驚愕しているファルに対してゆうは淡々と告げた。

 

 

ゆう「質問する。こんなものが何かの役に立つとでも思ったのか?」

 

 

 

ゴーロ「ぐぅっ… えぇい雑魚どもが!! こうなりゃ俺の手でテメェをぶち壊してやる!!」

 

ファル「ああ。貴様にはさんざん煮え湯を飲まされてきたからな!! 礼をさせてもらう」

 

 

小馬鹿にしたようなゆうの言葉に、ゴーロとファル完全に戦闘態勢に入っていた。

 

それを見て、ゆうは左手を親指・人差し指・中指の三本を立てて前に突き出した。

 

ゆう「チェインジ!!」

 

 

そして突き出した左手の指を立てたまま、手の甲を内向きにして顔の前へと横向きに持って行き、人差し指と中指の間から赤い右目を光らせた。

 

ゆう「スイッチ・オン!!」

 

 

次の瞬間、黒い電流のようなものが火花をあげてゆうの全身を走り、一瞬ののちにその姿は変わっていた。

 

 

彼女の着ていた黒いスーツは、フリルのない落ち着いたデザインのロングスカートの黒一色のドレスに変わっており、同じく黒一色の肘まである手袋とブーツを着用していた。

 

 

デッド「バトルスタイルコードネーム、キュア・デッド。破壊する。ターゲット、ファル、ゴーロ」

 

 

 

ゴーロ「しゃらくせえ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方

 

 

河内「くらえ!!」

 

河内警部はアンチマイナーガンを使って、警備の手薄になったところにいるマイナーを倒して潜入していた。

 

 

河内「よし、あの爆発でうまく連中の気は引けたみたいだな。じゃあ先に進むとするか」

 

 

ダイーダ「ええ」

 

リーフ「うん」

 

 

河内「にしても、ただのガラクタがこうまで役に立つとはな」

 

リーフ「うん。私も驚いちゃったよ」

 

 

ダイーダ「あまり気を抜かないほうがいいわ、時間稼ぎには変わりないもの。早く捕まってる人達を助けないと…」

 

 

河内「そうだったな。急がないと」

 

 

 

 

実は、彼女達がカバンに詰めていた秘密兵器というのは、遠藤博士の失敗作のロボットにリーフやダイーダの顔をつけたものとガラクタ同然の機械部品である。

 

本来は警護に当たっているであろうメイジャーにでもやられたふりをして、その部品をぶちまけることで、自分達がバラバラになったと見せかけてその隙に侵入していく予定だったのだ。

 

一度やられたように見せかければ、時間が稼ぎやすいと判断した上での作戦である。

 

いきなり地雷があったことは予想外だったが、かなりの時間が稼げそうであり、ひとまずはよしといったところであった。

 

 

 

リーフ「ぼんやりとしかわからなかったけど、捕まった人達はあっちの方だったよ。急ごう」

 

 

先ほど妨害電波に邪魔されながらも、イエローハンドでなんとか確認した場所を示したリーフに従って、一同は静かに走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バトルスタイルに変化すると、デッドはゴーロとファルに対して淡々と事実を述べたつもりだった。

 

デッド「確認する。私はコズミックプリキュアより強いということはわかっているな」

 

 

しかし、それは二人の神経を逆なでし、さらにイラつかせるだけだった。

 

ゴーロ「ごちゃごちゃうるせぇ!! 覚悟しやがれ!!」

 

ファル「行くぞ!!」

 

 

これまでの怒りを込めて突進していったゴーロとファルだったが、デッドはそれをジャンプして飛び越えるように軽くかわした。

 

そしてすれ違いざまに空中で逆さまになりながら、二人を大きく蹴り飛ばした。

 

 

 

ゴーロ「があっ!!」

 

ファル「く、くそ…」

 

 

地面を這いつくばりながらも二人の目からは憎悪は消えず、雄叫びと共に立ち上がると殴りかかった。

 

 

しかし、デッドはそんなゴーロのパンチを右手で軽く受け止めると、腕を変な方向にねじ曲げた。

 

 

ゴーロ「ぐああああ!!!」

 

 

悲鳴をあげたゴーロだったが、それがどうしたと言わんばかりにデッドはゴーロのねじ曲げた腕をつかんで振り回し、ファルに叩きつけた。

 

 

ファル「うおおおお!!!」

 

 

その勢いでゴーロとファルは転がっていき、ついでにゴーロの腕はちぎれてしまった。

 

 

 

ファル「く、くそっ…」

 

ゴーロ「腕…俺の腕…」

 

 

既にかなりのダメージを負ってしまい、転がって行った先で顔を上げると、そこには既にデッドが迫っていた。

 

 

とっさに立ち上がろうとしたファルだったが、デッドに蹴り倒され馬乗りになられた挙句、何発となく右の拳を全身に叩き込まれた。

 

 

ファル「ゴガアアアア!!!」

 

 

デッドのパワーは、ダイーダのレッドハンドを上回る。

 

 

そのパンチを全身に浴びたファルは、内部メカニックが完全に故障してしまい、まともに身動きが取れなくなってしまった。

 

 

ゴーロ「このやろう!!」

 

ファルを助けようと、ゴーロは残された腕でヤケクソ気味に殴りかかったが、デッドはそんなゴーロを一瞥だにせず、下のファルを殴るついでと言わんばかりに無造作に腕をふるって弾き飛ばした。

 

 

 

そしてデッドは殴り飽きたかのように、ファルの上から降りた。

 

 

ようやく攻撃が止み、ズタボロになってしまったボディでなんとか起き上がろうとしたファルだったが、そこにデッドのサッカーボールキックが炸裂し、ゴーロのところに大きく蹴り飛ばされた。

 

 

ファル「ガッハアアア…」

 

 

 

 

 

デッド「…失望する。この程度か」

 

 

武器も武装も一切使ってないというのに自分に一太刀も浴びせられないゴーロとファルに対して、もはや興味はないとばかりにそう呟くと、デッドは踵を返して立ち去り始めた。

 

 

 

 

 

ゴーロ「ふざ…けんな…」

 

ファル「貴…様…」

 

 

完全に見下されている。

 

 

その怒りから必死に立ち上がった二人だったが、すでに全身はズタボロで、いたるところがショートし火花が飛び散っていた。

 

そのため傍目に見てもやっとというのがバレバレだった。

 

 

しかし、それでも最後の意地とばかりにデッドに対して文字通り体を引きずるようにして向かっていった。

 

 

ゴーロ・ファル「「ズゥオオオオ!!!!」」

 

 

 

 

 

するとデッドは歩みを止めて振り返ると、うるさいと言わんばかりに左太腿のミサイルを発射した。

 

 

ゴーロ・ファル「「ドゥアアアアア!!!!」」

 

 

ボロボロのボディでは回避も防御もろくにできず、二人はまともにミサイルの直撃を喰らい、大爆発とともに木っ端微塵に吹き飛んだ。

 

 

そして、飛び散った機械の残骸から黒く光る二つの光の玉がフラフラと舞い上がっていった。

 

 

これが二人の本体である、マイナスエネルギーの塊というべき闇の精霊である。

 

 

ファル『ひぃひぃ…』

 

ゴーロ『お、覚えてやがれ… 絶対に貴様をぶっ壊して…』

 

 

捨台詞とともに逃げ出そうとした二人だったが、デッドはそれを見逃さず手にしたデスサイズを一振りすると、黒い波動のような斬撃を飛ばして黒い光の玉を切り裂いた。

 

 

ゴーロ『ば… バカな…』

 

ファル『俺たちを… 見殺しになさるのですか… パーフェクト様ー!!!』

 

 

 

その断末魔の悲鳴とともに、黒い光の玉はガラスが割れるように粉々になり消滅した。

 

 

 

デッド「…破壊完了。 ミッションコンプリート」

 

 

その光景をデッドはまるで感慨のない冷めきった様子で見つめ、淡々と状況を呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴーロとファルを破壊したデッドだったが、そのまま何をするでもなくその近くをふらふらと歩いていた。

 

 

デッド「質問する。私は…なんだ…?」

 

誰も聞くものがない中、一人デッドは問い掛けを続けていた。

 

デッド「私は次に何をすればいい? コズミックプリキュアは死んだ。奴らを倒した二人は破壊した。ならば、次のターゲットは…」

 

 

デッドは何か答えになるものを求めて、過去のログを引っ張り出していた。

 

 

 

豪(ふざけんなよ!! 今姉ちゃん達がいなくなったらどうなんのかもわかんないのかよ!!)

 

デッド「あの時私は答えた。その先はプログラムされていないと… ならば次にとるべきは…」

 

 

 

 

 

豪(いや、それよりさ。河内警部が言ってたじゃん。ゆう姉ちゃんは犯罪者鎮圧用ロボットだって。ってことはさ…)

 

ラン(あっ!! リーフさんやダイーダさんと一緒に!!)

 

豪(そう、パーフェクト達と戦ってくれるかもしれないんだ!!)

 

 

デッド「豪とランはそう言っていた… 私は犯罪者鎮圧用…」

 

 

 

ラン(あなた、本当は私達の味方でコズミックプリキュアと一緒に戦う正義の戦士なのよね。そうよね?)

 

 

デッド「否定する。私は標的であるコズミックプリキュアとともに戦うことはない。なぜなら…」

 

 

 

遠藤(四季ゆう。お主は一体何なんじゃ?)

