少女達の真影、正義の味方の証明 (健氏朗)
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プロローグ

初めまして、健氏郎です。本作品は自分の中にある"強くなった士郎を活躍させたい、だったらカグラと絡ませればいいじゃない"というぶっ飛んだ思考のもとに書いたものです。ご都合展開や士郎ハーレムなどといった要素も含まれますのでご了承ください。それでも読んでやろうという金ピカの王様な方はどうぞご覧あれご覧あれm(_ _)m


忍とは世の影に潜み、人知れずに暗躍する存在。

彼の者たちは昔の世に存在し、培った技と力を振るった。 ある者は忠義を尽くす主君のために駆け抜け、ある者は雇われ報酬のためにだけ刃を振るう。

 

忍びとは世界の裏に有りながら世界を支える者。

現代では忍の存在はとうに途絶えているとされているが実際は違う。忍は今の世でも現存している。現代で活躍している忍は二種類に別れる。

 

善忍と悪忍。善忍は人命救助や護衛などの活動を中心として、対する悪忍は要人の暗殺と破壊活動を主としている。

二つの勢力は長い歴史の中で争い続け、今もその拮抗は続いている。

 

しかし、善忍と悪忍が共に共通する敵が存在する。

「妖魔」_____

古より在りし異形の存在。彼のものらは人の悪意、怨念、憎悪から生まれては自らを生んだ人そのものを喰らうまさに化生だ。妖魔を滅する事こそが忍の真の目的と言っても過言ではない。故に彼らは鍛錬と研磨を続け、忍の中でも最上ランクである"カグラ"を目指す。

 

しかし、カグラの力を持ってしても妖魔を倒すことは容易ではない。それだけ妖魔の存在は忍にとって脅威なのだ。

_____なのにこれはなんだ?

一体誰が信じられるだろうか? 忍の頂点と呼ばれるカグラでも手強いと言わしめた妖魔を、

 

たった一人の子供が圧倒しているこの光景を_____

 

見たところ少年は忍術を使っている様には見えない

やっている事と言えば近寄るものを両手に持った双剣で斬り払い、離れた敵を外套から取り出した細い剣を投げ磔にしているだけ。

 

_____ありえない。

内心そう呟くのを禁じえなかった。自分でも妖魔は倒せる

が、この少年の様に迅速的には倒せない。現に視界を埋め尽くす程の数の妖魔が今では数える程度に減っていた。

 

少年がいよいよ最後の一匹に取り掛かろうとしたその時、妖魔は自身の生存本能に従い、逃走を始めた。

 

「拙い!」

妖魔という存在は元々人間から生まれているせいか学習能力が人間のそれに近い。今回の任務とて元は過去に取り逃がした妖魔がしばらくの間に潜伏していたのをようやく見つけたのだ。しかし件の妖魔は前回での戦闘から学んだのかこちらの作戦の裏を突かれてしまった。

 

作戦を入念に見直し、準備も万端にしたにも関わらず敵にそれを逆手に取られて全滅寸前という有様。このまま逃がしてしまったらさらに厄介な相手となって再び現れるだろう。しかし少年は逃げる妖魔に慌てず、左手を前に翳す。

 

不思議な光と共に黒い弓が少年の手から出現し、気づけば反対側の手にはその弓より尚黒く歪な矢が握られていた。

 

「まさか…狙撃するつもりか?」

確かに逃げる相手には追いかけるよりも遠距離攻撃による追撃は有効だ。しかし、この妖魔は群れの中でも一際素早く木々など遮蔽物を利用しながら徐々に距離を離していく。こんな中でしかも弓矢で仕留めるなど不可能だ。万が一当たったとしても致命傷には至らない。

 

だが、殆ど姿が見えなくなった妖魔に少年は微塵も取り乱さない。流れるような動きで矢を弓に番え、軋む音と共に弦を引き絞る。前を見据える視線は鷹のように鋭く、少しも乱れない。まるで結果が既に見えているかの様に…

 

「赤原を往け、赤原猟犬(フルンディング)!」

 

この時初めて少年は声を発した。年相応に幼い声だと言うのに歴戦の猛者の様な威圧感がある。番えた矢は血の様に紅い光を纏い、射手の命令と共に放たれる。しかしやはり立地が悪い。矢が射線上にある木に阻まれるかと思いきやまたあり得ない現象が起きた。

 

_____________矢が木を避けたのだ

 

それも微塵もスピードを落とさず森の中を飛んでいく。

 

「馬鹿な!? あれは本当に矢なのか!!?」

神技級の弓使いでもこんな芸当は出来ない。なのに目の前の彼は息をするかの様にやってのけた。

 

障害物の間を縫うように矢の形をした猟犬はみるみる妖魔との距離を縮めていき…

 

_________憐れな獲物はその顎に喰われた

 

 

私はこの夜の出来事を決して忘れはしないだろう。部隊壊滅の危機に瀕した我々の前に現れた赤い外套の少年の背中は今でもこの目に焼き付いている。遅れて来た救援部隊の到着と同時に少年は姿を消してしまったため名を聞くことはできなかったのが至極残念だ。

 

後に少年を目撃した私と部下たちは彼が何者か調査したが大した情報は得られなかった。ただ絶望的状況から生還した事実と私達という生き証人がいたため少年の噂が瞬く間に広がった。

 

そして数年に渡り、その人物はあちこちで目撃されては人々の危機を救う。姿を現しては名を残さず消える彼をいつしか人々はこう呼んだ…

 

_________朱き英雄と

 




というわけでプロローグでした。書き方やら本サイトの機能やらを手探りでやっているのでいろいろぎこちない箇所があると思います。書きながら徐々に掴んでいこうと思っていますのでどうか長い目で見守っていてください。
次回は士郎の視点です。ではではm(_ _)m


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新たなる旅立ち

お待たせ致しました、一話の投稿です。序盤から設定を好き勝手したような状態ですが(;´Д`A
それではどうぞごゆるりと…


今思えば波乱万丈な人生だった。あの大火災から俺は救い出され、養父(じいさん)の理想を受け継いだ事で俺という存在が始まった。

 

焼却された未来を取り戻すためにあらゆる世界を、あらゆる時代を、そしてあらゆる国を渡り歩いた。険しい旅ではあったけれど、それ以上に思い出に溢れた旅路だった。特異点先で新しい英霊(なかま)と出会えた、カルデアの職員が諦めずに支えてくれた、二度と会えないと思っていた人達と共に戦えた、………俺を守ると誓った盾の少女は俺を信じて側にいてくれた。

 

激しい戦いの末に人理を無事修復したことで人類は救われ、その後のカルデアは正にお祭り騒ぎだった。そこは人間だけでなく、古今東西の英雄や偉人たちの入り混じった宴会。その有様は正しく混沌(カオス)と言えるだろう。

 

……具体的には騎士王'sと聖処女が暴飲暴食の限りを尽くしたり、酒豪組英霊たちが酒を文字通り浴びる様に呑んだり、その弊害で酔っ払った女性陣が絡んできたり(母性サーヴァントたちの甘やかし上戸が一番きつかった…)、宴会の最中に吐血した天才剣士を介抱したりととにかく大忙しである。

 

そんな調子で一晩が過ぎ、翌日食堂に皆を集めてある事を発表した。遠坂にカルデアを紹介してくれる前からもそうだったが今回の騒動解決を機に再び旅に出る旨を伝えたのだ。……まさか口にした瞬間、食堂が地獄と化すとはおもわなかったが。女性陣の大半には大反対された、それはもう猛烈に反対された。それだけならまだ良かった……だけど旅に出れないよう妨害工作(物理含む)まですることないだろう!? 殺す気か!? 殺す気なのか!!? いやおそらく指一本動かせない程度にまで痛めつけるつもりだったのだろう(死すら生ぬるい)。

…ジャックやナーサリーに涙目で「…行っちゃうの?」と言われた時はどれだけ心が痛んだことか(遠い目)。

 

けれども一番こたえたのはマシュと立花だった。マシュは旅の反対もしたが、どうしても行くなら自分も連れて行って欲しいとまで懇願した。マスターとサーヴァントの繋がりで俺の過去を知ったマシュは俺の在り方の危うさを危惧した。マシュが説得してくるなか、立花は心配そうにしていながらも反対の意を示さなかった。

 

自惚れでなければ本当は内心反対なのだろう。だけど同時に俺が意思を変えることはないと諦めたのだろう。数日に渡る話し合いの末に漸くマシュは折れてくれた…いや、渋々認めたと言った方が正確か。代わりに絶対に無事帰ってくると約束を交わした。そして二人との約束を果たす決意を示すためにマシュと立花に干将・莫耶を模したネックレスを贈った。

 

立花には鮮やかな琥珀を埋め込んだ白の莫耶を。マシュには透き通る様なアメジストが埋め込まれた黒の干将を。そして宝石を埋め込んでいないが干将・莫耶両方が太極図を描く様に合わさったものを自分用に作った。________

必ず二人にまた会えるようにという願いを込めて。

 

 

「そう…約束したのにな。」

 

ふと目を開ければそこには数分前から変わらない光景が映った。薄暗い地通路に喉に短剣が刺さった男の死体、…そして銃痕から夥しい量の血を流す自分の身体。旅先で子供の行方不明者が相次いでいるという情報を聞き調査した結果、街に潜伏している魔術師がその誘拐犯であることが判明した。

 

どうやらこの魔術師の家系は十数年前までは協会からも一目置かれていたが代を重ねるごとに魔術回路が衰退して完全に没落。再び協会に返り咲くために子供を攫っては研究のために人体実験を繰り返していたのだ。

無論、その様な外道を看過できるはずもなく、救出に繰り出した。しかし相手は腐っても魔術師、男の用意周到さは尋常ではなく、慎重を通り越して臆病なのではと勘ぐるほどだ。魔術による迎撃結界、物理的なブービートラップ、果ては両方を合わせた混合魔術式まである始末だ。

 

魔術師を倒し、子供達を監禁部屋から逃していたところを魔術師は意識を取り戻してあろうことか隠し持っていた銃で子供を殺そうとしたのだ。もはやこの男は魔術師としての最後の矜持すら捨てたか…。

 

瞬間的に身体強化を施して子供を守ることはできたが、その代償として放たれた弾丸は俺の肺に命中した。

 

「っ!ガハッ…、はぁ…。」

吐血、先の罠迎撃時もいくつか重症を負ったところをコレがトドメになった様だ。銃弾から逃れた子供は泣きながら俺の心配をしたが今は早く助けを呼んだ方がいいと諭した。……自分は大丈夫だからと嘘をついて。

 

「あの子には、悪いことした…っ、な」

 

大丈夫なわけがない、最後の一撃も含めて致命傷をかなり受けている。良心が苛まれるがああでも言わないとあの子はここに残り続けていただろう。人の心配を無碍にしたくはない、けど……

 

「…本当のことも言いたくないな」

 

そんな呑気なセリフを呟きながら自分の終わりの瞬間を待つ……。ふと視界の端に妙な明かりを捉える。この地下を灯す明かりにしてはおかしいと思いながら上を見上げてみると…

 

「……ははっ、…なるほど、これがお迎えか」

 

そこには円環状の青い光が佇んでいた。…俺はコレを知っている、覚えている。コレはかつてアーチャーの記憶を介して見た……。

__________________世界の末端。

 

アーチャーはこの光を前にして世界と契約した。守護者として招かれたアーチャーは世界の都合で呼び出されては殺害による救いをもたらし続けた。

 

そして今度は俺の番の様だ。光から帯が伸びてくる…、返事を待たずに連れて行くつもりだろうか。

 

「やれやれ、…せっかちなことだな……」

 

光に身を任せて瞼を閉じようとしたその時……。

 

「うーん、このまま連れて行かせるわけにはいかないな」

 

聞こえてきたのは涼やかでどこか胡散臭そうな声。あり得ない、彼がここにいるはずがない。…いや、そう言えばこいつにとって場所など意味がなかったな。

 

「さて、あまり時間がないから手短に説明しよう」

 

気づけば仄暗い地下室は花々が咲き乱れる草原に変わっていた…なるほど、自分の空間を展開することで一時的に俺と世界の接触を中断したか。

 

「まずはあの光だけど、君が知っている通り座の末端だ。ただ違う点があるとすれば君を守護者ではなく、正規の英霊として招こうとしている」

 

なに?……、そんなバカな話があるか。

 

「言いたい事は分かるけど、僕からしてみれば何もおかしいことじゃないよ」

 

苦笑いを零しながら男は続ける。

 

「人の身でありながらも焼却された人類を救ったんだ。

これで偉業じゃなかったら大半の英雄は歴史に名を

残していないよ」

 

なるほど、客観的にみれば確かにそれは偉業になり得る。

しかし、それにあたってもう一つ問題があるはずだ。

 

「偉業をなしたとしても……信仰がなければ意味がない…っ、だろう」

 

傷の痛みに耐えながらも問題を指摘する。そう、偉業を成しても英雄として語り継がれなければならない。俺の場合は人理を修復したことは世界に置いて誰も知らない。

 

「それなら問題ないよ。キミに関する伝承ならカルデアの職員たちがなんとかしてくれるそうだから」

 

……はい?

 

「いやぁ、現代って便利だね! 人伝でなくても技術を介して情報を広められるんだから」

 

ダメだ…もはや話に頭が追いつかない。

 

「さて、今回ここに来たのは君を別の世界へ逃すためだ。魔術協会とやらが本格的にキミを捕縛することが決定してしまってね」

 

…だろうな。隠蔽こそしたもののやはり完全に隠しながら魔術を行使など不可能。遅かれ早かれこうなる運命にあったのだろう。

 

「それとキミを世界の拘束から一時逃れるためにある男がキミの代理として座に赴くことになった。既に"至って"しまっているからね、一度契約を交わした者を世界が見逃すわけがない」

 

男が杖を翳して魔方陣を描いていく。…代わりに? まさかと思うが…。

 

「お察しの通り、エミヤが提案してくれたよ」

 

なるほど、…アーチャーとは聖杯戦争で、そして冠位指定(グランドオーダー)を経て和解した。冬木での戦いで自分殺しに失敗してからは俺の行く末を見届けることにしたらしい。

 

正直、立花がアイツを召喚した時は何とも気まずい空間になったものだ。

 

…む、どうやら魔方陣が完成したようだ。

 

「これでよし、では転移を始めよう。キミが向かう先でも歩みを止めないことを祈っているよ」

 

…言われなくてもそのつもりだ。俺の答はもう見つかったんだ。なら最後の最後まで正義の味方を張り続ける。…皆には心配をかけるだろうけど。

 

「あ、そうそう あとマシュと立花から伝言を預かっているよ」

 

二人から?

 

「"無茶をしすぎないでください"とのことだ」

 

…ははっ、どうせ無茶をしてしまうことはお見通しのようだ。全く…自分のどうしようもなさに笑ってしまう。

 

「あと"約束を破ったからには覚悟していてくださいね"だそうだ」

 

……やっぱり聞くんじゃなかったな。

 

いずれ訪れるであろう恐ろしい未来に戦慄していると視界が白い光に覆われていく。

 

「さあ、旅の続きだよ 衛宮士郎。時期が来ればキミの友たちにまた会えるさ」

 

もう時間か……でも征く前にこれだけは言っておかなきゃな。

 

「ありがとう、マーリン」

 

白いローブの魔法使いは一瞬面食らった顔をするが、それを穏やかな笑みに変えて…

 

「お安い御用だとも」

 

白光は視界一面に広がり、俺の意識が消えた。

 

 

____________________________________

 

 

暗い……、さっきから目を開けようとしているのだが何故か瞼が重い。体は何か暖かいものに包まれているようだが多分毛布か?

 

ということはベッドの上か、もしくは寝転べるソファか…どちらにせよ周りが見えなければ状況の確認もできない。

 

何度目になるか分からない試みに漸く目が開く、

視界の先には……ひどく見覚えのある顔が二つ俺を覗き込んでいた。

 

「いぃぐう?あぁいあん?(切嗣?アイリさん?)」

 

む? 呂律が回らない。体が万全じゃないからか?

 

「あら♪ 今挨拶してくれたのかしら? ええ、おはよう

シロウ」

 

眩しい笑顔を輝かせながらアイリさんは俺に手を伸ばす。

そしてそのままの流れでひょいっと持ち上げた。

 

………大の大人であるはずの俺を。

 

ちょっと待て、仮にもこっちは180cmの成人だぞ!?

アイリさんが強化魔術を使ったとしてもこんな軽々と持ち上げられるはずが、ってか二人とも俺が覚えてるより大きくないか!!?

 

ちょうど向かいに鏡があることに気づき視線を向けると……

 

 

なんとまあ、可愛らしい赤毛のベイビーがいるじゃないですか。

 

 

…………………………………………………。

 

 

「あ、」

 

「シロウ?」

 

「あんぇぁぁぁああああああ!??」

(なんでさぁぁぁぁああああ!??)

 

マーリン……、先ほどは感謝したがこれだけは言わせてくれ。

 

 

これは転移じゃなくて、転生だ!!

 

 

 

__________________________________________________

 

 

 

 

オマケ

 

 

「ど、どうしたんだ? 士郎。そんな大声をあげて」

 

「う〜ん、でも泣いてるわけじゃないみたいだけど」

 

「(え!?何!? 何故!!?どうして!!?)」

 

「もしかしてお腹がすいたのかしら? ちょうどいい時間みたいだし」

 

「確かにそうだね。じゃあ僕は一足先に昼をいただくよ、あとで士郎は僕が見よう」

 

「ええ、行ってらっしゃい キリツグ」

 

「(落ち着け、俺! こうなった原因は分かっている。あの悪趣味魔法使いのせいだ。ってかアイツ以外に理由はない!! )」

 

 

「は〜い シロウ、ごはんよ」

 

「(おのれ花の魔術師! 今度会ったら固有結界の餌食にしてくれようか? いやそれとも"奥の手"をくれてやるか? ってアイリさん? なんで上着に手を掛けてるんですか? そして何故ボタンを外してる!? 待てよ? 今ごはんって言ったか? …まさか!!?)」

 

 

「お腹い〜っぱい飲んでね、シロウ♪」(ぷるん)

 

 

「(ちょっ、待っt…)」

 

 

このあと滅茶苦茶飲まされた。

 

………何をとは言わないが。

 

 

 

 

 

 

 

 




おめでとうございます、アイリスフィールさん! とっても元気な男の子(英雄)ですよ! というわけで第1話でした。
とりあえず今回のはっちゃけ設定は士郎が切嗣の養子ではなく実子という点です。あと最後のオマケですが、士郎は母性というものを知らないため今回は思う存分堪能してもらいました。良かったね、士郎!(この後無数の剣が突き刺さった死体が出来上がる)


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ようこそ、半蔵学園へ!

皆さまご無沙汰です、健氏郎です。ちょくちょく書きつつやっと投稿できました。今回は本作品のヒロインが一人の登場です! ではどうぞご覧あれm(_ _)m


前を見据える。眼前に佇むはかの剣豪の名を借りる群青の侍。対する俺は何合もの打ち合いで既に疲労困憊。

しかし、相手は待ってはくれない。

 

…侍が駆けだす、いや一足跳びで接近した。

袈裟斬り、左薙ぎ、右斬り上げ。

繰り出す剣撃は流れるように自然でありながら閃光の煌めきのように鋭く速い。

 

襲い掛かる剣閃を手に持つ双剣で迎え討つ。

…一合目、上体をずらしながら右の剣で受け流す。

 

……二合目、下から振り上げた左剣で軌道を逸らす。

今の一撃で手元がブレ始める。

 

………三合目、振り上げられる刃を咄嗟に両の剣で受け止める。これで完全にタイミングがズレてしまった。

 

 

双剣が弾かれ、こちらは無防備。侍は既に次の攻撃に移っている。この状況の打破を模索するため思考を高速化する。

 

新たなる剣の投影による防御……不可、まず間に合わない。剣が形を成す前に刀はこの身に到達するだろう。

 

瞬間強化による回避………不可、先の一撃で体のバランスが崩れてしまっている。まともな回避はできない。

 

……詰み、か

唐竹割りが吸い込まれるように叩き込まれ、絶命。

 

 

「フゥゥゥ………」

 

黙想して深呼吸、そして開目。

目の前にはいつもと変わらない道場。陽はすっかり登っており暖かな朝日が差し込んでいる。

 

「もうこんな時間か、少しのめり込み過ぎたな」

 

今回の仮想敵に小次郎を設定してみたが、生きた心地がしないな。本人は自分の剣は邪道と謙遜していたがとんでもない。あのアルトリアさえが認める洗練された剣だ。一瞬でも気を抜こうものなら首と胴体が泣き別れになるだろう。

 

「さて、そろそろ飯の準備をしないとな」

 

朝の鍛錬を完了して朝食の準備をするべく汗を流しに行く。まだ寝てるだろうから起こしてやらなきゃな。

 

 

 

 

 

料理の方がひと段落してある部屋へ向かっていく。切嗣(オヤジ)とアイリさん(母さん)は魔術師としての仕事があるため、よく出張している。なので家を空けることが多く、その間は俺一人で家を切り盛りしている。

 

まだ小さかった頃は二人とも家にいる時は多かったが俺ももう高校生だ、今や二ヶ月おきに一度は帰ってきたりする。と言っても二人とも"もう一人の家族"の顔が見たいから実際もっと繁盛に帰ってきたりするが…。

 

物思いに耽っているうちに着いたか。

 

 

「おーい、朝だぞ〜」

 

襖をボンボンとノックしながら声をかけるが返事はない。相変わらずの寝坊助ぶりだ。

 

「入るぞ〜」

 

襖を開けながら部屋の主に目を向ける。布団から覗く銀髪は朝日を受けて綺麗な雪景色を彷彿とさせる。っとと、見惚れてる場合じゃないな。

 

 

「起きろ、イリヤ。もう朝飯の準備ができてるぞ」

 

未だ布団にくるまってるイリヤを揺する。まさか平行世界を渡ってイリヤと同じ家の下で生まれるとは夢にも思わなかったな。それも冬木で出会ったイリヤではなく、どちらかと言えばカルデアで召喚された別世界のイリヤに近い。

 

 

「いつまで寝てるんだ、ほら さっさと起きる」

 

「……う〜ん」

 

ぐずりながらもゆっくり起きる我が妹。上体を起こして、若干接点の合ってない目で俺を見つけるとほにゃっとして笑顔を浮かべる。

 

「…おふぁよう、お兄ちゃん」

 

「ああ、おはようイリヤ。飯の準備はもうできてるから顔洗って着替えて来い」

 

目的を果たしたので戻って料理を食卓に並べようかと立ち上がる。しかしふと見下ろすとイリヤは動かずこちらを見上げている、というか手を伸ばして何かを待っている。

 

「お兄ちゃん〜、抱っこ〜…」

 

「またか? やれやれ…洗面所までだぞ」

 

「えへへ〜、やった〜…」

 

小学校に入ったばかりの時まではよくせがまれたものだがそれ以降からは段々と恥ずかしいと思うようになったのかその頻度は減った。ただたまに寝ぼけて甘えてくる時もあるが…。

 

 

 

 

歩くこと数分、洗面所まであと少しというところでようやくイリヤの目が覚める。自分がどんな状態か把握して顔がゆでダコも真っ青なほど赤く染まった。

 

「お、おおおぉ、お兄ぢゃん!!!??」

 

「ん? やっと目が覚めたか?」

 

「ゔぁ、私なんでお姫様だっこ!!?」

 

目をぐるぐるさせながら慌てるイリヤ。これもいつものことで運んでる途中で覚醒してはパニックに陥る。

 

「さて、聞く必要はあるか分からないけど。あとは自分で行けるな?」

 

「う、ぅん…アリガトウ、お兄ちゃん…」

 

頭から煙を上げながら洗面所の扉へと向かう。成長したとは言え、根はまだまだ甘えん坊なイリヤ。いずれこういう出来事もなくなっていくかと思うと成長を喜ぶ反面、少し寂しく思ってしまうのは兄バカな証拠だろうか?

 

 

 

 

「戸締りはこれで良し、忘れ物はないか?」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

朝食後の片付けも済まし、いざ登校。国立半蔵学園、俺がこの世界で通う高校の名だ。現在住んでる冬木市は俺が覚えている地とほとんど似ている。違う点があるとすればこの高校や都心の立地だろうか。ちなみにイリヤは俺が通う高校より少し手前にある稲穂群小学校に通っている。

 

当初は別の学校に入学しようかと思ったが、雷画じいさんの紹介で知り合った人の勧めでこの半蔵学園に受験した。まさか二度も高校に通うことになるなんてな。

 

そうそう、ここに生まれてからもう一つ変わったことがあった。初めて同い年の幼馴染ができたのだ。と言っても雷画じいさんの友人のお孫さんで現在同じ高校に通う2年生。

じいさんの友人に紹介される当日に知り合ってからイリヤも交えてよく一緒に遊んでいた。

 

「士郎くーん! イリヤちゃーん!!」

 

と、噂をすれば影だ。件の幼馴染は手を振りながらこちらへ駆け寄ってくる。

 

服部飛鳥、雷画じいさんの親友である半蔵さんの孫娘。艶がかった黒髪をポニーテールにしている活発な印象の女の子。トレードマークの赤いスカーフを首に巻いて今日も元気に挨拶する。

 

「おはよう! 二人とも」

 

「ああ おはよう飛鳥」

 

「おはよう、飛鳥お姉ちゃん」

 

 

お互いに家が近いこともあり、よくこうして一緒に登校している。

 

「今日はいつもより遅かったけど何かあったの?」

 

「ああ、まあイリヤが寝坊してしまってな」

 

「うぅ、ごめんなさい…」

 

別に悪いことじゃないがいつもは飛鳥の家で合流して登校しているためイリヤがバツの悪い顔をする。

 

「気にしなくてもいいよ。でも早起きは健康への第一歩なんだからもうちょっと頑張ろう?」

 

「頑張ってるんだけど、やっぱり布団の誘惑に勝てないというか…」

 

 

世間話を続けてるうちにイリヤが通う小学校へ見送り、俺たちも半蔵学園に着く。途中で知り合いや教師に挨拶を述べて教室の扉を開ける。

 

 

「おはよう衛宮」

 

「おはよーあっちゃん!エミやん!!」

 

「今日も一緒に登校? 相変わらず仲良いわね〜」

 

 

クラスメイトの茶々を流しつつ挨拶を交わす。といきなり首に腕を回される。

 

「おいおい、衛宮〜。また嫁さんと登校か〜? 」

 

絡んでくるこの男子の名は小山 武(こやま たける)、男友達としては気さくで話しやすいヤツだが、オープンスケベで男女関係に少しがっつき気味なところが女子に少々不人気な男である。

 

「嫁って、飛鳥とは幼馴染だけどそんな関係じゃないぞ? そもそも付き合ってないし」

 

「普段のイチャつきぶりから十分そう見えるわ! いいか!?自覚してねえみたいだから言わしてもらうけどな。巨乳の幼馴染、将来性抜群の妹、外国人系美人のお母さん、さらにはそれに付き従う真面目系と無表情系のメイドさん! これだけの美女、美少女に囲まれておきながら自分がどれだけ恵まれた環境に置かれてるか分からんのか!?」

 

 

お前は一度しか顔を見たことないウチの母親までそういう目で見てたのか? あと巨乳うんぬんのところから周りの女子が冷たい目で見てるが大丈夫か?

 

「許すまじ! 断じて許すまじ!! リア充死すべし!! スケコマシ滅ぶべし!!! 羨ましすぎるわ俺と代われこんチクショオオオオオ!!!!」

 

 

あー、最後のあたりで本音が出てるぞ。仮に代われたとしてもお前にイリヤを任せるのは不安すぎるから却下だ。

 

「お前な、美人に囲まれてたとしても異性としての好意がなければただの友人だろ?」

 

大体本人のいる前でそんな話されてもいい気分じゃないだろうに…。

 

「あれを見ても同じ事が言えるか?」

 

小山が指差す先に目を向けるとクラスメイトとコソコソ話し合う飛鳥の姿が。

 

 

「飛鳥飛鳥、エミやんとは何か進展あったの?」

 

「し、進展って 特に…なにもないけど」

 

「…はぁ〜、あんたねぇ たかが一年されど一年よ? もう高校生活の半分にまで迫ってきてるんだからもっとアピールしないと」

 

「そ、それなりには頑張ってるよ! ただ…士郎くん鈍感だから…」

 

「まぁ、エミやんが鈍感なのは周知の事実だけど。それを踏まえてアプローチするんでしょうが!あんたにはそれだけ立派なモノがあるんだから有効活用しなさい」

 

「それは恥ずかしすぎるよ〜!」

 

 

うん? それなりに耳はいい方なんだがどうにも二人が小声すぎてうまく聞き取れない。

 

 

「…二人がどうかしたのか?」

 

「難聴スキルだと!? くっ、ダメだ コイツはもう末期だ…!」

 

 

なんだかものすごく失礼なことを言われた気がするのは俺だけか? …ってクラスの男子も頷いてる…なんでさ。

 

 

「もはや一刻の猶予もない、このままお前を野放しにすれば全国の男子の春が遠のく一方だ! 覚悟しろや、チリ一つ残さずこの世から排除したらぁぁぁぁあ!!」

 

 

 

_____しばらくお待ち下さい_____

 

 

 

 

 

「ホームルームを始めるぞ、先に着け〜。ん? 」

 

 

小山 「(死〜ん)」

 

「…また小山が弾けたのか?」

 

「ええまぁ、いきなり飛び掛かってきたもので」

 

「…そうか、どれくらいで起きる?」

 

「そんなに強く打ってないので一限までには意識が戻るかと」

 

「なるほど、じゃあこのまま続けるぞ」

 

 

担任教師の催促でホームルームが始まる。もちろん小山をそのままで…、ってかクラスの男子数名は小山に同意してたのに手伝わないのか…。

 

男の友情とはかくも脆いものだな。

 

 

 

 

 

 

飛鳥side

 

 

「であるからして_____」

 

淡々と進められる授業のなか、イマイチ内容が頭に入らずぼーっとしている。思い返すのは今朝クラスメイトと話し合っていたことです。

 

……わたしには好きな人がいます。その人はじっちゃんのお友達の孫(血は繋がってないけど)で小さい頃からずっと一緒でした。初めてあった時は同じ子供とは思えないくらい礼儀正しくて落ち着いてる印象があったけど、一緒に遊ぶうちにその人のいろんな事を知りました。その人は優しくて、気配りもできて、お料理も上手で……あと、その…カッ…ぃぃ。

 

で、でも!その人は鈍感です。すごく鈍感です! とっっってもニブチンなんです!!前にそれとなく…告白みたいな事を言ったけど、お友達としてって誤解されちゃいました…。

 

それはそれで嬉しいけど、わたしが期待してた反応とあまりにも違いすぎて落ち込んじゃいました。

 

でも、もしあの人と一緒になるならわたしの秘密をどうするか決めなくちゃいけない。

 

あの人に……士郎くんにわたしが忍だって話すべきかな? でも、もし話す事で今までの関係が崩れてしまったら…。士郎くんはそんな事気にしないかもしれないけど、万が一を考えてしまうとどうしても良くない方向に思考してしまう。

 

それに…もしそれが原因で士郎くんが危ない目にあったら、わたしは……。

 

「__り、おーい、服部!」

 

「っ! は、はい!」

 

「お前がぼーっとしてるとは珍しいな、ん?」

 

「す、すみません…」

 

「まあいい、眠気覚ましだ。この問題を解いてみろ」

 

 

先生に差されて黒板へと歩く。う〜、今日はなんだか嫌なことばかり頭に浮かぶなぁ。

 

変わってしまうのは怖いけれど、このままでいても何も進まない。…もし士郎くんがわたしの秘密を受け入れてくれるなら、………それを叶えるためにもう少しだけ、勇気が欲しいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ヒロイン登場編でした。後書きをお借りして士郎が置かれた環境を簡単に説明させていただきますね。まず士郎は現在、原作の武家屋敷に住んでいてそこにはイリヤもいます。セラとリズに関しては今回切嗣たちに同行しているため居ません(主な原因は出張先でアイリさんに料理させないため)。あと今回で登場したオリキャラ、小山君です! 彼は原作の一成や慎二とはまた違った悪友を書きたくて作り上げました。さて、次回は忍学生たちの授業編でございます! その時までまた。

おや? お疲れ様です、アイリさん。え? 差し入れ? これはお忙しい中ありがとうございます! ちなみに中身は? …ほうほう、クッキーですか。痛み入ります、ではいただきます!!(のちに大量に吐血して倒れ伏した氏の姿が発見される)


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もう一つ上の段階へ

皆さん、一週間ぶりです。今回は忍学生たちの修行模様をお送り致します。戦闘描写を書くのは何分初めてなのでうまく表現できてるか分かりません(;´Д`A それではどうぞ……


ここは冬木市に建つ高校、国立半蔵学園。国会の支援を受けて、伝説の忍びである服部半蔵の名を付けられた学園。その高校の生徒数は総勢1000人を超え、世間にも大きく知られているマンモス進学校だ。

 

しかしそれは"表向きは"である。半蔵学園の実態、それは今も影に潜む忍の育成。冬木市には数こそ減りはしたが昔から代々忍の血を受け継ぐ家系が存在する。その系列に連なる学生を鍛え上げ、世を守る"善忍"として送り出すのがこの学園の使命だ。

 

 

半蔵学園隠し部屋にて___

 

 

「さて、今回は秘伝忍法について話そう」

 

隠し部屋の一角で弁を振るう男の名は霧夜。普段は学園で数学を教えているが裏ではこうして忍学生の担当顧問もしている。

 

「秘伝忍法とは各々の忍が扱う忍術の奥義。その威力の強力さ故に戦況を覆せる奥の手だ」

 

手に巻物を携えながら霧夜は語る。手の中の巻物は忍にとって必須の代物であり、その巻物により転身することで忍の真価を発揮できる。先ほど説明している秘伝忍法も転身することで初めて使えるのだ。

 

「そして秘伝忍法にはそれぞれ型が存在する。飛鳥の場合は蝦蟇、斑鳩は火の鳥、葛城は龍、柳生は烏賊、そして雲雀は兎という風にな。…まあ、若干一名は諸々の事情で使えないが」

 

「う〜っ…」

 

暗に飛鳥の事を指摘する霧夜。飛鳥の家系は代々土遁術を得意とする忍であり、その中でも蝦蟇を使役する術を極みとしている。しかし当の飛鳥は子供の頃からカエルが苦手で召喚しようものならその場で卒倒してしまうのだ。

 

……昔その関連で咄嗟に飛鳥が士郎に抱きつきトラブってしまったことはまた別の話である。

 

それはさておき………

 

「響きだけは便利に聞こえるがどんなものでも欠点は存在する、秘伝忍法とて例外ではない。口で説明するのは簡単だが今日は実際に体感してもらう」

 

_________

 

_学園屋上_

 

「では本日の修行を始める。お前たち5人にはそれぞれ木人形100体と組手してもらう。授業で話していた内容を頭に留めて臨め」

 

「「「「「はいっ」」」」」

 

 

 

斑鳩side

 

指定された位置に移動して左手にある我が家の宝刀、飛燕を握りしめる。さほど待つ間も無く周囲に複数の煙幕が上がる。

 

「来ましたね」

 

煙の中から現れたのは丸太で組み上げられた等身大の人形。腕の先には拳大の鉄球がついており大の大人並みの打撃力を有している。

 

見た目こそは簡素だがその中身は恐ろしいほどに精巧な構造になっているため人間と全く同じ動きを再現できるほどの代物。

 

「見慣れたものとはいえ、油断をすれば私でもただでは済みませんね」

 

静かに飛燕の柄に右手を添える。意識を切り替えて眼前の敵に注視する。

 

「斑鳩、舞い忍びます!」

 

言霊と共に襲い掛かる木人形の群れ。その様はまるで迫り来る壁…いや、津波の如く。恐れることは何もない、焦ることも何もない。躱すための隙間がないのなら………

 

「斬り開くのみです!」

 

木々の津波の一点へ目掛けて駆ける。そのスピードは正しく疾風。あと少しで人形の壁に接触しようとした瞬間…

 

…刀の鯉口を切る音が鳴り響いた。

 

突撃した箇所を中心に剣をふるい、"抜け道"を確保したのだ。その証拠に突貫した場所にいた木人形たちはバラバラに斬り裂かれている。

 

障害を駆け抜けた拍子に宙を舞いながら巻物を取り出す。そしてそれを投げ放ち、己が忍としての姿を体現するべくキーワードを紡ぐ。

 

「忍…転身!!」

 

巻物は光へと姿を変え、帯を伸ばして体を包む。

 

………毎度ながら思うのですが、なぜ私たちは転身する時に一々裸になるのでしょう?

 

いえ、確かにその…ぼ、房中術などと言った自らの肢体を駆使して異性を籠絡する技術を磨くのもくノ一の本分であるのは分かっているのですが。何も戦闘中にまでそれをやる必要はないような…。

 

それに転身している時は数秒も間があるように感じるのに周りから見るとほんの一瞬でしかないなんて一体どういう仕組みなのでしょう?

 

と、考え事をしているうちに転身を終えて降り立つ。

 

「行きます!」

 

裂帛の気合いと共に駆け出す。様々な武装を携えた人形達は進路を阻まんと立ち塞がる。木刀、棍、刃の潰れたクナイ、それぞれの特性を活かして行動する。

 

正面の木偶が上段から木刀を振り下ろす。人形達が扱う木刀には鉄の芯が仕込まれており簡単には斬れない作りなっている。しかもその重みゆえに通常の木刀より威力がある。

 

もっとも……

 

「(簡単に当たるほど私も甘くはありませんが…)」

 

すれ違いざまに木刀を回避して背後へと回り込む。そして人形に向かって振り向きながら一閃を放つ。木偶は逆袈裟に斬り裂かれて沈黙。

 

と、左へと半身をずらして飛燕を構える。後方からの棍の一撃を捌いてそのまま攻撃へと転じる。忍にとって乱戦、集団戦は日常茶飯事。死角、特に背後からの奇襲などは常に想定されるもの。

 

雪崩れるように襲いくる木人形。息をつかせる間も無く四方八方から攻める。しかしそれも予測済み。彼らはもうこちらの間合いに入っている。

 

鞘に納めておいた飛燕を回転しながら抜刀する。自らを囲んだ人形たちは真っ二つになり、その残骸を晒す。

 

飛燕は長さ三尺余りを誇る長刀。故にその間合いは通常の刀より広く、応用できればこのような包囲戦法にも対処できる。

 

斬り捨てられた木偶たちが無様に転がる。しかしそのうちの2体が再び起き上がる。見てみるとその2体は傷こそはついてはいるものの完全に倒すには至ってない。

 

おそらく先ほどの一撃のタイミングが早過ぎたのだ。もう少しだけ辛抱していれば残りの人形をも撃破できていただろう。結果、刃は胴の表面を斬りつけるだけに留まり余波に吹き飛ばされただけ。

 

「…私もまだまだですね」

 

おそらく自分は苦虫を噛み潰したかのような顔をしている事だろう。しかし己の未熟を自覚出来ている内はまだ救いがある、それでこそ人は精進できるのだから。自らの未熟を理解できずに進み続けるほど愚かなことはない。

 

気を取り直して飛燕を再び鞘に納める。反省はあとにしよう、今はただ……

 

「行きます!!」

 

…残敵を駆逐するのみ!

