女ヶ島の念能力者 (C3PO)
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第1話 

ONE PIECEとH×Hが好きすぎて、書いてしまった作品です。

小説を書くのは初めてなので、内容には期待しないでください。




 どうしようもなく物足りない人生だった。

 

 毎日収入はいいけど好きでもない仕事をして稼いだ金も漫画ぐらいにしか使わず残りは貯金。

 家族は居ないし恋人も居ない。別にほしいわけでもないけど。

 

 自分の人生はなんの刺激もなく平凡に終わるんだとずっと思っていた。

 自分が殺されるまでは。

 

 今どきの若者が好むようなファッションをしている四人の青年たちに人通りが少ない道でいきなり金を要求された。出し渋っていたらなにか固いもので後頭部を殴られ持っていた鞄を奪われ昏倒したところで暴行をしばらく受け続けた。

 

 もう体を動かせなくなるほどボロボロにされた時に青年たちは漸く痛めつけるのをやめた。

 痛みと出血で意識が朦朧としてきた時に青年たちはやりすぎた、これどうしよう、などと口論になっていた。

 

 これ以上ないほどの怒りに身を焦がしできることならやり返したいがもう意識が沈んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 女ヶ島

 

 ここは凪の帯にある男子禁制の女しかいない島である。

 この島にはアマゾンリリーと言う国があり九蛇という女戦士が居り独自の文化、風習がある。

 

 この国では常に『強いものが美しく、偉い』という風習があるためこの国の女たちは皆幼少の頃から鍛錬を積み強くなろうとしている。

 

 

 この国の戦士たちは幼い時より覇気を習得し鍛え上げるためその辺の海賊や海兵ではまったく相手にならない。

 

 そして今訓練場では一人の九蛇の戦士が子供たちを鍛えていた。

 

 「ほらほら、あと少しだから頑張りなさい。素振りはゆっくりでいいから一回ずつ意識してやるんだよ」

 『ハイ!先生』

 

 子供たちに規定の回数素振りするように指示を出した九蛇の戦士は発破をかけながら子供たちを見渡していく。すると一人の赤い髪の少女が目についた。

 

 「………」

 

 その少女は規定の回数分の素振りを終えても黙々と薙刀を振っている。

 素振り一つとっても他の子どもたちより優秀だとわかる程の才能に訓練をつけている戦士は楽しそうに微笑み少女を見ていた。

 

 しばらく見ていると少女は素振りをやめ振り返り

 「何かおかしい所でもありましたか?先生」

 と、指導役の戦士に自分の素振りに悪いところがあったのか聞いた。

 

 「いいえ。勘違いさせてごめんなさいね。とてもよくできていたわよ。ベル」 

 そう褒めると、ベル、と呼ばれた少女は首を左右に振り不満そうに言った。

 「先生。私はまだ余裕がありますのでしばらく素振りを続けていいですか?昼食の準備には間に合わせますので」

 

 そう言ってベルはこちらの返事を聞かずまた黙々と素振りを始めた。

 先生と呼ばれた戦士はその様子にため息をつき、

 

 「あまり無理して鍛錬しすぎると、体を壊しちゃうから、程々にしときなさいよ~」

 と、心配するが、

 「大丈夫ですよ先生。覇気を使いますので、体を壊したりなんてしませんよ」 

 と意味不明な言葉が返ってくる。

 「…いや…それ使い方違うと思うんだけど…」

 そう言葉を漏らすもベルには聞こえておらずベルは覇気で強化した薙刀をブンブンと無駄にキレイなフォームで振っている。

 そんなベルを呆れたように見て指導役の戦士は先に行くとベルに告げ素振りを終えた他の子どもたちと共に訓練場を去っていく。

 

 なんかあの子は他の子と少しズレてるなぁ、と悩んでいると、

 「ねぇねぇ先生。ベルはまた、一人で鍛えてるの?」

 「いっつも皆の修行が終わった後も、一人残ってるよねぇ~」

 「ベルって誘っても全然遊んでくれないんだよぉ~」

 と子供たちがベルについて話し出す。

 

 「う~ん、あの子は自分のお姉さんたちが優秀だから少しでも早く追いつこうとしてるんじゃないのかしら? まあベル自身も強くなることが好きみたいだしベルの好きにさせてやりなさい」

 そう子供たちに言い聞かせ指導役の戦士は子供たちとともに九蛇城に戻っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 殺されたと思ったら目の前に変な壺があった。

 壺には一枚引けと書かれてありこれ以上ないくらい怪しかった。

 他にすることもないので壺に手を入れ中を確認すると紙のようなものが十枚~二十枚ほどありその中から一枚引いた。その紙には『念能力』と書かれており紙を確認した瞬間また意識が沈んでいった。

 

 

 

 

 新しい命に生まれ変わって八年ほど過ぎた。

 

 自分はどうやらONE PIECEの世界の女ヶ島に転生したようだ。

 

 そしてHUNTER×HUNTERに出てくる『念能力』を使えるみたいだ。

 もともと漫画で読んでいたがそれとは違う念能力の知識も記憶に植え付けられたみたいなので赤ん坊の時はずっとオーラを増やす修業をしながら考えていた。

 

 前世のようなつまらない人生を送りたくない

 

 自分を殺した青年たちのような奴らにもう殺されたくない

 

 そしてONE PIECEという刺激的な世界を自分の思うがままに楽しみたい

 

 そんなことを考えながら過ごしていると自分の姉たちが今日の修業を終えて、家に帰ってきたようだ。

 

 「ただいまー! ベル! お姉ちゃんが帰ってきたわよ~」

 と言い、黒い髪の少女が家に帰ってきて、それに続くように

 「ただいま!ベル、いい子にしてたかしら」「ただいま~ベル」

 と薄い緑の髪の少女、オレンジ色の髪の少女が帰ってきた。

 

 私の姉は三人いる。

 

 長女 ボア・ハンコック

 

 次女 ボア・サンダーソニア

 

 三女 ボア・マリーゴールド

 

 そして私の名は『ボア・ベルゼリス』

 

 どうやら私はゴルゴン三姉妹の末っ子に生まれたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第2話

 アマゾンリリーにある闘技場。

 そこでは今、二人の戦士が戦っていた。

 

 

 片や身長三メートルはあろうかという大女。二振りの巨大な剣を両手に持ち戦っている相手へと嵐のような連撃を繰り出しこのまま倒してみせる、と鬼気迫る表情で相手に攻撃している。

 

 片や相手の身長の半分にも満たない幼いともいえる少女。自分の背丈よりも大きい薙刀をまるで自分の手足のように使いこなし自分を襲う猛攻を平然と捌き、防ぎ、受け流していく。

 

 自分が二十年の歳月を強くなることに費やしたというのにまだ十年も生きてないような小娘にあしらわれているという事実が大女ガルテアを激怒させる。連撃がますます激しくなるがその分剣技は荒くなり最早戦い始めの頃の技術は見る影もない。技術のない攻撃など捌くのはたやすいと言わんばかりに小さな少女、ベルゼリスはガルテアの攻撃の中から隙を見つけ出し石突で鳩尾を手加減した力で突いた。

 

「げふっ!!」

 

 その一撃でガルテアは膝をつきそのまま崩れ落ちる。完全に気絶したと観客中が認識し審判がベルゼリスの名を呼ぶと観客席から歓声が巻き起こる。

 

 その歓声を尻目にベルゼリスは皇帝の座っている席を見上げ皇帝の言葉を待つ。

 

「皆の者! よく聞くがいい! これで今回の九蛇海賊団への入団はベルゼリスに決まった! 異論があるものは名乗り出ろ!」

 

 アマゾンリリーの皇帝の言葉を聞きみな静かにしている。この場で異論を唱える者はいない。皆がベルゼリスの強さを認めているからだ。異論なし、と、判断した皇帝は言葉を続ける。

 

「よし! では、これにて今回の入団試験は終わりじゃ! そして五十年ぶりに九蛇海賊団に史上最年少で入団したベルゼリスの強さを讃え、国一丸となって宴を開く。皆、宴の準備をせよ!」

 

『う、ぅおおおお!!』

 

 皇帝のその言葉に国中が沸き立ち大急ぎで闘技場を出、宴の準備に取り掛かっていく。

 

「………」

 

 ベルゼリスはその光景をどこか他人ごとのように見つめ自分も準備を手伝おうと闘技場から足を進め……

 

「──待たんか。ベルゼリスよ」

 皇帝から呼び止められた。 

 

「何でしょうかグレイス様」

 

 ベルゼリスは感情を感じさせない声と表情のまま現皇帝グレイスに呼び止めたことを聞く。

 

「お主…もうちょっと嬉しそうにできんのか? お主の姉たちは入団が決まった時は、とても喜んでおったのだがのぅ」

「いえ…嬉しくないと言うわけではないんですが…なんと言うか…物足りないというか…なんかあっさり入団が決まって拍子抜けと言う気分なんですよ」

 

 その余りにも入団を賭けて戦った相手であるガルテアに失礼極まりない言い草に思わずグレイスはため息をつく。

 

 ベルゼリスは今までに見たことないほどの才能を持った九蛇の戦士である。わずか八歳で九蛇の海賊船に乗るなんて今までの九蛇の歴史でもそんな事はなかった。姉のハンコック達は十一歳での入団だった。当時はそれでもかなりの才能だったと国中がハンコック達に期待したものだ。

 現在ハンコックは十二歳。サンダーソニア、マリーゴールドは十一歳である。この年齢での入団も早いほうであるというのに四女のベルゼリスは八歳で入団を決めた。

 この子は異常だとグレイスは思う。

 

 戦闘力もそうだが精神性も普通とはとても言えない。ベルゼリスと同い年の子どもはやはり純粋で鍛錬だけではなく子供らしく遊んでいる。しかしベルゼリスは誰に何と言われようとも過剰ともいえる修業を己に課している。理由を聞けば『誰にも負けたくないからです』という返事しかしない。

 

 最初は求道者の類かと思ったがベルゼリスは、なんと言うか…自分のやりたいことをやるために強くなっている気がする。アマゾンリリーの皇帝になりたいというような感じでもないし全く理解できん。

 こんな子供は初めてだとグレイスは思うが、これからは同じ船に乗るのだし見極めるのは後でもいいか、と、ベルゼリスについての思考を頭の隅に追いやる。

 

「あのう…グレイス様。私も宴の準備に行きたいのですが…もう行ってもいいですか?」

 反応のないグレイスにベルゼリスは聞く。正直ベルゼリスはグレイスが苦手だ。自分を不審人物のようにジトッとした目で見つめてくるのだ。アマゾンリリーの皇帝はこの国で一番強き戦士が王になると決められているだけあって与えられた力を使っても勝てないかもしれない。

 

 ただ単に自分より強いものが近くにいると警戒してしまう癖のせいかもしれないが。

 

「お主は準備に行かんでもよい。宴の主役はお前じゃ。妾と共に大人しく九蛇城でまっとれ」

 

 そう言って九蛇城に向けて歩き始めるグレイスの後ろを、ベルゼリスはちょこちょことついていく。

 

 

「あ! ソニア! マリー! ベルが来たわよ!!」

 九蛇城についたベルゼリスを待っていたのは自分の姉であるハンコック、サンダーソニア、マリーゴールドである。自分の姿を見つけるとバタバタと走ってくる姉たちを無表情のまま見つめなおすベルゼリス。

 

「もう! こんな時くらい笑いなさいよ! ベル、これで私たちと同じ九蛇海賊団の一員になれたんだから!」

 ハンコックは笑わない自分にそう言ってプリプリと怒っている。

 

「ベル! 入団おめでとう! 今度の遠征では経験がある私たちが色々教えてあげるからね。わからないことがあったら何でも聞いていいのよ」

 ソニアは自分が航海の経験があるからと先輩風を吹かせている。わからない事があったら遠慮なく聞かせてもらおう。

 

「やっぱりベルの勝ちだったわね、今回の決闘。ベルは私よりも強いから、すぐに入団すると思ってたけど、まさか、八歳で入団するとはねぇ」

 

 マリーは自分の入団が早かったことに多少も呆れが混じっているが嬉しそうだ。

 

 三人は自分に近寄りきゃいきゃいと話し出す。一旦話し始めるとなかなか止まらないのである。

「マリー! 確かにベルのほうがマリーより強いけど、諦めちゃだめよ。一生勝てないって決まったわけじゃないんだから修業あるのみよ!」

 

 ハンコックがマリーに発破をかけ三人でまた話し出す。ベルゼリスはその様子を尻目に自分の姉達の横を通り過ぎて行く。

 そして暫く話し続けたハンコック達は自分たちの妹がいないことに気づいたのであった。

 

 

 

 九蛇海賊団抜けてシャボンディ諸島行きたいなぁ…

 

 ベルゼリスの心の声である。一人になれないと念能力の修業がしにくいのである。

 シャボンディ諸島には世界一のDQNと名高い天竜人を筆頭に人攫い、海賊、賞金稼ぎ、海兵と色々な人間たちが集まっておりベルゼリスが今一番行きたい場所である。シャボンディ諸島を拠点にしコーティング待ちの海賊を狩り賞金稼ぎをするのが一番やりたいことだ。天竜人や人攫いなどは念能力の気配を断つ『絶』があるためあまり気にしなくていいだろう。

  

 しかしこのままでは九蛇海賊団の一員として働かなければならない。ましてや九蛇の悪名は世界中に轟いているのである。海賊、海兵、商船見境なく襲うのでこのままじゃ賞金首になるのも時間の問題だ。

 そうなったら、賞金稼ぎで儲けることができないし、正直念能力を使えば皇帝以外には勝てるので姉のハンコックを押しのけて王に祭り上げられるかもしれない。そんな面倒なことしたくないのである。

 戦闘民族の九蛇に生まれたのは良かった。覇気や戦闘技術を良く鍛えることができた。

 念能力も寝る前に念の応用技『円』や『流』、『硬』などを使いオーラを使い切ってオーラの絶対量を増やしているのだが本格的な修業は一人でしたいのである。

 オーラは念能力者にしか見ることができないはずなのに覇気使いは感じることができるのである。

 

 そのためあまり大っぴらに念の修業ができない現状に自分はストレスを感じているのだ。

 さっさと自分の『発』も完成させたいのでどうにか九蛇では行方不明扱いになって自由に生きたいのである。

 

 ベルゼリスはそこまで考えて自分を呼ぶ同胞たちの声に返事をし宴の会場に歩いて行った。

 



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第3話

 水見式

 

 それは念能力者が己のオーラの系統を知るために使う一般的な方法である。

 ハンター協会会長アイザック・ネテロが創設した拳法、心源流に伝わる方法で『発』の修業にも使われている。

 

 やり方はグラスにあふれるギリギリの量の水を入れその上に葉っぱを乗せ手のオーラでグラスを包み『練』を行うと様々な変化が生じるためその変化で自分の系統を調べる。

 

 強化系は水の量が増え、放出系は水の色が変わり、変化形は水の味が変化し、操作系は水に浮いた葉が動き、具現化系は水の中に不純物が出現し、特質系はそれ以外の葉が枯れるなどの現象が起こる。

 

 「……」

 

 今ベルゼリスは女ヶ島の森の奥地で一人水見式を行っていた。『練』も三時間ほど持続できるようになったため自分の念能力『発』を作ろうと思ったのだ。

 

 水見式の結果は水の中に不純物が出現した。

 

 ベルゼリスは具現化系だ。

 

 「……クソッ!!」

 

 バキッ

 

 思わずベルゼリスは苛立ちのまま手近な木を殴り折った。自分の望む系統と違っていたのだ。

 

 ──強化系が一番シンプルで自分好みの系統だったのに……!

 

 そう思わずにはいられないほど不満だったのだ。

 

 念能力者は基本的には接近戦で戦いをするのだ。その接近戦では戦闘技術も大事だがそれ以上に重要視されるのは肉体の強化量と顕在オーラ量である。顕在オーラ量とは一度に自分が肉体を強化でき、かつそれを肉体にとどめることができるオーラの最大量のことでこの顕在オーラ量が多ければ多いほど肉体の攻撃力、防御力が上がるのだ。 

 

 もう一つの肉体の強化量とは系統によって自分の肉体をオーラで強化できる量は違うのである。

 強化系が100%とするならば、放出系、変化形は80%、操作系、具現化系は60%、特質系は40%しかないのだ。

 

 当然この強化量が一番多い強化系が念能力者の中では一番接近戦向けの系統なのである。

 さらにこの強化量が多ければ肉体の自然治癒力も高まるために最も優れた系統とも言われている。

 

 ベルゼリスも強化系を狙っていたのだが具現化系から強化系にわざわざ変えるような能力など作る気にはならないため小さくため息をついてどんな能力にするか考え始める。

 

 HUNTER×HUNTERの原作に登場する具現化系能力者で印象に残っているのは、クラピカ、コルトピ、シズク、ノヴだ。

 クラピカは片手に一本ずつ鎖を具現化しそれぞれに特殊な能力をつけていた。

 

 コルトピは左手で触った物の贋作を右手に具現化し具現化した贋作はそれぞれ『円』の役割もこなし、また、生物の贋作も具現化できる。(具現化した生物は動くことはできない死体だが)

 

 シズクは掃除機を具現化し掃除機には念で作った物や生き物以外なんでも吸い込む能力をつけている。

 

 そしてノヴはマンションを具現化し自分や他人を自由にマンションと現実に転送することができる。

 

 具現化系が自分の具現化したものに特殊な念を付けられるのは後天的に特質系に代わる可能性が操作系と並んで最も高いと言われているからと多くの念能力者に認識されている。

 

 ここで考えるのはどんな能力をつけるかだ。

 

 具現化するものは自分の愛用している薙刀がいいだろうが何の能力を付けるかで悩んでしまう。

 

 特質系念能力者クロロ・ルシルフルは流星街という特殊な環境で育ち盗賊団を結成し、他人の念能力を盗むという能力を開発した。

 『発』は己の人生の集大成のようなものだ。色々なものが欲しいと思ったからこそクロロの『発』は他人のから『発』を盗む『発』になったのだろう。

 クロロの能力の最も素晴らしいことは盗みさえすれば何十、何百と色々な念能力を自由に使うことができることである。

 

 念能力の修得において資質そのものとも言える「容量(メモリ)」の概念が存在し、その容量(メモリ)の大きさによって覚えることの出来る能力種や数が決まる。

 容量(メモリ)の量は人それぞれ違い才能のあるものほど容量(メモリ)の量は多いと言われている。

 

 それを考えればクロロの能力は反則である。クロロが使った容量(メモリ)は能力を盗む能力だけ、他人の能力を盗んでも自分の容量(メモリ)は圧迫しない。

 本当によく考えられた能力である。

 

 そこまで思考してベルゼリスは前世の死を思い出す。

 

 金欲しさにチンピラに襲われた事、自分の持ち物を奪われた事、結果的には殺して奪われた事、

 

 …もう何も奪われたくない…  …やり返したい…  …今度は自分が奪う側になりたい…

 

 ならば自分の能力は他人から奪う能力にしよう。

 

 自分の『発』をどんな能力にするか決めたベルゼリスは自分の武器を具現化するための修業を始めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一ヶ月後

 

 ベルゼリスは具現化した薙刀を持って凪の帯(カームベルト)を潜っていた。

 しばらく潜り続けるとシマシマ模様の海王類を発見、海中を勢いよく蹴りつけかなりの速度で海王類に迫るベルゼリス。

 そして近づいた海王類に向かってオーラを込めた薙刀で一閃、海王類は自分が両断されたことに気が付き目を見開き絶命する。

 ベルゼリスは丁度半分に分かれた海王類の上半身に薙刀を突き刺す。

 すると見る見るうちに海王類の上半身がベルゼリスの薙刀に吸い込まれていき、ついには何も残らなくなった。

 

 『死蔵の薙刀』(バンデッドグレイブ)

 

