ダンジョンにアーサー王がいるのは間違っているだろうか (ひゃっほー)
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ロキ・ファミリア入団編
プロローグ 出会い


ここは迷宮都市オラリオ。神々が降臨する以前『古代』と呼ばれる時代から存在する世界有数の巨大都市。世界で唯一迷宮『ダンジョン』が存在する。広大な円形状の形をしており、堅牢な市壁に取り囲まれている。都市中央には天を衝く白亜の塔『バベル』がそびえ立っている。世界一の魔石製品輸出都市でもあるオラリオはダンジョンからの恩恵、魔石生産業による利益を得て、大陸の一国家より遥かに発展を遂げている。街並みは石造りの煉瓦で構成され中世ヨーロッパを彷彿とさせる。道には露店がズラリと店をかまえ、活気に満ち溢れていた。

 

「……ここは一体どこなんだろうか」

 

周りの光景をみて金髪の青年は美しい碧眼を辺りの観察へと使う。人が溢れかえる様子を伺いながら、エルフ、ドワーフ、獣人、小人など普通の人間ではない者達が多く入り混じっている事に気付く。

 

 

「……するとここは元いた世界ではないのかな?」

 

 

自分がここに来る前には存在していなかった人種達が闊歩する様子をみて一つの結論に思い至る。

 

 

「しかし、圧倒的に情報不足のようだ。困ったな……」

 

 

む〜〜っと顎に手を当てて困っていると、青年と同じ金髪を持った少女が話かけてきた。

 

 

「大丈夫、?」

 

 

「……いや、大丈夫ではないな、お嬢さん幾つか質問したい事があるのだけれどいいかい?」

 

 

金髪の少女はコクっと頷く。

 

 

「それはありがた……

 

ぐぅぅぅぅーっと盛大にお腹がなる。青年は頬を少し掻いた。

 

 

「お腹、空いてるの?」

 

 

「すまない、ここに来るまで何も食べていなかったもので」

 

 

「じゃあ、買いにいこ」

 

 

少女はそう言うとスタスタと一つの露店に駆けていく。青年は少女に着いて行く。店の店主が少女を見ると笑いながら言った。

 

 

「あらーアイズちゃん、今日も来たのかい!! おや? そっちの美青年はアイズちゃんの彼氏かい? 隅におけないね〜」

 

店主が軽く冗談を言いながら「はい、いつもの」っとアイズと呼ばれた少女に紙袋を渡した。おおよそ見ていたがトンデモない量の揚げ物が紙袋にしまわれていた。

 

 

「ありがと、あとこの人はさっき道で困っていたから助けた。お腹も空いてるみたい、じゃあ、また来る」

 

 

「はいよ〜〜」

 

 

 

店主に事情を説明したアイズは軽く挨拶をすませると少し離れたベンチに腰掛けた。青年もアイズの隣に腰かけて紙袋を興味深そうにみつめる。

 

 

「……はい、ジャガ丸くん小豆クリーム味」

 

 

アイズは紙袋から一つ取り出すと青年に渡した。

 

 

「すまないな、いつか代金はお返しするよ」

 

 

青年はアイズからジャガ丸くんとやらを受け取り一口かぶりついた。その様子を見ていたアイズは自分も同じように紙袋から取り出してその小さな口で食べ始めた。お腹が空いていれば何でも美味しくは感じるが青年はとても美味しそうにジャガ丸くんを頬張る。ジャガイモのしょっぱさと小豆クリームの甘さが絶妙に絡みあいお互いの良さを引き立てていた。

 

 

「美味しいな……そういえば、名前を聞いていなかったね。先程の店主はアイズと呼んでいたがそれで間違いないかい?」

 

 

青年は思い出したようにそう尋ねるとアイズはコクっと頷いて続けた。

 

 

「アイズ・ヴァレンシュタイン。君は?」

 

 

アイズの問いにとても美しい笑顔で青年は答えた。

 

 

「僕はアーサー。アーサー・ペンドラゴンだよ、まあでもセイバーって呼ばれる事もあるから好きな方で呼んでくれても構わない」

 

 

「……ならアーサーって呼ぶ、私の事もアイズでいい、よ」

 

 

アーサーはもう一つアイズの手から渡されたジャガ丸くんを頬張りながらこの世界について質問する。

 

 

「アイズ、それで聞きたい事なんだけれど、ここは一体どこなのかな?」

 

 

聖杯戦争で英霊召喚された場合は聖杯によってその時代の情報が自動的にサーヴァントに与えられる。今回のようなケースには遭遇した事がなかったのでアーサーはとても困っていた。

 

 

「ここはオラリオ、世界で唯一ダンジョンがある都市」

 

 

「オラリオにダンジョン……やはり聞き覚えがないな、アイズは普段何をしているんだい? 腰のレイピアを見た感じ剣士のようだけれど」

 

 

「私は冒険者をやってる。ダンジョンに潜ってモンスターと戦う」

 

 

「なるほど、アイズは強いんだな」

 

 

アーサーの言葉にアイズがピクっと反応する。今までの雰囲気と変わってアイズから焦燥感が漂う。

 

 

「私は……強くない。もっともっと、強くならなくちゃいけないの……」

 

何処か焦ったようなアイズの表情にアーサーは不安な表情をする。

 

 

「アイズ、強くなる事は悪い事じゃない。でもただ強くなるだけでは駄目なんだ。いくら剣の技量が凄くても精神が強くなければ意味はないよ。僕は今日初めて君に会ったけれど君はまるで剣のようだと思った。鋭く、美しくそして今にも折れそうな剣。アイズには才能もあると思うし、努力もしていると思う。だから今はそんなに焦る必要はないよ。必ず君は強くなれる、僕が保証しよう」

 

 

アーサーはニコッと笑うと静かに聞いていたアイズの頭を撫でる。撫でられアイズは一瞬キョトンとした。アイズはLv5の第一級冒険者だ。最近自分のステータスの伸びが悪い事にとても焦っていた。アイズは自分の目的の為に強くならなくてはいけないと使命感に駆られて無茶なダンジョン探索を続けていたが、アーサーの言葉と笑顔によって少しモヤモヤが晴れたような気がした。根拠はない。でもアーサーの言葉が自然と心に響いたのだ。アイズは口元にほんの少し笑みを浮かべると小さく言った。

 

 

 

 

「……ありがと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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1話 この世界

「そういえばアイズ、君はこの都市では有名人なのかい?」

 

唐突にアーサーはアイズに尋ねた。それもさっきから周りの人々の視線がベンチに座る二人に集まっていた。注目を集めていたのはアイズだけではないのだが、アーサーはそれに気づいていない。そもそもアーサーとアイズの容姿は否応なしに人目を惹きつける。アーサーは金色の髪に碧眼の魅惑的な瞳、雪のような白い肌と整った容貌だ。服装は青と白の騎士服に白銀の甲冑を身にまとっている。

 

対してアイズはアーサーと同じく金色の腰まで伸びる美しい長髪に瞳も同じく金色、絹のような白い肌、無表情に思える顔もその整った容貌と相まって幻想的な魅力を醸し出す。洋服はラフな格好でざっくり背中側が開いた身体のラインがわかりやすいトップスに水色のミニスカートだ。側から見れば美男美女のカップルか兄弟にみえるだろう。

 

 

「さぁ……?」

 

アイズは短く答えると小首を傾げてそう言った。

 

 

「なら場所を変えようか……どうもここは落ち着かないから」

 

アーサーは苦笑いを浮かべてベンチを立つ。今まで大勢の前に立つ機会は何度もあったが、こうも人目を集めるとさしもの騎士王も落ち着かないようだ。

 

 

「なら、ホームにくる? そこならアーサーの質問にも色々と答えられると思う」

 

