とある過負荷の禁書目録 (なっち様)
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1話

初めまして
めだかボックスまたアニメやって欲しいですね


何にも勝ったことがなく世界の誰よりも負けていて誰よりも不幸な男がいる。破滅主義で自暴自棄でネガティブでポジティブで快楽主義で人格破綻者で自己中心的で生意気で傲慢で恥知らず、そして何よりも過負荷(マイナス)だった。そんな男がいま物語の幕を蹴りあげる。

 

 

『週刊少年ジャンプから転校して来ました球磨川禊です。』

『学園都市の超能力者の皆さん』

『よろしく仲良くしてくださいっ!』

 

 

科学と魔術、過負荷が交差するとき物語は始まる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

とある学校のとある教室は唖然としていた。というのも今日やって来た転校生があまりにもかっ飛ばしすぎたのである。生徒達はみんななんと言ったらいいのか分からず【うわーあの転校生初日から大暴投しちまったなぁ】とおもっていた。《印象を良くしようと自己紹介を考えてきたのだろうが見事に滑ってる痛い奴》球磨川禊は初日から既にマイナス印象だった。生徒達はこれからこの滑った奴とどう接していくか考えていたところに突然

 

『笑えよ』

 

いきなり言われたそんな言葉と同時に教室中の生徒全員が異様に大きな螺に捩じ伏せらせた

 

『転校生の今後の学園生活を左右するギャグなんだからここは嘘でも笑うところだろ』『人として最低だぞ、お前達!』

 

出会って1時間も立っていない生徒を皆殺しにできる男、それが球磨川禊。混沌より這い寄る過負荷と言わしめる男。人間として完成された負完全は嘘をつくように人を殺す。まるで世界を嘲笑うように

『おっといけない、これは週刊少年ジャンプだったら規制されかねない描写だ』

球磨川がそう言うとさっきまで死屍累々としていた教室が何事も無かったように綺麗なり生徒達も無傷で何事も無かったようになっていた

(((??!!!!))

生徒達は何が起こったのか理解できずにただ愕然とするのみだったが

【幻影!?】【精神感応能力か!?】【いやそんな事ができる高レベル能力者ならこんな高校にこないだろ!】と次第に教室が騒がしくな

るのはさすが能力者の学園と言ったものだろう。今教室は恐怖と疑問が支配していた。

「く、球磨川くん!!いきなりの能力の使用はしないでください!今のは風紀委員《ジャッジメント》を呼ばれてもおかしくない行為ですよ!」

「それにあなたは無能力者《レベル0》なのでは!!?」

担任である先生は顔を真っ青にしてそう言ったがその発言を受けてより生徒達は混乱した【レベル0!!?】【ありえるわけがない!?】

【少なくとも今のはレベル4以上だろ!!】教室は沸き立った

しかし、そんなものどこ吹く風と球磨川は

『ああ、先生!生きてたんですね!』『ずっと話さないから死んでるのかと思いましたよ!』『生きてるなら生きてるって言ってくださいよね!』『まったく、もう』

そう言うと球磨川はぷんぷんと怒ってますよアピールをする。あまりにも異常で底なしに過負荷だった。担任はとてつもない気持ち悪さを感じると「す、すみません。」と悪かったなんて思う必要も謝る必要も無いが球磨川から逃げたい一心で謝る。とにかく球磨川と話したくない。球磨川から離れたい。担任は過負荷《マイナス》のオーラーに当てられてすっかり飲まれてしまっていた。

「せ、先生は授業の準備があるので研究室に向かいます、み、皆さんも授業に遅れないようにしてください!!」

そう言うと駆け足で教室を出ていってしまった、それを追うように我先にとドタドタと一目散に脱兎の如く生徒達も全員が出ていってしまう。誰1人いない教室で球磨川は1人呟いた。

『僕、このあとどうすればいいのかな?』

それに答えるもの誰もいなかった。

 

余談だがこの日球磨川のクラスメートは全員早退した。

 




こんにちは初めまして
球磨川らしさを出せたでしょうか?
次回からはとある要素を強くしていきます


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第2話

遅くなって申し訳ありません、いろいろ忙しくてアレでした


学園都市。東京西部に位置する完全独立教育研究機関であり、あらゆる研究機関・研究組織の集合体で総人口は約230万人、そのうちの8割を学生が占める学生の町にして外部より数十年進んだ最先端科学技術が研究・運用されている科学の街。さらにこの街では人為的な超能力《スキル》開発が全学生に実施されており、超能力者の街とも名高い。しかし、必ずしも全員が能力者ではなく、むしろ学生の約6割が無能力者《レベル0》であり彼らは冷遇され、それをコンプレックスに思う者も少なくない。一方でこの街の頂点である7人しかいない超能力者《レベル5》は高待遇で多少の無茶も許され奨学金もレベル0とは雲泥の差だ。最先端の科学の街と言われ羨望されるこの街でさえ、幸せ者《プラス》と不幸な者《マイナス》は存在する。

 

『まったく、世知辛いよ』

そう呟く男、球磨川禊の足下には屈強な男達が倒れ伏している。ただ全員に大きな螺が刺さっているとういうなかなかにショッキングな姿でだ。風紀委員や警備員などの治安維持部隊がこないのはひとえにここが目の届かない路地裏だからだ。