 

 

斑鳩side out

 

 

______少女無双中______

 

 

「…そろそろ潮時ですね」

 

組手ノルマの半分に差し掛かろうかというタイミングで斑鳩は呟く。接敵していた人形を蹴り飛ばして間合いを離す。吹き飛ばされた人形は射線上にいた木偶をも巻き込んで倒れこむ。

 

(よし、これなら…)

 

構えながら腰を落とす。斑鳩が得意とするスタイルは速さと瞬発力を重視した抜刀術。本来なら瞬時に鞘から抜き放つなど不可能な長刀を用いることで多対一での戦闘をより効率化したもの。

 

「秘伝忍法……」

 

是より放つは彼女が操る抜刀術の奥義が一つ。繰り出される刃の檻を以って瞬斬せんと鯉口を切る。

 

「飛燕鳳閃…っ!」

 

その時、斑鳩は感じ取った……いや、"辛うじて感じ取れた"。自らに迫る何かの微かな気配に戦慄し、本能に従って後ろへと刀を振り払う。

 

金属特有の甲高い激突音はしない。代わりに木製の何かがカランっと落ちる乾いた音が響いた。音の発生源へ視線を落とすとそこには……

 

「…矢?」

 

そう、矢があった。訓練用のものであるため先端に革布が巻いてあるがこれが本物であったなら無事では済まないだろう。

 

矢の射線方向を見ると一段高い位置に人形が弓をかまえているのを捉える。どうやらあの木偶はあそこで息を潜めて機を待っていたようだ。

 

しかし、本当に驚くべきはそこではない。

 

「(完全に……虚を突かれた!)」

 

秘伝忍法とはいわば大技。そしてあらゆる武術に通ずるように大技には大なり小なり"隙"があるもの。その隙を狙われたのだ。

 

だが、それとてあくまで技を"放った後"の話。件の矢は斑鳩が秘伝忍法を発動する直前に飛んできたのだ。

 

確かに技を放つ前にも隙はあるだろう、けれどもそれは発動後に比べればあまりにも刹那の間だ。達人レベル程となるとコンマ数ナノ秒の世界なのだ。

 

普通なら狙おうと思っても出来ない、なのに人形はその刹那を正確に突いた。

 

「(ならば、…)」

 

目標を狙撃手に変えて接近する。しかしここでまたしても予想外の事態が起こる。

 

「…っ!? 退きなさい!」

 

駆け出そうというタイミングで阻まれた。立ち塞がるのは棍で武装した4体の木人形。障害を斬り払おうと飛燕を振るうが絡め取るように捌かれ狙いが逸れる。

 

攻撃直後の隙ができた左側を突かれるがそれを辛うじて鞘で防ぐ。そこからは劣勢の一途だった。

 

4本の棍が織り成す連携に剣を阻まれ、突破しようと踏み出せば矢が飛んで来る。攻めきれずにひたすら足止めをくらい続ける斑鳩。

 

「いつもより統率が取れすぎている…?」

 

木人形たちは前までこれほど見事な連携を見せたことはない。以前の修行では動きが単調でどちらかと言えばひたすら数で押す戦法しか取らなかったのだ。それが今では阿吽の呼吸と言えるくらいのコンビネーションをこなしている。

 

「これが霧夜先生の言っていた欠点…ということでしょうか?」

 

いつまでも驚いてはいられないと構え直す。たとえ一分の隙がない連携でも必ず突破口があるはず。ならばそれを見つけるまで粘るしかない。

 

「まだまだこれからです!」

 

 

_____________________

 

 

 

「…よし、飛鳥で最後だな」

 

最後の一体を倒した飛鳥を確認した霧夜は改めて5人の顔を見渡す。組手の結果だけを見れば全員無事完了したと言えるだろう。…しかし5人の顔にはいつもより疲労の色が濃く見える。

 

「どうだ? 今回の組手で何か感じたことはあるか?」

 

問いかける霧夜に真っ先に斑鳩が答える。

 

「正直…とてもやりにくかったです。出鼻を挫かれてはペースが乱れるの連続で」

 

「斑鳩もか? アタイも同じく、だな。"まさかここで!?"っつータイミングばかり狙ってきて調子狂わされたな〜」

 

後ろ頭をかきながら悔しそうに言う葛城。どうやら二人とも今回の修行結果が芳しくないと感じ入っているようだ。そして残りの3人も同感だとばかりに頷いている。

 

「しかし、秘伝忍法の後を突かれるかと思えば…まさか直前とは…まんまと嵌められたな」

 

表面上クールに呟く柳生、しかしその目には一杯食わされた感が滲み出ている。……もっともそんな些細な表情の変化に気づけるのはよく一緒にいる雲雀くらいだが。

 

「まあ、そうする様に"調整してもらった"からな。無理もない」

 

「あれ? このお人形さんたちは霧夜先生のお手製じゃないの?」

 

そう問いかけるのはメンバーの中でも一番幼い雰囲気を持つ少女、雲雀だ。つぶらな目を霧夜に向けながら首を傾げる。

 

「いや、人形自体は学園が用意したものだが…今回の課題のためにある"専門家"に依頼した」

 

「専門家?」

 

「ああ、本人は単に機戒いじりが好きなだけと言っているが実際は修理も改造もお手の物だ」

 

それが本当ならとんでもない話である。学園が提供している人形たちは腕のいい職人が組み立ててくれたものだ。それをあそこまで動きを昇華できるのだから。

 

「(じっちゃんの知り合いだったりするのかな?)」

 

思案する飛鳥。祖父である半蔵は忍の関係者とは広い交友を持っている。相当な腕利きとなると知っているかもしれない。

 

……知り合いどころか、かなり身近な人だったりするが。

 

 

「なるほど、さぞ名のある技師の方なのでしょうね」

 

納得いった顔で素直な賞賛を送る斑鳩。しかしそれを聞いた霧夜は思わず苦笑いを零す。

 

「霧夜先生?」

 

そんな様子の霧夜に斑鳩を含めた5人は訝しげな顔をする。

 

「いや、何でもない。今日の修行はここまでとする、あとは各自自由だ。では解散」

 

霧夜の一声に少女たちは校内へと戻っていく。全員が屋上から居なくなったことを確認すると突然背後へ声を掛ける。

 

「…"名のある技師"だそうだ」

 

振り向く視線の先には何もない。しかし、誰も居ないはずの空間から突如人影が姿を現わす。

 

「あの子たちにそこまで言わせるとは大したものじゃないか、"士郎"」

 

布らしきものを自ら取り払いながら現れた士郎は些か複雑そうな顔を見せながら答える。

 

「技師って…そんな大層なものじゃないですよ、霧夜先生」

 

「相変わらずの謙遜ぶりだな…それより悪かったなこんな事頼んでしまって。他のものにも頼もうとしたが誰も捕まらなくてな」

 

そう、今回の修行で用いられた木人形。その調整を依頼されたのは他でもない士郎である。

 

「いえ、これくらいなら大丈夫です。調整の方はあれで良かったですか?」

 

「ああ、ばっちりだ。しかもあれだけ相手の裏をかく戦術を組み上げるとは流石だな」

 

「俺はあくまで霧夜先生が課題とした項目に沿って手を加えただけです。本当にすごいのはそれだけのポテンシャルを秘めた人形を作った本人ですよ」

 

 

過小評価ここに極まれり、である。自身が施した改造の技術をあくまでオマケ程度に捉えて手中の布を霧散させる。

 

「その布も魔術ってやつか?」

 

「そんなところです」

 

他愛のない会話を終了して自分も帰ろうと霧夜に解釈して入り口に向かう士郎。

 

「ああ、それと半蔵様が呼んでいたぞ。帰る前に応接室に向かう様に」

 

「俺をですか?」

 

「そうだ、おそらく"仕事"だろう」

 

仕事というキーワードを合図に士郎は表情を引き締めて頷く。

 

「分かりました、では失礼します」

 

背を向けて再び入り口を目指す。そして屋上には霧夜だけが残された。

 

 

 

 

 

オマケ

 

 

「それにしても恐れ入ったな」

 

士郎の背中を見送った霧夜はそう呟かずにはいられなかった。確かに自分は士郎に修行の課題のために協力を頼んだがまさかここまでのものに仕上げるとは流石に思わなかった。

 

当の本人は"飛鳥たちが強くなれるなら"と快く承諾してくれたのは有り難かった。同時にそれだけ飛鳥が大切なのだろう。

 

つくづく彼が味方で良かったと思う。あの様に相手を封殺する様な戦術を立てれる士郎はそれだけでも厄介だ。そしてそれを士郎本人が実行していたなら……

 

「…実戦であれば何回死んでいたことやら」

 

仮に士郎が敵に回り、先ほどの木偶たちの戦術を使って戦う光景を想像する。正直、ぞっとするばかりだ。

 

「さて、こっちもそろそろ取り掛かるか…」

 

ぼやく霧夜は後片付けをするべく、そこいらに転がっている武器を拾い始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで修行編でした。戦闘シーンを書く時に擬音を書くとどうしても違和感が生じてしまい、結果として全部文章で表現させて頂きました。次回は半蔵様の登場です! 正直これから原作のキャラを絡ませていくと思うとわくわくが止まらないですね〜(´∀`*) それでは皆さん、また会いましょう。

あ、そうそう。実は先ほど士郎が改造したという人形を一体だけ借りました。曰く、今回の修行で使うには危険すぎるためボツにしたとのことです。こういうのって間近で見たくなるんですよね〜。ではぽちっとな。

「起動、武装開始シマス」

お〜、本当に人間の動きと遜色ない! いや〜士郎もいい仕事しますね〜。

「目標、前方ノ外敵排除」

あれ? なんかこっちに刀向けてる? というかあの構え方誰かに似てるなぁ。あ! そうだ確かあれは沖t…


アナウンサー「それでは次のニュースです。今朝〇〇市△町で惨殺された遺体が発見されました。遺体には三箇所の急所に刃物による外傷が見受けられ………」


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表の学生、裏の魔術使い

前話から一週間ぶりです! 今回はこの世界における士郎の日常、その裏側をお送りします。ちなみにサブタイの学生と魔術使いの部分は"かお"とお読みください。ではどうぞ…。


煌びやかな内装のフロアで豪奢なドレスやピシッとスーツを着た男女が世間談義に花を咲かせる。ゆったりとしたリズムのジャズが空間に落ち着いた雰囲気を醸し出し、人々はグラスを片手にその空間を堪能していた。

 

ここは都心に位置する高層ビルの中。今宵は政治家や資産家などといった上流階級の社会人が集うパーティー。故にフロアの一角では政治家たちのコネ作りや腹の探り合いが繰り広げられている。…さて、そんな見た目はキラキラ、中身はドロドロな一室で衛宮士郎は何をしているかというと……

 

 

「失礼致します、こちらお飲物でございます」

 

………給仕に徹していた。

 

何故士郎がこんな事をしているのか? その理由は数時間前に遡る。

 

 

 

半蔵学園、応接室にて___

「失礼します」

 

「おお、よく来てくれた。元気にしていたか? 士郎」

 

室内のデスクでニッカリとした笑顔で士郎を迎える好々爺。何を隠そう、この人物こそ忍界の頂点に立つ者の一人、服部半蔵その人である。

 

通常の者であればかの御人を前に恐れ多いと萎縮してしまうものだが、士郎の場合は少し違う。

 

年長者として、飛鳥の祖父として社交辞令的な礼儀は尽くすがプライベートではかなりフランクに接している。

 

何せ士郎はこのご老公の人となりをよく知っている。大仰に讃えられてる割には昼行灯で、マイペース、そしてかなりのオープンスケベである。飛鳥の太巻き好きもこの老人が仕組んだものじゃないかと疑うほどだ。……下手したら小山よりタチが悪いな…。

 

つまりは肩書きは肩書き、本人の中身とは別物と士郎は考えている。だからこそ半蔵は士郎を気に入っており、信頼もしている。

 

「ええ、体調に問題はありません」

 

「ふむ…士郎や。久しぶりに会えたんじゃからもっと砕けて話してもいいんじゃぞ?」

 

「…誰もいないとはいえここは学園内ですよ」

 

半蔵の提案に拒否の姿勢を見せる。近しい仲とはいえここは学園。公共の場で周りに示しがつかないような行動は控えるべきである。

 

「言いたいことはよーく分かっとる。しかしな士郎、わしとてお前さんを孫の様に思っておる。忙しいなか漸く孫の顔が見れた老いぼれの細やかな願い、聞いてくれんか?」

 

「それに…」と半蔵は続ける。次の瞬間には陽気な笑顔を悪戯小僧特有のしてやったりな顔に変えて…

 

「さっきお前さんも言ったじゃろう? "誰もいない"と」

 

半蔵は忍の長として、士郎は戦場を戦い抜いたものとして気配察知力が非常に高い。よほどの手練れか、よほどの隙を突かれなければ気配を読み違えることはない。つまりここには聞き耳立てている者も覗き見している者もいないのだ。

 

「…はぁ〜、分かったよじいさん。これでいいか?」

 

半蔵の論破に士郎は折れる。これ以上拒否したらダダをこねそうだし…。

 

ちなみに士郎が愛称でじいさんと呼ぶのは前世を除いてこの世で3人。一人は今目の前にいる半蔵、もう一人は何故かこの世界でもご近所の藤村組組長、雷画。最後にもう一人いるのだがこの人の紹介は次の機会にしよう。

 

ちなみに士郎は幼少の頃、半蔵のことを半じいと呼んでいた時期があった。

 

「うむ、それで良い。さて、立ちっぱなしも何じゃ…そこに掛けてくれ。久々に膝を突き合わせて話そうではないか」

 

双方ともにソファに座って長々と近況報告や世間話を始める。そして…

 

「それじゃあ本題だけど、今回の呼び出しは仕事か?」

 

士郎は己が魔術の感覚を取り戻してからは裏の仕事をこなす様になった。勿論、それができる様になる前に切嗣とアイリの説得という難関を超えなければならなかったが…。

 

ともかくその関係で士郎は半蔵、もしくは半蔵と繋がりがある人物から依頼を引き受けているのだ。ただ士郎はあくまで半蔵に雇われている身であって、直属の部下ではない。そして正式な忍として所属していないのだ。

 

「うむ、ワシの知己に政治家がいてのう。其奴は都心のタワービルで開かれる会合パーティーに出席するそうじゃ」

 

先ほどまでのおちゃらけた雰囲気はナリを潜め、真剣な表情で話し始める。

 

「現議員たちの中では若手だが実力もあり、カリスマもある。そんなあやつを気に入らない輩もいてな」

 

なるほど…、俗に言う出る杭は打たれる、か。若いながら遣り手とくれば疎まれるのは道理。何かと黒い世界だからな。

 

「ということは護衛、か?」

 

「そういうことじゃな、件のパーティーに潜入して守り抜いて欲しい。…やってくれるか? "鉄心"」

 

半蔵の口から出る"鉄心"という名前。鉄心とは士郎の仕事におけるコードネームである。裏世界に身を置く以上、本名をさらすのは愚の骨頂。適当な名前を使っているのを知った半蔵が折角だから名付けてやろうとこの名前を授けたのだ。

 

コードネームで呼ばれたことを合図に士郎は双眸を鋭く細め、その裏の顔を覗かせた。その様はさながら獲物を定めた鷹のよう。

 

「…了解した」

 

「うむ……すまんな、お前さんとて学生の身ながら大変じゃろうに」

 

「別にいいって、じいさんには仕事を紹介してもらってるけど引き受けるかどうかは自分の意思で決めてるんだから。本当に無理なら受けないさ」

 

半蔵は士郎と知り合ってから少し経った頃から薄々と彼の危うい本質を感じ取っていた。彼は他者を守ることを是とし、そのためなら自分の身を削る。

 

以前半蔵は飛鳥に力の剣と盾というものを説いたことがある。これは半ば勘だが、おそらく士郎はソレをよく理解している。しかし彼は己を鑑定に入れていない。

 

半蔵が思う盾の強さは誰かを守るのは勿論の事、自分も生きて守り抜くことをも指している。確かに任務において命と引き換えに果たさなければならないものもあるだろう。だが人間はその決断を下す時、表面上は冷静に見えても内心はとても穏やかにはいられないもの。

 

その点において士郎は悪い意味で例外にあたる。士郎は決して"迷う"事なく自分を切り捨てる選択をするだろう。微塵の躊躇もなく、一時の葛藤もなく…機械的なまでに。

 

「ところでじいさん、そのパーティーはいつなんだ? 明日なら今の内に準備したいんだが…」

 

「今夜じゃ」

 

「…………はい?」

 

「だから今夜じゃ。 正確には午後7:30に会場のドアが開いて、8:00にパーティーが始まる…じゃな」

 

…現在の時刻は6:00、まだ一時間半は余裕があるが早めに準備をした方がいいだろう。

 

「今夜とはまた急だな……まあいい。じゃあこの辺でお暇するよ、じいさん」

 

「あ、そう急がんでも大丈夫じゃぞ〜。必要なものなら既に準備できとる」

 

「………………はい?」

 

再び硬直。

 

「ワシの方から切嗣殿に連絡してな。彼の部下が今、お前さんの荷物を持ってこっちに向かっとる。勿論、移動の足も用意してな」

 

用意周到だな……というか手配してあるならもっと早く言ってくれてもいいんじゃないか?と思わずにはいられない。

 

慌てて腰を上げた士郎は再度ソファに掛ける。

 

「さて、彼女がここに着くまで少しだけ時間がある。それまで世間話でもしようかのう」

 

ニヤニヤ顔で言う半蔵に疲れた表情で士郎は諦めたのであった。

 

ちなみに話の内容は今度店の手伝いに来るのか、いつになったら飛鳥を嫁に貰ってくれるのかと言うものだった。

 

 

 

 

 

 

________________________

 

 

時と場所が移る、ここは士郎が潜入した会場から数百メートルほど離れたビルの屋上。ビルの中には既に人気はなく、暗さと静けさだけが包んでいた。

 

……いや、1人だけ居た。屋上の端側に黒づくめの男が腹ばいによこたわっている、………自分の服装と同じ色のスナイパーライフルを構えて。

 

 

「やれやれ、国民の税金がこういう所へ消えていくと思うとやりきれないものを感じるな」

 

呟く男はスコープ越しに標的を確認する。ターゲットである男は30後半でそろそろ40に迫ろうかという年齢。なるほど、かなりいい齢を迎える人間が集まる政財界においては十分若いだろう。

 

依頼とは別に調査した結果、暗殺対象は妻とまだ小学生の娘がいるときた。

 

対する依頼人は政界では名のある大御所。外面は穏やかに気取ってはいるが、その中身はどうなのやら…。

 

何せ依頼人は家族に関する質問を投げかけた時堂々と"そんなものはいない"と言い切ったのだ。濁すことも誤魔化す事なく虚言を吐くとは流石に予想しなかった。

 

「ま、知ったところでなにもかわらないだろうがな」

 

狙撃手である男はこの仕事にあまり乗り気ではなかった。まだ幼い子供のいる親を殺すというのもあるが、それ以上に依頼人が信用できないのだ。

 

報酬は前金を含めて弾み、完遂後に高飛びの手筈を整ってくれるのだが……いかんせんその前金額が気前良すぎる。

 

口封じのために始末されなければいいが……。

 

 

その時は対処すればいいか、と男は思いなおす。

 

 

「それにしても妙だな……」

 

男は前日に知ったが今回の依頼は自分以外にも雇われ人がいたのだ。どうやら自分はその中でも最終手段のようでもし、この時間までに対象が死亡した場合、手出ししなくていいとのこと。

 

そして今がその時間だ。どうやら他の連中は失敗したようだ。

 

「んじゃ、行動開始といこうか」

 

指をトリガーに掛ける。標的は現在、絶好のポイントに立っている。遮蔽物は少なく、周りにそれなりの人数が集まってはいるが頭はしっかり覗いている。

 

……トリガーに掛かった指に少しづつ力を加える。あと数グラムの重みを掛ければ、1人の男がこの世から去る。

 

 

…直前で邪魔が入る。

 

「…ちっ」

 

スコープに映ったのはタキシードを着たウェイターだった。トレーを差し出しながら飲み物を勧めている青年は丁度ターゲットに重なる形で立っている。

 

余計に殺したら面倒だと踏み止まり指の力を緩める。ヤツが離れるまで待とうかと思ったその時…

 

男は見てしまった……こちらに振り向いたウェイターの顔を。

 

 

一瞬心臓が跳ね上がりそうになる。ここは会場から相当な距離がある、おまけに夜闇で姿は紛れている。そんな状況下でこちらが見えているなどあり得ない。しかし不運なことに男は明確に捉えられている証拠を見つけてしまう。

 

ウェイターは男と目を合わせたまま、ゆっくりと口を動かす。

 

 

 

"そ"

 

"こ"

 

"か"

 

 

 

今度こそ男は心臓が止まる錯覚に陥った。間違いない、ヤツは自分がみえている。どの方角の、どれ程の距離の、どのビルの上にいるのか正確に分かっている。そして今もなおこちらに意識を向けている。

 

 

「バケモンかよ……冗談じゃねえ!」

 

得体の知れない恐怖に駆られた男は即座に離脱の行動へ移る。見つかってはいてもまだ大きく距離が離れているという状況すらも気休めにならず全身に寒気が奔り続ける。

 

………しかし男の逃走が叶うことはなかった。

 

 

何故なら、サイレンサー越しの銃声が彼の意識を閉ざしたのだから。

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

「ふぅ……これで依頼は完遂だな」

 

仕事を終えた士郎は早々に会場から退散し、タワービルの一階裏手に出る。連絡を取ろうとしたタイミングで待ち人が現れる。

 

「お疲れ様でした、士郎君」

 

「いえ、舞弥さんこそお疲れ様です」

 

士郎に声を掛けたのはスーツに身を包んだ若い女性。黒いショートの髪を切り揃え、切れ長の目がクールな印象を与える美女。所謂、デキる女という雰囲気を醸し出している。

 

彼女の名は久宇舞弥。魔術関連の仕事における切嗣の部下であり、今回の依頼のパートナーである。実のところ、この舞弥は士郎に仕事を教えた先輩で今では共に組んで依頼をこなすことも多々ある。舞弥が初めて士郎に仕事を教えた時、その手際の良さに舌を巻いたのだが。

 

「それにしても…相変わらず出鱈目な目の良さですね」

 

舞弥が言っているのは護衛対象を狙ったスナイパーのことである。パーティーでの食事が終わった頃から士郎はその存在を感知し、小型の通信機を通して舞弥に座標を送っていたのだ。麻酔弾で気絶した狙撃手は今頃、尋問のため移送されているだろう。

 

「いえ、早い段階で分かったのはあくまで距離と方角だけで正確な位置を掴むまでには時間がかかってしまいした」

 

「(………それでも十分常識外れですが)」

 

 

謙遜ぶりに関しても相変わらずな後輩に舞弥は小さなため息をつく。

 

「まあ、いいでしょう。…所で報酬の方ですが」

 

「それでしたら舞弥さんが全額持って行ってください」

 

 

すかさず受け取りの拒否を示した士郎。その気持ちいいまでの即答に舞弥は諦めたかのように目を瞑る。

 

 

「そう来るかと思って、既に報酬の7割を士郎君の口座に振り込んでおきました」

 

「………速いですね」

 

「こうでもしないと受け取る、取らないの口論で夜が明けてしまいますから」

 

「…………」

 

 

軽く毒を吐く先輩に閉口する。舞弥もすっかり士郎の扱いに慣れたようだ。

 

「それでは行きましょう。家まで送ります」

 

そして何事もなかったかのように車へと向かう。こうして士郎の一日は終わりを迎えたのであった。

 

 

 

 

 

オマケ

 

 

「それにしても俺が7割も貰って良かったんですか?」

 

「ええ、士郎君はパーティー客や従業員に紛れた刺客を片付けながらスナイパーも見つけたのですから当然でしょう。…それよりも士郎君」

 

「はい?」

 

「また"お店"を開けるというのは本当ですか?」

 

「もう知ってたんですか。まあ、限られた時間でしか営業出来ませんが」

 

「では、また士郎君お手製のケーキが食べれるのですね」

 

「舞弥さん、よく食べに来てくれましたね。良ければリクエストを受け付けますよ?」

 

「リクエストですか、………モンブランもいいですがここはあえてショートケーキでお願いしましょう」

 

「了解です」

 

「あ、ちなみにホールでお願いします」

 

「…はい?」

 

「ホールでお願いします」

 

「いや、あの…」

 

「ホールでお願いします」

 

「…………」

 

「ホールでお願いします」

 

「…分かりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これで大体士郎がカグラ世界でどのような日常を送っているかは分かっていただいたかと思います。前話でちょっと見過ごせない内容を見つけたので早めに修正させていただきますm(_ _)m では皆さま、まt…(プシュッ)

舞弥「標的の沈黙を確認……これより離脱します」

舞弥「…え、違う? 目標の人物と特徴が一致しない?」

…(作者だったモノ)

舞弥「………………」

舞弥「……依頼を続行します」(そそくさ)




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カルデアの主人(マスター)

いよいよ斑鳩さんとの邂逅です! つらつらと書いてたら文字数が6000字以上にΣ(゚д゚lll)長ったらしかったらすみません。では、どうぞ…。


学生の放課後というものは学校の一日の終わりを告げ、生徒にとっての自由時間。勉強の事を傍に置いて部活に励むもよし、図書室などでさらに勉強するも良し。しかし、大半の学生は寄り道をするだろう。話題の喫茶店に寄ってみたい、新しくできたレストランを試してみたい、もしくは最寄りのファストフードで友達とひたすら駄弁りたい、お店も目的も様々である。

 

そしてそれは忍学生である飛鳥達も同じだ。学園のどこかにある隠し部屋にて少女たちは普通の高校生と変わらない光景を広げている。

 

「……あの、皆さん どうしたんです?」

 

自主訓練を終えた斑鳩が居間へ戻ると何やら騒がしいと気づく。見てみるとそこには飛鳥、葛城、柳生、雲雀の4人が言い争っている。

 

「大体、葛ねぇは普段からラーメン食べてるんだからこういう時くらい譲ってくれてもいいじゃない!」

 

「何おう?! 飛鳥だって太巻きに拘りすぎだろ! それに柳生、スルメはないだろスルメは」

 

「スルメをバカにするな。さっきから聞いていればスルメはないとは聞き捨てならないな。スルメの素晴らしさを知るためにも食べに行こうとオレは提案している」

 

「もう!みんな落ち着こうよ〜。ここは間を取って甘いモノにしようよ!」

 

 

内容からして食べ物の話である事は分かるがそれ以上はさっぱりだ。喧嘩を迅速に止めるためにも何としても冷静に話し合わなければ…。

 

「…皆さん、何故喧嘩しているのかと聞いているのですが」

 

わーわー…………

 

……冷静に

 

「…皆さん」

 

あーだこーだ………

 

…………冷静に

 

「…………」

 

ギャーギャー…………

 

 

………ブチッ

 

 

______しばらくお待ちください_____

 

 

 

「なるほど……、そういう事でしたか」

 

飛、葛、柳、雲「(((((;゚Д゚)))))))」

 

状況を把握できた斑鳩に対し、飛鳥達4人は居間の隅で固まって怯えている。喧嘩が白熱し過ぎて斑鳩に気づかなかった4人は彼女の逆鱗に触れてしまったのだ。かくいう柳生とて後ろに雲雀を庇っているがその膝は面白いくらいに笑っている。

 

とはいえ斑鳩は大声で怒鳴った訳ではない。やったことといえば居間のちゃぶ台に手を叩け付けて皆の注目を集めただけ。ただし、叩きつけた時の音が凄まじく、まるで耳元で炸裂音が轟いたかのようだったのだ。

 

その様は喚く患者を銃声で黙らせるある看護師を彷彿とさせる。………誰のことか想像できたそこの貴方、今すぐ忘れた方がいい。余計な者を呼び寄せる前に。

 

 

それはさておき、轟音で注意を引かれた飛鳥達は一斉に斑鳩の方へ視線を向けた瞬間、彼女達は見てしまった。そこにいたのは鬼だった、修羅だった、羅刹と表現しても足りない。とにかく、それほどの怒気と迫力を背負った斑鳩に萎縮してしまった。

 

好戦的な者が目の当たりにしても一気に戦意を根こそぎ奪われ、降参するだろう。そんな中で飛鳥が一足早く立ち直り、斑鳩に状況説明をしたのだ。

 

「それで皆さんがそれぞれ食べたいものが別れてしまって口論に至ったと」

 

「うん、皆お互いに譲れないくらい食べたくてつい…」

 

こうなって来ると誰かが折れない限り平行線のまま。かと言って1人のために残りの3人に譲るよう説得するのも少し酷というもの。

 

責任感が人一倍強い斑鳩は何とか4人に納得できる形で解決出来ないか思案を巡らせる。

 

 

「(個別にお店に行っても時間がかかるだけ…、けれど話に上がった4つを出してるレストランも聞いたことはありません)」

 

ファミレスですらラーメンを出してる所は大分分かれているのだ。その上、スルメと来ればもはやお手上げである。

 

「(そうなると…、自作するしかないでしょうか?)」

 

ある意味では現実的な案である。どこもその4品がないというなら自分で作ればいい。ならばと創作料理を披露しようかと提案したその時…。

 

「あ、そうだ! あったよ!! 皆の食べたいものが出せる場所」

 

飛鳥の言葉に全員は驚いたが次の瞬間には懐疑的になる。

 

「そんな店があるのか? アタイが知ってる中でもラーメンやってるファミレスは限られてるぞ?」

 

そんな都合のいいファミレスに心当たりはないと進言する葛城。しかしそれでもな飛鳥は明るくなった表情を崩す事なく答える。

 

「ううん、あるよ! とっておきの場所が」

 

 

________________

 

 

「…それで俺に白羽の矢が立ったって訳か」

 

校門前で5人と合流し、お互いに自己紹介を済ませた士郎。飛鳥が妙案を開示した直後、自分の教室へと向かって士郎に頼み込んだのだ。…創作料理に挑戦出来なかったことに少ししょんぼりする斑鳩もいたが。

 

特に用事のない士郎はこれを快諾して今に至る。

 

「それにしても驚きました、まさかあの喫茶店"カルデア"で働いてるなんて」

 

喫茶カルデア。3年ほど前に冬木でオープンした小さめなカフェだが、こじんまりとした雰囲気に反して市内でも高く評価されている人気店だ。コーヒー、紅茶、料理、スイーツに至るまで全てのクォリティが非常に高く、雑誌にも取り上げられている。何せわざわざ市外からも人が押し寄せるほどだ。

 

ただ不思議なことに限られた時間にしか営業しておらず1年前から閉店状態だったのだ。

 

「カルデアって言ったらスイーツが大人気の名店だからすっごい楽しみ〜! あ、ってことはついにオープンするんですか?」

 

目をこれ以上ないくらい輝かせながら雲雀は問いかける。

 

「いや、近々再オープンする予定ではあるけど今はまだ開店前だな。だけど5人分の料理を用意するくらいなら大丈夫だ」

 

「ごめんね、士郎くん。無理を言っちゃって」

 

「気にするな、ただ流石に食材がロクに揃ってないから買い出しからしなきゃいけないけどいいか?」

 

調理器具などは揃えているものの、買出しがまだだったため食材がほとんどない状態。故に士郎は下校のついでに買い物の提案をする。

 

「ええ、もちろん構いません」

 

「それじゃあ今の内にご注文を伺っても?」

 

食材特定のため、5人のオーダーを確認する士郎。すかさず少女たちは答える。

 

「わたしは太巻き!」

 

「アタイは当然、ラーメンだな」

 

「スルメイカを使った一品を頼む」

 

「オススメのスイーツをお願いします!」

 

一人一人の注文を受けてどの食材をどこの店で買うか思考する。そんな中まだ斑鳩のオーダーを受けてないことに気づく。

 

「鳳凰院先輩は何にしますか?」

 

「あ、いえ 私はお任せします。何かオススメでもあれば…」

 

どこか遠慮しているようにも見える 斑鳩。それも無理のない話である。斑鳩は懐石料理が好物であり、いくら人気のある店でも流石に用意出来ない。しかし、そんな斑鳩をじっと見ていた士郎はしばしの間考え込み…。

 

「ふむ……、"分かりました"。じゃあ早速行きましょうか」

 

 

 

商店街にて____

 

 

「では、その頃から飛鳥さんと知り合っていたんですね」

 

「そうですね、もう長い付き合いになります」

 

雑談交じりに歩く士郎と斑鳩。商店街に着いた一行は固まって買いに行くより2人1組で分かれて材料を買い、また合流してからカルデアへ向かう方針で可決された。

 

決まったところでどうペアに分かれようかと思案したところで葛城がジャンケンで決めようと提案した。結果、士郎と斑鳩、飛鳥と葛城、柳生と雲雀のペアに分かれた。

 

……士郎とペアになれなかった飛鳥が少し残念そうにしていたのはご愛嬌。

 

 

「ですが、よろしかったんですか?。リストを見る限り衛宮君の方が量が多いのですが…」

 

リストを配るために書いた時、士郎は自分の分を多めに書いたのだ。その代わりとして他の2組は少なめであり、運ぶに苦労はしないだろう。

 

「元々こっちがやらなきゃならない事だったし、それにこっちのリストには仕込みや隠し味に使うものが多いので」

 

「それでもやっぱり申し訳ないです。ただでさえ無理を聞いてもらってるのに…」

 

なかなか遠慮の姿勢を崩さない斑鳩にどうしたものかと考える。

 

「うーん、…でしたら店の宣伝をお願いできますか? 再オープンに関する広告などは特にないもので」

 

「そんなことでいいのですか?」

 

「はい、何かと人伝の方が効果が高いですからね。だからどうか気にしないでください」

 

少し硬い空気を何とか緩和しようと努める士郎。対価を出されたことで遠慮気味の斑鳩はようやくその姿勢を解く。

 

「分かりました。それではよろしくお願いしますね、衛宮君」

 

「こちらこそ 今後ともご贔屓に、鳳凰院先輩」

 

 

士郎の言葉に考え込む斑鳩。どうかしたのかと聞こうとしたその時…。

 

「衛宮君、できれば私のことは苗字ではなく名前で呼んでくれませんか?」

 

「名前を? いいんですか?」

 

「ええ、飛鳥さんの馴染みの上にここまで良くしてくれたのですから十分信頼に値します」

 

お淑やかな笑みでそう答える斑鳩に士郎は綺麗だな、と思いながら顔に出さずに返事を返す。

 

「分かりました、斑鳩先輩」

 

「あ、先輩と敬語も抜きでお願いしますね」

 

「………了解した、斑鳩さん。 それだったら俺のことも士郎でいいよ」

 

せめてさん付けくらいは勘弁してくれるだろうと悪あがきをする。…哀れ、士郎。押しの強い女性に勝てた試しがない。

 

「ではそう呼ばせてもらいますね、士郎さん」

 

再び淑女の笑みを見せる。心なしか先ほどの笑顔よりうれしそうであった。

 

 

士郎side

 

目的の品が担当区画の端と端にあるため斑鳩さんとさらに二手に分かれて買出しをする。

 

「おう! シロ坊じゃねえか」

 

「お久しぶりです」

 

行きつけの魚屋で目的の品を物色する。的確に鮮度と品質が高いものを選んでいく。

 

「いや〜相変わらずお目が高いな、シロ坊。歴戦の主婦でもそこまで素早く鮮度のいい魚を選べねえ」

 

「まあ、自炊生活に慣れてくると自然にできるようになっただけですよ」

 

…食材の品質を見極めるためだけに解析魔術を使ってるなんて口が裂けても言えないな。

 

「にしてもでけえ荷物だな。もしかして店用か?」

 

「ええ、最小限の仕込み用ですが」

 

「ってぇことは久々にオープンか。ウチの娘が喜ぶぜ!」

 

「ぜひ娘さんも連れてお越しください」

 

買出しが完了し、斑鳩さんと合流しようかと思ったその時。

 

 

「む…、これは、結界か?」

 

突如感じる違和感。それも斑鳩さんが向かった方角からだ。まるで絵画の一部分がごっそりくり抜かれたかのように商店街の一角が不自然だ。

 

おそらくこれは忍結界。忍術によって構成されたものでこちらでいうところの人払いの結界に近い。現に結界の外にいる一般人がその姿勢一角を避けるように通っている。

 

まあ、視覚を強化すれば視えないこともないが。

 

見た所、斑鳩さんがスケ番みたいな不良たちと争ってるようだ。とはいえ片や素人、もう片や修業中ながらも立派な忍。勝敗は見るまでもなく斑鳩さんの圧勝で終わるだろう。

 

と、様子を見ていた所にトラブルが発生する。

 

「(あれは…!)」

 

斑鳩さんが蹴り飛ばした不良の1人が安全地帯に置いた食材目掛けて飛んでいる。このままではせっかくの材料が無駄になってしまう。斑鳩さんも気づいたようだがもう間に合わない。

 

「(仕方ない…)」

 

幸い様子見のため荷物は置いている。なら…。

 

設計図を浮かべると同時に右手を振る。投影するは何の変哲も無いナイフ。カルデアでアサシン達から学んだ隠形術を応用した無音投射を行使する。ナイフは外れることなく不良の制服、その肩辺りに命中して壁へと縫い付ける。

 

本来ならナイフ程度でこの様な威力は出せない。しかし、徹甲作用を重ねることで可能にしたのだ。そして周りは気づいた様子がないことから無音投射は成功したと確認。

 

「さて、あとは何食わぬ顔で合流するだけだな」

 

あともう一仕事だな。

 

 

士郎side out

 

 

 

喫茶カルデアにて____

 

「どうぞ、待ってる間にこれでも飲んでくれ」

 

紅茶を淹れた士郎は5人に振る舞うとそのまま厨房へと向かう。

 

「見た所、料理人の方がまだ来ていないようですが…もしかして士郎さんが調理するのですか?」

 

斑鳩たちはてっきり士郎が直接コックに頼み込むかと思っていたため、少し驚く。

 

「あれ? 言ってなかったっけ? カルデアの料理人は元々士郎くん1人だよ?」

 

飛鳥の言葉に今度は大きく仰天する4人。誰が想像できるだろうか? 市街で一二を争う人気店のコックがまだ学生の青年だと。

 

 

30分後____

 

 

「「美味しい!」」「「美味い!!」」

 

料理が運ばれ、いざ実食。最初の一口を食べた瞬間に先の言葉が出たのだ。

 

飛鳥には慣れ親しんだ味にもう一工夫加えた太巻き、葛城には衛宮印特製ラーメン、柳生はスルメイカを丁寧に下処理した天ぷら、そして雲雀は一見シンプルなバニラスポンジと生クリームのケーキだがその上にはプリンのような層が乗っている。

 

4人が料理に舌太鼓を打ってるなか斑鳩の料理だけがまだ来ていない。士郎曰くあとは仕上げだけだからすぐ持ってくるとのこと。そして1分もしないうちに…。

 

「お待たせしました、こちらをどうぞ」

 

仕事時の物腰で士郎が持って来たのはなんと懐石料理……とまではいかないものの1つの善の上に色とりどりのおかずが入った複数の小鉢がある。手の込んだものから家庭料理まで士郎が現時点で用意できるバラエティに富んだ品である。

 

4品の料理を並行して作るだけでも無茶だというのにどうやってこんな手間暇掛けたものが作れるのやら…。聞いてもおそらく「このぐらい出来ないで何が執事(バトラー)か」としか答えないだろうが…。

 

「士郎さん…これは」

 

驚いた様子の斑鳩が士郎に視線を向ける。

 

「何となく斑鳩さんは和食が好きなんじゃないかと予想してな。ただ和食の何がいいかまでは分からないからコレを用意してみた。幕の内定食、みたいなものだと思ってくれ」

 

「冷めないうちに食べてみてくれ」と促されて斑鳩は箸を手に取る。優雅に流れる動作で小鉢を持って一口食べる。じっくりと噛みしめるように咀嚼。そして飲み込んだ後に士郎へと顔を向け…

 

「とても美味しいです」

 

本日見た中で最高の笑顔を見せた。その表情はまさしく花開いたと表現するべきだろう。

 

「それは良かった」

 

士郎もまた笑顔で返す。人の笑顔が自分の料理にもたらされたと思うとやはり嬉しいものである。

 

 

 

 

斑鳩side

 

衛宮士郎さん。飛鳥さんの幼馴染で同じ学園に通う後輩。恥ずかしながらあまり男性と接した事はないのでどのような方か気になりましたが、なるほど 飛鳥さんが自慢するわけですね。

 

物腰は丁寧で礼節も弁えている。懐の広さも中々のようで柳生さんが苗字とはいえ呼び捨てしたことをさして気にしてはいませんでした。

 

何より驚きなのはその料理の腕前。4つの異なる料理を並行して作るなんて相当な腕でないと出来ません。そして私 に出してくれたあの幕の内定食、本人の言う通り本場の懐石料理ほどの豪勢さはありませんが一つ一つが丁寧に作られていて種類も様々に分けられていました。士郎さんは何となくと言っていましたが私の好物を見抜いて作ったのでしょう。

 

…ここまで来ると一流のシェフではないでしょうか?

