夢のため約束のため白球を追う (yamayama071308)
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第0球目 プロローグ

6月某日。東京都にある野球グランドにて中学軟式野球大会の関東ブロック予選が行われていた。共に勝てば関東代表として全国大会に出場出来る試合とあって白熱の展開になった。試合は3-2と1点差で迎えた最終回7回裏、2(アウト)満塁と一打同点、逆転サヨナラの場面だ。

 

「ピッチャーがセンター!センターがピッチャー!」

 

審判がバックネット裏にいる記録員に選手交代を告げる。その後三塁側ベンチの方にもすぐに同じ内容の交代が知らされた。

ここまで無名チームがここまでのし上がって来たのはここまでマウンドに立っていたエースのおかげである。何とかこのピンチを凌ぎ次の試合でとマウンドに立ってもらいたい。

 

肩慣らしに数球投げ込む。そしてキャッチャーの「ラストー!」という声が響きいよいよ試合再開。

 

左バッターボックスには4番で今大会ここまでHRも放っており今日2安打している強打者だ。

 

四球で逃げることさえ許されない満塁という絶体絶命のピンチの場面。

初球は低めのストレート。このコースに決まればそう打てない。バッターは見送りストライク。

2球目は低めのスライダー。これは低めに外れてボール。

3球目、4球目はそれぞれアウトコース(外角)のカーブとスライダーをそれぞれコースを外れてカウント1ストライク3ボール。

5球目、アウトコースへのストレート。打者有利なカウントとあってバッターもフルスイングで応えるもバットは空を切る。2ストライク3ボールのフルカウント。

 

そして運命のラストボール。セットポジションからゆったり右足が上げその足を力強くバッターに向けて踏み込む。鋭い腕の振りから投げ込んだ。勝負球に選んだのはインコース(内角)へのストレート。

 

そのストレートは金属バットに当たり気持ちいいほどの快音を残した打球はライトへと向かっていった………………

 

 

 

 

 

 

 

ピピピピッ!!ピピピピッ!!ピピピピッ!!ピピピピッ!ピピピピッ!ピピピッ…………

アラームを設定していたスマートフォンをいつも通りに止める。またあの頃の夢を見てしまった。忘れた頃にこの夢を見るから勘弁して欲しいところだがもうどうにもならない問題だと諦めがついた。

 

布団から出ようとした、しかし4月と言えどまだ朝は冷える。まだ少し布団に……そう考えながらスマホでメール、SNSの確認。特に変わったことは無かったことを確認。

勇気を出して布団から出てみるもやっぱり寒い。しかしいつまでもダラダラしていたら学校に遅刻する。ポットに水を入れお湯を沸かしトースターにトーストを入れる。その間に着替えたり身支度をする。

 

ちょうど支度を終えるとポットもトースターも作業を終えていた。朝ごはんはトーストとココアは寒い朝にピッタリのメニューだ。

 

朝ごはんも食べ終え食器を片付け最後に寝癖がないか、忘れ物はないか最後のチェック。問題なし、よし行くかと玄関に向かうタイミングで

 

ピコーン

 

スマホがSNSでメッセージが来たことを知らせる音が鳴る。ブレザーのポケットからスマホを取り出しメッセージの内容をみる。

 

『舞音さん:ごめん今日遅れるから先行っといて』

 

『了解っす。気をつけてくださいね』

 

返信を打ちポケットにしまう。さて今日は1人での登校になりそうだな。イヤホンを取り出し耳につける。まだ寒い道を学校に向かい進んでいく。




初めまして。やまやまと申します。関西の大学に通う大学生です。初めてこういった小説書きますので至らぬ点等ございますが暖かい目で見守ってくれるとありがたいです。次回から本格的にストーリーを進めていきます。


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第1球目 新学期スタート!