 

 

デッド「回答する。私は死神である。ならば…」

 

 

ようやく次に何をすべきかを理解したかのように、デッドは富士山頂に向けて飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

富士山頂

 

 

Dr.フライ「ほう。あのポンコツどもめバラバラになりおったか。いい気味じゃ、いつも散々にこのわしをバカにしおって!!」

 

 

ゴーロとファルのボディの信号が消えたことを手持ちの端末で確認したDr.フライはザマアミロというような笑みを浮かべていた。

 

 

 

その時、周囲に黒い靄のようなものがうっすらと立ち込めるとドスの効いた低い声が響いた。

 

パーフェクト「Dr.フライ。貴様どういうつもりだ?」

 

 

Dr.フライ「ん? どういうつもりとはどういうことじゃ?」

 

 

すっとぼけたようなDr.フライの言葉に、パーフェクトは怒りに満ちた声を上げた。

 

パーフェクト「ふざけるな!! なぜあの二人を見殺しにした!? あのアンドロイドを静止させることはできたはずだ!!」

 

 

Dr.フライ「いやぁ、そう言われてものう。あやつはわしの言うことをろくに聞かんからのう。それにまさかあいつらがああもあっさりやられるとはなぁ」

 

 

 

パーフェクト「貴様!!」

 

なめきったようなフライの態度に、とうとうパーフェクトの怒りが爆発し、黒い波動のようなものが発せられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

Dr.フライ「ん? どうした? 何かするんじゃなかったのか?」

 

パーフェクト「くっ…」

 

ニヤニヤとした笑みを浮かべるDr.フライに、パーフェクトはどこか悔しそうな声を上げていた。

 

 

Dr.フライ「そもそも、なぜ貴様が自分であの二人を助けてやらなんだ? いつもいつもプリキュアにやられそうな時は助けていたではないか? え?」

 

 

Dr.フライの言うことは悔しいが当たっていた。

 

パーフェクトはここしばらく、力を出すことがひどく困難になっていた。

 

初めはプラスエネルギーの多いこの世界に長く居続けた弊害かと思っていたが、最近になっての力の落ちようは尋常ではなかった。

 

 

特に暗黒世界と繋がろうとしている今、ここまでパワーが落ちているのはどう考えてもおかしかった。

 

 

 

Dr.フライ「力がろくに出ないのであろう? それはそうじゃ、四季ゆうのエネルギーでもあるマイナスエネルギーは、貴様の体から取り出したものじゃからな。奴が戦えば戦うほど、貴様の力は無くなっていくということじゃ」

 

 

パーフェクト「!!! 貴様、そのつもりであのアンドロイドを!!」

 

Dr.フライ「ほざけ!! 人を捨て駒にしようとしたのはどっちじゃ!!」

 

 

激昂したパーフェクトは、黒い波動のようなものを出して攻撃を加えたが、Dr.フライはそれを吸収してしまった。

 

 

パーフェクト「な、何!?」

 

Dr.フライ「忘れたか? わしの体はマイナスエネルギーで動いておる。マイナスエネルギーの波動はわしにとっての養分でしかないわ!!」

 

 

そう叫んだDr.フライは手のひらを突き出すと、今度はパーフェクトから強制的にマイナスエネルギーを吸収し始めた。

 

 

 

パーフェクト「こ、これは!? グァァアア!!!!」

 

 

パーフェクトはマイナスエネルギーの塊のような存在である。

 

全身を構成するマイナスエネルギーを吸収されていったため、苦悶の悲鳴とともに少しずつ全身が薄くなっていった。

 

 

 

Dr.フライ「ヒャッヒャッヒャッ!!! パーフェクト、貴様は所詮部下がいなければ何もできん存在。だからあいつらを必死に守っていたのであろう? じゃがわしは違うぞ。大天才のわしは何者も必要とせん強さを持っておるのじゃ!!!」

 

 

その笑いとともに、いっそうパーフェクトの全身の黒い靄は薄くなっていき、ついには消滅し始めた。

 

 

Dr.フライ「パーフェクト!! 貴様の力、すべてありがたくいただくぞ。そして貴様の代わりにわしがあらゆる次元の皇帝として永遠に君臨してくれる。すべてはわしを利用しようとした報いじゃ!!!」

 

 

パーフェクト「お、おのれー!!!!」

 

 

その怒りに満ちた断末魔の声とともに、パーフェクトの姿はDr.フライに吸い込まれるように完全にかき消えていった。

 

 

 

Dr.フライ「ヒャッヒャッヒャッ!!! ざまあ見るがいいわ!!!」

 

 

 

もはや邪魔者などいないというように、Dr.フライは高らかに笑った。

 

 

 

Dr.フライ「さてと… まずは手始めに、このデビルの塔から暗黒エネルギーを吸収してこの地球を暗黒の世界に変えてやるとするか」

 

 

 

 

第50話 終



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第51話 「爆誕!! 次元皇帝 (後編)」

 

 

 

 

 

Dr.フライ「さてと… まずは手始めに、このデビルの塔から暗黒エネルギーを吸収してこの地球を暗黒の世界に変えてやるとするか」

 

 

パーフェクトを謀略で葬り去り、意趣返しを行うとともに自身の力を増大させたDr.フライは満足そうに笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直後に足元で大爆発が起こり、大きく吹き飛ばされた。

 

 

Dr.フライ「ゲホゲホ。なんじゃ一体?」

 

 

爆煙に咳き込みながら立ち上がると、そこにはデスサイズを構えたデッドがいた。

 

 

Dr.フライ「き、貴様。いきなり何の真似じゃ!?」

 

 

 

デッドを睨みつけたDr.フライだったが、デッドはデスサイズを構えると冷たく宣告した。

 

デッド「破壊する。ターゲット、Dr.フライ」

 

 

 

Dr.フライ「なぁっ!?」

 

 

 

 

 

その宣告に驚愕したDr.フライだったが、避ける暇もなくデッドのデスサイズが振るわれ、真っ二つに切り裂かれた。

 

 

Dr.フライ「ギィエエエエ!!!」

 

 

思わず悲鳴をあげたDr.フライだったが、特に痛みを感じなかったことでハッと気がついた。

 

 

Dr.フライ「そ、そうじゃ。わしは不老不死なんじゃ。この程度で…」

 

 

意識を集中させると、真っ二つにされたDr.フライの体は逆回しのように再生していった。

 

 

しかし、息つく間もなくデッドの猛烈なラッシュが浴びせられ、Dr.フライはメタメタにされた。

 

 

なまじダメージこそないものの、それがかえってデッドの攻撃が止まない理由になってしまった。

 

 

Dr.フライ「い、一体… ゲブ!! ど、どういう… ゴベ!!  つもりじゃ… ガバァッ!!! 説明… ブゴォ!! せんか… ブギャア!!!」

 

 

Dr.フライ自身の身体能力は老人のそれでしかない。

 

デッドのパワーで殴られまくったため、全身が複雑骨折を起こし、文字通りぐにゃぐにゃのひどい状態になってしまった。

 

遠くなる意識を必死に奮い立たせ、大きく殴り飛ばされながらも尋ねたDr.フライに対して、デッドは淡々と言い放った。

 

 

デッド「回答する。コズミックプリキュア、およびそれを破壊したガラクタ人形が破壊された今、次に破壊すべきは貴様である」

 

 

Dr.フライ「な!? 貴様、狂ったか!?」

 

デッド「否定する。私は正常だ。第一、第二目標が消滅した今、私の本来の役割である犯罪者の鎮圧を行っているだけである」

 

 

Dr.フライ「ば、バカを言うな!! 落ち着け、貴様にはわしの片腕としてこの暗黒世界で働いてもらうつもりで…」

 

 

地面を這いずりながら必死に見苦しいことを並べ立てたDr.フライだったが、当のデッドにはそんなものに興味はなかった。

 

 

デッド「破壊する。ターゲット、Dr.フライ。 貴様は永遠に死なないのならばかえって都合がいい。 貴様を永遠に破壊し続けることで私の存在意義となる」

 

 

その宣告とともに、右手のマシンガンが火を吹き、Dr.フライを蜂の巣にした。

 

 

Dr.フライ「ギャアアアア!!!」

 

 

普通なら一瞬で肉塊に変わるところであるが、悲しいかなDr.フライは再生してしまい、さらなる攻撃を受けることになった。

 

 

Dr.フライ「よ、よせ!! 手荒な真似はもう…」

 

 

必死に逃げようとしたもののデッドに頭をつかまれてしまい、そのまま持ち上げられた。

 

 

Dr.フライ「エァアアアアア!!!」

 

 

そして耳障りのする音とともに、デッドはDr.フライの頭を粉々に握りつぶしてしまった。

 

 

頭部が四散するも、その飛び散ったものから黒い靄のようなものが溢れ出て、再びDr.フライは蘇ってしまった。

 

 

Dr.フライ「ひぎ… ヒギィ…」

 

 

恐怖で顔を引きつらせながらDr.フライはなんとかして逃れる方法がないかを必死に考えていた。

 

 

這いつくばるようにして少しでも遠くに離れんとしたところを、上から踏み潰されてしまい、再び「殺される」ことを自覚した時、救いの音が聞こえてきた。

 

 

 

 

三冠号が飛び立っていく光景が、彼らの目に映ったのである。

 

 

デッド「!! コズミックプリキュア…」

 

 

Dr.フライ「ま、待て!! 見てみろ。連中は、コズミックプリキュアは死んでいないぞ。まず先にあいつらを破壊しろー!!!」

 

 

必死にそう叫んだDr.フライだったが、すでにデッドにとって「それ」は眼中になく、邪魔なゴミのように蹴飛ばすとすぐさま三冠号を追って飛び立った。

 

 

 

Dr.フライ「ごわぁああああ!!」

 

 

 

 

デッドのパワーで蹴り飛ばされたDr.フライは富士の斜面を転がるように落下していき、麓に着いた時にようやく止まったものの、全身はボロボロになっていた。

 

 

Dr.フライ「ゆ、ゆるさんぞ…あのガラクタが!! この次元皇帝をここまでコケにしおって…」

 

 

怒りに満ちたその言葉とともに、Dr.フライの全身から黒い靄のようなものが溢れ出て、それが次々と人の形のようになっていった。

 

Dr.フライ「行け、我がしもべキングマイナーどもよ。コズミックプリキュアを、キュア・デッドを破壊するのじゃ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十数分前

 

 

