沢近さんの純愛ロード (akasuke)
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ちゅーとりある!
#01「回避してしまうフラグ」


akasukeといいます。
中古で売られていたスクランを思わず買ってしまい、ストーリーを思い付いた為、描きます。

今更感が強く、需要がない可能性が高い為、そっと投稿していくつもりです。

※タイトルは某エロゲのをパクっております。
バージンロードまで続くかは、未定。


「待ってろ、天満ちゃん」

 

播磨 拳児は泣きながら走り去っていった女性――塚本 天満を必死に探し、追い掛けていた。

 

 

 

事の発端は、今から十数分前。

占い師として活動していた播磨の前に、好きな女性である天満が現れたのだ。

 

数日前、別のとある男子生徒と幸せな表情を浮かべて昼ご飯を食べる天満の姿を目撃した播磨。

彼はそれを見たことにより意気消沈し、学校をサボり、占い師へと成り果てていた。

 

そんな播磨は、もう彼女のことは諦めるんだと心の中で思いつつ、客である彼女の為に占いをしようとした。

 

しかし。

 

 

『わたしとカレーどっちが好き?』

 

『カレー』

 

播磨の目の前で。

 

 

『れ、レトルトのカレーとわたし、どっちが好き?』

 

『…………』

 

『烏丸くん、わたしとレトルトカレーで迷ってる! う、うわぁぁん!』

 

泣きながら走り去る天満を目にして、平常心を保つことが出来なかった。

怒りに任せ、天満が好きな男性――烏丸 大路に殴り掛かろうとしたが、平然と無表情のまま避けられる。

 

たが、そんな怒り心頭な播磨に、烏丸は言ったのだ。

 

 

『行ってあげるんだ』

 

僕は、行く訳にはいかない、と。

そう告げてくる烏丸の言葉を聞き、播磨は自分の思いのままに必死に走った。

 

普段は鈍臭いが、こういう時に限って速く走り去っていった天満。

 

もう姿が見えない彼女を追い求め、向かっていった道を追い掛ける。

 

 

「はぁ……ハァ……」

 

ずっと。

ずっと、見てきたんだ。

 

播磨は走りながら、最愛の女性のことを想う。

 

 

「ぐ、ぐおぉぉぉぉぉ!」

 

ただ、途中から雨が降ってしまい、走り辛い。

それでも無理に全速力で走っていたことが原因で、雨で濡れる階段に足を滑らせ、転げ落ちてしまう。

 

 

「やだ、いま階段から落ちたわよ」

 

「ヘーキなのかな?」

 

周りの人々の声など聴く余裕もなく、痛みを感じながらも立ち上がり、再び彼女を求めて走り回る。

 

だが、そんな強がりも終わりを見せる。

 

 

――く、くそっ……。

 

道端で力尽きて倒れてしまう播磨。

 

 

――ダメだ、もう……走れねぇ。

 

先程、階段から落ちた痛みが今になってぶり返す。

立つことも、辛い状態だった。

 

 

――こんなところで、終わっちまうのかよ。

 

天満が自分のことではなく烏丸が好きなのだと知った播磨。

 

そんな彼は、学校をサボり、姉ヶ崎 妙がくれた千円片手にパチンコなどで暇を潰し、挙句の果には占い師になった。

 

 

しかし、諦めたと思ったときに、播磨の好きな女性が目の前に姿を現したのだ。

 

チャンスだと思った。

 

今度こそ。

今度こそ、想いを伝える筈だったのに、と。

 

道半ばで諦めるしかないのか。

そんな諦めの思考が頭を過ぎる中。

 

 

 

 

そんな彼に手を差し伸べる女性が現れたのだ。

 

 

 

 

 

――て、天満ちゃん?

 

体力を使い果たし、更にサングラス越しで顔が見え辛い。

だが、こんな自分に手を差し伸べてくれるのは、優しさの権化である天満ちゃんしか居ない、と播磨は思った。

 

だからこそ。

だからこそ、伝えなければと思った。

 

 

「きゃっ」

 

力が強かったかもしれない。

だけどそんなことを考える余裕もなく、彼女の手を必死に掴んだ。 

 

 

「聞いてくれ……」

 

自分の想いを伝える為に。

どうか、この気持ちが彼女に届いて欲しいと思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

「俺は…君のことが好きだったんだっ!」

 

 

 

 

 

 

 

伝えたかったが、伝えられなかった想い。

それでも、ようやく言えることが出来た。

 

 

「やっと、やっと言うことが出来た――」

 

どんな表情をしているのだろうか。

想いを告げた女性の顔を見るために顔をあげる播磨。

 

そこには、彼が追い求めた黒髪の女性――

 

 

 

 

 

 

 

「えっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ではなく、金髪の女性――沢近 愛理の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沢近さんの純愛ロード

#01「回避してしまうフラグ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沢近 愛理は、今の状況に混乱していた。

 

愛理が友人の高野 晶からオススメされた占い師のもとへ行った帰り道。

 

道端に倒れている男性の姿を発見した。

雨が降っていることもあり、心配になったのだ。

 

そして手を差し伸べ、掴んだのは。

 

 

――は、播磨くんだよね。

 

さきほど占ってもらったクラスメイト――播磨 拳児であった。

だが、混乱しているのは、そこではなくて。

 

 

『俺は…君のことが好きだったんだっ!』

 

播磨から告げられた想い。

そして、その度合いを示すかのように握られる、凄く強い力。

 

 

――こんな告白、はじめて……

 

熱い。

どうしようもないくらいに、熱い告白。

 

 

――あんまり好きなタイプじゃない、はずなのに。

 

愛理が思い描く好きなタイプは、彼とは全く真逆の性格、そして容姿であるはずだ。

 

はずだった。

 

 

――はず、なのに……

 

動揺を隠せない愛理。

 

 

 

しかし、それ以上に動揺を隠せない人物がいた。

勿論、播磨である。

 

 

 

――ヤベェ マチガエマシタ イエナイ

 

思わず思考の中もカタコトになってしまう程に動揺する播磨。

 

 

 

 

 

 

「その…わたしは、急にそんなこと言われても……」

 

何て言葉を返してあげれば良いのか。

播磨に、そして自分自身に戸惑いを隠せない愛理は、言葉が途切れてしまう。

 

 

 

そんな愛理を見ながら、自分のやらかした勘違いの告白をどうすれば良いか必死に考える播磨。

 

だが、彼の悲劇は続く。

 

誰にも見られたくない、こんな状況。

そんなときに限って。

 

 

「……まわり道して、帰ろっか」

 

「うん、そーだね」

 

播磨と愛理のクラスメイト。

周防 美琴や高野 晶がその場面に偶然出くわしてしまう。

 

 

 

「……うっ」

 

混乱がピークに達した播磨。

そんな彼が起こした行動。

 

それは――

 

 

 

 

 

 

「……うおぉぉぉぉぉぉ!」

 

戦略的撤退。

つまり、逃げるしかなかったのであった。

 

 

「あっ…うっ……」

 

頬を赤くしたまま、走り去る播磨を呆然と眺める愛理を置き去りにして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、本来あったはずのフラグを、微妙に回避してしまった物語。

 

お嬢様と不良の恋愛物語である。

 




スクールランブル。
わたしが、勘違いものにハマってしまった原因であり、尚且つツンデレが好きになってしまった諸悪の根源です。

もう一つの作品の方が個人的に優先度が高い為、こちらの投稿ペースは少し遅めかもしれません。

さて、今回のプロローグですが、本来の物語であった展開から微妙にずれています。

■フラグ
・播磨の勘違い告白 ○
・姉ヶ崎 妙の登場 ×
→ シャイニングウィザード回避

それにより、展開がどう変わるのか。
また見ていただければ幸いです。


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#02「忘れる彼、忘れられない彼女」

何だかシリアスな話やら真面目な話を書いていた為、ギャグなどを書くのは難しいかもなと思います。

ただ、勘違いの状況を真面目に心情描写書くのは楽しいと思いました。

それでは、本編をどうぞ。


「…………ハッ」

 

気付いたら姉ヶ崎 妙の部屋にいた播磨。

 

 

――俺は、いつの間に戻ってたんだ……。

 

状況を確認する為、播磨は自分が何していたかを振り返る。

パチンコ、占い師、烏丸と天満。

 

そして――

 

 

「確か、天満ちゃんと間違えて告白を…っ」

 

彼は思い出した。

自分がやらかしてしまったことを。

 

最愛の女性である天満に告白しようとして、違う相手に告白してしまったのだ。

 

 

――名前は思い出せねぇけど……ありゃあ、天満ちゃんのダチ、だよな?

 

天満以外は全く興味がない播磨。

しかし、天満とよく一緒にいた友人の一人であるお嬢様であることは思い出した。

 

 

「なっ、てことは、これが天満ちゃんに知られちまったらっ」

 

最悪の状況を思い浮かべる播磨。

間違えて告白してしまった相手である愛理が、天満にそのことを話してしまうところを。

 

 

『そんなっ、私というものがありながら……サイテーだよ、播磨くん!』

 

自身に向かって涙を流しながら罵倒してくる天満の姿。

播磨は、それを想像し、顔が真っ青になる。

 

 

「ち、違うんだ天満ちゃん! 俺が好きなのは君なんだ!」

 

起こり得る、あまりに最悪の状況。

播磨は気絶しそうになる。

 

 

「クソッ、悪い夢を見ている気分だ……ん?」

 

つぶやいてから、一つ、とある疑問が出てきた。

 

 

――そういえば、俺はどうやって帰ってきたんだ?

 

自身が間違えて告白をした後。

その後に、どうやって帰ってきたのか。

播磨は自分の記憶から引っ張って来ようとしたが、全く思い出すことが出来なかった。

 

 

「こっ、これは……まさか」

 

改めて自分の現在の置かれている状況を確認する。

 

播磨が居るのは、家がない自分を善意で泊めてくれた、妙の部屋。

そして、部屋の借りているベッドの上で座っている自分。

 

彼はその状況を見て、一つの結論に至る。

 

 

 

 

 

 

 

「夢オチってやつだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

悪い夢を見ている気分。

帰ってきた記憶がないこと。

ベッドにいる自分。

 

播磨は最近見た漫画を思い出し、現在の自分の状況と合致していることに気付いたのだ。

 

 

――まったく、俺自身の才能が恐いぜ

 

各々の状況を紐付け、真実に至ったと感じた播磨は、自分の名推理に酔いしれていた。

 

 

「んー、どうしたのーハリオー?」

 

播磨が目を覚ましたことに気付いた妙は、はしゃいだ様子を見せる彼に問い掛ける。

 

外野からの声に、ふと我を取り戻した播磨。

そして、彼は一つの決意を妙に伝える。

 

 

「俺は……明日、好きな娘に告白してきます」

 

夢では間違えて違う相手に告白してしまったが、現実ではしっかり告白しようと決めた播磨。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、一つ、彼は勘違いをしていた。

 

夢オチなんて都合の良い展開などなかったのである。

 

 

 

ちなみに、告白後の記憶がないのは、単純に播磨自身があまりのショックで忘れてるだけの話であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#02「忘れる彼、忘れられない彼女」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

播磨が天満に告白を決意する一方。

愛理は自宅にてシャワーを浴びている最中であった。

 

 

「はぁ…………」

 

シャワーはお湯にせず、冷たいままに設定していた。

ずっと浴びていると風邪をひくかもしれない。

 

しかし、熱く感じる身体を冷ます為、彼女には必要であったのだ。

 

 

「播磨、くん」

 

思い出すのは、とあるクラスメイトの男子。

不良という野蛮な男子。あとは変なやつ。

 

愛理には、その程度の認識でしかなかった。

なかったはず、だったのだ。

 

 

『俺は…君が好きだったんだ!』

 

彼女の脳裏をよぎるのは、播磨からの告白。

あれから、何度も何度も。

繰り返しで彼の告白を愛理は思い出してしまった。

 

 

「なんで……」

 

彼女は自分がモテることを自覚している。

事実、色んな男子から何度もデートに誘われ、告白されているのだ。

 

告白など聞き慣れている。

そのはずなのに。

 

 

『俺は…君が好きだったんだ!』

 

何故、思い出すだけでこんなにも身体が熱くなってしまうのだろう。

愛理は自分自身が分からなかった。

 

しかし、あんなに熱い告白は初めてだと感じた。

今までされた告白と違い、播磨に告げられた言葉は、まさしく想いが乗っている気がしたのだ。

 

 

『やっと、やっと言うことが出来た――』

 

あの熱い想い。

強い力で握りしめてくる、大きな手。

そして、ようやく想いを告げることが出来たという、達成感を思わせる言葉。

 

全部が全部、愛理の心に直接的に伝わって来たのだ。

 

その告白に、彼女は何て返せば良いのか分からなかった。

了承も、否定も、あの場では出来なかった。

自分自身の気持ちにも、戸惑っていたのである。

 

 

『……うおぉぉぉぉぉぉ!』

 

だからこそ、告白をクラスメイトに見られた播磨が返事を聞かずに去っていくのは、正直ホッとしたのだ。

 

 

――仕方ないわよね

 

普通なら返事を聞かずに逃げるのは格好悪いのかもしれない。

しかし、あの熱い告白を誰か他の人に聞かれるのが恥ずかしいという気持ちは愛理も分かった。

 

愛理は告白を受ける側だったが、それでも他の人に聞かれるのはとても恥ずかしかったのだから。

だから、その場に居合わせた美琴や晶が告白自体は聞いていなかったのを知り、彼女は安堵した。

 

 

――それにしても。

 

「意外と、恥ずかしがり屋だったのね、播磨くん」

 

告白が聞かれて恥ずかしくて逃げ去る播磨。

不良として恐れられている彼のそんな姿に、ギャップを感じ、何だか可愛く思えてしまった。

 

何て返事すれば良いか。

今でもまだ決められてない。

 

しかし。

 

 

「明日、ちゃんとお話しないと」

 

最近休みがちな播磨が来るかは分からない。

しかし、告白の返事を聞く為に明日は学校に登校してくるかもしれない。

 

もし彼が来たら、とりあえずお話しようと。

いや、お話したいと愛理は思った。

 

 



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#03「間違う彼、悟る彼女」

思い付いて筆が止まらない為、また投稿します。
友人に何を携帯にずっと書き込んでるかと聞かれて、プレゼンの内容を思い付いたと答えました。

スクランやダカーポを話せるオタク友達が欲しいですね。
というか、読み専や物書きの方と友達になりたくなります。

それでは、本編をどうぞ。



「また、来ることになるとはな」

 

播磨は自分が通っている学校―矢神高校を校門で眺めながらつぶやいた。

 

彼は天満と烏丸が仲良く昼食を食べているのを目撃し、それ以降、意気消沈して学校をサボっていた。

 

しかし、サボるのを止めてここに来たのは、播磨がある決意あってのことだ。

 

 

それは。

 

 

――俺は今日、天満ちゃんに告白をする。

 

最愛の女性に告白する為であった。

前も告白しようと思っていたことは何回かあった。

しかし、今回は今までとは違い、強い覚悟があったのだ。

 

彼の手にあるのは、二つの封筒。

ラブレターと退学届である。

 

 

――断られたら、学校を辞めるぜ。

 

播磨は、背水の陣の構えで臨んでいた。

 

彼からしてみれば、この学校は天満に会う為に入ったようなものである。

だからこそ、きっちりケジメをつけようと、播磨は思ったのだ。

 

 

――甘えるのは、もう止めだ。

 

その為に、昨日まで泊めてもらっていた妙にも別れの挨拶を済ましたのであった。

 

 

「さて、行くか」

 

こうして、播磨は学校へと入っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#03「間違う彼、悟る彼女」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。

播磨は矢神高校の屋上でとある人物を待っていた。

 

 

――天満ちゃん。

 

それは、今日告白する相手。

朝にラブレターを彼女の下駄箱に入れてきたのだ。

 

朝ではなく、時間を放課後に指定した。

その為か、この時間が来るまで待ち遠しくもあり、そして来ないで欲しいという気持ちもあった。

 

 

――もう、彼女と出会ってから結構時間が経つんだな……。

 

播磨が天満と出逢ったのは、彼が15歳の冬の時期。

喧嘩三昧であり、ただただ誰でも良いから暴れたかった。

そんな彼の前に現れたのが天満であった。

 

紆余曲折があり、変態扱いされてしまったが、彼女に惚れ、会いたい一心でここまで来た。

 

 

「やるだけやったし、まぁ……こんなもんか」

 

これで終わりかと思うと、何だか寂しい気持ちも出てくる。

しかし、自分がやれるだけのことはやったのだ。

後悔はないと播磨は思った。

 

そう、彼が心の中で考えていた最中。

 

 

ガチャリ、と。

屋上のドアが開かれる音がした。

 

 

「播磨くん……」

 

「……天満、ちゃん」

 

天満が彼の前に姿を現したのだ。

彼女の手には、自分が下駄箱に入れた手紙を持っていた。

 

 

「……読んだよ」

 

彼女の言葉を聞き、播磨は思った。

ついに、この想いを知られてしまったのか、と。

 

 

――俺は……いったい、どうなるんだ。

 

播磨にとって天満は初恋であった。

産まれて初めて、好きになったのだ。

 

不良であった自分。

そんな、喧嘩しかやり甲斐がなかった自分を変えてくれた彼女。

 

そんな彼女に恋した生活も今日で終わりを告げる。

 

 

「は、播磨くん……」

 

大好きな女性。

その彼女は、この俺の本心を知って。

 

 

「……あ、あのね」

 

君は何て応えてくれるのだろうか。

 

 

「あのね――」

 

 

――砕けろ、俺っ!!

 

覚悟を持って、一語一句聞き逃すかと天満をみつめる播磨。

 

彼女は、躊躇いながらも口を開け、彼に向かって告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「退学届が、わたしの下駄箱になぜか入ってたよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――な、中身まちがえたー!

 

ラブレターと退学届の中身を間違えて入れてしまったことに気付いた播磨。

 

大事な場面でやらかしてしまったことに膝から崩れ落ちる。

 

 

「どっ、どうしたの? 具合悪いの、播磨くんっ!」

 

天満が心配するものの、落ち込み過ぎて放心状態となっている播磨。

 

しかし。

 

 

「播磨くん…わたしは、やだよ」

 

優しい彼女の声を聴き、顔をあげる。

そこには彼が大好きな女性の笑顔があった。

 

 

「また、学校きなよ……ねっ?」

 

「うん」

 

不良、播磨 拳児。

とても単純な男であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

――もう、天満ちゃん行ったよな……?

 

じゃあ、また明日ねー、と。

手を振りながら屋上を後にした天満に同じく手を振り返していた播磨。

 

そして。

 

 

「やっ、やっちまったぁぁぁぁ!」

 

彼女が出て行って少し経ってから、彼は自分の中にこみ上げる後悔を叫ぶ。

 

 

「せっかくの大事な告白だったのに、慌てて間違っちまったっ!」

 

不退転の覚悟で臨んだはずだった。

しかし、そんな大事な場面で渡す手紙を間違えてしまった播磨。

 

学校やめたら嫌だと言ってくれたのは凄い嬉しく感じている。

実際、天満に言われたから既に学校を辞める気も失せていた。

 

 

「くそぉぉぉぉ…………」

 

だが、ある程度覚悟してた分、間違えてしまったショックは大きかった。

 

暫くフェンスにもたれながら落ち込み続ける播磨であった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

そんな一方。

とある女生徒も一つの決意を抱き、学校に来ていた。

 

 

――ね、ねむい……

 

昨日、播磨に(間違えて)告白された女性――沢近 愛理だ。

 

想いを告げられた彼女は、昨日からずっと返事をどうするか考えていた。

しかし、考えても考えても結論に至らず、気付けば一睡も出来ずに朝を迎えていた。

 

そんな彼女の視線の先には播磨の姿があった。

 

 

――播磨くん……

 

最近休んでいた彼であったが、今日は学校に来ていた。

その姿を確認して、愛理はやはり自分の返事を聞きに来たのだと思った。

 

しかし、播磨が返事を望んでいても、まだ彼女は何と返答すれば良いか悩んでいた。

 

それでも何かしら話さなければと思っていたが、周りに美琴や晶、天満の誰かしらが居た為に中々タイミングがなかった。

 

 

「あの、播磨くんってどこ行ったか分かる?」

 

「あぁ……たしか、屋上に行ったよ」

 

そして、気付けば放課後になってしまった。

このままでは話さずに終わってしまうと焦った愛理は、同じクラスメイトから播磨の居場所を教えてもらい、向かっていた。

 

 

――この先に、居るのよね……。

 

屋上の前まで着き、半開きになっている扉の前で一度立ち止まる。

 

扉の向こうに居るだろう播磨に緊張を隠せない愛理。

何を言うかも思い付いていない状態だ。

だが、とりあえず話したいと思ってここまで来たのだ。

 

まずは覗いてみようかな、と。

半開きの扉から屋上にいるだろう存在を探す為、愛理は覗いた。

 

 

 

 

 

「えっ…………」

 

 

 

 

頭が真っ白になった。

彼女の視線の先には――

 

 

「て、天満……?」

 

播磨だけではなく、天満の姿もあったのだ。

そして、二人が何を話しているか分からないが、真面目な雰囲気だった。

 

それだけでなく。

彼女が目にしたのは、天満が持つ、可愛らしい封筒。

 

放課後の屋上。

播磨と天満。

天満が持つ、可愛らしい封筒。

 

そこから連想されるものは――

 

 

「こ、こくはく……?」

 

自分が経験あるからこそ。

それが告白のシチュエーションなのだと気付いた。

 

見てしまった場面に戸惑いが隠せない愛理であったが、天満がこちらに向かう姿を見た彼女は慌てて扉の裏に隠れた。

 

 

「わたしだけじゃ、なかったんだ……」

 

階段を降りていく天満の姿を呆然と眺めながら、ひとりつぶやく愛理。

 

昨日播磨が告白してきたが、それは自分だけではなく、他の人にもしていたのを目撃してしまった。

 

 

――わたしだけじゃ、ないんだ。

 

それを知り、怒りがこみ上げるかと思われたが、まず感じたのは、喪失感であった。

 

 

 

『俺は…君が好きだったんだ!』

 

 

 

昨日の、播磨からの告白。

自分のことをこんなに想ってくれるのかと驚くくらいに、熱い想いを感じさせた言葉。

 

あれが嘘であったという事実を知り、胸が苦しくなる愛理。

 

何回も言葉が脳裏に過り、必死に何て返事するかを悩んでいたからこそ、哀しかった。

 

 

――わたし、バカみたい……。

 

涙がこみ上げて来るのを感じる。

怒る元気もなく、もう今日は帰りたいと思い、階段を降りようとした。

そんな時のことだった。

 

 

 

 

 

 

「やっ、やっちまったぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

 

 

扉越しに、叫ぶ播磨の声が聴こえたのだ。

急な大声にビックリしてしまう愛理。

 

先程の喪失感が残りながらも、何故か悲しい響きを感じ、まだ半開きの状態であった扉から覗く。

 

そこには、膝から崩れ落ちるように座っていた播磨の姿があった。

見るからに落ち込んだ状態であることが分かる。

 

その姿に、何故だろうかと疑問に思う愛理。

 

 

――天満にフラレたのかしら……?

 

真っ先に彼女が思い付いたのは、告白してフラレたという状況。

天満が烏丸のことを好きだと知る彼女からしてみれば、告白しても受け入れられることは無いと予想できたからだ。

 

しかし、その後に播磨が叫んだ内容は、愛理がまったく想像もしなかったものだった。

 

 

 

 

 

「せっかくの大事な告白だったのに、慌てて間違っちまったっ!」

 

 

 

 

 

――ま、間違う?

 

播磨が叫んだ内容に戸惑う愛理。

いったい何を間違えたのかと疑問に思った。

 

 

――告白、慌てる、間違う、ラブレター

 

彼の状況と言葉を内心でつぶやきながら考える。

そして、彼女はひとつの真実に気付いてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

――ラブレターを…入れ間違えた?

 

 

 

 

 

彼が、播磨がラブレターを違う相手に渡してしまったことに。

ラブレターは直接好きな相手に渡す場合もあるが、机や下駄箱などに入れる場合もある。

 

実際に愛理もラブレターが下駄箱に入れられていた経験があった。

 

だからこそ、彼女は気付いたのだ。

彼が慌てて違う相手の下駄箱にラブレターを入れてしまったことに。

 

そして、屋上で待っていた播磨だが、やって来た相手が天満だったことで間違えたことに気付いたのだ。

 

それならば、あそこまで落ち込む姿を見せる播磨に納得出来る。

 

そして、それならば本来渡す筈だった相手は誰であるのか。

それは――

 

 

――わたし、よね……?

