無法魔人たくま☆マギカ (三剣)
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序幕 異端な少年の契約風景
序章 笑って過ごせる事を


「何度、幕が下ろされようと。
 幾度となく、幕が上がろうと。
 決して変わらない、始まりが“ここ”さ」


その少年は、絶望の底にいた。

何故、自分がこんなに辛い目に遭わないといけないのか。

家族を失い、味方もおらず。

黒かった髪は、白く抜け落ちて。

いつからか、涙の流し方も忘れ。

それでも“肉体は生きている”から、モノクロの日常に身を投じ。

その少年は、絶望の底にいた。

 

 

 

SIDE 少年

 

 きっかけは、些細な違和感だった。

 誰もいない家に帰る途中。いつものように、人気の少ない路地裏を歩いている時。

 朝、通った時には無かったはずの、落書きみたいなもの。

 誰かが書いたのだろうか?

 何気なく、その落書きに手を伸ばし……手が入った。

 

「…は?」

 

 硬直。停止。

 

 今、オレの手は落書きの書かれた壁の中にある。

 ……ように見える。

 なんぞ、これ?

 

「契約してないのに“魔女の結界”を認識できるんだ」

 

 そんな言葉に、首だけをそちらに向ける。

 そこに、動物?らしきものがいた。ウサギとネコを足して2で割って、ウサギを掛けたような……。

 なんか、見た事の無い動物?がいた。

 

「最近は、雌からしかエネルギーを採取してないからね」

 

 動物?が喋ってる?らしい。

 ……どうやら、オレの精神もここまでのようだ。

 

「まあ、素質があるなら性別は問わないよ」

 

 一人?で納得?しながら、その動物?は、オレに対して問いかけた。

 

「僕と契約して、魔法少女になってよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、少女ちがうし」

 

 壁の落書きに手を突っ込んだまま、オレは動物?に反論した。

 

「君は雄だったね」

 

 見て解れ。

 首を傾げながら、そう言う動物?にオレは内心でツッコむ。

 首を元に戻して、動物?は再び問いかけた。

 

「僕と契約して、魔法使いになってよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それだと、性別関係なくね?」

「確かに、雌でも魔法使いで成立するね」

 

 誰か、この状況をなんとかしてください。

 落書きが書いてある壁に、手を突っ込みながら、白い動物?と会話してます。

 誰か、助けて下s

 

 ……誰かに助けてもらった事なんて、なかったな。

 

「いずれ“魔女”になるのなら“魔法少女”でいいんだろうけど。

 雄の場合はどうだっただろう?」

 

 知らんがな。

 

「随分と雄と契約してないから、情報の取得に手間取りそうだ」

「そーなのかー。

 ……帰っていいかな?」

「僕の問いに答えてからにしてよ」

 

 わぉ、このナマモノ、わがままだ。

 

「僕と契約して、魔法少年になってよ」

「なんか、語呂が悪いから、イヤ」

「わがままだね」

 

 君に言われたくないです。

 

「じゃあ、契約してから考えようよ」

「何、契約する前提で話を進めようとしてんのよ」

 

 もうやだ、このナマモノ。

 

「いいじゃないか。

 願い事を一つ、叶えてあげるからさ」

「なにそれこわい」

「願いが叶うのに怖いのかい?

 わけがわからないよ」

 

 わけがわからないのはこっちですよ。

 

「君の願いを一つ、叶えてあげる。

 そのかわりに、魔女と戦って欲しいんだ」

「いじめられっこに、戦い期待すんなし」

「なら、苛められないように願えばいいんだよ」

「いや、そうじゃなくて、戦いとか言われても」

「僕と契約すれば、魔法が使えるようになるよ」

「使い方、知らんし」

「どんな魔法になるかは、契約してみないとわからないんだ」

「無責任、ここに極まれり」

「どんな能力かは、願い事に左右されるからね」

「契約して、能力が気に入らない場合は、キャンセルとか」

「無理」

「ですよねー」

 

 なにこの悪徳勧誘者。

 願いを叶える代わりに、魔女とかいうのと戦え。

 その手段は、願い事に左右される。

 クーリングオフは受け付けません。

 いや、そもそもどこに返すんだよ?

 

「契約したら、戦うのは強制?」

「強制はしないけど」

「けど?」

SG(ソウルジェム)の穢れを浄化するには、魔女の持つGS(グリーフシード)を使わないといけないからね」

 

 なんか、専門用語っぽいの出てきた。

 まあ、現状が理解できないので、スルーで。

 

「願い事は……絶対に叶う?」

「もちろんだよ」

 

 願い……ねぇ。

 ふと、自分の事を振り返る。

 

 

 

 両親を事故で亡くし。

 親戚は、両親の遺産目当てで。

 その遺産も、オレが成人するまで、持たない程度で。

 学校では、いじめられ。

 友達も無く。

 先生も、助けてはくれず。

 

「……ははっ」

 

 こうして見ると、異常すぎるな。

 良く見る漫画や小説の方が、よっぽど“希望”に溢れてる。

 対して、自分の世界の“絶望”が、どれほどのものか。

 

「契約……しようか」

 

 だったら。

 

「オレの願いは」

 

 世界のすべてが、優しくないのなら。

 

「オレの、何時、如何なる時も」

 

 自分の、最大限の希望を。

 

「オレの、想うがままに」

 

 叶えてみせてくれないか。

 

「笑って過ごせる事を」

 

 笑い方を、忘れたオレに!

 

「今、ココに願う!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、一人の少年が、契約を交わし。

 

 

―――――その願いは、エントロピーを凌駕した―――――




次回予告

そして始まるのは

ある少年の、人生謳歌の物語
ある少年の、傍若無人の物語


ある少年の、天異無法の物語

二章 記録にない状況だね


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二章 記録に無い状況だね

「わけがわからないよ」
「オレもだよ」


SIDE 少年

 

 願いを言った瞬間、白いナマモノの耳が、オレの体に触れた。

 戸惑いながらも、状況の変化を観察していると、自分の体から緑色の光球が出てきた。

 

 ……待てよ。

 どこにいくんだ?

 これ以上、オレから“ナニカ”を奪うのか?

 

 オレは反射的に、その光球に手を伸ばす。

 

 願いを叶えてくれるんだろう?

 なのに、失うなんて。

 

「笑えねぇぇぇだろおおおぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 その光球を両手で包むように掴み。

 祈るように、眼前に引き寄せた。

 まるで、逃げるように。

 光球が手から抜け出し。

 

“右目の中に入った”

 

「ああああぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁああああ!!!!!」

 

 途端に走る、激痛。

 

 痛い熱いいたいあついイタイアツイ!!!!

 

 右目の中で、暴れ狂う緑の光球。

 

「記録に無い状況だね」

 

 誰かが、何かを言っている。

 だが、オレはそれどころではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE out(三人称)

 

 出て行こうとする“ナニカ”と。

 失わんとする“ナニカ”が。

 “契約による現実”と“契約による希望”が。

 少年の中で、暴れていた。

 

 契約により、魂はソウルジェムとして変換される。それは、緑の光球となり、少年の“肉体の外”へ排出される。

 しかし、少年はそれを“笑えない”と言った。

 

“オレの、何時、如何なる時も、オレの想うがまま、笑って過ごせる事”

 

それが“契約内容”であり。“魂がSG(ソウルジェム)となり、肉体の外へ排出される事が笑えない”ならば。

 SG(ソウルジェム)が肉体の外に出る事は“契約不履行”を意味していた。

 

「アアアアァァァァァアアァァァァァアァァァァアアアア!!!!!」

 

 “契約を交わした後”ならともかく。

 “契約を交わしている最中”に。

 “契約内容に添わない”のは、理に反する。

 

「AAAAaaaaaAAaaaaaAaaaaAAAA!!!!!」

 

 “契約したのなら、魂はSG(ソウルジェム)となる”

 “SG(ソウルジェム)は肉体を離れて、形を成す”

 それが“世界のルール”であり。

 

 

 

 

 

 “魂がソウルジェムとなり、義眼として右目に収まる”事で。

 

 その両方を満たす事になった。

 

 

 

 

 

 が、少年がそれを知る術も無く。インキュベーターが、その事例を知ることも無かった為。

 冒頭の会話に繋がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 少年

 

 どうなるかと思った、マジデ。

 契約って……痛いんだな。

 

「で、オレの魔法ってなんぞ?」

「知らないよ」

 

 ちょwまじかwww

 

「そもそも“SG(ソウルジェム)が体の一部になる”なんて、初めての事だしね」

 

 そのわりに、冷静だな、ナマモノ。

 しかし、体の一部とか言っているが。

 

「……まともに見えんぞ、この右目」

 

 左目を手で隠し、右目だけで周りを見る。

 全ての輪郭がぼやけて、辛うじて色を認識できる。その程度である。

 

「見えるなら、君は右目を失っていないんだろう」

 

 確かに“見えている”以上は“無くなってない”んだろうが。

 

「……さっき言った“SG(ソウルジェム)が体の一部になる”ってのが、おかしくね?」

 

 その言葉通りなら、オレの右目が“SG(ソウルジェム)”になっているって事だろ?

 それはつまり“右目が無くなり、SG(ソウルジェム)が収まった”って事じゃね?

 

「君の右目に、SG(ソウルジェム)が収まった事で、契約は成立した。

 君の右目が見える事で、君は何も失ってはいない」

 

 なんぞ、その理屈。

 

「そもそも、SG(ソウルジェム)ってなにさ?」

「君が理解できるような言葉は“君の魂”だね」

 

 たましいときましたよ。

 

「……すまない、オレは無神主義者なんだ」

「わけがわからないよ」

 

 こっちのせりふだよ。

 

「……もう、ゴールしても……いいよね?」

「何を言っているんだい?

 これから、魔女退治の始まりじゃないか」

 

 ……そうでしたorz

 

 契約が成立した以上、魔女を倒さないと。

 ……クーリングオフしてぇ。

 目の前の、ナマモノに、全力で投げ返してぇ……。

 

「もう、考えるの、ヤメ」

 

 とりあえず、後にしよう。契約破棄できない以上、魔女と戦うのは確定らしいし。

 

「それは“結界の入り口”さ。

 その先に“魔女”がいるはずだよ」

 

 ナマモノの言葉に、オレは落書きに視線を向ける。

 右目が、ほとんど使い物にならない為、左目だけで見る。

 ……つもりだったが。

 

「……落書きだけが、鮮明に見える……」

 

 まるで、モザイクを切り取っているかのように。

 落書きだけが、はっきりと認識できた。

 ……これが、魔女と戦う為に必要な能力なんだろうか?

 

「行くか」

 

 思考を切り替えて、オレは落書きの中に、入っていく。

 

 

 

 この日、オレの“世界”が、劇的に色を変えた。

 

 

 

 

 

 

 

「で、オレって魔法少女なん?」

「流行りのオネェ系ってやつかい?」

 

 

 

「「わけがわからないよ」」




次回予告

歩く事の出来ない赤子に、歩けと言った所で
箸の使えない外人に、使えと言った所で



戦った事のない子供に、戦えと言った所で



三章 どうせいっちゅーねん


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三章 どうせいっちゅーねん

「普通は、マスコットが魔法の使い方とか、教えてくれるものじゃないの?」
「僕は、マスコットじゃないよ?」
「なん………だと………」


SIDE 少年

 

 魔女に関する、一通りの情報をナマモノから教わったオレは、落書き世界をゆっくりと歩く。

 いじめられっこなオレが魔女退治をする事になるとは、この世界は中々不条理なシステムで出来ているらしい。

 そんな事を考えてから、自分の服装を改めてチェックする。

 

 緑色の軍服に、両手には黒い手袋。

 足には手袋と同じような黒いブーツ。

 そして、黒い外套。

 

 以上。

 

 …………。

 

「武器が無ぇっ!?」

 

 そう、武器が無い。

 まあ、ファンシーな魔法のステッキとか渡されたら、軽く死ねる(精神的に。

 かと言って、現状のオレの戦闘手段は、肉体言語ぐらいしかない。

 魔法ェ……。

 

「どうやら、ここにいるのは“使い魔”だけのようだね」

 

 付いてきたナマモノが言う。

 使い魔とはすなわち、魔女の下僕。

 まあ、いきなり大ボスとか出てこられたら、そこで終焉だろうが。

 

「しかし、単独で結界を張るほどに成長している使い魔とはね。

 いつ魔女化しても、おかしくはなさそうだ」

 

 上げて、落とすな、ナマモノ。

 いきなり中ボスクラスとの戦闘って事じゃねぇか。

 

「まあ、いいか」

 

 動かなければ、事態は変わらない。

 そう思い、オレはゆっくりと歩き出した。

 

 

 

 

 

 絵の具で書かれた、整備工場。

 それが、オレの感想だった。

 そんな、異常な場所を歩きながら、オレは思考の海に沈む。

 

 オレは契約した。

 男なので“魔法少女”と言う表現は適切ではないが、そうなったのは事実だ。

 そして、これから“魔女”と戦わなければいけない。

 まずは、事実を受け入れる事。

 考察は、後でゆっくりすればいい。

 “魔女”を倒す事が、今のオレの目的なのだ。

 なら、考えるべきは、その手段。

 

1.魔法を使う

 この手段は却下。

 使い方が解らないし、そもそもオレがどういう魔法が使えるのかも、解らない。

 

2.拳を使う

 こう、バチバチッって感じでなんか纏って、ドーンッって出来ないものかね?

 スーパーな猿人みたいな感じで。

 

 ……無理だね。

 そもそも、そんなに強いなら、いじめられっこにならんよ、オレ。

 

3.武器を使う

 拳銃持って、ヘッドショットで魔女をパーンッっと。

 無理だわ。

 武器を持ってないんだってヴぁ。

 

 ……あれ? 詰んでね?

 超有名RPGだって、最初に棒と服を貰えるよ?

 服はあるけど、棒が無いよ、オレ。

 ……そもそも、棒と服だけで魔王倒して来いとか、お偉いさんは中々に鬼畜n

 

「いたね。

 あれが使い魔だよ」

 

 思考が逸れてきた所で、ナマモノがオレを呼んだ。

 言われて視線を向けると、何かがこちらを壁の隅から覗き込んでいた。

 絵の具で書かれた、女の子っぽいナニカが。

 

「あれが、使い魔……」

「魔女によって、当然使い魔も変わるから、どんな能力なのかは、戦わないとわからないよ」

「こっちの使い魔、つかえねー」

「僕は使い魔じゃないよ」

 

 ナマモノの言葉を無視しつつ、オレは使い魔を凝視する。

 相手がどう動くか解らない為、こちらも警戒を怠らない。

 もっとも、相手がどう動こうと、オレ自身に戦闘する手段が無い以上、事態解決にはならないだろうが。

 ……あれ? オレ、死ぬんじゃね?

 そもそも、魔女と戦う為に魔法少女(男)になったのに、魔女と戦う力が無いとか、詐欺じゃね?

 きっと今のオレは、ナマモノを耳の輪でグリグリやっても、許されるんじゃね?

 鍋のだし汁にでもすれば、意外とおいしいんじゃね?

 そういえば最近、コンビニ以外で飯を買った記憶がないな。

 第一、小学四年生が一人暮らしって時点で、相当異常な上に、無理があるにきまってr

 

「動かないね。

 キミはそもそも、契約者としても異端だし、向こうも警戒しているみたいだ」

 

 ナマモノの言葉で、逸れていた思考を強制的に戻す。

 まあ、別の事を考えながらも、視線は反らしていないので、問題は無い。

 ……問題なのは、こちらに戦う手段が無い事なのだが。

 

 そのまま、事態は膠着状態へと移行する。

 

 

 

 

 

(´・ω)

|ω・`)

 

 図にすると、こんな感じ。

 うん、シリアスの欠片もねぇ。

 

 

 

 しばらく見つめていると。

 

|ミ サッ

 

 逃げました。

 オレじゃなくて、使い魔の方が。

 

(´・ω)…

 

「追わないのかい?」

「どうせいっちゅーねん」

 

 思わず、ツッコミを入れたオレは、悪くない。

 てか、契約後のアフターサービス悪すぎるだろ、この悪徳勧誘員(ナマモノ)は。

 

「他の魔法少女も、初戦闘はこんな感じか?」

「普通なら“固有魔法”と“魔法道具”が与えられるから、こんな無意味な状況にはならないよ」

 

 無意味、言うなし。

 

「通常なら、自分の魔法や、魔法道具がなんなのかは、本人がすぐに自覚するはずなんだけどね」

「オレって、普通じゃなかったんだな」

 

 まあ、自覚はあるけれども。

 

「「わけがわからないよ」」

 

 ナマモノとハモッたオレは、そのまま来た道を引き返す事にした。

 

 

 

 

 

 初エンカウント

 モンスターは逃げ出した

 経験値を0ポイントてにいれた

 

 

 

 

 

 どうやら、オレの人生はクソゲーにシフトしたらしい。

 ………リセットボタン、どこかに売ってないかなぁ………




次回予告

人とは、思考する生き物である

どれだけ、理不尽な事が起きようとも
どれだけ、想定外の事に巻き込まれようとも

人とは、思考する生き物である


でなければそれは、獣と変わらないのだから

四章 少女じゃないよ!?


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四章 少女じゃないよ!?

「そもそも、女の子を殴るとか、ナンセンスだぞ」
「なら、キミは殺されて終わりだね」
「男女差別はよくないよね、うん!」
「わけがわからないy「そぉい!!」ぎゅっぷい!?」


SIDE 少年

 

 結局、あのまま家に帰ることにした。

 ナマモノは、オレが戦わない事に首を傾げていたが、オレにとっては戦闘を避けられた事は幸運であると言えた。

 契約の代価は魔女と戦う事。

 なら、戦わなかったオレに、ナマモノが不満を持つのは理解できる。

 しかし、オレにその“手段”が無い以上、そもそも“戦い”にすらならない。

 魔女と戦い、退治する事が代価の筈なのに、その手段が無いのだから、契約も意味を為さない。

 “魔女を退治する事”を望んでいるナマモノと“魔女を退治する手段が無い”オレでは、互いの意見が交わらないのは道理。

 

「次の候補を探しに行くよ」

 

 と、ナマモノは姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、ナマモノがいなくなった為に、今以上の情報が得られなくなった訳で。

 ならば、今ある情報から、色々と考えてみるしかない。

 ナマモノと出会ってから、ナマモノがいなくなるまでの事を思い出しながら、オレは思考の海に沈む。

 

 

 

 文字通り何も無い、四畳半のワンルームで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世界には、魔女が存在する。

 絶望で作られた魔女は、それを呪いへと変換し、人々を陥れている。

 ナマモノは、それに対抗する為に、魔法少女を必要としている。

 絶望で作られた魔女に対抗する、希望で作られた魔法少女。

 ナマモノが願いを叶えるのは、希望で作られなければ、魔女の対極(天敵)になれない為。

 そして、希望と共に魔法少女となった者は、魔女と戦い続ける。

 願いの代価として。

 

 

 

 

 

 概要としては、こんなところだ。

 そこから、自分を中心に状況を組み立てて考察する。

 

 

 

 

 

 オレは“落書き=魔女の結界”を確認できた。

 魔法少女じゃなくても、結界を認識できる者はいる。それは“魔法少女になれる素質を持つ者”だ。

 ……とりあえず、魔法“少女”の時点で、色々とツッコミたいのだが、それだと話が進まないので、渋々スルーする。

 オレに、素質があった。それが、事実だ。

 

 

 

 

 オレは契約し、魔法少女になった。

 しかし、変身できた(軍服姿が変身後の姿らしい)のだが、武器を持っておらず、魔法の使い方も解らない。

 いじめられっこなオレが、拳で語れる筈も無く、しかも魔女の使い魔がこちらを見て、逃げ出した。

 その為、結界を後にして、家に帰った。

 

 

 

 

 

 これが、今日の出来事だ。

 うん、わけがわからないよ。

 

 

 

 

 

 わけがわからないが、契約した以上、オレは魔法少女として、魔女を退治しなければならない。

 

 

 

 

 

 魔法少女が変身し、戦う力を得る為に必要なのが“ソウルジェム”だ。

 人によって、異なるらしいが、SG(ソウルジェム)は契約した証で、変身アイテムのようなものらしい。

 他にも、魔女の気配を感じたりとか出来るらしいが、ぶっちゃけ詳しくは知らない。

 

 ……なんで、聞かなかった、オレェ……。

 

 基本的にSG(ソウルジェム)は、未使用状態だとアクセサリーになるんだそうだ。

 オレの場合は、それが“右目”になった。

 ……おかげで、視力ガタ落ちですよ、ええ。

 ちなみに、家に帰る途中、公園の公衆トイレの鏡で確認したら、右目が緑になってました。

 黒かったはずの箇所か緑色ですよ。左目は、普通に黒いままでしたよ。

 ……いじめられる要素が増えたorz

 

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

 

 変身したり、魔法を使って魔女と戦うと、魔力を消費する。

 そうすると、SG(ソウルジェム)が穢れていくらしい。

 その穢れを浄化し、魔力を回復させる為に必要なのが“グリーフシード”であり、魔女の卵でもある。

 これが“魔法少女が魔女を退治する理由”である。

 そして、穢れたGS(グリーフシード)は、ナマモノが回収していく。

 

 つまりナマモノは“穢れたGS(グリーフシード)を回収する為に、魔法少女を増やしていく”のが、目的らしい。

 その対価として、願いを叶える。

 

 

 

 

 

 GS(グリーフシード)SG(ソウルジェム)の穢れを浄化しながら、魔女と戦い続ける。

 これが魔法少女であり、オレもそうなったらしい。

「少女じゃないよ!?」と言う全力のツッコミを無視しつつ、考察を続ける。

 魔女を倒す存在である“魔法少女”であるならば“魔女を倒す手段”があるはずだ。

 それが“魔法”であり、オレもその“手段”を持っていて、当然である。

「少女じゃないよ!?」と言う全力のツッコミを無視しつつ、考察を続ける。

 

 

 

 

 

“能力は、願い事に左右される”

 ナマモノはそう言った。

 オレの願いはこうだ。

 

 

 

“オレの、何時、如何なる時も、オレの想うがままに、笑って過ごせる事を”

 

 

 

 ……戦いに関する要素が無ぇ∑( ̄◇ ̄;)!?

 そして、この願いから得られる魔法って何よ?(つД`)・゜・。

 失礼、取り乱しますた(´・ω・`)

 

 

 

 

 

それはさておき

 

 

 

 

 

 魔法少女なのだから、魔法が使える筈。

 仮に、戦闘向きでなかったとしても“魔法が使える”筈なのだ。

 そして、オレは魔法の使い方が解らず、それがどんな魔法なのかも、解らない。

 ついでに、一緒に手に入るはずの“魔法道具”とやらも、それらしいものがなかった。

 ( ゜д ゜)

 

 

 

 軽く、詰んでる気もするが、考察を続けよう。

 当面の目標は

 

1.魔女を倒す事

 

 その発展系は

 

1-1.魔女を倒す為の手段を得る事

 

 つまり

 

1-1-1.魔法を使えるようになる事

1-1-2.武器を手に入れる事

1-1-3.殴り倒せるようになる事

 

 

 

 

 

 とりあえず“1-1-3”は無理だろう。

 それが出来るなら、悩まないって。

 道場にでも通うか?

 ……お金がないお(´・ω・`)

 まあ、せいぜいが拳法の本とかを図書館で読んで、腕立てとかするぐらいしか……。

 

 

 

 

“1-1-2”だが……どこから?(;´д`)

 そんな、物騒な物持ってる知り合いなんぞ、おらんし。

 そもそもオレ、学校の関係者は当然として、親類の名前すら知らないぞ?

 

 

 

 

 魔法少女になった以上は“1-1-1”が、最も近道であるのは、間違いないだろう。

 ともすれば、色々と試してみるしかない。

 

 

 

 

 とりあえず、人気の無い所で変身して、色々やってみるか。

 武器になりそうなものは、なにがあるだろう? 図書館で調べて、手に入りそうな物をピックアップしてみるか。

 魔法少女の対極である魔女に効きそうなもの……あるか?

 それこそ、剣とか槍とかじゃないと、無理じゃね? さすがに、石でぶん殴るとかで倒せるなら、苦労しないだろうし。

 体も鍛えないとなぁ……。

 今日は、向こうが逃げてくれたから良いが、いざとなったら逃げ出すだけの脚力は必要だ。

 願いをかなえてもらったのに、魔女と戦って死ぬとか、本末転倒だ。

 せめて、ジョギングとかして、体力だけでもつけないと。

 

 

 

 

 思考を中断した時に、夜になっている事に気付いた。

 どんだけ考え込んでいたんだか。

 同時に、オレは苦笑する。

 “肉体が生きているだけ”だったオレが、随分と必死になっている。

 

……なるほど、願いは叶っているのかもしれないな。

 

 苦笑を続けながら、オレは立ち上がり、外へと向かう。

 秘密裏に動くなら、夜の方がいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

オレの異常な一日は、まだ終わらない。“魔法少女初日”は、日が落ちても続いていく。




次回予告

契約した事で得たモノ
契約した事で失ったモノ

往々にして、それらに気付くのは

直後ではなく、しばらく後である

だから



五章 オレは、この日にこそ


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五章 オレは、この日にこそ

「そういえば、オレの変身シーンってどんなやつなんだろう?」
「……一人で喋っても返事が無い上に、そもそも男の変身シーンとか、拷問じゃね?」


SIDE 少年

 

 変身状態で、夜の街を色々と歩き回る。

 無論、出来る限り人目を避けて。

 ……そりゃ、10歳の子供が軍服をきて夜の街にいれば、補導されるっちゅーねん。

 そして、色々と回った結果、今日の修行場所を決めた。

 

 絵の具で出来た整備工場である。

 

 

 

 色々とおかしい気もするが、利点も多い。

 

1.一般人に目撃される心配の無さ

 ナマモノの言葉通りなら、ここに来るのは“魔女”か“魔法少女”或いは“素質を持つ者”だけである。

 人目を避ける事を重点に置くなら、ここほど理想的な場所も無い。

 もし、オレ以外の魔法少女が現れたら、色々教えてもらえば良いし、ここにいるのは“オレを見て逃げ出した使い魔”だけのはず。

 

2.魔法少女(魔女)関係の場所なら、魔法に関するヒントが得られるかもしれない事

 契約して、魔法少女(男)になったのに、魔法が使えないとか、納得いかん。

 求めているのが、魔法なのだから、それに関する場所が適しているのではないか。

 そんな考えだ。

 

3.そもそも、この場所ぐらいしか、思いつかなかった。

 (´・ω・`)

 

 さて、色々と試してみるかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後に、オレはこの日を振り返る。

 この場所から始まった、長い“時”の旅の途中。

 オレは、始まりの日を振り返る。

 そして、笑うんだ。

 運が良かった(わるかった)と。

 世界は優しかった(つめたかった)と。

 そして、笑うんだ。

 

 オレは、この日にこそ、生まれたんだと。

 

 

 

 

 

SIDE out

 

 少年は色々と試す。

 火が出るか、水が出るか、風が吹くか、地が揺れるか。

 生きていない、死んでいないだけの日々から逃避する為に、漫画や小説など、空想により生まれた物からの知識を元に。

 魔法という、幻想的な物を、自らの物とする為に。

 しかし、完全手探りの状態では、芳しい筈も無く。

 時だけが、無為に過ぎていく。

 だからこそ、少年は失念していた。

 ここが“魔女の結界の中”だと。

 使い魔でありながら、結界を生み出せる者がいる事を。

 そして、それが“ナニ”から生まれたのかを。

 

「……ん?」

 

 ありえない音を耳にして、少年は辺りを見渡す。

 その音は、少年にとっては馴染みの音で。

 だからこそ、この場所で聞く事に違和感を感じ。

 それは“バイクのエンジン音”であり。

 それは、先ほど逃げたお下げ少女姿の使い魔が、自身の下半身をバイクに変えて。

 

 ―――少年を轢き殺そうとする音だった。

 

「う、おおおおおぉぉぉ!!??」

 

 半ば、条件反射的に、少年は横に飛ぶ。

 ギリギリのところで、少年は轢かれる事無く、その場に転がり。

 使い魔はそのまま、直進して見えなくなった。

 

「あ……あ?」

 

 回避こそ出来たものの、少年の思考は混乱の極み。

 何故? なぜ? ナゼ?

 そんな思考を、再度近づくエンジン音が、急速に掻き乱す。

 

「ちょ……まじか!?」

 

 少年の言葉を掻き消すエンジン音。

 先ほど以上のスピードで、少年を殺そうと迫る。

 次の瞬間、少年は完全に理解した。

 

 “生きていない、ただ、死んでいないだけの日常”はすでに無く。

 

 “生きる為に殺し合う日常”が、すでに始まっている事を。

 

 “死んでないだけで、死の恐怖が無い日常”はとうに終わりを告げていて。

 

 “死の恐怖と常に向き合う日常”は、すでに始まっていたのだと。

 

 

 

 

 

 魔女は、絶望より産まれ、呪いを撒き散らす。

 そんな“魔女の使い魔”が、絶望を求めない訳が無い。

 その性質(存在)に、個体差があったとしても。

 大分類において、魔女も使い魔も“絶望側”である。

 

 

 

 

 

 魔法少女は、希望により産まれる。

 それは、魔法少女(男)である少年も、例外ではない。

 その性質(存在)に、個体(性別)差があったとしても。

 大分類において、少年は間違いなく“希望側”である。

 

 

 

 

 

 相反する存在(少年)が、自らの結界内(テリトリー)にいる。

 しかも、“魔女を殺す為の手段(魔法)”を得る為に、試行錯誤している。

 それを、黙って見過ごすほど“使い魔”という存在は、優しくはない。

 さらには、先程とは違い、少年は単独であり、助言者(ナマモノ)もいない。

 

 

 

 ならば、使い魔が少年を殺そうとするのは、至極当然の流れであるのだ。

 

 

 

 理解した瞬間、すでに目前にまで使い魔は迫っており。

 反射的に、少年は叫んでいた。

 

「止まれえええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭に浮かんだのは、時計の針。

 “右目の裏”に見えたのは、3本の時を表わす物。

 11:59:59を示していた、その三本の針が。

 00:00:00を示し。

 すべての針が真っ直ぐ上を向き、一つとなった瞬間。

 

 

 

カチッ

 

 

 

 ―――――時が、止まった




次回予告

必然と言える戦い
自業自得と呼べる初戦

少年の願いにより、目覚めた力は



少年が理解し、名付けた魔法は



その本心を、的確に射抜いていた

六章 Look at Me


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六章 Look at Me

「魔法ってのを、常識で捉えてはいけない」
「それは、一つの例外無く、異常でなければならない」
「だからこそ“魔法(まのほう)”なんて、名付けられている」
「付けられた呼び名(なまえ)には、必ず意味があるものさ」


SIDE out

 

 切っ掛けがあれば、意外と速く理解出来るものである。

 立つ事が出来なかった赤ん坊が、歩行器で歩き方を学ぶように。

 歩き方を理解出来れば、歩行器が無くても歩けるようになる。

 補助輪付き自転車しか乗れなかった子供が、一度でも補助輪無しで乗れるようになれば、すぐに自由に乗りこなす事が出来るように。

 少年は理解した。

 時を、止めた、と。

 オレが、止めた、と。

 それが、オレの、魔法だ、と。

 ここで重要なのは、時を止めた事であり。

 

「……で、この後どうするん?」

 

 攻撃した訳ではない事だった。

 

 

 

 

 

SIDE 少年

 

 思わず、尻餅をついたオレは、懸命に頭を回転させる。

 時を止めた、それは間違いない。

 今でも、右目の裏を意識すれば、0時0分0秒で止まっている時計の針が見える。

 ……が。

 それだけ、なのだ。ダメージを与えた訳でも、危機を脱した訳でもない。

 ただ、時を止めただけ、なのだ。

 

「とりあえず……殴るか」

 

 このまま、時を止めているだけでは、意味が無い。

 後ろへと下がり、十分に距離を置く。

 力に自信がある訳でも、喧嘩に慣れている訳でもないので、十分に助走をつけて。

 

「おおおおおおお!!!」

 

 気合の咆哮と共に駆け出し、飛び上がり、殴り抜ける!

 オレの拳が、使い魔の顔面を捉えた瞬間!

 

 

 

ゴシャアァァァァァァァ!!!!!

 

 

 

「がああああああああっっっ!!??」

 

 オレ“が”撥ね飛ばされた。

 そのまま、受身も取れず転がり続け、壁にぶち当たって、止まった。

 

「ああぁぁぁ……」

 

 全身に激痛が走り、自然と呻き声が出る。

 が、それでもオレの頭は状況を理解しようと回転する。

 

 何がおきた? 轢かれた? 撥ね飛ばされた? 何故? 時は止まっているはず?

 

 “オレの時計”はまだ、垂直に重なったままだぞ?

 

 激痛を我慢しながら、視線を向けると。

 殴られたのと、オレを撥ね飛ばした影響なのか、前輪を垂直に上げたまま、静止している使い魔が見えた。

 そう、静止している。時は、止まっているのだ。

 

「あぁぁ……」

 

 変わらず、自然と呻き声が出る体を、無理やり動かし、立ち上がる。

 撥ね飛ばされたにもかかわらず、まだ動かせる自分の体に、違和感を感じながらも、オレは“オレの魔法”を理解していく。

 

 時は、止まっている。

 動けるのは、オレだけ。

 ならば、何故使い魔が動き、オレを轢いたのか。

 殴ったからだ。

 

 正確には“オレが触れた”からだ!

 

 オレだけが動ける。

 正確には“オレが触れている物は、この世界で時を享受する事を許される”のだ。

 もしも、正確に“オレだけが動ける”のならば。

 “オレの身に着けている物”の“時も止まり”オレは身動きが取れなくなるはずなのだ。

 だが、オレは服を着たまま“動く事が出来て”いる。それが、オレの考えが正しい事を証明している。

 そして“オレが触れなくなれば、世界と共に止まる”のだ。

 前輪を垂直に上げたまま静止している使い魔が、それを証明している。

 これが、オレの魔法。

 

「あははははははははははははははははははっっっっ!!!!!!!」

 

 <オレだけの世界(Look at Me)>で、狂ったように笑う。

 何だこれ! なんだこれっ! ナンダコレッッ!?

 これが、魔法か!

 コレが、オレのチカラかっ!

 

 全身を襲っていたはずの激痛は、すでに無かった。

 そして、そのままオレは。

 

 “時計の針を動かした”

 

 

 

カチッ

 

 

 

 オレの時計が、0時0分1秒を射した瞬間。

 

 

 

ガシャァァァァァァァ!!!

 

 

 

 そんな、派手な音を立てて、下半身がバイクとなっている使い魔は、派手に転倒した。

 

「あははははははははははははははははははっっっっ!!!!!!!」

 

 それを見て、オレは笑う。

 ざまぁwwwww

 そのまま、使い魔は勢いに任せて滑っていき、視界からいなくなった。

 

「きっとお前は、自分に何がおきたのかを、理解出来はしない。」

 

 冷たく言い放つ。

 当然だ。

 オレが時を止めたんだ。

 オレだけが、あの中で動けるんだ。

 あれが<オレだけの世界>なんだ。

 

 そのままの、テンションが上がった状態で、オレは思考する。

 

 しかし、ぶん殴ったのは、愚策だった。

 <オレだけの世界>で、安全に攻撃が出来る手段を、考えないとな。

 どんな手段があr

 

 そこまで思考して。

 オレの耳は、再び音を拾った。

 それは、エンジン音。

 懲りずに、使い魔がオレを轢き殺そうとしているらしい。

 ……もうちょい、考えさせろよぅ。

 そう思い、音の方に向き直ったオレは。

 自分の下半身を“タンクローリー”に変化させて、こちらに向かう使い魔を見た。

 

 「いや……ないから」

 

 一気に、テンションが下がる。

 なんだそれ!? オレの魔法も大概だが、そっちも相当じゃねぇか!

 再び、オレは時を止めようとして。

 11時47分28秒を射している時計を、右目の裏に見た。

 

 止められない!?

 

 時を止めるには“オレの時計を0時0分0秒にする”必要がある。

 つまり、約13分経たないと、オレは“時を止める事が出来ない”のだ。

 連続使用は無理なのか!?

 それを理解した瞬間、オレは使い魔から必死に逃げ出した。

 

「うおおおぉぉぉぉ!!!」

 

 必死に走るオレと、追いかける使い魔。

 しかし、2本の足とタンクローリーじゃ、速度が違いすぎる。

 これじゃ、13分も逃げ切れない。

 せっかく、魔法を理解したのに。

 オレの魔法が、発動できるようになったのに!

 逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ!!

 早く! もっと速く! 動けよ、オレの足ぃ!!!

 ほぼ、真後ろにタンクローリーが迫った時。

 

「動けえぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 オレの叫び声と共に。

 

 

 

バチッ

 

 

 

 放電したかのような音が、迫るエンジン音に掻き消される事無く、オレの耳に響き。

 

 ―――景色が、加速した。

 

「はあああぁぁぁぁぁ?????」

 

 自分の足が、明らかに限界以上の速度で動き。

 タンクローリーの追撃を横に避けて。

 

「へぶしっ!」

 

 壁に激突した。

 

「おぉぅ……鼻がぁ……」

 

 壁に顔面衝突とか、どこのギャグアニメだ、おい。

 そんな事を考えながら、オレは鼻を押さえながら、使い魔を探す。

 横に避けた為に、オレを見失ったらしい使い魔は、そのまま直進して、視界の外に消えた。

 またかい。

 まあ、タンクローリーじゃ、小回りきかんだろうに。

 そしてオレは、先程の自分の異常を考察する。

 いや、理解していた。

 先程の<オレだけの世界>と同じだ。

 一度、使えるようになれば、オレはそれを理解できる。

 

 

 

 放電能力。

 いや、むしろ<電気操作>とでも言うべきか。

 両足から電気が発生した。

 正確には、両足の黒いブーツが、だ。

 同じデザインの両手袋でも、発生出来るだろう。

 では、先程の異常な両足の加速はなんなのか。

 

 

 

 人間が体を動かすのは、脳からの指令によるもの。

 それが、神経を伝い、指令通りに動く。

 それは、微弱な“電気信号”だと言う事は、有名な事だろう。

 ようするに。

 両足のブーツが発した電気が“両足を速く動かす”と、直接神経に働きかけたのだ。

 その結果、脳からの信号を超えた速度で足が動き。

 (オレ)が、その速度に対応出来ず、壁に激突したのである。

 ……ぶっちゃけ、下半身だけダカダカと、異常な速度で動いていたら、キモい。

 が、そんな状態だったのは、確かだ。

 これが、オレの二つ目の魔法。

 むしろ、両手両足の装備の能力だと言ってもいいかもしれない。

 全身に纏うとかは、流石に無理そうだ。

 

 

 

 オレは、使い魔の走り去った方に向き直る。

 

<Look at Me>と<Electrical Communication>

 

 オレは“手段”を手に入れた。

 後は、それを“実践”するだけだ。

 軽く、右手を振る。

 

 

 

バチッ

 

 

 

 黒い放電が、右手に起こる。

 それを心地よく感じながら、オレは“使い魔討伐”の策を、脳内に練り上げていく。

 

「では、闘劇をはじめよう」




次回予告

全てのものにある始まり

されど、終わっていないのに、始まる事はありえない

だからこそ、これはオワリとハジマリの話



そして、幕を開ける為の必要事項

七章 魔法少女初日


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七章 魔法少女初日

「魔法、魔女、使い魔」
「例外無く“魔”という単語がある訳だが」
「オレには“魔=悪”だと、判断する事は出来ない」


SIDE out

 

 自分の能力(魔法)を理解した少年は、使い魔を倒す為の策を練る。

 と、言っても、作戦は至ってシンプル。

 

 “時を止めて、電気で殴る”

 

 それが最も、確実な方法である。

 重要なポイントは二つ。

 

1.再び時を止められるようになるまで、時間を稼ぐ

 これは、先程のように両足に電気を流して操作すれば、可能であろう。

 相手の下半身はタンクローリーであり、小回りがきかないのだ。

 

2.相手を倒せるだけの電撃

 これは、やってみなければ分からないが、力を込めるだけの“時間”ならば、稼ぐ事は可能だ。

 

 幸いにも、使い魔が姿を見せず、時間はゆっくりと過ぎていく。

 少年は、自分の時計が11時59分59秒で、静止したのを確認する。

 発動は、可能になった。

 が、使い魔は一向に姿を現さない。

 ひょっとして、逃げたのだろうか?

 そう考え始めた少年の視界に、ついに使い魔が現れた。

 

 下半身を、戦闘機に変えて。

 

「まじか!?」

 

 反射的に、右手から放電させ、使い魔にぶつけるが、問答無用で突っ込んで来る。

 明確な意思が込められていない放電魔法では、効果は薄いのだ。

 そして、使い魔が目前に迫った所で。

 

 

 

カチッ

 

 

 

 世界は、少年だけを見る(止まる)

 

「下半身の変化に、時間が掛かっていたのか……?」

 

 疑問を口にしつつ、少年は使い魔の後ろに回り、右手に力を込める。

 戦いに決着を着ける為、右手に黒い電気が。

 ……溜まらなかった。

 

 

 

 

SIDE 少年

 

「あるぇ~?」

 

 予想外の事態に、オレは首を傾げた。

 さっきは、出来たジャン? 反射的に、放つ事も出来たジャン? 何で、今は発動しないのよ?

 とりあえず、使い魔の後ろにいるので、現状は安全だろう。

 そう考えて、オレは時を動かす。

 使い魔は、そのままオレを見失い、直進して視界から消えた。

 その隙に、オレは右手に力を込める。

 

 

 

バチッ

 

 

 

 あるぇ~? 普通に発動しおった。

 とりあえず、反射的に放った電気ではダメだったので、今度は明確にイメージする。

 ―――電気を束ねる。

 相手は戦闘機。

 ならば、猛スピードで突っ込んで来る筈。

 カウンター気味に当てるなら、殴るよりも放出した方が安全。

 電気を集めて、球状にして飛ばせないか?

 考察そのままに、イメージ。

 

 

 

バチィ

 

 

 

 ……出来そうだ。

 もはや何度目か、数えてはいないが、使い魔が突っ込んで来る。

 オレ的には助かるが、死角から襲うと言う発想が無いのだろうか?

 オレは右手を使い魔に向けて。

 

「いけぇ!」

 

 電気の球体を射出した。

 それは、一直線に使い魔に向かい……。

 

「おっそ!?」

 

 球体の飛行スピードが予測以上に遅かった。

 電気を使わずに走っても、追い抜けそうなほどに遅い。

 そんなものを、使い魔が食らうはずも無く。

 しかし、回避行動のおかげで、オレは跳ね飛ばされる事無く。

 

「……どうしよ?」

 

 自分の横を通り過ぎて行った使い魔を確認しながら、オレは考察する。

 

1.時間停止中は、電気操作が使用できない

2.反射的な放電では、効果がない

3.力を込めて射出したら、遅すぎて当たらない

 

 ……うわぁ……。

 せっかく手段を得たのに、実戦じゃ役に立たねぇ。

 使い魔が再び、こちらに狙いを定めたのを視認し、オレは魔法の準備をする。

 ……すでに時計は、11時59分59秒で静止している。

 あれ? さっきより準備が早い?

 要検証だが、それは後だ。

 使えるのなら、使うまで。

 使い魔がオレに接触する直前で、時間を止める。

 そしてその場から、助走をつけて飛び上がり。

 

 戦闘機の上に着地した。

 

 オレが触れた事で、使い魔の時が動き出す。

 しかし、オレも着地と同時に時を動かしていた。

 突然、目標であるオレが目の前に、しかも自分の上にいる事に、使い魔も驚いているだろう。

 だが、もう、遅い。

 着地し、時が動き出したとほぼ同時に、オレは行動を起こしていた。

 両手の薬指と小指を曲げ、残りを真っ直ぐに伸ばし、使い魔に向ける。

 

 ―――弾速が遅いのならば。

 

 両手から、黒い電気が迸り。

 

 ―――避けられない位置から、ぶち当てる!

 

 使い魔のほぼ眼前で、電気球体を射出した。

 時間停止を利用した、完全な奇襲攻撃。

 その策は見事成功し、使い魔は黒い放電と共に、消滅した。

 

「勝ったあああああぁぁぁあああぁぁあ!!!!!?」

 

Q.自分が乗っていた戦闘機が、飛行中に突然消えたらどうなりますか?

 

「がはぁ!!?」

 

A.放り出されます

 

 勝利の雄叫びは、途中から情けない叫び声へと変わり、為す術も無く地面に叩きつけられた。

 勢いそのまま、ゴロゴロと地面を転がり、壁にぶち当たって止まった。

 

「あああぁぁぁぁ……」

 

 激痛に呻き声を上げながら、オレは仰向けに寝転がる。

 瞬間、辺りの景色がぐにゃぐにゃと歪み、始まりの路地裏に戻った。

 おそらく、使い魔を倒した事で、結界が消滅したんだろう。

 

「ぐぐぐ……」

 

 無理やり体を動かし、痛みを我慢しながら立ち上がる。

 こんな所を誰かに見られたら、めんどくさい事になるのは確実だ。

 早急に立ち去る必要がある。

 

「勝利の余韻ぐらい、噛み締めさせろよぅ……」

 

 言いながら、オレは人目を避けながら、自分の家に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが、オレの“魔法少女初日”に起きた出来事だ。

 この日を境に、オレの日常が一変する。

 ある小学校のクラスから、一人の少年が姿を消し。

 魔法少女と魔女の戦場に、一人の少年が姿を現した。




次回予告

こうして始まった、一人の少年の舞台劇

その舞台の歯車が、別の舞台装置と噛み合ったとき

希望を願い、絶望を嗤う

ある、魔人の物語が



幕を下ろす為に、上がる

八章 オレは、この日にこそ


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八章 オレは、この日にこそ

「人は、なにをもって“幸せ”と呼ぶのだろう?」
「オレは、胸を張って“幸せ”だと言う事は出来ない」
「この世界は今、幸せかい?」


SIDE 少年

 

 電車に揺られながら、オレはゆっくりと目を覚ました。

 随分と、懐かしい夢を見ていたものだ。

 オレが再び生まれた日(契約した日)を想い、眼鏡を中指で押し上げながら、苦笑した。

 

 

 

 

 あの日を境に、オレの生活は一変した。

 魔女を狩るという人生目標が出来たオレは、その日のうちに荷物をまとめて、街を後にした。

 あの街の魔女を狩る、という選択肢もあったが、オレは選ばなかった。

 別に、あの街に愛着があるわけでもなければ、大切な人がいるわけでもない。

 むしろ、自分を虐め続けたクラスメイトと、助けてくれない大人達がいるだけだ。

 魔女によって、滅んでしまえばいいとすら、思える。

 まあ、実際のところはどうでもいい。

 オレは、あの街を離れた、それが事実だ。

 

 で、オレは右目の導くままに、旅を始めた。

 SG(ソウルジェム)には、魔女の気配を感じる機能があるらしい。

 それが右目になっているオレは、その感覚に身を任せながら、各地を放浪している訳だ。

 オレの魔法を、完璧に使いこなす為にも、実戦経験は必要であり。

 SG(ソウルジェム)を浄化する為に、魔女を狩る必要もあり。

 他にも、色々な思惑があったが、それらを満たす為には、街を離れる必要があったのだ。

 家族は既に無く、親戚もオレの持つ、さして多くは無い遺産目当て。

 銀行にあった貯金は随分前に、全額引き出していた。

 その内、オレがあの街にいた事も、忘れ去られていくだろう。

 捜索願すら、出されてはいない事は、確認済みだ。

 

 

 

 自分の魔法を理解、研磨し、発展させて、使いこなす。

 必要な物を揃えて、旅をし、魔女を狩る。

 そんな生活を始めて、早2年が過ぎた。

 普通の生活者なら、小学六年だろうが、あいにくオレは異常な生活者。

 未練も無く、後悔も無い。

 

 

 

“オレの、何時、如何なる時も、オレの想うがままに、笑って過ごせる事を”

 

 

 

 きっと、オレの願いは、叶っている最中なのだ。

 

 

 

 

 

 さて、魔法少女(男)になって、2年が過ぎたが、オレ以外の魔法少女には、未だに出会った事が無い。

 無論、魔法少女(男)にも、だ。

 ……本当にいるのん?(´・ω・`)

 なんて考えもしたが、右目の導くままに魔女を狩り、そのまま次へと向かう。

 基本、留まるという事をしなかったのが、遭遇率の低さの理由だろう。

 まあ、GS(グリーフシード)の取り合いなんて、笑えない状況にもなりそうだし、僥倖だと言えなくも無いが。

 

 オレは、軽く右手を振る。

 次の瞬間、その右手には地図帳が握られ、オレはそれを開いた。

 

 

 

 変身しなくても、使える魔法はある。

 と言っても、オレが使えるのは“収納魔法”だけなのだが。

 

 

 

 <Parts Pocket>と名付けたオレの魔法。

 望んだ物を“ドコカ”に収納し、望んだ時に取り出す。

 収納箇所は、ある程度決まっており。

 

 左右の手の平、両脇、腰の左右と後

 

 分かっているのは、以上の7箇所。

 右の手の平以外は、一つしか収納できない。

 逆に、右の手の平だけは、収納数に限りは無い。

 だが、収納した所とは別の場所から取り出す事が出来ない。

 入り口と出口は、一緒でなければならないのだ。

 収納する物の大きさに、規定はないらしく、ロードローラーが収納出来た時には、思わず最高にハイってやつになった。

 収納された物は、時が止まっているらしく、砂時計や懐中時計などで検証したので、間違いはない。

 

 

 

<部位倉庫>

 

それが、オレの三つ目の魔法だった。

 

 

 

 時間停止、電気操作、収納。

 以上三つがオレの魔法。

 それらを検証、吟味、進化させながら、オレは旅を続ける。

 

 

 

 

 

 終着駅(終わり)が、どこにあるのかは、解らない。

 魔女狩りを存在理由(生きる糧)としている以上、オレの終わり方は二つしかない。

 

 

 

1.魔女に殺される

2.魔女を殺す事を止める

 

 

 

 1.は、そのままの意味。

 2.は、今の自分を否定する事を意味する。

 

 “3.存在理由(生きる理由)を別に見つける”なんて可能性もあるが。

 

 少なくとも、今のオレには想像出来ない事だ。

 

 

 

「次の街は“見滝原”か」

 

 地図帳で、次の街を確認しながら、オレは電車に揺られていた。

 右目(ソウルジェムの導き)のままに、自分の好きなように生きる。

 間違い無く、オレは“異常”だろう。

 だが、普通じゃないなら、異常であるしかなく。

 魔法(異常)を使うオレは、普通ではなく。

 だが、一つだけ言える事は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“オレは今、不幸じゃない”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の目的地が、オレにとって、故郷と呼べる場所になる事など、知る由も無く。

 そこで、魔法少女達と出会い、戦う事になるなど、思いもよらず。

 ある意味でそこが“群雲(むらくも)琢磨(たくま)”にとって、もう一つの終焉と始りの場所になるなどとは、夢にも思わず。

 

 

 

―――――歯車は今、噛み合おうとしていた―――――




次回予告

上がる為に下りた幕

そして始まる物語

全てを決めた舞台劇



第一幕 スベテを憎んだFirst Night

 九章 絶対に、自分が想い、口にしないであろうその言葉




(いびつ)な存在は、(ゆが)んだ感情より、闘劇(スベテ)を開始する


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幕間 その世界で生きる少年の能力

キャラ設定(序幕終了時)

 

主人公

 

名前 群雲 琢磨(むらくも たくま)

性別 男

種族 魔法少女(男)

年齢 12(肉体年齢は2年前の契約時から止まっている)

身長 129.9

体重 33

魂の色 翠玉

魔法特性 無法

魔法道具 両手袋と具足

外見 目元が隠れるほど前髪の長い白髪(地毛) オッドアイ(左が黒 右目が緑←ソウルジェムの影響)

通常時の姿 縁なしの丸レンズの伊達眼鏡(右のレンズは曇りガラス 自作品) 黒のトレンチコート

変身後の姿 緑色の軍服(眼鏡は未着用)

 

 

性格

 元々は明るく、楽天的な性格だったが、6歳時の家族との死別、それ以降の悲惨な生活により、暗く歪む

 気の許せる人間が周りにいなかった影響で、内に篭る性質があり、思考癖に発展している

 しかも、歪んだ性格の影響で、その思考がずれていく事が多々あり

 自身の辛い現実から逃避する為、空想物に耽る日々を過ごし、知識が歪んだ方向に豊富な上に、耳年増

 契約時の願いに、逆に縛られている為、自分が笑う事に異常な執着を示す

 思考癖の反作用として、頭の回転は速く、偏ってはいるものの、策を練るだけの知識もあるが、基本感覚的に動き、自身の社交性も皆無な為、傍から見たら“理解不能”である

 

  

 契約を切っ掛けに、しがらみを割り切り、歪みながらも本来の性格を取り戻しつつあるが、方向性が“空想寄り”である事は、本人も自覚した上で「ま、いっか」とか考えていたりする

 

 

使用可能魔法

 

オレだけの世界<Look at Me>

 

時間停止

 自分以外の時を止めて、自分だけが動ける状態にする魔法

 例外として、自分の触れている物は、動く事が可能(離れれば、数瞬後に止まる)

 任意のタイミングで解除可能だが、ソウルジェムの穢れは、停止時間に比例する

 連続使用不可で、止めていた時間の倍のインターバルを必要とする

 また、基本的にこの状態では、他の魔力の使用が出来ない

 

 

電気操作<Electrical Communication>

 

電撃能力

 固有武器(両手袋と両ブーツ)を媒体として発動可能な魔法

 拳に纏う事で、攻撃力を高めたり、両足神経に流し込み、通常以上のスピードで走る事が出来るようになる

 主力魔法であり、発展させ、開発した技も多い。

 電気の色は黒。

 

 

部位倉庫<Parts Pocket>

 

収納技能

 体の一部分と異空間をつなぎ、道具を収納する魔法

 収納出来る物の大きさに規定はないが、基本、一箇所にひとつ

 例外として右の手の平だけは、収納数無限

 

 

 

概要と独自設定

 キュゥべえと契約した少年

 エネルギー搾取のプロセスには第二次性徴期にある地球人の少女を用いるのが最も効率が良いためであるとされるが、それは逆に、効率を無視すれば、それ以外の素質者でも契約は可能であると言う事

 元々、絶望に彩られた生活を続けていた為に絶望の底が深く、契約により必要なエネルギーよりも、得られるエネルギーの方が多いだろうと判断したキュゥべえは、少年に契約を持ちかけ、群雲もさして深く考えずに契約をする

 が、その契約内容(希望)は本心のものであり、それが契約成立へと繋がる

 その最中、体外に現れたソウルジェムを、無理やり取り戻そうとした群雲の行動により、右の義眼となる

 キュゥべえにとっては、エネルギーを採取できればいいな、程度の価値しか群雲には無く、契約時を含めて、接触は数回程度しかない

 偶然出会い、その場で契約を承諾した結果であり、その場で拒否されれば、二度と出会わなかった可能性の方が高い(一般人が魔女を認識できると言う事は、そのまま死亡率の上昇を意味している為)

 ちなみに、群雲は“同じ魔女と何度も戦う”と言う異常事態を引き起こしている

魔女を倒しGS(グリーフシード)を手に入れる→SG(ソウルジェム)を浄化し、自身の魔法開発に努める→その際に溜まった穢れを、同じGS(グリーフシード)で浄化する→穢れが溜まり、GS(グリーフシード)が孵化して、魔女が生まれる→最初に戻る

それを感覚の赴くままに移動しながら繰り返し、時折違う魔女と遭遇し、新たなGS(グリーフシード)を入手、上記ループに戻る

 元々、群雲を重要視していなかったキュゥべえは、行動を共にしていない為この事実に気付いておらず、偶然再会した時に、穢れの溜まったGS(グリーフシード)を回収する、程度の関係に留まっている

 また、群雲も穢れがある程度溜まっているGS(グリーフシード)でなければ意味が無いと誤認しており、結果かなりの数のGS(グリーフシード)を所有するに至る

 が、ある理由により群雲はGS(グリーフシード)の使用頻度が高い為、一度にキュゥべえに渡す数も多い

 

 

補足説明

 

1.主人公の名前は、原作の魔法少女が“苗字が女性名である”ことの対比として“どちらが苗字(名前)でも成立する”という、設定の元に考案

 

2.主人公の変身時の服装は、原作の魔法少女がファンタジー寄りな、可愛らしい衣装との対比

 

3.主人公のイメージカラーは、白 黒 緑の三色



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序幕設定集(wiki風味)

「読まなくても、問題はないな、これ」
「わけがわからないよ」
「まとめ的なものだからな。
 そう言えば、序幕ってどんな話だったっけ?
 なんて思った時にでも、見てもらえればいいさ」
「実際、作者自身も忘れてたりするからね。
 そんな、メモ帳をwiki風にまとめたのが、これさ」


ストーリー展開

 

 両親の事故死と、自分の事を一切考えてくれない親族に囲まれ、歪み狂ってしまった少年がいた。ただ時間が流れるままに存在していた少年が、偶然魔女結界を発見し、それをキュゥべえが認識した事から、物語の幕が開く。

 契約による希望により、一周マワった少年は、示唆された生きる道を行く為に、考え、行動し、奮闘する。

 初戦から“独り”で凌ぎきった少年は“人”としての生活の一切を切り捨て、たったひとつの“自分”の為に生きていく。

 

概要

 オリ主in非転生もの。まどか☆マギカの世界で存在したかもしれない少年の物語。

 主人公紹介パート。基本となる“Lv1(※1)”の全魔法発現とその特性の説明。地味に“魔人”という存在が主人公以前にも存在した事や、本編にも登場した“使い魔だけの魔女結界”の描写を目的としている(※2)。

 “はじまりの物語”であると同時に“ミスリード”を含ませており、作品全体としても、実は重要度は高い

 顔文字使用等、作中を極力明るめにしているのは“原作での三話前半まで”の明るさを意識してのもの

 

 

キャラクター紹介

 

群雲琢磨(むらくも たくま)

 契約時は10歳(※3)。しかし、その偏屈ぶりはすでに確立されてしまっている本作主人公。

 

 

キュゥべえ

 この時からすでに“ナマモノ”と呼ばれていた、契約マスコット。地味にマウススリップしている(※4)。

 

 

落書きの魔女の使い魔

 ウェヒヒヒヒ

 下半身の変質は本作の独自設定(※5)

 この使い魔が初戦の相手である事も、実は伏線だったりする

 

 

独自設定の解説

 

契約システム

 最も効率がいいのが“第二次成長期の少女”である(原作設定)

 これを逆手に“契約自体は少女以外でも可能である”という独自解釈による

 もっとも効率の良い形を“魔法少女”と呼び、それ以外の形を“魔人”と呼ぶ(※6)

 素質の点では、当然のように“魔法少女>魔人”であり、魔力係数も同様

 よって、魔人は最初から“最弱”とも言える

 

 

 

 

(※1)習得した(紹介された)魔法の“順番”が、後に重要な伏線となっている

(※2)ここで“落書きの魔女の使い魔”をチョイスした理由の一つは“原作主人公と中の人が同じ”だから

(※3)この時“原作主人公は小学6年”となる

   本作主人公が契約した時の、原作主人公の年齢に本作主人公がなった時、原作主人公が契約を持ちかけられる

   そんな、非常にわかりにくい上に、対して重要な意味を持っていないギミック

(※4)序幕に仕込んだ最大の伏線 これが後に最悪の形で回収される

(※5)下半身の変化自体は公式設定 バイクや戦闘機等は独自設定によるもの

(※6)魔法少女と同様に、過去の英雄の何人かは魔人だったという裏設定がある




「序幕を短めにした結果、文字数が足りなくて、作者が凹んでいたのは、ここだけの話」
「わけがわからないよ」


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第一幕 スベテを憎んだFirst Night
九章 絶対に、自分が想い、口にしないであろうその言葉


「世界に愛されている者と、世界に認められていない者」
「オレ達を明確に分けるのは、その一点だと思うんだ」


SIDE out

 

 その街には今、三人の魔法少女がいた。

 (ともえ)マミ、鹿目(かなめ)まどか、暁美(あけみ)ほむら。

 キュゥべえと契約を交わし、魔女と戦う使命を持つ、魔法少女。

 その日、彼女達は一人の少年と出会う。

 契約を交わした、数少ない男の一人。

 従来とは違った在り方で、生き続ける、一人の少年と。

 

 

 

 既に変身を終わらせた三人は、結界の中を進む。

 

「誰も、いないわね……」

 

 先頭を走る巴マミが、首を傾げながら呟いた。

 そう、結界内に入ってから今まで、一度も使い魔と遭遇していない。

 

「もしかして……私達以外の魔法少女が、すでに戦っているとか?」

 

 鹿目まどかの疑問に、巴は首を振る。

 

「この街は、私達の管轄だし、それ以外の魔法少女が来たのなら、キュゥべえが連絡をくれるはずよ」

 

 ただ一人、暁美ほむらだけは別の疑念が発生していた。

 

(自分が魔法少女として、過去に戻った事で、未来は別の方向に向かっている。

 もし、他の魔法少女が来たのなら、それは私の影響なの?)

 

 三者三様の考え。

 それらすべてが、間違っている事を、三人はすぐに思い知る。

 なぜなら、前方で戦っている人物を見つけたからだ。

 そして、その人物は……小柄な“少年”だったのだから。

 

 

 

 リボルバー拳銃を右手に、髭の使い魔と戦う少年に対し、やはり三者三様の印象を受ける。

 

 

 

(男の子!?

 なんで結界内にいて、しかも戦っているの!?)

(わぁ~、真っ白い髪の毛。

 しかも右目だけ緑色だ。)

(軍服に拳銃……どこかの軍人さん?

 でも……鹿目さんよりも小さいわ……)

 

 そんな三人に気付く事無く、少年は撃ち尽くしたリボルバーを左手に持ち替えてリロードする。

 少年の銃“コルト・シングル・アクション・アーミー”は回転式拳銃である。

 一発ずつ排莢、装填するタイプであり。

 

 ――――リロードが遅い。

 

 無論、敵対者がその隙を逃す筈は無く。

 

「チッ」

 

 少年は舌打ちをし、リロードしながら使い魔を蹴り飛ばす。

 全弾装填が完了した訳でもないが、回し蹴りを放った流れのままに引き金を引き、別の使い魔を撃ち殺し、再び蹴りを繰り出しながらリロードを続ける。

 それは、さながら舞台劇、殺陣を思い起こさせる動きであり、少年の戦闘経験の豊富さを物語っていた。

 結局、三人の魔法少女が介入する前に。

 それ以前に、全弾リロードが完了する前に、一帯の使い魔は全滅していた。

 

「……ふぅ」

 

 少年は一つ、息を吐くと、リロードを完了させ、クルクルと銃を回転させる。

 そのまま、違和感の無い流れで銃を右手に持ち替えると。

 

「「「!?」」」

 

 銃を腰に構え、その銃口を魔法少女達に向けた。

 

 

 

ドドドドドドン!

 

 

 

 そのまま、ファニングと呼ばれる速射術による神速の六連射。

 

 煽り撃ちとも呼ばれる、SA(シングルアクション)式の銃専用の速射術であり、西部劇などでたまに見かける撃ち方だ。

 しかし、銃の反動を押さえ込めるだけの筋力が必要であり、SA式の銃自体が旧タイプである為に、命中精度は、さほど高くは無い。

 しかし、少年はそれを自らの魔法“電気操作”を応用する事によって解消する。

 銃を持つ手を、電気による神経操作で無理やり押さえ込み、撃鉄を下ろす手を、同じく電気による神経操作で従来以上の速度で行う。

 “電光速射”と少年が名付けた、自身専用の速射術である。

 

 放たれた弾丸は、一直線に魔法少女の。

 ――――後から忍び寄っていた使い魔を、正確に撃ち抜いて消滅させた。

 

「すごい……」

 

 鹿目まどかから、思わず呟きが洩れる。

 その言葉が聞こえなかった少年は、先程のようにリロードをし、再び銃をクルクルと回転させる。

 

「魔法少女……か?」

 

 そのまま、器用にガンスピンをしながら、少年は三人に問いかけた。

 

「え、えぇ」

 

 年長者である巴マミが、三人を代表して返事をする。

 そして、疑問を口にしようとするが。

 

「オレはこのまま、魔女狩りを続けるが、そちらは?」

 

 ガンスピンを続けたまま、少年が先に問いかけた。

 開きかけていた口を閉ざし、巴マミは少年を見据える。

 僅かに持ち上がった長めの白髪に、黒と緑のオッドアイ。緑で統一された軍服に両手足を染める黒。器用に回転を続ける拳銃。

 何よりも、結界内で戦っている――――――男の子。

 先輩魔法少女として、他の二人を守り、導く立場にある者として。

 目の前の人が、信用に足るかどうかを判断しようとしているのだ。

 

「行くよ」

 

 他二人の魔法少女は驚き、少年は若干目を細める。

 

「魔女の脅威から、みんなを守るのが、魔法少女の役目だもん。

 だから、行く」

 

 強い意志の込められた言葉。

 その言葉を発したのは、鹿目まどかだった。

 絶対に、自分が想い、口にしないであろうその言葉を聞き。

 

「……ん」

 

 少年はガンスピンを止め、ゆっくりと奥に向かって歩き出した。

 

「ま、まって」

 

 慌てて、鹿目まどかが追いかける。

 

(何かあれば、私が……)

(鹿目さんは、私が守るんだ)

 

 それぞれの決意を胸に、他二人もそれに続いた。

 

 

 

 

 

 道中は無言だった。

 少年が先頭に立ち、迷う事無く歩を進める。

 巴マミと暁美ほむらは、少年を信用していいのか判断しきれず、その小さな背中を見つめる。

 鹿目まどかは、話をしようと思うのだが、話題が見つからずに若干オドオドしていた。

 結局、会話も戦闘も無いままに、四人は魔女の下に辿り着いた。

 

“薔薇園の魔女 ゲルトルート”

 

 なんとも、気色悪い魔女を確認し、少年は魔法少女たちに問いかける。

 

「……武器は?」

 

 その言葉に、魔法少女達は自分の武器を少年に見せる。

 巴マミは、マスケット銃。

 鹿目まどかは薔薇の枝をモチーフにした弓。

 暁美ほむらは……。

 

「……なにそれ?」

「えっと……自作の爆弾……です……けど…………」

 

 徐々に声が萎んでいく、お下げ髪の少女を見ながら、少年は思った。

 

(ひょっとして、この人が一番過激じゃなかろうか……?)

 

 そんな考えを、一旦隅に置き、少年は考察を開始する。

 

 銃に弓に爆弾。

 前二つは遠距離武器だし、爆弾は……どうすんの?

 設置するか、投げて爆発させるか……ぐらいか?

 そうなると、前衛がいないな。

 

「……オレが前に出るから、援護を」

 

 そう言うと同時に、少年は右腰にSAAを収納し、変わりに左手から武器を取り出す。

 取り出されたのは、一振りの刀。

 鍔のない、白鞘こしらえのそれは、長ドスのような印象を受ける。

 そのまま少年は、返答を聞く事無く、使い慣れた移動手段で、魔女との間合いを詰める。

 両足神経を魔法により操作して、直接動かす歩法。

 少年が最も多用する<電気操作(Electrical Communication)>の、基本行動。

 

(((……うわぁ……)))

 

 上半身を動かさず、下半身だけが異常な速度で動くその姿は、傍から見たら異様だろう。

 だが、そんな魔法少女の感想など気にも留めず、少年は一気に魔女を間合いに捉えて。

 

「逆手居合、電光抜刀、弐の太刀。」

 

 電気操作による、神経操作で繰り出されるは、横薙ぎの逆手抜き。

 

「閃風!」

 

 視認出来ないほどの神速抜刀は、一筋の黒き放電を残し、少年はそのまま通り過ぎる。

 だが、魔女の体は大きく、それでは致命傷には至らない。

 自身に攻撃を加えた少年を目標に、魔女と小さな使い魔達が動き出す。

 少年は、足を止める事無く納刀し、右腰のSAAを抜く。

 左手の刀はそのままである為“電光速射”は使えないが、それでも構わない。

 何故なら、二人の魔法少女もまた、自らの武器を魔女に向けているのだから。

 三方向から攻撃を受けた魔女は、誰を目標にするか一瞬躊躇する。

 が、変わらず少年に狙いを定めた。

 走り回る少年が、自分の使い魔を何体か踏み潰していたからだ。

 四人にとって想定外だったのは、魔女の速度だろう。

 大きな体躯とは対照的に、その動きは速く、時折壁まで走ってみせる。

 そのまま上空に飛び上がり、少年を踏み潰そうと襲い掛かる魔女に、少年は逆に魔女に突進し、閃風を繰り出し、攻撃と回避を同時に行ってみせる。

 が、致命傷には至らない。

 “閃風”はあくまでも“抜刀術”であり“魔法付加攻撃”ではないからだ。

 無論“魔法付加攻撃”に属する“逆手居合 電光抜刀”もあるのだが、それは溜めを必要とする“待ちの太刀”であり、現状では使用する隙が無い。

 体躯の大きさ、その違いが互いの攻撃力と防御力に直結する結果となっているのだ。

 

(使うか? <オレだけの世界(Look at Me)>を?)

 

 切り札とも言える魔法ではある、が、ネックも存在する。

 

“時間停止中は、他の魔法が使えない”

 

 それは<部位倉庫(Parts Pocket)>にも当てはまる。

 戦闘において“オレだけの世界”を使用する際は“SAAと大量の弾を取り出した上で使用”し“停止中に何十発という射撃を行い、時を動かす事で瞬間的にダメージを与える、強制同時攻撃”が運用法であった。

 が、実は魔法少女達と出会う前に使用しており、現在はインターバル中。

 右目の裏の時計は、11時56分12秒を指している。

 使うとしても、もう少し時間を稼がなければいけない。

 そう考えた少年は、SAAをリロードする為、刀を左手の<部位倉庫(Parts Pocket)>に収納して持ち替え、回避行動に専念する。

 

 

 

 

 

 少年は、戦いの運命を選択してから、ずっと一人で戦ってきた。

 その為、魔法少女達の存在を、頭の隅に追いやっていた。

 むしろ“SG(ソウルジェム)を無制限に浄化できる訳ではないGS(グリーフシード)の、取り合いになるのでは?”という危惧すら持ち、出会った事がない事実をむしろ僥倖だとすら、考えていた。

 

 だからこそ。

 

 巴マミの放った弾丸が魔女に命中し、その部分から黄色い糸が無数に現れて、魔女を拘束するその姿を、驚愕の瞳で見つめていた。

 思わず足を止め、もがく魔女を見つめる。

 

(特殊な弾丸……? いや、魔法弾!?)

 

 その状況を理解し、少年はその魔法少女を見る。

 周りに無数のマスケット銃を召還し、一発ごとに使い捨てる姿を。

 たしかにマスケット銃は、単発銃である。

 

(そんな使い方があるのか……)

 

 その欠点を、周りに大量に召還して使い捨てる事で、巴マミは己の弱点を克服した戦術を実践しているのだ。

 少年のリボルバーも、一発ずつの排莢、装填である為に、リロードが遅い。

 少年はそれを“リロード中でも射撃を行う”事で、ある程度カバーしていた。

 しかし、巴マミの戦術は、まさに目から鱗。

 

(魔力で生成して使い捨てる。

 そんな方法があるのか!)

 

 が、後に少年は、自分にそんな能力が無い事を痛感し、軽く凹むのだが、それは余談。

 そして、もう一つ。

 

(弾丸に魔法付加。

 その発想は無かった)

 

 自分の<電気操作(Electrical Communication)>を利用した戦闘技能“逆手居合 電光抜刀”にも“魔法付加攻撃”は存在する。

 元々、拳に宿したり、両足を動かしたりをメインに使っていた上、電気そのものを放出するという使い方しかしていなかった為“刀身に魔法付加して斬りつける”という発想から、技を編み出しこそしたが“弾丸に魔法付加して、銃で撃つ”という発想に、至らなかったのだ。

 そして、少年はさらなる驚愕を味わう事になる。

 

「ほむらちゃん!」

「はい!」

 

 鹿目まどかの言葉に、暁美ほむらが返事をして走り出す。

 その速度は、決して速いとは言えない。

 むしろ、遅い。

 それは、少年には奇行にしか見えず。

 

「ちっ!」

 

 舌打ちをして、電気操作で駆け寄ろうとした瞬間。

 少年は見た。

 暁美ほむらの左腕にある盾の一部が開き、内部が90度回転した事を。

 

 

 

 

 

 ――――――そして、時は止まった。

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 なん……だと…………。

 まさに、絶句。

 魔女も、使い魔も、二人の魔法少女も。

 そして、オレ自身も。

 時は止まっていた。

 お下げの魔法少女以外の、時が。

 手に持っていた爆弾を、魔女の近くに設置する少女を見て、オレはようやく気付く。

 時は、止まっている。

 では“オレは何故、思考している”んだ?

 設置を終えて、弓を使う魔法少女の下に駆けていく、時を止めた魔法少女。

 それをオレは、その“世界”を右目で見ていた。

 

 そしてオレは、ひとつの仮説を立てるに至る。

 

 同種の魔法だから、か?

 “時の止まった世界”を“知っているから”か!?

 

 そんなオレの考えをよそに、盾の内部が再び回転するのを確認する。

 

 ――時は、動き出す。

 

 

 

 次の瞬間。

 

 

 

どごおぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!!

 

 

 

 設置した爆弾が爆発し、黒煙が視界を塞ぐ。

 ちょwwwまじかwwwww

 コレが、自作品!? いくらなんでも、威力が凄過ぎない!?

 

 もはや、呆然とするレベルなオレだが、事態は常に変化していく。

 黒煙が晴れた先。

 上空に、先程の数十倍の大きさのマスケット銃を魔女に向かって構えている、魔法少女。

 

 マジか!? なんぞそれ!??

 

 思考が完全に麻痺し、オレはその光景を呆然と見詰めていた。

 

「ティロ・フィナーレ!」

 

 発射された弾丸は、確実に魔女を捕らえ、再度爆発を起こす。

 色鮮やかな蝶が舞い上がり、消滅。

 その先に、どこからか取り出したティーカップを口元にあてる魔法少女と、その少女に笑顔で駆け寄っていく、他二人の魔法少女を確認する。

 

 辺りの景色が歪み始めた時、オレはようやく思考を取り戻す。

 そして、笑顔で会話をする魔法少女達を見て、素直にこう思ったのだ。

 凄い、と。

 そして……。

 

 足元に、先程の魔女の物だと思われるGS(グリーフシード)が転がってきて、オレは浮かんだ感想を打ち消した。

 それを拾い上げた、オレは。

 結界の消滅した場所で。

 三人の魔法少女と対峙した。

 

 さて……どうしよ?

 自分と同じく、真剣な表情をする三人の魔法少女。

 

 ……逃げたい……(;´д`)




次回予告

初めて出会う、魔法少女
始めて出会う、魔法少年

誰よりも近く
誰よりも遠い

真の意味でここからハジマル
これは、引き寄せられた物語


十章 ……慣れてない……だけだ…………


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十章 ……慣れてない……だけだ…………

「刀で斬る事も出来るし、銃弾で倒す事も出来る。
 ひょっとして、石で殴り殺す事も可能なんじゃね?」
「さすがにそれは、どうかと思うわよ……?」


SIDE out

 

 僅かに離れた距離で、お互いを観察する、群雲と三人の魔法少女。

 沈黙を破り、行動を起こしたのは群雲が先だった。

 手にしていたGS(グリーフシード)を、三人に向けて投げたのだ。

 

「え……っと!」

 

 突然の行動に一瞬遅れるも、山なりの軌道で飛来したそれを、巴マミがキャッチする。

 

「……魔力を」

 

 そう呟き、群雲は変身を解除する。

 電気操作の影響で、僅かに持ち上がっていた白髪は、重力に従い、下ろされる。

 長い前髪が、黒と緑のオッドアイを覆い隠す。

 さらに群雲は、身に着けた黒のトレンチコートから、眼鏡を取り出す。

縁の無い、右のレンズが曇りガラスになっているそれは、自分がオッドアイである事を少しでも隠す為に、自作した伊達眼鏡だ。

 元々、魔法関係以外の視力がガタ落ちしている為、通常時に右目を意識する事はほとんど無い。

 曇りガラスでも、何の問題も無いのである。

 そんな、歪な自作品を装着し、右の中指で押し上げる。

 

「キミは……これが目的だったんじゃないの?」

 

 鹿目まどかの質問に、群雲は僅かに思考した後。

 

「倒したのは、そちらだ。」

 

 そう言って、そっぽを向いた。

 一瞬ためらうも、SG(ソウルジェム)の浄化は魔法少女にとっては、必須である。

 三人は、受け取ったGS(グリーフシード)を使い、SG(ソウルジェム)を浄化していった。

 

(……SG(ソウルジェム)の浄化って、ああなってるのか。)

 

 そっぽを向いたまま、左目だけでその様子を観察する群雲。

 SG(ソウルジェム)が右の義眼になっている為、浄化の様子を、見た事は無かったのだ。

 

「まだ、使えそうね」

 

 SG(ソウルジェム)の浄化を終え、GS(グリーフシード)を確認した巴マミは、ゆっくりと群雲に近づき。

 

「どうぞ」

 

 GS(グリーフシード)を差し出した。

 

 ――思考が、硬直する。

 反射的に、群雲は正面に向き直る。

 群雲自身、小柄である事は認識している為、自然と見上げる形になる。

 長い前髪と眼鏡の僅かな隙間。

 そこから覗く、黒い瞳は驚愕に見開かれていた。

 

「どうしたの?」

 

 GS(グリーフシード)を受け取らない群雲に、巴マミは僅かに首を傾げる。

 

「……ん」

 

 彼女の言葉に反応し、GS(グリーフシード)を受け取る群雲。

 ――いるんだな、こういう人も。

 今日という日は色々と、想定外な事が起こる日だ。

 そんな事を考えながら、左手で眼鏡を下にずらし、右手に持つGS(グリーフシード)を、見開いたままの右目に押し当てた。

 

SG(ソウルジェム)が……右目!?」

 

 それを見た暁美ほむらが、思わず声を上げる。

 鹿目まどかも、巴マミも、同様の驚愕を受ける。

 想定外な事が起きる日である事は、三人の魔法少女にも言えた。

 右目(ソウルジェム)の浄化を終え、群雲はGS(グリーフシード)を観察する。

 ……後一回使ったら、魔女になりそうだな。

 それは、純粋な経験則からくるもの。

 それ故に、その判断には自信がある。

 そして。

 

「君も、この街に来ていたんだね」

 

 唐突に掛けられた声に、四人は一斉に向き直る。

 そこにいたのは、ナマモノ(群雲命名)だった。

 

「いるか?」

「もちろんだよ」

 

 短い会話の後、孵化直前のGS(グリーフシード)を、キュゥべえに投げる群雲。

 

「ぎゅっぷい!」

 

 で、それを回収(背中で食べる)キュゥべえ。

 相変わらず、体に悪そうだなぁ。

 そんな思考をしつつ、群雲はその場を立ち去

 

「待って」

 

 ろうとしたら、巴マミに呼び止められた。

 

「色々と、お話がしたいのだけれども、良いかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巴マミの暮らすマンションの一室。

 夕日の差し込むその場所に、四人と一匹?は集まっていた。

 

 あまり、居心地の良い雰囲気とは言えない。

 巴マミに先導されて、付いて来た群雲は終始無言。

 背が低く、若干俯いている上に、長い前髪と眼鏡がその表情を覆い隠していたからだ。

 何か、話そうとは思うのだが、街中で魔法少女や魔女の事を話す訳にも行かず、かといってそれ以外の共通の話題などは無く。

 部屋に着いてからも、それは変わらずにいた。

 違っているのは、群雲がコートを脱いでいる事(上下共に、黒で統一された質素な服装だった)と、巴マミが客人をもてなす為に紅茶を入れている事ぐらいか。

 もっとも、鹿目まどかは群雲に対して興味津々であり、暁美ほむらは群雲の存在が、自身の時間遡行によるイレギュラーなのではないかと言う危惧がある。

 自分達を助け、魔女戦では進んで前衛に立ち、真っ先に手にした筈のGS(グリーフシード)を使わずに譲った事から、巴マミは信用に値する子だとの評価。

 キュゥべえは、まだ生きてたんだ、程度の認識しかなく、群雲は無言を貫いている。

 

「まずは、自己紹介をしましょうか」

 

 紅茶を全員に行き渡らせた所で、巴マミが切り出していく。

 

「私は巴マミ。

 見滝原中学の三年生よ」

「私は鹿目まどか。

 マミさんと同じ学校の二年生だよ」

「暁美ほむら。

 鹿目さんのクラスメイト……です」

 

 三者三様の自己紹介を受け、ムラクモは紅茶を一口飲み

 

「…………群雲琢磨」

 

 簡素に、自分の名前だけを告げた。

 

「群雲君、ね」

 

 名前を聞いて、笑顔を見せる巴マミ。

 眼鏡を中指で押し上げた後、群雲はキュゥべえへ視線を向ける。

 

「僕はキュゥべえ。

 と言うか、僕達は互いの名前すら知らなかったんだね」

「……まあ……必要なかったしな」

 

 契約した日以降、穢れの溜まったGS(グリーフシード)を回収する以外に接点が無かった為だ。

 

「というか琢磨は「いきなり呼び捨てか」いいじゃないか。

 今日は随分と無口だけれど、何かあったのかい?」

 

 キュゥべえの言葉に、群雲は言葉を詰まらせる。

 

「普段は違うの?」

「接触時間は、それほど長くはないけど、今の琢磨は極端だね」

 

 鹿目まどかの質問に、簡潔に答えるキュゥべえ。

 それを聞き、巴マミは極力、警戒させないような声色で問いかける。

 

「何か、あったの?」

「それは……」

 

 俯きながら、群雲は応えかけて…再び口を閉ざす。

 答えを待つ巴マミと、首を傾げる鹿目まどかに、不安げな暁美ほむら。

 三者三様の視線を受けて、群雲はそっぽを向きながら小さく呟いた。

 

「……慣れてない……だけだ…………」

 

 その横顔を見て、三人の思考が一致する。

 

(もしかして、この子……)

(クールとか無口とかじゃなくて……)

(ただ、単純に……)

 

 群雲の顔が僅かに赤いのは、夕日のせいではなかった。

 

(((照れてるだけ?)))

 

「わけがわからないよ」

「……うっさいわ」

 

 事は、非常に単純だった。

 

 群雲琢磨は、元いじめられっこである。

 入学式当日の、両親の死。それに伴う、入学式早退。

 そんな“普通とは違う”状況は、感情の抑制力が低い子供にとって、当人をからかうのにあまりにも最適で。

 対して、両親の死により落ち込んでいた群雲は、さして相手にせず。

 それが逆に、周りの子供達から、反感を買う要因に繋がり。

 

 ――――最終的に、いじめへと発展した。

 

 今、重要なのは。

 いじめられっこだった群雲は純粋に。

 異性と会話した経験がない、と言う事だ。

 

「わけがわからないよ」

「ほっとけ」

 

 俯き、眼鏡を押し上げながら、群雲は続ける。

 

「ただでさえ、女子と会話した記憶がないのに、年上の……その……か、かわいい人達…………と…………」

 

 徐々に萎んでいく群雲の言葉に、一言。

 

「わけがわからないよ」

 

プツン

 

 冷静に、淡々と、いつもの言葉を話すキュゥべえに、群雲の中で何かが切れた。

 素早く立ち上がり、キュゥべえの頭を掴んだ群雲は

 

「そぉい!」

「ぎゅっぷい!」

 

 思いっきり天井に放り投げ、叩きつけられたキュゥべえは不可思議な呻き声と共に重力に従い落下した。

 突然の行動に唖然とする三人をよそに、再びキュゥべえを鷲掴みにし。

 それを前後に勢い良く揺らしながら、群雲は叫んだ。

 

「いきなりこんな、ハイレベル三人相手とか、難易度高すぎじゃあぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「失礼、取り乱しました」

 

 数分後。

 落ち着きを取り戻した群雲は、静かに紅茶を飲んでいた。

 が、相変わらず顔は赤く、三人と目を合わせようとはしない。

 

(戦闘中とは、別人ねぇ……)

(かわいいだって。

 てへへ、てれちゃうな~)

(私も含まれてる……んだよね……?)

 

 相も変わらず、三者三様の感想を浮かべる魔法少女達。

 ちなみにキュゥべえは傍らでぐったりとしている。

 

 そして、群雲の脳内は

 

落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け大丈夫大丈夫絶対やれるだから大丈夫だってダメだダメだあきらめちゃダメだできるできる絶対に出来るんだから諦めんなよ! 諦めんなよ、オレ!! どうしてそこでやめるんだ、そこで!! もう少し頑張ってみろよ! ダメダメダメ! 諦めたら!

 

 ……実に、落ち着いていなかったりする。

 なんか、最終的に「Never Give Up!」とかいって締めくくりそうな勢いで。

 だが。

 

「じゃあそろそろ、詳しい話をしましょうか」

 

 巴マミのその言葉に、群雲の脳内は一気に冷えていく。

 え、さっきのはなんだったのん? とか言われそうだが、それも群雲の性格に起因する。

 

 元々、思考癖がある上に、微妙にずれていきやすいが、それは逆に、容易に切り替えて、元に戻せると言う事でもある。

 ある程度の所で、すっぱり割り切れるのだ。

 

「話……ね」

 

 眼鏡を押し上げて、群雲は切り替える。

 初めての、魔法少女との邂逅。

 数少ない、魔法少女(男)であるオレは。

 

 ……どう動くのが、一番笑えるのだろう……?




次回予告

出会いを切っ掛けに、変わる流れと変わらない流れ
出会いを切っ掛けに、動く感情と不動の目的

人とは、変わる生き物である
良い方にも、悪い方にも

十一章 鋭く、冷たく


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十一章 鋭く、冷たく

「つまり、群雲君は」
「魔女の気配を追いかけた結果」
「偶然、この街に来た、と」

……なんで、台詞を三等分するん?(´・ω・`)


SIDE 群雲琢磨

 

 オレは、事情を説明した。

 と、言ってもたいしたことではない。

 

 キュゥべえと契約して、魔女狩りの為に放浪し、この街で魔女の結界を見つけて中に入り、戦闘中に三人に会いました。

 

 わぉ、わかりやすくて、単純。

 

「じゃあ、テリトリーを広げるとか、そういう意味合いはないのね?」

 

 ……ほわぁい?

 

GS(グリーフシード)は、魔女の卵であると同時に、SG(ソウルジェム)を浄化できる唯一の物。

 それを目的に争う魔法少女もいるのよ。

 悲しい事だけどね」

「悲しい事、ねぇ」

「マミのような魔法少女は珍しいんだよ」

「……まあ、想像に難しくないな。

 人間誰しも、利益と見返りを考えるからね」

「……冷たい言い方ね」

 

 悲しそうな顔せんでくれ。

 こちとら、そんな大人にばかり、囲まれててん(´・ω・`)

 

「まあ、巴先輩が優しいのは分かった」

「納得する所、そこなの?」

「わけがわからないよ」

「黙れナマモノ。

 ついでに言えば、他二人の先輩が優しいだろう事も、想像はつく」

 

 鹿目先輩が優しいのは、先程の魔女空間で理解してるし、そんな二人と一緒にいる暁美先輩も、実は極悪人って事はないだろう。

 ……多分。

 対人経験、ほとんど無いのよ、オレ。

 

「と言うか……先輩って?」

「自分、元小学生。

 そちら三人、中学生」

 

 暁美先輩の質問に答えたら、沈黙が降りた。

 ……?

 

「小学生なの!?」

 

 鹿目先輩が、声を上げた。

 

「元、ね」

「元って……」

「行ってねぇもの。

 最初の使い魔戦でメチャクチャ苦労したもので「こりゃ、あんなとこ行ってる暇ねぇな」と」

「あんなとこって……」

「つっこんだ質問をするけど、親は?」

「入学式に事故で死んだ。

 てか、親がいたら放浪なんぞ出来ないんじゃね?」

 

 オレの言葉を最後に、再び沈黙が降りる。

 ……なんなの?

 

「……ごめんなさい」

「何故に、鹿目先輩が謝る!?

 他二人も、何を悲しげな表情をするの!? イミフ!!

 そして変わらず無表情なナマモノがなんかムカつくからそぉい!!!」

「ぎゅっぷい!?」

 

 ……せんせー、はなしがすすみませーん(´・ω・`)ノ

 

 

 

 

 

SIDE 巴マミ

 

 魔女空間で、出会った少年。

 男の子なのに、キュゥべえと契約して。

 子供なのに、魔女と戦う為に旅をしていて。

 年下なのに、妙にしっかりした考えを持っていて。

 でも彼は――――――やっぱり、子供で。

 

「失礼、取り乱しました」

 

 先程と同じように、落ち着いて紅茶を飲む少年は……。

 どこか、自分と同じような気がして。

 

「とりあえず、こっちから質問」

 

 眼鏡を指で押し上げながら、群雲君は手を上げる。

 

「先輩達は魔法少女である」

「えぇ」

「……オレって、魔法少女なん?」

 

 ……えっと……どうなのかしら?

 

「過去にも、琢磨のように、僕と契約した男性はいたよ」

 

 それは、興味があるわね。

 

「その内の一人は、自分の事を“魔人”と呼んでいたね」

 

 魔人……あまり良い印象を持たない呼び方ね。

 

「その人の願いは、何だったの?」

 

 鹿目さんの質問に、キュゥべえは即座に答えてくれた。

 もしかしたら、群雲君の件があるから、調べておいたのかもしれないわね。

 

「“魔王の暴挙を止める事”だよ」

「……ちょっと待て」

 

 その答えを聞いて、群雲君が声を上げる。

 私を含めた全員が、群雲君に集中する。

 背が低く、眼鏡が少しずれていたから、長い白髪の間から、彼の目が見えた。

 黒と緑のオッドアイ。

 SG(ソウルジェム)が右目に入った影響だと、彼とキュゥべえが言っていた。

 その右目の輝きは暖かく、左目の輝きは鋭い。

 浄化直後だから、右目の輝きはSG(ソウルジェム)のものであるはず。

 ならば……本来の彼の輝きは左。

 どんな人生を歩んだら、こんな小さな少年が、これほどの瞳を持てるのだろう?

 鋭く、冷たく。

 

 ――――悲しい輝きを。

 

「何故“魔王”なんだ?」

「どういうことだい?」

「契約によって得た力を、傍若無人に使った。

 そんな状況じゃないと“暴挙を止める”なんで願いは、出てこないんじゃないのか?」

 

 群雲くんの言葉が、よく理解出来なかった。

 

「だからこそ“魔人を名乗った人物”は、契約をしたんだろうね」

 

 そして、キュゥべえの言葉を聞いて、全容を想像する事が出来た。

 

「つまり、魔法少女(男?)としての力を、魔女討伐ではなく、自分の好きなように使った“魔王”が現れた結果。

 同種の契約者(そんざい)が生まれることになった、と?」

「その解釈でいいだろうね」

 

 キュゥべえの言葉に群雲君は「頭いてぇ~」と呟きながら、残り僅かな紅茶を飲み干した。

 

「魔人群雲かぁ~。

 胸が痛くなるな」

 

 ……熱くなる、じゃないのね。

 

「じゃ、次の質問。

 先輩達は、この街を拠点に、魔女狩りをしている」

「えぇ、そうね。

 学校があるから、それほど遠出はできないし」

 

 質問に答えると、群雲君は眼鏡を中指で押し上げた状態で固まった。

 ……考える時の癖なのかしらね。

 

「それじゃ、お世話になりました」

 

 そう言って、群雲君はおもむろに立ち上がり

 

「ちょっと待って!

 なんでそうなるの!?」

 

 鹿目さんに呼び止められた。

 

「だってオレがいたら、取り分減る訳で」

 

 GS(グリーフシード)の事なのだろうけど、それを“取り分”と明言する辺り。

 

「別にオレ、見ず知らずの誰かの為に、魔法少j……魔人やってるわけでもないしな」

 

 彼の冷酷さが伺える。

 

「じゃあ…なんで魔女を?」

「自分の為」

 

 暁美さんの質問に、群雲君は即答した。

 

「オレは、いつだって“自分の為”に動いてる。

 見ず知らずの人がどうなろうと、それは対岸の火事。

 知ったこっちゃない」

 

 そう言って、彼は笑う。

 前髪と眼鏡で、ほとんど顔が見えず、口だけで笑っている。

 不気味……そんな印象を受ける笑顔だ。

 でも……。

 

「じゃあ、何で助けてくれたの?」

 

 私の質問に、群雲君は首を傾げる。

 

「最初、挨拶をする前に。

 私達の後から迫っていた使い魔を、どうして倒してくれたの?」

「……結果論。

 倒した使い魔が、たまたま先輩達の後ろにいただけでしょ?」

「なら、どうしてその後に、私達に質問したの?」

 

 立て続けの私の質問に、群雲君は眼鏡を押し上げて静止する。

 

「自分の為に、魔女を狩る。

 それは、GS(グリーフシード)目当て、と言う事でしょう?

 なら、私達の動向を気にする必要はなかったわ」

 

 何処か、自分と同じような気がしたから。

 

「その後も、どうして自ら先頭に立って進んだの?

 魔女との戦いも、どうしてわざわざ近距離武器を選んだの?

