例えばこんなミノさん (ブロx)
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例えばこんなミノさん
という事で、勇者銀さんにスポットを当てた短編を少々。
もしも、その時ミノさんに不思議な事が起こったら。
わすゆとゆゆゆを汚すな。ネタバレやめろ。そう思われる方はブラウザバックをお願いします。
この作品は妄想で出来ております。
―三ノ輪銀は勇者と呼ばれる―
『ねぅ…あゃ~~』
『? おやおや?もう言葉をしゃべれるようになったのかい?マイリトルブラザー』
今はまだ赤ん坊の我が弟。
この弟が成長したら舎弟にしてこき使うアタシの夢は、順調に進んでいる。
弟をあやす為に昔の映画を見ているアタシ達。
食い入るように映像を見ている弟は、控えめに言って可愛さが神がかってる。
『You only see him when you are very young~~』
あなたに訪れる。
『ふしぎな出会い~~』
笑いながらアタシの指を握る、小さな弟の手のひら。
ふと思う時がある。
私は明日も、生きてここに戻ってこれるだろうか。
『あんたの姉ちゃん! 三ノ輪銀さんがしっかり!守ってやるよ~!!』
『たょ~~』
この子の為なら。
勇気100パーセント!ってね。
「―――だから。 化け物には分からないだろう」
斧を敵に向けて振り続ける自分。
生きて帰るというアタシの言葉は意味を変えて。
もしかしたら明日死ぬかもという、昨日の真実は今日の嘘になる。
「―――この力」
ただ彷徨い、流されてゆく。 血潮が流れてゆく。
「―――これこそが」
アタシ達矮小な人間の覚悟? どうぞ嗤えばいい。
「そう、これこそが―――」
驕りたかぶればいい。
「……ッ人間様の、」
限界を超えて、この道を往く。
ただただ往く。
「気合と、」
赤化する我が王道。
「根性と、」
断崖まで往くアタシの、
「―――魂ってやつよッッ!!!」
◇
・・・・なんだか不思議だ。
もう、あの二人には会えないか。弟にも会えないか。
この身、この魂。
震えて、マグマのように噴き出して爆発しているというのに、思考はやけに綺麗だ。
―――あちゃ~・・・・・。ちょっと血を流しすぎちゃったかな。
小学生のアタシでも、血を流しすぎたら死ぬ事ぐらい知っている。
そしてアタシは勇者だ。
勇者とは、戦い戦い戦い勝つ、勇気ある者。恐怖を我が物とする人間の事。
現在の自分の状態は常に分かっているのさ。
―――死ぬね、これ。
アタシの気合と根性と魂。
このままいけば、バーテックスどもの撃退だけは何とか出来るかもしれない。
伊達に何度も修羅場は潜っていないし、現在進行形で今鉄火場に身を置いている。
・・・自分を客観視すると、なんとまあズタボロだこと。
『私達はみな運命に選ばれた兵士』とは、誰が言った言葉だったか。
―――でもアタシはこんな奴らの為に、大切な人の涙は見たくない。
皆に笑顔でいてほしい。
「………だから見ててくれ」
三ノ輪銀。 一世一代の晴れ舞台。
「さあッ!ここがアタシの大見せ場!」
バーテックスを撃退し、友達を助ける我が王道。
「遠からん者は音に聞け! 近くば寄って目にも見よ!!」
目指すは『皆』助かって、天下無敵のハッピーエンド。
「これが三ノ輪家長女!『皆』を守る、三ノ輪銀の実力だ―――ッッ!!!」
・・・後は頼んだよ。
須美。
園子。
アタシの『親友』。
◇
「銀…?」
「ミノさん……?」
幾度もバーテックスを退けた彼女らは、百人が百人見て、正しく勇者であった。
三人の勇者達は其の地で一堂に会する。
・・・視線の先は。
『―――やった。 やったぞ、二人とも』
赤い背中。
誰かを、皆を守り抜いた意地と誇りの詰まった、小さな背中。
「ねえ。……銀。 そんな血を流して、病院に行かなきゃダメじゃない」
「…そうだよ、ミノさん。お土産だって弟君に渡さなくちゃ。
