ひねくれボッチでも恋がしたい! (いのり)
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恋がしたいけどボッチな俺
-----------------恋。
誰しもが一度は生きているうちに経験し憧れる人間にとっての代名詞と言っても良いだろう。
青春、ラブコメなど社会で生きていくうちに経験しているかどうかという自分自身のアクセサリーにもなりうる。
だから俺は思う。
現在高校2年生になったが一度も恋という経験をしていない。
周りでは青春を楽しむ奴等で溢れている。
その周りから溢れた俺のような一部の人間はどうやって生きていけば良いのか?
世界は甘くはない。
なんせ神様なんて存在はこの世に存在すらしていないのだから。
結論を言おう。
-----------------俺は恋がしたい。
「ふむ。どうしたものか......」
平塚静は一人職員室で悩んでいた。
生徒指導兼国語教師である、平塚静は本日国語の授業で『高校生活を振り替えって』という作文を書かせた。
これは高校2年生になりこれからの事を理解してもらい、進路に対して少しでも意識をしてもらうという意味で出したのだが。
一人の生徒が書いた内容は、あまりにもひねくれた概念を持っていた。
「恋がしたい....かぁ。はぁ.....私もしてみたいなぁ」
何が困るって自分もこの生徒の作文を読んで共感してしまった事だ。
溜め息を吐き捨て、明日この作文を書いた生徒を呼び出して話すことを決めてデスクにしまう。
コンコンと、職員室の扉がノックされて一人の生徒が入ってきた。
「失礼します。平塚先生、部活の時間も終わりましたので鍵を返しに来ました」
この少女の名前は、雪ノ下雪乃。非常に優秀ではあるのだが普通の生徒とは異なる思考をしている。
「ああ。今日も御苦労だったな」
「いえ。誰も訪ねては来ませんでしたから」
「そうか.....」
「それでは失礼します」
雪ノ下は少し暗い顔をしたまま職員室を出ていく。
雪ノ下の所属している部活は、奉仕部という他校には無さそうな部活だ。
部活の人員も雪ノ下一人だけで、部活として正式には認められていない。
デスクにしまった、先程の作文が頭をよぎりもう一度作文を手に取り笑みを浮かべる。
今日も今日とて憂鬱な日々だった。
高校生というのは一種のブランド価値があるものだと俺は勝手に勘違いしていた。
去年、俺は総武高校に入学した。
中学の時俺はある一人の女の子に告白してフラれた。
フラれた事事態はそこまで辛くはない。
だけどフラれたという事実は表立って俺自身に厳しい現実として心に大きな傷を残した。
告白した翌日。
何故か黒板に俺の顔が書かれており吹き出しに好きです!付き合ってください!と書かれていた。
クラスの男子には冷やかされ女子からは疎まれ中学生活は最悪なものだった。
だから俺は高校生に全てをかけたのだ。
中学の同級生が来れないだろう、難関な高校を選び見事合格。
高校生という肩書きも手に入れ俺の甘酸っぱい高校ライフのスタートだと息巻いて高校に入ったのに、現実はかけ離れていた。
俺は高校入学式初日に早めに出て友達を作ろうとした。だが車に轢かれそうになった犬がいて反射的に犬を庇い自分が轢かれて1週間入院することになってしまった。俺が休んでいる間にグループが出来てしまい入る隙がなくなっていた。
俺はボッチになっていた、誰からも話しかけられず誰からも必要とされない。
俺はこんな状況を望んでいなかった。
俺は恋がしたいのだ。
恋をしてリア充になりたかった。
でもこれだけ恋をしたい俺が恋を出来ないでいるなら周りの奴等も実は恋なんてしていないのではないか?
あれは仲良くしているフリだ。
要はまやかしなのだ。
そんな物此方から願い下げだ、それなら俺は自分を誇っても良いのではないか?ボッチである自分自身を周りの思考に流されず常に自分を持ち続けている自分を誇っても良いのではないか?