「ホーム? アイズの住んでいる家かい?」

 

「私だけじゃない、ファミリアの皆んなが住んでる」

 

聞きなれない言葉を多く耳にするアーサーは困ったような表情を浮かべる。

 

「うーん、とりあえずアイズのホームに行けば色々聞けるみたいだからお邪魔させて頂こうかな。っとその前にこの格好では少し目立ってしまうね」

 

 

アーサーはそう言って自分の礼装を解除する。スゥーっと白銀の甲冑は消失して黒色のジャケットに白いTシャツ、黒いパンツとラフな格好に様変わりした。それを見ていたアイズはアーサーに質問を投げた。

 

 

「魔法?」

 

「まあそんなところかな。どうかな似合ってるかな?」

 

「うん、似合ってる」

 

アイズがそういうとアーサーは笑ってありがとうと言った。その笑顔にアイズは若干、ほんの少し赤らめた顔を隠すように歩き出した。

 

 

「……行こ」

 

 

 

♦︎♢♦︎♢

 

 

 

都市オラリオの最北端にあるメインストリートを一つ外れた街路にロキ・ファミリのホーム『黄昏の館』はある。まるで城のような外観は幾つもの塔たちの集合体で出来ている。都市最大のファミリアの拠点としては充分過ぎる程だ。

 

「ここ、」

 

アイズに連れて来られたアーサーは目の前の建物に驚きを隠せなかった。

 

「本当にここに住んでるのかい? 凄いな……」

 

アーサーも生前はティンタジェル城と呼ばれる所に住んでいたが、目の前の建物はそれよりも小さいとはいえ引けをとらない大きさだった。

 

「ロキに会いに行く。その人(神)から色々聞けばいいと思う」

 

アイズの後ろを着いて行くように大きな門を抜ける。門を潜る時に二人の女性門番に止められたがアイズの知人と言うことですんなりと通してもらえた。その際にアーサーは門番に笑顔で挨拶をしたが二人が顔を真っ赤にしていた事にアーサーは気づいていない。『黄昏の館』は外見通り中も相当広いようで、軽く道に迷いそうだなっとアーサーは観察しながら思っていた。ひとしきり歩いてからアイズは大きな扉の前で足を止めた。

 

 

「ここに、そのロキという人が?」

 

 

「うん、でも少し待ってて……」

 

 

アイズはそう言って扉をノックして入室しようとした。

 

 

突然、ドアが開き中からアイズに向かって何かが飛びついた。

 

 

「アイズたーん!!」

 

アイズはヒラリと軽やかに避けるとそれは壁にぶつかる。

 

 

「……ただいまロキ」

 

どうやらそれがロキという人物らしくアイズは床で倒れているそれに話しかけた。

 

 

「何で避けるん?! ウチのアイズたんへの愛を受け止めてーや!!」

 

立ち上がったそれは涙目になりながらアイズに叫ぶ。朱色の髪に糸目、多分声からして女性だが男装に身を包んでいる。ひとしきりアイズへの愛を語った後ロキはアイズの後ろにいるアーサーに気づく。

 

 

「……アイズたん、そいつ誰や? まさかっ!? 彼氏とか言うんやないだろうな!! 認めん!! アイズたんはウチのもんやで!! おい、アンタ、アイズたんに何かしようもんならしばき倒したるからな!!」

 

ロキが憎々しい瞳をアーサーに向ける。

 

ドカッと鈍い音が聞こえる。ロキの頭にアイズの拳が振り下ろされる。

 

 

「ロキ、この人はさっき街で知り合ったの……困ってるみたいだったから連れてきただけ」

 

 

「いったー!? でも怒るアイズたんも激萌〜」

 

 

しかしさっきまでのお調子者の空気を一変させ、ロキは糸目を僅かに開かせると普通の気配ではないアーサーに言った。これはロキのような神々にしか気づけない。

 

 

「自分……何者や?」

 

 

先程までおいてけぼりにされていたアーサーもロキの雰囲気が変わった事に気づく。

 

 

「僕はアーサー・ペンドラゴンと申します。何者か……ですか。そうですね、騎士とでも言っておきましょう」

 

ロキのプレッシャーに臆する事もなくアーサーはにこやかにそう答えた。

 

 

「嘘はついてないみたいやな……でも本当の事もいっとらん」

 

そこでアイズはアーサーの事を庇うように前に出る。

 

 

「アーサーはここの事知らないみたいなの、だからロキこの世界について教えてあげて欲しい」

 

 

「……アイズたんちょっとこいつと二人で話したいからフィンのとこ行ってコレ渡してきてくれるか? ついでにフィンもここに呼んでくれると助かるわー」

 

 

ロキはアイズに書類を渡す。 アイズは心配そうにアーサーを見るとアーサーは大丈夫だよっと言ってアイズをたしなめた。

 

「……分かった」

 

アイズはそう言ってロキの頼みを引き受けた。

 

 

「そんじゃ……聞かせてもらうでー。あんたの質問にも答えたるから安心せいや」

 

 

「よろしくお願いするよ」

 

 

アーサーはロキの私室に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢

 

 

アーサーはロキからこの世界について教えて貰った。曰く、1000年前に天界から降り立った超存在『デウスデア』元は天界の住人だったがダラダラと、時を過ごす毎日。生きる事に飽きた神々は下界に興味を持ち下界に暮らす子供達と同じ地位と力で共に暮らすというゲームを始めた。そのため下界で神の力を使う事は禁止されているらしい。

 

下界に降りた神々はファミリアを作った。眷属『ファミリア』は神によって組織される派閥。作った神を主神とし、主であるファミリアの名を冠し◯◯・ファミリアと呼ばれる。 神々は下界の、子供達に神の恩恵『ファルナ』を与える。ファルナによって引き出されるのはその人間の可能性。神は眷属の経験した事象である経験値『エクセリア』を抜き出し、それを神聖文字『ヒエログリフ』として眷属に刻む事で

その経験値を具現化させる。簡単に言えばポイントによる能力値の増大だ。

 

そして娯楽に飢えた神々の新たな遊び場がここオラリオで様々な神がいることを教えて貰った。

 

 

アーサーはアイズの言っていた事を思い出して納得する。アイズは余分な事は話さないのでアーサーも分からない事が多かったが、ロキの話を聞いてこの世界についておおよそ理解が出来た。

 

するとロキが言った。

 

 

「こんな当たり前の事知らんと思わへんかったわ、おおよそ予想はついとったが、あんたこの世界の住人なんか?」

 

 

さすが神と言ったところか、アーサーは嘘をつく必要性を感じなかったので正直に話した。

 

 

「おっしゃる通りです神ロキ、僕は異世界からこのオラリオにやって来ました」

 

 

アーサーはロキに語る。自身は一国の王であり、祖国の悲劇を救済するべく世界と契約して英霊になった事。何でも願いを叶える聖杯『願望機』を巡って戦っていたこと。しかし、祖国の救済が間違っていた事に気づかせてくれた少女を救う為に戦った事などを包み隠さずロキに話した。

 

 

「なるほどな……神のウチでもわからん事は色々あったが大体あんたの素性は分かったわ。あんたの気配がウチらと近い理由もな」

 

 

ロキは大きく息を吐いて椅子の背もたれに深く腰掛ける。

 

 

「それで神ロキ、僕が元いた世界に帰る方法はあるのでしょうか?」

 

これはアーサーが最も聞きたかった事だ。

 

 

「ロキでええわ、一言で言うと……わからん。異世界があるなんて聞いたことないな。まぁでも探して見ればええんやない? ところで相談なんやけど……あんたウチのファミリアに入らへん?」

 

 

ロキのいきなりの提案にアーサーは驚く。

 

 

「なぜ、僕をファミリアに誘うんだい?」

 

