スーパーロボット大戦Re (jupi)
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序章
序章一話-旅立ちの日


参戦作品

アルドノア・ゼロ

クロムクロ

蒼穹のファフナー

革命機ヴァルヴレイヴ

ガンダムSEEDdestiny

機動戦艦ナデシコ

健全ロボ・ダイミダラー

新約SDガンダム外伝

閃光のハサウェイ

マクロス7

冥王計画ゼオライマー

トップをねらえ!

鉄血のオルフェンズ


「出ろスレイン・トロイヤード、出所だ」

 

「出所だと?まだ刑期は終っていないだろう?」

 

 北欧の刑務所でスレインは久々に顔を会わせた界塚に呼び出される。

 牢から出されるや否や直ぐに手錠がはずされる事に戸惑うも、何よりスレインはイナホの顔を見て驚く。

 

「お前……左目……」

 

「あぁ、必要な事態になったから再移植した」

 

 自分との戦いの後に外したという‘アナリティカルエンジン’を再び着けなくてはいけない状況?

 

「何があった」

 

「ここでは話せない。」

 

 足早に、何処か警戒しながら向かった先には大型輸送機がある。

 しかし周囲には不自然なほど何もない。

 輸送機に乗艦すると、目の前に現れたのは見覚えのある機体。

 

「相変わらず悪趣味な‘オレンジ’だな……」

 

「慣れた機体が一番だから」

 

 散々苦渋を味わった連邦のスレイプニールという練習機。そのオレンジ色の装甲はいつのまにか界塚伊奈帆のパーソナルカラーだと思えてしまう。

 

「君の機体……タルシスは国連に押さえられていて持ってこれなかった。代わりにレプリカのあれを」

 

「か、代わりだと……」

 

 スレイプニールの背後。頭ひとつ飛び抜けた大きさ。

 ディオスクリア。かつて父のように慕い、自らの手で殺した男の機体。

 

「来ましたねスレイン」

 

 澄んだ声に思わず振り向くのを躊躇うスレイン。

 

「姫……アセイラム姫……」

 

「スレイン……こっちを向いて」

 

「……」

 

 スレインは向き直り、膝をつく。

 

「スレイン……あなたは大きな過ちを犯し、そして裁かれ未だ罪を償っている最中にあります」

 

「ハイ……」

 

「そんなあなたには酷なことかもしれませんが……私は再びスレインに力になってほしいことがあるのです」

 

 スレインはずっとアセイラムから目を背けていたが彼女がドレスや普段着ではなく、軍の作業服で深々と帽子を被っている事に気づく。

 

「連邦軍上層部では今、アセイラム姫は謎の勢力に拉致された事になっている」

 

 伊奈帆の一言に、スレインにとっての‘姫との感動的再会’の空気が凍り付く。

 

「実際に拐われたのはエデルリッゾなのです……私の身代わりになって」

 

 過去にアセイラムが使っていた姿を偽る道具を思い出す。

 

「……連邦はどう動いているんです?」

 

「アセイラム姫捜索に着手しているが、本腰ではない」

 

「なぜ?」

 

「事態を公にすると漸く国交が落ち着いてきたヴァース帝国と地球圏の仲違いの材料に使われかねないのです」

 

「そこで僕らだ」

 

 察しのいいスレインは理解した。だが。

 

「まて、あてはあるのか?エデルリッゾさんの居場所について情報は」

 

「僅しかない。衛兵が何者かに洗脳された形跡があったくらいだ」

 

「……洗脳……」

 

「奴等は口々にこういったよ。‘エフィドルグに安寧を’って」

 

 エフィドルグ……聞き覚えのない単語だ。

 

「調査済みだ。これから日本に向かうから一緒に来い」

 

 頷くスレイン。

 すると、アセイラムは時計を確認して。

 

「スレイン。これを」

 

「これは?」

 

「あなたは顔を広く知られた身。何かと不便が生じます。それに……」

 

「まだ刑期が終ったわけではないから、出てきた事を知られるのも色々とまずい。」

 

 スレインはアセイラムから‘銀仮面’を受けとる。

 

「では御武運を。私はライエさんと合流して隠れ潜みます。どうかお気を付けて」

 

 

 アセイラムが輸送機から出ていくのを見送ると、スレインと伊奈帆は格納庫を歩き出す。

 

「あれはハーシェル……」

 

「ハーシェルもディオスクリアも……僕のスレイプニールもそうだが、アルドノアドライブの装着や調整をセラムさんに手伝ってもらった……しかし……」

 

「どうした?」

 

 ポーカーフェイスの伊奈帆が若干苛立たしげに。

 

「来るなって言っただろう韻子!」

 

「何よ!」

 

 ハーシェルから飛び降りてきたのはスレインにとっては初めて見る女性。

 自分や伊奈帆と同じくらいの年頃でショートカット姿。

 

「偉そうに命令しなくてもいいじゃない。伊奈帆ったら危険度が高くなるとすぐにあたしを置いていくんだもん」

 

「いや実際に偉いし。それに伊奈帆じゃなくて界塚少佐だ」

 

「今は軍務じゃないし。っていうかそっちの」

 

「スレイン・トロイヤード……いや、今日から銀仮面と名乗る。」

 

「……あんたが伊奈帆を撃った奴ね」

 

「銀仮面紹介しよう。彼女は網文韻子。僕の婚約者だ」

 

 

 




界塚小隊

界塚伊奈帆

KG-6スレイプニール改
 オリジナル設定
戦艦デューカリオンが廃艦になり、そのアルドノアドライブを小型化してスレイプニールに後付け。飛行能力や重力制御が可能。
物語中盤で‘能力解放型’になり、リアクティブアーマー、コンフォーマルパワーアシスト、最終決戦仕様の3種を合わせた‘コプリート仕様’に乗る。



スレイン・ザーツバルム・トロイヤード

ディオスクリア・レプリカ、タルシス改
 オリジナル設定
地球軍が情報収集の為に作ったディオスクリアを一時的に使用する。
物語中盤でディオスクリアの情報と能力を引き継いだタルシス改に乗り換える。



網文韻子

ハーシェル
 オリジナル設定
地球軍が火星騎士から接収した機体に、地球産の新型アルドノアを組み込んだ機体。遠隔誘導兵器の他に、韻子に合わせた特殊な狙撃砲を装備。


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序章二話-女達の決起

まだハーメルンなれてません。
不手際あるかも。


 富山市で起こったエフィドルグとの血戦から五年。

 鬼や宇宙人が侍や女子高生達と手を取り合ったり戦ったりしたあの日から随分たったものだ。

 

「お久しぶりです茂澄一尉」

 

「ご足労かけて申し訳ございません。ミスマル大佐」

 

 外宇宙行きを志願した白羽由希奈、ソフィー・ノエルに付き従うように立つのは茂澄……本人の希望によりセバスチャンと呼ぶ事になる彼だ。そして握手するのは統合宇宙軍大佐にして戦艦ナデシコの艦長のミスマル・ユリカ。

 

「この艦の艦長のミスマル・ユリカです!ぶいッ」

 

「よ、宜しくお願いします。白羽由希奈です」

 

「ソフィー・ノエルです」

 

 由希奈もソフィーもユリカのキャラに若干引き気味であるものの、世話になる身故に最低限の挨拶は済ませる。

 

「由希奈ちゃんかぁ……やっと会えたって感じだねぇ」

 

「え、えっと……艦長さん」

 

「ユリカでいいよ。歳も近いし」

 

 雑談しながらもモニターに映し出される機体に目をやる。

 由希奈が乗ってきた‘マナタ’とソフィーとセバスチャンが乗る‘GAUSカスタム’が搬入される。

 

 ナデシコが富山市を出てから、由希奈は艦長室に呼ばれる。

 

「ゆっくりあなたと話してみたかったの」

 

「は、はぁ」

 

 由希奈としては初対面の人物にこんなことを言われるのは初めてではない。黒部の英雄として祭り上げられた事もあり一時期は窮屈な思いをしたからだ。

 

「わたしね、ある人を探している旅をしているの」

 

「えっと、恋人ですか?」

 

「ううん。旦那様。何年か前にわたしを助けてから宇宙に姿を消して音沙汰なし。だから追い掛けて捕まえるの」

 

「……」

 

「似てるよね。私達」

 

「そうですね」

 

 ユリカはアキトを追い、由希奈は剣之介を追う。同じ目的で宇宙に出ようとしている。

 

「私達の目標には多くの障害があると思う。だから私は今色んな所から戦力を集めてるの」

 

「障害……エフィドルグですね。」

 

「それだけじゃないの。宇宙には敵が多すぎる。備えあればってやつだよ」

 

 ユリカは由希奈にお茶を出す。

 

「……あの、ユリカさんの追っている方ってどんな方なんですか?」

 

「アキト?そうだね……格好よくて頼れて一緒にラーメン屋の屋台をやってたんだけど、ラーメンそのものはそこまで美味しいわけでもなくて……」

 

 ユリカが机から一枚の紙を出す。

 

「……別の子から受け取ったんだけどね、アキトはラーメンのレシピを手放したの。多分、何処かで苦しんでるんだとおもう。」

 

「ユリカさん……」

 

 ユリカはくるっと振り返る。

 

「ねぇ由希奈ちゃんの方も聞かせてよ。確かクロムクロのパイロットの」

 

「剣之介は私を嫁にするとか言ったのに、お世話になった人に恩返しするために宇宙に行っちゃった……カレー好きの変な侍です。」

 

「世界中に動画配信されてたね。見たよあれ」

 

「あれこそ消したいです。この艦のシステムでどうにかしてくださいよ」

 

「え~、オモイカネなら出来るけど……二人の思い出じゃない。ダメダメ」

 

「うぅ~」

 

「そう言えばあの動画に由希奈ちゃんそっくりなエフィドルグの人映ってたよね」

 

「ムエッタですね。彼女の機体を未だに借りっぱなしなんで返そうかなって」

 

「そっか、会えるといいね……ちなみにさ、ムエッタさんと剣之介くんって仲良しになってたり」

 

「ほんっとやめて」

 

 

 突如として艦長室に警報がなる。

 

「ルリちゃんどうしたの?」

 

 通信機を手慣れた手付きで操作してユリカはブリッジに連絡を入れる。先程までのほほんと談笑していた姿とはまるで違う。

 

「フェストゥムがセンサーに入りました。スフィンクス型10、ディアブロ型3、アザゼル型1それぞれが急速接近中です」

 

「ディストーションフィールド最大展開。グラビティブラストチャージ、エステバリス隊は全機発進。ただしこちらからは刺激しないで微速前進」

 

 サッと着替えてユリカは艦長室から出ようとする。

 

「ユリカさん!」

 

「おっと、何?由希奈ちゃん」

 

「わたしもマナタで出ます。わたしだって戦えるんだから」

 




黒部部隊

クロムクロ

青馬剣之介時貞
Sub白羽由希奈

メドゥーサ(マナタ)

ムエッタ

GAUSカスタム

ソフィー・ノエル
茂住俊行



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序章三話-未来演算

 

「合流予定の輸送機がフェストゥムに追われていますね」

 

「えぇ、お陰で我々はフェストゥムを背後から討つ事になりそうです」

 

 ナデシコ格納庫で茂澄とソフィーが話していると、由希奈が遅れて走ってくる。

 

「由希奈さん、ソフィーお嬢様。我々はナデシコのディストーションフィールドの外で戦わねばなりません」

 

「え?なんで?」

 

「イナーシャルキャンセラーの影響ですね。折角の防御機巧が干渉を受けて無力化されるのでしょう」

 

「さすがはお嬢様です」

 

「と、とりあえず出撃しようか」

 

 

 エステバリス隊のリョーコ、イズミ、ヒカル、サブロウタはナデシコの前方を飛行しながら警戒行動をとった。

 一方の由希奈のマナタとソフィーのGAUSも地上に着陸し、ナデシコから距離を取り艦の前に位置した。

 

「輸送機が急速に減速しました。このままではアザゼル型と接触します。どうしちゃったんでしょうね」

 

 ナデシコからの緊張感のない状況報告に、由希奈が前に出そうになる。

 

「由希奈さん、お待ちください。あの輸送機の動きは妙です。」

 

 アザゼル型を中心にフェストゥムの群が輸送機に集結しつつある。

 

 

 

 

「次元バリアアクティベイト。エネルギージョイント接続、ブレードアーム展開……抜刀!」

 

 銀仮面が伊奈帆の号令と同時に輸送機をアザゼル型に衝突させ、さらにバリアを展開したディオスクリアが体当たりする。

 アザゼル型は咄嗟に両手で押さえ込もうとしたようだが、その手はディオスクリアを掴むことは出来ずに消滅。

 さらにビームサーベルでアザゼル型のコアを一撃で破壊する。

 

「こんな大物を簡単に……」

 

 銀仮面自身が近付いてくるスフィンクス型を容易く凪ぎ払いながらも驚いている。

 先程一瞬で倒したアザゼル型は現状で確認出来ているフェストゥムで最強クラスだったはずだ。

 

