Fate/Passionate Romancia (Ekeko)
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第一章
第一話 The beginning


はじめまして。
FGOにてCCCコラボが開催されるという事で一つ書いてみようと思い切りました。
処女作にして拙いかと思いますが、気軽に読んでいただければ幸いです


第一話『The beginning』

 

※※※

 

「そろそろ刻限だ。君を最後の候補とし、その落選をもって今回の予選を終了しよう。」

 

 何処かから声が聞こえる。

何を言っているのか、その意味すら理解できないが。

 

「さらばだ。安らかに消滅したまえ」

 

終わりといわんばかりに声はそこで途切れた。

何かを言い返してやりたいのに、痛みのせいでそれすら満足にできない。

 

(何がどうなっているんだ・・・)

 

いつも通りの学校や、いつも通りの学友。

その全てに酷い違和感を覚えていた。

何がズレているのかもわからないまま、倉庫から空いた穴へと入り込み、

わけの分からない人形を連れたって、迷路のような空間を抜け、

荘厳な聖堂にたどり着いた所で、同じ月海原学園の生徒の倒れた姿を目にした。

 

その体は血の気が引いて、熱は消え失せてしまっていた。

 

そしてその傍らにいた、自分が連れている人形とそっくりの敵が襲い掛かられて・・・

一撃の元に倒されたのだ。

 

「っぁ・・・?」

 

倒れたままふと、周囲を見渡してみる。

痛みのせいで霞んだ視界に移るのは、同じ月海原学園の生徒たち。

人形か何かのように血の気が無く、打ち捨てられたように倒れている。

彼らも此処に来て、自分と同じように切り捨てられたなれの果てなのだろうか?

自分も彼らの様に成り果てる運命か?

 

「ふざけるな・・・」

 

こんな所で終わるのは耐えられない。

全身を苛む痛みなどよりも、目を閉じてしまいたくなる衝動にも負けたくない。

周りに倒れる生徒達のような、殺されてしまった彼らのようにはなりたくない。

何よりも、意味もなしにゴミのように消えていくことなど絶対に許容できない。

 

力の入らない四肢にそれでも力を込めてみる。

立ち上がろうとして失敗しても、諦めない。

視界が赤く染まっても、それでも敵を見据えてやる。

 

何故なら、こんな訳もわからないままで、ただ選ばれないというだけで無惨に殺されるなど

絶対に許せない。

 

 

「・・・諦めない強さ・・・何も持たなくても、最後まで戦う強さ・・・あなたにもあるんですね・・・」

 

ふと、そんな声が聞こえた。

ささやくように小さく、童女のように甘い声。

 

同時にガラスが砕け散るような音と共に、それまで薄暗かった部屋に光が差した。

その光に負けないように、自分の目の前の空間が輝きだす。

何度目かのトライでようやく立ち上がることが出来るようになった時には、光は形になっていた。

 

「私・・・あなたの様な人の、力になりたいです・・・」

 

自信なさげな小さな声と共に現れたのは、二つの意味で『凄い』少女だった。

艶やかな長い紫の髪。アクセントには小さなピンク色のリボン。

顔立ちは愛らしい、可憐な少女そのものである。

だが凄いのはそんな所ではない。

人の手があるべき肘から先は、金色の巨大な鋼の手と剣の爪。

そしてもう一つが・・・

 

「お、大きい・・・」

「え?」

 

死にかけているにも関わらず、思わず口に出してしまうほどに巨大過ぎる胸だった。

しかもその巨大過ぎる胸をサスペンダーのようなものだけで、大事な部分だけを隠している。

男としては、いや男でなくても目の毒だった。

思わず凝視しそうになる自分を、かぶりをふって自制を取り戻す。

 

「あなたが、私のマスターです・・・よね?」

 

突然、そう質問された。

はっきり言って何の事だかわからない。

だが、これだけははっきりと言える。

この目の前にいる少女は、自分を襲ってきたあの人形などよりも遥かに強いと。

そして、この問いかけは自分の運命を決めるものだと。

 

正直訳がわからない。

目の前の少女の正体も、自分が死にかけている訳も、何故自分がここにいるのかも。

けれど、目の前の少女は死に瀕した自分の思いに応えてくれた。

こんな所で死ねないと、叫ぶだけの自分に。

ならば

 

「俺が君の、マスターだっ・・・‼」

 

痛みをこらえて声を絞り出す。

叫ぶこともままならないが、それでもその声は彼女にしっかりと届いた。

少女は嬉しそうに、花の様に笑うと。

 

「…っ‼はい‼よろしく、お願いします」

 

そういってこちらに爪を伸ばしてきた。

思わず地面に倒れこんでかわそうとしたが、金色の爪は触れる前に止まった。

 

「ご、ごめんなさい。傷つけちゃう所でした・・・」

 

握手しようとして、自分の手が凶器な事を失念していたらしい。

以外にうっかりさんのようだ。

だが・・・

 

「こちらこそ、よろしく。」

そういって爪の先を撫でる様に触れる。

すると彼女は顔を真っ赤に、感極まった表情を一瞬浮かべると。

 

「これからは、私があなたの事を守ります。だから、マスター。指示をください」

 

 

自分を襲い掛かろうと、身構えていた人形に向き直り、そう言った。

 

巨大な腕を思い切り振りおろす。

その一撃で、人形は五本の刃に切り刻まれ、吹き飛ばされて残骸と化した。

花を思わす可憐な姿に、圧倒的な破壊の力。

その姿に目を奪われる。

そんな存在が自分をマスターと呼ぶ。

訳も分からないままでいると、左腕に熱い痛みを覚える。

戦いの最中も熱をおびていたが、それがいよいよ無視できないレベルに来ている。

 

『手に刻まれたそれは令呪。サーヴァントの主となった証だ。

サーヴァントの力を強化、命令による束縛などに使える命令権だ。

使い捨ての強化装置ともとれるがね。

しかし気をつけたまえ。命令権は三度まで。

それを使い切ることはこの戦争の参加権を失い、敗北を意味している。』

 

サーヴァントとは、目の前にいる彼女のことだろうか?