ロキはニヤリた口元を釣り上げると言った。

 

 

「おもろいからや!! いやー最近刺激が足りんくてな、暇やと思ってたところやねん。それにウチのファミリアは都市最大派閥の一つで情報網もでかい、一人で元の世界に帰る方法探すよりウチのファミリアに入ってさがした方があんたも得やと思うけどな」

 

 

確かに一理ある。アーサーはこの世界に現界して1日目だ。それにさっき気づいたのだが、今のアーサーは英霊の時と違いこの世界に受肉している。という事は魔力原のマスターからの補給で間に合っていた前の世界とは違い、ご飯を食べなければ餓死してしまう。『黄昏の館』を見てもロキ・ファミリアは衣食住に置いて申し分ない。どっちにせよロキの提案に乗る他なかった。さりに言えば今の状況から考えて一人で帰還方法を探すのは広大な海から砂粒を探すに等しい。

 

 

「……わかりました。ロキの提案を受け入れましょう」

 

 

「そうこなっくっちゃなー」

 

 

ロキはケラケラと笑うと椅子からたち上がった。アーサーもロキ同様椅子から立ち上がるとドアの方を見て行った。

 

 

 

「……気づいているよアイズ、それにもう一人の方も。そろそろ出てきてくれないかい?」

 

 

すると扉が開かれて気まずそうなアイズと金髪の小人が部屋に入ってくる。アーサーが自分の過去について話始めた辺りから扉の前に二つの気配があるのは気づいていた。アイズの気配は一度会っているので分かっていたがもう一つは大方アイズが呼びにいったものだろう。

 

 

「ごめん……盗み聞きする気はなかったの」

 

 

アイズは申し訳なさそうに言った。

 

 

「いや、構わないよ。アイズには困っていた時に助けて貰った恩もある。ジャガ丸くんも買って貰ったからね。それで、そちらの御仁は誰かな?」

 

アーサーの言葉に安堵したような表情を作るアイズ。

 

 

「これはご挨拶が遅れたね、僕の名前はフィン・ディムナ。こう見えてロキ・ファミリアの団長を務めさせて貰っている。君がアーサー君で間違いないかな?」

 

フィンはそう言ってアーサーに手を差し出す。

 

 

「アーサー・ペンドラゴンだ。よろしくフィン。それとフィンはこう見えてって言ったけれど君からは強者のオーラを感じる。相当腕が立つのは見て分かるよ」

 

 

アーサーは差し出された手を握るとニコやかにそう言った。

 

 

「それでロキ、話は聞いていたから分かったけど、アーサー君の入団の件だよね?」

 

フィンはロキに確認を取る。

 

 

「そやでー、正直ウチは今すぐにでもええんやけど、一応入団テストはせなあかんやろ?」

 

 

「確かに、なら模擬戦でもしようか。アーサー君の実力がどの程度なのかも気になるし僕が相手をするよ」

 

 

「それでええか、アーサー?」

 

 

「構わないよ。僕も少しこの世界での戦闘を経験しておきたい」

 

 

アーサーはそう返事をする。

 

 

 

「なら早速訓練場に行こうか」

 

フィンはそう言って扉に足を向ける。それに連れられるようにアーサーも扉を出て行った。

 

 

このやり取りをみてアイズは少しワクワクしていた。アーサーの実力は戦っている所を見た事がないアイズでも相当だということは剣士であるアイズには感じて取れた。ロキはアイズの様子をみて同じ事を思っていたのだろう。

 

 

 

 

「楽しみやな、アーサーの実力がどんなもんかバッチし見届けようやないかい……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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2話 模擬戦

アーサーは現在訓練場でロキ・ファミリアの団長フィン・ディムナと向かいあっていた。フィンはオラリオでも数少ないLv6の第一級冒険者だ。勇者(ブレイバー)という二つ名を持つ彼は槍の使い手であり軍団指揮に長けた優秀なファミリアの団長。普通に考えたらLv6の冒険者が恩恵も授かっていない者と模擬戦をするのはおかしい。しかし、木剣を構えている目の前の騎士からは歴戦の猛者を遥かに上回るオーラが漂いフィンのこめかみから嫌な冷や汗を流れさせる。ロキからは本気でやれと伝えられているフィンはギュッと木槍を握り直し、戦闘モードフルスロットルで合図を待ち構える。

 

 

「そんじゃ始めるでー!!」

 

 

ロキの声が訓練場に木霊し、空気を震わせる。

 

 

「始め!!」

 

 

ロキの合図と同時にフィンは駆けた。Lv6の身体能力を惜しげも無く使った疾走は一瞬でアーサーの間合いに踏み込む。悠然として中段に木剣を構えるアーサーはフィンの踏み込みとスピードに感嘆した。そんなアーサーの心境とは裏腹にフィンの木槍がアーサーの喉元を抉るように突き放たれる。だが、フィンの攻撃はアーサーの碧眼が容易に捉えていた。フィンの一撃を簡単に切り上げで撥ねのけるとアーサーの右腕が霞み、フィンの反応速度を上回る袈裟斬りを放つ。

 

 

(見えないっ!!)

 

フィンは全神経を集中させ、感を頼りにアーサーの鋭い攻撃をガードする。木がぶつかり合う音が訓練場に響きわたり、フィンの身体は大きく後ろに弾き飛ばされた。

 

 

「今度はこちらから行くよ」

 

態勢の整わないフィンに間髪入れずアーサーは地面を抉る踏み込みでフィンに肉薄した。最初のフィンの踏み込みより遥かに早い。空気を裂く音がフィンの耳に届いた時、既にアーサーの木剣がフィンの眼前に迫っていた。ギリギリのタイミングで剣線の軌道に木槍を割り込ませたフィンはアーサーの攻撃を利用して半回転すると、そのまま全力の横薙ぎをアーサーに叩き込む。アーサーは焦る様子もなくフィンの一閃を受け流すと再び高速で移動してフィンの死角に回り込んだ。そのまま攻撃直後に硬直し、隙だらけのフィンに手加減した一撃を当てる。攻撃を食らったフィンはそのままゴロゴロと地面を転がる他なかった。

 

 

「流石だね。攻撃の当たる瞬間に咄嗟に後ろに飛んでダメージを最小限に止めるとは」

 

アーサーは驚いたように言った。フィンは直ぐに立ち上がると木槍を構え直した。

 

「ロキからは本気でやれって言われていたけど、ここまで強いとは想像していなかったよ」

 

フィンは苦笑いを浮かべつつアーサーの実力が別次元である事を指摘する。

 

「そう言ってもらえるとありがたい。今までの修練が無駄ではない事を教えてくれるからね。それとフィン、さっきからアイズがとんでもない剣気を僕に送ってくるんだが、何とかしてくれないかい?」

 

 

アーサーの言葉にフィンはアイズの方をチラッと見る。そこにはただならぬオーラを放つ1人の剣士がジッとアーサーを見つめていた。

 

 

「……あはは、多分君と僕の戦闘を見て火がついてしまったんだろうね……そこで提案なんだけどいいかい?」

 

 

フィンは思いついたように言った。

 

 

「一応聞いておこうかな」

 

 

「アイズも入れて一対ニにしよう。どうやら君は僕一人の手に負える相手ではないみたいだ。一合剣を交わしただけでわかる。流石に僕も卑怯だとは思うんだけど、どうやら僕にも火がついてしまったらしい。何が何でも君に勝ってみたい!!」

 

フィンの提案にアーサーは一瞬驚いたような表情をしたが笑みを浮かべてその提案を受け入れた。

 

 

「いいだろう。僕も君達と戦ってみたい。それとアイズには少し教えたい事もある」

 

 

「という事だアイズ。君も勿論やるよね?」

 

 

