鉄の艦娘達 (かじもこ)
しおりを挟む

プロローグ

 今から150年前、『厄災戦』と言う大きな戦いがあった。

 

 155年前の1945年、第2次世界大戦が終結して間もない頃、突如として現れた謎の生命体『深海棲艦』。深海棲艦は人間同じサイズにもかかわらず、戦艦並の砲撃能力や爆撃能力なども持っており、なおかつ深海棲艦が現れるとレーダーや通信機器に不具合が発生し、深海棲艦との戦いで多くの兵士が命を落とした。

 

 また、深海棲艦は港を攻撃し、軍艦に限らず民間船や都市部に空襲を行い水路も閉鎖し、レーダーや通信機器の不具合から輸送機なども出せず各国の経済は崩壊。このまま人類は深海棲艦に滅ぼされるかに思われた。

 

 しかし、日本が深海棲艦に唯一対抗できる存在『艦娘』を開発した。

 

 日本は密かに深海棲艦を鹵獲し、それにより得られたデータより『艤装』を開発した。その艤装とは人間でも水上での移動を可能とし、スケートの感覚で動かせる。また艤装を装備すると通常の人間にはあり得ない動体視力と身体能力、防御能力を身に付けることができる。

 

 艤装をつけた人間には、艦種や当たりどころにもよるが対戦車RPGでもかすり傷しかつけられないのであった。

 

 ただし、艤装を付けるにはある条件が必要である。艤装は脳で動かすものである。したがって、艤装を接続するためには、人間の神経と艤装をつなぐためのナノマシンを体内に埋め込まなければならない。しかもそのナノマシンは男性には定着せず、1部の女性にしか定着しないことがわかった。日本はすぐさま志願制で艦娘になる女性を募集し、多くの艦娘が生まれた。

 

 そして、その生まれた艦娘には太平洋戦争で活躍した日本の戦艦の名を与えられ、世界各地で活躍した。その戦いは壮絶を極め、艦娘にも多くの戦死者を出した。

 

 戦いは5年ほど続いたが、艦娘が敵の総大将を全て駆逐したことにより、深海棲艦は衰退し人類の勝利を勝ち取った。

 

 この戦いはのちに厄災戦と呼ばれた。この戦いには多くの兵士が犠牲となった。

 

 また、多くの艦娘も犠牲となり、生還したのは200人近くいたうちの72人だけであった。

 

 彼女らは目的を果たしたことにより退役したが、残った72個の艤装は、艦娘の悪魔と契約でもしたような強さから、それぞれ艦名の他に二つ名として72体の悪魔の名前が当てはめられ、のちの艦娘の中での最高勲章の艤装TYPE O (オー)として後世に語り継がれた。

 

 

 そして、時は流れて2100年。戦後150年が経った今でも深海棲艦の残党がおり、散発的に戦闘が続いている。

 

 戦後も艦娘が必要とされたが、生き残った艦娘達は既に退役していた。また、艦娘になれる新しい人材が尽きてしまっていたことから事前に確保しておいたオリジナルの艦娘のDNAからクローンを量産し、実戦に配備した。

 

 艤装も強力な深海棲艦がほぼ駆逐されたことからコストダウンとして簡易版が量産された。建造された艦娘達は1年間、艦娘教練艦隊で教育を受け、各鎮守府へ配属される。

 

 彼女も今年、艦娘教練艦隊を卒業し鎮守府へ配属された艦娘である。艦種は駆逐艦。名は『三日月』。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

1話 私は悪魔

戦争は簡単であり、これに必要な知識は極めて低級なように見えるが、実行してみると、その反対である。

クラウゼヴィッツ




 目がさめると全身が傷と血だらけで海岸に倒れていた。起きようとしたが、あまりの痛みに顏をしかしめる。

 

 身体中がズキズキする。しかも、右の腕が無くなっており血が止まらない。なおかつ、なぜかさっきまでの記憶が全くない。自分が誰なのかも思い出せない。

 

 周りの砂浜には戦車らしきものの残骸や兵士らしき人物の死体が辺り一面に転がって血とオイルの何とも言い難い匂いが漂っている。

 

 とりあえず状況を把握するために、起き上がり背中に装備していたものを外した。しかし外した瞬間、身体の感覚が一斉に無くなった。意識はあるのだが身体に全く力が入らない。まるで、今背中から外した装備に身体の神経が持っていかれるような感覚だった。

 

 倒れたまま動くことが出来なかったが時間が経つにつれて彼女は、何があったのか、自分は何者なのか思い出して来た。

 

 彼女はさっきまでのして来た自分の行いに恐怖した。5分後、彼女は生存者の捜索に来た兵士に発見され、保護された。艤装を外していたため、もう少しで出血多量で死ぬとこであった。

 

 保護されても彼女は怯え切っており、救助に来た兵士に泣きながらこう伝えたという。

 

 わたしは「悪魔」だ。「悪魔」になってしまったと。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 その出来事より3年後、外はお昼近くで日が高く上っている中、東北管区第3鎮守府の地下艤装格納庫の奥の奥、分厚い金属の壁に囲まれまるで核シェルターのような場所にひっそりと佇む艤装があった。そしてその前に1人の少女が居た。

 

 彼女は複雑な思いでこの艤装を見ていた。すると後ろからピンクの髪をしてハチマキを巻いている艦娘がやって来た。

 

「不知火ー、またここに居たの?提督にまた見つかったら怒られるよ」

 

 そう、ここはこの鎮守府の提督の許可がなければ厳重に立ち入り禁止にされている場所であった。しかも不知火が立ち入るのはこれが1度目というわけではなかった。先週も勝手に入り、提督にこっ酷く怒られたばかりであった。

 

「明石ですか。分かってはいるんですが、どうしても腑に落ちないんです。提督、いえ、前の提督や大和さんたちの多くの犠牲のもと守り抜いたものが、こんな勲章一つで済んでしまうなんて」

 

「それも確かに分からなくもないけど、上層部にそれを言っても大和や赤城達が生き返るわけでもないんだよ?」

 