 

おまけに紅茶を出していた時の動き、あれは間違いなく熟練されたものでした。鳳凰院家の使用人でもあのような動きは出来ません。……士郎さんって何者なのでしょう?

 

家名で呼ばれた時、壁があるような気がして名前で呼んで欲しいとお願いしましたが、士郎さんも快く自分も名前でいい了承してくれました。…自慢ではありませんが鳳凰財閥の名は絶大でその名を聞けば殆どの人は萎縮してしまい、一歩引いてしまいます。

 

でも士郎さんはこちらの要求通り、名前で呼んでくれました。飛鳥さんたち以外にも私の"名"を呼んでくれる、私の"家"ではなく"私"を見てくれる人が増えるのはやはり嬉しいものです。

 

願わくば末長い付き合いにしたいものですね。

 

……そういえば一昨日、お父様の付き添いで出席したパーティーで士郎さんと同じ髪の色をした方を見たような……、気のせいでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




以上、斑鳩編でございました。そして今回書きたかった士郎の喫茶店カルデア! やはりあそこが一番思い出深い場所だと思ったので名付けました。さぁて次は誰とのイベントを書こうかな〜(*´∀`)♪

ん? こんな所に切り傷が、いつの間に…まあ唾つけときゃいいか。

「急患ですね」

うぉ!? ナイチンゲールさん? これぐらい大丈夫ですよ。

「何が大丈夫なものですか。小さな傷でも雑菌が入れば病気に繋がります」

ちょ! その腕はそっちに曲がらな(ゴキっ) ギャアアア!!

「やはり悪化しましたね。 これはいけない! 腕ごと切断します」

待ってぇええ! 切断しちゃらめぇぇぇえええ!!

「何てこと…、こんな状態でまだ生きてるなんて! 普通なら4回も死んでるはずなのに」

だから何のこと!?

「安心なさい、例え首だけになっても貴方を救います!」

イヤァァァァあああ! やm…

____とても見せられないよ____


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セクハラダメ!絶対!! By 葛城

皆さま、お久しぶりです。約一カ月ぶりの投稿ができました。色々立て込んで、急拵えな感じですが良ければどうぞご覧くださいm(_ _)m では葛城編、スタートです。


葛城side

 

よ! アタイの名は葛城! 国立半蔵学園に通う三年生にして、現在修行中の忍学生だ。好きな物、好きな事はラーメンとセクハラ。特にウチの忍クラスのみんなはおっぱいデカいからな〜(*´∀`)♪ …うっひっひ、役得役得♪

 

ただ飛鳥や斑鳩ならともかく、雲雀にセクハラすれば柳生が得物持って撃退してくるし、かと言って柳生にセクハラしようとしてもさらりと躱される。しかし! そこで懲りない、諦めないのがアタイだ。最終的には柳生のも堪能したからな♪

 

ん? のんびり歩いていたら視線の先に見覚えのあるポニーテールが。あれは…飛鳥か? ともう1人いるけど誰だ? ちなみにもう1人の方も女子でおっぱいは掌にちょうど収まるサイズ……よりちょっと下だな。

 

何やら話してるみたいだけどよく聞こえないな…。

 

 

____以降、*が付いてるセリフは葛城に聞こえてません

 

 

*「ちょっと、貴女! スカートの丈が短すぎますよ!!」

 

飛「え? そ、そうですか?」

 

*「当たり前でしょう。 こうして私のと比べても明白です!」

 

飛「でも、これぐらいだったらまだ校則の範囲内ですけど」

 

*「それでも範囲内ギリギリです! いいですか? そうやってギリギリばかりを狙い続ければいずれ感覚が麻痺して境界線が曖昧になります。校則違反というものはそういう緩んだ点から起こるものです!」

 

飛「す、すみません」

 

*「全く、そんなに脚を出して。女子校ならまだしもここは共学校ですよ? 男子の目もあるのだから気をつけなさい」

 

飛「………士郎くんになら見られても」(ボソッ)

 

*「?、とにかく! これからはもう少し丈を長めにしておきなさい。ほら、私がやってあげるから」

 

飛「え? ち、ちょっと待ってください! 自分でやりますから!」

 

*「何ですか? 確かにここは廊下ですが幸い人目はありません。恥ずかしいでしょうが今回の違反の罰として大人しくしてなさい」

 

飛「だからって無造作にスカートを掴まないでください! 本当に見えちゃいますからってちょっと! なんで太もも触ってるんですか!?」

 

*「綺麗な脚してるわね〜貴女、肌もスベスベだし。これなら見せびらかすのも納得ね…全く、羨ましいわね」

 

飛「触りながらも何でスカート丈調整ができてるの!? せめて触るのはやめて下さい!」

 

*「それに何より!」(カッ!)

 

飛「ふぇ?」

 

*「この胸はなんなのよぉぉおお!?」(鷲掴み)

 

飛「わきゃぁぁぁあああああ!!?」(鷲掴まれ)

 

*「脚も!綺麗で!胸も!大きくて!おまけにウェストまで!細いなんて!一体どんな魔法使ったのよ!?くっ、私だって毎日牛乳とかバストアップ体操で日々頑張ってるのに…」(揉みながら我を忘れている)

 

飛「し、知らないです〜! いいから放して下さい〜!!」

 

*「天然!? これが天然モノだっていうの!!? 反則よ!卑怯よ!独占禁止法違反よ! 少し分けてよ!!」

 

飛「無茶言わないでください〜!!」

 

 

____以上、葛城の盗み聞きタイム終了____

 

 

「な、!? アイツ飛鳥にセクハラしてやがる!」

 

最初の内はスカートを掴んで何か言っていたけど、あろうことか今度は飛鳥の柔らかおもち(笑)を揉みしだいている。そして現在進行系で脇腹や腰回りにも手を這わせている。

 

その羨まs、もといけしからん光景を目の当たりにしたアタイは一も二もなく駆け出す。目の前の悪行を成敗するために!

 

 

「おい、お前! 飛鳥に何してんだ!?」

 

「か、かつ姉!」

 

「え?あ、誰です!?」(我に帰った)

 

飛鳥に散々セクハラしていた痴女はアタイの存在に気づいてようやく放す。よし、これで一先ず飛鳥は無事だ。

 

「少し様子を見ていたけど、アタイの可愛い妹分に手を出すとはいい度胸じゃないか。覚悟はできてんだろうな?」

 

「いきなり現れて何なんです? 私はただ…」

 

「問答無用! アタイはなぁ、セクハラするのは大好きだけどアタイ以外のセクハラするヤツは許せないんだよ!」

 

「自分のことは棚上げ!?」

 

セクハラ犯の言葉を斬って、回し蹴りを放つ。もちろん一般人だから手加減はしている、死にはしないがしばらくの間は気絶しているだろう。

 

「ひっ…!」

 

繰り出された蹴りの勢いと気迫でヤツは恐怖混じりの悲鳴をあげるがもう遅い!

 

「ちょ、かつ姉!? この人は…」

 

飛鳥の制止も虚しく右脚は吸い込まれるように…

 

 

葛城side out____

 

 

辺りに響く重い衝撃音。それはまるで鉄球が落ちたかのような音。飛鳥は制止が間に合わずにせめて女生徒が軽い気絶で済むよう祈ったが、思わず瞑った目を開けるとそこには予想外の光景が映っていた。

 

「お前…、何で邪魔すんだ士郎!」

 

士郎が現れたのだ。今現在女生徒と葛城の間に立ち塞がって気絶級の一撃を防いだのである。当の士郎は脚を受け止めたまま若干鋭い視線を葛城へと向ける。

 

「葛城先輩こそ何をしてるんだ? いきなり乱暴は褒められたものではないと思うが?」

 

「そいつは飛鳥にセクハラしてたんだぞ!? 破廉恥三昧するようなヤツは痛い目を見なきゃ…」

 

「そいつというのは風紀委員長のことか? いくら知らないとはいえ、その呼び方はないんじゃないか?」

 

「だからその風紀i…、へっ?」

 

告げられた事実に呆然する葛城。ゆっくりと視線を件の女生徒にむけるとようやく見えたのだ。

 

……片腕につけられた、風紀委員会の腕章が。

 

「…マジでか?」

 

士郎の言い分が間違いであって欲しいと一縷の希望を込めて飛鳥を見る葛城。しかし返ってきたのは逆に絶望へと叩き落す言葉だった…。

 

「えっとね、かつ姉。士郎くんの言った通り、この人は風紀委員さんなの…しかも委員長さん」

 

「Σ(゚д゚lll)」

 

取り返しのつかない事態に今度こそ顔を青くする。彼女たち忍学生は正式に学園の生徒として在校しているが忍を目指すものであるためあまり目立つ様な行動は控える様言われている。

 

仮に不埒を働いている輩を派手に成敗するのも十分悪目立ちするがそれが誤解でしかも生徒を取り締まる風紀委員会に暴力を振るってしまったのならもはや言い訳のしようもない。

 

この後どうすればいいかと焦り始める葛城に士郎は再び声を掛ける。

 

「あー…葛城先輩? 慌てているところすまないんだが」

 

鋭い目を向けていた士郎はいつの間にかその両目を瞑っており、顔を葛城からそらしている。何故そんな態度をするのか分からず葛城は首を傾げる。

 

「…そろそろ脚を下ろした方がいいんじゃないか?」

 

未だ気づかない様子に率直に述べる。さて、ここで少し振り返るが士郎は事態を納めるため葛城の回し蹴りを受け止めたままの体制だ。そして葛城はかなりの高さで蹴っている…。

 

つまり何が言いたいかというと…、真正面にいる士郎に丸見えなのだ。……爽やかで健康的な青と白の縞柄が。

 

「うわぁあっ!!?」

 

理解したと同時に顔を瞬時に赤く染める葛城。普段以上のスピードで飛び退きスカートを押さえる。若干士郎を睨みつけるが自分にも非があるためすぐにそれを納める。

 

「その、不可抗力とはいえすまない。…それと委員長の方は大丈夫か?」

 

見てしまった事実を素直に認めて謝罪する士郎。ただ本題を置き去りのするわけにもいかず、風紀委員長の安否を確認する。

 

「へっ!? え、ええ 有難う、衛宮君。コ、コホン! それより貴女!」

 

頰を赤くして呆然と士郎を見ていた委員長は体制を立て直し葛城へと厳しい目を向ける。

 

「誤解の上に未遂で終わったとはいえ、同じ生徒に暴力を振るうとは何事ですか!?」

 

「いや、その…」

 

歯切れの悪い葛城に委員長は反論を許さないとばかりに畳み掛ける。

 

「この事は風紀委員会、及び生徒会も含めて報告させていただきます。然るべき厳罰が下りますのでそのつもりで」

 

「ちょっと待ってくれないか? 委員長」

 

風紀委員長の無体な判断に士郎がストップを掛ける。

 

「何ですか? いくら衛宮君の庇護でも何の処罰もなしというわけには行きませんよ」

 

士郎は生来のブラウニーっぷりをこの世界でも発揮しており、学園での機材や設備の修理、整備をしている。おまけにその業績が買われて風紀委員会や生徒会の手伝いもしてたりする。ちなみに両方から勧誘されてもいる。それはさておき、とにかく士郎は風紀委員会、生徒会からかなり信頼されているのだ。

 

「もちろん、罰するなとは言わないさ。ただ先ほど委員長も言っていただろう?」

 

士郎の言わんとしたい事に言葉に詰まったような顔を見せる。

 

「何故とはあえて聞かないが、服装注意していただけのつもりが風紀委員にあるまじき行為をしてしまった事は事実。そのまま報告するとなると委員長の立場も危ないと思うが?」

 

「…ええ、そのことに関しても言及はされるでしょう。ですが例え処遇が何であろうとありのままを伝えます」

 

数瞬ほど目を瞑り、決意を表した顔で告げる。思いの外頭が硬く、自分にも厳しいようだ。

 

「そこまでする必要はないよ。葛城先輩への処罰は俺に任せてくれないか?」

 

「「「え?」」」

 

 

 

 

____________________

 

 

 

「…こ〜れ〜で、よしっ!と」

 

ここは半蔵学園の中にある空き教室。ここで葛城が何をしているのかというと、まあご覧の通り掃除である。

 

士郎が提案した葛城への罰、それは学園の空き教室と資料室の清掃と整理である。ただ、半蔵学園はマンモス校であるためその部屋数が尋常じゃないくらい多い。元々は生徒会が片付ける予定だったのだが他の作業もあるので思うように進まず士郎の手を借りているのだ。

 

「これで最後だな。ん〜っ!やっと終わった!」

 

「ここのモップ掛けは…もう終わったみたいだな」

 

隣の資料室で作業を終えた士郎が教室に入る。

 

「お疲れ様、葛城先輩」

 

「おう! 士郎もお疲れさん」

 

お互いを労いながら空き教室を後にする。

 

ちなみに士郎が先輩である葛城に敬語ではなくタメ口で話している理由は葛城がそう話すよう申し出たからである。

 

以前 飛鳥たちとカルデアで食事をしていた時、わざわざ自分も含めた5人に料理を振舞ってくれた親切さを気に入ったのだ。絶品モノのラーメンを完食し、気を良くした葛城は感謝とともに自分とは普通に話してほしいと提案したのだ。

 

「それにしても今回はホントに悪い、士郎。腕の方は大丈夫か?」

 

 

申し訳なさそうな顔で心配する葛城。手加減したとはいえ、日々の修行で鍛えられた蹴りを素手で受け止めたのだ。一般人ならまず無事ではすまない。

 

「いや、謝ることは…まあ、あるかもしれないが気にしすぎるな」

 

「ホントか? 一応本気じゃあないけどそれでも1発で気絶するくらいの力は入ってたからさ」

 

「…そんな威力の蹴りを委員長に放ったのか、まあ流石にあの時は腕が痺れたが今は何とか平気だよ」

 

右手を振りながら返す士郎にほっとした葛城。清掃道具を片付け、終了報告のために風紀委員会へ赴く2人。他愛ない雑談を混ぜながら歩いていると葛城が気になっていた事を口にする。

 

「なあ、士郎。お前なんで話し方はタメ口なのにアタイの呼び方が先輩付けのままなんだ?」

 

本人の希望通り、普段の口調で会話こそしているが呼び名が変わっていないのだ。葛城からすればなんとなくバランスが悪いのである。

 

「なんでって言われてもな…、先輩だからせめて呼び名はそのままにするべきじゃないか?」

 

「斑鳩の事は呼び捨てしてるのにか?」

 

「ぐっ…」

 

逆らえなかったとはいえ、斑鳩を名前で呼んでいる士郎に葛城は意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「アタイとしてはその差は壁がある気がしてな、ちょ〜っと不公平じゃないか?」

 

「確かに、そうだな…」

 

苦い表情で諦めの色を示す士郎。しかし、葛城はそんな士郎にさらなる追い討ちを掛ける。

 

「とはいえ、ただ呼び捨てるだけじゃつまんないからな。飛鳥みたいにアタイの事はかつ姉って呼んでくれ!」

 

「なんでさ!? いきなり愛称呼びはないだろう!!?」

 

「そうか? こっちの方が堅苦しくないし親しみがあるだろ?」

 

親しみを通り越して馴れ馴れしいんじゃないかと返そうとするが「それに…」と続ける葛城の言葉に止められる。

 

「それだけ士郎の事を信用してるって事だ。飛鳥が気に入ってる人に悪いヤツはいないからな!」

 

正しくニッカリとした笑顔で語る。どこか憎めない様な葛城の顔を見て、士郎はかつての世界で共に戦った船長の事を思い出す。

 

「(そういえば彼女もあんな風に笑っていたな…)」

 

「? アタイの顔に何かついてるか?」

 

「いや、何でもないさ。そこまで言うならお言葉に甘えさせてもらうよ、葛ねえ」

 

葛ねえという呼称にイリヤの学校で教鞭を取る姉代わりの事を思い出しながら苦笑いを浮かべる。漸く観念した士郎に満足気に頷く葛城。

 

「よし! じゃあ今回のお詫びも兼ねて、一緒にラーメン食べに行こうぜ!! アタイおすすめの一軒を紹介するよ」

 

「ああ、いいぞ。委員長に報告してからな」

 

…余談だが葛城が奢ろうとした所を参考になったからいいと丁重に断り割り勘で落ち着いた。

 

 

 

 

 

 

__________Side 葛城__________

 

今日は失敗したなぁ〜。飛鳥がピンチかと思ったらアタイの勘違いだったし、危うく風紀委員長に怪我させるとこだったし。士郎がフォローしてくれなかったらどうなってたのやら…。

 

 

それにしても士郎のヤツ手加減したとはいえ、よくアタイの蹴りを受け止められたな。本人は腕が痺れたとは言ったが掃除してた時はもう何ともない様子だった。

 

何か格闘技でもやってるのか聞いてみたけど、結局 「そんな大層なものじゃないさ」とはぐらかされた。

 

う〜ん……、気になる! もし機会があれば手合わしてみたいな。…って、流石にだめか。徒手とはいえ、忍の技を晒すわけにもいかないしな。

 

っと考えごとに没頭しすぎたな。さて、今日も修行頑張りますか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回の話は書くのが地味に難しかったです。原作では短かった葛城の会話シーンにどうやって士郎を介入したものか考えた末、このようになりました。さて、あと3人か…誰から書いたものやら。

「話は終わったかい?」

ん? 貴方はドレイク船長じゃないですか! わざわざ他所のカルデアからようこそです。

「あー、堅っ苦しい挨拶はいいよ。用事だけ済ましたら帰るつもりだから」

用事? というと?

「投稿が遅れた事の詫び入れだよ。アンタんとこのサーヴァントたちに頼まれてねぇ。ヤキ入れといて欲しいってさ」

え!? ウチの!!? ってかヤキ入れるって何を!?

「そりゃあ、勿論…」(片手で銃をクルクル)

……銃は勘弁して下さい、死んでしまいます。

「死ぬ、ねぇ…。ま、そういうなら蜂の巣は勘弁してやるよ」

ホントですか!?

「勿論さ」(ガシャコン!)

…あの〜、船長?

「なんだい?」

わたくしめを囲んでいるこの大砲は一体?

「銃の代わりに大砲で木っ端微塵で勘弁してやるよ。覚悟はいいかい?」

待ってぇええ! 話が違うぅぅぅううう!!

「藻屑になりな!」



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一本釣りの一石二鳥

皆さん、本っ当にお待たせしました(待ってる人がいれば)。今回は柳生編でございます。日常編での展開を少し変えて見ました。ではどうぞ…。


「…………っ!」

 

「よし、いいぞ。次は奥行きだ、タイミングを間違えるなよ」

 

「柳生ちゃん! 頑張って!」

 

 

ここは商店街の一角に建つゲームセンター。下校時間ということもあって人がそれなりに入り乱れている。そんな中、店の外側に置いてあるクレーンゲーム台を囲むように柳生、雲雀、そして士郎の3人がなにやら奮闘している。

 

より正確に説明すると、普段無表情な柳生がこれ以上ないくらいに眉間に皺を寄せたままクレーンを操作して、傍で士郎がアドバイスを飛ばし、反対側で雲雀が2人を応援している。

 

さて、何故このメンバーがこんな事をしているのか? それを説明するために少し時間を遡らなければなるまい。それはほんの20分ほど前のことである。

 

 

______________________________

 

 

「はぁ〜♪ ケーキ美味しかったね、柳生ちゃん」

 

「いいとは思う、…けどオレには少し甘すぎたかも知れん」

 

商店街を仲良く並んで歩くのは忍学生の内の2人、柳生と雲雀である。事の発端は雲雀が広告で見つけたとあるスイーツ店の新作ケーキを食べてみたいと柳生を誘ったのだ。甘味はそこまで好きではない柳生だが基本的に雲雀には甘いため快く承諾した。

 

「しかし、かなり気に入っていたな雲雀。衛宮の店で食べたものより美味かったか?」

 

2人が行ってきたケーキ屋は簡素な喫茶店も兼ねており折角なので店内で頂いたのだが、その時の雲雀の反応がかなり良かったのだ。

 

「う〜ん、どっちも美味しかったけど。衛宮先輩のケーキは食べた後に次が欲しくなっちゃうの」

 

この意見は雲雀のみならず過去のカルデアの女性客も言っていたことだ。ケーキ作りにおいて士郎は絶妙な甘さ加減を施しており、砂糖ではなく蜂蜜で優しい味に仕上げたり、生クリームにヨーグルトを混ぜて爽やかな風味を付け足したりと工夫している。

 

甘すぎてもいけない、かと言って甘味が足りなくてもいけない。しつこくないギリギリのラインを狙って作られているため、非常にお代わりが欲しくなるのだ。…食事は美味しい方がいいのは当たり前だが美味しすぎるのも考えものである。主に体重計的な意味で。

 

「それより柳生ちゃん、衛宮先輩のこと呼び捨てするのは流石に失礼じゃないかな?」

 

「む…、確かに先輩後輩の間柄なら失礼だろうが本人がそれでいいと言ってるからな」

 

5人娘がカルデアで食事を取っていた日にいたく料理を気に入ってお礼を述べたのだが…

 

回想__________

 

「馳走になっ…りました、衛宮……先輩」

 

「…あー、別に敬語でなくてもいいぞ。呼び名も普段の話し方で構わない」

 

回想終了__________

 

 

柳生は元から一匹狼気質な所がある故、他人をあまり信用しないきらいがある。学校においても他人に対してぶっきらぼうであるため自分から話しかけたすることはあまりない。普段がそんな感じなので敬語なんてものは慣れてないのだ。

 

思わずとはいえ、呼び捨てしてしまう所を許してくれた士郎に若干の話しやすさを見出し、本人の言葉に甘えてそのまま呼んでいる。

 

「もう、柳生ちゃんってば……あっ」

 

会話の途中で何かに気づいて止まってしまう雲雀。何事かと柳生も立ち止まり、雲雀の視線の先を注視すると…。

 

「クレーンゲームか…」

 

見つめる先には一件のゲームセンター。その店の外に配置されているクレーンゲームを雲雀は一心に見つめているのだ。

 

「何か気になるものがあるのか?」

 

「あっ、うん。あのウサギのぬいぐるみかわいいなぁと思って」

 

 

覗き込んで見れば確かに数あるぬいぐるみの中に黒い毛色と鮮やかな赤目のウサギのぬいぐるみがあった。他のぬいぐるみの配色と相まって一際目立つそのぬいぐるみはどことなく寂しそうにも見える。

 

「…雲雀、あのぬいぐるみを取ってやろうか?」

 

「え? い、いいよ。ちょっと気になっただけだから」

 

口ではそう言う雲雀だが、彼女に関しては人一倍機敏な柳生には本心はちょっぴり欲しいという内心を読み取った。昔に実の妹を亡くした柳生は雲雀と出会ってからは何かと彼女を甲斐甲斐しく世話をし、かなり甘やかしている。

 

故に、雲雀が欲しいものなら是非もなし、である。

 

「大丈夫、問題ない。オレが取ってこよう」

 

……そして雲雀のことになると若干テンションがおかしくなるのが柳生である。

 

 

 

 

__________ゲーム開始から10分後

 

「くっ…、またダメか」

 

雲雀にぬいぐるみを贈ろうと奮闘した柳生だが、結果は芳しくない。持ち前の観察力を駆使してクレーンでぬいぐるみを掴むまでには至っているが、肝心のクレーンは力が極端に弱い。いくら位置をピッタリ合わせることができても持ち上げることができなければ意味がないのだ。

 

「…まだだ!」

 

「も、もういいよ! 柳生ちゃん!」

 

負けじと更に100円玉を取り出そうとする柳生に雲雀がストップをかける。ちなみに最初の数トライで手持ちの小銭を使い切り、両替えをしての続行のため使用金額はとうに3千円を超えている。この柳生、必死である。

 

「もうやめよう? 柳生ちゃん。これ以上柳生ちゃんのお小遣いを使わせるのは申し訳ないよ」

 

「雲雀……」

 

雲雀が欲しがっているあのぬいぐるみを取ってあげたい。しかし、これ以上有り金を浪費して雲雀の心情を患わせたくない。せめて次の1回で取れる方法はないかと思案し始めた柳生に馴染みある声が掛かる。

 

「…何か困り事か? 」

 

「「衛宮(先輩)?」」

 

__________忍少女、説明中__________

 

 

「なるほど、あのぬいぐるみが取りたいと…。しかし、やってみてわかったと思うがクレーンゲームのほとんどは簡単に取れないようにできてるからなぁ」

 

「不覚だった。たかがクレーンゲームと侮ってしまった」

 

「残念だけど、取れないくらいに難しいならしょうがないよね。気持ちだけ受け取るから、ね? 柳生ちゃん」

 

 

件のクレーンゲームの難易度に諦めようとする2人に士郎は無言で2人とクレーンゲームを一瞥する。そして…。

 

「なあ、柳生。最後にもう一回だけチャレンジしてみないか?」

 

「え? しかし何回も挑戦してはいるが全く取れない」

 

「なに、少し取りかたを変えれば可能性はなくもないぞ。俺がナビゲートしよう、操作は柳生に任せる」

 

 

…といった経緯で今は士郎と柳生がタッグでクレーンゲームに挑戦するに至ったのである。反則的ではあるが士郎は解析魔術でクレーンの力具合やそこから間接的に埋まってる景品の場所などを知ることが出来るため、取ることは容易い。しかし、そこは女性の機敏に聡い(但し、自分への好意には鈍い)士郎。柳生の様子からして自分の手で贈りたいという意思を汲み取り、自分はあくまで指示するだけにしたのだ。

 

 

「そうだ、そのまま進め」

 

「……っ!」

 

 

普段は冷静沈着な柳生が目を細め、こめかみに一筋の汗を浮かべる姿はなかなかに見れない光景だ。現にそれを間近で見てる士郎も少し笑いそうになる。

 

「ストップ!」

 

「っ!」

 

 

士郎の指示に従ってボタンを離す柳生。しかし、止めた位置に疑問を抱いてしまう。

 

「衛宮、オレが取りたいのはコレじゃないぞ?」

 

そう、士郎が狙い定めた位置…それは目的のぬいぐるみの真後ろである。確かにその位置にもぬいぐるみはあるがかなり埋まっており全貌が見えない。

 

「いや、そこでいいんだ。逆にそこ以外はあり得ない」

 

士郎の言葉と共にクレーンが下がっていく。そのまま片腕が後ろにあるであろうぬいぐるみのタグに通る。狙った景品でないことに目をつぶれば絶好のポイント…しかし、ここで士郎の狙いが見えはじめた。

 

「なに!?」

 

「動いてる!」

 

そう、後ろの景品が引き上げられる度に黒ウサギのぬいぐるみも動いたのだ。ここで説明するとし先ほど述べた通り士郎は解析魔術を駆使して中にある景品をも観ることも出来る。ただ間接的にであるためどんなぬいぐるみかまでは分からないがその"形"は見える。その結果、ウサギの後ろにあるぬいぐるみが下の部分が広がっており丁度掬い上げられるようになっているのだ。

 

 

さらに幸運なことにウサギのぬいぐるみは落とし口のすぐそばにあったので引き上げられた勢いでそのまま落ち、次いで釣り上げたぬいぐるみも景品口に放り込まれる。

 

「…取れた」

 

「スゴーイ!!」

 

側から見れば見当違いの位置から取れたことに呆然と呟く柳生、雲雀は目的の景品だけでなくもう一つぬいぐるみが取れたことにはしゃいでいる。その間に士郎は2つのぬいぐるみを手に取り、黒ウサギを柳生に渡す。

 

「ほら、これだろう?」

 

「あ、ああ」

 

渡された拍子に我に帰った柳生は受け取ったぬいぐるみを雲雀へと差し出す。

 

「雲雀、取れたぞ。オレだけの力では無理だったが」

 

「ううん、とっても嬉しいよ! ありがとう、柳生ちゃん 衛宮先輩」

 

形は違えど、無事ぬいぐるみを雲雀に贈ることが出来たことに微笑む柳生。しかし、今回の報酬はこれだけじゃない。

 

「柳生、コイツは君の分だ」

 

「えっ?」

 

いきなりのことに戸惑う。士郎が渡してきたのはウサギと一緒に取れたぬいぐるみだ。どうやら取れたのは脚を広げたイカのぬいぐるみのようだ。…なるほど、この形のものなら近くのものを掬い上げられるだろう。

 

「いや、しかしそれは悪い…。あれが取れたのだって衛宮のおかげだ」

 

「俺がぬいぐるみ持っててもしょうがないだろ? 無駄にするのも何だし…良かったら受け取ってくれ」

 

少し困った苦笑いを浮かべながら言う士郎。少し遠慮気味にぬいぐるみを受け取った柳生はしばしそのぬいぐるみを見る。雲雀に渡したウサギに比べればイカのぬいぐるみというのはいささかマイナーではあるがスルメをこよなく愛する柳生から見れば悪くない品である。

 

「…衛宮」

 

「ん? 何だ?」

 

 

普段表情を変えることのない柳生は普段雲雀にしか見せない穏やかな笑みを浮かべながら…。

 

「その…ありがとう。ぬいぐるみのこともそうだが、手伝ってくれて感謝している」

 

少しだけ、ぎごちない"ありがとう"を述べる。

 

「力になれたなら何よりだ」

 

 

 

 

柳生side__________

 

飛鳥の幼馴染で、喫茶カルデアの店長、そしてオレと雲雀の先輩に当たる人物…衛宮士郎。あの日、飛鳥に紹介された時どこか聞いたことがある名前に記憶を探った。すると案外、すぐに思い出した。

 

あれはいつだったか、他の一年女子が雑談していた時に衛宮の名前が挙がった。

 

確か最初は学園内で誰が一番かっこいいかとか、同じ学年だと誰がいいか、そんな感じの内容だったと思う。そこから会話が白熱してその流れから…。

 

「でもやっぱり衛宮先輩は外せないよね!」

 

「あ、それ分かる〜! 衛宮先輩って同じ学年の先輩と比べても大人っぽいよね!」

 

「そうそう! 穏やかだし、気遣い上手だし、とにかく紳士的って感じ。そこらの男子が子供に見えちゃうわね」

 

そんな調子で続いてひたすら黄色い声が響いたのはよく覚えている。あの時の女子たちの話と照らし合わせてみる…。

 

まず"穏やかさ"__________

 

初めて衛宮と知り合ってからまだ短いが、第一印象と今回の出来事を通して基本的に落ち着きがある性格だと分かった。何となくではあるが声を荒げたり、周りの男子のようにはしゃぐ姿が想像できない。

 

次に"気遣い"__________

 

この点に関してはカルデアで料理を振舞ってくれた時に確認できた。オレたちがそれぞれリクエストした品を出しただけでなく、特に希望がなかった斑鳩に好物に限りなく近いものを用意した。あれだけ手間のかかる料理でありながらよく作れたものだ。

 

最後に"紳士的"__________

 

これは今回の出来事でよく分かった。ゲームセンターの前でオレたちが事情説明した時、ざっくりとあのぬいぐるみを取ろうとしたとしか言ってないのに自分は指示だけ出すことに徹して操縦をオレに任せた。おそらくこっちの様子を見てオレの手で渡したいのを察したのだろう。…だとしたら大した推察眼だ。

 

__________なるほど、人気があるのも頷けるな。

 

あれだけ美徳があれば女子が騒いでも不思議ではない。後で飛鳥から聞いたが、衛宮は学校でもよく備品などの修理を引き受けているらしい。随分とお人好しな人物だ。

 

ただ、どうやら衛宮に関してその女子達でも知らないことを1つ知ることができた。それは衛宮がかなりの釣り好きだと言うことだ。

 

この前、カルデアで振舞ってくれたスルメイカの天ぷら…、あの時に使ったイカは自分で釣ったものらしい。なんでも商店街の伝手で漁の手伝いをする機会があったしく、その時自分で釣ったものを無料で譲ってくれたとのこと。その話をしていた時、衛宮の表情が楽しそう見えた。

 

………これを知って少し得した気分になるのは何故だろう?

 

 

 

 

 

 

オマケ

 

「……ふむ」

 

自室で衛宮からもらったぬいぐるみを見る。まさかイカのぬいぐるみなんてものがあるとはな、需要があるのだろうか?

 

しかしぬいぐるみなどオレの柄ではないが、コイツに限っては…

 

「…悪くない」

 

しばらくぬいぐるみを見た後、タンスの上に置く。

 

それにしても雲雀は本当にあのぬいぐるみが良かったのだろうか? 確かに色とりどりのぬいぐるみの中で黒いうさぎというのは珍しい。しかし、あのウサギ…なんと言えばいいのか……デザインがどう見ても…

 

「…腹部分から臓物らしきものが出ていたな」

 

…ああいうのが可愛いのか? …オレには分からないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




作者カルデアにて__________

メアリー「さて、何故ボクたちが出張ってきたか分かってるよね?」

……投稿がまたもや遅れたことに対するお仕置きもとい、折檻です。

アン「よくお分かりのようで何よりですわ」

…お仕置きはいいのですが1つ言わせて下さい。

メアリー「なに?」

……人数多すぎないですか?

士郎'sカルデアの女サーヴァントたち(ゾロゾロ)

メアリー「あー…、まあ気にしないで」

まあ、いいですけど。お仕置きは出来れば利き手が使えなくなったり、死に至るようなものは勘弁して下さい。

アン「死ぬって…^_^;」

メアリー「その辺に関しては心配しないで、作者が仕事やらボランティアやらで忙しかったのは知ってるから」

…気遣い、痛み入ります(T ^ T)

メアリー「そこで1つ、作者に提案がある」

提案…ですか?

メアリー「担当直入に聞くけど…作者、この作品の幕観劇を書こうか考えてるんでしょ?」

っ! 何故それを!?

アン「もちろん、作者カルデアの協力者から聞きましたわ。そうですわよね?」

ジャック「うん! おかあさんがおへやにいたときにひとりごとでいってたよ」

ジャックぅぅぅぅううう!?

メアリー「今回のお仕置きは一瞬で済むように加減するよ。その代わりに…」

か、代わりに?

メアリー「……ボクたちとシロウのお話を最優先に書いてもらいたいんだ」

士郎's女サーヴァントたち「「「「!!?」」」」

アン「濃密なひと時をお願いしますわね♪」

メアリー「そうだね、またシロウになでなでしてほしいかな」

イシュタル「ちょっと待ったーー!!、それ明らかに抜け駆けじゃない!!」

アン「あら、でもこういうのは早い者勝ちですし」

ブーディカ「あ、じゃああたしもお願いしようかな♪ できれば膝枕してあげてる時にそのままの流れでって感じで」

静謐「あの…私も……」

やいのやいの…

…どうしよう、正式に決まったわけでもないのに話が膨れ上がってる。

マシュ「失礼しますね、作者さん」

ああ、マシュ嬢ですか。

マシュ「はい、皆さんはヒートアップしてますので僭越ながらお仕置きは私が担当しますね」

ですよねー(T ^ T)

マシュ「それでですね…、ぜひ私と先輩のお話を…」

立花「マシュ〜、抜け駆けはだめだよ?」

り、立花嬢まで来てましたか^_^;

マシュ「あ、すみません! そのつい…」

立花「士郎さんとのお話を書いてもらう時は2人一緒に、だからね。というわけでよろしくね! 作者さん」

…はい、善処致します。

マシュ「では、早速…」

あれ? ちょっと待って、マシュの得物って盾ですよね? それでどうやって一瞬で済ませるの?