フィンの提案を聞いていたアイズはアーサーと同じ木剣を持ってフィンの横に並ぶ。

 

 

「……お願いしま、す」

 

 

アイズは木剣を構える。フィンとアイズは同時にアーサーに飛び込んだ。フィンは木槍を高速で突き出す連続攻撃。アイズは一拍タイミングをずらしアーサーの背後に移動して右肩辺りに本気の一撃を叩き込んだ。

 

アーサーはまずフィンの連続攻撃を紙一重で全て躱す。まるで何も突いていないような感覚に戸惑いつつ、フィンは分かっていたように次の一手を繰り出す。その間にアーサーは背後から迫るアイズの一撃を半歩ズレて躱すとアイズのガラ空きの身体に木剣の柄で突きを放つ。鳩尾辺りを攻撃されたアイズは肺から空気を吐き出した。そのまま後ろに後ずさってから地面に膝を着く。

 

そのままクルッと回転して木槍を薙ぎはらうフィンの攻撃をアイズのいる方向に受け流す。勢いをそのままにフィンの攻撃はアイズに向かってしまう。フィンは無理矢理身体を捩ってアイズに向かう木槍の軌道を僅かに逸らす。木槍がアイズの頬を軽く掠めて地面に突き刺さった。

 

 

「今の連携は中々だったよ、でも二人で戦う場合はお互いの攻撃を利用される危険性がある。それをふまえた上でどれだけ上手く相手が嫌な連携を繰り出せるかが肝だ」

 

 

アーサーは後ろの二人にそう言って木剣を構え直す。

 

 

「さあ、こんなものではないだろう? 二人の力思う存分ぶつけてきてくれ!!」

 

 

フィンもアイズも第一級冒険者としての誇りがある。常に憧れられる存在であり恐れられる存在。方や【勇者】方や【剣姫】だが今二人はそんなプライドを脱ぎ捨て、ただの戦士としてアーサーに挑んでいる。

 

 

アーサーの言葉に再度二人は立ち向かって行った。

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢

 

 

結果的に言うおう。模擬戦はアーサーの圧勝に終わった。フィンとアイズは荒い息を吐きながら訓練場の床に倒れ伏していた。

 

 

「フィン、アイズ君たちはとても強かったよ。僕はもうこれ以上強くはなれないけれど、これから二人にはまだまだ伸びしろがある。いつか必ず僕を越えていけると信じているよ」

 

 

アーサーは二人に手を差し出して満面の笑みでそう言った。フィンとアイズはその手を取って起き上がる。

 

 

「アーサー、君の強さは規格外だ。だけど君の期待に応えられるようがんばるよ。それと入団試験は合格だ。これからよろしく頼むね」

 

フィンはそう言って訓練所を後にした。その一方でアイズは全く浮かない顔していた。

 

「……どうしたら、そんなに強くなれるの?」

 

 

「うーん……そうだね。アイズ、君には絶対に譲れないモノはあるかい?」

 

アーサーの言葉にアイズはハテナをうかべる。

 

 

「君にそれが見つかった時、必ず君は強くなれる。ベンチでも言った通りただ強くなればいいって訳じゃない。その想いが君の剣に宿った時、必ず君は成長して本当の意味での強さを手に入れられる。僕もそれを探すのに協力するし、君の鍛錬に付き合ってもいい。だからアイズ、強くなれ……!!」

 

 

アーサーはこれまでにない程の美しい笑顔でアイズにそう言うと金色の長髪を優しくあやすように撫でた。アイズはそんなアーサーの笑顔を見て顔を真っ赤にすると恥ずかしそうに俯く。

 

 

「……譲れないモノ、見つかった」

 

 

アイズは微かな声でそう言うと訓練場を後にした。

 

 

「何て言ったのかな? でも、もう心配はなさそうだね」

 

 

アイズの背中を見送って微笑ましそうにアーサーが呟く。するとロキがアーサーに近寄って来た。

 

 

 

「アーサー、入団おめでとさん。そんじゃ恩恵与えるからウチの部屋戻るでー。それと……アイズたんに手出したらホンマしばき倒すからな!! なーに頭撫で撫でしとるんや!! ウチでも触らしてくれんのに!!」

 

 

ロキの言葉にアーサーは苦笑いを浮かべて頭を掻く。

 

 

 

「気をつけるよ」

 

 

 

「はよ行くでー!!」

 

 

 

アーサーはロキの後を着いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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3話 ステータス

神の恩恵(ファルナ)はステータスで表す事が出来る。まず基本アビリティ、「力」「耐久」「器用」「敏捷」「魔力」の5項目からなる基礎能力。一般的には0〜999の数字と等級によって示される(0〜99はI、900〜999がSといった具合)。

訓練や実戦によって得られる【経験値】によって上昇する。

 

次に発展アビリティ、基礎能力を示す基礎アビリティとは意味が異なり、何かに特化した「特性」とでも言うべきもの。例をあげるなら、剣士、狩人、鍛治などだ。基礎アビリティと同じくI〜Sの等級が存在するが、発展アビリティの等級を上げるのは非常に困難であるとされる。

 

次に魔法、超常現象を引き起こす力。非常に強力な力として認識されている。個体の性質や種族に由来する先天性魔法と神の恩恵に由来する後天性魔法がある。

発動するには詠唱を必要とし、詠唱が長いほど効果が強力になる傾向がある。超短文詠唱型や無詠唱型の魔法も存在する。

通常は人によって1〜3個のスロットを持っており、スロット1つにつき1個の魔法を発現することができるが、大多数の者は発現しないままその生涯を終える。スロットの個数は基本的に生来のままだが、強力な魔導書によっては増えることが示唆されている。(3個以上にはならない)

 

最後にスキル、神の恩恵を得た者が発現させる固有の能力。発現者の特定の行動や基本アビリティ、魔法などを補正・強化する。

スキルを発現すること自体稀であるが、中でも他にはない特殊な効果を持つスキルはレアスキルと呼ばれる。

 

 

「それじゃ、ステータス刻むから服脱いでそこのベッドにうつ伏せになってな」

 

「えっと……それは全部って事でいいのかな?」

 

 

アーサーはロキにそう尋ねる。

 

 

「アホか!! 上だけや!! 男の全裸何て見ても何もおもろないわ」

 

ロキは叫ぶ。

 

「そんなに怒らなくてもいいじゃないか」

 

アーサーは上の服を脱ぎ捨てた。アーサーの身体は鋼のような筋肉に覆われていた。細すぎず、太すぎず。絶妙なバランスで鍛えあげられたそれは一種の芸術を思わせる。人体の黄金比を体現したような身体に若干ビビりつつもロキはうつ伏せになるアーサーの腰に馬乗りになる。

 

 

「ほんじゃ、刻むでー」

 

ロキは細い針で自分の指を少し傷つけて神の血『イコル』をアーサーの背中に垂らすと神の恩恵を刻んで行く。ロキはアーサーのステータスを確認すると驚愕の表情をした。そのステータスを共通語『コイネー』に直してから紙に写しアーサーに手渡す。

 

 

「終わったでー」

 

 

アーサーは手元の用紙を確認する。

 

 

アーサー・ペンドラゴン

 

Lv1

 

力:I0

耐久:I0

器用:I0

敏捷:I0

魔力:I0

 

発展アビリティ 剣士 A 騎乗 B

 

魔法

風王結界(インビジブルエア)

・幾重にも重なった空気の層により武器を不可視にする

・風の鞘

詠唱式 なし

 

スキル

【対魔力】

・魔法への耐性

 

【魔力放出】

・魔力を自身の肉体又は武具に纏わせる事で強化する

・器用と魔力以外のステータスに特大補正

 

【直感】

・戦闘中の「自分にとっての最適の行動」を瞬時に感じとる

・第六感

・視覚、聴覚への状態異常無効

 