『あのさー』『君達ってスキルアウトってやつだろ?』『君達みたいな弱い奴が僕みたいなの弱いのをカツアゲするようになったら僕達弱者は終わりだと思うんだけど。』

『弱い僕らが潰しあったって何の得にもならない。』『むしろ強者を喜ばせるだけだ』

「うるせー!何が弱者だ!能力を持ってる癖に、能力者はいつもそうやって俺達を見下しやがる!」

そう威勢よくスキルアウトの1人が叫ぶ、手足は螺でとめられているので顔だけ上げた状態でだが。

『能力?』『違う違う』『僕のそれはそんなプラスのものじゃないよ』『こんな物は手品みたいな冗談でしかないさ。』

球磨川まるでこんなもの大したものじゃないと伝えるが持たざる者の彼らには持つ者の球磨川の言葉に我慢ならない。

「馬鹿にすんじゃねえ!そんな高学歴が勉強より大事なものがあるって説明するみたいなこといいやがって!」

「やっぱ能力者は俺達のことなんて分かってない!」

『分からないくせに分かってもらおうとするなよ』

やれやれ、と肩を竦めながら球磨川が告げる、その両手には螺が構えられていた。

『それに忘れてないかい?今君達の生殺与奪は僕が握っているんだ』

『あーなんか僕の正義の心が迷惑なスキルアウトを殺せって言ってる気がするぞー』

「なっ!?カツアゲしようとしたぐらいで殺すなんて有り得ねぇ!」「冗談だろ!?割にあわない!」

『うん冗談!』

そういう球磨川の手にはいつの間にか螺がなくなっていた。出したり引っ込めたり自在な四次元ポケットのような便利さ、どこにその巨体な螺をいれてるのかは球磨川本人しかしらない。

『いやーやっと分かって貰えたよ』『今いる学校は最近転校してきたんだけどさー自己紹介でスベっちゃって、まさに事故紹介ってやつだったんだよね』

やっぱ冗談ってのは受け取る側の感性って大事だよねー、と呑気にピクニックでもいくように言うとスキルアウト達もほっとしたのか項垂れる。

死ななくて良かったそんな雰囲気が場を包みかけた瞬間、ドスドスと全員に螺が突き刺さった

「がはっ!?」「なんで!?だって!」

『言ったさ』『僕のスキルは手品みたいな冗談でしかないって』

『でも、僕の過負荷(これ)手品(それ)と違って取り返しがつかない』

安心してよ!冗談を体を張って受け止められる君達のことは明日くらいまでは覚えてるから!そう言い残し場をを後にしようと踵を返すがその直後

ドスッと何かが倒れるような音がした。音のした方を目で辿ると

「あ、ああ、ひっ、ひぃぃ」

完全に怯えきった少女がいた。どうやらたまたま通りかかったらしいが運悪くこの惨状を見てしまい、あまりの恐怖にペタンと腰を地につけ座り込んでいるようだった

「あ、う、な、何よこれ。男の人の頭にね、ねじが刺さってし、死んでる?何でこうなってるの?何これ何これ何なのよこれ!!!!」

手で頭を抑えながら赤子がいやいやをするように頭を振り回す少女。桜の髪飾りが今にも外れて飛んでってしまいそうだ。

誰がどう見ても弱りきってる少女に球磨川は返り血を服や顔といった至る所に付けているのに堂々とした足どりで近づいていく。

『ねえ、君』

「ひぃ!な、な、きゃあ!な、なんですか!?」

あまりの混乱に球磨川が近づいていたことに気づかなかったようで、いきなり話しかけられた事に驚いた少女は球磨川の顔を見てまた驚いた。

『勘違いしないで欲しいんだ』

いきなり話しかけられた事もそうだが、この惨状の原因であろう人物が自分に声をかけてきたとういう事実が少女を恐怖させる

(こ、殺される!?)

少女はそう思い逃げようと思ったが腰が動かない。人は本当に恐怖した時に体が動かなくなることを少女は知った。こんな事を実体験で知りたくは無かった。そんなことを少女は泣きそうになりながらおもった

(ええい、逃げられないならしょうがない!佐天涙子覚悟を決めろ!!)

少女ー佐天涙子ーは覚悟を決め返事をする。

「な、なにをですか?」

『うん、もしかしたら君は僕をこの惨状の犯人かと思ってるかもしれないけど』『勘違いしないでちょうだい』『僕が来た時からもうこうなっていたんだ』『つまり』『僕は悪くない』

ゾクゾクゾクッと佐天の背中をムカデが走り回ってるような怖気が走る。

(この人、終わってる、まともじゃない!!初春に連絡しなきゃ!)

後ろ手に携帯を持ち親友であり風紀委員でもある初春に連絡を取ろうと佐天は試みるが

ガシッ!!!