「分かっています!分かっているのですが・・・。青葉っ・・・。」

 

 そう頭では前の提督や大和、青葉達が戻らないことは分かっていた。だがどうしても心の中にぽっかりと合いた穴は艦娘の上層部から最上位の勲章を贈呈されても、埋まる事は決してなかった。

 

「そう言えば不知火のこと提督が呼んでたよ。なんか今日新しい娘が配属されるらしいよ」

 

「分かりました」

 

 そう言って不知火は秘密格納庫より出て言った。それを茶化すように明石が

 

「今回のことは提督には点検で開けたことにしといてあげるよ、第3鎮守府の悪魔さん」

 

 その名を聞いた瞬間、不知火が形相を変えて明石に迫った。

 

「だから!その呼び名は使うなと何度言えばわかるんですか!」

 

「じょ、冗談だってば。ほ、ほら提督が待ってるよ」

 

 そう言うと不機嫌な様子ながらも不知火は部屋を後にした。明石はいつも以上の不知火の怒りように唖然としといた。いつもだと「辞めて下さい」で終わる。だが今日は違っていた。

 

「やっぱり提督の言う通り、不知火はこの部屋に入れないほうがいいかもしれないな」

 

 そう言って明石は艤装秘密格納庫のドアを閉めた。部屋の真ん中にある駆逐艦三日月 艤装TYPE 『O(オー)』は部屋の電気に照らされて鈍い光を放っていた。

 

 同時刻、第3鎮守府の門の前に1人の少女が居た。

 

「ここが第3鎮守府かー」

 

 彼女の名は三日月。今日この鎮守府に配属になった艦娘である。

 

 鎮守府には人が沢山いて賑やかな場所であると三日月は考えていたが、意外なことにこの鎮守府には人はほとんどおらず、警備の兵士が5・6人うろついているだけで、艦娘の姿も全くなかった。港にも戦艦大和が余裕で10隻停泊できそうな場所にイージス艦が1隻停泊してただけであった。

 

 あまりにも人が少な過ぎたため、不安になる三日月であったが、とりあえず提督と会わなければ始まらないので提督の執務室を目指した。

 

 途中道に迷いそうになったが、親切な兵隊さんに案内され提督の執務室がある建物前に着いた。ここに来てもなお、他の艦娘の姿は全くなかった。

 

 入り口に入り、受付を済ませて執務室に案内された。入り口にも受付と館内の警備担当の兵士しかいなかった。本当にここが鎮守府なのかと本当に不安になる三日月であった。

 

 執務室の前に着いた三日月であったが先程からの不安からなかなかは入れずにいた。

 

「間違ってるってことはないと思うけど、やっぱり不安だなー」

 

 しかし、このままでは何も進まないので勇気を出して執務室に入った。

 

「しっ、失礼します!」

 

 緊張してカチカチになりながらも提督の前まで移動した。まるで就職試験の圧迫面接を受けに来たような気分であった。

 

「本日この鎮守府に配属された駆逐艦三日月です。よろしくお願いします!」

 

 この鎮守府の提督は赤髪で長髪、身長は175センチぐらいでスラッとしている美人である。

 

 緊張して見えていなかったが、提督の隣に秘書艦らしき人物がいた。髪はピンク色で艤装の形からして陽炎型であることはわかった。しかし三日月は彼女に違和感を感じた。なぜ、この秘書艦は地上にいるのに、艤装をつけているのかと。

 

 艦娘は水上では艤装を装備しなければ、普通の人間と同じで浮くことや動くこと、肉体強化などがされないので装備することは必須であるが、地上に上陸した深海棲艦は艦娘ではなく各国の陸軍が対応するため艦娘が地上戦をすることはまず無い。また、装備したままだと艦娘本人に負担が掛かるだけでなく、何もしなくても艤装に燃料の補給が必要になってしまい貴重な資源を消費してしまうことから、艦娘は地上では艤装を外すのが基本である。

 

 しかしこの秘書艦は艤装を装備したままである。

 

 三日月がそんなことを考えていると提督から優しく声をかけられた。

 

「私はこの鎮守府の提督の佐藤 沙月(さとう さつき)よ。よろしくね。えっと出身は第2教練艦隊の3番隊出身ね?」

 

「はい!第2教練艦隊3番隊の旗艦を務めておりました」

 

「教練監督の艦娘は?」

 

「・・・」

 

「ん?どうしたの?」

 

 三日月は暗い表情で黙った。なんせ、三日月の艦隊の教練監督は教練艦隊の中でも随一の実力を持った鬼監督で、他の教練艦隊の監督艦娘からこう呼ばれるほどの実力を持っていた。

 

 教練艦隊の『悪魔 北上』と。

 

 あの地獄の日々は思い出したくもなかった。

 

「き・・・」

 

「き?」

 

 提督は疑問そうな様子だ。

 

「教練艦隊の北上さんです」

 

「え?まさか、あの北上?」

 

「はい・・・」

 

 三日月の教練監督の北上は元々、中央指令本部直属の第2艦隊の旗艦を務めており、他の鎮守府でも名が知れているほどである。

 

「そ、そっか。大変だったんだね」

 

 提督も察したようである。

 

 そんなことを話していると、後ろの方でドアが開いた。

 

「提督ー!第2艦隊、タンカー護衛任務から帰投したぜ!」

 

 短髪のセーラー服を着た、いかにもおてんばそうな艦娘が入ってきた。その様子を見て提督が椅子から立ち上った。

 

「深雪!執務室に入る時はちゃんとノックをしてからっていつも言ってるでしょ!」

 

「ハハハハー。そんな細かいことどうでもいいじゃん!それよりこの子、新入りさん?」

 

「そうよ、名前は三日月よ。」

 

 すると提督が何か思いついた様子になった。

 

「そうだわ!深雪、ついでだから三日月にこの鎮守府を案内してあげて。あなた午後からオフだからどうせ暇でしょ?」

 

「えー、これから摩耶とトランプする約束だったのにー」

 

