未来からきたロボットと一心同体となって異世界に行くことになりました。 (魅禍月)
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私私詐欺
そんなものはない!
「起きてください!起きてください!!おーきーてーくーだーさーいー!!!」
誰かに耳元で叫ばれ、目が覚めた。
大きい声で起こされて、反射的に飛び起きようとしたが、何故か体が動かない。
おかしい。昨日は早く寝たはずだ。最近はそんなに疲労が溜まることもしていないし。
いや、これ上に誰か乗っているのか。
仰向けで寝ている俺の上に身体を伸ばして誰かが乗っている様だ。
寝起きの目を凝らし、よく見てみる。
髪色はピンクで、とても整った顔をしている少女が視界に入ってきた。
一言で言うならば、美少女。それもとびきりの。
そんな高嶺の花のような少女を観察していると、身体にかかる負担がはっきりと分かるようになってきた。
この完璧な見た目からは一切感じられない重量感。
押し潰されてしまいそうな重さに苦しんでいると、美少女がなぜか嬉しそうな顔で声をかけてきた。
「おっ、起きましたね!...でも少しいつもよりは早いですね。ご主人様どうなさったのですか?」
「いや、誰?」
あたかもいつも一緒にいるように話しかけてきているが、初対面の相手だ。
初対面でないのならば、俺が忘れているのだろうか?
しかし、こんなに可愛くて、俺のタイプを丸々反映したような顔、声をしている完璧な美少女に会ったことがあったのならば、きっと覚えているはず。
「てか、ご主人様ってなんだよ。」
「え、ご主人様私のこと忘れちゃったんですか?」
「忘れたも何も知らないんだけど、誰?」
「だから私ですよ。私、私。」
「何回私って言うんだ。私私詐欺かよ。」
俺の冷たい態度にショックを受けたのか、少し涙目になってしまった。
多少申し訳ないと思う。
しかし、俺の脳内は他のことで埋め尽くされている。
なんでこんなに重いんだよ!
見た目はとてもいいはずなんだ。
さらさらとしたピンク色の長い髪。
ぱっちりと開いた綺麗な瞳。
太ってもいなく痩せてもいないちょうどいい肉付き。
胸もたわわに実っているのに、くびれがしっかりとある。
まさにボンキュボンってやつだ。
しかし悲しいかなそれを全て台無しにするこの重さ!
体重...いくつなんですか?とは死んでも聞けない。
おそらく心の中に留まらず、顔にも出ていたのだろう。
美少女が俺の上から降りてくれた。
ベッドから床に降りる際、地響きが起きた気がするのはきっとまだ寝ぼけているからだ。
流石にジャンプしたら地震を起こせるような化け物ではないと思いたい。
美少女がベッドから降りてくれたので、あとに続くように俺も降りる。
ベッドと勉強机しかない狭い部屋だ。降りたとしても、特に居る場所がないので、床に座る。
「...ご主人様。私のこと重たいって思ってましたよね?」
さっきよりも目に涙をためて言ってくる。
思っていましたよ。思っていましたとも。
でも口には出してないじゃあないか。
許してください。
「ごめん。い、いやな、別に重たいなんて思ってなかったんだよ。ただ、ちょっと体にかかる力が大きすぎるなと思っていただけで...。」
「遠回しで重いって言っているようなものですよね?...はぁ。本当に私のこと忘れてしまったんですか?私のことを造ってくれたのはご主人様なのに。」
「ん?今なんて言った?」
なんか俺が造ったとかなんとか言っていたように聞こえた。
まだ俺は寝ぼけているらしい。
流石にそろそろ起きてくれないかな。
「ですから、ご主人様が私を造ったんですって。人間に限りなく近い人型ロボット、それが私です。」
あぁ、なんてことだ。
俺は寝ぼけているじゃあないらしい。
まだ夢の中にいるんだ。
そうきっとこれは、夢だ。
さっさと目を覚ませ、俺。
...現実逃避してる場合じゃないな。
でも、こいつを造った記憶は一切ない。
どうしたものか。
そうだ、こいつを俺が造ったのなら、言うことを素直に聞いてくれるはずだ。
それを利用すれば、この状況を理解出来る。