早く身体を治して、また一緒に遊ぼうよ。……私まだ、お料理教わって、ないよ」
『―――アタシが追い散らかしたんだぜ。あのバーテックス共を、三体もだ』
「……何で」
『―――もうこの銀さんは正しく凄まじき戦士ッ! 敬ったって、いいんだぜ?』
「何で振り向いて、くれないのよぉ……ッ!」
―――伝承によれば。
其の地にはたった独りだけで戦い続け、我らが天敵を退けた小さき勇者がいたという。
年齢、11歳。 当時小学生だったその者は、腕が千切れても身体中から紅蓮の血を噴出しても、
己が武器を振るいに振るい続けた。
彼女が手に持つ武器、二振りのその斧を自分の意思で手放す事はついに無く。
天敵を敗走せしめた後も、その逃亡先を睨み続けていたという。
・・・もう二度と来るなと。 もし来たならば、今度こそはこの手で滅してやるぞと。
その勇者を知る者達は、彼女は花のような女性だったと後世まで伝えた。
薄燈色の花弁のような美しい人。
いつも私達と一緒に笑って歩んでいた、強くて勇ましい人。
―――真の勇者とは誰かと問われたなら。
彼女こそが、そう。
絶えて物言う事も無い、彼女こそが真の。
――――勇者である。
◇
『・・・真の勇者、か。 良いもんだねその称号』
―――死んだ後って色々なモノが見えてくるもんなんだなあ。
若い身空でその生涯を閉じた、アタシこと三ノ輪銀。
その後の世界は、須美と園子は、一体どうなったのだろう?
この真暗の空間は、それをアタシに見せてくれた。
『まあ、両親も弟も助かったし無事に大往生を遂げた。
須美も園子も神樹様のお陰で、無事青春を謳歌出来た。そして大往生。 いや~万々歳だわ~!』
これもこの銀さんの勇者パゥワー! シルバースピリッツのなせる業ってもんよ。
『・・・・さて』
光が見えてくる。
心が、魂がその正体を理解する。
『はいはい、お迎えですね。 今向かいますよっと』
見渡しても見下ろしても、自分の身体はおろか物体すら見えない。
でもあの光に向かって進めという事だけは何故か分かる。
あれはゴールだ。 銀色に光る、アタシのゴールだ。
『園子や須美、後輩達の人生も見れたし、未練も無いし』
可愛いアタシの弟の、その後も見れたし。
『化けて出る趣味も無いし。 ・・・さあ、いきますか』
足を動かすイメージ。それだけでアタシは光に近づく。
辛くも後悔も無い。欲も無い。寂しくも無い。
音も途絶えたこの中で、無い足を動かす。
勇気一つをともにして。
『、―――。――――?』
無い筈の足を、動かす。
『―――――』
動かす。
『――――――、』
うごかない。
『――――え、なに?』
足が。
「 ………ねぅ 」
記憶の彼方? いや、忘れるわけが無かった。
何度も何度もあやしたんだから。 この手で抱っこだってしたんだから。
足を掴んでる、この小さな身体を。
「ねーちゃ!」
――――、
―――何、やってんだか。 赤ん坊は誰かが見てなきゃ、駄目でしょうが。
『・・・こんな所まで、ついて来て、』
そんな目しちゃって。
下の子は、上が見てなくちゃ、
「駄目でしょうが―――!」
笑う弟。可愛いは正義。 子どもは七つまでは、神の子だ。
◇
その時の事を、鷲尾須美と乃木園子は生涯忘れなかったと伝えられている。
涙で滲む視界の中で、振り向く身体。
浮かべる、ぎこちないが天下無敵のその笑顔。
「………え~っと」
ひっこむ悲しみ。
「何て言ったらいいのか……」
握られる、二人分の拳。
「…あ! その時、不思議な事が起こった。 これだッ!!!」
「心配させるなこの、親友―――ッ!!!!」
勇者とは、どこかで誰かがそう呼ぶから勇者というらしい。
瞳を閉じても。 開いていても。
―――四国はこの勇者三ノ輪銀と!鷲尾須美と乃木園子が守る!!
ささやく風の中。
茜空が、彼女達三人を照らしていた。
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