「深雪ー?」

 

 提督は口は笑いながらも目が笑っていない様子で深雪に迫った。

 

 これには深雪だけでなく全く無関係の三日月さえたじろいでしまった。

 

「わっ、わかったよ提督!だからその目は辞めてくれ。なっ?」

 

「よろしい。ついでに三日月の艤装と荷物もちょうど届く頃だから受け取りに行ってねー」

 

「はっ、はい!」

 

 そう三日月が返事をすると同時に深雪に左手を引っ張られ執務室を後にした。その頃には秘書艦が艤装をつけっぱなしにしていたことは忘れ去られていた。

 

 しかし、三日月は思った。この鎮守府なら楽しくやっていけそうだと。

 

 




第3鎮守府艦娘紹介

第1艦隊 出撃メイン

旗艦・秘書監 不知火
比叡
加賀
秋月
鳳翔
三日月←NEW

第2艦隊 遠征メイン

旗艦 深雪
摩耶

吹雪
那珂
千代田


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話 カレーは駆逐艦盛りで

我々の記憶に残るのは、規則を守った者では無く、破ったものである。

マッカーサー


 深雪に引っ張られて、気がついたら外に出てしまっていた。深雪のあまりの元気さに三日月は付いて行けずにいた。

 

「よっし!それじゃあ案内するぜ!付いてきな!」

 

 そう言って深雪は案内を始めた。三日月は置いてかれそうになるも、必死について行った。

 

 まず、始めに案内されたのは木造2階建の医療病棟であった。深雪は行動はとても突っ切ってる感じだが、説明となるととても丁寧だった。

 

 この医療病棟は艦娘や兵士の治療をする所であり、戦闘での怪我だけでなく、風邪の時なども面倒を見てくれるらしい。と、言っても怪我の治し方は治療用の培養液に入るだけではあるが。

 

 しかし、培養液に入るだけとはいえ、脳の損傷以外だったら治療が可能である。たとえ腕を失ったとしても元に戻すことができる。これは艦娘に関わらず普通の人間も可能である。

 

 やがて三日月は医療病棟の中に入り、長い廊下を歩き診察室に案内された。診察室の中には緑の髪をして白衣を着ている艦娘、軽巡洋艦夕張がいた。

 

 ここでも、深雪は執務室に入って着たテンションで診察室へと入った。

 

「おっ邪魔しまーす!夕張さーん、新しい艦娘連れて着たよー!」

 

 すると、深雪の様子を見た夕張が椅子から立ち上がった。

 

「深雪!ここは病棟なんだから静かにしないとダメって言ってるでしょ!」

 

 夕張が深雪を叱っていた。しかし、その様子は子供を叱るお母さんのような様子であった。

 

 しばらくして深雪への説教が終わり、三日月に気がついた夕張は声をかけてきた。

 

「挨拶が遅れてごめんね!私は夕張、主に負傷者の治療を担当しているわ」

 

「三日月です。よろしくお願いします!」

 

 さっきまでの深雪を怒っていた時とは違い、穏やかに満面の笑みを浮かべていた。そしてその隣には怒られたにも関わらずケタケタしている深雪の姿があった。

 

「よし!夕張さんへの挨拶も済んだことだから次へ行くか!」

 

「はっ、はい!」

 

 そう言ってまた深雪に引っ張られ、医療病棟を後にした。

 

 深雪に連れられ次に着いた場所は間宮食堂である。間宮食堂はその名の通り食堂であるが、間宮1人で切り盛りしているわけではなく、間宮料理長中心に兵士の中から腕を見込まれて採用された10人で切り盛りしている。

 

 すっかり忙しくて忘れていたがもう昼時である。お昼の食堂という事でたくさんの人が居たが、警備班のと、整備班の人達だけで艦娘の姿はなかった。

 

 ほんとはこの鎮守府の艦娘は自分と深雪とあの秘書艦しかいないのではないかと不安になりながらも深雪と食堂へ入った。食堂はかなり混雑していたが、間宮食堂では艦娘が最優先されるためすぐに座ることができた。

 

 三日月は深雪と2人掛けの椅子に座りメニューを眺めた。お金を持っていないので大丈夫かと思ったが、食費は全てこの鎮守府で負担してくれるらしい。

 

 メニューには和・洋・中の様々な料理が並んでいた。悩みに悩み、三日月と深雪はカレー駆逐艦盛りにした。ついでに盛り方は人間の感覚的には駆逐艦・軽空母盛りは普通、軽巡盛りが大盛り、重巡盛りが特盛り、正規空母盛りが特盛の4倍、戦艦盛りが正規空母盛りの2倍、特別大和盛りは正規空母盛りの3倍、つまり、重巡盛りの12倍である。

 

 数分後、とても美味しそうなカレーが出てきた。早速食べてみると、量的にも丁度良く、味もスパイスが丁度良く効いており、とても美味しかった。

 

 お腹も膨れ、次に深雪と三日月は港に停泊しているイージス艦に立ち寄った。

 

 すると鎮守府に着いた頃は1隻しかなかったイージス艦が2隻になっていた。

 

 深雪曰く、第2艦隊のさっきまで行ってたタンカー護衛作戦に参加していたらしい。

 

 この鎮守府にあるイージス艦は40年前に艦娘の本部とアメリカ、ロシア、中国、日本、ヨーロッパが共同で開発した対深海棲艦用の船である。対深海棲艦用と言っても深海棲艦に勝てるわけではなく、あくまで艦娘の最前線への輸送、および援護が主な任務である。

 

 この船は艦娘がいる各鎮守府や国連加盟各国の軍に配備されており、今でも最前線で現役稼働している。

 

 次に2人は工廠へと向かった。工廠にはイージス艦1隻が入渠するスペースと隣に大きなレンガのドーム状の建物があった。工廠では艦娘の艤装やイージス艦の整備や改修や、独自装備の開発、研究を行っている。

 

 2人はその工廠のドーム状の建物へと入った。中には30人ぐらいの人が作業をしており、その中に明らかに艦娘らしき人物が居た。

 