「コアの場所は既に分析済みだった。ディオスクリアの機体性能と奴の情報を見て勝てると確信した……僕の左目がそう言っている」

 

 伊奈帆のスレイプニールは廃艦になったデューカリオンのエンジンを小型化して使用しているため、アルドノアの効果で飛行可能になった。

 上空からハーシェルとスレイプニールが右翼と左翼に別れてフェストゥムを一ヶ所に集め始めるように攻撃する。

 

 射ち漏らしに気付いたのか、エステバリス隊とマナタ、GAUSも、協力して各個撃破をする。

 

 

「誘導ありがとうございます界塚三佐!」

 

「後はお任せしますミスマル大佐」

 

 さすがは優秀と名高いミスマル・ユリカ。界塚が立案する前から作戦を読み取ってくれていた。

 

「グラビティブラスト。スタンバイ完了」

 

「重力子エネルギー出力安定」

 

「射線上の遊軍機退避完了」

 

「その他まとめてオールオッケー!」

 

「グラビティブラスト。どーんっといっちゃってぇ!」

 

 



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序章四話-楽園

 

「一騎カレー二つ頼むよ」

 

「わかりました。アスカ先輩」

 

 竜宮島。楽園と言う名の喫茶店には三人のエースパイロットがつかの間の休息を損分に楽しんでいた。

 真壁一騎、皆城総士、そしてオーブから出向しているシン・アスカがゆったりとした音楽を聴きながらカレーを食べる。

 

「ベイグラントの討伐のために宇宙に上がるってのはわかるけどさ、大丈夫なのか?島を離れて」

 

「織姫とエメリーと美羽ちゃんの提案でもある。空から来る敵は今戦うための準備をしているようでな。暫くは時間が空くらしい。最終決戦前に戦力を増やすためだ仕方あるまい」

 

 一騎と総士がそんな会話をしながらもゆっくりしているのが気掛かりなシン。

 

「……ナデシコか」

 

 さすがにシンも気付く。

 オーブ側から連絡の来ていた連邦や他の軍から独立した部隊。

 竜宮島にも来るのだろう。

 

「ただ、あいつらの協力を得ると言う事はフェストゥム意外ともやりあうんだろうな」

 

「島を守れる確率をあげるためなら手を汚す覚悟くらいあるさ……遠見にばかり重みを背負わせたくはないしな」

 

 

 シンが竜宮島に来てから数日が経過した。

 オーブと竜宮島が友好関係だったため、一時的な戦力の派遣として来たのだが毎日ように小規模な群が襲来していた。

 ファフナーパイロットの同化現象を抑え温存するためにシンは連日出撃し続けた。

 

「……また来た……」

 

 総士と一騎が窓を見る。

 

「お前らは休んでろ。あとカレー残しとけよ」

 

「アスカ先輩。やっぱり俺も」

 

「大丈夫だって」

 

 シンは振り返らず走っていく。

 

「一応、俺達もアルヴィスで待機しておこう」

 

 

 

 

 シンがデスティニーで出撃すると、眼前に現れたフェストゥムに驚愕する。

 

「銀色のフェストゥム……」

 

 アルヴィス第二CDCでも動揺が湧く。

 

「マークデスティニーが会敵。ただしソロモンはタイプ断定せず」

 

「見たところスフィンクス型のようだが……銀色は初めてだ。どう思う真壁」

 

「先ずは出方をうかがおう。アスカくん。距離を取って様子を見てくれ」

 

「了解」

 

 すると第二CDCの中に男が二人勝手に入ってくる。

 

「どうしたのかね、来主操、春日井くん」

 

「あれは僕達とは違うよ」

 

「真壁司令。攻撃は駄目です。敵意は感じない」

 

「……君たちがそう言うなら、従おう」

 

 真壁の指示によってデスティニーは後退させられる事になる。

 それを確認したのか、銀色のフェストゥムはゆっくりと下降していく。

 島の灯台でコアである皆城織姫が視線を送っていたが、フェストゥムは彼女に見もくれず素通りする。

 

「真壁司令。ご子息から通信です」

 

「一騎から?」

 

 いつなの間にか一騎がマークザインに搭乗していて、出撃体制を整えていた。

 

「父さん。あいつは俺を呼んでる。声が聞こえたんだ」

 

「声だと?奴は何を言っていた」

 

「何か苦しんでいる様子だった。行かせてほしい」

 

 誰もが躊躇する。

 島の最大戦力にして、電池切れ寸前のエースを出撃させていいものか。

 悩んでいる時間はなかった。

 

「フェストゥムが移動!反応は……アルヴィス内部、ファフナー格納庫です!」

 

「一騎!」



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序章五話-大平洋横断

 

「界塚三佐、お話があります」

 

「なんでしょうか、ミスマル中佐」

 

 ナデシコに合流し乗艦した界塚小隊の三名。伊奈帆は一人で通路を歩いているとユリカに呼び止められた。

 

「どうしてあなたが火星騎士の彼と一緒に行動してるんですか?」

 

「……乗艦前に情報はお渡ししていた筈ですが」

 

 ユリカには既に‘エデルリッゾ’誘拐の件まで話している。当然、銀仮面の素性も。

 

「あなたとスレイン・トロイヤードが仲良く歩いているのを見ていれば気味悪がるのは当然です。例え情報を持っていても」

 

「仲良く見えたのなら心外です」

 

「もしかしてあれですか?昨日の敵は今日の友的な、ゲキ・ガンガーみたいな燃える展開があったりしたんですか?」

 

 伊奈帆は左目に手を当てる。

 

「……奴と一緒にいるのは多少の私怨もありますが……目的のために利用出来ると判断して尚且つ戦力としての腕を知っていたからです」

 

 軽くため息をついてから。

 

「ゲキ・ガンガーとか言う古いアニメについては存じません。恐らく僕には似合わない、見たら悪影響が出るだろうと」

 

「その左目が?」

 

「………えぇ」

 

 

 伊奈帆はユリカと別れてから、食堂に向かう。

 そこで出されたカレーが妙に旨い。

 

「そのカレーね、由希奈ちゃんが作ったんだよ」

 

 厨房のホウメイという女性が教えてくれる。

 

「お口に合いましたか?」

 

 トレイを運んでいる由希奈が居合わせる。

 彼女はマナタに乗るとき意外は食堂の手伝いをしているらしい。

 

「はい。とても。何か隠し味でも?」

 

「隠し味を明かしたら隠してる意味が無くなっちゃいますよ」

 

 伊奈帆はカレーを完食してから、再び由希奈に声をかける。

 

「……エフィドルグが?」

 

「間違いかと。五年前、富山に現れた奴らはあなた方が全滅させた。間違いないのですね?」

 

「はい。あのあと国連軍がエフィドルグの船を調べて先見隊の人数や行動範囲を確認しましたので」

 

 数秒、伊奈帆は考えてから次の言葉を述べる。

 

「別動隊が来た可能性が高いですね」

 

「そんな……」

 

「現状、エフィドルグのグロングルが出現したとしても各国のスーパーロボットで対応出来るはずだと僕の左目が分析しています」

 

「は、はぁ……」

 

「今後に備えてあなたの仲間の力が必要になるかもしれません」

 

「それって……」

 

「青馬剣之介時貞」

 

 由希奈は伊奈帆が食堂から出ていくのを見送ってから、天井を仰ぎ見る。

 

「……鬼は再びやってくる……か……」

 

 

 ナデシコは竜宮島に向かっている。

 ファフナー隊と合流後にオーブへ向かい、マスドライバーを使って宇宙に上がる予定だ。

 

 突如、ナデシコの船隊が大きく揺れる。

 

「左弦後部デッキに被弾。グラビティエンジン出力低下!」

 

 ユリカも伊奈帆も警戒を解いていた状況下での完全なる奇襲攻撃。

 

「ディストーションフィールド展開不能!」

 

「敵は!?」

 

 機体の中で待機していたリョーコが先行して出ようとする。

 

「まだ出ては駄目です」

 

「ルリ?」

 

 ルリが‘オモイカネ’と繋がり、電子の妖精の力を使う。

 

「強力なステルス性能を持つ艦艇に囲まれている……衛生軌道上からモビルスーツが一機……音速を超えている」

 

 状況分析が進む中、ユリカが額から出血したまま走ってくる。

 

「ちょっと艦長、怪我!」

 

「後まわしです!総員、反撃準備。エステバリス隊は上空から来るモビルスーツを、界塚小隊はナデシコの護衛、残りは敵艦艇の撃退を」

 



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序章六話-解放

「我々マフティーがお前たちを粛清する!」

 

 海上と上空からの同時攻撃。

 奇襲によりナデシコは飛べなくなり、通常航行で海を進むしかなくなる。

 

「粛清されなきゃいけないような事してないのに!」

 

「他の連邦組織と一緒にされてるんだろ!」

 

「来るぞ!ガンダム頭だ!」

 

 マフティーと名乗るテロリスト集団の恐らくリーダー各のガンダムによる攻撃。

 音速を超えるスピードとビーム兵器。さらにファンネルミサイルによる牽制が厄介この上ない。

 

「くっ!エステのスピードじゃ追い付けない!」

 

「ガンダムの足を止めてください」

 

「界塚か?駄目だ!すばしっこい上に頭も回りやがる」

 

 ガンダムはナデシコから距離を取りながらじわじわと攻撃してくる。

 指揮官機の伊奈帆に気付いたのか警戒を強めている。

 

 一方、海上の艦艇にはソフィーのGAUSがガトリングで応戦していた。

 

「お嬢様。敵艦の注意が我々に集まりました。頃合いかと」

 

「そうね。では参りましょうかセバスチャン」

 

 弾倉を装填、フラッシュグレネードを数発敵艦の直上に放つ。

 

 閃光に注意が向けられる瞬間にGAUSは高々と跳躍。ガトリングを艦艇に向ける。

 

 その瞬間にガンダムがGAUSに急接近してくる。

 

「やたら頭がいいと、策も読めるのでしょうが」

 

「翔べ!劵属達!」

 

 オトリとして跳躍したGAUSに接近してくるガンダムに、ディオスクリアのパンチが直撃する。

 

 同時に艦艇は、海中からマナタで接近していた由希奈によって次々と撃沈されていく。

 

「あちらさん、引き際も見事だな……」

 

「追撃はしません。各機収容、出来る限り早くこの海域から離れます」

 

 ナデシコとマフティーの戦闘が終ったのは、竜宮島到着のわずか一時間前だった。

 

 

 一方、話は竜宮島に戻る。

 

「お前……フェストゥムじゃないな。お前が誰だって構わない。助けを求めてるってのなら俺が助けてやる」

 

 マークザインの中から銀色のフェストゥムに呼びかける。

 

「さぁ、手を伸ばせ。俺を感じろ……俺はここにいる。俺は……ここにいるぞ!」

 

 互いの手をふれあう形で共鳴。

 

 瞬間、銀色のフェストゥムは全身を結晶化させる。

 その結晶は砕け散り、フェストゥムの姿は無くなる。

 

「お前が……本体か……」

 

 マークザインの手に包まれ新に姿を現したのはMSとは違う、人間と同等の大きさの‘小型ガンダム’だった。

 

 

 

 それから小型ガンダムの検査、マークザインの収容をすると同時にタイミング悪くナデシコが到着した事もあり、アルヴィス内部では一時的に騒々しくなる。

 応接室で伊奈帆とユリカが真壁と顔を会わせる。

 

「ミスマル中佐も小型ガンダムとの対話に経験が?」

 

「はい。私達の友達はあなた方の仲間だった‘武将’とは違いました。むしろ……」

 

 モニターに映る小型ガンダムはベッドで横になっている。

 

「彼の様な騎士でした」

 

 ユリカの言葉に真壁は少し考えてから。

 

「対話に協力を願いたい、ミスマル中佐」

 

「もちろんですともっ」

 



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序章七話-戸惑い

 

「目が覚めて何よりです」

 

「……人間族か。まずは助けて頂いた礼をのべたい。感謝する」

 

「お気になさらず。わたしの名前はミスマル・ユリカ、こちらは真壁司令」

 

「わたしも名乗らせてもらおう。名は騎士ユニコーン。ラクロアの騎士にしてスダ・ド・アカワールドから来た。」

 

 ユリカの顔が明るくなる。

 

「やっぱり!もしかしてアルガス騎士団とか知ってたり」

 

「なんと。何故」

 

「わたしの友達なんです!」

 

 そこでユリカと真壁は、過去に小型ガンダムと呼ばれていた武将や騎士との邂逅について騎士ユニコーンに語った。

 

「これも運命の導きか……」

 

 ふとおもむろに騎士ユニコーンが大剣の中から数枚のカードを取り出す。

 

「どうしました?」

 

「仲間を召喚するための魔法のカードだ。しかし……」

 

「真っ黒ですね」

 

「この世界に来てから5枚のカードが力を失った。恐らく仲間達は散り散りとなって世界のどこかにいるはずだろう」

 

「だったら協力しましょう」

 

 間髪入れずにユリカが申し出た。即断即決に思わずユニコーンも真壁も呆気に取られる。

 

