古龍のフレンズ (まろにい)
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prologue 目覚め

はじめまして!初投稿です、よろしくおねがいします!


 

 雪山。私は傷を負わされて頂上まで追い詰められている。血もおびただしくもうわずかな命しか残されていない状態だ。私は目標をにらみつける。そして大きく息を吸い込み咆哮する。せめてもの悪あがきのようなものだ。彼らには無意味だろうが。私の咆哮を物ともせず一直線に彼らは私に向かって忌々しい武器を振り下ろしてくる。

 容赦なく迫りくる刃を私は後ろ足で地をけりバックステップで避ける。私の力の象徴である角も彼らに折られ風の力をうまく操れない。体もうまく動かせずバランスを崩しそうになる。彼らにとって私という存在は恐怖でしかない。ならば当然駆逐しにくることは道理である。ぼろぼろの翼をはためかせて飛び上がり目標へ滑空する。そして渾身のブレスをお見舞いする。

 しかし読まれていた。彼らはすかさず側面へ飛び込みあっさりと避けられてしまう。当然その後の隙を彼らが見逃すはずがない。

 

(!?しまっ…………!)

 

私は死角を取られ羽に致命傷をもらってしまった。そのまま横倒しになりもがく。何回も追い討ちを食らい流血がひどくなる。意識が遠くなる。眼から光が消える。そしてとうとう私は意識を手放し深い闇の底へと落ちていった。

 

            ・

            ・

            ・ 

 

 

 ふと目が覚める。私は確かあの忌々しい人間共からあちこちを負傷し絶命したはず。しかし生きている、意識もはっきりとしている。

 

「いったい何が起きたというのだ――」

 

 考えたことをつい口にしてしまった。しかし私の声ではない。聞いたことも無い声。これが私の声なのか?思わずはっと飛び起きる。

「あーあー」

 試しに思ったことを口にしてみる。声がでた。さっきと同じ私とは別の声が。

 

(な、なんだ!? 聞いたことも無い声が!?)

 

 呆然とする。こんなことは生まれて初めてだ。これは私が倒してきた人間共の祟りか何かなのか? どすんと横になり考える。うんわからん。私は考えることをやめた。体を起こし……ぬ? なにかいつもの視界と違う?

 視界がいつもより低い……何だ、私は体が小さくでもなったのか? どうやら異変は私の声だけに起こっているようではないようだな。

 驚かされたのはそれだけではなかった。視界の先を見て唖然とする。辺り一面が荒野。所々に大きな木が生えている……なんなのだここは。私は雪山で斃れたはずでは――

 

(これが死んだ後に訪れる世界……なのか?)

 

 いつものような四つんばいの姿勢で辺りを見回す。だがすごく違和感を覚える。こんなに頭が前に下がっていたか? 違和感のある後ろ足をふと見るといつもより長くなっていた。これでは体が前に傾いてしまうのも当たり前か。

 私は改めて横になる。手をふと見る。指が五本ある……そこでわたしはふとあることに気づく。

 

(これはまるで人間のような手だ……。まさか私は人間になったとでも言うのか?)

 

 やはりこれは人間からの祟りの類だろうか? 私に倒されたその恨みが私の体に祟りとして現れたのだとしたら、何とも迷惑な話だ。まあそんな話はありえないと私も思ってはいるが。

 上半身を起こし私は全身を嘗め回すように見回してみた。体は首の下から腰まで同じ物体で覆われていて、てかてかと鈍い光沢を放っている。それぞれ手足を動かすとガチャガチャと鈍い音がした。

 

(少し重さがあるなこの物体には――だが体を動かす分には問題はないか)

 

 そして私のお気に入りだった羽は背中から消えてしまっている。なんとも背中の違和感がすごいものだ。頭に触れると角がなくなっており、変わりにふわふわとしたものが手に触れたのが分かった。体のあちこちをべたべた触ってみる。不思議な触感だ。しかし人間になってしまったとしたら立ち振る舞いも変えねばなるまい。声、体も人間そのものになったのだ、前代未聞である。

 

 確か人間は二足歩行をする生物だったか。四つんばいの姿勢から足に力を入れて立ち上がってみる。意外にもすんなりと立つことができた。視界も高く広くなった。だが元の姿と比べるとまだまだ視界は低いままだ。

 おぼつかない足取りで一歩ずつ歩いてみる――確かこんな感じだったか? ……意外といけるものだな、ふらふらなのはどうしようもないが。

 立ち止まり私はこの後どうするかを考える。まず第一にここがどこなのかが知りたいところだな、そして私の身に何が起きたのか。これもはっきりさせるべきだろう。いかんせんここに関しての情報が少なすぎる。

 せめて羽があれば自由に飛び回りこの世界を見渡すことができるのだが。無いものは仕方が無い、ここについて詳しい者を探してみるとしようか。今のわたしは人間なのだ。思ったことが未知の呪術か何かで口から出せるのだ。この呪術を用いれば私の知りたいことも分かるだろう。そうと決まればまずはこの世界を歩き回ってみるとしようか。私の行く当てもない旅が今始まろうとしていた。

 




次回彼女はあのフレンズと出会う!?

けもフレとモンハンのモンスターって意外と波長あうんじゃね?そういう阿呆な考えでできてしまいました。生暖かい目で読んでいただけますと幸いです!

ちなみにフレンズ化の見た目はシロサイをさらにモンハンのようなごつい鎧にしたような感じと思っていただければイメージしやすいかなと思います。


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Chapter Ⅰ:さばんなちほー
section Ⅰ: フレンズ


アプリ復活おめでとうございます!早くやってみたいなあー
いよいよ原作フレンズとご対面です。


 辺りを警戒しつつ慎重に歩みを進める。あの忌々しい人間からみれば今の私はさぞ滑稽に見えるだろう。考えただけで虫唾が走る。

 

(腹がすいてきたな……)

 

 あの死闘の最中は何も口にしていなかったことを思い出す。大型の草食獣でもいればいいのだがここは私の知らない世界。その存在は絶望的だろう。しかもそれは元の姿の時に口にしていたもの、今の私は人間のような姿になっているのだ。口にするものも違うと考えるべきであろう。

 

 しばらく歩くとふと遠方に物陰を目にする。目は優れているのでよく遠くまで見渡せる。注意深く陰を観察する、……頭には耳がある。体は全体的に縞々で髪は長く毛皮のようなものを纏っている。そして物陰は二足歩行をしている……人間だ。この世界にも人間はいるのか。なんとも忌々しい。引き裂いてばらばらにしてやろうか。

 私の中の殺意が高まる。人間は一度も口にしたことはないがうまい不味いと贅沢を言っている場合ではない。とにかく今の私は空腹なのだ。なんとしてもあの獲物を仕留めねば。

 私は獲物へと近づくため歩幅を広げる。一歩、二歩、三歩。徐々に獲物との距離が縮まる。獲物はまだこちらに気づいていない。暢気なものだ、これから私の餌となることも知らずに。

 

「♪~♪~」

 

 何やら不思議な呪文のようなものを口にしている。呪術か、煩わしい。今からその顔を恐怖で支配してやろう。距離はついに跳びかかれる距離までになる。そして……!

 

「!? っきゃああああああ!?」

 

 後ろから飛び掛り動きを封じる。獲物は悲鳴を上げて押し倒される。いつみてもいい眺めだ、上から見下ろすこの感覚は。獲物は拘束から離れようともがいている。しかし私の力にはおよばないようだ。しばらく拘束していると敵わないことを悟ったのかどうやら抵抗することをあきらめて動かなくなった。

 

「に、煮るなり焼くなり好きにしなさいよっ!」

 

 獲物はぎろりと睨んで叫ぶ。煮る? 焼く? よくわからないがこれは食べてもいいということなのだろうか。

 

「……貴様、食べられてもいいというのか」

 

 つい私は思ったことを口にしてしまう。いったい何をしているのだ私は。さっさと食べてしまってもいいではないか。

 

「そ、そうよ! 早くひと思いにがぶっとやっちゃいなさいよ!」

 

 ぎゅっと目を瞑り早く食べろとまくし立ててくる。なんと諦めがいい人間だ。腹をすかせた私にとっては好都合だ、だがそう急かされるとなんともやりにくくなってしまう。思わず力を緩めそうになるが踏みとどまる。

 

(人間というものはあのような殺伐とした輩だらけでは無いというのか?)

 

 ふとそういう考えが頭をよぎる。人間になる前では考えたこともなかったな。

 

「貴様は人間だな。先ほどまで何をしていた?」

 

 私は問いかけた、私でも思いもよらぬことを。獲物はしばらく沈黙したあと答えた。

 

「……え!? う、歌を歌ってましたけどっ……!?」

 

 うた? うたとは何だ? またもわからぬものがでてきた。もしかすると何かここのことについて知っているのか? 私は尋ねてみる。

 

「貴様、何かここについて知っているな?」

「知っているも何もここは私が住んでいる地ですし……!」

 

 やはり知っていたか。私の勘もなかなか当てになるものだな。もしや私がこの体になってしまった原因も知っているのでは……。

 

「それより……」

 

 む?

 

「食べる気が無いのなら離してほしいのですけど……! 痛いです……!」

 

 思わず拘束を解いてしまった。ああ、せっかくの餌が……本当に何をしているのだ私は。

 

「あれ、解いちゃうんですか……不思議な方ですねー。でも食べないでくれてありがとうございます。……よく見るとあなた見たこともないフレンズですね。どうやらここのルールは知らなさそうですね」

 

 まじまじと私を見て彼女は言った。ふれんず? 私を見てフレンズと言ったのか? ということは私はそのフレンズとやらになってしまったということか。

 

「るーる? ……貴様もそのフレンズとやらなのか?」

 

 私の問いに彼女は答える。

 

「はい、そうですけど。私はサバンナシマウマといいます」

「しまうま……? まあいい。してここは何処なのだ?」

「ここはジャパリパークのさばんなちほーといいます」

 

 ここはやはり雪山ではない。じゃぱりぱーく? さばんなちほー? とにかくここについての理解を深めなければ。

 その後も私の質問攻めに彼女は淡々と答え続けた。が、肝心の私のこの姿については何も得ることはできなかった。

 

「本当は貴様を頂くつもりだったのだが貴様のおかげでこれだけ情報が増えたのだ、食べることはしないでやろう」

「さっき教えたここのルールちゃんと覚えてますよねー? フレンズがフレンズを食べるのはご法度ですよー」

 

 シマウマから貰い受けたジャパリまんとやらをしげしげと眺めつつ私は言った。このジャパリまん、なかなかに美味そうな見た目をしている。肉の類ではなさそうだ。一口かじる。

 

「!!」

 

 二口! 三口! おもわずがっつく! なんだこれは!!

 

「おおー、気持ちいいほどの食べっぷりですねー、初めての味にがっつきたくなるのは分かりますけど落ち着いて食べてくださいねー?」

「もが!? ……んくっ。ああ、すまない、少し取り乱したようだ。このような物は初めて食べるものでな」

 

 思わずがっついてしまった。ジャパリまんの魔力、恐るべしである。こんな美味な物を食しているとはなんと贅沢な者達なのだ。是非今後は自給自足できるようにしておかなくては!

 

「ところでまだそちらの名前を伺ってませんでしたね」

「名前……ふむ」

 

 名前とやらを尋ねられた。確か人間どもは私のことを「風翔龍」と呼称していたか。ならばそれが私の名前なのであろう。私はある程度なら聞いた人間語は理解できるからな。

 

「風翔龍とでも呼ぶがいい」

「ふーしょーりゅー……変わった名前ですね」

「フン……それより此処がどこかわかるのだろう? 私に案内をしてくれ」

「……まあ悪い方ではなさそうですし、わかりました。案内しましょう」

 

 こうして私は案内役を一人つけ、当てもないちほー巡りを再開したのだった。




ということでサバンナシマウマちゃんを出してみました。ナメクジ扱いうけてる彼女にスポットライトを当ててみましたがいかがでしたか?性格がちょと難しかったので丁寧語にしてみました。

次回もまた新たにフレンズがでてきます!


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section Ⅱ: 水場

えええ!?もうお気に入りに入れてくださっているフレンズの方々が!?ありがとうございます!


 このさばんなちほーにもシマウマ以外のフレンズは多く存在しているという。聞けばフレンズになる前は私と同じような四足歩行をしていた者もいるというから信じられない。いったい何がどうなったらフレンズになるのか、シマウマ自身もわからないと言うので完全にお手上げの状態だ。

 しかし興味深いことを聞いた。わからないことがあれば図書館という場所を利用するらしい。その図書館の位置も詳しく知ることができた。ならばもうこのようなところになぞ用はない。さっさと図書館を目指すとしよう。

 だが二足歩行にまだ慣れていないこともあってか体力の消耗が著しく、水分がほしくなる。歩けば歩くほど体が水分を欲する。そして何よりこのちほー……暑い。

 

「おい、シマウマ」

「はい? どうしました?」

 

 近くに水場がないかを尋ねる。一刻も早く喉を潤したい。でないと暑さでイラついてこいつを食らってしまいそうになる。何より昼間にこんなに活発に動くことはめったに無かった。私の活動する時間は主に夜だ。できるなら早く夜になってもらいたいものだ、もしくは水場があれば……。

 

「水場ですか。たしかあの小高い丘の上にありましたねー」

 

 シマウマが丘を指差す。ふむ、あの丘の上か。水にありつけるのであればありがたい。あれから水も一滴も口にしていない。

 私は歩みを早める。ああ、本当に翼が恋しい。いったい何処へ消えたというのだ私の翼よ。これではもはやただの頑強なトカゲ同然ではないか……一刻も早く消えた翼の行方を知らなくては。

 せかせかと勾配を上る。シマウマもあとに続く。私よりもまだまだ元気そうだ。その体力が羨ましいものだ。水さえ飲めれば体力も元に戻るはず。そうなったら翼も生えたりしてくるのだろうか。いや、杞憂だな。そんなファンタジーなことが起きるはずも無い。できれば起きてもらいたいものだが私としては。

 そんな願い事をしつつ私達はとうとう丘の頂へとたどり着いた。シマウマの言ったとおり水場だ。これで喉を潤すことができる。早歩きで水場へと近づく。きらきらと光を反射して水が光っている。なんとも神秘的だ。

 水面に顔を近づけてみる。顔が映り込む、だが私の顔ではない。私なのだが私ではない。これは人間のような顔だ。フレンズ化というものが現実味を帯びて私に突きつけられた。しかしその理由がさっぱりわからぬ以上考えても無駄だろう。今は水が優先だ。

 水に口をつけ飲んでみる。うむ、生き返る。体中に水分がいきわたり力がみるみる溢れてくる。やはり水は無くてはならないものだ。一心不乱に水を飲む。

 

「食べっぷりもすごいですけど飲みっぷりもすごいですね……」

「ごきゅ……ごきゅ……仕方あるまい、此処へ来るまでに水など一滴も飲んでいなかったのだからな」

「わたしも飲みたくなっちゃいました……ごく……ごく」

 

 私の隣に並んでシマウマも水を飲む。おそらくは多くのフレンズがこの水場を訪れているのだろう。この暑さの中水なしで生きていける気などまるでしない。この環境で水は貴重なものだ。飲み干したい欲求を抑えて口を水から離す。

 

「しかし今日は誰もいませんねえ。いつもは結構な数がここにいるはずなのに」

「珍しいことなのか? 水場にフレンズが少ないことは」

「いえ、少ない日もあるにはあるんですけど少なくても1人か2人はいますねー。誰もいなかったことは今日が初めてです」

 

 あまり興味は無いが私がここを訪れた時に誰もいないということは何か引っかかる。だが特に気にすることでもなかろう。周りを気にせず水を口にできるのだからな。もう少しだけ飲んでいくとしようか。

 再び私が口を近づけたとき、水場の中央に泡が出たのを見た。何かいる、水中に。身を引いたその瞬間、水柱が中央に立った!

 

「っ! 何者だ!」 

「あなたこそ、何者ですの?」

 

 水柱から現れたのはフレンズだった。シマウマとはまた違った姿をしており、全身が黒い毛皮に覆われている。体のところどころに模様がある。こやつ水竜の類の者か? そうだとしても私は負ける気はないがな。生前は奴にはよくお世話になったものだ。砂漠の水場に行くと毎度毎度邪魔をしてくる。あまりにも鬱陶しいと何発かブレスを手痛くお見舞いしてやったものだ。

 

「水を飲みに来ただけだが、邪魔立てするなら容赦はせん」

「こちらこそ、私の縄張りで暴れるのであれば容赦はしませんわ」

 

 向こうから襲ってくる気配は無い。だが油断はできない、一触即発の状態が続く。そこにシマウマが割って入る。

 

「二人とも落ち着いてください! いきなり決闘に持ち込むのはよくないですよ!?」

 

 私とそのフレンズは彼女を見る。そしてお互いの顔を見る。

 

「フン……命拾いしたな名も無きフレンズよ」

「あら、私にはカバというれっきとした名前がありますわよ?」

 

 かば……また聞いたこともない生き物だ。水の中にいるということはやはり水竜なのか? 恐らくこのカバもフレンズになる前の姿があったのだろう。うーむしかしあんな馬鹿でかい奴がこんな小さくなるものなのだろうか。これも図書館で尋ねる必要があるな。ジャパリパークには謎が多すぎる。

 

「それで、あなたは一体何のフレンズなんですの?」

「風翔龍だ」

「生まれは何処ですの? 縄張りはお持ちですの?」

「此処に私の故郷は存在しない。そもそも私はここに住んでいたわけではない、気づいたらここにいたのだ。縄張りも無い」

 

 返答にカバは少し驚いているようだ。そんなに私が珍しいのだろうか。続けてカバは尋ねる。

 

「特技はお持ちですの?」

「特技? 此処へ来る前は風の力を操っていたな。この姿になってからはまるで力を感じられなくなったが」

「それは災難ですわね……あら? その背中にあるものは武器ではなくて?」

 

 唐突にカバが背中を見て言った。……背中? 言われるまで気づいていなかったな。確かに背中に何か背負っているような感覚がある。いったいいつの間に。

 

「おー、言われてみれば確かに背中に何かありますね、気づきませんでした」

 

 背中のものを手にとって眺めてみる。カバは武器といっていたがこれが今の私の特技に当たる部分なのだろうか。陽にかざしてみる。鈍くきらきらと輝いている。よく見ると私の角に形がよく似ている。やはりこれは私の特技で間違いなさそうだ。しかし使い方がよくわからない。

 

(そういえば私を倒したあの人間の持っているものと形状が似ている気がするな)

 

 私はあの時の人間と同じように短い柄のほうを持ち構えてみる。不思議だ、何故か手になじむ。持ち方はこれでいいようだ。ためしにぶんぶんと振り回してみる。ひゅんひゅんと武器が風を切る。今度は両手で持ち振ってみる。おお、両手のほうがなかなか威力が出そうだな。これからしばらくこの武器のお世話になりそうだ。だが相変わらず風の力を感じることはできない。まあこのことに関しては図書館で調べればわかるだろう。

 

「図書館を目指しているのだが何処に行けばいいかわかるか?」

「この丘から向こう見渡すとゲートがありますのわかります? あそこがさばんなちほーの出口ですわ」

 

 カバの指差す方向をよく見ると確かに門のようなものがみえる。奥には鬱蒼とした木が生い茂っている。

 

「図書館へ行くのならゲートを抜けてじゃんぐるちほーへ向かうといいですわ、そこにもフレンズがたくさん住んでいますから尋ねればきっと先の道のりがわかると思いますわ。くれぐれも気をつけるんですのよ?」

 

 フン――私にかかれば此処のフレンズ共など造作も無い。軽くねじ伏せてやれる。まあそれは向こうに明確な敵意があればなのだが。

 

「貴様はどうする? 私と共に来るのか?」

「ゲートまでなら行きますよー」

「そうか、わかった。くれぐれも私の足をひっぱるなよ?」

「それはこちらのせりふだと思いますけど」

「何 か 言 っ た か ?」

「いえ、何にも言ってませんよー」

「ふふっ、仲がいいんですのね」

 

 シマウマが聞き捨てなら無いことをぼそりと言った気がしたがまあいいか。それに別にこやつと仲がよくなったわけではないのだが、まあ言われて悪い気はしないな。

 カバに別れを告げ水場を後にする。後に私に襲い掛かる敵が待ち受けているとも知らずに――。

 




今回は主人公の特技が明確になりましたー。剣士スタイルですね。モンハンでもよく大剣使ってたので剣にしてみました。

次回はいよいよ戦闘です!


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section Ⅲ: 遭遇 其の一

戦闘回です!うまく書けてるといいな……

お気に入りが10人以上に!!こんな駄作を見ていただきありがとうございます!!


  ゲートを目指し私とシマウマは荒野を歩く。だいぶ二足歩行にも慣れてきたようだ。ぎこちなさが目に見えてなくなりつつある。しかしあのゲート、明らかに自然の力でできたものではない。手を加えて作られたものだ。ここに住むフレンズが作ったのだろうか。まあ今はそんな事はどうでもいい。図書館を目指す今の私にとっては無関係な事だ。

 

「もうすぐゲートですよ、風翔龍さん。あそこを抜ければじゃんぐるちほーです」

「知っている、カバも言っていたしな。案内ご苦労だったなシマウマ。此処からは私一人でも十分だ」

「……というわけには行かないようですね。あそこにセルリアンがいます」

「せろりあん?」

「セルリアンです」

 

 彼女が指差す方向を見る。あれがせるりあん――見た目からしてフレンズではないな。ご大層にゲートのど真ん中に居座っている。そう簡単に通してはくれなさそうだな。しかしあの見た目、どこかで見た覚えがある――。

 

「あれは……まさか轟竜?」

 

 体色こそ違えどあの退化した翼、大きな顎、そして太く鋭い翼爪。間違いない、人間以外で激闘を繰り広げたあの竜だ。なぜ奴が此処に――!

 

「知ってるんですか? あのセルリアンの事」

「いや、セルリアン自体のことは知らないがあの体躯には見覚えがある。……まさか二度も戦う事になるとはな」

「ということはあれに勝ったことがあるということですか」

 

 勝ったといえばまあ勝ったことになるか。戦闘が面倒だからブレスで空へ巻き上げて追っ払ってやっただけなのだが。だがまあ何にせよ奴に負けてやる気は無い。

 

「シマウマ、お前は下がっていろ。あれはお前が敵う相手ではない」

「え、でも見た目だけで元はセルリアンですし、私も戦えると思うんですけど……」

「見た目だけに惑わされるな。足元をすくわれるぞ」

「……戦い方わかります? セルリアンとの」

「――あ」

 

 盲点だった、あれと戦うのは私は初めてだ。シマウマのほうが戦い方に詳しいのは明白だ。悔しいが彼女を頼るしか私には道はない。

 結局シマウマも戦う事になった。なんと情けないことか、戦い方を教わる羽目になるとは。

 

「えーといいですか? セルリアンにはいしと呼ばれる弱点があるんです、そこをえいっとやれば倒せるはずです」

「簡単に言ってくれるな。そのいしとやらがまず何処にあるかを探さねばなるまい」

「ではこうしましょう。私がいしを探します。その間セルリアンの気を引き付けていてください」

「……よかろう。だが私が押さえ切れなくなったら速やかにこいつから離れろ、死にたくなかったらな」

 

 そして奴との距離はわずか数十メートルまで迫った。お互いに緊張が走る。久しぶりだ、こんな気持ちが昂ぶっているのは。

 

「……いくぞ!! 速やかに石を見つけろ!! くれぐれも奴には近づきすぎるな!!」

「はいっ!」

 

 二人同時に飛び出す! 私は奴の視界に入るように真正面から突撃する!

 

「……っ! 気づかれたか! だが、遅い!!」

 

 奴の頭上めがけて跳躍し、威力をつけるため空中でぐるりと縦回転する、その勢いのまま奴の脳天目掛けて武器を振り下ろす! だが奴もそのままじっとしてはくれない。あの動作は咆哮する合図だ。シマウマに叫ぶ!

 

「耳をふさいでいろ!! しゃべれなくなってもいいならそのままでいいがな!!」

「そんなのごめんですよ! ……っ!」

「……グゥオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 すさまじい雄叫びと共にびりびりと地面が揺れる。私を吹き飛ばすつもりか。そんなものが私に通用するものか――! そのまま頭部に一撃をお見舞いする!

 

「ガァァアアアア!?」

 

 悲鳴のような叫びを上げ轟竜が首をがむしゃらに振り回す。どうやら手ごたえは薄かったようだ。奴がこちらを見て態勢を立て直す。

 

「ちっ、浅かったか。だが所詮はまがい物か、貴様より本物のほうが数百倍は手ごわかったぞ!!」

 

 私は再び跳躍し今度は背中へと着地する。そのまま武器を思い切り突き立てる!!

 

「ギャアアアァアオオ!!」

 

 奴は振り落とそうとその場で暴れまくる! だが私は容赦などしない。何度も武器を突き立てる!

 

        ・

        ・

        ・

 

「うひゃあー…………って見とれてる場合じゃなかった。いしを探さないとですね――!」

 

 彼女がセルリアンを引き付けている間にわたしはこちらに気づかれないよう遠巻きに後ろ側へ回り込みます。しかし大きいなあこのセルリアン。探すの結構大変そうだなあ。

 

「どこにあるんでしょう……早く見つけて知らせないと」

 

 普通は体のどこかに隆起して現れているはずなんですけど、このセルリアンは特殊なんでしょうか……。何処にもいしが見当たりません。

 

「うーん、困りました。いしが見当たらないです」

 

 もしかして体内にあるんでしょうか、だったらもう少し近くで見ないとわからないかもですね。しかしむやみに近づくとこちらに気づかれかねないですね……。

 

「でも後ろ側ですし、まあ大丈夫ですよね……」

 

 そーっと、そーっと――。

 

        ・

        ・

        ・

 

 ちっ! 体力だけは竜一倍か、なかなかへばってはくれんな。まるで息が上がっているようには見えん。ならばまだまだお見舞いしてどったんばったん体力がなくなるまで暴れさせてやるとするか。

 私は武器を手に再び背中目掛けて跳躍する!

 

「いい加減に寝転んだらどうだ、轟竜よ!!」

 

 再び突き立てる! おーおー、よい暴れっぷりだな。早くへばってくれればあとは楽なのだがな――。

 

 ふと視線の先にシマウマを目にする。あの阿呆め、うかつに近づいたら危険だと忠告したはず。近づきたい気持ちは分からないでもない、だがそれは死を意味する。何とか奴からシマウマを離さなければ――!

 

「離れろ!! 死にたいのか貴様!!」

「え?」

 

 とっさに叫んで合図する。だがそれは轟竜にも伝わってしまったのか奴の視線がシマウマのほうへと移ってしまった。

 

「まずい、奴にも伝わったか……!! 逃げろシマウマ!」

「ひっ……!!」

「くっ!! この距離では間に合わぬ……! だが掛けるしかないか!!」

 

 私はシマウマめがけて跳躍するがやはり距離がありすぎて間に合いそうにない。運悪くさらにシマウマは逃げるどころか恐怖でへたり込んでしまった。もはやどうすることもできない。そしてシマウマめがけて奴は大きく跳躍し飛び掛った!!

 

「シマウマあっ!」

 

 私の叫びもむなしく轟竜の一撃はシマウマへと無慈悲に突き刺さった。




シマウマの運命やいかに!!そして次回ついにあの子が登場!

まさかの轟竜登場!まあセルリアンなんですが。なぜ轟竜の姿をしているのか、その真相は後に明らかになっていく予定です。ちなみにセルリアンの設定はほぼアプリ準拠にしてます。


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section Ⅳ: 遭遇 其ノ二

さてシマウマは一体どうなったか!続きです!そしてあの子がついに登場!



 轟音。シマウマに飛び掛った轟竜はその場から動かない。捕食中か……もはや助かる見込みは――。

 

「……今を悔やんでも仕方がない。奴にすべてをぶつけてやるとしようか……!!」

 

 不思議な気持ちだ。私とシマウマには何のつながりも無いはずだが、ものすごく憤りを感じている。何故だ……。

 再度私は武器を構え……!! 何だ、あの影は!?

 

「まさかっ……!!」

 

 轟竜へと跳躍し一気に距離を詰める。私の予感が当たっていれば……!!

 距離がどんどん縮まっていく。やがてすとんと正面へ着地した。――ほほう、やはり予感は当たっていたか!

 

「何者かは知らぬが……シマウマを助けた事、とても助かったぞ!! 名も無きフレンズよ!!」

 

 私は影に向かって助けたお礼を叫んだ。地へと降り立った影は答える。

 

「フレンズがピンチになってたら助けてあげるのは当たり前だよっ!」

 

 大きな耳、そして水玉模様の毛皮?を身にまとったフレンズは誇らしそうに胸を張っている。

 

「うえぇぇん……めちゃくちゃ怖かったですよおおお……」

 

 シマウマは水玉のフレンズにしがみついてべそをかいている。まああんな巨体にぎろりと睨まれ飛び掛られたらそれは怖いだろうな。私ですら初めて遭遇した時は少し恐怖を覚えたくらいだ。

 

「まったく、そのフレンズに助けられていなければ貴様は今頃奴の腹の中だったぞ」

「まあまあ、助かったからいいじゃない! あっ、わたしは……」

「自己紹介は後だ。来るぞ、奴が……!!」

 

 私達をぎろりと睨み付けてくる。私はシマウマにいしの事を聞く。

 

「それが、どこにもないんです。いしが」

「何? いしがないだと?」

 

 ふーむ、ならばまずは奴を身動きできなくしてからじっくり探すとしようか。恐らくは――

 

「ふえぇ……おっきいセルリアンだなあ……」

「あんなのどうやって倒すんですかあ……ひっぐ」

「聞け、二人とも。まともにやり合っても負かされるのが落ちだ、まずは奴の体力を奪う」

 

 近づいて無茶な戦闘を行うよりは効果的だろう。私もできれば奴とはまともな近接戦は避けたい所だ。奴の執念深さを利用してやるとするか。

 

「奴は目に付いたものは何処までも追いかけてくる。それを逆に利用する」

「なるほど! へとへとになるまでいっぱい追いかけっこするんだね!」

「おいかけっこ?? ……ま、まあそんなところだ。その追いかけっこをして体力が尽きたところを三人で一気にたたく!!」

「誰がその追いかけっこをするんですか? 私はそんなに足は速くないですよ」

 

 まともに一緒に走ってやる事は無いと思うがな。ただ奴の攻撃をかわしつつひたすら暴れさせればいいだけの話だからな。

 

「ふふん、足には自信あるよー!」

「確かにシマウマ助けたその瞬発力は見事なものだったな、では私と共に奴を翻弄するか?」

「一緒に追いかけっこだね! まかせてよ!」

 

 奴を目にして自ら囮役を買って出るとはなかなかの度胸だな。ただそれが強がりでなければいいのだが。まあその時は私がうまくカバーしてやればいいだけの話か。

 

「グゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

「くるぞ! 散れっ!」

「私は物陰に隠れてまーす!」

 

 大きく咆哮し轟竜がこちらに突進してくる! シマウマ以外は二手に分かれる。だが奴の狙いは決まっていたようだな。

 

「ガアアアァアアアア!」

 

 猛スピードで私を目掛けて突っ込んでくる。だが愚直だな。上空へ飛びかわす。

 

「おおおおー! たっかーい! あなたもジャンプ力がすごいフレンズなんだね!」

 

 奴の苦手な空中では手も足も出せまい。そのまま反対側に着地する。そして水玉に注意を促す。

 

「油断するな、またくるぞ!」

 

 それから何回も攻撃をかわし続け思う存分奴を暴れさせてやったが、まるで奴が疲労を見せ始める兆候がない。

 

「何かおかしい……奴は疲れを知らない生き物なのか……?」

「はあ……ぜえ……いつまでやればいいのこれぇ……わたしちょっと疲れてきちゃったよぉ……」

「物陰に隠れて休んでろ。そのまま戦闘に参加すれば足をすくわれかねん」

「はーい……」

 

 水玉フレンズが隠れるのをみて再び私は奴を見据える。何故だ……何故奴は疲労を見せようとしない。何かあるはずだ、何かが。

 

「……疲労を知らんのならば仕方あるまい――近づくのはごめんなのだがそうも言ってられんようだな」

 

 私は武器を構え思考する。いしが外に無いとすれば体の中か。奴の弱い所をついてみるか。……確かその箇所は――

 

(頭部か、もしくは尾か。やってみるしかあるまい……!)

 

「さあ来るがいい、轟竜!!」

 

 跳躍し武器を頭部目掛けて振り下ろす。先ほどは浅く入ったが今回はそうは行かぬ。

 

「これで仕舞いにしてやる!」

 

 ずぶりと確かな手ごたえを感じる。これで少しは動きも緩慢になるはず。

 

「ギャアアアアアオオ!?」

 

 武器を引き抜き離れる。奴の顔を頭頂部から串刺しにしてやったがいしはどうやら其処にはなかったようだ。

 

「いしはないか――ならば尾か!」

 

 再び武器を構える。と、轟竜はじりじりと後ずさり、こちらを睨み付ける。そしてその場から逃げるように飛び去っていってしまった。

 

「逃げたか。……さすがに私も体力の消耗が激しいな」

「逃げちゃいましたね……」

 

 物陰に隠れていた二人がぴょこんと顔を出す。二人とも安堵の表情を浮かべている。

 

「しかし頭部を貫かれてもまだ飛べるほどの力があるとはな。セルリアン、一体何者なのだろうか」

「ふうー、いっぱい追いかけっこしたらおなかすいてきちゃった」

「わたしもおなかすいてきちゃいました……」

「あれだけ動き回ったのだ、腹もすくだろう」

 

 かく言う私も空腹である。ああ、ジャパリまんが恋しくなってきた。何処にあるのかジャパリまん。

 

「あ、何か物欲しそうな顔してるね?」

「む!? そ、そんな事はないぞ? 腹などすいて――」

 

 ぐううううううううう……。 盛大に私のおなかが鳴った。何とタイミングを読めない私のおなかよ……。

 

「あはは! やっぱり! あなたのおなかもそう言ってるみたいだね!」

「……忘れろ、忘れろぉー!」

「わああ!? そんな事で武器を振りまわさないでください!?」

 

 シマウマが必死に暴れる私から武器を取り上げようとする。それを見て楽しそうに笑う水玉のフレンズ。こっちとしては重大なのだ……!!

 あれから暫く格闘して何とか我を取り戻すことができた。一生ものの黒歴史になりそうだ私の。あんな盛大な音を聞かれてしまったらどうすればいいのだこれから。

 

「あ、自己紹介がまだだったね! わたしはサーバルキャットのサーバル! よろしくねふたりとも!」

「わたしはまあよろしくしてますけどねー」

「……よろしく」

「ほらほら! そんなにへこんでないであなたもお名前教えてよー!」

 

 どんよりした気持ちで軽く自己紹介を済ます。

 

「風翔龍ちゃんかー。だったら『ふうちゃん』だねー!」

「……ふうちゃん?」

「うん、お名前長いからふうちゃん!」

「……んぷっ! …………ふうちゃん……!」

 

 ふうちゃん……まあ好きに呼ばせてやるか。ただ隣で吹き出してるシマウマは許してやらんが。無言で拳骨を落としてやる。

 

「いたいっ!?」

「ところで、サーバル、貴様は何故私達に手助けを? 貴様と私は知らぬ身のはずだが」

「あの時も言ったけど、困ってる子はやっぱり放っては置けないからね。物陰に隠れて様子を見てたの。でもちょっと出て行くタイミングが遅かったかも……もっと早く出てきていればよかったのかなあ。ごめんね、ふうちゃん」

「いや、見事なタイミングだったと思うぞ私は。素晴らしい働きだった」

「私からも感謝しますね。ありがとうございます、サーバルさん。サーバルさんがあの場で飛び出てこなかったらと思うとわたし――」

「いいよ! 気にしないで! 当たり前のことをしただけだもん!」

 

 何と利口な子だろうか。まるでさながら女神のような子だ。しかしシマウマの言ったありがとうとはどんなものだ? 言われたサーバルは嬉しそうな顔をしているな。人を喜ばせるために使うものなのか? 後で聞いてみるとしようか。

 

「おなか減ってるんだったら私のところに行こう! ジャパリまん分けてあげるね!」

「有難い! 何から何まで本当に世話になってすまないな」

「いいって! さ、いこいこー!」

「わ! そんなに押さなくても大丈夫ですからぁ!」

 

 こうして私達二人はサーバルの住処へと行く事となった。

 




はい!満を持してのサーバルちゃん登場回でした!今後の活躍に期待ですね!ちょと気合を入れて書いたので長くなってしまった……。
次回はサーバルちゃんの住処での話になります!



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section Ⅴ: 見送る者と送られる者

UAがみるみる増えてて戦慄してますwそしてたくさんのお気に入りありがとうございます!
さて、場面はサーバルちゃんの棲み処へと移ります。


 

 私達は現在サーバルの棲み処へと向けて移動中である。あの戦闘からかなりの時間が経っていたらしく辺りは一面橙色に染まっている。うむ、日が沈む光景はやはりこの世界でも美しいことは変わりない。もうできれば昼間に移動したくは無いものだな。

 

「それにしてもすっごいねー! あんな大きなセルリアンを一人で追っぱらっちゃうなんて。わたしじゃ絶対無理だなあ」

「ふ、あれよりももっと大きい奴と一戦交えたことがあるぞ?」

「ええ!? どうやって戦うんですかあんな大きいのよりさらに大きいのなんて」

「私にかかれば大きさなど関係ない。空から翻弄してやるまでよ」

「ええー!? ふうちゃん、空飛べるの!?」

「まあな」

 

 まあフレンズに成る前の話だがな。早く生えてこないかなー私の翼。生えてくるかどうかもわからんが。

 

「飛んで見てよー! 見たいなーふうちゃんが飛ぶところ!」

「私も興味ありますねー。その姿でどうやって飛ぶのかわくてかです」

「まさかと思うが……今ここでか?」

「「うん!」」

 

 二人から熱い期待の眼差しを向けられる。ぐ、やめろそんな目で私を見つめるな。私だって今ここで期待に応えて思い切り飛び立ちたい気持ちなのだ。それが今できない分罪悪感が……!

 

(まいった……今は飛ぶことができないことを知られたらほら吹き呼ばわりされかねん……)

 

 とにかく話題をそらさねば……!

 

「と、とりあえずさっさと住処へ案内してくれ」

「あー、ふうちゃん実はただの見栄っ張りさんだったり?」

「見え……? よくわからんが違う、私は見栄っ張りなどではない。フレンズに成ってからはどういうわけか飛べぬのだ。生前は間違いなく飛べたのだ!」

「必死になるところがますます怪しいですねえー」

「ぐぬぬ……!」

 

 今度は疑いの目を向けられる。貴様ら今に見ていろ、絶対に前世同様に飛んで見せるからな……そのときが来たら最高の飛行パフォーマンスを貴様らのその体にたっぷり体感させてやる。くくく……。

 そんな話をしているうちにどうやら目的の場所へたどり着いたようだ。目の前に一本の木が生えている。それを囲むように背の高い雑草が生い茂っている。

 

「ここがわたしの棲み処だよ!」

「まあわたしは知ってますけどねー」

「邪魔する」

 

 それぞれが地面へ座り込む。おお、割と座り心地がいい。草を下に敷いているのか。なかなか利口な子だ。

 

「ちょっとまってねー、……えーと確かこの辺に」

 

 もそもそとサーバルが草むらを掻き分けて何かを探している。むむっ!? それは!!

 

「あはは……そんな目を輝かせなくてもちゃんと分けてあげるよぉー」

「ジャパリまんが絡むと途端にかわいくなるんですねー」

「……はっ!? いや違うぞ、わたしは決してそのジャパリまんを求めていたわけでは」

「よだれでてるよー?」

「じゅるり!?」

「くく……恍惚としてますねー顔が……! ドはまりですね……!」

 

 こちらを見てにやにやしている。くそっ! ジャパリまんめ、この私を翻弄するとは。あーでもだめだおなかがすくとほんのうにはあらがえない……。

 サーバルから一つ分けてもらう。至福のときが来た。ああ、天よありがとう私にこんな素敵なものを授けてくれて。では頂こうか、思い切りかぶりつく。

 

「む!? 前にシマウマよりもらった物の味と違う?」

「ジャパリまんっていろんな味があるんだよー! わたしのはえーとなんだっけ、ヨモギあんとか何とか言う味だったかな?」

「ほう! よくみると色も違うのだな。ジャパリまんは奥が深いな! むぐむぐ……これもなかなか美味だな」

 

 暫く咀嚼し至福を楽しむ。ちなみにシマウマからもらったものはあんこというものが入っていた。これらが自然に自生しているであれば、是非場所を教えてもらいたい! そうすれば私は木に実るのであれば木ごと貰っていくぞ!