リーフ「う〜、もっとたくさんの人を連れて行きたいけど…」

 

 

ダイーダ「これ以上は三冠号の救助ブロックに乗せられないわ。もうすぐ連中も気づくでしょうし…」

 

警備が手薄になったこともあり、奴隷として働かされていた人々を可能な限り救助したものの、まだまだ大量の人々が捕らえられているのがわかっているため、二人は心を痛めていた。

 

 

河内「気持ちはわかるが、今こうやって助けられる人々がいるんだ。自分達に自信を持つんだ!!」

 

 

リーフ「警部さん…」

 

ダイーダ「ありがとうございます。さっ、警部も早く」

 

 

その檄に勇気づけられたダイーダは、一緒に来るように促したが、河内警部は黙って首を横に振った。

 

 

河内「いや、俺はここに残る」

 

 

リーフ「えっ? なんでですか?」

 

ダイーダ「リーフの言う通りです。危険すぎます」

 

 

驚いた二人に、河内警部は決意の表情で告げた。

 

 

河内「俺は警察官だ。そんな俺が優先して逃げれば人々に不安を与えることになる。そんなことになれば、作戦がパァだ」

 

 

ダイーダ「だったら、私達も!!」

 

河内「馬鹿野郎!! お前達にはお前達にしかできないことがあるはずだ!! 残された人達に希望を与えるためにも俺は残る。そしてお前達はやるべきことをやるんだ!!」

 

 

 

その言葉に、ダイーダとリーフは苦悶の表情で頷くと断腸の思いで三冠号に乗り込み発進させた。

 

 

 

人々を乗せて飛び立った三冠号を敬礼とともに見送りながら、河内警部は呟いた。

 

 

河内「ふっ、かっこつけすぎたかもしれんな。しかし、俺にはこの程度のことしかできん以上、全力ですべきことをするだけだ」

 

そうして、決意の表情とともに富士山麓へと来た道を引き返して行った。

 

 

 

 

 

 

 

現在

 

 

 

救助した人々を乗せた三冠号は、一路甲子市内を目指していた。

 

 

 

リーフ「ダイーダちゃん、ところでこの人達どこに連れて行ったらいいのかな?」

 

ダイーダ「どこって… うーんそれはやっぱり…  !! レーダーに反応!?」

 

リーフ「えっ!? でもこのサイズの飛行機なんて… !!!!」

 

 

人間大のサイズの飛行物体が接近していることに、一瞬首をかしげたリーフだったが、即座にその対象に思い当たった。

 

 

そしてそれを裏付けるかのように、全チャンネル通信で三冠号に通信が入ってきた。

 

 

デッド『要求する。コズミックプリキュア、私と勝負をしろ。さもなくばその飛行機を撃墜する』

 

 

そのいつもと違った脅迫めいた要求に、リーフは戸惑った。

 

 

リーフ「どうしたんだろ? いつもとなんか違うよ?」

 

ダイーダ「そうね。でも今三冠号を撃墜されるわけにはいかないわ」

 

ダイーダもデッドの言動に戸惑いながらも、現実的な判断を下し、外部スピーカーでデッドに呼びかけた。

 

 

ダイーダ「わかったわ、勝負してあげる。その代わり三冠号には手出ししないで。多くの人が乗ってるのよ」

 

 

それを聞いたデッドは、二つ返事で了承した。

 

 

デッド『了解した。約束する。私と勝負しろ』

 

 

その通信を聞いたリーフとダイーダは、三冠号を自動操縦に切り替え遠藤平和科学研究所に向かうようにセットした。

 

 

リーフ「これでよし…と」

 

ダイーダ「よし、行くわよ」

 

 

二人は頷き合うと、三冠号のハッチを開け、トンボを切って飛び降りた。

 

 

 

リーフ・ダイーダ「「ゴー!!」」

 

その瞬間、二人の体は光に包まれ、とある街中に着地した時には姿が大きく変わっていた。

 

 

ショートカットだったリーフは、ボリュームのある濃いピンクの髪に変化し、着用している服も、ごく普通の服からフリルのついた赤を基調にしたドレスのようなものになっていた。

 

 

 

ダイーダのポニーテールは、一本から五本にまで増え、背中にかかるかかからないかだったそれも、腰まで伸びて金色になっていた。

 

 

そしてリーフ同様のデザインの純白を基調にしたフリルのついたドレスを着用していた。

 

 

 

そして目の前に降り立ってきたデッドを見つめると二人は名乗りをあげた。

 

 

リリーフ「闇を吹き消す光の使者 キュア・リリーフ!!」

 

ダイダー「悪を蹴散らす光の使者 キュア・ダイダー!!」

 

 

リリーフ・ダイダー「「ピンチ一発、大逆転! コズミックプリキュア!!」」

 

 

 

変身した二人の姿を認めたデッドは、嬉々としたようにデスサイズを振りかざして宣言した。

 

 

デッド「破壊する。最優先ターゲット、コズミックプリキュア」

 

 

 

 

 

 

 

デスサイズを構えたデッドが、飛びかかろうとしたまさにその瞬間、三人の四方八方からキングマイナーが襲いかかってきた。

 

 

それを見たデッドはイラついたように顔を歪め、目の前のコズミックプリキュアに背を向けて、キングマイナーたちに向かってデスサイズを振るった。

 

 

デッド「警告する!! 勝負の邪魔をするな!!」

 

 

右手のマシンガンを放ち、デッドは襲い来るキングマイナーを片っ端から掃討していった。

 

リリーフ「チェンジハンド・タイプブルー!! エレキ光線連続発射!!」

 

ダイダー「チェンジハンド・タイプグリーン!! 超高温プラズマ火炎、超低温冷凍ガス、同時発射!!」

 

 

この二人もまた、そんなデッドの背中から飛び出し、マルチハンドを換装してキングマイナーたちを蹴散らしていった。

 

 

 

 

リリーフとダイダー、そしてデッドは背中合わせになりながら声を掛け合った。

 

 

リリーフ「デッド、無理しちゃダメだよ。あなたに何かあったらランちゃんが、豪くんが悲しむから」

 

ダイダー「あなたはこの世界の人が作った、この世界の希望の一つでもあるの。だから絶対に死んじゃダメ」

 

 

デッド「了承した。さらに要求する。貴様達も破壊されるな。貴様達を破壊するのは私だ」

 

短い会話を交わすと、デッドとコズミックプリキュアはそれぞれ別々の方向にいるキングマイナーに向かって戦い始めた。

 

 

リリーフ「くっ。こいつら、マイナーよりマイナスエネルギーが多いよ。 それに倒しても、その事が新しいこいつらを生み出すエネルギーになってる」

 

ダイダー「踏ん張りなさい!! 身体能力はマイナーと大して変わらないわ。それに河内警部の言った通り私達はここで負けるわけにいかない!!」

 

 

確かに、ダイダーの言う通りキングマイナーの能力はマイナーと変わらないが、倒した端から次々と湧いて出てくるため、数に限りのあるマイナーと戦うより、苦戦していた。

 

 

 

 

 

 

リリーフ「ええい、こうなったら…  ライナージェーット!!」

 

 

これではきりがないと判断したリリーフは、ライナージェットを召喚した。

 

 

リリーフ「ライナージェット、カノンモードスタンバイ!!」

 

ダイダー「ターゲットロック!! プラスエネルギーチャージ!!」

 

 

飛来したライナージェットをカノンモードで保持すると、そのまま大ジャンプして距離を取り、地上に群がっているキングマイナーの大群に照準をセットし、自分達のプラスエネルギーをチャージしていった。

 

 

 

リリーフ・ダイダー「「プリキュア・ウォークオフ・ブラスター!! ファイヤー!!!!」」

 

 

 

その掛け声とともにライナージェットから光の奔流とでもいうかのような眩しくそして温かいエネルギー波が発射され、地上を埋め尽くしていたキングマイナーの大群は跡形もなく浄化された。

 

 

 

 

 

一方、二人とは離れた場所で戦っていたデッドだったが、こちらは地力の差かさほど苦戦らしい苦戦はしておらず、ほぼ一方的にキングマイナーを叩きのめしていた。

 

 

 

 

デッド「!!! 活動時間限界、強制スリープまであと30秒。が…」

 

 

そうしている間にも、次から次へとキングマイナーは湧いて出てきており、とてもではないが退避することは不可能であった。

 

 

そして、ついにタイムアップとなりデッドは動きが止まってしまった。

 

 

それを狙って、キングマイナーは一斉にデッドに飛びかかり組みついた。

 

 

スリープ状態に陥る寸前、デッドにDr.フライからの最後通牒とでもいうかのような言葉が、キングマイナーを通して伝えられた。

 

 

 

Dr.フライ『パーフェクトが消滅した今、貴様の存在価値などない。わしに従うならば生かしておいてもいいと思ったが、逆らうならば消えてもらう』

 

 

デッド「何!?」

 

 

その言葉と同時にデッドに組みついたキングマイナーは黒く輝き始めた。

 

 

Dr.フライ『とはいえ、生半可なことでは貴様は破壊できそうもないからな。他の次元世界へ永久追放じゃ』

 

Dr.フライの高笑いとともに、デッドの体は彼女を取り囲んだキングマイナー共々薄くなり始めた。

 

 

Dr.フライ『そいつらが貴様を別の次元へと誘う案内人じゃ。次元のさすらい人として永遠にさまよい続けるがよい。わしに逆らった報いじゃ!!!』

 

 

デッド「!!!!」

 

 

 

 

リリーフ「デッド!!!」

 

ダイーダ「くっ、今行くわ!!」

 

 

突如響いてきたDr.フライの声に、ライナージェットで慌てて駆け付けたこの二人だったが、間に合わなかった。

 

 

 

デッド「宣告する。コズミックプリキュア、私はいずれ必ず戻って来る。プリキュアを破壊することが、私の宿命だからな」

 

 

 

その宣告を最後に、デッドの姿は消えていった。

 

 

リリーフ「あ…あ…」

 

