マトウの狩りを知るがいい (星野谷 月光)
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プロローグ「もしも世界がフロム脳だったなら」

プロローグなので読み飛ばして一話にいっても大丈夫です。
この部分はほぼおじさんの回想と独白になります。
お話は一話からです。

警告!

雁夜おじさん救済魔改造オリ主化、世界観多重クロス、メアリー・スー展開、アンチヘイト展開です。
地雷要素満載の地雷原です。そこを納得してご覧ください。
合わないと思ったらすぐに読むのを止めて戻ってください。
警告はあらすじとタグとこれで三回目です。どこかで眼に入るはずです。


俺の運命の分かれ目はほんの些細なことだった。

 

俺のジャーナリストとして最初に手掛けた仕事は、稗田教授のお供で『羽生蛇村』に取材に行くことだった。

 

大変だった。死ぬような、というか死ねればまだ幸福なほどの目に合った。生きて帰れたのが信じられなかった。

生きて帰れた俺が真っ先に行ったことは手元に武器を持っておくことだった。

素手で戦うということの無謀さと火かき棒の威力を知った後となっては日常と言えども丸腰ではいられなかった。

 

どうせならいいものを、と思い骨董品店で日本刀を買おうとした。その店の名前は『眩桃館』といった。

 

店主があからさまにオカルト関係者だった。俺は激しく警戒したが奴は一枚上手だった。

金と安心に困っていた俺に比較的安全な仕事と護身用の道具を安く売ってくれた。

だから俺はオカルト関係者でも少しは常識がある人もいるのかと油断してしまった。

大きな間違いだった。あいつは常識を知っているだけで必要なら平然と飛び越える奴だった。

今回も安全な仕事だと言われてほいほい受けてしまったのだ。

 

喧嘩師の長谷川といっしょに『古都ヤーナム』に遺跡発掘などという地獄を引き受けてしまった。

 

ひどかった。何もかもひどかった。もうそれに尽きる。

まともそうに見える奴もだいたい過去にやらかしているか、これからやらかす奴だった。

何ひとつ正気といえる要素がなかった。全部イカれてる発想のものだった。

 

とりあえず神様っぽいグロい奴らを長谷川がぶっ飛ばしたあたりからもうどうでもよくなって、俺も「火薬庫」の武器でそのへんの奴をぶちのめしていた。

あいつら目が合ったら襲ってくるんだもの。動く奴はとりあえず殴ってから話す、という重要なことを俺は学んだ。

 

たしかに俺は武器を求めていたが、ここまでとは言っていない!

 

俺は回転する丸ノコや爆発金槌を振り回しながらしみじみと思った。

命からがら日本に逃げ帰れた。まるですべて悪い夢のようだったが、爆発金槌は今も俺の手元にある。

 

メンシスの檻をかぶりながら俺は少し冷静になるべきだと思った。

かねて血を恐れるべきだ。もうしばらくは血も冒涜もいらない。

 

その時俺にとても良い啓蒙がひらめいた。そうだ、今まで誰かにくっついていった結果そいつが命知らずで地獄につっこんでいくのだ。

しばらく一人で活動しよう。人も獣ももううんざりだ。神様はもっとうんざりだ。

自然写真なんていいんじゃないか?ここいいな。火山ガスで廃墟になった街、『サイレントヒル』

 

俺が馬鹿だった。誰だ廃墟だなんて言ったのは。カルト教団の本拠地じゃねえか!

だが俺は大丈夫だ。もう逃げてばっかりのナメクジじゃない。うなれ 爆発金槌(はむまあ)地獄を見せろ。

なんか俺に似た境遇の女の子がいたのでちょっとがんばってしまった。

わかるよ!親がカルト信者で魔術師っていう最悪のパターン!良くしてくれたお義父さんはそいつらに殺された?

そうかー。とりあえずそいつの頭かちわってから考えようぜ!血が出るなら神様だって殺せる。やってるの見たからわかる。

 

なんとか帰ってこれた。どうやら世界は俺が思っているよりイカれてるらしい。

世界中どこに行ってもバケモノやろくでもない神様ばっかなのな!そうかー。そうだったのか……

よくわかったよ。生き延びるためには逃げてちゃダメなんだ。何事も暴力で解決するのが一番だ。

 

俺は啓蒙が上がった。新しい視点を手に入れたんだ。

アルフレート、お前が正しかったよ……

そして連盟のみんな、人の淀みを根絶しようじゃないか・・・・・・

今やおなじみという感じの三角頭をかぶりながら俺は悟った。これって流行ってるのかな?

ヤーナムにもサイレントヒルにもあるんだよね三角頭。

 

化け物やイカれた魔術師を見たら潰して潰して潰してピンク色の肉塊に変えてやればいいんだ。

そうすればとりあえずは何もできなくなる。どうやって始末するかはその後に考えよう。

 

落ち着け、鎮静剤を飲もう。しかし、魔術師ってやつらもかわいそうだな。

結局ゾウケンの爺とか時臣もいっしょだろ?神様とか名乗ってる化け物に先祖が体を改造されて、力を与えられて。

神様の所に来たきゃ力を使えって言われて。結局は頭ぱっぱらぱーになってその神様とやらの手下かエサにされるだけだ。

 

神様のいる根源?だったか?あんなもん肥溜めだろ。神様を名乗る連中がいるのはだいたいろくでもない所だったしな……

かわいそうになー。あいつら騙されてるって絶対。だって根源に行ったやつ誰も帰ってきてないらしいし。

多分良くてゲールマンみたいにされてるんだろうな……

 

そう考えるとなんだかあいつらを怖がったり恨んだりしていたのが馬鹿みたいだ。

あいつらもビルゲンワースの学徒とかと同じようなもんなんだなあ。血が出るから殺せるんだろう。

 

葵さんにもなんだか醒めちゃったよ……血の聖女とかサイレントヒルの狂信者と同じようなもんなんだな……

可愛そうだとは思うけど、自分で望んで騙されてるようなもんだしな……

狂信者になっちゃったら、もう救えないもんな。楽にしてあげるしかないんだ。

まともそうに見えて、きっとそういうことなんだろう。ああ……

 

それにしても、これからどうしようかなあ。なんかもう、いいよ。

好きなだけ化け物も神様も出てくればいいさ。とりあえずぶん殴って適当にお宝をかっぱっらって美津里に売れば金になるし。

とりあえず安定して稼げそうなのは稗田教授だな。美津里は時々ガチで死ぬレベルのを持ってくるからだめだ。

 

そう決めた俺は稗田教授の護衛としていろいろ冒険したり冒涜したりした。

へー、こいつらヒルコっていうの?もう一つの進化樹かあ……上位者もそんな感じの何かなんだろうね。

うんもう慣れた。精霊の抜け殻とかアグラオフォテスあたりで神秘こすりつけて鈍器でぶん殴れば死ぬし。

それで駄目なら火か毒か電撃をつけて殴れば死ぬよ。

 

うん、ほんといろいろあったなあ……丸神の里はいいところだったよ。

化け物もあんまり出なかったし、異能もなんかグロくない奴だったし……

よそ者に厳しいっていっても刃物もってくるほどじゃないしね。

南丸君、すごいいいやつだし、俺よりよっぽどできた人間だったよ……すごくいいことを言ってた。

 

「能力にふりまわされちゃいけない、何かスゴイことができそうな気がするし、何かに利用しなきゃもったいない、とも思う。

でもそこが注意すべき所なんですよ。能力ってのは手段に役立てるための道具なのであって目的そのものじゃない。

こんなものに人間サマがふりまわされてちゃいかんのです」

 

ほんとそうだな……いろんな奴らに言い聞かせたい言葉だ。俺自身もよく反省しなきゃいけない。

ウィレーム先生の警句並みに重要だよ。カレル文字の横に刻んでおこう。

俺もちょっと暴力が得意になったからって調子に乗ってたかもしれない。かねて血を恐れるんだ。

 

童守町の子供たちはいい子たちだった……普通の街だけど、たくましく育ってほしい。

鵺野先生にはちょっと感動して、心配になった。あの人あんないい人で大丈夫なのかな……死なない?大丈夫?

次は知り合いの九鬼先生を助けて欲しい?おうやってみる。

 

九鬼先生は色っぽかったなあ。ノリがちょっとヤーナムだったけど。

あと九鬼先生のご先祖様、帽子の若旦那すげえな!はんぱねえ、何あのかっこいい魔術師。

魔術ってあんなかっこいい使い方するもんなんだ・・・・・・すげえ・・・・・・

 

ニューヨーク行ったらなんか死徒?血界の眷属?って吸血鬼がいてさ。

牙狩りってヴァンパイアハンターの皆さんに会ったよ。クラウスの旦那すげえ、紳士だ。

俺も似たようなのできるから牙狩りにならないかって?いやー、秘密結社はお腹いっぱいだよ。

 

何?それじゃあイギリスの牙狩りのヘルプに行ってこい?アルバイトで?人手が足りてないの?そうかー。

インテグラお嬢様、すごかったな・・・・・・あれが本物の貴族か・・・・・・時臣に見せてやりたいわ。

アーカードの旦那はんぱねえ。え?俺は夜に堕ちるな?夕闇をそのまま行け?ああ、気をつけるよ。

 

え?ナチ?南米で?調べてくるわ。うわぁ何このドイツ人なのにナチュラルにヤーナムなノリのデブ軍人。

うんまあ血に酔うのが楽しいのも、ただのたれ死ぬのが嫌だから暴れて死にたいのもわかるよ?

でもだめだ。バケモノは人に殺されなきゃいけない。で、人でもバケモノでもないお前は狩人の俺の獲物だ。

 

なに残党は日本に行った?残党の残党とか笑えないわ。

えっ、ラインハルト・ハイドリヒ?あのナチ高官の?マジで?

英霊として召喚されたらなんかむこのえいゆう?ってスキルで人格おかしくなった?

無駄にカリスマ出て破壊の愛に目覚めた?なんじゃそりゃ。

 

つえーまじつえー

 

だけどな、言ってやるよ!あんたあのナチで高官になるくらいタフな男のはずだろ!

そんな呪いに流されんな!っていうか触れたら傷つけるナイフみたいになった?じゃあ触れんな!

いい大人どころか英雄豪傑の身分で我慢も加減もできないとか寝ぼけたこといってんじゃねえ!

飢えてる?飽きてる?知るかボケッ!そんなもん金持ちの悩みだわ。あの戦争覚えてんならそんくらい思い出せ!いつまで寝ぼけてるんだよ!ミコラーシュ!ミコラーシュのバカ呼んでこい!

おら仕事だ啓蒙バカ!神秘99の彼方への呼び掛け食らえおらっ!

 

飢えてればいい、飽いていればいい?そうだよ啓蒙上がって納得したか!じゃあせいぜい世の中に迷惑かけない程度に兵隊でもマフィアでもやってろバーカ!もうテロるなよ!世界の法則ぶっ壊しは好きにやれ。俺もあれにはムカついてるし。でも町は燃やすな。わかるか?OK?じゃあな!

 

まあたまにはテロったり人さらいしてる魔術師ぶっとばして資料やお宝を奪ったり。

嫌だったけど力がなくっちゃ何もできないからな。一応基礎は覚えたさ。

ライター代わりになるくらいの便利な小技をいくつか、使い魔も作れるようになった。

強化と投影すげえ便利だな。ヤスリや照明の代わりになるし……

便利な面もあるんだなこれ。複雑な気分だ。

 

トレジャーハンターなんて表向き無職だからそれはまずいと思っていろいろ仕事をした。

だいたいオカルト雑誌のライターかエログロカメラマンだ。

俺、ジャーナリストになりたかったんだよなあ。できれば政治とか戦争とか自然とかそういうお堅いの。

なんで俺、アジアの安宿でギリギリアウトなエロ写真とってんだろうなあ?泣けてくるわ。

 

まあ、そんな感じでけっこう楽しく暮らしてたんだ。

あの糞オヤジから電話がかかってきたけど、まあそれもいつもの事さ。

 

ああ久しぶり。元気に人喰ってる?

どうせまた街ごと焼くお祭りなんだろ?知ってる。

へー、葵さんの娘さんの桜ちゃんがね。ふーん。もうやったの?つーかそのレイプ趣味はほんとどうかと思う。

普通に女の子を抱けないの?小学生の女の子にも力づくとかほんと男として恥ずかしくないの?

やっぱあれなの?年取るとそういう自信なくなるの?いい薬売ろうか?

 

あ、切れた。まあいいや。ちょっと里帰りするか。

あの家もずいぶんかわいそうなことをしたな。害虫ほったらかしとか。殺虫しなきゃ。

あ、虫って言えばあの人いたな。ヴァルトールさん。あれなら見えるし潰しがいもあるし、たぶん淀みもあるわ。

同士、あんたは今どこの世界線で戦っている・・・・・・長のカブトは俺には重すぎるよ。

 

うん、まあおふざけはいいとして。そろそろいいかげんにケリをつけよう。過去を清算するんだ。

この時代でたった一人しかいない「連盟」狩人として。いや、一人の男としてだ。

 

よーしそうなればしっかり準備しないとな。

武器は持てるだけもっていこう。輸血液と栄養アンプルとアグラオフォテスも買えるだけ買おう。

くそう宇理炎あげなきゃよかったなあ!でもあれ狩人の夢でもないと使えないしな!仕方ないな!

稗田教授からもいろいろもらえたな。この矢じりは使えそうだ。美津里からは黄金の蜂蜜酒もらったけど俺は飲まないぞ。

まあ、そのほかにもいろいろ用意していくとしよう。今回はガチ装備だ。

バーカ滅びろ冬木!なんてことはないように努力したい。かれこれいくつ街滅ぶのにつきあってんだ俺?

 

すげえ嫌だったけどヤーナムにももう1回いったよ。工房の技を覚えとかなきゃだしな。

ヤスリとかも補充したかったし。まあ、なんとか血の遺志を力にする技と使者を呼んで取引することは覚えたよ。

とりあえずこれで狩人の夢がもうなくってもレベルアップと道具の補充はできるわけだ。

 

魔術関係もいろいろ調べなきゃな。すげえ嫌だけどもう情報なしで現地に放り込まれるのはごめんだ。

へー……アインツベルンね。ホムンクルス?人形ちゃんみたいなもんかな。きっとろくでもないわ。

魔術師殺し!いいねかっこいい!きっと話が合うかもしれない!

あー、時臣やっぱ教会とグルなのね。神様なんか頼ったってなんにもならないのになあ。

ほー……エルメロイ卿ね。これは油断ならないな。美津里レベルだったら勝てないな……

まあそのレベルのイカレ野郎だったら逆に交渉の余地があるかもしれない。あいつら物と暴力とお世辞で釣れるから。

あとはまだ不確定か……もうちょい調べたいところだけど、もう御三家に突撃して資料を略奪したほうが早そうな気がする。

 

優に一市町村を灰にできる装備をもって俺は冬木に戻ることにした。

 



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第一話「魔術師狩りの夜」

警告!

雁夜おじさん救済魔改造オリ主化、世界観多重クロス、メアリー・スー展開、アンチヘイト展開です。
地雷要素満載の地雷原です。そこを納得してご覧ください。
合わないと思ったらすぐに読むのを止めて戻ってください。
警告はあらすじとタグとプロローグとこれで4回目です。どこかで眼に入るはずです。


「雁夜お主、随分……鍛えなおしたな」

 

玄関開けていの一番に親父が言ったのはそれだった。まあ眼帯してて髪真っ白になって顔傷だらけだもんね。

 

「そうかい?解るかな?まあ世間の荒波にもまれたってことだよ」

 

おお、なんか親父が引いてる。まあ今の俺かなり筋肉ついたからね。

 

「しかし今更なぜこの家に帰った?魔術を嫌うお前にこの街で用などあるまい。

ああ、それともあれか?葵の娘に情でも湧いたか?」

 

相変わらず嫌味ったらしいな。年取るとゲスい事にしか興味なくなるのかね。

年はとりたくないわー。まあこんな家業してたら体動かなくなる前に死ぬだろうけどな!

 

「いやいやいや、腹の探り合いっこはなしにしようぜ。ほらなんか面白そうなイベントあるだろ?聖杯戦争。

俺もまざりたい。っていうかこの際だから時臣殴りたい。合法的にあいつ殴れるチャンスなんか今回くらいじゃん」

 

うんまあそれも理由の一つにしかすぎないんだけどね!なんかまた親父が驚いてる。こいつこんなにリアクションよかったっけ?

 

「雁夜お主……くくく、そうか。これもマキリの血か……そうじゃな。ようやくわかったじゃろう。

甘さが抜けてよい顔になった。魔道に生きる者の顔じゃ」

「間違ってないけどうれしくないな」

 

うんまあ、そろそろ俺がどういうやつになったのか解ったらしい。まあそうだよ、魔道だよ。

魔術師だの獣だのを狩るくせに、そいつらが飯のタネっていうどうしようもないヤーナム野郎だよ。

 

「くくく、わしの血というのはそういうものよ。お主が一人前の男になったのであれば、よかろう。入るがいい」

 

だけどここからが面倒なんだ。ジジイに俺の正体がばれたってことはお互い油断なしでいつ殺しにかかってきてもいい態勢で話すってことだから。

リビングについて、とりあえずジャブとばかりにお土産を渡す。酒だ。

 

「えっとこれがお土産ね。黄金の蜂蜜酒と匂い立つ血の酒」

「ふむ、少しは気が利くようになったか。酒とな?ほほうこれは……」

 

上位者の血からわざわざ作ったやつに美津里からもらったやつの1本だ。

そんなに上位者の世界にいきたいならぜひこれを飲んでいってくれ。

小さい虫よりデカブツのほうが殺しやすいしね。

 

「くくく、お主の変わりようが少しわかったかもしれん。それで?他に何を求める。桜か?」

 

ああまあ、時臣殴りたいだけじゃ信用できんわな。

俺は座らずに自然な感じで返した。

 

「いやまあそれは今はいいとして、まあ今俺が何やってるか、から言ったほうがいいかな。

今俺トレジャーハンターみたいなことやってんだよね。遺跡とか、魔術師の工房とかにつっこんでいって火事場泥棒してるみたいな。

ぶんどってきたお宝を知り合いの魔術師に売って暮らしてるんだ。後はだいたいわかるだろ?

聖杯戦争で集まってきた魔術師を倒してお宝を奪う。そのために来たんだよ」

 

まあ、お前を殺しにも来たってことはわかるだろうけどな!

 

「ふん、それだけではあるまい。だがまあいい、わしの邪魔さえしなければな。

それで聖杯戦争にはマスターとして参加するのか?」

「しないよ。まあ令呪が出たらしてもいいけど。あんたは参加しないのか?」

「今回は見送る。じゃがまあ、お主が参加して、なおかつ聖杯をわしに捧げるというのであれば取引してやってもいい。協力もしてやろう」

 

聖杯かー。ここのもダンジョンとか作れるのかな。まあ、どうせろくでもないものだろうから、売れる奴に売って、悪用しそうなら殺せばいいか。

 

「ふーん、まあ手に入ったら売るよ。ああ、そういうわけで適当に部屋を使わしてもらうよ。対価はさっきのお土産で」

「まあいい。好きにするがよい」

 

よし、自然な感じで切り上げられたぞ。さーて、殺すか。

 

 

ここからは時間勝負だ。走らず、しかし最短で書庫を目指す。

とにかく急ぎで片っ端から本を回収。次は虫蔵だ。

 

途中でヤーナムの狩り装束に着替える。やはりこれでないと。そして今のうちに鐘をならしておく。

接続先はあいつだ。「ワルプルギスの魔女」「幻燈館店主」美津里。

 

虫蔵についた。うわあ、相変わらず趣味悪いな!桜ちゃんがいる。だけどごめん。優先することがあるんだ。

ここだ、ここが一番遺志が強い。啓蒙上げておいた甲斐があったぜ。今の俺なら怨念も見えるようだ

俺は虫蔵の一角にあるゴミ捨て場に近づいて語りかけた。

 

「ただいま、母さん。それから、ご先祖様。

俺には洒落た呪文なんて思いつかないから、こういう言い方になるけど、許してくれ。

ゾウケンが憎いかい?あいつを殺したいよな?なら、力を貸してくれ」

 

ぞわ、とゴミ捨て場に捨てられた遺骨の欠片たちから遺志が立ち上る。よかった。呼びかけに答えてくれたようだ。

俺は懐から穴の開いた骸骨を取り出して地面に近づける。

 

「いいものをもらったんだ。母さんたちの恨みも、呪いも、あいつに届けることができる道具があるんだ。

これだよ。呪詛溜まりっていうんだ。

母さんたちと同じように、身勝手な魔術師に殺された人たちの作った呪いの道具なんだよ。

これに、あなたたちの無念を、恨みを、怒りを、呪いを分けてくれ。俺が必ず奴に届けてやるから」

 

赤黒い煙のようなものが呪詛溜まりに集まってくる。これでいい。

 

「……ありがとう。来たかゾウケン」

 

俺は爆発金槌を取り出して呪詛溜まりを首にかけ左手には火炎放射器を持つ。

仕掛け作動。景気のいい音を出して金槌に火がともる。

 

「雁夜よ。やはりそうなると思っておったわい。ずいぶんと調子のいいことを言っておったが……どれ、経験の差というやつを見せてやろう」

 

俺はただ一言だけ返すことにした。

 

「マトウの狩りを知るがいい」

 

まず真っ先に爆発金槌を振り上げてたたきつける。避けるか。そうだろうな。

虫をけしかけてくる。それもわかっていた。前に避けて、火炎放射器だ!

ひるんで少しだけ下がった。だが狩人相手に下がるのは愚策だ。

今だうなれ爆発金槌!思い切り上からたたきつける。

 

「おおお!」

 

ジジイの頭が砕け散る、だけど奴は足を止めずに逃げては虫をけしかける。

まだ学習せず距離をとるか。ちょうどいい、哭いてくれ、呪詛溜まり!

投げられた呪いが手榴弾のように爆発する。

 

「馬鹿な!?これはなんだ!ただの呪い、恨みごときでわしが削られるはずがない!」

「貪欲な血狂いめ。報いの時だ。俺が貴方達と共に哭こう。さあ、呪詛を」

 

距離をとれば呪詛を投げ、虫をけしかければ火炎放射器、近づけば金槌の餌食だ。

じわじわとゾウケンの体が、魂が削れていく。

まあ種を明かせばゾウケンの被害者を取り込むことでパスというか縁ができたのでよく効くんだ。

 

「待て!桜がどうなってもいいのか!?お前が近づく前にわしは桜を殺せるぞ!」

 

ああ、だから協力者を頼んでおいた。俺は狩人呼びの鐘をならしていた。ヤーナムが滅んだ今でも、携帯電話代わりには使える。

そして距離を無視して場所をつなぐこともできるし、協力者にはしっかり対価を渡してある。

 

「美津里、俺は鐘を鳴らしたぞ!今だ!対価は支払った、契約を果たせ!この子をお前のもとに呼んでくれ!」

 

どこかからか、ため息のようなものが聞こえた。しょうがないねえ、とでも言わんばかりだ。

 

『おーい』

 

すぽん、と吸い込まれるように桜が消えた。後には手品のように煙が残るばかり。

美津里の魔術の一つ、呼び出した相手をテレポートさせるひょうたんだ。

これで桜は安全圏に逃した。あいつの家を安全とは言いたくないがな!

 

「さあ、これでお前を守るものはもう何もなくなったな」

「ま、待て!」

「問答無用だ!」

 

俺は爆発金槌を叩きつけ叩きつけ叩きつけて。呪詛をありったけ浴びせてやり、火炎放射器で念入りに焼いた。

虫蔵も燃やしてしまおう。油壷を投げまくって火炎瓶で燃やす。地下から出るときに教会砲で入り口を崩しておく。

 

「ふう……」

 

よしこれでいい。母屋に燃え広がるまでは少々の時間があるはずだ。

息を一つ吸って、喜びのジェスチャー!天を仰いで……

 

「母よごらんあれ!俺はやりました、やりましたぞおおおお!

このゴミ虫野郎を潰して潰して潰して、汚い色の絨毯に変えてやりましたぞ!

どうです素晴らしいでしょう!これで母さんたちの恨みも晴らせた……

俺はやったんだあああ!くくく、はははは!」

 

笑いが、笑いが叫びが止まらない。ひとしきり馬鹿みたいに笑って、そして俺は深く息をついた。

 

「……はぁー」

 

なんでだろうな、涙が出てくる。

だが奴もこれでくたばったとは思えない。とりあえずの勝利だ。

それに、まだやることはたくさんある。アルフレートのように自殺はできないんだ。

 

炎が広がる前にいそいで狩人帽と覆面を脱いで、とにかく家じゅうの資料を片っ端からもっていく。

金目の物、魔術礼装、本から日記から全部だ。間に合わないものはとりあえず庭になげだしておく。

 

よし、お宝はいただいた。あとは通報だ。

 

「あっ、もしもし消防ですか?いや実は地下室で父が突然焼身自殺しまして……はい、そうなんです。

最近ボケが始まってたからかも。急なことで……はい、なんかあらかじめ準備してたのか、地下室ごと爆薬で埋まっちゃって。

今は母屋まで燃え広がっていないんですけど、お願いします。すいません……」

 

さあ逃げよう!警察に捕まったら面倒だ。逃げよう。

 

 

俺は隣町で取ったホテルで事後処理をしていた。

まず美津里。古い魔女で人もバケモノも食うやつだが契約すればとりあえずしばらくは裏切らない確率が高い。

あいつに桜ちゃんをまかせたままだとヤバい。いきなり食われる可能性もゼロじゃないし、まず教育に悪い。

いそいで確認しないと。

 

「ああ、美津里か。どうだった?無事保護してくれたか?」

 

いつもの呑気で下世話な調子で返事が帰ってくる。とりあえず桜ちゃんは無事らしい。

ゾウケンの本体がいたから、事前の契約通りもらっておいたとのことだ。

 

「ああ、悪いな手間かけさせて。あいつのことだから間違いなく桜ちゃんにはバックアップを残してると思ってさ。

ああ、いいよ。桜ちゃんに危害を加えなければゾウケンはどうでもいい。煮るなりや焼くなり好きにしてくれ。

でもできればそれを使って一般人に害を加えるのは遠慮してほしい。悪い、俺のわがままだ」

 

そう、俺は桜ちゃんの体内から虫を取り除かなきゃいけないからそれも美津里に依頼していた。

契約の対価にはジジイから奪った全財産をまるごと奴に渡すことになっている。

 

「桜ちゃんの手術はうまくいったか?ああ、そうかそれはよかった……ありがとう。

ああ、せいぜい死なないようにがんばるさ」

 

どうやら桜ちゃんは手術も無事に終わって元気らしい。まあ、これから先誰が面倒みるのかとかいろいろあるが、まあそれは後で考えよう。

 

次に教会と協会に電話をかける。

 

「どうも、間桐雁夜だ。実は今回ゾウケンからマキリを簒奪した。俺が間桐家当主になる。

というわけでこれからもどうぞよろしくね。あと聖杯戦争の時はよろしく。ぶん殴りに行くからうらみっこなしな」

 

まあ、俺は魔術師になる気はさらさらないが、名目上だけでも継いでおく。

こういう時コネとかパイプはあるに越したことないからな。

いろいろ言ってくるが適当にはぐらかしておく。

 

さてと、ゾウケンからぶんどったお宝を整理して美津里に送らなきゃな。

その前に内容をきちっと読んで調査しておかないと。

 

あっ、なんか手がいてえ。なんかカレル文字刻んでるときみたいな……

ああ、令呪か。まいったなー選ばれちゃったなーしょうがないな、戦おう。

いやーしょうがないよね、これで時臣とかそのへんの魔術師なぐってもしょうがないしょうがない。

 



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幕間1「聖杯考察」

幕間ですのでこの話は基本読まなくても問題ありません。
またこの考察はあくまでおじさんが考えたものの上、多分私自身も設定を把握しきれてないので穴があるかもしれません。まあ、蛇足的なものとお考え下さい。


教会にも令呪出たよ、と連絡して俺は悩む。

どうしようかな、誰召喚しようかな。そもそも聖杯戦争の仕組みざっくりとしか知らないからな。

とりあえず資料読むか……読むべきは聖杯戦争の歴史だな。できれば始まりの辺りを知りたい。

 

ふむふむ、遠坂とアインツベルンとマキリが最初に始めたのか。

遠坂は新参でほぼアインツベルンとマキリだったのな。

最初はなんかすごい聖杯で根源に穴開けて人類救おうとかそんなノリだったのか……まあ、どこもそんなもんだな!

こういうのってだいたい思ったより時間かかって拗れるんだよね知ってる。

 

ほうほう1800年ごろか。へー、アインツベルンのユスティーツァって人がすごかったのか。

ふーん、ジジイ惚れてたんだ。そんな人間らしい頃もあったんだなあ。

柳洞寺にあんのね聖杯の本体。これはいい情報だ。それでコントローラーみたいなのとして小聖杯があると。

 

なになに、聖杯使えるのは一人だけってわかったから大乱闘?英霊も好き勝手してぐだぐだで終わったか。

まあ、そんなもんだよね。

 

二回目は全滅か。うわぁ。

 

で、前回はどうだったのかな。

ほうほう戦前にやったのか。一番ヤバいころだな。帝国陸軍とナチが出てきたって?なにそれすごい。

 

アインツベルンはアンリマユ呼んじゃったの?よく呼べたなーっていうかそういうの呼べるんだこれ。

あっ、でもなんか弱かったみたいだから、ちょっとしか呼べなかったか、できそこないだったんだろうな……

 

ジャッジに教会が出てきたのはこのころなんだ。まああれだけ好き勝手したらなー。誰か止めるやついないとなー。

 

ふーむ……だいたいわかった。これ触媒ありで呼んだらだめだな!

狙って呼んだらだいたい仲間割れしてるわ。そりゃそうだよなー、だって英雄様だぜ?

そんじょそこらのボンクラ魔術師風情が扱えるわけないじゃん。魔術師は魔術師で頭おかしいからすげー偉そうにしたろうしな。

そもそもまともな奴だったら英雄なんかにならないだろうしな。そりゃ仲間割れするわ。

 

触媒なしなら似たようなやつが呼ばれるからそれなりに仲良くやれる……らしい。

リスクとして同族嫌悪する奴が呼ばれるパターンと相性はいいけどザコって場合があるのか。

同族嫌悪は勘弁だけど、サーヴァントが弱くてもまあいいさ。そもそも俺、一人で適当に火事場泥棒するつもりだったし。

まあできれば街がなくなるのは阻止したいけど、命あっての物種だし、そこまで俺に期待されてもなー。

 

ふう……

 

ん?あれこれキャスター呼んで魔法教えてもらえば解決するんじゃねえの?

そもそもユスティーツァあたりがうまく英霊登録されてたら呼べばいいんじゃね?

 

……解決しちゃうわこれ。

 

誰も気づかなかったのかよ!馬鹿か!

……馬鹿だったわ。

 

落ち着け、鎮静剤飲もう。きっと何かリスクとかあるんだよ。

まず第一に、魔術師のアホ共は無駄に自意識高いから、目上の奴とか呼んでもこじれるわこれ。

ぜったい素直に教えてもらおうとしないだろうし、そもそもキャスターも魔術師だろうから素直に教えないわ。

めんどくせえー、こいつらめんどくせえ……

 

うまく教えてもらったとしてだ。まずできない可能性もあるしな。

なんだっけ、昔と今じゃマナの濃さが違うから、同じ魔術つかっても威力とか違ってくるんだっけ。

血も薄くなってるっていうしな。やっぱ退化していくだけのもんを技術にしても無駄だな!

 

それでもうまくいったとしよう。あのアホが出てくるわ。抑止力?ってキモい神様。

絶対ろくでもないって。だって神様だぜ?人類の集合無意識?地球の意思?

人類なんてろくでもない生き物の濃縮還元だぞ?それって火の鳥とかと同じじゃん!まちがいなく性格悪いわ。

そんなんに関わられるとかごめんこうむりたい。

 

うん……だいたいわかった。聖杯で抑止力案件になるのを防ごう。まともな願いを持ってるやつに渡しちゃおう。

俺?いらないよあんなん。だってこれダンジョン開けないんでしょ?がっかりだわ。

 

よし、確認終わり。俺の行動は予定通りだ。

街ごと滅びそうになったら止める、そのついでで魔術師をボコってお宝を奪う。

一休みしたら召喚しとこう。

 

やれやれなんだか疲れたよ……

 



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第二話「第四回『呪われた冬木の冒涜』あるいは『冬木燃やし血祭り大会』の開催」

さーて楽しいガチャタイムだ。魔法陣は赤いのならだいたいなんでもいいんだろ?

