エミヤ・オルタが転生したそうです (野鳥太郎)
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ガングロボブ

初投稿です(本当)
続くかもしれないし続かないかもしれない。
評判によって判断いたします。


伐刀者(ブレイザー)と呼ばれる連中がいる。

 

自身の魂を固有霊装(デバイス)として発現させ、其々が固有の力を振るう。所謂超人、超能力者みたいなものだ。

 

まあそんな常人ではまず敵わない連中にも、生来保有する魔力量によってランク付けがされている。

 

A〜Fランク。Aに近いほど優秀、Fに近いほど落ちこぼれ。まあこんな感じだ。

 

世間一般ではこのランク付けで伐刀者の優劣が決まると勝手な解釈をされているが、実際はそんな事はない。

 

コレは飽くまで生来の魔力量でしか判断されないモノであって、当人の実力そのものは全くランクに反映されていないからだ。

要するに、魔力量が低くても実力さえ高ければ、自分より上のランクの相手を倒すことが出来る。生まれ持った才能だけで優劣や勝敗が決まるほど闘いは甘くない。

 

実際、今目の前でAランクの、それこそ規格外とされた優秀なお姫様がFランクの落ちこぼれとやらに完敗している。

 

 

「コレで馬鹿げた連中も頭が冷えるか?いや、ないか」

 

 

会場から湧き上がる歓声に紛れ、呆然としているランク主義者共を一瞥する。

 

 

「どいつもこいつも可笑しな顔をしているもんだ。本当に優秀なら相手の実力くらいある程度把握出来るだろうに・・・。滑稽なことだ」

 

「そう言うキミは初めからわかってたのかい、“ガングロボブ”くん?」

 

 

気配を感じさせずいきなり声を掛けてきたのは1人の女。いや、女というより少女と言うべきか。実年齢にしては酷く幼い、着物を着崩した少女。

因みにガングロボブというのはオレの通称だ。見た目がガングロでボブという愛称が馴染むからかもしれない。蔑称かもしれないが。

 

 

「普通に話しかける事も出来ないのか、アンタは」

 

 

表情は変えず、声音に僅かながら呆れを含んで言う。

 

 

「その割には冷静だよねぇ。他の連中は皆んな驚いて腰抜かすのに」

 

「生憎、そんな感性もとうの昔に捨てたんでね。いや、それでも多少はマシになったのか・・・?」

 

「ふぅん。17歳なのにだいぶ修羅場潜ってきたみたいに言うねぇ。ホント・・・オマエ何者だ?」

 

 

おちゃらけた態度から鋭い目付きに変わる女。成る程、現役KOKの花形選手というのは伊達ではないらしい。大した威圧だ。

 

 

「何者でもないさ。普通に産まれ、普通に生きて、ある日伐刀者になった破軍学園2年生“衛宮士郎”だ。恐らくな」

 

 

はっきりと断言は出来ない。今までの人生、というより今回の人生か?

それはオレにとっては酷く曖昧で虚ろなものだ。どちらかと言うとこの世界に産まれ落ちる前の方が幾分か自分の事を憶えている。

 

世界の抑止力、守護者の1人として存在していたオレは完全に消滅したのだろう。英霊としての記録も、霊基も失ったにも関わらず、どういう因果かこの世界に新生した。

確か、人間としてまだまともだった頃の名前も今の名前と同じだった様な・・・似通っていた様な・・・。

あぁ、多分全く同じだ。多分。

 

 

「あっそ。まあ1つ、人生の先輩として忠告しておくよ。人間、あんまり自分を腐らせると人形になる。いい様に使われて不要になったら棄てられる。そんなのは嫌だろう?」

 

「さて、如何だろうな。だがその忠告は受け取っておくよ、西京寧音女史」

 

 

そう言って席を立つ。この後は特に予定もないので部屋で時間を潰すことにする。

 

Aランク(規格外)“ステラ・ヴァーミリオン”とFランク(落ちこぼれ)“黒鉄一輝”の試合は終わり、既に多くの見物人は会場を後にしていた。

 

2人の試合の感想?

強いていうなら、妥当と言ったところか?

 

 

・・・・・・

 

 

「奴は如何だった」

 

「うーん。やっぱ手遅れって感じかなぁ」

 

 

Fランク伐刀者がAランク伐刀者を打ち負かした一件は大いに学園内を騒がせた。しかし、今話題に上がっているのはその件ではない。

 

ガングロボブこと衛宮士郎と会話をしたのは今回で四度目。しかし、相手の本質に探りを入れる様話したのは今回が初めてだった。

 

 

「眼が死んでるのは初対面の頃からわかってたけどさ、魂まで死んでるっていうか腐ってるよアイツ。しかもなんていうか、ずっと歳上と話してるみたいな感覚でさぁ」

 

「私も奴と話した時はそんな気分だったよ。

17歳にしてはエラく成熟している。寧ろ発酵してるな」

 

「結論はおんなじって訳か。んで、くーちゃんは一教育者としては如何思ってる訳?」

 

 

気怠そうな顔をするこの破軍学園理事長兼この西京寧々の腐れ縁、新宮寺黒乃に尋ねる。

 

 

「あの歳であそこまで破綻しているんだ。教師として放っては置けないさ。問題は“何故ああなったのか”だ。彼奴の両親が言うには生まれつきだと言うが・・・」

 

「生まれつきぃ?ホントはなんか虐待でも受けてたんじゃない訳?」

 

「いや、ないな。私も親だから解るものがあるんだよ。衛宮夫妻はそれこそ親の鑑というものだ。とてもじゃないが虐待なんかする人間じゃあない。それに、普通の一般人が伐刀者相手に手を上げられるか?」

 

「そりゃそうかもしれないけどさぁ・・・」

 

「まあ両親共々初めは困惑したそうだ。なにせ純日本人からあんな黒い肌の子が産まれたんだからな。旦那の方は妻の浮気を疑ったらしい。DNA検査で白だとわかったらしいがな」

 

「独り身だけどなんとなく気持ちわかるわぁ。困惑どころか気味悪がるよアタシ」

 

 

新宮寺黒乃が衛宮士郎の両親が問題ないというならそうなのだろう。

しかし、これでますます彼が破綻している理由がわからなくなった。

まず昨年見せた敵対者への無慈悲さ。

伐刀者と言えど大半は良識を持っている。実像形態での闘いでもそう何人も死亡することはない。瀕死の重傷を与えようとも、初めから相手を殺そうなどと考えることはしないからだ。

 

だが衛宮士郎という青年は幻想形態でも相手を“精神的”に殺害できるであろう威力を持った一撃を躊躇いなく放った。あの時は相手が並外れた精神力を持っていたから大事にはならなかったが、常人であれば精神を砕かれて廃人になっているほどの一撃。

彼にとって闘いとは、飽くまで殺し合いであると示していた様だった。決して優劣を決めるものではないと語る様に。

 

そして何かを諦めた様な、何かを悟っている様なあの顔は、何によってもたらされているのか。

 

とても17歳のものとは思えない虚ろな眼と無表情は後天的な原因がなくては説明がつかない。

彼の固有霊装と伐刀絶技、魂の具現化であるソレを一度見たからこそ、その謎は深まるばかりである。

 

破軍学園2-2 衛宮士郎

伐刀者ランクD

 

黒乃の持っている端末に記された伐刀者ランクは高いとは言えない。しかしそれは飽くまで魔力量によるランク。彼の実戦能力はハッキリ言って異常の一言。

伐刀者であることを加味しても異常な膂力、状況によって形状を変える異様な固有霊装。そして、昨年の非公式な模擬戦かつ、幻想形態によるものであったものの、学園最強とされる東堂刀華を一撃で屠った伐刀絶技・・・。

 

 

「思い出したら気分悪くなってきた。アタシも人のこと言えないけどさぁ、対人攻撃であんなエグいの見たことないよねぇ」

 

「“無限の剣製(アンリミテッド・ロスト・ワークス)”だったか。肉体はおろか固有霊装に命中しただけで発動する代物。実像形態で撃たれれば如何あがいても死ぬなアレは」

 

「まあくーちゃんがいればなんとかなるだろうけどさ、それでも幻想形態であの威力じゃん?“雷切”の子には同情するわぁ」

 

 

昨年の模擬戦で最後の締めと言わんばかりに放たれたソレは、今はもう完治したものの東堂刀華の精神に甚大なダメージを与えた。

あの時の彼女の失策は衛宮士郎の“銃弾”を迎撃したこと。

それまで彼の撃ち出していた銃弾と同じ様に対処した事が運の尽きだった。

 

非公式故見物人は限られた者達だけだったが、それは寧ろ幸運だったかもしれない。

少なくとも、“体の内側から無数の剣群に串刺し”にされた少女を多くの人間は見たくないだろう。ましてや実像形態だったならば、串刺しどころの話ではない、細切れの完成だ。

 

 

「んで今回の校内戦、ガングロボブも出るんでしょ?」

 

「恐らくな。強制参加ではないから断言は出来ないが」

 

 

仕事が増えるだろうなぁと頭を抱える黒乃を苦笑しつつ酒を煽る。

 

 

「そう言えば、衛宮士郎は前理事長に実像形態で銃口を向けた事があるそうだ」

 

「ふぅーん・・・は?」

 

 

暫く無言の時間が経った後、黒乃がとんでもないことを口走ってきた。

 

 

「いやいや、何やってんのアイツ!?」

 

「まあ落ち着け、飽くまで噂だ。私が理事長に就く一月前のことらしくてな。衛宮本人も覚えが無いと言っているし何より証拠が無い」

 

「それ、くーちゃんが前理事長と取り巻き追放したからじゃない?」

 

 

衛宮士郎は破綻してはいるが、見境のない凶暴性を持っている訳ではない。相手が襲いかかってきただとか模擬戦など正当な理由や許可が下りている場合のみ固有霊装を発現させる男だ。

巷を騒がせる解放軍(リベリオン)の連中の様な無差別な下劣畜生ではない。

そんな彼が屑だったとは言え地位以外実力のない、ましてや己に害を与えていない相手に実像形態で銃口を向けるなど流石にあり得ないと考える。

 

 

「まあ本当だったらそれこそ事案になっていただろうしな。・・・少し酒が入りすぎたか?こんなくだらん話をするなど」

 

「まだ3杯しか飲んで無いよねぇ。なんか思うことあったんじゃ無いの?」

 

「・・・さぁな」

 

「“錆びた剣弾”ねぇ。そのまんまだけどしっくりくるわぁ」

 