と手を球磨川に掴まれる。

『まあ、待ってよ』「~~~~~~!!!!!!」

球磨川に掴まれた所から手を切り落としたくなるような衝動にかられ手をおもいきり振ると球磨川の手は離れたが携帯も飛んでいってしまった。

『そうやってすぐ風紀委員に連絡とろうとするだから』『僕のこと犯人ですって通報するつもりだったろ』『通報する前に1つ聞いてちょうだいよ』

「こ、来ないで!!」

後ずさりをするも狭い路地裏すぐに背が壁についてしまう佐天。

『わかったよ』『僕はこっから動かない』『可愛い女の子の頼みだ!もちろん聞くよ!』

「ほ、ほんとうに?」『うん』『もちろん』

『だって本当に誤解なんだって』『ほら見てよこれ』『僕の学生証さレベル0ってなってるだろ?』

そういって佐天に投げ渡すが力が足りず佐天より少し前に落ちる学生証。いちいち細かい演出の効かない男である。佐天も少し躊躇しながらも学生証を拾った。

「え、えと、ほんとうだ!?球磨川 禊レベル0って書いてある!?」

『でしょ?』『だから、僕にはあんな事無理なんだよ』『これで証明になった?』

いけしゃあしゃあと大嘘をつく球磨川だが、学生証自体は本物だ。どうやら球磨川の過負荷(マイナス)は学園都市の機材にはスキャンされないらしくレベル0認定されている。

「す、すいません!!!私ってばてっきり」

バっと頭を下げる佐天。完全に球磨川の言っていることを信じきったようである。

『いいのいいの!』『信じてくれれば』『じゃあ』『僕帰るからあとはよろしく!』

そう言うと本当に帰ろうとする球磨川を慌てて佐天が引き止める。

「ちょっ、ちょっ、ちょっと待って下さい!ジャッジメントへの状況説明とかあるから残んなきゃダメですよ!」

慌てて説明する佐天だが

『いや、だってさ』『僕のこの格好みたら絶対犯人扱いされちゃうだろ?』『説明は君がやっといてよ』『僕が来た時と変わってないから』

「ええーー!!?うっ、でもまぁ確かに絶対疑われるでしょうね」

佐天はそう言うと、ハァとため息を1つつくと笑顔で言った

「しょうがないですね、私がやっておきますから帰っていいですよ」

この瞬間、球磨川は歓喜の笑みを心の中で浮かべた。佐天に帰ることを許可されたことにではない、佐天が自分の嘘を信じきった事にでもない。

佐天が人が死んでいるというこの異常な状況で笑顔を浮かべたことに対して歓喜したのだ

(『彼女は人を疑ってしまったという自己嫌悪と』『人の死という過負荷』『さっきまでの死の恐怖というものに心負けている』『もしかしたら彼女には過負荷(マイナス)の才能があるかもしれない』)

「どうしたんですか?帰らないんですか?」

心の中で過負荷扱い寸前とは露知らず佐天が球磨川に声をかける。

『おおっと』『そうだね帰らせてもらうよ』『じゃあね!またいつかとか!!』

後ろに手を振りって去っていこうとする球磨川の目の前にヒュンと音がしたかと思うと

「ジャッジメントですの!!!大丈夫ですか!佐天さん!」

といきなり現れた少女の声が響き渡った。

球磨川は携帯は止めたはずじゃ?と先程佐天が投げ飛ばした携帯を見ると電源がついており通話中になっていた。幸い距離があるため会話の内容までは分からないだろうが、ぶつかった拍子に通話ボタンを押しそれがジャッジメントの詰所に繋がるという佐天にとっては奇跡、球磨川にとってはマイナスという事態が起きたのだ。なんという佐天の強運、負け続ける星の元に生まれた球磨川には起こりえない奇跡だった。

「これからあなたをこの惨状の参考人として連行します」

先程現れたテレポーターであろう桃色の髪の少女が球磨川に話しかける。

球磨川は独り静かにごちた

『やれやれ』『また勝てなかった』

 




学園都市の学生証にレベルが書いてあるのこちらの捏造設定です


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3話

遅くなりました。失踪したと思った人ごめんなさい!
俺も失踪したとおもってました


科学の街には似つかわしくないカツ丼と刑事を連想させるドラマでよく見るような取調べ室に球磨川禊は連行された。

『・・・なんか、こう、いかにもって感じだね。もっと嘘発見器とか心拍計みたいなのがあると思ってたぜ』

 

「無駄口叩かないでさっさと座りなさい!」

ピンク髪の少女ー白井黒子ーが叫んだ。これに対して球磨川は何処吹く風で

『おぉ怖い怖い』

と肩を竦めるだけだ。

「今回このような場所に居る理由が分からないんですの!?」

球磨川の巫山戯た態度にますます白井黒子は怒りをあげる。

彼女は実際に現場ー男たちの頭に巨大なネジが刺さっていたーのを見たのだ。正義感の強く、友達思いの彼女はこの事件の犯人であろう球磨川の取調べにも自ら志願したのだ。

その友達の佐天は球磨川の事を疑っていないどころか、信用までしているのだが…。

『んー、理由?』

はて?と首を傾げとぼける球磨川に黒子が机を叩きあげ

「あなたが男性5人の頭を螺で突き刺し殺害したからですの!!」

その理由を叫んだ。

 

『だーかーらー違うって言ってるだろ。第1皆んな生きてるじゃない』

そう、驚くべき事に球磨川が螺ふせた男達は全員生きている。

現場に黒子が到着した時、確かに5人の男が頭に螺を生やして倒れていた。誰が見ても彼らは死んでいた。生きているものを優先せねば、と黒子はすぐに佐天の下へ行き無事を確認した。その間、そのほんの少し目を離した間に、なんと彼らは立ち上がったのだ。フランケンシュタインのようになっていた頭は螺が消えて元の状態に戻っていた。

まるで無かったことになったように。

 

「しらばっくれても無駄ですわ!貴方以外にあの場には誰もいないのは確認済みですのよ」

 

『それで僕が犯人だって決めつけてるのかい?』

 

「被害にあった彼らの証言もありますわ!」

 

『善良な学生である僕より路地裏で恐喝するような奴らを信じるのかい?』

 

「そ、それに!貴方のその服!明らかに返り血ですの!」

 

『人を見かけで判断するなよ』

 

「アナタ!いい加減しなさい!!」

 

『うわ、怖ーい!!警察権のある組織の組員が善良な学生を密室で脅してるー』

 

そう言われると黒子は態度を改めるしかない、人の言われたら弱いところを突いてくる、突くのが上手い嫌な男だ。

 

「コホン、失礼しましたわ。ですが、貴方の服を預からせて頂き検査に掛けます。よろしいですわよね?」

 

『勿論!それで疑いが晴れるんなら喜んで渡すよ!だって僕は悪くないんだから!』

 

「ありがとうございますわ。では早速検査局にかけてきます、すぐに終わるのでこのままお待ちくださいな」

 

『そういう検査がすぐ終わるとこは流石学園都市だね』

 

はい、と大人しく制服を渡す球磨川。黒子はそれを受け取ろうとし、誤って手が触れてしまった、その瞬間、黒子は怖気を感じ咄嗟に手を払い除けてしまった。くしゃりと床に制服が落ちる。

 

「も、申し訳ないですの、咄嗟に体が反応してしまい」

 

『うん、大丈夫!気にしないで、慣れてるから』

 

「ご、ごめんなさいですの…」

 

事実1番驚いていたのはやった本人の黒子であった。

 

(この方と手を触れるくらいなら手を切り落とした方が断然マシと、一瞬本気でそう思いましたの…な、なんてこと考えてるんですの!?私!?)