マシュ「お任せ下さい! 今や私の中の英霊のおかげで大分力を扱えるようになりました。盾による峰打ちもマスターしましたから」

やめて!! それって余計に拷m…!

マシュ「マシュ・キリエライト、行きます!!」


__________僕は最後に…

__________頭上から迫る盾と…

__________分厚い鉄板が衝突する鈍い音と…

__________頭が潰れるかと思うような衝撃と共に…

__________意識を閉ざした。

………途中で肉が潰れるような音が聞こえたのは気のせいだと思いたい。








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本当に大事なコト

皆さんお久しぶりです!! 久々の投稿がやっとできました。ただ内容をまとめるのに手間取ってしまい文字数が8000字以上になり記録を更新してしまった^_^; 長ったらしかったらすいません。ではごゆっくりどうぞ…。


「うう〜、どうしよう…。やっぱり見つからないよ〜」

 

至極困った声でそう呟くのは半蔵学園忍学生が1人、雲雀である。何やら落ち着かずに隠し部屋の中をウロウロとしている。そんな調子で右往左往していれば嫌でも目につくものだが、あいにく今はほとんどの仲間は出払っていた…1人を除いて。

 

「雲雀ちゃん? どうしたの?」

 

…飛鳥である。

 

 

ウサギっ娘、説明中__________

 

「ええ!? 巻物を落としちゃったの!!?」

 

「う、うん」

 

雲雀の失敗に飛鳥は驚愕を示す。以前説明された通り、彼女たちの言う巻物、秘伝忍法書はいわば鍵である。もちろん日々鍛えている彼女たちならばそのままでも戦えるがそれが通用するのはそこらのチンピラ程度である。同じ忍が相手となると分が悪い。

 

「どうしよう、飛鳥ちゃん。このままじゃ…」

 

泣きそうな顔で問いかける雲雀。そんな表情を向けられた飛鳥は見過ごすことなど出来るはずもなく…。

 

「…大丈夫! わたしに任せて雲雀ちゃん。巻物を探してきてあげる!」

 

不安げな雲雀を安心させようとやる気に満ちた顔で応える。

 

「え、でもそれじゃ飛鳥ちゃんに迷惑かけちゃうよ!」

 

「迷惑なんかじゃないよ、大切な仲間のためだから」

 

飛鳥の力強い応えに雲雀は一筋の光が差し込んだ様な想いに満ちた。だが、同時にある疑問も湧き上がる。

 

「(…本当にそれでいいのかな?)」

 

このままいけば飛鳥は快く引き受けてくれるだろう、でも自分は? 大事な仲間に巻物を探させておいて自分はただここで待つだけなのか?

 

話は変わるが雲雀は忍学生の最年少の1人だ。そして彼女はその中でも輪を掛けて精神が些か幼い。そのせいかどこか"甘え"が目立ってしまい、仲間を第一に頼ってしまう傾向にある。もちろん仲間に頼ってはいけないわけではない…しかしそれもいき過ぎれば一種の依存に変わってしまう。

 

雲雀という少女は頑張り屋でやる気もある生徒だ。しかし、いかんせん"精神"がまだ弱い。どれだけ肉体が強くても心が折れてしまえば意味をなさない。故に…。

 

「…やっぱりダメだよ、飛鳥ちゃん」

 

「雲雀ちゃん?…」

 

「巻物を失くしちゃったのは自分のせいなのに、飛鳥ちゃんだけ行かせるなんてできない」

 

小動物のような、それこそウサギのように気弱な女の子はその目に活力を滾らせる。内から湧き上がるのは変わろうという"意思"。

 

「だから…、雲雀も探す! 2人でならきっと見つかるよ!」

 

踏み出したその一歩…いや、下手したらほんの半歩ほどかもしれないがそれでも確実な前進である。たとえそれが僅かな進みだとしても…。

 

「…うん! 一緒に行こう、雲雀ちゃん!」

 

"仲間"が応えるには十分だ。

 

 

 

________________________________________

 

商店街にて…

 

「…ふぅ、こんな所かな」

 

ここは商店街に居を構える精肉店。この店は士郎が個人だけでなく店の買い出しにおいても贔屓にしている所であり、必然的に店主やその奥さんとも顔馴染みなのだ。さて、実の所士郎は買い出しのためにここにいるわけではない、では何故いるのか? それは…。

 

「ウチの備品を見てくれて、本当にありがとうね 士郎ちゃん」

 

「いえ、時間はありましたので気にしないで下さい」

 

そう、修理である。曰く、コロッケなどを揚げるための機械が最近調子が悪いらしく業者もすぐには来れないからと士郎に頼み込んだのだ。

 

「応急処置はしましたが、一応業者の方に相談して新しいのに買い換えることも考えた方がいいかも知れませんね」

 

「そうね、気づけば長いことこき使ったからそろそろ潮時かと思っていたし。そうするわ」

 

自前の道具を片付けながら肉屋の奥さんと雑談に興じる士郎。余談だが士郎は商店街の住人とは交友が広く必然的にその繋がりで知り合ったりする者も多い。例えば…。

 

「ごめんくださ〜い、って士郎さん!?」

 

「あら、いらっしゃい。おつかいかしら?」

 

「う、うん お母さんに頼まれて。それとこんにちは士郎さん」

 

「ああ、こんにちは」

 

入店してきた客は中高あたりの年齢でショートボブの黒髪が印象的な少女。実はこの少女、一時期成績が芳しくなく塾に通おうかと母に相談した所、士郎に家庭教師を頼めないかとお願いされたのだ。

 

短い間ではあったが教わった甲斐あって見事成績アップに成功して今もなお、それを維持し続けている。ただそこまでの道のりが非常に険しかったらしく、勉強を教えてる時の士郎は普段と違い、結構厳しかったのだ。

 

だがそれも無理からぬこと。この士郎、カルデアに来る前まではとある魔法使いの下で修行していたのだ。曰く、「ワシの弟子なら知識面も鍛えねばならん」とのたまって勉強という名の苛烈な虐めを強いられた。体育会系らしい勉強方で一問間違えればまず拳骨が振り下ろされる…ただし魔力強化された拳で。また間違えれば今度は遠坂やルヴィアを足した様な威力の魔力弾で狙い撃ちにされる……それも全部急所狙い。挙げ句の果てにはテストが合格点に届かなかった時は宝石剣による制裁………言うまでもなくて大斬撃である。

 

と言った風に知識を詰め込めるだけ詰め込んだ結果、士郎は学園でもトップクラスの成績を収めた。とはいえ流石に士郎は同じ様な方法ではなく自分なりに効率的な勉強方を模索して、且つ本人にやる気と向上心を持たせる方針で指導したのである。

 

「この間は本当にありがとうございました」

 

「俺はあくまで手解きをしただけさ。最後は本人の頑張り次第だからな」

 

「それでもです。士郎さんに教えてもらわなかったら危なかったし」

 

「そうか、まあお役に立てたなら何よりだ。それというまでもないと思うが継続のためにも日々の勉強も怠らない様にな」

 

「もちろんです! あ、あの…士郎さん」

 

元気快活な挨拶と打って変わってしおらしい態度で切り出してきた少女に士郎は先を促す。ちなみに少女の顔は不安ながらも若干赤らんでいる。

 

「どうした?」

 

「その…受験の時期になったら、また教えてもらっていいですか?」

 

身長の関係上、必然的に見上げる形になる少女。年頃の女の子の上目遣いというのは大層破壊力のあるものだ。さらに赤い顔と潤んだ瞳が追加されればもはや抗いようがない。並みの男子であれば狼狽えながら、口をどもらせながらも了承を示すだろう。

 

…しかし!そこは百戦錬磨(爆)の我らが衛宮士郎。いろんな面(意味深)でそこらの男子をも凌駕する彼は動揺することなく、代わりに…。

 

「ああ、時間は限られるだろうがそれでもいいか?」

 

相手に安心感を与える様な優しげな、"天然の女殺し"の笑顔で快諾する。

 

「本当ですか!!?」

 

士郎の返事に少女は顔の赤さが増し、先ほどの不安など微塵に吹き飛ばしたかのような喜び顔を咲かせる。

 

………さて、読者の方の何人かはお気づきかも知れませんがこの少女も士郎に惚れたクチである。顔合わせの時からすでに好印象ではあったがあるトラブルの際、士郎に助けられたのをきっかけに距離を縮めて、あわよくば関係を深めようと日々頑張っている。

 

まあ要するに、また、である。

 

 

________________

 

「結構話し込んでしまったな」

 

肉屋のおばちゃんと教え子との会話を終え、帰路に着く士郎。自前の工具箱をぶら下げながら今夜の献立を考えていると視界の前方に人の集団が映る。身なりや座り方からして明らかに不良の部類に入る連中だろう。

 

しかし彼らは通行の邪魔をしてるわけでも、誰かしらに迷惑をかけてるわけでもない。士郎が気になったのは彼らではなく彼らが話している内容だった。

 

「なあ、これマジでなんなんだ?」

 

「何って巻物だろ。なんでこんな所に落ちてるのか知らねーけど」

 

「なんだっていいだろ? 質屋にでも売っぱらっちまおうぜ。丁度遊ぶ金がたりなくなったし」

 

不良集団の中の1人が妙に見覚えのある巻物を目線の高さに持ち上げながらぼやく。まさかこんな所にあるはずがないと思いながらも念のため手中の巻物に解析をかける。その結果…

 

「(はぁ、間違いなく秘伝忍法書の巻物だな…)」

 

当たって欲しくなかった予感が見事に的中する。何故、どうしてという疑問は一旦置いといてとにかく回収するために行動する士郎。

 

「あー、少しいいか?」

 

「あ? んだよてめー」

 

いきなり声をかけられた不良の1人は不愉快そうに反応する。内心、徒労に終わるかも知れないと思いつつも一応は話し合いから入ろうとする。

 

「すまないが、それは俺の知り合いのものでな。今友人達と総出で探していた所なんだ。返してもらえないか?」

 

「へっ わりーけどそうはいかねぇな」

 

予想通り不良は嘲笑うかのように引き渡しを拒否する。しかしそれだけでは飽き足らず…

 

「どうしてもってんなら条件付きで考えてやってもいいぜ?」

 

提案を述べようとする不良に大体察しがつくのかため息を付きつつも先を促す士郎。その顔は酷く呆れたものになっている。

 

「条件は何だ?」

 

「オレらさぁ、今小遣いなくて困ってんだよね〜」

 

「とりあえずサイフ出しなよ。そっから商談と行こうぜ」

 

あまりに…あまりにも予想通りすぎる展開。連中のニヤついた顔に

もはや反応するのも億劫になってしまった。

 

「はぁ…やめだ。これ以上はもう時間の無駄だな」

 

「あ?」

 

先ほどの仏頂面から相手を小馬鹿にするような表情へと変わり、挑発混じりに士郎は言い放つ。

 

「せめて拾った分の礼くらいは支払うつもりではあったが、質屋に持って行こうという戯けたセリフが出た時点で帳消し。貴様らにくれてやる金など一銭もない」

 

「あん? テメー…ヒトが下手に出てやったってのに、調子乗ってんじゃねぇぞ?」

 

士郎のセリフにこめかみにくっきりと青筋浮かべる不良。気弱い者なら萎縮してしまうその剣幕にむしろ鼻を鳴らして肩をすくめる。

 

「これはいけない、あの態度を下手と呼ぶなら常識以前に日本語から学び直した方が良さそうだ」

 

「スカしてんじゃねぇ!!」

 

集団の中の1人が痺れを切らして殴りかかる。意外なことに攻撃してきた不良の拳は伸びがよく、顔ではなく胴、つまり腰の入った中段突きを放ったのだ。突きは吸い込まれるように士郎の鳩尾に炸裂し、不良は会心の一撃にニヤリと笑みを浮かべる。

 

「おっと、言い忘れてた。オレ実は空手の有段者何だよね〜。しばらくはメシが食えねぇかもな」

 

「これで自分の立場ってヤツが分かったろ? つべこべ言わずに言う通りにしな。これ以上痛い目に会いたいってんなら話は別だけど」

 

嘲りの言葉と共にげらげらと笑う男たち。目の前の拳が刺さったままの士郎に自分たちの圧倒的な優位を微塵も疑っていない。しかし、腕に覚えがあるものが見れば一様に言うだろう……。

………彼らの目は節穴だと。

 

「…この程度か?」

 

「え?」

 

苦悶も呻きもなく、何事もなかったかのように語りかける様子に不良たちは唖然となる。

 

「空手の有段者と言ったか? だとしたら随分緩いな。それとも昇段試験のラインが低かったと見るべきか」

 

通常、人は鳩尾を打たれれば思わず蹲るほどの激痛を伴う。骨や筋肉などと言った邪魔なものが最も少ないため内臓に直接ダメージを与える。だというのに彼らの目前に立つ士郎は苦しそうな顔どころか息すら乱さずつまらなそうな目を向ける。

 

「…っ! ナメんなぁ!」

 

相手の底知れなさに恐怖を感じたのか、それを振り払うかのように乱撃を繰り出す。腹を集中的に狙った連打からの右回し蹴り、それはかつて不良が得意としていた技である…最も今はあまりの素行の悪さに道場から破門にされた身であるが。

 

「ハァ、ハァ…ど、どうだ!?」

 

「決まった! みっちゃんの必殺ラッシュ食らって無事なワケねぇ!」

 

みっちゃんと呼ばれた男の実力をよく知っているのか、今度こそ士郎が沈んだと集団の誰もが思った。しかし…

 

「……ウソだろ?」

 

視界に映ったのは食わない相手の倒れる姿ではなく、自然体のまま片手で渾身の蹴りを防いだ士郎だった。

 

「さて…もう十分か」

 

「は? な、なにを」

 

セリフの意味がわからず困惑する不良。そんな当人の様子に士郎は言葉を続ける。

 

「いや、正当防衛の条件を成立させたんだ。まさかと思うが何の意味もなく攻撃を受けていたとでも?」

 

返された返事に不良たちは戦慄する。つまり自由に動けるようにわざとこっちに暴力を振るわせたのだ。ただ、それだけなら怖くはない。相手が反抗しようが数で押せばだけだからだ。だが目前の赤毛の男は自分たちの最大戦力でも傷一つつけられないという事実が彼らを絶望させる。

 

「クソっ、クソっ! やってやらぁ!!」

 

もはや先程の威勢はカケラも無く、集団のうちの何人かがナイフを抜く。男たちの表情は恐怖一色に染まっていて歯を食いしばっていなければカチカチと鳴らしていたことだろう。それでも逃げずに反抗したのはなけなしのプライドのなせる技か。

 

「流石、往生際が悪いな。だが…」

 

ゆっくりと腰を落とし、両手を構える士郎。その構えはかつてのカルデアにて徒手戦闘の訓練をつけてくれた魔拳士のそれと酷似したもの。

 

「それを抜いたからには…覚悟はできているんだろうな?」

 

この日、男たちは初めてどうしようもないほどの力の差というものを体感した。

 

_____________________

 

 

「えっと、確かこの辺のはず」

 

所変わって、商店街を疾走する雲雀。学園で飛鳥と巻物を捜索することに決まった2人は早速二手に分かれて、1時間後に中央区で合流する手筈だ。今朝から訪れた場所の記憶を頼りに探してはいるものの一行に見つからず、すでに30分は経過していた。

 

「もしここにもなかったら、あとは飛鳥ちゃんの方にあるかも」

 

いよいよ飛鳥が探している区にあることを祈るしかないかと思ったその時、思案に暮れていた雲雀の目に自分が持っていたものと全く同じ配色の巻物が映ったのだ。

 

「あ、あれだ!」

 

ようやく見つけた歓喜と早く回収しなくてはという焦燥に駆られたせいかその巻物が誰かの手の中にあるとようやく認識する。本来、隠密を主とする忍びにとって自身の道具が一般人の目に触れるのはよろしくない事態だ。それが痕跡ではなく物的なものとるとなおまずい。

とにかく何とか説得して返してもらわなければと踏み出してようやく巻物を手にした人物が誰なのか気づく。

 

「衛宮先輩!?」

 

「ん? 雲雀か。急いでるみたいだが何かあったのか?」

 

 

_____________________

 

 

 

「見つかってよかった〜。衛宮先輩、拾ってくれてありがとうございます!」

 

「どういたしましてっと言っても本当に拾っただけだから礼を言われるほどじゃないが」

 

巻物が無事見つかり、一安心した雲雀は士郎と並んで中央区へと歩いている。士郎から巻物を返してもらってからは何度も礼を述べては謙遜で返すという状況が続く。

 

「しかし、飛鳥と2人で手分けしてまで探すとはよっぽど大事なものなんだな」

 

「は、はい…まあ」

 

尋ねるかのようなセリフに雲雀は曖昧な返事で返してしまう。実は大事な忍道具なんですなどと言えるはずもなく、かと言ってうまいウソも思いつかず言葉に詰まるという失態を晒してしまう。

 

「そうか、まあそれなら見つかって良かったな」

 

しかし、士郎は特に追求することなく前へと視線を戻す。巻物が何なのかと聞いてこないのは雲雀としては助かる。だが、先程明らかに言いにくそうにしていたのに全く関心を示さない態度が少し気になってしまう。…聞くつもりはなかった、なのに口が勝手に動いてしまう。

 

「あの…何も聞かないんですか?」

 

何をとは言わない。先程のやり取りから見れば何の事かなど分かりきっているのだから。

 

「ふむ…なら聞いたら教えてくれるのか?」

 

「え!? えーっと…」

 

またもや答えづらい質問にあたふたと慌て始める雲雀。視線が泳ぎ、口がどもりまくる様子は見ていて可哀想なほどだ。

 

もはや思考がショートしてしまうかというところで不意にポンっと頭に何かが乗っかる感触に気づく。上を見上げて見ればそこには腕があり、今現在頭に手を乗せられていることに気づく。そのまま髪が乱れない程度にわしわしと撫でられる。

 

「はわっ!…」

 

「冗談だ、そう慌てなくてもいい。誰しも言いづらいことの一つや二つはあるものだろ? なら無理に聞こうとは思わないさ」

 

困ったかのように笑いかける士郎にしばし唖然としてしまう。そんな雲雀の様子に士郎は慌てて手を引く。

 

「あ、すまない! 気に障ったか?」

 

機嫌を損ねてしまったかと勘違いし、謝罪を述べる先輩に雲雀は慌てて言葉をかける。

 

「う、ううん! 大丈夫です! ちょっとびっくりしただけですから……それに嫌じゃなかったし」

 

セリフの最後らへんは照れのせいか小さすぎて士郎の耳には届かず、顔を伏せてしまう。しかし、最初は赤らんだ顔が徐々に沈んだものへと変わり、ぽつりと呟く。

 

「わたしってダメダメだなぁ…」

 

「? どうした? 急に」

 

落ち込んだ様子の後輩に士郎は尋ねる。心配そうに問いかける先輩に雲雀は躊躇いながらも告げる。

 

「…えっとね、今回の事もそうなんだけど普段からみんなに迷惑かけてばっかりな自分が情けなく思えちゃって」

 

おっちょこちょいな所もある雲雀は学校でも忍道具を忘れたりなどして霧夜によく怒られている。そしてその度に助けてもらったり、庇ってもらったりと守られてばかりな自分の不甲斐なさを痛感してしまう。

 

「今日だってわたしが巻物を失くしちゃったせいで飛鳥ちゃんの手をわずらわせちゃったし…、1人じゃ何も出来ないんだなって」

 

「………」

 

悩みを打ち明けてくれる後輩に士郎は真剣な表情で耳を傾ける。言葉を聞くだけでなく、目の前の雲雀の落ち込んだ顔を見て、どう言葉をかけるか考える。しかし、深く考えずとも答えは至って単純だ。

 

「ふむ…、なら何でも1人で出来なくちゃいけないものなのか?」

 

「え?…」

 

返ってくる言葉に雲雀は鳩が豆鉄砲を食らったかのように惚ける。そんな様子に構う事なく士郎は続ける。

 

「確かに今回の事で飛鳥に迷惑を掛けてしまったかもしれない。けれど、飛鳥に頼るだけではなく自分も一緒に探すと決めたんだろう?」

 

「? う、うん」

 

士郎に言いたいことが分からず困惑する。

 

「そこで君が共に探す選択をしなかったらこうして見つからなかったかもしれない…そう考えることもできるんじゃないか?」

 

それは所謂たられば(IF)の話。確かに、もし飛鳥が巻物を見つけるのを待っているだけなら見つかることすらなかったかもしれない。仮定の話をしてもしょうがないと大抵の人は言うかもしれないが士郎からすれば案外バカに出来ない。何故なら彼はあらゆる特異点で"たった一つ"の出来事が変わったことで大きく変貌してしまった歴史を見て来たのだから…。

 

「それに失礼な言い方になるかもしれないが、少し勘違いをしているぞ?」

 

「勘違い…?」

 

「人間1人でできることなんて、限られているどころか案外少ないもんだ。だから誰かの力を借りて解決するんだ」

 

諭すように士郎は語る。それはかつて自分も言われた事。人理修復の旅で誰かを救うために体を張る彼にサーヴァントたちは一様にハラハラしていた。…そして一度それが度を過ぎてしまい、重症を負った。

 

その時はロマンとダヴィンチの一考で治癒に長けたサーヴァントがいたため命に別状がなく済んだが、仲間たちに多大な心配をかけしまったのだ。その事で謝ろうとみんながいる食堂に着いた途端…。

 

……立花から平手を食らった。

 

"どうして何も相談してくれないのか" "自分たちはそんなに頼りないのか" …ひとしきり怒鳴った後、立花は泣いてしまい慰めようと頭を撫でたり、抱きしめたりと色々要求されたが一応は収まった。

 

結果、ちゃんと仲間(みんな)を頼るようにと念を押されたのだ。

 

「重要なのは頼らないんじゃなくて、依存しないことなんじゃないか? ただ寄りかかるだけじゃなくて支え合って、乗り越えて、そして初めて人は成長するんだ」

 

 

どこか懐かしむ顔をしながらそう言う士郎は大人びており、実年齢より上に見える。その言葉に聞き入った雲雀は衝撃を受けた。

 

"飛鳥たち"に助けられるたびに雲雀は感謝すると同時に申し訳なさをいつも感じていた。やがてソレは蓄積していき、無意識にみんなの手を煩わせてはいけないと心の何処かで思い込んでいた。

 

けれど目の前の先輩は気に病み過ぎであり、杞憂だと断言する。

 

「支え合う……」

 

「そうだ、今回の事で助けられたと思うのなら今度は雲雀がみんなの力になればいい」

 

恩を受けたら恩で返す、それは誰もが知ってる当たり前のこと。けどそれはあまりにも当たり前過ぎて忘れがちな事。結局のところ雲雀は悩み過ぎてそれが見えていなかったのだ。

 

それがわかった途端、胸につっかえたものがストンと落ちるような気分になった。先程沈んでいた気持ちも今や見る影もない。

 

「これからどうやってみんなに返していけばいいのかな?」

 

「さあ、それはその時になってみないと分からないな。でも…」

 

再び大きくて優しい手が雲雀の頭に乗せられる。さっきとは違い、撫でられはしなかったがまるで包み込まれるような安心感を感じる。

 

「今は困ったり、苦しんでいる誰かのために何かしてあげたいと思っているだけで十分だ」

 

「…うん!」

 

優しく笑いかける士郎に雲雀は自然と顔が綻ぶ。屈託のない笑顔を取り戻した雲雀はすっかりいつもの天真爛漫で明るい少女だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




雲雀編終了!! さて、残るは後1人ですねぇ(^ν^)今回の反省で以降は2話に分けて書くことも考慮しようと思います。それでは皆さん、次回の投稿でまたお会いしましょう!

あ、ちなみに今回は珍しいお客さんが来ております。

「ふむ、ここが作者とやらの部屋か」

ようこそいらっしゃいました、書文先生。今回は前世で士郎の拳法の師匠としてご紹介させていただきました。

「珂々っ! 師というほどのものではない。儂はただ実践さながらの体で手合わせをしているに過ぎん。あとはあやつが勝手に吸収するだけよ」

いや、それでも士郎からしてみれば貴重な経験でしょうよ。

「かも知れぬな。さて、早速用を済ませるとするか」

おや、自分に用ですか? 何でしょう?

「なに、他のサーヴァント曰くお主は殺しても死なぬというらしいからな。ならば儂の拳で殺しきれるか試そうと思ってな」

なにそれ物騒。ってか死ぬに決まってるでしょう!?

「坷々っ! 逃げても構わんぞ、その方がやり甲斐がある」

俊敏に特化したアサシンから逃げられるワケないだろ!!?

「七孔墳血________」

いいぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁあああ!!!(生涯最速の全力疾走)

「_____巻き死ねぃ!!」




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想いはあの頃から…前編

皆さんお久しぶりです! FGO勢の皆さんはイベント消化しきってますか? 自分は今下総國攻略中です。今回はようやっと幼馴染ポジを勝ち取った飛鳥のお話です。初っ端から飛鳥の視点で始まりますのでどうぞごゆるりと…。あとタイトルから分かる通り、後編もあります。


「飛鳥ちゃん、どうかしたの?」

 

声をかけてくるのは同じ忍学生の仲間である雲雀ちゃん。わたしの様子がおかしいと気づいたのかお箸の先を口に咥えたまま首を傾げている。

 

今の時間はちょうどお昼時、みんなもそれぞれのお弁当を広げて隠し部屋で集まって食べている。だけどわたしだけ未だにご飯に手を付けずにボーッとしていたようだ。

 

「う、ううん なんでもないよ雲雀ちゃん」

 

「でも、さっきから全然食べてないし…何か悩み事でもあるの?」

 

心配かけまいと笑顔で笑いかけるけど、雲雀ちゃんには無理しているように見えたのか気遣わしげにしている。…そんなに深刻そうな顔をしてたかな?

 

「なんだなんだ? 悩み相談ならアタイたちも力になるぜ!」

 

「話すだけでも大分気が楽になりますよ」

 

「かつ姉に斑鳩さんまで」

 

同じ部屋で食べてるものだから当然あとの2人にも聞こえる。柳生ちゃんに至っては何も言わないが何事かとこっちを見ている。こうなってくると素直に話さないと大事になりそうだし、別段そこまで隠すことでもないよね。

 

 

幼馴染説明中________

 

 

「ほうほう、告白か〜。飛鳥も隅に置けないな〜知らないうちに惚れさせるとはやるじゃないか!」

 

「うちの学園の野球部といえば、最近目覚しい成績を挙げて今も活躍中だとか」

 

盛り上がるかつ姉とは対照的に告白した男子が所属する野球部の情報をおさらいする斑鳩さん。そう、今朝方登校中にわたしはある男子生徒に告白されたのだ。校門についていざホームルームへ向かおうとするタイミングで呼び止められ、いきなりの「好きです!」という言葉が飛んできた。

 

正直な話、わたしが告白されるなんて思ってもみなかった。し、した事ならあるけど……。とにかく、突然の出来事で思わず呆然としてしまい、ようやく意識を取り戻して何か言おうとしたらその生徒は顔を真っ赤にしながら走り去ってしまった。

 

____ちなみにその男子はなかなか返事がない状況の羞恥に耐えられずに走り去った事は飛鳥が知ることはない。

 

 

「んでんで? 返事はしたのか?」

 

「葛城、聞き方がオヤジみたいだぞ」

 

普段は寡黙な柳生ちゃんがなんだか積極的に話に参加しているところを見ると意外に興味深々かもしれない。雲雀ちゃんに至っては「ほえ〜、オトナだぁ〜」と頰に両手を当てて続きを待っている。助けるを求めるように斑鳩さんを見ても同じく結果が気になるのか真髄に見返してくる。

 

「その、返事はまだしてないよ。ボーッとしてるうちに行っちゃったから」

 

「なんだよシャイな奴だな〜、けど飛鳥としてはそいつの告白受けるつもりなのか?」

 

そう、みんなが一番気になってるのはそこだ。忍学生とはいえ花の女子高生、色恋沙汰には年相応に興味があるものだ。ただ、わたしはあの男子のことはよく知らない。短く刈り上げた丸坊主の髪型、健康的に日焼けした肌、この二点の容姿を持ったクラスメイトや知り合いに覚えはない。辛うじて分かったのはさっき挙げた学校名を刺繍した野球ユニフォームで野球部に所属していることくらい。

 

ただ、あのあとのホームルームでクラスメイトに話したら…

 

_「それって鈴木君じゃない? 野球部のホープって言われてる」

 

なんでも野球部のメンバーは全員髪を短く切ってはいるが丸坊主の頭は意外と彼1人らしい。学校内では期待の新人と噂され、現に歴代の野球部の中でも素晴らしい快進撃を続けている。

 

「これだけ戦績を上げてるなら、将来はメジャーリーガーか? かなりの優良株じゃないか!」

 

「メジャーリーガーは流石に大袈裟だと思いますが、確かに優良ですね」

 

「それで飛鳥ちゃんはどうするつもりなの?」

 

どうする…か。正直気持ちは嬉しい。けどわたしは彼のことについてはほとんど何も知らない。それでじゃあ付き合いますなんて言えるはずもない。それにわたしには既に心に決めた人がいる。

 

「あのね________」

 

わたしの返事に期待する4人に自分の答えを明かす。もちろんその結論にみんなは驚愕と不満を示したがわたしはこれでいいと返す。

 

_____わたしだってそれだけ本気なんだから。

 

 

________________________

 

 

「はぁ、はぁ、……フゥー」

 

日課の修行を一通り終えて小休止を入れる。ここは近所の裏山、わたしが自主トレーニングに使っているお気に入りの場所だ。毎日欠かさず自宅からこの山まで走り込み、次に手裏剣術や歩法の練習に入る。

 

「よいしょっと……」

 

心地よい疲労感を感じ、近くの木に背をもたれさせ座り込む。そしておもむろにポケットから財布を取り出す。トレーニングに財布を持っていく人はあんまりいないけどわたしはこの財布を持ち出すのも日課なのだ。正確には財布ではなく、財布の中のものだけど。

 

財布を開くと中には一枚の写真が入っている。その写真には5歳くらいの男の子と女の子が写っている。何を隠そう、写っているこの2人は小さい頃のわたしと士郎くんなのだ。小さいわたしは満面の笑顔で士郎くんに抱きついていて、士郎くんは少し困りながらも穏やかに笑っている。………こうして見ると同じ子供に見えないよ。

 

 

そんなことを思いながら初めて士郎くんと出会った頃を思い出す。あの時はじっちゃんのお友達、今ではよく見知っている顔の雷画さんが遊びにきていたのだ。その際に士郎くんも同行していたのだがじっちゃんと雷画さんが何やら大事な話をしていたので話が終わるまで2人で遊んでたな。

 

家の庭じゃ狭かったので公園へ遊びにいったわけだがここでちょっとしたトラブルがあった。偶然同じ公園でよくわたしとケンカしていた子が遊び場を占拠していたのだ。

 

当時のわたしは既に忍としての修行を受けていたので当然ケンカも強かった。少なくとも同じ子供には負けないくらいの実力はあったと思う。そしてみんなの物であるはずの公園を独り占めしていることにひどく腹が立った。それも当然だ、せっかく出来た友達と遊ぶのを楽しみにしていたのに目の前でその機会を奪われたのだ。

 

懲らしめてやろうと殴りかからんとした時、わたしの拳は止められた。振るわれずに終わった手を見たわたしの顔はきっと驚愕に染まっていたことだろう。何故ならその手を止めたのは目の前の意地悪な子じゃなくわたしの後ろにいた士郎くんだったからだ。

 

わたしの顔を見て何を言いたいのか分かったのか穏やかに笑いながら…

 

__「他のところに行こう、ここじゃなくてもあそべる場所はあるんだろ?」

 

__「しろうくん……、でも」

 

__「おれは気にしてないから」

 

 

怒った様子もなく、不機嫌な雰囲気もなく、本当に気にしていない顔でそう言った。あの時わたしはとても悔しい気持ちになったのを覚えている。士郎くんに止められなければあの男の子をやっつけるくらい簡単な事。でも、止めた士郎くんにわたしはまるで自分の実力を信用されてないような気がして悲しかったのだ。

 

でも、ケンカにならないように穏便に済ませた士郎くんの気遣いを無駄にしたくなくて渋々わたしは大人しく手を引っ込めた。

 

だが、わたしの様子に調子づいた男の子がいつも負けている意趣返しに…

 

__「へっ! ざまあみろ。わかったらとっととでてけよ!」

 

煽り文句を飛ばしながら近くに落ちてた石を拾ってあろうことか投げてきた。彼の煽りに完全に頭にきたわたしは飛んでくる石を投げ返してやろうと構える……が、石を見ていたわたしの視界が遮られる。

 

もはや考えるまでもなかった。石を投げたのは男の子、わたしはまだ動いてない、なら答えは一つ。士郎くんがわたしを庇って飛んできた石を掴み取ったのだ。

 

__「………」

 

__「…っ! な、なんだよ!?」

 

男の子を見る士郎くんの目は鋭く細まっていて、まさに獲物を狙う鷹のように相手を射抜いていた。その視線と迫力に男の子は本能的に恐怖を感じたのか先程の威勢は消えて後ずさった。負けじと睨み返そうとしているが弱々しく、士郎くんの眼光の十分の一ほどの気迫もない。

 

__「100歩ゆずって公園を一人占めするのはべつにいい…、けどじぶんの身勝手でおんなのこに手をあげることは…」

 

石を掴んだ手を正面に持っていき、小指からゆっくりと開いていく。指が一本、また一本開いていく度にサラサラと砂がこぼれ落ちていく。手が完全に開かれる頃には砂は落ちきって掴んだはずの石がどこにもない。

 

__「…おれがゆるさない」

 

士郎くんのセリフと共にあの子もわたしも理解した。あれは砂ではなく粉々に握りつぶされた石だったのだと。男の子はその様を見て完全に沈黙し、士郎くんはそれに構わずわたしの手を引きながら公園を後にしたのだった。

 

遊び場所を公園から裏山に変えて、川辺で座り込んでいたわたしは何となく問いかけた。

 

__「ねえ、どうしてあのときとめたの?」

 

詳しいことは分からなかったけど少なくともあの頃の士郎くんは周りの子達よりも力はあったと思う。なのに彼は力ずくで公園を取り返すことはせず自分から退くことを選んだ。当時のわたしはそんな選択をする理由が分からなくてどうしても聞きたくなった。

 

__「ん? そうだな、さっき言ったとおりあそぶなら公園以外でもできるだろ? だったらわざわざケンカまでする必要はないとおもったんだ」

 

確かに遊ぶだけなら他場所でもできる、現にわたしたちは裏山の川でこうして楽しんでいるのだから。そして士郎くんは「それに…」と言葉を繋げて…。

 

__「おとこならおんなのこを守るものだからな」

 

その言葉を聞いたわたしは何を言っているのか理解できなかった。ケンカが人一倍強かったわたしは周りの子に頼られることはあっても自分が守られる必要なんてないと思ったからだ。士郎くんの言い分にわたしは侮られたように感じてつい言い返してしまった。

 

__「…わたしはまもられるくらいよわくないよ!」

 

__「うーん、つよいよわいの問題じゃないんだ。…なんて言えばいいのかな…」

 

ふくれっ面になったわたしに士郎くんは困り果てながらも言葉を探す。

 

__「あすかがつよいのは分かってるよ、そこを疑ってるわけじゃない。でもいくらあすかでも無傷でってわけにもいかないだろ?」

 

__「それは…そうだけど」

 

__「それはダメだ。おれは公園であそべなくなるよりあすかが傷ついてしまう方がイヤだ」

 

そこでようやく理解した。彼はただ目的よりもわたしの安否を優先しただけ…。思えばわたしはムキになりすぎてそんなことにも気づかなかった…子供だから仕方ないかもしれないけど。

 

士郎くんのその優しさに触れた時、わたしはこの子と友達になれて本当に良かったと心の底から思った。……ただこの後、わたしはとんでもない不意打ちを食らってしまったけど。

 

__「それにあすかだってかわいいおんなのこだから、つまらないケンカで傷つくのはもったいない」

 

__「えっ…?」

 

思考が完全に停止した瞬間だった。女の子同士なら言うかもしれないけどあの年頃の異性からは聞かない言葉だ。

 

__「かわいい?…わたしが?」

 

聞き間違いかもしれないかのように尋ねるわたしに士郎くんはきょとんとした。それだけでなく、まじまじとわたしの顔を覗き込みながら…。

 

__「…うん、どこからどう見てもかわいいぞ」

 

今度は思考がショートした。未だに見つめてくる視線にわたしは目を合わせられなくなり川の方へと逸らす。胸の内側から響く鼓動音と顔中に広がる熱に戸惑いながらも嫌な気がしないどころか心地良さすらあった。

 

…今思えばこの時からわたしは士郎くんに惹かれ始めたんだと思う。ただ、最初は自覚できずどちらかと言えばもっと彼のことを知りたいという気持ちが強かった。

 

__「そろそろいい時間だな。じいさんたちもはなしがおわってるだろうし、戻るか」

 

__「………」

 

__「あすか?…」

 

__「…あ、あのね! しろうくん」

 

…だからなのかこの時のわたしは大胆な行動に出たんだろう。うぅ、今思い出したら結構恥ずかしいよ〜。

 

__「てをつないでも…いい?」

 

__「? それくらいべつにいいぞ」

 

あっさりと承諾した士郎くんに対してわたしは妙に緊張したように差し出された手を握った。だってしょうがないじゃないですか! じっちゃんや両親としたことはあっても同い年の男の子と手を繋いだことなんてなかったんだもん!!……って誰に言い訳してるんだろ。

 

あの後、仲睦まじく帰ってきたわたし達をじっちゃんと雷画さん、そしていつの間にか帰ってきていた両親に出迎えられてみんなニヤニヤしていたのを今でも鮮明に覚えている。

 

士郎くんと雷画さんがそろそろお暇しようとした時にわたしが名残惜しそうにしていたのかお母さんがある提案を述べた。

 

__「そうだ、飛鳥 せっかく士郎くんと友達になれたんだし記念に写真撮らない?」

 

お母さんのアイデアにわたしは即座に頷き、早速準備に取り掛かった。おまけにお母さんってばいたずら心が働いたのか…

 

__「う〜ん、ちょっとイマイチねぇ。2人とももっと近寄って」

 

近寄るも何ももう肩が触れるくらい近いのにどうしろというのだろう? そんな迂闊なセリフを言ったせいで狙いすましたかのように続けた。

 

__「そうねぇ…飛鳥 、士郎くんに抱きついてみてくれる?」

 

__「え? こ、こう?」

 

__「うん! いい感じ、じゃあ撮るわよ〜」

 