 どうして群雲君は……GS(グリーフシード)を使わずに、私達に渡したの?」

 

 きっと彼は、自覚していないのだ。

 彼の行動は、少しでも私達から危険を遠ざける為の行動だったと。

 

「……結果論……かな」

「そうね、結果論ね」

 

 彼の言葉に同意した私を、全員が見つめる。

 

「なら、群雲君はこの街で、何も得ていないわね」

「……まあ……」

 

 曖昧な彼の返事に、私は笑みを浮かべた。

 

 私も、一人で戦ってきた。

 彼も、一人で戦ってきた。

 私は、鹿目さんと暁美さんに出会い、独りではなくなった。

 なら……。

 

「じゃあ、何かを得るまで、私たちと一緒に、この街で戦ってみるのはどうかしら?」

 

 群雲君も、独りでいる必要はないんだ。




次回予告

人とは、思考する生き物である
それは、生き方の大まかな指針を決めるもの

しかし、この舞台には残念ながら
それ以外も、確かにいるわけで





十二章 調子が狂いっぱなしだ


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十二章 調子が狂いっぱなしだ

「泊まっていく?」
「勘弁してください、マジで」


SIDE 群雲琢磨

 

 初めての、魔法少女との邂逅。

 それは、得るものばかりの、幸せな時だったと、言えるかもしれない。

 巴マミ。

 鹿目まどか。

 暁美ほむら。

 見滝原の魔法少女達は、オレが今まで生きてきた中で、最も優しい人達だった。

 

 三人全員が“誰かの為に戦っている”のだ。

 “自分の為だけに戦っている”オレからすれば、眩し過ぎる。

 まあ、オレは後悔している訳ではない。

 ただ――――羨ましかったのだ。

 

「どうにも、調子が狂いっぱなしだ」

 

 呟いたオレは今、一人で工事中のビル現場の屋上にいる。

 あの後、もうすぐ夜なので御暇しようとしたら、夕食に誘われた挙句、泊まっていかないかと巴先輩に誘われました。

 断りましたよ、嘘ついて。

「実は、宿は予約済みなんですよ」とか言って。

 ……なんとなく、ばれてそうな気がしなくもない。

 そもそも、かわいい先輩三人と一緒にいる時点で、オレの精神が羞恥でマッハ。

 ……かわいいよねぇ……。

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 自分以外の魔法少女との共闘は、充分オレの為になる。

 なので、オレは巴先輩の提案を承諾する事にした。

 ……むしろ、綺麗な先輩に誘われてるんだから、断る理由なんざ捨ててしまえと小一時間……。

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 自分にとって、想像し得なかった、魔法の使い方。

 無論、願いによって魔法が変わるのだから、戦い方も千差万別。

 なればこそ、他の魔法少女の戦いから、自分の戦い方の参考にし、発展させる事も可能なはずだ。

 ぶっちゃけパクr

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 ……かぁいいよねぇ……。

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 ナマモn……キュゥべえが今、この街にいるのも、留まるのに値する理由でもある。

 今までは、GS(グリーフシード)回収ぐらいの接点しかなかったが、魔法少女や魔人を契約により生み出しているのは、他でもないキュゥべえなのだ。

 情報源として、これほど頼りになるモノもないだろう。

 ……むしろ、なんで今まで気付かなかった、オレェ……。

 

 

 

閑話休題

 

 

 

「だあぁぁぁぁぁ!!」

 

 ガリガリと、頭をかきむしる。

 不安定だ。どうにも、不安定だ。

 今日は、想定外な出来事が多すぎた。

 初めて、魔法少女に会った。

 初めて、自分以外の魔法を知った。

 初めて、他人と一緒に魔女と戦った。

 

 はじめて、優しさに触れた。

 

「自分が弱い事ぐらい、充分自覚しているつもりだったんだけどなぁ……」

 

 思わず、漏れた言葉に苦笑する。

 セカイが未知に溢れている事は、知っていた筈なのに。

 いや、むしろ知識としてしか、知らなかったからこそ。

 体験する事の、えげつなさを痛感する。

 むしろ、自分の小ささに打ちのめされるのだ。

 自分の為の願い。

 自分の為の戦い。

 契約し、再び生まれたあの日。

 

 自分だけは、自分のままに。

 

 そう割り切り、切り替え、動いていた筈だったのに。

 

「オレ、よえぇ~」

 

 三人の魔法少女に。

 自分は、容易く揺さぶられたのだ。

 

「切り替えろ、徹底的に」

 

 驚くほど低く、恐れるほど深く。

 自分の呟いた声色は、自分自身が、聞いたことの無いコエだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE インキュベーター

 

 琢磨がこの街に来たのは、完全に偶然。

 魔法少女、魔人としての強さは、本人の因果律に起因する。

 故に、琢磨から得られるエネルギーは、魔法少女に比べると少ない。

 しかし、魔法少女以外の一般人に比べれば、幾許かは多い。

 ノルマ達成の為の、小銭拾い。

 その程度の価値しかない。

 いや、無かった、と言うべきか。

 当初、琢磨はそれほど長く、生き延びはしないだろうと予想していた。

 使い魔相手に、逃げ出すような少年だ。

 しかし、現実は違う。

 SG(ソウルジェム)が穢れきる事無く、今も“魔人”として、生き続けている。

 統計的に、魔法少女に比べ、魔人の方が圧倒的に“寿命が短い”。

 以前の契約者は十日弱で、命を落としているのだ。

 なにより“魔女”にならない“魔人”では“GS(グリーフシード)を孕む事が出来ない”。

 これが、魔人が少ない最大の理由である。

 故に、キュゥべえと琢磨が契約したのは、全くの偶然。

 あの日、あの場所で出会わなければ、在り得なかった現実。

 

「でもこれで、皆の“絶望の切っ掛け”が出来たかな」

 

 琢磨が魔人から魔王になれば、三人の魔法少女も絶望に穢れるだろう。

 マミはどうやら、琢磨を気に掛けているようだし、可能性は高い。

 

「わけがわからないよ」

 

 一個人の死に、どうしてこだわるのか。

 だが、統計として、近しい者への不条理な現実ほど、絶望が深い。

 

「頑張って魔王になってね。

 尤も、本来は“魔王”という呼び方ではないのだけど」

 

 

 

 

 

SIDE 鹿目まどか

 

「群雲くん……かぁ……」

 

 自分のベッドの中で、一人呟く。

 キュゥべえと契約した男の子。

 魔女や使い魔との戦いから、とても強い子だと思った。

 

「かわいいだって」

 

 でも、年下の男の子。

 女の子と会話した事が無いからと、照れてしまうような子。

 キュゥべえにそぉい!ってやってる姿は、どう見ても照れ隠し。

 タツヤみたいな、可愛い弟って感じがした。

 

「でも……頭が良くて、冷たい子」

 

 キュゥべえの言葉から、即座に会った事の無い“先輩”を言い当てた。

 誰かの危険を、知った事ではないと、当然のように言い放った。

 

「優しくない訳じゃない……」

 

 マミさんの言ったように、私達を助けてくれたし、GS(グリーフシード)も譲ってくれた。

 

「よくわかんない……不思議な子」

 

 それが、群雲くんの印象。

 強くて、子供で、冷たくて、優しそう。

 でも、一番感じたのは

 

「……遠い……」

 

 距離がある、とでも言えばいいのか。

 近付いて来てくれない。

 むしろ、逃げようとしている。

 そんな、感じ。

 でも……なにから?

 

「また……明日…………」

 

 群雲くんも、一緒に戦ってくれる。

 なら、その時に確認してみよう。

 そんな事を考えながら、私は睡魔に身を委ねた。




次回予告

戦う事を定められても
それしか、してはいけない訳ではない

戦う事を望んでいたとしても
それ以外を、望んではいけない訳ではない

だが、それから逃げる事は許されず
それ以外が、手に入るとは限らない





十三章 よく解らない子だ


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十三章 よく解らない子だ

「学校には行かないの?」
「今更、小学校に通っても……ねぇ?」
「……同意を求められても……」
「わけがわk「そぉい!」ぎゅっぷい!?」


SIDE 群雲琢磨

 

 三人の魔法少女に出会った次の日。

 オレは、一人で行動していた。

 ……そら、そうだ。

 中学に通う三人と、小学校自主中退のオレでは、行動時間が違う。

 ……が、日中はダンボールハウスの人達に混ざって、眠りこけてました。

 魔法少女達の戦いを思い出し、自分に適応出来ないか考察してたら、太陽がこんにちわ(゜∀゜)

 工事中のビルを抜け出し、彷徨っていたら、いつの間にか寝てました。

 ……その内、体壊すな、オレ……。

 

 で、目を覚まして、彷徨っていたら、鹿目先輩と暁美先輩にばったり。

 せっかくなので、行動を共にする事にしました。

 ……あれ? オレ食事してなくね?

 

 

 

 

 

SIDE 鹿目まどか

 

 放課後。

 さやかちゃんと別れて、ほむらちゃんと一緒に街中をパトロール。

 その途中で。

 

「あ」

 

 昨日出会った、年下の魔法少年。

 群雲くんを発見した。

 昨日と同じ、黒いコートに身を包み、眼鏡を右手の中指で押し上げた状態で。

 おもちゃ屋さんの前で佇んでいた。

 ……欲しいおもちゃでもあるのかな?

 おもちゃ屋の前に立っている少年を見れば、そんな感想を抱くのは当然で。

 でも、群雲くんは魔人だ。

 小学校を“あんな所”とか言っちゃうような子だ。

 でも現実、群雲くんはおもちゃ屋の前で、立ち尽くしている。

 そして、わたしは気付いた。

 群雲くんが見ているのは、店頭に並ぶおもちゃじゃなくて。

 店内で買い物をしている、親子だと。

 

 

 

 

 

SIDE 暁美ほむら

 

 群雲くんは、店内の親子を見ていた。

 私たちから見たら、横向きに立っているけど、長めの白髪と眼鏡のせいで、その表情は分からない。

 でも、なんとなく。

 ――――寂しそう。

 そんな、印象を受けた。

 次の瞬間、群雲くんがこちらを向いた。

 歩き出そうとして……目が合った。

 

「……oh」

 

 何故か、流暢な発音の後。

 

「昨日ぶりだね、先輩達」

 

 両手をコートのポケットに入れながら、群雲くんが声を掛けてきた。

 そう言いながらも、眼鏡越しの左目は、こちらを見ていない。

 ……照れてる?

 

「欲しいおもちゃでもあるの?」

 

 近づきながら、鹿目さんが群雲くんに声を掛ける。

 一緒に近づきながら、私は二人の会話を聞く。

 

「いやいや、おもちゃに興味は無いよ」

「でも、おもちゃ屋さんをみてたでしょ?」

「oh、バッチリ見られてた。

 これはもう、死んで詫びるしか」

「なんで!?」

 

 解った事がある。

 群雲くんは……よく解らない子だ。

 

「知ってるか?

 嘘吐きは極道の始まりなんだぜ?」

「違うよ!?

 極道じゃなくて、泥棒だよ!?」

「大丈夫。

 死ぬまで借りてるだけだから」

「なに、その理屈!?

 どの辺りが大丈夫なの!?」

「知ってるか?

 立証されなきゃ、犯罪にはならないんだぜ?」

「黒い!?

 なんか黒いよ、群雲くん!?」

「いや、オレの髪の毛は見事に総白髪なんだけど」

「髪の毛の話をいつ始めたの!?」

「今」

「今!?」

「ところで、鹿目先輩。

 実はオレ、魔人なんだ」

「知ってるよ!?

 昨日話したばかりだよね!?」

「そしてオレ、たけのこ派なんだ」

「チョコの話に飛んだ!?」

「わけがわからないよ」

「こっちの台詞だよ!?」

 

 ……うん、よく解らない。

 ただ、なんとなく。

 照れ隠し、のように見えて。

 

「あれは、8歳の時でした。

 突然、年上のお姉様に服を脱がされて」

「いきなり、何の話!?」

「最終的には、気持ち良くなるからと、いやがるオレを無理やりに……」

「ななななな!?」

「いや~、初めてだと刺激が強いよねぇ~。

 整体マッサージって」

「…………へ?」

「さて、鹿目先輩はナニを想像しましたか?」

「あ……う……」

「今日のメモ。

 鹿目先輩は、意外とスケベである」

「やめて~!」

「じゃあ、エッチで」

「意味一緒だよね!?」

「じゃあ、下品で。」

「なんか、悪いイメージになった!?」

「ちなみにオレは、整体マッサージを受けた事はありません」

「なにもかも、嘘だったの!?」

「失礼な。

 昨日話したじゃないか。

 オレは魔人だって」

「話が戻ってる~!?」

「そして、いじめられっこなんだ」

「そうなの!?

 むしろ今、私がいじめられてない!?」

「そして、たけのこ派なんだ」

「それ、聞いた!」

「知っているのか、雷電!?」

「言ってたよ!?

 そして、雷電って誰!?」

 

 とりあえず、わたわたとしている鹿目さんが可愛い……。

 そして、群雲くんも、よく見ると顔が赤い。

 やっぱり、照れ隠しなんだ。

 ……方法はどうかと思うけど。

 

「西洋剣より、日本刀派です」

「また、話が飛んだ!?」

「でも、拳銃の方が、も~っと好きで~す」

「ゾウさん!?」

「失礼な、魔人だってヴぁ」

「そうじゃなくて!?」

「ライオンより、トラ派です」

「それも、聞いてないよ!?」

「でも、ウーパールーパーの方が、も~っと嫌いで~す」

「嫌いなの!?」

「さて、真面目な話をしようか」

「ここで、切り替えるの!?」

 

 全部にツッコミを入れる鹿目さんも、優しいなぁなんて、場違いな感想を抱く。

 ……むしろ、私が群雲くんの標的にならないか、不安なんだけど……。

 でも、群雲くんの纏う空気が一変した。

 眼鏡を中指で押し上げながら、鋭い視線を私たちに向ける。

 

「今のところ、魔女の気配は感じられない」

「ほんとに、真面目な話なんだね」

「そして、たけのk「それはもういいよ!?」むぅ……」

 

 言葉途中でつっこまれて、少々不服そうな群雲くんは……年相応な感じ。

 でも、多分。

 私よりも……強い。

 

「オレはこのまま、魔女の気配を探して彷徨う……と、言いたいんだけど」

「なにか、あったの?」

「……この街に来たばかりだから、地理がよく解らない」

 

 聞けば、群雲くんは魔女の気配よりも、地理、地形の把握の方を、重点的に彷徨っていたらしい。

 魔女を狩る。

 それに、人生のすべてを費やしている。

 その為に必要な情報を、一人で得ようとしている。

 そんな、印象。

 

「まあ“ストック”はまだあるし、焦る必要もないが」

 

 そう言って、彼は笑う。

 長い白髪と眼鏡で全体が見えないけど。

 彼の口元は笑みを浮かべている。

 

「先輩たちの足を引っ張るのは、笑えない」

 

 その笑顔を、私は。

 

 ――――――――からっぽだと、感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE キュゥべえ

 

 街中を一緒に回っている三人を見つけた。

 

「お前も来たのか、キュゥb……ナマモノ」

「言い直す意味がわからないよ」

 

 群雲琢磨という少年は、はっきり言って異端だ。

 契約をした少年。今も、生きている魔人。

 なにより、その性格が異端だ。

 早期に“堕ちた”なら、回収するエネルギーの足しになる。

 そんな判断から、偶然出会った少年と契約した。

 だが、現実は違う。

 堕ちるどころか、こちらに穢れたGS(グリーフシード)をいくつも渡している。

 魔法少女や魔人のSG(ソウルジェム)は、因果律により、その素質を変える。

 魔人が短命である理由の一つに“SG(ソウルジェム)の許容量の少なさ”が上げられる。

 そう。

 間違いなく、琢磨は魔法少女に比べて“魔力保有量が少ない”んだ。

 それはすなわち“SG(ソウルジェム)の穢れの許容量”を意味する。

 

「ふと、思ったんだが。」

 

 琢磨が、声を上げる。

 

「仮に、魔女を見つけたとして……どうやって連絡する?

 携帯とか持ってないし、そもそも連絡先知らないし」

 

 やはり、わからないのはその性格。

 一人、各地を転々としながら、魔女を狩り続ける。

 GS(グリーフシード)を“取り分”と明言する。

 にもかかわらず、今は“魔女を見つけたらどう連絡するか”を考える。

 ……一人で戦う、とは考えてはいない。

 GS(グリーフシード)が目的なら、まどか達に連絡せず、一人で魔女を討伐して、GS(グリーフシード)を独り占めにすればいい。

 

「キュゥべえを介して、テレパシーで連絡するとか?」

「それが、最適だと思う」

「……え、テレパシーとか使えるん?」

 

 全員が立ち止まり、沈黙。

 

「知らなかったの!?」

「知るわけないジャン!?

 ずっと一人だったんよ、オレ!?」

 

 確かに、琢磨は一人だった。

 テレパシーを送る相手がいなかったのだ。

 

「てーか、ナマモノ!

 そんな便利機能があるなら、なんで教えてくれないんさ!?」

「聞かれなかったからね。

 そもそも、琢磨にはテレパシーを送る相手なんていなかったじゃないか」

「お前がいるだろ、ナマモノ!

 孵化直前のGS(グリーフシード)を見つけた時とか、お前に回収してもらえば、無駄な戦いを減らせるジャン!」

 

 それは、僕達にとっては、あまり意味が無い。

 僕達に必要なエネルギーは“感情”により作られる。

 最も効率がいいと判明しているのが“第二次成長期の少女による、希望から絶望への相転移”だ。

 無論、絶望により誕生した“魔女の卵”は、回収する事でそれなりのエネルギーが得られる。

 そう。

 “それなり”に、だ。

 使い魔が孕んだGS(グリーフシード)から回収できるエネルギーは“魔人”を下回る。

 僕達にとって重要なのは“エネルギーの回収”であり、それは“GS(グリーフシード)の回収”と完全に一致はしないのだ。

 ならば“孵化前のGS(グリーフシード)を回収”するよりも“孵化した魔女と魔法少女が戦う”方が、効率がいいのだ。

 

「ま、いまさらか。」

 

 そう呟き、琢磨は再び歩き出す。

 この、切り替え。

 不条理を、不条理だと認識する前に。

 現実に、絶望を感じる前に。

 琢磨は切り替える。

 もちろん、それでもSG(ソウルジェム)に穢れは溜まる。

 だが、切り替える事で“それ以上の穢れを無理矢理押さえ込む”んだ。

 この性格こそが、琢磨が今も堕ちていない最大の要因。

 “希望から絶望への相転移”を望む僕達にとっては。

 

――――――――――天敵、と呼べるのかもしれない。




次回予告

全ての事象を、完全に説明する事は出来ない

たとえ、過去に起きた、もはや不変の事柄ですら





悲劇にもなるし、喜劇にもなる



それを、どう受け止めるかは、観客の心





十四章 笑ってるんだ


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十四章 笑ってるんだ

「ヤンバルクイナの夜?」
「ワルプルギス!
 ルしか、合ってない!」
「初対面の時に比べて、暁美先輩も打ち解けてきたねぇ」
「むしろ、群雲くんがはっちゃけ過ぎな気も……」


SIDE 群雲琢磨

 

 見滝原に来て、2週間ほど経った頃。

 深夜の公園で、オレと暁美先輩の二人は、会話をしていた。

 

 

 

 この2週間は、おおむね充実した時間だったと言える。

 無論、気になる点が無かった訳でもない。

 

1.魔法

 ……魔力で弾を生成できれば、楽だったのに……。

 巴先輩のマスケット銃や、鹿目先輩の矢は、魔力により生成されたもの。

 同じように、弾薬を生成出来れば、リロードの必要なくならね?

 ……そう考えた時期が、オレにもありました……。

 結論から言いましょう。

 

 

 

 

 

無☆理

 

 

 

 

 

 どうやらオレには、生成系の才能が無いらしい。

 ならば、巴先輩の様に、弾丸に魔力付加を……とも考えましたが。

 

 

 

 

 

 

無\(^o^)/理

 

 

 

 

 

 

 試しに、手の平に弾丸を乗せて、魔力を込めようとしました。

 が、どうやらオレの魔力は“外”に出る際に、電気に強制変換されるらしく。

 

 唐突に、上空に向かって弾が飛んでいくという結果になりました。イミフ!

 

 ちなみにその日、謎の光が地上から上空に昇っていったと、街頭ニュースで言っていた。

 

 

 

 結論。

 ……オレ、もしかしたら才能がないのかもしれん……。

 

 

 

2.魔女

 魔女が、どこから来て、どこへ行くのか。

 そういう事が解った訳ではない。

 解ったのは、異常性。

 この“見滝原”の、だ。

 

 三人の先輩と一緒に、オレはこの街で、魔女を退治してきた。

 そして解ったのは。

 

 この街の“魔女の多さ”だ。

 

 魔女狩りの為に、放浪していたオレだからこそ、分かる。

 

 見滝原という街は近年、目覚しい発展を遂げてきた。

 ……だからこそ、オレが人知れず過ごしやすい、工事中のビルとかがあるのだが。

 急速な発展は、それに伴い、歪みも生み易い。

 その歪みが、呪いに生きる魔女を引き寄せている。

 ナマモノの意見を統合すると、こんな感じだ。

 事実、オレも魔女の気配に導かれて、この街を訪れたのだから。

 

 三人の魔法少女がこの街にいる事で、他の魔法少女がこの町に現れる事は稀だ。

 当然と言えば、当然。

 魔法少女が多いと言う事は、その分“取り分”が減ることを意味する。

 三人の魔法少女(+オレ)を排除しなければ、GS(グリーフシード)を独り占めできない。

 その上で、一人で魔女を倒さなければならないのだから、リスクとリターンが釣り合わない。

 

 ……オレとしては、これ以上女の子が増えないなら、それでいい程度の認識だが。

 

 

 

 

 なんにしても、魔女の多さ。

 これに違和感を覚えたので、オレは帰り道で、それを暁美先輩に話した。

 ちなみに、巴先輩と鹿目先輩はすでに帰宅済み。

 そして、冒頭へと繋がる。

 

 

 

 

 

 

 

「最強の魔女……ねぇ…………」

 

 中指で眼鏡を押し上げながら、オレは思考する。

 

「他の魔女のように、結界に隠れる必要が無い。

 でも、素質無き者には、魔女を認識出来ないのだから、それは別の大事件として記録に残る、か」

 

 いや、とんでもないな。

 歴史に残っている大災害のいくつかは、その魔女によるものなのかもしれないとか。

 

「笑えないってレベルじゃねぇな、それ」

 

 オレが浮かべるのは、苦笑。

 いや、もう、ぶっちゃけ。

 それしか出来ない。

 そんなオレを、暁美先輩は真剣な眼差しで見詰めている。

 

「巴さんも鹿目さんも、この街を守る為に、ワルプルギスの夜と戦う。

 私は、そんな二人の力になりたくて、魔法少女になったの」

 

 改めて、認識する。

 見滝原の魔法少女は……優しすぎるでしょ。

 

「群雲くんは、この街の人じゃない。

 鹿目さんみたいに、この街に家族がいるわけでも。

 巴さんみたいに、この街を守るわけでも。

 私みたいに、友達の力になるわけでも」

 

 ……見透かされてるな。

 まあ、最初に公言してたからな。

 

 

 

オレは何時だって“オレの為だけ”に、魔法を使う。

 

 

 

「だから、強要は出来ない」

 

 やっぱり……優しいなぁ。

 そんな感想を、隅に寄せ、オレは思考を続ける。

 

 はっきり言おう。

 今、暁美先輩がオレに、この情報を教えるメリットは薄い。

 このまま、何も知らずにオレがこの街にいたならば、必然的にワルプルギスの夜と交戦したはずだ。

 理由は解らないが、暁美先輩はワルプルギスの夜の強さをある程度理解しているのだろう。

 ……そして、おそらく“勝算は低い”と思われる。

 無論、必ず負けると決まった訳でもないし、他の魔女との戦いにも、同じ事が言える。

 魔女との戦いは、命懸けなのだ。ワルプルギスの夜に限った事ではない。

 が、オレはあくまでも“一時的”に、この街にいるのに過ぎず。

 ……見滝原を捨てて、逃げ出す事だって容易なのだ。

 暁美先輩の危惧するところはここだ。

 戦闘中の戦力低下ほど、厄介なトラブルは存在しない。

 

「この辺に、自販機ってある?」

「……え?」

 

 オレはとりあえず、飲み物を調達する事にする。

 

「少し……長めの話をしようか」

 

 

 

 

 

SIDE 暁美ほむら

 

 公園のベンチで二人。

 群雲くんと私は座っていた。

 手には、群雲くんが買ってきたココアがある。

 

「話をしよう」

 

 群雲くんは私にくれたものと同じココアを一口飲むと、ゆっくりと話し始めた。

 

「あれは今から36万……いや、1万4千年前だったか」

「なんの話!?」

 

 群雲くんは、唐突によく解らない事を言う。

 

「冗談は、これくらいにして……」

「私は最初から真面目に話をしてほしいんだけど……」

 

 私の呟きを無視して、群雲くんは眼鏡を外して、それをポケットに入れる。

 そして、自分の前髪をいじりながら、感情の篭らない声で言った。

 

「精神的ストレスなんだそうだ」

 

 一瞬、何の話かわからなかった。

 

「年齢2桁前に、総白髪とか、異常な話だとは思うけどね」

 

 それが、群雲くんの髪の話だと気付き、私は悟った。

 これからの話は……。

 

「栄養が偏っていたのも、要因の一つだったらしいけど」

 

 群雲くんの……過去の話だ。

 

「両親は、良い人達だったんだと思うよ。

 今では、顔も、名前も、ぬくもりも思い出せないけどね」

 

 そう言って、彼は笑う。

 ――――――私が、からっぽだと感じる、いつもの笑みだ。

 

「だが同時に、オレからすれば最も憎むべき存在だ」

 

 でも、今回は違った。

 

「両親の死。

 オレの生き地獄は、そこから始まった」

 

 前髪をいじっているのと、眼鏡を外しているから。

 

「入学式で早退したから、それをネタにからかわれ」

 

 普段は見えない、群雲くんの表情が見えた。

 

「オレが反撃しなかったから、調子に乗って」

 

 変身中は、髪が僅かに持ち上がっているし、眼鏡もしていない。

 

「それが、いじめに発展するのに、さほど時間はかからなかったよ」

 

 でも、戦闘中とは違う。

 

「そして、大人はこう言うんだ」

 

 今の彼は“魔人群雲”ではなく。

 

「いじめられる方にも、問題があるんだよってな」

 

 12歳の少年“群雲琢磨”なんだ。

 

 

 

 

SIDE キュゥべえ

 

 公園での、琢磨の独白。

 それを聞いているのは、ほむらと。

 

「……そんな……」

「ひどい話ね……」

 

 少し離れた所から、僕のテレパシーを経由して聞いている、マミとまどかだった。

 三人の絶望の切っ掛けにしようと、琢磨の動向を伺ってみて正解だった。

 そんな僕達の事等知りもせず、会話は続いている。

 

「両親は、オレを育てる為に貯金をしてた。

 莫大な遺産って訳じゃない。

 実際、今はもう10分の1程度しか、残ってないしね。

 まあ、オレが放浪の為に使い潰してる訳だが」

 

 琢磨は、鷹揚の無い声で話し続ける。

 性格上、切り替えているのだろう。

 辛い話ではない、と。

 

「親戚は、そんな僅かなお金目当てでしか、オレを見ていなかった。

 もう、大変だったね。

 味方がいないってレベルじゃない。

 自分以外が、全て敵だったよ」

「ところが、不思議なものでね。

 お金さえ払っていれば、小学校に通い続ける事は可能だったんだ。

 最終的に、自分の保護者になりやがった奴は、印鑑とか通帳とかを、しつこく聞いてきたけど。」

「カードさえあれば、お金を下ろすだけなら可能だったから。

 両方とも、全額引き出した後に、ゴミ収集車に放り込んでやったよ。

 ざまぁwwwww」

「結局、半年経たずに、髪の毛の色が抜け落ちた。

 保護者といっても、一緒に生活していた訳じゃない。

 天涯孤独になった子供を引き取るなんて、書類仕事で事足りるんだ。

 実際オレは、今の書類上の保護者の名前なんて、知らないしな」

 

 髪をいじるのを止めて、琢磨は立ち上がり、持っていた飲み物を飲み干す。

 そのまま数歩進んで、座ったままのほむらに向き直った。

 

「そんなオレは、常々疑問に思っている事がある。

 髪の“色”が抜け落ちるのと、髪の“毛”が抜け落ちるのと。

 果たして、どちらが不幸だったのだろう?」

 

 

 

 

 

SIDE 暁美ほむら

 

 私は、彼の言葉に顔を上げた。

 彼の話は、荒唐無稽だ。

 でも、それが嘘じゃない事は、悲しくなるほど痛感していた。

 ところが。

 ところが、だ。

 立ち上がって、口にした疑問が。

 あまりにも、どうでもいい気がして。

 反射的に、顔を上げ、文句の一つでも言ってやろうと思った。

 この状況で、ふざけるなんで、やめて、と。

 でも……。

 

「まあ、どちらにしても、結果は変わらなかっただろうね」

 

 彼の言葉に、私は自分の言葉を言う事が出来なかった。

 

「オレにとっては“いじめられる要素が増えた”だけだし」

 

 ………………え?

 

「いじめられっこが、自分からネタを提供したようなものさ。

 白髪になろうと、ハゲになろうと、ね」

 

 

 

悪循環(全てが悪い方に)

 

 

 

 群雲くんの人生を言い表すなら、この言葉が最適な気がした。

 

「結局、一日たりとも、いじめられなかった日はなかったよ。

 家に帰っても、誰かがいるわけでもない。

 たまに来る大人は、お金目当ての親戚か、世間体目当ての先生ぐらい。

 あ、でもたまに宗教勧誘とか来てたな。

 完 全 論 破 して、泣かした事もある。

 ……あれ? それを駆使すれば、いじめっこに復讐できたんじゃね?」

 

 そう言って、彼は再び笑う。

 そして、私は理解した。

 何故、群雲くんを“解らない子”だと思っていたのか。

 

「まあ、それはさておき。

 そんなオレが偶然、ナマモノと契約する事になって、魔人になった訳だけど」

 

 笑ってるんだ。

 照れたりもするし、戦いの時は真剣な顔にもなる。

 でも、笑ってるんだ。

 

 だけど、いつも笑っていないんだ。

 目が完全に、笑っていないんだ。

 

 

 

 

 

 ――――――心が、笑っていないんだ。

 

 

 

 

 

「まあ、契約したおかげでオレh「どうして?」……?」

 

 彼の言葉を遮り、私は言葉を投げかける。

 

「どうして、笑っているの?」

 

 溢れてきた涙を拭い、私は投げかける。

 

「どうして、そんな話をしながら。

 そんな風に笑えるの!?」

 

 答えを聞きたかった。

 私が理解してしまった事が、本当かどうか。

 群雲くんの口から――――――否定の言葉を聞きたかった。

 

「どうして、か……」

 

 苦笑を浮かべながら、群雲くんは言った。

 

「解りやすく、表現するなら」

 

 その言葉は、私の理解した事と。

 

「狂ってるんだろうな、オレ」

 

 ――――――――――完全に一致した。




次回予告
光があれば、闇がある
表があれば、裏がある




だが、それらは見方一つで
善にもなるし、悪にもなる






そして、それら全てが
正しいとも言えるし、正しくないとも言える











十五章 世界は、妄想と狂気と欲望で出来ている


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十五章 世界は、妄想と狂気と欲望で出来ている

「正義の味方は、あくまでも‘正義の”味方であり。
 人の味方とは限らない」


SIDE out

 

「狂ってるんだろうな、オレ」

 

 その言葉は、沈黙を下ろすのに充分な力を持っていた。

 話を聞いている暁美ほむらも。

 キュゥべえを通して、話をきいていた他の二人も。

 理解していたが、理解できなかった。

 群雲琢磨が、狂っているという事実と。

 狂っていると言う、群雲琢磨の真実を。

 

「オレは“まとも”でもなければ“壊れた”わけでもない」

 

 いつもの笑みを浮かべて、群雲は言う。

 

「オレは、オレを“まとも”だとは思わない。

 オレは、オレを“壊れた”なんて、認めない」

 

 それは、理解してはいけない一線。

 それは、越えてはいけない一線。

 群雲琢磨という存在は既に。

 

「狂ってるんだ、オレは。

 だから」

 

 その一線を。

 

「だから“考える事”で“考えるのを止めた”んだ」

 

 

 

“割り切る事にしたのだ”

 

 

 

「どういう……事?」

 

 震える声で、質問する暁美ほむら。

 変わらぬ笑みを浮かべながら、群雲琢磨は発露する。

 

「責任を他者に押し付ける事は、容易い。

 だが“他者に押し付ける責任”とはすなわち“自分が背負うべき責任”なんだ」

「オレは、言い訳をしてるんだ。

 両親の死を。

 いじめてくる生徒を。

 助けてくれない大人を。

 それは“選択しなかった自分の責任”を“他者に押し付けてるだけ”なんだよ」

「だから、オレは逃げた。

 “逃げる事を選択”した。

 漫画や小説、そんな空想に逃げ出した」

「現実から、逃げる事を選んだ。

 逃げる為に、空想を選んだ。

 自分の死ではなく、ね」

「そうやって、オレは」

「別の事を考える事で」

「本当に“理解しなければいけない事”を、考えるのを止めたんだ」

 

 そう言って、空になった空き缶を捨てようとして。

 近くにゴミ箱がない事に気付いた、群雲は。

 苦笑しながら、言葉を続けた。

 

「そのはず……だったんだけどね」

 

 頭をガリガリと掻き毟り、苦笑する。

 

「2年前に、キュゥべえと契約したんだ。

 オレには“希望”があったんだ」

 

 あの日から、全てが変わった。

 群雲琢磨が、群雲琢磨のままに。

 

「世界は、妄想と狂気と欲望で出来ている。

 だが、オレが思うほど、この世界は。

 悲しくプログラムされてはいないらしい」

 

 そして、真っ直ぐに暁美ほむらを見つめる。

 掻き毟ったせいで髪が乱れ、普段は隠れている瞳を向ける。

 狂気(セカイ)を見続ける、黒の左目と。

 正気(きぼう)で埋め込まれた、緑の右目を。

 

「契約して、魔人になって。

 魔女と戦って、世界を放浪して。

 見滝原に辿り着いて、三人の先輩と出逢って。

 ようやくオレは“笑う事を取り戻した”んだ」

 

 

 

“オレの、何時、如何なる時も、オレの想うがまま、笑って過ごせる事を”

 

 

 

 キュゥべえとの契約で、それを取り戻した。

 キュゥべえとの契約がなければ、それを取り戻せなかった。

 もしかしたら、契約しなくても取り戻せたのかもしれない。

 そんな疑問は、群雲には知ったこっちゃない。

 

「オレは、オレの為だけに魔法を使う。

 今までも、これからも。

 それを、変える訳にはいかない。

 それを変えたらオレは、世界を見たい場所に立てない。

 世界は視点で変わるけど。

 どこから世界を見るかを選ぶのは“オレの自由”であり“責任”なんだ」

 

 そして、群雲はそっぽを向いた。

 右を向き、空を見上げながら、頬をかいた。

 その仕草は、三人の魔法少女と出会った日と同じ仕草だった。

 

「だから……その……なんだ…………。

 皆と一緒に戦ってるのは、オレが選んだわけで……。

 敵が最強だろうと最弱だろうと、変わらないわけで……。

 この街を、離れる気はないと言うか……。

 むしろ、逃げ出した方が、笑えないと言うか……」

 

 顔が赤いのは、自覚している群雲だが。

 それでも、言わなければならない事がある。

 それを言わなければ、この先、群雲は笑えないだろう。

 それを自覚してしまっているからこそ。

 群雲は“言う事を選ぶ”のだ。

 

「正直、他人なんざ、どうでもいい。

 オレは、オレの為に魔法を使う。

 オレは、オレの為に命を使う。

 その結果、皆と一緒に戦う事になる。

 それで、納得して欲しい……なぁ~……なんて…………」

 

 格好良く、意思表示をするわけでもなく。

 最終的には、語尾が小さくなっていくあたり。

 群雲は、意思表示をする事に、慣れてはいない事の証明でもある。

 

「逃げないさ。

 せっかく笑えるようになったんだ。

 笑い方を思い出したんだ。

 ただ、契約するまで。

 “ろくに、表情なんて作ってなかった”から。

 その時の名残なんだろうけどなぁ」

 

 そして、三人は理解した。

 群雲が浮かべる、遠くて、不気味で、からっぽな笑顔は。

 

 ――――――――必死にならないと作れない、精一杯の明るい表情なんだと。

 

「まあ、とにかく。

 ワチキトノアの夜とか言うのを倒すまでは、この街にいrぐはぁっ!?」

 

 言葉の途中で、何かに激突され、群雲はすっころんだ。

 

「ちょっ、なに、新手の奇襲か!?」

 

 激突してきた何かに、しがみ付かれながら、群雲はもがく。

 だが。

 

「ひっく……うぅ……」

 

 しがみ付いてきたのが、鹿目まどかだと気付き、群雲は目を点にした。

 

「……なにを泣いていらっしゃる?

 裸コートの浪人生から、携帯ストラップでも渡されたのかね?」

 

 具体的に、どういう状況なのか、意味不明な事を聞きながら、群雲は上半身を起こす。

 その際、自分の方に近づいてくる巴マミを視界に捕らえて。

 

「巴先輩まで、泣いていらっしゃる。

 これはあれか?

 泣くのが苦手なオレに対する、これまでのからかいの復讐だとでも言うのか?」

 

 正直、何がなんだか解らない群雲。

 そんな群雲を無視して、巴マミはゆっくりと傍らに膝をつき。

 横から、群雲の頭を、やさしく抱きしめた。

 

「oh。

 巴先輩のふくよかなふくらみが。

 世の男どもよ、羨め」

 

 もはや、自分でも何を言っているのか解らない状況の群雲。

 二人が泣いている為、無理矢理引っぺがす訳にもいかず。

 かと言って、何故こんな事になっているのかも、想像もつかず。

 

 三人の少女の僅かな声だけが、しばらく公園に響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 しばらくして。

 ようやく落ち着いたらしい三人と、そのまま公園にいます。

 

「みっともない事、しちゃったわね」

 

 そう言って、微笑む巴先輩を見ながら、オレはポケットから眼鏡を取り出しながら、疑問をぶつける事にする。

 

「聞きたい事は色々あるけど。

 まずはどうして、二人がここにいるのかって事か」

「僕が呼んだからね」

 

 眼鏡を中指で押し上げると同時に、ナマモノが現れた。

 居たんかい、お前。

 

「なんでさ?」

「琢磨とほむらが、重要な話をしているようだったからね。

 邪魔をしないように、二人と一緒に少し離れた所から、テレパシーを使って聞いていたんだよ」

「やっほい、オレにプライバシーなんて、無かった」

「そもそも琢磨は、自分のことを話そうとしないじゃないか」

「聞かれなかったからなぁ。

 自分から話すような事でもないし」

 

 言いながらオレは、変身しなくても唯一使える<部位倉庫(Parts Pocket)>の、腰の後ろから、二連水平ショットガンを左手で取り出して、ナマモノに向ける。

 

「とりあえず撃ち殺すで、ファイナルアンサー?」

「わけがわからないよ」

「先輩達に、盗み聞きみたいな事をさせた罪で、判決死刑で」

「まあまあ」

 

 巴先輩に止められたので、しぶしぶ銃を戻す。

 まあ、撃つ気は無かったけど。

 

「てか、そもそも、なんで先輩たちが泣いていたのかが、理解不能な件について」

「それは……」

 

 オレの質問に、巴先輩が言葉を詰まらせる。

 見れば、他二人も、気まずそうな表情だ。

 

「わけがわからないよ」

「それ、基本的に僕の台詞だよね」

 

 オレの言葉に、ナマモノがつっこんで来た。

 別に、俺がいじめられてようと、先輩達には関係ないだろうに。

 ま、いいか。

 

「とりあえず、僕と彼女の甘い夜とかいうのを倒すのに、協力すればいい訳で」

「「「なにもかも違う!?」」」

「わけがわからないよ」

 

 総ツッコミを頂きました。

 ナマモノ、そこは先輩達に合わせようぜ。

 

「空気の読めないナマモノだなぁ」

「わけがわからないよ」

「お笑いは万国共通だろ。

 オレと一緒に世界を目指そうぜ!」

「それで、契約者が増えるなら、協力してもいいけど」

「キュゥべえまで、壊れてきた!?」

「失敬な。

 オレは“狂っている”のであって“壊れている”訳ではないのだよ、ワトソン君」

「私、ワトソン君じゃないよ!?」

 

 律儀に、ツッコミを入れてくれる鹿目先輩は、良い子だと思います。

 

「なら、鹿目先輩と一緒に、世界を目指そう。

 式を挙げるなら、やっぱり教会かな?」

「お笑いの話じゃないの!?」

「大丈夫。

 初めてだけど、優しくしてね♪」

「待って、何の話なの!?」

「結婚初夜の話」

「けっこ……!?」

「それはおめでたいよ」

「キュゥべえまで!?」

 

 なんとなく、巴先輩と暁美先輩が距離を離している気がするが、そんな事はなかったぜ!

 

「幹事は、巴先輩におまかせしよう」

「わ、私っ!?」

「で、司会は暁美先輩で」

「えぇ!?」

 

 巻き込む的な意味でw

 

「いや、むしろ、重婚可能な国に行って、全員で結婚という選択肢もあるな。

 うはwwwwwみwなwぎwっwてwきwたwwwww」

「重婚はさすがに……。

 やっぱり、好きな人とは、二人で添い遂げたいわ」

「ここで、リアルに返してくる巴先輩がパネェ。

 もうこれは、公園の中心で、愛を叫ぶしか!」

「……もう……つかれちゃったよ……」

「か、鹿目さん!

 気をしっかり!!」

「巴先輩!

 暁美先輩をオレに下さい!!」

「私!?」

「ダメよ。

 暁美さんが欲しいのなら、私を倒してからにしなさい」

「巴さんも、悪乗りしないで!?」

「よろしい。

 ならば戦争(クリーク)だ」

「わけがわからないよ」

「ふっふっふ……。

 ここで、神秘のベールに包まれていた、オレの真の能力が覚醒し、世界は新たな礎を得る事になるのだ。

 魔人と、魔法少女が愛し合うという、新たなる礎を!」

「話が無駄に壮大になってきた!?」

 

 暁美先輩のツッコミを聞きながらも、オレは別の事を考えていた。

 

 もしかしたら、オレは――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――ここに来る為に、生きてきたのかもしれない。




次回予告

知るべき事、知るべきではない事
知って変わるもの、知っても変わらないもの

言うべき事、言うべきではない事
言って変わるもの、言っても変わらないもの










未来は変わるもの?





十六章 想いの中心点


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十六章 想いの中心点

「そういえば、群雲君は普段、どこで寝てるの?」
「ダンボールハウス」
「えぇっ!?」


SIDE 鹿目まどか

 

 自分のベッドで布団に包まり。

 私が考えるのは、一人の少年。

 今なら、解る。

 群雲くんが“遠い”と感じた理由。

 

「……ぐすっ……」

 

 自然と浮かんできた涙を、無理矢理押さえ込み、布団を頭から被る。

 群雲琢磨という、男の子の世界。

 私が、家族みんなで朝食を食べていた時。

 彼は、誰もいない部屋で、目を覚まし。

 私が、友達と一緒に登校している時。

 彼は、たった一人で学校に向かい。

 私が、楽しい学校生活を送っている時。

 彼は――――

 

“オレの生き地獄は、そこから始まった”

 

 ひどいよ……

 群雲くんがなにをしたの?

 どうして群雲くんが、そんな辛い目にあわないといけないの?

 

 でも、塞ぎこみそうになる私を、群雲くんは意味不明な事を言って、紛らわそうとするんだ。

 今なら、解る。

 彼の言う、意味不明な言葉は…私達に“嫌な事を考えさせない”ように――――――

 

 

 ――――――“笑う為”に、必死に取り繕っているんだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 暁美ほむら

 

「群雲……琢磨…………」

 

 自分の部屋で一人、私はある少年の事を考える。

 少なくとも、私が魔法少女となった“一週目”では、出会う事は無かった。

 私が魔法少女になって、鹿目さんと出会った今回、彼は現れた。

 私が魔法少女になって、一ヶ月前に戻った事で、未来は私の知らない方向に向かう。

 彼の存在は、その要因の一つだと思っていた。

 

 でも、彼が契約したのが“2年前”だと知り、それは違うと認識した。

 

 全ての流れが、まったく同じ世界は存在しない。

 私が契約した“一週目”は、群雲くんが契約していないか、契約していたけど見滝原に来なかった世界。

 今、私がいる“二週目”は、群雲くんが魔人として、見滝原に来た世界。

 

 

 

“狂ってるんだろうな、オレ”

 

 

 

 彼の言葉を思い出し、胸が締め付けられる。

 割り切る為に、彼はどれだけの涙を流したのか。

 割り切る為に、彼はどれだけのモノを諦めたのか。

 

 

 

 それでも彼は……前を向いている。

 彼を‘強い”と感じた理由が、今なら良く解る。

 

 

 

 だから、私は決意を新たにする。

 過去に戻ってまで、望んだ物を得る為に。

 

 

 

 

 

 ――――――自分が笑える場所から、世界を見る為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 巴マミ

 

 明かりの消えたリビング。

 月と街の光が、窓から差し込むその部屋のソファ。

 

 

 

 群雲君は、そこで眠りについていた。

 

 

 

 

 

 

 あの後、実は群雲くんがずっと野宿だったと知り、半ば無理矢理に部屋に連れてきた。

 この2週間で、随分と慣れてきたとはいえ、群雲君は相変わらず、私達と話す時は照れくさいみたい。

 その辺りは、やっぱり年相応なんだなと実感する瞬間で、私はそれが気に入ってる。

 弟がいたら、きっとこんな感じなんじゃないかって、そう思えるから。

 

 

 

 

 

 でも、彼の過去が、あそこまで壮絶だとは、夢にも思わなかった。

 年上なのに、思わず泣いてしまったのは恥ずかしいけれど。

 彼が、これまで歩いてきた道が、あまりにも辛くて。

 それを、笑いながら話す彼が、あまりにも悲しくて。

 

 

 

 

 

 初めてあった日。

 何故、彼と自分が同じような気がしたのかが解った。

 

 

 

 同じ“孤独”を抱えていたからだ。

 

 

 

 魔法少女として、独りで生きてきた私と。

 いじめられっことして、独りで生きてきた彼。

 

 

 

 でも、私達には決定的な違いがある。

 

 

 

 私にはキュゥべえがいたし、後輩魔法少女もいる。

 

 

 

 

 

 

“自分以外が、全て敵だったよ”

 

 

 

 

 

 

 でも、彼には文字通り“誰も”いなかった。

 きっと、魔人になった後も、彼は基本的に独りだったのだろう。

 “テレパシーの存在を知らなかった”と、聞いた時は驚いたけど、今なら納得できてしまう。

 

 

 

 納得、できて、しまうのだ。

 

 

 

「よく、がんばったわね」

 

 彼を起こさないように、静かに呟き、その髪をなでる。

 覗く寝顔は、年相応の幼いもので。

 

「でも、もう大丈夫よ。

 私達は、独りじゃないもの」

 

 これからは、一緒に戦ってくれる仲間がいる。

 その心強さは、私には良くわかっている。

 だから。

 

「群雲君ももう、不自然に笑う必要はないのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE インキュベーター

 

「わけがわからないよ」

 

 この夜の出来事は結局、皆の絆を深める結果となった。

 何故、琢磨の昔話で、こんな結果になるのか。

 感情とは本当に、厄介な代物である。

 でも……。

 

「これで、琢磨が“魔王”になったら、芋づる式だよね」

 

 魔法少女に比べ、魔人の方が堕ちやすい。

 彼女達の、想いの中心点が堕ちれば、その結果を予測する事は容易い。

 

「三人の“魔女”を産む為の中心点。

 まさに、琢磨の事は“魔王”と呼ぶべきだね」

 

 最強の魔女の来訪は近い。

 元々、急激な発達により、魔女を呼び込みやすい“歪み”を持つこの街だ。

 三人の魔法少女はともかく、|SG(ソウルジェム)の許容量の少ない琢磨では、ワルプルギスの夜を相手にするには荷が重い。

 

「元々、それほど期待していた訳ではないけれど。

 琢磨を切っ掛けとして、僕らは充分にエネルギーを回収できそうだよ」

 

 本当に、感情というものは、理解できないね。

 もっとも、僕らの目的は‘宇宙の延命”であって‘君達の延命”じゃない。

 

 

 

 だから。

 

 

 

 出来る限り、深い所まで‘堕ちて”いってね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――狂宴の夜は、近い――――――――――




次回予告

彼は少年である
彼女達は少女である

戦いの運命にあるとしても
それは事実であり、変わることは無い





十七章 質素な黒いソフト帽


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十七章 質素な黒いソフト帽

「せめて、同じ学校に通えればよかったのだけれど」
「年齢的に無理だと思いますよ」
「てか、オレは今更、小学校に通う気はないってば」
「義務教育否定しちゃって、いいのかな?」


SIDE 群雲琢磨

 

 あの、公園の夜から二日が過ぎ。

 

 ――――明日、ワルプルギスの夜が来る。

 

 

 

 

 

 ……………………らしいんだけど。

 

「こっちだよ、琢磨くん!」

 

 前方で手を振る鹿目先輩。

 その横には、暁美先輩と巴先輩もいる。

 

 

「今日は、いっぱい遊ぼうね!」

 

 あらいやだ、鹿目先輩の笑顔が眩しい……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶっちゃけ、こんな事をしている場合じゃないと思うオレは、間違ってない気がするような感じが、身を包んでいるかのような雰囲気を醸し出してそうな状況になりつつありそうな……」

「長い上に、曖昧ね」

「oh、サラッと流された」

「流石に、群雲くんの扱いに慣れてきたんだと思う」

「巴先輩に続き、暁美先輩までそういう事言うんだ……」

「「まあ、いいけど」」

 

 果ては、鹿目先輩と見事にハモッた。

 むしろ、オレの言葉を見事に当てられた。

 ……オレ、そんなに解り易いのか?

 

「だっていつも、そういう事を言う時って、目を合わしてくれないんだもん」

 

 ……心まで読まれてます。

 

「やはりこれは、重婚可能な国に行k「で、今日の予定なんだけど」……」

 

 ……泣いていい?

 

 

 

 

 

SIDE out かと思ったか? まだ群雲だよ!

 

 

 

 四人が集合する時に、よく使うファミレス。

 そこで、思い思いの飲み物を飲みながら、三人は今日の予定を話し合う。

 ……一人はorzってなってるが。

 オレの事だよ、悪いか?

 

「明日の為に、英気を養おう」

 

 そんな、鹿目先輩の言葉から今日一日は、頭からっぽにして遊ぼうと言う事になった。

 

 さて、想像して欲しい。

 女の子三人に対し、男の子一人。

 しかも、その男の子は最年少の上、女の子と遊んだ経験など皆無。

 確実に、主導権は女の子が持つ事になるだろう。

 

「なんて言うと思ったか?」

 

 最初の目的地は洋服店。

 あれが可愛いとか、あっちが似合いそうとか、会話に花を咲かせる女の子(先輩)達と。

 

「……その通りだよ、こんちきしょう」(´・ω・`)

 

 店の片隅で、手持ち無沙汰な男の子(オレ)

 

「白い髪に黒い服もいいけど、ここはシックに青とかどうかな?」

「それなら、インナーとズボンを青にして、黒のコートでどう?」

「黒コートに、裏地オレンジとかどうでしょう?」

 

 ……しかも、選んでいるのはオレの服だよ。

 着せ替え人形状態確定だよ。

 むしろここ、三軒目だよ、こんちきしょう。

 

「琢磨君は、どれがいいかしら?」

「いや、オレは服に興味はないからって、この台詞も1786回目n「そんな訳ないでしょ」……いやもう、マジ、勘弁してください」

 

 いや、もう、マジ、わけわからん(´・ω・`)

 

 

 

 

 

SIDE 巴マミ

 

 いつも、同じ服装の琢磨君に、似合う服装を選ぶ。

 当の本人は、興味が無いと明言しているけれど、私達は止まらない。

 

 

 

 “異常”な生い立ちの琢磨君に、少しでも“普通”を味わって欲しくて。

 “友達と遊ぶ”事の楽しさを、知って欲しくて。

 ――――少しでも、本当の意味で、笑って欲しくて。

 

 

 

 結局、琢磨君がいつも着ている黒のトレンチコートに合う、質素な黒いソフト帽を購入しただけになったわ。

 

「てか、どうして皆して、スッゲー値段の高いのを選ぼうとするかなぁ、マジで」

 

 言いながら、ソフト帽に手を添えて俯く琢磨君は

 

「………………」

 

 間違いなく、照れてる。

 長い髪に眼鏡。

 それに加えて、帽子。

 ……うん、ますます表情が見えなくなっちゃったわね。

 

「じゃあ、次はゲームセンターに行こう!」

 

 

 

 

 

SIDE 暁美ほむら

 

「「ティロ・フィナーレ!」」

「二人でガンシューティングパーフェクト!?」

 

 最初は、服選び。

 結局、帽子しか買っていないけれど、明らかに群雲くんに付き合わせてしまった感じ。

 だから今度は、男の子が好きそうなイメージのゲームセンターに来た。

 ……うん、巴さんも楽しそうです。

 

 驚きなのは、二人プレイじゃなく、隣り合わせの違うゲームで、同時にパーフェクトな所。

 

「実戦とは違って、新鮮だわ」

「射撃訓練には、いいかもしれないな」

 

 ……遊びに来ているんじゃないの?

 

 

 

 

 

 群雲くんは、ゲームがとても上手だった。

 

「逃げた先にも、得られる物があるってことだな」

 

 そう言って笑う群雲くんに、悲壮の影は無い。

 

「まあ、得た物が役に立つかどうかは、別問題だが」

 

 でも、両手の袋にはUFOキャッチャーで取った、ぬいぐるみが詰められている。

 

「さて、後はこれを売り捌いて活動資金を調達すれば、完璧だ」

「遊びに来たんだよね!?」

 

 物凄く役に立ってる……。

 それが、良いかどうかは、私には解らないけど。

 群雲くんは……。

 

「なんだ。

 欲しいなら、言えばいいのに」

 

 独りで生きる事に、慣れている。

 

「はい、藁人形なめし皮付き」

「なんで、それをチョイスするの!?」

 

 むしろ、何でそれがUFOキャッチャーにあるの!?

 

「釘は、自分で用意してね☆」

「使わないよ!?」

 

 どうして群雲くんは、唐突にボケにはしるんだろう?

 

「貴重な、眼鏡仲間だから」

 

 地の文を読まないで!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 鹿目まどか

 

「……風が出てきたな」

 

 ゲームセンターを出た琢磨くんが、帽子を押さえながら、呟いた。 

 言われて気がついた。

 本当なら、夕日が見えるはずの時間。

 空は、雲に覆われていた。

 

「楽しい時間も、もう終わりか……」

 

 そう言って、空を見上げる琢磨くんに、一切の迷いは見られない。

 よかった……楽しんでくれたみたい。

 

「いやもうオレ、死んでも良いや」

「ダメだよ!?」

 

 だから、どうしてそういう事を言うかなぁ?

 

「今日だけじゃないんだよ。

 私達は友達だもん。

 また、一緒に遊ぼうよ」

 

 私の言葉に、琢磨くんは笑った。

 

 ――――――やっと、本当に笑ってくれた気がした。

 

「解った気がする。

 鹿目先輩には、絶対に勝てないわ、オレ」

「勝ち負けの問題なの!?」

 

 だったら、私のことも、名前で呼んで欲しいんだけど……。

 

「いや、間違いなく勝てない。

 知ってるか?

 ツッコミがいないと、ボケ役は生きられないんだぜ?」

「そういう意味なの!?」

 

 私の言葉に、琢磨くんは満足気に頷く。

 

「勝てないよ、オレは」

 

 そう言う琢磨くんは

 

 

 

 

 

 とても優しい顔をしていた。




次回予告

ハジマルは、最悪の夜
ハジマルは、最後の夜





ハジマルは、最初の夜

十八章 ポーズ決めてくれ


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十八章 ポーズ決めてくれ

「そういえば、変身中ってどうなってるのかしら?」
「ごちそうさまです」
「どういう意味!?」


SIDE 群雲琢磨

 

「……まるで“死の街”だな」

 

ソフト帽を手で押さえながら、オレは一人、誰もいない街を歩く。

 

「本日午前七時。

 突発的異常気象による、避難勧告が発令されました。

 付近にお住まいの――――――――――」

 

 電源の入りっぱなしのラジオから、繰り返し聞こえるキャスターの声。

 それを置き去りにして、オレは歩みを進める。

 

「さて、魔人と魔法少女以外で“アレ”を認識出来ているのは、何人いるのやら」

 

 僅かに顔を上げ、オレは“アレ”を視界に入れる。

 

 

 

 

 

 それは、第一印象のままに言うなら、サーカス団のパレード。

 普通のパレードと違うのは、参加している動物が“普通の人には見えない事”ぐらいか?

 

「避難勧告が出ている街を闊歩している時点で“普通”ではないわね」

 

 いつの間にか、オレの左には巴先輩がいた。

 オレと同じように、決して歩みを止める事無く、パレードを見つめている。

 

「せめてBGMが欲しかったなぁ。

 エレクトロなパレ「それ以上はダメよ」……むぅ」

 

 まあ、オレ達の見ているパレードに、機械的な光はないんだけどね。

 

「むしろ、どうして群雲くんはこの状況で、そういうことが言えるの?」

 

 いつの間にか、オレの右を歩く暁美先輩から、ツッコミが入った。

 

「だって、それがオレの持ちネt「私達の緊張を、解そうとしてるんだよね?」…………」

 

 後から、鹿目先輩の声が聞こえた。

 

「遅刻はいけないなぁ」

「避難所を抜け出すのに、時間が掛かっちゃった。

 でも、遅刻はしてないよ」

 

 たしかに、まだ始まってないな。

 オレ達は四人で、パレードに逆走する。

 

 左から、巴先輩、オレ、鹿目先輩、暁美先輩。

 その順番で、オレ達は真っ直ぐに進む。

 

「そろそろ、開幕かな」

 

 オレの言葉と同時に、全員が立ち止まる。

 

 ………………。

 

 誰も、何も喋らない。

 緊張感が、肌に伝わる。

 

 ――――――――――――――――5

 

「変身!」

 

 巴先輩が、変身する。

 

 ――――――――――――4

 

「変しn「ポーズ決めてくれ、ポーズ」ここで茶化さないでぇ!」

 

 暁美先輩の変身に声を掛けてみた。

 若干涙目の暁美先輩、萌えぇ~。

 

 ――――――2

 

「あ、3が飛んだ」

「確実に、琢磨くんのせいだよね……変身!」

 

 律儀にツッコんでくれる鹿目先輩に惚れる。

 しかし、流石にこれ以上は野暮ってもんだ。

 オレは、ソフト帽を右手の平の<部位倉庫(Parts Pocket)>に入れる。

 

 

 ――1

 

「蒸着!」

「「「違う!!」」」

 

 はい、総ツッコミを頂きました。

 

 髪の毛が僅かに持ち上がり、視界の開けた世界。

 そこでオレは“ワルプルギスの夜”を見つめる。

 

「……やばい」

 

 開口一番、オレは呟いた。

 下半身が歯車になっている、逆さ向きの魔女。

 何がやばいって、魔女のいる位置がやばい。

 

 上空。

 

 浮いてます。

 

 どう考えても。

 

 

 

 ――――射程外です。

 

 

 

「相性、最悪かもしれん」

 

 言いながら、オレは一歩を踏み出す。

 

「なんとかして近づかないと……」

 

 暁美先輩も、使用するのは“時間停止”と“自作の爆弾”だ。

 ……設置しようにも、相手が空にいると……なぁ。

 

「そうなると、アタッカーは私と鹿目さんかしら?」

 

 変身前と同じように、四人で並んで歩きながら、巴先輩は言う。

 

「もしくは、琢磨君と暁美さんの射程内まで、私達が移動するか、ね」

「近づいても、攻撃が通るかわからないぞ?」

「それを言ったら、私やマミさんの攻撃が、通用するかもわからないよ?」

「いや、暁美先輩の爆弾はともかく、オレは刀で斬るか、銃を撃つかぐらいだ。

 電光球弾(plasmabullet)じゃ弾速が遅いし」

「攻撃手段が無い、と?」

「威力だけなら、巴先輩の“ティロ・フィナーレ”程じゃないけど、そこそこ高いとは思うが。

 当たらなければ、意味が無い。

 高火力技じゃないと、通るとは思えない。

 なんたって、相手は最強の魔女らしいしな」

「確かに、時間停止を駆使しても、爆弾が相手に届かないと……」

 

 戦闘前から半分(ふたり)が戦力外とか、笑えねぇ……。

 

「なんとか、奴を地上付近に叩き落さないと、な」

「じゃあ、最初はそれを目標に動くの?」

「いや、攻撃が届く以上、巴先輩と鹿目先輩は攻撃してくれないと。

 このままだったら、普通に街を縦断するぞ、あれ」

 

 むしろ、未だに攻撃してくる気配がない時点で。

 

 ――――――――オレ達、眼中外ってか?

 

「笑えねぇよ、マジで」

 

 

 

 

 ちなみに、さっきから「アハハハハハッッハハハハハッアハハハハハハハハハ!」とか、笑いまくってるワルプルギスの夜がうぜぇ。

 先輩達の声が、聞き取りにくいっつうに。

 

「まあ……こちらに退く気が無い以上、死力を尽くすしかない訳だ」

 

 オレの言葉と同時に、全員が立ち止まり、空を見上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 迫るは、最強の魔女。

 

 対するは、三人の魔法少女と、一人の魔人。

 

 

 

 

 

「では、闘劇をはじめよう」 




次回予告

普通じゃない存在と戦うのは、普通じゃない存在
魔女と戦うのは、魔法少女
魔女と戦うのは、魔人

忘れてはいけない
普通じゃなくても
まだ、子供だという事を

十九章 状況は好転しない


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十九章 状況は好転しない

「琢磨くんは、魔女と戦うのが怖くないの?」
「怖いと思ったことは無いな。
 かと言って、自殺願望も無いけど」



SIDE out

 

「アハハハハハハハハッアアハハハハハハハハ!!」

 

 魔女の笑い声が響く中。

 昼間とは思えない空の下。

 魔女結界ですらない場所で。

 

 四人は疾走する。

 

 先頭を走るのは<電気操作(Electrical Communication)>を使い、脳が指示する以上の動きで走る群雲だ。

 

「このまま、何もせずに通り過ぎてくれるなら、戦う必要もなさそうだが」

 

 次の瞬間、ワルプルギスの夜から黒い光が発せられ、四人を襲う。

 

「!?」

 

 思い思いの方向へ、それを避けた四人が見たのは。

 

「キャハハハハ!」

 

 その光が、人の形を造り出し、現れた使い魔たち。

 

「そうは、いかないよなぁ!!」

 

 左手に愛用する日本刀を取り出し、逆手居合で斬り裂く群雲。

 巴マミも、マスケット銃を取り出し、鹿目まどかも弓で応戦する。

 暁美ほむらは

 

「あわわわわっ!?」

 

 爆弾を使おうにも、仲間達を巻き込みかねない為、逃げ惑うだけだ。

 

「っとぉ!」

 

 周りで笑う使い魔を切り裂きながら、暁美ほむらの元へ移動する群雲。

 

「使って!」

 

 そして、右手の<部位倉庫(Parts Pocket)>から銃を取り出し、暁美ほむらに渡した。

 リボルバー派の群雲が、入手したけど使っていない銃の一つ。

 デザートイーグルだった。

 

「わ、私、拳銃なんて…!」

 

 反射的に受け取るも、戸惑いを隠せない暁美ほむらに、さらに右手から弾倉を5つ取り出す群雲。

 

「使い方はシンプル。

 相手に向けて、引き金を引くだけ」

 

 言いながら、左手の日本刀を<部位倉庫(Parts Pocket)>に戻し、腰の後から水平二連ショットガンと取り出す。

 

「こんな感じに、ね!」

 

 そのまま、使い魔を撃ち抜く。

 

「弾が無くなったら、言ってくれ。

 次の銃を渡す」

 

 言いながら、中折れ式のショットガンに弾を補充する。

 受け取った弾倉を、盾の中にしまう暁美ほむらを確認し、次の使い魔を倒す為、ショットガンを腰の後に戻し、再び日本刀を手に取る。

 

 が

 

「琢磨くん! ほむらちゃん!!」

 

 鹿目まどかの言葉と同時に、二人に影が迫る。

 見上げると、迫るのは切り取られたビル。

 

「マジか!?」

 

 形振り構わず、全力で回避行動を取る。

 途中、時が止まる感覚を群雲は感じた。

 どうやら、暁美ほむらが回避行動の為に、時を止めたようだ。

 

 そういえば、暁美先輩がいるからか、最近時間停止使ってないな。

 

 ふと、そんな事を思う群雲だが。

 

 仮に使っても、現状を打破する手段にはなりえないな。

 

 時が動き出し、回避行動を続ける群雲だが。

 

「う、おおおおお!?」

 

 直撃こそ避けたが、巨大なビルが地面に叩き落された際の爆風に、体勢を崩される。

 日本刀を戻し、必死に受身を取る群雲に使い魔が追撃をかける。

 

「がああああ!!」

 

 流石に、受身中に攻撃を避ける事は出来ない。

 それでも怯まず、群雲は不恰好な体勢ながらも、右腰からリボルバーを取り出し、応戦する。

 なんとか、周りの使い魔を退けた群雲は

 

「……しくじった!」

 

 ワルプルギスの夜の狙いに気付き、唇を噛む。

 

「分断されたっ!?」

 

 先刻のビル落しは、四人を分散させる為。

 爆風と追撃により、自分がどの程度離されたのか、予想している暇も無い。

 群雲は、周りを見る……ではなく、上空に浮かぶワルプルギスの夜を見つめる。

 変わらず、笑い続けるワルプルギスの夜に、時折何かが飛んでいく。

 大してダメージがあるようには見えないが、群雲の狙いはそこではない。

 

「桃色の光は、鹿目先輩の矢。

 ……今のは、巴先輩の銃撃か」

 

 ワルプルギスの夜に向かう攻撃。

 その角度から、先輩達のおおよその位置を割り出すのだ。

 

「暁美先輩は、攻撃手段がオレの渡した拳銃ぐらい……。

 たまに、時が止まる感覚があるから、まだ戦っているんだろうけど……」

 

 位置が、割り出せない。

 群雲は思考を切り替える。

 

「どちらにしても、単独で挑んで勝てそうに無い相手。

 なら、早期の合流が重要!」

 

 言った瞬間、群雲は<電気操作(Electrical Communication)>を発動して、駆け出す。

 おそらく、鹿目先輩よりも巴先輩の方が近い。

 いくら遠距離攻撃が可能な二人でも、周りに使い魔がいたら、本体に向かって高火力技なんて、使えないだろう。

 なら、現状本体を攻撃する手段に乏しい自分が、先輩達の周りの使い魔を相手にする。

 自分の役割を認識し、群雲は歩を進め

 

「キャハハハハハハ!!!!」

「邪魔ぁ!!」

 

 使い魔に阻まれる。

 せっかく分断させた魔法少女達を、簡単に合流させるほど、優しい夜ではないのだ。

 日本刀で使い魔を迎撃するが、群雲に僅かに焦りが出始める。

 ――――使い魔にてこずっている奴が、本体を倒せるか?

 焦りは、動きを鈍らせ、鈍った動きは隙を作り、そこから更なる焦りを

 

「切り替えろ!

 弱気になっても、状況は好転しない!!」

 

 群雲は、割り切る。

 この状況ですら、割り切ってみせる。

 まずは合流、そこからなのだ。

 使い魔を切り裂き続けながら、群雲は走り続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 何体の使い魔を切り裂いたのか。

 何体の使い魔を撃ち抜いたのか。

 最初からカウントする気が無かったので、数なんて覚えちゃいない。

 

「~~~あ゛あ!?」

 

 ここへ来て。

 “時の止まった世界を認識できる”のが、仇となっている。

 タイミングが、ずれるんだよ!!

 

「~~~~~っとぉ!!」

 

 動き出した世界で、使い魔との戦闘を再開する。

 だが、暁美先輩と会うまで“自分以外の人が時を止めた感覚”なんで、感じた事は無かった。

 要検証、考察だが。

 今は、それは隅に置く。

 上空のワルプルギスの夜を視界に捉え。

 

「…………頼む、攻撃してくれ。」

 

 今、先輩達の位置を予測できる手段が、それしかないのだ。

 だが、本体に対する攻撃が、確認できない。

 歩みを止めず、祈るような気持ちで魔女を見続ける。

 使い魔はかなりの数を倒した。

 確実に、数を減らしているはずだ。

 なら、本体を攻撃する隙も、見つけられるはずだ。

 先輩達の実力は、知ってる。

 ならば。

 

「~~~またか!?」

 

 世界が止まる感覚。

 それは、自分の体が強制的に止められる感覚。

 まあ、時が止まるって事は、暁美先輩が無事だという証拠だ。

 悲観しても仕方が無い。

 少しでも、プラスとなるように考え、そこから打開する策を見出s

 

「おぅあ!?」

 

 動き出した時に対応しきれず、すっころんだ。

 しかも<電気操作(Electrical Communication)>で両足に普通以上の動きをさせている為、かなりの勢いがある。

 さらに言うなら、体勢が崩れようと<電気操作(Electrical Communication)>が強制的に止まるわけじゃない。

 両足をダカダカさせながら、ゴロゴロと転がるハメに。

 ちきしょう、格好わりぃ。

 

「いって……………え?」

 

 <電気操作(Electrical Communication)>を止め、体を起こしたオレは、視界に“ありえないもの”を見た。

 見滝原中学の制服。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――おいおい。

 

 一般人は、避難所にいるはずだ。

 

――――なにを、してるんだよ?

 

 今、この辺りにいるのは、変身して、魔女と戦う者のはずだ。

 

――――――なあ?

 

 では、何故彼女は見滝原中の制服を着て。

 

――――――――巴、先輩?

 

 地面に、横たわっているのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

 

 

ワルプルギスの夜は、まだ。

――――――――――終わらない。




次回予告

失ったものは、戻ってこない
新たに、得るものがあったとしても、それは別のもの

失ったものは、戻ってこない
似たものを手に入れたとしても、それは別のもの




もう、もどらない




二十章 ばかなの?


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二十章 ばかなの?

「琢磨君は、どうして自分が狂っていると思うの?」
「どうやらオレは、普通の人がするはずの事が、出来ないらしいんでね」


SIDE 群雲琢磨

 

 彼女はもう…………笑わない。

 ゆっくりと、彼女に近づき、傍らに膝をつく。

 ふと、片隅に砕けたSG(ソウルジェム)を見つけた。

 

 綺麗だったはずのそれは今、光を反射する事も、なくなってしまった。

 

 ゆっくりと、彼女を仰向けに寝かせて、両手を組ませる。

 見開いたままの瞳は、二度と、何かを見る事は無い。

 役目の終えた瞳を休ませる為、ゆっくりと瞼を指で閉じる。

 

――フツフツト。

 

 思考する事無く、体を動かしていただけのオレが。

 

――――フツフツト。

 

 ゆっくりと、現実を受け入れる。

 

――――――コミアゲテクルノハ。

 

 否定して、無かった事に出来るのならば、いくらでもしてやるが。

 

――――――――イカリカ、カナシミカ。

 

 そんな事をしても、彼女は還って来ない。

 

――――――――――マッシロク、カラッポニナッテイタこころガ。

 

 巴先輩は…………。

 

クロになる。

 

「アハハハハハハッハハハハハハハハハハ!!」

 

 現実を受け入れると同時に、笑い声が聞こえる。

 どうやら、聞く事を放棄していたらしい。

 

 受け入れろ、割り切るんだ!

 

 頭の片隅で、冷静になろうとする自分。

 

――ムリダ。

 

「てめぇが……!」

 

 そんな自分も、クロになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てめぇが笑ってんじゃねえぇぇぇぇぇええぇぇぇえぇぇ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE out

 

 今まで、使用したことの無いほどの黒い放電。

 両手足のそれを無視し、全力で叫んだ群雲は、一直線に魔女に向かって駆け出した。

 何も、考えていない。

 何も、考える事が出来ない。

 ただ、湧き上がる感情のままに。

 

「キャハハハ!」

 

 阻もうとする使い魔を。

 

「ジャマァあぁ!!!」

 

 一撃で殴り殺す。

 それでも、決して止まる事無く。

 魔人となる事で、上昇している身体能力。

 それを、加減無き<電気操作(Electrical Communication)>で限界を超えて動かす。

 それは、一度の跳躍でビルの屋上まで到達できてしまうほど。

 それでも、群雲は止まらない。

 ビルからビルへ飛び移りながら、距離を一気に詰めていく。

 

 何も、考えていない。

 ただ、感情に身を任せ。

 独りの魔人が、飛び上がる。

 

 凄まじい勢いで、迫ってくる敵を無視するほど、魔女は優しい存在ではない。

 これまで以上の数の使い魔を、群雲に向かわせる。

 加えて、魔女本体も群雲に対し、凶悪とも言える熱量の炎を浴びせようとするが。

 

「あああああぁぁあぁぁぁ!!!!」

 

 意味の無い、感情のままの咆哮と共に、群雲は一気に飛び上がり。

 

 使い魔を蹴り殺し。

 その際の僅かな反動を<電気操作(Electrical Communication)>で無理矢理捉え。

 別方向に飛び上がる事で、炎を避けてみせた。

 そのまま、迫る使い魔を逆に足場として利用する事で。

 

 群雲は遂に、自分の体をワルプルギスの夜の上空にまで、運びきった。

 

「ああああああぁぁあああ!!!!」

 

 そのまま、群雲は左腰の<部位倉庫(Parts Pocket)>から、ロードローラーを取り出した。

 最初期の吟味中に、偶然収納し、使い所がわからずに、そのままにしていたものだった。

 それを、そのまま自分の下方にいる魔女に対して投げ落とす。

 直後に、腰の後からショットガンを取り出し、今度はそれを上空に向かって撃つ。

 その反動を無理矢理捉えて、一気に急降下を開始する。

 

「おおおおぉぉおおあああああぁぁあぁぁ!!!」

 

 急降下しながらショットガンを腰の後に戻し、両手を組み、無理矢理体勢を整える。

 ロードローラーがワルプルギスの夜に直撃した一瞬の後。

 追い付いた群雲は、勢いを殺す事無く。

 組んだ両手を、ロードローラーに叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 暁美ほむら

 

 使い魔を退けながら、鹿目さんと合流しようと必死になっていた私は、突然の爆発音に空を見上げた。

 見れば、ワルプルギスの夜の歯車部分から、黒煙が上がっており。

 

「……群雲……くん?」

 

 誰かが、地上に向かって落ちていく姿。

 

「ほむらちゃん!」

 

 呆然としかけた私を呼ぶ声。

 鹿目さんだ!

 

「今の、琢磨くんだよね!?」

「多分……」

 

 そもそも、群雲くんは爆発するようなものなんて、持ってたのかしら?

 そんな疑問を余所に、私は群雲くんを見て

 

「……川に落ちた?」

 

 もしかして、さっきの爆発に巻き込まれてたんじゃ!

 

「ほむらちゃん!!」

 

 何とかして、群雲くんと合流したいけど、鹿目さんの声に、私は周りを確認する。

 笑いながら、私達を囲む、使い魔たち。

 合流しようにも、まずはここを突破しないといけない。

 鹿目さんを守る為、魔法少女となった私が、ここに鹿目さんを置いていく訳にはいかない……!

 群雲くんに渡された銃を構えて、私は鹿目さんの横に立つ。

 鹿目さんも、私に背中を合わせるように弓を構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

「馬鹿か、オレはぁ!!」

 

 水面から顔を出すと同時に、思わず叫んでいた。

 なにやってんの、オレ? ばかなの? 死ぬの? むしろ死にかけたよ? ばかなの?

 明らかに格上な相手に、神風特攻とか、何やってんの、オレ? ばかなの?

 

「~~~~あ゛ぁ!」

 

 無理矢理、<電気操作(Electrical Communication)>で水を蹴るとか、我ながら無茶な事をしながら飛び上がり、オレは陸地へと降り立つ。

 

 

 

 

 

ゴプッ

 

「魔力……使いすぎた……マジ、馬鹿だ、オレ。」

 

 右目で見る景色の、8割がクロになる。

 オレはその場に座り込み、右手の部位倉庫から“ストックしていたGS(グリーフシード)”を取り出し、浄化する。

 ストックが無かったら、このまま戦線離脱だったな、オレ。

 

「……あと、一つ、か。」

 

 言いながら、浄化に使用したGS(グリーフシード)を確認し

 

「げっ!」

 

 孵化直前になってました。

 ナマモノはいるはずが無いし、ここで別の魔女誕生とか、マジ笑えない。

 オレは、持っていたGS(グリーフシード)を放り投げた後、右腰から抜いたリボルバーで撃ち抜き、粉砕した。

 

「残弾も、大して多くないな……」

 

 S(シングル・)A(アクション・)A(アーミー)に弾を込めながら、オレは残弾を“計算”する。

 ……部位倉庫内の、目録とか欲しいわ、マジで……。

 川に落ちた事と、SG(ソウルジェム)を浄化した事で。

 オレの頭は強制的に冷やされたらしい。

 まったく……我を忘れるとか、笑えねぇ事すんなよ、オレ。

 空を見上げながら、オレは呟いた。

 

「泣くのは、後でいい。

 ……そうだよな、巴先輩?」

 

 優しいあの人の事だ。

 “後を追いかけよう”ものなら、絶対に叱られる。

 

 

 

 

 

 ワルプルギスの夜は、先程よりも高度を落としていた。

 どうやら、無謀で無茶なオレの行動は、無駄ではなかったらしい。

 さらに、飛来した桃色の矢が、魔女に向かうのを確認した。

 

「! 近いな!!」

 

 オレはすぐに、予想した地点に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 幕を下ろすの(カーテンコール)は、まだ早い……。




次回予告

結末は決められている
それは、一体誰が決めたのか

結末は決まっている
それは、一体ダレが決めたのか

結末は決まった
それは、一体いつ決まってしまったのか









二十一章 全力全開の一撃


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二十一章 全力全開の一撃

「最強とか、最弱とか関係ない。
 ただ、おまえは笑えない」


SIDE 鹿目まどか

 

 突然の爆発。

 皆とはぐれ、一人で戦って。

 でも、皆もきっと一緒で。

 避難所にいるママ達の為にも、ここで食い止めなきゃいけなくて!

 

 そんな風に、焦っていた私を、まるで叱るかのように。

 いつもみたいに、良く解らない事を言って、掻き乱すように。

 私が、塞ぎこまないように。

 

 ――――――琢磨くんは、必死に笑おうとするんだ。

 

 その爆発は、私を引き上げた。

 

 見上げれば、下半身の歯車から、黒煙を上げるワルプルギスの夜と。

 

 琢磨くんが、落ちていくのが見えた。

 

「……うそ……」

 

 何の抵抗も無く、落ちていく琢磨くんを見て、私は駆け出した。

 助けなきゃ!

 そんな想いが、私にあった。

 琢磨くんの所に向かおうとした私の前に、空を見上げているほむらちゃんが映り、反射的に叫んでいた。

 

「ほむらちゃん!」

 

 よかった、無事だった。

 ほむらちゃんも、私の姿に驚いたようだけど、すぐに駆け寄ってきた。

 やっと、一人目。

 後は、マミさんと……!

 

「今の、琢磨くんだよね!?」

「多分……」

 

 私と同じように、ほむらちゃんも琢磨くんを確認していたみたい。

 まるで、私達を合流させる為に、琢磨くんが頑張ってくれたみたいだ。

 そんな事を思いながら、私は琢磨くんを確認しようと

 

「ほむらちゃん!」

 

 する前に、使い魔達に囲まれているのに気付いた。

 何かを呟いていたほむらちゃんも、その事に気付き、慌てたように拳銃を構える。

 私は、ほむらちゃんに背中を預けるようにして、弓を構える。

 

「キャハハ!」

 

 使い魔が、私達を見て笑う。

 ……笑わないで。

 貴方達が、笑わないで!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 暁美ほむら

 

 鹿目さんと、使い魔達と戦う。

 でも、群雲くんのくれた銃も、残りの弾が少ない。

 鹿目さんの武器も、弓である以上、連続で射るのは難しい。

 私達の周りで、円を描くように囲んでいる使い魔達が、じわじわと迫ってくる。

 時間を止めて、爆弾を……。

 だめだ、鹿目さんを巻き込んじゃう!

 

 どうすればいいか解らなくなっていた私は。

 今も、笑い続けている、魔女と使い魔の声に、心が押し潰されそうになった。

 

「アハハハハハハハハハッハハッアハハハハハハ!!!!」

「「「「「「「キャハハハハハハハ!!!!」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう……やめて……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アハハハハ「逆手居合」ハハハハハハ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 笑い声を、一瞬だけでも打ち消してしまうほどの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハハハハ「電光抜刀」ハハハハh「参の太刀ぃぃぃぃ!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 力強い声と共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天風!!!!!!」

 

 

 

 

 

 私達に、もっとも近づいていた使い魔の上から、彼が降りてきた。

 それはまるで、空から大地へ落ちる雷のように。

 

 

 

 

 

「邪魔だああぁぁぁああぁぁああぁあぁああ!!!!!」

 

 

 

 

 上空から、着地と同時に使い魔を切り裂いた群雲くんはそのまま、持っていた刀と鞘から手を離し、右手を左脇に、左手を右腰に当てると、そこから銃を取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その光景を、私はどう表現していいか、解らない。

 それは以前、巴さんが使い魔に囲まれてしまった時に、見せてくれた戦い方。

 自分の周りに、マスケット銃を複数取り出し、使い捨てながら。

 まるで、踊るように戦っていた光景。

 

 それと同じように。

 

 一発ごとに、標的を変え。

 でも、一発も外す事無く。

 私達の周りにいた、使い魔を撃退していく。

 

 違うのは。

 巴さんが、自身も回っていたのに対し。

 彼は、微動だにしなかった事。

 動くのは、腕だけで。

 それでも、確実に使い魔を捉えて。

 

 それでも私には。

 巴さんと、群雲くんが、重なって見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっべ、あとワンセットしか、残弾がねぇ」

 

 言いながら、私達の窮地を救った少年は、弾込めを終わらせると、それを魔法でしまい、落ちていた刀と鞘を手に取る。

 

「さて、問題はここから、か」

 

 刀を鞘に収めて、群雲くんは私達の方を向く。

 

「ロードローラー叩きこんでも無事とか、マジで笑えねぇよ、アレ」

 

 ろ、ろ~どろ~ら~?

 

 目が点になった私を無視して、群雲くんは魔女を見上げる。

 

「予想だが……」

 

 眉間に中指を押し当てながら、群雲くんは話し出した。

 その仕草は、眼鏡をしていたら、押し上げるような状態になっていただろう。

 こんな状況においても、変わらない仕草が、妙に心強く感じた。

 

「使い魔はともかく、ワルプルギスの夜本体には“魔力じゃないと、ダメージが通らない”んじゃないか?」

「え…と、何で?」

「魔女は、自分の結界内に標的を呼び寄せる為に“魔女の口付け”を使用していると仮定する。

 それは逆説的に“結界内じゃないと、魔女は充分に力を発揮できない”となる。

 加えて、オレのような魔人や、魔法少女は“結界内でしか、魔女と戦う事はない”。

 これは“魔女が結界最深部にいるから”が、最大の理由でもあるが。

 仮に“魔女結界”を“魔女を守る壁”だとするなら。

 ワルプルギスの夜は“結界を張らずに纏っている状態”であるという推察が成り立つ。

 故に、ロードローラーを上空から叩き落した上で、無理矢理爆発させたが、今もメッチャ笑っていらっしゃる」

 

 ……また、随分と無茶苦茶な事したのね、群雲くん……。

 

 でも、もし群雲くんの推察が正しいとしたら……。

 

「魔力を込めた、全力全開の一撃。

 これで、奴を止められないなら、正直に言って詰み」

 

 その言葉に、背筋が凍る。

 

「これまでの戦いで、魔力も消費してるし。

 これ以上の戦いは、ジリ貧としか思えない。

 ぶっちゃけ、これ以外に打開策が浮かばないんだけど」

 

 ………………。

 確かに、群雲くんが言う以外の策は、浮かびそうもない。

 でも、そうなると……。

 

「魔力を込めないと、ダメなのかな?」

 

 鹿目さんの質問に、群雲くんは即座に答える。

 

「知らん」

 

 ……答えになってなかった。

 

「オレが言ったのは、あくまでも予想。

 正解かどうかなんて、確認する術がない。

 ただ“全力全開の一撃”以外に、打つ手があるとも思えない」

 

 言いながら、群雲くんは刀をしまう。

 

「オレが使える最大の攻撃は、自分の魔力を電気の球に変えて撃ち出す“電光(plasma)球弾(bullet)”を、限界まで巨大化させるぐらい。

 欠点は、弾速がものっそい、遅い」

「私は……矢に限界まで魔力を込めるぐらいしか出来ないよ?」

 

 ……私は……何も……。

 

「オレの仮説が正しいとも限らないし、暁美先輩は射程内に魔女を捉えて、手持ちの爆弾全部同時に爆発させる、か?」

 

 ……確かに、それが今の私の精一杯。

 

「どっちにしても……近づかないとダメか」

「でも、爆弾を設置する場所と時間が……」

 

 私の言葉に、群雲くんは唸る。

 

「流石に、爆弾を投げて、同時に爆発させるとか、時間停止を使っても無理だよね……」

 

 鹿目さんの言葉に、私は少し落ち込む。

 他の攻撃手段が、私にあれば……。

 

「……投げる……?」

 

 でも。

 

「爆弾を投げる……爆発…………材料……時間…………」

 

 突然、群雲くんがブツブツと、何かを呟きだした。

 

「そうなると……ワルプル…………追撃に………………弾丸…………」

「……琢磨くん?」

 

 鹿目さんが声を掛けると同時に、群雲くんは笑った。

 

「一つ、策が浮かんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、昨日見せてくれた、年相応の笑顔ではなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔人として戦う者の、会心の笑みだった。




次回予告












それは、最後の射撃
















二十二章 ティロ・フィナーレ


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二十二章 ティロ・フィナーレ

「契約しなかったとしたら、オレは今でもあの生き地獄の中。
 ならば、今更、命を懸ける事に、躊躇う理由は無いな」


SIDE 鹿目まどか

 

 琢磨くんの策。

 それ以外に、打つ手の無い私達は、それを成功させる為、場所を移動していた。

 

「最も、ワルプルギスの夜に近づける場所。

 奴の進行方向上で、最も高い場所」

 

 琢磨くんの言葉に当てはまる場所。

 当てはまる場所自体は、いくつもあった。

 

 でも、琢磨くんの言った条件に、私はもう一つ付け加えなきゃいけない。

 

“避難所と現在位置の間にある事”

 

 琢磨くんはそれを聞いて、軽く頭を抱えていた。

 彼にとっては、街の人など“知ったこっちゃ無い”んだろう。

 でも、私にとっては、それこそが戦う理由。

 そうじゃなきゃ、魔法少女になった意味が無いから。

 

 

 

 

 

 琢磨くんの過去は、思わず泣いてしまうほどに辛かった。

 だけど、それ以上に。

 それを、笑って話せる琢磨くんが、理解できなかった。

 

「狂った人間を、理解出来ちゃまずいでしょ」

 

 そう言った琢磨くんが、あまりにも悲しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でも、結局。

 私の条件を含めて、場所を決めてくれた琢磨くんは。

 

 優しい子なんだなって。

 そう、思えるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 よりにもよって、ここか。

 そんな風に思えてしまう場所で、オレ達はワルプルギスの夜との、決戦に挑もうとしていた。

 

 見滝原中学校の屋上。

 

 ……学校にいい思い出なんかねぇっつに。

 幸いなのは、ロードローラーを叩き落してから、魔女が高度を上げていない事。

 射程内ではあるのだ。

 

 オレは、日本刀を抜き、鞘だけを戻す。

 右手、逆手持ちの刀をそのままに、左手をワルプルギスの夜に向ける。

 薬指と小指を曲げ、残りの指を真っ直ぐに。

 意識して、<電気操作(Electrical Communication)>を左手に集中。

 否、“左手以外で使わないように”集中する。

 

――――――必要なのは、想像(イメージ)

――――――電気を束ね、球状にする。

――――――本来、両手足に迸る電気を、左手以外で使わないように。

――――――スベテのチカラが、左手にいくように。

 

 左手にのみ、黒い放電が起こると同時に、鹿目先輩も動き出す。

 ゆったりとした動作で、弓を構える。

 弦を引き、弓の上部から桃色の炎が発現し、矢が転送される。

――――――まだ、射る事は無い。

 

 暁美先輩は、オレ達の少し後ろで待機している。

 

 

 

 

 オレの左手を、黒い電球が包む。

 …………まだだ。

 さらにオレは、電気を送り込み、膨張させていく。

 横では、鹿目先輩の弓に宿る、桃色の炎が一層激しく燃え上がり、矢が輝きを増していく。

 

 ワルプルギスの夜が近づいてくる。

 オレは、電光(plasma)球弾(bullet)が、半径二m近くまで膨れ上がった所で、射出した。

 

「おっそ!?

 予想以上におっそ!?」

 

 射出した……んだけど、ホントに動いているのか疑わしいほどに遅い。

 まあ、想定内ではあるが。

 オレは、チャージ中に使い魔に襲われた時用にと、右手に持っていた刀を右手の<部位倉庫(Parts Pocket)>に入れ、今度は右手に集中する。

 

 オレと同じように、ワルプルギスの夜の攻撃に対応する為、控えていた暁美先輩が動き出す。

 オレの右手が放電すると同時に、暁美先輩が盾を展開する。

 

 

 

――――――――弾速が遅いのならば。

 

 オレは、ゆっくりと右手を振りかぶり。

 

――――――――撃った後に押し出す!!

 

 全力で、殴り付けた!

 

「いいいぃぃぃぃけえええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 拳と電光(plasma)球弾(bullet)がぶつかり、凄まじい放電が起きる。

 だが、それで怯んでは意味が無い。

 このまま……殴り抜ける!!!

 

「おおおぉぉおおぉぉぉああぁあぁぁああぁぁぁぁ!!!!」

 

 咆哮と共に、電光(plasma)球弾(bullet)は、今までとは比べ物にならない速度で、ワルプルギスに向かう。

 それと同時に、暁美先輩が時を止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 暁美ほむら

 

「弾が遅いのなら、撃った後に加速させればイイじゃない」

 

 そんな発想が出るのも凄いけど、それをぶっつけ本番で実践させてしまう辺り、群雲くんは凄いと思う。

 時の止まった世界で、そんな感想を抱きながら、私は行動を開始する。

 

 盾の中にある、すべての爆弾を投げる。

 極力、群雲くんの電気の球と、ワルプルギスの夜の間で、静止するように。

 全部で、七つ。

 投げ終わった私は、群雲くんから渡された銃で、爆弾を撃ちぬく。

 外さないように、慎重に。

 

「全ての爆弾を同時に爆発させるのは、普通じゃ無理。

 だったら、無理矢理すればイイじゃない」

 

 時間停止中に、爆弾を投げて銃で撃った後に、時を動かす。

 それが、群雲くんの策。

 ……年下なのに、随分と色々な事を思い付く子だ。

 そんな事を考えながら、私は時間停止を解除した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 暁美先輩って、銃を使う才能でもあるんじゃないか?

 時が動き出し、全ての爆弾が同時に撃ち抜かれて、強制的に爆発したのを確認し、オレは最後の行動に移る。

 腰の後から、ショットガンを取り出して、弾を一発抜き取り、右手に持つ。

 <電気操作(Electrical Communication)>を右手に発動させながら、オレは以前の記憶を引っ張り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『唐突に、上空に向かって弾が飛んでいくという結果になりました。

 イミフ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 電磁砲(レールガン)

 あの時の、異常な弾丸の正体。

 ……多分ね。

 詳しい仕組みは知らないし、実際は違うのかもしれない。

 だが、オレはあの現象をそうだと仮定して、イメージする。

 

 鹿目先輩も、そろそろ限界だろう。

 今まで見てきた中で、最も燃え上がる炎と、最も輝いている矢。

 

 

 

 

 

 

 

 

 不意に、脳裏に巴先輩の笑顔が浮かんだ。

 鹿目先輩も暁美先輩も、巴先輩が死んだ事は知っているのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正直に言おう。

 オレには“逃げ出す”という選択肢があった。

 

 だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『じゃあ、何かを得るまで、私たちと一緒に、この街で戦ってみるのはどうかしら?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いないじゃないか。

 ここに、あなたが、いないじゃないか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だからこそ、想うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここで退いたら、オレはもう、何も得る事は無いのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さあ。

 

 これが。

 

 オレ達の出来る。

 

 最高の一撃。

 

 そして、最後の射撃だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ティロ・フィナーレェ!!!!!!!!」




次回予告

最善を尽くしたとしても
最善の結果が得られるとは限らない

最悪の状況を想定したとしても
最悪の結果を回避出来るとは限らない

世界はいつだって
思い通りには、動かない





二十三章 世界で最高に美しく、最低に醜い光景


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二十三章 世界で最高に美しく、最低に醜い光景

「誰か、教えてくれないか?
 笑うには、どうすればいい?」


SIDE out

 

 結果から言うのならば、魔人と魔法少女は策を成した。

 

 本命は、鹿目まどかの最大の一撃。

 それをサポートする為の、群雲琢磨と暁美ほむら。

 

 まずは、三人で高台に上がる。

 ワルプルギスの夜を射程内に捉える為に。

 

 そして、鹿目まどかが攻撃準備(チャージ)に入る。

 ワルプルギスの夜が、攻撃をしてきた場合、残りの二人で迎撃する。

 

 攻撃が無かった場合、群雲琢磨も“最大の一撃”に移る。

 その為に群雲は、電光(plasma)球弾(bullet)のチャージ中も、刀を手放さなかった。

 

 群雲の方が、チャージが早く完了し、射出に移る。

 ただでさえ、弾速の遅い電光(plasma)球弾(bullet)だ。

 チャージし、容量が増えた事により、さらに遅くなるのは、想定内。

 群雲はこれを“ワルプルギスの夜に向かって殴り飛ばす”事で、問題点を解消してみせた。

 同時に、暁美ほむらが、攻撃が無かった場合の行動に移る。

 

 時間停止中に爆弾を投げ、それを銃で打ち抜いた後、時間停止を解除する。

 

 仮に、爆弾が届かなくても、爆発による煙で、魔女を怯ませる。

 実際、怯んだかどうかはわからない。

 しかし、魔女と自分たちの間の煙は、確実に目くらましになるだろう。

 

 後は、電光(plasma)球弾(bullet)の着弾を見計らい、鹿目まどかが矢を放つ。

 同時に、群雲は以前の自分の行動と魔法検証から突貫で編み出した電磁砲(Railgun)による追撃。

 

 結果から言うのならば、魔人と魔法少女は策を成した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 電光(plasma)球弾(bullet)の着弾と同時に、二人の“最後の射撃”が追い付き、貫いた。

 実質的な、三種同時攻撃を受けたワルプルギスの夜。

 

 三人にとって、想定外であったのは、その際に起きた大爆発である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

「が……は……」

 

 瓦礫の山で仰向けに倒れていたオレは、詰まっていた空気を一気に吐き出した。

 

「は……はは…………」

 

 鉄の味が口一杯に広がったが、大した事じゃない。

 

 

 

 

 

 聞こえないのだ。

 あの、耳障りだった、笑い声が。

 

 

 

 

 

 それは、魔女撃退を意味していた。

 大爆発の際、抵抗無くぶっ飛んだが、オレはまだ生きている。

 勝利を……意味していた。

 

「ぐ……ごぶぉ!」

 

 体を起こそうとしたら、喉元に溜まっていたらしい、血の塊を吐いた。

 だが、そんな事は今はどうでもいい。

 無理矢理立ち上がり、辺りを見渡す。

 

 一面、瓦礫の山。

 魔女によるものもあれば、オレ達の最後の一撃が影響しているものもあるだろう。

 

 自分達がいたはずの中学校すら、面影も見えない。

 

「せ……ごぶっ……おえぇ!!!」

 

 声を上げようとして、さらに血を吐いた。

 ……内臓ズタズタかもしれん。

 

 それでも、両手も両足も動く。

 ふらつく体を気合で叱咤し、左半分の世界を認識する。

 

「先輩達…………どこだ?」

 

 皆はどこに行った?

 無事なのか?

 ここまできて、オレだけ生き残ったとか、笑えねぇぞ?

 だって、すでに一人……。

 

 思考を切り替え、皆を探そうと、一歩を踏み出した瞬間だった。

 

「うああああああああ!!!!」

 

 悲痛な叫び声が聞こえた。

 この声は……?

 

「どうしたの!?

 ねぇ! 鹿目さん!!」

 

 鹿目先輩と、暁美先輩の悲痛な声。

 嫌な予感なんてレベルじゃない。

 半強制的に体を動かし、オレは二人の下へ急ぐ。

 

「どう……して……!!」

 

辿り着いたオレが見たのは、倒れ、苦しんでいる鹿目先輩と。

 

「どうしちゃったの!?

 しっかりして!!」

 

 傍らで、必死に語りかける暁美先輩。

 

 …………なにが…………おきている………………?

 

 オレは、その光景を前に呆然としていた。

 何が起きているのか、まったく理解できていない。

 

「ワルプルギス……倒した……のに……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、オレは“真実”に辿り着く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ……ぁぁぁぁあああああああアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 契約し、右目がSG(ソウルジェム)になり。

 オレは“世界の右半分”を失った。

 見えるのは、魔女に関係するものだけ。

 最初は大変だったが、今ではそうでもない。

 確実に、オレは失った以上のモノを、手に入れたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オレは、見た。

 黒の左目で。

 緑の右目で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何……? どうして……? なんで、こんな……?」

 

 暁美先輩の呟く声も、今のオレには届かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、魔法少女が魔女になる瞬間。

 世界で最高に美しく、最低に醜い光景。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 唐突に、オレは“始まりの夜”を思い出す。

 あぁ……どうしてオレは、気付かなかったのか?

 どうしてオレは、忘れてしまっていたのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いずれ“魔女”になるのなら“魔法少女”でいいんだろうけど』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの日、あいつは確かに、そう言っていたじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “魂の結晶(希望)”が“魔女の種(絶望)”に変わる瞬間。

 オレは、この光景を、決して忘れる事は無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世界は、オレが思っているほど、悲しくプログラムされてはいない。

 だが、オレが感じている以上に、厳しくプログラムされているらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気がつくとオレは、暁美先輩を抱き上げ、全力疾走していた。

 いつ、彼女に近づいたのか。

 いつ、彼女を抱き上げたのか。

 いつ、オレは“彼女”から、逃げ出したのか。

 

 ただ、一言。

 自分が呟いたのだけは、覚えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あぁ……笑えないなぁ……。




次回予告

こうして、全ての結末は確定する

二十四章 めでたし、めでたし


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二十四章 めでたし、めでたし

「知らぬが仏、なんて言葉があるが。
 知らなかったですまない事の方が、圧倒的に多い気がする」


SIDE 群雲琢磨

 

 自分が、どこまで走ったのか。

 気がつけばオレは、瓦礫の散乱する見滝原の何処かで。

 “彼女”を見上げていた。

 

 傍らには、茫然自失の暁美先輩が座り込んでいる。

 オレは今、彼女に掛けるべき言葉を持たない。

 

 何を言えってんだよ?

