お独り様のハンター生活 (獅子脅)
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プロローグはいつも説明的で。

まず最初に言っておこう、この物語はハッピーエンドではない。

 

主人公は誰とも結婚したりしないし、仲間と競い合ったりもしないし、俺たちの戦いはここから始まったりもしない。

 

孤独であり、そして孤高な物語なのだ。

 

それを忘れてはいけない。

 

それでもよければ、静かな村で腐っている一人の男の話を始めよう。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

『なーんでこんないい天気なのにお前なんざ相手しなきゃいけないのかねぇ。』

 

そう愚痴をこぼしながら目の前に佇む雷狼竜ジンオウガと対峙する。

バチバチと帯電行動に入ろうとするジンオウガを矢先にヘビィボウガンの銃砲を鳴り響かせる。

 

『無視されるのは嫌いだ。』

 

非常に不快だと言わんばかりの銃撃を浴びせ続け、貫通弾Lv1は無慈悲にジンオウガの身体を貫き、そして5分と経たないうちにズシンと倒れ動かなくなった。

 

『ふぅ、中々に疲れたなぁ。』

 

相手は上位、その中でもそれなりの手練れだ、疲労が溜まるのも頷けるだろう。

それにソロなんだ、かかった時間を考えれば上出来以上だと思うんだがな。

 

あぁ、では何故パーティで狩猟しない?なんて質問をされそうだが、クエストの報酬を独り占めできる、なんて理由もあるがそれなりの危険ってのが伴う。

ハンターがしているのはモンスターとの命のやり取りだ、生きるか死ぬか二つに一つ。

そのリスクを考えればソロで狩猟なんて全く割りに合わない、では何故か?ソロで狩猟する本当の理由は俺の過去にある。

こういう話の主人公にはよくあるだろ?だけど仕方ないんだ、だってあるんだもの。

 

まぁその理由ってのはまた今度話すとしよう。

 

そんなことより剥ぎ取りがしたいんだ、俺は。

 

【雷狼竜の碧玉】

 

マジか。今日は美味い酒が呑めそうだ。

 

剥ぎ取りも済ませたし、ギルドからの迎えを待つ間に少し過去の話をしておこう。

あれだ、こういうのでよくあるキャラクター補足だ。

 

俺がハンターになった理由だ。

 

ハンターってのは誰もがやりたがる仕事じゃない。

ハンターになる理由は人それぞれだ、金のため、地位や名誉のため、自分の力を見せつけるため、ただ単に楽しいからって言う戦闘狂みたいな奴もいる。

だが、この仕事はそんなに楽しいもんじゃない、ギルドからの援助があるとは言え、クエストに向かった奴が帰らぬ人になるなんざ日常茶飯事だ。

勇敢な奴ほど早く逝ってしまう世界だ。

 

まぁ、そんな厳しい世界を選んだ理由は、簡単に言っちまえば復讐だ。

 

いや、だった。と言うべきだな。

 

ガキの頃に住んでた故郷の村をあるモンスターに襲われた。

運よく生き残ったのは俺だけだった、俺の故郷の村にも専属ハンターってのが居たんだが、村の誰よりも早く尻尾を巻いて逃げちまった。

まぁ、昔はそのハンターを憎んだが、相手が相手だったから逃げちまうのも仕方がないと思える。

それほどの獲物、そう古龍だった。

そこらの強敵と呼ばれるモンスターですら比べ物にならないほどの力を持つ存在。

あれは生物なんてカテゴリーには入らない、例えるなら災害だ。

 

ハンターになった理由はその古龍をこの手で殺すためだった。

 

だが…まぁ色々あって仇討ちなんざに意味はないと理解したんだがな。

 

今もハンターを続けてる理由は、特にない。

 

長々と説明した割りには適当だって?そりゃそうだ、こんな割りに合わない仕事辞めれるもんなら辞めたい。

なぁなぁで続けてるのはそうだな、続ける理由を探すため?なんていう意識高い系な目的の為だ。

 

『お疲れ様ですニャ!お迎えにあがりましたニャ!』

 

おっと、ギルドから迎えが来たみたいだ。

 

ここらで俺の話はとりあえず終わらせておこう、またいつか語る日が来るだろうからその日までお預けだ。

 

♦︎♦︎♦︎

 

『お疲れ様です、こちらが報酬金と報酬素材になります。』

 

渓流からベルナ村の集会所に戻り、受付嬢から報酬をもらう。

 

ここの受付嬢達は物凄く人気がある。

その容姿端麗さから他の村からはるばる物見遊山に来るものもいる。

 

まぁ、ネコ嬢のアイドル的人気のせいもあると思うが。

 

『女将さん、いつもの。』

 

アイルー屋台で女将さんにメシを頼む、これが1日の締めくくりだ、ハンターを続けてる理由がないと言ったがここのメシを空腹という最高のスパイスのためにハンターをやっていると言っても過言ではないほど俺にとって至福の時間なのだ。

 

『はいはい、龍酒蒸しね。』

 

ここのメシはなんでも美味い。

俺な特に好きなのはこのベルナスの龍酒蒸しだ、なんで酒で蒸すだけであんなに美味くなるのか理解ができないほど美味い。

あとこの村で有名なのはチーズフォンデュだな、あれは酒とも合うし最高だ。

ハンターがよく摂取する携帯食料とは大違いだ。

あれはメシとは呼ばない、味が全くせず単純に必要なカロリーを摂取するための固形物だ。

 

『お待たせニャ!』

 

おぉ、きたきた。

この香り、たまらねぇ。

 

『いただきます』

 

一気にかき込みたいところだが、少しずつ味わって頂く。

腹に栄養が溜まるのを身体中で感じる。

こうしてクエストで疲労し、筋繊維がブッチブチに切れたのをここのメシを食べて修復する。

 

命を奪い、そして敬意を払い食す。

 

まぁ、あのジンオウガを食べてるわけじゃないんだがな。

モンスターを狩ること、それは一見すれば横暴な行為にも見えるだろう。

人間の勝手な都合で命を奪っているんだからな。実際それもあながち間違いじゃない、だが俺たちハンター、そしてギルドの思想はモンスターの殲滅ではない。

モンスターとの共存、それがギルドの思想だ。

ギルドに所属しているハンターもその思想を持っているからこそ、無闇にモンスターを狩猟したりしないんだ。

個人的な狩猟のセオリーだが縄張りを荒らすもの、人の命を無闇に奪うもの、村を襲うもの、生態系を崩すもの、これらは俺にとっての狩猟対象だ。

中には装備を作りたいから狩猟する、目障りだから狩猟する、復讐するために狩猟する、ってな奴らもいる。

だがそれを悪とは誰も呼べないのだ、正当に依頼され、それをこなしているに過ぎないのだから。

共存と言っても人間贔屓なのは間違いないがな。

 

『ごちそうさまでした、と。』

 

さて、なんだかんだで食事を終わらせ自宅に帰るとするか。

女将さんに挨拶をしてここの村に来た時に村長から貸してもらった自宅に帰宅する。

まぁ、部屋は質素ではあるが案外気に入っている、必要なものは最低限あるし何よりベッドが柔らかい、マシュマロのようで寝ていると沈みそうなくらいだ。

 

白疾風装備一式を脱ぎ、タマミツネと呼ばれるモンスターから出来たヘビィボウガンを武器庫に立て掛ける。

これでも中々の装備を揃えていると自負している。

 

とまぁ、ここまでが俺のいつもの日常だ。

俺はこの生活に満足している、一人だからこそ誰にも気を使う必要がないし、一人だからこそ気兼ねなく狩猟ができる。

 

前説が長くなってしまったが、これから俺の物語が始まる。

 

これからちょっとしたトラブルに巻き込まれるんだ、とはいえラブコメ的なトラブルとは違う普通に厄介なやつだ。よくあるだろ?私と!パーティを組んでください!的なやつ?

