【習作】魔術王は他作品にまで聖杯をばらまいた様です。 (hotice)
しおりを挟む

1話

 ある日彼、藤丸立香はダヴィンチちゃんに呼ばれ、中央管制室まで来ていた。

 そこで待っていたダヴィンチちゃんと頼れる後輩マシュの姿を見て懐かしさを、そして寂しさを覚えていた。

 いつもほにゃりとした笑顔を浮かべる彼はもういないのだと改めて感じたいた。

 ダヴィンチもそれを悟ったものの、何も言わずに説明を始めた。

 

 「やあ、よく来てくれたね。実はちょっと新たに分かったことがあってね。君のおかげで魔術王の人理焼却は防がれた。その影響でいくつも現れた剪定事象もきちんと抑えられた。そうして今まで乱れていた人理も落ち着いて来たことでより正確な観測が出来るようになって一つ分かったことがあるんだ。」

 

 そうして彼女は苦笑しながら説明を続ける。

 

 「いやぁ、さすがは魔術王だねぇ。

 彼が人類の歴史の要所にばらまいた聖杯の数は確かに七つだけだった。それ以上ばらまいても効果は薄かったし、下手すればバタフライエフェクトで計画に支障が出るかもしれないことを考えれば妥当な判断だろう。

 けれどもそれは彼が作った聖杯が7つだけという訳ではないんだ。恐らくそれよりもっともっと多いんだ。数十個、数百個という単位で作ったんだろう。そして7つだけを送り込んだ後、邪魔になったそれらを計画に支障が出ないようにばらまいて捨てたんだろうね。そうしてばら撒かれた聖杯が各地で厄介事を引き起こしてるんだ。」

 

 どこぞの遠坂家やアインツベルン家が聞いたら憤死ものな話である。

 聖杯をポイ捨てとはおそらく英雄王に並ぶほどの贅沢であった。

 

 「まあといっても大半の聖杯は機能せずにそのまま消滅したんだけどね。例えばエリザベート嬢がハロウィンの時に使った聖杯なんかはあのまま何もしなくても大した影響は与えなかっただろうからね。でも全部がそうなった訳じゃない。いくつかの聖杯は平行世界や特殊な前提事象空間に辿り着いてその世界を滅ぼそうとしているんだ。ただし今回は今までみたいに聖杯達を回収せずに放っておいてもこの世界には関係がない。何の影響も及ぼさないんだ。そういう場所に魔術王は聖杯を飛ばしたからね。

 その上で、だ。」

 

 そこまで言ってダヴィンチは立香の目をのぞき込んだ。彼女は答えが分かっていた。それでもなお問わねばならなかった。

 

 「正直なところ今回のレイシフトはかなり危険だよ。君の歩んできた道はとても困難で危険だった。方向性は違うものの、それに負けず劣らずの危険性がある。

 第七特異点みたいに超ド級の厄ネタがあるわけじゃあない。けれども逆に今回は安全を保障するものがないんだ。

 元からとても不安定な世界であったが故に聖杯の影響で世界が崩壊するかもしれない。アラヤによるサーヴァント召喚がないかもしれない。そもそも人類が滅びるのが確定している世界かもしれない。

 

 それでも君は聖杯を回収しに行くかい?」

 

 もちろんであると、立香はその問に即座に頷く。

 多くの特異点を巡って来た。その中で多くの歴史に、人の思いに触れてきた。

 決して綺麗な物だけではなかった。悲しい出来事で満ち溢れていた。

 けれど決してなくなってしまっていいものではない。決してめちゃくちゃにしていいものではない。

 世界の影響だとか関係のないことであった。命の危険など承知の上であった。

 それでもなお彼は守りたいのだ。助けに行きたいのだ。

 

 「ま、君ならそういうと思っていたよ。何、ロマンはいなくなったがその代わりマシュ君がいる。安心したまえ。」

 

 ちらりと立香はダヴィンチちゃんの横に立っているマシュを見た。

 マシュはやっぱりといった顔をしつつも少しばかり不安げな顔をしていた。 

 「そうですよね、先輩。私はもう先輩を守ることは出来ませんが精一杯サポートさせて頂きます。」

 マシュはホムンクルス故に自己の確立に必要な経験というものが不足している。

 故に立香は彼女の中でいかにシールダーという立場が大きかったかを知っている。あの旅の続きを望んているのを知っている。

 けれども彼はマシュを連れていくことは出来なかった。マシュだって何も言わなかった。

 ただ彼に出来るのは頭を撫でてやることだけった。

 「例え一緒じゃなくてもマシュは俺の相棒だ。頼りにしてるよ。」

 「!!  はい!頑張ります!」

 マシュがぱっと笑顔になった。思わず立香は彼女にぶんぶん振られている尻尾を幻視した。

 「ふふっ。二人ともイチャイチャするのもそこまでにして、レイシフトの用意をお願いするよ。」

 ダヴィンチの茶化す様な声を聴いてマシュの顔が真っ赤になる。

 (かわいい!!)

 「立香君動じなくなったね・・・。」

 カルデアにおいてこの二人はクーフーリンとかドレイクとか達にさんざん茶化されたのだ。それはもうさんざんに。中学生でもあそこまではしないだろう。

 さすがに立香も茶化されるのには慣れた。

 というか未だに真っ赤になるマシュがピュアすぎるだけである。

 「いやぁ、面倒みてた後輩が偉業なしとげて、かわいい子と純情な少女漫画みたいにいちゃいちゃしてたら茶化さずにはいられないってもんだよ。

 まあそんことはおいといてだ。じゃあ今回のレイシフトについて説明するよ。」

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

深海棲姫海域 パシフィック 『不沈艦大和』
2話


 「今回のレイシフトは時代は現代、場所は太平洋になるね。そう第三特異点みたいに今回の戦場は海さ。その上で戦場の広さだけならば第五特異点をも上回るだろう。

 そしてここの聖杯はどうやら第二次世界大戦の船の亡霊に拾われたようでね。太平洋は実体化した船の亡霊のひしめく、正に死海とかしたのさ。

 物量に加えて神秘を宿していない現代兵器ではまともな対抗も出来ず、一時世界中のシーラインは途切れた。

 けれどもどうにか日本が超限定的に軍艦の英霊召喚に成功してね。そうしてなんとか対抗している世界になる。」

 

 軍艦の英霊と聞いて立香が連想したのは、フランシス・ドレイクやエドワード・ティーチの二人であった。彼らは宝具によって自身の船を操ることが出来るからだ。

 

 「いいや、どうやらそうじゃないでみたいでね。その世界では軍艦そのものを召喚しているみたいなんだ。」

 

 それは・・・。と立香は困惑する。。確かにこのカルデアには人ではない反英霊や神霊などもいるが、軍艦はそもそも無機物である。そもそもとして座に登録されていないのだ。

 

 「うん。驚くのも無理はない。まあでもここカルデアだってナーサリー・ライムちゃんとかもいるしできなくはないんだろう。

 これ以上のことは実際に向こうでその英霊に会ってみないと分からないね。

 というわけで、さっそくレイシフトに移ろうか。」

 

 

 そしてコフィンに乗り込んで、立香は呼吸を整えた。レイシフトそのものが万が一失敗する可能性もあるし、レイシフト先が安全な場所とは限らない。

 恐怖はないが、この手の緊張はなくなることはなかった。

 

 「まあ、安心しなよ。立香くん。今回は座標ミスもないし、陸地はほとんど安全だからね。いきなり危機に陥ることはまずないはずさ。

 じゃあ行くよ。

 3、2、1・・・」

 

 ゼロの声とともに意識が薄くなる。

 レイシフトの感覚は中々に独特だ。五感は損なわれないのに、時間感覚や体の重量感を感じなくなる。目が覚める前に意識だけはっきりしているあの感覚に近いかもしれない。

 

 体感で数十秒程、恐らく実際は数秒なのだろうが、その感覚に耐えていると唐突に足裏に感触を感じた。無事レイシフトに成功したのだろうと目を開けた。

 