 

「あぁ……笑えないなぁ……」

 

 鹿目まどかが、魔女になった。

 それが現実。

 

「琢磨は本当に、僕の予想を裏切ってばかりだ」

 

 巴先輩の死を、先に見ていなかったら、きっと我を忘れていたんだろうな。

 ナマモノの存在を確認した瞬間、オレは左脇と右腰から銃を抜いていた。

 でも、撃たない。

 

「どんな予想だったんだ?」

 

 二丁の銃を、ナマモノに向けながら、オレは問いかけた。

 

「僕は“あそこにいる”のが、琢磨だと思っていたからさ」

 

 その言葉に、銃を向けたまま、視線だけを“彼女”に移す。

 巨大な体躯に、無数の足を地面に下ろしたような。

 明るく、優しかった面影が、まったく感じられない姿。

 

「答えてもらうぞ、キュゥべえ」

 

 視線を戻し、オレはキュゥべえに向き直る。

 せめて、知らなければ。

 変わらず、呆然としている暁美先輩をそのままに、オレとキュゥべえは会話を始めた。

 

 

 

 

 

SIDE out

 

 会話をするのは、質問し、答えを聞き、受け入れ、割り切る為に、自らの感情を極限まで押さえ込んだ一人の魔人と。

 聞かれた事に、淡々と答える、感情の無い端末機。

 

「鹿目先輩が魔女になった。

 間違いないな?」

「それは僕よりも、実際に目の当たりにした君達の方が、理解しているんじゃないのかい?」

「何故だ?

 何故、魔法少女が魔女になる?」

SG(ソウルジェム)が穢れきったからさ。

 希望により生み出された魂が、絶望に染まる時。

 SG(ソウルジェム)GS(グリーフシード)へと姿を変える」

「魂の変異に合わせて、肉体も変化する。

 そう言う事か?」

「その解釈でいいだろうね」

 

群雲琢磨は思考する。

情報を得て、理解し、受け入れていく。

 

「何故だ?

 何故、SG(ソウルジェム)を生み出す必要があった?」

「ただの人間が、魔女と戦うなんで不可能さ。

 実際、普通の人間は、魔女の呪いに抗う術を持たない。

 そんな、壊れやすい人間の体のまま、魔女退治なんて出来ると思うのかい?」

「それとSG(ソウルジェム)が、どう繋がる?」

「理解が遅いね。

 人間は、生命が維持できなくなると、精神まで消滅してしまう。

 そうならないように、精神=魂を結晶化して、護り易くしてあげているんだ」

「だが、肉体が死んだら意味が無いだろう?」

「その認識は間違いだ。

 魂さえ無事ならば、肉体がどれだけ傷つこうと、死ぬ事は無いよ。

 頭を切り落とされようが、心臓を貫かれようが、魔力で修理する事で、また使えるようになる。

 SG(ソウルジェム)さえ無事であるならば、君達は無敵さ」

SG(ソウルジェム)が電気で、肉体は電球か?」

「おおむね、その表現でいいだろう。

 肉体は所詮、外付けのハードウェアでしかない。

 そして、本体である魂を、魔力を効率良く運用する為に、安全でコンパクトな姿に変える。

 それが、契約を取り結ぶ、僕の役目さ」

「どこが、安全だ?

 弱点を外に取り出す事の、どこが安全なんだ?」

「それは、認識の違いだよ。

 普通の人間は、肉体が死ぬ事で、精神も死ぬ。

 精神の本体を外に取り出せば、肉体が死んでも魔力で修理できる。

 それこそSG(ソウルジェム)を別の場所に隠して戦えば、魔力がある限り死ぬ事は無い。

 最も、離れすぎてしまうと、肉体を操作出来なくなってしまうけど」

「……そして、本体が穢れる事で魔法少女が魔女になる、か?」

「その通りさ」

「筋が通らない」

 

情報を吟味し、理解し、疑問点を割り出して、群雲は問う。

 

「オレ達は、ワルプルギスの夜を倒した。

 “絶望”する要素が無い」

「重要なのは“SG(ソウルジェム)が穢れきる”ことさ。

 魔力を使う事で、SG(ソウルジェム)が穢れる事は、知っているはずだろう?」

「何故だ?

 何故、魔力を使う事で、SG(ソウルジェム)が穢れていく?」

「魔力とはすなわち“人としての君たちの命”だ。

 だからこそ穢れきる事で“相応しい形(グリーフシード)”へと変化する。

 そして肉体も、それに“相応しい形(魔女)”に変化する」

「……解らないな」

「なにがだい?」

「お前の目的が、だ。

 魔女を倒す為か?

 魔法少女を産む為か?

 お前が“SG(ソウルジェム)を生み出しさえしなければ”どちらも存在しなかったはずだ。

 お前は、何の為にここにいる?」

「宇宙の延命の為さ」

「…は?」

「解りやすく説明するなら“生まれるエネルギー”より“使うエネルギー”の方が多いのが、この世界だ。

 宇宙は確実に、その寿命を減らしている。

 僕たちの種族は、それを解消する為に、あるテクノロジーを生み出した」

「それが“魔法少女と魔女”のシステムか?」

「いや、違う。

 感情をエネルギーに変換するシステムだ。

 それは、一人の人間が生まれ、成長する以上のエネルギーを得られる。

 つまり“使うエネルギー”より“生まれるエネルギー”の方が多くなる訳さ」

「それと、魔法少女がどう繋がる?」

「調査の結果、現状最も効率がいいのは“第二次成長期の少女の希望と絶望の相転移”さ」

「……それはつまり“希望(ソウルジェム)絶望(グリーフシード)に変わる瞬間、か?」

「その通り。

 そのエネルギー回収こそが、僕たち“孵卵器(インキュベーター)”の役割さ」

「なるほど、解らないはずだ。

 お前の目的は魔女を倒す事でも、魔法少女を産む事でもない。

 “魔女を産む為”だったんだからな」

「それは違うよ。

 僕たちの目的はあくまでも“エネルギーの回収”だ。

 “魔法少女のシステム”は、効率がいいから取っているだけの手段に過ぎない」

「効率がいいから、希望を叶えて魔法少女にし、絶望を与えて魔女にするって訳か」

「誤解があるようだね。

 僕らは進んで絶望を与えている訳じゃない」

「それは、認識の違いだ。

 “魔法少女になる=希望が絶望に変わった時のエネルギー発生器”としてしか見ていない時点で、お前が全ての“黒幕”だ」

「でも、戦いの運命を受け入れてまで叶えたい願いを、叶えてあげているんだ。

 充分、歩み寄っていると思うけどね」

「……そうだな。

 鹿目先輩も、希望を叶えたから魔法少女になった。

 鹿目先輩が魔女になったから、お前もエネルギーの回収が出来た。

 どちらの願いも達成されて、めでたし、めでたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんて言えるか馬鹿やろぉおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 暁美ほむら

 

 呆然と、その会話を聞いていた。

 淡々と会話をする、群雲くんとキュゥべえ。

 魔法少女の真実と、インキュベーターの目的。

 

 私が取り乱さなかったのは、群雲くんのおかげだ。

 必死に感情を押し殺し、必要な情報を得ようとしている群雲くん。

 銃を握る両手が、時折震え、力が込められているのを見ていたから。

 

 

 

 

 

 でも、群雲くんも限界だったんだろう。

 叫び声と共に、両手の銃をキュゥべえに向けて、引き金を引いた。

 何度も、何度も。

 弾丸がキュゥべえに命中しても。

 何度も、何度も。

 全ての弾を撃ち終わり、キュゥべえを殺した後も。

 何度も、何度も。

 もう、弾が出るはずの無い銃の引き金を。

 何度も、何度も。

 

 しばらくして、群雲くんが両膝を付いた。

 両手の銃を握ったまま、空を見上げて

 

「……マジ、笑えねぇ……」

 

 一言、呟いた。

 その一言に、群雲くんの全てが集約されている気がした。

 

 

 

 

 

 ……そうだ。

 こんな結末の為に、私は過去に戻った訳じゃない。

 皆、キュゥべえに騙されてる。

 私は、時間を戻し、過去に戻り、もう一度……!

 

「……暁美先輩?」

 

 盾に手を掛けた私に気付き、群雲くんが声を掛けてきた。

 

「ごめんなさい……。

 私、戻るわ」

「……何処に?」

「……過去に……」

「………………は?」

 

 群雲くんの目が、点になった。

 そういえば、私の魔法の事、説明してなかったわね。

 

「私は……未来から来たの」




次回予告

道はそれぞれ





一人は、魔女との戦いで、歩く事を止めた





一人は、魔女との戦いの後、違う道に立たされた





一人は、目的地が違う為、来た道を引き返した





一人は………………















第一幕 スベテを憎んだFirst Night 閉幕

二十五章 最後の嫌がらせ


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二十五章 最後の嫌がらせ

「それでもオレは。
 自分の終わり方を決められる分、不幸じゃないって思えるんだ」


SIDE 群雲琢磨

 

「私は、こことは別の未来から来たの」

 

 もうね、割り切るのにも限界ってものがあるんですよ。

 ナマモノぶっ殺して、多少は溜飲を下げた後に、この発言ですよ。

 

「えっと……どういう事?」

 

 オレの質問に、暁美先輩は真剣な表情で答えてくれた。

 

「私は、鹿目さんがワルプルギスの夜と戦い、死んでしまった別の未来で、キュゥべえと契約したの。

 その願いは“鹿目さんとの出会いをやり直し、彼女を守れる私になる”事。

 結果、私は魔法少女として、過去に戻ったの」

 

 ……つまり?

 

「未来を知っていた……?

 いや、未来を変える為に、過去に戻った……?」

 

 …………なら!!!!

 

「知ってたのか!? この結末を!!

 魔法少女の真実を!!!」

「知らなかったわよ!!」

 

 オレの叫び声が、暁美先輩らしくない、大きな声で掻き消された。

 

「知ってたら……こんな……」

 

 俯いてしまった暁美先輩に、オレは言葉を失う。

 

 …………………………。

 

「過去に、戻れるんだな?」

「……うん……」

 

 オレの言葉に、暁美先輩は涙を拭い、頷く。

 

「この結末を。

 こんな、くそったれた結末を変える事が出来るんだな?」

「私は……その為に戻るの」

「……そうか……」

 

 なんとも、羨ましい。

 オレは、ゆっくりと暁美先輩に近づくと、膝を着いてその手を取った。

 

「なら、躊躇う必要はない」

 

 彼女の手を離し、ゆっくりと立ち上がる。

 

「やり直せるのなら。

 やり直したいのなら。

 やり直す事ができるなら。

 絶望するには、まだ早いぜ、先輩」

 

 そして、オレは笑う。

 正直、うまく笑えてる自信は無い。

 それでもオレは、口の端を無理矢理持ち上げる。

 

「群雲……くん……」

 

 オレを見上げ、悲しげな表情を向ける先輩。

 ……笑えてないらしい。

 オレは、彼女の左手を取って、無理矢理立たせた。

 若干ふらつきながらも、立ち上がった暁美先輩の

 

 

 

 

 

 

 SG(ソウルジェム)を、最後の“ストック”で浄化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 暁美ほむら

 

 群雲くんの突然の行動に、私は固まった。

 

「オレの持つ、最後のGS(グリーフシード)だ。

 使うなら、オレよりも先輩だろう?」

 

 そう言って笑う彼の右目は、緑より黒の方が多い。

 ……かなり、穢れているのだ。

 

「そんな!

 群雲くんが「暁美ほむらぁ!」!?」

 

 私の言葉を、群雲くんが遮った。

 

「……“向こう”の皆に、よろしく」

 

 そう言って、群雲くんは微笑んだ。

 それは、私が初めて見た、群雲くんの“からっぽじゃない”笑顔。

 年相応の、未来を夢見る少年の笑顔。

 

「……うん!」

 

 その笑顔は確実に、私の背中を押した。

 そうだ。

 群雲くんの言うとおり、絶望するわけにはいかない。

 私はゆっくりと、群雲くんから離れると、盾に手を掛ける。

 回転させる瞬間、私は群雲くんの、最後の声を聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頼んだぜ、暁美さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 暁美先輩が、過去に戻った。

 

「時間遡行者とはね。

 道理で、彼女との契約の記録がないはずだ」

 

 その声に振り返ると、先程オレが殺したナマモノを、ナマモノが食べていた。

 

「……どういうことだ?」

「僕らは人類向けの交渉役端末機だ。

 スペアボディがあるのは、当然だろう?」

「そこじゃない。

 “暁美先輩との契約の記録が無い”ってのは、どういうことなんだ?」

「簡単な事さ。

 彼女が“別の未来”で契約したのなら“今の僕ら”に、知りうるはずが無いじゃないか」

 

 ……それも、そうか。

 自分の死体を食べ終わったナマモノは、そのままこちらに視線を移す。

 

「それで、琢磨はこれからどうするんだい?」

 

 聞かれて、オレは視線を“彼女”に移す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『解った気がする。

 鹿目先輩には、絶対に勝てないわ、オレ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 以前、オレが言った言葉が脳裏に浮かんだ。

 信じられるか?

 昨日の事なんだぜ、あれ。

 

「聞いていいか?」

「なんだい?」

 

 さっき、我慢の限界が来て殺してしまい、聞きそびれていた事を聞く。

 

「巴先輩が死んでいたのは、SG(ソウルジェム)が砕かれたから、か?」

「それ以外に無いね。

 魔法少女となった以上、終わり方は二つしかない。

 “SG(ソウルジェム)が砕ける”か“魔女になるか”のどちらかだ。

 随分と、もったいない事をしたよ」

 

 なるほど、ね。

 なら、オレがする事は決まっているな。

 

「はっきり言おうか。

 オレは、宇宙の寿命になんか、興味ない。

 他人が魔法少女になろうが、魔女になろうが、関係ない。

 オレは、いつだって“オレの為”に動く」

 

 オレはゆっくりと。

 

「だから、オレはお前の為に、動く事は無い。

 絶対にだ」

 

 右手の銃を持ち上げて。

 

「これが、オレの最後の嫌がらせだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銃口を“右目()”に向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わけがわからないよ」




第一幕 これにて閉幕

されど、少女は歩みを止めはしない

願いを叶える為 希望を繋ぐ為

再び少女は、あの場所へ





忘れてはならない

そこは、すでに違う舞台

役者の数も違えば




立ち位置も、違う





そして世界は、視点で変わる










次回より始まるは、第二幕




失意と約束のsecond night



二十六章 協力する理由ってなんだ?


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第一幕設定集(wiki風味)

「読みたい人だけ読んでね」
「わけわか」


ストーリー展開

 

 魔女結界攻略中の、鹿目まどか、暁美ほむら、巴マミの三人の前に、群雲琢磨が先行して戦っていた所から、物語は始まる。その後、行動を共にするようになった四人は、最強の魔女「ワルプルギスの夜」に挑み、巴マミの犠牲の上で討伐に成功するも、その直後に鹿目まどかが魔女化。暁美ほむらは時間操作により過去へと戻り、群雲琢磨は魔女化した鹿目まどかと、孵卵器の前で銃口を魂へと向けた。

 

 

概要

 暁美ほむら2週目。群雲琢磨の性格、内面描写をメインに添えた第一幕。しかし、ここにも後に繋がる最重要な伏線はしっかりと張られている。見滝原の魔法少女三人が、充分に交流を終えた「後半部」に群雲琢磨を合流させる事で、仲の良い三人と交流する群雲琢磨の描写を中心にする狙いがあった。

 作者はもう少し長く、四人の交流を描く予定だったのだが、たくま☆マギカとしても、暁美ほむらとしても「導入部」に位置するエピソードである為、必要最低限になるように努力したとか(※1)。

 原作での最重要情報のひとつである「魔法少女システムとインキュベーターの目的」を最後に持って来たのは、原作を知らずに読んでしまう人への、必要最低限にして最重要な情報を極力出さないようにした結果であり、それを同時に開示する事で、群雲琢磨を極限まで追い込む為の演出だとしている。

 

キャラクター紹介

 

鹿目まどか

 原作主人公。中学2年生の平凡な少女だったが、キュゥべえと契約した事で魔法少女となり、巴マミ、暁美ほむらと共に、見滝原の人々の為に魔法少女として活動している。

 ワルプルギスの夜を討伐した際、魔力を使い果たした事で魔女化してしまう。

 群雲琢磨の内面を、最も正確に把握していたのも彼女であり(※2)第一幕で最も群雲琢磨を導いたのも彼女である。

 

暁美ほむら

 原作裏主人公。別時間軸でキュゥべえと契約し、鹿目まどかを救う為に来訪した。魔法少女としての実力はまだ低く、時間停止によるサポートに徹している。

 最初の時間軸で現れなかった群雲琢磨に対する疑惑から「魔人群雲(※3)」の本質を最も把握したのは彼女である。

 主目的である鹿目まどかの救済が叶わなかった為、その場に群雲琢磨を残して時間遡行する。

 

巴マミ

 見滝原中学校3年生で、まどかとほむらの先輩でもあるベテランの魔法少女。

 魔法少女の中では珍しく、他者を魔女とその使い魔の脅威から守るという信念で戦い続け、鹿目まどかと暁美ほむらもそれに賛同し、共に行動している。

 遠い親戚しかいない一人暮らしである事から、放浪していた群雲琢磨と同居する(※4)為「少年琢磨」を最も理解出来たのは彼女である。

 ワルプルギスの夜との戦いで分断された際、魔女化する事無く命を落とす。

 

群雲琢磨

 本作主人公にして、狂言回し(※5)。契約して放浪していた際、偶然見滝原に辿り着いた為に、主舞台が決定する。

 育児放棄状態だった為、満足に成長出来ておらず、12歳でありながら10歳程度の外見である(※6)。

 初めて接触した契約者が見滝原の魔法少女であった為、ワルプルギスの夜と戦闘、討伐に貢献する。

 その後の鹿目まどかの魔女化から、インキュベーターの目的を知り、暁美ほむらが時間遡行した後、愛用していた銃を魂へと向ける事となる。

 

キュゥべえ

 「魔法の使者」を名乗る、マスコットのような外見の四足歩行動物。その正体は孵卵器、インキュベーターと呼ばれる、地球外生命体の交渉用端末機。

 願いを1つ叶える代わりに魂を物質化し、魔人へと変化させる「契約」を交わす役目を持つ。

 その目的は宇宙の寿命を延ばす為、地球人の感情エネルギーを搾取する事にあり、その為の合理的な判断を下す。

 

独自設定の解説

 

ワルプルギスの夜

 原作アニメでは不明だが、コミカライズ版において、この時間軸での討伐を達成している

 それを琢磨を交えて行ったのが今幕である

 

 

 

(※1)原作でも描写の少ない場面の為、原作好きの想像範囲を狭めたくなかったという想いがあった

(※2)同様の考え方を、二幕以降の群雲琢磨自身が行っている

(※3)まどかが魔女化した後に“SIDEほむら”を入れた要因もここにある

(※4)これが「導入部」でなければ、第一幕はもっと長かったというのが、作者の談

(※5)本作主役にして、進行役 第一幕を原作の結末へ進行する役割も担っている

(※6)契約時は10歳で、第一幕では12歳の設定なのだが、読者様に伝わっていない事が多く、作者は枕を濡らしたらしい ちなみに身長体重は10歳の平均値の方が近くなるように設定している




「作者はHAPPY END主義者だからね」
「嘘だ!!」
「完全なBAD ENDは書けないらしいよ、精神的に」
「どこが!?」


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第二幕 失意と約束のsecond night
二十六章 協力する理由って何だ?


「男が契約できるなんで、初耳だぞ?」
「聞いてないだけだろ?」


見滝原。

 

 その街には、三人の魔法少女がいる。

 

「マミの奴、いつのまにか“チーム”を組んでやがったんだな」

「知り合い?」

 

 その魔法少女達が戦う姿を、遠くから観察する関係者が二人。

 一人は、双眼鏡を魔法で強化して。

 一人は、変身した状態で。

 二人揃ってりんごをかじりながら、チームが戦う様子を観察していた。

 

「駆け出しの時にちょっとな」

「ほへはふふはあひいはひふへ」

「……飲み込んでから喋れ、馬鹿」

 

 言われて、口内のりんごを咀嚼する。

 無論、その間は話が出来ず、観察だけが続く。

 風が強く吹く中、ようやく口内がすっきりし、先程言えなかった言葉を口にする。

 

「それは、羨ましい限りで」

「なんでだよ?」

「魔法の使い方から戦い方まで、こちとら全部独りで解決してきたもので。

 駆け出しって事は、その人に戦い方とか教えてもらってたんだろ?」

「まあ、な」

「それは羨ましい。

 契約前も契約後も独りだったこちらからすれば、ね」

「自業自得だろう?」

「その通りだよ」

 

 二人同時に、りんごを食べ終わる頃、状況が動いた。

 

「撃破完了、か」

「そりゃよかった。

 確認できないから、状況がまったくわからん」

「…じゃ、なんで変身してんだよ、お前」

「変身したら、見えるかもしれないと、一縷の望みを賭けて」

「…………」

 

 双眼鏡の魔法解除と、変身解除が同時に行われた後、二人は移動を開始する。

 

「で、今日は何処に?」

「適当に」

「子供が野宿か……前みたいに補導されなきゃいいが」

「……この街には、雨風を凌ぐのに、丁度いい場所がある。

 今も放置されてるはずだから、そこを拠点にすりゃいい」

 

 言いながら、新たにりんごをかじる少女に、僅かな影が浮かぶ。

 もう一人は、それに気付かない振りをしながら、横に並んで歩き続ける。

 

「で、お前はどうするんだ?」

 

 りんごをかじりながら、少女はしばらくの間、行動を共にしている相手に問いかける。

 その外見から、表情が読み取りにくい、その相方は僅かに首を傾げながら、少女を見上げた。

 背は、少女の方が高い。

 

「どうするって?」

「あたしらが行動を共にする理由は?」

「利害の一致。

 互いに魔力消費を抑えながら、効率良く魔女を倒す為」

「そう。

 ついでに言えば、あたしらは“自分の為”に魔女を狩る」

「そりゃそうだ」

「だが、マミは違う。

 魔女の脅威から人々を守る為。

 そんな気概で魔女と戦ってる」

「利害が一致しねぇじゃねぇか」

「だろう?

 キュゥべえの言う通り、見滝原には魔女が多い。

 だが、この街は“マミのテリトリー”だ。

 チームを組んでるって事は、他二人も、マミに賛同してるんだろう」

SG(ソウルジェム)の浄化が追い付かず、実力を発揮出来ずに敗北する未来が、ありありと想像できるな」

「どうしてだ?」

「魔女の脅威から人々を守る。

 それは“GS(グリーフシード)を持たない使い魔”も、見つけたら倒すって事だろ?

 卵を産む前の鶏を絞めてたんじゃ、卵が足りなくなるのは道理じゃん」

 

 相方の考えも、理に適っている。

 だが、少女はその展望を否定する。

 

「生憎と、そこまでマミは弱くない。

 もしそうなら、あたしら以外の魔法少女が、この街を狙ってもおかしくはないしな」

「実力があるからこそ、ここを縄張りにしてるってわけか」

 

 いつしか、木々の生い茂る道を歩きながら、二人は今後の相談を続ける。

 

「そちらはどうするんだ?」

「あたしは、様子見だな。

 マミとは、見解の相違で別れたんだし、今更チーム組むってのも……」

「お師匠さんに反発したけど、実は素直に戻りたい不良弟子。

 プゲラwwwww」

「ぶっ飛ばすぞ、てめぇ」

「おぉ、怖い怖い」

「ったく…。

 で、お前はどうするんだよ?」

「現状維持、だな」

「現状維持?

 様子見じゃなく、か?」

 

 足を止め、少女は相手に問いかける。

 数歩先行した後、少女が足を止めていた事に気付いた相手は、少女に向き直りながら言った。

 

「現状維持。

 魔女の脅威から、人々を守る為に戦うってのは、良い事だとは思う。

 思うが、それを自分もするかどうかは、別問題だ」

 

 気持ちと現実。

 それを完全に、割り切って考えているからこその発言。

 

「誰かの為に魔法を使う人達に巻き込まれて、自分の為に魔法が使えなくなるのは、本末転倒だろ。

 自分の実力を、そこまで高く評価はしていないし、正直な話、見ず知らずの人が魔女や使い魔に殺されてようと、知ったこっちゃ無い」

 

 あくまでも、利己的に。

 そんな相手だからこそ、行動を共にしていたのだと、少女は実感する。

 実際、少女も無駄に使い魔と戦うつもりなど皆無だし、そういう意味でも、利害が一致している。

 

「だから、現状維持。

 仮に、二人とも向こうのチームに入ったとして、GS(グリーフシード)が充分に手に入る保障はない。

 先輩が向こうに入るならともかく、様子見の時点で、オレの選択肢は一つしかない。

 逆に聞くが、先輩と別れて向こうに協力する理由ってなんだ?」

 

 そう言って、微笑む相手の笑顔が。

 少女はあまり好きではない。

 

――――――泣くのを堪えて、無理矢理作っている。

 

 そんな、悲痛な印象しかないからだ。

 

「現状、先輩と別れるメリットは無いぞ、オレ」

 

 そう言って、再び歩き出す相手の背を見ながら、少女はりんごをかじる。

 合流できれば、戦いが楽になるのは間違いない。

 だが、思想の違いから別れた相手と、今更組めるかどうか。

 だからこそ、少女は“様子見”とした。

 今の“相棒”と組んでいた方が楽なのは、これまでの経験から解っているし、巴マミはともかく、他二人を少女は知らない。

 りんごをかじりながら、相手の横に並んだ少女は。

 

「まあ、この街は魔法少女にとって、魅力的な“狩場”なのは、間違いない。

 協力するにしろ、敵対するにしろ、向こうの情報を得てからだな」

「どんな情報だよ?」

「マミの実力は知ってる。

 重要なのは、弓を使うツインテールの魔法少女と、剣を使うショートカットの魔法少女だ」

 

 今後の展望を明確にしていく。

 “現状維持”を明言している以上、少女の行動に反対する理由は無い。

 

「重要な点は?」

 

 ならば、同じように今後の行動を明確にする必要がある。

 自身の気持ちを完全に割り切り、問題点を挙げ、考察する。

 

「あたしらの目的は?」

「ぐり~ふし~ど~」

「なんでそんな、気の抜けた声なんだよ……。

 まあいい。

 で、向こうの目的は?」

「……正義の味方ごっこ?」

「……辛辣な上に、何で疑問系なんだ……?

 まあ、協力するにしろ、敵対するにしろ、だ。

 この街が魅力的な狩場なのは間違いないだろう?」

「確かに、ね」

「だったら、敵対するにしろ、協力するにしろ。

 向こうの情報は、大いに越した事はないだろ?」

 

 そして、二人は同時に微笑む。

 口の端を持ち上げる、不敵な笑みを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな訳だ。

 頼むぜ、琢磨」

「あなたと敵対する意味も利益もないからな。

 そっちこそ、しっかりしてくれよ、佐倉先輩」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔人は、再び降り立つ。




次回予告

幕を開けるは、新たな世界

されど、繋がる、悲劇の世界





繋がるは、世界の定め

途切れるは、世界を生きる……




二十七章 魔法少女の男バージョン


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幕間 立場を変えた少年の台本

キャラ設定再び
作品構成上、以前の物(序幕最後)を編集で改変とか出来ないんですよねぇ……


主人公(二幕開始時)

 

名前 群雲 琢磨(ムラクモ タクマ)

性別 男

種族 魔人

年齢 肉体年齢は契約時である10歳で止まっている

身長 129.9

体重 33

魔法特性 無法

魔法道具 両手袋と具足

外見 目元が隠れるほど前髪の長い白髪(地毛) オッドアイ(左が黒 右目が緑←ソウルジェムの影響

通常時の姿 縁なしの丸レンズの伊達眼鏡(右のレンズは曇りガラス 自作品) 黒のトレンチコート

変身後の姿 緑色の軍服(眼鏡は未着用)

 

 

性格

元々は明るく、楽天的な性格だったが、6歳時の家族との死別、それ以降の悲惨な生活により、暗く歪む

契約を切っ掛けに、しがらみを割り切り、歪みながらも本来の性格を取り戻しつつある

気の許せる人間が周りにいなかった影響で、内に篭る性質があり、思考癖に発展している

しかも、歪んだ性格の影響で、その思考がずれていく事が多々あり

自身の辛い現実から逃避する為、空想物に耽る日々を過ごし、知識が歪んだ方向に豊富な上に、耳年増

契約時の願いに、逆に縛られている為、自分が笑う事に異常な執着を示す

思考癖の反作用として、頭の回転は速く、策を練るだけの知識もあるが、基本感覚的に動き、自身の社交性も皆無な為、傍から見たら“理解不能”である

 

自身を“狂っている”としており、最終的に自分の為になるのなら、今の自分を平気で捨てる事が出来る

契約前の悲観的な思考を無理矢理割り切り、軌道修正する為、話す言葉は割りと考え無しだったりする

誰も助けてくれなかった過去から“正義”と言う言葉に反感を覚えがち

速すぎた一人暮らしは、その精神を歪んだまま早熟させてしまい、その歪みもまた因果となって、魔人としての才能に影響している

 

 

使用可能魔法

 

オレだけの世界<Look at Me>

 

時間停止

自分以外の時を止めて、自分だけが動ける状態にする魔法

例外として、自分の触れている物は、動く事が可能(離れれば、数瞬後に止まる

任意のタイミングで解除可能だが、ソウルジェムの穢れは、停止時間に比例する

連続使用不可で、止めていた時間の倍のインターバルを必要とする

また、基本的にこの状態では、他の魔力の使用が出来ない

むしろ、戦闘中の移動や撹乱に使用する事の方が多い

 

 

 

電気操作<Electrical Communication>

 

電撃能力

固有武器(両手袋と両ブーツ)を媒体として発動可能な魔法

拳に纏う事で、攻撃力を高めたり、両足神経に流し込み、通常以上のスピードで走る事が出来るようになる

主力魔法であり、発展させ、開発した技も多い。

電気の色は黒。

 

『逆手居合 電光抜刀』

電気操作による神経操作で、行動を高速化させる、群雲の剣技

その場から動かずに斬り上げる『壱の太刀 逆風』

走り抜けながらの横薙ぎ『弐の太刀 閃風』

上方からの斬り下ろし『参の太刀 天風』

また、電気操作を手から刀身へと伝達、放電させて攻撃力を高める『弐式』があるが、まだ未完成で『逆風』でしか、使用する事が出来ない

 

『電光速射』

電気操作で、行動を高速化させた煽り撃ち

 

『電光球弾(plasmabullet)』

電気操作による放電を束ねて、球状にして撃ち出す

大きさは電力(込める魔力)によって変わるが、大きさと速度は反比例する

 

『電磁砲(Railgun)』

弾丸に、電気を纏わせて撃ち出す

実際のレールガンとは原理が異なり、弾丸を電光球弾代わりにして、打ち出しているだけにすぎない

しかし、弾速、貫通力はこちらの方が高い

欠点は、電光球弾とは違い、実際に弾を消費する事

 

部位倉庫<Parts Pocket>

 

収納技能

体の一部分と異空間をつなぎ、道具を収納する魔法

収納出来る物の大きさに規定はないが、基本、一箇所にひとつ

例外として右の手の平だけは、収納数無限

収納した場所と、取り出す場所が同一である必要があり

 

『左手の平 白鞘拵え鍔無しの日本刀 無銘』

『右腰 リボルバー拳銃 シングル・アクション・アーミー』

『左腰 ロードローラー』

『右脇 オートマチック拳銃 ベレッタ』

『左脇 オートマチック拳銃 グロック』

『腰の後 水平二連ショットガン』

 

上記が固定装備となる

収納数無限である右手の平には、各種弾丸だけでなく、食料等の日用品など、内容は多岐に渡る

が、あまりに多くの物を入れ過ぎた為、群雲自身、中身の全てを完全に把握している訳ではない

 

『ムラクモカスタム』

群雲が愛用した結果、魔力によりコーティングされ、硬度等が強化された武器の総称

左腰のロードローラーと右手の平の中の物以外は、ムラクモカスタムに分類される

が、実は群雲自身に自覚は無い




これから始まるのは、悲劇とすら呼べないであろう第二幕
楽しんで頂けるのなら、幸いです


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二十七章 魔法少女の男バージョン

「これが、通常の台詞」
[これが、念話だ]
(これが、心の中の言葉)
「そういう形式ですすんでいくんで、よろしく!」(`>ω<)b
「……誰に言ってんだよ……」


美樹(みき)さやか、鹿目まどか、か」

 

相手が学生なら、身分を調べるのは簡単。

<オレだけの世界(Look at Me)>を駆使すれば、重要書類の閲覧など、容易い。

 

「見滝原中学の学生名簿を盗んd……借りてきたぜ」

 

 そう言って、佐倉杏子が目を覚ます前に、群雲は“弓を使うツインテールの魔法少女”と“剣を使うショートカットの魔法少女”を調べてきた。

 起きて、朝飯をどうするか考えていた杏子は、その発言に目が点になった。

 

「なにしてんだ、てめぇは!?」

「いや、頼まれたから調べてきたんだが。

 ちなみに、これはコピーだから、本物が転載されたなど夢にも思うまいて。

 くくく……はははは…………はーっはっはっはっはっはっはっがっげほっごほっ!」

 

 三段笑いの挙句、むせる群雲に、杏子は思わず頭を抱える。

 しかし、情報を得るのは早いに越した事は無い。

 10秒チャージな朝ご飯を投げ渡し、自分は食パンを咥えながら、群雲が持ってきた書類に目を通す。

 支離滅裂で理解不能。

 だが、実力は折り紙付き。

 それが、杏子の群雲に対する評価であり、出来れば敵に回って欲しくない理由でもある。

 

「で、どう思うよ?」

 

 10秒チャージを終えた群雲が、歪な眼鏡を押し上げながら、杏子に問いかける。

 

「マミの一つ下か。

 どちらも家族持ちって事は、マミに賛同した協力者で、確定っぽいな」

「誰かの為に、か」

「なんにもなりゃしないのにな……」

「それを決めるのは、佐倉先輩じゃないだろ」

 

 呟いた杏子の言葉に、群雲は反論する。

 書類から顔を上げ、群雲を睨みつける杏子。

 眼鏡がずれ、長い前髪から緑の瞳が覗く群雲と、互いの視線が交錯する。

 

「幸せの形なんて、人それぞれだ。

 今、オレ達にとって重要なのはそこじゃない」

 

 眼鏡を押し上げたまま静止する事で、群雲は顔全体を隠して、問いかけた。

 

「どう、動くんだ?」

 

 長く、白い前髪が。

 縁の無い丸レンズの眼鏡が。

 そして、右手が。

 群雲の表情を完全に覆い隠す。

 杏子は、それを見ながらスティックチョコを取り出すと、口に咥えた。

 

「……様子見、だ」

「なら、オレはちょいと寝るぜ。

 流石に眠いんでね」

 

 言いながら、欠伸をしながら傍らの椅子に腰掛ける群雲。

 それを軽く一瞥し、杏子は立ち上がる。

 

「何かあれば、念話で叩き起こすぞ」

「……優しくしてね♪」

「うぜー」

「ほっぺにチュ~で起こしてくれるのを、期待する」

「耳を噛み切ってやるよ」

「こえー」

 

 軽口を叩きあい、杏子はその場を。

 

――――――父親の教会跡を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マジに、正義の味方ごっこかよ……」

 

 使い魔を相手にする三人の魔法少女を、少し離れた所で見ながら、杏子は悪態をつく。

 

 既に、太陽は西に傾いている時間。

 学校に通っているのだから、魔法少女としての行動は、放課後だろうと当りをつけた杏子は、三人揃って学校を出た魔法少女達を、離れた所から尾行し、観察していた。

 三人は、街中をパトロールし、魔女や使い魔の気配を探す。

 しばらく後、使い魔の結界を発見した三人は、即座に討伐に向かった。

 

「……なんか、マミ以外はチョロそうだわ」

 

 どうやら、使い魔討伐には、後輩魔法少女の経験値稼ぎも兼ねているようだ。

 変身しながらも、後方に控えて手を出さずに見守っているマミを見ながら、杏子はそう結論する。

 丸い毛玉に髭を生やしたような使い魔と、必死に戦う残り二人の魔法少女。

 使い魔が発生させた結界内で戦う新人らしき魔法少女を見ながら、杏子は咥えていた飴を味わう。

 飴に刺さり、口から出ている棒を、上下に揺らしながら、さてどうするかと考えていた杏子は。

 

「この街には、優秀な魔法少女がいると聞いていたが……」

 

 平然と歩きながら、使い魔と魔法少女の戦いへ声を掛けた、魔人の姿に目を疑った。

 

「なっ!?」

 

 なにしてんだよ、あいつは!?

 反射的に、念話を送る。

 

[てめぇ、琢磨!

 お前、何してんだ!?]

[ちょっ!?

 佐倉先輩煩いって!?

 念話で叫ぶとか、器用な事すんなよ!!]

 

 決して表情に出さないあたり、群雲はとんでもない。

 ……表情を作れないだけなのかもしれないが。

 

[てか、佐倉先輩の事だから、無駄な事すんなとか言って、介入するかと思ったが]

「この程度の使い魔すら、満足に倒せないなら、魔法少女廃業を勧めるが」

 

 念話と会話を同時に行うと言う、器用な事を披露しながら、変身状態の群雲は不敵に笑う。

 

「なっ……なんなんだよ、あんた!?」

[実力を見てたんだよ。

 弱い奴と組む気ないんてないからな]

 

 さやかの戸惑いの言葉と、杏子の質問の答えを聞きながら群雲は「これ、意外に大変だなぁ。」なんて事を思いながら、同時会話を継続していく。

 

「君たちと同じく、魔女狩りを生業とする者」

[昨日の戦いを見て、ある程度は把握してたんじゃないの?]

 

[流石に、一度戦闘を見ただけで判断するほど、あたしは馬鹿じゃないぞ?]

「まさか……魔法少女なの?」

 

 

「金髪のお姉さんには、オレが少女に見えるか?」

[てか、組む前提で動いてたのか?

 やっぱ、お師匠様と一緒がいいのかね、馬鹿弟子?]

 

[お前、晩飯抜きな]

「さやかちゃん、使い魔が逃げちゃうよ!」

 

「使い魔と遊ぶより、重要な事があると思うが?」

[それは横暴じゃね?

 寝る間も惜しんで、情報収集してきた相方に向かって]

 

[じゃ、お前は今、何してんだよ?]

「……なんなのさ、あんた」

 

「人にものを尋ねる時は、まず自分から名乗るのが筋じゃないのか?」

[情報収集。

 直に接触した方が良いと判断したまでさ。

 よくよく考えれば、魔法少女なんて口外不能な情報って、実際に接触しないと得られないんじゃね?]

 

[そりゃそうかもしれないが……。

 タイミングが悪くねぇか?]

「……美樹さやか」

「私は、鹿目まどか」

「チームリーダーの、巴マミよ」

 

「美樹先輩、鹿目先輩、巴先輩、ね」

[なんでさ?

 関係者だと分かり易くする為に、変身して結界に侵入したのに?]

 

[戦いの邪魔すれば、警戒されるだろうが!]

「……先輩?」

 

「そちら、中学生だろ?

 自分、学校に通ってたら小学生なんで」

[……ゴメン]

 

[考え無しか、てめぇ!]

「小学生!?」

 

「行ってないけどね」

[ったく……。

 どうすんだよ、この状況?]

 

「それで、あなたは何なの?」

[……どうしよ?]

 

[マジに考えなしか!?

 とりあえず、あたしは動かないから、自分でなんとかしな]

「まずは、自己紹介からだな」

 

[まあ、状況の流れに任せるさ]

「オレは、君たちの様に、魔女を狩る運命を背負う、魔法少女の男バージョン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔人群雲」




次回予告

出会った者は、同じ存在
希望で生まれた、奇跡の存在

出会った者は、違う存在
別の道を生きる、異端の存在



出会った者は、真逆の存在



道を譲らぬ、邪魔な存在









二十八章 不合格だ


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二十八章 不合格だ

「魔女と戦う事に、違和感を持つ者はすくないだろうけど」
「魔法少女と戦う事に、違和感を持つ者は多いだろうね」
「まあ、オレから言わさせてもらうなら」
「動物を狩るのに猟銃を使う事と」
「人を殺す事に猟銃を使う事」
「その程度の違いでしかないんだけどな」
「……すべからく平等に、命はひとつだぜ?」


「まじん……むらくも……?」

 

 使い魔だけの不安定な結界の中に、まどかの呟きが響く。

 

「その通り。

 気軽にまーくんと呼んでくれても良いぞ。

 むらっちでも、可」

「ふざけてんの?」

 

 決して目の笑っていない笑顔を向けながら、考え無しに話す群雲に、さやかが警戒レベルを上げる。

 

「ふざけてなんかいないさ。

 オレが“魔人”なのも、オレの名前が“群雲”なのも事実であり、真実だ」

「それで、君は何が目的なのかしら?」

 

 マミの質問に、群雲は右手中指を眉間に添える。

 

「この街が、他の街に比べて魔女が多い事は?」

 

 三人の魔法少女の動向を見落とさないよう、細心の注意を払いながら、群雲はカードを切り出した。

 

「知っているわ」

「なら、魔女狩りを生業とする者が、ここにいる理由は解る筈だ」

「……縄張り争い?」

 

 いつしか、マミが先頭に立ち、群雲との会話を続ける。

 

「率先して、敵を作る趣味は無い。

 が、足手纏いと一緒に戦うほど、オレは強くもない」

「あたしらが、弱いって言うの!?」

「お、落ち着いて、さやかちゃん!」

 

 群雲の言葉にさやかが声を荒げるが、それをまどかが抑える。

 

「では聞くが、君達は何の為に魔女と戦う?

 何の為に、他の命を奪う?」

 

 一つ目の質問になら、三人全員が即座に答えただろう。

 だが、二つ目はどうか?

 

「人間が、他の命を喰う。

 魔女が、人間を喰う。

 そして“オレ達”が、魔女を喰う。

 シンプルな構図だ」

 

 ここで群雲は、あえて“喰う”という表現を使う。

 彼女達が“誰かの為に戦っている”のは、先日解っている。

 今、群雲が計っているのは。

 

「あんた……他の人がどうなっても良いっての!?」

「知ったこっちゃ無いな」

 

 それとは、別の事だ。

 

「オレは、いつだって“オレの為”にこの力を使う。

 誰かの為に、平気で命を懸ける。

 そんな、自分を蔑ろにするような奴と、共闘するなど愚の骨頂だ」

 

 その言葉と共に、状況が動いた。

 さやかが、群雲に飛び掛ったのだ。

 群雲は素早く、左手の日本刀を取り出し、逆手で僅かに抜いた刀身で、さやかの剣を受け止めた。

 

「あんた……!

 何の為に、魔法少女になったのよ!?」

「間違えるな。

 魔人だ。

 そして、自分の為だと言った筈だが?」

 

 懸命に力を込めるさやかと、表情を変えずに受け止める群雲。

 さやかにとって、群雲の言葉は、自分の願いすら否定されたように聞こえたのだ。

 だが、そんな事など知りもしない群雲は、さやかの行動に溜息をひとつ。

 その行動が、さやかをヒートアップさせる。

 

「こっのぉ!!」

 

 より一層込められる力。

 それを、変わらずに受け止める群雲は、静かに言葉を紡ぐ。

 

「やれやれ……。

 オレは別に、戦いに来たわけじゃないんだが」

[佐倉先輩。

 交渉決裂っぽい]

[お前、あれで交渉してるつもりだったのかよ!?]

 

 変わらず、状況を見ていた杏子は、思わず群雲にツッコミを入れた。

 

[こちらの考えを話して、向こうの考えを聞くつもりが、なんか斬りかかられた]

[……馬鹿だろ、お前]

[あるぇ~?]

 

 念話を繰り返しながらも、さやかの攻撃に微動だにしない辺り、群雲の戦闘経験は豊富である。

 

[適当に相手しな。

 マミが動くようなら、あたしも加勢するが。

 その程度なら、一人で充分だろ]

[戦う前提かい!?

 つか、その程度とか言っちゃう辺り、佐倉先輩も喧嘩売ってるだろ?]

[弱い奴とは組まないってのには、あたしも同意だ。

 琢磨との戦いで、組むかどうかを判断する事にするわ]

[当て馬ですかい!?

 まあ、個人的な意見を言うなら]

 

 群雲は、一気に力を抜いて半歩体をずらす。

 受け止めていた力が突然無くなり、さやかは力を込める勢いのまま、前のめりに倒れこんだ。

 

「[不合格だ]」

 

 念話と会話で、まったく同じ事を言い、群雲は刀を納めた。

 必死に立ち上がり、剣を構えるさやかを見ながら、群雲は落胆したように言った。

 

「無駄な魔力を使いたくはないし、弱い者いじめは趣味じゃないんだが」

 

 鞘を持つ左手と突き出し、右手をいつでも抜けるように添えながら。

 

「勝てない相手ならともかく、勝てる相手から逃げる道理は無い」

「なっ!!」

 

 群雲に、挑発する意思は無い。

 無駄な戦いを好まないのも事実だし、勝てそうに無い相手なら、恥も外聞も気にせずに逃げ出すだろう。

 だが、勝てるのに逃げ出すなんて不毛な事も、選ばない。

 故に、戦闘が継続されるのであれば、群雲は戦う。

 戦う事を、選ぶ。

 だが、これは殺し合いではない。

 向こうはどう思うかは知らないが、群雲にとっては力比べ程度の事。

 今の相方が、群雲との戦いを見て判断すると明言したのも、理由の一つではあるが。

 考察を止め、思考を切り替える。

 

「加減無く手加減し。

 抜かり無く手を抜いて。

 命の保障も約束する」

 

 そして、群雲は。

 

「だから、戦るのならば、本気で来い」

 

 口の端を持ち上げて告げた。

 

 

 

 

 

「では、闘劇をはじめよう」




次回予告

その者 少年につき




その者、魔人につき




その者




狂人につき



二十九章 群雲琢磨は、そういうやつである


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二十九章 群雲琢磨は、そういうやつである

「お前の日本刀って、大概丈夫だよな」
「……え? 日本刀ってそういう物じゃないん?」
「……お前、時代劇大好きだろ?」
「たかたー♪」


 攻める者と守る者。

 本来の在り方とは、逆の構図となっていた。

 誰かの為に戦う者が攻め。

 自分の為に戦う者が守る。

 一人は、剣を持つ魔法少女。

 一人は、刀を持つ魔人。

 何度も剣で斬りつけ。

 何度も刀で弾き返す。

 そんな、不毛な戦いを遠くから観察しながら、杏子は呟いた。

 

「……マジに手を抜いてやがるな、琢磨の奴……」

 

 飴の棒をピコピコと揺らしながら、その戦いを見守る。

 

 

 

 群雲の戦闘スタイルは、オールラウンダー。

 近距離戦ならば、刀を使い。

 遠距離戦ならば、銃を使う。

 相手が近距離特化ならば、銃を使い。

 相手が遠距離特化ならば、刀を使う。

 相手の得意分野で勝負する必要など皆無。

 群雲琢磨は、そういうやつである。

 

 

 

 群雲は、分類するならばスピード型である。

 自身の魔法を生かし、通常以上の速度での戦闘を得意とする。

 

 だが、群雲琢磨は元いじめられっこである。

 契約するまで、戦いとは無縁の生活であった。

 無論、武道の心得がある訳でもない。

 精々が、空想物から得た知識程度である。

 

 そこで、群雲が取った行動は、魔人となった事で得た、魔法という力の開発()()()()

 

 弱い人間でも、相手を殺せる手段の調達。

 

 すなわち、武器の入手である。

 

 真っ先に浮かんだのは銃である。

 指先一つで、人を殺しうる凶悪兵器。

 群雲はそれを<オレだけの世界(Look at Me)>を駆使する事で入手。

 日本刀は、その時のおまけ程度であった。

 

 実は、群雲には剣術の才能があった、訳でもない。

 

 

 

 ここで、群雲がメインで使用する<電気操作(Electrical Communication)>の、主な使い方を説明しよう。

 

 神経に直接電気を流す事による“行動の高速化”である。

 重要なのは、それを使用すると判断しているのは、あくまでも“脳”だという事。

 “脳”が<電気操作(Electrical Communication)>を使用する事で、“脳”が制御する以上の速度で動く。

 矛盾しているのである。

 

 

 

 そこで群雲が考えたのが“行動の固定化”である。

 抜刀から納刀までの一連の動きを“固定化”した上で<電気操作(Electrical Communication)>で“高速化”する。

 “逆手居合 電光抜刀”とは、一種のプログラムであると言えるのだ。

 声に出す事で、魔法準備に入る。

 技名を言う事で、高速行動を開始する。

 そういう癖を、みずからに押し込んだのだ。

 一種の自己催眠とも言えるだろう。

 

 

 

 無論、欠点はある。

 “行動に、まったく応用がきかない”のだ。

 上方から飛び掛って「逆風!」とか言っちゃうと、斬り上げ動作になるので、見事に空振る。

 走りながら「天風!」とか言っちゃうと、打ち下ろし動作になる為、刀が地面に刺さり、すっ転ぶ。

 上方に敵を捉えて「閃風!」とか言っちゃうと、横薙ぎ動作になるので、空振る。

 

 そうならない様に、それぞれの技に数字を入れる事で、動作確認を行っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて。

 今現在、群雲はさやかとの交戦中である。

 それを見て、杏子は“手を抜いている”と言った。

 その理由は、群雲が“抜刀状態”であるからだ。

 

 “逆手居合 電光抜刀”はその名の通り“抜刀術”である。

 抜刀状態では、使えない。

 

 さらに、さやかの武器は剣である。

 本来の群雲ならば、銃を用いての遠距離戦を選ぶのだ。

 

 わざわざ、相手と同じ近距離武器を選び。

 しかも、抜刀状態である為に“逆手居合 電光抜刀”は使用不可。

 

 杏子の言う通り、完全に手加減しているのだ。

 

 

 

 それでも戦闘経験においては、10歳から魔人をしている群雲の方が上である。

 さやかの斬撃を、一度もその身に浴びる事無く、防ぎ、捌き、弾き、避ける。

 そして、この念話である。

 

[なあ、琢磨?

 お前、なんで攻撃しないんだよ?]

[せっかくなので、防御の練習]

 

 群雲琢磨は、そういうやつである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、相手方の魔法少女としては、この状況は芳しくない。

 使い魔を見失い、突如現れた魔人と仲間が交戦している上に、実力は向こうの方が上。

 今でこそ、群雲が守勢に入っているが、一度もその身に斬撃を受けていないのだ。

 一度、攻勢に移ればどうなるかは、想像に難しくない。

 だからこそ、今のうちに勝敗を決する必要がある。

 群雲に気付かれないよう、細心の注意を払いながら、まどかは弓を展開する。

 それに合わせて、マミも魔法準備に入った。

 さやかの攻撃に合わせて、まどかが矢を射る。

 その隙を逃さずに、マミの拘束魔法で動きを封じる事が出来れば、戦局は決まる。

 

「と、向こうは考えているだろうけど」

 

 スナック菓子を食べながら、杏子は相手の行動を予測して、観察を続ける。

 

「まあ、琢磨が捕まりゃ、あたしが出て行くだけだし」

 

 それでも、群雲が後れを取る事は無いだろう。

 そんな程度には、杏子は群雲を信頼している。

 そして、状況が動いた。

 

 群雲を中心に、さやかとまどかが線で繋がった瞬間。

 さやかが一直線に、群雲との間合いを詰め。

 まどかが一直線に、群雲に矢を射る。

 合わせてマミが、群雲の動向に全神経を集中させる。

 

 これまで通り、さやかの斬撃を受け止めれば、まどかの矢を受ける。

 まどかの矢を察知し、無理に避けようとすれば、さやかの斬撃を受ける。

 仮に、両方を凌ぎきったとしても、後詰でマミの拘束魔法が発動する。

 刀を持つ右手だけでも封じてしまえば、戦局は魔法少女側に、大きく傾く事になるだろう。

 そんな、絶妙のタイミングだった。

 

 それを群雲は“魔法”を発動させる事で、すべての予想を上回る。

 

 

 

 

 

カチッ

 

 

 

 

 

<オレだけの世界(Look at Me)>

世界は、群雲だけを見る(止まる)

 

 

 

「そう言えば、佐倉先輩にもこの魔法を教えてなかったな。

 どうも、瞬間移動と勘違いしてるっぽいし……。

 ま、いっか」

 

 群雲琢磨は、そういうやつである。




次回予告

戦いは、魔法少女の定め

戦いは、魔法少女の宿命

戦いは、魔法少女の運命




その戦い、悲劇にすらならぬ喜劇
されど、軋轢を生む悲劇

三十章 親しい仲


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三十章 親しい仲

「おまえって、銃弾ってどこから調達してるんだ?」
「そりゃもちろん、金儲けと保身しか考えてない、税金泥棒達から盗n……死ぬまでお借りしてるだけだが?」
「……少し前に、とある軍事基地が窃盗の責任で解体したとか、ニュースになってたんだが」
「ざまぁwwwww
 ゲフンゲフン。
 それは、大変だねぇ」
(……こいつ、色々とえげつねぇな……)


 時間停止。

 群雲が使う魔法で、最も凶悪な力だろう。

 使い方によっては、全ての状況をひっくり返しかねない。

 時間停止中に、ひっくり返すほどの行動が出来るかどうかは、別問題ではあるが。

 

「いずれ動くとは思ったが……。

 少しだけ“遅かった”な」

 

 自分だけの世界で、群雲は呟いた。

 

 群雲の言う“遅かった”とは、魔法少女達の動きの事ではない。

 実は群雲、先程までインターバル中だったのである。

 魔法少女達との邂逅も、想定外。

 杏子と別行動中に、魔女との殺し合いを終えた後、使い魔の結界を確認。

 入ってみたら、彼女たちがいた。

 つまり、群雲からすれば、絶賛連戦中なのである。

 

「さて、そろそろ帰りたいんだが……」

 

 呟いた群雲は、時間の静止した世界で、状況を再確認する。

 剣を振り上げている魔法少女と、矢を放った後の魔法少女。

 静止している矢は、時が止まらなければ、確実に群雲を捕らえていただろう。

 タイミングは、完璧だったといえる。

 連携力が高ければ、1+1は数字以上の成果を見せる。

 個々で考えれば、群雲にしては“不合格”だが。

 チームとしてみれば、充分に“合格”と言えるかもしれない。

 そして、群雲は気付いた。

 魔法準備に入っている、もう一人の魔法少女の存在を。

 

「……時間停止しなければ、詰んでたっぽいな」

 

 口の端を持ち上げながら、群雲はその魔法少女の後ろに立つ。

 どんな魔法を使うつもりだったのか。

 今の群雲に、それを確認する術は無い。

 魔法が発動していたとして、五体満足で捌ききれるか。

 今の群雲に、それを確認する術は無い。

 

「ま、今回は優位に立たせてもらうけどな」

 

 そして、群雲は魔法を解除する(秒針を動かす)

 

 世界は、全てを見始める(動き出す)

 

「え……きゃぁ!?」

「さやかちゃん!?」

「えっ!?」

 

 魔法少女達からすれば、突然群雲が消えたように錯覚するだろう。

 飛び掛ったさやかは、目標の消失に戸惑い。

 まどかの放った矢は、同一直線上であった為、さやかに直撃する。

 マミは、拘束魔法の対象を見失い、発動を止める。

 

[相変わらず、見事な瞬間移動だな]

 

 届いた念話に、群雲は苦笑しながら、刀を鞘に収める。

 その音が、辺りに響き、マミが慌てて後ろを振り返る。

 その先に、日本刀を左手の<部位倉庫(Parts Pocket)>に入れた群雲が、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「いつの間に……!?」

「それを、詳しく教えるほど、オレ達は親しい仲かな?」

 

 マミは回りにマスケット銃を召還。

 群雲は右腰からSAAを右手で、腰の後から水平二連ショットガンを左手に持つ。

 

(刀だけではなく、銃まで使いこなすの!?)

(しくじった、刀継続すればよかった!?)

 

 互いに同種の武器である事に、一瞬状況が静止する。

 しかし次の一瞬には、マミはマスケット銃を手にとって構え、群雲も歪な二丁拳銃を構える。

 

[佐倉先輩、へるぷみ~!]

[自力でなんとかしな]

[この人が動いたら、加勢するんじゃなかったんかい!?]

 

 互いに銃口を向け合う緊迫な状況ながら、群雲はこんな念話をしている。

 だが、マミがマスケット銃を召還した瞬間、杏子は変身を完了させている。

 もっとも、今の群雲にそれを確認する術は無いが。

 

「そもそも、3対1の時点で、オレがかなり不利」

「あら、それも織り込み済みで、私達の前に姿を見せたんじゃないの?」

「いやいや、結界を見つけたから入ってみただけですよ?」

「それを素直に信じるほど、私達は親しい仲かしら?」

「oh……」

 

 傍から見れば、それは軽口の叩きあい。

 されど、状況を見れば、それは生死を分ける、緊迫の空気。

 そして、群雲の視線の先。

 マミの後では、立ち上がるさやかと、それに手を貸しているまどかがいる。

 さすがに、三人同時に相手にして立ち回れるほど、群雲は自分の実力を信じていない。

 よって。

 

[全力で逃げる]

[逃げるのかよ]

[いいかげんSG(ソウルジェム)を浄化したいし……。

 情報収集も充分じゃね?]

[それはいいが、その状況をどう打開するんだよ?]

[向こうの“性質”を利用する。

 仕掛けるぜ?]

 

 念話の後、群雲は右手の銃を右腰に戻す。

 

「あら、降参かしら?」

「まさか。

 左手のショットガンはそのままだろう?」

 

 さやかが剣を構え、まどかが弓を構える。

 完全に3対1の構図が出来上がり。

 

 群雲は微笑んだ。

 

 全員が群雲に集中する。

 この構図こそ、群雲が逃げ切る為に、必要な構図だからだ。

 

「では、闘劇を続け……る前に、だ。」

 

 右手の<部位倉庫(Parts Pocket)>から、次に取り出す物を確認し、群雲は声をかける。

 後は一瞬。

 三人全員が、同時に集中を切らす瞬間を狙うだけ。

 その為に、群雲は言葉を紡ぐ。

 

「オレ達は、魔女を狩る」

「……そうね」

「オレ達は、魔女を狩る為に結界に入る」

「……何が、言いたいのよ?」

「オレ達は今、結界の中にいる。

 つまり、使い魔は健在中。

 さて、質問。

 使い魔は、普通の人間をどうしたい?」

「「「!?」」」

掛かった(フィーッシュ)!]

[やっぱ、性格悪いだろ、お前]

 

 三人の魔法少女達の性質。

 それは“魔女の脅威から人々を守る為に戦っている”という、生き様。

 今、この瞬間も、この結界を生成している使い魔がいる。

 その事実は、確実に彼女達の心を揺さぶる。

 その一瞬こそが、群雲の狙い。

 右手から目的の物を取り出し、それを放り投げる。

 そして、左腕だけをそのままに反転、両足に<電気操作(Electrical Communication)>を発動。

 走り出すと同時に、引き金を引いて、目的の物を撃ち抜いた。

 一瞬。

 本当に一瞬だが、辺りが昼間を超えるほどの光に包まれる。

 その光を背に、群雲は全力を超えた全力疾走。

 

[見事な逃げっぷりだな]

[敗走ではない。

 後ろに向かって、全力前進DA!]

[まあ、勝敗で言えば、お前の勝ちだろうな]

 

 そんな念話をしながら、二人はその場を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだったのよ、あいつ!!」

 

 強烈な光が収まった時。

 魔人の姿は既に無く。

 さやかが声を荒げるのも、納得であろう。

 

「結局……何をしたかったんでしょう?」

 

 さやかを宥めながら、まどかは質問する。

 

「考えても、答えは出なさそうね……」

 

 その質問に答えを出せるほど、マミも魔人を知らない。

 

「ひとまず、使い魔を探しましょう。

 あの少年の言う通り、結界が健在な以上、使い魔も遠くにはいないはずよ」

 

 魔法少女達は、気を取り直して、結界の中を進む。

 魔人の存在を、心に留めながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[出口がわかりません]

[とことん考え無しか、てめぇ!?]

 

 その魔人が、魔法少女が使い魔を倒すまでの間、結界の隅で体育座りしていたのは、余談である。




次回予告

その少女、魔法少女
家族の為に願った、優しき少女

その少年、魔人
自分の為に願った、狂いし少年




その少女、魔法少女
自らの為に動く、強かな少女

その少年、魔人
考え無く動く、不可思議な少年







魔法少女 佐倉杏子
魔人 群雲琢磨

二人の性質と、二人の願い







その者達 魔女を狩る者につき





三十一章 互いに情けない話をした


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三十一章 互いに情けない話をした

「お前、いつも此処で寝てるのか?」
「……? もちろん」
「マジか」


 人知れず、放置されたままの教会跡。

 

「……ここに、いい思い出なんて無いんだけどな」

 

かつて、父親が話をする為に立っていた場所で、佐倉杏子は呟く。

 

「喉元過ぎれば、熱さ忘れる……だったか?

 割り切ってしまえば、多少はマシじゃないか?」

 

 最前列の椅子に寝転びながら、眼鏡を外した群雲琢磨が言う。

 

「お前は……辛くないのか?」

「……痛くはないな」

 

 珍しく、何も口にしていない二人は。

 決して視線を合わせる事無く、会話を続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、なんでここに教会があるって知ってたんだ?」

 

 三人の魔法少女との邂逅から、数日。

 さて、今日はどういう行動をするか。

 そんな事を考えていた時に放たれた、群雲の何気ない質問から、会話は始まった。

 しばらく躊躇するも、杏子はゆっくりと話し始めた。

 

「ここは、あたしの親父の教会だったんだ」

「真面目で、優し過ぎる人でね。

 新聞を読んでは、どうして世界が良くならないかって、真剣に悩むような人さ」

「新しい時代にあった、新しい信仰をって、教義に無い事まで説教するようになって。

 当然、信者は減り、破門された」

「あたしは、親父が間違ってるとは思わなかった。

 皆が真面目に聞いてくれれば、きっと解ってもらえると思ってた」

「だから、キュゥべえに頼んだんだ。

 “親父の話を、皆が真面目に聞いてくれますように”って」

「願いは叶い、自分でも浮かれてた。

 親父が人々を導き、魔法少女になったあたしが、魔女から人々を救うってね」

「でも、そんな幸せも、長くは続かなかった」

「信者が増えたのは、親父の言葉が届いた訳じゃない。

 あたしの、自分勝手な願いからなんだ」

「真実を知った親父は壊れた。

 酒に溺れ、心が歪んで。

 最後は一家無理心中さ。

 あたし一人を、置き去りにして、ね」

 

 辛いとも、悲しいとも取れる表情で、杏子は話し終える。

 暫しの沈黙の後、今度は群雲が口を開く。

 

「馬鹿にするでもなく。

 茶化す訳でもなく。

 “羨ましい”と思ってしまったオレは、とことん狂ってるな」

「……羨ま……しい……?」

 

 眼鏡を外し、椅子に横になった群雲の言葉に、杏子が呆然とした声を掛ける。

 予想外の反応なので、当然だといえる。

 

「あぁ、羨ましい。

 佐倉先輩にとって辛いし、悲しい事なんだろうけど。

 話すだけの思い出があることが、な」

「……どういう事だよ?」

 

 今度はこちらの番かな。

 そう前置きして、群雲が話し出す。

 

「6歳の入学式に、家族が事故で死んだ。

 たまたま、その小学校がバス通学で。

 オレだけが先にバスに乗り。

 両親は後から、車で向かうはずだった」

「……なんで、別々だったんだ?」

「もうすぐ、産まれるはずだったんだ。

 オレの、弟か、妹が」

 

 両方だった可能性もあるけどな。

 そんな事を、間に挟みながら、群雲は続ける。

 

「無理する必要はないのに。

 記念だからって、無理して入学式に出ようとして。

 途中で交通事故」

「オレにとっては、文字通りの節目の日になった。

 奈落の人生への一方通行だ」

「正直、あの出来事が大きすぎて……。

 それ以前の両親の思い出が、すっぽり記憶から抜け落ちた。

 両親についてオレが言える事は“6歳の時に死んだ”って事だけさ」

「もう、顔も名前も覚えちゃいない。

 苗字が群雲だって事ぐらいで」

「だから、純粋に羨ましく思ってしまった。

 きっと佐倉先輩には、今の話以外にも“家族の思い出”があるんだろうな……なんて」

 

 そして、冒頭へと繋がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、過去は所詮過去。

 どうにもならないし、どうしようもない」

 

 暗い雰囲気を払拭するかのような明るい声で、群雲は立ち上がった。

 

「泣いて、喚いて、嘆いて、無かった事に出来るなら、皆そうする。

 でも、無理、不可能、有り得ない」

 

 外していた眼鏡を掛けて、群雲は言う。

 

「さらに言うなら、オレには“取り戻す可能性”があった。

 ナマモノとの契約が」

 

 家族を、生き返らせて欲しい。

 それを、願い、叶える方法が、確かに群雲にはあった。

 

「でも、もう遅い」

 

 契約は、既に交わされた後。

 後の祭りだ。

 

「オレは、オレの為に願った。

 それが、真実」

 

 二人は、ある意味で真逆だった。

 

 家族の為に願い、独りになった少女。

 自分の為に願い、独りのままの少年。

 

 二人は、ある意味で同類だった。

 

 自分の為に、力を使う事を決めた少女。

 自分の為に、力を得る事を叶えた少年。

 

「で、これからどうするよ、先輩?」

「まずはSG(ソウルジェム)の浄化だ。

 互いに情けない話をしたせいで、穢れが増えてる」

「人のトラウマ独白を、情けないとか、ないわー」

「じゃ、浄化しないのか?」

「するけど、なにか?」

「うわぁ……ぶっとばしてぇ……」

「優しくしてね☆」

「うぜー。

 チョーうぜぇ」

「相方に向かって、それはひどくね?」

 

 軽口を叩き合いながら、二人は教会跡から外に出る。

 

 話そうと、話すまいと。

 結局、なにが変わるわけでもない。

 

「ほんと、琢磨といると気が楽だわ」

「なんだろう……褒められてる気がしねぇ……」

「褒めてないからな」

「たまには、誤報日が欲しいよ、おね~ちゃ~ん」

「明らかに字がおかしい。

 そして、おねぇちゃん言うな、鳥肌が立つ」

「( ゚д゚ )」

「こっちみんな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一日が始まる。

 これは、そんなある日の一幕。




次回予告

魔法少女には、縄張りが存在する

故に、縄張り争いも、存在する




魔法少女は、魔女を狩る

されど、必ずしも使い魔を狩るとは限らない






魔法少女は生まれる

理を無視する、異生物の都合の為に

三十二章 一人増えてる


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三十二章 一人増えてる

「もし、あたしが向こうのチームに入ったら、どうするんだ?」
「着いて行くよ? 別れる理由にならんし」
「……ひょっとして、あたしに惚れてたりするか?」
「なんでそうなるのかが解らん。
 まあ、頼りにしてるのは認めるけど。
 つか、契約前も後も、恋愛とか考えた事なかったしなぁ……」
「そんなもんか?」
「そんなもんさ」


「エンカウント率、高いなぁ……」

 

 新たなGS(グリーフシード)を手に入れ、群雲は呟いた。

 

 

 

 

 

 基本的に、群雲琢磨と佐倉杏子は行動を()()()()()

 信頼していない訳ではない。

 かと言って、信頼しきっている訳でもない。

 “自分の為に動く”事を共通としている為に。

 四六時中、一緒にいるわけでもなく。

 かと言って、疎遠になる訳でもなく。

 

 

 

 

 

 “自分の為”という“共通の目的”

 

 

 

 

 

 二人を繋ぐ物を、一言で表すなら、そういう事である。

 異常だと言う人もいるかもしれない。

 だが、二人とも普通ではない。

 

[琢磨、届いてるか?]

 

 そろそろ合流して、晩飯の相談でもしようか。

 そんな事を考えていた群雲に、杏子からの念話が届く。

 

[おぉ、いいタイミングだ。

 GS(グリーフシード)の入手報告と、晩飯の相談をしたかった所だ。

 個人的には、今日はもんじゃ焼きな気分なんだけど]

[届いているなら、あたしの場所は探知できるか?]

[解ってて聞いてるだろ。

 そんな器用な事出来ないぞ、オレ]

[おまえって、自分の魔法以外は、からっきしだよな]

[言うなよ。

 照れる上に、地味に気にしてるんだから]

[わけわからん。

 それより、見滝原中学の場所はわかるな?]

[そりゃ、学生名簿を盗n……お借りした場所だしな]

[なら、その周辺の結界を索敵して、合流して欲しい]

[あらま、めっずらしぃ~。

 佐倉先輩におきましては、魔女の多いこの街は身に余ると?]

[茶化さずに聞け。

 マミのチーム、一人増えてる]

[ウェ ∑(0w0;)!?]

[器用な事すんな。

 ついでに、エンカウント中]

[おまっ!

 人の事言えないな、先輩!?]

[たまたま、同じ魔女結界を攻略しようとしてたんだよ。

 流石に4対1は辛い。

 合流できるか?]

[浄化前提で、5分。

 浄化せずに8分]

[浄化して3分だ]

[戦闘直前?]

[美樹さやかが、斬りかかって来た]

[それまで一緒かぁ∑(・ω・`)!?]

[だから器用な事すんな。

 こっちは地味にやばい]

[浄化+ストック使用。]

[1分で来い]

[30秒だ]

 

 <電気操作(Electrical Communication)>を全開。

 同時に、入手した直後のGS(グリーフシード)を右目に押し当てながら、群雲は目的地を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戻ってたのね」

「この街には魔女が多いって、キュゥべえに聞いたんでね」

 

 群雲に、念話を送る数分前。

 魔女結界の中で、杏子は“マミチーム”と対峙していた。

 はっきり言って、想定外である。

 杏子は、群雲のように、自分の実力を低く評価していない。

 だが、魔法少女との戦いは、魔女との戦いとは勝手が違う。

 それを割り切り、防御の練習とかしていた群雲が異常なのだ。

 結界に入る前から食べていたフランクフルトを咥えながら、杏子は状況を観察する。

 眼前、最前線に立つのは、かつて共に戦っていた巴マミ。

 後ろに控えているのは、剣を使う美樹さやかに、弓を使う鹿目まどか。

 個々の実力に差はあれど、チームとしてのバランスは悪くない。

 

 加えて、まったく情報のない、眼鏡の魔法少女。

 

 自身の武器である槍を、油断なく構えながら、杏子はどうするかを考えて。

 ……今の“相棒”に、念話を送る事にした。

 

「今も、街の人達の為に、戦ってるのかい?」

 

 念話を送っている事を悟られないように、杏子から話を振る。

 

「そういうあなたは、変わってはいないの?」

「変わらないね。

 “誰かの為に願った末の結末”を、身をもって知ってるんでね」

 

 杏子の言葉に、マミの表情が目に見えて歪む。

 

 情報は武器になる。

 逆に、知りすぎる事は、心を揺さぶる欠点にも成り得る。

 杏子は、其処を突く。

 

「あたしは、死ぬ気は無い。

 そして、魔女を狩る事を、止めるつもりもない。

 その為には、魔女の持つGS(グリーフシード)が必要だ。

 だからあたしは“自分の為”に、魔女を狩る」

 

 自らの意思を示しながら、群雲との念話を続ける。

 

 めんどくさいな、これ。

 

 念話と会話の同時進行に、そんな印象を受けながら、油断なく構える杏子に、まどかが声を掛ける。

 

「あなたは、どうして魔法少女になったの?」

「……それを言うほど、あたし達は親しい仲かい?」

「~っ!?」

 

 群雲の言い回しを真似しながら、杏子は“時間を稼ぐ”事に専念する。

 

「気に入らない……!」

 

 だが、その言葉に反応する者がいた。

 

「せっかく、人を護る力があるのに……!

 なんでそれを、自分の為に使うのさ!!」

 

 美樹さやかである。

 想い人の為に願い、力を得た彼女には。

 自分の為だけという、利己的な使い方が納得できないのだ。

 

「あんた、バカだろ?」

 

 そして、杏子は。

 自身の経験があるからこそ。

 自分の為だけという、利己的な使い方を選んだのだ。

 

「誰かの為に願ったって、それは“自分のエゴ”を押し付けてるだけだろ?

 それに気付かないようなボンクラが、でしゃばるんじゃないよ!」

 

 言葉と共に杏子は、自身の槍を上空に放り投げた。

 後は、群雲が合流するのを待つだけだ。

 

「……なんのつもりよ?」

「あんた程度、素手で充分って事だよ」

 

 不敵に笑う杏子に、飛び掛るさやか。

 投げた武器を囮にして、魔法準備に入る杏子だが。

 二人が交差する瞬間。

 

 

 

 

 

 杏子の槍が、二人の間に落ちてきた。

 

 

 

 

 

「いや、速すぎるだろ、お前」

「それが、必死に駆けつけた相方への第一声かよ?」

 

 突然降ってきた槍に後退するさやかと、地面に刺さったそれを手に取る杏子。

 そして、数瞬後に降り立ったのは、緑の軍服に身を包む魔人。

 軽口を叩きながら、杏子は槍を構え。

 それに背を預けるように立ち、左手から鞘に納まったままの日本刀を取りだす群雲。

 

 突然の来訪者。

 その相手は、自分達を退けた魔人。

 

 巴マミは、自身の周りにマスケット銃を召還し。

 鹿目まどかは、弓を展開して構え。

 美樹さやかは、マミと同じように自分の周りに刀剣を召還する。

 

「……群雲……くん……」

 

 ただ一人。

 マミチームの四人目である“暁美ほむら”は。

 降り立った少年の名を、呆然と呟く。

 

 

 

 

 

 

 その呟きは、誰にも届かない。




********************************************************************************************
次回予告

魔法少女の軋轢
魔人の思惑

戦うが定め 戦うが宿命

魔人の想い
魔法少女の願い

差異が定め 相違が宿命




魔法少女という存在
魔人という存在





生きる者の道筋


三十三章 戦りあうしかない














TIPS 作中設定説明(公式かどうか、調べ切れなかった為)

『ほむらの盾の中身』

ほむらの時間遡行は、ほむらの“魔法(盾にある砂時計)”によるもの
SG(ソウルジェム)が、一緒に遡行している事から“魔法に関わる物”も、一緒に遡行していると思われる
故に“盾の中身は、遡行前と変わらない”としています

アニメでの兵器の量は、いくら時間停止があるとはいえ“一回のループで全てを回収し、全てを使い切っている”とは思えないので


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三十三章 戦りあうしかない

「聞きたい事は色々あるが、一つだけいいかい、先輩?」
「なんだよ?」
「……どちらを相手にする?」
「決まってんだろ、そんなの」


 魔女結界の中で対峙する、魔法少女達(+1)。

 “魔女の脅威から人々を守る為に戦う”マミチームと。

 “自分の為に力を使う事を共通とする”杏子と群雲のコンビ。

 

「こちらの目的は、あくまでも“魔女狩り”であり“魔法少女狩り”ではない。

 無用な戦いを避けるのは、上策ではないかね?」

 

 いつでも日本刀が抜けるよう、逆手抜刀の構えを取りながら、群雲が告げる。

 

[そういや、なんでマミ達の前だと、そんな芝居掛かった口調なんだ?]

[このタイミングで、そんなどうでも良い事で念話するかよ、先輩?]

[いや、気になったもので]

[緊張感、ないなぁ]

 

 目的こそ、GS(グリーフシード)であるものの、ここで必ず手に入れなければならない理由が、二人には無い。

 だからこそ、緊迫した状況ながらも、さして気を張る必要もない。

 

[照れるんだよ。

 元々、女子とまともに会話なんか、した事ねぇんだもの]

[あたしは?]

[今でも、気を抜くと照れる]

[慣れろよ、いい加減]

[結構慣れた方だぞ。

 佐倉先輩限定だけど]

 

 しかし、相手の魔法少女は、そう思ってはいない。

 

[まさか、以前に会った少年と、佐倉さんが一緒に行動しているとは、ね]

[知り合いなんですか?]

[佐倉さんとは、以前に一緒に戦った事があるわ]

[じゃあ、なんで自分の為にしか、戦おうとしないんですか、あいつ?]

[……それが、別れた原因の一つよ]

 

 それぞれの武器を展開し、油断なく構える、三人の魔法少女。

 

 そして。

 

(やっぱりそうだ。

 私が過去に戻る度に、少しずつ状況が変わってる。

 美樹さんが魔法少女になったのも初めての事だし、赤い魔法少女も初めて見る)

 

 暁美ほむらは今回、見滝原中学への転入を、前回よりも遅らせていた。

 自作爆弾の数を増やす為だ。

 加えて“以前の世界で、群雲から渡されたままだった拳銃”の弾を、新たに自作していた為でもある。

 その結果が、現在の状況。

 美樹さやかが、新たに魔法少女となり。

 

 

 

 

 

『……“向こう”の皆に、よろしく』

 

 

 

 

 

 自分の為と言いながらも、その身を削っていた、不器用な少年が。

 

「こちらは、魔女を倒せればそれでいい。

 そちらは、使い魔も討伐対象なのだろう?

 なら大人しく、使い魔を退治していればいい。

 その間に、こちらが魔女を倒して、一件落着だ」

 

 完全に、対峙した状態になっている。

 自分の“時間”と、自分以外の“時間”のズレが、少しずつ……。

 

「おいしいところだけ、持って行こうっての?」

「あんたもやっぱり、GS(グリーフシード)が目的か?

 あたしらと一緒じゃん」

「~っ!?」

 

 ほむらの心情を気にする事無く、状況は刻一刻と変化していく。

 完全に、敵対状態となってしまっている。

 

「まあ、あたしらは自分の為に戦うんだから」

「邪魔するのなら、加減はしないぜ?」

 

 背中合わせに、槍と刀を構える二人は、いつでも動けるように構える。

 

「あんた達みたいな奴を、あたしは認めない!」

 

 それに合わせる様に、さやかの叫びがあたりに響く。

 

「だったら、掛かってきなよ」

 

 杏子が、それに応対する。

 

「譲れないんだろ?

 許せないんだろ?

 だったら、あたしらは戦うしかない」

 

 口の端を持ち上げ、杏子が一歩前に出る。

 

「話も大して通じない。

 互いに譲る気も無い。

 なら……戦りあうしかないよねぇ!!」

 

 杏子の言葉を合図に、戦闘が始まる。

 さやかは、自らの周りにある刀剣を、掴み投げ、蹴り飛ばす。

 それに対して、杏子は一歩も動かずに。

 ……群雲が動いた。

 飛んできた一本目を逆手抜きで弾き。

 右手に刀、左手に鞘の抜刀状態で。

 “両方”を駆使し、襲い来る刀剣を全て弾き落とす。

 

「くっ!」

 

 それを見たさやかは、その手に剣を持ち、間合いを詰める。

 さやかの動きに合わせて、まどかは弓を引き、マミは銃を手に取る。

 

 だが。

 さやかが攻撃を開始した瞬間に。

 杏子は魔法準備に入っており。

 群雲が前に出る事で、時間を稼いで見せた。

 そして、間合いを詰めてきたさやかの横を、群雲が通り過ぎた瞬間。

 杏子の魔法が発動した。

 

 赤いダイヤを繋ぎ合わせた防御結界。

 杏子とさやかだけを見事に分断し、一対一の構図が出来上がる。

 

「来なよ。

 格の違いを教えてやるからさ!」

 

 自らの予定通りの状況を作り上げ、串を咥えたまま、杏子は不敵に笑った。

 

「せめて、二対一なら、やり様があったんだけどな」

 

 刀を鞘に収めつつ、群雲も不敵に笑う。

 

「でもまあ、なんとかするさね」

 

 その手に、黒い放電を起こしながら、一人の魔人が三人の魔法少女と対峙する。

 

[負けるなよ?]

[先輩こそ、足元掬われるようなら、指差して笑っちゃるからな]

 

 念話を交わし、始まるのは殺し合い。

 自分の為に戦う者と、誰かの為に戦う者の、譲れないからこその衝突。

 

 

 

 

 

 

 お菓子だらけの空間で、全ての役者が、舞台に上がる。




次回予告

全ての役者が揃った


一人は、見滝原を守り続ける少女

一人は、守る事で、絶望を味わった少女


一人は、守る事を、心に決めた少女

一人は、救う為に、願いを叶えた少女






一人は、未来の為に戻ってきた少女

一人は、笑う為に今を生きる少年

三十四章 幕は既に上がった


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三十四章 幕は既に上がった

「そう言えば、あたしと琢磨って、どっちが強いんだ?」
「佐倉先輩一択だろ?
 最初に会った時、ボコボコにされたじゃん、オレ」


 佐倉杏子と、美樹さやかが対峙する。

 これ以上の言葉は必要無く。

 後は、行動で示すだけ。

 自分の為に戦うという事を。

 誰かの為に戦うという事を。

 

 

 

 群雲琢磨と、三人の魔法少女が対峙する。

 一人は、後輩を導く、ベテラン魔法少女。

 一人は、誰かの為になる事を喜びとする、心優しき魔法少女。

 一人は、悲劇を変える為に戻ってきた、別時間軸の魔法少女。

 

「話をしよう」

 

 そんな、魔法少女に対するは、魔人群雲。

 自分の為に願い、その力を振るう狂人。

 

「あれは、今から36万……いや、1万年と二千年前から愛している話だ」

「……それ、今必要な事?」

 

日本刀を<部位倉庫(Parts Pocket)>に戻し、軽口を叩く群雲は、後方の結界、その向こう側で戦っている二人の魔法少女を見つめている。

その群雲に対し、油断無くマスケット銃を向けるマミ。

 

「知ってるか?

 八千年過ぎると、もっと恋しくなるらしいぞ?」

 

 戦いは、杏子が優勢。

 さやかは剣、杏子は槍。

 獲物の長さも重要であるが、なによりも戦闘経験が圧倒的に違う。

 特に杏子は“自身の願いによる固有魔法”を、現在封印している。

 その上で、数多の魔女を狩る為に研ぎ澄まされてきた槍術は、契約前に戦闘経験があるわけでもなく、契約後の戦闘経験もさして多くないさやかに遅れを取るはずもない。

 分断が成功した時点で、片側の勝敗は9割方確定したと言っても、過言ではないのだ。

 

 では、もう片方はどうか?

 

「ちなみに、一億と二千年後も続くらしい」

 

 マミが動くなら、あたしも動く。

 以前、杏子がそう言ったように、マミはベテランである。

 加えて、他にも魔法少女が二人いる。

 個々の能力はともかく、連携力が高いのは、以前の邂逅で確認済み。

 故に今、群雲に必要なのは、戦う事ではない。

 

「そんな世界だったら……オレ達は殺しあう必要は無かったのかもしれないな」

 

 相棒が、勝利を確定させるまでの“時間稼ぎ”なのである。

 

「だが現実として、オレ達はこうして対峙している。

 かと言って、オレ自身に戦闘の意思は無い。

 敵意を向けられない限りは、な」

 

 杏子の槍が、さやかをガードごと弾き飛ばしたのを確認して、群雲は魔法少女に向き直る。

 

「君らは何をしたい?

 人々を護りたいのか?

 それとも、得た力を存分に振るいたいのか?」

 

 緑と黒の瞳が、魔法少女達を射抜き。

 口から発せられた問いかけが、魔法少女達を射抜く。

 

「……わたし……は……」

 

 まどかが答えようとするが、言葉が続かない。

 魔女の脅威から、人々を護る為に、戦っている。

 それは間違いないと、はっきり言えるだろう。

 だからこそ。

 この“魔法少女同士が殺しあう状況”は、まどかにとって悪夢でしかないのだ。

 

「答える必要は無いわよ、鹿目さん」

 

 油断無くマスケット銃を構えながら、マミがまどかに声を掛ける。

 そのまま、群雲に対して、その意思を告げる。

 

「仮に、貴方に戦う意思が無かったとしても。

 貴方の後方では、私達の仲間が戦っているわ。

 佐倉さんの実力は知ってる。

 一刻も早く、美樹さんと合流したいの」

「せっかく、喧嘩っ早い二人が向こう側にいるんだ。

 オレ達は、無駄に争う事無く、話し合いで解決しようとは思わないのか?」

「話し合いで解決できるなら、この状況にはならなかったわ」

 

 チームリーダーとして、マミにはさやかを助けなければならないという、責任感がある。

 群雲は、中指を眉間に当て、軽く息を吐く。

 眼鏡があれば、押し上げていたであろうその仕草をしながら。

 

(盛り上げるか!)

 

 群雲は、思考を完全に切り替えた。

 

 

 

 

 

「なら、とっとと引き金を引いて“人殺し”になればいい」

「「「!?」」」

 

 低く、唸るように発せられた言葉に、魔法少女達は息を飲む。

 目的の為に、自分の感情、自分の性格、自分の意思を、完全に隅に追いやり。

 群雲は、口の端を持ち上げながら。

 

 完全に、割り切った。

 

「よーいどん、で始まる殺し合いなんて、存在しない。

 邪魔なんだろう、オレが?

 だったら躊躇い無く「パンッ!」こうやって「きゃあぁ!!」引き金を引けばいい」

 

 言葉の最中。

 一切の前触れ無く、群雲は右腰の銃を取り出して、マミに向けて引き金を引いた。

 流石に想定外だったらしく、弾丸が命中したマスケット銃を落としてしまうマミ。

 

「では、闘劇をはじめよう」

 

 その隙に、右脇のオートマチック拳銃を左手で取り出し、群雲は告げた。

 

「ま、待って!」

「もう遅い!

 幕は既に上がった!!」

 

 まどかの言葉を切って捨て、群雲は両手の銃を構えた。

 

 

 

 

 

 

 佐倉杏子と美樹さやかの、殺しあう音をBGMに。

 鹿目まどかにとっても。

 暁美ほむらにとっても。

 そして。

 群雲琢磨にとっても。

 

 

 

 望まない殺し合いが、始まる。




次回予告

戦う事に慣れる事と

殺し合う事に慣れる事は違う






魔女との戦闘経験が豊富である事

それを、人はベテランと言う





戦う事に慣れる事と

殺し合う事になれる事は違う?

三十五章 時と命は、有限である


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三十五章 時と命は、有限である

「何でお前って、自分の魔法以外は、からっきしなんだろうな?」
「しらんがな。
 才能が無いんじゃね?」
「魔法少女と魔人の違い、とかか?」
「さあね。
 ナマモノが言うには、魔人自体、絶対数が少ないらしいからなぁ」
「ちなみに、自分以外の魔人に会った事は?」
「ないよ?
 魔法少女と同じように、昔の偉人の中に、何人かいるらしいけど」


 さやかと杏子の戦いは、近接戦闘。

 戦闘経験が豊富な杏子が、常時有利な状態が続いている。

 しかし、勘違いしてはいけない事がある。

 それは、杏子が手加減をしていない事。

 殺すつもりで戦っている。

 非道と思うかもしれないが、自らの為の生を望む者にとって、その判断は決して間違ったものではない。

 そして、相手に手心を加えないという事は、戦いに生きる者にとって、なによりも正しい。

 そんな相手を前に、さやかはまだ“負けていない”。

 自身の願いによる、回復能力の高さもあるだろう。

 だが、なによりも。

 

 “心が折れていない”

 

 戦いの運命を選んででも、想い人の為に願った少女は、魔女との戦いを望んでいるのではない。

 人々を護る戦いを、望んでいるのだ。

 

「負けるもんかあああぁぁぁ!!!」

 

 もうしばらく、二人の少女の信念の戦いは、続きそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 対して、魔人と魔法少女の戦いは、遠距離戦。

 正確には、銃撃戦となった。

 チームリーダーのマミは、マスケット銃による応戦。

 魔人群雲は現在、両手に自動拳銃(オートマチックハンドガン)で応戦している。

 まどかとほむらは、その戦いに巻き込まれないよう、少し離れた位置にいる。

 銃を撃ち、弾丸を避ける。

 そんな戦いに介入する事が、いかに危険であるか。

 まどかの武器は弓であるし、ほむらも“前の時間軸”で、群雲から貰った銃がある。

 しかし、マミの銃弾を避ける相手に、自らの攻撃を命中させる事の困難さを、二人は充分に理解していた。

 対するマミも、他二人に魔人の攻撃が向かわないように、自らが矢面に立つ形で戦闘をしている。

 そして群雲は、他二人(特にほむら)の攻撃が、想定できない以上、刀による近距離戦は分が悪いと判断。

 リボルバーとショットガンよりも、弾数と装填のしやすさに優れている自動拳銃で応戦しているのだ。

 

 同系統の武器で戦っているマミと群雲。

 差異こそあれど、その戦闘思考は、かなり似通っている。

 

(私の武器には“狙い(エイム)”と“発射(ファイア)”の手順がある)

(銃の使用には“構える”“狙う”“撃つ”の3アクションを必要とする)

 

((その攻撃を避ける手段を、相手は持っている))

 

((狙う際の銃口の向きを瞬時に判断し))

 

(左右によるランダムな高速移動で、射線から逃れてる)

(周りのマスケット銃を盾にする事で、オレの弾丸を防いでる)

 

 刀剣に比べ、圧倒的な威力と射程があるが、銃の攻撃はあくまでも“直線的”である。

 群雲は<電気操作(Electrical Communication)>による、両足神経操作を駆使し、“狙い(エイム)”と“発射(ファイア)”の僅かな隙に、射線から逃れている。

 マミは、周りのマスケット銃を、群雲と自分の間に位置するように立ち回ることで、飛来する弾丸を予測して防いでいる。

 

 

 

 弾は、無限ではない。

 群雲の銃にも装填数は決まっているし、マミの銃はそもそも単発式である。

 “補充(リロード)”が必要だ。

 マミは、新たなマスケット銃の召還。

 群雲は右手の平の<部位倉庫(Parts Pocket)>からの弾倉の交換。

 当然、互いにその動作の隙を突く事を考えるのだが。

 

((隙を突こうにも……))

 

(使用したマスケット銃の一部を消さず、盾にする事で)

(交換中も、高速移動を止めない事で)

 

((隙を補っている))

 

 ここでも、思考が似通っている。

 

 だが、弾は無限ではないのだ。

 群雲の銃はもとより、マミの銃も魔力によるもの。

 平行線を辿る、現在の戦闘状態では、いずれ尽きるのは必須。

 

(なら、大技を決める?)

(なら、戦闘方法を変える?)

 

((それも、難しい))

 

(大技の隙を突かれたら、終わりだわ)

(銃弾を防ぐ相手に、弾速の遅い電光(plasma)球弾(bullet)では話にならないし、準備(チャージ)中の隙を突かれるだろう)

 

(リボンによる、拘束魔法を使うにしても)

(刀に変えて、距離を詰めるにしても)

 

(ただ発動しただけならば、逃れられてしまう。

 それだけのスピードを、相手は持っているし、日本刀を抜かれては無力)

(後ろ二人の追撃に、対応出来る保障はない。

 一人は弓だしな)

 

 結果、動き回る膠着状態という、異常な状況が出来上がってしまっている。

 だが、このままではジリ貧であるのは、疑いようの無い事実。

 

 魔女結界の中。

 赤い結界魔法で分断された二つの戦い。

 

 先に終わるのは、果たしてどちらか。

 

 

 

 時と命(魔力)は、有限である。

 それを誰よりも知るほむらは、気が気ではない。

 ここでSG(ソウルジェム)が穢れきるような事があれば、それこそ“最悪”でしかないのだ。

 

 ほむらはまだ“魔法少女の真実”を、チームメイトに話してはいない。

 まだ、合流して間もないのもあるが。

 “前の時間軸”で共に戦った魔人が来てから、話をしようと思っていたからだ。

 だが、現れた魔人は、敵対中であるし、話を出来る状況でもない。

 “ワルプルギスの夜”という、超弩級の魔女が現れる事を“知っている”ほむらにとって、予想以上に悪化した状態だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、永遠に続く状況など、存在しない。

 

(盛り上げるか!)

 

―――――魔人が、動く。




次回予告

変化する戦況

譲れないモノの為

二人は、この舞台で舞う




三十六章 魔弾の舞踏


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三十六章 魔弾の舞踏

「お前、どうやって生きたい?」
「また、抽象的すぎる質問だな。
 まあ、オレは笑うだけさね」



―――――魔人が動く。

 

 

 

 

 

 両手の自動拳銃に、新たな弾倉をセットし終えた群雲は、両手の銃を真っ直ぐにマミに向けながら。

 

 マミに向かって、一直線に突き進みだした。

 

「!?」

 

 想定外の行動に、面食らったものの、マミは冷静に次のマスケット銃を手に取り、狙い、撃つ。

 対する群雲は、当る当らないに関わらず、両手の銃の引き金を引き続けながら、直進する。

 

 遠距離での銃撃戦では、埒が明かない。

 

 

 

“なら、近距離での銃撃戦なら?”

 

 

 

 それが、群雲の狙いだ。

 相手が単発式の銃である事。

 こちらは、両手に持つ自動拳銃以外にも、右腰のリボルバー、腰の後ろのショットガンがある。

 

 加えて、銃であるならば、他二人の魔法少女にも対応しやすい。

 

 故に、群雲は両手の自動拳銃の弾を新たに込めた瞬間に、行動を開始した。

 相手の動きを封じるように、両手の銃を乱射し、弾幕を張る。

 時折、群雲の弾とマミの弾が空中で衝突するという、異常な現象を生みながら。

 

 右手の銃が弾切れになると同時に、群雲はついにマミを“射程内”に捉えた。

 

「くっ!」

 

 次のマスケット銃を左手に持ち、銃口を向けるマミ。

 

「ふっ!」

 

 その銃を、右手の弾切れの銃で弾き、銃口を反らす。

 同時に、左手の銃口をマミに向けて。

 

「おっ!」

 

 足元の空のマスケット銃を蹴り上げて、その銃口を無理矢理反らす。

 そして、マミはマスケット銃を新たに生み出し。

 群雲は右手の銃を左脇に戻し、右腰のSAAを抜く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「介入……出来ない……」

 

 その戦いを見守るしか出来ない、まどかとほむら。

 二人の前で、新たな局面を迎える、先輩魔法少女と魔人の戦い。

 

 狙う、反らす、撃つ、狙う、弾く、狙う、反らす、狙う、弾く、撃つ、狙う、反らす。

 一瞬のうちに攻防が入れ替わる、近距離の銃撃戦。

 群雲が、左手の銃を向ければ。マミが、右手で弾く。

 マミが、左手のマスケットを向ければ。群雲が、右手でマスケットを押し上げる。

 群雲が、右手の銃を向ければ。マミが、回転しながら軸をずらし、射線から逃れる。

 マミが、右手のマスケットを向ければ。群雲が、銃口が自分に向く前に叩き落す。

 

 目まぐるしく、攻守入れ替わる攻防。

 むしろ、二人とも銃を使うが為に。

 二人ともが、銃を使いこなすが為に。

 

 “攻撃と防御を同時に行う、近距離の銃撃戦”

 

 いかに、銃口を相手に向けて、引き金を引くか。

 いかに、向けられた銃口から弾が出る前に、射線から逃れるか。

 それはまさに、二人ともが銃使いであるからこその“魔弾の舞踏”であった。

 

 

 

 

 

 だが、二人が使うのは銃である。

 ……弾が尽きるのは必須。

 群雲の左手の銃が弾切れになる。

 それを右脇に戻しながら、右手の銃口を向け、引き金を引く。

 その直前に、マミが空のマスケット銃を群雲の右腕に押し当て、むりやり銃口を反らす。

 放たれた最後の弾丸が、地面に着弾すると同時に、群雲は左手で、腰の後ろからショットガンを取り出す。

 群雲がリボルバーを右腰に戻すと同時に、マミは傍らにある最後のマスケット銃を左手で持つ。

 

 

 

 

 そして、そのまま二人は左手の銃口を相手に向けると同時に、相手の銃身を右手で掴んだ。

 

「!?」

 

 息を呑む音。

 それは果たして、誰のものであったか。

 互いの銃口は、ギリギリのところで、互いの手に阻まれ、その狙いを僅かにずらしていた。

 

(まさか、私の動きにここまでついてくるなんて!?)

(完全にアドリブな動きになるから、<電気操作(Electrical Communication)>による高速行動が使えないとはいえ……完全に互角とか!?)

 

 リボンから銃を生み出し、使い続けてきたマミ。

 契約後すぐに実弾銃を調達し、使い続けてきた群雲。

 

 互いに“魔女”という異形と戦う為に、銃を手にした者であるが故。

 互いに、銃を使い、知る者であるが故。

 

 実力は、伯仲していた。

 

(でも……今なら?)

