世界一初恋・エメラルド発売記念2017 高律SS (bui)
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穀雨

漫画のネームを確認している時に『まともな恋愛してこねーと』とあなたは言った。

 

 

その言葉がずっと頭の隅から離れない。

 

 

 

俺は確かにまともな恋愛なんてしてきていない。

 

 

 

もう恋愛なんてしたくない、

 

誰かを真剣に好きになどなれないと思い続けていたから。

 

 

 

 

 

挑発されるように言われた時にはむっとしたけど、

 

それに対して当然じゃないかと思う自分もいる。

 

 

 

 

 

好きで、好きで、何も見えなくなるほど好きだった先輩。

 

先輩にうざいと言われても、どんなに邪見にされても俺は平気だった。

 

 

 

 

 

もともと近づくつもりなんてなかった。

 

自分のこの恋がみんなと同じではないのは十分承知していたから。

 

 

 

だから巻き込み事故みたいに先輩と付き合うことができて、

 

先輩の視界に認識されるようになって、

 

先輩が俺を怒鳴った顔だって、それで少しでも先輩の気が済めばいいとそう思っていた。

 

 

 

 

先輩に俺ができることが何かもわからなかったから・・・。

 

 

 

 

 

だけどあの時、先輩が俺の気持ちを鼻で笑った時・・・。

 

 

俺の中の大事なものが汚された気がした。

 

 

 

 

 

 

近寄らなければ良かった。

 

触れなければ良かった。

 

 

そうすれば俺の中のあなたを想う気持ちはいつまでも清純なままだった。

 

 

なのに欲を知ってしまって、もっともっと人としてのあなたを知りたいと思ってしまって、

 

俺の中のあなたは形を変えて、俺の中の想いも変わってしまった。

 

 

 

自業自得。

 

そうわかっていたのに、それでも他の誰でもないあなたに俺の想いを笑って欲しくなかった。

 

拒絶されても良かった。

 

お前のことなど少しも好きじゃないと言われても良かった。

 

 

 

でも俺はあなたが好きなんです。

 

 

好きで、好きで、焦げ付きそうに好きなんです。

 

 

 

欲は罪だ。

 

もっともっとと期待をして、それに応えてもらえないことに落胆する。

 

 

そんな俺の唯一の正しかった事、それがあなたへの好きだという想いだけだった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

「律好きだ。」

 

そう言う今のあなたの後ろでは昔の俺が泣いている。

 

他の誰でもないお前自信が、自分をどん底に突き落としたやつとまた同じ過ちを繰り返すのか?と。

 

 

 

 

 

「今日家に来い。」

 

そう言われて贖うこともできず俺はまたその扉の向こうを訪れる。

 

その呪詛に俺は贖うことなどできない。

 

 

 

昔と同じではないとなぜ思えるのか?

 

俺が好きと告げた次の瞬間、また俺の想いをあざ笑うあの人がいないとどうして思えるのか?

 

あれはお前を欺くための芝居だったと言われない保証がどこにあるのだろうか。

 

 

 

怖い。

 

 

まともな恋愛してこねーとだめだと言ったあなた。

 

 

ならあなたはどんなまともな恋愛をしてきたんですか?

 

 

 

俺をあざ笑ったあなたの恋しい気持はどこの誰に向かっていたんですか?

 

一体どれほどの人達とどんな素晴らしい恋愛をしてきたんですか?

 

 

 

 

俺の問いにきっとあなたは答えない。

 

寂しい顔をしてただごめんというのだろう・・・。

 

 

 

沢山の恋愛をしなければ漫画編集になれないのであれば、俺はスタートラインにさえ立てないのかもしれない。

 

 

 

 

どんなにあなたを信じられなくても、

 

どんなに踏みにじられた傷が痛んでも、

 

俺はやっぱりあなたのことが好き・・・。

 

 

 

 

 

 

埋まらない溝は深く、乾ききれないお互いの傷をなめあうこともできない。

 

 

 

 

春の終わりと夏の手前・・・。

 

 

そんな狭間の今日は雨。

 

 

何もかも洗い流して欲しい。

 

 

 