 立香が立っていたのは無人の商店街であった。近くに大型スーパーが出来て寂れてしまった商店街の話はよく聞くが、何やら違和感を感じた。

 あまりにも静かすぎるのだ。少なくとも現代であれば聞こえるであろう車の音が聞こえない。まるでこの町から人が消えたようであった。

 

 そこでカルデアから通信が入った。

 

 「先輩!レイシフトは成功しましたが、何か問題はありませんか!?」

 

 マシュの慌てた声が聞こえてきた。立香はとりあえず問題ないことを伝えてから、先ほどの疑問を聞いてみた。

 

 「確かに生体反応が一つもないね。どうやらこの町に人は住んでいないみたいだ。

 う~ん、町の建物が崩れていないから、何らかのモンスターに襲われた訳じゃないんだろうけども、念のため早めに召喚サークルを設置したいね。」

 

 「先輩。どうやらここから北西約2kmのところにある神社が霊地になっているようです。そこを目指しましょう。」

 

 2km程度立香には今更どうということもない。北米大陸の横断に比べればだいぶマシだ。

 あれは第3特異点から本格的にトレーニングを始めていなければ途中でぶっ倒れていただろう。

 ちなみに本格的(ケルト)である。あれは今でも立香のトラウマとして刻まれている。

 

 道中何もなく無事に霊地についたので召喚サークルを設置する。前まではマシュの盾を使っていたのだが、今は限定的な召喚陣でマシュの盾を呼び寄せるというひと手間が必要になってしまった。そうして立香はほっと一息付く。これでサーヴァントを召喚出来るようになったからだ。

 

 「よし、これで一先ずは安心だ。とりえあず今後の方針を考えようか。」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話

 とりあえず今後の方針として現地住民への接触、出来れば英霊への接触が第一目標となるだろう。

 ただし考慮しなければいけないのが、なぜこの町には人がいないのかということだ。

 もし他の町でも同様のことが起こっているようであればその原因を特定しなければならない。

 

 「そうだね。軽く調べただけでもこの町だけじゃなさそうだ。どうやらかなり大掛かりな事件のようだね。」

 

 ならば大規模魔術の可能性もあるし、素早く移動する必要となる。

 そうして立香はとりあえず同行してもらうサーヴァントを決めた。カルデアから莫大な魔力供給があるものの、パイプ役として一度に供給できる量はそう多くない。精々が5,6体が限界であるためである。それを状況に応じて編成を考える必要があった。

 

 とりあえず今回の編成をダヴィンチに伝える。

 「まず原因を魔術的に探るためにキャスター、メディア。」

 「ふむ。私じゃあ駄目かい?少し現代文明に興味があるんだけども・・・。」

 「ダヴィンチちゃんはカルデアの技術役をお願い。それに大規模魔術への防御ならメディアの方が向いてるからね。」

 「まあそういうことなら仕方ない。純粋な魔術ならさすがに神代の魔女には敵わないからね。

 あっ、お土産は期待してるよ。」

 

 「その上で今回の主戦場は海らしいので船の宝具を持つライダー、フランシス・ドレイク 

 それと同様の理由でライダー、エドワード・ティーチ

 今回の特異点は彼らの宝具を足に使って移動しようと思う。

 

 次に純粋な戦闘メンバーとして、

 水の精霊の加護によって水上を移動できるセイバー、アルトリア・ペンドラゴン

 海戦に伝承のあるライダー、牛若丸

 

 そして最後に、船からの援護射撃兼船での食料供給役アーチャー、俵藤太

 この六人でお願いします。」

 

 「了解だよ、立香君。とりあえずこの6人に連絡するよ。

 でも少しアルトリアちゃんが可哀想だね。彼女あの宝具見るたびにすごい顔してるもの・・・。」

 まあ一番その宝具の恩恵を受けているのも彼女なのだが。

 

 程なくして目の前の召喚サークルが光を放ち、回転していく。その中から先ほどの6人の姿が現れる。

 今回もよろしく、と声をかけたのだが一人だけ様子が可笑しかった。

 

 そう黒ひげである。基本テンションの高い彼だが、なんというか今回はいつも以上に高いうえにやる気に満ち溢れていた。

 たしかお気に入りキャラのフィギアの特別プレミア版を手に入れた時でもこれ程ではなかったのに、と立香は若干引き気味になりながら考えていた。

 

 「でゅふゅふ・・・!海戦でござるぞ!こんなかわいこちゃん達と一緒に何か月も海の上!いやぁ楽しみでござるな!

 

 ・・・BBAと一緒なのは癪でござるが、特別に一緒に戦ってやるでござるよ!」

 「おっ、そうだね。マスターと一緒に戦うのも悪くはないけど、やっぱりあたいは海賊だからね!海での戦いが一番心踊るってもんさ!

 黒ひげ、今回は味方同士だ。楽しくやろうじゃないか!」

 

 そう言ってドレイクに肩をたたかれた黒ひげは口ではぼろくそに言ってるが、その顔は嬉しさで満ち溢れていた。

 今回の黒ひげは普通にきちんと戦力して数えられそうだと立香の直感が告げていた。

 

 さて、これからが本番である。立香は一層のやる気を込めた。

 「よし、じゃあ行こうか、皆。」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話

 曙は困惑していた。

 今自分達は鎮守府近海のパトロール中である。ごく稀に深海棲艦が誰にも気づかれずに鎮守府付近まで侵入してくることがあるからだ。

 とはいえ、強力な深海棲艦が来ることはまずない。駆逐艦や軽巡に比べ人型である重巡や戦艦は人型をしており海上からも発見しやすいく討ち漏らしはほぼない。

 故に練度の足りない駆逐艦や軽巡などはこうして近海での任務を受けて実戦を積むのだ。

 確かに自分は3週間前に初めての実戦を経験したばかりの新兵である。

 

 けれどもだ・・・・。

 さすがに21世紀のこの時代に、帆船が浮いているのはいくら何でも可笑しいことくらいは分かる。

 そもそも深海棲艦が海を跋扈している現状、普通の機関船ですら海には出ないのだ。仮に大規模な補給作戦も行われるが、そういった場合は大量の艦娘による護衛がつくのが当たり前である。

 なのに、向こうの方に見える船はどう見ても木造の帆船である。確かガレオン船という奴だろうか。

 その船がこちらに向かって進んできているのだ。

 

 「ぼのたん、ぼのたん。漣、本当に馬鹿になっちゃった・・。」

 「安心しなさい、私にも見えるから。ていうかどういうことよ。訳わかんない。」

 「も、もしかして幽霊船とか・・・?」

 「ひやあああああああっ!やだやだ、やめてよ漣ちゃん!」

 「う~ん、まあ私たちもある種幽霊船だし・・・。」

 確かに朧の言ってることは正論なのだが、改めて言われると嫌なものである。

 

 「安心しなさい、潮。幽霊船なら昼間には出ないし、もっとぼろぼろのはずよ。」

 「う、うん。じゃああれは何なんだろう・・・。」

 ほんとに何なのだろうか。

 

 「と、とりあえずご主人様に連絡!」

 

 

 

=====

 提督に連絡しても結局何も分からず、とりあえず彼女達は帆船と接触することになった。

 そうして船に向かっていくと、途中で青い甲冑をきた少女が艦首に立ったかと思うと海へと飛び降りた。

 

 「ちょ!?いきりなりどうい・・・・・。

 ・・・・・えぇ、マジ?」

 漣が途中で言葉を失うのも仕方がない。

 青い甲冑を来た少女は当たり前の様に海の上に立っていたからだ。

 見かけたことがないが、彼女が自分達と同じ艦娘なのだろうか。けれども曙の目には彼女は一切艤装を付けていない様に見えた。

 

 彼女はそのままこちらに向かってくるようなので、曙も止まらずにそのまま進む。

 そうして声が届く距離まで来ると彼女は話し始めた。

 

 「初めまして、英霊の皆さん。私はカルデア所属のアルトリア・ペンドラゴンです。

 こちらに敵意はありません。出来れば話をしたいのですが・・。」

 「こちらも色々と聞きたいことはあるわ。でもその前に私たちはその、エイレイって奴じゃないわよ。私たちは艦娘だから。」

 「艦娘、この世界での英霊の呼び方でしょうか・・。

 まあその辺のことについてもお話ししましょうか。どうぞ付いてきてください。」

 

 そういって彼女はガレオン船に飛び移った。

 なんで艦娘が当たり前の様に水上でジャンプしているのだろうか・・。艤装を展開している間私たちは小さな軍艦みたいなものなのだ。当然軍艦が水上をはねたりなど出来ないのだが・・・。曙は自身の常識が崩れていく音がガラガラと音を立てて崩れていくのを感じた。

 

 

====

 結局彼女達は水上でジャンプなぞ出来ないのでガレオン船の横から綱梯子で登る羽目になった。

 けれど艦上にいたのはこれまた訳の分からない集団であった。

 まず先ほどの謎の艦娘。次に目に入ったのが2m以上もある海賊みたいな大男。

 さらに顔面に傷のあるこちらも海賊のような女。

 かと思えばその隣にいるのは弓を持った侍風の男であるし、一番真ん中に立っている男は白黒のボディスーツである。

 一番後ろに控えている女は魔術師みたいな杖とローブまでかぶっている。

 

 そして何より、だ。

 刀を腰に掛け、武士の様な衣装の女がいるのだが、が!