これの模様さえきっちりしてれば呪文はだいたいでも大丈夫なはずだ。

とりあえず普通の血の酒で書いたけど。場所は港で借りた倉庫だ。

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が学祖ビルゲンワース。

 降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

おっ、魔力がうごめいてきた。いい感じだ。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 繰り返すつどに五度。

 ただ、満たされる刻を破却する」

 

よし、ここまでいけたらまあちょいとくらいアレンジしても大丈夫だな。

俺の注文タイムだ!

 

 「――――告げる。

  汝の身は我が「隣」に、我が命運は汝の剣に。汝が命運は我が槌に。

  聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

要するにあれだ。上下とか気にしないで一緒に戦ってくれるタイプ募集ってやつだ。

面倒だからなそういうの。

 

「誓いを此処に。

 

 我は常世総ての善と成る者、

 我は常世総ての悪を敷く者。

 

 我は現世総ての獣を狩る者、

 我は現世総ての虫を潰す者。

 

 我は血によって人となり、人を超え、そして人を失うもの。

 

 汝三大の言霊を纏う七天、

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

まあ、俺は狩人のヤーナム野郎だよ、ということを付け加えた。

穢れた獣、気色悪いナメクジ、頭のイカれた魔術師共、そういうのほんとうんざりなんだよ!だからそういうのは来るな。

そこの所を理解したうえで来てくれ!

 

魔力が収束していく。ほほう、苛烈で清廉な気迫だ。きっと熱血野郎だな。

 

「サーヴァント、バーサーカー。真名ベオウルフ。じゃあ、殴りに行こうぜマスター!」

「おう、行こう行こう。でもその前に打ち合わせしとこうな?あ、俺は間桐雁夜ね」

 

出てきたのはガングロ金髪マッチョ野郎だった。腕にタトゥーまでしてるよ。

なんかホストみたいだな。

だがいいノリだ。気に入った。話が早いやつはいいな!それに有名どころじゃないか。

 

「マスターはノリがいい奴みたいだな。この名乗りで引かなかったのはあんたが初めてだ」

「だろうね。まあ、座れよ。酒いる?おつまみは出してるから適当につまんでくれ」

 

仮の拠点として一応はこの倉庫は手入れしてある。

テーブルと椅子、ベッドといった家具やカセットコンロにテレビラジオ冷蔵庫といった最低限の家としての機能はある。

食べ物や医療品なんかは山と買いだめしてるしな。

 

「おう、気が利くな!マスターがそんな感じなら俺も適当に呑らせてもらうぜ」

 

ベオウルフは俺が召喚に使った血の酒の残りを瓶ごとつかむとラッパ飲みする。

 

「くあーっ効くな!なかなかいい酒だ!文明がすすんで軟弱になったとか聞いたが酒に関してはそうでもないようだな!マスター肉はあるか!」

「干し肉ならあるぞビーフジャーキーってやつだ。ほれ」

 

俺もビールを開けて飲みつつテーブルの上に用意しておいたジャーキーを袋ごと投げる。

裂きイカあったかな……おっ、あったあった。うめえ。

音楽も適当にかけとくか。カセットカセット。「洋楽てきとう」これでいいか。

よし、カントリーミュージックみたいだな。でもなんだっけこれ。まあいいか。

 

「ほう、それが「らじかせ」ってやつか。なるほど面白いものができたもんだな」

「知ってんの?座ってやつから現代を見れるのかい」

「いや、聖杯に召喚されるときに大雑把な知識が手に入る。おっ、盛り上がってきたな曲が!」

 

何かと思ったらサンライズかよ!ハンセンの入場曲じゃねえか!

戦争の打ち合わせに使う曲じゃねえな!……まあいいか。

 

「よし、だいたい落ち着いたみたいだから、あれだ。打ち合わせしよう。とりあえずお互いの目的とか自己紹介とかそのへんからいこう」

「ああ。マスターはなんか願いとかあるのか?俺はないぜ。喧嘩祭りみたいなもんなんだろ?だから殴り合いができればそれでいい」

 

なるほどありがたいな。ほんと話が早い。でもこれを素直に楽しむってちょっと危機感足りてないんじゃないか……?

いやでも人のことはいえないしなあ。まあ、獣狩りの夜を楽しむ、くらいの感覚と覚悟でいてくれたらいいんだけど。

 

「あー……俺もそんなもんだ。願いはないっていうかあんな胡散臭いもん信用できないよ。

むかつく知り合いが何人か参加するからさ。この際だからぶっ殺しておこうと思ってね。

あとは俺、トレジャーハンターやってるんだけどこの際だから火事場泥棒しようと思ってさ」

 

ベオウルフはふーむ、と少し考えて言った。

 

「トレジャーハンターね……つまり略奪だな?ああ、悪いことする時は目を背けてやるさ。勿論、限度ってモンがあるがな」

「わかってるわかってる。そこまで俺も無茶苦茶する気はないさ。悪党っぽいのがいたらぶん殴ってお宝をもらってくだけだよ」

 

ベオウルフはもう一口酒をあおると唐突に立ち上がった。

 

「よし!自己紹介も目的も話したな!さぁいっちょ殴り合おうか!お互いの事を知るにはこれが一番だ!」

「よーしわかった、表出ろ。ああ、それと本番前に身内で殴り合って退場とか笑えないから、ほどほどにな?」

 

俺も狩り装束の上着を脱いで立ち上がった。まあいいじゃん。血に酔った奴らなんてそんなもんだ。

 

「安心しろって、仮にもサーヴァントなんだからよ。胸を借りるつもりで来いよ」

「はっはっはっ、まあ見て驚くがいいさ」

 

こうしてこの聖杯戦争は初戦がマスターとサーヴァントによるステゴロという前代未聞の幕開けとなった。

 

 

俺たちは夜の港、誰もいない倉庫街で向かい合った。5、6m。いい距離だ。

 

「さぁて、ぶん殴り合いのお時間だ。倒れるまで、ってわけにはいかねえのが面倒だな」

「……マトウの狩りを知るがいい」

 

俺たちはどっちともなく走り合ってお互いの顔面めがけて思い切りぶん殴り合った。

喧嘩ってのはこうでなきゃな!様式美は狩人の流儀だ。

 

「はっはっはっは!魔術師の癖にいい拳してるじゃねえか!」

「く、ははははは!そりゃまあ、魔術師じゃなくて狩人だからな!ほら来いよ!英雄らしいところ見せてくれ!」

「おう、行くぜ!」

 

いやー、こんなに爽やかな殴り合いって初めてだなー。やばいなこれは楽しいわ。

左手で強パンチ、右は溜め攻撃と内臓攻撃だけに絞ったほうがいいな。

手刀もできるっちゃできるけど、ジャブにしかならないだろう。

 

「オラオラオラ、どうしたどうしたァ!」

 

よし、ベオウルフがコンボに入ったな。回り込む感じで避けて……よし!

コンボの継ぎ目の所を狙って、こっちは力を溜めて……はいドーン!

ベオウルフのわき腹にいい感じのフックが突き刺さった。

 

「ちっ、マジでいいパンチもってるじゃねえか……!燃えてくるぜ」

 

振り回される裏拳を前転して避けて距離をとる。

いいから来い、と手招きのジェスチャーをする。ベオウルフがとったのは溜め攻撃に似た上からの大振り。

やっぱ速いな!これは食らっちまうわ。ちょっと避けて直撃を避けつつ……

蹴りも速いなくそっ!何発かいいのをもらっちまった。

今度はパンチのラッシュか!だがこれは範囲外に避けれる。

 

「避けんな!ぶっ飛べ!」

 

また溜め攻撃か!ならこれをパリィして内臓攻撃につなげよう。

 

「ああ、捌いてやるから来い!」

「おおお!」

 

俺も溜めのモーションをして誘う。いいぞ、そのコースだ!

前転して避けて……よし!避けた!ははは、しまったって顔したな!背後とったぜ!

おらぁモツ抜きだ!

 

「ちっ……なかなかやるな。いいのをもらっちまった」

「どうする?まだやるか?切りがいいしこのへんにしとこう。じゃないとここから先は殺し合いになる。

ってことは武器なり技なり全部使わないともったいないだろ?最後にとっておこう」

 

ベオウルフの腹からはだばだば血が出ている。腹筋に阻まれて内臓までは行ってないはずだ。

だけどここから先やるなら、お互いマジになりそうだしな。楽しすぎるから。

 

「……」

 

俺はじりじり距離をとって油断なく回り込みながらベオウルフを見る。

いざという時は仕掛け武器を取り出せるように。あっ、ていうか令呪ってもんがあったわ。

 

「しょーがねぇ……いい汗かけた。ま、楽しめたぜ。二回戦ができないのが残念だけどな。

だがその言葉覚えておけよ?」

 

ベオウルフは戦いの構えを解く。俺たちは大きく息を吐いた。やれやれ。たしかに楽しかったけどな!

 

なお、この様子を見ていた時臣は「なんて野蛮なやつらだ……正気とは思えない」とつぶやいたらしい。




ランスロット大暴れを期待していた方は申し訳ありません。
おじさんが触媒なし召喚と今までの経験による精神性の変化からこうなりました。
他の作品からのクロスも考えたんですが、それはそれで難しいな、という事もありました。
なのでFGOからベオウルフです。

できればこれにめげずについていってくださると感激です。




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第三話「英雄狩りの夜」

ちょっと長いですがおつきあいください。9000字くらい。


「傷の手当をしようか。俺もこんな楽しい戦いは初めてだったよ」

「はっはっはっ、なんだそんなになるまで鍛えて戦ってるのに、こういうのは初めてか?面白いマスターだな!」

 

聖歌の鐘を鳴らしてお互いの傷を回復させる。さてどうしようか、と考えていると近くで金属音がする。

 

「……聞こえたか?」

「ああ、俺たちのほかにもおっぱじめる奴がいるようだなマスター」

「よし見物しよう。あわよくば乱入しよう。とりあえず上着とか取ってくるわ」

「急げよマスター!」

 

俺はさっさと狩り装束に身を包んで酒を二人分もっていって合流する。

 

「ほらこれおまえの分な」

「気が利くなマスター!喉が渇いてたところだ。ここが良さそうだ、よく見えるぞ!」

「いいね、高みの見物って感じだ」

 

俺たちはコンテナの上に座って酒を飲みつつ観戦することにした。

ほーう、女騎士に槍兵か。いい感じの武器もってるね!

 

「なあマスター、聖杯戦争ってのは武器を自慢しながら戦うもんなのか?」

「いやーどうなんだろうな。でも武器自慢したい気持ちはわかるよ。俺もめっちゃ苦労して素材あつめたもん」

「いや、己の肉体こそ最高の武器だろ!?俺も能力のある武器とかもってるけどしゃらくさいぜ」

「わからないでもないけどなー……おっ、ランサーが一発いいのかましたぞ。オイオイオイ、あのセイバー脱ぎだしたぞ」

「テンションが上がったんじゃないか?戦場ではよくあることだぜ。おっ見ろマスター、騎士の名乗りだぜ」

「ディルムッドに騎士王ね。いいねー、騎士道あふれる戦いも雰囲気あって面白いな」

 

俺たちはゲラゲラ笑いながら酒を片手にのんびり観戦していた。さっきからなんか複数目線感じるな!うっとおしい。

 

「片腕を奪われたままでは不満かなセイバー?」

「戯言を・・・。この程度の手傷に気兼ねされたのではむしろ屈辱だ」

「覚悟しろセイバー。次こそは獲る!」

「それは私に獲られなかった時の話だぞ、ランサー!」

 

よしいいぞ!やれー!俺たちのテンションもマックスになる。つい立ち上がって歓声をあげてしまった。

俺たち二人ともだ。

 

「うおおおおいいぞ!やれ!ぶちかませ!」

「いい感じじゃねえか!くそっ、俺も混ぜろや!」

 

それとほぼ同時に俺たちの後ろ側からなんか鬨の声が聞こえる。

 

「アララララライ!」

 

なんか空飛ぶ戦車に乗って知らないおっさんがランサーとセイバーの間に割り込んできた。なにこのカオス。

 

「双方剣を治めよ。王の前であるぞ」

 

ふーむ味のある声のおっさんだな。体もごつい。

 

「我が名は征服王イスカンダル!!此度の聖杯戦争においてはライダーのクラスを得て現界した」

 

よしこのタイミングだ!

 

「俺はマスターの間桐雁夜だ!狩人をやってる。で、こいつは……ほら今だって!名乗っとけよ!」

 

俺はベオウルフの脇を肘でつついて目線を送る。

 

「おう!俺はデネの王、巨人殺しのベオウルフ!バーサーカーのクラスで現界したぜ!」

 

よし決まった!イスカンダルとベオウルフ、俺の間で何かやりとげた雰囲気の目線が交わる。

誰ともなくガハハとひとしきり笑い合った。あ、なんかイスカンダルのマスターっぽい少年が頭抱えてる。

 

「何考えてやがるんだ……いやほんとあんたら何考えてやがりますか。えっ、僕か?僕がおかしいのか?」

 

ははは、少年よ人間馬鹿になるときは馬鹿になったほうが楽だよ!強く生きろ!

おお、イスカンダルにデコピンされてるよ。

 

「うむ!そちらもなかなかの益荒男ぞろいのようだな!で、話をつづけていいか?」

「あ、どうぞ」

「おう!つづけてくれや」

 

いやー、マッチョが3人いるとほんと暑苦しいな!夜だってのになんだこれ。

 

「うぬらとは聖杯を求めて相争う巡り合わせだが、まずは問うておくことがある。

うぬら……一つ我が軍門に下り聖杯を余に譲る気はないか!

さすれば余は貴様らを朋友として遇し、世界を征する快悦を共に分かちあう所存でおる」

 

俺はベオウルフを目線を交わす。よし俺が言うぞ!

 

「乗った!ただし、あんたが上とかそういうのはなしだ。

あと後で俺らと殴り合いしようぜ!」

 

ベオウルフはおおむね満足そうに俺にうなずいた。

 

「おう!せっかくの喧嘩祭りって聞いてわざわざ来たんだぜ。

戦う機会が減ったらつまんねえだろうが!」

 

イスカンダルは大きくうなずきすごくいい笑顔をする。

 

「うむ!後で存分に拳を交わし合おうではないか!

そして拳を交わし合い傷を分かち合ったならば我らは盟友となれるだろう!」

「よし、同盟成立な。あと俺らほんと聖杯いらないから。マジでいらないからあんなん。

そこは他の奴らも解っててくれよ?」

「おう!よろしくたのむぜ!いやあ、待ちきれないな!」

 

すごくすがすがしい笑顔で俺たちは自然に近づき、硬く握手をしあった。

 

「嘘だろ……これでうまくいっちゃうのか……?ええー……?そんなのありなのか!?

こいつら正気か!?」

 

イスカンダルのマスターがなんか呆然とした顔をしてるけど、まあ世の中そんなもんなんだよ少年!

 

「それでそちらのうぬらはどうする?対応は応相談だが」

 

ははは、セイバーとランサーがすげえ戸惑ってる。いやー、非常識の側に立って相手の常識ぶんなぐるの面白いな!

こりゃ魔術師のバカ共が調子に乗るのわかるわ。おっとかねて血を恐れたまえ。

 

「貴様ら、正気か……?俺が聖杯を捧げるのは今生にて誓いを交わした新たなる君主ただ一人だけ。断じて貴様ではないぞライダー!!」

 

セイバーが大きくうなずいて同意する。

 

「まったく同感だ!貴様らは聖杯戦争を祭りか何かだと思っていたのか!?不愉快極まる!

そんな戯言を並び立てるために私とランサーの勝負を邪魔立てしたならば、騎士として許しがたい侮辱だ!!」

 

なんかイスカンダルのマスターもうなずいてるけどいいの?うーん、がんばれ常識人ズ。理不尽は多いだろうけど、きっと乗り越えていけるさ。

 

「ふーむ、交渉決裂か。まあ仕方ないわな。そんなものよ」

「ライダーお前なあ!あとバーサーカー達もおかしいぞ!大体……」

 

少年がパニクってる。だいじょうぶ?鎮静剤のむ?

 

「一体何を血迷って私の聖遺物を盗み出したのかと思ってみれば

まさか君自らが聖杯戦争に参加する腹だったとはね。ウェイバー・ベルベット君」

 

なんか声が聞こえてきた。学者っぽい声だなあ。

 

「君については私が特別に課外授業を受け持ってあげようではないか。

魔術師同士が殺しあうという本当の意味。その恐怖と苦痛を余すこと無く教えてあげよう。光栄に思い給え」

 

おう教えてもらおうじゃないか。多分あんたより場数は多いぜ?

 

「おう、魔術師よ!!察するに貴様はこの坊主に成り代わって余のマスターになる腹だったらしいな。だとしたら片腹痛いのぉ。

余のマスターたるべき男は余とともに戦場を馳せる勇者でなければならぬ!!」

 

ここで俺らと肩を組むイスカンダル。はっはっは楽しくなってきたぜ。

 

「彼らのようにな!見よこのマスターなど自ら英霊と渡り合う気だ!

余のマスターにもこの場にいることはできた!

翻って貴様はどうだ?姿を晒す度胸さえ無い臆病者など役者不足も甚だしいぞ!」

 

照れるなイスカンダル!なかなかいい事いうじゃないか!

 

「おいこら!!他にもおるだろうが!!闇に紛れて覗き見しておる連中は!!」

 

あー、そういえばまだ目線感じるな。あっちと、あっちのへんか。

 

「セイバー、それにランサーよ。うぬらの真っ向切っての競い合い。

誠に見事であった!清廉な剣戟に惹かれて我らは出会ったのだ。

そしてベオウルフと雁夜。うぬらもまた真っ向から拳を交わし合っておった。

これもまた魅せられた!たまらぬ血の匂いで誘うものよ。

これほどの戦いがあって出てこないのであればそれは英雄豪傑を名乗るに値せん」

 

ふーむ、腹の底から響く声でほめられると悪い気はしないな!

 

「聖杯に招かれし英霊は今ここに集うがいい!!なおも顔見世を怖じるような臆病者は征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬものと知れ!!」

 

イスカンダルは腕を振り上げて宣言した。

いいね、お祭りムードあるよ。これこのまま終わらせたほうがいいんじゃない?

長引かせても魔術師の馬鹿が出張ってすげえ陰湿になるだけだしさ。

よし、ここは煽りまくって短期決戦で行こう。

 

「おおそうだ出て来いよ!特に時臣!どうせ見てんだろ!?

優雅さとか捨ててかかってこい!俺が俗物の野蛮さを教えてやるよ!

あとそこのなんだ、エルメロイ!魔術師同士の戦い?いいじゃねえか俺の専門分野だ!

時計塔の学者様に喧嘩の作法を教えてやるよ!」

 

おらベオウルフお前もなんか言え!

 

「落ち着けマスター。煽るよりも……これだ。場所はわかってるからな。より取り見取りだぜ」

 

ベオウルフはなんか逆に冷静に拳を構えて歩き出した。よしいいぞそのノリだ!

ん?やばい!なんか飛んでくる!俺たちは素早く跳んで避けた。俺たちのいたところには金ぴかな剣が刺さっている。

 

「我を差し置いて王を称する不埒者が一夜に3匹も湧くとはな、王たる我を待たずに見世物を始めようなどとするわけだ」

 

うわあ、偉そうなやつだな。だがなかなか鍛えてるようだ。なんか街灯の上に立ってるな。

 

「そこまで言うならまずは名乗りをあげたらどうだ?貴様も王たるものならばまさか己の偉名を憚りはすまい」

「問を投げるか、雑種風情が。王たるこの我に向けて。我が拝謁の栄に欲してなおこの面貌を見知らぬと申すならそんな蒙昧は活かしておく価値すら無い!!」

 

うん、啓蒙高いね……それとも思考の次元が低い頭が魔術師野郎か?よし今夜の獲物はお前だ!

首ねじ切って火あぶりにしてやる!

 

「ごちゃごちゃうるせえ!マスター、もういいだろ?!」

「ああ、もういいベオウルフ!やっちまおう!」

 

俺たちはうおーっと雄叫びを上げながら突っ込んでいく。

ベオウルフが飛んで殴りかかり俺が銃で態勢を崩す、金ぴかが避けようと地面に着地した隙に俺が内蔵攻撃をぶちかます。

堅っ!なんだこれ。この鎧ぶち抜けねえ。

 

「ほう、この腑抜けた時代にもまだ貴様のような獣がいたとはな、拝謁を許す。名乗るがいい」

 

バックステップで下がって距離を取る。

 

「間桐雁夜だ。それよりもその鎧いいな。武器も何か持ってるのか?あんたを殺してもそれ残るのか?」

 

俺は爆発金槌と短銃、精霊の抜け殻を装備して構える。

 

「ふん、物欲を隠そうともせんか。貴様、盗賊の類であろう。財を奪うためには持ち主を殺すことも厭わぬ畜生か。疾く死ぬがよい!」

「うるせえ!俺を忘れてんじゃねえぜ!」

 

ベオウルフが金ぴかに蹴りをぶちかましていく。ナイスだ!俺は爆発金槌を点火させて、振りかぶって上からドーン!

よろめいた隙にベオウルフがさらに殴る蹴るだ。よしいいぞ、再点火完了だ!隙を見て・・・・・・はい横からバーン!

あれ、なんか金ぴかがすげえ大げさに吹っ飛んだ。なんで?

ああ、殴られた威力を利用してバックステップしたのか。

 

「おのれ、おのれおのれおのれおのれ!・・・・・・よかろう、力だけは認めよう蛮族共!ならば我もそれらしいやり方でやろう」

 

おお、金ぴかが鎧を脱いだぞ。上半身裸だ。

この戦争、そういうルールなの?本気になったら上着脱ぐの?

 

「食らうが良い!」

 

うおっ、速い。動きのキレが全然違うわ。これは俺も上位者狩りくらいの気合いでいかなきゃな・・・・・・

 

「ライダー!くそっ、どうすれば・・・・・・いや、ここは加勢しなきゃ!いくぞライダ-!」

「うむ、多勢に無勢であるが好機には違いあるまい。そも、そうなったのは奴自身の言動故な。

いくぞマスター!蹂躙である!アラララライ!」

 

おお、騎兵隊の登場か!いいねありがたい!

 

「はあ・・・・・・なんだか気が抜けたが、たしかに好機だ。続きを行おう、セイバー。よろしいでしょうかマスター」

「ああ、そうだな。優雅さの欠片もない蛮族共はもう放っておけ。ここで決めろ、令呪を以て命ずるセイバーを討ち取れ!」

「御意!」

「まったく・・・・・・とんでもないマスターたちだ。だが、私のところよりは・・・・・・すまん、愚痴はやめておこう。いくぞランサー!」

 

おっ、セイバーとランサー組も始めたみたいだな!よしいい流れだ!

 

「うおおおおおおお!!」

 

それは誰の声だったか、いやこの場の全員の声だったかもしれない。

誰ともなく雄叫びをあげてぶん殴り、武器を振り回し、殺し合う。

もはや敵味方ない一体感、この場にいる全員が血に酔っていた。素晴らしいじゃないか。

 

「なに?時臣なんだと?よく聞こえんな!後にしろ!」

「よそ見してるんじゃねえぜ!」

「なにその念話時臣と?じゃあこう言ってやってくれ!こんな楽しい馬鹿騒ぎに参加しないなんて雑魚のやることだぜってな!」

「うわあああもうめちゃくちゃだぁ!」

「ははははマスター!これが戦場というものよ!守ってやる故しかとつかまっておれ!アララライ!」

 

俺たちと征服王は即席にしてはなかなかいいコンビネーションを発揮していた。

前衛はベオウルフ、後衛が俺、攪乱役がイスカンダルだ。

ベオウルフが金ぴかと殴り合って足止めし、俺が隙を見て金槌でぶん殴っては後退、

ヤバいのが来そうになったらイスカンダルが戦車で突撃して仕切り直しにする。

 

「ぬ、うううう・・・・・・おのれおのれおのれおのれぇ!」

 

じわじわと戦況は俺たちが押していた。ランサーたちも決着がつきそうだ。

おっ、戦い方変えてきたな。なんか剣を山ほど撃ってきたぞ。大技が来るのか・・・・・・?

セイバーも自分についた傷の呪いを自分で自分の肉をえぐって無理くり腕を動かせるようにしてるよ、ヤバいなあの姫騎士。

 

「セイバーそっ首もらったぞ!」

「負ける、わけには・・・・・・!」

 

そしてセイバーとアーチャー、二人の持つ剣が正体を現した。

なんだあれヤバっ。月光剣並の神秘じゃねえか。

 

「エクス・・・・・・カリバー!」

「エヌマ、エリシュ!」

 

戦場に、二つの光が放たれた。

金ぴかとセイバーの剣からなんかビームみたいなのが出てきたんだ。

とんでもない威力だったよ。

 

「あー、クソ! 悪いな、先いくわ…」

「ここまでか……マスター、どうか……」

 

ベオウルフは俺たちをかばって金ぴかを押さえ込んでくれた。

ランサーはなんか普通にビームで消し飛ばされた。

 

「ったく約束もあったってのによ・・・・・・だがまあ楽しかったぜ!また呼べよな!」

「・・・・・・だが、満足だ。ようやく騎士として尋常な戦いができた。感謝する」

 

ベオウルフとランサーが消えていく。うーん・・・・・・まあ仕方ないね!満足したんならまあいいか!

俺はベオウルフにサムズアップしていい笑顔で別れることにした。

おっ、見えたみたいだな。ははは、サムズアップ返してくれたわ。

 

「なんだと時臣さっきからやかましいぞ!

退け!?退けと!やかましい疲れておらぬわ絶好調だたわけ!

・・・・・・ぬううううう、本当に、本当に大きく出たな時臣」

 

ふーむ、たしかに切りはいいし、あの大技を初見で何発もぶっぱされたらやばいな。

っていうか時臣あんな大技使わせちゃって大丈夫?枯れ木になってない?

 

「はあ・・・・・・命拾いしたな蛮族共、次までに有象無象を間引いておけ。我と見えるのは真の英雄のみで良い」

 

金ぴかはなんかため息吐くとスゲエ疲れた顔して飛行機的なもんに乗って帰って行った。よし、これでいい。

そういえば結局あいつ名前なんていうんだろ?まあいいか。

 

「ふむ、それでどうするセイバー。余としては切りも良いしここらでお開きといこうではないか」

「・・・・・・わかりました。たしかにこちらとしても連戦は歓迎できない。申し出を受けよう」

 

セイバーも車に乗って帰って行く。そういやあの銀髪ねーちゃんは誰なんだろ。アインツベルンの人?

俺は輸血液と鎮静剤をがぶのみして回復しながらぼんやり眺めてた。あー癒やされるわー。

 

「よーし帰るかー。おつかれイスカンダル。あんたらはどうする?」

「えっ、あんたサーヴァントがやられたのにまだやる気なのか?」

「やるよ。そもそも聖杯とかどうでもよくって時臣殴りに来ただけだし。あとついでにあいつの家って宝石ため込んでるんだよね」

「ええ・・・・・・」

 

まあ引くか、引いちゃうよね。しょうがないな、もう一つの本音も言っておこう。

 

「まあそれだけじゃなくってさ。ほら魔術師がこんなんしたら一般人にすげえ被害でるじゃん?それは止めたいしね。

あと聖杯ってなんでも願いが叶うアイテムだろ?ああいうのってだいたい暴走すんだよ。だからそれも止めに来た」

 

おっ、難しい顔してたイスカンダルがうなずいてる。交渉成功か?

 

「なるほど、それでカリヤはあそこまで煽っておったのだな。一夜で勝負がつけばそれだけ被害も少なくなると。

たしかにどちらも嘘偽りではないようだな。略奪する蛮族でありながら、無辜の民を守る勇者でもある。

ふむ、カリヤよ。同盟はまだ継続で良いのだな?」

 

イスカンダルは手を差し出してきた。俺はそれを取って固く握手する。

 

「ああ、あんたらさえ良ければね。まあまだチャンスはあるし役にも立てるんじゃないかな」

「そう卑下するな。先の言葉と腕前、どちらも確かなものだ。

うぬは間違いなくこの時代の勇者よ。友として迎えるに値する。

それにまあ、うちのマスターはこんな感じだしな!少し揉んでやってくれ!」

「オッケー、じゃあそれで行こう。それで泊まる場所ある?うちくる?」

 

ウェイバーは少し悩んで覚悟を決めたように言った。

 

「いや、こっちの拠点に来てもらう。ライダーはああ言うけど、僕はまだあなたを信用したわけじゃない」

「いいよ?荷物とってくるわ」

 

やれやれ楽しい夜だったな。ちょっと疲れちゃったよ。

 

 

結局いろいろあってウェイバーたちは俺のアジトに泊まることになった。

いやだって、暗示で一般人の家にもぐりこむってお前・・・・・・まあ、久々に俺はキレて粛々と説教したよ。

わかってる、魔術師には言っても意味ない事なんてな。でもまあイスカンダルもいるだろ?

最終的には俺のアジトにもゲームあるよ?って一言で流れが決まった。

 

倉庫街とはまた別の場所だが、似たような人通りの少ないさびれた場所だ。

そこにキャンピングトレーラー三台を連結しておいてあるんだ。便利だよ?

 

「さてと、どうしようかな・・・・・・ウェイバー君、今日か明日もうちょっとがんばれそう?」

「えっ、どういうことだ?まだ何かするのか!?」

「いや君が見返したかったケイネス先生だっけ?もう帰っちゃうんじゃないかな。殴りに行くならつきあうけど?」

「あっ、そうか。サーヴァントがいなくなったから・・・・・・いや、でも、うーん・・・・・・」

 

殴りたいけど、疲れすぎてる感じだな。あるいは、負けたやつに鞭打つまねはしたくないってところか。

・・・・・・やっぱ君わりとまともだわ。こんな業界から足を洗ってまともに生きたら?と思うけどまあいいか言わないでおこう。

 

「あー、なんか疲れてるみたいだし無理しなくてもいいよ。多分さっき負けてそれで今日すぐに帰るって事もないだろうしね」

 

わあ、ウェイバー君すげえ顔してるよ。まあこの年頃はおっさんに説教されたら反発するわな。

 

「つ、疲れてない!ぜんぜん元気だ!」

 

おっ、なんか言ってくれるのかイスカンダル。

 

「まあそう焦るな小僧。飛行機というやつは今夜は出発せんのだろう?

それに拠点を引き払うにはいろいろと手間がかかるはずだ。今夜は疲れを癒やした方がよかろう」

 

言い方やさしいなあ。できた人だ・・・・・・伝承だとこの人酒癖すげえ悪いんじゃなかったっけ?

まあ、世界征服してたらいらつきもするからな。今とは状況が違うんだろう。

 

「ライダーまで・・・・・・うぐぐ」

「なあに、明日の朝一番で突撃に行けば良い!それまで体を休めるのも重要な役割よ!カリヤもつきあってくれるな?」

「ああ、魔術師の工房は面白いからね。いやー腕が鳴るなダンジョン攻略とか」

 

ウェイバーは肩を落としてため息をついてしまった。

 

「なんであんたの方がライダーに信用されてるんだよ・・・・・・一体何があったらそんな風になるんだよ・・・・・・」

「おっそれは聞きたいのう!実力は見たが相当な場数を踏んでおる。それなりに武勇伝もあるのではないか?」

 

うーん、俺の武勇伝ね・・・・・・まあ、いろいろあるけどさ。でもだいたいろくでもない話ばっかりなんだよな。

普通に話してたら気が滅入りそうだ。うーむ、そうだ。

 

「ああいいよ。ただえげつない話ばっかりだからゲームしながら話そう。大戦略、いったん中断してくれるか?おすすめがあるんだよ」

「ふむ、大戦略の続きが気になるが・・・・・・まあいい、カリヤのおすすめとやらをしながら聞こうではないか。で、ゲームは?」

「アーマードコアっていうんだけど対戦要素もあってね・・・・・・あ、説明書読んでくれる?」

「うむ、ほほう。ロボットを改造して戦うのか、ふむこれは実に男らしくて良いな」

「わかる?さーて何から話したもんかなー」

 

俺はぽつぽつと話し始めた。クソジジイのこと、時臣や葵さんのこと。それから羽生蛇村のこと、ヤーナムのこと、サイレントヒルのこと・・・・・・

 

「で、狩人になった俺は過去の清算のためにクソ親父をぶっ殺しましたとさ。めでたしめでたくもなし」

 

あれ!?何このお通夜ムード!いや、アーマードコアやってれば体は闘争を求めるはずなんだけどな!