【カリスマ】

・軍団を指揮する天性の才能

・軍団を指揮する際全ステータスに大補正

 

【巨獣狩り】

・巨大な敵対生物との戦闘時全ステータス特大補正

 

【竜心臓】

・魔力自動回復

・魔力ステータスに極大補正

 

 

「ロキ、僕のステータスは普通の人と比較するとどうなんだい?」

 

アーサーは自分のステータスを見ながらロキに尋ねた。

 

「ぶっ飛んどるわ!! 初めっから魔法が発現しとるのはこの際置いといてスキル六個ってどないやねん!! しかも、どれもこれもレアスキルばっかしやないかい!! それに加えてフィンとアイズを軽くあしらう戦闘能力とかチートやん!!」

 

 

まくしたてるように言うロキは今まで見たこともないステータスに驚きを隠せなかった。

 

 

「そんな事言われても僕にはどうしようもできないよ」

 

アーサーはいそいそと洋服を来てロキに答える。

 

「アーサー、あんたのステータスは内緒にしとき。こんなもんが他の神々に知れたらごっつめんどい事になるからな。まぁ一応ウチのファミリアの幹部達には話してもかまへん」

 

 

「了解した。肝に命じておくよ」

 

 

「そんじゃ今夜は歓迎会や、期待の新人が入って来たからにはそれ相応のもてなしをせんとな!! 後で団員に紹介するから夕食の時間になったら呼びに行かせるわ」

 

 

「歓迎会か……それは楽しみだ。もちろん沢山料理が出るんだろう?」

 

 

「あたり前やろ!! 楽しみにしとき」

 

 

 

 

 

 



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4話 アーサーの腕前(料理)

「おい、アーサーの奴どっこいった? あいつの歓迎会やのに当人がおらんって論外やろ」

 

ロキはステータスをアーサーに刻んだ後、部屋に案内してから私室に戻った。ロキはため息を吐くと目の前の団員に尋ねる。

 

 

「ほんまに部屋にいなかったんやな?」

 

 

ロキに尋ねられた二人の団員は直立不動で答えた。

 

 

「はい、部屋はもぬけのからでした」

 

「中を調べましたが見当たりませんでした」

 

二人の答えにロキは頭を抱えるともうええよっと言って団員を食堂に行かせた。

 

 

「あのバカ、今度は何やらかすつもりや……とりあえずフィンに報告して探させるか」

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢

 

 

 

私室に案内されたアーサーはとてつもなくお腹が空いていた。正直さっきの模擬戦で軽く運動したからなのか、はたまたこの身体の所為なのかは分からないが空腹が我慢の限界を迎えていた。

 

 

「……駄目だ。我慢できない……お、いい事を思い着いたぞ」

 

アーサーは満面の笑みを浮かべ、調理場に足を運ぶ。『黄昏の館』にある調理場に着くと中は大忙しで働いていた。都市最大のファミリアとも成れば構成員の数もそれに比例する。更にロキに今夜は宴だと言われているので普段よりも多くの料理を出さなければいけない。アーサーは自身のスキル魔力放出でエプロンを作りだし装備すると調理場と言う名の戦場に足を踏み入れた。

 

 

「おい、あんちゃん。見ねぇ顔だが新人か? 今は死ぬ程忙しいから邪魔すんなよ」

 

料理を作っていた者がノコノコの調理場に入ってきたアーサーにフライパンを振りながらいった。

 

 

「手伝いますよ。それに料理には少し自信があるので……」

 

 

アーサーはそう言うと山のように積み上げられ食材をチラッと確認した。

 

 

「そうだね……コレとコレとコレ。あとコレかな」

 

手際よく食材を取捨選択していくアーサー。

 

「おいおい、勝手に触るんじゃ……

 

 

料理長らしいき人物がそう言いかけた言葉は目の前の光景に黙らされた。アーサーは流れるような手つきで食材をカットして行くと次々に料理を完成に導いていく。しかもこちらの調味料を知らないアーサーは少しづつ味見をしながら最適な味つけを導いていく。瞬く間に料理を完成させていくアーサーを見て厨房の全員が手を止めてしまう。

 

 

「??……みんな手が止まっているよ、早く持ち場に戻って」

 

アーサーは周りの様子に気づき調理場を鼓舞する。

 

 

「「「「イェッサー!!!!」」」」

 

厨房の士気が上がり、持ち場に戻っていく料理人達をみて笑みをこぼすアーサー。

 

「さぁ、もうひと踏ん張りだ……」

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢

 

 

結局夕食の時間までアーサーは見つからず、フィンやアイズを含めた幹部達がアーサーを探してホーム内を歩き回った。

 

 

「ほんまあいつ何してんねん!!」

 

 

ロキは頭を掻き毟りながら苛立ちを露わにする。それを見ていた女神を越える美貌を持つハイエルフが厨房から出てくる金髪の青年を指さす。

 

 

「もしやロキ、彼ではないか? 君から聞いた特徴が一致している」

 

 

「ん? いたー!! 流石リヴェリア。ウチらの母親や!!」

 

 

「誰が母親だ!!」

 

この美しい美貌を持つハイエルフはリヴェリア・リオン・アールヴ。フィンと同じLv6の冒険者で九魔姫《ナインヘル》と呼ばれるオラリオ最高の魔法使いだ。ロキはエプロンを外して涼しい顔をしているアーサーに駆け出すとスパんっと金色の頭に一撃お見舞いする。

 

 

「わぁ!? いきなり殴るなんてどうしたんだいロキ」

 

 

叩かれた頭をさすりながら鼻息を荒くしているロキを困ったように見つめる。アーサーの一言にロキは歯を噛みしめる。

 

 

「アホか!! 夕食まで部屋で待っとけっていたやろ!! なーに可愛いエプロン着て厨房から出てきてん?!」

 

 

「いやーお腹が空いてしまってね。何か食べ物を貰おうと思ったんだけど、忙しそうに見えたから手伝っていたに過ぎないよ」

 

あはははっと爽やかにアーサーは答えた。

 

 

「もしかして、僕を探してたのかい? それは悪い事をしてしまったね」

 

 

「ほんまや、とりあえず主役がいないと歓迎会も始まらん。早よ着替えて食堂にこい」

 

 

「だそうだ、自己紹介が遅れたな。リヴェリア・リヨス・アールヴだ。ロキ・ファミリアの副団長をしている」

 

 

翠色の美しい髪を靡かせてリヴェリアはアーサーに自己紹介をした。アーサーもそれに返すように自己紹介した。

 

 

「アーサー・ペンドラゴンだ。呼び方は好きに呼んでくれて構わないよ。僕はリヴェリアでよろしいかな?」

 

 

「ああ、私もアーサーと呼ばせて貰おう。それとアーサー、副団長の私に探させたんだ。迷惑をかけた分の落とし前はつけて貰うぞ。食事の際は私の横に座れ。しっかりとこのファミリアについて教えてやろう」

 

美しい笑顔を浮かべるリヴェリアだが目が全く笑っていない。

 

 

「……リヴェリア。残念ながら君の横に座るのは不可……

 

 

「口答えをするのか? 副団長命令を無視するとは困ったモノだ。どうやら今日の宴は中止になりそうだ」

 

 

リヴェリアはわざとらしくそう言った。

 

 

「リヴェリア!! 僕の席は君の隣以外ありえない!! さぁ早く食堂に向かおう。美味しい食事が僕らを待っている」

 

 

「……全く現金な奴だ」

 

 

リヴェリアは意気揚々に食堂へ向かうアーサーの背中を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





皆さんご感想お待ちしてます。ダン待ち原作読んだ事ないのですが頑張ってみます!!