 

昨日の告白から考えるに、本来渡す相手は自分だったのだろうと確信した。

 

それに気付いた瞬間。

 

 

 

 

「…っ……もうっ、ばかなんだから」

 

 

 

 

涙が溢れてしまうのを感じた。

だが、それは先程の喪失感ではなく、安堵感や嬉しさから。

 

 

『俺は…君が好きだったんだ!』

 

あの熱い想いが、嘘ではなかったのが分かったからだ。

そして、それを疑ってしまった自分を恥じた。

 

 

――きっと、あらためて伝えたかったのね。

 

昨日、返事を聞かずに逃げてしまったのを後悔したのかもしれない。

だから、あらためて自分に告白しなおそうと思ってくれたのだ。

 

あの熱い想いを聞いたからこそ、素直に愛理は納得がいった。

 

 

「聞かなかったフリを、するべきよね」

 

天満と播磨の、あの状況。

もし、愛理が見ていたことを知ってしまったら、播磨が傷付くと思った。

 

慌ててラブレターを渡す相手を間違えたなど、普通は信じないだろう。

愛理は信じられたが、播磨自身が誤解を解けないと思い、落ち込む姿が想像できたのだ。

 

そして何より。

 

 

――ごめんなさい、もう少し待ってて。

 

播磨の真摯な気持ちを知ったからこそ。

中途半端な回答は駄目だと思った。

 

もっと彼がどんな人かを知り、話し、その後に真剣に返事をしなければと考えたのだ。

 

 

「わたし……ほんと、ズルい女ね」

 

それでも許してほしい、と。

落ち込む播磨を見ながら想うのだった。

 

 

 

 

 

 

この日以降、他の男性からの誘いや告白を全て断る愛理に、周りから恋人が出来たのではと噂されるのであった。



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#04「気付かない彼、気付かない彼女」

勘違いの王道。
ツンデレの原点と勝手に思っています。

あらためて漫画を読み直していますが、ここまで続く勘違いものってあまりないですよね。

それでは、本編をどうぞ。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

#04「気付かない彼、気付かない彼女」

 

 

 

 

 

 

 

 

「おまえ、変わったよな」

 

そういえば、と。

美琴は何かを思い出したかの様に愛理に言った。

 

 

昼休み。

各々が休み時間を満喫する中、天満や愛理、美琴、晶という仲良し面々は、クラスでご飯を食べていた。

 

その最中に、美琴が愛理に告げたのだ。

 

 

「ん、変わったって何が?」

 

美琴が話した内容に疑問が浮かび、何の話かと聞き返す愛理。 

そんな彼女に、ニヤリと笑いながら疑問に答えた。

 

 

「ほら、最近は放課後に男と遊ばなくなったじゃんか」

 

「あーっ、それ、わたしも気になってたっ!」

 

美琴の言葉に、天満も興味があったのか頷きながら愛理を見ていた。

 

美琴の言う通り、普段は男から誘われたら気分次第ではあったが、遊びに行っていた。

しかし、ここ最近はパッタリと異性と遊びに行くのを止めたのだ。

 

実際、昨日の放課後に美琴は愛理が男からの誘いを断る姿を目撃していた。

 

 

「そ、そうだったかしら?」

 

「そうだろ? 前までは男を取っ替え引っ替えしてたじゃんか」

 

「ご、誤解を生むようなこと言わないでよっ」

 

美琴の発言に、慌てて愛理は否定の言葉を述べる。

 

確かに遊びに行っていたのは事実であったが、彼女としては誤解を生むような発言をして欲しくなかった。

 

チラリと、愛理は気付かれないように、とある場所に視線を向ける。

そこには、サングラスを掛けた男子生徒―播磨 拳児の姿があった。

 

 

――違うのよ、播磨くん。

 

心の中で播磨に否定の言葉を述べる愛理。

 

美琴は普段から声が大きい為、彼女が話した内容が播磨に聞こえているかもしれないと思った。

 

誤解しないで欲しい。

真剣に自身を想ってくれている彼にだけは、嫌な女だと思われたくなかった。

 

だからこそ。

愛理は普段より大きな声で、美琴に告げる。

 

 

「わたしは誰とも付き合ったことないわ!」

 

聞こえているだろうか。

内心で気になりながらも、視線は向けずに話し続ける。

 

 

「それに、もう好きじゃない男と二人っきりで遊ばないようにしたの! わかったっ!?」

 

「……お、おう」

 

何故か急に力強く、そして大声で話す愛理に美琴は若干引きながら頷く。

彼女に何かあったのだろうか、と疑問に思いながら。

 

 

――わかって、くれたかしら?

 

話し終えてから、再びバレないよう、こっそりと播磨に視線を向ける愛理。

 

サングラスで視線がどこに向いているか分かり辛い。

しかし、顔の向きなどから此方を見ていることに気付いた。

おそらく聞こえたのだろうと安堵する愛理。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、その視線の先にいる、当の本人は。

 

 

――くそっ、相変わらずキュートだぜ、天満ちゃんは。

 

天満を見つめながらニヤけていた。

ちなみに、愛理の話は右から左へ聞き流していた。

 

播磨からすれば、全く興味のない話だったからである。

 

 

――それにしても、あのお嬢、邪魔だぜ。

 

愛理を見ながら苛々する播磨。

天満の笑顔を見て癒やされようと思っているのに、チラチラと愛理の顔が重なって見え辛いからだ。

 

しかも、現在愛理が座っている席は、本来は播磨の席である。

播磨が空腹感を抑える為に水を飲みに行って戻って来たら愛理が座っていたのだ。

 

天満のお喋りを邪魔するのは悪いかと思って少し待ったが、一向に立つ気配がない。

 

いい加減、席をどくように言うか、と。

播磨は愛理のもとに近付く。

 

それを察知した愛理は、緊張が高まるのを感じる。

 

 

――播磨くんが、私のとこに来ようとしている。

 

愛理は、緊張と同時に別の気持ちで胸が高まるのを感じた。

 

(間違えた)告白されて以降、実はまだ愛理は播磨と話していなかった。

返事を決められないことによる申し訳なさがあったのだ。

 

だが、その彼女の気持ちを察したのか、播磨は特に話し掛けて来なかったのだ。

愛理は、そんな播磨の様子に申し訳なさが残りつつも、同時に気遣いが嬉しくなった。

 

 

――だけど、やっぱり気になってるわよね。

 

私の告白の返事を、と。

愛理は、直接言葉で返事を待って欲しいと播磨に言えてないのだ。

 

やはり、言葉でちゃんと告げなければいけないと、愛理は思った。

 

近付いてきた播磨に、愛理から言葉を述べたのだ。

 

 

「ごめんなさい……待ってて、欲しいの」

 

なんて自分勝手なの、わたし。

自身で話した内容に、愛理は自嘲する。

 

だけど、あんなに想ってくれる貴方には分かって欲しいのだと。

この気持ちを察して欲しいと思いながら告げたのである。

 

そんな気持ちを理解してくれたのだろう。

 

 

「ちっ……わーった、わかったよ」

 

愛理が頭を上げると、そこには頭をかいている彼の姿が。

サングラスだが分かりにくいが、仕方ないな、という想いが動作で感じられた。

 

 

「待っててやるよ」

 

そのように愛理に話してから、播磨は教室を出て行くのであった。

 

ありがとう、と。

愛理は彼の大きい背中をみつめながら感謝するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんな申し訳なさそうに言われるとはな」

 

自分の席を座っていることに罪悪感があったのか。

あんなに申し訳なさそうに謝られると調子狂うな、と播磨は思った。

 

 

「仕方ねぇ、次の授業まで屋上にでも行ってるか」

 

だりぃな、と思いながら彼は屋上に向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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#05「誘う彼、誘われる彼女」

評価やコメント、本当にありがとうございます。
懐かしい、沢近可愛いというコメントが私にとって凄く励みになります。
テンション上がって、GW終わる前にもう一話書かなければと思った為、投稿します。

過去にこういう面白い漫画があったんだよって思い出して頂ければ本望です。

それでは、本編をどうぞ。


 

 

 

 

 

「ねぇ、天満」

 

とある日の帰り道。

愛理は一緒に帰っている友人の天満にひとつ質問をしようとしていた。

 

美琴や晶が居らず、天満と二人っきりのタイミングでないと聞けない話だったのだ。

 

 

「なーにー、愛理ちゃん?」

 

「その、いつだったか、播磨くんと天満が屋上に行った時があったじゃない?」

 

愛理が質問したかったのは、播磨が天満の下駄箱にラブレターを間違えて入れてしまった日のこと。

尚、播磨が天満に間違えてラブレターを入れたと思っているのは愛理の勘違いである。

 

 

「ん、んー……?」

 

「ほらっ、放課後よ! 放課後!」

 

明らかに何時の出来事かを忘れた様子を見せる天満に愛理は焦れ、追加で話を付ける。

 

 

「あー、あったよ!」

 

愛理の言葉で思い出したのか、頷きながら答える天満。

その脳天気な笑顔を見て、愛理は考える。

 

 

――天満はどのくらい知ってるのかしら。

 

播磨くんの想いを、と。

彼自身がラブレターを入れ間違えた事に気付いたのは屋上に天満が姿を現したときだろう、と愛理は推測している。

 

それでは、間違いに気付いた播磨が天満に何と言ったのだろうか。

 

 

――流石に、間違いだと気付いてもそのまま天満に告白は……ないわね。

 

間違えた相手に告白はしないだろう、と愛理は即時に推測の一つを候補から外した。

この考えは、本気で自分を想ってくれている彼を馬鹿にしていると思ったからである。

 

 

――素直に間違えたって天満に言った……それが一番合ってる気がする。

 

次に考えたのは、播磨が素直にラブレターを入れ間違えたと天満に白状したのでは、という予想。

 

この予想がほぼ正しいと愛理は確信している。

彼女は告白以降、それとなく播磨の普段の様子を見てきた。

その結果、彼は直情型であり、言うべきことは下手に隠さずに言うと思ったからだ。

 

だが、一つ疑問が残る。

 

 

――天満に…その、好きな相手が、わ、私って言ったのかしら。

 

内心でつぶやくだけでも恥ずかしく感じる愛理。

彼女が気になっていたのは、播磨が好きな相手について天満に話したのか否か。

 

播磨の好きな相手が私と知っているか、と天満に聞くのは流石に恥ずかしくて無理だと愛理は思った。

 

その為、愛理は天満に探りを入れることにした。

 

 

「あのね……ほら、あれって間違えだったじゃない?」

 

まずは、あの日の放課後についての事実確認。

ラブレターを入れ間違えたことの確認である。

 

 

「あぁ! そうだね、播磨くん間違えたみたいだねー」

 

うっかり屋さんだなぁ、播磨くんは、と脳天気に笑う天満の姿に愛理は確信した。

 

天満はラブレターの入れ間違えは知っているが、播磨の好きな相手が愛理とは知らないのだと。

 

 

――この子、知ってたら私を見てニヤニヤするだろうし。

 

天満の性格を知る愛理は、彼女が播磨から好きな相手を教えられていたら、播磨くんを応援したり、私を見てニヤニヤ笑うだろうと思った。

 

しかし、放課後の話をしても態度が変わらない天満を見て、好きな相手は知らないのだと分かったのである。

 

それならば、私がやることは釘を刺すだけだと、愛理は思った。

 

 

「分かってると思うけど、あの放課後のことは言わないで欲しいのよ」

 

彼の為にも、と。

愛理は天満に真剣な表情で話す。

 

播磨が学校の誰かを好きだという話は、不良である彼だからこそ、知られたら広まる可能性は高いと愛理は予想した。

彼が本気で想ってくれていて、こちらも真剣に返事をしたいからこそ、周りに変に邪魔をされたくなかったのだ。

 

真剣な表情の愛理を見て、天満も彼女が言いたいことを察した。

 

 

――そうだよね、播磨くんが学校辞めようとしてたこと、言わない方が良いよね。

 

あの日、自身の下駄箱に播磨の退学届けがあり、彼が学校を辞めようとしているのを知った天満。

 

自分が辞めないで欲しいと言ったことが理由であるかは分からない。

しかし、次の日も学校に通う播磨を見て、彼が辞めるのを止めたのだと理解した。

 

 

「もちろん、言わないよっ!」

 

無理にほじくり回す話ではないと分かったからこそ、天満は力強く頷いた。

 

 

「そう……安心したわ」

 

強く肯定する天満の様子に安堵する愛理。

これで変な詮索はされないだろうと安心したのであった。

 

 

「あれ、でも、何で愛理ちゃん知ってるの?」

 

「えっ! それは……そう、たまたまよ!」

 

「えー、ほんとにー?」

 

「な、なによ――」

 

「――」

 

ニヤニヤ笑う天満と慌てる愛理。

言い争いながら帰る二人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#05「誘う彼、誘われる彼女」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、あれ、播磨君だぜ」

 

「ああ、復学したんだってな」

 

とある日の学校。

通う生徒たちの噂の対象は、休んでいた播磨。

 

急に暫くの間休んでいた不良が、突然復学すれば興味持つのは仕方ないのかもしれない。

 

 

「噂じゃ、ヤーさんの抗争に巻き込まれて、ずっと姿をくらましてたってな」

 

「それでか……一段と凄みが増したぜ」

 

直接話したことがない周りの生徒の間では色々な推測や噂が飛び交う。

 

 

「俺らじゃ立ち入れねぇ世界から這い上がってきた、狼の風格だぜ……」

 

彼らは知らない。

いや、知る由もない。

播磨が休学中に、漫画を描いたり、占い師になっていたということを。

 

噂の対象――播磨 拳児は、ひとり思いに耽っていた。

 

 

――よく考えたら、俺……フラレてないよな。

 

先日、天満に告白しようとした播磨。

しかし、その告白は退学届とラブレターの中身を入れ間違えたことで失敗したのだ。

 

告白が失敗しただけで実際にフラレたりしてない。

その為、まだ可能性があると播磨は思った。

 

だからこそ、彼はひとつ決意する。

 

 

――よしっ、天満ちゃんにアピールしまくるぜっ!

 

これからの学校生活。

休み時間や放課後に天満に沢山アプローチし、彼女を烏丸から奪い取ると決意した。

 

しかし。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――というわけで、明日から夏休みだぞー!」

 

 

 

 

 

 

 

担任の谷の言葉に、机で崩れ落ちる播磨。

 

 

――ずっ……ずっとサボってて、知らなかった。

 

暫く休学していた為、すぐに夏休みに入ることに気付かなかった播磨。

 

早くも彼の計画が崩れるのであった。

だが、落ち込む播磨を他所に、時間はどんどん過ぎていく。

 

 

「おまえらー、通知表返すぞー」

 

「えー」

 

「渡さなくていいからー!」

 

教師である谷の言葉にブーイングが飛び交う。

あまり成績の良くない生徒からしてみれば、親に見せる通知表は要らないものなのである。

 

そして、その成績の良くない生徒の筆頭格にも勿論、成績表が渡される。

 

 

「あの……播磨、この間の手紙なんだが」

 

「うっせぇ、とっとと寄越せ」

 

谷が何かを言おうとするも無視し、自身の成績表を奪い取る播磨。

ちなみに、天満に渡そうとしていたラブレターは、退学届を渡すつもりであった担任の谷に渡されていたのである。

 

 

「ちっ、カメばっかりかよ」

 

自身の成績表を見て、舌打ちする播磨。

矢神高校の成績表の評価は数字や英字ではなく、動物の判子で評価される。

 

最高評価が龍で、最低評価が亀。

勉学が苦手な播磨の成績は悪かったのである。

 

 

「えっ、それじゃあ私と似てるんじゃない?」

 

「なっ! てん……塚本も!?」

 

だが、成績表を苦々しい表情で見ていた播磨のもとに、楽しげな様子で天満が近付いてきたのだ。

 

天満も播磨と同様、成績が良くない生徒の筆頭格である。

 

 

「お揃いだねー」

 

「お、おう、そうだな!」

 

天満の言葉に嬉しそうに頷く播磨。

カメ評価が多いのは良くないのだが、天満と話す口実が出来たことで、馬鹿で良かったと思ったのであった。

 

 

――ハッ、これはチャンスなんじゃ……。

 

学園生活でアプローチするつもりが、夏休みに入る事実を知って落ち込んでいた播磨。

たが、そんな彼に飛び込んできた絶好の機会。

 

播磨は天満に背を向け、自分のポケットにあったモノを取り出す。

 

 

――ここは、やるしかねえ!

 

その手にあるのは、映画のチケット。

従兄弟の刑部 絃子から貰ったものであった。

 

これから夏休みに入ってしまうからこそ、その前に一回誘わなければと思ったのだ。

 

 

「塚本……実は、お前に用があってな」

 

漢、播磨 拳児。

やってみせるぜと己を奮い立たせ、思いっきり振り返りながら言い放った。

 

 

「きょ、今日の放課後……俺と映画にでも――」

 

二つのチケットを差し出しながら播磨は誘った。

彼からの誘い、そしてチケットを差し出された相手は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、その……い、いいわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の髪を弄りながら、恥ずかし気に頷く女性――沢近 愛理の姿が其処にはあった。

 

 

「…………えっ」

 

あれ、この感じ何処かで、と。

いまの状況に既視感を覚える播磨であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「か、烏丸くんは、成績どうだった?」

 

「カッパ」

 

播磨が本来渡す予定であった天満は、烏丸に話し掛けているのであった。




スクールランブルは誰が播磨と最終的に付き合うのか、ネット内で論争がありました。

派閥があり、それにニックネームを付けられていました。

旗派:沢近×播磨(二人が絡むたびに「フラグが立った!」と騒いでいたため)
おにぎり派:八雲×播磨(二人の出会いのときに八雲がおにぎりを渡したため)
お子様ランチ派:播磨×沢近&八雲(おにぎりに旗を立ててお子様ランチ)
王道派:播磨×天満(主人公同士のカップリングということで)

無論、わたしは旗派として応援してました。
ツンデレが今でも好きなので、この漫画への思い入れは強いです。

またハーメルンでスクランが増えてくれないかな、と祈るばかりです。

また見ていただければ幸いです。


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#06「状況に嘆く彼、状況に喜ぶ彼女」

最初はクロス作品はあってもスクラン単体で投稿とかほぼ無いし、投稿しても誰も見てもらえないかも……という不安が大きかったです。
なので、日間ランキングで30位台に表示されていた時は驚きました。

ありがとうございます。
スクランは個人的に大好きなので、同じ様な人達がいたことが嬉しかったです。

ダカーポやスクランなど、古い作品ばかり描く私ですが、引き続き見ていただければ本望です。

さて、感謝はこれくらいにして。
それでは本編をどうぞ。


 

 

 

 

 

 

「聞きましたか、美琴さんや」

 

「なんですかな、高野さん」

 

しまった、と。

愛理は目の前でニヤニヤと笑う親友の姿を見て、自分の迂闊な行動に後悔した。

 

 

 

成績表が返され、HRが終了した頃。

愛理の親友である美琴と晶が彼女の席まで来ていた。

何の為に此方に来たのか、二人の表情を見て即座に察する。

 

 

「どうやら今日の放課後、誰かがデートに行くみたいですよ」

 

「なんと、それは一体誰が行くんでしょうねぇ」

 

胡散臭いやり取りを繰り広げる美琴と晶。

そんな二人を見て確実にHRでの、自身と播磨のやり取りを目撃されていたことを悟った。

 

 

『きょ、今日の放課後……俺と映画にでも――』

 

『あの、その……い、いいわよ』

 

播磨に誘われ思わず頷いた愛理。

別に彼女自身、播磨に誘われたことが嫌だった訳ではない。むしろ、播磨のことをもっと知る為に二人で出掛けるのは嬉しくもあった。

 

しかし。

 

 

――そりゃあ、見られるわよね……。

 

HR中の教室。

場所が場所だけに、デートに誘われた場面を目撃される可能性が高かった。

実際に見られていたのだ。しかも、愛理の親友二人に。

 

チラリと。

愛理はとある人物の方に視線を向ける。

 

 

――播磨くんもやっぱり困ってる。

 

視線の先にいる人物――播磨は、自分の席で頭を抱えていた。

おそらく、彼自身も人に見られる場所で誘うつもりはなかったのだろうと愛理は推測する。

 

自身に告白した際、美琴や晶に目撃されて思わず逃げてしまった播磨。

そんな彼を知るからこそ、愛理は播磨があまり告白やデートなど周りに見られるのは嫌なのだと考えていた。

 

 

――まぁ、他に誘うタイミングなかったものね。

 

基本的に天満や美琴、晶と一緒にいる愛理。

最近は男子生徒に誘われても断り、放課後は彼女たちと一緒に出掛けていた。

 

その為、誘うタイミングが中々取れなかったのだろう。

特に連絡先なども互いに交換していないので、咄嗟にあの場面で誘ってしまったのだろうと思った。

 

 

「そういえば、デートに誘われた女性は、以前に言っていたらしいですよ」

 

「ほうほう、何を言ってましたのかな、高野さん」

 

「あ、あんた達ねぇ、いい加減に――」

 

美琴と晶のやり取りを止めようとした愛理だったが、二人の方に視線を向けて驚いた。

晶がボイスレコーダーを手に持っていたからである。

 

 

――えっ、なんでボイスレコーダー?

 

 

「ポチッとな」

 

戸惑う愛理を他所に、晶はボイスレコーダーの再生ボタンを押した。

そのあと、レコーダーから音声が流れ出す。

 

 

 

 

 

 

『わたしは誰とも付き合ったことないわ!』

 

 

 

 

 

「はっ? えっ、いや、ちょっ…ちょっと!」

 

ボイスレコーダーから流れてきた音声に聞き覚えがあった。

明らかに愛理自身の声だったからだ。

頭が真っ白になり、上手く喋れない。

 

だが、それでもレコーダーからは音声が流れ続ける。

 

 

 

 

 

『それに、もう好きじゃない男と二人っきりで遊ばないようにしたの! わかったっ!?』

 

 

 

 

 

ようやく愛理は美琴や晶達が何を言いたいのかが理解できた。

いや、理解させられたと言うべきだろうか。

 

 

「おやおやおや、この発言からすると、もうこれは……アレですよね」

 

「はい、アレですね」

 

あえて濁して言われたが、ニンマリとした表情の美琴や晶を見て、話したい内容を悟った愛理。

愛理が話した発言が自分自身を首締める形になったのだ。

 

 

――待って、わたし……播磨くんにさっきのレコーダーの言葉、聞かれてるんだよね。

 

何せ誤解されない様に、愛理自身が播磨に聞こえる形で話していたのである。

 

 

「あれ、これって…………」

 

これは告白を受け入れた形になってしまうのでは、と。

頬が熱くなるのを止めることが出来ない愛理であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#06「状況に嘆く彼、状況に喜ぶ彼女」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――何故だ、なぜ、なんだ。

 

播磨は、自分の置かれている状況に頭を抱えずにはいられなかった。

 

授業終わりの帰り道。

播磨の隣には最愛の女性である天満――

 

 

「その……播磨くん、どうかしたの?」

 

ではなく、沢近 愛理の姿があった。

 

 

――俺が天満ちゃんと間違えて誘っちまったのか。

 

今の状況になった原因は播磨自身である。

従兄弟の刑部 絃子から貰った映画のチケットを天満と一緒に観に行く為、誘おうとした。

 

しかし、自身を奮い立たせる為に勢いをつけて振り返りながら誘ったら、天満ではなく愛理が其処には居たのだ。

 

 

――何か、この感じ……似たようなことが最近あった気がすんだよな。

 

自分が間違えたことで起きてしまった今の状況に、何処か既視感を覚える播磨。

 

 

「あぁ、そうか」

 

そして、播磨は思い出した。

夢で見た状況に似ているのだ、と。

 

彼が思い出すのは最近の出来事。

まるで現実で起きたかのようにリアルな夢のことだ。

 

天満と間違えて愛理に告白してしまう。

播磨としては夢だとしても、あまり思い出したくないものであった。

 

 

「ん、何かあった?」

 

「あん? ……あれだ。 今の状況に似た夢を最近見てな」

 

愛理に聞かれ、思わず考えていたことを正直に話す播磨。

彼の答えに、愛理は興味を持ったのか、距離を詰めて更に話を聞き出す。

 

 

「へぇ、こうやって一緒に映画に出掛ける夢?」

 

「ちげぇけど、似たようなもんだ」

 

場所などは異なるが、天満と間違えて愛理に告白やデートに誘ってしまう、という点では似ていた。

 

 

――これって、もしかして正夢ってやつか?

 

何て夢を見ちまったんだ、俺は。

どうせなら天満ちゃんとデートする夢を見たかったと嘆く播磨。

 

 

 

 

「ふーん、そうなんだ……」

 

一方、愛理は播磨の話を聞き、平静を装いながらも内心では喜びを隠せなかった。

 

 

――播磨くん、夢でも私とデートしたかったんだ。

 

自分が見たい夢を見れるわけではない。

しかし、夢は自分自身の深層心理が反映されると言われている。

播磨がデートしたいという願望があったのではと思うと、口元が緩んでしまいそうになる愛理であった。

 

そんな愛理を他所に、ひとつ疑問に思う播磨。

 

 

――それにしても、何でこのお嬢は俺の誘いを断らなかったんだ?