そうだ、そんな偽物なら俺はボッチで充分だ。
俺は本物の恋がしたいのだから。
「はぁ....」
そして俺は今日という憂鬱な日に加え放課後放送で平塚先生から呼び出されたので職員室の前まで来ている。
「失礼します....」
「おう。比企谷、こっちだ」
平塚先生は、自分のデスクだろうか一枚の紙を見ながら俺に向かって手をあげてくる。
「あの...何か用ですか?」
早く帰りたいんですがという言葉を堪え平塚先生に聞く。
「何か用ですか?じゃないだろう、この前の作文の事だ。これは何だ?どうしてこうなった?」
「ああ、その話ですか。いえ別におかしな事は書いていないと思いますが?」
「私が出した内容は高校生活を振り替えってというテーマだった筈だが?」
「ですから恋をしたいと書いたんですよ.....恋をしたことないですし間違っていないと思いますが?」
「はぁ....君の目は何故そんな腐った魚のような目をしているんだ?」
「....これはデフォルトです。それに話を逸らさないでください」
「ふん、まあそうだな。恋がしたい、皆そう思い生きているだろう」
「特に先生は........」
俺の口がこれ以上動くより早く平塚先生の拳が俺の鼻先に触れていた。
「何か言ったか?」
「すいません......」
「次は無いぞ?」
「ですがそんな平塚先生なら俺の気持ちも分かる筈です」
平塚先生も俺と同じ恋をしたことない年齢=なのだ、この作文を読んで共感しない筈がない。
「確かに君の気持ちも分かる」
「それなら」
「でもな。君はまだ高校生だ、今から時間は幾らでもある。間違いを繰り返し成長していく過程だ」
「ですが高校生だと言っても中学の時から変わりません。これではこれからも変わらないと俺は思いました」
「ふむ。まあ変わろうとしないのなら変わらないだろうな」
「変わろうとしてますよ、ただ周りを見ていると変わりたいと思わないだけです」
「周りを?」
「自己と周りを欺き相手の反応ばかり気にして話をする。相手が笑えば此方も笑い、相手が泣けば此方も泣く。そこに自分の感情はありません、こんなのは恋ではありません」
「ほう。恋を知らない奴が恋を語るとはな」
「先生だって恋知らないくせぐふぉっ.....」
平塚先生の拳は俺の鼻を打ち抜き痛みで鼻をおさえる。
「二度目は無いと言ったはずだ」
「す、すびばせん.......ずずっ.....それで恋って何なんですか?」
「さあ何だろうな」
「......」
「私が君に恋を教えるのは無理だからな。だが恋を知るチャンスはある」
「恋を知るチャンス?」
「ああ、付いてきたまえ」
俺は平塚先生に連れられて普段あまり来る用事もないであろう別館の奥の部屋まで来ていた。
何処かの部室なのか教室の扉を開けると殺風景な部屋の中央に細長い机が一つに椅子の上に座り本を読んでいる少女がいた。
「平塚先生、入るときはノックをとお願いしている筈ですが」
「君はノックをしても返した試しが無いじゃないか」
「先生が返事を待たずに入ってきてしまうからですよ。それでそこにいるぬぼっとした人は?」
ぬぼっとしたという表現をされて少し頭にきたが現状が理解出来ないでいるのでイライラする気持ちよりも不安の方が勝っていた。
「ああ、こいつは恋を知りたいらしい」
「.......すいません。私では力になれそうもないです」
「陽乃ならやると思うんだがね?雪ノ下では厳しいかぁ」
陽乃という人物が誰なのか分からないが平塚先生が座っている少女を挑発しているのは分かった。
「平塚先生、姉さんの話は関係ないと思いますが?」
「いやなに、君が駄目なら陽乃に相談しようと思っていたところなのだよ。まっ君は無理と言ったんだから私達はこれで失礼するよ」
「........待ってください」
「ん?」
「平塚先生の依頼を無下には出来ませんし...先程の依頼お受けします」
「ふっ....そうか。それじゃあ、私は仕事があるから後は任せたぞ、雪ノ下」
平塚先生はそのまま教室から出ていった。
(この状況で放置?)