学校に着くなり校舎前の人だかりを発見。クラス分けの掲示板だろう。A組からF組までの240名近くの中から自分の名を探す。A組から探していく。C組のところに名前があった。

 

2C-37 森内 雄大

2C-38 山本 大地

 

 

同じクラスに1人同じ軟式野球部員がいることと自分の名前の下に見慣れた名前があるのも確認し早速教室へ。教室に入ると

 

出席番号順に窓側から順に座ってください

 

と書かれていた。窓側から一番遠い廊下側に座る、するとすぐに聞きなれた声がした。

 

「よっ!久しぶりやな、おはよう!」

 

「おはよー久々言うても春休み明けやから久しぶり感なんか薄いわー」

 

「めっちゃわかるわ」

 

出席番号一つ後ろの山本大地(やまもとだいち)。去年も同じクラスで高校で最初に出来た友達だ。新クラスでやっていけるか不安は毎年ある。だが親友である大地がいる、心強い存在だ。

 

「テニスの方どうやった?ほら春休みに団体戦あるとか言うてたやつ」

 

「あー優勝したけどさ、組み合わせで1回戦から優勝候補やで……何とかなったわけど、やっぱり普段の行い悪いんかな?それとも藤原先生の運のなさ?」

 

「優勝するような奴がくじ運とか言うな、まあくじ運の悪さに関しては顧問の授業中に寝てるからやろ。やから引いてきたんやろ」

 

「うわー絶対それやなー!そっちの大会はどうやったんよ?」

 

「ああうちはな」

 

その後も春休み中に起きたお互いの近況報告などしているうちにチャイムがなった。担任の先生らしき人が入ってきた。黒髪のショートカットに自分と同じぐらい背丈の女性。見たことない顔だし多分新しく来た先生かな?

 

入ってくるなり黒板に白いチョークで大きめの文字で何かを書き込む。クラス全員が静まりながらその一挙一動に注目する。

 

黒田 彩香

 

黒田彩香(くろだあやか)です。今年から教師になりました。こっちの方に来たのは初めてで分からんことも多いと思いますがよろしくお願いします!」

 

拍手が飛び交う。それから簡単な諸連絡があって始業式と着任式。着任式では我らの担任黒田先生も自己紹介をした。その後まあ中身もなんもない校長の話を寝て過ごし始業式も無事終了。

 

明日の連絡だけ簡単にされて解散の支持が出た。今日は学期始め特有の午前中で解散だ。

 

 

大地は部活に向かうといい走っていった。忙しいやつだ。

自分も部活があるので向かおうとすると見慣れた姿がこちらに向かって歩いてき自分の机の前で立ち止まった。

 

「おっす雄大(たけひろ)

 

「おっこーちゃん!」

 

石川宏太(いしかわこうた)、同じ軟式野球部の部員。同じクラスだったことは朝で確認しているがやっぱり会ってからようやく同じクラスという実感が湧いてきた。その後一緒に話しながら部室に向かう。

 

「いやー雄大ってホンマにあの山本と仲良かったんやな」

 

「疑ってたんかよ……」

 

「そんなことないってー!んなことより明日から部活見学会やでええ所みせなあかんで頼むよエースさん」

 

「そんなプレッシャーかけんなっつーの、だいたい俺は今日と明日は投げられへんからやること限られてるわ」

 

「そんなん知ってるわ、まあ今日は軽めにランニングしてストレッチ中心な昨日結構投げてるし無理だけすんなよ」

 

「んーおっけー」

 

そうこうしてるうちに部室近くに着いた。どうやら一番乗りだ。部室前に見知らぬ顔の女子生徒が立っており自分立ちの姿を見るなり近づいてきた。胸のバッチを見る限り3年生だ。

 

「軟式野球部の方々ですか?」

 

「あっはい何のようでしょうか?」

 

こーちゃんが答えると1枚の紙をこちらに渡してきた。

この紙はどうやら部活見学に来る生徒のようだ。羽沢学園(はねざわがくえん)は文武両道を目指す高校ということもあり、必ずどこかの部活に所属しなければならないというルールはないが、新入生は1度だけでも見学しないといけない。そのため生徒会がその見学の出欠をとっているのだという。1通りの説明をされ生徒会の人は立ち去って行った。

こーちやんは紙全体を見通すと今度は俺に紙を渡してきた。

 