 

 だが、二人には決定的な違いがある。

 それは、性別の違いでもなければ。

 種族(魔法少女と魔人)の違いでもない。

 

(完全に、動きを止めた今なら……!)

 

 それは“人数”の違い。

 分断された魔人は、今は一人で。

 分断された魔法少女は、三人いるという事実。

 

[待って、鹿目さん]

 

 弓を展開しようとしたまどかに、マミからの念話が届く。

 

[ここは、私に任せてくれないかしら?]

[マ、マミさん!?

 でも!]

[大丈夫よ。

 後輩の前で、格好悪い所は見せられないもの!]

 

 そして、マミは口元に笑みを浮かべる。

 それを見た群雲に、なんとも言えない悪寒が走る。

 そして、その一瞬の後。

 

「なにっ!?」

 

 先程のやり取りで、周りに刻まれたマミの銃創から、黄色い糸が現れる。

 流石に想定外だった群雲は、思わずそちらに気を取られる。

 その一瞬。

 それが、戦いの明暗を分けた。

 

「レガーレ!」

 

 群雲の意識が逸れた瞬間を見計らい、マミは両手を離し、拘束魔法を発動した。

 

「しまっ!?」

 

 群雲が身を翻すより早く、マミのリボンが群雲を捉え、拘束する。

 黄色いリボンが巻き付き、その体を僅かに宙に持ち上げ、群雲の動きは完全に封じられた。

 

(拘束魔法……以前の戦いで使おうとしてたのも、この魔法か!?)

 

 もがきながらも、群雲は状況を打開する為に、思考を展開させる。

 

(刀を抜くのも無理だし、力ずくで脱出も無理、か)

 

「まったく……梃子摺らせてくれたわね。」

 

 マミは、傍らに落ちた最後のマスケット銃を手に取り、周りの空になったマスケットを消す。

 

「美樹さんを助けなければならないの。

 しばらく、そのままでいてもらうわ」

 

 それは、マミの勝利宣言であった。




次回予告

戦いという事象

争いという事象





始まる以上は、終わりがある





それは、変えられない運命





三十七章 帰るけど


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三十七章 帰るけど

「そういえば、見滝原に来てから、ナマモノに会わないな」
「マミ達と一緒なんじゃないか?」
「……あれ?
 それだと、こちらの情報筒抜けじゃね?」
「……むしろ、マミチームの情報を聞き出しとくべきだったな」
「あのマスコット、マジ使えねぇな」


 リボンで拘束された魔人。

 その横を通り過ぎて、杏子の張った赤い結界の前に立つ、三人の魔法少女。

 

(……まいったねぇ)

 

 身動きが取れない魔人は、思考する。

 

(あの状況で拘束魔法が来るのは、想定外だった。

 しかも、拘束した相手(オレ)に、止めを刺さずにスルーか。

 凹むわぁ……)

 

 だが、右手の平は動く。

 まあ、雁字搦めという訳ではないので、当然といえば当然である。

 

(弾丸を取り出して電磁砲(Railgun)で、リボンを撃ち抜くか?)

 

 佐倉杏子との共闘。

 それは、群雲にとって、僥倖だと言えた。

 自分一人では、思い付かなかったであろう、能力の使い方と、その発展。

 今では、指で弾く感覚で電磁砲(Railgun)を使用できるまでに至る。

 電光(plasma)球弾(bullet)より、弾速と貫通力、魔力消費に優れるが、実弾を消費するという欠点があるのだが。

 ちなみに電光(plasma)球弾(bullet)は、着弾と同時に弾ける為、相手を電気で痺れさせ、僅かに動きを束縛する事もあり、単体に使用する事に優れている。

 一長一短である。

 

 

 

(それとも“Lv2”で……)

 

 

 

 だが、その思考は。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いったーーーっ!?」

 

 突然の攻撃により、中断された。

 声を上げた魔人に驚き、振り返る三人の魔法少女。

 その先で見たのは、女性体系の使い魔が、魔人に攻撃している姿だった。

 

 その場にいる全員が失念していたのだ。

 ここが“結界内”であった事を。

 

 自分たちの結界内で、魔法少女が戦っている。

 そして、その内の一人が拘束されている。

 魔女の使い魔が、好機と言えるその状況で、何もしないはずも無く。

 カルテらしきもので、バシバシ叩いている。

 

「ちょっ、いたっ、いたいって!」

 

 ダメージ事態は、たいした事はなさそうである。

 しかし、親の仇でも見つけたかのように、一心不乱にバシバシ叩いている為、拘束しているリボンが破れかけている。

 

「いったいっつーの!

 てめっ、ヨシザワぁ!!」

(((ヨシザワ!?)))

 

 魔人の言葉に、思わず内心でツッコミを入れる魔法少女達。

 しかし、そのまま放置する訳にも行かず、まどかの弓とほむらの銃が同時に、ヨシザワ(仮)を撃退する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、結界が晴れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ないわー」

 

 群雲は思わず呟くと、ボロボロになったリボンから、自力で抜け出した。

 そして、視線を巡らすと、結界が晴れた事に驚く、五人の魔法少女が見えた。

 流石に、突然結界が晴れた為、杏子とさやかも戦闘を中断したらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、帰るか!」

 

 路地裏に、強制的に戻された群雲は、意気揚々とそう言って帰路に着こうとする。

 

「帰るのかよ!?」

 

 真っ先に再起動し、素早く群雲の傍に駆け寄った杏子がツッコミを入れる。

 

「色々と、聞きたい事とか出来たし……。

 何より“これ以上戦う意味は無い”だろう?」

 

 元々、目的はGS(グリーフシード)であり、魔法少女との戦いではない。

 結界が晴れた以上、群雲がここに留まる理由が無いのだ。

 

「締まらない幕引きではあるが……まあ、そういう日もあるっしょ?」

 

 言いながら、群雲は右手の平の<部位倉庫(Parts Pocket)>からGS(グリーフシード)を取り出し。

 

 

 

 それを、マミに向かって投げ渡した。

 

 

 

「……なんのつもり?」

 

 突然の群雲の行動に、訝しげな表情を浮かべるマミ。

 当然といえば、当然である。

 つい数分前まで、極限の凌ぎ合いをしていた相手が、魔法少女にとっての報酬とも言えるGS(グリーフシード)を投げて寄越したのだ。

 警戒するな、という方が無理。

 

「いらないなら、捨ててもいいぞ?

 まあ、そんな事をすれば“被害を受けるのは一般人”だろうけど」

「~っ!?」

 

 眉間に中指を押し当てながら、群雲が告げる。

 GS(グリーフシード)は、魔法少女の魔力回復アイテムであると同時に“魔女の卵”でもあるのだ。

 それを放棄するなど、マミの“性質”的に、ありえないだろう。

 

「それに……佐倉先輩にボロボロにされた、そちらの……美樹先輩……だっけ?

 彼女の治療を優先した方がよくね?」

 

 言われて、マミは慌てて振り返る。

 その視線の先には、剣を杖代わりに体を支えるさやかと、彼女に寄り添う二人の後輩がいる。

 

「これ以上は“オレの為にならない”から、帰るけど。

 佐倉先輩はどうするよ?」

「……やっぱ、性格悪いわ、お前」

「いやぁ」

「褒めてないからな!?」

 

 群雲の言葉にツッコミつつ、杏子は頭を掻いた。

 群雲の言葉は「まだ戦うなら、一人でよろしく」と、言っているのと同義だからだ。

 それを見抜けないほど、杏子と群雲の関係は薄くない。

 そして、この状況で戦い続けるほど、杏子も愚かではない。

 元々、四対一は辛いからと、群雲に念話を送っていたのだから。

 

「じゃ、帰るか。

 てか、晩飯がまだジャン。

 今日は、ビーフストロガノフな気分なんだが、どうよ?」

「お前、さっきはもんじゃ焼きとか、言ってなかったか?」

「記憶にございません事もありません事よ?」

「キモい」

「oh……。

 まあ、オレも言っててそう思った」

「なら、言うなよ」

 

 軽口を叩きながら、二人はその場を後にs

 

「待ちなさい!」

 

 する前に、マミの声が掛かる。

 

[佐倉先輩は、無視して行きな]

[どうするんだよ?]

[前回、あっさり逃げ切ったオレに、それを聞くか?]

[その後、迷ってたじゃねぇか]

[今回は大丈夫。

 結界晴れてるから]

 

 念話をしながら、杏子はそのまま歩いていき。

 群雲は、ショットガンを取り出し、マミに向き直ると同時に、銃口を向ける。

 

「巴先輩は、人殺しをご所望かな?」

「!?」

 

 群雲の言葉に、僅かに動揺を見せるマミ。

 その隙を突き、一気にその場を離れる杏子。

 

「オレ達に構うより、お仲間を治療してやったら?

 まあ、佐倉先輩と戦りあって、まだ生きてるぐらいだし、オレも評価を改めてやらん事もない雰囲気を醸し出そうと、努力してみたりしてもいいかと、今、思いついた」

 

 群雲は、実は適当に喋っているだけだったりする。

 重要なのは、自らに注意を引き付け、その場を離れる杏子の安全を確保する事。

 <電気操作(Electrical Communication)>を駆使した時の自分の逃げ足は、弾丸を避けるほどなのは、ついさっき証明されたばかりであるし。

 

「闘劇を続けるのも構わない。

 貴女と戦うのは、正直良い経験にもなる。

 だが、今は生き残る為に“確実に倒せそうな奴”から、狙うぜ?」

 

 自分の為に。

 自分が生き残る為に。

 群雲がするべき事は“自身への攻撃回数を減らす事”であり。

 それは“魔法少女の頭数を減らす事”になり。

 すなわち“杏子との戦いで傷ついているさやかに、真っ先に止めを刺す事”になる。

 

 もっとも、群雲にその気は無い。

 いざとなれば、前回のように閃光弾でも使って、その場を脱する事も可能だからだ。

 

 だが、その言葉は。

 “倒す事”ではなく“守る事”を信条とするマミに対して、絶大な効果を持ち。

 敵視するのに、充分すぎる効果があった。

 

「……行きなさい」

 

 決して視線を外す事無く、マミはマスケットを下ろす。

 

「賢明な判断だ」

 

 それを見た群雲も、銃口を外し、腰の後ろにショットガンを戻す。

 

「次は、出来る事なら同じ側で、闘劇をはじめたいものだ。

 貴女に背中を預けられたなら、オレm「二度は言わないわ」……ふむ」

 

 群雲としては不服ではあるが、これ以上この場に留まるのは得策ではないらしい。

 まあ、当然と言えば、当然の結果ではあったが。

 

「こちらの目的は、あくまでも“GS(グリーフシード)の入手”であって“魔法少女(貴方達)との敵対”ではない。

 そこだけは、履き違えないで貰いたいものだ」

 

 そう言って、群雲は外套を翻し、その場を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 果たして、この戦いの“勝利者”は、誰であったのか。

 それは、おそらくは、誰にもわからないのであろう。




次回予告

戦いにより、解決する事が、はたしてどれだけあるのか?

話し合いにより、解決する事が、はたしてどれだけあるのか?






それでも、切っ掛けになるのは、確実で

三十八章 見滝原での立ち位置


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三十八章 見滝原での立ち位置

「マミから逃げた後、合流するまで何してたんだ?」
「次の章で語られるんじゃないかな?」
「いやまて、メタすぎるぞ、お前ぇぇ!?」


 教会跡。

 ボロボロの祭壇前で、杏子と群雲は対峙していた。

 

 

 

 

 マミチームとの戦いから一夜明けて。

 この場所で寝泊りしている群雲に会いに、杏子はこの場所を訪れる。

 そして、一日の予定を話し合い、行動を開始する。

 それが、最近の二人の日課であった。

 

 しかし、今は違う。

 一人はみたらしを咥えて。

 一人は眼鏡を押し上げて。

 

 真剣な表情で、対峙していた。

 

「なんで、あのチームにこだわるんだ?」

 

 群雲の問いかけに、杏子は答えない。

 

「……はっきり言って、オレには魔法の才能は無い。

 佐倉先輩みたいに、双眼鏡を強化したり。

 “結界内に一般人がいるかどうかを判断する事”も出来ない」

 

 とぼけさせないように。

 言い逃れができないように。

 群雲は、順を追って、杏子を問い詰めていく。

 

「だが、先輩はそれが出来る。

 それが出来る事を、オレは知っている。

 だとするなら「同じ魔女結界を攻略しようとしていた」ってのが、嘘だって事も見抜ける」

「……あたしが先に、結界にいたって事は?」

「それも、考えにくい。

 仮に、そうだとしたら“佐倉先輩がいるだろう結界内に、あのチームが来る”か?」

 

 駆け出しの時に、色々教わった。

 以前、杏子はそう言った。

 つまり、結界内の一般人の有無を、少なくともリーダーのマミなら確認できるはずだ。

 そして“同族”が中にいるのならば。

 

「わからない、ってのは、ちと考えにくいよな」

「……お前って、変なところで頭が回るよな」

「まあ、義務教育すっ飛ばして、魔女狩りやってるんで。

 自分の魔法才能の無さを、知識と経験で補う。

 と言えば、格好いいんじゃね?」

「じゃあ、格好悪く言ったら?」

「生き汚いんだろ。

 弱いなりに、生きる為に必死」

「立証できない犯罪歴とか、地味に凄そうだよな、お前」

「いやぁ、それほでも」

「褒めてねぇ」

「oh……」

 

 話が脱線するも、群雲の言葉は的を射ている。

 

「最初に“様子見”って言ってたわりには、妙に拘っている様に見えてね。

 一応、相棒やってるオレとしては、真意を知っときたいわけよ」

「じゃあ、コンビ解消するか?」

「……佐倉先輩が“オレと組むのが自分の為にならない”と判断したのなら。

 佐倉お姉ちゃんに嫌われたから、巴お姉ちゃんに泣きついて……ないわー」

「自分で言い出した上で、言い切る前に否定すんな」

「まあ、個人的な意見を言うなら、あの人とは敵対よりは共闘したいけどな。

 もちろん、利害を別にして、だけど。

 マジ、強ぇよ、あの人」

 

 拘束魔法による、完全敗北。

 打破する方法があったとは言え、その前に引き金を引かれていたら、終わっていた。

 敗北は、疑いようが無い事実として、群雲は受け入れ、割り切っている。

 

「話したくないなら、そう言えばいい。

 ただ、ここまで行動した以上は“様子見”のままだと、ちと辛い」

 

 仲は険悪と言っていい。

 杏子とさやかは言わずもがな。

 群雲とマミも、相当なものである。

 まあ、殺し合いをしたのだから、当然ではあるが。

 

「そろそろ、オレ達の“立ち位置”を、明確にするべきじゃないか?」

 

 群雲の言葉に、杏子は考え込む。

 群雲の言う通り、このままの状況を続けていても、意味は薄い。

 少なくとも現状、この見滝原は“マミチームの縄張り”であり、杏子達は“部外者”でしかない。

 

「この街で活動を続けるなら、道は二つしかないだろ?

 向こうの魔法少女と“共闘”するか。

 向こうの魔法少女を“排除”するか。

 このまま、宙ぶらりんな状況だと、満足にGS(グリーフシード)収集とは、いかないだろう?」

 

 今の群雲の言葉は、的確だ。

 だが、本当にそれだけなのか。

 

「……あたしには、お前が結論を急いでいるように見えるが?」

 

 その言葉に、今度は群雲が黙る番だった。

 

「確かにあたしらは、この街にとっては“イレギュラー”だろうさ。

 そんな事は、言われるまでも無く解っている。

 だからこそ、あたしらはこの街の魔法少女がどういう存在なのかを、調べたんだろ?」

「先輩は、リーダーを知ってたみたいだけどね」

「だからこそさ。

 マミを知ってるからこそ、他の魔法少女を調べる必要があったんだろ?

 そして、魔法少女を知るには、接触するのが確実だって言ったのも、お前だ」

 

 新たにみたらしを口に運び、杏子は言葉を続ける。

 

「まあ、マミの信条が変わってないのも確認したし、さやかってボンクラがムカつく奴だって事もわかった」

「ボンクラって……せめて、ろくに覚悟も出来てない夢見がちな出来損ないって言ってあげなよ」

「お前の方がひでぇよ!!」

「なんで、佐倉先輩が怒るの!?」

 

 結局の所。

 いつかの朝と同じで。

 

「まあ、もう少し様子を見るわ。

 あのトーシロが、マシになるようなら、共闘も視野に入れるがね」

「……ん。

 それじゃ、朝飯でも食いにいきますかね」

 

 今の相棒と、敵対する意志が二人に無い以上。

 変わらないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てか、なんでマミにGS(グリーフシード)を渡したんだよ?」

「明確に敵対を決定したのならともかく、共闘するかもしれない相手が、魔力不足で足手纏いとか、笑えねぇよ?

 そもそも、あの結界が使い魔の物だっての、知らんかったし」

「そういう意味じゃ、戦闘前に自分が無能な事を、教えた事になるな、お前」

「いやぁ、照れ「褒めてねぇっての」oh……」

 

 佐倉杏子と群雲琢磨。

 見滝原での立ち位置。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――未定―――――




次回予告

時は僅かに遡り

夜、闇の時間




あるモノたちが

三十九章 狂いきった、二つ


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三十九章 狂いきった、二つ

「随分と、強くなったんだね」
「独りじゃ、思いつかなかった魔法の使い方とか、あったからなぁ」
「でも、結界探知とか、基本的な事は壊滅的だよね」
「言うな、地味に凹むから」
「わけがわからn「わかれよ、それぐらい」それは無理だね」
「キュゥべえェ……」


 赤い魔法少女と、小さな魔人が姿を消した後。

 

 ボロボロになったさやか。

 それを治療するマミとまどか。

 傍らで、それを見守るほむら。

 

「……最悪」

 

 一言、さやかは呟いた。

 

 確かに、さやかにとっては最悪だろう。

 魔人には良い様にあしらわれ。

 赤い魔法少女には惨敗。

 皆を守ると誓ったはずの自分。

 では、今の自分はどうか?

 

「……落ち着いて。

 体に響くわ」

 

 治療を続けながら、マミはなんとかさやかを落ち着けようと、優しく語り掛ける。

 杏子の結界魔法の発動を防げず、魔人との戦いに時間を掛けてしまったマミも、気分が良いとは言えない。

 しかし、先輩としての責任感から、気丈に振舞っている。

 

「そうだよ、さやかちゃん。

 いくら、回復力が高いからって、無茶はだめだよ!」

 

 まどかもまた、たった一人でさやかを戦わせてしまった事に、罪悪感を感じている。

 

(……どういう状況になっているの?)

 

 ただ一人。

 別の時間軸から来たという特異性。

 そして、以前とはまったく違う流れに戸惑うのは、ほむらだ。

 この場で唯一“魔法少女の真実”を知るが故の焦りもある。

 そして、前の時間軸で“最後まで一緒”だった、誰よりも笑うくせに、一度も笑わない魔人。

 ワルプルギスの夜を打倒する策を思い付き、それを実践して見せた、群雲琢磨。

 彼が“敵対関係”である事への、危機感。

 

「一度、私の部屋に行きましょう。

 ここだと、いつ人が来るか、解らないわ」

 

 魔力による応急処置を終わらせて、マミの言葉を合図に、移動を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実は、跡をつけていたりします!」

「誰に言っているんだい?」

 

 離れた所から、先程まで殺し合いをしていた相手が、観察しているなど、四人の魔法少女は夢にも思わないだろう。

 しかも、久しく姿を見せてはいなかった、キュゥべえと一緒に、だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すっげぇ久しぶりだな。

 何話ぶりだよ、お前」

「再会の言葉が、随分とメタいね」

 

 杏子を先に行かせて、自分は後からゆっくりと。

 魔法少女達の状況など、どこ吹く風な、魔人群雲。

 晩飯の為に合流しようとした矢先に、群雲はキュゥべえと偶然再会した。

 

「それで、ナマモノはこの街で、どちらに付くつもりだ?」

 

 変身を解除し、眼鏡を指で押し上げながら、群雲は真剣な声色で問いかける。

 

「何の話だい?」

 

 相も変わらず、一切表情を変える事無く、キュゥべえはそう言ってのける。

 

「誤魔化すなよ。

 オレ達をこの街に向かわせたのは、お前だろう」

 

 そう。

 偶然出会い、行動を共にするようになった杏子と群雲。

 互いに縄張りを持たず、気ままに放浪をしていた二人に「いい狩場があるよ」と、見滝原を推したのは、キュゥべえだった。

 そこに、魔法少女がいる事を、知っていたであろう上で。

 

「オレ達が、目障りにでもなったか?

 それとも、見滝原の魔法少女達が、邪魔になったか?」

 

 変身せずに使える、唯一の魔法<部位倉庫(Parts Pocket)>を、いつでも使用可能な様に、左手を準備しながら、群雲は真剣な表情を崩さない。

 

「わけがわからないよ」

「わからないのは、こちらだよ、ナマモノ」

「僕が君達を呼んだのは、君達が縄張りを持っていなかったからさ。

 縄張りを持たない魔法少女は、誰よりも短命だ。

 GS(グリーフシード)が、安定的に手に入らないからね。

 そして、縄張りを持たない魔法少女が生き続けるには“他人の縄張りを荒らす”しかない。

 その結果、最悪共倒れになってしまうだろう。

 魔法を満足に使えない魔法少女に、魔女を打倒できると思うのかい?」

「不可能じゃないだろ?

 魔法の才能が皆無なオレでも、こうして生きてるんだからな」

「才能が無いんだったら、魔人になる事はなかったんじゃないかな?」

「慣れていただけだろ?」

 

 ゆっくりと空を見上げ、群雲は息を一つ。

 割り切る為に、息を吐く。

 

「で?」

「なんだい?」

「オレ達をここに呼んだ理由は“魔法少女を分散させる為”だろ?」

 

 群雲は本質を突く。

 

「暁美ほむらもイレギュラーだけど。

 キミは、もはや“異物”と呼ぶに相応しいね」

 

 キュゥべえにとって、必要なのはエネルギーの回収。

 それを主軸として考えれば、答えを導き出すのは、容易だ。

 

 

 

 

 

 

 重要なのは、そうやって考えられるかどうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「異物か……。

 まあ、契約前から変わらないな、それは」

 

 そう言って、笑って見せる辺りが、群雲琢磨という存在の定義。

 

「まあ、今回に限っては、キミ達が縄張りを持っていないのが理由だよ。

 この見滝原には、魔女が多すぎる。

 正直、マミ達だけでは、カバーしきれない程の量さ。

 だからこそ、トップレベルの実力者を、ここに呼ぶ必要があったのさ」

「ここの魔法少女と、共闘出来なくても、か?」

「キミ達と、マミ達では、主とする目的が違う。

 住み分けが可能だと思ったんだけどね」

「感情を理解出来ないお前が、予測できる筈がないだろ?

 バカジャネーノ?」

「随分と、酷い言い草だね」

「酷いとか、理解できないくせに、言葉にすんな、ナマモノ。

 とか言ってる間に、マンション前なあたり、オレ達すげぇ」

 

 マミの住む、マンション前。

 いつ来たのかと問われれば、話をしている間に、としか、答えられない。

 

「まあ、オレの行動は変わらないぞ?

 今の状況で、佐倉先輩と敵対するとか、笑えないってレベルじゃねぇし」

「なら、マミ達を敵にするのかい?」

「……そこが、問題なんだよなぁ……。

 仲良くなれそうな気がするんだよねぇ……。

 でも、佐倉先輩も、実は優しいからなぁ……」

「杏子が優しいのかい?」

「お前、マジ、何もわかってないな。

 オレと一緒にいる時点で、優しくないはずがないだろうが」

 

 キュゥべえと、群雲琢磨。

 異常な生物と、異常な人物。

 異質であるが故の、異質な会話。

 

「よし、帰るか」

「わけがわからないよ」

 

 そんな、普通の人から見れば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 狂いきった、二つの会話。




次回予告

それぞれにある願い

それぞれにある想い

光を求め、闇を恐れ







解りあえる為に、必要なモノ

四十章 黒いアレ


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四十章 黒いアレ

「今日は、どうするんだ?」
「気分次第。
 てか、魔女の気配とか「なんとなく、コッチに居るんじゃないかなぁ」的なオレに、何を期待するのさ?」
「ホント、自分の魔法以外はからっきしだな」
「自己中なもので」
「……それ、関係あるのか?」
「知らんがな」(´・ω・`)


 以前の、マミチームとの戦いから、3日。

 結局、これまで通りの行動となった、杏子と群雲。

 基本、一緒に()()()()()ので、今は群雲は一人。

 

「……ボー」

 

 公園のベンチに座り、頭の中を空っぽにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 まどかとほむらは、二人でパトロールしていた。

 

 先日、ほむらは自分の知る“魔法少女の真実”を、皆に話した。

 結果から言えば、信じては貰えなかった。

 SG(ソウルジェム)が、自分達の魂を実体化させた物。

 自分達が戦っている魔女が、魔法少女の成れの果て。

 中々、信じてもらえる内容ではないし、信じたくない内容でもある。

 マミチーム内は、あまり良い雰囲気とは言えない。

 杏子と群雲の存在も、それを加速させていた。

 

 現在は、マミとさやか、まどかとほむらの2チームに別れて、パトロールをしている。

 単独で行動している時に、杏子や群雲と鉢合わせるのは危険だと、マミが判断した結果だ。

 

(……え?)

 

 どうすれば、信じてもらえるのか。

 考え込んでいたほむらは、偶然見つけた。

 

「どうしたの?」

 

 突然立ち止まったほむらに、まどかが問いかける。

 

「あそこ……」

 

 ほむらが指を差した先。

 そこには、黒いトレンチコートを着た、白髪の少年がベンチに座っていた。

 

「あの子が、どうしたの?」

 

 まどかが少年を見て、首を傾げる。

 

「魔人……だと思う」

「……えぇ!?」

 

 ほむらの言葉に、まどかは声を上げた。

 

 ほむらは“以前の時間軸”で“変身していない群雲”を知っている。

 しかし、まどかは“変身した魔人”しか、知らない。

 

「なんで解るの!?」

「……魔力が同じだし……。

 白髪の少年なんて、めったにいないと思う」

「……ほむらちゃん、凄いね。

 私、あの子から魔力なんて、感じないよ?」

 

 繰り返している為、ほむらの方が魔法少女歴は長い。

 その経験の蓄積による物であると同時に、ほむらは“群雲を知っている”のだ。

 

「……話しかけてみる!」

「え……鹿目さん!?」

 

 しばらく少年を見ていたまどかが、意を決して近づいていく。

 同じように、魔女を狩る者なのに、敵対するなんて、おかしい。

 そう考えていたまどかにとって、これはチャンスであると言える。

 

(ちゃんと話せば、きっと解ってもらえる)

 

 無論、恐怖心はある。

 さやかを笑いながらあしらい、マミと強烈な立ち回りを見せた、自分より小さい少年。

 まどかとほむらの二人で、彼に敵うかと問われて、簡単に頷けるはずも無い。

 だが、その恐怖心を超える想いが、まどかにはあったのだ。

 

(険悪な仲だから、話す機会が無かったけど……。

 群雲くんにも、ちゃんと“真実”を話しておかないと。

 もしかしたら、信じてくれるかもしれないし、それを切っ掛けに仲が修復できるかもしれない)

 

 そんな期待を抱き、ほむらもまどかを追い、群雲に向かう。

 だが、二人よりも先に、群雲に接触するモノがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う わ ら ば !」

 

 どこからか、サッカーボールが飛来し、群雲に直撃したのだ。

 顔面にそれを受け、そのまま為す術も無くベンチから転がり落ちる。

 

「うわー!

 ごめんなさーい!!」

 

 たまたま、近くで遊んでいた小学生達が、慌てて駆け寄っていく。

 

「「…」」

 

 突然の事態の変化に、二人の魔法少女は思わず足を止めた。

 仰向けに倒れた群雲は、ぴくりとも動かない。

 マミとの戦いを見ていた二人には、サッカーボールが直撃し、派手に転倒した少年が、本当に同一人物なのか、一瞬疑ってしまう。

 それほどまでに、ギャップがあった。

 そして……。

 

「ぎゃー!」

 

 駆け寄った小学生が、逃げ出した。

 群雲が、仰向けに倒れた体勢のまま、小学生に無言で迫っていったからだ。

 想像して欲しい。

 仰向けのまま、ガサガサと自分に迫ってくる少年。

 しかも、地味に速い。

 

「ぎゃあぁぁ!!」

「わああぁぁぁ!!」

 

 想定外……と言うよりも、想定できるはずも無い状況に、小学生達はパニック。

 一緒に遊んでいたらしい子達をも巻き込んで、逃げ回る。

 それを、仰向けのまま追いかけるという、器用ってレベルじゃない事を披露する群雲。

 

「「…」」

 

 呆然と、その状況を見守るしかない、二人の魔法少女。

 群雲の服装は、基本的に黒で統一されている。

 その為、その動きは、台所とかによくでる、黒いアレを連想させる。

 小学生達が逃げているのも、それが要因だ。

 

 しばらく、追いかけていた群雲は。

 

「めちゃくちゃ疲れるんじゃ、ボケー!」

 

 声を上げながら、立ち上がった。

 

((((じゃあ、しなければいいじゃん!?))))

 

 逃げ回っていた小学生達と、魔法少女達の心がひとつになった。

 あまり、意味はないが。

 

「ったく……。

 遊ぶのはいいけど、周りをちゃんと見ろよ」

 

 いいながら、傍らに転がっていたサッカーボールを、小学生達に向かって、軽く蹴る。

 転がってきたボールを拾い、そのまま全速力で走り去る小学生達。

 

「……せっかく、気持ちよく寝てたのに……」

((寝てたんだ……))

 

 呟き、服の汚れを叩き落とす群雲に、毒気を抜かれた気がする魔法少女達。

 だからだろう。

 

「話がしたいんだけど、いいかな?」

 

 自然な感じで、まどかは群雲に声を掛けた。




次回予告

巡り会うは、同族にして真逆

運命は廻り



命を、運ぶ



四十一章 真っ先に説得するべきは


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四十一章 真っ先に説得するべきは

「なんで、公園のベンチで寝てたの?」
SG(ソウルジェム)の反応が無いと、根無し草なオレは、暇を持て余すもので。
 それでなくとも、明確な魔女の気配とか、察知出来ないし」
「基本だと思うんですけど、それ……」
「魔法少女と魔人の違いなんじゃね?」
(反応を確認しようにも、その都度右目を抉り出すとか、笑えねぇんだよなぁ……)


 魔人が、二人の魔法少女と接触していたのと、ほぼ同時刻。

 

「マジかよ……」

 

 杏子は、マミとさやかの二人と対峙していた。

 冷静に考えれば。

 同じ街で、同じ物(魔女)を狩る為に行動しているのだから、鉢合わせしないはずもないのだ。

 

「まだ、やってんのか……。

 弱いんだから、引っ込んでなよ」

「なんだとっ!!」

 

 杏子の言葉に、さやかが反応する。

 しかし、それをマミが手で静止する。

 

「今日は、あの少年と一緒じゃないのね?」

「あたし達は、あんたらみたいに仲良しこよしの部活感覚で、魔女を狩ってる訳じゃないんでね」

「あんた……私たちをなんだと!」

「落ち着きなさい、美樹さん!

 佐倉さんも、無駄に挑発するのを控えなさい」

 

 マミの言葉に、杏子は鼻で笑い、SG(ソウルジェム)を取り出す。

 

「あんたらとあたし達じゃ、目指す物も、戦う理由も、何もかもが違う。

 どちらも引く気が無いんなら、とる行動は一つだろう?」

 

 杏子の言葉に合わせて、さやかとマミもSG(ソウルジェム)を取り出す。

 

「どうして、そんなにも変わってしまったの……?」

「知ってるだろ?」

 

 マミの悲しげな呟きを、杏子は切って捨てる。

 

「希望と絶望のバランスは同一でなければならない。

 この世界はそうプログラムされてんだ。

 だから、あたしは“誰かの為”には戦わない。

 “返ってきた絶望”は……もう、ごめんだよ」

 

 そして、杏子は変身する。

 振り払うかのように、断ち切るかのように。

 長く、愛用してきた槍を振るい、構える。

 

「しかたがないわね」

 

 マミの呟きと共に、残りの二人も変身する。

 さやかが剣を、マミはマスケット銃を構える。

 

「悪い子には、お仕置きをしなきゃね」

「ハッ!

 足手纏いと一緒で、あたしと満足に戦えるのかよ!」

「美樹さんは足手纏いじゃないわ。

 大切な……仲間よ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、先輩達はオレと、どんな話をご所望かな?」

 

 ベンチに座りなおし、群雲は笑いながら、二人の魔法少女に問いかける。

 

「仲良く……出来ないかな?」

「それは、佐倉先輩を“裏切れ”って事か?」

「ち、ちがうよっ!?

 同じ魔法少女だから、争うのがおかしいんだよ!」

「おかしくないだろ、別に」

 

 まどかの言葉を、群雲は切って捨てる。

 

「魔法少女に限った話じゃない。

 人間(同族)が過去、どれだけの争いを繰り返してきたかは、歴史が証明している。

 自分がボス猿になる為に、他の猿を追い落とす事だってある。

 同じ魔法少女だから、争うのがおかしい?

 なら、人間同士の争いはおかしいか?

 弱肉強食という、自然のルール(世界のプログラム)を否定できるか?

 鹿目先輩は、生まれてから一度も“食事をした事が無い”のかい?

 あぁ、返答は解りきってるから、答えなくてもいいよ」

 

 口元に、笑みを張り付かせたまま。

 そう言ってのける群雲が、まどかには理解できない。

 

「まあ、個人的な意見を言うなら、無理に敵対する理由は、オレにはない」

「っ!?

 だったら!」

「だが、キミ達の方は?

 前にも言ったが、オレが魔女を狩るのは“オレの為”だ。

 そんな奴と、肩を並べて戦えるか?

 そんな奴に、背中を預ける事が出来るか?」

「それ……は……」

「まあ、無理だろうね。

 今すぐに歩み寄るとか出来れば、縄張り争いなんて存在しない。

 何よりも、前提として」

 

 眼鏡を中指で押し上げて静止し、群雲は告げる。

 

「キミ達と敵対しないとしても、他二人の先輩はどうよ?」

 

 最初の出会い、群雲に戦闘の意思は無かった。

 一番最初に手を出したのは“美樹さやか”であったのだ。

 

「鹿目先輩と暁美先輩が、優しい良い子なのは、巴先輩の拘束魔法で動けなかったオレに対して、なんかすげー勢いで叩いてきた使い魔を“巴先輩よりも先”に攻撃し、撃退した事から、理解はしてる。

 だが、それとこれとは別。

 ここに居る三人が仲良くなったとしても“大局”は変わらない。

 仲良くなりたいなら、鹿目先輩が真っ先に説得するべきは、オレじゃない。

 “先輩の仲間”じゃないのかい?」

 

 たとえ、ここで三人が仲良くなったとしても。

 群雲には“佐倉杏子(相棒)”がいるし、まどかとほむらには“仲間(マミとさやか)”がいる。

 群雲が、まどかとほむらに付いても。

 まどかとほむらが、群雲に付いても。

 最初に群雲が言ったように、それは“裏切り”と呼ばれる行為になってしまうのだ。

 

「ごめん……なさい……」

「いや、謝る意味がわからない」

 

 俯いて謝るまどかに、群雲は首を傾げる。

 

「まあ、鹿目先輩が仲良くなりたがってるってのは解った。

 で、暁美先輩も同じような話?」

 

 やはり、群雲琢磨という少年は、異常だ。

 どれほどの絶望を経験したら。

 この小ささで、そのような考えを持つまでに至るのか。

 だが、ほむらにも目的がある。

 以前とは違う、結末を。

 

「聞いて欲しい事があるんです」

「うん?」

「魔法少女の……真実を」




次回予告

人には、立場がある

物には、色々な見方がある

世界は決して、一枚岩では、ありえない







そんな中で

四十二章 キミは、どこに、立ちたい?


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四十二章 キミは、どこに、立ちたい?

「オレ、正義の味方って、ダイキライなんだよね」
「どうして?」
「だって、()()()()()()()()()もん」


「……ふむ」

 

 ほむらの話を聞き、群雲は。

 取り乱すでも、否定するでもなく。

 考え込んだ。

 

「信じて……もらえますか?」

 

 ほむらは、おずおずと問いかける。

 

「……聞きたい事がある」

 

 ほむらの問いを無視し、群雲は自分の問いを被せる。

 

「他二人の先輩にも、話した?」

「はい」

「信じたかい?」

「いえ……信じてもらえませんでした」

「だろうねぇ。

 鹿目先輩は?」

「え……?」

「いや、言わんでいいわ。

 今の反応で、大体解る。

 暁美先輩が嘘を言ってるとは思っていないが、内容が内容なんで半信半疑ってとこか」

「……私って、そんなにわかりやすいのかな?」

「いい子ってことじゃん?

 それが、幸せな事かは知ったこっちゃないが」

 

 言って、群雲は再び考え込む。

 そのまましばらく、三人に沈黙が降りる。

 聞こえるのは、公園で遊ぶ子供の笑い声と、その外を走る車の音。

 

「話を信じれば、理解できる事柄と。

 話を信じても、理解できない事柄があるな……」

 

 五分ほど考え込んでいた群雲は、突然そう言った。

 

「どういうこと……ですか?」

 

 魔法少女の真実を、ほむらは告げたはずだ。

 その事を、きっちり受け止め、割り切ったんだろう事は、今の群雲の言葉から、理解できる。

 だが……それでも浮かぶ疑問とは、なにか?

 

「どちらから、聞きたい?」

「じゃあ、理解できる事柄から」

 

 ほむらの言葉に、群雲は一つ頷き、自分の考えを告げた。

 

「暁美先輩の話は、正直に言って“常軌を逸した”話だ。

 オレ達全員、魔女になるしかないって事なんだからな。

 まあ、人間がいつ死ぬかなんて正確には解らない訳だし、死ぬ運命が魔女になる運命に変わっただけだろ?」

 

 ここで、こう割り切ってみせるのが、群雲琢磨である。

 

「逆に言えばSG(ソウルジェム)が穢れきらない限り、終わる(魔女になる)事はない。

 半永遠の命だよ、やったねまどかちゃん!!」

「は、はぁ……」

「まあ、重要なのはそこじゃないんだけど」

「じゃあ、なんで言ったの!?」

 

 まどかのツッコミに、群雲は満足気に頷きながら、真剣な声色で続けた。

 

「常軌を逸した情報を組み込むには“常識を疑う”のが、一番の近道だ。

 先輩達は“何故、GS(グリーフシード)SG(ソウルジェム)が浄化出来るのか”を、考えた事はあるかい?」

「……え……?」

「まあ、普通はないだろうな。

 “そういうもの”だと、ナマモノに教わっただけだし、普通は疑わない。

 そして、今の疑問に対する答えを、暁美先輩の話が持っている」

「……それは?」

「“魔法少女が、いずれ魔女になる”という事。

 さらに言うなら“魔法少女の魂(ソウルジェム)”と“魔女の卵(グリーフシード)”が“同一の物である”事さ。

 浄化の状況は見た事あるだろ?

 まるで“SG(ソウルジェム)の穢れをGS(グリーフシード)に移し替えてる”みたいじゃないか?

 だから、こう説明できる。

 二つが“同一の物”であると同時に“SG(ソウルジェム)が希望側”で“GS(グリーフシード)が絶望側”であると。

 故に“穢れは絶望側に移り、穢れが溜まれば希望側が絶望側に(かえ)る”とね」

「あ……ぁぁぁ…………」

「鹿目さん!?」

 

 群雲が話を進めれば進めるほど、まどかの顔から色が消えていく。

 群雲の言葉は、ほむらの言葉の補足の役割を果たし。

 魔法少女の真実の信憑性を高め。

 

 自分が、いずれ魔女になる事を、自覚させる事に繋がる。

 

 はっきり言って、まどかの反応の方が正常だ。

 割り切ってしまえる、群雲が異常なのだ。

 

「鹿目先輩、とりあえずベンチに座って。

 暁美先輩は、なんか飲み物でも買ってきて」

 

 冷静に、淡々と。

 言いながら、群雲はまどかをベンチに座らせる。

 

「で、でも……」

「話の続きは後。

 鹿目先輩がこんなんじゃ、続けられないだろ?

 まずは、落ち着いてもらわないと」

 

 まどかが心配なほむらだが、群雲の言う通りでもある。

 慌てて、ほむらは自販機に向かって走り出す。

 

「鹿目先輩、SG(ソウルジェム)出して」

 

 いつしか、顔が真っ青になり。

 体をガタガタと震わせながら。

 それでもまどかは、言われた通りにSG(ソウルジェム)を取り出した。

 見れば、半分近く穢れが溜まっている。

 

GS(グリーフシード)は、穢れが溜まりきると孵化する。

 魔女や使い魔が、人間を襲い、絶望を振りまくのは、穢れを溜める為。

 SG(ソウルジェム)が、オレ達の魂であるのなら“自分の絶望”も“穢れへと変換”されて“自分の魂(ソウルジェム)”に溜まっていく。

 オレ達にとって“絶望”は“死への直行便”だ。

 魔女になりたくないのなら、まずは落ち着け。

 生きたいのなら、希望を持て。

 まだ、幕を下ろすのは早いだろう?」

 

 <部位倉庫(Parts Pocket)>から、ストックしていたGS(グリーフシード)を取り出し、まどかのSG(ソウルジェム)を浄化しながら、群雲は静かに語りかける。

 

「このまま、絶望に負けるなら、それでもいいさ。

 それが、鹿目先輩の幸せなら。

 その絶望を乗り切り、尚も皆を守りたいなら、それでもいいよ。

 それが、鹿目先輩の幸せなら」

 

 絶望に揺れながら、希望を見失わんとする、鹿目まどかの“心を写す鏡()”と。

 絶望に慣れきって、希望を探す事を諦めた、群雲琢磨の“半分だけの鏡()”が。

 

 

 

 

「キミは、どこに、立ちたい?」

 

 真っ直ぐに、相手を映していた。




次回予告

物語は紡がれていく

舞台は、その装飾を変え

役者も、その立ち位置を変える

四十三章 休戦


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四十三章 休戦

「これで、ストックは残り3。
 使い回そうとしても、前提として人の居ない場所が必要だから、新たな魔女を狩らないと、これ以上は見込めないな」



「ちっ!」

 

 杏子は、思わず舌打ちをした。

 

 マミとさやかの二人と交戦中の杏子は、劣勢に立たされていた。

 近接型のさやかと、遠距離型のマミ。

 相性抜群である。

 さやかの動きに合わせて、マミが射撃を行う。

 近接戦闘においては、さやかよりも杏子の方が上である。

 その、さやかの隙を補う形で射撃を行うマミ。

 槍を展開させて、攻撃を凌いではいるが、ジリ貧。

 有効打が思いつかず、いずれは押し切られてしまうだろう。

 

 

 

 

「「「!?」」」

 

 だが、状況は流転する。

 突如、三人全員が悪寒を感じ、同時に動きを止めた。

 

「なに……この感じ……?」

 

 呆然と呟くさやか。

 しかし、他二人は即座に原因に思い当たる。

 

「休戦よ、佐倉さん」

「ああ、ここはマズい」

 

 互いに武器を収め、その場を離れようとする二人。

 だが。

 

「!?

 予想以上に展開が速い!!」

 

 マミの言う通り、ソレの動きの方が、圧倒的に速かった。

 

「この感じって……!?」

 

 ようやく状況に思い当たり、狼狽するさやかだが。

 

「巻き込まれるッ!?」

 

 

 

 近くで起きていた魔法少女の戦い。

 それに引きずられるかのように。

 

 

 

 

 

―――――魔女が、目を覚ます―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着いたかい?」

 

 ほむらが買ってきたサイダーを飲み、群雲は静かに声を掛ける。

 同じく、ほむらの買ってきたココアを一口飲み、まどかは静かに頷いた。

 

「まあ、魔女になるまでは、好きなように生きれば良いとサイダーうめぇwww」

「貴方は……」

「どうした、暁美先輩?」

「どうして貴方は、そんな風に笑っていられるの!?」

「落ち着けっちゅうに。

 言うほどストックないのよ、マジで。

 鹿目先輩に使ったのも孵化直前だし、この上で暁美先輩にもってなると、放置して逃げるぞ、オレ」

「~っ!?」

「てか、話を振ってきた暁美先輩が感情的になってどうするのさ?

 内容が内容なんだから、その辺も考えてもらわないとやっぱサイダーうめぇwwwww」

「だから!!」

「落ち着けっての。

 泣くのも、怒るのも、笑うのも。

 どうしようもない時に、するものだろう?

 だったら笑えよって、そう想うだけだよ」

 

 眼鏡を押し上げながら、群雲は笑ってみせる。

 どうという事はないのだ。

 群雲にとって、死ぬのと魔女になるのは、完全に同義。

 

「いつ死ぬかなんて、知ったこっちゃない。

 いつ魔女になるかなんて、知ったこっちゃない。

 オレはただ、オレの為に、オレを生きる。

 それしかないし、それしか出来ない。

 だた、それだけの事だよ」

 

 そう言って、サイダーを飲み干す。

 二人の魔法少女はただ呆然と、そんな魔人を見詰めている。

 

「そう言える辺りが、僕らが異物と呼ぶ所以だよね」

 

 そんな三人の元に現れる、全ての元凶。

 

「キュゥべえ!?

 貴方……!」

「はい、先輩方、落ち着けぇ~♪」

 

 掴み掛からん勢いの二人を、魔人が鼻歌交じりに押し留める。

 

「オレが話をするから、先輩達は黙ってなさいな。

 落ち着いて話が出来るのって、現状オレとナマモノだけだろう?」

「事実をありのまま知って、そんな反応をするのは琢磨ぐらいだよ」

「本邦初だよ、やったね琢磨ちゃん!

 …………きめぇ」

「わけがわからないよ」

「まあ、それはそぉいしといて。

 色々と聞きたい事があるんだが。

 むしろ、小一時間問い詰めたいんだが」

「残念ながら、ゆっくり話をする状況じゃないんだよね」

 

 感情の無いソレは、事実をありのままに伝える。

 

「魔女が結界を展開した。

 マミ、さやか、杏子の三人の傍で」

「「「!?」」」

 

 予想外の情報に、全員が息を呑む。

 

「三人とも、結界に捕らわれているみたいだね。

 それぞれの仲間に、テレパシーを送ろうとしていたけど、聞こえたのは僕だけだったみたいだ」

「信頼度最底辺だったが、今だけ見直してやるよ、ナマモノ。

 場所は解るか?」

「もちろんだよ。

 その為に、僕は来たんだからね」

「パーフェクトだ、ナマモノ。

 お礼に孵化直前のGS(グリーフシード)をやろう」

 

 先程、まどかのSG(ソウルジェム)を浄化したモノを渡しながら、群雲は二人の魔法少女に向き直る。

 

「話をするのは後回し。

 てか、先輩達は戦える状態かい?」

 

 精神状態の事を、言外に問いかける。

 かなり不安定なのは、間違いない。

 だが、二人ともが真っ直ぐに頷く。

 誰かの為に戦うからこそ。

 仲間の危険に、心を奮い立たせるのだ。

 

「なら、行こう。

 今はひとまず、一時休戦って事で」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな……よりにもよって…………!?」

 

 結界に捕らわれ、現れた使い魔を見て、マミは呆然としていた。

 そんな彼女を余所に、各々の武器を振るう、杏子とさやか。

 

「ひとまず休戦だ。

 この感じ……かなり強力な魔女だぞ!」

「あんたに言われなくても解ってるわよ!

 マミさんもあんなだし……まどか達からの返答もないし……。

 流石に、この状況であんたと戦りあうほど、あたしも馬鹿じゃない!!」

 

 使い魔を撃退しながら、杏子とさやかが声を掛け合う。

 黒い塊に、錆びたアームの付いたような、そんな使い魔を薙ぎ払いながら、二人はマミを守るように身構えた。

 

 

 

 

 

 騒音を撒き散らす使い魔。

 その(あるじ)である魔女はかつて、巴マミが敗走した相手である。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――銀の魔女 その性質は“自由”――――――――――




次回予告

忘れてはならない

魔法少女は希望を

魔女は絶望を







忘れてはならない

魔女は人を陥れ

魔法少女はそれを止める








忘れてはならない

魔法少女を生み出したモノと

魔法少女ではないモノを

四十四章 今は協力してもらうわよ









TIPS 巴マミと銀の魔女(まどマギPSPのマミルートにて

巴マミが魔法少女になって間もない時期に、交戦
願いによる魔道具『リボン』しかなかったのと、圧倒的な経験不足により、巴マミは敗走
一般人の男の子が、魔女の犠牲となる
この経験を糧とし、巴マミはリボンからマスケット銃を造り出す術を得るも、銀の魔女の気配を見失ってしまい、再戦する事無く、現在に至る

果たしてこの魔女が、同一の魔女なのか
それとも、使い魔から成長したものなのか


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四十四章 今は協力してもらうわよ

「あんたら、なんで一緒にいるのよ?」
「利害が一致しただけだよ。
 それに……」

「貴方たちは、どうして一緒に居るの?」
「利害が一致したからな。
 それに……」

「「自覚はないだろうけど、優しいから」」


 魔女結界を進む、三人の魔法少女。

 状況は、良くない。

 

 まず第一として、相性の問題がある。

 銀の魔女の使い魔。

 その騒音波の持つ魔力は、対象の動きを迫害する。

 近接型であるさやかは言わずもがな。

 スピード型である杏子にとっても、その騒音波は、厄介極まるものである。

 唯一、相性が良いと思われるマミは、動きに普段の精彩さがない。

 まだ、魔法少女になって間もない頃。

 マミは一度、この魔女に敵わず、逃げ出している。

 その過去は、確実にマミの心に影を落としているのだ。

 

 近接戦闘が、不利である為、三人の魔法少女は遠距離攻撃を選択する。

 しかし、マスケット銃が戦闘においての主力であるマミはともかく、他二人が火力不足。

 さやかの武器は剣。

 召還しては投げるを繰り返すしかない。

 杏子の武器は槍。

 同じく、召還しては投げるを繰り返す。

 

 杏子には他にも、槍を地面から召還し、相手を串刺しにする魔法が使える。

 しかし、相応に魔力を消費する為、現在は自粛している。

 

 奥から感じる魔女の気配が、かなりの大物である事も、理由の一つだ。

 使い魔戦で魔力を浪費した結果、魔女と満足に戦えないのでは、意味が無いのだ。

 火力不足を手数で辛うじて補いつつ、三人は最深部を目指す。

 

「一度退くってのも、一つの手だと思うがな」

「そういう訳にはいかないわ」

 

 使い魔との戦闘がひと段落した時に、杏子が提案するも、マミはそれを却下した。

 見滝原を守る魔法少女にとって、魔女や使い魔を放置するのは、選択肢には無い。

 

「放置しろって言ってる訳じゃねぇよ。

 他の仲間と合流してから、改めて来ればいいんじゃねぇのかって話」

 

 対して杏子は、必ずしも魔女を倒さなければならない理由は無い。

 杏子がマミ達と行動を共にしている理由は二つ。

 使い魔との相性の問題から、共闘した方が生存率が上がる事。

 結界の展開に巻き込まれた形である為、出口が解らない事だ。

 

「その後、あんたはどうすんのさ」

「お前らが戦うんだろ?

 だったら、あたしは手を出さずに帰るさ」

 

 だからこそ、さやかの質問に杏子はこう答える。

 はっきり言って、杏子にとってはこの魔女と戦うメリットが薄いのだ。

 無理してここの魔女と戦うぐらいなら、他の手頃な魔女を探す。

 そう考える程度には。

 

「でも、今は協力してもらうわよ。

 進むにしても退くにしても。

 現状、単独行動が危険なのは、理解しているんでしょう?」

「まあ、な。

 でなきゃ、ここにいないよ」

 

 マミの言葉に、杏子は渋々ながらも同意する。

 

「魔力の波動が近くなっているわ。

 魔女まで、あと少しのはずよ」

 

 マミの言葉を合図に、三人は魔女結界を進む。

 主の元を目指して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、妙だよなぁ……」

 

 キュゥべえに案内された魔女結界の入り口前。

 眼鏡を外し、それをコートのポケットに入れながら、群雲は呟いた。

 

「なにが、ですか?」

 

 変身完了したほむらが、群雲の言葉に反応する。

 右目を撫でた後、その手を振り上げ、自分の前に境界線を引くように、勢い良くその手を振り下ろす。

 まるで、場面が切り替わるかのように、群雲は変身を完了させた。

 

「さっきの話。

 理解できない事柄」

 

 僅かに前髪が持ち上がることで、顕わになった両目を向けながら、群雲は質問に答える。

 

「魔法少女が魔女になる。

 なら、見滝原にはそれだけ多くの“魔法少女がいた”のか?

 オレと佐倉先輩は“余所者”だが……。

 基本、魔法少女は“一つの街に一人”だろう?

 でなきゃ、縄張り争いなんて、有り得ないんだから」

 

 魔法少女の真実。

 それは“見滝原の魔女の多さ”を説明するには至らない。

 

「使い魔が成長して、魔女になったんじゃ?」

「その場合、主人となる魔女と“同じ”になるはず。

 だが少なくともオレは“同種の魔女”とは、戦った記憶がない」

 

 同じく変身を終わらせたまどかの質問に、群雲は否定という名の答えを示す。

 

「なにを隠してる?」

 

 見下すように、群雲はキュゥべえを睨み付ける。

 それに合わせるように、まどかとほむらも疑惑の眼差しをキュゥべえに向ける。

 

「流石の僕も、すべての魔女を把握している訳ではないよ」

 

 そんな視線など無意味であるように、キュゥべえはいつもの調子で言葉を紡ぐ。

 口は、一切動いていないが。

 

「見滝原の魔女の多さを危惧したからこそ、僕は琢磨達にこの場所を勧めた訳だし」

「……まあ、今はそれは置いておくさ」

 

 魔法少女の真実。

 それを知った今、三人がキュゥべえの言葉を、素直に聞く事は無いだろう。

 

「さて、行きますかね」

 

 思考を切り替えた群雲を先頭に、三人は魔女結界に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれが、この結界の魔女か」

 

 最深部、まるで朽ち果てた立体駐車場のようなそこで。

 遠くを見つめるように佇む、魔女が居た。

 

「ここまで来られたんだ。

 少しは認めてやるよ、トーシロ」

「……あたしは、美樹さやかよ」

 

 どこからか取り出したスティックチョコを咥えながら、杏子はさやかに残りを差し出す。

 若干不満そうではあるが、それを受け取るさやかを横目に、マミはゆっくりと歩き出す。

 

「今度こそ……必ず!」

 

 

 

 

 

 

 銀の魔女 ギーゼラ

 

 対するは、黄色と赤色と青色の魔法少女。




次回予告

希望により生まれる
それが、魔法少女

絶望により生まれる
それが、魔女








魔法少女という希望を


魔女という絶望に堕とす








それこそが

四十五章 spiral of despair


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四十五章 spiral of despair

「人間よりも、魔女の方が活きがいいと思わないか?」
「その表現が出るあたりが異物だよn「そぉい!」ぎゅっぷい!?」


 魔女結界最深部。

 そこの魔女と対峙するのは、三人の魔法少女。

 

「ちっ!

 硬いな!!」

 

 金属音と共に、自身の槍が弾かれるのを見て、思わず杏子は舌打ちをする。

 幸いなのは、銀の魔女の動きが鈍重である事。

 ゆっくりと、腕と思われる部分を持ち上げ、杏子と同じように接近戦を行っているさやか目掛けて振り下ろす。

 

「遅いっ!!」

 

 その腕の軌道を読みきり、さやかは横に飛んで避ける。

 その合間を縫うように、マミの銃撃が魔女を襲う。

 

(……おかしいわ)

 

 周りに、新たなマスケット銃を召還しながら、マミは違和感を感じていた。

 

(以前に戦った時よりも、硬い……。

 佐倉さんや美樹さんの攻撃だけでなく、私の銃弾まで弾かれてる)

 

 以前、戦った時よりも、マミは成長している。

 それは、疑いようの無い事実。

 では、魔女は成長しないのか?

 答えは“否”である。

 そして、それはすなわち……。

 

「一気に決めるわ!

 二人とも、下がって!!」

 

 思考を切り替え、マミは巨大なマスケット銃を造り出す。

 それに合わせ、前線で戦っていた二人が、その射線の外へ避難する。

 

「ティロ・フィナーレ!」

 

 巨大なマスケット銃による砲撃。

 それから逃れられるほど、銀の魔女の動きは速くはない。

 いくら、防御力が高くとも、それに匹敵する高火力技ならば、通らない道理は無い。

 

「!?」

 

 だが、一撃で倒せるとも限らない。

 砲撃による爆煙の中から、変わらない鈍重な動きで姿を現す、銀の魔女。

 

「はあああああ!!!」

 

 その魔女に対し、真上から剣を振り下ろすさやかと。

 

「まだまだぁぁぁぁ!!!」

 

 下から突き上げるように、槍を構えて突進する杏子。

 二人の攻撃が同時に、銀の魔女に突き刺さる。

 

 マミとさやかはチームである。

 杏子はかつて、マミと共闘していた事がある。

 さやかと杏子は、殺し合いをした仲である。

 

 そして、彼女達は“魔女を狩る者(魔法少女)”であるのだ。

 奇しくも、これまでの経験から、連携力は決して低くは無い。

 このままならば、いずれ押し切る事が出来るだろう。

 

「「「!?」」」

 

 そう、()()()()であったなら。

 

 まるで、自分の黒い体を削ぎ落とすかのように。

 銀の魔女は、使い魔を召還した。

 杏子とさやかにとって、相性の悪い使い魔を。

 

「うぜぇ!!」

 

 自分の周りに召還された使い魔を、魔女もろとも攻撃する為、杏子は槍を展開し。

 

「このぉ!!」

 

 同じように、自分の周りに召還された使い魔を薙ぎ払う為に、自身も回転するさやか。

 マミは、マスケット銃を使い捨てながらの援護射撃。

 だが。

 魔法少女が使い魔を倒すより、魔女が使い魔を生み出す速度の方が速い。

 

[二人とも、一度退いて!

 砲撃でまとめて仕留めるわ!]

 

 マミの念話を合図に、二人は使い魔の攻撃を掻い潜り、マミの傍に帰還する。

 

「え……?」

 

 振り返ったさやかは、予想外の事態に、思わず動きを止めた。

 先程まで、黒い塊であったはずの、銀の魔女。

 だが、今はまるで別物。

 むしろ、その名に相応しい銀色の輝き。

 その場に居た三人全員が、銀色のバイクを連想しただろう。

 そして、まるでそのイメージに添うかのように。

 後方に飛び上がりながら、さらに変形する。

 

「まさかっ!?」

 

 声を上げた杏子のみならず、その場に居た全員が、魔女の次の行動を予測し、回避行動に移る。

 予想通り、高速で一直線に駆け抜ける魔女。

 自身の使い魔を轢き殺しながら。

 

 辛うじて、轢かれる事は無かったものの、全員が対応に遅れを見せた。

 魔女の動きが、先程とは雲泥の差であるからだ。

 

「はやっ!?」

 

 まるで自分を縛るものが無くなったかのように。

 自分の使い魔を轢き殺した事など、どうでもいいように。

 ガシャガシャと音を立てながら、魔女は走り回る。

 ……足と思われる、二本の棒で。

 

「こわっ!?」

 

 一々リアクションを声に出す辺り、さやかは感情に正直な少女である。

 まあ、巨大な銀色のバイクベースのロボットが。

 マラソンをするかのごとく、走り回っていたら、普通に怖い。

 そして、速い。

 

「狙いが、定まらない!?」

 

 通常の射撃ならともかく、大技を決めるには相手の動きは速すぎた。

 状況を打開する為、三人それぞれが魔女と距離を離そうとして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぇ~ん、ままぁ~~!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聞いてはいけない声を聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな……」

 

 かつて、マミが銀の魔女に敗走した際に、助ける事が出来なかった、男の子。

 決して、忘れる事は無く。

 決して、忘れる事が出来ず。

 何度その声(悪夢)聞いた(見た)かも解らないほどに。

 

 

 

 

 

 

 それは、魔法少女となった巴マミの、絶望の原点。

 

 

 

 

 

 

「ばかっ!

 なにやってんだ、マミ!!」

「マミさん、逃げてぇ!!!」

 

 その泣き声は、杏子とさやかには()()()()()()()()

 だが、マミには確実に届いていたのだ。

 それは、奈落へと誘う、絶望の(spiral)螺旋回廊(of despair)

 

「あ」

 

 マミが声を上げた頃には。

 銀の魔女は目前に迫り。

 その腕を振り上げ終わった時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その腕が振り下ろされる。

 一人の魔法少女を、其処へと叩き落す為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいだらぁー!」

 

 突如飛来したソレが、銀の魔女の腕に直撃した。

 それは、振り下ろされる腕の軌道を逸らし。

 ギリギリのところで、巴マミへの直撃を避けた。

 

「!?きゃぁぁぁぁ!!!」

 

 だが、その勢いを殺しきる事は出来ず、振り下ろされた腕の風圧と、腕が地面に激突した際に起きた衝撃波で、マミは真横に吹き飛ばされる事になり。

 

「いったーーーっ!?」

 

 考えなく突進していったソレは、予想以上の硬さによる激痛で、悲痛な声を上げながら転がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごく……硬いです……」

 

 額から流れる血を拭いながら、群雲は立ち上がった。

 右手に持つ弾丸を指で玩びながら、周りを見渡す。

 

 倒れている巴マミ。

 それに駆け寄っていく、美樹さやか。

 使い魔の攻撃を掻い潜り、群雲へと向かう佐倉杏子。

 群雲を追いかけてきた、鹿目まどかと暁美ほむら。

 

 辛うじて轢き殺されず、騒音波を撒き散らす銀の魔女の使い魔。

 そして、再び黒い塊へと変化する銀の魔女。

 

 異物の介入があったとしても、戦闘が中断される訳ではない。

 

「まいったねぇ」

 

 呟く言葉と裏腹に、その口元を吊り上げるのは、介入した異物。

 

[みなさん!

 私に掴まって下さい!!]

 

 ほむらの念話が、頭に響き渡る。

 それを聞き、魔法少女達がほむらの元へと集い。

 

「怖いよぉ~、ままぁ「うっさい」」

 

 同じようにほむらへと向かう際、聞こえてきた声の元(魔女のスピーカー)に、群雲は電磁砲(Railgun)を叩き込んで黙らせた。

 

「泣き叫ぶだけで救われるのなら。

 ()()()()()()()()()んだよ」

 

 その呟きは、誰にも届かないままに。

 全員が自分に触れた事を確認したほむらが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時を止めた




次回予告

見滝原に存在する、魔女を狩る者達が

ついに、集結する

四十六章 ジョーカー


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四十六章 ジョーカー

「この程度で恥ずかしがるなよ」
「無茶言うな!
 そもそも、普通に会話しているようで、意外に無理してんだよ、オレ!」
「……仮に、裸を見たり、見られたりしたら、どうなるんだよお前」
「何の躊躇いも無く、全力で逃げる!!」
「ヘタレだなぁ」
「魔法少女達は、自分達の可愛さをもっと自覚するべき、そうするべき。
 でなければ、オレの精神が羞恥でマッハ」


 時の止まった世界。

 

「な、なんだこれ!?」

「これが、暁美さんの魔法。

 “時間停止”よ」

 

 世界に戸惑う杏子に、マミが静かに答える。

 

(なんつー反則的な……。

 こいつが後ろに控えているのは、この魔法が理由か。

 完全な切り札(ジョーカー)じゃねぇか)

 

 ある種の畏怖を抱えながら、杏子は顔を僅かに引きつらせた。

 それに気付かない暁美ほむらは。

 

「……顔……上げないで下さいね……」

「hai!!」

 

 僅かに頬を染めながら、足元に居る群雲に声を掛けていた。

 

 時の止まった世界。

 その世界の状況。

 

 今、世界で動けるのは6人。

 暁美ほむらを中心として。

 右手を掴むのは、巴マミと佐倉杏子。

 左手を掴むのは、鹿目まどかと美樹さやか。

 そして。

 

 素早くほむらに掴まる為、ヘッドスライディングをして、その左足を掴んだ群雲琢磨。

 顔を上げたら、その視界に入るのはスカートの中身。

 左足を掴み、うつ伏せになった状態で、群雲は清々しいほどの返事を返した。

 

「それで、ここからどうするんだ?」

 

 杏子の質問に、ほむらは視線を逸らした。

 

「皆の安全しか、考えてなかったから……」

 

 時間を止めただけ。

 次の一手はないらしかった。

 

「このまま、魔女を放置して帰るとか「ありえないわね」ですよねー」

 

 地面に顔をつけたまま、群雲が呟いた言葉を、マミは即座に否定した。

 

「でも、どうするんですか?」

「むしろ、今のうちに作戦会議でもすればいいじゃん?」

 

 まどかの疑問に、さやかが提案する。

 

「それって、あたしらも戦力に入れてるのか?」

「そりゃそうでしょ。

 この状況で、尻尾巻いて逃げんの?

 そもそも、出口知らないでしょ?」

(オレ、解るけどなぁ……)

 

 結界に巻き込まれた三人はともかく、群雲達は入り口から入っている。

 まどかとほむらは、その点を伏せている。

 そして、群雲もそれを言わずに黙したまま……うつ伏せで。

 

「無性に審議したくなったんだけれど」

「メタいぞ、マミ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 閑話休題。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの魔女、かなり硬いよ。

 あたしの剣どころか、マミさんの銃もそこまで効いてなかったみたいだし」

「黒い塊を削ぎ落としながら使い魔を産んで、最終的には裸になったみたいな感じだったわ」

「琢磨の突撃で攻撃が逸れた所を見るに、防御を落として速度を上げたって感じか」

「マミさんの“ティロ・フィナーレ”でも、ダメだったんですか?」

「黒い塊のままだと、効果は薄そうね。

 でも、裸になればわからないわ」

(タクマです。

 体勢的に、会話に参加できないとです。

 タクマです…タクマです……タクマです………)

「なら、もう一度裸に出来れば、突破口が?」

「囮でも使うか?」

「だ、ダメだよ!

 囮になる人って、使い魔に囲まれるって事でしょ?」

「使い魔召還の瞬間に、時間停止で逃げ出す……とか?」

「一回の召還で、裸になるとは限らないわよ?」

「仮に裸に出来たとしても、周りの使い魔をなんとかしないと、満足に動けないんじゃ?」

(タクマです。

 年上のお姉さん達が、普通に裸とか言っちゃってます。

 タクマです…タクマです……タクマです………)

「仮に、裸に出来たとして、だ。

 その後の攻めはどうする?」

「私と鹿目さんなら、広範囲の魔法があるから、使い魔ごと魔女に攻撃できるわ」

「使い魔さえいなければ、あたしが攻勢に出てもいいぞ?」

「あたしも、行くよ」

(タクマです。

 存在感がありません!

 タクマです…タクマです……タクマです………)

「要は、魔女が裸になるまで、時間を稼げれば良いわけだな」

「佐倉さんには、何か策があるの?」

「おい、琢磨。

 お前、囮役な」

「そうだと思ったよ、コンチクショウ!」

「か、顔を上げないで!」

「ひでぶ!」

「ほ、ほむらちゃん落ち着いて!

 ほむらちゃんと離れたら、時が止まっちゃうよ!」

「躊躇いなく、頭を踏みつけたな。

 さすがのジョーカーだ」

「男の子に、スカートの中を覗かれるよりは、マシじゃないかしら?」

「……収集、つかなくない?」

 

 

 

 

 

 

閑話休題。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まず、琢磨一人で魔女を相手取る。

 魔女が使い魔を召還し、裸になった所で、マミとそっちのピンクが「鹿目まどかです」……まどかが広範囲攻撃で、使い魔を一掃。

 あたしとボンクラが「美樹さやか!」……さやかが追撃する。

 ジョーカーが「暁美ほむら……です」……ほむらが後方で控えて、不測の事態の時は時間停止でリカバリーをかける。

 作戦概要は、こんな感じか?」

「その子が囮で大丈夫なの?」

「琢磨、いけるよな?」

「……そう言われて、無理ですなんて答えられんでしょ。

 佐倉先輩って、意外にどSだよね」

「誤解を招く事言うな。

 お前なら“Lv2”を使えば、それぐらい楽勝だろ?」

「……後、任せる事になるけど?」

「それぐらい解ってるよ。

 まずはあの魔女を倒す事が、最優先だ」

「時間が動きます!」

 

 作戦を確認した所で、時間停止が解除される。

 同時にそれぞれが、役割の為に動き出す。

 さやかが左へ、杏子が右へ。

 ほむらが後ろに下がり、その前にまどかとマミ。

 そして、魔女に向かって真っ直ぐに歩き出す群雲。

 

「使い魔を召還させ、魔女が裸になるまでの囮役か」

 

 両手の中指をこめかみに当て、群雲は言ってのける。

 

「別に、時間を稼ぐのはいいが。

 アレを倒してしまっても構わんのだろう?」

「多分、無理だから。

 でなきゃ、あたしらがマミチームと協力なんてしないし」

「ですよねー」

 

 軽口を叩きながらも、真剣な眼差しを崩さない。

 群雲の両手から、黒い放電が起こり、それに合わせるかのように、前髪にも放電が起こる。

 

「作戦は決まった!

 こちらの準備も整った!!」

 

 群雲の言葉を合図に、反撃が始まる。

 

 

 

 

 

 

「では、闘劇をはじめよう」




次回予告

ハジマルは、戦いの軌跡

誰より自由な、魔人の演舞

後ろに控える魔法少女の為

なによりも、自分の為に





魔法のレベルを、一つ上へ





四十七章 Electrical Overclocking


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四十七章 Electrical Overclocking

「皆、魔法の名前ってどうやって決めてるんだ?」
「マミの奴は、一人でコツコツ考えてたらしいが」
「……誤解を招く事を言わないで頂戴」
「群雲くんは、どうなの?」
「直感」


「え……?」

 

 それは果たして、誰の呟きであったか。

 少なくとも、杏子と群雲以外であったのは間違いない。

 

 前髪を放電させながら、魔女に向かって歩いている群雲。

 その体が、瞬きをする程度の一瞬で。

 

「前蹴りィィィィィィィィ!!」

 

 既に、魔女への攻撃を開始していたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人が、体を動かす事。

 それは、簡潔に言えば“脳からの電気信号”によるものである。

 

 

 <電気操作(Electrical Communication)>

 群雲の持つ両手のグローブ、両足のブーツは、電気を発生させる。

 その電気で、神経を刺激し、強制的に動かす。

 両足のブーツからの高速移動。

 両手のグローブからの、逆手居合。

 脳からの電気信号よりも近く。

 脳からの電気信号よりも速く。

 脳からの電気信号よりも強く。

 故にそれは、群雲の知る“限界”を超える動き。

 

 その“電力”を上げ、繰り出されるのが電光(plasma)球弾(bullet)であり電磁砲(Railgun)である。

 電気信号の出力を上げて、電気そのものを肉体の外へ。

 そうして繰り出されるのが、群雲の“魔法”である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「硬っ!?」

 

 無造作に繰り出した前蹴りの感触から、群雲は思わず声を上げた。

 さやかの剣、杏子の槍、マミの銃弾。

 それらを弾いてみせる黒い塊が“ただの前蹴り”で、どうにかなる訳でもなく。

 蹴られた事など意に介さず、その腕を振り上げる魔女。

 

「いや、遅いから」

 

 そして、振り上げた腕の上に立つ群雲。

 

 

 

 

 

 

 

 

 脳からの電気信号。

 右手からの電気信号。

 左手からの電気信号。

 右足からの電気信号。

 左足からの電気信号。

 

 それぞれが、独立した“発生器官”である為に。

 脳が発する指令速度以上の動きを見せる。

 時に、反射神経を手足が凌駕する。

 それが、群雲の魔法。

 

 

 

 

Lv1.<電気操作(Electrical Communication)>

 

 

 

 

 

 では、それを()()()()()したらどうなるか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 人間は、基本的に能力を抑えている。

 それは、自分が“壊れるほど”の動きをさせないようにする、防衛本能である。

 

 

 

 

 では、その本能を遮断する電気信号を送ったとしたら?

 本能を押さえ込む“理性的な電気信号”が造り出せるとしたら?

 

 

 

 

 

 

 

 “全ての命令を凌駕する電気信号を、脳に集中させ、発信する事が出来たなら”

 

 

 

 

 

 

 

 狂う事を恐れず、壊れる事も厭わず。

 

 

 

 

 

 余計な事など、考えず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただ、自分の想うがままに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 <操作収束(Electrical Overclocking)>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが、Lv2。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと、召還……裸じゃねぇし」

 

 周りに現れた使い魔を“瞬時に把握”し。

 

「まだ、やらないとダメかね?」

 

 杏子の横で、呟いた。

 

「横に来た瞬間、突風が起こってるから。

 少しは加減しろ、馬鹿」

「無茶言うなし。

 そもそも“Lv2”自体、ほとんど使ってないんだから。

 加減の仕方なんぞ、わかるかい」

 

 口元の血を拭いながら、群雲は不満を漏らす。

 

「もう、このままの状態で逃げ出したら、絶対逃げ切れるぞ、マジな話」

「それじゃリターンにならんだろうが」

「ですよねー。

 てか、使い魔がうるさくて、ぶっちゃけ近づきたくないんだけど」

「さっさと行けよ、囮役」

「ちくしょー!

 佐倉先輩の、綺麗好きーーー!!」

「はいはい」

 

 電気信号を脳に収束させ、群雲は動き出す。

 収束された電気信号は、従来の速度を遥かに凌駕し、群雲の肉体を動かす。

 故に、今の群雲の動きは、人間のそれではない。

 

「うっさいんじゃ、ボケー!!」

 

 超速の前蹴りで、使い魔を蹴り飛ばす。

 騒音波による悪影響を“認識する前に電気信号で遮断”して、群雲は左手から日本刀を取り出して、抜き放つ。

 

 <操作収束(Electrical Overclocking)>による、脳の処理速度の増大により、全ての動きが高速化している今。

 <電気操作(Electrical Communication)>による、高速肉体操作プログラム『逆手居合 電光抜刀』は、意味を成さない。

 故に、剣術の心得がない現状では、群雲に“抜刀術”は使えない。

 武器を持ち、思うがままに振り回すだけである。

 右手の刀が、魔女の腕を狙い。

 

「キレテナーイ!」

 

 斬れなかった。

 かなり硬いようだ。

 そのまま、左手の鞘で使い魔を。

 

「キレ……ターッ!?」

 

 使い魔は斬れた。

 

「どういうことだと思う?」

 

 一瞬の攻防を終わらせて、さやかの横で問いかける群雲。

 

「知らないわよ!

 てか、何してんのか、わかんないわよ!!」

 

 突然、現れた群雲の問いに答えるなどできないだろう。

 さやかだけではない。

 誰一人、群雲の動きを、完全に捉えられてはいないのだ。

 

「使い魔よりも、魔女の方が硬いのは当然かね?」

 

 一瞬で、刀で使い魔を切り裂いた群雲が呟いた。

 

 そう、魔女を含めて。

 

 ほんの数瞬前まで、自分の横で質問していた少年が、次の瞬間には使い魔を切り裂いている。

 そんな、状況。

 

[聞いてもいいかしら?]

 

 そんな、群雲の独壇場を見つめながら、マミは杏子に念話を送る。

 

[あの力を使えば、あの子は私達を簡単にあしらえたんじゃないの?]

[まあ、出来ただろうな]

 

 杏子も、さして隠さずに答える。

 

[色々と理由はあるだろうが。

 琢磨は殺す必要があるなら、一切躊躇わない。

 逆に、殺す必要が無いなら、絶対に殺さない。

 そういうやつだよ]

[殺すだけの価値が、私達に無かったと?]

[多分、逆だ。

 ()()()()()()()()理由が無かったんだよ。

 琢磨が魔女を殺すのは“GS(グリーフシード)を手に入れる”為だけだ。

 絶望を振りまくからとか、人々に仇なすから、なんてのは理由にならない。

 逆に、琢磨には基本的に“魔法少女を殺す理由”がないんだ]

 

 さらに言うのであれば。

 群雲は、基本的に“戦う事を好まない”のである。

 “生きる事=GS(グリーフシード)の入手=魔女狩り”の図式が出来ている。

 故に“生きる事=魔法少女を殺す事”にならない限り、群雲は殺しはしない。

 

 もっとも、必要であると判断したならば、躊躇う事など皆無だが。

 

 群雲琢磨の優先順位は、実に単純。

 

1.自分が笑う事

2.自分が生きる事

 

 それだけである。

 

 

 

 

 

 

 

 故に、最初の邂逅では、手を出されてから刀を抜いた。

 次の邂逅では、銃を向けられたから、銃を抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[裸になったぞ]

 

 いつの間にか、マミとまどかの後ろ。

 ほむらの横に立っていた群雲が、魔法少女全員に、念話を送る。

 気付いた魔法少女達が見た先には。

 再び銀色に輝く魔女と、周りに居る2体の使い魔。

 

[じゃ、後はよろしく]

 

 口元の血を再び拭いながら、群雲は役者交代を要請した。




次回予告

それは、希望と絶望のぶつかりあい

希望に進む魔法少女と

絶望に沈む魔女との







どちらが残り、振り撒くかを決める為の聖戦

四十八章 魔の法


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四十八章 魔の法

「全員が揃ったのはいいけど……この展開は意外だったね」
「まあ、僕らの目的は最初から最後まで変わらないけど」


 銀色に輝く魔女。

 その周りに佇む使い魔。

 

 群雲琢磨は、その役割を見事に果たして見せた。

 ならばこそ、それに続かなければならない。

 

「いくわよ、鹿目さん!」

「はい!!」

 

 次の一手の為、二人の魔法少女が動く。

 

 

 

 飛び上がり、両手を広げる巴マミ。

 その周りに、次々に現れる、無数のマスケット銃。

 

 弓を展開し、力の限りに弦を引く鹿目まどか。

 魔力により形成された矢が現れ、桃色の炎が揺らめく。

 

 繰り出されるは、魔法。

 リボンより生み出されし、マスケット銃の一斉射撃。

 繰り出されるは、魔法。

 放たれた矢が弾け、眼下へ降り注がれし雨。

 

「降り注げ! 天上の矢!!」

「パロットラ・マギカ・エドゥ・インフィニータ!!」

 

 魔女を狙い、放たれた“魔の法”は。

 使い魔を巻き込み、討伐へと駆け巡る。

 

(いや……すげぇな)

 

 ほむらのさらに後ろで。

 その場に座り込み、状況を見守る群雲が思考する。

 

(手にする事無く、射撃が出来るマスケット……。

 あれ使われてたら、前回で死んでたんじゃね、オレ?)

 

 自分が銃を使い、相手も銃を使う。

 どちらも“自らの手で引き金を引いていた”からこそ。

 あの立ち回りは成立していたと言える。

 だが、今のように。

 触れる事無く射撃が出来たのなら。

 

 

 

 

 

 一発で充分だったはずだ。

 

 

 

 

 

(あんな魔法が使えたのなら、戦術の幅が広がるだろうなぁ……。

 まあ、オレには使えないんだけど)

 

 湧き上がる鉄の味を噛み締めながら、群雲は思考を続ける。

 

(放たれた矢が弾ける……。

 どんな散弾弓だ、それ)

 

 上空から降り注ぐ形の為に、放たれたであろう矢。

 それを、真っ直ぐに撃ち出したのなら。

 

(それこそ<オレだけの世界(Look at Me)>や<操作収束(Electrical Overclocking)>じゃないと、回避は難しいだろうな。

 <電気操作(Electrical Communication)>じゃ、対応しきれる気がしない)

 

 冷静に、淡々と。

 自身の状態を思考の外に出して。

 群雲琢磨は思考する。

 

 

 

 

 

 

 

「相変わらず、派手だな、マミの奴」

 

 手を合わせ、その場に跪き。

 教会の祭壇前でそうするかのように。

 杏子は、祈りを捧げる形で呟いた。

 

「使い魔は一掃された。

 なら、後は魔女を倒すだけ」

 

 そうは言うが、事は簡単ではない。

 使い魔に苦戦しているのに、その主を容易に倒せる道理はないからだ。

 だがそれは、攻め手を緩める理由にはなりえない。

 

「うおおぉぉぉりあぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 二人の攻撃が終わる頃を見計らい。

 さやかが上空から気合と共に魔女に迫る。

 魔法で上空に足場を作り、それを全力で蹴る。

 その勢いと重力が合わさり、一気に急降下。

 両手でしっかりと剣を握り、全開の斬り下ろし。

 

 それは、確実に魔女を切り裂く。

 が、致命傷までには至らない。

 近くに降り立った形のさやかを排除しようと、魔女が腕を振り上げ。

 

「させるかよっ!!」

 

 振り下ろすより前に、杏子の魔法が発動する。

 魔女の足元から、巨大な槍が現れ、一気に突き上げる。

 

 

 

 

 魔人から繋ぐ、魔法少女達の怒涛の攻撃。

 それは、確実に魔女を追い詰めていく。

 

 

 

 

 しかし、追い詰められたら大人しくなる。

 そんな、絶望の使者など、存在しない。

 

 

 

 

 後方へと飛び上がりながら変形し、着地する魔女。

 

「ちっ!

 またか!!」

 

 慌てて回避行動をとる魔法少女達。

 ……ただ一人を除いて。

 

 魔女が突進を開始する瞬間。

 盾が展開し、その内部が90°回転する。

 

 そして、時が止まる。

 

 暁美ほむらの時間停止。

 今、彼女だけが動ける世界で、最後の一人が攻撃を開始する。

 

 魔女が突き進むだろう“ルート”を計算し。

 盾の中から自作の爆弾を取り出し、並べていく。

 爆発で、魔女の動きを止められるように。

 確実に、魔女を爆発に巻き込めるように。

 

 

 

 以前の彼女では、出来なかったかもしれない行動。

 だが、今は違う。

 ただ、守られるだけだった“以前”とは、一緒である訳にはいかないのだ。

 

 その為に彼女は契約したのだから。

 

 

 

 

 

 魔法が解除され、時は動き出す。

 その瞬間、魔女が“爆弾へ”突進を再開する。

 或いは、魔女に轢かれて。

 或いは、起爆装置が起動して。

 “一瞬で現れた爆弾達”が、一斉に爆発を開始した。

 

「時間停止か!?

 さすがのジョーカーだ!!」

 

 爆発の海に呑まれた魔女を見ながら、杏子が槍を手に立ち上がる。

 

「相っ変わらず、びっくりするわ!」

 

 文句を言いながら、体勢を整えるさやか。

 

 立ち上る黒煙の中から。

 それでも倒れる事無く姿を現わす、銀の魔女。

 ボロボロになりながら、それでも“自由”に駆け回らんとする、絶望の権化。

 

 杏子が槍を構え。

 さやかが剣を手に取り。

 マミがマスケット銃を構え。

 ほむらが、盾の中から銃を取り出し。

 まどかが弦を引き、矢を形成する。

 

 五人の魔法少女に狙われながら。

 それでも、一歩を踏み出した魔女に、影が差す。

 それに気付き、見上げた魔法少女達の視線の先。

 魔女の丁度真上から、魔人が最後の攻撃を開始する。

 

 

 

「ロードローラーだ!!」

 

 <部位倉庫(Parts Pocket)>から取り出したそれを、全力で叩き落す。

 想定外の質量に押し潰される魔女。

 そして、それに向けて一斉に攻撃を開始する魔法少女。

 まどかが矢を放ち。

 ほむらとマミが引き金を引き。

 さやかと杏子が、手にした武器を投擲する。

 

 再度、起こる爆発、立ち上がる黒煙。

 そして、ゆっくりと、収束する魔女結界。

 

 黒煙すらも、結界と共に消えていく。

 

 それは、魔法少女の勝利を意味していた。




次回予告

戦いが終わり、全てが万事うまくいく

そんな、優しい世界であったのならば





そもそも、魔女は存在しない





それでも、希望を捨てる必要は無い

残ったのは、魔法少女なのだから

四十九章 今回みたいに、これからも


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四十九章 今回みたいに、これからも

「そもそも、なんでロードローラーなんて持ってんだよ?」
「魔人に成りたての頃は、自分の“魔の法”の仕組みがちんぷんかんぷんだったもので。
 その時、偶然収納したんだが、取り出すタイミングを見失ってました。
 てへぺろ♪」
「キモい」
「oh……知ってたけど」


「やったぁ!」

 

 結界の晴れた、郊外の廃ビルの一角。

 手を取り、喜び合うまどかとほむら。

 

「お疲れ様」

「ホントだよ」

 

 マミに声を掛けられ、どこからか取り出したスティックチョコを咥えて、杏子が返事をする。

 

「でも、あの子と佐倉さんが居なかったら、私達はもっと苦戦していたわ。

 もしかしたら、勝てなかったかもしれない」

「……それは、こっちも同じさ。

 あたしや琢磨だけじゃ、無理っぽかったし」

「だけって……。

 あんたら、仲間じゃないの?」

 

 マミと杏子の会話に、さやかも加わる。

 

「利害の一致。

 あたしと琢磨を繋ぐのは、その一点だけさ」

「寂しく、ないの?」

「どうかな?

 琢磨なら「慣れてるからな」とか、答えそうだが」

「あんたは?」

「あたしは……自業自得さ」

 

 スティックチョコを二本取り出し、マミとさやかに差し出す。

 

「くうかい?」

 

 

 

 

 

 

「群雲くん!?」

 

 まどかの声が、辺りに響き渡る。

 それに合わせて、全員が群雲に視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チーン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな効果音がぴったりな状態。

 群雲は、真っ直ぐうつ伏せに倒れていた。

 

「あぁ~……」

 

 状況を理解し、杏子が群雲に近づく。

 しかし、それより先に、まどかとほむらが群雲に駆け寄った。

 

「だ、大丈夫!?」

「ヴァー」

「な、何か凄い鳴き声出してる!?」

「鳴き声って……。

 鹿目さん、落ち着いて」

 

 群雲の傍でおろおろしているまどかに、杏子が声を掛ける。

 

「気にするな。

 いつもの事だから」

「いつもの事って……」

「ヴォー」

「戦うたびにって訳じゃない。

 “Lv2”を使った時は、いつもそうなるってだけだ」

 

 

 

 

 

<操作収束(Electrical Overclocking)>

 

 電気信号を収束させる。

 その為、群雲の動きは常人のそれを、遥かに凌駕する。

 

 だが、あくまでも強化されているのは“電気信号”だけ。

 肉体が強化されている訳ではない。

 

 その反動は、想像に難しくないだろう。

 

 

 

 

「さて、そろそろ御暇するかな」

 

 そのまま、群雲の足を掴んで、杏子は立ち去ろうとする。

 

「ヴヴヴヴヴヴヴ」

 

 うつ伏せのままの群雲を引き摺りながら。

 

「ま、待って!」

 

 その背中に、まどかが声を掛ける。

 

「協力出来ないかな?

 今回みたいに、これからも」

 

 杏子は、その言葉に動きを止める。

 

「……あたしらとあんた達「ヴァー」うん、ちょっと黙れ「ウボァー」」

 

 自分の言葉に、鳴き声(?)を重ねてきた群雲を、杏子は足で踏みつける。

 

「や、やりすぎじゃない?」

「いいんだよ、こいつはこんな扱いで」

 

 さやかのツッコミに、サラッと返す杏子。

 しかし、どうにも毒気を抜かれた感じがするのは、群雲のせいだろう。

 新しいスティックチョコを咥えて、杏子は振り返る。

 

「今回は、たまたま強力な魔女で、自分達が生き残る為の共闘だった。

 違うかい?」

「今後、それ以上の魔女が来るとしたら……どうですか?」

 

 杏子の言葉に、ほむらが質問を被せてきた。

 

「この街に“ワルプルギスの夜”が来ます」

 

 その一言で、周りの空気が張り詰める。

 

「……なぜ、わかる?」

「協力してくれるのなら……お話しま「ヴォー」……」

「うん、ホント、黙ってろ」

 

 そして、群雲の鳴き声(?)で、張り詰めた空気が緩む。

 

「……今は琢磨がこんなんだし、話の続きは今度でいいか?」

「出来れば、速い方がいいわね。

 佐倉さん達が協力してくれるのなら、それを前提に訓練したいし」

 

 マミの言葉を、杏子は脳内で反復する。

 

(どうやら、マジで来るらしいな。

 極力、後輩魔法少女に戦わせていたのも、それが理由か)

 

 マミチームの魔女狩り風景を観察していた杏子。

 マミ自身が後ろに控え、さやかやまどかに戦わせていたのは、経験を積ませる為だと考えられる。

 それを見ていたのだ。

 

「明日、教会に来な」

 

 琢磨を背負い、杏子は告げる。

 

「学校があるだろうから、来れるとしたら放課後ぐらいだろ?

 あたしは、もしかしたら居ないかもしれないが、琢磨は確実に其処に居る。

 後は、念話なり送ってくれればいい。

 場所は……マミなら知ってるよな?」

「何故……あの場所に?」

「雨風が凌げるから。

 あたしはほとんど居ないけどな」

 

 父親の、元教会。

 それは、杏子にとっては思い出の場所である。

 

 良くも、悪くも。

 

「じゃあな」

 

 群雲を背負ったまま、杏子は別れを告げ、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[起きているか?]

[もちろん]

 

 教会に戻る道中。

 杏子は背中に背負った群雲に念話を送り、群雲も念話で返事をする。

 

 限界以上の動きにより、今はまともに動かせない肉体。

 だが、念話は別だ。

 

[そんなわけで、教会にいろよ?]

[大丈夫。

 まず間違いなく、明日はほとんど動けないから]

[しかし……最強と称される“ワルプルギスの夜”とはね……]

[逃げるってのも、選択肢じゃね?]

[お前はどうする?]

[明日の話次第、かねぇ?

 さっきの魔女戦でこんな状態になるオレが、ワタガシアメの夜の相手になるか?]

[ワルプルギスだ]

[まあ、相手の魔女がどういう存在なのか、ぶっつけ本番なのは“いつもの事”だが。

 勝ち目無さそうなら、逃げるぞ、オレ]

[まあ、お前はそういう奴だよな]

[佐倉先輩はどうよ?]

[あたしは……話次第、だな]

[おや、てっきり共闘よりかと]

[…………まあ、敵対するよりは共闘した方がいいのは、今回で痛感した。

 二人で、あの魔女に勝てたか?]

[やり方次第じゃね?

 まあ、苦戦したのは、間違いないわな]

[そうだな]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[そう言えば、あの魔女のGS(グリーフシード)って、どうなったんだ?]

[うん?

 もちろん<部位倉庫(Parts Pocket)>に収納済みですが、なにか?]

[そうだよな。

 お前ってそういうやつだよなぁ!]

[ちょ、落ちるっ!?

 オレ、今、動けないんだって!!]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[なあ、琢磨?]

[うん?]

[あたしがマミチーム四人と会って、お前に念話を送った日]

[巴先輩に惨敗した、あの日か]

[随分合流が早かったが……ひょっとして“Lv2”を使ったのか?]

[……はて、なんのことやら]

[……………………ばか]




次回予告

それは、魔法少女の役割

それは、魔女の在り方

それは、魔人の生き様











五十章 Raison d'être


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五十章 Raison d'être

「一つ聞きたい。
 <電気操作(Electrical Communication)>を使えば、動けるんじゃないのか、お前?」
「動けるだろうね。
 その分、体の回復が遅れるだろうけど」


「ここが、佐倉さんの指定した教会よ」

 

 見滝原の郊外に、ひっそりと存在する協会。

 いや、教会()()()場所。

 

 以前この場所が、一家心中事件の現場であった事も。

 その一家の一人が、現在も行方不明の上に、大して捜索されていない事も。

 

 時の流れが、無常に、確実に、風化させていく。

 

 その場所に、マミチームが全員集合していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銀の魔女を倒す為、共闘した翌日。

 マミを先頭に、四人は約束の場所を訪れた。

 時は放課後。

 空が、茜色に染まる時。

 

 ゆっくりと、扉を開けた魔法少女達が見たのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チーン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 相変わらずの、魔人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 協会の中心、祭壇の前。

 真っ直ぐうつ伏せの群雲は、扉の開いた気配を感じて。

 

「ヴォー」

「また!?」

「むしろ、まだその状態かよ?」

 

 鳴いてみた。

 まどかとさやかのツッコミが来た。

 

「ヴァー」

 

 群雲は、喜びを表現してみた。

 魔法少女達は、ガチで引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話をしに来たんだけど?」

「ヴァー」

「……佐倉さんに、念話を送ってくれないかしら?」

「ヴィー」

「流石に、この状態じゃ話が出来ないんじゃ?」

「ヴゥー」

「群雲くん……大丈夫なのかな?」

「ヴェー」

「あまり、大丈夫には見えませんね……」

「ぶぅるあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「吼えた!?」

「何でよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来てたのか」

 

 そんな、くだらないやり取りをしている間に、杏子が教会に現れる。

 その手に持つ紙袋には、りんごが詰められていた。

 

「くうかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“ワルプルギスの夜”

 

 曰く、結界を持たぬ者。

 曰く、天災の正体。

 

 様々な憶測、推測が“ソレ”を中心として飛び交う。

 されど、確実な事がひとつ。

 

 

 

 

 

 曰く、最強最悪の魔女。

 

 

 

 

 

 

「未来から来た……ねぇ……」

 

 暁美ほむらの独白。

 

 ワルプルギスの夜による、見滝原の壊滅。

 生き残った自分と、キュゥべえとの契約。

 その際に得た、過去へと戻る魔法。

 

「信憑性は、低い「ヴァー」うん、黙ってろ、マジで」

 

 変わらず、鳴き続ける群雲を完全に放置したまま、魔法少女達は会話を続ける。

 しかし、ほむらの言葉は、あまりにも突拍子が無い。

 現状、その言葉の全てを信じているのは、ほむら本人。

 そして、先日の公園での会話から、まどかは信じている。

 群雲「ヴァー」……地の文に割り込むな、マジで。

 

 さやかは否定的な意見。

 マミは、ほむらが未来人だとは信じてはいない。

 が、ワルプルギスの夜に関しては、見滝原を守る者として、放置する事は出来ない。

 

 そして、話を聞いた杏子は。

 

「信じられる証拠も無ければ。

 信じられない証拠も無いな」

 

 半信半疑。

 

「仮に“未来から来た”から、それを“知っている”のなら。

 その“強さ”は“魔法少女に打倒出来るレベル”なのか?」

 

 故に、杏子は疑問をぶつける。

 それを判断材料にする為に。

 

「倒す事は、可能だと思います」

 

 眼鏡越しに、真っ直ぐに杏子を見ながら。

 ほむらは言う。

 

 実際、ほむらは“以前の時間軸”で、ワルプルギスの夜討伐を成し遂げている。

 その代償が“まどかの魔女化”であった為、ほむらは“その先”に行く理由を失った為に、時間遡行したのだが。

 

「さて、琢磨はどう思う?」

 

 紙袋からりんごを取り出し、それを放り投げる杏子。

 いつの間にか、椅子に座っていた群雲は、それを手に取り、りんごに噛り付く。

 

「ひはいほむほむはへふほひへ」

「うん、飲み込んでから話せ、馬鹿」

 

 杏子のツッコミを受け、群雲は咀嚼し、飲み込んだ後。

 眼鏡を中指で押し上げながら、言葉を紡ぐ。

 

「未来うんぬんは別として。

 正直な話、オレには“最強の魔女と戦う理由”が、ないんだよねぇ」

 

 その言葉は、その場にいた魔法少女達の考えの、斜め上をいっていた。

 

「もう、言い飽きるぐらいに言いまくってるけど。

 オレは“オレの為”に魔人やってるわけで。

 ぶっちゃけ“見滝原がどうなろうと、知ったこっちゃ無い”んよ」

 

 群雲琢磨の、存在理由。

 その全ては、群雲琢磨に収束する。

 

「相手が魔女であるなら、オレには戦う理由がある。

 だが、勝てない相手に挑むほど、オレには戦う理由がない」

 

 今んとこね。

 そう締めくくり、群雲は再びりんごに噛り付く。

 

 “以前の時間軸”において。

 群雲は“マミチーム”だった。

 故に、ワルプルギスの夜と死闘を繰り広げるが故の“理由”があった。

 

 “現在の時間軸”において。

 群雲は“完全に余所者”だった。

 故に、ワルプルギスの夜と死闘を繰り広げるだけの“理由”がない。

 

「佐倉さんはどうなの?」

 

 りんごを食べる群雲を隅に置き、マミが杏子に語りかける。

 

「本当に“ワルプルギスの夜”が来るのなら、私達は敵対している場合ではない」

「オレとしては“共闘”を勧めるけどね」

 

 そこに、まさかの群雲の援護射撃。

 その場にいる全員が、群雲に視線を集中させる。

 

「……」

 

 その視線を浴び、群雲は……照れた。

 尤も、その姿ゆえに、非常に分かりにくくはあったが。

 一つ、咳払いをして、群雲は割り切り、言葉を続けた。

 

「ワルプルギスの夜が来るから、見滝原から逃げる。

 それも確かに“オレ達”にとっては、選択肢の一つだけど」

 

 それは、マミチームにとっては選択肢には成りえない。

 だが、現状”余所者”である二人にとっては、充分に選択肢に成り得る事。

 

「でも、佐倉先輩の性格的にはどうなの?