 

「おぬし・・・・・・苦労したんだのう・・・・・・」

「そんな、魔術師の世界って、そんな・・・・・・」

 

だから言ったじゃん!えげつない話だって!ウェイバー君とか啓蒙がっつり上がっちゃった顔してるし!

でもそんなもんだよー?魔術師なんて。

 

「いやまあ、そんな聞いてる方が落ち込まなくってもさ。俺は俺で今はエンジョイしてるし?大丈夫だよ。

ただまあウェイバー君には夢を壊すようで悪かったけどね。でもそんなもんだよ現場は。引き返せるうちに足を洗う事をおすすめするね」

 

ウエイバー君はうつむいた顔を上げた。おっ、いい目してるじゃん。覚悟決まった?

 

「僕は、僕は決めた。魔術師がそんななんて認めない。僕が変えてみせる!

そのためなら、僕はどこまでも戦うぞ!この、ゲームの主人公みたいに!つきあってくれるかライダー、いやイスカンダル!」

「うむ、受肉したからには世界を征する意思には変わりない。だが、征服すべきものがまた一つ増えたようだ」

 

あー・・・・・・なんか変な方向に走ってるな。でもまあいいか!楽しそうだし!

 

「おうがんばってくれ。その時は適当に顔出しに行くよ。さあ寝ようぜ!」

「うむ、明日の時計塔の魔術師を倒す戦いはその第一歩だ!備えるぞ」

「ああ!」

 

何かが盛大に変な方向に舵を切った予感がしたが、上位者が来まくってる時点で今更だろう、と俺は眠りに入りながら思った。

 



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第四話「深き冬木ハイアットホテル・深度3」

朝5時。うーむなんかよく寝たな!久々に狩人の夢を見た気がするよ。

ウェイバー君やイスカンダルと聖杯ダンジョン攻略してたな。

そういえばベオウルフにも会ったな。ゲールマンと戦った場所で全力で戦った気がする。

たしかその時に宝具を渡してくれて・・・・・・そうそう、こんな感じの赤黒い剣でさ。

 

「夢だけど、夢じゃなかったよ・・・・・・」

 

赤原猟犬?だっけ。敵を追跡したり血のにおいを追ったりする剣。

オートで最適な斬撃を食らわすアシスト付き。

便利だよなー。ありがとうベオウルフ。

 

「うわああああ夢じゃなかったあああ!!」

「うーむ、これがヤーナムの神秘か・・・・・・やはり世界は広いのう!」

 

隣のウェイバー君達の部屋からも声が聞こえた。

 

「おっす、おはよう。いやーなんか妙なことになってたな!

夢の中でも狩人ってやつだ。マジェスティック!」

 

パジャマ姿のウェイバーくんとTシャツ一枚のイスカンダルが布団から起きて呆然と仕掛け武器を手に取ってる。

お、ウェイバー君は仕込み杖か。獣狩りの斧渡したけど最終的にそれになったんだよな。

イスカンダルは獣肉絶ちか。うむ似合う似合う。

 

「こ、これは一体どういうことなんだよ!こんなのありうるのか!?」

「落ち着こう。肉体はこっちで寝てたはずだから体は疲れてないと思うよ。

まあ精神とかはヤバいかもだけど。どういうことも何も、狩人ってこういうものよ」

 

イスカンダルは室内でぶんぶん獣肉絶ちを振り回してる。変形はさせないでくれよ。

 

「うむ、確かに疲れは残っておらん。その上レベルアップ?だったか。強くなった分はそのままだ。すごいなヤーナムの聖杯とは!」

「でしょ?便利だよね。だんだんなんのためにダンジョン潜ってるのかわかんなくなるけど。

冬木のはこういうのできないみたいだから残念だよね」

 

ウェイバー君は鎮静剤飲んでからため息ついて、顔を上げたら狩人になってた。

 

「僕は狩人になってしまったのか?ひょっとして、上位者ってやつに見つかって?」

「多分ね。ほらアメンドーズって基本、人間を観察してるし、気まぐれに悪夢に投げ込むからさ。

俺の話を聞いて変な風に縁とかパスがつながっちゃってこうなったんじゃないかな?

いやー若干申し訳ない」

 

ふーむ、としばらく考えるウェイバー君。おお、なんか冷静だ。大分たくましくなったねえ。

 

「いや、あんたを責めても仕方ない。獣になるリスクはあるけど、今現在だけ考えれば悪いことはないんだ。

大幅に強くなったのは事実だし、あっちで手に入れた礼装も取り出せる。

・・・・・・いこう。ケイネス先生に会うんだ。なんだか、遠い夢のようだけど、僕の原点でもあるから」

 

イスカンダルも獣肉絶ちをしまって大きくうなずいた。

 

「うむ、成長したなウェイバー・ベルベット。もう小僧とは呼べん。余と共に轡を並べる友である!いや、マスターと呼ばねばならんな」

「いや、違う。貴方こそ僕の王だ。あの夢が本当にあった事なら・・・・・・いやそれもどうでもいい。

また誓おう。僕はあなたに仕える!あなたと同じ夢を見させてくれ!」

 

ウェイバーは狩人のスキルで早着替えをして拝謁のポーズをとってひざまずく。

墓暴き装束かー、学徒の方が似合いそうなのにな。

イスカンダルも英霊的なスキルで正装に着替えて王の返礼をする。

おっ、なんか取り出して渡したぞ。

いつも装備してるキュプリオトの短剣の一般兵モデル?スパタってやつ?

 

「うむ、よかろう。ウェイバー・ベルベット、貴様を我が臣として認める!

夢を示すは王たる余の勤め。そして王の示した夢を後世に語り継ぐのが臣たる貴様の勤めである!

故に生き延びよウェイバー。生きて見届け、語り継ぐのだ」

「御心のままに・・・・・・!」

 

うーむ、思わず座って見入っちゃったよ。すごいな英雄のカリスマって。

っていうか若いっていいねえ。青春だよ・・・・・・え、おじさん?おじさんはほら、もういろんなものに幻滅してるからさ。

 

「ん、ごほん」

「おお、カリヤ。貴様を忘れていたわけではないのだ。

トゥメルで貴様の本当の狩りを見たぞ!

素晴らしいな。余の臣下に・・・・・・ならんわな、狩人とはそういうものだ。

昨日のゲームであったレイブンだったか?貴様はああいうものなのだろう。

鴉は自由に空を飛んでこそだ、籠の中に入れるものではないのだろう」

 

まー狩人もレイブンもそういう生き方できるのは強いやつだけだけどね。

あいつらだいたい組織人だし。

でも、それは一つの理想だ。俺に残ったごくわずかな理想の欠片なんだろう。

いかんな俺もなんだかセンチになってるよ。

 

「ああまあ、そうだよ。俺はそういう奴なんだ。でも今は仲間には違いないさ。

生きて帰れたら友達にだってなれるだろう。ま、そういうわけで飯を食おう!食ったら戦争だ!」

「おう!」

「ああ・・・・・・!」

 

俺たちは簡単な朝飯を食って、冬木ハイアットホテルに向かった。

 

朝の6時、冬木に馬鹿共が戦車でやってくる。

 

 

ダンジョン攻略は一般人が寝静まっている早朝に済ませなければならない。

俺たちはケイネスが泊まっているフロアの一個上から階段を使って攻略を始めた。

 

「また貴様らか!今何時だと思っているのかね!?敗者に鞭打ちに来るとはいい度胸だ。

これは誅伐である!楽に死ねると思うなよ・・・・・・!」

 

ダンジョンに踏み入った時にケイネスの声が聞こえた。

うわーめっちゃ怒ってる。まあそりゃそうか。

 

「いや、消化不良だろあんたも?こんないい工房用意したのにさ。

せっかくの馬鹿祭りなんだ。あんたも参加していけよ。案外すっきりするぞ」

 

あ、なんか笑ってる。啓蒙上がった?上がっちゃった?

 

「くくく・・・・・・君は間桐の魔術師だったか。いいだろう!存分に楽しんでいくがいい!格の違いという奴を見せてやろう」

 

そうして朝っぱらからダンジョン攻略が始まった。

いやーものすごく大変だったよ。陰湿な罠が沢山あったしさ。

でもまあ、深度5のダンジョンを制覇した俺たちを殺しきることはできなかった。

あとなんか爆薬が沢山しかけてあったからそれも使わせてもらったしな。補給アイテムがあるなんて親切なダンジョンだ。

 

モンスターをぶったおし、罠をかいくぐり、ギミックを解き明かし、時には戦車で蹂躙しながら。

俺たちはとうとうケイネスの元にたどり着いた。

あれ?なんか赤髪のねーちゃんがいるけどなんで?へー婚約者?そうなのかー、いいとこ見せたいの?ふーん・・・・・・

 

「なんという・・・・・・なんという者達だ。さすがは英霊、そしてこんな島国にも貴様のような達人がいるとはな・・・・・・

だがウェイバー、貴様は一体何をした?何故そこまで急に強くなった・・・・・・!?」

 

墓暴き装束に仕込み杖、スパタ装備のウェイバーはすっかり鋭くなった目つきでまっすぐにケイネスを見る。

 

「反則かもしれないけど、僕は地獄を見てきました、魔道の果てといえるものを。もう、以前の僕じゃないんだ。

彼らに守られ、鍛えられて僕はこうなった。さあ、決着をつけましょう、先生」

「よかろう。君もそれなりの経験を積んだようだが、付け焼き刃でどうにもならない才能の壁という奴を教えてやる」

 

そうして戦いが始まった。俺とイスカンダルは手出しをしない。これはウェイバーの戦いだからだ。

水銀のスライムをメインに様々な礼装を使って戦うケイネスはそれはもう強かった。

だがあの地獄をくぐり抜けたウェイバーはもっとやばかった。

 

「くっ、私がなぜ、なぜだ!」

 

ウェイバー君、ローコストな技がすごく得意なんだよね。

誰にでも使いやすくてその上、出が早くて無駄が無いやつ。

そういうのをいっぱい開発してたから技の引き出しで負けてない。

あと戦いのセンスはあんまりないけど、生存能力に長けてる。

見た目からは分からないくらいタフで素早い。

回避が上手いのはいい狩人に必要なことの一つだ。

 

「馬鹿な、この私が負けるというか・・・・・・」

「チェックメイトです、先生」

 

そして、しばらくして決着はついた。ウェイバーがうずくまるケイネスの鼻先に杖を突きつけている。

 

「認めん、認められるか・・・・・・!」

 

おっ、そろそろ動くかな。俺はイスカンダルにいくつか耳打ちして作戦を伝えた。イスカンダルは念話でウェイバーに伝えるだろう。

 

「おっと、決着はついたのだ。それ以上ごねるというならば我々が相手となろう」

 

魔術を使おうとしたケイネスの腕をイスカンダルがねじり上げる。ひでえ悲鳴だ。

 

「まあそういうことだね。なんだっけ?楽に死ねると思うな?とか言ってたよね。

それだけの事をする気でいたんだろ?じゃあ自分がそうされても文句は言えないよな?」

 

ケイネスの礼装を奪って放り出し、俺とイスカンダルは部屋にある礼装を片っ端から奪っていく。

戦車に乗せたり狩人的スキルで収納したり。

 

「な、何をする!」

「何ってお前、負けたのだろう?ならば待っていることは一つだ。略奪させてもらう。

ああ、別に刃向かってもいいぞ?拾った命が惜しくないならな」

「いやー悪いねはっはっは。さすが時計塔、いいもの使ってるなあ」

 

いろいろ略奪しながら俺はいくつかのアイテムを置いていく。よしこんなもんだろう。

 

「む?女か。まあ戦場のならいだな。こいつも持って行くぞ」

「きゃあ!ケイネス!なんとかしてよ!」

 

ケイネスの婚約者って女の腕をイスカンダルがつかむ。

俺も自然に近づいていくつかの魔術とかそういうのをかけておく。

 

「ほー、いい血筋みたいだね。人買いに売ったらいい値がつくぞ!

まあ、あいつら最終的に生け贄か苗床にしちゃうんだろうけど」

 

さーっとケイネスの顔が青ざめていく。

よし、目線が合ったな、ウェイバーが教えてくれてよかったよ。催眠術のたぐい。

 

「やめろ!やめてくれ!物はいくらもっていってもいい!だが彼女だけは!」

「はっはっは。その人買いから奴隷を買ってるのは君たち魔術師だぜ?

あんただってその片棒担いだことくらいあるだろ。

自分の番が回ってきたらこれか。情けないなあ!根性見せてみろよ!」

 

すがりつくケイネスを俺はめっちゃ手加減して蹴っておく。

 

「くそっ・・・・・・彼女を返せえええ!」

 

ケイネスが素手で殴りかかってくる。俺は適当に避けたりボコる。

この後のことがあるので顔はできるだけやめておくが、あっというまに血まみれ痣まみれになって倒れるケイネス。それでもケイネスはあきらめず俺たちにかかってくる。

 

「返せ!返してくれ!一目惚れだったんだ!本当に愛してるんだ!

初めて会った時からずっと好きで!でも君はまったく応えてくれなくて!

だから、私は、君にいいところを見せたくて・・・・・・!なんで、こんな事に・・・・・・

すまない、ソラウ・・・・・・!う、ううう・・・・・・」

「ほー、そんなに大事な女だったのか?」

 

イスカンダルがわざとらしく顎髭を撫でながら尋ねる。続けて俺もわざとらしく言う。

 

「ならどうすればいいか分かるかい?人一人。その価値を埋めるにはもう一つしか無いんじゃないかい?」

 

いやーこういう演技も悪くないもんだね!

ケイネスは少し困惑していたがやがてはっとして俺たちを見た。

 

「き、君たちの目的は金か!?なら私を奴隷にすればいい!

ソラウは、彼女だけは助けてやってくれ!

私だって金持ちなんだ。ソラウを浚うより私の財産を奪った方が得だ!」

 

おっ、ソラウさんがなんか泣いてるよ?よしあと一押しだな。

 

「どうしようかなー?そうだ本人に聞こうぜ!どうなのソラウさん?」

 

俺とイスカンダルは目配せしあってソラウを床に下ろす。

 

「やめて!やめてケイネス・・・・・・!私が馬鹿だったわ。所詮政略結婚だと思って・・・・・・

恋をしてみたかったからランサーの魔術にかかって!でも、結局愛される事はなくて。

でも、本当に私を愛してくれる人はここにいたのに・・・・・・!

最後に抱きしめてケイネス。その思い出だけで私は生きていける・・・・・・!」

「ソラウ!ああ私たちはなんという愚か者だったのだ・・・・・・ああ・・・・・・」

 

よしOKだ!俺たちは目配せしあってそっと戦車を発進させていく。

おっと、こいつを置いておこう。まあちょっとしたメモだよ。

内容はこんな感じ。

 

「『領収書』

 

商品名:真実の愛

代金:冬木にもってきた礼装全部

 

追記:返品には応じません。なお、後で報復に来た場合は今度こそあなたの全部を持って行きますのでご留意ください。

 

間桐雁夜」

 

イスカンダルもなんか書いてるな。何々?おっ、ウェイバーも書き足してる。

 

「『辞令』

 

もうなんか二人とも余の奴隷でいいな?ならば王として命ずる。

人としてまっとうに幸せになれ。民草を踏みにじるならば貴様らも踏みにじられると知れ。

別命あるまで祖国に帰っておとなしくしていろ!せいぜい幸せにな!

 

貴様らの王イスカンダル

 

今までお世話になりました。こんな狼藉を働いてすいません。

僕はかつてあなたに認められたかった。でも、もう僕は大丈夫です。

どうかお幸せに。

 

およびその臣下のウェイバー・ベルベット」

 

俺たちは窓を開けて戦車を呼んで夜明けの空を征く。

なんだかさわやかな気分だ。

誰にともなく笑い出す。俺たちはしばらく馬鹿笑いした後、肩をたたき合ってねぎらう。

 

「いやー、面白かったなあ!俺だってほら、たまにはいいこともするんだよ?」

「はっはっは。あの策を聞いたときはまさかと思ったがな。存外うまくいくものよ。

うむ、善行をしたら気分が良いな!」

「なんか勝負に勝って試合に負けた気分だ・・・・・・でも、なんだかすっきりした」

 

俺たちはアジトに帰って昼飯を食った後、爆睡した。

 



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第五話「爪痕と左回りの変態」

結構長いです。12000字くらい。

『爪痕』のカレル

「獣」のカレル文字が人のうちにあるおぞましい本質ならば、
「爪痕」はその気付きの、逃れ得ぬ誘惑の痕跡、だそうな。


おっ?教会から花火上がってる。なにこれ。えーっとルールブックルールブック・・・・・・

えー、一時停戦とジャッジによるお知らせの合図?ふーん・・・・・・集まって来いってことか。

どうするよウェイバー。

 

「行こう。もしかしたら他の陣営も来るかもしれない。

こっちはすでに手札を見せてるんだからこれはチャンスだ。

それに教会も遠坂と組んでいるんだろ?なら敵情視察ができるチャンスは生かした方がいい」

「うむ、ウェイバーも大分成長してきたのう。しかしいまいちリアクションが普通になってしまったかもしれんわな」

「それは残念がる所ですか王よ!?」

 

うん、根っこは面白いまんまでちょっと安心したわ。

あんまり急に成長すると発狂フラグ立つからね。

 

「じゃ、行こうか。なんだろうなー。一応戦闘用意はしとこうな」

「もちろんだ」

 

仕込み武器を隠してのこのこ教会に向かう俺ら。いやー狩り装束だと目立つな!

私服なのがいつでも正装になれるイスカンダルだけってどうなのよ。

 

「ようこそ、教会へ。まさかマスター本人が来られるとは・・・・・・

そちらの間桐のご子息はリタイアを選ぶわけではないのかね?」

「令呪が残ってる限り参加権はあるんだろ?だからやるよ。

まあ気にしないでくれ。で、話って?」

「うむ、実は・・・・・・」

 

ほー、殺人鬼がマスターになっちゃって?サーヴァントもイカレポンチで?

女子供を浚っては殺してる?へー・・・・・・

あんまりにもあれだから殺したらお礼に令呪くれるって?ほうほう。

サーヴァント召還ガチャのほうがいいんだけどなー。

 

「オッケーいいよ。俺そもそもそういうのをぶん殴りたくって参加したんだし。

ウェイバー達はどうする?」

 

ふりかえって見てみると決意に満ちた目が二つ。

 

「やるに決まってるだろ。こんなの放置しておけない」

「うむ!その手の外道を退治せずして何が王か!何が英雄か!

遠慮無くぶん殴れる悪党がいてよかったわい」

 

うんいい返事だ。いいね、そういうノリは大事だよ。

 

「ってわけで俺たちは停戦と討伐に参加するから。

ところでさっきからこっちをねっちょりした目線で見てる神父さん誰?息子さん?

なんか言いたそうにしてるし話していい?話すね。

あっ、ウェイバーちょっと行ってくるわ。イスカンダルも待っててくれ」

 

俺はさっと目線を送る。近づいて内緒話しようぜ!という奴だ。

イスカンダルが横にきてささやく。

 

「おう、どうしたのだ?」

「いやあれ教会のマスターじゃない?探りを入れてこようと思ってさ」

「しかしいささか唐突ではないか?」

「いやー・・・・・・なんかああいう鬱屈した目の奴ってだいたい近々やらかすタイプなんだよね。

ほらよく見てみろよ。ヤバいよ?いるじゃんああいう奴」

「ふむ・・・・・・あー、あれはいかんな。わけのわからん悩みにとりつかれて反乱起こす兵の目だ。

相当追い詰められてるようだな。ああいうのは何をするかわからん。なるほど探りを入れておくに越したことはない」

「だろ?ああいうのって複数で行くとだいたい猫かぶるしさ。

まあ、何かあったらカチこんで来てくれ」

「ああ、気をつけろよ」

 

俺たちはさっと密談を済ませると神父のおっさんを適当にあしらって教会のマスター、えっとキレイくん?だったか。

まあそいつの所に行く。おお、この教会内装けっこういいね・・・・・・

 

 

「おっすキレイくん。さっきから何かちらちら俺見てたけど何?なんか悩みでもあんの?

話聞くよ?ああ、大丈夫大丈夫。ちゃんと内緒にするからさ」

 

キレイくんはちょっと驚いた様子でしばらく黙っていた。それから悩んだ様子をしてた。

こいつリアクションがオーバーだな!

 

「・・・・・・間桐雁夜か?ならば聞かねばらない。貴様はなぜそんな目ができる?

貴様の経歴を見た。過酷としか言い様がない。

心に何らかの歪みなり空虚なりがなければおかしい。

だがなぜ貴様はそこまで楽しそうにしている?

その経験で何の答えを得た?それは貴様がそんな風に生きれるものなのか?」

 

ふーむ、重傷だな。えっとこいつの経歴どんなんだったか。

聖堂教会でバリバリの代行者してて何年か前に奥さんと死別、娘さんと別居。

評判はやたらストイックで自分をいじめ抜くタイプ、すごく信仰心が強いだったか。

うわあ、さらっと見ただけでこじれてるのがわかる経歴だよ・・・・・・

 

「あんたの経歴もさらっと見たけどあんただって十分こじれそうな経歴だけどな。

そりゃ俺が楽しそうに見えても仕方ないわ。あんた楽しいどころじゃないんだろ」

 

でもこの手合いはすぱっと悩みを解決してくれるようなすごい答え期待してるもんなんだよなー。

一般論で言っても俺の悩みは違うんだ!って言うし。だいたい普通の悩みなのにさ・・・・・・

 

「っていうか俺にも分かるように、一から隠さずに話してみろよ。

なんか隠してて答えを教えてくれって言われてもそりゃわからんわ。

あんたみたいなタイプが隠す事って言ったらあれか。恥か。聖職者の恥っていったら・・・・・・

特殊性癖?あとは感性が人と違うとか?」

 

おっ、すげえリアクション。こいつほぼ無言ですごいオーバーな身振りするな!顔芸がすごいわ。

どうもビンゴみたいだな。

 

「ほら言ってみろよ。別に引かないから。どーせ今後何度も会う仲でもないんだしさ。

旅の恥はかきすて、みたいなもんで遠慮すんな。職業柄、頭おかしい奴も変態のたぐいも飽きるほど見てるからいちいち気にしないって」

 

あ、震えてる震えてる。これはキレるな・・・・・・

 

「私は変態ではない!断じて違う!そんな低俗なものでは・・・・・・!」

 

頭抱えちゃったよ。めんどくせえー。こいつ絶対ナルシストだ。

自己評価すげえ高いタイプ。しかも自覚して無くって表向きは自分は異常者だの劣った人間だのいうくせに自分の悩みがすべてって奴だ。

 

「違うって言うならちゃんと説明してくれよ。

悩み事あるんだろ?何かやらかしそうなくらい追い詰められてるんだろ?

なんかそれではっちゃけられても寝覚めが悪いからちゃんと言えって。何に悩んでんの?」

 

とりあえず椅子に座らせる。

しょうがねえなー。こういういうのは優しく聞かないと絶対本音言わないんだよ。

甘えんな。まあ苦しくってなりふりかまっていられないんだろうけどさ。

 

「私は・・・・・・昔から感性が人と違った。

人が美しいと思えるものが美しいと思えなかった。

すばらしいということがまるでそう感じなかった。

なにをしても喜びも満足も・・・・・・そう、貴様の言う楽しいという感情を感じられなかった!

妻が死んでさえ、心が動くことがなかった。

私はどうすればいい?どうすれば喜びを得ることが出来る!?」

 

・・・・・・ただの障害と鬱じゃん。病院行けよ。

なんでこうなるまで誰も病院につっこまなかったんだ。

あ、こいつ家が教会だし、知り合いは魔術師か聖職者しかいねえのか。

しかしまいったな。ここで正直に病院に行け、って言っても絶対行かないんだよこういう奴。

俺の悩みはすごい!これはただの病気じゃない!って思ってるから。あとオカルトにかぶれてるから医者を信用してない。治るはず無いとか思い込んでる感じだ。

 

「ふーん・・・・・・まあだいたいわかったよ。

あんたがどんな状態にあるのかもね。今どうしたら良くなるか考えてる」

「わかるのか・・・・・・!?貴様は答えを知っているのか!」

「言ったじゃんそういう人たち山ほど見てるって」

 

どうすっかなーどう言えば納得してくれるかな。

とりあえずこいつの経歴から言い方考えてみるか。

 

「俺はあんたが答えっていってるものをなんとなく分かってるけどさ。

あんたが納得して理解できるように言うためにはあんたのことを知らなきゃいけない。

だから今からいくつか質問するね。いいかい?」

「ああ・・・・・・早く教えてくれ」

 

さーてこいつの症状はどんな感じかな・・・・・・

特殊性癖に反応してたから多分そのへんなんだろうけど。

くそっ、なんで俺が中野の古本屋の真似事をしなきゃいけないんだ。

 

「まずこのこと誰かに話した?家族とかは?」

「いいや、誰にも話していない。父は高潔な人だ。何不自由なく私を育ててくれた。

その私が期待にまったく添えていないなどどうして言えようか」

 

誰にもってのは嘘っぽいな。だけど家族に話してないのはマジらしい。

うーん・・・・・・誰だろ。風俗嬢とか?あとは話せないっていたったら仕事関係か。

ぶったおしたバケモノとか?いや今の状況だと・・・・・・ああ、時臣のサーヴァントがいるわ。

あいつ鋭いしな。多分なんとなくわかったんだろうな。

 

「ふーん・・・・・・仕事はどうよ。今までどんな感じでやってきた?」

「一心に求道してきた。体を鍛え、痛めつければ、あるいは修行をして心を清くすれば何かがつかめるかと自分をいじめ抜いてきたが何も得られなかった」

 

ふーむ、でもなんだかんだで結構やりきってるんだよねこいつ。

出世できてこんなマッチョになるくらいには。

マゾかホモか?いや、マゾなら多分修行中に目覚めてるだろうし・・・・・・ホモか?

 

「なるほど・・・・・・ところで鍛えた男の体とかどう思う?」

「贅肉のない体は節制の証だろう」

「ふーむ。少年、といって思いつくことは?」

「一般的には夢のあふれる年頃だろう」

 

ふーむ・・・・・・表情とかの変化を見るにやっぱホモか?でも奥さん取ってるんだよな。

そっちでも攻めてみるか。

 

「ふーむ、少しづつ分かってきた。

ちょっと話にくいかもだけど奥さんのことについて聞いていい?」

「・・・・・・あまり話したくはないが、答えをくれるというならば話そう」

 

ふむ、表情にかなり変化があったな。こいつにとって奥さんは大きな存在だったのか。

 

「なんで結婚した?神父なら一生独身でもアリだろう?」

「家庭をもち、子をなすことは男子のつとめだ。家をないがしろにするわけにはいかない」

 

嫌なこと言うな・・・・・・でもそう思うからにはこいつ結構親父さん尊敬してるんだな。

たぶんその価値観も。善や道理を重んじながら、教義のためには人殺しもする。それがいいことだと思ってんだなこいつ。

でもそれは表向きで、内面ではなんにも楽しくないから鬱になってる。楽しくなるためにはなんでもするくらいには追い詰められてる、か。

 

「ふむ、じゃあなんでその奥さんを選んだの?基準とかあった?」

「妻は病で余命幾ばくも無く・・・・・・それで・・・・・・わからない。哀れに思ったのかもしれない。

儚げな姿に魅力を感じたのかもしれない・・・・・・

これは本当に必要なことなのか?あまり思い出したくない。

私は彼女を幸せにはできなかった」

 

ヒット。このへんがこいつの障害がさらにこじれたトラウマだ。

余命幾ばくも無い儚げな姿が良かった、ってことだよな。

ふーむ・・・・・・なんとなくつかめてきた。あとは確証が欲しいな。

 

「でも愛してたんだろ?」

「違う!私は彼女を愛せなかった。

言っただろう!喜びも楽しみも無いと!それで苦しんでいると!

愛とは喜びだ。そのはずだ。もっとも尊い感情のはずだ!だが、私は・・・・・・」

 

じゃあゲスい感情は感じてたんだ。なるほどな。

でもこいつの倫理観から言えば妻は愛するもの、とか思ってただろう。

 

「愛したかったのに、愛せなかった?」

「そうだ!何故分かる!?」

 

立ち上がってうーうー言い出したよ・・・・・・

こいつ正直じゃねえなー。っていうかいろいろ自覚してないっぽいな。

しょうがねえケイネスに使った催眠またやるか。正直に本音話せる奴。

 

「よしそれだ!あんたその件で余計にこじれてるんだよ。おら言ってみろ愚痴とか本音とか!

そこを解きほぐさないと喜びもなにもあったもんじゃねえんだよ!

病で苦しんでる奥さんを見てどうだったよ?」

「そ、それは・・・・・・それは!違う!私はそんなこと感じていない!

違う!私はそんな悪魔のような人間では無い!」

 

よしこれだ!多分苦しんでる奥さん見てこいつ楽しかったんだわ。あるいは病気で自分に当たる奥さんにムカついたか。

 

「むかついたのか?」

「いや、違う・・・・・・病で苦しんでいる人間を見て怒りを覚えるなどあってはならない」

「奥さんはあんたを責めたか?」

「妻はそんな女ではない!私を、常に愛してくれて・・・・・・いつも感謝を・・・・・・」

 

よしここで確認だ。

 

「よしあんたはそんな奥さんが死んだ時どう思った?」

「わ、私は、私は・・・・・・つまを・・・・・・そうだ、涙も流れなかった・・・・・・」

 

よし、ちょっとマイルドに言い方変えてどんぴしゃのを言ってやるか。

 

「いっそ自分の手で楽にしてやりたかった?」

「楽に・・・・・・そうかも、しれない・・・・・・いや、だが・・・・・・」

「よしよしつらかったな。だがもう大丈夫だ。全部分かった」

 

椅子に座らせて落ち着かせる。泣いてんじゃんお前。泣けるんじゃん。

 

よーし整理しよう。こいつ多分バイのサドでリョナだわ。

男女関係なく苦しんでる姿が楽しいってタイプだ。

 

で、喜びを感じられないのはそういう脳の障害。

だけどこいつはこいつなりに奥さん愛してたんだよ。

喜びがないから自覚できなかったんだろうけど。少なくとも大切だったんだ。

 

で、サドのこいつは苦しんでる姿を見て喜んでる自分が嫌だったんだ。だからそれを封じ込めた。

見ないことにして忘れちまったんだ。

 

こいつの価値観そのものはわりとまともで、潔癖なもんだから自分が変態だと認めなくなかったんだろう。

で、奥さんが大切だと自覚できないままなくしちゃったから鬱にも多分かかってる。

 

そりゃこじれるわ。障害持ちで、性癖おかしくて、それを認めたくないから無意識に忘れて。

奥さんを亡くして鬱。まあ狂うのも無理ないよ。

 

さーてどうするかな・・・・・・これ下手に自覚させたらこいつ猿になるぞ。

暴力にめざめるならまだしも自制心つよいタイプは陰湿になるからな・・・・・・人をいじめて喜ぶクズになりかねない。

しかも生まれて初めて楽しみを自覚するだろうからエンドルフィンどばどば出まくって歯止めがきかないだろう。

聖職者の獣ほどヤバいみたいなもんだ。欲望は抑え込んでも貯まっていくだけだからな。

猟奇殺人犯になるかも。やべえ猟奇殺人犯捕まえに来てなんで増やしてんだ俺。

 

よし、穏便に自覚させよう、自制できる陽気な変態なら無害だ。

 

「よっしゃ。いろいろ聞いて悪かったな。つらかっただろ。

まあ落ち着くまで俺の身の上話でも聞いてくれ。

あんたに話させてばっかりじゃフェアじゃないからな」

 

俺は身の上話をあえてグロく、露悪的に語ることにした。

被害者の苦しみをくわしく写実的に語ってみる。

うわぁ、すげえ笑顔。ヤクきめてるみたいだ。

 

「・・・・・・と、こんな感じだったんだよ。あんたも大雑把には知ってるだろうけどな。

さてと、なんとなくわかってきたんじゃないか?あんた、笑顔になってるぜ」

 

ひたっとキレイくんは自分の顔に手を当てる。はっとした顔をしたな?