「騎士ガンダムさんのお仲間なら手助けしないわけにもいきません!オモイカネや他の組織の力を借りてでもあなたの仲間の居場所を探ろうじゃないですか」

 

「そうだな我々も尽力しよう。」

 

 真壁にも異論はないようだ。

 

 

 ナデシコに乗艦が決まっていたシン、一騎、総士に加えて騎士ユニコーンが参加することになったのだが、マークザインとマークニヒトから降りた一騎と総士がナデシコの格納庫で難しい顔をしていた。

 

「何故マークジーベンがある……」

 

 空気を察したのか遠見が歩いてくる。

 

「わたしが頼んだからだよ。皆城くん、一騎くん。」

 

「どうして……」

 

「マークジーベンがもっと色々出来るように調整してもらう。その最短ルートだから」

 

「島のスタッフでも充分だろう?カノンが残してくれたデータもある」

 

「……わたしのSDPと近い能力を持っていて、尚且つ島のスタッフよりも上手く早くファフナーを調整出来る人に心当りがあるの」

 

「そんな都合のいい人間がいるものか」

 

 総士は真矢に島に残ってほしいがために少々冷たく接してしまうも、一人の人物の名前を出されて反論出来なくなる。

 

「今はザフトにいる、キラ・ヤマトさんだよ」

 

 

 全ての補給や修理を終えたナデシコは、突如としてエンジンを稼働状態まで吹かし始めた。

 

「艦内に搭乗中のクルーの皆さん。これより当艦は緊急発進します。」

 

 ルリの声がうっすらと流れたのを聞いて、緊張感が漂い始めた。

 

「何事だ?」

 

 騎士ユニコーンは由希奈や韻子と談笑していたが、急な事態に状況が飲み込めない。

 

「ちょ、伊奈帆ぉ!」

 

 伊奈帆と銀仮面が通りすぎようとしたのを呼び止める。

 

「機体で待機していてくれ!オーブ海域で戦闘が始まっている。ある程度ナデシコで近付いたら空戦機体は艦より先行して戦闘に参加する」

 

「はぁ!?誰、何と戦ってるのよ。」

 

「エフィドルグだ。ヘッドレスやカクタス……」

 

 伊奈帆はチラッと由希奈をみる。

 

「クロムクロそっくりな機体も多数確認された。奴等は何故か火星騎士の揚陸城で降りてきた」

 

「そんな……剣之介……?」

 

「本人がいる確証はありません。ただ、オーブの一部軍隊が洗脳を受け、同士討ちが始まっている状況です」

 

 黙って聞いていた騎士ユニコーンが大剣を握る。

 

「そのような非道。許してはおけぬな。わたしも力を貸そう」

 



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序章八話-響く歌声

 

「10時方向よりムラサメ10、さらに4時方向からクロムクロ、ヘッドレス多数!」

 

「ゴッドフリート、バリアント照準。コクピットは避けて。射てーっ!」

 

 オーブ海域。

 既にアークエンジェルが防衛戦に参加していて、火星騎士の揚陸城から放たれたエフィドルグの大部隊と交戦していた。

 さらにエフィドルグはオーブ軍の兵士を洗脳し侵略行為を始めた。

 一方騒ぎをいち早く察したアークエンジェルの隊は、アスラン・ザラのインフィニットジャスティスを主力に反抗作戦にうって出る。

 

「アカツキ、フラガ一佐より入伝。援軍を確認とのこと」

 

「来たわねナデシコが!」

 

 海域に到着早々にグラビティブラストを広域照射。

 

「アークエンジェルの方々!遅くなってすみません!」

 

「協力感謝します。ですがムラサメ隊は洗脳されている身です。可能な限り」

 

「善処させます!ルリちゃん!」

 

 ユリカは管制システムに手をかける。

 

「任せてください。あくまでオーブ軍の機体だけなら何とかなります……オモイカネとの接続をレベル10までに移行。MSの起動権限を全て剥奪」

 

 ルリが電子の妖精としての力を行使する。

 オーブ軍の機体は次々と無力化されるも、パイロットは地上に降りて銃を手に歩き出した。

 

「くそっ!どうすれば洗脳されてる人達が止まるんだ!」

 

 

 一方、グラビティブラスト発射と同時に揚陸城に突入した界塚小隊と騎士ユニコーン。

 城内にはカクタスが多数配備されていたが、騎士ユニコーンの敵ではなかった。

 

「力を解放するまでもない相手ばかりだ」

 

「何よりです。さて銀仮面。この城の持ち主とアルドノアは?」

 

「調べるまでもなかった。これはマリルシャン伯爵のものだ。僕が決闘で倒し差し押さえた」

 

 伊奈帆は顎に手を当てる。

 

「やはり無人でここに堕ちたと言うことか?エフィドルグが現地で兵隊を確保するというのは本当だったのか」

 

「ねぇ伊奈帆。中々の中古物件だと思わない?そろそろマイホームとかさ」

 

 緊張感に欠ける韻子に呆れる伊奈帆は銀仮面に。

 

「そう言えば君の資産だったな」

 

「……マイホームくらい新築で建ててやればいい。そのくらいの器量はあるだろう」

 

 無駄話をしていると、伊奈帆が急に立ち止まる。

 アナリティカルエンジンのセンサーに反応が出たのだ。

 

「誰だ……」

 

「……エフィドルグに安寧を」

 

 伊奈帆達の前に敵として現れたのは小型ガンダムだった。

 

「バーサルロードスペリオル……いや、騎士GP01!」

 

 

 

 その頃、地上ではヘッドレスやクロムクロの擬物を相手に各部隊が戦っていた。

 

「剣之介がいると思ったのに……肩すかしにも程があるよ!もう……手加減なんてしないんだからぁ!」

 

 クロムクロ、剣之介がいると思って意気揚々と出撃した由希奈だったが、ただの量産型グロングルだったため怒りとストレスとモヤモヤを一心不乱にぶつける事になり暴れまわる。

 

「由希奈さん。荒れてますこと」

 

「それにしてもお嬢様。こうしてヘッドレスの群を相手にしていますと、五年前を思い出しますな」

 

「あの時ほど情況は絶望的ではありません。何せ」

 

 エステバリス隊が背後を守り、最前線はマークジーベンが突き進んでくれる。

 万が一はマークザインとマークニヒトも艦で控えているので余力はある。

 

「ただ敵を倒すだけならどうにでもなりますが、何か一手欲しい所ですな」

 

 茂澄の一言に呼応するかのように、突如とした音楽が流れ始める。

 

「歌……一体どこから?」

 

 真矢が戦闘を続けながら周囲を警戒していると真紅のバルキリー、非武装の可変戦闘機が横切っていく。

 

「行くぜぇ!俺の歌を聴けェ!」

 



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序章九話-真聖機兵

 操られた騎士GP01は騎士ユニコーンに剣を向けた。

 

「皆の者、わたしに構わず先に行け!」

 

「ユニコーンさん、それフラグだからっ!」

 

「韻子行くぞ!」

 

 界塚小隊の三人は騎士ユニコーンと別れ城の奥まで走る。

 

 

 「これは……」

 

 再奥まで到着した三人が見たのは城内で浮遊する多面体の鉱石だった。

 

「枢石だ。これがあるから、揚陸城はオーブまで来れたんだ」

 

「ちょっとまって、それじゃあ」

 

「あぁ、これを破壊しなければ何度でもエフィドルグが来る」

 

「……一度機体の所まで戻ろう。ディオスクリアなら一撃で」

 

 銀仮面が言いかけた時だった。

 突如として城が不自然に揺れ、警報が鳴り響く。

 

「まずい事になった」

 

「こ、今度はなに。伊奈帆!」

 

「恐らく自爆シークエンスだ」

 

 揚陸城が自爆しようとプログラムが発動してしまった。

 伊奈帆が端末を調べて対処方法を探る。

 

「……駄目だ。機体に戻ろう」

 

「打つ術無しか?」

 

「あぁ。だから力業でいく。」

 

 

 地上での戦いは終焉を迎え、エフィドルグの洗脳を受けていたオーブ兵もバルキリーから聴こえた歌声で何故か正気を取り戻した。

 

「何だったの、さっきの歌……」

 

 暴れ疲れた由希奈がグロングルの残骸にマナタを腰掛けてさせると、緊急入電が入る。

 

「全機に通達!揚陸城が自爆しようとしています。被害を最小限に抑えるため、自爆前に破壊します」

 

 マナタとGAUSには帰還命令。

 エステバリスには砲戦フレームに換装。

 さらにマークザインとマークニヒトに発進命令が出る。

 

「ミスマル大佐。こちら界塚。スレイプニールにも換装パーツを射出してください。装備はコンフォーマルパワーアシストで」

 

「了解です。それで枢石は?」

 

「銀仮面に向かわせました。僕と韻子は上から攻撃します」

 

「無理しないでくださいね。いってらっしゃい!」

 

 

 

 伊奈帆と韻子が揚陸城の上空に向かう中、銀仮面は早々に枢石を破壊して撤収する。

 

「彼らの攻撃に巻き込まれてはディオスクリアといえど……」

 

 マークニヒトのワームスフィアが次々と城を削り、マークザインのルガーランスを使用した斬撃が激しく降り下ろされる。

 

「って、騎士ユニコーンは!?」

 

 とっくに脱出したモノだと思われていた騎士ユニコーンの安否確認が出来ていなかった。

 

 唐突に、マークザインのルガーランスが折れる。

 

 揚陸城を両断しようとしていた一騎の手が止まる。

 

「コーールッ!」

 

 騎士ユニコーンが騎士GP01に肩を貸し、10メートル程の別のガンダムを召喚する。そのガンダムは強固な楯でルガーランスを跳ね返し、折る。

 

「真聖機兵ガンレックス!我らを守り、この城を破壊したまえ!」

 

 マークザインよりも高出力の剣を出し、ガンレックスは揚陸城を一刀両断する。

 

 

 オーブ側には甚大な被害が出たものの、結果的には自爆等は防げたこともあり多くの人々を救うことが出来たのであった。

 事後処理を済ませて一段落していたユリカの元に、騎士ユニコーンが現れる。

 




今回は脱出が遅れた騎士ユニコーンと騎士GP01を、味方のマークザインによる誤った攻撃から守るために真聖機兵ガンレックスがコールされました。

今後もSDガンダム絡みの機体やキャラが少しだけ出ます。


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序章十話-幕間

 

「あれ?もう一人の騎士さんは?確かGPなんちゃらさん」

 

「彼の事だが……」

 

 騎士ユニコーンは一枚のカードを見せる。

 それを見て、目を見開くユリカ。

 

「……カードの中に戻ったって事ですか?」

 

「いかにも。コールの力はこの世界では一度きりのようだ。仲間にして、召喚したらこうなった」

 

「……なんだか寂しいですね」

 

「元よりこれが目的だ。それに、君達といればそのような感情に染まることはあるまい」

 

 

 ナデシコがオーブのオノゴロ諸島ドックに停泊する頃、由希奈はソフィー、韻子、真矢の四名で食堂にいた。

 

「さっきの歌声気になるんだよね……」

 

「凄かったですよね。エフィドルグの洗脳が簡単に解けちゃうなんて」

 

 真矢と韻子の話にソフィーは複雑な面持ちでいる。

 先程の様な強力な存在が何故五年前に富山に来てくれなかったのか。

 あの歌があれば多くの人を救えたというのに。

 

「うーん……」

 

 ふと、ソフィーの横で由希奈が唸る。

 

「どうしました?由希奈」

 

「どこかで聴いたことあるんだよなぁ……」

 

 どうやら歌声の主について調べていたようだが、中々解らないでいたようだ。

 

「あれは熱気バサラ、ファイヤーボンバーというロックバンドの曲です」

 

「あ、界塚三佐」

 

「伊奈帆、こう言うの詳しかったっけ?」

 

「僕の左目が」

 

「あ~、ですよね~。」

 

 

 

 伊奈帆が女性たちに雑な扱いを受けている頃、アークエンジェルではシンとアスランが久々の再会をしていた。

 

「ラクスとキラには連絡をしておいたから、衛星軌道上で合流が可能だ。最も、ラクスは議会で身動きがとれないからキラが単独で来るが」

 

「それでも充分ですアスラン」

 

「すまない。俺はまだオーブの守りとして残らなければならないから、ついていけないが」

 

「仕方ないですって。ルナとメイリンも納得してオーブに残ってくれてますし、俺の帰る場所ちゃんと守っててくださいよ」

 

「わかったよ」

 

 

 オーブがエフィドルグに攻撃され、復旧等に時間を費やす中で、ナデシコはマスドライバーで宇宙へ上がる計画でいた。

 しかし、関係部署の修理等で急きょ2日程の暇を各々に与えられることになる。

 

「それで……買い物に行くわけだが……」

 

 茂澄が用意したリムジンバスに乗り込む一同。

 

「結局銀仮面と騎士ユニコーンは留守番か?なんか可哀想な気がするが」

 

「ウリバタケさんも来なかったね」

 

「格納庫でお楽しみ中でしょ」

 

