例えばこんなミノさん (ブロx)
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例えばこんなミノさん

わすゆ映画化!ゆゆゆ二期おめでとう!
という事で、勇者銀さんにスポットを当てた短編を少々。
もしも、その時ミノさんに不思議な事が起こったら。

わすゆとゆゆゆを汚すな。ネタバレやめろ。そう思われる方はブラウザバックをお願いします。
この作品は妄想で出来ております。








 ―三ノ輪銀は勇者と呼ばれる―

 

 

 

『ねぅ…あゃ~~』

 

『? おやおや?もう言葉をしゃべれるようになったのかい?マイリトルブラザー』

 

 今はまだ赤ん坊の我が弟。

この弟が成長したら舎弟にしてこき使うアタシの夢は、順調に進んでいる。

 

弟をあやす為に昔の映画を見ているアタシ達。

 

食い入るように映像を見ている弟は、控えめに言って可愛さが神がかってる。

 

『You only see him when you are very young~~』

 

あなたに訪れる。

 

『ふしぎな出会い~~』

 

 笑いながらアタシの指を握る、小さな弟の手のひら。

ふと思う時がある。

 

私は明日も、生きてここに戻ってこれるだろうか。

 

『あんたの姉ちゃん! 三ノ輪銀さんがしっかり!守ってやるよ~!!』

 

『たょ~~』

 

 この子の為なら。

勇気100パーセント!ってね。

 

 

「―――だから。 化け物には分からないだろう」

 

 斧を敵に向けて振り続ける自分。

生きて帰るというアタシの言葉は意味を変えて。

もしかしたら明日死ぬかもという、昨日の真実は今日の嘘になる。

 

「―――この力」

 

ただ彷徨い、流されてゆく。 血潮が流れてゆく。

 

「―――これこそが」

 

アタシ達矮小な人間の覚悟? どうぞ嗤えばいい。

 

「そう、これこそが―――」

 

驕りたかぶればいい。

 

「……ッ人間様の、」

 

 限界を超えて、この道を往く。

ただただ往く。

 

「気合と、」

 

赤化する我が王道。

 

「根性と、」

 

断崖まで往くアタシの、

 

「―――魂ってやつよッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 ・・・・なんだか不思議だ。

 

もう、あの二人には会えないか。弟にも会えないか。

 

この身、この魂。

 

震えて、マグマのように噴き出して爆発しているというのに、思考はやけに綺麗だ。

 

―――あちゃ~・・・・・。ちょっと血を流しすぎちゃったかな。

 

小学生のアタシでも、血を流しすぎたら死ぬ事ぐらい知っている。

 

 そしてアタシは勇者だ。

 

 勇者とは、戦い戦い戦い勝つ、勇気ある者。恐怖を我が物とする人間の事。 

現在の自分の状態は常に分かっているのさ。

 

―――死ぬね、これ。

 

 アタシの気合と根性と魂。

このままいけば、バーテックスどもの撃退だけは何とか出来るかもしれない。

 

 伊達に何度も修羅場は潜っていないし、現在進行形で今鉄火場に身を置いている。

・・・自分を客観視すると、なんとまあズタボロだこと。

 

『私達はみな運命に選ばれた兵士』とは、誰が言った言葉だったか。

 

―――でもアタシはこんな奴らの為に、大切な人の涙は見たくない。

 

皆に笑顔でいてほしい。

 

「………だから見ててくれ」

 

三ノ輪銀。 一世一代の晴れ舞台。

 

「さあッ!ここがアタシの大見せ場!」

 

バーテックスを撃退し、友達を助ける我が王道。

 

「遠からん者は音に聞け! 近くば寄って目にも見よ!!」

 

目指すは『皆』助かって、天下無敵のハッピーエンド。

 

「これが三ノ輪家長女!『皆』を守る、三ノ輪銀の実力だ―――ッッ!!!」

 

・・・後は頼んだよ。

 

須美。

 

園子。

 

 

 アタシの『親友』。

 

 

 

 

 

 

「銀…?」

 

「ミノさん……?」

 

 幾度もバーテックスを退けた彼女らは、百人が百人見て、正しく勇者であった。

三人の勇者達は其の地で一堂に会する。

 

・・・視線の先は。

 

『―――やった。 やったぞ、二人とも』

 

 赤い背中。 

誰かを、皆を守り抜いた意地と誇りの詰まった、小さな背中。

 

「ねえ。……銀。 そんな血を流して、病院に行かなきゃダメじゃない」

 