“雷切”との模擬戦の後与えられた彼の二つ名。その力が再び振るわれる日は近いのだろう。




あんまボブ活躍しないなぁってまだ序盤やし大丈夫やろ・・・(冷や汗


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ボブは校内選抜に出るそうです

第2話初投稿です。
思ったより反響あってびっくりしました。
というわけでもちっと続けてみたいと思います。


「今年の七星剣武祭校内選抜は棄権可能な全校参加か。非才にも機会を・・・。成る程、御大層な考えだ」

 

 

始業式で新宮寺理事長の話を振り返る。客観的に考えて一教育者として素晴らしい思想だとは思うが、モノがモノだ。

 

伐刀者同士の闘い、幻想形態ならまだしも実像形態を用いた闘いは命の危険を伴うものだ。小心者の連中に、この機会とやらは傍迷惑なものだろう。

棄権という道が許されているだけまだマシか。

 

しかし、新宮寺理事長を純粋に評価出来るところもある。低ランクの生徒達にも機会を与えたということは、伐刀者ランクだけが伐刀者の優劣を決めるものでないと理解しているということ。

世界で闘ってきた故、そういったことを身を以て知っているのだろう。

 

 

「さて、去年はDランク故声すらかからなかったがどうしたものか・・・」

 

 

去年は伐刀者ランクの高い者からのみ代表を選抜していた。低ランクに入る自身が選ばれる訳はないのである。

そして今回の校内選抜だが、現状別に出てもいいか程度に考えてはいる。

と言うのも単に暇だからだ。去年は一度の非公式な模擬戦を除いて闘いの場に立ったことは無い。というか闘う機会がそれしかなかった。

 

前世では長らく守護者として遣われていた所為か、他所からきっかけが示されない限り出張る事がない様になっていた。そのきっかけが示されたのが去年の模擬戦だ。

 

その時の感想?

ああ、中々複雑だったよ。御大層な甘い信念を持った奴を倒した時は精々しいものだったが、どういう訳か酷く虚しくもなった。終わった直後に白けて興味は失せたがね。

 

ーーー話が逸れていた。まあ今回の選抜戦は気が向けば出ることにする。何もせず鈍るだけというのもなにかこう、しっくりするのだが不愉快でもあるのだ。何もしないよりはいい、そんな感じでいこうと思っている。

 

 

・・・・・・

 

 

「あれは・・・」

 

 

始業式を終え、これから教室に向かおうと廊下を歩いている時彼が視界に入った。

 

 

「イッキ?どうしたの・・・って何アイツ?ていうか黒!?」

 

 

隣で歩いていたステラが驚いているが、まあ無理はないと思う。

僕も初めは同じ日本人とは思えなかったからだ。

彼に失礼かもしれないが、真っ白な髪は妹がそうなので兎も角、真っ黒な肌で純日本人とかインパクトがあり過ぎる。

 

 

「彼は衛宮士郎、僕の同級生だよ。まあ僕は留年してるから一応先輩って扱いになるのかな」

 

「同級生、ね。なんで廊下の真ん中で突っ立ってる訳?」

 

「時々あんな感じで考え事をしてるんだ。気味悪いっていう人もいれば哀しげっていう人もいた」

 

 

因みに僕が感じたのは後者の方。理由はよくわからなかったが、何処と無く寂しげに見えた。ただし、それは飽くまで表面上のものであって本質が見えている訳じゃない。

 

 

「仲、良いの?」

 

「うーん。よく話はしてたけど、深く交流を持っていた訳じゃないかな。彼自身1人の方が落ち着くって話してたし」

 

「へぇ・・・強いの?アイツ」

 

「恐らく。でも去年一度も模擬戦に出てなかったから詳しくはわからない」

 

 

去年校内で行われた模擬戦は、当時の僕の立場もあって直接見ることはなかった。理事長が神宮寺黒乃に変わってから少しずつ当時の模擬戦記録を閲覧しているところだ。

 

そしてその記録の中に衛宮士郎のものはないため、彼は一度も模擬戦をした事がないと考えている。

 

それでも、直感的に強いと感じることはできた。今までの経験で人を見る目にはかなり自信があるからだ。

なのに、隙のない立ち姿や妙な威圧感というのはあるが、それ以外彼からは何も感じない(・・・・・・)のだ。表面上のものはなんとなく把握できる。しかし内面が全くわからない。

 

直接会話をしても、悟られぬ様観察してみても、彼の考えている事やその在り方が全く読み取れなかった。空っぽの器、それが僕から見た衛宮士郎への感想だ。

 

 

「何か用か」

 

 

彼が此方に気付いたらしく声を掛けてきた。結構背が高いのと筋肉質なこと、あと真っ黒なこともあって中々威圧感がある。

表情こそ友好的な笑みを浮かべている様に見えるが、その金の瞳はとても虚ろに思えた。

 

 

「久しぶり衛宮・・・先輩って言った方が良いのかな?」

 

「気にするな、いつも通りで構わん。そもそも本来なら同じ2年生だろう。・・・それで?」

 

 

衛宮が視線を向けたのはステラ。ニュースでもだいぶ話題になっていた彼女を見る目は、若干興味深げに見えた。

 

 

「ステラ・ヴァーミリオンよ。貴方はエミヤシロウでしょう」

 

「ほう、かの姫君に認知されているとは光栄だ。衛宮士郎だ、衛宮でも士郎でも好きな様に呼んでくれ。まあ多くの連中にはガングロだのボブだの呼ばれているがね」

 

「ガングロ・・・ボブ?・・・あぁ、成る程ね。なんかしっくりくるからボブって呼ぶわ」

 

 

ステラは納得した表情で言った。当の衛宮はもう慣れたと言うように苦笑している。

見た目や得体の知れなさの割に妙な親近感が湧いてくるのが衛宮の不思議な所だ。

 

 

「ステラもそう構えなくて良いと思うよ。こんな見た目(ナリ)だけど悪人って訳じゃないからさ。寧ろ善人かな」

 

「善人・・・善人か?」

 

「去年も困った人をよく助けてたじゃないか。気味悪がってた人も居るけど、大半の人は衛宮の事意外と好意的に捉えていると思うよ?」

 

「・・・」

 

「イッキが言うならそうなんでしょうけど・・・。やっぱビジュアルの問題かしら・・・。ねえボブ、こんなところでどうして突っ立ってたのよ」

 

「単に校内選抜について考えていただけだ。昔から考え込むと周りが見え辛くなるものでね。不気味だとよく言われるのは確かだ」

 

 

そう言って彼は自嘲気味に笑った。うん?校内選抜?

 

 

「もしかして参加するのかい?」

 

「一応はな。お前達と当たることもあるかもしれん。その時はお手柔らかに頼むよ。世辞抜きでお前達は強いからなぁ。

真っ直ぐすぎる奴ほど出鱈目なもんだ」

 

「まるで自分は真っ直ぐじゃないみたいな物言いね」

 

「さて、如何だろうな。貫くだけの信念があるわけでもないし、夢も目標もない。だからといってこのまま何もせず終わるというのもどうも癪に触る」

 

「でも去年は一度も模擬戦に出なかったよね?」

 

「機会がなくてな。だが一度だけ非公式の模擬戦はやったよ。ついでに勝った」

 

「非公式?一体誰と?」

 

「東堂刀華だったか?確か“雷切”などと呼ばれていた気がするが」

 

「なっ、東堂刀華だって!?」

 

「え、ちょっとイッキ?」

 

 

流石に驚愕した。東堂刀華と言えばこの破軍学園序列1位、つまり学園最強。昨年の七星剣武祭ではベスト4位だった秀才だ。それを非公式の模擬戦とはいえ衛宮が倒したと言うのだから驚くに決まってる。

 

 

「それ、本当なのかい?」

 

「嘘をつく意味がないだろう。何故いたのかは知らんが、新宮寺理事長や西京女史も見物していた筈だ」

 

「えーと、アタシ話がよく見えないんだけど・・・」

 

 

驚きでステラの事を完全に忘れていた。

彼女も校内選抜に出るので東堂刀華について話をしておこうか。

 

 

「ああごめんステラ。東堂さんは去年の七星剣武祭でベスト4位だった人なんだ。学園での序列は1位、つまり学園最強の人だよ」

 

「え、つまりボブは学園最強を倒したってわけ?」

 

「本人の言う事が事実ならね。なにせ非公式らしいし確証が・・・」

 

「まあ事の真偽は理事長に聞けばはっきりするだろう。・・・さて、話し過ぎたな。オレは教室に向かうことにするよ」

 

 

衛宮はがそう言うと同時に予鈴がなった。

気付けばだいぶ長い時間話していたようだ。

 

 

「じゃあまた今度。衛宮の闘いぶり、楽しみにしてるよ。東堂さんに勝ったっていうその実力、観させてもらうからね」

 

「お手柔らかにって言ってたけど、当たったら容赦出来ないからね」

 

「ああ、そいつは残念だ。期待せずに待っているよ」

 

 

踵を返した衛宮はさっさと歩いて行ってしまう。最後の方で皮肉げな笑みを浮かべていた気もするが真意はわからなかった。

 

 

「なんか、ずっと年上の奴と話してるみたいだった」

 

「すぐに慣れると思う。あと、困った事があったら彼に相談してみるといいよ。ああ見えて意外と親切にしてくれるからさ」

 

「なんか想像出来ないんだけど・・・」

 

「僕も初めはそうだったさ。けど、荷物を運んでくれたり、学校の備品を直してくれたりでさ。僕も時々世話になってたよ」

 

 

早足で歩きながらステラと2人で教室に向かう。ようやく本格的に(・・・・)始まった僕の伐刀者としての生活。その初めは戦慄である事を、この時はまだ考えもしていなかった。

 

 

 

・・・・・・

 

 

オリエンテーションが終わり、自室に戻った頃に生徒手帳へメールが届いた。どうやら早速初戦の相手が決まったようだ。

 

 

「3年桃谷、重戦車(ヘビータンク)か。そういえばそんな奴もいた気がするな」

 

 

この男の試合は見た事などないが、聞いた話によれば、全身に展開される鎧型の固有霊装による突進と高い防御力が売りだったか。

 

 

「やれやれ、初戦から脳筋と当たるなんてな。まあやりやすいから良いんだが」

 

 

相手の情報について特に調べる必要はない。相手の守りがいくら硬かろうが、その固有霊装は飽くまでも人間の範疇に留まっている。

 