 

しかし、球磨川と手が触れ合った一瞬。黒子は確かに感じたのだひっくり返した石の裏に奇怪な虫達がギチギチと蠢いていたような気味の悪さを、況してや黒子はそれを触ったのだ、その虫達が手を伝い首にまでくるような気持ちだったのだろう。

 

「そ、それでは検査を担当する者に預けてきますの、少々お待ちくださいな」

 

黒子はそのまま逃げるように部屋を出ていった。

 

 

1時間後

 

「ちょっと!どういう事ですの!?」

 

黒子が帰ってきた、何やら慌てた様子で。

 

『あ、おかえり黒子ちゃん。あ、名前は筆録の娘に教えてもらったよ!いい名前じゃない!』

 

言われた筆録の娘はよほど嫌だったのか、泣きそうな顔で黒子を見た。

球磨川と2人きりという事だけでも、心が折れていても不思議ではないが、さすがは風紀委員といったところか。

 

「そんなことはどうでもいいんですの!」

 

『どうでもいいなんて言うなよ!』『自分の事だろう?』

 

「そうじゃなくて!今は大事な話があるんですの!」

 

『ねえよ、そんなもの』『自分より大切なものなんてあるわけないだろ』

 

「話をずらさないでくださいまし!!」

 

『あははは、ごめんね。それで何だい?』

 

「どうやって貴方の()()()()()()()()()()んですの!?」

 

黒子が疑問を告げた。一時間前、黒子が解析班に渡す前に制服を確認したところ、不思議と血痕が綺麗に消えていたのだ。これに驚いた黒子は制服の至る箇所を隅々まで見たが血痕どころか埃すら見つからず、ならばと解析にかけてみるも、はじめから無かったかのごとく何も見つからなかったのだ。

 

「絶対におかしいですわ!私たしかにこの目で見ましたもの!この制服に着いた血痕を!!貴方がやったとしか考えられないんですの!」

 

『そんなの無能力者の僕に出来るわけ無いだろ?』

 

「じゃあ、どうやって!誰が!なんの目的で!こんな事をしたっていうんですの!?」

 

『そんなのは風紀委員の君が考えてよ、黒子ちゃん僕なんかより頭がいいじゃないか』

 

のらりくらりと詰問を躱していく球磨川に黒子の怒りがついに頂点になり、今にも球磨川に掴みかかりそうな、そんな一触即発な空気の中

 

コンコン

 

部屋にノックの音が響いた。

 

「ど、どうぞ!!」

 

筆録の娘が神の助けとばかりに応えた。黒子も姿勢を正し、咳払いをした。なんと間の悪い事だ、と黒子は思う。

 

「入るぞ」

 

入ってきたのは眼鏡を掛けた大学生くらいの男だった

 

「し、支部長!?」「何故ここに!?」

 

黒子達が驚きの声をあげる。どうやら入ってきたのはこの支部の長のようだ。

 

「ああ、本部から連絡があってな」

 

「本部からですの?」

 

『いったい何のようなんだい?』

 

図々しくも球磨川が風紀委員の2人を差し置いて2人の知りたかったことを聞いてしまう。それに支部長は驚いたようで体を球磨川に向き直した。

 

「どうやら被害も出てないのに一般人を被疑者として取調べ室に拘束していると連絡を受けてね、僕が来たというわけだ」

 

「んなっ!?」

 

この言葉に1番驚いたのは黒子であった。支部長の言い方はまるで自分達が不当にこの男を取調べしていると告げているようなものだったからだ。当然、黒子は反論する。

 

「被害が出てないなんて、有り得ませんわ!現に私は見たんですのよ!」

 

「それは現場であって犯行そのものでは無いと聞いているが?」

 

「ぐっ、そ、そうですわ。しかし被害を受けた方達からも確認がとれて」

 

「その方達はとてもじゃないが信用できるような方達ではないらしいな?直前にも恐喝を働いていたと聞いている」

 

黒子が最後まで言い終わる前に否定されてしまった。しかも、先程に球磨川が言ったこととほとんど同じことを。黒子が球磨川を横目に見るとニヤニヤと意地の悪い顔で笑っていた。

 

(こ、この男ぉ)

 

しかし、黒子にはまだ手がないわけではなかった。

 

「支部長、今から言う事を聞いてくださいまし!」

 

そうまだ制服の消えた血痕の事がある、証拠を消すなんて犯人しかしない黒子はそう思い、制服を預かり解析にかけるまでの経緯を支部長に話した。

 

「ほう、なるほど。確かにそれは不思議だ、しかも証拠を消すメリットなぞ犯人くらいしかないのも確かだ。」

 

「そうですわよね!」

 

伝わった!黒子がそう思った時、水を刺す男がいた。勿論、球磨川禊

以外に居ない。

 

『それは違うよ』

 

「どういうことかな?」

 

『考えてもみてよ、証拠を消すのが本当に犯人だけかな?』

 

「そうに決まってるですの!」

 

黒子が反論する。まずい、このまま流れをこの男に持ってかれるのはイケナイと黒子は分かっていた。

 

「黒子、君は黙っていてくれ」

 

しかし、支部長に止められてしまった。支部長直々に言われてしまっては何の位もない、風紀委員の末端である黒子は大人しくするしかない。

 

「すまない、続けてくれ」

 

『ありがとう。それじゃあ、まず犯人が証拠を消す理由に着いて考えてみよう』

 

「それは自分が犯人だと発覚しないようにでは?」

 

『うん、そうだね。』『これが黒子ちゃんの言っていた僕が犯人の理由』

 

話しながら球磨川が黒子に目線を移すと黒子はキッと睨みつけてきた。それを意に介すこと無く球磨川は続ける。

 

『それじゃあ逆に犯人以外が証拠を消す理由について考えよっか』

 

その言葉に一同は深く考え込み、しばらくして漸く支部長が

 

「犯人を助けたいから…か?」

 

と答えた。

 

『うーん、それもそうだけど求めてる答えじゃなーい』

 

「じゃあ、分からないな」

 

支部長がそう答えるが、それはここにいる風紀委員全員も同じだった。

 