「知ってる人おる?同じ中学の後輩とか」

 

「んーまあ俺中学神奈川やしな」

 

「あっそーか、ほな知ってる人とかおらんか?」

 

「んー、まあな……ん?」

 

俺は一瞬ここにはないであろう名前を発見し思わず声が出てしまったこーちゃんはそれに気が付き名簿を覗いてきた。

 

「どないしたん?なんかあったんか?」

 

「いやなんでもない悪い悪い」

 

「なーんやなんかおもろいもんでも見つかったんかとおもったわー」

 

とゲラゲラ笑うこーちゃんに名簿を返した。

 

まあ、まさかな。いくらなんでもあいつの名前がここにあるわけないよなうん。名簿の一番下に見つけた名前と過去の記憶がどうしても引っかかるが、

 

きっと同姓同名、会ってみれば普通のやつだ。

 

そう自分で自分を無理やり納得させ、部室に入っていった宏太に付いていくように部室に入った。

 

 

 

 

 

 



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第2球目 新入生

気がつくと窓の外はすっかり暗くなっていた。

 

部活は試合の次の日ということもありミーティングと軽い練習でわずか2時間足らずで終わった。今日は大して動いてないのに疲労感はまるで一日中練習したような疲れだった。昨日の疲れが残ってるのだろう。その疲れからか家に帰りそのまま風呂に入って汗を流して洗濯機を回し一段落した所で寝てしまったのだ。

 

お腹のあたりから足元に掛けられていたタオルケットを取り払い立ち上がり「んーー」と背伸びをすると台所の方から声が聞こえた

 

「あー起きた??晩飯もーちょいで出来るから待ってなー」

 

「んー……舞音さん毎度ありがとー」

 

「いいのーいいのーお礼は言わんって約束したやん。雄大死んだみたいに寝てたけど昨日結構投げてたんでしょー」

 

「 2試合やって16イニング173球っすね」

 

「へー結構投げたね〜」

 

この人は大西舞音(おおにしまいね)さん。3年生で生徒会の会長。昨年の部活動見学会でお世話になり家も近く現在もこうしてご飯を作ってくれてる。付き合ってるわけではなくある日、夢である料理人で「私の料理の練習として私が料理するからそれを食べて」と頼まれた。それに甘えて今もこうして作っていただいてる。

 

他愛のない会話をしてると舞音さんはいい匂いをさせたカレーライスを台所から運んできてくれた。

 

「カレーっすか美味そうっすね」

 

「明日ごめんやけど部活動見学で来れへんのよ~だからカレーにした多めに作ったから明日温めて食べてね」

 

「部活見学……篠岡……」

 

昼間に見た名簿を思い出す……やっぱり気になる

 

「ん?どーしたの?冷める前に食べよーよ、いただきまーす」

 

が、舞音さんに続き俺もカレーをいただいた。

まあ明日になれば全てがわかる。今日考えても仕方ないか。もうそう考えるしかなく今日はこれ以降考えることがなかった。

 

 

 

 

 

「うーーーさみぃぃ……帰ろうぜ」

 

次の日、肌寒い日が続いていたが珍しく温かい日になると天気予報で言っていたが寒い。時間は朝の7時10分。今日は朝練。朝練と言っても本格的な練習ではなくマシン相手にバッティング練習をするだけだ。硬式野球部との兼ね合いで軟式野球部用のグラウンドは小さく思い切ったバッティング練習が可能な硬式野球部が使用するメイングランドを使える朝練は貴重だ。今日は朝練の準備が自分とこーちゃんの番だ。朝練の準備は下級生がする。

 

「これから温かくなるし我慢やって」

 

俺がネックウォーマーをしカイロを片手に震えてるの横でこーちゃんは防寒具などを一切身につけずに涼しい顔をしている。

 

バッティング練習用のボール、それからマシンを起動させバッターボックスあたりの土をならしベースを置く。

 

「1年たくさん入って朝練の準備教えたら朝の準備も任せられるし新入生には期待しようぜ」

 

「ホンマやな~新入生どんなんやろか」

 