 これこそがベルゼリスの作った『発』である。

 

 ・具現化した薙刀はベルゼリスが殺した生物のオーラを吸い取る。直接死骸に薙刀を突き刺せば死骸をオーラに変換し、薙刀にオーラをため込むことができる。

 ・ため込んだオーラは自分がオーラを消費した場合任意で自分のオーラに変換し、消費した分だけ自分のオーラを回復することができる。

 ・薙刀にため込めるオーラ量は自分の潜在オーラ量(自分の持つすべてのオーラ量)の二倍まで。

 ・一ヵ月の終わりに、一ヵ月以内にため込んだオーラの一割を自分の潜在オーラ量の上限に足すことができる。

 

 

 制約 1 自分以外のすべての生物の精孔を開くことができなくなる

    2 自分以外のすべての生物に念能力取得方法を伝えてはいけない

    3 一ヵ月以内に薙刀にため込んだオーラの九割は一ヵ月の終わりに消滅する

    4 悪魔の実の能力者になってはいけない

 

 誓約 制約2を破った場合破るたびに一ヵ月絶状態になる(他人に悪魔の実の能力などを使われて念能力取得方法が漏れた場合も制約2を破ったことになる)

    制約4を破った場合一年間念能力を使えなくなる。悪魔の実の能力者になった後、能力で生物を傷つけるたびに一年間念能力を使えなくなる。

 

 

 ベルゼリスは前世の死因の影響によってこの能力を作ったのである。

 自分はもう何も奪われたくない、ならば他人から奪って強くなる。

 

 そして制約についても『念能力を自分以外に使わせたくない』という思いによってこのルールを決めた。これについては冗談抜きで危険だからである。

 

 このONE PIECEの世界はただでさえ地震を起こして島を傾けたりマグマと氷で天候を変えたり剣の一振りででかい氷山を切ったりするやつがいるのだ。

 こんな奴らが念能力を覚えたら本当にシャレにならないのである。

 

 念能力が使えるのは自分だけでいい。下手に誰かに教えて世界中に広まったりしたらろくなことにはならないだろう。

 

 そしてベルゼリスは海王類から奪ったオーラが予想以上に多かったため満足している。

 

 今までに様々な生物からオーラを奪ってきたが、『強い生物ほどオーラを大量に奪える』ということを発見した。

 

 九蛇海賊団の一員として海賊や海兵とも戦い能力の実験台にしてきたが、三日前の覇気使いの海軍将校を殺した時に奪ったオーラ量は海王類よりも遥かに上だったのだ。

 まあ、それでも海王類のオーラは下っ端の兵士たちよりも上だったのだが。

 

 この能力によってベルゼリスは自分が飛躍的に強くなれるので、能力についてはとても気に入っている。

 八つ当たりに木を殴りつけたとは思えないほどに今のベルゼリスは上機嫌だ。

 

 そして残した海王類の下半身に他の海王類が群がってきたのを確認したベルゼリスは、視界に映るすべての海王類からオーラを奪うために海中を蹴って猛スピードで突撃して行った。

 

 

 

  

 

 

 

 

 偉大なる航路(グランドライン) 

 

 シャボンディ諸島近海の海を九蛇の海賊船は航海していた。

 

 九蛇海賊団から一名行方不明者が出たのである。

 

 名前はユーリン、戦闘員である。

 

 以前億越えの海賊との戦闘があり戦闘自体は問題なく九蛇海賊団の勝利だったのだがユーリンがいつの間にか消えていたのである。

 

 船員たちは誰も知らず倒した海賊を尋問しても何も知らずで困り果てていた。

 

 海に落ちたのではないかと船員たちが海に潜り捜索したが見つからない。ユーリンは泳ぐのが得意なため海に落ちても自力で帰ってこれるはず…

 

 死んだと決まったわけではない。見捨てるわけにはいかないと船長グレイス、以下船員たちはユーリンを探すために近くの島を捜索することに決めた。

 

 絶対に見つけて見せる……! と決意する船長たちを尻目にベルゼリスは行方不明の原因について予測する。

 

 もしかして人攫いかもしれないと。

 

 熟練の覇気使いしか居ない九蛇海賊団から原作ではゴルゴン三姉妹を誰にも見つからずに攫った者たち。

 只者ではないだろう。 

 

 さすがに今世の家族であるハンコック達が奴隷になるのは見過ごせないため常にハンコック達と共に行動していたが代わりに別の船員が攫われるとは…

 

 まだ人攫いの仕業と決まったわけではないが仮にそうだったとしたら自分が気が付けなかったと言うことだ。

 そこまで考えて背筋に冷や汗が伝った。

 

 次は自分の家族が攫われるかもしれないと。

 

 構いすぎて鬱陶しい時もあるが自分を大切にしてくれる姉たちのためにベルゼリスは『円』で船を覆いこれからの敵に備えるのだった。

 

 



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第4話

 「本当に大丈夫なんですかぃ? お頭、もし九蛇に捕まったら……」

 「ビビってんじゃねえよ。九蛇の女一人捕まえちまえば最低でも二千万だぜ! あのムカつく糞野郎だってこの前それでぼろ儲けだったじゃねえか」

 「んなもん運が良かっただけでしょう…九蛇ってったら億越えの海賊や海軍中将が乗ってる軍艦も蹴散らすんですよ! リスクが高すぎます。やめましょうよぉ……」

 「だったらお前らはもう帰れよ、俺ぁ一人でもやるぜ」

 

 数人の男たちが九蛇海賊団の船の真下に潜水艦をつけて言い争っていた。

 

 この男たちはシャボンディ諸島に拠点を持っている人攫いチームの一つである。

 なぜこの男たちが九蛇をターゲットにしているかというと、先日、同業者がヒューマンオークションで売った九蛇の女戦士が高値で買われたからである。

 戦闘民族九蛇の容姿の良い女戦士は最低落札価格が二千万ベリーだ。 

 

 「天竜人のボンボンたちは相場も知らずにいきなり一億だの二億だの出しやがるからなぁ。それで二週間前は九蛇の女を五億で買ってきやがった。貴族さまさまだぜ」

 

 人攫いとは基本的には世界政府非加盟国の人間と海賊などの犯罪者を対象とした人身売買である。

 世界政府にとって海賊や非加盟国の人間などは人権がないに等しいためこのような扱いが法的に認められ人攫いは一種の職業になっているのである。

 

 賞金稼ぎはほとんどの場合強い海賊や犯罪者にしか賞金が掛けられていないため腕っぷしが強くないと賞金稼ぎでは食ってはいけない。

 

 対して人攫いは世界政府非加盟国民と加盟国民の区別をつけるのが面倒だという理由で加盟国民をオークションに売ってもほぼ黙認される。また各国の貴族や富豪、天竜人からも圧力がかかるため海兵はこれらを見て見ぬ振りするしかないのだ。

 

 男たちの口論が終わり頭目であろう男が意気揚々と外に出て九蛇の船に取りつきゆっくりと登っていくのを部下たちは黙ってみている。

 

 そして船に上がる直前こちらを見て臆病者を嘲笑うように鼻を鳴らし船に乗り込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ぐぎぃやぁあぁぁああぁあぁ!!! ゆ、許してくれぇ!! もう知ってることは全部話しただろ!! もう解放してくれぇええぇええぇ!!」

 

 

 今、九蛇海賊団の船員たちは捕まえた侵入者の男を尋問して情報を聞き出していた。

 

 この男船に乗り込んで十秒も経たないうちにベルゼリスの『円』の探知に引っかかり取り押さえられたのだ。

 

 ちなみにこの男の仲間達はベルゼリスと目が合うと一目散に逃げようとしたため自慢の武器を一振り。薙刀から飛んだ斬撃で潜水艦は木っ端みじんになってしまった。

 

 侵入者の男だけを生け捕りにしたベルゼリスはすぐに船長グレイスに侵入者の報告を行い、グレイスとその他の船員たちを一か所に集め事の顛末を説明した。

 

 「見聞色の覇気でこの男の侵入を察知したためすぐに取り押さえました。この男の仲間と思われるものたちも発見しましたが逃げようとしたため船ごと始末しました。もしかしたらユーリンの行方不明に関係があるかもしれないのでこの男から尋問をしようと思い皆を呼び出しました」

 

 ベルゼリスの報告が終わるとすぐさまグレイスは船員たちに男の尋問を指示した。

 そして男になぜ九蛇の海賊船に侵入したのか目的や男の仲間、拠点などを聞き最後はユーリンの情報を聞き出した。 

 

 最初は知らぬ存ぜぬで通していた男もベルゼリスが片手の爪をはぎ指を一本ずつ圧し折り、さらに一本ずつ引きちぎっていくと悲鳴を上げ自分たちが欲しがっていた情報のほとんどを吐いた。

 ベルゼリスの拷問にもう男は逆らう気力もなく苦痛にゆがんだ表情でベルゼリスを見上げている。

 船員たちもベルゼリスにドン引きである。

 

 「グレイス様。必要な情報は手に入りました。ユーリンはすでに売られているようですがどうしますか?」

 

 そうベルゼリスがグレイスに告げるとハッっとしたグレイスは船員たちに告げた。

 

 「もちろんユーリンは取り返すのじゃ! じゃがまずは二度とこんなふざけた真似ができんように中枢のすぐそばにあるシャボンディ諸島で人買いや人攫いを皆殺しにしてくれようぞ!!」

 

 そう告げたグレイスに船員たちが好戦的な目つきになり雄たけびを上げていく。

 

 ……まさか天竜人も殺すつもりじゃないだろうな……?

 

 おそらく天竜人のことなんて知らないんだろうなぁ……と、ベルゼリスはグレイス達を冷めた目で見つめている。

 

 絶対に自分以外の船員たちは『自分達が負けるはずがない』と思っているのだろう。

 

 おそらく自分達以外にあまり興味がなく、自分達より強い敵と戦った経験が少ないため慢心しているのだとベルゼリスは考える。

 もし天竜人を殺したら確実にやばい。全盛期のセンゴクに追いかけてこられたら確実に詰むだろう。

 

 まだ海賊王の処刑から五年しかたっておらず、センゴク、ガープ、ゼファーは未だ全盛期のままだ。

 

 自分が何を言ってもこの馬鹿たちは止まるわけないと確信しているのでベルゼリスは、せめて自分の姉妹達だけは守れるように予防策を考え始めるのだった。

 

 

 

 

 シャボンディ諸島

 

 

 

 「うわぁぁぁぁぁぁぁ!! く、九蛇海賊団だぁぁああ!!」

 

 41番GRに船を停泊する直前九蛇の海賊旗を見た者たちが顔を真っ青にして悲鳴を上げる。その叫び声を皮切りに蜘蛛の子を散らすように海賊も賞金稼ぎも一般人も一目散に逃げていく。当然である。見つけた物はなんでも襲う九蛇海賊団だ。みんな関わりたくないのだろう。

 

 そんなことを考えていると、グレイスが船に侵入してベルゼリスに拷問された男に「目的地まで道案内をしろ」と命令し男は勘弁してくれと蹲り泣きわめく。

 

 

 ベルゼリスは男の前に来て指を引きちぎった時の動作をすると男は急いで立ち上がり道案内を始めその後ろを九蛇海賊団のグレイスと他戦闘員数十名が付いていく。ハンコックとベルゼリスはグレイスに付いていきソニアとマリーは他の船番と共に船に残る。

 

 

 

 1番GRのヒューマンショップに行く途中騒ぎを聞きつけた海兵が部隊を展開し降伏勧告を出してきたが見ていて可哀そうなくらい腰が引けている。顔は全員真っ青になるか泣きそうである。

 それでも勇気を出して降伏を進めてきた海軍将校は話の途中にグレイスが剣で切り捨てた。

 そのあまりにもあっさりと将校を切り捨てたグレイスに恐怖を堪えきれなかった海兵が一人逃げ出しそれに続くように次々と逃げていく。

 

 その様子を見た九蛇の船員たちは笑い出し、嘲笑い、海兵たちを軽蔑する。

 戦わずして逃げるなど九蛇の戦士たちにとって死よりも勝る屈辱なのだから。

 

 そのまま九蛇海賊団は邪魔をする海兵たちを蹴散らし目的地に突き進んでいった。

 

 

 

 

 

 1番GR ヒューマンショップ

 

 

 ここには奴隷を買いに来る各国の貴族、富豪、海賊、そして世界貴族の天竜人達が居た。

 

 世界貴族 通称天竜人とは今この世界で最も力のある組織世界政府を過去に創設した二十人の王達の末裔である。自分達をこの世界の神だと自称しており一般人と同じ空気を吸いたくないために頭部をシャボンで常に覆っており自分たちが道を通るときは一般人は土下座の体勢をとることを強要する。

 この世界貴族は世界政府の権威でありその権力はこの世で最も高いとされている。

 この世のあらゆる場所で治外法権を認められており何をしても文句をつけてはいけない。

 天竜人自身も何をしてもいいと幼き頃より教育されているのでそのことに疑問を持つ天竜人は一部の例外を除いて居ない。 

 もし天竜人を傷つけたら海軍大将が軍艦に乗って下手人をどこまでも追いかけ始末するため逆らうこともできない。

   

 ただし、それは常識で考えた場合である。

 

 

 

 今ヒューマンショップではオークションが終わり各国の富豪や貴族たちが楽しそうに談笑している。

 

 「おお!そちらは今回手長族を落札したのですかな! 私は今回エビの魚人を買ったので予算が尽きてしまい見送りすることになったのですよ。いやあ~羨ましいですなぁ~」

 

 こんな会話を貴族や富豪たちがしているなか天竜人達もまた談笑していた。

 

 「お父上様~~わちし、九蛇の奴隷がほしいんだえ。先日のパーティーでジャルマックの奴がしつこく自慢してきてムカつくえ!! 今すぐほしいえ!!」

 

 オークションが終わった後もそんなことを言う息子を父親の天竜人は優しく嗜める。

 

 「お前のすぐ他人と同じ奴隷を欲しがる癖はどうにかならんのかえ? それと今日のオークションはもう終わったえ。次のオークションまで待つんだえ。欲しいものを待つのも競りの楽しみだえ」

 

 父親はそう言うがほとんどの天竜人は我儘に育つ。この天竜人も例外ではない。

 

 「嫌だえ!! お父上様! 今すぐ九蛇の奴隷が欲しいんだえ!! 家のライオンと戦わせて遊びたいんだえ!」

 

 聞く耳を持たない息子にため息をつく父親。しょうがないので護衛を呼び息子に聞こえないよう指示を出す。

 

 「適当に下自民から美人を取ってくるんだえ。 それを九蛇の奴隷と息子には言っておくんだえ。」

 

 そのあと息子には九蛇の奴隷を何とかして連れてこれることを伝える。

 息子はやったえ!! やったえ!! お父上様大好きだえ!!と飛び上がって喜んでいる。

 

 そして護衛に行けと目配せし護衛が出て行くと……

 

 ドガーーーーンッ!!!

 

 

 大きな破壊音と共にオークションハウスの壁が粉砕した。

 

 粉砕した壁の向こう側には怒りの表情を滲ませている武器を持った女たちが居た。

 先頭に立っていた美しい女、グレイスが後ろにいる船員たちに向かって命令を下す。

 

 「誇り高き我が九蛇海賊団よ!! この場にいる者たちを一人残らず討ち果たすのじゃ!!」

 

 『うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ』

 

 命令を下した瞬間後ろに控えていた九蛇の戦士たちがそれぞれ武器を持ちオークションハウスに残っている客たちに襲い掛かっていった。

 

 

 

 



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第5話

こんにちはC3POです。
感想で主人公の発の制約の事を指摘されたので原作を読み返したところ私が制約部分を理解できていなかったことが分かりました。

ですので3話に書いてある念能力の制約部分を少し変えています。


 意味が分からない。

 

 海軍本部元帥コングは部下からの緊急連絡があまりにも常軌を逸したものだったため一時的に思考停止してしまった。

 

 数時間前に九蛇海賊団が天竜人及び各国の貴族、富豪達が居たシャボンディ諸島のオークションを襲撃し中にいた者達のほとんどが死亡または重傷。 死亡者には天竜人も含まれておりシャボンディ諸島駐在の海兵から直ちに応援を求む、と。

 

 そして現在九蛇海賊団は1番GRのヤルキマン・マングローブに火を放ち宴会中であると。

 

 眩暈がした。

 

 「コ、コング元帥! 大丈夫ですか!」

 「あ、ああ。大丈夫だ」

 

 思わず倒れそうになるコングを部下が支える。

 

 「…なぜ九蛇海賊団はヒューマンショップを襲撃したのだ…?」

 襲撃の動機が分からなかったためコングは部下に質問する。

 どんな動機があれば世界貴族を殺害するというのだ。

 

 「おそらくですが…一週間前に九蛇の女がヒューマンショップで売られたらしいので、そのことでしょう…。仲間を取り返すためと、報復のためかと思われます」

 

 コングはいったん深呼吸しこの大事件の対処に動く。

 

 「世界貴族が殺されたのだ。大将が始末に行かなければならん。今はマリンフォードにいるのはセンゴクだったな……よし! センゴクに伝えろ! 今すぐシャボンディ諸島に行き九蛇海賊団を殲滅せよと!」

 「ハッ!」

 

 部下の海兵はコングに敬礼するとすぐさまセンゴクのもとへ向かう。

 

 もうすぐ自分は世界政府総帥に就任すると言うのになぜこんな事件が起こるんだ…

 

 そう思うが嘆いていても仕方がないと首を振り事件の後に天竜人から来るであろうクレームへの対処を考え始めたのだった。

 

 

 

 

 時は少し遡る。

 

 

 

 現在九蛇海賊団がオークションの客や警備兵を蹂躙している最中、ベルゼリスはオークションのオーナーを引きずってある物を探していた。

 

 「ひぃ…そ、そこにある扉が武器庫だ! お前が探しているものもそこに一つ入ってるよ! 聞かれた事は全部話したんだから助けてくれよぉ…なぁ…頼むよぉ…」

 

 鼻はへし折れ顔中から色んな汁を垂れ流しオーナーはベルゼリスに懇願する。

 「いいよ。私は殺さない」

 

 ベルゼリスのその言葉に男はホッっと安堵の息をつくが内心では腸が煮えくり返っていた。

 

 ──必ずこのガキぶっ殺してやる……!!

