『君の名は。その後・続編(二次小説)』~奇跡をもう一度~「絶対に瀧君を助ける!」そこに現れたのは、、、 (えー・あーる夢見)
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1話

 (「ごあいさつ」を含む、第一章)

 

 ※まだ映画をご覧になっていない方は、本編のネタバレ注意です。

 ですが、もしもこちらを先に読んで頂いたとしても、何度も映画を観たくなるストーリーにしあげました。m(_ _)m

 

 

運命の再会を果たした瀧君と三葉。それから、、、

 

 この二次創作小説は、読者様がドップリと、思い入れにはまり、場面やBGMを心に思い描きながら、「三次脳内創作(映画)小説」として読んで頂きたいと思い、所々に、場面の説明や、情景解説を入れました。

 

 なので、本当に映画を観ている様な気分で楽しんで頂ければ幸いです。

 

 もしも、読者様の想いと相違がありましたら申し訳ございません。

 その時は、皆様が希望される夢を描き入れてお楽しみ頂下さいませ。

 

 『君の名は。』ファンの一人として、何よりも、この素晴らしい原作ストーリーと映画の存在に感謝致します、、。

 それでは、スタートです。

 

、、、真っ暗な画面に、瀧と三葉の声だけが、揃えて聞こえてきます。

 

 

 「ありがとう!、、君の名前は、、、」

 

 そんな言葉だけが響くシーンから始まります。(なぜ?またここで「君の名は。」に通じる言葉が?

このシーン、ちょっとだけ、心の片隅に留めておいて下さいね)

 

 ここから、最初のBGMはもちろん『夢灯籠』が流れます。曲の間は、2人の入れ替わりが始まってから、巡り会うまでの映画の名場面が走馬燈の様に流れて行きます。 2人が、 「君の、名前は、、」と声をかけ合ったラストシーンで場面はストップ。

 

、、「1年後」の文字、、

 

 

森の中にたたずむ小さな白いチャペル、萌える緑の間から差し込む日差しが、天使達の放つ矢のように真っ直ぐに、何本も降り注いでいる。中ではそう、瀧と三葉の結婚式が静かに執り行われている。

 

 三葉は、長い髪を結い上げながらアップにまとめて、髪の表面に、薄い水色に光るビーズを散りばめて、まとめた髪を下から支える様に、白い絹で出来た花をあしらっている。

 

 肩を出したタイプのオフホワイトのロングドレスは、短めのヴェールの下から、後ろへと、2メートル程長く引きずるスカートが見える。「後ろに長く引きずるドレス」は、三葉の憧れであった。

 その表面に、キラキラと銀色に輝くストーンが美しく扇状に広がり、豪華なラインをより引き立てている。

 

 ヴァージンロードを歩いている姿は、まるで、光り輝く水の中を、銀色の人魚が、ゆっくりと長い尾ヒレを揺らしながら前に進んでいるかのような、美しい光景を魅せていた。

 

 ただ、見た目に美しいだけではなく、今、この瞬間を、心から嬉しく感じ、喜びに溢れている三葉がまとう、幸せと感謝のオーラが、その場にいる人全ての眼に、そんな溜め息の出る空気を感じさせていた。

 

 そんな「景色」を背後に、緊張しながら、父親と腕を組み、近づいて来る三葉を待つ瀧は、シルバーを貴重にしたタキシード。 細身の長身に似合っている。 

 リハーサルの時には  「やっぱり瀧君って、カッコええわ~!イケメンモデルみたいやわ。」と、三葉が騒ぐのが恥ずかしかった、、。

 

 あの、彗星が落ちた日から再会まで、8年も経っているのに、三葉は瀧のことをいつも「瀧君」と呼ぶ。

まわりに人がいる時は瀧自身、「高校生のカップルじゃあるまいし、、」と恥ずかしく思う事もあるのだが、本当のところ、年上の三葉に甘えられている気分もあって、少し嬉しかったりもしている瀧。

 

 でも、そんな風に思っている事は誰にも言ってない。

 

来賓席には、瀧の父親、そして数年前に、一葉お婆ちゃんが亡くなってからは、父親と暮らしている四葉も出席。もちろん、一足先に結婚したテッシーとサヤちんも祝福している。

 

 神父さんが、「それでは、指輪の交換を。」

と言い、指輪の乗ったリングピローが運ばれて来る。

 

 「あれ?」

瀧が、リングの横に2つ並べられた光る物に気が付く。

 

 金と銀の紐で造られた組紐で出来た「ブレスレット」だった。

 

 「今度はずっと、同じ時間の中で持っていたくて、作ったんよ。」

 

 三葉が瀧を見上げながら、顔を寄せて小さな声で囁く。瞳に涙を浮かべながら、でもその顔は、心からの幸せな微笑みで満たされていた。

 

 指輪を交換して、組紐のブレスレットも付け合って、誓いの口づけをする2人、、。

 

 教会の外で花びらのシャワーを浴びながら、祝福の鐘の音と共に、2人の幸せそうな場面がシャッターを押された様に留まり、、、

 (さらに1年後)

 

 チェストの上に飾られた写真立てに、幸せな2人の結婚写真が飾られている。

 それを祝福しているかのように、その隣の写真立ての中では、一葉お婆ちゃんが笑っている。

 

、、あれからもうすぐ1年が経とうとしていた。

 驚いたのは、以外にも?!三葉の父親が、2人の結婚を喜び、孫の誕生を心待ちにしていることだ。

 まだそのニュースはプレゼント出来ていないままだが、、、

 

 「おはよう」

毎朝のリズム。三葉に声をかけた後、真っ先に、トイレと洗面所に向かう瀧に、キッチンから三葉が明るく返事をする。

 「おはよう、瀧君」

もう何回も聞いているのに、朝から心地よく、幸せな気持ちにさせてくれる声だ、と、瀧は思った。

 

 「またお父さんからのメールの最後に、『孫はまだか?』やて!全くデリカシーが無くていやや~」 顔をしかめる三葉を面白そうに見て、瀧は、

 「とにかく、俺たちの事を、お父さんが喜んでくれているのは、ありがたいじゃないか、ケータイまで新しくして、三葉の事を心配してくれているし。」

 

 テレビのニュース番組をつけながら、瀧が朝食のテーブルに着く。

 

 「しかも、いつでも孫の顔が、テレビ電話で見られるようにって、お店の人に、画面の質の高い機種なんてお願いしとるんよ。

 私の事を心配してるっていうより、逆にプレッシャーかけすぎやわ。」

 三葉がグチをこぼしながら、出来上がったハムエッグを運んで来た時に、テレビから聞こえて来たニュースに、瀧が注目した。

 



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第二章
2話


 

 「今、ニュースでやってるこの村って、今度、うちが開発する山林の近くだ。

、、最近地震が頻発しているのか、、。」

 

 瀧が心配そうに見ていた。

 

 「そう言えば瀧君、近いうちに現地調査に行く予定なんやろ?瀧君が行く所に、地震が来なきゃええけど、、」

 

 三葉も心配そうに言いながら、焼き上がったトーストを持ってテーブルに運んできた。

 

 朝食に、、ハムエッグとトーストをメインに、コーヒー、紅茶を出すのも、三葉の描いていた 「憧れの東京生活」 の中の一つであった。 別に、瀧は、三葉の作る味噌汁が好きだったし、ご飯と焼き魚でもかまわなかったのだが、、、。

 

 「あっ!、、」

座ろうと、倚子を引いた時に、三葉がふらついた。

 「だ、大丈夫か?」

瀧が素早く立ち上がり、後ろに倒れそうになった三葉の腕をつかんだ。

 

 「あ、ありがとう瀧君。何だか最近、調子が悪い時があるんよ。」 

 

 「遅くまで、仕事の書類とか、家に持って来てまでやってるだろ?ちょっと頑張りすぎじゃないか?一度、診て貰ったら?会社の健診も受けてなかっただろ。」

 

 「うん、そうやね。ちょうど今日は、この前の休日出勤の振替やし、お医者さん行ってみる。」

 「そうだね。気をつけて。あ、後で連絡して。」 

 

 そう言って、三葉を心配する瀧。 時計を見て

 「あ、もうこんな時間!」

慌てて朝食を済ませ、バタバタと支度をする。

玄関まで瀧を見送る三葉。

 

 「行ってらっしゃい。早く帰って来てね。」

 「うん、三葉も、お医者さんに行く時、倒れたりしないように無理すんなよ。」

 

