機動未来戦記 Aガンダム (神風アマツ)
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最終戦争

「Bブロック閉鎖、Gブロックにて火災発生、消火班は至急___」

「二番艦轟沈!三番艦大破、四番五番艦は戦線離脱___」

 

…俺達は『いつから』続けている。…俺達は『いつまで』続ける。歴史の果てから永遠と続く過ちの繰り返し。最初は『槍』次に『剣』、『火薬』『爆弾』『銃』………挙句の果てには『人型兵器』と来たもんだ。何が無人兵器だ。未来の戦争も結局は人同士の血の流し合い。お偉方にはゲームの駒扱い、上官にはストレスのはけ口。疲弊した人員を捨てては何処からか代わりを連れてくる。

 

「もううんざりだ。」

 

彼は手元のスイッチを押す。暗いコックピットを計器の光が照らす。カタパルトの扉が開き、現れる1機のMS(モビルスーツ)。鋼色の無塗装のそれは足を踏み出す。ツインアイを光らせて………。

 

 

0章 プロローグ

 

 

「第2カタパルトからモビルスーツ発進?どこの隊だ!?」

「あそこには調整済みの試作機しか…」

 

武器を取り尚も発進しようとするMSに皆が違和感を覚えた。

 

「ッッ!奴か!止めろ!発進させるな!」

 

時すでに遅し、MSは推進剤の青白い光を輝かせ戦場へと消えた。推進剤を吹かしつつ彼はパネルを叩き続ける。

 

「ポイント確認。航行シークエンス入力、ドライブ安定。ッチ、断層帯はドンパチの中心かよ…」

 

そう呟くと手当り次第MSを潰していった。ライフルが火を噴く。敵も味方も関係なく撃ち抜かれては爆発する。彼はただその『ポイント』を目指した。

刹那、一筋の光が右手を掠める。火花を散らし光が過ぎたと同時に右腕の機能が麻痺した。

 

「パルスライフル…直接コネクタを狙ったか…!」

 

彼の視線の先には、ローブをかぶったMSがいる。精鋭部隊ーナギ部隊がそこにはいた。

 

「そこの新型。上から捕獲命令が出ている。大人しく降りてもらう。」

「やなこった。シルバ、俺は過ちの根源を止める。この機体でな。」

 

右手のライフルを持ち替え構え直す。

 

「悪いがお前達に付き合う時間はない!」

 

発砲。赤い光を放ちナギ部隊を襲う。間一髪で避けたパイロットーシルバはパルスライフルを連射する。光の筋は確実に彼のMSを捉えた。しかし彼のMSは華麗に避けていく。その最中彼のMSが武器を投げ出し白く輝き出した。

 

「まずい!転移するぞ!」

 

白く光るMSをシルバは必死に追撃するも、もう手遅れだった。辺り一面強烈な光を放つ。

 

「あばよシル___」

 

通信が途切れ、光が収まるともうそこには彼はいなかった。

 

 

時は時空世紀0065年 一月一日

後に『最終戦争』と呼ばれた人類最後の戦いが終わりを告げた…。

死者1億人 重軽傷者1千万人 行方不明者30万人

 

過去最大の被害を出したこの戦争は、皮肉にも更なる科学の発展を促したのだった。

 



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嵐の前の静けさ

1章 夏の日、図書館にて

 

____の為の革命であった。彼らは自分たちの自治権を要求し、自らの独立を悲願としていた。しかし時代は彼等の独立を許してはくれなかった。時代は彼等を[ローヒューマン]と呼んだ。____

 

???「なーにやってんの?」

???「うわぁ!」

 

パソコンに向かい集中していた彼は、持っていたコーヒーを零しそうになった。突然声を掛けられた彼ーダイチ・カミカゼは声の主へ声を荒らげる。

 

ダイチ「いきなりなんだよソラ!」

ソラ「ごめんごめん、あまりに必死そうだったからつい…ね?」

 

彼女ーソラ・アオキは笑い混じりに答えた。彼女いわくエールのつもりだろうがダイチにはいい迷惑だった。唯でさえ教授に提出するレポートが完成しておらず、苛立っていたのだ。

 

ソラ「あまり根詰めすぎると良くないよ。はいこれ。」

 

ソラの手には炭酸飲料が握られていた。自分が飲むついでに買ってきたらしい。

 

ダイチ「…ありがと。生憎だが俺は今コーヒーを飲んでるんだ。後で飲むよ。」

 

そう一言言うとまたパソコンに向かい始めた。ダイチたちがいるこの施設は旧世紀からの書物を取り扱う巨大な国営図書館であり、彼等は今近代史コーナーにいる。ダイチとソラしかいないこの空間には炭酸飲料を開ける音とキーボードを叩く音が響く。時空世紀0165年7月、それは初夏の暑い日だった。

 

 

 

ダイチ「だァーーーーーー!!書けねぇ、書けねぇよこの野郎!」

 

頭を抱え叫ぶダイチ。エアコンの心地よい風でウトウトしていたソラも目を覚ました。

 

ダイチ「何がレポートだ、こんなの書けるわけねぇよぉ…」

 