 

「しかし不思議なものだな。こんなものが地に生えていたり木に実っていたりするのか」

「ううん、ちがうよー」

「違う? どういうことだ。自生しているのではないのか?」

「ボスが運んでくるんですよー」

 

 ぼす? なんだそれは。どんな生き物なのか想像もつかん。何故かは分からないが蛇を思い浮かべてしまった。さすがに蛇がこんなものを持ってくるはずも無いな。

 私はボスについて尋ねる。どんな手がかりでもいい、ジャパリまんが手に入るのなら……!

 

「ボスですか? んー神出鬼没なのであまり出会うことは無いですねー」

「いつもジャパリまんを配りに来てくれるんだよ! そのおかげでここにいるフレンズはみーんなジャパリまんを食べれるの!」

「ほほう! 配りに来るのだな、そのボスとやらが」

 

 くくく、ならばあのゲートの近くで待ち伏せして大量に頂くとするか。いずれはあそこを通るだろうしな。それでしばらく食糧には困らなくなるだろう。

 

「あ! ふうちゃん良からぬこと考えてるでしょ? だめだよ独り占めしちゃ!」

「ダイジョウブダ、ヒトリジメナドシナイゾー」

「棒読みですごく分かりやすいですよー、その上動揺を隠しきれてませんし」

「ぐ……!」

「それにボスがいるのはここだけじゃないからねー? ジャパリパーク中にいるよー」

 

 ということはちほー中を巡ればいずれは遭遇する可能性もあるということか。

 

「でもボスはほとんどわたし達の前に姿を見せてくれないんだよねー」

「あまり姿を見せないのか。となると探すのが少し面倒になるな」

「待ち伏せしてもたぶん時間の無駄だと思いますよー?」

「……お前は読心術でも持ってるのか?」

 

 だらだらと話をしていると、サーバルがセルリアンに話題を切り替える。

 

「そういえばふうちゃん、あのセルリアンについていっぱいしってるんだよね?」

「まあ奴とは互角の縄張り争いをしたことがあるしな」

「あれと互角にやり合えるって……元の姿って一体どんなのだったんですか……」

 

 シマウマが引き気味に言う。やめろそういう態度は地味に傷つく。私だって好きであんな姿になったのではない。天の気まぐれだ。

 

「きっとこの木よりもおっきいんだよ! うわぁーみてみたいなあー」

「私は見世物ではない。それで飛び去った轟竜についてだ」

 

 一通り轟竜の特性について話す。まともに近づいて一対一の接近戦は危険なこと。咆哮は耳をふさぐこと。近くにいたら速やかに離れること。その予備動作を見逃さないこと。まあこれくらい分かれば各自行動に移すことができるだろう。

 

「まあ奴と戦闘する注意点はこれくらいか」

「吼える前には両前足を地に着けて大きく息を吸い込む……よし覚えた!」

「そういえばまともに咆哮を受けてましたけどけろっとしてましたよね?」

「む? ああ私は咆哮に対する耐性があるのでな。奴の咆哮など耳障りな虫の羽音と同じようなものだ」

「私もふうちゃんの合図がなかったらまともに受けたかも……」

 

 そうかサーバルは隠れて様子を見ていたといってたな。私の合図で何気にサーバルも助けていたとは。結構声を張っていたからなあの時は。

 次に私は奴の行方について推測する。やはり雪山か……しかしこのパークに雪山が存在するのかどうかはまだ分からない。とすれば砂漠か。こんな乾燥したエリアがあるのだ、恐らくは砂漠のエリアもあるとみていいだろう。深手を与えているし暫くは回復に時間を要する筈だ。

 

「このちほーの外は知っているか?」

「んーしんりんちほーまでは行ったことあるけどそれ以外は分からないや」

「私もサーバルさんと同じですねー」

 

 まあほかのちほーに行ってすることなどなさそうだからな。私でも棲み処からはあまり出たくは無い。

 

「奴が好むのは乾燥した砂漠と寒冷な雪山だ。それに今は深手を負っている。暫く行動は控えるだろう」

「だったら速やかに出発しちゃおうー!」

 

 まあ予想はしていたが、やはりサーバルはついて来る気満々のようだ。まあ道のりが分からない以上一緒に連れまわすのもいいか。カバの言っていたそのエリアごとのフレンズに出会う可能性ですら百ではないのだ。もしそれで出会えず道に迷おうものなら飢え死にしかねない。

 

「わたしはここに残りますねー」

「え! シマウマ一緒に来ないの?」

「一緒にちほーを旅するよりもここでのほほんと過ごしたほうが性に合ってるみたいなのでー」

 

 なんともシマウマらしい返答だ、私としてもついて来られるより残ってもらったほうが助かる。いざ奴がこのちほーに現れたとしても対処法を知っているしほかのフレンズ共をうまく逃げさせられることもできるだろうからな。

 

「わかった、もし奴が此処へ現れたら戦わず逃げることだ」

「了解ですよー、そちらも気をつけてくださいねー」

 

 それから私達は真夜中になるまで私達はお互いを話し、眠りについた。ついに明日はこのちほーを発ち、じゃんぐるちほーへと足を踏み入れる。そこで何が待っているのか、わたし達は知る由も無い。

 




サーバルちゃんレギュラー化決定!やっぱり女神にはいてほしいですねーw
シマウマちゃんは此処でお別れになってしまいます。しかしまだ後の方で出番は考えてはいるのでそのときの活躍をお楽しみに!いつになるかはまだわからん!


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section Ⅵ: じゃんぐるちほーへ


棲み処から翌日の話です!前話の通り一人を残してついに……


 日が昇り始めている。早めに目覚めた私はこの体に慣れるためにいろいろな行動を試していた。サーバルから教えてもらった走るという行動。シマウマから教えてもらった隠れるという行動。ちなみにこれらはすべて言葉と呼ぶらしい。と言うことは今は無意識のうちに言葉をしゃべれているということか。奥深いものだ。

 隠れるは言葉以外は何となくはじめから理解はできていたが、走るという行動は実に天地をひっくり返すようなものだった。地面をすばやく移動する、あれは走るという行動だったのか。何分ほとんど空中にいたものだからな、走ったことなどほぼ無かった。元の姿でも走っていた記憶はあるがやはり空中のほうが便宜がいい。自慢の翼は伊達ではない。

 しかし今の私には翼がない。となれば地上での戦闘は必須である。空を飛ぶ要領で跳躍ばかりしていたが、空中では無防備になるため隙が大きいという。複数を相手にするときは控えたほうがいい、そう二人に教わった。伊達にセルリアンを討伐してきていないのだろう。腐っても私よりはここの戦闘においては先輩である。忠告はしっかり守ることとしよう。

 

「どちらかの足を前方に出して……そのあとに後ろ足を前に……それを素早く勢いよく繰り返す……!」

 

 うーむ、ぎこちない。これでは跳躍して移動したほうが何倍もましだ。暫くは練習する必要があるか。二足歩行で走るのはなかなか難しい。サーバルたちにどうやって走れるようになったかを聞いても初めから走れていた、と言っていた。私はイレギュラーだからなのだろうか。いかんせん覚えることが多すぎる。頭は決して悪くは無いのだが耳にしたことも無い言葉を覚えるのはなかなか苦である。

 暫く走ることを練習していると後ろ声がした。

 

「おはよー! ふうちゃん早起きだねー!」

「む、サーバルか。おは……よう?」

「挨拶だよー! 朝起きたら言う言葉! ちなみに昨日言ったお休みは寝る前に言う言葉だよー」

「なるほど、おはようか。いい響きだ」

 

 改めてサーバルに挨拶を言う。

 

「おはよう、サーバル。シマウマはまだ寝ているのか」

「昨日のことで結構疲れちゃってたみたいだね」

「まあ無理に起こすこともあるまい。ところでちょっと私の走りを見てもらいたいのだがいいか」

「おおー、もう走れるようになったの?」

「ぎこちなさはあるがな」

 

 サーバルに見守られながら私は走る。軽く走った私をサーバルは訝しげに見ていた。

 

「んー、なんかちょっと変かなぁ。足がすごく上がりすぎてる気がするね……」

「む……まだまだ練習が必要か。実戦で使いこなせるようにならねばな」

「ふうちゃんは頑張り屋だねー。でもふうちゃんならきっとうまく走れるようになるよ!」

「そうか、すまないな。しばらくは走ることは実戦ではしないようにしよう。不完全な状態では足を引っ張りかねん」

 

 欲を言えばさっさと空中で戦いたいのだがな。その後暫く私は走ることを練習していた。

 暫くしてシマウマが起きてきた。挨拶を交わすとシマウマは眠たそうに目をこする。

 

「朝から元気ですねー二人とも……ふわぁぁ……」

「すごいあくびー! 指いれちゃおうっかなー♪」

「やめてくらひゃい……。……ふわぁあぁぁ……水浴びしてきます……」

「あ、ああ。気をつけてな」

 

 指入れられとる……。シマウマはふらふらと丘の方向へ向かっていく。……大丈夫なのかあれ。不安げな表情で見送る。

 

「ああ見えて耳はいいからねー。危ないと思ったらすぐ逃げれると思うよー」

「そ、そうなのか。安心……してもいいんだよな?」

 

 暫くしてシマウマが水浴びを終え、戻ってきた。

 

「お待たせしましたー。割と混んでて時間かかっちゃいました」

「朝に水浴びするフレンズは割と多いのか」

「ですねー。割と臭いとかをフレンズになってから周りの態度のせいで気にするようになったみたいで、結構朝に水浴びする子が多くなりましたねー。私ももう日課のひとつになったくらいですしー」

「そうか、サーバルは水浴びはしないのか?」

「しないことは無いけど、全身に水が掛かるのはちょっと嫌だから基本はしないかなー」

 

 意外だったな。サーバルが水を苦手としているのは。こんなおてんばなフレンズが水浴びをしないとは少し残念な気持ちだ。……って何を考えているのだ私は。

 

「水は苦手なのか? 私もまあ浴びるのは好きではないが」

「毛皮はあまり濡らしたくないからねー。濡れるとなんか変な気分になっちゃうんだよねー」

 

 さて、シマウマも戻ったことだ、そろそろゲートへ向かおうか。わたし達は棲み処を後にする。

 

「練習がてら走ってみるとするか。走るぞ、貴様ら」

「ふふーん、かけっこだね! 負けないよー!」

「えー……。あまり走りたくないんですけどー、ってもう走ってるし! 置いてかないでくださーいー!」

 

 ほう! 確かに早いなサーバル。私も負けてはいられんな。見よう見まねでサーバルの走り方をしてみる。……おお、これは! なるほど足をあまり上げすぎないとはこういうことか。

 

「おおお! 走れてる! まだぎこちないけど動きにもやもやしなくなった!」

「ふふふ、負けてはいられないのでな! それとお褒めの言葉、感謝するぞ!」

 

 風を受けて走る。一瞬私の中の何かが蠢いた気がしたが、私はそれには気づくことは無かった。

 

「とうちゃーっく! ふうー楽しかったー!」

「はあ……はあ……やるなサーバル。その走りっぷりには感服した」

「えっへん! かけっこは自信あるんだー!」

「ぐでー……」

 

 シマウマ……いかんすこし夢中になってしまったか。許せシマウマ、悪気は無かったのだ。

 

「シマウマちゃんも速いねー! それと、ごめんね……わたしかけっこになると夢中になっちゃって」

「……別に……気に……しては……いない……ですよー」

「暫く此処で休むとするか」

 

 腰を下ろす。ゲートの向こうは鬱蒼とした密林エリア。いよいよこのさばんなちほーともお別れか。少し物悲しいな。

 

「じゃんぐるちほーか……密林は過ごしやすかった記憶があるが私の特性上地上が悲惨な状態になってしまうのがな……」

「ジャングルにも行ったことがあるんですか?」

「ああ、あまり思いだしたく無い記憶もあるが、上質な食糧なんかを求めて行ったことがある。密林の獲物はなかなか肥えていて肉厚だったな……」

「ひいっ……!? 食べないでくださいよ!?」

「?? 別にとって食ったりはせんぞ。今の私はジャパリまんが主な食糧だからな」

 

 さて、十分な休息は取ったか……では行くとするか。

 

「ではな、シマウマ。貴様との冒険なかなか面白かったぞ」

「またねー! さばんなのフレンズ達にもよろしくねー!」

「……」

 

 ん? やはり別れるのはやめたのか? 黙ったまま動かない。ちょっとちょっかいでもだしてみるか。日ごろの仕返しとして。

 

「どうした? やはり寂しいのか?」

 

 にやにやしながら私は尋ねる。するとシマウマは……

 

「えーえーさびしいですねーなきそうですねーうわーん」

 

 すがすがしいほどの棒読みっぷりで返してくれた。こいつ……ホントいい性格している。

 

「まあさびしいのはホントですけど、あの轟竜のこともありますしねー」

「万が一の時はよろしくたのむ。お前だけが頼りだからな」

「まかされましたよー」

 

 私達はシマウマを残しさばんなちほーを後にした。今この瞬間図書館までの第一歩を私達は踏み出した。

 




一行はシマウマを残しじゃんぐるちほーへ!一体どんな出来事が待っているのか!
次回からじゃんぐるちほーの話です!


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Chapter Ⅱ:じゃんぐるちほー
section Ⅰ: 密林の案内者


風翔龍一行はジャングルへ! ここでもまた新しいフレンズとの出会いが!?




 シマウマと別れじゃんぐるちほーへと足を踏み入れた私達は足元に気をつけながら奥へ奥へと進んでいく。ああ、何とも懐かしさを感じるなこの光景は。違いといえば天候の差くらいか、天候を操れる特性があるしな、私には。我ながら恐ろしい特性である。

 

「いつもなら私の周辺では雨が降っていたのだが、こうも天気がいいと違和感すら感じる……雨が恋しくなってしまうな」

「え!? ふうちゃんって天気も変えれるの!?」

「今は無理だがな。もし力が戻ればここら一帯に大雨を降らせることができるぞ」

「ふうちゃんってほんとに不思議だねー」

 

 不思議……ほかとは少し変わっている……か。確かに私と他のフレンズには大きな違いがある。武器だ。まあほかにもちほーは存在しているらしいし武器持ちのフレンズがいないということは無いだろう。

 

「ここには来た事はあるのだろう? 案内は頼めないのか?」

「うーん詳しくは分からないや。このちほーに来た事はあるけど途中で博士達と先に会っちゃったからなあ、そこからは空を飛んで図書館まで行ったよー」

「はかせ? 空を飛べるということは私と同じような種族なのか?」

「ううん、博士は鳥のフレンズだよー、私よりもずっとかしこいんだよ!」

「ほう、鳥か。是非会ってみたいものだな、その鳥のフレンズに」

 

 歩き続けて暫くした後、突然サーバルが歩きを止めた。きょろきょろと辺りを見回している。

 視線がとまった。何かを見つけたようだな。耳がすごくいいといっていたから頼りにしてもいいだろう。願わくば新たなフレンズであればいいが。

 

「おーい! そんなとこにいないで降りてきて話そうよー!」

 

 サーバルが視線の先に向かって叫ぶ。私も視線の先を見る。ふむ、木の上にいるようだ。見た目はサーバルとは違い毛皮は複雑な模様をしている。耳もサーバルほど大きくは無い。そのフレンズは軽やかにすとんと木から降りてくる。そしてまじまじと私達を見ている。髪は短いが束ねた二本の髪が長く腰下まで伸びている。

 

「こんにちはサーバル、その後ろにいる子は?」

「こんにちは名も無きフレンズよ、私は風翔龍という。好きに呼んでかまわない」

「名も無き……? 私はオセロットよ? 不思議な子だね?」

「ちょっと変わってる子なんだー。でもいい子だよー!」

 

 オセロットと名乗ったそのフレンズはずいっと顔を近づけてくる。すごく顔が近いのだが。

 

「風翔龍ちゃんって呼んでいい?」

「あ、ああ。かまわないが」

「よろしくね? 風翔龍ちゃん?」

 

 オセロットは顔を離すとにこりと笑う。この子も相当不思議な子だと私は思うが、私とは違う不思議さを感じる。なんというかなんと言えばいいのか。うーむ考えてもわからん。

 

「あ、案内を頼めないか? オセロット」

「案内をすればいいの? えーとこのちほーはじゃんぐるちほーで……?」

「それはわかっている。道を教えてくれないかと言ったのだが」

「風翔龍ちゃんはわがままな子?」

 

 うーん、調子が狂ってしまう、この子との会話は。サーバルに任せてしまおうか。

 

「サーバルすまぬ、私にはこの子の相手は務まらなさそうだ、頼む」

「道を聞けばいいんだね? まかせてー!」

 

 暫くしてサーバルがこちらに戻ってくる。お、道を聞くことができたのか?

 

「わかんないや! オセロットはあまりここから動いたこと無いって!」

「結局わからなかったのか……。仕方あるまい」

 

 まああの子からいろいろ聞けたのはよしとしようか。さて、どうするか……ん? 背中をぽんぽん叩かれている?

 

「ねえねえ? 私も一緒に行ってもいい? ちょっと退屈してたから?」

「……どうするサーバル、連れて行くか?」

「ふうちゃんにおまかせ!」

 

 結局ついてくることになった。まあ人数は多いほうがいいと思うのだが、今の私はというと……体を物色されている。

 

「……オセロットよ」

「ん? どうしたの?」

「あまり体をべたべた触らないでほしいのだが」

「でも不思議な触り心地だし? 触るなと言われるとますます触ってしまう?」

「……」

 

 そのままべたべたと触られつつずんずん先へと進んでいく。歩きづらいことこの上ない。サーバルは楽しそうにこっちを見ているし、たぶん引き離せと頼んでも無駄だろう、彼女の性格上。

 

 暫くしてまたサーバルが動きを止めた。また何かを見つけたようだ。

 

「水の音がする……水場が近くにあるみたいだね」

「水場か。ちょうど水が欲しいと思っていたところだ。なかなかな時間を歩いたからな」

「水浴びしたいなー?」

 

 長く伸びた蔓を掻き分けつつサーバルの後に続く。少し開けたところに出た。おお、サバンナの水場より二周りは大きいな。

 水に口をつけて飲む。うーむ、ここの水場もなかなかいいな。しかしかなりの距離を歩いたとなればこのじゃんぐるちほー、かなり広いのか。抜けることができるのだろうかここを。

 

「んーおいしいー!」

「きもちいいー」

 

 他の二人はそれぞれを満喫している。暫くはここで休憩か。無理をさせてしまってはいざ戦闘になったら支障が出かねない。しかしまあ何とも気持ちよさそうに泳いでいるなオセロット。私も泳ぎたい衝動に駆られてしまいそうだ。

 

「いいなあー、わたしもオセロットみたいに泳げたらなあー」

「毛皮が濡れる以上貴様は無理ではなかったか?」

「無理なことは無いけど、やっぱり濡れるのはいやかなあ」

 

 私達二人は暫くオセロットの泳ぐ姿をぼんやりと眺めていた。と、突如後ろに気配を感じる。

 

「……サーバル、何かこちらに近づいている」

「この感じ、セルリアンじゃなさそうだね、フレンズかも」

「水でも飲みにきたのだろうか、何にせよ危険はなさそうか」

「フレンズがフレンズを襲うことって聞いたことも無いからねー」

「う……」

「?? どうしたのふーちゃん、水飲みすぎちゃった?」

 

 痛いところをぐさりと突いてくるなサーバルよ。しかもそれに悪気がないのが余計たちが悪い。

 

「いや、なんでもない、ちょっと疲れていたのかもな」

「ほうほう、フレンズを襲ったことがある? どんな味がしたのか気になるかも?」

「食べてなどいない! ちょっと後ろから押し倒しただけだ! ……あ」

「図星だったかも?」

 

 ぐぬ……! やはりこやつは嫌いだ。私の嫌いな性格に入っている、間違い無く。

 

「あらあら、なにやら楽しそうですわね」

 

 後ろから声がしてその主がぬっと姿を現した。大きい。何がとは言わないが大きいな。

 

「うわあーおっきいねー! つよそー!」

「うふふ、ありがとうございます。あなた方も水を飲みに来たのですか?」

「うむ、なかなかな距離を歩いてきたのでな。ちょうどここを見つけて休んでいたところだ」

「あら、そうでしたのね。申し遅れましたが私はインドゾウ。よろしくお願いしますわね?」

 

 ゾウか。こやつもまた不思議な毛皮をまとっている。サーバルたちとはまた違う感じだ。肌が出ている部分が割りと多い。その格好でセルリアンと戦うのか、動きやすそうではあるが。

 私達もそれぞれ自己紹介を済ませる。ついでに私は道を聞いてみた。

 

「あら、それならば川を目指すといいですわ。きっと道に詳しいフレンズがいると思いますわ」

 

 思わぬ収穫だ。川を目指すといいのか。しかし川とは何だ。まだまだもっと言葉を知らねばならぬな……。私は川について尋ねる。

 

「水が沢山流れている所、でしょうか。実際に見てみると分かると思いますわ。ここから川までそう遠くは無かったと思いますし」

 

 そうか、ならばこの目で見てみるか。私達はインドゾウにお礼をいい、彼女が指差した方向へと進んでいく。密林はまだ奥深く続いている。暫くはこのちほーを抜けられそうにはない。根気強く歩くしかないか。

 




今回は二人新たなフレンズを登場させてみました! 二人とも性格が掴みづらかったですがなんとか自分流で仕上げてみましたw 違和感無く読めたらいいなーと。

次回もまたフレンズが登場する予定です!


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section Ⅱ: 密林の大河

さらにジャングルの奥地へ! 川を目指して行脚は続きます!

UAののびっぷりががががg たくさんの閲覧ありがとうございます!><


 インドゾウと別れて暫く経った。私は半信半疑になりつつも川のあるという方向を二人のオトモを連れて歩き続けていた。水分を補給したとはいえ、やはり体には応えるな……。

 

「んー、水の音聞こえてこないねえ……」

「まだ聞こえぬか……あれからどれほど歩いたか分からんな」

 

 未だにサーバルは水の音を耳にしてはいない。そもそも川というのは大きいのか小さいのかも分からない。迂闊だったな、大きさを聞くことを忘れていた。次は言葉を尋ねる時はそういったことも忘れぬようにしないとだな。

 

「退屈……まだ着きそうにない? まあのんびりでもいいけど?」

「暢気なものだな貴様は……退屈なのは私も変わらんが」

「うー……早く川が見たいなあー」

「川を目指してるのかー?」

 

 上から声が聞こえた。なんだ? 敵襲か!?

 

「そんな警戒しなくてもいいぞ、楽にしなー」

 

 枝に宙ぶらりんの状態で目の前に声の主が姿を現す。見た目はこげ茶色の毛皮を身にまとっている。そして尾が私くらいは長い。

 

「よっと。私はフォッサ。サーバルとオセロットだね、うわさは聞いているよ、よろしく!」

 

 二人に挨拶を済ませたフォッサは私へと近づいてしげしげと眺めてくる。またか、いや仕方ないことなのだがどうにも慣れぬ。

 

「見かけない顔だね……。あんたは何のフレンズなんだ? 鎧を着ているということはサイの仲間か?」

「さい? いや、私は風翔龍というのだが、そのサイも私のような鎧を着ているのか」

「あんたほどのごつごつしたものじゃないけどね。それにしても……なかなか強そうだな、あんた」

 

 サーバルが会話に割って入ってくる。

 

「ふふん、ふうちゃんはすごいんだよ! セルリアンを一人で追い払っちゃうくらい強いの!」

「へえー、なかなかやるじゃない。一度手合わせしてみたいものだね」

「やめておけ。私は手加減できる自信が無い」

「へえ、言うじゃないか。ますます手合わせしたくなっちゃうね」

 

 私としては無駄な体力を消耗したくないのでできるだけ戦いたくは無い。だが向こうのやる気を向上させてしまったようだ。このフレンズに私は弱いということにしておこう。いちいち手合わせを申し込まれると面倒だ。

 

「……いや、前言撤回しよう。私はフォッサ、貴様よりは弱い。一瞬で負けてしまうだろう」

「?? 弱いのか? サーバルがこう言っているのに?」

「みゃ!? そんなことないよ! ふうちゃんはもご……!」

「ああ、私は弱い」

「わ、わかった。君がそういうなら手合わせはやめるよ」

 

 サーバルが余計なことを言わないように口をふさぎつつ彼女との戦闘を回避させるのに成功したようだな。まったく、純粋無垢すぎるのもどうかと思うぞサーバルよ。少しは空気というものを読めるようになれぬものか。

 

「ぷは! ひどいよー! ふうちゃん」

「私を疲労で倒れさせるつもりか? いざという時を考えて無駄な戦いは避けたほうがいい」

「サーバルは思ったことをよく口にする?」

 

 今後もこういうことは起こるだろうな、彼女の性格上。早く空気の読めるいい子になってもらいたいものだ。成長を期待しているぞ私は。

 そして私はフォッサという案内役を連れて川を目指す。フォッサ曰くインドゾウの話はあくまで彼女基準でそう遠くないとのことだ。どれだけ体力があるのだゾウという生き物は。それにゾウ基準で話されても困る。

 

「まったく、とんだ迷惑をこうむった」

「あはは、彼女にも悪気は無かったんだから許してあげてよ。それに、もうすぐ聞こえてくるはずだよ」

 

 私達は耳を研ぎ澄ます。 草を揺らす風の音……しなる木の枝のきしむ音……そして、

 

「!! 水だ、水の音だ。まだ微かにだが聞こえる!」

「……ほんとだ! やったね、ふうちゃん! きっと川だよ!」

「ついに到着? また泳げる?」

 

 それぞれが喜びを見せる。どれくらい歩いたのだろうか、しかしそんなことはもはやどうでもいい。自然と私は走り出していた。

 

「行くぞ! 歩くのも億劫だ、走っていくぞ!」

「私は木を伝っていく、走るの面倒だし?」

「わーい! まけないよー!」

 

 水の音が大きくなっていく……! 先ほどの水場とは違う大きな音。これが川か!

 ついに川へたどり着いた。私は目の前の光景を見て唖然とする。私の想像していたよりもはるかに大きい、なんと言う水の量だ。目を奪われてしまう。

 

「川を見るのは初めてかい? それともここまで大きなものを見たことは無かったのかな?」

「水が流れているところとは聞いていたが、これほどの量が流れているとは思わなかった。川は言葉以外は知っていたが、これほど大きな川は見たことはない」

 

 こんな大きな川で水浴びをすればさぞかし気持ちがいいのだろうな。体を濡らしたくはないが飛び込みたい衝動に駆られてしまいそうだ。

 しかし誰も周りにはいない。こんなにたくさんの水があるというのになんともったいない。

 

「ここで水浴びをするものはいないのか? 誰もいないように見えるが」

「いつもは穏やかなんだけどね。今の状態で水浴びをするフレンズなんてまずいないと思うよ。流れが速くて流されていってしまうだろうしね」

「風翔龍ちゃんは無謀なことが好きな子?」

 

 確かによく見ると水の動きが速くなっている。水に手を浸けてみるとなお分かる。これでは水浴びどころではないな。フォッサの言うとおり水に飲み込まれてしまう。考えただけでも恐ろしい。それに決して無謀なことが好きなわけではない、まだ知識が足りていないだけだ。

 

「この川を渡れば次のちほーが見えてくると思うよ」

「え? これを泳いで渡るの? それはちょっと……」

「そこまで私はひどくないよサーバル。確かあっちに橋が架かってたと思うんだけど行ってみるかい?」

 

 フォッサに連れられて橋なるものがあるという場所へと向かう。恐らく橋というものは泳いで渡らずに済むという代物なのだろう、何とも今の私達にはありがたい。もしそうであれば使わない手はない。

 

 が、着いたはいいものの予想外のことが起きていたようだ。どうやら川の流れが速くなっているせいで橋が流れてしまって使い物にならなくなっている状態にあるという。他にもこの橋が架かっている場所は無いか聞くが広すぎて分からないという。まあ迂闊に動き回れば自分の縄張りの場所がわからなくなってしまうしな。

 

「昨日の大雨のせいかなあ……これじゃ渡れそうにないね」

「く、翼があれば……!」

「ふうちゃん、まだ飛べそうにない?」

「……だめだな、まるで飛べる気がしない」

 

 サーバルが背中に向かって翼はえろーと叫んでいる。それで生えてくるのなら苦労はしない。一刻も早く図書館へ行きたいのだが川がこの状態では渡ることもままならない。何かいい手段は無いものか。立ちふさがった大きな問題に私は頭を悩ませる。唐突に浮かんだある案をポツリと言ってみる。

 

「……この橋を作ることはできないのか?」

「え? 橋を?」

「おおー! ふうちゃん橋を作れるの!?」

「橋を作る……か。やってみる価値はありそうだね」

 

 言ってみるものだな。こうして私たちは満場一致で橋を造ることとなった、誰一人作り方など知らぬのだが。まあ泳がずに渡ることができれば形などはどうでもいいか。

 私は流された橋の残骸を見る。ふむ、どうやら木でできていたようだな。形状は脚があってその脚の上に渡るための木を乗せて固定していたのか。つまりは流されないようにもっと強い橋を造る必要があるのか。

 私はそれぞれにこのことを話す。内容はおのおの理解はできたようだな。これは楽しいことになりそうな予感がする。ククク、戦闘以外でこんなに気分が高ぶるのは初めてだ。

 高ぶる気分を抑えつついよいよ私は皆と橋を造ることを開始した。

 




まさかの壊れた橋を新たに造ることになった風翔龍一行!果たして橋を作り上げることができるのか!

次回予期せぬ事態が!?


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section Ⅲ: 大河に潜む魔物

橋造りを進めていきます!そこに思わぬ邪魔が!?

お気に入り50人!? こんな駄作をご登録いただきありがとうございます!


 さて、造るとなったらまずはその木を手に入れねば話は進まぬな。まあここは密林であるから木には困らなさそうだが。

 皆で話し合った結果それぞれ分担して木を集めることとなった。まず集めるべきは橋の上を支える木だ。

 

「それじゃ言われたとおりフレンズを集めてくるよ、まっててー」

「すまぬなフォッサ、人手は多いほうが助かるからな」

「それじゃ、木を集めにいこー!」

「どうやって集めるの? まず木をどうやって倒すの?」

 

 フォッサは人手を集めにジャングル中を回ってもらうこととなった。残る私たち三人は木を集める役だ。

 が、まずその木をなぎ倒せるほどの力を持っていない。私を除いてはだが。当然私が木をなぎ倒す役を任されることになった。残る二人は固定する紐の代わりになるものを探しに行くこととなった。

 

(まあそうなるな、分かってはいた。こういうときに私の力を呪いたくなってしまうな……)

 

 ぶつぶつ言いつつ私は手ごろそうな木を探す。やはり太くて流されにくい木が一番だろう、造ってまた流されては意味が無いからな。ふ、木をなぎ倒すことなど私の尾を持ってすれば造作も無い。

 

「ふむ、この木は太くて強そうだな、これならばまた流れていく心配もあるまい」

 

 体ごと尾を振って倒す練習をする。ひゅおんと尾が空を切る。うむ、調子は悪くない。これならば一撃でいけそうだな。

 

「さて、一発で決めるか……!!」

 

 体を勢いよくひねり、木に横殴りに尾を叩きつける! すさまじい音と共に木がめきめきと音を立てて裂け、ずどおんと横倒しになった。すまぬな、これも皆のためなのだ。

 横倒しの木をひょいと持ち上げる。これも私にとっては造作も無いことだ、木を担ぎ皆の元へ戻る。もちろん辺りにいるであろうフレンズにぶつけないように周りを慎重に見つつだ。

 

「うわあー! すごい木だねー!」

「大きい木。これで渡れそう?」

「いや、まだまだだな。元あった橋を見るに後数本は要る」

「これがまだ必要になるの!? 橋造りって大変なんだなあ……」

 

 強い橋を造るためだ、致し方あるまい。ふむ、紐も十分集めてきているようだな。足りるかは造ってみなければわからないが。

 

「おーい! 人手を集めてきたよー!!」

 

 フォッサが戻ってきたようだ。どうやら集めることに成功したようだな。さてどれほどの数を集められたのか見てみようではないか。

 

「おおー! おっきいねー!」

「これはすごいな……橋造りって聞いたけどこんな大きな木が必要になるのか」

 

 まず二人か。一人は灰色の毛皮、もう一人はオセロットに似た模様の毛皮。違いは丸の中に点があることか。

 

「よろしくたのむ。私は風翔龍、橋を造ることを考えたのは私だ。名は好きに呼んでもらってかまわない」

「おおー! なんかすごそう! あたしコツメカワウソ! ふーちゃんて呼ぶね!」

「私はジャガー、この木、一人で持ってきたのかい? 物凄い力だな」

 

 二人は挨拶を済ませるとやはり私の体が気になるのかじろじろと見ている。

 

「うわ! すごいごつごつしてるー! つよそー!」

「一体その腕の何処にそんな力があるんだ? ……わからん」

 

 一方はべたべた触りながら、もう一人はなにやら思考しながら。できればとっとと作業に取り掛かってくれるとありがたいのだが。

 暫くしてようやく解放された。もう慣れてきている自分が怖くなってきた。二人に作業の内容を伝える。

 

「たのしそー! やるやるー!」

「向こう岸に渡れるようになるならやるしかないね! この状態じゃ渡すこともできなかったからね」

「ジャガーはこの川を泳いで渡っていたのか?」

「ああ、渡れなくて困ってる子が多かったからね、流れが緩やかだったころは私が泳いで向こう岸まで渡してあげてたのさ」

 

 まあ川の流れを待っているのもいいが、折角こういう出会いがあったのだ。有効に活用しなければ罰が当たるというものだ。

 再びフォッサはジャングルの中へと戻っていった。まだまだ人手を集めてくれる気らしい、頼もしいな。さて、また木を調達しに行かねばな。まだまだ体力はある、さっさと集めきってしまおうか。私が作業場を後にしようとした時だった。

 

「?? なんだ? 川のほうから気配がする……」

「ふうちゃん! 川に何か気配がする……! セルリアンかも!」

「セルリアンが現れた? コマンド?」

 

 オセロットが訳のわからないことを言っているのはどうでもいいがサーバルもどうやら気配に感づいていたようだ。ここにいる私を含め全員に緊張が走る。まったく、こういうときに邪魔をしに来るとは無粋な奴だ。

 

「川にいるだって? たとえセルリアンでも流されていってしまうんじゃ……いや、でも確かにいる。気配がまだずっとある」

「セルリアン!? よーし皆でぱかーんとやっつけちゃおう!」

 

 カワウソがぶんぶんとやる気満々に腕を振り回している。だが相手は水の中だ、今の状態ではどうしようもない。水から引きずり出してしまえばこっちのものなのだがな。あの気配の主も様子を伺っているのか水中に潜んだまま姿を現そうとはしない。

 

「もしも奴の正体が水竜であれば奴の頭上で大きな音を出せば驚愕して地上まで跳び上がってくるはずだ」

「しかし大きな音を出すものと言ってもこのジャングルにそういうものがあるかも分からないな」

「風の力があれば私の渾身のブレスで奴を宙に巻き上げることができるのだがな……」

「え、そんなことできんの!? 魔法みたいだなそれ」

「今はどういうわけか無理なんだがな」

 

 ジャガーと共にいい案が無いかを考える。大きな音か……奴の頭上で大声で歌でも歌えば……いや今の私は飛べないのだった。こういうときに飛べるフレンズがいてくれれば私を頭上まで運んでいってくれるのだろうな。声で驚いて飛び上がってくれるかどうかは別だが。しかしいない子を当てにしても仕方が無い。

 とりあえずまず集めた材料は戦闘の邪魔になるかもしれぬのでどかしておこうか。私は木を担ぐ。

 

「む? 何か用でもあるのか?」

 

 ジャガーとカワウソが近寄ってくる。そこにいると動けないのだが……

 

「ほんとに一人で担いでる……風翔龍ってどんな生き物だったのフレンズになる前は」

「あははー! すごいすごーい! ねーねー、上に乗ってもいいー?」

 

(……早くこいつを運びたいのだが)

 

 あっちへ行くように促す。ふう、利用する側も大変だなこれは。よし、行った様だな、今のうちにさっさと移動させるか。

 とりあえず橋の材料は被害の及ばなさそうな所へと移動させた。あまり戦いたくなさそうな者は避難するように指示した。後はあのセルリアンらしき者にご退場いただくだけだ。

 

「まずは奴の姿を拝むとしようか。私が近くまで出て様子を見よう」

 

 私は一歩、また一歩と川へ近づく。奴にはこちらを攻撃してくる気配は無い。不気味な時間が続く。後ろから皆が見守る。

 

(まだ姿を見せぬか。もっと近づいてみるしかないか)

 

 とうとう川とほとんど距離の無い岸の近くへとたどり着いてしまった。なんだ? こちらを襲う気はないのか? 拍子抜けだな、まったく。だが油断は禁物か。戻る振りをして出方を見てみるか……振り返り戻ろうとしたときだった。

 

                 ざっばぁーん!

 

 突如大きく水柱が立った! やはり敵意はあるか、上等だ! さあ姿を見せろ、気配の主よ!!

 水柱が収まる。姿を現したのは水竜だった。あの轟竜と同じ全身緑色の薄気味悪い姿だ。と言うことは奴もセルリアンで間違いなさそうだな。

 

「な!? でかすぎ!?」

「うわーい! おおきいぞー!」

「あんなのどうやって倒すのー!?」

「水の中にいたから魚なのかな? おいしいかな?」

 

「「そんなこと言ってるばあいじゃないでしょ(だろ)!?」」 「おいしいかもねー!」

 

 後ろで叫び声がする。まあ所見じゃ度肝を抜かされるだろうな。だが驚くのはまだ早い、こいつが厄介なことは……やはりくるか!

 

「攻撃が来るぞ! 私に合わせろ! でないと真っ二つになるぞ!」

「えええ!?」

 

 後ろの皆に向かい叫ぶ! 水を含み始めた……予備動作だ。そして……!

 

「!! 左右どちらでもいい! 飛びこめっ!!」

 

 超高圧の水ブレスが炸裂した。私は奴と戦ったことはあるので大丈夫だが、後ろの方にいる四人が心配だ。

 

「な、なにあれ……こわすぎるよ」

「地面が……割れてるよぉ」

 

 くっきりと一直線に出来上がった水ブレスの跡をみて四人が震え上がっている。だがそんな悠長な暇は無い。まだまだ撃ってくるはずだ。四人に叫ぶ!

 

「へたり込んでいる暇は無いぞ! 奴はまだまだ撃ってくるはずだ! 準備しておけ!」

「無理だよおー! 足が震えて動けないよー!」

「ちっ! 動ける者はいるか? いたら動けない者を背負ってできるだけ遠くへ逃げろ!」

「わかった! ……ってきみはどうするんだ!?」

「私も後から合流する! とにかく今の状態では成す術が無い! 私が戻るまで何とか奴を地上へ打ち揚げる方法を考えていてくれ!」

「死なないでね!? まってるからね!」

 

 ジャガーとオセロットに二人がそれぞれ担がれて密林への奥へと消えていった。オセロット……ああ見えて肝っ玉はでかいんだな、意外だった。

 さてどうするか……元の姿の時に奴のブレスをまともに受けたことがある。少々痛みはあるものの、がちがちの私の体にはあまり応えなかった。だが今は恐らく違う。まともに受けてしまえば即死級だろう。まあ食らってやる気は一切無いがな。

 私は武器を手に取る。一太刀は浴びせられたら奴も驚いて上がってくる、そう考えた。いわゆる無理やり地上へ引っ張り出すごり押しと言う奴だ。このままにらめっこしていてもいつ上がってくるのか分からない。だったらこっちから攻めてやる。私は気が長いほうではないのでな……!

 タイミングをはかる……浮上してくる……来た! ここで一発くれてやる! 武器を構え私は奴に向かって跳躍した!

 




水竜登場!これもセルリアンですが。彼女はどう戦うのか!

次回戦闘の火ぶたが切られます!彼女に勝算はあるのか!?


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section Ⅳ: 散り散りのフレンズ達

水竜との戦いは続く!そのころあのフレンズは?


 奴との距離がぐんぐん近づいていく! 迎撃するつもりか水を飲み始めている、フフフ……そうだそのまま頭を垂れていろ。いしがあろうと無かろうとそこは急所に違いないだろう! 私からの手痛い御もてなしだ、しっかりと受け取るがいい!

 そのまま着地の勢いと同時に武器を頭部へと突き刺す! 足でしっかりと振り落とされぬよう奴の頭部をがっちりはさむ。そして一撃、二撃と繰り返す。それでも奴は水を飲もうとしている。

 

「……っ! まだ水を飲もうとするか! くらえっ!」

 

 さらに一撃! さすがに効いたのか甲高い鳴き声を上げながら頭を激しくぶんぶんと振り回し始めた。武器を引き抜き頭部から離脱しようとした……時だった!