 

もう昔のように、ただ好きだという気持ちだけで居られない・・・。

 



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あなたによく似た人

その人は夏を手前にしたある時にやって来た。

 

季節外れに東京から来たというだけでも目立っていたのに、整った顔立ちは雑誌の中のモデルのようで、白髪が混じり始めた担任より頭二つぐらい背が高く、紹介された時に名乗った声も良く通るテノールだった。

 

学年中の女子は色めき立ち、男子は劣等感からかちょっと引いていた。

 

しかし、クラスメイトになってからもその人は私たちと仲間になろうとはしなかった。

 

いつだって何も言わず、誰とも交わろうとせず一人遠い所を見つめていた。

 

「高野君」

 

そう呼ぶといつも一旦は無視をするように反応をしないのに次の瞬間アッという顔をしてこちらを向く。

 

それが不思議だったけどおばあちゃんがする噂話でそれがなぜかを知った。

 

両親が離婚して名字が変わったのだそうだ。

 

馴染まない名前、馴染まない土地、馴染まない言葉・・・。

 

今私の両親が離婚をして突然見ず知らずの土地に行くことになったら・・・。

 

考えただけでも苦しかった。

 

きっと高野君は今どうしていいのかわからないのだろう。

 

だからきっといつか高野君も私たちと仲良くなってくれるに違いない。

 

そう祈った。

 

 

 

 

夏を過ぎる頃にはこの学校でも三年生は受験の事ばかりが話題に乗るようになってきていた。

 

おばあちゃんの話では高野君は東京の大学を受けるのだそうだ。

 

そうだよね・・・。もともとあっちの人だもん。きっとここよりあっちの方がいいにきまってる。

 

 

そう思うと涙が出た。

 

私の好きなこの街を高野君は好きではないんだ・・・。

 

そして私は高野君が好きなのだと悟った。

 

悲しい。

 

高野君に好きになってもらえないこの街も、学校も、私自身も・・・。

 

 

 

 

 

 

寂しい目をした転校生は最後まで転校生のまま卒業した。

 

卒業写真に写っている高野君はみんなと少し色の違う詰襟のままそこに静かにいた。

 

 

やがて高野君のおばあちゃんもなくなって、私のおばあちゃんもおじいちゃんも鬼籍に入り、高野君の噂を聞くこともなくなった。

 

 

 

月命日にお墓参りに行くと高野君のおばあさんのお墓にお参りをしている跡があった。

 

高野君が来ているのかしら?

 

そう期待をして少し周りを見渡すと、少し離れたところを歩く後ろ姿が見えた。

 

背が高くて相変わらずカッコイイ。

 

隣に居るのはお友達だろうか?茶色い髪の毛の人と笑って何かを言い合っているみたい・・・。

 

高野君が笑うなんて・・・。

 

人違いだろうか?

 

でもやっぱりあの後ろ姿はずっと見ていた私にはわかる。間違いなく高野君だ・・・。

 

少し振り返った時に見えた顔が嬉しそうで、楽しそうで、あの時ずっと苦しさと辛さしか感じられたなかった高野君なの?と疑いたくなった。

 

 

いや、やっぱり人違いだ。

 

あそこにいる人はあの高野君ではないんだ。

 

 

私が好きだったあの人ではなくてちゃんと「高野君」になれた高野君だ。

 

 

もう呼ばれても気が付かないとか無いよね。

 

 

「居心地は悪くなかった気がする。」

 

 

きっとそんな風にこの街の事を思ってくれているはず。

 

そう思ったらなんだか夫に会いたくなった。

 

 

 

 

今日はごちそうを作っちゃお。

 

 

 

 

 

 

 

 



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天使の金の輪

このところ俺はおかしい。

 

今まで先輩を好きってことだけで良かったのに、先輩は俺をどう思っているかを知りたくて苦しくなってしまった。

 

嫌われてる・・・、とは思わなくもなくもなくもない。あれ?どっち?