 瀧が出かけた後、キッチンに戻り、三葉がテーブルを片付け終わる頃、いつも瀧が、会社に持って行く鞄を置く、キッチンカウンターの下に、封筒が置いてある事に気が付いた。 「瀧君、忘れ物しとる。」

 

 三葉は、すぐに瀧のケータイに連絡をした。

 「もう戻ってる暇が無いんだ。悪いけど三葉、届けてくれる?昼までで良いんだ。午後に使う書類だから。」

 

 三葉は、医者に行く前に、瀧の勤める会社まで、足を伸ばす事になった。

 「やれやれ、、」とも思ったが、前にも一度、似たような件で会社に行った時、

 「立花さんの奥様」

と、呼ばれた事がちょっと嬉しかった事を思い出した。

 

 瀧の勤務先は、大企業、、と言った感じではないが、中規模なビルの中にあるため、1階のロビーで登録が必要だった。

 

三葉が自分の名前や、瀧の部署について受け付けに話し、瀧がロビーに降りて来るのを待つ事になった。

すると、

 

 「宮水、、さん?」

と、横から確認するように声をかけられた。

三葉がそっちを見ると、そこには、すぐには思い出せないが、どこか懐かしさを帯びていて、確実に会った記憶が感じられる、、、

そんな、同い年くらいの男性が立っていた。 

 

 「宮水さん、だよね?糸守の小学校で一緒だった。あ、俺、『初見(はつみ)』同じクラスの、、」 「あー!思い出したわ!!」

 

 三葉は大きく目を開いて、初見を指差した。

 「初見君、、やろ?!懐かしいわぁ。小学校以来やね?こんな所で会うなんて。元気にしとったん?」

 

とりわけ、仲が良かった訳ではないが、田舎の少人数の小学校だったこともあり、記憶に残っていた。

 

 「初見君、もしかして、ここでお仕事しとるん?」

 「いゃ、今日は用事があって。今ね、俺、地質とか、地震とかのデータ研究や調査の仕事をやってて、土地開発をしている会社の依頼も受けたりしてるんだ。それで、今日はこの中の会社に、、。

 「凄い!初見君。確か、あの頃から、理科と、理科の実験が得意やったよね?授業でよく手を挙げとったの、覚えとるよ。」 「ははは、、得意ってワケじゃないよ。ただ好きなだけ。 宮水は、なんでここに?」

 

 「あ、そのね、、しゅ、主人が忘れ物して、届けに、、。会社、このビルの中やから、、」

 瀧の事を誰かに『主人』と言って話すのは、いつも少し緊張してしまう。

大抵は友達にも、未だに『瀧君』と言っていて、時々、瀧から注意される。

緊張しながらも、『主人』と言える事に、心の奥で幸せを感じているのも事実であった。

 

 そんな会話の途中で、エレベーターから瀧が降りて来た。

 

 「おー、ありがとう三葉。 ごめんな、わざわざ、、」

 と、書類を受け取り、三葉の隣に立っている初見をふと見上げ、、

 「あれ?初見さん!もういらしてたんですか?」 「ええ、少し早く着いちゃって、、でもお陰で、懐かしい友達と再会したよ。」

 

 瀧が、隣にいる三葉を見て、

 「懐かしい友達、、って、三葉の事ですか?エッ、本当?」

 

 「うん、初見君とは小学校の同級生でな、同じクラスだった事もあったんよ。、、私もビックリしたわ。」

 「まさか宮水、、いや、三葉さんが、立花さんの奥様だったなんて、、」

 三葉は「ふふっ」と微笑んだ。

 

 「初見君の方こそ、瀧君の仕事先でお世話になっとる人やったなんて、すっごい偶然やね!」

 すかさず、瀧が小声で、

 「三葉!人前で『瀧君』はよせって!!」

 「あ、ごめん」

 「、、、すみません初見さん。三葉と知り合いなら、今度は、うちに飯でもいらして下さい。」 「はい、ぜひそうさせて頂きます。」

 

 瀧と初見と別れて、病院へ向かう三葉。

 何だか嬉しい気持ちになり、今朝の気分の悪さも忘れていた



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第三章
3話


 

 大学病院の内科。

いったん検査の結果待ちになった三葉。

 診察室から出る時に、閉まる引き戸に、左手の指先を、少し挟んでしまった。

 「痛っ!、、全く、我ながらドジ!」

、、そう自分に呆れて、左手の指先をさすりながら、すぐ近くのイスに腰を下ろした。

 

 さすっていた左手の手のひらに目が行った時、三葉は、瀧と再会後に、もう一度、あの場所へ行った時の事を思い出した。

 

 

 付き合って半年ほど経ったある日、瀧から

 「もう一度、糸守に行かないか?」

と言われ、小旅行を計画した2人。

 

 あの二つになった隕石湖に向かい、歩いている、、 紅葉と緑と青空の、美しい景色はそのままだ。

 とても、この近くで、村を一つ飲み込む程の隕石が落下したとは思えない。

 瀧が、木漏れ日に手をかざしながら言った。

 

 「時々さ、『あ、この景色とこの感じ、夢で見たかも、、』なんて思う事、あるだろ?

 三葉と付き合ってからは、余計に、三葉が話してくれる宮水の家での事とか、友達の話とか、、まるで自分が体験したみたいに、うなづける事があるんだ。

 少しだけど、入れ替わっていた時の事を思い出せる様になってからは、その感覚が、益々ハッキリしてきた。

 やっぱりあの奇跡は、ただの夢なんかじゃなくて、本当に起こった出来事だと思う、、。」

 

 そして、この美しい、動く日本画の様な景色を見渡して、

 

 「三葉のお婆ちゃんをおぶって、四葉と宮水の御神体まで行った時は、俺が三葉と入れ替わっていたんだ。

 お婆ちゃんの話を聞きながら歩いたお陰で俺は、あの場所を知る事が出来たし、三葉を助けたいって思った時に、あそこが奇跡を起こす特別な場所だって、思えたんだ。」

 

 「不思議やね、『思い』って。

 私ね、いつも思うんやけど、、例えば、音楽って、『空気に色をつける絵の具』みたいなもんやなぁ、、って。

 

 仕事をしてても、遊んでいても、そこに音楽がかかっているだけで、楽しさが倍になったり、逆に、悲しみも増したり、、

その場の空気が、キラキラ輝く好きな色に感じたり、幸せな、柔らかいピンク色に見えたり、透き通るブルーに見えたり、、

そんな『音楽に絵の具の力を持たせる』のも、一人一人の『思い』なんやろなぁー。」

 

 そんな話をする三葉の横顔を見つめる瀧。

 

 「私が、大人になって、初めて東京に出てきた時にね、眩しい街の景色が、懐かしく思えたんよ。瀧君になって、東京で過ごした時のワクワク感がね、その時に街で聴いた音楽を聴くと、たとえ違う場所でも、蘇るんよ!」

 

 瀧は、三葉の、こんな風に、おおらかに、ふんわりと自由に物を捉える考え方が好きだった。

 

 情報まみれのウルサイ都会ではなく、自然に囲まれた環境で育ったせいなのか?

 

 三葉は、やたらと東京に憧れを抱き、都会を意識する所があるけれど、東京にドップリ浸かったタイプの女の子でなくて良かった、、とつくづく感じていた。

 

 

 2人で、思い出せる限りの、入れ替わっていた時の話をしながら歩いた。

 「体を触ったか?否か?」

『口噛み酒』の意味を知っていたのか?等々、、

 時に、三葉がプリプリと怒ったり、顔を真っ赤にして恥ずかしがるのを、瀧がからかったりしながら、、。

 

 空には、真昼の月が、顔を出していた。

 

 「見て三葉、月がもう出てるよ。 三日月だね。

 三葉、覚えてる? 入れ替わっていた時の、学校のノートに、お前がメモした三日月の話、、。」

 

 「三日月?なんやろ、、あ!また私、何か変な事を?!」

 

 「ううん、違うよ。あのね、 『満月よりも、私は欠けた三日月が好き。 だってそこには、唯一、地球の影が映って見えてるから』って書いてあった。」

 

 「あ、、確かに、そんな事を考えてた事、あったかも、、」

 三葉が、耳の脇の髪を、指でクルクルとねじるクセを出しながら、少し恥ずかしそうに思い出していた。

 

 「あのメモだけは、なぜか忘れずに、心に残っていたんだ。

 なんで、地球の影が映って見えてるから好きなのか? その理由は書いて無かったから、三葉の感じ方とは違っているかもしれないけど、、

 