 私に向けてブレスを撃ってきた! くっ、やはりそう簡単に逃がしてはくれぬか。……このままでは直撃、それだけは避けねば……! 避けることを無理だと悟った私はとっさに武器を構えて防御の体制をとる。

 激しく武器にブレスが直撃する! 当然受け止めることはできず水と一緒に吹き飛ばされる。

 

「ぐぅぅううっ……!?」

 

 そのまま木に叩きつけられ、背中に痛みが迸る。幸い奴の含んだ水の量はさほど多くは無かったようで武器を使ってしのぐことができた。もしも先ほど受けたものが初めて撃った奴と同じくらいの威力だったとしたら武器を突き抜け私は真っ二つだっただろう。なんとも途轍もなく危険な賭けをしたものだ。皆がいたら説教を食らっていたかもな。さて、ここを離れるとしよう、対策もうてないまま奴と戦っても死期を早めるだけだ。幸い密林の中まで吹き飛ばされたため視界は奴からは悪くなっているはず。ずんずんと来る背中の痛みに応えながら私はその場を後にした。

 

                 ・

                 ・

                 ・

 

 あれからかなりの時間が経った。わたし達はふうちゃんから言われた通りに遠くへと逃げてきている。ふうちゃん大丈夫かな……ううん、ふうちゃんがそんな簡単にやられちゃうわけないよね!

 

「悔しいな……! あいつに対して何もできないなんて」

「うん、あんな姿初めて見た。ふーちゃん大丈夫かな、一人であいつに立ち向かうなんて」

「無理だと思ったらたぶん逃げると思う?」

「ふうちゃんならきっとだいじょうぶ! そんなに簡単にやられちゃう子じゃないもん! きっと戻ってくるよ!」

 

 私はみんなの不安を和らげるためにみんなに言った。でもジャガーは冷静に応える。

 

「まだわからないな、あの子の姿をこの目で見るまでは」

「だったらみんなで信じよう? きっと無事だって!」

 

 もちろんそのつもりだとみんなは言った。あのセルリアンと一人でなんてむちゃにもほどがあるよ……もしも合流できたなら思いっきり怒ってあげないと!

 

「とにかく、今は私達はあのセルリアンについて何か対策を考えるべき?」

「なんか大きな音を立てるといいって言ってたね! 叫べばいいのかな!?」

 

 オセロットの言ったとおりそれぞれが案を出し合う、もちろんわたしも含めて。でもなかなかいい案が思い浮かばない。うーん、私がふうちゃんだったらどんなことを思いつくだろう……

 

「大きい音か……上から重いものを落としても下が土だからびっくりするほど大きい音は出ないよねえ」

「水に落とすのはどうかな? ばしゃーんって大きい音がすると思うよ!」

「それだったら私はむしろ投げつけて攻撃したほうがいいと思う? ぶつけた痛みで跳ね上がるかもしれないし? それに落としても大きな音が出るとは限らない?」

 

 水に落とすのいい案だと思ったんだけどなあ。あっさりオセロットに看破されてしまった。悔しいけど力があるなら私もたぶん投げつけちゃうと思っちゃった。

 

「あ! それにそれに、近くで音を出さなきゃいけないとも言ってたよね!」

 

 カワウソが言った。そうだった、近くで大きな音を立てないといけないんだったね。あのセルリアンは川の中にいるし、攻撃してくる時だけ水中から姿を見せてくる。あーあ、鳥のフレンズだったら近くまで運んでくれるんだろうけどなあ。でも近くまでいけたとしてもうまく大きな音が出せるとは限らないし音を鳴らす手段も今はあいまいなまま……やっぱりまずはふうちゃんと合流するべきなのかな。

 無い知恵を絞ってわたしは考えた。みんなも一緒なんだしきっといい案が思い浮かぶよね!

                 ・

                 ・

                 ・

 

 水竜から逃れて私は密林の中をあの四人を探して歩く。迂闊だった、集まる場所を言うのを忘れていた。これでは何処まで離れて行ったか皆目見当もつかない。

 

(あの時はかなり必死になっていたからな……もう少し冷静にならないとな)

 

 あれから奴は陸上へ上がって私を追いかけてくる気配は無い。まあ奴の縄張りはあの川近辺だ、陸上へ上がってしまったらただのでかい的だしな。そこは本物と違って頭が切れるのか。厄介なものだ、セルリアン。

 しばらくして見知った顔を見つけた、インドゾウだ。私は呼びかける。

 

「あら、またお会いしましたねえ、風翔龍さん」

「さっき振りだな、インドゾウ。この辺をサーバルたちが走っていかなかったか?」

「サーバルさんたちですか? うーん……ごめんなさい、見てないですわ」

「そうか……何処まで行ったのだろうな」

 

 インドゾウが首をかしげ尋ねてきた。事情を知りたそうにしているな。

 

「あの、何かあったのですか? 神妙そうな顔をしていますわ」

「あ? ああ、実は……」

 

 私は事の成り行きを話した。橋を造ろうとしていること、その途中でセルリアンに横槍を入れられたこと、そのおかげでばらばらになったこと。

 

「まあ、それは災難でしたわね……あの、もしよろしければ私も橋造りのお手伝いをさせていただいてもいいですか?」

「いいのか? 手伝ってくれるのであればすごくありがたいが」

「困っている方をそのまま放っておくわけには行きませんわ。ふふっ、よろしくお願いいたしますわね」

「感謝する。さて、あの四人を早く探さないとだな」

 

 私はインドゾウを引き入れ、四人の探索を再開した。そういえば誰かを忘れているような気が……

 

「!! フォッサ!!」

「!? きゅ、急に大声を上げてどうしましたの?」

「しまった……! あやつ、あのセルリアンのことを知らない……! 戻っていたら鉢合わせになってしまう! あやつの身が危ない!」

「なんですって!? 一刻も早く戻らないと! 場所は分かりますの!?」

「こっちだ! ついて来い!」

 

 踵を返して私達はまたあの水竜のいる川辺へ走り出した。無事でいてくれフォッサよ!

 

                 ・

                 ・

                 ・   

 

 密林の中を木を伝って飛び回る。楽しみだな、橋が出来上がるのが。気分を高ぶらせ私はフレンズを探していた。割と詳しいしなこの辺、誰かいると思うんだけどな。あ、やっぱりいた!

 

「お、いたいた! おーい!」

「?? なんだおまえは」

「今面白いことしてるんだ! 一緒にやってみないか? 私はフォッサだ」

「……キングコブラだ。面白いこと? なんだそりゃ、どんな面白いことなんだ?」

「今から橋を造るんだ! 面白そうだろ?」

 

 私は彼女に内容を伝える。すると彼女はにやりとした。お、この反応は手伝ってくれる気満々かな?

 

「ほほぉ、面白そうだな。ちょうど退屈してたんだ、いいだろう。そいつに付き合ってやろうじゃないか」

「へへっ、ありがとう! 彼女も嬉しがると思うよ!」

「困った奴を助けるのは当然だな。よろしく頼むぞ」

 

 キングコブラを仲間に引き入れることに成功した私は上機嫌になった。それを見て彼女が照れくさそうにくすりと笑う。

 

「ふふっ、おいおい、私を引き入れられたのがそんなに嬉しかったのか? 少し照れくさいじゃないか……やめてくれそういうの」

「ごめんごめん。でもやっぱり仲間っていいよなあ、あの子にも仲間っていたのかなあ」

「あの子? その橋造りを考えた子か?」

「そうだよー、詳しく話してあげようか? その子のこと!」

 

 興味津々のキングコブラ。まあまだ私もあの子のことは詳しくは聞かされてないんだけどね。私は彼女のことを知っていることだけ話した。話し終えた後キングコブラも彼女のことが少し気になってきているようだ。

 

「風翔龍か。このジャパリパークには間違い無く存在しない種だな、興味深い」

「あまり彼女を脅かさないようにしてくれよ? びびるかどうかかも分からないけど」

「この私を見てびびる様じゃ、まだまだよわっちいな」

「実際彼女は弱いらしいからね? 彼女自身がそう言ってたんだし」

「そうなのか。まあ会ってみなければ分からないな。嘘をついている可能性だってあるしな」

 

 彼女の話で盛り上がっているうちに私達は川辺へとたどり着いた。しかし様子が変だ、誰もいない。また材料を集めにでも行っているのかな。

 

「!! 気をつけろ……水の中に何かいる」

「え! ……確かに少しだけど気配を感じる。水に潜ってるようだな。でもよく気がつけたなあ」

「目がいいからな、わずがだが川に波紋が見えた。それに漂ってくる臭いも独特だ」

 

 すごいなあキングコブラ。それにしてもあそこに潜んでいるのは何だろう、セルリアンか? 水辺にセルリアンはよくいることはあるけど水に潜っているのは初めてだ。あれを察知してみんな逃げているのかな。それだとしたら誰もいない辻褄が合う。少なくとも今まで戦ってきた奴とは違うみたいだ。下手に刺激しないほうがよさそうな気がする。

 

「どうするんだ? あれと戦うのか? 他の皆を待ったほうがいい気がするが」

「まだ姿も分からないからなあ……そうだね、君の言うとおり見つからないようにじっと待っていようか」

 

 その場に腰掛けようとした時だった。水柱が立ち、水の中の陰が姿を現した!

 

「なっ!? 気づかれたか!? おいどうするんだ!」

「とにかく様子を見ないと! 迂闊に動いたら危険だ!」

 

 慎重に相手の出方を見る。でかい、なんてでかさだ。あれはセルリアンなのか? でも体色はセルリアンっぽい色をしているし、たぶんあれはセルリアンだ。

 セルリアンは動く気配が無い。辺りをきょろきょろ見回している。よく見ると頭部に傷がある。

 

「もしかして彼女、あれとやりあったのかな?」

「は? おいおい、あれと戦ったって言うのか? 勇敢を通り越して無謀だぞ」

「私達ではあれに太刀打ちできるかどうか……いや、考えるだけ無駄か。相手がどういう行動をとるかもまるで予測できない」

「賢明な判断だな、私でもあれと戦う気にはなれない。負けてくわれるのが落ちだ」

 

 ん? 水を飲み始めた? なんだ、何をするつもりなんだあいつ……。

 

「なあキングコブラ、私少しやばい感じがするんだけどあの動作に」

「奇遇だな、私もそれを感じたところだ。もしかするとあれは攻撃の予兆……」

 

 やばい、何故かは分からないけど途轍も無くやばい気がする。そしてその予感は、私達の真横を通り過ぎて行ったことで的中した。

 全身を恐怖が支配する。え、なんなのあれ……。直撃したらくわれるどころの話じゃないよ。

 

「いま、とんでもないものを見た気がした……」

「……おい、地面えぐれてるぞ……。あの攻撃が通ったところ」

「彼女、ほんとにあいつと戦ったんだよね?」

「……確信した。彼女はたぶんおまえに嘘をついたな。あれほどの奴と戦える者が弱いとは到底思えない。間違い無く彼女は強い」

 

 あのセルリアン、息が荒い。恐らく彼女との戦闘で怒っているのか。また飲み始めてる。ここにいると危険だ……。一刻も早く奥へ逃げないと……あのセルリアン、がむしゃらにさっきのを撃って暴れはじめそうだ……!

 私達は踵を返しできるだけ遠くへ逃げることにした。途中で彼女に会えますようにとそう願いながら。




次回、散り散りになってしまったフレンズたちのそれぞれの話になります!



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section Ⅴ: 仲間 其の一

散り散りになった彼女達は無事に合流できるのか!続きです!


 ひたすらに元来た道を突っ走る、フォッサの無事を祈りつつ。もし彼女に何かあればすべて私のせいだ。そのときは潔く自決でもしてやるとしようかな。

 

(いや、あ奴らは絶対にそのようなことは許さぬか)

 

「きっと大丈夫ですわ。彼女はこのちほーでセルリアンと何度も戦ってきていますもの」

「あのセルリアンはその以前戦ってきたというセルリアンとは違う。見た目は同じセルリアンでも中身はまったくの別物だ」

「それでも、無事を祈るしかありませんわ。信じましょう、風翔龍さん」

 

 インドゾウは私の顔を見て察したのか私をなだめてくる。……インドゾウよ、貴様は強いのだな。孤高に生きてきた私とはまるで精神が違う。そもそも私はこのような他の者との接触など一切したことがない。周りの視線などまるで気にしたこともない。しかしここへ来てしまってから今までの常識がすべて覆されてしまった。最初はまとわりついてくるフレンズを煩わしいとも思っていたがその感情も今は消え、仲間と呼ばれる者たちを初めて持つことに喜びを感じることができた。その仲間が今死の危機に瀕している。一度も感じたこともなかった仲間の死。私はその死に今怯えているのだ。今どうすることもできない己の無力さに怯えているのだ。

 

「死んでくれるなよ、フォッサ……! 今すぐに私が向かう……!」

 

 そんな恐怖と戦いつつ私達は走り続ける。水の音が少しずつ大きくなってきた。まだ気配は感じない、私は最悪のケースを予期してしまう。……だめだ、信じるとインドゾウに約束したではないか。弱気になってはならぬ。

 と、突然何処からかフレンズの気配を感じた。彼女達か!?

「!! 風翔龍さん、誰かの気配を感じますわ」

「ああ、私も感じた! 彼女らかもしれない、行くぞ!」

 

 声を上げつつ気配のする方向へ走る。インドゾウも私と共に呼びかけてくれているようだ。

 

「いるなら返事をしてくれ! 私はここだ!」

「どなたかいらっしゃるなら返事をしてくださーい!」

 

 応答はない。だが確実に誰かがいる……まだこちらの声が聞こえていないのかもしれない。私達は距離を縮めつつ声を上げ続ける。そしてついに……!

 

「ふ……し……か?」

 

 微かだが声が聞こえた。私は声のした方向へ再度呼びかける。

 

「貴様はフォッサなのか!? 私だ、風翔龍だ!」

「風翔龍!? あんたなのか!?」

 

 声がはっきりと聞き取れた! 近いぞ、それにこの声には聞き覚えがある。間違いない……!

 

「風翔龍! 無事だったんだね、よかったあー」

「そちらも元気そうでよかった、安心したぞ」

 

 私は思わず安堵のため息を吐いた。フォッサめ、ニヤニヤしおって。まあ気分は悪くはないが。

 

「安心しましたわ。フォッサさんは知ってると思いますけど私はインドゾウですわ、よろしくおねがいしますわね。ふふっ」

 

 インドゾウも挨拶を済ませる。心なしか彼女の顔も朗らかになっている。やはり彼女には笑った顔がいい。思わず私も顔が緩みそうになる。

 と、フォッサの隣にいるフードのフレンズがずいっと前に出て話しかけてきた。

 

「おお、お前が例の風翔龍だな? キングコブラだ、よろしく頼むぞ」

 

 キングコブラか、なかなかに強そうな名前をしている。きっとこのジャングルちほーではかなりの強者だろう。

 まじまじと見ているとコブラはこちらを見てにやりとした。

 

「ほほう、私と戦ってみたいのか? いいぞ相手になるぞ風翔龍」

「いや、遠慮しておこう。どうやら貴様にハッタリは通用しそうにはないしな」

「ほほう、察したか。分かっているな、さすがは強者だ。しかし何故あいつに嘘を教えたのだ?」

「無駄な争いごとはしたくはない、ただそれだけだ。それにわたしは手加減というものを知らない、それで相手が傷ついてしまうのは見たくない」

 

 きっぱりと私は言った。ここで戦闘をすればまたセルリアン並みに厄介なことになりそうだと思ったからだ。私は基本的に戦闘は好きではない。ただ向けられた攻撃には過剰になるがな。今もあのセルリアンにお返しをしてやりたくてたまらない。

 このとき私は知る由もなかった、自分の眼が緑色に光っていたことを。

 

「あれ、風翔龍、眼の色が……」

「?? 眼の色がどうかしたのか?」

「いや、私の気のせいだったのか……な」

 

 フォッサが唐突にそんなことを言い出した。気になるではないか、その話。だが気のせいならば深く追求することもないか。眼が光る奴だのは私の世界にはたくさんいるからな。

 とりあえずフォッサたちとの合流に成功した。幸運にも二人とも無事な姿だったのが嬉しい。元居た世界でももっと友好的に振舞うべきだったのかも知れんな。この世界に来てから私の人格は変わりつつある。

 

「『仲間』か……良いものだな。このような感情は生まれて初めてだ」

「?? なに言い出すの突然。まあでもその言葉は私も同感だねえ。初めてフレンズ化したときは風翔龍と同じだったもんなあ」

「不思議なものだな、フレンズ化という現象は。早くその原因を突き止めたいのだがな」

「だったら一刻も早くあいつを倒して、橋を完成させないとだね!」

「私も協力することにしたぞ。存分に使ってくれ、風翔龍!」

 

 ありがたい! また橋造りを手伝ってくれる仲間が増えた。フォッサは顔が広いのだな。

 

「……ところでキングコブラよ。貴様の特技は何なのだ? 他の者は爪攻撃が特技だといっていたが、見たところ爪はなさそうだし」

 

 私は彼女に特技を聞いてみた。当然彼女のフレンズ化する前の元の姿など想像もつかない。それは向こうも同じだしな。

 

「特技か? 私は相手を弱らせる猛毒攻撃だな。私の攻撃でじわじわ相手の体力を削ることができるぞ」

 

 毒……なぜだ。寒気がする、この毒という言葉にものすごく恐怖を感じてしまう。わからん、言葉はわからんが寒い、すごく寒い!

 

「ちょ、どうしたの風翔龍!? 顔が青いよ!?」

「だ、だいじょぶだ。わ、たしは毒などこ、わくもない、ぞ?」

「動揺しまくってる……元の姿の時に何があったのほんとに」

「トラウマだったのか……毒に。意外だった、あまりこの言葉は出さないようにしよう。済まなかった」

「あ、やまら、なくて、もいい」

「少し深呼吸しようか、はい……すーはー」

 

 ふう、落ち着いた。あの決戦の日を鮮明に思い出してしまった。一時的に体力を奪う現象……あれは毒というものが原因だったのか。あれを食らってしまうと私の一部の力が一時的に使えなくされてしまう。取り除くことはできるのだがその間はまったくの無防備状態。確か人間は何かを投げつけてきたら私が毒になったのだったか。つまり何らかの投げてくるものに当たると毒になるのか。絶対にあたらぬようにしなければな。もうあのような一方的な攻撃はたくさんだ。

 

(ん? まてよ……今私も武器を使えているということは、私もこの毒を武器として扱えるのでは)

 

「コブラよ、少し聞きたいことがある。いいか?」

「ん、いいぞ。何を聞きたいんだ?」

「その毒、私にも扱うことはできるのか?」

 

 え? と言う表情をされた。と言うことは彼女自身もそれに気づいていなかったと言うことか? ならば好都合だ、みなが毒を扱えるようになれば奴とも有利に戦うことができるだろう。私がその第一人者になってやるとしよう。

 

「すごいことを考えるんだなお前は。その発想は一度も考えたことがなかった」

「でも、危なくない? というかどうやって扱うの?」

「とりあえず毒を私にくれ。何とか使ってみる」

 

 言われるがままコブラは毒を捻出した。ぼとぼとと手の上にに液体が落ちる。何か私が思い描いていたものとちが……あれ、なんかおかしい……ちからがぬけて……あれ、ふぉっさが二人にみえてきた……。

 

「わー! ストップストップ! なんか痙攣し始めてるよ! 毒をもろに受けちゃってるって!」

「あ? はいひょうふは? ふーひょうひゅー」

 

 こぶらのどくのねんしゅつをふぉっさがひっしにとめている。あーなんだかどうでもいいきぶんになってきたな。もじもひらがなばかりだ、うわーい、たーのしーなー……

 

                  ・

                  ・

                  ・ 

 

 暫くの時間私は二人に介抱された。やはり毒は恐ろしい、あれを扱える人間はほんとに何なのだろう。というか私に毒を消せる力があって本当によかった。

 

「……すまぬ、やはり私には無理だったようだ。見苦しい姿を見せてしまったな」

「気にしないでいいよ、私達も忘れるから。それにしてもあれを扱えるコブラってやっぱりすごいんだな」

「私自身に毒の影響はないしな。というかお前はホントに毒に対して弱いんだな。それに何か扱い方も違うような気がする」

 

 毒というのは液体だったのか……ならばあの人間が投げつけたものは一体……なるほどそういうことか。それならば直接よりも投げつけたほうが効率がいい。まあ当たればの話だが。しかしその投げつける武器が無い以上どうしようもない。

 

「お、何かひらめいたような顔してるね! もしかしてまた何か分かっちゃったの?」

「この毒、単体で使うものではないようだな。武器に塗って使うほうが利用価値がある」

「おおー! 素手で扱えないから武器に利用して使うんだね? これなら確かに私でも扱えそう!」

「すごいな、お前。これならあのセルリアンにも勝てるかもしれないぞ」

 

 確かにこれがあれば勝つことも可能かもしれない。だが肝心の問題がまだ残っている。

 

「まず奴をどうやって陸上へと引き上げてやるかだ……私自身もまだ良い案が思いつけていない」

「確か大きな音に弱いのでしたわね。大きな声を上げることができるフレンズですか……」

「それならば私に少し心当たりがある」

「それは本当か!? コブラ、是非教えてくれ!」

「ああ、だが今いるかどうかは分からないぞ。たまたま見たことがあるだけだからな」

 

 コブラからの思わぬ情報に期待を寄せつつ私はその詳しい話を聞いた。どうやら歌うことが好きなフレンズの様でその声はとても大きく遠くでも聞こえるらしい。何でも彼女が歌っている時はあまり他のフレンズ達も近寄りたくは無いという。歌とはいったい……。

 それから彼女がよく来ていると思われる場所にも心当たりがあるようで、コブラはその場所まで案内をしてくれるようだ。一体どんなフレンズなのだろうか。

 声が大きいといえば轟竜がそうだな。奴もまさかフレンズ化してここに来ていたりするのだろうか。何にせよあの水竜を打倒する手段が見つかったのだ、利用しない手はない。私達はコブラの後をついていきながらその場を後にした。

 




次回はサーバルちゃんたちのお話になります!


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section Ⅵ: 仲間 其の二

サーバルちゃん達のお話です!時間はフォッサを探しに行く前まで戻ります。


 あれからいろいろあのセルリアンに対しての案をみんなで考えたんだけどやっぱりいい案は出なかった。考えるって難しいよ……

 とりあえずまずはふうちゃん達を探すことにした。どの道私達が戻ってもあのセルリアンには敵いっこないしやっつけるための方法も思いつかないしね。みんなここで考えているよりふうちゃん探しをしたほうがいいと思ってたみたい。よーし、早くふうちゃんを見つけて一緒にセルリアンを倒す方法を考えなきゃ!

 

「うーん、探すって言ってもどこをどう探せばいいんだろう……」

「むやみに動けば迷いかねないな。かといってここで待ってても向こうが見つけてくれるとも限らないし」

「やっぱりいったん戻る? そこからまた探し始める?」

 

 わたしはあまり戻りたくは無いんだけどなあ……あのセルリアンめちゃくちゃ怖かったし……でもオセロットにも考えがあるんだよねきっと!

 わたし達はオセロットに戻る理由を聞いてみた。するとオセロットは、

 

「ふうちゃんはまだそこにいる可能性もあるかも? フォッサのこと放って置いたままだったし」

 

 あ! そういえばフォッサはまだあの時戻ってきてないんだった! という事はフォッサはあのセルリアンのことは何も知らないんだ! フォッサが食べられちゃうかもしれない!

 

「どうやら戻るしか選択肢はなさそうだね……! 途中でフォッサと会えればその心配はしなくてもいいんだけどまず会えないと思ったほうがいいかもね」

「そうと決まれば急いで戻らないとだね! ……すごく怖いけどそんな事言ってられないよね……!」

 

 顔を引き締め、震えるこぶしをぎゅっと握る。わたしは覚悟を決めた。みんなの顔も引き締まってる。考えは同じみたいだね、そうと決まれば戻ってフォッサとふうちゃんを助けに行かなくちゃ!

 

「でもでも、もと来た道ってどっちだっけ? こっち? あっち?」

 

 カワウソがきょろきょろ辺りを見ながら言った。そうだ、がむしゃらに走って逃げてきたからどういう道をたどったのか分からない。どうすればいいんだろう。

 

「……サーバル、ここから水の音聞こえる?」

 

 オセロットが私に突然尋ねてきた。突然だったからちょっとびっくりしてしまった。

 

「ふぇ!? ……ごめん、聞こえないや……」

「……なるほど、川の近くだから水の音を頼りに行けばあの場所に戻れるってことだね」

「そうか、川の音……! 早速探さないとだね!」

「あったまいいー! んじゃ早速水の音を見つけにいこー!」

「「「「おおーっ!!」」」」

 

 カワウソの声を皮切りにみんなで掛け声を上げた! こういう時にカワウソの元気には助けられるなあ。よーっし、頑張って水の音を見つけるぞー!

 私達は水の音を探しに歩き始めた。ほんとにジャングルってすごく広いんだなあ、みんなが居なかったらわたし絶対迷子になってるよ。

 ……ふと気になって私はふたりに尋ねてみた。少しは気を紛らわしたかったんだろう。ほんとは心配でたまらないんだから。

 

「そういえば何で二人は私達に協力する事にしたの?」

「え? いきなりだねえ……そういえば、なんでだろう。まあ気にしなくてもいいんじゃない? 困った時はお互い様って言うしさ」

「そうそう! わたしもその橋造り楽しそうだから手伝ってあげることにしたの! 早く造りたいね、新しい橋!」

 

 ジャガーは腕組みをしながら、カワウソは目をきらきらさせながら答えた。うーんなんかこっちが申し訳なくなっちゃうなあ。でもジャガーの言うとおり気にしなくてもいいよね! 手伝ってくれるって言ってくれてるんだし。

 みんなとお話をしつつ探索をする。でもいまだに水の音は聞こえてこない。どれだけあの場所から逃げてきたんだろう。

 

「もしかして川から遠ざかってたりするのかな。音が聞こえてこないよ……」

「今はそれだけが頼りだから、聞こえてくるまで歩き続けるしかないよ」

「もしくは他のフレンズに会えたら聞いてみるのも手?」

「でもまるで気配しないねえ。わたしも探してるけど、もしかしたらあのセルリアンを避けるために遠くへ行っちゃってるのかも」

 

 あんな危険すぎる攻撃誰も受けたくは無いよね……。わたしだってそうだし、巻き添えになるなんてもっと嫌だ。……やっぱり探し続けるしかないのか。

 

(わたしがやるしかないんだよね、頑張らなきゃ!)

 

 その後も私達は水の音を求めて歩き続けた。でも結局水の音を探り当てる事はできなかった。日も落ちてきちゃってるし、今日は探索はここまでかな。

 わたし達はその場に座り込んでため息を吐いた。

 

「あーあ、結局見つける事ができなかったなあ……みんなごめんね」

「気にしないでいいよ、私達のほうこそ謝らなくちゃいけないよ、サーバルに無理させちゃってるんだもの」

「ごめんね、サーバル。私達のために無理させちゃって……」

「サーバルはとてもよくやってくれてる? むしろ感謝しなきゃいけないくらい?」

「そんな……照れちゃうな、いいよ感謝なんてしなくても。わたしは当然のことをしてるだけって思ってるから」

 

 手をぶんぶん振りながら顔を赤らめてわたしは言った。みんな私を心配してくれてる。なんか恥ずかしいな……でもやっぱり気持ちがいい。

 

「……やっぱり仲間っていいよね! 一緒に話してジャパリまんを食べるのもいいけどこういうピンチの時にみんなと話すとすごく安心できる」

「唐突だね……。でもあまり考えた事もなかったな。すごく当たり前のことなんだから気にもしてなかったけど改めて言われるとなんかほっとするな」

「さばんなちほーのトラブルメーカーだけどね?」

「むぅ! ちがうもん! 間違って他のフレンズのジャパリまん食べちゃった事もあるけどちがうからね!?」

「あはは、墓穴掘ってるー!」

 

 オセロットにからかわれてみんながどっと笑う。わたしは納得いかなかったけどみんな楽しそうだからいいか!

 その後はみんなで持っていたジャパリまんを分け合って食べた。食べたり無かったけど今は我慢するしかない。わたしが多めにもらっただけみんなに感謝しないとだね。また明日に備えてしっかり眠って体力を回復しなきゃ。

 

 翌朝、わたし達は再び探索を始めた。よーっし、今日こそは見つけるぞー! ふうちゃんたちが待ってるんだから!

 

「元気だねえーサーバル……ふわぁ」

「あはは、おおきなあくびー!」

「カワウソも元気いっぱい?」

 

 ジャガーは目をこすっている。朝には弱いのかな、ジャガー。逆にカワウソは私と同じでげんきもりもりだ。私も負けてられないね!

 昨日と同じで当ても無く歩きながら探索を続ける。まだふうちゃんはあのセルリアンと戦ってるのかな。そうだとすれば急いでいかなきゃ!

 よりいっそう耳を研ぎ澄ます。……そしてついに……

 

「……聞こえる! 水の音だ! やったー!」

「ほんとかい!? やったじゃないかサーバル!」

「これでふーちゃんをたすけられるね! はやくいこー!」

「……」

 

 オセロットが無言なのが少し気になったけどわたし達は水の音のする方向へ駆け出した。ふうちゃん……どうか無事で居てね!




果たしてサーバルちゃんたちは無事に主人公組と合流を果たせるのか!
次回は時間は戻り主人公組のお話になります。
そしてついにあのフレンズが登場です!


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section Ⅶ: 歌好きのフレンズ

タイトルで察しているフレンズの方が多いでしょうがあのフレンズ登場です!
出会った彼女らはどうなるのかw


 一晩を過ごし私達はコブラに案内されつつ密林を歩く。大声を出せるフレンズか……歌でそんなに大きな声がでるものだろうか。いずれにせよ会ってみない事には其の歌声を聞くことは叶わないな。どれほどの声の持ち主か楽しみだ。

 暫く歩くと水の音が聞こえてくる。今まで聞いてきた音とは違う少し激しい水音だ。近くに滝があるようだな。

 

「おお、壮観だな。水はあまり好きではないがこの光景はなかなか素晴らしい」

「あの高台でよく歌っているな。今は居ないみたいだが」

 

 コブラが指差す先を見る。しかしなかなかの高さがある。あんなところで歌っているのか。……確かに今はどうやら高台にはフレンズが居る気配は無い。

 

「居ないのか、残念だ。しかし何故こんな場所で歌を歌っているのだろうか」

「この辺くらいしか高い場所って無いからな。歌がよく響くんじゃないか?」

「あそこで歌うと確かに気持ちよさそうだねー」

 

 フォッサの言うとおりあそこに上れば確かに気持ちがよさそうだ。しかしあの絶壁にどうやってたどり着くのだろうか。あの高台は反り返っていて下から上るのはとても困難に見える。空でも飛べない限りは容易にたどり着くのは不可能だ。私だって何か用でもない限りは今の状態であそこまで上りたくはない。

 ほほう、ということはあそこで歌っているのは鳥のフレンズの可能性があるということか。これは迎え入れたら強力なフレンズになりそうだな、ククク……。

 

 

「いい助っ人にめぐり合える可能性があるぞ、コブラよ」

「は? よく分からないがありがとう……」

「ほー、なんか悪い顔してるねー。ついにセルリアンを倒す方法でも考え付いたの?」

 

 わたしはコブラの肩をぽんぽん叩きながら言った。今そんな悪い顔をしているのか、まあ特に気にすることでもなさそうだが。

 

「これで奴にやられた分の仕返しができる……貴様ら、存分に暴れられるぞ。ぼこぼこにしてやろうではないか、私達にちょっかいを出したことを後悔させてやるぞ……ククククク」

「う、うん……顔怖いよ、すごく。まあでもあいつに仕返しができるようになるなら私もそんな顔になっちゃいそうだね」

 

(また眼が光ってる……気づいてなさそうだなやっぱり)

 

 フォッサが少し私を見て変な顔をしたのは違和感を覚えたが、まあ今はどうでもいいだろう。

 

 今は朝方か。そのフレンズが現れる時間も知りたいところだな、時間は大切だとサバンナで二人に教わったからな。今まではそんな時間など考えたこともなかった。人間というものは本当に時間に敏感な生き物だな。だが他の皆もフレンズ化する前はやはり私と同じ気持ちだったのだろう。まあただの憶測でしかないのだが。

 

「ん? あの子が現れる時間が知りたいって?」

「ああ、それを知っておけば動きやすいと思ったからな。教えてくれコブラ」

「んー……私が見たのはたまたまだったからなあ、そもそも決まった時間にここに来るかどうかは分からないな」

 

 むう……分からないのか。ならば待つしかないか、現れる時が来るまで。

 

 そういえばサーバルたちはうまく逃げ切れただろうか。まあ逃げ足は速い奴らだからな。安全なところまで逃げ切れただろう。そろそろ彼女らを探すこともしなければな。さすがにあの場所へと戻っている可能性はないだろう。彼女らもそこまで頭は悪くはない、なんだかんだでしっかりした子達だ。

 

「そろそろ彼女達を探すこともしなければな……向こうも探しているだろうし」

「……そうだった! サーバルたちとまだ合流してなかったんだった!」

「それ何気に存在を忘れてたってことだよな?」

「まあまあ、思い出せただけよしとしましょう」

 

 ジト眼でフォッサを見るコブラをインドゾウがなだめる。彼女らが聞いたら涙目になりそうだなそれ。……もちろん私はしっかり覚えていたぞ?

 

「探すにしてもどこをどう探すかだよねえ」

「恐らくだが、サーバルの耳を頼りに私達を探している可能性があるな。音にはすごく敏感だからな」

「んー、私はあの場所にいったん戻りに行くと思ってるんだよね。だって彼女達は私があのセルリアンをまだ知らないって思ってるだろうし、遭遇してパニックになってるって考えててもおかしくないから」

「……そうだった、彼女らも貴様を危惧して戻る可能性があるのか。だがいったん遭遇したことのある彼女らが戻る決断をするだろうか」

 

 いや、彼女らならば戻るな、間違いなく。あの時はすごくビビッていたがそれは初めてやつの攻撃を知った時だ。それに仲間意識の強いサーバルがいる、もし他の子が行くことをためらっても彼女は戻る可能性がある。

 

「二手に分かれよう。ここで待つものと探しに行くもの」

「まあ、無難ですわね。賛成ですわ」

「……まて。もしかするとその必要もなくなるかもしれない」

「なに? まさか彼女らが近くに!?」

 

 私はコブラの言葉に思わず叫んだ。近くに彼女らがいるのならそれは好都合だ。早く合流を果たさねば。

 

「慌てるな、まだそうと決まったわけじゃない。ただ近くで足音がしただけだ」

「他のフレンズの可能性もあるってことだね。まあそのときはその子も橋造りに引き入れちゃってもいいかもね」

「……迂闊に動けないのがじれったいな」

「足音がだんだん大きくなってきてる。こちらに向かってきているみたいだな、待つのが最善だろう。迎えにいってやりたい気持ちは私も同じだ」

 

 まあ一斉に動けば高台の彼女を見落としてしまう可能性があるか。いつ現れるか分からないその機会を逃すわけにはいかない。うずうずするがコブラの言うとおりにしよう。

 確かに足音が聞こえる、私でも分かる距離だ。もう姿が見えてくるくらいにいる。声も聞こえてきた。

 

「この声は……無事だったようだな、一安心だ」

「え? ……まさか、そこにいるのって!?」

 

 声の主がこちらに駆け寄ってくる。大きな耳、水玉の毛皮……どうやら合流は果たせたようだな。

 

「ふうちゃん!!」

 

 サーバル、何事も無くてよかった。彼女が私に思い切り飛び掛ってくる。

 

「っと! 無事で何よりだ、サーバル。皆心配していたぞ?」

「それはこっちのセリフだよぉ! ……うう……ひっぐ……あの後死んじゃったかと思ってたんだからね……!」

「泣くなサーバル、まずは無事に合流できたことを喜ぼうではないか」

 

 べそをかくサーバルをなだめる。私のことをそんなに心配していたのか、すまないことをしてしまったようだな。

 

「すまなかったなサーバル、寂しい思いをさせてしまったようだ」

「そうじゃないよ! 一人であのセルリアンと戦うなんてむちゃくちゃだよ……! もっとわたし達のこと頼っていいんだよ!?」

「む? だが貴様達を危険な目にはあわせたくは……」

「もう十分危険な目に合ってるよわたし達も! わたし達ってふうちゃんから見るとそんなに頼りないの……?」

 

 涙目で此方を見てくる。う、私の戦い方に何か不満があるのか……ちょっと考えてみる必要があるか。

 

「はいはーい、感動の再会はその辺でねー?」

「!?」

 

 フォッサが割って入ってくる。む、私も少ししんみりしていたところだったのだが、まあ多めに見てやるか。

 

「とりあえず風翔龍の言うとおり再会を喜ぼう!」

「わーい! みんな無事でよかったー!」

 

 ジャガーとカワウソがぱちんとお互いの両手をたたいて不思議な踊りをする。仲がいいのだな貴様ら。そしてサーバルはまだべそをかいている。いい加減泣き止んでくれると助かるのだが。私に抱きついていると落ち着くのだろうか。まあ何にせよ彼女が落ち着くまでこうしていようか……。

 

 サーバルが落ち着いたところでみんなでジャパリまんを分け合って食べる。皆が合流を果たせた記念らしい。……よくわからん。まあ皆に笑顔が戻ったのであれば問題はないか。

 と、見張りを任せていたインドゾウが此方へ戻ってきた。何か伝えたそうだ。

 

「む? ほうひふぁひんほほう、ほんはひはふぁへははふぉふぉひへ」

「食べながらしゃべるのは行儀が悪いですわ風翔龍さん……。おほん! ついに現れましたわ、例のフレンズが」

「「「「「「!?」」」」」」

 

 皆が一斉にインドゾウを見る。私を含めてジャパリまんをほおばりながら。

 

「……ごくっ! こうしてはいられない。今すぐ高台へ行ってみるぞ!」

「なるべく静かにな? 彼女も落ち着いた気持ちで歌いたいだろうし」

 

 コブラの忠告を受けて、皆が高台の近くへと向かう。いよいよご対面か、さてどんなフレンズかしっかりこの目で見てやろう。と意気込んだそのときだった。

 

「♪゛~♪゛~」

 

 何とも言えぬ轟音が辺りに響き始めた。な、なんだ!? 近くに轟竜でも現れたか!?

 

「に゛ゃああああ!? な゛にごのおとー!?」

「耳を塞いでいた方がよさそうだなサーバルは……高台のほうから聞こえてきている、この音は」

「これが、歌? ただの絶叫の間違いじゃ?」

「これはまた……破壊力のありそうな歌だねぇ……!」

 

 オセロットとジャガーが耳をふさぎつつ言う。うむ、私もこれは歌には聞こえんな。近くで聞けば何を歌っているのか分かるかもしれないが。私は声のするほうへと近づいていった。

 

「に゛ゃ!? 危ないよふーちゃん! 殺されちゃうよぉー!」

「フン、轟竜の咆哮を至近距離で受けるよりはまだましだな。それにこれくらいで死んだりはせん。ただ私にとっては耳障りな程度なだけだ」

 

 高台までだいぶ近づいたな。声の主は……いた。何とも気持ちよさそうに歌っている。周りは地獄絵図になっているが。あーあー……カワウソなんか気絶してしまっているではないか、後で介抱してやらねば……。インドゾウやフォッサ達は遠くへ避難したようだな。どうやらコブラの指示を受けたらしいな。賢明な判断だったようだ。いい仕事だぞコブラよ。

 

「歌っている最中にすまない!! 名も無きフレンズよ!!」

 

 私は歌っているフレンズに向かって叫んだ。……む、歌がやんだ。声は届いたようだな。

 そのフレンズは高台からふわっと飛び立ち、此方へ飛んでくる。サーバルたちも何とかこちらへ来れたようだ。

 

「こんにちは、はじめまして。私はトキ、私に何か御用かしら?」

「私は風翔龍という。いやなんと言うか独特な歌だなと思ってな。声を掛けさせてもらった」

「私の歌に興味があるの? めずらしいわね、めったに他の子が寄り付くことは無かったのに」

 

 まあこんな轟音を出しているならそれは近寄りたくは無いと誰もが思うのだろうがな。自覚がないのだろうか。いやさすがにこれは気づいているだろう当人も。

 

「もしかして、あなた私のファンになりにきたの?」

「ぬ? ふぁんになる?」

 

(ふぁんか……恐らく仲間になりたい、もしくはしてあげるということだろう。それならば当然答えは)

 

「ああ、そのとおりだ。そのふぁんに成りに来た」

「本当に? なんか照れちゃうわね……そうきっぱり言われると。じゃあこれからよろしくお願いするわね?」

 

 どうやら仲間に引き入れることに成功したようだ。これでいい助っ人が手に入った。後はあの水竜を完膚なきまでに叩きのめすだけだな……。私はトキに見られぬようににやりと邪悪な笑みを浮かべるのだった。

 




無事に合流を果たしたサーバルと主人公たち。そして勘違いしたままトキを仲間に引き入れた風翔龍は次回リベンジを果たしに……!?