「…そうだよ、ミノさん。お土産だって弟君に渡さなくちゃ。 

早く身体を治して、また一緒に遊ぼうよ。……私まだ、お料理教わって、ないよ」

 

『―――アタシが追い散らかしたんだぜ。あのバーテックス共を、三体もだ』

 

「……何で」

 

『―――もうこの銀さんは正しく凄まじき戦士ッ! 敬ったって、いいんだぜ?』

 

「何で振り向いて、くれないのよぉ……ッ!」

 

 

―――伝承によれば。

 

 其の地にはたった独りだけで戦い続け、我らが天敵を退けた小さき勇者がいたという。

年齢、11歳。 当時小学生だったその者は、腕が千切れても身体中から紅蓮の血を噴出しても、

己が武器を振るいに振るい続けた。

 

 彼女が手に持つ武器、二振りのその斧を自分の意思で手放す事はついに無く。

天敵を敗走せしめた後も、その逃亡先を睨み続けていたという。

 

・・・もう二度と来るなと。 もし来たならば、今度こそはこの手で滅してやるぞと。

 

 その勇者を知る者達は、彼女は花のような女性だったと後世まで伝えた。

薄燈色の花弁のような美しい人。 

いつも私達と一緒に笑って歩んでいた、強くて勇ましい人。

 

―――真の勇者とは誰かと問われたなら。

 

彼女こそが、そう。 

 

絶えて物言う事も無い、彼女こそが真の。

 

 

 

 

――――勇者である。

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・真の勇者、か。 良いもんだねその称号』

 

―――死んだ後って色々なモノが見えてくるもんなんだなあ。

 

 若い身空でその生涯を閉じた、アタシこと三ノ輪銀。

その後の世界は、須美と園子は、一体どうなったのだろう?

 

この真暗の空間は、それをアタシに見せてくれた。

 

『まあ、両親も弟も助かったし無事に大往生を遂げた。

須美も園子も神樹様のお陰で、無事青春を謳歌出来た。そして大往生。 いや~万々歳だわ~!』

 

これもこの銀さんの勇者パゥワー! シルバースピリッツのなせる業ってもんよ。

 

『・・・・さて』

 

 光が見えてくる。

心が、魂がその正体を理解する。

 

『はいはい、お迎えですね。 今向かいますよっと』

 

 見渡しても見下ろしても、自分の身体はおろか物体すら見えない。

でもあの光に向かって進めという事だけは何故か分かる。

 

あれはゴールだ。 銀色に光る、アタシのゴールだ。

 

『園子や須美、後輩達の人生も見れたし、未練も無いし』

 

可愛いアタシの弟の、その後も見れたし。

 

『化けて出る趣味も無いし。 ・・・さあ、いきますか』

 

 足を動かすイメージ。それだけでアタシは光に近づく。 

辛くも後悔も無い。欲も無い。寂しくも無い。

 

音も途絶えたこの中で、無い足を動かす。 

 

勇気一つをともにして。

 

『、―――。――――?』

 

無い筈の足を、動かす。

 

『―――――』

 

動かす。

 

『――――――、』

 

うごかない。

 

『――――え、なに?』

 

足が。

 

「 ………ねぅ 」

 

 記憶の彼方? いや、忘れるわけが無かった。

何度も何度もあやしたんだから。 この手で抱っこだってしたんだから。

 

足を掴んでる、この小さな身体を。

 

「ねーちゃ!」

 

――――、 

 

―――何、やってんだか。 赤ん坊は誰かが見てなきゃ、駄目でしょうが。

 

『・・・こんな所まで、ついて来て、』

 

 そんな目しちゃって。

下の子は、上が見てなくちゃ、

 

 

「駄目でしょうが―――!」

 

 

笑う弟。可愛いは正義。 子どもは七つまでは、神の子だ。

 

 

 

 

 

 

 その時の事を、鷲尾須美と乃木園子は生涯忘れなかったと伝えられている。

涙で滲む視界の中で、振り向く身体。

 

浮かべる、ぎこちないが天下無敵のその笑顔。

 

「………え~っと」

 

ひっこむ悲しみ。

 

「何て言ったらいいのか……」

 

握られる、二人分の拳。

 

「…あ! その時、不思議な事が起こった。 これだッ!!!」

 

「心配させるなこの、親友―――ッ!!!!」

 

 

 勇者とは、どこかで誰かがそう呼ぶから勇者というらしい。

瞳を閉じても。 開いていても。

 

―――四国はこの勇者三ノ輪銀と!鷲尾須美と乃木園子が守る!!

 

 ささやく風の中。

茜空が、彼女達三人を照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 



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