 

 そう決意したが突如自分の頭をベルゼリスに掴まれ困惑する。

 「え!あ、あの…助けてくれるんじゃ…」

 「だから、私は殺さないよ…私は」

 そう言ってベルゼリスは未だ暴れ続ける九蛇達がいる客席に向かってオーナーを投げ飛ばす。

 

 「う、うわああああぁあぁあああぁぁぁ!!!」

 

 ちょうど飛んだ先には剣を振り回している仲間の姿が見える。

 

 ザシュッ

 

 そんな音と共にオーナーの体は上下に両断され絶命する。

 

 それを見てベルゼリスはそろそろ終わりそうだと思い探していた物を手に入れて仲間たちのもとに戻って行った。

 

 「つまらんのう…もう終わりか…」

 グレイスは不満げな表情を隠しもせず呟く。 

 

 ここにくるのは金持ちばかりなどだ。中には腕の立つ護衛を連れて来ている者もいたが覇気使いの九蛇の戦士に勝てるはずもなくほとんどが一合で地に沈んだ。

 

 「グレイス様。この店のオーナーに話を聞いたところ世界貴族の天竜人を私達が殺害したためもうすぐ中枢の最高戦力と言われている海軍大将が私達を討伐しに来るそうです。以前戦った海軍中将よりも遥かに強いと聞きましたので、そろそろ撤退しませんか? ここにはユーリンは居ないようですし一度ッ!」

 そこまで言いかけた所でグレイスからとんできた蹴りを片手で受け止める。

 

 「ベルゼリスよ…お主まさか我らが負けるとでも思うておるのかッ! 男など我らの敵ではないわ! 向かってくるものはすべて蹴散らせばよい。ただそれだけの事じゃ」

 そう吐き捨てるグレイスは完全に海軍を舐めているようだ。

 

 この女今までに強い海兵と戦ったことがないのでは…? とベルゼリスは思うが口に出したらまた面倒な事が起きるので黙っておくことにした。

 

 いざという時は姉妹以外の九蛇は囮にし見捨てよう。そう思うくらいにベルゼリスは九蛇海賊団に嫌気が差していた。

 グレイスはバカだ。船員のほとんどもバカだ。戦う時も突撃一択。 

 

 おそらく今回の件でグレイスは死ぬだろうなぁ…とベルゼリスは思う。自分の姉達はグレイスをかなり慕っているのでできれば見捨てたくないが、姉の命には代えられないのである。

 

 問題は来るであろう海兵たちにどうやって対処するべきか…。

 とりあえず大将にはグレイスが突撃すると思うので時間稼ぎくらいにはなるだろう。

 しかしこっちは悪名高い九蛇海賊団だ。全員が覇気使いだと認識されているのでかなりの兵力を派遣するだろう。もしガープとセンゴクとゼファーの内二人以上来たら気絶させてでも姉達を連れて逃げようとベルゼリスは考えている時、自分を呼ぶハンコックの声に気づきハンコックのもとに駆け寄る。

 

 「ベル~今からでっかい木に火をつけた後海軍が来るまで宴だってグレイス様が言ってたわよ。今度は強い敵がいるといいわね!」

 

 何考えてんだあのバカ。

 

 

 

 

 

 

 シャボンディ諸島60番GR 海軍駐屯所及び、政府関係者出入り口にて

 

 

 「センゴク大将! 部隊の編制完了しました!」

 「そうか! ご苦労! 皆よく聞け! 世界貴族と各国の貴族達を殺害した九蛇海賊団をこれより殲滅に向かう! 絶対に油断するなよ! 敵は全員が一流の覇気使いだ! 白ひげの部下たちにも劣らん強敵だと思え!」

 『ハッ!!』

 

 そこには数百の海兵が整列していた。

 そこにいる海兵は皆センゴクが普段から率いている部下たちだ。

 白ひげや海賊王とも戦闘経験のある歴戦の強者揃いのセンゴク自慢の部隊である。

 

 「センゴクさ~ん…偵察に行った兵が戻ってきたよォ~…」

 

 部下たちを見ていたセンゴクに黄色いスーツを着た巨大な男が間延びした独特な口調で声をかける。

 

 「ボルサリーノか…」

 

 センゴクは自分より階級が一つ下の中将ボルサリーノを見て名前を呟く。

 そして確信する。大将である自分と自分が鍛え上げた部下たち。そして自然系悪魔の実『ピカピカの実』を食べたボルサリーノ。これだけの戦力があれば如何に戦闘部族九蛇といえど必ず勝てると。

 

 そして自分の前に偵察に行った兵が来て報告をする。

 

 「ほ、報告します! 現在九蛇海賊団は船を停泊してる41番GRにて宴会を行っております!」

 

 まだ宴会しているのか……

 

 思わずキレそうになるセンゴクだが怒りを抑え好機だと思う。

 九蛇は自分たちの強さに絶対的な自信があり実際に強いが慢心することも多い。

 

 海軍の資料や報告書に載っている事実だ。

 

 こっちにはボルサリーノが居るため九蛇は奇襲に対応できないだろうと考えて策を練っていく。

 

 「部隊を三つに分けろ! 一つは私と共に来い! もう一つは真正面から九蛇海賊団に向けて前進せよ! そしてボルサリーノ! 部隊を一つ率いて側面から奇襲をかけろ! タイミングはお前に任せる!最初の奇襲で船長のグレイスを狙え! 奇襲が成功しようが失敗しようが奇襲開始と同時に全部隊で突撃する!」

 

 『ハッ!』

 「了解~奇襲は得意だからわっしに任せるといいよォ~」

 

 こちらの戦力は充分だ。部下たちの士気も高い。 

 

 油断できる相手ではない。いままで九蛇には何度も煮え湯を飲まされ続けたのだ。

 

 これでようやく悪名高い九蛇海賊団を仕留められると思いセンゴクは口角を僅かに上げた。

 

 

 



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第6話

 「もしも~し…センゴクさ~ん……あと十秒で奇襲掛けますよォ~」

 「分かった。我々は奇襲に合わせて突撃し、一網打尽にする」

 「はぁ~い」

 

 そう言って電伝虫を切ったボルサリーノは未だに宴会中の九蛇海賊団を見渡す。

 

 ──油断のし過ぎにもほどがあるよねぇ~

 

 胸中でそう呟くボルサリーノは最初に奇襲の標的である九蛇海賊団船長グレイスを確認。

 

 指先の照準をグレイスの頭部に合わせ自分の得意技である光のビームを放つ。

 

 

 

 

 

 直前に真横から覇気を纏った鋭い斬撃が自分に襲い掛かりグレイスへの不意打ちを急遽変更、慌てて躱したつもりだったが右脇腹に深くはないが浅くもない切り傷が走る。今の斬撃が轟音を立て地面に激突し、その大きな音で宴会中の九蛇海賊団がこちらに気づいた。

 

 奇襲は失敗だ。

 

 ボルサリーノは奇襲失敗の原因となった敵の姿を見て驚愕する。

 

 赤い髪を肩まで伸ばした身の丈よりも大きな薙刀を持った人形のように整った顔立ちの少女。

 その少女のあまりにも幼い見た目と見た目に似合わぬ覇気を纏ってこちらを見据えている様子にボルサリーノはつい質問してしまう。

 

 「きみぃ~もしかして九蛇海賊団の子かァ~い?」

 「そうだ」

 

 その返答を言った直後、少女──ベルゼリスは武器をボルサリーノに向かって切り上げる。

 その斬撃を紙一重で躱したボルサリーノは右手の指二本に光を集めベルゼリスの目に向かって発光させ目つぶしを行う。が、それを読んでいたベルゼリスは目をつぶったまま『円』でボルサリーノの動きを先読みしボルサリーノの左足を踏み逃がさないようにすると覇気と『凝』でオーラを集めた右ストレートを叩き込む。

 

 「ぐぅッ」

 

 ボルサリーノは武装色の覇気と六式の鉄塊を用いてベルゼリスの攻撃を受けたが、その見た目に反した一撃はボルサリーノのガードの上から体に伝わりボルサリーノは血を吐きながら勢いよく背後に吹きとばされる。

 

 『ボルサリーノ中将!?』

 

 次期大将確実と言われ悪魔の実の能力だけなら恐らく最強に近いと言われているピカピカの実の能力者であるボルサリーノが幼い少女に殴り飛ばされる光景はボルサリーノの強さを知っている海兵達にとって信じられない事だった。さらに追撃をかけようとするベルゼリスだが突如動きを変え背後に大きく飛び退く。

 

 直後、轟音と共に先ほどまでベルゼリスが居た地面が大きく抉れ小さいクレーターを作っている。 もしベルゼリスが気づかなかったら大きなダメージを受けていただろう。 

 

 「ボルサリーノ!? 大丈夫か!?」

 

 既に能力を使って大仏の姿になっているセンゴク大将は血を吐いて地面に膝を突いているボルサリーノに駆け寄る。しかしこちらへの警戒は怠っておらず、ベルゼリスが今攻撃したとしても通じないだろうことがわかる。

 

 ベルゼリス自身もボルサリーノはともかくセンゴク相手ではかなり厳しいと感じ、当初の予定通り海軍大将にはグレイスを宛がいその間に他の海兵を殲滅しようと考える。

 

 そしてボルサリーノが腹を抑え立ち上がると同時に九蛇海賊団も戦闘態勢に入り自分の傍に駆け寄ってきた。

 

 

 

 

 シャボンディ諸島41番GR

 

 今この場所ではセンゴク大将率いる海軍精鋭部隊とアマゾンリリー皇帝グレイス率いる九蛇海賊団が睨みあっていた。 

 

 「ベルゼリス…あれが海軍大将とやらか?」

 「ええ。あの黄金の肌の巨大な男がそうです。私では厳しいのでグレイス様にお願いしたいのですが…」

 「無論あれの相手は妾がやる。手を出すなよ。おまえはあれの横におる黄色い男を相手にせい。あれも中々強いようじゃ。他の者では厳しかろう」

 

 グレイスは余裕の表情で海兵たちを見、ベルゼリスに指示を出す。実際にセンゴクを見れば実力差が分かるかと思ったがグレイスには無理だったようだ。 

 

 「よくも舐めた真似をしてくれたな…! 九蛇海賊団!! お前たちはここで終わりだぁ!!」

 

 そのセンゴクの怒号を合図に海軍と九蛇の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 九蛇と海軍が戦っている場所より少し離れた位置にある開けた場所。

 

 そこでは海軍中将ボルサリーノと九蛇海賊団船員のベルゼリスが戦っていた。

 

 グレイスとセンゴクの一騎打ちをお互いに邪魔をさせないように二人の戦闘場所から離れボルサリーノとベルゼリスも一騎打ちをしていた。互いが互いの強さを先の戦闘で把握し頭同士の一騎打ちを邪魔されたらまずいとお互いに理解したからである。

 

 『天叢雲剣(あまのむらくも)

 ボルサリーノは自分の身長ほどもある光の剣を作りベルゼリスと白兵戦を行う。

 

 『死蔵の薙刀(バンデッドグレイブ)

 ベルゼリスも自分の能力の薙刀を駆使しボルサリーノと切り結ぶ。

 

 二人は互いに攻撃を命中させ、防ぎ、躱し、受け流し、払い、逸らし、そして鍔迫り合いになりお互いが同時に睨みあう。

 

 「いやァ~…君ィ~とんでもなく強いねェ~…今幾つだァ~い?」

 「八歳と半年」

 「ええぇ~…冗談きついよォ~…わっしと互角に遣り合える八歳が居るわけないでしょォ~…」

 「本当だ。別に信じるかどうかはお前が決めることだ。おまえが好きに判断しろ」 

 

 ベルゼリスは話を終わらせ腕に『凝』をすると強引にボルサリーノを弾き飛ばし追撃に覇気を纏った斬撃を飛ばす。それをボルサリーノは余裕をもって回避しお返しにと指先からビームを連続で飛ばしてくる。

 

 ベルゼリスは『円』と見聞色の覇気でボルサリーノの攻撃を感知しビームの隙間を舞うように抜け、ボルサリーノに接近する。

 

 「接近戦だと分が悪いねェ~…悪いけどもう終わらせるよォ~…」

 

 ボルサリーノはそう言うと月歩で上空まで跳び上がりベルゼリスに向けて技を放つ。

 

 『八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)

 

 ボルサリーノは両手の親指と人差し指で円を作り、そこから無数の弾丸を放つ。小さな弾丸が光速でベルゼリスに向かって降り注ぐ。ベルゼリスはまたもや光の隙間を抜こうとするが隙間の間隔が狭く止むを得ず武装色の覇気と全身にオーラによる防御を行う『堅』で耐える。

 

 『八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)

 

 

 『八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)』 

 

 

 『八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)

 

 

 まるで嵐のようにボルサリーノは光の弾丸を一人の小さな少女に向かって狙い撃つ。

 何千、何万、と言うほどの弾丸の雨を降り下ろしようやくボルサリーノは地面に向かって降りる。

 

 「これだけやれば流石に死んだよねェ~…子供を殺すのはいい気分じゃないけど、捕まってインペルダウンに行くよりはここで死なせてやったほうがいいよねェ~…」

 

 そう言ってため息をつきながらボルサリーノはベルゼリスを憐れむ。

 天竜人を殺害した海賊団の一味というだけで一生追われ続けるだろう。できれば幼い子供を殺したくなかったが生け捕りにできるような相手ではないしできたとしてもまず確実にインペルダウン行きは免れないだろう。まだ十歳にも満たない子供だがインペルダウンで一生拷問を受け続けるか極刑になるかのどちらかしかない。

 それならいっその事ここで殺してやるのが彼女にとって一番いいだろうと考え微塵の容赦もなくボルサリーノに攻撃させた。

 周りは土煙に焚かれて見えないが見聞色に反応はないのでまず間違いなく死んだのだろう。

 念のため死体を確認しようとボルサリーノは自分の攻撃で起きた土煙が収まるのを待っていた。

 

 しかし、ズバッっという音と共にボルサリーノの足から血が噴き出しボルサリーノは膝を突く。

 

 「あれェ~君どうして生きてるのォ~…わっしの攻撃は当たってたし…耐えられるような攻撃でもないし…見聞色の覇気で調べたけど君の声は聞こえなかったよォ~…一体どういうことなんだァ~い…?」

 

 背後からボルサリーノの脚を深く切り裂いたベルゼリスにボルサリーノは疑問を投げかける。

 現れたベルゼリスはもともと露出が多かった九蛇の民族衣装がボロボロになり背徳的な見た目に変わり、体中から血を流しているがまだまだ戦闘は続行可能だろうと言うように覇気が満ちている。

 

 ベルゼリスは『八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)』を武装色の覇気と『堅』で耐えきった後『死蔵の薙刀(バンデッドグレイブ)』を消し自分も『絶』になり土埃に紛れる。そしてボルサリーノの背後から現れ『死蔵の薙刀(バンデッドグレイブ)』を具現化し移動の要である脚を切り裂いたのだ。

 

 

 「敵に自分の手札を明かすほど馬鹿じゃない。分からないまま死ね」

 「まあそうだよねェ~…でもわっしはまだまだ死なないよォ~…」

 

 ボルサリーノはそういうがそれが虚勢だということは明らかだった。

 『八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)』は大したダメージにはならず脚も深く切り裂かれては月歩で空にも逃げられない。ベルゼリスとこの脚で白兵戦など勝負にすらならず勝敗はすでに決まっていた。

 

 ベルゼリスはボルサリーノにゆっくりとした速度で歩き出す。

 それを警戒するボルサリーノだが突如ベルゼリスの持っていた薙刀が消え、驚愕する。

 

 (能力者だったのかい? しかしなんで武器を消した? 自分が能力者だとばらしてどんな意味がある?)

 

 分からない。ベルゼリスの行動が分からず敵の目の前で思考し一瞬の隙が生まれ、ベルゼリスはボルサリーノに急接近し何も持っていない腕を振る。

 

 瞬間……

 

 「えっ」

 

 ボルサリーノの体は肩口から斜めに切り裂かれ、ボルサリーノは再び膝を突く。

 

 ベルゼリスがボルサリーノに見えるように『死蔵の薙刀(バンデッドグレイブ)』を消したのはこの一撃のためである。

 

 念能力の応用技『隠』は自分のオーラを見えにくくする技だ。ベルゼリスの『死蔵の薙刀(バンデッドグレイブ)』はオーラを使って具現化した武器なので『隠』を使うことで他人からは見えなくすることも可能である。

 ボルサリーノの目の前で武器に『隠』を使うことで無手を装うと同時に相手を驚愕させ隙を作り、近づいて切り裂く。これがベルゼリスが行ったことである。

 

 「まいったねェ~……こんな子供にやられちゃうなんて……夢なら覚めてほしいよォ~……」

 呼吸するのも苦しそうなボルサリーノに近づくベルゼリス。

 

 「夢じゃない…お前は油断して子供の私に負けたんだよ」

 

 そう言ってベルゼリスは『凝』で右手にオーラを集めボルサリーノに降り下ろす。

 

 その一撃でボルサリーノの意識は途絶えるのだった。

 

 

 

 

 

 



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第7話

 ズガーンッ!!

 

 激しい轟音が鳴り響く。

 

 先ほどまで大砲が爆発するような音が頻繁に鳴っていたがそれもついに終わる。

 

 海軍大将センゴクと九蛇の皇帝グレイスの戦いが終わったのだ。

 

 「そ、そんな!?グレイス様が男なんかに……!」

 「嘘よ!?そんなはずないわ!?何か卑劣な事をしたに決まってる!」

 「一対一でグレイス様が負けるなんて……!ありえないわ!?」

 

 九蛇海賊団の船員たちは目の前の光景が信じられなかった。

 いつだって誰よりも強く、美しく戦っていた自分たちの王が地に臥している。

 今までどんなに強い敵にも怯まず戦いを挑み最後には必ず勝利する九蛇の皇帝が。

 

 一騎打ちで敗北した。

 

 体中から血を流しもはや意識すらないグレイス。手足は本来曲がらない方向に向いており、もし意識があったとしてもこれ以上戦うことはできないだろう。

 

 自分たちの船長の敗北した姿を見て戦意を喪失する九蛇海賊団。ある者はグレイスの姿を呆然と見て、ある者は泣きながら蹲り、ある者はグレイスを倒した敵に怯え尻餅をついている。

 

 最早勝負ありだ。

 

 「終わったな……」

 「お疲れ様です! センゴク大将!」

 「流石です! あの九蛇の王をこんなにあっさりと!」

 

 センゴクの姿はそれなりの傷が幾つか付いて血を流しているがただそれだけなのだ。

 グレイスの斬撃はセンゴクが能力を発動して大仏になった姿の防御を突破することができなかったのだ。

 センゴクは動物(ゾオン)系ヒトヒトの実モデル大仏の能力者だ。巨大化し肌は黄金色に変わり大仏のような姿になり衝撃波を放つことができる。

 

 「九蛇海賊団!! 貴様らの船長は私が倒した! 最早何をしようと無駄だ! 大人しく降伏すれば命は奪わん!」

 今この場限り、だが…。

 

 戦意を喪失した九蛇海賊団の生き残りはその言葉に武器を置こうとする。

 その様子を見たセンゴクは部下に九蛇達の捕縛を命じた瞬間……。

 

 ドクン!

 

 『ウッ!』

 

 自分達を強烈な寒気が包み込みある者は失神し、ある者は体を抱きしめ座り込む。

 

 「こ、これはっ!?」

 

 ──覇王色の覇気か……! いったい誰が……!

 

 誰の仕業か考え始めたセンゴクに巨大な斬撃が襲い掛かる。センゴクは自分の足元で倒れているグレイスを掴み後ろに大きく跳ぶ。そして斬撃を放った者を見ると驚くべき光景があった。

 

 それは自分の信頼する部下ボルサリーノが薙刀を持った小さな少女に襟を掴まれ引きずられていると言う信じられない光景だった。

 

 ──こいつは…ボルサリーノの奇襲を妨害し手傷を負わせた九蛇の少女…! どうやってボルサリーノを…!

 

 ボルサリーノには両足に深い切り傷が刻まれている。頭からも血を流し完全に意識がないようだ。

 そしてボルサリーノの両腕には手錠が付けられている。あの手錠は海軍の技術チームが作ったもので間違いなく海楼石入りの手錠だ。

 対して少女のほうは服がボロボロになっている事と多少の血が流れた痕があること以外何もない。

 息すら切らしていないのだからまだ戦えるのだろう。

 

 この少女とグレイスの二人掛かりなら自分もかなりてこずると思いボルサリーノを向かわせたのだ。

 最初にボルサリーノを殴り飛ばした事は驚いたがまだ経験の少ないであろう子供。戦闘経験の豊富なボルサリーノなら問題なく勝てると思っていたのでセンゴクにとってこの結果は予想外だ。

 

 そして九蛇の少女─ベルゼリスはボルサリーノの首を掴み上げセンゴク達海軍に向かって警告する。

 

 「全員動くな…動いたらこいつの首を圧し折る」

 「クッ」

 

 思わず歯噛みするセンゴク。将来確実に大将まで上り詰めるであろう有能な海兵をこんなところで失うわけにはいかない。

 今は大海賊時代なのだ。どれだけ海賊を殲滅しても無限のように海賊が湧いて出てくるのだから絶対にボルサリーノを助けなければ……!