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5話 歓迎会

 

ロキ・ファミリアのホーム『黄昏の館』では、新人歓迎会が盛大に行われていた。募集時期をとうの昔に過ぎていた行事だが、異例で1人、このロキ・ファミリアに加入したのだ。その期待の新人、アーサー・ペンドラゴンは現在、ロキ・ファミリアの幹部に囲まれて質問攻めとリヴェリアの説教を受けていた。リヴェリアの説教は早いとこ終わったのだが、そこからが問題だった。

 

「ねえ!! アーサーってフィンとアイズにかったんでしょ??」

 

「何の武器使うの?!」

 

「魔法は?」

 

「綺麗な髪だね!!」

 

 

 

興奮さながらに尋ねるのは双子のアマゾネスの妹であるティオナ・ヒリュテだ。若干顔が赤いのはお酒の力もあるのだろうが、アマゾネスという種族特有の強い個体に惹かれるというものだ。そもそもLevel5の冒険者で大切断【アマゾン】の異名を持つティオナより強い冒険者などそうゴロゴロいるわけではない。

 

 

「まあ、そういう事になるのかな? 模擬戦だけどね」

 

アーサーは若干苦笑いしつつ目の前のお酒を上品に煽る。苦笑いの理由はティオナの向かいに座るもう一人のアマゾネスからの殺気だった。

 

「ティオナ……そいつが団長より強いわけないでしょ?」

 

ドンっ!!っとジョッキをテーブルに叩きつけてアーサーを睨む。こちらはティオナの双子の姉、ティオネ・ヒリュテだ。こちらもLevel5の冒険者で怒蛇【ヨルムガンド】の二つ名を持つ。さらに団長のフィンにゾッコンなのでフィン関連の話でよくキレらしい。

 

 

「いや、彼は僕より強いよ」

 

フィンが怒るティオネに指摘する。アーサーの実力を直に感じたからこそフィンはティオネに本当の事を教える。

 

「……団長が言うなら信じますけど」

 

シュンとなるティオネをよそにアーサーは現在の座っている位置を確認する。まず、テーブルは長方形の形をしていてそれが幾つも繋がっている晩餐会でよく見る形態だ。アーサーの横にはリヴェリアとティオナが陣取りその正面にティオネとフィン、アイズがいる。ロキはアイズの隣に座りアイズに変なことをしようとしては撃退されている。

 

「アーサーと言ったかの、ワシはガレス・ランドロック。これからよろしゅうな」

 

ガッハハハっと笑ながら赤い顔でドワーフがアーサーに話しかけた。

 

 

「ガレスさん……それはもう3回聞きましたよ。飲み過ぎは程々にしてくださいね」

 

「おぉ〜〜それはすまんかったの」

 

ガレスはそのまま騒いでいる方の席にフラフラと歩いて行った。

 

 

ガレス・ランドロックはロキ・ファミリアでも古参のメンバーでドワーフという種族のLevel6の冒険者だ。二つなは重傑【エルガルム】。圧倒的なステータスを駆使して前衛の要を勤めている。

 

 

「ところでリヴェリア、先ほどからこちらを睨みつけている彼は誰なのかな?」

 

 

「ん? ああ……」

 

 

アーサーとリヴェリアの視線の先には狼人の青年が鋭い眼光でアーサーを睨みつけている姿があった。リヴェリアは軽くため息を吐くと、代わりに狼人の事を紹介する。

 

 

「彼はベート・ローガ。Level5でウチの幹部なのだが、どうも自分より劣る物を馬鹿にする癖があってな。Level1のアーサーが気に入らないのだろう。しかし悪い奴ではないのだ。許してあげて欲しい」

 

 

「なるほど、そういう事だったのか。それなら問題ないね。僕の事もこれから知っていってもらえればいい訳だ。えーっとベートくん? よろしく頼むよ」

 

 

いきなりにこやかなアーサーに挨拶をくらって若干驚いた様子のベートだったが、吐き捨てるようにケッ!!っと言って違うテーブルの方に行ってしまった。アーサーとリヴェリアは顔を合わせて困ったように笑うと食事に戻る事にした。

 

 

「アイズ、どこか元気がないようだけど、体調が優れないのかい?」

 

ふとアーサーはさっきから静かにしているアイズに話かけた。普段から静かなアイズだが、どこか落ち込んだように俯いている。アーサーに呼ばれたアイズは顔を上げた。

 

 

プクっ

 

 

顔をあげたアイズはほんの少し頬を膨らませて不機嫌な様子だった。そんなアイズの表情からアーサーは何かしてしまったのかと焦ったがどうも身に覚えがない。どうしようかと迷走してからとりあえず謝ろうと口を開きかけたアーサーだったがアマゾネスの少女に遮られる。

 

 

「アーサーはさ、英雄のお話とか好き??」

 

 

その褐色の肌をアーサーにすり合わせるように腕に抱きつくティオナ。先ほどからアーサーに対する身体的接触がティオナは多いのだが、アーサーは気にした様子もなく接している。するとアイズの頬がまた若干膨らんだ。アーサーからすれば年も大分離れているし妹のような感覚でティオナに接している。

 

 

「ん〜〜そうだね、読書はするけど英雄譚とかはあまり読んだ事がないかな」

 

 

「そっか……なら今度私の本貸してあげるよ!!」

 

 

「本当かい? 楽しみにしているよ」

 

 

仲睦まじくアーサーはティオナと会話しているとリヴェリアの顔が青くなる。リヴェリアの視線にはジョッキをグッと煽るアイズの姿が映し出されていた。アーサーは何が問題なのか分からずその場に座っているとロキ・ファミリアの全員が一瞬で席を立ち上がった。

 

 

「まずい……!! アイズが酒を飲んだ。とりあえず幹部以外は全員避難しろ」

 

 

「どうしてや!? アイズたんにお酒は禁止やのに!!」

 

 

 

リヴェリアの的確な指示のもとファミリアの緊急避難が終わる。食堂にはフィン、リヴェリア、ガレス、ティオネ、ティオナ、ベート、アーサー、ロキがジョッキを煽るアイズを取り囲むように布陣している。

 

 

「ロキ、それに皆んなもそんなに慌ててどうしたんだい?」

 

 

状況に全くついてく事が出来ないアーサーは何が何だかわからずロキや周りの者に尋ねる。

 

 

「アーサー、よく覚えとき。アイズたんには絶対に酒を飲ましたらあかん……アイズたんはな……酒乱なんや!!」

 

 

フィンは前回のアイズが酒を飲んだ時の事をアーサーに話す。

 

 

「前の遠征が終わった打ち上げでアイズが酒を飲んだんだけど、酔っ払ってロキとベートが殺されかけたんだ。そのせいで店が一軒潰れているしね。そこからアイズにはお酒を飲ませちゃいけない事になっていたんだけど……」

 

 

「どうやら今日は飲んでしまったらしい」

 

 

「そんなに酷かったのかい?」

 

 

「ロキに跨ってひたすら顔を何度も何度も殴りつけ、ベートには魔法を使って一方的にボコボコにしていた。さらに言えば私にも……」

 

 

 

 

 

リヴェリアが焦ったように呟いた。アーサーはリヴェリアの反応を見て何かされたんだなと予想をつけた。あの冷静沈着なリヴェリアがここまで動揺するはずがない。すると、当の本人である【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインがゆらりと立ち上がった。

 

 

「……アーサーは私の、アーサーは私の、アーサーは……

 

 

何かをブツブツ言いながら腰から愛剣デスペレートを引き抜くアイズ。

 

 

 

こうして長い長いアーサー歓迎会の第二幕が上がるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




評価と感想お待ちしておりますm(_ _)m


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6話 酒乱アイズ・ヴァレンシュタイン

 

不壊属性【デュランダル】が付与された特殊装備を引き抜いたアイズは少し赤い顔でアーサーの方にフラフラと歩みよる。

 

「……アイズ、大丈夫かい? それより何をする気なのかな?」

 

アーサーは冷や汗を流しつつアイズのデスペレートを見ながら後ずさる。正直、模擬戦の時よりも遥かに上回る剣気を前にさしもの騎士王も緊張感を拭えない。

 

 

「アーサーはティオナにベタベタされて喜んでた……」

 

 

「いや、喜んでいたと言うより親睦を深めていたつもりなんだけどな」

 

アハハハハーっと乾いたように笑うアーサーに光のない虚ろな目を彷徨わせながらアイズは近づいて行く。

 

 

「フィン!! リヴェリア!! どうにかしてくれないか!?」

 

 

助けを求めるように団長と副団長を見るが苦笑いが返ってくるだけでアーサーの救援要請はスルーされる。

 

 

「……僕が止めるしかないか」

 

 

アーサーはアイズに向き直り構えを取る。アイズの間合いにアーサーが入った瞬間、アイズの身体がブレるように消えた。

 

ビュンっ!!