 俺は、その一文に『地球の大きさ』を感じた。 逆に、人間の小ささも感じたから、それ以来、小さな事で悩みそうになった時には、『くよくよするな!大きな地球で!』って自分を元気づけて来た、、。」

 

 「良かった。私のメモが、瀧君の役に立ってたんやね。」

 

 三葉が瀧の手を握り、2人は手を繋いで歩き続けた。

 その感触に、瀧は三葉の存在の大切さを、改めて感じていた。

 

 2人の前に、あの二つの隕石湖が現れた。

 

 あれから数年が経ち、一部は、かなり近くまで行ける程、整備されていたが、まだまだ災害の大きさを感じさせた。

 

 しばらく、その景色をボー然と見つめる瀧と三葉、、。

 



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第四章
4話


 

 「、、私、瀧君のお陰で、ここで新しい人生をもらえたんよ。、、テッシーやさよちん、沢山の町のみんなも。」

 三葉は、瀧の手を、更に強く握り、

 「ありがとう」と、改めて言った。

 

 「あの場所へ行こう。僕らが初めて、同じ時間の、たそがれ時の中で会えた場所へ。」

 

 、、、更に歩き、あの、御神体を囲む、お盆状の丘の上に来た。

 

 空はもう、三日月をくっきりと映し出し、丘を照らすオレンジやピンクのグラデーションから、ブルー、そして少し広がりかけた濃紺へと、夕空のショーを魅せていた。

 

 ちょうど、あの時と同じ、たそがれ時の光が、2人を包んだ、、、

 

 (※ここからは、もちろん、BGM『スパークル』が流れます。)

 

 「ここが最後だった、、。

 ここから、三葉の事が、記憶の奥にしまい込まれて、名前も思い出せないのに、どうしても忘れられない誰かへの想いが始まったんだ、、。」

 

 「うん、、」

 三葉も、皆を助けようと奮闘していた中で、瀧の名前を思い出せなくなった時の悲しみが、再びこみ上げてきて、涙が浮かんできた。

 

 「今度こそ、ちゃんと手に名前を書こうよ。」

 そう言って、瀧がポケットから、そーっと、ペンを出した。

 

 「三葉、手を出して。」

 

 三葉は、左の手のひらを差し出した。 

 「あ、目をつむっててくれる?、、なんか、緊張するからさ。」 

 

 三葉は、クスリと笑い、目を閉じる。 瀧が走らせるペンの先が、くすぐったかった。

 

 「はい、次は三葉が書いて。」

 

 三葉が、書かれた文字を見るより前に、瀧が三葉の手のひらを丸めてしまった。

 そして、三葉の右手にペンを渡す。

 よく見ると、ペンの蓋のフックの部分に、光る物が付いている。

 

 「何?、、」 

 

 瀧が書いた文字を見る事無く、左手で、ペンからそれを取る三葉。

 

 それは、銀色に輝くリングだった。

 

 、、、リングの真ん中には、小さなブルーダイヤ、その横に、段々と大きさが小さくなって行くデザインで、クリアーなプチダイヤが並んで3個、埋め込まれていた。

 「キレイ!!彗星みたい!」

 

 親指と人差し指で、リングをつまんで、空に透かして見るように眺めていた三葉、、、ハッと気付き、さっき瀧が書いた文字を見ようと、リングをつまんでいる左手の、丸めていた小指、、薬指、、中指、、と、順番にゆっくりと開いていった。

 

 ~結婚しよう~

 

 そこには小さな文字で、プロポーズの言葉が書かれていた。

 

 ちょうど、開いた3本の指の根元に、丸めた時の指に隠れる様な場所に。

 小さく書いていたせいで、三葉には書かれている時に、その文字が読み取れていなかった。

 

 「瀧君、、」

 

 文字を読んだ三葉は、言葉を失った。涙が止めどなく溢れて来た。

 瀧が三葉の手からリングを取り、左手の薬指にはめ直した。

 

 「ここで、三葉にプロポーズしたかったんだ。

 三葉、、俺と結婚してくれないか?」

 

 改めて、瀧の口からその言葉を聞いた三葉は、ただ、嬉しさと感激で、泣きながら、両手で口元を抑えて、瀧を見つめていた。

そして、左手の文字をもう一度見て、、

 

 「もう、瀧君、これじゃあ又、名前覚えておけないわ。」と、涙を流しながらも微笑んで、リングを取った時に、ポケットに入れたペンを、もう一度取り出した。 

 

 「瀧君も手を出して。」

 

 今度は瀧の右手の手のひらに、三葉が書き始めた。

 

 ~はい~

 

 書き終えると、瀧の反対の手に、ペンを返した。

 

 瀧は、ペンをポケットにしまいながら、三葉が書いた文字を見た。

 瀧の瞳にも、涙が浮かんできた。

 

 「よ、、よろしくお願いします。」

 

 三葉は、少し照れながら、ぺこりと頭を下げた。

 

 「これじゃあ、俺だって、名前覚えられないじゃん、、」

 

 三葉を見つめる瀧、

 

 「もう離さない、三葉。」

 「、、瀧君、、」

 

 ちょうど、たそがれ時が終わろうとしていた。

 その移り行く、静かな光と空気に包まれながら、いつまでも2人は固く抱きしめ合っていた、、。

 

 愛しく、美しい光景と共に『スパークル』のエンド部分が流れて行きます。

 

 



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第五章
5話


 「立花三葉さーん。」

 

 看護師の呼ぶ声に、ハッと我に返った三葉。

 その胸元には、あの『彗星のリング』にチェーンを通したペンダントが光っていた、、。

 

 「目まいの原因は、疲れとストレス。、、あと、もしかしたら、、妊娠されている可能性がありますね。」

、、、1週間後に再度、この病院の産婦人科へ行く事になった三葉。

 

 薬局で待っている間、跳び上がりたい気持ちだった。

 すぐに瀧に伝えようと思っていたが、思いとどまった。

 

 「1週間後の検査の結果を待とう。 もしも、違っていたら?、、」

 会いたい存在に会えなくなってしまう悲しさ、、三葉の心に、そんな想いが横切った。 

 

 「、、今日の結果は、疲れからのストレスだった。 と、瀧君には言っておこう。」

 自分に言い聞かせる。更に、、

 「あ、でも確か、来週は、瀧君が出張やわ。

 もしも、嬉しいニュースだったとしても、直接、合って話せないんやね。、、、まぁええやろ、ケータイのテレビ電話でも。

 瀧君、嬉しくて、きっと飛んで帰って来るやさ、、。」

 

 そんな風に考えながら、何よりも自分が一番、ドキドキしながら1週間を過ごす三葉だった。

 

 「もう少し、長めの上着も、持った方がええんちゃう?」

 春だと言うのに、気温の変化が激しく、肌寒い日もある4月だった。

 瀧の出張の準備を手伝う三葉。

 手伝う、、とは言っても、瀧は、独り暮らしで自分の事をするのは慣れているので、三葉が横で、お節介をやいている様なものだ。

 

 「そうだね。前日に立ち寄る取引先が用意してくれたホテルは、山の中だから寒いみたいだし。

 しかも、そのホテルは、調査現場からは車で2時間くらいかかる所なんだって。もう少し近い所に、ホテルを取ってくれたら良かったんだけど。」

 

 「ここから新幹線と車で、直接行くだけの仕事やったら、日帰りでも帰って来れたのになぁ。」

 ちょっと不服げな三葉。

 

 「まだ周りも、建設中の山道が多くて、完全に舗装されていない道を避けて、遠回りしないとならない場所も、何カ所かあるらしい。」

 

 「お料理の美味しいホテ

ルだとええね。山の幸!」

 

 「おい、旅行じゃないんだから。

、、でも、何か名物とかあったら買ってくるよ。お土産、どんなのが良い?」

 

 「お菓子がええな。一個ずつ包装されてるの。その方が長く楽しめるやろ。」

 

 三葉は、お土産のお菓子を食べながら、嬉しいニュースを喜んで興奮する瀧の顔を想像した。

 

 「、、どうか、良い結果が出ますように。、、」

 

 「え?何か言った?」

 「別になんも。無事に帰って来てね。」

 

 「最近は、地震も収まっている様だし、現場には初見さんも合流する予定だから心配ないよ。留守は気をつけてね。」

、、、翌朝、早くに瀧は出かけた。

 