 普段はエステバリスしか搭載されないナデシコに様々なロボットがいるというのはメカニックにとって最高のプレゼントになっていた。ただし、マークザインとマークニヒト、マナタは完全に触れることすら禁じられているためメカニック泣かせではあった。

 

「わたし洋服とか見たいなぁ……」

 

「宇宙で剣之介に会ったときの為ですか?」

 

「え、えっとそういうわけじゃ」

 

 ソフィーにからかわれた由希奈が照れながら話題を変えようと。

 

「そ、そう言えば竜宮島の人達って皆お洒落ですよね。」

 

「そっかなぁ?でもまぁアルヴィスのデータベースから流用してるのが殆どだし」

 

「遠見、例外を忘れちゃいけない。竜宮島のファッションリーダー様だ」

 

 一騎の言葉に全員が皆城総士を見る。

 

「……なんだ?」

 

「いや、総士。お前の話をしてたんだけど。何ぼんやりしてるんだ?」

 

「……島の連中が気になってな」

 

「大丈夫だって信じよう。咲良と剣司に加えて繰主と甲洋までいるんだ。」

 

「しかしカノンを欠いた今、後輩達の消耗と咲良と剣司の限界も気になる。やはり指揮官として」

 

 総士がブツブツ言い出したので、一騎と真矢が無理矢理総士の腕を引く。

 

「いいから買い物!」

 

 



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序章十一話-仮面の二人

 

「銀仮面に頼まれた買い物があるんだ」

 

 伊奈帆と韻子は他と別行動をしていた。

 

「どんなの?」

 

「一般的な日用品ばかり。後は本」

 

「本?」

 

「暇を潰せればどんなものでもいいらしい。」

 

 韻子の頭に悪戯心が沸き立つ。

 

「……奴は面白味に欠ける所があるからな。多少過激な土産物でも良いかも知れない」

 

「………へぇ?」

 

「……なに?」

 

「べっつに~」

 

 

 伊奈帆が無表情で言ったのでツッコミ待ちなのかと思ったが、スルーした。

 

 

 

「ヘックシュッ!」

 

 ナデシコの食堂で一人寂しく食事をしていた銀仮面ことスレイン・ザーツバルム・トロイヤードは何気なく仮面を外して、その仮面を磨く。

 

「そなたはその様な顔だったか」

 

 不意に声をかけられ驚くスレイン。

 

「騎士ユニコーンさん。あなたも外に出なかったのですね」

 

「あぁ。以前我が同胞がこの世界に来たときに‘ますこっと’とやらにされ子供が集まり窮屈な思いをしていたと艦長殿から聞いていてな」

 

「なるほど……」

 

 ガンダム族の事を知らない一般人から見れば着ぐるみの中に人が入っているとしか思えないだろうが、この艦の乗員は彼の特殊性について知っている。

 

「銀仮面殿。そなたは何故素顔を隠す?」

 

「……随分と唐突ですね……」

 

「まさかわたしと同じように秘めたる能力が?」

 

「ありませんよ。僕は普通の人間ですから……」

 

 スレインは何気に騎士ユニコーンが能力を隠しているのだと聞かされたが、その真意を図る事は出来ない。ガンダム族は人間と違って表情筋がないからだ。

 

「そうですね……」

 

 騎士ユニコーンの純白の騎士甲冑に眩しさを覚えながら。

 

「……大切な人を裏切って利用して、戦いにも負けて死んだことになっている最低な罪人だからです……恥ずかしくて顔をだして歩けないじゃないですか……」

 

 

 一方で由希奈達買い出し班はオーブの繁華街で立ち尽くしていた。

 

「なに……あれ?」

 

 一見ペンギンの様な外見だが手足は人間のような長さ。何故か尻尾が前に飛び出し異常に長い奇妙な生物だった。

 

「おっかし~な~。リッツってばどこ行っちゃったんだろう?」

 

「もうすぐペンギン帝国に帰らなきゃいけないのに」

 

「超南極の反応もないねぇ」

 

「待ちたまえ皆の衆!僕らにはこれがあるじゃないか!」

 

「そうだ!僕らには前尻尾がある!」

 

「こいつをレーダーにしていけば」

 

「僕達の前尻尾がリッツに反応する!」

 

 珍妙怪奇な集団‘ペンギン帝国’がウロウロしているのを伊奈帆が左目を使って分析をしていた。

 

「伊奈帆。なに今の」

 

「分析出来なかった。関わるべきではない、と僕の左目がそう言っている」

 



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序章十二話-運命の出会い

暫くは

スレイン・ザーツバルム・トロイヤード

銀仮面

と表現しています。

詳しくは一話にて。


「ナデシコの近くで倒れていただと?」

 

 何処からか迷い込んで来た金髪の少女は頭上から落下してきたスパナに脳天をやられ、倒れていた。

 

「えぇ。とりあえず一番医務室の近いナデシコに」

 

 ウリバタケは軍属からの話に嫌な予感を感じた。

 

「おお。丁度良い。そこの二人手伝ってくれ」

 

 暇をもて余して艦内をブラブラ歩いていた銀仮面と騎士ユニコーンが、ウリバタケの前に現れる。

 

「どうしました?」

 

「この子を医務室まで運んでやってほしい」

 

 見たところ銀仮面より一つ二つ年下の幼さ残る金髪の少女。

 

 騎士ユニコーンが彼女を抱えて医務室まで運ぶ事になるも、ベッド周りが少々手狭だったために小型ガンダムでは身動きがとれずにいたため、銀仮面に介抱を一通り任せる事になる。

 

「あ、目が覚めました?」

 

「はい……えっと」

 

「ここは戦艦ナデシコの医務室。あなたは頭を強く打って倒れていたのを保護されました。脳には異常は無いと医師が」

 

 銀仮面が言いかけてから、ふと彼女の顔が赤いのに気づく。

 

「大丈夫ですか?どこか具合でも」

 

「あの……名前は、名前を聞いても」

 

「スレ、銀仮面とでも呼んでもらえれば」

 

 先程から彼女の瞳がキラキラしてきたので、銀仮面は顔をひきつらせる。

 

「朕はリカンツ・シーベリー。リッツと呼んで。あなたと言う存在に、心奪われた女」

 

「は、はぁ?何を言って」

 

 そんなやり取りが始まったとたんに騎士ユニコーンが空気を察した?のか医務室から退散してリッツの事を報告出来そうな人物を探した。責任者は他の会合や買い物に出ているため基本的にはナデシコ内は無人に近かった。とりあえず格納庫のウリバタケに話に行く。

 

 一方の銀仮面とリッツ。

 彼女は銀仮面に一目惚れしたらしく、彼はそれを信用出来ず自らの素顔を見せ名前も明かして、距離を取ろうとした。自分の今までしてきた罪を教えれば近寄る事もない。ハニートラップだとしても死んだはずの身のスレインに行って得をする者などいるとは思えない。そう考えたのだが、とにかく彼は混乱していた。

 

「むしろ好み!タイプ!」

 

 逆効果だった。いきなり抱きつかれ完全にペースを捕まれる。

 

「と、とにかく元気になったのならナデシコから降りてください。というか僕から降りてください」

 

「い~や。朕と一緒にペンギン帝国の為に子孫反映を」

 

「だから何を」

 

「……始めてだから優しくしてもらえると」

 

 さすがの銀仮面も我慢の限界をむかえて、無理矢理リッツを引き剥がす。

 そしてナデシコがマスドライバーを使って宇宙に上がるから、早々と立ち去ってほしいと告げる。

 

「……うん!わかったよ!準備してくるね」

 

 血の気が引くのを感じた。

 




ダイミダラー、クロムクロは未だスパロボに参戦していない作品ですが、ゲームでも充分使えるはずです。

ただ…

この小説をつくっていて、ダイミダラーの扱いの難しさに苦戦しています。

ギャグ要素高すぎて、シリアスシーンに一切合切だせない。

でもね、後々に活躍するんだよ?

ペンギンコマンド達がね。


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序章十三話-成層圏突破

 出航前に全クルーが乗艦完了の点呼をとるため格納庫に集まっていた頃、いきなり未確認のスーパーロボットが勝手に入ってくる。

 思わず全員が臨戦態勢を取ろうとしたものの、すぐに機体から少女が降りてくる。

 

「超南極とリカンツ・シーベリー。銀仮面様に身も心も貞操も捧げるため、ナデシコに協力します!」

 

 押し掛け女房のような押し掛けパイロットが勝手に乗艦し、その態度がユリカに気に入られて採用されてしまう事になる。

 誰もが呆気に取られている中、腹を抱えて笑うウリバタケ、笑いを堪える騎士ユニコーン、膝を着いて項垂れる銀仮面の姿があった。

 

 そしていよいよ出航。

 オーブ側が用意してくれたマスドライバー。

 彼らを見送るオーブの代表カガリとアークエンジェルのクルー達。

 野次馬の中にはペンギン帝国の姿も。

 

「……ユリカさん?」

 

「あ、ごめんねルリちゃん」

 

 マスドライバーで上昇しナデシコの艦主角が90°に近くなった頃、突如ユリカが涙を流す。

 

「ちょっと、新婚旅行の事思い出しちゃって……」

 

「……早く捕まえに行きましょう……」

 

 

 そんな会話がブリッジであった頃、銀仮面の私室に集まっていた界塚小隊。

 艦が上昇中のため、三人とも座って話す。

 

「銀仮面。頼まれていた買い物だ」

 

「あ、あぁありがとう」

 

 ポーカーフェイスの伊奈帆はいつも通りだとしても、韻子が目を背けてニヤニヤしているのが気になる。

 

「なんだこれは!」

 

 日用品の至るところにハートマーク。下着類や、コップまで一々。

 

「ふ、ふざけているのか界塚伊奈帆……」

 

「まだ終わりじゃない」

 

 暇潰しにと頼んだ本の中身が酷かった。人格強制プログラム本、SM調教本、面白い男になるための本等々。

 

「頭の硬い君のことだ。鞭で叩かれたりなんて経験無いだろう?」

 

 調教本をヒラヒラさせながら言う。

 

「勝手に決めつけるな」

 

「……え」

 

「あ、いや……」

 

 一瞬微妙な空気になるも伊奈帆が左目で銀仮面の事を観察し、深く追及しなかった。

 

「だいたい、女子とこんな本を買ってくるなんて恥ずかしくないのか」

 

 聞いてみて、伊奈帆がこんなチョイスをするとは考えられなかった。恐らく網文や他の乗員の遊び心だろう。

 

「君こそ皆が居ないのを良いことに年下の女の子と仲良くなったりなんて、アセイラム姫に対する忠義はどうした?」

 

 喧嘩になりそうでならない変なピリピリ感を二人で出していると、銀仮面は諦めて溜め息をつく。

 

「あぁ、もう。わかった。黙って使うよ」

 

「え、本を?」

 

「……日用品の方だ」

 

 

 重力の束縛から抜けて、ナデシコは衛生軌道上に入る。

 

「全機緊急発進準備!」

 

 突然ユリカが声をあげて艦内放送を大音量で流す。

 

 宇宙怪獣と呼ばれる巨大な存在と、フェストゥムが姿を現していた。

 

「ナデシコはこれより最大戦速でチューリップに向かいます。全機体でそのフォローを。ただしディストーションフィールドから出ないで下さい!」

 

 パイロット達が大慌てで発進する中、一騎と総士が足を止める。

 

「……フェストゥムか……」

 

「どうする総士」

 

「ここで宇宙怪獣と戦って勝ち目があるとは思えない。だがフェストゥムを放っておくわけにもいかない」

 

「……フェストゥムだけなら俺達で引き付けられる。ここは火星に行かず、戦闘後に島へ戻るか。」

 

 真矢が総士と一騎の前に現れる。

 

「俺からミスマル艦長に掛け合う。ファフナー隊は一度離脱すると」

 

「あたし達が囮になればナデシコはチューリップに行きやすくなるし、やろう」

 

 




一部、pixivとは違う文面があります。

あり得ないくらいシン・アスカのデスティニーガンダムを自然にファフナー隊へ組み込みすぎて意味不明な流れになってました。

なんでデスティニーまでファフナー隊と離脱させようと考えたのか?
そもそもファフナー隊仲間になって間もないのに、離脱?