 尻尾巻いて逃げる?

 まあ、佐倉先輩がそうしたいなら、止めはしないさ。

 それが、佐倉先輩の幸せなら」

 

 そう言って、群雲は笑う。

 

―――――遠い。

 それが、鹿目まどかの感想。

 

―――――不気味。

 それが、暁美ほむらの感想。

 

―――――からっぽ。

 それが、巴マミの感想。

 

―――――造りモノ。

 それが、美樹さやかの感想。

 

―――――泣きそう。

 それが、佐倉杏子の感想。

 

 

 

 

 

 

 

 それでも、オレは、笑う。

 それが、群雲琢磨の―――――Raison d'être。

 

 




次回予告

余所者

イレギュラー

地球外生命体





異物

五十一章 把握していない項目


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五十一章 把握していない項目

「それでもオレは。
 お前自体はそれほど嫌ってはいないんだよな」
「そうなのかい?
 大抵の人間は、認識の相違を僕らのせいにするけど」
「願いを叶えて貰ったのは、間違いないからなぁ……。
 対価を高いと見るか、安いと見るか……。
 或いは、人間が夢を見すぎているだけなのかもな」


 ひとまずの、休戦。

 

 それが、マミチームと、杏子と群雲コンビの出した結論だった。

 

 

 

「それで」

「なんだい?」

 

 マミチームが帰路に着き、杏子が夜の街へ繰り出した後。

 「今日は流石に動くのは辛い」と言って、独りで教会に残った群雲。

 最前列の椅子に横になり、会話する相手は異生物(キュゥべえ)

 

「この街に“ワルプルギスの夜”が来るのは、本当か?」

「なぜ、それを僕に聞くんだい?」

 

 祭壇の上で、無表情に群雲を見つめるキュゥべえ。

 

「お前は言ったよな?

 “見滝原には魔女が多い”と。

 それはすなわち“魔女の存在(グリーフシードの場所)を、ある程度は把握してる”って事だ。

 でなければ、オレ達を見滝原に招いたりはしないだろ?」

 

 これまでに得た情報。

 それは、キュゥべえに対する不信感を煽るには、あまりにも充分すぎる。

 だが、群雲はそれを“割り切って”話をする。

 ―――――自分の為に。

 

「全てを把握している訳ではないよ。

 孵化する前のGS(グリーフシード)を回収するのも、僕の役目だからね。

 ある程度は知っておかないと、魔法少女を導く事は出来ない」

 

 キュゥべえの言葉を聞き、群雲は思考する。

 

(自然に考えるな違和感を抽出しろ抜粋してまとめろ自分の中で形にしろ。

 暁美先輩の言葉は正しいか?それを聞いた自分の考えは事実か?そこにいる生物は真実を話しているか?)

 

 眼鏡を外し、群雲は立ち上がる。

 ボロボロのステンドグラスを背に、紅い瞳を向けるキュゥべえと、魂が位置を変えたが故に、緑色へ変化した群雲の右目がぶつかり合う。

 

「抜け目の無いナマモノだからな。

 オレ達の会話も、聞いていたんだろう?」

「もちろんだよ」

 

 臆面無く、淡々と言ってのけるキュゥべえ。

 それに対し、口の端を吊り上げる魔人。

 

「ならば、聞こう。

 “魔法少女が魔女になる”

 これは、真実か?」

「その通りだね」

「なら“ワルプルギスの夜も、元魔法少女”なんだな?」

「おそらくね」

 

 キュゥべえの言葉に、群雲は目を細める。

 

「おそらく?」

「魔法少女は条理を覆す存在だ。

 それは、魔女になっても変わらない」

「何が、言いたい?」

「言っただろう?

 僕だって、全てを把握している訳じゃない」

「把握していない項目の一つ。

 それが“ワルプルギスの夜”か」

「その通りだよ」

「把握していない項目の一つ。

 それが“暁美ほむら”か」

「それは仕方ない事さ。

 “未来で契約”したのなら“今の僕”が知る筈はないからね。

 彼女はまさに“イレギュラー”の名に相応しいよ」

「把握していない項目の一つ。

 それが“群雲琢磨”か」

 

 自分をそう言ってしまえる辺りが、群雲の異常性。

 

「個人差はあるけれど“魔法少女”よりも“魔人”の方が“短命”だ。

 でも、君は既に“2年”も魔人で居続けている。

 加えて、君の身に起きた“異常現象”は、僕らの知る限り、初めての事だ」

 

 口の端を持ち上げ、群雲は立ち上がると同時に変身する。

 緑の軍服に、黒い外套を翻す。

 

「でも、先日の戦いで君の“特性”が見えてきたよ」

「それはぜひ、ご教授願いたいね」

 

左手に日本刀を持ち、群雲はその場に佇む。

 

「君が使う“電気”は、微弱なんだ。

 下手に電力を上げたら、肉体には逆効果だからね」

 

 肉体を動かすのは、脳からの電気信号。

 “見る”という行為でさえ、網膜からの情報が神経を伝い、脳に届いているだけの“電気信号”に過ぎない。

 人の持つ全ての“感覚”は、脳が受けた電気信号なのだ。

 

 だが、高電力は肉体にとっては毒でしかない。

 人の死因の一つに“感電死”がある事が、それを証明している。

 

「分かるかい?

 君の魔法は“魔力消費量が物凄く少ない”んだよ」

 

 魔力を電気に変換する、群雲の魔法。

 それは、肉体を操作する程度の“微弱な電気”であり。

 “微弱な電気”を発生させる為の魔力は“極少量”で充分。

 

「君が魔女と戦うのに使用している魔力は、基本的に“体を動かす為の電気”だけ。

 杏子の槍や、マミのリボンのように“武器を魔力で生成していない”分、魔力消費は少ない」

 

 群雲が使用する武器は、魔力で造られた物()()()()

 

「君は“魔力消費を抑えている分、肉体に負担をかけている”んだ」

 

 そして“契約者の本体”は結晶化された魂(ソウルジェム)である。

 

「なるほど。

 なら」

 

 群雲はキュゥべえの言葉を聞き、それを自分の中で反復する。

 

()()は?」

 

 群雲の問いかけに、キュゥべえは答えない。

 否、答える事が出来ない。

 なぜなら。

 

「なんだ……。

 もう、聞いてないのか」

 

 キュゥべえの体は既に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 細切れにされていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ……。

 <電気操作(Electrical Communication)>によるモノが『逆手居合 電光抜刀』だろ?

 <操作収束(Electrical Overclocking)>じゃ、使えない。

 両手に刀と鞘を持って、ぶん回してた方が良いしなぁ……。

 まあ、色々検証して、発展させるしかない、か」

 

 日本刀を()()()()()()に<部位倉庫(Parts Pocket)>に入れ、群雲は変身状態のまま、教会を後にする。

 

「まあ、オレの“望み”は契約時から変わらない」

 

“オレの、何時、如何なる時も、オレの想うがままに、笑って過ごせる事を”




次回予告

最強の魔女襲来までの僅かな時

それは、生きていられる、僅かな時か?

それとも、未来を得る為の、確かな時か?




それでも今、生きているのは確実で

五十二章 助けられるのは


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五十二章 助けられるのは

「立証できなければ、罪は罰を受けない。
 明らかに“犯人”でも、問われなければ、罪じゃない。
 悪と罪は別物。
 なれば“正義の罪”も、存在していてもおかしくはないだろう?」


 休戦協定を結んで、一夜明け。

 

 暁美ほむらの話によれば、最強の魔女襲来は8日後。

 

(どう考えても、時間が足りないよなぁ)

 

 そんな事を考えながら、群雲は独り、街を当ても無く歩いていた。

 魔女探しのパトロール、という訳でもない。

 先日の魔女戦でのダメージ(9割は自分の魔法のせい)が、抜け切っていない訳でもない。

 

 普通の子供は、学校に行く。

 異常な群雲は、学校に行かない。

 

 故に

 

「其処の坊や、なnあっ、ちょっと待ちなさい!」

 

 おまわりさんから逃げた回数など、数えちゃいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生き難い世の中だぜ」(キリッ)

 

 義務教育を完全に放棄した自分の事等、時の彼方へそぉい!して、群雲は呟く。

 色々と、台無しではあったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、日中にろくに動けるはずも無く。

 では、群雲が日中何をやっているのかと言えば。

 

「……流石、魔人となったオレ。

 食料の貯蔵は充分だ……」

 

 ぶっちゃけると、万引きである。

 

 群雲が、変身しなくても使える、唯一の魔法が<部位倉庫(Parts Pocket)>である。

 “盗む”事に関して、これほどぴったりな魔法もないだろう。

 

 もっとも、この魔法の検証中、たまたま収納してしまったロードローラーが、後の役に立つのだから、人生とは不思議なモノである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「げ」

「いきなり失礼だな、美樹先輩」

 

 そのまま、自由気ままに見滝原の街並みを謳歌していた群雲は、偶然にも美樹さやかと鉢合わせた。

 

「もう、そんな時間か」

 

 そう言って、空を見上げた群雲は。

 太陽が、真上近くにあるのを確認した。

 

「……あるぇ~?」

「今日、午前授業なのよ」

「あぁ、なるほど。

 学校()()()には、ろくに用なんぞないからな、オレ」

 

 そう言って、眼鏡を押し上げる群雲。

 

 忘れてはいけない。

 この少年、速攻で学校に忍び込み、生徒名簿をコピーしている事を……!

 

「あんたは、パトロール?」

 

 さやかの言葉には、若干の棘がある。

 最初の出会いで、軽くあしらわれた事。

 次の出会いでも、杏子と分断される際、自分の攻撃を凌いで見せた事。

 

 何よりも、魔女と戦う者でありながら、自分の為にしか動こうとしない、そのスタンス。

 

「パトロールな訳ないじゃん?

 何でオレが、この街の為に動かなきゃならんのよ」

 

 群雲の言葉、ひとつひとつが証明するのだ。

 美樹さやかと群雲琢磨。

 魔女を狩る者だけ(立場)が同じで、(求める物)は、真逆であると。

 

 

 

 

 

 

 それでも、現在は休戦中であり。

 二人は仕方なくといった感じで、街を歩いている。

 

「あんたは、さ」

 

 しばらくは無言だったが、さやかの方から声を掛ける事となった。

 

「なんで、その力を自分の為にしか使わないの?」

 

 魔女に対抗できる、唯一の存在。

 それが、魔法少女であり、魔人である。

 戦いの運命を受け入れてでも、想い人の為に願ったさやか。

 大切な物を救う為に願い、大切な人を守る為に力を振るう。

 そんな彼女が、自分の為にしか力を使おうとしない群雲に不快感を受けるのは、当然と言える。

 

「なんでって……。

 そんなの決まってるジャン?」

 

 だが、互いに立ち止まり、正面から向き合った状態での、この会話が。

 

「自分を助けられるのは、()()()()()()()()()からさ」

 

 背が低く、僅かに上を向いた状態の群雲の言葉が、さやかの頭に響く。

 

「たとえば」

 

 それを理解するより前に、群雲は言葉を続ける。

 口元に、笑みを浮かべながら。

 

「あるところに、いじめられっこがいたとする。

 その子には既に親が居らず、親戚も信用できなかった。

 でも、いじめは延々と続いている。

 では、その子は誰が助ける?」

「え……?

 …………先生……とか?」

 

 突然の質問に、理解が追い付かないさやか。

 それでも、なんとか答えを見つけ出すが。

 

「そうだろうね。

 その子もそう思い、先生に相談した。

 そして、その返答はこうだ。

 『確かに、いじめをする子達は悪い。

  でも、いじめられる原因を作った方も悪いんだよ』

 とね。

 結局、事態はどうなったと思う?」

「え……あ……。

 変わらなかった、とか」

「いや、むしろ悪化した。

 先生に告げ口した事で、いじめはさらに強烈になった。

 さて、いじめられっこは、なにが悪かったんだろう?」

 

 さやかは、二の句が告げなかった。

 群雲が何故、こんな話をするのかも分からなかったし。

 そのいじめられっこの、なにが悪かったのかが、分からなかったから。

 

 質問の答えが聞けそうもないので、群雲は口の端をさらに持ち上げながら、告げた。

 

「だから、()()はこう考えたのさ。

 “運が悪かった”と」

 

 僅かにずれた眼鏡の奥。

 黒の左目と緑の右目が、さやかを射抜く。

 その瞳に映るのは。

 怒りか、悲しみか。

 

「誰も、助けてくれないのなら。

 自分で助けるしかないじゃないか。

 誰も、助けてくれなかったんだから。

 誰かを助ける理由も必要も、ないじゃないか。

 ましてや、会った事のない、見ず知らずの何処かの誰かなんて。

 不幸になろうが、殺されてようが、知ったこっちゃない」

 

 さやかは、ようやく理解した。

 自分が、誤解していた事を。

 目の前の少年が、自分の為にしか力を使わないのは。

 

「オレは、オレの為に願い、オレの為に力を使う。

 誰かの為に力を使うほど。

 オレは、オレを嫌ってはいないからね」

 

 自分の為に力を使ってくれる人が、自分しかいなかったからなのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さやか?」

 

 しばらく、呆然と立ち尽くしていたさやかに、掛けられた声。

 その声の方向をむいたさやかと群雲が見たのは、ある一組のカップル。

 

「さやかさん?

 なにをなさってますの?」

 

 上条恭介と、志筑仁美だった。




次回予告

それは、一人の少女の光と闇




その、象徴たる二人








五十三章 叶った願いと叶わぬ想い


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五十三章 叶った願いと叶わぬ想い

「恋人、ねぇ……」
「作る気は無いの?」
「魔人や魔法少女が、恋人を作っちゃいけない理由はないだろうけど」
「デート中に魔女が現れたりすると、最悪よね」


 見滝原の街中にて。

 出会ってしまった四人の未熟者(こども)

 

 ショートカットの少女、美樹さやか。

 想い人の為に、戦いの運命を受け入れた少女。

 

 その幼馴染、上条恭介。

 さやかの願いにより、希望(ゆめ)を取り戻した少年。

 

 その横に立つのは、志筑仁美。

 想いを打ち明け、受け入れられた少女。

 

 そして、群雲琢磨。

 

「どちらさん?」

 

 初の邂逅となる少年。

 

「僕は、上条恭介。

 さやかの幼馴染だよ」

「私は志筑仁美。

 さやかさんのお友達ですわ」

 

 白髪に、右側が曇りガラスになっている眼鏡。

 そして、黒のトレンチコートに身を包む、明らかに自分たちよりも小さな少年。

 ある種、異常とも言える風貌ではあるが、二人は普通に挨拶をしていた。

 ……それは、その少年が先ほどまで会話をしていた相手が、美樹さやかであったからだろう。

 

「オレは、群雲琢磨。

 美樹先輩の……恋人候補?」

「はあ!?」

 

 挨拶と同時に、呼吸をするように嘘をついた群雲に、先ほどまでの会話と、知人との突然の遭遇に固まっていたさやかが、再起動する。

 

「あんた何言って「まあ!」って、仁美?」

 

 思わず、群雲に掴みかかろうとしたさやかだが、声を上げた仁美に、嫌な予感を感じた。

 

「さやかさんが年下趣味だったなんて……!」

「やっぱりかーっ!?」

(天然か、このお姉さん)

 

 予想通りに暴走(妄想)を始めた仁美に、さやかは頭を抱える。

 そして、そんな状況で、群雲が悪乗りしないはずもなく。

 

「大丈夫だよ、さやか。

 中学生と(元)小学生が愛し合っているのは異常かもしれない。

 でもそれは、時間が確実に解決してくれる問題さ!」

「そうですわ、さやかさん!

 愛し合うことに、年の差など些細な事ですわよ!」

(小学生なんだ、この子……)

「ちょっ、あんた何言ってんの!?

 仁美も誤解だから!!」

「やれやれ……二人の時は(オレの話に萎縮して)あんなにも大人しかったというのに……」

「これが、かの有名な“ツンデレ”と言うものですのね!」

「いいかげんにしてぇぇぇぇぇ!!!」

 

 最終的に、さやかの悲痛な叫びが、辺りに木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんとか誤解を解き、食事に行く途中だった二人と別れて、さやかは思いっきり脱力した。

 その横では、群雲が二人の背中に手を振っている。

 

「それで」

 

 手を振り続けながら、群雲が放った一言で。

 

「どちらの為に、自分の人生を台無しにした?」

 

 再び、空気が張り詰める。

 驚愕に目を見開き、群雲を見つめるさやかと。

 

「……カマかけてみたが、当たりっぽいな」

 

 変わらず、口の端を持ち上げたままの群雲。

 

「どう……して……?」

「なに、率直な印象と、今までのやりとり。

 そして、そこからの簡単な推理でさ」

 

 初めて会った時から、これまで。

 何度も敵対し、最後には共闘した。

 だが、この時になって初めて。

 

「誰かの為に魔法を使う。

 むしろ“自分の為に魔法を使わないようにしている”。

 それが、美樹先輩の印象」

 

 さやかは、群雲に“恐怖”を感じた。

 

「まるで、()()()()()()()()()()()()

 これが、今までのやりとりから思った事」

 

 故に、群雲は以前にこう言った。

 

『オレは、いつだって“オレの為”にこの力を使う。

 誰かの為に、平気で命を懸ける。

 そんな、()()()()()()()()ような奴と、共闘するなど愚の骨頂だ』

 

「きっと、美樹先輩は“誰かの為”に、奇跡を使い。

 自分の望むモノを“得られなかった”んじゃないかと」

 

 群雲の言葉、その一つ一つが。

 

「普通に考えて、奇跡を使う“誰か(対象)”は、自分の近しい者だろう」

 

 さやかの心を抉っていく。

 

「家族、友達、幼馴染。

 簡単に思いつくのは、このみっつ」

 

 だから、カマをかけてみた。

 そして、その反応は是を意味していた。

 

「さて、選択肢はふたつ。

 友達か、幼馴染か」

「……恭介……幼馴染の方よ」

 

 観念したかのように、さやかは小さく呟いた。

 「流石に、どちらかまではわからないけど」と、言葉を続けようとしていた群雲は、さやかの言葉に口を噤んだ。

 そうとも知らず、さやかは自分が魔法少女になった経緯を話し出す。

 

 

 

 上条恭介が事故に遭った事。

 それが原因で、左手が満足に動かせなくなり、夢を失った事。

 腕が治るように願い、それを契約とした事。

 

 

 

 

「惚れてたのか」

 

 流石に、それが分からないほど、群雲は鈍くはない。

 

「でも、幼馴染はよりにもよって、自分の友達と付き合いだしてしまった。

 だから、誰かの為に力を使う事に“固執”してるのか。

 自分には、魔法少女として戦うしかないと()()()()()

「あんたに……なにがわかるのよ!」

 

 だが、無遠慮に紡がれた群雲の言葉に、遂にさやかが爆発する。

 

「……そう言った台詞に対して、必ず言い返してやりたい言葉がオレにはある」

 

 さやかの怒気を受け流さず、正面から受け止めた上で。

 群雲は眼鏡を外し、さやかに向き直って、告げた。

 

「知ったこっちゃないな」

「~~~ッ!!」

 

 その言葉に、さやかの感情がさらに高まるが。

 

「そういった台詞を言う奴ってのは大概、自分()()が不幸だと、勘違いしている奴がいうもんだ」

 

 次の一言に、さやかは二の句を告げなくなった。

 

「あんたになにがわかる?

 なら先輩は、世界のどれだけを知ってる?

 悲劇のヒロイン気取りたいなら、余所でどうぞ。

 不幸自慢に良かった探し?

 だったら、付き合ってやるよ。

 多分オレ、負けないよ?

 叶った願いと叶わぬ想い。

 はぁ~、大変でしたねぇ。

 魔法少女として、誰かの為に戦う。

 いいんじゃないの、それでも。

 自分の為に、魔法を使わない。

 そうしたいなら、そうすればいいさ。

 それが、美樹先輩の幸せなら」

 

 一気に捲くし立てられた言葉。

 そして、緑の右目でさやかを射抜きながら、群雲は静かに告げる。

 

「別に、自分の為に力を使ったからって“誰かの為に戦えなくなる訳じゃない”だろうに」




次回予告

群雲琢磨と美樹さやか

あまりにも真逆な二人



五十四章 後悔した事なんて


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五十四章 後悔した事なんて

「暁美ほむら……時を越える魔法少女。
 彼女も、僕らにとってイレギュラーだけど。
 どういった行動に出るか、予測できないと言う意味では。
 琢磨も充分にイレギュラーだよね」
「褒めんなよ」
「わけがわからないよ。
 ただでさえ稀な、魔人という存在なのに。
 その中でも君は希有な存在なんだ」
「選ばれし勇者ってか?
 ガラじゃねぇっての」


 自分の部屋で、布団に包まりながら。

 美樹さやかは、日中の会話に思いを馳せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オレの、美樹先輩への印象は」

 

 外した眼鏡を、再び身に付け、群雲は告げる。

 

「うぜぇ」

「っな!?」

「が、同時に羨ましくもある」

 

 掴み掛かろうとするさやかを左手で制止ながら、群雲は想いを発露する。

 

「せっかく“自分が”得た力を“自分に”使わないとか、勿体無くてしょうがない。

 だから、うぜぇ」

 

 右手中指で、眼鏡を押し上げ、更に告げる。

 

「でも、オレには絶対に出来ないだろうね。

 誰かの為に願い、誰かの為に戦う。

 それはきっと“力を持つ者”として、なによりも正しい」

 

 群雲にとって重要なのは。

 

「後悔した事なんて、腐るほどある。

 最たるものは、契約の時に。

 “どうしてオレは、家族を生き返らせて欲しいと願わなかったのか”って事だ」

 

 一般的な、常識でも。

 

「オレにとってはそれが“最大の絶望”だ」

 

 理論的な、最善でもない。

 

「だが、嘆いた所でどうしようもないのなら」

 

 自分が受け入れ、飲み込む為に。

 

 

 

 

 

 

「割り切るしかないだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちなみに、言わさせて貰うなら」

 

 内緒にしてくれよ?

 そう付け加えて、群雲は続ける。

 

「佐倉先輩は“オレよりも美樹先輩の方が近い”ぜ?

 あの人も、オレのように“自分の為”にではなく。

 “大切な人の為に、たった一度の奇跡を願った人”だからな」

 

 それは、さやかにとっては眉唾な事実だったであろう。

 だが、この状況において、群雲は嘘を付く理由は、さやかには思い当たらない。

 

「詳しい経緯を知りたいなら、直接聞けばいいさ。

 案外答えてくれるかもよ?」

 

 そう言って、群雲は笑った。

 

 

 

―――――造りモノ―――――

 

 

 

 それが、美樹さやかの印象だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでも私は、自分の為には戦わない」

 

 それが、美樹さやかの意思表示。

 

「あんたの言う通り、あたしの願いは叶ったけど、想いは叶わなかった。

 それでも、あたしは願いの内容を後悔していない。

 魔女と戦う、この運命を後悔していない」

 

 真剣な眼差しで、さやかは真っ直ぐに群雲に言葉をぶつける。

 

「それが、美樹先輩の幸せなら。

 その生き様を貫けばいい。

 オレは、否定も肯定もしない。

 だってオレは“美樹さやかではない”んだから」

 

 同じく、群雲も真っ直ぐにさやかに言葉をぶつける。

 

「あんたは、それで寂しくないの?」

「寂しいよ。

 でもオレは、これ以外の生き方を知らない」

「誰かの為に戦ってみようとは、思わないの?」

「それが最終的に、自分の為になるならいいけど。

 無償奉仕が出来るほど、オレには余裕なんてない。

 そもそも自分すら満足に助けられない奴が。

 誰かを助けるなんて出来ないだろ?」

「そんなことない!」

「それは、美樹先輩だから言える事じゃないか。

 誰かの為に傷つくなんて、まっぴらごめんだ。

 オレは、自分の為になる事でしか動かない」

「あんた、それでも魔法少女なの!?」

「魔人だって。

 まあ、契約者と言う意味では同種か。

 でも、美樹先輩?

 “魔法少女だから、誰かを救わなきゃいけない”ってわけでもないんだぜ?

 オレ達の役目は“魔女と戦う”事であり“それが、何の為なのかは当人次第”だろ。

 魔法少女である前に、あなたが“美樹さやか”であり。

 魔人である前に、オレは“群雲琢磨”なんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「優しい先輩だねぇ」

 

 同時刻、展望台で街を見下ろしながら、群雲もまた、今日の会話に思いを馳せていた。

 結局、話はどこまでも平行線。

 これまでの生き様を、簡単に変える事など出来ない。

 美樹さやかも群雲琢磨も、そこまで器用ではない。

 

「美樹さやかの事かい?」

 

 群雲の肩に乗ったキュゥべえが、表情を変える事無く問いかける。

 

「ああ。

 優しくて、真っ直ぐで、正義感もあって。

 以前の学校で、彼女みたいな子がいたのなら。

 オレの生き様も、多少は違ったのかもな」

 

 ただの妄想に過ぎないが。

 そう付け加えて、群雲は真剣な声色で問いかける。

 

「オレに“殺された”のに、気にせずやってくるんだな、お前」

「無意味に潰されるのは、もったいないからやめてほしいけどね」

「そんなもんか」

「そんなもんさ」

 

 感情のない生き物。

 それを“生きている”と言えるのかどうか。

 群雲には、どうでもいい事だ。

 

「今日ははずれっぽいな」

「帰るのかい?」

「最強の魔女が来るらしいのに、無駄に魔力消費するほど、オレは自分を嫌ってないぞ?

 三つほど、使い魔の結界があったが、ガン無視したし」

 

 群雲琢磨は、そういうやつである。

 

「僕の役目は戦う事じゃないからね。

 琢磨が考えての決断なら、反対する理由はないよ」

 

 キュゥべえもまた、そういうやつである。

 

 そして、キュゥべえを肩に乗せたまま、群雲は展望台を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔法少女と魔女の関係を知ってなお、僕とこれまで通りに接するんだね」

「まあ、普通は距離を置くだろうな。

 魔法少女がどういうモノなのか、聞かずに契約した自分達の責任。

 ナマモノ的には、そんな所だろう?

 確かにその通りだからな、オレ含めて。

 でも、少なくともオレは。

 契約内容こそ後悔したが、契約自体は後悔なんてしてないからな。

 人は、自分からは絶対に逃げられないんだから」




次回予告

歯車は廻る

刻一刻と

絶望に向けて






螺旋は巡る

五十五章 してはいけない理由はない


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五十五章 してはいけない理由はない

「食料とかはどうしてるの?」
「基本的に<部位倉庫(Parts Pocket)>の中。
 この魔法ってぶっちゃけ万引きし放dゲフンゲフン」
「……実に貴方らしいけれど。
 魔法少女として、その魔法の使い方は許しがたいものがあるわよ」
「なに言ってんのさ?
 “魔の法を、人の法が裁けるはずがない”だろう?」


 最強の魔女襲来まで、後5日。

 

 重要なのは、共闘しているのではなく、休戦していると言う事実。

 故に、マミチームと杏子、群雲のコンビは、足並みを揃えている訳ではない。

 加えて、普段は学校に行っているマミチームと、学校完全スルーなコンビ。

 合う時間は限られている上に、コンビの二人も、基本は行動を共にしていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ」

「お」

 

 故に、前回の群雲とさやかの遭遇も想定外だし。

 

「佐倉杏子……」

「フルネームで呼ぶな、ボンクラ」

「美樹さやかよ!!」

 

 今回の、さやかと杏子の遭遇も、想定外だっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら」

「ん?」

 

 そして、別の場所にて、巴マミと群雲琢磨が鉢合わせしているのも。

 

「群雲君……だったわね」

「そうだけど……。

 一応、休戦中なんで、出会い頭に敵意をぶつけるのやめません?」

 

 マミは、群雲をあまり信用してはいない。

 一度、殺し合いをした仲でもあるし、信頼できるほど、マミは群雲を知らない。

 そして、群雲はすでに割り切っている。

 

「貴方はここで何を?」

「特に何も。

 当てもなく、街中を彷徨っているだけだよ」

 

 別に、街を守らなければいけない理由は、群雲にはない。

 目的がない限り、日中は頭空っぽにしているのが群雲の日常だ。

 

 “考える事”を放棄する事で、精神状態を保たなければならなかったのが、契約前の群雲琢磨。

 “現実と言う名の最悪”から“思考を逸らす”為に、空想物に逃げたしたのが、群雲琢磨。

 真実を空想のように“上滑り”させながら認識、消化する事で、異常な理解能力を発揮するのが、この魔人なのだ。

 

 

 

 そしてそれは“絶望=死”を意味する魔法少女にとって、なによりも正しい生き方だと言える。

 

 絶望を、絶望だと認識する前に、割り切り、消化する。

 

 本来、魔法少女以上に“死”に近い、魔人という存在であるにもかかわらず、群雲が今日まで生き長らえてきた要因の一つが、この異常とも言える思考。

 

「そちらは、パトロールか?」

「そうよ。

 見滝原を守るのが、ここを管轄にしている私達の役割ですもの」

 

 対する巴マミは“生きたい”と願い、魔法少女になった存在。

 心がそれを望む限りは、彼女は命を繋ぎ続けるだろう。

 

 共に、家族を交通事故で亡くした者でありながら。

 二人は、あまりにも違う。

 

 家族と共に事故に遭い、唯一生き延びた少女。

 家族だけが事故に遭い、唯一死に損ねた少年。

 

 近く、でも違い、絶対的に真逆。

 

 

 

 

 

 

 

「で、付いてくるのね」

「当てがないよりは、当てがある方が有意義かと」

 

 そんな二人は今、並んで街を歩いている。

 

「私も、当てがある訳じゃないわよ?」

「でも、オレよりは魔女のいる方向が察知できるんだろ?」

「……横取りでもするつもり?」

「オレ達は、休戦中であって共闘中じゃない。

 なら、相手が魔法少女ではなく魔女ならば。

 漁夫の利狙いで動いたって、違反にならないんじゃね?」

「もう少し、隠す努力でもしたら?」

「隠す必要は感じないな。

 確かに、オレ達は休戦中だ。

 だが、相手を出し抜くような行動をしてはいけない理由はない。

 実際オレは、前回共闘して倒した魔女のGS(グリーフシード)を所有している」

「……やっぱり、貴方が持っていたのね……」

「そしておそらく、巴先輩はその事に気付いているだろうと思っていた。

 故に、隠す必要はないだろう?」

 

 歩みを止める事無く、口の端を持ち上げる群雲。

 それを横から見下ろしながら、訝しげな眼差しを向けるマミ。

 

「……どうしたら、そんな偏屈な考えになれるのかしらね?」

 

 皮肉を込めて、マミは問いかける。

 明らかに自分よりも年下の少年が。

 何故、これほどまでに歪んだ思考を持つようになったのか。

 そして、群雲はそれを。

 

「なら一度、学校中の生徒、先生を敵に回してみるといい。

 真のいじめは“無視される事”だ。

 完全に“自分が此処に居る事を認識してもらえない”事だ。

 そして、親戚に自分ではなく“自分に残された親のお金”だけを見てもらえばいい。

 もれなく、儚くも美しい悪夢が、先輩を生暖かく引き擦り込むだろう」

 

 明確に、簡潔に、淡々と言ってのけてみせた。

 

「……え?」

 

 思わず足を止め、マミは群雲を見つめる。

 足を止めた事に気付かず、変わらぬ歩調で進む群雲の背中。

 その背中が、何処か寂しそうに見えて。

 その背中が、その言葉の信憑性を顕著に表しているようで。

 

「……ん?」

 

 数歩先行した後、マミが横にいない事に気付いた群雲が、ゆっくりと振り返る。

 僅かに見えたのは、美しく輝く緑の右目。

 でも、それも一瞬の事で、それは前髪と眼鏡に隠される。

 そして、群雲はマミに向かって微笑む。

 

 あぁ―――

 

 それを見て、マミは素直に思ったのだ。

 

 どうしてこの子の笑顔はこんなにも―――

 

 この少年は“狂っている”のだと。

 

 心に、響かないのだろう――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「琢磨とマミが一緒とは、珍しいね」

 

 唐突に、群雲の肩に飛び乗ったキュゥべえが言った。

 

「珍しいも何もないだろ。

 休戦前は、ほぼ敵対していたし」

 

 さして驚きもせず、群雲は淡々と言ってのける。

 

「確かに、以前なら考えられなかったわね」

 

 気を取り直して、マミは一人と一匹に近づいていく。

 

「さっきは、杏子とさやかが仲良く魔女結界に入っていったし、今日は色々と珍しい事が起き易い日みたいだね」

「うん、ちょっと待とうか、そこの下等生物」

 

 決して表情を変える事無く、紡がれた言葉に、群雲は待ったをかける。

 

「あの二人が一緒にいるの?」

 

 マミもまた、その言葉に不安を感じる。

 

「この先の繁華街にいたね」

「なるほど、じゃあ行くか」

 

 そのまま、キュゥべえを肩に乗せて、群雲は歩き出す。

 

「……貴方も行くの?」

 

 その横に並びながら、マミは問いかける。

 

「協力してたらいいけど、喧嘩してたら目も当てられんしなぁ。

 それに」

 

 その問いに群雲は、口の端を持ち上げながら答えた。

 

「休戦中だからって、共闘してはいけない理由はないだろう?」




次回予告

近し者 遠き者

似てるもの 違うもの

魔法少女と魔人







絶望が天敵 同じモノ


五十六章 好ましくない感じ


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五十六章 好ましくない感じ

「オレはいつだって“自分の為”に動く。
 オレはいつだって“オレの為”に動く。
 そして……それを決めるのは“オレ”でなければならない」


「前回といい、今回といい、お前といると相性の悪い相手ばかりじゃねぇの?」

「あたしのせいじゃないでしょ!」

 

 互いに文句を言い合いながら、杏子とさやかは魔女結界を進む。

 

 たまたま遭遇し、偶然魔女結界を見つけた二人。

 魔女から人々を守る為。

 それが、さやかの進む理由。

 GS(グリーフシード)の入手。

 それが、杏子の進む理由。

 

 だが、休戦状態の相手を無視するほど、佐倉杏子という少女は冷たくはない。

 仕方無しに、といった感じで、杏子はさやかと行動を共にした。

 

 琢磨ならきっと、いかにさやかを出し抜くかを考えるんだろうなぁ。

 

 そんな事を思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……この魔女結界か」

 

 二人が結界内に入ってからしばらく後。

 変身状態で、結界に入った群雲の第一声がこれだ。

 

「知っているの?」

「魔女本体とは、会った事はないがね」

 

 群雲は“魔法少女の基本”が、まったく成っていない。

 「なんとなく、こっちにいるような気が、していると思う感覚がなきにしもあらず」とか、そんなんである。

 故に、よく“ハズレ”に遭遇する。

 

 そんな群雲が、単独で魔女結界に挑む場合。

 使い魔を完全に無視しながら<電気操作(Electrical Communication)>で、一気に最深部を目指す。

 魔女がいれば、そのまま戦闘開始。

 魔女がいなければ、そのままUターンである。

 見滝原の人々など“知ったこっちゃない”群雲にとっては、これが最善であると言える。

 

 魔女の結界も、使い魔の結界も、内部風景にほとんど違いはない。

 安定しているか、していないかの違いがある程度。

 故に、群雲のような行動をしていれば“魔女は知らなくても、結界は知っている”という状況は起こりうる事なのだ。

 

「美術系の本に書いてある、有名作品みたいな使い魔がいる。

 ぶっちゃけ、叫ばれるとうざい」

「……え、それが攻略法?」

「前回の戦いで、使い魔が使ってた騒音波みたいなものさ。

 効果は多少違うだろうが、接近戦は好ましくない感じ」

「……先行しているのは、美樹さんと佐倉さんよね?」

「うむ。

 ぶっちゃけ相性は良くないだろうね」

 

 右腰からリボルバーを抜き、群雲は歩き出す。

 マミもまた、マスケット銃を手に取り、その横に続く。

 

「使い魔を無視して、突き進むか?」

「それはダメよ。

 ここまで結界が安定していると、魔女の口付けにやられた人がいても、おかしくは…………!?」

 

 言葉の途中で、マミの表情が引き攣る。

 群雲も、同じモノをみて、足を止めた。

 

 

 

 其処にあったのは、死体。

 一般人の遺体。

 哀れな犠牲者の、終末の風景。

 

 

 

「初めて見る、とか言わないよな?」

 

 その遺体に近づきながら、群雲は問いかける。

 

「……初めてじゃないわ。

 でも……慣れる様なものでもないわよ」

「そうかい?

 まあ、オレにとっちゃ、見ず知らずの人の死体なんて、知ったこっちゃないがね」

 

 そして群雲はそのまま、遺体を通り過ぎた。

 

「貴方は……人として終わってるわ」

 

 嫌悪感を隠さずに、マミは群雲の背中に呟き。

 

「そりゃそうだ。

 オレは10歳の時に、()()()()()()からな」

 

 振り返る事無く、群雲はそれに答える。

 

「化け物を殺すのは、いつだって人間だ。

 でも“化け物を殺せる人間”を、他の人間は“同じ”だと認めるか?」

「!?」

「さて、魔女という化け物を殺せるオレ達は“どちら側”だと思う?」

 

 そのまま数歩進み、群雲は振り返る。

 一般人の遺体を挟んで、群雲とマミは視線を交わす。

 

「きっと“これ”が。

 今のオレ達の“立ち位置”だよ。

 一般人の死に、心を痛める巴先輩と。

 一般人の死に、何も感じないオレの」

 

 そして群雲は、口の端を持ち上げる。

 

「それでもオレは、唯一残った“自分”だけは、絶対に手放さないと決めている。

 オレがオレでなくなる時が来たら、その時は“こう”だ」

 

 右手に持つリボルバーの銃口を、こめかみに当てて、群雲は真剣な眼差しをマミに向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして、それは“今”じゃない」

 

 右手を降ろして、腰の後ろからショットガンを左手で取り出し、その銃身を肩に乗せる。

 

「行こうぜ、巴先輩。

 きっと奥で、仲間が戦ってる。

 それを手助けする為に、ここに来たんだろう?」

 

 マミは、自分が誤解していた事に気付いた。

 群雲琢磨は、人として終わっているわけではない。

 自分という“1”の為に、残りの“99”を、容赦なく切り捨てる人。

 そして、自分という“1”しか持ってない人なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最深部。

 さやかと杏子は、結界の主と対峙していた。

 とある国の建造物を思わせる姿の魔女。

 

――――――――――芸術家の魔女 その性質は“虚栄”――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その片隅。

 

「………………さやか?」

 

 招かれてしまった、青の魔法少女に近しい者。

 

 

 

 舞台は確実に、最悪の脚本を用意している。




次回予告

歯車は廻る

ぐるグル廻る





決められた動きでなければ

歯車は、歯車である意味がない


故に、歯車が廻るという事は………

五十七章 限界突破


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五十七章 限界突破

「契約したら、肉体が強化させるじゃん?」
「そうだね。
 そのままの能力で魔女と戦わせるほど、僕らは非道ではないからね」
「オレや暁美先輩は、実弾銃使ってるじゃん?
 軍隊あたり呼べば、魔女を駆逐できるんじゃね?」
「普通の人はそもそも、魔女を認識できないよ?」
「でも、普通の人でも、魔女結界に迷い込んだりするだろ?」
「普通の人は、異常な空間に連れ込まれたら、冷静ではいられないんじゃないかな?」
「……それもそうか」


 杏子は縛鎖結界を使用し、迷い込んだらしい二人の一般人を隔離する。

 

「知り合いか?」

「うん……」

 

 さやかの表情は暗い。

 それも、仕方のないことだろう。

 

 迷い込んでいたのは二人。

 上条恭介と志筑仁美。

 想い人と親友。

 そして、さやかにとっての……。

 

「とっとと終わらせるぞ」

 

 さやかの葛藤を察知したのか、杏子はそう言いながら、槍を構え。

 

「……わかってる」

 

 数回首を振り、自身の蟠りを奥に仕舞い込んで、さやかも剣を構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……数が多すぎないか?」

 

 リボルバーとショットガンの二丁拳銃で、使い魔を相手取る群雲が、疑問を洩らす。

 マミもまた、マスケット銃で使い魔達を相手にしている。

 双方共に、遠距離武器であり、その特性上迎え撃つ形となる。

 

「確かに……美樹さん達が先行している割には、数が多いわね」

 

 自分の周りに新たなマスケット銃を作り出し、マミも同様の意見を出す。

 

「ここの魔女が、使い魔生成に特化しているのか。

 先行した二人が、使い魔をスルーしたのか。

 或いは、その両方か」

 

 群雲が、使い魔の接近が途切れた頃合をみて、ショットガンを腰の後ろに戻し、リボルバーをリロードする。

 

「美樹さんが、使い魔を放置するとは思えないわ」

「それについては同感。

 でも、一緒に居るのは佐倉先輩だし、使い魔との相性を考えると、やむなしって所じゃないか?」

 

 リロードの終えたリボルバーを右腰にもどし、今度はショットガンのリロードを開始する。

 その隙をついて、近づこうとする使い魔を、マミのマスケットが撃ち抜く。

 

「確かに、ありえそうね」

「そして、この状況なら。

 使い魔を相手にするより、早急に魔女に辿り着いた方が、結果的に見滝原を守る効率がいいと思うんだが、そこんとこどうよ?」

「……」

 

 考え込むマミをよそに、左手の振りだけでショットガンを元の状態に戻して

 

「……あ。

 テレパシーがあるじゃん」

 

 基本的な事を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[こちら群雲と巴先輩なんですが、届いてます~?]

[……緊張感ないな、おい。

 だが、助かる。

 こっちはちょいと面倒な事になってる]

[届いてる人がいるなら、罰ゲームとして、パンツくれ]

[意味がわかんないわよ!]

[巴先輩の]

[私の!?]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[で、面倒な事って?]

[ちゃんと聞いてる辺りが腹立つわ……。

 あたしらは魔女と交戦中だが]

[よっしゃ、サクっとシバキ倒してくれ。

 また、使い魔が寄って来てるのを巴先輩がティロフィナってるから]

[それが出来たら、苦労はしない。

 正直、劣勢だ。

 今は、さやかが前に出てる]

[……マジで?

 てか、なんで?]

[一般人が紛れ込んでた]

 

 その言葉に、使い魔を相手にしながらも、テレパシーを聞いていたマミは、表情を硬くする。

 

[……ひとつ、確認]

 

 そして、群雲は。

 

[その人に“魔女の口づけ”はあったか?]

[……いや、なさそうだな]

 

 違和感を覚えた。

 

[……どちらにしても、使い魔スルーして合流した方が良さそうだな]

[出来れば“Lv2”を使ってでも、早期に来て欲しい]

[佐倉先輩って、大概ドSだよな。

 あれ、肉体機能を簡単に限界突破するから、反動がえげつねぇんだけど。

 てか、巴先輩置いて行っちゃうぞ?]

[……それも困るな。

 一般人を守りながらの上に、魔女がガンガン使い魔召還するから、広範囲魔法が欲しい]

[ないからな、オレにはそんな都合のいい魔法は]

[あたしは無い訳じゃないが……縛鎖結界の方に魔力使わないと……]

[持ち堪えてくれ。

 慌てずに急ぐ]

 

 テレパシーを終えて、群雲は武器を両脇のハンドガンに持ち替える。

 

「聞いてたよな?

 駆け抜けるぞ」

「解ってるわ!」

 

 次の瞬間、マミの手から伸びたリボンが、空中で破裂するように無数に分かれる。

 

「レガーレ・ヴァスタアリア!!」

 

 それは、前方の使い魔達を拘束し、縛り付ける。

 

「行くわよ!」

「……ん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じくテレパシーを終えた杏子は、襲い来る使い魔に対応する為、槍を多節根状に展開する。

 

「うぜぇんだよ!」

 

 範囲攻撃の可能な槍。

 それを、杏子は使いこなす。

 

 そして、さやかもまた、何本もの剣を作り出し、投げつけながら、魔女への接近を試みる。

 魔女は、最初の位置から動いてはいない。

 どう見ても“門”なので、動かないのは当然。

 故にさやかは、投擲する剣の標的を使い魔に絞っている。

 少しずつ、だが確実に魔女との間合いを詰めて行き、射程内に入ったら、一気に仕留める算段だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆が、魔女結界に!?」

 

 その頃、別働隊として街をパトロールしていたまどかとほむらは、キュゥべえの言葉を聴いていた。

 

「さやかと杏子が、偶然魔女結界を発見した。

 その相手は、二人とは相性が悪くてね。

 たまたま行動を共にしていたマミと琢磨が、それを知って救援に向かった。

 僕は、キミ達に連絡するよう、琢磨に依頼されたのさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人は“魔法少女の真実”を知っている。

 それは、キュゥべえに対し、不信と不快感を覚えるという事と同義。

 

 だが、それすらも割り切り、キュゥべえに連絡役を頼んでみせるのが、群雲琢磨である。

 

[キュゥべえは、嘘は言わないし。

 群雲くんなら、充分にありえそうな事だけど……]

[さやかちゃんや、マミさんが大変なら助けに行かなきゃ。

 きっと群雲くんも、キュゥべえに依頼した方が確実だと思ったんだろうし]

 

 キュゥべえに悟られぬよう、念話で意見を纏めて、二人は頷いた。

 

「その結界まで、案内して」




次回予告

再び集結する、見滝原の魔女を狩る者達

前回のように、勝利を収める事が出来るかどうか





歯車は既に、決められた舞台へと、世界を運ぶ




五十八章 そんなのありかよ


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五十八章 そんなのありかよ

「最近、魔法を発展させるのが、楽しくなってきた」
「いい事……なのかしらね?」
「それに伴い、消費量も増えてきた」
「それは……どうなのかしら?」
「そして相変わらず、基礎が壊滅的」
「…………」
「オレ、才能あると思う?」
「……ノーコメントとさせてもらうわ」


 魔女結界最深部。

 

 縛鎖結界の前で、使い魔を相手にしている杏子と、魔女への接近を試みるさやか。

 

 そんな中、遂にさやかが魔女を射程圏内に捉える。

 剣を構え、一気に突進して斬りつける。

 

 自分の周りの使い魔を一掃し、杏子が視線を向けた先。

 魔女に対して剣を振るい続けるさやかと、斬られているだけの巨大な門(魔女)

 

 

 

 

 

 

 

 結界内部。

 駆け抜けるのは、二人の銃使い。

 

 決して足を止める事無く、両腕の動きだけで、使い魔を撃ち殺すのは群雲琢磨。

 その横で、進行方向にいる使い魔を、リボンで縛り上げて進むのは、巴マミ。

 

 二人が最深部に辿り着くまで、あと僅か……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 結界外部。

 

 その結界に急行する、二人の魔法少女。

 未来から遡行し、真実を伝えて、新たな未来を夢見る為に奔走する、暁美ほむら。

 ほむらから真実を伝えられ、絶望に負けそうになった時、魔人によって救われた、鹿目まどか。

 

 仲間達の為、必死に走る二人が、戦場に立つのは、もう少し後になりそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 芸術家の魔女VS美樹さやか

 

 縛鎖結界で、一般人を守らなければならない為、杏子は前線に向かう事が出来ない。

 故に、さやか単騎での魔女攻略となっている。

 

 しかし、射程圏内に捉えてからのさやかの猛攻は、凄まじいものがあった。

 

 巻き込まれてしまっている一般人が、知り合いだという事もある。

 だが、それ以上に。

 

 群雲や杏子に味わわされた敗北は、確実にさやかの糧となっているのだ。

 

 回復能力の高さは、6人の中では髄一。

 そういう意味では、さやかが近接戦闘型なのは、必然とも言える。

 

 いい師に恵まれた、とも言える。

 巴マミの実力の高さは周知の事実であるし、そのベテランに教わる事が出来るのは幸運であろう。

 

 其処に加えて、実力上位である、群雲と杏子のコンビとの対立と共闘は、結果的にさやかの魔法少女としての成長を、一気に加速させていったのである。

 

 

 

 

 使い魔を、新たに産み出される前に。

 さやかは、一気に決めるつもりだ。

 怒涛の連続攻撃。

 マミが“スクワルタトーレ”と名付けた連撃で、さやかは魔女を追い詰めていく。

 

 だが、そのまま好き勝手にやられるだけの魔女は存在しないだろう。

 魔女だって、生きる為に抗うのだ。

 そしてそれは、ある意味最適な形となる。

 さやかが飛び上がり、一気に切り下ろそうとした瞬間。

 芸術家の魔女は、自分を中心とした衝撃波を起こした。

 

「っきゃぁぁあぁぁぁ!!」

 

 空中にいたさやかに、それを避ける術は無く。

 衝撃波に吹き飛ばされるままに、その体は後方へと弾き飛ばされた。

 そのまま受身を取れずに地面に激突し、勢いのままに転がっていく。

 

「さやかっ!!」

 

 偶然にも、杏子の居た方向へ弾き飛ばされたさやか。

 再び、使い魔を産み出す事に精を出し始めた魔女を視界に納めながら、杏子はさやかの名を呼ぶ。

 

「いたた……。

 左腕が、完全に折れちゃった……」

 

 すでに回復を始めている左腕を見ながら、さやかは右手に持つ剣を杖代わりにして立ち上がる。

 

「……焦りすぎだ、ばか」

 

 五体満足、とは言えないものの、立ち上がる事が出来たさやかを見て、杏子は安堵する。

 

「もうすぐ、琢磨とマミも来るんだから、無理に一人で倒そうとするんじゃねぇよ」

「……あまり、あの子には頼りたくないんだけどなぁ」

「頼る必要はねぇよ。

 むしろ“誰かを守る為に、利用してやる”ぐらいでいいんだよ、あいつは」

「自分の相方に、それはひどくない?」

「元々、あたしらは“利害の一致”で組んでるんだ。

 変に気を使う必要なんてない。

 ガンガン利用してやればいいんだよ。

 死んだら、誰も守れないし。

 死なれたら、二度と守れないんだから」

 

 ほんの僅か。

 杏子の表情に影が差した事を、さやかは察知した。

 

「そういえば、杏子はどうして魔法少女になったの?」

 

 左腕の回復を待つ間、迫ってくる使い魔を右手の剣を投擲する事で凌ぎながら、さやかは問いかける。

 

「それ、今必要な事か?」

 

 その横で、同じように槍を投げながら、杏子は眉を顰める。

 

「気になったのよ。

 よく考えたら、そういった話をする機会なんて、まったく無かったし」

「……そりゃそうだ。

 最初は敵対してたし、休戦したのも最近だし」

「暁美先輩の話が、まさかの最強の魔女襲来だったから、そんな話をする余裕なんてなかったしなぁ」

「でも、あたし達は結局共闘してる。

 だから、杏子の事、少しは知っておいた方がいいかなって」

「……別に、聞いてて面白い話でもないぞ?」

「話したくないなら、いいよ。

 でも……知る事で変わる事もあると思う」

「……まあ……機会があったらな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「そして、ナチュラルに会話に参加すんなぁ!!」」

「サーセンwww」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつの間にか、自分達の横で両手の自動拳銃を乱射していた群雲に、二人のツッコミが冴え渡る。

 

「シリアスっぽい空気って……壊しにくいじゃん?」

「粉々だよ!」

「てか、マミはどうしたんだよ?」

「ん?

 あそこ」

 

 群雲が示した先。

 前方ですでに、巨大なマスケット銃を構えて、魔女に狙いを定めていたマミがいた。

 

「一般人がいる以上、無駄に長引かせる訳にもいかないだろう?」

 

 故に、群雲は使い魔に狙いを絞り。

 マミは、魔女に狙いを定めていた。

 

「ティロ・フィナーレ!!」

 

 そして、放たれる最後の射撃。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その攻撃が、魔女に反射された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 まさか、反射されるなど夢にも思わず。

 魔女を倒す為の砲撃が、自分に迫るのを、マミは呆然と見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カチッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなのありかよ。

 よりにもよって、反射って……。

 火力で言えば、最上位であろう巴先輩の魔法が実質封印されたようなものじゃねぇか。

 どうすりゃいいってのさ?」

 

 

<オレだけの世界(Look at Me)>

 

 

 

 そこで群雲は、独りで頭を抱えていた。




次回予告






それは、おかしな魔法の使い方

五十九章 全ての予想の斜め上


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五十九章 全ての予想の斜め上

「出来る事と出来ない事を見極めるのは難しい。
 それは、人間にも、魔法少女にも、魔人にも言える、至極当然な事なのかもしれない」


<オレだけの世界(Look at Me)>

 

 群雲が、最初に使えるようになった魔法にして、最大の切り札。

 自分だけが動ける世界で、群雲は打開策を練る。

 

 が、それより先に、反射された“ティロ・フィナーレ”を何とかしないといけない。

 このままなら、マミに直撃するし、後方にいる自分達にも届く可能性がある。

 

 

 

 

 仮に魔法少女達を自分だけの世界に“招待”して、射線から逃れたとする。

 砲撃は、そのまま杏子の縛鎖結界に直撃。

 下手をすれば、一般人がフィナーレである。

 

 

 

 

 かと言って、この世界では群雲は“魔法を使用できない”という制限がある。

 時間停止中に何とかする方法が、残念ながら浮かんではこない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仕方がない、か。

 試したい事もあるし」

 

 そして群雲は、マミの前に立ち。

 

 

 

 

 

 

 時が、動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 それは、誰の呟きであったのか。

 いつだって自分の為に動くと明言している魔人が今。

 

 明らかに、自らを盾とする為。

 砲撃の最前線に立っていた。

 

 

 

 

 

 右手の平を襲い来る砲撃に向けて。

 群雲は、自分の魔法を発動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<部位倉庫(Parts Pocket)>

 

 体の一部と異空間を繋ぎ、道具を収容する、群雲の魔法。

 基本、一部位に一つしか道具を収容できないが、その質量に制限はみられない。

 そして、右手の平のみ、収容数に制限がない。

 

 “収容する物に、部位が触れている事”

 

 これが、発動条件であり、群雲が唯一、変身前でも使用出来る魔法である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして群雲は。

 ティロ・フィナーレを。

 右手の平に“収容”するという。

 全ての予想の斜め上を、やってのけて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 代償として、右腕の肘から先が、弾け飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がああああああああ!!!!!」

 

 体の一部が弾け飛ぶ激痛は、自然と咆哮へと変換され、群雲の口から発せられる。

 そのまま群雲は、その場に倒れこんだ。

 

「たくまぁぁ!!」

 

 その名を呼び、駆け寄る杏子。

 

「そんな……群雲くん!!」

 

 もっとも近くで、その惨状を目撃する事になったマミも、その名を呼びながら、倒れた群雲を抱きかかえる。

 

「……せっかくの衣装が汚れるぞ……?」

 

 歯を食いしばりながら、それでも口元を吊り上げ、群雲はそんな事を言う。

 

 

 

 

 だが、状況は制止しない。

 魔女は使い魔を産み出し、使い魔が群雲達に迫る。

 

「近づくんじゃねぇぇぇ!!」

 

 それを、群雲達の前に立ちはだかり、槍を展開した杏子が凌ぐ。

 

「一度、さやかの所まで下がれ!」

「わかったわ。

 群雲くん、立てる?」

「心配は無用。

 <電気操作(Electrical Communication)>で、無理矢理にでも動く。

 右腕が弾け飛んだ程度で、人生止めるほど、オレは自分を疎かにはしていないんでね」

 

 激痛もまた、脳が受け取る電気信号によるものである。

 それを群雲は<電気操作(Electrical Communication)>による電気信号で、強制的に遮断する。

 

 

 

 

三人は、縛鎖結界の前で、さやかと合流する。

 

 

 

 

 

「二度とやらんぞ、こんな事」

「無茶しすぎだ!

 二度とやらせねぇよ、こんな事!!」

「ごめんなさい……私のせいで……」

「別に、謝る必要はない。

 オレが、自分勝手に動いた結果だし。

 きっと、その内生えてくるから」

「生えるって……」

「ナマモノいわく、魔法少女は条理を覆す存在らしい。

 なら、魔人がそれを出来ない道理はない。

 まあ、美樹先輩のような回復能力なんて持ってないから、時間と魔力を相当使いそうだが。

 ……てか、三人揃って、オレを心配そうに見つめるな、照れる」

「お前は、どうしてそう……!」

「落ち着きなって、杏子。

 てか、群雲も照れるってなによ、照れるって?」

「もうほんと、魔法少女達は自分の可愛さをもっと自覚するべきだよね。

 ただでさえ、異性との接触経験なんざ皆無なオレとしては、冷静さを保つのに必死」

「……右腕を失った直後の会話じゃないわよね、これ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな訳で、オレを通常通りに戦力として数えないでくれよ?」

 

 右腕の止血を終えた群雲が、言いながらその場に座り込む。

 さやかのように、骨が折れたわけではなく、弾け飛んでしまった群雲の右腕。

 それは、右手の平の<部位倉庫(Parts Pocket)>が、完全に使用不可能になった事を意味する。

 弾丸の補充が不可能である事を意味し。

 もちろん『逆手居合 電光抜刀』が使えるはずも無く。

 

「今のお前を戦わせるほど、あたしらは鬼畜じゃねぇよ」

「待ってて。

 すぐに魔女を倒して、貴方の治療に専念しましょう」

「あたしの癒しの力で、腕ぐらいすぐに生えてくるわよ」

 

 それぞれが言いたい事を言いながら、芸術家の魔女に向かう。

 その三者三様の背中を見つめながら、群雲は腰の後ろのショットガンを取り出す。

 

「何が辛いって……ストックしていたGS(グリーフシード)が取り出せないのが、一番辛いわ」

 

 片手しか使えないながらも、弾丸を抜き、群雲は空になった銃を腰の後ろに戻す。

 杏子の縛鎖結界に背中を預け、そのまま座り込みながら、群雲は弾丸を左手で弄ぶ。

 

「見届けさせてもらうぜ?

 先輩達の闘劇を」




次回予告

魔女との戦い

それは、いつだって命懸け

六十章 決して多い方ではない


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六十章 決して多い方ではない

「仕方ないっちゃぁ、仕方ないんだが。
 もっと、簡単に、シンプルに魔女退治って出来ないものかねぇ?」
「よっぽど強くならないと、無理だろ」
「ですよねー」


「使い魔が多いよっ!?」

 

 魔女結界に辿り着き、中に入ったまどかの第一声がこれだった。

 

 

 

 

 

 

 

 暁美ほむらは、時間遡行者である。

 だが“前回”も含めて、彼女の魔法少女歴は、二ヶ月に満たない。

 10歳の時に契約した群雲を含め、ほむらの経験は決して多い方ではないのだ。

 

 加えて、鹿目まどかも、さやかほどではないが、契約してからそれほど日は経っていない。

 

 

 

 

 

 二人が、最深部に辿り着くまで、もうしばらく掛かりそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔女結界最深部。

 

 巻き込まれてしまった一般人、上条恭介と志筑仁美。

 縛鎖結界を挟み、右腕を失った群雲琢磨。

 

 そして、戦線に立つ3人の魔法少女。

 その先にいるのは、芸術家の魔女。

 左腕の治ったさやかが剣を投げ。

 縛鎖結界が消えないように注意しながら、杏子が槍を投げ。

 マミが、マスケット銃を撃ち。

 

 使い魔を迎撃する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ティロ・フィナーレの反射。

 右腕が弾け飛びながらも、群雲が無理矢理凌がなければ、無事ではすまなかった事実。

 魔女本体への攻撃を自粛するには、充分すぎる理由であった。

 

「ちまちまやってても仕方がないぞ?」

「でも、さっきみたいに大技を反射されたらどうすんのよ?」

「暁美さんがいれば、時間停止中に攻撃出来るのだけれど……」

 

 

(電撃系の魔法を発展させるのに必死で、時間停止中の攻撃手段を確立させてなかったのは、失敗だったな。

 まあ、そもそも巴先輩のティロ・フィナーレが反射された事が想定外すぎたか)

 

 魔女撃退の策を練る三人と、ここに至ってなおマイペースな魔人。

 

 そして、相変わらず自分の作品(使い魔)を造り続ける、芸術家の魔女。

 

[攻めないの?]

 

 具体的な策が浮かばない三人を見ながら、群雲が念話を送る。

 

[反射を警戒してるんだよ。

 琢磨は、なにか策はないのか?]

 

 返事をしたのは杏子。

 

[策……と言うか、魔女を観察して、感じた事でもいい?]

[かまわないわ]

 

 マミの返事を聞き、群雲は僅かに思考した後、眼鏡を押し上げるいつもの動作を。

 ―――――しようとしたが、右腕がない事を思い出し、苦笑した。

 

[癖ってのは、この状態でも抜けないらしい]

[何の話よ?]

[気にするな、独り言だから]

[念話で独り言とか、器用な事しないでよ]

 

 さやかのツッコミを受けつつ、群雲は思考を切り替え、念話を続ける。

 

[使い魔生成に特化した上に、先程の反射能力。

 そして、先程からの三人との戦いから見るに、魔女は基本的に移動しないと思われる]

[そう言えば、あたしが魔女を間合いに捉えて斬りつけてた時も、動かずに衝撃波で吹き飛ばされたっけ]

[……そんな事があったんかい]

 

 さやかの独白を情報として組み込み、群雲は頭をフル回転させる。

 地味に<電気操作(Electrical Communication)>の影響があるのだが、群雲自身に自覚はない。

 

[遠距離攻撃に対しては反射、近距離攻撃に対しては衝撃波。

 魔女の対応はそんな所か?]

[そう考えるのが妥当な所か]

[自身が移動しないのならば、死角の無い対応だな。

 でも]

[でも?]

[普通に考えて“両方同時は無理”だろうな]

「「「!?」」」

 

右腕を失いながらも、ここまで冷静に状況を分析するあたりが、群雲琢磨の異常性。

 

[なら、近距離攻撃と遠距離攻撃を同時に行えば!]

[近距離攻撃してる人が、下手すりゃ死ぬぜ?]

[……ダメじゃねぇか]

[とりあえず、自分の考えを垂れ流してるだけだもの、オレ]

[……他には、なにかないの?]

[ふむ……。

 普通に考えれば“常に反射する事は出来ない”って事か?

 魔女にだって、魔力の限界があるだろうし]

[だとすれば、反射状態か、そうじゃないかをうまく見極める事が出来れば……!]

[大技を叩き込むのは、不可能じゃないだろうな]

[加えて予想するなら“反射状態を解除した直後に反射状態になる”ってのは、考えにくい]

[……狙い目は、反射状態を解除した直後ね]

[そして、オレの予想が外れてた場合、最悪自分の技で自分が死ぬ]

[……まあ、リスクの無い戦いなんて存在しないからな。

 あたしらが執るべき作戦はやっぱり]

[反射されても、被害の少ない攻撃を魔女に行い、反射状態になるのを待ち]

[反射状態が解除された直後に、大技を叩き込む、ね]

 

 作戦概要を決め、三人の魔法少女は、即座に行動を起こす。

 

(いざと言う時は<オレだけの世界(Look at Me)>で、リカバリーをかけるか)

 

 自分の時計が、11時59分59秒で静止したのを確認し、群雲は戦局を見守る。

 

 しばらく、使い魔を迎撃する傍ら、魔女本体にも攻撃を加えて、反射状態になるのを待つ。

 

(このまま、ダメージが蓄積されて倒せれば楽なんだろうけど)

 

 そう群雲が考えた直後、さやかの投げた剣が反射され、他二人が慌ててそれを迎撃した。

 

(ですよねー。

 そう簡単にいくなら、苦労はありませんよねー。

 てか、反射状態が意外と解り易いな。

 普通にバリア張ってる感じか)

 

 マイペースな群雲を余所に、三人の魔法少女は大技の準備に入る。

 

 一人は、その場に跪いて祈り。

 一人は、周りに無数の剣を生み出し。

 一人は、巨大な銃を構える。

 

 そして、芸術家の魔女が反射状態を解除した直後。

 魔法少女の魔法が、炸裂する!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「断罪の磔柱!」

「スプラッシュスティンガー!」

「ティロ・フィナーレ!」




次回予告












そして











状況は






























最悪へ


























六十一章 化け物


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六十一章 化け物

「全てを知っている奴なんていない。
 オレは、知っている事しか知らない。
 オレは、出来る事しか出来ない。
 そして、出来る事を、常に最善の状態で出来るとも限らない」


 三人の魔法少女の大技。

 

断罪の磔柱―――――自身が愛用する槍を巨大化させた物を地面より召還、突き上げる杏子の大技。

スプラッシュスティンガー―――――投げる為の剣を無数に召還、その全てを一息で投げきる、さやかの大技。

ティロ・フィナーレ―――――言わずと知れた、巴マミの代名詞。

 

 

 

 

 全てが炸裂し、反射される事もなく。

 巻き起こり、立ち昇る爆風の先。

 

 

 魔女の姿が、完全に消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

 群雲が、真っ先に感じたのは違和感。

 それが、何に対しての違和感なのかを探ろうとした矢先。

 

 

 

 

「オウフッ!?」

 

 背を預けていた縛鎖結界が消え、そのまま抵抗する事無く、後頭部を地面に打ち付けた。

 

「消すなら言ってよ!?

 たんこぶ出来たじゃん!!」

「攻撃に魔力使ったんだから、それぐらい気付けるだろ?」

 

 群雲の抗議をサラッと流して、杏子はどこからかスティックチョコを取り出し、口に咥える。

 その横を、さやかとマミが通り過ぎた。

 

「……?」

 

 拭えない違和感。

 群雲は、何とか原因を追究しようと

 

「腕は大丈夫?」

「……考えさせんかい」

 

 した矢先、今度はマミに遮られた。

 

「オレの事はいいから、まずは一般人を何とかしたら?

 オレにとっては、知ったこっちゃ無いが、そちらは違うんだろう?」

「大丈夫よ。

 向こうには美樹さんが行ったわ。

 知り合いのようだし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よるな、化け物!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その声に、マミと群雲が反応する。

 視線の先、手を差し伸べたまま硬直するさやかと。

 その場に座り込み、その表情を恐怖と拒絶で染める、上条恭介。

 志筑仁美も、恭介と同様の表情を見せている。

 

「てめぇ!

 命の恩人に向かって……!!」

「落ち着いて、佐倉さん!」

 

 その言葉に反応し、掴み掛かろうとする杏子を、それを察知したマミが止める。

 

「恭……介…………?」

 

 事態が飲み込めないさやかは、呆然のした表情のまま、想い人の名を呟く。

 

(違和感って事は、通常とは違うって事だよな)

 

 この期に及んでなお、自分中心な群雲。

 

 

 

「なんだよこれ!

 なんなんだよ、一体!!?」

 

 パニックを起こし、喚きたてる恭介。

 

「こんな訳の解らない場所で!

 見たこと無い化け物と、さやかみたいな化け物が殺し合うって、なんだよ!!?」

「恭介……あた「よるな、化け物!」……!?」

 

 錯乱する恭介をなだめようと、さやかが近づこうとするも逆効果。

 

「……群雲君が言っていたのは……この事?」

「なんだよ?

 琢磨が何だって?」

 

 その情景を見て、マミが真っ先に思い出したのは、結界内での群雲との会話。

 

 

 

 

 

 

『化け物を殺すのは、いつだって人間だ。

 でも“化け物を殺せる人間”を、他の人間は“同じ”だと認めるか?』

 

 

 

 

 

 魔人の事も、魔法少女の事も、魔女の事も。

 何も知らず、何も解らず。

 ただ、魔女結界に捕らわれた上条恭介と志筑仁美が経験したのは。

 

 

 

 自分達を殺そうとする、見た事の無い化け物。

 

 

 

 そして、其処に現れたのは。

 知り合いにそっくりな“化け物を相手取る存在”だった。

 

 繋がらないのだ。

 日常を共に過ごした友人(さやか)と。

 化け物を殺し、折れた腕が簡単に治る魔法少女(さやか)が。

 

「……こうなると、予想していたの?」

 

 マミの問いかけに、変わらず違和感の正体を探っていた群雲が、話半分に答えた。

 

「経験あるからな」

「……どういう事だよ?」

 

 マミに抑えられ、恭介に近づけない杏子も、マミと群雲の言葉に興味を示す。

 

「佐倉先輩と会う前か。

 見つけた魔女結界に、一般人が迷い込んでた事があってね。

 魔女狩りが目的だったオレは、一般人を無視して、魔女を殺した訳よ。

 で、GS(グリーフシード)を回収してた時に、その一般人に言われたんだよ。

 『化け物同士の殺し合いに、人間を巻き込むな!』ってな」

 

 仕方が無いと言えば、そうなのかもしれない。

 何も知らない人が、突然魔女結界で殺されそうになり。

 その“化け物”を、殺す存在が現れたのならば。

 何も知らない人が思うのは、どちらかだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“自分を助けてくれた英雄か”

“化け物を殺しにきた化け物か”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 残酷な事に。

 群雲が結果的に助けた人も。

 上条恭介と志筑仁美も。

 

 

 後者の印象を受けてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………!?」

 

 唐突に、群雲は気付いた。

 

 上条恭介はこう言った。

 

『こんな訳の解らない場所で!

 見たこと無い化け物と、さやかみたいな化け物が殺し合うって、なんだよ!!?』

 

 そして、群雲はこう言った。

 

『で、GS(グリーフシード)を回収してた時に、その一般人に言われたんだよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今の魔女のGS(グリーフシード)はどこだ?」

 

 杏子と群雲が組む理由は、利害の一致。

 効率良くGS(グリーフシード)を回収する事。

 

 目的は、GS(グリーフシード)だ。

 

 だが、前線で戦っていた3人が、回収した様子はなかったし、後方に居る群雲が回収できるはずも無い。

 

 

 

 

 

 そして、上条恭介が言ったように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは“今も”魔女結界の中なのだ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 群雲が気付くとほぼ同時。

 

 まるで、切り絵を貼り付けるかのように。

 

 下部分から順に、巨大な門が姿を現わす。

 

 

 

 

 

 6人の間近に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にげろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 誰よりも真っ先に気付いた群雲の声が、あたりに響き渡る。

 それにあわせて、魔法少女が行動を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう……“魔法少女”が。

 

 突然の叫び声。

 魔女の出現。

 

 それを、何も知らない、巻き込まれただけの一般人が反応できるはずも無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、残念な事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真っ先に行動したのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グチャ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 門をくぐるかのように出現した巨大な拳。

 それは、人間を肉の塊に変えるのに。

 充分すぎる威力を持っていた。




次回予告

其処に至るのには、理由がある



これは、最悪の夜へと繋がる







最低の出来事

六十二章 魔法少女の失態


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六十二章 魔法少女の失態

「どうあろうと、どうなろうと。
 それを自分だと受け入れられないなら。
 キミ達は、契約するべきじゃないよね」


 耐えていた。

 魔女は、3人の魔法少女の攻撃に耐えきった。

 かなり、ギリギリであっただろうが、耐え抜いた。

 

 魔法少女の失態。

 もし、群雲が万全でなくとも、魔女に攻撃を加えていれば。

 倒しきれていたのかもしれない事。

 

 魔女を倒したかどうかの確認を怠った事。

 GS(グリーフシード)が無い事、魔女結界が健在な事。

 気付ける要素は、確かにあったのだ。

 

 そして、芸術家の魔女の姿とこれまでの戦いから。

 “移動しない”と、思い込んでいた事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果、上条恭介が死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやああああああああああああああ!!!!!」

 

 声を上げたのは志筑仁美。

 

「……………………え」

 

 友人と想い人からの拒絶から、死。

 状況を理解できず、否、理解する事を拒み、呆然とするのは美樹さやか。

 

「いい加減、うざってぇ!!」

 

 愛用の槍を構え、交戦状態に入るのは、佐倉杏子。

 

「美樹さん、速く魔女から離れて!!」

 

 チームメイトに、必死に声を掛けるのは、巴マミ。

 

(声を出すより先に<オレだけの世界(Look at Me)>を使うべきだったか?)

 

 ここに至っても尚、冷静に状況を見るのは群雲琢磨。

 

 

 

 

 

「返して!

 上条君を帰してぇ!!」

 

 半狂乱になりながら、近くに居たさやかに掴みかかる仁美。

 しかし、茫然自失状態のさやかは、何の反応も示さない。

 

 だが。

 ここに至って尚。

 魔法少女の失態は続く。

 

 何故なら。

 次に動いたのは。

 

 

 

 

 

 

 魔女だったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 自身を中心とした衝撃波。

 唯一、先程の言葉通りに距離を置いていた群雲を除いた全員が、それをまともに受けてしまう。

 

 美樹さやかが弾き飛ばされ。

 佐倉杏子が弾き飛ばされ。

 巴マミが弾き飛ばされ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 志筑仁美が、弾けとんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法少女は、肉体を強化されている。

 変身中はもとより、通常状態でもそれは適応される。

 魔法少女にとって肉体とは“道具”であり“魂の器ですらない”のだ。

 変身とは“魂が運用する魔力を効率良く使う為、道具()を改良した”結果なのである。

 かと言って、通常状態でその恩恵をまったく得られないのでは意味が無い。

 変身しなくても使える魔()はあるが、変身した方が使える魔()が増える。

 そういうシステムなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな、強化された肉体を持つ魔法少女をも弾き飛ばす衝撃波を。

 普通の人間が受けたとしたらどうなるか。

 それは、ボールが当たるのとミサイルが直撃するぐらいに、意味合いが変わる。

 基本的に人間は“魔女と戦う為に創られた訳ではない”のだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………あ」

 

 皮肉な事に。

 一瞬で、無数の肉片に成り果てた志筑仁美を目の当たりにして。

 さやかはようやく絶望(ゲンジツ)を認識し始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何かが、変わった。

 上条恭介が事故に遭ってから、美樹さやかの世界の何かが変わってしまった。

 

 見ていられなかった。

 夢を失い、希望が見えず、絶望に泣く想い人を見ていられなかった。

 

 だから、願った。

 キュゥべえに願い、魔法少女になる事を対価に、上条恭介の腕を治して貰った。

 

 元に戻るはずだった。

 事故による怪我を克服した上条恭介の横で、再び好きな人が奏でる音色を、聴ける筈だった。

 

 自分ではなくなった。

 今、上条恭介の近くに居るのは志筑仁美であり、美樹さやかではなくなった。

 

 捨てなかった。

 それでも、自分が長年培ってきた想いを、そう簡単に捨てられる筈もなかった。

 

 立ち上がった。

 鹿目まどかという親友と、巴マミという先輩が、自分を必死に励ましてくれた。

 

 戦う事を選んだ。

 それが願いの対価であったし、自分が戦う事で、一人でも多く、大切な人を失う事が減るのだと信じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無力だと痛感した。

 魔人には軽くあしらわれ、赤い魔法少女にはボロボロにされた。

 

 疑問を感じた。

 人々を護れる力があるのに、自分にしか使おうとしない二人が、理解できなかった。

 

 共闘した。

 まどかとマミだけでなく、信じられない事を言った転校生とも、自分をボロボロにした赤い魔法少女とも、造りモノとしか感じられない笑顔を向ける魔人とも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話をした。

 正面から真っ直ぐに、自分の考えと、相手の考えを聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、戦った。

 魔女結界を見つけ、中に入り、魔女を倒す為に戦った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして……美樹さやかは…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拒絶された。

 護る為に戦っていた筈なのに、護るべき存在に否定された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 護れなかった。

 目の前で、上条恭介が死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 護ろうとしなかった。

 志筑仁美に対し、さやかは何の行動も示さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 絶望した。

 それは、終末と再誕を意味する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 芸術家の魔女。

 その結界の最深部。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法少女の、最後の失態。

 新たな魔女が孵る事を、止められなかった事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[告白してれば、変わったのかな?

 恭介と一緒に居られたかな?

 仁美に、取られないですんだのかな?]

[え……さやかちゃん!?]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あたしって、ほんとバカ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人魚の魔女―――オクタヴィア・フォン・ゼッケンドルフ―――

その性質は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恋慕




次回予告

希望は魔法少女を生み

絶望は魔女を産む














それは、偽りだ

六十三章 羨ましい


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六十三章 羨ましい

「魂が結晶化された以上、もうどこにも行く事はないのに。
 わけがわからないよ」


[ねぇ]

[ん?]

[あんたは……好きな人っている?]

[多分、いないと思うぞ?

 そもそも、契約前は敵しかいなかったし]

[だから、そんなに歪んだのね]

[ストレートに言うなぁ。

 まあ、その通りなんだが]

[頑張って、好きな人を見つけなよ?

 あたしみたいにならないように、さ]

[頑張って作る様なものなのか?

 空想物だと“気がついたら~”みたいなのが多いが]

[先輩として、さやかちゃんがレクチャーしてあげたいところだけど。

 あたし、もうすぐ“終わっちゃう”から]

[自覚はあるのか]

[ほんと、転校生の話をしっかり聞いておくべきだったよ。

 なんかもう、後悔しかないや、今のあたし]

[……右手の平があれば、ストックで浄化出来たかもしれないが]

[無理だと思う。

 それぐらいは、あたしでも解る]

[そっか]

[あんたにも、嘘言っちゃったね。

 後悔しないって言ったのにさ]

[まあ、仕方ないんじゃないか?

 客観的に見て、耐えられる奴なんて、オレみたいな狂人ぐらいなものだろ?]

[そっか。

 しかたないか]

[ああ。

 しかたないさ]

[……そろそろ限界っぽいなぁ。

 もし“向こう”に逝けたら、二人にあやま]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでも、羨ましいと思ってしまうオレを知ったら、美樹先輩はどう思うんだろうな?」

 

 目の前で繰り広げられる戦いを傍観しながら、群雲は呟いた。

 

 

 

 

芸術家の魔女VS人魚の魔女

 

 使い魔を薙ぎ払う人魚の魔女。

 間近に横たわる“前の肉体”など気にも留めず。

 両手に持つ剣で、使い魔と魔女を切り裂いていく。

 

「どういう状況……なんですか……?」

 

 掛けられた言葉に、群雲が振りかえる。

 そこにいたのは、ようやく合流できた鹿目まどかと暁美ほむら。

 

「!?

 群雲くん、腕が!!?」

「気にすんな。

 自業自得なんで」

 

 まどかの心配を軽く受け流し、群雲は再び視線を魔女達に向ける。

 それに合わせるかのように、二人の魔法少女も視線を向ける。

 

「さやかちゃん!?」

「鹿目さん、だめ!!」

 

 魔女同士の戦い。

 その近くに横たわる“美樹さやかの抜け殻”に気付き、まどかが慌てて近づこうとするのを、ほむらが慌てて止める。

 

「放してほむらちゃん!!

 さやかちゃんが!!!」

「美樹さんは……もう…………」

 

 ほむらは気付いていた。

 否、知っていたと言うべきか。

 

 魔法少女になる前の時間軸で、ほむらは“芸術家の魔女”に捕らわれた所を“鹿目まどかと巴マミ”に助けられた経験がある。

 あの“巨大な門が魔女である事”を、ほむらは知っている。

 

 ならば、もう一人の魔女が“誰”なのか。

 それは、傍らに横たわる“抜け殻”が証明しているのだ。

 

「はじまるぞ」

 

 表情を変えず、戦いを見つめていた群雲が、淡々と告げる。

 その言葉で、二人の魔法少女が視線を向けた先。

 

 人魚の魔女の剣が、芸術家の魔女を完全に切り裂いていた。

 

 魔女の死と共に、魔女結界は消滅する。

 

 だが、ここにはもう一人の魔女がいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人魚の魔女結界が、芸術家の魔女結界を塗り潰す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔女になりながらも、想い人の仇を討つか。

 ほんと、羨ましいよ、美樹先輩。

 今のオレじゃ、そこまで誰かを想えない」

 

 まるで、コンサートホールのような魔女結界で。

 戦いはまだ続く。

 

 なぜなら、ここにいるのは、魔女と魔女を狩る者。

 

 人魚の魔女が、両手を振り上げると、巨大な車輪が次々に浮かび上がっていく。

 

「何が起こってるんだよ!

 さやかはどうしちまったんだよ!!?」

「見ての通り」

「見てわかんねぇから聞いてんだよ!!!」

 

 近づいてきた杏子の質問に、淡々と答える群雲。

 

「じゃあ……あれは……」

 

 残酷な現実を理解できてしまい、まどかは体を振るわせる。

 

「どうやら、説明している時間はないらしい」

 

 群雲の言葉と同時に、人魚の魔女が両腕を振り下ろし、それを合図に車輪の形をした使い魔が殺到する。

 

 慌てて回避行動をとる、魔法少女達。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当なら、魔力は回復にまわすべきなんだろうけどな」

 

 ただ一人、回避行動を取らず、襲い来る車輪に向かって進む、独りの魔人。

 

 右手の平が無い為“発生機関”が一つ少ないが、そんなことは知ったこっちゃ無いと言わんばかりに。

 

 

 

 

 魔法のレベルを、一つ上へ。

 

 

 

 

 

 

「おらぁぁぁぁぁ!!!」

 

 近づいてきた車輪の一つを、魔力による放電を収束させた右足で蹴り飛ばし、粉々に粉砕する。

 

 

 

 

「どうするんですか?」

「殺す」

 

 杏子が文句を言い、まどかが魔女に呼びかける中、ほむらの質問に、群雲は簡潔に答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もし“向こう”に逝けたら』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少なくとも“ここ”は“美樹先輩のいるべき場所じゃない”からな」

 

 右腕を失いながらも、群雲はたった独りで宣言する。

 

「では、闘劇をはじめよう」




次回予告

歯車は、決まった方向にしか動かない



歯車は、自分だけでは、動けない








この歯車を廻すのは……?


六十四章 つくづく自分が


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六十四章 つくづく自分が

「やれやれ。
 随分と、勿体無い事になってしまったよ。
 これだから、人間は理解できないんだ」


<操作収束(Electrical Overclocking)>

 

 両手、両足から発生する電気を収束させるLv2。

 右手を失い、その“電力”が落ちているとはいえ。

 本来、人間が体を動かす為の電気信号は、それほど強い物ではない。

 この魔法において、重要なのはそこではない。

 

 “強化された肉体の、限界を超える命令を、強制的に実行させる”

 

 それが、いかに異常な事か。

 それが、いかに無法な事か。

 

 

 

 

 

 

 

 実行者本人は、知ったこっちゃ無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一蹴りで、7体ほどの踊る使い魔を纏めて葬り、魔人はゆっくりと歩を進める。

 常に、収束させる必要は無い。

 攻撃する時のみ<操作収束(Electrical Overclocking)>を発動させ、攻撃が終われば解除する。

 onとoffを繰り返しながら、群雲は人魚の魔女に近づいていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 のちに、群雲は思う。

 

「判断ミスの連続だ。

 つくづく自分が、情けないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暁美ほむらの時間停止。

 それが、全てを静止させ、全てをひっくり返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鹿目まどかは、人魚の魔女が“誰であったか”に気付いている。

 故に、呼びかけを繰り返しはするが、攻撃をすることが出来ない。

 

 だが、暁美ほむらの願いの中心にいるのは、鹿目まどかである。

 彼女に車輪が迫り来る中で、ほむらが力を使わないはずが無い。

 

 

 

 体が動かせない“自分のじゃない世界”で。

 群雲は、人魚の魔女の周りに爆弾を設置するほむらを、右目で見つめている。

 

 取り囲むように設置された爆弾から、逃げる術は無い。

 時が動き出せば、彼女は“終わる”だろう。

 

「ごめんなさい…………美樹さん」

 

 その声に込められるは、悲しみ。

 こうする事しか出来ない悔しさ。

 それでも、まどかを守りたいと願った決意。

 

 そして、スイッチは押され。

 

 

 

―――――時は、動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおおおおおああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 時が動き出し、爆弾が爆発するまでの、ほんの一瞬。

 群雲は、先程取り出していた弾丸を左手に持ち、一気に“収束”させ、投げ放つ。

 

電磁砲(Railgun)

 

 黒き光線となりし弾丸が、人魚の魔女の中心を捉え、貫く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あんたは、それで寂しくないの?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寂しいに、決まってるだろ……」

 

 爆発の中に消える、魔女と抜け殻(美樹さやか)から、目を逸らさず呟いた言葉も、結界と共に消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結界の入り口と最深部(出口)で、場所が違うのはよく経験するが……」

 

 自分達が、駅のホームにいる事に、僅かに驚きながら、群雲は空を見上げる。

 

「………さやか………」

「こんなの……あんまりだよぉ…………」

 

 見ていられない、と言う方が正しいのかもしれない。

 いつの間にか日は沈み、月が覗く空を眺めながら、群雲は静かに息を吐き、変身を解除した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日、群雲はとことんまでに、判断を誤る日であるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 唐突に感じた魔力に、群雲が慌てて振りかえる。

 その視界に映ったのは、リボンで拘束された暁美ほむらと。

 二丁のマスケットを構える巴マミ。

 

 そして、すでに放たれていた弾丸。

 

「がっ!?」

 

 その弾丸は、的確に群雲の心臓を撃ち抜き。

 もう一つの銃から発射された弾丸が、杏子のSG(ソウルジェム)を撃ち砕いていた。

 同時に、その場に崩れ落ちる群雲と杏子。

 そして、新たなマスケットを編み出し、銃口をほむらに向けるマミ。

 その頬を、とめどなく涙が流れ伝い。

 その表情は、悲しみと絶望に染められている。

 

SG(ソウルジェム)が魔女を生むなら……。

 魔法少女として、使命を全うするのなら……。

 みんな、死ぬしかないじゃないッ!!」

 

 それでも、絶望に穢れきる前に、自らの手で終わらせようとするのは、ある意味正しいのかもしれない。

 だが。

 

「不合格だ、巴マミィィィ!!」

 

 動くはずが無いと思っていた群雲が、変身しながら飛び上がり、マミのマスケットを蹴り落とす。

 

「なっ、どうしてっ!?」

「そういや、オレのSG(ソウルジェム)がどこにあるか、マミチームは知らないんだったなぁ!!」

 

 マミが、新たなマスケットを編み出すと同時に、群雲は右脇の銃を左手で取り出し。

 二人は、同時に構える。

 

「心臓貫かれても、これだけ動ける。

 なるほど、つくづく自分が化け物だと実感するね」

 

 こみ上げてきた血を無理矢理飲み込みながら、群雲は口の端を持ち上げる。

 

「そうよ!

 私達は化け物なのよ!!」

 

 マミの悲痛な叫びと共に、マスケット銃が巨大化する。

 

「!!?

 暁美先輩もろとも殺る気かッ!!!」

「だから、皆が本当に化け物になってしまう前にッ!!

 私が……!!!」

 

 だが、その銃が火を吹く事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 桃色の矢が、マミの髪飾りになっているSG(ソウルジェム)を撃ち砕いたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やだ……」

 

 呟きと共に、弓を落とすまどか。

 

「もうやだ……こんなの…………あぁぁ…………」

 

 呟きは嗚咽へと変わり、まどかはそのまま泣き崩れる。

 リボンから解放されたほむらが、まどかに駆け寄り、その体を必死に包む。

 

「ぐっ……ごぶっ……!」

 

 再び湧き上がった血を、今度は飲む込む事が出来ず、吐血する群雲。

 その嫌な音に、ほむらが涙に濡れた視線を向けるのを、群雲は左手を振り、大丈夫だとアピールする。

 

[支えてやれ。

 支えてもらえ。

 マミチームはもう、先輩達しかいないんだから]

 

 それでも、声を出すのが辛いので、念話で二人に告げ、群雲は再び空を見上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(それでも、血を吐けるだけましだと思ってしまうあたり。

 つくづく自分が―――――)

 

 自分の思考に、群雲は変わらず、口の端を持ち上げるのだった。




次回予告

この舞台はとことんまでに

この世界はとことんまでに






最悪な状況を整えたいらしい

六十五章 自己満足


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六十五章 自己満足

「不謹慎だな」
「不謹慎だね」
「お前が言うな、ナマモノ」
「ぎゅっぷい」


 一気に、半分になってしまった、最悪の日から一夜明け。

 

 群雲は、これまで通りに教会にいた。

 

 

 

 否、これまで通りではない。

 右腕は相変わらず、あるべき部分がなく、袖をぱたぱたと揺らしている。

 眼鏡を掛けることすらせず、群雲は黙々と“ある作業”を続けていた。

 

 

 

 

「わけがわからないよ」

 

 教会の入り口から、表情を変える事無く、紅い瞳を覗かせるのは、キュゥべえだ。

 

「そりゃ、わからないだろうな」

 

 口の端を持ち上げながら、キュゥべえを見る事無く、群雲は片手での作業を続ける。

 本来、右利きである群雲には、左手しか使えない事が億劫でしょうがない。

 それすらも割り切り、群雲は作業を続ける。

 

「そんなことをしても、意味は無いだろう?」

「意味なら、あるさ」

 

 キュゥべえの言葉を切って捨て、群雲は額の汗を拭った。

 

「あとは、これのスイッチを入れて……」

「どんな意味があるんだい?」

「お前、オレの行動原理は知ってるだろ?」

 

 スイッチを入れ、タイマーが作動したのを確認し、群雲は振りかえる。

 

「オレはいつだって、自分の為に動く。

 だからこれは、オレの自己満足以外の、なにものでもない」

 

 そして、群雲は入り口に向かって歩き出す。

 

「それで、琢磨は満足するのかい?」

「まあ、一つのけじめにはなるな」

 

 入り口まで辿り着いた時、キュゥべえは群雲の肩に乗る。

 

「……一つ、聞いていいか?」

「なんだい?」

 

 群雲が振り返り、キュゥべえと共に見るのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダリアの花に囲まれた、佐倉杏子の抜け殻。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後。

 駅のホームから、杏子の抜け殻を教会に運んだ群雲。

 マミの方は解らない。

 右手の平の<部位倉庫(Parts Pocket)>が使えるならともかく、もっとも小柄な上に、右腕を失っている群雲に、人を二人も運ぶ事は出来ない。

 

 元々、マミには遠い親戚しかいない。

 まどかとほむらが、マミの抜け殻を警察に言おうものなら、面倒になるのは確実。

 

 しかし、不可抗力とはいえ。

 自分達を殺そうとした人を。

 自分達のせいで死んでしまった人を。

 

 自分達が、殺した人を。

 

 あのまま放置するとは群雲も考えてはいない。

 

 その点において言えば、抜け殻すら残らなかった美樹さやかはどうなるんだと言う話であり。

 

 

 

 

 

 群雲は、割り切る事にした。

 

 

 

 

 

 だからこれは、群雲の言う通り“自己満足”でしかない。

 自分の腕の回復を後回しにしてまで。

 杏子を教会に運び。

 魔法を駆使して、必要な物を集め。

 

 今、全ての準備を終えて、群雲は教会を去る。

 

「行かないのかい?」

「行くさ」

 

 キュゥべえに催促され、群雲は最後にもう一度、その光景を見つめて。

 

 

 

 

 

 そのまま、教会を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聞きたい事ってなんだい?」

 

 目的地へ向かう途中。

 肩に乗るキュゥべえが、群雲に言葉を促す。

 

「ああ」

 

 そういえば、質問しようとしていたんだと、群雲は思い出し。

 

「魔女結界の最深部にあの二人がいたのはお前の仕業だろ?」

 

 一息で、言ってのけた。

 

「……どうして、そう思うんだい?」

 

 その質問に答える為、群雲は一つ息を吐いてから、自らの推論を提示した。

 

「オレは結界を進む最中に、殺された一般人を見た。

 あれだけ安定した魔女結界なら、魔女の口づけによって招かれ、殺されている人がいても、不思議じゃない」

「だが、あの二人……上条恭介と志筑仁美は違う。

 二人には、魔女の口づけがなかった」

「なら、二人は以前のオレのように、魔女結界を認識する事の出来る“素質者”であったのか?

 それはない」

「鹿目先輩や美樹先輩、魔法少女が身近にいる存在が素質者であったなら、お前が契約を持ち出さないはずが無いからだ」

「そうなると、何故あの二人は“最深部”にいたのか。

 考えられるのは一つ。

 そうなるように“仕組まれた”からだ」

GS(グリーフシード)が孵化する場所こそが“魔女の住処”であり、同時に“最深部”でもある。

 ……容疑者が一人しかいない推理ゲーム……続けるか?」

 

 足を止める事無く、群雲は続きを言うべきかを問う。

 

「……キミには、驚かされてばかりだね」

「肯定と受け取るぜ。

 てか、感情の無いお前が、驚くとか出来もしない事を言うな」

「褒めてるんだよ?

 キミはとことんまでに、僕らの予想を上回ってくれるからね。

 間違いなくキミは、今までで一番“長命”な魔人さ。

 加えて、あの状況下において尚“堕ちる”事無く、これだけの状況整理をしてみせる。

 なによりも、キミの身に起きた、前例の無い不可解な現しょ」

 

 キュゥべえは、言葉を最後まで言う事が出来なかった。

 前方より放たれた“銃弾”が、確実に頭部を貫いていたからだ。

 

 

 

 

「どうして……!」

 

 変身状態で、銃口を向けるのは暁美ほむら。

 

「人の肩に乗ってるのを撃ち抜くとか、怖い事は止めて貰えると、精神的に安定した魔人生活が送れるんだが」

「どうしてキュゥべえと一緒に居られるんですかッ!!」

 

 眼鏡の奥にある瞳に、涙を浮かべながら。

 ほむらとは思えない、大きな声があたりに響く。

 

「……聞きたい事があっただけさ」

 

 口の端を持ち上げ、群雲は一言、そう告げる。

 

 内容を話すつもりは無い。

 その内容は確実に、先輩達の魂を穢すだろうと、群雲は考えている。

 

「……鹿目先輩は?」

 

 ほむらが一人なのを確認し、群雲が問いかける。

 

「……昨日の、駅のホームに」

 

 銃を盾の中に戻しながら、ほむらは言う。

 

「死者を弔う……か。

 巴先輩か美樹先輩か、一般人の二人か。

 ……鹿目先輩だし、全部か」

 

 足を止める事無く、群雲はそのままほむらの横を通り過ぎる。

 

「魔女結界で死ねば、死体すら残らない。

 残った死体も、魂の砕かれた抜け殻だ。

 弔おうにも、そこにはもう“ナニモナイ”んだから。

 残された人の“自己満足”でしかない」

「!!?

 あなたは……!!!」

 

 振り返り、ほむらが声を荒げた瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それほど遠くない場所から、爆発音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分の後方からの音に、ほむらは再び振り返る。

 

 その視線の先、黒煙が立ち昇る場所。

 ほむらは其処がどこなのか、すぐに理解した。

 

 それは以前、6人で話をした場所。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………自己満足さ」

 

 立ち昇る黒煙を確認する事無く。

 決して、足を止める事無く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 消え入るような声で、群雲は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで」

 

 目的地を、まどかがいるだろう駅のホームに変更し。

 無言のまま、しばらく進んでいた群雲が、ほむらに声を掛ける。

 

「真昼間なのに、空が暗いんだが」

「……街の人達は、避難勧告に従って、避難所に集まってます」

「まあ、そうだろうなぁ」

 

 軽くため息をつきながら、群雲は変身する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最強の魔女襲来まで、後4日。

 

 それは、別の時間軸から来た、暁美ほむらによる情報。

 

 どうやらその情報は。

 

 この時間軸には、適応されないようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告















その戦いに、特筆すべき事は無い









六十六章 約束


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六十六章 約束

「それでもオレは……お前らの思い通りにはさせねぇよ?
 だって、それじゃあ、笑えないんだから」


 その日、見滝原が無くなった。

 

 

 

 

 

 その戦いに、特筆すべき事は無い。

 むしろ、戦いとすら呼べるかどうかも疑問である。

 

 

 

 

 以前の時間軸において、ほむらはワルプルギスの夜討伐を成し遂げている。

 しかし、今回においては、全ての状況が敗北を示す。

 

 友人達の死、先輩の乱心。

 魔法少女が魔女になるという事実。

 それを突きつけられ、誰が全力で魔法が使えるというのか。

 

 使えば使うほど、自らを魔女へと導くのが“魔の法”である。

 それを知り、誰が全力で魔法が使えるというのか。

 

 

 

 それすら割り切ってみせる魔人に至っては、要とも言える右手を失っている。

 電光抜刀も、弾丸の補充も、魔力回復の為の物すら、取り出す事が出来ず。

 その身ひとつで、戦うようなものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その戦いに、特筆すべき点は無い。

 否、それは、戦いとは言えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただ、ワルプルギスの夜は、笑いながら通り過ぎただけ。

 それに巻き込まれたのは見滝原。

 抗う所にすら辿り着けなかったのは、二人の魔法少女と独りの魔人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――その日、見滝原は消えた―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつて、見滝原だった場所。

 そこに横たわるのは二人の少女。

 ボロボロになったその体は、もはや変身する事も出来ず。

 その手に持つ魂の結晶は、どす黒く穢れ。

 

―――――再誕の時を待つ。

 

「GS《グリーフシード》……残ってる……?」

 

 ほむらの言葉に首を振るまどか。

 

「……群雲……くんは……?」

「……あったら……体を……直してる…………」

 

 横たわる二人の少女の片隅。

 瓦礫に背を預けた状態の群雲もまた、搾り出すように声を発する。

 

 相変わらず、右腕は無く。

 両足は、本来有り得ない方向へとひしゃげ。

 左足に至っては、膝から先の骨が、完全に露出している。

 そして、体の中心に空いた大きな穴は、もたれている瓦礫が紅く染まっているのを、正面から視認出来てしまう。

 そして、文字通りに、首の皮一枚で胴体と繋がっている頭部。

 これでも尚、死んでいないのだから、孵卵器(インキュベーター)の技術は素晴らしく高度なのであろう。

 

「そっか……」

 

 唯一変身状態ではあるものの、一番ボロボロになっている群雲から視線を外し、ほむらは雨の降り注ぐ空を見上げる。

 

「皆一緒に化け物になって……この世界を壊しちゃおっか……?