 胸はペロンと布が垂れているだけだし、股間もビキニみたいなパンツしか履いていなかった。なんというかまごうことなき痴女がそこにいた。

  

 「え?もしかして大破してるわけじゃないわよね?なんか怪我してる様にも見えないし、恥ずかしがってる様にも見えないし・・。

 やっぱ痴女なの!?」

 「ぼのたん落ち着いて!色々訳わかめなことが多すぎて混乱する気持ちはとてもよく分かるけど!向こうの人困ってるから!」

 曙は少し混乱していた。

 




ぼのたんいじるの楽しいね。
これからもぜひいじりたい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話

 ドレイクと黒ひげの宝具を交互に使いながら、沿岸部を進んでいる内に現地の英霊との接触に成功できた。

 曙が少し取り乱したものの、無事に話もすることが出来、立香は順調に進んでいると感じていた。彼女達も色々と立香の話を聞いて、信じがたいものの実物を見れば信じざるを得なかった。恐らくは敵ではないということも。

 逆にカルデアも簡単な情報を手に入れることが出来た。

 まず人がいないことに関してだが、あれは単純に避難したということだった。深海棲艦によって食料が輸入できず、また沿岸部に人がいると深海棲艦の砲撃が来るため大半は大陸へ避難することになり、また残りの人は安全な奥地か鎮守府付近にしか残っていないとのことであった。

 そして鎮守府。唯一深海棲艦に対抗できる彼女達艦娘とそれを采配する提督が集まっている人類の反抗の拠点。日本には4か所、太平洋には各地にあるらしい。

 とりあえず立香達が分かったのはこれくらいであった。

 

 「えっと・・。つまりあんた達カルデアは恐らく深海棲艦を生み出している聖杯っていうのを回収しに来て、あんたは魔術師でさらに提督みたいなものでそれ以外のやつは過去の英雄が艦娘みたいになったものってことね。」

 漣がとりあえず分かった情報を確認する。割と鎮守府とカルデアの形態は似ているため理解はしやすかった。

 「いや、それは少し違うよ。」

 「どわっ!ご主人様!空中ディスプレイが出てきましたよ!何これ凄い!」

 いきなりそこにダヴィンチが割り込む。漣は目の前に現れたいきなりのSF要素にとてもテンションが上がっていた。

 ちなみに立香君は、その反応をみてカルデアにいる裸エプロン狐にキャラはそっくりだなとかそんな事を考えていた。

 「うんうん。実にいい反応だ。

 実は君たち艦娘のことを少し調べたんだけど、どうやら君たち艦娘は全員ライダーの英霊のようだ。だから正しくは提督はマスターで艦娘が英霊なんだ。」

 「え?でも私たちは英霊の座っていうところを知りませんよ?」

 「まあそうだろうね。そもそも君たちは軍艦だ。それを軍艦は女性だっていう古来からの風習を使って無理やり英霊だと解釈しているからね。

 正直英霊とも言えない。シャドウサーヴァントよりも霊基がめちゃくちゃなんだよ。そんな状態じゃあまともに座のことなんて知りえないだろう。」

 「成程。けれどじゃあなぜアラヤはそんな状態で召喚なんかしたんだろ?聞いた限りじゃあ普通の英霊を召喚した方がいいと思うんだけども。」

 「う~ん。アラヤが意味もなくこんなことをするはずはないから、何かしらの理由があるんだろうね。その辺はもう少し調べないといけないね。」

 

 「なんか訳の分からない用語ばかり出てきたぞ。」

 「中二病乙!」

 「漣ちゃん、あの人達はもっと年齢上だと思うよ?」

 「いやいや、潮ちん。中二病ってのはね。」

 「説明なんかしなくていいわよ、漣。

 そんなことは置いといて、私たちのクソ提督がぜひ鎮守府で直接話がしたいって言ってるんだけど。」

 立香達も出来るだけ早く現地の人と協力したかったので、直ぐに応じた。

 

 「そ。なら案内するわ。」

 そうして彼女達の鎮守府に向かい始めた時であった。

 

 「話は終わりましたかな、マスター?拙者もぜひともこの子たちとおはなs・・・」

 「コリュキオン!」

 「どわっふ!同士メディア殿!何故いきなり攻撃を!?」

 「確かに、黒ひげ。あなたは私と同じモデラー。それなりに仲間だと思っているわ。

 けれどあなたが少女に手を出すのは許せないわ!私が手を出すんですもの!」

 なんというしょうもない理由であろうか。さすが裏切りの魔女である。

 とりあえず立香は二人を止めに入った。メディアには以前言ってたアナちゃんのフィギア製作用の取材の許可を。黒ひげには何かあったらパイケットのこと全部この場で暴露すると言えば止まった。伊達にカルデアのマスターはやっていない。これ以上の問題児達がうろちょろしているのがカルデアなのである。

 

 ちなみにアナちゃんのフィギアはいざという時の対お姉さま礼装となる。伊達にカルデアのマスターはやっていないのだ・・・。

 

 「ちょ、マスター殿!?それだけはやめてくだされ!」

 

 

=====

 「そういえば、ぐだ男さん。彼らって過去の英雄なのよね?」

 その通り。

 

 「じゃあアルトリアさんってどんな人なの?聞いたことないんだけど。」

 「あぁ、彼女が有名なのはアーサー王って名前の方だからね。」

 彼女達がアルトリアのことを知らないのも無理はない話である。普通はアーサー王が女性とはなかなか思わないだろう。

 

 「アーサー王!?あれですか!エクスカリバーなあのアーサー王ですか!女の人だったの!?」

 「ええ、そうですよ。これがそのエクスカリバーです。」

 そう言ってアルトリアはエクスカリバーを実体化した。さすが最高の聖剣だけあって凄まじい存在感であった。もはや見慣れた立香でも一瞬目を奪われる程である。

 

 「最強武器キタコレ!いや、まじでエクスカリバーですやん。」

 漣は純粋に喜んでいた。今までプレイしてきたゲームでも最強の武器として登場することの多い聖剣である。それがまさにその威容を示しているのだ。嬉しくない訳がない。

 「すごいね・・・、その剣。大和の主砲にだって負けてない・・・。」

 朧はその剣を見て驚愕を浮かべていた。何気に話を聞いていた中で一番話を疑っていたのは彼女であったからだ。

 けれど聖剣は彼女に驚愕を与えた。今まで彼女の中で最強の兵器は大和の46cm三連装砲であった。それを遥かに超えた代物であったからだ。

 前に一度だけ演習で大和が戦っているのを朧は見たことがあった。正しく『最強』に相応しい圧倒的火力であった。圧倒的破壊力であった。

 あの時の光景は今でも朧の目に焼き付いている。そしてそれに等しいだけのエネルギーを放つ聖剣は彼女が話を信じるのに十分であった。

 「あんたのエクスカリバーなんて知らないわよ!クソ提督!どうせあんたのなんてひのきの棒でしょうが!」

 「曙ちゃん、落ち着いて・・・。でもすごいですね。とっても強そうです。」

 ちなみにアルトリアはエクスカリバーへの大反響にとても満足していた。薄い胸をこれでもかと張っていた。

 彼女のいるカルデアではごろごろとはいかずとも、それなりには聖剣の類は存在しているため、こういった反応は中々起きないのである。

 純粋な歓喜と畏敬を久しぶりに向けられてとても嬉しかったのだ。

 