 その人物を見かけた深雪が声をかけた。

 

「おーい!明石さーん。新人連れてきたよー!」

 

「今行くからちょっと待っててー」

 

 しかし、彼女が金属加工用の防護マスクを着けながら喋ったため、三日月はどこぞの暗黒面のベ○ダー卿に見えてしまった。

 

 そして約5分間、防護マスクを外してこちらに彼女がやって来た。髪はピンク色でハチマキを巻いており、身長も結構高い。

 

「いやー、待たせてごめんね〜」

 

「んもー、遅いよ明石さん!」

 

「ごめんごめん。それより、この子が新人さん?」

 

 そう言って明石がこちらを向いた。

 

「駆逐艦三日月です。よろしくお願いします!」

 

「三日月?」

 

「はい」

 

 明石はなぜが、三日月の名を聞いて何か意味深な様子だった。

 

 何があったのか深雪に聞こうとした瞬間、グッと左手を掴まれて次の場所へ向かい始めた。しかし、その様子はさっきまでとは違く、どこか真面目な様子だった。

 

 三日月は深雪に連れられ工廠を後にした。中から明石が手を振っていた。

 

 三日月はさっきからの深雪の様子に戸惑っていたが、聞いてみても、そのうち分かる。としか教えてもらえなかった。

 

 そして、2人は鎮守府にある倉庫らしき建物がある所へやって来た。

 

 ここは見た目通り倉庫ではあるが、東京ドーム1個分の大きさである。この倉庫は鎮守府の武器、弾薬、予備のパーツだけでなく、艦娘の艤装、沿岸護衛用の戦車、食料などをまとめて管理している。

 

 このことを説明すると深雪は三日月に少し待つように伝え、携帯電話を取り、誰かに連絡をし始めた。

 

 そしてしばらくすると、鍵を持った兵士が現れた。

 

 鍵を受け取った深雪は三日月を連れて、地下3階へと向かった。

 

 地下3階に降りると、そこにはズラリと艦娘の艤装が並んでいた。そして2人はさらに奥に進むと、ちょっとやそっとどころか爆破しても壊れなさそうな頑丈な扉が姿を現した。

 

 そして、深雪は無言で扉を開けた。

 

 すると、そこには三日月と全く同じ艤装があった。

 

 三日月が驚いた様子で居ると、深雪が口を開いた。

 

「三日月、これは誰の艤装かわかるか?」

 

「え?・・・。私の・・・だと思います」

 

 見た目も形も三日月の艤装と完全に一致していたが、何がとは具体的に説明することはできないが、三日月はこの艤装に対して違和感があった。

 

「半分正解だね。これは三日月の艤装だけど、三日月の艤装じゃないよ」

 

「もしかして、これは⁉︎」

 

「そう、三日月が予想した通り、この艤装は初代の三日月の艤装だ。だけど、これには一つ問題があるんだ」

 

「問題ですか?」

 

 深雪が口を開く。それを聞いた三日月は驚愕した。

 

 

 

 

 次回へ続く

 

 




第3鎮守府紹介その2

第3艦隊 第1艦隊の補欠、鎮守府の防衛など

旗艦 榛名
飛龍
陽炎
羽黒
扶桑
照月


補足説明 艦娘の本部は日本の東京にあり、各国に支部がある。数としては各国に30〜60の鎮守府がある。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話 才能もない役立たずの努力家と言われた

汗を流せ、血を流すな

エルヴィン・ロンメル


 三日月が深雪より鎮守府の説明を受けている間、執務室にて提督が三日月について教練艦隊からの報告書を不知火と共に見ていた。

 

「ふーん、性格は真面目ね。勉強はダメだけど、戦闘に関しては天性の才能があるらしいわよ」

 

「天性の才能ですか。この報告書は誰からのなのですか?」

 

「教練艦隊の北川からよ。すごいわね、あの北川も手を焼くほどの実力らしいわよ」

 

「北川さんも丸くなりましたね。私の時は才能のかけらもない役立たずの努力家と書かれていたのに」

 

「んー、確かにどうなんだろうね。この資料を見る限りだと、戦闘担当の第1艦隊に向いてるわね」

 

「提督、それなら実際に試して見ませんか?」

 

「どうやって?」

 

「演習です」

 

 

 同時刻、地下の艤装格納庫。

 

 深雪より語られた三日月の艤装の秘密。

 

 それは、20年前の内戦の時に反乱軍のエースの艤装としてこの艤装が使われていたのである。

 

 20年前の内戦。後に大きな傷跡を残した戦い。元を辿れば艦娘を国連軍の傘下とすることを進める革命派と保守派の対立から始まった。

 

 20年前まで艦娘は独立した組織であったが、金銭による戦力の偏り、上層部の腐敗などから革命の兆しが高まっていた。

 

 反乱軍はゲリラ戦法により一時は艦娘達の本部を制圧するまでの勢いがあった。が、しかし、この戦いは数ヶ月で当時最も力を持っていたアメリカ支部の艦隊によって鎮圧され、反乱軍の主犯のドイツの各支部は縮小。反乱軍に協力した東北管区第4鎮守府は解体となり、艦娘や兵士、将校なども反乱に加わった罪で全て極刑となった。しかし、この内戦により、極限に減少した戦力を補うため最終的には、国連の傘下に入ることが決定した。

 

 そしてその反乱軍のエース、三日月が最後の最後まで使用していたこの艤装は、修復され本部に他の艤装と一緒に保管されていたが、2年前のこの鎮守府の功績から勲章として授与され、この第3鎮守府にある。

 

 上層部からすれば、この艤装には少なからずのトラウマがあるため授与はしたくなかったのだが、授与する艤装はランダムに決まるため致し方なかった。

 

 

 三日月は衝撃を受けていた。この艤装が偶然、初めて配属されたこの鎮守府にあったこと。そして、初代三日月だけでなく、第4鎮守府の反乱で使われていたこと。

 