 

「ち、違う。私は・・・・・・」

「落ち着こう。それは恥ずかしいことでも珍しいことでもないんだ」

「ああ・・・・・・」

 

まるで爆弾解体してる気分だよ!下手こくとそのまま発狂しかねないな。

俺は一息吸ってぱん、と手を合わせて空気を変える。

 

「よし、じゃあ答え合わせと行こう。

まずあんたが喜びを感じられないってのは脳の障害だ。医者に行け。

だけどあんたはまったく喜びを感じないって訳じゃない。人の苦しむ姿が好きなんだろ?」

「私は、生まれついての罪人なのか、汚物なのか?

なぜ、私のようなものが生まれてしまったのだ・・・・・・!」

 

すげえ顔芸だ。なんかポエミイになってるし。このまま悲劇に酔わせてると絶対やばい。

俺はキレイの言葉を遮ってまくし立てる。

 

「落ち着け。ぶっちゃけて言えばあんた脳の障害と鬱と、それにサドだ。

どれもそれぞれは珍しいものじゃない。複数あってこじれてるからすごい歪みに見えるだけだ」

「……ははッなんだそれは。私はただの狂人で、ただの変態だったと?」

 

発作みたいに笑いまくってるよ。うわー、こういう笑い方ヤーナムでよく見た。

俺はできるだけそっけなく突き放して言う。なんでもない、当たり前のことのように。

だってそれぞれは当たり前のもんだろ?自覚しろよ自分は特別じゃないって。

 

「そうだよそれの何が悪い。受け入れろ。受け入れて医者に行け。

あと変態は別に犯罪じゃない。ちゃんと自制して合法的に発散するならただの面白い人だ。

神父だから、なんて体面気にして精神を病んだから何にもならないぞ。

一度SMクラブにでも行ってみろ。すっきりするぞ」

 

おっ、馬鹿笑いが収まったな。ため息ついて頭抱えてる。

 

「私は、どうすればいい・・・・・・悪徳に堕ちろとでも?」

 

めんっどくせえー!だから魔術師って大嫌いなんだよ!

すぐ極端から極端に行ってはっちゃけるから!

 

「だからなんであんたらそう極端から極端にいくんだ。

世の変態はだいたいの奴は自分の性癖に向き合って自制してる。

障害者だって一般的にはそうだ。不便だろうけど、受け入れるしかない。

それが不服で犯罪に突っ走るとかはそれこそ犯罪者の寝言だし甘ったれのクズだ」

 

ようやく本来の目的が言えたよ!つまりはっちゃけて犯罪とかすんなよ!って釘刺しに来たんだよ俺は!

 

「そうだな・・・・・・一生、抱えてくすぶっているのがクズの私にはお似合いか」

「まあそうだよ。そういう欲望があるにしろ、それに従うのも抗う事も選べるのが人間だ。

頭使え我慢しろいい大人だろ。

本能に動かされるままに暴れるのはそれこそ獣だよ。そんなもん駆除するしかない。今回の殺人鬼マスターがそうなようにな」

 

卑屈な表情が消えてなんか悟った感じになった。

どうやら納得できたらしい。よかったな!俺は疲れたよ!

 

「ああ・・・・・・そうか。飢えたままでいいのか。飽いたままでいいのか。

誰しも、そうなのだな・・・・・・」

「そうだよ当たり前じゃん。誰だっておかしな性癖や生まれついての悩みくらいあるよ。

でもだいたいの奴はそれでもグレずにまともに生きてるんだ。だからあんたもそうしろ。

欲望に流されずにまともに生きろ。気持ちいいのが楽しくて人に迷惑かけるのは理性の無い猿だ」

 

キレイくんは立ち上がって俺の手を取って頭を下げた。また泣いてるよ・・・・・・

 

「ああ・・・・・・ありがとう。私は、救われた」

 

よし退散だ!これ以上関わるとなんか依存されそうって言うかケツ狙われそうだよ!怖いよ!

 

「そうかよかったな。じゃあちゃんと病院行けよ。医者に全部隠さず話せよ。

間違っても犯罪に走るなよ。ちゃんと欲望を自覚して自制しろよ。

風俗とかで迷惑かけない範囲でちゃんと発散しろよ。

俺と約束できるか?」

「・・・・・・できる」

 

ちょっと幼児退行もしてるじゃねえか!もうやだこいつ。

 

「よしわかった。でもどうしても我慢ができそうになかったら、俺に言え。

あんたが獣になる前に介錯してやる」

「・・・・・・ありがとう。誓おう」

「おう、しっかり休め」

「礼がしたい。何がいい?」

「そうだな・・・・・・」

 

おっ、棚ぼたでなんか貰えそうだぞ!どうするかな・・・・・・よしダメ元で言ってみよう。

 

「いっそあんたのサーヴァントのアサシンくれなんて言ったら困るかい?」

 

おっ、考えてる考えてる。まあダメだったらアレ欲しいんだよね。黒鍵。いいよねあれ。

 

「いや・・・・・・そうかその手があったな。よく考えればもはやいらんのだ。

元よりあの悩みの答えが欲しかったから参戦したのだしな。

目的を達してくれたお前にやるならば理にかなっている。手を出してくれ。渡そう」

「あっ。ちょっと待て。ちゃんとアサシンにも確認しろよ?」

「なぜだ?サーヴァントだぞ?」

 

だからなんでお前ら報連相しないんだよ!

ちゃんと話し合え!話し合わないからこんなにこじれたんだろお前!

魔術師はだいたいそうだよね、知ってたよクソッタレ!

 

「英雄でもあるし、幽霊でもあるだろうが。誰だっていきなり身売りされたらキレるわ。

そんなんもらう身にもなってほしい」

「そうか、そうだな・・・・・・というわけだアサシン。見ていただろう?どうする?・・・・・・そうか。

貴様らとは異教徒だがそれでも、貴様らに救いと導きのあらんことを祈る。

私は一足先に答えを得た。幸運を」

 

ちょっと待って何言ってるの。なんで話が合ってんの。

何なの。こいつのサーヴァントもこじれてんの?

ひょっとしてこいつも触媒なし召還?マジで?うっわぁ・・・・・・

またこういうのやんの?勘弁してくれよ!俺はお悩み相談室じゃねえんだよ!

そういうのは新宿の母みたいな占い師とかカウンセラーに行け!

 

「サーヴァント、アサシン。百貌のハサン、間桐雁夜殿の指揮下に入ります。

我らの中の過半数が、あなたに従うことに賛同しております。

私は妖美のa■sa■co■。我らのうちの取り纏め役のようなものです」

 

多重人格かー!治せるか馬鹿!医者に行け!ほんとに!

つーか妖美さん名前よく聞き取れないよ。アスァコ?アシュァクォ?まあいいやアサコって呼ぼう。ポニーテールで腹筋割れてる褐色美女だ。

もうなんか美女ってだけでわりと許せる気がする。つーかその仮面かっこいいね。

 

「お、おう・・・・・・がんばろうな。ところでつかぬ事を聞くけどあんたのザバーニーヤってひょっとして分身とか多重人格とかそのたぐいだったりするの?」

「おお、さすがは幾たびの人外魔境を超えられた主!いかにもそのとおり。一つ一つの人格が肉体を持って分身する。そのようなものです。

ただの分身と侮るなかれ。我らは一人一人が何らかの専門家にございます。誰かの不得意は誰かの得意。故に我らは万能なのです」

 

めっちゃ期待されてる・・・・・・だから俺は職業柄変態と狂人に慣れてるだけなんだって!

医者じゃないんだよ!治せるわけないだろ!?

・・・・・・しょうがねえ、治せそうな奴らは何人か知ってるからそいつらに依頼しよう。高くつくなこれ!

 

「おお、そりゃすごいな。期待してるわ。ところでひょっとして聖杯にかける願いってもしかして君らも悩みの解決だったりするの?治したいの多重人格」

「はっはっはっ、さすがは主。やはりわかりますか。私の中の数多の私は御しがたいものでございましてな、常に脳裏が騒がしいのです。

可能ならば統合して完全なる私になり、静寂の中でゆっくりと休みたい。それが我らの三分の二の望みでございます。もちろん私もそのうちの一人です」

 

そっかー。たいへんだねー。

・・・・・・経験上こういうのって一人一人の個性を大事にしたいとか言い出すんだよな。

一人一人と面談しなきゃ駄目かこれ?

 

「そうかあー、何人くらいいんの君ら」

「そうですな・・・・・・主立った者で80人ほど。目立たない者をふくめた場合百ほどでございましょうか。故に我は百の貌のハサンなのです。

ご安心召されよ。魔術や戦闘、暗殺はもちろん、頭脳担当から経理、お望みならば夜伽担当も好みを取りそろえておりますぞ!」

 

80!?ふざけてんの!?できるかボケッ!

一人一人面談して何日かかるかとか考えるだけで俺が逆に鬱になるわ!

・・・・・・でも夜伽かあ。アサコさんわりと好みなんだよね。いいよね褐色腹筋美人。でもこの人口説こうとしたら絶対めんどくさいわ・・・・・・

 

「ああ・・・・・・それはすごいな。まあ、頼りにしてるよ。

うん。なんとかするよ。するさ。がんばる」

 

ここで俺はキレイに耳打ちする。

 

「おいこいつすげえめんどくさいぞ!80人の悩みとか解決できるわけないだろ!?どうすんだこれ!」

 

うわっ、すげえ下卑た笑顔だ。さっそくドSに開花するなよ!

 

「だが当てはあるのだろう?間桐雁夜ほどの男ならば、これもどうにかしてしまうのだろう。

私はそう信じている。

何、いざとなれば令呪で言うことを聞かせればいい。6画あればどうとでもなるだろう。

朗報を期待してる」

「てめーおぼえてろよ・・・・・・なんか色つけろ!割に合わんわ!黒鍵!あれよこせ!」

 

余裕の笑みしてやがるこいつかなりふてぶてしいやつだな!ふっきれるとこんなんなるのか!うぜえ・・・・・・

 

「いいとも。ハサンよ、私は貴様らと貴様らのマスターを祝福する。

貴様らの前途に救いのあらんことを。

といっても言葉だけでは私の気持ちが収まらん。

これは選別であり間桐雁夜への礼の一つだ。持っていけ」

 

キレイは服の袖から黒鍵を三本づつ、計6本出して俺に渡した。

 

「使い方はわかるかね?」

「ああ、だいたいね。このへんにこうやって魔力を流すんだろ?

おっ変形した。いいね、やっぱ武器は面白くないと」

「気に入ってくれて何よりだ。さあ、あまり長居すると父に怪しまれる」

 

よし帰ろう!もうこりごりだ!おせっかいは焼くもんじゃないね!いろいろ得したけどなんかめんどくせえ!

 

「・・・・・・何というか、本当に感謝する。

とても爽快な気持ちだ。わかってみれば、たいしたことはなかったのだな。健闘を祈る」

 

俺はため息をついて振り返らずに言った。

 

「ああ、せいぜい頑張るわ。あっ、そうそう・・・・・・言い忘れたけどな。あんたはあんたなりに奥さん愛してたと思うぜ?

だってあんた奥さんの話するときに泣いてたもん。それに、サドのあんたが愛するのって、つまりそういうやり方だろ?

だからまあ、あんたにも人が愛せるのさ。それでも迷惑かけないように自重して欲しいけどな」

 

見えないけど、キレイが息をのんだ音が聞こえた。

 

「・・・・・・!ああ」

 

おっアサコさんがなんか仮面の奥の目を輝かせてる。やべーなハードルあがっちゃったかもしれない。

 

「おう、行こうかハサン。えーっと、君の名前はアサコさんでいいの?

悪いね俺日本人だから発音難しくてさ」

「少々違いますが、誤差の範囲でございましょう。それでかまいませぬ」

 

俺はハサンを霊体化させるとため息をついてキレイの部屋を出た。そしたらまだ面倒ごとがあった。

 

「間桐君。私の息子に何か用があったのかね?」

 

あーもう面倒だ。全部言っちまえ。

 

「あんたの息子さん奧さん死んだショックで鬱になってたぞ。

すげえ思い詰めた顔してたから相談乗ってやった。

そしたらなんか気が晴れたみたいでお礼にハサンもらった。

聖杯戦争自体、極限状況にいたら悩みを解決できるかもで参加したからだってさ。

悩みが晴れたからもういいんだとよ。ああ、別に洗脳も何もしてないよ。

マジでカウンセリングの真似事やっただけ」

 

壁に手えついて通せんぼしやがったこのおっさん。

 

「つまりうちの息子をそそのかしたのかね?」

 

そろそろキレていい?

 

「あっ。そういうこと言っちゃう?じゃあ言うけどさ。そもそもジャッジの教会の関係者が選手として参加とかどうなのよ。

無関係だっていうなら参加者同士のやりとりなわけで、ジャッジの出る幕じゃないよな?なあ?」

 

あっ、て顔しやがった。こいつ反則に慣れて全然違反行為って意識がなかったな?

 

「そういうわけだから。あと今俺スゲエいらついてんのよ。あんたの息子さんの悩み相談をわざわざやってやったんだからな!

こういうはあんたが気づくべきことだぞ?家族なんだから。あんたの息子さん悩みすぎで犯罪に走る一歩手前だったからな?

まあ親子っていうのは難しいとは思うけどさ。夢を追う前に足下しっかり見ろよ。掬われるぜ?

息子一人の悩みにも気づかないで何が聖職者だボケッ!」

 

俺はおっさんの腕を押しのけて足早に教会を後にした。

ウェイバーたちが手を振っている。ああ、早く帰りたい・・・・・・

 

 

「雁夜よ、首尾はどうだ?」

 

イスカンダルが待ちくたびれたという感じでベンチに座ってあくびをしている

 

「うまくいったよ。すげえ疲れたけど。ハサンと黒鍵もらったわ。と、いうわけで1チームゲットだ。その分ハサンの願いを叶えなきゃいけなくなったけどな!」

 

俺も疲れたので隣に座る。ウェイバーも座れば?拝謁ポーズしんどくない?

 

「あいかわらずとんでもないことをさらっとやるんだな、あんたは。もう驚き疲れた。どんなイカサマを使ったんだ?」

「どうも何もないよ!最初に言ったじゃん!思い詰めてる顔してるから探りを入れるついでに相談乗るって。

そしたらがっつり相談することになって愚痴とかいろいろ聞きまくったんだよ!すげー疲れた。

で、なんかもうすっきりしたっつーんでお礼にハサンもらった。

聖杯戦争自体、悩みを解決するためだったんだってよ」

 

イスカンダルはだらけてジュース飲んでる。俺にも1本くれよ・・・・・・喉渇いたわ。

 

「なるほどのう。極限状況で悟りを得られるとでも思ったのか?浅はかな・・・・・

戦場で悟りなど得られん。得たとしたらそれは摩耗して痛みに鈍くなっただけだ」

「だろ?ほんとめんどくさい奴だったよ。

嫁さん死んで鬱になったのをすげえ大げさに考えててさ・・・・・・苦労したよ。

でも、多分あれなら犯罪に走ることは無いんじゃないかな」

 

いてっ背中ばしばし叩くな!くっそ人ごとだと思って面白がりやがって。

 

「ならよかったではないか。戦えんのは少々つまらんが、穏便に話し合いで解決できたのであればそれも一つの偉業というものだ。

人間、話し合いで解決できることなどほとんどないのだからな。それに結果だけ見れば何のリスクも負わずサーヴァントと武器を得られ。

さらに一陣営を落とせたのだ。僥倖と言えよう。まあ愚痴を聞いて疲れただろうけどな」

「まあな、結果だけ見ればな。とりあえず帰ろう。落ち着いたらハサンと顔見せしよう」

 

まあ、褒めてくれたのはわかったよ。もうあの変態神父のことは忘れよう。得たものを考えよう。

 

「うむ!アサシンの語源、暗殺者の中の暗殺者、ハサンサッバーハか。

豪傑とは趣が違うが、これもまた面白そうな人材だ!」

「ある意味面白いかもな・・・・・・けどその分かなえる願いが増えたのをわかってくれよ?」

「うむ!何任せておけ。臣下、否この場合は同盟軍か?

そやつらの要望をまとめるのも王の役目よ!」

「ああ、マジで期待してる。本当に」

 

なにしろ80人いるからな!王様らしいリーダーシップに期待するわ。

俺そんな人数を手下にしたことなんてないもん。今回ばかりは頼らせてもらう。

 

「あーくそっ、なんでたかが2匹の獣を狩るのにこんな面倒なことになるんだよ。めんどくせえー」

 

俺は伸びしてベンチから立ち上がる。ウェイバーが笑ってる。まあ、変態と違っておちょくってる訳じゃ無いからいいか。

 

「ははは、あんたも疲れることがあるんだな。意外に親しみやすい所もあるって思ってほっとした」

「お前の中で俺の印象どうなってんの?!蛮族なのは否定しないけどさ」

「うむ、さて。忙しくなるぞ!相手は外道畜生の類いだ。時間をかければまた民が毒牙にかかる。

アサシンと顔合わせもせねばならんしな!不謹慎だがなかなか面白いイベントがあるものだ!」

 

そりゃお前この聖杯戦争自体どったんばったん大冒涜チキチキ冬木燃やし血祭り大会だしな。

 



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第六話「獣と右回りの変態」前編

俺たちはアジトに帰ってきて顔見せと作戦会議をすることにした。

 

「ほう、分身出来て人格が80人!?ふーむ、なかなかの変わり種だのう。

だがこれで再び軍勢を率いて戦争できるわけだ!心が躍るな!」

「我らはあくまで主のサーヴァント、あなたは主の同盟相手であって指揮下に入るわけではありませぬ。そこの所をよくご留意くだされ」

「うむわかっておる。しかしこれで余を含めて81人の英霊を受肉させねばならんのか・・・・・・ふむどうしたものか。

そもそも、受肉するには聖杯に願うのだったか?そのへんの仕組みはよく知らぬしな。そこでカリヤ、ウェイバーよ。何か良い知恵はあるか?」

 

ウェイバーは俺の渡したジジイの書いた聖杯戦争の資料を読みながら答える。

 

「はい王よ。どうも調べた所、受肉に必要なのは聖杯に入れられて無色の魔力となった英霊の魂と術式のようです。

術式の一部はこちらの資料にありますし、大本はアインツベルンが保有している様子です。

必要なものの残りは生け贄となる英霊の魂ですが、都合良くこれも残り3体。王とアサシンが受肉するには十分な量かと」

「となると、要るのは魂を保管しておくための道具か。まあこれもアテはあるし最悪血の遺志にしちまえばいいだろう。

あと80人受肉させる必要は無いんじゃねえの?まず1体ってカウントでハサンを受肉させてそれから治療していけばいいだろう。

受肉しても多分ザバーニーヤは使えるだろうし。使えるよな?」

 

ハサンっていうかアサコは少し考えてうなずいた。

 

「は、おそらくは問題ないかと。生前はただの多重人格でしたが、英霊となってスキルとして昇華された様子。受肉しても使えるでしょう」

 

うむ、ビジネスライクな距離がちょうどいいわー。

イスカンダルは顎髭をなでて考えている。

 

「ふむ、ところで何故聖杯を使わずに受肉する前提なのだ?使えるものは使った方が便利だろう」

 

まあそれも一つの手だけどなー。

しかしこのアジトにイスカンダルとハサン数人いると狭いなこれ。

 

「んー、まず第一に聖杯をあんまり信用してないんだよ俺。

あれにはどうも意思があるっぽいしな。

となるとそいつがろくでもないことする可能性は十分ある。

あとそもそもこの聖杯戦争、何百年かけて一度も成功してない計画だぞ?

仮にうまく聖杯を手に入れて使うとして、それ初使用初運転だよ?絶対どっか不具合出るって。

というわけで聖杯に頼り切りはよくない」

 

まー、俺らの素人仕事でも危ないのは危ないだろうけどな!できるかどうかわかんねえし。

でもよく考えたら死んだらそれっきりなのを幽霊になれて死後も未来で暴れられるんだからもうけもんだと思ってくれ!

 

「まっ、うまくいけばもうけものくらいのスペアプラン、いざという時の予備だよ。

そもそも、聖杯に願った場合叶う願いって一つなんだろ?どういうカウントしてるのか知らないけど、下手したら一人しか受肉できない可能性もあるわけだ」

 

おっ。ハサンズとイスカンダルが考えてる。まあ険悪にならなかったらいいか。

 

「ふむ、よくわかった。たしかに備えておくに超したことは無いな。常に退路なり別の手段を確保しておくべきだ。

カリヤよ、お前は軍略の基礎を心得ているのだな、こっちも勉強するか?」

「機会があればね。まあ、聖杯戦争終わった後ゆっくりやるさ。あと受肉がうまくいかなくっても最終手段がすでにある」

 

ハサンがおお、と声を上げた。うんまあ気になるよね。こういう所で信用を稼いでおかないとな。

 

「ケイネスからぶんどった魔力炉あるだろ?

あと俺が個人的に似たようなのも持ってるから計5機。

そんだけ魔力の供給源があれば聖杯戦争終わった後でも2人くらいなら現界できるよ。

聖杯がだめでも、ゆっくり手段を探せる」

 

ハサンズのテンションが無言だけど上がってるわ。やっぱこういう保険は大事だよな。

イスカンダルも目に見えて表情に余裕が出来てる。

 

「なんと、もうすでにアテがあるのか!

いやあカリヤよおぬしこう言う仕事でも有能なのだな!やっぱ余に仕えんか?」

「そりゃまあ、修羅場でもなんとか解決手段を模索しなきゃいけない状況ばっかだしね。

物を買えたりするだけイージーだよ今回は。

ああ、あんたがクライアントとして俺を傭兵として雇うなり、共同経営なりならいいよ。人の下につくのはあってないんだ」

「残念だのう・・・・・・」

 

あっ、ウェイバーがなんか言いたそうにしてる。

 

「カリヤ、その道具とかの対価はなんなんだ?相当高いだろこれ」

 

まあ、タダより高いものはないしな。王佐としてはそりゃ気になるだろう。

勘定もってんのはウェイバーだしな。

 

「あー、そこ聞くかやっぱ。まーカネでいいよ。他のもんもらっても別にうれしくないし。生活費は必要だしな。

あっ、もちろん必要経費は別だぞ?必要経費プラス俺の手数料。まあ、そんなに高くしないさ。

そもそもあんたらの協力あってのものだし。ハサンもな?それに今回ぶんどったもんが売れればそれなりには金になるしな」

 

ウェイバー、顔がひきつってるぞ。まあその年だと使える額も少ないだろうしな・・・・・・

 

「まあ俺も鬼じゃ無いから支払いはローンで分割でもいいし、ちょっとは待ってやるよ。

利息もつけない。まあ出世払いの一種だな」

 

イスカンダルがガハハと笑う。

 

「ウェイバーよ、そんな不安そうな顔をするな!なあに戦争が終われば余が会社でも興して一儲けしてやるわい!

案ずるな、経営も軍資金の入手も慣れておる。王だからな!」

 

あんた略奪で軍を回してなかったか?まあ、国にいた頃もいろいろやってるから大丈夫かな・・・・・まあがんばれウェイバー。

 

「さてと、ハサン。君らを活用するに当たっていろいろしなきゃいけないな。

まず外に出て諜報活動できそうなの何人くらい?そいつらの背格好教えてくれる?」

 

アサコさんがうなずく。

 

「は、20人ほどかと。背格好についてはこの国の標準的な成人と変わらない者がほとんどです」

「オッケー。服を適当に注文しとくわ。あと君ら何者か聞かれた時の設定を考えておこう。

そうだな・・・・・・海外から招かれた劇団で、公堂で公演する予定だから下見に来た。そんなんでどうよ?」

「良いと思います。我々の中には曲芸や演劇が出来る者もいますから」

 

ほんと何でも出来るな君ら!すげえ。

 

「なんでもできるな君ら。ありがたいよ。さて、いよいよお待ちかねの治療方針だけどね。

俺はそういうのに詳しいって言ってもやっぱ本職じゃないからね。

知り合いの信用できるプロを紹介したい。

まあ、その前に大雑把な治療方針を立てておいてもいいけど。どうだろう?」

「少々お待ちくだされ」

 

ハサンズがめっちゃ論議してる。うるせえ!たしかに四六時中脳内がこれならこりゃたまらんわ。

 

「一応の答えはでました。

主に解決していただけないのは若干不満ではありますが、

主の信用できる方であるならば・・・・・・という意見が過半数です。

私もそれで良いと思います」

 

「よし、まあ俺もざっくりとしか知らないんだけどね?

現代の多重人格についての基本的な知識はあるよ。

えーっとまず根本的な方針として、『無理に統合にこだわらなくていい、それよりも多重人格で起こる苦しみや不便な症状を緩和していこう』ってのが基本なんだわ。

俺もそれでいいと思う。まあ、それで無理があるなら最悪、魔術的な手段で切り離して独立してもらうか統合するってことになるな。ここまでいいか?」

「・・・・・・意見が割れております。質問をお許し願えますかな?」

「ああいいよ。そりゃ聞きたいことあるだろうし」

「感謝を。『統合するということは今の人格である自分が消えるのでは?』という意見が三分の一でしてな。

これが治療をかなり恐れている者達なのです。彼らに何か言葉を」

 

えっとどうだったかな。これも資料にあったよ。基本的な入門書をざっくり読んだのとあとは知り合いの多重人格者の話くらいしか経験無いんだけどな俺。

 

「なるほどそりゃ心配するのももっともだ。だけど大丈夫だ。統合しても消えるわけじゃ無い。

そもそも統合する作業ってのはあれだ。お互いの記憶を共有するって感じのものなんだ。

バラバラになったパズルを組み立てる感じだな。組み立ててもピースが無くなるわけじゃないだろ?そういうものらしいんだよ」

 

がやがやしてるけど、さっきよりは明るい感じだな。どうやら良いニュースだったようだ。

 

「主よ、ほとんどの者が賛成に回りました。しかし懸念を示す者がいます。

『そうは言っても我々はあまりに個々で体型も性別も違う。人格が消えずとも今の姿形がなくなってしまうのでは?』だそうです」

「うんまあ、そうだよね。だから統合するなら、望む性別が同じ奴ら同士でしよう。姿や背格好もおなじくらいのからな。

あとはお互いに統合してもいいっていう奴ら同士であるのも大事だ。そういう感じでまずは大雑把にグループを組んでほしい。

ぼっちになっても心配しないでいい。統合しなくないなら独立すればいいし、統合したいんならまあなんとかするよ」

「おお・・・・・・!感謝を。これでほぼすべての者が統合に賛同しました。

残りは問題児か狂人か、幼子。道理の分からぬ者だけです故、主の許可があれば抹殺しても良いという意見が大勢です」

「子供には手加減してやってくれ。後で考えよう。だけどイカレポンチ共はもうやっちまおう。俺がやってもいいよ?外出ようか」

 

俺たちはいそいで近所の河原に行って戦うことにした。アサコさんが内部に閉じ込めて押さえてるけど長くはもたないからな。

イスカンダルとウェイバーもなぜかついてきた。見物だろ知ってる。面白そうな顔しやがって!

 

「主よ、お手を煩わせます。お気をつけください、どれも曲者揃いです。我らも援護します」

「ああ、じゃあちょくちょく隙を見て遠距離攻撃して。こんなんで消耗しても仕方ないからね。とくにアサコさん。

リーダーであるあんたがいなくなったらヤバいから絶対死ぬな。オーケー?」

「主命を承諾。・・・・・・来ます!」

 

アサコさんの体からもわっと黒い霧が出て、アサコさんが急いで離れる。

俺は爆発金槌やらいろいろ装備を調えておいた。ウェイバーたちは人払いしてくれたらしい。ありがてえ。

 

「白狼のハンナ。僕が、この僕がこいつらと混ざるだって!?冗談じゃ無い!

僕は不死身の英霊だ!男でもないし女でも無い!子供も残せないってそれはつまり完成してるってことなんだよ!

僕が一つになるならそれは僕がこいつらを食い殺す時だけだ!」

 

白髪のケモノっぽい美少年。

 

「被虐のフェンミ。マスター・・・・・・ああ、いいですね。やはりマスターは最高だ。

まるでケダモノみたいで・・・・・・

あなたに殺されたらどれだけ気持ちが良いだろう。どれだけ恐ろしく素晴らしいのかな。

殺しに来てください。全力で抗いますから。そう、できるだけ乱暴にお願いします」

 

ねっちょりした目のマッチョマゾホモ野郎。

 

「野蛮のサツゥマ。チェストエルサレム!」

 

マッチョ。目が黒い。あと暑苦しい。

 

これで一番ヤバいの全員みたいだな。

変態で蛮族しかいねえ!どうなってんの。全員勃起してるぅ・・・・・・うわぁ。

まあ殺すしか無い奴らだしな、仕方ないか・・・・・・

おっとサツマ野郎が剣振り上げていきなり来てる。俺もさっさと名乗っておくか。

 

「マトウの狩りを知るがいい」

 

うんすげえ大変だったよ。

サツマはすれ違いざまに内蔵攻撃ととどめを刺せたけど。

白狼はものすごく素早くって避けまくるし。最終的にはカウンターを決めたけど。

フェンミがもう大変だった。どれだけ痛めつけても致命傷は避けるし、うっとりしながらえげつない攻撃してくるし。

なにより変態トークがもう面白いやら疲れるやら。一部抜粋しとくね?

 

「待っていました・・・・・・あなたのような変態を」

「人をアルティメットサディスティッククリーチャーみたいに言うのやめてくれる!?

そんなんじゃないから!ちょっと血に酔ってるだけだから!」

 

「・・・・・・!?なんで!?なんで勃起してないんですかあああ!?

ひょっとして、屈辱を!?お前程度のマゾ犬では欲情しないという余裕のマウンティングを!?

神はここにいた・・・・・・!」

「いやほんと、俺はホモじゃないからね?仮にそうだとしてもガチムチは無いんじゃねえかな・・・・・・」

 

「人は死に全力で抗うときにもっとも輝くんです。

そして死を受け入れた時の表情こそもっとも美しいんです。

マスター・・・・・・僕を輝かせてください。きらめきたいんです!あなたにときめいているから!」

「あー、もうしょうがねえな。とことんつきあってやる。来いよ、輝こうぜ」

 

大変だったよ・・・・・・攻撃するたびにあひんあひん言うんだものあいつ。

最終的に金玉に内臓攻撃して握りつぶしてからの垂直落下式デスバレーボムで頭かち割って蹴りをつけた。

ウェイバーはどん引きだった。あとアサコさんあんたもなんでちょっと引いてるんだよ!元々あんたの一部だろうが!

 

「お、お疲れ様です主よ。お見事でした」

「おう、すげえ疲れたわ。あと何人くらい?」

「統合に反対していた者、統合できそうにないものは何人かいましたが、今の主の戦いぶりで全員が統合に賛同しました。さすがは主、素晴らしいですな」

「素直に喜べないよ!シャワー浴びよう。一度帰ろうか」

「ははっ」

 

遠くから歓声が聞こえた。

 

「ははっ、スゲエ!超COOLじゃん!あんた握手してくれ!もっとそういうの見せてくれよ!」

「おーいウェイバーなんかヘンなの来てるけどどうなってんの?」

 

ウェイバーを見ると目線で気をつけろ、と言ってる。

 

「一般人や魔術回路持たない人は来れないようにしてたはずだ。だから、そいつは・・・・・・カリヤ、気をつけてくれ」

「あー・・・・・・そういうことか。分かった」

 

つまりこいつは魔術師か魔術回路もってる一般人?ってことか。

一般人にしろこいつなんかヤバそうだしな・・・・・・まあ、十中八九殺人鬼マスターなんだろうけど。

 

「あー、どうも。これはあれです。特撮の撮影なんですよ。迫力あるでしょ?」

 

俺は適当に演技しながら殺人鬼・・・・・・雨生?だったか。に近づく。

うりゅー君も俺と熱い握手をする。おっ、令呪発見。やっぱこいつか。

 

「マジで!?映像化したら絶対買うよ!あれ?あんたなんかどこかで見たことあるような・・・・・・?