『答えは』『犯人じゃないと発覚させないためさ』

 

「どういう事だ?」

 

『つまりはね、証拠って物は僕を捕まえようと考えてる人に都合の悪いものにもなる可能性もあるって事さ』

 

「ちょっと!私がやったと言いたいんですの!?」

 

黒子がこういうのも当然で、球磨川の言っていることは黒子が証拠を意図的に消したと言っていることだからだ。つまり自分は不正を働いていると言いがかりを付けられているのだ。

 

『おかしいと思ってたんだよね、僕は無能力者だって言っているのに制服の血痕を消したのがまるで僕がやったかのように詰め寄ってきたり』

 

『証拠の制服を持って行くのだって他の人に頼めば良いのに筆録の娘を1人、僕と残して自分で行ったり』

 

これは黒子は空間移動能力者なので黒子が持って行った方が誰よりも早いからであるが、球磨川はそういう細かなところでさえ相手を不利にする材料にする。球磨川はそういう隙を突いて詭弁だけで追う側と追われる側の立場を逆転させた。

そして悪びれもせずに白井黒子が犯人だと球磨川 禊(犯人)が告げているのだ。

 

『黒子ちゃん。』『君、本当は僕が犯人じゃないって分かってたんだろ』

 

『だから証拠品を解析出来ないようにしたんだろ?だってしたら分かっちゃうもんね!』『僕が犯人じゃないのが』

 

「そんなわけないですの!!貴方の言っていることはさっきから詭弁ですわ!第一、制服を持って行ったのだって私が空間移動能力者(テレポーター)だからですの!学園都市に58人しかいない空間移動能力者の私が持っていたほうが効率がいいからですの!」

 

『そんなに興奮しないでよ。かえって怪しく見えるぜ』

 

興奮する黒子に球磨川が告げたこの一言は実にいやらしい効果を発揮する。というのも、ここで黒子が下手に黙るとそれも怪しまれるようになってしまうからだ。逆にこのまま捲し立てても周囲に黒子が追い詰められていると感じさせてしまう。この事に気づいた黒子は悔しそうにギリギリと歯を噛み締めた。

 

『ところで黒子ちゃんさ、君は学園都市に58人しかいない空間移動能力者ってのは本当なのかい?』

 

唐突に一見何も関係の無いような質問を球磨川がした。

 

「え?ええ、そうですわ」

 

質問の意味が分からずに首を傾げながらも答える黒子に、ありがとう。と答えると球磨川は質問を続けた。

 

『じゃあ物質移動(アポート)は使えるかい?』

 

「…ええ、私の手に触れたものならある程度の重さの制限はありますが使えますわ」

 

『ふーん、じゃあ()()()()()()()()()()()()()は出来るよね!』

 

「!!」

 

なるほどなぁ、と探偵きどりに顎に手を当てて何度か頷く球磨川。

黒子はやっと無意味に思えた質問の意味を理解した。

しかし、気づいた頃には手遅れだった。

 

『無能力者の僕には出来ないけど、空間移動能力者の黒子ちゃんなら服の血痕を消すくらいのこと出来るでしょ?』

 

球磨川はこの街に来た時から気づいていたのだ、無能力者(弱者)の強みに、それは、持たざる者の強みは持たざること。この本質に球磨川は最初から気づいていた。持たないとという事はそれだけで証明になる、現に今その理が働いている。

 

「もういい」

 

黒子より支部長が先をついた。

 

「只今の時刻を持ってこの事件を不起訴処分とすることとする。よって被疑者球磨川禊氏の身柄を解放し、この事件を解決済みとし今後この事件について球磨川禊氏が不利になるようなことをしないことを誓う」

 

「な!!」

 

「何か不服があるのかい?黒子くん」

 

黒子は支部長の威圧するような目で今は自分が不利なのだと悟り、諦めた。

 

「いえ、なんでも…ない…ですの」

 

「分かっているとは思うけど黒子くんにはこの後特別に話を聞く必要がある。いいな?」

 

「…はいですの」

 

かくして、球磨川は詭弁だけで取調べから解放されるまでにいたった。そして、球磨川が去った後の取調べ室の空気ははっきり言って最悪だった。良いも悪いもしっちゃかめっちゃかにしてしまう男、球磨川禊。彼はどこまでも過負荷(最低)なのだ。

 

 

『ふうー。疲れたな、あの公園で一休みするとしようかな』

 

解放された球磨川は自由の身を満喫すべく、道をそれて公園へと入っていった。見渡すと砂場とベンチ、自販機しかない現代っ子には少し物足りないのでは?と思わせるような公園の全体が見えた。人は誰も居らず、ドラム缶のような掃除ロボがウィーウィーと辺りを忙しそうにしているのみだ。

 

『ここのジュースって変なのが多いんだね!』

 

まずは喉を潤そうと自販機で品定めをする。

彼が言った通りここの区の自販機は開発商品のテストも兼ねていて一般的な、あの赤くて透き通った炭酸水や淡い水色のスポーツ飲料などではなく、いちごおでんやヤシの実サイダーなどの奇妙な実験品しかない。売れ行きで客のニーズも計測しているのだ。

 

『ヤシの実サイダーにしよっかな』

 

そう言い彼は財布を開くが生憎、小銭がなかった。あるのは10000円札が4枚だけだ。自販機に10000円を入れるのは少し気が引けるがしょうがなく入れた。自販機がお金をしっかり吸い上げたのを確認し、

ピッとボタンを押すが、一向にジュースが出てくる気配は無い。

ちゃんと、押せなかったのかな?と思いもう1度、今度は強めに押すが出てこない。ピッピッピッピッ、連打してみたが効果はないようだった。

 

『もしかして、僕の10000円札飲み込まれた?』

 

彼がただ呆然と立ち尽くし、諦めムードになっていると、後ろから

 

「ちょろっとー。あんた大丈夫?」

 

事情を見ていたのであろう通りすがりの茶髪の常盤台の中学生がきた。

 

 

 

 

 

 

 




自分で言うのあれだけど3話おもしろくね?