 

 焦るセンゴクと海兵たち。しかしふとセンゴクは思い出す。

 

 「貴様の船長は私が倒した。今私が気絶したグレイスを右手に掴んでいるだろう。ボルサリーノを殺せば私が貴様たちの船長を殺すぞ…!」

 

 そう怒鳴りつけるセンゴクは先ほどまでの焦りはない。こう言えばボルサリーノを殺すことなどできないと判断したからだ。ただの下っ端ならば見捨てられることもあるだろうが生憎自分が掴んでいる者は九蛇の皇帝であるグレイスなのだ。このまま人質交換か時間稼ぎでもしていれば自分達側が好転すると思っているのだ。

 人質交換の場合交換中に相手の隙ができたらそこで自分が仕留める。この状態のまま時間稼ぎをされても九蛇には援軍は絶対に来ないが自分達には来るかもしれないのだ。

 

 常識で考えた場合はそうなのだろうが。

 

 「好きにしろ。そいつが死んでも誰かが新しく皇帝になればいいだけだ」

 「何だとっ!」

 

 思わず驚くセンゴク、そして九蛇の戦士たち。当然だ。自分たちの王を仲間が見捨てようとする発言をしたのだ。本来皇帝を守るはずの九蛇の戦士が王を切り捨てたために皆驚愕している。

 

 「ベルゼリス様!? どうしてですか!? どうしてグレイス様を見捨てるような事を……!」

 仲間達から当然の非難がベルゼリスに殺到する。

 ベルゼリスは自分に対する非難に口を開き仲間たちに説明し始めた。

 

 「攫われた仲間を取り返そうとするのはまだいい……人身売買などやっている客たちと店の人間に報復するのも理解できる……だが…世界貴族を傷つければ海軍の最高戦力が我々を殺しに来ると私は皆に伝えたはずだ。私達九蛇は確かに強いだろう。実際に今まで負けたことなんてないだろう。しかし、だからと言って慢心して敵の情報も集めず宴会し、酔っぱらったまま戦って負けるなんて情けないにもほどがある。頭も悪い…部下の進言も聞かん…油断して一騎打ちで負ける…このままそいつを皇帝にしていればその内九蛇は滅ぶだろう…現に今九蛇海賊団は壊滅の危機に瀕しているだろう。違うか? そいつが死んでも代わりは居るんだ。グレイスは見捨てろ」

 

 ベルゼリスは淡々と冷酷に仲間達を説得し始める。次期皇帝と目されるベルゼリスの言うことに納得するものが出始め非難の眼差しがなくなり、ついには反対意見もなくなった。

 

 その様子に困るのはセンゴクだ。見たところ本気であのベルゼリスと言う少女は皇帝のグレイスを見捨てるつもりのようだ。他の九蛇の戦士達も説得されこれでは下手なことをすると本当にボルサリーノが危ない。

 

 「さて……静かになったところで交渉を始めよう」

 「交渉だと…?」

 

 思わず呟いた。いったい何を要求するのか……

 

 「まず聞きたいことがある。貴様らはどんな命令を受けてここに来たんだ?」

 「…天竜人および各国の貴族や富豪達を殺害した九蛇海賊団の殲滅だ…」

 「ならばグレイス一人の首でどうだ?最低限こいつの身柄があればマリージョアの天竜人達に顔が立つだろ?」

 

 ベルゼリスの言葉に首を横に振るセンゴク。

 

 「無理だ…元々お前達九蛇は見境なく船を襲い物資を奪い人を殺していく…民間からもひどい討伐要請がある上に我々海軍や世界政府の役人たちも被害にあう。そして今回の天竜人殺害事件…これだけやれば九蛇は一人残らず殲滅対象だ。せめて天竜人に手を出さなければグレイスの七武海加盟と引き換えにお前たちを討伐対象外にできたのだがな…」

 

 そういえば政府から伝書バットが何度も来ていたな。グレイスは一度目を通すと返事を書かずに伝書バットを切り捨てたため今までに四回も伝書バットが来ていたからそろそろ自分が断りの返事を書こうと思っていたところだった。

 

 「何より…ボルサリーノを倒したお前だけは絶対に見逃すことはできん」

 

 まあそうだよな。こんな子供がピカピカの実の能力者であるボルサリーノを倒したんだ。これ以上強くなる前に殺しておきたいと思うのが当然だ。

 

 「でもこの海兵を見捨てることはできないだろ?」

 「……」

 思わず押し黙るセンゴク。まったくもってその通りだ。

 

 「この海兵はかなり強かった…生きていればいずれ海軍大将にも昇格するだろうな。ここでコイツが死ぬのは海軍にとって大きな損失なんだろ? それとも九蛇を殺すための必要な犠牲として容認するのか?」

 「そんなことができるかっ!!」

 「じゃあどうするんだ? グレイス以外の私達も逃がすわけにはいかないんだろう? このまま時間稼ぎを続けるのならコイツは殺すぞ」

 「ぐ、ぬぅ……」

 

 センゴクはとても悩んでいる。どう考えても九蛇を見逃すことはできない。

 かといってボルサリーノを見殺しにするのはとんでもない損失だ。割に合わないどころではない。

 どうしたらいいのか高速で思考しているセンゴクにベルゼリスは声をかける。

 

 「だったらグレイスの他に私も残ろう。皇帝と次期皇帝確実と言われた私が残るんだ…これで文句はないだろ? 他の仲間たちは見逃せ」

 『だめです!! ベルゼリス様!!』

 

 思わず九蛇の仲間たちが悲鳴のように叫ぶ。だが、ベルゼリスはそれに応じない。

 

 「聞き分けろ九蛇海賊団…今あの男が欲しがっているのはこの海兵と私の首だ…このまま時間を稼がれては奴らに援軍が来るかもしれない…そうなれば更に我々は不利になるんだぞ」

 『……』

 ベルゼリスの言葉に仲間たちは何も言えなくなる。そして皆が絶望し涙を流し始める。

 

 「さて…この条件ならどうだ? まず私とグレイス以外の九蛇海賊団がこのままアマゾンリリーに帰還する。九蛇の船は見ての通り獰猛な毒海蛇「遊蛇」が船を引いているため出航して一時間もすればお前たちの軍艦では追いつけないだろう? 今から一時間お前たちが動かないのならば一時間後にこの海兵を無事にお前たちに渡そう。悪い話ではないだろう?これ以上の妥協はできんぞ」

 「ふむ」

 

 確かに悪い話ではない。

 今現在センゴクが絶対にやらなければならないことはボルサリーノの救出とベルゼリスを捕まえる、または殺すこと。九蛇の皇帝グレイスは既に倒した。ベルゼリスもここに残り一時間後にはボルサリーノも帰ってくる。

グレイスとベルゼリスさえ残るのならば他の九蛇は今は逃がしてもいいだろうと判断する。

 

 「いいだろう…ボルサリーノを一時間後に無事に返し、お前とグレイスがここに残るのならば他の九蛇達は見逃そう」

 「ああ。それで構わない」

 

 そのベルゼリスの言葉に泣きながらベルゼリスを見つめる九蛇の仲間達。

 ベルゼリスが一睨みすると気絶や負傷し動けない九蛇の戦士、そして既に事切れた仲間の亡骸を抱え船に運び始めた。

 どうやら自分の姉三人は気絶していたようだ。

 もしハンコック達が気絶していなかったら三人ともこの条件に反対し、説得するのはベルゼリスにできなかっただろう。そうなった場合無理やり気絶させるしか方法は浮かび上がらないため正直助かったのだ。

 

 自らを犠牲にする条件を付けたベルゼリスにセンゴクや他の海兵たちは痛ましいものを見るような視線を投げかける。しかしベルゼリスは九蛇の戦士で海賊だ。殺しも略奪も今までしてきただろう。だから彼女を殺すことは仕方ないことだと己を納得させセンゴクはせめて彼女との条件は守ろうと思った。

 

 しかしベルゼリスはこのまま一時間後にボルサリーノを開放する約束は守るつもりだが大人しく捕まるつもりはないのである。

 ベルゼリスが出した条件は一時間後にボルサリーノを無事に返すことのみ。返した直後逃げ出す。それができなくても気絶したボルサリーノ目掛けて覇気を込めた斬撃を飛ばし続ければセンゴクはボルサリーノを守るしかないのだ。それでセンゴクを倒せればそれでよし。できなくても足手まといが居ない自分なら逃げることくらいできるだろうと思っているためこの条件で全く問題ないのである。

 

 まあグレイスの事は置いていくが仕方ないことである。

 

 ベルゼリスがそこまで考えたとき既に九蛇海賊団は準備を終えたようだ。

 皆が泣きながら自分に手を振っているのを確認し自分も手を振り返した直後に…

 

 ドクン!

 

 と自分以外の覇王色の覇気が二つ周囲にまき散らされ残った数少ない海兵たちが気絶していく。

 

 「な、何ぃ!?いったい誰の覇気だ!?」

 

 驚愕しながら辺りに叫ぶセンゴクの前に二人の老人が現れる。

 

 「私たちの覇気だよ……久しいなセンゴク…」

 「何年振りかニョ…センゴク…」

 

 センゴクはその余りにも有名な二人の老人たちを知っていたため狼狽しながら問いかける。

 

 「なぜだ…! なぜこんな時に出てくるのだ!? レイリー!! グロリオーサ!!」

 

 ここに二人の強者が現れた。

 




戦闘描写って難しいですね…



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第8話

 冥王シルバーズ・レイリー。

 偉大なる航路を唯一制覇した海賊王ゴールド・ロジャーの右腕でありロジャー海賊団の副船長だ。

 

 アマゾンリリー先々代皇帝グロリオーサ。

 グレイスを除けば唯一生きている九蛇の皇帝だった老婆。

 センゴクが今まで何度も戦かったが仕留めきれなかった熟練の覇気使いだ。

 

 この世界でも上位に位置する強者が二人もセンゴクに敵意を向けている。

 

 この二人の覇王色の覇気で九蛇海賊団との戦いで生き残った海兵が全て気絶してしまい、海軍の残った戦力は大将センゴクただ一人になってしまった。

 

 「九蛇海賊団! まだ出航してはならニュぞ! わしはアマゾンリリー先々代皇帝グロリオーサじゃ!! 今しばらくわしが指揮をとる!! 異論はニャいな?!」

 『ハ、ハイッ!』

 

 グロリオーサの老婆とは思えぬ大声と迫力に思わず九蛇海賊団は先々代皇帝だと知り、驚きながらも返事をする。

 

 それに待ったをかけるのはセンゴクだ。

 

 「待てっ! グロリオーサ! いきなり現れて何を言っているんだ!? 我々海軍はもうそこにいるベルゼリスと約定を交わしたのだ! 外野のお前が口を挟むな!!」

 

 海軍の指揮官である自分に九蛇海賊団の暫定指揮官であるベルゼリスが交渉し、お互い納得できる結果となったと言うのに第三者が現れて一方的に指揮を出している。

 とても容認できることではない。

 

 しかしセンゴクの抗議もグロリオーサはセンゴクを一瞥し九蛇海賊団への指示を続ける。

 

 グロリオーサの態度にセンゴクが実力行使をしようとした瞬間――――

 

 「彼女と右腕はもらうぞ」

 

  ボキッ

 

 「ぐわぁあああ!?」

 

  レイリーはセンゴクがグロリオーサに意識を向けた隙を突きセンゴクの右肩の関節を外し右手から手放したグレイスを自分の懐に引き寄せ九蛇海賊団の船まで跳躍し、近くにいる船員にグレイスを渡すとベルゼリスの横に移動する。

 「味方…と考えていいのか?」

 「ああ、私とグロリオーサは君たちの味方だよ」

 

 ベルゼリスの問いにレイリーは答える。そしてレイリーは肩を抑えているセンゴクに向けて剣を構えた。

 

 「レイリー! グロリオーサ! お前達が九蛇に手を貸すのか!? 不可解だ! レイリーはグロリオーサについてきただけなのだろうが、グロリオーサ! もうお前は九蛇と縁を切っているはずだ! アマゾンリリー先代皇帝からお前は九蛇を捨てた裏切り者扱いされたのだろう? そのお前がなぜ九蛇海賊団を助けるのだ!!」

 

 センゴクはあらん限りの声を上げて九蛇海賊団を助けようとする二人に怒鳴り散らす。

 

 「なに、私はただの付き添いだよ。グロリオーサのね」

 「つい先日新世界からシャボンディ諸島に来たばかりなニョだが、九蛇海賊団が来たと諸島中がパニックになっておるではニャいか。ヒューマンショップを潰し客を襲いおまけに天竜人まで手にかけたと大騒ぎじゃ。気にニャってちょっと見に来たニョじゃよ」

 

 観戦気分で野次馬に来たと言い放つグロリオーサにセンゴクが激怒する。

 

 「面白半分に見に来ただけならば最後まで大人しくしていろ!! 私は今忙しいんだ! お前達とこんな時に遊んでいる暇などない!! この件が終わってからにしろ!」

 

 「そのつもりだったんだが…なぁグロリオーサよ…」

 「うむ。最早そういうわけにもいかなくニャった」

 

 そう言って二人はベルゼリスに視線を向ける。

 

 「先ほどの交渉、実に見事だったよ可愛いお嬢さん。船長を切り捨てたときは冷酷だと思ったが自分の身を犠牲にしてまで仲間を助けようとするとは…」

 「ベルゼリスと言ったか? そなたはここで死ぬには惜しい。そしてなによりも、そなたの覚悟が気に入ったニョじゃ。故に助太刀したまでよ」

 「そうか…礼を言うよ」

 

 どうやらレイリーとグロリオーサは自分を気に入ったため割って入ってきたようだ。

 本当はボルサリーノを渡した直後に逃げるつもりだったのだが確実に逃げられるとは言えないので正直助かる。

 

 その様子に焦るのはセンゴクだ。

 

 自分が掴んでいたグレイスは奪われ右肩の関節を外された。

 嵌めようと思えばできるのだがレイリーがそれを視線で阻止する。関節を嵌めようとしたらすぐさま切り込んでくるだろう。自分は右腕が使えずグレイスとの戦いで少しだけだが消耗している。

 しかもベルゼリスがボルサリーノを九蛇の船に投げ込んで仲間たちにそいつを抑えていろと指示をし、おまけにレイリー、グロリオーサと共に三人で自分を囲み始めた。

 ただでさえ一対一でレイリーに勝てるかわからないのにボルサリーノ以上の実力者が二人もこの場にいる。

 今までの人生でぶっちぎりの最悪な状況である。

 

 「小娘ぇ!! 私との約定はどうするつもりだァ!? ボルサリーノを返すのではなかったのか!?」

 「状況が変わったんだ…時間を稼いでも九蛇に援軍は来ないと普通思うだろう? むしろ時間稼ぎは海軍側に援軍が来ると思ったからあんな条件を出したんだ。冥王と九蛇の先々代皇帝が援軍に来た上にグレイスを取り返してくれたんだ。今のこの状況で私がグレイスと共に大人しく海軍に捕まるわけないだろ? 悪いがさっきの話はなかったことにしてくれ」

 「ふ、ふざけるなぁ!!!」

 

 怒髪天を衝く、といわんばかりに怒りの絶叫を上げるセンゴク。

 最早完全に立場が逆転した。

 

 「冥王、先々代皇帝、すまないが私と共にセンゴク大将を倒してくれないか? いい策を思いついたんだがまずはセンゴク大将を倒したい。そのあとに考えた策を実行するつもりだが二人に協力してもらえれば成功率が上がるんだ。私にできることなら可能な限り礼をするよ」

 「かまわんよ。私はセンゴクには少々個人的な因縁と恨みがあってね。ここで晴らすとしよう。三対一になってしまったが文句を言うなよセンゴク。これはお前達海兵の基本戦術と同じ袋叩きだ。お前達海兵の戦術を真似しただけなんだから卑怯なんて言うんじゃないぞ。ワハハハハハ」

 「実戦では卑怯卑劣は当たり前じゃ。わしらに文句を言うくらいならば対処できない自分を恨むんじゃニャ」

 

 三人とも話しながらも覇気を纏い始めそれぞれ武器をセンゴクに向けて構えている。

 最早完全に打つ手なしだ。

 

 「こ、この、海のクズどもがァあああああ!!!」

 

 憤怒の表情を浮かべ三人を罵倒した直後、三人の海賊がセンゴクに襲い掛かった。

 

 

 

  

  

 

 

 

 数時間後

 

 41番GRで気絶していた海兵の一人が目を覚ます。

 

 はて…自分は何をしていたのだろうか?

 

 気絶する前の何があったかを少しづつ思い出していく海兵。

 

 (たしかセンゴク大将が九蛇海賊団船長のグレイスを倒して…ボルサリーノ中将を倒した九蛇の少女がボルサリーノ中将を人質にとって…センゴク大将と交渉して…その後は…?)

 

 最後にある記憶は自分の身柄を差し出した九蛇の少女に泣きながら手を振る九蛇海賊団を見て、何者かの覇気に当てられた直後記憶が途切れている。

 

 「そ、そうだ! 皆は!?」

 

 全てを思い出した海兵はすぐさま倒れている仲間を見渡す。どうやら九蛇海賊団と戦い終わった後に生きていた海兵は全員気絶してるだけのようだ。皆自分と同じく誰かの覇王色の覇気で気絶したんだろう。

 

 しかし九蛇海賊団がここに居ないということは逃げられてしまったのだろうか?