声の主は先ほどの男のようだ。

痛みが意識を奪いそうになるが、気合を入れて耳をかたむける。

 

『おめでとう。傷つき、迷い、辿り着いた者よ。

主の名の下に休息を与えよう。とりあえずは、ここがゴールという事になる。

随分と未熟な行軍だったが、だからこそ見応え溢れるものだった。』

 

厚みを感じさせる、30代位の男だろうか?

聞き返そうにも痛みで声を出せないのだが。

 

『私のパーソナルが気になるかね? 

光栄だが、そう大したものではない。なにしろただのシステムだ。

私は案内役に過ぎない。かつてこの闘いに関与した、とある人物の人となりを元にした定型文というヤツだ。

私は言葉であり、君が今超えた峰であり、かつて在った記録に過ぎない。

気にするというのならば、君のサーヴァントを気にすると良い。

どうにも色々と規格外の様だ。』

 

規格外とは何を指して規格外なのだろうか?

戦闘力?それともあの武装か、はたまた・・・

 

 

「・・・?」

 

ある一点を注視していると、不思議そうに首をかしげる少女に耐え切れず目をそらす。

申し訳なさと同時にこれからやっていけるのか、不安にもなった。

瞳をそらしていると、再度声が聞こえてくる。

 

『最後に、君に何者からか祝辞が届いている。“光あれ”と』

 

その祝福に、何故だか胸が熱くなる。

ただの一言だったが、その言葉が真摯であると、その熱が証明していた。

 

 

 

 

『それでは、これより聖杯戦争を始めよう。いかなる時代、いかなる歳月が流れようと、闘いをもって頂点を決するのは人の摂理。月に招かれた、電子の世界の魔術師達よ。汝、自らを以て最強を証明せよ───』

 

聖杯戦争・・・最強の証明・・・

まったく訳が分からないというのに、意識は痛みで薄れていく。

ただ一つ確かなのは、目の前の少女と共に自分が何か、大きな運命に身を投じられたということだけだった。

 




もうすぐCCCのコラボイベントが始まりますね~
皆様、サーヴァントの強化と聖晶石の貯蔵は十分ですか?
ちなみに自分は準備とかはないです。
だって・・・・・・・・















データ、ふきとんじゃったんだよ・・・・orz



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第二話 No pain, No game

パッションリップというキャラクターを見て思い出すのは、
幼少の頃に見た映画「シザーハンズ」
子供心に悲しさと切なさを感じていた事を覚えています。


FGOのデータの復元に成功しました‼
貴重な星5や限定サーヴァント達もほとんどが帰還成功です。
問題は・・・キャメロットの最初からってことだけです。
キャメロット決死行再び・・・orz


 

第二話 No pain, No game

 

目が覚めると、見知らぬ天井が映っている。

上体を起こして周りを見ると、どうやら保健室の様だった。

どうやら誰にかに運び込まれたらしい。

軽く深呼吸をして、両腕を伸ばす。

そのままベッドから出て、さらに周りを見回してみると視界の、というよりも部屋の隅に目がいく。

 

「おはよう・・・ございます。」

 

可憐な容貌と凶悪な爪、相反する二つを備えた少女だった。

お辞儀をするだけで両手の爪が保健室の床を擦る音が響く。

その少女を見て一瞬で、起き抜けの頭が目覚めるのを感じる。

あの人形を一撃で刻み、屠った光景は、決して夢ではなかったのだ。

 

「君は・・・たしか、サーヴァントの」

 

「はい・・・パッションリップ・・・です。ええと・・・」

 

言い淀む姿に、こちらが名前を名乗っていない事を思い出す。

 

「始だよ。暁 始」

 

「あかつき、はじめさん・・・よろしくおねがいしますね。」

 

薄く微笑んでお辞儀をすると彼女の仕草に、一瞬瞳を奪われる。

頭を振って気分を切り替えると、聞きたいことを聞き始める。

 

「パッションリップ、聞きたいことがあるんだけど」

 

「はい?」

 

「聖杯戦争・・・って、一体なんなの?」

 

その質問は余程おかしいものらしく、パッションリップはかなり驚いた様子を見せる。

軽く動揺した素振りを見せたものの、すぐに気をとりなおして説明してくれた。

 

 

ムーンセルオートマトン。

月で発見された、太陽系最古の遺物。

神の自動書記装置とも七天の聖杯(セブンスヘブン・アートグラフ)七天の聖杯とも呼ばれるそれには、人の願いを叶える力があるとされている。

聖杯戦争とはムーンセルの所有権を巡る戦いであり、かつて聖杯を巡って地上で行われた戦いをモデルにして、参加者をムーンセルが作り出した霊子虚構世界『SE.RA.PH』に招き入れて行われる。

参加者達はサーヴァントと呼ばれる、歴史上や神話上の存在『英霊』を召喚して戦い、競い合う。

英霊には基本七つのクラスがあり、

 

剣の英霊『セイバー』

弓の英霊『アーチャー』

槍の英霊『ランサー』

騎兵の英霊『ライダー』

魔術師の英霊『キャスター』

暗殺者の英霊『アサシン』

狂戦士の英霊『バーサーカー』

 