戦闘シーンとかこのssに求めてる人あんまいないでしょ()


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第4話

お待たせ


「ちょろっとー、あんた大丈夫?」

一万円を飲み込まれたのを見かねた茶髪の少女が球磨川に話しかける。

『・・・』

少女の問いに球磨川は答えなかった。

しかし、少女は気にせず告げる。

「残念な事にこいつから金を取り戻すのは不可能よ。だけどいい事教えたげるわ。」

少女はそう言うとトントンとまるでボクサーのようなステップを刻むと

「チェイサー!!!」

勢いよく自販機に蹴りを叩き込んだ。すると自販機は危なげな音を辺りに響かせながらもガコンッと缶ジュースを吐き出した。

少女の言ういい事とはこれの事だろう。

 

『えっと、それマジ…?』

 

思わず球磨川の口は驚愕と疑問を呟いていた。

「何よ、あんたお嬢様に夢見すぎよ?これくらいフツーよフツー。」

 

『嘘だ!!!僕は君みたいなのをお嬢様だなんて認めないし思ってない。』

 

「…ま、私も自分がお嬢様ってタチじゃないのは分かってるからいいけどさ、常盤台の制服着てるとよくそう思われるのよ」

 

『…常盤台?』

 

球磨川の知らない単語がでてきた。しかし、その常盤台の制服には見覚えがある。白井黒子が着ていたものだ。

 

「あんた常盤台を知らないってどういうことよ」

少女はあまりの球磨川の無知さに呆れる。学園都市にいる以上、頂点上記と常盤台を知らないなんてありえない。いや、学園都市の外でだって知る者は知る学び舎なのはずだ。

 

『あはは、実は僕一昨日ここに転校してきたばっかりなんだ。』

 

「えっと、あんた中学生よね?」

 

『ん?高3だけど?』

 

「へー、高3ね…って高3!?」

 

『おいおい』『いくら僕が童顔だからってその反応は失礼だぜ』

 

「い、いや、それもそうだけど、そうじゃないわよ!」

確かに見た目中学生な球磨川が高校生、しかも3年という事にも驚いた少女だが、もっと驚くことがあった。

遅すぎるのだ。普通、能力開発とは早ければ幼稚園、遅くても小学生でやるもので球磨川のようにある程度脳が完成しきっている者にやるものではない。完成されているといっても球磨川の場合は負完成なのだが…。とにかく球磨川の歳のころは能力の上昇さえ難しい時期であり開発なんてとてもじゃないが出来ないだろう。

 

「あんたよく来たわね」

 

『前いた学校が廃校になってね。』『どうせならと思ってさ』『それにここでやりたい事もあったしね。』

 

「やりたいこと…ね。」

この男やりたい事とは何だろうか。何故だかその事について考えるとゾクリと何かが背筋を伝っているような気持ち悪さを覚える。

まるで良いも悪いもごった混ぜにしてめちゃくちゃなってしまうような危機感。もしかしたら自分を支えてるものを━━━

 

『そんなことよりさ』

 

「ッ!」

 

球磨川に話かけられ少女ははっとした。今、自分は何を考えていたんだろうか?こんな貧弱そうな男に何を感じていたのだろう。高3で能力開発をしようとする馬鹿にだ。少女はなんだか恥ずかしくなってしまった。

 

「な、なによ」

 

『白井黒子ちゃんって知ってる?』

 

「って黒子?あたしの後輩だけど?それがなに」

まさかこの男の口から後輩の名前が出てくるとは思ってなかった少女ー御坂美琴は怪訝な表情を浮かべる。

 

『そう、君の後輩』『白井黒子の身を預かっている』『これから伝えるいくつかの事をやってくれたら無事に彼女を解放しよう』

 

「は?」

あまりに唐突なことを言われた美琴は言葉を失った。しかし、聡明な彼女の頭は言われた事を理解するのに時間はかからず、理解してしまえば怒りが追いついてきた。

 

「あんた!!何のつもりよ!黒子をいったいどうしたの!」

 

『彼女の身柄の安全は保証するよ』『君が大人しく言うことを聞けばね』

 

「ふーん。あんた私がlevel5の超電磁砲の御坂美琴様だって分かってて言ってるわけ?」

 

『勿論』

勿論、球磨川は知らなかった。

 

「じゃあ、あんたが黒焦げになるのも覚悟してきたわけよね!!」

彼女がそう言うと球磨川の足の先に雷が落ちる。

 

『おいおい冷静になれよ。』

 

「分かってるわよ!あんた1人を倒したって黒子が解放されないくらい!組織かグループで計画してるんでしょ。でもこ!れ!は私の八つ当たりと知りなさい!」

 

『冗談だって、嘘。さっき言ったことは嘘だよ』

 

「は?」

 

美琴の呆けた声をあげ、纏っていた稲妻と気が抜ける。

 

『ごめんごめん笑』 『名前すら御坂ちゃんが言うまで知らなかったぜ』『それより君、本当にlevel5なのかい!?』

 

凄い凄いとはしゃぐ球磨川は美琴がいままで接してきた後輩やミーハーなファンの姿とおなじで、

 

「ほんとに?ほんとに冗談だったの?」

 

『なんなら白井ちゃんに電話してみなよ』

あっけからんと球磨川が言い放つのを見て今度こそ美琴は力を抜いた。

 

「あんたねぇ、言っていい事と悪いことがあるでしょ!てか何で黒子のこと知ってるのよ。」

 

『白井ちゃんには迷惑を掛けられてね。』『同じ制服だしもしかしたら知り合いかなって?思って』

 

「八つ当たりって訳!?」

 

『おっと八つ当たりしようとしたのは御坂ちゃんも一緒じゃないか』

 

「私のとあんたのは違うでしょうが!」

 

全くなんて暴論だろうか、犯人の仲間に怒るのと赤の他人に怒るのとでは訳が違うと美琴は思った。

それに黒子が迷惑を掛けるとは何をしたんだろうか。

その事について美琴が聞こうとしたとき、

 