 辛い事、悲しい事、全部ぜーんぶ壊しちゃえるぐらいに……みんなで…………」

「……不合格だ…………暁美……ほむら…………」

 

 ほむらの言葉を、搾り出すような声でありながらも、いつもの口調になるよう努めながら、群雲は宣言する。

 その言葉を聞いたほむらは、まどかと逆方向にいる群雲に、視線だけを向ける。

 

「……どうして……?」

「…………出せ……SG(ソウルジェム)……」

 

 質問に答えず、群雲は唯一動く左手に持ったリボルバーの銃口をほむらに向ける。

 だが、その銃はカタカタと音を立てながら震えており、どう考えても狙い通りの場所に当たるとは思えない。

 

「そんな事……させねぇよ…………?

 そんな……笑えねぇ事……させたら……。

 他の先輩に……叱られるだろうが……。

 皆…………優しかった……から……」

 

 黒の左目と、黒く染まりかけた右目を向けながら、それでも群雲は口の端を持ち上げてみせる。

 

「どうして……あなたは……」

 

 眼鏡の奥。

 絶望に染まる瞳を向けながらのほむらの質問に群雲は。

 

「言い飽きたんだが……。

 オレの為……に……決まって……!!?」

 

 言葉の途中、群雲の両目が驚愕に見開かれると同時に。

 

 

 

 

 まどかが、ほむらのSG(ソウルジェム)の浄化を開始した。

 

 

 

 

「はは……鹿目先輩の……うそつき~……」

 

 まったく攻める気の無い口調で言いながら、群雲は左手を下ろす。

 

「ごめんね……群雲くんもボロボロなのに……使っちゃった…………」

「鹿目先輩の、持ってる……物を、どう使おうが……先輩の自由……だろ……?

 謝る意味が……わから……ない……」

 

 ボロボロなのに、二人は軽い感じで会話をする。

 その間にいるほむらは、慌ててまどかの手を掴む。

 

「どうして私に……!?

 私なんかよりも……鹿目さんが……!!」

 

 それでも、引き離されまいと浄化を続けながら、まどかは僅かに微笑みながら言う。

 

「私じゃ……ダメだから……。

 ほむらちゃんじゃないと……出来ない事、御願いしたいから……」

 

 僅かに微笑み、それでもその瞳から涙を流しながら。

 

「ほむらちゃん、未来から来たって……。

 過去に戻れるって……。

 そう、言ってたよね……。

 だから……キュゥべえに騙される前の……バカな私を……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――私を、助けて―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「約束するわ。

 必ず、貴方を救ってみせる…!

 何度繰り返しても。

 何十回、何百回と繰り返してでも。

 絶対に助けてみせる…!」

 

 その言葉に、満足そうに頷くまどか。

 

「ほむらちゃん……。

 ……もう一つ……いいかな……?」

 

 その言葉から、全てを察し、ほむらが体を起こす。

 

「私……魔女にはなりたくない……。

 辛い事、悲しい事……。

 いっぱい、嫌な事があったけど……。

 それでも、私は……。

 この世界で、ほむらちゃんに……逢ったんだよ………?

 さやかちゃん、マミさん、杏子さん、群雲くん……。

 皆と逢ってよかったって……。

 それだけは、後悔したくなくて……。

 だから……魔女になるのは嫌……。

 皆を……傷つけるような存在なんて……いやだよぉ……」

 

 いいながら、自分のSG(ソウルジェム)をほむらに差し出すまどか。

 同時に、ほむらの傍に、左手に持っていたリボルバー拳銃を放り投げる群雲。

 

「オレじゃ無理……多分、当てられないから……」

 

 託された。

 残酷で優しい、終末の願いを。

 

「まどか……琢磨……!」

 

 銃を手に取り、ほむらは託した者の名を呼ぶ。

 

「やっと……名前で呼んでくれたね……」

「……慣れないなぁ…………照れる……」

 

 二人の言葉を聞きながら。

 ほむらは銃を構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつて、見滝原という名前だった場所。

 そこに響くのは、少女の慟哭と、一つの銃声。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――そして、魂のコワレルオト――――――――――




次回予告






演目は終わり

幕は下ろされ






再び上がる為





少女は、歯車を廻す





これは、そんな道化師(ピエロ)の、舞台劇





第二幕 失意と約束のsecond night 閉幕

六十七章 また



















それでも必ず、幕は上がる

これは、そんな舞台劇









BAD ENDじゃ、意味が無い

無法魔人のモノガタリ


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六十七章 また

「所詮、自分の見た世界こそが全て。
 だから、ただ。
 子供らしく、子供のように。
 遊ぶだけさ」


 ほむらは涙を拭いながら立ち上がり、群雲へ銃口を向ける。

 

「……必要ない」

 

 言いながら、左手を差し出す群雲。

 

「でも……」

「もうすでに、暁美先輩は背負ってる物がある……。

 これ以上……背負わせる気は無い……。

 ケリは……自分で着ける…………から」

 

 僅かに躊躇うも、ほむらはゆっくりとリボルバーを群雲に返す。

 受け取ったリボルバーを左手だけで操作しながら、群雲は静かに告げる。

 

「状況が絶望に向かった切っ掛けは……美樹先輩の魔女化から……なのかも知れないが。

 最後に希望を繋いだのが……美樹先輩のGS(グリーフシード)なのだから……。

 中々、素敵な演出だと……思わないか…………?」

 

 その言葉に、ほむらは驚愕の表情を浮かべながら、まどかを見る。

 右手にあるのは、砕け散ったまどかの魂。

 左手にあるのは、ほむらのSG(ソウルジェム)を浄化した、魔女の卵。

 

「ナマモノにも渡さず……大切にとっておくつもり……だったんだろうな…………。

 唯一残った……美樹先輩の“形見”として……」

 

 抜け殻が残ったマミと杏子とは違い、さやかの抜け殻は魔女結界と共に消えた。

 故に、さやかは行方不明のまま……もう、誰にも知られる事は無い。

 だからまどかは、残されたGS(グリーフシード)を、最後まで使わなかった。

 元々、使うつもりもなかったのだろう。

 

 結果的にそれが、最後の最後で希望を繋ぎとめたのだ。

 

 

 

「巴先輩の事……オレ達は責められないな……。

 結局……彼女がしようとした事を……こうして決行したんだから」

 

 巴マミは、皆を殺そうとした。

 魔法少女が魔女になる前に。

 仲間達が絶望を振り撒く前に。

 自分で背負い、自分で終わらせようとした。

 

 結局、まどかもまた、絶望を振り撒く前に終わる事を望み。

 それを、実行した。

 

 

 

 

「だからこそ……暁美先輩は、絶望するな」

 

 ようやく、リボルバーから空薬莢を取り出せた群雲は、それをほむらに投げ渡す。

 それは、()()()()()()()()()弾丸の物。

 

「もし、暁美先輩が絶望し、終わるような事があれば。

 鹿()()()()()()()()()()()()()()()のだから」

 

 その言葉を噛み締めながら。

 ほむらは、受け取った空薬莢をしっかりと握り締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ、行くね」

 

 盾に手を掛け、ほむらは告げる。

 

「……おー……」

 

 気の抜けた返事……と言うよりも、喋るのが億劫な感じで、群雲は返事をする。

 下手に肉体の修理に魔力を使えば、群雲のSG(ソウルジェム)が、穢れきってしまうかもしれない。

 だが、今の体では群雲はろくに動けない。

 

「ごめんなさい……また、貴方を置いていってしまう」

 

 嫌な縁である。

 前回も、今回も。

 最後に残ったのは、暁美ほむらと群雲琢磨。

 過去に戻ったのは、ほむら。

 その場に残ったのは、群雲。

 

「過去に戻り……未来が変えられるのなら……置いてかれても、置いてかれなくても、一緒だろ……?」

 

 そのあたりを割り切れるのが、群雲琢磨。

 

「だから、暁美先輩」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また、な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 暁美ほむら

 

 病室のベッドで目を覚ました私は、素早く身を起こし、洗面台に向かう。

 

 もう、まどかには戦わせない。

 彼女を、魔法少女にはさせない。

 

 洗面台の鏡の前に立ち、素早く眼鏡を外す。

 

 話をしても、信じては貰えなかった。

 信じてくれたのは、群雲琢磨ただ一人。

 あの子がいなければ、きっとまどかも信じてはくれなかった。

 ……誰かが、目の前で魔女化しないかぎりは……。

 

 SG(ソウルジェム)をかざし、視力を魔力で回復させる。

 

 魔法少女の真実は、魔法少女にとっては毒だ。

 だから私はもう、誰にも頼らず、全ての魔女を一人で殲滅してみせる。

 ……当面、最大の目標は“ワルプルギスの夜”

 あの夜を越えられなければ、私の旅は終わらない。

 私の未来は、始まらない。

 

 結んであった髪を解き、私はその場で変身する。

 

 まどかとの約束を叶える為、彼女を助ける為ならば。

 私は何度だって、この1ヵ月を繰り返してみせる。

 必ず、彼女を救う未来へ、辿り着いてみせる。

 

 盾の中から、一つの空薬莢を取り出し、それを握りしめる。

 

 その為なら私は、どれだけの間、迷路の中で迷おうとも。

 決して、絶望したりしない。

 決して、希望を捨てたりしない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分が、何回繰り返したのかは覚えていない。

 まどかを救えなかった世界に、用など無いのだから。

 それを数える必要も無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 唯一つ、気がかりなのは……。

 あの“約束の世界”以降で、私は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうせ、家族に置いて逝かれた身だ。

 今更、置いていかれる事に、文句を言う気はないさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

           群雲琢磨と、出逢っていない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第二幕 これにて閉幕

そして、舞台は一新され

始まるのは、第三幕



それは、繰り返す少女と

それは、未来を変えようとする少女と

それは、孤独から抜け出した少女と

それは、拠り所を見つけた少女と

それは、繋がりを守る少女と

それは、有限を無限に捧げる少女と








それは、中心に添えられた少女と







それは、屍となった少年の










第三の悲劇









第三幕 共愛と狂愛のthird night

六十八章 無いだろう


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第二幕設定集(wiki風味)

「」
「なんか言えよ」


ストーリー展開

 

 見滝原で、魔法少女として活動していた、巴マミ、鹿目まどか、美樹さやかの三人。

 別の場所で出会い、行動を共にしていた佐倉杏子と群雲琢磨が、この見滝原に辿り着く所から、今回の幕は開く。

 思想と目的の違いから、最初は対立してたのだが、別時間軸から来訪した暁美ほむらや、共通する魔女との戦いを通じて、互いを知り、最強の魔女『ワルプルギスの夜』を討伐する事を目的に一時休戦となる。

 しかし、上条恭介、志筑仁美の両名が捕らわれていた魔女結界での出来事を切っ掛けに事態は急変。まどか、ほむら、群雲の三名だけが生き残る結果となってしまう。

 そんな状態で、ワルプルギスの夜に勝てる筈もなく、まどかは時間遡行出来るほむらに希望を託して落命。その約束を胸にほむらは次の時間軸へ。ただ独り、群雲は再び置いていかれる事となった。

 

 

概要

 暁美ほむら3週目。原作主要の5人全員が魔法少女である数少ない時間軸にして、ほむらが三つ編み眼鏡だった最後の時間軸でもある(※1)。

 五人の魔法少女+魔人の構成を生かせる唯一の幕であり、魔女戦をメインに。そこに本作初登場のさやかと杏子に出番を割くと共に、前時間軸との群雲と他三人の距離感の違いを表現した(※2)。

 今回から“異物”による情報を伏線として張っており(※3)これが完全に回収されるのは後の幕である

 

 

キャラクター紹介

 

鹿目まどか

 原作主人公。巴マミ、美樹さやかと共に魔法少女として活動。魔法少女同士の争いを好まない事から、誰よりも早く対立を止めようと行動を開始したのは彼女である。絶望を知っても尚、誰かを恨む事をしなかったあたり、その優しくも強い想いを魅せた。

 

暁美ほむら

 原作裏主人公。魔法少女の真実を知り、時間遡行する魔法少女。最初は信じて貰えなかったが、まどか、群雲とのやり取りや、ワルプルギスの夜の存在から、受け入れてはもらえていた。まどかとの約束を刻み、まどかを救う為に、何度でもやり直す事を誓ったのも、この時間軸である。

 

美樹さやか

 まどかの同級生にして親友で、見滝原で共に活動している魔法少女。その思想から群雲、杏子に最も敵意を向けていたのだが、銀の魔女との戦いを切っ掛けに若干軟化する(※4)。原作での明確な描写はないが、この時間軸でも上条の為に願い、仁美との三角関係において身を引いた(※5)。その二人が魔女に殺された事を切っ掛けに魔女化。ほむらと群雲によって討伐される。

 

巴マミ

 見滝原のベテラン魔法少女。まどか、さやかの先輩で、かつて杏子とは師弟関係にあった。来訪した杏子と群雲に、最初は否定的であったが、さやかと同様に銀の魔女戦で態度を軟化。しかし、その後に知った魔法少女システムに絶望して杏子を殺害(※6)。ほむらも殺そうとするが、群雲に阻まれ、まどかにソウルジェムを破壊され絶命する。

 

佐倉杏子

 放浪中に群雲と出会い、共に見滝原に来訪する魔法少女(※7)。その思想から最初は対立するも、銀の魔女戦を切っ掛けに態度を軟化。ワルプルギスの夜来訪まで一時休戦としたが、さやかの魔女化に絶望したマミによってソウルジェムを破壊されて絶命する。

 

キュゥべえ

 「魔法の使者」を名乗る、マスコットのような外見の四足歩行動物。その正体はインキュベーターと呼ばれる、地球外生命体の端末。

 要所要所でその存在感を表し(※8)魔法少女達を追い込む切っ掛けを作ったのも実はキュゥべえである(※9)。

 

上条恭介

 さやかの幼馴染で片思いの相手。仁美と付き合う事になるも、芸術家の魔女によって殺害される。

 

志筑仁美

 まどかとさやかの親友。上条と付き合う事になるも、芸術家の魔女によって殺害される。

 

群雲琢磨

 本作主人公にして狂言回し(※10)。杏子と共に見滝原に来訪。当初は見滝原の魔法少女と対立していたが、衝突と共闘の果てに休戦(※11)。しかし、芸術家の魔女戦を切っ掛けにその歯車は狂いきる。最終的にボロボロのままに置いていかれる事となった。

 

 

独自設定の解説

 

魔女VS魔女

 魔女結界内で孵化した場合がどうなるのか、明確な資料を得られなかった為の独自解釈

 人魚の魔女が戦った理由は、魔女としての本能なのか、魔女になっても想い続けた本質なのかは、読者様に委ねます(そう言う意図を込めて書いていた)

 

(※1)原作10話で少しだけ出ていたエピソードに、作者のキャラを掛け合わせてプロット構築 メガほむラストターン

(※2)第二幕において、名前で呼ぶのは、最初から行動を共にしていた杏子だけである

(※3)第一幕ではなく第二幕からである事がポイント キュゥべえが群雲を異物と称するのも第二幕から

(※4)当初、銀の魔女戦は負ける予定で書いていたら、いつの間にか勝っていたとは、作者の談

(※5)それを原因として、群雲と討論になる 結局、最後まで平行線だった

(※6)ソウルジェムに命中したのは偶然であると、作者は解釈している(リボンで縛った状態の位置関係から、手の甲にあるほむらのソウルジェムを狙うのは難しい為)

   故に、群雲は心臓を撃ち抜かれた

(※7)二人の出会いを描写しなかったのは、原作アニメで前触れなく登場した杏子を意識してのもの

   また、原作10話の描写から“ほむら到着前に来訪していた”と判断

(※8)実は、杏子群雲組の来訪や、魔女結界への誘導等、どう考えても円滑で済まないだろう方へ誘導している

(※9)六十五章にて、群雲が指摘しており、キュゥべえ自身も否定していない

(※10)第二幕においては情報の確認、解説役としての側面が強い

(※11)休戦前、まどかとほむらの二人と会話しているように“魔法少女と戦う事”自体は良しとしていない

 

 



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第三幕 共愛と狂愛のthird night
六十八章 無いだろう


「世界が優しくないのは、今に始まったことじゃない。
 だが、今回は最悪だ」


SIDE ?????????

 

「はー……はー……はー……」

 

 自分の息が荒いのは自覚している。

 しかし、それも仕方の無い事であろう。

 

 これから試す“魔法”の成否で、運命が変わる。

 

 もし、失敗し、自分の意識が途切れるような事になれば。

 

 

 “オレは、二度と目覚める事は無いだろう”

 

 

 だが、これが成功したのなら……オレは…………。

 

「はー……はー……はー……」

 

 失敗=死。

 さすがに、死にたいなんて思ってないので、僅かに右手が震えるのも、仕方が無い。

 

 そして、オレは魔法を発動させ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……は……はは…………あははははははははははは!!!!」

 

 魔法は確かに発動した!

 だが、オレは未だにオレのまま!!

 

 オレは、ここにいる!!!

 

「アハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!」

 

 自分の思うがまま、自分の望むがまま。

 

 しばらくオレは、見滝原の展望台で、声が枯れるほどに笑い続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再び開く、絶望の舞台。

 真の開幕は“魔法少女 暁美ほむら”が見滝原を訪れてからの1ヶ月。

 

 されど。

 

 たとえ、彼女が現れずとも。

 

 歯車は廻り続ける。

 

 

 

 独りの魔人が“殺されにくくなった”この日は。

 

 

 

 

 暁美ほむらが見滝原を訪れる、およそ1年前。

 此度の舞台は、ここより始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 佐倉杏子

 

――――あたしは、その光景を、忘れる事は無いだろう――――

 

 家族を失い、マミと袂を別ってから。

 あたしは独りでの生活を享受していた。

 

 享受するしかなかったんだ。

 別れたのはあたしから。

 離れたのはあたしから。

 

 それでも、魔法少女であるあたしは、魔女を倒す事こそが使命で。

 それでも、独りで生きていくには、魔法少女という存在は、充分過ぎるほどの力があって。

 

 

 

 あたしが初めて“あいつ”と出逢ったのは、そんな風にやさぐれていた時で。

 

 あたしの中に、その“存在”を残すのには、充分過ぎるほどの力があったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく、当たりかな」

 

 安定した魔女結界の中を進みながら、あたしは意気揚々と使い魔を蹴散らしながら先へ進んでいた。

 国がどうなろうと、世間がなんと言おうと。

 民を無視した政治家が何をしようと、下らない法律が作られようと。

 

 独りで生きているあたしには、なんの関係もないし、ジャマならぶっ潰すだけ。

 

 でも、その為には魔力が必要だし。

 魔力を十分に確保する為にはGS(グリーフシード)は不可欠だ。

 だから、あたしは魔女を狩る。

 自分が生きる為に。

 自分が生きたいように生きる為に。

 

「ん?」

 

 そんな、あたしの視界に映ったのは、独りの軍人。

 緑の軍服に身を包み、黒い外套を翻し。

 僅かに持ち上がった白髪と、両手足の黒が印象的な。

 

「ここを管轄する魔法少女……じゃ、ないよな。

 どう見ても少女じゃないし」

 

 髪と同じ色をした眼帯で右目を覆った、一人の少年。

 魔法少女じゃないのなら、なんだってあいつは魔女結界の中に?

 一切の迷いなく歩を進める少年は、迷い込んだ一般人には見えず。

 かといって、あたしと同じ“魔法少女”であるはずもなく。

 どうしてあいつは、ここにいるんだ?

 興味の沸いたあたしは、気取られないように離れた場所から、少年を観察することにした。

 

 

 

 

 

 

 機嫌良さそうに、魔女結界をまっすぐに進む少年と、少し離れた所から尾行するあたし。

 ……なにやってんだろうな、あたしは?

 変わり映えする事のない状況に、退屈を感じ始めていた。

 そんな、気を抜いた一瞬で状況が動くんだから、世界はやっぱり優しくない。

 

「!?」

 

 後方からの気配に、あたしは槍を携えながら振り返る。

 視界に映るのは、無数の使い魔たち。

 まさか……誘い込まれたのか!?

 

 次の瞬間だった。

 

 使い魔が襲い掛かってくるより速く。

 あたしが、迎撃体制をとるより早く。

 

 ()()()()いた。

 

 あたしの瞳に映るのは。

 細切れになった、使い魔だったモノと。

 その中心で、右手の握り拳の間にナイフを挟んで。

 僅かに見える口元に笑みを浮かべる。

 白髪の少年だった。

 

 

 

 

 一筋の黒い放電と共に。

 周りで、命が終わる中心点。

 まるで、泣いているかのように微笑む独りの魔人。

 

――――あたしは、その光景を、忘れる事は無いだろう――――

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

「……違う……な」

 

 周りの使い魔を細切れにして、オレは呟いた。

 

 契約したあの日から今日まで。

 オレは“得た力を十二分に使いこなす”事に、すべての時間を費やした。

 

<オレだけの世界(Look at Me)>

<電気操作(Electrical Communication)>

<部位倉庫(Parts Pocket)>

 

 オレが扱う三種類の魔法を、徹底的に研ぎ澄ましてきたつもりだ。

 その為に必要な物も揃えた。

 

 日本刀、銃器とその弾薬。

 そして今、オレが右手に持つナイフ。

 

 シンプルな造詣のナイフを右手の<部位倉庫(Parts Pocket)>に入れて、オレは視線を魔法少女に向ける。

 赤を基本とした、槍を持つ魔法少女。

 

「なにか、用かな?」




次回予告

再び、幕を開けるのは

絶望に彩られた

惨劇の舞台

此度の主演は白い魔法少女

そして、白髪の魔人

これよりしばらくの舞台は

そこに至るまでの悲劇ですらない

ただの事象

六十九章 滅んじゃえば


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六十九章 滅んじゃえば

「なんで、眼帯なんてつけてるんだよ?」
「ワイルドだろぉ~。
 ゴメン、冗談、だから槍を下ろしtアーッ!!」


SIDE 佐倉杏子

 

 そいつは、不思議な奴だった。

 名を、群雲琢磨。

 1年ほど前にキュゥべえと契約してから、ずっと独りで放浪していたらしい。

 

「以前、暮らしていた街?

 滅んじゃえばいいと思うよ」

 

 そう言って笑うような奴。

 でも、その笑顔が。

 まるで、泣いているかのように見える。

 

「ここまで安定した結界なのに、魔女がいねぇし。

 帰っていいかな?」

 

 始めて会った魔女結界で、そいつはそんな事を言い放つ。

 

「この街の人達? 知ったこっちゃないな。

 犠牲者が出る? だろうねぇ」

 

 自分の為にしか動かず、他者の事など顧みない。

 まあ、その点に関しては、あたしも人の事は言えないのだけど。

 

「そんな訳で、周りの使い魔に告ぐ。

 おとなしく帰してくれるのなら、これ以上の被害はない。

 だが、掛かってくるのなら……」

 

 その上で、自分の能力を全開で使う事に、一切躊躇わないのだから。

 

「Answer Deadだ!」

 

 性質(たち)が悪い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、と」

 

 結局、使い魔を殲滅したあたし達は、結界の最深部だった高層ビルの屋上で。

 

「敵対するにしろ、共闘するにしろ……。

 まずは、自己紹介からだよね?」

 

 ………………変身を解いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 色々と話をした。

 相手の事を色々と聞いたし、自分の事を色々と話した。

 初対面、しかも“同業者”でありながら“性別が違う”相手に、興味があったのは間違いない。

 考え方が、マミのような“正義の為”じゃなく、あたしに近い“自分の為”だったのも、理由のひとつかもしれない。

 

 でも、なによりも。

 

 機嫌良さそうに、魔女結界を進む姿が。

 瞬きすら置き去りにする勢いで、命を細切れにした姿が。

 今にも泣きそうな、笑顔が。

 

 あまりにも異質で、あまりにも異端で、あまりにも異物で。

 

「そんなに凝視されると……照れるん……だけど…………」

 

 あたしとは、あまりにも違いすぎたから。

 

「やっぱり、年上か……。

 じゃ、佐倉先輩でいいかな?」

 

 もしかしたらあたしは……羨ましかったのかもしれない……。

 

「オレは、オレの為に願い、オレの為に生きると決めた。

 これだけは、絶対に譲らないし、後悔なんてするわけない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ行くかな」

 

 前髪が地味に長く、眼帯の上から眼鏡までしてるせいで、表情がほとんど見えないが、口元だけは相変わらず笑っている。

 そんな状態で、琢磨は言った。

 

「どこに行くんだよ?」

「見滝原ってとこ」

 

 以前、あたしの住んでた街の名を。

 

「……なんで?」

 

 若干不機嫌になりながらのあたしの質問に、琢磨は簡潔に答えた。

 

「ナマモノに勧められ「ナマモノ?」……契約して、願いを叶えたあの生き物」

「……キュゥべえの事か?」

「あ、そんな名前なんだ」

「知らなかったのかよ!?」

 

 そして、一気に毒気を抜かれた。

 キュゥべえの名前を知らないとか、いくらなんでも無理があるだろ?

 

GS(グリーフシード)を集める人と回収するモノ以外の接点がないからなぁ……。

 だからこそ、狩場を勧められた事自体に興味を持ってね。

 行ってみようかと」

 

 その道中に偶然、結界を見つけたので入ってみた。

 そこが、あたしと会った場所だった、か。

 

「それで、なんでキュゥべえは見滝原を?」

 

 気を取り直し、スティックチョコを咥えながら、あたしは聞いた。

 それに対し、右手の中指で眼鏡を押し上げながら、琢磨は答えた。

 

 その答えは……。

 

「見滝原って街は、近代的な都市開発が進められている。

 それは、発展する対価として、従来の物を破壊する歪みを生むんだ。

 その歪みに導かれるように、魔女や使い魔の数が増えてきている。

 狩場という意味では、理想的じゃないかな?

 それに加えて、そこで活動していた魔法少女の一人が街を離れてしまった。

 残った一人も、充分に実力のある魔法少女だけど。

 “一人”というのはやはり、限界があるんだよ。

 共存しろとは言えないけれど、折り合いをつけられれば、活動しやすい場所じゃないかな?

 ……って、ナマモノが言ってた」

 

 あたしも“理由”に入っていた。

 でも、最後の一言はいらないだろ?

 

「オレは、オレの為に生きると決めているが。

 その為の“場所”にはこだわりは無い。

 オレがオレであるなら、それで良いし。

 オレとして生きられない場所なら、立ち去るだけだし」

 

 向かう事は確定らしい。

 

「佐倉先輩はどうする?」

「あたしは……」

 

 さすがに、向かう気にはなれない。

 完全に喧嘩別れだった上に、あたしには謝る気は毛頭無いからだ。

 

「やめとくよ。

 あまり、大人数になって“取り分”が減るのも、アホらしい」

「……ん」

 

 あたしの言葉を聞いて、琢磨は一言頷くと、そのまま背を向けた。

 

「まあ、見滝原の魔法少女と仲良くなれるとは限らないしなぁ……。

 ナマモノは、今もせっせと営業中みたいだし。

 ま、次に逢った時に敵対しない事を願うよ」

 

 基本的に、魔法少女と戦う理由が、オレには無いからね。

 そう言い残して、琢磨は去っていった。

 

 

 

 

 

 しばらく後。

 琢磨と再会して、見滝原に行く事になるとは。

 その時のあたしは、想像だにしていなかった。

 

 




次回予告

見滝原を護る少女と

自分すら護れない少年



また一つ、歯車が噛み合う



七十章 え? なにこの子?


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七十章 え? なにこの子?

「場所にこだわりは無い。
 そもそもオレには、帰る場所なんて存在しない。
 ……永遠の家出少年。
 いや、帰る場所が無いのに家出とは言わないか?」


 見滝原。

 近代的開発が進められているその街には、一人の魔法少女がいる。

 名を、巴マミ。

 キュゥべえと契約して命を繋ぎ、魔女と戦う使命を背負う少女。

 

 その日、少女は出逢ってしまう。

 自分と同じように、契約をした“少年”と。

 

 

 

 

「そこのお姉さん。

 この辺に、魔女結界とかありません?」

 

 

 

SIDE 巴マミ

 

 学校が終わり、私が始めるのはパトロール。

 鞄を置き、そのまま私は街へ繰り出す。

 その日も、いつものようにそうするはずだった。

 ところが。

 マンションを出た私に、一人の少年が話しかけてきた。

 白い髪に眼鏡。 よく見れば白い眼帯もしている。

 黒いコートを身に纏ったその少年の一言に、私は否が応にも足を止めなければならなかった。

 

「……さあ? 解らないわね」

 

 口元に笑みを浮かべる少年に、私はそう答える。

 

「なるほど“解らない”か。

 その言葉が出るって事は“関係者”と見ていいのかな?」

「!?」

 

 少年の言葉に、私は息を呑む。

 そんな私に構わず、少年は言葉を続けた。

 

「そもそも、一般人なら「魔女結界ってなに?」と言うだろう。

 実際、6人共そう聞き返してきたし。

 7人目にして、ようやく当たりかぁ。

 あのナマモノも、この街の魔法少女について、教えておけっつうに……。

 まあ、詳しく聞かなかったオレも悪いんだけど」

 

 え? なにこの子?

 

「……聞いて回ってたの?」

「ん? もちろん。

 ここを縄張りにする魔法少女に会うのも、オレの目的の一つだし」

 

 言いながら、その少年は右手の中指で眼鏡を押し上げながら言った。

 

「初めまして、見滝原の魔法少女。

 オレの名は“群雲 琢磨”という。

 ナマモノいわく、現状唯一の魔人だ」

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 

 ひとまず、その少年――――群雲君を部屋へ招いて話をする事にした。

 契約した男の子――――魔人に対する興味と。

 魔女結界があるかと聞いて回っていたという危うさと。

 魔法少女に会うのが目的の“一つ”だと言った真意と。

 

 色々と、興味の尽きない少年だった。

 

「紅茶うめぇwww」

「褒めてくれるのは嬉しいのだけど。

 その言い方だと、馬鹿にされてる気分になるわ」

「サーセンwww」

「……」

「マジ、すみません。

 その冷たい眼差しはマジで勘弁してください。

 ゾクゾクしちゃうんで」

 

 なによりも、掴み処の無い少年だった。

 

 

 

 

 閑話休題。

 

「つまり群雲君は……。

 キュゥべえに勧められて、見滝原に来たと」

「そうなるね。

 むしろ、それ以外に理由が無いね」

 

 両親を事故で亡くし、親類は信用出来ず。

 学校でも、いじめられながら生きてきた。

 そんな時、キュゥべえと出会い、契約して魔人になった。

 それを切っ掛けにして、それまでの“スベテ”を捨てて、旅に出た。

 自分の魔法を研磨しながら、魔女狩りの旅をしていたある日、キュゥべえから見滝原を勧められた。

 断る理由も無いので、見滝原に来た。

 

 ……が。

 

 辿り着いたまでは良かったが、ここから先の当てが無い。

 魔法少女がいる、それしか解らない。

 なので“魔法少女じゃないと答えられない質問”をしてまわった。

 7人目にしてようやく、私に辿り着いた。

 

 以上が、群雲君の概要だった。

 

「ナマモノも、巴先輩の事を少しは教えておいてくれれば「え? なにこの子?」みたいな眼差しを向けられずにすんだのに……。

 今度、鍋で煮込んでみよう。

 意外と良い出汁になるかもしれない」

 

 一人で笑いながら頷く群雲君の印象。

 

 

 

 

 

 

 ―――――からっぽ

 

 

 

 

 

 中身が無い、と言えばいいのかしら?

 全てが上辺だけで、形成されている。

 そんな印象だった。

 

「さて、本題へと行こうか、巴先輩」

 

 ティーカップを置き、眼鏡を外した群雲君が、真剣な声色で言葉を紡ぐ。

 それだけで、部屋の空気が一気に張り詰める。

 長めの前髪の隙間から、真剣な左目を覗かせて。

 

「ぶっちゃけ、オレは赤の他人の事なんて、知ったこっちゃ無い。

 魔女を狩るのは、オレの為。

 自分の魔法を研究、発展、昇華させる為には、魔力を回復させる為のモノ(グリーフシード)が必要。

 それ以外に、理由は無い」

 

 呑まれそうになるのを、必死に取り繕い、目の前の“魔人”の話を聞く。

 この子は本当に、自分よりも年下なのだろうか?

 

「良い狩場がある。

 ナマモn……キュゥべえに言われて、オレはここに来た。

 だが、ここを“縄張り”にしているのは、巴先輩だ。

 他人の縄張りを荒らしてでも、GS(グリーフシード)が欲しいほど、オレは切羽詰っている訳じゃない」

 

 矛盾している。

 赤の他人がどうでもいいのなら、()に気を使う必要は無い。

 

「加えて、キュゥべえは言っていた。

 “この街には魔女が多く、一人では限界がある”と。

 もちろん、巴先輩が弱いと言ってる訳じゃない。

 キュゥべえも、見滝原の魔法少女は実力者だと言っていたし、そもそもオレには判断材料が無い」

 

 わからない。

 この子が、わからない。

 分からないし、解らないし、判らない。

 

「だが、オレのような魔人や、巴先輩のような魔法少女でなければ。

 大前提として“魔女を狩る事は出来ない”訳だし“魔女の脅威から一般人を守る事も出来ない”訳で」

 

 なら、私は。

 

「信頼しろとも、信用しろとも、言わないし、そんな価値はオレには無いけれど」

 

 この、からっぽの笑顔の魔人(こども)を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オレは、見滝原にいてもいいかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 知らないままでは、いられない。




次回予告

家族を失った者

家族を失った物



家族を、忘れない人



家族に、置き去りにされ










家族を、忘れ去ったモノ

七十一章 世界に招く


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七十一章 世界に招く

「普段は、どこに寝泊りしてるの?」
「ホームレスですが、なにか?」
「……よく、補導されないわね……」
「逃げ足には自信あるんで」
「殴りたい、そのどや顔」
「キャラ変わってません!?」


 日は沈み、街は人の造り出しだ光が支配する。

 自然の在り方を否定し、人は知恵を持って、世界の(ことわり)を捻じ曲げる。

 その歪みが、負の感情をもって、カタチを成し。

 捻じ曲げた存在(にんげんたち)(おとしい)れる。

 それが、魔女と呼ばれる存在。

 絶望より生まれ、絶望を産み、絶望に堕とす。

 そんな存在に対抗し得る、唯一の存在。

 それが、魔法少女。

 希望により生まれ、希望を紡ぐ為、戦いに身を置く。

 これより語られるのは、そんな魔法少女の戦いの軌跡である」

 

「……なにを言っているの?」

「暴露本のプロローグ候補」

「本にするつもりなのっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 巴マミ

 

 横で、とんでもない事を口走った少年は、変わらずからっぽの笑顔を浮かべる。

 それを見下ろしながら、私はその横で、SG(ソウルジェム)に注視しつつ、街を廻る。

 

「別に、共闘する必要も無い。

 かといって、敵対するほどの理由も無いんじゃないか?」

 

 群雲君にとって、重要なのは“GS(グリーフシード)の入手”である。

 私の役割は“見滝原で魔女から人々を守る事”である。

 

「難しく考える事なんてない。

 オレは、魔女を狩る。

 巴先輩も、魔女を狩る。

 “魔女を狩る為に、魔人を利用する”ぐらいでいいのさ」

 

 そう言う少年は、笑顔を造る。

 

「敵の敵は味方。

 それでいいし、それ以外は望まない。

 認められないなら、言ってくれればいい。

 オレが、別の街に行くだけだからね」

 

 上辺だけの、言葉を造る。

 

「まあ、移動するのも意外と大変なんで。

 ここにいられるのなら、嬉しいなぁと思うんですがどうでしょう?」

 

 信用したわけではないし、信頼できるわけでもない。

 でも、佐倉さんがいなくなり、手を借りたいのも事実。

 ひとまず、結論を保留にして、私たちは街へ出た。

 元々、私はパトロールをするつもりだったし、もし魔女を見つけられたのなら、一度共闘してもいいかと思ったから。

 

「反応有り、ね」

 

 SG(ソウルジェム)の輝きを頼りに、私たちは先を急いで……。

 

「……そっちじゃないわよ?」

「おぉう!?」

 

 道を曲がった私と、まっすぐ進む群雲君。

 私の声に驚き、慌てた様子で駆け寄ってくる。

 

「ちゃんと言ってよ」

「むしろ、なんで気付かないのよ?」

 

 抗議する群雲君に、私は疑問をぶつける。

 SG(ソウルジェム)を用いた、魔女の索敵は、魔法少女にとっては基本的な事の筈。

 

「魔女の気配とか、明確に捕らえる事なんて出来ないんだもの、オレ」

 

 眼鏡を押し上げながら言う群雲君に、私は首を傾げる。

 

「きっと、魔法少女と魔人の違いなんじゃね?

 オレにだって、詳しい事が解るわけじゃないし」

 

 最近は特に、感覚が鈍ってきてるんだよね。

 そう言う群雲君に、悲壮の影は無い。

 

 ――――生きるのが、楽しくてしょうがない。

 

 普通であったなら、そんな印象を受けるだろう。

 

 

 

 

 ――――その笑顔が、からっぽでないのなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここね」

 

 完成直前ののビル。

 人がいないであろう場所に、私たちはSG(ソウルジェム)の導きで辿り着いた。

 

「じゃあ、さっそく行きますかね。

 でなきゃ、ここに来た意味が……oh」

 

 言葉の途中、群雲君が何かに気付き、ビルを見上げた。

 つられて見上げた私の視界に。

 

 ガラスの無い窓から飛び降りようとしている、中年の男性が映った。

 

「!?」

 

 反射的に変身し、私はリボンを取り出す。

 同時に、男性がその身を宙に投げだし……。

 

「……え?」

 

 空中で静止した。

 

「やれやれ……。

 巴先輩との、せっかくの初陣なのに、いきなり縁起の悪い事になる所だった」

 

 その呟きに、私はようやく気付く。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「群れし雲が、世界の流転を否定する。

 今、世界はオレだけを見て、オレだけが世界を見る。

 

 <オレだけの世界(Look at Me)>

 

 今という時は、今はオレだけのモノだ」

 

 僅かに持ち上がった白髪と、顕になった、髪と同じ色の眼帯。

 緑の軍服こそが、群雲君の変身した姿なのだと理解し。

 使用した“時間停止”という強力な魔法に驚き。

 

「助けるなら、早めにお願いします。

 オレ、これ以上打つ手が無いんで」

 

 その一言に、脱力した。

 止めた、だけ、なのね……。

 

 気を取り直し、私はリボンを展開し、男性を受け止める為のネットを編み出す。

 

「いいわよ」

 

 私の一言に、群雲君は満足そうに言葉を紡いだ。

 

世界を全てに還す(Look out)

 

 次の瞬間、時が動き出し、男性が落下してくる。

 しかし、すでに私の魔法(リボン)が、男性を助ける為に展開済みだ。

 男性を受け止め、ゆっくりと地面に横たえたリボンが消えると同時に、私たちは男性に近づく。

 

「魔女の口づけね」

「どうやら、このビルで当たりっぽいな」

 

 そこまで言って、私は未だに繋いだままの手に気付いた。

 

「離してもらってもいいかしら?」

「おぉう!?」

 

 私の一言に、群雲君は慌てて手を離す。

 

「いや、“オレの世界(時間停止)招く(介入させる)”には“オレが触れているのが条件”なんで!!」

 

 なぜか、万歳の体制のまま、顔を真っ赤にした群雲君が慌てた様子で弁解する。

 ……ひょっとして……照れてる?

 

「別に、怒ってないわよ?」

「おぉう!?」

 

 その様子が可笑しくて、思わず笑ってしまった私と、慌てた様子で視線を逸らし、頬をかく群雲君。

 なんだか、今までの印象を吹き飛ばしてしまいかねない、年齢相応の仕草だった。

 

「と、とにかく!

 このビルに結界があるのは、確定っぽいし」

「ふふっ。

 そうね、行きましょうか」

 

 最初より、確実に肩の力が抜けた状態で。

 私は、魔人(こども)と一緒に、ビルの中へと入る。

 ほどなく、正面の壁に“入り口”を発見した。

 

「……あったわね」

「ああ」

 

 気を引き締め、マスケット銃を編み出した私の横で。

 群雲君もまた、先ほどとはうってかわった真剣な表情で両手を交差させながら、両脇に手を添える。

 次の瞬間、両手には銃が握られており、その手の銃は抜いた流れのまま、結界に向けられた。

 口の端を僅かに持ち上げ、群雲君は静かな声で宣言した。

 

「では、闘劇をはじめよう」




次回予告

始まるのは、最初の共闘

魔法少女巴マミと、魔人群雲琢磨の

最初の舞踏







そう、初めての……

七十二章 オレと巴先輩の相性


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七十二章 オレと巴先輩の相性

「群雲君は、学校に行っていたら」
「今は小五になるかな」
「行く気はないの?」
「ないよ」


SIDE 巴マミ

 

「……よりにもよって、この結界かよ」

 

 両手に銃を持つ群雲君が、うんざりしたように呟いた。

 

「知ってるの?」

「魔女本体とは、戦ったことは無いけど、ね」

 

 落書きで構成された結界。

 それが、私の印象だったけど。

 

「……初陣の相手が、この結界の使い魔でした。

 ぶっちゃけ、死ぬかと思ったとです……」

 

 言いながら、群雲君が顎で先を示す。

 つられて見た先には、一体の使い魔。

 飛行機の体をした、お下げの女の子。

 そんな、使い魔だった。

 

 使い魔が、落書きで書かれたようなミサイルをこちらに発射すると同時に。

 私と群雲君は、手に持つ銃で、ミサイルを打ち落とす為に引き金を引く。

 

 ミサイルの数は3つ。私の銃は1つ。群雲君の銃は2つ。放たれた弾は3発。

 

 打ち落とせたミサイルは………………2つ。

 

「っと!?」

 

 慌てて、群雲君が再び引き金を引き、最後のミサイルを打ち落とした。

 

「ひょっとして、同じミサイルを狙ってた?」

「らしいね」

 

 どうやら、私の狙った物と、群雲君の狙った物が同じであったため、一発打ち漏らしたみたい。

 

「まあ、いきなり阿吽の呼吸とか無理だよな」

「当然ね。

 私たちはまだ、出逢って数時間程度だもの」

 

 群雲君の言葉に、私は肯定しながらマスケット銃を周りに編み出して設置する。

 群雲君は、僅かにのけぞりながら、左腕を伸ばし、右腕を曲げて、それでも銃口を前に向ける。

 

「独特の構えね」

「見よう見まね」

「……誰の?」

 

 そんな、他愛ない会話をしながら。

 私の――――――――――――私たちの初陣が、幕を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE out

 

 魔女を狩るもの。

 魔法少女と魔人。

 そう簡単に負けるほど、この二人は弱くはないが。

 そう簡単に勝てるほど、魔女というのは優しくはない。

 加えて、二人はほぼ初対面なので……。

 

「ちょっ、あぶっ、あぶなっ!?」

「斜線に入らないで!

 なんで、いきなりナイフに武器が変わってるのよ!?」

「いや、そっちが遠距離武器なんで、オレは近接の方がいいかと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   \あ/       \アーッ!/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 優れた連携が出来るはずもない。

 マミは、マスケット銃による遠距離攻撃を基本とする。

 対する群雲は、複数の武器を所持し、使い分ける戦法を執っているのだが。

 

 なによりも、この二人は“独りで戦う事に慣れてしまっている”のである。

 

「ちょっ、邪魔っ、マスケット邪魔だってッ!?」

「し、仕方がないでしょ!

 手数を補う為なんだもの!!」

「せっかく銃に持ち替えたのに、邪魔で狙いにくいって!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   \ぶっ/ \顔面強打したわね/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 巴マミ

 

 た、戦いにくい……。

 群雲君と二人、魔女結界を進んだ私の感想。

 

 自分の為に、自分の為だけに。

 そう言っていた群雲君は、言葉の通りに戦っていた。

 ナイフで特攻したかと思えば、銃に持ち替えて立ち回り。

 日本刀で逆手の居合い抜きをしたと思えば、鞘で使い魔を切り裂いてみたり。

 銃も、ハンドガンタイプからリボルバー、水平二連式のショットガン。

 そうかと思えば、無造作に蹴り込む。

 動きを合わせる事も出来なければ、動きを合わせようともしてくれない。

 

「やっぱ、いきなり合わせるとか、無理があるよなぁ」

 

 私の横で、リボルバーに弾を込めながら、群雲君が呟いた。

 一応、合わせようとはしてくれていたのね。

 ……まったく合わなかったけど。

 

「戦闘スタイルの問題なのか……。

 オレと巴先輩の相性によるものなのか……。

 魔法銃と実兵器によるもの……な、訳はないよなぁ」

 

 ……うん、ちょっと待って。

 

「それ……本物?」

「ん? もちろん。

 オレ、外に出す系の魔法ってからっきしなんだよね」

 

 外に出す……射出系や具現系の事かしら?

 いえ、それ以前に。

 

「どこから持って来たのよ?」

「それなりに有名だった、ヤの字の組長宅。

 ついでに、崩壊させてきた」

「なにしてるのっ!?」

「評判最悪だったし……。

 オレの“力”が、一般人に通用するのかも確かめたかったし……。

 銃だけの予定だったんだけど、日本刀があったんでついでにパクr……お借りしてみた。

 返す気なんて、あるわけないが」

 

 ……こ、この子は……。

 

「さらに言うなら<オレだけの世界(Look at Me)>で進入したのはいいけど、時間停止中だと他の魔法が使えないもんでね。

 必然だった様な気もする」

 

 ……。

 

「……もっと、考えて行動しなさいよ」

「当時のオレに言ってくれ、無理だけど。

 それに、流石に今のオレは……。

 ……。

 大して変わらなくね?」

 

 聞かれても困るわ、色々な意味で。

 

「さて、と」

 

 リボルバーの弾込めを終えて、群雲君がそれをクルクル回しながら。

 

「先に進もうか、巴先輩」

 

 変わらず、からっぽの笑顔を向けてきた。

 ……前途多難だわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガシャン! \あ/  \落とすなら、回さないの!/




次回予告

戦い、倒し、進む

それは、至極当然の流れ

されど、確かに違和を感じさせる




魔人を表す、最適の言葉


七十三章 矛盾


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七十三章 矛盾

「巴先輩は今は?」
「中学2年よ」
「契約した日は?」
「……だいたい1年ぐらいかしら」
「同じぐらい……オレの方が遅いっぽいな。
 まあ、オレは契約した正確な日って、憶えてないし、どうでもいいし、知ったこっちゃ無いけど」
「それが?」
「年齢的にも魔女狩り歴的にも、先輩と呼んで支障は無いって事だな」
「なぜ、先輩呼称なの?」
「……その辺割り切らないと、照れて会話する事ができないんだもん……」
(……子供ね……)


SIDE 巴マミ

 

 始めて出逢った魔人は、よくわからない少年で。

 そんな子と、私は魔女結界を進む。

 少しずつ、本当に少しずつ。

 進行速度が上がっているのを実感する。

 

 結論から言うなら。

 群雲君が前、私が後。

 この形が最善だった。

 

 ナイフや日本刀、時には蹴りで立ち回る群雲君。

 マスケットで、後方から射撃を行う私。

 時に、私が群雲君の隙を、射撃で補い。

 時に、群雲君が、私の射撃の合間を補う。

 

「まさか、巴先輩と一番動きやすいのがナイフとは、この魔人のタクマの目をもってしても略」

「そこで略されても困るわ」

「大丈夫、きっと解ってくれる人はいる」

「……誰の事よ?」

 

 理解に苦しむ事を言う群雲君に、首を傾げながら。

 それでも、最初に比べれば打ち解けられてると思うわ。

 なによりも……こんな子供が私と同等に立ち回れる現実に、僅かに心が痛む。

 戦わなければならない現実は、言葉にする以上に過酷なものだと、私は知っているのだから。

 同じ立場の群雲君が、これまで歩んできた道もまた、過酷なものだと感じられるから。

 

「しかし……使い魔多くね?」

 

 投擲したナイフを拾いながら、群雲君は首を傾げる。

 確かに、この魔女結界にいる使い魔は、多い部類になるでしょう。

 

「初戦の際は、使い魔一人だけだったし……。

 魔女がいると見て、間違いなさそうだ。

 むしろ、いないと困るな、魔力の回復的な意味で」

 

 使い魔との戦い。自らの命を、危険に晒す立ち回り。

 その中でなお、群雲君は冷静に言葉を紡ぐ。

 本当に、この子は年下なんだろうか?

 

「まあ、正直な事を言うなら」

 

 ナイフを握りなおして、群雲君は言う。

 

「巴先輩と一緒じゃなかったら、もっと早くに終わらせられるんだがね」

 

 ……さすがに、その一言は聞き捨てならないわね。

 

「私が弱いと?」

「いや、そうじゃない」

 

 右目を覆い隠す、髪と同じ色の眼帯を向けながら、群雲君が口の端を持ち上げる。

 

「オレ独りなら、使い魔無視して駆け抜けるから」

 

 使い魔を、無視?

 私の疑問は、想定内だったんだろう。

 群雲君は、そのまま言葉を続けた。

 

「最初に言ったように、オレは、オレの為に魔法(ちから)を使う。

 見ず知らずの一般人なんか、知ったこっちゃない以上。

 オレは基本的に“使い魔を殺す理由が無い”のさ」

 

 その言葉に、私は背筋を凍らせる。

 ……本当にこの子は、()()()()()()()()()()()()

 何もかもが“私とは真逆”なんだ。

 

 

 

 

 

 

 でも。同時に。矛盾が生じる。

 現実、私と群雲君は一緒に行動している。

 独りなら、使い魔を無視すると言った群雲君は。

 

 ()()()()()()()使()()()()()()()()()

 

 どういうことなの?

 この子がわからない。

 解らないし、判らないし、分からない。

 

「群雲君は……」

 

 思わず呟いた言葉は、この子には届かなかったらしく、そのまま自分の言葉を続ける。

 

「まあ、あんまり『たら』『れば』を並べてみても、現実は変わらない。

 とか、なんかの本で読んだしねぇ。

 今は進むだけだな。

 後悔なんて、それこそ“後にしか出来ない”事だし。

 死んじゃったら、それすら出来ない」

 

 そう言って、群雲君は私に背を向けて、歩いていく。

 黒い外套を翻すその背を見つめながら。

 私は、複雑な心境のままにその後を追った。

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 

「「……」」

 

 進んだ先で、私たちは沈黙していた。

 

「ぽっぽ~!」

 

 一見すると、楽しそうに。

 ゆらゆらを漂うのは、船の体を持つ使い魔。

 まあ、船が宙に浮かんでいる時点で、本来ありえない事なのだけど。

 

「ぽっぽ~!」 ポンッ! 「「ぽっぽ~!」」

 

 そして、使い魔が増えた。

 

「……そりゃ“使い魔が使い魔を増やす”なら、この結界内の多さも納得できるけどさぁ……」

 

 うんざりした様子で、群雲君は右手の平を軽く振る。

 次の瞬間、その手には大量のナイフが握られていた。

 まるで扇のように広がるナイフを、まとめて投擲する。

 何本かが使い魔に刺さり……大多数が命中せずに散乱した。

 

「……効率、悪くないかしら?」

 

 私の質問に、群雲君は口の端を持ち上げながら言う。

 

「銃でもいいんだけどねぇ……。

 弾丸調達って、結構大変ですので」

 

 そういえば、群雲君のは実弾銃だったわね。

 本当に、どうやって調達したのかしら?

 

「私みたいに、魔法で弾を造ったり「出来たら、苦労してません」……そう……」

 

 ままならないものね。

 そんな風に考えていた私に、群雲君が真剣な表情を向けてきた。

 

「使い魔が自分で増える事が出来るのなら。

 すべての使い魔を倒しながら進むより、大元である魔女をさっさと倒したほうがよくない?」

 

 ……確かに。

 結界の入り口付近に“魔女のくちづけ”を受けていた人もいるし、使い魔が自分で数を増やせるなら、二人ですべての使い魔を討伐していたら、時間がかかりすぎるわ。

 

 私は、基本的にすべての使い魔を倒しながら進む。

 使い魔といえど、一般人には脅威に違いないから。

 それに対抗出来るのもまた、魔法少女(わたし)しかいないだろうから。

 

 群雲君は使い魔を無視して進む。

 でも、魔女を早期に倒し、使い魔ごと結界を消滅させてしまえば、被害が少なくなるのも事実。

 早期に倒せるかどうかは別としても、選択として間違ってはいないと思う。

 

「……討ち漏らした使い魔が、自分で増える前に。

 魔女を倒した方がいいかもしれないわね」

 

 そう、結論付けた私に、群雲君は頷きながら。

 

「じゃ、急ぎますかね」

 

 口の端を持ち上げた。

 本当に、この子がわからない。

 自分の為に動くと言っておいて、私と一緒に使い魔を倒して進む。

 魔女を早めに倒した方が良いと、私と一緒に先を急ごうとする。

 本当に……矛盾した子ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ナイフ拾うんで、ちょっと待ってね」

「急ぐんじゃないのっ!?」




次回予告

対峙するのは天敵

魔法少女と魔女 魔人と魔女 魔法少女と使い魔 魔人と使い魔

敵の敵は味方? 敵の敵も敵?

それらすべては、立場で変わる

世界を見たい、視点で変わる

故にここからはじまる

とある、魔女狩りの風景



七十四章 殺されて、死ね







TIPS 作中時系列

 ソースはまどマギポータブルより、本作設定へ構築

 巴マミ、中学1年時に契約(中学の下校中に両親と合流し、事故に遭っている為)
  ↓
 群雲琢磨、契約して放浪へ
  ↓
 佐倉杏子、契約(まだ、一家心中が起きる前のパトロール時に『中学生』という呼称あり)
  ↓
 佐倉杏子、巴マミと出会い、弟子入り
  ↓
 佐倉家、一家心中
  ↓
 佐倉杏子、巴マミと袂を分かつ
  ↓
 群雲琢磨、キュゥべえに唆され、見滝原へ移動
  ↓
 群雲琢磨、見滝原へ移動中に佐倉杏子に遭遇←六十八章&六十九章
  ↓
 群雲琢磨、見滝原に到着し巴マミと邂逅←今ここ


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七十四章 殺されて、死ね

「色々詰め込みすぎて、右手の平の<部位倉庫(Parts Pocket)>がやばい」
「具体的には?」
「何が入ってるか、憶えきれてない。
 この間、文化遺産の壷が出てきた」
「……なにしてるのよ……?」
「ついでに、前回の魔女狩りで、それがトドメになった」
「ホントに、なにしてるのっ!?」


SIDE 巴マミ

 

「意外と、手間取ったわね」

「そりゃ、互いに手助けではなく、足の引っ張り合いしてたようなものだし?」

「……事実かもしれないけど、あえて言う必要は無いんじゃない?」

「あるよ。

 現実を正しく認識してこそ、最善への道は開かれる」

「群雲君……あなたは「って、なんかの歴史書で見たような気がする」色々台無しよ」

 

 本当にこの子は、碌な事を言わないわね。

 真面目かと思いきや、不真面目になり。

 不真面目な事を言ったと思ったら、次の瞬間には真面目な事を言う。

 

 そんな子と私は、魔女結界の最深部にまで辿り着く。

 

『まあ、あんまり『たら』『れば』を並べてみても、現実は変わらない』

 

 これは道中の、この子の言葉。

 だから、考える事に意味は無いかもしれないけれど。

 

 私一人で、ここまで来られただろうか?

 この子独りなら、もっと早かったんだろうか?

 

 この子と一緒に、もっと早く辿り着けはしなかったんだろうか?

 

「どした?」

 

 考え込んでいた私に、首を傾げながら群雲君が問いかける。

 

「少し、考え事をね」

 

 私の言葉に、群雲君は無言で返し、魔女を見つめる。

 私も、群雲君に合わせて立ち、魔女を見つめる。

 

「闘劇は、まだ続いている。

 故に、これは幕引きへの最終演目。

 主演は、見滝原の魔法少女。

 助演は、初めて共闘する魔人。

 敵役は、この魔女結界の主」

 

 口の端を持ち上げながら、芝居がかった口調と台詞。

 その、最後の言葉に合わせて、私はマスケットを設置した。

 

殺されて、死ね(Rock You)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE out

 

 落書きの魔女 アルベルティーネ その性質は無知

 

 女の子のようなその魔女の名を、魔法少女と魔人が知る術は無い。

 会話が出来ないので、当然ではあるが。

 

 しゃがみこんで、地面に落書きをしている魔女。

 周りにマスケットを設置したマミと、その間に器用に立ち、両脇から銃を抜く群雲。

 魔女がどう動いても対応出来る様に、神経を張り詰める二人。

 その二人に気付いた魔女は、ゆっくりと立ち上がると。

 

 一目散に、逃げ出した。

 

「は?」

「ぇー」

 

 流石に想定外だった二人は、思わず顔を見合わせる。

 

「逃げたわね」

「素の行動なのか、オレ達を誘い込む罠なのか」

 

 魔女の戦いは、基本的に一期一会である。

 敗北が死を意味するので、当然といえば当然であるが。

 使い魔が成長すると同種の魔女になるので、魔法少女歴が長いと、同種の魔女と複数回戦う事もある。

 しかし、マミも群雲も、落書きの魔女と戦うのは初めてであった。

 故に、慎重にもなる。

 

「どうする?」

 

 周りに設置したマスケットを消し、手に持つマスケットを構えながら、マミは問いかける。

 

「オレが前に出る」

 

 その問いかけに、群雲は銃を両脇に戻しながら答えた。

 

「相手がどう動いても良い様に、巴先輩は控えててくれ」

「解ってるわ」

 

 左手に納刀状態の日本刀、右手にナイフを三本、握り拳の間に挟み。

 群雲は慎重に歩を進める。

 離れた場所から、一丁のマスケットを構えながら、マミが続いていく。

 

「てか、魔女って絶望を振りまくモノなんじゃないんかい?」

 

 誰にとも無く、群雲が呟いた瞬間。

 地面に描かれていた落書き。逃げ出す前に魔女がいた場所。その場所に群雲が来る事で。

 使い魔に囲まれた。

 

「うぉおぅ!?」

「!!?」

 

 反射的にその場を飛び上がった群雲は、右手に持つナイフを投擲し、少し離れた場所にいたマミは、手に持つマスケットの引き金を引く。

 それぞれの攻撃が、確実に使い魔を捕らえ、消滅させた。

 

「群雲君、無事?」

「……ん」

 

 駆け寄ってきたマミに頷きながら、群雲は地面を注視する。

 そこに、落書きはない。

 

「落書きが使い魔になった? 落書きを使い魔にした? 使い魔を産む為に落書きを書いた?」

 

 疑問点を抽出しながら、群雲は思考の海に沈んだ。

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 いや~、びっくりした。それは、置いておくとして。

 落書きみたいな使い魔は、魔女の書いた落書きだった。

 ……なんじゃそら。

 

 だが、これなら魔女が逃げ出した事に説明がつく。

 落書きをする為=使い魔を増やす為だろう。

 書いてる最中に邪魔されるとウザイからねぇ。

 そうなると、オレ達が取るべき行動は……?

 

「速攻……かな?」

「?」

 

 オレの呟いた言葉が聞こえたのか、巴先輩が首を傾げる。

 

「魔女が使い魔を産む方法が“落書き”なら。

 書ききる前に、速攻で沈めるのが一番かなぁ、と」

 

 オレの意見に、巴先輩は顎に手を当てて考え込んだ。

 

 

 

 

SIDE 巴マミ

 

 群雲君の意見に、私は状況を整理する。

 自らの結界内(テリトリー)に進入した魔法少女(てんてき)を前に、一目散に逃げ出した魔女。

 描いた落書きが使い魔となり、襲ってきた現状。

 私の能力、群雲君の魔法。

 周りの状況に注視しながら、私たちは背中合わせに立って作戦を練る。

 

「確かに、魔女を早く倒さないと、一般人にも被害が出る可能性が高まるわ。

 でも、どうやって?」

「手っ取り早いのは<オレだけの世界(Look at Me)>だが……一回で殺しきれないと辛いな。

 止めていた時間の、倍のインターバルを必要とするんで、連続使用は無理なんよ。

 加えて、時間停止中はオレは魔法が一切使えない」

「時間停止の最中に、私の魔法でいくのは?」

「それって、射撃系?」

「ええ。

 巨大なマスケット銃を編み出しての射撃。

 私が“ティロ・フィナーレ”と名付けた魔法よ」

「ん~。

 オレの時間停止は“オレが触れているモノ以外の時を止める”から、多分射撃直後に止まるよ?

 銃の場合は、銃口から出た辺りで止まるし。

 ナイフを投げても、空中で静止するし。

 直接攻撃しようとすれば、相手が動き出すし」

「……使いにくいわね」

「……うん」

「……だったら“相手の眼前で射撃”したら?」

「…………………………その発想はなかった」

「決まりね」

「でも、それで仕留められないとやばくない?

 なにより、オレが触れてなければ、巴先輩は動けないぞ?」

「射撃後に、少し離れてから、時間停止を解除すればどう?

 接触に関しては……私のリボンでどうかしら?

 リボンを経由して触れているなら、条件は満たしていそうだけれど」

「……やってみないと解らないな、その辺は」

「試す価値はありそうね」

 

 こうして話していると、群雲君が年下なのを忘れてしまいそうね。

 そしてまだ、出逢って一日も経っていない事も。

 

「止める時間は短いほうがいいし、まずは魔女を補足しようか」

「そうね」

 

 作戦を練り、行動に移す。

 独りじゃない事。それを実感する。

 群雲君も、それを感じているかしら?

 そんな事を考えながら、私は群雲君と共に魔女を探す。

 

「居た」

 

 すぐに見つけた。

 少し離れた所で、魔女は座り込んでいた。

 こちらには……気付いていないようね。

 

「じゃ、手筈通りに」

 

 私は、リボンをひとつ編み出して自分の腰に巻き、端を群雲君の左手に巻き付ける。

 しっかりと結び、繋ぎ止められているのを確認して、群雲君はゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「<オレだけの世界(Look at Me)> 時よ止まれ!」

 

 そして、時が止まる。

 

「群れし雲が今、世界の流転を否定した」

「悪いけれど、人に仇なす以上、魔女(あなた)の存在を否定するわ。

 私、魔法少女ですもの」

 

 群雲君に合わせて、私も言葉を紡ぐ。

 どうやら私の予想通り“群雲君と物理的に繋がっていれば、この子の世界に介入出来る”みたいね。

 魔女に近づいて、私はそのまま、巨大なマスケット銃を編み出す。

 

「これで、終わってくれると助かるんだがね」

 

 群雲君の呟きを耳にしながら、私は自分の最大火力魔法を解き放った。

 

「ティロ・フィナーレ!!」

 

 放たれた射撃は魔女を捕らえると同時に、爆発を……起こす途中で静止した。

 

「……不思議な光景ね」

 

 役目を終えたマスケットを消し、私はゆっくりとその場を離れる。

 

「流石に、アレに触る度胸はないなぁ」

 

 そんな事を言いながら、群雲君も私に合わせて歩を進める。

 安全と思われる場所まで離れ、群雲君は言葉を紡いだ。

 

そして、時は動き出す(Look out)

 

 次の瞬間、停止していた爆発が起こる。

 私はリボンを解きながら、その爆発を見守る。

 魔法の威力には、自信があるけれど。それを過信はしない。それが独りで戦い、生き残る為の秘訣。

 群雲君も同じように、爆発を見守る。

 

 そんな爆発の中、立ち上がる魔女を見た。

 

「自信、なくしそうね」

「大丈夫、オレにはこんな魔法は使えないから。

 ……今度、ロケットランチャーでも使ってみようかねぇ?」

「なんで、持ってるのよ?」

「弾丸調達のついでに、お借りしてきた。

 残念ながら、ランチャー用の弾が一発しかないけど」

「なんで、一発だけなのよ?」

「弾丸は、リボルバーやハンドガンがメインだったし……時間停止中は<部位倉庫(Parts Pocket)>が使えないから、持ちきれなかった」

 

 そんな話をしながらも、私は新たにマスケットを構え、群雲君はリボルバーとショットガンを構えている。

 

 

 

 

 そして、魔女が泣き出した。

 

「!?」

「うるさっ!?」

 

 生き物が発するような声ではなく、その大音量から、私は堪らずに耳を塞ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……えっ!?」

 

 そして、魔女がその姿を消した。




次回予告

生きる事 それは生命の定め

生きる事 それは当然の行為

生きる事 それは双方の願い






思考する それが人の特権



禁断を犯して得た、最初の罪



七十五章 魔女が描いた場所


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七十五章 魔女が描いた場所

「魔法には、ある程度の特性があり、それが本人の特徴にもなっている」
「それで?」
「基本的に、他人の魔法をそのまま使う事は出来ない」
「基本的? 応用的には?」
「自分に置き換える事は、不可能じゃない」
「……群雲君、本当に年下?」
「誰が、若作りだってぇ!!?」
「言ってないわよ、そんな事!?」


SIDE 群雲琢磨

 

 なん……だと……!?

 死ななかった魔女。

 オレが驚愕したのはそこではない。確かに巴先輩の魔法(ティロ・フィナーレ)は威力が高かったし、オレもやったと思った。

 だが、生きていた。

 

 そして、それは重要じゃない。

 生き残った魔女が泣いた。痛かったらしい。当然だ、殺す為の行動だ。問題なのはその後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体が動かなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体が動かない? 何故だ? 魔女が泣いたからか? なぜ魔女が泣くとオレが動けなくなる? 魔女の能力か? なら最初からそれをしなかったのは?

 

 体が動かない中、状況を理解する為に頭がフル回転する。

 左半分の視界は、魔女が泣きながら歩いていくのを確認する。

 だが、解らない。結論が出ない。情報が少なすぎる。

 

 

 

 

 視界から魔女が消えて、しばらく後。まるでスイッチを切ったかのように。或いはスイッチを入れるかのように。

 オレは“行動”を取り戻す。

 

「……えっ!?」

 

 横では、巴先輩の驚く声。当然だな。突然体が動かなくなり、唐突に動くように

 

「魔女が、消えた!?」

 

 ……はい?

 

「消えた? 泣きながら歩いていったと思うが……」

「……え?」

 

 オレの言葉に、巴先輩が首を傾げる。

 

「……認識が違う?」

 

 ありえるか? 今まさに、魔女を倒そうと一緒にいる魔法少女と魔人(ふたり)が、たった今起こった事に対し、違う認識をしている。

 これが“印象”であったなら、理解できる。それは人それぞれであるはずだから。

 だが、起きた“現実”に対し、異なる“事実”を“認識”している。これはありえるか?

 そう、まるで――――――

 

「……まさか」

 

 フル回転中の頭が、納得できる“答え”を導き出す。時折聞こえる放電の音を無視して、オレは答えを理解する。

 

 

 

 

 

 納得する答えを出す為に、必要な仮定と過程。

 魔女は使い魔を産む。

 ここの使い魔は、まるで落書きのようだ。

 魔女が、落書きをしているのを見た。

 その場所で、オレは使い魔に囲まれた。

 

 ここで仮定。

 落書きが使い魔になるのではなく。使い魔を落書きにしたのではなく。

 

 

 

“あの魔女の能力が、落書きを現実にするものであったなら?”

 

 

 

 落書きが使い魔になったのが、過程ではなく結果なら?

 その過程の上で仮定する。

 

 

 

“オレが見ていた魔女が逃げる姿(せかい)を、巴先輩が見られなかったとしたら?”

 

 

 

 それはまさに、魔女が消えたように錯覚するだろう。

 そう、それはつまり――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“時間停止”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔女が書いた物が現実になるとしたら。

 それが魔女の能力であるのなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“この場所が魔女が描いた場所であるならば”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、まさに。

 魔女だけの……世界…………ッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 巴マミ

 

 呆然と呟いた後。群雲君は動きを止めた。前髪を絶えず放電させながら。

 なにをしているの? なにがおきているの?

 問いかけても、返事は無かった。

 でも、数秒後には放電は収まり、群雲君はこちらを見上げた。

 

「オレの仮定が正しいならば、あの魔女はオレと同じ力があるらしい」

 

 そして語られる、群雲君の推理。それに対して、今度は私が動きを止める事になった。

 まさか……そんなことがありえるの?

 

「正解かどうかは、確かめようが無い。

 だが、こう考えて結論付けるのが多分一番近い」

 

 私と群雲君の違い。

 時間停止を使()()()()使()()()()()

 使える群雲君だから、魔女の世界を認識し。

 使えない私だから、魔女の世界を認識できなかった。

 それが、群雲君の結論だった。

 

「だったら……どうすればいいの?」

 

 それが本当なら、致命傷を与える前に逃げられてしまいかねない。

 私の言葉に、群雲君は先ほどと同じように、眉間に右中指を当てて静止する。

 

「仮に“オレと同じ”であったなら。

 連続使用は出来ないはずだ」

「なら、今すぐに」

「それはアウト。

 オレが動けなかったのは、長くて数十秒。

 正確に計った訳じゃないが、おそらくインターバルは終えている」

 

 なら……どうすればいいの?

 先ほどのダメージが無い筈はない。同様に畳み掛ける?

 

「最初の作戦を続行したとして……巴先輩は魔力に余裕ある?」

 

 ……厳しいかもしれない。

 ここまでに消耗している分と、先ほどの魔法。

 元々、ティロ・フィナーレは連続使用する為の魔法じゃない。

 

「……撃てて、2.3発かしら?」

「だろうねぇ。

 ついでに、オレと繋ぐ為のリボンも魔法だと考えると……巴先輩に負荷が掛かり過ぎてる。

 出来れば、()で仕留めたい」

 

 ちょっとまって。

 

「次?」

「巴先輩単発で無理なら、次に考えるべきは同時攻撃。

 かと言って、オレにはあんな高火力な魔法なんてないし。

 ナイフや日本刀で突っ込んでたら、巻き込まれて死ねる自信がある」

 

 いらないわよ、そんな自信。

 でも……確かにその通りかもしれない。

 群雲君が死んでしまっては意味がない。

 

 それを、許容するほど、私は冷たい人間じゃないつもり。

 

 でも、そうなると……。

 

「同時が無理なら、波状攻撃?」

「手数で補うってか?

 ダメージがあるとはいえ、巴先輩の“ティロ・フィナーレ”に耐えた奴に、通用す…………」

 

 言葉の途中で、群雲君の動きが再び静止した。

 再び、前髪に起きる黒い放電。よく見れば、唯一見える左目は焦点が合っていない。

 ……不気味よ、群雲君……。

 少しして。

 

「策が浮かんだ。

 前提として聞く。

 ティロ・フィナーレは移動射撃とか」

「出来ると思う?」

「ですよねー」

 

 巨大なマスケット銃の射撃。あれに機動性を求められても困るわね。

 ……代わるに値する魔法を、模索しておくべきかもしれない。

 先ほどの話ではないけれど、匹敵するだけの波状攻撃とか。

 でも。

 

「なら、それ前提で動く。

 巴先輩に頼む。

 魔女に向かって、もう一度ティロ・フィナーレを」

 

 それを考えるのは、この後ね。

 今、するべき事は。

 

「演出は、魔人が行う。

 魔法少女は――――――」

 

 決着(カーテンコール)ね。




次回予告

そして、訪れるカーテンコール

されど、これはあくまでもひとつの事象

紡がれし第三幕はまだ




主演が、揃ってすらいない




七十六章 だった


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七十六章 だった

「魔女と戦うのは、悪い事ではない」
「もちろんよ。
 それが、魔法少女の役割でもあるし」
「でも、魔法少女同士で戦う事もある」
「それは……」
「魔人の場合はどうなのか?
 と言いたいが、現状オレしか魔人がいないらしいしなぁ。
 まあ、知ったこっちゃ無い訳だが」
「……じゃあ、なんで言ったのよ?」


SIDE 巴マミ

 

 群雲君の策。

 その為に今、私は一人で佇んでいる。

 ただ静かに、その時を待つ。

 

ドドドドドドドドドドドドドドド!!!!

 

「まてやこらーっ!!」

 

 そんな私の視線の先。全力で逃げる魔女と、下半身だけをダカダカと動かして追う、群雲君の姿。

 ……何も知らない人が見たら、殺し合いしてるなんて思わないでしょうね。

 それでも、私は待つ。ただ静かに、その時を待つ。

 群雲君からの合図を、静かに佇んで、待つ。

 しばらく後、群雲君の叫び声が聞こえてきた。

 私は、声のした方を向き。

 

 最後の射撃(ティロ・フィナーレ)を準備する。

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 魔女を追う。ひたすらに追う。<電気操作(Electrical Communication)>を駆使して。

 策は出来た。魔女が“オレと同じ力”を持つならば。同じ“時間停止”であるならば。

 話は簡単。

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 自分が困る方法で。対処の難しい手段で。オレが攻めればいいのだ。

 しかもこちらには、高火力魔法を使う巴先輩もいる。

 あとは、タイミングを待つだけだ。

 魔女に追い付き、オレは飛び上がりながら右拳を振りぬく。

 

黒く帯電する拳(ブラストナックル)!」

 

 名前のまんま。右手を帯電させて全力で殴るだけ。

 正直、契約した際に肉体が強化されているので、別に帯電させてもあまり威力は上がってないっぽい。

 せっかく使えるんだから的発想なので、そこまで威力を求めているわけじゃない。

 ……まあ、対人戦なら別だろうけど。

 魔女相手となると、大して意味もないなぁ。そんな印象の、地味な技である。

 

 が、殴り飛ばされた魔女を見る限り、まったくの無駄って訳でもなさそう。

 ま、どっちでもいいけど。

 ゆっくりと立ち上がる魔女を見ながら、オレはその時を待つ。

 

 

 

 

 そして、魔女が泣き出し。

 

 

 

 

 時が、止まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

掛かった(フィーッシュ)!)

 

 動きを封じられた“魔女の描いた世界”で、オレは内心ガッツポーズ。

 そのまま、泣きながら歩いていく魔女の方向を確認し。

 オレは、再び待つ。

 

 しばらく後。時が再び動き出し、動けるようになった瞬間!

 

 カチッ

 

 今度は、オレが時を止めた。

 

 魔法が使えない為、小走りながら魔女を探す。

 

 

 

 

時間(じぶんが)停止解除した直後の時間(あいての)停止”。

 

 

 

 

 オレが、対処に困る状況だ。

 連続使用できないのに、自分が使った後に使われる。

 ぶっちゃけ、どうしていいかわからなくなる。

 

 

 

 だからこそ、オレはその方法を選んだ。

 

 

 

 魔女を確認し、オレはそのまま速度を上げると、魔女の真上に飛び上がった。

 <電気操作(Electrical Communication)>は使えないが、強化された肉体はそのままだ。

 予想通りに飛び上がり、上昇から下降へと変わる一瞬の無重力。

 その瞬間、オレは秒針を動かした。

 

 時間停止中は魔法は使えない。

 だが、時間停止を解除した直後からなら、他の魔法が使用可能だ。

 

 魔女が回避行動をとる前に、オレは<部位倉庫(Parts Pocket)>から目的の物を取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE out

 

「ロードローラーだ!」

 

 左腰から取り出した、巨大な重機。

 物理法則を無視した、それはまさに“魔法”と呼ぶに相応しい力であろう。

 群雲の声を聞いたマミがそちらへ向き直り、巨大なマスケット銃を編み出す。

 だが、撃たない。撃てない。

 このままでは、ロードローラーと一緒に下降する群雲まで巻き込んでしまうためだ。

 もちろん、マミにそのつもりはないし、その状況も群雲は想定済み。

 空中で、器用にロードローラーを蹴り落とし、自身はその反動を利用して再び上昇を開始する。

 

 相手に使用されないように、時間停止直後に<オレだけの世界(Look at Me)>を使って魔女を補足。

 世界を還した直後に攻撃を開始し、同時にそれを合図として、巴マミの射撃。

 

 以上が、群雲の策。

 

「ティロ・フィナーレ!」

 

 そして、考えられた策は現実へと昇華される。

 最後の射撃が魔女とロードローラーの両方を確実に捕らえ、巻き起こる爆発。

 

「おおおおおぉぉぉぉぉぉ!!?」

 

 そして、衝撃から逃げ切れずに飛ばされる群雲。

 

「群雲君!?」

 

 それを見たマミは、咄嗟にリボンを伸ばして、群雲を捕まえる。

 

「ぉぉぉぉぉぉぉぉぉお゛う゛ッ!?」

 

 抵抗なく吹き飛んでいた群雲の体に、マミのリボンが絡まり、引き寄せられる。

 その際に群雲の腰辺りからいやな音がした気もするが。

 

「え……きゃぁっ!!」

 

 そして、勢いよく引き寄せられた群雲を受け止めきれず、その場に倒れこむ二人。

 

「いたた……」

「こ、腰がグキッっていったぞ……」

 

 折り重なり、その場を動けない二人。群雲が上、マミが下。そんな状態であっても。

 

「結界は!?」

「まだよ!!」

 

 そのままの体勢で、マミはマスケットを手に取り。群雲は腰の後からショットガンを左手で持ち。

 二人は同時に銃口を、爆発箇所へと向ける。

 

 その体勢のまましばらくし。

 結界がゆっくりと歪み、消えていく。

 

「はあああああぁぁぁぁ……」

 

 結界が完全に消滅し、周りの景色がビルの内部に戻って、ようやく群雲は息を吐き、力を抜く。

 

「さ、さすがに大変だったわね……」

「独りだったらと考えると、ぞっとするな」

 

 群雲の言葉に、マミも賛同せざるを得ない。

 マミ独りでは、魔女の時間停止の対応に、手間取っていただろう。

 群雲独りでは、時間停止に対応できても、その後の追撃に手間取っていただろう。

 

 二人だったからこそ、二人ともが五体満足に勝利できた。

 

「……そろそろ、どいてもらってもいいかしら?」

 

 さて、現在の二人の体勢。群雲が上、マミが下。

 一見すれば、群雲がマミを押し倒している状態。

 

「うぉぉおぅ!?」

「……その反応は、それはそれで傷付くわね」

「どーせいと!?」

 

 慌てて飛びのいた群雲と、ゆっくり立ち上がるマミ。

 

「私たちの勝利、かしらね?」

「まあ、そうだろうな。

 戦利品もある」

 

 マミの言葉に気を取り直し、傍らに落ちていたGS(グリーフシード)を拾い上げる群雲。

 そして、何の躊躇いも無く。

 マミに、投げ渡した。

 

「っと!?」

 

 想定外の群雲の行動に慌てながら、GS(グリーフシード)を受け取るマミ。

 

「まずは、SG(ソウルジェム)の浄化。

 話はそれからだ」

 

 言いながら、ビルの窓から下を見下ろす群雲。

 7階ぐらいか、ここ?

 そんな事を考える群雲をよそに、マミは髪飾りを手に取り、その形をSG(ソウルジェム)に戻し、浄化する。

 そして今度は、マミから群雲へGS(グリーフシード)が投げ渡される。

 

「いってぇ!?」

 

 GS(グリーフシード)には、尖っている部分がある。群雲は見事にその部分が手に刺さり。

 

「あ」

 

 反射的に<部位倉庫(Parts Pocket)>の中へ。

 

「……ま、後でいっか」

「浄化しないの?」

 

 首を傾げるマミに、群雲は顎で窓の外を差す。

 

「……あ」

 

 二人の視線の先。先ほど助けた男性が立ち上がり、その周りには同業者らしき人が集まっていた。

 

「うん、このビルから出られない」

「……時間停止で抜け出せない?」

「インターバル中」

 

 どうやら二人が、本当の意味で一息つくのは、もう少し後になりそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「群雲君」

「……ん?」

「これからも、よろしくね」

「……ん」




次回予告

魔法少女 それは魔女を狩る者

魔人 それは魔女を狩る者

しかし、それ以前にこの二人は人間で

それ以上に、子供であるのだが

それは、言い訳にしかならない

戦いに身を置くとは、そう言う事である

そして、魔人は

そこで生き抜く為に試行錯誤を続ける

その為ならば、常識すらも――――――――――


七十七章 電子タバコ


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七十七章 電子タバコ

「独りでも、生きていくだけなら出来る」
「そうね。
 私も一人暮らしだし」
「……微妙に意味が違うが……まあ、いい。
 つまり、何が言いたいかと言うと」
「なに?」
「お酒は20歳になってからって事だ」
「どういうことなの!?」


SIDE 巴マミ

 

「……どうしてこうなった?」

 

 私のマンション、そのリビング。

 料理を前に、眼鏡を押し上げる群雲君が、静かに呟いた。

 

「天涯孤独、しかも家無し。

 そんな子を夜に放り出す訳にもいかないでしょう?」

 

 二人分の料理を準備し、席に座りながら、私はそう言った。

 

 

 

 

 

 魔女を倒し、ビルを抜け出したのは日が落ちてからになってしまった。

 そんな時の会話。

 

「群雲君は、今からどうするの?」

「ふっ、オレには<部位倉庫(Parts Pocket)>と言う、道具持ち放題な魔法を、変身しなくても使える。

 キャンプ用品一式は、すでに確保済みなのだッ!」

「うん、色々ツッコミどころ満載ね」

「まあ、両親の残してくれたお金は、全額引き出した上で<部位倉庫(Parts Pocket)>の中にある。

 食事はそれでどうとでもなるから、後はテントを設置する場所だけだッ!」

「じゃ、私のマンションへ行きましょう」

「スルー……だと……ッ!

 ちょ、行く、行くから、襟掴んで引っ張るのやめて!」

「とりあえず、連れて行くから。

 今後の事も話し合いたいしね」

「わかった! わかったから!! まず手を離しましょうよ巴先輩!!

 逃げない! 逃げないから!!」

 

 ……かなり強引だったわね。

 まあ、今後の事を話し合いたいのも確かだし。

 目の前の男の子を、テント暮らしなんてさせられないし。

 

「まずは、食事から。

 しっかり食べないと、いざと言う時にまともに動けなくなるわ」

「そうでもないぞ?

 毎日10秒チャージでも生きていける。

 根拠はオレ。

 実際、4年ほどそんな生活だったし」

「……群雲君……貴方は「まあ、契約後もめんどくさいんでそのままの食生活だけど」しっかり食べなさい!!」

 

 どこまで本気なのかわからないわよ。

 

「大丈夫。

 オレは嘘吐きだからね」

「安心できる要素がないわ」

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 

 食事を終えて。食器を台所に置いておき、私はデザートの準備をする。

 

「水に浸けとくと、雑菌が繁殖して逆に不衛生だって知ってる?」

 

 ……先に、洗い物を済ませましょう。

 ふと、視線を向けると、私のまとめていたノートを、白い棒を咥えながら、眺めている群雲君が

 

「な、なにしてるのっ!?」

「……ん?」

 

 白い煙を吐きながら、顔を上げる群雲君。

 俯いた状態だったせいで、眼鏡がずれてその左目と白い眼帯を覗かせる。

 

「ノート見てた。

 巴先輩すごいな。

 これまでの魔女との戦いや、魔法などの自己分析。

 魔法少女巴マミの強さの片鱗を、見せ付けられた感が」

 

 言葉の途中で、私は群雲君のタバコを取り上げた。

 

「まだ11歳なんでしょっ!!

 なんで、タバコなんて吸って「一応、法律違反ではないぞ」馬鹿な事言わないで!!」

 

 声を荒げる私に、群雲君は冷静なまま。それが、私の感情をさらに煽る。

 

「電子タバコだぞ、それ」

 

 ……え?

 見ると、たしかにそれは本物のタバコじゃない。

 

「ニコチン0の、充電式。

 ちなみに充電は切れている」

「で、でも……だからって!」

「まあまあ、巴先輩、落ち着け」

 

 言いながら、群雲君はゆっくりと、私の方へ手を伸ばす。

 でも、さすがに渡す気になれない私は、それをしっかりと握り締める。

 溜め息をひとつ、群雲君は静かな口調で語りかけてくる。

 

「……水道、水が出っぱなしだぞ。

 ちゃんと説明するから、まずは洗い物を終わらせたら?」

 

 ……それもそうね。

 私は電子タバコをポケットに入れると、キッチンへ戻る。

 

「……返して欲しいんだけどなぁ」

 

 群雲君の呟きは、聞かなかった事にするわ。

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 

 ケーキと紅茶を用意して、私はテーブルの前に座る。

 群雲君は、見ていたノートを傍らに置いて、正面から私を見据える。

 もっとも、彼の姿ではその表情のほとんどが隠れてしまっているのだけれど。

 

「電子タバコ、返して」

「理由を聞いてからよ」

 

 ついでに、話すまでケーキも紅茶もお預け。

 そう言う私に、群雲君は眼鏡を外しながら答えた。

 

「修行の一貫なんだよ」

「……修行?」

「オレは、変身しないと魔法が使えない。

 変身せずに使えるのは<部位倉庫(Parts Pocket)>だけ。

 でもだめだ。それじゃあだめだ。

 オレは、オレの為に魔法を使う。

 そのオレが“変身しなければ魔法が使えない”のでは、意味が無い」

「それと、電子タバコがどう繋がるの?」

「巴先輩だって、最初から銃を編み出せた訳じゃないだろう?

 ノートを見させてもらったけど、巴先輩の本来の魔法は“リボン”の方だ。

 魔法を使いこなし、新たな魔法を編み出す。

 その為には“魔法を使う経験”が必要なんだ。

 ここまではいいよな?」

「ええ」

「魔法を使う。

 オレの魔法は大きく分類して3つ。

 “時間停止”“放電能力”“収納”に分けられる。

 この内、時間停止に関しては、常日頃から使える種類の魔法じゃない。

 そして、収納に関しては、変身しなくても使える。

 ならば、残ったのは放電能力だ。

 この力は特に、戦闘においてメインとなる能力なだけに、妥協する訳にはいかない。

 そこでオレはまず、この力を”変身しなくても使えるようにする”事を目標にした。

 その為に目をつけたのが、その“電池切れの電子タバコ”だ」

「……電池切れ?」

「電池切れ。

 充電式のそれを“オレの魔法で機能させる”事で、放電能力のコントロールを上昇させる。

 それが、理由なんだ」

 

 ……また、とんでもない事を思いついたものね。

 

「最初は、変身状態じゃないと使えなかったし、47本ほど力込め過ぎで壊れた。

 だが、最近は変身しなくても使えるようになってるし、おかげで放電能力の使い方が広がった」

「たとえば?」

「オレの魔法のひとつに『電磁砲(Railgun)』がある。

 弾丸を電磁化して撃ち出すものだ。

 さっきの戦いでは使わなかったけどね。

 これは、力を込めすぎると勝手に飛んで行ったり、弾丸そのものが耐え切れなくなったりする。

 逆に、力が足りないとボールを投げるより遅く、飛距離も威力も出ない。

 魔女との戦いで実用化するには“しっかりとした放電操作”が必要になる。

 その為に必要なのは慣れ。

 <電気操作(Electrical Communication)>の“経験”なんだ」

「だから、電子タバコ?」

「金額的にも手が届き、簡単に持ち運べて、一応は法律にも抵触しない。

 実際、おまわりさんに見つかって注意されたが、犯罪行為じゃない以上、オレを罰する事は出来ない」

「……倫理的に問題があるわよ」

「よい子はまねしないでね!

 よしっ!!」

「よしっ!! じゃないわよ!!」

「まあ落ち着け。

 生き残る為の行動。

 魔女に負けない為の行動。

 オレが、オレの魔法を使いこなす為の手段のひとつなんだから」

 

 そう言って、群雲君は口の端を持ち上げる。

 

「他の手段が思いつけば、そっちにするけど。

 なんかある?」

 

 言われて、私は考えてみる。

 電気を使って動く物。手軽に持ち運べる物。

 

「懐中電灯とか」

「昼間に懐中電灯持ち歩いてどうする?

 明るい場所だと、点いてるかどうかわからんし」

「む……」

「とまあ、他に思いつかなかったんよ。

 それなら、正常に作動してれば煙が出るしね」

「むむ……」

「代案がないなら、返してくれるか?」

「むむむ……」

 

 ……仕方ないわね。

 しぶしぶ、私は電子タバコを群雲君に返す。

 受け取った群雲君は、それを右手の<部位倉庫(Parts Pocket)>に入れると、眼鏡を掛け直す。

 

「じゃ、真面目な話をしようか。

 なんか、変な方向に脱線したし」

「私のせい?」

「まあ、琢磨が誤解を生む行動をしていたのも事実だしね」

「うん、サラッと現れて、ナチュラルに混ざるの止めようか、ナマモノ」

 

 いつの間にか、キュゥべえがテーブルの傍らで顔を覗かせていた。

 

「ナマモノって……」

「いや、名前を知ったのが結構前でね。

 それまでずっと“ナマモノ”って言ってたし、こいつも訂正しなかったし」

「僕は、どんな風に呼ばれようとも気にしないからね。

 こちらも、琢磨の名前を知ったのは4ヶ月後だったし」

「……似た者同士ね」

「いやぁ」

「誉めてないわよ!?」

「わけがわからないよ」

 

 いい加減、この子の扱いになれないといけないわね。

 今日初めて会い、共闘した少年に抱く印象じゃないかもしれないけれど。




次回予告

対話は続く

少しずつ、だが、確実に

装置を動かす為の歯車が



組み込まれていく

七十八章 七転八倒


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七十八章 七転八倒

「好きな食べ物は、何があるのかしら?」
「僕は、活動する為の熱量が確保出来れば、種類は問わないよ」
「基本的に無収入なんで、食事に拘りは無いよ?
 安くて動ければそれで良し」
「……料理のし甲斐が無いわよね、貴方達……」
「「わけがわからないよ」」
「綺麗にハモらないで!!」


SIDE 巴マミ

 

「しかし、意外だったね」

 

 無表情に首を傾げるキュゥべえに、私も同じように首を傾げる。

 群雲君は、ベランダに出て電子タバコを咥えている。

 

「むぅ……うまくいかない……。

 で、何が意外だって?」

「君達が、一緒にいる事がさ。

 マミは、珍しいタイプの魔法少女だ」

「……っ」

 

 珍しい。そう言われるのは何度目だろうか?

 自分だけが生き残った、あの事故で。自分だけの命を繋いだ、私の願い。

 だからこそ生き残り、魔法少女となった私が戦う事で、一人でも多く、命を繋ぎとめられるのなら。

 それが、私の戦う理由。

 

「お、うまくいった」

 

 口から煙を吐いた後、群雲君は髪を風に煽られながら、こちらを見据えて言う。

 

「そしてオレは、自分至上主義の魔人。

 巴先輩はともかく、オレが誰かと組む事が稀だって言いたいのか」

「それもある。

 理念で言うなら、マミと琢磨は“真逆”なんだ。

 僕はてっきり“共闘”ではなく“分担”だと考えたんだけどね」

「なるほど、一理ある。

 巴先輩が“魔女になるまで使い魔を放置”はしないだろうし。

 オレが“魔女になる前の使い魔を率先して退治”はしないだろうと」

「その通りさ。

 実際、琢磨はいくつの“使い魔だけの結界”を放置したんだい?」

「100から先は、覚えてない」

 

 その言葉に、私は目を見開く。

 この子は本当に……。

 

「だがナマモノ。

 お前は重要な事を見逃している」

「なんだい?」

()()()()()()()()()()()()さ。

 いいか、ナマモノ?

 大前提として“魔女を退治出来なければ、すべてが無意味”なんだ」

 

 あくまでも真剣な表情で、群雲君は言葉を紡ぐ。

 

「最も、オレの為にならない事。

 それは“対魔法少女”なんだ。

 互いに魔女を相手にし、勝利する為の力がある。

 オレ達はそういう存在だ。

 よっぽどの理由が無い限り、オレにはそんな存在を“敵に回すメリット”が無い。

 まあ、共闘相手が他の魔法少女と戦うってんなら、着いてくけど」

「どうしてだい?」

「共闘相手ってのは、決して“足手まとい”じゃないからさ。

 魔人や魔法少女は、完璧超人なんかじゃない。

 どうしたって、苦手なものは苦手だし、出来ない事は出来ない。

 理想は、互いの弱点を補いつつ、互いの特性を伸ばす事だが、まあそれは別の話。

 今の仲間を無視して、見ず知らずの敵対者に着くメリットなんて無いだろ?」

「相手が優れた実力者なら、どうするんだい?」

「雑魚でも格上でも一緒さ。

 自分の為の共闘なのに、それを自分から放棄しちゃ七転八倒だ」

「……それ、本末転倒の間違いじゃないかしら?」

「あれぇ!?」

 

 最後の最後で、変なオチをつけてくれたけれど。

 改めて、この子の“異常性”を目の当たりにした気分ね。

 電子タバコを咥え、その口の端を持ち上げる少年は。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 何がこの子を、そこまで駆り立てるのか。

 何がこの子を、そこまで追い詰めたのか。

 

「さて、本題に入ろう」

 

 電子タバコをポケットに入れ、ベランダから部屋に戻り、私の前に座る群雲君。

 

「オレは、オレの為に、オレを生きる。

 このスタイルは変わらないし、変える気も無い。

 それでも――――――」

 

 眼鏡を外し、その瞳を私に向けて。

 

「オレは、見滝原にいてもいいかい?」

 

 数時間前に聞いた問い掛け。

 群雲君にとって、私は共闘するに値する存在だと言う事。

 

 ……確かに、この子の実力は高いと思う。

 様々な武器を用いた、距離を選ばない立ち回り。

 策を練る頭の回転の速さに、それを実行できる能力。

 仮に、敵に回したとして、勝てるかどうかと問われれば、即座に頷く事は出来ない。

 

 キュゥべえが言う様に、私と群雲君は“真逆”だ。

 見滝原で、人々を護る為に戦う私と、場所に拘らずに、自分の為に動く群雲君。

 

 

 

 

 

 

 でも。ならば。

 どうして群雲君は、私と一緒に“使い魔を倒して進んだ”のだろう?

 どうして群雲君は“いてもいいか?”なんて聞き方をするのだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔女だけじゃなく、使い魔も極力倒す事。

 一人で、勝手な行動を取らない事。

 黙って、いなくならない事。

 後、電子タバコは部屋の中では使用禁止」

 

 突然の私の言葉に、群雲君は驚いている。

 

「それでも、貴方はここにいたい?」

 

 その言葉を聞いた群雲君は。

 

「当然」

 

 口の端を持ち上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、暮らす場所は決めてあるの?」

「目立たない所にテントを張ろうかと」

「ここで暮らす気は無い?

 私も一人暮らしだし、問題ないと思うけれど」

「いや、さすがにそれはどうかと。

 オレの事、思いっきり男として見てないだろ、先輩?

 まあ、オレは子供だし、それを自覚してるけれども」

「あら、私を襲う気でもあるの?」

「共闘相手襲ってどうするのさ?」

「なら、問題ないわね。

 後、私が学校に行っている間は、掃除や洗濯もお願いしようかしら?」

「完全に主夫扱いっ!?

 てか、オレが下着とか洗っていいのか?」

「……やっぱり、掃除だけでいいわ」

「そうしてくれ、マジで。

 じゃないと、オレの神経が羞恥で擦り切れる」

「琢磨は、その程度で駄目になるとは思えないけどね」

「バッカ、ナマモノ、お前。

 これで巴先輩がTバック趣味だったら、オレが卒倒するわ」

「ちっ、違うわよっ!?