内包された神秘なんざたかが知れているのだ。膂力においても、扱う神秘についても。磨耗し朽ち果てたとはいえ、刻み込まれた経験は消えはしないのだ。人間を殺めた事もその覚悟もない青臭い餓鬼に、オレのような化け物(殺し屋)が負ける訳がない。

 

 

ーーーあの馬鹿みたいに真っ直ぐな剣鬼でもない限りは・・・

 

 




オリキャラなんてどう作ればええんや・・・。
というわけで本来のステラの初戦の相手をボブが相手取る事になりました。
まあどうせ桃谷はモブキャラやし大丈夫やろ(楽観視

因みにこのボブは幾らか人間性が戻ってます。


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ボブは蹂躙するそうです

3話初投稿です。
実は3話まで書いてました。
桃谷は犠牲になりました。
やり過ぎた感あります。

戦闘描写難し過ぎてヤバイ・・・。


校内選抜の第1回戦は、僕とステラの模擬戦と比べる程ではないが話題のタネとなっていた。

 

無敗というわけではないが、重量級の甲冑型固有霊装による高い防御力と突進力で多くの勝利を収め、優秀な伐刀者として評価されている3年の桃谷。

 

そんな彼を相手取るのは、公式な戦闘記録のない2年の衛宮。分かっているのは彼がDランク伐刀者であること、固有霊装が“干将・莫耶”ということのみであって、実力は全くの不明。

多くの人は桃谷さんの勝利と考えているらしいが、先日衛宮から東堂さんを打ち負かしたと聞いている僕やステラからすれば・・・

 

 

「黒鉄、ヴァーミリオン」

 

 

不意に背後から声をかけられた。振り返るとそこには新宮寺理事長が真剣な面持ちで立っていた。

 

 

「理事長先生?どうしたんですか?」

 

「僕達になにか・・・?」

 

 

僕達が要件を尋ねると、彼女は一度ゆっくり息を吐いてから言葉を紡ぎ始めた。

 

 

「第1回戦についてだが、突出した実力のお前達は良く観ておくことだ。特に衛宮をな。奴の実力は私や西京寧音、それと限られた生徒しか知らん。その上で一つ言っておく、

“正面からぶつかって勝てる奴と思うな”。奴は闘いで一切の容赦をしない。場合によっては最悪、本気で相手を殺しにかかると思え」

「・・・え?」

 

「そこまで、とんでもないんですか?彼は」

 

「無論死人が出ない様私が見ている。当人にも事を大きくするなと言ってあるが、正直理解してるのか不明だ。普段無害な分、やる時はやり過ぎる(・・・・・)奴だ」

 

 

校内選抜は実像形態での闘いだ。それでも死者は出たことがない。試合の目的は飽くまでも伐刀者としての優秀を競うものであって、相手を殺す事など・・・それこそ人間としての良心がある限りあり得ない。

 

 

「衛宮とお前達2人が当たらないとは限らないからな。予習も兼ねて奴をよく観察しておけ、以上だ」

 

 

そう言うと理事長は行ってしまった。

 

 

「ねえ、イッキ」

 

「分かってる。出来ることなら嘘だと信じたいよ」

 

 

不気味だが何かと親切にしてくれた衛宮士郎に対するイメージが崩れそうになる。

その数分後、僕達は理事長の言葉は事実だと理解することになる。

 

 

 

・・・・・・

 

 

客席からは相手、桃谷に対する声援が響き渡っている。オレは一応無銘という事もあってそう言ったものはない。あるとすれば好奇の目線、そして・・・

 

 

「やれやれ、あんな風に睨まれると流石に居心地が悪いな」

 

 

客席の一角から此方を怨敵とばかりに睨みつけてくるのは眼鏡をかけた3年女子。

昨年その技も、信念も、精神も叩き落としてやった女だ。名前は・・・うん?つい先日まで憶えていた気がするが思い出せない。

まあいいか。今は気にする必要もない。

 

 

「おい」

 

「うん?・・・あぁ」

 

 

声をかけてきたのは対戦相手である桃谷。試合は既に始まっているらしく、相手は既に甲冑型の固有霊装“ゴリアテ”を展開していた。

 

「すまない、少し考え事をしていた様だ」

 

「つべこべ言ってないで早く霊装を展開しろよ。生身の奴とやり合うつもりはないんだ」

 

「殊勝な事だ、ではいかせてもらうか。

・・・投影開始(トレース・オン)、“干将・莫耶”」

 

 

磨耗し壊れ尽くしてなおこの呪文だけははっきり覚えている。

唱えると同時に現れたのは双剣・・・ではなく、刃の付いた双銃だ。黒い方が干将、白い方が莫耶だ。

 

 

『遂に出ました、アレが長らく正体不明だった衛宮選手の固有霊装、干将・莫耶だぁ!

なんて不可思議な形状でしょう?遠近何方にも対応出来るオールラウンダーということなのでしょうか!』

 

『はいはいちょっと黙って見てなぁ。騒がしいから』

 

実況者が妙に騒がしいが、西京女史が諭したので良しとする。今は此方に集中すべきだ。

 

 

「それがお前の固有霊装か。そんなちっぽけなモンで俺が止められんのか?」

 

「かく言う其方は図体がデカいだけだな。外見だけのハリボテ、中身は空っぽだ。息でも吹き掛ければ飛んでいくんじゃないか?」

 

「言ってくれるじゃねえか。それじゃあ・・・試してみな!」

 

 

やすい挑発に乗ってくるあたりやはり脳筋か。しかしまあ突進力はなかなかだ。並みの伐刀者なら十分な脅威だろう。

だから、

 

「どうもそれしか能はなさそうだな。退屈なんで終わらせるぞ?」

 

 

 

・・・・・・

 

 

「おいおい嘘だろ・・・?」

 

 

誰が呟いたのかはわからない。しかし、観戦していた者達の心情を的確に表していた。

 

 

「ゴハッ・・・!」

 

 

衛宮から10m程離れた位置で血を吐く桃谷。

彼の纏う鎧の腹部はひしゃげ、所々小さな穴が空いている。貫通した穴からは血が漏れ出し、彼の肉体が大きなダメージを負っていることを示していた。

 

勇猛に突っ込んで行った桃谷だが、彼に待っていたのは初めての体験だった。

 

全身全霊の突進は衛宮士郎の右手、正確には白の銃剣“莫耶”を持って簡単に受け止められていた(・・・・・・・・・)。しかも衛宮本人はその場から少しも押されることなく、不動のまま。

 

これまで突進を受け流されたり、回避されたことは何度もあった。しかし、こうも簡単に真正面から押さえつけられるなど一度もなかった。驚愕と混乱のなか、彼を襲ったのは強烈な鈍痛と、無数の刺す様な痛み。

 

それが衛宮の強烈な蹴りと、双銃の射撃によるものと理解したのは、一瞬の浮遊感と、地面に叩きつけられた感覚の後だった。

 

 

「思ったより呆気なく吹っ飛んだなぁ。少し拍子抜けだ」

 

 

衛宮が何かを言った様だが、それを理解する前に再び身体を無数の衝撃が襲う。

 

 

「・・・ッ!!?」

 

 

それが収まる頃には身体はピクリとも動かなかった。辛うじて残った意識が、再び声を捉えた。

 

 

『I am the bone of my sword.』

 

 

理解のできない言葉だった。その言葉の意味は理解出来る。しかし、それに“込められた”意味が理解出来なかった。

 

 

『So as I pray,』

 

 

寧ろ理解してはいけない様な、そんな感覚。

次の瞬間、“ナニカ”が桃谷という人間に撃ち込まれた。僅かに残った意識が凄まじい警報を鳴らす。

 

 

「理事長から煩く言われてな、容赦は出来んが加減はしてやった。なに、死ぬ事はないだろうよ。多分な」

 

 

嗤うような声音は最後に1つ、唱えた。

 

 

Unlimited Lost Works.(無限の剣製)

そこで桃谷の意識は途絶えている。

 

 

 

・・・・・・

 

 

桃谷が衛宮に突っ込んでいってから50秒程。余りにも呆気ない幕引きよりも、衛宮の力の方が多くの者に衝撃を与えた。

 

桃谷の大柄な身体を片腕で受け止めたかと思うと、その次の瞬間には桃谷は吹き飛ばされていた。

 

衛宮の蹴りが正確に捉えられたのは全体のほんの一握り。それ程までに速く、鋭い一撃だった。およそ人が出せる膂力ではない。

 

次に吹き飛ぶ桃谷に追い撃ちとばかりに放たれた弾丸は12発。嬲るように急所を除き全身に撃ち込まれたソレは全て命中し、強固な桃谷の甲冑を容易く貫通した。

 

もがく桃谷に撃ち込まれた弾丸は14発。直前の弾丸よりも高い魔力が籠められたソレは、着弾と同時に桃谷の体内で炸裂し、完全に再起不能へと追い込んでいた。

 

そして最後の締めとして放たれたのは1発。黒い銃剣、干将から不可思議な詠唱と共に放たれた錆びてボロボロになった魔弾。桃谷の心臓よりもややずれた位置に着弾し、ほんの僅かな間を置いて真価を発揮した。

 

観客だった生徒たちの中から悲鳴が漏れる。

無数の剣群で内側から串刺しとなった桃谷と、彼を中心に、アリーナの風景と重なるように薄っすらと浮かび上がる“異界”。錆ついた大量の剣が荒野に刺さり、これまた錆びた無数の巨大な歯車が浮かぶ空は血のように紅かった。

ソレはゆっくり消えていき、桃谷から生えていた剣軍も急速に錆びてボロボロと消えていった。

 

驚愕、戦慄と言った空気がアリーナを包み込む。そんな中、選手入場口から放たれた魔力が桃谷を包み込む。

噴き出していた血は止まり、空中で静止している。

 

 

「試合終了だ。救護班、さっさとIPSカプセルに運べ」

 

 

淡々と告げるのは破軍学園理事長、新宮寺黒乃。この様な事態を予測して待機していた様だ。

 

死亡・・・正確にはその直前である桃谷を救えるのは彼女だけだろう。彼女の二つ名は“世界時計(ワールドクロック)。時間を操る彼女は現役引退後、こうして多くの伐刀者を闘いにおける死から救ってきた。

 

時間の停止した桃谷はすぐさまIPSカプセルへと運ばれていく。それを見届けると、黒乃は衛宮を見、言った。

 

 

「貴様、去年積み上げていた人望を一瞬で水の泡にしたぞ?それに、伐刀絶技は使うなと言っただろう」

 

 

呆れた声音には確かに、怒気が含まれている。やり過ぎだと。

 

 