このどれかのクラスのサーヴァントと共に、最後の一人になるまで戦う。

そして最後まで勝ち残った一人に、願いを叶える聖杯が手に入るというシステムなのだという。

ちなみにクラスは英霊の素性、『真名』を隠すのにも用いられ、基本はクラスで呼ぶらしい。

 

「ちなみにパッションリップは、どのクラスなんだ?」

「えっと・・・私はこの7つには当てはまらないです・・・」

「あてはまらない?」

「えっと・・・」

 

どういう事か説明を聞こうとしたが、どうも言いづらいようである。

困ったようにもじもじし始めた。

それを見ると無理に聞こうというのは憚られる。

 

「わかったよ。それじゃ名前を呼ぶときはパッションリップでいいか?」

「あ、はい。でも、出来ればリップって呼んでください。」

「わかった。ところでリップ」

「はい?」

「さっきから気になってたんだけど、なんで離れてるんだ?」

 

そう、先ほどから俺は保健室のベッドから話して、彼女は部屋の隅から声をかけている。

ぶっちゃけ話しづらいし、避けられている感じすらする。

何かしたかというと、心当たりが無いわけでもない。

 

(胸元見すぎとか!?)

 

そう、先ほどから彼女の巨大な胸元に視線を奪われる事が多々あるのだ。

ことあるごとに身じろぎしたり、動いたりするたびに、巨大な胸が揺れ動く。

俺とて健全な男子、言い訳するわけではないが、どうしても目移りをしてしまう事がある。

とはいえそんなのは此方の事情。

女性からすれば不愉快以外の何物でもないだろう。

罵倒の言葉も覚悟しながら待っていると、帰ってきたのは全く違う理由だった。

 

「わたし・・・不器用で、手がこんなだから、始さんのことを傷つけてしまうかもしれないです・・・」

 

そういって自分の手を悲しそうに見つめる。

あの腕は篭手のようなもので、着脱可能と思っていたのだが、どうやらそうじゃないらしい。

本人が深刻そうに考えている様だが、自分としてはそんな事よりも嫌われていなくて良かったという気持ちのほうが大きい。

 

「大丈夫だよ」

 

そう言ってそのまま、彼女を驚かせないようにゆっくりと歩いていく。

本人はビクッと体を竦ませたが、別段拒絶もされていないので、そのまま距離を縮めて、目の前に立つ。

 

「握手はできないけどさ、とりあえずこれでいいか?」

 

そのまま金色の手の甲に手を触れる。

この手には触覚があるのかないのか分からないが、リップはその光景を驚いたように見つめると嬉しそうに「はい!」と頷いてくれた。

良かった。喜んでくれたらしい。

女の子の扱いなど、これっぽっちも分からないが、失敗ではなかったようだ。

 

「よろしく、リップ」

「はい、始さん」

 

そうしてそろそろこれからの方針について考えようと思うと、リップは姿を消してしまった。

しかし、自分には彼女の存在がはっきりと感じられる。

必要でない時は姿を隠すつもりらしい。

 

「目が覚めましたか?暁さん」

リップが姿を消すのと同時に、保健室に誰かが入ってきた。

ドアの方を見て、入ってきた人物の顔を見て、驚きに目を見張る。

入ってきた少女はリップと容姿が酷似していたからだ。

 

「リップ!?」

『ち、違います!似ていますけど、この人は・・・この聖杯戦争の健康を管理するAIです」

 

驚いてサーヴァントを呼ぶ声に、入ってきた少女も驚かせてしまったようだった。

彼女「間桐桜」に驚かせた事の謝罪をしてから、聖杯戦争の運営を司る側の彼女から、説明を一通り受ける。

聖杯戦争の開始時に自分の記憶が奪われて、偽りの学園生活という予選を送らされる事。

そこから自分自身を取り戻した者だけが、本戦へと参加できること。

そして自分も名前と記憶を返却された。と彼女は言うが・・・

 

(思い出せない?)

 

学園生活を過ごした事までは覚えている。

一癖も二癖もある友人や、教師の事も覚えている。

しかしそれ以前。

この聖杯戦争に参加する前の記憶が何一つないのだ。

そのことを間桐桜に伝えると、

 

「ごめんなさい。それは私にもどうにも出来ないことなんです。

私は聖杯戦争用に作られただけの仮想人格で、そこまでの権限はないんです・・・」

 

と、申し訳なさそうに言われてしまう。

つまり、ゲームなどでいうところのNPCと言われる存在なのだろうか?

そのまま桜はもう一つ、携帯端末を渡してきた。

 

「それは聖杯戦争中に連絡事項をお伝えするものです。見落としが無いように、気をつけてくださいね?」

 

「ああ、ありがとう。間桐さん」

 

間桐さんに礼を言うと、そのまま保健室をあとにする。

 

廊下の外には学生服を着た参加者の姿が何人か見られた。

多くはこの聖杯戦争に参加したことをゲーム感覚で浮かれている。

ごく少数が、周りを注意深く観察するような目線を配らせている。

前者は遊び半分で、後者は戦う者といった所だろうか?

 

そのまま適当に校舎を眺めながら歩いていると、いつの間にか屋上まで来ていた。

扉を開けて屋上に出ると、屋上の床やら柵やらをペタペタ触っている少女を見つけた。

赤い服に黒い髪。凛とした雰囲気をまとわせた容姿端麗な美少女。

予選の頃に、学園のアイドルとされていた少女は彼女の事だろうか?