 

愛理が断れば問題なかったものを、と。

自分が間違えて誘ったことを棚に上げて内心で文句を言う播磨。

 

実際、何故誘いが断られなかったのか分からないのだ。

 

 

――沢近、だったか? あんま話したことねぇんだけどな。

 

播磨が思い返しても、愛理とあまり関わった覚えがなかったのである。

彼の認識としては、愛理は天満の友人の一人。あとは金持ちのお嬢様。その程度であった。

 

だからこそ、播磨としては疑問が尽きなかった。

 

 

――まさか俺が好きだとか……ま、ねぇな。

 

自身の好意を寄せているのではないかと一瞬頭を過る播磨だが、即座にその考えを捨てる。

金持ちのお嬢様が不良を好きになるとは思わなかったからだ。

 

 

――てことは、タダで映画見れるから断らなかったのか。

 

お嬢様の癖にがめつい奴だと播磨は思った。

しかし、間違えてでも誘った立場としては、仕方ないから映画は観に行くかと諦めた。

 

それに、と彼は自分がポケットにしまっていた映画のチケットを眺める。

 

 

――これ、絃子がくれたやつなんだよな。

 

現在の居候先の絃子から昨日貰った映画のチケット。

好きな娘と観に行くがいい、と言われて貰ったは良いが、今になって疑いが出てきた。

 

 

――あいつが素直に応援してくれるとは思えねーんだよなぁ。

 

何かあれば即座にモデルガンで撃ってくる絃子。

そんな彼女が自分の恋を応援して、役立つモノをくれるのかと疑問に思った。

 

 

「ハッ……そういうことか、絃子」

 

そして、播磨は唯一の真実に気付く。

 

この映画はきっと女の子と行くと嫌われるような内容なのだろう、と。

きっと嫌がらせな意味で渡してきたに違いないと、播磨は思ったのである。

 

 

――愚かなり、絃子。 俺がそんな見え透いた誘いに乗るとでも思ったのか。

 

天満を誘おうとした事実も棚に上げ、絃子の嫌がらせを回避したと誇る播磨。

では愛理と映画を観に行くのを止めた方が良いのでは、と一瞬考えるが。

 

 

――ま、タダ程高いモンはねえってお嬢様に勉強させるか。

 

どんな変な映画であっても、好きでもない相手なら別に構わないかと考える播磨。

 

 

「ほら、もうすぐ時間なんじゃないの?」

 

「あ、あぁ……それじゃあ行くか」

 

社会勉強をさせるだなんて俺は偉いやつだ、と。

内心で自画自賛しながら映画館に向かう播磨と愛理であった。

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

「さて、拳児くんは映画に誘えたであろうか」

 

教師としての書類作業を行いながらも、刑部 絃子は播磨について考えていた。

 

 

播磨 拳児。

絃子にとって従弟にあたる存在である。

現在は家賃を半分払うことを条件に居候させている。

 

昔は札付きの悪として喧嘩三昧であった彼に呆れていたが、恋をして更生しようとしている現在は少し認識を改めていた。

 

 

――恋をして更生だなんて、真っ直ぐなやつだな、君は。

 

いまでも不良であるのは変わらない。

しかし喧嘩に明け暮れる彼を知るからこそ、変わったと

絃子は思った。

 

モデルガンで撃ったりするが、これでも彼女自身は可愛がっているつもりなのだ。

 

一時期、何があったかは知らないが、また学校を辞めようとしていた。

しかし、また復学したのだ。

彼なりに学生として頑張っている。

 

そんな播磨に、何かしらご褒美でもあげるかと絃子は思い、昨日彼に映画のチケットを渡したのだ。

 

 

「ふふ、君は何かと上手くいかないみたいだが」

 

この映画を観に行けば少しは変わるだろう、と彼女は思った。

 

絃子が渡した映画は、ジャンルとしては恋愛モノである。

そして、その映画は男女で観に行くことが推奨されており、カップルや、付き合っていないが好意がある男女が観に行くのが定番となっている。

 

 

「これなら告白出来なくても、相手が察するだろう」

 

要は、この映画を異性と観に行くと、好意がありますよと伝えている様なものなのだ。

 

播磨が天満に好意を寄せているのを絃子は知っている。

そして、毎回彼女と仲を深めようとして失敗していることも聞いていた。

 

だからこそ、絃子が渡した映画のチケットは、彼女なりの応援。

 

告白できなくても、誘えさえすれば遠回しだが想いを伝えることが出来るだろう、と考えたのだ。

 

 

「まったく、恋のキューピットなんてガラではないのだがな」

 

精々頑張りたまえ、と絃子は播磨を応援するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、更に頭を抱える播磨と、彼をみて顔を真っ赤にする愛理の姿があったという。

 

 

 




スクランの魅力。
それは勘違いもですが、主人公の播磨くんも魅力の一つかと思います。

基本的には、主人公の男キャラよりは女性キャラやモブの男キャラが人気だったりします。
しかし、スクランでの人気キャラランキングでは、播磨くんは上位に輝き続けました。

愛すべきお馬鹿。
そして、真っ直ぐな想いでブレないところ。
それが彼の魅力なのだろうと思っています。


中学時代に大好きだった作品は、今でもわたしは大好きなままでした。

スクランop「スクランブル」
スクランed「オンナのコ オトコのコ」
上の二つは今でも聴いちゃいます。

スクールランブルが二次創作で増えないかなって願います。

また見ていただければ幸いです。



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#07「知らない彼、知らない彼女」

播磨がギャルゲーや乙女ゲーの攻略キャラとした場合、攻略の難易度としては激ハードです。
きっと攻略サイト見ないと難しいでしょう。

外堀を埋める、程度は甘いです。
外堀と内堀を埋める、でも油断できません。

そんな彼は、この程度の状況はまだ焦る段階ではないと認識してお読みください。


それでは、本編をどうぞ。


 

 

 

 

「え、旅行に行けない? ケンカで怪我!?」

 

どうしよう、と。

奈良 健太郎は途方に暮れていた。

 

奈良宅。

のんびりテレビを見ていた彼に、友人から電話が掛かってきたのだ。

 

 

『変な不良に絡まれてよー、ちくしょう、彼女いんのに旅行いこうとした報いかも』

 

「そうなの? てか、どういうつもりだったんだよ、お前!」

 

友人からの電話の内容は、不良に絡まれて怪我を負ってしまったこと。

そして、今度行く予定であった旅行が行けないという話であった。

 

その話を聞き、友人との電話を終えた後に思わずため息が溢れる。

 

 

――はぁ、塚本との旅行楽しみにしてたのに……。

 

奈良が行く予定の旅行。

それは、男友達だけで行くわけではなく、クラスメイトの天満、美琴、晶、愛理も一緒に行くのだ。

 

奈良は普段から天満達と仲良しというわけではない。

本来であれば一緒に旅行に行く様な関係ではないだろう。

 

しかし、先日男友達とプールに行った際、友達が彼女らをナンパし、男グループが水泳で勝てば一緒に旅行に行くという話になっていたのだ。

 

何故その様な話になったのかは途中ではぐれていたので奈良は分からない。

しかし、その結果、男グループが勝ち、天満たちと旅行に行けることになったのである。

 

 

――ぼく1人で行くわけにもいかないし……。

 

奈良は天満に好意を寄せている為、旅行を楽しみにしていた。

だからこそ好きな娘との旅行がなくなる可能性が高く、ショックを受けていた。

 

 

「塚本に相談しなきゃ…………あっ!」

 

そうだよ、それだ、と。

奈良は自分の呟きで、とあることに気付く。

 

 

「例え行けないにしても、塚本と相談してれば仲良くなる機会あるじゃん!」

 

奈良がショックだったのは、好きな娘と夏休みに居れる機会がなくなりそうだった為。

しかし、この話などを天満に相談すれば、自ずと話す機会も、逢う機会も増える。

 

クラスメイトを誘って行こうってなる可能性もあるのだ。

 

これは早速明日にでも話さなければ、と奈良は思った。

 

 

「確か、明日って塚本は学校行くって話してたような」

 

既に夏休みに入っているが、赤点の生徒は補習に参加しなければいけない。

天満は補習組である。しかも全教科。

 

 

「よし、塚本と話して仲良くなるぞ!」

 

奈良は天満から赤点の話を聞いていたので、明日に学校へ向かおうと決意するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#07「知らない彼、知らない彼女」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

補習。

赤点を採ってしまった生徒が受ける必要があり、

夏休みにも関わらず学校で勉強しなければいけない為、受講する生徒は基本的に嫌がる。

 

しかし、そんな中で逆に補習で喜ぶ生徒が居た。

 

 

「――するには、こう解かねばいけない。 わかったか?」

 

「「はーい」」

 

播磨 拳児である。

 

 

――な、なんてこった!

 

補習がこんなに良いもんだったとは、と。

播磨は人知れず喜びを噛み締めていた。

 

勿論、勉強が大嫌いな播磨が喜ぶのには理由がある。

 

チラリと、彼はサングラス越しに隣の席を見る。

 

 

「む、エックスとワイは仲良しさんなんだね」

 

必死に黒板の内容を理解しようと頑張っている女生徒――天満の姿があった。

 

 

――天満ちゃんが馬鹿でよかった……いや、よかねーけど。

 

播磨と同様、天満は勉強が苦手ということもあり、赤点が沢山あり、補習を受ける必要があるのだ。

 

基本的に大体の教科が赤点な二人は同じ補習を受ける為、一緒にいることが出来る。

播磨としては幸せな時間であった。

 

しかし、播磨にも不満があった。

補習は天満の二人っきりではないということである。

 

 

「こら、今鳥! 補習中に携帯を見るんじゃない!」

 

「だってー、女の子からメール来てる気がしたしー」

 

――ちっ、アイツラが居なけりゃ、もっと幸せだったのによ。

 

播磨と天満以外にも、クラス委員長の花井 春樹と今鳥恭介が教室に居たのだ。

尚、今鳥は播磨や天満と同じく補習組であり、花井は補習指導役である。

 

播磨としては不満がないわけではなかったが、他の補習でも天満と一緒の為、怒りは少なかった。

 

 

――よし、頑張って補習の後に天満ちゃんを誘うぜ。

 

以前、天満を誘おうとして愛理を誘ってしまった播磨。

今度こそはちゃんと彼女を誘わなければ、と決意を固めていた。

 

 

そんな時。

ガラガラ、と教室の扉が開く。

 

教室にいる全員がそちらに視線を向けると、其処には同じクラスメイト――奈良が佇んでいた。

何故か、しまった、という表情を彼らに向けていた。

 

特に興味もない相手な為、気にせずに天満を眺めてようかと思っていた播磨。

しかし、天満が奈良に向けて話す言葉にそれは一転する。

 

 

「あ、聞いたよ聞いたよ! 一緒の旅行中止になっちゃったんだって? ここまで来て悔しいよねー」

 

キャンセル料高いし、と。

笑いながら話す天満と、ここでその話をしないでと慌てる奈良。

彼らの話を聞き、播磨は思わず奈良を睨み付ける。

 

 

――コイツ、天満ちゃん達と旅行にいこうとしてやがったのか!

 

詳しく知る為、平静を装いながらも播磨は、耳をダンボにして話を聞く。

どうやら天満や女友達、そして奈良の男友達で旅行にいく予定であったらしい。

しかし、その行く予定であった男友達が怪我を負って行けなくなったとのこと。

 

 

「考えたんだけど、代わりに三人男の子を呼べばいいんだよ!」

 

名案だと言わんばかりにドヤ顔で話す天満。

可愛いぜ天満ちゃんと思いながらも、これはチャンスだと播磨は考えた。

俺もその旅行に参加すれば良い、と。

 

しかし。

 

 

――俺は不良だ……クラスの奴らと仲良しこよしで行けるか。

 

未だにクラスに馴染めていない播磨。

天満だけならともかく、クラスメイト達で旅行となるとキャラじゃないしと少し躊躇う。

 

だが、内心の甘えた考えを却下する。

 

 

――いや、俺は生まれ変わった!天満ちゃんと旅行にいく為に頑張らなければ!

 

ここで機会を逃すわけにはいかない、と。

不良という立場は考えず、積極的に参加していこうと決意する。

 

 

――あれだな、明るく振る舞って、『俺も海行きたーい』……恥ずいが、これで行くしかねぇ。

 

明るくとか自分のキャラじゃないとは思いながらも、言葉を決め、天満へと話し掛けようとする。

 

 

「俺も――」

 

 

「オレも海行きたーい!」

 

「はい、今鳥くん、参加けってーい!」

 

播磨が言おうとした矢先、言葉を被せる形で今鳥が天満に話し掛けたのだった。

その為、播磨の言葉が聞こえず、天満が今鳥の参加を決めてしまった。

 

思わず今鳥をぶん殴りたくなる衝動に駆られる播磨だったが、まだチャンスは残っていると気持ちを落ち着ける。

 

 

――そもそも俺のキャラじゃなかったな、どしっと構えた感じで言うべきか。 『俺も行ってやろうか?』……よし、これだ。

 

改めて話し掛け方を決め直してから、天満へと再び話し掛けようとする播磨。

 

 

「俺も――」

 

 

「僕も行ってやろうか?」

 

「はい! それじゃあ花井くんもけってーい!」

 

今度は花井が播磨の言葉を被せる形で参加の意を述べてしまうのであった。

 

このメガネがっ、と睨む播磨に気付かず、花井は天満に提案を持ち掛ける。

 

 

「あと一人は八雲くんでどうだ?」

 

「うーん、行くかなぁ……人見知りなんだよね、あの子」

 

花井の提案に悩んだ様子を見せる天満。

 

残りの一枠も別の人物で埋められそうになり、独り言をつぶやく形でアピールを心掛ける播磨。

 

 

「あー、夏だなー! 泳ぎたいもんだぜ!」

 

 

「だが、塚本。 もうこの時間もないし、他に誘うのも厳しいと思うぞ」

 

「うーん、やっぱりそうなのかなぁ」

 

播磨の独り言も意に介さず、話を進める花井と天満。

 

 

「バイトなんも決まってないし、ヒマだなー」

 

 

「もう皆、予定は既に埋まってしまってるだろうしな」

 

「難しいかぁ……仕方ないか、八雲に聞いてみようかな」

 

「ぜひ、そーしてくれたまえ!」

 

――播磨くん、行く気マンマン……。

 

播磨のアピールも虚しく、天満が八雲を誘うということで決まってしまうのだった。

唯一、奈良が播磨のアピールに気付いていたが、不良が怖いこともあり、そっと気付かないフリをしていた。

 

 

――ちくしょー……置いてかれちまう。

 

教室から出て行ってしまった天満たちを他所に、ひとり落ち込む播磨。

せっかくの機会を逃してしまったことによるショックが大きかったのだ。

 

 

「ちくしょう! 好きな女の娘と行けるチャンスだったのによ!」

 

思わず机に拳を叩きつけてしまう。

この補習以外に会う機会など他にない為、旅行がいけないと夏休みは逢えないのだ。

 

 

――おれは運がないのか……。

 

灰色の夏休みと化した播磨は暫くこのまま教室で不貞寝しようかと思っていた。

しかし、そんな彼に救いの手が差し伸べられる。

 

 

「播磨くん」

 

それは彼の最愛の相手――天満だったのだ。

教室から出て行って筈の彼女が戻って来ていた。

 

天満から次に発せられる言葉は播磨にとって大歓喜な内容であった。

 

 

「一緒に海、行かない?」

 

諦め掛けていた天満との旅行の誘いに、泣きながら頷く播磨。

物凄い勢いの頷きに奈良は引いていたが、天満は微笑ましそうに彼を見つめていた。

 

 

――天満ちゃんはやっぱり天使だった! 間違いねぇ!

 

ひとり歓喜に身体を震わせていた播磨であったが、天満が近付いてきて小声で話し掛けた。

 

 

「誰か分からないけど好きな女の子と一緒に海行けて良かったね」

 

応援してるぞ、と。

ウインクしながら天満は教室を後にするのであった。

 

聞かれていた、且つ勘違いされたことで呆然とする播磨を他所に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、その後。

 

 

「あ、そういえば」

 

「ん、どうしたの、奈良くん?」

 

廊下で天満たちが歩く中、奈良が思い出したかの様に声をあげる。

天満が奈良の様子が気になり疑問を投げる。

 

 

「沢近さんって、海行くのかな?」

 

彼が気になったのは愛理のこと。

プールで水泳の勝負をし、旅行が決定しても最後まで渋っていたのが愛理だったのだ。

だからこそ、奈良は旅行に彼女は行かないのではと思った。

 

 

「わたしも、愛理ちゃん行かないかなって思ってたんだよね」

 

最近は放課後も異性と遊んだりしなくなった愛理。

そんな彼女を見ていたからこそ、天満も同じ様に考えていたのだ。

 

しかし。

 

 

「さっき晶ちゃんからメールが来たんだ」

 

「へ、なんて?」

 

奈良の疑問に答える形で、天満は晶からのメールを見せるのであった。

そこには、晶からの文章が記載されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――我に策あり、と。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

その日の夜。

愛理は自宅の屋敷にて晶と電話で話していた。

 

 

『やっぱり海、行くつもりないのかしら?』

 

「えぇ、ごめんなさいね」

 

晶と話している内容は、旅行について。

自分は行くつもりがないのだと晶に伝えている最中であった。

 

元々、愛理は乗り気ではなかった。

プールでナンパされた時も断るつもりであったが、いつの間にか旅行いくか勝負することになり、負けたのだ。

 

渋々ではあったが勝負に負けて行かないとは言い辛く、今回は行くしかないと思った。

 

 

「晶たちだけなら良かったんだけどね」

 

しかし、先日播磨と映画を行ったことにより、やはり旅行は断ろうと思ったのだ。

放課後に播磨と一緒に行った際、彼は始終ぶっきらぼうであった。

その態度に少しムッとした愛理であったが、観る映画が分かった瞬間に気持ちが一転とした。

 

 

――播磨くん……や、やっぱり積極的なのね。

 

彼が誘った映画は、最近話題となっていた恋愛映画。

カップル推奨の映画ということもあり、周りはカップルだらけであった。

 

しかし、重要なのは其処ではなかった。

 

この映画が学生の中で流行っているのは、何も映画の内容が理由だけではない。

想いを伝える方法として話題になっているのだ。

 

直接好きと告白するのではなく、この映画を誘うことで相手に間接的に好きと伝え、受け取れば私も好きとの返答になる。

これにより、カップルが最近増えたと巷では噂になっている。

 

 

――大胆よね……播磨くん。

 

そもそも、愛理は直接、播磨に告白されている。

しかし、彼女は返答を先延ばしにしており、播磨もそれを了承してくれていると彼女は思っている。

 

だが、播磨も焦れったいと思ったのだろう。

だからこそ、この映画を誘ってきたのだ。

 

 

――わたし……チケット受け取った、のよね。

 

この映画の誘いの意味を知りつつも、愛理は播磨から渡されたチケットを受け取ったのだ。

 

 

 

 

それは、つまり――

 

 

 

 

 

 

――わたしたち、恋人、なのかしら。

 

 

 

 

 

直接告白の返答をした訳ではない。

しかし、晶にボイスレコーダーでからかわれた通り、自身の発言は間接的にだが、好きだから映画に付いてきたと播磨に思われても仕方ないと思った。

 

実際、映画を受け取った以降は、恥ずかしくて愛理は播磨を直視出来なかった。

だが、それでも播磨の側に居ると胸の中が暖かくなる様に感じたのだった。

 

お互い、その恋人云々とは言っていない。

だけど互いに何となく分かっている。

 

何だかその関係がくすぐったくて、愛理は思い出すと、笑みが溢れてしまう。

 

唯一、愛理が失態だと思ったのは播磨の連絡先を聞かなかったことであった。

 

 

『――さん、愛理さん、聞こえてる?』

 

「あ、あぁ、ごめん。 ちょっとボーッとしてたわ」

 

思考の渦に埋もれていたらしく、晶の声に我に返ると、彼女に謝る愛理。

 

 

「と、とりあえず! 男が居るなら私はキャンセルさせて貰うわ」

 

『…………そう』

 

梃子でも動かない。

そんな様子を見せる愛理に、晶は納得したように頷く。

晶の返答に、これで理解して貰えたと安堵する愛理。

 

だが、晶の次の発言に思わず身体がビクッとなってしまう。

 

 

『もし、旅行にいく男子に播磨くんが居れば、別だったのかしら?』

 

「……えっ、な、ちょ…なんでそうなるのよ!」

 

『違うの?』

 

「ち、違うわよ!」

 

晶の問い掛けに顔を赤くしながら否定する愛理。

実際は晶の言うことに間違いはないのだが、愛理としては肯定するのは好きと認めることと同意なので、恥ずかしかった。

 

それに、播磨も不良ということもあり、あまり周りには知られたくないだろうと考えたのだ。

 

 

『そう……勘違いだったみたい、ごめんなさいね』

 

「べ、別に気にしてないわよ」

 

これ以上はボロが出る気がした為、もう切るわよと、告げてから通話を切ろうとする愛理。

 

しかし、それに待ったを掛けたのが晶である。

 

 

「まだ何かあるの?」

 

『愛理さんは参加しないけど、一応ね。 一緒に行く予定だった男子だけど、怪我したみたいでメンバー変わったのよ』

 

「ふーん、そうなんだ」

 

明らかに興味ないと分かる相槌をうつ愛理。

それを気にせず、晶は淡々と話を続ける。

 

 

『変わって参加するのが、奈良くん、花井くん、今鳥くん……それと』

 

播磨くんよ、と。

最後の晶の言葉に思わず咽る愛理。

 

 

 

え、なんで播磨くんが。そういうの参加しそうにないのに。もしかして私が参加すると思って?でも、一回断っちゃったし。これで参加するって言ったら、あからさまよね私。でもせっかくなら行きたい。だけど今更行くって言うのは流石に――

 

 

 

頭に色々なことが過り、何を話せば良いか戸惑ってしまっている愛理。

きっと、そんな愛理の様子を晶は分かっているのだろう。

 

 

晶は愛理からの返答がないのを気にせず、言葉を続ける。

 

 

『愛理さん、ごめんなさい。 わたし、物覚えが悪いみたいで。 もう一度聞かせて欲しいんだけど――』

 

晶の声はいつも通りに淡々としている。

しかし、彼女がどんな表情をしながら話しているのか、何となく想像できてしまう愛理。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『旅行、いくんだっけ?』

 

 




感想、評価、本当にありがとうございます。
見ていただける人が居ると分かると頑張って描こうと思います。

とは言っても、完全に楽しんで描いてます。

最近のアニメや漫画も大好きですが、スクランもキャラの魅力は負けていないと思ってます。

それはさておき、最近はどんどんランキングにマイナー(描く人が少ない)作品が上がってきてますね。
純粋に凄いなと思いました。私も頑張らなければって思います。
プリキュアは流石に驚きました。
でも出て来るのが可愛いキャラが多いことを考えると、二次創作ではもっと多くても良いような気がしますね。
読み手としても楽しみです。

それでは、
また見ていただければ幸いです。


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#08「思いを馳せる彼女」

スクールランブルでの勘違いの原因は、主に播磨の誤爆などが理由です。

しかし、それだけではなく、自分の考えに自信があり過ぎるキャラクターが多いのも原因ではないでしょうか。


播磨「天満ちゃんは俺のことが好きだ。 間違いねぇ!」

天満「播磨くんは八雲の彼氏さんだもん!」

愛理「ヒゲは私のこと、好きなのよね……」

今鳥「美琴ちゃんはDカップだよ、間違いないね」

花井「八雲くーん!」


晶「(面白いから黙ってよう)」

※一人、意図的に黙っている人が居る模様。


それでは、本編をどうぞ。


 

旅行当日。

海に行く面々は集合場所の駅に集まっていた。

 

そのうちの一人である美琴は、意外な人物を見掛け、目を丸くしていた。

 

 

「あれ、沢近? てっきり来ないかと思った」

 

彼女が視線を向ける先には、金髪の女の子―沢近 愛理が居心地が悪そうに立っていた。

 

美琴としては、愛理は旅行には来ないと思っていたのである。

 

美琴自身も旅行は乗り気ではなかった。

片想いだが好きな人も居るし、ナンパして来た男性にあまり良いイメージ抱いてなかったからだ。

だが、天満と晶に言われて諦めたのである。

 

しかし、愛理は美琴以上に乗り気ではなかった。

こりゃ行かなそうだな、と思うくらいに不機嫌な様子を隠していなかった。

 

その為、本当に意外だったのだ。

 

 

「あ、晶にどうしてもって言われたからよ」

 

美琴の視線を敏感に感じ取り、言い訳をする様に慌てた口調で話す愛理。

 

愛理の言葉に、美琴は視線の先を晶に変える。

 

 

――わ、分かってるわよね!

 

愛理もまた晶に視線を向けていた。

主には懇願の気持ちを載せて。

 

彼女自身、晶の言葉で海に行くことにした為、自分の行動があからさまだとは思っている。

思ってはいるが、正直には言わないで欲しい、と。

話を合わせて欲しいと晶に念じる。

 

 

――任せて。

 

そんな愛理の思いが通じたのか、晶は愛理に向かって親指を立てるジェスチャーを向けた。

完璧な意思疎通であった。

 

 

「愛理さんの言うとおりよ」

 

愛理の言葉に肯定した様子を見せる晶。

 

ここまでは、良かったのである。

ここまでは。

 

 

「だから美琴さん、愛理さんが誰か気になる男子が旅行に来るから変更しただなんて、邪推しないで」

 

「ちょっ、あき……あきらっ」

 

晶の言葉を聞き、美琴はこちらに向かってくる男子達を見ていく。

 

其処には、ナンパした男子ではなく、別の男子達が。

晶からは男子が怪我をしてメンバーが変わったとの連絡があったが、具体的には聞いていなかった。

 

視線の先には、幼馴染の花井、あとクラスメイトの奈良、今鳥、そして――

 

 

「あぁ……なるほど」

 

サングラスで頭にカチューシャを付ける男子。

誰であるかはスグに分かった。

そして、愛理が旅行をいくと変更した理由も。

 

納得した様子を見せ、美琴は視線を男子から晶や愛理の方向へと向ける。

 

 

「分かってるよ高野、私がそんな邪推するわけないだろ」

 

美琴の返答は愛理が望むものであった。

ニヤニヤと笑いながらこちらを見なければ、完璧であった。

 

 

「えー、みんな何の話をしてるのー?」

 

愛理たちの話が気になったのか、天満は彼女たちの話す場所に来て尋ねる。

天満は、美琴のニヤニヤした表情を見て、何か面白い話をしてると勘付いたのである。

 

 

「な、何でもないわよ…ほら、電車に乗る前に飲み物を先に買っておきましょ」

 

このままだと不味いと危機を察知し、天満を連れて一緒に購買へ向かう愛理。

 

 

「えー、何か楽しそうな話してそうだったのにー」

 

恋バナが大好きな少女、天満。

彼女に話を聞かせなかったのは正解である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#08「思いを馳せる彼女」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにっ、八雲くんは居ないのかっ!」

 

そんな馬鹿な、と。

電車の中、花井は愕然とした表情を浮かべる。

 

一応、八雲ではなく播磨になったと天満が伝えていたが、八雲との旅行に想いを馳せていた為に気付かなかったのだ。

 

 

「ぬっ、八雲くんの為に特製弁当を作ってきたのだが」

 

料理を作るのが上手い花井は、他のメンバーにも弁当を作りつつ、八雲には特製の二段弁当を用意していた。

 

 

――ということは、残りは。

 

一人ずつ作ってきた弁当を渡していたが、八雲が居らず、まだ弁当を渡していない相手に顔を向ける。

 

天満、美琴、愛理、晶、今鳥、奈良。

そして――播磨。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

花井と播磨。

両者の視線が合い、暫く無言の状態が続く。

 

そして、先に行動したのは花井であった。

八雲の為に作った弁当を開き、思いっきり口にかき入れる。

 

 

「なっ、俺にも寄越せよ!」

 

「八雲くんの為に作った愛情弁当を、誰が君に食べさせるか!」

 

自分の分の弁当を作るの忘れてたし、と花井は喋りながらも弁当のおかずを食べ続ける。

 

播磨と同様に運動神経が良いので、弁当を奪って来ようとする播磨の手を上手く躱す花井。

 

 

「他の人に渡した弁当を分けて貰ってくれたまえ」

 

花井の言葉に、なるほどと播磨は頷く。

そして、これは紛れもなく天満ちゃんと近付くチャンスだと思った。

 

天満ちゃんに弁当を分けて貰い、親睦を深めていこうと考えたのである。

 

播磨は天満ちゃんの席に近付こうとし、ひとつ重大なミスがあったことに気付く。

 

 

――いきなり、天満ちゃんじゃ怪しまれるか。

 

同性ではなく異性からいきなり弁当を貰おうとした場合、何か言われる可能性がある。

 

男子の弁当が食べ終わっているから、女子が食べている弁当を分けて貰う。女子の中では一番席が近かったから天満に頼む。

ナイスな案だぜ、と自分を褒める播磨。

 

男ならもう食べ終わってんだろ、と播磨は奈良と今鳥の方へ振り返る。

 

 

――美琴ちゃん、やっぱり服の上からでも良い眺めだわ。

 

――塚本、今日の私服も可愛いなー。

 

今鳥は美琴を、奈良は天満を見ていた為、弁当箱はまだ半分以上残っている状態であった。

 

 

「……アー、テガスベッター」

 

「ちょ、へぶっ!」

 

「まっ、ま……ぶはっ!」

 

よし、完璧だな、と。

わざと今鳥と奈良の顔に弁当をぶつけ、無理やり口に入れさせた播磨。

 

花井には他から貰えと言われたので男子からは貰えない。

播磨は自分にとって最良の状況を作り出せたと内心ガッツポーズを決める。

 

そして、播磨は覚悟を決めて天満の方に振り向き、言葉を伝える。

 

 

 

 

 

 

 

 

「つ、塚本……あのよ、べん――」

 

 

 

 

 

 

 

「プハー、美味かった! ん、どうしたの播磨くん?」

 

「な、なんでもねぇ」

 

疑問の表情を浮かべる天満に間違えたと言い、自分の席に戻る播磨。

 