「雄大ってさ篠岡って人知ってる?」

 

一瞬マシンにボールを入れて速さ等を調節していた自分の手が止まった。こーちゃんはそのまま質問を続けた。

 

「いや、別に深い意味は無いけど名簿に乗ってた中学聞いたことないから調べたら神奈川の中学やってんよ。それで同じ神奈川県出身やしなんか知ってるかなぁって思ってさ。」

 

「んー……まあ同じ県やったら対戦したことあるかもなぁ」

 

内心の焦りと早くなる鼓動に気が付かれないように適当に誤魔化した。こーちゃんは「知り合いやったらおもろいけどそんなもんか」と呟きそれ以上その話はせずに黙々と準備を勧めた。

 

約10分ほどで準備を終えて後は部員のみんなが来るのを待つだけだ。

 

部室の方向から人が歩いてくる。部員の誰かが来たと思ったが違った。

 

よく見ると見知らぬ人だ。身長も高く丸坊主で制服姿。制服のネクタイの色を見ると1年だ。その顔がはっきりと見える位置まで来た時に俺は心臓が飛び跳ねるかと思った。

 

カキーン!!!

ワアアアアアアアアアア!!!!

 

フラッシュバックのように思い出す。嫌という程夢に出てくるあの打球音と歓声。その打球を放った打者が俺の目の前に立ち止まった。

 

「1年の篠岡圭吾(しのおかけいご)です。森内雄大(もりうちたけひろ)さんですよね。」

 

 




テストやらiPhoneがぶっ壊れて下書きがなくなったりしてバタバタしててかなり遅めの投稿になりました。すみません。またボチボチ書いていくのでよろしくおねがいします。


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3球目 それぞれの放課後

「では今日のホームルールは終わりです。日直の人」

 

「起立!礼!」

 

「ありがとうございました!」

 

今日の授業をすべて終え帰宅する者、部活に行く者、それぞれ動き出す。教室を出る生徒にじゃあねーと担任の黒田先生が見送る。すると前の席の大地が声をかけてきた。

 

「おつかれー部活やなぁ!今日から新入部員や!!!」

 

「おう」

 

「なんやお前、今日日テンション低いな。どうしてん。舞音さんにフられたか??」

 

「付き合ってねーし別れてもねーよ。いやちょっと朝練に乱入してきた1年生相手に本気出してコテンパンにしてもーてさ」

 

「なんじゃそりゃ???まあ野球部の事あんま知らんけど1年いじめたんなよ…じゃ俺部活あるからまた明日な」

 

「んーまた明日」

 

大地が廊下に勢いよく飛び出す。

 

それにしても今朝はやりすぎた。

 

 

 

「1年の篠岡圭吾です。森内雄大さんですよね。」

 

 

 

ある程度予想してたがやっぱりあいつだと思って動揺してるところに篠岡は

 

「俺と1打席勝負してください。」

 

と言ってきた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

1年B組の教室の窓際から2列目の一番後に座っている篠岡は朝のホームルームから授業の全てが終わっても呆然としていた。自分から挑みに行ってコテンパンにされた情けなさ。

 

そして何よりあの森内雄大の投げた最後の球に衝撃を受けていた。

 

担任が「今日は部活見学1日目だ!自分の部の集合場所にしっかりいけよ!」と言った。部活見学の前にいきなりあんな調子に乗った勝負かけに行って負けたヤツが呑気に行っていいものなのか……まあ行くしかないよな、ハァと大きいため息をし席を立ち軟式野球部の集合場所であるサブグランドに向かった。

 

 

 

 

 

「メイングランドを硬式野球部が使用してるので基本はこちらのサブグランドで活動しています。メイングランドでのバッティング練習は朝練で使えて、週に2回この放課後に使えます。それから……」

 

キャプテンらしい人が体験入部が終わった俺たち1年を集めて基本的な説明をしている。守備練習に少し混ざって練習した程度だったが少し疲れた。そんなことより初めのウォーミングアップの時にはいた森内雄大の姿がキャッチボールあたりから見えなくなった。

 