ダイダー「Dr.フライ!!!」

 

 

目の前でデッドを失いリリーフは何も言えず、ダイダーは激昂したが、そんなことは御構い無しというように、再びキングマイナーの大群が襲いかかってきた。

 

 

 

 

 

 

リリーフ「うそ!? また!?」

 

ダイダー「し、仕方ない。一旦引くわよ!!」

 

 

先ほどからの戦いでかなり消耗している。

 

それに今戦う理由は感情論以外もうない。

 

 

そのため、ダイダーは現実的な判断を優先させて、ライナージェットをサーフィンのように操り、攻撃を受けつつもなんとか戦線を離脱した。

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

攻撃を受けて墜落寸前になりながらも、かろうじてライナージェットで帰還したリーフとダイーダを研究所の一同は出迎えた。

 

 

 

遠藤「おお帰ったか。しかしお主ら三冠号を自動操縦でここに誘導せんでもいいじゃろ!! 救出された人がここの秘密をしゃべりでもしたら…」

 

なにか言いかけた遠藤博士だったが、皆の声に遮られてしまった。

 

 

京香「リーフさん、ダイーダさん、大丈夫だった?」

 

節子「心配したのよ、三人だけで行くっていうから。 ってあれ? 警部さんは?」

 

 

節子の問いかけに、ダイーダは真剣な面持ちで答えた。

 

 

ダイーダ「河内警部は、現場に残りました… 捕まった人達の支えになるって…」

 

 

リーフ「それと、ランちゃん豪くんごめんね。デッドを四季ゆうさんを助けられなかった…」

 

 

沈んだ表情でボソボソと呟いたリーフに、ランと豪もショックを受けつつも何も言えなかった。

 

 

豪「そうか…」

 

ラン「…ありがとう。私のわがまま最後まで聞いてもらって…」

 

 

 

そんな中、研究所の中で大爆発が起き、皆が慌てて飛び込むと居間に備え付けてあったマイナスエネルギー検知器が、バラバラになってしまっていた。

 

 

 

遠藤「こ、これは!? このマイナスエネルギー量は尋常ではないぞ!!」

 

 

ラン「見て、テレビ!!」

 

 

つけっぱなしだったテレビを見ると、そこにはDr.フライがアップで映っていた。

 

 

 

Dr.フライ『愚かな人類諸君。 わしは黄泉の国から舞い戻った大天才にして、真の次元皇帝となるDr.フライじゃ。 間もなくこの世界は暗黒に満ちた世界となる。 そして諸君らには暗黒と絶望の未来をプレゼントしよう』

 

 

遠藤「なんじゃとぉ!?」

 

 

 

Dr.フライ『この大天才が自称次元皇帝だったパーフェクトの力を得て、真の次元皇帝となった今、もはやそれ以外の未来が訪れることはない。 せいぜい最後の時間を楽しむが良い』

 

 

高笑いをするDr.フライを見てリーフとダイーダは最悪の事態を悟った。

 

 

リーフ「まさか… パーフェクトの力を吸収したってこと? それじゃあもうゴーロにファル、パーフェクトは…」

 

ダイーダ「そうだとするとまずいわ。あいつ元々がメイジャーに限りなく近い存在だから、理性的な行動をとり続けることにも限界があるはずよ。そうなったら…」

 

 

遠藤「諦めるのはまだ早い!! わしの今作っとる最終兵器が完成すればまだ可能性はある。すまんがみんな協力してくれい」

 

 

遠藤博士の言葉に、皆の決意は固まった。

 

 

豪「もちろん!!」

 

ラン「手伝うわよ、このまま終わってたまるもんですか!!」

 

京香「お手伝いします。一つでも多くの命を救うために」

 

節子「私だって!!」

 

 

リーフ「すごい、みんなが一つになっていく…」

 

ダイーダ「負けてられないわね。私たちも」

 

 

 

 

第51話 終

 

 



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最終話 「心からの言葉」

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

キャスター『この空をご覧ください。今正午に近いというにもかかわらず、深夜と言われても信じられるほどに黒く染まってしまっています。Dr.フライの宣告通り我々はこのまま滅亡するのでしょうか? 絶望の前に人類は屈しなければならないのでしょうか?』

 

 

 

遠藤「えぇい、わしは絶対に諦めんぞ!! 必ずこの状況を打開してみせる」

 

京香「そうですとも!! たかが真っ暗になった程度のことで…」

 

 

暗雲が日本中を積み込み、昼か夜かもわからなくなってしまっている中でも、遠藤博士達は希望を信じて絶望することなく、最終兵器の製作作業が進めていた。

 

節子「博士!! 宝六博士が到着しましたよ!!」

 

 

そんな中、節子に連れられて、遠藤博士から要請を受けた宝六博士がようやく到着した。

 

 

 

 

宝六「遠藤、久しぶりだな。 私にどうしても手伝って欲しいことがあるということだが…」

 

遠藤「おお宝六。実はな、以前お主のデータ提供で作ったマイナー殲滅衛星。あれを応用して発展させたものを作りたいんじゃ。周囲のプラスエネルギー凝縮、一斉に照射する、通称HRビーム砲を作ることができれば、この状況を打開できるかもしれん。いや必ず打開してみせる!! そのためにもお主の力を借りたいのじゃ」

 

 

宝六「わかった。そういうことならば喜んで協力しよう」

 

遠藤「ありがとう宝六」

 

 

久々の再会に友情を噛み締めあっていた二人だったが、突如として轟音とともに振動が研究所を襲った。

 

遠藤「な、何!?」

 

それとともに、地下の格納庫から三冠号が発進していき、豪とランが作業室に駆け込んできた。

 

豪「じいちゃん!! 大変だよ!! 姉ちゃん達が先に行くって…」

 

ラン「おじいちゃんの発明が完了するまで指をくわえてられないって… 三冠号とライナージェットの修理が終わったばっかりだっていうのに…」

 

 

遠藤「なぁ!? くそぅ時間はあまりない、急ぐぞ」

 

 

かくて、遠藤博士達は最終兵器となるHRビーム砲の建造を急ピッチで進めていった。

 

豪「姉ちゃん達… 無事でいてくれよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

富士山

 

 

 

禍々しい姿のデビルの塔となってしまった富士山。その山頂で、Dr.フライがその全身にドス黒いエネルギーを浴びていた。

 

 

 

Dr.フライ「聞こえる…奴隷どもの、プラスエネルギーの苦しみが。これがマイナスエネルギーの収束を促進したというわけか… それにより、ここに暗黒エネルギーの巨大なフィールドができた。やがてはこれが全世界いや全次元に触手を伸ばし、すべて暗黒の世界となる。そのとき、このわしは暗黒神として永遠に君臨するのだ!」

 

 

 

我が世の春と言わんばかりに自身の未来を夢想していたDr.フライだったが、突如後ろから声がした。

 

 

河内「動くな、大人しく手を挙げろ」

 

 

Dr.フライ「ん? なんじゃ貴様」

 

面倒そうに振り向いた先にはアンチマイナーガンを構えた河内警部がいた。

 

 

河内「こいつは貴様にも効果のある銃だということは覚えているだろう。観念しろ」

 

しかし、そんな河内警部をDr.フライは鼻で笑い飛ばした。

 

Dr.フライ「ぶぁかの相手は疲れるのう。目障りじゃとっとと往ね」

 

 

河内「なめるな!!」

 

 

その態度にカチンときた河内警部は、アンチマイナーガンを連射したが、Dr.フライにはまるでダメージにならなかった。

 

 

河内「な、何!?」

 

 

Dr.フライ「ヒヤッヒヤッヒャッ。今更そんなものがわしに効くものか」

 

その言葉とともに一振りした腕から、黒い波動のようなものが出て河内警部は吹き飛ばされた。

 

 

河内「ぐわっ!! くそぅ…」

 

 

 

Dr.フライ「もうすぐじゃ。黄泉の国から再び舞い戻り、パーフェクトなどとぬかす奴めの手下にさせられ、30億もの金を強奪してから早5年。しかしいよいよわしが完璧な存在となり永遠に君臨する時が来たのじゃ」

 

その言葉に、河内警部の目には再び力がこもった。

 

 

河内「何!? すると貴様が5年前の30億強奪事件の真犯人!! そして俺の先輩を殺した…」

 

 

Dr.フライ「んぁ? そういえばおったなぁ、ガキをかばって死んだ刑事とやらが。全く間抜けな奴じゃ」

 

 

河内「貴様!!!!」

 

長年追い求めてきた犯人、尊敬していた先輩の仇が今目の前にいる。

 

 

その怒りに突き動かされるように、河内警部はDr.フライに飛びかかった。

 

 

Dr.フライ「えぇい、うっとおしい!!」

 

面倒そうな言葉とともに一振りした腕から放たれた黒い波動のようなものに吹き飛ばされそうになりながらも、河内警部は必死に前進しようとした。

 

 

河内「貴様だけは許さん!! 絶対に逮捕してくれる!!」

 

しかし、とうとう抗いきれなくなり山頂から河内警部は転がり落ち、フィールドの外にはじき出されていった。

 

 

 

Dr.フライ「ふん、何が逮捕じゃ。警察など最早なんの意味もない。わしこそが法律いや世界そのものとなるのじゃからな!!」

 

 

そうしている間にも暗黒エネルギーがDr.フライに流れ込み、頭の白髪が黒髪に変わっていった。

 

シワだらけだった皮膚もだんだんとみずみずしさを取り戻していった。

 

 

Dr.フライ「ん? こ…こりゃ一体? そうか! これも暗黒エネルギーの力か! 体が若返り始めておるぞ」

 

 

そればかりでなく全身の筋肉が隆起を始め、貧弱な老人だったDr.フライはボディビルダーと見紛うほどの筋骨隆隆たる大男と化していた。

 

Dr.フライ「これはいい!! 素晴らしいぞ、ワッハハハハハ!」

 

 