途中までは完璧であった。

男子が食べ終わっていたなら女子にお願いする。

言い訳としても申し分なかった。

 

しかし、播磨の誤算だったのは――

 

 

――天満ちゃん、食べるの早すぎだぜ……。

 

天満が既に弁当を食べ終えていた、ということ。

プチトマトや米粒一つ残さずに天満は完食していたのである。

 

完全に播磨の案は潰れてしまうのであった。

 

 

――やべぇ、死ぬほどお腹すいた。

 

昨日、天満と旅行ということでテンションが高く、夕飯を食べ忘れていた播磨。

しかも、朝は集合時間ギリギリに起きた為、慌てて朝食も抜いてしまっていた。

 

 

――しまった、アイツらに無理やり食わしちまった。

 

奈良と今鳥には自身が無理やり食わしてしまったのだ。

ちらりと見ると、まだ花井は二段弁当の為、食べている途中であった。

 

 

――メガネに頼りたくねーが……背に腹はかえられねぇ。

 

他から分けて貰えと言われた。

しかし、あの真面目なメガネなら真剣に頼めば少しは貰えるだろうと思った。

 

恥だと感じたが、意識すると余計にお腹が空いてしまい、何でも良いから食べたいという欲求が湧いている播磨。

 

仕方ないと思いながら花井に頼もうとした、その時。

播磨の目の前に半分食べかけの弁当箱が差し出されていた。

 

彼は弁当を差し出す相手を見る為、視線を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、わたしの分で良ければ……たべる?」

 

 

 

 

 

 

 

其処には、恥ずかしそうに差し出す愛理の姿が。

 

この時ばかりは天満以外を天使だと思えてしまった播磨であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

――もう、そんなに慌てて食べて。

 

ゆっくり食べれば良いのに、と。

一心不乱に弁当を食べる播磨を、愛理はニコニコと笑みを浮かべながら見つめていた。

 

花井から弁当を貰った後、播磨だけ弁当がないことに気付いた愛理。

しかし、同性も居るのにいきなり異性の自分が弁当を渡すのも変だろうかと思い、男子の方の様子を見ていた。

 

そして、花井の言葉と奈良や今鳥の弁当を確認した愛理は播磨に声を掛けたのだ。

 

その結果、播磨が嬉しそうに食べている現状である。

 

 

――ほんとに嬉しそうに食べてるわね。

 

サングラスを掛けている為、表情は分かり辛い播磨。

しかし、いまはサングラスで目元が隠れていても分かる位に嬉しそうな表情を浮かべているのだ。

 

この弁当は、愛理が作ったわけではない。

花井が作ったのだと、播磨も理解しているはず。

 

それなのに、何でここまで嬉しそうなのか。

疑問に思う愛理であったが、とあることに気付いた。

 

自分の食べかけの弁当。

喜んで食べている播磨くん。

そして、私のことを好きだということ。

 

現在の状況を整理した愛理は、分かってしまったのだ。

播磨が喜ぶ理由を。

 

 

――間接キス、よね。

 

認識した途端に、頬が熱くなるのを感じる愛理。

 

普段はその程度で気にしない彼女であったが、あそこまで喜ぶ播磨を見ると、妙に強い羞恥心に襲われてしまう。

 

 

――そうよね……わたしたち、手も繋いでないもんね。

 

お互いが好き合っている。

映画館に行くというだけであったがデートもした。

 

しかし、手も繋いだことがなければ、キスなんて以ての外。

それなのに、急に間接キス。

 

真剣に好きでいてくれて、不良の姿とは裏腹に純情な彼だからこそ、嬉しく感じてくれたのだ。

 

 

――は、恥ずかしい。

 

表情を隠すため、顔を電車の窓に向ける愛理。

そんな播磨をみて嬉しくもあったが、いまの自分の顔を誰にも見られたくなかった。

 

 

――泊まりよね、今回の旅行。

 

播磨だけでなく、他にもメンバーが居る。

だからこそ、二人きりになる機会は少ないかもしれない。

 

しかし、それでも何処かでゆっくり話したいなと思う愛理であった。

 

 

 

 

 

 

 

 




今更ながらに感想、評価ありがとうございます。
そして推薦もありがとうございます。

基本的に、感想や評価、推薦を入れてもらっても、その人自身に見返りがありません。
それなのに、付けてくださる読者さんには感謝以外に言うことは見当たりません。
本当にありがとうございます!

私自身が読み手のときに感想とか評価とか全然付けてなかったのは反省です(;´д`)

私以外の作者にも言えることですが、読者の感想や評価はあなたが思っている以上にもモチベーション上げる材料になってますよ!

「作者が物語を書き続けられるのは、俺の感想のおかげですわ(ドヤァ」
って思って貰って問題ないと思います∠( ゚д゚)/

読者にリポDくらいは渡したいと思うくらいに感謝しているakasukeでした。

では、また次回に!


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#09「漫画のようなハプニングが起きる彼と彼女」

こちら久しぶりに投稿します。

私はこの作品含めて2つ二次創作を描いてますが、両方ともなるべく原作のキャラのイメージや雰囲気を壊さないように描きたいと思っています。

Q: 沢近さんがツンデレじゃないんですが(´・ω・`)

A: 初めから播磨くんが沢近さんに素直な愛(勘違い)しかぶつけてないので、ツンする機会がないだけです。何か切っ掛けがあればツンデレに進化します。


では、本編をどうぞ。


 

 

 

「はぁ、まさか八雲くんが来ないとは……」

 

色々と準備してたのに、と花井は項垂れながらタメ息を吐いた。

 

 

電車で目的地に到着した天満たち一行は、宿泊する旅館で水着に着替え、早速海へと向かっていた。

 

花井としては塚本 八雲と旅行を行くということが目的の大部分を占めていた為、不在と聞いてからずっとショックを受けていた。

ただ、項垂れながらも荷物持ちを担当しているのは彼の根が真面目だからであろうか。

 

 

「あはは……」

 

今鳥の隣にいた奈良は花井に対して同情的な視線を向けていた。

好きな女の子が旅行に来ていなかったら確かにショックだろうなと思ったからである。

 

 

「おいおい、まだ言ってんのかよ」

 

一方、そんな花井の状態を見て、今鳥が呆れたような顔をしながら話し掛ける。

 

 

「しかしな、八雲くんが来ていると思って張り切っていたんだが……」

 

「来てないんだから仕方ねーべ……それよりも、あっち見てみな」

 

今鳥が指を差した先には、旅行の女子メンバーである天満、愛理、美琴、晶が海を眺めながら話している姿があった。

 

 

「む、彼女たちがどうかしたか?」

 

「どうかしたか、じゃねーよ! あんなに目の保養になるもんはねーだろ」

 

そう言う今鳥に、花井が今度は別の意味でタメ息を吐くのであった。

 

 

――でもまぁ、言いたい事は分からないでもない、かな。

 

今鳥は明け透けな物言いであったが、奈良としては頷かざるを得ない光景ではあったのだ。

 

 

「おー、いいじゃん」

 

「はぁ、ようやく海に着いたわね」

 

「天気も良いし、まさに海日和って感じだしね!」

 

嬉しそうに話す美琴や愛理、天満、晶たち。

彼女たちも海で泳ぐため、勿論水着の格好である。

容姿が良く、スタイルの良い美琴や愛理、晶はビキニということもあり、周囲の男たちの視線を独占していた。

 

 

――塚本の水着、可愛いな。

 

天満は他のメンバーと比べるとスタイルは劣るが、奈良からすれば好きな女の子の水着は何よりもドキドキするものであった。

 

 

「あ、天満。 日焼け止め持ってない?」

 

「持ってないよー」

 

「俺持ってるゾー」

 

各々が海や人に思い思いの感想を抱く中、日焼け止めを忘れたのか天満に借りようと思うも、持ってないと言われる愛理。

 

そして、今度は美琴と晶へと振り返り、同じ質問をする。

 

 

「持ってきてねーわ」

 

「愛理さん、私も今は持ってないわ……部屋にはあったと思うけど」

 

「それじゃあ部屋に取ってくるわ、ありがと」

 

旅館の部屋に置いた荷物にあると言われ、感謝を述べてから部屋に戻ろうとする愛理。

 

 

「おーい、俺は持ってるぜー」

 

塗るぞー、と付け足しながら今鳥は脳天気に部屋に戻ろうとする愛理に後ろから声を掛ける。

 

セクハラ的な言葉は今鳥としては挨拶なようなものである。

今鳥の言葉を聞き、彼へと視線を向ける愛理。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

だが、愛理は今鳥に特に何も言わずに部屋へと向かうのであった。

 

 

「い、今鳥くん、大丈夫?」

 

「…………なぁ、奈良」

 

愛理に無視され、ポツンと取り残された今鳥に奈良が心配して声を掛ける。

すると、今鳥が奈良の方に真剣な表情をしながら話し掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

「蔑んだ目で見られて少し興奮したんだけど、おかしいか?」

 

「おかしいんじゃないかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、その後のこと。

美琴が何か気付いて疑問を投げかける。

 

 

「そういえば、播磨は?」

 

「たしかまだ部屋だったと思う」

 

「まったく、集団行動が取れないやつだ」

 

そんなやり取りがあったとか、なかったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#09「漫画のようなハプニングが起きる彼と彼女」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旅館「旅龍」。

本日、愛理たち全員が泊まる旅館である。

 

外観としては老朽化が進んでいる様に見えるが、案内された部屋は綺麗で且つ広々としていることもあり、割りかし好評であった。

 

 

「あ、クリームあった」

 

天満たちが海にいる中、愛理は日焼け止めクリームを取ってくる為にひとり部屋へと戻っていた。

 

だが、彼女の目的はそれだけではなかった。

 

 

――播磨くん、何処に居るのかしら。

 

彼女が気になる男子について。

先程一緒にいたメンバーに播磨が居ないことに気付いた愛理は、部屋に戻る途中で播磨を探していた。

 

しかし、部屋に戻る間では播磨を見掛けることはなかった。

 

 

――せっかく、二人で話せると思ったんだけど。

 

皆で旅行に来ているということもあり、中々ふたりきりにはなれないだろうとは思っていた。

 

しかし、偶然ではあったが今ちょうどその機会が巡ってきたので愛理としては播磨に会いたかったが会えなかった。

思わずタメ息を吐く。

 

 

――そもそも、何で一緒に居ないのよ。

 

そして内心で播磨に文句を言う愛理。

 

もともと学校自体しばらく来なかった播磨。

単に不良だからと言うべきか、はたまた自由人と言うべきか。

集団行動はあまり得意ではないのだろうとは愛理も何となく理解していた。

 

しかし、今回の旅行はもう少し頑張って欲しいと思う愛理。

 

 

――わ、わたしの為に来たんでしょ。

 

不良である彼がこの旅行について来た理由は自分が居るからだろうと愛理は推測した。

いや、推測というよりは、ほぼ確実だとは思っていたのであるが。

 

自惚れが強いと思われるかもしれないが、それ以外に理由がないのだ。

 

そこまでして来てくれたのに、自分にも何も言わずに居なくなる彼に少しむくれる愛理。

そんな彼女であったが、ひとつ何かを思い出す。

 

 

「そういえば、男子部屋と繋がってるのよね」

 

愛理が視線を向けるのはフスマの先。

 

旅館に着いて部屋に入った際、美琴と天満が話していた内容を思い出したのだ。

 

 

『へぇ、隣の部屋とフスマで続いてるんだー』

 

『ゲ、マジかよ』

 

美琴が男子メンバーに覗くなよと注意をしていたのだ。

ということは、このフスマを開けるとすぐに男子部屋なのである。

 

 

――もしかして、まだ播磨くん、いるかしら……。

 

ずっと部屋にいるとは思えないが、戻る途中では出会えなかったのだ。

可能性はあると思った愛理は一応確認しようと思った。

 

だからこそ、男子部屋に続くフスマを開けて声を掛けた。

 

 

「播磨くん、いるの…か……しら……」

 

愛理は目の前の光景を見たことにより、言葉が途切れてしまう。

 

彼女が探していた人物はいたのだ。

それは、本来であれば喜ぶべきところであろう。

 

 

 

 

 

 

 

「フシュー」

 

全裸でなければ。

 

 

 

 

 

 

 

何故裸なのか、何故変な構えをしているのか。

聞きたいことは山のようにあったが、愛理は目の前の光景に頭が真っ白になってしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

播磨は自分の状況に対して途方に暮れていた。

だが、彼がそう思っても仕方ないかもしれない。

 

何せ、裸の男が女性を羽交い締めにしているのだ。

誰かに見られると通報されてしまう事態だ。

 

 

――な、何でこんなことになっちまったんだ。

 

彼はこの状況になってしまった原因を思い返す。

 

人はそれを現実逃避と呼ぶ。

 

 

『はっ! ほっ!』

 

彼は同じ部屋の男子が先に海へと向かった後、ひとり部屋に残っていた。

単純に自分のペースで海に行きたかったのもあったが、播磨にはやりたいことがあったのである。

 

 

『ふぅ、一回やってみたかった』

 

スチュアート大佐ごっこ。

播磨は裸になり、海パンを履く前に何となくやりたくなったのだ。

何故と言われると困る。本当に急にやりたくなってしまったのである。

 

どのみち皆が海に向かったので誰も暫く来ないだろう。

そういう油断があった。

 

そういう時ばかり、彼にはハプニングが起きる。

 

 

『播磨くん、いるの…か……しら……』

 

『フシュー…………あっ』

 

スチュアート大佐の構えを真似している最中にフスマを開けて愛理が入ってきてしまったのだ。

 

しかも真っ正面の位置である。

愛理からしてみれば、もろに見えてしまっている位置であったのだ。

 

 

『…………』

 

『…………』

 

播磨と愛理の両方とも頭が真っ白になっていた。

 

しかし、最初に我を取り戻したのは愛理。

思わず口を開けて叫んでしまいそうになるが、播磨はそれを察知し、思わず口を手で塞いだのである。

 

それだけであれば良かったのかもしれない。

口を塞ぐだけでは留まらず、思わず彼女の手を後ろに固めてしまったのだ。

 

それが途方に暮れる現在の状況である。

 

 

――固めてどーすんだ、俺?!

 

長年のケンカ人生で染み付いてしまった動きを行ってしまった。

完全に対応を間違えてしまったのである。

 

この時点で既に言い訳が難しい状況。

 

こんなことするつもりでなかったと説明しなければいけない。

しかし、それも難しいかもしれないと思った。

 

 

――こいつ、死ぬほど怒っていやがる……。

 

羽交い締めにされている愛理は特に暴れはしていなかった。

だが、それが嵐の前の静けさに過ぎないと理解せざるを得なかった。

 

 

――おい、やばいくらい全身真っ赤にしてキレてるぞ。

 

愛理の顔だけでない。

愛理の全身が目に見えて分かるほどに赤く染まっているのである。

 

長年のケンカ人生でキレた人間が顔を赤くするのを見てきた播磨だが、初めて見るくらいの赤さに恐怖を覚える。

思わず説得を諦めてしまいそうになるくらいは。

播磨は、途方に暮れていた。

 

 

 

一方、愛理は播磨以上に現在の状況に戸惑っていた。

もしくは混乱していた、と言った方が正しいだろうか。

 

目の前の光景に頭が真っ白になり、次には思わず叫びそうになり、気付いたときには播磨に羽交い締めにされていたのだ。

 

ただ播磨が勘違いしていたことがある。

それは怒りで全身を赤くさせていた訳ではないということである。

 

 

――な、なんなの、この状況。播磨くんに後ろから口を塞がれて抱き締められてる。そもそも何で裸だったの。あ、あれ、わたし男性の裸は小さい頃にお父様と一緒にお風呂に入って以来で……は、播磨くんの裸見ちゃったんだ。でも付き合ったら可笑しくはないのかしら。いや、まだ私たち付き合ったばかりで、手も繋いでなくて、そういうのは早いというか。あ、さっき電車で間接キスはしたのよね。それでも早いわよ! ま、まずはそういうのの前に間接じゃないキスを、ってそれじゃあ私がキスしたいみたいじゃない! だ、だけどそもそも播磨くんを我慢させてしまったのは私の所為なのかしら。男子って付き合ったらそういうことしたいって雑誌に書いてあったし、播磨くんも例外じゃないわよね。だけど、もうちょっとムードは欲しいというか。それに、いまは皆で旅行に来てるから誰か来る可能性があって、ほら、部屋に戻るって言っちゃったから遅いと美琴や天満たちが戻ってきて見られちゃうかもしれないし。はじめては私の家……はナカムラたちに見られちゃう。だったら播磨くんの家が良いというか。あれ、そういえば播磨くんは一人暮らしなのかしら、家族と一緒だと同じく難しいのかもって、じゃあ、ど、何処でするものなの…って違うでしょ、わたし!まだ、そもそも早いっていう話で、段階を踏んでからが良いし、もっとゆっくり進んでいきたいし。あれ、なんの話だったかしら、と、とりあえず播磨くんに言わないと、でも口が塞がれてて……というか、塞がれてる口を取ってもらったら何て言えば良いのかしら、我慢させてごめんなさいかしら、もしかしてワガママなのかしら、こういう彼氏の生理現象とか理解してあげないとダメなのかしら……読んでた女性誌にこんな状況書いてなかったし、そもそも予想もしてなかったし。あれ、なんで播磨くん最初から裸だったの――

 

 

色々な感情や気持ちが浮かび上がり、更に色々と考えてしまい、愛理は完全にパニックになっていた。

 

 

愛理と播磨の両方とも次にどうすれば良いか分からずにいた状況。

そんな状況に進展があった。

 

 

それが良いのか悪いのかは分からないが。

 

ガラガラ、と。

フスマが開いて別の人物が入って来たのである。

 

 

「…………」

 

それは同じく旅行メンバーの晶であった。

彼女は無言で部屋の播磨と愛理を見つめていた。

 

 

――お、終わった……。

 

裸の男が女性を羽交い締めにしている姿。

言い訳が難しい状況であった。

既に播磨はもう諦めの境地に入っていた。

 

だが、晶は部屋を見渡し、改めて播磨と愛理を見て、何か納得したのかひとり頷く。

そして、播磨と愛理に言葉を投げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「布団、敷いた方が良いわ」

 

 

 

 

 

 

先に戻ってるわ、と。

晶はフスマを閉めてひとり海に戻るのであった。

 

高野 晶。

冷静に状況を理解しても、面白ければ気付かない振りをする女性であった。

 




以前、感想や評価に対して後書きにて感謝を述べた際に
「お気に入りだけじゃダメなのかよぉ(ポチー」という一言評価を頂きました。

いや、お気に入りだけでも物凄く嬉しいです。
単純に書き忘れていただけです(笑)

それにしても、ツンデレ好きな方は行動もツンデレなのだと思いました。
ありがとうございます!

というか、これを見て買い直したとか、押入れの段ボールを開封したとか、嬉し過ぎますね。
私自身が過去の面白い漫画やゲームを思い出して欲しいということもあり、是非とも懐かしく感じてもらいたいものです。

また見ていただけたら幸いです。


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#10「目撃してしまう彼女」

お待たせしました!
……待ってくださる方がまだ居てくれますかね?

もう1つの作品がキリの良い話まで描けたので、こちらを描きます。

では、本編をどうぞ。


 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、晶っ!」

 

どうして出て行ったのよ、と。

パラソルの下でのんびりと本を読む晶に対して愛理は詰め寄っていた。

 

浜辺のビーチ。

旅館から海へと戻ってきた愛理は、一目散に晶が居るであろう場所に向かった。

目的は言うまでもなく、旅館での出来事について。

 

 

「……何か、マズかったかしら?」

 

「ふ、普通、あの場面で出て行かないでしょっ!」

 

晶が入ってきた時、愛理は裸の播磨に後ろから羽交い締めにされていた。

色々な誤解等があったとはいえ、傍から見れば警察を呼ばれても可笑しくない状態である。

それなのに、晶が目撃した後に行った選択は、スルー。

 

 

――し、しかも、布団だなんて言うから。

 

 

『布団、敷いた方が良いわ』

 

晶が部屋から出て行く前に言った台詞。

その言葉の所為で愛理は更に混乱し、播磨は怯え、

二人がまともに会話できる状態になるまで時間を要した。

 

播磨が裸だったのは問題であるが、もともと男子部屋に入ったのは愛理自身であったし、なんとか誤解を解くことが出来た。

だが、愛理としては晶に文句を言わずにはいられなかったのだ。

 

愛理の言葉に、晶は本へと向けていた視線を上げる。

そして彼女へと謝った。余計な言葉も添えて。

 

 

「ごめんなさいね。 私には、愛理さんが満更じゃない様に見えてしまって」

 

「そ、そんな訳ないでしょっ!」

 

「……私の、勘違いかしら?」

 

「当たり前よ!」

 

そう、と。

顔を真っ赤にして否定する愛理をみて、晶は納得したように頷く。

 

愛理としては別に播磨に羽交い締めにされて嫌悪を感じたりはしなかった。

ただ、嫌ではないにしても気恥ずかしさが勝ったのである。

異性の裸など見慣れていないからこそ、特に。

 

ひとしきり頷いてから晶は愛理に言葉を掛ける。

 

 

「愛理さん、次から気を付けるわ」

 

「そうね、そうして頂戴」

 

晶の言葉を聞き、愛理も納得した様子を見せた。

彼女自身、本気で晶に怒っていたわけではなく、少し文句を言いたかった程度である。

 

その為、この話はこれにて終わり、である筈だった。

晶が言葉を終わらせていれば、である。

 

 

 

 

 

「――それじゃあ、次に播磨君が愛理さんを抱き締めていたら、警察に通報するわね」

 

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!」

 

晶がさらりと言った一言に、慌てて愛理は呼び止める。

呼び止められた晶は、首を傾げ、愛理を見つめた。

 

 

「どうかしたのかしら?」

 

「その、警察とかは言い過ぎでしょ」

 

求めていないどころか、曲解過ぎる方向に行きそうになってる為、そんな大袈裟な話ではないのだと晶に伝える。

愛理の話を聞き、晶はなるほどと頷く。

 

 

「……そうね、確かに言い過ぎだったわ。 それじゃあ、播磨君には愛理さんに今後一切抱きつかない様に言っておくわね」

 

「ま、待って……その、べ、別に一切抱きついて欲しくないわけじゃ…なくて」

 

――その…逆に、それは困るというか。

 

抱きつかれるのが嫌な訳ではないので否定したいが、それをハッキリとは言い辛い為、口籠ってしまう愛理。

 

 

「じゃあ――」

 

「いや、それは――」

 

そんな彼女の姿を見ながら次々に案を出していく晶と、案に対して訂正する愛理。

 

そして、結局。

 

 

「それじゃあ、愛理さんが播磨くんに裸で口を塞がれて後ろから羽交い締めにされてるのを見掛けたら、私は放置しないで留まっていれば良いのね?」

 

「え、えぇ……それで良いわ」

 

同じシチュエーションが起きるのか、晶が遭遇するのかはともかくとして、こうして晶と愛理の話し合いは終了するのであった。

 

ちなみに、晶はこの会話をボイスレコーダーに録音中である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#10「目撃してしまう彼女」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな今日はどれくらい泳げるようになったのー?」

 

「0メートル」

 

「5キロ」

 

「え、なんでそんな極端な――」

 

 

――今日はサイアクな一日だったぜ。

 

せっかくの天満ちゃんとの旅行なのによ、と。

播磨は今日一日の出来事を振り返り、内心で愚痴を吐いていた。

 

 

旅館『旅龍』。

夕方まで海で遊んだ後、天満たち一行は宿泊する旅館に戻り、現在は夕食を食べていた。

 

天満が中心に楽しそうに話す中、播磨は皆の会話に入らず、黙々と夕食を食べていた。

 

 

――ヒデー目に遭ったぜ。

 

彼が考えているのは、今日の出来事。

主には愛理に自身が裸でスチュワート大佐ごっこを目撃されてしまった時のことである。

 

播磨からしてみれば、あの初めの出来事が原因でその後の全てが散々な結果に遭ったと思ったのだ。

 

 

――高田、だったか? あのヤローが変なこと言って出てくから、誤解を解くのにも時間が掛かったしよー。

 

愛理を羽交い締めしている姿を晶に目撃され、彼女が出ていった後、ただでさえ身体中が赤くなっていた愛理が更に赤く色が染まったのだ。

播磨からしてみれば、あまりにも全身を赤くしてキレている愛理を後ろから見ていた為、死ぬかもと半ば本気で感じていた。

 

 

――それに、天満ちゃんに俺が泳ぎを教えるはずだったのに……何故か、お嬢の担当になっちまうし。

 

あの羽交い締めの場面から何とか状況を終わらし、その後に海へ戻った播磨と愛理。

 

これから天満に近づく為に頑張ろうと決意する彼に、すぐにチャンスがやって来たのだ。

 

 

『それじゃあ、水泳LESSON開始だっ!』

 

『何でそーなんだよ!』

 

花井と美琴の漫才な会話を聞くに、泳ぎが苦手な天満たちに男女ペアになって泳ぎを教えるとのこと。

 

これはチャンスだと悟った播磨は、天満に泳ぎを教える為に策を練り始めた。

 

 

『おい、奈良だったか……こういう感じでアミダを作れ』

 

『えっ、ぼ、ぼくが?』

 

裏工作ってやつだ、と。

播磨が奈良に指示し、天満の泳ぎ担当となる様にアミダを作成しようとしたのである。

 

これで完璧だぜ、と播磨は自分の策に自画自賛しながらも、アミダで担当を決めようと天満や美琴、愛理、晶たちに伝えた。

 

その結果。

 

 

『…………あれ?』

 

『あの、その…よ、よろしく……播磨くん』

 

線を一本間違えて、天満ではなく愛理に泳ぎを教えることになった播磨であった。

 

ちなみに、泳ぎの間、愛理がまだ微かに顔を赤くしているのに気付き、まだ怒っている彼女と一緒にいることで彼は胃が痛くなったのだとさ。

 

 

――はぁ、泊まりっつっても、チャンスなんてもう限られてくるしよー……。

 

どう挽回すれば良いのか。

若干不機嫌になりつつも策を考える播磨。

 

 

「播磨くん、播磨くん」

 

「えっ……?」

 

ちょんちょん、と。

腕をつつかれながら名前を呼ばれ、播磨が振り返ると、其処には彼が丁度近付きたかった相手が居た。

 

 

 

 

 

 

「ちょっと外でお話したいんだけど……いい?」

 

 

 

 

 

 

話しながらも何だか少し照れた様子を見せる天満。

 

 

「…………」

 

そんな彼女の姿と言葉を理解するのに時間を要する播磨。

しばらく呆然と彼女を見つめる播磨だったが。

 

 

「おう」

 

――旅は良い…何故なら新しい発見が出来るからだ。

 

サングラスに手を当てながら、天満へと返事する播磨。

返事は素っ気ないが、彼の中のテンションはだだ上がりである。

 

 

――天満ちゃんは、俺の魅力を発見してしまったみたいだぜ。

 

ふっ、策など考える必要なかったぜ、と。

意気揚々に外へ出る播磨であった。

 

 

播磨 拳児。

超ポジティブな男である。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

――やばい、播磨くんの顔、見れない……。

 

夕食中、美琴や晶たちと話しながらも、愛理の意識は播磨へと向かっていた。

だが、黙々と夕食を食べる播磨に視線を向けると、否が応でも羽交い締めされた時の記憶を思い出し、頬が赤くなるのを止められないのだ。

 

 

――し、仕方ないじゃない…裸なんて父様以外は初めて見たんだし。

 

自身に言い訳しながらも、愛理は少し反省していた。

 

それは、あの後の海での出来事。

花井が提案し、泳ぎを男子メンバーが女子に教えるという流れになった時である。

 

男子と女子がペアになって教えることになったのだが、自分の担当は――

 

 

『…………あれ?』

 

『あの、その…よ、よろしく……播磨くん』

 

少し前に色々あって顔がまともにまだ見れない相手である、播磨。

 

 

『こ、これで分かりましたか、サワチカサン』

 

『え、えぇ』

 

まだ恥ずかしく、泳ぎを教えてもらう間も素っ気ない態度をとってしまったのだ。

羽交い締めの時の出来事は互いに否があったので、播磨だけが悪いわけでない。

だけど暫くは照れて会話できる状態ではなかったのだ。

 

 

――せ、せっかく、播磨くんは一緒に居てくれようとしたのに。

 

泳ぎを教える相手だが、男子メンバーの提案でアミダで決めることになったのだ。

天満や美琴たちも提案に頷き、播磨らがアミダを砂場に書いていた。

 

愛理は少し離れてその様子を見ていたのだが。

 

 

『おい、そこは俺が担当になるように線を入れろ』

 

『う、うん』

 

奈良と播磨の会話が聞こえ、彼らがアミダに何か細工をしているのが分かった。

何となく播磨の意図が分かった愛理は恥ずかしくなった。

実際に自身の担当が播磨になったのを見たとき、分かっていながらも彼の積極性に顔が更に赤くなるのを自覚する愛理であった。

 

 

――な、なんとか、お話したいんだけど。

 

海ではあまり話せなかったので、二人っきりのタイミングを作ってお話したいなと思う愛理。

 

美琴や晶と話しながらも再び播磨の方へ視線を向けたが、彼の姿がいつの間にか居なかった。

 

 

――あ、あれ……どこに行ったのかしら。

 

気付いたら居ない播磨に、愛理は周りを見渡すが部屋には居ないのだと理解する。

そして、今なら二人っきりになれるのではと考えた彼女は晶や美琴に一言伝えて部屋を出た。

 

 

――どこに居るの、播磨くん。

 

一応、男子トイレ付近や喫煙室を探したりしたが姿が見えず、しばらく旅館を歩く愛理。

 

しかし、実際に二人っきりになったら何を話そうか考えるが、顔を見たら照れてしまいそうだなと苦笑する。

 

 

――ま、まぁ会ってから考えよ……あれ?