「あぁー、そんなことも言っていたような気がするなぁ。加減をしろのところしか憶えてなかった。まあ実像形態での試合だ。相手がヤル気なら、こちらも相応の返礼をしなければ釣り合いが取れんだろうよ」

 

「そのヤル気だが、決して殺す意味合いでないと去年言ったはずだぞ“錆びた剣弾”。力ある者には相応の責任が付き纏う。青臭い餓鬼が人殺しという刻印を背負いきれるとでも?身の程を弁えろ」

 

「了解した、以後気をつけるとする。しかし、始めから壊れてる奴(・・・・・・・・・)なら背負えるんじゃないか?失うモノが何もないんだからな」

 

 

そう言うと衛宮はアリーナから立ち去る。

普段よりも不気味に感じられたその無表情はまるで人形、機械の類に思えた。

 

 

 

かくして破軍学園における校内選抜1戦目は、伐刀者の華々しく、猛々しいモノではなく、一方的な蹂躙を持って終焉した。

 

この一件以来、衛宮士郎は“錆びた剣弾”と広く認知される様になる。

なお、彼の伐刀絶技“無限の剣製”は殺傷性の高さから許可なく使用する事を禁じられた。

無論殺傷性のみで伐刀絶技が封じられた訳ではない。観客としてアリーナにいる生徒たちへの精神的影響を鑑みての判断である。

 

無限の剣製発動と同時に幻出する異界。アレは直視するだけで恐怖、絶望、虚脱感などを感じる程酷く歪み、ドス黒い魔力で覆われていた。

 

最も、当の衛宮本人は伐刀絶技の事実上の封印に対し、特に何も思ってはいないようだ。

 

本人曰く、

 

 

「使い慣れた手段が一つなくなっただけだ。使えるモノが一つ無くなった位で闘えなくなる訳じゃあないだろう?」

 

との事であった。

 




ロストな無限の剣製使えなくたってブレイドな無限の剣製は使えるからね、問題ないね(強引
このボブは戦闘においては無慈悲ですハイ。


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ボブは弄るのが好きなようです

まずはじめにお詫びから入らさせて頂きます。
今回ボブの髪について多くのご指摘を頂きました。
ボブカットという言葉は以前から聞いた事があったのですが、エミヤ・オルタ発表から随所でボブ、ボブと呼ばれており、

「アレがボブカットってやつなのかな」

と考え、ロクに調べぬまま執筆していた事が原因です。この文を書く前、今まで投稿してきた本編を恐らく違和感がないであろう状態に編集致しました。

本来ならばご指摘を下さった方々個人個人にお詫びとお礼を申し上げるべきなのでしょうが、誠に勝手ながらこの場で謝罪を申し上げたいと思います。

本当に申し訳ありませんでした



あの1回戦から、俺を見る周囲の目が変わった。

別に特に思うことはない。ああいった侮蔑や畏怖の目を浴びせられたのは一度や二度ではない。それこそ何百、何千とだ。

 

戦場などの極限状態の場で死にゆく者たちのモノからすれば、伐刀者といえど平和ぼけした

 

 

「間違っても殺される事はないだろう」

 

 

なんて考えてる連中のモノなど比べる事もない。

そうだ、アレが本来の衛宮士郎という人間(バケモノ)だ。去年は偶々闘う機会が一度を除きなかっただけ。闘うならば相手は完膚なきまで叩きのめす。

 

・・・筈なのだが、試合後理事長に正座させられ、足の時間だけを停止させられるなんて器用な事されたせいでその気は起きない。おまけにその状態のまま3時間、しかも道徳やら伐刀者らしい振る舞いやらについて一からレクチャーされる始末。

 

ここまでやるなら、去年の東堂刀華との模擬戦を観ていたなら初めからオレから試合出場の権限を剥奪しておけば良かろうに・・・。

いや、それだと去年の黒鉄と殆ど同じ扱いになるのか。黒鉄の処遇を良しとしなかった理事長としては前任者のような立ち振る舞いはしたくなかったのかもしれない。少々強引な考えか?

 

しかしまぁ、17年とはいえ普通の人間として生活してきたためか、守護者として肥溜めのゴミどもを処分していた時よりは随分丸くなったと思う。

去年まで変に面倒ごとをつくらないよう他の連中に幾らか友好的に接していた。無意識のうちに、平穏というものを謳歌していたのかもしれない。

 

———いや。一度だけ、何故かはわからないが自ら首を突っ込んだ事がある。

“黒鉄一輝”だ。

 

きっかけは去年、偶々複数人の生徒が黒鉄を一方的に追い詰めていたのを目撃したこと。

その時には既に当時の黒鉄の立場は知っていたし、別にどうとも思わなかった。黒鉄が一切の抵抗をしていなかった事にも頷ける。

本人が堪え忍んでいるならそれで良いだろうと考えていた。

 

しかし、そんな思いとは裏腹に身体は勝手に動いていた。傷付いた黒鉄を見て笑っていた1人を蹴り飛ばし、此方に視線を向けた他の仲間であろう連中も纏めて昏倒させた。

よく殺さないよう気絶させるだけに留めたと思う。

 

今思えば、黒鉄と会話をするようになったのもコレがきっかけだったな。

 

その後案の定当時の理事長から直々のお呼び出しを食らったが、奴が何を言っていたのかはよく覚えていない。自分がなにを思い、何を言ったのかも覚えていない。ただ、気付いたら奴の頭髪の一部を実像形態で撃ち抜いていたのは覚えている。

 

その時の事が何やら噂になっていたようで、理事長が新宮寺黒乃に変わってから追求された。無論面倒になりそうなので適当に流したが。

 

———話がだいぶ逸れた。

 

そんなこんなで俺を取り巻く環境は大きく変わったが、変わらず話しかけてくる連中はいる。

物好きな連中だとは思うが、突き離す理由もないので会話をする事にしている。

 

まあ今回はどちらかというと尋問だが。

 

 

・・・・・・

 

 

「衛宮、アレが君の伐刀絶技なんだね?」

 

「そうだ。“無限の剣製”、見た通り殺傷性が極めて高い」

 

校内選抜1回戦から2日、放課後に僕とステラは廊下を歩いていた衛宮を呼びとめ、共有ラウンジに向かった。

僕の質問に大した事じゃない、と衛宮は言った。あの一撃を食らった後、桃谷先輩は理事長の能力とIPSカプセルのお陰で一命をとりとめたが、精神に甚大なダメージを負ったらしい。特に、刃物に対して怯えるようになったらしい。

幾らか落ち着いてきているそうだが、それでも完治するまで最低2週間は精神治療を受けるらしい。

 

 

「ねえ、桃谷って人が串刺しになったあと見えたアレはなに?」

 

「アレ、とは?」

 

「惚けないで頂戴。一瞬薄っすら見えたあの荒野は、剣は、歯車はなんだって聞いてるの」

 

 

ステラの言うそれらは、衛宮士郎の伐刀絶技において特に疑問視されていたものだ。ドス黒い魔力を撒き散らす以外に、特になにも起こるわけでもなく幻出するあの風景。

 

 

「あぁ、アレか。・・・お前たちは心象風景と言うものを知っているか?所謂心の世界ってヤツだ」

 

「知ってるけど、それがなんだって言うわけ?」

 

「オレの伐刀絶技はなぁ、その心象世界を弾丸に圧縮し、相手に撃ち込む技だ。その弾丸は発射から着弾まではオレの制御下にあるが、相手に命中した時点で暴走し炸裂するんだよ」

 

「炸裂?・・・まさか!?」

 

 

成る程、つまりそう言う事なのか。確かに言葉で表せばなんとなくその脅威がわかる。

 

 

「察したか?そう、炸裂した弾丸はオレの心象世界。自分の体内で1つの世界が破裂するんだ。当然、その世界にあるモノも全てが外側に射出される」

 

「つまり、桃谷先輩を貫いた剣も、あの荒野も歯車も、アンタの心象世界にあるモノってこと・・・?」

「あぁ。薄っすら見えた異界は射出された心象世界が実体化したものだ。殻となっていた弾丸が消えた時点で脆くなっているから、直ぐに消えるがな」

 

 

あの異界は心象世界の具現化だと言う。

だがそれでは・・・

 

 

「衛宮、君の心は・・・どうしてああなってしまったんだい?」

 

 

あの荒んだ風景が衛宮の心象だと言うならば、過去に何かあったに違いない。きっと彼の虚ろな瞳は、その何かが原因じゃないだろうか。

 

 

「さあなぁ・・・、残念だが全くわからないんだ。オレは生まれつきこういう人間だし、あの心象風景も生まれつきだ。それに、伐刀者としてこの学園に入るまでは至って普通の生活をしてきたからな。過去に悲劇的な出来事に巻き込まれたこともない」

 

 

そう言って笑う彼の眼は相変わらず虚ろだが、一切ブレていない。呼吸や表情にも焦りは見られない自然体。

どうやら嘘を言ってはいないらしい。

しかし、どうも引っかかる。

 

 

「そうか・・・」

 

「まあ、今後余程の事がない限りあの伐刀絶技は使えんな」

 

「理事長から直接使うなって釘を刺されたんでしょ?確かにアンタの戦闘力が高いのはわかった。けど、きっとこの学園の上位は伐刀絶技抜きじゃ厳しいんじゃない」

 

「・・・オレの伐刀絶技は1つじゃないさ」

 

「「え?」」

 

 

衛宮はニヒルに笑って言う。

 

 

「複数の伐刀絶技を持ってる奴は多くいるだろう?オレもそうだ。ついでに言うと、無限の剣製(アンリミテッド・ロスト・ワークス)は対人向きだが、オレ本来の闘い方は殲滅戦、つまり大多数を相手取るのに適している」

 

「1回戦では加減してたってわけ」

 

「言ってただろう?容赦は出来んが加減はしてやるってなぁ。もしオレが本気で戦ってたら、もしかすると相手は今頃チリかもなぁ」

 

「本気で言ってるのかい、衛宮」

 

 

嗤う衛宮に思わず低い声で威圧していた。やはり理事長の言っていたことは本当だったのか。去年のぶっきらぼうだが信用できるという人物像が崩れ始めていた。

 

 

「冗談に決まってるだろう。だが、戦いで容赦出来ない性質(タチ)なのは事実だ。何というか、相手は確実に倒さないと安心出来ないというかなぁ。しかし、試合後理事長から3時間あまり説教受けたんでそれも出来なくなりそうだ。少なくとも、1回戦のような事にはならないさ」

 

「本当かい?」

 

「ああ、本当だ。約束するさ」

 

 