 もともと20年前の内戦については関係者が粛清されだと同時に厳重な情報統制がされ、記録のほとんどが処分されたため、そこらでは見ることすら叶わなかった。ましてや訓練学校を卒業したばかりの三日月には知る余地もなかった。

 

 すっかり考え込んだ三日月を見て、深雪が口を開く。

 

「ごめんな、こんなはじめから重い空気にさせちまって」

 

「いえ、あまり詳しく知らなかった内戦のことについて知ることができたので、とても勉強になりました。でもすごいですね!最上位の勲章である、オリジナルの艤装があるなんて」

 

「いや、昔はオリジナルの艤装はここに3つあったんだよ」

 

「みっ、3つ!」

 

 今日は驚かされてばかりだ。そこらの鎮守府じゃ100年近くかけてようやく手に入れるような代物を3つもこの鎮守府は持っていたのである。

 

 しかし、そこで一つの疑問が浮かぶ。その3つのうちの2つの艤装はどこに行ったのか。誰かが装備しているのか。それともその装備した艦娘が轟沈したか。三日月は聞いて見ることにした。

 

「あのっ、その残りの2つの艤装は今はどこにあるんですか」

 

「三日月」

 

「はっ、はい」

 

「オリジナルの艤装するには何が必要か習った?」

 

「えっと確か練度を極限に高めてることと、提督と本部の許可でしたよね」

 

「そう、だから簡単に装備しようなんて考えないでね。でももし、オリジナルの艤装について興味があるのなら、あの子に聞いて見て」

 

「あの子?」

 

「秘書艦の不知火に」

 

 なぜか話をはぐらかされた。恐らく話したくない何かがあるのだろう。

 

 そんなことをしていると突然、鎮守府に放送が響き渡たった。

 

『駆逐艦三日月、駆逐艦三日月は至急演習場へ。繰り返す、駆逐艦三日月、駆逐艦三日月は至急演習場へ』

 

 突然の放送に疑問に思いつつも深雪に案内され、三日月は演習場へと向かった。

 

 

 つづく

 

 




第3鎮守府艦娘紹介

名前→深雪

性格→明るい

装備→10cm連想高角砲×1
3連装魚雷×2
12.7mm単装機銃×2
3式爆雷投射機×2


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話 演習だよー!

軍は兵隊の骨までしゃぶる鬼畜と化しつつあり、即刻余の身をもって矯正せんとす


佐藤幸徳





 三日月は深雪に演習場へ案内されながら、教練艦隊に居た頃の話をしていた。

 

「そういや三日月の担当教練艦って誰だったんだ?」

 

「北川さんです」

 

「あー教練の北川かー、あいつもすげーなー」

 

「深雪さんは北上さんをご存知なんですか?」

 

「ああ、なんせ北川は教練艦隊時代にこの深雪様の同期で同じ艦隊だったんだぜ!」

 

「そうなんでs・・・。えーーーーーーー!」

 

「あいつ雷撃のセンスに関しては、ズバ抜けてたからなー。」

 

「いや、あの、深雪さん?」

 

「んー、三日月どしたのー?」

 

「いえ、やっぱりなんでもないです」

 

 三日月は昔の北川のことについて聞こうと思ったが、もう演習場が目の前であったの、で後で聞くことにした。

 

 演習場は、イージス艦が停泊している港から少し離れた浜辺付近の海である。普段訓練にも使っているのか航行訓練用の旗や、射撃訓練用の的があった。

 

 浜辺を進んで行くと、そこには提督と不知火、明石が居た。三日月と深雪を見つけた提督はこちらに声をかけて来た。

 

「三日月ー!演習だよー、演習ー」

 

 提督の横には、受け取りに行き忘れていた三日月の艤装があった。

 

 三日月は、提督に演習場はこの浜辺の沖であることを伝えられ、艤装を装備した。しかしまだ肝心なことを聞いていなかった。『対戦相手』である。

 

 ここに艦娘は3人しかいない。まして明石は戦闘艦ではないので論外。ということは深雪か不知火ということになるが、深雪の艤装は浮くために必要な最低限度の装備しかなく、連装砲や魚雷はここにはない。従って対戦相手はもう聞かなくても分かっていた。

 

「んじゃあ、これから不知火と三日月に演習をしてもらいます。ルールは簡単。魚雷の模擬弾3発か、ペイント弾を10発先に相手に当てた方が勝ちで、機銃は使用してもいいけど被弾には含まないわよ。あと、三日月の盾の使用は禁止ね。何か質問や意見はある」

 

「問題ないです」

 

「大丈夫です」

 

 深雪は審判を任され、流れ弾が危険なため提督と明石は浜辺で待機となった。

 

 深雪に引き連れられ、2人は沖へと向かった。

 

 2人は開始位置に移動する。開始位置は審判を中心として30m離れたところである。

 

 2人の間に緊張が走る。三日月は不知火の余裕そうな表情に戸惑っていた。演習自体は卒業試験で北上と対戦し、ボロ負けしたばかりであったので、少なからずトラウマが残っていた。

 

 そんなことを考えながらも、演習開始時刻は刻一刻と迫っていた。

 

 

 

 そして。

 

「これより不知火と三日月の演習を開始する。位置ついて」

 

 2人とも連装砲を構えると同時に首筋に汗が流れる。

 

「演習開始!」

 

 そう言って深雪がピストルを鳴らす。

 

 先に動いたのは三日月であった。教練艦隊での教え『先手必勝』からの行動であった。開始の合図がなると同時に、不知火のいる正面に対し左足に装備している模擬魚雷を3発発射し、ペイント弾で砲撃を行いながら突撃をした。

 

 その様子を見て不知火はニヤリと笑い、呟いた。

 

「甘いですね」

 

 それからの不知火の行動に三日月は衝撃を受けた。普通は、魚雷を放たれ棚を確認したら回避行動が基本であるが、不知火は魚雷が迫っているにもかかわらず三日月に対し、突撃して来た。

 