 

旅館の中央の開けた箇所を見た際、自分が探していた人物を見つけた愛理。

だが、そこに居たのは。

 

 

――あれは、播磨くんと……天満?

 

何で二人が一緒に、と。

思わぬ場面に動揺する愛理。

 

動揺しながらも、彼女は声が聞こえる所まで隠れるようにしながら近づく。

 

そして、愛理が耳にしたのは――

 

 

 

 

 

 

 

『俺はなぁ! お前のことが……っ!』

 

 

 

 

 

 

 

「えっ…………」

 

 

愛理は、頭が真っ白になるのを感じた。

 

 

 




最近ランキングを見掛ける際、勘違いものが増えてきたなぁって思います。
スクランも勘違いものですが、作品自体は古いので知らない方も居るかもしれませんね。

日間ランキングに載り、スクランを思い出していただく為、皆さんに楽しいと思ってもらえる作品を描けたらと<(`・ω・´)

あわよくば……作品増えてくれませんかね。
おにぎりとかエンピツとか、超姉が見たいです。

ありがとうございました!
また見ていただければ幸いです。


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#11「気付いてしまった彼」

色々起きてますが、まだ慌てる時間ではないです。
やすらかな気持ちで、微笑ましい彼らの旅行を見てください。

では、本編へどうぞ。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#11「気付いてしまった彼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旅館の内側にある庭。

その場所に播磨と天満が向かい合っていた。

 

 

「俺は…オレは…………」

 

天満は落ち着いた様子で播磨を優しい表情で見詰めている。

だが、播磨はそんな彼女とは対照的に、どこか緊張した様子を見せている。

 

彼は口を震わせながらも、言葉を紡ぎ出す。

 

 

 

 

 

 

「お、俺は……、お前のことが……」

 

 

 

 

 

「……うん」

 

 

 

 

 

――言え、言うんだ…、俺っ!

 

 

 

 

 

緊張で手が震えてしまうが、何とか内心で自身を震い立たせる。

そして、真っ直ぐ彼女の方へ視線を向け、想い人に対して次の大事な言葉を発っしようとする。

 

しかし。

 

 

「……い、言えない」

 

「もーっ、駄目だなー、播磨くんはっ!」

 

次の言葉を口から出すことができず、頭を抱える播磨。

そんな彼を見て、天満は軽い溜息を吐く。

そして、天満は播磨の近くに詰め寄り、注意する。

 

 

「もうっ、これで二十三回目だよっ! こんなおっきなカラダしてー!」

 

「ごめんなさい」

 

軽く怒った様子を見せて播磨を叩く天満であったが、

対する播磨は謝りながらもどこか嬉しそうな表情を見せている。

 

 

――こ、これはこれで……、なんというか、幸せだぜ。

 

ほらっ、もう一回いくよ、と。

こちらに向かって言う天満に、播磨は頷きながら準備する。

 

何故、現在のような状況になったのか。

それは、十数分前に遡る。

 

 

『実はね、聞いちゃったの』

 

播磨を外に連れ出した天満。

彼女は播磨と向かい合い、少し経ってから口を開いた。

どこか躊躇った様子を見せながら。

 

 

『その……、播磨くんって好きなコが居るって』

 

――よしよしよぉぉぉぉし! 来たぜ、俺!

 

躊躇いの言葉、照れた様子の天満に、

対峙する播磨は平静を装いながらも、テンションは最高潮であった。

 

夕方まで遊んでいた海の時は中々天満に近付けなかった。

その為、如何すれば彼女と仲を深められるか考えた矢先の出来事である。

テンションが上がらない筈がないのだ。

 

 

『それで…、もう告白は、したのかな?』

 

『え、あ…、何度かしたんだが、気付いてもらえなくてよー……』

 

天満にそれなりにアプローチや告白を行ったつもりなのだが、

当の本人には伝わらなかったようだ。

 

本人に聞かれるのも、伝えるのも何となく気恥ずかしくながらも、頭をかきながら返事する播磨。

 

 

『そーだよね……ちょっと、ニブいとこあるから』

 

『い、いや、気にすることネーよ! こ、これからすれば良いんだしよ……』

 

ハァ、と溜息を吐きながら答える天満に、播磨は慌ててフォローする。

そんな慌てた様子の彼を見て、天満はクスっと笑いながら話す。

 

 

『ありがと……優しいんだね、播磨くん』

 

『そ、そうか』

 

ニヤニヤしてしまいそうになるのを必死で抑える播磨。

彼からしてみれば、天にも昇る気持ちである。

 

 

『うん、そっか……よしっ! わかった!』

 

だが、そんな播磨の様子も気付かないまま、天満はひとり頷き、彼に自身の思いを伝える。

 

 

『いいよ……わたしが、つきあってあげる』

 

『えっ』

 

――ツキアウ、突き合う……つ、付き合うっ!

 

彼女からの告白。

いきなりの言葉に最初は脳が追いつかなかった播磨。

しかし、理解した瞬間、彼の気持ちはクライマックスに突入していた。

 

 

――て、天満ちゃんから言ってくれるなんて!

 

抱き締めても良いかい、天満ちゃん、と。

涙が出そうになるほど感動しながら、播磨は気持ちを抑えきれず、彼女を抱き締めようとする。

 

だが。

だが、しかし。

 

その前に、天満が口を開き、追加で言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

 

『私が告白の練習を、ね!』

 

 

 

 

 

『えっ…………』

 

天満の言葉に放心してしまう播磨。

 

塚本 天満。

勘違いと思い混みが激しい女の子である。

 

そして現在の状況に至る。

 

 

――いや、まぁ、幸せではあるんだけどよ……。

 

好きな女の子と二人っきりになれるのは願ったり叶ったりである。

しかし、好きだと気付いてもらえず、他の女の子が好きだと思われているのは悲しく感じる播磨。

 

 

「播磨くーん、ほら、次こそは頑張らないと!」

 

頑張って、と応援しながら待つ天満。

そんな彼女を見ると胸が高まるのを感じる播磨であった。

そして、彼は決意する。

 

 

――おい、何、ヘタれたんだ播磨 拳児! 漢を見せやがれ!

 

誰に対して告白したいかを知らない天満。

だが、そんな彼女に勘違いさせない程の有りっ丈の想いを伝えれば良い。

 

だからこそ。

だからこそ、彼は想いのままの行動に出る。

 

 

「きゃっ……は、はりまくん?」

 

天満を思いっきり引き寄せ、近距離で彼女を見つめる播磨。

そんな播磨に対し、天満は少し動揺を見せる。

 

 

「俺はなぁ! お前のことが……っ!」

 

自分の想いを。

長年の、自分の想いを彼女に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――言えっ、言うんだっ、大好きな君にっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………言えない」

 

「えーっ! 今、すごかったのに!」

 

播磨 拳児。

大事なときに想いを伝えられないヘタレでもあった。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

――はぁ、何で、俺は言えなかったんだ。

 

チャンスだったのに、と。

播磨は大事な場面で言えなかった自分に落ち込んでいた。

 

結局、播磨は、あの後も練習でも想いを伝えることが出来なかった。

しばらくの間は天満と告白の練習を続け、その後は部屋へと戻ると告げた天満を庭で見送ったのだ。

 

 

――いや、落ち込んでても仕方ねえ! まだ旅行は終わってねえんだ!

 

しかし、落ち込んでても仕方ないと思い、播磨は自分を震い立たせる。

 

まだ旅行も終わってない。

夜の寝るときに猛アピールしてみせるぜ、と。

 

 

「お、播磨はこんなとこに居たのか」

 

天満への猛アピールを決意する播磨のもとに、美琴が手を振りながら近付いてきた。

しばらく歩いていたのか、少し疲れ気味な様子を見せている。

 

 

「なんだ、周防か。 どーかしたのか?」

 

「あぁ……沢近と塚本、見掛けなかったか?」

 

「てん…塚本なら、さっきまで一緒に居たぜ。 でも、部屋に戻ったはずだぞ」

 

「あれ、そうなのか」

 

どっかですれ違っちまったかな、と。

頭をかいて溜息を吐く美琴。

 

 

「なんか用事でもあったのか?」

 

「いや、単純にお前らが部屋に戻って来なかったから、気になってさ」

 

特に用事があった訳ではなく、単純に心配して様子を見に来たとのこと。

マジメというか世話焼きなヤツだな、と心の中で妙に感心する播磨。

 

 

「じゃあ、他の二人も探しに行くかな……あ、そうだ」

 

そのまま天満や愛理を探しに行くのかと思われたが、

何故か去らずに、ニヤニヤとした表情で美琴は播磨に問い掛ける。

 

 

「そういえばよぉ、播磨」

 

「あん、どうしたよ?」

 

「沢近とは、どこまでいってんだ?」

 

――沢近…あのお嬢が何だ?

 

いきなり問われた内容の意味が分からず困惑する播磨。

どこに行くって、何の話だと聞き返す播磨に、美琴はとぼけんなと笑いながら答える。

 

 

「お前ら、もう付き合ってんのかって、聞いてんだよ」

 

「はっ……、なんだそれ?」

 

天満ちゃんなら兎も角、何故あの金髪のお嬢様が出てくるのだろうか。

疑問が増え続ける播磨に対し、美琴は尚も話を続ける。

 

 

「前に二人で路地裏でコソコソしてたし、最近は映画一緒に行ってたじゃねーか」

 

「映画は別に、間違えてっつーか……」

 

以前、天満と間違えて愛理を映画に誘ってしまった播磨。

播磨としてみれば、間違えて別の人物を誘ってしまって落ち込んだ記憶しかない。

後はチケットを渡してきた絃子を逆恨みしている位である。

 

 

――つーか、見られてたのかよ。 それに路地裏も…………ん?

 

何か引っ掛かる単語が出てきた為、播磨は美琴に聞き返す。

 

 

「おい、路地裏って何のことだ?」

 

「おいおい、とぼけんなよー。 雨が降ってたときに、沢近と播磨が路地裏に居たじゃねーか」

 

手を握りあってよ、と。

ニヤリと笑って話す美琴であったが、播磨は返答を出来ずにいた。

いや、返答を出来る余裕がなかったと言えばいいだろうか。

 

 

――え、路地裏……手を握り合う……お嬢と……。

 

雨の中。

路地裏。

沢近。

手を握り合う。

 

様々なキーワードが頭の中で繋ぎ合う。

そこから連想される場面について、播磨はひとつだけ心当たりがあった。

 

しかし、それは。

 

 

――あ、あれ……アレって夢のハズじゃ。

 

確かに記憶にはあった。

しかし、その後の記憶がなかったし、気付いたら妙のベッドに居た。

 

だからこそ、あれは夢なのだと思っていた。

思っていたのだが。

 

もし、あれが夢ではないのだとしたら。

 

 

 

 

 

 

 

 

――あれ……もしかして、俺……お嬢に告っちまってるのか?

 

 

 

 

 

 

 

「お、おい、何か生気が抜け出してるけど、どーしたっ!」

 

自分がやらかした事態に気付いてしまった播磨であった。

 

 

 

 

 




一つではなく、複数が絡んで変な方向へ進むのがスクランの醍醐味ですよね。
原作を考えると、まだ平和ですよね。

さて、旅行編で一番書きたい話にようやく入れました。
昨日の話が今回の話を描きたくて雑に感じてしまったら申し訳ないです。

次の投稿は、来週になるかと。

ありがとうございました。
また、見ていただければ幸いです。


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#12「純愛ロードを歩み始める彼女」

お久しぶりです。
しばらくスクラン二次を投稿しておらず、申し訳ありません。

皆様の感想、評価のおかげで此処まで書き切ることができました。
ありがとうございました。

それでは、本編をどうぞ。


 

「……なんてこった」

 

播磨は、自分の仕出かしてしまった事実について信じ切れないでいた。

いや、信じたくないと言った方が正しいであろうか。

 

 

 

 

『おいおい、とぼけんなよー。 雨が降ってたときに、沢近と播磨が路地裏に居たじゃねーか』

 

 

 

 

先程、美琴より告げられた言葉。

彼女の言葉が再び播磨の脳裏を過る。

 

そんな状況なんて身に覚えがない、と言えれば良かった。

しかし、播磨の中で彼女の話した状況について一つだけ当て嵌まる場面があった。

 

 

雨の中。

路地裏。

沢近。

手を握り合う。

 

 

 

 

『俺は…君のことが好きだったんだっ!』

 

 

 

 

『その…わたしは、急にそんなこと言われても……』

 

 

 

 

――夢オチじゃ、なかったのかよ……。

 

好きな女の子に告白しようとして、違う女の子に告白してしまう。

そんな、信じたくない、夢だと思いたい出来事。

誰にも言われないままであれば、あの路地裏での出来事は悪い夢だと思えた。

 

だが、美琴という第三者から伝えられてしまった。

あの間違えて告白したのが夢ではなく現実だったのだと認めざるを得ない。

 

 

――じゃあ、あのお嬢は、俺に告白されたと思っているのか……?

 

路地裏で相手を勘違いして告白してしまった後、播磨は逃げ出してしまった。

誤解を解いていないのだ。

 

本人からすれば誤告白であるが、愛理は間違って告白されたなど気付きようがない。

 

 

「だ、だがよ……お嬢はあれ以降、特に何も言ってきてねーよな?」

 

もし告白されたと愛理が勘違いしているのであれば、告白の返事をする筈だ。

しかし、播磨が必死に記憶を辿っても特に告白の返事をされた覚えがなかった。

それならば、愛理自身も間違えて告白したことを気付いてくれているのでは、と淡い期待を浮かべる播磨。

 

 

「そうだっ、きっとそうだぜ。 だってよ、その後にお嬢に好きだと思わせちまうことなんて――」

 

 

 

 

『きょ、今日の放課後……俺と映画にでも――』

 

 

 

 

『あの、その……い、いいわよ』

 

 

 

 

していない、と言おうとした播磨。

しかし、彼自身が天満を映画に誘おうとして間違えて愛理を誘ってしまったことを思い出す。

 

しかも映画の内容は恋愛映画であった。

 

 

――おい、まるで俺がお嬢にアタックしてるように見えるじゃねーか。

 

その事実だけで頭を抱えてしまう播磨。

 

だが、そもそも今の状況をどのように打破すればいいのか。

愛理に対してどう接すれば良いのか。

どう誤解を解けばいいのか。

 

考えることは山積みであったが、彼は一つ、知る必要がある重大なことに気付く。

 

 

「……ハッ! て、天満ちゃんは、このことを――」

 

知っているのだろうか、と。

播磨は天満がこの誤告白について知っているのか否かが気になった。

 

好きな女の子は天満だ。

播磨としては、別の女の子が好きだと誤解されたくないのだ。

 

播磨は天満の過去の行動について思い出す。

赤点を取り、補習を受けた日。

今日の海への旅行について天満から誘いを受けた時のこと。

 

 

『誰か分からないけど好きな女の子と一緒に海行けて良かったね』

 

 

――天満ちゃんは誰か分からないけど、って言ったぜ! てことは、知らねえ筈だ。

 

ぞっこんである天満の言葉を覚えていた播磨。

彼女の言葉から、沢近に間違えて告白したことを知らないのだと推測する。

そのことに少し安堵するも、事態は急を要すると思った。

 

 

「今は知らなくても、お嬢が天満ちゃんにそのことを言っちまったら……」

 

 

 

 

『播磨くんっ、私というものがありながら、愛理ちゃんに告白するなんて……この浮気もの! 変態さんっ!』

 

 

 

「ち、ちげーんだ、天満ちゃん! 誤解なんだっ、信じてくれ!」

 

脳内に浮かぶ妄想の天満の発言に顔を青くする播磨。

このままでは脳裏に浮かんだ状況になるに違いない。

すぐに行動に移るべきだと考えた。

 

次に行うべきことは、思ったよりもすんなりと思い付いた。

 

 

――もう、素直にお嬢に言うしかねえ……、謝る以外に選択肢なんてねーよな。

 

元はといえば、間違って告白した際にすぐに誤解を解かなかったのが原因である。

であれば、愛理にその真実を告げて謝ればいい。誤解を解けばいいのだ。

 

殴ったり蹴られたりしても謝り続けるしかねえ、と。

播磨は急いで愛理のもとへ向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#12「純愛ロードを歩み始める彼女」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ふふ、わたし、何やってんだろ」

 

こんなところで一人になって、と。

愛理は自嘲的な笑みを浮かべ、ひとりつぶやく。

 

旅館「旅龍」。

天満や愛理たちが本日住む旅館の中央には大きな庭があり、

その場所に植えられている木の裏側に愛理は座り込んでいた。

 

彼女自身、意図して此処に座り込んでいる訳ではない。

気付いたら今の状況になっていたのだ。

 

 

 

 

『俺はなぁ! お前のことが……っ!』

 

 

 

 

播磨が天満に向かって話す姿、言葉。

 

それを目撃した途端、頭の中が真っ白になるように愛理は感じた。

それからは覚えておらず、ただただその場から離れたい一心で動いていたのである。

 

 

――あれは……。

 

愛理は、身体を縮こませ、俯いたまま考える。

播磨と天満の、先程の場面のことを。

 

向かい合い、天満を抱き寄せる播磨の姿。

そして、彼が天満に何かを言おうとしていた。

 

 

「……最低」

 

彼らのあの光景が何度も脳裏に浮かぶ。

その浮かぶ光景に対して、彼女は無意識につぶやく。

思わず、本音が出てしまったのだ。

 

 

「……ほんとに、最低」

 

いや、言葉にして何かを吐き出したかったのかもしれない。

言葉にすれば、今の気持ちも変わるような気がして。

だからこそ、愛理は心の中の今の気持ちを言葉にした。

 

 

 

 

「ほんとに最低よ…………()()()

 

 

 

 

愛理は、最低だと思った。

彼女は、嫌になった。

だけど、その気持ちの矛先は播磨ではなく、自分自身。

 

 

――わたし……、あれを見て、播磨くんが天満に告白してるように見えちゃった。

 

播磨と天満の二人きりの場面。

抱き寄せ、播磨が発した内容。

 

確かに、普通に考えると、あれは告白する場面に見えなくもない。

だけど、それはつまり、播磨の想いを信じ切れていないということだと愛理は思った。

 

 

 

 

『俺は…君のことが好きだったんだっ!』

 

 

 

 

「播磨くんの想いを、ちゃんと感じたはずなのに、ね」

 

愛理が思い出すのは、播磨との路地裏でのこと。

 

雨が降る、路地裏。

自身の手を握り締める播磨の大きい手。

そして、心が震えてくるような、熱い想いが伝わってくる告白。

 

今までの男子が告白してきたような薄っぺらなものではない。

本当に自身のことを心から好きでいてくれるのだと感じさせるものだった。

 

それを受け取ったはずなのに。

それを、真正面から感じたはずなのに。

 

 

「わたし…少しだけど、播磨くんのこと疑っちゃってる」

 

信じたいのに、信じ切れなくて。

 

愛理は自分に自信を持っていた。

だけど、そんな彼女が初めて自身のことが嫌いになった。

 

 

――私は……、わたし、は…………。

 

どうすれば良いか分からなくなった。

顔を俯かせ、泣きそうになる愛理。

 

そんな時のこと。

 

 

 

 

「あ、こんなとこに居たのかよー!」

 

 

 

 

――え、その声は、美琴!?

 

聞き覚えのある声に驚き、今のこんな自分の姿を見られたのだと慌てる愛理。

だが、そんな愛理の心配も、無駄に終わる。

 

 

「あ、美琴ちゃんだ! どーしたのー?」

 

「どーしたの、じゃねーよ。 居なくなったから探しに来たんだよ」

 

美琴の声に反応し、彼女に対して返答する声が聴こえた。

 

愛理が木の裏から声がした方向に視線を向けると、其処には美琴と天満の姿があった。

美琴が見つけたのは、愛理ではなく、天満であったのだ。

 

今の自分の姿を見られたくなかった為、ほっとする愛理。

そんな彼女を余所に、二人は会話を続ける。

 

 

「そうだったのー、ごめんね!」

 

「いや、別にいいけどよ……なにしてたんだ?」

 

塚本と播磨二人して気付いたら居なかったけどよ、と。

美琴の言葉に、愛理は胸がギュッと苦しくなるように感じた。

その質問は、愛理にとって聞きたくもあり、同時に聞きたくないものでもあった。

 

 

「んー……どうしようかなぁ、美琴ちゃんになら言ってもいいかなー」

 

「何だよ、勿体ぶりやがって」

 

悩むような素振りで話す天満であるが、明らかに言いたい様子を隠せていない。

そんな天満の様子が分かったからか、美琴は早く話せと急かす。

 

美琴の言葉に仕方ないなあ、と前口上を付け、ニヤニヤしながら天満は言葉を発した。

 

 

「実はねー、告白の練習をしてたんだよ!」

 

「はぁ!? 告白の練習だあー?」

 

――こ、こくはくの練習?

 

美琴の驚いた声が響き渡る。

 

愛理自身、口には出していないが、美琴と同様に天満の発言に驚いていた。

何で、どういうこと、と状況が把握できていない愛理を余所に、天満は楽しそうに経緯を話し始めた。

 

旅行前の補修の日、男子メンバーが不足した為、今鳥と花井を誘ったこと。

残りのメンバは八雲を連れてこようと思っていたこと。

しかし、教室に忘れ物を取りに行った際、好きな女の子と旅行に行けなくて悔しがっている播磨の姿を目撃したこと。

それを見た天満が今回の旅行に播磨も誘ったこと。

そして先程、好きな女の子に告白出来るように、告白の練習を行っていたこと。

 

美琴はその話を同じくニヤニヤしながら聞いていたが、疑問に思ったことを口にする。

 

 

「でもよ、播磨が誰が好きか分からないのに、私にペラペラ話したのか?」

 

「んー? 確かに補修の日は知らなかったけど、今は播磨くんの好きなひと分かっちゃったもんね」

 

ふふーん、とドヤ顔で話す天満に、美琴は自分の中で回答はあったものの、誰なのだと聞き返す。

その美琴の言葉に、天満は自分の確信を持った答えを述べる。

 

愛理ちゃんだよ、と。

 

 

「ほほー、どうしてそう思ったのかね、塚本くん」

 

「ほう、では答えてあげよう、周防くん。 それはね、海で泳ぎを教えるペア決めのクジを作ってるところで見ちゃったからだよ!」

 

奈良くんがクジを地面で書いているときに、播磨くんが何か指示をしているのをね、と。

天満は名探偵の推理と言わんばかりにキラキラした表情で話した。

 

天満は遠目で見ていた為、声は聞こえなかったが、播磨が何かを指示して奈良に書かせているのを目撃した。

ズルはいけないと一瞬思うものの、播磨が誰かを好きだと知っていた為、黙認したのだ。

 

 

「その結果、播磨くんの泳ぎのペアは愛理ちゃんだったわけよ」

 

「なるほどなー、分かっちゃいたけど、やっぱりそうだったか」

 

「え、分かってたってどういうこと!?」

 

「あ、塚本は知らなかったのか、デートのこととか」

 

「何それ、全然聞いて――――」

 

「実は、――だから――――」

 

「ええ、知らな――――」

 

「――――」

 

天満と美琴がまだ話し続けていたが、愛理はもう彼女らの話が耳に入っていなかった。

愛理は、彼女らに見つからないようにその場から離れ、探しに行く。

 

 

 

 

探すのは勿論――

 

 

 

 

 

「……播磨、くん」

 

 

 

 

 

――あなたに、会いたい。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

お互いがお互いを探していたのだ。

探し始めてから見つけるのに、そう時間は掛からなかった。

 

 

「播磨くん…………」

 

ただただ会いたいと思って探していた愛理。

実際に対面すると、何から話せばいいか、少し考えてしまった。

言いたいことは、沢山あるのだ。

 

 

ありがとう。

私と海に行きたいと思ってくれて。

不良で通してるあなたが同級生たちグループでの旅行に参加するの恥ずかしかったと思う。

それでも、凄く嬉しかった。

 

 

ありがとう。

旅館の部屋で恥ずかしい事態になっちゃって互いに気まずかったと思うのに、クジを弄ってまで一緒にいたいと思ってくれて。

恥ずかしくて顔が見れなかったけど、私も一緒に居たかったから嬉しかった。

 

 

ごめんなさい。

あなたが天満に告白してると誤解してしまって。

信じきれなくて、ごめんなさい。

あなたは、もう告白したって、天満に照れ臭くて言えなかったのよね。

ただ、本気で告白の練習をしてたって後で知ったの。

本気で練習してくれてたの気付いて、泣きたくなるくらい嬉しかった。

 

 

感謝も謝罪も。

本当に、言いたいことは沢山あった。

 

そこで一瞬、何から言おうか愛理が悩んだ為、播磨が先に行動に出た。

その彼の行動を目にした愛理は、言いたかったことが一気に吹っ飛んだ。

 

 

――え……、な、なんで?