『それにしても』『あんな冗談を直ぐに信じるなんて』

 

『御坂ちゃんの周りには嘘か本当の事を言う人(敵か味方)しか居なかったんだね』

 

球磨川禊は大嘘憑き(正直者)だ。

 

果たして御坂美琴の敵なのだろうか味方なのだろうか。

はたまた球磨川の言うそれ以外の存在なのだろうか。

 

 




たまに書くね


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5話

『あははははは』『なんちゃってー』『ちょっとシリアスな雰囲気出しただけだよ」

 

「はあ!?アンタいい加減にしなさいよね!」

 

 なんなんだこの男はここまで私を馬鹿にする奴なんて今までいなかったと、美琴は怒りの中にある種の新鮮さを感じていた。

 

 (年上の余裕ってことかしら?)

 

『ごめんごめん』『お詫びにこれ上げるから』

 

 球磨川は自販機の取り出しから何の缶を手に取ったか見すらせず美琴に手渡す。

 美琴は反射的に受け取ろうとして缶を持つ球磨川の手に生理的嫌悪感を感じ缶を落としてしまう。

 

『大丈夫?』

 

「え、ええ。

というかアンタこれ元は私が出したやつじゃないの!

しかも、いちごおでん味だし」

 

 美琴がしゃがんで缶を拾い上げた、どうやら球磨川が適当に掴んだのは『大外れ』だったらしい。

 その缶を微妙な顔で持ち上げる美琴、お嬢様気質の彼女は開けもせずにそのままゴミ箱に入れるというのにどうやら忌避感を感じるらしい。

 

「アンタこれ飲みなさい」

 

 最終的に球磨川に飲ませるという解決を見つけることに成功した。

 自分で飲むという考えは最初からない、『いちごおでん』は『ガラナ青汁』と対をなし、彼女をして二大地獄と言わしめるまずさだからだ。

 

『ええ~』『名前からして地雷じゃんそれ』

 

「いいから飲む飲む、散々私を揶揄ったんだからこれくらいしなさいよね」

 

『はあ』『わかったよ』

 

 そう言い美琴から缶を受け取る球磨川、美琴はまた缶を落としそうになるのを必死に耐え無事渡すことができた。

 いつも逃げていく猫たちもこんな感じなのかと身を持って体験した美琴は自分が嫌われるのもしょうがないと思った。

 缶を受けとった球磨川はためらうことなく一気にそれを飲み干す。

 さすがの美琴も驚いた。

 

「ちょっちょ、別にイッキしろとまでは言ってないわよ」

 

『?嫌な事は早く終わらせるもんだぜ』

 

 うげーと、いつも笑顔の球磨川でさえ『いちごおでん』の味の凶暴さには眉をひそめた。

 だが過負荷基準でいけば全然耐えれるものだ、まだ飲み物としての機能が残ってるのだから。

 泥水を啜り、ガソリンの味が一般教養な過負荷たちが美琴がこの程度を地獄と言ってるのを聞いたら抱腹絶倒だ。

 

 だからといって球磨川はガソリンよりましだから余裕とは言わない。

 余裕でもないし耐えられないけどそれを体験してきたから過負荷なのだ。

 他人より駄目で弱いのに他人より惨めで不幸なのが過負荷と呼ばれる彼らの共通点だ。

 

「アンタ変わってるわね」

 

 美琴は自分で言っておいて何を今更と思った。

 レベル5は不本意ながら変人の集まりと呼ばれるが、変人度合いで言えば球磨川もレベル5入り間違いないだろう。

 そのことを美琴はこの短い時間で嫌というほど感じた。

 

『僕は普通(ノーマル)ではないからね』

 

「そうね、アンタは異常っていうのよ」

 

『おいおい僕をそんなプラスなものと一緒にしないでくれ』『僕はただの過負荷(マイナス)だよ』

 

「は?マイナス?何よそれ、ちゃんと分かる言葉で話しなさいよね」

 

『御坂ちゃんはまだ知らなくていいことだよ』

 

 質問に答えず括弧つけて話す球磨川を見て美琴は先ほどの評価を改めた。

 

(こいつ完全に中二病だ)

 

 先ほどは年上の余裕を少しとはいえ感じたというのに、高校三年生には見えない童顔もあいまって、今では思春期の痛々しい男だ。

 おおかた自分をレベル5と知って興奮しているのだろうと美琴は思った。

 そう考えれば意味深な発言や『いちごおでん』のイッキ飲みはただのカッコつけなのだろうと美琴は思った。

 自分が感じたあの悪寒に目を背けて、考えないようにして、臭いものに蓋をして。

 

「あんたさ、もし私と勝負しようとか思ってるならやめておきなさい、高3で奇跡的に能力開発に成功したのかもしれないけどそんな付け焼刃でどうにかなるほどレベル5って看板は安くないの。

あんたが逆立ちしてやっと私を一歩動かせるくらいよ」

 

 初めて能力を手に入れた者が最初にすることと言えば腕試しだろう、美琴は球磨川もそうなのではないかと思った。

 能力を手に入れたことによる全能感が球磨川の中二病を発病させたのだと。

 美琴自身かなりの戦闘狂(バトルジャンキー)なのだが、だからといって能力を手に入れて舞い上がってるひよっこもひよっこの初心者(ルーキー)をいたぶるのは趣味ではない。

 だが、美琴のこの考えは否定されることになる。

 

『まっさかー!』『僕ほど身の程をわきまえた人間はいないぜ?』『逆立ちしたところで御坂ちゃんを一歩動かすどころかそのまま転倒して再起不能(リタイア)がオチだぜ』

 

「そ、そう」

 

 ここまで自分を卑下するとは美琴も思わなかった。

 

『でも』

 

「でも?」

 

『もしかしたら愛とか勇気で僕の真の力が覚醒するかも』『しれない』『よねっ!』

 