 回避行動を取ると予想していた三日月の砲撃の弾道は不知火から大幅に逸れ、明後日の方向へと飛んでいった。しかも三日月に接近しながら魚雷の直撃を寸前の所、最少限度の動きをしながら三日月へ2発砲撃を直撃させた。

 

「今のが当たるの⁉︎」

 

 思わず口に出してしまった。普通、近距離の白兵戦は、自分も相手も動きながらの砲撃なので、狙いが定まらないため命中率は低いはずである。しかし、不知火は当てて来た。異常な命中率である。

 

 このままではまずいとか考えた三日月はゼロ距離での勝負に出た。すれ違いざまに取り付き、魚雷3発を確実なに当てるという作戦であった。

 

 三日月は砲撃を続ける不知火に対し機銃と砲撃で牽制し、回避行動を取りながらながら接近した。それに合わせてか、不知火も牽制の砲撃をしながら接近してくる。

 

 ついに三日月と不知火がすれ違い、さらに6発直撃を食らったが取り付くことには成功した。その反動で2人とも倒れ、三日月が不知火に残りの右側の魚雷3発全てを撃つ。

 

「これでトドメ!」

 

 しかし、ここで三日月の予想外のことが起こる。なんと不知火が普通の艦娘には到底不可能な反応速度と動きをし、三日月の放った魚雷を回避したのである。なんとか1発当てることができたが、勝利までは程遠い。とりあえず後退し、態勢を立て直すことにした。

 

 しかし、ここで三日月はあることを思い出す。先程からの不知火の動きに見覚えがあるからだ。他の艦娘には到底不可能か回避、そして反応速度。そう、教練艦隊の北上である。

 

 三日月は北上の教えを思い出し、後退しながら左右の魚雷発射管へ再装填を済ませる。

 

 そもそも砲撃戦では、三日月の砲は12cm単装砲であるのに対し、不知火は12.7cm連装砲である。明らかに連射速度も射程も不知火の方が有利である。やはり考え直しても互角な雷撃戦でケリを付けるしかないと考えた。

 

 しかし、うかつに接近すればまた集中砲火を受けてしまう。もう既に8発も直撃を受けている。あと2発も受ければ三日月の負けとなる。しかし逆に三日月は不知火に対し魚雷を1発命中させている。なんとかあと魚雷を2発当てればこちらの勝ちである。ただ、あの動きを見る限りでは遠距離から魚雷を当てるのは不可能であろう。三日月は不知火が接近するまでの時間、距離を取りながら策を練った。

 

 その頃三日月を追尾する不知火は三日月の次の動きに警戒していた。元は三日月に1発も喰らわず完全勝利の予定であったが、まさか自分の得意なゼロ距離で魚雷の直撃は予想外であった。そんな三日月に対して不知火は驚きを隠せずにいた。

 

 この状況に不知火はリスクはあるものの、本気を出さざるをえない状況つまり艤装のリミッターを解除しなければならない状況になるかもしれないと考えていた。しかし、リミッター解除は不知火自体に負担がかかるだけでなく、三日月を演習の中で三日月を沈めてしまう可能性がある。

 

 そんなことを考えていた最中、前方から迫る魚雷を発見する。そしてその後ろに突撃をする三日月の姿があった。

 

「同じ戦法ですか」

 

 しかし、不知火は違和感を感じた。何かが違うと。

 

 その違和感を探るため周囲を見回すと、不知火の周り360度のどこに逃げても当たる角度で魚雷が5発迫っていた。

 

 三日月に砲撃を加えるが、先ほどの戦闘で不知火の砲撃パターンを学んだのか回避が上手くなっている。

 

「このままでは・・・」

 

 負ける。

 

 しかし、負けそうだと追い込まれると同時にある感情を思い出す。それは3年前のあの時と同じ感情。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アバレタイ、コロシタイ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初めは抑えられたこの気持ちであったが、三日月が接近するにつれその気持ちが抑えられなくなった。

 

 

 三日月は戸惑っていた。先程からの不知火の当たりが弱くなっていた。もしや、秘密兵器でも待っているのではないかと。

 

 しかし、三日月のそんな予想とは裏腹に放った魚雷は不知火完全にを捉えていた。

 

 魚雷が爆発し、大きな水柱が立つ。

 

 勝った?

 

 そう三日月が思った瞬間、水柱より何かが高速で出て来て、三日月を殴り飛ばした。あまりの速度に三日月は防御することもできず、ただ後ろに吹き飛ばされていった。

 

 吹き飛ばされて殴られたお腹に激痛が走っている中、何があったのか状況を確認するために起き上がった。

 

 そこには・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 両目から赤い閃光を放つ、不知火の姿があった。

 

 

 

 

そして無意識のうちに三日月はこう口ずさんだ。

 

「あ、悪魔・・・?」

 

 

 

 

 

 

 




第3鎮守府艦娘紹介

名前→三日月

装備

12cm単装砲×1
3連装魚雷×2
3式爆雷投射機×1
睦月型専用盾×1


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話 三日月、配属おめでとう!


百年兵を養うは、ただ平和を守るためである

山本五十六


 三日月は気がつくと暗い空間にいた。暗闇の中1人にされてとても不安だった。しかし、空間にひとつの光が差し込んだ。三日月はその光に向かってひたすら走り続けた。

 

 そして光を放つ正体を見つけた。しかし、そこにはなんと自分と同じ『三日月』が2人立っており、こっちを見ていた。

 

 気になり三日月が「誰なの?」と聞いたが返事は返って来なかった。ただひたすらに、こちらを見ていた。それはまるで睨んでるなどでは無く、懐かしんでいるように感じた。

 

 三日月は混乱する。この鎮守府の三日月は自分一人の筈なのに、なぜ私が3人もここに居るのかと。そもそも、ここはどこなのかと。

 

 すると突然、空間が渦巻きだし三日月は一人吸い寄せられた。

 

 

 ハッと目を覚ます。ここは暗い空間でも、同じ三日月が居る空間でもなく、病室のベッドの上であった。

 