あっ。あんた間桐雁夜さんだろ!?ほら「ロアナプラの女神」って写真集!俺もってるよ!スゲエ!俺あんたのファンなんだ!」

 

あー・・・・・・そういえばそんなん出版したわ。バラライカの姉御が若いうちにこういうのとっときたいとか言って。

姉御の部下の元軍人現マフィアの皆さんに銃つきつけられながら撮ったんだよ。

ついでだからっつーんで、中国人のナイフ使いのねーさんや解体屋のゴスロリちゃんとかも混ざって撮ったんだった。

いやああれも濃い奴らばっかりだったな・・・・・・

 

「あー、あれか。買ってくれたの?ありがとう。つうか俺の名前とかよく覚えてたね。

ただのエログロ写真家なのに」

「エログロ?謙遜しないでくれよ!全巻もってるんだ!あれは芸術だって!

「小兎女将のもののけ草紙」とか「ゾンビ屋通信」とか「吸血姫」とか!

エロが無い奴もすごかったよ!

うわあヤバイなあ。あの、その、もしよかったら仕事終わってからでいいんで俺のアトリエでお茶しませんか!?」

 

マジでこいつ全巻もってやがる・・・・・・うわー、考えてはいたけど俺の購買層ってこんなんなんだ・・・・・・

実際会ってみたくなかったよ・・・・・・えらい監督とかがファンにキレる気持ちわかるわぁ。

霊でもなんでも写る射影機ってポラロイドカメラ手に入れたからつい調子乗っていろんな知り合いの写真とっちゃったんだよね。

あとで出版するとき許可はとったけどさ・・・・・・アーカードの旦那が一番ノリノリだったのはどういうことよ。

 

「お、おう。応援ありがとう。そうだな・・・・・・いいよ、今すぐでも。一区切りついてるしね。

いいよな皆?全員でおしかけちゃうけど大丈夫かい?」

「ぜんぜん大丈夫っすよ!ちょっと変わった所にあるけどすぐ近くなんで!」

 

俺はハサンやイスカンダル、ウェイバーに目配せする。

殺っちゃう?殺っちゃおうぜ!OK了解。

 

 



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第六話「獣と右回りの変態」後編

 

うりゅー君は下水道にざばざば入っていく。ここかあ・・・・・・まあこういう所だよね。この手のやつらのアジトって。

 

「そういえば撮影ってどんな内容のドラマなんすか?うわー、間桐さんが監督の特撮とか超COOL!録画してビデオも買わなきゃ!」

「んー、そうだね。それはアトリエでゆっくり話そうか。それより俺の写真どうだったよ?誰がお気に入り?」

「そっすねえー。やっぱフライフェイスさんとかレーコさんとかナイスバディで強そうな感じが気に入りました!

こう、傷跡あるのがたまんなかったであります。

あとは、ロリなら姫カットの死の河さんとか!

こう、すげー死の気配がする感じで・・・・・・」

「ほー、そうかー」

 

アトリエに近づくたびひでえ血のにおいと怨嗟の気配とかすかな悲鳴が聞こえる。

なんだかなあー・・・・・・

 

「あっ、ここです!ちょっと派手かもだけど俺芸術家志望なんで驚かないで欲しいっす!」

「ああ・・・・・・」

 

うっわあひでえ。なにこれ人間家具?生きてんの?趣味わりい・・・・・・

 

「おーい旦那!旦那と話が合いそうな人連れてきたよ!俺が大好きな写真家の人なんだ!旦那ー?

なんだ出かけてるのか・・・・・・ああ、どこでも座って!今お茶出してくるから!」

 

俺はゆっくりため息をついた。顔を上げると、狩人の俺に戻れる。

 

「あのさあ、俺のファンで芸術家志望っていうからどんなんかと思ったんだけどさ。

がっかりだわ。お絵かきの時間的な事なら一人でやってくんない?

正直ダサいしいろいろ雑。ぶっちゃけ幼稚。あんた才能無いよ」

 

そう言いながら俺はハサンに念話を飛ばす。

 

(ハサン、できるだけ早くこの子たちに麻酔かけてやってくれ。楽にしてあげよう)

(御意)

 

ハサンもなんか静かに怒ってるっぽい。

 

「なんだって・・・・・・!?」

 

すげえ顔芸してるうりゅークソ野郎に俺は真顔で淡々と言ってやる。

 

「おう反論あるだろうな。じゃあ一個一個指摘してやるよ。

ここのこれな?このへんヴィクトリア調っぽくしようとしたのは分かるんだわ。

でもこれじゃ駄目。直線多すぎ。あとこのモチーフは普通この様式じゃ使わないんだよ。

なんでか分かる?似合わないから。

君と同じようにこの組み合わせで作品つくった人のがあるけどぜんぜん売れてなかったよ」

「うっ・・・・・・たしかに・・・・・・言われてみればそうだ・・・・・・」

 

図星って顔だな。よしうまくヒットしてる。俺は別の作品を指さす。あーいやだ。

 

「あとこれな?そもアイデアがありきたり。

これやるならもう一工夫くらいないと面白くないから。

あと楽器としても音が最悪。そういう趣向ってのを割り引いてだぞ?

もうちょい低い音も出ないとそもそも演奏できないからなこれ?」

「そ、それは未完成で、改良しようと思って・・・・・・」

 

言い訳が多いなこいつ!うっぜえ。

 

「じゃあこれも言うけどさ。この本棚?防水処理が甘い。これじゃ本が湿気る。

あとこのデザインのこのへんのこれな?

何したいかはだいたいわかるけど、ざっくり言うとダサい。やるならこんなかんじだよ」

「うっ、たしかに俺がやるより良くなってる・・・・・・!」

 

俺は30分くらいかけてゆっくり丁寧にへこましてやった。

まあどんなんでも荒つけるほうは楽だしな。

 

「お、俺、そんなに才能ないのかな・・・・・・?」

 

ぼろっぼろ涙流して鼻水たらしてしゃくりあげるうりゅー野郎。

 

「無いよ。あともうこれも言っちゃうわ。

子供達ってのは宝だ。こんなダサい作品の材料にされていいもんじゃねえんだよ。無駄だ無駄。

あとな?お前の親がどうかは知らないけど、世間一般的には自分がやられたら嫌なことは人にやっちゃいけませんとか、そもそも犯罪すんなって教わらなかったのか?」

「でも、これは!それになんでそれが悪いの?それはさ・・・・・・」

 

またなんか屁理屈言おうとしたから聞かずに言ってやった。

 

「あっ、じゃあお前さんはすげー痛いやり方で家具にされても一向にかまわないんだな?拷問されても喜べるって?

じゃあその言葉どこまで本当なのかやってやるよ!もう取り消し聞かないからな!お前がやったのはそういうことだ!押さえろハサン!」

「御意!待ちかねておりました」

「チクショウ!畜生・・・・・・!」

 

泣きながらうりゅー君が回避してるけどいい動きするね。でも所詮無抵抗の相手を狩ってきた素人だ。

才能はあるかもだけど、それだけじゃ勝てないよ。ハサンはプロだし大勢いるからね。

回避上手いなあ。狩人になったらいい狩人に・・・・・・なれないわこいつ。即獣堕ちするわ。血に酔ってるもんこいつ。

 

「ああ、お前が知りたがってたドラマの内容な?とある地方都市に邪悪な魔術師の仕業で殺人鬼の幽霊が復活するんだわ。

で、そこにやってきたのが怪異ハンター。殺人鬼や魔術師は悪さをするけど、何一つ得られず無残に死ぬんだ」

 

うりゅーの目が見開かれた。どうやら聖杯戦争参加者だと気づいたらしい。おっ捕まえた。よーしやるか。

 

「まずは目からだ。お前は子供達の未来を奪った。この子達はもう何一つ楽しいことができない。

お前もそうされていいんだよな?だからお前はもう何一つ大好きな綺麗なものを見ることは無い」

 

目玉を内蔵攻撃でえぐり取ってやった。こいつ自分がグロくされても多分壊される俺かっこいい!とか言うからな。

もう何も見させない。芸術家気取りには一番きついだろう。

 

「お前の指を切り取った。お前はもう何も書けないし作れない。骨盤も折るからな。ここを壊されると勃起できなくなるんだよ一生インポになれ」

「だ、旦那!旦那助けてくれ!」

「あっ、この子達にはこんなんしといて自分は助け求めちゃう?いいよ別に。俺たちも聖杯戦争参加者だから」

「うっ・・・・・・!やっぱなしだ旦那!逃げてくれ!こいつらやばい!」

「ああ、お前がどう言おうとそのクソ野郎は連れてくるからな?今皮膚ごと令呪引っこ抜いたから。

この令呪に縛られてるサーヴァントに令呪三画を持って命ず。今すぐこの場に来て決して動くな」

 

なんかインスマス面のキモい大男が出てきた。なんか死にかけだな。やりとげた面してるよ。

 

「ああ・・・・・・やはりあなたは聖処女だ・・・・・・」

 

どーも他のサーヴァントと戦ってなにやら満足して死にそうになったらしいな。

 

「こっ、ここは!?」

 

あっ、イスカンダルに顔面殴られてる。さーてそのうちにやることやっちゃうか。

 

「君たち、助けが遅くなってごめんな。今からでもこのアホ共におしおきをしようと思う。

君たちの怒りや恨みをこのガイコツに集めてくれ。そう思うだけで良いんだ」

 

俺は呪詛溜まりをかかげて振る。うわあ、すげえ怨念が集まってきた。

母さん達のも含めて、もう元とはだいぶケタの違う威力になってんなこれ。

 

「おうカリヤ。こいつから宝具はすべて没収した。こんなもの宝と呼びたくないがな。

もうよかろう。うんざりだ。さっさとこの外道共を殺して帰ろう」

「ああ、俺もそう思うよ。うんざりだ」

 

俺は魚面のサーヴァントに近づいて口を開けさせて呪詛溜まりから取り出した今にも爆発しそうな怨念を口にぶちこんでやった。

 

「あががが!あががががが!」

「それこの子たちの怨念な。自分のやったことの報いを受けろ。

お前みたいなクズが満足できるような死に方できるなんて美味しい話あるわけないだろバーカ!」

 

俺は死にかけのうりゅーをつかんで皆と急いで脱出した。

うわあ汚ねえ爆発音。

 

「あっ、悪いイスカンダル、あとハサン。このクズは生かして警察に突き出すから。

喉と歯は壊しておくからしゃべれないようにするしね。

こんなやつ殺して楽にしてやる価値もない。

生きて生き地獄を味わってみっともない犯罪者として罪を償って生きてもらう。いいかい?」

「ま、よくは無いがな・・・・・・リスクが大きいしのう。だがまあ、おぬしが良いというならよしとしよう。その代わり例の料金は負けてくれるな?」

「ああいいよ。それで済むんなら。あー、胸くそ悪かったなあ。こいつ教会に見せてから警察に突き出すんで先帰ってくれ」

「ああ、こんな所に長居は無用だ」

 

俺は雑に教会に確認を取らせてさっさと死なない程度に治療して警察の近くに放り投げておいた。

令呪?もらったよ今回一番我慢してくれたウェイバーにあげた。

 

あー疲れた。

 



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第七話「英霊合体」

ふー・・・・・・これで残る敵は金ぴかアーチャー陣営に姫騎士セイバー陣営か。

面倒なのが残ったな・・・・・・どうしよう。え?何酒盛りしたい?あいつらと?

よく聞かせてくれ。ほうほう、話し合いでできないかどうか自分もやってみる?少なくとも探りは入れられるはず?

なるほど悪くないな。まああんたらも酒でものんで気晴らしに行きたいだろしな。いいんじゃない?

 

おっ、そうだ。その時なら時臣は一人になるよな?殴りに行っていい?オッケー、飲み会終わって金ぴかが帰る間ならいいんだな?

あー、ようやくあいつ殴れるよ。ほんとそんだけなのにいろいろ面倒だったな!

 

いつする?明日の夜?いいよ。じゃあそれまで時間あるな・・・・・・

そうだハサン。この間言ってた治してくれそうな知り合いに電話するよ。

ははは、そんなに喜ばなくても大丈夫だよ。

 

「あっ、こんちわ中禅寺さん?あー、はいそうなんですよ。聖杯戦争参加してます。

うっ、耳が痛いなあ。ええ、まあそうなんですよ依頼です。玉串料は言い値払います。

えーっと、アサシンの英霊で多重人格者なんですよ。なんとかなりません?ええ、はい。いや無茶言ってる自覚はあります。

大丈夫ですか!ありがとうございます!え?代われ?ええまあ急ぎですけど。いいんですか?おーいアサコさん、代われってよ」

「はっ、この電話の相手が治療してくれるアテの人物ですか?わかりました、このアサコ見極めましょう」

 

そっからすごかったな・・・・・・電話だけでざっくり統合しちゃったよ。

玉串量は高いぞ?って言って電話を切った中禅寺さんがこわい・・・・・・

 

アサコさんの中に全ハサンが融合したり、また分裂したりでもうやばかったわ。

最終的に三人になったんだからヤバイ。三人のハザンズは俺にひざまずいてる。

 

「百科のアサコ。ここに敬愛を」

 

なんかちょっと知的かつ家庭的・・・・・・なんだろうな、女性らしくなったアサコさん。

 

「明星のシール。ここに思慕を」

 

こっちは褐色ロリな子かー。色気がヤバイ。あっ、でもこの子愛が重そうだわ・・・・・・

 

「豪腕のハサム。ここに忠義を」

 

こいつが男人格が統合された奴か。でけー。2mあるんじゃないの。

すごいマッチョだけどトロそうな感じじゃ無い。めっちゃ素早く動くマッチョだこいつ。

 

こいつらの忠誠心がヤバイ。君ら神のため民のために戦う戦士じゃなかったのかよ!

あれか!ナデポとかチョロインってやつか!優しくされたことなかったのな君ら!

 

「我が主、お仕え出来て光栄でございます……一人の言葉ではなく、異口同音の賛辞とお思い下され」

「お仕えいたします、マスター。あなたは我が主。わたしの、すべて」

「これこそ我が、我らが理想の肉体!影に忍び悪を絶つ……貴方は最高のマスターだ、狩人殿」

 

全員が仮面を外し平伏する。オイオイオイ重いって!忠誠心が重い・・・・・・!

 

「お、おう。なんにしろ良かった。君らもがんばったね。とりあえずせっかく願いがだいたい叶ったんだしあとは生き残ろう。がんばろうな」

 

激しく肯定するハサンズ。

 

『ははっ御心のままに!』

「うん、中禅寺さんにも感謝しような?で、君ら今のステータスどんな感じ?」

 

顔を見合わせてうなずくハサンズ。アサコさんが前に出た。

 

「はっ、まず我ら全員が気配遮断と単独行動、短刀術と隠密術暗殺術を心得ています。

なにやらまとめてスキルになっている様子。ふむ「ハサンのたしなみ」?なるほど……

一通りの諜報活動と暗殺は可能とお考えくだされ」

 

なにそれすごい高水準の暗殺者三人とかマジヤバい。

 

「私は主に家事、料理、治療、商業といったその他学術系、ビジネス系スキルを取っております。平時の雑用と知識が必要な場合ご用命を」

 

アサコさんをチラ見しながらシールが前に出てくる。目が怖い!

 

「私は家事に舞踊、房中術にマッサージ、歌唱に演技技能などを取っています。夜のお供には、ぜひ私を・・・・・・!」

 

ハサムが女性陣に若干引きながら前に出てくる。近いって君ら!

 

「私は主に武術と戦術、まあ要するに荒事全般のスキルを取っておりますぞ。

なにやらこれも名前がついておりますな。

何々?「心眼(真)」に「無窮の武練」だそうですぞ。

鍛錬に戦闘、暴が必要なときはお任せあれ」

 

うん、分身はなくなったけど、引き替えにしてもけっこういいスキルを得られたようだ。

まあ、そんなのはおまけで、彼らの悩みが解決したならそれでいいんだ・・・・・・

 

「マスターは我々の恩人ですからな!皆形は違えど恩を返したく思っているのです」

 

ハサムがすげえいい笑顔でさわやかに言う。女性陣も大きくうなずく。

まあ、そういう風に考えてくれるならまだいいのかな……?

 

「お、おう。まあ解決したならよかった。調子大丈夫?」

 

全員が立ち上がってオーバーリアクションで答えた。

 

「脳裏の雑音はもうありませぬ。私の心はいま澄み渡り、静寂で満たされております。おお、素晴らしい・・・・・・」

「熱く、甘く、蕩けるように・・・・・・身も心も焼き尽くされているかのようです。すべて、すべて御心のままに・・・・・・」

「私にはもはや何の憂いもありませぬな。この身には力がみなぎり、技は冴え渡り・・・・・・生前と死後を通してもベストコンディションと言えるでしょう。

ご用命とあれば、死にに行く事に何の厭もありませぬ」

 

スゲエ、会って半日で忠誠度MAXだ。どうなってるの。

まあそんだけ多重人格いやだったんだろうなあ。

 

「よしわかった。うんまあ、恩と感謝をしてくれるのはありがたいよ。でもまあ、もうちょっと気楽に仕えてくれ。堅苦しいのは苦手なんだ」

『御意』

 

よーし飲み会まで休むか。なんだか疲れたよ。イスカンダルどうよこいつら。

何忠義の士だから大事に扱ってやってくれ?なんなら女どもは俺が抱いてやれ?それも部下に対するねぎらい?

マジかよほんとに?こいつらおぬしに惚れてるぞって?嘘だろ信じて良いの?夜も狩人な所見せてくれ?やかましいわ!

 

「まああれよ。ごますりだとしても、抱いて惚れさせてやればいいのだ。

それにほれ、言うではないか。体から生まれる愛もある、貴族とは結婚後に恋をするものだ、とかな。これもその類よ。

今はその気で無くとも抱けばお互い情が移る。そういうものだ。魔力供給がてらやってみるといい」

 

あんた人の色恋になると早口になるのな。近所の世話焼きおばちゃんか!

 

「気楽に言ってくれるなあ。シールちゃんとか絶対重いよ?」

「そこはほれ、甲斐性というものだ。ぐだぐだ言わずに抱いてやれ!ああいうのはそれこそほっとくと面倒だぞ!

ウェイバー、余は今夜の酒と肴を買いに行く、そうだな3時間ほどだ。供をせい。

それとそこのハサムも借りていくぞ。かまわんなハサム?」

 

ハサムがすげえいい笑顔でうなずいてるよ。仮面と同じくらいわらってやがる。

おめえ人ごとだと思ってるだろ!元はお前と同一人物だからなこいつら!

 

「ええもちろんですとも征服王。私もなにやら外の空気が吸いたくなりましたしな。狩人殿、ごゆるりと・・・・・・

シール、武運を祈る。それとアサコ、お前も家に残るといい。好意は素直に伝えるべきだ。では皆様楽しんで!」

 

シールとアサコが顔を見合わせてなんかぼそぼそ内緒話をしているよ!あっ、ハサムがすげえいい笑顔でサムズアップしてやがる!女性陣も無表情でサムズアップ返すなよ!

やっぱ一心同体だっただけあって息あってるな君ら!

 

行っちゃった・・・・・・振り返ったらそこには一人のお嫁さんがいた。

今までの黒い暗殺装束のイメージから真逆の純白の花嫁衣裳。

なにその衣装?拘束の花嫁衣装?英霊が魔力で衣装を編む応用?すげー・・・・・・

いや、似合ってるし綺麗だよ。あとなんで一人に?

 

「どうも主は二人分だと愛が重いご様子。三人でするのが苦手という御仁もいますのでその類いかと思いました。

そこでシールがどうも好意を抱かれているのはアサコの様子、ならば自らがアサコになればいい、と言い出しまして・・・・・・

我らはひとつになりました。もちろん、お望みであれば今ならまだ別れることが可能です。余計でしたか?」

 

う、ううむ。そこまでしてもらったら、なんだか逆に抱かないほうが悪い事してる気になるな。

実際性格も見た目もアサコさんのほうが好みではあるんだよな。

ちょっとふっくらして筋肉だけじゃ無く丸みもくびれもある。胸も前より大きく!

前よりいい感じだ・・・・・・

 

「いや、君たちがいいならいいんだけど。分身出来なくって不便じゃ無い?あっ、そもそも統合するのが目的だったし、俺も無理に分身してもらわなくってもよかったんだった。

あー・・・・・・まあ、だから今の君でいいんじゃないかな!

えっと、その衣装とかもだけど、つまりそういうこと?抱くよ?」

 

また跪いたよ。けど今度のはヤバイ。マジでやばい色気がある・・・・・・!

もういっかなあ。おじさん墓場行きの覚悟決めようかなあ?

 

「もちろんです、主よ。はっきりと申します。あなたに恋をしております。

一夜でもかまいません、この身にお慈悲を・・・・・・」

 

よし!男は度胸だ!なんでもやってみるものさ!

なあに付き合ってみてうまくいかなかったら、魔力路を渡すなり受肉させるなりしてさようなら、でもいいんだ!

とにかく付き合ってから考えよう!考える前にやろう!

よおしおじさん今夜は獣になっちゃうぞー

 

「わかった。俺も男だ、据え膳食わぬは男の恥だしな。顔をあげてくれ」

「はい、主よ・・・・・・んっ」

 

顔をあげたアサコさんとキスをする。獣のようなやつだ。

うーむ、アサコさんもなかなか情熱的だね・・・・・・

 

「シャワー行こう。脱がすとき楽しそうだねその服」

 

俺はアサコさんをお姫様だっこで持ち上げると風呂へと向かう。

 

「主よ、すてきです・・・・・・」

 

いやー、その日は久々に燃えた、とだけ書いておくよ。

だってこれ以上書くとこれ18禁になるじゃん。

 

 

「さくばんは、おたのしみ、でしたね」

 

イスカンダルがすげえにやにや笑いながら言ってきやがる。

だが俺は大丈夫だ、余裕の笑みで返せてるはずだ。

 

「ああ、楽しかったよ。うらやましいか?飲み会楽しんで来てな」

 

今夜の俺はひと味違うぜ。っていうかあれだ。やった後ってだいたい意味不明なハイテンションになるんだよね不思議。

イスカンダルがガハハと笑って背中を叩く。ウェイバーもなんかにやにやしてうなずいてる。

 

「うむ!一皮むけた男の顔をしておるぞ。いやあ、めでたいな!これは余も負けておられんな!」

「そうです王よ。今夜が勝負です」

 

あれなんでウェイバーが鴉羽装束になってんの?なんか距離近くない君ら?

 

「ふーん・・・・・・そうか、まあがんばってくれ。俺は時臣殴りに行くから」

「おう!狩人喚びの鐘だったか?これがあれば互いの所に行けるのだな?ならば何も問題あるまいよ」

「ふー・・・・・・よし!じゃあ生きて明日の朝日を拝もう。グッドハンティング」

 

俺たちは円陣を組んで気合いを入れた。ラグビーとかでやるハドルってやつだな。

 

「我らはこれよりいかなる時も一つ!我らはヘタイロイ(友)なり!

この場に集う者は孤高にあらず!」

「然り! 然り! 然り!」

 

え?俺も?よーし。

 

「さあてうまくいけばこれで最後の英霊狩りの夜だ。

この街の悪夢を終わらせよう。夜明けに目覚めを迎えよう。

いまや夜は汚物に満ち、塗れ、溢れかえっている。

……素晴らしいじゃあないか。存分に狩り、殺したまえよ。グッドハンティング!」

「グッドハンティング!」

 

うおーっと俺らは歓声を上げてそれぞれの戦場へと向かう。

イスカンダルは戦車で。俺たちはレンタカーで。

運転手はハサム、後部座席には俺とアサコだ。うん、寄りかかられるとあったかいね・・・・・・

 

待ってろ、時臣。



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第八話「優雅と野蛮」

俺は遠坂邸の近くで使い魔に持たせたカメラからの実況をアサコたちと見ていた。

さーて、王様達の聖杯問答はどうなったかな。ふーん・・・・・・各人そういう思いで来てたのね。

 

おいおいイスカンダル、騎士王あんまりいじめてやんな。そいつの部下ひでえから。全員がパンクロッカーみてえな奴らだぞ。

実の姉は近親相姦趣味でそいつの貞操ねらってくるし、子供はその姉との子だから姉にひでえ教育受けて反乱。

一番強い奴がそいつの嫁さん寝取っておまけに反乱してくるし。その上四方は蛮族だらけで土地はろくな飯が食えない。

そのへん分かって言ってやれ。

 

まあ、だからってタイムスリップしてやり直ししてもその子じゃ無理っぽいけどな。

いやだって、血に酔ってもいかれてもないじゃん。蛮族相手でそれで勝てるわけないじゃん。

戦争ナメてんの?これだから田舎の貴族は嫌いなんだ!戦場慣れしてないから略奪能力が育ってない!

 

なに英雄王そんな動機だったの?やっぱ啓蒙高えー。

えっ、騎士王かばったら英雄王と口論?英雄王が騎士王に告白して振られた?面白い奴だな!

なに今度は無理矢理迫ろうとしてる?英雄王レイパーかよがっかりだわ。

即席タッグで騎士王と征服王VS英雄王?おうがんばれ。こっちも行って良い?

 

よっしゃ!供給源から絶ってやる!がんばろうな!こっち早く終わったら加勢に行くわ!

アサコ、俺と時臣の邪魔が入らないように頼む。あとあいつに加勢があったら君らも入ってくれ。OK?よし!

 

「とーきおーみくーん!あーそびーましょー!!」

 

俺はドアを蹴破って入った。けっ、優雅な家だなあ!こっちか!

 

「どこだコラァ!今殴りに行くから歯ぁくいしばれ!」

 

おっ、廊下の曲がり角から出てきた。こんな時も気取ってやがんのな。

 

「やれやれ・・・・・・間桐の家はとんだチンピラに乗っ取られたものだ。やはり許せんな・・・・・・

誅を下、待て!話を聞け!」

 

俺は時臣の詠唱も話も終わる前に素手で貯め攻撃を行った。顔にヒット!ヒュー!3mはぶっとんでいったぜ!

 

「長年この瞬間をずっと待ってたぜ。いやあすかっとしたな!

さあ来いよ時臣!表出るか?俺はこの場でやっても一向にかまわねえぞ!お前の家燃えるだろうけどな!」

「貴様、魔術を何だと思って・・・・・・!」

 

顔芸する時臣に向かって俺は極力真顔で今までのすべての呪詛を籠めて冷たく言ってやる。

 

「くだらない学術ごっこ、カルト狂信者のイカれた儀式。あと世間的には犯罪で大迷惑。何か一つでも間違ってるか?」

「きさ、貴様・・・・・・!もういい表に出ろ!貴様を一つ一つ否定して罰を下さんと気が済まん!」

「おお気が合うな俺も同じ意見だわ」

 

俺たちは窓をぶち破って庭に出た。結構広いな。これならいけるか。来い、爆発金槌。

 

「まず言っとくな?お前しらなかっただろうけどさ。間桐のジジイの魔術って基本女をレイプして生け贄にして使うもんなのね。

それもグロイ虫を使い魔にしてさ。桜ちゃんの処女、ジジイが虫でやぶったんだぜ?そこんところどう思うよ?」

 

ははっ、やっぱ知らなかったのな。動揺してる動揺してる。

 

「そ、それは・・・・・・知らなかった、そうだ知らなかった。重大な違反行為だ・・・・・・

だがそれでも、桜が魔術師になれるなら・・・・・・そうだ!魔術の修行とは厳しいものなのだ!

途中で投げ出した貴様に何が分かる!」

 

ああ、そういう事言っちゃうのね。まあ魔術師の価値観ってそんなもんか。

そんなもん鼻で笑ってやるよ。

 

「はいダウト。それも間違いだ。女レイプして虫の餌にしてるクズにそこんところ期待する?

ただの孕み袋にしたかったらしいよ。もちろん魔術なんて教えてない。

ああ、虚数属性なんだって?あれジジイがつぶしてただの水属性になってたよ」

 

おっ、いい顔すんじゃない。気取った顔よりずっとましだぜ?

 

「まあ、最終的には俺の甥っ子のシンジ君の嫁って感じにして?

結局は自分がレイプして子供産ませて?飽きたら食うつもりだったんだってさ。

それでもあんたらにとっては魔術出来るだけで幸せなんだろうな。いやーすげえな魔術師。俺にはぜんぜん理解できないし、したくもないわ」

 

震えてる震えてる。いいぜ、まだ反論あんだろ?言ってみろよ。

 

「・・・・・・ならば貴様は何なんだ!魔道から逃げ出して!おめおめ手遅れになってから戻ってきて!

今更ゾウケンを殺して英雄気取りか!血に責任も持たず逃げ出した軟弱者が!

あまつさえ何だ?自らの家の魔術の祖を殺しておいてそのことに負い目を感じるどころか誇りすらする卑劣な恥知らずめ!

貴様など、魔道の恥だろう!」

 

わはは、とうとう話題そらしやがった。いいねえ、すっとするよ。

 

「ははは、俺だってお前のこと大して知らねえよ。

そりゃいろいろお前にも苦労があったんだろうよ。

魔道のためにいろいろ努力して苦しんで、捨てらんないもの捨てて。

もう後戻りなんてできないくらいにはやらかしちゃったんだろう?」

 

時臣はなんか金ぴかな杖を取り出してこっちに向ける。お前、そういう所あの金ぴかとセンス似てるのな。

 

「そうだ!貴様に分かるか!凡俗、二流の魔術師としてさげすまれる苦労を!5才の我が子に、追いつけないと知った絶望を!

己が手で根源への道などないと、聖杯戦争に賭けるしか無いと知った時の苦渋を!」

 

俺はため息ついて大げさに肩をすくめて言ってやる。

 

「じゃあ言うけどさ。お前だって俺のこと知らねえだろ?

まあ、あのジジイの家って事で察しろよ。

ああ、母さんはジジイに食われたし、彼女だってジジイが食うと思ったらこの年までできなかったよ。あ、ちなみにその時諦めた人な?葵さんなんだわ。

安心しろって。お前みたいなカルト狂信者野郎の奧さんになったって事でもうドン引きして醒めたから」

 

俺は爆発金槌に灯をともしてゆっくり構える。

 

「そもそもさ。何?神秘的なもん追ってたら偉いの?なにそれ。おめーらいい年して夢みたいなこと言ってばっかりじゃん。

挙げ句殺人だの生け贄だの。一般市民に迷惑かけて開き直って光栄と思えとか言い出すじゃん。

お前らクズだよ。間違いなく一般的にはクズの狂人だよ。大迷惑だ」

 

時臣が詠唱を始める。まあ待ってやるよ。全部へこますって決めてるからな。

 

「あとな。俺が魔道から逃げ出したって言ったよね。まあそうだよ。でも逃げた先に楽園なんてなかったんだ。

どこに行っても魔術師と幻想種だらけだったよ。だから俺は狩人になったんだ。

魔術だってやらざるを得なくなった。全部、血と炎に彩られた奴だ。恥知らず?虫畜生の血を継いでる事こそ恥だわ」

「黙れェェェ!」

 

時臣が杖から炎を出した。ふーん、速さと範囲はそこそこだけど、直線的だし殺意も密度も薄い。

 

「まあ、お前が魔術の出来でしか物事わかんない頭ぱっぱらぱーなのは分かったよ。

だからお前にもわかりやすく教えてやる」

 

俺は爆発金槌を振り回して奴の炎をかき消した。

 

「マトウの狩りを知るがいい」

「馬鹿な・・・・・・貴様のその下品な炎が私より強い神秘があると!?そんな馬鹿な!」

「俺の炎はトゥメル仕込みだ。さぞやその身に熱いだろうさ」

 

まあこれ上位者を沈めてきたもんだし、神秘をお手軽に高める精霊の抜け殻とか血晶をぶち込みまくってるしな。

 

まず先触れとか呼びかけとか一目でヤバイとわかる秘儀や魔術を見せびらかしてやった。

小アメンを出した時の顔と言ったら!目が点になってたよ。

 

その上で俺は奴の技を一つ一つ捌いていった。

炎を出せばより大きな炎で。

格闘仕掛けてきたらそれこそ俺の専門分野なので全部払ってねちねちぶん殴ってやった。

礼装も一つ一つあえて使わせて全部切り抜けてやった。魔力も体力も尽きるまでつきあってやった。

 

「馬鹿な・・・こんな馬鹿な事があるはずがない・・・・・・貴様のようなちゃらんぽらんな男が、私よりすべての技で上回っているなどと・・・・・・!」

「事実だろ?で、なんだっけ?魔術ができたら偉いんだろお前の価値観。どうなのよ」

 

目を背けて黙りやがった。俺は時臣の顔面を蹴って奴が倒れた後前髪をつかんで引きずり起こして、顔を間近に近づけて言う。

 

「その俺が言ってやる。

いいか、本当に強い、尊いもんはな、日々を当たり前に生きることだ。退屈と戦うことだ。まともに働いて、学んで、家庭を持つことだ!