とりあえずは、いつ俺がこんな美少女ロボットを造ったのか確かめよう。
実は幼少期の俺が、天才的な発明家で、造ったとかいう可能性も...。
な、無くはないしな。
「なあ、1つ聞いていい?」
「なんですか?」
「俺がお前を造ったのはいつか分かる?」
「うーん、多分20代の時だったと思いますよ?仕事をせずに家でニート生活していた時だと思いますし」
そんなに軽く酷いことを言わないでほしい。
まだ希望に満ち溢れた高校生の心をえぐってくる。
でもこれで、何処から来たかはわかった。
「...本当に俺がお前のこと知ってると思うか?」
「知ってるに決まってるじゃあないですか!ご主人様が私を造ったのですから。」
「俺、今高3だぞ?」
美少女は一瞬きょとんとした表情を見せた後、急に慌てだした。
おっかしいな...などと独り言を言っている。
「おーい。独り言ばかりで、説明がまだなんだけど。」
「あ、未来からきたって言うの忘れてました。すみません。」
申し訳なさそうな顔をしたのは一瞬で、舌を出して、てへっと笑った。
憎むに憎めないやつだ。
俺のタイプの容姿をしていやがるせいで、何をしても萌えてしまいそうだ。
謎だらけの美少女だが、未来からきた人型ロボットであるという事実だけは分かった。
逆に言えば、まだこれだけしか進展がなかったということか。
俺は深くため息をついた。
読んで下さり、ありがとうございました。
お久しぶりです。みかづきです。
一定期間非公開にしてしていたこの作品ですが、推敲して再び投稿したいと思います。
前公開していた時は、設定がまとまっていなかったのですが、今回はそんなことがないようにしていきたいです。
小説家になろう様では引き続き投稿しているのですが、そちらも所々改稿しつつ、設定をまとめていますが、まだ完璧ではありません。ご理解の程をよろしくお願いします。
最後になりますが、ここまで読んで下さった、読者の皆様へ心よろ感謝申し上げます。
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遺言
なぜか美少女がいました。
見た目はいいのにすごく…重たいです。
美少女の正体は、未来からやって来た人型ロボットでした。
「未来から来たんだよな?何をしに来たんだ?」
目の前の美少女に問いかける。
「はい。ご主人様の遺言をきいたからここに来たんです!」
意気揚々に答える。
遺言って死ぬ前に言い残す言葉だったような。
財産をどうとか、指示するアレだ。
「俺の遺言?どんな事を言ったんだ?」
話についていけない俺に配慮してくれたのか、丁寧に説明してくれた。
「ご主人様は90歳でお亡くなりになりました。それでですね、その時に遺言として残したのが『異世界に行ってみたかった』なんです。」
それは遺言というか、生前の願望というか。
それにしても、いったい未来の俺は何を考えてそんな事を。
「でも、なんでそれでここに来ることになるんだ?」
「え?ご主人様?頭でも打ちましたか?大丈夫ですか?」
可哀想な子でも見るかのような目で見つめてくる。
いやいや、おかしいから。なんにも繋がってないから。
「は?いやいや、全く繋がりが見えないぞ。」
「はぁ、ご主人様、このくらいわかってくださいよ。死人を異世界に連れていける訳ないじゃあないですか。だから、過去に戻ってご主人様を異世界に連れていくんですよ。これでわかりましたか?」
「エ、マッタクワカラナイデス。」
俺に予想ができないようなことを次々といってくるので、理解が追いつかない。
だが、1つだけ分かった。
このままだと、異世界に連れていかれる。
行ってみたいか行ってみたくないか、で聞かれたら行ってみたい。
だが、俺が望んでいるのはそんなんじゃないんだ。
「ちょっと待ってくれ。それなら、こんな昔に戻ってこなくてもいいだろ?なぜ、わざわざお前を造ってない今に?」
「あのですね。私はタイムマシンで来たのですが、まだ試作品の物なので、細かな設定ができないのです。だから、この時代に来てしまったのは偶然だったはずです。おそらくですが。」