大丈夫。
それは無いから。


それと、伊奈帆とスレイン(銀仮面)は回りのおふざけで次第に仲良くなります。


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序章十四話-超機甲神

「承伏出来ません。あなた達を囮にするのもイヤですし、火星に行くにも戦力が必要です」

 

 ユリカとモニター越しで話す総士。

 

「ですが現状の戦力では宇宙怪獣との戦闘は不可能。このままでは共倒れです」

 

「大丈夫!キラ・ヤマト准将なら二手三手先を読んで手を打ってくれますから」

 

 本当だろうか。フェストゥムと宇宙怪獣の同時襲撃に備えられる程の人間がいるのだろうか。

 

 結論から言おう。

 

 いたのである。

 

「プラントから急接近する機影多数。ザフト軍MS50、あとキラ・ヤマト准将のストライクフリーダムのミーティア装備です」

 

「他にも見たことの無い機体があるわね」

 

 ブリッジ内でユリカに視線が集まる。

 

「あれは私が由希奈ちゃんや界塚三佐みたいに声をかけていたメンバーです。うまい具合にキラさんが引っ張ってくれたみたいで」

 

「誰なんですあれ」

 

「ジオール革命軍のヴァルヴレイヴ隊。指揮官と総理大臣が合流するとか」

 

 

 話している間に宇宙怪獣との戦闘が始まる。

 

 一番小さな宇宙怪獣でも全長100メートル超えなので、まともな戦闘は避けなければいけなかった。

 通常火器や近接武器を使用するマナタ、GAUS、エステバリス、スレイプニール、ハーシェルが戦力になれない状況下でかろうじて戦えるのがファフナー隊とディオスクリア、それにビーム兵器を持つMSだった。そんな中異質な存在が二つ。

 一つはヴァルヴレイヴ隊。彼等は戦闘を行わずに真っ直ぐナデシコに向かう。まるで何かの目的があるかのように。

 もう一つは超南極、リッツの機体。

 スーパーロボットと呼ばれるだけのことはあり、基本的に攻撃力が違うため宇宙怪獣を相手にもひけをとらなかった。

 

「こちらヴァルヴレイヴ一号機、指南ショーコです」

 

「お待ちしてました総理大臣!」

 

 ブリッジにいた殆どの人間が驚愕する。年場のいかない少女が機体に乗って現れ、それが総理大臣という訳のわからない状況。

 

「こちらの戦術指揮官と、勝利の鍵を送りました!それじゃ後で!」

 

 ユリカを超えるような勢いで現れて去るショーコ。

 

 すると間もなくしてブリッジに現れる銀髪の青年。

 

「指揮官のエルエルフだ。後はこちらの指示に従ってもらう。それと騎士ユニコーンはいるな?」

 

「わたしならここだ。何故わたしの事を知っている?」

 

「こいつに聞いた」

 

 エルエルフに呼ばれて現れるのは、またしても小型ガンダム。

 

「ようやく会えたな騎士ユニコーン」

 

「月光騎士ネオガンダム……いったい今までどこに」

 

「この世界に来て直ぐにザフトに保護してもらい、世話になっていた。君達の動きを聞いて我々も動く事にしたまでだ」

 

「そうか……では、力を貸してくれるか?」

 

「一度コールしてしまえば我々契約者はカードに戻るのだろう?」

 

「……無理強いはしたくない」

 

「やるさ。それにガンジェネシスなら宇宙怪獣だろうが、フェストゥムだろうが相手になるまい」

 

 騎士ユニコーンと月光騎士ネオはガッシリと握手をかわす。

 

 

 

「ちょっと、あれ何してるの!?」

 

「大変!ヴァルヴレイヴの赤いのが切腹しちゃった!」

 

 ハーシェルに装備させたロングライフルで地道に応戦していた韻子がヴァルヴレイヴの姿を見て驚く。

 

「全機体に継ぐ。直ちにナデシコ艦内に帰艦せよ」

 

 パイロット達から見れば誰とも解らない人物の、突然の命令。

 

「何今の……どうするの伊奈帆」

 

「ブリッジには騎士ユニコーンもいたんだ。不審者なら排除されているはずだ。つまり敵じゃない」

 

「それじゃあいったい」

 

「構わない。敵じゃないなら、味方じゃなくてもあてにするまでだ」

 

 伊奈帆が帰艦した事により、次々と後続が艦に入っていく。

 

「ミーティア固定完了。ターゲットマルチロック、いけーっ!」

 

 ストライクフリーダムの砲撃にフェストゥムが動きを止める。

 

「動きを止めたフェストゥムとヴァルヴレイヴのハラキリブレイド、ナデシコを中心に集結する宇宙怪獣と勝利の鍵……条件は充たされた。導き出される結論は……」

 

 

 

 甲板に出た騎士ユニコーンが月光騎士ネオと共に数枚のカードを宙に浮かべる。

 

「エルガイヤー、ギガンティス、アルテイヤー、ジュピタリアス、オルフェリオス、アクアリウス、オーキス」

 

「出でよ!超輝光合身!グレートガンジェネシス!」

 

 ガンジェネシスがジェネシスブレードを構えると同時に、ヴァルヴレイヴ火人のショーコがハラキリブレイドを使用してフェストゥムを一網打尽にする。

 そして押し寄せる宇宙怪獣。

 ストライクフリーダムとヴァルヴレイヴもナデシコの後部デッキから収容される。

 

「さぁ受けてみろ!超輝光ノヴァ!」

 

 ジェネシスブレードから発せられた閃光により宇宙怪獣は何一つ抵抗出来ぬまま、地球圏の衛生軌道上に現れた群れの全てが容易く消滅していく。

 

 ネオのカードを手に、力の使いすぎでふらつく足取りで艦に戻る騎士ユニコーンに手をさし伸ばす銀仮面。

 

「全く……貴方は大した方だ」

 

 




今回キラはザフトの所属として仲間入りします。

SEEDdestiny終了後、ラクスが議長になりアスランはカガリとオーブに。シンは竜宮島にいます。

ヴァルヴレイヴもアニメ終了後から。
最終決戦でハルトが居なくなり、一号機火人は指南ショーコの機体という設定。


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序章十五話-残してきた不安

 ガンジェネシスの強大すぎる力を目の当たりにして誰もが言葉を失うも、ナデシコは眼前にチューリップを捉えた。

 

「エルエルフさんは騎士ユニコーンさんを戦略兵器扱いするつもりですか?」

 

「少なくともそれだけの利用価値はある。それに必要ならば奴はお前らを守る為に躊躇はしない」

 

「彼の意見が第一です」

 

 エルエルフと真っ向から対立するユリカ。

 

「いいだろう。だが使いどころは気を付けなければいけない。何せカードは残り三枚しか無いのだからな」

 

 ふと、エルエルフをじっとみる総士に気付く伊奈帆。

 

「どうしました?」

 

「いや俺も人のことは言えた義理ではないが、エルエルフといったか。随分と頭が固そうな奴だと思ってな。友人の類いが少なそうだと見える」

 

 わざわざエルエルフの目の前で総士はバッサリ言う。

 

「友人か……。昔は居た。今はもう居ない」

 

「………」

 

「なんだ?まだ何か」

 

「いやすまない。俺の友も以前同じような台詞を言っていたなと」

 

 総士は今は亡きカノンを思い出し、エルエルフは時縞ハルトを思い出していた。

 

「遅くなってすみません」

 

 遅れて入室してきたのはキラ・ヤマト。

 

「お疲れ様です。この度は増援や援護諸諸ありがとうございます」

 

「やっぱり准将は凄いですね~」

 

 キラは恥ずかしそうに頬をかきながら。

 

「あの、自分は既にオーブを離れているので准将じゃなくて……今は只の」

 

「国防委員会のFAITHでしたね……あの、マークジーベンの件ですが」

 

 総士がキラに近付く。

 

「聞いてます。さっき解析終らせて来たので、後は作業だけで」

 

 ものの数分で行動したあたりは流石スーパーコーディネーターと言われるだけはある。

 思わず総士だけじゃなくその場に居たユリカ、伊奈帆、エルエルフまでもが開いた口が塞がらなくなった。

 

 

 一方、食堂では指南ショーコが歳場の近い由希奈達と顔を会わせて話をしていた。

 

「本当だって。このお菓子にバルサミコ酢とラー油とココアパウダーを浸けると、とてつもなく美味しいんだから!」

 

「え、えぇ?それは……」

 

 ショーコの提案にドン引きする韻子と真矢。

 

「誰か試しに食べてみてよ!」

 

 出会って間もないのに何てものを勧めるのだろうかと呆れながら離れて見ているソフィーが、茂澄でも呼ぼうかと考えていると食堂前をシンと一騎が流木野サキと連坊小路アキラを案内しながら歩いて来た。

 

「あ、ちょっと指南さんこんなとこいた!」

 

「ショーコちゃん一人で行かないで」

 

「いやぁごめんごめん。早く皆と仲良くなりたかったし、初めてのワープで緊張してて」

 

 話していると艦内が僅かに暗くなり、外窓から見える風景がきらびやかになる。

 

「わぁ!これがワープ空間!すっご~い」

 

 忙しなく歩き回るショーコに、先程の特製菓子を手にソフィーが近寄る。

 

「折角殿方が来られてるのですし、召し上がって頂いていかれてはと」

 

「あ、いいねぇ!ねえねえ、一騎くんとシンくん」

 

 二人がきょとんとしている隙に、由希奈とソフィーと真矢と韻子がこっそり退室する。

 

「お菓子だよ。口開けて」

 

「んぐっ……」

 

「……あ、あんたって人は……」

 

 ものの数秒でのエースが膝をつく形になる。

 

 

 話は作戦室に戻る。

 

「実は着艦して直ぐに連坊小路アキラさんに頼んでチューリップのハッキングをお願いしたのですが」

 

 キラはいくつものデータをモニターに出す。

 

「こんなあからさまな事があり得るのですか?」

 

 何のデータかを見てわからないメンバーは作戦室に居ない。

 

「無人の大形要塞に積まれた戦略級のエネルギー源が二つ。それが複数地球に向かっていた」

 

「このデータは数ヶ月前のもの。恐らくエネルギー源はアルドノアと枢石……導き出される結論は……」

 

「既に地球圏はエフィドルグの勢力が横行している状況下にあり、これだけの大事が公開されていなかった以上、情報を管理している筈の連邦にも疑惑の目を向けるべき……僕の左目もそう言っている……」

 

 伊奈帆は目を押さえながら、地球に残してきたアセイラムの身を按じた。

 

 無情にもワープは進行し、ナデシコは火星付近に到着することになる。

 




序章完結です。

次回から火星編に入ります。


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火星編
火星編1話-蟻地獄


チューリップを抜けて、特に敵の気配もなく火星に到達したナデシコ。

 

「これが火星かぁ……」

 

「ちょっと由希奈、顔が緩みきってるわよ」

 

 韻子が窓に額をくっつけている由希奈の肩に手を当てる。

 

「わたしさぁ、高校の時の進路希望に火星って書いた事あるんだ……」

 

「え……?何その痛い子」

 

 苦笑いする由希奈と軽く引く韻子。

 

「……そういやユリカさん。火星出身って言ってたね」

 

「さっきすれ違ったけど、いつもと雰囲気違った。なんかこう……」

 

「ピリピリしてた?」

 

「うん」

 

 

 

 その頃のブリッジ。

 

「ハーリーくん。休憩交代。後はわたしとルリちゃんでやるから」

 

「りょ、了解」

 

 ハーリーが逃げるようにブリッジから去る。

 

「ユリカさん。少し気負いすぎじゃないですか?」

 

「仕方ないでしょルリちゃん。目の前には草壁中将の火星基地。近くにはわたしとアキトの思い出の地もある。もしかしたら会えるかもしれないし、会えなくても何も起きないような場所じゃない」

 

 

 地上に上陸すると、それぞれが周囲を警戒しながら情報を探し求める事になる。

 

「キラさんと遠見は格納庫に残っているな……一騎、少しいいか?映像解析の件だが」

 

「言いたい事は解るさ総士。ガンジェネシスの放った光でベイクラントは遠くに逃げたし、マークレゾンの気配も無くなったんだろう?」

 

「恐らく地球の裏側に逃げたのだろう。あのどさくさで終ってくれたらどれ程…………なんだ?」

 

「いや、折角火星まで来たのにお前は変わらないなって。もう少し回り見て気を休めろよ」

 

 目の前には由希奈が探検家の様な格好をして意気揚々と張り切っている姿。

 

「彼女は何をしている」

 

「なんか火星の地層とか断層に興味があるらしい」

 

「変り者だな……」

 

「お前が言うな」

 

 

 一騎と総士のすぐ近くで、由希奈を引き留めようとするソフィー。

 

「由希奈さん。お願いだから普通の格好に戻しません?なんかこう……浮いてるというか」

 

「何いってるのソフィー。これが本来の冒険とか探検をする服装なんだよ?そんな軽装じゃだめなんだから」

 

「いえ、そもそもそこまでナデシコから離れるわけでもありませんし……セバスチャン、貴方からも何か言ってあげてください」

 

「よいではありませんかお嬢様。意識が高いことは良いことです。ただまぁ、こんな場所でバッタリ剣之介くんに再会した場合、その服装でいいかなとは思いましたが」

 

「……着替えてくる……」

 

 ちょっぴり恥ずかしげにナデシコに走り出す由希奈を笑いながら見送るセバスチャン。

 

 

 ナデシコを降りた面々は火星基地をくまなく散策。

 

 そこでエフィドルグとの交戦データなどが手に入ったものの、剣之介やアキトの情報は無かった。

 

「しかし妙だな。何故これほどの施設が無人なんだ?」

 

「既に放棄されたか、あるいは」

 

「ちょっと伊奈帆、なんか嫌なこと言い出さないでよね」

 

 界塚小隊がとある確信に気付く。

 