その歓喜に満ちた笑い声とともに、Dr.フライはさらに暗黒エネルギーを吸収していき、同時に富士山頂は強力な暗黒エネルギーに包まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、応急修理を終えたばかりの三冠号が再び富士山付近に接近していた。

 

だが

 

リーフ「な、何あれ? あんな強力なマイナスエネルギーなんて見たことないよ!?」

 

リーフの言う通り、富士山頂を覆う暗黒エネルギーは、巨大なバリアのようになっていた。

 

ダイーダ「あれが、デビルの塔… まずいわ、このまま放っておけばこの世界どころか全次元が暗黒のマイナスエネルギーに包まれる… と、なれば!!」

 

リーフ「突撃あるのみ!!」

 

 

そう叫ぶや否や、二人は三冠号を暗黒エネルギーフィールドに向けて突撃させた。

 

 

 

 

リーフ「ぐぅううう… す、すごいマイナスエネルギー… 想像以上にきつい…」

 

予想以上に強力なバリアフィールドに、三冠号は中に入ることもできず、機首からは火花が飛び散っていた。

 

 

ダイーダ「くっ、負けられないわ… エンジン全開…フルブースト!!」

 

負けてたまるかとばかりに、三冠号を最大出力で前進させると、もともと完調でなかったためか、エンジンがオーバーロードし始め、それとともに全体の装甲板まで剥離しあちこちから火を吹き始めた。

 

しかしその甲斐あってか少しずつだがバリアの内部に機首を押し込むことができ始め、ようやくコックピットハッチ部分まで押し入ることができた。

 

だが、すでにコックピットの計器もショートしており、火花が飛び散っていた。

 

リーフ「うわっ!! も、もう限界だよ!!」

 

ダイーダ「仕方ない、脱出するわよ!!」

 

 

二人がコックピットから飛び降りたのと、三冠号のエンジンが暴発し墜落をし始めたのはほぼ同時だった。

 

 

リーフ「うわーっ!!」

 

ダイーダ「きゃあああ!!!」

 

 

なんとかフィールドの内側に侵入することに成功した二人だったが、それと同時に三冠号は炎に包まれながら墜落していき、ついには地面に激突。

 

大爆発を起こしたため、二人は吹っ飛ばされてしまった。

 

 

ダイーダ「よ、よしなんとか侵入には成功したわね…」

 

リーフ「い、いたた… うん。でも三冠号が… ライナージェットもあれじゃ…」

 

 

 

そこに地響きとともにドスの効いた低い声が響いてきた。

 

Dr.フライ「何か騒がしいと思ったが、貴様らか」

 

その声に振り返ると、そこにいたのは全長20メートル強の巨大な悪鬼と言うべき姿をしたDr.フライだった。

 

ダイーダ「なっ!? あなたがDr.フライ!?」

 

リーフ「マイナスエネルギーを吸収しすぎたんだ… 完全に人間じゃなくなってる…」

 

 

驚愕したリーフとダイーダに対して、Dr.フライはそれがどうしたと言わんばかりだった。

 

 

Dr.フライ「それがどうした? わしはもともと人間などという矮小な枠組みに収まるような存在ではなかったのじゃ!! こうして人を、いやあらゆる生命を凌駕する力を持った究極にして完全なる存在、暗黒破壊神こそがわしが本来あるべき姿なのじゃ!!」

 

 

 

 

 

 

だが、リーフとダイーダはそんなDr.フライを見て、悲しげな表情を浮かべた。

 

 

リーフ「…それで何が嬉しいの!? 人間でなくなって、ずっと一緒にいたファルやゴーロを見殺しにして、ゆうさんやパーフェクトまで利用して、あなたに何が残るの!?」

 

ダイーダ「パーフェクトはもちろん、ゴーロもファルも許せない奴らだったけど自分達同士は信頼しあって、かばい合ってた。あなただってその気になればあいつらと絆を結べたはずなのに!! ひとりぼっちの世界に君臨して、それが何になるの!?」

 

 

リーフとダイーダは悲痛な叫びをあげたが、それを否定するようにDr.フライはわめき散らした。

 

 

 

 

 

Dr.フライ「黙らんか!!! このわしこそは孤高の大天才、Dr.フライ様じゃ。究極にして至高の存在じゃ!!!! 全てを滅ぼしたわしの業績を万人が崇め奉るのじゃ。他何が必要なものか!!!!!」

 

 

 

ダイーダ「…もうだめだわ。自分の言ってることさえ、わけがわからなくなってしまっている。 全てを滅ぼしたら誰も自分を見てくれなくなるのに…」

 

リーフ「かわいそう… ひとりぼっちだったから、みんなに見てもらいたかったのかな… その気にさえなれば、こんなことにならずに済んだのに…」

 

 

表情を曇らせたリーフとダイーダに対して、Dr.フライはドス黒い光弾を放ってきた。

 

Dr.フライ「ごちゃごちゃと!! 貴様らを破壊し、わしは世界全てを暗黒に包み込み、わしを否定したすべてのものを滅ぼしてくれる。さすれば、わしは暗黒破壊神として永遠に世界に名が刻まれるのじゃ!!!」

 

 

着弾とともに起きた大爆発から何とか逃げ切った二人は、頷き合うと大きくトンボを切った。

 

 

リーフ・ダイーダ「「ゴー!!」」

 

その瞬間、二人の体は光に包まれ、着地した時には姿が大きく変わっていた。

 

 

ショートカットだったリーフは、ボリュームのある濃いピンクの髪に変化し、着用している服も、ごく普通の服からフリルのついた赤を基調にしたドレスのようなものになっていた。

 

 

 

ダイーダのポニーテールは、一本から五本にまで増え、背中にかかるかかからないかだったそれも、腰まで伸びて金色になっていた。

 

 

そしてリーフ同様のデザインの純白を基調にしたフリルのついたドレスを着用していた。

 

 

 

そしてDr.フライを悲しげに見つめると二人は名乗りをあげた。

 

 

リリーフ「闇を吹き消す光の使者 キュア・リリーフ!!」

 

ダイダー「悪を蹴散らす光の使者 キュア・ダイダー!!」

 

 

リリーフ・ダイダー「「ピンチ一発、大逆転! コズミックプリキュア!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

リリーフ「ダァアアア!!!」

 

ダイダー「ヤァアアアア!!!」

 

勢いよく殴りかかった二人だったが、Dr.フライの全身を覆う暗黒エネルギーにはじき返されてしまった。

 

 

 

Dr.フライ「馬鹿め。わしは今や暗黒エネルギーの塊と化している。お前たちプラスエネルギー生命体ごときわしに指一本触れることはできん」

 

 

 

 

リリーフ「くっ、だったら… チェンジハンド・タイプブルー!! エレキ光線発射!!」

 

ダイダー「チェンジハンド・タイプグリーン!! 超高温プラズマ火炎、超低温冷凍ガス、同時発射!!」

 

 

ならばとばかりにマルチハンドを換装して遠距離攻撃を仕掛けるも、エレキ光線は跳ね返され、火炎も冷凍ガスもまるで効果がなかった。

 

 

Dr.フライ「ふん、こそばゆいわ!!」

 

イラついたような言葉とともにDr.フライの目から極太のビームが二人目掛けて発射された。

 

 

リリーフ「ぐぅううううっ!!」

 

ダイダー「がぁあああああ!!」

 

ビームをまともに浴び、全身を包んでいたコスチュームと人工皮膚が少しずつ剥離し始めていく中、必死に耐えていた二人だが、遂に大爆発とともに大きく吹き飛んでしまった。

 

Dr.フライ「なんじゃ、意外と呆気なかったな… この程度のものに苦戦しておったのか… ん?」

 

 

Dr.フライは呆れたようなつぶやきをあげるも、土煙の中からリリーフとダイダーがフラフラながらも立ち上がってくるのが見えた。

 

リリーフ「どうしたの、もう終わり!?」

 

Dr.フライ「何ぃ!? どういう意味だ!?」

 

ダイダー「あら、大天才のくせにわからないのかしら? あなたの力はそんなものかって聞いてるのよ」

 

 

Dr.フライ「な、何じゃと!? このわしを馬鹿にするとはいい度胸じゃ!!」

 

二人の挑発にあっさり乗ったDr.フライは怒り狂って突進していったが、単調なその攻撃は簡単に大ジャンプでかわされた。

 

 

ダイダー「よし! リーフ!!」

 

隙ありと判断したダイダーは、光のスティックを取り出し、リリーフに呼びかけた。

 

 

リリーフ「うん、オッケー!!」

 

リリーフも頷くと、大きく振りかぶり虹色の玉を手に輝かせ始めた。

 

 

 

リリーフ「ダイーダちゃん!!」

 

そしてそのまま、その虹色の玉をダイダーに向けて亜音速で投げつけた。

 

 

ダイダー「任せなさい!! ダァリャア!!」

 

 

するとダイダーは、リリーフの投げてきた玉を、スティックを一振りしてDr.フライに向けて打ち返した。

 

打ち返された虹色の玉はひとまわり大きくなり、Dr.フライに直撃すると全体を包み込んだ。

 

リリーフ・ダイダー「「プリキュア・レインボー・ツインバスター!!」」

 

 

そう二人が叫ぶと、Dr.フライを包み込んだ光は目も眩まんばかりに激しく輝き始めた。

 

 

Dr.フライ「なめるでないわぁ!!」

 

しかし、その怒声一発でDr.フライはその光をかき消してしまった。

 

 

 

ダイダー「くっ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

リリーフとダイダーがDr.フライと激闘を繰り広げている頃、皆の力により、遂にHRビーム砲が完成していた。

 

 

遠藤「よし! できたぞぉ!」

 

宝六「遠藤、完成だな」

 

遠藤「ああ! 早速こいつを…」

 

 

 

しかし突然、博士目掛けて無数のカメラのフラッシュがたかれた。

 

遠藤「な、なんじゃあ!?」

 