以来、わたしはその時の写真をこうして忍ばせている。今も昔もわたしの大事な宝物なのだ。ただ、お母さんは写真を後生大事に持ってるのを知っているせいでたまに「あの時の飛鳥の笑顔はいつもより眩しかったわ〜」とからかってくることもしばしば……もう、お母さんのバカ。

 

 

いつだったかじっちゃんに話してもらったことを思い出す。わたしのお父さんがお母さんと一緒にいるために弁護士の道を自ら絶ってじっちゃんと寿司屋の道に進んだと。その話を聞いてからはわたしはほんのわずかに希望を持った。わたしもいつか士郎くんと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お疲れっした〜! でもまだ終わらんよ!!( ゚д゚) この幼馴染にはまだ後編が残されているゆえに。といっても展開上仕方ない処置なのですが( ;´Д`) では後編も頑張って書いてきます。うっ…なんか急に目眩が……あ…れ……?(バタっ)

???「「「………」」」


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想いはあの頃から…中編

皆さま、ご無沙汰です。…おかしいな、長くなりすぎないように分けて書いたはずなのに文字数が全く変わらない。おまけに二つに分けるつもりが三つになっている……なんで?( ;´Д`) 長くなりそうですがどうかお付き合い下さいm(_ _)m


所変わって、ここは半蔵学院の隠し部屋。 今日も元気よく修行に励む少女達に思わぬ来客が…。

 

「うぉ〜い、飛鳥 頑張っとるか?」

 

「え? じっちゃん!?」

 

前触れなく隠し扉から入ってきたのは忍であれば知らないものはいないとうたわれる服部半蔵その人だ。ただ、そのような偉人みたいな風格や雰囲気を出さずに陽気に笑っている。

 

「ご無沙汰しております、半蔵様。此度はお出迎え出来ずに…」

 

「あ〜、良い良い。霧夜よ 毎度そういうことはせんでいいと言っとるじゃろ」

 

かしこまる霧夜に半蔵は苦笑いで返す。しかし、それも無理からぬこと。忍界において半蔵という名は最強にして最高のビッグネーム。若かりし頃にも様々な伝説を残し、老いてもなおその名と実力を轟かせる人物なのだ。

 

「それでじっちゃん、今日はどうしたの?」

 

「なに、ちょいとみんなに差し入れでもしてやろうと思ってな」

 

そう言いながら半蔵は背中に背負っている風呂敷をちゃぶ台に広げてみせる。

 

「お前さん達昼飯はまだじゃろう? 良ければ食ってくれ」

 

中から出てきたのは飛鳥の大好物…太巻きだ。それも大量に用意してあるため、全員に行き渡るには十分。

 

「おお! 美味そうだ」

 

「この酢飯のツンとした香りがまたいいですね」

 

配られるご馳走に少女達の顔が綻ぶ。いざ実食とかぶりつくと皆一様にその美味さの虜となっていく。巻かれた具、酢飯の風味、そして海苔の香ばしさが一体となって見事にまとめられた一品。幼い頃からこれを食べている飛鳥は幸せ者だろう。

 

「おいしい〜♪」

 

「…はむ…はむ…」

 

対称的な反応でありながらも美味そうに柳生と雲雀が食べる中、飛鳥もにこやかに太巻きを頬張っていた。

 

食事がひと段落してみんなで食後のお茶でも入れようかとしたところで半蔵がもう一つ差し入れを引っ張り出す。

 

「まだ腹に余裕があるならデザートでもどうじゃ? と言っても和菓子じゃが」

 

「和菓子!? 食べます!」

 

メンバーの中でも大の甘いもの好きである雲雀がいの一番に反応する。スイーツであれば和菓子も洋菓子も問わないようだ。「遠慮せず食ってくれい」と出されたのは皿の上に乗せられた羊羹。しかしその羊羹を見た瞬間、少女達は皆言葉を失う…いや、見入ったと言った方が正しい。なぜならば…。

 

「キレイ…」

 

「コレは本当に菓子なのか?」

 

差し出されたのは小豆あんで作られた黒色ではなく澄んだ水色に彩られた羊羹だった。それだけでなく細かな細工技術で白いわた模様が施されておりまるで空に浮かぶ入道雲のよう。その芸術品とも言える和菓子はただ、ただ美しいの一言に尽きる。

 

「はっはっは、見てばかりじゃもったいないじゃろう。さあさあ、食ってみるといい」

 

なかなか手をつけない少女達に半蔵は催促する。躊躇気味にノロノロと手を伸ばすなか、飛鳥は意を決して竹串を手にする。

 

「じ、じゃあ…いただきます!」

 

緊張した面持ちで羊羹を切り分ける。分かたれた一切れは青空色から無色透明に近い色合いになり、見た目でも楽しめるようだ。…そしていよいよ菓子を口にする。

 

「…あむ!……っ!」

 

口の中に広がるのは優しくて、それでいてしつこくない甘み。その甘さは身体中にじわりじわりと広がっていくようで驚くほどに満足感がある。後味もスッキリしたもので不思議な暖かみを感じる。

 

「おいしいよ、じっちゃん! いつの間にこんなの作ったの?」

 

「いやいや、ワシでもこんな繊細なものは作れんよ。ソレを作ったのは士郎じゃよ」

 

「え? 士郎くんが!?」

 

長年士郎と過ごしてきた飛鳥は彼の料理の腕をよく知っている。和食、洋食、中華、お菓子という具合にリパートリーが豊富な上に味も一級品ばかり。ただ、一般的に家で作られる和菓子と言ったらどら焼きや団子、もう少し手の込んだものなら大福もあったりするが今食べてるものは専門店でしか売られてなさそうの一品だ。

 

「何でもとある特集で取り上げられたものを参考にできないかと言って作ってみたらしい」

 

「そうなんだ…」

 

作ったのが士郎と分かって飛鳥は胸に感じた暖かみに合点がいく。料理は愛情とよく言われるが飛鳥はいつも士郎の料理の暖かさに触れてきたのだ。もう一切れ食べた飛鳥はその顔を幸せそうに綻ばせた。

 

「(ニヤニヤ)」

 

「…な、なに?」

 

「いやはや、士郎も大したものじゃと思うてな。せっかくじゃからワシも腕によりを掛けて好物を用意したのだが…、やはり士郎の作ったものの方に軍配があがるか」

 

「そ、そんなことないよ! どっちも同じくらい好きだよ!!」

 

「はっはっは! まあ、そういうことにしてやろう」

 

意地悪そうに言う半蔵に飛鳥は「もう!」と不貞腐れる。だが愉快な御老はまだ追撃をやめない。

 

「うむ、しかしながら見事なものだ。うちもこう言ったものを取り入れるのも良いかもしれんな…」

 

顎髭をさすりながらまじまじと羊羹を見る半蔵。しばしして妙案が思いついたかのように手をポンと叩く。……本当に今思いついたのか怪しいものだが。

 

「そうじゃ!…飛鳥、士郎を婿に迎えてみるか?」

 

「え?…」

 

突然何を言われたのか理解できずにフリーズ状態に陥る。そんな状況が10秒ほど続いた後に再起動を果たす。飛鳥の顔は瞬時に真っ赤に染まり頭から湯気が登る勢いだ。

 

「じ、じじじじ、じっちゃん!? 何言ってるの!!? そんなこと……そん…な…の」

 

反論するも徐々に勢いが弱まっていく。現在飛鳥の脳内では士郎が服部一家に迎えられ、共に実家の寿司屋で働いてる姿が描かれる。

 

______祖父は引退して父が寿司屋を継ぎ、脇板としてサポートする士郎。母と自分は女将とその見習いとして共に店を切り盛りして日々を過ごす。

 

「……あ…ぅ……」

 

多少壊れながらも自らの脳内妄想に満更でもない顔の飛鳥。その要因となった翁はと言うと孫娘の羞恥様に笑いを堪えている。

 

ちなみにその様子を見ていた4人娘たちはと言うと…

 

「(…んー)」

 

「(…何ででしょう?)」

 

「(…理由はよく分からないが)」

 

「(なんだか…)」

 

「「「「(…おもしろくない…)」」」」

 

 

閑話休題…

 

「全くもう! じっちゃんってば」

 

「ははっ! スマンスマン」

 

デザートは無事完食し、まったりとお茶を啜る一同。祖父の揶揄いに拗ねた飛鳥はむくれつつも茶を味わう。

 

「所で飛鳥や…」

 

「なに?」

 

「最近とある男子に告白されたらしいな」

 

「え? どうしてそれを…」

 

言葉を途中で止める飛鳥。よく考えなくても自分も祖父も忍、諜報活動を主な任務とする彼らにとって情報収集など造作もない。それこそ身近なものの出来事も同様。

 

「それで? どうするつもりなんじゃ?」

 

オブラートに包むこともなく結果を聞いてくる祖父に飛鳥は若干辟易する。第一、飛鳥の答えなど分かっているものだからタチが悪い。

 

 

「告白なら断ってきたよ…」

 

そう、昨日飛鳥が裏山で鍛錬していた時に件の男子、鈴木と偶然会ったのだ。最初は尾けられたかと警戒した飛鳥だが何があったのか鈴木は相当慌てた様子で謝ってきたものだから彼女の方が唖然としてしまった。

 

鍛錬内容まで見られていなかったことにほっとしつつも飛鳥は気になっていた事を聞いた。そもそも何故彼は自分に告白したのか…、彼とは面識はないし知り合いでもない。それどころか同じクラスでさえない…、どう考えても告白される理由に心当たりがないのだ。

 

しかし出てきた言葉は飛鳥にとってあまりにも意外なものだった。

 

_____「一目惚れしたんだ!」

 

一目惚れ…、つまり彼は飛鳥を一目見た瞬間から好きになったのだ。…飛鳥からしてみれば自分はそこまで整った容姿なのかと疑問を抱いたが。(あなた十分美少女でしょうに…)

 

ともかく、ひとしきり話を聞いてから鈴木は告白の返事を貰えないかと促した。いよいよである…、飛鳥は戸惑いながらもあの日から考えてきた。もちろん、答えは決まっている…ただ鈴木の想いも真剣であるからには自分も真面目に考えたかった。

 

飛鳥と鈴木はとてもよく似ている。もちろん容姿がではなく、本質がだ。自分が祖父に憧れ、立派な忍になるため努力を欠かさないのと同じように、鈴木も相当な努力家だ。泥だらけのユニフォーム、地面に残った練習の跡、顔中に浮かぶ汗、どれも生半可な練習でできるものじゃない。

 

彼もまた野球に並ならぬ情熱があり、その道を走り続けるために頑張っている。そして、彼はそれが苦ではないかのように笑っている。当然だ、彼はその道を目指すと自分で決めて歩んでいるからだ。辛い時こそ笑って乗り越える、それは何よりも自身の力になるものだ。

 

______「あの…」

 

いい人だとは思う、ひたむきで、一生懸命で、自分の境遇が違えばもしかしたら付き合っていたかもしれない。…それでも。

 

「おれは…正義の味方になるのが夢なんだ」

 

…あの言葉を紡いだ人への想いは揺らがない。

 

______「ごめんなさい! 鈴木くんとは付き合えません…」

 

勢いよく頭を下げて断りの返事を返す。彼を傷つけてしまったかもしれないと恐る恐る顔を上げてみると…。

 

______「…そっか、……ありがとう 真剣に考えてくれて」

 

当の鈴木は怒るでもなく、悲しむでもなく、辛そうな表情を覗かせながらも笑って受け止めた。

 

______「…ごめんね、鈴木くんのこと嫌いな訳じゃなくて…」

 

______「いいんだ、…好きな人がいるんだよね?」

 

遮る鈴木の言葉に飛鳥は酷く驚いた。当然その事を教えた覚えはない、なら他の人から聞いたのかと問い質したところ…どちらでもない。彼曰く、なんと飛鳥が士郎との写真を見ているところを偶然目撃してしまったらしい。

 

______「誰が写ってるのかは流石に分からなかったけど…、その写真を見てる時の顔がすごく嬉しそうに見えてさ」

 

その時の飛鳥の顔を見た瞬間、彼はなんとなしに自分の恋は終わったのだと悟った。ただ、結果が分かっていても返事をきっちり受け止めるあたり彼も律儀と見える。

 

その事実を聞いた飛鳥の方はというと、割と恥ずかしい所を見られてしまったことに悶えそうになったがなんとか耐えた。

 

こうして告白の件は落着し、鈴木と飛鳥はお互いの自主練が終わった瞬間を機にそれぞれの家へと帰っていった。

 

______「飛鳥さん!」

 

______「…?」

 

お別れの際に一度裏山を去ろうとした飛鳥を鈴木は呼び止め、

 

______「…ありがとうごさいました!!」

 

試合でもするようにきっちりとした礼と声の張った感謝を述べる。すぐさまに走り去っていく彼を見て飛鳥は本当に気持ちのいい少年だとつくづく思ったのである。

 

 

「…って事があったんだ」

 

「ふむ…、そうか」

 

結果を聞かされた半蔵は驚くこともなくただ聞き入る。幼い頃から孫の恋心を知っていた彼にとって分かりきっていた結末なのだろう。ただ、今もなお想いが変わらない知った半蔵は一つ気掛かりがある。

 

「飛鳥や…、士郎の側にいたいと思っているか?」

 

「な、なに? 急に…」

 

まだからかうつもりなのかも身構える飛鳥だったが問いかけてくる半蔵の顔はいつものおちゃらけたものではなく静かながらも真剣そのもの。曖昧に答えるべきではないと悟った飛鳥は…。

 

「…うん、居たいよ。…わたしは、士郎くんの側に居たい」

 

「…そうか、ならばよく聞きなさい」

 

飛鳥の本気を感じ取った半蔵は一度眉を閉じて、再び孫娘を見据える。

 

「もし士郎と居たいと、支えたいと思っておるなら…()()を決めておくんじゃ」

 

「覚悟? それは忍のことを隠し通せってこと?」

 

半蔵の言葉に理解が及ばず聞き返す。将来のことを考えるなら隠すよりは話したほうがいいと思っていただけに飛鳥は困惑を隠せない。しかし問いかけた半蔵は急かすこともなく、

 

「いやなに、あ奴はあれで危なっかしい所もあってな…。時には無茶をせんよう、引き止めるものは必要じゃろう」

 

目を伏せ、お茶を啜る半蔵。祖父の言葉に何か隠されたものを飛鳥は感じたがそれが何かまでは分からず、押し黙ってしまう。そんな孫娘の様子に半蔵はニカッといつもの陽気な笑みを取り戻し…。

 

「まあ、今はワシが言ったことを覚えていてくれれば良い。いずれ分かるじゃろうからな」

 

結果として話題が有耶無耶になってしまい、釈然としない飛鳥。聞き出そうにもこれ以上の事は話してくれそうにない様子にひとまずは諦める。

 

「(じっちゃんが言った通り、いつか話してくれるよね…)」

 

 

__________________

 

 

半蔵side

 

ひとまず真面目な話は打ち切って、再びまったりと寛ぐ。些か納得のいかない顔をした孫がいるが追求してこないところを見ると納めてはくれたようだ。

 

「(この世界に身を置く以上、士郎の本質をその目で見ることになろう…)」

 

自らの親友、雷画が初めて士郎を連れてきた日を思い出す。相変わらずよく似合う和服と虎柄の上着、老いても衰えるこのない眼光。そんな見た目からも雰囲気からもカタギとは言えない気配を放つ我が友のとなりに並び立つ赤毛の少年。

 

______「久しいな、半蔵。それと今日は話のついでにこの子を紹介しようと思ってな…士郎」

 

______「初めまして、半蔵様。衛宮士郎と言います」

 

孫娘と同じくらいの年でありながら流暢な自己紹介と洗練された丁寧礼に驚かされたものだ。年齢に似合わず礼儀正しい、身もふたもない言い方をすれば背伸びがちな少年くらいにしか思っていなかったが、士郎が中学に上がったある日をきっかけに半蔵は士郎という人間を垣間見た。

 

______「俺を…雇って頂けませんか?」

 

言葉だけ聞けばワシは寿司屋での雇い話と受け取っただろう。しかし、裏の…忍の稼業のことであるといやでも分かってしまった。何故そのような経緯に至ったのか、それ以前にどうやって知ったのか、聞きたいことは山ほどあったがそれ以上に問いたいことがあった。

 

______「…士郎や、仮に雇ったとしてこれからお前さんが何をするのか"()()"しているのか?」

 

何を理解するのかは問う必要はない。長年裏社会に身を置き、あらゆる人間を見てきた半蔵の勘が告げている……目の前にいる少年は世界の裏側を見たものの目をしていると。

 

______「勿論、理解して(分かって)いるつもりです。…ですが、例えこの手が血に塗れたとしても……何も守れずにただ失うことだけはしたくない」

 

______「…お主が守るべきものとは?」

 

半蔵の問いに士郎は目を閉じる。士郎が守ろうとするものは今も昔も変わらない。冬木に居た時も、カルデアで過ごしていた頃も、そしてこの世界で(今を)生きているこの瞬間も…。

 

______「……俺の…"日常"です」

 

決意を秘めた確かな力を持った目。その中から見出したもの…それは狂人のいきとも言える信念。そしてその勘は後に確信に変わった。士郎の人を救い、守らんとする正義。他者の犠牲を許さず、自身の犠牲を厭わない狂気。

 

敵の罠に嵌った味方を救出する任務を依頼した時、士郎は救出にこそ成功したものの一歩間違えれば致命に至る重傷を負った。後に部下から聞いたところ、あの時の救出任務は敵方がこちらを誘い込むために人質を利用した罠だと知った。術中にはまった士郎はその際に傷を負いながらも突破に成功し、部下を無事に送り届けるに至った。

 

自分を真っ先に切り捨てる士郎に半蔵は日々心配を募らせる。

 

______「(このまま行けば士郎はどこまでも一人で進んで、一人で死んでしまうじゃろう)」

 

それだけは避けねばならない…、あの子は飛鳥の想い人だけでなくワシら一家にとっても近しい家族も同然。それに飛鳥たちがこの先強くなるためにも士郎の協力は必要不可欠。

 

______「(願わくば、飛鳥があやつを繋ぎ止める存在になってくれれば或いは…)」

 

 

 

 

………ふむ、しかし楔が一つだけでは足りぬやもしれぬな。ここは念を押しておこう…、まずは彼と連絡を取らねばな(ニヤリ)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでご愛読ありがとうございます、監禁室と思しき部屋で縛られている健氏朗です。最初は鈴木君の告白事件、次に飛鳥の独白と返事、残るは彼女とのファーストコンタクトです。なんとまあ、飛鳥のお話だけ随分と内容を詰めてしまいました。やはりこの世界は飛鳥の背中を押してるのかな?( ;´Д`) とにかく、飛鳥編完結まであと一息です、どうか皆さん気長にお待ちください。

おっと、どうやら彼女達がもどってきたようですね。


ガチャっ…

「「「………」」」

無駄ですよお三方、何をされようと吐く気はないぞ…夜這い三人衆!!

静謐「いえ、尋問してるわけではありませんので…吐くも何も」

いやぁ、前々から言ってみたかったセリフなものでつい…。

清姫「ですが、今回投稿されたお話について色々聞かねばならないようですね」

頼光「ええ、その辺りの事を詳しく聞かせていただきますよ、作者さん?」

は、はははは…、とりあえず何でも話しますんで命だけは何卒。( ;´Д`)

清姫「では、早速……何なのですか? あの飛鳥という泥棒猫は…」

泥棒猫って…、たしかに総合的な順番で言えば清姫さんの後に知り合った形になりますけど士郎が転生した後ですから。

清姫「旦那様は私の夫であり、私は旦那様の妻です。 愛し合う二人が再び結ばれるために転生なされた旦那様を横から掠め取るような輩は十分泥棒猫でしょう?」

いや、そもそもあなたと結ばれるためなら世界を渡ってないでしょう。

頼光「作者さん? 私の方からも申させていただきますが…」

アッハイ…

頼光「百歩譲って、相手があの虫でないのはいいです…。ですが! 母の許しなく交際など認めません!!」

いやいや! 転生したとはいえ、今の士郎は男子高校生何ですから女の子と付き合ったりするのは別にいけないことではないでしょう? それにほら、飛鳥みたいなコなら問題はないでしょ?

頼光「確かにあの飛鳥という娘は真っ直ぐな良い子です…。ですが! 我が子である士郎と交際するとなると話は別です!! せめて私に一太刀浴びせるだけの力量があって初めて一考の余地があるのです!!」

武力前提かい!! そして何という超絶ハードモード!!? なんつー無茶を言うんだ、この平安最強さん。

頼光「とにかく駄目です! 駄目なんですぅぅぅ〜〜〜!!」(びぃ〜!)

あ〜! 泣かないで下さい、もう…。こうなると静謐さんもですか?

静謐「いえ…、少し寂しくはありますが私のことを忘れずに触れていただけるのでしたら…構いません」

あらま、寛大ですね。まあそういうことでしたら心配ないでしょう(実際カルデアでは召喚したサーヴァントみんなに分け隔てなく接してるから大丈夫だろうなぁ…)

ちなみに自分はどうやってここまで拉致られたのですか?

静謐「私の毒を気絶する程度に抑えて、風に乗せました…。あとは三人でここまで運びました」

………そうですか。


………………ちなみに今はおさえていますか?(耳、鼻、目から血がダラダラ)

静謐「………あっ」(作者との距離ほんの1メートル)

…アアあアアぁ〜…、ドシャっ……



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想いはあの頃から…後編

皆さん、ホンットーにお久しぶりです。時間は掛かりましたが何とか投稿出来ました。改めてお待たせしましたm(_ _)m 寝ぼけ頭で書いた部分もあるので誤字などが目立つと思いますので良ければ指摘してください。では、どうぞ…。


時は下校時間。商店街のアーケード内はそこそこ人があつまりはじめ、その中には制服に身を包んだ学生たちが混ざり始める。小腹の空いたものは道すがらに飲食に勤しみ、ある女生徒たちが近くの喫茶店を目指して、遊び足りない男子はゲームセンターへと向かっていく。

 

「う〜ん、今日はなんだか人がいつもより多いかな?」

 

呟くのは忍ではあるが同じ学生の飛鳥。日課の修行を終えて商店街を覗いてみたはいいものの、先の通り人が割と多くごった返している様を見て少し驚いてるようだ。

 

「せっかく来たんだし、何もしないで帰るのは勿体無いよね」

 

人混みに揉まれるのはあまり好まないが訪れた商店街で何もなしというのも退屈である。どこかで甘味でもと思い、自身の財布に手を伸ばそうとしたところで思わぬハプニングが…。

 

「わわっ!!」

 

ドンッ!という音と共に体に衝撃か奔る。転ぶほどではないがそれでも軽くよろめくくらいの勢いだ。何事かと視線を横へ向けるとそこにいたのは1人の女生徒。

 

「おっと、ごめんね! ちょっと急いでたもんだから」

 

なんの変哲もない制服を着込んで軽く解釈しながらもいそいそと先を急ぐ。ちなみにスカートがかなり長めであることから不良の印象が強い。

 

「びっくりしたぁ…、よっぽど急いでたのかな?」

 

しかし、少々おかしな話である。言わずもがな、飛鳥は修行中とはいえれっきととした忍だ。気配を察知することに関しては心得がある。それこそ一般人相手であれば後ろを向いていても分かるほどだ。だが先ほどの女生徒は飛鳥の察知に掛からずに衝突したのだ…、まるで自分からぶつかりにいったかのように。

 

「…ん?、あれ!?」

 

思案を巡らせながらも再びサイフを確認した飛鳥はすぐさま違和感を感じた。

 

「ない… 、わたしのサイフがない!」

 

そう、所持金確認のために取り出そうとしたサイフがなくなっているのだ。もちろんサイフが勝手に消えるなんて現象が起きるわけもない、すぐさま先ほどの女子がスっていったという結論に至る。

 

「さっきの人、もしかして最近噂になっているスリ集団!?」

 

正確には盗賊団と名乗っているらしいのだが、今のご時世に自らを盗賊団と名乗るグループは中々いないだろう。側から見ればスリ集団と咄嗟に呼ぶのも仕方ない。

 

それはさておき…、件の女子がちょろまかした飛鳥のサイフの中に所持金は500円しか入っていない。はっきり言ってなけなし程度のお小遣いである。しかし、例え雀の涙でもお金はお金。飛鳥ならそう結論づけて取り戻そうと躍起になるだろう。

 

だが、忘れてはいけない…あのサイフの中にはお小遣いより何倍も大切なものが入っていることを。

 

「……写真」

 

そう、士郎と撮った思い出の写真。恋する乙女である飛鳥にとってあの写真は500円など霞んで消えるほど価値がある。故に、意図的でないにせよ奪ってしまった盗賊団のリーダーの末路は…。

 

「……わたしの写真………返してください!!」

 

………筆舌に尽くしがたいものとなった。

 

 

________________________

 

 

???side

 

久しく訪れる事のなかった商店街を今、ぶらついている。主婦や下校時の学生がアーケード内を行き交い、八百屋や魚屋の威勢のいい声が木霊する。

 

明日はいよいよ作戦の決行日。仕込み程度とはいえ手を抜く理由にはならない。そして今日は開始前に英気を養うということで暇をもらったわけだが何をすればいいのか分からないまま、とりあえず商店街を廻ってみようかと来たわけだが…。

 

「……めぼしいものはないな」

 

すこし覗いてはみたものの、興味を引くものは未だない。むぅ…、このままでは無駄足になってしまうな。他のみんなは今、何をしてるのだろうか?

 

「むっ!?」

 

探索してるうちにある一箇所に目が止まり硬直する。ソレを見つけた瞬間、体に電撃が走ったかのような感覚に囚われた。私の目に留まったもの、それは…

 

「ファンシーショップか…」

 

そう、この商店街では少し珍しいファンシーショップだ。他の店と比べると一味違う内装で古めかしい洋風な出で立ちをしており、アンティーク感のある棚の上にはメジャーなクマ、ネコ、犬、その他様々なぬいぐるみが置いてある。どうやら小物も扱っているようで中心辺りのテーブルには所狭しと並んでいる

 

「…少し覗いてみるか」

 

ま、まあ私も年頃の女子だからこういったものには多少なりとも興味はある。…自室で使ってる寝巻きも可愛いデザインのものもあるしな。…コ、コホン…とにかく! 店内へと入り、物色を開始する。

 

賞品のバリエーションがかなり豊かな上にそれぞれ素材もいい。手触りがクセになりそうなほどだ。しばらくぬいぐるみたちをモフモフしていると外から喧騒が聞こえてきた。

 

「騒々しいな、何か催しでもしてるのか?」

 

祭りをやるには少しな早いし、何より街の空気がその様な気配を発していない。モフっていたぬいぐるみを置いて店外へと出てみると…。

 

「待ちなさーーーーーい!!!」

 

「ひぃぃぃぃいいいいい〜〜〜〜〜!!!」

 

正しく追うものと追われるものというのが一目で分かる2人の女生徒たちがいた。追われるものと思しき女は両目から滝の様に涙を流しながら恐怖によってもたらされたような悲鳴をあげている。…見ていて可哀想なくらいだ。一方、追っている方はこれでもかというくらいの怒気を周囲に撒き散らして親の仇を見るような目をしながら標的を追いかけている…それも凄まじく速い、あと気のせいか背中に阿修羅が見えるような。

 

「はぁ…、私には関係ないことだが放って置いたら商店街がめちゃくちゃになりそうだな」

 

下手をしたらせっかく見つけたファンシーショップも荒らされかねない。…仕方ないか。

 

 

???side out

 

________________________

 

 

Side とある盗賊団リーダーw

 

どうしてこうなったのか? アタシは今その言葉をずーっと頭の中で繰り返している。本来ならこういう事態に陥らないよう細心の注意を払って行動している…、それこそ狙いやすそうな標的を定めて、逃走が容易なルートを確保して、最高のタイミングで実行に移る。

 

だというのに何がいけなかったのか、アタシは最悪の状況を招いてしまったようだ…、だってそうだろう?

 

「待〜て〜!!!」( ゚д゚#)

 

こんな鬼もアクマも逃げ出すようなヤツに追われるなんて誰が予想できるってんだい? それもこれもあの時コイツを獲物にしなければこうはならなかったのに!

 

_今に至る10分前…

 

「ふぅ〜、成功成功っと。いやぁ今回のはチョロいもんだ、それともアタシの腕が上がったのか? まあいいや、さっそく戦利品の確認と行きますか」

 

ガキがプレゼントを開ける瞬間とでも例えりゃいいのか、財布の中を見る時はいつも胸が踊るねぇ。さてさて、今回の戦利品はっと。

 

「…ん?」

 

覗き見ても念入りに探ってみても見つかったものは1つだけ。それを手に取り目線の高さまで持ち上げては溜息と共に呟く。

 

「500円……だけ?」

 

何とも拍子抜けな結果だ。そりゃまあ、大金を期待してたわけじゃないけどこれは流石に残念すぎる。さっきのヤツは貧乏学生なのかそれともたまたま金欠だったのか。

 

「ま、しゃあない。ワンコインでも収穫は収穫だ、気を取り直して次の獲物を…」

 

と歩き出す前に財布の中から紙切れ?のようなものが覗いていることに気付く。

 

「お? 流石にお札の一枚はあったか、それとも何かの割引券ってとこかな」

 

全貌を確認しようと引っ張り出さんとしたその時、

 

「見つけた!!」

 

背中から怒声をかけられて手が止まる。しかも声から尋常じゃない怒りが篭ってるせいか背筋がびくりと震えたよ。

 

「アンタはさっきのヤツかい、ってえことはコイツをお探しかい?」

 

挑発するようにスった財布をひらひらと見せびらかす。さっさと中身を抜いて返してやってもいいがそこは盗った者の意地だ。簡単には返さないさね。

 

「…拒否も言い訳も聞きません、わたしの大切なもの(写真)を返してもらいます!」

 

「おおう、問答無用かい? 強気だねぇ…、でも」

 

人差し指と親指を咥えて甲高い口笛を上げる。直後に商店街の脇道、物陰からぞろぞろと人が湧いてくる。身に纏うのはアタシと同じ制服そして手に持つ得物は様々に渡る。木刀、ナイフ、警棒、鎖、…ヨーヨーなんてものまである。……ちょっと最期のヤツは元ネタに走りすぎてないか?

 

それはともかく、あたしらは盗賊団であるからには1人で行動してるわけじゃない。当然、こういった事態も想定している。これだけ人数がいれば大抵のヤツは引き下がるがコイツは果たしてどうかね?

 

「さて、どうする? 見たところアンタは1人みたいだけど」

 

余裕たっぷりに言い放つアタシに女は答えない。だが、代わりに静かにゆっくりとこっちに歩いてくる。やれやれ、頭に血が上り過ぎて状況が分かってないのか?

 

「はっ…、ならしょうがない。アンタら相手してやんな」

 

「あいよ、姐御」

 

女の前にアタシの子分10人程が道を塞ぐ。1人相手に大袈裟な数だが念のためだ。たとえ格闘技に覚えのあるやつでもそうそう勝てまい。

 

「帰んな、お嬢ちゃん。今ならそのキレイな顔と身体が傷まずに済むぜ」

 

木刀でトントンと手を叩きながら最終警告を突きつける。だが威嚇行為も敵意の視線も効果がなく、歩くスピードはほんの少したりとも変わらない。

 

「ちっ…、バカが!!」

 

警告無視と取った子分はついに木刀を振り上げる。どうやら肩口に一撃叩き込むつもりのようだ。あの勢いなら痛みで膝をつくだろう。刀身が女の肩と接触しようとしたその時、

 

…突然、消えた。

 

何を言ってるのか分からないって? 言葉の通りさ、フッと消えたんだよ…まるで最初からいなかったみたいに。見失ったとも言うね。慌てて探そうかと思ったらすぐに女は見つかった。ヤツはいつの間にか子分の背後に立っていたんだ。信じられるか? 瞬間移動みたいなことをやってのけたんだぜ?

 

しかも当の子分はあの一撃から音もなく突っ立ったままで反応がない。しかし、それも白目で崩れ落ちることで終わる。

 

「てめぇ! 何しやがった!?」

 

仲間を1人容易く片付けたことから只者じゃないと知った部下たちは一層警戒を上げる。今度は3人掛かりで一斉に飛びかかる、同時である以上は当然1人しか対応できないため残りの2人に取り押さえられるだろう。しかし、それも希望的観測に終わり…ありえない光景を見た。

 

「「「…へ?」」」

 

……舞っていた。人が宙を舞っていた。3人とも同時に建物の2階ほどの高さを飛んでいた。あの3人には急に空と地面が逆さに入れ替わったように見えたことだろう。

 

「「「ぐぇっ!!!?」」」

 

そしてカエルが潰されたような悲鳴を上げて落下する。今の現象を引き起こしたであろう女は悠々と歩を進めながらもアタシから一切視線を離さない。

 

「ア、アンタら! 1人だからって舐めてかかるんじゃないよ!? 全員一斉に行きな!!」

 

唖然としてしまっている部下に檄を飛ばして指示する。今ここで気を入れてやらなきゃ確実に戦意を喪失するからだ。…いや、正直に言おう。アタシが団員を鼓舞している本当の理由はそこじゃない。本当は……。

 

………あの女の目を見てしまったからだ。ただの小娘かと思ってたヤツの目は如実に語っていた。

 

_____ニガサナイ(   <((●))> _ <((●))>  )

 

…と。

 

……こいつに捕まったらアタシの人生は速やかに終了される。

 

_______________

 

とまあ、こんな経緯でアタシは現在進行形で逃げ回ってるわけだ。え? その割には余裕があるじゃないかって? そんなわけないじゃないか、じゃあなんでこんなモノローグをぐだぐだ語ってるのか?そんなの決まってるだろ。

 

「現実逃避でもしなきゃやってらんねーんだよぉぉぉぉおおお!!」

 

バカか!?バカなのか!?バカじゃねーの!? バカに違いねえ!! どこの世界にコンマ1秒で10人の人間を気絶させられんだよ!? 今もこうして逃げながら子分をけしかけているのにアイツのスピードが落ちるどころかちょっとずつ速くなってんぞ!!?

 

「ア、アンタら! 行きな!!」

 

子分1「ヒャッハー!!」

 

子分2「汚物は消毒だぁーー!!」

 

子分3?「オレは天才なんだぁー!」

 

子分4??「オレの名を言ってみろぉー!」

 

子…分?「ヤロウ、ブッコロシャァアア!!」

 

飛鳥「邪魔!!」(紫電の如き速さの当身)

 

子分たち「「「「「あふん」」」」」

 

「おぃぃいいいい!!?」

 

使えねぇぇええ!! もう焼け石に水だ! どれだけの人数で掛かっても足止めにすらならねえって!! クソが! せめてあと2秒は持たせろってんだ!

 

チッ、また追いつかれそうだ。また呼びかけるしか…

 

「…あっ」

 

…もう部下は全滅してるわ。アタシとしたことが、今更気づいてしまった。いつも通りに冷静に行動してりゃもっと早く段階で手を打てたのに。

 

「あとはあなた1人だけです! 観念しなさい!!」

 

「チックショォォオオ!!」

 

もうこうなったら意地でも逃げ切ってやる! たとえこの両足が千切れようとアタシは生き延びてやるぞぉぉぉおおおおお!!