「以上で説明を終わります!ぜひ軟式野球部に入部してください!では各自解散で、質問ある人は部の誰にでもいいので聞いてください。」

 

ふー解散、帰るか…ってそういや質問あるわ。朝森内雄大と一緒にいて守備練習の時ショートにいた爽やかなあの人に聞くか。

 

「すみません、ちょっといいですか?」

 

「んー?あっ朝の子か」

 

「その件についてはすんませんでした。自己紹介遅れました、篠岡圭吾です。」

 

「石川宏太やでよろしくな。んでどうしたん?もしかして雄大のこと?」

 

「それです。朝と部活始まる前にはいたのになんで今いないんですか?」

 

「あーあいつ今日はノースローやで」

 

「え?」

 

「怪我したって訳やないけど日曜日の試合でめっちゃ投げてたから一応今日も早く帰ったよ」

 

「そうなんすか……」

 

「じゃあこっちも質問な答えにくかったら答えんでええけど朝なんで勝負しようなんて言い出したん?」

 

「え?…まあ話せないことは無いですけど長くなりますよ」

 

「んーそうか……家どのへん?」

 

「ここから駅の方向に歩いて15分ぐらいです、スーパーあるの分かります?」

 

「おー!俺ん家の近くやん一緒に帰ろうや!そん時にその話聞かせて!」

 

「はい、分かりました。では校門の前で」

 

 

じゃあまた後でな!と言うと石川先輩は部室に走っていった。

 

ふと石川先輩の言葉を思い出す。

 

 

「あいつ今日はノースローやで」

 

 

ノースロー中であんな球投げれるのか…やっぱり敵わないな。

 

そう思うと思わずため息が出る。そして、石川先輩と帰るために校門の前に向かった。

 



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4球目 篠岡圭吾の過去

パスワード忘れたりしてました……申し訳ないです。


 

物心ついた頃から野球がとにかく好きで練習をたくさんした。その努力と姿勢のおかげか小学校5年生ながらレギュラーを取った日から指で数えられるほどしか三振をしなかった。その三振も温情の判定とかエンドランのボール球など。

中学1年生の時には軟式野球の強い私立の中学入学してからもっと上手くなりたいと思った。強豪校とあって中々の練習だったが篠岡にはこの練習がすぐに結果に結びついた。

 

中学の初めての春の大会は1年生で異例とも言えるレギュラーしかも3番バッター。その起用に応え、打率は4割代で勝ち上がり対戦した強豪校のエースからはホームランを放つ。

 

 

その大会は篠岡がチームの主役だった。自分の活躍はチームに刺激を与え続け快進撃を生んだ。

 

 

 

 

 

 

準決勝は普通の公立高校だった。先発のマウンドには背番号「11」の2年生ピッチャー。細身で身長もそんなに高くないピッチャーで、エースの3年生ピッチャーではない。

 

情報によるとこの左ピッチャーと3年生ピッチャーが2人で全ての試合で3失点以内抑えてきたと言うがこのチームはここまで組み合わせがよかったとかのマグレだろう。左だからピッチャーをやってる弱小の公立高校にありがちな話だ。

実際に対戦するまでは1.2番バッターは凡退こそしたが、はたから見たら特に球が特別速いとか凄い変化球とかがあった訳ではなかった。

 

自分に打順が回ってくる。

 

打席に向かった。

 

(なーんだ、普通の公立高校がここまで勝ち上がったんだからどうせならあのエースの球打ちたいな……まっツーアウトランナーなし、大きいの狙ってみるか……)

 

左打席で足場を固めいつものタイミングでバットでベースの両端を叩く。

 

 

バットをピッチャーの方向に向けてからゆっくりと自分の構えに入った。

 

 

ピッチャーがゆっくり振りかぶり足を上げるのを見て自分も足を上げタイミングを取る。

 

 

ピッチャーの腕が鋭く振られた。

 

 

スパーン!!