 瀧を送り出したあと、三葉は、結婚写真の隣に置いてある写真立ての中の、一葉お婆ちゃんに手を合わせた。

 「瀧君に、赤ちゃんの報告が出来ます様に。」

 そう願って、病院へと急いだ。

 

 

 

 今度は大学病院の『産婦人科』の前にいる三葉。

 お腹の大きな妊婦さんと一緒に座っているリアリティーが、ドキドキする気持ちをあおった。

 

 「私も、仲間になれるんやろか、、」

 

 、、、「立花さん、おめでとうございます! 5週目です。」

 

 5週目、、がどれ程の事なのか?まだ専門用語にはピンと来なかった三葉。 

 だが、「おめでとうございます。」と言われた事に、目の前がパーッと明るくなるのを感じた。

 

出産までに必要な書類や、説明を受け、産婦人科を後にする三葉。

 早速、予定通り、すぐに瀧に報告しようと思ったが、また考えた。

 

 「瀧君に報告するのは、明日、仕事が終わって、こっちへ向かっている帰りの時間帯にしよう。

 浮かれた気分で、走り慣れない山道の運転とか、危ないやろうし、お楽しみは、後に持って行った方がええよね、、。」

 

 こんな時は、瀧より3歳、年上で、2人姉妹の長女でもある三葉の、しっかりした部分が見える。

 

 「明日の夕方から夜なら、瀧君も、帰りの新幹線に乗ってる頃やろね。」

 

 三葉は、帰り道、「ふふふっ」とニヤケてしまう自分の顔を、普通に保ちながら歩いていた。

 



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第六章
6話


 

 翌日の夕食後、、

 

 「何て言いだせばええんかな? ズバリ!言っちゃう? もったいぶる? 

クイズにして、当ててもらう?」

 、、そんな独り言を楽しみながら、ケータイを持つ三葉。

 

 

 すると、突然、、

 かけるつもりのケータイに、見覚えの無い番号で、着信音が鳴った。

 

 三葉は、とりあえず、自分の名前は出さないで、電話に出てみた。

 

 「はい?」

 

 「あ、立花三葉さん、、

 瀧さんの奥様の電話でしょうか?」

 

 聞き慣れない男性の声。

 

 「はい、立花の妻ですが。」

 「急にお電話して、失礼します。

 、、私、瀧さんと同じ課で仕事をしている杉田です。」

 

 いつか、瀧君から聞いた事のある名前だ。怪しい電話ではなさそうだ。

 

 「、、確認なんですが、瀧さんは、昨日から出張に出られてますよね?

 それから、今日は現場のある山の方に行かれる予定だった事は、奥様はご存知だったでしょうか?」

 

、、行かれる予定『だった』、、と言う言い方に、

不安がよぎった。

 

 杉田は続けた。

 

 「今日、現地で合流する予定の、他の社の者から連絡がありまして、、

 瀧さんが、時間になっても見えない、、との事なので、、」

 

 「、、そんなはずは、、家で準備をしている時に、現場周辺の事や、合流する相手の方のお名前とか、話していたし、、」

 

 「、、どうか、落ち着いて聞いて下さい。

 まだニュースには出ていませんが、実は、現場の近くで、トンネルの天井が崩れ落ちる事故があったそうなんです。

 現地で、今日、地震があって、どうやら、瀧さんも、それに巻き込まれた可能性が高いんです。」

 

 「うそっ?!」

 その先の言葉が出なかった。

 

 「まだ詳しい情報が入らないので、こちらも必死で連絡を取っています。

 滞在していたホテルに問い合わせたら、瀧さんがホテルを出た時間が分かりまして、そこから瀧さんが通りそうなルートをたどると、ちょうど、地震が起こった時間の辺りで、トンネルを通っていたのではないか、、と、、。

 他にも数台が巻き込まれたらしく、 今は、警察や消防隊が、ガレキの除去と、人名救助に必死なんですが、、」

 

 「主人に連絡は取れないんですか?!」

 

 焦る三葉。

 

 「何度も瀧さんのケータイに電話をかけたら、ホテルのフロント係が出まして、瀧さん、いつ頃、何処でかわかりませんが、ホテル内で、ケータイを落としていたみたいなんです。

 どなたかが、フロントに届けてくれた時には、もう出た後で。」

 

 「そんな、、じゃあ、どうすれば、、?」

 

 不安に震え始めた三葉。

 

 「これから、うちの社の者が、奥様を現地へお連れしますので、 とにかく準備をしておいて下さい。

まだ希望はあります。

どうか、お気を確かに、、。」

 

 電話が切れた、、。

 

 最も幸せな話をするはずの電話が、最も自分を不安にさせる電話となった、、、。

 

 ただシーンと、沈黙が続いた。

三葉の頬を、涙が伝い落ちる、、。

 

 「いや、、、いややあぁぁ、、!!」

 

ケータイを落とし、両手で顔を覆い、泣きじゃくる三葉。

 準備どころではない。

 

 その場にうずくまり、膝に乗せた両腕に、顔をうつ伏せて泣き続けた。

 

 、、まだ希望はある。きっと大丈夫、、

 そんな風に気持ちを奮い起こそうにも、あまりの不安の大きさと重圧に負けてしまう。

 悪い事ばかりが、頭の中を駆け巡って、言葉が溢れ出す、、。

 

 「なんで?!なんでやの?! こんなんウソや! 夢や! 悪い夢や!

 

 イヤや! 絶対にイヤや! 瀧君が死んじゃうなんて! いなくなっちゃうなんて!会えなくなっちゃうなんて!

 イヤや! イヤや! 絶対にイヤや!!

 

、、まだまだやってない事が、いっぱいあるんよ。

 話してない事が、いっぱいあるんよ。

 

 瀧君がいなくちゃ、いてくれなくちゃ、生きる意味が無いんよ!

 

 どうして?せっかくまた会えたのに、、

 

 今すぐ、ここに来て!

 抱き締めて! 

 私だって、抱き締めたいんよ!、、

 

 これからも、ずっと一緒にいようって、約束したやない、、、

 

 瀧君、私ね、一番話したい事があるんよ。

 私のお腹にね、、、。」

 

 そのまま、三葉は、その場に倒れ込んでしまった。

 

 「神様、、お願い。

どうかもう一度、時間を戻して、、瀧君が事故にあう前に、、」

 

薄れていく意識の中で、三葉は自然と、こんな願いを心に思い浮かべてかいた、、。

 



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第七章
7話


 

 ピンポーン、ピンポーン

 

 インターホンの音で、目を覚ました三葉。

 泣き腫らした目である事は、鏡を見なくても分かった。

 

 モニターを確認した。

 

 「三葉さん!大丈夫ですが?! 初見です!

 聞いて下さい。瀧さんが大変なんです!」

 

 ついさっき聞いた話、、あの悲しみ、、あれは夢なのか?

 それとも、今が夢なのか?まだハッキリしないまま、三葉は、聞き返した。

 

 「は、初見君?どうしたの?」

 

 「すぐに出かける用意を!理由は後で説明します! 

 早く!瀧さんを助けないと!!」

 

 「瀧を助ける、、」

その言葉に、 すぐにケータイの日付を見た三葉。

 

「まだ朝?!、あの電話を受けた日の?!

 じゃあ、あの話は夢?、、」

 

 「分かった。上がって来て!」

 

 三葉は、マンションの入り口のロックを解除した。

 すぐに顔を洗い、髪を縛り直した。

 最低限の荷物をバッグに押し込んだ所に、初見が来た。

 

 ドアを開けて、一瞬戸惑った様子の初見を、中に案内したが、

 

 「いや、ここで話すよ。

 今日、瀧さんと合流して仕事をする予定の地域で、かなりの確率で、地震の予兆が出てるんだ。

 瀧さんに電話しても繋がらなくて、会社はまだ始まっていないし、、

 でも、今すぐに、始発の新幹線に乗れば、瀧さんに危険を伝える事が出来るかもしれない。

 すぐに出よう!」

 

 三葉は、まだ、どこまでが夢で、どこが現実で、、なぜ初見が自分を連れに、、 など、疑問も浮かばないワケではなかった。

 

 でも、とにかく夢中で初見と駅へ向かった。

 

 

 「飛び込みで、座席が取れて良かった。

 急に連れ出してごめん。三葉さん、大丈夫?」

 

 ドタバタと始発の新幹線に乗り込み、ようやく席に落ち着いた三葉。

 初見が用意してくれた飲み物で、いくらか気分も落ち着いた。

 

 「パンも買ったんだけど、食べる?」

 

 「ありがとう。、、後でにするね。」

 

 夕べの出来事が夢だったとすると、じゃあ、瀧君は生きてるの?!