驚いて振り向くと、そこには記者とカメラマンが群れなし押すな押すなの状態だった。

 

京香先生や豪が必死に制止していたが、焼け石に水といったところだった。

 

 

京香「こ、困ります! 入らないでください!!」

 

記者「遠藤さん、この施設はいつ作られたんですか?」

 

記者「あのジェット機は、コズミックプリキュアはどこですか?」

 

 

遠藤「な、何じゃ君たちは!?」

 

京香「すみません、止めたんですけど」

 

豪「もう全部ばれちゃったんだよ、じいちゃん。 さっきも母さんから電話が…」

 

ラン「こっちもよ。さっきから電話が鳴りっぱなし。リーフさんとダイーダさんが富士山から助けて連れてきた人達が、ツィッターやらフェイスブックで拡散したらしいの。ここがプリキュアの基地だって」

 

遠藤「な、何ぃ!?」

 

驚愕のあまり、顎が外れそうになっていた遠藤博士に記者からの質問が矢継ぎ早に行われていた。

 

 

記者「どうしてあなたはプリキュアと知り合ったんですか? 彼女達は一体どこの誰なんですか?」

 

記者「それより、ここがプリキュアの基地だということを、なぜ今まで黙っていたんですか?」

 

 

博士「え!? い、いや…なぜだっちゅうか…なんちゅうか…その…だ、だからな…」

 

返答に詰まる遠藤博士を、宝六博士は不思議そうに見ていた。

 

 

 

節子「えぇいどいたどいたどいた!! そんな話は後々!! 博士、局のヘリコプターを借りてきましたから、それで移動しましょう。早く!!」

 

遠藤「いっ!!! 局のヘリじゃと!? そんなもんに乗せられたら、もうどうしようも…」

 

 

ラン「何驚いてるのよ!! それどころじゃないでしょう!!」

 

豪「急がないと!!」

 

 

真っ青になっている遠藤博士をよそに、豪達は完成したHRビーム砲を研究所前に飛んできたヘリに積み込み始めた。

 

 

 

 

 

 

富士山

 

 

 

Dr.フライは大玉ころがしに使うようなサイズのドス黒い光の玉を次々と両手から連射して、リリーフとダイダーを追い詰めていた。

 

 

Dr.フライ「ほれほれ、もう手詰まりか?」

 

 

その攻撃から必死に逃げ回っていた二人だが、希望を捨てたわけではなかった。

 

 

リリーフ「なんとかして少しでも時間を稼いで三冠号のところに行ければ…」

 

ダイダー「えぇい、骨を切らせて肉を断つ!! 突撃あるのみ!!」

 

 

危険を承知で、ダイダーは光弾を必死にかわしつつ、Dr.フライの懐に突撃していった。

 

 

ダイダー「チェンジハンド・タイプレッド!!」

 

なんとか足元に潜り込んだダイダーは、レッドハンドの怪力でDr.フライを大きく投げ飛ばした。

 

 

Dr.フライ「ぐうう、おのれ…」

 

 

リリーフ「よし、チェンジハンド・タイプイエロー!! センサーアイ発射!!」

 

 

なんとか立ち上がろうとしたDr.フライだったが、それを目掛けてイエローハンドに換装したリリーフが、ミサイルでもあるセンサーアイを両目に打ち込んだ。

 

 

Dr.フライ「ギニャアアア!!!」

 

打ち込まれたセンサーアイは大爆発とともに、両目を潰すことに成功し、Dr.フライは激痛にのたうち回った。

 

 

リリーフ「今だよ! 早くライナージェットを!!」

 

 

ダイダー「ええ、推進システムがいかれただけ。カノンモードは使えそうね」

 

 

先ほどの大ジャンプのときに、ライナージェットの状態を望遠アイカメラで確認した二人は、最後の賭けとばかりに走り出していった。

 

 

Dr.フライ「ゆ、許さんぞ…」

 

両目を潰されたDr.フライは、まさに鬼の形相というようにコズミックプリキュアを睨みつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、完成したHRビーム砲を積み、遠藤博士達を乗せたヘリコプターが全力で富士山を目指していた。

 

 

豪「もう…このヘリ、もっとスピード出せないの!?」

 

節子「ほんっとにトロイわねぇ…もしこれが間に合わなくて、世界が滅んだらどうすんのよぉ!?」

 

豪と節子がイライラする中、遠藤博士は頭を抱えていた。

 

遠藤「あぁ… もうおしまいじゃ… 世界が救えてもわしは一体これからどうすりゃいいんじゃ…」

 

 

そんな遠藤博士に、宝六博士は前々からの疑問を口にした。

 

宝六「遠藤、ひとつ質問してもいいかね?」

 

遠藤「ん?」

 

宝六「前々から不思議だったんだがな、なぜプリキュアとの関係を世間に知らせたくなかったんだ?」

 

京香「そうですよ。みんなで力を合わせればもっと簡単に戦うことだって… それにあのジェット機とかを作るお金、いったいどうしていたんですか?」

 

 

遠藤「あ、いや、それは……!」

 

 

矢継ぎ早の質問に慌て始めた遠藤博士だったが、ついに観念したというようにがっくりと肩を落とした。

 

 

 

 

 

 

遠藤「仕方ない、白状するか… 遠藤平和科学研究所や各種の発明は先祖伝来の山林を売った金で作ったんじゃが… その際にかかった莫大な税金を払っとらんのじゃ」

 

 

 

ラン「えぇ!?」

 

京香「まぁ!!」

 

宝六「税金!? そりゃあまずいな…」

 

 

遠藤「まぁ…税務署に金を払ってもどうせろくなことに使わん。それならば自分の手で世の中に役立つ物を作ろうと思ったわけじゃ… じゃが、今はそれよりも大事なことがあるな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

富士山

 

 

墜落した三冠号に駆け寄り、必死にライナージェットを掘り返していたリリーフとダイダーだったが、そんな彼女達に向かって回復したDr.フライが突進してきた。

 

 

 

Dr.フライ「馬鹿め、このわしが不死身なのを忘れたか!!」

 

 

ライナージェットをなんとか掘り返してカノンモードで保持しようとしたものの、タッチの差で間に合わず、Dr.フライに握りつぶすように持ち上げられてしまった。

 

 

Dr.フライ「クックックッ、まるで手の中の人形じゃな」

 

 

リリーフ「うぁあ…ああ…」

 

ダイダー「も、もう少しだったのに…」

 

 

握りつぶされ苦痛に顔を歪める二人を見て、Dr.フライはニヤリと笑うと、そのまま二人を暗黒エネルギーフィールドに押し付けた。

 

Dr.フライ「だが、この人形もお払い箱じゃ」

 

 

リリーフ・ダイダー「「ギャアアア!!!!」」

 

 

Dr.フライ「いい声じゃ!! 泣け!! 叫べ!! それがわしの滋養になるのじゃ」

 

 

 

 

 

 

河内「い、いかん!」

 

一方、ボロボロになりながらもなんとか復活していた河内警部はその叫びを聞きつけ、なんとか二人を助けんとフィールドの外からアンチマイナーガンを連射したが

 

河内「くそう!! やっぱり効かないか」

 

アンチマイナーガンのエネルギーではフィールドを打ち抜くことさえできず、悔しそうに歯ぎしりをするしかなかった。

 

 

そんなことをしている間にも、リリーフとダイダーの声は少しずつ小さくなっていき、限界が近いことが見て取れた。

 

河内「まずい、このままでは… ん? あれは!!」

 

 

 

 

そこへ遂に、遠藤博士達を乗せたヘリコプターが到着したのだった。

 

 

 

遠藤「急ぐんじゃあ!」

 

ヘリのドアを開き、HRビーム砲の準備が始まっていった。

 

豪「姉ちゃん達、もうちょっと頑張って!!」

 

ラン「しっかりして二人とも!!」

 

 

 

遠藤「よぉーし、照準セット完了!」

 

宝六「エネルギーもチャージ完了だ!」

 

遠藤「頼むぞぉ、効果があってくれよ… HRビーム砲発射!!」

 

ビーム砲の発射トリガーを遠藤博士が引くと、凄まじいプラスエネルギーの光線が暗黒エネルギーフィールドを突き破ってプリキュアとDr.フライに浴びせられた。

 

Dr.フライ「グォオオッ!! なんじゃこのエネルギーは!?」

 

強烈なプラスエネルギーを浴びて、Dr.フライは苦しみ出し、握りつぶすようにしていたリリーフとダイダーも解放された。

 

 

逆に、同じようにプラスエネルギーを浴びたリリーフとダイダーの全身の損傷はみるみる再生されていった。

 

リリーフ「はぁはぁ… これは…」

 

ダイダー「すごく高純度なプラスエネルキー… よし、いける!!」

 

 

力を取り戻した二人を見て、遠藤博士達は顔をほころばせた。

 

遠藤「やった! 効いとるぞ!」

 

節子「プリキュアが、力を取り戻したわよ!!」

 

豪「姉ちゃん、そんなやつやっつけちゃえ!!」

 

 

その声に励まされるように、リリーフとダイダーはライナージェットをカノンモードで保持して構えた。

 

 

 

 

 

 

リリーフ「ライナージェット、カノンモードスタンバイ!!」

 

ダイダー「ターゲットロック!! プラスエネルギーチャージ!!」

 

 

HRビーム砲の力に後押しされるかのように、二人はライナージェットに自分達のプラスエネルギーをチャージしていった。

 

 

リリーフ「Dr.フライ!! これで終わりだよ」

 

ダイダー「観念しなさい!!」

 

 

Dr.フライ「ふ…ふざけるでない、わしを誰だと思っておるか!!!」

 

 

いつもの口癖とともに、力を振り絞って突撃していったDr.フライだったが、それより一瞬早くリリーフとダイダーはライナージェットのトリガーを引いていた。

 

 

 

リリーフ・ダイダー「「プリキュア・ウォークオフ・ブラスター!! ファイヤー!!!!」」

 