「エフィドルグによる罠」

 

「……ナデシコに戻ろう」

 

 伊奈帆が皆に通信を送りながら走り出した途端に地響きが聞こえる。

 

「全クルーは直ちにナデシコに戻ってください!エフィドルグに囲まれています!」

 

 雑音に混じりながらユリカからの通信が流れ、全員が走り出す。

 

 

 全速力で総員がナデシコに戻ったものの既に後手にまわった状況下。

 ナデシコがディストーションフィールドを展開するのが遅れたため大きく被弾。船体にダメージを負い、エンジンの出力も上がらなくなる。

 

 艦に残っていたキラと真矢はすぐさま発進してエフィドルグに対して迎撃行動に出たものの、完全に物量負けしてしまう。

 しかも艦載機が発進する前には揚陸城が二つ、ナデシコを囲むように落下してきたのである。



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火星編2話-敗北

 

 奇襲攻撃によりナデシコはエンジン部に致命的なダメージを受けて、航行不能に陥った。

 敵に包囲された情況で、何も準備が出来ていない中で機動部隊を出撃させて防衛にまわるしか無かった。

 

 そんな中、エルエルフが艦橋を訪れてナデシコの被害状況を確認する。

 

「艦長……わかっているとは思うが」

 

 エルエルフがユリカの近くで囁く。

 

「……仕方ありませんよね……」

 

 ルリがユリカに向かい、どこか悲しげに。

 

「何か手は無いんですか?このままナデシコは……」

 

「ごめん……ごめんねルリちゃん……」

 

「艦長!ヘッドレス接近!ブリッジに近付いて来てる!」

 

 ひび割れたモニターにデカでかと映し出されたヘッドレス。各々の強さは差ほどじゃ無いにしても、圧倒的物量と奇襲、さらにはエフィドルグが持つ重力波フィールドが厄介この上無かった。

 

「危ないユリカさんっ!」

 

 由希奈の乗るマナタがヘッドレスに飛び掛かり、撃破するもバランスを崩して落下していく。

 

「由希奈ちゃん!」

 

 落下した先がヘッドレスの大群のど真ん中と言うこともあり、マナタが見えなくなる。

 

「……マナタの反応消滅……」

 

「誰か援護に!」

 

「続いて界塚機被弾、指南機が温度上昇により行動不能」

 

 下唇を噛むユリカは苦渋の選択をする。

 

「各機に通達!本艦を15分後に放棄、退艦!地下基地への撤退戦に移行します」

 

 ついにナデシコを棄てる決断をする。

 

「各機フォロー頼みます。ヴァルヴレイヴ6号機とストライクフリーダムには別命があります!……ルリちゃん、直ぐにオモイカネとの接続をカットして」

 

「ゆ、ユリカさん?」

 

「わたしとルリちゃん、ハーリーくんにキラさんとアキラちゃんの5人がかりでオモイカネをヴァルヴレイヴ6号機に逃がすから!」

 

 更にユリカはエルエルフに向き直り。

 

「退艦の指揮等諸々、頼んでも良いですか?」

 

「いいだろう。ただしヴァルヴレイヴを使う以上、俺の脱出はお前の後だ」

 

 

 

 一方、ヘッドレスの大群にズタズタにされたマナタの中にいる由希奈。

 

「あ……わたしまだ生きてる?」

 

 口の中がベタベタしていて、コクピットの中は血が散乱している。

 

「これ、普通の人だったら間違いなく死んでたよね……」

 

 グロングルの纏い手になってからは多少なり傷の治りが早いと言う自覚があったし、試してはいないが首から下は切り離しても再生するとか聞いていた。

 

「って言うか頭やられたら終わりなんだっけ」

 

 未だマナタは両手両足が切り落とされ、頭部のブレードも無い。

 

「誰か近くに……」

 

 耳に手をやると、通信機が無い。恐らく壊れて落としたのだろうと察した。

 

「ちょっと……嘘でしょ……やめ、やめて!」

 

 ヘッドレスの一機がマナタのコクピット目掛けて刀を向けてきた。

 付近には味方機の姿はなく、完全に孤立していた。

 

「剣之介……剣之介ぇ~っ!」

 

 思わずその場に居ない筈の人物の名を叫んでしまう。

 

「由希奈ぁぁぁ~~っ!」

 

 涙に潤んだ視界に映ったのは漆黒の二本角を持つ鬼を模したロボット。

 槍を構え、マナタを守るようにヘッドレスの前に立ち塞がった。

 

 何年も会えずに、遠い宇宙へ旅立った想い人の背中を思わせる。

 

 由希奈にはそれが翼の生えた‘侍’に見えたのだった。

 

 




ついにクロムクロ登場。

なんで火星にいるのかって?

後で語るよ。


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火星編3話-噂の快男児

「リッツさん!僕の後ろにさがって」

 

「でも!」

 

 超南極が被弾し、それをカバーする銀仮面のディオスクリア。

 

「まずい……もたもたしていたらまた、揚陸城が自爆してしまう!」

 

 

 焦るパイロット達。

 一方でエルエルフの指揮の下、騎士ユニコーンが先導してナデシコの非戦闘員を護りながら火星基地の奥深くまで走っていく。

 

 そして撤退を始める被弾した機体も次々と基地に逃げ込んでいった。

 

「有象無象を蹴散らしながら揚陸城に決定打を与える……行けるか!?」

 

「任せろ総士!……いや、待て。これは……」

 

 黒煙を上げるナデシコから一機、ファフナーが飛び出してくる。

 真っ先に出撃したマークジーベンが、予備ライフルを手に戦場に戻る。

 

「真矢!お前は後退しろ!」

 

「大丈夫。ウリバタケさんに動けるようにだけしてもらったから。」

 

 マークジーベンのいつも通りの動きを確認してから、総士は敵の大群を前に。

 

「クロスドッグを仕掛けるぞ!」

 

「クロス……いや、一人足りないだろ」

 

「俺がいる!」

 

 ファフナー隊に動きを合わせられるたった一人の存在。

 シン・アスカのデスティニーが颯爽と現れる。

 

 

 揚陸城の一隻を破壊した頃、マナタを抱えたまま全速力で戦地から遠ざかるクロムクロの姿があった。

 

「剣之介……ほんとに剣之介なの?」

 

「あぁ……いったいどれ程の月日が流れたのであろうな……由希奈。再会したからにはそなたを」

 

 色々と言いたいことがあったのだがうまく言葉が出ず、その空気に堪えきれなくなった剣之介は背後からの視線に気付く。

 

「全く……お主らは何も変わらないのだな」

 

「ムエッタ!よかったぁ………じゃあゼルさんも?」

 

「……今は脱出が先だ」

 

 言葉を濁したムエッタと剣之介の態度に、由希奈は一瞬不安を覚える。

 

 突如として背後からとてつもない閃光に照される。

 

「間に合ったか……」

 

 剣之介の台詞に、由希奈は背後を見る。

 そこには見たこともない大きさのスーパーロボットの姿。

 

「日輪の力を借りて、今必殺の、サンッアターーック!」

 

 まるで太陽の化身の如く神々しく発した光を揚陸城に対して浴びせる。

 

「ダイターーンクラーーシュッ!」

 

 一撃で揚陸城を粉砕して、近場にいた敵をも巻き込んで破壊する。

 

 味方援軍として現れたダイターン3は、エフィドルグの機体の倍のサイズでありながら俊敏に動き回り多彩な武器で他を寄せ付けなかった。

 

 程なくしてエフィドルグの機体は何処かへと去っていく。全てを倒しきれる物量でもなく、揚陸城を落とせただけでも敵にとっての痛手となったはずだった。

 




火星で基地の調査を行おうとしたナデシコ隊は、揚陸城二隻の奇襲を受けました。

それを迎撃すべく界塚小隊、黒部部隊、ヴァルヴレイヴ隊、ファフナー隊、騎士ユニコーンなど。

バリア持ちの物量押しの敵相手に苦戦している中、そこへ現れたクロムクロとダイターン3。

彼らの活躍は……少しだけ先になるかも。


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火星編4話-待ち続けた侍

「まずは助けて頂いてありがとうございます。破嵐万丈さん、ムエッタさん」

 

「構わないさ。元々君達に合流する予定だのだから」

 

「それにエフィドルグの愚行、元辺境矯正官ではあるものの、私個人としても捨て置く訳にもいかないのでな」

 

 破嵐財閥の万丈についてはユリカやエルエルフも知っていたし、元エフィドルグのムエッタについても由希奈からの情報があった。

 

「君達に話さなくてはならないことがある」

 

「その前にあの侍はどうした?」

 

 総士が剣之介が顔を出さなかったことについて言及する。

 

「すまない。今だけ二人きりにしてやってほしい」

 

 ムエッタは僅ながらに笑う。

 

 

 気を使われ二人きりにさせてもらって、クロムクロの中にいる由希奈と剣之介。

 

「何か……何年も会ってなかった筈なのに案外と普通だよねぇ」

 

 久々に乗るクロムクロのサブシートに寛ぐ。

 

「ふ、普通なのか?俺は未だ現実味が無いのだが」

 

「夢でも見てる感じ?」

 

「幾度も同じ夢を見て、由希奈の事を思い出さなかった日は無かった程だ」

 

「そ、そう……」

 

 照れながら頬をかく由希奈。

 

「由希奈。そなたを嫁にすると言った件、忘れてはおらぬだろうな?」

 

「も、もちろん」

 

「俺はこれから先も由希奈と共に過ごしたいと思っている。だからこそけじめをつけたいのだ。今一度言おう。嫁に来てはもらえぬだろうか。」

 

 剣之介の台詞に由希奈は頬を赤らめながら微笑む。

 

「うん、いいよ。条件付きだけどね」

 

「む、条件?」

 

「えっと、祝言の……挙式?は絶対に黒部でやること。後はナデシコの皆に協力して戦いが終るまで死なないこと。わかった?」

 

 剣之介は嬉しさのあまり由希奈を強く抱き締める。

 

「承知した。この戦が終わったら黒部にて、祝言を挙げよう!」

 

 

 

 作戦室では未だに被害状況の確認や戦況の分析などが行われていた。

 

「このままでいい?」

 

「ええ。定時になれば味方の援軍が来て表を彷徨いているエフィドルグは片付くし、移動手段も確保できる。だから今のうちに報告しておきたい事があるのさ。特に艦長、君にね」

 

 一瞬、表情が固まるユリカ。

 

「テンカワ・アキトくんの件だ。彼は剣之介くんやムエッタさんとも会っている」

 

「アキト……!」

 

「ゼル殿の事も話さなければいけないな……」

 

 ムエッタはユリカをみる。

 

「黒部から来てる連中を呼び出してはもらえぬか?」

 

「わかりました!」

 

 ユリカはまずルリに繋げて、所在確認をする。

 

「ソフィーさんとセバスチャンさんはそちらに向かわせました。由希奈さんとお侍さんの所在掴めません」

 

「つかめない?」

 

 口を挟む伊奈帆。

 

「クロムクロの中です。この基地のカメラに映っていますね」

 

 相変わらずの性能を持つ左目に対しては誰も突っ込んだりはしない。

 

「ならば直接わたしが」

 

 ムエッタが右手に装着している端末を操作して、プロジェクターのように壁面へクロムクロ内の映像を出す。

 

「由希奈、剣之介……」

 

 作戦室の気不味い空気が流れる。

 

 

 

「……おなごの方から接吻とは破廉恥であろう……」

 

「我慢出来なくて……」

 

「………………由希奈、実に言い辛いのだが」

 

「何?」

 

「見られていたようだ」

 

 一瞬何がなんだか分からなかった由希奈だったが、血の気が引くのを感じてから急激に顔を真っ赤にする。

 

「なっ……なん、なぁ……なんで!」

 

「すまない由希奈」

 

 モニターの向こうからムエッタが視線を外して謝ってきた。

 

「最悪……」



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火星編5話-鬼去りし後に

 

 通信で呼び出された剣之介と由希奈は恥ずかしさと気まずさ全開で作戦室に入ってきた。

 二人の様子に先程の事を聞いていなかったセバスチャンとソフィーは首をかしげるも、特に気にしなかった。

 

「セバスチャン殿、相変わらずのようで」

 

「そちらも元気そうで何よりです」

 

 剣之介はソフィーを見てから。

 

「……そなたは?」

 

「お忘れですか?ソフィーです」

 

 ムッとしながらソフィーが答えるも、剣之介は納得していない素振りを見せ。

 

「いやいや、ソフィーどのはもっとこう小さかったと言うか」

 

 剣之介にとっての数年がソフィー達と感覚がずれていたのか、それともソフィーが急激に成長したのか。

 黒部の面々が話そうとすると、ユリカが割ってはいる。

 

「御話し中すみません。大事な話とかありますので」

 

 ユリカはムエッタに説明を始めてもらう。

 

「数年前、私と剣之介とゼル殿が枢石の力で先ずは中継地の火星に到着した。そこで最初に世話になったのがネルガルという組織だった」

 

「え!?」

 

 驚くユリカに構わず続けるムエッタ。

 