 逆に立香君はとても困っていた。

 (あぁ、メディアさんの視線を感じる・・・。次は自分を紹介しろという熱い視線を感じる・・。)

 ここは逆らってもいいことはない。素直にぐだ男はメディアを紹介した。

 

 「すごい!魔法使いさんなんですね!ぜひ魔法見せてください!」

 「こんな元気な潮ちんって珍しい・・。」

 「潮って割とそういうの憧れてるからね。」

 潮は駆逐艦とは思えない程の体をしているが、その反面中身はかなり純粋であった。未だにプリキュアだって隠れて見ている。だからこそ潮は本当の魔法使いを前にいつもの大人しさなど捨てて、大興奮していた。

 「ふふふ・・・!えぇ、もちろん。神代の大魔術を見せてあげましょう!」

 そしてかわいい子が好きなメディアはその言葉で完全にスイッチが入ってしまった。先ほど見たアルトリアへの反応もあって、彼女はかなり全力だった。

 「あ、待って!メディアさん!そんなエクスカリバーに張り合ってえげつないの撃とうとしないで!いくら宝具でもここ船の上だから!茨木ちゃんへの取材も許可するから!止めてぇぇぇ!」

 結局他のサーヴァント達によって止められたのだが、一歩間違えば大惨事である。ぐだ男は冷や汗まみれの額を拭った。

 

 ちなみに茨城のフィギアは対酒呑童子礼装ともなる。伊達に(ry

 

 

 結局潮ちゃんを可愛いドレス姿に変身させる魔法をかけたのだが、潮はこれに大喜びした。メディアと黒ひげも大喜びした。

アルトリアは敗北感に包まれていた。

 

 

 




ちょっと三人称にしました。
内容はそんなに変わってないです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話

 その後、立香は残りの4人も紹介したものの、艦娘の少女達の反応はいまいちであった。もちろん驚きはしたが、最初の二人の印象を上回るほどではなかったのだ。

 海賊二人組に関してはもう少し驚くかとぐだ男は思っていたので、少々意外であった。艦娘達にとって二人は大先輩なのである。けれども軍艦である彼女達にとって帆船というのはいささかピンと来ないのだ。現代の軍人が剣術の達人と出会っても、尊敬はしても感激はしないのに似ているかもしれない。

 ドレイクの方は特に気にしていなかった。船が人の形をしていることについては多少の興味はあったものの、それ以前に悪党であると自覚している彼女にとって子供と関わるのはあまり気乗りのしないことであったからだ。

 逆に黒ひげの方はとても残念であった。けれど途中で自分の船も美少女に変身する可能性があるかもしれない事に気付いた瞬間、彼は全力で自身の船に対して祈り始めた。どうか美少女になってくれ、と。ご主人様って呼んでくれるような美少女になってくれ、と。恐らく敵わない願いではあるが。

 ちなみに牛若丸を紹介した時曙はまた壊れた。

 「なんであの源義経がこんな痴女なのよ!源義経って日本一有名な侍じゃない!弓持ってる方はまともな恰好してるのに!」

 「曙ちゃん!落ち着いて!いきなりその、痴女呼ばわりはどうかと・・・・。後俵藤太さんだよ。」

 「ははは。武士は見得を張らねばならんのだ。彼女もそうなのだろうよ。」

 俵はカラカラと笑う。また曙に失礼な呼び方をされても彼は特に気にしてはいなかった。

 「侍、確か後世での武士の呼び名でしたか。私がその様に有名な武士であるとはありがとうございます、曙殿。

 ・・・ところで痴女とはどういう意味なのですか?知っておられますか、主殿?」

 立香は目を逸らした。

 「うわ、ぼのたん。あれマジで言ってるよ。マジもんの痴女だよ。」

 「漣殿は痴女というのを知っておられるのですか?」

 「え?あの、その恥ずかしい恰好してる人、みたいな?感じな?」

 「恥ずかしい恰好?きちんと隠すべき場所は隠していますが・・。」

 「いや、その、動いたら見えちゃうでしょ?」

 「そんな風には動かないので大丈夫です。」

 「ええと、えぇぇ・・・・。」

 潮はここまで狼狽えた漣を初めて見ていた。基本彼女はどんな相手にも自分のペースで突っかかていく。大抵はまともに付き合わずに流し、漣も気にせずハイテンションのまましゃべり続けるのだ。けれども牛若丸相手には自分のペースが保てていなかった。自分でもかなり変わっていると自覚している漣であったが、目の前の牛若丸はそれ以上に変わっている上に自覚がないのだ。自分がペースを乱すのがいつもで、自分がペースを乱されることに漣は慣れていなかった。そのため彼女相手にはたじたじな対応しか出来なかった。

 

 

 そうして彼らはお互いに自己紹介なんかをしながら船の上で暇を潰していたのだが、鎮守府の近くまで来たときに何人かの新たな艦娘がカルデアのメンバーを待ち構えていた。

 「初めまして、皆さん。横須賀鎮守府へ。ここから港へ案内しますので、付いてきてください。」

 先頭に立っていた艦娘がそう言って、案内を開始した。ぐだ男達は先ほど見た曙達の艤装に比べて、その艦娘が背中に付けている艤装のあまりの大きさに驚いていた。

 赤い傘を差し、一本に纏めたきれいなポニーテールを揺らしながら進む彼女は背中の艤装など無い様な振る舞いである。けれどもどう見てもその艤装は彼女よりもでかかった。なにせ身長の高い彼女が両手を横に伸ばしてもなお届かないだろう幅に、優に1mはあろうという奥行、後ろからでは彼女の上半身を覆い隠す高さ。まさに鉄の塊というべきであった。その上でその艤装の大半は砲身なのである。艦娘として縮小したはずの彼女達が、それでもなお強大で巨大な大砲をその背中に背負っていた。

 

 「曙ちゃん。あの人は?」

 思わず立香は尋ねた。なんとなく彼は予想はしていたが・・。

 「あぁ、大和さんよ。やっぱりすごいわよね。」

 成程、やはりかと立香は納得していた。あれが大和なのか、と。その名前は余りにも有名であった。最強であることを、最大であることを、最硬であることを求められて作られた日本軍の希望。何物をも一撃で破壊しつくす世界最大の46cm三連装砲、他の戦艦が霞むほどの巨体、何物をも弾き返す鋼鉄の鎧、彼女は望まれた全てを満たしていた。まさしく彼女こそが海の女王であった。

 「ほう。あれが俺の国の船なのか。すごいもんだ。」

 「えぇ、我がブリテン発祥の戦艦の一つのようですがあれは中々のものですね。」

 「海戦が不得意な訳ではありませんが、あの首を取るのは難しそうです。」

 武闘派の3人は純粋に関心していた。武人とはまた別の強さではあるが、確かに大和とやらは強かった。いや強く作られていた。

 「なあ、マスター!あれは軍艦なのか!?大和っていうんだな!?」

 ドレイクは感動していた。船乗りである彼女には感じられたのだ。あの大和という船のすごさを。

 そもそも彼女の時代において船の強さというのは余りなかった。船員がどれだけ優秀で、それを船長がいかに上手く扱えるか、そして単純にどれだけ船を揃えられるか。海戦の結果はそうして決まるのである。

 けれども彼女は違う。あの大和は違う。まさに最強の船であった。真正面から戦えばそれだけで勝てる。多少の数なら物ともしない。そういう船であった。

 ドレイクがかつて落とした無敵艦隊もすさまじかったが、あの船は一隻でも負けず劣らずの威容を誇っている。

 「いやぁ!すごいね!一度でいいから船の時の彼女に乗ってみたいもんだ!」

 「BBAが年甲斐もなくはしゃいじゃって。いたいですぞ!でゅっふゅっふゅ!」

 「何言ってんだ!黒ひげ!あんただってあれ見て何も感じないわけないだろ!」

 「・・・・・・。」

 