 

 

「待ちなさ〜〜〜〜〜い!!」

 

「ひぃぃぃいいい〜〜〜〜〜!!」

 

新たな覚悟を胸に逃走を続行しようとしたところで、不意に視界の端に人影を捉えた。ただの通りすがりかと過ぎ去ろうとした瞬間、視界が暗くなっていく。もう捕まっちまったのか……。アア〜セメテ痛ミナク殺シテホシイナァ。

 

盗賊団リーダーside out

 

____________________

 

 

「…何だ、この女? 気絶する瞬間、やけに生きる力を失くしたかの様な顔で倒れたぞ」

 

強く打ちすぎたかと懸念するも息はしていることから別の要因であの顔で倒れたようだ。それはもう死期を悟った老人のような顔だとか。瑣末な事は脇に置いて少女は盗人の手にある財布を抜き取り、飛鳥へと歩み寄る。

 

「ほらよ、お前のなんだろ? このサイフ」

 

怒りの形相で追跡していた飛鳥はひょっこり戻ってきた貴重品にキョトンとした顔になる。しかしすぐさまに礼を言うべく反応を返す。

 

「あ、ありがとうございます。取り返してくれて本当に助かりました」

 

サイフと共に帰って来た写真に安堵の顔を浮かべる飛鳥。最も少女が飛鳥のサイフを取り返したのは追われていたスリを哀れに感じてしまったのが原因なのは本人に知る由もない。……それだけ必死な顔をしていたのだろう。

 

「いや、私はあくまで通りすがっただけだ。礼はいらない」

 

「いえいえ、せっかくなので何か奢らせてください! 500円しかないけどその範囲内なら」

 

飛鳥という人間は明るく、活発で、誠実な女の子だ。自らを助けてくれた者を礼なく返すという事を良しとせず、自分にできる範囲で返そうとする。しかし、礼を述べられる少女はまるで眩しいものを見るような顔を一瞬覗かせた。

 

「…悪いが遠慮しておくよ。そろそろ戻らないといけないんでな」

 

尚も感謝を受け取らず踵を返す。

 

「あ、待ってください!」

 

「…?」

 

「わたし、飛鳥って言います。良ければ名前を教えてください」

 

そろそろ断るのが面倒になって来た少女は問答無用で立ち去ろうかと考えた矢先にいきなりの自己紹介。おまけに名前を教えてほしいとまで来た。本来なら教える義理はない、しかし名前を教えるだけで大人しく引いてくれるなら儲けものと割り切り、

 

「……焔だ」

 

短く、だが確かに名を教えた。それを聞き届けた飛鳥はいつも日向の様な笑顔を浮かべて言葉を続ける。

 

「焔ちゃん…。またどこかで会えたらその時こそは奢らせてください!」

 

そのセリフに少女、焔はボカンとした顔をするも次には「まだ諦めてないのか」と呆れ混じりな笑みを浮かべて再び背を向ける。

 

「どこかで会えればな、デカチチ女」

 

今度こそ歩き去る焔は商店街の歩道を進んでいく。その背中を見送る飛鳥は焔が現れた時を思い出す。

 

「焔ちゃんか…。さっきの動きは只者じゃなかった」

 

盗人とすれ違う際、彼女は音も、気配も、無駄な動き一つなく意識を刈り取った。ただの一般人にそんな芸当が出来るはずもない。出来るものがあるとしたら何かしら格闘を修めている者か、或いは自分と同じ…。

 

…と考えたところで飛鳥はハッと今更気付く。それは注意していればすぐに気づけた事、しかしサイフが帰ってきた安堵感に反応ができなかったのだ。しかし、今からでも遅くはない…飛鳥が次の瞬間に取った行動、それは…。

 

「デカチチ女じゃありません!」

 

…呼び方の訂正である。

 

………貴女十分にデカイでしょうに、何がとは言わないけど。

 

 

 

 

 

 




健氏朗です…、久々の投稿で少し疲れ気味ですが元気です。

健氏朗です…、次からは戦闘が多々あるので表現の練習を黙々としております。

健氏朗です…、自分は今_____

_____ヘラクレスと言う名の巨大な壁の前に座らされております。


作「………」((((;゚Д゚)))))))

ヘラクレス「………」

作「あ、あの…何の御用でしょう?」

ヘラクレス「(スッ)」(カンペ取り出し)

作「…?」

ヘラクレス「(今回、作者の投稿が遅れてしまったことに対して本来ならお詫びの罰として彼"ヘラクレス"を派遣しました)」

作「((((;゚Д゚)))))))」

ヘラクレス「「(ですが、忙しかった事と我らのカルデアでの作業もあったことを配慮して彼に贈りものを届ける様依頼しました)」

作「贈りもの?」

ヘラクレス「…」(スッ)

作「これは…、ボタン? 押せって事でしょうか?」

ヘラクレス「(頷く)」

作「で、では……」(ポチ)

デデ〜〜ン、作者〜ナインライヴス〜

作「はぁぁぁあああ!!?」

カンペ(貴方のカルデアが誇るサーヴァント一同からの贈りもの、それはやる気の注入です。これを機にじゃんじゃん投稿を頑張ってください♪ 大丈夫、貴方ならこれでも死にはしませんよ。

貴方の忠実なるサーヴァントより)

作「アホか!? やる気になる前に物言わぬ肉塊になるわ!!」

ヘラクレス「◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎ーーーーーー!!!!!」

作「ギャァァァああああああああーーーー!!!」Σ(゚д゚lll)


___作者部屋にて血と肉の破片が飛び散っており、描写できない有様になっています。お食事中の読者様には心よりお詫び致しますm(_ _)m



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蛇は迫り、影は迎え撃つ

皆さん、お久しぶりです。ようやく時間を見つけての投稿です。今回はいよいよ蛇女の襲撃編です。戦闘シーンを書くことのなんと難しいことか(;´Д`) それではお待たせしました! ごゆるりとご覧あれm(_ _"m)


現在時刻は午前の5時、早朝とも言えるこの時間帯の学校はまだ生徒もおらず静かなもの。仮にいるとしたら一早い出勤の教師か用務員くらいだろう。そんな静寂に満ちた校舎で見慣れないものが徘徊していた。

 

それは球体状の謎の物体だ。球体は宙に浮かびながらフワフワと飛び回り、所々でピタッと止まる。そのままじーっと静止しては再び動き出すという行動をひたすらに繰り返している。この場に誰かがいれば即座に通報もしくは報告されるであろうがあいにくと物体が飛び回る箇所は人が全くおらず、まるで自分の庭であるかのように飛び続ける。

 

何度目になるか分からない静止からまた動きだそうとした球体が今度は完全に停止した。……いや、破壊されたと言うべきだろう。

 

「やれやれ、用意周到だな」

 

声の主、士郎はそんなぼやきをこぼしながら手に握っている鎖を引き寄せる。同時に鎖の先端に繋げられた短剣が手元へと戻ってくる…球体を貫いたまま。

 

士郎が手にしている武器は釘状の短剣を鎖で繋いだもの。かつての仲間であるライダーのサーヴァント、メドゥーサが愛用していた武器だ。

 

「ふむ、思ったより早く行動に出たな」

 

手に収まった球体を呆れた目で見ては後ろへと目線を配る。そこには形状も色も全く同じ物がいくつも転がっていた。その全てには等しく、ゴルフボール大の風穴が開けられており機能を完全に停止されている。

 

この物体は忍道具の一つであり、主に偵察に用いられる物。特殊部隊が扱うドローンと似て非なる代物だ。状況を省みるにわざわざ学園を偵察するものの意図は限られる。勢力分析のためか、襲撃するための様子見か、…もしくはその両方か。どちらにせよ友好的な手段ではあるまい。

 

「はてさて、鬼が出るか蛇が出るか…」

 

衛宮士郎は未だ影に潜む…しかし、その鷹の目を常に光らせて機を待ち続ける。…自身の日常を守るために。

 

 

____________________

 

 

半蔵学園の隠し部屋にて少女たちは嫌に緊張した雰囲気を醸し出している。いつもは陽気な葛城でさえ表情が強張っている事から非常事態だと伺える。

 

「それは本当なの? 葛ねえ」

 

「間違いない、この隠し部屋を探し当てて記録を取っていたのが何よりの証拠だ」

 

ちゃぶ台の上に置かれた偵察機を睨みながら告げる葛城。

 

「…となると、いつ攻め込んできてもおかしくない」

 

「そうですね…。しかし迂闊でした、今に至るまで潜入に気付かないなんて」

 

斑鳩が渋い表情を滲ませる。この偵察機が正確にどれほど長く潜伏していたかは分からない。だが、学園の隠し部屋はあっさりと見つかるほど容易ではない。その点を見積もればこの部屋が判明するまで侵入を許したことになる。

 

「敵…、戦うことになるのかな…」

 

不安を隠せずにいる雲雀は無意識に手に力が入る。少女たちは一人前の忍になるべく懸命に己を鍛えてきた。そこに一切の抜かりはない。けれども、実質彼女たちにとってこれは初の実戦なのだ。それぞれが抱く感情は違えども、この事態に対する緊迫感はみな同じだ。

 

「でも、一体誰が…、っ!」

 

「っ! 噂をすれば、だな。来たぞ!」

 

飛鳥の疑問を遮るように気配が生じ始める。一部の場所が現世から切り離される独特の違和感。それは間違いなく、忍結界だった。そこからは飛鳥たちは脊髄反射の如く、弾けるように学園の外を目指した。

 

____________________

 

学園の校門から1人の少女が入り込む。生徒が学校に入ると言う行為事態は珍しくもなんともない事だが彼女の場合、普通とは逸する点がいくつもある。

 

その内の一つは少女の着ている制服が学園のものではない。この時点で彼女は他校の生徒であることが窺いしれる。そして女生徒はあろうことか武装していた。ナイフや木刀といったそこらのチンピラが扱うような生易しいものではなく本物の刀だ。それも一本二本ではなく、計7本の刀を背中に差している。

 

……極め付けは、常人では決して出せない鋭くも濃密な殺気が彼女から放たれていた。

 

「ほう…、来たか」

 

校庭に躍り出て来た飛鳥たちを視界に捉えた少女は好戦的な笑みを浮かべたまま語りかける。有無を言わさない気迫は容赦なく飛鳥たちにあびせられ、一般人であれば竦みあがるほどだ。

 

「お前…、何者だ?」

 

剣呑な雰囲気に晒されながらも葛城は己の内から湧き上がる闘争心を抑えきれず、獰猛な笑みが零れ始める。自他共に認める修行好きである葛城は己を鍛え上げることはもちろん好きだが、最近の彼女はもっと別のものを求めている。

 

…それは強者との勝負だ。

 

葛城は半蔵忍学生の中でも上位の実力を誇っている。しかし、それはあくまで5人の枠組みの中での話だ。本人としてはそんな狭い範囲で満足するつもりは毛頭ない。強い者と戦いたい、その果てに強くなってさらなる強者を…。

 

その一歩目になる強敵が今まさに目の前にいる。

 

「私の名は焔。 秘立蛇女子学院の忍学生だ」

 

女生徒から出てきた名に驚愕が走る。

 

蛇女子学院。暗殺、破壊活動、妨害工作を主とする悪忍を養成する学校…、いや組織と言ってもいい。存在こそ忍界では広く知られているが規模も戦力も、その組織の目的すら一切が謎だ。そしてそれ故に恐れられている、戦力差のある相手より未知の実力を持つ相手の方がよっぽど厄介だからだ。

 

「お前たちはこの学園の忍学生だな?」

 

確信めいた風に問い掛ける少女に一同は緊張に身体が強張る。武器に手こそ伸ばしていないものの、いつでも抜けるように、不自然に見えないよう構える。

 

「ちなみに惚けなくてもいい。分かっているだろうが映像は既に確認している」

 

誤魔化しの予防線を張られ、出鼻を挫かれる。ここまで来たらもはや衝突は免れない。…いや、葛城にとっては望むところだ。

 

「焔ちゃん…」

 

「! お前は」

 

強張った顔で焔の前に進み出る飛鳥。ほんの数日前に出会った少女が自分たちの敵、悪忍であることに未だに戸惑いを隠せない。

 

「なるほど…、身のこなしから只者じゃないとは思っていたが同じ忍なら納得だ」

 

「焔ちゃん、どうしてわたし達の学園を狙うの? 何が目的なの?」

 

問いかける飛鳥に場の緊張感が一気に強まる。屋外であるにも関わらず、人気を感じない静けさが支配する。そしてその静寂の中、焔は再び口を開く。

 

「…超秘伝忍法書を渡してもらおう」

 

超秘伝忍法書、各々の忍学園に存在すると言われる高位の秘奥が記された巻物。それだけに危険な代物であるため、封印という名目で学園によって管理されている。当然、はいそうですかと渡せるわけがない。

 

「いやだ…、と言ったら?」

 

もう我慢できないとばかりに葛城は前に出る。挑発の言葉から感じる圧力が、明らかに好戦的な目が、全身から溢れ出る剥き出しの闘気が今すぐにでも戦いたいと訴えている。

 

「当然、力ずくで奪うまでだ」

 

焔の応えに葛城は構え、いよいよ開戦するかと思いきや予想外の人物から止め入られた。

 

「待って、かつ姐! 焔ちゃんとはわたしが戦う」

 

飛鳥の言葉に葛城は驚愕の顔で振り向く。雰囲気からして飛鳥と焔は顔見知りなのだろう…だが、せっかく訪れた絶好の機会に譲ることもできずに答えに窮してしまう。そんな葛城の姿を見かねたのか介入者がもう1人現れる。

 

「そんなに戦いたいんやったら、ウチが相手になったる」

 

焔の背後から音もなく現れたのは緑色でショートカットの髪を持つ女生徒。進み出る動作は気だるげであり、やる気のない印象であるにも関わらず一部の隙も見出せない。

 

「…誰だ?」

 

「日影…、同じく蛇女子学院の忍や」

 

自己紹介をする日影に葛城は再び闘志を湧きあがらせる。もっと言えば日影の名よりも知りたいことがある。

 

「お前…、強いのか?」

 

そう、日影の実力の程である。ただの敵では満たされない、己と互角かそれ以上の存在でなければ意味がないのだ。

 

「強い…か、せやなぁ…少なくともアンタよりは強いかもな」

 

それは武に自信を持つ者にとって侮辱とも取れる言葉。無表情で言う姿は単に事実を言っているようにも見え、大抵の者なら神経を逆撫でされるだろう。

 

「いいねぇ…気に入った」

 

気分を害するどころかますます高揚する葛城。相手の態度は自信の表れでもあると受け取れる…ならば。

 

「じゃあ…、直に確かめてやる!」

 

互いの力をぶつけるのみ。

 

 

 

_______________________

 

 

結界によって人気のない校内を素早く、されど静かに走り抜ける。共に連れてきた部下共々察知能力を全開に広げながら視線を巡らせる。

 

「隈なく探しなさい、でも深追いは禁物よ」

 

「「「はい、春花様」」」

 

指示を飛ばしながらも捜索の手を休めない。今回の作戦はあくまで書の在処…その所在地の特定だ。外で焔が半蔵の忍たちを引きつけてる間に何としても突き止めなくては。

 

「(まぁ、欲を言えばここで奪っておきたいところだけどね…)」

 

ぼやきを胸の内に留めつつ、次のエリアの捜索に移ろうとしたその時…。

 

「っ!?、誰!!?」

 

濃密な殺気、それも周囲に撒き散らすような粗野なものではなく寸分違わず射抜くような鋭い殺気。それを敏感に感じ取った春花はクナイを抜き構える。部下たちは遅れたもののすぐさまに武器を手に持ち、春花が警戒を向ける方向へ集中する。

 

「ほう、流石は蛇女子の忍だな。気配の察知は一級品のようだ」

 

階を繋げる階段…春花たちから見て丁度陰になってる場所から人影が姿を現わす。

 

 

まず目に映ったのは赤…赤で染められたフードとマントで覆われた高めの背丈。対面した瞬間に見えたのは髑髏の仮面、在り来たりな表現ではあるがその様は赤い外套の死神に見える。

 

「こんにちは、半蔵学園の忍かしら?」

 

「さてね、ご想像にお任せしよう」

 

呑気な挨拶を交わしながらも構えを維持する春花。結界に入れる時点で答えは分かりきっているというのに茶番のような会話はなおも続く。当の春花はと言えばその間に目の前の髑髏の怪人を懸命に分析するが肝心の標的は体躯を外套で覆っていることと仮面を被っているため判別が難しい。

 

辛うじて分かるのは渋みのある声と外套から覗いている腕の筋肉から男性である可能性が高いと言うことくらいだ。とはいえ、それすら変化の術で誤魔化しようはある。

 

「出来ればこのまま見なかったことにして欲しいところだけど…、無理よね」

 

「ああ、すまないがこちらも仕事でね」

 

肩をすくめる髑髏仮面の返答に部下たちが前へと躍り出る。

 

「春花様! ここは我らにお任せを」

 

「 待ちなさい!」

 

春花の制止も虚しく得物を手に接敵する三人衆。彼らは春花より格下とはいえその実力は折り紙つきだ。ましてや3人の力を合わせての連携はお手の物である。

 

「任務のためだ、邪魔者は排除する」

 

冷酷に告げる下忍は小太刀を手に髑髏仮面へと斬りかかる。静かでありながらも正確に首筋を狙った太刀は男が半歩引き、スウェーバックする事で紙一重の回避に成功する。…だが。

 

「っ! ほう」

 

上体を逸らしたことで微量ながら意識が弱まった足元目掛けてクナイが飛ぶ。致命箇所ではないが十中八九毒が仕込まれているであろう凶器を避けるため、半歩から一歩に切り替えたバックステップへ移行するがまたしても邪魔が入る。

 

「捕らえたぞ!」

 

3人の中で最も距離置いていた部下が印を結び終え術が発動する。すると足元から突如大量の蛇が現れ、髑髏の片足に絡みつく。あまりに非現実な現象に蛇の正体が幻術であることに気づいた時にはすでに遅く、とどめを刺さんと頭上と背後に下忍2人が襲い掛かる。

 

「「覚悟!」」

 

しかしなおも男は焦りを一切見せない。髑髏…いや、士郎は既に頭に描いて置いた設計図通りに武器を外套の中で投影し、足元を始点に背後頭上をも狙った斬撃が放たれた。

 

「バカな!?」

 

吹き飛ばされた2人に術の発動者が代弁するかのように驚愕が露わになる。3人が披露した通り、彼らの連携はそれぞれ役割が課されて実行される。1人は接近戦と足止め、もう1人は飛び道具や小道具による撹乱、そして最後の1人は術を行使しての妨害と援護。

 

幻術での拘束が成功したら接近担当が、或いは2人がかりでトドメを刺すというのが彼らの戦法だ。通常、幻術に対抗する場合は同じ系統の術で解くのがセオリーだ。しかし対策もしていない相手が太刀の一振りで幻術を"斬る"など誰が予測できようか?

 

「隙だらけだぞ」

 

宙に浮かされた2人に士郎は短剣を投げ放つ。回避が叶わない下忍たちは当然己が武器で短剣を弾く決断を下すがすぐにそれが下策であり、士郎の狙い通りだと知った。

 

「ぬっ! うぉわぁぁ!!」

 

「なんだコレは!!?」

 

弾かれた短剣に続くように赤い布がそれぞれの体に巻きつき、たちまちに拘束した。赤布の名は「マグダラの聖骸布」士郎の知己、カレン・オルテンシアが所持している対男性拘束礼装だ。本来男性である士郎にこの聖骸布は操れないのだが、投影した短剣に結び付けて投げることで効果を発揮したのだ。

 

「何故だ!? 縄抜けができん!!?」

 

「力が…入らない……」

 

そしてその効果は世界が違っても絶大であり、本来なら拘束を抜ける技にも長けた忍の抵抗すら許さない。赤い蓑虫が二匹出来上がった所で士郎は残敵へと向き直る。

 

「下がりなさい…幻術が無効化される以上、勝負にならないわ」

 

「春花様…」

 

連携が要となる彼らでは髑髏の相手にならないと判断した春花は最後の一人を前線から下げ、部下二人の拘束を解くために当たらせる。

 

「歯ごたえがなくて退屈だったでしょう? 今度は私が相手をしてあげる」

 

口調だけは余裕たっぷりに聞こえるが、内心では冷や汗が出るのを精神で無理やり抑えている状態だ。たとえ実力差があっても自らの焦りを相手に知られてはならない。そんな事態になれば万に一つの勝機すら奪われてしまうからだ。

 

「実に光栄だ・・・。では僭越ながら相手をしよう」

 

幻術を斬った太刀を外套にしまったかと思えば、次いで白黒の双剣を抜き放つ。髑髏は左右の剣をだらりと下げて自然体で立つ。一見脱力しきった体勢の見えつつもその実、一部の隙も無く、むしろ気押されてしまうほどの気迫を感じる。その圧力に耐えながらも春花は自身のペースを保つ。

 

「私の名前は春花、貴方はなんて呼べばいいかしら? 流石に髑髏じゃ捻りがないわ」

 

「本来なら教える義理はないが、コードネームで良ければ名乗ろう。私の名は鉄心」

 

「鉄心・・・響き通り、重苦しい名前ね。でも覚えておくわ」

 

 

波乱の一日はまだ始まったばかり・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 




「・・・・・」

「ん? おやおや、これは読者の方々ですか。作者の部屋へようこそ、私は作者カルデアのサーヴァントが一人、パラケルススです」

「・・・作者ですか? 彼でしたらそこで再生途中の状態で執筆を続けてますよ?」

(作者、片腕ONLY状態)

「それにしても興味深いですね、あのヘラクレスに殺し切られたかと思ったらミンチ状態から自己再生するとは・・・我らがマスターはいったい何者なのでしょう?」

「まあ、それは置いておいて・・・報告を伝えましょう。当作品の執筆と並行する形で衛宮士郎の転生前の幕間劇を書く方針を決定しました」

作者「(マダ・・キメタトハ・・・・イッテナイ)」

「何か聞こえた気がしましたが、きっと気のせいでしょう」

「幕間もどうか温かい目で見守っください。きっと作者の励みになります」


「では皆さん、また次の投稿で・・・・、ふむ、やはり次の研究テーマは作者の不死身性についてにしましょうか?・・なんにせよまずは工房に運び込んでからですね」

作者「(タ・・・ス・ケ・・テ・・・・・)」



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その者、打ち破ること能わず

皆さん、お久しぶりです! 今回は戦闘オンリーなので士郎たらし成分は低めです。同時に一発目となる幕間も並行しておりますので今しばらくお待ちください。ではでは、どうぞ…


さて、ここで少し春花という人物について話そう。

 

蛇女子学園所属の3年生にして学院を代表する選抜メンバーの1人にして最年長者。実力はメンバー内では最高ではないものの思考が実に柔軟にして臨機応変。リーダーである焔が純粋に自力が強く、正面からでも相手を粉砕できるのに対して春花は戦術を巧みに駆使して相手を掌中に踊らせるタイプだ。

 

自作の絡繰人形、自ら調合した毒物や小道具の併用、そして虚を突くかのように放たれる体術。その戦い方故に同じ選抜メンバーである4人からも相手にするのは非常に厄介と言わしめる人物こそが春花という忍びだ。

 

……そんな彼女がまさか自分以上に戦術を使いこなす者に巡り会うとは露ほども思っていなかったが。

 

 

「やれやれ、いい加減ガラクタが増えすぎているな。このままでは足場がなくなるんじゃないか?」

 

目の前の正体不明な人物が仮面の下で軽いため息をつきながら平然と立っている。発言通り、周囲には大量の絡繰人形が転がっているのだ。外傷の違いはあれど、全て再起動不可能なほどに破壊されており、文字通りのガラクタと成り果てている。

 

「…好都合ね、そのまま身動きできなくなれば後が楽になるかも」

 

春花は今、ポーカーフェイスを保つことに全力を注いでいた。自分の用意した忍人形が軽くあしらわれ、攻撃の隙間を縫って撒いた毒も躱され、さらに不意をついたと確信した体術すらも捌かれた。これだけの攻撃を対処されたにも関わらず、目の前の髑髏は息を乱しているような素振りが見えない。

 

「(皮肉ね…、表情を隠してるこっちが疲れちゃうなんて)」

 

現に春花は精神的な疲労と相手側からのプレッシャーにより少しづつ焦りが滲み始めている。いっそのこと自分も仮面を用意するべきだったかとくだらない思考を巡らせながらも手は一切休めない。

 

「行きなさい!」

 

命令と共に士郎へと肉薄する人形4体。その内2体はそれぞれクナイと刀を煌めかせて命を奪わんと振るう。

 

「っ!!」

 

相対する士郎は慌てることなく二刀を以て迎え撃つ。振るい迫る刀を双剣で捌いていく。振り下ろされる刃に己が剣をぶつけるのではなく、相手の太刀筋に合わせて剣を添えてずらす。必然的に刀の軌道は士郎を捉えることなく通り過ぎる。金属の激突音に混じって摩擦音が響く中、クナイを装備した人形も攻め込む。

 

「シッ!!」

 

しかしこれもまた士郎の想定範囲内。剣による防御と並行して体術の要領で逸らす。突き出される手首を狙って肘で打ちはらい、または膝を使って部分的に破壊する。

 

前世において士郎はカルデアにて様々な英霊たちに稽古をつけてもらっては彼らの技を目に焼き付けて、脳内に動きを叩き込んできた。しかし当然ながら剣の才能がない士郎に霊長の頂点と言わしめられた英霊たちの動きを完全再現出来るはずもない。

 

だが完全ではないものの、限りなく近づけることは可能。そして常人よりも頑丈な体と不倒の精神を持つ士郎は才あるものでも体を壊してしまうような修行に耐えうる。故に彼は自らの目で見た英霊たちの技術を模倣し続けて、その上で習得した技術を織り合わせて戦えるよう自分を鍛え続けた。

 

その甲斐あって士郎は複数の敵が混在する状況の中でも戦い抜いて見せた。前世での戦闘経験も役に立ったのだろう。ちなみに士郎は己のサーヴァントの1人、ナイチンゲールが持つ人体理解のスキルをアイディアに効率よく人体を破壊する術を身につけるべく身体構造を学んだりもした。…そんな理由で教えを請うたと彼女が知ったら憤慨しそうだが。

 

「(…やっぱりダメね、けど…)」

 

3体目の人形は素手であるにもかかわらず、士郎から距離を取っている。その差は明らかに間合いの外だ。しかし、人形が拳を向けてきた瞬間…

 

「っ!?」

 

炸裂する射出音。

 

同時に飛来する鉄の拳が士郎の頭部を狙う。身をずらして干将で弾こうと行動を起こすがここで春花の仕込みの1つが発動する。

 

「チッ!?」

 

飛んできた拳は本体である人形と細いワイヤーで繋がっていたのだ。そのワイヤーが蛇のごとくうねり剣を持つ腕を縛る。無論、それだけでは終わらない。

 

拘束に成功した人形が逆の腕をも構え、隻腕になったクナイ人形が仕留めんと刃を突き出す。数に任せるのではなく、動きを封じた上での同時攻撃に出たようだ。

 

だが、状況を把握しきってからの士郎の行動は速かった。右手の白剣を逆手に持ち替えて巻き込むようにクナイを捌く。そのままクナイごと腕を極める事に成功する士郎、そして捉えた腕を人形諸共前へと立たせる。

 

「チッ、上手いわね…」

 

判断力と実行への速さにさしもの春花も舌を巻く。盾のごとく差し出されたクナイ人形は拳の鉄球により頭部を破壊され、その上ワイヤーの餌食となった。

 

「ハッ!!」

 

裂帛の気合いと共にクナイ人形は蹴り飛ばされ、同時に白剣"莫耶"をワイヤー人形に向かって投射する。剣は稼働中枢を正確に捉え、人形の無力化に成功。…とひと息つく間もなく振り向きざまに干将を構える。

 

2体の襲撃に失敗に怯むことなく刀人形が背後を狙っていたのだ。春花とてこの事態は想定していなかったわけじゃない、なにせほんの少し前までは縦横無尽に襲い掛かる人形をこの髑髏は悉く倒してみせたのだから。…故に策はまだ成っていない。

 

士郎の背後にある空間が突如歪む。

 

…いや、その歪みは徐々に人の形へと変わる。

 

刹那に士郎は背後の気配を察知する。現れたのは春花がけしかけた人形、その4体目だった。実はこの人形、春花が試作として作った代物である。以前より春花は自分の人形たちにさらなる改良が出来ないか試行錯誤する中ある案に到達した。

 

忍とは気配を断つことを基本とする隠密者。相手に察知されない事で有利な状況で戦いを仕掛けるのを旨とする。それを人形に利用できないかと考え付いたのだ。とはいえ、忍の技である透遁術は人にしか使えない。いや、人形ならば迷彩を施せばいいだけだが他にも問題がある。

 

それは"音"だ。人間と比べて人形はその精巧な出来の代償として駆動音がどうしても発生してしまうのだ。発生音を最小限に抑える事は出来るがそれでも目の前にいる戦闘者には判ってしまう。

 

_____引き合え、干将・莫耶______

 

手に握る干将を起点に手元から離れた莫耶を呼び寄せる。ワイヤー人形に突き立った白剣は士郎目掛けて飛び、そのまま迷彩人形の頭を貫く。…しかし、

 

「(っ!しまっ…)」

 

無力化された人形はカチリという音を鳴らし、煙を発生させる。刀人形はいつのまにか武器を捨てて士郎の拘束に成功し、逃げる事すら許さなかった。

 

たちまち煙はたちこもり、士郎をその渦中に捉える。対する春花は策が功を成した瞬間すらも油断をせず、神経を尖らせながら目前の紫雲を見据える。……そして、

 

「…なるほど、これが本命か」

 

拘束してきた人形をも破壊するに成功するも時すでに遅し。先ほどの煙は考えるまでもなく毒の類いだろう、唯一の救いは麻痺毒であることだろう。体こそは動かないものの、致死毒特有の苦痛は今の所ない。

 

「これでチェックメイトね」

 

不敵に笑みながら歩み寄る春花。だが、接近はしても最低限の間合いを保ちつつ警戒を緩めない。確実に捉えたとはいえ戦闘においてなにが起こるか分からないのだ。油断してやられるくらいなら警戒しすぎるくらいが丁度いいだろう。

 

「流石だな、精鋭を集めて攻め込んだかと思いきや…全て囮とは」

 

「罠は忍の武器の1つ、それを駆使して戦うなら二重や三重じゃ足りないわ。それこそ、幾重にも張って使うものよ」

 

言葉と共にクナイを投射する春花。しかし、クナイは士郎に命中することなく傍らに落ちていた剣を弾いて遠ざける。おそらく人形に対処するためだったのだろう、先ほど使っていた双剣の姿はなく内反りの刀がたたずんでいたのだ。

 

「次から次へといろんな武器を出すわね。どれくらい隠し持ってるのかしら?」

 

「手品のようなものさ。残念ながらタネは明かせないがね」

 

「あら、この状況でまだ余裕そうね。次はどんな手品を見せてくれるの?」

 

「では、君の助言を見習わせてもらおう」

 

動けない状態の士郎の言葉に春花は怪訝な表情を覗かせる。……次の瞬間、

 

「っ!!?」

 

視界の端に不自然な灯りを察知すると同時に空気を焼き尽くさんばかりの熱を感じた。最速で後退することでようやく何が起こったか理解する。春花が立っていた位置に眩く、朱色に立ち上る火柱がそこにはあった。もし、一瞬でも回避が遅れていれば間違いなく火達磨になっていただろう。

 

……だが、仕掛けはまだ終わりではない。

 

「なっ!?」

 

今度は地面から氷の柱が伸び始め、氷柱のごとく尖ったそれはくノ一を目掛けて襲う。さしもの春花もこれには驚きを隠せず更なる緊急回避を実行。かなり無茶な体勢で避けたため、隙を晒してしまう…そして_

 

「っ!? きゃぁああ!!」

 

さらに壁の方向から風圧の塊が無防備な忍に叩きつけられる。咄嗟に人形を呼び寄せてからの防御に成功する。…が破城槌でも打ち込まれたような衝撃に春花は後方へと大きく吹き飛ばされてしまう、当然ながら直接それを受けた人形は無残に砕けた。

 

「っ……、はぁ…はぁ…」

 

着地と共に未だに膝をつく髑髏を見据える。

 

「(重傷ではないけど、かなりダメージをもらっちゃったわね)」

 

再度警戒し、今度こそ仕掛けがないことを確認する。先ほどの風圧が決め手だったのだろう。ならばこれで終わりと詰みをかけるべく自らも膝をついたところから立ち上が……

 

「!! …どうして!?」

 

どうしたことか、ついた膝が動かない…いや、動かせない。それどころか身体中に謎の痺れが奔っている。覚えのある感覚に春花はなんとなしに自分の左腕を見ると

 

「…毒針」

 

腕に引っかかった釣り針のようなものを発見。これで確定だ、自分はまんまと毒を受けてしまった。

 

「驚いて貰えたかね?」

 

極め付けはこれだ。さっきまで毒で動けないはずの髑髏が悠然とこちらへ歩み寄っている。

 

「アドバイスの返礼にいいことを教えよう。罠は複数張るのは定石だが特に重要なのは派手なものほど陽動に利用し、地味なものを本命にするとより効果的だ」

 

春花を襲った現象、実はそれら全てスカサハ仕込みのルーン魔術である。自在にとまではいかないものの、物質に刻む系統のルーン魔術なら戦術の一つとしては使えるくらいには扱える。…スカサハ()曰くまだまだだそうだが。

 

真に恐るべきは設置したルーン全てはただの陽動でしかなかったことだ。あれだけ派手な魔術を行使していればたかが小さな毒針など容易に覆い隠せる。

 

そしてなぜ士郎は動けるのか? 実は毒霧を受けた直後、完全に動けなくなる前にある宝具を発動している。

 

剣の銘は布都御魂ノ剣____

 

日本古事記に記述された神器、かの草薙ノ剣に次ぐ霊剣である。かつては神武天皇がその剣を帯び、自らの軍勢が負った毒気を剣の一振りで切り払ったという。

 

今回は身に受けた毒を解除するために使用したのだ。さらに相手に剣を遠ざけさせることで油断を誘う一助にしたことは春花には知る由もない。閑話休題…

 

「…完全に負けね。自ら罠に掛かっただけなんて」

 

ここまで来ればもはや完敗だ。せめて実力を測って情報を持って帰ろうとするも、結局底も知れないまま。撤退を思案するが自分は毒で動けず、部下たちも謎の布に未だ捕らわれている。万事休す、もはやここから生還など絶望的だ。

 

死神が迫る…、じきにこの命は絶たれるだろう。せめてこちらの情報を渡さないよう自決するのが最善。意を決して自らの舌を噛み切ろうと行動に移そうとしたその時、髑髏から意外な言葉が出る。

 

「さて、そろそろ頃合いだろう。ここで失礼させてもらう」

 

「…えっ?」

 

ここまで自分を追い詰めた張本人はあろうことかトドメを刺さずに踵を返したのだ。流石の春花もこれには呆然。訝しげに表情を曇らせた彼女はこの状況に混乱せざるを得ない。

 

「貴方、何が目的なの?」

 

「今回、依頼されたのは侵入者の撃退と時間稼ぎでね。それ以外の事柄に関しては特に厳命されていない」

 

「理解できないわね、だったら尚更ここで侵入者を始末した方がよっぽど効率的なはずよ」

 

「考えの相違だな。こちらからしてみればここで君を殺しても面倒なだけだ」

 

____面倒。

 

あまりにも予想がつかないキーワードにまた呆気にとられる。面倒だから殺さないなんて言う裏世界の住人がいるとでもいうのか。何という冗談みたいな考え。…そんな人物に負けてしまった自分はどうなんだと思う春花は思わず己を笑ってしまう。

 

「向こうもいい加減()()()()が済んでいるだろう。そちらも離脱した方がいいのではないか?」

 

髑髏の言葉に含みを感じた春花。今回の襲撃、本来の目的は別にある…どうやらそれすらも見抜かれていたようだ。

 

(予想してはいたけど、やっぱりお見通しってわけね)

 

「はぁ、…降参。せっかく見逃してくれるみたいだし、今回は大人しく帰るわ」

 

「是非、そうしてくれ。できれば今後会わないことを願うよ」

 

「あら、それはどうかしら? わたしこれでも負けず嫌いなの。だから…」

 

毒で痺れる体に鞭を打ちながら髑髏に不敵な笑みを浮かべる。敵ながらその精神力には天晴れと言わざるを得ない。

 

「この借り…、必ず返してあげる」

 

「……ああ、楽しみにしていよう」

 

その言葉を最後に髑髏は背を向け、その姿を消す。

脅威が去った安堵感から春花は全身から力が抜けるのを感じる。力量差を明確に感じた上に向こうは本気ではなかった。当の春花は全力ではあったが自身の手札は全て切ってはいない。…とはいえそれを持ち出してもあの髑髏に勝てるビジョンは浮かばない。

 

「春花様!」

 

「お前達、拘束が解けたの?」

 

「はい、どうやらあの妙な布は奴の姿とともに消えたようです」

 

どう言う原理なのかあの赤い布は拘束した部下たちに一切の抵抗を許さなかった。それだけでなく戦闘中に取り出した武器の数々、正直厄介極まりない相手だ。

 

「春花様、如何なさいますか?」

 

「…撤退よ。特定の方は失敗に終わったけど、本来の目的は果たしたわ。十分でしょう」

 

「はっ!」

 

これから報告しなければと思うと気が重くなる春花。計画の大きな障害になりうるあの人物にどう対処すればいいか検討せればなるまい。未だに動けない春花に部下の1人が肩を貸し、残りの2人が先導する。

 

「(…作戦を見直さなきゃいけないわね。さて、みんなにどう話したものかしら)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やめろ、ショッカー! ぶっ飛ばすぞー!!

「HAHAHA! 何だねそのショッカーというのは。私はただの通りすがりの天才発明家さ!!」

通りすがりの天才がいきなり人を拉致って改造紛いなことしてたまるか!!

「むぅ、何が不満なのかね? かなりの頻度でサーヴァント達から襲撃を受けていると聞いてちょっとした親切をと思ったまでだが」

これのどこが親切!?

「まずは生存率を上げるために身体の強度を引き上げ、その上で魔術に対する抵抗力をも高めるために色々施す予定だが…まあ、その影響で精神の方に多大な反作用があるかもしれないが、なぁに心配は要らない。何事も失敗はつきものだからね!」

心配しかねぇぇええ!! 放せぇぇぇぇええええ!、!!

「では早速始めるとしよう。直流式オペレーションシステム起動!」

Noooooo!!? なんかエイリアン映画とかに出そうな機械が迫ってくるーーーーーーー!!!!