 

ねぇよ、安心するなよ?

 

さて、少しずつ始めていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 




プロローグを書き終わった頃、この主人公どうしよう…ブレブレになりそうだよぅ、ふえぇ。ってなりましたが、まぁ色々あって捻くれちゃったんだよね系男子なんです!!


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始まりはいつも感情的で。

『ーーーめろ!!ーーーんて無謀だ!!!』

 

うるさい。

 

『ーーー何故だ!!』

 

うるさい。

 

『一人がよかったんだろ?』

 

あぁ、そうだ。

 

そうだった。

 

『あっ、あぁああああああああ!!!!』

 

酷い寝汗を垂らしながら最悪な朝を迎えた。

毎度のことだ、疲れが溜まった時はいつもこの夢を見る。

顔を洗おうと洗面台に立とうとした瞬間、ノックが鳴った。

 

『誰だよ…こんな朝っぱらから…』

 

客人なんてそうそう来ない、こういう時に限って来るのは大体面倒事だ。

だがもし世話になっている村長とかだったら無視はできないし…。

 

『ったく…急な来客は嫌われるぞ…』

 

ぶつくさ言いながらドアを開けた。

 

『あっ、あの!!朝早くすみません!!お願いがあるんです!!』

 

と、いきなり名も名乗らない無礼でか弱そうな少年が立っていた。ラングロシリーズに大剣を携えた風貌からしてハンターだろう、それも新米、まだ下位か上位上がりたて言ったところか。

 

『悪いが、こんな朝早くから名も名乗らないようなやつのお願いを聞く義理はない、帰れ。』

 

冷たいか?真っ当な返しだと思うのは俺だけか?いや俺は悪くないな、うん。こいつが悪い。

しかし、こいつハンターなのに一度もこの村で見たことないな…。

 

『あっ…も、申し訳ありません!!!き、キリュウと申します!!バルバレから来たものです!!』

 

バルバレ…なんとなく察しがついてしまうのがどうにも癪だ。うん、やっぱり断ろう。

 

『そうか、キリュウくん遥々バルバレからようこそベルナ村へ、チーズフォンデュが美味いぞ。じゃあな。』

 

と、華麗に彼を躱した。

いやマジで華麗だわ、ナルガクルガの攻撃をフレーム回避するくらい華麗だわ。

 

『お願いします!話だけでも聞いてください!!お願いします!!!』

 

しつこかった。もうチーズフォンデュ食って帰ってくれよ…と思いながらも、目が意外とマジだったんで本当に面倒事だと理解した。

ジジイ、恨むぞ。

 

『…はぁ。話だけだ。』

 

つくづく甘いとは思うが話を聞いて物見遊山でもさせて帰らせよう。そうしよう。

 

『あっ、ありがとうございます!!』

 

そんなに目をキラキラさせないの、お兄さん眩しいルーキーを見るの辛いんだわ。

歳感じちゃうの。

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

『実は…ディノバルドを、狩りたいんです…!』

 

おう、勝手に狩って帰れ、下位程度ならこの少年の装備でソロでもまぁ狩れるだろう。と思ったが、この感じだとそこまでのセンスはない感じか?そもそもなんでディノバルドを狩りたいんだ?遥々バルバレから狩りに来るほどディノバルドに執着する理由はなんだ?

 

『なんでまた?』

 

『実は…結婚を約束した娘が居まして…』

 

あー、はいお兄さん察した。察せた。そんでもってこの歳で独身のお兄さんの心をその大剣で叩き斬りに来たのか?残念だったな、俺は独身であることに誇りを抱いてる。君程度の溜め3斬りではその誇りは砕けないさ。

 

『その娘の父親が厳格な方で…燼滅刃を狩るほどの男でなければ娘はやらん!!と仰っていまして…』

 

流石お父さん、二つ名くらい狩る男じゃないと男じゃないっすよねマジで。

合点がいった、そいつをソロとは中々辛いものがあるだろうな。

 

『で?それを他人の俺に狩るのを手伝えと?』

 

『いえ!!自分一人の力で証明できないと意味がないんです!!』

 

ほう…?中々いい心意気だ。嫌いじゃない。

 

『じゃあ何故俺を訪ねてきたんだ?』

 

『僕を…強くしてください!!!』

 

想像の3倍くらいの面倒事だった…弟子取りなんてしてないししたこともない。大体俺はガンナーメインのハンターだし剣士系は専門外だ。彼には悪いがやはりお引き取り頂こう。

 

『悪いがーーー『お願いします…!!!一人でも勝てるって…証明したいんです!!!』

 

『今までパーティと狩りばかりしていて…みんなに任せきりの狩りばかりで…ちゃんと、強くなって証明したいんです…!!!』

 

若い。それもとても若い。

基本的にソロで狩りなんざパーティでさえ命を危険に晒しているというのに更に危険を晒している物好きとまで言われ、自殺志願者だのと呼ばれる始末だ。

それなのに、死ぬかもしれないのにそれすら厭わずに力を証明しようとするその理由は感情なのだろう。いつもそうだ、危険を顧みず人間を突き動かしてきたのはいつも感情だった。

 

だから、早死にする。

 

『やめとけ、そうやって力を証明したいんなら順序を踏め、パーティで狩る事も経験に繋がる、お前のためにもなるさ、死ななきゃ強くなる。』

 

だから、自己を守れなくなる。

 

『それでやっと上位、G級へと上がってハンターは一人前になるんだ。』

 

だから、周りが見えなくなる。

 

『それじゃ…遅いんですよ…!それじゃ今あるものを守れないじゃないですか!!!』

 

『…』

 

どこか説得力がある。そしてこの少年は俺とは違う。誰かを守るために一人でやるのだから。

 

この少年なら…証明できるのかもしれない。

 

『…はぁ。わかった、戦えるくらいには面倒見てやる。』

 

『っっっ!!!本当ですか!!!』

 

わかりやすいなこいつ、騙されたりしてないか?お兄さんは心配だぞ?飴なめる?