 

 

暴風の如く駆けたアイズは容赦なくアーサーに斬りかかる。酔ってリミッターが外れたのか模擬戦の時よりも数段速い。アーサーは紙一重でアイズの猛攻を躱し続ける。

 

 

「アイズ、話を聞いてくれないかな? アレは本当に喜んでいたわけ……

 

「言い訳は……聞かない」

 

アーサーの言葉はアイズの一閃で断ち切られる。金色の美しい髪が数本空中を舞った。

 

 

「やるなーアイズたん。アーサーに一撃掠らせるとはたいしたもんや!!」

 

 

「ロキ、そんな事を言っている場合ではないぞ」

 

 

呑気にこの戦闘を観戦しているロキに頭を痛めながらリヴェリアはため息を吐く。それにしても前回の時とは違い、標的はアーサー1人のようなので周りに被害が出なさそうな事に少し安心していた。だが、そんなリヴェリアの安心はアイズの一言で脆く崩れ去ったのだった。

 

 

 

目覚めよ(テンペスト)

 

 

アイズの魔法エアリアルのトリガーが美しい桜色の唇によって紡がれた。アイズを中心に風が巻き起こる。

 

 

「まずい!! リヴェリア、防御結界を頼む!!」

 

 

フィンの一言を皮切りに一斉に下がる幹部達。アーサーは荒れ狂う風を身に纏うアイズを本格的にたしなめる為に自らの武器を腰から引き抜いた。

 

 

「これは少し本気でやらないとまずいようだね」

 

 

アイズは魔法の力によって身体能力を向上させるとアーサーに肉薄した。アイズは見えない力によって加速したスピードをそのまま剣に伝えアーサーに愛剣を振り下ろす。金属同士がぶつかり合う音が食堂内に大きく反響した。

 

 

「また、私の前から皆んないなくなっちゃう……」

 

 

剣を打ち合いながらもアイズは悲しそうな表情でそう呟いていた。アーサーの聴力はスキルによって強化されている。アイズの小さな呟きも聞き漏らさない。

 

 

「……アイズ、僕は君を1人にしないよ、それにロキ・ファミリアの皆んなだってそうだ」

 

 

説得しながらもアイズの鋭い剣撃を受け流していくアーサー。エアリアルで強化されたアイズの攻撃とアルコールによって引き出された潜在能力の猛攻に耐えながら何とか説得を試みるアーサー。斬りはらいによってアイズを軽く弾き飛ばしたアーサーは剣を水平に構える。

 

 

「しょうがない、この手は使いたくなかったんだけど……」

 

 

何かを決心したようにアーサーは自身の魔法、風王結界(インビジブルエア)を発動させた。アーサーの剣に風が絡みつく。アイズもそれを見て自身の最大の技を放つ為に構えをとる。アイズのデスペレートに風が集中する。アイズが疾走する。その姿はさながら小さな嵐の如く。対してアーサーは微動だにせずその眼光でアイズを捉えている。

 

「リル・ラファーガ……!!」

 

 

暴風を纏った渾身の突きがアーサーを捉えた。凄まじい威力と速度を兼ね備えたアイズの大技は一直線にアーサーに向かう。

 

 

ギャンっ!!!!

 

 

 

金属擦れる音と共に周囲に風が拡散した。その風に煽られて幹部達は視界を一時的に覆い隠す。

 

 

ようやく視界が開けるとそこにはアイズの剣の先端を同じく剣の先端で受け止めているアーサーの姿だった。

 

 

「嘘だろ……」

 

 

目の前で起こっている現象にベート・ローガは驚きを隠せないでいた。アイズの必殺技リル・ラファーガを防いだ事はこの際どうでもいい。いや、そもそもLevel1がLevel5の攻撃を受け止めている事実がおかしいのだが、その防ぎ方が尋常ではない。何せアイズの突きに合わせて自らも同威力の突きを先端で合わせて相殺したからだ。

 

 

「凄〜い!! あんな防ぎかた初めてみた!!」

 

 

「団長が言ってた事が理解出来たわね……」

 

 

「ガハハハハっ!! 流石じゃの!!」

 

 

「全く、君と言う奴は」

 

 

幹部達面々も驚愕に満ち溢れている。そんな彼らを他所にアーサーは剣を引くとアイズにゆっくりと歩みよってその華奢な身体を自身の胸に引き込んだ。

 

 

ギュっ

 

 

 

「あの野郎!! 俺でも出来ねーことやりやがった!!」

 

 

「はいはい、空気読んでね」

 

 

興奮するベートを押さえ付けながらティオネははぁーっと溜息を吐く。幹部の全員も目の前の光景を生暖かい目で見守っている。

 

 

「アイズ、さっきも言ったけど僕はどこにも行かない。アイズのそばにいよう。だから何も心配することはないんだ」

 

 

絹のような金色の美しい髪を優しく撫でながら、柔らかい笑みを浮かべてアーサーはアイズに視線を落とす。気持ちよさそうにするアイズはしばらくアーサーの胸の中でその温もりを感じていた。

 

 

「本当……? アーサーがいなくなったら私は寂しい」

 

 

不安そうにアーサーを見上げるアイズ。アーサーは困ったように笑ってアイズから一度距離を取る。身体が離れた瞬間にアッと残念そうな声が聞こえたが今はそれを無視してアーサーはその場に膝まづいた。

 

 

「ならば、ここで誓おう。僕はこの約束を違える事はない。この騎士の誇りにかけてアイズ・ヴァレンシュタインに誓おう」

 

いつの間にか最初にあった頃の騎士甲冑に身を包んだアーサーは剣を抜き放ち正眼に構えてそう言った。

 

 

「アーサー、ありがと。私もアーサーの隣に並べるように頑張るから……並べたその時は私と……

 

 

アイズがそう言いかけてフッと倒れた。その身体を優しく受け止めたアーサーはそのままゆっくりとアイズをお姫様抱っこする。

 

 

「アイズたんは大丈夫なんか!?」

 

 

ロキが慌てた様子で近づいて来るが、アーサーは人差し指を口元にあててロキに静かにするよう目で訴える。

 

 

「相当疲れたのだろう、気持ち良さそうに眠っている」

 

 

アイズの顔を覗き込んだリヴェリアはクスッと笑ってロキにそう言った。

 

 

「アーサー、アイズを部屋まで運んでくれるかい? それとここの修理や掃除に関しては後日しっかりと話合わなくちゃね?」

 

 

イタズラっ子のようにフィンがそう言ってアーサーは苦笑いするしかなかった。

 

 

 

こうして慌ただしいアーサーの新人歓迎会は幕を下ろしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ロキ・ファミリアの全員を会話に出すのは難しい。文才が欲しいです。感想、評価お待ちしておりますm(_ _)m