 

 そんなことを考えながら気絶している仲間達を起こそうとしてふと気づく。

 

 「せ、センゴク大将!! ボルサリーノ中将!! 居ないんですか!? 居るなら返事をしてください! どこにいるんですか!?」

 

 そう。この場には倒れている仲間たちが居るのにセンゴクとボルサリーノだけが居ないのである。

 九蛇海賊団は消え、海軍の指揮官であるセンゴクとボルサリーノだけが居ない。

 この事実に気づいた海兵の顔は青ざめてしまい、すぐさま持っていた電伝虫を使い本部に連絡を入れコング元帥に報告する。

 

 

 

 

 マリンフォードにある元帥の執務室で海軍本部元帥のコングは信じられない報告に聞き返す。

 

 「…最近耳が遠くなってきたようだ…すまないがもう一度言ってくれないか?」

 「ほ、報告! センゴク大将率いる九蛇海賊団殲滅部隊は九蛇海賊団と戦闘し、センゴク大将は九蛇の船長グレイスを生け捕りにしましたがボルサリーノ中将が九蛇の戦闘員との一騎打ちに敗れ人質とされました。その後にセンゴク大将はボルサリーノ中将を倒した九蛇の戦闘員と交渉、内容は九蛇の皇帝グレイスと次期九蛇の皇帝であるその戦闘員が大人しく身柄を差し出すため他の九蛇を見逃すように要求されました。逃がしてくれるならばボルサリーノ中将を無事に返すと約束したためにセンゴク大将はそれを了承し交渉は無事に終わったのですが…」

 「ですが?」

 「突如巨大な覇王色の覇気が我々海兵を気絶させ、数時間後に自分が目覚めたときには他の海兵たちは皆気絶し九蛇海賊団は姿を消しセンゴク大将、ボルサリーノ中将が行方不明です。おそらくですが二人は九蛇海賊団かその関係者に攫われた模様です」

 「アパァアアアアアアアアアアアアアア!!?」

 

 その報告を理解したコングはムンクの如く叫び散らした。

 白目を剥き大声で叫ぶコングに声が聞こえた他の将校たちが何事かとドアを開け白目を剥いたコングを驚愕して見つめる。叫び終わったコングは集まった将校たちを無視し連絡をした海兵にすぐに医療班を送ると伝え電伝虫を切る。そして集まった海軍将校たちに簡潔に説明をする。

 

 天竜人を殺害した九蛇海賊団をセンゴクが討伐に向かった事。

 

 九蛇の皇帝グレイスをセンゴクが生け捕りにしたがボルサリーノが九蛇の戦闘員と一騎打ちで敗れ人質にされた事。

 

 その後に何者かの覇王色の覇気が海兵達を気絶させた事。

 

 気が付いた時には九蛇海賊団とセンゴク、ボルサリーノが消えたため二人は九蛇達に攫われたとの事。

 

 説明を聞いた将校たちは皆信じられないといった表情を浮かべている。無理もない。海軍の中ではセンゴクはガープと並び海軍の二枚看板と言われ次期元帥にとコングから直々に通達されているのは海軍の中では周知の事実である。能力に頼りすぎる癖のあるボルサリーノはともかくセンゴクまで攫われるなど、彼の強さを知っている者はとてもではないが信じられないのだ。

 

 しかし呆然としている暇はない。今は少しでも情報を集めセンゴクとボルサリーノを救出しなければならない。

 

 コングがそう決意し捜索隊の派遣を将校たちに指示を出し将校たちが退出した後コングの電伝虫が鳴り響く。

 

 即座に電伝虫を取ったコングだが連絡をしてきた相手は海兵ではなかった。

 

 「もしもし、九蛇海賊団の者だ。そちらはコング元帥で相違ないな?」

 

 それは自分達の仲間を攫ったと思わしき九蛇海賊団からの連絡だった。

 





 


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第9話

fgoと白猫とパズドラやってたら更新が遅くなりました。
周回数多すぎて辛いです。


 時間は少々遡る。

 

 ベルゼリス、レイリー、グロリオーサがセンゴクを気絶させグロリオーサが持っていた海楼石の手錠も嵌めて、捕えたセンゴクを九蛇の船に乗せてアマゾンリリーへ帰港し始めた頃。

 

 「それで、いったいどうするつもりなんだね?」

 レイリーがベルゼリスに尋ねる。

 グロリオーサも気になっていた様で視線はベルゼリスの方に向いていた。

 

 「簡単だよ。先ほど私がボルサリーノと言う男を人質にしてセンゴクに交渉したように、今度はセンゴクとボルサリーノの二人を人質にして世界政府と交渉するだけだ」

 「……難しいと思うぞ……天竜人を殺した時点で交渉の余地はないだろう。もうすぐ海軍本部に連絡が入るだろうし、海軍、世界政府のほとんどの兵力が血眼になって九蛇海賊団を探すだろう。もしかしたら凪の帯にある女ヶ島まで攻め込んでくるかもしれない。凪の帯を渡る手段があるか分からんが、なくても上から命じられたら死ぬ覚悟で凪の帯を進んで来るだろう。そのあたりは考えているのか?」

 「そうじゃな。天竜人の性格は自己中心的で傲慢じゃ。同じ天竜人が殺されたと言うニョにその始末を海軍ができなかったと耳に入れば必ず怒り狂い、どんな手段を使っても敵を討つじゃろう」

 

 二人とも顔を顰めて自分の意見を言いだした。

 普通に考えればそうなんだろうが九蛇と世界政府の戦争を回避する手段が一つあるのだ。

 

 「要は私たち九蛇が天竜人を殺してないということにすればいいんだよ。ちょうどいい生贄もシャボンディ諸島にいるみたいだしな。今回の天竜人殺害事件は九蛇海賊団は犯人ではないと海軍、世界政府を脅して世間に公表させればいいんだ」

 「ふむ。情報操作か……しかしいくら海軍の重要人物を人質にしたからと言ってそんな条件を飲むかね? あまり追い詰めすぎると相手は何をするか分からなくなるぞ」

 「世界貴族を殺されて下手人である九蛇海賊団を討伐に向かった海軍大将と中将が九蛇海賊団に捕まり人質にされました、なんて世間に公表できるはずがない。いや、できればしたくないはずだ。だから其処をつくんだ。世界政府にも海軍にも面子があるんだからその面子を守るのに協力する。それプラス九蛇海賊団船長が七武海に入る。それなら向こうも納得できるんじゃないのか?」

 

 おそらくこの条件なら確実に吞むだろう。

 ネックなのは早めに交渉しないとニュース・クーなどで世間に九蛇海賊団が何かしらの大事件を起こしたと記載され七武海加盟がやりづらくなること。

 もう一つは後の赤犬と呼ばれるサカズキ中将などの海軍強権派が上の命令を聞かずこちらと敵対すること。

 徹底的な正義を掲げているだけあってサカズキには話が通じない可能性が高い。

 これもちゃんと部下を抑えるようにと交渉の際に言わなくてはならない。

 

 「……よく考えているな。うむ……それならば大丈夫だと思うぞ」

 「グレイスが七武海となるニョか? お主、アヤツは七武海加盟を蹴ったと言わなかったか? グレイスが大人しく七武海に入るとは思えんぞ」

 「グレイスの説得は先々代皇帝、あなたに頼みます。お前が七武海に入らないのならアマゾンリリーが滅ぶかもしれないとでも言って説明してください。駄々をこねるようなら私が力ずくでも納得させます。それでもダメなら処分して私が新しく九蛇の皇帝となり七武海に入ります」

 「うむ。分かった。それとわしの事はニョン婆と呼ぶニョじゃ。先々代皇帝と呼ぶのも面倒じゃろう?」

 「分かった、ニョン婆と呼ばせてもらうよ」

 

 そこまで話した後レイリーから急いだほうがいいと言われたのでセンゴクを蹴り起こした。

 

 「う……うぅぅ……うん? ……ハッ!? な、何が目的なんだ貴様ら!?」

 少し寝ぼけたが問題ないようだ。

 

 今センゴクは両手の関節が外された上に海楼石の手錠を嵌められているため何の抵抗もできないだろう。

 そのことに気づいたセンゴクは憎々しげにこちらを睨みつける。

 ちなみにボルサリーノもセンゴクの横に寝ているのだがこちらは安らかに眠っている。

 

 「起きたかセンゴク大将。率直に言うが貴様は人質だ。今から交渉するからコング元帥の電伝虫の番号を言え」

 「何?」

 

 状況がよくわかっていないセンゴクに先ほどレイリーとニョン婆にした説明をすると顔を真っ赤にして怒り出した。なぜ怒るのだろうか?

 

 「貴様ら……私が大人しく貴様らの言うことを聞くと思っているのか!? 何が交渉だ!! 我々の顔に泥を塗ったのは貴様らだろうが!! いい加減にしろ!!」

 「グレイスの馬鹿が勝手にやったことだ。今更やったことをグチグチと言っても仕方なかろう。それに私の言うことを聞かなければどうなるか分かっているのか? 今度はボルサリーノだけでなくお前まで人質なんだぞ。お前達が死ねば海軍はどうなるのかよく考えたらどうだ? グレイスが七武海になって三大勢力の均衡は安定する。天竜人殺害事件は私達ではなく人攫いの悪魔の実の能力者に罪を被せる。お前達との戦いはなかったことにする。当然お前達が負けて人質にされたこともな。これでお前らの面子は立つだろ?これで妥協しろ」

 「お、おのれぇ………! ……クソッ!!」

 

 血管が切れそうなほど怒っているがしぶしぶ納得してコング元帥の電話番号を言ったセンゴク。

 

 すぐにその番号へ掛ける。

 掛けるとすぐに電伝虫に出たため声をかける。

 

 「もしもし、九蛇海賊団の者だ。そちらはコング元帥で相違ないな?」

 『そうだ…! センゴクとボルサリーノを返せ……! 返さなければお前達は確実に滅ぶだろう…! これは脅しではない。ただの事実だ!』

 「返さなければ、ではなく返したら…の間違いだろ? こいつらは今から交渉に使うんだよ。我々の七武海加盟の条件にな。理解したか?」

 『ふざけるなァ!! 今まで九蛇海賊団船長のグレイスには何度も七武海加盟の要請をしてきたんだぞ!? なぜこのタイミングで七武海に入るというんだ!? 既に天竜人を殺した九蛇海賊団のグレイスが七武海に入れると思うな!! それとお前はいったい誰だ!?グレイスではないな!? お前では話にならん! グレイスと替われ!!』

 

 だめだ。完全に頭に血が上っている。これは交渉どころではないな。

 まったく、元帥のくせに落ち着きがないとは……よくこれで元帥が務まるものだ…。

 

 「……私はボルサリーノを倒した九蛇の戦闘員だ。今グレイスには意識が無いため替わることはできない。コング元帥。一度だけ言うぞ。落ち着け。そして私の話を最後まで聞け」

 『ええい! ならばセンゴクかボルサリーノに替われ!! 速くしろ!! 急げ!! さっさと替われ!!』

 

 ぶっ殺してやろうかこの爺。

 

 イラつきながらセンゴクに電伝虫を替わるとセンゴクがコングに凄まじい勢いで謝罪を始め、その後に自分たちがどうなったか、今後九蛇海賊団はどうするかコングに説明を始めた。

 しばらくセンゴクがコングに説明をしているのを待っているとセンゴクから替わってくれと言われたため、また替わる。

 

 『つまりセンゴクの話を聞くと天竜人の殺害事件は人攫いの悪魔の実の能力者に擦り付けてお前達の船長が七武海に入る代わりにセンゴクとボルサリーノを返すというんだな?』

 「そうだ。ちなみにその人攫いは一週間前に九蛇海賊団から戦闘員を一人攫ってヒューマンショップに売った奴だと聞いている。能力は超人系悪魔の実マボマボの実の幻惑人間だ。元は新世界で賞金稼ぎをしていたようだが、とある大物海賊と揉めてシャボンディ諸島まで逃げ出したと聞いている。性格は小心者で臆病だが分不相応の野心も持っているためちょくちょく修業しているらしい。名前はフライハイトだ。幻覚を見せて他人の精神を惑わしたり幻影を見せて人を騙すことができるそうだ。面倒な能力を持っている小物なんて厄介なだけだろう? ここで殺したほうがいい」 

 『むぅ……それはそうだが……民衆や海軍はまだしも天竜人を騙すことにもなるからなぁ。私だけでは判断できん。今から電伝虫をもう一つ配置して五老星に繋ぐ。お前が五老星に直接話してみてくれ』

 「ああ、分かった。それとグレイスは七武海に入るつもりはないようだったがそれはこちらで説得する。できなかったらこちらで殺して代わりに私が入ろう。一対一でボルサリーノに勝ったんだから実力は問題ないだろう?」

 『十分だ。それでは今から繋ぐぞ』

 

 コングはそう言うと向こうでプルプルプルプルと電伝虫を掛ける音が聞こえてきた。

 

 さて、ここからが本番だな。

 相手は政治や交渉が得意な五老星だ。本来なら油断すると不利な条件を付けられるかもしれないが生憎最初から人質がいるこちらが有利だ。色々と条件を付けてやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 聖地マリージョア

 

 「天竜人が殺されて数時間……未だ音沙汰なしだな」

 「海軍は何をやっておるんだ? センゴクが九蛇海賊団討伐に向かったという話だが」

 「それとボルサリーノもだ。あの能力から逃げるのは至難だろう。討伐も時間の問題なのだが」

 「今まで九蛇海賊団を仕留められなかったのは兵士の質の違いと船の速度差による不利、加えて凪の帯に本拠地があるため手出しできなかったというのが大きい」

 「シャボンディ諸島で宴会中とのことだ。今度こそ逃げられん。九蛇の命運もこれまでだな」

 

 世界政府の最高権力者であるこの五人こそが五老星だ。

 

 世界政府の方針はこの五人により決められており、170カ国以上の加盟国を持つ世界をまとめる一大組織をこの五人でまとめていると言っても過言ではない。

 

 そんな事実上の世界のトップ達が居る部屋の電伝虫が突如鳴り響いた。

 

 プルプルプルプル、プルプルプルプル

 

 「ん?ようやくか」

 「センゴクにしては遅かったな」

 「まったく。天竜人への言い訳も考えねばならん。気が滅入るな」

 「何。鬱陶しい九蛇海賊団が壊滅したのだ。悪いことだけではない」

 「九蛇か、七武海に入ってくれればよかったんだがな」

 「今更そんなこと言ってもどうしようもないだろう。それよりもさっさと取るぞ」

 

 そう言って一人の五老星が電伝虫に出る。

 

 「五老星だ。報告をしなさい」

 『どうも。私です。元帥のコングです。実は少々……いえ、かなりの問題が発生しました。私だけで判断できる案件ではないので連絡させていた頂いた次第でして……申し訳ありません!」

 

 そのコングの言葉と謝罪に疑問を持ち顔を見合わせる五老星。

 

 ……なんだかすごく嫌な予感がしてきた五人だがそれでも報告を聞かないわけにはいかずコングに続きを催す。

 

 「いったい何があったというのだ? コング、まさか九蛇に逃げられたとでもいうのか?」

 『それよりもまだ悪い報告です。センゴクとボルサリーノが九蛇海賊団に捕まり人質にされました」

 

 『ハッ!?』

 

 思わず五老星がハモった。

 無理もない。海軍の最高戦力が人質にされるなど前代未聞の大事件だ。

 普通ならパニックになるだろう。

 それでも流石五老星と言うべきか。すぐに落ち着きを取り戻し一人の五老星がコングに聞く。

 

 『それは……』

 『そこからは私が説明しよう』

 

 突如聞こえてきた若い少女の声に五老星は警戒する。

 

 「何者だ?」

 『九蛇海賊団所属戦闘員のベルゼリスだ。単刀直入に言うと我々九蛇海賊団の船長グレイスを新たな七武海に入れてもらいたい。そして天竜人の一件を誤魔化してもらいたいんだよ。そのために五老星と交渉を始めたいんだが、構わないか?』

 

 次期元帥であるセンゴクを人質に取られている時点で拒否権はなかった。

 

 「ああ、そちらの要求を聞かせてもらおう」

 

 こうしてベルゼリスと五老星の交渉が始まった。

 



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第10話

 『待てベルゼリス。交渉の前に説明が先だ。今の状況が分からんと五老星も交渉の仕様がない。五老星……ともあれ一刻も争う事態なので簡潔に説明します。

 

  九蛇海賊団とセンゴクの率いる部隊がシャボンディ諸島で戦闘し、船長のグレイスはセンゴクが生け捕りにしましたが、今電伝虫で話している九蛇海賊団の戦闘員ベルゼリスにボルサリーノが生け捕りにされてそのまま人質にされベルゼリスがセンゴクと交渉しました。

 

  交渉の内容はグレイスとベルゼリス以外の九蛇海賊団をセンゴク達が見逃すことです。シャボンディ諸島から九蛇の海賊船が出航して一時間後にベルゼリスがボルサリーノを無事に返す代わりに他の九蛇海賊団を見逃せと要求し、それにセンゴクが応じました。

 

  そして九蛇海賊団が出航する直前に冥王シルバーズ・レイリーとアマゾンリリー先々代皇帝グロリオーサが現れて二人が覇王色の覇気でセンゴク以外の海兵を気絶させました。

 

  九蛇側に援軍が来たためベルゼリスは先の交渉の結果を破棄にしそのまま三人でセンゴクを生け捕りにしました。

 

  生け捕りにしたセンゴクとボルサリーノを返す代わりにグレイスを七武海にし、天竜人殺害の容疑を以前九蛇海賊団から船員を誘拐した幻を作り出す人攫いの男に擦り付けてほしい、これが先ほど私が聞いたことの顛末とベルゼリスの要求です』

 

 『………』

 

 ……なんて無茶苦茶な事をしているんだ九蛇海賊団は。

 それにレイリーとグロリオーサが九蛇についているだと?

 

 ……まずいな……グロリオーサはともかくレイリーが居るのは非常にまずい。

 交渉決裂はレイリーとの敵対が確実となりセンゴクとボルサリーノは死ぬ、か。

 

 これでは可能な限り我々世界政府は九蛇の要求を呑まなければならないではないか。

 七武海に入ってくれるのは正直助かるが何を要求されるやら……

 

 『要求1、まずは九蛇海賊団船長のグレイスを七武海にすること。これは問題ないな?』

 「うむ。それについては構わん。……しかし、以前から伝書バットで七武海の勧誘をしていたはずだが……なぜその時に返答をしなかったのだ?返事がいつまで待っても帰ってこないため数回ほど伝書バットを多く送ったのだぞ。それともそちらに届いていなかったのか?」

 『……届いては居た……グレイスが一度読んだが返事を書かずに伝書バットと手紙を切り捨て、それ以降に来た伝書バットもすべて切り捨てていた……』

 

 それはまずいのではないのか?

 

 「……さすがに加盟する意思の無い者を七武海に入れることはできんぞ。その辺りはどうなっているんだ?」

 『グレイスはセンゴクとの戦闘から未だ目覚めていない。目覚めた後に私とグロリオーサで説得する予定だ、もしグレイスが七武海に加盟しないと言ったらグレイスの代わりに私が七武海に入る予定だ。……それでも大丈夫か?』

 「かまわん。……いや、我々としてはグレイスよりもお前が七武海に入るほうがいいのだが、……グレイスを七武海にしなければならない理由でもあるのか?」

 『私の年齢は八歳だぞ。こんなガキが七武海になればいらん面倒が増える。できればグレイスにしてくれ』

 「……何?」

 

 今8歳と言ったのか?

 

 「お前は生まれて八年しか生きていないのか?……その年でボルサリーノに勝ったと言うのか?」

 『そうだと言っている』

 

 ……ありえんだろう。なんてデタラメな子供だ。

 ……こんな子供のいる九蛇海賊団とは絶対に敵対できんな。

 それに頭も回る。クロコダイルと同じタイプだな。

 なんて厄介な子供だ。

 

 『要求2、今後九蛇海賊団船長は七武海を兼任すること。……要するに九蛇海賊団の船長、つまりアマゾンリリーの皇帝は今後必ず七武海になると言うことだ。これは世界政府としてもいい話だろ?七武海と言う三大勢力の一角にこれからも九蛇の席があるだけで僅かだが三大勢力の均衡が安定する。これも文句はないな?』

 

 ふむ。これに対しても文句はないな。

 お互いにメリットがあるためこの要求も構わない。

 

 『要求3、天竜人殺害事件の容疑をシャボンディ諸島にいる人攫いフライハイトに擦り付けること。今言った男はマボマボの実の幻惑人間だ。こいつの能力でシャボンディ諸島の住人、及び海軍は九蛇海賊団がヒューマンショップを襲って天竜人を殺害したと誤認した、と言うことにしてくれ』

 「それも構わない。事実をありのまま世間に伝えたら政府の信用に関わる。その人攫いには全ての罪を被ってもらおう」

 

 記者に圧力をかけこちらの指示通りの記事を書かせよう。

 その男を差し出せば鬱陶しい天竜人も少しは怒りを鎮めるだろう。

 

 『要求4、六式使いの教官を一人女ヶ島に派遣してくれ』

 「……何? 六式を九蛇の戦士に覚えさせるのか?」

 『ああ。あれは便利そうだ。少しは他の九蛇達も強くなってもらわねば私が困るんだよ。それにこれからは敵ではないんだ。九蛇海賊団が強くなっても別にいいだろう?』

 

 別に海軍や世界政府だけの秘術ではないしこれも問題ない。

 ……というか白ひげや赤髪の船にも技の原理が流出しているので今更だ。

 

 『要求5、攫われて天竜人の奴隷となった九蛇の同胞、ユーリンの解放だ』

 「……無理だ。我々五老星の権力は天竜人より下だ。我々が何を言っても天竜人が開放するとは思えん。悪いがこの件に関しては何と言われようと頷くことはできない」

 『バレずに連れてくることはできんのか?例えばユーリンそっくりに整形した替え玉を用意して本物のユーリンとすり替える、とか」

 「リスクが高すぎる。天竜人には直属の諜報機関が居るのだ。その者たちをを潜り抜ける事は至難の業。バレたら我々も五老星と言う地位を失ってしまう。センゴクやボルサリーノが人質になっていようが絶対に無理なことだ。諦めろ」

 『……分かった』

 

 ……思ったよりごねなかったな。今更だがこのベルゼリスという少女への警戒を引き上げよう。

 

 『要求6、私、ベルゼリスを賞金首にするな。それと私に関する情報を世間に広めるな』

 「徹底してるな。他の海賊であれば懸賞金が付くのは喜ぶべきことなんだが……」

 『まだこの時点では自分の情報を晒したくないんだ。別に構わんだろ?』

 「……いいだろう。次の要求はなんだ?」

 

 こいつ後幾つ要求するつもりだ?