「ゼル殿の故郷である射手座の母星への移動手段の事で手を貸してくれたのはエリナ・キンジョウ・ウォンという女性

でな、彼女の紹介でテンカワに会った」

 

 追加するように今度は剣之介が。

 

「ユーチャリスという舟を準備してもらい、テンカワと……」

 

「ラピスという少女だったな」

 

「うむ。共にゼル殿の母星に一瞬で行けたのだが……」

 

 その場にいた数人が、ボゾンジャンプで移動したのだろうと察した。

 

「その星は既にエフィドルグの脅威から救われていたのだ」

 

 黙っていた由希奈が口を開く。

 

「え?なんで。だって確かエフィドルグと戦っている同胞に会うとか言ってた筈だったけど」

 

「……一人の男が山や星を震わせ、銀河にも響くような歌を歌っていたのだ。たったそれだけでエフィドルグの洗脳も無くなっていたようでな……」

 

 剣之介とムエッタは難しい顔をしているが、オーブでエフィドルグと熱気バサラを見たメンバーは理解できた。

 

「その歌い手さん。この間地球にも現れたんだよ」

 

「なんとまことか……底の知れぬ歌舞いた男だ……」

 

 再びムエッタが話を戻す。

 

「ゼル殿は同胞に囲まれながら……安心したのだろうな、元々先の永くない身体だったようだし、安らかに微笑みながら逝ったよ」

 

「病や怪我などでもない。あれがゼル殿の寿命だったのだ。埋葬はテンカワにも手伝って貰った」

 

「ゼル殿からの書面がソフィーと由希奈にあるのだが」

 

 ムエッタがそっと胸元から出そうとするが、戻す。

 

「今はいいな。黒部に戻ったらお前たちに渡そう」

 

「ゼル殿が亡くなられ、ムエッタどのに刷り込まれていた記憶の風景も確認が取れたので、テンカワと共に火星に戻った。そこで出会ったのが」

 

「僕というわけさ」

 

 万丈はクールに語り出す。

 

「僕は‘鉄華団’という組織に資金援助をしていてね。そこで剣之介くんやムエッタさん、それにテンカワくんと共に生活をしていたのだが……」

 

「地球でナデシコという舟が活躍を始めた事やエフィドルグ等の情報も流れてきた事もあり、単独でボゾンジャンプできる彼だけ先行して地球に行ってもらったのさ」

 

 ユリカの表情が一気に明るくなる。

 

「じゃあ地球に戻ればアキトに会えるんですね!?」

 

「そうだね。地球つけば通信も届くだろうし」

 

 万丈が、ちらっと時計を見る。

 

 それとほぼ同時に地震、というよりも近くで爆発的何かが起こった衝撃を誰もが感じる。

 

「……終ったかな?では艦長。乗組員を集めて外に出ようか。」

 

 

 

 




アニメのクロムクロの最終話の続きと、機動戦艦ナデシコ劇場版の続きが合わさって、さらにマクロス7の熱気バサラがフラっと参加した感じです。

火星でナデシコを撃沈され草壁中将の基地に逃げ込んだ彼らは、クロムクロとダイターン3に助けられました。

依然として基地の外にはエフィドルグの大群がいる状態で、彼らを救いに来たのは……。


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火星編6話-再び銀河へ

 

 動かせる機体は物資を運びながら、乗組員は基地にあった車両を使って外に出た。

 

「何……あれ?」

 

「万丈から話は聞いていたが……凄まじいな……」

 

 未だ修復されていないマナタを抱えたクロムクロが地上に上がる。ムエッタはクロウに乗ることに。

 

 

 

 部隊全員の眼前に現れたのは、先の戦闘で出会した宇宙怪獣よりも巨体な人型兵器。見上げるユリカと万丈。

 

「噂くらいは聞いたことはあるだろう艦長?」

 

「そりゃあ……宇宙軍にいれば。でも実物は始めてです」

 

 200メートル級対宇宙怪獣用戦略決戦兵器、通称ガンバスターが数千体ものヘッドレスを数秒で全滅させて仁王立ちしていた。

 

 

 ナデシコクルーや起動部隊の面々はトップ部隊に回収され、小型艇で手際よく衛星軌道上の超大型戦艦エルトリウムに乗艦する。

 

「ようこそ諸君。このエルトリウムの艦長であるタシロだ。」

 

「この度は救援感謝します。ミスマル・ユリカです」

 

 一部士官が艦長についていく一方で騎士ユニコーンと銀仮面は戸惑っていた。

 

「なんだか場違いなところに来てしまったな」

 

「この艦、スペースコロニー並みのサイズですね……幾つの街が入るのだろう」

 

 二人を見ていた剣之介と由希奈。

 

「あれは……ゆるキャラというやつか?」

 

「違うし、ゆるくないし……」

 

 いきなり由希奈の肩を掴むムエッタ。

 

「な、なに?」

 

「由希奈。美味しいものが食べたいのだが」

 

 ムエッタの瞳がキラキラしている。

 

「俺からも頼む」

 

 剣之介は手を握ってきて懇願する。

 

「わ、わかったわよぅ」

 

 その僅か数分後。

 

「人集まりすぎだから!」

 

 由希奈の作る料理が食べられると聞いて撃沈されたナデシコの殆どのクルーと、ガンバスターのパイロット二名が参加した。

 タカヤノリコとアマノカズミがトップ部隊の服のまま現れたので、剣之介が動揺を見せたものの、由希奈に引っ張られ。

 

「あんたも手伝いなさい。ホウメイさんもいるし、カレーなら出来るでしょ?」

 

「カレーか。久々だな……ここ暫くは拉麺ばかり作っていたからな」

 

 ルリやナデシコのブリッジメンバーが剣之介の方に来て。

 

「拉麺ってまさか」

 

「うむ。テンカワから作り方を聞いてな。奴は歌い手殿の力で味覚を取り戻したのだが、調理場に立つ覚悟が未だ無いらしい」

 

「なによそれ?」

 

 剣之介はじゃが芋と小さな刃物をミナトやルリに手渡しながら。

 

「一度捨てた夢を再び掴もうともがいておるのだ。他人が口出し出来るものでは無い」

 

 その後、由希奈の声掛けにより手伝いも増えてカレーが手早く完成する。

 興奮を抑えきれない剣之介とムエッタ。

 

「由希奈の料理をどれ程待ち望んだか……」

 

「流石は俺の嫁だ!でかした由希奈!」

 

「まだ嫁じゃないし!」

 

 二人のイチャイチャ?を見て周囲が賑やかになる。

 

 

 

「結局、彼は来なかったわね」

 

「そうですね御姉様……」

 

 ノリコとカズミは何故か騎士ユニコーンを見て、複雑な面持でいた。

 

 

 一方エルトリウムはチューリップに入らないサイズのため、単独ワープで地球を目指す事になる。

 

「我々に協力し続けてくれると?」

 

「うむ。トップ部隊、というより銀河連邦宇宙軍の総意であり、万丈くんとも話し合った結果でな」

 

 ユリカは僅かに首をかしげる。

 確かにエフィドルグやフェストゥム、宇宙怪獣等の脅威が多いのは理解できるが。

 

「何か裏がありますよね?」

 

 ハッキリとしたユリカの物言いに、笑ってしまうタシロ提督。

 

「我々は最も敵にしてはいけない人物を取り逃がしていてな。その男を説得して味方にしない限り世界に未来は無いとも言えるのだ。そして彼に近付く事と君達と行動を共にするのは敵対組織の討伐や目的の一致があるからだ」

 

 思わず唾を飲むユリカ。

 一個人、つまりその人間は宇宙怪獣云々よりも圧倒的に脅威と呼べる相手であり、危険な存在であると察する。

 隣にいた万丈が補足し、教える。

 

「‘烈’の八卦ロボ、グレートゼオライマーの担い手……木原マサキという人物さ」

 




熱気バサラは相変わらず放浪の旅をしています。

ついに出てきた‘烈’の八卦ロボ、グレートゼオライマーの話題。スパロボをゲームで楽しんだ人は、この存在の大きさがわかるはず。

前回ナデシコが火星で撃沈されて、彼らは、エルトリウムというチート戦艦に乗り込み、身柄を保護してもらいました。
アキトの情報と、剣之介の合流など目的を果たして火星を離れることに。


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火星編7話-宴の片隅

 

「君もカレー食べてきたら?」

 

 キラがマークジーベンの最終調整を終えて真矢に話しかけた。

 エルトリウムのスタッフや機材を使用して最高の仕上がりになる。

 

「えっとすみません。もう少しだけ時間もらえると」

 

「何?」

 

「その、まだSDPに慣れていないですし、訓練に付き合ってもらえると助かります」

 

 キラは真矢の様子が何処か気になって。

 

「何を思い詰めているの?それとも……焦ってる?言っとくけど君のパイロット能力は部隊でも上の方」

 

「……出来る限り人を射ちたくないから……」

 

 一瞬、静寂がうまれる。

 

「人を撃って殺してしまう事に慣れ始めている自分が居るんです。ファフナーに乗っている時なんて変成意識の事もあって……」

 

「それで僕に?」

 

「殺さない覚悟も、射って仲間を助ける覚悟も……技術が必要たから」

 

 ふとキラはマークジーベンを見上げる。

 

「想いだけでも、力だけでも駄目だからね……かつての僕が思い知った事の一つだよ」

 

「……」

 

「自分の命を今まで以上に危険に晒す戦いかただよ?それでも?」

 

「お願いします!」

 

 

 

 食堂ではカレーが振る舞われていたのだが、指南が蓮舫小路アキラを無理矢理連れてくるのに時間がかかって出遅れていた。

 

「間に合ったぁ!由希奈ちゃんカレー二人前」

 

「は、はーい」

 

 剣之介が白飯をよそい、由希奈がカレーを。

 

「旨い!流石は由希奈ちゃん。そう思うよねアキラちゃん」

 

「う、うん」

 

 指南が独自のカレーの食べ方について熱弁を始めると、剣之介が怒り始めて、韻子とリッツがそれを見て笑う。

 そんな光景を微笑ましそうに見ているアキラだったのだが、どうしても気になっていた相手に近付きたくなった。

 

「あ、あの……」

 

「おや、どうしたのかな」

 

 僅かながらに勇気を出してアキラは騎士ユニコーンに声をかけた。

 

「もしかして、気、気付いてないのかなって。」

 

「え、いったい何を」

 

 剣之介達が騒いでいる方へ皆の視線が集まるなか、ノリコとカズミだけが注目してくる。

 

「カメラのシステム覗いたら見つけた……あ、あなたの仲間……このエルトリウムの中にいる」

 

「な……なんだと!」

 

 思わず声をあらげてしまった騎士ユニコーンに対してアキラが泣きそうになり、全員が振り向く。

 

「ちょっとアキラちゃん。どうしたの?」

 

「え、えっと……」

 

「い、いやすまない。突然大声を……」

 

 するとカズミが立ちあがり、騎士ユニコーンの前に立つ。

 

「隠していてご免なさい。彼はあなたが来ている事は知っているのたけど」

 

「会う気が無いと?」

 

「と言うよりは、興味を持っていないわね。少し変り者にも見えたわ」

 

 カズミの発言に、騎士ユニコーンは頭を抱えた。

 

「……もしや聖竜騎士ゼロではないか?」

 

「ご明察」

 

 溜め息をつく。そして改めてアキラに謝罪したあと、食堂を出る。

 するとノリコが追い掛けてくる。

 

「なんだ?」

 

「あの、今のゼロさん見たら驚くかも知れない。とりあえずわたしの部屋にいるから」

 

 

 

 




ついに完成したマークジーベンSDP仕様。

キラの手で強化された真矢の機体の活躍は後程。


ナデシコを撃沈され、草部中将の基地からエルトリウムへ逃げおおせた彼らは、一時の休息を楽しもうとしていた。

そんな中騎士ユニコーンに告げられた事実。

彼らに待ち受けているのは……?