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7話 ダンジョン遠征

ある日、アーサーはフィンの執務室に呼び出しを受けていた。あの歓迎会から一週間程時間が過ぎ、アーサーがロキ・ファミリアに順応し始めた頃だった。

 

 

コンコンっ

 

 

「入ってくれ」

 

 

執務室の中からファンの許可をもらってアーサーが中に入ると、そこには団長のフィン、副団長のリヴェリア、古参メンバーのガレスがアーサーを待ち構えていた。3人ともこのロキ・ファミリアでトップの冒険者達だ。

 

 

「さて、僕に話って何かな?」

 

 

「今度、深層まで行く遠征を行うんだけど、君にも参加してもらいたいんだ」

 

フィンから告げられたのは遠征メンバーにアーサーも選ばれたというものだった。正直もっと重大な何かだと思っていたアーサーは拍子抜けした気持ちを隠しながらフィンに答える。

 

 

「なるほど、了解したよ、最近はダンジョンに潜っていたんだけどどうにも手応えのある敵がいなくてね」

 

 

この一週間アーサーはダンジョンに潜っていた。初日はリヴェリアからダンジョンについてアレコレと教えてもらい、フィンの判断でアーサーの実力なら上層はソロでも平気という事でモンスターとの戦闘を経験している。それに加えて早朝はアイズの訓練に付き合い、途中からティオナやベート、たまにフィンの訓練相手も勤めている。中々に忙しい日々をアーサーは過ごしていた。

 

 

「ところでアーサー、ダンジョンはどこまで降りたんだ?」

 

唐突にリヴェリアから質問を受けてアーサーはニコッと笑った。

 

 

「十階層だよ」

 

 

「嘘だな」

 

 

「……十三階層です」

 

 

アーサーの言葉を聞いてリヴェリアは頭を抱えると、ニコニコと笑うアーサーの頭を叩く。

 

 

「この馬鹿者が、フィンも私もこの一週間は上層で慣らせと言っただろう、いくら実力があるとはいえ心配をかけるな」

 

 

「悪かったよ、モンスターを倒しているうちにどんどん下に進んでしまったんだ」

 

困ったように頭を摩りながらリヴェリアの翡翠の目を見てアーサーが言い訳をする。

 

 

「まあまあリヴェリア、お説教はそこまでにして。兎に角遠征の件よろしく頼むよ」

 

 

「何かあればワシらに聞くといい」

 

 

「ありがとうガレス、では僕はこれで失礼するよ。このあとアイズの稽古に付き合わないといけないんだ」

 

 

アーサーはフィン達の話が終わったのを確認してから執務室を静かに出ていった。アーサーが出て行ったのを見送ったフィン達はその後ろ姿を見つめる。

 

 

「彼、本当に一週間前に入団したとは思えないね」

 

 

「確かにな、アイズ達も彼が来てから少し変わった気がする」

 

 

「調理場にもよく出入りしているようじゃ」

 

 

3人はアーサーの順応の早さに舌を巻くのであった。

 

 

 

♦︎♢♦︎♢

 

 

訓練場の中木剣を打ち合う音が木霊する。凄まじい速度で行われる攻防はどうにも視線を吸い寄せられてしまうようだ。当の本人達は気にした様子もなく訓練を続けている。

 

「アイズ、君の剣は早いし、鋭いけど力が十全に伝わっていない。もっと足から頭の天辺まで意識するんだ。自身の身体を自身の意思で完璧に制御するようにね」

 

「……わかった」

 

 

アーサーと打ち合いながらアイズはアドバイスを貰っている。この一週間ほぼ毎日アーサーに剣の稽古をつけて貰っているアイズだが、自分でもわかるくらいに動きが良くなっているのを感じていた。

 

「そういえば、フィン達に呼ばれてたよね?」

 

アイズの連撃を受け流しつつアイズの質問に答える。

 

 

「ああ、僕が次の遠征に参加する件だね。その事を言われてたんだ……よ!!」

 

 

言葉が終わると同時にアイズを後方に弾き飛ばす。

 

 

ザザザザっ!!

 

 

アーサーの一撃に10m程押し込まれたアイズはもう一度剣を構え直した。

 

 

「どうして、そんなに力を入れているようには見えないのに押し込まれる」

 

 

「確かにそんなに力は入れていないね。それでも力をしっかりと伝える事が出来るのは何故だと思う?」

 

 

アイズの問いにすぐには答えないアーサー。何でもかんでも教えればいいと言うわけではない。

 

 

「少しだけ見えたけど、しなり……かな?」

 

 

「おお、正解だアイズ。剣を振る瞬間に関節のしなりを利用して溜と速度を生み出している。前の模擬戦でアイズのガードをすり抜けたのもこの技術の応用だね。男性より女性の方が関節の稼動域も柔軟性も高いからアイズもすぐ覚えられる思うよ?」

 

 

「……やってみる」

 

 

すると訓練場に女性の声が響いた。

 

 

「アイズさーーん!!」

 

 

アーサーもアイズも声のした方に視線を向けると茶髪の髪を揺らしながら走ってくるエルフの姿が見えた。

 

 

「レフィーヤ、どうしたの?」

 

 

レフィーヤ・ウィリディス、Level3の冒険者で、リヴェリアと同じエルフだ。魔法が得意で後衛の期待のホープ。そしてエルフの使う魔法なら仕組みを理解していれば使用出来る破格の性能を持つ少女。そのスキルから千の妖精【サウザンド・エルフ】の二つなで呼ばれる。

 

 

「アイズさん、私も遠征メンバーに選ばれたのでその報告を……なんで貴方がいるんですか?」

 

レフィーヤの鋭い視線の先には軽装に身を包むアーサーが爽やかに笑っていた。

 

 

「アイズの訓練に付き合っていたんだけど、駄目だったかな?」

 

申し訳なさそうにレフィーヤに尋ねるが、不機嫌なレフィーヤはそうですかと言うだけで話をアイズへシフトチェンジする。

 

 

「あ!! それで私も遠征メンバーに選ばれたのでその準備をアイズさんに聞こうと思って」

 

 

アイズは無言でアーサーを見る。その視線に気付いたアーサーはニコッと笑って言った。

 

 

「僕の事は気にしなくていいから行っておいで」

 

 

「……わかった」

 

 

二人はそのまま訓練場を出て行った。レフィーヤの登場で訓練は終わってしまい、手持ち無沙汰になったアーサーは何をしようかと考えていた。すると、訓練場の横を歩いている美しいエルフがアーサーの視界を捉えた。

 

 

「リヴェリア…… 少しいいかな?」

 

 

アーサーの声にリヴェリアはスッと立ち止まるとこちらに近づいて来る。

 

 

「アーサーか、そう言えばここの所毎日アイズに稽古をつけているらしいな。訓練はもういいのか?」

 

 

「ああ、丁度終わったところだよ」

 

 

「そうか、それで何のようだ?」

 

 

「遠征の事について少々聞きたい事があってね、それと武器の整備をしたいんだけど、紹介してもらえるかな?」

 

アーサーの要件はごもっともで、大遠征ともなれば其れなりに大掛かりな準備を伴う。アーサーには例の宝剣があるとはいえ、本当の意味で使うには色々と制約が多い。それに準備を怠っていいと言うわけではない。

 

 

「なるほど、ならばこれから出かけるぞ、とりあえず支度が出来たら私の部屋に来い」

 

 

リヴェリアはそれだけ言うとその場をそそくさ立ち去ってしまった。アーサーは仕方なく準備をするために自室に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




レフィーヤを嫌な感じにしてしまった。本当はいい子なのに。これからアーサーと仲良くして行くつもりなのでよろしくお願いします。


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