頭を掻きながら悶えるダイチを横目にソラは炭酸飲料を飲み干す。そして暴れるダイチに一言

 

ソラ「気分転換に家来る?ご飯食べていきなよ!」

 

あぁそうさせてもらう、と言うとパソコンを荒っぽく閉じ鞄にしまう。と同時に早足に出口に向かっていった。

 

ソラ「あっ、待ってよ!ソーダはー!?」

 

後を追いかけてソラも図書館を後にした。外はもう夕方近くになっていた。

 

 

2章 フーリ フィックス メカニック

 

 

その工場は都市部からバスで1時間の郊外にある。『フーリ フィックス メカニック』通称FFM。郊外のこの地域では最大規模の修理工場である。[椅子からモビルスーツまで]の看板を掲げ、多くの人々からの依頼で農耕機械や日用品の修理を手掛けている。

軍上がりの工場長ーフーリ・ナイルの元で同じく軍出身のメカニックや職人が50人ほど勤務している中規模の企業である。

 

ソラの家はこの敷地内にある日用品受付棟の中にあった。受付にはcloseの看板がぶら下がっており1人の女性が伝票整理をしていた。

 

ソラ「お母さんただいま!ダイチ連れてきたよ!」

 

受付にいる女性は顔を上げて暖かな笑みで迎えた。彼女ーナンシー・ナイルはソラの義母でありフーリの妻である。ナンシーは腰を上げるとダイチとソラを奥の部屋へ通した。

 

ナンシー「おかえりソラ。ダイチくんも久しぶりね。ゆっくりしていって頂戴。」

 

そう言うとナンシーはまた受付に戻り伝票を処理し始めた。夫であるフーリと同じく軍隊上がりの彼女は事務経験を活かして工場の経営に一役買っている。

 

ダイチ「フーリのおじさんはまだあっちに居るのか…もう就業時間すぎてんぞ?」

ソラ「それはね、この前お父さんの軍人時代の知り合いからのつてでMSの修理依頼があったて皆張り切ってたからね!」

 

あぁ、なるほど…とダイチは納得した。大規模な戦争が行われなくなり1世紀、今稼働しているMSは農耕・工業用を合わせてもごく僅かしかない。軍部や一般企業でも細々と生産は続けているらしいが滅多に新造されず、パーツ単位の生産が主だ。後は旧世紀のMSを多額の金をかけレストアするマニアや修理工がいるくらいである。そんな貴重なMSの修理依頼が来たのだからメカニックの血が騒ぐのは想像に難くない。きっと今頃従業員総出で嬉嬉として準備しているのが目に浮かび少し笑った。

 

ソラ「んー?何笑ってんの?」

ダイチ「んー?なんでもないよ。そうだソラ、コーヒー頼める?」

ソラ「うんいいよ、待っててね。」

 

キッチンに向かったソラを待っていると背後から声を掛けられた。

 

???「おーダイチじゃないか、久しいな!」

 

そこにはこの工場の長でありソラの義父、フーリがいた。2mはあろうかという高身長に軍人仕込みの筋肉が立派な体つきをしている。顔にはちょび髭がありダンディーな雰囲気を醸し出している。

 

ダイチ「あ、おじさん。聞いたよ〜MSの修理依頼が来たんだってね。」

フーリ「そうなんだそうなんだ!今回は大仕事だからな、皆気合を入れ直してるさ。ただ…」

ダイチ「ただ…?」

フーリ「依頼人からはMSの修理依頼のみで機体の情報を教えて貰えなかった。どうやら機密にしたいらしい。いつもなら設計図ごと押し付けてこっちに丸投げさ。」

ダイチ「ほぅ…」

 

戻ってきたソラはダイチとフーリにコーヒーを手渡し、2人は飲みながら話を続ける。

 

ダイチ「守秘義務…とかじゃない?」

フーリ「馬鹿言え、ならこんな片田舎の修理屋に任せずに軍で対処すればいい。それにわざわざ元同僚に話を聞いてやってきたんだとさ。」

ダイチ「つまり、おじさんにしか頼めない事…。」

フーリ「ハハハハ!ただの修理工に出来ることなんざ限られてるさ。何にせよ明日には運ばれてくる。ただ俺達は仕事をこなすだけさ。」

 

長時間話し込んで、気が付けば夜になっていた。今夜はソラの家に泊めてもらった。ナンシーの特製ビーフシチューを頬張り、夕食後には皆で星を見た。その夜は、綺麗な満月だった。

 

 

 




翌日にFFMにMSが運ばれてきた。

それを見たダイチ達は驚愕する。

運ばれて来たのはあの伝説の…

次回『異変』

運命が変わる時は───



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異変

3章 邂逅

 

翌日、FFMにMSが運び込まれた。灰色の雲が空を覆い隠す暗い日だった。

荷台に深緑のシートを被せ、物々しい雰囲気で入る1台のトレーラー。各所に武装が装備された軍使用のものだった。

 

フーリ「…また荘厳なこった。こんなハリネズミ見てぇなトレーラー、軍以来だぜ見たのよ。」

ダイチ「でかい…18m級?」

ソラ「わかるの?」

ダイチ「伊達にMS工学やってないからね。それにしてもこの雰囲気は…」

 