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火星編8話-交わらない心

 

 ノリコの部屋に案内される騎士ユニコーン。

 

「ゼロさん。入るよ」

 

「む、ノリコか。」

 

 こたつに入り、漫画本を読みながらアニメを流す聖竜騎士ゼロの姿があった。

 

「お前……ここで何をしているんだ」

 

「騎士ユニコーンか。言っておくが俺はこの世界の色々な事に興味が生まれてな。だから放っておいてくれ」

 

 漫画本読みながら視線を交えないゼロに対して苛立ちを覚える。

 

「……コールの対象者には無理強いはしないと決めていたが……ゼロ!貴様騎士としての心は失ったのか!」

 

「騎士としての心?ふん、俺達にこの世界を護る道理がどこにある。だいたい、この世界の事はこの世界の連中に任せればいいのだ。」

 

 騎士ユニコーンは大剣マグナムソードを構える。それに対してゼロはユニコーンを睨みながら。

 

「俺をカードにするか?確かに俺はお前相手では立場上絶対的に不利としか言えないな。召喚士とされる側では」

 

「……今からでも漫画本を置いて共に人間達の力になるのだ」

 

「だが断る!」

 

 ユニコーンは驚愕し、ゼロがビシッと決めポーズをとりながら。

 

「この聖竜騎士ゼロガンダムが最も好きなのは、自分が強いと思っているやつにNOと言ってやる事なのさ」

 

 次の瞬間、ゼロの胸ぐらを掴んで無理矢理部屋から引っ張り出す騎士ユニコーンの姿が。

 

「何の漫画の影響だ!ゼロ!雷龍剣を抜け!」

 

 頭に血が上った騎士ユニコーンにノリコが近付いて、止められないと判断してエルトリウムの艦内にある大型体育館に案内することに。

 その間に艦内へ二人の喧嘩の件を通信で流す。

 ノリコの胃が痛み出す。

 

 

 騎士達が大喧嘩が始まる少し前に、格納庫に涼みに来た由希奈と剣之介、ムエッタ。

 

「久々の宴だった。笑いすぎて腹がいたい」

 

「食べ過ぎでしょ?何杯おかわりしてるのよ……」

 

「気持ちはわかるがな……」

 

 ふと、ムエッタがマナタの方へ視線を送る。

 

「由希奈……わたしのマナタをよく使いこなしてくれていたようだな」

 

「大分やられたけど、勝手に治ってくれて何よりだよ」

 

 隣のGAUSの影からセバスチャンとソフィーが現れ。

 

「そう言えば由希奈さんはメドゥーサの事をずっとマナタと呼び続けていましたなぁ」

 

「国連での呼称を完全無視とは、流石は黒部の英雄ですこと」

 

「……だってムエッタのだもん。メドゥーサだなんて呼びたくなかったし」

 

 その言葉を聴いてムエッタは笑う。

 

「フフ……名前など気にしなくてもよいのに。なんならメデゥーサと呼んでくれて構わない。肝心なのは由希奈がこのグロングルを護っていてくれていた事だ。礼を言う。そして」

 

 クロムクロを見て。

 

「そなたに剣之介の背中、クロムクロの手綱を返そう」

 

「うん、わかった。じゃあわたしも、メドゥーサをムエッタに返すね。」

 

 機体の返還が完了した瞬間、騎士達の大喧嘩についての緊急放送が流れる。

 

「止めなきゃ!」

 

「ですがクロムクロやGAUSでは艦内を移動するにはサイズの問題が」

 

 二人の騎士がいる大型体育館までは距離がある。

 

「行かないわけにもいくまい」

 

「剣之介!」

 

「そうだな……馬アッ!」

 

 クロムクロから‘ザ・キューブ’が飛び出し、変形。

 無理矢理全員で乗り込み、格納庫を後にする。

 




新約SDガンダム外伝の騎士ユニコーンと聖竜騎士ゼロの話になります。

ちなみにゼロは外宇宙でエルトリウム、ガンバスターやトップ部隊に保護されていました。

騎士ユニコーンはゼロに対して怒っていたのは、騎士として世界の脅威と戦っていたネオやGP01の姿を見ていたからです。

しかしゼロは漫画本にハマって、ノリコの影響を受けすぎました。

……SDガンダムにも個性はあるんです。


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火星編9話-騎士達の咆哮

 ノリコの部屋から引っ張り出されたゼロだったが、決してやられっぱなしでもなく、むしろ騎士ユニコーンとの切り合いに高揚している様子が見え始める。

 大型体育館の中は小型マシンが訓練出来るようにある程度頑丈に作られているため、ゼロもユニコーンも互いに容赦なく技をぶつけ合った。

 

「サンダーバリアント!無に帰れ!」

 

「アカシックヴァインダーよ、我を護りたまえ!」

 

 雷撃に怯むことなく防御姿勢のまま前に出るユニコーン。しかし。

 

「分かっているのだろう!いくら召喚士として優位にあるお前でも、騎士として剣士としての技量も経験も差がある事くらい!」

 

 一瞬で騎士ユニコーンの背後に回り、横一線で弾き飛ばすゼロ。

 

「くっ……」

 

「自らの意思も誇りと言う戯言で偽りながら、偽善を名誉や正義感で正当化しようとする!昔からそれが気に入らなかった!」

 

 聖竜騎士ゼロによる連続剣撃に、防戦一方になる。

 

「だから俺は騎士団を抜けて流浪の旅に出た!」

 

「……」

 

「スダ・ド・アカ・ワールドに脅威が現れれば自分達で対処するしかなかった……だがこの世界は違う!俺達のような小さな存在が必要かさえ疑問を持ちたくなるほど、世界を護る為の力が既に数多く存在しているんだ……」

 

「だが!俺は……それでもといい続けたい!」

 

 意を決したのか、仮面に手を当てる。

 突如として騎士ユニコーンの鎧が発光を始めた。

 構わず雷龍剣を振りかざす。

 

「俺に騎士の在り方を説きたいのなら、力ずくでやってみろォッ!」

 

「……イイダロウ……!!」

 

 ピタッとゼロが脚を止める。

 

 ユニコーンの豹変。

 

 白く美しい白銀の鎧が所々で割れ始め、細部から禍々しい真紅の焔のような灯りが次々と現れる。

 

「騎士ユニコーン、貴様……」

 

「グオオオオオオオオオォォッ!!」

 

 一角獣のようだった角が先端から展開し、黄金の二本角を輝かせる。

 体から邪悪な黒霧が吹き出し、騎士ユニコーンの眼は真っ赤に染まっている。

 

「貴様……失敗したな……」

 

 騎士ユニコーンの’ビーストモード‘を見て複雑な面持ちになるゼロ。

 

「感情に任せるから、本当の光を掴めない。結局闇にのまれる……」

 

「ゼロさんもうやめて!」

 

 離れてみていたノリコが突然大声をあげた。

 

「ノリコ!来てはいかん!」

 

 訓練用マシーン兵器で二人の間に割って入ろうとしたノリコに対して騎士ユニコーンはマグナムソードを向ける。

 

 

 

「そこまでダァァッ!」

 

 奇襲のような形で剣之介達が馬で騎士ユニコーンに激突する。

 殆どダメージは無かったようで不意打ちをくらって一度体勢を整えるために距離をとる。

 

「あれがユニコーンさん……なのですか?」

 

 ソフィーと由希奈が驚く一方、武装したセバスチャンとムエッタと剣之介が臨戦態勢に入る。

 

「我々で止められる相手とは思えませんな……」

 

 ナイフを片手にしたセバスチャンはユニコーンに気圧される。

 ゼロを含めた四人でユニコーンを包囲しようと動き出した、正にその時だった。

 

「グオオオオオオオオオォッ!」

 

 ユニコーンがマグナムソードを振り回す。

 四人共弾き飛ばされ、手の打ちようが無くなる。

 

「何をやっているんですかユニコーンさん!」

 

「……あれは……」

 

 息を切らして走ってきたのは、銀仮面だった。

 

「あなたは……そんな姿で何をしてるんですか……それが秘めたる力だと言うのですか。今までの優しく逞しいユニコーンさんは偽りの姿だったのですか!」

 

「よせ!近付くな!」

 

 ゼロの警告を無視して銀仮面は騎士ユニコーンに近付く。

 

「騎士としてのあなたの気高さを僕は尊敬していたのです。さぁ、いつもの顔を見せて下さい」

 

 銀仮面がユニコーンに触れようとした瞬間に、マグナムソードが銀仮面を襲う。

 

「ぐはっ!」

 

 銀仮面を突飛ばし、聖竜騎士ゼロが剣で貫かれる。

 

「全く……手のかかる後輩だ……おい、そこの仮面男。こいつに後で伝えろ。時の旅人として、’騎士としてではない、自分らしく、誇らしく生きろ‘とな……」

 

「……わかりました……」

 

 突然、ゼロの体が光に包まれる。

 

 騎士ユニコーンのアカシックヴァインダーが輝きを増した途端に、ゼロの体が強制的にカードにされる。

 

「グッ……アァッ……」

 

 輝きが鈍くなり、騎士ユニコーンが倒れ伏す。

 

「力を使い果たして暴走が止まったと言ったところだろうか……」

 

 ムエッタが刀を納めながら銀仮面に近付く。

 

「なぜ前に出た」

 

「……彼を友人だと思っているから……」

 

 




銀仮面ことスレイン・ザーツバルム・トロイヤードくんは、騎士ユニコーンをなんだか他人には思えないようで、二人の関係性は次回変化します。

現在エルトリウムで火星を離れて地球に向かっているのですが、そう簡単に帰れる訳もないわけで。


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火星編10話-差し出された手

 艦内での騒動が一段落し、仲間に危害を与えた騎士ユニコーンは幽閉されることに。

 エルトリウムはワープを終えて地球を黙視で確認出来る距離まで近付いた。

 

「宇宙怪獣の接近を確認!」

 

「我々は追尾されていたのか……」

 

「なぁんてこったぁっ!」

 

 再び慌ただしく戦闘準備が始まる。

 

 いち早くガンバスターとトップ部隊が出撃し、真っ向から宇宙怪獣に挑んでいく。

 機動部隊はエルトリウムの甲板に陣取りバリア内からの攻撃、さらにはバリアを破って来る敵に対しての迎撃を行っていた。

 今回はガンバスター等が同行していることもあり、一部の機体には待機命令が出されていた。

 同化現象に対して気を弛める事が出来ないファフナー隊がそれである。

 

 そして、一人だけ志願して出撃を拒否した人物がいた。

 

「……銀仮面殿……」

 

「体調はどうです?騎士ユニコーン。」

 

「すまない……もう落ち着いた……」

 

「なら上を向いてください」

 

 銀仮面は牢の鍵をあける。事前に界塚を通して預かっていた。

 しかし騎士ユニコーンは動かない。

 

「……」

 

 ゼロのカードを見つめながら俯く騎士ユニコーンに対して銀仮面は。

 

「聖竜騎士ゼロさんも、他の騎士の方々も今の貴方の姿をみれば失望するでしょうね。彼に騎士としての在り方を説こうとしていた貴方が目指したのは、牢の中でなにもしない事ではないでしょう」

 

「君に何がわかる。姿を偽り、罪人である事から身を隠しているのに。俺は仲間を手にかけてしまったのだぞ」

 

 騎士ユニコーンの台詞に、銀仮面は反射的に顔に手をかける。

 仮面を外し、騎士ユニコーンの足元に転がす。

 

「これでいいか?騎士ユニコーン。」

 

「……」

 

「君への友情の証として、その仮面を預かってほしい。」

 

「外すと言うのか?それは君が忠誠を誓った相手の……」

 

「彼女なら理解してくれる……君はどうだ?誰に忠誠を誓う騎士だ?」

 

「俺は時空の旅人……仕える王の居ない騎士だ」

 

「ならば僕に誓ってくれ。誰でもない、自分自身に恥じぬ姿でいるんだ。騎士として、何より自分らしく、誇らしく生きろ」

 

「フッ……悪くない……そう言えば君の本当の名は?まだ聞いていなかったな」

 

「スレイン・ザーツバルム・トロイヤードです。」

 

「……ありがとう。スレイン」

 

「いくぞ。騎士ユニコーン」

 

 

 

 格納庫へ走った二人を待ち受けていたのはエルエルフだった。

 

「出る必要はない。既に勝負は見えている。宇宙怪獣の規模と部隊の練度、トップ部隊の圧倒的戦力。おのずと答えは見えていたはずだ。」

 

「……それならいいのですが……」

 

「騎士ユニコーン。貴様にはカードの使い道を今まで以上に慎重になってもらいたい。ネオのように全員が協力的でもないようだしな」

 

「心得ている」

 

 話しているとスレイプニールとGAUSが着艦する。

 機体から降りてきた伊奈帆が歩いてくる。

 

「人が命懸けで戦ってきたのに、随分重役出勤だな」

 

「すまない……だが界塚。お陰で何とかなった」

 

 伊奈帆は騎士ユニコーンをチラッと見てから再びスレインを見る。

 

「もう銀仮面とは呼べないな……お前、名前が長ったらしいから……僕もスレインと呼ぶぞ」

 

「好きにしてくれていい」

 

 仮面を着けなくなったことについて、伊奈帆はスレインに言及しなかった。

 ある程度覚悟を決めての行動だと悟り、アセイラム姫の名前も彼の前では出さないでいた。

 

 

 短時間で宇宙怪獣の群れに勝利して間もなく地球への航路を確保しつつあったエルトリウム。

 

「そこの大型戦艦。直ちに武装解除し、停船せよ!」

 

 衛星軌道ギリギリの小さな浮遊施設から通信が入り、指示に従い艦が止まる。

 

「我ら、地球外縁軌道統制統合艦隊!」

 

 エルトリウムが突如、MS隊に包囲されることになる。

 




火星編は終了です。

次回から激動編に。

今回は
エルトリウムが地球に戻る
宇宙怪獣との遭遇。
スレインと騎士ユニコーンの会話。

そしてついに鉄血のオルフェンズが絡みます。

地球外縁軌道統制統合艦隊。

そして、鉄華団がどう関わるのか。

続きはdisk2へ。


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