暴力とか魔道だのに手を出さず、まっとうに生きてる奴が一番えらいんだよ!」

 

間近で目と目が合う。お互い血走ってにらみ合っている。

 

「つまりはお前がゴミと言った凡俗な幸せだ。それが最強だ。当たり前だろバーカ!」

 

「なぜだ・・・なぜ・・・・・・」

 

ぶつぶつ虚ろな目でつぶやいてるが知ったことか。俺は俺の言いたい事を言うぞ。

 

「現実に嫌気さしたからって摩訶不思議な力に甘えんな。暴力に逃げんな。

どっちも抗うため、大切なもんを守るための力だろうが。

間違っても俺らみたいに自分は強くてすごいなんて自慢する飾りじゃねえんだよボケッ!」

 

あーすっきりした。言うだけ言ったから俺は時臣に頭突きをして放してやる。

 

「だから俺はお前を殺さない。凜ちゃんにだって親は必要だ。

桜ちゃんだって、まあひょっとしたら悲しむかもしれない。

お前にはぜんぜん価値なんてわかんないだろうけどな。家族をまもってまっとうに暮らせ」

 

聞こえたかわかんないけど、死んじゃいないだろう。俺はちょっとだけ声を張り上げる。

ああ、令呪?奪ったよ。

 

「おーい終わったよー!こいつまだ生きてるから救急車なりなんなり呼んであげてー!」

 

葵さんがそーっと顔を出す。

 

「よっ、久しぶり。まあそういうことだから。ああこいつまだ死んでないし、嫌いじゃなかったら助けてやったら?」

「あなたは・・・・・・これで満足なの雁夜君!?これで聖杯も桜も、あなたのものにしてそれで満足なの!?」

「いらないよ聖杯なんて。どうせこいつらが作ったもんだもの。多分使おうとしたらエンストするよあれ?」

「あなたには何も分からないんでしょうね・・・・・・魔道の家に生まれる責任も、苦労も、素晴らしさも。きっと、誰かを好きになることも、分からないのでしょうね」

 

はっはっは。何を言うと思ったらそれか。残念だなそれも実はもう大丈夫だ!

カモンハサン!

 

「あっ、そういうこと言っちゃう?じゃあ紹介するわ。これ俺の彼女のアサコさんね」

「ご紹介にあずかりましたカリヤ様の情婦、アサコです。どうぞよしなに・・・・・・といっても二度と会うことはないでしょうが」

 

アサコさんを腰から抱き寄せてキスしてまあ、イチャイチャしてみせる。

 

「汚らわしい・・・・・・出て行ってください!」

「カリヤ様、いいでしょうか?ご安心を、殺しはしません」

 

アサコさんが俺からそっと離れてめっちゃ厳しい顔で葵さんに近づいていく。

 

「ああ、頼むわ。できるだけ優しくな?」

「努力します」

 

うっわ葵さんすごい声。痛そうだなー関節技。ん?なんか囁いてる?

 

「ひ、ひいい・・・・・・許して、殺さないで・・・・・・!」

「だから言ってんじゃん。その価値もないし、マトモに生きろよって。じゃーね。せいぜい楽しくやってくれ」

 

俺はアサコさんと手をつないで優雅な家を出る。

あー、すっきりしたー。ほんと戻ってきてよかったな冬木市!

 

「アサコさんあの人に何言ったの?」

「ふふふ、秘密でございます」

 

こえー、優しいし笑顔だけどこえー。

でも、もしかしたら俺のために怒ってくれたのかもな。そうだといいな・・・・・・

さあ、イスカンダルの方に応援に行くか!

 



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第九話「暴力は暴力を生むが最後にはこうなると決まっている」

どうよイスカンダル?そっちの調子は。え?やばい?行って良い?良い返事だ!オッケー行くよ。

え、アサコさんもついて行くの?できれば死んで欲しくないし待ってて欲しいんだけどなー。

何、家を守るのは嫁になってから?むしろ隣にありたいし、死ぬときは一緒が良い?足手まといで申し訳ない?

はっはっはっ。そこまで言われたらついてきてもらうしか無いな!オッケー、一度言ってみたかったんだ。

 

必ず君を守るよ。

 

オイオイオイ泣かなくってもいいじゃない。今夜の俺たちは最高に絶好調なんだ。生きて帰れるさ!

よーし行くぞ!

 

鐘でテレポートして行った先は広大な砂漠だった。何これ?固有結界?すげえ。

何この軍勢、宝具で生前の部下全員召還?すごいな。

 

おお、いい感じで騎士王が前衛してくれてるね。あの聖剣やばいわー。

 

「おのれ、おのれおのれおのれ!かくなる上は・・・・・・貴様の出番だ!乖離剣・エア!」

 

あー、この間のあれか。あれ空間ごと裂く奴じゃない?相性悪くない?マジで?しょうがねえなあー。

 

「エヌマ・・・・・・なに!?なぜ作動しない!我の体が透けていくだと!?馬鹿な!魔力切れ!?ええい時臣は何をしている!パスが、切れている?なぜだ!」

「ああ、そのパス?令呪だろ?ここにあるんだわ。時臣なら俺がぶん殴ってぶんどってきた。

で、これはこうする。あんたをこの世につなぎ止めるもんはもうないな?」

 

俺は時臣から剥いできた手の皮をあっさり燃やして灰にする。

 

「あの痴れ者が!おのれ、おのれおのれ認めんぞ!こんな、終わり方など・・・・・・!」

「まあ、マスターが悪かったね。あいつ頭おかしいけど、ぶっとんでないもん。面白くなかっただろ?そこの差じゃねえかな。

次はいいマスターに召還されるといいな!召還なんてするのは魔術師って時点で多分無理だろうけど。じゃあさっさと成仏しちまえ」

 

おっ、イスカンダルがため息ついてる。

 

「のう英雄王よ。貴様も王を自称するのであれば潔くせい」

 

おっ、イスカンダルがヘタイロイになんか命令したら英雄王の魔力がとりあえずってくらいには戻った。

まあ宝具は使えないだろうけど、普通に武器取って戦うくらいはできるだろう。

 

「個の力、己自身しか信じぬ貴様に我が絆という王道を見せてやろうと思ったが・・・・・・

これでは弱い者いじめだ。それは王道では無い。

故にヘタイロイ共にはすまんが、彼らは立会人とする。

つまり、将同士での一騎打ちで勝負をつけようではないか。どうだ?騎士王もかまわんな?」

 

騎士王がアホ毛をゆらして大きくうなずく。やっぱいろいろ思うところあったみたいだね。

 

「是非もありません。この男に一発くらいは拳をたたきつけてやろうと思っておりましたが、もう十分でしょう。お任せしてもかまいませんか、征服王」

「うむ!さあどうする英雄王!」

 

英雄王がうつむいてめっちゃ震えてる。屈辱か?でも自業自得じゃん。

大きく息を吸って、顔を上げたらまあそれなりには見れる表情になっていた。

 

「癪どころの話では無いが、よかろう。上奏を聞き入れよう。乖離剣など無くとも、ウルクの格闘術は最強であることを知るが良い!」

 

英雄王が鎧を脱いで上半身裸スタイルで拳を握る。

征服王も剣を納めて馬から下りて指をパキパキ鳴らしながら近づいていく。

 

「ステゴロか。刀剣を使って一騎打ちかと思ったが・・・・・・まあ、男同士が雌雄を決するならば最後はこれだわなあ。

行くぞ英雄王!カリヤ、ウェイバー、手出しは無用だ!」

「さえずっておらぬととっとと来い、征服王!」

 

二人は砂漠の上を走り出して叫びながら殴り合う。

英雄王お前武器使わない方が強いんじゃん。まあ能力とか手数は減るけどさ。

英雄王の怪力がマジでヤバかった。英雄王がイスカンダルをホールドしたときはちょっとヤバいんじゃねえのって思ったくらいだもん。

 

なんだか途中から二人とも笑い合ってたよ。まあ気持ちは解る。

 

「疾く倒れぬかこの筋肉達磨が!」

「貴様こそ息が上がっておるぞ!ご自慢の剣を出さなくとも良いのか!ああん!?」

「ほざけ!我が手ずから相手をしてやる栄誉を知るが良い!」

 

うわー、人体が出して良い音じゃねえよ。でも殴り合う姿は一種すがすがしいな!

最終的にはお互い心臓狙い、人体を切り裂けるタイプの抜き手を繰り出し合った。

イスカンダルがパリィしてど派手に内臓攻撃を決めてくれたけどな。

潜ってて良かった呪われたトゥメル!

 

「認めよう・・・・・・貴様に一時この島を貸してやる・・・・・・!せいぜい暴れ回り座にいる我を楽しませることだ・・・・・・!」

「おう!向こうでせいぜい楽しみにしておるが良い!此度もまた、心躍る遠征であった!」

 

案外いい笑顔で英雄王は消えていった。そこにはお互いを認め合った男の友情があった。

 

「すごい・・・・・・王よ、僕もあんな風になれたなら・・・・・・いや、なれる。ならなきゃいけない。今はまだでも、いつか・・・・・・!」

「ウェイバーよ。立ち会い大義であった。なにそう謙遜するな貴様もすでに益荒男よ。

あとは機会が巡ってくるのを待つだけだ。なあに案ずるな、世の中というものはな、力を持つ者にふさわしい舞台を用意するものだぞ」

 

イスカンダルがウェイバーの頭をわしわし撫でてる。

 

「さて、騎士王よ。貴様さえよければここで決着をつけよう。

案ずるな、此度も一騎打ちでかまわんぞ?

ただし武器を使うならこちらも相応の武具を使うがな」

 

騎士王はしばらく考えていたが、すぐに凜々しく聖剣を構えた。

 

「良いでしょう。ここで引いたとてあなたはまたこの宝具を展開する。

ならば一騎打ちが出来る今のこの場が最大の好機!ここでならば遠慮無く聖剣を解放できる・・・・・・!」

「うむ、正々堂々とこの戦争を締めくくろうでは無いか!」

「勝った気になるのはいささか早いぞ征服王!」

 

いやーすごかったよ。本気のチャンバラって見応えあるね。

イスカンダルは最初は初期装備の両刃剣、ほらキュプリオトの剣だっけ?あれ。

まああれを使ってたけど、そのうち獣肉絶ちとかいろいろ使い始めたし。

 

「なんと禍々しく野蛮な剣だ・・・・・・!人々の希望を編んだこの聖剣で絶てぬ道理は無い!」

「ほう、実は余も最近聖剣を手に入れてな?借りるぞルドウィーク!」

 

砂漠に、月の香りがした。イスカンダルの取り出したのはやばいでかさの大剣。

形はシンプルでスタンダードだが、表面がヤバイ。

まず緑色に光ってる。明らかに神秘を感じさせるヤバイ色だ。

なんか模様も描いてあるけどあれじーっと見てると啓蒙ちょっと上がるんだよね。

あからさまにこれ上位者関係の何かですよね?ってものだ。

 

「月光の聖剣と言う。さあ、踊ろうか騎士王!」

「そのような異形の聖剣にエクスカリバーは負けはしない!」

 

うん、やばかったね・・・・・・なんで二人とも剣持っててビームの打ち合いになってるんだよ!

あとどっちもビーム出すときすげえうるせえ!ヘタイロイ若干引いてるじゃねえか!

 

「私の、負けか・・・・・・」

「うむ、余の勝利である」

 

結局、ビーム打ち合ったりチャンバラしたりした結果征服王が勝った。

致命傷を負って騎士王が消えていく。

 

「無念だ、私の、私の聖杯・・・・・・ああ・・・・・・すまない、皆・・・・・・」

「次にまみえるときはその未練、断ち切れておると良いのう」

 

首が飛んだ。ああ、これでこの馬鹿祭りも終わりか?

 

「終わった・・・・・・のか?」

「終わったのう」

「ははは、やった!僕たちの勝ちだ!やったぁ!」

 

イスカンダルが剣を掲げて勝利をアピールする。

 

「此度の遠征、我らの勝利である!喝采せよ!」

 

ヘタイロイが槍を掲げて歓声を上げる。すごい迫力だ。っていうかうるせえ。

まあ、皆喜んでいるからいいか・・・・・・

 

 

「ヘタイロイよ、ろくな活躍をさせてやらんですまんな!大義であった!

また会おう我が友らよ!おっと、帰る前に紹介しておこう」

 

イスカンダルがウェイバーを前に出してヘタイロイに見せる。

 

「こやつはウェイバー・ベルベット!此度の戦で新たに我が臣下に加わった狩人にして魔術師である!

すぐれた戦士でもあり、なかなかに多芸な奴よ。いずれそっちに行くであろうから、良くしてやってくれ!」

 

ウェイバーが狩人らしく一礼する。

 

「この度、王に見いだされ皆様の末席に加えていただきましたウェイバー・ベルベットです。

まだまだ未熟の身ではありますが、王のため、皆様のため励んで参ります!」

 

歓声が上がる。なんか認められたみたいだね。

え?なに?俺は誰?って?

 

「こっちは間桐雁夜とその情婦アサコだ。

さきほどの聖剣を融通してくれた者であり、此度の同盟相手だ!

見たとおり貴様らと比較しても遜色ない勇者である!」

 

えっ、アサコさんはそれでいいの?いいんだ・・・・・・

 

「あ、どーも。間桐雁夜だ。あんたらの王様には世話になってるよ。まあ、よろしく」

「百科のアサコでございます」

 

適当に手を振っておいた。まあ、それなりの歓声はくれたよ。

 

「此度の遠征まこと愉快なものであった!いずれ遠くないうちに貴様らともこの時代での快悦を分かち合おうではないか!彼方にこそ栄えあり!(ト・フィロティモ)」

 

イスカンダルが剣を掲げるとヘタイロイもウェイバーも剣を掲げる。

俺らもなんかノリで金槌と短剣を掲げておいた。

 

『彼方にこそ栄えあり!(ト・フィロティモ)!!』

 

それが解散の合図だったらしい。砂漠の風景は消え、アインツベルン城が見える。

ほー、ここがアインツベルン城かー。豪華だなあ。

おいアレ聖杯じゃね?なんか床抜けて浮いてるけど。

ん?あれなんか出てない?血みたいなのあふれてない?

 

「うむ、そうだのう。なあカリヤよ。ああいうのは見覚えがないか?」

「うん、思いっきり呪われてるねあれ。言ったじゃん、あんなもん絶対エンストするって」

「どうやらそのようだのう・・・・・・やはりこんなものに頼ってはいかんな!

カリヤよ感謝する。保険をかけておいて正解だった!」

 

あれ、床に開いた穴からなんか出てきた。だれこのおっさん。

衛宮切継?魔術師殺しの?こいつが?えー、だってこいつ目が死んでるじゃん。

あのときのキレイくんと同じって言うかもっと腐った目じゃん。ないわー。

 

「聖杯は・・・・・・そうだ聖杯は呪われている。これは願望機などではなかった・・・・・・

間桐雁夜、頼むこれを破壊してくれ」

 

どうしようかなあ。呪われてる聖杯はヤーナム的にはありがたいんだけど。

でもこれそういう使い方できないんでしょ?

よし解体しよう!

 

「うんまあこれは駄目なシロモノだわ。でもいきなりぶっ壊したら多分爆発オチになるよ?

だってこれ原子炉みたいなもんだし。まあ、慎重に無力化していくよ」

「ああ・・・・・・すまない、任せる」

 

でも俺こういう細かい工芸品苦手なんだよね。ウェイバー、どうするよこれ。

調べてなんとかする?そうだね。



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幕間2「相手から押し付けられたルールで勝てるか!ルールは自分で作るんだよ!」

それから2日かけていろいろ調べたり、切継から愚痴を聞いたりしたよ。

 

なにあんた、聖杯で世界改変する気だったの?やべーなあんた。

人から闘争本能とか悪性とかとっぱらって世界平和?

んー・・・・・・気持ちはすげえわかるわ。嫌だよね、人間の中の獣の愚かさ。

 

あんたもあれだろ?クズい魔術師いっぱい見てきたんだろ?

え?あんたの親もそういう魔術師で?初恋の幼なじみはもちろん、故郷の皆をゾンビにしちゃった?

うわあ・・・・・・解るよその気持ち。スゲーわかる。

 

そっから師匠に出会ってしばらくは楽しく魔術師狩りしてたけど、飛行機の中ゾンビだらけになって師匠ごと撃墜しなきゃならなくなった?

ふーん・・・・・・

 

同じ様な出自なのになんでこんな差がついちゃったんだろうって?さーね、俺は単に運が良かっただけかも。

しんどくなかったらもうちょい愚痴聞くよ。大変だったろあんたも。

 

ふんふん、そっから「天秤の選択」って奴をしてきたわけだあんたは。

少ない方をぶっ殺して数が多い方を助ける、ね・・・・・・あちゃー、そうなっちゃったんだ。やっぱり間違いだったのかって?

うんまあ、間違っちゃいないけどそれだけが判断基準だったらそらおかしくなるよ。

 

あんた真面目すぎるんだって。クソ魔術師のボケ共見ろよ。あいつら馬鹿なりに楽しそうだろ?

人間、ノリに任せたり馬鹿になる時は馬鹿にならなきゃおかしくなっちまうよ。なっちまったんだろ実際。

 

ふんふん、いろいろやってたら札付きになって?世界平和が欲しくてあんたはついうかうかとアインツベルンにそそのかされて聖杯の話受けちゃったんだ。

あんた、疲れてたんだよ。彼女いたんだろ?半年くらい引きこもってずっと食って寝てやる生活くらいしなきゃ駄目だったんだよ。

どう考えても冷静じゃ無かったってあんた。

 

わかってる?そうかなあ・・・・・・え、その後奥さんとって?子供こさえて?えっ、さっきの彼女は?愛人?

あんたなー・・・・・・そういう所ではっちゃけちゃうわけ?病んでるよあんた・・・・・・知ってる?そうか。

 

で、あんたはアインツベルンのアハトジジイの話に乗って、そんなんしちゃったんだ・・・・・・

奧さん生け贄にして、世界平和ね・・・・・・間違ってたのかなって?当たり前だ馬鹿野郎。

 

あんたなあ、自分の家族も救えない男が世界を救えるかよ?おかしいだろどう考えても。

改革に生け贄は必要だし、それは身内から出すべきだと思った?あんた・・・・・・やっぱこだわるところおかしいわ。

 

あんたどういうノリで狩りをしてたんだ?そんなんじゃ楽しくなかったろ。

えっ。感情は余計?機械になりきった?そこかあー・・・・・・多分そのへんだわ差がついたのは。

 

俺の所はあれだったんだよ。獣になるか、狩人になるかって感じだったわけ。狩人も血に酔ってるものだしな。

動物的だったんだよ。ある意味生き物らしかったんだ。血と涙の結晶みたいな。

 

人間、血も涙も無い機械になりきれるわけないじゃん。飯だって食うしやるときはやっただろ?子供出来たんだから。

人間が人間味を捨てられるわけ無いんだよ。だってそれってあんたが言う人間の悪性とか愚かしさそのものだから。

ああ、解るよ。だからこそ捨てたかったし、根絶したかったんだろ?俺も時々そんな気分になるよ。

 

でも人類が二千年以上かけてできなかったことが今すぐできるわけないじゃん。

ましてやお釈迦様じゃないんだから、そんなにすぐあんたが悟れたり捨てられるわけもないじゃん。

 

実際捨ててみて駄目だったろ?なに、聖杯の中の人のアンリマユにも言われた?

少数を切り捨てて多数を生かすってそれってつまり多数決だし、突き詰めていったらお前一人しか残んないよって?

腹立つけど、俺もそう思うよ・・・・・・

 

じゃあどうすればよかった?いっぱい他の道も間違いもあったと思うよ?あんた他の道が見えなくなるくらい疲れてたんだろうよ。

だってそうじゃん。おいしい話には裏がある。魔術師相手の戦いの基本だろ?

それも忘れるって相当ヤバいよ。疲れたらほかの選択を考える余裕なくなるじゃん。

過労の典型的な症状だよそれ。

まず家庭なり安らぎなりを手に入れたらその時点で立ち止まってよく考えるべきだったんだ。

 

あとあんたは真面目すぎで頭固すぎだ。多数と少数どっちを助ける?なんて質問、馬鹿真面目に答えちゃ駄目だ。

駆け引きなんだよああいうの。こんなん出題者が条件決めてるじゃん。マジシャンズチョイスって手口だよこれ。

ほら、手品でカードを選ばされるじゃん。でもあれって手品師の誘導でどう選択しても決まったカードを選んじゃうんだよね。

つまりそういうイカサマじみた質問なんだよ。出題者がどうとでも条件追加できるんだから。そりゃ論破されるわ。

 

だって相手が問題を押しつけられる状況ってそいつギャンブルで言えば胴元じゃん。

ルール作れるなら自分が有利なルールにするに決まってるじゃん。

だから相手の土俵に立たない。あんたも戦場でさんざんそういうのやってきたはずじゃん。簡単な応用問題だぜ?

 

あー、はっきり言ってやろうか。

相手の押しつけたルールで勝てるわけ無いじゃん。ルールは自分で作るもんなんだよ!

多数や少数なんて二択だの数だのだけじゃないんだ。善悪とか好嫌みたいな他の基準もあるじゃねえか。それを忘れたら駄目なんだよ。

なにそんなん主観だ?相対的にみれば正義も悪も無い?うるせえ主観上等じゃねえか。人間所詮てめえの二つの目でしか物事みれねえんだよ!

何度も言うが思いあがんな。身の程を知っとけ。

 

模範解答さっさと言え?あー、じゃあ言うよ。俺だったら俺についてくる100人だけ最初に選んで残りは海に突き落とす。

もしくは俺好みの100人だな。そんで次もどーせ故障するに決まってるから船の残骸で救急用ボート作っておく。

じゃなきゃあ、俺だけ最初に身内だけで真っ先に逃げる。

 

だってそうじゃん?なんで俺に頼ってくるばかりの赤の他人を助けなきゃならんのよ。

てめーの世話くらいてめーでしやがれ。ネズミだって死にそうになったら泳ぐくらいはするじゃねえか。そいつらはそれ以下か?

もし何百人いて誰一人どうにかしようとしないボンクラ共だったとしたらだ。

仮に陸地にたどりついてもそいつら何かあったらあんたに甘えるだけで何もしねえぞ。

あんたそんなん助けるの?そんなんが人類の生き残りならもう滅んでよくない?

 

逆に言ってやろうか?何百人いるんだから、仮にその暗黒馬鹿神様の言うとおりに船を修理できるのがあんただけだとしてもだ。

あんたがいなかったらそれはそれでそいつら結構なんとかするもんなんだよ。思いあがんな。

あんたは他人は頼れない自分がなんとなしなきゃ、ていう英雄願望につけ込まれたのさ。

何百人もいんだから、スキルなくってもなんとかしようとする奴らは出てくる。ちっとは他人を信用しろ。投げちまえ。難しいだろうけどな。

 

ちなみに回答はもう一つあるぞ?たまにはあんた自身でゆっくり考えてみな。

別にこれは世界だのそんな大げさなもんがかかった話じゃねえんだから。

 

・・・・・・まあ、いろいろ説教しちゃったけどさ。あんたはただ不幸で選択肢がなかった。他のあったとしても考える暇が無かったんだ。あんた過労だわ。

だから、最初に言ったとおり運が悪かっただけなのかもな。同情するし、助けもするよ。

俺だって一つ間違えばあんたみたいになったかもだし。

 

どういう意味だ?あんた、まだ人の心が残ってるならこれが終わったらアハトジジイから娘さん取り返すんだろ?

協力するよ。どうもアハトジジイの話を聞くにそいつもろくでもないアホみたいだからな。

ああ、もちろん俺に得はあるよ?その馬鹿の財産山分けな。俺が6であんたが4だ。

 

かちこんで娘さん取り返して財宝を持って帰る。ゴキゲンなおとぎ話じゃねえか。

あんたが主役の英雄譚さ。少なくともあんたは娘さんのヒーローにはなれるわけだ。なんだかんだでなりたかったんだろ、ヒーロー。

ああ?その母である嫁さん殺したのは自分だ?そいつはその子が大きくなるまで黙っとけ。正直に言うことだけが誠意じゃねえんだよ。

そんでその子が事情を解るくらいになったら土下座でもなんでもして謝りやがれ。まずはそれからだろ。

 

え?俺が9で自分は1でいい?その1は娘?

いいじゃん。かっこいいぜあんた。少しはマシな顔になったな。

じゃあ、明日もがんばろうか。そうだな・・・・・・冬木市の平和のために、とか。

 

 

結局いろいろ調べて、どうも中にいるアンリマユの残りカスがいかんらしい、と解った。

ミネラルウォーターをドラム缶一杯に苦労して貯めても、うんこを1グラム投げ込んだらもう飲めないのと同じだ。

 

聖杯をぶっこわしたらこのうんこがあふれ出てそれはもうヤバイって解った。

まず土地は汚染されるわ、そもそも量がヤバいので洪水になるわ、引火もするので火事になるわでしゃれにならん。

サーヴァントに対してはもっと深刻で霊体を浸食してうんこ色に染め上げてしまうらしい。

 

放っておいてもそれはそれでやばいんだそうだ。

なにしろあれは今、泥が一杯に入った肥だめみたいなもので、何かの拍子に即暴走しかねないものらしい。

 

なにこれヤバイ。ほぼメルトダウン中の原子炉心じゃねえか!この泥ってほぼ放射能汚染水じゃん!

アハトの馬鹿はヌカ・コーラ・クァンタムでもきめてんのか!?馬鹿じゃねえの!?

 

結局とれる方法はいくつもなくって、一番ましなのが聖杯戦争の勝者が自害せよと命じるのがいいとかなった。

ただその場合は怒ったアンリマユが何するか解らないし、そもそもこれはもう祟り神の類いでむしろ神道の人らに鎮めてもらった方が良いのかも・・・・・・とかいう意見も出た。

 

そこで俺はちょっとしたアイデアを思いついた。

もうこいつ受肉させちまわねえ?ただし俺らが狩れるような形で。

いやいや案外ありかもだよ?まずこう、ノート1冊くらいに曲解しようのない形でびっしり条件っていうか、受肉するときのスペックのレギュレーションを決めてやる。

そんで出てきたアンリマユを皆で囲んで棒で叩く。アンリマユは死ぬ。どうよ?

 

いやでも皆、この馬鹿に言いたいこと一杯あるだろ?この際だから殴ってすっきりしようぜ。

あと現実的なメリットもある。こうすればアンリマユの思考を誘導できるんじゃねえかな。まずあの汚染水みたいなので来られるよりはずっとましだ。

獣とか英霊もどきみたいな肉のある形を指定すれば出来ることは限られるぜ。

だけど奴も怒るに怒りにくいだろ?だって生まれたいって願いを叶えてやったし、暴れたいんならちゃんと殴れる手もある。

ってことは逆に汚染水を無限にあふれさせるみたいな抑止力案件もできないわけだ。まず最初に俺らにかかってくるだろうからな。

 

まあ、長々と言ってみたけどさ。あいつなんかムカつくじゃん?性格悪いしこっちを舐めきってる。

だから、切継にやったことをやり返してやる。今度はこっちがルールを決めて殴ってやる。どうよ?すかっとするだろ?

 

オイオイオイ意見通っちゃったよ。マジか。でもそれはそれでアリだな!よーしやろう!

この際だからさ、生き残ってるマスターたち全員に声かけようぜ!あの馬鹿神様とアハトジジイにみんな一杯食わされたんだからな!



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第十話「呪われた冬木の聖杯」

結局聖杯の中の人を呼び出して囲んで棒で叩くことになった。だってなんかこっちを舐めてるしムカつくし、やろうぜ!ってことで。

 

決戦はアインツベルン城の庭で行う。最初の地といえば柳洞寺にある洞窟なんだろうが、あそこでやると迷惑がかかりすぎる。

そしてここも始まりの地には違いない。

 

てなわけで結局集まった面子は俺とウェイバーといういつもの面子に切嗣とキレイだった。

おっさんだらけじゃん。華がねえなーこのパーティー。

サーヴァントはイスカンダルとアサコとハサムの三人だ。

・・・・・・奇しくも七人だなこれ。

 

ケイネスと時臣は欠席。まあそもそもケイネスは今新婚状態らしいし、こんなんに呼んじゃ駄目だろ。それでも資料とか資材とかいろいろ融通してくれたけどな。

 

時臣?なんか心が折れちゃったって。そもそも家庭を守れっていっておいて悪神討伐に誘うな、とか言ってた。まあ、少しは考え変わったのかな?まあそう簡単にはいかないだろうけどさ。

 

キレイは相変わらずねっちょりした目で土産だっつって山ほど令呪もってきやがった。親父さんにねだったらくれたとか言ってた。

まあ、しくじったら抑止力案件だしこの際だから有効に使ってくれって親父さんの手紙にあったよ。

 

そんだけあるならって思ってちょっと試しに水盤商人の使者に渡してみたらなんかショップに普通に並んでた。ヤバいな上位者。

なんか見てみたらキレイと切嗣がとんでもない量の血の遺志持ってたから買いまくってみんなで分けた。

 

てなわけで俺たちは令呪一人20画という馬鹿みたいなブースト装備でこの戦いに挑むことになった。

 

こまかーく決めたレギュレーションをアンリマユのいる聖杯に見せつける。一種のセルフギアスクロールだ。

レギュレーション違反で来た時点で大幅に削れるのでどうやってもレギュレーション内に収まるわけだ。

ちなみに俺らが決めたスペックは基本的にサーヴァントのそれと同じようなものだ。

どれだけがんばっても最上位のサーヴァント・・・・・・

まあ、英雄王くらいのスペックまで堕ちる。

 

そもそもサーヴァントのシステムって手のつけられない英雄を制御できるくらいにまでデチューンするものだしな。

 

俺たち4人のマスターは交互に詠唱を行う。今も血を流し続ける黄金の聖杯を前にして、いきなり奴が出てきてもいいように距離を取って。

 

4人で可能な限りの資料を当たり、英霊召喚を改造して作った聖杯の中の人召喚呪文だ。

なにしろ間違いなく初めての試みなんでうまくできるかどうかは賭けだけどな。

 

よし・・・・・・皆装備は持ったか?!いくぞ!