 

 

「ストライーク!」

 

 

 

 

審判のストライクコールが響く。

 

 

 

1.2番の2人にそれまでに投げてたストレートよりは少しだけ速さが違った。

 

 

1.2番バッターを見て油断したというのもありこの速さを想定してなかったから、身体が反応しなかった。

 

 

(ちょっと初見じゃ打てないな。俺には力を入れてきているけどこれが初球で良かった。秘密兵器みたいにこの球を隠してたってことは俺にはバンバン使ってくる。次はそのタイミングで……)

 

 

次のボールはさっきより早めにタイミングを取った。

 

しかし思惑とは外れスライダーを投げてきた。ストライク。カウント0-2。

 

 

3球目はアウトロー一杯に最初に投げてた遅めのストレート。タイミングが少し合わなかったがファールにした。カウント変わらず0-2。

 

 

篠岡はすぐに打席には立たず靴紐を直すフリをして少し間を置いた。

 

 

 

(いけねーいけねー、冷静になれって!速い球投げたからって速い球ばかり投げてくるってもんじゃないな。速い球を意識させて遅い球で勝負しようって計算されてるかもな。けど速いストレート、遅いストレート、スライダー。全部対応出来ないぐらいものすごいボールってわけじゃない……)

 

「すみません、もう大丈夫です」

 

と審判に告げて打席に入った。

 

 

 

(次は速いストレートにタイミングを合わせつつ遅い球さタメて打とう。ご丁寧に俺の打順まで隠してた速いストレート打った方が相手もダメージも大きいだろうしな)

 

 

 

 

ピッチャーが振りかぶっり、足でタメを作り腕が鋭く振られた。リリースされた瞬間に自分の勝ちを確信した。

 

 

 

 

 

(速いストレート!タイミングもバッチリ!けど低めだから引っ掛けないようにして……!)

 

 

 

芯で捉えたと思ったその時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バットを嘲笑うようにスルスルっとボールが逃げていった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

4打席4三振

 

 

人生で初めて1日4つも三振をしてしまった。しかも同じ投手に。

 

後2回からはエースピッチャーとポジションを入れ替えたが、自分の打席の度にあの左ピッチャーがマウンドに上がった。

 

 

1打席目の三振した高速スライダーを意識しすぎて2打席目はストレートに手が出なかった。

 

 

3.4打席は得点圏にランナーを置いた場面だった。しかし、得点圏でギアを入れたのか最初に見た速いストレートよりも速いストレートに対応出来ずあえなく三振。

 

 

ここまで勝ち上がってきた自分の打席が得点圏に回ってきて自分が打つという野球。その野球が出来なかった。その焦りからか最終回に2つのエラーが絡み3失点で負けたのだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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5球目 篠岡圭吾の過去2

ちょっと視点が変わるので見にくいかと……


「おっしゃぁ!!!雄大こーーい!!!」

 

大地が逆サイドから俺に向かって叫ぶそれを無視し、中央のペナルティーエリア近くまで走ってきた人物目掛けてパスを出す

 

「ほらよっと、こーちゃん」

 

こーちゃんへ強いグラウンダーのパスを送るがディフェンダーにシュートコースを防がれてる。それでもこーちゃんはお構い無しとシュートの体勢に入った。

 

「山本くん!!」

 

しかしそのボールをスルーし走り込んできたドフリーの大地が右足を振り抜いた!

 

 

しかしそのボールはポストの遥か上をゆく特大ホームランになった

 

 

「おい!クソ大地!何回シュート外したら気が済むねん!!」

 

「雄大くーんそんなに起こらんといてよー確かに12.3回打って枠内0やけどさぁ」

 

「ちくしょー今の絶好のチャンスやったのになぁー!」

 

 

 

俺達は今球技大会のサッカーをやっている。羽沢学園は生徒達の日頃の運動不足などの対策として毎月球技大会を開いている。今日は新学年になって一回目の球技大会だ。

 

 

ピーッピーッピー!