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ボッチな俺にとって恋がなんなのか分からない
目の前の少女の名前は雪ノ下雪乃。
難関校と言われているうちの中でも国際教養科J組という偏差値が普通クラスよりも2、3ほど高いクラスに在席しており、しかもそのクラスでトップの成績を誇っている。
何故ボッチの俺がこんなにも詳しいのか、別にストーキングしたとかではない、単純に噂として耳に入ったのだ。
「そんなところに何時までも立っていないで座ったら?」
「あ、ああ......いや、やっぱり俺は良いよ」
「どういう意味かしら?」
「突然来て恋したいから教えてくれなんてわけわからないこと言われても困るよな。平塚先生には俺の方から言っておくから今回の事は忘れてくれ」
俺は軽く謝罪を込めてお辞儀をして扉に手をかけた所で引き止められた。
「待ちなさい....」
「?」
「この依頼を私は受けると言ったのよ。一度受けた依頼は最後までやりとおすわ」
俺を睨み有無を言わさない圧力を感じて、空いている席に座った。
「それで貴方の名前は?」
「比企谷八幡です....」
「そう、私は雪ノ下雪乃よ。それで恋をしたいという依頼だったけれど具体的にはどうしたいのかしら?」
具体的に....雪ノ下の口から言われたとき考えてみたが分からなかった。
恋はしたい。
けどクラスであるような恋なら俺はしたくないと思っている。
「分からない.....」
「ごめんなさい。恋をしたことが無いから相談に来たのだったわね。失念していたわ。そうね.....好きな人、とかはいるのかしら?」
好きな人。その言葉に合う人は一体どんな人なのだろうか。
可愛いと思った人?
性格がいい人?
分からない。
俺には人を好きになる定義というものが何も分からなかった。
可愛いと思う人はいる。
現に目の前の雪ノ下雪乃のという少女は容姿がずば抜けていると言っていいほど整っているし成績もいい。
だがだからと言って好きかどうかで聞かれれば好きではないだろう。
「いない...と思う」
「はぁ...これは予想以上に重症みたいね」
「雪ノ下、邪魔するぞ」
「先生....ノックを」
「悪い悪い。比企谷の相談に手こずっているようだな」
「あまりにも本人自信が理解していないので」
「そうか....あ、そうだ。言い忘れていた。比企谷」
「なんですか」
「お前の依頼が完遂できるまで、お前にはこの部に入って活動をしてもらう。勿論異論抗議質問口答え等一切禁止だ」
「.......どういう意味ですか?」
「どうもこうもあるまい。君の悩みを解決するにはなるべく多く雪ノ下の側に置いておくのが良いと判断した」
「平塚先生。それは先程の依頼に含まれる。ということですか?」
「ああ。勿論その通りだ。だから比企谷の依頼が完遂すれば比企谷は自由だ」
「......分かりました。些か言いたいこともありますが依頼というなら納得しましょう」
「俺は納得してないんだが?」
「私みたいな可愛い女の子と同じ部活をやれるのよ?感謝こそしても文句なんて無いと思うのだけれど」
「.....清々しいまでに自分に自信があるみたいだな」
「ええ。貴方とは違ってね」
「俺は自分に自信が無いんじゃない。周りに合わせるのが嫌だから目立たないようにしているだけだ」
「それは貴方に自信が無いからでしょう?私は別に普段から周りに合わせてなんていないわ」
「周りに合わせないでどうやって友達作ったりするんだよ」
「そうね、確かに作りづらいかもしれないわね。でもだからなに?友達ってそこまで必要なものかしら?私この年まで友達がいないと困ることなんて無かったから分からないのだけれど」
「.....困るだろ。体育の時とか2人組作れとか言われたとき。残った奴が俺の顔見た時の顔思い出しただけで卑屈になるわ」
「それは貴方に自信が無いからよ。さっきも言ったけれど自分に自信があれば相手の意見なんてどうでも良いものなのよ、相手は所詮他人なのだから.....例えそれが血の繋がった兄弟や姉妹であっても」
「雪ノ下........」
「まあな。血が繋がってるって言っても兄弟や姉妹なんて一番近い他人みたいなもんだからな」
「.....そうね。大変遺憾だけれど今の貴方の言葉には賛成するわ」
「さて、私は仕事があるから職員室に戻るが比企谷、明日もちゃんと部活に出るようにな」
「どうして平塚先生がそこまで言うんですか?」
「ん?当たり前じゃないか。私はここの顧問だ」
「え?.......」
「それじゃあな」
平塚先生は放心している俺を放置してそのまま部室を出ていった。