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section Ⅷ: 力の兆し

 
続々とお気に入り登録してくださっているフレンズの方々が!本当にありがとうございます!
今回はとある出来事が起きます。そしていよいよリベンジの時!


 その後私は皆にトキのことを紹介し、お互いのことを話した。中でも少し気になったのはなぜトキがあの歌を歌っていたかである。生前私はあの歌を耳にしたことがある。今になってわかるあの独特な歌声、あれは素晴らしいものだった。今この場でじっくりと聞き直したいくらいだ。

 私はトキにそのことを尋ねてみる。いったいどこであの歌を知ったのだろうか。

 

「トキよ、貴様はなぜあの歌を歌っていたのだ? 私しか知らぬ歌だと思っていたのだが」

「え? 風翔龍も知ってたの、この歌を?」

「お、トキの歌に魅了されちゃったの? 私は勘弁だけどね」

「あの轟音を聞き取れるなんて耳がおかしいと思う?」

 

 オセロットが何か納得いかぬことを言った気がしたがまあいいだろう。私とトキの話を聞いてフォッサと皆がずいっと近づいてくる。そんなに面白い話でもないのにな。トキが続ける。

 

「……私も知らないわ。ただ空を飛んでいたときによく下から聞こえてきていたから自然と覚えちゃったの」

「とするとその歌っていた子が知っているのか、もしくはその子もまた別の子から聞いて覚えただけなのか、いずれにせよ情報が必要だな」

 

 コブラの推測通り、それを知るにはまずその子を探す必要があるな。そのためにもまた別のフレンズを尋ねねばならぬか……少なくともトキ以外はこの歌を聞いたこともないと言っているようだしな。そもそも聞き取れたかも謎だが。

 

「不思議だね、ふうちゃんはここに元から住んでた子じゃないって言ってるのにふうちゃんしか知らない歌を知ってる子がいるなんて」

「不思議ー! おもしろいねー! わたしも気になるかも!」

 

 カワウソはいつも通りはしゃいでいるがサーバルが珍しく考え込んでいる。いつもだったらカワウソと一緒にキャッキャはしゃいでいるところだが。

 

「む! ふうちゃんなんかにやにやしてる! わたしだって考えることくらいあるもん!」

 

 サーバルがこっちを見てぷうとほおを膨らませて言った。見透かされていたか。

 

「はぐれてた時も一緒にいろいろと考えてくれてたしね、なんだかんだでサーバルも少しは頭が切れる子なのかもね」

 

 ジャガーがフォローを入れる。だが微妙にフォローになってない気もする。

 

「風翔龍も知ってるなら歌ってほしいなー!」

「あら、それ私も興味ありますわ、ぜひ聞いてみたいですわね!」

 

 と、フォッサが私にそんなことを突然言ってきた。インドゾウもそれに興味津々である。まあ歌うのは構わぬが、なぜそんな期待した目で私を見てくるのだろう。なんだか変な気分になってしまいそうだ。

 

「歌えばいいのか? うろ覚えだがそれでもかまわぬならいいが……」

 

 私は歌い始める。トキの歌声から聞いた通り確かこんな歌だったな……

 

「♪~~♪~~」

 

 歌い終わったあと皆を見るとポカーンとしていた。え? なんだこの雰囲気は。私の歌がそんなに嫌だったのか?

 

「ふうちゃん、歌うまいんだね! おもわずうっとりしちゃった!」

「アイドル目指せるかも? 目指せフレンズ一のアイドル!」

「……負けたわ、完敗よ」

 

 どうやら嫌ではなかったようだ、少し安心した。しかし初めて歌ったのだが確かに歌うということは気持ちのいいものだな、トキの気持ちがわかった気がした。当の本人はなぜか項垂れているのだが。

 

「ねーねー! また聴きたくなったら聴かせてよー!」

「うん、私も同感だね! こんな素敵な歌を私たちだけで聴くなんてとんでもない贅沢だよね!」

「素敵ですわ……私ファンになってしまいそうでしたわ」

 

 皆からとても喜ばれた。なんだか少し恥ずかしいなこれは。ただ知っている歌を歌ったというだけでこんなにも皆が私を称えてくれる。ま、まあ悪い気分ではないな……うむ。

 

「ふうー、ご飯をたらふく食べたような気分だねえ。さて、この歌を知っている子を探しに行かないとだね」

 

 おなかをさするジャガー。それは大げさだと思うがなあ、……そうだな、うっとりしている場合ではない。今後のことを考えねば。

 

 気持ちを切り替えて今後のことを話し合う。まず第一にあの邪魔なセルリアンを打倒する。その次はいよいよ橋造りだ。大体の形は頭の中でできている。あとはそれを造るだけだ。

 

「材料はまあ足りねばまた集めてくればいいか。木などその辺にたくさん生えているからな」

「あいつの攻撃でボロボロになっていないといいけどなあ」

「まあ材料がどうなったかは祈るしかないな、無事であることを願おう」

「だね……もしぼろぼろだった時はまた力を合わせて集めてこよう!」

 

 フォッサが材料の心配をするが、サーバルとコブラがポジティブに考えるよう促す。私も心配ではあるがまあ材料に困ることはない。集めるのが大変なだけだしな。

 

「そしてセルリアンだな、まあ大方やることはわかっているがな」

「奇遇だね、私も彼女の作戦には察しがついてるよ」

「え!? 何するの? 教えてよー!」

「まあ見ていればわかる。それとこの作戦はトキには察されぬ様なるべく濁すようにな」

「ええ、もちろんですわ。私も風翔龍さんの作戦がどんなものか察していますし、ふふっ……お優しいんですのね」

 

 私の考えに察している者はいるのだな。少なくとも顔を見るにコブラとインドゾウ、そしてジャガーあたりはわかっているようだ。まあその他の者が彼女には言わないようになんとかしてくれるだろう。

 私は作戦を皆に伝える。トキには察されることはなかったようだな、彼女には申し訳ないがこれも作戦の為だ。後でしっかり謝っておこう。

 決行は明日。そのためにも今日は皆に寝てもらうように指示する。雑多なことがあって消耗しているだろうからな、体力の回復も大事だ。私も奴との決戦に備えて今日は早く眠ることにした。

 

 翌朝、目覚めのいい朝だ。日の光が差し込んでくる。日課になった走る練習を済ませた後、皆の元へ戻る。

 皆よく眠れたようだな。溌溂としている。どこぞの縞々も見習ってもらいたいものだな。

 

「いよいよだね! 行こうふうちゃん! あの場所をみんなで取り返そう!」

「よし、準備はいいな? 皆苦しいかもしれないがよろしく頼む!」

「ええ、大事なファンが困っているのだもの、全力を尽くすわ」

「なるべく控えめだと嬉しいけどなー……なんて」

 

 フォッサが少しひきつった顔をしている。無理に歌声を聞く必要もないと思うのだが、彼女のことを思ってだろう。いい心構えだな、フォッサよ。屍は後でしっかりと拾ってやるぞ。

 

「それじゃ、しゅっぱーつ!」

「「「「「「「「「おおーっ!!」」」」」」」」」

 

 カワウソの合図を皮切りにみんなで一斉に掛け声を上げる。皆一丸となった瞬間だ。ククク、待っているがいいセロリアン。今度はお前があせる番だ。

 

(風翔龍の目が光っている。これはもしや……)

(ええ、もしかするとこれはそうなのかもしれないわね)

 

 トキとコブラが目で何かを伝え合ったことなど私は知らず、川沿いをずんずんと進んでいく。奴の気配を感じ始めた、だんだんと近づいているな。前回は手痛いお返しをもらったが今回はそうはいかぬ。引導を渡させてもらおう。

 

「まずは奴を気づかせてかく乱させよう、トキはその間に奴の頭上に回れるか」

「ええ、いいわ。暴れ狂うほど私の歌が聴きたくてたまらないらしいしね」

「よし、行くぞサーバル、フォッサ!」

「「まかせてっ!」」

 

 気配の方向へ走り出す。トキも行動を開始したようだな。その間にほかの者たちにはあることをお願いしている。

 

「よーっし、この辺でいいのかな」

「相当大きいからねえ……結構でっかくないといけないかも」

「風翔龍の作戦、必ず成功させないとだな」

「ええ、気合を入れていきましょう!」

 

 とある四人には落とし穴を掘ってもらうようにお願いした。少し手間がかかってしまうとは思うが確実に成功させるためだ、なるべく大きいものを造ってもらわねばならぬ。その分私たちも時間をなるべく多く稼ぐ必要がある。準備ができ次第作戦決行だ。

 そしてオセロットには監視役としてそれぞれ両方の状況を伝える役を任せてもらった。私は注意深いので用心に用心を重ねての結果だ。彼女も満足げに引き受けてくれたから一安心だ。

 

「もうすぐ奴が見えてくるはずだ、気を抜くなよ貴様ら」

「もちろん! 絶対成功させようね!」

「私も賛成だね、あいつをこのまま野放しになんて絶対したくないし、早く倒しちゃおう!」

「あくまで時間を稼ぐだけだからな? 無茶な行動はするなよ?」

 

((それふうちゃん(あんた)がいうことかなあ……))

 

 見えた! 奴だ。上半身が出ている、ということは向こうはもう気づいていたか……!

 

「攻撃が来る、構えろ!」

 

 合図を聞いて二人が身構える。予備動作を見極めろ……二人を絶対犠牲にはしたくない……! どっちだ、薙ぎ払いか、縦払いか……!

 

「!! 伏せろっ!!」

 

 皆一斉に伏せる! ちょうど胸のあたりをブレスが横に通り過ぎる。予想通り薙ぎ払いだったか。なんとも恐ろしいものだなやはり。生前の姿の世界の人間も水竜とも殺り合ったことがあるのだろうな。

 だが不思議と恐怖は感じない。今は奴を倒すことができる手段があるからだろうか。逆に楽しさすら感じている。そしてそれは気づかぬうちに私の体にも影響を及ぼし始めていた。

 

「ひえええ……やっぱり怖すぎるよおー……!」

「でも、そうも言ってられないよね!」

「……」

 

 なんだ? 何か体が熱く……これは……体から何がが出ている? いったい何だこれは。

 二人が私に起こっている異変に気付く。二人とも驚いている。

 

「ふうちゃん……体からサンドスターが……まさか……!」

「おお! 風翔龍の背中に何かが出てきてる……! これはもしかして野生開放しちゃった!?」

 

 やせいかいほう? さんどすたー? わからぬ、わからぬが何か私の体にみなぎってきているものがあるのは確かだ。そして違和感のあった背中に懐かしい感覚が戻ってくるのを感じる……!

 

「背中に……まさか……翼?」

 

 二人ともすごい勢いで頷く。そうか、ついに翼が戻ったのか……なに!? 翼だと!?

 試しに背中の翼と思しきものを動かしてみる。バサッと音がした。夢ではないよなこれは……念願の翼を手に入れたぞ。

 

「ころし……げふん、報告に行ったほうがいい? やめておく?」

 

 オセロットがこっそり駆け寄って茂みの中から聞いてくる。もちろん報告したほうがいいだろう。こんなに嬉しいことはない。ついに私の戦闘の要である翼が戻ったのだ。今すぐにでも飛び回りたい気分だ。

 予想だにしていなかったことが起きてしまった。これでは落とし穴を作ってもらっている者たちに申し訳ないではないか。いや、まだわからない。ただ単に翼だけが戻ってきたのかもしれない。肝心の風の力が戻らねばまだまだ弱いトカゲのままだ。落とし穴はまだ作ってもらうことを伝えよう。

 

「ああ、ぜひ報告を頼むぞ。だがまだ落とし穴作りは続けてくれるように言っておいてくれ」

 

 私はオセロットに落とし穴組に伝えるように言った。そのまま彼女は了承すると向こうへ伝えに行ったようだ。

 さて、この力……少し試してみたくなったぞ。私は駆け出そうとするが二人に止められた。

 

「もう無茶なことはさせないよ! まずは作戦を成功させてしまおうよ!」

「私もそう思うぞ! あんたの力が戻ったことは喜ばしいけどそれで無茶はしてもらいたくないしね」

「……」

 

 そうだった。何をやっているのだ私は……サーバルにも言われたではないか、もっと頼ってほしいと。このままでは私は彼女ら二人を悲しませるだけだ。

 頭を冷静にする。フォッサから教わった深呼吸をする。……よし!

 

「すまなかった。自分の力に自惚れてまた突っ走ってしまったようだな」

「ふうちゃん! そうだね、みんなであのセルリアンをやっつけようって約束したもんね!」

「ふうー、また一人で突っ込んでいくと思ったよ……でも、ちゃんと学習したみたいだね」

 

 悪い癖だな、一人で突っ走りがちになってしまうのは。仲間がいるならうんと仲間を頼ってやろう。そしてこの力、私だけの為ではない。皆の為に使わせてもらおう。

 

「よし、作戦続行だ!」

 

 再び私達は奴の攻撃に備え身構えた。そして私は漆黒の翼をはためかせ上空へと舞い上がった!

 




なんと風翔龍が野生開放!?彼女に何が起きたのか!
わけもわからない彼女はそのまま戦闘を続行します!
次回果たしてどうなるか!

すいません誤情報でした、野生開放ってフレンズの力をさらに底上げすることだったのね、勉強が足りなかった>< 指摘いただいた方ありがとうございます。前書いていたことは綺麗さっぱり忘れてください。


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section Ⅸ: 作戦の決行

野生開放した風翔龍!しかし戦闘衝動まけそうになりつつも二人のフォローにより見事打ち勝ち作戦を続行します!
その結末は……?


 徐々に私は奴へと近づいていく。上空で飛び回っていればこちらに気をそらすだろうという考えだ。あのどでかい密林の虫のように正面をひゅんひゅん飛んでいれば奴はトキには気づくまい。

 

「さあ撃ってきてみるがいい、水竜もどき!」

 

 私の挑発に乗ってくれればいいのだが果たして奴は乗ってくれるか――

 お、こちらを見た――ということはうまくいったか。

 予備動作だ。撃ってくるか、だが今の私にそんな攻撃はもう意味をなさない、何発撃とうが私に掠りすらしないだろう。ククク、撃ってきてみろ。

 

「すごーい、まるで別の生き物になっちゃったみたいだねふうちゃん!」

「あれが本来の風翔龍……開放したときはちょっと怖かったけど、改めてみるとなんかかっこいいなあ、ちょっと妬けちゃうかも」

「もしかして嫉妬してるのー?」

「え!? そんなわけ…………あるかもな」

 

 照れくさそうにフォッサが俯く。見惚れるのはいいのだがとりあえずトキの様子を見てきてほしいのだがなあ。うまく目的の配置につけたのかどうかが気になる。

 

「っと、見惚れてる場合じゃないね。私たちも行動に移ろうか!」

「なにするんだっけ?」

「とりあえず彼女がいま頑張ってるからトキの方の様子でも見に行ってみよう」

「よーし、いこー!」

 

 お、動いたようだな。奴も二人にはまるで気づく様子もない。このまま奴を翻弄し続けてやるとしようか。ふむ、あの方向はトキがいる位置が見える方向か、どうやら様子を見に行ってくれるようだな。

 水竜もどきは私にむかってブレスを撃ってくる、だがことごとく外れる。何度やろうと無駄なことよ。しかしあれだけ撃っておいて疲れはまったく見せないか。普通なら水に潜って疲れを回復すると思うのだがセルリアンは疲れという概念が存在しないようだな。私も体力を使いすぎないよう注意せねば。

 

                ・

                ・

                ・

 

 そろりそろりとセルリアンをわき目にわたしたちはトキの見える位置へと移動する。うまく作戦通りに動いてくれてるかな――

 あ、いた!どうやら背後で待機してるみたいだね、よかった。でも結構セルリアンと距離が近いなあ、私ならそんな近くまで行きたくないけどトキって勇気あるんだなあ……私も見習おっかな!

 

「大丈夫そうだね! 後は落とし穴が完成するのを待つだけだね」

「うまくいくといいなあ……いや! きっとうまくいくはず!」

 

 さてトキも問題なさそうだし、私たちはどうしようかな……ふうちゃんのお手伝いは無理そうだし、私たちも落とし穴作りを手伝いに行こうかな!

 

「ねね! わたしたちも落とし穴作り手伝おうよ!」

「んーそうだね、ここでじっと待ってるのも落とし穴組になんか申し訳ないしね」

 

 わたしたちは落とし穴組のいる方向へ駆け出して行った。よーし、たくさん掘るぞー!

 

                ・

                ・

                ・

 

 私たちはあれからかなりの土を掘り返していた。これはなかなか楽しいけど疲れてしまうなあ……まあ彼女のためだし頑張るしかないわな。

 

「ジャガー、そっちはどう? 結構掘れてるー?」

「んー? まあ土は柔らかいし、順調に掘れてるよー」

 

 こんな合図を繰り返しつつ私たちは作業を進める。あれが落ちる大きさかあ、まあでもあれがこの落とし穴に落ちるところは私もすごく見てみたい。セルリアンって普通はこんな罠みたいなもの作らなくたって倒せるしなあ。多数はちょっとそれも考えちゃうかもしれないけど。

 

「おう、少し休憩入れないか? ぶっ続けだと体力が持たないだろう」

「お、ありがとう! んー、ひときわおいしく感じてしまうな!」

「ふふっ、ほんとですわね」

 

 コブラのくれたジャパリまんを食べつつ皆座ってのんびりする。何の変哲もないじゃパリまんなのに不思議だねえ。みんなもそう思ってるみたいだね。

 

「しかしあの子の素性は未だわからぬままか」

「昨日サーバルから聞きましたけど住んでいたところは雪山と言ってましたわね」

「へえ、それじゃシロクマとか?」

「シロクマがそんなにごつごつしてる? やっほー」

 

 唐突に上から声がした。――なんだオセロットか、ちょっとびっくりした。

 

「報告があるんで聞いてね? 風翔龍ちゃんが野生開放しちゃったみたい?」

「「「「!!!!」」」」

「――嘘じゃないよね? 嘘だったら怒るよー?」

 

 カワウソがジト目でオセロットに問いかける。んー私はその予兆を見たからそうとは言えないかなあ。

 

「いや、十分可能性はあるな、実質その予兆は何度も起こっていたと思うんだ」

「ええ、私も目にしていましたわ、最初は気のせいだと思っていたのですけど」

「実は私も見てたんだけどインドゾウと同じで気のせいだと思ってたんだ」

 

 私のほかにもそれを見た子はいたんだな。このメンツで知らないのはカワウソだけか。まあ特に気にしないだろうなカワウソだったら。なんだかんだでジャングルでの付き合いは長いしね。

 

「みんな知ってたの!? ずるいよわたしにも教えてくれてもよかったのにー!」

「言っても気のせいで済ましちゃうでしょカワウソだったら」

「う゛……そういうこと言うのずるいなジャガー」

「ははは、まあ今知れたのだからいいじゃないか。しかし彼女の野生開放か、気になるがこっちの作業を止めるわけにもいかないし」

「彼女は作業を続けてくれと言ってた?」

 

 作業は続けてくれか――まあ彼女にも考えがあるんだろう、その指示通りに動くとしようかな。私たちは再び作業を始める。

 しばらくして遠くから声がしたのを感じた。この声は――

 

「おーい! 私たちにも手伝わせて―!」

「張り切って掘っちゃうよー! みゃみゃー!」

 

 え、サーバルとフォッサ? こっちに来ちゃって大丈夫なのかな、まあ掘ってくれる子が増えるのは大歓迎だけど。

 

「彼女は大丈夫なのかい?」

 

 私は二人に聞いてみた。すると二人は、

 

「うん、びゅんびゅんって空を飛び回ってすごかったよ!」

「まあ私たちが手伝えそうなことはなさそうだからこっちに来ちゃった」

「トキは大丈夫なのだろうか、そっちの方が心配だが」

 

 コブラがトキのことを聞くがサーバルは平然と答えた。

 

「トキも大丈夫そうだったよ? セルリアンの後ろで歌うのが待ち遠しくて今か今かとうずうずしてたみたい」

 

 強い子だなあトキって。私でもあんなのと近づくことすらしたくないくらいなのに。まあ二人が大丈夫そうだったらいいかな。さてと、穴掘りを再開しようか!

 

                ・

                ・

                ・

 

 あれから二人はどこかへ行ってしまったようだ。まあ予想からするに落とし穴の方へ行ったのだろう。今の私なら一人でも囮役は十分だ。さてと、オセロットの報告はまだか……まあこいつを落とすほどの大きさだし時間がかかってしまうのも当然か。

 が、それも杞憂に終わったようだ。オセロットが下から叫ぶ。

 

「準備完了!」

「よし、それじゃ作戦を開始するぞ! トキのショーの開幕だ!!」

 

 私大声で叫ぶ。これが作戦開始の合図だ。オセロットはすぐさま距離を取って歌に備える。

 

「すうーはぁー……」

 

「わぁあああたぁあああぁしはああぁとぉおおおおきぃいいいいぃい~♪゛」

 

 ぬうっ!? こ、これはなかなかに強烈な……めちゃくちゃ歌いたかったんだなあの調子だと。この私ですら抵抗しそうになるとは、恐るべしトキの本気……だがこれならばやつも間違いなく……!

 後ろからの轟音に驚いたのかすごい勢いで前へ飛びだしてきた。いいぞ! 

 

「え!? とびだしちゃった……」

「いい仕事だぞトキよ! 事情は後でしっかり説明してやる、まずはこいつを誘導するぞ!」

「え? え? ……わかったわ、そのかわりその事情、しっかり説明してもらうわね?」

「もちろんだ! 行くぞ、トキ!」

「落とし穴まで誘導すればいいのね、わかったわ!」

 

 びたんびたんとはねていた水竜もどきは立ち上がり、こちらを見る。

そして一直線に私たちへと突っ走ってきた!

 

「きたぞ! 私に続け! 遅れるなよ!!」

「ええ!!」

 

 怒りをあらわにして私達をめがけて突っ走る。ブレスも当たりはしないものの頻発して撃ってくる。トキの歌がとてもお気に召さなかったようだな。

 

「あなた何か失礼なこと考えたでしょ!?」

「さあな! もうすぐ落とし穴の近くだ、一気に行くぞ!!」

 

 人影がポツリポツリと見え始めてきた。いよいよだ!! 景気良くはまってくれよ、水竜もどき!!

 そしてついに落とし穴が目の前にまで迫った、これで終いにしようか水竜もどき。私達の勝ちだ。

 

 ずどおんと音を立てて落とし穴へ水竜もどきが頭から前のめりに倒れこむ。おお、これはでかい落とし穴だ。よく頑張ってくれたな皆、後でお祝いとやらでもするとしようか!

 

「やったあああああ! これでもう安心だね!」

「まだだ。落としただけだからな、私の毒で……がぶりっ」

 

 ぴくぴくと痙攣している隙を見てコブラが水竜もどきの腹へと滑り込み毒を流し込む。毒が水竜もどきへと流れ込んでいく。そいつに毒は効くのか、盲点だったな。

 

「おおー! だんだん動かなくなってきてる! 効いてるね!」

「これでセルリアンは倒したも同然だね、あとはいしを探して消滅させるだけだね」

「これほどうまくいくとはな。皆のおかげだ、感謝するぞ!」

「ふうちゃんがこの作戦を考えなかったらずっとあのセルリアンを野放しにしてたと思うよ?ふうちゃんのおかげだと私は思うな!」

 

 サーバル……お前ってやつはどうしてそんなことを平然と言えるのだ……少しうるっときてしまうではないか……

 

「私も今回は風翔龍がいちばんの功労者だとおもうぞ」

「私もですわ、彼女がいなければこんなことできるわけないですもの」

「それはさすがに大げさだと思うけど……でもこの作戦は確かに私達じゃそう簡単には思いつけるものじゃないね」

「ありがとうねー! ふーちゃん! またやりたいなー!」

 

 皆まで……くうっ! やはり仲間とはいいものだなあ……! ――さすがにもう一回さっきのをやりたくはないが。

 

「あ、泣いてる? 鬼の目にも涙というやつ?」

「誰が鬼だ誰が……。それに泣いてなどいない、決して……」

「泣いちゃいなよー、素直じゃないんだから」

「やかましい……! 誰が涙など……!」

 

 その日初めて私は感動というものを覚えた。同時に初めて泣いた。もう孤高だったあのころには戻れぬな。だがここでの出来事も悪くは――ない。

 




ついにセルリアンを討伐!
皆に褒められてうれし泣きしてしまう風翔龍!
フフフ、これ書いてて私ゲームで狩れなくなってしまいそうw

次回は中断していた橋造り再開です。


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section Ⅹ: 橋造りの始動

いよいよ橋造りが始まります!果たしてどんなものが出来上がるのやら。


 皆で穴の中で動かなくなった水竜もどきからいしを探す。果たして毒は本当に効いているのか疑問だがさっさと見つけてしまうに越したことはない。

 しかしこいつにも見当たらないな。やはり体内か。この巨体の体内からいしを見つけるのはなかなかに骨が折れそうだな――。

 

「このセルリアンも見つからないなあ……あのサバンナのセルリアンと同じだね」

「まああいつよりこいつはでかいからな。見つかりにくいのも仕方ないだろう」

 

 などどいってる間に割とあっさり見つかったようだ。フォッサが皆へこちらへ来るように促す。

 

「おーい! たぶんこれじゃないかな!」

 

 よく見ると腹の奥に何かキラキラしている丸いものがある。弱点の部位にあるという憶測は間違っていなかったようだ。ということはあの逃げた奴も同様にその箇所にある可能性があるな。

 

「これがいしか……こいつを見つけて破壊してしまえばこの水竜もどきは消え去るのだな」

「よーっし、早いとこやっちゃおう!」

「そうだね! また暴れ始めちゃったらみんな困るもんね!」

 

 よし、ムードメーカーコンビの言う通りさっさと壊してしまうか。私はいしに武器を突き刺す。するといしにひびが入りばかーんと音を立てて水竜もどきもろとも砕け散った。なんとも不思議な光景だ。いくつものブロック状の物体になって砕けてしまう様は。

 

「これで安心して橋造りができるね!」

「これからが本番だな、腕が鳴る」

「よくわからないから指示をお願いするよ、風翔龍」

 

 コブラとジャガーはもう取り掛かる気満々のようだな。だが今日は皆体力を消耗しているだろう。皆の疲労を察して私は皆に休むよう促した。

 

「いや、それは明日からにしよう。皆今日の戦闘で疲れ切っているだろうしな」

「風翔龍ちゃんは鬼じゃなくて天使だった?」

「そうだね、私ももうくたくただー。こんなでっかい穴掘ったの初めてだもん」

「私もですわ。でもなんだかんだで楽しかったですわね。ふふっ」

 

 皆私の言ったことに賛成のようだ。……約二名を除いて。

 

「いまからでもだいじょぶだよー!」

「わたしもわたしもー!」

 

 サーバル、カワウソ。気持ちはわかるが休ませてはもらえぬだろうか。野生開放とやらのせいで体中が悲鳴を上げているのだ。

 

「こらこらおまえら、風翔龍は野生開放してかなり体力を消耗してるはずだぞ。それなのに今からとは少し酷ではないか?」

 

 コブラが二人に言って聞かせる。すると二人は私を見て、

 

「あ、そっか……ふうちゃん一番頑張ってたもんね、ごめんね」

「わたしもわすれてたかも……ごめんねふーちゃん」

 

 申し訳なさそうに言った。よかった、二人とも休む気になったようだ。

 

「すまぬな、ほんとは一刻も早く橋造りを始めたいのだが、さすがに体はついてはいけぬようだ」

 

 私は二人に謝る。だが二人は気にしないでと気を使ってくれているようだ。

 

「でもまずはおなかを満たしたいかな……」

「私も同感だね、おなかぺこぺこだ」

 

 フォッサとジャガーが空腹を訴えた。そうだな、まずは腹を満たしたい――私もすいているなあ、だいぶ。

 

「それじゃ、お祝いもかねてご飯を頂きましょうか!」

「「さんせーい!」」

 

 インドゾウの一声にムードメーカー二人が返事をする。ほんと二人は元気がいいなあ。どこからそんな元気が湧いているのだろうか。

 

「――やくそく、忘れてないわよね?」

 

 と、唐突に耳元でぼそりとトキが囁いてきた。そうだった、トキに事情を説明しなければならないのだった。

 

「明日でも構わぬか? 今日はもう寝てしまいたい気分なのだ」

「ええ、問題ないわ」

「そうか、ならば明日の早朝に話すとしよう」

 

 トキの了承を得て私達もご飯にありつく。あーやはりこの至福の瞬間はたまらない。どうしても頬が落ちてしまう。しやわせー。

 

「すごいとろけてますね、顔が。ふふっ、こちらもにやけてしまいますわね」

「そんなにジャパリまん好きになっちゃったのかい? まあ物によって味が違うから飽きないのはわかるけどね。しかしあのりりしい顔とのギャップがまた……くくっ」

 

 インドゾウがこちらを見てにこにこしている。横でジャガーが笑いをこらえきれず噴き出した。しかし私はこの至福の時間に夢中で気づくことはなかった。のちに二人にからかわれて赤くなったのは別の話だ。また汚点を作ってしまうとは我ながら情けない……。

 

 ご飯が済むとやはり疲れがたまっていたのか皆眠り始めた。――私もそろそろ寝るとしよう。朝早く起きれなければ時に迷惑をかけてしまうからな。ゴロンと横になり目を閉じた。徐々に意識が落ちていき、深い夢の中へと私は旅立っていった。

 

 早朝、問題もなく起きた私はトキを探す。――いた、川の近くにいる。事情を話すべく私は近寄った。

 

「おはようトキ。早いのだな朝は」

「ええ、私朝が好きだから。それより、話してくれるんでしょ?」

「ああ、包み隠さず話そう」

 

 私はトキに事情を説明する。

 

「――とまあこういうわけだ。歌声を利用するような真似をしてすまなかった」

「いえ、事情を聴けたからいいわ。歌声に関しては私も察しているもの」

「歌はうまくなりたいとは思わないのか?」

 

 唐突にそんな質問をしてしまった。何を考えているのだろう私は。まあ気になってしまったから仕方がないか。

 

「え? あなた、私に教えてくれるの?」

「まあ、わかる範囲でなら構わんが」

「何かコツとかってあるのかしら、例えば口の開け方とか声の出し方とか」

「む? よくわからんが私は何も意識せずに歌ったぞ。あえて言うのならおなかに力が入っていた気がするな。おなかから声を出す感じで歌えば良いのではないか?」

「なるほど……」

 

 歌についてのやり取りをしているうちにほかの皆が起きてきたようだ。

 

「おはよー! ふたりとも! 今日もいい天気だね!」

 

 サーバルが元気よく挨拶をする。いきなりだったから二人して少しびくっとしてしまった。

 

「お、おはようサーバル。いきなり近くで大声はびっくりするからやめてもらえるかしら……」

「同感だ……」

「あ、ごめん……」

 

 まあ元気がいいのはいいことだが、さすがに近くではちょっと勘弁してもらいたいものだな――。

 

 それから皆が集まり、いよいよ橋造りへと取り掛かる。皆気合は十分のようだな――うむ、私も安心した。

 

「まずはさっき言った通り渡るところを支える物からだな」

「ふむふむ、まずはそれから作っていくんだね」

「わたしじゃあんな大きいのはもてそうにないかなあ」

「丸々一本使うわけではないだろう、さすがに」

 

 コブラの言う通りまずはこれを切る作業からだな。木に思いっきり上から殴りつければ折れるだろうか。

 私は力のありそうなジャガーとインドゾウにお願いをしてみる。 

 

「これを折るんだね? 結構力いりそうだなこれを折るとなれば」

「ええ、一人でなら大変そうですわね――でも二人でならなんとかなりそうですわ」

「そうだね、それじゃ、やってみるかね……!!」

 

 跳躍し勢いをつけた二人の一撃が上から炸裂する。めきめきと音を立てて地面に木がめり込んだ。だがしっかり折れているようだ。どうやら任せても問題はなさそうだな。

 

「それで折った木をどうするの?」

「まあ見ていろ。翼を手に入れた私ならばこういう芸当ができる」

 

 作業を始める前、私は皆から再び野生開放は可能かどうかを訊かれた。よくわからないがそれを意識すると再びサンドスターが体から放出し始め、翼が現れた。どうやら一度野生開放をしてしまうと何度でも体力の持つ限りそれが可能になるらしい。

 

 木を持ち上げて高く飛翔し、私は川の上へと移動する。よし、このあたりで――

 

「ふっ!!」

 

 上空から勢いをつけて下降し思い切り真下へと木を投げつける。大きな音を立てて木が川底へ突き刺さった。

 

「「おおおー!! すっごーい!!」」

「さすがに私じゃあんなことはできないわね。彼女に任せるしかなさそうね」

「相変わらず規格外だなあ風翔龍の力は」

「どれだけ深く刺さったのだろうか、あの木、びくともしていないぞ……」

「ここにいるフレンズじゃまずこんなことは出来そうにない?」

 

 それぞれが感想を述べる。さすがに私以外がやるのは不可能か。ならば私が頑張るしかないな。

 二人が木を折り、私が突き刺す。何度くらいやっただろうか、気づけば相当な数の木がいくつも列をなして川底へ突き刺さっている。いかんちょっとやりすぎたかな。

 

「体力は大丈夫か? あれだけ作業したんだ、へとへとだろう」

 

 コブラが心配そうに私達に言う。正直言うときつい。少し張り切りすぎてしまった。二人も息が上がっている。私のせいで無理をさせてしまったようだ。

 

「すまぬ、少し……はぁ……はぁ……休みたいな……二人も……すまなかった」

「風翔龍……ちょっとは……ペースを……考えて……」

「はぁ……はぁ……すこし私も……きつい……ですわね」

「指示だけ聞ければあとは私たちが進めていくよ、次は何をしたらいい?」

 

 フォッサが次の作業を尋ねてくる。息を切らしながら私は支持を出す。

 

「そう……だな、つぎ……はわたる……ところを……つくろう」

「よーし、私たちの出番だね!」

「やるぞー! おーっ!」

 

 指示通り、まずは集めた細めの木を横に並べ始める。私の持った木よりは細いが、それでも太さはある。大体皆の平均的な胴周りくらいはありそうだ。

 

「これを束ねて縛って――」

 

 次に集めた蔓を太く束ねて木の両端に巻き付けていく。もちろん動かないようにしっかり締めて固定する。

 

「できたー!!」

「おお、これをあの上に乗っけるのか! 以前の橋とはなんか見た目は悪いけどこれは頑丈そうだな!」

「いよいよですわね――あと一息、頑張りましょう!」

「「「「「「「おおーっ!!」」」」」」」

 

 休憩中の私達を除いて皆が掛け声を上げる。もう完成は目前だ。座って皆を見守っていた私も気合が入る。皆には負けられないな、体力がある程度回復したら私達も戻ろう。私達はそう思いながら皆の作業を眺めていた。




橋作りを始めた一行、完成は近い!
次回はいよいよジャングルちほー編もおわりをむかえます!
そしてとあるちほーでは……?


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section Ⅺ: 完成そして――


完成も間近に……そしていよいよ事態が動き出します――


 

 橋の渡る部分がもう少しで完成する。とはいっても川の幅の十分の一くらいの長さくらいしかないが。これをあと十くらいは作らねばな。

 運ぶのはもちろん私。満場一致で決まった。まあ他のフレンズに比べれば異常か、私の力は。

 突き刺した木と木の上をを橋渡しするように出来た渡る部分を乗せる。乗せた木同士をトキが蔓で何重にもがっちりと縛って固定する。飛べるのは私とトキしかいない。結び方はトキに任せた。まあ何重にも縛ったのだからひとまずこれでいいだろう。不格好ではあるがまあ渡れるのであれば問題はない。

 

「おおー! これで橋になったんだね!」

「まだまだだな。あとこれを十は作らねば向こうへは渡れぬだろう」

「上に乗ってみたけど大丈夫そうだね。この調子でどんどん作っていこうか!」

「ああ、そうだなジャガー。もうすぐ私達も向こう岸へ行けるようになるのか。まあ行ったことはあるのだがなぜか気持ちが高ぶってしまうな」

「橋ができたら私渡ってみたーい!」

「私はあまり遠くへは行きたくないけど、橋は渡ってみたいかも?」

「私は飛べるからあまり関係ないのだけれど、これはなかなか面白いわね♪ちょっと歌いながら作業したくなっちゃうわ」

「やめてくださいね?」

 

 各々が出来た個所の感想を述べる。トキよ、頼むから作業場を阿鼻叫喚の地獄絵図にしないでくれ。

 作業を始めてから時間がたった。現状はというと――

 

「おーい、木を持ってきたよー!」

「おお、ありがとー! これで全部だねー」

「そこ結び方ちがうよー? これはこうやるんだよー」

「うわっ! 危ないよぉー……ちゃんと周り見てねー……」

 

 和気藹々とした状況になっている。しかもうわさを聞き付けたのか、かなりのフレンズたちが集まって作業を手伝ってくれている。すごいなこの光景は。まあこちらとしては作業の速さがぐっと上がったからいいのだが。

 そしてついに――

 

「「「「「「「「「できたあー!!!!」」」」」」」」」

 

 おお、これが橋か! 前のモノがどんな形だったのかはわからないが私達が造り上げたのも立派な橋で間違いないだろう。

 

「すごいね、ほんとに私たちが作っちゃったんだね!」

「ああ、これはフレンズ化して初めての出来事だな。風翔龍に感謝しないとだ」

「うわーい! わたし渡っちゃおーっと!」

「こらこらあわてないの。まずは体格のいい人から渡りましょう。頑丈さを確かめるためにも」

「そうだね、じゃあインドゾウ、渡ってみてくれるかい?」

 

 そういわれてインドゾウがまず橋を渡る。――おお、びくともしていない、これはなかなか頑丈なものができたようだ!

 

「渡れましたわー! 皆さんも渡ってみてはいかがですかー?」

 

 向こう岸からインドゾウの声がする。するとその声を皮切りにぞくぞくとフレンズたちが橋を渡り始めた。そ、そんなにたくさん乗って大丈夫なのかこの橋――どうやら杞憂だったようだな。

 

「おおー! すごいすごい! こんなにたくさん乗ってもなんともないなんて! やっぱりふうちゃんはすごいね!」

「ふうー……ひやひやするなあの人数が乗るとなると。しかしただ渡れることだけを考えて作り上げただけのものであるのにこうも喜んでもらえるとは」

「困った子を助けたことに変わりはないさ。ありがとな、風翔龍!」

 

 ジャガーがお礼を言う。そうか、これでジャガーは橋渡し役を買って出なくても済むのか。それは嬉しくてお礼も言いたくなるだろう、彼女くらいしかあの川を渡ることはできなかったのだからな。

 しかし思えばいろいろなフレンズと接してきたことでだいぶ言葉を覚えたな。皆私にたくさんの言葉を教えてくれた。そのおかげでもある、この案を思いついたのは。

 私は自然と私の顔が笑顔になっていることには気づかなかった。そして最近覚えた言葉を皆に言った。

 

「ご苦労様、ありがとう」

 

 と。

                 ・

                 ・

                 ・

 

 一方、とあるちほーでは――

 

 

「アライさーん、もう少しゆっくりいこうよー」

「だめなのだ! 急がないとパークの危機かもしれないのだ!」

 

 私とアライさんは今博士たちに頼まれて火山の調査をしに来ている。なんでも何かが火山の山頂に落ちてきたというらしい。それを見てきてくれというお願いだ。アライさんがノリノリだったから私も付いていくことにしたんだけどねー。

 

「アライさんは何がいると思うー?」

 

 私はアライさんに訊いてみる。するとアライさんは――

 

「わからないのだ、実際に確かめてみるのが一番なのだ」

 

 うん、すごくアライさんらしいね、その回答は。私も少しほっこりしてしまったねえ。

 

「そうだねー、やっぱり見てみないとわからないよねー」

「なのだ! だから急がないと危機なのだ!」

 

 うーん、なんで危機なのかはわからないけどまあアライさんが早く見たい気持ちはよくわかった。

 サンドスターが降っている中をしばらく私達は歩いてようやく山頂へとたどり着いた。そういえば最近一度噴火してたねー。――うーんここまで来るのに結構な体力を使ったしまったねえ……。

 

「すこし休もうかー、アライさんも疲れてるでしょー?」

「た、確かにここまで歩いてきて相当へとへとなのだ……フェネックの言うとおりにするのだ……」

 

 二人してその場に座り込む。なかなかにハードな山登りだった。飛べるフレンズがうらやましい。アライさんも同じことを思っているのだろうか。

 

「しばらく休んだら周りを見てみるのだ、もしかするとお宝かもしれないのだ!」

「お宝ねえー、もしかするとあるかもねえ」

 

 しばらく休んだ私達は周りを見まわして何か変わったものがないかを探してみる。んー結構広いから歩き回らないとだねえ。

 

「あっちへ行ってみるのだ!」

「あいよー、アライさんについてくよー」

 

 アライさんの後をついていく。うーん私ちょっと何かいやーな予感がしてきたな――

 

「うわあー! な、なんなのだこれはー!?」

 

 あ、予感的中しちゃったみたいだね。急いで私はアライさんの所へ向かう。

 

「どうしたのーアライさん――おお、これはまた不思議なものだねえ」

 

 見るからにフレンズではない。どっちかというと獣に近いかな。でもこんな獣はみたことがない。たぶんこれが降ってきた何かで間違いなさそうだねー。

 

「大きいのだ……この獣、羽が生えてるのだ」

「ふむふむ、見た目がライオンみたいな顔つきだねー、でも角が生えてるし髭もたくさん生えてるねー。ライオンとは違う種みたいだね」

「なんかいまにも動き出しそうで怖いのだ……早く博士たちに知らせに行くのだ。こいつを見てると少し寒気がしてくるのだ……」

「アライさんがそう言うならいいよー、報告に戻ろうかー」

 

 私たちが戻ろうとした時だった。サンドスターがあの獣に当たった様でまばゆく輝きだしたのだ。あらら、これは困ったことになりそうだねえ。

 

「サンドスターがあの獣に触れてしまったみたいだねえ」

「わ、わ、あの獣がフレンズになってしまうのだ!?」

 

 アライさんがあたふたしている。うーんフレンズ化した姿も見てみたいけどここは報告が先かなあ。

 

「アライさん、先に報告に戻ろうかー」

「え!? フェネックは気にならないのか? あの獣がフレンズ化した姿を」

「うーん気になるけどー、かかわるとまた面倒なことになりそうだからねー、先に博士たちに報告に行った方がいいかなーって」

「フェネックがそう言うなら従うのだ。一刻も早く知らせるのだー!」

 

 私達は山頂を後にして博士たちに報告するために急いで山を降りて行った。

 

(あの獣、何か危険な香りがするねえ。注意した方がいいかもね)

 

私はそう考えながらしんりんちほーを目指してアライさんと二人で歩き始めた。

 




アライグマとフェネックが登場!
調査とか似合いそうだったのでこの二人を出してみました。

次回でじゃんぐるちほー編ラストになります!