 

 

試合終了のホイッスルだ。試合はこーちゃんの軟式野球部とは思えないフリーキックでの1点を守りきって勝利した。

 

 

「よっしゃぁ!!!勝った!!!!シュートも気持ちよく打てた!」

 

「ちくしょう……あんだけシュート外しまくってポジティブになれる精神力羨ましいな……」

 

 

こーちゃんがまあまあと俺を止める。

 

 

球技大会のサッカー前後半10分ずつを行う。1人あたり最低10分間は出場しないといけない。

 

一応我々C組は一回戦を突破、準決勝が終われば、昼休憩を挟んで決勝。さらに3年生の優勝クラスとのエキシビションマッチだ。

 

 

「それにしてもお前らサッカー上手いよなー雄大は去年クラス一緒やし知ってたけどこーちゃんホンマ上手いよなぁ〜」

 

「俺は小学校の時やってたからな。雄大はホンマ上手いよな、去年の球技大会でも一番活躍してたし」

 

「まあ中学で肘の怪我してた時に野球出来なんからサッカー部に混ぜてもらっててんよ」

 

「へーそうやったんかぁー全然しらんかったわ

。こーちゃんは知ってた?」

 

「ん?……ああ初耳やわ」

 

「やんな!おい雄大!親友2人になんで話さんかったんや!」

 

「いや聞かれてないからさぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「まあ中学で肘の怪我してた時に野球出来なんからサッカー部に混ぜてもらっててんよ」

 

「へーそうやったんかぁー全然しらんかったわ

。こーちゃんは知ってた?」

 

石川宏太は山本大地に話を振られ内心ドキッとした。それは昨日の帰り道、篠岡圭吾から森内雄大の過去の話を聞いたからだ。

 

(昨日の今日かよ……めっちゃタイミングええやん)

 

と心で苦笑いしながら心中を悟られないように言った。

 

「ん?……ああ初耳やわ」

 

と答えた。

 

「やっぱりー?雄大さ自分のこと全然花さんから全然分からんよなぁー」

 

「大地に喋ってねーだけだよ(笑)」

 

「おい!(笑)ってなんだよ!」

 

このやろー!と大地くんが雄大をヘッドロックする。

 

雄大がギブギブー!と大地くんの手を楽しそうに叩く。

 

その姿を見て思わず

 

 

「こいつホントメンタル強いなぁ……」

 

 

と小さい声で呟いた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「3試合で6です。」

 

「へ?なにが?」

 

 

小林宏太は篠岡圭吾と帰り道に森内雄大の過去について聞くために並んで歩いているが篠岡の言ってる意味が分からなかった。

 

 

「森内さんのいた学校と公式戦を3試合しました。森内さんと7回対戦して6個の三振を取られました。」

「なるほど。なら君から見た雄大は苦手ってことか。けど分からん。今日勝負に挑んだ理由は?」

 

 

「俺が中2の時の大会。つまり森内さんにとって最後の大会です。あの人怪我してたらしいんです。それで結果的には初めてフェアグランドに飛んだ打球はサヨナラホームランになりました。」

 

 

「ほう、それで」

 

 

「けど、全然嬉しくなかったんですよ。いい時のストレートなら自分は三振してました。自分は森内さんの悪い時のストレートを打ったんです。」

 

 

 

その後篠岡は、雄大がサッカー部に所属していたこと。最後の大会はぶっつけ本番と聞いて腹が立ったこと。話をしていた時一部始終を不機嫌そうな顔で話した。しかしある程度話し終えてから一呼吸置いてから晴れやかな顔で

 

 

 

「チームのエースが中途半端なやつだったら俺がピッチャーやってやると思いました。めんどくさいんですよ俺。そんで今日負けたんで大人しく野手やっときます。」

 

 

 

と言った。

 

 

 

「ほな今日から仲間やなよろしくな。」

 

 

 

小林宏太の差し出した手を篠岡圭吾はギュッと握り応えた。

 



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6球目 あの日のトラウマは味方へ

4月の最終週の金曜日。少し暖かくなってきて汗をかく場面が多くなった。練習も終わり新一年生が慣れた手つきで片付けを始める。しかしそんな片付けに不満があるわけでもなく「ある一件」に悩んでいる部員がいた。

 

 

2年生の小林宏太だ。

 