 

最初は俺だ。

 

「素に錆と血。礎に破棄の大公。 祖には我が学祖ビルゲンワース。

  降り立つ風は吹きぬけよ。 四方の門は今ぞ開き、王国より昇り、王冠により下る三叉路は解放せよ」

 

二番目は切嗣。なんともいえない、後悔、悲しみ、憤怒、そういうのがごちゃごちゃになった、寂しい顔だ。

 

「開け。開け。開け。開け。開け。

繰り返すつどに五度。今や満たされた刻は成就する」

 

三番手はウェイバー。最初にあった頃から思うと大分たくましくなったな。もう、すっかり男の顔だ。目つき悪いな。

 

「告げる。聖杯よ、汝の寄るべに従い、我らは出会い誓いを果たした」

 

最後はキレイだ。やっぱりどこかなんともいえない、喪失と決意を秘めた、強い顔だ。

 

「報いをここに。

我ら、現世全ての善と成る者。

汝、常世全ての悪と成り果てた者。

汝二元の言霊を纏う九圏の底」

 

俺たちは決意と闘志を込めてその名を呼ぶ。

 

『聖杯の底より来たれ『この世全ての悪』アンリ・マユよ!』

 

最初は血の海が少し震えただけだった。だが、その中からゆっくりと奴は頭を表す。

なんかもにょもにょした赤黒い泥の塊。泥の人形。なんかマネキンみたいだな。

 

俺たちは事前の手はずどおりにまずはキレイによる交渉から始めた。

あいつが一番アンリマユと親和性が高いからな。

 

「誕生は尊ばれるべきものだ。故に私はお前の存在、お前の誕生を喜ぼう」

 

「生まれてはならなかった者などいない、だが生まれた後であるならば自らの行いには責任が付きまとうと知れ。

人であろうとも、人であらざるとも。お前が真に世界に害しか及ぼさないあり方に固執するという選択を取るのならば……」

 

「我々がお前を滅ぼす。お前が我々を滅ぼそうとするが故にだ。

たとえ選べる道が少なくとも、不本意であろうとも、それはお前の選択なのだから、結果も受け入れなければならないのだ」

 

「人ならば、あるいは人にあらずとも自らの業に対して真摯に向き合うべきだ。

お前はものを考える事ができる。ただ流される事が真摯とは思えない。

一度でもいい、自らのサガに従うか抗うか向き合わねばそれはただの獣だ。

牙を剝くならば排除されねばならない。それが人というものなのだ」

 

「自らのあり方を曲げて生きるか、自らのあり方に流されて我々と戦うか、今すぐここで選べ」

 

泥の塊はしばらく黙っていたが、やがて首をかっ切る仕草と親指を地面に向ける動作をする。

そして自らの泥をちぎって投げた。俺たちはすばやく投げられた泥を回避する。

泥が落ちた場所はヤバい勢いで燃えていた。

 

「……それがお前の返答か。なんだ、この虚しさのような気持ちは……ああ、これが悲しみか。

ふふふ、やはりこの世は面白いぞアンリマユ。人は変われる!」

 

何か気配が変わる。なんだこれ、泥が嗤っている?

泥は形を成し一人の妙齢の女性となる。白髪で儚くも麗しい、穏やかで母性的な女性だ。

キレイが息をのんだ。

 

「クラウディア……!」

「はい、そうですあなた。私は聖杯によって蘇ったのよ、この素晴らしい体で!

あなたはあなたの愛の形を知ったのね?この私ならばいくら壊してもすぐに戻るわ。

さあ、あなた。どこまでも愛し合いましょう……」

 

キレイがふらふらと近づいていく。オイオイオイやばいんじゃないの?

だがその心配はいなかった。ふらふらした足取りがだんだんとしっかりしたものに、やがて疾走に代わる。

そしてキレイはお手本のような八極拳をぶちかました。

 

「そう、それこそあなたの愛の形、私たちのあるべき姿!

さあ、世界など私たちの贄にしてしまいましょう。

悪なる子で世界を埋め尽くしましょう、あなた……」

 

キレイが無言で黒鍵を取り出して投げる。

 

「装うなかれ。しかして酔うなかれ。

許しには報復、だが報復には代償を。

信頼には裏切りを、ならば裏切りには孤独を。

希望には絶望を、それでも絶望には不屈の再起を。

光あるものには闇を、闇あるものには光を。

生あるものには暗い死を、しかして死あるからこそ生の輝きを!」

 

洗礼詠唱?じゃないな、その改変した奴だ。キレイのオリジナルの呪文か?

そもそもあの黒鍵色がなんか違くない?なんか柄は青色だし魔力のエフェクトもなんていうか、灰色?

あれっ、なんかあのクラウディアさんみたいなのがすげえ苦しんでる、なんだあれ。

 

「途中までお前かと思ったが……やはり貴様はクラウディアではない。

壊れても愛し合える体。なるほどそれはそれで素晴らしい。

たしかにこれは私の愛の形であり、もしお前が生きていたのであれば私たちのあるべき関係と姿はこのようなものになっただろう。

だが、だがな。クラウディアは優しい女だ。優しすぎる女だ。

間違ってもカレンのいる世界を贄にして悪をぶちまけるなどという妄言は言わん!」

 

キレイは雄たけびをあげながら猛ラッシュを叩き込む。

すげーあいつこんなに強かったの?ジョン・ウー映画みたいになってるんだけど。

ぶっとんで立ち上がったクラウディアはすげえゲスい笑い方をしていた。

 

「うふふふふ……やっぱり駄目ねえ、あなたも、私も。真実なんてどうでもいいじゃない。

ああ、真実と言えばカレンはどうなったのかしらね?元気かしら?さぞ大きくなったのでしょう?姿が見たいわ。

それに、少し安心したわ。あなたにもこんなに愉快なお友達が沢山できたのですもの。さぞや夜はむさくるしいのでしょうね?」

 

言い方が優しいのに思いっきり煽ってる……

やっぱ偽物なんだろうなあこれ。

 

「その姿、その声で!そのような事を言うなあああ!!」

 

馬乗りになってなんか悪魔祓い的な呪文とかモーションをしてる。ふーむ、なんだか明らかに偽クラウディアの体力的なもんが削れてるな。

うわぁすげえ顔でキレイ君が偽クラウディアの首を絞めてる。大丈夫?また闇墜ちしない?

あ、偽物もう死ぬわあれ。

 

「クラウディア……愛していた。たとえこれがひと時の夢だったとしても」

 

偽クラウディアは憑き物が落ちたかのようにキレイの頬を撫でた。

キレイの頬に涙が伝う。

 

「私も、愛していました。ありがとうあなた、私に生きる喜びをくれて。

あなたはもう、大丈夫ね……」

 

死んだ……?

いやこれなんかやばい!また泥に戻ってる!

キレイは巻き込まれる前に飛びのく。その顔はどこか穏やかだった。

まるで花束を投げるかのように改造黒鍵を投げる。

 

「休息は私の手に。許しはここに。受肉した私が誓う“この魂に憐れみを”」

 

あれっ、なんか魂的なもんが泥の中から空に飛んでった。

おい誰か解説!

 

ウェイバーとキレイがあっというまに推測を固めて俺らに解説する。君ら頭いいなあ!

 

「なるほど、つまりあれは俺たちの大切な人の霊を交霊術みたいなもんで捕まえてて、ガワだけ借りて人形にしてるわけか。

解放してやるにはぶっ倒すしかない、ね。わかりやすいな!そんでもって趣味悪いな!」

「まったく同感だ。次は誰だ……?」

 

 

 

泥が形作ったのは銀髪巨乳のねーちゃん。あーあれがアイリさんだったのね。

それにしても何その黒いエロドレス。礼装?マジで?いい趣味してんな!

 

「キリツグ……」

 

自分の名前を切なそうに呼ぶアイリに対して、切嗣はその目をまっすぐに見てぼそぼそ話す。

 

「アイリ……すまない、僕は君の犠牲を無駄にしてしまった。いやそもそも僕はきっと良い夫じゃなかったんだろう。

きっと他にもいろんな道があったんだ。たとえば、僕と君とイリヤが……それに舞弥も。

みんな笑って暮らせるそんな選択もきっとあったのかもしれない。

すまない、アイリ」

 

切嗣は決して近寄らない。いつでも戦える態勢は崩していない。

それでも、その表情と声は誠意があった。

 

「いいのよ切嗣。それは今からでもできるのだから。あなたは私の味方よね?さあ選択して?」

 

なんかいやらしい笑みを浮かべて手を広げる人妻。うーむ、セクシーなはずなのにそそられないな。

 

「あいにく僕はどんなにおいしい料理があっても、その中に毒が混ぜてあったら食べないタイプなんだ」

 

切嗣はすっと無表情に戻ってデカい拳銃でアイリの額を撃った。

うわーあの偽アイリすげえ笑顔だよ。

 

「ああ、それに分相応ってこともよく分かったんだ。君のおかげでね。

うまい話には裏がある。こんな簡単なことも聖杯の輝きで忘れていた。

君が!君自身がその願いを叩き壊してくれた。それもひどいやり方でね。

おかげで目が醒めたよありがとう絶対に殺してやる」

 

静かに、しかし鬼の形相の切嗣に対してアイリは嘲り笑う悪鬼の表情だ。

 

「あはははは!あなたは何度私を殺せば気が済むの?

それで私を愛しているなんてよく言えたものね!

それともあなたもそこのキレイと同じ変態だったのかしら!?」

 

アイリの周囲に銀糸でできた剣がいくつも浮かんで攻撃態勢に入る。

 

「その言峰も言ってたけどやっぱり僕も同感だよ。

その姿で!その声で!アイリを侮辱するな!アイリを僕から奪ったお前がアイリを騙るな!」

 

雨あられと降る剣を切嗣はときどき加速しながら回避して銃弾を打ちまくり爆弾を投げまくる。たしかにダメージは与えている様子なんだけど相手の再生力と体力が膨大すぎる感じだ。

 

「へえ、じゃあ本物を知ってるあなたは、偽物の私を倒せるというの?ただの人が?この悪なる神を?笑わせないで」

 

泥まで使って切嗣の逃げ場はどんどん狭くなる。飛ばしてくる剣や銀糸によ切断攻撃で傷がいくつもできて血がにじんでいる。だが切嗣の顔は闘志を失っていない。

 

「悪いけど僕はとことんまで諦めが悪くってね!そのせいでこんな所まで来てしまった!

いつか君も言っていただろう?そんな所も好きだと!だから僕はもう絶対に諦めない」

 

こんどはむしろ静かな調子で背中を俺に見せながら話してくる。

 

「間桐雁夜。この間の話、覚えてるかい?二隻の船の話だ。あの答え、僕も一つ思いついたよ。

僕しか直せないなら、ほかの人と協力してやればいい。そうしたら二隻とも助かるかもしれない。

もちろんだめかもしれないけど、最初からあきらめて切り捨てるよりはずっとましだ。

違うかい?雁夜」

 

俺は奴の言わんとすることが分かった。ほかの奴らも。

目線で合図し合ってフォーメーションを取る。

 

「今回も同じことが言えるんだ。だから、頭を下げて頼む。お願いだ皆。協力してくれ!」

 

全員がアイリに火力を集中させる。キレイの黒鍵、戦車に乗るイスカンダルチームによる援護射撃、俺とハサンズはその隙間を縫って内臓攻撃を何度もぶちかます。

 

「それも正解だ。なんだあんた考える事もできるんじゃん」

「おう!少しは見れる顔になったではないか!

いくぞ悪神!ヤーナム仕込みの改修をした神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)!その身で味わうがいい!」

『アラララライ!』

 

ウェイバーと共に叫びながらガトリングやら教会砲、火炎瓶で爆撃する様はそれはもうやばかった。やがて偽アイリは体を何度も吹っ飛ばされて倒れる。

 

「さよなら、アイリ。ありがとう……

もう僕は取りこぼさない、イリヤは必ず幸せにしてみせる。君に誓う。

絶対あきらめない僕が言うんだ。遠回りでも、間違えてでも、やりとげるよ」

 

遠い目で倒れて形を失っていくアイリを見る切嗣。

こいつも何かふっきれたのだといいんだが。

 

「それに僕だってちょっとは成長したんだ。迷ったら頼れる人には頼るし、間違えたら止めてくれる人もできたんだ。

答えは一つとは限らない。間違うことも、迷うこともあっていいんだ。答えを探し続け、問い続けるなら」

 

しぼっ、と戦場に紫煙が立ち上る。天に昇っていくアイリの魂を見送るように。

 

 

次に出てきたのは……ハサン?

なんかハサンにしては金ぴかな鎧とか飾りとかぎんぎらで派手だなあ。

仮面と装束の色も反転してる。黒に赤のラインの走ったドクロ仮面に白と青の装束。

うーむ、なんだあれ。

 

「ほうほうほう、そのうちそうなると思っていたが……乱戦になれば私の出番か」

 

ハサムとアサコには分かったようだ。あれ百の貌の一人なの?

最初に捨て駒にしちゃった奴?マジで?

 

「貴様は……ザイード!そうか、貴様も聖杯に取り込まれたのか」

 

くつくつと皮肉そうに嫌な笑い方をするザイード。

 

「ずいぶんと楽しくすごしているようだなアサコ、ハサム。私を切り捨てておいて!

自分たちだけ望みをかなえて食う飯はうまいか?なあ。

私も仲間外れにしないでくれよ……と言いたいところだが、もういいのだ。

私は私で望みをかなえられた。

貴様らから切り離されることで私は確固とした私として確立できた!

はははは……なるほどすがすがしい気分だ。

脳裏は静まり返り、精神は澄み渡る!お前たちもこれを得たのだろう?」

 

あいつぼっちになることだと早口になるの気持ち悪いよな。

でもまあ気持ちはよくわかるよ……不遇って嫌だよね。

 

「ふ、ふふ……だが私はもっと良いものを授かったのだ。新しきわが神からな!見るがいい!」

 

ハサムはぱちんと指を鳴らすと背後からなんか金ぴかな剣がたくさん出てきて浮いてる。

 

「それは英雄王の宝剣……!」

「まだまだあるぞ?この黒き聖剣の輝きを見てくれ。なんと美しい……まるで死そのものだ」

 

黒いエクスカリバーを手に取ってうっとりほおずりしそうな感じで見つめるハサム。

モーションがいちいち濃いなお前!

 

「ほうそれで?よかったではないか。だがただ自慢をしに来たわけではあるまい?」

「ああ、わが望みはかなった。だが一つやり残したことができたようだ」

 

淡々と煽り合うハサムとザイード。お互いこいつだけはぶっ殺すからな、という気迫が見て取れる。

 

「わが神、アンリマユの天命である。百の貌は一人で良い……!」

 

ザイードが黒いエクスカリバーを構える。ハサムも灰色の大剣を構えた。

ザイードからは喜悦の笑いが、ハサムからは深い深いため息がもれた。

 

「愚かだなザイード。あまりにも愚か。

主を替える。これはまあいいだろう。我らは所詮雇われの暗殺者ゆえに。

だが信仰まで捨て去るほど墜ちてはいない!

あんなものを神と呼ぶか!その邪神に仕えて何をする?

世界を滅ぼすか、退廃にふけるか。いずれにせよろくなことではあるまい」

 

ハサムはやばい迫力を出して喝破する。お前、いぶし銀な奴だと思ってたけどやっぱ決めるときは決めるのな。

 

「いいや、そんなくだらないことではない。まあそれはそれで楽しむがな。

私は神の使途として告死の天使となり、山の翁に代わる新たな暗殺者の代名詞に!歴史に名を残す大英雄になるのだ!」

 

手を広げて大笑いするザイード。やっぱあなた精神汚染受けてますよね?

 

「やはり貴様はもはやザイードではない。ただの悪神の木偶人形だ。

お前は酷薄で慢心した男ではあったが、下種ではなかった。

そんな大それた望みを言い出す痴れ者でもなかった。

貴様は今度はその神とやらに捨て駒にされて死ぬだろう。

学習せぬ奴だ。その能無しぶりもはや生きるに能わず、首を出せ!」

 

ハサムがほんの少し悲しみを混じらせて吼える。ザイードも同じように返した。

 

「ならば知るがいい。基底のザイード改め、水底のザイード。その力を!」

 

そっからはもうすごかったな……黒いエクスカリバー撃ちまくるし、ハサムはそれに正面から斬り合うし。君ら明らかに筋力B以上あるよねその動き?

 

「さあどうした!お前こそ百貌のハサンなのだろう?

この新たな暗殺者の英霊に本物を教えて見せろ!

どうした魔術師共。全員でかかってくるがいい。

もとよりそのためにこの身は遣わされたのだから!」

 

すげえうぜえスタイリッシュなダンスで避けまくるザイード。その上光波撃ちまくってくる。

俺たちも弾丸撃ったり爆撃したりするけどなんか煽ってくる笑い方で避けるしさ。

 

「ははは!他愛なし!まるで他愛なし!できる、できるぞ……!

やはり百の貌なぞいらなかったのだ!

私こそこれより後の世に響く暗殺者である!手始めに貴様らを血祭りにあげてやろう!」

 

どこが暗殺者だ!これセイバーかアーチャー枠じゃねえか!

 

「ぬう、単騎でここまでやるとは……ヘタイロイを呼ぶか?しかしのう……」

「いいえ、王よ。あれがあのアサシンの力の底なら、回復をこまめにやっていけば勝てない相手ではありません。僕らはこのまま援護を続けましょう」

「たしかにな。あのアサシン、技は派手だが大振りに過ぎるわ。皆、致命傷は避けられるようだしな。やれやれいくつ前座があるのだ?」

 

イスカンダルがため息をつく。まったくだよこれ全員分やるの?あと3回?嘘だろめんどくせえ。

ハサムから念話が届く。

 

「狩人殿、私に試したいことがあります。令呪での援護を頼めますかな?

それなりには見れるものをお見せできるかと」

「おっ、なんか手があんの?よーしやってみてくれ。令呪3画をもって命ずる。思い切りやってこい!」

「御意」

 

魔力がほとばしりハサムの動きがますますよくなる。

だがザイードには今一歩とどかない。ザイードが笑いながら煽ってくる。

 

「何かと思えば令呪?そんなもので状況をひっくり返せると?舐められたものだ」

「舐めているのは貴様だ。積み上げた技も、自らの流儀も忘れ。

与えられたおもちゃではしゃぐ餓鬼め。貴様が忘れたものを見せてやろう。

九十九の貌が積み上げ、今や一つに束ねられたこのハサンの技だ」

「は!何を言い出すかと思えば、私を捨てた九十九が何を都合のいいことを!」

「……そうだな、都合のいい話だ。許せとは言わん」

 

ハサムの姿が消えた。だがなぜか俺には半透明に見える。

 

「消えた?気配遮断?は!アサシンの英霊でもあった私にそれが通用するものか!」

 

ザイードはハサムを探そうとなんかスキルを使ったり無差別爆撃に出る。

 

(狩人殿には特別にお見せしますぞ。ゆめ、お見逃し無く)

 

だがハサムにはかすりもしない。すべての攻撃を見切って最小の動きで避けている。

ゆっくりとしたうごきのはずなのにまるで隙がない。攻撃がまるで当たらない。

 

「なぜだ!?なぜ見えない!?気配遮断でも単純な暗殺術でもない!?なんだこれは!」

 

悠々と獲物の前まで歩いていく姿は威厳すら感じた。

振り回される攻撃はかすりもせず、まき散らされる呪詛ですらまるで自ら避けていくかのように。

 

「暗き死を馳走しよう、良く味わうが良い。我が生涯にて最高の一振りなれば」

「馬鹿な!これほどの殺気、声すら聞こえていて私が位置を認識できないだと!?

まさか、まさかその技は!」

 

俺の目には青黒く霧のように立ち上って見える濃厚な死の気配があるのに、誰もその位置を姿を認識することすらできない。

 

「そっ首頂戴いたす・・・・・・告死の羽、(ザイフ)死告天使(アズライール)!」

 

ただ一振り。まるで首切り役人の処刑のように鮮やかに剣を一降りしただけであまりにもあっけなく首が落ちた。

もちろん技量そのものが超人的な技巧なのは俺にも解った。だが多分それだけじゃない。

「絶対に殺す」という意思に基づき物理法則すら上回る、魔法の域にまで達した魔技。そういうシロモノだあれは。

 

「……すまなかったなザイード。これは慈悲の刃、葬送の一刀である」

 

捨てセリフすら言えずにザイードは泥に戻った。ハサムの仮面の奥の目が悲しい。

なんかフォローしとくべきだな。ここは話題変えよう。

 

「なにあれすごい。なんなのあの技?」

「ああ、あれはですな。私自身にもうまく説明できぬのですが……まあ弱点をついたのですよ」

 

いやざっくりすぎて逆にわからん。つづけて、どうぞ。

 

「すべての物体には、そこを突けばすなわちその物は終わる、そういう「死の点」があるそうですぞ。

ある種の魔眼ならばそれが見えるとか。私ももちろんそのようなものは持っておりませぬが……

こう、武の心得がある方ならば相手の隙のある時、隙のある点、そういうのものはまあ判りますな?これもまあそういうものの一種です。

見えずとも経験から死の点を予測することはできる、そういうものですな」

 

なるほどわからん。隙のある点、弱点がわかるっていうのだけじゃないんだろうなあ。

 

「……魔眼による呪殺は死を読み取ってその結果を手繰り寄せているって説を聞いたことがある。

ひょっとしたら死の点を突くっていうのはその為の呪術なのかもしれない。

攻撃動作による死の概念の付与ってところなのか?」

 

ウェイバーが解説してくれた。うーん、要するにここを刺したら死ぬぞ!みたいな弱点を予測して隙をついた?

え?違う?終わりのあるものならなんでも強制終了させちゃえるの?すげえ。

 

「おお!さすがは王佐殿!まあそのような感じです。

暗殺術、武術の経験に、こう呪術の経験も折り合わせてですな。

隙の点で死の点をだいたい予測して……まあこう、さくっと。初代様の剣を再現してみました」

 

えっ、初代様のオリジナルは死の点突きまくるから鋼鉄から形のないものまでなんでもさくさく切れる?

寿命のないものまで無理矢理終わりを設定して終わらせちゃう?

初代ハサンってそんなんなの!?パネエ。やっぱ絶対殺すマンなんだ……

 

「まあ、初代様に見せればお叱りをいいただくでしょうがな。猿真似とは何事だと。」

 

ハサムが寂しそうに笑う。初代さんちょっとは後輩をねぎらってやれよ!

多分どんな組織でも腐敗するって知ってるから怖いトップをしてるんだろうけどさ。

 

 

「ハサムの一撃で命のストックはほとんど潰せた。

魔力、体力も減ってる。多分次が最終形態だと思う」

 

ああ、あの技で残りの命を削って俺とイスカンダルとウェイバー用の変身演出スキップしたんだ。すげえなあれ。

 

「だけど今までより間違いなく強い。残りの魔力を全部使う気だ」

 

ウェイバーが油断なくガドリングを構えながら解説してくれる。

ほんと便利だな君!一人軍師というかアナライズ係いるとすげえ戦闘が楽だわ。

あっちなみにケイネスが送ってくれた材料をウェイバーが組み立ててなんかスカウターみたいな片眼鏡作ったからわかるんだって。すげえ。才能開花したなあー。

 

「やれやれいよいよ本番か?皆、気を引き締めろ!

我らは悪神の出すいやがらせじみた試練を乗り越えてこられた勇者だ!さあ、蹂躙せよ!」

 

言われるまでもない、と全員がうなずく。

 

「aaa……」

 

ちょうど海の底から這い出てくるかのように。その形態は血の海から生まれた。

まるであの夜、ヤーナムで見た悪夢。ヨセフカの診療所で血の中から出てくる俺自身の獣のように。

 

「arrrrrr!!」

 

実際、出てきたアンリマユの化身はヤーナムの獣に似ている。真っ黒い狼男のようなものだった。

だが狼にしては顔が細く、狐のようだし尻尾は細長く目は赤く輝き悪魔のようだ。まあ実際そんなようなものだけどな。

 

「これが・・・・・・」

 

誰が言った言葉だっただろう。その言葉にはわずかだが畏れがあった。

無理もない、だってこれ俺らが最大って指定した聖職者の獣サイズだもの。

5mはあるんじゃねえの。

 

アンリマユの化身はマジやばかった。

今まで倒したサーヴァント全てのいいとこ取り。その上高速再生つき。

今度こそ俺たちは出し惜しみなしで戦うことを選択した。

アイオニオンヘタイロイを呼んで獣を囲んで槍や弓、魔術でちくちく削る。

ハサムの死告天使もばんばん使う。全員大盤振る舞いだ、全部もっていけ!

 

だがそれでも獣はタフで強かった。やばいな、押されてるかも。

そんな時ハサムが念話と声で俺に言ってきた。

 

「・・・・・・私に試したいことがございます。よろしいですかな狩人殿?」

「死ぬ気か?」

「さあて、捨てがまっても良いくらいには思いますが、なにより今は私も暴れたく存じますな。ここらで一つ活躍の機会を与えていただければと。なにしろ機会が少なかったもので」

 

仮面の奥のハサムの目はなかなかに血に酔っていた。いい目をするじゃん。

 

「そう言われたらしょうがねえな!令呪10画を持って命じる!お前の望むまま戦ってこい!」

「御意」

 

やばい量のオーラがハサムからあふれ出る。すげーな目視できるじゃん。

藍色?黒っぽい青?暗殺者らしい殺意にあふれるオーラだな。

 

「異教の悪神アンリマユ、相手にとって不足はなし。ならば、私もそれらしい姿で行くとしよう。

今この一時であるならばこの姿に恥じぬ業をお見せできるであろうから」

 

ハサムが衣装を変えて見せた姿はまさにまるで死神のようだった。

ドクロの兜に黒い甲冑。持つ武器はさっきのシンプルな黒い大剣。

アサコがはっと息を吞む。なにあれ何かすごいやつなのやっぱり?

 

「狩人殿、お世話になり申した、おさらばでございます。これで良いのです。これで百貌は一つの顔に戻れまする・・・・・・どうか、お元気で」

 

オイオイオイいやな覚悟決めないでくれよ!

 

「アサコ、今まで世話になった。これはこの豪腕からの餞別だ!持って行くが良い。

我が生涯そのものである!百貌は一人で良い・・・・・・達者でな。狩人殿をよろしく頼む」

「ハサム!……すまない。礼を言う」

「ああ、もはや憂いは何も無い・・・・・・満足だ」

 

何?何したの君ら。えっ、元々つながってたパスを通じて自分が死んだときアサコにスキルを譲渡?

もうすでに32種のうち30種くらいもらっちゃった?あいつ今心眼と大剣スキルと「ハサンのたしなみ」だけで戦ってんの?大丈夫?

 

そこからのハサムはまさに鬼神の如き戦いぶりだった。

もう避ける避ける。舞うような躍動する動きから最小限の静かな身のこなし、緩急計算しつくして一発ももらわない。

剣を振るえばいつ振ったかもわからないし、なんか振ったのかな?って思ったらものすごいダメージ叩き出してる。

地は割れ空を裂きその戦いぶりに心底俺たちは震えたよ。

 

もちろん俺たちも観戦してたわけじゃなかった。

相変わらずイスカンダルチームは縦横無尽に援護射撃するし、

キレイはハサムと一緒に黙々とぶん殴っては人体が出せるとは思えない音出してるし、

切嗣もそこに意外にいい感じで連携してる

 

俺?俺もその中でいっしょに爆発金槌ぶん回してたよ。アサコさん守りながらだけど。

でもまあアサコさんもハサムからもらったスキルがあるから全然負担じゃないんだけどね。

むしろあえて前に出ず回復や援護をいいタイミングでやってくれてる。

 

「よし、じわじわ削れていってる。だけど火力が、いや決定打が足りない・・・・・・聖剣、エクスカリバーやエアみたいなの、それに魔法の域に達した技がなきゃ……王よ!」

「おうわかっておる!カリヤ!これを貸してやる!強化10レベル異質なる月光の聖剣深淵血晶3個つきだ!今ならおまけで英雄王を切った箔で神秘も上がっておる!これならできるはずだ!」

「僕らは牽制と陽動、とどめの一撃を出せる隙を作ろう!」

「今宵最後の大舞台だ!トリは譲ってやる故、しっかり決めてこい!あれだ、ケーキ入刀というやつだ!」

 

俺は残りの令呪を2画だけ残して全部使う。内容は単純だ。

第一にパスを通じてハサムとアサコの大剣スキルを一時的に共有、それでもって偽・死告天使も一発分だけ共有。撃ち終わったらハサムにスキルを返す。

アサコはカリヤと共同してこの月光剣を使いベストなタイミングで最高の一撃をこの神様にぶちかませ!だ。

 

「いやなケーキだな!まあいいさ。行こうアサコ」

「はい、この身は御身のおそばに・・・・・・!」

 

月光剣が光ってうなる。幸せつかめと轟き叫ぶ!

青い月の光を纏い、そして宇宙の深淵と人の技の極致。

俺とアサコの手が重なり合い、そして光波と共に振り下ろされる告死の一撃。

 

「導きの光よ・・・・・・月光の聖剣!」

 

そして、光が消えたときアンリマユも泥ももうなかった。

 

(だから面白いんだ。人間ってやつは……!)

 

アンリマユの思考が伝わってくる。生贄として選ばれた人生。

そこから得た価値感。それは人は基本ろくでもない生き物だ。

だけどそれが時たま何かの間違いで善いものを残す。それでいいんだよ人間なんて!

 

(善意とか向上心で地獄を作り出すし、理性だの人間性だのは人間が思うほどまともなもんじゃない。人間なんて基本「そんなもの」だ。

だから駄目出しするし、だからこそ手をつかんで良い方向に顔を向かせるくらいはするさ)

 

(あんたもそうしたんだろ?あのヤーナムで。

なんのこっちゃねえ、アンリマユはキレイよりもカリヤの方が親和性高かったのさ)

 

(あ?もう何する力ものこっちゃいねえよ。楽しかったから最後にお礼を言いたかっただけだ。

誰かを助けたいという気持ちがある限り、アンタはギリギリ人間だ。今更獣に堕ちんなよ?)

 

(なあ、カリヤさんよ。この世界はまったくろくでもないよなあ。

それでも。瀕死寸前であろうが断末魔にのたうちまわろうが、世界は続いていくんだ。

それを希望がないって思うかい?)

 

まさか。それこそ「そんなもん」だろ?生き延びてやるさ。俺たちが戦い続ける限り。

 

(やっぱあんた最高だわ。最高に危険だ。

俺はこの世界がこんなにろくでもないのに飽きてんのよ。だからまあ、なんか新しいもんでも見ようかと思ってさ。だからあんたを呼んだんだ。おかげでいいもの見れたぜ)

 

(これで歴史は変わった。これからまあいろいろ大変だろうけど、それもあんたなら乗り越えていけるはずさ。『ならば生き延びるがいい、君にはその権利と義務がある』ってな!じゃーな楽しかったぜ!)

 

最後に嫌な捨てセリフを吐いて消えるなよ!不穏だなあ。

 

その日はみんなで汚染とか呪いとかついてないのを確認した後、ヘタイロイといっしょに戦勝会した。

うんまあおいしかったよマケドニア料理。

 

そして、俺たちは騒ぎつかれたら眠り、夜明けに目覚めた。

すべて長い夜の夢のようだったけど、起きても俺は狩人だったし、隣にはアサコがいた。イスカンダルもウェイバーもいる。まあついでに切嗣とキレイも。

まあ、今はこれでいいんだ、きっと。



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エピローグ「なんでもいいからヒーローをダースで連れて来い!」

ここからはブレーキなしではっちゃけます。
いわば本編後のおまけ、めでたしめでたしの部分なので。
カーテンコールです。



それからどうなったって?

どうも何も剪定事象だとか正史から外れたから世界ごと消すね、とかふざけたこと言って守護者が山と来たから迎え撃ったさ。

まあその魂使ってイスカンダルとアサコの受肉はできたからいいんだけどね。

ハサム?あいつは霊体のほうがいいんだってさ。

とりあえず第一陣を撃退したら思いつく限りの知り合いに連絡したよ。

 

いやーすごいことになったわ。

 

美津里が知り合いに声かけたら存命の魔法使いが全員来たんだぜ。ぱねえ。

長谷川やデブ仙人の関係で仙人連中もすげえ来た。太公望って童顔なんだな・・・・・・

稗田教授の知り合いもはんぱなかった。宗像教授やら古本屋の中禅寺さんやら、あきらかに上位者ですよね?って感じの人たちも来た。

鵺野先生もすごかった・・・・・・先生の知り合いはもっとやばかった。軽く妖怪大戦争だった。あとなんかあなたたち神様ですよね?って人らもいた。

なんか坊さんたちもすげえ沢山来たんだけど虎っぽい妖怪とコンビ組んでる退魔僧のあんちゃんやばかったな!太陽みたいな奴だったよ。

あとなんでそんなかにしれっと混じってんのキアラさん。あんたいつの間に浄化されたの?善堕ち?そうですか・・・・・・

なんか鵺野先生の退魔教師仲間の九鬼先生の親戚の?帽子の旦那も来てさ。その知り合いの濃いこと濃いこと。

とくに軍服の奴らはほんと頭おかしかった。なんであんたら軍刀で戦艦斬るのがデフォなんだよ!

甘粕お前だよ!柊君も大概だな!なんなんだあいつは。なんで戦前に死んだ奴が出てきてるんだよ。気合い?そうだろうな!