「さあ、力を抜きたまえ! 終わる頃には君は最強のボディを得ているだろう!!」



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不屈の意志と底見えぬ刺客

皆さん、ホンットーにお待たせしました。更新が停止してから新年を越してようやく投稿です。これを機に新しい企画を暖めつつ続行いたしますですm(_ _)m


「さて、何があったか説明してくれ春花」

 

ここは秘立蛇女子学院、その中でも選抜メンバーと言われるエリート達が集う生徒会執務室である。表社会はもちろんのこと裏社会でさえ、蛇女学院の場所も情報も不明と言われている。

 

襲撃後、選抜メンバーは皆部下の肩を借りて合流した春花の様子を見て事態の急変を察した。確認した焔は一旦、学院への帰還を優先してから報告を聞くこととなった。

 

「正直、驚いたぞ。お前ほどの実力者がそこまで追い込まれるなど」

 

「あら、心配してくれるの? ありがたい限りね」

 

「茶化すな」とため息混じりに焔は苦言する。蛇女メンバーたちは半蔵学園の忍学生同様に仲間意識もあるがそれ以上に彼女たちはお互いの実力に強い信頼がある。春花に至っては不利な状況でも立ち回り方で巧く切り抜けることが出来ると皆が確信している。

 

「教えてくれ、春花。探索中になにがあった? …お前をそこまで追い詰めたのは一体何者だ?」

 

問いかける焔はその好戦的な眼光をさらに細めた。半蔵学園での襲撃で些か不完全燃焼だった焔はその場にいなかった刺客と相対した春花にちょっとした嫉妬を覚えた。彼女もまた強者と戦う事で喜びを感じる戦闘者だった。

 

「…そうね、ハッキリ言って今後私達にとって一番厄介なのは彼? なのでしょうね。いいわ、みんなもよく聞いて…もしあの人物を一言で表すなら……」

 

重苦しく話す春花に詠、日影、未来とが注目する。今回の任務の成果報告を聞きに来た鈴音教諭も腕を組んだままその怜悧な視線を春花へと向ける。

 

「………イレギュラー…かしらね」

 

 

____________________

 

 

 

Side 霧夜

 

いつも見慣れた半蔵学園の隠れ部屋。かつては俺も在籍し、俺が担当している教室だ。いつもなら俺が入れば飛鳥が元気な挨拶を交わし、葛城が今日の授業内容を急かし、斑鳩が佇まいを正し、柳生が静かに目をこちらに向け、雲雀が緊張で強張る。

 

だが俺が目にしたのは重苦しく、悔しげに顔を伏せる生徒たちの姿だった。この様子の飛鳥たちに事情を聞かないわけにもいかず、彼女たちの話によると…。

 

「蛇女子学院…か」

 

俺の言葉にみんなの肩が微かに揺れる。おそらくだが今回の襲来に彼女たちは苦い経験をしたのだろう。敗北を喫したのか、或いはそれ以外の要因か…。いずれにせよ、結果は芳しくないことは確かだ。

 

「霧夜先生……」

 

元気と笑顔がトレードマークと言えるあの飛鳥が縋るような目で俺を見る。これは彼女たちにとって本当の意味での実戦。忍と忍の戦いでスポーツマンシップも正々堂々というものはない。あるとすればたった1つの真理、勝者は生き、敗者は死ぬ。

 

飛鳥たちの初めての実戦は敗北に終わったが、彼女らはまだ生きている。これだけでも僥倖なのだ、そうでなければとっくに…。

 

「(いや、考えるのはよそう…)」

 

ありえたかもしれない最悪の結果を頭から振り払う。今はそんな場合ではない。生徒たちは皆揃って俺の言葉を待っている。おそらく初めて見るみんなの力ない目から慰めの言葉を待っているのだと予想できる、…だが

 

「いつもの威勢はどうした? まさかとは思うが蛇女の忍に負けて気落ちしたのか?」

 

ここで優しい言葉は彼女たちのためにはならない。それは決して彼女たちが目指す忍道ではないはずだ。

 

「もしそうだと言うのなら…、忍の道を諦めてここから出て行け」

 

俺の突き放すようなセリフに全員が驚愕の顔を一斉に向けてきた。一様の顔はまさしく裏切られたかのような心情を映し出す。…とここで1人が俺に噛み付いてくる。

 

「霧夜先生! 流石にその言い草はないだろ!! たしかに負けはしたけどアタイたちだって…」

 

「一生懸命やった…か? そこは認めよう。だが、それで敵が引き下がってくれるとでも?」

 

そう、これは競技でも遊戯でもない。命の奪い合いに発展してもなんらおかしくない世界なのだ。

 

「今回はなんの気まぐれなのか蛇女たちは見逃してくれたが、次はないだろう。2度目の敗北が最後になりかねない」

 

残酷な事実に飛鳥たちは暗い顔を伏せる。…それでも、

 

「(俺は…あの時の間違いを繰り返したくない)」

 

霧夜の脳裏に浮かぶのはかつての自分の教え子であり、飛鳥たちの先輩にあたる忍学生。自分の甘さ故に未熟なまま戦地へと送り出し、その結果彼女の命を落とす事態を招いてしまった。

 

あの時、心を鬼にしてでも厳しくすれば結果は変わっていたかもしれない。試験には合格しても戦地に向かわないように説得することもできたかもしれない。しかしそれはもう過ぎた話だ。今ここにいる自分がどう足掻こうと起こってしまったことはどうすることもできない。

 

「(だから今は信じよう、この子たちが折れずに立ち上がってくることを…)」

 

____________________

 

飛鳥side

 

今まで努力を怠らずに自分を鍛えてきたと自負していた。来る日も来る日も鍛錬を続けて、自分が志す忍道を貫いてきたつもりだ。

 

けれども昨日のことを思い出すと、心が揺らいでしまう。

 

__お前の忍道がどれほど薄っぺらいか教えてやるよ

 

__軽い…、軽いんだよ! お前の信念と同じように

 

大した反撃をすることなく、ただひたすらに攻撃を受けていた焔ちゃんはなんてことないかのように立っていた。つまらなそうな顔でわたしを見下していた彼女は期待はずれだというように言葉を吐き捨てた。

 

霧夜先生の言う通り、焔ちゃんがその気になればいつでもわたしを殺せていたかもしれない。生きていればまた挑むことはできる…、けど次に会った時は果たして自分は彼女に勝てるだろうか? もし負ければ自分は……。

 

悪い想像を振り払おうとしてもまとわりつくように最悪の未来が何度もよぎる。焔が放った言葉に自身の意思が塗り潰されそうになる…、自分と彼女の力の差に心が挫けそうだ……、彼女の言った通り…自分の忍道は……

 

「(……違う)」

 

静かに、微かに、自分の心に小さな火が灯る。

 

「(…まだ終わりなんかじゃない)

 

折れかけていた飛鳥の心にある風景が蘇る。それはかつての幼き頃の事…

 

_____わたしはね、りっぱなしのびになるの!

 

将来の夢を士郎に問いかけた時、彼がなんの躊躇いも恥もなく「正義の味方」と告げた。その事実に同じ志を目指す仲間を見つけた様な気分になった飛鳥は臆面もなく祖父のような忍になりたいと語った。

 

…しかし、忍に関する事は決して口外してはいけないという祖父と両親の言いつけを思い出した飛鳥は取り繕おうと咄嗟に撤回をしようとするが…

 

___な、なんてね! ジョーダン…

 

_____いいんじゃないかな。

 

戯言だと笑ってくれてもいい。悲しいけれどもそれで秘密が守られるなら構わないとも思っていた。それでも彼は肯定した。

 

____あすかなら諦めないかぎり、絶対になれるさ。

 

自分を安心させてくれる、励ましてくれる笑顔で彼は確かにそう言ってくれた。

 

「霧夜先生…、わたしたちを鍛えてください!」

 

「………」

 

静かに見返す霧夜に飛鳥はなおも自分の意志を吐露する。

 

「今回は負けたけど、わたしたちはまだ生きてる。…だから次こそ勝てるように鍛えて欲しいんです、お願いします!」

 

今度こそ、自分の忍道を証明するために。揺るぎなき意志を貫くために。

 

「霧夜先生、アタイからも頼む!」

 

「私からもどうかお願いいたします、霧夜先生」

 

「このままじゃ終われない、それはきっと皆も同じはずだ」

 

「雲雀も鍛えてください、霧夜先生!」

 

「…肌で感じ取ったとは思うが、今のお前たちと蛇女の忍たちとの差は歴然だ。それに勝つとなると並大抵の修行では埋められない。それに耐えられる覚悟はあるか?」

 

試すように問う霧夜は教え子たちを信じるように返事を待つ。

 

「…あります! そうじゃなきゃ、わたしたちの正義は証明できないから!!」

 

強き意志のこもった目が霧夜を見返す。そこにはもはや先ほどの迷いも、苦渋も、ましてや諦めの色もない。代わりに彼女たちからは溢れる闘志が満ちている。上出来だ、それでこそ半蔵の忍。

 

「よく言った、みんな。ならばもうお前たちの覚悟は問わない、俺の知りうる全てを伝授しよう。今までの比ではないくらいに厳しくなると思え!」

 

「「「「「はい! 先生!!」」」」」

 

 

 

 

〜〜〜蛇女学院生徒会室〜〜〜

 

「それは間違いないんだな? 春花」

 

「ええ、厄介なことにあれだけの事をしておいてまだ余力があったわ」

 

そう供述する春花はやれやれと肩を竦めてため息を零す。いつも余裕のある態度がデフォルトの彼女にしては大変珍しい光景だ。その様子に他のメンバーは一層件の人物に興味が湧く。

 

「赤い外套の髑髏面か…。大層な実力の持ち主である事は間違いないな。 実にいい…、叶うなら私の手で確かめてみたいものだ」

 

「わしらが相手しとる間にそないな事があったんか。それも春花を相手にそこまで立ち回れるヤツとはな」

 

「っていうか逆にどうやったらそこまで翻弄できるか教えて欲しいかも…」

 

「何か言った、未来?」

 

「なんでもないです春花さま!!」

 

春花と未来のじゃれあいを他所に話し合いは続く。彼女たちの計画内では想定外の事態はある程度予測してはあるものの、今回の場合はほれをさらに超える代物だ。

 

「どうされます? 看過できないほどの障害であるなら手を打つべきではありませんか?」

 

「……計画に変更はない、大筋はこのまま続行する。但し髑髏の刺客に関しては精密な調査も必要になるだろう。本計画に情報収集も加える」

 

「「「「「はい」」」」」

 

詠の意見に淡々と答えるのは蛇女子学院の教師にして、選抜メンバー顧問、鈴音である。春花から提示された情報に表情を動かされる事はなく、ただ次の行動を思考して言い渡す。

 

「髑髏面なら遭遇した場合、可能であるなら生きたまま捕らえろ。春花たちの探索を妨害したなら巻物の場所を知っている可能性が高い」

 

「もし不可能だと断定した場合は?」

 

問いかけるはリーダーである焔。捕獲の有無を訪ねる彼女の様子は鋭さが増し、否が応でも空気が張り詰める。

 

「考えるまでもない、排除せよ。最もそのためには対策を練らねばならないが」

 

「はい、了解です」

 

焔の返事を聞き届けた鈴音は踵を返して生徒会室の隠し扉へと身を滑らせる。その足運びは無音の体現にして洗練され尽くした隠形。

 

「赤い外套か…一致するのはその点だけだが、可能性はある」

 

エレベーターのからくりに身を任せる鈴音は1人呟く。手を顎に添えながら今しがた聞かされた刺客の容姿特徴を脳内にて繰り返す。

 

「…朱き英雄か、ヤツだとするなら焔達には荷が重いやもしれん」

 

様々な思案が交差する中、少女たちの激動の初戦は幕を閉じた。

 




アルトリア「お疲れ様です、作者」

うん、労いの言葉は嬉しいんだけど聖剣を喉に添えながらいうセリフじゃないよね。

アルトリア「でしたらさっさと私とシロウの幕間を書きなさい」

アンタの他に何人リクエストしてると思ってんだ! 今初めて士郎のたらし振りを恨んだわ!!

アルトリア「それについては同意できなくもありませんが…」

アルトリア「ともかくです! 原作を辿れば正ヒロインである私が優先的に書かれるのが筋というものでしょう」

いや、それを言ったら遠坂嬢や桜嬢もいますが…

アルトリア「ここにはいないのですから除外でいいでしょう」

ぶっちゃけた!!?

アルトリア「という事なので貴方には2つの選択肢があります」

アルトリア「可及的速やかに私の幕間を書くか」

アルトリア「我が聖剣の前に塵となるか」

ちょ、待って! 今はまだm…

アルトリア「エクスカリバー!!!!」


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心の内は…

皆さまホント〜にお久しぶりです。執筆に手が付けられずちょっとずつ書いてようやく再開出来ました。これも一重に読者の皆さんの励ましの声があってこそですm(_ _)m それではどうぞごゆるりと…。


パチっ…

 

「のう、半蔵。お前さんこんなところにいて良かったのか?」

 

パチっ…

 

「なぁに、店ならそこまで忙しくはない。なので分身を置いてきた」

 

パチっ…

 

「やれやれ…、また忍術をそんなことに使いおって」

 

パチっ…

 

「はっは! そう責めてくれるな。これでも重要な用事がある時にしかやらんよ」

 

パチっ…

 

「だといいんじゃがなぁ…」

 

淡々と弾く音が響く中、2人の老輩の男たちが向き合いながら雑談を交わす。ここは藤村邸にして藤村組本部、そのトップである組長"藤村雷画"の私室である。その部屋にて囲碁版を挟んで対面しているのは半蔵学園、その学園長に座する"服部半蔵"である。

 

「先程、連絡が入ったのだが…どうやら蛇女の忍が学園に来たそうじゃ」

 

「ほう…、ということはいよいよ仕掛けてきたか」

 

腕を組んだまま囲碁版に固めていた視線を半蔵へと移す。虎を思わせるような眼光は凄んでいるわけではないというのに十分すぎる迫力があり、並みの組員が見れば即座に目をそらすだろう。しかし親友である半蔵にとってはただの注視でしかなく、同時に雷画本人もその程度のことしかしていない。

 

「おうよ、とはいえ1人嗅ぎ回っていた娘に関しては士郎が対処してくれたので大事には至らなかったのう」

 

「その大事とは巻物の事か? それともその娘たちの事か?」

 

意味ありげに問いかける雷画は片腕を顎に添えて撫でさする。確かに超秘伝忍法書を奪われるのは半蔵学園にとっては最も避けねばならない事態だ。では娘達、蛇女の忍というのはどういう意味か? 答えはその忍法書にある。

 

____呪法・乱心

 

学園に隠された忍法書の中には偽物がいくつかあり、その偽造書にはこの呪式が施されている。解呪なしに紐解けば意識と精神を狂わせ、暴走させるという代物だ。そしてこの呪法の最も凶悪な所は書を開いた本人だけでなくその周囲にいる人間すらも狂わせ、必然的にお互いを殺し合わせるという点だ。

 

たとえ最後の1人が生き残ったとしても、呪法は精神の奥深くへと侵入を果たして発狂死させる。人としてはあまりにも残酷な最期になるだろう。

 

「無論、両方じゃよ。巻物を死守するためとはいえ未来ある若者にあのような結末を迎えさせるなど…」

 

言葉尻に顔を曇らせる半蔵。かつてとある戦いにて同じ呪法に囚われた犠牲者を見た半蔵は今でもその光景を鮮明に覚えている。狂った際に上げられた断末魔は叫びというよりは獣の吠え声。理性の色がかけらも見えない双眸は視界に捉えた者を端から襲いかかった。どれだけ血を流そうと、骨が砕けようとも狂人が止まることはなく、最後に犠牲者はこの世のあらゆる苦痛を一身に受けたかのように叫び続けて絶命を迎えた。

 

「あまりにも凄惨…、あれは人が迎えるべき死に方ではない」

 

「…その意味では士郎に感謝せねばなるまいな」

 

「まったくじゃ…、さてここからどう転ぶかのう」

 

碁石の弾く音がすっかり止んだ部屋で沈黙が広がる。一先ずは犠牲なく終わったものの、未だに状況は続いている。士郎が助っ人として控えているとはいえ、まだまだ油断はできない。

 

「…それは置いといて、雷画よ」

 

「む? なんじゃ」

 

「お前さんの羊羹、ワシのより大きくないか?」

 

半蔵が指差すのは互いの傍に置いてあるオヤツ用の栗羊羹。ただ囲碁を打つだけでは寂しいと女中さんに用意させた一品なのだが…。

 

「何を言うか…、ちゃんと均等に用意してあるわ」

 

「いやいや、ワシの目は誤魔化せんぞ? 確かにその羊羹はワシのより些か大きい」

 

「仮にそうだとしても食い終わった後にお代わりでも頼めば良かろう。……それとな半蔵」

 

「ん?」

 

「露骨に会話を逸らしてイカサマしようとするでないわ、たわけ」

 

半蔵の反対側の手に握られた(ちょろまかした)碁石を指差しながら雷蔵は親友の能天気さにため息を吐いた。

 

_______________

 

 

士郎side

 

「今回はどうにか大事にならずに済んだな」

 

「ええ、何とか」

 

言葉を交わすのは士郎と霧夜である。蛇女が襲撃を仕掛け、飛鳥たちが志を新たにしたその翌日に2人は報告のために屋上で合流していた。同時に飛鳥たちが学園内から目を逸らしていた内に紛れていた探索組のことをも耳にした時は流石の霧夜も肝が冷えかけた。

 

「とはいえ、今後も彼女らは来るでしょう。…そして超秘伝忍法書を手に入れるためにあらゆる手段を取る」

 

「………」

 

士郎のセリフに厳しい眼差しを外へと向ける。士郎の言う通り、蛇女たちはこの先も目的を達成するためにどんな方法でも奪いに来る。それこそ元来の忍らしく、何を犠牲にしてでも…。

 

「それにしても、お前の予想通りに飛鳥たちは立ち上がったな。流石は幼馴染というところか」

 

「確信してただけですよ。確かに飛鳥はまだ未熟ですが弛まぬ努力と不屈の精神があります…、彼女たちは負けはしましたが完全に敗北したわけではありません」

 

「諦めない限り…というやつか」

 

そう、人が敗北するのは負けを受け入れた時ではない。負けた後に挑むことを諦めた瞬間にこそ敗北が決する。その点で言えば飛鳥は破格と言っていいほどの精神の強さを備えている。

 

「さて、そろそろここいらで失礼します。少し出向く必要が出てきましたので」

 

「ん? 隠れ部屋の罠が作動した事と関係あるのか?」

 

「ええ、とは言っても現時点では大した害はありません。ここからの交渉次第ではどうなるかは分かりませんが…」

 

「ふむ、説得できそうか?」

 

「以前だと難しそうでしたが…、見たところ希望はありそうです」

 

言いながら士郎は紅い外套と髑髏の仮面を取り出す。外套の方は生前から愛用していたマルティーンの聖骸布、仮面の方はなんと切嗣とアイリから贈られたものである。2人の伝手で制作された特別製であり、変声機能を搭載した優れもの。…ただ変声後の声がアーチャーのものだと判明した時は何とも微妙な気分になったが。

 

「では、霧夜先生も気をつけてください」

 

「ああ、お前もな」

 

屋上から飛び去る士郎を霧夜は見送る、今度こそ…間違わないと自身に誓って。

 

 

____________________

 

 

???side

 

 

「クソっ!…オレがあいつに負けるなんて有り得ない!…あり得ないんだ!!」

 

苛立ちに満ちた声で荒れる男が1人。その男はとある財閥の御曹司に生まれ、のちにお家の裏の顔である忍として跡を継ぐと思っていた男。しかし…、現実は彼に残酷な結果を突きつけた。

 

「オレは落ちこぼれなんかじゃない!、忍の才能で…オレがアイツに劣ってるはずなど」

 

そう、男は忍としての才に恵まれなかった。その事実を悟った財閥の会長は素質を秘めた少女を養子に迎え、彼女に忍を継がせる決心を固めた。自分に寄せていた期待が奪われた男はやがて養子を妬み、嫉み、そして憎悪した。

 

 

_____「これはオレが継ぐべきものだ! お前なんかじゃない!!」

 

___「お兄様、その刀は…飛燕はお父様が私に託してくれたもの。返してください」

 

_____「うるさい! オレを兄と呼ぶな!! オレを呼んでいいのは……本当の家族だけだ!!!」

 

_____「っ!…」

 

_____「返して欲しいなら、力づくで奪い返してみろ!」

 

_____「…お許しください、お兄様」

 

 

実力を持って自身の資格を示そうとした男は結局、養子(斑鳩)に敗れて今に至る。鎖鎌による拘束を空蝉であっさりと躱され、あまつさえ隠れ部屋の罠にかけられて校外へと放り出された。

 

「クソ! 何でだ!? 何故なんだ!!? …どうして、こんな…!」

 

撒き散らされた怒りは徐々に勢いを失い、声に抑えきれない悔恨と悲痛が滲み始める。男の名は村雨、鳳凰財閥の御曹司にして……斑鳩の義兄である。

 

 

「おやおや、随分と騒がしい侵入者だな」

 

「っ!」

 

突然かけられた声に村雨は咄嗟に構える。情けない姿を見られた羞恥も加わり、普段より反応が早い…と同時に村雨は声の主の姿に一瞬驚く。まず最初に目に入ったのは体をすっぽりと覆い隠すほどの紅い外套。道端でそんな姿の人を見かけたら通報されかねない。そして顔にあるのは禍々しさを感じさせるような髑髏の仮面。

 

「誰だ? …親父がつけた護衛か何かか?」

 

無論、彼が言うのは斑鳩の護衛の事である。飛燕を奪うという思惑が父親に悟られて斑鳩に護衛をつけたと村雨は思い込んでいるようだが実際は勘違いである。

 

「的外れな見解だな。私はただの雇われさ…、隠れ部屋に侵入した挙句に鳳凰家の家宝を盗もうとした輩に対処するためにな」

 

「貴様…、何故それを」

 

「仕事でね、部屋が侵入された際に警報と監視が出来るように細工している」

 

言いながら髑髏の肩に小さい何かが乗っていることに気づく。一瞬だけ見ればネズミだと認識できる生き物だが、よく見てみるとそのネズミは鉄で出来ているかのような姿をしている。そのネズミは士郎が試行錯誤の末に自身の属性に見合った使い魔の作成に成功した。今回の任務にあたって偵察や状況把握に用いている。

 

「ちっ…、飛燕は俺が持つべきものだ。鳳凰院の忍の後継としてな」

 

「かの家の正当後継者は斑鳩だ。お前じゃない」

 

「うるさいっ! あいつは…、あいつはそもそも鳳凰院の血筋じゃない。そんな奴に奪われてたまるかぁ!!」

 

怒りの形相で鎖鎌を引き抜く村雨。もはやその様子は近く者全てに噛みつかんとする獣のようだ。斑鳩に抱いた劣等感と明確な実力差に打ちのめされ彼の心の中は荒れ狂い、激情の渦を巻く。

 

「そうだ…、飛燕さえ手に入れれば俺こそが後継者だと証明できる!!」

 

「…それは果たしてお前の本心なのかな?」

 

「なに?」

 

分銅を回そうとした手が止まる。髑髏が、士郎が言わんとしている事が分からず躊躇を見せる。いや…、もしかしたら薄々と分かっているのかもしれない。

 

「言っただろう、一部始終を見ていたと。ならば答えろ…村雨」

 

問いかけながら歩み寄る。しかし村雨は攻撃を加える行動には移らず、僅かに目を見開く。それはさながら、何かを見透かされているかのように。

 

「飛燕を手に入れる? なら何故抜かなかった? 自分こそ後継者と証明したかったのなら鞘から抜き放って使いこなして見せればいい。だと言うのにお前はそれをせず自らの獲物で勝負を仕掛けた」

 

正しい跡継ぎだと示したいのならあの場で飛燕を使えば良かったものの、村雨はそれを実行しなかった。それを突きつけられた村雨は動揺が胸中に広がっていく。

 

「本当は分かっていたのだろう?」

 

「……

 

「飛燕は自分ではなく、斑鳩の手にあるべきだと」

 

「………まれ

 

「そして本当は…、彼女を…」

 

「黙れっ!!!」

 

一際大きな声を発する村雨。その姿は必死に何かを振り払おうとしているかのようだ。

 

「…否定しなかったな、村雨」

 

「……」

 

「提案がある…、もしお前の内心が俺の思っている通りなら」

 

士郎はただ村雨に目を向ける。彼の本心を待つかのように…、彼を信じるかのように。

 

「協力してもらいたい。今斑鳩たちはある脅威に直面している…、打ち勝つだけなら彼女達はできる。だが最善を果たすためには裏で動く者がもっと欲しい」

 

「裏だと?…」

 

「そうだ、この戦いの元凶はもっと根深い所にある。それを取り除かなければ繰り返されるだけだろう」

 

「………だから何だ」

 

「手を貸して欲しい、お前の本心が違わないのなら」

 

士郎の言葉に村雨は俯く。その顔には迷いが浮き出ている、だが言葉を紡ごうとしても何も思い浮かばず再び閉口する。

 

「返事は今すぐでなくともいい…。時間を置いてまた来るとしよう」

 

そう言い残して踵を返す。そのまま数歩歩いた士郎は空気に溶けていくかのように姿を消す。取り残された村雨はゆっくりと構えを解き、鎖鎌を手に持ったまま立ち尽くす。

 

「……斑鳩」

 

妹の名を呟く声は怒りに満ちておらず、静かなものだった。目を伏せる村雨の胸中を占めるものは…果たして何なのか。




皆さまご無沙汰です。読者のみなさんの感想版がちょくちょく送られる中、少しずつ書き足していきなんとか続きを投稿した次第です。まだまだ先は長いですがもうしばらくご辛抱ください。

よし…では皆さん。

生きていればまたお会いしましょう( ;∀;)

ガチャっ

ネロ「うむ! ここにいたか作者よ」

エリー「喜びなさい! 小鼠。あたし達2人のデュエットコンサートを独占できるなんて滅多にない幸運よ!」

ネロ「では早速始めるとしよう。余たちの美声に存分に聴き惚れるが良い!」

エリー「至高のヒットナンバーを聴かせてあげる!!」

ちょ…待って!せめて耳栓を…!!

___謎の現象により撮影機器が全壊したため、これ以上の収録は不可能となりました。尚、後に発見された作者は頭が破裂したかのように頭部がなくなっており夥しい量の血痕が残されていた模様です。


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カルデア幕間劇、衛宮士郎旅立ち"まで"の戦い
そして安まらない日々が始まる


お待たせしました!! 読書の皆様の中でも気になっていた幕間編です! 今作品は人理修復後からカグラ界転生の間の時間軸となります。慌てて書いた部分もありますので誤字が目立つかと思われます。その際は指摘され次第に修正を施しますのでよろしくお願いしますm(_ _)m


祝い事は大切なものだ。古来より祭りの類は様々な意味合いや用途を用いて行う。それこそ一団の未来への祈願、地元の神々への感謝、目的の達成といくらでもある。そして宴というものは大小あれど騒がしいものだ。

 

しかしだ、物事には限度というものがある。そしてそれは祝い事に関しても例外ではない。

 

「センパイ♪ グラスが空ですよ。私がお酌しますのでどうぞこちらに」

 

「やはりシロウの料理は美味しいです。あの頃より更に腕が上がりましたね…、む、もう切れましたかおかわりです」

 

「もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ…、ハンバーガー12ダース追加だ」

 

「シロウ、これはどういう料理ですか? こんなの初めて食べます! ああ、主よ…このような美味な食事に感謝を」

 

「…一体その体のどこにそんな量が入るのよ。見てるだけで胸焼けするわね」

 

「シ〜ロウ♡ 作ってばかりでいないで食べて食べて♪ あ、おねえさんがあ〜んしてあげよっか?」

 

「あらあら、では私が…、士郎 母が食べさせてあげますよ」

 

喧騒が激しく、一部は未だに呑んだくれ、また一部は酔っ払って絡んで、またまた一部は物凄いペースで料理の皿が空になっていく。ここは人理救済機関カルデアの食堂、現在食堂では古今東西の英霊、カルデアのスタッフがみな集まって飲めや食えや騒げやの真っ最中である。

 

数日前、最終特異点にて士郎たちは死闘の果てに魔術王ソロモン…もとい魔神王ゲーティアを倒し、無事人理修復を果たした。重症を負い、2、3日ほど回復に専念した後にダ・ヴィンチからお祝いしようと提案したのだ。

 

これにはスタッフ側から賛成の一択が上がり、サーヴァントたちは特に反対意見もなく宴が決行された。…それはさておき、この人理救済に貢献し、パーティーの主賓である士郎と立花は何をしているのかというと。

 

「ねえ、士郎さん。 そろそろ手を止めてみんなと食べようよ」

 

「ああ、これが終わったら行くよ」

 

パーティー料理の調理である。立花に至っては料理に舌鼓をうちながら士郎の参加を促している。主役に料理を作らせるなどパーティーにあるまじきことだが本人が進んでやると言い出したからには強い反対はなかった。何よりスタッフもサーヴァントたちも士郎の料理の腕をよく知っているため文句が出るはずもない。とはいえ、士郎一人に料理を任せるのも忍びないとブーディカや頼光などといった料理の腕に覚えのあるサーヴァントの手伝いもあって苦も無く用意ができた。

 

「よし、焼き上がりだな。おーい、アタr…」

 

「もしやアップルパイか?」

 

さっきまで誰もいなかったはずの士郎の背後にはいつの間にかアタランテが立っていた。

 

「…ああ、今運ぶからテーブルで待っていてくれ」

 

「うむ、早くするのだぞ」

 

内心、アタランテの出現に心臓が飛び出そうになるも全力のポーカーフェイスで抑えることに成功する。閑話休題、ようやく作業が一段落し、士郎もテーブルに着く。着席の瞬間に士郎の両隣に立花とマシュが陣取る。

 

「先輩、どうぞグラスをこちらに」

 

「主役は一緒に座らないとね」

 

甲斐甲斐しく酌をしてくれる後輩にグラスを差し出し、自分の妹かと見紛うほど容姿が似ている少女が隣をキープする。

 

「はい、シロウの分は取っておいたよ」

 

「ありがとう、ブーディカ」

 

料理の乗った皿を運んできてくれたブーディカに感謝しつつ早速実食に移る。パーティーのために用意された料理は種類が豊富であり、頼光が和食、士郎が和食時々中華、ブーディカが洋食を担当して作った。もはや大人数用のバイキングだ。

 

「(しかし…、どうしたものか)」

 

料理を堪能しながらも士郎は別のことに考えがいく。それは今後のことである。長い旅路ではあったものの、特異点から特異点へと飛び移り人理焼却の元凶を見事打ち倒して切嗣も士郎もが夢見た正義の味方の体現を成し得たのだ。

 

犠牲もあった、やむなしとはいえ切り捨てたものも確かにあった。それでも自らの原点を見失わずに救えたものはあった。…だが、次はどうする?人類が消え去る事態は阻止できても世界のどこかで誰かが苦しんでいるのかもしれない、そう思うとじっとしていられなくなる。

 

以前、カルデアに正式に就職しないかとドクターやダ・ヴィンチに誘われたことがあった。確かにそれも悪くはない…、立花やマシュそしてカルデアスタッフのみんなと一緒に働く光景を描いてみるととても眩しく映る。

 

……それでも…。

 

「士郎さん? 」

 

立花に声を掛けられて思考を中断する。どうやら没頭しすぎたのか二口目から料理にほとんど手をつけていなかったようだ。

 

「先輩、食欲がありませんか? もし具合が悪いのでしたら…」

 

「いや、大丈夫だ。ようやく終わったのかと思うと気が抜けてしまってな」

 

「アハハっ、そうだね…思えば長〜い旅だったよね」

 

「ええ、でも無事に終えて良かったです。先輩、立花さん、本当にお疲れ様でした」

 

今までの特異点のことを思い出しながらも料理を口に運ぶことを忘れない立花にマシュは微笑みながら飲み物を注ぐ。

 

「(……明日、みんなに話そう。流石に今言うのはマズイか)」

 

せっかくの祝いの席を台無しにするのは気が引けた士郎は気を取り直して食事を再開する。ブーディカ特製のチキンポットパイを口に運ぶ、パイ生地独特のサクッとした軽い食感になかに詰まったクリームチキンが柔らかい口当たりを広げる。

 

「(本当に優しい味だな)」

 

カルデアに召喚されたブーディカは第一印象からとても面倒見のいい姉のような人だった。いや、アルトリアやマシュに対して世話焼きで可愛がりな所は母親のようにも見える…、実際子持ちの母親だったから当然か。

 

ブーディカの世話焼きは士郎にも及び、事あるごとに甘やかそうとする。…具体的に言えば膝枕をしようとしたり、挨拶がわりにハグしたりといった内容である。その度にアルトリアの絶対零度視線やマシュの「不潔です、先輩」が飛んできたりと穏やかなままでは終わらなかったが。

 

当の士郎は母親というものを知らずに育ったせいか彼女にはどうも弱い。そんなブーディカの人となりが料理にも現れたのだろうか、腹だけでなく胸も暖かくなる。…明日のことを考えるとその暖かさに申し訳なく思ってしまうほどに。

 

 

_______________________

 

 

翌日、カルデア食堂にて

 

「ふわぁ〜…、うー、まだ眠い」

 

寝ぼけ目を擦りながらも足取りはしっかりと食堂へと向かう人物の名は藤丸立花。人理救済に貢献したもう1人のマスターである。

 

遅くまで騒いでいたこともあってほとんどの人はまだ寝ていることだろうと食堂に入ってみるが意外にもう起きている職員が。ただし、二日酔い中なのか全員がテーブルに突っ伏している、比較的元気そうな人は頭をおさえながら料理ができるのを待っている。

 

「お待ちどうさん、食べられるなら食べといた方がいいですよ」

 

グロッキー状態の職員に気を使ってシジミの味噌汁や消化にいいものが出てくる。

 

「おはよう立花、今日の朝食は鯖の塩焼きがあるけど食べるか?」

 

「うん、お願い! まさかここで焼き鯖が食べれるなんて夢にも思わなかった」

 

よほど楽しみなのか先ほどまでの眠気はキレイさっぱりと消えて今か今かと料理を待つ。食堂内では全員ではないものの昨夜の宴会で飲まなかった者、酒量を控えたサーヴァントたちがすでに集まっていた。…他の人? 当然二日酔いでダウン中である。

 

お待ちかねの朝食が届き、士郎も食事に参加する。朝食は和やかに進み、次々とサーヴァントたちが食堂へと集まる。昨夜の宴会ほどでないものの、それなりに賑やかになっていた。

 

 

____________________

 

「ご馳走さまでしたー、ふぅ〜…満足満足♪」

 

朝食は恙無く済み、立花もサーヴァントたちも食後の余韻に浸ったり、お茶を啜ったりと思い思いに寛ぐ。そこに洗い物を終えた士郎が加わって腰を落ち着ける…、無論、自分の分のお茶も忘れない。

 

「お粗末様、味の方はどうだった?」

 

「うん! 文句なしに美味だったよ。むしろこれに物申すなんて罰当たりなくらい」

 

「そうですね、センパイの料理の腕はもはやプロのシェフと言っても過言ではありません」

 

遅れて参加したマシュが立花のセリフに同意して頷く。…ちなみに当のマシュは自分も料理を練習しなくてはと頼光と共にブーディカに教えを乞うていたりする。……何のためにそうしているかはあえて問まい…乙女デスナァ。

 

「そうか、そいつは何よりだ」

 

満足そうな顔でお茶を啜る。食堂内はまったりとした空間と化し、職員たちはいそいそと今朝の仕事に励もうと配置へと向かう。一部のサーヴァントは朝の鍛錬や日課に取り掛かろうと席を立とうとしたその時…。

 

「あ、すまん。行く前に少し時間いいか? みんな」

 

士郎の制止に立花やマシュを含めたメンバーは不思議そうな顔て見返す。対する士郎は真剣そのものの顔で湯呑みを置いてみんなの着席を待つ。真面目な話であると察したサーヴァントたちは次々と座り、自分達のマスターに耳を傾ける。そんな中、彼らの声を代弁するかのように立花が話の続きを促す。

 

「何? 士郎さん。…多分だけど重要な話なんだよね?」

 

「…まあ、そんなところだな」

 

聞く姿勢を整えてくれたみんなを士郎はぐるりと見回して、お茶をもう一口啜る。熱すぎず、ぬる過ぎず、最適な温度の茶で喉を潤して一息つく。再び目を見開き正面を見据えながら士郎は言い放つ。

 

「実は…、旅に出ようと思っているんだ」

 

………………

 

「あ、レイシフトですか? 了解です」

 

士郎の発言に特異点の発生だと勘違いを起こしてしまったと慌てて言い直す。

 

「いや、そうじゃなくて…あー、つまりだな……」

 

よりはっきり伝えようと佇まいを直し、

 

「カルデアを…出ようと思うんだ」

 

 

(読者の皆様の脳内でお好きな爆音を再生して下さい)

 

__________________

 

「これより緊急会議を始めるわ!!」

 

ここはカルデア内にある会議室の一つ。この部屋には数多くの女性サーヴァントたちが集まっており膝を突き合わせている。殆どの者は深刻そうな顔をしており、会議の始まりを告げたイシュタルも中々必死な表情だ。

 

………ついでに言えば集まっているサーヴァントの数は相当なものであり、1番広い会議室を借りたにも関わらず、壁際など所狭しと並んでいる。

 

「議題は…、分かるわね。ずばり! あの朴念仁マスターをどうやって引き止めるかよ!!」

 

「うぅっ、士郎が、母を置いて何処かに行くなんて…よよよ(T ^ T)」

 

「士郎様…」

 

ある者はさめざめと泣きながら、またある者は悔しそうに歯噛みしながらことを進めていく。この場にいるサーヴァントは皆士郎と契約しており、その際に士郎の過去を夢という形で垣間見た。しかし、それだけでなく彼女達は衛宮士郎が内に宿す危うさをもその目で見たのだ。

 

「リツカ、大丈夫ですか?」

 

会議の出席者であり、議長でもある立花に声をかけるのはアルトリア。実はこのアルトリア、なんと冬木の聖杯戦争で士郎と共に戦ったあのアルトリア本人である。おそらく士郎に埋め込まれた聖剣の鞘、その縁によって再び召喚されたと予想されている。…それはさておき。

 

「あ、ごめんね…ちょっと考え事にしちゃって」

 

よほど没頭していたのか1人静かにしていた様子に心配かけてしまったらしい。

 

「…アルトリアは随分落ち着いてるね」

 

士郎のサーヴァントたちが激情を織り交ぜながら議論を交わしている傍で士郎に最も近しいと言えるアルトリアは取り乱すことなく事態を見守っていた。

 

「…ええ、シロウの事ですから何となくこうなるのではないかと思ってはいました」

 

困ったように笑う彼女の顔はまさしく士郎との付き合いの長さを嫌でも感じさせる。…それこそ、立花がちょっぴり悔しいと思うくらいに。

 

「そういうリツカはどうなのですか? 見たところ貴方は皆の者ほど慌てていませんが」

 

「そんな事ないよ…、本心を言えばわたしも士郎さんに出てって欲しくない」

 

そもそもこの会議に参加しているのは1人を除いて全員士郎のサーヴァントであり、そして何より士郎に好意を抱いている。……一部、性別的な問題もあるが。

 

「でもね、同時に士郎さんらしいなぁって思っちゃったんだ。…だからかな、止めることなんてできないって分かっちゃった」

 

同じような顔で笑う2人は見合っていると、おかしく思えたのかついに噴き出して笑う。

 

「もう…士郎さんってばしょうがないなぁ」

 

「ええ、全くです」

 

すっかり和んだ雰囲気になった立花とアルトリアを他所に、すっかり白熱化した士郎包囲網会議w に進展が見え始める。

 

「静粛に! みんなが言いたいことは分かるわ。 あの朴念仁はこれと決めたら一直線に突っ走るバカよ…引き止めるなんてまずは無理でしょうね…でも、私たちだからこそ取れる手段があるわ!!」

 

高らかに宣言するイシュタルにサーヴァント全員が一斉に注目する。士郎の事を話すイシュタルはどこか昔から知っているかのようで不思議だ。

 

(…イシュタルって冬木の聖杯戦争に参加してたのかな?)