暗い天候も合わさり謎のMSは更に不気味さを放つ。運んできたのはたった1人の男だった。

入口を抜け敷地を移動する。ダイチは一瞬運転席の男と目が合う。

 

???「…………。」

 

トレーラーはそのまま工場内へ進んでいく。ゆっくりと止まり、男が降りてきた。

 

???「…………。」

 

男は1度周りを見渡すとと荷台へ向かう。そして1箇所1箇所シートのロックを外し始めた。

慌てて作業員は手伝いに向かう。全てのロックが外れ、シートが外された。

塗装がされてない鋼色の機体が現れた。見たこともないデザインの機体。脚は脚先に行くほど細くなり一見アンバランスに見える。腕は左腕しかない。どうやら修理箇所は右腕のようだ。最後に頭部が現れた時だった。

 

作業員A「コイツは…」

作業員B「嘘だろ…伝説の…?」

作業員C「まさか…ツノがないぞ…?」

作業員D「いや…このヒゲは間違いねぇって!」

 

頭部を見て口々に言い始めた作業員達。ざわめきが工場内に響く。不思議そうにダイチ達も見に行く。見た瞬間、息を飲んだ。まるで歴戦の覇者のような顔立ち。この時代ではまず見ないツインカメラ。マスクパーツにある特徴的なスリット────

 

ダイチ「………ガンダム!?」

 

それは時代の節目に現れ、常に時代を動かしてきた。ある時は救世主。ある時は厄災。その強大なる力を持って世界を守り、壊し、変え続け、今尚語り継がれる。伝説のMS────

 

フーリ「コイツは驚いた…まさかガンダムだとはな。しかし…」

 

フーリはまじまじと機体を見つめる。目は真剣になり、職人のそれへと変わった。

そして目は頭部に差し掛かる。目は『ある物』を見つける。

 

フーリ「ッッッ!!!」

 

『ある物』を見つけてしまったフーリが顔色を変える。みるみる青ざめていくフーリ。そしてナンシーも動揺を隠せなかった。彼女もまた、『ある物』が何かを知っているようだった。

 

ソラ「…お母さん、お父さん。大丈夫…?」

 

青ざめて固まる2人を見たソラが言う。ソラは不安を感じ、フーリにも声をかける。

ハッと我に返り、ソラに言う。

 

フーリ「大丈夫…だ。お前は母さんとダイチくんと家に戻っているんだよ。いいね?」

ソラ「大丈夫そうじゃないじゃん…何があったのお父さ──」

 

話を遮りダイチはソラの手を引き連れて行こうとする。

 

ダイチ「行こうソラ。戻って待っていよう。」

ソラ「嫌よ…お父さんが心配なの…」

ナンシー「お父さんなら大丈夫よ。行きましょ。」

 

ソラは渋々了承し、家へと戻ったのだった。

 

 

4章 『タイムトラベラー』

 

 

────雨が降り出した。不安を加速させるように雨足は強くなる。ダイチはソラの部屋にいた。ソラはベットでうずくまっている。ダイチは窓の外を見ながら考え事をする。

 

(おじさんのあの反応…明らかに何かを知ってる顔だ。あのMS、ガンダムに何があるんだ。そもそも見た感じあんな機体設計自体わからない事だらけだ。教科書にも書いてないし、講和で習った覚えもない。過去の…まさか未知の技術…?それとも…)

 

ダイチ「…んなわけないか。SF映画の見過ぎかな。いくら時間移動が出来ても…ね。」

 

頭の片隅に浮かんだ仮説を心の奥にしまう。外から話し声が聴こえてきた。フーリの声と、知らない声。

 

ソラ「お父さん…?」

 

目を覚まし部屋を出ようとするソラをダイチが止める。

 

ダイチ「待て…………あの男も居る。」

 

声の正体は件の男だった。部屋のドアを開け階段下を覗く。2人はリビングへと入ったフーリ達を見て音を立てないようにリビングの前まで進んでいった。聞き耳を立て、話し声を注意深く聴く。

 

フーリ「────なのは分かった。お前さんが『あの時代』から来た事も、な。」

???「察しが早くて助かる。あの時代に軍にいた貴方になら頼めると…。」

フーリ「…他にも居たはずだが…そうか、俺だけだからか。」

???「そう、あの頃の技術を知っていて尚且つ軍属ではない…貴方にしかできない仕事だ。」

 

フーリは顔を真っ赤にし、机に手を叩き付けた。

 

フーリ「冗談じゃない!アンタの問題にウチの従業員を巻き込むな!唯でさえオーパーツ扱いの『アレ』をこの時代に持ち込みやがって!アレがどんなに危険なモノかわかってんだろうな!?ヘタしたらこの辺一体が消えちまうかも知んねぇんだぞ!」

 

物凄い剣幕で怒鳴り立てる。影で聞いてるダイチとソラも内容もさながらフーリの迫力に震え上がった。

 

ソラ「お父さん…?」

ダイチ「1回戻ろう。これ以上はやばい。」

 

2人はリビングを離れ部屋に戻る。ドアを閉めると

 