とはいえ、その瞳には強い意志の輝きが映りこんでおり、アイドルなどという生半な存在とほど遠いものだが。

その眼光の鋭さに、この聖杯戦争が『遊び』などではない事を認識させる。

自分以外は全て敵。そんな事実を思い知らされる。

 

「あれ?そこのあなた」

 

此方の視線に気づいたのか、彼女はこちらに目線を合わせてきた。

そのまま近づいてくると、何を考えたのか此方の頬に触れてきた。

 

(!?)

 

「へえ?良くできてるわね。ぱっと見私たちマスターと区別が付かないくらいに・・・って」

 

此方の動揺が伝わったのか伝わってないのか、少女はさらにベタベタと触ってくる。

何を考えているのかまるで分らない。

 

「あれ?顔が赤いし、熱くなってきてるような?」

 

さらにベタベタ触ってくる。

顔だけでなく、首、胸元、さらに下半身にまで手が伸びてくる!

 

「うわぁ!!」

「ひゃあああ!!」

 

思わず思い切り突き飛ばす。

いきなりの出来事に驚いたし、これ以上はいろいろと耐えられないと思ったのだ。

 

「え!?何、あんたNPCじゃないの!?じゃ、じゃあまさかマスター!?」

「そうだよ!いきなりなんなんだあんた!痴女ですか!?」

「ううううるさい!間違いくらい誰にでもあるわよ!痴女って言うな!」

 

痛たた、と打った尻を抑える彼女に手を貸す。

慌てていたといえ、女子に酷いことをしてしまった。

 

「突き飛ばしてごめんな。俺は暁 始」

 

「遠坂凛よ。こちらも悪かったわね。でもあなたも悪いんじゃない?

そんなぼんやりした顔で、気迫も何もあったもんじゃない。予選の記憶が抜けてなくて、大事な記憶が返ってきてないんじゃない?」

 

彼女の言葉に言葉を返せなくなる。

本人は冗談のつもりだろうが、こちらは本当に無いのだ。

 

「え?嘘、本当に記憶が戻ってないの?それってかなりまずいんじゃない?

この戦争のシステム上、ここから生きて出られるのは最後まで勝ち残ったマスターだけなのよ?」

 

「ちょっと待って!」

 

今、とんでもない事を聞かされた気がする。

絶対に聞き逃してはいけない事だ。

 

「生きて出られるのは一人?」

「そうよ。私たち霊子ハッカーは今『魂』そのものをプログラム化して『セラフ』にアクセスしている。

ログアウトは認められない。」

 

射るような視線がこちらを貫く。

その視線は言葉よりも嘘をついていない一瞬で分かった。

 

「この世界から生きて帰れるのは一人だけ。

聖杯を手にした、ただ一人のマスターのみが生還できるのよ」

 

分からない事だらけだった。

ここに来るまでの自分の人生。

いかれた殺し合いに自分が参加した理由。

そもそも自分が何者かすら分からないときている。

 

ただ一つ確かなのは、俺が魔術師であること。

そして呆然としている俺の身を案じてくれるサーヴァントと共に、この戦いを勝ち抜かなけれ生き残れないという事だけだった。

 




ようやくここから一回戦が始められそうです。
更新、大変遅れてしまいました。

ここでこの作品に関しての簡単な説明を2つほど行いたいと思います。

まず、基本的に大筋やラストは変わらないと思いますが、それまでの展開に若干手を加える。
要するに対戦相手の違いや、本編EXTRAで出なかったサーヴァントを出したいと思います。

次に、アルターエゴのクラスチェンジを行うことになるかと思います。
Fateではアルトリアにセイバーとしての側面とランサーとしての側面があったり
金時にバーサーカーとしての側面とライダーとしての側面があります。
霊基をいじってクラスチェンジするのは金時さんがやってましたし。

それに応じてサーヴァントの姿も少し変わるかと思います。
「大きい爪じゃなきゃヤダ!」という読者の方には申し訳ありません。
本来なら最初に書いておくべき事を失念しておりました。

この二つを踏まえても読んでいただける読者の方。
拙い駄文ではありますが、どうぞおつきあい下さい。


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第三話 START

文才の無さに悶絶したり立ち止まったりしたときは、マイルームでリップの声を聞いて戦意を奮い立たせてます。

リップは一回しか当たりません・・・
鈴鹿はなぜか四回もきてますが。


屋上で遠坂凛から聞かされた衝撃も治まらないまま、校舎へと戻ってきた。

頭がまだグルグルと回っている錯覚を覚える。

 

「始さん、大丈夫ですか?」

 

心配そうな声音でリップが聞いてきた。

そんなに酷かったのだろうか、自分は。

少し無理して明るめに「大丈夫だよ」と返事をする。

姿は見えずとも、雰囲気は何かを言いたげだったがそれ以上は何も聞いてこなかった。

確かに大丈夫ではない。

こんな戦争に参加するだけの覚悟はおろか、記憶すら無い状態なのだ。

けど、それでも。

あの時、何も持たず、死を待つだけの自分に手を差し伸べ、共に戦うと言ってくれた少女は傍にいる。

せめてその奇跡に、恥じる事が無いように。

それだけが、何も持たない今の自分の「戦う理由」だった。

 

「そこのマスター、待ちたまえ」

 

不意に背後からの声に振り向くと、神父の姿をした男がいた。

声を聞いて思い出す。

予選の時、リップと初めて会った時に聞こえてきた声の主だ。

 

「何ですか?神父様」

 

「いや何、本戦の出場を祝おうと思ってね。

私の名は言峰。この聖杯戦争の監督役を務めるNPCだ。

神父の姿はあくまで『元の人物』の者に過ぎんよ。」

 