真っ直ぐ此方を見つめてくる衛宮に何も言えなくなる。多分本気で言っていると思う。一度助けられている身(・・・・・・・・・・)としてはあまり疑いたくはない。

 

 

「僕もまだまだ甘いな・・・」

 

「うん?」

 

「いや、何でもない。それよりその言葉、信じるからね?間違っても裏切ってくれるなよ?」

 

「了解した。ところで・・・」

 

「うん?」

 

「さっきからオレを凝視してる生徒がいるわけだが、アレがお前の“妹”って奴か?」

 

 

衛宮が示した先に顔を向けると、そこには妹の黒鉄珠雫がいた。6m程離れた位置で露骨に衛宮を警戒していた。

 

 

「珠雫!?一体いつから・・・」

 

「またアンタね・・・」

 

「ついさっきですお兄様。無駄に胸のデカイ女は黙っててください。それで、その方が衛宮士郎さんでよろしいんですね」

 

「・・・っ!!」

 

「す、ステラ落ち着いて」

 

「ああ、こいつとは去年からの付き合いでな。キミのことは時々話を聞いていた。よろしく」

 

 

此方に近付いてきた珠雫に衛宮が手を差し出した。握手のつもりらしいのだが、

 

 

「貴方と友好的な関係を築くつもりはありません。お兄様、こんな危険人物と付き合うのはやめた方がよろしいです。校内選抜の記録を見せてもらいましたが、この男はアレです。見た目通り、身も心も真っ黒です。他人を平気で傷付ける真性の鬼畜外道です」

 

 

それを無視して早速罵倒した。流石の衛宮も一瞬呆けた顔をしたが、直ぐに苦笑しつつ首を横に振った。

 

 

「嫌われたもんだなぁ。ああ、そう言えば黒鉄・・・一輝の方だ。キミを呼んだわけじゃない、そう睨むな」

 

「ごめん珠雫、ちょっと話を聞きたいからさ。・・・それで、何だい?」

 

「噂に聞いたんだが・・・昨日この妹と“口付け”したそうじゃないか」

 

「・・・」

 

 

———場が凍った気がした。突然何を言いだすんだこのガングロボブ・・・。

後ろでステラと珠雫が睨み合っているのか、熱気と冷気がぶつかっている感覚がする。

 

 

「え、えーと。何のことかなぁ?」

 

 

とりあえず誤魔化す。下手なこと言うとロクなことにならない気がする。

 

 

「聴けばステラ・ヴァーミリオンと相部屋でもあるそうだな。普段仲睦まじく見えるあたり付き合っているのか。・・・まさかとは思うが、お前タラシか?」

 

「いや違うから!?」

 

 

さっきまでのシリアス空間はどこに行ったんだろうか。虚ろな筈の衛宮の視線が痛い。

 

 

「まあ恋愛は個人の自由だと思うが、流石にそこに実の妹が交じると言うのは・・・罪な男だなぁ」

 

「いやいやいや!?僕は断じて近親相姦なんてしないぞ!今もこれからも断じてだ!」

 

 

何だが衛宮が楽しそうに見える。おかしい、こんなキャラじゃなかった筈なんだ。辛辣な言葉を吐くことはあったけれど、弄るように言葉を投げかけてくるなんてことはなかった筈なんだ。

 

 

「おっと、もうこんな時間か。オレは寮に戻らせてもらおう。では失礼」

 

「え?いやちょっと衛宮!?」

 

「ああ、黒鉄。最後に1つ」

 

「な、なに?」

 

「“どっちが本命なんだ?”」

 

「だからぁぁぁ!!」

 

 

駄目だ。やっぱり信用できない。もう信用なんてできない。このガングロボブ絶対楽しんでる、そうに決まってる。若干修羅場ってる後ろの2人に油を注ぎ入れるようなことを態々去り際に言っているんだ。確信犯だ。

 

・・・なんて思ってるうちに衛宮はもう居なかった。

 

ああ、放課後だっていうのにまだ疲労が溜まりそうだ。

 

 

 

 

 

 




今回はシリアスとネタです。
前書きで書いたような事が今後ないよう気を付けますが、なにか気付いた点、気になる点がありましたらご指摘ください


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ボブは友達想いみたいです

第5話初投稿です。
思い切って今日中にもういっちょ投稿です。

なんか日間ランキングで1位になってる・・・


「・・・連中には疫病神でも憑いているのか?」

 

 

土曜日、即ち休日。部屋で特に何するわけでもなく、気紛れで付けたTVニュースにはあるショッピングモール。

 

今朝黒鉄兄妹とステラ、あと有栖院凪とかいう・・・所謂オカマと出くわしたが、奴らの出先が確かこのショッピングモールだった筈。

 

どうも映像を見るに、解放軍(リベリオン)とかいうテロリスト共に占拠されているらしく、人質も多数いるらしい。

 

 

「解放軍、確か伐刀者至上主義の連中だったか。何処の世界にもいるもんだなぁ、自分達が特別な存在だなんて思い上がる連中は」

 

やれやれ、困った事に身体が疼く。丸くなったとはいえ、矢張り守護者として在り続けた期間がエラく長かったせいか、こういう塵どもを見ると無意識に固有霊装をぶちかましそうになる。職業病ってやつか?

 

 

 

・・・・・・

 

 

ノックも無しに理事長室のドアが開かれた。

現れたのは衛宮、普段仏頂面の癖に不気味に微笑んでいるように見える。

 

 

「何の用だ、見てわかると思うが私は忙しい」

 

 

今衛宮に構っている暇はない。テロリストに占拠されたショッピングモールには多くの人質がいるらしく、警察からの応援要請が来た。

 

丁度黒鉄兄妹とステラ、有栖院が現場に居るようなので固有霊装の使用を許可したところだ。

 

 

「解放軍が出たらしいな」

 

「ああ、現場にいる黒鉄達に固有霊装の使用を許可したところだ。直ぐに片がつくだろう」

 

「ならオレにも許可しろ」

 

「・・・なに?」

 

 

このガングロはなにを言っている?つまり、ショッピングモールの鎮圧に行かせろと?冗談ではない。

 

 

「もう説教を忘れたか?」

 

「理解し難いとは思うが・・・オレはこういった不特定多数を相手取るのに適していてね。それに、だ。どういうわけか身体が疼くんだよ、畜生共を鎮圧しろってなぁ」

 

「巫山戯るな、お前のやり方は死者が出る。学園外なら尚更だ。大人しく待機を・・・」

 

「死人を出さず、周囲へ被害を出さなければ良いんだな?」

 

「・・・?」

 

 

空気が変わった。妙な威圧感、それが衛宮から放出されている。

 

 

「ならそう命じろ(・・・)。国際的なテロ集団だ、黒鉄達でも苦労する相手だろうよ。

だからオレが行く、こういった仕事(・・)はオレが相応しい」

 

 

なんだ、こいつは本当に何を言っている?

何故相手が苦労する相手とわかる。

自分が相応しい?何処からそんな自信が出る。

 

 

「聞くが、何を根拠に?」

 

「勘、そして経験。そうだな、理事長のアンタには話しても良いかもなぁ。オレがなんなのかを、な。そら、早く命令してくれ。大事な数少ない友人が危ないんだ。トモダチとして助けに行かなくちゃあなぁ?なに、“警告”ならまだしも、“命令”なら違えることはない。オレはそういうモノだ」

 

 

己について教える?ますますわからない。

だが、何故かしっくりくる。コイツに任せれば全て解決するような、そんな安心、安定感があるのだ。

 

 

「敵を確認次第、殺さないよう再起不能にする。そう言えばいい。言ってくれよ、神宮寺理事長。オレの中の正義(何か)がそう願ってるんだ」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「お前が何者(・・)なのか、全て話せ。それが約束出来るなら行け。但し、幻想形態でな。既に現場が鎮圧、もしくはその目前であれば手出しするな。コレらは全て命令(・・)だ」

 

「契約成立だなぁ・・・。さて、邪悪なる者(正義の味方)として人肌脱がせてもらおう、理事長。あと、礼を言うよ」

 

「礼?」

 

「なんだか安心したんだ。友人を助けに行けるってのは・・・良いもんだ」

 

「・・・!」

 

 

部屋から出て行く直前、衛宮は確かに笑っていた。とても明るい、穏やかな笑顔。

 

 

「・・・チッ。この私が場に流されるとは」

 

 

衛宮の異様な気配に流された。本当にヤツは何者だ。

 

 

「まあ、事が終わればわかる、か」

 

 

大して話してもいないのに、妙に疲れた。だが休むわけにもいかない。というか、衛宮を出張らせた時点でそんな余裕などないからだ。

 

 

 

・・・・・・

 

此処まで頭に血がのぼるのはいつ以来か。人質をとられ、ステラは現在進行形で辱めを受ける始末。始めは何人かのテロリストを鎮圧出来たが、まさか人質の中にも連中が紛れ込んでいたとは不覚。下手に動けない。

 

 

「いやぁ良い眺めですねぇ。流石は皇女様、お身体の方も大変お美しいようで」

 

 

「・・・っ!!」

 

 

目の前の男、ビショウ。後数枚で全裸になるステラの地肌をみて下衆な笑みを浮かべる辺り、嫌でもこの男の人となりがわかってしまう。

 

 

「あの野郎・・・っ!」

 

「お兄様、落ち着いて。今動いては・・・」

 

「そうよ、気持ちはわかるけど冷静になりなさい。・・・何も出来ないっていうのは本当に腹立たしいわね」

 

 

耐え切れなくなる寸前、珠雫とアリスに止められた。そうだ、落ち着け。冷静になれ黒鉄一輝。活路はあるはずだ・・・!