 

ぐずぐずと思い悩んでも答えは出ない。

 

でもきっぱりと拒絶されるのは怖い。

 

でも知りたい。

 

先輩の体温を感じて、荒い息遣いと跳ねた鼓動を聞くと先輩は俺の求めている答えをくれるような気がして・・・。

 

先輩が俺とつき合ってもいいって言ってくれたから、 だから、俺たちはつき合っているんですよね?

 

こんなにギュッと俺を抱きしめてくれて、優しく唇でさするように俺の頬を撫でて、唇を噛んで、背をさすりあげながら俺を酔わせてくれる。

 

聞きたいことは一つだけ、たったの一つ・・・。

 

先輩は俺のこと好きですか?

 

 

「プッ」

 

 

え?なんで?笑われた?

 

付き合ってるけど別におまえのことなんてなんとも思ってないって思ってたの?

 

俺の恋する気持ちは弄ばれたの?

 

自分が?

 

先輩が?

 

世の中のすべてが?

 

信じられない・・・。

 

 

思わず思い切り先輩をつき飛ばして、俺よりずっと大きい身体を押し倒して、

 

「先輩が俺のことなんて好きじやなくても俺は先輩が好きなんです。好きだから、好きだから、絶対に別れてあげません。イヤです。先輩が好きです!」

 

と、馬乗りになりその首にすがりついて泣きじやくっていた。

 

 

 

 

 

ひとしきり嵐のような感情の波が収まるまで、先輩が俺の髪を流いてくれていて、背中もポンポンと優しく叩いてくれてて、 「う~~~。」と先輩のシャツに顔を押し付けて悲しさに唸っていると「ハア」と先輩のため息が聞こえた。

 

「お前さあ・・・。」

 

先輩にまた呆れられた・・・。好きになってもらえるどころかいよいよ嫌われたかもしれない。

 

そう思うとまた悲しくなって涙が止まらないのに、俺の頬に手を当ててグジュグジュの顔を先輩があげさせるから先輩のほっペに俺の涙が落ちた。

 

「俺のこと好きなら俺のこともう少し信じたほうがいいと思う。」

 

先輩がちよっと寂しそうな目をしたのでびっくりした。

 

「こんなにお前のこと好きなのになんでわかんねーの?」

と少しだけ困ったように言った。

 

「まあ別れるなんてありえねーからさ、別にいいんだけどさ。」

 

先輩が身体を起こして俺の涙を自分のシャツでクシャっと拭いてくれてから、 身体を伸ばして学校のかばんの中に手を突っ込んでなにやらガサゴソと探している感じだった。

 

「クラスの女子がさ、彼氏にもらって一番うれしいのがこれだって言ってたからさ。」と、いつからバッグに入っていたのか、少しくしょくしょになった花柄の小さい紙袋から取り出した金のリングを、俺の指を掴んではめた。

 

「お前指細いね。ぶかぶかだ。」

 

中指でもゆるそうな金のリングは、でも先輩とおそろいらしくて、先輩は俺の目の前に手を開いて差し出して「お前も付けて。」言ってくれた。

 

その金のリングを手に取って見ると、今度はうれしさに涙が流れてきて、グズグズと鼻をすすりながら先輩の細くて長い指にそのリングをはめた。

 

「サイズは直してくれるっていうから、駅前の店。一緒に行くぞ。」

 

先輩が未来の約束をくれる。

 

 

先輩、先輩、大好きです。

 

 

俺、どんなことがあっても先輩を放してなんてあげませんから。

 

また涙でぐずぐずになりながら俺はそう告げたのだった。

 

 

 

 

 



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葉桜

美しい旋律が聞こえる・・・。

 

これはヴィヴァルディの協奏曲『春』だ・・・。

 

待ちわびた春の訪れに小鳥は悦び祝う。小川のせせらぎがまぶしく、吹く風は優しく頬を撫でる。

春を告げる雷が轟音を立て黒い雲が空を覆う、そして嵐は去り小鳥は素晴らしい声で華やかにうたいあげる。そんな曲・・・。

 

小さいころ習っていたヴァイオリンの練習曲にこの曲のアレンジがあって、Cisのところで引っかかって何度も何度もやり直しをさせられた。

 

フィンガリングはどうだったか・・・。

 