ソラ「ダイチ、さっきの話…。」

ダイチ「あぁ…。」

 

フーリの放った一言が2人の脳裏に浮かんだ。

────『アレ』をこの時代に持ち込みやがって!アレがどんなに危険なモノかわかってんだろうな!?ヘタしたらこの辺一体が消えちまうかも知んねぇんだぞ!────

そんなに恐ろしいものがあのMSに積まれていたなんて…。と2人は思った。

 

ソラ「ダイチ…!」

 

ソラはダイチを抱きしめる。全身が震え、恐怖がひしひしと伝わってくる。無理もない。あの話は彼女には刺激が強すぎた。

 

ダイチ「大丈夫だ…大丈夫。」

 

ソラをなだめる。しかし彼の恐怖心も増大していく一方だった。

 

(オーパーツ…?消し飛ぶ…?…わからない…わからない。そこまで危険なもの…核?いや、MSのジェネレーターには熱核反応路…。違う。なんだ、何なんだ。いやまさか…もしかして…)

 

ダイチ「別の世界…?」

ソラ「なに…それ…?」

ダイチ「時間移動できるんなら…空間だって移動出来るはず…映画の見過ぎかもしれない。けど、あのMSは…ガンダムは────」

 

刹那───窓の外に閃光と共に轟音が轟いた。地響きで家全体が揺れる。

 

ソラ「雷…!?」

ダイチ「…違う!アレは………軍のMS!?」

 

立ち上がる炎と煙の中からMSが現れる。雨が流れる装甲で赤い光りを鈍く反射し、佇んでいた。




雨が降り注ぐ中 突如起こる閃光と轟音

現れたのはMS その襲撃は何の為に

そして謎のMSに積まれている『アレ』とは

次回『屈折』

時代は《直線》とは限らない


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屈折

5章 コンタクト

 

 

「軍の…MS?」

 

ダイチが呟いた。

爆発の炎で雨に濡れる装甲を照らされた政府軍量産型MS『ジェノン』が3機、カメラを緑に光らせて燃える倉庫を見ていた。工場は爆発と同時に火の手が上がりだした。紅く炎が揺らめき、倉庫を飲み込もうとしている。

ソラが今にも気を失いそうなか細い声で呟いた。

 

「こ…工場が…そんな…」

「…ッ!しっかりしろ!」

 

ダイチはソラの肩を揺らし叫んだ。我に返ったソラを抱きながら部屋を出たダイチ、フーリに助けを求めようとしたその時だった。突然男がドアを蹴破り外に出ていった。外にはMSが居る、危険だ。一歩間違えれば巻き込まれかねない。

 

「おい!待つんだ!」

 

フーリの声も虚しく燃える工場へと駆けて行った。立ち尽くす彼の視線の先には無残な工場の姿があった。唇を強く噛んだ。

 

「…おじさん、ソラを頼みます。」

 

そう言うとダイチはバケツに溜まっていた雨水をかぶった。

 

「何をする気だ!」

「あの男を止めてくる。それにあのMSにはヤバイもんが積まれてんだろ!…止めなきゃ大惨事になる。」

 

フーリの静止を振り切り雨の中を走り出す。ぬかるむ地面を蹴って行く。

 

「ダイチッ!」

 

ソラの声、止めかけた足を動かしながら言った。

 

「なんとかなるさ!必ず帰る!」

 

いざ工場に入るとそこらじゅうが燃えていた。修理器具は炎に包まれ、機械はスパークしている。彼方此方に火が回り、地獄絵図と化していた。ダイチが進んでいくと例のMSが横たわっている。そのコックピット前に男はいた。

 

「おいおっさん!1人とっとと逃げ出すのか!」

「ッッ!何をしている!此処は危険だ、早く逃げろ!」

「何が逃げろだ!ここまでめちゃくちゃにしておきながらお前は逃げるのか!」

 

ダイチは炎の中、男と対峙する。燃え盛る炎と穴が空いた屋根から零れる雨水が入り混じる。それでも消えない炎がダイチ達を囲み出す。

 

「…誰が逃げると言った。」

 

そう吐き捨てると男は背後のMSへ歩み寄る。コツコツと靴を鳴らしただ歩いている。

その時だった────

 

「おっさん!上ッ!」

 

ダイチの目の前でそれは轟音を立て落ちた。鉄骨だ。天井のクレーンに吊り下げられていた鉄骨が男の上に落ちたのだ。尻もちをつき放心しているダイチ。我に返り男の安否を確かめる。

 

「お、おいおっさ…ッ!」

 

男は倒れていた。いや、倒れていただけならよかった。その鉄骨は、男の片脚を飲み込んでいた。地面と鉄骨の間から血が流れてくる。苦痛に歪む男の顔には汗が滲んでいた。

 

「おっさん!……ひ、酷でぇ、脚が完全に巻き込まれてる…」

 

ダイチは目の前で起きた惨状に狼狽えていた。周りから迫り来る炎がダイチの動揺を強く促した。炎が燃え盛る中、突然男は懐からナイフを取り出した。

 

「な、なんだよそれ…持ってたのか…?」

「あぁ…護身用だ。そいつで脚を…ッ!切れ…!…骨は砕けている。後はッ……肉と皮だけだ…。」

 