 

動けぬまま、遂にステラが下着に手を掛けた。

 

———その時だった。

 

 

「ぐぁぁぁ!!」

 

 

僕たちと人質を取り囲んでいたテロリストの1人が悲鳴を上げた。見れば、左肩から右足にかけて、真っ直ぐに長大な剣が突き刺さっている。

 

その後続け様に1人、また1人とテロリスト達が頭上から降ってくる剣に貫かれ、悲鳴を上げて行く。出血がないあたり、幻想形態による攻撃だと理解できた。

 

 

「この剣は・・・」

 

 

突き刺さった剣はゆっくりと錆び付き、崩壊していく。この光景で誰の仕業かは直ぐに理解する。

 

 

「無能共が、雁首揃えて・・・」

 

 

頭上から聴こえる声は紛れもなく・・・

 

 

「衛宮・・・衛宮なのか!?」

 

「騒がしいぞ黒鉄。仕事中(・・・)だ。それに、オレは今気が立っているそうだ」

 

 

四階のフロアから飛び降り、膝を曲げることなく着地した衛宮。その顔には・・・狂気を孕んだ微笑みがあった。

 

 

「さて、随分としてやられたらしいなヴァーミリオン。紅蓮の皇女の名が泣くぞ?」

 

 

そう言って衛宮は、僕達の真後ろにいた人質(・・)を干将で撃ち抜いた。幻想形態とはいえ、頭部を撃ち抜かれたその人質は当然意識を失う。

 

 

「な!?衛宮どうして!?」

 

「人質の中に伏兵が居たんだろう?そいつら全員がいっぺんに出てくるとは限らない。

念には念を、不測の事態に備えて予備の人員を入れておくのは別に可笑しな話じゃあない。しかし、演技が下手にも程がある。目は若干泳いでいるし、呼吸は不規則。素人の連中しかいないのか?世界を股にかける解放軍の連中は。

・・・そこ、お前もだ戯け」

 

 

ドガン!と再び人質に向けて発砲した。倒れ込んだ人物の懐から転がったのはサバイバルナイフと手榴弾。

 

 

「それで?」

 

「っ!?」

 

 

衛宮が視線に捉えたのはビショウ。先程までの余裕はどこに行ったのか、酷く焦燥している。

 

「随分とオレの友人で遊んでくれたみたいだなぁ。何故か無性にお前が潰したくなってきた・・・」

 

「見張りの・・・」

 

「うん?」

 

「見張りの連中はどうした。一階から四階まで全てのフロアにいた筈だ」

 

「あぁ、連中なら先に片付けたよ。安心しろ、死んじゃあいない。幻想形態なのが残念だが、命令だからなぁ。お前達みたいなゴミ屑は脳髄ぶち撒けさせないと納得できないんだ」

 

「チッ!無能共が。そんで、俺をどうする気だ?捕まえるのか?」

 

 

ビショウの問いに衛宮は答えなかった。その代わりに衛宮は莫耶でビショウを射撃する。

 

 

「無駄だよ」

 

「うん、吸収された?」

 

 

マズイ、ビショウの固有霊装に嵌った。幾ら衛宮でも自分の攻撃を受けてどうなるかわからない。

 

「俺の固有霊装大法官の指輪(ジャッジメントリング)は左手で攻撃を“罪”として無力化し、右手で“罰”として放出する。こんな風になぁ!」

 

 

瞬間ビショウの右手から衛宮の弾丸が射出された。そして、

 

 

「それで?」

 

 

———躱すことなく身に受けた・・・。

 

 

「な!?」

 

「お前の能力はわかった。態々説明までしてくれて助かったよ。それで、だ」

 

 

怯むわけでも、苦悶の表情を浮かべる訳でもなく、ゆっくりと再び莫耶の照準をビショウに合わせる。

 

 

「お前、そんなもの(・・・・・)が本当に強いなんて思っているのか?」

 

 

再び発砲。銃弾は真っ直ぐビショウの左手(・・)に向かっていく。

 

 

「だから無駄だと」

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

「何!?」

 

 

銃弾は左手に命中する寸前で突如爆発を起こした。大した威力ではないが、その光と爆風によってビショウは思わず顔を覆った。

 

 

「確かに真正面から突っ込んでくるやつには強力かもしれないなぁ。しかし、攻撃を捉えられないなら意味はないだろう?態々左手で迎え撃たなきゃならないんだからなぁ。要は、目くらましや奇襲に相性が悪過ぎる」

 

 

今度は干将から銃弾が射出される。向かうのはビショウの“左腕”。左手ではない。

 

 

「ぐっがぁ!?」

 

「喚くな、ゴミはゴミらしく黙ってるのがお似合いだ。それでも喚くなら・・・豚小屋にでも入っておけ」

 

 

追い撃ちに放たれた銃弾は4発。全てビショウの頭部に命中し、意識を奪っていた。

 

 

「頭が悪いのか、それとも性根が悪いのか、或いは両方か。随分と焦らすのが好きだったみたいじゃあないか。テロリスト失格だな」

 

 

その結果ヘマかく訳だ、そう言って衛宮は霊装を消した。

 

 

「おい、呆けてないでさっさと服を着ろ」

 

「へ?あ!わ、わかってるわよ!」

 

 

呆然としていたステラに衛宮が服を拾い投げ渡す。我に返ったようでステラはいそいそと着替え始めた。

 

 

「黒鉄、有栖院、お前達もだ。さっさと避難誘導してやるなり、外に知らせに行くなりしろ」

 

「え、ええ・・・」

 

「わかりました・・・」

 

 

突然の出来事過ぎて珠雫もアリスも混乱しているようだった。それより・・・

 

 

「わかったよ・・・。えっと衛宮?」

 

「なんだ?」

 

「どうして此処に?」

 

「理事長に許可はとってある。序でに下手に暴れたり相手を殺さないよう命令も受けた。しっかり守ってるだろう?」

 

 

何か問題があるか?と衛宮は言ってくる。

理事長が許可しているなら問題はない。問題はないのだが・・・

 

 

また(・・)、助けてくれたのかい?」

 

「あぁ、客観的に見ればそうなんだろう。

しかしまあ、“皆無事でよかったよ”」

 

「「「「!」」」」

 

 

僕も、珠雫も、ステラも、アリスも、皆が驚いた。仏頂面で不気味だと言われていた彼が笑っていた。

 

———その笑顔は、とても明るかった。

 

 

 

・・・・・・

 

 

「本当に鎮圧してくるなんてな」

 

「言っただろう、命令は違えないってな」

 

 

解放軍によるショッピングモールの占拠は、目の前のガングロボブ、もとい衛宮士郎によって鎮圧された。

 

解放軍の連中は皆意識のない状態で発見され、そのまま連行された。どうやら1人も殺さないという命令は確り守られていたらしい。

 

 

「それで、約束のオレについてだが」

 

「あぁ、さっさと話せ。全て話せ、偽りの話はするな」

 

「フッ。それも命令か?」

 

「当たり前だ。今回の一件で余計にお前のことがわからなくなった」

 

「というのは?」

 

「惚けるな、数キロ先離れた地点に数分で辿り着く奴があるか!本当になんなんだお前は!?」

 

 

らしくもなく思わず叫んだ。此処まで声を張り上げたのはいつ以来か・・・。まあいい、今はこのガングロボブについてだ。

此奴は学園から出た途端ほんの数分で現場に辿り着いたのだ。テレポートでも、魔力で肉体強化をした訳でもない、地力で。

生徒手帳のGPSが確り記録しているので間違いない。

 

 

「確り話すから安心しろ。ただ、ここではなく別の場所でな。盗聴や監視の可能性の低い場所、例えばオレの部屋だな」

 

「・・・ほう?そこまでして秘匿したいものがお前にはあると?」

 

「正直言って、普通ならありえない話をするからだ。誰かに聞かれて変な噂を流されるのも癪だ」

 

 

そう言って衛宮は有無を言わさず理事長室から出て行った。

話が進みそうにないのでやむなくついて行くことにする。

 

・・・。この後衛宮の部屋で話されたことだが、私はとてもじゃないが信じられない。“前世の記憶がある”なんて真顔で言われても無理ないだろう。

 

 

 

 

 




戦闘描写が難しい。てか一方的過ぎるせいで私の実力だとどうしても淡々で盛り上がりに欠けてしまう。

あ、落第騎士のワカメ枠の人は・・・出番なかった。書いてる時存在を忘れていたんだ。
序盤で1番キャラ濃いのになぁ・・・。ごめんよ。


今回ボブの綺麗な一面がチラッと見えましたが、書いててボブの綺麗な笑顔が想像出来ませんでした。


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ボブは鎮圧するそうです

第6話初投稿です。
前回のボブ視点です。ちょっと強引な形になってしまいましたが、前回忘れられていたキャラがチラッと出ます。


全速力・・・と言うわけではないが、可及的速やかにショッピングモール(現場)へと向かう。

 

この世界は伐刀者が存在する為か、常人の営みの中でも“神秘”というものは幾分身近な存在だ。しかし、オレはかつて反英霊として存在していた者。要は並の伐刀者と比べても地力が違うのだ。

全速力で走るとなれば地は砕け、進路にあるものはモノによっては吹き飛ばされる。

 

今も周囲に被害や目撃者がでないよう、建物の屋上を駆けている。転生によって受肉したため、霊体化出来ないというのはなかなか不便なものだ。

 

 

「到着まで凡そ5分。やれやれ、加減というのは難しいもんだ」

 

 

認識阻害の魔術を施しているとはいえ、下手に痕跡を残しては後々面倒になる。

 

 

「おっと」

 

 

ほんの僅かに力んだ左足の下からひび割れるような音が鳴った。どうもコンクリートの一部を踏み抜きかけたらしい。ごく僅かな範囲だったのでまあ、大丈夫だろう。

一瞬意識を足元に向けたが、走る事はやめない。そのまま次の建物へと飛び移る。

 

 

「後2分ほどか。随分とまあデカイ施設を占拠したもんだ。コレは時間がかかるか?」

 

 

視界に映るショッピングモールはそれなりに大きなものらしい。あれ程の規模だ。休日ということもあり、家族連れやらカップルやらが多く集まっていただろう。

なるほど、テロリスト共にとっては格好の餌だ。

 

 

「伐刀者が率いているとしても、かなりの人数で占拠している筈。先ずは手下共を片付けるか」

 

 

モールを包囲する警察や特殊部隊、そこから10メートル程離れたビルで停止する。理事長から許可を取っているとはいえ、堂々と鎮圧に来たと姿を現せば、モール内部の連中を刺激しかねない。ここは敵味方、誰にも気付かれることなく片付けていく。

 

 

「屋上・・・給水タンクの辺りは監視が薄いな。彼処から乗り込むか」

 

 

監視しているテロリストはどれもモールへの入り口付近に集まっている。銃器を手にし、魔力も殆ど感じないことから非伐刀者である事は明確だ。

認識阻害の魔術は魔術の初歩の1つとはいえ、極めて実用性が高い。隣に立っていても、余程感の良い奴でも無ければ気付かれないほどに。

 

 

「・・・」

 

 

中々スリルのある跳躍だ。英霊だった頃はこの程度どうということはなかったが、受肉し、そして若返っている以上幾分身体は脆くなっている。死にはしないだろうが、下手に落ちればかなりの傷を負うだろう。

そんな事を考えたが、何の問題もなく給水タンクの陰に着地した。

 