左の指でそのコードを紡ごうとした次の瞬間、指をギュッと握られてハッと覚醒した。

 

 

ヴァイオリンを弾こうとしていた自分は深層心理の奥に押しやられ、重かった目がビスクドールのスリーピングアイのようにクルリと開き、遠くにアイボリーの波紋が広がった。

 

 

隣の家の・・・、寝室の天井?だな・・・。

 

 

「なにか探してる?」

 

テノールの声が耳元で響いて、続いて温かいものが頬に軽く触れた。

 

「探してる?」

 

夢と今の境目を漂っていた俺には答えをうまく紡げずに、オウムのように言われた言葉を繰り返すと、声の主は取り立てて答えを欲していた訳ではなかったようで、軽く[[rb:啄 > ついば]]むようだった口づけを強くし欲情を刻み始め、掴んでいた手をシーツにきゅっと押し付けた。

 

少し身体に重みがかかって、言葉にされなくても彼が先に進みたがっていることが気配で分かる。

 

 

「朝なのに・・・。」

そうつぶやくと

 

「朝だからな・・・。」

と彼が言った。

 

 

部屋の中に満ちているのはクラッシック音楽だった。

 

彼に愛される時、静かな部屋に響く自分の吐息とか、衣擦れの音が恥ずかしくて、ラジオでもテレビでもいいから何か音を流してと言ったら、早速彼が嬉々としてコンパクトなオーディオのセットとクラッシック音楽の全集のようなものを用意した。

 

「これでいつでもOKだな」といじわるな微笑みともに。

 

 

 

ああ、だからヴァイオリンを弾く夢を見たんだ・・・。

 

あの頃はまだそんなお稽古を続けていた。

 

まじめな生徒ではない俺には桜の花びらを見ながら弾く練習曲はいつも思うようにいかなくて、それが自分のすべてのようで、晴れやかな曲なのに辛くて、桜の花びらが儚くて、先輩が好きで、そして何もかもが信じられなくなった。

 

 

 

先輩は、高野さんはここにいる。

 

 

今年の桜は散った・・・。

 

桜は散りかけから緑の葉を広げ、今年のことなどなかったかのように未来のために鋭気を蓄える。

 

木に[[rb:縋 > すが]]りついているように貼りついた名残の花びらは、儚く散った先達の足元にも及ばないほど暗くくすんで顧みられなくなる。

 

 

儚さは美しさだ。

 

だけど力ではない。

 

きっと今の自分を例えるなら、最後に[[rb:縋 > すが]]りつく灰桃色の花殻に違いない。

 

しかしこれからの希望に光る緑の葉が俺を包む。

 

 

身体中に這うようにつけられるあなたの印・・・、それに埋め尽くされながら俺は緑に染まる。

 

 

 

もうすぐあなたでいっぱいになる。

 

いつだって最後は何も分からなくなるのだからヴィヴァルディの四季もパッフェルベルのカノンももう不要なのかもしれない。

 

あなたの音に染まって、俺の精神は緩く転生を繰り返す。

 

 

 

唯一あなたの存在だけを残して。

 

 

 



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たまにはこんな朝も

[1201号室]

 

 

「はあ、お腹空いた・・・。」

 

隣家で洗濯物を干す音がしたと思ったらそんな声がした。

 

隣もうち同様一人暮らしだ、それほど多く干すものはないはずだが、あいつに日々家事をこなすというスキルはないだろう。

マンションの規約では外から目立つような形で洗濯物を干すことを禁じられているから干しているのはせいぜい服や小物で、おそらくタオルやシーツなどの大物は乾燥機にかけられているはずだ。

 

以前はニットもカットソーも全部まとめて乾燥機にかけていたからそれはどうかと指摘したら「別にいいんです!」と赤くなって怒っていたけどそれ以降は一応形を整えて干すようにしているらしい。

 

 

 

 

 

目覚めの一服のうまさは何にも代えがたい。本気煙草体質であることは否めない。

 

しかも今日は晴天で、季節は一番過ごしやすい4月下旬、ついでに言うならば校了も済んで気持ちまでもすっきりしている。

清々と外に向かって煙草を吸おうかと思うのは当然だろう。

 