 

『ただし、3日だ。3日で戦えるレベルまで底上げする。覚悟しとけよ。』

 

『3日…やります!!やり遂げてみせます!!』

 

まぁ、上位レベルの知識と経験を教えるってのは難儀なことだが、大剣ならなんとか教えられるだろう。あとはこの少年のセンスの問題だろう。

 

『そんじゃ、今からだ。準備しろ。』

 

『え?あ、はい!わかりました!』

 

何を疑問系なってんだ、当たり前だろ3日間しかないうえに今はまだ朝だ。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

『あら、ハンターさん珍しいですね、お連れがいるなんて?』

 

集会所のクエストカウンターで受付嬢がニヤニヤしながらそう問われる。

やめてくれショタコンになったわけじゃない。やめて?ほんと、違うからね?

 

『連れじゃないし!パーティは組んでねぇし!』

 

あっ、なんかツンデレみたいになったやだ恥ずかしい。

 

『あらあら、まぁまぁ。』

 

お母さんみたいなのやめろ!なんか恥ずかしいから!!

 

『ところでキリュウくんとやら、ハンターランクはいくつだ?』

 

『ええと、この間4になったばかりです』

 

ふむ、まぁ妥当というか上位に行けるレベルで少し安心した。

 

『それじゃ、このクエストに行ってもらおうかな』

 

『あら…上位になりたての子にこのクエストは…』

 

『え…えぇええええええ!??』

 

こいつでも生温いくらいだ。それにこの程度のやつをソロで狩れなきゃ二つ名モンスターなんざ夢のまた夢だ。成長なんてありえない。

 

『大丈夫だって、ちゃんと行く途中まではアドバイスしてやるし、死んだら墓は立ててやる!』

 

『そ、そんなぁ!??!』

 

さぁ、どこまで根性見せるかな。

証明してみせろ、まず俺に。

 

『轟竜…ティガレックス…』

 

 




新キャラと登場と同時にやっと始まりました!キリュウくんは燼滅刃を狩れるのか!!その前にティガですね、ティガ大剣ってとっても使い勝手が良くて好きです。


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強者はいつも圧倒的で。

飛竜種目、レックス科、その名をティガレックス。

 

別名、轟竜。

 

その走行スピードは全飛竜の中でもトップクラスで、時速50km以上にもなる。

 

そしてそのティガレックスを象徴する最大の特徴は、轟々たる大音量の咆哮だ。

ティガレックスの体内には大鳴き袋と呼ばれる専用の特殊な内臓器官があり、これを利用して暴力的なまでの膨大な音量を誇る咆哮を放つことができる。

 

そして、最早それは音の領域を超える。

 

放たれた瞬間に衝撃波と化して周辺の物体を壊してしまうほどだ。

 

しかし、轟竜が一番恐ろしいのは興奮した状態だ。

血行が良くなり肉質も軟化するが、その分動きが加速化し、最早暴走と断言してもいいほど危険な存在と化す。

怒りに燃え滾るティガレックスとの遭遇は死を意味するといっても過言ではないとされ、対峙する者は新米ハンターはおろか、熟練ハンターですら命の保証はない。

 

その圧倒的な力と凶暴性から呼ばれる異名、その名をーーー

 

『絶対強者』

 

目的地に向かう途中にティガレックスに関する軽い情報を少年にレクチャーしたんだが、何この子どこ見てるの?明後日の方向?緊張するのはわかるけど大丈夫だって、下手しても死ぬだけだ。

 

『あ、あの…本当に僕なんかに狩れるでしょうか…』

 

ん?何を言っているんだこの少年は?

 

『お前は、証明しに来たんだろ?これくらいでビビってちゃ燼滅刃なんて夢のまた夢だぞ?』

 

『そ、そうですね…やる、やるんだ…。』

 

ハンターってのはいつも死と隣り合わせだ。例えその相手が、イャンクックだろうがドスファンゴでもだ。どんな時でも死の覚悟をしなければならない、それがハンターになる最低限の資格と言っても過言ではない。

 

『そういえば、何故ガンナーメインなんですか?』

 

よく聞かれる質問だ。俺はこの質問に決まってこう答える。

 

『ハンターって職業を一番表してるって思うからだ。』

 

『表してる?』

 

『ハンターってのは自分の能力を大きく上回っているモンスター達と対峙するだろ?』

 

『はい。』

 

『そんな中で正々堂々、真正面からやり合っても勝てる道理なんてない。臆病に、そして確実に狩猟しなければならない。』

 

まぁ、中には殴り合って余裕で競り勝つバケモノもいるがな…。

 

『ガンナーってのは距離を取り誰よりも臆病に、知識を駆使して確実に狩猟する。そういうところがハンターを表してると思ってな。』

 

まぁガンナーは身軽でなければならない故に防御力もないから、モンスターの一撃に対してしっかりと危機感を覚えて避けれるようになるからメンタル的にも強くなれるんだよなぁ。

 

『なるほど…勉強になります!』

 

勉強熱心なのは素晴らしい。お兄さんはなまるあげちゃう。

 

『君は何故大剣を使ってるんだ?』

 

『えと、やっぱり一撃必殺!!みたいな感じでかっこいいから、ですかね?』

 

馬鹿みたいな答えだが、案外的を得ている。

大剣というのは双剣や太刀とは違い手数もなければ練気もない。

あるのは他の武器にはない圧倒的な破壊力だ。動きの早い敵でも一撃一撃を確実入れられればかなり強い武器だと思う。しかし、そのシンプルさ故に一定以上になると上達がかなり難しくなる。

 

『なるほどな、スタイルは?』

 

スタイル。ハンターの基本的な行動や連携をそれぞれの方向性に特化させたのが狩猟スタイルと呼ばれるものだ。まぁ、従来と同じようなスタイルもあるが武器種毎に相性のいいスタイルがハンターの中で日々研究されている。

 

『ぎ、ギルドスタイルです…』

 

何を縮こまる。従来通りの狩り方が悪いというのか、最近の若者は。

 

『まぁ、俺はガンナーメインだからそこまで詳しいことは教えられないがある程度はアドバイスするから安心しろ。』

 

『はい…』

 

おっとぉ?返事に元気がないぞー?お兄さんペケつけちゃうからなぁ?