 

投影開始(トレース・オン)

 

 

投影したのは無銘の剣数本。投影位置は監視員の頭上2m。無論幻想形態だ。頭から串刺しにされる位置だが痛いだけで傷も無ければ死ぬこともない。

 

 

「ぎゃあ!」

 

 

マヌケな悲鳴をあげ、全員が倒れた。暫く目覚めることはないだろう。

 

「干将・莫耶」

 

 

屋内への扉の前で馴染んだ双銃を現出させる。

扉の向こうからは気配は感じられない。見張りはいないようだ。その代わり、モールの中央部、一階から複数の魔力を感じた。十中八九黒鉄達だろう。一箇所に固まっているあたり、身動きが取れない状況なのか。それとも機を伺っているのか・・・。

 

 

「まあいい。先ずは上層から叩く。本命は最後だ」

 

 

階段を駆け下り、4階の扉を開く。気配を殺し中を確認すれば見回りのテロリストが数人。人質は見当たらない。

 

 

「口笛を吹くだけの余裕があるか。全く、此処はもう戦場(・・)だというのに呑気なものだ」

 

 

干将・莫耶の銃口にサイレンサーを投影し装着する。今は勘付かれぬよう、迅速にことを成す。

 

 

・・・・・・

 

 

「うっ・・・!」

 

 

少し離れた位置の仲間が突然倒れた。何事かと思い周囲を警戒しても何もいない。気配すら感じない。

嫌な汗が流れるが逃げようとは思わなかった。

この世に生を受けてから、今までずっと無能のレッテルを貼られて生きて来た。そんな中解放軍にスカウトされて、漸く生の実感を得ることが出来た。

とてもじゃないが真っ当な道ではないと自覚している。それでも、今まで自分を侮蔑して来た連中を甚振ることが出来るというのは、一度味わった以上抜け出せるものではなかったのだ。そんな機会を与えてくれるから、オレは解放軍に忠誠を誓っていた。

 

それに、逃げた所で外には警察共がワラワラと集まっているし、仮に逃げ果せた所で解放軍に見つかれば即刻処断されるだろう。だったら最後まで闘って、たとえちっぽけな忠誠だろうが組織に示してやろう。そう考えた。

 

 

「この階はお前で最後か。無能ばかりで呆れるよ。まあ、その分やり易いがね」

 

 

背後から声がした。バッと振り返った瞬間、俺は意識を手放す直前だった。胸に巨大な風穴を開けられたような感覚。凄まじい激痛で視界が暗転する直前、最後に目に映ったのは黒い男だった。

 

 

・・・・・・

 

 

「1階も制圧。後は本命、と行きたいが・・・」

 

 

全ての階を制圧したものの、此処にきて視線を感じた。場所は4階から。ほんの一瞬、確かに感じたのだが、今は魔力も気配も全く感じない。

まだ残りがいたのか、それとも増援?何れにせよ放っては置けないだろう。横槍を入れられては堪ったものじゃあない。

此処にきて面倒極まりないが、4階へ跳躍した。

 

———その時。

 

 

「そこか」

 

 

干将を柱の陰に向かって発砲した。4階へ着地したと同時に一瞬だけ気配を察知した。そこに含まれていたのは驚愕。折角ここまで気配を消せていたというのに、驚いて隙を晒すとはとんだ間抜けらしい。

 

 

「なっ!?」

 

 

柱から転がり出して来たのは軽薄そうな少年。見えなかった姿は今ガラスが割れるように崩れていった魔力によってもたらされていたらしい。恐らくこの気配と姿を消すのが此奴の伐刀絶技なのだろう。

 

 

「うん?何処かで見た顔だな」

 

 

よく見ると見覚えのある顔だ。・・・そうだ、去年黒鉄を甚振っていた生徒にこんな奴がいた気がする。

 

 

「動くな、喚くな、じっとしていろ。こんな所で何をしている」

 

「それはコッチの台詞だよ衛宮士郎。なんでお前がここにいるんだ」

 

「ああ、理事長から鎮圧に迎えとでも言われたのか。ならオレも同じさ。・・・どちら様だったかな?」

 

「桐原静矢だ。去年はよくやってくれたな」

 

 

桐原静矢・・・、そんな名前だったか。どうも去年蹴り飛ばされたのを根に持っているそうだ。

 

 

「まあいい。お前はここで待機してるなり帰るなりしろ」

 

「なんだと!?」

 

「はっきり言って邪魔だ。お前に出来ることは何もないし、テロリスト共もあらかた片付けた。今この場でお前は価値なしだよ」

 

「・・・っ!!」

 

 

事実を述べてやったのだがお気に召さないらしい。そんなに手柄が欲しいのか?

なんだが既視感がある。こんな小物を何処かで見たような・・・。

 

 

「後は本命を潰すだけなんでな。時間が惜しいからオレは行くぞ」

 

 

踵を返して魔力の集まる場所へと向かう。

今僅かに感じた強い熱を帯びた魔力は恐らくヴァーミリオンのモノだろう。直ぐに霧散したことから何かあったと考えられる。

小物の事はさっさと忘れて急ぎ現場へ向かった。

 

「化け物が・・・!」

 

 

そんな震えた声が聴こえた気がしたが、気の所為だろう。

 

 

・・・・・・

 

 

「これは随分と下賎な輩だな」

 

 

目下には下着以外脱ぎ捨てたヴァーミリオンと醜悪な笑みを浮かべる男。間違いなく伐刀者だ。

 

 

「ヴァーミリオンを出し抜く力があるとは思えんが・・・。何か特異な力を持っているのか?」

 

 

視線を移し、人質と共に固まっている黒鉄たちを見る。黒鉄程の実力者が非伐刀者のテロリストに遅れをとるとは思えないが、恐らく罠か何かに嵌ったんだろう。

例えば、動こうとした時人質の中にテロリストが紛れ込んでおり、脅されたとか。

 

 

「・・・やはり、妙に頭にくるな」

 

 

深く親交を持ったわけではないが、知人が屈辱に合っているのを見ると無性に腹が立つ。

かつての自分ならどうでもいいと切り捨てるはずだというのに・・・。

 

 

投影開始(トレース・オン)

 

 

去年の黒鉄の件と同じだ。思考と身体の動きが合致しない。確かに友人を救うためにここに来たが、もう少し慎重に動こうとしていたのだ。

だというのに、相手の隙も伺わぬままオレは剣を降らせていた。

 

 

「無能共が、雁首揃えて・・・」

 

4階から飛び降り着地する。

なってしまった事は仕方がない。人質を取り囲むテロリストは片付けた。後は本命と・・・まだ人質に隠れている筈の手下だ。

 

 

「衛宮・・・衛宮なのか!?」

 

「騒がしいぞ黒鉄。仕事中だ。それに、オレは今気が立っているそうだ」

 

 

驚いた黒鉄が声を掛けてくるが取り敢えず黙らせる。さて、さっさとゴミを片付けるとするか。

 

 

「さて、随分としてやられたらしいなヴァーミリオン。紅蓮の皇女の名が泣くぞ?」

 

 

呆けた顔をしている姫君を一瞥し、人質の1人、正確には紛れ込んだテロリストを撃ち抜く。バレないとでも思っていたのだろうか?

 

 

「な!?衛宮どうして!?」

 

「人質の中に伏兵が居たんだろう?そいつら全員がいっぺんに出てくるとは限らない。

念には念を、不測の事態に備えて予備の人員を入れておくのは別に可笑しな話じゃあない。しかし、演技が下手にも程がある。目は若干泳いでいるし、呼吸は不規則。素人の連中しかいないのか?世界を股にかける解放軍の連中は。・・・そこ、お前もだ戯け」

 

 

此方を警戒し、一瞬何かを取り出すそぶりを見せた者を撃ち抜いた。懐から転がったのはサバイバルナイフと手榴弾。

これ以上不審な気配はないため、今ので最後だったらしい。

 

となれば、

 

 

「それで?」

 

「っ!?」

 

 

残るは本命の伐刀者。如何にヴァーミリオンを下したのかは知らんが、両手から感じる。奴の固有霊装によるものと考えるのが妥当だろう。もしかすると、既に伐刀絶技を発動しているのかもしれない。

その割に随分と焦っているようだが。

 

 

「随分とオレの友人で遊んでくれたみたいだなぁ。何故か無性にお前が潰したくなってきた・・・」

 

「見張りの・・・」

 

「うん?」

 

「見張りの連中はどうした。一階から四階まで全てのフロアにいた筈だ」

 

 

なんだこいつは。状況からして全滅している事なんざとっくにわかっているだろうに。

「あぁ、連中なら先に片付けたよ。安心しろ、死んじゃあいない。幻想形態なのが残念だが、命令だからなぁ。お前達みたいなゴミ屑は脳髄ぶち撒けさせないと納得できないんだ」

 

「チッ!無能共が。そんで、俺をどうする気だ?捕まえるのか?」

 

 

捕まえる、なんて事はしない。それは他の連中の仕事だ。オレは飽くまでお前達テロリスト共を倒すだけだ。

 

———これ以上の問答は無用だ。

 

問いの返答として、莫耶を発砲した。普通ならこれで詰みなのだが・・・

 

 

「無駄だよ」

 

「うん、吸収された?」

 

 

射出と同時に男は左手で弾丸を受け止めた。いや、正確には左手に取り込んだと言うべきか。

 

 

「俺の固有霊装大法官の指輪

(ジャッジメントリング)

は左手で攻撃を“罪”として無力化し、右手で“罰”として放出する。こんな風になぁ!」

 

 

ああ、ヴァーミリオンが出し抜かれたのはこれか。彼女のことだ、全力で切り掛かって強烈なカウンターを受けたんだろう。

男の右手から射出された莫耶の弾丸は、真っ直ぐ此方に飛んでくる。

 

確かに強力な力だ。流石のオレでも、英霊すら屠る自分の攻撃を受ければかなりのダメージは受けるだろう。だが、その程度の事なら対処は容易だ。

 

 

「それで?」

 

「な!?」

 

 

オレは銃弾を受け止めた(・・・・・)

僅かに衝撃と痛みはあるが、“防弾加工”による防御の強化は確りと発現していた。

 

 

「お前の能力はわかった。態々説明までしてくれて助かったよ。それで、だ」

 

 

さて、この無能を片付けるとしよう。その力の弱点は既に見切っている。なに、単純な事だ。勘のいい奴なら誰でも気付く程に。

 

 

「お前、そんなもの

(・・・・・)が本当に強いなんて思っているのか?」

 