 さすがに多すぎやしないか?

 

 『要求7、冥王シルバーズ・レイリーとグロリオーサの事も今回の事件での記事には載せないでくれ』

 「……載せられるわけないだろう。いらん混乱を招くだけだ」

 特に冥王はな。最初から関わってなかった事にしてコングとセンゴクに口止めして冥王については終わりだ。

 

 『要求8、……九蛇の戦士は実力主義で強い者に憧れ、心惹かれるのは知っているな?』

 「うん? ……ああ、政府が集めた九蛇に関する資料を読んだことがあるため、九蛇に関してはそれなりに知っている。無論今お前が言ったこともな。……で、それがどうしたのだ?」

 

 『……九蛇海賊団の戦士たちがな……グレイスを倒したセンゴクとの……子供がほしいそうだ……』

 『………』

 『ふっざけるなァ!! 認められるわけないだろうそんな条件! 取り消せェ!!!』

 

 電伝虫の向こうからセンゴクの声が響いてくる。

 まあ無理もない。九蛇の種馬はさすがに嫌だろう。私だって嫌だ。

 

 『なんでそんな要求をするのだ!? 私は今60歳の爺だぞ!? 絶対に無理だ!! 死んでしまう!!』

 『いや、な。女ヶ島には女しかいないから島の外で子供を作らねばならないんだ。普段は襲った船の捕虜とシテいるそうだがやはり強い男がいいらしくてな……その点でいえばお前は文句ナシだろう。一騎打ちでグレイスに勝ったんだからな。……休みはちゃんと取らせる、なるべく容姿の良い女だけにする、それなら別にいいだろう?』

 『良いわけあるかァ!!! 人質を何だと思っているんだ!? コング元帥!! 五老星!! 助けてください!!』

 

 ………………

 

 『センゴク……先ほどお前は任務失敗の件で私に謝ったよな?』

 『え? ……まあ、レイリーとグロリオーサが出てきたとはいえ、任務にアクシデントは付き物ですので……謝りましたが……コング元帥?……それが何か?』

 『……謝ったということは自分に責任があると思っているんだな? ならば責任の所在はお前にあると言うことだ。……だからお前は……その……責任を取って子作りするべきではないのか?』

 『んなわけあるかァ!!! 部下に海賊と子作りを勧めるなんて元帥としておかしいと思わんのか糞ジジイ!!! レイリー!!! 貴様も笑うなァ!! 他人事だと思いやがって!! ぶっ殺されたいのか貴様ら!!?』

 

 ……ふむ。センゴクと九蛇の戦士との子供か……

 ……使えるかもしれんな……

 

 「センゴク」

 『……ハイ……』

 

 「ヤレ」

 

 『……イヤです』

 「命令だ。そして九蛇の女を口説き落とせ。お前と九蛇との子供なら強くなりそうだからな。何人か娶って子供を作ってマリンフォードに連れてこい」

 『ちょっと待て、生まれた子供は全て次世代の九蛇の戦士になるんだぞ。ただでさえアマゾンリリーの人口を増やすためにこんな要求をしているんだ。そちらに渡すつもりはない』

 「だめだ。センゴクを種馬にするのなら生まれた子供の半分は渡してもらおう」

 『こいつは人質だと言うことを忘れてないか?調子に乗るな』

 「調子に乗っているのは貴様だベルゼリス。確かに政府が不利なのは認めよう。しかし、お前の出した条件を政府が呑まなければお前達も困るのだぞ。これからは敵同士ではないと言ったのは貴様じゃないか。最低でも子供の3割は政府側が頂く」

 『それでも多すぎる。1割にしろ』

 「少なすぎる2.5割」

 『なら2割だ。これ以上は負けんぞ』

 「ふむ……まあ2割でいいか」

 『良い訳あるかァ!! ナニを値切ってんだ貴様らは!? 私はヤルとは言ってないぞ!! 絶対嫌だ!!』

 「…………生意気な口をきくなセンゴク」

 「お前の〇〇〇(ピー)など取るに足らん!」

 「お前たち海軍は我々世界政府の部下」

 「この件はベルゼリスとの交渉で既に決まったのだ」

 『ふざけるな老いぼれ共!!』

 「口を慎めセンゴク!! お前が人質になったからこんな事になっているのだろう!? 命令だと言ったのが分からんのか!?」

 『そ、そんな!? ………う、うううぅぅぅぅ……』

 

 何を唸っておるのだこいつは?自分のミスの尻拭いをするだけだろうに……

 

 『では、以上で私からの要求は終わりだ。すぐにでもニュース・クーで天竜人の件、七武海の件を載せてくれ。……それと念のためにセンゴクとボルサリーノを返すのは一ヵ月後だ。……この意味が分かるな?』

 「子作りと……世間に広く情報を浸透させるためだな?」

 『ああ、その通りだ』

 

 つくづく厄介なガキだなベルゼリスは。

 これでは都合が悪くなったとしても時間が経ちすぎるため後から誤報扱いにすることができなくなった。

 

 『ではな、いい取引だったよ』

 「こちらにもメリットがあったからだ。ではな」

 

 ガチャ

 

 「終わってみればいい取引だったな」

 「ああ、だが今からやることは山積みだぞ」

 「まずは報道と例の人攫いの捕獲だな。海軍への説明はコングがやるだろう」

 「天竜人への説明を忘れてはないか? あまり後回しにすると面倒になるぞ」

 「概ね状況は良くなったな、……センゴク以外は……」

 

 何、海賊王や白ひげとも渡り合った男だ。センゴクなら大丈夫だろう。 

 

 

 




次回予告!














センゴク「んほぉ」


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第11話

 「センゴクさん……大丈夫ですかィ?」

 「……大丈夫じゃない……無理……死んでしまう……」

 

 九蛇の船にある一室

 

 そこには九蛇海賊団の人質となっている海軍本部の中将ボルサリーノと大将センゴクが居た。

 二人とも能力者であるため海楼石の手錠を嵌められており、更に九蛇の戦士が二人見張りについていた。

 

 センゴクが五老星から命令された『仕事』をしている最中に今まで気絶していたボルサリーノが目を覚まし、最初に見た光景がとんでもない物だったため少しの間呆然とし、正気に戻ったボルサリーノが九蛇達を止めようとしたところにボルサリーノに気づいたセンゴクが説明し、自分が人質にされた事や自分の失態でセンゴクがとんでもない目にあっている事についてボルサリーノは深い、とても深い自責の念に駆られていた。

 

 そして今センゴクの『仕事』が一段落し、九蛇達が見張りを残して去って行った頃にボルサリーノは疲労困憊のセンゴクを労わっていた。

 

 「……本当に申し訳ないですよセンゴクさん……わっしが捕まったばっかりに……」

 「……気にするな……とは絶対に言わんぞ……!! お前のせいだからな……!」

 

 さすがのセンゴクもこれには参っているようで恨みがましい視線をボルサリーノに向ける。

 しかし、センゴクはふと気になることを思い出したのでボルサリーノから聞き出すことにした。

 

 「ボルサリーノ……お前が戦った九蛇の少女──ベルゼリスをどう見る?」

 「……とんでもないですねェ~……本人が言うには今八歳半ばくらいなんですってねェ~……大人になったらどれくらい強くなるのやら。……それと……技術もそうだけど……身体能力はちょっと洒落にならないレベルですよォ~。その上よく分からない能力者みたいですしねェ~」

 「よく分からない能力者? いったいベルゼリスは何をしたんだ?」

 

 ボルサリーノにした質問の答えが気になりセンゴクは追及する。

 

 「一から説明しますとねェ~……最初はわっしとベルゼリスは接近戦で切り結んでいたんですよォ~……けどねェ~……力じゃ完全にわっしが負けてたんでねェ~……接近戦じゃあ分が悪いと思ったんで空に跳んで広範囲を狙い撃ちにしたんですよォ~……避けられないようにかなりの範囲を巻き込んでしばらく連射して……気配が消えたんで死体を確認しようと下に降りた後に両足に不意打ちを食らったんですよォ~……」

 「……気配は見聞色の覇気で探ったのか?」

 「ええ。……どうやらベルゼリスは完全に気配を消せるようですねェ~……そして両足に傷を負ったわっしにゆっくり近づいて来たんですけど……その時にベルゼリスの持っていた武器が消えたんですよォ~」

 「消えた? ……武器を出したり消したりする収納系の能力者なのか?」

 「それがよく分からないんですよねェ~……わっしの目に見えなくなったんでわっしも武器を消した収納系の能力者と思ったんですがァ~……武器は見えなくなっていただけみたいでして……そのまま見えないベルゼリスの武器でズバッっと斬られちゃったんですよォ~」

  

 ……奴はなんの能力なんだ?

 

 「他にも気になる点があるんですよねェ~……わっしの八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)をかなりの数食らったはずなのに少し傷が付く程度だった……耐久力も尋常じゃないよォ~」

 「……ああ。レイリーとグロリオーサと共に私と戦った時も異常な耐久力だったな……パワーも私のガードの上から私を吹き飛ばすほどだ。……私の腕が軋むほどだ……はっきり言ってグレイスよりも一回り強いぞ」

 「あ~やっぱりィ~? ……わっしもそう思いますよォ~……何なんでしょうねェ~あれ……」

 「ただでさえ厄介な九蛇の突然変異か何かじゃないのか? ……強くなる前に仕留めたほうがいいと思うんだが……?」

 「もう無理ですよォ~……七武海に入るんでしょォ~? ……天竜人殺しも自分たちの恨みのある人攫いに押し付けるなんてよく思いつくねェ~……」

  

 そうやって二人が話していると遠くの部屋から怒鳴り声が聞こえてきた。

 九蛇海賊団船長グレイスの声だ。どうやらグレイスが起きたようで今はおそらく状況説明と七武海への加盟を進めてそれにグレイスが反発したのだろうと思われる。

 

 「……グレイスは元々七武海に入る気はなかったようだが……さて……ベルゼリスとグロリオーサはグレイスをちゃんと説得できるのやら……」

 「……グレイスが拒否したらベルゼリスが九蛇の皇帝になって七武海に入るんでしたよねェ~……わっしとしては話が通じる分ベルゼリスの方がマシだと思うんですがねェ~……」

 「……ベルゼリスの見た目は幼い少女なんだぞ……七武海に入るのならば写真を世間に公表せねばならん……そのままベルゼリスの写真を載せれば七武海が軽んじられていると他の七武海から余計な文句が来る。……それならあの二人が上手くグレイスを説得して大人しくグレイスに入ってもらえたほうがいい」

 

 センゴクはそう言うが正直九蛇を七武海に入れるのはやめてほしかった。

 人質に取られた自分が言えることではないがグレイスはともかくベルゼリスは自分たちの手に負えないと判断したのでもっと扱いやすい人物を七武海にしてほしかったのだ。

 

 まだ子供のベルゼリスはこれからが成長期なのだ。今のベルゼリスはセンゴクが一対一で戦えばおそらく勝てるだろうが苦戦するのは免れないだろう。あの歳で海軍大将の自分を手古摺らせる実力者とは恐れ入る。

 

 「……溜まった書類……どうしようか……」

 「おォ~……どうしましょうかねェ~……」

 

 一ヵ月人質生活を送らなければならないため二人は溜まった本部にある書類の事を心配していたが今はそんな事を心配してる場合ではない。センゴクの体が一ヵ月持つかのほうが心配だ。

 

 「……書類もだけど……センゴクさんは体がもつんですかィ?……」

 「……変わってくれ……ボルサリーノ……」

 「あいつらわっしには見向きもしませんでしたよォ~……わっし弱いと思われてるみたいですねェ~……」

 「……はぁ……しばらくは天井のシミを数える生活か……気が滅入るな……」

 

 

 

 

 

 

 

  

 「納得いかん!」

 

 そう口にするのは九蛇海賊団船長にしてアマゾンリリーの皇帝であるグレイス。

 目を覚ましたグレイスは自分の船の自室で寝ていたことに気づき驚いていた。

 グレイスは自分がセンゴクに負けたことを覚えていたので海兵に捕まったと思ったが目を覚ませば自分の部屋で寝ていて周りには看病していたと思われる船医が居た。

 

 船医はグレイスが目を覚ました事に気づき慌ててベルゼリス達を呼んで来た。

 部屋に入ってきたのは船医とベルゼリス、ハンコックとソニア、マリー。そして先々代皇帝グロリオーサに何者か分からない『男』。

 

 男が入ってきたのを確認したグレイスは即座に怒鳴り、男───レイリーを殺せと周りにいる部下に命じるが何故か自分の言うことを聞かない。

 

 困惑しているグレイスを余所にグロリオーサがグレイスが負けた後何があったか説明を始める。

 

 ベルゼリスがセンゴクの次に強いボルサリーノを生け捕りにしたと聞いたときは喜んでいたがその後の交渉や自分の七武海加盟について話し終わると怒り心頭に達したようだ。

 

 主に怒りの矛先はベルゼリスに向いておりその視線には殺意さえ乗っている。

 

 ベルゼリスはグレイスの様子に無表情で視線を返しておりその態度もグレイスの怒りを助長しているのだろう。

 

 「ベルゼリス……! 妾を切り捨てるとは……いったいどういう了見じゃ!? 皇帝である妾を蔑ろにしておるのか!? 貴様いったい何様のつもりじゃ!?」

 「……あの状況ではもうグレイス様は使い物にならなくなりましたので……九蛇海賊団を生かすために最期に役に立ってもらおうとしたのですよ」

 

 その余りにも冷酷な物言いに一瞬グレイスは呆然としたもののすぐに怒りがぶり返した。

 

 「船長を守らん海賊団がどこにおるというのじゃ!? 命を懸けてでも妾を助けるのが九蛇の戦士じゃろうが!! それとも妾を亡き者にし皇帝の座を狙っておったのか!?」

 「船長を切り捨てる海賊団はそこそこいると思いますよ。グレイス様は絶対にアマゾンリリーに必要と言うわけではありません……替えが効く存在です。それと皇帝の座は面倒なのでいりません」

 「き、貴様!! 殺してやる!! ベルゼリス!!」

 

 路傍の小石を見るような目をグレイスに向け淡々と言い放つベルゼリスにグレイスの怒りが頂点に達した。

 

 しかし……

 

 「ぐぅっ!?」

 

 ベルゼリスの覇気と増幅したオーラに当てられてグレイスの顔色は蒼くなっていく。

 

 「いい加減にしてもらえませんか? ……私は船に忍び込んだ人攫いから情報を聞き出し天竜人に手をかけた場合どんな事態になるか説明したはずですよ。……しかしあなたは自分が負けるはずがないと慢心し私の忠告も聞かず好き勝手に暴れまわり最後には一騎打ちで無様に負ける始末。……なんで私が海軍や世界政府と面倒な交渉をしたと思うんですか? ……全部あなたが引き起こした面倒事を片付けるため、九蛇海賊団の全滅を避けるためなんですよ。……ここまで無様を晒したあなたには以前までの求心力はありません。おとなしく私の言うことを聞いてください。いいですね?」

 

 その言葉に反論しようとするグレイスだが覇気とオーラの影響で口を上手く開けない。

 少しずつ弱っていくグレイスだったが……

 

 「ベルゼリス……覇気を収めなさい……彼女が弱っている」

 「……わかった」

 

 レイリーにそう言われたベルゼリスは覇気とオーラを抑える。

 

 「ハァ……ハァ……ま、まさか、は、覇王色の……覇気なのか……?」

 「……今はそんなことはどうでもいいでしょう。あなたが負けた後、私はあの方法しか九蛇海賊団を救えないと思ったためセンゴクと交渉した。その後予想外の援軍が来たため交渉は破棄しセンゴクを捕え、政府と交渉した。そうしなければ際限なく海軍が追ってくるからですよ。海軍大将が率いる一部隊にあの様なんですから海軍の全兵力と戦争したら間違いなく九蛇は滅びます。だから政府と交渉して九蛇海賊団の船長が七武海に加盟すると決めて手打ちにしてもらったんですよ……何か文句でもあるんですか?」

 

 実際にベルゼリスが動かなかったら九蛇海賊団は世界政府を敵に回し、近いうちに必ず滅んでいただろう。

 そして女ヶ島も何れ後を追う形になるのは目に見えていた。

 

 そう考えて七武海への加盟をコング元帥や五老星に示したベルゼリスだったがここまでグレイスに文句を言われると腹も立つのだ。グレイスの顔は青ざめた表情から怒りの表情に変わり口々にベルゼリスの文句をつける。

 

 やれ九蛇の誇りが、やれ九蛇の臆病者が、

 

 ベルゼリスにそう言い続けるグレイスに、遂にベルゼリスがキレた。

 

 メキィ

 

 「ハガッ!?」

 『ベルゼリス!?』

 

 キレたベルゼリスはグレイスの鼻に強烈な蹴りを叩き込みグレイスの鼻をへし折った。

 横になっている重症人に対するあんまりな行為に部屋に居たすべての人から非難を浴びるベルゼリス。

 

 「調子に乗るな馬鹿が……嫌なら別に七武海にならなくてもいいぞ。政府にはお前か私のどちらかが入ると伝えてあるんだ。お前が嫌なら私が七武海になるだけだ……その場合お前は用済みだがな……。もう一度だけ聞くぞ……七武海になるのか?……それとも断るのか? ……どっちだ?」

 

 ──これで断るのなら本当に殺してやろう。

 

 そう考えたベルゼリスはオーラに殺意を乗せてグレイスにぶつけるとグレイスはすぐに七武海に入ると言った。

 

 一瞬嘘かと思い『円』でグレイスの感情や気配を読み取ると本気で自分に怯えているようだ。

 

 説得と言うよりはほとんど脅しになってしまったが、とにかくこれでグレイスが七武海入りを決めてくれたのでひとまず良しとしよう。

 

 ……部屋に居るレイリーとニョン婆以外の者たちからも怯えた目で見られてしまったがベルゼリスは別に気にしていない。

 

 とにかくこれで面倒な事はコング元帥と五老星への報告を残すのみとなったのでそれが終わったら漸く一休みできるのだ。

 

 「ではニョン婆、私はコング元帥と五老星に連絡してくるよ。後は頼むぞ」

 

 そう言ってベルゼリスは船の甲板に出て行った。

 

 ベルゼリスが去った船室ではグレイスが未だに震えていて船医やハンコック達に慰められている。

 そしてレイリーとニョン婆は互いに顔を合わせベルゼリスについて話し出す。

 

 「凶暴だな……グレイスが七武海になるのを断っていたら本気でグレイスを殺していただろう」

 「うむ、グレイスが大人しく七武海になったからよかったが……」

 「この件が終わった後彼女はどうするのだ?……もう女ヶ島には居づらくなりそうだが……」

 「安心せい。わしもアマゾンリリーに戻ろう。しばらくはわしがベルゼリスとグレイスの教育をするつもりじゃ。……もうわしは追放されとるがその辺りはこれからグレイスを説得してみようかニョ」

 

 そう言ってニョン婆はグレイスから自分がアマゾンリリーに戻る許可を年の功の口八丁で取るのだった。

 

 



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第12話

 『前代未聞の大事件!! シャボンディ諸島のオークション会場にて世界貴族二名と各国の富豪達が死亡!犯人はシャボンディ諸島で人身売買を行っている悪魔の実の能力者、幻影のフライハイト』

 