 立香は突然黙った黒ひげを見た。そこにはいつものおちゃらけた彼はいなかった。後世にその名を残す大悪党、誰もが思い浮かべるであろう黒ひげという海賊が存在した。

 彼は何も言わなかった。けれどその視線はただ愚直なまでに大和という船を捉えていた。海の上で誰からも恐れられた希代の暴漢は、港に着く最後まで海の上を進む最強の暴力の具現から目を逸らすことはなかった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7話

 立香達は大和に案内されて、無事港についた。

 その港には何にも人が立っていた。誰もが時代錯誤極まりない帆船を見て何やら話し込んでいた。

 すると一番先頭に立っていた60代くらいの男が前に出た。

 「初めまして。私はこの横須賀鎮守府の元帥、坂崎だ。色々話し合いたいが、ここでするわけにもいかない。

 私の部屋で直接話をしよう。付いてきてくれ。」 

 そう言って彼は歩き始めた。とっさに後ろにいた人込みが、二つに分かれる。

 とりあえず立香は自身のサーヴァントを連れてその後を追った。歩きながら立香は自身に刺さる視線を感じていた。人種も装いもばらばらで何故か帆船なんかに乗っている得体のしれない集まりである。けれどもそんな集団をこの鎮守府のトップ、元帥がわざわざ迎えに来たのだ。注目を集めるのも仕方ないことであった。

 

 「なあ、マスター。陸地に付いたし宝具はしまっていいかい?」

 後ろからドレイクが立香に声を掛けてきた。魔力は十分供給されても展開し続けるというのは多少疲れるものなのである。立香はもちろん、と頷く。

 その瞬間周りから驚きの声が上がる。いきなり帆船の存在がぶれ始めて、次の瞬間には跡形もなく消えてしまったからだ。

 そうしてその場に集まった提督や艦娘は、今目の前を歩いている集団が常識の欄外にいる存在であることをなんとなく悟った。だからこそ元帥がわざわざ赴いたのだと。

 

 

=======

 程なくして立香達は元帥の部屋へと到着した。高級品が嫌味にならないよう調和をもって置かれた部屋であった。

 元帥は部屋の真ん中に置かれたソファへ座るように立香達に勧めた。勧められたまま立香達が席に着くと彼は話し始めた。

 

 「君たちカルデアは別の世界から来た魔術師とサーヴァントらしいね。」

 「えぇ、そうです。信じがたいことかもしれませんが、嘘ではありません。」

 「あぁ、いや、疑っている訳じゃないんだ。」

 元帥は慌てて否定する。実はね、といって彼は右手を前に出して指を鳴らす。

 「私も魔術師であるし、サーヴァントも従えているからね。まあ魔術刻印はもう息子に渡している老いぼれだが。」

 彼の右手には火が灯っていた。彼の右手が燃えているのではなく空中に火の玉が浮かんでいた。

 「成程。それなら話が早いです。

 ところでそのサーヴァントというのはもしかして・・・。」

 「あぁ、恐らく君の予想通りだよ。・・・うむ、ちょうどいいタイミングだな。」

 扉がコンコンと叩かれる。

 「入り給え。」

 その声を聞いて扉が開かれる。そこにいたのは立香の予想していた通り先ほど案内をしていた大和だった。

 「紹介しよう。私のサーヴァントである大和だ。」

 「宜しくお願いします、カルデアの皆さん。」

 「坂崎元帥。彼女は艦娘ではなくサーヴァントなんですね?」

 「ああ、そうだ。サーヴァントだよ。この世界で唯一の、ね」

 立香はやはりか、という思いであった。恐らくもっともサーヴァントを見たことのある立香にとっても艦娘はサーヴァントかどうかは見ただけでは分からないのだ。けれども大和だけは見た時から存在感が違ったのだ。彼のよく知る英雄たちに近い威風というものがあったのだ。そして続く言葉に驚愕する。

 「唯一?他は全て艦娘しかいないのですか!?」

 立香は思わず問いかけた。

 「それじゃあ余りにも戦力が低すぎる!」

 艦娘は英霊として本当に最弱である。宝具である艤装を展開してようやく非戦闘型サーヴァントに及ぶかといったレベルなのだ。もしも敵に戦闘型サーヴァントが複数いればそれだけでもはや負けなのだ。ギルガメッシュやヘラクレス級である必要すらない。

 

 「まあ確かにカルデアから見ればそうなのであろうな・・・。」

 そう言って元帥は立香を羨ましそうに見る。彼が引き連れているのはどれも本物のサーヴァントである。それも6体。まさに圧倒的戦力だ。さらにまだまだカルデアにはサーヴァントが控えているらしい。簡単に聞いた話ではあるが、世界を救ったというのもあながち嘘ではないであろう戦力である。

 「ただ今回の戦争においては艦娘の方がありがたいのだ。恐らくサーヴァントが召喚されていたら負けていたであろう。」

 「ふむ。その辺は少し詳しく聞きたいね。」

 またもやいきなりダヴィンチが話に入り込む。元帥はそれを見て少し目を見開いた。

 「これは・・。モナリザということは、あなたはレオナルド・ダヴィンチか。カルデアには彼までいるのだな。

  さて艦娘についてだな。君たちは艦娘についてどれ程知っている?」

 「極めて霊基の低い軍艦のサーヴァントであるということくらいしか知りません。」

 「成程。では簡単にではあるが説明しよう。

 そもそも艦娘というのはひたすらに量だけを目的に召喚されたサーヴァントなのだよ。」

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8話

 「まず事の起こりから話そう。

 おおよそ8年前突如太平洋のどこからか深海棲艦と呼ばれる存在が現れた。船や船乗り達の亡霊が魔力で強化されたものだ。君たちの言う通りなら聖杯によるものなんだろう。

 とにかくやつらは数は多いし魔術的効果を持たない現代兵器だとまともなダメージを与えられない。そのため人類は深海棲艦に負け続けた。

 そんな時"妖精"と呼ばれる存在が現れた。」

 「妖精・・・?」

 立香は予想外の言葉に少し驚いた。まあ神様とか鬼とかいるし存在そのものには驚いてはいないが。

 「あぁ、魔術的には小さな人型をしたアラヤというべきか。」

 「一体なぜアラヤがそんなことを?彼らはサーヴァントを召喚するだけだと思うんだが」

 ダヴィンチが疑問を投げかける。アラヤはあまり直接問題を解決することはほとんどないためだ。

 「いや、まさに召喚するためだ。艦娘を建造するという形でな。」

 「成程!軍艦だからこそ彼女達は生み出せるのか!」

 ダヴィンチが驚愕した声を上げる。 

 「ダヴィンチちゃん、どういうこと?」

 「いいかい立香君。そもそも魔術において理というのは無視するものであるけど無視するべきものではないんだ。

 さっきの魔術にしてもいきなり火が出るのは理に反している。でも燃やすものがあればその分負担は減る。道理に従う程消費する魔力は少なくなるんだ。

 そして召喚というものは道理に反している行為だ。無いものを呼び出す行為だからね。でも生み出すというのは無を有に変える行為だ。現界させるための魔力をかなり減らすことが出来る。多少魔術的なプロセスを含んでも大量の魔力が必要な召喚よりはずっと燃費がいいんだ。もちろん普通のサーヴァントだと召喚という手段しか取れない。両親に当たる存在を用意できないからね。

 そう、でも艦娘ならば、軍艦である彼女達ならば、"建造"できるんだ。」

 「まさにその通りだ。さすがは万能の天才だな。

 建造出来て、近代のサーヴァントである彼女達はとても燃費がいい。加えて彼女達は複数召喚できる。」

 「何だって!いや、確かにナーサリーライムちゃんのスキルのことを考えればありえなくはないのか・・・。複数の同じ軍艦が建造されることに何の矛盾も存在しない・・。」

 「そして亡霊でしかない深海棲艦ならば艦娘でも十分対抗できる。膨大な数の深海棲艦が存在しているが、太平洋中に散らばっているせいで殲滅力のあるサーヴァントも使えない。分裂や分身等の能力を持つサーヴァントを呼ぶにしても水上戦闘能力まで揃えているのはほとんどいない。ただひたすら数を召喚できる艦娘のみが深海棲艦に対抗できるのだ。