 

 

 

 

播磨が、その場で愛理に向かって土下座したからだ。

 

 

 

 

「すまねぇ……!」

 

「え…ちょ、どっ、どうしたの、播磨くん!」

 

愛理は播磨の行動に慌てて立たせようとするも、播磨は土下座のまま姿勢を変えない。

この行動の理由が分からず戸惑う愛理に、播磨は自分の想いを述べる。

 

 

「本当にすまねぇ、あの告白は誤解なんだ!」

 

「えっ…………?」

 

「いきなり何言ってんだと思うかもしれねぇ……、でも、本当なんだ」

 

「あの、播磨君?」

 

「言い訳をするつもりはねぇ。 でも、信じてくれっ!」

 

彼の声は震えており、声色から本気で申し訳ないと思っている気持ちが伝わる。

愛理は彼の言っていることが一瞬分からず戸惑うも、その後に彼の行動の意味に気付いた。

 

 

――わたしが播磨くんと天満が告白の練習をしているのを見ていたの、気付いたんだ……。

 

自身が立ち去るのを目撃していたのだ。

そして、告白していると誤解されたのだと播磨は気付き、慌てたのだろう。

 

本当に好きでいてくれる彼だからこそ、誤解を早く解かなければと思ったのだ。

 

その結果、播磨が行ったのが土下座だったのである。

きっと、言葉ではなく、行動で誠心誠意伝えようと思ってくれたのだ。

 

 

――ほんとに……バカなんだからっ。

 

彼は悪くないのに。

自分が本来は謝らないといけないのに。

 

彼ばかり、想いを伝えてくれる。

 

思わず泣きそうになるが、必死に堪える。

泣いた姿を見て、傷付いたように誤解させたくないから。

 

 

「播磨くん…顔を、上げて」

 

「…………あぁ」

 

――播磨くんみたいに、わたしも…言葉じゃなく、行動よね。

 

 

 

 

愛理は、顔を上げた播磨の頬にキスをした。

 

 

 

 

「な………ななななな」

 

「ふふ、これが答えよ」

 

壊れたロボットのように同じ言葉を発する播磨に、思わず笑ってしまう。

 

凄く恥ずかしかったが、行動で示す彼への、彼女なりの返答であった。

一応、混乱する播磨に補足として話を続ける。

 

 

「あのね、天満から聞いて、誤解だって知ってたわ」

 

「はっ? え、てん……、塚本から聞いたのか?」

 

「えぇ。 だからね、そのことは気にしなくて大丈夫よ」

 

本当は天満から直接聞いた訳ではなく立ち聞きであったが、そこは濁しておいた。

なんとなく、コソコソ聞いてたとは思われたくなかったからだ。

 

そうだったのか、と。

呆然とする播磨を見ながら、愛理は思う。

 

 

――もう誤解なんてしないわ。 播磨くんの想い、ちゃんと信じるから。

 

 

 

 

 

だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これからもよろしくね、播磨くんっ」

 

 

 

 

 

 

〜fin〜




これにて、沢近さんの純愛ロードは完結となります。
お読みいただき、ありがとうございました。






という形で、書けるように部分部分で打ち切りエンドとして終わらせられる箇所を決めていました(・∀・)
なんか、このまま終わっても違和感なさそーな気がしてきません?

アニメで例えると、ワンクールが終わった状態です。
『沢近さんの純愛ロード チュートリアル編(またの名をイージーモード)』てきな感じです。
とあるヒロインが加わると自動的にベリーハードになります←

ラブひなとかダカーポとかスクランとか、古いもんばかり書きたくなる私ですが、見ていただけると幸いです。


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はーどもーどっ!
#12.5「彼を知る妹と、板挟みの姉」


もうちっとだけ続くんじゃ



というわけで、お久しぶりです。
既に前回の投稿から数ヶ月経って申し訳ありません!

まだ覚えてくださっている方がいるか不安ですが、投稿します。

チュートリアルが終わったので、これから本編に入ります。
旗派と対を成す派閥がスクランにありましたよね?
そのひとが出ないはずないですよね?

というわけで、本編をどうぞ。



 

 

少し、怖そうなひとだな、と。

塚本 八雲が播磨 拳児を初めて見たときに抱いた第一印象である。

 

 

昼休み。

姉の天満がお弁当を持っていくのを忘れた為、八雲は彼女の在席するクラスに届けに来ていた。

 

 

――姉さんは……あ、いた。

 

天満の居る2-Cのクラスに入り、見渡したときに姉が窓際の後ろの席にいるのを発見する。

 

 

「あれ、八雲ー!」

 

天満も八雲の姿を見つけ、目を丸くさせながらも彼女に笑顔で手を振ってきたので、八雲は小さく手を振り返して席へと向かった。

 

ただ、その際に天満の隣に座る、妙なオーラを放つ男性も目に入った。

 

 

「クラスまで来てどーしたのー?」

 

「姉さんが弁当忘れてたから、渡しに来たんだけど……」

 

弁当を天満に渡しながらチラリと隣を見る八雲。

 

サングラスにヒゲという、他の学生とは違う姿。

一般的に不良と呼ばれる格好。

 

その姿を見て、八雲は天満に小声で話し掛ける。

 

 

「姉さん…、この席で大丈夫? 怖くない?」

 

容姿で判断はしない八雲であるが、少し彼の雰囲気を恐く感じ、隣に座る姉を心配する。

 

 

「ん? なんで?」

 

しかし、天満は特に気にした様子は見受けられない。

むしろ。

 

 

「あ、播磨君! ダメだよ! イスでカバンを踏んじゃあ!」

 

カバンが可哀想だよ、と。

注意して彼のカバンを拾い、机の横に引っ掛ける天満。

 

 

「……お、おう」

 

播磨は天満に顔を向けることもせず、一言だけ喋るだけであった。

 

しかし、天満が播磨のカバンを取ろうとした時、彼が少し椅子から身体を浮かしていたのを八雲は見ていた。

 

 

――見た目ほど、怖いひとじゃないのかな……。

 

 

 

 

これが、彼―播磨 拳児と彼女―塚本 八雲の、初めての出会いであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#12.5「彼を知る妹と、板挟みの姉」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネギ味噌チャーシュー、ふたっつー」

 

「姉さん、わたし、チャーシューはちょっと……」

 

休日の昼時。

久しぶりに外食したいという天満の要望から、八雲と天満は中華飯店に訪れていた。

 

 

「久しぶりの外食はワクワクするよねっ!」

 

「ふふ。 そうだね、姉さん」

 

はやく来ないかなー、と。

楽しそうに笑顔を浮かべる天満に、八雲も彼女と同様に笑みが溢れていた。

 

料理が楽しみで、というよりは、楽しそうにしている天満を見て嬉しくなったのだ。

八雲はそれくらい姉が好きであった。

 

 

――中華はあんまり作ってなかったけど、姉さんが好きなら覚えようかな。

 

 

「あれ、この透明なジュースおいしい!」

 

どれなら作りやすいかと考えていた八雲であったが、天満の声で思考の渦から出る。

すると、天満は置かれている水とは別のグラスの、透明な飲み物をゴクゴクと飲んでいた。

 

 

――あれ、そんなの頼んでたかな……?

 

 

 

 

「さぁ、聞かせてくれたまえよ」

 

「わかったよ教えてやるよ! 彼女との馴れ初めをな……」

 

 

 

天満が飲んでいるモノに疑問を浮かべていると、天満の後ろの席から聞き覚えのある声が聴こえた。

 

 

――あれは、刑部先生? それに男性の声もどこかで……?

 

少し気になって天満の後ろの席へと視線を向けると、見覚えのある先生―刑部 絃子が其処にはいた。

 

 

「ま、ここから先はもっと酒が入らねーと語れねぇ。まだまだジャンジャン飲むぜ!」

 

既にこれ以外にも紹興酒も頼んだしな、と。

語る男性の言葉に、八雲は天満が飲んでいるモノの正体を理解した。

 

 

「姉さん、それ違……、たぶん後ろの人の――」

 

「んー……うしろー……?」

 

慌てて天満に飲むのを八雲は止めようとしたが、その時には既に彼女は見て分かるほどに頬を赤くさせ、酔っている状態であった。

 

そして、酔いながらも八雲の言葉を聞いた天満はひとつ頷き、席を立ち上がった。

 

 

「謝ってくる!」

 

「え、ちょっと待って。 ね、姉さん!」

 

突撃しに行く天満を慌てて追う八雲であった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「それでよう、俺は――」

 

「うんうん、それで――」

 

 

――何でこうなったんだろう……。

 

八雲は自身の現在置かれている状況に混乱していた。

 

酔いながら別のテーブルへ突撃する天満を慌てて追った八雲。

 

向かうと、謝りに行くと言った天満は彼らのテーブルにある席に座り、何か話している男性の話を頷きながら聞いていたのである。

その男性も姉と同じ様に既に酔っているらしく、人がいない場所に視線を向けながら話していた。

 

そんな姉に戸惑いながらも、語る男性と同じテーブルに座る教師の絃子に姉に代わって謝ろうとしたとき、彼女は口に人差し指を当て、席に座るように促してきた。

 

 

――え……えっと…………。

 

更に混乱する八雲であったが、言われるがままに座ると、そのまま一緒にいた男性の話を聞くことになったのだった。

 

 

 

 

話は途中からであったが、昔の話らしい。

喧嘩に明け暮れていた彼が、路地裏で女性が襲われそうになっていた場面に遭遇したこと。

人助けとかするつもりはなかったが、ただ喧嘩がしたかった為に割り込んだこと。

ナイフで背中を切られ、その血をみた女性が気絶してしまったこと。

仕方なく彼女を背負い、自宅で介抱したこと。

彼女に近付いた際、寝ながら抱き着かれ、離れようとしたときにその女の子が目を覚ましたこと。

無言で出ようとする彼女に誤解を解こうとしたが、肩を掴もうとして背負い投げをされ、更に変態さんと言われてしまったこと。

そんな彼女に惚れてしまったこと。

惚れたが誤解が解けなかった為、バレないようにヒゲをはやしてサングラスをし、彼女の通う高校に進学したこと。

 

 

 

 

そう語る男性の話を聴きながら、八雲は目の前の男性が誰であるかを思い出した。

 

 

――姉さんと一緒のクラスの……、隣にいたひとだ。

 

初対面のときはサングラスを掛けていたので気付くのが遅れたが、声に加え、サングラス以外の容姿は同じであったので気付いたのだ。

 

 

――たしか名前は……播磨さん、だったよね。

 

姉が呼んでいた彼の名前を思い出す八雲。

そして、思い出したのはそれだけではなかった。

 

 

――あれ、姉さんから昔、聞いた話と似てる……?

 

 

『や、やくもー!』

 

『ね、姉さん……、どうしたの?』

 

数年前のこと。

姉が路地裏で男性に襲われそうになった、という話を聞いた覚えがあった。

 

その時、八雲は顔を青くさせながら姉を心配していたのだが、話には続きがあった。

襲われそうになった時に男の子が助けてくれたこと。

 

しかし。

 

 

『助けてくれたけど、自宅に連れ込む変態さんだったの!』

 

気絶した自分を部屋に連れ込み、寝込みを襲う変態さんだった。

背負い投げして逃げてきたと天満は言っていたのを思い出した。

 

 

路地裏。

襲われる。

自宅。

背負い投げ。

 

いま目の前で播磨が話した内容と、昔に天満が話した内容に幾つも共通点があったのだ。

 

だからこそ、八雲は気付いてしまった。

目の前の男性が誰を好きになったのかを。

 

 

――このひと、姉さんのこと、好きなんだ。

 

姉もこの話を聞いて気付いたのでは、と。

慌てて八雲は姉の天満に視線を向ける。

 

視線の先に居る当の本人である天満は、また紹興酒を当然のように飲んでいた。

そしてグラスを置くと、男性へと視線を向けて言葉を告げる。

 

 

「――その女の子が悪い!」

 

「ほう、なるほどね」

 

堂々と自身の感じた気持ちを話す天満。

そして彼女の話をニヤニヤと笑みを浮かべながら頷く絃子。

 

 

――ね、姉さん、気付いてない……。

 

その姿をみて姉が全く自身のことと気付いていないことを理解した。

 

それだけでなく。

 

 

「店員さん、俺の好きな女の子に似てるなー!」

 

「あっはっはっ! アナタもどこかで見たことあるよー!」

 

播磨と天満の両方とも酔いすぎて互いに誰かすら分かっていなかったのだ。

 

その状況に戸惑いを隠せない八雲であったが、同じように天満と播磨を見る絃子に話し掛けた。

 

 

「あ、あの、もしかして今の話って―――」

 

言葉を続けようとしたが、絃子の人差し指が八雲の口に当てられた。

そして、秘密にしてあげてくれ、と笑顔で言う絃子に八雲は頷くのであった。

 

 

 

 

 

その後、酔いすぎてフラフラと歩く天満を支えながら自宅へと帰っていた。

思い出すのは、先ほどの中華飯店での出来事。

 

いや、播磨のこと、と言うべきだろうか。

 

 

――姉さんのこと、好きなんだ。

 

姉のことが好きになり、一緒に居たいからサングラスを掛け、ヒゲを生やして正体を隠し、同じ高校に通う。

 

 

――そこまで、一生懸命になれるんだ。

 

凄いな、と思った。

 

八雲は、恋をしたことがなかった。

嫌いではないけど、男の子を好きになったことはなかった。

 

それは、「自分のことが好きな異性の心が視える」という不思議な力が原因かもしれない。

 

異性とどう接すれば良いのか分からず、苦手意識が少しだけあった。

 

そんな八雲からしてみれば、そこまで誰かを好きになるのは凄いと感じたのだ。

 

そして、この自身の抱いた感想に、どこか既視感があった。

少し考えようとして、すぐに理解した。

 

 

――そっか……、そうなんだ。

 

 

『やったー! 烏丸君と同じクラスになれたー!』

 

『明日は席替えなんだよ、八雲! 烏丸君と近くになるように祈らないと!』

 

『情熱溢れる恋文の出し方……、それは矢文よ!』

 

好きに対しての一生懸命さ。

見た覚えがあるのは当然であった。

 

 

「姉さんと播磨さんは、似てるんだ」

 

恋に対して。

真っ直ぐで、一生懸命で。

 

自分が側で大切な姉の姿を見てきたからこそ、姉と彼が似てるのだと感じたのだ。

 

でも、と。

八雲の表情が曇り始める。 

 

そこまで姉を想ってくれる人が居るのは、何だか嬉しく感じた。

だけど。

 

 

「姉さんは……、烏丸さんのことが好き」

 

姉は、天満は、別の男性のことが好きなのだ。

好きな人に対する一生懸命さも、真っ直ぐさも側で見てきたからこそ、姉が他の人を好きになるとは思えなかった。

 

 

――わたし、どうすれば良いんだろう。

 

ふとした拍子で知ってしまった想い。

恋の経験がない八雲には、どうすれば良いのか全くわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「だ、誰か…誰かいませんか? 助けてください!」

 

 

――いまの声……、姉さんっ!

 

とある平日の放課後。

自宅へと帰る途中で、姉の悲痛な叫び声が聴こえた八雲。

 

声がした方に急いで向かうと、そこには橋の上で助けを求める天満の姿が其処にはあった。

 

 

「姉さんっ、どうしたの!」

 

「や、八雲っ! い、伊織が川にながされてっ!」

 

天満の指す方向を慌てて振り返ると、

川で板の上に乗って流されている飼い猫――伊織が居たのだ。

 

 

「い、伊織っ! はやく助けないとっ――」

 

大切な飼い猫である伊織。

天満は泳ぐことが出来ないため、周りに助けを求めていたのだと即座に理解した。

 

制服姿であったが、自分なら助けられると感じ、躊躇なく川に飛び込もうとした。

 

そのとき。

 

 

「……っくしょーっ―――」

 

「えっ……」

 

自分より前に橋から飛び込む姿を八雲は目撃した。

それと同時に、誰か飛び込んだぞー、と。

周りの野次馬から遅れて声が聴こえたのであった。

 

呆然とその姿を見てる内に、川に飛び込んだ男性が伊織のもとに向かい、抱き抱えて川の端まで戻っていった。

 

 

「あ、ありがとうございます!」

 

天満が男性と伊織のもとへ行き、感謝を述べるのを見て、八雲も彼らのもとへ慌てて向かった。

 

 

「あ……あなたは、もしかして…………」

 

――あれ、あの人って…………。

 

天満が伊織を助けた男性を見て何か気付いた表情を浮かべる。

そして、遅れてきた八雲もその男性が誰かに気付いた。

 

 

「か……かっぱ、さん?」

 

――播磨さん…………え?

 

播磨だと気付いた八雲は、天満の言葉に驚いた。

姉さんは播磨さんだと気付いてないの、と。

 

ただ、中華飯店で姉が酔っていたのを思い出し、播磨の素顔を知らないのだとわかった。

 

何故に天満がカッパと思ったかというと、助けた男性の頭が――見事に円形に禿げていたからである。

 

このとき、播磨は天満が烏丸のことを好きだと思い、ショックで不登校になり、且つストレスで円形脱毛症となっていたのだ。

 

 

「………………三平です」

 

カッパと言われた当の本人は、一言だけ告げると泳いで去っていったのであった。

 

 

「三平さーん、ありがとー!」

 

――播磨さんだって、言わないほうが良いのかな……。

 

過去の出来事は八雲は知っている。

だからこそ、播磨が天満に自身の素顔を見られたくないのは何となしに理解した。

 

だけど。

 

 

――播磨さんに、ちゃんとお礼言いたいな。

 

大切な家族を助けてもらった。

だからこそ、ちゃんと感謝を述べたいと思った。

 

姉のことが好きだから。

彼女の助けを求める声に駆け付けずにはいられなかったのだろうか。

 

わからなかったけど。

 

 

――播磨さん、優しいひとなんだ。

 

少し嬉しくなったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「姉さん、旅行は楽しかった?」

 

「うん、もう海は最高だったよ!」

 

八雲も誘えば良かった、と。

天満は満面の笑みを浮かべながら八雲に言葉を返した。

 

 

夏休み。

天満はクラスメイト達と海に一泊二日で旅行に行き、本日帰ってきたのであった。

 

姉が嬉しそうに喋っているのを見て、八雲も当然のように嬉しく感じた。

 

彼女の話を聴きながら、そういえば、と。

八雲は、天満が一緒に行くと話していたクラスメイトの中のとある人物を思い出し、何となく口に出していた。

 

 

「姉さん、たしか播磨さんも居たんだよね?」

 

「ん? いたよー!」

 

あれ、八雲って播磨くんと会ったことあったっけ、と。

疑問を投げかける天満に、少しね、と言葉を濁して返事をする八雲。

 

中華飯店や川で伊織を助けてもらったこと。

どちらも播磨は天満に知られたくないだろうから、曖昧に答えるしか出来なかったのだ。

 

そんな八雲の回答に気にした様子もなく、そっかぁ、と頷きながらご飯を食べる。

 

そして、何故か急にニヤニヤし始めた天満。

 

 

「そうだ、ふふ、播磨くんで思い出した!」

 

「どうしたの、姉さん?」

 

疑問を投げかけると、天満はどうしようかな、と悩んだ――フリをしていた。

明らかに何か言いたそうにしていたのだ。

改めて八雲が天満に聞くと、彼女は楽しそうに話し始めた。

 

 

「播磨くんのね、告白の練習をお手伝いしたんだ!」

 

「…………え?」

 

天満の言葉に一拍置いてから反応する八雲。

何を言ってるのか理解すると、更に疑問が増え始めた。

そして、自身でも分からないが、少し慌てて問い掛ける。

 

 

「ね、姉さんが手伝いをしたの?」

 

「うん、そーだよ!」

 

「告白の、練習を?」

 

「播磨君が好きな女の子に告白できるようにね!」

 

私は恋のキューピットなのさ、と。

ドヤ顔で話す天満にますます混乱する八雲。

 

 

――播磨さんが、姉さんに告白の練習? どういうこと?

 

好きな相手に告白の練習。

恋を知らない八雲でも、それは何だか可笑しいと思った。

 

そして、もっとも大事なことがある。

 

 

「姉さんは――姉さんは、播磨さんが好きな人、知ってるの?」

 

姉は、彼が好きな人を知ってるのだろうか。

 

八雲の問い掛けに、天満は勿論とニヤニヤしながら答える。

そして、言うのであった。

 

 

播磨くんはねー、愛理ちゃんのことが好きなんだよ、と。

 

 

「あ、愛理ちゃんはね、私のクラスメイトの女友達で――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「違うよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

何故だろうか。

目の前に、驚きの表情で此方を見つめる姉の姿がある。

 

何故、だろうか。

姉が驚くのと同じように、八雲自身が驚いていた。

 

考えるよりも前に、口から言葉が出ていたのだ。

 

 

「や、八雲……?」

 

「違うよ、姉さん」

 

戸惑いの表情を向ける姉に、更に言葉を告げる。

自分の声が力強くなってるのが分かった。

 

否定しなければと思ったのだ。

 

姉が誤解しちゃ駄目だと、思ったのだ。

 

 

「だって…」

 

――好きって気持ちは、わからないけど。

 

恋も知らない。

家族以外に好きって気持ちを感じたことがない。

 

そんな、私だけど。

 

 

「だってっ……」

 

――もし、好きな人に、別の人が好きだって思われたら。

 

それは、哀しいことだと、思う。

八雲はそう思ったのだ。

そう、感じたのだ。

 

姉と同じようなひとだって思った。

姉みたいに、恋に真っ直ぐで、一生懸命なんだって思った。

 

だからこそ、そんな姉が彼の気持ちを誤解するのが、悲しかったのかもしれない。

 

 

「だってっ、播磨さんが好きな人はっ―――」

 

――姉さん、なのに。

 

その後の言葉を話して良いのか、分からなくて。

本人以外が告げて良いのか、わからなくて。

 

 

「――なんでも、ない」

 

ごちそうさま、と。

逃げるように、自分のお皿を台所に持っていくのであった。

 

 

 

 

姉の誤解を解けないことが、悲しかった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

――え、どどどどどどどどどういうこと!?

 

塚本 天満は台所へ去っていく妹の姿を呆然と見送った後、今の出来事に物凄く慌てていた。

 

そもそもクラスメイトの播磨と知り合いだったこと自体、初めて知ったのだ。

 

それだけでなく、あんなに力強い否定をされたのも驚きだった。

 

 

――え、なんで、何が、どういうこと?

 

何故、あんなに否定したのだろうか。

播磨君が愛理ちゃんを好きだと言ったことに。

 

大きく深呼吸をし、落ち着くように心掛ける天満。

そして考え始める。

 

 

「播磨君の好きな人が愛理ちゃんじゃないって、八雲は思ったんだよね」

 

あそこまで強い否定をした八雲。

もしかしたら、八雲は彼の好きな人を知ってるのかもしれない。

 

もしくは――

 

 

「あ……八雲、そういうこと……?」

 

天満は、先ほどの八雲の言葉を思い出した。

 

 

 

『だってっ、播磨さんが好きな人はっ―――』

 

 

その後の言葉は、言おうとして、止めていた。

ただ、八雲は悲しい表情を浮かべていた。

 

それを思い出し、天満は気付いた。

いや、気付いてしまった、と言った方が良いだろうか。

 

ずっと長い間、八雲を側で見てきたのだ。

大切な家族である、妹の八雲を。

 

だからこそ。

だからこそ、八雲が言わなかった声なき声を分かってしまったのだ。

 

そう。

きっと、八雲が言いたかったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

『だってっ、播磨さんが好きな人はっ―――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――わたし、なのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ど、ど、ど、どうしようっ!!!」

 

天満の混乱は頂点に達するのであった。




読んでいただきありがとうございます。

基本的にこの作品は、IF的な物語です。
同じ場面でキャラクターが違う行動したら、どうなるかなっていうのを妄想して描きました。

原作とは違う関係性を楽しんで頂けたら幸いです。

お嬢「播磨君の想い、しっかり受け止めるから」
妹「誤解とかなきゃ(使命感)」
姉「はわわわわ、八雲と愛理ちゃんががががが」


それにしても、スクールランブル増えてくれないかな、と心待ちにしてるのですが一作も増えないですね、、、

【急募】旗派もおにぎり、お子様ランチ、超姉とか全部待ってます

……勘違い、描きやすいと思うんだけどなぁ。


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#13「悲しむ彼、苦しむ彼女(前編)」

お久しぶりです。
投稿できておらず申し訳ありません!
こちらエタッたと思われたでしょうね。

スクランに対する熱がまた上がったので投稿します。
それでは、どうぞ!