 

 

その掛け声とともに、ライナージェットから光の奔流とでもいうかのような、眩しくそして温かいエネルギー波が発射された。

 

 

 

 

 

 

Dr.フライ「ぐぅおおおおお!!!!!」

 

その攻撃を受けてDr.フライは苦悶の表情とともに光の中に飲み込まれていった。

 

 

 

豪「やったぁ!」

 

節子「きゃー!! やったわよ~!!」

 

その光景を見て、ヘリの中では豪達が大はしゃぎしており、

 

 

河内「やっぱり、正義は勝つ!」

 

地上の河内警部もウンウンと頷いていた。

 

 

ラン「あら、河内警部。無事だったんだ」

 

 

 

 

しかし

 

 

 

突如としてHRビーム砲から放たれるビームが細くなり始め、ヘリも姿勢を崩し始めた。

 

宝六「いかん、エネルギー切れだ!! ヘリの燃料まで使ったというのに!!」

 

遠藤「何じゃと!? 計算よりエネルギーの消費が多かったか!!」

 

ラン「お、落ちるー!!」

 

 

 

遠藤博士達が慌て始める中、リリーフとダイダーも焦り始めていた。

 

構えていたライナージェットから火花が飛び散り始めていたのだ。

 

 

リリーフ「ま、まずい!! やっぱりどこか故障してたんだ。それなのに無理させたから」

 

ダイダー「お願い、もう少し!! もう少しだけ持ちこたえて!!」

 

 

しかしその願いもむなしく、限界を超えたライナージェットは爆発してしまった。

 

 

リリーフ「うぐぐ…」

 

ダイダー「く、くそ…」

 

 

爆発によるダメージで倒れ伏してしまった二人の前に、Dr.フライが地面を踏みしめるように近づいてきた。

 

 

 

 

Dr.フライ「惜しかったのう。 じゃがこれが運命、わしが暗黒神となることが正しいという証明じゃ!!」

 

 

その言葉とともに闇の奔流とでもいうような、禍々しくそしてどす黒い光線がお返しとばかりにリリーフとダイダーに照射されてきた。

 

 

リリーフ・ダイダー「「キャアアア!!!!」」

 

 

Dr.フライ「悪あがきは終わりじゃ! 貴様らを破壊しマイナスエネルギーを全次元へばら撒いてくれる!!」

 

 

 

 

 

 

一方、なんとか地上に不時着できたヘリコプターの中から、再びHRビーム砲を構えた遠藤博士達が出てきた。

 

 

宝六「エネルギーの再充填は80パーセントというところだが…」

 

豪「撃てればいいよ! じいちゃん早く!!」

 

ラン「リーフさんとダイーダさんが!!」

 

 

博士「よし、発射準備完了! くらえぃ!」

 

暗黒エネルギーフィールド目掛け、再びHRビームが放たれるとフィールドを貫通してDr.フライにダメージを与えた。

 

 

 

それにより、リリーフとダイダーへの攻撃は弱まり、二人はなんとか距離を取れた。

 

遠藤「よし効いた。フライ、もう一発くらえ!!」

 

 

Dr.フライ「お…の…れ… 遠藤!! どこまでこの偉大なるわしの邪魔をするか!!」

 

 

フィールドの外でHRビーム砲を構えてエネルギーをチャージしている遠藤博士を憎々しげに睨むと、Dr.フライはそちら目掛けて突撃していった。

 

 

節子「いっ!! こっちに来る!!」

 

京香「博士、逃げないと!!」

 

 

巨大な悪鬼とも言うべき姿のDr.フライが突進してくる様に、さすがに全員逃げ出そうとしたが、遠藤博士はHRビーム砲を構えたまま決して逃げ出そうとしなかった。

 

 

 

 

 

 

遠藤「駄目じゃ!! 今逃げればそれこそ打つ手がなくなる!!」

 

 

 

とはいうものの、すでにDr.フライは目前に迫っており、巨大な拳が振り下ろされんとしていた。

 

 

 

リリーフ・ダイダー「「ダリャア」」

 

 

しかし、攻撃が振り下ろされる直前、割って入ったリリーフとダイダーの攻撃にDr.フライは一時的に後退した。

 

 

豪「姉ちゃん!!」

 

ラン「よかった… って、それは!?」

 

ホッとした豪とランだったが、リリーフとダイダーのボディはいたるところの人工皮膚が破れ内部メカニックがむき出しになっており、そのメカもバチバチとショートし始めていた。

 

 

 

 

Dr.フライ「おのれどいつもこいつも… 見るがいい、これが偉大なる大天才Dr.フライ様の絶対暗黒神となったこのわしの本当の力じゃ!!」

 

イラついたような叫びとともに、富士山頂から高濃度のマイナスエネルギーが全世界に向けて放たれていき、日本はおろか世界各地の空が次第に暗黒に染まっていった。

 

世界各地では、木々が枯れ水が濁り、小動物や鳥たちが力尽きたようにバタバタと倒れ始めていた。

 

 

 

遠藤「い、いかん…このままでは地球が…」

 

 

さしもの遠藤博士も青い顔をし始めたが、リリーフとダイダーは力強く頷くと、遠藤博士の持っているHRビーム砲をもぎ取るように抱え込んだ。

 

 

遠藤「何じゃ? HRビーム砲をどうするつもりじゃ!」

 

 

リリーフ「これはライナージェット以上にプラスエネルギーを凝縮して打ち出すことができるんですよね。だから…」

 

ダイダー「私達の全エネルギーをあいつにぶち込んでやるわ!!」

 

 

その言葉に遠藤博士は仰天した。

 

遠藤「ま、待て!! そんなことをしたら…」

 

 

ダイダー「行くわよ!!」

 

リリーフ「オッケー!!」

 

博士の制止も聞かず、二人はビーム砲でフィールドに穴を開けると、そこに飛び込んでいった。

 

 

豪「姉ちゃん!!」

 

ラン「ま、待って!!」

 

引きとめようとした豪とランだったが、穴はふさがってしまっており、再び発生した暗黒エネルギーフィールドに阻まれてしまい、何もできず悔し涙を流していた。

 

 

豪「ちくしょう!! ちくしょう!!!」

 

ラン「なんで、私達、何もできないの!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Dr.フライ「間も無くじゃ… 世界は暗黒の闇に包まれ、すべての命は死に絶える。 さすれば世界は認めるであろう。このわしの偉大さをな!!!」

 

 

もはや言動の矛盾にさえ気がつかなくなっているDr.フライにHRビーム砲が打ち込まれた。

 

Dr.フライ「うぅ…おのれっ、ザコどもがぁっ!!」

 

 

闇の刃を放つDr.フライだったが、リリーフとダイダーはそれをなんとかかわし、HRビーム砲に自分達のプラスエネルギーをチャージしていった。

 

 

 

リリーフ「Dr.フライ!! これで終わりにしてあげる!!」

 

ダイダー「これが、あなたが否定し続けたものの力よ!!」

 

その言葉とともに、過剰なプラスエネルギーを注ぎ込まれたHRビーム砲からは虹色の暖かな光が溢れ出し、構えた二人ごと包み込んだ。

 

 

Dr.フライ「でぇい、こけ脅しを!!!」

 

 

Dr.フライはドス黒い光弾を発射したが、リリーフとダイダーを包んだ虹色の光はそれを直撃した端から消滅させていった。

 

 

Dr.フライ「な、なぜじゃ…!? このわしの力がなぜ効かない!?」

 

 

リリーフ「あなたがどれほどのマイナスエネルギーに包まれていようとも、一人だけの力。そんなの怖くなんかないよ!!」

 

ダイダー「この力は、平和を、未来を願う人達の思いすべて。それはあなたの独りよがりのものなんかよりずっと強いわ!!」

 

 

Dr.フライ「ほざくなぁーっ!!」

 

 

 

怒声ともに放たれたDr.フライの攻撃だったが、二人はそれを物ともせずに突っ込んでいった。

 

リリーフ・ダイダー「「ウァアアア!!」」

 

二人の全身からまばゆいばかりの虹色のエネルギーが迸り、その姿が巨大な虹色の塊と化した。

 

Dr.フライ「何ぃっ!?」

 

 

リリーフ「これが!!」

 

ダイダー「私達の!!」

 

リリーフ・ダイダー「「最後の力だあぁぁーっ!!」」

 

 

そのまま土手っ腹に突撃していくと、Dr.フライの全身から暗黒エネルギーが一斉に溢れ出して浄化されていった。

 

 

Dr.フライ「わしが負ける? そんなわけがない!! …わしは世界一の頭脳の持ち主にして…究極…至高の……暗黒神じゃぞ…」

 

 

その言葉とともにDr.フライの姿が、巨大な悪鬼から筋骨隆隆たるただの大男に戻り、そして光の中にかき消えていった。

 

それを見届けたリリーフとダイダーは安らかな表情を浮かべた。

 

リリーフ・ダイダー「「ゲーム… セット!!」」

 

 

直後、暗黒エネルギーフィールド内で噴火と見紛うほどの大爆発が起こった。

 

 

 

 

 

富士山頂を取り巻いていた暗黒エネルギーフィールドが消え去ると同時に、禍々しい魔の山と化してしまっていた富士山もまた、もとどおりの荘厳な姿を取り戻していた。

 

 

京香「あぁっ…空が晴れていく…」

 

 

世界中を襲っていた暗黒エネルギーも次々に消滅し、平和が戻ったことを象徴するかのように、太陽が顔を出し大地を明るく照らし始めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

激闘が繰り広げられた富士山頂。

 

ようやく足を踏み入れることができたそこに、一同は息急き切って駆け付けたが、そこに広がる光景に愕然としていた。

 

 

節子「あぁっ…!?」

 

河内「こ…これは…!?」

 

 

 

撃墜、大破した三冠号の残骸…

 

 

オーバーロード、爆散したライナージェットの残骸…

 

 