「試作品のタイムマシンを使ってまで過去に来る必要があるのか?」
「ご主人様の希望には答えないといけませんので!...まぁ建前はこのくらいにして、本当はですね。詳しく説明するのは面倒なので嫌ですが、私には『ご主人様の願いできるだけ叶えようプログラム』みたいなのが存在しているんです。それが遺言に発動しちゃったって訳です。ビビッときちゃったんです。」
元気いっぱいで答えてくれた。
主人の希望に答えるのは、いいことだと思うけど、過去の主人に迷惑はかけないで欲しかったな。
「という訳で異世界に行ってもらってもいいですか?」
「嫌だ言ったら?」
「私が悲しみます。」
「じゃあ嫌だ。」
「なんでですかあああ!」
涙目で手をブンブン振って嘆いている。
仕草も表情も可愛い。
流石は俺、俺の好みが良くわかっている。
でも、少し強く造り過ぎじゃないかな。
バットの素振りでもしているような、空気を切る音が聞こえる。
はっきりいって、怖い。
「まあ、いいです。」
少しして落ち着いたのか、手を動きを止め、飴っぽいなにかを渡してきた。
包み紙がないので、躊躇ったが、不思議とベトベトしていなかった。
「この飴っぽいなにかってなに?」
「飴です。」
端的にただそれだけ言った。
普通の飴玉にしか見えないが、不思議な効果を秘密道具だったりするのだろうか。
見た目だけ見れば、少し大きめの空色をしているただの飴玉だ。
「半分にしてみせましょう。」
少しニヤリとしてそう言った。
言った直後、飴を空中に放り投げる。
飴はそこそこ上昇するものの重力に従い落下してくる。
落下して美少女の手に乗る瞬間、飴は真っ二つに切られた。美少女は自慢げに切られたそれをキャッチする。
漫画であるなら、でかでかとドヤアアアという文字が顔の隣に現れるようなザ・ドヤ顔といえる顔をした。
ちょっと可愛い。
いやいや、よく考えろ俺。
飴をどうやって切ったんだ。
未来で俺はこの美少女をなんでこんなに物騒なほど強化してるんだ。
目の前にいるのは禍々しい怪物とはかけ離れている美少女だっていうのに、どんどんSAN値を削られていく。
「半分差し上げましょうか?」
「ああ、ありがとう。」
顔がこわばっているのが、自分でのわかる。
少しでもこの恐怖を飴で紛らわせよう。
ちょうど、口が寂しくなっていたところだし。
美少女が自分の口に入れたのを見て、俺も口の中に放り込んだ。
「あ、ちなみにそれを食べると私と同じ身体に......って待ってくださいいい!」
口に入れたのを見て、叫びながら迫ってきた。
なんだ?無料でくれるんじゃないのか?
こういう手口の詐欺なのか。
「何やってるんですか!何やってるんですか!口に入れるの早すぎなんですけど!おかしいですよ。なんか色々とおかしいですよおおお!」
何やらぶつぶつ言いつつ、身体を揺らしてくる。
それも骨折するのではないか、というほどに強く。
金銭は要求されないようで助かったが、痛い。
その勢いで飴を飲み込んでしまった。
「まだ間に合います!きっと間に合いますから早く飴を吐いてください。」
「ごめん、飲み込んじゃった。」
「あぁ...あぁ...。」
絶望された。
完全に諦めてしまっている顔をしている。
口も開けたまま、動かない。
...ん?
口の中に飴がある!
こいつが飴を吐き出せばいいんじゃないだろうか。
「お、おい。俺は飲み込んだけど、お前の方はまだ無事だろ?それを吐き出せばいいんじゃないか?...あと、口を閉じろ。」
俺にしては冴えてる。
口を閉じさせたのは、単に怖かったからだ。
どうもこのロボットは攻撃力に特化している。
歯が鋭利になっていそうで怖かった。
「そうですね!」
一気に希望を取り戻したようで目を輝かせている。
そして、俺のお願いの通り、口を思い切り閉じた。
ガリッ。
口を閉じた瞬間に生まれた音。
なにか硬いものを歯で砕いた時に発生する音だ。
つまり、これは...。
残された微かな希望は無残にも散っていってしまった。
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