苦痛に呻きながらナイフを渡す男。ダイチは恐る恐る受け取った。ギラリと光る刃は紅く炎の光を反射し、狂気を感じるほどより恐ろしいものに見えた。包丁とは違う、少なくとも人を殺すのに特化しているような刃渡りがそうさせる。

握る手は不自然に力み、汗ばむ。躊躇する余裕もない。現に炎は2人を飲み込まんと渦巻いている。これ以上は男も持たない。────やるしかない。

 

「や…やるぞ、いいか?」

 

男は頷き、目を閉じる。血が滲む脚にナイフを当て、力を込める。

 

燃える工場に響き渡る慟哭。男の低いそれは、怨み・呪い・妬む悪魔の叫びのようだった。

 

「ハァ…ハァ…我ながら情けない声だ…ハハ…」

「笑ってる場合じゃないだろ…。よし、止血できた。ここから出よ…う…」

 

辺りを見回したダイチは言葉を失った。既に火は出口を塞いでいた。ダイチ達を囲む炎からの脱出は現状不可能に近かった。もう、戻れない。

 

「ちくしょう、ここで俺は死ぬのか…。」

 

拳を握りしめる。ソラに言った言葉が蘇る。軽々しく言わなければよかった…と後悔した。

 

「…まだ手はある。俺をコックピットに乗せろ。」

 

男が指をさすその先には件のMSがあった。倒れた物が掛かっているのみで幸い大きな損傷は無いように見えた。言葉通りダイチは男の肩を支えながらMSへと向かった。

コックピットハッチを開けると前後に席がある複座式だった。男は後方席に、ダイチは前方席に座った。中は意外と広い。操縦レバーもシンプルで、少しだけの知識を持つダイチにでも操縦が容易なように見える。

 

「おっさん、コイツ動くのか?」

「いつでも起動できる。いけるか?」

「やるしかないだろうよ。覚悟は出来てる。」

「フッ、頼もしい返事だ。これがコイツの端末兼起動キーだ。」

 

渡されたそれは市販されている液晶携帯端末とも見てとれるものだった。しかし特異な形をしていて、上部分にアダプタらしきものがある。見たこともない端末だった。

 

「そういやおっさん、名前は?」

「……ルイグレ。そう呼んでくれ。」

「あいよルイグレさん。ちょっと荒いかも知んないけど文句言うなよ?」

 

そう言うとルイグレはまた笑った。

ダイチはアダプタをモニター脇にある接続口に端末を差し込んだ。中央と左右のモニターが明るくなる。モニターに起動シークエンス開始とともに単語が浮かび上がる。

 

 

────────A.M.A.T.U.system────────

 

 

まるで深い海の底のような青い文字。思わずダイチが呟いた。

 

「アマツ……システム……。」

 

そして浮かび上がる機体名『アマツ』。

システムと同じ名のそれは炎の中、起動音を響かせながら起き上がろうとする。

ツインアイが力強く発行する。

 

目覚める力が体に流れ込むような感覚と共にその時ダイチは少女の様な声を聞いた気がした

 

《────コワイ…イヤダ…────》

 

 

 

6章 この怒りは誰の

 

 

「何故です…何故撃ったんですか隊長!民間人を巻き込むつもりですか!」

 

燃え盛る炎を見て、ジェノンIを駆る3番機パイロット─ヴィラ・ルーが涙声で訴える。

 

「"何故"だと?決まっているじゃないか!反乱分子の排除だよ!反乱分子と反乱分子に加担したゴミ共の始末を任されているのではなかったのかね?えぇ?ルー曹長ゥ?」

 

軍の最新型のジェノンⅡを駆る隊長─ムル中佐は下衆な笑いを浮かべる。

 

「我々の任務は工場の包囲、反乱分子の調査、発見次第逮捕…決して武力の行使ではなかったはずです!」

 

ヴィラは更に怒りを込め反論する。民間人の殺傷は間違ってもあってはならないと説く。しかし彼女の言葉は一蹴された。

 

「この田舎者が!私は将軍直々の指令を持ってきたのだ。全権は私にある。旧式運用の片田舎の隊長風情がこの私に逆らうな!」

「この戦闘狂め…ッ!」

 

ヴィラはムルを睨みつける。フンと鼻を鳴らし、ムルは2番機の部下に捜索を命じた。

ハッ!と返事しジェノンⅡ2番機は倉庫へと脚を踏み入れた。

 

メキメキメキメキバキィ!