 三日月は起き上がり辺りを見渡す。するとちょうど看護師が部屋に入って来た。

 

「三日月さん、気がつかれましたようですね」

 

「あの、ここは何処なんですか?」

 

「第3鎮守府の医療病棟よ。ちょっと待ってね、今夕張先生呼んでくるから」

 

 そう言って看護師は部屋を出て行った。そもそもなぜ自分が医療病棟に居るのか理解出来なかった。記憶の最後にあるのは、両目から赤い閃光を放つ不知火に殴り飛ばされたところであった。

 

「あっ、ちょっと待ってください!」

 

 看護師の焦った声が聞こえてくる。なにやら部屋の外が騒がしい。なにがあったのか見に行こうとした時、20人近くがこの狭い病室になだれ込んで来た。

 

「おい、大丈夫か⁉︎」

 

「傷はもう大丈夫なの?」

 

「あの不知火と互角に戦うなんて大したやつだなー!」

 

 

 ワイワイガヤガヤ

 

 

 三日月は混乱していた。一体なにがあったのか、先ほどまで一人として見つけられなかった艦娘が目の前に沢山居た。しかし、皆その姿はボロボロだった。辺りを見渡していると包帯だらけの深雪の姿があった。

 

「深雪さん!それに皆さんも大丈夫なんですか⁉︎」

 

 するとみんなから「こんなの大したことない!」という力強い答えが返って来た。

 

 話を聞くところによると、三日月は不知火に殴り飛ばされた直後に気を失い、深雪が救助に向かおうとするも非武装では一人では太刀打ち出来ないため、第3鎮守府の艦娘が総出で不知火と戦い、やっと止めることができたらしい。また、暴走は不知火が装備している艤装の影響のため、不知火自身に悪気はないとの事であった。あと、鎮守府に先ほどまで艦娘の姿が見当たらなかったのは、とある任務について居たかららしい。

 

 しかし、三日月は気になっていることがあった。三日月の病室には不知火の様子が無かった。深雪に尋ねたところ、三日月の隣の病室で休んでいるとの事だった。

 

 三日月はみんなの制止を振り切り、不知火の病室に向かった。そこには包帯だらけでベッドに横になっている不知火の姿があった。

 

「不知火さん、あのっ・・・」

 

「三日月、どうしたの?」

 

 不知火は諦めていた。三日月の表情から察するに怯えていることは分かっていた。また自分の居場所が一つ、無くなってしまったと。

 

 しかし、次に三日月が発した言葉は不知火が予想していた言葉とは全く違ったものだった。

 

「今日は演習ありがとうございました。不知火さんの動き、とてもカッコよかったです!もしよかったら弟子にして下さい!」

 

「は?」

 

 不知火は不可思議に思った。なぜ、あの様な目にあっても『ありがとうございました』と言えるのか。

 

「私のこと怖くないの?」

 

「あの時は怖かったです。でもそれと同時に自分にはなることができない強さ、北上さんのような強さに憧れを抱きました!」

 

 するとこの話を聞いていた深雪が病室に入り、不知火に語りかけた。

 

「おそらく、三日月はお前の強さを見抜いてたんだよ。あの演習で不知火が手加減していることもお見通しだったと思うぞ。そうだろ?三日月」

 

「はい、あの不知火さんの圧倒的な命中率なら接近した時に十分にトドメをさせたはずです」

 

「やはりバレていたのですね」

 

 確かに不知火は途中までは手を抜いていた。本気ではなく5、6割で戦っていた。接近した時も、本気だったなら最初の方で演習が終わっていたはずだった。理由は分からない。ただ、楽しかったのだ。しかし、手を抜いていたため三日月に地道に追い込まれ、結果としてこんな大惨事を起こしてしまった。

 

「分かりました。ですが私の特訓は厳しいので覚悟してて下さいね」

 

「はい!」

 

 これは三日月との演習で手を抜いてしまったお詫びとしての意味もある。

 

 深雪の前で新しく誕生する師匠と弟子。その様子を深雪は複雑そうに見ていた。

 

 そしてその後、深雪と三日月の荷物を取りに行き、寮へと案内された。不知火はもう少し病室で休むとのことだった。

 

「ここが艦娘の寮だよ。たくさん部屋はあるから好きなの使っていいよ!」

 

 急にそう言われても、なかなか決められないのでとりあえず深雪の隣の部屋にした。寮の部屋は思ったより広く、6畳の座敷、4畳の寝床、トイレ、お風呂があった。

 

 深雪と三日月は2人セッセとで荷物の整理を1時間ぐらいで終わらせ、提督からの正式な配属命令を受けるために執務室へと向かった。

 

 執務室前に到着し、緊張しだす三日月を他所に深雪が執務室に突入し、三日月も続いた。執務室には提督と、秘書官代行として秋月が居た。

 

「司令官お待たせー!三日月の案内終わったよー!」

 

「ご苦労様。ごめんね三日月、さっきは急に演習なんてさせて」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「そう、なら良かった。じゃあ・・・」

 

 司令官はコホンと表情や姿勢を改め三日月に命令をする。

 

「駆逐艦 三日月に命じる。本日より、この東北管区第3鎮守府の第1攻撃艦隊に配属とする」

 

 人手不足や三日月の練度の高さから、三日月は出撃メインの第1攻撃艦隊へ配属された。

 

「はい!駆逐艦三日月、東北管区第3鎮守の第1攻撃艦隊へ着任いたします!」

 

「よし!それじゃ秋月、後はよろしくね」

 

 三日月は提督と深雪に案内され、鎮守府の中にある多目的体育館へと案内された。

 

 何が始まるのかと思いながら三日月は中に入った。すると中から多数の歓声とクラッカーの音が鳴り響いた。

 

『三日月!配属おめでとう!』

 

 体育館の中には当直担当と秘書官代行の数人と見張りの兵士数人を除いた鎮守府の全員が集まっていた。

 

 三日月の歓迎会は夜の11時まで行われ、皆で食べ、皆で飲み、皆で歌い、とても楽しんだ。

 