 『フライハイトは事件を起こす一週間前に九蛇海賊団の船から船員を一名誘拐し、シャボンディ諸島で貴族に売り飛ばした模様』

 

 『そしてわざと自分と誘拐した九蛇の船員の情報を九蛇海賊団の船に残し九蛇海賊団をシャボンディ諸島に誘導した』

 

 『九蛇海賊団がシャボンディ諸島に着いたのを確認したフライハイトは自分が食べた悪魔の実、マボマボの実で九蛇海賊団を模した幻影を作り出し、世界貴族の居るオークション会場を襲撃』

 

 『そして世界貴族を殺害した容疑を九蛇海賊団に擦り付け海軍と九蛇海賊団を殺し合わせたのだ』

 

 『しかし、九蛇海賊団船長グレイスと海軍本部大将センゴクは一騎打ちの中お互いの話が嚙み合わないことに気づく』

 

 『九蛇海賊団船長グレイスと大将センゴクの一騎打ちはセンゴク大将の勝利で終わった』

 

 『そしてセンゴク大将は戦闘の途中で世界貴族殺害の犯人は別に居ると判断し、犯人の捜索を開始した』

 

 『その後世界政府の専属の情報屋が犯人の特定に成功』

 

 『犯人であるフライハイトは海軍本部中将クザンが捕縛し、殺害された世界貴族の遺族の元に送られた』

 

 『一騎打ちに敗れた九蛇海賊団船長のグレイスは大将センゴクから七武海への加盟を勧められる』

 

 『グレイスは七武海加盟を承諾し、強者に敬意を払うと云う九蛇の風習と敵対していた自分が世界貴族の殺害事件に関わっていないと言う言葉を信じて真犯人の捜索と特定をした大将センゴクや世界政府に恩義を感じ、大将センゴクを女ヶ島で持て成すと大将センゴクと五老星に伝える』

 

 『大将センゴクと五老星は今後の三大勢力との関係の強化に繋がる為それを承諾した』

 

 『大将センゴクは、「黒幕であるフライハイトに騙されて世界貴族を始め富豪や民衆、海兵にも少なくない犠牲を出してしまった。今後は七武海に加盟した九蛇海賊団と協力関係を築き民衆の平和を守るため一層精進する所存です」との発言をしている』

 

  ニュース・クーより

 

 

 

 

 

 

 

 

 グレイスを物理的に説得し、コング元帥と五老星にグレイスの加盟を伝えた次の日。

 

 九蛇の船からニュース・クーが飛んでいるのを発見し、500ベリー硬貨を取り出すと空に向かって掲げる。

 ベルゼリスの持っている硬貨を発見したニュース・クーは九蛇の船まで降りて来て硬貨を器用に咥え、首に提げているポーチに硬貨を入れると新聞をベルゼリスに差し出し空へ羽ばたいて行く。

 

 九蛇と言う例外を除き凪の帯には新聞を読む人が居ないためニュース・クーは凪の帯には来ない。

 そのため九蛇の者は世間の情報に疎い。

 

 今回の事件で五老星と交渉した際に実際の情報を改竄してニュース・クーに載せろと言ったのでその確認のためベルゼリスはニュース・クーから新聞を買った。

 

 新聞は約束通りに事実を捻じ曲げフライハイトに九蛇達の罪を押し付けている。

 実際に戦った海兵たちは誤魔化せないだろうがそれ以外の民衆達ならば多分大丈夫だろう。

 

 この世界では世界政府にとって都合の悪い情報の改竄をすることは多いのでニュース・クーに載っている情報を鵜吞みにするのは政府の後ろ暗いところを知らない民衆くらいだ。

 

 新世界にいる四皇達ならば彼ら独自の情報網があるため今回九蛇がやらかした事件の詳細を確実に知っているだろう。

 

 情報操作と七武海加盟によって海軍とは揉めずに済むが四皇達からはいずれ何かしらの接触があるのは間違いない。

 

 特にカイドウとビッグ・マムには気を付けねばならない。

 二人ともこの世界で最上位の実力者であり性格も最上位の気狂いだ。

 

 カイドウには破滅願望がありドフラミンゴとは別の意味でこの世界を本気で壊そうとしている。

 自尊心がとても高くルフィとローに対して油断しないように忠告した部下を金棒で海まで殴り飛ばし怒りをあらわにした男だ。

 また、幹部のジャックもカイドウ同様話が全く通じず、自分で破壊が好きと言うほど頭がおかしいのだ。

 

 対してビッグ・マムはカイドウと比べるとまだマシだが何の前触れもなく食い煩いと言う急に食べたくなったお菓子を食べるまで暴れ続けるという面倒くさい持病を持ち、平気で息子を殺す婆だ。

 しかし、カイドウの部下のジャックと違って部下であるカタクリ、クラッカー、モンドールなどはビッグ・マムと違い性格も人格もまともである。

 最初に決めた条件を守るのならば自分の旗を貸すためジンベエは魚人島を守るためビッグ・マムの傘下に入っていたが本心では嫌々入っていたようだ。

 

 カイドウの百獣海賊団は何をしでかすか分からないためいきなり九蛇を襲いに来ることもあり得る。

 

 ビッグ・マム海賊団の目的は、ビッグ・マムの夢である「世界中のあらゆる人種が家族となり同じ目線で食卓を囲むこと」なので、もしかしたら九蛇と言う人種を求めて女ヶ島に来るかもしれない。

 

 ……四皇の事を考えると気が滅入る為考えるのはここまでにしておこう。

 

 そう決めたベルゼリスはニュース・クーから買った新聞をもってセンゴクとボルサリーノがいる部屋に向かう。

 今はセンゴクは休憩中のためベルゼリスが聞きたいことを聞けるだろう。

 無論海軍の機密などは答えることはできないだろうが。

 途中ベルゼリスは気まぐれに食堂から酒瓶を数本と適当なつまみも持ってセンゴク達が居る部屋に歩いていく。

 

 

 

 部屋を開け中に入るとボルサリーノは暇そうに寝転がりあくびをしている。

 

 対してセンゴクは死んだ鯖のような目で虚空を見つめ薄く微笑んでいる。

 

 ……ハッキリ言ってものすごくセンゴクが不気味だ。

 あまりやりすぎると再起不能になるかもしれないので仲間達には程々にと忠告しているがもっとキツく言ったほうがよかったかもしれない。

 

 「……センゴク……大丈夫か?」

 「…………」

 

 あっ、これやばいやつだ。

 

 「……何かセンゴクさん何も反応しなくなっちゃったよォ~……これどうするのォ~?」

 「……取り合えず酒とつまみを持ってきた……やるよ」

 

 酒とつまみをボルサリーノに渡すとすごく喜んで食べ始めた。

 

 暫くボルサリーノが一人で酒とつまみを食べているのを眺めているとセンゴクが復活したようだ。

 

 「ボルサリーノ……私にもくれ。……飲まねばこんな生活やってられん」

 「おおォ~……センゴクさん元に戻ったねェ~」

 「センゴク……大丈夫なのか?」

 「何とかな……その手に持っているのは新聞か?見せてくれ」

 

 手に持っていた新聞を渡すとセンゴクは読み始める。

 酒を飲みながら読み進めていくうちにセンゴクの表情が険しくなってきた。

 そして読み終わったのかセンゴクは新聞をボルサリーノに渡し大きくため息をついた。

 

 「もみ消しや情報操作は今まで何度もあったが……自分がされるのはいい気分じゃないな……」

 「仕方ないですよォ~……あったことをそのまま載せたらわっしらの面目丸つぶれですよォ~」

 「天竜人からも喧しいクレームが来るからな。……癪だがこうなるのが一番いいんだろう」

 

 天竜人が二名殺されて海軍は犯人を捕まえることができませんでした。

 怒り狂うこと間違いなしである。

 だったら情報操作して生贄を一人差し出したほうが海軍や世界政府としては都合がいい。

 

 「センゴク……ちょっと聞きたいことがある」

 「……何だ?」

 

 突然ベルゼリスから話しかけられ疑問を浮かべるセンゴク。

 

 「七武海、もしくはその部下が賞金首を換金することはできるか?」

 「それはできるが……七武海は収穫の何割かを政府に納めなければならないため賞金首を生け捕りにしても全額渡すことはできんぞ。換金する際に二割か三割少ない額になる。死体なら首の値の半額くらいだろうな。安くなるから七武海で賞金稼ぎをするものはあまりいない。……お前賞金稼ぎになるのか?」

 「九蛇の皇帝にならなかったらな。……今すぐ賞金稼ぎにはならんよ。後四、五年先の話だ」

 「そうか……やるならシャボンディ諸島でやってくれ。海賊は魚人島経由ではないと新世界には行けんからな。コーティング待ちの海賊が狙い目だぞ。必ず2、三日はコーティングの時間がかかるため諸島に滞在せねばならん。それにあそこは偉大なる航路の半分を乗り越えてきた猛者たちが集まる諸島だ。成長する前に潰して置くのが我々としては都合がいい」

 

 ベルゼリスもシャボンディ諸島で賞金稼ぎをする予定だったためセンゴクの提案に頷く。

 

 「なるべく天竜人とは関わらないようにするよ。……碌なことにならんしな」

 「そうしてくれ……私も九蛇と戦うのはもう御免だ」

 「おォ~シャボンディ諸島の人攫いには気を付けなよォ~……君の強さなら大丈夫だと思うけど君の容姿なら絶対に狙ってくるからねェ~」

 「それから賞金稼ぎにもだ。お前が賞金稼ぎになるのなら他の賞金稼ぎの収入が確実に減るだろうからな。……商売敵を恨んで襲撃を掛けるなんてよくある話だ。飲食店やホテルにも気を付けろよ……ヒューマンショップとグルになっている店もあるくらいだ。食事や飲み物に一服盛られて気が付いたら人身売買されてました、なんてシャレにならんからな」

 「……そうか。忠告感謝するよ」

 

 酒やつまみを持ってきたからか、ベルゼリスの為になる忠告をするセンゴク達。

 打算的な部分もあるだろうが知らなかったら本当に困っていたかもしれない話を聞けたため素直に感謝する。

 

 「……昨日言い忘れていたことがあるんだが……幾つか頼んでもいいか?」

 「ん? ……何をだ?」

 チーズを頬張りながら聞き返すセンゴク。

 

 「悪魔の実の図鑑とメロメロの実が欲しいんだ。姉に食わせたい」

 「図鑑なら別に構わんが……実の方は無理だ。……悪魔の実はなるべく将来有望な海兵に食わせるのが海軍の方針だ。それは世界政府の諜報機関でも同じだからな。海軍と政府で実の取り合いが起こることもある。六式など修業したら誰でも手に入る力と違い悪魔の実の力は想像を絶する物もあるからな……自分で手に入れるしかないと思うぞ」

 「………」

 

 センゴクの話を聞いて内心で項垂れるベルゼリス。

 何れ七武海になるであろう我が姉ハンコックには原作通りメロメロの実を食べさせてやりたいのだ。

 別になくても問題ないかもしれないがあったほうが国民の求心力はハンコックに集まるだろう。

 そう考えるとあったほうが便利だ。

 

 まあ、ソニアとマリーは食べなくてもいいかと思うが……

 

 「一応言っとくけどねェ~……悪魔の実を二つ食べたら死ぬよォ~……体が跡形もなく飛び散るんだってェ~……それと明らかにハズレの悪魔の実もあるから気を付けてねェ~」

 「……どんな実がハズレの実か教えてくれ」

 「わっしが知ってるのはトリトリの実モデルペンギンとムシムシの実モデル蝸牛(エスカルゴ)だねェ~……飛べない鳥とそれほど頑丈じゃない蝸牛の殻が付いても役に立たないでしょォ~」

 「トリトリの実モデル(チキン)もだ。あれは惨すぎる実だった……それからムシムシの実モデル水黽(アメンボ)やムシムシの実モデル(モスキート)などがある。……ムシムシの実は蜂やカブト虫、蟷螂を除いてハズレばかりだと覚えておけ」

 「……図鑑に載ってない実は家族には食べさせないようにするよ」

 

 ……冗談抜きでシャレにならん。特に鶏。

 

 

 



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第13話

 暫くセンゴク達と話していると部屋のドアがノックされた。

 

「ベル、ここにいるんでしょう?開けるわよ」

 

 ドアの向こう側から声が聞こえてきた。

 姉のハンコックの声だ。

 その言葉の後ドアが少し開き、隙間からハンコックが顔を出し、部屋の中を覗く。

 

「ちょっと話があるんだけど……入ってもいい?」

「ああ。……かまわないよ」

 

 ベルゼリスの返事を聞きドアを開けるハンコック。後ろにはソニアとマリーも居て神妙な顔をしている。

 そして三人は座って話していたベルゼリス達と同じように部屋の床に座り、こちらをジッと見てくる。

 

 ………………

 

「……何か用があるんじゃないのか?」

「う、うん、話があるの」

 

 そう言うとハンコックは数回深呼吸をしてキリッとした目でベルゼリスを見つめる。

 

「ベル……私達が気絶した後の事なんだけど、グレイス様とベルだけ残って他の仲間にはアマゾンリリーに戻れって言ったんでしょ?」

「言ったよ。……それがあの場では最善な方法だったからな。まあ……ニョン婆とレイリーが助けてくれたから、残る必要はなくなったけどな」

 

 もし二人が来なかったら、ベルゼリスはセンゴクに捕まってた可能性があるのだ。

 捕まるつもりは毛頭なかったが、相手は海軍大将だ。確実に逃げられるとは言えない。

 

「……ごめんね、ベル」

「?……何の話だ?」

「足手纏いになったことよ」

 

 『足手纏い』そう口にしたハンコックは目が潤んでいた。

 

「ベルが一番の新入りなのに……私達の妹なのに……ベルにばっかり負担をかけちゃって……!」

「私達よりもベルが強いことは知っていたわ。……でもね、足手纏いになるなんて思ってなかった!」

「私達、ベルのお姉ちゃんなのに……!ニョン婆様たちが来なかったら……ベルを犠牲にして……生き延びることになってなんて……!」

 

 三人共泣きじゃくりながら己の無力さを嘆いている。

 一歩間違えば最愛の妹が死ぬところだった。自分達は妹と一緒に戦うこともできないほど弱い。

 お前達は優秀だ、天才だ、と九蛇の教官達から賛美され、十歳半ばで九蛇の船に乗る資格を得ることができた。

 

 調子に乗っていたのだろう。

 ベルゼリスこそ八歳で九蛇の船に乗ると言う異常な結果を出したが、それは一部の例外だと思っていた。

 九蛇海賊団で自分達に勝てるのはグレイスか、妹のベルゼリスしか居ない。

 他の戦士達には勝てる。

 

 ならば、九蛇の戦士より圧倒的に弱い外界の男なんかに負けるはずがない。

 そう思い、慢心していたのだ。

 

 その結果が……無様な敗北だったのは当然だろう。

 センゴク率いる精鋭部隊の強さが自分達と互角以上だったため、倒しきれなかったのだ。

 そしてセンゴクの放った衝撃波の余波であっさりと気絶したハンコック達。

 目覚めたときには全てが終わっていた。

 ……幼い妹が終わらせていたのだ。

 

「自分の弱さが……悔しいのよ……!」

 

 その一言にはハンコック達の無念が込められていた。

 

「……」

 

 ベルゼリスはなんと言えばいいのか分からない。

 自分は前世の記憶を引き継いでいるため、この年のどんな子供よりも理解力があるだろう。

 理解力があると言うことは、どうすれば効率よく強くなれるのかも他の子供よりよくわかっている。

 その上ベルゼリスは前世の死因が原因で貪欲なまでに強さを求めているのだ。

 普通の子供同様に自分の娯楽のために遊ぶことがないため、ベルゼリスの鍛錬に費やした総時間はハンコックよりも長いのだ。

 己だけの特殊能力『念能力』を使わなくてもベルゼリスの力はハンコックよりも上なのだ。

 

 そのハンコック達の様子をセンゴクとボルサリーノの人質組は難しそうな表情で見ていた。

 単純に比べる対象が悪すぎるのだ。

 ベルゼリスの姉達も見た目の年齢にしては破格の戦闘力だ。

 だが、ベルゼリスとは格が違う。

 ボルサリーノを一対一で倒し、全力を出したセンゴクでも苦戦はさせるだろう実力者。

 こんな奴と戦闘力を比べたら、ネガティブになってもおかしくない。

 

「……だったら六式を覚えろ」

「……六式?何それ?」

 

 何のことかわからずハンコックはベルゼリスに聞き返す。

 その質問に答えたのはセンゴクだった。

 

「世界政府と海軍が編み出した六つの技の事だ。習得は容易ではないが……お前達九蛇の戦士ならば、習得すれば必ず己の力となるだろう。今回、ベルゼリスが我々の上司である世界政府のトップと交渉し、その六式を使える者を女ヶ島に派遣することとなった」

「……つまり、もうすぐ教えてくれる人が来るからその人に教えてもらえってこと?」

「ああ」

「……そっか」

 

 ハンコックは目を閉じて少し考え込むと、ベルゼリスに宣言する。

 

「私達、暫く九蛇の船から降りるわ」

「身体能力も覇気も一から鍛えなおすことに決めたの」

「その六式って技にも興味あるから、自分が納得するまで強くなってから九蛇の船に乗ることにするわ」

 

 ソニアとマリーもハンコック同様、鍛えなおすようだ。

 ベルゼリスとしても姉達が強くなるのは都合がいいので修業を推奨する。

 勿論自分も六式を覚えるために派遣された六式使いに師事をする予定なのだが。

 

「ベル!いつかベルよりも強くなってアマゾンリリーの王になるの!そして王になって、今度は私がベルを守るんだからね!」

 

 そう決意してハンコック達は部屋から出て行った。

 ハンコックは本気でベルゼリスより強くなるつもりのようだが、『強さ』と言う一点においてベルゼリスは譲るつもりはない。

 今回の事件でベルゼリスの強さは、未だセンゴクやレイリーはおろか、ニョン婆にも劣ることが分かった。

 まだ八歳だから体が出来上がっていないという理由だが、それでも悔しいものは悔しいのだ。

 誰かに強さで劣ることがベルゼリスは気に食わないため、今まで以上に自分を鍛えるだろう。

 

 一般的にそれを負けず嫌いと呼ぶ。

 

「……いい姉妹を持ったな」

「……」

 

 センゴクの生暖かい視線とその一言にベルゼリスは少し恥ずかしくなり、自分も部屋を出る。

 

「……知ってるよ、そんな事」

 

 

 

 

 

 

 

 その後の九蛇海賊団と人質となったセンゴク大将、ボルサリーノ中将がどうなったかを記そう。

 

 ハンコックの王になる宣言の数日後。

 人質を乗せた九蛇海賊団は、女ヶ島に到着した。

 

 その際、出迎えに来た九蛇の民達は驚愕していた。

 担架で皇帝のグレイスが運ばれていたこと、九蛇海賊団にそれなりの死傷者が出たこと、国を飛び出したきり戻ってこなかった先々代皇帝グロリオーサが帰ってきたこと、そして……九蛇海賊団が男を三人女ヶ島に連れてきたこと。

 

 前者二つの事はともかく、後者二つが大問題だ。

 完全な私情で国を治める立場の皇帝がその職務を放棄したのだ。当時の部下達からしたらとてもではないがいい感情を抱くことはできないだろう。

 

 そして、女人国のアマゾンリリーに男を招くのは前代未聞の大罪である。

 九蛇には様々な掟があり、その内の一つに男子禁制の掟がある。

 それは、この女ヶ島に男が足を踏み入れた場合必ず殺さなければならないと言う掟だ。

 如何に自分達の王が命を助けられたとしても、頭の固い頑固者はどこにでも存在するのだ。

 