 

破壊音を鳴らしながら突如屋根から"腕"が突き抜けてきた。飛び出した腕はジェノンの腕を掴み、引き込んだ。瞬間、引き込まれた腕が肘関節を境に引きちぎれた。

 

「なぁあああぁ!!??」

 

不意をつかれ奇声を上げるパイロット。重い音を立てて倒れるジェノン。右腕がない状態で

現れる鋼色のMS『アマツ』。倒れたジェノンⅡをかき分け、立ち上がろうとしている。ムルに向けられたツインカメラは睨むように鋭く光る。炎の赤く不気味な反射光も相まって実戦不足のムルの恐怖心を煽るのには十分すぎた。

 

「ヒィ!?で、出た!」

 

ムルは動揺した。直前まで熱源センサーには反応が無く、自らの一撃で破壊したと思い込んでいた所に突然現れた敵MS。ムルはそれに怯えていた。慌てて持っていたハンドガンを現れたアマツに向けるものの、反応が遅かった。

 

「こぉんのやろおおおおッッ!」

 

ダイチの怒りを込めた一撃がムルのジェノンⅡに直撃する。

拳はジェノンのメインカメラを的確に捉え、カメラを大破させた。ぐにゃりとフレームが曲がり、ゴーグルは粉砕され火花が飛び散った。パンチの衝撃でムルのジェノンは崩れ落ちるように倒れた。

ヴィラは自分の目を疑った。並のMSがただの"パンチ"1発でメインカメラをここまで大破させるという前代未聞の恐ろしいパワーを放ったのを目の前で見たのだ。ジェノン戦後治安維持の目的で作られたとはいえ新型のジェノンⅡがあそこまでのダメージを負うのを彼女は見たことがなかった。

 

「なんてMSなの…いつの間にあんなものを…?」

 

ヴィラが信じられないと呟いた。

 

 

様子を見に来たソラたちは呆然とした。運び込まれたMSが暴れ回ってるのだ。フーリは誰が操縦しているのかはおおよそ見当がついていた。

 

「アイツめ…ここまで暴れやがって、必ず弁償させ…」

 

────瞬間、ソラの脳裏にとある文字が浮かんできた。

 

DA───DAI──CH───DAICHE────

 

頭を抑えよろける。そしてアマツを指差し叫んだ。

 

「違う!あれに乗ってるのダイチだよ!」

 

 

 

 

「無茶をするなダイチ!まだ機体は完全じゃない!」

 

ルイグレが叫んだ。しかし興奮しているダイチには届かない。汗が流れ、息が荒くなる。

今のダイチは"誰か"の怒りに身を任せている状態だった。今の彼には、目の前の敵しか映っていない。目は獲物を狙う獣の目のように。

 

「ダイチが…怒ってる…?」

 

ソラが呟く。彼女らが外に出ているとは知らないダイチはレバーを操作し前進。ムルのジェノンⅡにゆっくりと近づいて行った。

 

「大佐!」

 

倒れていた2番機が動き出しダイチに向けて発砲し出した。銃口が何度も吠え、放たれた銃弾は全て命中する。

が、アマツの装甲は火花を散らし全ての弾丸を退けた。命中した場所から煙の帯を纏いながら顔を2番機に向ける。

 

《ワタシヲ傷付ケル……悪イヒト…消エチャエ!》

 

ダイチは脳に流れてくる声の言うままに操縦レバー脇のスイッチカバーを開いた。そしてなんの躊躇もなく押し込んだ。

連続で光る銃口、瞬く間に発射される50mmバルカン砲から放たれる無数の光の玉がジェノンⅡを襲う。

それは無残にも四肢をもぎ取り、胴を貫く。突き刺さる弾丸はいとも簡単に目の前のジェノンⅡを砕いていった。やがてまともに補給を受けていない状態のバルカン砲の弾薬は直ぐに尽きた。しかしその弾丸の量はジェノンⅡを行動不能にするには充分だった。いや、"充分すぎた"のだ。

 

「なんてことを…」

 

ヴィラは恐怖していた。目の前で起こる惨状を、暴力的な強さを目の当たりして正気を保っているのがやっとの状態だった。

アマツはヴィラのジェノンⅠに向いた。次は自分の番だといやがおうでも感じた。

────ここは生き残るのが先決だ。

そう考えるとヴィラは持っている武器を捨てコックピットハッチを開ける。そして両腕を上げ投降を示した。その時だった。

 

アマツのツインアイの輝きが消え、停止した。

ジェノンⅠが投降すると同時に糸が切れたかのようにダイチの意識が途絶えた。

 

 

ダイチは、動かない。ルイグレが必死に呼びかける。

 

「おい、しっかりしろ!起きろ、ダイチ────」

 

 

 

 

 




一夜明け、目覚めたダイチが見たのは見知らぬ天井

聞こえるのは君の声、そして謎の男ルイグレ

生き残った実感がわかないダイチに言い渡された言葉とは

次回『初陣』

囚われのキーマンを救え


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初陣

────ここは、どこだ。────

ダイチは先の見えない道の上にいた。自分の場所にだけ、スポットライトの様に光が当たっている。何だかわからないけど止まっていても仕方が無い、と思ったダイチは暗い道の先を目指し歩き始めた。
体は鉛のように重く、足には足枷を掛けられたような感覚がする。
しばらく歩いていると人の様な影を見つけた。100mくらい先だろうか。2人いる。服装が見えるまで近付いたダイチは妙な安心感と懐かしさを感じた。
しかし近付く度に体は重くなり、足が動かなくなる。重い足を引きずりながら何とか歩く。遂に顔が見えた。

「父さんに…母さん…?」

それは幼い頃に失くした両親だった。2人は微笑みながらただダイチを見ていた。
もう足は動かない。それどころか大声を出そうとしてもかすれてしまう。唯、呟くことしか出来なかった。