そう言って嗤う姿は神父とは思えない笑みだった。

悪辣さ、とでも言うような物がにじんでいる。

『元の人物』というのはどんな聖職者なのだろうか・・・

知るのが怖くなる。

 

「迷える子羊に、この戦争の詳しいルールを教えておこう。」

 

「ここから出られるのは、最後に戦って生き残ったただ一人って話ですか?」

 

「そこを理解しているのならば話が早い。

その最後の一人を決めるため、この聖杯戦争はトーナメントの形式で行われる。

現存する128名のマスターで、七回戦まで決戦が行われ、最後まで勝ち残った者に聖杯を与える。

次に、一回戦ごとに与えられた猶予期間は6日間だ。

その間、一回戦ごとにアリーナに現れる暗号鍵を7日目までに入手する事を忘れない事だ」

 

「猶予期間内にトリガーを手に入れる事が出来なければ?」

 

「決戦を迎えることが出来ない、即ち脱落ということになるな」

 

ただ座して待つだけでなく、猶予期間を活かして出来る限りの事と、すべきことをしろ。

どうやらそういう事らしい。

 

「ちなみに君の一回戦の対戦相手だが、どうやらシステムにエラーが発生していてね。

もう少し待っていてくれたまえ」

そうして神父は廊下の向こうへと消えていった。

正直、あの邪悪そうな神父が監督役という時点でこの戦争も危ない気がしてきたが、気にしていてもしょうがない事だ。

 

「それじゃ、とりあえずアリーナに向かおう。まずは戦い方を理解しないとどうしようもない」

 

「はい、まかせて下さい。

相手を思い切り潰すのは大得意です!」

 

「・・・わぁー、すげぇー」

 

眩しい笑顔で凄い事を言ってくれる。

まあ、頼もしいと受け取っておく事にしよう。

 

 

言峰神父から説明を受けた後、一階にあるアリーナへとやってきた。

一階の扉をくぐれば、そこは既に見慣れた校舎ではなかった。

海の中に浮かぶ迷宮、といった感じだろうか。

どこかおとぎ話めいた世界に放り込まれた気分だった。

 

「今日はあまり奥まで行かないで、その辺のエネミーで訓練しましょう。」

 

「そうだな、よろしく頼むよ。リップ」

 

「任せてください、怖いけど、がんばります!」

 

グッとガッツポーズを取ったリップに少し見とれてしまう。

が、すぐに意識を切り替えてアリーナを進んでいく。

少し進むと浮遊する立体キューブのようなモノが見えてきた。

 

「リップ、あれがエネミー?」

 

「はい、一番弱っちいエネミーです。始さん、指示をお願いします。」

 

「ああ、頼むよリップ。あいつを倒してくれ」

 

指示をうけると同時に、リップは砲弾か何かの如く相手へ向かって跳んだ。

爆発的な勢いで迫るリップに対して、敵のキューブは固まるような動作で防御の様な体制に移る。

しかしそんなものは彼女には関係ない。

 

「潰れて!」

 

肉薄した相手に思い切り黄金の腕を叩きつける。

防御など意味をまるでなさない。

圧倒的すぎるともとれる彼女のパワーは、相手の守りを苦も無く破り、破壊した。

 

「凄い・・・防御の上からでもお構いなしに・・・」

 

「私、力と耐久力だけは他のどんなサーヴァントにも負ける気はありません。ただ・・・」

 

「ただ?」

 

「今の私は、本来の力が十全に出し切れてないみたいです・・・」

そう言って申し訳なさそうにリップはうつむいてしまう。

一体何故そんな事になったのか・・・

おそらくは俺のせいだとは思う。

俺には遠坂や他のマスターと違い、記憶や魔術師としての経験が何もない。

ようするに新米のマスターなのだ。

そんな俺がリップの力を十全に引き出すのは難しいのだろう。

 

「でも!もっと戦いをこなして、始さんが戦いに慣れていけば、私も本来の力を取り戻せると思います」

 

此方がどんな顔をしていたのかはわからないが、リップが励ますように言った。

 

「ですから、これからもアリーナで鍛えていきましょう?私、ノロマですけど精一杯やりますから」

 

「そうだな・・・俺も三流のマスターだ。そんな俺でもやれるだけやるよ」

 

今の自分の力の無さはどうしようもない。

なら、明日からは少しでも力を上げていかなければならない。

決心も新たに、迷宮を進んでいくと、エネミーのキューブとはまた別のキューブが見つかった。

 

「これは?」

 

「それはアイテムのフォルダですね。中に何か役に立つアイテムが入っているかもしれませんよ」

 

「宝箱ってわけか」

 

箱を調べてみるとデータ化されたアイテムが出現した。

木刀のようなものだ。

 

「礼装ですね。装備すればコードキャストがつかえるかも」

 

「コードキャスト・・・これでか・・・」

 

電脳空間で使用されるプログラム。

これに魔力を通せば術式を起動できるという仕組みらしい。

戦力の足しになりそうだ。

幸先の良さに少し上機嫌になりながら、この日は校舎に戻った。

 

 

マイルーム。

聖杯戦争の参加者一人一人に用意された個室。

2階の教室から入れるその場所に戻ると、中は普通の教室のままだった。

個室は個室でも、ベッドもなにも無い。

 

「これじゃ休めないな・・・リップ、ちょっと待ってて」

 

リップを部屋の隅で待機させ、適当に机を一か所に、壁際に積み上げる。

物を教室の中央などに置いておくと、リップの腕が当たってしまう可能性があるからだ。

 