 

……どうでもいいが、なぜ議長である立花ではなくイシュタルが会議を進めているのだろう? え? 細かいコトは気にするな?…ワカリマシタ。

 

「イシュタル殿、我らが取れる手段とは?」

 

「よくぞ聞いてくれたわ、牛若丸。方法は他でもない……」

 

「アタシの美声で聴き惚れさせるのね! オールナイトコンサートで小鷲にここを出て行くなんて考えを改めさせるわ!!」

 

「……やめて、…そんな事したら私が死んじゃう(いろんな意味で)」

 

藁にも縋る思いでエリザベートを止めんとするカーミラは…、相変わらず哀れだ(T ^ T)

 

「…あー、ドラ娘の発言は置いといて。ずばり! 私たちの絆を武器にすればいいのよ!!」

 

「「…はい?」」(立花&アルトリア)

 

絆の一言で皆が首をかしげる。どうやらいまひとつ何が言いたいのか分からないようだ。

 

「いい? 私たちは士郎のサーヴァント。特異点での冒険を経て、ここにいる皆は士郎とかなり仲を深めているはずよ!」

 

この場にいる英霊、反英霊たちは生前の複雑な事情によって様々な悩みを抱えてたりしていた。そんな彼女たちにたらしの英雄(爆)である士郎は手を差し伸べた。悩みがない者でも純粋に彼の人柄を気に入り、何だかんだ力を貸した。

 

「情に訴えて絆すもよし! 責任を問うて迫るもよし! な、何だったら…誘惑も許可するわ!!」

 

……どうやってというセリフは敢えて言うまい。

 

「(えぇ〜…そんな作戦で大丈夫なの? というかこんなの作戦って言えるのかな?)」

 

イシュタルの直球且つ、シンプル過ぎるアイディアに立花は微妙そうな顔を隠せない。しかし…

 

「…なるほど、いい案かもしれません」

 

「いいの!!?」

 

「ええ、シロウに正面から説得してもこちらが不利。ならば私たちの繋がりを盾に攻める方が効果的と言えるでしょう…幸い、シロウはその辺りの事に弱いですから」

 

身も蓋も無い話である、しかしながら事実だ。彼女達は士郎のサーヴァントだが当の本人は人として皆と接している。そのせいか士郎はマスターという呼称よりも名前で呼ばれる方を好む。ならば俗に言う、「わたしを傷物にして、置いていくの?」的な口実を武器にネチネチ責めるという作戦だ。……女って怖いね。

 

「へぇ〜…っていやいや!? だからってそれは理不尽過ぎない!!?」

 

…こう言ってはいるが頷きかけた立花も彼女達と同類であろう。

 

「なるほどな…ならば丁度いい。末弟子に師の元を離れるにはまだまだ早いという事を教えてやらねばな」

 

「うむ! では余はこの美しさをもってシロウを改めさせよう!」

 

「2人っきりの席で飲んで、すっかり酔ってしまい、勢いのまま…なんてよくある事よねぇ」

 

「お、おぉお、お兄ちゃんを…ゆ、誘わk……」プシュ〜

 

「はいはい、アンタは引っ込んでなさいイリヤ。お兄ちゃんは…ワタシがしっかり籠絡しとくから」ペロリ

 

「………フン、くっだらないわね!」

 

反応は様々だが反対意見がない以上、作戦内容は決定したと言える。…このカルデア、大丈夫なのだろうか?

 

「…士郎さん、このままいくと大変な事になるかも」

 

心配を露わにする立花だが、後に立花までもがこの作戦に便乗したのは本人のみぞ知る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




スカサハ「さて、作者よ。言われずとも分かっているな?」ゲイボルグで喉ツンツン

勘弁してください! 脅されるのこれでもう7度目です!!

スカサハ「ちっ、先を越されていたか。まあ良い…他は無視せよ」

イヤだぁぁぁあ!! もうロンゴミニアドやら、アンガルタやら、エクスカリバーやら、鶴翼やらでもうたくさんなんだぁぁぁあ!!!!

スカサハ「ならば私の宝具を受ければ考えが変わるやもしれんな」

人でなしぃぃぃいいい!!!

スカサハ「サーヴァントだからな、では歯を食いしばれ」

スカサハ「ゲイボルグ・オルタナティブ!!」


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一章 アン&メアリー 「Hide and seek」

皆さん、お久しぶりです! ようやく幕観劇第一弾の投稿です。初っ端からいきなりなチョイスですがサイコロによるセレクションのためそのまま採用しましたw それではごゆっくり…


ここは人理修復機関カルデア。その施設内にある衛宮士郎の個室では…

 

「きゃ〜♪ やっぱり似合うわメアリー!」

 

「うぅ〜……」

 

…ちょっとしたファッションショーが繰り広げられていた。

 

 

さて、何故こんな状況になっているのか? それを説明するためにはまず数十分前の出来事を話そう。

 

 

____________________

 

「ふぅ…、こんなところか?」

 

一仕事終えたかのように息をつくのは我らが主人公、衛宮士郎。旅に出る発言をしてから2日、正確にいつ行くかまでは決まってはいないがいつでも出れるように荷物の整理や、装備の手入れを行なっていた。

 

「それにしても、随分と驚かれたな」

 

旅に出る旨を伝えた時のみんなの反応を思い出す。鼓膜が破れるかと思うほどの驚愕の声、何故という疑問、そしてダメ、絶対許さないという怒号。反応こそそれぞれだがそれだけ惜しんでくれているということだろう。

 

作業がひと段落したところでベッドに腰掛ける…、すると。

 

「お邪魔しますわ、シロウ♪」

 

突然の来訪者、その者の名はアン・ボニー。海の荒くれ者供がのさばるカリブ海にてかつてその名を轟かせた比翼の女海賊の片割れである。長身にグラマラスなスタイルを誇るアンはまさしくモデルのごとくであり、金糸を思わせる髪を揺らしながら部屋へ入る。海賊と名乗っちゃいるがその破天荒な性格と相反する上品な言葉遣いはどこかのご令嬢を彷彿とさせる。

 

「アンか、何か用か?」

 

「ええ、メアリーを探しているのだけどここに来ませんでした?」

 

「メアリー? いつも一緒にいると思っていたが、何かあったのか?…ってそれを見たら嫌でも分かるな」

 

アンが入室した時から手に持っていたモノ、それはゴスロリ服だ。黒を基調としたそのドレスはフリルがふんだんにあしらってあり実に華やかだ。…当然ながら同色のカチューシャも忘れない。

 

「察するにまたメアリーを着せ替え人形にしたのか?」

 

「あら、人聞きの悪い。私はただメアリーに似合う服を見つけたから着せて見たかっただけですわ」

 

アンは一般の女性と同じように服を見繕うのが趣味と言ってもいいほど好きだ。ただ、ほとんどの場合は着るのが自分ではなく相方であるメアリーだ。

 

「けど、メアリーが逃げるほど嫌がってるなら無理に追う必要はないんじゃないか?」

 

「本気で嫌がってるならここまでしませんわ。それにシロウだって似合うと思うでしょう?」

 

目の前に掲げられたゴスロリドレスを着たメアリーを想像してみる。小柄で幼さが残る容姿を持つ彼女にはこういった可憐な服装は確かによく似合う。そして普段はクールで凛々しい表情が常のメアリーが恥ずかしがりながら着ている様子もアンを悪ノリさせている原因だろう。

 

「ところで話は戻りますが、メアリーを知りません?」

 

「いや、すまないが見ていないな。力になれなくて悪い」

 

「…ふ〜ん」

 

士郎の返答に意地の悪い笑みを浮かべるアン。彼女達を召喚してから随分経つがその間に2人のクセや性質をそれなりに知った。中でもこの笑顔を見せる時のアンには注意すべきである。何故かって? それはロクでもないことを考えているからさ。

 

「フフ、では仕方ありませんわね♪」

 

そういうや否や、士郎の隣に腰掛ける。この部屋にはいないと知ったはずなのにどこか嬉しそうですらある。

 

「え〜っと…、アン? メアリーを探しに行かなくていいのか?」

 

「ええ、ここにもいないとなると諦めるしかありませんわね。では代わりにマスターと久々のスキンシップでもしようかと」

 

言いながらごく自然な動作で腕を絡め、まるで恋人同士のように寄り添う。長身美女であるアンが平均身長の男性と並ぶとどうしても差がありすぎてしまうのだが隣が士郎だと別だ。

 

冬木の聖杯戦争を経てから数年、高校を卒業した後気持ち悪いくらいに士郎の背が伸び続けた。そして現在はその身長はアーチャーに届きうるくらいに到達している。故に身長差はほとんどなく、アンの頭がコテンっと士郎の肩に難なく乗っかる。

 

「久々って…、いつもスキンシップを取っているような気がするが」

 

「あら、あんなの軽い挨拶ですわ。仲のいい友達同士がハイタッチするようなもの」

 

んなわけがない…。

 

彼女のいう"挨拶"とは会うなり腕を組んで密着、ハグをしつつも士郎の顔を見事なソフトマウンテンに埋めたりなどというものだ。…最近に至っては朝にアンのディープキスによって目覚めるという事件まで発生した。……ちなみに今まで挙げた挨拶の1つを他のサーヴァントも実行しているがここで名を言うまい。

 

…とにかく、そんな"挨拶"を友達同士のハイタッチと同レベルだと言うなら世の友情観念が歪む。

 

「まあせっかく来てくれたことだし、紅茶でも入れよう。なので一回離してもらってもいいか?」

 

流石に何度も同じようなことをされれば多少は慣れるもの。特に慌てることなく来客にお茶を出そうと持て成す士郎。しかし、当のアンにとっては喜ばしい反応ではなかった。

 

「むぅ〜…、あまり反応しなくなりましたわね。つまんないですわ」

 

「まあ、わりといつものことだからな」

 

他サーヴァントたちにも過剰なスキンシップを受けている士郎にとってもはや彼女達なりの挨拶であると認識されており、意識してしまうのは失礼だという勘違いが発生してしまっている。それをいいことに徐々に行為がエスカレートしてしまってもいるが…。

 

アンの行動も単に揶揄っているだけという結論が士郎の中に認識されている始末だ。

 

「…私は魅力がありませんか?」

 

さっきとは打って変わって、捨てられた子犬のような悲しげな顔で見つめてくるアン。言うまでのことではないがカルデアに召喚されている女性サーヴァントは皆平均以上に容姿が整っている。それこそ絶世の美女といっても過言ではないほどだ。

 

それはアンも例外ではない。抜群のプロポーションにモデルレベルの長身、おまけに長く豪奢な金髪まで揃えた彼女はまさしく艶やかだ。そんな美人が涙目で見つめてくる仕草は絶大な破壊力を有する。…もっともそこは正義の味方、衛宮士郎に女性を悲しませるような事態は許さない。

 

「そんなわけないだろ、魅力がないなんてそんな馬鹿なことがあるか」

 

「でも、見てくれは良くても所詮、私は海賊ですわ。…理由はどうあれ、奪うために殺めることを肯定した。所謂、血に塗れた女ですわ」

 

士郎の言葉がまだ心に響かず、アンはその端整な顔を俯かせ、自嘲気味な言葉を紡ぐ。その様子に士郎は意を決してアンに語りかける、ただの言葉じゃ足りない…自身の有りのままに心を伝える。

 

「アン」

 

そっと肩に手を置き、彼女の注意をこちらに向ける。こちらを見るアンはまだ不安そうな顔を覗かせ、縋るような目が視界に映る。

 

「確かにアンは生前から好き放題してきたんだろう。そしてそれは他者から奪うと言う海賊の性質にもっとも最適だった。…けど…」

 

間を置いた士郎はそこからアンを安心させるように優しげな笑顔で続ける。

 

「そんなことは関係ない。心の底から自由であるからこそアンは輝いている。何者にも縛られず、自分の意思で生き様を決めるアンは魅力に溢れた素敵な女性だ」

 

嘘も偽りもいらない。

 

たとえ世界中の人間がアン・ボニーを悪名高き海賊として覚えていても、目の前のマスターにとって彼女は最期まで己の生き方を誇り続けた者だから。

 

「……本当ですか?」

 

「ああ、嘘じゃない。誓ってもいい」

 

「嬉しい♪」

 

「うmっ!!?」

 

さっきまでのしおらしい態度が嘘のようにアンは声を弾ませながら士郎に抱きつく。弾けたかのような勢いで飛び交ったせいで士郎はベッドに押し倒される。完全にホールド状態のごとく組み敷かれた士郎は苦しげに声が呻く。…え? なんでかって? そんなのアナタ謎の2つのお餅で顔を押さえつけられてしまってるからに決まってるじゃない、言わせんな。

 

「そんな風に思っていてくれたなんて感激ですわ♪」

 

「ん〜!んん〜!!」(ちょ…、苦しい…!!)

 

「あら、ごめんなさい」

 

「プハッ、ぜぇ…ぜぇ…なあ、アン。さっきのはまさか演g…」

 

「なんのことだか分かりません♪」

 

あまりの豹変ぶりに落ち込んだフリをしていたんじゃないかと疑う士郎。しかし、問い詰めようにも当の本人は体制を変えて士郎の胸板に頬擦りしている。呆れた顔をしながらも演技とはいえ、悲しい顔を見ずに済んだと一安心……かと思いきや。

 

「ちょっ! アン!! 何やって」

 

「え〜、何ですか〜♪」

 

あろうことかアンはこっそりと士郎のシャツの下へと手を伸ばしているではないか。というかすでに潜り込んでおり見事に鍛えられた腹筋から胸へと手を這わせている。ゆっくりと滑っていく手指の動作は実にエロティックで官能的だ、見るものがいたら確実にxxxなことをしていると断定するだろう。

 

「づぁ!…ぐっ、アン、本当にこれ以上は…マズい」

 

「うふふ、いいんですよ。こーんなにも私を思ってくれるマスターになら精一杯のご奉仕を致します♪」

 

「こーんなにも」という台詞でアンはとある部分をさわさわしていたがどこなのかは公表すまい。とにかく、士郎はただいまライヴでピンチだ。このままではアン・ボニーと言う名の雌虎に喰われてしまう! というか今すぐ止めなければこの小説をR-18に書き換えなければならん!!

 

しかしこの瞬間、奇跡は起きた。無残に貪られる直前の羊に女神の救いがもたらされた!

 

「そこまでだよ、アン!!」

 

バン!!っと登場したのは比翼の海賊、そしてアンの相方であるメアリー・リード。颯爽と現れた彼女の姿は凛々しいの一言に尽きる……但し、出てきた場所が部屋のクローゼットでなければの話だが。

 

 

「あら、そんな所にいたのメアリー」

 

「話がちがうよアン。シロウを襲う時は2人一緒でって言う約束のはずだよ」

 

…訂正、現れたのは救いの女神ではなく便乗目的の女豹であった。

 

さて、皆の者は覚えているだろうか? アンが入室した時士郎は確かにメアリーを見ていないと発言した。にもかかわらずメアリー本人は士郎の部屋のクローゼットに隠れていたのだ。では士郎は嘘をついたのか? 答えは否である、士郎は実質嘘はついてはいない。これを説明するためには少し時を遡らなければならない。

 

 

〜アンが入室する五分前のこと〜

 

「ふぅ…そんなに経ってないとはいえ、大分こき使ったからなぁ。流石に傷んでいる」

 

装備のメンテナンス中だった士郎は特に来客の予定はなく、次の装備に移ろうとした瞬間を皮切りにスライドドアの音が耳に届く。

 

「ん? 誰d…」

 

「ストップ、シロウ。振り向かないで」

 

聞こえたのは幼さが残った気だるげな声。召喚してから付き合いが長いこともあって声の主がメアリーであることは瞬時に気づいた。サーヴァント達の中にはクセが強いものが多々いることもあり、普段ならもう少し警戒する。しかし相手がメアリーなら大丈夫だろうと言う信頼が士郎の動きを止まらせる。

 

「…うん、オッケー。そのまま話を聞いて」

 

「ふむ、何かあったのか?」

 

いつもより真剣な声色に思わず士郎も顔が強張る。

 

「(カルデア内で異常が発生したのか? いや、それならダ・ヴィンチかマシュから連絡が来るはず…)」

 

「よく聞いてシロウ、数分後にアンがこの部屋に来る。もし訪ねてきたらボクのことは見ていないって言って」

 

「…はい?」

 

思わず変な声を出してしまった士郎を誰も責めはすまい。深刻な事態かと思ったら…

 

「もしかしてまた、アンが服を見繕ってきたのか?」

 

「うん、だから今逃亡中なんだ。作業を続けてて、ボクの方で勝手に隠れとくから」

 

「…隠れてる所も見ない方がいいか?」

 

「念のためそうしてくれると嬉しいかな」

 

士郎のプライベートルームには何故か隠れられる場所が多数存在する。何故そんなものがあるのかは幾人かの読者はお分かりであろうからここには記さないでおくw

 

閑話休題…

 

そう、士郎が言っていたメアリーを見ていないという発言は事実だ。何せ彼女の姿を自らの目で捉えてはいないから。しかし…

 

「う〜ん、…こんな子供の屁理屈みたいな言い分が通用するか?」

 

「そこは大丈夫、アンのことだからボクが隠れそうな場所を片っ端から抑えるよ。当然ここも探しに来るけど士郎が上手く誤魔化してくれれば無問題」

 

「シロウのポーカーフェイスに期待してる」と呟きながらゴソゴソと音を立てるメアリー。ただこの案には1つ誤算があった。アンとメアリーは生前も今も互いに付き合いが長い。それこそ死後英霊となっても2人で1つのクラスに収まるほどだ。

 

メアリーはこの絆の深さを逆手に取ったつもりだが、逆を言えばアンとてメアリーが考えそうなことは手に取るように分かる。どうやらこの鬼ごっこはアンの方が一枚上手のようだ。

 

〜そして現在へ〜

 

 

「残念、メアリーがそこに隠れてなければ…」

 

「隠れてなければどうするつもりだったの? っていうかアン、ボクが隠れてる事に気付いてたよね」

 

そう、メアリーがクローゼットの中…正確にはクローゼット内にある潜伏スペースに潜んでいる事はすでにお見通しだったのだ。だというのにアンはあえてメアリーを直接捕らえるのではなく、誘き出す事にした……それも共通の意中相手を誘惑するという意地の悪い手段で。

 

ともかく、目の前で抜け駆けされてはさしものメアリーも飛び出ざるを得ない。

 

「とにかく! それ以上は許さないよアン」

 

「では、私が持ってきた服を着てくれるの?」

 

「ぐっ…そ、それは」

 

「嫌ならこのままシロウと(ゲイ・ボルグ!!)しますわ♪」

 

「ダメ! シロウと(エクスカリバー!!)するならボクも混ざる!!」

 

この状況、アンからしてみればどちらに転んでも得だ。そして冷静さを失ってしまったメアリーはどんどん視野が狭まってしまい、決断に窮する。

 

「さあ♪ どうするのメアリー?」

 

「うっ……ぐっぐぐぐぐ!っ」

 

 

そして冒頭へ…

 

 

「可愛いわー♪ メアリーももっと普段からこういうものを着ればいいのに」

 

「う〜…、こんな格好普段から出来るわけないよ。ボクが恥ずか死ぬ」

 

結局メアリーは大人しく着せられる羽目となった。了承を確認してからのアンの行動は早く、代わる代わる服を着せ変えた。清楚な白ワンピース、黒ゴスロリ、ミニスカキャミソールスタイル、果てにはスクール水着まで着せられたのだ。……ちなみにメアリーはスク水を特に嫌がったとか。

 

こうしてメアリーはアンに全面降伏したかのように見えるが転んでもただでは起きないのがメアリー・リードだ。彼女は最期の悪あがきにある条件を提示した。そしてその条件とは…

 

「………なんで俺まで」

 

そう、道連れである。メアリーは着せ替えをするなら士郎も一緒にと提案したのだ。これを聞いたアンは二つ返事で了承。メアリーの衣装に合わせた男性服を即座に見繕い、カップルファッションショーと化した。

 

当の士郎は衣服に別段、頓着はない。高校時代でも簡素なシャツにジーンズスタイルから始まり、現在ではレイシフトの時に自前のボディーアーマーと黒コート&聖骸布のスカーフといった出で立ちだ。…といってもこれは戦闘服だが。

 

「…うん、今更だけどごめん…シロウ」

 

「できれば思いとどまって欲しかったよ」

 

今になって冷静になったメアリーは事態の悪化具合にバツの悪そうな顔をしながら逸らしている。メアリーは現在、青のフリルドレスを身につけており容姿も相成って貴族のお嬢様のような出で立ちとなっている。アンはそれに合わせてリボンタイのピシッとしたタキシードを士郎用にコーディネイト。あっという間にご令嬢と執事の完成だ。

 

「それにしてもシロウの執事服姿は本当に似合ってますわね」

 

「それね、気のせいか着替えてから佇まいが一段とキチッとしてるよ」

 

「そうか? まあ、バイトで一時期執事を勤めてたからな。そのせいかすっかり着慣れた感じがするよ」

 

言いながら襟や裾を軽く直す。実質士郎は時計塔に在籍していた期間にエーデルフェルト家に雇われていたのだ。家事なら大得意な士郎だが執事の振る舞いなどはからっきしだったため、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトのお付きオーギュストにみっちり鍛えられた。

 

「では、折角ですので執事らしく対応して見ましょうか♪」

 

「唐突だな…、ってメアリーまで」

 

自分の隣に立っていたはずのメアリーがいつのまにか備え付けのテーブルに付き、ちょこんと淑やかに座っている。

 

「ごめん、シロウ。でもボクもシロウにお嬢様扱いされてみたい」

 

顔は無表情ながらも目がキラキラと期待に満ちており、視線をずらすとアンまでもがテーブルで待機している。2人がこうなってしまうと要望通りにしない限り事態は収まらないだろう。

 

「はぁ……、では僭越ながらお茶を淹れましょう。暫しお待ち下さい、お嬢様方」

 

エーデルフェルト家付き、オーギュスト仕込みの作法と礼儀をもって完全に執事と化した士郎。そして流れるかのように踵を返して調理場へと向かう。

 

…今からお茶菓子用意など無理? そんなもの誰が決めた? 執事ならこの程度可能にしてこそ真の執事だ。行くぞ、ティータイムの用意は十分か?

 

 

十分後〜

 

「美味しい〜♪ このビスコッティ、紅茶と相まって味が深まるわ」

 

「うん、そのまま齧ればサクッとした歯応えが際立つし、紅茶に浸せば風味が絶妙に合わさってまた違う味わいがある」

 

それぞれが紅茶とお茶菓子に舌太鼓を打つなか、士郎は粛々とお嬢様たちに紅茶のお代わりを淹れる。

 

「本日のティータイムにはくるみとイチジクを使ったビスコッティを、紅茶は旬のくるみと合わせてオータムナルをご用意しました」

 

メニューの説明を一字一句詰まることなく、焦ることもなくスラスラと述べる。もちろん、手を動かすことも忘れない。説明が終わる頃には追加の紅茶の入ったティーカップが音を立てることなくテーブルに置かれる。

 

「流石はシロウですわね。あのマリー・アントワネットが直接スカウトするのも頷けるもの」

 

「確かに、これだけ優秀な執事だったら是非とも欲しくなるよね」

 

アンが説明した通り、過去に士郎はあのマリーに執事にならないかと勧誘されたのだ。発端は第一特異点修復後、次の特異点への備えと戦力強化のために召喚を行った時だ。

 

なんと士郎は特異点で別れたばかりのマリー・アントワネットの召喚に成功した。ただ、残念なことにオルレアンで出会ったマリーではないため共に旅した記憶はない。しかしそんなものはこれから積み上げられるということで気を取り治して親睦を深めるために士郎発案の下、お茶会が開かれた。

 

そしてその茶会に出されたお菓子と紅茶のセレクションにマリーは大いに満足した。何せ一通り味わったあとに言った言葉が「私の執事にならない?」なのだ。

 

「と言われてもな、俺としてはただ召し上がってもらうなら常に最高の出来のものをとおもってるだけだぞ? まあ、かの王妃様にそこまで評価してもらえたなら光栄だ」

 

「むぅ……、今のシロウはボクたちの執事でしょ。主人の前で他の女のこと考えてデレデレしない」

 

「そうですわよ? 私たちよりマリーに褒めてもらう方が嬉しいのなら妬けちゃいますわ」

 

「えっと…、すまん。別にそんなつもりはなかったんだけど」

 

「だめ、許さない。罰としてそこに座って」

 

指差す先は士郎のベッド。いつもより有無を言わさない強引な態度に逆らったらいけないと察して士郎は大人しく従う。士郎がベッドに腰掛けたことを確認したメアリーとアンは椅子から立ち上がり、そのまま士郎の両隣へと腰を下ろす。左右を陣取った2人は自らの頭をコテンと寄りかからせる。

 

「…あー、これが罰なのか?」

 

「ううん、罰はこれからだよ? 執事なら主人の命令にはしたがうものだよね?」

 

「……俺にできる範囲なら」

 

「そう……、なら」

 

一拍置いたメアリーは声から重さを感じるようにはっきりと士郎へと伝える。

 

「旅に出ないで…このままボク達と一緒にいてよ」

 

「………」

 

「以前、ダヴィンチからカルデアの正規所属の勧誘があったのでしょう? なら…」

 

「ごめん、…それだけはできない。それだけは…」

 

「どうしても…ですか?」

 

「……ああ」

 

 

士郎の返答に重い沈黙が広がる。…分かっていたことだ。士郎の決意は揺らぎも変わりもしない、契約と絆で繋がっている彼女たちにはそれが嫌でも伝わってしまう。

 

「ごめんな…メアリー、アン」

 

「…ううん、半ば分かってたことだし」

 

「もう、そこは嘘でも行かないって言って欲しかったですわ」

 

気まずい空間を吹き払うように2人は拗ねた演技をする。対する士郎は気を遣わせしまったことに申し訳なさそうに顔を伏せる。共に特異点を戦い抜いた仲間として、いつしか心を交わした大切な人たちとして2人の望みは出来るだけ叶えてやりたい。…ただ、これだけはどうしても譲るわけにはいかない。

 

「でもやっぱり納得出来ないから、罰の追加だね」

 

「…はい?」

 

「記念すべき最初の命令に従わなかったのだから、うんと厳しいお仕置きが必要ですわね♪」

 

「いや、ちょっとまっ…?」(グッ)

 

反論しようと身じろぎした士郎は妙に動きづらさを感じた。何事もかと視線を下に向けると…

 

「これは…メアリーのリボン?」

 

そう、メアリーが普段から自分の剣に巻いているリボンがいつのまにか自分の手首を拘束しているではないか。とはいえ、体の幅と同じくらいに繋がれているのでそこまで不自由ではないがそれも…

 

「えい♪」

 

続くアンがリボンを引っ張り、瞬時に士郎の両手が後ろでに拘束される。どうやら密着中、密かに士郎の手にリボンを結びつけていたようだ。流石は比翼の女海賊、以心伝心もかくやのチームワークである。

 

「な、何するだぁ!?」

 

「もちろんお仕置き。 覚悟した方がいいよ、アンはともかくボクの方はいつもよりヤる気が湧いてるから」

 

「あら、その言い方だと私がいつもがっついてるように聞こえるわ」

 

「実際そうでしょ?」

 

「待て! さっきから不穏なセリフが聞こえるがどうするつもりだ!?」

 

「「えい」」

 

掛け声と同時に士郎はベッドへと押し倒され、2人の美女に組み敷かれる。倒れ込んだ士郎は仰向けざまに2人を見ると頰を薄っすらと赤らんだアンとメアリーが視界に映る。

 

 

「「いただきます♪」」

 

「ちょ、待て、シャレになら……アーっ!!」

 

 

こうして哀れな羊は雌虎と女豹にじっくり、骨までしゃぶられてしまったとさ。

 

 

……………大丈夫だよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




メアリー「さて、どういうことか説明してもらうよ作者」

あの、説明も何も有無を言わせずカトラスとマスケット銃を突きつけられてもなんのことだかさっぱり…。((((;゚Д゚)))))))

アン「あら、言わなきゃ分かりませんか?」

メアリー「じゃあハッキリ言うけど…、どうしてあそこで話をきったの?」

え? そこに何か問題でも?

アン「大ありですわ! あそこはあのままシロウと私たちの情事へとつなげるのが常識でしょう?」

いやいやいや!? 常識じゃねえよ!! 何考えてんのこの人たち!? 作品がR-18入りしちゃうよ!!?

メアリー「そう、ならR-18版も書こうか」

無茶言うな!? 大体読者の方々にそんなに見せたいの!!?

アン「確かにジロジロと見られるのはいい気分じゃないわ」

メアリー「でもここに載せることで他のみんなへの牽制になる」

アン・メアリー「「全ては正妻の座を手に入れるために!!」」

メアリー「分かったら早速PCを立ち上げようか」

アン「もちろん、通勤中も休憩中も端末で更新してもらいますわよ♪」

いやだ……やめろ………オレのPCとスマホを手にジリジリとにじり寄るなぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!、!、!!!


…こうして作者のやつれた顔を見ない日がなかったとか。


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2章 モードレッド前編 「従わずの騎士」

お久です! 少し調子がいいので連続の投稿です。またいきなりなチョイスの鯖ですが…しょうがないのです、サイコロの言う事は絶対なのです(ゴリ押し) さぁ、みんなでモーさんの可愛いところを見ながらニヤニヤしましょう!!


空気が軋むような緊張感が部屋全体に広がる。その圧迫感の一因である彼女は威風堂々と自らのシンボルとも言える剣を手に駆ける。その一撃一撃は嵐のように激しく、裂帛の気合は咆哮を思わせる重圧を放ち、その眼光は嫌というくらい"叩き斬る"という意思を明確に伝えてくる。

 

彼女の剣をまともに受けてはならない。それは悪手、この上ない自殺行為だ。そんなマネをすればこの双剣は砕け、この身が一撃のもとに両断されるだろう。ならば俺にできることは一つ。彼女の剣を受け流して捌ききること。

 

_____一撃を凌いだ

 

しかしまだ終わらない。彼女は闘志をむき出しにしながら次の一撃を振るう。今度はスピードを上げてきたか…、本当に呆れた膂力だ。これでもし魔力放出を使っていたら諸共吹き飛ぶぞ。

 

_____二撃、身をずらして上へと弾く

 

攻防が続く度に彼女は獰猛な笑みをさらに深める。返す刃で振り下ろした剣を限界にまで高めた反射神経で躱す。横へと転がってはすぐさまに態勢を立て直す。元より彼女と剣を交えることすら困難だ。常人を遥かに超えた剣戟は相手の武器ごと斬りかねない代物だ。

 

…だが、あと一撃だ。それだけでいい。この一撃さえ凌げれば…。対する彼女は闘気が収まることなく、接敵する。こちとら防御に手一杯だというのに向こうは止まることを知らない。

 

…まあ、カルデアに喚んでからすでに知っていた事だ。そう、一度剣を抜けば相手が誰だろうと何だろうとぶった斬る。それこそが…

 

「どうした、シロウ! まだまだこんなモンじゃねえだろ!!」

 

…アーサー王伝説でも名高い、叛逆の騎士モードレッドという剣士だ。

 

 

____________________

 

 

「おーい、いつまで拗ねてるんだ?」

 

「べっっつに…、スネてねぇし」

 

所変わってカルデアの休憩室。トレーニングルームに隣接しているこの部屋では先ほどまで訓練をしていた士郎と何やら不貞腐れた態度のモードレッドが座り込んでいた。

 

備え付けの椅子に脚を組んだ姿勢でどっかりと座り込み、テーブルに頬杖をついたまま口を尖らせている様はどこからどう見ても拗ねているようにしか見えない。かと言って指摘しようものなら元から短気な彼女はさらに機嫌を損ねてしまう。手の掛かるサーヴァントに士郎は早くもお手上げ一歩手前だ。

 

「あのなぁ、そもそもあれは訓練であって殺し合いじゃないはずだぞ?」

 

「あ? 訓練だろうが実戦ばりにやった方が効果的だろ。ヌルい鍛錬をしたって強くなれねぇよ」

 

「お前…、やっぱり本気でやったな?」

 

そう、士郎はついさっきまでトレーニングルームにてモードレッドに稽古をつけてもらっていたのだ。とはいえ、サーヴァントと手合わせする時は基本防御に徹して活路を見出すスタイルで戦うわけだがモードレッドのような好戦的なサーヴァントが相手だとたまに加減を忘れてしまう。

 

全力を出してこそいないが人間相手なら軽く腕の一本や二本は落とされる。だと言うのに当のモードレッドは悪びれる様子もなく反論する。まあ、彼女とて本気で士郎を殺そうとしていたわけではなくそれくらいの力を出しても対応できるというある種の信頼のあらわれでもあるが…。

 

「あれくらいならどうとでも出来るだろ? 仮にもオレのマスターだからな」

 

「この鍛錬は設定時間の経過まで攻撃を防ぐものだったのは分かってるよな?」

 

いくら士郎が魔術師として異端だとしても人間とサーヴァントでは身体能力差が違い過ぎる。そのため、士郎が英霊たちと鍛錬をするときは決められたルールで行われる。具体的には何手まで捌ききれるか、時間内に一撃当てられるか、撤退戦を模した鬼ごっこまであるとか。

 

今回は時間いっぱいモードレッドの猛攻を防ぎきるというものだが、当の彼女は加減を少し忘れてしまったのか途中からエンジンがかかってしまったようだ。ただでさえ英霊の中でもトップクラスにも入るモードレッドがその気になれば怪我では済まない。うっかり魔力放出なんて使ってしまった日には士郎の半身が吹き飛んでしまっても不思議はない。

 

「んなことは分かってるっての。だからちょいとレベルを上げただけだろ? 思ったより対応出来てたからもう一押しっつーとこで時間切れだったけどな」

 

反省の色もなくさらっと流すモードレッド。要はもうちょい本気を出して士郎を小突き回そうとしたところでタイムアップを迎えてしまい、不貞腐れたわけである。自身の向上としては特に問題はないがシャレにならないレベルで死にかけたのなら話は別だ。その上謝罪のしの字もない態度だ。

 

「全く……まぁいい、いつものことだし」

 

士郎の呆れた態度に首を傾げる。いつもならもっと苦言や小言が飛んでくるのだが今日はやけにあっさり事が済んだ。内心はうるさく言われない事に安堵したが同時に彼女の直感が警報を鳴らし続ける。

 

「さて、これから夕飯の支度しなきゃならないんだが…そういえば今日は珍しくベーコンチーズバーガーを作ろうかと思っていたな」

 

「っ!!?」

 

ベーコンチーズバーガー、もちろんこれは魔法の呪文というわけではない。その名の通り大人から子供までみんなが食べたことある、あのベーコンチーズバーガーだ。これだけならモードレッドが反応するまでもないが"士郎の特製の"がつくと話は変わる。

 

なにせバンズは士郎がパン作りの際に一から焼き上げ、パティは士郎が独自に研究し尽くした調味料から下味をつけ、ケチャップとマスタード? なにそれと鼻で笑うかのような手間暇かけたAAAの自家製ステーキソースで彩り、厳選に厳選を重ねたレタス、トマト、オニオン、それどころかピクルスまで士郎の手ずから漬けたものを使用。

 

そしてなにを隠そう、この士郎特製ベーコンチーズバーガーこそがモードレッドの大好物なのだ!!

 

「せっかく作るなら手の込んだものをと思ったが、今日は些か無理が祟ってしまったからな…、やっぱりやめておくか?」

 

「ず、ずりぃぞ!士郎!!」

 

モードレッドの直感スキルがいやでも彼女に理解させた。今回のことを反省しないのであれば人質がどうなっても知らんぞ? ということである。…しかしまあ、伝説で語られる叛逆の騎士がたかがハンバーガーで身動き取れなくなるとは。

 

「そうだな…、ここは無理せず別のものを作るとしよう」

 

「〜〜〜っ!」

 

「いやはや、しかし惜しいな。新しいスパイスも思いついたからそれを皮付きポテトで実践しようかと思ったのに」

 

「〜〜〜〜っ!!」

 

「そういえば新作のピクルスもあったな…、それも封印だな」

 

「〜〜っ! 〜〜〜〜…ぃ」

 

「ん? 何か言ったか、モード?」

 

「……でした…」

 

「いつものモードらしくないぞ? "言いたい事は、はっきり言ったらどうだ?"」

 

「…ごめんなさい! すいませんでした!! オレが悪かったです!! これでいいだろ!」

 

ついにモードレッドのやせ我慢は決壊して、謝罪の言葉を並べる。勝ちを確信した士郎は一仕事終えたかのようにため息をついては苦笑いを浮かべる。その顔は手の掛かる子供を見るかのようだ。

 

「よろしい…時間が掛かったとはいえ素直に謝ったことに免じて、夕飯のメニュー変更はなしにしよう」

 

「けっ!…」

 

厨房へと足を向ける士郎の背後で不貞腐れるモードレッド。しかし歩き去ろうとする士郎は足を止める。

 

「それとモード…」

 

「…んだよ」

 

「悪かった、さっきはああ言ったけど。献立を変えるつもりはなかったよ」

 

苦笑いを浮かべながら士郎は再び厨房へ向かう。部屋に残されたモードレッドは士郎の背中を見送りながらそっぽを向く。

 

「けっ…、回りくどいマネしやがって…」

 

悪態こそついているものの、ほっとした表情が覗いていた。

 

「ったく、オレも随分と絆されちまったもんだな」

 

召喚された当初のモードレッドは非常に刺さしい態度が目立っていた。特に酷かったのはマスターであるはずの士郎に対して常に辛辣だった。

 

_________________________

 

〜モードレッド召喚〜

 

「…チっ、こんな奴に召喚されるとはツイてねぇな」

 

開口一番に毒吐くのは赤と銀に彩られた刺々しい鎧の騎士。フルフェイスの兜のせいでその顔は完全に隠されており、声でしか本人の機嫌が窺えない。

 

「えっと…、君が俺のサーヴァントでいいのか?」

 

「あ?…不本意だがオマエに召喚された以上、そういうこったろうな」

 

そうぼやく騎士は心底嫌そうに視線をそらす。直後に赤い騎士は士郎に目を向けて威圧する。

 

「だが勘違いするなよ? オレはオマエを認めたわけじゃねぇ。どうしても言う事を聞かせたいなら令呪を使う事だな…」

 

それからのモードレッドはひたすら態度が悪かった。戦闘で共闘はするものの突出して孤立は当たり前、指示を出しているにも関わらず無視など日常茶飯事、一番酷いのは士郎と顔を合わせるたびに喧嘩腰になる事だ。

 

マスターと呼ばない事を士郎は気にしてはいないが、協調性のなさが深刻な悪影響を及ぼしかねないと危惧した。そしてある日、士郎は行動に出た。

 

「で? 何の用だ?落ちこぼれ」

 

いきなり随分な呼ばれよう。ちなみに落ちこぼれという呼び名はモードレッドから見た士郎の評価だ。魔力量が多いわけでもなく、高度な魔術が扱えるわけでもない。ましてや大部分の魔術に精通しているわけでもない士郎は彼女からしてみれば魔術師としては三流ものだ。ゆえの落ちこぼれである。

 

「モードレッド、取引をしないか?」

 

「取引だと?」

 

「ああ、賭けだと思ってくれてもいい」

 

「回りくどい言い回しはいい、言いたい事ははっきり言え」

 

「…そうだな、でははっきり言おう」

 

目を閉じ、再び開く。その目は覚悟と決意に満ちた鷹の目。

 

「俺と勝負しないか? モードレッド」

 




モード「なんのつもりだ、テメェ!!」(作者を首しめ)

な、なんのつもりも何も(酸素不足により顔面蒼白)

モード「どこまで書くつもりだ!? 言っとくがおかしなマネしたら…」

でも士郎とのやりとりは書かなきゃいけないですし、それにモーさんだって士郎のことすk…

モード「だ、だだだだ誰がだ!! いい加減なこと言ってるとボコすぞ、変態作者が!、!」

ちょ、……モーさん、やめて…、首が……折れ…

___作者の首がへし折れる音と共に放送を終了致します___


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