 

『んじゃ、俺から一つアドバイスだ。』

 

『は、はい!』

 

そうだ、その返事だ。フレッシュすぎてちょっとムカつくけど。

 

『君は大剣使いならば基本的な立ち回りは下位で経験してるだろう、正直大剣に関しては基本的な立ち回りの精度を上げるくらいしか上達はない。』

 

『えぇ…でもそれは一朝一夕でできるものじゃないのでは…?』

 

うん、その通り。経験に勝る成長はない。

そんなすぐに強くなる方法なんてないんだ。

 

『俺は強くしてやるなんて言ってないぞ?戦えるレベルにしてやるって言ったんだ。』

 

『そ、そんなぁ…。』

 

甘えるな少年よ、これがハンターの世界だ。

 

『立ち回りどうこうは今すぐにはどうにもならない、だからーーー』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なるほど…やってみます…!!』

 

♦︎♦︎♦︎

 

そうこうしてるうちに目的地の遺跡平原に着いたわけですよ奥さん。

運よく揃ってベースキャンプに着いたもんで準備してる少年に喝でも入れてやろうとか思ったけど、顔がもうテツカブラみたいになってたから普通に励ますことにした。

 

『武運を祈ってるぞ、少年。』

 

『はい…証明してきます!!』

 

なんだ、いい顔できるんじゃないか。

少し、安心した。

 

さて、軽く観察させてもらうぞ、少年よ。

 

♦︎♦︎♦︎

 

いつも、人任せだった。

 

自分一人で狩ったモンスターなんてせいぜいドスファンゴぐらいだった。

 

『キリュウはベースキャンプで待っててもいいぜ〜!』

 

『一緒に行っても剣士のくせにモンスターとガンナー並みに距離取ってるしな〜!』

 

自分に価値なんてないってずっとそう思って、みんなに任せてればいいって、甘えてた。

 

『男の子でしょ!!私にかっこいいとこ見せてよ!!』

 

『で、でも…僕、弱いし…』

 

『弱かったら…逃げてもいいの…?』

 

『弱くてもいいから…偶には見せてよ…かっこいいところ…!』

 

でも

 

甘えてちゃ、いけないんだ。

 

誰かに任せてちゃ、いけないんだ。

 

言い訳してもいい理由なんて、ないんだ。

 

 

グォオオオオオオオオオオオ!!!!!!

 

 

だって

 

 

『好きな女の子に…!!!いつまでもカッコ悪いところ見せられないじゃないか!!!!!』

 

証明するんだ、弱くても、一人でもカッコいいって!!!

 

『まずは…!!喰らえェ!!!』

 

閃光玉をティガレックスの眼前に投げ込む、ここまでは上手くいった…!

 

ーーー『…だから、閃光玉や罠を駆使するんだ。』

 

『閃光玉や罠…ですか?』

 

『あぁ、大剣に機動力はお世辞にもあるとは言えないからな。まず相手の視界や身体の自由を奪うことで攻撃のチャンスを作れ。』

 

『そんでそのあとは…ーーー

 

『相手の弱点にッ…叩き込むッッッ!!!!!』

 

グォオオオオオオオオオオ!!?!

 

顔面に溜め3斬りを当てられた…!!あとは…あとは…罠を!!!

 

ドンッ

 

『がぁっ…!!!?』

 

なんだ…今のは…?

 

尻尾か…?回転した尻尾に当たったのか…?

 

なんて威力だ…いや、そこじゃない…速さだ、罠を仕掛けようとはしてたけどちゃんと見ていたのに見えなかった。

 

体制を立て直…!?

 

尻尾で吹っ飛ばされてあんなに距離が空いたのになんでもう

 

『目の前にいるんだ…?』

 

避けられない!!!

 

なんでそんなに速いんだよ!!?

 

 

 

ガキンッッッ

 

 

『ぐぅゔゔッッッ!!!』

 

咄嗟にガードできた…当たったら死んでいた…。

 

こんなのに勝てるのかよ…?

 

『はっ、ハハハ…強すぎだよ…』

 

これが、上位。

 

これが、モンスター。

 

これが、強者。

 

思考が纏まらない。

 

圧倒的な格の差に軽く絶望を覚えた。

 

人間達が食物連鎖の下にいることをここで、再認識した。




そんなこんなで初のちゃんとした狩猟シーンを描くことができました。
やっぱり楽しいと同時に文字だけですと難しいですね。
次回はもっと事細かく描写することになるのでよければお楽しみにィ!


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勝利はいつも絶望的で。

『もう20分経つのか…遅いな少年。』

 

いや、下位装備なら妥当か…?

まぁなんにせよ、難儀な面倒事持ち込んでくれたよなぁ、ジジイも。

 

ーーー『一応聞くが、何故俺を訪ねてきたんだ?』

 

『え、えとギルドマスターからの紹介を受けまして…』

 

『やっぱりジジイか…』

 

『あ、あの、伝言で戻る気はないかと言っていましたっ…。』

 

『帰ったら伝えといてくれ、もう死んでたって。』

 

『えぇ…』ーーー

 

本当に余計なことするよなぁ、あのジジイ。

 

それにしても上位あがりたての少年にティガレックスなんて狩れるかみんなも心配だろう?

確かにお兄さんも心配だ。

だが、ハンターってのは圧倒的な格上を越えなければ強くなんかなれないんだ。

もちろんセンスがなければ早死にするだけなんだけどな。

それでも、そのリスクを厭わず成長を望むのならば越えなければいけない壁だ。

 

死線を経験する。それこそがハンターとして一番の成長に繋がる。

 

ティガレックスを選んだ理由は他にもあるんだが…まぁ一番は少年に自信をつけさせるためだ。今まで他人に任せきりの狩りばかりしていた彼がたった一人で圧倒的な格上を狩猟する。

これほど自信がつくこともないだろう、なんせ相手は絶対強者だ。力を証明するにはうってつけだ。

 

『死んだら意味ないんだけどな…』

 

グルァアアアアアアアアア!!!!!

 

『ん?…オイオイ、少年は運もないのか…』

 

♦︎♦︎♦︎

 

『ハァ…ハァ…』

 

グルォオオオオオオオ!!!

 

閃光玉はもうない…もう20分も経つのか…攻撃してるはずなのになんでこんなに弱らないんだよ…!

 

 

 

ッ!!!また突進ッ!!!

 

 

グォオオオオオオオ!!!

 

ガキンッッッ

 

『ぐぅうゔッッ!!!』

 

ガードもそう何度も上手くはいかない…!!

受け身に回ったらダメだ、攻めなきゃ…!一瞬の隙も見逃すな、相手だって攻撃の直後は硬直があるはずだ!!

 

『ッッらァッッッ!!!』

 

グォオオオオオオオオオン!!!!!

 

よし!!!顔面に当たった!!!

この調子でヒット&アウェイを続ければ…!!

 

『狩れるッッ!!!』

 

ーーー『少年よ、大剣に限らず様々武器の立ち回りで共通するのはヒット&アウェイだ。攻めすぎたら隙を突かれるし、逃げすぎたらいつまで経っても狩れやしない。』

 

『はいっ!』

 

『んー、あと他には〜…ーーー

 

『うぉおおおおおおおおッッッ!!!』

 

また顔面ッ!!!次のタイミングで回避!!!

 

『よしっ!これならいけ…』

 

 

 

攻撃が、こない?

 

 

グルォオオオオオオオ!!!!!!

 

『ガァッッッ!?!!』

 

こいつ…タイミングを変えて…!!!?

 

まずい…!!突進が来る!!!

このままじゃ避けられない…!

 

やっぱり、無理だったのか…?

 

こんなやつに勝とうなんて傲慢だったのか…?