 予知夢、、みたいな物やったの?あれが、、?!

 

 でも、今、初見君と一緒に瀧君を助けに向かっている。もう夢かどうかなんてどうでもいい。

とにかく私は、必ず瀧君を助ける!!

 

 三葉は、心を立て直した。

 

 何度も瀧に電話をするが、不在案内の音声と、メッセージ録音の応答ばかり。

それでも、何回も、危険を知らせるメッセージを残した。

 

 「会社からも、瀧さんに連絡してもらったけど、やっぱり応答無し、、だって。」

 

 「きっと、もうホテルを出て、車に乗っているんよ。山の中の運転中は、電波が届かない事があるって、瀧君、言うとったもん。 でも、こんなに長い時間、通じないなんて。」

 

 過ぎて行く時間が遅く感じられた。1秒でも早く!、、気持ちは高まるばかり。

通話可能エリアから戻った初見。

 

 「駅に着いたら、すぐにレンタカーを借りられる様に、手配しておいたよ。

場所は、僕は何度か行ってるから、分かるよ。

 瀧さんのホテルから、現場までは、2時間くらいかかる、、って言ってたんだよね?

 この始発と、駅からの山道のルートで、車で追いかければ、瀧さんにきっと追い着くから、三葉さんは、少し休んで。」

 

 「ありがとう、何から何まで、、。

 初見君の口から『三葉さん』なんて、何だか変な感じ。今まで通り『宮水』でええんよ。」

 

 「あ、そうだね。瀧さんの事を考えたら、三葉さん、、になってた。

 じゃあ、僕は、、、『りん』で。 下の名前でいいよ。 周りからも、下で呼ばれる事の方が多いし、、。」

 

 三葉はやっと、少しだけ気持ちが緩んだ。

 

 仕事の書類だろうか?

隣でレポートの様な物を書き続けている初見を横目に、着ていた上着をブランケット代わりに掛けて

、眠りに着いた。

 



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第八章
8話


 「三葉さん、、宮水、、そろそろ着くよ。準備して。」

 

 初見に声をかけられ、三葉は目を覚ました。

 

 「はい、これ、上着。 寝ている時に、何度か落としてたよ。」

 

 「あ、ありがとう。 お陰で、気分が良くなった。」

 

、、、新幹線を降りてすぐに、予約しておいたレンタカーに乗り込み、山道を急ぐ。

 

 「この調子で走れば、きっと間に合う!」

 

 「うん!」

 

 願いを込めたうなずきだった。

 

 それからは、ただ、ただ、瀧の車に追い着く事を信じながら、車内は自然と、緊迫した空気が漂っていた。

 

 終始、無言でいた2人だったが、初見が話し出した。

 

 「僕ね、父親と会った事がないんだ。 自分がまだ産まれる前に、事故で亡くした、、。

 瀧さんと、宮水も、子供が生まれたら、父親、母親になるだろ?

 その時に、最愛の人を失った悲しみと、父親と会う事が出来なかった、子供の寂しさを、三葉さんには味わって欲しくない!って思った。」

 

 「りん君、、そんな事があったんやね。だから、、」

 、、一瞬、なぜ、初見が妊娠に気付いたのか?

不思議に思ったが、彼の真剣さに、特に気にしなかった。

 

 「絶対に、、助ける、、」

初見が呟く。

 

 かなり急ぎ気味だった車のスピードが落ちた。

 

 丁字路にぶつかり、いったん止まった。

 右折方向には、立ち入り禁止のコーンが置いてあった。

 

 「思い出した!ここはまだ、左側へ廻る道路だけしか開通していないんだよ。

 

 でも確か、この右の道と、最終的には合流していて、開通後は、こっちの方が現場へ行くのには近道になるって聞いた。

 後は整備とか登録とかを残しているだけで、実際には、もう走れるらしい。

 こっちから行こう!」

 

 コーンを避けて、初見は、急いでエンジンをかけた。シートベルトを、キツく付け直した。

 

 少し走った所に、緊急時の停車用のスペースと、緊急用の公衆電話が設置してある場所があった。

 

 

 

 

 初見は、再び車を止めた。

 

 「三葉さんは、ここで降りて!」

 

 「え?!なんでやの?」

 

 「ここから合流地点まで、あと少し、時間的にも、きっと先回りが出来る。

 でも、かなりスピードを出す事になると思う。

 必ず連絡するから、ここで待ってて。」

 

 「でも、、そんな」

 

三葉は、初見の言う事が、直ぐには飲み込めず、聞き返したが、、

 

 「いいから!早く降りて!!」

 

 と、これまで見たことが無かった初見の強ばった表情に驚き、荷物を持って車を降りた。

 

 「無茶しないでね。」

 

 「必ず瀧さんを助けるから、、、

 僕の事は、心配しないで。」

 

 初見は、すぐに車を走らせた。

 

 三葉は、何か、とてもイヤな予感がして、その場で待っている気持ちになどなれず、初見の指示を無視して、車が行った方向に走り始めた。

 

 初見が、無茶な事を考えているのでは?、、と、

三葉の足も、自然と速くなって行く。

 

 一方、初見は、瀧が通過するであろう、合流地点を目前に、なお、スピードを上げた。

 

 「よし、、瀧さんよりも、先回り出来たはず、、」

 

合流地点は過ぎた。瀧が通ってくるはずの道に入り、数十メートル走った所で、、、

 

 

 

 キキーーッ!!!

 

 わざとカーブしながら急ブレーキをかけて、道路を真横にさえぎるように、車を横転させた。

 

、、その数分後、、

 

 瀧の運転する車がやってきた。

 

 「な、何?!」

 目の前で横転している車に驚き、車を止めて出て来た。

 

 「大丈夫ですか?」

 

 運転席を除き込み、更に愕然とした。

 

 「は、、初見さん?!」

 



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第九章
9話


 

 横転した車の運転手が、初見である事に驚く瀧。

 

 「早く!救急車を!!」

 ケータイを探す。

 

 「な、無い?!」

 ケータイが無い事に気付いて焦る瀧。

 

 「どこかに忘れてきたのか?!、、なんで今まで、無い事に気づかなかったんだ!!」

 悔しそうに、辺りを見回す。

 

 「とにかく、初見さんを。、、」

 

 横転した時に、シートベルトで体が固定され、助手席が下になる形だったお陰で、頭を打ったり、流血などの傷も無さそうだ。

 幸い、ガラスも、運転席側と、フロントは割れていなかった。

 

すぐに初見の身体を、車から引きずり出して、少し離れた場所に、自分の上着を敷いて寝かせた。

 息はしているが、気絶しているようで、目を開かない。

 

 「そうだ!初見さんのケータイで、、」と、探し始める瀧。

 

 すると、前方から、聞き慣れた声がする。

 

 「瀧くーん!」

 

 「み、三葉?!」

 

三葉が息を切らせながら、走って来たのだ。

 

 「三葉!なんでここに?!」

 混乱した表情で、その方向を見る瀧。

 

 三葉が泣きながら駆け寄る。

 

 「瀧君!、、」

 その先を言おうとした時、、

 

ゴゴゴゴ、、、、!!!

 

 

 と、地震が起こった!