 

嘲笑と共に再び莫耶を発砲する。男が左手で受け止めると予見して、だ。

 

 

「だから無駄だと」

 

 

同じ手は通じない、ならばなにかしらの策を練ってくる。そんな事すら考えられないのだろうか。

 

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

「何!?」

 

 

左手に着弾する前に銃弾を崩壊させ、内部の魔力を暴走させる。あまり魔力は込めていないので威力こそ大したことはない。だが、目くらましには十分だ。

 

閃光と小さなものとはいえ、至近距離での爆風で奴は突き出していた“左手”で顔を覆った。

 

獲った。

 

 

「確かに真正面から突っ込んでくるやつには強力かもしれないなぁ。しかし、攻撃を捉えられないなら意味はないだろう?態々左手で迎え撃たなきゃならないんだからなぁ。要は、目くらましや奇襲に相性が悪過ぎる」

 

 

間髪入れずに干将で“左腕”、その肘を撃ち抜く。これで奴は左手を上げることはできない。傷は無くとも激痛は襲ってくるのだ。

 

 

「ぐっがぁ!?」

 

「喚くな、ゴミはゴミらしく黙ってるのがお似合いだ。それでも喚くなら・・・豚小屋にでも入っておけ」

 

 

本人の人間性を体現するような醜悪な悲鳴。

思わず耳を塞ぎたくなる。さっさとトドメと行こう。

 

計4発放ち、全てを頭部に命中させる。これが実像形態なら真っ赤な花が咲いていたんだろうが・・・。

 

 

「頭が悪いのか、それとも性根が悪いのか、或いは両方か。随分と焦らすのが好きだったみたいじゃあないか。テロリスト失格だな」

 

 

テロリストとして相手に揺さぶりをかけるのは常套手段だが、単に自分の欲を満たす為に時間を割るのは失策だ。

 

 

「その結果ヘマかく訳だ」

 

相手が完全に沈黙したことを確認し、固有霊装を消した。さて、先ずは随分と開放的な格好のやつの目を覚ませるとしよう。

 

 

「おい、呆けてないでさっさと服を着ろ」

 

 

下着姿のヴァーミリオンに、転がっていた衣服を投げ渡す。

 

 

「へ?あ!わ、わかってるわよ!」

 

 

ふむ、女の身支度は長いものだと思っていたが、どうやらそうでもないようだ。数秒で着替えを終えていた。

 

 

「黒鉄、有栖院、お前達もだ。さっさと避難誘導してやるなり、外に知らせに行くなりしろ」

 

「え、ええ・・・」

 

「わかりました・・・」

 

 

確かに不意を打つような登場をしたが、ここまで呆けられるのも心外だ。闘いの場で何が起こるか予測はできない、そんなことくらいわかってるだろうに。

 

 

「わかったよ・・・。えっと、衛宮?」

 

「なんだ?」

 

「どうして此処に?」

 

 

折角助けに来てやったというのにその問いか。内心呆れた。

 

 

「理事長に許可はとってある。序でに下手に暴れたり相手を殺さないよう命令も受けた。しっかり守ってるだろう?何か問題があるか?」

 

 

そう言うと、黒鉄は神妙な面持ちで聞いて来た。

 

また(・・)、助けてくれたのかい?と。

 

そういえば、確かに黒鉄を助けたのは2回目だ。どちらも誰に頼まれるわけでもなく、自主的に。

 

 

「あぁ、客観的に見ればそうなんだろう。

しかしまあ、皆無事でよかったよ」

 

 

状況を考えて、上辺のものとはいえそう言った。どんな顔で言ったのかはよく覚えていないが、黒鉄達が驚愕していた理由は分からなかった。

 

さて、取り敢えず事態は収束した。これから理事長から色々追求されるだろうが、流石に全てを話すつもりはない。

 

全て語れと言われたが、オレの素性は常人の理解の範疇からかけ離れているし、僅かに契約から背く形で話をする事になりそうだ。

 

語る事は全て事実。だが核心的な部分は全て語らない。語れば後々厄介な事になるのは明白だ。第一、オレが固有霊装を偽っている(・・・・・)など知られたら何をされるかわかったものではない。




1週間以内に次投稿出来たらなぁと


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番外
ボブは爽やかだそうです


番外編初投稿です。
眠れないから暇潰しです。
本編とは一切関係ありません。



「おはよう一輝、ステラ。いい朝だと思わないかい?」

 

「「え?」」

 

 

早朝、何時ものようにステラと20Kmランニングをしていたのだが、気付いたら真横に衛宮がいた。真っ赤なジャージを着た衛宮が。

 

既に11Kmは走っている距離なのだが、衛宮は息切れ1つしていない・・・いやそんな事はいい。

 

———なんなんだその満面の笑みは。

 

 

「いやぁためしに走ってみるもんだなぁ!最近はずっと部屋で筋トレしかしてなかったから新鮮だよ」

 

「あ、ああそうだね。確かに朝のランニングはとっても気持ちいいというか・・・」

 

「ええと、今日は随分機嫌が良いのね。何か良いことでもあったのかしらぁ・・・?」

 

「うん?機嫌が良いのはいつものことじゃあないか!毎日爽やかな気分で生きてるよ、オレは」

 

 

はっはっは!と笑う衛宮。

 

目を夢見る少年の如く輝かせている衛宮。

 

凄く爽やかな衛宮。

 

見た目真っ黒なのに内面真っ白な衛宮。

 

 

———訳がわからない。

 

 

「さて、折角だ。競走でもするか?」

 

「いやいやいや、競走なんてしたらランニングの意味がないっていうか」

 

「今だってちょっとキツイのにペースなんて上げたら・・・」

 

「よし、じゃあ先に行っているよ。車には気をつけるんだぞー!」

 

 

そう言って凄まじい速度で走って行く衛宮。もう見えなくなった。

 

 

「・・・ってなんなんだアレ!?衛宮?本当に衛宮!?」

 

「わかんないわよ!?何があったのよあのガングロボブ!?」

 

 

ランニング中呼吸を乱すのはいけない事なのだが、そんな事言ってる場合ではない。

とりあえず衛宮士郎(らしきもの)ものを追いかけ真相を確かめねば。

 

 

「ステラ、一気に行くぞ!」

 

「わかってるわよ!」

 

すぐさま魔力で身体強化を施す。コレで普通に走るよりも速度も持久力も増強された。

 

 

「うん?そういえば魔力の残滓を感じないな・・・」

 

「え、なに。ボブの奴まさか・・・」

 

「「地力で走ってった?」」

 

 

思考が一瞬止まった。伐刀者とはいえ余程のスピード特化でもない限りあんな速度出せる訳がない。

 

 

「ホントなんなのよアイツー!」

 

「ステラ落ち着こう!この速度で走ってるんだから安全確認怠っちゃダメだ!」

 

 

ひたすら走り続け約1時間。ようやく学校まで戻ってくる時には既に僕達はヘトヘトだった。

 

そこで目にしたのは

 

 

「2人とも遅かったじゃないか。ほら、スポーツドリンクだ。確り冷やしておいたから、落ち着いて飲むんだぞ?」

 

 

先と変わらず満面の笑みの衛宮だった。その手には二本の水筒。どうやら僕とステラのぶんらしい。

うん、有り難く頂こう。

 

 

「・・・じゃなくて!衛宮、君本当にどうしたんだい?いつもの衛宮はもっとこう、言っちゃ悪いけど仏頂面で目が虚ろで・・・」

 

「そうよ、やっぱりアンタなんかおかしいわよ色々と!」

 

「?2人ともなに言ってるんだ?さっきも言ったがオレはいつも通りだよ。短い人生だ、存分に楽しんで生きないとなぁ!」

 

 

今度は笑い声がHAHAHA!に聞こえる気がする。なんというか、もう深く考えちゃ負けな気がしてくる。

 

 

「うーむ、朝のHRにはまだまだ時間があるな。折角だしもう一周してくるか」

 

「「は?」」

 

 

またとんでもない事を言い出した。いやお前マジでどうした。

 

 

「2人も来るか?」

 

「「遠慮しておく!」」

 

「そいつは残念だなぁ。じゃあ行ってくる、時間までにはしっかり戻ってくるから安心してくれ!」

 

 

またまた満面の笑みで走って行った。凄まじい速度で。多分時速200Kmは出てるんじゃないかな・・・。

 

 

「・・・一旦部屋に戻ろうか、ステラ」

 

「・・・そうね、凄く疲れたし」

 

 

今日はこのままあの衛宮と過ごすことになるのか・・・?精神持つだろうか・・・。

 

 

「ん?なんだこれ」

 

 

ふとベンチを見ると、なにか置いてある。2つの・・・布で包まれた箱。この形、まさか・・・。

 

 

「「弁当箱・・・」」

 

 

よく見れば弁当箱の下になにかが置いてある。・・・メモだ。

 

 

『普段仲良くしてもらっているからな!食堂の厨房を借りて2人に弁当を作って置いた。コレでも腕には自信がある。よく味わって食べてくれ!あ、食べる前に確り手を洗うんだぞ!食べ終わった後は確り歯を磨くように!』

 

「・・・オカンだ」

 

「・・・オカンね」

 

 

・・・・・・

 

 

「・・・・・・」

 

「い、イッキ?顔色悪いけど・・・」

 

「いや、なんでもない。なんでもないよステラ。僕は至って正気だ、なにも変な夢なんか見てない。満面の笑みで走り回る衛宮なんて夢は見てない。うん、断じて、絶対に、間違いなく」

 

「ちょっとイッキ、本当に大丈夫なの・・・?」

 

「オレがどうかしたのか?」

 

「うわぁぁ!?」

 

「あ、ボブ。おはよう」

 

「ああ、気怠い朝だな。顔を見た途端飛びあがられるせいで余計に気怠い」

 

「え、えーと。衛宮だよね?普段の仏頂面で目が死んでで内面空っぽな衛宮だよね?」

 

「ちょっとイッキ!?」

 

「友人に対して随分な言い様だな黒鉄。まあ別になんとも思わんが・・・一体どうした?なにか悪い物でも食ったのか?」

 

「あ、この話し方、態度。間違いなく衛宮だね・・・。そうか、これは現実か、夢じゃないのか!」

 

「あの、ボブ」

 

「言わなくてもいい。まあ、暫くすれば大人しくなるだろう」

 

 

この日、黒鉄一輝は何かから解放されたような、晴れ晴れとした顔をしていたという。

彼になにがあったのかは不明である。




ふざけましたハイ。
ただのネタですハイ。


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