「こんな感じだけど・・・休めるか?」

 

「私は大丈夫です。始さん、ありがとうございます」

 

「どういたしまして。明日からも頼むから、今日は休んでくれよ」

 

「はい、おやすみなさい。始さん」

 

そう言って彼女は机の山に座って、眠り始めた。

眠り始めたのだが・・・

 

「すぅ・・・」

 

寝顔に思わず見とれてしまう。

記憶がなくなる前の自分は、それはもう余程・・・女性に縁が無かったのではなかろうか。

思わずじっと見つめてしまう程だ。

そしてもう一つ。

 

寝息と共に、ゆっくりと上下する凶悪な二つのモノ。

具体的には口にできない。

目を逸らそうと思うも、視線が外れてくれない。

アリーナで戦っている時も、大きく揺れるソレに視線がいかない様にするにはかなりの精神力を強いられた。

しかしだ、幸いにして今は眠ってしまっている訳で・・・

少しくらいなら見ていたとしても咎められたりは・・・しない、はず。

 

(うん、仕方ないな。少しなら仕方ない。仕方ないから仕方ない)

 

何がどう仕方ないのか分からないが、そのまま上下する胸を眺めてしまう。

ベルトの様な物だけで支えられた胸をそのまま凝視していると・・・

 

「どこを見ているんですか?」

 

と、不満げな声が聞こえてきた。

 

ミシミシと音が立っているような錯覚を覚えながら、首を少し上に上げると・・・

 

「起きてらしたんですか・・・」

 

「はい♪なんだか視線をかんじましたから」

 

素敵な笑顔を浮かべた、自分のサーヴァント様がいらっしゃった。

瞬間、正座の体勢に切り替え、思い切り地面に頭をこすりつける。

 

「も、もうしわけアリマセン・・・」

 

やっちまった・・・

そんな考えが頭をよぎる。

女子としては不愉快を通り越して泣きたくなるような状況だと思う。

初日からこんな真似をしてしまうとは・・・自己嫌悪で死にそうだ。

 

「始さん!」

 

「アッハイ!」

 

声をかけられて見上げると、リップは顔を赤くして頬を膨らませて、とんでもないことを言い放った。

「む、胸ばっかりみてると!胸の中にしまいこんじゃうんだから!」

 

 

 

 

ふと、目を覚ます。

目の前には新しく契約したマスター。

傷つきながらも、最後まで前を向いて、戦う意思を示した人。

そんなこの人は、何時かの世界で出会った人によく似ていた。

 

栗色の髪をたなびかせ、赤いドレスを纏った少女を連れた人。

 

私を許してくれた人・・・

 

もう出会う事は無いけれど、彼女はきっと今でも、あの薔薇の皇帝と手を取って歩いている。

なら私も、そんなあの人に、救われて恥じない自分になりたい。

いつか、愛し、愛される人・・・そんな人に出会いたい。

 

道のりは遠い。

今は、新しく契約したこのマスターと歩いていこう。

彼に触れられた手の甲の熱は、まだ冷めていない。

たとえ別れが訪れようとも、この熱を忘れたくない。

 

「ありがとう、始さん。」

 

明日からも、お願いしますね・・・

 

 

「おはよう、リップ。よく眠れた?」

 

「はい。私は大丈夫ですけど、始さんは・・・」

 

「ああ、平気だから。うん・・・ちょっと考え事を・・・」

 

あの後、昨日のリップがした発言のせいで、頭がフル回転しっぱなしだった。

眠れたのは大体深夜だったか・・・それくらいに衝撃的な発言だった。

 

(しまう?・・・胸の奥・・・)

 

思わずまた考えがループしそうな思考を頭の隅に追いやっていると、携帯端末が鳴り響いた。

取り出してみると、何やら表示されている。

 

『2階掲示板にて、次の対戦相手を発表する』

 

いよいよだ。

7日後に訪れる決戦の相手。

緊張から端末を持つ手が汗ばむ。

そんな自分を誤魔化すように、乱暴に端末をしまって廊下に出る。

 

掲示板の前には人だかりができていた。

それらをかき分けるように掲示板をのぞき込んでみると一枚の紙が掲示板に貼られていた。

一つは自分の名前、暁 始

もう一つは対戦相手の名前。

 

マスター:ジナコ=カリギリ

 

「ジナコ・・・カリギリ・・・」

 

それが七日後に戦う相手の名前。

見たことも聞いたことも無い相手との戦いは、ここで始まった。

 




ワカメだと思った?
残念!ジナコさんです。


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第四話 Boy meets girl

大変遅くなりました。
仕事のごたごたなどもありまして、五月の後半からは執筆する時間もあまり取れずにおりまして、申し訳ありません。
これからも仕事の関係上、更新期間が空いてしまう事もあるかと思いますが、ご容赦ください。


普通の人間なら、だいたい『ある事』を願うだろうとアタシは思う。

 

「人生やり直したい」

 

どこまで行っても平凡で、才能の無いアタシ、ジナコ=カリギリも例に漏れず同じことを願っている。

 

アタシが平凡であるように、両親もまた平凡な人達だった。

平凡過ぎることに不満が出る位に普通だったけど、それでもアタシの人生は幸福だったと思う。

朝食を食べ、通学し、家に帰って、夕飯を食べながら今日の出来事を団欒の中で語り合う。

そんな人生は15歳までは当たり前に訪れていた。

 