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section Ⅻ: 別れと新たな旅仲間

いよいよ博士たちの元へと話は進みます!
一方そのころ――?

サブタイ変えましたー


 橋の完成を祝い皆でジャパリまんをぱくついていた私達はこれからのことについて話し合っていた。当然私はなぜこのような姿になったのかを調べるためだ。

 

「とすると図書館に向かう途中なんだねー」

「図書館はここから二つちほーをまたいでいくよー」

「かなりの長旅になるかもな」

 

 ふむ、皆の話によればここからだとやはりかなり遠いのか――まあ今の私には関係ないだろうがな。なんといっても翼を生やせるようになったのだ。かっ飛んで行けばすぐにでも着くだろう。

 

「サーバルはどうする? 付いてくるのか?」

「そのつもりだよー? ふうちゃん一人だとどこに行けばいいのかわかんないでしょ?」

「私も一緒に行ってもいいかしら?」

 

 意外にもトキも私と一緒に来るつもりらしい。二人してきょとんとしてしまった。

 

「意外だな……トキが私と一緒に来たがるとは」

「何か引っかかる言い方だけどまあいいわ。それで、私はあなたたちと一緒に行ってもいいのかしら?」

 

 願ってもみないことだ、当然私の答えは――

 

「ありがたい、是非共に行こうではないか――トキよ」

 

 こうして私は新しい仲間をまた一人増やし旅を続けるのだった。

 

 翌朝、私は不思議な夢を見た。何度も私に話しかけてくる者がいたのだ。その者はしきりに私へと何か意味深な言葉をしゃべっていた。何かはわからぬがおそらくは私に関わることなのかもしれない。だがそれが何かはわからぬ以上考えても仕方がない。まずは図書館を目指すことが先決だ。

 

「おはよー! ふうちゃん、今日出発だねー!」

「そうだな、いろいろな意味で頼もしい仲間も増えたしな」

「いろいろな意味とはどんな意味かしらね?」

 

 おおう――トキよ、いたのか後ろに。

 

「夢を見た、なにか不思議な夢だった」

 

 私は夢で見た不思議なものについて話しだしていた。何故かはわからぬが唐突に話し始めていた。

 

「ゆめ? いったいどんな夢を見たの?」

「わからぬ、だが何か私に話しかけてきているようだった」

「あなたに何かを? いったい何を話しかけてきてたの?」

「それがわからんのだ……。とぎれとぎれというかぼやけて聞こえるというか」

 

 結局皆に話してもわからなかった。その後皆が続々と起きてきた。しかし、橋造りを手伝ってくれた皆が一斉にこの場で寝ているとすごい光景となってしまうな――

 

「おはよー、みんな。きのうは楽しかったねー」

「うんうん、ちょっと疲れちゃったけど楽しかった!」

 

 カワウソとフォッサが楽しそうに話している。まあ楽しんでもらえたのならばそれはそれで何よりだな。

 

「いよいよ今日出発か、少し寂しくなるな」

「ええ、でもこの出来事は一生の思い出となりそうですわね、ふふっ」

「まあ仕方ないねー。風翔龍にだって事情はあるんだしね」

 

 すまないな、コブラ、インドゾウ、ジャガー。私ももう少しここでいろいろ学びたかったのだが、ここが私の世界でない以上私に何が起きたのかは知っておきたいのだ。

 

「セルリアンに気を付けてね? まあ風翔龍ちゃんなら楽勝?」

 

 当然だな、オセロットよ。今の私ならば空から奴らを翻弄できる、だが皆に教えてもらった通りこの力に頼りすぎてはならない。このことはしっかり覚えておくとしよう。

 

「皆も気をつけてな、セルリアンとやらには。あれに食われてしまったら何が起こるかはわからない以上、戦うのは避けた方がいい。特に一人のときはな」

 

「はは! まあ気をつけるさ。いざとなったらまたみんなで協力して倒してしまうかもな!」

「油断は禁物ですわよ? ジャガー。まあ協力することはもちろん歓迎ですけどね」

「ああ、風翔龍のおかげでそのことを学べたのだ、大いに活用していこう――これからもずっとな」

 

 よし、それでは行くとしようか。私は精神を集中し野生を解放する。サンドスターが体から放出し始め、翼が現れる。

 

「いつみても迫力満点だねーその翼」

「背中に羽が生えるって珍しいわね、本当に」

「頭に生えてる方が珍しいと思うのだがなあ私は」

 

 サーバルを抱えてふわりと宙へ舞い上がる。どんどん地面が遠くなっていく。たくさんのフレンズたちが私に向かって声を上げる。

 

「またねー! 橋をつくってくれてありがとー!」

「サーバルー! ドジして迷惑かけたりするなよなー!」

「博士たちにもよろしくねー!」

「むうー!! ドジなんてしないもん!!」

 

 サーバルのむくれた声を最後に皆の声がどんどん小さくなり、とうとう聞こえなくなった。

 

「ねえふうちゃん、ちょっと高すぎない? 雲がかなり近いんだけど」

「む? 生前はこのくらい当たり前の高さだったが」

「少しだけ肌寒いわね……」

 

 フレンズになると勝手が違うのか。ならばもう少し低いところを飛んだ方がよさそうだな。

 一気に急降下し高さを低くする。

 

「うわああああ! ふうちゃん、ストップすとっぷううううう!」

 

 む、今度は何だ? 高いから低くしてといったのはサーバルなのに。

 

「空を飛べるようになって嬉しい気持ちはわかるわ。でもサーバルを抱えていることを忘れないでね」

「そうか……私としたことが、すっかり浮かれてしまっていたようだ」

「ぐす……ひどいよおふうちゃん」

 

 泣かせてしまった。悪いことをしてしまったようだ。

 

「泣くなサーバル。その、すまなかったと思っている」

「ほんとに? じゃあジャパリまんで許してあげるね」

「う……わかった、考えておく」

 

 ジャパリまんを上げる約束をした私たちはしんりんちほーのある方向へと飛んで行く。果たして博士とは何者か、そして私に起きたことを知ることはできるのだろうか。それはまだ誰も知ることはない――。

 

              ・

              ・

              ・

 

 私と助手はとある噂をかぎつけました。なんでもジャングルちほーで見慣れないフレンズが闊歩しているらしいのです。真相を確かめるべく私達二人はじゃんぐるちほーへと急いでいました。

 

「まったく、次から次へと面倒なことが起こるのです」

「まあまあ、おわったらご飯でも食べましょう、博士」

「はあ、わかりました助手、さっさと会って帰るのです。そしてあわよくばそいつにあったら料理とやらをさせてみるのです、きっとこの世界とは違う奴だから知ってるはずなのです」

 

 しかし見慣れぬフレンズとはいったいどんなやつなのでしょう。話によるとサイの仲間のような鎧をまとっているとか。まあ危険がないのであればこちら側へ引き込むのもありなのです。しっかりこの目で見定めてやるのですよ。

 

「もうすぐじゃんぐるちほーなのです。覚悟を決めるです、助手」

「それは博士もおなじくです」

 

 密林エリアが見えてきました。相変わらず鬱蒼としているのです。ここはあまり来たくはないのです――じめじめしてて居心地が悪いのです……

 

「とりあえず川の近くへ降りましょう、まずはここのフレンズたちに情報をもらうのです」

「わかりました博士。さっさと見つけて帰りましょう」

 

 ふわりと私たちは川の近くへと降り立ちました。さて、どこをどう探したものですかね。

 

「あ、博士だ、やっほー」

 

 お、これはグッドなタイミングなのです。早速聞き込み開始なのです。

 

「ここに見慣れぬフレンズがいると聞いてきたのです、何か知ってることがったら話すのです」

「話すのですよ」

「え? うーん見慣れぬフレンズねえ、私があったのは風翔龍って子くらいかなあ」

 

 お、聞きなれない単語を知ってるのです、こいつはいい情報源になりそうなのですよ、ふふふ。

 

「風翔龍ですか。きっとそいつが私達の探している奴なのです、知ってることをすべて話すのです、われわれは賢いのですべて覚えられるのです」

「我々は賢いので洗いざらい話すのです、すべて記憶してやるのです」

「知ってることかあ、そうだな――ここ最近大雨が降ったから橋が壊れたのをまた作り直してくれたなー、あれはすごく楽しい思い出だったなー」

 

 なんと! 物を作れるほどの知能を持っているとは――これは我々にとってもライバル的な存在になりそうですね。

 

「そいつは今どこにいるのです? さあ吐くのですよ」

「慌てなくてもしゃべるから! そんな顔を近づけないでくれるかな?」

 

 ふふふ、このちほーにいるのは明確なのです。後は会って――

 

「しんりんちほーに向かって飛んで行ったよ――三人で」

 

 ――おう、なんということでしょう。まさか我々の家へと向かってるなんて予想外なのですよ。入れ違いというやつなのですかこれが。しかし手間が省けたのです。急いで戻るのですよ。

 

「これは千載一遇のチャンスなのです。急いで戻るですよ助手」

「わかりました博士。何が千載一遇なのかはよくわからないですが」

 

 私たち二人は急いでもと来た方向へと飛び立っていきました。さあ待っているのです、他世界のフレンズ。飛び切りおいしい料理を我々にごちそうするのですよ、じゅるり。




まさかの入れ違い発生です。よくある展開ですね、はいw

次回からあたらしいちほーへと話は進みます!


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Chapter Ⅲ:しんりんちほー Ⅰ
section Ⅰ: 湖の依頼人と木こり名人


舞台はしんりんちほーへと移ります。その道中で……?

何とこんな駄作を評価してくださったフレンズの方々が!!
ありがとうございます!!

文章を大幅に変更しました!


 

 私達は現在しんりんちほーへと向かっている。途中二つちほーを跨ぐと言っていたな。まあ飛んで移動しているしまるで関係はなさそうだが。

 サーバルも最初はおっかなびっくりな様子だったが、現在の状態はいたってご機嫌だ――適応の早いやつだな本当に。

 

「うおおー! すごーい! 博士たちにも連れてってもらったことあるけどこっちの方がなんかいいなー!」

「暢気なものだなサーバル! こっちはそろそろ手が限界に近いぞ――!」

「なら、どこかで休憩しましょうか――!」

 

 お、あそこはなかなかよさそうな場所だな、大きな水場か。のども乾いてきたところだったし、丁度いい。あそこにするとしよう。

 私達は徐々に高さを下げていく。やがて地面にふわりと降り立った。く――なかなか体にこたえる。野生解放のし過ぎは禁物だな。翌日が私の体がどうなるかが怖い。

 

「ここは湖畔かしら? なかなかきれいな場所ね、一曲歌いたくなってしまいそう」

「まあ練習には向いていそうな所ではあるな、その影響としてここに住んでるフレンズたちは地獄絵図になりそうだが」

「う……それは困るわね。歌ってる間は退避でもしてもらおうかしら」

 

 トキよ、強いなお前は。それだけ歌に執着しているのだな。私も貴様の歌声は何とかしてやりたい。でなければ今のままだと闊歩しながら地獄を作る兵器のような存在になってしまう。確か歌い方を変えればあの轟音はでなくなるのだったか。いったいどんな器官を持っているのだトキは。

 

「練習してみるか、トキよ。貴様さえよければ私も力になろう」

「いいの? ここが地獄絵図になるかもしれないのに」

「もちろんここのフレンズたちには言って聞かせるつもりだが?」

 

 といっても周りを見ても何もいない。ここはフレンズも寄り付かない場所なのだろうか。そうだとすればなんともったいないことか。私がここを縄張りとしてしまいたいくらいだ。

 

「誰かいないかー!!」

 

 私は大声で叫んだ。隣で同じようにサーバルも叫んでいる。

 

「おーい! いたら返事してー!!」

 

 返事は帰ってこない。だが水の中からは気配がする。何かがこの水中に住んでいるようだ。声に気付いたのか、近づいてくる。

 

「誰っスかー? これから気持ちよくお昼寝しようとしてたんスけど」

 

 ざばりと水からフレンズが上がってきた。体には茶色い毛皮、両腕には黒い毛皮をまとっている。こやつも独特な毛皮だな。

 

「それは悪いことしちゃったね……ごめんね?」

「私からも謝ろう、すまなかった」

「ああーいいっスいいッス、寝てたところを起こされたわけでもないッスから。それにここは退屈ッスからねえ……」

 

 そのフレンズははっとしたような顔をして名前を名乗った。

 

「あ、ごめんなさいッス、名前言って無かったッスね……、おれっちはアメリカビーバーっス」

 

 こちらも同じようにに名をそれぞれ名乗る。

 

「へえ風翔龍さんっスか、変わった名前っスねえ」

「ふうちゃんはすごいんだよー! さっきも橋を作っちゃったの! セルリアンも倒せるくらい強いんだよー!」

「おおおー! 橋を作れるってホントっスか!? ちょっと興味湧いたっス! それで、その橋はどこで作ったっスか?」

 

 私は食い気味のビーバーに答える。

 

「じゃ、じゃんぐるちほーだが」

「じゃんぐるちほーっスか! あそこは木が豊富にあるッスからねえ」

「ビーバーも木を使って何か作れるのか?」

「橋ほど大きなものじゃ無いっスけどね。自分の家とか作れるっスよ」

 

 なんと――自分の住処を作ることができるのか、何とも羨ましい特技だな。橋造りと比べれば断然自分の住処を作れる方が素晴らしい。私の作った橋など足元にも及ばぬだろうな。

 

「そんな目で見ないでほしいっス……。そんな立派なのはさすがにつくれないッスよ……」

「いや、作れるだけでも十分私は素晴らしいと思うのだがな。ぜひ教えてもらいたいものだ」

「いやいや!? とんでもないっスよ!? おれっちのほうが風翔龍さんから教わりたいくらいッスよ」

「私はただ渡れるようなものを作ったに過ぎない。橋と呼べるのかどうかも微妙なものだぞ?」

「それは見てみないとわからないッス! ぜひ見に行きたいっス!」

「はいはいそこまでねー、終わりが見えそうになかったから」

 

 トキが割って入ってくる。二人してきょとんとしてしまう。――なんだ、無駄に話がそれてしまっていたようだな。話を戻すとしよう。

 私はビーバーにトキの練習の件を伝える。するとビーバーは

 

「お邪魔にならないならいいっスよ、トキさんの歌声って聴いたこともないッスからね。ここにはおれっち一人で暮らしてるようなモノっスから」

「まあ、覚悟だけはした方がいいと思うよ……」

「え、歌に覚悟が必要なんスか?」

 

 そして地獄のリサイタルが幕を開けた。トキは上機嫌で歌っているがこっちはそれどころではない、私を除いてだが。

 ビーバーに至っては最初は我慢して聞いていたようだが耐えられなくなって水中へ潜ってしまった。まあ初めて聞いたのならそうなってしまうだろうな。本能が危険と判断してしまうくらいだからな。

 

 だがそれも徐々に薄れてきたようだ。破壊力も以前よりはだいぶなくなってきた。意外と教えるのってうまかったのだな私って。だがせっかくの轟音兵器がなくなってしまったな……、いやいいことなのだが。

 

「おおー! 耳をふさがなくても聞ける程度になったよ! まだびりびりするけど」

「おれっちもっス! いやー、トキさんの歌声って練習すれば変わるもんなんスねえ」

「むふふ、ありがとう。この調子でどんどんファンを増やしてこうかしら♪」

 

 ずいぶん歌が上達してご満悦な様子だ。私よりうまくなるのではないか? もっと練習すれば。

 

「あのー、おれっちからも頼みがあるんスけどいいっスか?」

「む? 頼み事か? まあ歌の練習に付き合ってくれたからな、聞かないわけにはいくまい」

「いいよー!」

「空を飛べる皆さんにしかお願いできないことッス。辺りににいい木がないか見てきてほしいっス。最近近くでセルリアンがよく目撃されてるらしくてうかつに周りを探索できなくなってしまったっスから……」

 

 木がほしいのか。まあ近くにしんりんちほーがあればそこから持ってくればいい話か。それにセルリアンもいるのか。ついでだ、こ奴のために倒しておくとしようか。

 

「いいぞ、それくらいなら安い悩みだ。サーバルはどうする?」

「もちろん一緒に行くよー! フレンズは多い方が心強いでしょ?」

「まあお前らしいな。よし、さっそく見に行ってみるとしよう、行くぞトキよ!」

「ええ、歌のお礼にたくさん探してきてあげるわね♪」

「セルリアンには十分気を付けるっスよ! ホントはおれっちだけで探すべきなんスけどセルリアンはやっぱり怖いっスから……」

 

 私達はしんりんちほーを目指してふわりと宙へ舞い上がった。ビーバーか――奴の作った住処、是非見てみたいものだ。おそらくその木を使って造り上げるつもりなのだろう。目的が変わってしまったがしんりんちほーへ行くことに変わりはない。というか周りに木はたくさん生えているのだがこれでもいいのでないか?

 

「確かビーバーはなるべくまっすぐ伸びた木がいいと言っていたか」

「上からだとわかりづらいわね。時々降りつつあたりを探してみましょうか」

 

 私達はまっすぐな木を求めて辺りを飛び回る。うーむ、湖の近くにはなさそうだ。もう少し遠ざかってみるか。

 

「あ! 遠くに何か形が違う木が見えるよ! あれかもしれないね!」

「いってみるか、まっすぐであればそれで間違いないだろう」

「早くも見つかりそうね、しかしどうやって木を運ぼうかしら」

 

 そして私に集まる目線。ああ知ってたさ。絶対私だよりになるってことくらいは。

 サーバルの言った方向へ飛び、しばらくして形の変わった木が乱立しているところへたどり着いた。

 ふわりと地面へ降り立つ。私達は辺りの木を見まわす。おお、じゃんぐるとはまた違った光景だな――何とも幻想的だ。ジャパリパークにはこんな光景も見ることができるのだな。

 

「うわあー……! すごいねー!」

「ふむ、この木で違いなさそうだな。どれもまっすぐに生えている」

 

 これをビーバーに報告すればいいのか。しかし私でもこれをなぎ倒すのは時間がかかりそうだ。ジャングルの木は太くて質感は柔らかかったが、この木は硬くてなかなか頑丈だ。切り倒せれば問題はなさそうなのだが、私にそんな力はない。一発二発ではなぎ倒すことは不可能だろう。

 そんなことを考えていると、遠くで声がしているのを耳にする。

 

「……!!!…………!!!」

 

 うめき声みたいだな。セルリアンではなさそうだ。この辺に住んでいるフレンズか――なんにせよ困っているようだな。

 

「ふうちゃん、助けに行こうよ!」

「サーバルも聞こえたか、こっちからだったな、よし行くぞ!」

 

 助けを求めている?フレンズの元へと私達は急いで向かっていった。しかしうめき声とはいったい何をすればうめき声があげれるのだろうか――。 

 しばらく行くと辺りが穴だらけの場所へとたどり着いた。私達は察した、これはおそらく誰かが埋まっているのだと。

 

「とりあえずうめき声の主を探すとしようか」

「ええ、そうね。まあすぐに見つかるでしょうけど」

「あっちから聞こえるね、行こう!」

 

 足早に声のする方へと私たちは走り出す。――いた。じたばたともがいている。上半身が土に埋もれたまま。

 とりあえず引っ張り出すか。私達は埋もれたフレンズの両足を使って引っ張った。スポンという音が似合いそうな勢いでフレンズが土から飛び出した。

 

「げえっほ! ぶぇっほ! 何をするでありま――どちら様でありますか?」

 

 肌色の毛皮をまとったフレンズが私を見てきょとんとしている。引っこ抜かれた憤りも霧散してしまったようだ。手早く私達は自己紹介を済ませる。

 

「風翔龍殿でありますか! なんだかかっこいい名前でありますねえ!」

「ふうちゃんはすっごく強いんだよー! セルリアンなんか簡単に倒せちゃうんだから!」

「私一人ではなかったがな、倒せたのは」

 

 私はなぜ埋もれていたのかを尋ねる。まあどんなフレンズでも気になるだろうな。

 

「ここは素晴らしいところだったので住処を作ろうとしたでありますが、いかんせんうまくできなくて穴掘りに夢中になって気づいたら埋もれていたであります……」

「まあここが素晴らしい場所であることは同意ね」

「わたしもこういうところに住んでみたいなあー、さばんなちほーよりも暑くないし」

 

 まあつまりは住処を作ろうとして夢中になって生き埋めになったというところか。

 

「ところで三人はいったい何をしにここへ来たでありますか?」

「私達は木を探してきてほしいといわれてここへ来たんだよー!」

「どうやらその木を使って住処を作るらしい。今からその木をなぎ倒すところだったのだ」

「ほうほう! ここの木を使うのでありますか! なんだか面白そうであります! あ、申し遅れました、私はプレーリードッグであります!よろしくでありますよ!」

 

 ずかずかとプレーリーが近づいてくる。そして――

 

              むちゅー!!!

 

 唇をくっつけてきた。いきなりのことだったのでぽかーんとしてしまった。

 

「これは私流のご挨拶であります!」

 

 そう言うと残る二人も唇をくっつけられる。世の中には変わった挨拶もあるのだな。

 

「なかなか刺激的な挨拶ね……でも会うたびに口づけは勘弁してほしいわ……」

「……」

 

 二人とも顔を真っ赤にしている。あれは口づけというのか。そんなに恥ずかしいものなのだろうか、私にはよくわからない。

 

「さて、木を切ればいいのでありますね! 張り切っていくでありますよー!」

 

 私達を放っぽりだしてプレーリーは一直線に木へと走り出す。そして、

 

「ガリガリガリガリ……!!」

 

 木の根元を齧り出した。みるみる根元が齧られて無くなっていく。いったいどんな歯を持っているのだプレーリー。

 早くも一本目の木が切り倒されてしまった。気が乗ってきたのかペースを上げてどんどん木をかじっていくプレーリー。二本目、三本目と次々と木が――

 

「ちょ、ちょっとまってえええ!」

「む、ちょうど気が乗ってきたのに何でありますか!」

 

 サーバルが齧るのを止めさせる。いい判断だぞ――。そして私が一つ提案をした。

 

「まずはビーバーをここへ連れてこよう……彼女にどの木がいいかを見てもらってからそれから木を切っていこう」

「むう、仕方ないでありますな。ではそのビーバー殿がここへ来たら切って行って大丈夫なのでありますね!?」

「え、ええ。その時はまたお願いするわ……」

 

 少し引き気味になってしまった私たちを尻目に目をらんらんと輝かせて待つプレーリー。そんなに木を齧りたかったのか貴様は――。

 

「プレーリーはここで待っていてくれ。すぐにビーバーをここへ連れてくる」

「早くお願いするでありますよー! でないと今すぐにでもかじりついてしまいそうであります! じゅるり……!」

「ちゃんとおとなしく待ってて頂戴ね?」

 

 トキに念を押されたプレーリーはしゃきんと姿勢を正して飛び去る私達を見送っていた。戻ってくると丸裸なんてことになってないだろうな……。そんな心配事を抱えて私達もビーバーの元へと急ぐ。

 




次回はビーバーの住処編です!
どんな住処が出来上がるのか――


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section Ⅱ: 二人の特技

住処を作る回になります!
どんな住処かは想像にお任せしますw

ちょいと文章を変えてみました!


 

 プレーリーをいったんおいて私達はビーバーのいる湖畔へと急ぐ。しんりんちほーへ早く行きたいのだがこの頼み事は放っぽりだすわけにはいかなそうだ。

 

「まったく、誰が歌の練習なんか頼んだのだ」

「「じー……」」

 

 まったくどこの阿呆だろうか。自分に嫌気を覚えつつ溜息を吐く。なんであんなことを言ってしまったのだろう。言った自分が不思議で仕方がない。

 

「はあ……まあ結果的にトキの殺人的な歌が改善したからいいか……」

「殺人的……まあいいわ、歌もうまくなったし今言ったことはなかったことにしてあげるわ」

 

 ため息を吐きつつ湖畔を目指す。徐々にではあるが飛んでいるときだけだが風を感じれる様にはなってきているようだ。野生解放してからまだ風の力自体は扱えないものの風そのものを感じることができないということはほぼなくなった。私が本来の力を取り戻す予兆であると思いたいな。

 

「見えてきたぞ、高さを下げるぞ! しっかりつかまっていろ!」

 

 ぎゅんと高さを一気に落とす。以前は悲鳴を上げていたサーバルもキャッキャッとはしゃいでいる。

 

「うわーい! すごーい!」

「適応力すごいわねあなた……」

 

 湖畔についた私達はビーバーをさがす。お、いたな。なにやらごそごそとやっているようだ。

 

「ビーバー! 木が見つかったよー!」

「うひゃい!? び、びっくりしたっス……おお、見つかったんスか!」

「ああ、――ところで何をごそごそとやっているのだ?」

「ああ、これっスか? 模型を作ってたっスよ、一応こんな形にしようと思うッス」

 

 ビーバーが模型を見せてくる。おお、私にはよくわからないが確かにすごいものができそうな予感はする。これをビーバー一人で作るのか、やはり作る事に関してはビーバーの方が上に違いない。

 

「ほお――まあそれは置いておいて、早速行くぞ、ビーバーよ!」

「ふぇ? 行くってどこに行くっスか?」

「もちろん木を見に行くんだよー!」

「ええええ!? そ、そんなことまでしてもらってもいいんスか!?」

「とにかく、早く戻らないと森林の危機かもしれない! 行くぞ!」

「ビーバーはわたしが連れて行くわね、しっかりつかまっててね」

「ちょ、ちょっとま……うわああああ!?」

 

 ふわりとビーバーを連れて舞い上がり、木のあった場所へと急ぐ。頼むぞー、しっかりおとなしく待っててくれよプレーリー。もし全部切り倒していたら私泣くぞ本当に。

 

「見えてきた! よかった、森林は無事みたいだね!」

「おとなしく待っててくれていたか……よかった」

「まずは一安心ね。後は邪魔が入らなければいいのだけれどね」

「不吉なことを言うものじゃ無いぞトキよ」

「うう、ぎもぢわるいッス……」

「「「ごめん……」」」

 

 素直にビーバーに謝った。ふわりと降り立った私達はまずプレーリーを探す。

 

「………!!!………!!!」

 

 ――いた。また埋まっている。学習能力がないのか貴様は。まあなんにせよ埋まってくれていたおかげで森林は無事だったようだ。

 

「ぶはああ!? た、助かったであります……」

「自殺願望でもあるのかしら、あなたは」

 

 両足を持って引っこ抜いてやる。まったく、掘る前にしっかりと考えてから掘ってほしいものだな。 

 

「おおー! あなたが風翔龍殿の言っていたビーバー殿でありますな! プレーリードッグであります! よろしくであります!」

「ど、どうもッス……アメリカビーバーッス」

「では、さっそく……!」

 

 プレーリー流のあいさつを済ますとまた木に向かって走り出した。

 

「だからちょとまってってばあ!」

「ビーバー、早く指示を頼んだ! このまま放っておくとあ奴全部切り倒しかねん!」

「わ、わかったっス! プレーリーさん、ちょっと待つっス!!」

「む、なんでありましょう? これから切り倒しにかかるところだったでありますが……」

「おれっちの言った木だけ切り倒してほしいっス。今から言うからお願いできるっスか?」

「ふむ、ビーバー殿の指示に従えばいいでありますね? 了解であります!!」

 

 するとビーバーは木に向かって歩き始め、木を上から下へと眺め始めた。あれでどの木がいいのかわかるものなのか。ビーバーという生き物はすごいのだな。

 

「ふむ、これは良さそうっスね、プレーリーさん、この木をお願いするっスよ」

「任せるであります!! ガリガリガリガリガリ……!」

 

 次々と作業をこなしていくビーバーとプレーリー。見事なものだ。じゃんぐるちほーでの出来事を思い出すな。あれよりは人数が少ないが作業は圧倒的に向こうが早い。

 

「ふう、こんなもんスかねえ……」

「次は、なにをすればいいでありますか!?」

「これをおれっちの住処まで運ぶッスよ」

「了解であります!! ってさすがに運ぶのは無理そうでありますね……」

「「じー……」」

「…………」

 

 無言の圧力。逆らえぬ私。てか二人ともにやけ顔になっているし。明らかに楽しんでいるだろ。ああ――ああ、わかったよ運べばいいんだろう運べば。

 無言で木を担ぐ。運び終わったら二人とも覚えていろ……! そう思いつつも逆らえぬ私はふわりと宙へ上がり木を運んでいくのだった。初めて自分の存在価値を疑った瞬間だった。

 

 運び終えた後、二人にお返しをした私は湖畔での作業を眺めていた。プレーリーも面白そうでありますねーと言いながらついてきている。しかしお互い別のことを考えてやっているのか、なかなか作業開始に踏みとどまっていない。さっきの素晴らしい連携はどこへ行ったのやら。

 

「ごめんふうちゃん……もう楽しまないから……うえっぷ」

「私も悪かったと思ってるわ……だからもう二度どしないから……うぷ」

「今度やったら時間を倍にしてやるからな……覚悟しておけ……ククク」

「「ひいぃいいぃいい……!!」」

 

 まあ何のことはない。ただ二人を抱きかかえて高速で5分間空中宙返りを連発しまくっただけのことだ。私は器官は頑丈だからそんなくらいで酔うことはない。何回でも回れる。まあ途中でプレーリーとビーバーのストップがかかったが。

 

「うう、とりあえず小さいのを作ってみたっスけどいまいちっス……」

「とりあえず、掘るでありますよ! ガリガリガリガリ……!」

 

 ビーバーは小さい家とにらめっこしているし、プレーリーに至っては穴を掘り始めた。――これでは埒が明かなそうだ。

 

「二人とも少しこっちへ来い」

「お? 一体どうしたでありますか?」

「風翔龍さんも手伝ってくれるっスか?」

「ああ。さっきみたいに二人でやったらどうだ?」

 

 二人を呼び、先ほどの作業についてを話す。すると二人は

 

「言われてみれば確かに二人でやったときは順調だったっスね」

「驚くほどのスピードだったでありますね!」

 

 うーむ、あれは無意識で動いていたのか。自覚していたわけではなかったのだな。ある意味二人の特技といえよう。

 

「まず二人がほしいと思うようなものを住処に足していくのはどうだ?」

「ほしいと思うものっスか……おれっちは見晴らしがいいのが良いっスね、あの島みたいな地形とかに作ったみたいっス!」

 

 ビーバーがその場所を指さす。ほほう、なかなかに良さそうな場所だな。確かにあそこは見晴らしが良さそうなところのようだ。

 

「ほう! 面白そうでありますな! では私は、地面の下からはいれるような入り口がほしいであります!」

「おおー! なんだかすごそうな住処ができそうだね!」

「じゃあ、この模型をもとに作っていくっスよ!」

 

 満場一致でビーバーの案に賛成した。住処を作るか、考えたこともなかったな。今の私であればそれも可能になった。いずれは自分の住処を自分で作り上げるのも面白そうだな。考えておくとしよう。

 

「さて、手伝うといったはいいが、どこから手を付けていくかだな」

「やっぱり入り口からじゃないかしら?」

「ということは、私の出番でありますな!! 行くでありますー!」

「あ、ちょっと待つっス! これを作りながら掘っていってほしいっス」

 

 ビーバーは何か門のようなものをプレーリーに見せている。

 

「これを途中で穴に作っていけば途中で穴が崩れる心配も無くなるッス」

「おおー! それはいいことでありますな! 早速作っていくであります! うおおー!!」

 

 ものすごい勢いで穴を掘り始めたプレーリー。あっという間に穴は向こう側へつながった。

 

「これでいいでありますかー!」

「ばっちりっス! さすがっスねプレーリーさん!」

「私達の出る幕はなさそうだね」

「木を運んでやるくらいはしてやろう、ぼーっと見ているだけでもいいのはいいが」

「私も手伝ってあげようかしら、見てるのは退屈だし」

 

 皆で一丸となって住処づくりは進んでいく。やがて住処の完成が見えてきた。

 

「もう少しっスよ! 後は上に屋根を作れば完成っス!」

「なかなか高い位置に作ったものだな。だがまあこれならばセルリアンにもすぐに気付けるだろう」

 

 木を上に運びつつ私は感想を述べる。トキも一緒に運んでくれている。割と力があってびっくりした。本人曰く歌を毎日のように歌っていたから鍛えられたとのことだ。歌でそんな力がつくのか、信じられん。ちなみにサーバルは見張り役だ。耳がいいからという理由で決定した。本人は不満そうだったが。

 

 そしてついに――

 

「「「できたあー!」」」

 

 ついに住処が完成した。こんな立派なものができるとは。フレンズ化恐るべしだな。

 

「凄いっス! 皆さんのおかげっスよ! 感謝してもしきれ無いっス……!」

「風翔龍殿はフレンズの皆をまとめるのが得意なのでありますね! その力きっとまたどこかで役に立つ時が来るはずであります!」

「貴様らほどではない。ただ皆と作業をしたまでだ」

「風翔龍さんの一声がなかったら皆一丸にはなれなかったと思うッス! ホントにありがとうっス!」

 

 二人から称賛される。私はただ指示を出しただけだというのに褒められてしまった。しかし私もフレンズというのがどういうふうに生きているのかわかった気がする。お互いを知らないために連携というものができないでいる。それを私が橋渡しをしたのだな。そのおかげで共存できるようになる。私のおかげでフレンズが一丸となる。何だろうなこの気持ちは。

 

「よーっし! 早速住処へ入ってみよう―!」

「いいわねえ、私も入ってみたいわ」

「良いっスね! 入ってみるっス!」

「一番乗りでありますー!」

 

 どかどかと住処へ入り込む。綺麗に組み上げられた木々が美しい。壁も床も隙間なくきっちりと組み込んである。これはもう住処を超えたなにかだな。

 

「すごいな……! これに住める二人が羨ましいくらいだ……」

「二人でっスか!? なるほど、それもありっスね」

「私もここが気に入ってしまったであります! ビーバー殿がよければ私もここに住みたいでありますよ!」

 

 お、なんだかんだで二人とも気が合ったようだな。プレーリーの住処も無事解決か。

 

「私もここに住んでみたいなあー! ちょっとだけ、ちょっとだけでも!」

「図書館へ行くのだろ? 悠長にここで留まっている暇などない」

「ええ、私もそう思うわ。確かに泊まってみたい気持ちは私もわかるわ。でもやっぱり今は目的を優先すべきね」

「でももう夕暮れ時っスよ? 見知らぬ地を夜に動くのは得策ではないと思うッス」

 

 確かに辺りはもう赤く色づいている。住処づくりに夢中で気づかなかった。この世界には私の知らないことはまだまだたくさんある。ビーバーの言う通り、朝を待ってから動いた方が良いのかもしれない。

 

「確かにそうだな。私は大丈夫だとしても二人はそうはいかないだろう。それで迷惑をかけてしまっては申し訳が立たない」

「じゃあ今日はここに泊まるんだね!? わーい!!」

「まあそういう理由があるなら私も賛成ね」

 

 飛び上がって喜ぶサーバル。そんなに嬉しいのか、ここに泊まれることが。

 

「それじゃ、早速ベッドを作るッスよ、こんな感じで」

「了解であります! ガジガジガジガジ……!」

 

 小さな模型からあっという間にプレーリーがそれを作り上げる。物の数分で人数分のベッドとやらが完成した。ふむ、夜にこれを使うということはここの上に寝る道具なのか。

 上に寝てみる。おお、これはまた地面で寝るよりはかなり楽なものだな。ふむ、"ベッド"だな。作ることを覚えて損はなさそうだ。あとで作り方を学ばなくては。私はそんなことを考えつつベッドに横になった。

 




アニメも見たから知ってますがものすごい建築技術ですねーこの二人。
現実にいたら建築業界から引っ張りダコ間違いなしだなw

次回は湖畔を離れてしんりんちほーへと舞台は移ります!


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section Ⅲ: ジャパリ図書館

湖畔で二人へと別れを告げる一行。
そして話はしんりんちほーへ!