 故に今海軍はマスター適性と多少の魔力を持つ人間を提督として徴用し、艦娘を揃えているところである。」

 「ふむ。とても合理的な判断だね。アラヤも案外やるもんだ。」

 「坂崎元帥、少し質問してもいいですか?」

 「ああ。気になることは何でも聞いてくれ。」

 「じゃあ大和はどうやって召喚されたんですか?」

 立香はそう言って大和の方を見た。

 「どうやら大和は最強であるという希望、願望といった物を向けられていたのが原因なのかきちんとした霊基を得ていてな。

 彼女だけはそのまま英霊として召喚されているのだ。だが余裕がないようでアラヤから彼女の維持を頼まれてしまってな。

 こう見えてそこそこの魔術師だったものでね。サーヴァント一騎なら負担できるとアラヤが判断したのだろう。」

 元帥はそういって笑ったが、何気にすごいことを言っていた。彼はほとんど独力でサーヴァントを一騎現界させているのだ。

 「ふむ。現代の魔術師の割にはなかなかやる様ね。」

 メディアはそう言って笑う。決して嘲りではない。極端にマナの少ない現代ならば極めて優秀である。彼女も聖杯戦争でアサシンを召喚したが、神代においても同じことが出来る魔術師は恐らくそうはいなかったであろう。

 「神代の魔女に認められたとは、嬉しいもんだね。」

 そういって元帥は笑うと顔を引き締めた。

 

 「さて、次はもっと重要な話をしよう。これからのことについてだ。」

 

 

 

 




かなり優秀なじっじ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9話

 元帥の言葉に立香も顔を引き締める。カルデアには幾人もの、王や軍師などもいる。戦う者ではない。作戦を纏め、戦争の準備をし、戦況を眺める。そういった者たちである。

 立香も彼らから多くのことを学んでいた。もちろん立香が凡庸であるのは、立香自身もまた教える者達も知っている。故に彼が学んだことは大したものではない。基本や基礎そういった程度である。

 けれども全員が口をそろえて言っていた言葉がある。

 戦争は戦った時には既に決着はついている。それまでの準備こそが戦争なのだ、と。

 ある種の戦士に対する冒涜と言えるかも知れないが、カルデアにいる戦士は何も言わなかった。自身達はそれを覆しうる存在であると自覚していながら、誰も異論を挟まなかった。彼らこそが例外で、それは真理であったからだ。

 

 「実はそこまで状況は悪くない。」

 そういって元帥は大和をちらりと見る。

 「実際のところ戦力自体ではイーブン、むしろ人類側の方が勝っている。恐らく全戦力を投入すれば勝ち目がないわけではない。

 が、しかしいくつかの問題があってな。第二次世界大変で日米が争った太平洋には大量の怨恨が満ちている。その為現世に影響を与えるレベルの幽鬼がいくつも存在している。そういった奴らが聖杯によって強化されたせいで下手なサーヴァント並みの存在になってな。鬼級や姫級など呼ばれているが、艦娘にはちと荷が重い。戦艦の艦娘などが束になってかかった上で相応の被害と共にようやく沈められるんだ。

 今まではその鬼級や姫級にどうやって対処するのかが問題だった。何せまともに対抗できるのは大和だけだ。が、もし万が一こいつが沈めば勝ち目が一気に薄くなるし、そんな危険を冒さければいけない程追い詰められてもいないからな。慎重に機会を窺ってきた。

 そうして今その機会がやってきたってことだ。」

 元帥は立香を見る。彼こそ元帥が、人類が渇望していた対抗策なのだ。彼が連れているのは純然たるサーヴァントである。陸地でならば大和が手も足も出ず、水上でも決して楽に勝てる相手ではない。そういう存在が6体なのだ。

 「鬼級や姫級が増える速度はかなり遅い。年に数体現れる程度で、しかも奴らは基本群れない。集まっても精々が2,3体程度だ。」

 「なら、特に苦戦する相手ではないですね。」

 「ふむ。心配はいらないと思うが油断はするなよ。幽霊といえど聖杯によってサーヴァントとも戦えるくらいには強化されているからな。」

 元帥はさらりと言ってのけた立香に一応の苦言を呈する。これだけの英雄を引き連れているのだ。そういう人物ではないとは分かっていたが。

 「はい。大丈夫です。一応死神を相手したことがありますから。」 

 「ほう。さすがは世界を救ったことだけはあるな。」

 「う~ん、坂崎君。一応言っておくけど、立香君が戦ったのは神代の冥界の神だよ。まあエレちゃんも全力だったわけでもないけど。」

 ダヴィンチが補足を入れる。恐らく二人の想像しているレベルがあまりにも違っているであろうから。

 「なっ!?」

 元帥は驚愕に言葉を失う。彼はなんらかの形で寿命を過ぎた者、或いは運命でそう決められた者の命を刈り取る低級の名もなき死神との対決を想像していた。

 けれど冥界の神など死神の中でも最高位の神である。そんな存在と神代で、神が何の制約もなくその力を振るうことのできる時代で対決したというのだ。

 「世界を救うとは・・・・。それ程の・・・。」

 「まあ俺は大したことはしてませんよ。実際に戦ったのはサーヴァント達ですから。」

 「だが、神代の冥界の神など現代の人間が見て耐えれるものではないぞ・・・。」

 「え?確かにエレちゃんは見た時は背筋がゾクっとしましたけど話してみると結構かわいいですよ?」

 「・・・・成程。どうやら私は随分君のことを過小評価していた様だ。出来れば後で君の話を聞いてみたいものだ。」

 完全体の冥界の神など存在そのものが死である。ただの人間が見ればそれだけで無意識に体が自分が死んだと勘違いして死にかねない。それを本当に心の底からかわいいと言い切るとは豪胆なものである。

 「さて、なら鬼や姫の対処は問題ないな。それ以外の取り巻きや海に跋扈している深海棲艦は私達が受け持つ。

 大規模作戦になるため準備に2、いや3ヵ月は掛かるだろう。細かい作戦等はその間に決めよう。」

 「ならその間自分達は何をすれば?」

 「立香君は自由にしていてくれればいい。どうせ3ヶ月後には一番働いてもらうことになるからな。

 その間の身の回りの世話は全てこちらでさせてもらうよ。出来れば艦娘の訓練の手伝いなどをしてくれれば助かるが。」

 「サーヴァントは成長しないのに、訓練するんですか?」

 「いや、成長というよりはリハビリだよ。軍艦である彼女達が人型でも戦えるようにするためのな。」

 「成程分かりました。」

 「では、これからよろしく頼むよ、立香君。」

 そういって元帥は手を差し出す。

 「こちらこそよろしくお願いします、坂崎さん。」

 立香もそれに応じる。幾度となく繰り返した行為である。もちろん中には肩を叩いてくるもの、ハグしてくるものだっていた。けれどどれも違いはない。互いに仲間だと認め合うことなのだから。これこそが藤丸立香の原点にして、彼が歩んできた旅そのものであった。

 

 




型月だから世界観はきちんと描写しないといけないけど説明役をじじいにしたのは失敗だったかな。絵が地味すぎるよ。
でも有能爺提督が好きなんだ。かっこいいよね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10話

 「さて、今日はこれくらいにして休むといい。こちらも色々と準備せねばならんのねでね。

 大和、大淀に部屋などの準備を頼んである。案内してやってくれ。201号室で待っているはずだ。」

 そう言って元帥は立ち上がる。その顔は満足気なものであった。

 

 大和の案内で、立香達が建物内を歩いていると窓から見える中庭には人が集まっていた。何やら舞台の上で艦娘が踊りながら歌を踊っている。観客たちの中には、必死にその子を応援している艦娘や、一緒に踊る小さな艦娘、野次を飛ばす艦娘など様々な艦娘がいて、はじっこの方で提督達がその様子を微笑ましそうに眺めていた。

 「ああ、那珂さんのライブ今日だったんですね。」

 大和はぽつりと呟く。

 「あの、歌っている人は軽巡の那珂さんでアイドルを目指しているらしく、月に数回こうして中庭でライブをするんですよ。」

 「彼女はどうしてそんなことを?」

 立香は思わず尋ねた。カルデアにも(自称)アイドルがいるからだ。彼女の願いは歪んでいた。純情な少女のアイドルへの憧れ、いつまでも若く美しくいたいという残虐非道の血の伯爵夫人の妄執。それらが入り混じった、とても歪んでしまった願いだ。どこまでもピュアな願いに血の怨恨がへばり付いた錯誤的な願いであった。

 しかしながら今中庭で踊っている彼女の姿はとても誇らしげで楽し気であった。まさに皆の思い浮かべるアイドルがそこにいた。

 まあカルデアには皆が思い浮かべない本物のアイドル(偶像)もいるわけだが。

 

 「軍艦であっても今は女の子なのだから、戦うために作られた私達だけど戦うことしか出来ない訳じゃないから。だから私は歌うよ。皆が元気になれるように!