「「貴方は選ばれた」」

突然後ろから声が聞こえてくる。
ダイチは、その声の聞こえた方にかろうじて振り向く。そこには幼い少女とダイチと同い年に見える女性が立っていた。

「「貴方はこの機体の主(あるじ)となる。私達はあなたの剣(つるぎ)となる。」」
「俺の、剣…?貴女たちは誰ですか…?」

得体の知れない2人。ダイチは不思議なくらい冷静に問う。

「「『今は』あなたの剣。剣としての命を終える時…私達は私達として存在できる。」」

2人は答える。するとダイチから徐々に力が抜けていく。薄れゆく意識の中最後に訪ねた。

「…なんで…俺なんだ…?」

2人が口を開く。

「それは、貴方があの人の────────」




 

 

 

7章 理由なき選択

 

 

目覚めるとそこは、自分の部屋でも、ソラの家でもなかった。無機質な天井と自分のいる場所を囲むカーテン。ダイチは部屋の雰囲気から病室と悟った。

 

「夢…か。」

 

呟くと顔を動かす。横にソラが眠っていた。起き上がろうとするが何かにぶつかる。よく見ると、胴と足首には医療用の様な大型検査機械が被せられている。夢で体が重かったのはこれのせいだろうと解釈した。重い機材をどうにかどかし起き上がる。

周りから生活音が全くしない。異様な静かさだった。ソラの他には誰もいないようだ。

 

「うん…」

 

ソラが目を覚ました。起きがっているダイチを見て直ぐに目を見開いた。

驚きと喜びに満ちた目から涙が零れ始めた。

 

「…ダイチッ!」

 

突然抱きついてきたソラをダイチは優しく包む。

 

「よかったぁ…起きてくれた…私、心配で…うぅぅ…」

 

ダイチは強く抱き締めるソラに答える様に抱き締め返す。目覚めた安心感からかダイチの目にも涙が溢れる。唯々涙を流す。ダイチはソラに心配をかけ、謝りたい気持ちでいっぱいだった。言葉がうまく出てこない。でも言う言葉は1つだった。

 

「…ただいま。」

「…おかえり。」

 

ダイチとソラは泣きながら笑顔で言い合う。小さい頃からずっと交わしていた言葉。そしてまた泣いた。お互いの無事が涙を更に促す。病室に2人のすすり泣く声だけが響き渡った。

 

2人の目の赤みが引いた頃、病室に松葉杖をつきながらルイグレが入ってきた。無論片足は無い。

 

「無事だったかダイチ。」

「お陰様でね。貴方のおかげだよルイグレさん。」

 

苦笑いで返す。しかし、すぐにダイチから笑顔が消えた。

 

「覚えているか…あの夜のことを。」

 

ルイグレは俯くダイチに問う。

 

「あまり…でもソラから聞いたよ、全部。」

 

力のない声で呟く。そしてぽつりぽつりと先程見た夢、頭に直接聞こえてくる声のことを話した。自分が選ばれたこと…現れた両親…自分の剣と名乗る謎の女達。覚えてる限り話した。

 

「…魅入られたか、それとも…」

 

話を聞いたルイグレはそう呟いた。

そして立ち上がると、松葉杖を鳴らし出口へ向かう。向かいながらダイチに尋ねる。

 

「これからどうするダイチ。また元の生活に戻るか?」

 

その深みのある声がダイチへ選択を迫る。ぽつり、とダイチの口から言葉がこぼれる。

 

「…やるよ、アレのパイロット。」

 

扉を開けようとしたルイグレの手が止まる。

 

「理由は…わからない。けど、俺にしかできない事のように感じる。怖いけど、やるしかないんだって、あの人達が言ってるように聞こえたんだ。」

 

一旦止めた手を動かしながらルイグレが言う。

 

「…後悔はないな?」

「あったらさっさと出ていくよ。」

 

問うルイグレに皮肉を返す。

フッと鼻を鳴らし、出ていくルイグレを見送ったあと、ダイチはソラに謝る。

 

「ごめん、ソラ。やる事ができた。暫くは会え────」

 

ソラが話を遮る。

 

「私も、付いて行く。我がままかもしれない…けど、私はダイチをサポートしたい。支える人が少なかったらダイチも不安でしょ…?」

「何するか知ってるのか?政府を敵に回すんだ。無事で済むかどうか分からないんだぞ!」

「だったら尚更、放っておけない!!」

 

ソラの気迫に圧されたじろいだ。ソラの目は、本気だ。

お前を危ない目には合わせたくない。でもダイチからその言葉は出せなかった。

燃え盛る工場に向かったあの時、少なからずソラに自分の死を想像させたに違いない。彼女にここまで心苦しい思いをさせてしまったと考えるとダイチは口に出せなかった。

 

「…本気なんだな?」

 

今1度確かめる。力強く、そして自らの気持ちを表すため、ソラは頷いた。

この瞬間から、自分だけの問題ではなくなった。誰かを巻き込んでしまったのだ。

しかしダイチは心の底では安心していた。1人で背負うより、2人で支え合う道を選べた事が、最良の選択と思えてきた。傲慢かもしれないが、やはりソラは自分にとって大切な存在だ。これからは彼女を守る事が最優先だと、ダイチは心に刻み込んだ。