 

 

死ぬのかな、僕。

 

証明なんて、できなかったのかな。

 

 

 

 

最期に、会いたかったな。

 

 

 

 

 

 

ー『信じてるよ。』ー

 

 

 

 

 

 

『ってぇ!!!諦められる訳、ないだろうがぁああ!!!!!!』

 

 

 

ー『他には、ピンチをチャンスに変える力、それが一番戦局を変化させる。』ー

 

 

<狩技>

 

『っらぁあああああああああああああ!!!!』

 

ームーンブレイクー

 

グォオオオ!!?!!!

 

『来いよ…!!!僕は、前に進むッ!!!』

 

こんなとこで、やられてなんかやるものか。

諦めてやるものか。

前に、進むんだ。誰にも…

 

『邪魔なんか、させるのものかぁあああ!!!』

 

剣をしっかりと握って、信じてくれる人のために証明するんだ。

 

君を守れるって、証明するんだ!!!

 

グゥウォオオオオオオオオオオオオオ!!!!!

 

『ッ!!?』

 

なんだ!?血管が拡張して赤く…!?

 

怒り状態か…!!この状態になると攻撃力もスピードも跳ね上がるらしいけど…

 

『関係ないッ!!!』

 

それにこの状態は諸刃の剣みたいなものだ、血管が拡張された顔や前足の肉質は柔らかくなりダメージが通りやすくなる!

 

グォオオオオオオオオ!!!!

 

『当たるかッ!!!』

 

岩は避けれたけどその後は…前足を狙うか顔面か…。

思考してる場合じゃないな、攻撃は収まってない…!次は…飛びかかりッ!!!

 

<絶対回避【臨戦】>

 

溜めるんだ!!焦らず確実に!!

 

『尻尾、置いてけぇえええ!!!』

 

グォオオオオオオオオンンン!!!!!?

 

『やったぁ!!!切れた!!!』

 

これで尻尾の攻撃のリーチは短くなった!!あとはアレを用意しといて…

 

『っ!?マズイっ…ーグォオオオオオオオオオオオオオオオオー

 

轟音、音なんかじゃないだろ距離が大分空くほど吹っ飛ばされるほどの衝撃だ…!!

 

突進っ!?!早すぎるだろ!!!

 

ガードが間に合わ…

 

 

『ぐぁああッッッ!!!!!』

 

 

血が、流れ落ちる感触を、自分の命が流れ出ていく感覚を、痛みと共に感じる。

 

心音がとても早く脈打ち死を予感させてくる。

自分の無力さ、傲慢さを実感させてくる。

 

命を、身体全身で感じる。

 

だからこそ

 

『…ねない…死ねないんだ…こいよ。邪魔なんかさせない、僕は…』

 

グォオオオオオオオオオオオ!!!!!

 

そうだ、向かってこい。

 

今ここで、全ての力で相手をしてやる。

 

全身全霊で、

 

グォオオオッッ!?!!?

 

<シビレ罠>

 

『ハハっ…痺れるだろ…?』

 

溜めろ、力を。

 

入れろ、魂を。

 

あとは簡単だ、あいつに証明するんだ。

 

 

 

『うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!』

 

 

 

勝つのは自分だと。

 

 

グォオオオオオ…オォォン…

 

 

やった、やったぞ…

 

『やったぁああああああああああ!!!!!!!』

 

生きている、全身でその喜びを感じる!!!

 

僕は、やったんだ!!!

 

 

グルァアアアアアアアアア!!!!!

 

 

『え…?』

 

なんだ?「アレ」は…?

 

血肉に餓えた「アレ」を僕は知っている。

ギルドから耳にタコができるほど注意されたんだ、忘れやしない。

 

怒り喰らう、

 

『イビルジョー…?』

 

遭遇次第撤退しろと注意されたモンスターだ。

 

僕が狩ったティガレックスを貪りながら、次はお前だと言わんばかりの視線をこちらに向けている。

 

なんでだ、なんで足が動かない。負傷した訳でもないのに足がピクリとも動かない。

 

恐怖で動かないのを察するのに永遠とも思える時間がかかった。

 

 

『運も、ないんだなぁ…ハハっ…』

 

 

『ほんとそれな。』

 

銃砲が鳴り響いた。

 

え…?僕には神様のラッパのようにも聞こえたんだ。イビルジョーに手出しすらさせず何発もの銃弾がその身体を貫いた。ものの5、6分間、僕は指をくわえて見ているしかなかったけれどしっかりとその人の力を見せつけられた。

 

ギルドマスターから聞いた話は本当だと確信したんだ、彼はーーー

 

『まぁ、彼を訪ねれば間違いはないだろう。』

 

『ギルドマスターがそこまで言うとは…そんなにお強い方なのですか?』

 

『強いか?愚問だよ。彼は…』

 

 

『古龍すら単独で討伐した者だからね、ほっほほ。』ーーー

 

♦︎♦︎♦︎

 

『…ねーん?…しょうねーん!!!』

 

『は、はいっ!!』

 

呆然としていたのかはたまたティガレックスの咆哮にやられたのか全く何も聞こえなかった…。

 

『致命傷は〜…ないみたいだな、よく狩れたな!やったじゃねぇか!』

 

『え、えぇ…でも、乱入してきたイビルジョーには手も足も…』

 

『そりゃそうだろー?下手すりゃ燼滅刃より強いからなー、命があってよかった。』

 

そう微笑んでくれた。圧倒的な技量と力。それを実際に目の当たりにして、僕はこの人に憧れを抱いた。

 

『よっし、とりあえず剥ぎ取り終わらせて帰ろう!傍観するつもりがジョーなんて相手して疲れたし…』

 

『は、はい!!あの…』

 

『ん?なんだ?』

 

『せ、先生って呼んでもいいですか!!!?』

 

 

 

 

 

あ、あれーーー?返事がないぃい!!!やっぱり馴れ馴れしかったかな?!もう少し順序を踏んで…

 

 

『…ふっ、ぷふふ…す…』

 

『え…?』

 

『せ、先生て…ふふぉっ、あ、あぁすまんすまん!あんまりにも似合わないと思ってなブフォッ』

 

『そ、そんなことないですよ!!先生のアドバイスがあったから狩れたんですから!!』

 

『違うな、だって俺基本的なことそれっぽく言ってただけだもん。』

 

『え、だ、だって立ち回りとかアイテムとか…』

 

『ハンターならそれくらい基本的なことだろ?俺は少年自身の力とセンスを見たかっただけだ。』

 

そっか、

 

『じゃあ僕は…?』

 

そうなんだ、

 

『素晴らしい健闘だ。よくやったな。』

 

僕はこの人に、

 

『あ、ぁありがとうございますッ!!!』

 

証明できたんだ。

 




とりあえずティガレックス突破!!
キリュウ少年のお話はもう少し続きます。
構想的には15話〜20話くらいで完結させたいのですが、もしかしたらもう少し短くなるかもしれませんね。


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休息はいつも準備的で。

 

さて、見事キリュウ少年がティガレックスの狩猟を成功させたわけで、ベルナ村の集会所まで戻ってきたわけで、受付嬢のお姉さんにクエスト成功の報告をしながら報酬を頂き小粋なトークでもしようと思ったわけなんだが…