 さて、そんな者達をどうしたかと言うと……物理的に黙らせたのである。

 最早世界政府と九蛇の取引が成立間近で暴れるつもりがない人質二人から海楼石の手錠を外し、うるさく騒ぐ馬鹿共と戦わせたのだ。

 ずっと狭い部屋に閉じ込められてストレスが溜まっていたため(特にセンゴクは)びっくりするほどの速さで九蛇達を瞬殺したセンゴクとボルサリーノ。

 その圧倒的な力を見せたセンゴクは九蛇海賊団の船員のみならず島にいた国民達にも人気になり、大勢の女がセンゴクの元へ押しかける羽目になった。

 

 これにはセンゴクも泣きが入った模様である。

 

 そして、今回の戦闘で生き残った九蛇海賊団の船員は、ニョン婆監修の元、一から鍛えなおすことになった。

 怪我が治ったグレイスなどのプライドの高い者は、ニョン婆に鼻っ柱をへし折られハートマン軍曹並みの言葉攻めをされ苛烈な修業を受けることになった。

 

 そして、約束の一ヵ月が過ぎた。

 

 

 

 

 

 

 凪の帯付近にて

 

 

 センゴク、ボルサリーノの二人を乗せた九蛇海賊団の船は、引き渡し場所に居た軍艦の横に船を停めていた。

 人質の二人は漸く帰れると喜んでいたが、軍艦に乗っている海兵達を見て冷や汗を流しだす。

 

 海軍の英雄ガープとその弟子のクザンが怒りの形相で自分達を睨みつけているのだ。

 二人が怒っている理由は、センゴクとボルサリーノが一ヵ月仕事ができない状態だったのでその分の仕事が他の将校たちに回ってきたことである。特にガープとクザン、ここには居ないがサカズキとつるの四人は海軍の中でも有数の実力者なのでその分多くの仕事を任されることになったのだ。

 しかも、ガープは有給を取って生まれたばかりの孫と遊んでいたと言うのにコング元帥から元帥命令で有給取り消しの上海軍本部に呼び戻され、ブラック企業も真っ青な仕事が叩きつけられたのだ。

 これだけでもガープには我慢ならないと言うのにさらにガープの怒りを助長するものがあった。

 

 それは九蛇の船に乗っているセンゴクに九蛇の女達が目をハートにして群がっているのである。

 予めコング元帥からセンゴクの『お仕事』を聞かされてはいたが実際に見てみるとかなりムカつく光景である。

 

 自分達が睡眠時間も削って仕事させられていたと言うのにこいつ女とイチャついてやがったのか……。

 

 センゴクからしたら全力で否定したい事であり、完全に被害者なのだがそんなこと知ったことではない。

 

 殺る気全開のガープとクザンが指をバキバキと鳴らしている光景を見てセンゴク達は帰りたくなくなってしまった。

 

 しかし、元々人質を引き渡すつもりでここに来たので帰ってもらわねば困るのだ。

 青ざめた表情の二人を無理やり軍艦に乗せ、それと入れ替えに一人の女海兵が九蛇の船に飛び乗った。

 

 どうやらこの女が六式の教官のようだ。

 

 人質の引き渡しが終わった後グレイスの命令でアマゾンリリーに帰還する九蛇海賊団。

 

 こうして九蛇は七武海に加盟したがこれからは更に鍛錬を積むことになるだろう。

 グレイスもだが一人一人の九蛇の戦士の質を上げなければ、いずれこの世界の怪物たちに蹴散らされてしまう。

 それはベルゼリスも同じで、一対一でセンゴクやレイリーに勝てるように強くなる決意をしていた。

 

 (まずは六式の習得だな……)

 

 

 

 

 

 なお、背後からのセンゴクの「ぬわーーっっ!!」と言う断末魔は聞こえなかったことにする。



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第14話

リアルが暇になったから小説を書き始めたんですが、
小説を書き始めてしばらくするとリアルが忙しくなりました。

そう言うことってありますよね?


 鋭く尖った鋭利な爪が赤い髪の少女に振り下ろされる。

 少女は感情を感じさせない無機質な目で爪の軌道を見切り、六式の『紙絵』で紙一重に躱し、自分を襲った大熊の腕に飛び乗る。そのまま大熊の腕を駆け上がり、『凝』で自分のオーラを右足にたっぷりと集め大熊の顔を抉るように足の甲で蹴り飛ばす。

 

 体重が何トンあるかも分からないほどの巨大な大熊が、自分の十分の一にも満たない小さな少女に蹴り飛ばされるのは現実味のない光景だった。

 

 鼻は折れ、大量に流血しても大熊の覇気は衰えず──寧ろ戦意と殺意に満ち溢れ、残った力を四肢に籠め、弾丸のような速度で少女に向かって突撃する。

 そして大熊は、少女が自分の間合いに入る直前に、全身に『武装色の覇気』による硬化を施し、一片の油断なく自分の全力をもって少女を狩ろうとして──少女の理不尽な力に捩じ伏せられた。

 

 少女は殺意を滾らせ自分に弾丸の如く向かってくる大熊を相手に眉一つ動かさず、ただ自分の右腕に、全身を覆っている顕在オーラをすべて集める念能力の応用技『硬』を行い──大熊を迎え撃った。

 

 結果──大熊の体は、トマトを潰したかの如く弾け、肉片が地面に散らばり──少女の右腕は傷一つなく大熊の体を貫通し、獰猛な獣の命を奪った。

 

 「……チッ」

 

 大熊をたやすく屠った赤い髪の少女──ボア・ベルゼリスは力加減を間違えた自分とあっさりと死んだ大熊に向けて大きく舌打ちをした。

 

 (硬化していたのなら原形は保つと思っていたのだが……流石に『硬』で殴るのは失敗だったか?)

 

 今回のように死体が激しく損傷すると自分の持つ念能力『死蔵の薙刀(バンデッドグレイブ)』で敵の死体をオーラに変換して吸収することができないのだ。

 せめて薙刀の切っ先を突き刺すほど死体が残っていれば吸収できるのだが、ここまで小さな肉片になるとそれも無理な話だ。

 

 今、ベルゼリスは自分のオーラを増やすために、覇気を使いこなせる猛獣が闊歩しているルスカイナ島で猛獣を狩っていた。

 ベルゼリスは、センゴクやレイリーなどの強者を超えるのならば、自分には戦闘経験、技量、身体能力が足りないと考えたのだ。

 しかし、技量も経験も未だ子供の自分ではどうしようもない。

 どちらも実戦を多く積まねば得られぬものであるため、この二つに限っては基礎訓練だけ積んで後回しとする。

 

 だが、身体能力に限っては他人と比べてベルゼリスにはアドバンテージがある。

 

 念能力だ。

 

 オーラさえあれば身体能力を格段に強化することができ、歴戦の海賊や海兵も一溜まりも無い攻撃を繰り出すこともできる。

 他にも『円』による無機物の探知もできるため、ベルゼリスはとても重宝している。

 『見聞色の覇気』では基本的には生物しか探知できないため、場合によって使い分けているのだ。

 オーラはたくさん有るほうができることも増え、継戦能力も上がる為、わざわざオーラの変換量が多い覇気使いの猛獣が居るルスカイナ島に来たのだ。

 

 それと言うのもベルゼリスのオーラの貯蔵量を一月ごとに満タンにしていたらその辺の海王類では変換できるオーラが足りなくなったからだ。

 

 ベルゼリスの『死蔵の薙刀(バンデッドグレイブ)』はベルゼリスの潜在オーラの二倍までオーラを貯め込むことができ、限界までオーラを貯めた場合、月末には貯めたオーラの一割をベルゼリスの潜在オーラの上限に足すことができるのだ。

 

 つまりベルゼリスは、己のオーラを一月に二割増やすことができる。

 ……尤も、限界までオーラを貯めることができればだが。

 

 『死蔵の薙刀(バンデッドグレイブ)』を作ってから一年と二ヵ月までは毎月二割ずつ増やせたが、これ以上はオーラの貯蔵量が増えすぎたため獲物の数が足りなくなってきた。

 

 オーラの変換量は、悪魔の実の能力者>覇気使い>海王類>一般兵となっている。

 悪魔の実の能力者はそこら辺を探せば出てくるわけじゃないので、専らベルゼリスは凪の帯とルスカイナ島でオーラを集めていた。

 

 九蛇海賊団船長グレイスが、七武海に加盟してから四年。

 

 この四年間でベルゼリスのオーラ量は凡そ十倍まで増え、六式を習得し、纏う覇気の密度も上がっている。

 

 十二歳になったベルゼリスは背丈が150センチメートルほどまで伸び、体も丸みを帯びて女性らしく成長し誰もが振り返るほどの美しい少女になった。胸も三人の姉達ほどではないが年齢にしては大きく育ち、着ている服によっては胸のふくらみを見ることができるだろう。

 

 服装はノースリーブの黒と赤のアオザイを着て、動きやすいカンフーシューズを履いている。

 九蛇の仲間達には言えないが、ベルゼリスはアマゾンリリーの痴女染みた服装をあまり着たくないのだ。

 

 下着同然の薄い皮を局部に巻き付けマントを羽織り、靴はブーツを着けている。

 気候の暑いアマゾンリリーならともかく、他の島に行くときは少なくとも自分は着替えるつもりだ。

 なので国の服屋に特注で、アオザイなどの露出の少ない服を作らせているのだ。

 

 (一旦アマゾンリリーに帰るか……)

 

 そう思考したベルゼリスは新しく作った『発』を発動させアマゾンリリーに向けて飛び立った。

 

 

 

 

 この世界で有用な能力とはいったいどんな能力か?

 

 この世界の殆どは海であり、移動するには船を使うしかない。

 しかし、この世界の海には現代日本の近海などには絶対に存在しないような凶悪な生物が星の数以上に存在するのだ。

 人間など当然のごとく蹴散らす海獣や海王類。

 こんな凶悪な生物に狙われたらほとんどの人間はなすすべもなく死んでしまうだろう。

 その上、海の天候や気候はデタラメで一流の航海士を船に乗せても安全に航海できるか分からない。

 

 ならばこそ【暴君】バーソロミュー・くまが持つニキュニキュの実のような移動、運搬に長けた能力などが、多くの人たちに求められるだろう。

 

 なので、ベルゼリスは自分の二つ目の『発』を移動、運搬を目的とした能力にしたのだ。

 

 『変幻無形の力(フォームレスパワー)

 

 【変化系能力】

 

 ・自分のオーラを好きな形に変化させ、伸縮することができる。

 

 ・変化させる形が大きいほどオーラを消費する。

 

 

 制約 1 自分の体から『変幻無形の力(フォームレスパワー)』を切り離して使うことはできない。

 

 制約 2 『変幻無形の力(フォームレスパワー)』を発動中に『隠』を使うことはできない。

 

 制約 3 『変幻無形の力(フォームレスパワー)』を使って他人を傷つけてはならない。

 

 制約 4 『変幻無形の力(フォームレスパワー)』は誰にでも感知される。

 

 誓約 制約3を破った場合、破ってから二十四時間ベルゼリスのオーラ消費量が二倍になる。(威力、出力は普段のまま)

 

 

 

 今ベルゼリスは『変幻無形の力(フォームレスパワー)』を発動させ、空を飛んでアマゾンリリーに向かっていた。

 自分のオーラを翼の生えた蛇、蛇竜とでも言うような見た目に変化させて器用にも蛇竜の翼を羽ばたかせているのだ。

 足の裏からオーラ放出し、蛇竜に変化させているため、あたかも蛇竜の背に乗っているように見えるだろう。

 

 (やはり空を飛べるのは良いな……)

 

 この能力の元となったのは、HUNTER×HUNTERに登場する『暗殺一家ゾルディック家』の先代当主であるゼノ・ゾルディックの『龍頭戯画(ドラゴンヘッド)』だ。

 

 変化形の能力で自分のオーラを龍を模した形に変え、それを伸ばして攻撃する。伸縮や旋回も自由自在。更に龍に乗ることで長距離を移動することもできると言う応用性の高い能力だ。

 

 もし自分が変化系能力者だったのならゼノの能力を真似していたかもしれない。

 そう思うほどゼノ・ゾルディックの能力はバランス良く完成されているのだ。

 

 『龍頭戯画(ドラゴンヘッド)』『牙突(ドラゴンランス)』『龍星群(ドラゴンダイヴ)

 

 移動良し、攻撃良し、制圧、殲滅良しのほぼ万能な能力だ。

 

 しかしベルゼリスは具現化系能力者。

 変化形とは隣り合っている系統で相性が良いとはいえ『死蔵の薙刀(バンデッドグレイブ)』でかなり念の容量を使っているベルゼリスでは、制約をそれなりに付けて制限を付けなければ使い物にならない能力だっただろう。

 

 制約1の効果で原作でのゼノのように他人だけを運ぶことはできない。

 制約2と4で能力を隠すこともできない。

 制約3で必ず攻撃できないわけではないが、積極的に攻撃することもしないだろう。

 

 これだけ制約を付ければ使い所が限られる能力になるだろうが問題はない。

 攻撃は自分の鍛えた体と技術がある。

 制圧、殲滅能力は正直惜しかったが、こちらも【鷹の目】のように斬撃を飛ばせば代用にはなる。

 なので一番欲しかった移動、運搬系の能力を作ったのだ。

 

 ベルゼリスは帆船でノロノロと移動する時間が大嫌いなのだ。

 ……まあ、現代日本のフェリーや飛行機などの移動手段を知っているため仕方ないかもしれないが。

 

 ベルゼリスの当面の目的は九蛇海賊団の強化である。

 

 シャボンディ諸島で賞金稼ぎを行い、主に悪魔の実を購入するための資金を貯める。

 襲った海賊の持っている金目の物もすべて頂き、優れた武器や色々な島の永久指針もあれば手に入れる。

 運が良ければ悪魔の実も手に入るかもしれない。

 売却すれば最低価格一億ベリーなので、食わずにとって置く者も多いのだ。

 武器や悪魔の実は九蛇海賊団の面子やセンゴクの娘たちに与えるのもいいだろう。

 

 そんなことを考えているとアマゾンリリーが見えてきた。

 

 

 

 

 

 

 「ハァッ!!」

 

 掛け声と共に踏み込み、黒い髪の美女が『武装色の覇気』を纏いながら老婆に拳を突き出した。

 拳は空気を切り裂く風切音を鳴らしながら老婆を砕こうと迫っていく。

 

 「甘いわァ!!!」

 

 しかし、老婆も同じく拳を握り、迫る女の右腕に覇気を纏った己の右腕をぶつけ、相殺する。

 瞬間、互いの一撃で周囲に衝撃が走り、地面がひび割れていく。

 相殺の衝撃から逸早く老婆は動き出すが、それに続く形で女も移動し十分な間合いを取った。

 

 「指銃”撥”!!」

  

 黒い髪の女は老婆の背後を取り続けながら指圧を弾丸の如く飛ばし牽制する。

 

 「鉄塊!!」

 

 老婆はその全ての指弾を『鉄塊』で受けきり、隙を見て上空に跳び上がる。

 

 「嵐脚”凱鳥”!!」

 

 女の頭上から鋼鉄も両断する鋭い斬撃が襲い掛かり、女は防ぐのを諦め回避に専念する。

 

 「剃刀!」

 

 『剃』と『月歩』の複合業である剃刀で素早く斬撃から逃れ、間合いを取り、仕切りなおそうとするが──

 

 「残念だったねぇ……六王銃!!」

 「うぐっ!?」

 

 いつの間にか懐に入り込んでいた老婆の技に、あえなく倒れることになった。

 

 「技の練度は良く仕上がってるよ……あとは対人戦の経験を積みなぁ」

 「はぁ……はぁ……あ、ありがとう……ございました……」

 

 倒れている黒い髪の美女──ボア・ハンコックは、新しく世界政府から派遣された六式の教官に膝を突き、倒れ込んだままの姿勢で、模擬戦の礼を言った。

 

 倒れ込んだハンコックを見下ろしている老婆の名はクマドリヤマンバ子と言う世界政府の殺し屋である。

 原作に登場するCP9のメンバー、クマドリがたまに口にしていたクマドリのおっかさんだ。

 最初に派遣された海軍の女将校が六式の指導をしていたのだが、一ヵ月も経たぬうちに、本来習得に長い年月をかける六式をハンコックやベルゼリスが習得し、二ヵ月後には練度も上回られて女将校は自信を無くし帰って行ったのだ。

 そのためもっと六式の練度が高い人物を世界政府に呼ぶように頼んで来たのがクマドリのおっかさんだ。

 名前が長いのでヤマンバと九蛇の者達から呼ばれている。

 

 最初はこんな婆で大丈夫なのか?と、不安だった戦士達もニョン婆とヤマンバの手合わせを見て考えを改めた。

 

 何しろこの国の皇帝であるグレイスよりも更に強いニョン婆と引き分けるほどの実力を持っているのだ。

 ……この世界の爺や婆はなぜこうも強いのだろうか。

 ベルゼリスはよくそんなことを思うようになった。

 

 ヤマンバも五老星から命じられた時は、七武海になったとはいえ海賊と海賊予備軍の九蛇の民達を鍛えていいものかと悩んでいたが、いざ接してみると、素直ないい娘ばかりだったので現在は疑念なく鍛えている。

 戦闘民族である九蛇の民は身体能力もその辺の一般兵とは比べ物にならず優れており、それは六式を習得するための下地としてとても役立つものだった。

 才能面でもほとんどの九蛇の戦士は、今まで教えてきたCPの訓練生よりも呑み込みが早く教え甲斐がある為、

 ヤマンバも水を得た魚のように成長する生徒たちを見て、いつの間にか乗り気になっていた。

 

 「最後の六王銃は加減したからダメージは少ないはずだよ。ほら!さっさと立ちな!」

 「は、はい!」

 

 慌てて立ち上がるハンコック。浸透系の技である六王銃を食らったがヤマンバの絶妙な手加減によりほぼダメージは無い。

 

 このハンコックとヤマンバの模擬戦だがヤマンバが女ヶ島に来てから毎日。それも一日に数回ほど行われている。

 それというのも弟子の中でもお気に入りのハンコックが、ベルゼリスより強くなりたいと言うので、毎朝ある基礎訓練の後に模擬戦。朝食後に模擬戦。ハンコックに割り当てられた仕事の後に模擬戦。昼食を食べた後に模擬戦。

夕食前に模擬戦と言う風にずっと戦っているのだ。

 ハンコックは六式が気に入っているのでニョン婆ではなく、ヤマンバに師事することが多い。

 当たり前の事だが、ヤマンバが数十年研磨した六式の技術は、習得して数年のハンコックよりも格段に高い。

 それは六式の奥義である六王銃を使えることから、極めている、と言ってもいいだろう。

 

 「そろそろ六王銃のコツは掴めたかい?」

 「う~ん……微妙ですね。体に食らったらわかると思ったんですけど」

 「そんなもんでわかるのは一握りの天才だけだよ。地道に六式の技を磨いていけばいつかは習得できるさね」

 「そうですか?私としてはさっさと覚えたいんですが……」

 「そんな簡単にいくもんか……私より遥かに才能があるくせに。欲張りすぎだよ」

 

 楽して手っ取り早く覚えられないかと思ったハンコックは、ヤマンバに六王銃を自分に使ってほしいと頼んでいたのだ。

 攻撃されたときになんとなくわかるかもしれない、と思い付きで言ったアイデアだが意外と覚えるかもしれないと判断したヤマンバによって加減された六王銃を叩き込まれたハンコック。

 たぶん、あまり時間をかけずに覚えられるだろうと言って先ほどの模擬戦の内容の反省を話す二人。

 

 そのまま二人は話し込んでいたが、ふと、自分たちのいる地面に大きな影ができたのに気付いた。

 頭上を見上げれば、そこにはハンコックの妹であり、目標でもあるベルゼリスが能力によって作った蛇に乗ってこちらに近づいてきた。

 

 

  

 




原作開始13年前
ベルゼリス12歳
ハンコック16歳(非能力者)


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