 彼女はそう言っていましたね。」

 大和は何かを思い出すようにそう告げた。

 それはどこまでも誇り高く、希望と未来に満ちた言葉であった。

 「うむ。なんとも素晴らしい理由だな。彼女達は物であったらしいが、なんとこれからを生きるための人の言葉であろうか。」 

 俵はしきりに頷く。彼は戦う者であった。確かに貧困を無くすことのできる宝具を彼は持っているが本質的に彼は生み出す者ではない。

 けれど戦う物が何かを生み出す者に、先に進む者になろうとしているのだ。これ程めでたく素晴らしい話はない。

 「那珂ちゃん・・・ね。かわいい子じゃない。」

 メディアはそう言って彼女を眩しそうに見つめる。メディアには分かった。ある程度この時代の知識があったため、ドレスの素材は悪くない物だがドレス自体の出来はこの時代で売るには余りにお粗末なものだと理解できる。

 きっと一生懸命作ったのだろう。アイドルに憧れて、精一杯輝くアイドルになりたくて。軍艦である彼女に裁縫の知識などあるわけがない。どれだけ必死に頑張ったのだろうか。

 踊りも歌も練習の後が見て取れる。決して本物の様にはいかないが、十分上手い。どこぞのアイドル娘や皇帝とは違ってだ。

 「マスター。後で少し生地をくれるかしら?」

 メディアは決めた。彼女に最高のドレスを着せてやるのだと。カルデアにいる阿保ドラゴンアイドル娘にドレスを強請られても微塵も作る気なぞ起きなかったが、今メディアは猛烈に燃えていた。クリエイターの本気を見せてやる。あの子を最高のアイドルにしてみせる。

 

 「・・・・あれ?黒ひげは?」

 立香は辺りを見渡す。どう考えても彼が黙っているとは思わなかった。

 「主殿、黒ひげ殿ならあそこに。」

 牛若丸は中庭の舞台を差す。

 

 「うおおおおおおおお!!!那珂ちゃあああああん!!拙者一発で君のファンになりましたぞおおおおおおおおお!!」

 舞台の最前列、そこで黒ひげは叫んでいた。目から涙をぼろぼろ流しながら、黒ひげは必死に那珂の応援をしていた。何故か必死に最前列で応援していた二人の艦娘とも意気投合し、三人で必死の応援をしている。

 「一体いつのまにあんな所に・・・。」

 「神通さんと川内さん、あのお二人と一瞬で息ぴったりの応援が出来るなんて・・・・。」

 

 

=======

 黒ひげは後で回収することにして、とりあえず立香達は大淀の元へと向かっていた。

 

 「失礼します、大淀さん。」

 そういって大和は部屋の中へと入る。沢山の書類が置かれた机に座っていた女性が、大和とその後ろの面々を見ると立ち上がる。

 「そちらが提督の言っていたカルデアの方達ですか。初めまして、坂崎元帥所属の大淀です。

 とりあえず皆さんのお部屋にご案内しますね。」

 大淀は目の前のカルデアという組織のメンバーを見る。自らの提督、世界最強の艦娘である大和を率いるこの国の希望。その彼が言ったのだ。

 このカルデアは大和より強いと。そう言い切ったのだ。それも総体ではなく個として。大和級を、それ以上を6人も引き連れているのだと。

 もちろん大淀は自らの提督が嘘をつかない性格であるのを知りながら、しかしその言葉を信じるのは難しかった。

 それ程までに大和は他の艦娘と一線を画すのだ。元帥がその地位にいる理由の多くがこの大和による物であるほどだ。まさに規格外と言ってもいい。

 ならばこそ、カルデアは一体どれ程の戦力なのか。

 彼らが居れば鬼級や姫級にも対抗できるのだろうか・・・。 

 

 彼らが居れば人類はようやく深海棲艦に勝てるのだろうか・・・・。

 

 

 

 




ぎりぎりイベント始まる前に投稿できた。
7時からイベントだからね!7時から!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11話

 立香が案内されて部屋で休んでいると、大淀が夕食の案内にやってきた。どうやら提督や艦娘は食堂で食事を取るのが一般的らしく、立香達も食堂へと案内された。

 「ここが食堂になります。朝は6時から9時まで、昼は12時から2時まで、夜は6時から8時まで開いていますので、ご自由にご利用ください。」

 大淀はそういって、食堂の扉を開ける。食堂はかなり広く、数十人の艦娘達がそれぞれ集まって食事を取っているようだった。真ん中の方の席に座っている坂崎元帥が立香を見つけると手を上げて挨拶する。

 「やあ、立香君。こっちの席で一緒に食べないかい?」

 「ありがとうございます。ただ、その皆はいいの?」

 立香は周りに立っている艦娘たちに戸惑う。彼女達は席に座らず、坂崎元帥の周りに立ちっぱなしであった。

 「ん?ああ、大丈夫だ。私達は食事を終わらせている。単純に提督の言っているカルデアとやらが気になってな。」

 長身で黒髪の女性が答える。長髪で赤い吊り上がった目、鍛えられた綺麗な肉体をした武人肌の女性はどことなくスカサハを思い出させた。

 「提督が言うにはあの大和をも超える艦娘を連れているらしいからな。見たこともない艦娘だが、一体何の艦娘なのだ?」

 「長門、色々聞きたいことはあるだろうが先に飯にしよう。話ならその時に聞こう。」

 そういって坂崎元帥は立香達に席を進める。少しすると艦娘達が料理を運んできた。

 「しかし、元帥は艦娘と同じ席で食事をするのですね。」

 アルトリアには意外であった。同じ釜の飯を食べる有効性は昔から変わらないが、それでも普通王族や軍のトップはそんなことを行わない。

 「もちろん俺だって仕事が忙しければ自分の部屋で食事を取ることはあるが、基本はここで食事を取っている。」

 「成程。素晴らしいことです。しかし元帥であれば全ての艦娘を把握するのは不可能なのでは?」

 そう行われない理由など簡単な事である。数の問題なのだ。数千、数万もの人数がいて仲を深めることなど無理な話だ。上に行けば行くほどメリットより労力の方が大きくなりすぎてしまう。

 「そうか。その辺説明していなかったが、基本階級に関係なく提督は自分の艦娘の指揮しかしないし、上位の提督からも支持されない様になっていてな。階級も戦果に応じて与えられるもので、あまり階級というのは重要じゃないんだ。

 実は旧海軍、いわゆる自衛隊はほとんどが海に沈んでぼろぼろな所に、艦娘を多く従えられる魔術師の家系がどんどん海軍に入ったからな。そのせいで今の海軍はかなり魔術師の影響が強い。一応大規模作戦等の必要性は魔術師でも理解はしているし、艦娘の印象をよくするために海軍の形は保っているが、魔術師は命令されるのを嫌うからな元帥の俺にも指揮権はほとんどない状態だ。」

 元帥はそういって苦笑いする。現代の軍でありながら実質軍としての形態は中世の物に近いの物であるのだ。

 「そういや立香はサーヴァントと一緒に食事しないのか?」

 そう元帥にとってそれは意外なことであった。立香は優秀なマスターである。きちんとサーヴァントと信頼を気づいている様に見えるし、理解しあっている。だからこそてっきり立香も同じようにしているのかと思っていた。