「!?」

 

 不意打ち。

 いつの間にか握っていた螺子を御坂の顔面目掛けてねじ込んだ。

 しかし、周囲に張り巡らせた電磁波による目視よりも早い接近の把握で美琴はそれをすんでのところで躱した。

 

「言っても聞かないか、しかし、いきなり反則技(アウトレイジ)とはね」

 

 通常、勝負に死の危険がある技を持ち込むことは禁止されている、というか普通そこまでやる者はいない。

 『死合い(デスマッチ)』と呼ばれる危険な喧嘩行為をする集団がスキルアウトの連中にはいるらしいがそこだって死者が出たことはない。

 今の行為だって、美琴じゃなかったら最悪死んでいたかもしれない。

 

「ちょっと痛い目見てもらう必要があるみたいね」

 

 バチバチと周囲に目に見えるほどの電撃をまとう美琴。

 

『逆立ちどころか不意打ちまでしたのに』『一歩も動かすことができないなんて』『あーあ』『また勝てなかった』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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超電磁砲始動

待たせたな!
掻き合いものが多すぎる


 過負荷を知る人間にとってそれらと闘おうとすることは愚の骨頂として常識だ。意思で心と体を奮い立たせ宇宙飛行士が無重力訓練をするかのように自身へ過負荷への耐性をつけて、やっとスタートラインに立ったと言える。普通そこまでするメリットはない。関わり合いにならないというのが一番良くて、しいて言うならそれが過負荷との闘いといえるだろう。

 だが愚の骨頂の真骨頂にして『過負荷の頂点』である球磨川禊はそんな小さな闘いとすらいえるそれすらも台無しにする。球磨川との初対面は大抵の場合、球磨川の方からやってくる。数多の転校しかり、本質的に問題の中心を探っていくと球磨川がいる。球磨川がおとなしく普通(ノーマル)に生活していれば出会うことなく平穏に生活できた人間は多い。例えるなら球磨川は自分の意思で好きな人間にくっつくボンビーだ。そんな彼にしては珍しく今回は御坂美琴の方から声をかけられる形で初対面となった。

つまり勝負は――

 

『きゅう』

 

 球磨川の負けだ。

 

「あっけな!いくら何でも弱すぎるわよアンタ!」

 

 御坂は目の前で目を回し倒れる球磨川を指さして言った。

 

「よく私に喧嘩売ろうと思ったわね」

 

 喧嘩を売ってくる何かしらの自信があるのかと思い、警戒はせずともそれなりに気にしていた御坂にとって、たったの一撃、しかも様子見のつもりでだした、で地に付した球磨川には肩透かしもいいところだ。むしろ弱い者いじめをしてしまった気にさえなってくる。

 

『あたた』『完敗だよ』

 

 制服のあちこちを焦がしいまだにプスプスと煙を上げる制服はかなりの出力で出されたことを示してた。それを

様子見で出せる御坂がおかしいのだ。

 

「ま、アイツみたいに能力が効かない無能力者なんてのが異常ってことよね」

 

 おかげで感覚狂うわ、とぶつぶつと御坂がつぶやいているところに球磨川が頭を上げた、その顔はどこか不満げで勝負に負けたからかと御坂は思ったが、

 

『御坂ちゃん』

 

「あによ?」

 

『スカートの下が短パンていうのは』『卑怯だと思うんだ』

 

 ピシリ、と空気が凍った。

 

 

 あれからもう一発電撃をお見舞いされて完全にダウンした球磨川はそのまま放置され気が付いたら外は暗く時間帯は真夜中になっていた。とはいえ学生の街だ、その若さを動力に深夜を超えても活動するようなエネルギッシュな若者たちが溢れ街はいまだ活気づいていた。眠らない街『学園都市』は今日も平常運行だった。

 夏休みが近いということでこれでも少ない方だというのだから球磨川には衝撃的だ。ちなみになぜ夏休みが近いと人が少なくなるのかは学生の憎き怨敵『期末テスト』が立ちはばかるからだ。

 どうせならテストが終わってから転校したかった球磨川がとある人物を恨んでいるとパタリと目の間で人が倒れた。

 

『うん?』

 

 倒れたのは高校生くらいの年頃の男子だった。突然に電池が切れたように倒れた男は身じろぎひとつせずコンクリートの地面に強かに体を打ち付けたままの姿勢でその姿をさらしている。

 球磨川がしゃがみ込み男の息を確認すると、すぅすぅ、とまるで眠っているような呼吸が聞こえた。

 

「生きてるのか?」

 

 近くで成り行きを見ていた男が球磨川に聞いた。

 

『呼吸もあるし』『生きてるのは間違いないと思うんだけど意識はないみたいだ』

 

 球磨川はおい、ちょっとジャンプしてみろよ、チャリンチャリンさせてみろよと倒れた男に声をかけ

 

『ね?』

 

 と声をかけた男の方へ振り向いた。

 

「あ、ああ」

 

 ドン引きされていた。

 

 男は救急車に運ばれ病院に搬送されていった。その時の救急隊員たちの言葉が球磨川の耳に残っていた。彼らは「またか」と言ったのだ。その後の動きも何処か事務的というか、勝手知ったるというかまるで、マニュアルが出来るまで同じことを繰り返しました、という感じだった。

 これは学園都市に奇病でもはやっているのか!と球磨川にしては珍しくまともな考え、しかし的外れなことを考えていると彼の数多ある携帯、学園都市に来てまた増えた内の一つがバイブした。迷うことなくそれを取り出し確認する球磨川。

 

『あ』『佐天ちゃんからだ』

 

 相手はいつの間にかメールアドレスの交換をしていた佐天からだった。

 

『球磨川さん!レベル上げる方法知りたくないですか?無能力者仲間の球磨川さんだから教えますけど、なななんと!噂のレベルアッパーをgetしちゃいました!」』

 

 と書かれている。

 

『レベルアッパー?』

 

 球磨川は首を傾げた。

 

 

 

 

 

 



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