 

 瀧は、三葉を抱き締めてしゃがんだ。

 

 地震がおさまった。

 

 三葉が瀧の腕の中で、ブルブルと震え始めた。

 

 「ま、、まに、間に合ったんや、、。」

 

 「三葉、、」

 

 「生きてる!瀧君、生きてる!!」

 

 三葉は、泣きじゃくりながら、瀧の胸に顔を埋めた。瀧は、まだ戸惑いが抜けきれない。

 

しかし、三葉はすぐに我に返った。

 

 「りん君!」

 「りん君?」

 「りん君は?!、、は、初見さんは?」

 

 三葉が、少し離れた所で瀧の上着の上に横たわる、初見を見つけて駆け寄った。

 

 「無事なの?」

 「早く、三葉のケータイを貸して!救急車を呼ぶから。」

 

 「りん君!りん君!」

必死に呼びかける三葉。 その声に、少しだけ反応して、、

 「父さん、、」と、三葉には聞こえない位に小さな声を出した初見だが、まだ気がつかない、、。

 

 三葉は、初見が自分を置いて、一人で行った時の事を思い出した。

 

 三つ葉は、初見がその時から、何らかの無茶な行動で、瀧の車を止めるつもりだったのだ、、と分かった。

 

 そして、立ち上がろうとした途端、瀧が助かった安堵と、初見の姿に対するショックとで、そのまま倒れ込んでしまった。

 

 瀧の腕に抱き止められた事と、遠くから聞こえてくる救急車のサイレンの音を、うっすらと感じながら、、、。

 

 

 真っ暗闇の中に、瀧の声だけが聞こえる、、

 

 ここは、とある病院のベッドだ。

 

 「三葉!三葉!」

 三葉の手を握り、瀧が名前を呼び続けている。

 

 、、この世に、これ程まで自分を安心させてくれる声と、温かく、大きな手があるのか、、

 

 そんな声と、手の感触を実感しながら、三葉がゆっくりと、目を開けた。

 

 「三葉! 気がついたか?」

 

、、瀧君だ!本当に、瀧君だ! 生きてる! 目の前にいる!、、、

 

 三葉は、体を起こすなり、枕元で、イスに座っていた瀧に抱きついて、

 「良かった! 良かった!」

 と、泣きながら何度も言った。

 

 

 「お、おい三葉、、そんなに泣いたら、俺の肩が、ぐちょぐちょになっちゃうよ。、、

 それに、何? 山で会ってからずっと、俺の事、『生きてて良かった』って、、?

 しかも、なんで、あんな場所に来ていたの?」

 

 瀧に話しかけられて、落ち着きを取り戻した三葉が、 瀧の目を見ながらゆっくりと話し始めた。

 

 「瀧君、信じられへんかもしらんけど、私、また、時間を超えたんだと思うんよ。 さかのぼったの。

 

 今回は、入れ替わりは無かったんやけど、昨日の夜から、もう一度、その日の朝に戻って、一日をやり直したんよ。

 、、、それで、運命が変わった、今があるんよ。」

 

 三葉はまた、涙をぬぐい始めた。

 

 瀧は、三葉の肩に手を添えて、背中をさすりながら、

 

 「、、で、変わらなかった場合の運命って、俺、死んでたんだね。

 あの地震の時に通るはずだった、あの先にあるトンネルで、、」

 

 「どうして、その事を?」

 

 「三葉がここで眠っている間に、一緒に現地で合うはずだった人から聞いたんだ。

 

 あの時の地震で、ちょうど、俺が通りかかっているはずのトンネルの真上の岩盤が崩れて、、

 直撃を受けたか、崩れたトンネルの屋根に押し潰される大事故に、巻き込まれていたそうだ。」

 瀧の表情が冷めて行く、、

 

 「、、あの手前で、初見さんの車が横転してなかったら、、今頃、、俺の後から、同じトンネルに向かった車も一緒に、、。でも、あんな無茶、、三葉が計画した事なのか?」

 

 「あ!、、りん君はどうなったの?!」

 三葉が焦って聞いた。

 

 「初見さんね、今はまだ安静で、面会は出来ないけど、でも奇跡的に、かすり傷程度で、少しずつ、気がついて来ているみたいだよ。」

 

 「良かった、、本当に良かった、、。

 りん君がね、昨日の朝早くに、うちへ来たの。

 瀧君が行く場所に、地震の予兆が出たけど、どうしても瀧君に連絡が取れないから、危険を知らせに行こう、、て、連れて行ってくれたんよ。それに、、」

 他にも、初見に世話になった話を、瀧に聞かせようとも思ったのだが、、

 

 「でも、先生の話だと、この事故の事や、三葉と一緒に来た事とか、殆ど覚えてないみたいだよ。」

 

 「え?!」、、でも確かに、、

 

 三葉は心配したが、覚えているかどうか?はともかく、とにかく無事で良かった、、と心から安心した。

 

 そして、瀧に言わなければならない事があるのを思い出した。

 

 

 「瀧君、あのね、、」

  頬が桜色に染まった。

 

 「赤ちゃん、、できたんよ。」

 

 顔を上げた三葉の瞳を、まじまじと見つめて、一瞬、ポカンとした瀧。

 

 「えっ?!」

 

 「瀧君。お父さんになるんよ!」

 

 瀧は、まだ言葉が出ずに、三葉を見つめたまま、、その目から、涙が一筋、ツーッとこぼれ落ちた。

 息をするのも忘れているかのような、沈黙から一転、、

 

 「やったぁー! 三葉、やったぁー!!」

 

 瀧は、両手の拳をグッと握り、頭を上下に何回も振り、まるで、物凄く大きなくじ引きの、大当たりでも獲得したのか、、と、思わせる程の、力のこもった喜びを、三葉に見せた。

  この病室が個室で良かった、、。

 そんな風に思う三葉を、思い切り抱き締めた。

 

 「ありがとう、三葉、俺を父親にしてくれて、、」

 瀧が三葉の耳元で言った。

 

 その感謝の伝わる温かさ、抱き締めてくれる力強さから、瀧がこのニュースを、心から喜んでくれているのだ、、と感じられて、三葉は幸せだった。

 

 「それを言うなら、私だって、、」

 

 三葉が自分を抱き締めている瀧の腕を降ろし、その手を両手で包み込む様に握った。

 

 「ありがとう。お母さんにしてくれて、、。」

 三葉の頬にも、涙が伝う。

 

 瀧の優しい声で、

 「元気な赤ちゃん、迎えようね、、。」

 

(場面は暗転する、、。

~10カ月後~ の文字が出る)

 

 、、そして、季節が移り変わり、冬の空に、寒さを打ち消す様な、元気な赤ちゃんの産声が響く、、。

 



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第十章
10話


 

 「お疲れ様、三葉、ありがとう。」

 ベッドに寝かされたまま、分娩室から病室に戻ってきた三葉。 すぐに起き上がり、出産の大変さはまるで無いみたいに見えた。

 

 瀧が、三葉の頭をポンポンと撫でながら、優しく微笑みかける。

 2人は病室で、赤ちゃんが来るのを待っている。

 

 「出産って、思っとったより、全然楽やったわ~。 スルッと出て来た感じ。 テレビドラマで見てたんと、違かったわ。」

 

 「とにかく、母子共に健康で、良かったよ。

 この病院は、父親の立ち合いをやらない方針だから、この部屋で待っている時間が長かった-。」

 

 「聞いたら、立ち合いの途中で、血を見て倒れちゃうお父さんがいるらしいんよ。それで、立ち合いをやめているんやて。

 以外と瀧君も、倒れるんちゃう?」

 三葉が笑った。 その笑顔を見て、瀧もやっと、ホッとした。

 

 

 

 「赤ちゃん、足型を取ったら、部屋に連れて来てくれるんやて。」

 

 「早く抱きたくて、たまらないよ。」

 

 「もう、聞いてるよね?元気な男の子やったよ。

 名前は、2人で赤ちゃんの顔を見てから決めよう、、って言ってたよね?

私、まだ思いついてないんよ。 瀧君に似て、優しいイケメンになって欲しいなぁ。」

 

 「三葉に似て、温かい人になって欲しいな。あ、少しとぼけた所も似ちゃったりして、、ははは。」

 

 「あー、瀧君てば!」

 2人は笑いあった。

 

 「あ、そう言えばさ、、」

 瀧が、思い出したように言った。

 

 「頼まれていた着替えなんだけど、、

 退院する時に、何か羽織れる上着って。

三葉のクローゼットを探したんだけど、上手く選べなくて、取りあえず、奥の方に掛かっているヤツなら、会社に着て行く事は無いと思って、、。これ、持って来てみたよ。」

 紙袋から、瀧が取り出した上着は、三葉が初見と、瀧を助けに行った 『あの時』 に着ていた物だった。

 瀧は、もちろん、三葉も、それを忘れていた。

 

 「それでさ、これを出した時に、内ポケットからこんな物が落ちて、、」

 瀧が、小さく畳まれた封筒を差し出した。

 

 「『三葉さんへ、、りん』って書いてあるから、、もちろん、開けたりしてないよ。、、 とにかく見てみて、、」

 

 「りん君から? 何やろ?」

 

 三葉が手紙を受け取り、開けようとした時に、病室のドアがノックされて、

 赤ちゃんが運ばれて来た!