 

 翌朝、もう日課の走ることをしなくてもよくなった私は野生解放について調べていた。これまでで分かったことといえば一つは敵を相手にすると自然と解放ができるということ。一つは意図的にでも解放ができるということ。あとはそうだな、意図的に解放するときは、戦った敵のことを思い浮かべていることくらいか。そして相変わらず風の力は使えない。

 

「おはようっスー、おおー、野生解放っスか。風翔龍さんは野生解放すると翼が生えてくるんスねえー」

「ああ、だが憶測ではあるがまだ力を残しているようなそんな気がするのだ」

「へえ――いったいどんな力が残ってるんスか?」

「信じられんとは思うが私は本来風を操れる特性を持っていた。おそらくその力もまだ引き出すことができていない」

「空を飛べて風を操るってまるで神様みたいっスね……確かに俄かには信じられない話ッスねそれ」

「神様か――案外当たっていたりするかもな」

 

 そんな話をしているうちに皆がぞろぞろと起きてきた。珍しいなサーバルがあくびするなんて。

 

「ふあぁー……おふぁようふうちゃん、びーばー……お顔洗ってくるね」

「ああ、いってこい。――昨日はしゃぎすぎたからだなおそらく」

「でしょうね。ベッドで飛び跳ねて壊してたくらいだったし」

「まあいくらでも作れるでありますけどね! 木さえあればでありますが」

 

 ふらふらと湖へ向かうサーバルを見送り、出発の準備を整える。嬉しいことに貯蓄してあったジャパリまんをビーバーとプレーリーから分けてもらった。これでしばらくは食糧には困らないはずだ。

 

「さて、もう出発するのかしら」

「ああ、――っとその前に」

 

 辺りを見回す。何かがこちらへ近づいてくる。この気配はおそらく、

 

「セルリアンかしらね、こちらへ向かってくるようね」

「うう、ここも危険になりそうっスか……ここは手放したくはないっスよ……」

「まかせておけ。一晩泊めてもらったお礼だ、奴を倒してからここを出るとしよう」

 

 さて、どんなやつが出てくるか――私達は身構える。

 

「む? 今までのやつとは毛色が全く違うな」

「あれが本来の姿よ、セルリアンは形を変えることができるの、何らかの条件が必要らしいけど私はよく知らないわ」

 

 見た目は丸い形をしている。不気味な物体であることには変わりないか。だがあれは今まで対峙してきたものとはまるで強さの質が違う。確かにあれくらいなら普通にフレンズでも倒すことは可能だろう。だが油断は禁物だな。

 

「あれくらいであれば貴様やサーバルでもやれるのではないか?」

「私は攻撃に特化したフレンズではないわ。どちらかといえば補助をする方ね」

「なるほどな。ならばひきつけ役はお願いできるか?」

「ええ、ただ私が危なくなったらすぐに助けて頂戴ね」

「当たり前だ。というか、貴様がそんなへまをするようには思えんな私は」

「言ってくれるわねえ、ならばなおさら頑張らないとね」

 

 そんなやり取りをしているうちに敵は腕を伸ばして攻撃を仕掛けてきた。ふ、安直すぎるなその攻撃は。私は横っ飛びで、トキは宙へ舞い上がり攻撃をかわす。

 

「こいつのいしはどこにある!? 探せるか!?」

「ええ、空中から見れば丸見えのようね! どうやら頭のてっぺんにあるみたいね……!」

「こいつは隆起しているのか。了解だ、一発で終わらせる!」

 

 セルリアンはどうやら私の方に目を付けたようだ。また安直に一直線に腕を伸ばして私を捕えようとしてくる。当然そんな愚直な攻撃が当たるはずもなく、

 

「残念だったな化け物よ、これで終わりだ!」

 

 私は跳躍し、奴の頭上へと一撃を食らわせる。手応えあったな。

 

「ふう、ぬるいな普通のセルリアンとの戦闘は」

「あなたが別格すぎるんじゃないかしら……」

 

 パカーンとセルリアンはブロック状に霧散した。やがてそれも消滅しセルリアンは跡形もなくなった。

 

「ごめん、遅れちゃったみたい! ってあれ? 終わっちゃったの?」

「ああ、さっき片付いたぞ。一足遅かったようだなサーバル」

「どうやら普通のセルリアンだったようね、さっきのは」

「なあんだ。あのこわーいセルリアンじゃなかったんだ」

「普通のなら倒せるのか?」

「大きさによるけどねー」

 

 普通のも十分不気味だと思うがな私は。どちらかといえば見た目は普通の方が私は怖さを感じた。セルリアンについてはまだまだ知らないことが多い。早く図書館で理解を深めなければだな。

 

「強いっスね風翔龍さん! 助かったっス!」

「風翔龍殿はセルリアンハンターみたいでありますな! かっこいいであります!」

 

 二人が駆け寄ってくる。ハンターか。あまり聞きたくはない言葉だな……。

 

「わ、ごめんなさいであります!? 何か気に入らないことでも言っちゃったでありますか?」

「む? ああ、すまない。気にするなプレーリー、ただ生前のことを思い出していただけだ」

「生前でありますか……昨日聞いたでありますが、確かに風翔龍殿は一度死んでいるのでありましたな」

「ああ、間違いなく私は死んだはずなのだ」

「それが気づいたらフレンズになっていたと、いつ聞いても不思議っスよねえ……」

「それを調べるために図書館へ向かっている途中なのよ」

「うん、私達はそれをお手伝いしたいから付いて来てるの!」

 

 まあ私が好きにしろって言ったから好きにしているだけなのだろうがな。なんだかんだで私もこの状況には慣れてしまった、ここへ来て仲間という言葉を知ってから私は一匹でいることがだんだん怖いと感じるようになってきたからかもしれない。

 

「ふふふー、私達をもっともーっと頼ってね!」

「あまりそう言われると鬱陶しいのだがな逆に。まあ頼りにはしているぞ」

 

 よし、ここでもうやることはないな。ではここを離れるとしよう。

 

「世話になったな二人とも。旅の途中でまたここを通ることがあったら寄らせてもらうこととしよう」

「いつでも歓迎するっスよ! いろいろと助かったっス、感謝してもしきれ無いっスよ」

「私も感謝するであります! 風翔龍殿と出会っていなかったらこんな素敵な仲間と巡り会うことはなかったでありますよ」

「言い過ぎっスよ……素敵だなんてなんか照れちゃうっス……」

 

 すっかり仲もよくなってしまったようだな。仲間か、やはり良いものだな。私はだんだんこの仲間という言葉が好きになりつつあるようだ。ついぽつりと心にもないことをつぶやいてしまう。

 

「私も仲間がいたのだろうか、生前は――」

「きっといたに違いないよ! だってふうちゃんって素敵な子だもん!」

「ちょっとネジが抜けてるところもあるけれどね」

「ねじが? よくわからんがそれは褒めているのか?」

 

 サーバルはいると思ってくれているようだ。少なくとも今は仲間は存在している――私のそばに。万が一のことがないようにしっかりせねばな。

 

「よし、貴様ら準備はできたようだな。少しスピードを上げていくぞ」

「あまり速すぎると私は付いてこれないからお手柔らかにお願いするわね」

「うう、あれを思い出しちゃうなあ……」

「それはお前が蒔いた種だろう。怖かったら目でも瞑っておけ」

 

 二人にお別れをいうとふわりと宙に舞い上がる。さてと、しんりんちほーは二つちほーを抜けた先だったな。私はサーバルをしっかりと抱えて目的地のある方角へと飛ぶ。

 

「いいコンビだったね、あの二人!」

「ああ、またいつか会える日が来るだろう!」

「その時はまた歌を聴いてもらいたいものね」

 

 しばらく飛んでいるとやがて砂地が見えてくる。ここが一つ目のちほーのようだな。さっさと抜けてしまうか。

 

「うわあー、凄いな辺り一面が砂ばっかりだー」

「砂漠だな。生前はこういうところでも活動していたな」

「暑さとかは平気なの? 見た感じかなり暑そうに見えるのだけれど」

「これくらいなんてことはない。それに空を飛んでいるからな。暑さはほとんど感じない」

 

 うーむ、しかし結構広いなこの砂漠は。もう少しスピードを上げるか。こんなところで休憩などしたくはないしな。私はスピードを上げて飛ぶ。

 結構な時間がたち。砂漠は遠くなった。代わりに今度は過ごしやすそうな広い草原が現れた。おお、ここでなら休憩も取れそうだな。いったん降りるとしようか。

 

「ここで休憩するか。しばらくしたら出発だ」

「ここはいいところね。私の歌が遠くまで届きそう」

「ここで一日中ごろごろしてたら気持ちいいだろうなあー!」

 

 サーバルがコロンと横になってごろごろしている。吹き抜ける草のにおいがまた心地がいい。ここで十分に休めそうだ。私もドスンと寝転がる。確かにサーバルの言うとおりここで寝転がっていたい気持ちになってしまいそうだ。

 

「ねえ、二人とも。ここで歌ってもいいかしら? ここで歌わなかったら損をしている気がするから」

「ああ、私は構わないぞ。サーバル次第だな」

「んー? トキ、ここで歌うのー? まあふうちゃんがいいなら私もいいかなー!」

 

 私たちの了承を得るとトキは歌い始めた。あの地獄の轟音がまあ何とも心地の良い声に変ったものだ。思わず眠ってしまいそうだな。歌っているのは依然聞いたあの歌か。

 

「どうかしら? 私の歌」

「ああ、前と比べるととても心地のいい気分だったぞ」

「うん、わたしも耳が痛くなくなったよ! トキ歌がうまくなったんだね!」

「むふふ♪ ありがとう♪」

 

 さてと、十分休めたし、出発するとしようか。二人に合図をしてまた舞い上がる。ホントを言うともうちょっと寝転がっていたかったが、まあさっさと目的地を目指した方が良いだろう。私達は草原地帯を後にした。

 

 森林地帯へ着くころにはもう陽は真上にあった。ここのどこかに図書館があるのだな。そのことについてはサーバルが知っているか。渡すはサーバルに図書館について聞いてみる。

 

「え? 図書館がどこにあるかって? んーとね……あれ、どこだっけ?」

「おい、ちょっとまて。サーバルまさかわからないのか?」

「うん……わかんない」

「私は知ってるわよ、案内するわね」

 

 トキ、サーバルと違って貴様は役に立つのだな――サーバルにも見習ってもらいたいものだな。その記憶力を。

 

「あ、わたしのことバカって思ってるでしょ!?」

「そこまでは思っていないぞ、5割ほどだが」

「やっぱり思ってたー! ひどいよー! 私ドジだけどバカじゃないもん!」

 

 ドジなのは認めてしまうのか。サーバルには悪いがやっぱり阿呆だな。まあお前も切れるときは切れるのだが。

 

「みえてきたわ、あそこが図書館よ」

「あれか、なんだか思っていたものとずいぶん違うな」

 

 見えてきたのは不思議な形をした建物だった。あそこに博士が住んでいるのか。しかし、長旅だったな。これでようやく私に起きたことを知ることができるのか。

 

「よし、降りるぞ」

「ええ」

 

 ふわりと地面に降り立つ。近くで見ると割と大きいな。これが図書館か。早速中に――

 

「あー! どろぼうなのだー!」

 

 入ろうとしたら叫び声が聞こえてきた。どろぼう?

 

「アライさーん、泥棒はそんな堂々と入ったりしないと思うけどなあー」

 

 遅れてもう一人声がした。だんだんこっちに来ているようだ。

 

「何者だ。私達はただ調べたいことがあってここへ来ただけだ」

「あやしいのだ……ホントは博士たちがいないのを狙ってきたのだ。――ホントのことを言うのだ!」

 

 思わず私たちは首をかしげる。何を言っているのだこのフレンズは。

 

「アライさん、どうやらほんとに調べ物をしに来ただけみたいだよー?」

 

 どうやら青色の毛皮をまとったフレンズが一人で突っ走っているようだな。私達をどろぼうとか言っているが隣にいるピンクの毛皮のフレンズはどうやら彼女が勘違いをしているのを窘めてくれているようだ。こっちはまともそうな奴でよかった。

 

「図書館はいま留守だよー。博士たちは見慣れないフレンズが出たーとうわさを聞いて飛んで行っちゃった」

「見慣れないフレンズか。もしかするとそれは私のことか?」

「どうだろうねえー。この世界ではいまなにか不思議なことが起こっているみたいだしねえ」

「不思議なこと? どういうことかしら」

 

 私達は二人の言う不思議なことに興味を持った。私がここへ来たことも十分不思議なことに当てはまるか。それ以外にもその不思議なことが起こっていたとはな。例のセルリアンもそうか。私達は彼女たちの話を詳しく聞くため図書館へ案内するよう頼んだ。

 




さて物語もだんだん深みへ入っていきます。
例のあの子もどう絡んでくるのか……

次回は図書館でのお話です!


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section Ⅳ: フレンズ化とけもの

主人公について調べる回です!
果たして何かわかることはあるのか……

そしてとあるフレンズ達が……?


 図書館の中へと案内された私達は互いに自己紹介を済ませる。このやり取りももう慣れたものだな私も。

 

「ごめんなさいなのだ……どろぼうなんて言っちゃって」

「気にしていない。もう過ぎたことだ。さっさと忘れてしまえ」

「アライさんは突っ走りがちだからねえー、でもそういうところが好きなんだけどねー」

「仲がいいのね二人とも」

 

 改めて中をぐるりと見渡してみる。ほほう、図書館にはペラペラなものがたくさんあるのか。それを束ねて置いてあるな、この中に私を知ることができるものがあるのか。

 

「お、何か知りたそうな顔してるねー、これらはすべて本っていうのさー」

「本か。しかしこれだけ大量の本から私に関することについての本を探すのは相当な時間がかかりそうだな――」

 

ずらりと並んだ本を見てため息をついてしまう。本について何もわからない以上、虱潰しに探すしかないか……。

 

「もちろんわたし達も手伝うよー!」

「アライさんも手伝うのだ! アライさんが一番に見つけてあげるのだ!」

「私も手伝うわ、歌を練習してくれたし、そのお返しにね」

「それじゃ、みんなで探すとしようかねー」

 

 私達は手分けして本を探すことにした。しかし肝心なことをすっかり忘れていた。とても重要なことだ――内容がわからん。

 

「――読めん……。これはいったいなんなのだ、どの本にも同じ印がたくさん並んでいる」

「あー、そうか文字が読めるとは限らないよねえー」

「もじ? この印は文字というのか。せめて読み方さえわかれば内容も見えてくるのだが――」

「うーん、わたしもわからないなあ……本なんて一度も見たこともなかったし」

「サーバル、あなたそれで手伝うーってよく言えたわね……まあ私も断片的にしかわからないのだけれど」

「アライさんもこの文字は読めないのだー……フェネックならわかるのだきっと」

「無茶言うねえーアライさん。まあでもアライさんの頼みなら何とか読める範囲で読んでみるよー」

 

 私は文字をある程度皆から教わった。うーむ、こんな面倒な印をフレンズ達は使っているのか。だがちょっとは読めるようにはなった以上、内容も少しだがわかるようになっただろう。

 改めて本探しを再開する。ふむふむ、この本はだいえっととやらについて印されているのか。文字は読めるが意味が分からん。

 

「うーむ、読めるのはいいが文字の意味が分からないことが多いな……」

「ぷしゅー……」

「なのだー……」

 

 サーバルとアライグマは早くもダウンか。二人に本は難しすぎたのか? 一応二人も私と一緒に読めるようには教えてもらっているはずだが。

 

「あらら、二人とも休ませとこうかー、私達は本探しを続けようかねー」

「これだけ読んだが一向に私に関する本は見つからぬとは――探すのはだんだん無駄な気がしてきたのだが」

「それじゃどうするの? 博士たちが帰ってくるのを待ってるの?」

「まあ博士たちに聞いた方が早そうな気はするねー、待ってるのもいいかもねえ」

 

 結局私達は本を探すのをあきらめて博士たちが戻るのを待つことにした。

 

 

「そういえばフェネックよ。不思議なことが起きているといったな。詳しく教えてはくれぬか?」

「いいよー。アライさんと私は博士たちの頼みであの山の山頂へ調べ物をしに行ったのさー」

「フェネック、あのけものの話をするのか? ならアライさんにも話させるのだ!」

「調べものか。いったいどんな話を聞いたのだ?」

「空から何かが山頂に落ちてきたということを聞いたらしいのだ。んで調べ物をしていたアライさんとフェネックに調べてきてほしいと頼まれたのだ」

「半ば強引だった気もするけどねえ、まあ博士たちの性格上断るのはあきらめたけどね」

「え、無理やり行けって言われたの!?」

「いや、無理やりじゃないよー? 見返りにジャパリまんをたくさん分けてもらったからね」

「買収されてるじゃないそれ……」

「ばいしゅう? よくわからないがジャパリまんたくさんもらえると聞いたから引き受けたのだ!」

「アライさん一人で行かせるわけにはいかないからねー、私も一緒についていったのさー」

 

 結局アライグマの性格上断れなかったんだな。なんだかその博士はあまり性格は良さそうではなさそうだな……。だが彼女らしか知らないとなれば頼るほかあるまい。

 

「それで調べに行ったんだろう。何があったのだ?」

「でっかいけものがいたのだ! 体が赤いけものなのだ!」

「けもの? それってフレンズ化する前の姿ってことかしら?」

「たぶんそうだねー。翼が生えてて、まるでライオンのような風貌だったね。角も生えてたかな、折れてたみたいだけど」

「折れていた? ひょっとするとそのけもの――横たわっていたのか?」

 

 不自然だ。角が折れた状態でここへ来るということは、何らかの戦闘か何かがあったということ。ということは――

 

「なのだ。まったくピクリともしなかったのだ。逆にそれが怖かったのだ……」

「たぶんあれは死骸だったのかもねえ。見つけてもどうしようもなかったからそのまま山頂に置いてきたけどね」

「その戻ろうとした直後にサンドスターが触れてしまったみたいだったのだ。ぴかーって光り出して――」

「サンドスターが!? その後どうなったのだ!?」

 

 私は少し食い気味で二人へ詰め寄った。

 

「お、落ち着くのだ……! そのあとはわからないのだ。何かフェネックが感じ取ったみたいでそのままここへ戻ってきたのだ」

「危険だと思ったからねえー、その姿は見らずに降りてきちゃったのさ」

 

 うーむ――サンドスターが触れて光り出した、か。やはりそのサンドスター、一度調べてみた方が良いかもしれぬな。私のフレンズ化にも関係があるやもしれぬ。

 しかしもしサンドスターの影響でフレンズ化したということが正しければ、私のほかにもう一人見知らぬフレンズが誕生してしまったということになる。となると厄介な話になりそうだな。私も関係なくはなくなってしまう可能性が高い。早くこの世界のことが知りたいが、まずは私に関する情報だ。

 

「何か陰が近づいて来てるよ!」

 

 突然外からサーバルが駆け込んできた。少しあたふたしている。

 

「なに!? サーバル、一体どうしたというのだ?」

「たぶんフレンズだと思うけど、空からじゃないから博士たちじゃないと思う」

「どっちから来ているのだ?」

「うーんとねえ、こっちからだね!」

 

 サーバルが指さす方向を見る。森林の中から確かに草木の擦れる音がする。音が大きい。おそらく走ってこちらへ向かってきているのか。

 

「博士! 大変だ――って誰だお前は!?」

 

 見慣れぬフレンズがまた増えた。手には大きな手を持っている。これは私と同じような武器の類か。毛皮は白と黒だな。何か慌てているようだ。

 

「貴様こそ何者だ? 私達は調べ物をしに来ているだけだ」

「そうなのか? ――よく見るとお前、見慣れないフレンズだな……」

 

 物わかりの良いフレンズでよかった。やはりしげしげと眺められている。まあこの世界には居るはずのない存在のようだからな私は。

 

「私はヒグマだ。セルリアンを倒して回るハンターをしている」

「私は風翔龍だ。ここへは私のことについて調べに来ている」

 

 ハンターか。私の知るハンターとは違うようだ。同じ人間の姿であれど、彼女らはセルリアンを倒すハンターらしい。私の態度次第で敵か味方が変わるようだな。ならば友好的に行くとしようか。

 

「ほう、セルリアンを倒しているのか。ならばけものの姿をしたセルリアンはみたことがあるだろう」

「けものの姿? うーん、私が倒したのはでっかい嘴をもった鳥のようなセルリアンくらいだったかなあ、翼があるからそうとは言えないが」

 

 む、気配がまた近づいてくる。こちらも走って来ているようだ。セルリアンではないか。

 

「ああ、警戒しなくてもいい。私の仲間だ。一緒にハンターをやっている」

「やっとおいつきましたー……」

「ぜぇぜぇ……いきなり走り出さないでくださいよぉー」

 

 森林から黄色の毛皮のフレンズと黒白の変な模様のフレンズが現れた。黄色のフレンズは棒のようなものを持っている。あれが彼女の武器だな。

 

「まったく、たるんでるぞリカオン。少しは運動したらどうだ」

「度が過ぎてるんですよ、ヒグマさんのトレーニングは! なんですか腕立て腹筋各1万回って」

「これくらいできて当たり前だろう!」

「ヒグマさん基準で考えないでほしいですよ!?」

 

 また騒がしくなりそうだな。私は思わずため息を吐いた。

 

「あはは……ごめんなさい騒がしくしちゃって。でも皆いい子たちなんでそこは我慢してくださいね」

「――わかった。してヒグマよ、なぜそんなに焦っていたのだ?」

 

 慌ててここへ走ってきた訳を聞いてみる、すると、

 

「山頂にとんでもないやつがいたんだ。マントを羽織ってて体は赤い鎧のような物をまとっていた。髪は赤くて顔はライオンに似ていた」

 

 ――なるほど。私の読みは間違ってはいなかったようだな。

 

「なるほどな――ようやくフレンズ化の原因が分かった。感謝するぞヒグマ」

「へ? お前もフレンズ化したのか? 元はどんなけものだったんだ?」

「私か? うーむ、言葉ではうまく言うのは難しいのだが、大きいけものだったのは覚えている」

 

 確か生前はハンターを見下ろすほどの大きさだったと自覚している。水を飲むときに映る姿くらいしかなかったからな。せいぜいわかるのは顔くらいか。

 

「すまぬがあとはよくわからない。顔以外は自分の姿など見たこともない」

「きになるのだー……! わかったら教えてほしいのだ!」

「まあフレンズ化する前ってほとんどみんな姿はわからないものだしねえ」

「私もどんな姿かはわからないわね。鳥だったことくらいしか覚えていないし」

 

 皆フレンズ化する前はどんな姿かわからないものなのか。いったいどんな性質を持っているのだサンドスターというものは。

 っと、話がそれてしまったな。つまりそのフレンズ化したけものが今山頂にいるということか。

 

「それで報告に戻ってきたということでいいのかなー?」

「それであってる。博士たちは今いないのか?」

「たぶん戻ってきているころだと思うのだ。用があるならここで待つといいのだ」

「用も何も緊急の報告なんですけどね」

「できれば今すぐ会いたいんですけど……」

 

 まあ確かに私のような性格とは限らないしな。何をしでかすかわかったようなものではないか。もしもそ奴が彼女らを追ってきているとなればここら一体がどうなるか分かったものではないな。

 

「サーバル、周りに気配は感じるか?」

 

 念には念を入れて気配がないかサーバルに確かめる。サーバルは耳をピコピコ動かせて音を探る。

 

「――――大丈夫みたい。周りから聞こえるのは草の揺れる音だけだね」

「どうやら追っては来ていなかったようね、まず一安心ね」

「山頂付近を縄張りにでもしたんだろうなおそらく」

「もし山頂に近づく子たちがいたら危険ですね」

「でもあれを相手にできる自信はないですよ……相手の力は未知数ですし」

 

 まずは様子見からというところか。まったく、とんでもないことをしでかしてくれたものだなサンドスター。フレンズ化の原因はサンドスターにあったとは。これでようやく一つの謎が解けた。

 

「そういえば私達二人の名前をまだ教えていませんでしたね。私はキンシコウといいます。よろしくお願いしますね」

「リカオンといいます。ハンターとしてはまだまだですけど、よろしくお願いです」

 

 キンシコウにリカオンか。ヒグマと比べると力はそんなに強くはなさそうだな、どちらかというと頭が切れる方か。

 

「まあ相手が動いてくれていないならこちらも動きやすいな。まずはどんなフレンズなのか動きを見よう。あの時は突然だったからよくわからなかったしな」

「えー!? またあそこに行くんですか!?」

「でも行かないとわかりませんよ? 怖いのは私たちも同じです」

 

 少しビビり気味のリカオンを二人が窘める。私達もついていった方が賢明か?

 

「お三方はここに残って博士たちを待っててくれませんか? すぐに戻りますのでご心配なく」

「ならば私だけ行くというのはどうだ? 相手も同じ未知のけものだ。何か分かり合えるようなことがあるかもしれん」

「え!?ふうちゃんだけでいっちゃうの!? なら私も行くよ!」

「心配するなサーバル。ひとっ飛びで様子を見に行ってくるだけだ」

「暴走しないか心配だよ……」

「――わかった。戦うことはしないと約束しよう。もし相手が敵意を向けてきたらすぐに逃げることを優先する」

 

 私は野生解放をする。現れた翼をぶわっと広げ、飛ぶ準備を完了する。

 

「うわあ!? びっくりした! いきなりなんなんですか……」

「飛んで行った方が早いだろう?」

「驚いたな……風翔龍は飛べるフレンズだったのか、飛ぶのに野生解放が必要なのは珍しいな」

「ほんとですね……それが風翔龍さんの特技になるわけですね」

「いや、私の特技はまだ使えていない」

 

 ぽかんとする三人組。"え、どういうこと?"といった風な顔だな。

 

「私は本来は風の力を使えるはずなのだ。だがフレンズ化してからはそれがいまだに使えていない」

「すごいのだ! 風翔龍はまるで神様のようなのだ!」

「神様ねえー、なんだかあながち間違いでもない気もするねえ」

「ええー!? ふうちゃんってそんなにすごいフレンズだったのー!?」

「真に受けるな真に。神様というのはわからんがそんなに凄くはないと思うのだが」

 

 またぽかーんとしている。今度は私以外の全員が。

 

「いやいや、風を操れるってだけで十分すごいと思いますよ!?」

「まるで伝説のけものだな……案外ホントに伝説級だったりしてな」

「まあ本人からすればフレンズ化前はその力を当たり前のように使っていたわけだしね。凄さが実感できないのはわたしもわかるわ」

 

 でんせつ? まあとにかくすごいということか。まあそれは置いておいて――

 

「出発しよう。一刻も早く行かないとフレンズが犠牲になる可能性があるのだろう?」

「え!? あ、ああ。そうだったな、頼めるか?」

「私達もお願いします」

「うう、あんまり行きたくないけど腹くくるしかないですか……! お願いします」

 

 私はハンター三人を抱えてふわりと宙へ舞い上がる。

 

「付いていけないのは残念だけどふうちゃんの邪魔になっちゃいけないもんね! 気を付けてね! 博士たちには私達から伝えておくからね!」

「こっちは任せておくのだ! しっかり見張るのだ!」

「途中で寝たりしたらだめだよーアライさん」

「もしボロボロになって帰ってきたら地獄のリサイタルでも開こうかしら、一晩中ね」

「トキ、それはやめてね?」

 

 え、あの歌い方って意図してできるものなのか? だとしたら恐ろしい武器を持ってることになるぞトキは。

 

「さすがに冗談よさっきのは。無理はしないようにお願いするわね、じゃないとサーバルがまた泣きじゃくるわよ」

 

 質の悪い冗談だ。トキの場合真実に聞こえてしまう。う……さすがにまたあ奴を泣かせてしまうわけにはいかないか。あれは見ていて胸がどうにかなりそうだったし。心の中で無茶なことはしないと私はしっかり釘を刺し、私とハンター三人は山のある方向へと飛んで行った。

 




やっと自分がフレンズ化した原因を突き止めた主人公、
そして謎のフレンズ、いったいどんなテスカトルさんなんでしょうか……

短いですが一旦しんりんちほー編は終わりです、
次回はサンドスターの山でのお話になります!


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Chapter Ⅳ:さんがくちほー
section Ⅰ: 山の憩い場


物語はサンドスター山へと移ります。
山の名前は勝手に付けましたw


 

 真下に見える森林をわき目に私達は山の方向へ飛び続ける。最初はおっかなびっくりだった三人も今は落ち着いているようだ。まあ空を飛べないフレンズがいきなり空を飛ぶのだから最初怖がるのは当然か。

 

「しかし、ほんとに私たち空を飛んでるんですね今……」

「最初は怖かったですけど慣れると風が気持ちいいですねぇ」

「うう……慣れたのは慣れたがやっぱり下は見れない……」

 

 ヒグマ以外は楽しんでいるようだ。しかし意外だった、結構男気な性格のヒグマが高さを怖がるとは。

 

「見たくないなら目を瞑っていろ。それで何とかなるだろう」

「逆に怖いと思いますけど……目を瞑ると」

「そうなのか?」

 

 うーむ、キンシコウの言う通りなのかもしれん、実際その気持ちを私はわかることはできないからなあ。

 

「ま、まだ着かない!? そろそろ降りたい気持ちなんだけど――!」

 

 あたふたしている。なんだ、可愛げのあるところもあるんだな貴様も。思わずにやついてしまった。見られてたら蹴りでも入れられたかもしれぬな。

 

「もうだいぶ近くなってきてるぞ。貴様のためにも休めそうな場所を見つけてそこで休憩しよう」

「そうですね、このままヒグマさんの様子を見るのも面白そうでしたけど可哀そうですしね」

「キンシコウ!?」

「レアですよねぇ、ヒグマさんのこういう一面を見られるなんて!」

「リカオンまで!?」

 

 がっくり項垂れるヒグマ。ちょ、いきなり力を抜かれたら落としかねない! ――まったく運んでいる私の身にもなってもらいたいものだ。

 

「ああ、私の黒歴史ができてしまったぁ……かっこいい私のイメージが……」

「可愛い一面もあるのもいいと思いますけどねぇ」

「そうですよ、今までなかった自分の新しい性格もさらけ出してもいいと思いますよ私!」

「――想像できるか? 私がエプロン愛好会の子たちのようなフリフリをまとっているところなど」

 

 私含む三人が想像する――

 

「「「ごめん、やっぱり無理です」」」

「お前らああああああああ!!!」

 

 バッサリと否定してしまった私達。それを受けてヒグマの虚しい叫びが空に響き渡った。実際着てみたい願望はあったのか。やっぱりかわいい一面もあるんじゃないかヒグマ。私は似合いそうだとは思うがねえ。つい無理って言ってしまったが。

 

 そういうやり取りをしていると山が目前へと迫っていた。この山頂に私と同一の世界から来た可能性のあるけものがいるというのか。だがまずは休める場所を探さなくてはな。

 山を上がりつつ探してみる。 んーさすがにごつごつしていて休むには適さないような地形が続いているな……これでは山頂についてしまいそうだな。周りも回りながら登ってみるか。

 山の周りをぐるぐると回りながら上がっていく。やはり同じ地形が続いているな――む? 少し開けているところがあるな。何やら建物もある。フレンズたちが作ったものだろうか。何にせよ休むにはちょうどよさそうだ。

 高さをどんどん低くし、ふわりと降り立つ。天気がいいからここはいい景色だ。私も高いところは落ち着ける。山の上は天気が変わりやすいがここは落ち着いているようだな。これもサンドスターのせいなのだろうか。まあなんにせよ天気がいいからいいがな。

 

「やっと地面だ……あー生きた心地しなかった」

「大袈裟ですよヒグマさん、ふふっ」

「笑うなキンシコウ! マジで怖かったんだからな!?」

「はいはい、わかりましたヒグマさん♪」

「おお、なんか建物がありますね、行ってみましょうかー!」

「ぐぅう……!!」

 

 唇をかみしめるヒグマをよそに目の前の建物に私たちは近づく。ここに建って結構な月日がたっているようだ、壁にはところどころかけている箇所がある。いったい何をするためのものだろうか。だいぶ知識もついてきた私もこれはわからない。というか私よりも知識がありそうな三人も興味ありげに建物をいろんな角度で眺めている。どうやら三人もここには初めて来たようだな。

 

「入り口は……あそこか。こんなとこに住んでる子なんているのかねえ」

「まあ入ってみないことにはわかりませんね」

「お化けが住んでたりしてね……」

「「!!??」」

「おばけ?」

 

 お化け――また不思議な言葉だ。何かこの世のものではない物体を思い描いた。てことは実際には存在しない物なのか?

 

「お化けを知りたそうですねえ。お化けっていうのは簡単にいうと死んだ人が目に見えて出てくるんですよー」

「死んだ者がでてくるのか……なんとも不可解なものだなお化けというものは」

「怖がらないんですねお化け」

「怖いも何もお化けそのものを知らないしな私は」

「私と風翔龍さん以外は怯えてるみたいですけどね」

「「…………ガクガクブルブル」」

 

 キンシコウとヒグマががくがくと震えている。ふむ、お化けとは怖がらせるためにいる存在なのか。なんとも迷惑な存在だな。まあ実物を目の当たりにしたところで私は怖さも感じられないと思うが。

 

「ま、まあいい。とにかく中に入ろう。……ほんとに出てきたらどつくからなリカオン」

「ええ!? 勘弁してくださいよぉ」

「自業自得ですね、リカオン」

 

 震えながら近づく二人とそうでない私達二人。ジャパリまんもあるといいな――

 ドアを開く。きしんだ音を立ててドアが開いた。それと同時に小気味の良いちりんちりんという音がした。中には何やら四つ足の着いた物が並んでいる。大きいものと小さいものがあるな。小さいものには出っ張った板がついている。大きいものは無い。何に使うものだろうか。

 

「あらぁ! ここにお客さんが来るなんてぇ! ようこそぉ!」

 

 何やら部屋の奥から声がする。ぱたぱたとこっちへ駆け寄ってくる。

 

「いやぁー久しぶりにお客さんが来てくれたぁ! どうぞゆっくりしていってねぇ!」

「あ、ああ。所でここはいったい何なのだ?」

 

 いきなりのことで私たちはポカーンとしてしまった。白い毛皮をまとったフレンズがここには住んでいたようだ。私達のことをお客さんとか何とか言っていたな。

 

「お客さんとは私たちのことか?」

「そうだよぉー。――あれ、もしかしてお客さんじゃなかった?」

「いや、一応お客さんではありますね、休憩しにここへ寄りましたから」

「ふぁあああ……! やっぱりお客さんだったんだねぇ! こうしちゃいられないねぇ! まっててねぇ、今おいしい飲み物入れてあげるからねぇ」

 

 またぱたぱたと奥の方へ行ってしまった。まあいいか、ここはどうやら休む者のためにある建物みたいだしな。

 

「しかしこんなところにフレンズたちは来るのだろうか……」

「久しぶりって言ってましたしねえ。知られていないのかもしれませんね」

「なんか雰囲気は良さそうだがなあ。場所のせいでここへ来にくいのかもしれんな」

「ですね……。ここに来る子ってたぶん飛べる子くらいしかいなさそうです」

 

 各々がここの感想を述べる。もしここが知られたらフレンズたちはここへ来るのだろうか。

 

「お待たせぇー! 熱いからきをつけてねぇー」

 

 白毛皮のフレンズが私達に何やら褐色の液体を器に入れて持ってきた。

これはまた……何とも言えない色をしている。

 

「あー、名前いってなかったねぇ。私はアルパカだよぉ。ここでカフェを開いてるのぉ。今出したのは紅茶って言うんだよぉ。博士のお墨付きだからぜひ飲んでみてねぇ」

 

 まだ博士に会えてないから何とも言えんが、まあ飲んでみるとしようか。

 

「ほう――なかなかに落ち着けるな。私は好みだ」

「ほんとですね――なんだかほわぁってなっちゃいます」

「うーん、私は好きにはなれそうにないです……」

「好き嫌いはよくないぞ、リカオン。こんなにおいしいのに」

「いいのいいの! フレンズによって好き嫌いはあるだろうからねぇ」

 

 アルパカは気にしていないようだ。これとジャパリまんを合わせて食べてみたいものだなあ。

 

「ふふふー、ジャパリまんが食べたそうな顔してるねぇ? いいよぉ、もってきてあげるよぉー」

「――ここの世界の者は皆読心ができるのか??」

「まあ食べ物って言ったら主にジャパリまんだからなあ」

「風翔龍さんはお好きなんですか、ジャパリまん」

「む? ああ、まあな――」

 

 何とか語りたい気持ちを抑えるが、アルパカが持ってきた現物のせいで爆発してしまった。私のジャパリまんに対する語りは小一時間ほど続いてしまったという。

 

「はっ!? もしかしてまた私はジャパリまんを……」

「はい、それはもう満面の笑みで語ってましたよ」

「いつもの面とのギャップが面白かったぞー?」

「そのギャップが大きすぎて……ぷぷっ」

「いやージャパリまんが好きなことがよぉーく分かれてよかったよぉ」

 

 ニコニコ顔でそのことを打ち明ける二人と噴き出す一人、そして素直に感想を述べるアルパカ。ああーまたやってしまったのか私は。だめだもう現物を見ると止まれる気がしない。そうだなもうすっぱりこれはあきらめよう。私の特徴と考えてしまおう。何かもうダメな方向に考えてしまっている気もするが。思わずため息が出る。深い深いため息が。

 

「元気出してください風翔龍さん。ほら、紅茶お代わり来ましたよ」

「死にたい……もうどうにでもなれ」

「わるかったって、誰にも他言はしないから」

「いや、もうたぶん手遅れだと思う……貴様ら以外にも見られているしな」

「そんな時は紅茶を飲んで落ち着いてぇ、はいどーぞぉ」

 

 とん、と紅茶が目の前に置かれる。私はそれを飲んでまたため息をつく。

 

「ふうー……もううじうじするのはやめにしよう。これも私の個性だと割り切ってしまおう」

「おおっ、元気が出たみたいだねぇ、よかったよかった。それも個性でいいと思うよぉ私も」

「割り切っちゃった方が確かに楽ですね、いいと思います私もそれで」

 

 アルパカとキンシコウはやっと立ち直った私を励ましてくれた。なんと優しい二人だ。

 

「でもやっぱり思い出しちゃうと笑いそうになっちゃいますね……」

「こらリカオン、ぶり返すとまた面倒だろうが。せっかく彼女が立ち直ったのに」

 

 残る二人は小声で何かぼそぼそと話している。丸聞こえだぞ貴様ら。まあ聞かないふりしておいてやるか。

 しかし本当にほかのフレンズたちは来る気配もないな。周りは閑散としている。こんなところによく一人で住めるものだなあ。生前なら私は何とも思わなかっただろうが、今なら耐えられないだろうな。

 

「あはは、大丈夫だよぉ、最初は寂しかったけど今はもうそれになれちゃったからねぇ」

「寂しくなくなったのか?」

「確かにお客さんが来ないのは寂しいけど、一人で紅茶を作って飲みながらこの景色を眺めてるとそんな気持ちも吹き飛んじゃうんだぁ」

「まあ確かに、この景色を見ると心が落ち着くな」

 

 現在は外で紅茶を楽しんでいる。アルパカの言う通り外で飲むのもまた趣があっていい。沈んだ気持ちも自然と無くなってしまうのも頷けるな。

 

「ところで、ここを目当てに来たんじゃないんだよねぇ? もしかして山頂を目指してるのぉ?」

「ああ、この山の頂に私と同じようなフレンズがいるという話をそこの三人から聞いてな。確かめに行くところだ」

「万が一フレンズに危害が及んでしまったらいけないからな、もし危険そうなら四人がかりででも捕まえるつもりさ」

 

 一応戦わないとは約束したが、やむを得ないときは戦闘も覚悟しておくか。

 

「ところで、そのお客さんが来てほしいとは思わないのか?」

「もちろん来てほしいと思ってるよぉ。でもここは場所が悪いこともあるからねぇ、あまり期待はしてないねぇ……」

「ならむしろ山のふもとでカフェを開くのはどうでしょうか?」

 

 しかしふもとに建物らしきものは見当たらなかった。それにもしあったとしてもそれがここの代わりになるかもわからない。――ん?まてよ……

 

「一つ思ったのだが、作ってしまったらいいのではないかと思うのだ」

「え?! 建物をですか!?」

「作るっていったって私達じゃ作り方なんてわからないぞ」

「もちろん、私に当てはあるさ。彼女らならばきっとやってくれるだろう」

「おおー! 建物づくりの得意なフレンズがいるんですね!?」

 

 まあそれはとりあえず図書館に戻ってから考えるとしよう。人数は多い方が良いしな。

 

「新しいカフェをつくってくれるのぉ!? すっごく助かるんだけど、そっちの迷惑にならないかなぁ……」

「そんなこと思うわけないだろアルパカ。むしろそれでフレンズがたくさん来るようになるなら私達もうれしいさ。当然私達も完成したら立ち寄らせてもらうぞ!」

「ええ! またおいしい紅茶をご馳走してくださいね!」

「出来れば、紅茶以外のも……なんて」

「あはは、考えておくねぇ。――皆ホントにありがとねぇー」

 

 さてと、とりあえず約束をしたが、まずは安全のために山頂のフレンズの偵察だ。私達は山を見上げる。少し不気味な雰囲気が漂っているように感じた。

 

「きをつけてねぇ。終わったらまたここによって落ち着いていってねぇー、いつでも待ってるよぉ」

「ああ、ありがとうアルパカ。おかげで体力も回復した、これで万全の状態で山頂のフレンズと対峙できる」

「いよいよだなみんな。気は抜くなよ、相手は未知のフレンズだ」

「わかってますよヒグマさん。とりあえず危険だと感じたらまず逃げましょう」

「ええ、無茶な戦いはしないようにしましょう。風翔龍さんもお願いしますね!」

「ああ、泣き虫フレンズから念を押されたからな。もしかすると戦闘は避けられんかもしれんが無茶なことは絶対にしない、約束しよう」

 

 お互いを鼓舞し合うと私は三人を抱えて翼をぶわっとはためかせ、宙に舞った。

 

「うわあー……! すごいねぇえ! 風翔龍さんって飛べたんだねぇ!」

「言って無かったな、すまなかった! ではなアルパカ、また寄った時はよろしく頼むぞ!」

 

 アルパカの住んでいるカフェがどんどん遠くなっていく。やがて雲に隠れて見えなくなってしまった。私は上を向いて翼をはばたかせ、山頂を目指す。

 




ここでアルパカさん登場!書いているときも脳内再生余裕でしたw

次回はいよいよ山頂でフレンズとご対面?


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section Ⅱ: 湧き上がる感情

いよいよ一行は山頂へ! 果たして――


 

 アルパカのカフェを後にし、私達は山頂にいる謎のフレンズを目指して飛び続けていた。しかし遠目から見れば低そうな山だったが、実際に近くで見るとこんなにも大きな山だったとはな。もっとスピードを上げねば山頂まではかなり時間がかかりそうだ。

 

「少しスピードを上げるが貴様らいいか?」

「ヒグマさんは疲れて寝ちゃってるみたいですしいいのではと」

「そうですね、一刻も早く犠牲が出ないうちに山頂へ行きましょう!」

 

 能天気なものだな。この体勢で眠ることができるとは。風が当たって眠るどころではないと思うのだがなあ。

 私は二人の同意を得てスピードを上げて飛翔する。うーん何とも風が心地が良い。普段風をまとっていた私にとってはこのくらいの強い風がちょうど良い。

 やがてきらきらとしたものが上から降り注ぎ始めた。これは私の野生解放時のものと同じか。ということはこれはサンドスターが降ってきているということか。フレンズ化した者が当たっても何ら影響はないようだ。と同時に私と同じような気配を感じ始めた。いる――間違いなくこの上に。

 

「覚悟はいいか、貴様ら。これはなかなか強い相手の可能性がある。私と互角なほどのな。もしかすると戦闘は避けられぬかもしれん。もしも危険だと感じたときは私を置いてさっさと逃げてくれ。そして図書館の連中に伝えてくれ。もちろん私も機をうかがってすぐ戻る。」

「私達ではお力になれないのでしょうか――」

「そういう問題ではない。下手をすれば殺される可能性だってある。それに貴様らはここでフレンズ同士の殺し合いなどしたくはあるまい?」

「う、言われてみれば確かにフレンズ同士の本気の戦いなんてしたことは……」

「ならば尚更だ。ここは私の言うことを聞いてはもらえぬか」

「……わかりました。いう通りにします。ただし風翔龍さんの身が危険だと感じたときはすぐさま私達も加勢します」

「――わかった、それでいい。そろそろ山頂だ。行くぞ貴様ら……!」

 

 山頂を通り越し一気に上昇する。まずは上から状況を確認する。おお、なんとも幻想的な見栄えだろうか。これからサンドスターが降り注いでくるのか。こんなところに現れたのであればフレンズ化するのも頷ける。

 徐々に高さを低くしていく。―――ん?何か見覚えのあるような影が見える。あの縞々な毛皮……あいつか。

 ふわりと地面へと降り立つ。遠目で見てわかる。あれはシマウマだ。しかしなぜこんなところへ……。まさかあいつがここへ?