ある日、両親は突然にアタシの前から消えた。

トラックの事故に巻き込まれ、潰れて即死したと聞かされた。

別にそこには怨恨や陰謀といったサスペンスもなければ、重症を負って、医師たちの賢明な治療の甲斐もなくといったヒューマンドラマも無く、ただ死んだだけだった。

深い悲しみを感じると同時に、どうしようもない虚しさを覚えた事は覚えている。

 

両親の死後、アタシの元にはかなりの額の遺産が残った。

ウチの家は富豪というわけでもないが、一般家庭にしてはそれなりに裕福だったからだ。

一生豪遊して暮らせるわけでも無かったが、慎ましやかにすれば一生を過ごせる額が残る程度には。

 

ともあれ遺産を手にいれた後のアタシの人生はイージーモードへと突入した。

進学や就職といった事はしなかった。

意味が無いからだ。

生まれてから死ぬまでがゴールならば、その中間は平坦に生きていけばいい。

頑張った所で死ねば一瞬で終わるのなら、頑張る意味すらないのだ。

 

かくして、アタシの人生は家の中で完結していた。

外に出る必要が無く、ずっと布団の中で暮らしていられれば良かったのだから。

 

でも、もしも人生にifがあったとしたら?

進学、就職、結婚といった人生の道のりを歩めたのだろうか?

リア充と呼べる人種になっていたのだろうか?

満ち足りたはずの人生なのに感じる、空疎な感覚は埋まるのだろうか?

 

それがアタシの聖杯戦争への参加動機だった。

そしてアタシはサーヴァントを呼び出し、現在一回戦の最中だったのだが・・・

 

 

「おっ、レア素材ゲット~♪いやー月に来てからというもの、素材集めがはかどるっすね。

幸運だけで見ればマスターの中でもトップじゃないっすかね」

 

絶賛、引きこもり中だった。

 

「フヒヒ、これで念願のレア装備一式をゲット!また周りと差をつけちゃったッすね。

そろそろシンジくんさん辺りが怒りで発狂するんじゃないっすかねコレ」

 

ここは一回の用務員室の裏口にあたる場所。

偶然ここを発見したアタシは、マイルームではなくココに立てこもり、絶賛ゲームの真っ最中。

聖杯戦争?なにそれおいしい?

 

「今戻ったぞマスター、頼まれていた品を購入してきた。」

背後から声がする。

アタシのサーヴァント、ジークフリートのジークさんだ。

胸元と背中がばっくり開いた謎衣装に身を包んだセイバーである。

武器はバルムンクとかいう剣らしいけど、どっかのRPGの中ボスの落とす武器にそんな物があった。

ようするに中レベルなサーヴァントなのだろう。

 

「おかえりっすジークさん。ちゃんとおつかい出来たっすか~?前みたいに訳の分かんない地雷商品とか買ってないっすよね?」

 

「言いつけられた通り、プレミアムロールケーキを購入してきた。後ろから神父のNPCがやたらと麻婆豆腐を勧めてきていたが、買ってきたほうがよかったか?」

 

「絶対にNO!

あんな殺人兵器をすき好んで食うのは体張ってる芸人だけだから!」

 

買い物袋をひったくると、さっそく布団に籠ってゲームの続きを開始する。

菓子を食べながら自堕落にゲームに興じる。

最高の娯楽だと思う。

 

「マスター。一回戦の相手が掲示板に発表された様だ。見に行かなくて良いのか?」

 

「それなんてオカルト?こんな負けゲー通り越してクソゲー真面目にやる馬鹿がどこにいるっスか」

 

「確かにお前の実力で勝ち残るのは厳しいかも知れん。しかし何もしないままでいればお前は確実にルールに殺される事になるだろう。俺はそれを見過ごすことが出来ない。」

 

死ぬという単語に一瞬体が震える。

普段ならばよくある脅しとして一蹴していただろうその単語は、この月の聖杯戦争では冗談ではない。

確認のしようなど無いが、来ている人間の纏う空気みたいなものが、普通とはなんとなく違う。

だとしてもアタシは・・・

 

「そ、そんな冗談に踊らされるほどジナコさんは情弱じゃないっス!おやすみジークさん。ボクはもう寝るっすよ。」

 

戦う勇気も持てず、そのまま布団の中へダイブ。

アタシの聖杯戦争はもう終わったのだ。

 

 

対戦相手が判明した次の日の朝。

 

『第一暗号鍵を生成

第一層にて取得されたし』

 

端末から音と共に通知が来た。

これでアリーナにトリガーが精製された。

俺とジナコ=カリギリしか入れない空間に。

アリーナは基本、皆同じ扉から入るが、入ってしまえばそれぞれ別のアリーナに入るらしい。

一つのアリーナには対戦相手同士しかおらず、他の参加者も入ることはできないのだ。

 

「ジナコ=カリギリは来るかな?」

 

「わかりませんけど、会う可能性は高いと思います。戦争に参加している以上トリガーは絶対に必要ですから」

 

そうか、と答えると深呼吸をする。

来てほしくは無い。

だが、ここで越えなければいけない敵でもある。

怖くても、逃げるわけにはいかない。

 

「行こうリップ。まずはトリガーを手に入れよう」

 

「はい!」

 

覚悟と共にアリーナに入る。

トリガーの入手とリップの鍛錬。

そして、対戦相手であるジナコ=カリギリ。

ここで会って、敵の情報を入手できるかもしれない。

 

 

そう思っていたが、この日は結局、会うことは無かった。

 

 

夕方。

リップの鍛錬とトリガーの入手を終えた俺は学食にいた。

夕食と、会えなかったマスターであるジナコがここに来ているかもしれないと踏んで。

販売していた一回戦限定商品『泰山の超辛麻婆豆腐』とやらを購入した。

イスに座って一口食べてみる。

 