 そんな事、誰も、一言も言ってないでしょうッ!!」

「「わけがわからないよ」」

「仲良すぎでしょ、貴方達!?」




次回予告

インキュベーター それは、魔法少女を産み出すモノ

魔法少女 それは、魔女と戦うモノ

魔人 それは、魔女と戦うモノ









インキュベーターが居なければ、魔法少女も魔人も存在しなかった

故に、その能力はインキュベーターの方が上




しかし、別の視点で観るならば……?















魔女 それは――――――――――

七十九章 反転同一関係


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七十九章 反転同一関係

「マミのように、自身にメリットが無いのに、使い魔まで倒す魔法少女は珍しい」
「そう言う点で言えば、GS(グリーフシード)の入手に拘る琢磨の方が、大多数とも言える」
「もっとも、琢磨は極端過ぎるとも言えるけどね」
「僕らが琢磨を重要視する点は、そこじゃない」
「真実を知る前と、真実を知った後」
「それが、まったく変わらないのだから」


SIDE 群雲琢磨

 

 結局、巴先輩との共同生活になりました。

 どう考えても、お情けで置いて貰ってる感がやばいが。

 まあ、それは置いておこう。

 

 初めて出会い、共闘した日の深夜。

 オレは、ベランダで電子タバコを咥えていた。

 右肩にはナマモノが乗っかっている。

 

「巴先輩は、寝たか」

「そうだろうね。

 明日も学校に行かなければならない。

 マミがこれ以上、起きている理由は無いからね」

 

 白い煙を吐きつつ、オレは視線を室内へ向ける。

 明かりの消えたリビング。そこから見える、巴先輩の部屋の扉。

 その横には、彼女の両親の寝室がある。

 

「ま、雨風が凌げるだけ良しとするかね」

 

 最初、巴先輩は両親の部屋を使うように勧めてきたのだが、丁重に断った。

 ……いや、流石に使う気にはならんよ? 笑えない。

 

「しばらく琢磨も、見滝原で魔女狩りかい?」

「そうなるな。

 いつまで居るかは、わからんけど」

 

 GS(グリーフシード)さえ、入手出来るなら、それでいいのだ。

 

「そんな訳で、()()()()()()()()()()()()()()()()よ?」

「それは、残念だね」

 

 SG(ソウルジェム)GS(グリーフシード)の反転同一関係と、オレの肩に乗る孵卵器(インキュベーター)の目的。

 ……まあ、オレには知ったこっちゃ無いさ。

 

「……独りの方が、気楽だったかもな」

「だからこそ、僕はマミと共闘するとは思わなかったんだけど」

「それはそれ、これはこれ。

 独りだと、どうしても“限界”がある。

 高い実力を持つ魔法少女との共闘は、充分にオレの為になるのさ」

 

 “魔法少女を利用する”というただ一点においては、オレとナマモノは“同類”とも言える。

 

「僕としては、マミが魔女になってくれないと困るんだけどね」

「その辺、お前らって馬鹿だよな。

 魔法少女が魔女にならないと、エネルギーの回収が出来ない。

 かといって、魔女だらけになってしまえば、素質者すら犠牲にしかねない」

「僕らを馬鹿だなんて言うのは、琢磨ぐらいだよ」

「そうかい?

 そもそも、自分達が利用出来ないシステムに固執して、他の星(ちきゅう)生命体(にんげん)に頼らざるを得ない時点で、お前らの方が“下”だろう?

 なあ、下等生物?」

「……君の身に起きた“異常現象”といい、琢磨はまさにイレギュラー。

 むしろ“異物”と呼ぶに相応しいね」

 

 異常現象、ねぇ?

 

「自覚無いんだけどな?」

「それもまた、君と言う存在の歪さに拍車をかけてるね。

 魔人の存在自体は、個体数が少ないだけであって、有り得ない存在じゃない。

 だが、君に起きた事は、前例の無い事だ。

 有史以前から人類(きみたち)と関わってきた僕らが、知りえない現象。

 それが、どれほどのモノか、理解しているのかい?」

「知ったこっちゃ無いな」

 

 ナマモノにとって、人間は家畜と同じ。

 人間が家畜を育てるのは、おいしく頂く為だ。

 その観点で見れば、ナマモノが“視えて”くる。

 

「まあ、感謝している点もあるし、オレがお前に“敵対する理由”もないしな」

「魔人、魔法少女に関わらず、真実を知った時は皆、僕らを責めるんだけどね」

「責めて、変わるのか?」

「変わらないね」

「なら、無意味だ」

 

 結局の所、オレの目的は変わらない。

 オレは、オレの為に、オレを生きる。

 それ以上でもそれ以下でもない。

 

「で、オレを見滝原に呼んだ理由は何だ?」

 

 魔法少女を絶望させる為? それは無いだろう。

 オレがそれをする理由も無いし、それはナマモノだって知ってるはず。

 ならば、理由がある筈だ。

 

「君も、聴いた事はあるんじゃないかな?

 魔法少女の間で、語り継がれている伝説の魔女」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワルプルギス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「向こう三年の間に、見滝原に顕現する可能性が72.1%と、僕らは結論付けた」

「魔法少女なんて、ファンタジーな存在にすら伝説と呼ばれる、ねぇ。

 まさに、究極の幻想だな」

「ワルプルギスの夜は、僕らにとっても害悪でしかないんだ。

 その戦いで、魔力を使い果たして“孵る魔法少女だけ”ならまだしも、結界に篭る事無く、破壊の限りを尽くす。

 そうなれば、せっかくの“素質者”を無駄にしてしまうからね」

 

 ある意味、インキュベーターの自業自得とも言える。

 感情が解らないのに、感情をエネルギーに変えた歪み。

 その究極の形、その一つが“ワルプルギスの夜”と呼ばれる魔女なのだろう。

 或いは、インキュベーターへの恨み(かんじょう)が、その魔女の原動力か……。

 

「魔法少女は条理を覆す存在だ。

 その為の原動力こそが、僕らが持ち得ない“感情”なのだから。

 その“感情”より産まれたワルプルギスの夜は“君たちの問題”じゃないかな?」

「丸投げかよ。

 条理を覆す“きっかけ”は、間違いなくお前たちだろうが」

 

 魔人(オレ)孵卵器(ナマモノ)は、よくこうやって話をする。

 もっとも、話をする機会そのものは、ほとんど無い。まだ数える程度だ。

 オレが、一つの場所に留まらなかったのも、ナマモノもまた素質者を求めて彷徨っていたのも理由になるだろうか。

 

 ……本当に、オレ達は“同類”だよ。

 

「さて、僕はそろそろ行くよ。

 僕との契約を必要とする少女は、まだ居るだろうからね」

「出来れば、他の魔法少女の情報が貰えると、安定した魔人生活が送れるんだが」

 

 オレの肩から飛び降り、そのままベランダからも飛び降りるナマモノに、オレは告げてみる。

 

[残念ながら、それは出来ないね。

 僕が出来るのは、あくまでも中立的な立場からの情報だけだ]

 

 どうやら聞こえていたらしく、念話で返事が来た。

 オレは、返事をしながら、白い煙を吐き出す。

 まあ、煙と言うよりは水蒸気みたいなものだが。

 

[魔女になってもらわないと困るのに、魔女だらけになるのもいただけない。

 ホント、なんでそんな面倒なシステムにしたんだか]

[それは、君に必要な情報かい?]

[知ったこっちゃ無いな]

 

 オレはそのまま、電子タバコをポケットに入れると、リビングに戻ってテレビを点ける。

 すぐに、音量を最低にして、巴先輩を起こさない様にしながら、深夜のニュースを眺める。

 

[出来れば、君達と対立した上で、双方魔女になってくれるといいんだけれど]

[させねぇよ?

 敵対者はともかく、共闘者を見殺すなんて笑えない事、この魔人がすると思うか?]

[やれやれ。

 君は一体、誰の味方なんだい?]

[決まってんだろ、そんなの]

 

 オレは、オレの味方だ。

 オレだけが、オレの味方なんだから。




次回予告

時は過ぎ、目覚めるのは此度の主演

白い魔法少女が、自らの役割を、自ら定めた時

歯車は、一気に装置へと組み込まれる

八十章 見滝原の銃闘士


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幕間 隻眼の魔女狩り

三幕での設定

 

名前 群雲 琢磨(ムラクモ タクマ)

性別 男

種族 魔人

年齢 肉体年齢は契約時である10歳で止まっている

身長 129.9

体重 33

魔法特性 無法

魔法道具 両手袋と具足

外見 目元が隠れるほど前髪の長い白髪(地毛) オッドアイ(左が黒 右が緑←ソウルジェムの影響

通常時の姿 縁なしの丸レンズの伊達眼鏡(右のレンズは曇りガラス 自作品) 黒のトレンチコート 純白の眼帯

変身後の姿 緑色の軍服(眼鏡は未着用 眼帯は着用)

 

 

概要

キュゥべえと契約した少年で、現状唯一の魔人

自分の扱う魔法の発展に、全労力を費やしている

反面、魔女の気配を察知するのに疎く、無駄に色々な場所を巡る上、自身に場所による執着がない為、キュゥべえとの接触時間はそれほど長くはない

今の自分を前提に思考展開する為、周りからは支離滅裂に見られがちだが、本人はまったく気にしていない

辛い現実と、それから逃げた真実、魔人となった事実で、色々と吹っ切れた為、歪んではいるが明るめの性格

受け入れ、割り切る事に長けている反面、自分以外の要素が絡んだ場合は、自分自身で決断する事は稀で、基本的に流されている

そして“自分さえ無事”ならば流される方向に、特に執心はなく、抗う事もしない

故に、戦闘において策が浮かんだ場合、独りなら即座に実行するが、二人以上の場合はその策を話した上で、相手にどうするかを決めてもらう事が多い

 

魔法少女システムの真実と、インキュベーターの目的はすでに認識し、割り切っている為、キュゥべえに対しては、特に恨みなどの感情は持っていない

また、基本的に他の魔法少女等、知ったこっちゃ無い為、言いふらす事も無ければ、擁護する気も無い

 

 

使用可能魔法

 

Lv.1 オレだけの世界<Look at Me>

 

時間停止

自分以外の時を止めて、自分だけが動ける状態にする魔法

例外として、自分の触れている物は、動く事が可能(離れれば、数瞬後に止まる

任意のタイミングで解除可能だが、ソウルジェムの穢れは、停止時間に比例する

連続使用不可で、止めていた時間の倍のインターバルを必要とする

また、基本的にこの状態では、他の魔力の使用が出来ない

むしろ、戦闘中の移動や撹乱に使用する事の方が多い

ついでに、時間停止による武器の調達は、両手一杯に抱えながらせっせと走るという地味にまぬけな状態だったりする

魔力使用不可なのは群雲のみであり、招いた者は通常通りの魔力運用が可能

 

Lv.1 電気操作<Electrical Communication>

 

電撃能力

固有武器(両手袋と両ブーツ)を媒体として発動可能な魔法

拳に纏う事で、攻撃力を高めたり、両足神経に流し込み、通常以上のスピードで走る事が出来るようになる

主力魔法であり、発展させ、開発した技も多い。

電気の色は黒。

最近になって、思考をフル回転させている時に、無意識に使用している事が発覚

それを足がかりに、Lv2が完成した

独自の異常な修行法で、最近変身せずに使えるようになりつつあるが、まだ未完全

 

『逆手居合 電光抜刀』

電気操作による神経操作で、行動を高速化させる、群雲の剣技

その場から動かずに斬り上げる『壱の太刀 逆風』

走り抜けながらの横薙ぎ『弐の太刀 閃風』

上方からの斬り下ろし『参の太刀 天風』

また、電気操作を手から刀身へと伝達、放電させて攻撃力を高める『弐式』があるが、まだ未完成で『逆風』でしか、使用する事が出来ない

 

『電光速射』

電気操作で、行動を高速化させた煽り撃ち

銃を持つ右手で、狙いと反動の制御

左手での高速化した射撃の同時プログラムであり、射撃中に限り、両足の高速移動は不能になる

が、射撃時間自体が短い為、大したデメリットになってはいない

ちなみに、リロードの際は銃を持ち替えなければならないが、これは電光速射のデメリットというよりは、リボルバーを使用する特性のようなものである

 

『電光球弾(plasmabullet)』

電気操作による放電を束ねて、球状にして撃ち出す

大きさは電力(込める魔力)によって変わるが、大きさと速度は反比例する

撃ち出す為に一時的に球状の形を取っている為、着弾直後に放電として弾ける

込めた魔力や相性によっては、相手の行動を一時的に封じる事もあるが、それはあくまでも副次的要素

直接の魔力である為、対魔女に関しては、群雲の射撃系魔法の中では最も威力が高い

 

『電磁砲(Railgun)』

弾丸に、電気を纏わせて撃ち出す

実際のレールガンとは原理が異なり、弾丸を電光球弾代わりにして、打ち出しているだけにすぎない

しかし、弾速、貫通力はこちらの方が高い

欠点は、電光球弾とは違い、実際に弾を消費する事と、弾丸を電磁化する為の“溜め”を必要とする事

故に“速射”の点においては、銃を使用したほうが上

 

 

 

威力比較 電気球弾>電磁砲>電光速射

速度比較 電光速射≧電磁砲>電気球弾(電光速射と電磁砲は相手との距離による)

魔力比較 電気球弾≧電磁砲>電光速射

 

 

 

『黒く帯電する拳(ブラストナックル)』

拳に電気を纏わせて、全力で殴る ただそれだけ

電気=魔力である為、確実に攻撃力は上がっているのだが、本人はあまり自覚していない

この際、放電能力が右手に集中している為、他の場所を自粛しなければ、電気を纏わせた拳を<電気操作(Electrical Communication)>でコントロールは出来ない

 

 

 

Lv.2 操作収束<Electrical Overclocking>

 

電気操作を一点に集中させる発展系

基本は、両手足からの指令を脳に集約する事で、肉体機能を100%発揮する事を可能にする

欠点は、強化されているのが“脳だけ”である事

その為、肉体への反動が凄まじい

また、操作を片手に集中させる事で、放電能力系の準備時間(チャージタイム)を短縮する事も可能

足に集中させ、蹴りの威力を上げる事も出来る

しかし“収束”という特性上、複数部位での同時使用は不可

尤も、タイムラグはほぼ一瞬なので、大したデメリットではない

むしろ、収束する“魔法”に“肉体”が追い付かなくなる事の方が危険

 

『逆手居合 電光抜刀 弐式』

最初期は、放電能力を高める事で、威力を上げたもの(故に両足を使わない“逆風”でしか使用できなかった)だったのだが、そもそも斬れなければ意味が無いと発覚

右手による抜刀に、左手に持つ鞘での追撃を加えた、刀と鞘の二刀連撃による呼称へと変化

それが転じて、下記の技能へと発展

弐式自体は発展しきれておらず、現在模索中

 

『電光剣術 一振り二刀』

抜刀状態からの、操作収束による立ち回りの呼称であり、刀と鞘による、逆手二刀流

元々、剣術の心得など皆無なのを、操作収束による強化行動に名前をつけただけであり、実際は剣術でもなんでもない

しかし、自分が認識する以上の行動をする魔法である為、自分がどういう状態なのかを判断する為には、名前を付けるのが確実なので、完全に無意味ではなかったりする

 

『電球射出(plasma shoot)』

電光球弾を、通常通りに射出せず、物理的に押し出す事で、欠点だった弾速を補った技法

基本的には蹴り

電光球弾生成後、押し出す部位に放電能力を“収束”させる為、Lv2に分類される

ちなみに、一幕ワルプル戦で使用したのは、射出後に打ち出した未完成版で、こちらはLv1に分類

 

 

Lv.1 部位倉庫<Parts Pocket>

 

収納技能

体の一部分と異空間をつなぎ、道具を収納する魔法

収納出来る物の大きさに規定はないが、基本、一箇所にひとつ

例外として右の手の平だけは、収納数無限

収納した場所と、取り出す場所が同一である必要があり

 

『左手の平 白鞘拵え鍔無しの日本刀 無銘』

『右腰 リボルバー拳銃 シングル・アクション・アーミー』

『左腰 ロードローラー→使用したので現在はからっぽ』

『右脇 オートマチック拳銃 ベレッタ』

『左脇 オートマチック拳銃 グロック』

『腰の後 水平二連ショットガン』

 

上記が固定装備となる

収納数無限である右手の平には、各種弾丸だけでなく、食料等の日用品など、内容は多岐に渡る

が、あまりに多くの物を入れ過ぎた為、群雲自身、中身の全てを完全に把握している訳ではない

収納されている物は、時が止まっている

その特性上“生き物”は収納不可(卵は“生きる前”である為可能。GS(グリーフシード)が収納出来るのも、これが理由)

収納するものと、収納する部位が触れている事が、発動の絶対条件

変身せずに使用できる、唯一の魔法

 

『ムラクモカスタム』

群雲が愛用した結果、魔力によりコーティングされ、硬度等が強化された武器の総称

日本刀は硬度に切れ味が強化されており、鞘で切り裂く事すら可能に(その為、握り方を誤れば、鞘で手を怪我する)

銃器は硬度と射撃精度が強化されており、群雲の高速射撃にも耐えられる

 

『ナイフ』

群雲が右手の平に収納している、シンプルな造詣のナイフで、収納数は6200前後(群雲自身、正確な数を把握していない)

切れ味は日本刀に劣り、投擲速度は銃器に劣る

が、徒手空拳よりはましだろうし、投擲した後に回収も出来るからと、使用を開始

指の間に挟む、爪のような持ち方が基本

取り出してから攻撃までの時間は、他武器と比べて格段に速い為、操作収束と最も相性の良い武器となっている

その為、最も付き合いの短い武器でありながらも『ムラクモカスタム』に分類されている

 

『電子タバコ』

未変身状態で<電気操作(Electrical Communication)>を使用出来るようにする為の、修行道具

電池切れの状態で、魔力(電気)を送り込み、正常に作動させる事で電気能力の鍛錬を行う

他にも、電球を手に持って点灯させたりもしていたが、自分にとって最も解りやすかったのが、電子タバコだった

成果も、それなりに挙がっている模様

 

『白い眼帯』

丸い形で、頭の後ろで縛って固定している

右目がソウルジェムとなった影響で、その視力が低下している事

魔人(魔法少女)の弱点とも言えるソウルジェムを保護する事

左半分だけの世界に慣れる事

以上の理由より、常時着用



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八十章 見滝原の銃闘士

「人々の思いは、とても深い」
「それは、善と悪、その両方に向けられる」
「善の思いが神を創り」
「悪の思いが悪魔を創り」
「そうして世界は、バランスよく創られているのだわ」


SIDE 美国織莉子

 

 私の願いは、一つの結末を映し出す。

 見滝原より始まる、終末の風景。

 私が契約により得た能力は、絶望の未来を映し出し。

 私は、それを回避する為に、この生を費やすと決めた。

 

「どうかしたのかい?」

 

 傍らに居たキュゥべえが、表情を変える事無く問い掛けてくる。

 私は、未来を観た。

 その過程で、私は魔女の“本質”を知った。

 もはや、この生命体に心を許す事は無い。

 ……しかし、どうすればいい?

 世界に終焉を告げたのは、巨大な魔女。

 アレには、絶対に勝てない。私はそれを本能的に理解していた。

 あの未来を回避する為には“前提を覆す”しかない。

 魔女は、魔法少女が絶望に変化した姿。

 ならば“アレになる魔法少女を殺す”のが、最も確実な方法。

 “今”が終焉ではない以上、その少女は魔法少女か、まだ契約前か。

 

「この見滝原には、私以外にも魔法少女が居るのかしら?」

「いるよ」

 

 冷静に見える様に努めながらの私の質問に、キュゥべえは即座に返答した。

 

「でも、あまり個人的な事を話す事は出来ないね。

 僕が出来るのは、あくまでも中立的な情報だけだ」

 

 その言葉に、私は僅かに唇を噛む。

 

「しかし、知名度のある魔法少女達の事なら、多少は話せるよ。

 もちろん、知名度と言っても、関係者の間に、と言う前提はあるけれど」

 

 魔法少女が魔女になる。魔女として強大な存在となるなら、魔法少女としても高い実力を持っていて当然だわ。

 

「話して貰ってもいいかしら?」

「もちろんだよ。

 “本人からも、極力話す様に頼まれている”しね」

 

 頼まれている?

 私の疑問をよそに、キュゥべえは情報を告げる。

 

「見滝原を縄張りにするコンビ。

 通称“見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)“。

 現状唯一の魔人と、使い魔も魔女も関係無く倒して人々を護ろうとする、珍しいタイプの魔法少女の二人組みさ」

「魔人?」

 

 聞きなれない言葉に、私は首を傾げる。

 

「元々、魔法少女と言う呼称は、契約可能な素質者の大半が、第二次成長期の少女で占められている事から由来している。

 僕たちは、素質者にしか認識できないからね。

 だけど、僅かながらそれに当て嵌まらない素質者も存在する。

 そういった存在を、魔人と呼称するんだ」

 

 素質者にしか、認識できない……。

 この生命体の事だから、()()()()()()にしているのかもしれない。

 

「話すように頼んだのは?」

「魔人の方さ。

 魔力を回復させる為にGS(グリーフシード)が必要な以上、どうしても魔法少女同士での衝突も有り得てしまう。

 知名度を上げ、実力者だと認識してもらう事で、余計な諍いを避けるのが目的だと言っていたね」

「利用される、とは考えなかったのかしら?」

「自分の為に動く事を信条としている少年だ。

 利用しようとしても、逆に利用される可能性の方が高いんじゃないかな?」

 

 ……相手にそう認識してもらうのが狙い、かしらね?

 中々、強かだわ。

 でも、もしも“見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)”のどちらかが“アレ”になるのだとしたら。

 衝突は免れない。

 でも、もしも“アレ”になる存在が、まだ契約していなかったとしたら?

 

 今の私にはまだ、判断するだけの材料が無いわ。

 

「どうかしたのかい?」

 

 黙って考え込んでいた私に、キュゥべえが再び問い掛けてくる。

 ……まずは、この生命体の動きを、ある程度抑制しないといけない。

 何よりも今、私に必要なのは“アレが元は誰だったのか”という情報。

 その為には、未来を観て情報を得るしかない。

 見滝原からの終焉、その最悪を回避する為に。

 

「あ」

 

 その時、私は気付いた。

 私は既に、絶望の未来を予知した。

 それはつまり“アレになる魔法少女との契約は、現状確定している未来”だと言う事。

 ならば逆に“私が魔法少女になるように仕向けた少女は、アレにはならない”と言う事。

 

「キュゥべえ、いいお知らせよ」

 

 だからキュゥべえには。

 

「私の魔法は、貴方の役にも立つみたい」

 

 一生懸命、勧誘活動に勤しんで貰いましょう。

 

「貴方にとって、とても良い素質者がいるみたいよ」

 

 その間に私は、必要な情報を手に入れてみせるわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――その頃の魔人――――――――

 

「そこそこ長い付き合いになったなぁ。

 巴先輩も中学3年だし、オレも主夫家業が板についてきた」

「流石に琢磨君は、学校には行けないわよね」

「まず、身分を証明しようがないからなぁ。

 両親との家は、腐った親戚が速攻で金に換えてくれやがったし、捜索願も出されてないし。

 なにより、両親の名前も顔も、覚えてないから」

「……契約前は、どんな生活だったのよ?」

「両親の預金……300万ぐらい?

 それが欲しいけどオレはいらないって親戚が管理するボロアパートの一室で寝泊り。

 外面だけは良かったらしく、のらりくらりと法の間を潜り抜けてたらしい。

 詳しくは知ったこっちゃ無いけど」

「……聞けば聞くほど、壮絶な人生ね」

「まあ、当時小1のオレが、学校行かずに駆けずり回って、預金を全額引き出して隠し持ってたとは思わなかったらしいが。

 学校の先生も、オレなんかより親戚の方を信用してたみたいだしな。

 だから、仮に学校に行けるとしても、行かないと思うぞ、オレ」

「……本当に、それでいいの?」

「むしろ、両立してる巴先輩のほうがパネェ」

「そんな事無いわよ?」(そういえば、まだ課題が終わってなかったわ……)

 

 

 

 

 今の相棒(パートナー)と二人、のんびり紅茶を飲んでいた。

  




次回予告

一人の少女が、魔法少女と関わった

それが、善意からの行動であると

その魔法少女は、思いもしない








善意から、行動を起こした魔法少女は

そのチカラで捕捉する

自分と似て、非なるモノ

契約者であって、真逆のモノ

世界の終焉 そこに存在するモノ














八十一章 殲滅屍


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八十一章 殲滅屍

「どうしたって、予期しない事は起こる」
「それが人生だと言われちゃうと、それまでだけど」
「それでもあたしはまだ」
「幸せな夢を諦めきれてない」


SIDE 佐倉杏子

 

 その日のあたしは、最高に最低だった。

 

 偶然出会ったのは、まだ年端もいかない少女。

 名前を、千歳ゆま。

 親と一緒に、魔女結界に迷い込み。あたしが魔女を倒した時には、ゆまだけが生き残っていた。

 

 どうしても、放って置く気にならなかったのは……きっと、ゆまと妹――――――――モモがダブって見えてしまったから。

 

 少しの間、あたしはゆまと一緒に行動した。

 

「織莉子の言ったとおりだ」

 

 そう言って、久しぶりに会ったキュゥべえは。

 ゆまにも、魔法少女の資格があると告げ。

 結果的に、ゆまも、契約をする事になる。

 

 

 

 

 あたしは、自分の願いが家族を壊した事から、自分の為だけにこの力を使うと決めた。

 そのあたしの為に、ゆまが奇跡を願うんだから。

 

 やっぱり、世界は優しくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 美国織莉子

 

 私は、未来を見る。

 最悪の災厄を、何度も見続ける。

 

「あれは……?」

 

 世界の終焉、その片隅で。

 魔女を見上げ、呆然と佇む魔法少女が独り。

 長く黒い髪の少女。

 左腕に、円形の盾を着けている少女。

 

「……関係者、かしら?」

 

 もしかしたら、彼女の相棒(パートナー)が“アレ”の正体かもしれない。

 でも、残念ながらそれ以上の情報は……。

 

「……男の子?」

 

 そこに、ゆっくりと近付いて来たのは、独りの少年。

 白髪に軍服、眼帯をした少年。

 

「あれが……魔人?」

 

 右肩にキュゥべえを乗せて。その少年は黒髪の少女に近付く。

 会話をしているようだけれど、残念ながら私の“予知”は、観る事しか出来ない。

 読唇術でも、勉強しておけば良かったわね。

 

 しばらく、終焉の地で会話を続ける二人。

 少女の方は、徐々に感情が高ぶっているのが見て取れる。

 対する少年は、口元を吊り上げながら、態度が変わっている様に見えない。

 

「仮に少女が“アレ”の関係者だとして……。

 少年の方は違う?」

 

 何よりも、あの少年は何故。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 背筋に、冷たいものが流れる感覚。

 まさか……。

 私が、あの少女を魔法少女になるように、誘導したように。

 

 少女と少年が動く。

 少女は盾に手を。少年は腰に手を。

 同時に銃を抜いて相手に向け、その引き金を――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ど、どうしたんだい、織莉子!?」

 

 慌てた声に、私は“今”に引き戻された。

 視線を向けると、キリカが心配そうに私を覗き込んでいる。

 どうやら、私の体を揺さぶり、私を引き戻したみたいね。

 

「……私が“魔法(チカラ)”を使っている時は、極力話しかけないようにと、言っておいたわよね?」

 

 私が“未来”を見ている間は“今”の事を、まったく認識できない。

 先程の様に“今の私”に直接影響を与えられると、私の意識は“今”に強制的に引き戻されてしまう。

 

「だ、だって織莉子、泣いてたから……」

 

 おろおろしながらのキリカの言葉に、私はようやく、頬を伝う雫を認識する。

 そう……泣いていたのね……私は…………。

 

「話しておく事があるわ、キリカ」

「うっ……」

 

 私の真剣な眼差しに、キリカがたじろぐ。

 どうやら、今の事を怒られるとでも勘違いしているのかもしれないわ。

 

「今の事を、怒っている訳ではないわ。

 それとは別の、大事な話よ」

 

 怒られる訳ではないと知り、キリカは胸を撫で下ろす。

 そんな彼女の仕草を、微笑ましく思いながら、私は言い聞かせるように告げる。

 

「いい?

 緑の服を着た、白髪の少年に会ったのなら、絶対に逃げなさい」

 

 突然の警告に、キリカは首を傾げる。

 

「きみの言葉なら、私は絶対に従うけど。

 邪魔なら全力で殺してみせるよ?」

「駄目よ。

 あの子だけは、絶対に敵に回してはいけないわ。

 あれは“世界の終末で嗤う殲滅屍(ウィキッドデリート)”なのだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 佐倉杏子

 

 織莉子。

 理由はわからない。

 でも、そいつがキュゥべえにゆまの事を教えて、ゆまが魔法少女になるように誘導したのは間違いない。

 必ず、このオトシマエは。

 

「おや?

 意外な人と再会したな」

 

 突然のその言葉に、あたしはそちらを向く。

 

「久しぶりだね」

 

 なんで、お前がここにいるんだ?

 

「佐倉先輩」

 

 群雲……琢磨ッ!




次回予告

白い魔法少女の思惑

赤い魔法少女の記憶

巻き込まれた少女の把握

現れた魔人の疑惑




白い生命体の策略




八十二章 チームってのはそう言うものだろう?


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八十二章 チームってのはそう言うものだろう?

「独りでいる事は、幸か不幸か?」
「誰かといる事は、幸か不幸か?」


SIDE 佐倉杏子

 

 公園の片隅で。

 ゆまの治療魔法で、一命を取り留めたあたしは。

 以前、一度だけ出逢った魔人(しょうねん)と、予想外の再会を果たしていた。

 

「なんで、こんな所にいるんだよ?」

 

 こいつは今、マミと一緒に見滝原にいる筈だ。

 見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)の噂は、あたしも耳にしている。

 

「ちょいと野暮用でね。

 巴先輩が起きる前に戻らないと、怒られるのよ」

 

 白い棒を咥えながら。飄々とした態度で。

 

「戻る途中で、結界っぽいような雰囲気を感じ取った気がしない事もなかったんで寄ってみたら、佐倉先輩が居たって訳です」

「……曖昧すぎるだろ、おい……」

 

 そうだ。こいつはそう言う奴だった。

 たった一度、共闘しただけの相手。

 なのに、色々と会話した相手。

 

「……知り合い?」

 

 あたしの服を掴み、ゆまが聞いてくる。

 

「婚約者です」

「呼吸するように嘘を付くんじゃねぇよ!?」

「キョーコ、結婚するの!?」

「ゆまも信じるなっ!」

 

 そうだよ。こいつはそう言う奴だったよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 想定外の再会。まあ、佐倉先輩から見滝原に来る事はないと()()()()()()から、当然と言えば当然。

 まあ、出逢っても出逢わなくても、オレには知ったこっちゃない訳ですがね。

 

「さて、オレは見滝原に戻るけど、先輩はどうする?」

 

 いつかのように、オレは質問する。

 まあ、答えは以前と変わらないだろう。

 GS(グリーフシード)を“取り分と言う側”の先輩が、見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)に合流するとは考えにくい。

 

 だが。

 

「……」

 

 顎に手を当てて、佐倉先輩は考え込んだ。

 想定していなかった反応に、一瞬面食らう。

 

「何を悩んでるんだい?」

 

 オレの言葉に、佐倉先輩はポケットからキャンディを取り出して、口に放り込む。

 くっついていた少女――――ゆまという名前らしい――――も、佐倉先輩から同じキャンディを貰っている。

 

「仮に、仮にだ。

 着いて行くと言ったら、お前はどうする?」

 

 ……本気で想定外なんですが。

 オレは、電子タバコから白い煙を吸い込み、ゆっくりと深呼吸するように吐き出す。

 そのまま<部位倉庫(Parts Pocket)>にタバコをしまうと、眼鏡を押し上げながら聞く。

 

「どういう心境の変化?

 見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)の噂は耳にしていると思うが」

「質問の答えになってないぞ」

「……ふむ」

 

 さて、困ったぞ。

 元々“見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)”は“利用されやすい性格の巴先輩の為”に、流布したようなもの。

 だが、少なくとも。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 オレは、そう考えている。

 そうなると……。

 

「それは、オレたちのチームに。

 “見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)”の一員になりたい、と解釈しても?」

 

 オレの質問に、佐倉先輩は無言を貫く。

 どうやら先に、オレの答えを聞かないと返答する気は無いらしい。

 

 変身せずに、ある程度使えるようになった<電気操作(Electrical Communication)>で、オレは思考をフル回転させる。

 

 オレと別れてから今日までに、佐倉先輩に“ナニカ”があった。そう考えるのが自然だ。

 では、何があった? 自分の考えを変えるナニカとは?

 理解不能。情報不足。当然だ。オレは別に佐倉先輩の事を調べていた訳じゃない。

 ならば何故? 以前の彼女と今の彼女で何が違う?

 違いはある。そうだ、違いなら既に目にしている。

 

 

 

 

 ゆまという名前らしい、少女。

 

 

 

 

 そもそも“何故、この二人は一緒にいる?”

 

 偶然、魔女に襲われた。それを偶然助けた。そう考えるのが自然?

 だがそれだけか? 佐倉先輩にくっついている以上、ゆまはある程度懐いている。そうなる程度には一緒にいる?

 新しい魔法少女? だが佐倉先輩が“取り分”を減らすか? それを理由に見滝原行きを拒んだはずだぞ?

 

「その質問に答える前に、一つ答えてくれ。

 そこの少女も“同業者”か?」

「……ああ」

 

 同業者。素質者。契約者。魔法少女。

 何故、一緒にいる? 佐倉先輩が一緒にいる理由?

 過程を仮定する事は可能。だがありえるのか? なぜありえないと言い切れない?

 

 未変身状態では限界がある。思考を放棄? 否、それは愚策。

 ならば……。

 

「最終的な結論は、巴先輩次第かねぇ?

 独断で決める訳にはいかない。

 チームってのはそう言うものだろう?」

 

 やることは、いつだって決まってる。

 オレは、オレの為に、オレを生きる。

 

「まあ、個人的な意見を言うなら」

 

 その為に。オレは言葉を紡ごう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「佐倉先輩“だけ”なら賛成だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE キュゥべえ

 

「ゆまとの契約には成功したけど……。

 本当に、なんで君がここにいるのかな?」

 

 公園にある木のひとつ。

 その枝の上で、僕は状況を見守っていた。

 

「でも、僕は君達に介入する気はない。

 なぜか、杏子はゆまを魔法少女にはしたくなかったみたいだし。

 いつものように、琢磨と会話できそうもない」

 

 しかし、織莉子の言った通り。

 ゆまも素質者だった。契約も完了した。

 でも。

 

「魔法少女は、多ければ良いと言うものじゃない。

 需要と供給は、バランス良くないと。

 そうなると、君にも警戒が必要になるんだよ?

 美国織莉子」

 

 GS(グリーフシード)に限りがある以上、魔法少女が魔法少女を増やすメリットはない。

 考えられるとしたら“GS(グリーフシード)を入手する為の生贄”といった所か。

 だがそうなると、織莉子は“契約直後に全てを()った”事になる。

 魔法特性は願いに左右され、その能力の高さは願いの強さで決定される。

 その事に対し、僕たちは“一切の介入が出来ない”のだ。

 

「だからこそ、僕らは言うのさ。

 “魔法少女は条理を覆す存在”だと」

 

 さて、眼下にいる“三体”は。

 どういう行動に出るのだろう?

 

「見届けさせてもらうよ。

 それもまた、僕の役割だからね」




次回予告

想いは、形となり

願いは、力となり

奇跡が、生となる

そんな存在であったとしても

やっぱり、その子は



人であり、子供である






八十三章 役立たず


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八十三章 役立たず

「世界は視点で変わる」
「オレはよく、こう言うんだが」
「それは当然、経験したから言える事」
「オレは以前は、自分が不幸だと思っていたが」
「今考えれば、そうではなかったと言える」
「だって、生きてたんだぜ?」
「生きてたからこそ、オレは契約できたんだから」
「な? 幸せだっただろ?」


SIDE 佐倉杏子

 

「どういうことだ……?」

 

 再会した公園の一角で、目の前の少年が言い放った言葉。

 

『佐倉先輩“だけ”なら賛成だ』

 

 それはつまり。

 

「ゆまは……この子は?」

「知ったこっちゃないな」

 

 次の瞬間、あたしは魔人に詰め寄り、その襟を掴み上げていた。

 背はあたしの方が高く、僅かに宙吊りの状態になる。だが。

 

「オレは、オレの為に生きる。

 見ず知らずの子なんて、知ったこっちゃない。

 最初に会った時に、そう言った筈だ」

 

 何故こいつは、普通に会話を続けてる!?

 

「過程を仮定して話すが。

 きっとそこの少女は、魔法少女になって日が浅い。

 そして、少なからずそこに佐倉先輩が関わってしまった。

 だからこそ、知名度も高くなった“かつての仲間”に頼るべきなのか?

 そこで迷ってるんじゃないか?」

 

 その言葉に、あたしは思わず手を離して後ずさった。

 何だこいつは? 何なんだこいつは!!

 あたしの心情など無視するかのように、魔人は言葉を続ける。

 

「佐倉先輩の実力は、ある程度の予想が出来る。

 一度だけだが共闘もしたし、独りで生き抜いてきた事実もある。

 まあ、巴先輩のノートに“佐倉杏子の項目”があったのには、正直驚いたけど」

 

 ! そうだ! こいつは今、マミの相棒をしている。

 なら、マミのノートを見ていてもおかしくない。

 

「実力的にも、経験的にも、佐倉先輩を迎える事に異論はない。

 関係的には……まあ、微妙なラインだとは考えてるけど」

 

 そうだ。マミの相棒なら。以前のあたし達の事を多少は知っていて、おかしい事などない。

 

「だが。

 そこの子は、また別問題だ。

 少なくとも、オレはそう考える。

 巴先輩は巴先輩だし、佐倉先輩は佐倉先輩。

 オレは、どう足掻いたってオレだし。

 ゆま……だっけ?

 ゆまはゆまでしかない」

 

 ゆっくりと眼鏡を外し、真剣な左目を向ける魔人の言葉に、あたしは耳を傾ける事しか出来ない。

 

「さて、ここでオレが“足手纏い”を仲間に引き入れるメリットは?

 皆無だろう?

 だからオレは「ゆまはあしでまといなんかじゃない!!」……はぁ……」

 

 言葉の途中、それまで黙っていたゆまが大声を上げ。

 自分の言葉を途中で遮られたあいつは、小さく溜め息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE out

 

 それまで、状況がよく解らなかったゆまも、群雲の言葉に我慢が出来なかった。

 それに対して、群雲は冷静な目で、ゆまを見つめる。

 

「さっき、キョーコを助けたもん!

 ゆまだって、戦える!!」

「当たり前だ、馬鹿野郎」

 

 感情の高ぶるままに叫ぶゆまに対し、群雲は淡々とした口調。

 

「契約したんだろ?

 魔法少女になったんだろ?

 なら、戦えて当たり前なんだよ。

 オレ達はそう言う風に“造り替えられた”んだからな。

 オレが言ってるのは、そこじゃない」

 

 いつしか会話は、群雲とゆまのものになり。杏子はその会話を聞いているだけになっている。

 

「独りなら、それでいいさ。

 勝手に戦って、勝手に死ねばいい。

 だが、独りじゃない場合。

 チームの場合はそう言うわけにはいかない。

 誰かが失敗したら、当人だけで済む問題じゃなくなる。

 だからこそ、共に戦うべき存在に対し、オレは絶対に、妥協しない。

 自分の命に直結する事だからだ」

 

(ふむ……)

 

 そして、離れた場所にいるキュゥべえもまた、3人の動向を見守っているのだが……。

 

「ゆまも、魔法少女だもん!

 キョーコみたいに!

 キョーコと一緒に!!

 これから魔女と戦うんだから!!!

 だって、ゆまは「夢を見たいなら寝ろ、クソガキ!!」!?」

 

(随分と、琢磨らしくないね)

 

 ゆまの言葉を、それ以上の大声で切り捨てた群雲に対しての、キュゥべえの印象。

 そんな存在がいる事に気付かず、契約者達の会話は続いていく。

 

「甘ったれた考えで、魔女に向かおうとするな!

 魔法少女は、完全無敵でもなんでもない!

 魔女は、決して優しい存在じゃない!

 魔女に殺された魔法少女なんて、いくらでもいるんだ!

 明日、佐倉先輩が死ぬかもしれない!

 明日、お前が魔女に殺されるかもしれない!

 そんな可能性が、当然の世界だ!

 魔法少女なんてファンシーな呼び名でも、襲い来る絶望は紛れもない現実だ!」

「だから、キョーコと一緒に戦うもん!

 ゆまだって、キョーコを守れるもん!!」

「……あぁ!?」

 

(さて、何が琢磨をここまで吠えさせるのか?

 これだから、感情は理解できないんだ。

 まったく、わけがわからないよ)

 

「出来もしねぇ事口走ってんじゃねぇぞ、役立たずが!」

「~~~~ッ!!

 おまえ、ダイッキライだぁぁぁぁ!!!」

 

 口論の果て。

 ゆまは、感情のままに変身する。

 子猫を連想させる衣装に、球形のハンマー。

 

「ゆまっ!!」

 

 流石に状況を認可できなくなった杏子が、声を荒げるが。感情が完全に先行しているゆまには届かない。

 

「だいじょうぶだよ、キョーコ!

 こんなやつ、ゆまがやっつけてやるんだから!!」

 

 それに対し、群雲も変身を完了させていた。

 緑の軍服に、両手足を染める黒。

 

「大人しく、キョーコお姉ちゃんに手伝ってもらえよ。

 お前一人も、役立たずを抱えた二人も、大して変わらん」

「うるさいっ!!」

 

 口の端を持ち上げる群雲に、睨み付けるゆま。

 

「夢見がちで、現実を見る事無く、魔女に向かう者の末路は解りきってる。

 Answer Deadだ」

 

 ゆまの怒気を正面から受け止めて、群雲はいつものように宣言する。

 

「では、闘劇をはじめよう」




次回予告

少女の想いと願いと奇跡

少年の想いと願いと奇跡

綺麗に言うなら、そのぶつかり合い






















有体に言えば

ただの子供の、下らない喧嘩

八十四章 一部召還


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八十四章 一部召還

「新しい魔法」
「もちろん、自分の為に時間を費やすオレが、会得していない筈が無い」
「……その魔法が、有用かどうかは別だけど」


SIDE out

 

「では、闘劇をはじめよう」

 

 そう言った次の瞬間には、群雲は既にゆまを蹴り飛ばしていた。

 

「!?」

 

 まったく予期していなかった衝撃に、ゆまはあっけなく吹き飛ばされる。

 幸運だったのは、群雲の前蹴りはゆまの持つハンマーに直撃した事だろう。

 それでも五メートル以上は吹き飛び、転がっていったゆまを見るに、威力は充分。

 そして、いつ近付いたのかさえ認識できなかったのは、ゆまだけではなかった。

 

「お前ッ!」

 

 変身した杏子に対し、群雲は冷静に言葉を紡ぐ。

 

「参加するならご自由に。

 だがこの戦いはきっと“ゆま一人でなければ意味を成さない”と思うぞ?」

 

 その言葉に、杏子は動きを停止させる。

 

「ゆまにとって、佐倉先輩は――――!?」

 

 さらに言葉を紡ごうとした群雲は、一切のダメージ無く突っ込んでくるゆまに、目を見開く。

 治療魔法。それはゆま本人にも適応できる上、四肢を切断された杏子をほぼ一瞬で治すほどの強力なもの。

 ゆま自身に当たったわけでもない前蹴りでは、大した意味はないのだ。

 

「たぁーーーー!!」

「やれやれ、佐倉先輩と話しをしてる途中だってのに」

 

 ハンマーを振り上げて飛び上がるゆまに対し、群雲は右手に電気(まりょく)を纏わせる。

 

「邪魔」

 

 ハンマーが振り下ろされる前に、群雲の拳がハンマーを捉えた。

 その衝撃に、ハンマーを持ち上げたまま、後ろに下がるゆまに、群雲は一気に距離を詰める。

 

「邪魔」

 

 次の左手による黒く帯電する拳(ブラストナックル)は、ハンマーを盾にしたゆまには届かない。

 だが、群雲は気にせず、再び右手の拳をハンマーに打ち込む。

 

「邪魔邪魔」

 

 右、左、右、左。

 ハンマーに打ち込まれる拳は、一発ずつその速度を上げていき。

 

「邪魔邪魔邪魔邪魔」

 

 ほどなくそれは、ラッシュとなってゆまに襲い掛かる。

 

 

 

 『黒く帯電する拳(ブラストナックル)』派生『黒腕の連撃(モードガトリング)

 

 

 

「邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔!!」

 

 その全てをハンマーで受け、吹き飛ばされないように力を込めるゆま。

 対する群雲は、気にも留めずに黒腕の連撃(モードガトリング)を続けている。

 

 黒く帯電する拳(ブラストナックル)はLv1<電気操作(Electrical Communication)>の応用。

 本来、神経を操作する為の体内電気を体外へ出す事で、使用するもの。

 そして黒腕の連撃(モードガトリング)は、両手に電気を纏わせた状態で、ひたすらに拳を打ち続ける、肉体操作プログラムであり、これもLv1<電気操作(Electrical Communication)>に分類される。

 

 つまり、応用が利かない。防がれていようと関係なく打ち続けるだけだ。

 

(やっぱり、武器破壊とかは無理か)

 

 武器を破壊されれば、戦意が削がれるかと期待していた群雲だが、そもそも武器を破壊出来そうになかった。

 元々、体を鍛えていた訳でもなく、魔女狩りにおいて色々な武器を使用する群雲だ。素手での戦闘自体に慣れている訳でもなければ、黒く帯電する拳(ブラストナックル)を極限まで仕上げているわけでもない。

 

「邪魔ァッ!!」

 

 とりあえず最後に一発、大きく振りかぶって拳を打ち付け、肉体操作プログラムを解除する。

 開幕の前蹴りの時と同じように、ゆまは数メートル飛ばされていく。

 だが、ダメージはほとんど無い。群雲の拳は最後までハンマーに直撃していたからだ。

 

(……やっぱり、動きは完全に素人のそれだな)

 

 吹き飛んでいったゆまの方を注視しながら、群雲は思考に入る。

 

(佐倉先輩だけならば、喜んで共闘したいんだが……足手纏いとセットだとすると、GS(グリーフシード)を“使い回す”だけの価値があるとも思えない)

 

 そんな群雲の視界に、立ち上がり、走ってくるゆまの姿が映る。

 

(打たれ強さは評価してもいいが……それだけじゃあな……)

「たぁーーー!!」

 

 ハンマーを振り上げるゆまに対し、群雲は体を捻らせて回避する。

 

 だが。

 

「ぐぉっ!?」

 

 想定外の衝撃に、今度は群雲が数メートル飛ばされる事になった。

 そのまま、あえて受身を取らずに転がっていく群雲。そんな状態を“遮断”して、思考を継続する。

 

(なぜ、吹き飛ばされた? オレは確実にハンマーの攻撃を避けていた筈。

 佐倉先輩の援護? いや、彼女は動いていない。多分、どうしていいかわからなくなってる。

 ゆまの攻撃? それが一番可能性が高い? だが、オレは攻撃を避けた)

 

 吹き飛び、転がり、停止する。それでも群雲は思考を止めない。

 

(魔法? ゆまが魔法を使った仕草は無かった筈。

 だが、ゆまの攻撃? それがオレを吹き飛ばした。

 視認できたか? 否、認識出来なかったからこそ、オレは吹き飛んだ。

 ……視認できたか? まさか、不可視攻撃?)

 

 その思考は、確実に正解へと近付いていく。

 その頃、起き上がろうとしない群雲を、倒したと勘違いしたゆまは、杏子に対して笑顔を向けていた。

 

「やったよ、キョーコ!」

 

 だが、それに対して杏子は難しい表情のまま。

 

(……今ので、倒せるような相手か?)

 

 初対面の時。一瞬で複数の使い魔を細切れにした魔人が、一撃で終わるとは、思えなかった。

 そして、それを肯定するように。

 

「ゆまっ!!」

 

 杏子の叫び。それを聞いて、ゆまは群雲の方へ振り返る。

 そんなゆまの額に、右手の平が押し付けられた。

 

「……え?」

 

 その手は、肘から先しか無かった。

 宙に浮いているのだ。浮いているように見えるのだ。

 ありえない光景に、ゆまの動きが静止する。

 

「まいったねぇ」

 

 そんな言葉と共に、いつの間にか起き上がっていた群雲が、ゆっくりとゆまに向かって歩いていく。

 その右腕は、肘から先が無かった。

 

「戦闘中、相手の生存を確認せずに視界を外す。

 そんなんだから、こうやって決定的な隙を作る。

 まあ、オレに<一部召還(Parts Gate)>を使わせただけ、誉めてやるさ。

 正直、戦闘で使うような魔法だとは、思ってなかったけどな」

 

 

 

 

 

<部位倉庫(Parts Pocket)>

 

 

 

 

 それは、様々な道具を異空間に収納する、群雲の魔法。

 <電気操作(Electrical Communication)>がLv1なら。

 <部位倉庫(Parts Pocket)>もLv1。

 

 <操作収束(Electrical Overclocking)>が<電気操作(Electrical Communication)>のLv2なら。

 

 

 

 <部位倉庫(Parts Pocket)>のLv2。

 

 

 

 

 それが<一部召還(Parts Gate)>。

 

「がっ!?」

 

 右手から起きた放電。それは接触していたゆまに襲い掛かり、その意識を刈り取る。

 

「まあ、この魔法の新しい使い方を思いつけたんで、良しとするか。

 正直、編み出しただけで使い道が……」

 

 変身が解けて、その場に倒れたゆまを見て、群雲は勝利宣言とも言える言葉を呟いた。

 

「なんだ……もう、聞こえてはいないか」




次回予告

なにが正しくて なにが間違っているか

それは、生きるだけならば、なんの意味も無い

そんな少年が、自分の為に生きると決めた

なにが、必要で なにが、必要じゃないのか

重要なのはそこ

八十五章 だから戦った


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八十五章 だから戦った

「そういえば、何でお前は武器を使わなかったんだ?」
「オレにとっては“戦う=相手を殺す”だからなぁ。
 ぶっちゃけ、手加減なんてした事ない。
 でも、流石に今回は殺すわけにはいかなかったんで、仕方なく素手」
「それで、あの戦闘能力かよ……」
黒く帯電する拳(ブラストナックル)はともかく、最後の電気ショックはぶっちゃけ技でもなんでもないぞ?
 ただ、<電気操作(Electrical Communication)>の電気を外に出しただけだし。
 魔女に通用したの、見たことねぇし」


SIDE 佐倉杏子

 

 あたしは、気を失ったゆまを背負い、目的地に向かって歩いていた。

 

 あたしの前を歩くのは、自分よりも小さい少年。

 

 ……あたしは、どうしたいのだろう……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE out

 

 時は、僅かに遡り

 

「ゆま!!」

 

 倒れたゆまに駆け寄る杏子。その傍らで<一部召還(Parts Gate)>を解除した群雲が、右手に電子タバコを取り出して、口に咥える。

 

「死んではいないさ。

 たかが電気ショック程度で死ぬなら、オレ達は魔女を狩れない」

 

 “魔法少女の真実”を知っている群雲だ。ソウルジェムが()()であるのなら、脳に電気ショックを与えた程度では死ねない事を知っている。

 

「邪魔な奴が寝てくれたんで、ようやく話が出来るな」

 

 言いながら煙を吐き出す群雲を、杏子が睨み付ける。

 

「ここまでしといて、今更何の話があるんだよ?」

 

 その敵意を正面から受け止めながら、それでも群雲は変わらない態度で告げる。

 

「先輩達が見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)に加入するって話だろ?」

 

 群雲にとっては、まだ会話の途中に過ぎないのだ。

 途中で邪魔者(ゆま)が割り込んできたので、黙らせた。それだけの事。

 

「まあ、共闘するかもしれない相手の実力が知りたいってのもあった。

 だから、戦ったのさ。

 そうじゃなきゃ、オレがゆまと戦う理由が無い。

 あの状況で、それ以外にオレに戦う理由があったと思うか?」

 

 自分の為に生きる。その目的に忠実な群雲が、成り立てと思われる少女と、わざわざ戦った理由。

 

「まあ、それ以外にもあるんだけど」

「あるのかよ!?」

 

 平常運転の群雲に、杏子が思わずツッコんだ。

 

「まあ、オレは見滝原に戻らないといけないんで。

 佐倉先輩に来る気があるのなら、歩きながら話そうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 佐倉杏子

 

 そんなやり取りの後、あたしはゆまを背負って群雲と歩いていた。

 しばらくは、無言で前を歩いていた群雲だったが。

 

「佐倉先輩は、最初に会った時にした会話を憶えてる?」

 

 その質問から、話が始まった。

 

「あぁ。

 憶えてるよ」

 

 忘れていない。最初の群雲との出会い。あの光景。

 

「自分の願いで家族を壊した先輩と、自分の為に願って、引き返す道を消したオレ。

 まあ、そこはさして重要じゃない」

 

 じゃあ、言うなよ。

 

「重要なのは“家族を失った結果、自分の為に力を使うと決めた先輩が、なぜ今になって巴マミ(かつての相棒)と合流しようかと考えたか”にある」

 

 ! こいつは……!?

 

「そこで、群雲琢磨は過程を仮定する。

 と言っても、情報はおそろしく少ない。

 先輩と一緒にいる少女(ゆま)だ。

 家族の為に願いを叶え、結果として家族を失った先輩が、ゆまと一緒にいた理由。

 普通に考えれば、ただ巻き込まれただけだろう。

 だが、オレ達と“同じ”であるならば、事情は違ったものになる」

 

 こいつは、あの短時間の会話でここまで……!?

 

「最初に会った時と同じ印象であったなら、佐倉先輩にとって他の魔法少女は“GS(グリーフシード)を奪い合う敵”でしかない。

 だが、もしも“ゆまが先輩の為に願って、魔法少女になってしまったんだとしたら”どうか?

 納得いく説明が出来るようになる。

 ……聞く?」

 

 右目に眼帯をしている関係か、左側から振り返る群雲。それでも歩みを止めてはいない。

 

「……聞こうか」

「ん」

 

 あたしの答えに、群雲は再び前を向いて話し出す。

 

「家族の為に願い、家族を壊した。

 なら、自分の為に魔法少女になったゆまを、佐倉先輩は見捨てたりはしない。

 誰かの為に願った結果の絶望を知っているから。

 逆を言うなら“佐倉先輩が裏切らない限り、ゆまが絶望することは無い”と、言い換えてもいい。

 そこで、佐倉杏子は考えた。

 少なくとも、ゆまが一人前になるまでは、自分がゆまを育てよう。

 でも、今まで一人で頑張ってきたから、やり方なんてわからない。

 そこに、かつての相棒(巴先輩)と一緒にいるらしい群雲琢磨(オレ)が現れる。

 佐倉杏子は考えた。

 巴先輩なら、ゆまを任せても安心だと。

 もしかしたら、以前のように自分も巴先輩と一緒に戦えるかもしれないと」

「ちょ、ちょっと待てよ!?」

 

 さすがに、あたしは声を荒げた。それを気にせずに群雲は話を続けやがる。

 

「巴先輩と一緒に戦った経験がある。

 巴先輩のノートに“佐倉杏子の項目”がある。

 それはつまり“佐倉先輩もかつては、巴先輩と同様の目的で戦っていた”事になる。

 魔女の脅威から、一般人を護る為の戦いに、ね」

 

 そして、その言葉であたしを黙らせる。こいつの頭の中はどうなってやがるんだ!?

 

「家族の崩壊が切っ掛けだったんじゃないか?

 と、群雲琢磨は仮定を過程する。

 逆だ、過程を仮定する」

「そして、文字じゃなきゃわかりにくいわ!」

 

 もうやだ、こいつ……。

 

「まあ、未だに“巴先輩が、佐倉先輩の項目を大事にしてる”から、仲は良かったんだと簡単に解るさ。

 ……赤い幽霊(ロッソ・ファンタズマ)(笑)」

「はったおすぞ、てめぇ!」

 

 お前だって人の事言えねぇだろうが!

 

「まあ、そんな佐倉先輩のページに、ポツポツと濡れた痕があれば……ねぇ?」

「っ!?」

「<電気操作(Electrical Communication)>で、頭をフル回転させながら、群雲琢磨は考える。

 佐倉先輩との共闘に関しては、反対する理由は無い。

 だが、ゆまに関してはどうか?

 はっきりいって、判断できる材料は一つもない。

 故に、賛成する理由が無い。

 だから、言ったのさ」

 

 あたしだけなら賛成。あれはそういう意味だったのか。

 改めて、目の前の少年を見る。

 魔法による補助があるとはいえ。そこまで考えていたのかと。

 

「そしたら、ゆまが割り込んできたんで黙らせた。

 邪魔だったからね。

 まあ、実力を知る良い切っ掛けだったってのもある」

「他にも理由があるのか?」

「そうだなぁ。

 比率で言うのなら。

 ゆまの実力を知りたかったのが1割。

 会話を続ける為に、黙らせたのが1割。

 妬み8割」

「いや、おかしいだろそれ」

 

 妬み8割って……。

 

「羨ましいと言い換えても良い。

 無知ゆえの純粋さというか、勇気と履き違えた無謀というか」

「誉めてないだろ、それ」

「うん」

「真面目に話せ」

「ちょっ、解ったから槍で尻をつつくな!

 変身してないのに、魔法で出来た武器を取り出せるとか、妬ましいわっ!」

 

 話が進まない……。

 しぶしぶながら槍を消して、ゆまを背負い直す。

 

「契約前も契約後も、オレは独りだったからね。

 誰かの為に願えた事、誰かと一緒に居られた事。

 それが、羨ましくて妬ましい。

 そして同時に、一緒にいる人を巻き込んで破滅しかねない事に、自覚が無い。

 それがちと、ムカついた」

「それを、ゆまに求めるのは酷じゃねぇか?」

「オレと無関係なら、それこそ知ったこっちゃなかったがね。

 共闘する可能性が出てきてる以上、そこを妥協する気は無い。

 巻き込まれて死ぬとか、一番笑えねぇよ」

 

 自分大前提。それがこいつの考え方なのは、最初に会った時に解ってた。

 でも、ここまで徹底しているとは思ってなかったのも事実。

 あたしは、群雲琢磨を計り損ねてたってことか。

 

「まあ、最終的な決定権は巴先輩にあるから、オレの話はここまでにしとこう」

 

 言いながら、群雲はゆっくりと振り返る。それにあわせて、あたしも歩を止める。

 

「どうするかは、先輩達で決めてくれ。

 オレはその上で判断するさ。

 どうするのが“自分の為になるか”をね」




次回予告

合流するか否か

或いはここが、人生の分岐点



そんな、重要な事柄すらも

知ったこっちゃない少年の――――――

八十六章 野暮用


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八十六章 野暮用

「なんで<一部召還(Parts Gate)>を、魔女戦で使わないんだ?」
「むしろ、どうやって使うんだよ?」
「銃を持ったまま移動させて、引き金を引くとか」
「……なんと」
「お前、意外と馬鹿なのか?」
「失敬な!
 巴先輩と二人で悩んでたけど、武器を持ったままって発想は無かった!」
「マミェ……」
「まあ、いつもはオレが前線だからなぁ。
 なら、魔女や使い魔が目の前にいる状況で<一部召還(Parts Gate)>をどう使うよ?」
「殴った方が早くないか?」
「だからこそ、使い方が思いつかなかったと、タクマは言い訳をしてみたり」


SIDE out

 

「……どういう状況なの?」

 

 その日、目を覚ました巴マミがリビングに行って見たものは。

 いつものように、自分より早く目を覚まして、テレビを見ている群雲と。

 眠る、二人の少女。

 一人は知らない少女。もう一人は佐倉杏子。

 頑なに、リビングで眠ろうとする群雲に対し、マミが用意した布団は、今は二人が使っていた。

 

[おはよう、巴先輩]

 

 眠る二人を起こさないように、群雲は背を向けたまま、念話で挨拶する。

 

[琢磨君、この二人は[おはよう、巴先輩]いや、状況の[おはよう、巴先輩]……おはよう]

[説明するには、ちと時間が足りない。

 巴先輩は今日も学校だろう?]

[そうだけど、流石にこの意味不明な状況で、学校に行く訳には[え? サボるの?]……いじわるね]

 

 それでも、マミは群雲を信用するまでになる程度には、一緒にいる。

 自分の為になる事に、全力を尽くす少年。

 その少年が、自分と別れる事が“自分の為にならない”と知っているからこそ。

 その為に“見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)”と“呼ばせるように先導”したからこそ。

 

[帰ってきたら、誰もいないなんて事は?]

[それは無い。

 佐倉先輩は、巴先輩に用があるからこそ、ここにいるわけだし。

 オレ目的なら、ここにいる必要はないでしょ?]

[確かにそうかもしれないわね。

 でも、琢磨君は嘘吐きだし……]

[いやぁ]

[誉めてないわよ]

[oh……]

 

 いつものような会話をして、二人は玄関へと向かう。

 

[朝御飯を用意出来なかったのは、勘弁してくれ]

[解ってるわ。

 流石にこの状況じゃね……]

 

 本来なら、朝食を用意するのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()群雲の役目。

 決めたわけではないが、そういう流れになっている。

 しかし、リビングで眠る二人がいる以上、キッチンでガチャガチャする訳にもいかないのだ。

 

[別に、学校の友達と一緒に、遊びに行ってもいいよ?]

[そういう訳にはいかないでしょ?

 私は、魔法少女なんだから]

[別に、魔法少女だからって、学校生活を満喫しちゃいけないって訳でもないだろうに]

[また、その話?

 自分の決めた“生き方”を変える気は無いって言ってるじゃない]

[むしろ、それに“縛られてる”ように見えるから、言ってるんだけどね。

 まあ、学校生活と自分で縁を切ったオレからすれば、妬ましいような気がするってだけだが]

[大丈夫、無理をしている訳じゃないから。

 私はもう、一人じゃないもの]

[そう言われちゃうと、何も言えないな。

 ……この話題って、176回目ぐらいか?]

[そんなわけ無いでしょ。

 13回目よ]

[マジカ]

 

 そして、マミは扉を開けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いってきます」

「いってらっしゃい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

「この挨拶に、どれだけオレが救われてるか、巴先輩は知らないんだろうなぁ」

 

 そんな事を呟きながら、オレはリビングに戻り、テレビを見る。

 どうやら“魔女の仕業っぽい事件”は、確認できないようだ。

 

 さて。

 

「起きてるだろ、佐倉先輩?」

 

 テレビを消して、オレはベランダへ移動しながら、声をかける。

 電子タバコを咥えて、うまく機能したのを確認した頃、佐倉先輩がゆっくりと起き上がった。

 

「……気付いてたか」

「ごめん、嘘付いた。

 ただのカマかけ」

「おまっ!?」

「静かにしないと、ゆまが起きるよ?」

「ぐぬぬ……」

 

 煙を吐き出しながら、オレは唸る佐倉先輩を見る。

 

 彼女が共闘するかどうか。オレがそれを決める気は無い。

 巴先輩と佐倉先輩の話しだいだ。

 かつて、一緒に戦い、袂を別った二人。ゆまという要素が絡む事でどう動くか。

 まあ、自分の為になるかどうか。オレにとって重要なのはそこなんだけど。

 

 でも、楽しそうじゃないか?

 

 なんて、ね。

 オレは、電子タバコを戻し、リビングに戻ると。

 

「さて、始めるか」

 

 右手の平の<部位倉庫(Parts Pocket)>から、目的の物を取り出した。

 

「!?」

 

 佐倉先輩の驚く顔を、視界の隅に収めながら。

 オレは“大量の重火器”を眺める。

 

[どれが、使いやすいと思う?]

[知るか!

 てか、何なんだよ、この兵器の山はっ!?]

 

 ちゃんと、ゆまを起こさないように念話を使う佐倉先輩は、絶対に優しいと思う。

 それはそれとして。

 

[オレが使う銃器は、魔法で造った物じゃないからね。

 調達してこないと駄目なのさ]

[まさか、昨日言ってた野暮用ってのは……]

[まあ、金と権力と保身にしか興味ない奴等は、世間に公表したりはしないからな。

 ぶっちゃけ、オレとしては非常に“やりやすい”わけですよ。

 仮に公表したとしても、魔法に係わりのない人に、真実が解るはずもない]

[よく、マミが許したな]

[いや、言ってないよ?

 だからこそ、夜中にここを抜け出して、巴先輩が起きる前に帰らなきゃならなかったんだし]

[……そういう事かよ]

[いやぁ]

[呆れてんだよ]

[だれか、誉めてくれないかなぁ。

 オレ、誉められると伸びるタイプなんだけどな。

 鼻が]

[最悪じゃねぇか]

 

 最後に、どっかの本屋から調達した兵器図鑑を取り出して、オレは選別を開始する。

 リボルバーと両脇のハンドガン、ショットガンの弾は確実に確保。

 それ以外の銃弾は電磁砲(Railgun)用にして……。

 後は、ロードローラーが無くなった代わりに、左腰に入れるべき物の選別。

 

[何が良いだろう?]

[知るかよ]

[……いっそ、読者にアンケートしてみる?]

[メタすぎんだろ!?]

 

 まあ、巴先輩が帰ってくるまでは、状況は変わらない。

 佐倉先輩は、その為にここにいるわけだし。オレが判断する事でもないし。

 

[まあ、左腰じゃなくてもいいんだけどね、オレの魔法]

[じゃあ、何で言った!?]

[何個でも入る右手の平じゃなく、一個しか入らない他の場所だからこそ、特別な感じがしない?]

[……お前の台詞を借りるぞ。

 知ったこっちゃないわ]

 

 まあ、入れたとしても、使いこなせるかどうかは、別問題だしね。

 

 そんな感じで、オレは巴先輩が帰ってくるまでの時間を潰していた。




次回予告

少女たちの会話

されど、最初に見せる舞台は












傍観の立場

八十七章 相互関係


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八十七章 相互関係

「空を飛びたい」
「唐突に何言ってんだ、琢磨は……」
「あら?
 琢磨君って、空飛べるわよね?」
「はぁ!?」
「<操作収束(Electrical Overclocking)>を応用すればね。
 <電気操作(Electrical Communication)>では無理だから、普段は使えない。
 変身せずに、空を飛びたいんだよ、オレは」
「なんでだよ?
 てか、変身すれば空を飛べるって時点で、相当じゃねぇか」
「変身せずに飛びたいんだよ!
 そうすれば、遠出する際の電車賃が節約できる」
「せこっ!?」


SIDE out

 

「琢磨君の判断は?」

「巴先輩におまかせ。

 ゆまも未知数だし、そんなやつに時間を費やす気は、オレには無い。

 先輩たちの軋轢は、オレが介入するべきでもない。

 見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)からは抜ける気はないんで、オレの事は度外視で考えてくれていいよ」

 

 学校が終わり次第、真っ直ぐに帰って来たマミ。

 重火器を右手の平に戻していた群雲は、杏子達との再会内容に、嘘と虚偽と事実を織り交ぜて話した後、ベランダに移動した。

 リビングには、マミと杏子が向かい合って座り、ゆまは杏子の横にいる。

 ちなみに、目を覚ましてから今まで、ゆまは群雲と一切会話をしていない。

 まあ、自分を完膚なきまでに叩きのめした相手なので、当然とも言えるが。

 

「それで、佐倉さんはどうしたいの?

 見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)に入る?

 それとも、その子を置いて去るのかしら?」

 

 マミの言葉に、若干の棘が入るのは、仕方の無い事だろう。

 

「悪いけれど、以前のままの貴女なら、お断りさせてもらうわ。

 私は今でも、使い魔を倒す事に後悔は無いし、琢磨君にも協力してもらってるもの」

 

 それでも、今のマミには“一人じゃない”という事実がある。

 それが、彼女の心に余裕を与えているのだ。

 

「……今更、あたしがあんたに謝るのは、筋違いかもしれない」

 

 それに対し、杏子はマミに対する負い目もあるし、ゆまという“見捨てる訳にはいかなくなった存在”がある。

 マミに対し、強気に出れるはずもない。

 

「自業自得だってのも理解してるし、言い訳だってする気もない。

 だから、あたしがするのは、ただの“お願い”だ」

「……お願いを聞く気があると思う?」

 

 杏子の言葉を、マミは切って捨てる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE インキュベーター

 

[意外だね。

 マミなら喜ぶと思うけど]

 

 ベランダに出て、電子タバコを咥えていた琢磨の肩に乗り、水を差さないように念話で話しかける。

 無論、琢磨に対してのみ、だ。

 

[二人の軋轢って知ってるか?]

[もちろん知ってるよ。

 家族が全員死んだ事で、杏子は自分の願いを否定してしまった。

 そのせいで杏子は、本来の魔法を使えなくなってしまったのさ。

 だから、杏子は“自分からマミの元を去った”んだ。

 足を引っ張らないようにね]

[考えが変わったのも、理由の一つじゃないのか?]

[それは副次的要素じゃないかと、僕は見ているよ?

 琢磨もだろう?]

[まあ、過程を仮定すればな。

 いくら家族が自分のせいで死んだとはいえ、それと巴先輩には直接の関係は無い。

 むしろ、魔法少女同士である以上、巴先輩以外に頼れる人はいないはずだ。

 もしいるのなら、その人の所に行くだろう]

[でも、杏子は独りで戦い続けた。

 むしろ、よく戦い続けている方だと思うよ。

 僕は、家族が死んだ時点で、エネルギーが回収出来ると思ったんだけどね]

[絶望に負けない“ナニカ”が、佐倉先輩にあった。

 それがなにかは解らないが、家族を失うという“上位に位置する絶望”に耐えられるだけの精神力を、佐倉先輩は持ってるって訳だ]

[だからこそ、琢磨にとっては共闘するだけの“価値”があるのかい?]

[それだけじゃないけどな。

 オレにとって問題なのは、むしろ“ゆまの存在”だ。

 死ぬにしろ、魔女になるにしろ。

 “ゆまの終わり”は、間違いなく佐倉先輩に影響する]

 

 自分の為に生きると決めた琢磨は、他人を客観的に見る事が出来る。

 むしろ“客観的にしか見られない”と言っていい。

 だからこそ、僕とも対等に会話が出来るんだ。

 魔法少女システムを理解した上で。

 

[なら、ゆまを絶望させれば、僕らはエネルギーの回収が可能かい?]

[佐倉先輩共々か?

 不可能じゃないだろうが、あまりお勧めはしないぞ]

[理由を聞いてもいいかい?]

[佐倉先輩の為に奇跡を使ったゆまが、確実に絶望するには?]

[質問に質問で返してきたね。

 その状況なら、杏子の身に取り返しのつかない何かが起きればいい]

[だろうねぇ。

 さて、どういう状況か理解したか?]

[なるほど。

 二人は“相互関係”にあると言えるね。

 ゆまを確実に絶望させるには杏子を。

 杏子を確実に絶望させるにはゆまを。

 中々、難しい状況だ]

[だからこそ、オレもまいってるんだよ。

 佐倉先輩だけなら、むしろこちらからお願いしたいんだが。

 ぶっちゃけ、ゆまはいらねぇんだよ。

 実際に“殺すだけなら、昨日出来た”しな]

 

 昨日の夜、琢磨が感情的になったのは、この事が要因みたいだね。

 琢磨にとって、マミとの共闘は自分の為になる事だ。だからこその見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)

 琢磨にとって、杏子との共闘は自分の為になると判断している。だからこそマミと引き合わせた。

 

 ところが。

 

 琢磨にとって、ゆまは邪魔者でしかない。共闘する価値がない以上、ゆまの存在は自分の為にならない。

 

 

 

 杏子とゆまが、相互関係である以上、切り離して考えることは出来ない。

 ゆまを捨てるなら杏子を諦め、杏子を選ぶならゆまも受け入れる。

 琢磨にとって杏子(+)ゆま(-)セット(=)になってる訳だ。

 

[どちらが自分の為になるか、判断しきれてないのかい?]

[そこは明白。

 今まで巴先輩と一緒に活動していたんだから、それを続ければいい]

[余計な要素はいらないと]

[そゆこと。

 問題なのは、この邂逅を“佐倉先輩が望んだ”って事さ。

 オレがゆまを切り捨てても、巴先輩がゆまを受け入れたらどうなる?]

[マミと杏子とゆまが協力体制になるね。

 そして、ゆまを切り捨てた琢磨が孤立する]

[その時点で、自分の為にならないのは明白。

 なら、オレが受け入れても、巴先輩が拒否したらどうなる?]

[琢磨と杏子とゆまが協力体制になる。

 この場合なら、マミが孤立するね。

 それならいいんじゃないのかい?]

[忘れたか?

 見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)は、巴先輩が上でオレが下だぞ]

[なるほど。

 琢磨にとっては“マミとの共闘”が前提にあるのか]

[そりゃそうだろ。

 巴先輩との共闘が、自分の為になるからこそ、わざわざ“見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)”を、お前に頼んで有名にしてもらったんだし]

 

 これが、群雲琢磨という少年だと、僕は理解している。

 自分中心に考え、自分中心に動き、自分中心に生きる。

 自分中心過ぎるが故に、絶望を感じる機会も少なく、時には絶望すらも自分の為の糧にしてしまう。

 

 だからこそ、自分以外の人間との接触から、絶望してくれると僕としてはありがたいのだけど。

 

[さて、どうなることやら]

 

 そう言って、煙を吐き出す琢磨を見ながら、僕は部屋の中へ視線を移した。




次回予告

想いは、千差万別

言葉は、変幻自在









それが、複雑に絡み合い

でも、導かれる結論は









たったひとつだけ













八十八章 反対よ


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八十八章 反対よ

「なぜ、杏子はゆまを魔法少女にしたくなかったのだろう?」
「それをオレに聞くか、ナマモノ」
「琢磨は、予想できるかい?」
「そりゃ、商売敵は増やしたくないだろ。
 誰だってそう思う、オレだってそう思う」
「そんなものか」
「そんなものさ」


SIDE 巴マミ

 

 学校が終わった私は、真っ直ぐに自分の家へと帰る。

 正直、今日の授業内容なんて、覚えていなかったけれど。

 それも、仕方の無い事だと思う。

 朝起きたら、佐倉さんと見知らぬ少女が寝ていたんだから。

 

「おかえり」

 

 玄関を開けた私を、琢磨君がいつものように迎えてくれる。

 

「ただいま。

 佐倉さんは?」

「起きてるよ。

 ゆま……もう一人の少女も起きてる」

 

 そう言って、琢磨君は奥へと向かう。

 私も、逸る気持ちを表に出さないように気をつけながら、その後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 佐倉杏子

 

 マミが帰ってきて、あたし達はリビングのテーブルに集まる。

 三角形のガラステーブル。一辺にマミ。一辺に琢磨。一辺にはあたしとゆま。

 琢磨が用意した紅茶を飲みながら、あたし達は会話を始める。

 

「まずは、オレからの説明だな。

 正直、オレの紅茶じゃ、巴先輩の足元にも及ばない」

「何の話だよ!?」

「最初に比べれば、随分上達したと思うわよ」

「確かに、初めて作った紅茶は、緑色してたしな」

「ほんとに紅茶なのかよ、それ!?」

「本当に、なんであんな色になったのかしらね?」

「材料は一緒なのにねぇ」

「それで琢磨君。

 本題に入ってもらってもいいかしら?」

「はいよ」

 

 手馴れてやがるな、マミの奴も。

 紅茶を飲んで、喉を潤し、眼鏡を外した琢磨が話を始める。

 

「昨日の夜。

 巴先輩が寝た後に、オレは『電子タバコを買いに』見滝原の外に出た」

「うん、ちょっと待ってね」

 

 そして、一言目でマミからストップがかかる。

 

「色々、ツッコミ所満載なんだけれど」

「解ってるよ。

 ちゃんと説明するさ」

 

 それに対し、琢磨も予想の上だったのだろう。

 順番に話し始めた。

 

「『電子タバコを近所で買ったら、目をつけられるのは当然だ』

 『そうなれば、パトロールに支障が出る危険性がある』

 『それでなくても、本来なら学校に行っている筈のオレが、平日の日中には動きにくいんだ』

 でも、電子タバコは修行道具だし、無くなったらオレが困る。

 『だから、別の街で調達する必要があるのさ』

 巴先輩が寝た後なのは、日中はいつも二人でパトロールしている事がひとつ。

 巴先輩を連れて、電子タバコを購入する訳にいかないのが一つ。

 別の街に行く必要がある以上、学校生活を送る巴先輩に夜更かししてもらえないのがひとつ。

 まあ、こんなところかな」

 

 そこまで言って、紅茶を一口飲み、琢磨は話を続けた。

 

「そして『電子タバコを買って』見滝原に戻る途中に、偶然佐倉先輩達と鉢合わせした。

 で、色々話した結果、巴先輩と会おうって事になって、連れてきた。

 まあ、以前相棒だったらしいし、断る理由はなかったかな」

「……佐倉さんから聞いたの?」

 

 マミの質問に対し、琢磨は首を振る。

 

「見滝原に来る前に、一度だけ佐倉先輩と会って、共闘したことがある。

 巴先輩のノートを見て、そこに書かれている魔法少女が佐倉先輩だと気づいたのは『昨日』さ。

 まさか同一人物だとは、この魔人のタクマの目を略」

「ただの節穴じゃねぇか」

「いや、むしろ後からでも気付けたオレがすげぇ」

「自画自賛かよ」

「佐倉さん、いちいち琢磨君に付き合ってると時間がどれだけあっても足りなくなるわ」

「巴先輩が冷たい……紅茶は温かいけど」

「お前が用意したんだろうが」

 

 こいつ、やっぱめんどくせえ。

 マミは、やっぱり手馴れた感じだ。付き合いの長さを嫌でも実感させられる。

 

「さて、話を戻すか。

 オレとしては、知ったこっちゃない事ではあったが。

 巴先輩の元相棒。

 以前、一度だけ共闘した相手。

 見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)として考えれば、協力してもらう事に異議はない。

 もちろん“実力的には”という言葉が前に入るけど」

 

 そう言って、琢磨は視線をゆまに移す。

 ゆまはゆまで、起きてからずっと琢磨を睨んだままだ。

 その視線を確認して、琢磨は肩を竦める。

 

「まあ、余計なおまけもあるが」

「むー」

「いちいち、吹っ掛けるんじゃねぇよ」

 

 唸るゆまの頭を撫でつつ、あたしは釘を刺す。

 それを完全に無視して、琢磨は話を続ける。

 

「見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)として、一緒に活動してきた巴先輩。

 一度だけ共闘し、色々話をした佐倉先輩。

 そして二人は以前、共に戦っていたという事実と、今は別行動であると言う現実。

 まあ、過程を仮定すれば、ある程度の予想は出来る。

 詳しく聞きだす気は無いし、話したいなら話してくれても構わない。

 だが、今、重要なのはそこじゃない」

 

 過去の話は、後でも出来る。今、すべき話が何なのかを、琢磨はその言葉であたし達に認識させる。

 こいつ、本当に年下かよ?

 そんなあたしの考えなど知る由もなく、琢磨は話を締めくくる。

 

「話し合いは、巴先輩と佐倉先輩でよろしく。

 まあ、どんな内容になるのかは、これまでの会話で予想出来てくれてると思うけど」

 

 紅茶を飲む琢磨に、考え込むマミ。

 マミの言葉を待つあたしに、琢磨を睨むゆま。

 あまり、いい雰囲気とは言えない時間は、ほんの僅かで。

 

「琢磨君の判断は?」

「巴先輩におまかせ。

 ゆまも未知数だし、そんなやつに時間を費やす気は、オレには無い。

 先輩たちの軋轢は、オレが介入するべきでもない。

 見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)からは抜ける気はないんで、オレの事は度外視で考えてくれていいよ」

 

 そして、琢磨は紅茶を飲み干し、電子タバコを持ってベランダに出た。僅かに吹き込む風が、あたし達全員を撫でていく。

 

 残されたのは、あたしとマミとゆま。

 話をするべきは、あたしとマミ。

 

 別れたのはあたしから。

 離れたのはあたしから。

 

 そのあたしが、どの面下げて、マミに会えるというのか。

 

 それでも。

 

 ゆまが魔法少女になって。見捨てる訳にはいかない、一人前にしなきゃいけない。そう考えた時。

 真っ先に、脳裏に浮かんだのは師匠(マミ)だった。

 マミなら、どうするだろう?

 そんな事が脳裏に過ぎった矢先、現れたのは今の師匠の相棒(琢磨)だった。

 そして、琢磨に「これからどうする?」と聞かれて、あたしは悩んだ。

 ゆまが魔法少女になるように先導したらしい、白い魔法少女織莉子。

 そいつの目的は解らないが、オトシマエだけはきっちりつける。

 でも、それよりも。

 ゆまを放置する訳には行かない。

 出来れば、ゆまには戦ってほしくはない。この世界の冷たさは、独りで戦ってきたあたしにはよくわかってる。

 でも、魔法少女になってしまった以上、せめて自分の身は守れる様になってほしい。

 だが、独りで生きてきたあたしが、うまくゆまを育てられるとは思えない。

 

 でも“マミ先輩”なら。

 

 琢磨と会った事で、あたしの頭にはそんな考えが浮かんだ。

 だから、こうしてマミと会おうと決心した。

 

「それで、佐倉さんはどうしたいの?

 見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)に入る?

 それとも、その子を置いて去るのかしら?」

 

 あたしが言葉を発する前に、マミからの言葉が続く。

 

「悪いけれど、以前のままの貴女なら、お断りさせてもらうわ。

 私は今でも、使い魔を倒す事に後悔は無いし、琢磨君にも協力してもらってるもの」

 

 あいつが使い魔を倒す事に、違和感を持つ。だが、それが事実だという事は、マミを見ればわかる。

 

「……今更、あたしがあんたに謝るのは、筋違いかもしれない」

 

 裏切ったのはあたしだ。傷つけたのはあたしが先だ。

 解ってる、最初から解ってた。

 家族を失い、自棄になってたあたしに、それでも繋ぎとめようと手を伸ばしたのはマミだ。

 

 それを、振り払ったのは、あたしなんだ。

 

「自業自得だってのも理解してるし、言い訳だってする気もない。

 だから、あたしがするのは、ただの“お願い”だ」

「……お願いを聞く気があると思う?」

 

 だから、こうやって、振り払われても当然だ。

 

「私は、琢磨君と一緒にいると決めた際、色々な条件を提示したわ。

 あの子は、私とは真逆。

 それを、嫌でも理解してしまったから」

 

 だから、否定されて当たり前なんだ。

 

「きっと、琢磨君とは真逆の事を、私は言うわね」

 

 そして、マミさんはゆまに視線を移して、言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その子“だけ”なら、反対よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

人との関わりは、優しいだけじゃない

人との係わりは、楽しいだけじゃない

それを知りつつ、求めてしまう




だからこそ、人は

他の動物が持ち得ない物で、それを確立させようとする

その手段 そのひとつ








八十九章 O☆H☆A☆N☆A☆S☆H☆I


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八十九章 O☆H☆A☆N☆A☆S☆H☆I

「いつも思うんだが」
「なんだい?」
「お前、この世界に何体いるんだ?」
「この個体はあくまでも、交渉用端末機だからね。
 母星では、今も製造されているよ。
 地球に、と言う意味なら一つの街に一つ以上は存在すると思ってもらって構わない」
「てことは、端末機的に言えば、オレと契約したのは“お前”ではないのか」
「僕らには“個”という概念がないからね」
「なるほど。
 インキュベーターは、一つ見つけたら三十はいると思えばいいんだな」
「それは、色々と違うんじゃないかな」


SIDE 巴マミ

 

「ふぅ……」

 

 長い髪をタオルで巻き上げて固定し、私は湯船に浸かる。

 ふと、視線を向けると、佐倉さんがゆまちゃんの髪を洗っている。

 

 

 

 

 この日、見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)は4人チームになった。

 

 

 

 

[念じて、頭にこんにちわ]

[あら、どうしたの?]

[ボケをスルーされると、辛いんだぞぅ」

 

 必死に髪を洗う佐倉さんと、両目をしっかりと閉じて、微動だにしないゆまちゃんを見ていたら、琢磨君からの念話。

 

[ちと、出かけてくる。

 先に寝てていいよ]

[どこにいくの?]

[その辺を適当に。

 せっかく、元相棒と再会したんだし、気兼ねなく話したいでしょ?

 群雲琢磨はクールに去るぜ。

 朝には戻ってるけど]

[クールでもなんでもないわね。

 でも、気にしなくてもいいわよ。

 今後の事とか、しっかり話し合いたいし]

[それは、先輩達で決めてくれ。

 オレがいると、雰囲気悪くなると思うし]

[ゆまちゃんの事ね?]

 

 琢磨君とゆまちゃんの仲は、険悪。正確にはゆまちゃんが一方的に敵視しているのだけど。

 

[オレは別に、ゆまに嫌われてようと知ったこっちゃないが]

[そういう態度が、火に油を注いでいる気がするわよ?]

 

 見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)に、ゆまちゃんが加入した時点で、琢磨君はすっぱり割り切ってる。そういう子だって知ってる。

 でも、ゆまちゃんは違う。

 彼女にしてみれば、自分を役立たず呼ばわりした挙句、叩きのめしてきた相手が、見ず知らずの相手()の所へ、佐倉さんと一緒に連れて来た。

 しかも、今後はその人たちと一緒。

 ゆまちゃんにしてみれば、面白くないでしょうね。

 

[仲良くする気はないの?]

[それは、ゆまに言うべきそうするべき。

 でないとオレの寿命がストレスを特に感じず問題無い]

[真面目に]

[実際、ゆま次第だぞ?

 無駄に雰囲気悪くして、連携疎かになって大ピンチとか、オレが望むと思う?]

[まあ、そうよね。

 琢磨君は、そういう子よね]

[ナチュラルに子供扱いか……子供だけども。

 それはともかく、今のままだと正直に言って使()()()()()()()

 佐倉先輩も、やけにゆまを気にかけてる感じだし、今まで通り二人で魔女退治した方が、魔力的な効率はいいような気もする]

 

 中々、辛辣な意見ね。実際にゆまちゃんと戦った琢磨君だからこそ、説得力があるわ。

 

[そうなると、ゆまが最低でも一人で魔女を狩れる程度にはなってくれないと。

 佐倉先輩が連れているのも、それが理由の一つだろうし]

[……佐倉さんは]

[理由の()()だって。

 他の理由もなんとなく予想がつくし、多分そっちの方が比重は重いだろうし。

 今、重要なのはそこじゃない]

[ゆまちゃんの実力]

[そゆこと。

 正直、優秀な先輩二人に指導を受けられるんだから、相当恵まれてる。

 だが、それはあくまでも“先の展望”であって“今”じゃない]

 

 自分の為に生きる琢磨君にとって、最重要なのは今。

 もし、将来的に一番強くなる素質を持っていたとしても。今、一番弱いという事実こそが最重要。

 

[オレとしては、ゆまの修行を重点的に……って、それは先輩達が風呂に入ってる時にする会話じゃなくね?]

[話を振ったのは、琢磨君よね?]

[そだっけ?]

 

 あら? どうだったかしら?

 

[とにかく。

 その辺の話は、今後詰めていけばいい。

 明日も学校でしょ?

 夜更かしは、お肌の天敵よ?]

[それは、そうだけど……]

[慌てる必要は無いさ。

 現状はむしろ、巴先輩と佐倉先輩がギクシャクするほうが笑えない。

 だからこそ、今日はO☆H☆A☆N☆A☆S☆H☆Iすればいいのさ]

[なんか、不穏な響きを感じるんだけれど]

[大丈夫。

 きっと、それが正解だ]

[だめじゃないの]

 

 いつだって、琢磨君はマイペース。誰と接していても、それは変わらない。

 たまに、顔を真っ赤にしたりもするけれど……。

 

 ひょっとして。

 

[恥ずかしかったりするの?]

[女3男1の時点で、察して欲しかったぜ。

 本当に、自分以外の魔人が恋しい今日この頃]

 

 それでも、佐倉さん達をここに連れてきたのね。

 それは、本当に自分の為? それとも……。

 

[じゃあ、そろそろ行くぜ]

[……本音は?]

[3人の湯上がり姿とか、耐えられる気がしません]

 

 そう言う事なのね。

 

[じゃ、いってきます]

[いってらっしゃい]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この挨拶にどれだけ癒されたか、琢磨君は知らないんでしょうね」

「何の話だ?」

 

 思わず呟いた言葉が耳に届いたのか、ゆまちゃんの髪を洗い終わった佐倉さんが首を傾げる。

 

「なんでもないわ。

 琢磨君が出かけたってだけよ」

「ゆま、あいつキライ」

 

 琢磨君の名前が出たせいか、ゆまちゃんは不貞腐れた様に呟き、私と佐倉さんは目を合わせ、苦笑する。

 

「自ら望んで、敵を増やす物好きは少ないわ」

 

 でも、そのままの関係でいいはずがない。

 見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)、そのリーダーとして。一緒に戦ってきた琢磨君の相棒(コンパーニョ)として。新たに仲間になってくれた二人の先輩として。

 

「琢磨君だってそう。

 敵を増やしたいなら、私と一緒にいる必要は無いし、貴方達を連れてくる意味も無い」

「でもあいつ!

 ゆまの事を役立たずって言ったっ!!」

「落ち着け、ゆま!」

 

 気持ちが高ぶるゆまちゃんを、佐倉さんが必死に宥める。

 これは……大変かもしれないわね。

 

 でも。諦める気は無いわ。

 

「琢磨君は、自分の為に動く子。

 GS(グリーフシード)を手に入れ、自分だけが使うのなら、そもそも仲間は必要じゃないわ。

 ゆまちゃんも、佐倉さんも、私も。

 等しく“邪魔者”であるはずなの。

 わかるかしら?」

 

 ゆまちゃんの目を見ながら、私は落ち着いてもらえるように、静かな声色になるよう意識して話す。

 

「でも、あの子は私との共闘を望んだ。

 佐倉さんとゆまちゃんを、ここに連れてきた。

 その上で“今後の動向を、私達に委ねた”の」

 

 琢磨君の言葉を借りるのなら。過程を仮定すれば、琢磨君の真意が見えてくる。

 

「琢磨君には“魔女を狩らない”という選択肢は存在しない。

 同時に“自分から魔法少女と戦う”という選択肢も存在しない。

 だから、私と共闘する道を選んだ。

 だから、貴方達をここに連れてきた。

 だから、ゆまちゃんと戦った」

「悪い、口を挟む」

 

 佐倉さんが割り込んでくる。

 まあ、二人は琢磨君の事をあまり理解してはいないでしょうし、疑問を抱くのは当然。

 私だって“よくわからない子”と言う第一印象だったし、今もあまり変わってない。

 

「ゆまと戦うのに、どんな理由があるんだよ?」

 

 だから、佐倉さんのその疑問は当然だし、私だってその場にいたわけじゃない。

 でも、予想するぐらいは出来る。琢磨君と一緒に過ごしてきたからこそ。

 

「嫌われる為」

「は?」

 

 そして、琢磨君は自身が考えている以上に“優しい子”だと。

 

「ゆまちゃんはどう思った?

 悔しかった?

 悲しかった?」

 

 なら、私はそれに応える。

 例えるなら、琢磨君が壁で、私は上る為の梯子。

 そして、上れるように背中を押すのが佐倉さん。

 

「琢磨君を倒したいと思った?

 琢磨君より強くなりたいと想った?」

 

 後は、ゆまちゃんが自分で乗り越える事。

 言われるままでは意味が無い。自分で行かなきゃ意味が無い。

 私の言いたい事を理解したのは、佐倉さんの方が先だった。

 

「まさか……自分を目標にさせる為か!?」

「そうでしょうね。

 超えるべき目標が近くにいれば、いつだって挑戦できる。

 目標を超える為の助言者として、私と佐倉さんは申し分無い。

 “自分の為になるなら、自分が嫌われていても気にしない子”よ、琢磨君は」

 

 さらに言うなら。

 

「きっと“私と佐倉さんの仲違いの解消”も、視野に入れてそうね。

 ゆまちゃんを鍛えるのなら、佐倉さんのように“自分が正面に立つ戦い方”だけでなく“搦め手を含めて支援する私の戦い方”も知っておくべき。

 ゆまちゃんの事を大切に想ってる佐倉さんと、仲間を見捨てられない私がいがみ合ってちゃ、それを教える事なんて出来ない。

 

 『だからきっと私達は、手を取り合うはずだ』

 

 私達の心情なんか“知ったこっちゃない”って感じで、あの子はそんな風に割り切って考えてるでしょうね。

 魔法により補助されている時の琢磨君の頭の中は、こちらの予想の斜め上を平気で飛び越えてしまうもの」

「……マジで、なんなんだよ、あいつ……」

「よくわからない子よ」

 

 佐倉さんの呟きに、私は苦笑しながら答える。

 

 魔法によって、頭の回転を加速させていたとしても。知能指数が上がる訳じゃない。

 考え、結論に至るまでの“時間”を短縮させる。これが琢磨君の魔法。

 だからこそ変身前でも使えるようにと、電子タバコなんてものを使ってる。

 

 自分の為に生きる。

 

 それは“自分の為になる事を瞬時に判断”出来て、はじめて成立する生き方。

 

「そんな、琢磨君だからこそ。

 超える意味があるし、超える意義がある。

 だから、ゆまちゃん。

 私達と一緒に、琢磨君を倒してみる気は無いかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巴マミ、佐倉杏子、千歳ゆま。

 私達3人が、群雲琢磨を目標として研磨する事で、実力は上がるでしょう。

 

 きっと、そう考えてるんじゃないかって。

 

 そうすることで、私達3人を仲良くさせようとしてるんじゃないかって。

 

 そんな風に、私は想うのよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オレは、ここにいてもいいかい?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 独りは、寂しいものね。




次回予告

他人を、100%理解することは出来ない

自分と言う個体は、世界で一つしかないのだから

相手がどういう人なのか それを予測する事は可能

でも、それが真実であるとは限らないし

真実かどうかを判断できるのは、当の本人しかいない

故に生じる、認識の相違




なら、この魔人は――――――――――



九十章 誤解されてる気がする


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九十章 誤解されてる気がする

「魔法少女になると、肉体が強化される」
「本体である魂が、より力を発揮しやすいようになるからね」
「……変身って必要なのか?」
「変身は、言うなれば“最適化”だからね。
 変身後は使えても、変身前には使えない魔法が存在するのは、そこに起因する。
 同時に、より最適な状態になる事も有り得る」
「バージョンアップみたいなものか?」
「普通は、そうなる前に絶望に負けちゃうんだけどね。
 だから、逆を目指してる琢磨は、中々興味深いよ」
「変身後に使える魔法を増やすのではなく、変身前にも魔法を使えるようにする。
 なるほど、確かに逆だな。
 まあ、魔人だしねぇ」
「それは普通、理由にならないんじゃないかな?」
「理由なんて、後から納得する為のものじゃん。
 事実である必要も、真実である意味もない。
 テレビとかで、警察が動機を追及しているとか良く聞くけど、あれ、完全に無意味だよね」
「地球人であるキミが、そこを否定するのかい?
 わけがわからないよ」
「わかれ」
「無茶を言わないで欲しいな。
 僕らには感情がないんだから、キミ達を完全に理解する事なんて不可能だろう?」
「わかるようになれば、お前の仕事の効率だって上がると思うけどなぁ。
 それよりも」
「なんだい?」
「お前といると、前書きが長くなる」
「いきなりメタくなったね」


SIDE 群雲琢磨

 

「誤解されてる気がする」

「何の話だい?」

「群雲琢磨くんの話さ」

 

 右肩に乗るナマモノに、オレは簡潔に答える。

 

 今、オレは見滝原じゃない場所で、ナマモノと一緒にいる。

 目の前には、先程オレのSG(ソウルジェム)を浄化した結果、孵化直前となったGS(グリーフシード)

 

 待っているんだ。魔女が産まれるのを。

 

「本当に、琢磨は僕の予想を裏切ってくれるね。

 まさか“GS(グリーフシード)を使い回す”なんて、考えてもみなかったよ」

「お前らにとって重要なのは“SG(ソウルジェム)GS(グリーフシード)へ変換される時のエネルギーを回収する事”であって“GS(グリーフシード)そのものではない”からな。

 求めるモノ(カメラ)の違いさ」

 

 魔法少女は、魔女を狩る。そして、GS(グリーフシード)を手に入れて、SG(ソウルジェム)を浄化する。

 そうすると、GS(グリーフシード)に穢れが溜まる。溜まりきれば、GS(グリーフシード)は魔女を産む。

 魔女を狩る魔法少女が、魔女が産まれるのを容認しない。

 と、普通は考える。だからナマモノが回収する。

 そういうシステムになっている。

 

 “と、魔法少女は()()()()()()()()()

 

 孵化した魔女をもう一度倒せば、また使えるGS(グリーフシード)を落とす事に、気付いていない。

 

「そういえば、聞いてみたい事があったんだが」

「なんだい?」

 

 せっかく“邪魔者”がいないので、ナマモノに疑問を解消してもらおう。

 

GS(グリーフシード)を落とす魔女と、落とさない魔女がいるが、あれはなんでだ?」

「正確な情報があるわけじゃないから、推察になるけれど、いいかい?」

「自分達で創ったシステムなのにか?