 三日月は思う、今日は色々なことがあったが鎮守府は楽しい所だと。

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 その頃、執務室では秘書官代行の秋月と当直の飛龍と榛名が夕食を取っていた。

 

「もー!なんで今日は私が秘書官代行なの!歓迎会行きたかったのに〜!」

 

「全く、ついてないねー。ま、私も当直なんだけどね」

 

「当直だとお酒も飲めないし、今度このメンバーで飲みに行きますか」

 

 

 つづく

 

 





ご意見、ご感想お待ちしております!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話 初出撃


人生誰でも選択するときが来る。でもどちらを選んでも後悔しないことは必ずない。


 

とある和室に1人の少女と、2人の30代ぐらいの男の兵士がテーブル越しに座っていた。

 

「貴方には選ぶ権利がある。『艦娘』になるか、それともならないか」

 

「我々には時間が無いのです。ご決断を!」

 

2人の兵士に迫られ、彼女は人生の大きな選択をすることとなった。

 

「わかりました。私、なります。艦娘に」

 

三日月はハッと目を覚ます。どうやらまだ朝早く、日が出始めたばかりである。近頃、三日月はこの夢ばかり見ており逆に寝て疲れてしまっていた。

 

三日月がこの鎮守府に配属されて、既に1週間が経とうとしていた。艦娘は毎日深海棲艦と戦闘をするというイメージがあるかもしれないが、実際は違う。この1週間、第2艦隊以外は実戦はおろか出撃すら行われず、自主的にトレーニングを各自で行なったり、演習をしたとしても鎮守府内でしかしなかった。

 

三日月はこの鎮守府に来て、先日の本格的な艦隊行動の確認ということで第3艦隊との演習と、初日の不知火との演習しか戦闘はしたことがない。

 

また、それ以外の時間は不知火指導のもとにトレーニングを積んでいた。

 

今日もいつもと同じ日常が始まると思っていた三日月だったが、突然鎮守府にサイレンが鳴り響いた。

 

何事かと思い身構える三日月。そしてサイレンが20秒ほどなると放送から提督の声が聞こえて来た。

 

『M県沖合250キロで漁船団に深海棲艦が接近中。第1艦隊は直ちに出撃せよ』

 

放送が終わると同時に部屋の外は慌ただしくなった。

 

突然のことに何をすればいいのか分からず戸惑っている三日月であったが、部屋に不知火が駆けつけてくれて緊急出撃場へと連れていかれた。

 

この時、三日月の部屋に入ろうとした不知火が、艤装のせいで入り口で引っかかってしまい顔を赤らめた。緊張した空間であったが、あまりのギャップのせいで笑いそうになってしまったのはここだけの秘密である。

 

三日月は不知火に出撃場とやらに連れていかれた。しかし、そこは港とは反対側のヘリポートであった。

 

2人が到着すると第1艦隊の皆は準備をしていた。空母の加賀と鳳翔は弓と航空矢の最終点検を。戦艦の比叡は砲塔の稼動確認をしていた。

 

三日月は直ぐに同じ駆逐艦の秋月の元へ向かい、不知火、三日月、秋月で砲塔、魚雷の最終点検を行った。

 

そして6人にはあるものが手渡された。パラシュートである。これを艤装に固定し、前側に背負うようにと指示された。

 

そう、これは最近主流となった艦娘の輸送方法である。民間船の救助の場合イージス艦を母艦として出撃すれば速力の関係上、数時間はかかるので手遅れになってしまう。また、艦娘にも単独で沖合250キロに向かい戦闘をして引き返してくるには燃料が不足してしまう。

 

そこで陸軍と協力して高速ヘリ、オスプレイで艦娘を近くの空域まで輸送してパラシュート降下をして、先頭ののちにイージス艦に回収してもらうという形がとられることが多い。

 

三日月も降下訓練は3回ほど教練艦隊時にやったことはあるが、久しぶりなので緊張してきた。

 

6人は点検を終え、艦隊行動時の指示を不知火から受けていた。

 

「敵の数は不明、しかし漁船団を襲うにはさほどの戦力ではないと考えられる。だが、油断せずいつも通り行う。今回は初出撃の三日月がいるので手早く説明する。まず、比叡を先頭にして私、三日月の3人は単縦陣で敵艦隊左翼に突撃しT字有利を確保。加賀と鳳翔は航空隊で私達の援護を。秋月は空母2人の護衛を。何か質問は?」

 

皆黙りながら首を横に振り、質問がないことを伝える。

 

その頃、6人を回収するためのイージス艦が出港した。

 

そうして6人はちょうど到着したオスプレイに乗り込み戦場へと向かった。

 

オスプレイはヘリモードと飛行機モードになることができる特殊なヘリで最高速度は500キロであるが、深海棲艦は沖合250キロに出現したため、最低でも30分以上はかかる。戦闘力のない漁船団にとっては地獄の30分であるが、今は耐えるしかない。三日月達は祈る気持ちで向かう。

 

 

 

その頃、漁船団は深海棲艦の接近により大混乱に陥っていた。

 

『深海ヤロウはまだ追ってきてるのか?』

 

『レーダーが反応しないところを見ると間違いない』

 

『くそ、後ろの方が追いつかれ始めたぞ!敵の砲弾で何隻か沈んじまった!』

 

『くそー!死にたくねー!』

 

漁師達の悲痛な叫びも虚しく、次から次へと漁船が沈められていく。

 

深海棲艦には民間人という言葉は存在しない。ただ、前に現れたのは軍艦であってもなくても敵なのである。

 

逃走を続ける漁船団であったがだいぶ数が減ってきてしまっていた。

 

もうダメかと諦める漁師達。しかし、彼らを追っていた深海棲艦の上に砲弾が降り注ぐ。足止めの為に打たれた三式弾である。

 

そして小さな航空隊が深海棲艦に爆撃を始めた。そして漁船団の漁師達は、戦場へと向かう6人の少女を見かけた。

 

そう。艦娘達を。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。