 

「――!? あ奴、傷を負っている。気絶しているようだな」

「まさかここにいるフレンズが――」

「ふぇ? もう着いたのか? ふあぁあー……」

「シリアスが台無しですよ……」

 

 ヒグマの欠伸をよそにシマウマの元へと近寄る。まだ例のフレンズには気づかれてはいないようだ。腕に抱いて状況を見る。ひどいな……あちこち傷だらけだ。ここまでこっぴどくやれるとはよほどの戦闘狂なのか。

 

 その時私に何かふつふつとこみあげてくるものがあった。何なのかはわからない。だが気持ちが高ぶってきているのは自分でもわかる。なんなのだろう、だんだんと奴に対する不思議な気持ちがこみあげてくる。

 

 "ヤツハオマエノナカマヲキズツケタ、コ ロ シ テ シ マ エ"

 

 何かが私に囁いた気がした。その瞬間無意識のうちに私は野生を解放していた。――ほほう、これはなかなか気持ちがいい。これならば奴とも競り合えそうだな。まだ奴の力はわからないが。

 

「我に何の用か――見知らぬ者たちよ」

 

 唐突に声がした。奴だ、私の友達を傷つけタやつだ。気持ちは高ぶったままだが不思議と落ち着いている。この世界へ来たばかりの頃だったら声のする方へとびかかっていたかもしれぬな。

 

「ずいぶんなご挨拶だな。見知らぬフレンズよ。よくもまあここまで派手にやってくれたものだな」

「ふん、そ奴か。宙を舞っていたものでな、叩き落してやったわ」

「宙を?? シマウマって空飛べましたっけ」

「さあ、私は詳しくないからわからない」

「同じく私もわからないですね」

 

 私の腕の中にいるシマウマを見て鼻で笑う謎のフレンズ。見た目は私と同じ硬いてかてかした物体を纏っている。色は赤い。形は私とは異なる。 頭の赤々としたふわふわしたものも私よりは多い。そういえばこのふわふわは髪と言っていたな。

 

「叩き落したか――そのあともここまでボロボロにやったのか」

「あまりにも手ごたえがなかったものでな。実に詰まらなかった」

「ほほう、そうかそうか。ならば今の私とならばつまらないものにはなるまい?」

 

 ぎろりと相手をにらみつける。久しぶりに全力が出せそうダな。面白くなりソうだ。

 

「なんか様子がおかしくありませんか、風翔龍さん」

「もしかしてあれが風翔龍の完全な野生解放……なのか?」

「でもなんか不気味ですよぅ……黒い風が周りに吹いてます……」

 

 私の様子を見て向こうも不敵に笑う。その余裕そうな顔が苦痛にゆガむのが楽しミだ。

 

「ハハハハ! 面白いではないか! いいぞ貴様、それならば存分に殺り合えそうだな。あの忌々しい人間ども以来だ、このような強敵と巡り合えたのは!」

 

 やがて高笑いをして私の姿を見てニヤリとする。向こうもやる気か。まあ奴は生かシてハおかヌがな。

 

「その余裕ガいつまデもつカ、楽しみダな!!」

「貴様こそ、私の力にどこまで耐えられるか見ものだな!!」

 

 む!? あれはサンドスター!? 奴も野生解放ができるというのか!?

 

「ほほう、驚いているようだな。何故かは知らぬが私にもできるのだ。貴様が有利に立てるとでも思ったか?」

「いや、むしろソれほどの力とヤり合えてうれシいぞ。無力な貴様をたたき伏せても何も面白みなどないからな」

「言ってくれる。気に入った、貴様なんという?」

「風翔龍。人間はそう呼んでいた」

「心得た。我は炎王龍。火山に住まう炎の王だ。炎王龍は貴様と同じ人間どもが呼んでいた」

 

 炎王龍――炎か。風と炎、どちらが勝負を制すか。だが今の私にはそんなことハどうでモいい。奴を倒す。それダけダ。

 

「行くぞ炎王龍よ。ここが貴様にとっての死に場所とナルノダ!!」

「良くはわからぬが我は貴様には負けん!! 来るがいい!!」

 

 同時に上空へ飛翔する! スピードは私の方が上か。ならば空で圧倒してヤロウ。

 上空へ高く高く飛び上がり、渾身の体当たりを奴めがけてぶちかます。しかし読んでいたのかひらりとかわされる。

 

「空中で体当たりとは笑わせる。かわせる場所はどこにもあるのだ、そんなものか風翔龍!!」

 

 構わず二撃目の体当たりをぶちかます。だがあっさり避けられる。

 

「やっぱりなんか様子がおかしいですよ、風翔龍さん」

「もしかして、シマウマがやられたことに怒ってたりしてるのか?」

「としたら今の状態は怒りで我を忘れていたりしているのでしょうか」

 

 今度は体当たりの直後に背後から渾身のブレスを繰り出す。だがこれも避けラレタ。

 

「愚直な攻撃だな。貴様は我と戦う気があるのか? つまらぬな」

「……ツマラヌカ、ナラバコレデドウダ」

 

 大きく息を吸い込み地面めがけて噴き出す。着弾した地面から渦を巻いた黒い風が吹きあがる。こレナラばヤツも――

 

「ぬぅあああ!」

 

 風にまとわれた直後、まぶしく風の中から光があふれだす。その直後激しい轟音とともに風が散った。アレヲハネノケルトハナ――ダガソレガタンパツダケダトオモウナヨ?

 

「周りを気にせず攻撃か! 理性をなくしたか風翔龍よ!」

 

 マワリ? フン、イマハソンナコトヨリキサマノホウガサキダ。サッサトツブレテシマエ。

 私は今度は上空へ舞い上がり大きく息を吸い、噴き出す。風の渦が奴へと上から襲い掛かる。

 

「くっ……さすがの我でもあれはなかなか厳しいか……!」

 

 奴がよけようとした時だった。ふと気づく。奴の直線上に彼女たちがいることを。その瞬間意識が一瞬消えた。まずい、私のせいで彼女たちを巻き添えにしてしまう。

 

「ちょ、あれこっちに来てますよね……!? 逃げないと――」

「ごめんなさい、足がすくんじゃって動けないんです……」

「ナラバ抱え込んででも――! こっちに来るのが速い! まずい、これはもう無理だっ……!」

 

 心が揺らぐ。仲間を失うことへの恐怖心。ああ、また私は感情だけをあらわにして無我夢中になってしまっていたのか。だが放った攻撃は無情にも一直線に奴と奴の直線上にいる彼女らへと降り注ぐ。

 

「よけろおおおおおおおぉおおおっ!!」

 

 とっさに叫んでいた。のどがかれんばかりの大声で。そうか、私はここまで仲間に対する意識が強くなっていたのか。我を失うほどまでになっていたとはな――。ここにまたサーバルがいたらと思うと、鼻水まみれになってそうだな。本当に彼女には感謝しなければ。

 猛スピードで彼女らへと突っ込んでいく。間に合え……!!

 

「阿呆が――」

 

 よしっ、間に合った……!! 轟音とともに地面に激突する勢いで着地し私は二人を覆い隠すように壁になる。ククク、自分の攻撃を自分で受けることになるとはな。まあこれも自分のやったことだ、素直に受け止めよう。

 

「風翔龍さん!?」

「あれをまともに食らえばどうなるか――」

「ああ、私にもわからない! だが貴様らが死ぬよりはましだ!」

 

 だがいくら待っても風は起こらない。不思議に思い上を見上げる。

 

「――ほほう、目に輝きが戻ったようだな風翔龍。今までは感情に身を任せて我に対してがむしゃらに突撃していた、といったところか」

「貴様は憎い。憎いが助けてもらったことには感謝している。」

「ク――ハハハ、感謝か。なんとなくその意味はわかる。だが我は彼女をたたき落としたのだぞ?」

「それはこれから清算しよう。行くぞ炎王龍! これからが本当の勝負だ!」

 

 再び宙へと舞い上がる。しかしなぜ奴はああも簡単に野生解放ができたのだろうか。しかもあれは完全な状態のようだしな。

 

「ひとつ聞きたい。どこでそれを習ったのだ」

「ならう? よくはしらぬが貴様と戦って初めて繰り出したのだぞ、この不思議な力は」

 

 何!? 誰かに習ったわけではないのか!? だとしたら戦闘で解放できたとでもいうのか? だとすれば奴が根っからの戦闘好きならば出来ないこともない。キーは戦闘にあったのか、解放は。

 

「なにを考えている。まだ先頭の真っ最中だぞ。これからが楽しくなるのではないか! 存分にやり合おうではないか!!」

「私は貴様ほど戦闘は好きではない。しかし今の気分は戦いたくて仕方がない! 貴様と全力でやり合えること、心から嬉しく思うぞ!」

 

 再び私はブレスを繰り出す。だが今度は普通の風だ。あの禍々しい黒いオーラはない。これにはやつも少しがっかり気味だが楽しんではいるようだ。

 

「ふん! 何度やっても同じことだ!」

 

 あたりに粉塵が舞う。それをカチンと歯を鳴らし大きな轟音を立てて炎が包み込む。

 

「まさか風が炎に完全に遮られるとは。貴様なかなかやるな」

「貴様の風もなかなかに手ごわいものだな。うかつには近づけぬ」

 

 ならばと私は連発してブレスを繰り出した。三発のブレスが扇形に広がっていく。

 

「数が増えようと同じ事! こうしてやるわ!」

 

 こんどは前方に粉塵が舞う。奴はそれをブレスに向かって吹き付け、大きく息を吸い込んだ。

 

「これだけで終わると思うなよ炎王龍! 追加だ!」

 

 また三発お見舞いする。先行して飛んでいたブレスに交じりさらに強力な風へと変貌する。

 

「くっ……! 凌げるか……! いや、凌ぐ!」

 

 息を噴き出すとともに炎が噴き出した。そして炎のブレスは風を覆いつくさんばかりに襲い掛かる。そして粉塵がそれを助長し、さらに大きな炎へと変貌する。だが競り負けてやがて炎は消える。

 

「ちぃ、凌げぬか!」

 

 奴は横へと飛翔しブレスをよけようとする。だがそれは意味がなかった。

 

「ククク、その風は一直線に飛ぶわけではないぞ?」

 

 私が合図をするとくいっと向きを変える。伊達に風を操れる能力を使っていないからな。ちなみに合図は目で行う。

 

「な!? ぐぅ!?」

 

 三方向からからブレスを受ける。ククク、結構な痛手となっただろう。奴もたまらず下へと降りていくようだな。

 

「逃げるのか炎王龍! 貴様らしくないな!」

「ふん! 一時的にだ」

 

 再び奴がこちらへ向かってくる。体はタフなようだな。私も迫りくる奴へとむけて臨戦態勢をとる。

 

                ・

                ・

                ・

 

 ひええー、これはなにがなんだかよくわからないです……。ヒグマさんもキンシコウもぽかーんとしてるみたいですし。

 うーんしかしなぜシマウマさんがズタボロの状態でここにいたんでしょうか。たしかあのフレンズの言う話だと飛んでいたのを叩き落したと言ってましたね……ほんとに彼女だけで空を飛んでいたのでしょうか――なるほど、もしかするとそういうことなのかもですね。

 

「ヒグマさん、キンシコウ。ちょっと聞いてもらいたいことがあるんですが」

「「え?」」

 

 間の抜けた返事が返ってきました。あの二人の戦いによほど見とれていたのでしょうねたぶん。

 私は自分の立てた推測を二人に話しました。

 

「となると誰かが運んでいたところを叩き落とされたっていうのか?」

「はい、おそらくですけど」

「それだとほかの方も一緒に落ちてきているのではと思うのですが」

「じつは憶測なんですけど、彼女、セルリアンの類に連れ去られている途中だったんじゃないかと思ったんですよね」

「セルリアンに? それって一体どういうことだ?」

「私も気になりますね、その話」

 

 私の推理を聞いて二人は興味津々に聞いてきました。あくまで私の考えていることなんですけど。

 

「おそらくですけど彼女もセルリアンと戦って傷ついていたんじゃないかと思うんです。んでやられてしまってそのセルリアンが彼女を自分の住処へと持ち運んでいる途中であのフレンズに叩き落とされてしまったってところでしょうか」

「おおー! なんかかっこいいぞリカオン! となると彼女はシマウマを助けたってことになるのか? 結果的には」

「そうなりますね、おそらく」

「でもそのセルリアンはどこにいるんですか?」

「知らず知らずに彼女が消滅させてしまったんでしょうね。戦ってる最中で偶然いしを破壊してしまったんじゃないかなと」

 

 ん? もしこの推測が正しかったら、彼女たちって戦う理由がないんじゃ――

 

「まずいですよ、早くシマウマさんを目覚めさせて事情を聴かないと!」

「ど、どうしたんだリカオン。今度は慌てだして」

「無駄に傷ついてしまっている可能性があるんですよあの二人が!」

「――なるほどそういうことですか。理解しました、これは確かにシマウマさんを目覚めさせてあげる必要がありそうですね」

「え? え? よくわからないんだがどういうことなんだ?」

「「とにかくシマウマさんの元へ行きますよ!」」

「わ、わかった!」

 

 私達は急いで気絶しているシマウマさんの元へと向かいました。果たしてこの推測が吉と出るか凶と出るかですね――。

 




でました、何とかテスカトルさんです! 
性格はちょっと戦闘狂な感じにしてみましたw

次回は戦いの行方と事の真相が明らかに!


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section Ⅲ: 新たなる旅の予兆

傷ついたシマウマへと駆け寄るハンター三人組。
そして古龍フレンズ二人の戦いの行く末はどうなるか!


 

 私たちは急いでシマウマさんへと駆け寄ります。もしも目覚めたシマウマさんのお話が的を射ていたら誤解だったということになりますしね。あの二人は無駄な血を流してしまっていることになってしまいます。

 というか話を聞いてあの二人が止まるんでしょうか……そっちの方が心配だなあ。

 

「シマウマさん、大丈夫ですか、起きてください! 大変なことになりそうなんです!」

 

 私が体を揺すってもシマウマさんは起きる気配がありません。参りましたね、これでは話を聞くことすら難しそうです。かといって二人に戦いをやめさせることはできなさそうですしねえ……。

 

「リカオン、ちょっと荒療治だが試してみたいことがある。フレンズの特性を生かしてみる」

 

 ヒグマさんが耳元で何か叫びました。すると――

 

「うひゃい!? どこどこ!? どこですかぁ!?」

 

 なんとシマウマさんがいきなりがばっと上体を起こしました。なるほどそういう起こし方もあるんですね、勉強になりました。

 

「起きたか! リカオンが聞きたいことがあるそうだ、話せるか?」

「え、あなたはハンターの方ですか……いたたっ」

「無理に体を起こしたからですね、しばらくは安静にしていてください」

「ごめんなさい……」

 

 キンシコウに安静になるよう言われると起こした上体をふたたびぽすんと倒してシマウマさんは横になりました。

 

「リカオンといいます。お会いするのは初めてですねシマウマさん。ちょっと聞きたいことが」

「なんでしょうか……? 話せる範囲でなら話しますけど……」

 

 私はシマウマさんからその傷の理由を聞きました。驚くべきことに私の推測は間違ってはいなかったようでした。シマウマさんはセルリアンにやられて連れ去られていた途中だったとのことでした。

 

「もうだめかと思っていましたけど、突然セルリアンが誰かに攻撃されたみたいで、そのまま真っ逆さまに地面へと……そこからは記憶がありません」

「ちなみにさばんなちほーからここまで運ばれていた途中だったんですか?」

「ですねー、セルリアンから危害の及ばない場所へ避難させていたところをやられてしまいましてー……」

 

 ちなみにセルリアンの見た目に関しては嘴は大きく大きな翼の生えた尾にとげとげのついた鳥のような怪物というものでした。私達も聞いたことのないような造形のセルリアン、一体パークで何が起こっているのでしょうか、一刻も早く二人を止めてその真相を突き止めないとですね。

 

「リカオン、話してるとこ悪いがまずはあの二人を止めよう、ヒートアップすればここらの地形に影響が出始めるぞ」

「止めるってどうやってですか? 私たちは空なんて飛べませんし」

「叫んでも声は届きそうにありませんね……」

「誰か戦ってるんですか……?」

 

 ふとシマウマさんが私達に問いかけます。まあこんな派手な音がしてたらそりゃ気になりますよね。

 

「今風翔龍さんが勘違いなんですけどシマウマさんのために見知らぬフレンズさんと戦ってるんです」

「え? 私のためにですか??」

「ええ、よっぽど仲間を傷つけられたことが腹立たしかったようで最初は我を忘れてたくらいでした」

「そうなんですかー……後でドジ踏んだこと謝っておかないとですねー……」

「あとはわれわれにおまかせください。シマウマさんは安全なところに運びますんでしっかり休んでいてくださいね?」

 

 シマウマさんはお礼をいうとそのまま寝息を立て始めました。さて、あの二人、どうやって止めればいいんだろう――。

 

                 ・

                 ・

                 ・

 

 激しい攻防が続く。私がブレスを吐いても奴は炎でかき消してしまう。かといって多重に攻撃をすればこちらの体力の消耗も大きい。持久戦になりそうだ。

 

「はあ……はあ……だいぶ体力を使ってしまったようだな」

「ぜえ……ぜえ……貴様の体力も我と同程度か、どうやらこの力は無限ではないようだな」

 

 むこうも息づいている。おそらくあと一回全力を出してしまえば体力はそこを尽きてしまうだろう。そろそろ小出しで行かねばな。

 

「風翔龍よ、一つ提案がある」

「なんだ炎王龍、言ってみろ」

 

 提案か。戦闘好きな奴のことだ、おそらくは――

 

「最後、お互い全力の一撃をぶつけ合い、先に立った方が勝ちというのはどうか」

「……全力か。お互いどうなるかはわからんぞ、だが面白そうな提案だ」

 

 ふ、やはりか。全力を出し切ってしまうのも悪くはないか、サーバルには悪いがこれもシマウマやあの三人の安全のためだ。負けるわけにはいかぬ!

 

「行くぞ風翔龍よ! これで――最後だ!!」

「望むところよ、炎王龍!! そのセリフ――そっくりそのまま貴様に返してやるぞ!!」

 

 お互いに全力のブレスを繰り出す!! 激しい光と猛烈な風がぶつかる!! 私の攻撃を炎が覆い隠す。だが私の風も負けてはいない。風圧で炎をかき消す。互いの攻撃が激しく押し問答を繰り広げる。

 

「く、限界か……済まぬサーバル、約束……また……やぶ…………」

 

 私は目の前が真っ暗になり落下を始める。ははは……このまま私は死んでしまうのだろうか、このまま意識が戻らぬのであればわたしの獣生はここまでということか――

 

「やるではないか、風翔龍よ……ここ……まで…………やれる…………とは…………な」

 

 相手もどうやら先の一撃で力尽いていたようだ、ほぼ同時に落下を始める。それから皆の声も届かなくなり。地面へと吸い込まれるように体は加速を始める。そして誰かに抱き留められたような感触を受け私の意識は完全に途切れてしまった。

 

 あれからどれほど時間がたっただろうか。私は暗闇の中をさまよい続けている。こここそが本当の死後の世界なのだろうか。

 何も見えない暗闇を私はただ歩き続ける。皆の声も聞こえない。ただ目の前にあるのは闇。何もない無の世界だ。

 しばらく歩いていると声が聞こえてくる、私を呼ぶ声だ。だがわたしの知っているどのフレンズの声でもない、この声はいつか夢で聞いた声だ。

 声は語りかける。「この世界を救ってほしい……」と。以前はそんなことに興味など微塵もなかったが犠牲が出てしまった以上無視するわけには行かなくなってしまった。

 

「貴様は何者だ。なぜ私に話しかけてくる」

 

 私は声の主へと問いかける、しかし返答はなく救ってほしいという言葉のみが反芻している。一体何なのだ――

 と、しばらくして私の声が声の主へと届いたのか、声の主が私に問いかけてくる。

 

「他世界の者よ。私の声が聞こえているのですか? 聞こえているのであれば一つお願いがあります」

 

 お願い? 名も分からぬ者にお願いなどされても私はどうすることもできないのだがな。まあ聞き入れるくらいはしてやるとしようか。

 

「鳥のフレンズの言っていた歌を歌っていたフレンズを探してほしいのです。この世界を救うカギはその子が握っているはずです」

「なに? そ奴を見つけることができればこの異変はなくなるというのか?」

「それは私にもわかりません。とにかくその子をまず見つけてください。そうすればきっと何かが開けるはずです」

 

 声は私にそのことを告げるとぱったりと聞こえなくなってしまった。いったい何者だったのだろうか。まだ私が出会ったことのないフレンズだったのだろうか。

 やがて闇は徐々に晴れ始める。まばゆい光が目に入る、どうやら私は目覚めたらしいな。

 

「う…………生きてる……のか?」

「よかったあ! 無茶しすぎですよぉ! 丸一日目を覚まさなかったんですよ!?」

「そうなのか……すまない、迷惑をかけてしまったようだ」

「まったくだな。丸一日山頂で過ごす羽目になった私達の身にもなってくれ。それにシマウマにも謝っておけよ」

 

 シマウマ!? 目を覚ましていたのか……。傷はひどいが目を覚ましてよかった、急いで図書館で治してもらわないとだな。

 

「ふふっ、よほど心配だったんですね、その慌てよう」

「な!? そういうわけでは……あるかもな……」

 

 よそ見をしてぼりぼりと顎を掻く私。そんなに顔に出てたのか、なんだか恥ずかしい。

 

「おお! 起きたか戦友。戦いは我が先に目覚めたから我の勝ちだ! 目覚めはどんな感じだ?」

 

 炎王龍がどっかりと胡坐をかいてこちらを見てにかっと笑っている。ぷいっと顔を背けてやった。

 

「む、その態度、感心せんな。起きたその後は貴様のことを看てやっていたのだ。感謝くらいはするべきだと思うのだがな」

「貴様が? ……シマウマの件は許せないが、そこまでしてもらったのであれば、感謝しよう……」

「ふははは! なかなかにいい気分だな感謝されるというものは!」

「あなた最初は起きても我関せずで何もしてなかったじゃないですか」

「そうだったな、私達に頼まれてもかたくなに嫌がってたし、我はそんなことは興味ないって」

「まあ結果的にはしてやったのだ、それで問題なかろう! ふははは!」

「いやまあそりゃそうなんですけど……」

 

 改めて話してみるとまた面倒くさそうな性格の者だな……。気に入られてしまったのはもうどうしようもないが。無下に扱うわけにもいかなくなってくるだろう。

 

「そういえば貴様、変な夢を見たか? 世界を救ってほしいだのという」

「!? 貴様も見たのかその夢」

 

 唐突に炎王龍が夢の話をしてきた。驚くべきことに今までつながりもない炎王龍も私と同じ夢を見たらしい。うーむ、ということはこれからは炎王龍とともにフレンズ探しをしろとでもいうことなのだろうか。

 

「フレンズに危害を加えるような輩と旅などしたくはないのだがな」

「?? 危害だと? 我はそこの縞々に危害を加えた覚えなぞないが」

「あ、そういえば風翔龍さんにはまだ説明してませんでしたね。事の真相を」

 

 わたしは三人とシマウマ本人から真相を聞かされる。なるほど奴の言っていたことは本当だったのか。邪険に扱ってしまったことに罪悪感が出てしまうな……。 

 

「私の勘違いで……飛んだとばっちりを」

「ふははは! 良い良い、もう気にするでない、我は飛び切りの戦友と巡り合えたのだ。そのくらい些細なことよ。貴様といつでも一戦交えることができる方が大切だからな! これから世話になるのだ、よろしく頼むぞ!」

「もうできれば無駄な戦闘はしたくないのだが……ああ、よろしく頼む」

 

 がっくりと項垂れる私を見て豪快に笑い飛ばす炎王龍。あの戦闘を些細な事扱いとは、さすがは戦い好きなフレンズだ。もうあんな過激な戦いは私は御免被りたいが。

 

 こうして私達は新たなるフレンズと巡り合い勘違い戦闘を経て仲間となり旅を共にすることとなった。というかいつの間にかそういう流れになっていた。とても先行きが心配だ、主に戦闘面的な意味で。

 

「さて、皆さん目を覚ましたようですし、山を降りましょうか」

「居心地がよかったのだがなあ此処は。まあ仕方あるまいか」

「さすがにずっとここに居るわけには行かないですよ、図書館に戻って報告しないと」

「そうだな。それにシマウマの傷も早く治してやらなければならぬし」

「また空の旅か……覚悟を決めないとだな」

 

 今回は空を飛べるものは二人いる。私にとっては少し楽にはなったか。奴にとってもほかの者と行動を共にするということは初めてなようだしな。すこぶる機嫌が良いようだ。快く運搬を引き受けてくれた。

 

「行くぞ、しっかりつかまっていろ……!」

「ふははは! 今日は久しぶりに機嫌がいい! 落ちぬようにな!」

 

 一斉に飛び立つ。二人が大きな翼を広げて飛ぶのはなかなかに壮観だ。

 

「傷を負っている者もいる。なるべく早く飛びすぎるなよ」

「心得た!」

 

 山沿いに私たちは下山を始めた。アルパカにもこ奴のことを紹介した方が良いだろうか。まあいずれは立ち寄るといったからな。報告が終わればあの二人のところにも行かないとだな。

 

「ところで貴様の背負っている武器、なかなかに良さそうなものだな!」

「力を取り戻した以上あまり使う機会はなくなってしまいそうだがな。そういう貴様は武器を持っていないのか?」

「我のか? ふむ、そういえば我の武器は――」

「まてまて! 今探さなくてもいい! 抱えている子を落としかねないぞ!」

「む、そうか……心得た」

 

 不安だ。こ奴途中で落としたりしないだろうか――そんな心配事を抱えつつ私達は山を下り続ける。

 しばらくしてカフェが見えてくる。まあ今回は立ち寄らなくてもいいだろう、まずは報告が先だ。お、下でアルパカが手を振ってくれている。こっちも振り返してやりたいが両腕はふさがっている。そのままびゅーんと素通りしてしまう。すまないなアルパカ。あとでしっかりふもとにカフェ、作ってやるからな。

 またしばらくすると周りに木々が見えてくる。だいぶ降りてきたようだな。そのまま図書館へと方向を変え、飛翔する。どうやら心配事は杞憂だったようだな。私は少し安心する。そんな私を炎王龍は横眼に見て不思議そうに首をかしげている。まったく、こっちの気にもなってもらいたいものだな。

 




無事に和解をし、仲間になってしまった炎王龍、
果たしてどんな活躍も見せてくれるのか!そして謎の声は……

次回は再び森林ちほーへ舞台は戻ります!


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Chapter Ⅴ:しんりんちほー Ⅱ
section Ⅰ: 二人の賢者


舞台は再び森林ちほーへと戻ります!
そして例のかしこい二人登場!


 

 サンドスター山を後にした私達はしんりんちほーへと向かって飛び続けていた。博士たちが戻ってきていればいいのだが。頼りになる者も仲間?になったしな――性格に難ありだが。

 

「ふむ、ここにはたくさんのフレンズがいるのだな。我と同等の強さの者がいたらぜひ手合いを申し出たいものだ」

「炎王龍さんと同等って、風翔龍さんしかいなさそうですけどねぇ」

「昔は四神と呼ばれるフレンズの皆さんがかくちほーを守護していたそうですけど、強さまではわからないですね、神っていうくらいですからかなり強かったんじゃないかと」

「四神か――炎の王たる我にはもってこいの相手ではないか。だがその話は昔の話か。残念だ」

 

 残念そうな顔をする炎王龍。奴は加減を知っているとわかってはいるが、全力を出したら相手を倒しかねない。まあもしそんな場面が訪れようものなら私が全力で阻止するのだが。

 しばらくすると森林の生い茂ったエリアへと入っていた。どうやら戻ってきたようだな。ハンター三人組の案内がなければ路頭に迷ってたどり着くことすらできなかっただろう。感謝しないとな。

 

「図書館はどっちに行けばいい? 頼ってばかりで済まないが」

「そんなこと気にするな。私達はもう友達だろ? 友達の頼みごとを無下にできるわけないだろ」

「そうだぞ風翔龍よ。どーんと甘えさせてもらえ! ふはははは!」

「なんでそんな偉そうなんですか……」

「性格だ!! 気にするなリカオンよ!!」

「まあでもさばさばしてて私はいいとおもいますけどね」

 

 キンシコウ、貴様はこんな性格でもいいのか……。それとも世辞というやつか?――なんにせよあ奴は波乱を巻き起こしそうな予感がしてならない。私はこれからうまくやっていけるのだろうか。なんだかお腹が痛くなってきそうな予感がする。

 

「図書館はこっちの方向ですね。割と道の名残が残っているんでわかりますよー」

「名残? 昔のフレンズが作った道のものなのか? その名残は」

「博士たちの話だとそれよりももっと前らしいですよー、詳しくは知らないけどヒトによって作られたものだとか」

「ほう、やはり人間によってこの世界は作られているのか。しかし今は人間はいないようだな。フレンズ化したけものを除けば」

「まあ詳しくは博士たちに聞いてみるといいですよ。私達よりももっと詳しく聞けるでしょうからね」

「あまり興味が湧かんな。人間は我をうち倒した敵だからな。だがその作ったものに関しては我も少し興味がある」

「といってももうだいぶ経ってるらしいですからボロボロですよ? どころどころにしかその名残は残ってませんし」

 

 いったいどれほど昔の話なのだろうか。生前は人間など珍しくもなんともなかったが、この世界では噂すら聞かない。やはりこの世界に人間は――

 

「そういえばヒグマはもう宙を飛ぶことには慣れたのか?」

「え、思い出させていいんですか? 今たぶんそれすら忘れてると思いますよヒグマさん」

「え? 何か言ったか?」

「いえ、気にしなくても大丈夫ですよヒグマさん。ただの世間話です」

「そ、そうか。重要な話なら私にも言ってくれよな」

「ふうー……まったく、せっかく今忘れてるんですから思い出させたらまた面倒なことになりますよ?」

「え? 私何かさっき余計なこと言ったのか? それなら素直に詫びよう」

「いえ、いいです、大丈夫ですよー。ヒグマさんには聞き取れてなかったようですしね」

 

 そういえばヒグマがずいぶんおとなしいなと思っていた。そうかそれをさっき思い出させようとしてしまったのか。確かに思い出させたら面倒事になるな。このまま忘れさせていた方が良いか。

 

「お、見えてきたみたいですよー」

 

 リカオンが正面を見て言った。割と早かったな戻ってくるまで。しかし私の装甲はボロボロだな――サーバルのお説教は覚悟した方が良いか。……約束破ってばっかりだな私。

 

「まあ仕方ないと思いますけどねえ。感情が爆発しちゃったんですから」

「それでも傷ついていることに変わりはない。しかもそのあと正気に戻っても戦いはやめなかったのだ。説教も当たり前だな」

「あー、確かに楽しんでましたものね、二人で」

「そうだな! あれほどの熾烈な戦いは久しぶりだった、感謝してもしきれんな、またやりたいものだ!」

「……勘弁してくれ」

 

 あれほどの戦いをもう繰り広げたくはない。体がボロボロになってしまう。それは炎王龍も同じのはずなのだが、なぜ奴はケロッとしているのだろう。こいつ実はセルリアンなのではないか? ――ここで倒しておくか……? まあ冗談なのだが。

 

「降りるぞ。私達の帰りを心待ちにしているだろうしな」

「貴様の仲間とやら、見定めさせてもらうぞ風翔龍よ」

「……危害を加えるなよ? 絶対にな」

「そこまで節操なしではないわ。しっかり見定めてから判断するわい」

 

 判断次第じゃ加えるんだな。まあ私のような見た目でなければ大丈夫だろう、きっと、たぶん、おそらく。

 

「あー! 帰ってきたのだ! 待ちくたびれたのだぁー!」

「アライさーん、そんなに待ったかなあー? まあいいやー。おかえりー」

「ふうちゃん、みんな、おかえりー! ……なんか一人増えてるねー」

 

 わいわいがやがやと迎えがやってきた。どうやらそんなに退屈はしていなかったようだな。まあここには本がたくさんあるしな。

 

「まったく、騒がしいのですよお前らは」

「まったくですね、博士」

 

 聞きなれない声が後ろからした。博士といったな。ということは――

 

「貴様らが博士たちか。お初にお目にかかる」

「どうも、アフリカ大コノハズクの博士です」

「どうも、助手のワシミミズクです」

 

 二人は挨拶を済ませるとまじまじを私を見てくる。

 

「む、見慣れないフレンズなのです、ということはお前が例の風翔龍ですか」

「そうだが。なぜ私の名を知っている」

「ジャングルちほーにいるという情報を得てそこで名前を知ることができたのです。名前からして元からここに住んでいたけものではないですね、いったいどこから来たのです」

「答えるのですよ、風翔龍」

 

 ずいぶんと偉そうな奴らだな。性格に難ありか――あの三人の言うことも的を射ている。だが賢そうな見た目ではあるな。

 

「む、人を見た目で判断するのはよくないのですよ」

 

 やっぱりここの住人は読心術を持っているな、間違いない。

 

「」

「まあそれはいいとしてだ。話してもらえるか? 私がここに来たその要因を」

「待つのです。物事には順序というものがあるのです」

「そ、そうか。すまなかった」

「先に我々の質問に答えるです」

「どこから来た、か……雪山からとしか言いようがないな」

「ふむ、地名はわからないですか?」

「ああ、ここでいうちほーのような名前のことか。知らぬな」

 

 すると博士たちは後ろを見て炎王龍の方へ向かう。

 

「む? なんだ、我と一戦交えたいのか? 名も知らぬフレンズよ」

「我々は戦闘を好むけものではないのです。わきまえるのです」

「わきま――? よくわからんが戦いは好きではないのか? ならば我に何用だ」

「まず名前を言うのです。名前は重要なのです」

「名前か。人間どもは我を炎王龍と呼んでいたな。それが我の名であろう」

「では炎王龍、お前はどこから来たのです?」

「火山だ。煮えたぎるような熱いところだな」

「ひぃ!? そんなところから来たのですか!?」

「なんだ? 別に貴様らを取って食おうなどとはみじんも思わんぞ、前の姿なら――」

「ひいいぃい!?」

 

 博士がシュッと細くなった。驚くと細くなるのか。面白い体をしているな。

 

「お前は山の上にいたフレンズですか? そこにいる二人組に見覚えはないですか?」

「む? いや、知らぬな。初めて見る顔ぶれだ」

 

 博士たちに尋ねられて炎王龍は答える。まあフレンズ化する途中で帰ってきているからな、そこの二人組は。

 

「え、もしかしてあの大きなけものなのか?」

「おおー、そういえばその頭の角には見覚えがあるねえー」

「む? 我を知っているのか?」

「知らないのだ! 大きなけものの姿でなら知ってるのだ」

「フレンズ化してそこから記憶がよみがえったのか。つまり死体の状態からフレンズ化するまでの記憶はさっぱりない状態か。私と同じだなやはり」

 

 ということはやはり同じ世界からここへ来た可能性があるのか。あの時見た夢も全く同じだと言っていた。やはり何か私と関係があるとみていいな。まったく同じ状態からここへ来るということも不可解だ。

 

「お前らは元は死体だったのですか? サンドスターが触れてまた命を得たということですか」

「サンドスターにはそんな力があるのか」

「サンドスターはまだまだ謎が多い物質です。死体を蘇らせるというのは昔の文献で知っていたのです。しかしそれはもともとここで暮らしていた生物に限ったことなのですよ」

「今回の件で他世界の獣にも影響があるということが分かったのです。感謝するですよ二人ともに」

 

「「あ、ああ」」

 

 なぜだろう、感謝されてもあまりうれしくはない。

 

「さて、お前が知りたいその要因なのですが――」

「何か知っているのか!? 知っているならば早く――」

「わからないですね」

「わからないのです」

 

 え? わからない? そんな馬鹿な。ここまで来た意味はいったい何だったというのだ。

 

「いくら賢い我々でも知らない、分からないことはあるのです」

「期待はしない方が良いですよ」

「それでは、ここに来た意味がない! 何か些細なことでもいい、教えてくれ!」

「くどいのです、知らないものは知らないのです」

「なのです、自分で探すのです」

 

 無駄骨だったか……。だが手掛かりはある。トキの言っていたフレンズを探し出すことだ。そしてそれは夢で聞いた声にも出てきていた。何か関係があるに違いない。そうと決まればここにもう用はない。私の子の姿の要因ももうわかってしまったしな。

 

「どうするの? ふうちゃん、私もお手伝いするよ?」

「ああ、すまないなサーバル。感謝するぞ」

「私もいくわ。その子のことが気になるもの」

「アライさんも行きたいのだ! 冒険の予感がするのだ!」

「アライさんが行くなら私も行こうかなー。それに風翔龍さんにアライさんの突撃っぷりは止められないかもしれないしねー」

 

 いや、フェネック、貴様はアライグマを止めるどころか止める気がないのでは……? まあいいか、旅の仲間は多い方が楽しいしな。なんだか性格まで緩くなってきている気がする……。恐るべしジャパリパーク。

 

「そうと決まればさっそく出発なのだー!」

「ちょっと待つのです、そこの青いの」

「アライさんは青いのじゃないのだー!」

 

 ずいずいっと博士たちが前に出る。私たち二人を見て何か考えているようなそんな顔だ。

 

「一つ頼みがあるのです、お前らに」

「私に? まあできることなら」

「我にもか? 善処しよう」

 

 沈黙が続く。なんだ、早く要件を言ってもらいたいのだが。

 

「我々はグルメなので最近ジャパリまんに飽きてきたところだったのです」

「食べ物をそのまま齧ることも飽きたのです」

「はあ……それがどうかしたのか?」

「ズバリ言うのです」

 

 また沈黙が続く。何なのだこれは、私たち二人に何をさせるつもりなのだこいつらは。

 

「「我々に料理を振舞ってもらうのですよ」」

 

 ――は?