 

あ、ウェイバー君?いたよ。イスカンダルも。アイオニオンヘタイロイまた増えてたよ。全員いたよ。

 

まあそんなこんなでさ。なんでもいいからヒーローをダースでつれてこい!って感じになったんだ。

いやー壮観だったね。学者先生達と魔法使いの連中が組んだらものすごい勢いで根源まで行く方法が考えられてさ。

25本・・・・・・だったかな、最終的に根源に至る穴の数。

俺も一つ考えたんでやったよ?聖杯っぽいの用意してジルドレ8人同時召喚してその場で聖杯にぶち込んだんだ。

 

で、まあ根源まで穴開けてやったからそこからはもうひどかったよ。

前衛に妖怪大連合だろ?上位者っぽい稗田教授の知り合いだろ?

中衛に退魔僧やら退魔師が列を成してつっこんでいくだろ?アイオニオンヘタイロイと英霊達だろ?

後衛に弁の立つ人らがなぜかけっこう良い身のこなしでついてくだろ?

 

もう焼け野原だったよ。守護者がボーリングのピンみたいにぶっとんでいくの初めて見た。

それでアラヤまでの道が開けたんだ。

 

で、最後のとどめがほんとひどかった。まず甘粕やキアラみたいな個人で人類の集合無意識に匹敵する意思力を持つ濃い奴らをぶつけるだろ?

上位者とか宇宙人とか邪神っぽい奴らも人類でも地球でもない外からの意見をぶつけまくるだろ?

混乱してるアラヤに学者チームが片っ端からアラヤの屁理屈を論破していったんだ。あれはすっきりしたね・・・・・・

薬売りさんと古本屋のダブル憑き物落としやばかったわぁ・・・・・・

で、泣きそうになってるって言うかもう自信とか砕け散って死にそうな顔してるアラヤにだ。

神様チームと魔法使いチームと仙人チームが本気でぶちのめしに行った。まあ正確にはぶちのめして力を奪いまくって封印したんだけど。

 

いやあすげえすっきりしたよ。みんな多かれ少なかれ運命に翻弄された人ばっかだったからね・・・・・・

今までやられた分全部たたき返してやった。ざまあ。

 

そっからがもうすごかった。戦勝会したんだけどさ。いやーカオスカオス。

ほらみんなこの分野でそれなりの人たちばっかりじゃん。

頭いい連中がディスカッションしてるだろ?あれで学会とか技術分野での常識が三世代分くらい進んだんだってさ。

濃い奴らが喧嘩するだろ?もう天変地異よ。しかも喧嘩してる本人たちはすげえ楽しそうだしな!

それに当てられてノリのいい奴らも暴れ出すだろ?もうすっちゃかめっちゃかだったよ。

あとセクシー担当組!こんなところでおっぱじめるんじゃない!若い奴らの目の毒だろうが!

あと太陽っぽい人やケモノたち!これ別に天岩戸の再現じゃないからね!こんな時に降臨しないでね!

 

まあそんな感じで戦勝会は飲めや歌えや喧嘩だって感じですごいことになった。

あ、なんか最後の方にガイアとかその使いのアルティメットワン?そんなんが7,8体そろい踏みで出てさ。

 

うん、ひどかった・・・・・・すごい勢いで削れていってなんか地球外まで吹っ飛んでいったよ?

アンブラの魔女ってこえー。

 

ガイア?なんかお守りの奴らが全員ぶっ飛ばされたらすげえビビりまくってた。

地球本体から引っこ抜こうか?とか、いやそれだと環境激変するかもだから封印な。とか、いやどうせなら洗脳して綺麗なガイアにしようぜ!とか、好き放題言ってたな。

なんか最終的にシンイチくんとミギーに諭されて綺麗なガイアになったよ。

頭いい奴らはその隙にいろいろ封印やら契約やらぶちこみまくってたし、まあ当分は動きがとれないんじゃないの?

 

なんか酒の余興みたいな感じで片付けられちゃったよ。まあそれがシメで解散って感じになった。

閉会の挨拶はなぜか俺がすることになった。え?俺が最初に電話かけまくったからだったのあれ?マジで?

まあ、こんな感じのこと言ったような気がするよ。

 

「ん、ええと。まずはありがとう。世界は助かったし、俺もすげえすっきりした。

それに、なんだ。俺なんかの呼びかけに集まってくれてうれしかったしな。

でもまあ、これからが大変なんだろうな。歴史の道しるべはもうないし、俺たちは揺りかごをぶっ壊して出た。

 

でも、その代わり俺たちは自由だ!

運命なんていらない。俺たちは自ら選び、行動していく。

その結果滅んだとしても、それは俺たちの意思と責任によるものだ。誰かの勝手に決めた事じゃない。

そしてそうだ。ひどい破滅にあっても諦めなければ、生き延びて戦い抗い続けるならば、いつかきっと立ち上がれるだろう。

 

この仲間達も、いつかは皆死ぬ。俺ももちろんそうだ。

だから俺たちは俺たちの時代、時間を精一杯走ってそして何を残すか選び、次に渡していかなきゃいけない。

理不尽が襲ってきたなら、やり過ごすだけじゃダメなんだ。人は誰でも抗うことができるはずだし、しなきゃいけない。

次の世代にはできるだけいいものを残したいじゃないか。俺らで処理できなかったゴミも渡しちゃいけない。

胸を張って生きていこう。俺は俺の人生を踏破できる。あんたらもだ。俺に出来るんだから。

 

まあ、そこまで大げさじゃなくっても。

この光景は『この醒めるに値しない世の中でも、もう少し生きようか』と思えるだけの気持ちにはなった。

 

ほんの少しだけ、俺は希望を持てた。過去はもう清算した。さあ、歩きだそう」

 

拍手がマジうるさかった。とくに甘粕が万歳万歳いうのがほんとうるさかった。

俺のぱらいそはここにある?知るか!



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最終話「マトウの狩りを知るがいい」

これにてお話は本当に最後。お疲れさまでした。
最後までお付き合いいただいた方には感謝を。




実際、それからは大変だった。

次から次にヤバい案件が現れた。世界の歪みが表面化して週間で世界の危機になった。

 

世界中の大都市が魔界都市になったりした。ニューヨークがヘルサレムズロットに、ロンドンがあの懐かしくも忌まわしいヤーナムに。

新宿は『新宿』に。東京湾にネオ東京とトーキョーNOVAができたり。札幌はカムイ☆STARだし大阪はオーサカMOONだよ。

中国には九龍城がよみがえるわ。レムリア?アトランティス?うんもちろん浮上した。まあ魔界都市は今でもすごいことになってるよ。

 

ウェイバーを中心にした世界的な怪異対策チームはシフト制で休み無く動き続けた。

とくに赤いコート着た褐色白髪で二刀流のにいちゃんはすげえ頑張ってた。

俺もしょっちゅう手伝うことになった。大もうけするときもあれば、大赤字に頭を抱えるときもあった。

 

甘粕お前は思い出したようにノリで暴れるんじゃない!なに忘られそうになったから来た?知るか!

お前達なら俺くらいなんとかなると信じている?やかましいわ!

 

だけど、楽しかったよ。灼熱の季節だった。

 

魔術の秘匿?できるわけないだろ。

あー、まあ威力とかはだだ下がりしたけどまあその分は進歩した機械とかで補えばいいしな。

それにそもそも根源や魔術回路のやつだけが魔術じゃないしね。血の医療とかそうだろ?似たようなのいっぱいあった。

 

ちなみに魔術協会も聖堂教会もめっちゃ叩かれた。年単位で毎日逮捕者が出てたよ。ざまあ。

え、俺?捕まったよ。でも執行猶予とすげえ額の罰金で済んだよ。今まで何十回か世界を救った分の功績を鑑みてだってさ。

要するにムショにぶちこまれたくなかったらもっと働けって事らしい。

 

ものすごい動乱も破滅もあった。でも、人類は未だに生きてる。まあそんなもんだ。

世界の危機もまあ、月刊から季刊になりそうなくらいには落ち着いてきた。

とうとうこの間、宇宙へ移民が始まったよ。すごくね?

上位者との外交はすげえ大変らしいけどね・・・・・・なんかもう遠慮しなくなったのかちょくちょく侵略にくるし。

 

宇宙移民船の船長イスカンダルだってさ。なんかもう世界征服する暇も無いし国作る暇も無いからもう宇宙で建国するわって。

世界の果てを今度こそ見てくるとか言ってた。

おうがんばってこい。いい旅を。ヴォンヴォヤージ。あと遺言はもう余計なもん残すなよ!酒も控えろよ!

 

まあ、この分なら俺たちは次の世代にバトンを渡せるだろう。子供出来たし。

俺?俺はいつも通りだ。普段はごろごろして金がなくなったら冒険に行く。そこに家族サービスが加わっただけだ。

週間世界の危機の時はすげえがんばったし他人のために金も使ったし罪だって精算したんだから勘弁してくれ。

 

おっと電話だ、悪いな。

 

「おじさん、例の原稿は書けました?」

「ああ、俺の自伝?書いたよ、桜ちゃんが書け書けってうるさいから。書いちゃってよかったの?」

「いいんです。過去は過去ですし、おじさんの縁ですてきな人にも出会えましたから。

それに、ついでだったのかもしれないですけどあの時、私は間違いなくおじさんに救われたんですよ?

おじさんは私の最初のヒーローなんですよ。もっといろんな人がおじさんのことを知ってもいいと思います」

「そんなもんかね。俺なんてくだらない男だよ?」

「もう、いつもそんなことばっかり・・・・・・それで、題名はどうするんですか?」

「そうだなあ、題名はーーー」

 

 

 

マトウの狩りを知るがいい

 

 

 

 

 




警告!

感想を書く前にちゃんと警告された事を思い出して下さい。
私はきっちり警告して、こういう要素があるから地雷だよ、と書きました。
それでも納得できない感情もあるでしょうが、我慢してください。


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登場人物のその後

おまけです。蛇足的な設定集。彼らのその後の軌跡。




衛宮切嗣

カリヤとアインツベルンに突撃してイリヤを奪還。結局舞弥は後妻に収まった。

冬木市でつつましいながらも暖かな家庭を築いて暮らす。

時々カリヤやキレイと共にウェイバーに協力して大暴れすることもあった。

その時に冬木市出身の赤髪の青年と出会い師弟となった。

イリヤが18歳の時にアイリの死の真相を話す。

しばらくは険悪であったが赤髪の弟子による取りなしでなんとか許された。

 

同時期に美津里のライバルである正義感の強い魔法使い「アーノルド・ラスキン」を紹介されて意気投合。

稗田教授からは、皮肉屋で悪党に容赦ない、友好的な人外との絆を武器に戦う民俗学教授にして召喚師「バロネス・オルツィ」を紹介され彼とも交友が芽生える。

 

正義感の強い武闘派魔術師ばかりなので苛烈で言葉を飾らない他者から見れば胃の痛くなるようなやりとりだが、本人たちはわりとくつろいでなごやかに談笑してるつもり。

 

仲間や弟子とともに「魔術使い派」という魔術協会内の派閥を発足。

世間からは「正義派」と揶揄される時もあったし、

「エミヤ派」という俗称の方が有名だがそれでも一つの大きな流れを生み出す。

弟子の錬鉄の英雄の方が有名で切嗣にはたいした名誉はなかったが、やりがいがある上、ちゃんとイリヤや家族を養えるくらいには稼げたので本人的には何も問題はない。

 

孫や友人、弟子に囲まれ満足して死ぬ。

 

言峰綺礼

娘のカレンを引き取る。還俗して激辛中華料理屋をやる傍らSMクラブ経営も行う。

娘との関係はそれはもう冒涜的かつ倒錯したもので、しかし本人同士は納得していて他人には無害なものだったらしい。

キアラと名乗るエロ尼僧と出会いこれもまた筆舌に尽くしがたい複雑な、しかし良好な関係となる。

キアラには別の本命が複数いるそうだが、それはそれとして遠慮せずゲストークができるので気楽な間柄らしい。

なにしろ彼女は本命には恋愛初心者な乙女であるので。

彼の中華料理屋は繁華街にあり、そっち方面であまりにも有名なのでたまに性の悩みを相談に来る者がいるそうな。

 

遠坂時臣

ほそぼそと宝石商と不動産業を行い、ほどほどに魔術も行い、特筆することのない平穏な人生を過ごす。

意図せずカリヤの言葉に従うこととなった。

なお娘の凜はウェイバーの組織で頭角を現し現代の英雄の一人となる。

 

ウェイバー・ベルベット

イスカンダルと共に世界的な怪異対策チームを作りとても忙しく冒険の日々を送っている。

やがて、イスカンダルとウェイバー、部下の赤髪の青年、のちに錬鉄の英雄と言われる男とその友人達は現代の英雄と呼ばれるようになる。

 

イスカンダル

ウェイバーと怪異対策チームを立ち上げ世界的な名誉と大金を手にすることになる。

しかしあまりにも忙しいので宇宙移民船の船長となり宇宙の果てへと旅だった。

彼がどこまでたどり着けたのか、その隣にウェイバーがいたのかは定かではない。

しかしイスカンダルとウェイバーは間違いなくどれほどの物理的距離があっても生涯ずっと王と臣下であった。

 

ケイネス

1年の交際を経てソラウと結婚。

人体実験など後ろ暗いプロジェクトから身を引き、教師として一生を送る。

時計塔大量逮捕の時も彼は時効あるいは微罪であったため刑務所にぶち込まれることは無かった。

死ぬまでおしどり夫婦といわれたそうだ。

 

カリヤ

数年後にアサコと結婚、一男二女をもうける。

本編で彼自身が語った通りごろごろしたり家族サービスをしつつ、金がなくなったら冒険したりウェイバーの手伝いをしていた。

現代の英雄の一人とも言われるが、それ以上に冒険家写真家ライターとして有名になる。

孫が大きくなるころアサコと共にいずこかへと旅に出る。

「途中でイスカンダルの所に遊びに行く、それだけの長い旅になるので覚悟しておいて欲しい。

だけどお前達ももう一人前だ。俺の手がなくてもお前たちはやっていけるだろう」

と言っていたため盛大に見送られることとなった。

彼らもまた、どこまでたどり着いたのかは誰も知らない。

 

アサコ

カリヤと結婚。良妻賢母と近所で評判。

子供に手がかからなくなってからはカルチャースクールを開いてそれはもう万能ぶりを見せることとなる。

孫が大きくなってからカリヤと共にいずこかへと旅に出る。

 

ハサム

じつはちゃっかり生き残っていた。スキルは健在。

ありえない20人目のハサン「一貌のハサン」と言われる。

ウェイバーの手伝いをしながら生前はできなかったことを、ということでまっとうな剣の道に進む。

普段はアサコのカルチャースクールで武道教室をやっている。

錬鉄の英雄もたまに鍛錬にくるらしい。

お寺にたまたま立ち寄ったらなんか強そうな侍の亡霊がいたので時々立ち合ったり、いっしょに鍛錬をしたり、意外に二人とも風雅が好きだったのでお茶したり、技を高めあう友人ができた。

カリヤたちがいなくなってからは子孫たちの執事のようなことをして子々孫々見守り続けた。

 

トラウマを抱えつつもたくましく育った。

 

小学生までおじさんの家で暮らすが中学生からおじさんの知り合いの魔女たちの家を転々とする。当然えらいことになった。

だがそのおかげで「影」をコントロールできるようになったり、魔女としては大成。

 

精神的にも依存性や弱みが消え、したたかさがしなやかな強さになった。

高校から落ち着きだし表面的には家庭的でおだやかな、正史に近いが影がなく、より健康的な感じになった。しかし蛮族ムーブが隠せていない。

 

ウェイバーの組織で錬鉄の英雄と出会い情熱的な恋に落ちる。

姉の凜、錬鉄の英雄、いろいろあって再召喚された騎士王との四角関係は後の世で物語として、とても有名になるほどだった。

これは時に、その時点ですでに聖杯は破壊されているのにも関わらず「第五次聖杯戦争」と呼ばれる。

恋の参戦者が増えて六角関係になりちょうど七人であったため。

その恋の決着は歴史の謎であるが、少なくとも犯罪者として罰された記録は無く後の世に彼女の子孫も墓も存在する。

それを考えるにおそらくはそれなりには幸せをつかめたらしい。

 

二代目「水底の魔女」と呼ばれる。

 

初代のこの名を持つとある魔女との出会いはこの姉妹と錬鉄の英雄に愛と死とは何かを深く考させるきっかけとなった。

この魔女から虚数属性を操るすべとして「(ナハツェーラー)」を教わる。

 

 

両親が健在な影響で正史より冷淡でおとなしく育てられる。

その分うっかりを突き抜けてぽんこつになってしまったが、その程度では彼女の「あかいあくま」は腐らなかった。何度失敗しようともタフに立ち上がる姿は多くの賛同者を集めることとなる。

 

桜とは中学までなんとなく壁があったが、向こうから壁をブチ壊して人外魔境の魔女めぐりに何度も付き合わされることとなる。その時に「あかいあくま」として覚醒。

負けずに凛の側からも壁をブチ壊していくこととなる。

 

宝石魔術や八極拳、ガンドはより磨かれた。しかしそれ以上にさまざまな特殊な格闘術、たとえば生命を操る特殊な呼吸法とかあらゆる防御も貫通する鉄球投擲術とか。徹甲作用ももちろん教わった。

そういうマジカル格闘技の類が合ったようで桜と物理的魔術的に喧嘩しても問題なく張り合えるようになった。

このころから「心の贅肉」という表現を使わなくなり、別の言葉で言うようになる。

それはどこか肯定的なニュアンスだったそうだ。

 

紆余曲折あるが魔女としても人間的にも大成する。

 

二代目「炎の魔女」と呼ばれる。

 

初代のこの名を持つとある魔女との出会いはこの姉妹と錬鉄の英雄に正義と誇りは何かを深く考えさせるきっかけとなった。

この魔女から人を超えた相手と人間として戦うすべを教わる。

 

イリヤ

後妻である舞弥と切嗣から不器用ながらも精一杯の愛情をこめて育てられた。

両親の及ばない所はセラとリズの二人のメイドがカバーした。

そのおかげで子供のころは無邪気で天真爛漫に育つ。

 

第五次時点で18歳。少し若いアイリのような姿に育った。

激動の時代であり、切嗣の稼ぎは荒事で、家族はほぼ全員元魔術関係者のためどこかずれているが、根本的には恋やおしゃれ、娯楽が大好きな一般人よりの性格になった。

 

だが家族や大切な人を守るためであればためらいなく命をかけ、自らの犠牲を顧みず、絶対に諦めない。そして一線を超えた相手にはとことん冷酷かつ残酷に。それはあきらかに父の背中を見て育ったためである。

 

全体的には残虐さの抜けた正史、あるいは最初から勇気搭載のプリズマという感じになった。

 

錬鉄の英雄とは父の弟子、学校の後輩という関係であり、親しくもお姉ちゃんぶりたい態度で接する。

 

魔術的には膨大な魔力があるだけ。小聖杯は安全にオミットされ、寿命も人並みに。

そのため「理論を飛ばして結果を出す」能力はなくなる。

とはいえ護身術くらいはないとヤバいので切嗣がアイリの使っていた銀糸や髪の毛を使い魔にする魔術と切嗣自身の銃器の扱いを教えた。しかし拷問じみた訓練も人外魔境地獄めぐりも行っていないため大火力ではあるものの常識の範囲内になった。

 

母の死の真相を告白されたときはしばらく両親と険悪になったが錬鉄の英雄によるとりなしでなんとかなった。だがこれが恋の争奪戦をさらにややこしくした。

 

まあそれなりに楽しく人生を生きたようだ。

 

 



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サーヴァント表、裏設定集

彼らの最終的なステータス。
もしサーヴァントとして召喚されたらこんな風になるよ、というものです。
おまけのおまけ、悪乗り裏設定集。
これにてこの話は本当におしまい。
また次の作品でお会いすることもあるでしょう。
ありがとうございました!
どうかこれが皆様の優しい目覚めの先ぶれとなり……
また、懐かしい思いとなりますように。


マトウ・カリヤ

身長:178cm/体重62kg

属性:混沌・中庸

筋力C耐久D敏捷C魔力D幸運EX宝具EX

 

適正クラス:バーサーカー、(エクストラクラス)ハンター

備考:バーサーカーとして呼ばれた場合、狂化は低く、他スキルの補正もあって問題なく会話可能。

 

外見

ヤーナムの狩装束に狩帽子はだいたいいつも装備。

下に着るべきシャツやズボンはたまに私服。

白髪で右目に眼帯。正史の彼よりはるかにごつい。

マッチョになったのはもちろん、肩幅も背丈もなぜか大きくなっている。

日本を出発したときは正史と同じだった。

ヤーナムから帰ってきた時にはあきらかにでかくなっていた。物理的にも、精神的にも。

変わり果てた彼を見て実父は「随分……鍛えなおしたな」と呆然とつぶやいたという。

 

スキル

 

勇猛:A 戦闘続行:A 魔術:E 道具作成:D

 

固有スキル

 

「狂人の智慧」:A+

幾つもの人外魔境を渡り歩き、数多の狂人を見てきた結果得た深淵の知恵。

簡潔に『狂気に慣れている経験則、広い見識』がスキルとして昇華されたもの。

精神的なスーパーアーマーであり洞察力。

このスキルを所有している人物は、目の前で残虐な行為が行われていても平然としているものであり、必要ならば残虐行為になんら躊躇いを感じない。

 

具体的な能力は次のとおり。

 

精神的なスーパーアーマーという面ならば

「精神干渉系魔術による影響を肉体の負傷という形で回避できる。

精神汚染などの狂気による意思疎通が困難、不可能な相手との意思疎通が可能」となる。

 

文化や人間心理への深い理解、すなわち見識と洞察力という面では

「相手の性格、属性を見抜き、どんな有用性を持つかを理解する」

「交渉系、文化系の全てのスキルをランクC~Bでの習熟度で発揮可能」となる。

 

低ランクの精神汚染や芸術賛美、貧者の見識、人間観察などが積み重なった複合スキル。

なお、カリヤは主に芸術賛美、扇動などに無意識に使っている。

 

「イレギュラー」:EX

一つの場所に留まらず、また何者にも属さぬ気性。全てを焼き尽くす秩序の破壊者、すなわち異分子である証。

自ら主となることも、自らの主を見つけることもない流浪の星。自身が生存するためには敵対する全てを容赦なく殺し尽くす怪物。

だがそんな彼らでも守るべき者のためには全てを捨てることもある。ましてそれを失った後の復讐ともなれば彼らを止めることはもはや誰にもできない。

そのため結果的に人類史のターニングポイントとなる事がある。

 

高いランクの反骨の相と低ランクな星の開拓者の複合スキル。

 

なんらかの秩序を破壊する場合、または自身が生存するための闘争においてのみあらゆる難行が「不可能なまま」「実現可能な出来事」になる。

 

宝具

 

宝具「爆発金槌」

ランク:A~EX

種別:対神宝具

レンジ:1~3

最大補足:6個

 

ヤーナムで狩人のために仕掛け武器を作っている工房の一つ「火薬庫」の手によるもの。

小炉付きの巨大な金槌であり、撃鉄を起こした後の一撃は火を巻き、着弾時に激しい爆発を起こす。

 

幾多の上位者や神々、幻想種、果ては抑止力まで叩き潰したこの武器はその経歴から

『「一定ランク以下の攻撃を無効化する」というタイプのスキル、宝具を無効化する』という最上級の神秘を帯びている。

 

なんであれ、叩けば血が出るし、血が出ればいつかは殺せるのだ。それが道理である。効かないなどという言い訳は聞かない。

叩き潰し焼き潰すという凶暴性は彼の人に徒なすバケモノへの憎悪だと言われた。

 

宝具「血から生まれるもの(ブラッドボーン)」

素手で内蔵をえぐり出し深刻なダメージを与える事が出来る。

相手が体勢を崩した時、あるいは背後を取った時かつ密着するほど接近した場合のみ。

血液を浴びた場合大幅に体力を回復し、出来たばかりの怪我ならば治る。

 

宝具「狩人の夢」

一夜に限り、何度でも蘇生する固有結界。

蘇生する度に戦闘から離脱、あるいは状況をリセットできる。

また、不利になった戦闘を初期状態へと戻し、技の条件を初期値に戻す。同時にバッドステータスの幾つかを強制的に解除する。

固有結界そのものを破壊するか、固有結界内でこのスキルの持ち主を殺す事で破ることができる。

幸運判定に失敗した場合上位者を呼び寄せる事がある。

 

 

マトウ・アサコ

身長:167cm / 体重:53kg

属性:秩序・中庸

筋力C耐久D敏捷B魔力E幸運C宝具‐

 

適正クラス:アサシン

 

外見・装備:

 

・衣服

戦闘時は標準的なハサンの女性用暗殺装束に烏羽装束のマント。

 

すなわち白い髑髏の仮面に黒のぴっちりしたズボンと足袋のような音を立てない靴。

これはまあいい。

だが上半身はわずかばかり胸を隠す帯のようなもののみである。

眼福だけど山の翁の風紀どうなってんの?という夫の一言により追加で烏羽のマントを着用している。

ベルトをところどころに巻いており、そこに短刀(ダーク)を括り付けている。

 

・外見

褐色肌青髪ポニーテールの美人。百貌であったころは脂肪がまったくない引き締まった体であったが、夜伽担当たちとの統合の結果、腹筋は割れつつも胸は多少大きく、美しさを損なわない程度に女性らしい丸みや肉がついた。

 

・武器

メインは体中にベルトで括り付けられた短刀(ダーク)。

だが愛用とはいえ使い捨ての武器だけではあまりにも危険、ということで夫より狩り武器を贈られた。短刀に近いものを、ということで慈悲の刃。

せっかくいろいろ使えるのだから、ということで使い道の多い葬送の刃の二振りを贈られた。

 

 

スキル

 

「ハサンのたしなみ」:B

投擲(短刀)、気配遮断、暗殺術の複合スキル。

Bランク以上で隠密術、短刀術も追加される。

それぞれをB以上で習得。

 

歴代ハサンがだいたいもっている技術をひとまとめに表記したもの。

 

「賢母のフェロモン」:C

男女の関係なく警戒心を溶かし、会話のアプローチさえ間違えなければ最深部の情報まで手に入れられる。

 

「無窮の武練(偽)」:B

大剣を除いた29種の武具をランクB以上の習熟度で発揮できる。

本来の持ち主であるハサムからの譲渡の上、マスターピースである大剣スキルが抜けているためランク低下。

 

宝具なし

 

 

一貌のハサン/豪剣のハサム

身長:215cm / 体重:62kg

属性:秩序・中庸

 

筋力B耐久C敏捷A魔力E幸運C宝具D

 

適正クラス:アサシン、セイバー

備考:なんだかんだでヤバいほど剣の腕がある上、ステータスもそれなりなのでセイバー適性ができた。

 

外見・装備:

 

・衣服

標準的な山の翁の暗殺装束。

すなわち白い髑髏の仮面に黒い腰巻にぴっちりした靴付きズボンである。

だが上半身裸でほっつき歩くわけにもいかないのでやむなく黒いぴっちりTシャツを着用。寒いとその上にフードつきマントを羽織るのみ。

防具などいらぬ、というスタイルは変わらない。

 

私服は黒ければどうでもよい、とばかりに普段は黒ジャージ一筋。

顔を隠さないと落ち着かないのかサングラス着用。

公の場ではメン・イン・ブラックかというような黒スーツ一着のみ。

だからネクタイは黒一色だとヤバいって言っただろう!

 

いざという時の大一番では灰色の甲冑と髑髏の兜を装備する。

肩と膝、胸部に獣の髑髏のついたこれは、初代ハサンの鎧、その儀礼用レプリカである。

腰巻のみよりはさすがにましだが、儀礼用であり大した防御力はない。

 

・外見

褐色痩身筋肉質の大男。手足が長い。髪は青髪をすごく短く刈っている。

ざっくりいえばザイードや腕を普通にした呪腕とあまり変わらない。

仮面を外した顔は何も特筆することのない普通のアラブ人青年。

ただアラブ人なので一応髭は生えている。

統合時にどうとでも顔を変えられたはずだが、やはり暗殺者が無駄に美形でもどうなのだ、と自問した結果。醜くない程度で十分すぎる、とは本人の言。

 

・武器

偽・死告天使:初代山の翁の使っていた大剣を一般暗殺者用にデチューンした量産品。

生前から愛用しているただの鉄剣。分厚い何の飾りもない灰色の大剣。

ただ、サーヴァント化した事、魔法の一歩手前の技を振ったことで最低限の神秘はついているらしい。

 

ルドウイークの聖剣:カリヤから何かの記念で送られた狩り武器。

ルドウイークの持つ本物の光波が出る月光の聖剣ではなく、その量産品レプリカ。

銀の剣は、仕掛けにより重い鞘を伴い、大剣となる。

残念だが光波は出ない。ただの仕掛けのついた大剣。

ただ、一応限界まで強化と、ほどほどにいい血晶のはめ込みはしてくれているのでそれなりの神秘はある。

医療教会産というのが不満だが、そこは恩人からの贈り物、ということで相殺しようと割り切った。

変形前でくせのないほどほどな使いやすい普通の剣、鞘と組み合わせることでそれはもうでかい大剣に代わる。でかいなりに使いやすい。

わりと重宝して使っているようだ。

 

短刀(ダーク):ハサンの基本はこれ。大剣一筋と決めたが基本を忘れたわけではない。

 

スキル

 

心眼(真):B ハサンのたしなみ:B

 

固有スキル

 

妄想剣身(ザバーニーヤ)」:A+

大剣をランクA+の習熟度で発揮できる。

百の貌、三十二のスキルから選び、あるいは残った究極の一

元百貌の新たなるザバーニーヤ。

 

宝具

 

(ザイフ)死告天使(アズライール)」:D

種別:対人宝具

レンジ:1

最大補足:1

 

大量の魔力か令呪と引き換えに一時的に初代ハサン「山の翁」の死告天使を疑似的に再現できる。

直死の魔眼もどきによる死告天使もどき。初代様にみつかったら命はない。

 

 

その他装備、狩り道具

 

 

月光の聖剣(ムーンライトブレイド)『ルドウイーク』」

 

持ち主:イスカンダル

ランク:A++

種別:対神宝具

レンジ:1~10

最大補足:5個

 

かつてのルドウイークが見出し、そして征服王の手に渡った神秘の剣

青い月の光を纏い、そして宇宙の深淵を宿すとき、大刃は暗い光波を迸らせる

征服王は獣に墜とされてなお高潔であろうとしたルドウイークに敬意を評し、この剣の銘を彼の名前とした。

狩人のもつそれとは違い、ルドウィークのもつオリジナルのサイズ。

なお、かつての持ち主とは違いしょっちゅう聖剣の輝きを開放することになった。

 

正確にはこの剣は「異質の月光聖剣+10、深淵血晶3個つき」である。

 

「|赤原猟犬≪フルンディング≫」

 

持ち主:カリヤ

ランク:A

種別:対人宝具

レンジ:1

最大捕捉:1人

 

ホーミング&オートエイム、血によるリゲインつきのちょうべんりな伝説の剣。

カリヤもこれはすごく便利だぞ!と思い使う機会をうかがっていたが今回は残念ながら出番がなかった。能力も見た目もかっこいいのに・・・・・・

まあ、ベオウルフの原典でもボス戦で通用しなくてそのへんで拾ったもっとすごいヨートゥンの剣で勝ったり、挙げ句ベオウルフ自身も剣を捨てて素手で戦った方が強いとかひどい扱いなので仕方ない。

本当に便利なのに・・・・・・たぶん便利すぎて退場のパターン。

 

結局しばらくおじさんの狩り道具コレクションに入っていたが錬鉄の英雄に貸し出された。

錬鉄の英雄に即コピー&魔改造されることとなる。

魔界都市化した世界ではこういう便利なものが必要になってくるので、矢じりだけではなく弾丸のバージョンも作ることとなり、護身用として売り出されたら大ウケ。

9パラ並に量産されることとなる。その利益は一部がおじさんのお小遣いに。

大半が「魔術使い派」の運営資金となる。めぐりめぐって世界を守る戦いの大事な命綱となった。めっちゃ使われることになったしすごく必要とされることになったんだから、まあいいじゃん。なのだろうか・・・・・・?この剣のファンの人には正直生かし切れず申しわけない。

 

 



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