「美味い!!」

 

思わず立ち上がって叫んでしまう。

周りが何事かとこちらに視線を向けるが、そんなことも気にならなくなるほどだ。

実に惜しい、これほどの物が一回戦限定とは・・・

 

「あとでリップの分も買っておくね」

 

『絶対にいりません‼』

 

おもいっきり否定された。

女の子らしく、彼女は甘党なのかもしれない。

おとなしく席について食事を再開する。

 

「げっ!本当にそれ食べてるヤツがいると思ったら、オマエかよ」

 

病みつきになる辛味を味わっていると、後ろから声をかけられた。

振り返ると、予選の校舎で見知った相手だった。

 

「シンジ?」

 

「どうやらキミも予選を突破したらしいね。予選ギリギリだったらしいけどさ」

 

青い髪の少年は予選の校舎で自分の友人だった間桐慎二だ。

アジア圏でゲームチャンプと目される少年である。

 

「でも本戦は実力勝負だからね。運で勝てるなんて、哀れな勘違いは良くないぜ?」

 

「そんなの、わかってるよ」

 

相変わらずの性格に内心ため息が出る。

我ながらよく友人でいられたものだと思うが、不思議とそれほど悪いヤツとも思えない。

人徳とも人間的な魅力とも違うが、ともかくこの友人を自分は嫌いきれない。

そういえば、予選の頃に彼がゲームで勝負を挑んでいた人物の名前も確か・・・

 

「シンジ、ジナコ=カリギリって知ってるか?」

 

「は……ハァ!?」

 

仰け反って素っ頓狂な声を上げる。

いったいどうした?

 

「じ、ジナコ!?あのじな子の事か!?あいつがこの聖杯戦争に参加しているっていうのか!?」

 

「どのジナコかは知らないけど、変わった名前だからな。多分そうだよ」

 

自分のライバルがここに来ている事に驚きを隠せない様子で、シンジは頭に手を当て、ブツブツ呟いている。

 

「そんなに凄いのか?ジナコって」

 

「ハッ!凄いというか、一応は僕よりもゲームでのランキングは上さ。けどそれは、アイツのプレイ時間が6000時間越えっていう廃人レベルのプレイをしているからだよ。僕はそんなのは認めないけどね。本来なら磨き抜かれたスキルとテクニックで勝負するべきって事を、いつか思い知らせてやるつもりさ。」

 

「俺の一回戦の相手なんだけど・・・勝てるかな」

 

一回戦から凄そうな相手だ。

思わずシンジにそんな事を聞いてしまうくらいに、少し弱気になっていた。

また嫌味な切り返しがくるだろうかと思っていたら・・・

 

「ま、勝ちの目はあるんじゃない?あいつの霊子ハッカーとしての実力がどれ程かは知らないけど、ここじゃプレイ時間は皆平等だからね。時間にあかせたプレイが出来ないってだけでもアイツの優位性は一つ消える」

 

などと、嫌味の無い真剣な顔でそう言われた。

というより、此方を気にしていないし、今のも自分に向けて言っている節がある。

ここでジナコとの決着を着けるつもりなのだろう。

先ほどの余裕な笑みは無く、真剣な顔つきをしている。

 

「まあ、せいぜい頑張りなよ。負けても仇ぐらいなら討ってあげるからさ」

 

そう言って足早に食堂を出ていった。

さっきよりも、シンジには嫌味や余裕が無いように見えた。

単にこちらにかまっている暇がないだけかもしれないが。

 

『あんな人に仇なんか討ってもらわなくてもいいもん・・・』

 

リップの方は嫌味と此方に興味を無くした態度が気に入らないらしい。

不機嫌な声で呟いている。

ジナコ=カリギリ。

まだ見ぬ強敵。

一回戦から厳しい戦いになりそうだ。

 

夕食を食べ終わって、マイルームへと向かい途中だった。

 

「こんばんわ。おにいさん」

 

彼女が現れたのは。

銀色のショートヘアに真紅の瞳。

新雪を思わせる白い肌に、妖精の様に現実離れした美しい容姿。

年のころは十歳程度といった所か。

どこか感情を感じさせないその表情は、NPCを思わせる。

しかし、わざわざ自分の様な一般的なマスターに声をかけてくるとは、まさか彼女が?

 

「君は誰?もしかして、ジナコ?」

 

「誰?・・・わたし、ソラリス」

 

ジナコではないようだった。

ソラリスと名乗った少女はしばらくこちらを眺めた後、此方に近づいて、近くで此方の目をのぞき込んできた。

紅玉を思わせる瞳は、眺めているだけで吸い込まれそうになる。

 

「え?何?な、何だ?」

 

「おにいおさんもわたしとおなじ?」

 

「は?」

 

なんの事を言っているのか分からない。

この少女と自分に、何らかの共通点があるとはとても思えないが。

 

「え?言っちゃダメ?言わない・・・でもこの人にも・・・」

 

なにやら横を向いて呟き始める。

おそらく自分のサーヴァントと話しているのだろう。

 

「・・・うん・・・ちょっとだけだから」

 

小さな声で何かを話していた彼女はこちらに向き直る。

ソラリスはこちらの瞳を見て、語りかけてきた。

 

「おにいさん。わたし、あなたの事が知りたいの」

 

 

 

 




ちょっとあっさりすぎるけどトリガーを一つゲット。
ジナコ。出てこないと作品として盛り上がらないぞw

そしてオリジナルキャラを登場。
処女作でここまでオリジナルを入れて、ちょっと無謀かもしれませんが、お付き合いください。


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