「さて。そこで何時までも放心している、放心谷君。私の話を聞いてもらえるかしら?」
「放心谷ってなんだよ....」
「さて現状、私から貴方に何かをしてあげられる事はないわ」
「ああ」
「それでも何とかはするつもりよ。時間はかかるかもしれないけれど」
「悪いな....」
「.......驚いたわ。貴方謝れるのね」
「お前は俺を何だと思ってるんだ?」
「ひねくれてる社会不適合者、かしらね」
「おい、それもう悪口だろ。自覚あるけど」
「ならいいじゃない。それにまだ自覚があるだけましよ。あと私は雪ノ下雪乃よ。お前ではないわ、比企谷君」
「自覚があるだけましって誉めてんの?えーと...雪ノ下、さん」
「大丈夫、安心して。ちゃんと貶しているわ。それに気持ち悪いからさんは付けないでちょうだい」
「うっ.....なんか俺のHPバーが赤まできてるんですが?何故そんなに話の中でナチュラルに俺のこと罵れるの?」
「あら貴方のメンタルはその程度だったのね。唯一の取り柄くらい持っておいた方が良いわよ。それに別に罵っているわけではないわ。貴方を見て思ったことを口にしてるだけよ。つまり貴方自身が罵られるような言動、顔などしてるからじゃないかしら?」
「おーい、最後の顔って完全に悪口だろそれ。それに俺は目が腐ってるだけで顔は悪くない」
「.....自分でそこまで自信満々に言えるなんてある意味才能ね.....神は二物を与えずとは言うけれど、自信過剰になれることが唯一与えられたなんて同情してしまうわ」
「.......雪ノ下さ.......雪ノ下だって自信過剰だろ?」
「私の何処が自信過剰と言うのかしら?」
「自分の事可愛いとか思ってるだろ?」
「ええ思ってるわよ。でもそれは自信過剰ではないわ。実際に可愛いのだからしょうがないのよ」
「........分かった、俺の負けだ.....」
「なんの勝負をしていたのか分からないのだけれど.....」
「ああ、もういいよ....」
これ以上続けたら迷わずに部室の扉を開けて走り出しちゃうかもしれない。
コンコンと俺達が話し終えるのを待っていたかのように扉がノックされた。
「どうぞ」
「し、失礼します。平塚先生から言われてきたんだけど.....あれ!どうしてここにヒッキーがいるの!?」
こっちを指差しながらヒッキーと言ってることから俺に対してヒッキーと言っているようだ。
今部室に入ってきたのは同じクラスの....えーと....リア充だ。
なんかギャル意識してます!みたいな頭と口調、そして語尾にしを付けることからギャル意識してるリア充だ。
何故リア充かって?高校生でギャルなんて皆リア充だろ。知らんけど。
「ヒッキーて俺、お前と一度も話したことないよな?何?というか初対面じゃね?ってレベルなんだが」
「彼女の名前は由比ヶ浜結衣さんよ」
「へえー」
「へえーて!ヒッキー同じクラスなのに酷いし!」
「いやだって一度も話たことない奴なんて同じクラスでも違うクラスでも同じだろ?」
「それは言えるわね」
「なんか二人で結託してる!?もう酷いよ...二人が楽しそうに話してて全然入れなくて10分くらい扉の前で話し声聞こえなくなるの待ってたのに....」
俺達の会話、外まで聞こえてたのか...今度から音量に気を付けよ....てか10分も待ってるとかどんだけだよ...なんだこれが友達作りに最も必要とされるテクニックの空気を読むってやつか?てか空気読むならさっさと入ってきて俺を助けてくれれば良かったのに。
「ん、んん....それで由比ヶ浜さん。貴方は用事があってここに来たのではないのかしら?」
「あ、そうだった。平塚先生から聞いたんだけどここって生徒のお願い叶えてくれるんだよね!?」
え?そうだったの?
でも俺の依頼も願いみたいなものだしそうだったのか?
「それは違うわ。この部は飢えた魚に餌を与えるのではなく、餌の摂り方を教え、自立を促すの」
そうだったのか、初めてこの部の方針なるものを聞いた気がする。
「へ、へえー。なんか凄いね」
うん、この顔は絶対理解してないな。
「それで由比ヶ浜さんは何を依頼しにきたのかしら?」
「あ、うん!そうそう!私....実はお菓子作りが苦手というか料理全般苦手で。お礼を言いたい男の子がいて一緒にお菓子もいれてお礼を言いたいんだけど上手く作れなくて....だから上手く作れるように手伝ってほしいの!」
ヒロインは未だ決めていないので、誰をヒロインにしてほしいという声があればそちらを尊重してヒロインにしたいと思います。
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