 「あはは、実はカルデアは食料不足でして・・・。スタッフさんが何十人もいるのでサーヴァントの人達が食事できるほど食料がなかったんですよね。なにせカルデア以外の世界は消滅して無くなってしまいましたから。」

 「・・・・・成程、それでは仕方がないのだろうが。」

 呆れたように呟く。確かに世界を救ったからにはなんらかの形で世界は滅びかけたのだろうと予測はしていた、が。

 「世界が消滅した・・・。それはどういう意味なんだ?」

 長門が恐る恐る聞く。意味は理解できても、想像が出来ない。むしろ想像したくないのかもしれない、世界の消滅なんてものを。

 「ゲーティアという存在によって約四千年の人類の歴史が、人類が現在に至るまで存続しているという世界そのものが消滅したんです。」

 それは消滅としか言いようがなかった。崩壊でも荒廃でもない、存在そのものが消えて無くなる。余りにも単純で、余りにも馬鹿げていた。

 「それを立香君は止めたのか。」

 「はい。幸いカルデアは過去にタイムワープ出来ましたから。」

 

 「提督が魔術師だというのは知っているが、魔術とは凄まじいものなのだな。もはやSFの領域だろう・・・。」

 化学が生み出した化け物を長門は知っている。人工の太陽。あらゆる全てを破壊しつくす隔絶した熱量を生み出すそれでさえも、世界を消滅させるには程遠い。加えて過去にまで戻れるなどまるでお伽噺の世界だ。

 「でもそれだけ凄いことが出来るのなら確かに大和級を6人揃えることくらいは出来るのでしょうけど・・・。」

 そう元帥が彼らを招いた最大の理由がその戦力である。大和級を6体、それは余りにも信じがたいことであるが今の話が本当ならばそれも嘘ではないのだろう。

 「確かに加賀さんの言う通りね。でもご飯を作り出すのは不可能だった様ですけど・・・。」

 黒髪の弓道着を着た女性が悲しそうに言う。海外からの食料輸入が困難な現状、日本には食料に余裕があるわけではなくなった。艦娘達もきちんと食事は採れているものの、一部の大食いの艦娘が満足になるほどの食料は供給しにくいのだ。同様にそれは飲料、つまり酒についても同じである。

 「お酒とかも造れたりはしないのよね・・・。」

 「すげえ力でお酒が湧いてきたりしねぇかなぁ・・・。ひゃっはっは!」

 「全く赤城さんも、そして千歳さん、隼鷹さんもそんなことどうでもいいでしょう。確かに私も沢山料理は食べたいですが・・。」

 一部の艦娘は食事、飲酒という行為をとても好む。船の時においしい料理を食べて喜び、酒を飲んで楽しむという行為をさんざん見てきたのだ。故に人の身となった彼女達はその行為に憧れ、体験して感激し、その行為を好むようになる。だからこそ満腹になるまで食べれないことが、楽しく最後まで酒を飲めないことが悲しいのだ。

 

 

 

 「ん?拙者の宝具で飯も酒もいくらだって出せるぞ?」

 その時赤城にかつてない衝撃が走った。




イベントしてたら遅れちゃいました。
メルトが無事引けて満足です。
後俵さんがお酒出せるかは結構怪しいけど山の幸とか海の幸にお酒くらい入ってると信じて。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12話

 

 「よしよし、そんなにお腹一杯食べたいのなら俺に任せ給え。」

 

 俵はいきなり席から立ちあがり、近くにある空いた席へと向かう。それこそが彼の願いだからだ。

 

 「ではいくぞ!そら!出てこい!」

 

 掛け声に合わせて手を叩く。机の上を眩い光が包み込み、形を成していく。少しして光が弾けると机の上にはありとあらゆる食材が並んでいた。米も野菜も、肉や魚にお酒まで何でもある。

 回りの艦娘達が驚いたような声を上げる。正しく超常の行いであるが故に。

 

 

 「そ、それはまだまだ出せるんですか!?」

 赤城は必死の顔で俵に問いかける。隣にいた加賀は自身の姉妹艦が大声で問いかけたことに驚いていた。基本的に赤城という艦娘は真面目でお淑やかというのが似合う女性である。食事という行為にかなり思い入れがあるのは理解していたが、しかしこのような期待と興奮が入り混じった少女の様な顔をするとは思ってもいなかった。

 

 「もちろんだとも。確か今は冷凍技術とやらで保存できるらしいから多めに出しても大丈夫であったか。

 よし!全力で行こうか。」

 そういって俵が手を叩くたびに周囲の机に食材が現れる。都合6度程叩いたころには食堂中の空いた席全てが食材で埋まっていた。

 

 まるで野球少年がメジャーリーガーに会った時の様に、赤城は目を輝かせ、ただひたすら凄い凄いと繰り返し呟くことしか出来なかった。大規模作戦等でも一軍に登用されることの多い赤城は空母組や駆逐艦からその落ち着いた性格もあって少なくない尊敬の念を集めている。

 そんな彼女がらしくもなくはしゃいでいたのだが、誰もそんなことは気にも留めていなかった。それよりも目の前で起こった本物の奇跡に目を奪われていた。

 

 「こりゃ凄いもんだ。正しく英雄の所業って奴だな。

 恩に着る俵殿。今まで一部の艦娘達には食事や飲酒を少し我慢してもらってたからな。」

 

 「いやいや、坂崎元帥殿。気になさるな。これこそが俺の望みなのだ。誰もがお腹一杯まで食べられて、誰も飢えることのない世の中がな。」

 俵はそういって笑う。腹をすかせた人が、必死にご飯に齧り付いて、満腹になったときに見せるあの笑顔のなんと幸せなことか。それこそが彼の最大の幸せなのだ。

 約一名、正しくは同一人物だが複数いる騎士は泣きつつ笑ってご飯を食べるという器用な真似をするのだが。

 

 「お、お、お酒が湧いて来た・・・・。」

 「お酒が飲み放題・・。しかもかなりいい日本酒じゃない、これ。」

 何人かの艦娘が調理の必要のない酒を早速口にしていた。その光景を見ながら龍驤は嫌な予感に包まれる。

 鎮守府において酒を飲む場所というのは限られている。居酒屋『鳳翔』か部屋飲みの二つになる。居酒屋『鳳翔』も毎日はやっていないため、必然的に部屋飲みする時がある。

 

 しかしながら、大体どの鎮守府においても部屋飲みが行われるのはほぼ軽空母寮なのだ。それこそ他の艦種の艦娘が飲みたくなるとまず軽空母寮に立ち寄るほどに。

 なにせ鎮守府でも酒好きトップといってもいい隼鷹と千歳がいるため何かしらの酒とつまみが常備されているし、たまに鳳翔がおつまみを作ってくれることもある。駆逐や軽巡の様に酒が飲めない奴もいないし、割と皆ザルなのだ軽空母は。

 まあ瑞鳳は一人だけ弱いのだが、酔わせるとかわいいのでよく皆に潰されている。

 

 そしてもし、こんな状況の軽空母寮に無尽蔵に上手い酒とつまみが供給されるようになれば、だ。結果など目に見えている。

 まあ彼女自身も酒は好きな方なのでそれ程問題ではないのだが、面倒なことになったもんやで、と龍驤は肩を落とした瞬間だった。

 

 

 「俵さん、私と結婚してくれませんか!?」

 「赤城さん、きみそんな阿保らしいことで結婚なんか申し込むんか!?」

 龍驤は思わず突っ込んだ。赤城は少し抜けた所のある人物というのはなんとなく把握していたがここまでとは思わなかった。

 

 「ははは、ありがたいことだが、生憎龍の娘さんを嫁にもらっているのでな。すまんがそれは出来ないな。」

 「相変わらずファンタジーしとるな、そっちも!」

 自身の名前が天に昇る龍を指し示す様に、龍とはまさに超常、怪異の頂点。神の使いともされる存在なのだ。それをさらりと嫁にしたというのだ。

 

 「カルデアやばすぎるやろ・・・・。こんなんが百人以上もおるんか?」

 




リアルの用事で少し遅くなりました、すみません。
数少ない空いた時間もイベント回してたらつい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。