 

「わかった。…お前の気持ちは伝わったよ。」

 

微笑みながらソラの手を握る。

 

「お前は全力でサポートするなら、俺はお前を全力で守る。そう決めた。正直な話、ソラが付いてきてくれて嬉しいんだ。」

「ダイチ…」

 

ソラが身を寄せる。ダイチが肩に手を回す。

もう彼女に悲しい思いはさせたくない。そんな感情をダイチは抱いていた。

 

 

8章 狂う歯車

 

「最低限…ねぇ。命かかってんのに、最低限はねぇよなぁ。」

「愚痴ばっかいってても仕方ないよダイチ。…今あるものでやるしかないんだよ。」

 

そんなもんかとダイチはパイロットシートでふんぞり返る。。かれこれ2時間はここにいる。左右は切り立った崖、18m級のMSが隠れられるほどの深さの谷。ルイグレ曰く、政府軍のレーダーから逃れられる唯一の場所…らしい。通信は連絡があるまで遮断されている。予定ではターゲットを確保次第に、この谷を使い脱出する手筈だ。ダイチたちは

 

「ヴィラさん無事かな…。」

 

ソラが口を開く。ヴィラはあの夜の戦闘の後投降し、今回の件で政府軍に嫌気が差したのか反乱軍に籍を置くことになった。今回の『作戦』は、彼女が中心であると共に、彼女の疑いを晴らす目的を兼ねていた。任命された彼女自身は戸惑っていたが、大丈夫なのだろうか。

 

《こち─"ディザイアベース"より"ヴァル─ュリア1"。作──動きあり。警戒を密にせ─》

 

静寂を破り、オペレーター─ニル・アミラリから通信が飛び込んでくる。通信出力を最小にしてるからか、所々ノイズが入る。危うく聞き逃してしまいそうだ。

直後にレーダーが敵を捉えた。レーダーは3機の機影を捉える。一番先頭がおそらくヴィラであろう。

 

「来るぞ…ソラ!」

「う、うん!」

 

ソラはアイドル(待機)させていたジェネレーターを起動する。排気ダクトから風が吹き出し、駆動音を響かせ、力を取り戻す。膝をついた状態から立ち上がり、ビームガンを構える。

その爛々と輝く緑のツインアイは、谷の奥、ヴィラが来るはずの真南を睨みつけていた。

だんだんと近付いてくる機影。縮まる距離と比例して、緊張が高まる。

 

……来るならこい。そうダイチがつぶやいた時だった。

 

《ヴァ─キュリア1!───待避せよッ!》

 

静寂を破る通信。内容を理解しようとした時にはもう遅かった。

スラスターをふかしながら高速で、『3機の敵』が突っ込んできた。

政府軍のジェノン。もちろん、そこにヴィラ機の姿はない。

 

「うわああああああ!!??」「きゃあああああ!!」

 

ダイチとソラは驚愕し、反応が遅れてしまった。そして3機のジェノンはアマツに次々に衝突、覆いかぶさるようにして転倒、砂煙を上げながら地面を滑った。

衝突の衝撃で、朦朧とする意識の中、接触回線がコックピットに響き渡った。

 

《…いたた…何が、起こったの?》《な、なんで、こんなトコにMSが…》《て、敵の機体じゃないか…こいつ。》

 

相手の通信が錯綜する。慌ててる今がチャンス…と、ダイチは咄嗟に機体を起こす。機体のパワー任せにジェノン3機を押しのけようと熱風を吐き出す。

 

《やばい!起きるよ!》《させるかっての!》

 

混乱していた彼らも押さえ込もうとする。しかし3機のジェノンの拘束をものともせず押しのけ、アマツは再び立ち上がる。

 

ジェノンのパイロット達は、立ち上がる敵MSの出力にど肝を抜かれていた。

MS3機を軽くあしらう姿は、彼等すれば信じられない光景だったであろう。

 

「なんだってヴィラさんがいないんだよ…」

 

ダイチは敵を目の前に、信じられないと嘆く。

 

「基地に行ってみよ!もしかしたらヴィラさんが…」

「何かあったんだろうよ…行こうソラ!」

 

ソラの話を理解し、ダイチはスラスターペダルを踏み込む。青い光が機体を押し動かす。

我に返ったジェノンの1機がアマツに攻撃を始める。が、まるで効果が無い。

───それもそのはず、彼らは単なるパトロール隊。暴徒撃退用の小口径ピストルしか装備しておらず、対MS装備は皆無だった。

 

彼らはただ谷の奥、基地に向かうアマツを見送ることしか出来なかった。

しかし、このエンカウント(遭遇)が歯車の狂うキッカケだとは

この時の彼らには知る由もない────

 

 

 




世の中には、知らなくて幸せな事がある。

それが己の『記憶』に関することなら、なおさら。

一片を聞けば全てを求めたくなる。

本当の己を知るために…

次回 『虚構と真実』

真実は、己の運命(さだめ)を呼び寄せる


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