 

――夏休み。

 

それは、学生にとって一年の中で

とても嬉しく、そして大切な期間である。

 

受験を控える学生以外は勉強から解放され、

己自身でやりたいことを考え、好きに行動することが出来るのだ。

 

片や友達グループで旅行にいく学生たち、

片や身近な場所でデートを楽しむ恋人たち、

または自宅でゲームや読書などの趣味に没頭する人たちなど。

 

各々が自分にとっての夏休みを満喫している。

 

そんな中。

 

 

「おーい、バイトー! 修理は終わったかー?」

 

「ウッス、終わりやした」

 

各々が自分にとっての夏休みを満喫する中、

とある不良学生―播磨 拳児はクーラー修理のバイトに勤しんでいた。

 

 

「じゃあ、その工具しまってこい。 そしたら、次のお宅に向かうぞ」

 

了解しやした、と。

バイトの親方に返事をした後、車の後ろにクーラー修理で使用した工具を戻し、空を見上げる。

 

 

「にしても、アッチぃーな……」

 

首に巻いたタオルで汗を拭いた播磨は、燦々と輝く太陽を睨みながら水で喉を潤した。

そして、現在のこの自分の状況に思わずタメ息を吐く。

 

 

「まったく、天満ちゃんに近づく為に色々と考えねーといけねぇのによ」

 

ケチくせーヤツだぜ、と。

彼は、この場に居ない宿主である従兄弟の存在を思い出しながら愚痴を溢した。

 

 

彼の記憶は朝まで遡る。

 

 

『拳児くん、最初に家に住まわせる条件として言ったはずだぞ』

 

毎月家賃をしっかり支払うように、とな。

今日、刑部 絃子がモデルガンを正座した播磨に向けたまま語った言葉である。

 

播磨は中学生の時に運命の出会いにて塚本 天満に一目惚れをした。

そして心の赴くままに、彼女が通う矢神高校に入学する為、絃子の家に住まわせて貰える様に頼み込んだのだ。

 

お願いをして、断られ、頭を下げて、断られ、土下座をして、モデルガンに撃たれ……etc。

 

 

『――やれやれ、仕方のないやつだな、キミは』

 

そのやり取りを何回も繰り返し、十何回目かにて彼の熱意に諦めるかの様に絃子は認めたのであった。

しかし、住まわせる条件として少ない額ではあるが、家賃を払う様に取り決めが行われたのだ。

 

普段は支払っていた播磨であったが、今回天満たちと泊まりで海水浴に行くことになり、家賃分を使ってしまったのである。

 

 

『な、なぁ絃子……俺ァ、天満ちゃんとのデートの参段を考えなきゃいけねーからよ。 支払いは少し後に――』

 

『無駄なこと考えてないで、とっとと稼いでこい』

 

約束事には中々にシビアである絃子は、播磨の言葉を無視し、モデルガンで彼を撃ちながら家を追い出したのであった。

 

 

そのような経緯もあり、すぐに金を稼ぐ必要があった播磨は、クラスメイトである花井の伝手を頼り、日雇いのクーラー修理のバイトを行っているのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#13「悲しむ彼、苦しむ彼女(前編)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみませーん、エアコンの修理に来たんですがー!」

 

「あ、はい……その、ご苦労さまです」

 

「いやぁ、夏は外が大変で――」

 

「あの――――」

 

 

――あぁ、補修も終わっちまったし、天満ちゃんと会う理由が作り辛いぜ

 

三軒目の作業が終わり、四軒目の修理を行う為に次のお宅に着いた播磨。

バイトの親方の指示の通り作業はしているものの、やはり意識は天満へのアプローチ方法に向いてしまっていた。

 

 

――こういうバイトで一緒に働けたら最高だが、天満ちゃんがこんな汗臭えバイトする筈ないしな。

 

色々と播磨なりに知識を振り絞るが、これといった案が思い付かず、タメ息が漏れる。

そんな播磨の姿を見た親方は、彼の背中に向かって軽く手で叩いた。

 

 

「ま、こんな暑い中で作業は大変だけどよ、しっかりやりな」

 

「えっ……、あ…ウッス」

 

タメ息の理由は検討違いではあったが、手が止まっていたのは事実であった。

播磨は親方に内心で謝りながら、二階にある室外機を修理する為に脚立の準備を進め始める。

 

そんな播磨を見つつ、親方は先程とは異なり、少し声を潜めて話し掛けた。

 

 

「そいやあ、今回のお宅は凄い別嬪さんが居たな」

 

「はぁ……、何のことスカ?」

 

「何のって、さっき出迎えてくれたお嬢さんだよ」

 

まさかあんな美人に目が行ってなかったってことないだろ、と笑いながら播磨の胸を叩く。

しかし、播磨は玄関での出迎えの際も天満のことを考えていたので、女性が居た程度の認識でしか覚えてなかったのである。

 

そんな播磨を余所に、親方はとある方向に視線を向けながら、別嬪だと呟き一人頷いていた。

彼も親方が視線を向けている場所へと振り返る。

其処には、親方が言っていたであろう黒髪の少女がしゃがんでいた。

 

 

――あぁ、親方が言ってた女の子か。

 

確かに美人だとは思ったが、天満以外の女性は割とどうでも良かった。

興味が薄れた播磨は脚立の準備に戻ろうとした播磨であったが、その女の子の様子が少しおかしいことに気付く。

 

 

 

「私のせいで……、早く怪我を治さないと……」

 

黒髪の女の子は、しゃがみながら猫へと視線を向け、慌てた様相を見せていた。

一瞬慌てる理由が分からなかったが、茂みに隠れる猫を改めて見つめて状況を理解した。

 

 

「親方、ちょっとスイヤセン」

 

「え、おっ、おう……」

 

播磨は女の子のもとに向かい、彼女の肩を叩いて言葉を告げた。

 

 

俺に任せな、と。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

「親方っ! それじゃあ早速修理を進めヤスッ!」

 

「お、おう……、急にそんな張り切ってどうしたバイト」

 

――なんつー幸運だっ! こりゃあ猫の恩返しってヤツか!

 

播磨は、自分に早速絶好の機会が訪れていることを理解し、歓喜に満ちていた。

 

 

先程、動物に好かれる播磨は、怪我をしながらも威嚇していた猫を大人しく躾け、飼い主へと預けた。

 

ただ、その際に黒猫にどこかで見覚えがあることに気付く。

 

 

『あ、あの……、どうか、されました?』

 

『いや、この猫、どこかで見た覚えが……なっ! ま、まさか!』

 

慌てて表札を見直すと『塚本』と書かれており、自身の想い人の家であることが発覚したのだ。

 

 

――だが、天満ちゃんの家ではあるが肝心の本人に会えねーとなぁ……。

 

 

『それじゃあ、さっそく室外機の修理を始めますねー』

 

『はい、お願いします。 あ、ちょっと姉さん達が上にいるので少しうるさいかもしれませんが』

 

悩んでた播磨であったが、親方と少女の会話を耳にし、小さくガッツポーズを決める。

 

一階と二階の間にある室外機が故障し、修理を依頼されているため、天満に会えるのではと期待を膨らませながら、脚立で上に登る。

 

 

――これは絶好のチャンスってやつだ! 俺が修理しているのに天満ちゃんが気付けば……。

 

 

『あっ、修理ご苦労さまです! ……って、播磨くんっ!?』

 

『お、おう……ここが塚本の家だなんて、全く気付かなかったぜ』

 

『ふふっ、凄い偶然だね! ねぇ、せっかくなら部屋に入ってきてお話しようよ』

 

『いや、俺は仕事中だから今は無理だ。 スマネェな』

 

『そっかぁ、残念だけど仕事熱心な播磨くん格好良い! 素敵っ!』

 

『お、おい、照れるからやめてくれよっ』

 

『ははっ、照れる播磨くん可愛いっ! じゃあ別の日に遊びに行こうよ、それなら良いでしょ?』

 

『まぁ、それなら良いけどよ』

 

『じゃあ―――』

 

 

――か、カンペキだ。 アピールしつつ約束も出来るじゃねえか!

 

自分の思い付いたシナリオに顔をだらしなくなりながらも播磨は室外機まで辿り着く。

 

そして、室外機に隠れながら二階へと意識を集中させると、中から声がするのに気付いた。

 

 

――これは、天満ちゃんの声っ! 気付かれるタイミングをみはからねーと。

 

播磨は、タイミングを見計らうため、耳をダンボにして会話を聞き取ろうとする。

 

そして。

 

中から聞こえたのは自身が想像していなかった会話であった。

 

 

 

 

 

 

 

「天満…、あんた、男の裸みたことある?」

 

「うん、あるよー!」

 

 

 

 

 

 

――…………はっ、一瞬意識が飛んでた。

 

あり得ない言葉が聞こえた播磨は、一瞬意識が飛ぶも、何かの聞き間違いだと内心で否定する。

 

しかし、愛理と天満の会話は続いていた。

 

 

「それって、つまり烏丸くんと……?」

 

「やだ、なんで分かるの? そーなの!」

 

――い、いや、まだだ! 何かの間違いに決まってる!

 

以前に烏丸と天満ちゃんが一緒にご飯を食べてるのを見て、付き合ってると誤解した。

その時と同じなのだ、と。

 

既に顔が青くなっている播磨であったが、そう自分に言い聞かせる。

 

しかし、彼の願い虚しく、残酷な会話が繰り広げられた。

 

 

「口を塞がれたりは?」

 

「序の口だよー」

 

 

「羽交い締めにされたりは?」

 

「あれは大技だよねー!」

 

 

―………………。

 

彼女から知りたくなかった事実が嫌でも耳に入った。

現実逃避すら出来ない状態であったのだ。

 

 

「―――ちゃん―――と―だよね」

 

「――――――――――――わよ」

 

播磨はただただ呆然としてしまい、それ以降の会話は耳に入らなかった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「ど、どうしたバイトっ!」

 

播磨はハシゴを降り、ふらふらとした状態で親方のところまで歩き出し、告げる。

 

 

「すみません、俺ァもうショックで何も出来ねぇ……」

 

「おいっ、バイトっ!」

 

「は、播磨さんっ!」

 

金はいらねぇんで、辞めさせてくれ。

そう一方的に告げ、播磨は塚本宅を後にした。

 

何も考えたくない。

播磨はその後ただ走り続けた

 

 

「――って、待って播磨くんっ!」

 

誰か後ろから呼ぶ声が聴こえたが、それを気にする余裕もなかった。

 




読んで頂きありがとうございました。

また、投稿が空きすぎてごめんなさい!
感想や評価は必ず見て凄く喜んでますが、話を書くモチベーションが落ちてました。
しかし、スクランの中古ゲームを熱が蘇ったので少しずつ書きます。

さて、あらためて思いますが、スクランの勘違いは原作からしてぶっ飛びますよね。
原作の感じを似せてるだけなのに、この勘違いは無理がないかと悩みます。

今回が勘違いもの作品で言う表なら、次は裏の別視点の話となります。
また次回も読んで頂けたら幸いです。

p.s.
前回の感想を返せておらずスミマセン、、、
皆さんの感想や評価は全部嬉しく見ています!


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#14「悲しむ彼、苦しむ彼女(後編)」

毎度のことですが、お久しぶりです。
スクランをたまに思い出していただけるように更新をまた再開します。

今回は播磨とは別視点になります。

それでは、本編をどうぞ。


 

 

 

 

塚本 天満は、何事にも一直線である。

それは恋であったり、遊びであったり、その他諸々に対してもほとんど全てが真っ直ぐだ。

 

一直線過ぎて思い込みが激しいところもあるが、その真っ直ぐな気持ちや行動が周りの友人にも親しまれているのであろう。

 

妹である彼女――塚本 八雲は、そんな姉が大好きだった。

 

ただ、シスコンな八雲としても、姉に気を付けて欲しいと思うことは結構ある。

 

 

 

たとえば――

 

 

『ねぇ、姉さん』

 

『なーにー、八雲? しっかり夏休みを充実してるお姉ちゃんを見習いたいって?』

 

『あのね……、夏休みの宿題はやったの?』

 

『…………あっ』

 

真っ直ぐだけど抜け落ちてることが多いこと、など。

 

 

―――

 

 

 

――――――

 

 

 

―――――――――

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

というやり取りが姉妹間であり、顔が真っ青になった天満は慌てて友人達に電話をし、塚本宅で一緒に宿題をやることになったのである。

 

 

 

「――はい、姉さん」

 

「ありがとう、八雲!」

 

天満の部屋にいる友人へと飲み物を持って行きにキッチンへとやって来た天満に、八雲はあらかじめ準備していた飲み物と冷えたスイカを渡した。

 

 

「あ、スイカなんてあったんだね!」

 

「あの…今日、姉さん達が家で勉強会を開くって言ってたから」

 

「もーっ、八雲ってば偉い! 気配りさんっ!」

 

背伸びしながら頭を撫でてくる天満に、思わず笑顔が溢れる八雲。

 

嬉しくなりながらも、言いそびれたことがあった為、天満にその要件を話し始めた。

 

 

「そういえばね、エアコンの修理業者が今日来るんだ」

 

「あ、そーなんだ! ようやく直るんだね!」

 

待ってたんだよー、と天満は八雲の言葉に目を輝かせた。

 

実は、先日に塚本家のエアコンが動作不良を起こし始めたのだ。

しばらくは扇風機で我慢していたが、やはり真夏は扇風機の風では暑さを耐えるのが難しく、修理を依頼したのであった。

 

 

「姉さんの部屋の外側に室外機があるから、修理の音が少しはするかも」

 

「そのぐらい全然大丈夫っ! わいわい楽しく話してれば修理音なんて聴こえないって!」

 

――楽しく話してたら宿題できないんじゃ……。

 

任せて、と自身の胸をドンと叩く天満に、内心で別の意味で不安に思う八雲。

 

そんな彼女を余所に、先ほど渡していた飲み物とスイカがのるお盆を持ち二階へと行こうとする天満であったが、すぐ立ち止まり、キッチンからとあるモノを取る。

 

 

「やっぱりスイカと言ったら塩だよね!」

 

これがないと始まらないね、と八雲に言う天満であったが。

 

 

「姉さん」

 

「ん?」

 

「……それ、砂糖」

 

間違えやすい天満である。

八雲に指摘された彼女はそそくさと隣の塩をあらためて取り出してお盆に置いた。

 

あ、あはは、と恥ずかしそうに笑う天満に、八雲は一瞬言おうか悩んだ後、思い切って想いを口に出した。

 

 

「あのね、真っ直ぐな姉さんは大好きだけど……その、思い込んで勘違いしてることもあるから、気を付けてね」

 

八雲の指摘。

それは勿論いまの塩と砂糖を間違えたことも少しは含むが、本当に言いたいことは別のこと。

 

それは、以前に友人達と海水浴に行って帰ってきたときのこと。

 

 

『姉さんは――姉さんは、播磨さんが好きな人、知ってるの?』

 

播磨の告白を手伝う恋のキューピットと言った天満。

 

思わず、播磨の想い人が誰かを知ってるかを聞いたときに返ってきた言葉は――まったくの見当違い。

 

 

『播磨くんはねー、愛理ちゃんのことが好きなんだよ』

 

恋を知らない八雲であったが、それでも好きなひとに別のひとが好きだと勘違いされるのは悲しいと思った。

 

だからこそ、八雲は言うのだ。

 

天満自身が思い込んで勘違いしてることもあるから、しっかり気を付けて、ちゃんと知って欲しいのだ、と。

 

 

「うん……わかった」

 

八雲が真剣な顔で指摘した言葉に対し、天満も同じく真剣な顔で頷く。

しっかり八雲の想いを受け止めたぞ、という気持ちを込めて。

 

 

「今度からは気を付けるよ、八雲」

 

その言葉を残し、天満は二階へと上がっていった。

 

 

 

 

ただし。

 

 

――スイカに砂糖は、合わないもんね。

 

 

「……姉さん、そこじゃないよ」

 

八雲の言いたいことは伝わらなかったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#14「悲しむ彼、苦しむ彼女(後編)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「晶がいないとやっぱり進まないわね」

 

「まあまあ、もうすぐ美琴ちゃんも来るし」

 

私たちおバカ二人組じゃお手上げだよね、と。

脳天気に笑う天満に、彼女――沢近 愛理は一緒にするなという意味もこめて教科書で軽く頭を叩いた。

 

 

塚本宅。

泣きながら電話してきた天満の懇願に負けて、愛理は友人の美琴や晶と同じく天満と一緒に勉強会を行うことになったのである。

 

勉強会というよりは、夏休みの宿題を片付ける会、と言った方が正しいのであるが。

ちなみに、美琴や晶は既に夏休みの宿題はほぼ片付いている。

 

 

「ふう……」

 

愛理も美琴や晶と違い、宿題は終わっていないので天満と状況は似ているのであるが、彼女は然程やる気が起きていなかった。

 

彼女には、宿題なんかよりも優先したいことがあったからである。

 

それは―――

 

 

 

 

――播磨くん、今は何してるのかしら?

 

自身を大切に想ってくれている男性であり。

そして、愛理が好意を抱いている人――播磨 拳児のことだ。

 

愛理は今だけでなく、ここ最近、具体的には天満たちと海水浴に行って帰宅してから、頭の片隅には常に彼への意識があった。

 

 

彼はいま何してるのだろう。

あの人は元気なのだろうか。風邪をひいていないか。

播磨くんは、自分と会えず、寂しがってくれているのだろうか。

 

 

彼は――

 

あの人は――

 

播磨くんは――

 

 

そうやって、何かしている時も少し彼のことを考えてしまっている自分がいた。

 

 

――これって恋愛脳ってやつなのかしら。

 

自身の状況を振り返り、愛理は何だか笑ってしまう。

天満や美琴、晶は違うが、同級生の恋愛脳な女の子たちを見ると、よくそこまで熱心になれるなぁと半ば見下した思いを昔は抱いていた。

 

しかし。

いまはそんな彼女たちと同じ立場にある。

 

いや、語弊がある。

似た立場ではあるかもしれないが、同じ立場ではない。

愛理はハッキリとそう思えた。

 

だって。

 

 

――播磨くんは、誰よりも熱く想いをぶつけてくれるもの。

 

 

 

『俺は…君が好きだったんだ!』

 

誰よりも、真っ直ぐで。

 

 

『きょ、今日の放課後……俺と映画にでも――』

 

誰よりも、純粋で。

 

 

『言い訳をするつもりはねぇ。 でも、信じてくれっ!』

 

誰よりも、想ってくれて。

 

 

他の人と一緒じゃない。

いや、他の人と一緒にしたくない。

 

そんな気持ちが、其処にはあった。

 

 

だからこそ、宿題よりも播磨のことを考えるのは仕方ない。

しかし、それなら天満の懇願を断り、播磨に会いに行けば良いのではないか。

会いたいという問いにはYESとすぐさま言える愛理ではあったが会わない事情があるのだ。

 

 

――なんで私、連絡先聞くの忘れるのよ……。

 

愛理にとって、連絡先を聞きそびれたのは痛恨のミスであった。

 

海水浴の時に帰り際にでも聞いておけば違う日々だったかもしれない。

そうは思っても、あの時には聞く余裕がなかったのだ。

 

 

――わたし、頬にキス…したのよね。

 

 

『言い訳をするつもりはねぇ。 でも、信じてくれっ!

 

彼が想いを何度もぶつけてくれて。

嬉しくて。

涙が溢れそうなくらい、嬉しくて。

だからこそ、彼の想いに応えたいと、行動で示したいと思ったのだ。

 

そして、愛理は播磨の頬にキスをした。

 

いま振り返っても後悔はない。

それは間違えない。

 

だが。

恥ずかし過ぎたのだ。

 

 

――わたし、父様以外の異性にはじめてキスしたわ。

 

口ではなく頬であったが。

それでも、父親以外の異性にはじめて口づけをしたのだ。

帰り際は恥ずかし過ぎて播磨の顔を見る余裕がなかった。

その為、連絡先を聞くなんてその場ではまったく記憶から抜け落ちていたのであった。

 

 

――なんというか、初めて尽くしね。

 

あんなに熱い想いをぶつけられたのも。

自身が異性に好意を寄せるのも。

男性に口づけをするのも。

男性の裸をみるの―――

 

 

――いや、というか私、あらためて何で口づけよりも早く異性の裸みてるのよっ! いや、あれは振り返っても変な状況過ぎて意味がわからなかったけど。

 

 

「え、愛理ちゃん、急にどうしたのっ!」

 

「な、なんでもないわよっ!」

 

思い出しそうになり、頭をぶんぶんと振り回し一旦は忘れようとした。

 

ただ、一度意識し出すと中々頭から離れず、頬が熱くなるのが止まらなかった。

そんな風に混乱していたからだろうか。

 

愛理は思わず天満に突拍子もないことを口に出してしまった。

 

 

「ねぇ、天満……」

 

「なになに、愛理ちゃん?」

 

「天満は……、男の人の身体見たことある?」

 

「えっ?」

 

天満は愛理の問いにキョトンとした表情で首を傾げる。

 

その表情をみて、愛理は自身が口に出した内容に慌てて言葉を継ぎ足す。

 

 

「あ、いやっ、違うの……いまのは…」

 

播磨の裸を思い出して口に出してしまったと言いづらく、上手い言い訳が出て来なかった。

 

 

――いや、なんてこと言ってるのよ私。 それに、そもそも一番そういうのに疎そうな天満に聞いても。

 

ないしか返答くるはずないじゃない、と内心で思った愛理であった。

しかし。

 

 

「あるよ」

 

男の人のカラダ、と。

返ってきた言葉に一瞬硬直してしまう愛理。

 

そんな愛理を不思議そうに見ながら、天満は愛理――ではなく、後ろのポスターに視線を向ける。

 

そこには、ついこの間に想い人である烏丸と一緒に観に行ったプロレス観戦の帰り際にもらった、上半身裸のプロレスラーのポスターがあった。

 

 

「別に普通なんじゃないの、それくらい?」

 

今どきテレビでもプロレス中継がたまに放送されるし、普通だろうと天満は思った。

 

 

一方、愛理は固まったままであった。

ただ、天満の言葉が頭を反芻する。

 

 

――え、天満がオトナの付き合い? それじゃあ、相手は。

 

「それって、つまり烏丸くん、と……?」

 

「やだ、なんでわかるの!」

 

そーなのよ、と答える天満に呆然とする愛理。

疎いと思っていた相手が想像以上に進んでいて驚き過ぎてしまったのだ。

 

 

――天満がわたしよりも経験豊富……いや、まさか、そんな。

 

しかし、天満が自分より経験が豊富とは信じたくない気持ちが少しあり、思わず更に聞き込んでしまう。

 

 

「あの…、口を塞がれたりとか」

 

「ジョノクチだよー」

 

――息出来ないようにするワザも観たプロレス戦で沢山やってたしね。

 

 

「羽交い締めにされたり、とか……?」

 

「あれわオオワザだよねー!」

 

――あれでケーオーされてたし。

 

うんうんと頷く天満。

その様子をみて明らかに自分より経験が豊富だと理解した愛理は妙な敗北感に打ちひしがれていた。

 

 

――べ、べつに播磨くんとはゆっくり関係を築きたいから、悔しくなんて。

 

少し悔しい愛理であった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

――どうしたんだろ、愛理ちゃん?

 

認識が食い違っていることを理解していない天満は、愛理の落ち込んだ様子に首を傾げていた。

 

よく分からないが、妹に用意してもらったスイカでも食べて元気を出してもらおうと、愛理にスイカを渡そうと思った。

 

 

「愛理ちゃん、スイ――」

 

スイカでも食べて元気を出して、と。

愛理に伝えようと思った天満であったが、ひとつ、とあることを思い出したのだ。

 

 

――そういえば、播磨くんと愛理ちゃんって付き合ってるのかな?

 

愛理。そして、妹の八雲。

その二人を考えたときに先日、海水浴から戻ってきた時のことを思い出したのだ。

 

八雲に播磨の告白の練習を手伝った話をした時のこと。

播磨が好きなのは愛理だと言った際、違うと否定されたのだ。

 

 

違うよ。

姉さん、違うよ、と。

 

力強く否定されたのである。

 

そして、その後の八雲の言葉。

 

 

『だってっ、播磨さんが好きな人はっ―――』

 

次に続く言葉を八雲は直接言わなかったが。

それでも姉の天満には八雲が本当は言いたかった言葉がわかった。

 

播磨さんが好きな人は、――わたしなのに。

 

そう、聞こえた気がしたのだ。

 

 

――あぁ、そっか。

 

それを思い出した後、ようやく天満は先ほどキッチンでの八雲の発言を理解したのだ。

 

 

『あのね、真っ直ぐな姉さんは大好きだけど……その、思い込んで勘違いしてることもあるから、気を付けてね』

 

思い込んで、勘違いしている。

つまり、播磨が好きな人が愛理だと思い込んでいる。勘違いしているぞ。

 

それを伝えたかったのだ。

 

だけど、播磨が好きなのが八雲自身だと直接伝えるのは何だか恥ずかしかったのだろう。

 

 

――お姉ちゃんなのに、ごめんね。

 

天満は八雲の気持ちや伝えたい言葉をすぐに理解してあげられず、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

自分が播磨が好きなのは愛理だと推理したときに美琴も同意していたが、彼女は恋愛経験が少なそうだから一緒に勘違いしていたのだと今わかった。

 

ただ、それでも。

それでも、念の為に。

 

自分の勘違いだと確信する為に、天満は愛理に確認しようと思った。

 

勘違いであったのならば、告白の練習をした後に愛理に告白をしていないだろう。

ましてや、付き合ってないだろう。

 

だからこそ。

天満は何気ない様子を作って、愛理に問いかけた。

 

 

 

 

愛理ちゃんは付き合ってるひとはいるの、と。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「愛理ちゃんは付き合ってるひとはいるの?」

 

落ち込んでいた愛理であったが、天満に呼ばれ、顔を上げると、質問を投げかけられた。

 

何で急に、と思ったが、天満の表情からして特に意味はなく、聞いてみただけなのだろうと思った。

 

その問いに愛理はすぐ返事を口に出そうとして、止めた。

 

 

――付き合ってるって、言っていいのかしら。

 

付き合ってください。

そういうやり取りをした訳ではないが、想いは伝え合っている。

その関係は恋人と言っても過言ではないだろう。

だから、播磨と恋人かどうかで悩んだわけじゃない。

 

ただ、天満に、友人に言おうかを悩んだのである。

 

別にここで素直にYESと答え、たとえ広まっても、熱い想いを伝えてくれた播磨なら許してくれるだろう。

 

 

――でも、しばらくは誰にも邪魔されたくない…かしら。

 

ふたりで邪魔されずに少しずつ想いをはぐんでいきたい。

口に出すのも、それを知られるのも死ぬほど恥ずかしいが、そう思った。

 

 

――天満はまわりに漏らしちゃいそうだし。

 

 

「いえ……、誰とも付き合ってないわ」

 

愛理は、天満にそう答えた。

 

それを聞いた天満は、愛理の顔を一緒真面目な顔で見つめた後、そっかぁと笑った。

何故だがほっとした表情であったが、別にいいかと気にしなかった。

 

 

「まぁ、話はおしまい! そろそろ勉強するわよ」

 

「うーん、そうだね。 あ、でもせっかくだからスイカ食べてからにしよーよ」

 

塩をかけると美味しいよ、と。

笑顔でスイカを渡してくる天満に苦笑いしながら受け取ろうとした。

 

 

 

その時。

 

 

下から、誰かの女の子の声が聞こえたのだ。

誰かを呼び止めようとする、悲しそうな声で。

 

 

 

 

 

――播磨さん、と。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

――ウソ。

 

 

――ウソ。

 

 

――ウソ。ウソよ。

 

 

 

愛理は、走っていた。

 

頭の中は混乱したまま。

ただただ、目的のひとに追い付きたくて。

 

自身の全ての力を振り絞って走っていた。

 

 

そんな。

まさか。

なんで。

 

 

頭の中ですら、ちゃんと言葉にならない。

 

それでも。

走らなきゃいけない。

追い付かなきゃいけない。

 

それだけを考えて、走り続ける。

 

 

 

――播磨さんっ!