 

『あらあら、まぁまぁ。』

 

お母さんになっちゃうのも仕方がないな…。

 

『がえれだぁ…よがっだぁぁあ…生ぎでるぅうう…。』

 

顔がもうハンマーでぶっ叩かれ続けたテツカブラみたいだよ?こんだけメンタル弱いやつ見たことないよお兄さん。

メンタルの成長も視野に入れてたんだが…まぁ弱いからこその強みもあるからこのままでもいいか。

 

『ほれ、早く報酬受け取れテツカブラ少年。』

 

『でづがぶらじゃないでずぅううう!!』

 

『あらあら、さぁ、どうぞこちらが報酬金と報酬素材です。』

 

さて…一応報告しておくか。

 

『なぁお姉さん、今日のクエスト、乱入があったぞ。』

 

『えぇ…しかも怒り喰らうイビルジョーだったらしいですね…最近多いのです…しかも強い個体のモンスターばかり…』

 

多発してんのか…あんな強い個体ばっか乱入してくると危険度も跳ね上がるな…。

 

さて報酬受け取らせたところで、ティガレックスを選んだ理由の一つをネタバラシだ。

 

『加工屋に行くぞぅ!テツカブラしょうねぇん!』

 

『でづがぶらじゃないでずぅううう!…がごゔやぁ…?』

 

いい加減泣き止め、そんなテツカブラ面じゃ加工屋のおじさんに馬鹿にされるぞ?

 

♦︎♦︎♦︎

 

『おう!!今日はなに持ってきてくれたんだにいちゃん!!…なんだ横のテツカブラみてぇな顔したにいちゃんは?』

 

ほれ言わんこっちゃない。

 

『テツカブラじゃないです!!初めまして!バルバレから来ました!キリュウと申します!』

 

『ほえ〜バルバレから!また遠いとこから来たもんだなぁ!!』

 

世間話はいいから仕事の話しようぜおっちゃん、俺もうそのテツカブラいじり飽きたし。

 

『少年よ、ティガレックスの素材を出せ。』

 

『は、はい!』

 

とまぁ、この量の素材じゃ一気には作れねぇが…先生になったからにはしゃあねぇな。

 

『あと〜、こいつで。大剣をこしらえてくれ。』

 

『おぉう!!こんだけ素材がありゃ充分だ!!明日の朝にはできるからそんとき取りに来な!!』

 

さっすが〜、仕事が早いなおっちゃんは。

 

♦︎♦︎♦︎

 

『あ、あの!先生に素材を提供してもらってよろしかったんでしょうか?』

 

意外と謙虚だな、と言いたいところだがそれを言うなら加工屋で俺が素材出したときに言うべきだったなぁ!なんて意地悪は大人気ないのでやめておこう。

 

『あぁ、どうせ余ってて腐らせるだけの素材だからな、気にすんな。』

 

覇王の大牙とか獰猛化素材もあったけど使わねぇしなぁ。それにまぁ、

 

『クエスト成功した餞別だ。先生っぽいだろ?』

 

『あ、ありがとうございます!!先生!!』

 

ほんっと、慣れねぇな。その呼び方。

 

『まぁその大剣じゃここからキツいだろうしな。』

 

それに言ったろ?戦えるレベルに底上げするって。

 

『そっかぁ…この大剣ともお別れかぁ。下位からずっと使ってたんですよね。』

 

愛用の武器か。確かにずっと使ってた武器を変えるときって、なんか寂しさを覚えるよな。

だが、強い武器を持つってのはかなり意味がある。モンスター狩れる可能性は一気に高まるし、攻撃力が上がるってのは生存率を上げるのにも繋がる、ハンターとしては通過儀礼みたいなもんだ。

 

『無駄になるわけじゃないんだ、使わなくなっても大切にしろよ。』

 

『はい!!』

 

大切にしなければいけないんだ。どんな理由でさえ命を奪い、その命で出来た生きるためのハンターの爪であり牙なのだから。

敬意を払い、誇りとして扱うべきものなのだ。

 

『さて、メシでも食いに行くか。』

 

『はい!先生!』

 

誰かとメシ食うのも久々だな。

いや違うからね!?いい歳こいてぼっちメシの可哀想なやつとか思わないでね!?大人だから敢えて一人なんだからね!?

大体、一人だからって可哀想だの協調性がないだの、一人でいることに誇りを持ってるやつだっ…

 

『先生?』

 

『お、おう。行くか。』

 

『?』

 

♦︎♦︎♦︎

 

『おや、アンタが連れなんて珍しいニャ。』

 

連れじゃないです〜!ただのテツカブラです〜!

って言ってもまたお母さんみたいな対応されるから言わないんだお兄さん。

 

『女将さん、いつもの。』

 

『はいはい、恥ずかしがっちゃって〜!そこのアンタはどうするニャ?』

 

いや恥ずかしがってないからね!?この歳で恥ずかしがらないからね!?

 

『えーと、おすすめでお願いします!』

 

『任せるニャ♪』

 

さて、今日も至福の時間だ。

龍酒蒸しのためだけにハンターをやっているとも過言ではないこの時間。

いきなり弟子ができたストレスもこいつを食ってる間は忘れられるってなもんだ。

さて、今日もゆっく…『んぉおおおいしぃいいいい!!!!』

 

えぇ…うるさいよぉ…。

 

『この濃厚でトロ〜っとしたチーズ!!具材と混って口の中で濃厚なハーモニーがぁ♪』

 

『お口に合って幸いニャ♪』

 

女将さんのメシが不味いわけねぇだろバーカ!黙って食え!と言いたいところだが…

 

『美味しいですね!!先生!!』

 

今日くらいはいいか…てか俺今日言いたいこと大分我慢してない?大人じゃない?

 

さて、俺も頂くとしようか。

 

『んんぅうまぁああいぃいいいい!!!!』

 

やっぱりぼっちメシ最高。

 

♦︎♦︎♦︎

 

『さて、帰る前に明日の打ち合わせをしとくぞ。』

 

『はい!!』

 

『明日、少年に行ってもらうクエストは…今遺跡平原で暴れている空の王者を狩猟してもらう。』

 

『リオレウス…ですか。』

 

『あまり驚かないんだな?』

 

『え?あぁ。確かに…なんでだろう…?ティガレックスに負けず劣らずなモンスターなんですけどね…。』

 

こいつは…思ってる以上に成長してるな。

メンタルが1日で確実に強くなっている…死線を越えたハンターは確実に成長する。だが…

 

『お前より格上だからな?調子乗んなよバーカ!』

 

『ち、調子なんて乗ってませんよ!怖い…です、正直。でも…』

 

『死ぬわけには、いきませんから。』

 

いい表情しやがって…あーあお兄さんすぐ追い抜かれそうだな。新人ハンター怖いわぁ。

 

『慢心はするなよ?こいつをソロで狩猟することがハンターとして一人前になる条件とも言われてるんだからな。』

 

『はい!気は抜きません!』

 

『おう、じゃ、また明日な。』

 