 三葉は、手紙を無意識に枕元に置き、 「来た!!」

 と目を見開いて、ドアが開く様子を見た。

 瀧も同じ目で見ていた。

 

 看護師さんの腕に抱かれ、真っ白なおくるみに包まれて眠る赤ちゃんが、 そーっと、三葉に手渡された。

 「おめでとうございます。さあ、ママに抱っこしてもらおうね。パパも来てくれたよ、、。」

 

 『ママ』『パパ』と、初呼ばれて、感激と同時にドキドキする瀧と三葉。

 

 「、、なんて綺麗な、透き通るピンク色の肌、、いい匂い、、かわいい匂い。 かわいい感触、、」

 

 赤ちゃんの、全てが愛しい、、。そんな気持ちで、腕に抱いた我が子を、真っ直ぐに見つめる三葉。

 

 その姿が、 全く化粧をしていないにも関わらず、

 「本当に綺麗だ、、。」

 と、心の中で感動して、瀧は、見とれてしまった。

 

 「ほら、パパも、抱っこしてあげて!」

 

 瀧の腕に手渡された、小さな重み、、、。

 でも、初めて感じたズーンと響く重さ、、。

 

 そして、全てを自分に委ね、信頼しきってくれている、その寝顔に、瀧の目に涙が溢れてきた。

 

 「す、、凄い。」

 

 三葉が、瀧の涙をタオルで拭いながら、、

 

 「ほんま、、凄いやろ?

 この、たった一瞬で、 この子の為なら命をかけられる! 絶対に、幸せにしたい!!って思わせるオーラを、赤ちゃんって、持っとるんよね、、。」

 

 2人が赤ちゃんに見とれている最中、三葉のケータイが鳴った。

 この着信音は、、 三葉の父からだ!

 

 応答するなり、父は、、

 

 「三葉か?! 父さんだ! 産まれたのか?! どうなんだ? 男か?!

女か?!」 、、かなり興奮しているのが、声を聞いただけで分かった。

 

 「ほら、お父さん落ち着いて、、今、顔を見せるから、、元気な男の子やよ。」

 

 三葉がテレビ電話に切り替えて、瀧に抱かれている赤ちゃんを、アップで映した。

 こんな騒がしい中でも、スヤスヤと良く眠っている、、。

 

 父は、画面の向こうで涙ぐみながら、、

 

 「なんてしっかりとした眉毛と、キリリとした目元! 鼻筋も良い!!

 きっと、この子は、真っ直ぐに、凜とした人生を歩む立派な男になるに違いない!!」

 

 、、と、息を荒らげて言った。

 

 



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第十一章
11話


 

 「もう、お父さんたら、まだ産まれたばかりやのに、、 もう人生の歩き方なんて話して、、、

 この子の人生はこれからや。」

 

 そんな三葉の言葉を、父は聞かずに、、

 「そうだな、、この子の感じなら、、名前は、、」

 

 父が言いかけた時、すかさず、三葉がさえぎった。

 

 「あ!名前ね、決まったらすぐに連絡するから、一度切るよ。ミルクをあげる時間やし、、」

 

 そう言って、強引に電話を切った三葉。

 

 「な、何も、そんな風に切らなくても、、」

 瀧が心配そうに言うが、三葉はカラリと、、

 

 「ええの、ええの!ヘタに、お父さんが出した名前の候補なんて聞いたら、後から、 どれに決めたか?って、確認の嵐やし、、

 事あるごとに、俺が名付け親だ!!って言い続けるんよ。、、たまらんわ!」

 

 「そうか、、三葉がそこまで言うんなら、、」

 

 瀧が、赤ちゃんの顔を見ながら、ふと気づいて、、

 

 「あ、そう言えば、、名前って聞いて、思い出したんだけど、、

 三葉、初見さんの事を『りん君』って、呼んでいたよね?」

 「あー、そうやね。だって、初見君が、『りん』で良いよって、、」

 

 「それでさ、最近、会社で見た書類の中に、初見さんの名前がサインされている所があって、なんか気になってたから、改めて見てみたんだけど、、」

 

 「何?」

 

 「初見さん、、『救(たすく)』って言う名前だったよ。

すぐに読み方が分からなくて、ケータイで調べたし、珍しいから、印象に残っててね。

、、三葉が『りん君』って呼んでいたのを思い出して、聞いてみようって思ってたんだ。」

 

 「え?!たすく、、?

 私と初見君ね、小学校で同じクラスの時に、『みつは』の反対は『はつみ』って、友達に、からかわれた事があるんよ。

 それで、「はつみ君」って苗字の方ばかり呼んでいたし、、

 良く考えたら、下の名前、良く覚えとらんかったわ。、、でも、、なんでやろう?、、」

 

「、、何か訳が?、、

 じゃあ、『りん』って、誰なんだろう?、、」

 

2人が顔を見合わせた時、三葉が思い出した。

 

 「さっきの、りん君からの手紙!、、あれに何か、、」

 枕元に置いた手紙の事を思い出して、すぐに取った。

 

 「瀧君、呼んでくれる?

赤ちゃんは、私が抱っこするやさ。」

 

 そう言って、赤ちゃんを受け取り、瀧に手紙を渡す。

 

 「じゃあ、開けるね。」

 

 瀧が、横に三つ折りに畳まれた白い封筒から、手紙を取り出した。

 

 中には、レポート用紙に、びっしりと、走り書きながらも丁寧に、数枚つづられた手紙が入っていた。

 

 瀧が、声に出して読み始めた、、、

 

 「『立花三葉さま、、』」

 



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第十二章
12話


、、(※小さなBGMで、『なんでもないや』の「もう少しだけでいい」、、から始まる方の曲が流れます、、)

 

 

 、、、この手紙を読んでいる時、どうか、あなたが、元気でいてくれますように。

 瀧さん、初見さんと共に、、それが一番の願いです。

 

 三葉さんには、少し話しましたよね?

 

 僕は、生まれる前に、、母のお腹の中にいる時に、父を事故で亡くしました。

 

 でも、本当は、この話は、初見さんの生い立ちではありません。

 

 初見さんの体をお借りしている、この僕、『りん』の事なのです。

 

、、、とにかく、まずは話を、聞いて下さい。、、

 

 読んでいる瀧も、聞いている三葉も、一瞬、目を見合わせたが、、すぐに続けた。、、

 

(※ここからは、読み手の声が、瀧から、20代の青年の『りん』へと変わります。

 

場面も、りんと、その母親との回想シーンが流れます。

 

小さかった、りんを見守りながら、父親の死の悲しみを乗り越えながらも、明るく振る舞う母親。

 

 2人で力強く、深い絆で結ばれながら生きてきた様子が、手紙の内容と共に、映し出されて行きます。、、)

 

 

 

、、、それでも母は、いつも幸せそうに、父との思い出を、僕に話してくれました。

 母は、父を、心から愛していました。

 

 でも、年に1度だけ、父の命日に、車で事故現場の近くまで行き、手を合わせる時だけは、泣いていました。

 

 そして、いつも言うのです。

 「私が、あなたのお父さんを助けられなかった。

私は助けてもらったのに、、。」

 

 子供の頃は、その意味を、特に聞く事はありませんでした。

 

 僕が高校生になった時に、母は、今までに話した事のない話をしてくれました。

 

 とても不思議で、誰も信じられない様な話だから、誰にも話した事がない、、と話し始めてくれました。

 

 、、母が、高校生の時に、同じく、高校生の時の父と、体の中身だけが、入れ替わる体験をしたのだ、、と。、、

 瀧の読む声が止まった。

 三葉も、息を飲んだ。

 2人とも何も言えず、一瞬、視線を交わして、すぐにまた、瀧は、続きを読んだ。

 

、、、父と母は、同じ年の、高校生ではありましたが、、不思議な事に、父の方だけが、母が生きている時間よりも、3年、先の世界にいました。

 

 だから父は、母が住んでいた村が、入れ替わった頃から、その後に、彗星の落下、衝突によって、消滅してしまう事を知りました。

 

 どうしても、母の事を助けたかった父は、奇跡的に、もう一度だけ、彗星が衝突する前、、つまり、まだ生きている母との入れ替わりに成功して、村の皆を避難させ、母と母の家族と、村の殆どの人達は、運命が変わり、助かったのだ、、と、語ってくれました。

 

 僕は、あまりに良く出来たSF小説の様で、最初は、信じられませんでしたが、普段、こんな話はしない母が、真剣な目で話すのを見て、信じました。

 

 父の事故後、母は、 自分も何とか、事故に合う前の父の体と入れ替わり、事故を食い止めたい、、と願い続けていました。

 

 父が、最後に奇跡の入れ替わりを願い、それが叶った、『神社の御神体のほこら』に、僕を連れて行ってくれた事もありました。

 