 

その言葉が聞こえたとき。

胸が締め付けられるように感じた。

 

何故かを理解する前に、美琴が天満の家に着いて。

彼女から言葉が発せられて。

 

 

『おい、いま播磨が泣いて走っていったけど、何かあったのか?』

 

頭が真っ白になって。

 

ただ、漠然と追わなきゃって思って。

 

そして、走りながら、自分が追う理由がハッキリと理解し始める。

 

 

 

 

『いえ……、誰とも付き合ってないわ』

 

 

 

もし。

 

――違うの。

 

「―って!」

 

 

もし、彼が。

 

――誤解なの。

 

「待って!」

 

 

もし、好きでいてくれる彼が、聞いてしまったのなら。

 

 

 

 

 

「待って、播磨くんっ!」

 

 

 

呼びかけて。

手をかざしても、届かなくて。

 

 

 

 

――播磨、くん

 

 

 

走っても走っても遠くなる距離。

 

どうしようもなく、胸が苦しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「は、播磨さんっ!」

 

泣きながら走り去る播磨の姿をみて、八雲は胸が苦しくなるのを感じた。

 

向こうは八雲を知らないかもしれないが、八雲は播磨のことを色々な機会で知った。

 

彼がどんなひとなのかを。

そして、彼が誰を好きなのかを。

 

姉が誰を好きかを知るからこそ、どうすることも出来ずに板挟みのような状態になっていた。

 

だが、それでも。

好きなひとに誤解されるのは悲しいと思ったからこそ、姉に遠回しに伝えたりした。

 

そんな矢先に。何で。

 

八雲は途中から修理業者の一人が播磨だと気付いた。

だけど、何か言ってあげることもなく。

せめてオニギリでも握って渡そうと思った。

 

そして向かったら先ほどの状態だったのだ。

 

 

――なんだ新入りのやつ、二階の室外機の修理で何かあったのか?

 

播磨と一緒に来ていた修理業者の心の声。

それを聞いて、八雲は気付いた。

 

二階の室外機は姉の部屋のすぐ側であることに。

 

ということは、姉の部屋から何かを聞いてショックになったのだと。

 

 

「八雲! なんか播磨くんが泣いて――」

 

 

 

 

「――姉さん、ひとつ、教えて」

 

 

 

 

「や、やくも……?」

 

思わず天満の肩を掴んでしまう八雲。

その様子に天満が驚きの表情を見せるが、それどころじゃなかった。

 

 

「さっき、姉さんの部屋で烏丸さんのこと話した?」

 

「えっ…、う、うん。 言ったけど……」

 

――やっぱり。

 

理由は何となく分かっていたが、確信した。

八雲は気付いたのだ。

播磨が泣いていた理由を。

 

 

――姉さんが烏丸さんが好きって知ったんだ。

 

おそらく姉は友人たちと好きなひとの話をしたのだ。

その時に、姉が烏丸が好きだということを言ったのだと。

 

 

「播磨、さん……」

 

播磨の気持ちを考えて、さらに胸が苦しくなるのを感じた。

 

 




途中からイージーモード、ハードモードと付けるようにしましたが、これは誰にとってのハードモードでしょうね。

書きたい内容を書いたら凄いことになった気がしたけど、原作がスクランだと思うと、「あれ、まだ大丈夫かな?」とか思ったり。

ありがとうございました。
また、見て頂ければ幸いです。


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#15「誤解する彼と彼女と」

お久しぶりです。(1年ぶり)
時間が経ちすぎて誰状態かと思います。
しかし、感想とかメッセージが最近も少しだけ来ててテンション上がった為、投稿します。

【前回のあらすじ】
播磨「天満ちゃんと烏丸のヤローがそんなに進んでたなんて!(勘違い)」
沢近「播磨くんに聞かれた!? 誤解なの!(勘違い)」
妹「姉さんが烏丸さんが好きって知っちゃったんだ(ニアミス)」

姉「……?」←元凶


『お嬢様、夕食のご用意ができましたが』

 

執事であるナカムラからのドア越しの呼びかけにより、彼女―沢近 愛理は膝に埋めていた顔を上げる。

 

 

――そっか、もうそんな時間なんだ。

 

既に部屋の窓から差していた陽射しがなかった。

帰ってきた時に電気を点けていなかった為、辺り一面が暗闇に覆われている。

ドアから漏れる微かな明かりしか視界には映らない。

 

 

――ダメね、わたし。

 

しかし、わざわざ部屋の電気を点けようとは思わなかった。

そんな気力すら、今の彼女にはなかったのだ。

 

 

「ナカムラ、今日は食欲がわかないの……」

 

ベッドの上で膝を抱えて座った状態のまま、執事のナカムラに返事をする。

その声は自身でも驚くほど小さく、力がなかった。

 

 

『……承知しました』

 

聞こえたか怪しい程の小さな声。

それでもナカムラは聞こえたらしく、彼はドア越しで愛理に一言述べ、静かに立ち去っていった。

 

 

「ありがと、ナカムラ」

 

自身が幼い頃から執事として仕えてくれていたナカムラ。

そんな彼だからこそ、愛理が今はひとりにして欲しいのが分かったのだろう。

 

心配してくれているのは声で分かった。

それでも、何も聞かずに立ち去ってくれた彼の気遣いが愛理には有り難かった。

 

愛理は、再び膝に顔を埋める。

 

考えるのは。

いや、考えてしまうのは、ずっと同じこと。

 

今日してしまった、自分の過ちについて。

 

 

 

『愛理ちゃんは付き合ってるひとはいるの?』

 

 

『いえ……、誰とも付き合ってないわ』

 

 

『おい、いま播磨が泣いて走っていったけど、何かあったのか?』

 

 

『待って!』

 

 

 

 

『待って、播磨くんっ!』

 

 

 

ずっと頭の中で再生され続ける、今日の出来事。

 

 

――なんで、あんなことに、なっちゃったの……。

 

意味がない。

そんなことは彼女も分かってる。

それでも、何回も自分自身に問い掛けてしまう。

 

 

――天満に付き合ってるって、言えばよかった?

 

言うのが気恥ずかしいのもある。

それに、誰にも知られずにゆっくり仲を深めたかったのも本音だ。

 

でも、付き合ってるって言えばよかったのか。

 

言ったとして。

天満は恋愛話は美琴や晶たちに話してしまうだろう。

そうなったら二人が付き合ってるって話が学園に広まるかもしれない。

播磨くんだって、まわりにそういう話が広まるのは好ましくないはずだ。

 

 

――じゃあ…あの時、播磨くんに追い付ければよかった?

 

走っていた時、愛理は播磨に何を話せば良いか考えられていなかった。

 

ただ、彼に追い付かないと。何かを話さないと。

それだけを考えて走ったのだ。

がむしゃらに。必死に。

 

それでも、手を伸ばしても届かなかった。

 

 

あのとき、天満に付き合ってるって言っていれば。

あのとき、播磨くんに追いついていれば。

 

意味がなくても。

そういうifを繰り返し考えてしまう。

 

 

『おい、いま播磨が泣いて走っていったけど、何かあったのか?』

 

それは、美琴が驚きの表情のまま語った言葉。

 

 

「播磨くん……ショック、受けてるわよね」

 

周りから不良として恐れられている彼。

そんな彼がクラスメイトとすれ違っても気付かず、人前で泣いていたのだ。

 

どれだけ彼がショックを受けたのか。

それが分かってしまう。

 

分からないわけがない。

 

 

『俺は…君が好きだったんだ!』

 

自身に告げてくれた熱い想い。

その後もたくさん気持ちを行動で示してくれて。

 

海水浴に行った際の旅館で、彼と同じように行動で示すって。

そう、決めたのに。

 

 

「播磨くん……」

 

今も自身のことで悲しんでいるだろう播磨のことを考えると胸が痛い。

ただただ、後悔が募る。

 

 

お願い。

誤解しないで。

違うの。

信じて。

 

すぐにでも彼にそう、言いたいのに。

 

 

――わたし、播磨くんの連絡先知らなかったんだ。

 

愛理は近くにある携帯電話を持ち、電話帳を開く。

電話帳に記載されているのは、家族や天満たち友人の連絡先のみ。

 

いますぐに連絡したい彼の名前は、登録されていないのだ。

 

そして自宅に行こうにも、彼がどこに住んでいるのかが分からない。

 

 

――わたし、知らないんだ。播磨くんのこと。

 

こんな状況になって、はじめて愛理は気付いた。

播磨のことをほとんど知らないのだと。

 

連絡先も。

住んでいる場所も。

いや、そもそも家族構成や彼の趣味、プライベートなことはほとんど知らない。

 

 

「……播磨、くん」

 

想いを伝えてくれて。

それで安心して。

 

それでも。

連絡先すら知らない状態が、自身と彼の関係性の脆さをを物語っているように感じてしまって。

 

 

「――わたしたちの関係って、なんなのかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

#15「誤解する彼と彼女と」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『播磨くん……お願い、信じて』

 

公園の中央にある大きな木。

その木の下に二人の男女が向かい合っていた。

 

サングラスを掛けた男性に、対峙する女の子が涙を流しながら伝える。

 

誤解なんだ、勘違いなのだと。

必死に言葉を告げる女の子をチラリと見た後、男性は違う方向にまた視線を向ける。

 

そんな彼に対してさらに想いを伝えようとするが、その前に彼が口を開いた。

 

 

『あぁ……、気付いてたぜ』

 

 

―――

 

 

――――――

 

 

―――――――――

 

 

 

「お、作風変えたんだねー」

 

「はぁ。 トーンを使ってみました」

 

自身の持ち込んだ原稿を読みながら驚きの表情を見せる出版社の男性に、彼―播磨 拳児は言葉を返す。

 

普段の学園生活の不良な格好と態度とは一変し、大人しい様子を見せている。

特に意識してなかったが、ベレー帽を被ると自然と漫画家として思考が切り替わっていた。

 

 

「いいじゃん! 田沢くんはこっちの描き方の方が合ってると思うよ!」

 

「ありがとうございます」

 

あと、田沢じゃなくて播磨です、とのんびりした口調で告げた。

 

 

 

――――――――――――

 

 

「はぁ……」

 

出版社にて原稿を持ち込んだ帰り。

描いた原稿を片手に持ったまま、播磨は溜息を吐いた。

 

 

「現実もこうだったら良いんだけどな……」

 

自身が描いた原稿の内容。

それは彼の妄想であり、あるいは半ば期待していることであった。

 

それは前日にあった、ある出来事。

エアコン修理のバイトで起きた忘れたい出来事だ。

 

 

『天満は……、男の人の身体見たことある?』

 

『あるよ』

 

それは、本当にあったことなのか。

夢ではなかったか。

そう思ってしまう。

 

 

『あの…、口を塞がれたりとか』

 

『ジョノクチだよー』

 

聞き間違いではないか。

何回も播磨は自問自答した。

 

 

『羽交い締めにされたり、とか……?』

 

『あれはオオワザだよねー!』

 

しかし、何回も脳内で繰り返し再生される記憶が聞き間違いではないと物語っていた。

 

その後の記憶はあまりない。

ただただ、ショックで。その場から逃げて。

気付いたら家の自室にいた。

 

とりあえず色々泣いたり騒いだりして、同居人の絃子にモデルガンで撃たれた後。

播磨は、次には漫画を描いていた。

 

とりあえず嫌なことは忘れて漫画に没頭しよう、と。

紛れもなく、現実逃避であった。

 

ただ、描いた漫画の内容は前日の出来事を引っ張る内容であったが。

 

というわけで、傷心中な播磨は1日で結構描ききってしまった原稿を出版社に持ち寄っていたのだ。

 

 

「昨日のことは落ち込んだが……それで描いた原稿は評判よかったな」

 

現実逃避で描いた漫画であったが、思いの外、出版社の人に褒めてもらえたことにより若干気持ちは上がっていた。

 

播磨 拳児。

とても単純な男である。

 

 

「まぁ、でも封筒にも入れずに持ってきちまった」

 

無心で描き、そのまま出版社に持ち寄った為、封筒にすら入れずに持ってきていた。

そのことに今更ながら気付き、慌て始める。

 

 

――これを天満ちゃんに見られたらマジーな。

 

原稿に描かれた主人公とヒロインは明らかに播磨と天満を意識して描いている。

だからこそ、知り合い、そして天満に見られたら色々とマズイことになるのは明白であった。

 

今までは適当なバッグに、さらに封筒に入れる為にリスクは少なかったが、今は素の状態である。

 

 

「はやく家に帰るしかねぇ!」

 

――急げば大丈夫だっ!知り合いになんて、そんな上手く鉢合わせたりなんか……っ!

 

知り合いに鉢合わせないだろう、と。

自分の中で言い聞かせようとした。

そんな最中のこと。

 

 

「「…………あっ」」

 

顔を上げた目の前には、ツインテールの金髪の女の子。

見間違うこともなく、明らかにクラスメイトであった。

 

 

「えっ……あっ、ちょっと」

 

播磨は頭が真っ白になった。

そして、気付いたら自然と逃げていた。

 

 

「ねぇ、播磨くん! まって!!」

 

後ろから声が聴こえる。

しかし、播磨の頭には逃げることしかなかったのであった。

 

 

 

 

「はりま……くん」

 




ありがとうございました。
また少しずつ投稿開始していけたらと思います。
感想返しできてなくてすみません!
ちゃんと見て嬉しく感じてます。そちらもまた返していきます。

また見て頂けたら幸いです。


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#16「決意する彼女たち(前編)」

前回はひさびさにも関わらず感想、評価ありがとうございます!
1年ぶりなんで全く見られないかもって不安でしたが、おかげさまでランキングにも載りました。
あらためて、ありがとうございます!

感想や評価ってやっぱりモチベーションに繋がるんですね。
では、本編をどうぞ。


「お、八雲ちゃん。 夕飯にウチの魚を買っていかないかい?」

 

「あの……もう、買った後なので」

 

「そりゃあ残念だ! なら次には買っていってくれ」

 

――ま、ベッピンさんを拝めただけで良しとするか!

 

声と心の両方とも明るく、そして陽気な魚屋のおじさんに頭を下げ、彼女―塚本 八雲はまた歩き出した。

 

 

八神商店街。

八雲はバイトが終わり、夕飯の食材を購入して帰宅している最中であった。

 

学校に通い、バイトまたは部室に顔を出し、夕飯の材料を買って帰宅する。

八雲の、普段通りの変わらない日常。

 

しかし、彼女の内心は普段と違う様子を見せていた。

その心の内で考えるのは、とある一人の男性について。

 

 

――播磨さん……大丈夫、なのかな。

 

播磨 拳児。

同じ高校に通う先輩であり、姉のクラスメイト。

それだけであれば、他の男子生徒と変わらないだろう。

 

彼は八雲にとって初めて会った、心が見えない異性。

そして――姉である塚本 天満のことが好きなひと。

 

八雲と播磨の関係は知り合い程度でしかない。

いや、八雲と播磨は何回も顔を合わせているが、播磨は八雲の顔を覚えていないだろう。

それを考えれば、知り合いとも呼べないかもしれない。

 

でも、八雲にとっては気になってしまう男性であった。

 

 

――姉さんのことで、泣いてた。

 

思い出すのは、数日前のこと。

エアコンの修理依頼で呼んだ業者のひとりが播磨であった。

 

播磨が居たこと自体には驚いたが、その後に心に浮かんだのは少し話してみたいという想い。

 

心が見えない異性だから?

姉と同じように、真っ直ぐな人だから?

自分は知ってるのに、相手は知ってくれてないから?

 

どれも正解なのか、それとも違うのか。

八雲自身、それは分からなかった。

 

ただ、話してみたい思ったのだ。

だから八雲は、業者の方への差し入れとして飲み物、そしておにぎりを作った。

その差し入れを渡し、そこから播磨と会話しようと思ったのだ。

 

しかし。

 

 

『すみません、俺ァもうショックで何も出来ねぇ……』

 

『おいっ、バイトっ!』

 

泣きながら去っていく播磨。

 

 

『は、播磨さんっ!』

 

八雲は播磨の名前を呼んだ。

ただ呼ぶことしか、彼女には出来なかったのだ。

 

その後、姉から話を聞いて、

播磨が何故泣いて去っていったのかを知った。

 

 

――姉さんが烏丸さんを好きなことを知った。

 

好きなひとが、他の人を好き。

それを窓越しで知ってしまって、どれだけ悲しかったのだろう。

 

異性を好きになったことがない。

そんな自分が播磨の心を理解してあげられてるのか。

 

播磨さんの心を見れない、私が。

 

 

――私はなにか、でき……っ!

 

思いの外、没頭してしまったらしい。

八雲は気付いたら目の前から歩いてきた人物とぶつかってしまった。

目の前の人物を見る前に、彼女はすぐ頭を下げる。

 

 

「す、すみません!」

 

「いや、俺も不注意だったぜ」

 

スマンな、と。

怒る様子を見せない様子に安心しつつ、八雲は男性の声がどこか聞き覚えがあるのに気付いた。

その途端、顔を上げて相手の顔に視線を向ける。

 

そこには――。

 

 

「――播磨、さん?」

 

サングラスを掛け、髪をカチューシャで上げた男性。

自身が先程まで考えていた人物、播磨が目の前に居たのだ。

 

思わず、八雲は凝視してしまう。

 

 

「えっと……あんたは」

 

そんな彼女に戸惑った様子を見せる播磨。

八雲はそれに気付き、彼の言葉に返答する。

 

 

「あの……塚本、八雲です」

 

「えっ…あぁ、天満ちゃ……塚本の妹さんか!」

 

物覚えが悪くてスマねぇ、と頭をかきながら播磨は謝る。

それを見て、播磨が自身を覚えてなかったのを改めて認識した。

 

きっと好きな姉をずっと真っ直ぐ見ており、自身には意識が向かなかったのだろう。

そんなに姉を心から好きでいてくれる播磨に、八雲は嬉しい気持ちを抱いた。

 

覚えてなかった。

そんな寂しい気持ちも、少しだけ抱いたが。

 

ただ、そんな気持ちよりも気になることが今はあった。

 

 

――播磨さん、大丈夫なのかな?

 

「…………」

 

「……えっと、どうかしたか?」

 

言葉もなく見つめられ、若干困った様子の播磨。

 

そんな播磨を見つめていたが、

八雲には彼があの出来事から立ち直ったのかを読み取ることが出来なかった。

 

心が見えない。

そういう相手だと自身は分かってあげられない。

 

播磨の気持ちが、わからない。

わかってあげられない。

 

それを認識した途端。

八雲は無意識に口を開き、言葉を紡いでいた。

 

 

「大丈夫、ですか?」

 

「えっと、何のことだ?」

 

「あの……エアコン修理の際に、姉さんから聞いたって――」

 

自身が喋っていた内容に、思わず口をおさえる。

本当に自身で驚いてしまう程、意識せずに言ってしまったのだ。

 

 

――わたし、なんで。

 

戸惑ってしまいながらも、八雲は慌てて播磨を見る。

播磨は顔を俯かせていたのだ。

サングラスを掛け、顔を俯かせている播磨の様子は伺うことが出来ない。

 

八雲はそんな彼に心配した表情を向ける。

 

 

「……あの、播磨さん?」

 

「―――」

 

「あ、あの……」

 

「――が――と―――なんて」

 

つぶやき程度の小さな声。

播磨は目を瞑り、何かを思い出しながら呟いているのが分かった。

 

八雲はそれを聞き取る為、空いていた播磨との距離を詰める。

そして聞こえる程に近くなった瞬間、播磨は顔を思いっきり上げた。

 

播磨は、サングラスを掛けていても分かるくらい、悲しい表情をしていた。

というか、男泣きしていたのである。

 

 

「くっ、天満ちゃんが烏丸の野郎とチューだなんて!」

 

「えっ……あ、あの」

 

「それに、ヤツの裸を見る関係だなんて!」

 

播磨が男泣きしている様子に、八雲は固まってしまっていた。

 

 

「ぐおぉぉ、思い出さないようにしてたのにっ!」

 

「――あっ、は、播磨さん!」

 

そして、その間にも播磨は泣きながら走り去ってしまったのであった。

 

追いかけられず呆然としてしまう八雲。

ただ、彼女はそのまま疑問が口から出ていた。

 

 

「姉さんと烏丸さんが……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

#16「決意する彼女たち(前編)」

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は、何でこんなにツイてねぇんだ」

 

彼―播磨 拳児は、肩を落としながら歩いていた。

通りすがりの人が全員落ち込んでると分かるくらいに、思いっきりである。

 

播磨は、すこぶる調子が悪かった。

今だけでなく、ここ最近ずっと。

 

 

――ぐあぁぁ、天満ちゃん!

 

エアコン修理バイト時に聞いた、天満の話。

テンションがだだ下がり所か、出家して坊さんになろうかと考えるくらいに。

 

その時点でもう播磨からしたら絶望であったが、漫画に現実逃避するという対処法があったのだ。

これぞ、というくらいに嫌な記憶の棚上げであった。

何も解決していない。

 

それでも単純な播磨は漫画を書き、出版社で褒めてもらったことで調子を若干戻したのだ。

 

だが、その後すぐのこと。

原稿を素で持ってるタイミングでクラスメイトである天満の友人である沢近 愛理に遭遇。

原稿を見られたくない播磨は全速力で逃げたのだ。

 

そして、走ったまま家に逃げてきた播磨。

荒い息遣いのまま自宅に戻ると、同居人からモデルガンにて思いっきり撃たれた。

 

同居人曰く、はぁはぁ言いながら近付かれて危機を感じた、とのこと。

播磨からしてみれば災難でしかなかった。

 

もう色々と疲れて気晴らしに散歩してたら、天満の妹に遭遇し、忘れたかった記憶をあらためて思い出してしまう追い打ち。

播磨は、落ち込むしかなかった。

 

 

――散歩しても落ち込むし、大人しく帰ってマンガ描くか。

 

そうして、トボトボと力なく岐路に着こうとした。

その矢先のこと。

 

目の前から、誰かが歩いてくる影が見えた。

播磨は視線した下に向けたまま、逆側から歩いてくる二人組とぶつからない様、退いて擦れ違おうとした。

 

しかし、その二人組は自身が歩こうとする道に態々歩き、通せんぼの状態にしたのだ。

 

 

――なんだ、喧嘩でも売ってんのか?

 

喧嘩を売られたのかと思い、苛つきながら顔を上げる。

 

そこには、奇妙な男性の二人組がいた。

片方は老齢であり、モノクルの片眼鏡を掛けた男性。

もう片方は背が低いがガタイが良く、かなり強面な男。

 

そこは、そこまで気にならなかった。

 

問題なのは、服装だった。

その服装は時代劇に出てくるよう着物である。

しかも、模造であるのか刀を下げている。

 

その姿を見て、苛つきや怒りも収まってしまっていた。

 

 

「なんだ、アンタ達? 撮影でもヤってんのか?」

 

あまりに珍しい姿だったので問い掛ける播磨。

 

しかし彼等から返答はなく、モノクルの男性が播磨に向かって白い物体を放ってきた。

播磨は飛んできた白い物体を取り、その物体の正体に思わず目を丸くする。

 

 

「あん、果たし状だと?」

 

放るように渡された白い封筒には、堂々とした筆文字で果たし状と書かれている。

 

あらためて彼等に視線を向けるが、特に何も語らず、ただ播磨と果たし状を交互に見るのみ。

 

 

――果たし状の中身を見ろってことか。

 

播磨は果たし状と書かれた封筒の中にある紙を取り、中身を読む。

そこには、明日の日付と時刻、場所だけが記載されていた。

 

 

――果たし状なんて、天王寺くらいだと思ってたぜ。

 

播磨は、よく喧嘩を売ってきた男を思い浮かべる。

喧嘩場所を指定する為、果たし状を下駄箱に置かれたことがあった。

果たし状ということから、同じく喧嘩する為に渡してきたのだろう。

 

ただ、果たし状に相手の名前がなかった。

目の前で渡してきた人物だから、名前がなかったのだろうか。

播磨が疑問を感じた瞬間、目の前の男性が口を開いた。

 

 

「この果たし状は、去る御方からのだ」

 

「去る御方、だぁ? 誰だよそいつは」

 

相手は目の前の人物じゃないらしい。

播磨は聞くと、モノクルの男性は肩を竦めた。

 

 

「おいおい。 お前さんは相手がどんなやつかも分かってないんじゃ、果たし合い一つ出来ない腰抜けか?」

 

どうやら腰にあるモンは飾りなようだ、と。

目の前の二人は共に播磨を見ながら笑い始める。

 

 

「なんだとっ……――いや、待てよ」

 

一瞬、頭に血が上がりそうになった播磨であったが、あることに気づく。

 

 

――おい、こりゃあ「三匹が斬られる」の"第一ニ五話 無名の果たし状"のセリフ……っ!

 

時代劇風の服装。

そして、聞き覚えのある台詞。

 

播磨は、「三匹が斬られる」という時代劇ドラマの大ファンである。

毎週見ているし、好きすぎて細かい台詞すら暗記しているくらいに。

 

だからこそ播磨はこれが「三匹が斬られる」のあるシーンだと気付いたのだ。

 

気付いた時には播磨は意識するまでもなく、自然と口を開いていた。

 

 

「おい……俺がいつ、この果たし合いを受けないと言ったよ」

 

それは、「三匹が斬られる」の主人公である万石が彼等に放った台詞だ。

 

 

「コイツをテメエらに持ってこさせたヤツに言っておきな」

 

――明日、会うまでに覚悟を決めておきな、ってな。

 

播磨はそう述べると、そのまま去って行った。

ちなみに、去るのも含めて時代劇のシーンと同じであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやら上手くいったようだな」

 

「ムッ!」

 

 

 




【次回予告】

果たし状の場所へ向かった万石は、そこで驚くべき光景を目する。
そこには、刀を携える町娘の姿があったのだ。

彼女は何者であるのか。
また、何故万石に果たし状を渡したのか。

次回、『三匹が斬られる』
"第一ニ六話 町娘との果たし合い"


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