『はい!お疲れ様でした!また明日、先生のお家に伺います!』

 

怖いよ、ストーカーみたいじゃん少年…。

 

『そういや、少年はどこで寝るんだ?』

 

『村長さんからお部屋を3日間だけ貸してもらえるらしいのでご心配は無用です!』

 

村長よ…貴方はどこまでお優しい方なんだ。

 

『そいつはよかったな。んじゃまたな。』

 

『はい!』

 

♦︎♦︎♦︎

 

『はぁー…疲れた。』

 

今日一日で大型連続狩猟を連続でこなした気分だ。

それにしても…あの少年、俺が教えることなんてないくらいセンス自体はいい気がするんだよなぁ…ただ誰かに後押ししてもらわなきゃ成長は望めなかっただけ。

そんな気しかしないが…。

後悔しても仕方ねぇな。三日間でやってやれることをやるしかない。

 

『それにしても…』

 

最近の乱入モンスターの多発化、気になるな。

ちょっと前までは偶に乱入されるくらいの頻度だったが…他の村でも被害があるらしいし…。

 

ーーー『ギルドも調査に躍起になってますのでもうしばらくすれば結果が出ると思いますよ。』ーーー

 

受付嬢のお姉さんはああ言ってたし…待つしかないか。

 

さて、これも伏線だと思うよな?正にその通り。覚えといてくれ。

 

まぁ今は、キリュウ少年のリオレウス狩猟が先だな。

 

 

さて、キリュウ少年の物語も中盤に差し掛かったわけで、キリュウ少年は空の王者、そして燼滅刃を見事狩猟することができるのか!?続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あー、疲れたわマジで、寝よ。




ここでまた新たな伏線が出てきましたが、果たして私は伏線を回収できるのか!?続く。

あっ、次回はレウス戦ですよ!飛んでばかりいる空の王者(笑)さんですよ!


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成長はいつも無自覚的で。

さて、夜が明けたわけですよ奥さん。

いつもならもう少し遅く起きて、優雅に朝食を頂いて、華麗に出勤するところだが…

 

『おはようございまーす!!先生!!』

 

なんだあの少年は…何時だと思ってんだよ…お兄さん少年ほどフレッシュじゃないから朝弱いんだよ…。

 

『まぁ…悪夢で目覚めるよりゃマシか…。』

 

と、愚痴を零しつつも今日も今日とて愛用のヘビィボウガンを携え出掛けるんですよ。

 

♦︎♦︎♦︎

 

『あどゔぁいふ??』

 

いくら女将さんのメシが気に入ったからって口にものを入れて喋るんじゃないの、お兄さんめっしちゃうぞ。

 

『というか、また基本的なことだ。リオレウスは空の王者なんて呼ばれるだけあって空中にいる時間が長い。』

 

正直俺は一番嫌いなモンスターと言っても過言ではない。

 

『んぐっ…そ、それじゃ剣士はリーチ不足になっちゃいますね…。』

 

『そこで、だ。今回のクエストもアイテムをフル活用していけ。』

 

レウス相手に閃光玉ナシなんてやってられないからな。レウスが空を飛び続けてクエストの制限時間を過ぎて失敗なんて話もザラなくらいだ。

 

『なるほど、確かに閃光玉は有効ですね!!』

 

『まぁ、ティガレックスの時とほとんどやることは変わらない。アイテムを活用し、弱点を突き…』

 

『強さを証明する、ですね。』

 

あらま、言うようになったなぁ。

圧倒的な強者を目の前にして畏怖を覚えたはずなのにそんな顔をできる少年は大物になれるだろう。だが、それ故に危なげだ。

 

『先生?』

 

『あ、あぁ。早く食っちまえ、加工屋のおっちゃんのとこ行かなきゃ行けねぇんだから。』

 

ーーー『負けるわけにはいきませんから』ーーー

 

少年よ、俺たちハンターはモンスターと勝負をしてるわけじゃないんだぜ。

 

♦︎♦︎♦︎

 

『オウ!!よく来たな!注文の品出来てるぜ!!』

 

さっすが、おっちゃん。仕事が丁寧でしかも早い!そこに痺れる憧れちゃうよお兄さん。

 

『これが、僕の新しい大剣…!』

 

轟大剣【王虎】、めちゃくちゃ上物の大剣だ。

 

武器や防具なんて飾り、必要なのは相手の動きを見切る観察眼だけ。なんて言葉を残したG級ハンターがいたが、武器や防具を舐めてはいけない。

 

いい武器ならいい武器ほどモンスターを圧倒し、いい防具ならいい防具ほどモンスターの攻撃を耐え、モンスターの素材を用いた装飾品を装着することで【スキル】という様々な不思議な能力を発動する。

 

何故そういった能力が発動するのかは具体的には解明されていない。

伝承なんかではモンスターの素材用いた武具には竜や獣の魂が宿り、狩人達に恵みをもたらすとされているが、諸説ある。

 

『素振りしてみろ、少年。』

 

『は、はい!』

 

空を切る音がまるで轟竜の咆哮のような振動になって伝わってきやがる…。

 

『これは…今まで使ってた大剣とは格が違いますね…。』

 

そりゃそうだろう、下位の武骨包丁とは差があって当然だ。素振りだけでも格の差は如実に現れるだろう。

 

『武器に信頼を置きすぎるなよ?油断したら元も子もないからな。』

 

『はい!気を付けます!』

 

今回のクエスト、このクエストで少年が二つ名持ちに挑めるかどうかがわかると言ってもいい。

ハンターとして一人前になれるかどうかの相手だからな。

大体二つ名持ちというのは並みのハンターが挑めるものではない、通常の個体とは異なる性質を持ち、戦闘面においても一線を画す存在だ。

 

その危険さ故に、基本的には龍歴院からの許可がなければクエストを受けることすらままならない、センスと根性とあと諸々の才能がなければ絶対に届かない存在なんだ。

 

キリュウ少年は上位に上がりたて、しかも武器も防具も下位のものだったのにも関わらず、単身で見事轟竜の狩猟を成功させた。その功績は並みのものじゃない、龍歴院の目にも止まるだろう。正直なところ俺は8割方失敗を見越していた。残りの2割は途中で投げ出すと思っていたが…

 

 

『先生?どうしました?』

 

『…なんでもねぇよー、ほれほれ準備終わらせたらさっさと出発すんぞー。』

 

『?は、はい?』

 

♦︎♦︎♦︎

 

『着きましたね…!』

 

んだよテツカブラみてぇな顔してないじゃねぇか!弄れねぇじゃねぇか!!

 

『んじゃま、サクッとやってこい。』

 

『さ、サクッとなんてやれませんよ…。』

 

『昨日よりも強くなってるだろ?ここで負けるようならなーんも手に入んねぇぞ?』

 

『わ、わかってますよ!やってみせます!!』

 

よしっ、いい返事だ。

 

♦︎♦︎♦︎

 

ヴォオオオオオオオオオ!!!!