 そして、父がしたのと同じく、祈ったけれども、何も起こらなかった、、。

 

 だから、母が泣くときは、哀しみの他に、悔しさの涙も流していたのです。

 

 そんな母を見るうちに、成長した僕は、

 

 

 今度は自分が、その奇跡で、父を助けたい!、、と、思うようになりました。

 

 なぜ、初見さんと入れ替わったのか、、

 

 初見さんとは、父の会社時代からの付き合いでした。

 父が亡くなってからも、初見さんは、僕と母を、まるで身内のように良く心にかけて下さいました。

 

 地質学などの分野に興味を持った僕は、高校生の時から、将来、初見さんの様な仕事がやりたい。 と思うようになり、 しょっちゅう、初見さんの仕事を見せてもらったり、手伝ったり、、時には、出張にも動向させてもらいました。

 

 だから、、もしも、本当に入れ替わりの奇跡が起こせるのなら、初見さんになりたい、、。

 

 初見さんになれれば、母も、 そして父も、疑うことなく、初見さんの言葉を信じてくれて、あの日、あの場所へ行く事を、食い止める事が出来るかもしれない、、、

 

 そんな計画を立てて、僕は、あの『ほこら』へ向かい、中へと入り、願ったのです。

 

 一瞬、目まいを感じたところまでは、覚えていましたが、、

 

 目覚めると、初見さんの体になっていました。

 

 日付は、あの事故の日の早朝。

 

 

 夢か?現実か?ハッキリしないまま、とにかく、瀧さんのケータイに電話を入れましたが、繋がりませんでした。

 

 すぐに、初見さんのケータイや、スケジュールなどを調べて、その日が瀧さんが事故に合う日であることが、わかりました。

 すぐに、自分が生まれ育ったマンションへ急ぎ、母に話をして、、一緒に始発の新幹線に乗りました。

 

 僕が、一人で行く手もあったけど、母に行かせてあげたかった。

 

 それから後は、、

 

 僕は、父さんを助ける為なら、どんな無茶でもするつもりです。

 

 初見さんの体を借りているのに、、

 本当に身勝手だと思います。

 

 でも、どうしても、父を助けたい。

 

 三葉さん、いや、母さん。

 無事ですか?

 父さんは? 初見さんはどうなりましたか?

 

 皆さんが、とにかく今、元気でいてくれる事を、なによりも願っています。

 そして、母さん。

 

 どうか僕を、産んで下さい。

 

 今度は、父さんも一緒の思い出を、たくさん作って下さい。

 

 最後に一つだけ、ワガママなお願いを聞いて下さい。

 

 三葉は、大粒の涙を流し続けている。

 

 瀧も、泣きながら、読み続ける。

 

 、、、出来れば、今度は、僕に弟か、妹を、、。

 

 母さん、たくさんの愛をありがとう。

 

 父さん、すごく会いたいです。、、

 

 

 

 

 

 

 



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第十三章(最終話)
13話


 、、、瀧が、震える手で、手紙を見直している。

 

 「まさか、、こんな奇跡が、もう一度、起こるなんて、、。」

 

 「私に、時間を超える奇跡が起こったんじゃなくて、、りん君が、起こしてくれたんやね、、。」

 

 「自分の人生を、ストップさせてまで、俺を救ってくれた、、。」

 瀧は、少しの間、一点を見つめていた。

 

 三葉は、片手で、口を覆った。

 

 「瀧君を失って、一人で子供を育てて生きていく私なんて、、考えられんよ。

 

 どれほど、涙をこらえたの? どれほど頑張ったの。 何度、心が折れそうになったの?、、

 

 今の私には、、とても、、、」

 

 瀧が、三葉の隣に座って、肩に手をまわす。

 

 「別の時間で頑張って来た三葉も、今、ここにいる三葉も、同じ三葉だよ。

 守るべき存在があるから、頑張れるんだ。

 

 三葉を見ていたから、三葉が母親だったから、俺を、命をかけて助けたい、、と思う、強い子に育ってくれたんじゃないかな、、?」

 

 瀧の言葉に、落ち着いた三葉。

 

 「、、どんな子やったんやろ? その時の『りん君』に、会いたかったわ、、」

 

 「会えるさ、これから。

 今度は俺にもね。」

 

赤ちゃんを見つめる2人に、三葉の父の言葉が浮かんだ、、。

 

 ~真っ直ぐに、凜とした道を、歩む男になるに、違いない~

 

 三葉が、涙を拭ってから、赤ちゃんの、小さな手に、自分の人差し指を握らせた。

 瀧が、その2人の手を包み込む様に、優しく握った。

 

 見つめ合って、微笑む瀧と三葉。 

 

 、、手を握る3人。そして、その赤ちゃんの姿だけが、画面いっぱいに映し出されていく。、、

 

 そこへ、瀧と三葉の声だけが響く。

 

 「ありがとう、、君の名前は、、、」

 

 (赤ちゃんの顔だけが、アップになり、、)

 

 『凜(りん)!!』

 

、、、暗転する。

 

 ※本編の映画のラストと同じ様に、「2人の間、、」

から始まる『なんでもないや』が流れます。

 

 

 

 

 エンドロールが流れる横に、その後の、瀧と三葉と凜の、思い出の写真が映し出される、、。

 

 赤ちゃんの凜に、てんてこ舞いな、三葉の様子。

 

 泣いたり笑ったり、百面相みたいな赤ちゃんの凜。

 

 公園で、凜と遊ぶ瀧。

 

 瀧と、頰を寄せ合って笑う凜。

 

 初見さんに、化石を見せてもらって、

 興味津々の凜。

 

 幼稚園の入園式、、、

 

 ほのぼのと、温かい風景。

 

 そして、最後の最後には、、、

 

 こぼれる程の、幸せな笑顔を浮かべた凜と、そのすぐ後ろで、凜の肩に手を掛ける瀧。

 隣にいる三葉の腕には、、

 

 柔らかな真っ白い、おくるみに包まれた、女の子の赤ちゃんが、抱かれていた。、、

 

 その写真で、ストップします。

 

 それは、あの時の、凜の最後の願い、、未来への希望が叶った一枚なのでした、、、。

 

    ~完~

 

 

 

  《 お礼と後書き 》 

 

 

 ありがとうございました。

 

 とにかく、ありがとうございました。

 

 ここまで読んで頂いて、ただ、ただ、感謝の気持ちでいっぱいです。

 

 初めての小説作成。

 

 普段は、全くの素人で、一般主婦の私には、小説を書くノウハウや、知識もなく、とにかく頭の中に降りて来る言葉を連ねて行く事しか出来ませんでした。

 

 その為に、読み手の皆様には、読みづらさはもちろん、稚拙な表現や、あり得ない展開、、。

 

 何より『君の名は。』を愛するファンの方々に、

 

 「こんな事、瀧君は、やらない。」

 

 「三葉は、こんな事は言わない。」

 

、、等々、読みながら、不快に感じられる点も数多く。

 更には、BGMや場面の解説も、煩わしく感じた方も、おられた事と思います。

 

 原作者の、新海誠 監督を始め、皆様、申し訳ございませんでした。

 

 しかしながら、もしも、この作品を通して、家族、パートナー、子供たち、友人、、ペットや、大切な物、

 全てを含め、自分の周りに存在する、宝物への愛しさ、貴重さを、改めて感じて頂ける事がありましたら、幸いでございます。

 

 余談になりますが、、

 

 ラストの、凜からの手紙を読みながら映し出されていく回想シーンでは、

 

 、高校生や、20代の青年の凜の姿は、やはり、父親である瀧によく似た優しい感じのイケメンで、

 母親として、たくましく生きる三葉も、可愛らしさはそのままの、ピュアで素敵なお母さん、、、そんなイメージを思い浮かべながら書いていました。

 

 ストーリーの都合上、あえて、その場には、具体的な説明は書きませんでした。

 

 読み終わって

 「あー、そうだったのか、、」

 

 と言う気持ちで、

 「瀧君によく似た凜」

 を、思い返して見て頂けましたら嬉しいです。

 

 最後に、私の様な人間にも、自作の二次小説を、沢山の人達に読んで頂ける、、この、素晴らしい、夢のある投稿サイトを作って下さいました、

 

 『小説投稿サイト ハーメルン 』様に、

 

 大きな感謝の気持ちを込めて、、

 

 ありがとうございました。

 

 

         平成29年 4月

        えー・あーる夢見

 

 

 

 

 



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