それは新1年の篠岡圭吾からの相談だった。

 

 

「うーーーん、こりゃ想定外やなぁ」

 

 

と頭を抱えて悩んでいた。

 

 

数日前、練習後に篠岡に相談を持ち込まれ中身を聞いて困惑した。

 

 

「ほう、んでかっこつけて道場破りしに行ってあっさりと負けたのに入部したからどういう態度とったええか分からんと」

 

宏太は篠岡に確認する。篠岡は一度だけ頷いた。

 

 

 

 

 

 

この日以来何とかしなければと思いつつなんとも出来ていない。明後日は練習試合。そこまでになんとかしなければと考えていたが突破口が見出さずにいた。

 

そんな時後ろから肩を叩かれた。

 

 

「なにそんな浮かない顔してんのこーちゃん」

 

「ん?雄大か……ちょっといいか?」

 

「やっぱりか……お前のいいたいことは分かるぞ」

 

「へ?まだ何も言ってねーよ」

 

「俺と打順変わりたいんやろ?こーちゃんも欲張りやなぁ〜5番打つのにやっぱり3番にこだわるか〜」

 

「全然ちゃうわ!」

 

「なーんやハズレかーじゃ俺クールダウンしてくるなー」

 

「雄大、話はまだ終わってないわちょっと待て」

 

「やーだねー!俺の身体デリケートやねん、はよクールダウンせなあかんねん。それに話終わったやろ?」

 

「だからまだ何も言ってねーよ」

 

「帰り篠岡借りるなー」

 

 

雄大は後ろの宏太に向かって左手をフラフラ〜と振ってクールダウンに向かった

 

 

「なーんや、何もかもお見通しってわけですか……」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「じゃ、今日の鍵当番は俺だから職員室行ってくるわ先校門いってていいよ」

 

「はいよー」

 

部室の鍵を返すのは1年生の役目だ。職員室に入る。

 

「失礼します!軟式野球部の1年B組篠岡圭吾です!部室の鍵を返しに来ました!」

 

と入室し鍵を所定の場所へ直した。

 

「失礼しました!」

 

職員室から出る。これで今日の部活は終わりだ。

 

1年生みんなが待っている校門に向かうとそこには1年生ではなく2年生の森内雄大が1人でいた。

 

 

 

 

「悪いけど校門にいた1年には帰ってもらったぜ、ちょっと帰り道付き合え」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人は学校の近くの河川敷に来た。

 

そこで雄大は荷物を下ろしてカバンをガサゴソとしつつ篠岡に聞いた。

 

 

「キャッチャーやったことあるか?」

 

「……え?ああ、まあ少しなら」

 

篠岡はあまりにも想定外の質問で思わず戸惑うがとりあえず答えてみた。

 

すると雄大はカバンからキャッチャーミットを出し篠岡に渡した。

 

「ちょっと受けてくれや」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ次アウトコース低めの真っ直ぐで」

 

「はいよー」

 

 

鋭く振られる腕から放たれたボールはアウトコース低めにズバッと決まった。

 

 

「ストライクっす、相変わらず憎たらしいほどコントロールいいっすね……」

 

 

篠岡が雄大へコースと球種を言い雄大がそれを投げるのだがコースが大幅にズレることがない。

 

 

「まあそのボールを放り込んだ年下のやつがもっと憎たらしいわ」

 

 

「よく覚えてますね……」

 

 

「まあな打たれたことは絶対忘れられへん、それもピッチャーの特権かもな」

 

 

雄大は笑いながら呟く。

 

 

「けどよ篠岡、今後は夢にでも出てきたトラウマ野郎が味方にいると考えると頼もしいもんだな」

 

 

「まあ俺もそんな感じですね、なんせ万全(・・)の森内さんが味方だと嬉しいっすね。なんせ前に飛んだことないし」

 

 

「はは、よく言うぜ……ラスト1球!インロー低めの真っ直ぐ!」

 

 

パーン!

 

 

心地よい音が鳴り響いた。

 

 

「明日からよろしくな」

 

「ええこちらこそ」

 

 

 



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