 

『ここで暴れてるのは君だね、悪いけど狩らせてもらうよ!!』

 

突進が来る…!落ち着いて、タイミングを見計らって…

 

『跳ぶッ!!!』

 

な、慣れてないエリアルスタイルだけどちゃんと跳べた!後は…

 

『振り下ろす!!!』

 

ヴォオオオオオ!!!?

 

すごい手応えだ…!武器が変わっただけでこんなに…!?

 

ヴォオオオオ!!!!!

 

『飛んだな…!!喰らえェ!!!』

 

ヴォオ!!!??!

 

やっぱりレウスには閃光玉が有効的だ!!

後は頭を踏み付けて…

 

『振り下ろし続けるだけ!!』

 

ヴォオオオ…!!!!?

 

閃光玉の効果が切れたっ…ヒット&アウェイを忘れずに…責めすぎず逃げすぎず…

 

ヴォオオオオオオ!!!!!!

 

ブレスが来るッ!

 

『当たらないよ!!』

 

空の王者、か。

小さい頃、リオレウスごっこよくしたなぁ。ハンターになったばかりの時もリオレウスを狩ることが夢だった。

 

でも今は、夢じゃない。

もっと上に行かなくちゃいけないんだ。

 

ヴォオオオオオオ!!!!

 

今僕は、ここにいるんだから!!

 

『落ちろォ!!!!!』

 

《ムーンブレイク》

 

ヴゥオオオオオオオオオオオ!!?!?!!

 

跳躍するんだ、自分の力の全てを込めて、

 

『叩き割るッ!!!』

 

ヴォオオオン…!??!!!!

 

『君を越えて行く!!僕の全てを以って!!!』

 

♦︎♦︎♦︎

 

『…天才だったか、怖いねぇ全く。』

 

双眼鏡はこういう時ほんっと便利だな、普段は全く使わねぇけど。

 

少年はさっきから被弾をほとんどしていない、見切ってるかのように攻撃し続けている…ずっと俺のターンみたいな状態だ。

リオレウスは下位で狩り慣れていたのか?いや、いくら慣れているからといって一筋縄でいくようなモンスターじゃない。

 

圧倒的なセンス…いや意志の力か。

ティガレックスを狩猟したことによる自信を持つきっかけ、越えなければならない壁の高さを認識し、目の前の敵を通過点として全力で越えようとする意志の力。

 

『先生でいる意味なくね…?俺…?』

 

核心を突けた気がするな…ん?

 

グウゥアアアアアアアア!!!??

 

『また乱入か…いや、ハンターも…?』

 

このフィールドに来ているハンターは俺と少年だけのはずだろう…?

ギルドの調査隊か?それなら受付嬢のお姉さんから報告があるはず…。

 

『まさか…?』

 

♦︎♦︎♦︎

 

グウゥアアアア…

 

『…。』

 

『いやー!やりますねー!ラージャン相手にお見事お見事!!』

 

『…!』

 

桐花・真一式に…ギルドナイトの双剣…それも特命を帯びた者のみが扱いが許された武器…。

やはりギルドの人間か…?

 

『ッ!?!!?』

 

キィイイイイイン!!!!!

 

いきなり斬りかかってきやがった…!?

 

『手厚いご挨拶だなぁ…!!』

 

『…』

 

『無口だな。あんた、何者だ?』

 

『…誰でもいい。…試しておくか。』

 

『ん?ーーーキィインン!!!

 

ふっ、ざけんなぁ…!!

早え…!!この野郎本気で…!!

こちとらヘビィボウガンだぞ!対人に効果なんて発揮されねぇ!いや対人に発揮する必要性なんて元々ねぇっつーの!!

 

『…早いな、そして異常な事態であるというのに冷静を欠かない判断力…流石は歴戦の手練れといったところか。』

 

『いきなり喋るじゃないの…知られてるとは光栄だが、その対人戦における実力の高さ…やっぱりギルドナイトだったりするのか?暗殺のスペシャリストなんて噂もあるくらいだしーーー

 

キィインッッ!!!

 

『あんな、俗物達と一緒にするなぁッ!!!』

 

…太刀筋が荒くなったな、動揺している証拠だ。初めて敵意以外の感情を露わにした…本音の言葉か…。

 

『っ…そうかい、そいつは悪かった…ってなんで謝んなきゃいけねぇんだ!!』

 

『ぐぅッ…!!』

 

『ヘビィボウガンでも殴られたら結構痛えだろ…?モンスターの頭にぶち当てればスタンだって取れるんだぜ?』

 

『…』

 

クエストを正式に受けたハンターではないことは確かだ。遺跡平原のクエストはリオレウスの狩猟だけだった、ラージャンの狩猟なんてクエストはギルドになかったし、先ほどの口ぶりからギルドの調査隊の人間でもない…消去法で行けば、

 

『密猟者か、あんた。』

 

『…答える必要はないな。』

 

『つれないねぇ、でもそうなら放っておく訳にはいかないなぁ。』

 

『…』

 

『人間相手なんざ御免だがな…大人しく投降する気はないんだろ?』

 

武器を構えたことが、無言の了承、か。

ったく、最近ついてねぇわ…。

 

ヴゥオオオオオオオオオオ!!!!!

 

『『!?』』

 

『あ、あれ!?先生?!それと…?』

 

少年よ、なんてタイミングだよ…。

 

『…目的は達した…私は失礼する。』

 

『はぁん!?ふざけんな!!ここまで来て逃がすかよ!!!』

 

ヴゥオオオオオオオオ!!!!!

 

『せ、先生!!危ない!!』

 

『チッ…!!』

 

『…また会おう、歴戦の手練れよ。』

 

また…?どういうことだ?

 

ヴゥオオオオオオオオオオ!!!

 

『クソッ…少年!さっさと片付けるんだ!!』

 

『は、はい!!』

 

♦︎♦︎♦︎

 

『終わりました…!』

 

『あ、あぁ。よくやったな、少年。』

 

『大丈夫ですか?先生?先ほどの人は…?』

 

『多分密猟者だ、多分な。』

 

ただの密猟者。じゃないだろうな…あの双剣、ギルドナイトの証…お姉さんに報告しとかねぇとなぁ。

 

『密猟者、ですか…物騒ですね…。』

 

『とりあえず狩猟お疲れさんっ、難なくって感じだったな。』

 

『そんなことないですよ!結構ギリギリでした…。』

 

謙虚なことは良いことだぞー、少年よ。だが謙虚すぎるのも困りもんだけどな。

 

『んじゃ、とりあえず帰るか。ギルドに報告もあるしな。』

 

『はい!』

 

これからまた面倒なことになりそうだな…。

なんでこうも面倒事が立て続けに起きるのかねぇ。巻き込まれ体質なのかな…?




更新が遅くなってしまいましたがやっと執筆できました…!
今後の展開を考えた結果すごく長くなりそうだなぁと思いながらも尽力致しますのでこれからもよろしくお願い致します!

ニンテンドースイッチ版MHXX発売決定おめでとうございます!!
最近操虫棍にハマってます。


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