暴発したHRビーム砲の残骸…

 

 

 

 

そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

腰から真っ二つになり、機能を完全に停止したキュア・ダイダーの残骸…

 

 

 

四肢が飛び散り、首がもげ、機能を完全に停止したキュア・リリーフの残骸…

 

 

 

 

 

 

 

豪「ね…姉ちゃん…!?」

 

ラン「嘘よ…こんなの…嘘よぉっ!!」

 

 

ランは京香先生に抱きつき号泣し、京香先生もランを優しく抱きつつ、涙を浮かべていた。

 

 

河内「くそう… 恨むぞ、俺達の無力さを…」

 

遠藤「ぐぅ… バカモンが… 年寄りより先に逝きおって…」

 

 

 

豪「う…うっ…うっ…わぁ~ん!!」

 

河内警部と遠藤博士が悔し涙を流す中、豪も空を見上げて号泣した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「豪」

 

「豪くん」

 

 

豪「…え?」

 

 

自分を呼ぶ声にふと辺りを見回すと、いつの間にか二つの光球が浮かんでいた。

 

 

リーフ「すみません博士… せっかくのアンドロイドの体、壊しちゃいました」

 

ダイーダ「最後の最後まで、迷惑かけちゃってゴメンなさい」

 

 

これが二人の本体、光の国の精霊としての姿である。

 

豪「…姉ちゃん!?」

 

遠藤「お主ら…無事だったのか!? フライは? やつはどうしたんじゃ!?」

 

 

リーフ「マイナスエネルギーのほとんどを浄化しましたからね。 もう何の力もありませんよ。 じとくじごうってやつだよ」

 

ダイーダ「違うわよ。 自作自演っていうの」

 

 

遠藤「それを言うなら自業自得じゃ。全く最後までしまらん奴らじゃ」

 

 

笑いがこだまする中、リーフは真面目な声で言い放った。

 

 

リーフ「これで…私達のこの世界での任務は終わりました。豪くん、色々教えてくれてありがとう」

 

豪「姉ちゃん達、帰っちゃうの?」

 

ダイーダ「豪、情けない声を出さないの。 みっともないわよ」

 

 

 

リーフ「京香先生。先生のおかげで、素晴らしい思い出ができました」

 

京香「あはっ…私もよ。 貴重な経験ができたわ」

 

リーフの言葉に京香先生は笑顔で返した。

 

 

ダイーダ「河内刑事、色々と御世話になりました!!」

 

河内「そちらこそ、御苦労様でした!!」

 

河内警部はダイーダに敬礼を返していた。

 

 

 

リーフ「この世界は、本当に素晴らしいところでした。多くの世界を見てきましたけど、皆さんが手を取り合って戦う世界なんて初めてでした」

 

ダイーダ「手と手を取り合うことができれば、どんな未来もつかめる。それを教えてもらいました」

 

 

遠藤「何を言うか!! お主達がいたからこそじゃ。お主らがいなかったらこうしてわしらが解り合うこともなかった。 そんな奇跡をどんな困難でも立ち向かっていく勇気をくれたのはお主達じゃ」

 

 

遠藤博士の言葉に皆はゆっくりと頷き合っていた。

 

 

 

リーフ「ならなおさらよかったです。博士の研究は危なっかしいですから」

 

ダイーダ「みなさんでサポートしてあげてください」

 

 

遠藤「い…!」

 

 

豪「さっすが!!」

 

ラン「よっくわかってる〜」

 

 

博士「あのなぁ…」

 

 

 

 

一同が楽しそうに笑いあう中、光の玉となったリーフとダイーダが宙に昇り始めた。

 

 

リーフ「私達はまた別の世界で戦うことになります。皆さん、短い間でしたが、本当に色々と御世話になりました」

 

ダイーダ「その先で伝えていきます。こんな素晴らしい世界があったことを。皆さんもお元気で… それと…」

 

 

リーフ・ダイーダ「「ありがとうございました!!」

 

 

 

 

二つの光球が空へと昇ってゆき、空の彼方へと消えてゆく。

 

 

 

遠藤「それはこっちのセリフじゃ!! ありがとぉー!!」

 

 

ラン「さようならぁ─っ!!」

 

豪「またいつか、遊びに来てよー!! さようならー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

一同が感謝の気持ちを込めて手を振り見送り大団円となった中、背後で人影がコソコソと動いていた。

 

 

河内「む…?」

 

それはマイナスエネルギーの大半を失い、非力な老人の姿に戻ったDr.フライであった。

 

 

前以上に弱り切り、立つこともままならず四つん這いで逃げようとしていたが、その退路を河内警部が塞いだ。

 

河内「Dr.フライ。天が見逃し地が許し、プリキュアがお前を目溢そうとも、この河内は貴様を見逃さんし絶対に許さんぞ!!」

 

 

Dr.フライ「ど、どかんか!! わしを誰だと…」

 

 

河内「逮捕だ!!」

 

 

 

その言葉とともに冷たい手錠がかけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Dr.フライが逮捕され、パーフェクトが消滅していても、所詮は人の世。

 

災害の種は尽きることなく、今日も今日とて火災が起こっていた。

 

 

 

そんな中、到着した消防車からパワードスーツのようなものを着込んだレスキュー隊員が次々と降りてきた。

 

 

パワードスーツをまとったレスキュー隊員は、閉じてしまった防火シャッターをパワーでこじ開けたりバーナーカッターで焼き切るもの、レーダーで建物の内部を探索するもの、腕の部分からの冷凍ガスで火を消すもの、と多様な機能を備えたチームで構成されていた。

 

 

京香「怪我した人たちはこちらへ運んできてください。すぐに手当をします」

 

 

 

その様子を節子がレポーターとして報道していた。

 

節子「Dr.フライの事件が終結して早一年。遠藤科学平和研究所の開発したパワードスーツを使用したレスキュー部隊が正式に組織され、各地で活動してますが… 相変わらずいまいち完璧とはいえず、人々に不安がられています」

 

 

 

あれから一年。

 

 

宝六博士の援助もあり、延滞金を含めた税金をきっちり納めたのち、プリキュアのボディのシステムを応用、量産化を前提としたパワードスーツが遠藤博士の主体の元に開発された。

 

 

その特許を取り各地のレスキュー隊に配備されたことで、国そのものが遠藤平和科学研究所のスポンサーとなっていた。

 

 

 

 

河内「皆さん、危険ですからこれ以上前へ出ないで下さい!!」

 

野次馬を整理している河内に、節子がマイクを向ける。

 

 

節子「河内刑事、遠藤平和科学研究所の発明についてどう思われますか?」

 

 

河内「う~む、確かに救援活動その他が大幅に効率良くなったのはありがたいのですが、どうも…」

 

 

その言葉通り、パワードスーツが誤作動を起こしたりしており、消火・救助活動に支障が出たりしていた。

 

 

河内「これだもんなぁ。色々と新しいものを考えてるらしいが、その前に今のものを完璧に近づけてほしいもんだ」

 

 

節子「ははぁ、やっぱり… それとあのことについてはどうお考えですか? 彼を逮捕された本人としては?」

 

 

河内「そっちの方がもっと納得はできんのですがね。法律に照らし合わせれば仕方ないというか…」

 

 

 

Dr.フライは逮捕されたものの、彼の処遇については最近まで大揉めに揉めていたのだ。

 

 

確かにこうして生きてはいるものの、公式にはDr.フライは死人である。

 

そしてこの世界に死人を裁く法など存在しない。

 

そのため裁判にかけることも罰することもできなかったのである。

 

 

結局、国連に引き渡されたものの、その後の処遇は極秘事項となっており一般に公開されていない。

 

 

風の噂では、不死身であることを利用して普通では絶対にできない極秘の人体実験に使われているとか、人の声も聞こえず姿も見えないところに永遠に監禁されているなどと言われているが、真偽は不明である。

 

 

ただ少なくとも、再び彼が日の当たるところで出てくることは永遠にないと思われる。

 

もっとも、希代のテロリストとしてではあるが、彼の名前だけは望み通り全世界の教科書にも残ることになったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

遠藤平和科学研究所

 

 

 

一連の報道をテレビで見ていた遠藤博士は、悔しそうに顔を歪めると再び研究に没頭し始めた。

 

遠藤「くうぅ、バカにしおって。見とれよ、今にぐうの音も出ん完璧なものを作ってやるからな」

 

 

 

ラン「張り切るのはいいけど、あんまり変なもの作らないでよね」

 

豪「そうそう」

 

 

 

遠藤「くぅ〜なんちゅう情けない孫じゃ。 目標に向かって努力する。その大切さをわからんのか!! お主らだって目標があるんじゃろ」

 

 

ラン「わかってるわよ。私絶対将来お医者さんになるんだから。苦しんでる人を一人でも助けてあげたい」

 

豪「俺は絶対に刑事になる!! いろんな人と協力して悪い奴を懲らしめてやるんだ!! 見ててよ姉ちゃん達」

 

 

豪の向けた視線の先には、修理され大切に保管してあるリーフとダイーダのボディがあった。

 

 

 

遠藤「うむ、その意気じゃ。その思いが、自分だけの世界に閉じ籠ろうとせず、外に目を向け人と人と繋がろうとする勇気が世界平和へとつながることになるのじゃ」

 

 

 

 

 

 

「その通り」

 

「頑張ってね」

 

 

 

ふと外から聞こえた声に、三人は慌てて窓に駆け寄った。

 

窓から身を乗り出し、空を見上げると二つの光の玉が消えていくところだった。

 

 

 

豪「あぁっ!」

 

ラン「あれは!!」

 

遠藤「うむ」

 

 

消えていく光の玉に向かって、豪とランはありったけの想いを込めて叫んだ。

 

 

豪「見ててよ。俺たち頑張るからね!!」

 

ラン「この世界、きっと平和なままにしてみせる!!」

 

 

豪・ラン「「ありがとう!! コズミックプリキュア!!」」

 

 

 

 



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