日に透ける白いカーテンも、たっぷり睡眠の目には優しく翻り、

 

コポコポと音を立てて一人には多めのコーヒーを機械が落としている音が聞こえる。

 

 

すすりあげたときの爽快な香りが、やがて鼻孔をくすぐるであろうことに期待が高まる。

 

 

 

ベランダへ繋がる床に座ってぼんやりとしていたら、控えめに隣の部屋のドアが曳かれ、カチャカチャとハンガーがかけられる音がした。

こまねずみのように動き回る男の姿を思い浮かべはするけど声もかけずにそのまま煙草を吸っていたら、冒頭の呟きが聞こえてきたのだった。

 

 

だから一緒に暮らせばいいのに。

 

 

あいつは俺の告白もプロポーズもいつだって真っ赤な顔をして「ハイ」と言うか?と期待をさせておきながらスルリと逃げる。

 

いや、スルリというかじたばたと暴れて。

 

本当にずるいヤツ。

 

だったらあんな顔しないできっぱりと断ればいいのに、いつだってあいつにはきれいな余白が設けられている。

 

ぎりぎりで見切れてしまわないように、読みにくくないように、多少ずれても困らないように。

 

俺は見開き大迫力でバーンって行きたいのにな。

 

本当に思うようにいかない。

 

 

 

 

さて・・・。

 

王子様のお腹は何をご所望だろうか?

 

 

ちょっとスカスカになっている冷蔵庫の中身から今日できそうなメニューを組み立てると、その向こうに「わー。」っと嬉しそうに笑う顔が浮かんだ。

 

 

ったく・・・、わざとらしいんだよ。おまえ。

 

 

 

 

 

 

コーヒーが旨いうちに出来上がるようにしないとな。

 

 

 

 

 

[1202号室]

 

 

校了が済むととたんに襲うのは日常だ。

 

部屋も散らかってるし、洗濯物も山のよう。

 

高野さんの部屋はいつもきれいで、料理もきちんとして、仕事のできる編集長で・・・。

 

高野さんとの差は2年だけど、高野さんとの差はきっと2年では埋まらない。

 

 

同じことを同じようにやる必要はないと思う。

 

でも同じこともできない俺に違うことができるとも思えない。

 

できない自分が嫌で、できる高野さんをうらやましく思う自分が嫌で、

 

好きだと言われる自分を信じられなくて、好きだと言えない自分が嫌で・・・。

 

拗ねてぐるぐるぐるぐる90度回って、

 

ひねくれてまたぐるぐる90度回って、

 

卑屈になって、落ち込んで、回りに回って1080度回れば元の俺?

 

 

 

洗濯物を干さなきゃと思いながらそんな自分が一番うざいと床に突っ伏していたら、隣の部屋の住人が窓をガラガラと開く音が床につけていた耳に響いた。

 

みんなあんたのせいだ。

 

あんたがいるから俺があんたを好きになって、絶望して、再開して、また好きになって、いつの間にか先輩よりもっともっと好きになって、好きだと自覚したくないのにどんどん押されて、もうどうにもならないくらい好きが溢れて、

 

どうしてくれるんだ・・・。

 

 

 

そうだ、いつも引っ張り込まれて好き勝手されるばかりじゃ納得できない。

 

たまには・・・。

 

 

「はあ、お腹空いた・・・。」

 

 

あなたはどんな顔して俺にご飯を食べさせてくれるんだろう?

 

ベーコンかハムと目玉焼きは妥当かな?

 

校了後だから生野菜は無理かもしれない。

 

っとなると温野菜サラダ?

 

細切れのベーコンと玉ねぎの入ったオニオンスープがついていたら花丸。

 

はちみつがたっぷりかかったトーストかゴロゴロのイチゴのジャム。

 

いや、チーズがとろけるホットサンドでも良いかも。

 

エッグベネディクトも捨てがたい。

 

 

 

 

 

 

ほどなくして呼び鈴が鳴る。

 

 

たまには俺があなたを振り回しても赦されるよね。

 

美味しいごはんごちそう様♪

 



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