 

「ちょっと待て、なんだそれは。貴様らの要件とはその料理とやらを我々にしてもらいたいということか?」

「そうなのです。わかったらとっとと作ってもらうのです」

 

 初めて聞いたぞその言葉。こいつらは私たちが料理というものを知っていると勘違いしているのか。ならばそれを教えてやらねばな。

 

「あいにくだが私たち二人はその料理というものを知らない。そもそも料理とは何なのかもわからない」

「!? りょ、料理を知らないというのですか!?」

「何かの冗談なのです! 他世界の者であれば料理くらい知ってるはずなのです!」

「いや、本当に何も知らんな。そこの風翔龍の言う限り」

「「 」」

 

 だんまりになってしまった。二人ともぽかーんと口を開けて固まっている。私達が料理を知らなかったことがそんなに応えたのだろうか。

 

「あ、ありえないのです……よ、ようやく料理が食べられると思っていたのに」

「おに、あくま、ふれんずなのです」

 

 訳の分からないことをつぶやく助手とめちゃくちゃ落ち込んでいる博士。なんだこの図。まあ面白いからいいか。少し心が晴れたのは内緒だ。

 

「まあ、なんだ。貴様らが教えてくれるのであればそれをやってみるとしよう」

「!? ほ、本当なのですか!?」

「そうと決まればさっそく教えてやるのです! 付いてくるのです!」

 

 よっぽどその料理とやらが好きなようだな。まあ私達にはどんなものなのか見当もついていないが。頭に疑問をたくさん抱えたまま私たち二人は図書館の中へと引っ張られていった。

 




というわけで博士たちのご登場でございます!
やはり博士たちに料理は食べさせたかったw
果たしてどんな料理を二人は作るのか……
不安を抱えて次回へ続きます。


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section Ⅱ: 二人の料理 其の一

料理回です! 果たして二人はどんな料理を作るのか……


 

 ぐいぐいと引っ張られた私たち二人は図書館内へと入っていく。まったく、料理とやらはわからんし、そもそも文字も見る前よりはましになったがほぼ読めない――そんな状態でどうしろというのか。まあ教えてくれると言っているのだから何とかなるか……なるのだろうかほんとに。

 

「今から料理について教えてやるのです。しっかりと聞くのですよ」

「あ、ああ。わかった」

「なんだ? 戦闘でも始めるのか!?」

「なんでそうなるのですか。落ち着けです炎王龍」

「む? 違うのか助手よ、心得た」

 

 言葉をまだよく知らない炎王龍にとってはまあ仕方がない?ことなのだろう。これから言葉をたくさん覚えていけばちょっとは変わるはずだ。

 

「まず、料理というのはもともとの物をそのまま食べたりするのではなく、器具を使って加工をして新しい食べ物を作ることを言うのです」

「新しい食べ物ができるのか、その料理とやらをすれば。まるで魔法だな」

「ほう、つまりは私の好物である紅蓮石も料理をすれば作ることができるのだな! 素晴らしいではないか!」

「食べ物に限るのです料理は。お前のその紅蓮石はどう考えても一般的に考えて食べ物ではないです。石という時点で」

 

 食べ物限定なのか。ならば私の食べていた鉱石類も作ることは不可能か。私にとっては食べ物だが一般的には違うのか。確かに人間が鉱石を拾って食べている光景など見たこともない。今の私は人間だ、正確にはフレンズだが。

 

「ならば"その食べ物を加工とやらをすることで別の食べ物に変えること"を料理という、意味はこうなのだな?」

「物わかりが早くて助かるのです。料理の材料はあそこに置いているのです。我々では料理に手も足も出なかったのです」

「まったくです。どの料理も火を使うなど我々にとっては自殺行為に等しいのです」

 

 まあそんなふわふわな毛皮なら火を使うときに燃えてしまいそうだな。鳥のフレンズは火に弱いのか。

 

「火か。ならば我に任せておくがいい。どんな食べ物も炭にしてやれるぞ! ふはははは!」

「炭にしてどうするです。食べれないのです炭だと」

「炎王龍は加減というものはできるのですか?」

「加減? 知らんなそんなものは。我は常に全力で向かってくるものを相手してきたのだ」

 

 まあもともとけものだった私達にそのような知能があるとは到底思えないな。こうしてフレンズになってからようやく言葉を覚えることができたのだ。まだまだ知らない言葉の方が多いが、順応はしてきていると感じている。炎王龍はこれからだろうが。まあ教えることができる時に目いっぱい叩き込んでやるとしよう。

 その後、私たち二人は不思議な空間へと連れてこられた。

 

「ここは昔ヒトが料理をするために使っていた場所なのです、自由に使うといいのです」

「それといいですか、火を使うときは全力でなく加減して使うのです。それくらいできるですよね?」

「火を使えないことには料理をすることは不可能なのです。頑張るですよ炎王龍」

「加減……加減……よしわかった!」

 

 念を押される炎王龍。不安だ。ものすごく不安だ。まあ奴が全力で炎を繰り出そうものなら私の風で吹き消してやれるが――それでも不安だ。一応頭は切れるときは切れるからそれを頼りにするしかない。頼んだぞ炎王龍よ。

 

「それでは料理を始めるのです、お前ら」

「期待しているのですよ。どんな料理でも構わないのです。さっさと取り掛かるのです」

 

 せっかちな奴らだ、まあとりあえずは以前読んだれしぴとやらの本を見てみるとするか。たしか以前不思議な絵が描いてあった本だ。あれを見てピンと来たのだ。これは食べ物を魔法で変えるための呪文の本だろうと。

 

「ふむふむ、覚えておいて正解だったようだな、れしぴの本を」

「れしぴのほん? なんだそれは。戦闘に関するものか?」

「戦いから頭を背けろ炎王龍。これはおそらく魔法の類の本だ」

 

 私は手に取った本を炎王龍に見せた。まだ文字が読めない炎王龍は手に取って首をかしげつつ言った。

 

「ほう。魔法か、料理には魔法を使うのか。しかし我らは魔法なぞ使ったこともない、どうするのだ風翔龍」

「おそらくこの本に書いてある通りに準備を進めていけば料理は完遂することができる。何事にも準備は必要なものだからな」

 

 とりあえずまずはこのれしぴの本を読んでみるとしようか。

 

「ふむふむ、この本には多くの料理が書かれているようだ。準備もどうやら違うらしい」

「して、どれを料理するのだ? 我にはさっぱりわからぬ。貴公にゆだねるとしよう」

 

 一通りれしぴの本を読んでみた。所々が読めないので何やら呪文のようなことが書かれている。……を……りにして……うーむ、わからん。

 とりあえず文字を読んでもわからないので描いてある絵を見て料理を進めていくことにした。

 

「よし、決めたぞ炎王龍。このオレンジ色のうねうねした料理を完遂しよう」

「お、決まったのだな! 見た目は……何とも不思議な形をしているな。よしさっそく取り掛かるとしよう」

 

 絵を二人でまじまじと眺める。これはたまねぎというものか。ふむ、こっちは……読めん。だが形はわかる、そして緑色の食べ物だな。これも……読めん。だが何かに入っている赤い物体だ。読めんものは形で探すしかないか。

 

「この絵と同じものを持ってくればよいのだな。心得た」

 

 しばらくして炎王龍が戻って来る。お、ちゃんと持ってきたようだな。

 

「よし、まずはこれを加工しよう。絵を見ると線状になっているな。これを……線状に……いきなりハードルが高いな……」

「とりあえず切断すればよいのだな? 細切れにしてやろう」

「ちょっと待て、炎王龍。この絵、何か器具を使っている」

「む? ほう、確かに素手で切ってはおらぬな。これを持ってくればよいのか?」

「ああ、おそらく線状に切るための器具だろう。探してきてくれ」

「心得たぞ。しかし料理とはなんだか時間のかかる儀式だな」

「まったくだな。腹に入れてしまえば同じだというのに」

 

 二人でぶつくさ言いながら準備を進めていく。炎王龍が戻ってくるまでほかのことをしよう。次の絵は……丸い食べ物を切っているな。これもどうやらさっきの器具が必要なようだ。料理を完遂するにおいてこの器具は重要な物のようだ、まあこの辺は後回しにしよう。

 

「次の絵は……ほう、この器具を使ってこの棒を火にさらすのか」

 

 私は炎王龍の持ってきた棒状の物を眺める。これが完遂後にああなるのか。不思議だ。

 

「順調にできてるですか風翔龍」

「今のところはな。この器具はあるのか? これがなければ料理を完遂することはできないのだが」

「それなら、ここにあるのです。使うといいのです」

「すまないな」

 

 器具を受け取った私は水のありかを聞いて教えてもらい、水を器具に入れる。

 

「ふむ、これを水に入れて火にさらすと良さそうだな」

 

 棒状のものを水の入った器具に入れる。後は火だな。どの道炎王龍を待つしかないか。と言っているうちに戻ってきたようだ。

 

「すまぬな、探しきれなかった。む、貴公の方は準備は進んでいたようだな」

「ああ、これを火にさらすようだ。頼めるか炎王龍」

「任せておけ! ――加減して、だったな」

 

 彼女が控えめに息を吸い込み炎を繰り出す。おお、いい感じの威力だ。やはりやればできる獣だったか。

 しかしこのままずっと噴き続けているにもいかないだろう。火を移せるものが必要そうだ。

 

「やっほー! お手伝いに来たよー!」

「大変な目に合ってるようね二人とも」

「?? 何をやってるんだ?」

「うわ!? 火はこわいぃいぃい!」

 

 ぞろぞろとほかの仲間たちが集まってきた。いいタイミングで来たな。

 

「一つ頼めないだろうか? この火を移す物を持ってきてほしいのだが」

「その火を移すものだな? 私達で行ってこよう。二人とも火のそばには居たくなさそうだしな」

「助かります、ヒグマさん……」

「毛皮を燃やしたくはないからお供しますね」

 

 そそくさと料理場を後にする三人。そこまで怖いのか、火。私は何ともないがなあ。そこにいる炎の化身のような奴より数百倍はいい。

 

「む? どうかしたのか風翔龍よ」

「いや、なんでもない、続けてくれ」

「?? 心得た」

 

 しかしずっと炎を吹き続けているが体力は大丈夫なのだろうか。サンドスターを放出しているから野生解放をしているのは間違いない。

 

「しかし、これは意味があるのだろうか。一向に器具の中に変化はないみたいだが」

「む、威力を上げるか? もちろん加減しながらだが」

「助かる。少し威力を上げてもいいかもしれぬな」

 

 サーバルが興味津々にみている――遠巻きから。やっぱりサーバルも火は怖いんだな。

 

「ふ、ふうちゃん何かお手伝いすることってないかな?」

「そうだな……そこの材料を切ってもらえたりできるか?」

 

 料理の材料を指さして言う。材料を見たサーバルは目をキラキラさせて言った。

 

「ふふん! まっかせてよ!」

 

 すぐさま材料の方へ向かうサーバル。切り方は伝えたが大丈夫だろうか。

 

「うみゃみゃみゃみゃみゃみゃあー!」

 

 叫び声をあげて材料を切り刻むサーバル。おいおいそれで本当に材料が切れるわけ――切れてる。いったいどんな切り方をすればそんな綺麗に切れるのだろう。

 

「?? これでいいんだよね? 切ったけど」

「あ、ああ。ありがとうサーバル、その爪は一体どうなってるんだ?」

「わたしの爪? 別に普通だよー?」

 

 この技には驚いた。料理を遂行する際はサーバルは必須だな。切る係として。野生解放もしていないし元から備わっていたのだろうか。

 

「みゃ? 何か目が……う゛、ぎにゃあああ!?」

 

 突然サーバルが目を抑えだした! な、なんだ!? どこから攻撃を受けた!?

 

「落ち着くですお前ら。おそらく玉ねぎを切ったせいなのですよ」

「あの丸いのをか? 切っただけで目がやられるのか?」

「目に危害を与えるわけではないのです。ただ染みるだけなのです」

 

 染みる? あの玉ねぎを切ると目が染みるのか。染みるという状態はああなるのか。

 

「目が、目が明けれないよおお! なにこれ!? に゛ゃあああ!?」

 

 目をぐしぐし擦るサーバル。料理はまるで戦いだな。私も攻撃を受けないよう気をつけねばな。

 

「サーバル、こっちに来るのです。水で目を洗うのです」

 

 助手がサーバルの手を引いて水の出るところへ連れていく。サーバル、お前の融資はしっかりと刻んだぞ。後は私達二人にまかせておけ、ばっちり完遂してみせるぞ。

 

「おーい!! 火を移す枝を取ってきたぞー!」

「おおー、豪快ですねー。近寄りたくはないですけど」

「少し威力を上げてみたのだ。これで変化が起きればよいのだが」

「変化が起きるんですか? この器具で」

 

 たぶんだがあの完遂後の絵のようにうねうねした状態へと変化するとみている。だが

 

「うーむ、直接当ててもダメなのかもしれぬな」

「であれば下から炙ってみるか。変化が起きるやもしれぬ」

 

 下からか。なるほどそれならば火を直に当ててやる必要はなくなるな。ちょうどここに炙るための場所のようなものがある。少しすすがついているし、ここで火を使っていたに違いない。

 

「ここに器具を置くようだな。――よし、後はしたから火を当てて炙れば良さそうだ」

「凄いな風翔龍、この場所の使い方が分かるのか。以前料理したことあるんじゃないのか本当は」

「言葉自体を聞いたのがここで初めてだ。一切この手のことはしたことはない。火ですらあまり見たこともない。単なる憶測だ」

「雪山でしたね、すんでいたところは。それなら火を見る機会も確かに少なそうですね」

 

 下に枝を集めて置き、火を着ける。やがて日はだんだんと大きくなった。後は器具の中で変化が起きてうねうねした状態になれば料理の完遂に近づくことができる。ほかの材料も切ってくれているみたいだしな。炎王龍が切り方をサーバルに教えたようだな。やはり頼りになる、これからもよき仲間になることは違いないさそうだ。

 

「さて。次の準備をするとしよう、次は――」

 

 また器具を使っている。今度はさっきの器具よりも底が浅い。色も黒い色をしている。これでさっき切ったものをまた炙るようだ。しかし何やら炙る前に液体のようなものを器具にまいている。これは何か意味があるのだろうか。まだまだ完遂には時間がかかりそうだ。

 




料理は後半戦へ! 果たしてうまく完成できるのか!?
はじめは肉を使った料理を考えましたけど
取りやめてパスタ系にしてみました。作るのは結構簡単ですからね。
アレンジを加えると難しくなりそうですが、私はオーソドックスな
作り方が一番好きですw


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section Ⅲ: 二人の料理 其の二

御免なさい投稿が大きく遅れてしまいました;;
ちょいとリアルが忙しくて執筆に集中できてませんでした。

料理編その2です! 完成は近い……?


 とりあえずこの謎の液体の正体を知らなければならない。これはいったいどんな役目を果たしているのだろうか。うーむ、これを知るには時間がかかりそうな気がする。代わりの液体でも入れておくとするか。

 

「炎王龍よ、これの代わりになりそうなドロドロした液体を持ってきてくれ」

 

 私は本に書かれている液体を指さして言った。

 

「これに似たものを持ってくればよいのか? 心得たがいいのか?」

「特別変な味にならねば良いだろう。なんでもいい、ドロドロしたものであれば持ってきてくれ」

 

 炎王龍がまた料理場から離れていくのを見届けると、私はあることに気付いた。そう、この棒状のものに色をつけねばならないのだ。それができなければ料理を完遂したとは言えない。

 

「おい博士と助手よ。 この筒状の容器に入っているものはなんだ?」

 

 本に載っている赤い丸いものを指さして訪ねた。すると博士たちは

 

「それはケチャップですね。それがほしいのです? それもあの炎王龍が向かった食材置き場にあるのです」

「ほしいなら取ってくれば良いです」

「あるのか、それは助かる。けちゃっぷ、というのだなこの赤いのは」

「なのです」

 

 私も食材のある置き場へと向かう。なかなか料理というものは大変なものだな。私一人で完遂するのはまず無理だっただろう。しかし世の中にはまだまだ私の食べたことのない物がたくさんあるのだな。そのまま食べたことすらない物もたくさんある。少しくらい食べてみてもいいだろうか。

 そんなことを考えながら食材置き場へと着いた。炎王龍はまだ探しているようだ。

 

「うーむ、これは確かにドロドロしてるようだな。だがこっちもドロドロしている。どれを持っていけばよいものか」

「炎王龍、あったのかドロドロした液体は」

「うむ、我の勘だとこれが正しいものだと思うぞ!」

 

 容器に入ったドロドロしたものをずいと私に見せてくる。おお、これはいいドロドロ具合そうだ。色もよく似ている。料理もきっと成功するだろう。容器には「蜂蜜」と書かれている。私達には読めなかったがまあこれで何とかなるだろう。

 容器を持って炎王龍は先に料理場へと戻っていった。さて、私はけちゃっぷとやらを探さねばな。確か赤いドロドロしたものだったか。――しかし本当に何でもあるのだなこの倉庫には。一体どこからこんなものを手に入れられたのだろうか。

 

「ドロドロした赤いもの……うーむ、これはそんなにどろどろはしていないし何か違う気がするな」

 

 

 私は覚えている記憶を頼りにけちゃっぷを探す。――これか? 赤くてドロッとしたものが容器に入っている。容器を傾けたりしてみる。ゆっくりとなかのドロドロが動く。何とも奇妙な物体だ。だがこれがケチャップであっているようだな。これは私の勘でしかないが。よし、これを持っていくとするか。

 

「さて、もうすぐ料理は完遂か。まああの二人が満足できればそれでいいだろう」

 

 私は置き場を後にした。料理は順調だ、この調子でいけば完遂も可能だろう。

 戻ると炎王龍があの液体とにらめっこしていた。

 

「どうしたのだ炎王龍」

「む? いや、どれくらい入れればよいものか悩んでいてな――」

「ふむ、量か。まあこれくらい入れればよいのではないか?」

 

 容器を手に取りだばっと入れる。大体半分は減ったか。おお、なにやら良いような良くないようなにおいがしているな。まあいい、次の工程へと進むとしよう。

 私はまた本とにらめっこをする。今度は切ったものを入れているようだな。先ほどのものに入れればよいのか。

 

「炎王龍、先ほどサーバルが切った材料をそのドロドロを入れた平たい器具に入れてくれ」

「任せておけ! 入れてどうすればよいのだ?」

「しばらく混ぜればよい」

「ふはは! 全力でやらせてもらうぞ!」

「その器具から飛び散らない程度で頼むぞ……」

 

 不安を残しつつ先ほど湯につけた棒状の材料を見に行ってみる。すると不思議なことが起こっていた。

 

「む? おかしい。こんなに量があったか……?」

 

 みると形は完成したものと同様にうねうねしているがなぜか量が増えている。とりあえずはもう湯から出してもいいだろう。しかしなぜこんなにふえてしまったのだろうか。料理とは本当に不思議なものだ――。

 うねうねを湯から上げると私はケチャップの入った容器と向き合った。

 

「後はこのケチャップをあのうねうねと一緒に混ぜればよいのか。炎王龍はうまくやっているだろうか」

 

 不安を抱えつつ炎王龍の元へ行く。――よかった、惨事にはなっていなかったようだな。普通に混ぜてくれていたようだ。

 

「おお、戻ったか風翔龍。貴公の言った通り手加減して混ぜていたぞ。後はこれをどうすればよいのだ?」

 

 ちまちまと木でできた器具を使って混ぜている。何とも炎王龍らしからぬ光景だ。私はうねうねの入った容器を炎王龍の混ぜていた器具へ移す。おお、これは成功する気がするぞ。なんか量が多い気もするが。あとはこのケチャップをかけてしまえば完遂だろう。私はありったけのケチャップを上からかけまくる。すると――

 

「!? 見ろ炎王龍。色が!」

「!? おお、これは! あの絵と同じ色になったぞ! まるで魔法のようだ!」

「これは完遂したということでいいのではないか?」

「そうだな! これは料理を遂行できたということでいいだろう!」

 

 絵を見ると若干濃い色ではあるが完成形には近いといえるな。これならばあの二人もまあ満足はしてくれるだろう。

 

「おお!? ほんとに料理を作ったのですか!?」

「感激なのです……! まさかほんとに食べれる日が来るとは……!」

 

 匂いにつられたのか二人がやってくる。ご丁寧に乗せる器具まで持ってきている。

 

「さ、さあ早く料理を移すのです!」

「さあ!」

「慌てなくてもわかっている……! ――ほら」

 

 器に乗せた料理を見て二人の目がらんらんと輝いている。まあ貴様らが満足できるのなら私達はそれでいい。遂行した甲斐があったというものだ。

 

「本によると、この器具を使って食べるそうだ。これだな」

「早くよこすのです!」

 

 手にした器具をむんずとひったくる二人、そんなに焦らなくても料理は逃走したりはしないと思うのだがな。

 

「しかし、かなり量があるな――」

 

 作った料理を見てぼんやりとする。これを食べきるのはとても時間がかかりそうだ。山のようにこんもりとしている。

 

 と、サーバルが提案をする。

 

「だったらみんなで食べちゃおうよ! これを食べないなんてもったいないよ!」

「ということはアライさんたちの分もあるのか!?」

「あら、これは嬉しい誤算だわね♪」

 

 ぞろぞろとメンツが集まってくる、やっぱり皆料理を食べてみたかったのか。

 

「料理、きになりますねえー♪」

「ですねー! 食べてみたいです♪」

「!? 別に食べてみたいとか思ってないからな!?」

 

 ハンターの三人組に顔を向けるとそれぞれが反応をする。よだれたらしながらのその言葉は説得力がないなヒグマよ。

 ふえた料理をそれぞれ小分けしていく。ちなみに料理を遂行する前に博士に聞いて本を読んでもらったがこの料理は「ナポリタン」という料理だそうだ。博士はこの料理の存在は知らなかったと言っていた。そもそも料理そのものをしたこともないのならまあ当然だろう。だが私達はその料理を完全に遂行できたのだ。これはジャパリパークきっての偉業となるだろう。きっとこの料理がいずれはパーク中に広がってしまう可能性もなくはないな。

 

「よし、皆の分はあるようだな。では食べてみるとしようか」

 

 

 

「「「「「「「「「「「いただきます!」」」なのです!」なのです!」なのだ!」」」」」」」

 

 

 

 皆で一斉に料理を口にする。お。新しい味。これはうまい、と言っていいのだろうか。

 

「おおおー! なにこれ! なんだか不思議な味ー!」

「ジャパリまんとはまた違う味なのだ!」

「んーこれはおいしい、のかねえ。サーバルの言う通り不思議な味だねえ」

 

 各々が感想を口にする。まあ初めての料理だからな。おいしいかおいしくないかなど分かるはずもない。本物のナポリタンの味を私たちは知らないのだ。

 

「だが、おいしくない、とは言えぬな。一言で言うなら普通だ」

「普通か――。ならばそれでいいか! 我々が作ったものを皆が喜んで食ってくれるのならば我はそれでいいしな! ――うむ、これはなかなか!」

「まあ、これは料理は成功したってことでいいんじゃないかしら? 博士たちも黙々と食べているし」

 

ふと二人に目をやると結構な勢いで料理を食べている。どうやらこの料理、気に入ったようだ。

 

「これは。――なかなか。――いけるのです」

「不思議な味だけど。――これは。――これで。――いけるのです」

 

 あっという間に二人とも食べ終えてしまった。どうやら好評だったようだ。

 

「不思議な料理をありがとうなのです。やはりお前ら二人は我々とは違うようなのです」

「ますます生前がどんなけものだったのかが気になるのです」

 

 炎王龍はフレンズ化する前の姿はそこの二人が目撃しているわけだが、私の生前はまだ誰も見てはいない。見られていたならばこの二人の耳にも入っているはずだ。おそらくここへ来てすぐにフレンズ化してしまったのだろう。

 

「しかし生前を知ってどうするのだ? この世界では役に立つことはないだろう」

「その頭脳、きっとヒトよりも優れたけものに違いないのです」

「我々に体を調べさせるのです」

 

 ずいずいと寄ってくる二人。そこに炎王龍が割って入る。

 

「む、なぜ割って入るのです」

「なんとなく、だ。それよりも、まずは今後のことが重要だろう。われわれがここへ来たその原因、貴様らでもわからぬのだろう? ならば現状は我々だけで探すしかあるまい。――賢者が当てにできぬのであればな」

「む、確かに我々でもわからないのです。ですがその物言い、ちょっとカチンときたのです」

「だったら徹底的に調べてやるですよ、賢者の名に懸けて」

「ほお、それはたのもしいな。だったら何かわかり次第我々にも知らせてほしいものだな」

「上等なのですよ炎王龍。我々の情報力を甘く見るななのです」

「飛び切りのものをお前らに与えてやるのです」

 

 おお、二人を挑発して話を切り変えたか。ただの戦闘狂だと思い込んでいたがやはり頼れる。

 

「すまないな炎王龍よ」

「気にするでない風翔龍。我々はもう戦友のはずだろう?」

「私と戦う気はまだあるのか……」

「当然だろう! あれほどの戦いは久しぶりだったからな!」

 

 

 こうして料理騒動は無事成功で幕を下ろしたのだった。そしていよいよ私達は原因を探るべく行動に移り始めた。私達が原因にたどり着くのはいつなのか、それは原因のみぞ知る。

 




次回は探索に向けての準備回です!
果たして原因を知る日はいつ来るのか――



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section Ⅳ: 作戦会議

しばらく遅筆になりそうです……仕事という怪物には勝てそうにない……


 

 料理を終えて私達は博士にカギを握っているフレンズがどこにいるかを聞いていた。だが賢者の二人もわからないという――うーむ、困ったものだ。

 

「とりあえずジャパリパーク中を周ってみるしかないか。どれくらいの広さがあるのかも把握しておきたいしな」

「おおー! 楽しそ―!」

「なんだか、ワクワクしてきたのだ!」

 

 アライグマとサーバルが目そキラキラさせている。もう完全に付いてくる気だなアライグマの方は。まあ退屈しないから私はいいのだが。どうせあの赤いやつも連れてく気満々だろうしな。

 

「ふははは! いいぞいいぞ、我らについてくるがいい! どんな強い奴が出てくるのか楽しみだ!我を楽しませてくれる奴が出てくるといいな! ふははは!」

 

 やっぱりだったな。だんだんと人数が増えてきたな。騒がしいのはもう慣れてしまったが、心配の種も増えてしまったな。うむ、私がしっかりしなければならぬな。その種どもが何をしでかすかわからんしな。

 

「ところで、シマウマの様子はどうなのかしら? 料理が終わってもまだ起きてくる気配はなさそうだけれど」

「うむ、たしかに少し様子を見てきた方が良いか。どうやらサンドスターのおかげで傷の治りは早いようだが、目を覚ましているかどうかはそれに因らないようだからな」

 

 私は図書館内へ入り、寝室へと向かう。シマウマにとってはあの怪物の姿をしたセルリアンは脅威でしかない。相当怖い目にあったのだろうな。今度対峙したときにトラウマになっていなければいいが……。

 

「調子はどうだシマウマ」

「……むにゃ……」

 

 寝ているか……起こすのも悪いな、このまま寝かせてやるとするか。

 

「くしゃるだおらさん……たすけないと」

 

 寝言か、一体どんな夢を見ているのだろうか。まあ起きてから聞けばいいか。

 私は寝室を後にし皆の元へと戻った。そうだな、作った料理を置いて行ってやるとしようか。料理を手にまたシマウマのところへ行く。

 

「ふああぁあ……あ、風翔龍さん、おはよーございます……」

「目が覚めたか、シマウマ。傷の状態はすっかり治ったようだな」

「まあ、よく寝てましたからねえー、おかげさまで元気ですよー」

「それは何よりだな。それより、料理を持ってきた。食べるがいい」

「りょうり? なんですかそれ」

 

 私は料理について詳しく説明する。するとシマウマは、

 

「そんな楽しそうなことなんで教えてくれなかったんですか! 起こしてくれたら私もみんなと一緒に食べれたのにー!」

「いや、あんな気持ちよさそうな顔して寝てるお前を起こすのも気が引けたからな。だが料理はお前の分はしっかりとっておいた。これで文句は言うまい?」

「う……まあ、感謝はしますよ。ありがとうございます」

 

 少しふてくされ気味でお礼を言うシマウマ。少しだけその顔にドキッとしたのは内緒だ。

 

「ところで、寝言で『くしゃるだおら』と言っていたが、一体何なのだ? どんな夢を見ていた?」

「詳しくはわからないですけど、ただひとこと、そのフレンズを見守りなさいとしか」

「それはわたしが聞いた声の主と同じだったのか?」

「そうですね――サーバルさんの声をちょっと低くしておとなしめにしたような声でしたかねー」

 

 んー? なんとなーくだが私の聞いた声もそんな声だったような気がする。確証はないが私も聞いたことがある声だと言っておいた。

 それにしても『くしゃるだおら』か……何故だろうか、この言葉を聞くともやもやするのは。

 

「まあとにかく、その言葉の意味も気になるな。夢で見たことなどあてにはできぬが、今はそれを信じて調べて回るしかあるまい」

「あのー、言いにくいんですけど私も――」

「まあ、連れていくしかないだろう。寝言とは言えそんな言葉聞かされたらますます声の主について気になってしまったしな」

「お別れだと思ったらまた合流してしまいましたねえー」

「確かにな。出会いというものは本当に不思議なものだな」

 

 他愛もない話をしながら私たちは皆の元へと戻った。何はともあれ、シマウマは元気を取り戻したようで何よりだ。

 

「あ、ふうちゃーん! シマウマも元気そうだね!」

「はい、おかげさまで元気いっぱいです」

 

 真っ先ににサーバルがこちらに気付いて駆け寄ってくる。

 

「やっとお目覚めですか、シマウマ」

「おそいのです、もう待ちくたびれたのです」

 

 サーバルに次いでこちらへ近寄ってきた賢者二人が退屈そうに欠伸をする。起きてからそんなに時間は経ってはいなかったと思うがな。

 

「博士たちも心配してたくせにー」

「「うるさいのです、サーバル」」

「みゃ!? なんで怒るの!?」

 

 二人にぎろりと睨まれてびくっとするサーバル。まああの二人の性格からすればそうなるだろうな。

 

「さて、これで全員ですね。ハンターの三人は見回りを続けていくそうなのです。何かあったらここへ情報を持ってくるとのことなのです」

「あの三人は別行動か。まあ腕は確かだしな、そう簡単にやられはしまい」

「まずこれから我々が行うこと、それは――」

 

 皆ごくりと唾をのむ。――何名かは目を輝かせながら。

 

「雪山ちほーへ行くことなのです」

「雪山かー、まだ行ったことないちほーだなあ」

「ふふふ、アライさんがいればどんなちほーでも怖いものなしなのだ!」

「頼もしいねえーアライさん」

「どんな強いフレンズがいるか楽しみだな! 我を楽しませてくれれば満足だ!」

「いきなりけんか腰はやめてくださいねー……」

「まあ、手が付けられなかったら風翔龍が何とかしてくれるでしょうね、たぶん」

「結局私頼りになるのだな……」

 

 雪山か。私にとっては懐かしくもある。同時に苛立たしくもある。しかしなぜ雪山なのだろうか。

 

「なぜ雪山なのか――知りたそうな顔をしてるですね風翔龍」

「――知ってるなら話してくれ、何故だ」

「トキの情報なのです」

「ええ、実はあなたたちがサンドスター山へ行った後少し遠くへ見回りに行ってきたの」

「なるほど、そこで例の歌を聴けたということでいいのか?」

「ええ、微かだけどね。残念なことに下は吹雪いててよく見えなかったけどサーバルのおかげで歌声が聞き取れたわ」

「えっへん! 結構寒かったけど頑張ったよー!」

 

 さすがはサーバル。ただ待っているだけじゃなく情報を集めに行っていたのか。ここで待っているのは退屈で仕方なかったってこともありそうだな。

 

「確か初めて聞いた時も雪山だと言っていたな」

「ええ、その時は晴れていて下も見えてたけど歌が聞こえてきたのはちょうど木の下からだったから姿は確認できてないわ」

「でも歌声はトキの聞いた声と一緒だったよね、確か」

「ええ、間違いないわ。私は直接は聞き取れていないけどサーバルから歌の内容を聞いて確信できた。たぶん同じ子の可能性が高い」

 

 まあもし同じ子ではなかったとしてもその子が歌を教えてくれた子のことを知っているだろうしな。どのみち雪山で歌を聞き取れたのは大きい。

 

「どうするのです? 早速向かってみるですか?」

「向かいたいのはやまやまだが何処にそのちほーがあるのかさっぱりわからない」

「それなら私が誘導しましょうか。昨日行ってきたばかりだし」

「そうかトキは昨日行ってきたばかりだったな、頼めるか?」

「もちろんよ、ばっちり案内してあげるわ」

 

 やはり頼もしい、サーバルとは違った頼もしさだ。やはり鳥のフレンズは飛べることもあって場所には詳しいのだな。私では野生解放の限度があるから、自由に飛び回ることはできないだろう。こればかりはどうしようもない。

 

 さて、行く先は決まった。このまま何事もなく着ければいいが、そうもいかないのが現実だ。どんなセルリアンがいるかもまだわからない。こちらに向かってきているかもしれない。例えば――

 

「来ているな……フレンズではないな。セルリアン――少し大きめのやつだな」

 

 今のようにな……!

 

「セルリアンですか。我々では手に負えない奴なら後ろから見守っているのです」

「えー!? 一緒に戦おうよー!」

「こら、戦う気のないものを戦わせようとするでない。それで怪我でもされたら後味が悪いであろう」

「炎王龍の言う通りなのです。サーバル、我々を労わるのです」

「――まあ相手も見ずに戦わず観戦するのもどうかと我は思うがな?」

 

 ニヤリと炎王龍が二人を見る。そそくさと後方へ逃げる二賢者。

 

「やれやれ。まああの二人は知恵が長けているしな。そちらで頑張ってもらうとするか」

「さて、どんなやつが来るか……だな」

「またあのモンスターみたいなやつなのかな……」

「心配なら下がってるといいのだ、敵を見るまでアライさんは動かないのだ」

「足が震えて動けないんだねーアライさん」

「フェネック!?」

 

 ずるずるとフェネックに後ろへ引きずられていくアライグマ。威勢だけよくても実力がなければな……。

 

「トキは大丈夫なのか? 相手はまたモンスターかもしれぬのだぞ」

「まあいざとなったら空中へ逃げるわ」

「利口だな、そろそろ姿が見えるぞ。身構えろ……!!」

 

 がさがさと音を立ててついにセルリアンが私達の目の前に姿を現した。だがその姿に私達は驚愕してしまった。

 




対峙したセルリアンは果たしてどんなものなのか!?
次回戦闘回!


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section Ⅴ: 鳥のセルリアン

 うわああああずいぶんと間が空いてしまった……申し訳ありません!エタったわけではないのでご安心を。ちょっとリアルが忙しかったのでなかなか投稿が(´・ω・`)では続きです!


 

 これは驚いた。モンスター型のセルリアンはてっきりあのような轟竜をカタチどったセルリアンだけかと思っていたが、まさか鳥型もいたとは。しかもサイズも小さい。まるであの鳴き声の五月蠅い怪鳥のようだ。それとはまるっきり姿カタチが違うが。

 

「私の知らない世界のモンスターなのかこいつは。前世では見たことも聞いたこともない」

「え、風翔龍ちゃんも知らないの? あれ」

「これは驚きなのです。風翔龍さえも知らないカタチのがいたとは」

 

 ちょっとムカッと来る物言いだが聞いていないふりをした。しかし見た目でわかる、こいつは鳥の類のモンスターだ。嘴が何よりの特徴か。

 

「グェェッ! グエッ!」

「なんか怒ってるっぽいのだ……」

「ははあー、寝てたのを私たちが騒いで起こしちゃったっぽいかな?」

「もしそうなら謝らないとだね……」

「セルリアンに謝っても理解できてないと思うわよサーバル」

 

 まあ何はともあれ、セルリアンである以上野放しにはできないな。

 

「一応気を付けておけ……小さいからって力が弱いとは限らないぞ」

「ふん、あんなちっぽけなモノ――我の業火で炭にしてくれる!」

「おい、このしんりんちほーをはらっぱちほーに変えるつもりですかお前は」

「余計見通しが良くなってセルリアンが押し寄せてくるのです。お前は野生解放するななのです」

「むごっ!? 」

 

 ぼかっと音がする。後ろからタックルを受けたようだな炎王龍。だがナイスタックルだ賢者どもよ。そうでもしないと本当にここが原っぱになり兼ねんからな。

 

「さて、戦闘狂は放っておくとして――まずは相手がどう出てくるかを見るべきだな」

 

 みたところぎゃあぎゃあと翼をバタバタしながら騒いで怒りをあらわにしている。だがこちらに襲い掛かってくる様子はない。こっちから仕掛けても問題はなさそうだ、申し訳ないがさっさとケリをつけさせてもらうとするか。

 

「一斉に仕掛けるぞ、貴様ら、準備はいいか……?」

「一撃で仕留めるのね、わかったわ」

「いっせいにやっつけるんだね、わかった!」

「アライさんのスペシャルな一発をお見舞いするのだー!」

「はいよー、それじゃいきましょうかねぇー」

 

 半ば残念そうに見守る炎王龍を尻目に一斉に野生解放しモンスターへとびかかる。そして――

 

「「「「「せーの!!」」」」」

 

 掛け声とともに一撃を――

 

「グゥウウェェェェエエエ!!!」

 

 与えられなかった。予想外なことが起きたのだ。なんといきなりけたたましい鳴き声と共にセルリアンの目の前が爆発したのだ。私達は吹っ飛ばされてしまった。

 

「――え? な、何が起きたの一体……」

「いきなり目の前がどかんってなったのだ……」

「セルリアンも特技を持ってるなんて聞いたこともないわ……」

「く……何とか風を起こして致命傷は避けられたが、あれでは正面からは無理だな」

「何と奴も火を使うのか、同じ炎を扱う身同士少し親近感がわくな」

「言ってる場合ですか。――うーむしかしこれは予想外すぎたのです。まさか鳥のくせに火を使うとは」

「博士、何か考えはあるのです?」

 

 後ろで賢者二人が何か考え込んでいる――作戦を考えているのか。ま、私も私なりに考えはあるがな。

 私は武器を構え、鳥のセルリアンの隙を伺う。おそらく奴の背中側は柔らかくいしもそこにある可能性がある。動きからして奴は背中を見せたがらない、ならば背中は弱点だというわけだ。こちらが動けば奴は正面で相対してくる。

 

「サーバル、奴の背中側に回れるか。おそらくいしがそこにあるかもしれん」

「みゃ? ふうちゃんもうやっつけかた分かっちゃったの?」

「まだそうだとは限らんが、可能性はある。お前の脚なら裏に跳んで回り込むくらい造作もないだろう?」

「でも気づかれたりしないかなあ……」

「ふふふ、アライさんにお任せなのだ!」

「こっちに注意をひきつければいいんだねー」

「私の歌ならひるませられるかも」

「「「それは勘弁して(なのだ)……!」」」

「……」

 

 ほほう、ほかのフレンズたちもやる気は満々か。ならサーバルが回り込むまで私も頑張るとしようか……!!

 

「お前たちちょっと待つのです! いいことを思いついたのです」

 

 一斉にかかろうとして後ろから呼び止められる。はずみで皆前のめりに転びそうになった。一名を除いて。

 

「なんなのだぁ!! せっかくかっこよく飛びかかろうとしてたのに!」

 

 その一名が涙目で後ろに叫ぶ、盛大に顔面を打ち付けていたなアライグマ……。それでも平気とはさすがフレンズ、あなどれんな。

 

「それで、そのいいこととは何だ? 聞かせてくれ」

「まずはこっちに集まるのです。話はそれからしてやるです」

 

 言われた通り私と皆は博士たちの元へと急ぐ、聞かせてもらおうではないか、貴様の考えた作戦とやらを。

 

「よし、集まったですね、……幸い向こうから仕掛けてくる様子はなさそうなのです。このまま作戦をお前たちに伝えるです、耳の穴かっぽじってよーく聞くのですよ」

 

 作戦を話し始めるコノハ。ふむふむ、なるほど……確かにそれだとあのセルリアンが炎で攻撃してくることはなくなるだろう。私の考えた作戦と合わせてもいい。

 

「で、誰がその役をやるんだ? ……ああ、私か。貴様らのその表情を見て察した」

 

 一斉に皆がこっちを希望に満ちた顔で見ていた、私はそんな大それた存在などではないのだが。はあ、まあやるしかないのか。

 

「それで、何故貴様まで私をそんな顔で見ている炎王龍よ」

「いや、貴公が武器を使って戦う姿はまだ見たことがないのでな。野生解放をせずに戦ったら貴公がどれほどの強さなのか少しワクワクしているのだ」

「ふうちゃんはすっごく強いんだよ! さばんなちほーでもわたしたちが戦えなくなっても一人でセルリアンを追い払っちゃったんだもん!」

「まあ確かに最後まで戦っていたのは私だったがお前が出てこなければシマウマを助けられなかったのは感謝しているぞ? あの轟竜もどきを前に飛び出てこられる勇気は大したものだと思うがな」

「えへへー」

 

 ごほんと咳をして話を遮る博士。っと、そんな話をしている場合ではなかったな。まずは目の前のセルリアンを倒してしまわないとな。

 

「それではお前ら、作戦を実行するのです!」

「うまくやるのですよ、勝ったら料理をまたご馳走するのです、……風翔龍が」

「……」

 

 またあれを作らされるのかあれを。少なくともこいつらが食べたいだけではないのだろうか。いっそのことここから飛んで逃げて山麓のカフェでのんびりくつろいでやろうかこの鳥ども。

 

「グエッ!!」

「!! 向こうがしびれを切らしたみたいね、来るみたいよ……!」

 

 さてと、まずは様子を見てみるか。私は武器を構えてセルリアンを見据えながら機をうかがう。

 

「よし、行くよふうちゃん! 囮は任せてね!」

「くれぐれも無茶はするなよ? 怪我でもされたら面倒なのだからな」

「それふうちゃんもだよー!」

「仲がいいんだねー、私とアライさんには負けるけどねー」

「?? フェネック?」

 

 まあこれまでの行いを見ればサーバルの言うことに違いはないな。そしてそんな他愛ない話を皮切りに私達はセルリアンと同時に駆けだした。 戦闘開始だ……!

 




しばらくは間が空く投稿が増えそうです……畜生セルリアンにうちの上司をもぐもぐしてもらいたいぜ。次回はいつになるかはわかりませんが投稿をやめるつもりは毛頭ないので気長に待っていてください。さてセルリアンとの戦いがまたまた始まります!今回のセルリアンはみんな大好き?ペッコちゃんに登場していただきました。いやー初見はマジで苦労しました。大型呼ぶなんて反則でしょあれwペッコちゃん相手に風翔龍一行はどんな戦いをするのか。


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