 つっかえねぇマスコットだな、おい」

「僕はマスコットじゃないよ?」

 

 いきなり話が逸れた。軌道修正、軌道修正。

 

GS(グリーフシード)は、SG(ソウルジェム)が穢れを溜めきった結果、反転するモノなのは知ってるよね。

 つまり、GS(グリーフシード)もまた“魂の結晶”である事に、変わりはないってことさ。

 それが“魔法少女”のものか“魔女”のものかの違いだけでね」

 

 頭をフル回転して、情報を整理。

 

「なるほど、そう言う事か」

「理解が早くて助かるよ。

 皆が琢磨のようだと」

「世界が滅ぶぞ、多分」

「わけがわからないよ」

「わかれ」

 

 世界に“まったく同じ人間”はいない。双子でさえ“魂は別々”だ。

 そして“魂があるからこそ、SG(ソウルジェム)が生成され、GS(グリーフシード)へと反転”する。

 つまり“SG(ソウルジェム)が反転して産まれた魔女だけが、GS(グリーフシード)を落とす”って事だ。

 

「使い魔が成長した魔女は、GS(グリーフシード)を落とさないって訳か」

「その魔女は“自分を産んだ魔女とは別固体”だからね。

 SG(ソウルジェム)から産まれた訳ではないのだから、GS(グリーフシード)を落とすはずがない」

 

 うわ、めんどくせぇ……。

 結局の所、魔女を殺してみないと、落とすかどうかわからないって事じゃん……。

 

「そして、回収したGS(グリーフシード)から、僕らは穢れを抜き取る。

 穢れとはすなわち“負の感情が具現したもの”だからね。

 だから、先程琢磨が言ったように“GS(グリーフシード)そのものに、僕らは用はない”んだ。

 溜まった穢れこそが、目的だからね」

「まったくの無意味って訳でもないのか。

 でもそれなら、穢れを抜いたGS(グリーフシード)を返してもらえば、万事解決じゃね?」

「それだと“新たな魔女”が生まれないじゃないか。

 僕らの第一目的は“魔法少女が魔女になる際のエネルギーの回収”だよ?」

「それもそうか。

 0よりは良い、程度の事。

 あれ? そうなると回収したGS(グリーフシード)って、その後どうするんだ?」

 

 穢れを回収したら、残るのは穢れのないGS(グリーフシード)だ。

 それはSG(ソウルジェム)ではないのだから、ナマモノが所持する理由が無くなる事に。

 

「当然“穢れが溜まりそうな場所”に置いておくよ。

 一般人にはGS(グリーフシード)は認識できないからね」

 

 最低だこいつら。知ってたけど。オレも人の事言えんし。こいつらは人じゃないけど。

 

「……ん?」

 

 ここで、新たな疑問発生。

 

「なら、お前らは全ての魔女を把握してるのか?」

「いいや。

 使い魔から産まれた魔女は、GS(グリーフシード)を落とさない。

 僕らにとって、価値はないよ」

 

 そうくるか。

 

「なら、全てのGS(グリーフシード)は把握してるのか?」

「ところが、そうではないんだよね。

 中には、使い魔がより良い場所へGS(グリーフシード)を運んでしまう場合がある。

 そうなると、僕らにはどうしようもない。

 なにより、それらを探すよりも、新しい素質者を探すほうが効率が良い」

 

 確かにそうだ。

 “GS(グリーフシード)に溜まったエネルギー”よりも“SG(ソウルジェム)が燃え尽きた際のエネルギー”の方が良いのは、こいつらの話を聞いてれば容易に理解できる。

 同じ“時間”を費やすならば“より大きいエネルギー”を求めるのは道理。

 

「状況によっては、SG(ソウルジェム)から産まれた魔女でも、GS(グリーフシード)を落とさないこともある。

 それに“ワルプルギスの夜”や“キミ”のような“イレギュラー”も存在する。

 ワルプルギスの夜が、今まで抱え込んできた穢れや、キミのSG(ソウルジェム)が燃え尽きた際のエネルギーには、とても興味がある」

「魔人って“GS(グリーフシード)以上魔法少女(ソウルジェム)以下”なんじゃないのか?」

 

 こいつらの話から、回収できるエネルギーを比率するなら。

 

 魔女化>GS(グリーフシード)の穢れ

 

 そして、オレのような魔人は、その間。しかも穢れ寄りのはずだ。

 だからこそ魔人の絶対数が少ない。ナマモノ的にも、素質があっても、回収できるエネルギーが少ないと契約する価値が無いからだ。

 

「イレギュラーだと言っただろう?

 誰も討伐した事のない、伝説の魔女。

 前例のない事を起こした、群雲琢磨。

 回収できるエネルギーを、正確に把握する事は不可能だ」

「伝説の魔女と同義とか、オレすげぇ」

「でなければ、僕らがGS(グリーフシード)を使いまわさせると思うかい?」

「上から目線をありがとよ。

 人間が使えるのに、自分達が使えないシステムに固執する、下等生物」

 

 でも、魔女を確殺できるほど強くないとか、ひどくね?

 むしろ、ワルプリャーに勝てるとは限らんし、聞いた限りじゃ敗戦濃厚っぽいし。

 最近は、どうにも感覚が鈍ってきてるしなぁ。

 だからこそ、変身せずに<電気操作(Electrical Communication)>を使えるようになろうと頑張ってるんだが。

 

「まあ、ある程度の情報は得られたんで良しとするか。

 なにより、そろそろだからな」

 

 本当は、もう少し話をしたいんだがねぇ。

 オレは、思考を切り替えて、近くにあるGS(グリーフシード)に視線を移す。

 

「マミに言って、協力してもらえばいいのに」

「容認するはずないだろ?

 “魔力を回復させる為に、殺した魔女にもう一度生まれてもらって、また殺す”とか」

 

 うわ、言葉にすると、オレも大概えげつねぇ。

 反省も後悔も絶望もしないけど。

 まあ、魔女との戦いは一期一会。同一の魔女と戦う事は、めったに無い。

 そんな簡単に、使い魔が魔女に成長するわけでもないし。

 GS(グリーフシード)はナマモノが回収するわけだし。

 

 だが、()()は当て嵌まらない。

 落としたGS(グリーフシード)から、別の魔女が生まれるはずが無い。

 それは、先程ナマモノが言った事からも、充分に証明されている。

 

 

 

 

 そして。

 

 

 

 

 ここにあるって事は、オレは一度“この魔女を殺した事がある”と言う事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、サクっと倒して、見滝原に帰らないとな」

 

 ちなみに、わざわざ別の街まできたのは“先輩達に気付かれない為”だ。

 そして、朝までに。先輩達が起きる前に帰らないと。

 

 実は、オレが睡眠をとってない事がばれたら、色々と小言を言われてしまう。

 

 眠る必要は無い。肉体は所詮“魂が動かす道具でしかない”んだから。オレは、その事を知っているのだから。

 まあ、他の魔法少女はそれに気付いておらず“人間として生活している”訳だが。

 

 

 

 知ったこっちゃないさ。

 

 

 

 

「でてくるよ」

 

 ナマモノはそう言って、遠くへと避難する。

 ……何体か、戦闘に巻き込んで殺しちゃったもんね。ごめんよナマモノ。反省も後悔も絶望もしないけど。

 

 そして、オレはいつものように宣言する。

 

「では、闘劇をはじめよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やべっ!?

 空が明るくなりだしてる!!」

「てこずったのかい?」

「<一部召還(Parts Gate)>を試してたけど、全然つかえねぇんだもんよ!

 ぶっちゃけ、<電気操作(Electrical Communication)>のレベルを上げて、物理的に殴った方がはえぇ!

 マジ、なんなんだよ、この魔法!?」

「キミの魔法だろう?」

「わかってるよ、コンチキショウ!」




次回予告

舞台は、準備を着々と進めている

役者は、状況を確実に進めている

そんな一場面が

心を、間違いなく揺り動かす



九十一章 使い物にならない


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九十一章 使い物にならない

「琢磨は何であたしらを先輩呼称で呼ぶんだ?」
「年上だから」
「単純な理由ね」
「じゃ、なんでゆまは呼び捨てなんだよ」
「格下に気を使う必要なくね?」
「ゆま、こいつキライ!!」
((最低だ……))
「わけがわからない……事もないな」
((自覚してる分、余計に性質が悪い……))
「先輩達も大変だねぇ」
「「原因がそれを言う!?」」


SIDE 佐倉杏子

 

 あたし達が、見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)のメンバーになって、1週間。

 特に、大きな出来事が起きたわけじゃない。そう簡単に起きてたまるかっての。

 

 必ず最初に目を覚ましてる琢磨と挨拶。起きてきたマミと3人、或いはゆまを加えた4人で、朝食。

 

「大分、上達したわね」

「だよねぇ」

 

 朝食は琢磨が作ってる。マミが学校に行っている間、家事をするのがおいてもらってる条件の一つだと、琢磨から聞いていた。

 そんなことしなくても、マミが追い出すって事はないと思うけどな。

 

「最初の頃は、ひどかったものね」

「何故、卵焼きが紫色になったのか、コレガワカラナイ」

「……なにをどうしたら、そうなるんだよ……」

「それがわかれば、苦労はしないって。

 流石に、巴先輩に食べて貰う訳にもいかず、捨てたら材料がもったいないんで、独りで完食したけど」

「気にしなくても、よかったのに……琢磨君って、変な所で律儀よね」

「まあ、食い物を粗末にしなかったのは、誉めてやるよ」

「ちなみに、椎茸の味がしました」

「マジで!?」

 

 そんな感じの、朝食風景。

 ちなみに、ゆまは寝てるか、一緒に食べてるかのどちらかなんだが。

 ……琢磨との仲は、変わらずだ。

 その反動なのか、マミにはよく懐いてる。

 

「いってきます」

「「いってらっしゃい」」

 

 そして、マミは学校へ。

 

 日中は基本的に別行動。

 あたしは、ゆまを巻き込んだ織莉子の情報を探しに街に出て。琢磨は家事。

 もちろん、ゆまはあたしと一緒に行動してる。流石に琢磨と二人きりにさせると、どうなるかわかったものじゃない。

 情報は、ほとんど手に入れていない。

 

「流石に、名前だけじゃ無理があるって。

 せめてフルネームが解ってれば、いくらでもやりようがあるけど」

 

 とは、琢磨の弁。いくらでもやりようがあるって点に、ツッコミたいんだが。

 

 

 

 そして、マミの帰宅にあわせてあたし達も帰宅。全員でパトロール。

 それが終われば、帰って夕食。その後は、魔法少女としての勉強会。

 

 適当な時間で切り上げ、風呂に入って就寝。

 

 これが、今の日常だ。

 

 

 

 

 別に、平和ボケしているわけじゃないし、それほど長い時間が経った訳でもない。

 ただ、決して人並みとは言えない、独りだった頃と比べてしまうと……。

 

「どした?」

 

 思考に嵌りかけていたあたしを、琢磨の声が現実へ引き戻す。

 

「なんでもねーよ」

 

 そう言って、あたしは自分の横に立つ少年を見る。

 同時に、思い出すのは最初の風景。よっぽどインパクトが強かったのか、今でも鮮明に思い出せる。

 

「それで、病院に来たのはいいけど、ここにGS(グリーフシード)があるのか?」

 

 今日、あたし達は4人でパトロール中に、SG(ソウルジェム)の反応を確認した。

 マミを先頭に、進んだ先にあったのは大きな病院。

 

SG(ソウルジェム)に反応はあったわ。

 問題は、どこに結界があるか、ね」

「確かに、病院で人が死ぬのは当然の事。

 でも、そこまで反応が大きくないって事は、あるのは結界じゃなく、孵化直前の卵の方かもしれないぜ?

 ちなみに、オレにはさっぱりわからない」

 

 索敵に関しては、琢磨は使い物にならない。戦闘能力は間違いなく高いのに、それ以外が全然ダメ。

 ほんと、なんなんだよ、こいつ……。

 

「病院で、魔女結界が展開してたら、地獄絵図しか浮かばない件」

「琢磨君、もう少し言い方を考えて」

「逆を言えば、魔女は孵化していない。

 と、オレは判断するんだが、どうよ?」

 

 マジ、こいつの頭の中はどうなってんだよ?

 

「……可能性はあるわね。

 なら、孵化する前に回収するのがベストかしら」

 

 あたしの心情に気付く事無く、マミと琢磨が会話を続ける。

 きっと、あたし達が来る前から、二人はこんなやり取りをしていたんだろう。

 

「孵化してないが、SG(ソウルジェム)には反応するGS(グリーフシード)か。

 浄化には使えないだろうな」

「回収には反対?」

「反対なんて言ってたら、見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)は勤まらんでしょ。

 ねぇ、リーダー?」

 

 マミが琢磨の事を“よくわからない子”だって言ってたのを、嫌でも実感する。

 最初に会った時は「犠牲者が出る? だろうねぇ」とか言ってたの覚えてんのか、こいつは。

 

「それじゃ、GS(グリーフシード)を探しましょうか」

 

 目的を決め、進もうとするマミに、群雲がストップをかける。

 

「探すのは当然なんだけど……」

「どうしたの?」

 

 首を傾げるマミ。あたしも琢磨の真意がわからない。

 だが、次の言葉で、あたし達は頭を抱える事になる。

 

「オレ、病院の中には入れないぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 巴マミ

 

「どういうこと?」

 

 意味を図りかねた私は、琢磨君に聞く。

 それを、琢磨君は眼鏡を外し、前髪を持ち上げながら答える。

 

「オレ、眼帯着用。

 下手に患者と勘違いされると、身動きがとれなくなるんじゃね?」

 

 ……それは、想定外だったわ。

 病院の中を、自由に歩き回るのは難しいわね。

 

「巴先輩は『知り合いの見舞いに来ました』と言えば、ある程度は何とかなるだろうけど。

 オレの場合、見た目的にむしろ患者側。

 その上で、歩き回ってたら間違いなく面倒な事になるふいんき」

雰囲気(ふんいき)よ」

「何故か変換できないと言うボケを潰されたッ!?」

 

 本当にこの子は……。

 でも、ボケはともかくとして、病院内の散策は難しいかもしれないわね。

 

[……そうなると、ゆまもマズイな]

 

 追い討ちをかけるように、佐倉さんから念話が届く。

 

[ゆまには、親からの虐待の痕が残ってる。

 琢磨と同じく、患者側に見られる可能性があるぞ]

 

 ゆまちゃんに聞かれないように、配慮したのね。

 でも、反応はあった。ここの周辺にGS(グリーフシード)があるのは間違いないはず。

 そして、下手に孵化してしまえば、琢磨君の言うように、地獄絵図が待っている。

 そんなの、許せるはずがないわ。

 

「なら、琢磨君はここで待機?」

「してもいいが、GS(グリーフシード)が“建物の外”にある可能性は?」

 

 自身での索敵が出来ない分を補うように、琢磨君は頭をフル回転させている。

 

「魔女結界ならともかく、孵化前のGS(グリーフシード)の存在って、明確に察知できないだろ?」

 

 それが出来るなら、しているわね。

 でも、反応を察知してここに辿り着いた。

 魔女結界。使い魔の結界。GS(グリーフシード)

 どれかがあるのは、間違いないはず。

 

 私の脳裏に、一つの案が浮かぶ。

 きっと、琢磨君も考えただろうし、佐倉さんも思いついているかもしれない。

 

 二手に分かれる。

 

 順当に考えれば、建物の中を調べる組と、建物の外を調べる組。

 

[マミも思いついたと思うんだけど……不安しかないぞ?]

 

 佐倉さんからの念話。やっぱり考えたみたいね。同じ事を。その問題点も。

 

 私達はチーム。単独行動は認められない。それは危険な行為だし、リーダーとして認める訳にはいかない。

 なら、二手に分かれるなら、2:2になるのは必然。

 

 問題なのは、その内訳。状況的に、私と佐倉さん。

 

 

 琢磨君とゆまちゃん。

 

 

 どうしよう? 不安しかないわ。

 

「嫌な二択だなぁ」

 

 琢磨君が、眼鏡をかけながら呟く。同じ結論みたいね。

 

「でも、選ぶ方は確定してないか、これ?」

 

 …………。

 

「見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)として、私達は動きます」

 

 なら、リーダーとして私が指示を出すわ。

 

[本気か、マミ!?]

 

 佐倉さんからの念話。不安なのは私も同じ。

 でも、琢磨君の言葉の通り、選択は確定しているわ。

 

[私達は、魔法少女よ]

[でもっ!]

[選択の時よ、佐倉さん。

 険悪な二人を一緒にするか。

 魔女に抗えない一般人を見殺しにするか。

 極端だけれど、ね]

[それは……]

 

 ゆまちゃんの事を、心配しているのは、私も同じ。

 だから、私は琢磨君へ念話を送る。

 

[信じてもいいかしら?]

[……その聞き方は卑怯だと思います]

 

 眼鏡を中指で押し上げる。琢磨君がよくする仕草。

 

「私と佐倉さんで、建物の中を。

 琢磨君とゆまちゃんで、建物の外を」

「!?」

 

 ゆまちゃんが、驚愕の表情を見せる。でも、ここは譲れない。

 

「使い魔、結界、GS(グリーフシード)

 どれか一つでも見つけたら、念話で連絡」

「いいか、ゆま」

 

 佐倉さんが、ゆまちゃんの前に屈んで、視点を合わせる。

 何かを言おうとしていたゆまちゃんは、言葉を必死に飲み込んだみたいね。

 

「琢磨の事が嫌いなのは知ってる。

 でも、あたし達は魔法少女なんだ。

 “琢磨とゆまの仲が悪かったから、普通の人が魔女に襲われた”なんて。

 そんなの、あたしが認めない」

 

 本当なら、時間をかけて、ゆっくりと。

 琢磨君とゆまちゃんの仲を修復させたいけれど。

 状況が、それを許さない。

 ままならないものね。

 

[お願いね、琢磨君]

[善処はするけど……正直に言うが、保障は出来ないぞ?

 オレはすでに割り切ってるが、ゆまはそうじゃないだろ?]

[琢磨君の、最初の態度が原因なんでしょ?]

[自業自得ですね、わかってますともさ。

 諸悪の根源はオレですよ、充分に自覚してますとも]

 

 それでも、琢磨君なら。

 

 “絶対にゆまちゃんを見殺すような事はしない”

 

 そうよね?

 

 

 

[反省も後悔も絶望もしないけどな!]

 

 

 

 ……信じてるわよ?




次回予告

少女には、少女の想いがあり

少年には、少年の誓いがあり



少女には、少女の心があり

少年には、少年の核があり






少女は、少年が嫌いで

少年は、少女が――――――――――









九十二章 ガキ二人


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九十二章 ガキ二人

「お前、なんでそんなにいじわるなの?」
「意地悪してるつもりはないんだがな。
 ただ、自分の思った事を正直に話してるだけで」
「友達いないでしょ、お前」
「出来た記憶はないな。
 かろうじてナマモノが友人と……呼べないわ、アレはイキモノじゃない」


SIDE 佐倉杏子

 

 ゆま達と別れて、あたしとマミは病院の中へ。

 何故か、琢磨の<部位倉庫(Parts Pocket)>の中に入っていた花束を持って、歩く。もちろんカムフラージュの為だ。

 ……本当に、何で入ってたんだよ……?

 

[反応はあるか?]

[微妙なところね……。

 せめて、キュゥべえがいればよかったのだけれど]

 

 あいつはあいつで、結構自由な存在だよな。

 まあ、あれの役割は“契約”だし、仕方がないのかもしれない。

 ……それでも、ゆまを巻き込んだことに関して、あたしは許す気はないが。

 

[早く見つけないといけないわね]

 

 色々な意味でな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 さて。近辺に魔女絡みの代物があるのは、ほぼ確定しています。

 ……それ以上の手掛かりがない……。

 

「まあ、情報は足で稼ぐ。

 捜査の基本だな」

 

 言って、オレは歩き出す。が、ゆまが付いて来ない。振り返るとそこには、不貞腐れたゆまの姿。

 わっかりやすっ!

 

「佐倉先輩の言葉を、無駄にする気か?」

 

 オレの問いかけに反応して、こちらを向くゆま。オレはそのまま言葉を続ける。

 

「オレの事が嫌いなのは充分知ってるし、それを咎めるつもりはない。

 知ったこっちゃないんでな。

 でも、オレやゆまがそれでよくても、先輩達はどう思ってる?」

「でもお前、ゆまの事を役立たずって言った!」

「ああ、言った。

 当然なんだよ。

 成り立てのお前と『何年も』魔人をやってたオレじゃ、経験が圧倒的に違う」

 

 電子タバコを取りだs……流石に街中、しかも病院の敷地内じゃ面倒な事になるな。

 最近、癖になってきた。

 

「足の速い子と、足の遅い子が同じチームでリレーをした場合、どう考えても足の遅い子は役立たず呼ばわりされる。

 それを一緒だ」

「でも「でも!」!?」

 

 何か言おうとしたゆまの言葉を、オレはそれ以上の声量で黙らせる。

 

「でも、オレ達は二人だけのチームじゃない。

 巴先輩と佐倉先輩。

 オレよりも足の速い子が、同じチームにいる」

 

 真っ直ぐ視線をぶつけ合う、オレとゆま。

 

「オレ達は、四人で“魔女を倒す”というゴールを目指す。

 同じチームなんだから当然だ。

 誰か一人でも、いなくなっては意味がない。

 四人でゴールしなきゃ、意味がない」

 

 ……こういう役目こそ、先輩達の領分な気がするんだがなぁ……。

 

「オレの事がキライなら、キライのままで構わない。

 だが、バトンはしっかり持ってろ。

 バトンがなければ、リレーは成立しない。

 先輩達に、しっかりバトンを渡せ。

 お前がしっかりとバトンを持って走らなければ。

 先輩達が、リレーに参加出来ないんだ。

 オレの事なんか、無視してもいい。

 だが、先輩達にリレーをさせないのなら、お前は役立たず以下だ」

 

 言いたい事言って、オレはそのまま踵を返す。

 

「お前が選べ、ゆま。

 バトンを持って付いて来るか、バトンを投げ捨ててここに留まるか。

 キライなオレか、大好きなキョーコか」

 

 そのまま、オレは歩いていく。

 付いて来るなら、それでよし。

 来ないなら来ないで、やり方は考えてる。

 

 しばらく歩いて、振り返ると。

 

 ゆまが、少し離れて付いて来ていた。

 それでいい。オレなんか気にせず、キョーコの為に頑張ればいい。

 

 

 

 

 

 

 “そうすれば、希望はお前を裏切らない”

 

 

 

 

 

SIDE out

 

 微妙な距離を保ちながら、魔法少女と魔人(ガキ二人)は、目的のものを探す。

 途中、ゆまが病院関係者に声をかけられたが。

 

「大丈夫です。

 『ここには良く来ますし』『今日は、お姉ちゃんのお友達のお見合いの付き添いですし』『もうすぐママが迎えに来てくれますから』

 ほら、行くぞ」

 

 群雲の口八丁な嘘八百で切り抜ける。

 

「……うそつき」

「大好物です」

 

 ゆまの呟きに、的外れな返答をして、二人は散策を続ける。

 それが、二人の距離を(物理的にだが)縮めた事が、すぐに幸運へと繋がる。

 

 

 

 

 散策して、しばらく。

 

「あ」

 

 ゆまが、声を上げ、駆け出す。

 

「ん?」

 

 耳聡く、その呟きを拾った群雲は、ゆまの行く先を追い。

 

「oh……」

 

 目的のモノを発見した。

 建物の壁に、どう考えても物理法則を無視して存在する、魔女の卵。

 

「しかも、地味に高い所にあるし」

 

 マミや杏子なら、手が届いたかもしれない。

 しかし、ゆまも群雲も、背が低い。

 実際、ゆまが取ろうと飛び上がってるが、届いていない。

 

 ドクンッ

 

 次の瞬間、二人が同時に感じたもの。それは、魔女の鼓動。

 

「マジで孵化する5秒前!?」

 

 一瞬の判断。

 

[キョーコォォ!!]

 

 ゆまは、全力で念話を杏子へと送り。

 

 群雲は、その場に眼鏡を投げ捨てて、ゆまの元へ急ぐ。

 

 

 

 

 

 そして二人は、展開した魔女結界に捕らわれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、どうしたものかね……」

 

 GS(グリーフシード)が展開した魔女結界。すなわち二人のいる場所こそが最深部。

 変身を終えた群雲が、電子タバコを咥えながら、思考を開始する。

 

「魔女は?」

 

 同じく変身を終えたゆまが、お菓子だらけの結果以内を見回す。

 病院関係者に声をかけられた結果、必然的に二人の距離が縮まっていたおかげで。

 展開した結界内ではぐれる事を防いでいた。

 

「孵化するGS(グリーフシード)に直進したからな。

 この付近にいるのは間違いない」

「なんかいる!」

「無視か、オイ……」

 

 ゆまの視線の先。ありえないほど高い椅子に、ぬいぐるみのような生き物が座っている。

 

「戦うのか?」

 

 煙を吐き出しながら、群雲が声をかける。今度は無視せずに、ゆまが答えた。

 

「ゆまは、役立たずじゃない。

 ちゃんと魔女と戦える。

 お前にも、それを見せてやる」

「敵意バリバリやな、知ってるけど」

 

 戦う気満々のゆまに、群雲は苦笑する。しかし、それを咎める気はない。

 

(まあ、先輩達の手を借りずに魔女を倒せれば、ゆまの自信にも繋がるか)

 

 ついでに、結界展開直後から、群雲は先輩達に念話を送っているのだが、一向に返答がない。

 どうやら、届いていないようだ。

 

(後方からの戦闘は久しぶりだが……ま、なんとかするさね)

(魔女を倒す。

 ちゃんと強くなったって、キョーコやマミおねえちゃんに誉めてもらう。

 あいつに、ごめんなさいって言わせてやるんだ!)

 

 清々しいほどに、噛み合わない魔法少女と魔人(ガキ二人)の思考。

 されど、相手にする対象は同一。

 

 

 

 

 

 お菓子の魔女 シャルロッテ その性質は執着




次回予告

始まるのは殺し合い

相手を殺し、生き残る為の戦い

あるものは、自身の性質ゆえに

あるものは、自身の目的ゆえに

あるものは、自身の根源ゆえに

そこへ、執着する


九十三章 割と切実に


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九十三章 割と切実に

「見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)もそうだけど」
「どうして人間は、無駄に誰かと手を組もうとするんだろうね」
「それだと、GS(グリーフシード)が独占できないだろうに」
GS(グリーフシード)がなければ、そもそも生きていく事さえ、出来はしないのに」
「わけがわからないよ」


SIDE out

 

 建物の外を走る、二人の少女。

 自らを呼ぶ念話を最後に、連絡が取れなくなった二人に、一体何があったのか。

 それは、明確になったSG(ソウルジェム)の反応を見れば、一目瞭然。

 

「よりにもよって、あの二人の方!

 しかも、至近距離での孵化ってなんだよ!!」

「愚痴っても、仕方がないわ!

 今は、一刻も早く二人と合流しないと!!」

 

 そして、そんな二人の仲は険悪。その状況で楽観視出来る要素は一つもない。

 SG(ソウルジェム)の反応、強くなる結界の気配。

 

「っと!?」

 

 途中、何かに足を取られた杏子は、体勢を崩す。

 

「どうしたの?」

「いや、何か踏んだ」

 

 減速した杏子に、声をかけるマミ。

 答えた杏子は、自分の踏んだ物を見て。

 

「……眼鏡?」

 

 首を傾げた。誰かの落し物かもしれない。

 

「持ち主には、悪い事をしたわね」

 

 杏子の横に立って、マミが言う。だが。

 

「これ……琢磨のか?」

 

 砕けたレンズの欠片。その一つを拾い上げて、杏子は呟く。

 踏まれ、変形したのは眼鏡のフレーム。しかし、拾い上げたレンズは曇りガラス。

 こんな異物。身につけるのは一人しかいない。

 

「なんで、こんな所に?」

「いや、そもそも眼鏡って落とすような物か?」

 

 眼鏡を身につけていない二人には、そのあたりはよくわからない。

 しかし、よほど激しい動きをしなければ、眼鏡を落としたりはしないだろう。

 加えて、ここは結界内ではない。

 

「……わざと、か?」

「そうかもしれないわね」

 

 群雲琢磨という少年は、歪の塊とも言える。それを、二人は充分に理解している。

 ……それだけ、振り回されていると言ってもいいかもしれないが。

 

「ここにあいつの眼鏡があるって事は……」

「結界が近いのでしょうね」

 

 二人は同時に、身に付けていた指輪を(ソウルジェム)に戻し、索敵を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔女結界。その最深部。

 

 ハンマーを手に、高すぎる椅子に座る魔女に近付くゆま。

 リボルバーを腰の位置で構え、ゆまの少し後から進む群雲。

 一定距離進んだ後、ゆまは一気に駆け出して、ハンマーを椅子に叩き込む。

 

(……反応が鈍い?)

 

 抵抗なく落ちてくる魔女を見ながら、群雲は観察を続ける。

 そんな魔人などお構いなく、落ちてきた魔女に横薙ぎにハンマーを叩き込んで吹き飛ばすゆまと、やっぱり抵抗なく飛んでいく魔女。

 そう、誰も思わないだろう。

 ぬいぐるみのような風貌の魔女。

 その口の中から。

 巨大な魔女が姿を現すなど。

 

「……え?」

 

 ハンマーを振り抜いた直後である為、無防備なゆまに、魔女がその体躯に見合わぬ速度で迫り、その大きな口を開ける。

 

 その状況をひっくり返すのは、魔人の覚えた最初の魔法。

 

 <オレだけの世界(Look at Me)>

 

「……判断に困るな」

 

 自分だけの世界で、群雲は呟く。

 

「ゆまが弱い訳じゃない。

 威力は身に沁みて解ってるし、直撃したのも確認した」

 

 そのまま、ゆまと魔女の間に立つ。

 

「なら、どう見る、群雲琢磨。

 過程を、どう仮定する?」

 

 リボルバーを6連射。その弾丸は魔女に向かう途中で静止する。

 

「……材料が少なすぎるな。

 凌ぎつつ、様子見が正解か」

 

 あらかじめ、ポケットに入れておいた弾丸をリボルバーに装填する。もっとも、群雲の持つリボルバーは一発ずつ排莢、装填するものなので、相応に時間が掛かる。

 もっとも、その“時間”が停止しているのだが。

 

そろそろ動いていいぞ(Look out)

 

 リロードの終えた群雲が呟くと同時に、時は動き出す。

 迫る魔女は、必然として飛来する弾丸に直進する。

 

 しかし。

 

「全部弾かれた!?」

 

 全ての弾丸は、魔女の表面に傷をつける事無く、あさっての方向へと飛んでいった。

 一気に間合いを詰めてくる魔女。

 

「この……っ!」

 

 群雲は、即座にリボルバーを右腰に戻すと、傍らに居たゆまの襟首を掴んで横に飛ぶ。

 

「きゃっ!?」

 

 無防備状態の上、時間停止を認識できないゆまは、なすがまま。

 そんな二人を横切った魔女が、空中で旋回し、再び迫る。

 掴んでいたゆまを放り出すと同時に、群雲は左手の日本刀を取り出す。

 

「逆手居合 電光抜刀 壱の太刀」

 

 そのまま<電気操作(Electrical Communication)>を発動。

 

「逆風!」

 

 逆手居合の斬り上げで迎撃する。

 その太刀筋を、魔女は完全に見切り。

 

「たあー!!」

 

 体勢を立て直し、振り抜いたゆまのハンマーから発生する衝撃波をまともに受けて。

 

「アーッ!」

 

 群雲が、見事に巻き込まれた。

 

「じゃま!」

「おまっ、仮にも助けた人間にこの仕打ち!?」

「たのんでないもん!」

 

 連携皆無である。

 三者三様に体勢を立て直し、睨み合いになる。

 

「先輩達はやくきてー! はやくきてー! 割と切実に、マジで」

 

 日本刀を<部位倉庫(Parts Pocket)>に戻す群雲。

 

「たくま、じゃま!

 こいつはゆまが、やっつけるんだから!!」

 

 肩に背負う形でハンマーを構えるゆま。

 そんな二人を交互にみる魔女。

 

 次に動いたのは魔女。

 飛び上がるかのように上昇し。

 

 ゆまに迫る。

 どうやら、先に捕食するターゲットに定めたようだ。

 それに対し、迎撃する構えを取るゆま。

 

 そして、その状況を読んでいた群雲。

 魔女がゆまに迫る最短ルート。その上空へ自身を運び、左腰に入れておいた、新たな武器を取り出した。

 

 

 

 

 

「鉄骨!!」

 

 

 

 

 武器ですらなかった。

 しかし、それは的確に魔女を捉えて、押し潰す。

 

 はずだった。

 

「なっ!?」

 

 鉄骨の直撃を受けた魔女。その口の中から、同じ魔女が姿を現す。

 

「脱皮!?」

 

 しかし、迫る魔女に対し、迎撃を行うゆまの行動に、変わりはない。

 振り下ろされるハンマー。発生する衝撃波。

 それに対し、魔女が行った行動。

 それは、脱皮して抜け殻となった自分の体を咥えて、それを盾にする事だった。

 咥えた抜け殻を放り投げ、衝撃波にぶつける魔女。

 その抜け殻は、衝撃波をまともに受け、上空へと吹き飛んでいく。

 そして、魔女本体はそれを掻い潜り、ゆまへと迫り、口を開ける。

 ハンマーを振り抜いた直後の隙。魔女はそれを最初の邂逅で理解し、的確につく。

 

SG(ソウルジェム)のパワーを全開だ!」

 

 <操作収束(Electrical Overclocking)>を発動し、上空にいた群雲は、飛んできた魔女の抜け殻を足場代わりにして、一気に下降する。

 そのまま、ゆまを食らおうとする魔女に迫り、右手を放電させながら振りぬく。

 

 しかし。

 

 ゆまに迫っていた魔女が、突然反転し、上空から迫る群雲に標的を変える。

 

(しまったっ!?

 こいつ、最初からオレを!!)

 

 群雲の思考こそ、正解だった。

 最初にゆまに迫った魔女。それを“一瞬”で距離を詰め、迎撃しようとした群雲。

 魔女を倒す事に躍起になっているゆまと、ゆまを死なせるわけにはいかない群雲。

 魔女は、それを把握していたのだ。

 

 故に、ゆまに迫る“フリ”をして、群雲を確実に射程に捕らえたのだ。

 でなければ、距離を詰める群雲に、標的を合わせられる筈がない。

 群雲が来る事を、完全に予測した動きだったのだ。

 

「てめぇぇぇぇぇ!!!」

 

 下降する体は止まらない。拳はすでに振り下ろされている。

 それにあわせ、口を開ける魔女。

 そのまま、喰らい尽くされる魔人。

 

「なめんなぁぁぁぁ!!!」

 

 ではない。

 上半身の行動を完全に放棄し、群雲は下半身、両足を一気に動かす。

 その動きは、本来有り得ない“下降中に方向を変える”と言う無法をやってのける。

 高速で動く両足が、空気の層を造り出し、それを簡易足場として、下降する方向を変えたのだ。

 

 しかし。

 

 放棄された上半身は、その動きに流されるだけであり。

 突き出された右腕までは、回避しきれなかった。

 

「喰らいたければ、喰らえ」

 

 右腕に喰らいつく魔女。

 

「だが、オレの腕は」

 

 痛覚を遮断したが故に、群雲は口の端を持ち上げて。

 

「ちょいと、刺激的だぜ!」

 

 右腕を失う事を、利用してみせる。

 <操作収束(Electrical Overclocking)>を発動したまま、着地と同時に群雲は駆け出すと、そのまま硬直状態のゆまを掴み。

 一気に魔女から逃げ出した。

 

 一瞬の後、魔女の“体内”で、爆発が起こる。

 

 右腕に噛み付かれ。食いちぎられる一瞬。

 その一瞬で、群雲は右手の<部位倉庫(Parts Pocket)>から、先日の野暮用で収納していた手榴弾を取り出していた。

 あらかじめ“ピンを抜いた状態で収納していた”為、取り出された手榴弾は“通常通り”に爆発する。

 

 体内での爆発に、魔女が悶える中。

 群雲はゆまを掴んで、一気に距離をとる。

 右腕から流れる鮮血など、知ったことではない。

 

「…………」

 

 状況に取り残されるゆま。

 <電気操作(Electrical Communication)>及び<操作収束(Electrical Overclocking)>で、思考能力、状況判断能力を高速化している群雲だからこそ。

 

 生き延びる事が出来た、僅か数分の攻防であった。

 

「笑えねぇな、ほんと」

 

 巨大なケーキらしき物の影に移動した群雲が、僅かに揺れる右袖を見ながら、いつもの調子で呟いた。




次回予告

状況の変化は著しく

状態の変化は忙しなく

魔人は対して、右腕以外の変化無く

分岐点は、刻一刻と変化して

選択肢を絞り込んでいく

九十四章 相性は最悪


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九十四章 相性は最悪

「な~ま~も~の~♪」
「本編の空気、ガン無視な呼び方だね」
「メタい!?」
「作中で、メタをネタにする君ほどじゃないよ」
「……やりにくいわ、こいつ……」
「で、前書きはこれで終わるのかい?」
「だから、メタいっての!!」
「それで、なにか用なのかい?」
「こいつ……。
 ま、いいや。
 聞いておきたい事があるんだけど」
「なんだい?」
「魔人は、オレ以外にいるか?」
「いないよ」


SIDE 群雲琢磨

 

「右腕かぁ……なんという戦闘能力ダウン」

 

 自分達を見失い、キョロキョロとしている魔女を遠目に確認し、オレは溜め息を一つ。

 痛覚は遮断しているから、後は<電気操作(Electrical Communication)>を応用して、無理やり止血っと。

 

「たく……ま……?」

 

 呆然と、右腕を失ったオレを見るゆま。

 

「理解したか?

 これが、オレ達の生きていく世界だ。

 こういった事が、平然と当然に起き得る世界だ」

 

 仕方がないと言えば、それまでではある。戦闘経験の浅すぎるゆまには、この光景はちょいと刺激的過ぎるかもしれない。

 だが、仕方がないから死ぬとか、笑えない事をする気もない。

 

「これが、オレで良かったな。

 お前だったら、頭からパックンチョだぞ」

 

 ゆまのSG(ソウルジェム)は“首の後ろ”にある。下手すりゃ噛み砕かれて、終焉だ。

 そう言う意味では、オレの右腕だった事は、決して不幸な事だとも言い切れない。

 

「さて、どうするか……」

 

 止血を終えたオレは、魔女へと視線を向ける。相変わらず、こちらの位置は把握出来てないらしい。

 

 あの魔女、かなり速い。最初から迎撃体勢ならともかく、それ以外の状態では、どうしても大振りになるゆまでは、相性が良いとは思えない。ゆま自身の経験不足も、それを加速させる。

 かといって、オレとの相性も良くはない。弾丸が弾かれた以上、これ以上の使用は無駄。かと言って下手に攻撃をしても、脱皮してしまう。

 そうなると、日本刀やナイフで切り裂くのが、有効そうでもあるが……右腕が無い以上、それを試すのも難しいし、通用しなければ喰われて終わり。

 

 あれ? 詰んでね?

 

「先輩達が気付いていないとも思えない。

 なら、到着まで時間を稼ぐのが得策か?」

 

 オレは見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)の一員だ。独りで戦う訳ではない。

 なら、オレがすべき事は“後に繋げる事”だ。先ほどのゆまじゃないが、バトンを渡せればいい。

 

「ゆまはここで、先輩達を待ってろ」

 

 言いながら、オレは再び<操作収束(Electrical Overclocking)>を発動させる。

 

「ま、まって」

 

 ゆまの言葉に、オレは首を振る。

 

「いいか、ゆま。

 重要なのは魔女を倒す事以上に“オレ達が生き残る事”だ。

 先輩達は、間違いなくここに向かっているだろう。

 辿り着いた先輩達を、オレ達の死体が出迎えたんじゃ、意味が無い」

 

 なら、どうするか?

 簡単な事だ。どちらかが囮になって、時間を稼げばいい。

 では、どちらがなるか?

 答えは決まりきってる。

 

「そして、先輩達が来たとしても“勝てるとは限らない”のが、魔女との戦いだ。

 なら、先行しているオレ達に何が出来る?」

 

 判断を誤る。それは仕方がない事。すべての事象に、答えが用意されている訳じゃない。

 それを知るのは往々にして、終わってからの事。

 では、どう判断するか?

 

「少しでも、魔女の情報を得て、後に繋ぐ。

 なら、戦う者と観察する者に分かれるのが妥当」

 

 <操作収束(Electrical Overclocking)>による高速移動が可能なオレが前に出る。

 まあ、やってる事は巴先輩と二人だった時と、対して違いは無い。

 

「そして、ここが結界内である以上、先輩達がここに辿り着いた時。

 無傷である保証も無い。

 なら、魔女を相手取るべきは誰だ?

 先輩達を、迎えるべきは誰だ?」

 

 オレには、他人“だけ”を対象にした魔法は使えない。

 時間停止ですら“自分が動く”事を大前提としている。

 そう言う意味では、オレが最も“非協力的”だと言える。

 

 対して、ゆまの本質は違う。オレとは真逆だと言える。

 四肢切断を、一瞬で治すほどの強力な治療魔法。

 ハンマーと、そこから発生する衝撃波。

 

 ゆまの魔法特性は、おそらくは『守護』だ。

 強力な治癒能力と、襲い来る危険を遠ざける為の衝撃波。

 守る事に特化していると言っていい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 故に、オレとの相性は最悪だと言える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分に特化したオレと、自分以外に特化したゆま。

 さて、先輩達が来るのなら、万全の状態で残るべきはどちらか?

 

「バトンを持ち、渡すのはゆまの役割。

 なら、バトンを取られないように立ち回るのが、オレの役割だ」

 

 だったら、オレの治療は後回しにするのが妥当だろう。

 オレを治療した結果、先輩達の治療が出来ないのでは意味が無い。

 

「魔女を観察して、それを伝えるのがゆまの役割。

 魔女と戦い、疲弊させるのがオレの役割だ」

 

 そしてオレは、口の端を持ち上げながら言った。

 

「大好きなキョーコの為に、大嫌いなたくまを利用してみせな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 呉キリカ

 

 一仕事終えた私は、遠くからそれを見ていた。

 緑の服を着た、白髪の少年。織莉子の言っていた殲滅屍(ウィキッドデリート)

 一緒にいるのは、緑を基本とした、猫を連想させる服装の魔法少女。

 

『絶対に逃げなさい』

 

 織莉子はそう言っていた。私が彼女の指示を守らない理由は無い。

 でも、魔女に右腕を食い千切られる程度の魔人に、なぜ織莉子はあそこまで警戒するのか?

 

「私の魔法なら、逃げるのは楽。

 織莉子の指示がある以上、戦わないのは、うん、当然のこと」

 

 見つかったら、厄介なことにもなる。私の存在から、織莉子まで辿り着かれるのだけは、絶対に避けないといけない。

 

「見つからない程度に、うん」

 

 私が魔女結界を去るのは、もう少し後になりそうだ。




次回予告

弱肉強食

この星のルール 生命のルール



食物連鎖

生命のルール 生命のレール












魔女と魔法少女























九十五章 天敵


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九十五章 天敵

「な~ま~も~の~♪」
「またかい?」
「基本的に、前書きの会話は、あってもなくてもいいんだけど」
「メタいね。
 今に始まった事じゃないけど」
「伏線仕込んでも良いかなぁ?」
「それを、僕に聞くのかい?」

「「わけがわからないよ」」

「最近、オレも口癖になってきたんだが、どうしてくれる!!」
「僕のせいなのかい?」


SIDE 千歳ゆま

 

「ゆまちゃん!」

 

 ゆまの名前を呼ぶ声。そちらを向くと、マミおねえちゃんとキョーコが、走ってくるのが見えた。

 

「よかった……無事みたいね」

「うん」

 

 マミおねえちゃんの安心した言葉に、ゆまは頷く。

 

「……琢磨?」

 

 キョーコは、魔女と戦っているたくまに視線を向けたまま、固まってた。

 大きいのにすばしっこい魔女と戦う、それ以上にすばしっこいたくま。

 

「あいつ……右腕どうした?」

 

 その言葉に、マミおねえちゃんもたくまを見て、息を呑む。

 

[キョーコ達が来たよ]

 

 ゆまは、手筈通りにたくまに念話を送る。

 

[待ちわびたぞ、割と切実に]

 

 念話が返ってきた次の瞬間、たくまは魔女を大きく蹴り飛ばしていた。

 

「おめぇに食わせるタンメンは無ぇ!!」

 

 ……タンメン?

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 魔女を蹴り飛ばした隙に、全力でゆまの元へ滑り込む。

 

「琢磨く「ちょい黙って」」

 

 何か……多分、右腕の事を言おうとしていただろう巴先輩を遮り、オレは覗くように魔女を見る。

 うん、キョロキョロしてる。逃げ出す事には成功していたらしい。

 

「さて、時間に余裕があるとは言えないんで、早々に策を練って、魔女を倒すぜ」

 

 電子タバコ……は、右手の中だったな。残念だ。

 

「何を言っているの!

 まずは、琢磨君の治療が最優先よ!」

「ゆまもなんで琢磨を治療しない!」

「はい、先輩達、落ち着け。

 予想出来た反応ではあるが、大声出すと魔女に見つかる。

 そのまま、なし崩し的に戦闘開始でも良いなら、止めないけど」

 

 オレの言葉に、先輩達は言葉を飲み込んでくれた。すっげぇ不服そうだけど。

 

「まあ、そうなったらオレは、全力で逃げるけどな!」

「威張るんじゃねぇよ!?」

「だから、静かにしないと見つかるって」

「てめぇ……」

 

 うん、ツッコミがいるとボケ役のオレが活きるよね。

 

「まあ、琢磨君は後で説教2時間コースとして……」

「なん……だと……」

「右腕を失っている異常事態でも、当人が通常運行なら、周りの私達もいつも通りに戻しやすい。

 そんなところかしら?」

 

 ……いや、それは好意的に見すぎじゃね?

 ほら、佐倉先輩が驚いた表情でオレを見てる。めっちゃ見てる。

 

「イヤン」

「きめぇ」

「oh……まあ、解ってたけど」

 

 小指を立ててみたら引かれた。うん、想定通りだが。

 

「そろそろ、作戦会議といきません?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE out

 

 群雲は、これまでの戦況を説明する。

 最初はぬいぐるみみたいだった魔女。ゆまの攻撃に抵抗する様子を見せなかった事。

 口の中から、今の魔女が現れた事。リボルバーの弾丸が弾かれた事。

 動きもかなり速く、充分に知恵を持っているだろう事。そのせいで右腕を喰われた事。

 

「おのれ、うなぎの魔女……!」

「うなぎ!?」

「せめて、蛇にしない?」

 

 鉄骨を叩き落した際、脱皮した事。抜け殻を盾にする程度には柔軟な対応を取れる事。

 

「まず、鉄骨がおかしいだろ?」

「以前のロードローラーほどじゃなくね?」

「どこから調達したのやら」

「もちろん、工事現場から」

「……説教1時間追加ね」

「まぁじでぇ~?」

「……はったおしてぇ……」

 

 まあ、余計な会話が混ざってしまうのは、仕方ない事である。原因は群雲だが。

 

「問題なのは、現状討伐出来そうな策が、浮かんでないって所か」

「琢磨でも、か?」

 

 魔法による補助がある群雲でさえ、策が浮かんでいない。その事実に杏子も怪訝な表情を見せる。

 

「相性的な問題も大きいな。

 特に、巴先輩にとっちゃ天敵と言えるほどに最悪だと思うぞ」

「確かに、聞いた限りだと、そうでしょうね」

 

 弾丸を弾いた事。これは、マスケットをメインにするマミも、同様の結果になる可能性が高い事を意味する。

 脱皮する事。これは、リボンによる拘束魔法を確実に抜け出す術を持っている事を意味する。

 

「……役に立たないわね、私」

「そりゃ、完璧超人じゃないからね。

 出来る事と出来ない事があるのは当然でしょ」

 

 僅かに俯くマミに、群雲はいつものように言葉を続ける。

 

「そして、それを補う為のコンビであり、チームだ。

 だからこそ、ここにいる4人が、見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)なんだし」

「ゆま、銃使えないよ?」

「役立たずが……」

「むっ」

「無駄に煽るんじゃねぇよ。

 良い事言ったと思った矢先にこれかよ」

「オレだからね」

「納得できる分、余計にイラつくわ!」

「落ち着いて、佐倉さん。

 この結界が病院の敷地内にある以上、あまり時間的余裕はないのよ」

「琢磨に言え、そう言う事は」

「理解してるに決まってるじゃん?

 むしろ、真っ先に時間に余裕がないって言ったじゃん?」

「……後でシバく。

 絶対にシバき倒す……」

 

 それでも、これが平常運転。見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)のいつもの雰囲気。

 たとえ、時間が無くても。メンバーの一人が大怪我をしていても。

 

 少なからず、孤独を経験した4人。今は、孤独じゃない4人。

 見滝原という場所に、集い、共に歩む事になった4人。

 

「作戦なら、あるよ」

 

 そして、この戦いにおいて。頭角を現す少女。

 

 千歳ゆま。

 

「ゆまと、キョーコと、マミおねえちゃんがいれば、あの魔女を倒せる」

「オレは!?」

「……フンッ!」

 

 群雲に対し、そっぽを向くゆま。この二人の仲が悪いのは、今に始まった事ではなく。

 この戦いにおいても、連携していた訳でなく。

 ただ“役割を分担していただけ”である。

 それ以上でも、それ以下でもない。

 それを、この子供達は理解しているのだ。

 

「話してもらえる?」

「マミ!?」

 

 そんな、ゆまの“作戦”を聞こうとするマミの対応に、杏子が驚く。

 

「魔法少女。

 それは、魔女を倒す者。

 ゆまちゃんも魔法少女なら、魔女を倒す為に作戦を考えたとしても不思議じゃないわ」

「っ!?

 でも!!」

「はい、佐倉先輩、おちつけ~」

「お前が言うと、むかつき倍増するんだが」

「理不尽な事言われた!?

 自覚してるけど!!」

「じゃあ、言うんじゃねぇよ!!」

「佐倉先輩が冷静なら、言う必要がないんだけどな」

「ぐぎぎ……」

「まあ、琢磨君への報復は後回しにしましょう」

「巴先輩の、まさかの対応に全オレが泣いた!

 オレ、独りだけれども!!」

「うるせぇよ!」

「……ゆまの作戦は?」

 

 そして、そのままいつもの空気。原因は群雲琢磨。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 佐倉杏子

 

「反対だ!」

 

 ゆまの作戦を聞いたあたしは、即座に声を上げた。

 危険だ。危険すぎる。そんなリスクを背負う意味がわからねぇ!

 

「うぅ……」

 

 あたしの言葉に、ゆまが泣きそうになりながら俯く。

 でも、これは譲れない。この作戦じゃ“ゆまが一番危険”だし“ゆまが成功しないと意味が無い”からだ。

 

「でも、有効かもしれないわ」

 

 意外な所からの、賛同の声。

 

「本気か、マミ!」

 

 思わず、掴みかかろうとしたあたしの視界に。

 

「左手だけじゃ取れない!

 取りにくい!」

 

 ショットガンから、弾を取り出そうとして、四苦八苦している琢磨が写る。

 

「なにしてんだ、てめぇは!」

「う わ ら ば !」

 

 反射的に蹴り飛ばしたあたしは悪くない。

 おかしな断末魔が聞こえた気がするけど、気にしない。

 

「なら、他に佐倉さんに策があるの?」

 

 琢磨を完全に無視して、マミがあたしに問いかける。

 それは……流石に出てこない。

 あたしにしてみれば、魔女に対する情報は、琢磨達からのものだけだ。

 それで、作戦を考えろって方が無理だろ?

 

「悔しいけれど、私にも策は無いわ。

 そして、琢磨君にも策が無い以上、ゆまちゃんの言った方法以外で、どんな手を打つの?」

 

 そうだ。マミもあたしと同条件。作戦があるはずない。

 そして、琢磨にも無い。残ったゆまだけが、作戦を思い付いた。

 

 でも。危険だ。危険すぎる。

 

「やっと弾を取り出せた」

 

 そして、お前はマイペース過ぎるだろ!

 思わず、蹴り飛ばそうとしたあたしの足を、琢磨は迷い無く。

 

「いい加減にしろよ、佐倉杏子」

 

 その言葉で、静止させた。

 その、鋭い左目で押えつけてくる。

 

「ゆまが大事なのは解るし、知ってる」

 

 ショットガンを腰の後に戻し、取り出した弾を地面に置いたまま。

 琢磨は鞘に収まったままの日本刀を取り出して、それをあたしの首に突きつける。

 

「一生、ゆまを守って生きていくか?

 一生、ゆまを戦わせずに、過ごしていくか?

 出来ないだろ?

 出来る訳ないだろ?

 それを知ってるからこそ、見滝原に来たんだろ?」

 

 あたしを見上げる魔人。放電する前髪。迸る黒い雷。

 

「魔法少女だ。

 巴マミも、佐倉杏子も、千歳ゆまも。

 性別が違うし、呼び方も違うが、オレも一緒だ」

 

 そして、その言葉が、あたしの心を穿つ。

 

「ゆまは、守られるだけの存在じゃない。

 だからこそ“最初に会った時に、オレに向かって来た”んだろう?

 オレも、煽りはしたが、決断したのはゆまだろう?」

 

 そして、打ちのめされる。

 

「ゆまは、魔法少女だ。

 魔女を倒す者だ。

 守られる側ではなく、守る側の存在だ」

 

 こいつは、あたし以上に“ゆまを、ゆまとして”見ているんだ。

 

 年下の少女ではなく。魔女に襲われた子供ではなく。

 面倒を見るべき存在ではなく。あたしのせいで人生を台無しに(契約)してしまった女の子ではなく。

 

「魔女を倒す。

 その戦いが容易じゃないことぐらい、ゆまだって理解してるだろう。

 むしろ、理解できてないなら、不合格以前の話だ」

 

 琢磨は見ている。ゆまを、ゆまとして。

 

 “それ以外の情報すべてを、放棄して”

 

「ゆまは契約した。

 魔法少女になった。

 魔女と戦う事になった。

 今、魔女と戦う為に作戦を考えた」

 

 あたしはどこかで、ゆまを“守らなきゃいけない存在”として、見ていた。

 だからこそ、面倒を見ようと思ったし、契約した時は激昂した。

 

 自分以外の誰かに願った結果、あたしは自分以外を失った。

 

 だから、自分以外(あたし)の為に願った(契約した)ゆまに、あたしみたいな絶望を味わって欲しくなかった。

 

 琢磨は見ない。そんな情報を、切り捨てる。

 

 だからこそ“ゆまを、自分と同じ立場(魔法少女)として”見る。

 そして、判断する。

 

 だからこそ、あいつは『不合格』だと言ったんだ。

 失格ではなく、不合格。

 

「その作戦しか、打つ手が無いなら。

 逃げるという選択肢が無い以上、それでいくしかない」

 

 こいつは、最初から認めてたんだ。

 “魔法少女 千歳ゆま”を。

 一般人なら、そもそも“不合格にすら、ならない”んだ。

 そして“否定(失格)にする”事もないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして、その作戦しか打つ手が無いなら。

 成功させる為に全力を尽くすのが、仲間なんじゃないのか?」




次回予告

4人での魔女狩り 4人での戦い

1人でもなく 2人でもなく 3人でもない

4人いる それが見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)

故に だからこそ トドメはこうでなければ



九十六章 群雲版ティロ・フィナーレ


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九十六章 群雲版ティロ・フィナーレ

「な~ま~も~の~♪」
「仏の顔も三度までという言葉を知っているかい?」
「二度ある事は三度あるって、有名だよね」
「この二つの言葉が、矛盾を内包する人類を表してるよね」
「同時に、人間の自分勝手さを象徴してるよな」
「……君は、誰の味方なんだい?」
「オレ」


SIDE out

 

 お菓子の魔女。決して、蛇の魔女でもうなぎの魔女でもない。

 しかし、それを知る術を、魔法少女達は持たない。

 それでも、解っているのは、戦う事。戦わなければならない事。

 

 そして今、千歳ゆまがゆっくりと、真っ直ぐに魔女に向かって歩いていく。

 

 佐倉杏子は、少し離れた場所で、祈るように膝を突いている。

 

 巴マミは、作戦の為に移動し、群雲琢磨がそれに着いて行く。右腕の治療は、まだ行っていない。

 

「休んでていいのよ?」

「試したい事があるし、最悪<オレだけの世界(Look at Me)>でリカバリしなきゃいけないんでね。

 まあ、時間停止中は魔法が使えないから、間違いなく激痛に悶える事になるだろうけど」

 

 右腕を食い千切られながらも、通常通りに振舞えるのは、本来感じる激痛を<電気操作(Electrical Communication)>で、強制的に遮断している為だ。

 時間停止を行えば、その魔法も強制的に解除される。その後の状況は容易に想像出来るだろう。

 

「それでも琢磨君なら、躊躇い無く使うんでしょうね」

「……前から思ってたんだけど、オレを美化しすぎじゃありませんかい?」

「私には、琢磨君が自分を過小評価し過ぎてる様に見えるわよ?」

「はっはっは、まさかぁ~」

 

 予定の位置に辿り着き、巴マミは魔女を注視する。

 群雲はその横で、先ほど取り出したショットガンの弾を左手に持ち、準備(チャージ)を開始する。

 

「試したい事って、電磁砲(Railgun)なの?」

「それの、もう一つ上」

 

 マミの質問に、簡潔に答えて、群雲は視線を魔女へと向けて、告げた。

 

「では、闘劇をはじめよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真っ直ぐ進んでくるゆまを確認し、魔女は当然狙いを定める。蛇のように近付き、その口を大きく開けて、ゆまを喰らう為に迫る。

 その動きは俊敏。まさに蛇。

 だが、対応できない速度ではない。

 

 ゆまの武器はハンマーだ。どうしても大振りになる。

 

 だが、対応できない訳じゃない。

 突っ込んでくると解っているなら、迎撃する為に必要な事も、おのずと判断できる。

 

 ゆまは見ていた。右腕を失った魔人と、魔女の立ち回り。それを見続けていた。

 故に、魔女の速度も把握している。

 

「たぁーーーー!!」

 

 ゆまは、横薙ぎにハンマーを振る。

 魔女も馬鹿ではない。迎撃するだろうゆまの行動を読み、ハンマーに当たらないように迂回して迫る。

 それに対し、ゆまの取った行動。

 それは、横薙ぎの勢いのまま。

 

 その場で回転する事だった。

 

 ゆまのハンマーは、衝撃波を発生させる。

 重要なのは、ハンマーがぶつかった際に衝撃波が起きるのではなく、ハンマーから衝撃波を発生させるという事。

 回転するゆま。左回りに回転するハンマー。発生する衝撃波も左方向へ。

 それは、見えない竜巻となり、魔女の体を流していく。

 左に魔女を弾き飛ばし、追撃の衝撃波で、さらに弾き飛ばす。

 そして、蛇のように長い魔女の体が、完全に浮いた所で。

 

 杏子の魔法が発動する。

 

「串刺しになりなっ!!」

 

 地面から突き出された槍が、魔女の体を貫いて、その場に固定させる。

 真っ直ぐに貫通した何本もの槍は、魔女の脱皮を完全に妨害する。

 そう、完全に貫いたまま、槍を抜く事無く固定してしまえばいいのだ。

 

 後は、トドメの一撃。それで勝利。

 

 ゆまの衝撃波で、魔女の体を浮かす。

 その状態の魔女を、杏子の槍で貫き、固定する。

 最後に、大火力の一撃。

 

 これが、ゆまの作戦だった。

 

 この作戦において、最重要なのは一番最初。

 ゆまが、魔女を弾き飛ばさなければ、そもそも作戦が始まらない。

 そこでゆまは、自分一人で魔女に向かい、迎撃する形を選んだ。

 それこそが、杏子の反対した理由。弾き飛ばせなければ、そのまま魔女に食べられてしまってもおかしくはないからだ。

 大振りになる為、振り抜いた後には隙が出来る。弾き飛ばせなかったらその隙に食べられて終了。そうなってもおかしくはなかった。

 

 ゆまはそれを“振り続ける=回転する”という方法で、補う事を思い付いた。

 振り抜いた後に隙が出来るのなら、振り抜いた状態になるのを遅らせれば良い。

 

 ゆまは見事に、魔女との戦いで作戦を発案し、実行して見せた。

 

 

 

 

「さて、最後の仕上げね」

 

 串刺し状態の魔女。その顔の前に位置取るのは、巴マミ。

 

「狙うのは、口の中。

 右腕と一緒に、手榴弾を食わせて爆発した際には、魔女は悶えてたからな。

 多分、一番効果的だ」

 

 マミの横で、準備(チャージ)の終わった弾丸を、ショットガンに装填した群雲が告げる。

 

「初めての魔法。

 その実験台になってもらうぞ」

 

 そして、左手に持つショットガンが、放電を開始する。

 

準備(チャージ)した弾丸を装填したショットガンを、さらに準備(チャージ)するの!?」

 

 流石に想定外だったらしく、マミが驚いている。

 それに対し、群雲は口の端を持ち上げてみせる。

 

「見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)が4人になった時。

 群雲琢磨は、過程を仮定する。

 2人の時は、オレが前に出て、巴先輩が後ろからティロるのが最善の形だった。

 でも、4人になると、そうはいかない。

 特に、巴先輩は広範囲の魔法を使う機会が増えるのではないか?

 ならば、必要になるのは何か?

 巴先輩のノートを見て。

 ゆまの戦い方を直に味わい。

 佐倉先輩との共闘での記憶を呼び起こし。

 自分に必要なモノを模索した。

 それが、これだ」

 

 必要なのは、高火力。マミが援護に回った際に、換わりとして終焉を告げる魔法。

 必要なのは、遠距離魔法。自分の代わりに前に立つだろう、杏子とゆま。

 そして、思いついたのが、この方法。

 

 充電した弾丸を、充電したショットガンで撃ち出す、電磁砲(Railgun)の高火力化。

 

 

 

 

 

 群雲版ティロ・フィナーレ『炸裂電磁銃』

 

 

 

 

「まあ、どうなるかは解らんけどね」

 

 その言葉に、脱力するマミを、誰が責められようか?

 

「でも、巴先輩のトドメに便乗する形なら、安全に試せるかなぁ?

 とか、考えたんですけど、ダメ?」

「……ダメじゃないわよ。

 むしろ、安心したわ。

 ちゃんと、ゆまちゃんの事を考えてくれていたのね?」

「いや、その結論はおかしい」

「そうかしら?

 4人で戦う状況、それを仮定して過程したんでしょ?

 メンバーに、ちゃんとゆまちゃんを加えていたんでしょ?」

「そりゃ、リーダーの指示ですからね」

「ふふっ。

 そう言う事にしといてあげるわ」

 

 そして、二人は発動する。

 見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)。初期メンバーが同時に告げる。

 

 巨大化したマスケットによる高火力。

 充電したショットガンによる高火力。

 

 それは、戦いの終焉を告げる祝砲。

 

 

 

 

 

「「ティロ・フィナーレ!!」」




次回予告

戦い終わって、めでたしめでたし

そんな筈はない そんな事はない

むしろ、ここからハジマルのだ

むしろ、ここからオワリに向かうのだ

望むモノを、譲れないモノ達の

愚かで愛おしい、喜劇にしかなりえない戯曲が





九十七章 それ以外要らない


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九十七章 それ以外要らない

「群雲君の魔法講座第一回『炸裂電磁銃』パート1!
 ぱちぱちぱち~」
「……なんか始まったぞ、おい……」
「最初のゲスト(犠牲者)は、佐倉先輩です」
「……突っ込まないぞ」
「まあ、前書きで長々と引っ張っても無意味だし、サクッといきましょう」
「で、なにをするんだよ?」
「群雲版ティロ・フィナーレの説明会。
 いかにして、オレが、オレだけのティロ・フィナーレに至ったかを説明しようかと。
 まずは、オレの扱う電磁砲(Railgun)について」
「あたし、いるか?」
「聞き手は必要よ?
 まあ説明を開始しますが、オレの電磁砲(Railgun)は“魔力を纏わせた弾丸を投げる”のが最初だった」
「投げたのかよ」
「ピッチャーのように、振りかぶって投げてました。
 それでも、通常の射撃より速いあたり、魔法ってすごいよね。
 で、頑張った結果、魔力を纏わせる=準備(チャージ)した弾丸を指で弾く事で、同等の弾速になるまでになりました。
 ある意味、完成したと言えます」
「じゃあ、普通の拳銃いらないんじゃ?」
準備(チャージ)が必要だから、攻撃速度と言う点では、普通に銃を使った方が速かったりする。
 で、ある日、群雲君は考えました」
「なにを?」
「ショットガンで使う散弾を電磁砲(Railgun)で使えば、広範囲がカバー出来るのでは?」
「ふむ……」
「で、試しに準備(チャージ)した結果。
 手元で散弾が電磁化して破裂。
 オレが大惨事」
「……よく生きてたな、おい……」
「魔人だからね。
 流石に自分で自分を蜂の巣にするとは、夢ぐらいでしか考えてなかった」
「そりゃそう……いや、ちょっと待てお前」
「で、頑張って電磁砲(Railgun)のように、魔力を纏わせるのに最適な量を模索した結果」
「結果?」
「魔力を込める+何かしらの衝撃で、炸裂するようになった」
「……それって」
「うん、ぶっちゃけ手榴弾あたりを投げてた方がまし」
「だめじゃねぇかよ」
「で、次回に続きます」
「続けるのかよ、これ!?
 てか、充分なげぇよ!!」


SIDE 巴マミ

 

 2人のティロ・フィナーレが、魔女を撃ち抜き。

 起きる爆発が、命中を証明し。

 私達の勝利を、確定させる。

 

「流石の威力ね、琢磨く」

 

 振り返った私の視界に。

 

 琢磨君はいなかった。

 ……?

 

 辺りを見回した私は。

 ケーキみたいな壁に、垂直に頭から刺さっている琢磨君を見つけた。

 ……なにしてるの?

 

 作戦が成功し、喜んでいるゆまちゃんと、仕方なく、でも嬉しそうに頭を撫でる佐倉さんを尻目に、私は琢磨君の元へ。

 

「む~! むむぅ~!!」

 

 じたばたともがいている琢磨君の足を掴んで、勢い良く引っ張り出す。

 

「ぶはぁ!!

 いや~、焦った!」

「なにしてるのよ?」

 

 呆れる私に、琢磨君は頬を掻きながら言った。

 

「反動、考えてなかった」

 

 ……ぇー。

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 いや~、びっくりした。引き金引いた瞬間、景色がすげぇ勢いで流れていったぜ。

 要改良だな、これは。

 

「魔女は?」

「倒したわ」

 

 オレの質問に、巴先輩が笑顔で答えてくれる。

 そいつは良かった。これで、まだ生きてますって言われたら、もう逃げるしか選択肢がなくなる。

 

「後は、GS(グリーフシード)を回収して、撤収かな」

「そうね。

 勝利の余韻に浸りたいけれど、結界が晴れたら、そうも言っていられないものね」

 

 巴先輩の手を借りて、立ち上がったオレは。

 

 “とんでもないものを見つけてしまった”

 

 勝利の余韻を吹き飛ばし、頭が強制的に冷やされる。

 

「……どうしたの?」

 

 突然、オレの雰囲気が変わった事に、巴先輩が訝しげに声をかけてくる。

 それに対して、オレは冷静に言葉を返す。

 

「刺激の強いモノがある」

 

 いや、でも、ありえるのか?

 そこにある。ありえないわけじゃない。

 

「!?」

 

 巴先輩も見つけたようだ。息を呑む音がする。

 

[佐倉先輩?]

[念話?

 どうしたんだよ?]

[訳は後で話す。

 ゆまをこちらに近づけるな]

 

 念話を送りながら、オレは“ソレ”に近付く。

 見る。電気信号を、脳が受け取る。それを完全に記憶する。

 

「どう?」

()()()()()な」

 

 オレの後ろで、同じモノを見ている巴先輩の言葉に、振り返る事無く答えながら、オレは“記録”を続ける。

 

 だが。

 

「!?」

 

 結界が晴れる。当然だ、魔女がいなくなれば、結界も無くなる。

 当然のように“ソレ”も、結界と共に消えていく。

 

 そして、オレ達は病院の駐輪場に戻ってきた。

 

「……巴先輩」

 

 オレは、変身を解除して。

 

「いってぇ~!!」

 

 右側からの激痛に蹲った。そうだ、右腕が無いんだった。

 慌てて<電気操作(Electrical Communication)>で痛覚を遮断。

 くそぅ、未変身状態じゃ、完全に消せないでやんの。

 

「だ、大丈夫!?」

 

 慌てる巴先輩と、近付いてくる残りの2人を視界に捕らえながら、オレはそれでも、口の端を持ち上げながら告げた。

 

「勝利の余韻に浸る前に、考えるべき事が出来たみたいだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 呉キリカ

 

 あ~、びっくりした。

 銃を撃った殲滅屍(ウィキッドデリート)が、こっちに飛んでくるとは思わなかった。

 見つかってはいない筈。うん、頭から壁に突っ込んだし。

 でも。

 

「見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)か……。

 織莉子に言っておかないと」

 

 織莉子は、殲滅屍(ウィキッドデリート)を警戒してる。私に逃げろと言うほどに。

 でも、それほど危険な存在なのかな? 魔女に右腕を食い千切られちゃう様な子だよ?

 

「まずは、織莉子に会おう。

 うん、織莉子に会わなきゃ」

 

 織莉子が指示を出してくれれば良い。私はそれを、完璧に、忠実に。

 それでいい。それ以外要らない。

 私の世界に、私と織莉子以外は要らない。

 だから私は、無限に尽くす。美国織莉子に、無限に尽くす。

 それでいい。それ以外要らない。

 

「きっと、織莉子が待ってる。

 うん、会いに行かなきゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 美国織莉子

 

 私は、未来を観る。それが、私の得た力。

 私は、絶望の未来を知る。それが、私の得た力。

 なら、私はどうするの? それが、私の生きる意味。

 

「何度、観ても変わらないわね……」

 

 魔女は、魔法少女の成れの果て。

 ならば、見滝原から始まる滅亡。それを行う魔女が“魔女になる前に”殺す事が出来るなら。

 世界は、最悪を回避出来る。

 

 何度も観た、世界の終焉。始まるのは見滝原。

 そう。

 

 

 

 

 

 “始まるのは、見滝原”

 

 

 

 

 

 終焉を告げる、最悪の魔女。何故、見滝原から始まるのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【見滝原で、生まれたから】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なら、私が行うべきは、なに?

 見滝原から、あの魔女が生まれた。あの魔女は、見滝原で生まれた。

 

 

 

 

 

 

 すなわち“見滝原の魔法少女が、あの魔女の原型”なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は未来を観る。それが、私の力。

 

 崩壊する見滝原。瓦礫の山。終末の風景。

 

 

 

 

 

 そこにいるのは、白い悪魔。魔法少女を産む元凶。

 

 そこにいるのは、黒髪の少女。膝を突いて俯く、魔法少女。

 

 そこにいるのは、白髪の少年。終焉で嗤う、独りの魔人。

 

「群雲琢磨……。

 それが、殲滅屍(ウィキッドデリート)の名前……!!」

 

 見滝原の魔法少女が“アレ”である可能性が高い。だから私は、キリカにお願いして“見滝原に存在する魔法少女を狙ってもらう”事にした。

 

 見滝原の魔法少女。

 

 その筆頭こそが、群雲琢磨の現在地。

 

 

 

 

 

 

 見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)

 

 

 

 

 

 

 見滝原で活動する魔女狩りチーム。トップレベルの実力者。人々の為に魔女を狩る者と、共にあるのは現状唯一の魔人。

 

 群雲琢磨の存在だけなら、容易に掴む事が出来た。

 唯一存在する、少女じゃない契約者。

 有名になるように“先導していた”のだから、当然なのだけれど。

 

「自分が、少女(ほか)とは違う事を理解している。

 その上で、その事実を利用してみせる、(したた)かな少年」

 

 そして、私の観た未来。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界の終焉で嗤う、殲滅する屍

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさに“魔法少女を削除する者(ウィキッドデリート)”ね」

 

 世界に終焉を告げるモノ。

 世界の終焉で嗤うモノ。

 

 どちらも認めない。両方を排除する!

 

 そして、私は力を使う。願いで得た能力で、未来を観る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の観た未来で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は、殺人を成し遂げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

物語が動き出す 絶望に向けて

物語が動き出す 終焉に向けて

物語が動き出す 閉幕へ向かって




命の終わりが、始まりを告げる

必要なのは、情報の分析 事実の認識 異物の排斥

必要なのは――――――――――












九十八章 正座


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九十八章 正座

「群雲君の魔法講座第一回『炸裂電磁銃』パート2!
 ぱちぱちぱち~」
「……」
「今回のゲスト(犠牲者)は、ゆまです」
「……罰ゲーム?」
「良くご存知で」
「ぇー」
「まあ、さくさくいきましょう。
 弾丸を使用した電磁砲(Railgun)がある程度形になった群雲君は、ある日、疑問に思いました。
 “銃本体を準備(チャージ)したらどうなるのだろう?”
 思い立ったの祝日! さっそく試してみよう!」
「ゆまでも、なにかがまちがってるってわかるよ」
「オレだからね。
 で、試しました、最初はリボルバー」
「どうなったの?」
電磁砲(Railgun)六連射!」
「おぉ~!」
「……準備(チャージ)に時間が掛かりすぎます。
 具体的には、電磁砲(Railgun)1発分の12倍ぐらい」
「おぉ~?」
「加えて、オレのリボルバーは、構造上弾込めに時間が掛かります。
 詳しくは幕間を読め!」
「メタい……って言えばいいの?」
「それがゲストの役割です。
 で、次に両腋にある自動拳銃(オートマ)で挑戦。
 さて、ゆまちゃんや、オートマチック拳銃の簡単な構造は知ってる」
「知らないよ」
「チッ……詳しくは調べてもらうのが手っ取り早いけど。
 簡単に言うなら、弾倉を装着して、遊底(スライド)を引いて最初の弾薬を薬室(チェンバー)に送り、引き金を引く。
 反動で遊底が引かれて、空になった薬莢を排出。
 元に戻る際に次の弾丸が弾倉から薬室へ。
 以下、弾切れまで繰り返し」
「ふ~ん」
「で、充電した状態で弾倉を装着して、遊底を引いたら」
「引いたら」
「本来、空薬莢が出る所から、全弾電磁砲(Railgun)化して飛んでった。
 まさに、ポポポポ~ン」
「危なくないの?」
「危ないよ。
 それ以上に、呆然としたけど。
 なので、オートマじゃ使えないと判断。
 さて、ここまで来て、群雲琢磨は仮定を仮定する」
「仮定しかしてない」
「水平二連式ショットガンを準備(チャージ)した場合どうなるか?
 多分、銃内部で散弾が電磁砲(Railgun)化して弾ける」
「あぶないよ、ぜったい!?」
「うん、挑戦する勇気は無い」
「……えっと……つまり?」
「銃本体を準備(チャージ)すること自体が、危険だと判断。
 計画は頓挫しました」
「たくま、ばかなの?」
「失敬な! 否定はしないけども!!」
「しないんだ……」
「次回に続く!」
「またっ!?」


SIDE 佐倉杏子

 

「腕が治ったよ! やったねゆまちゃん!!」

「うざい!」

「ぱわっ!!」

 

 マミの住むマンションの一室。そんな言い方も成立しない。

 あたしもゆまも琢磨も。ここで生活している。

 でも、あたし達の家なんて言う気になれない。

 

「右腕が治って、良かったわね、琢磨君」

「そうだね!!

 テンション上がったね!!!!

 だから、このまま、ぱ~て~でもしませんか?」

「そこにぃ!!!

 正座ぁぁぁぁ!!!!」

「hai!!!」

 

 やばい、マミがガチでキレてる!?

 

「言いたい事は、色々あるのよ?

 えぇ、数え切れないほど、あるのよ?

 解ってるわよねぇ、たくまくぅ~ん?」

「ゆまとの仲の話ですか?」

「NoNoNo!」

「巴先輩に黙って、夜中に抜け出した事ですか?」

「NoNoNo!」

「も……もしかして……両方ですかぁ~!?」

「YesYesYes!]

 

 ゴメン、ノリが解らない……。

 

「佐倉先輩が、ガチで引いている……!?

 これって、かなりレアな状況じゃ」

「琢磨君はぁ!!

 セイザァァァ!!」

「Yes,Ma'am!」

「いい気味」

「……ゆま……。

 まあ、解らなくもないけど」

「味方がいない事実に、全オレが泣いた!

 オレ、独りだけども!!」

「ゆまちゃんもぉ!!

 正座あぁぁぁぁ!!」

「えええぇぇぇぇ!?」

「いや、日も落ちてる訳だし、少し落ち着けよ、マミ」

「貴方達の仲が険悪なのは知っているわ。

 でも、私達は」

「既に、始まってる!?」

 

 マミがここまで感情的になるのって、本気で珍しい。

 あたしの中のマミは、強くて頼りになる、憧れの先輩。

 あたしの家族の件で、喧嘩別れした後。代わりの相棒を見つけられてたらいいな。そんな風に考えていたけど。

 その立場に、今、立っているのは一人の少年。自分の事しか考えない魔人。

 がっかりした。それは素直な感想。安心した。それも素直な感想。

 

 “こいつがマミと一緒にいていいなら、あたしも?”

 

 もちろん、ゆまの事もある。どちらかと言えば、そちらの理由のほうが大きい。

 でも、マミよりもあたしの考えに近い琢磨が、見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)として、マミと一緒にいる事実。

 あたし以上に、自分の為に生きている琢磨が、マミの相棒である現実。

 

 思ってしまったんだ。戻りたいと。

 考えてしまったんだ。帰りたいと。

 

「そもそも、どうして琢磨君は自分の事しか考えないのっ?

 君の魔法が、どれだけの人を救っているか。

 君の魔法で、私がどれだけ助けられたか。

 理解できない訳じゃないでしょっ!」

「それって、結果論じゃない?

 オレ、自分の為以外に魔法を使った事ないよ?

 自分以外を対象にした魔法って、オレは使えないし」

「口答えしないっ!!」

「理不尽だ!?」

 

 思えば、あたしはいつだって自分の為だった。

 家族が健在の時ですら。自分の都合でマミに押し掛けてた気がする。

 マミと別れて、独りになって。自分の情けなさに閉口したものだ。

 

「ゆまちゃんも、どうして琢磨君と仲良く出来ないのっ?

 私達は、皆で魔女を倒す。

 その為に手を取り合っているんでしょ?」

「でも、たくまはゆまの事、役立たずって言った!」

「だからって、そのままで良い筈がないわ。

 実際、琢磨君はゆまちゃんの事を考えに含めた上で、動いていた。

 でなきゃ、一緒にパトロールをする事が、まずありえない事でしょう?」

「いや、オレ自身気にしてないし、今言う事でもない気が」

「口答えしないっ!!」

「またっ!?」

 

 マミに対する負い目。ゆまに対する責任。

 そんなあたしの心を、琢磨は平気でかき乱す。

 本人に自覚は無いだろう。自分の為に生きる奴が、そこまで考える筈が無い。

 それは、さっきのマミと琢磨の会話が証明してくれてる。

 

「大体、蒼色のラーメンって何なのよっ!?」

「もう、説教の方向がおかしいよね!?」

「蒼色のラーメン……? スープが蒼?」

「麺は水色だったな」

「貴方達はぁ!!

 正座ぁぁぁ!!」

「「はぁい!」」

 

 ……シリアスなあたしに謝れよ、おまえら……。

 

「わけがわからないよ」

「普通にいるんじゃねぇよ、キュゥべえ」

「琢磨に呼ばれたから来たんだけど」

「……こんな状態でも、真面目に考えてるあたり、何者だよ、あいつ……」

「僕らにとっては、琢磨は“異物”だね」

 

 ……異物?

 

「どうして朝ごはんが紅いトーストなのよ!!」

「解ったら改善してるからっ!

 新しい料理に挑戦する度に、色がおかしくなるオレの身にもなってっ!!」

「ゆまは、関係ない「せいざぁぁぁぁ!!」ふえぇぇぇッ!?」

 

 収拾つかないが……はっきりさせるべき事がある。

 

「蒼色ラーメンの味は?」

「ビビンバの味がしました」

「……紅いトーストは?」

「カレーうどんの味でした」

「てめぇはもう、料理をするんじゃねぇぇぇぇ!!」

「ちなみに、青色麺は、し」

「だまれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE キュゥべえ

 

 魔法少女の遺体。魔女結界の中にあった、考えにくい物体。

 琢磨からの念話で呼び出された僕が見たのは。

 説教するマミと、正座する琢磨とゆま。少し離れて眉間をおさえる杏子。

 うん、想定外だね。

 

「足が痺れているかと思った?

 ざんねん! <電気操作(Electrical Communication)>で動けるんです!」

 

 言いながら、電子タバコを片手にベランダに出た琢磨と、肩で息をする魔法少女達。

 

 うん、わけがわからないよ。

 

「わざわざ僕を呼んでまで、何の話なんだい?」

 

 もちろん、僕は琢磨に問いかける。マミ達は息を切らしているし、琢磨との会話が有意義なのは、これまでの実績から理解しているからね。

 

「魔法少女狩り。

 便宜上、そう呼称するが。

 お前が“知らない筈がない”んだよ」

 

 なるほど。とうとう琢磨達も、その存在に気付いたんだね。

 口から煙を吐き出す琢磨と、それを見つめる僕の視線が交錯する。

 

[余計な情報はいらない]

[魔法少女システムの事かい?]

[魔法少女が魔女になる。

 この“最大の絶望情報”は、今、明かすべきではない。

 切り札は、最も効果的な状況で切らないと、効果半減だぜ?]

[その情報を得た上で、今も生きている琢磨が言うなら、そうなんだろうね]

[それに、オレの見た“魔法少女の屍”は“気付いていない者”によるものだったぞ]

 

 ヒトでありながら、システムを理解した上での対話。それが、どれほど貴重な事か、理解してるのかい?

 

「では、過程を仮定していこうか」

 

 僕らにとって“異物”と呼ぶに相応しい少年は、そう言いながらも、口の端を持ち上げていた。  




次回予告

本題 本質 本意

人であるが故に 人であるからこそ

考える 自身の知恵を持って 答えを探す






その知恵こそが、最初の罪と気付かずに――――――――――














九十九章 魔法少女は、魔法少女に


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九十九章 魔法少女は、魔法少女に

「群雲君の略! そのさん!!」
「一気に端折ったわね」
「犠牲者は巴先輩、さくさくいくよ!」
「ルビタグですらないの!?」
「結局、愛用する銃弾に適応する弾丸以外を、無駄にしないように。
 そして、通常射撃以上の弾速と貫通力を求めて。
 完成したのが『電磁砲(Railgun)』です」
準備(チャージ)が必要だから、あまり使わないわよね?」
「ぶっちゃけ電光球弾(plasmabullet)の魔力消費を抑える代わりに、実弾を使用しているようなもの」
「一長一短なのね」
「魔女撃破という点においては、巴先輩の『ティロ・フィナーレ』の方が抜群に上」
「だからこそ、佐倉さん達が来るまでは、私が後で琢磨君が前だったのよね」
「でも、佐倉先輩達が来た時に、群雲君は考えた。
 内容は九十六章を参照」
「メタいわね」
「説明が楽なんだもの。
 で、弾丸の準備(チャージ)を試して、銃本体の準備(チャージ)を試して。
 両方同時を試していない事に気付く」
「あら? 琢磨君ならすぐに試してそうだけど」
「銃本体に成功例が無かったのが、原因だね。
 ギリギリでリボルバーだけど、ぶっちゃけ普通に電磁砲(Railgun)を使った方が効率良かったし」
「で、検証して、実践で試したのね」
「……」
「琢磨君?」
「ぶっつけ本番だったり」
「えぇっ!?」
「リボルバーの場合、電磁化した弾丸を、電磁化して撃ち出す。
 オートマの場合、まず薬室まで弾丸がいかない。
 上記二つは、容易に想像出来るんですよ」
「……確かに」
「残るはショットガン。
 ここで、散弾の特徴を思い出す」
「ショットシェルね」
「詳しくは、各自で調べて。
 解りやすく言うなら、弾丸の中に散弾があるって認識でいいよ。
 前に人がいると使えないから、オレはこれまではスラッグ弾の方しか使ってなかったけど」
「ハンドガン以上の大型弾丸、と認識して貰えればいいわ」
「巴先輩のマスケットはまさにこれだね。
 魔力を使って、リボンが展開出来る様になってるけど」
「マスケットや弾丸自体が、リボンで編み出したものだもの、私の場合」
「魔法パネェ!
 で、話を戻して、群雲君の話。
 要は、大きな弾丸の中に、小さな散弾が入ってる。
 で、弾丸を準備(チャージ)したら“弾丸の中の散弾が電磁化”した。
 銃本体を準備(チャージ)しても、同様の効果になる事も、簡単に想定出来る」
「!!」
「気付いたね。
 なら“銃本体と弾丸の両方を準備(チャージ)”したらどうなるか」
「電磁化した散弾を内包する弾丸が、電磁化して射出される!」
「結果が『炸裂電磁銃』です。
 構造上“何かに着弾した瞬間、内包した散弾が弾ける”事になるので“炸裂” 両方を電磁化するので“電磁銃” 組み合わせて『炸裂電磁銃』という名前にしました。
 掛け声は“ティロ・フィナーレ”だけれども」
「なんで、ティロ・フィナーレなの?」
「元々が『巴先輩のティロ・フィナーレを、オレが使うとしたら?』という所から試行錯誤が始まったから」
「なんか……照れるわね」
「加えて“巴先輩のトドメの代わりを、オレが担うとしたら?”という所からでもあるね。
 まあ、反動を考えてなかったせいで、御覧の有様だけどな!」
「……オチをつけないと、納得しないの?」
「笑って終わりたいだけよ?
 以上、群雲君の魔法講座第一回『炸裂電磁銃』編。
 と、言う名の前書きのネタがなくなった作者の悪足掻きでした!」
「最後の最後で、なに言ってるのっ!?」


SIDE キュゥべえ

 

 マミのリビング。三角のテーブル。一辺にマミ。一辺に杏子とゆま。

 そこから見えるベランダ。そこに繋がる境界線に僕。

 そして、ベランダで電子タバコを咥える琢磨。

 

「オレと巴先輩が見つけたのは、魔法少女の遺体だ」

 

 優先的に言葉を発して、場を仕切るのは琢磨だ。

 情報分析において、琢磨は異常とも言える能力を発揮する。

 それは、自身の魔法による脳の高速化であり。

 それは、自身の性格による感情の排除であり。

 

「重要なのは、それが“魔女結界内”にあった事だ」

「……悪い、一から説明してくれ」

 

 言葉を続けようとする琢磨に、杏子が口を挟む。

 確かに、僕にも詳しい説明が欲しいね。

 

「……眼鏡が無いんだった」

 

 いつものように、右手中指を顔に向けたところで、琢磨が呟いた。

 そのまま、誤魔化す様に電子タバコを咥えて、一息。

 

「では、過程を説明しよう」

 

 全員が琢磨に視線を向ける中、情報の為に感情を排除した魔人が、言葉を紡いでいく。

 

「孵化直前のGS(グリーフシード)を、オレとゆまが見つけた」

「オレ達の至近距離で孵化し、結界が展開された。

 オレ達が居るのは、当然のように最深部だ。

 実際に魔女もそこにいた」

「その後、魔女と戦っているオレ達と先輩達が合流して、魔女を倒した」

「結界が晴れる直前で、オレ達は魔法少女の遺体を発見した。

 以上だ」

 

 なるほど。琢磨が僕を呼んだ理由が解った。

 

「さて、過程を仮定する為の疑問点その壱。

 “魔法少女は誰に殺された?”

 これを、どう仮定する?」

 

 琢磨の質問に、全員が黙り込む。

 いや、ゆまだけは首を傾げているね。成り立ての上に、琢磨に比べて幼い彼女には、この問題は敷居が高いんだろう。

 琢磨が、異常すぎるとも言えるけれど。

 誰も言葉を発しない中、琢磨が仮定を話し出す。

 

「そこで、群雲琢磨は考える。

 結界の中に遺体があった以上、魔法少女は“結界内で殺された可能性が高い”だろうと。

 仮定として“別の場所で殺された魔法少女を、わざわざ結界内に運んだ”のだとすれば。

 それは“魔法少女を殺した犯人”に他ならない。

 そしてそれが“孵化直後の魔女の使い魔である可能性は極めて低い”だろう。

 加えて“普通の人間に魔法少女を殺せるとも考えにくく、しかも結界内に運ぶ”なんて有り得るとも思えない」

 

 そこまで言って、琢磨は電子タバコで一息つく。マミは真剣な表情で琢磨の言葉を待ち。杏子は驚愕の表情で琢磨を見ている。ゆまは若干眠たそうだ。

 

「では“結界内で殺された”と仮定する。

 それが魔女によるものである可能性は皆無だ。

 オレ達が交戦中だったからな。

 では、使い魔によるものだったのか?」

「ありえないわね」

 

 琢磨が過程を仮定していく中、マミが口を挟み、補足して行く。

 

「魔法少女は“鋭利な刃物で切り刻まれた”ようだったわ。

 佐倉さんと最深部に向かう途中、何体か使い魔と交戦したけれど、そんな攻撃方法を持つ使い魔はいなかったはずよ」

「情報ありがとう、巴先輩。

 使い魔によるものだという仮定を排除できる」

 

 使い魔によるものだった場合も、仮定していたようだね。さすが琢磨だ。

 そしておそらく“それを否定する材料”も仮定していたんだろうね。

 前髪を放電させながら、電子タバコを咥え、煙を吐き出す琢磨。

 

「整理完了。

 仮定を続けよう。

 と言っても、結論は解ってるよな?」

 

 真剣な表情。前髪から覗く黒い左目が、全員を見渡した後、琢磨は告げる。

 

「魔女のものではありえない。

 使い魔のものでもありえない。

 なら、魔法少女は誰に殺されたのか?」

「同じ存在だ。

 魔女にも殺されず。

 使い魔にも殺されず。

 その上で“魔女結界内にある遺体”は、可能性を一つに絞る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔法少女は、魔法少女に殺された」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 佐倉杏子

 

 琢磨の言葉に、あたしは言葉を失う。

 魔法少女同士の殺し合い自体は、有り得ない事じゃない。

 GS(グリーフシード)を求めて。縄張りを求めて。

 それが有り得る事を、あたしもマミも知っている。

 だが、続けて言った琢磨の言葉は、あたしの考えを大きく上回った。

 

「さて、疑問点その弐。

 “魔法少女は何故、殺された”のか?」

GS(グリーフシード)目的ではないの?」

 

 マミの質問に、琢磨は電子タバコを咥えたまま答える。

 

「オレは、その可能性は“無い”と仮定してる」

「「!?」」

「否定する材料は、いくつかある。

 順番にいこうか」

 

 琢磨が説明を始める。あたし達は、それを黙って聞くしかない。琢磨がどう考えて、過程を仮定しているのか。それを聞かないと、話が進まない。

 

「魔法少女を殺した魔法少女。

 この少女を“加害者”殺されてた魔法少女を“被害者”と仮称するが。

 殺害場所を結界内と仮定した場合。

 “加害者はいつ、被害者を殺したのか?”と言う疑問が出てくる」

「あの結界は、展開と同時にオレとゆまが居た。

 そして、オレ達を追って、先輩達が来た。

 ならば、可能性は二つ。

 先輩達の前か、後か。

 これに関しては、どちらであっても対して違いは無い。

 重要なのは“先客がいた”って事だ」

「被害者も加害者も、先客がいるのを承知で、結界に入ったと考えられる訳だ」

「そうなると、少なくとも加害者の目的は“魔法少女殺害”で、間違いは無い。

 被害者の方は、判断材料がないけどね」

GS(グリーフシード)目的であれば“先客がいる結界は避ける”のが当然だ。

 取り合いになるリスクを考えれば、ね」

「そして“縄張り争い”であるならば、見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)を相手取る事になる。

 よほど、自分の実力に自信が無いと、選ばない行動だ。

 その程度には勇名だし有名の筈。

 そうじゃなかったら、オレはナマモノをそぉい!しなきゃならん」

「わけがわからないよ」

「茶化さないで、話を続けて」

「はいよ。

 縄張り目的であれば、右腕を失っていたオレは、狙うのに最適な状態だったとも言える。

 しかし“オレ達は加害者と遭遇しなかった”という事実が、縄張り目的を否定する。

 残った選択肢はひとつ」

 

 

 

 “被害者を殺す為に、加害者は結界に入り、実行した”

 

 

 

 その言葉を最後に、沈黙が訪れる。

 マミは真剣な表情で考え込み、キュゥべえは相変わらずの無表情。ゆまは……。

 

「眠いか?」

 

 舟を漕いでいた。

 まあ、魔女戦から琢磨の治療、そのままマミの説教じゃ、疲労が溜まって当然か。

 

「夕飯もまだだったわね」

「主に、巴先輩の説教のせいでね」

「追加希望かしら?」

「すいまっせんしたーーーー!!」

 

 正座を通り越して、土下座をする琢磨を尻目に、あたしはゆまを部屋に先導する。

 

[ゆまちゃんが寝た後、会話を再開しましょう]

[そうだな。

 放置していい問題とは思えない]

[じゃ、今のうちに軽いものでも作っておきましょうかね]

 

 ゆまに伝わらないよう、念話で会話をしたあたし達は、それぞれ行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 琢磨の作った夕飯は、紫色のカルボナーラだった。

 何故か、牛丼の味がした。




次回予告

考察は続く 状況を把握する為、続いていく

それぞれが求めるもの それぞれが望むもの

得る為に 護る為に 知る為に




考察は続く いずれ交錯する為に


百章 喜ばしい事


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百章 喜ばしい事

「勘違いしている人が多いけど」
「どした、ナマモノ?」
「僕にとって、重要なのはエネルギーの回収なんだよ」
「知ってる」
「でも、魔法少女を絶望させる事が目的のように思われてる」
「違うの?」
「魔女になってくれるなら、過程は問わないよ。
 絶望してもいいし、魔法を酷使してもいい」
「どっちにしろ、最低じゃないか。
 それも、知ってるけど」


SIDE out

 

 ゆまが眠り。二人の魔法少女と、二つのモノが、再びリビングに集結する。

 

「さて……どこまで話したっけか?

 あぁ、思い出した。

 独りの魔人生活の際に、軍事基地を壊滅させたって話か」

「ちげぇよ!

 てか、なにやってんの、おまえ!?」

 

 三角のテーブル。一辺にマミ。一辺に杏子。ベランダに琢磨。

 キュゥべえは、琢磨の肩に乗っている。

 

「重大ニュースのはずなのに、まったく情報が提示されなかったな。

 まあ、お偉いさんにとっちゃ、知られたくない恥部だろうね。

 正体不明の少年が、軍事基地を殲滅させたなんて」

「なにか、理由があったの?」

「弾丸の補充。

 途中で見つかったんで、交戦。

 交戦した結果、また補充が必要になったんで、さらに探索。

 で、また見つかって交戦。

 以下、殲滅まで続きました」

「馬鹿だろ、おまえ」

「失敬な。

 魔人……魔法少女もだけど……普通の人間より、圧倒的に強い事を再認識出来たのも、収穫だった」

「魔女と戦うんだから、相応に強化されているよ」

「もう一回、説教するべきかしら?」

「おいィ!?」

「……話の続きはどうしたよ?」

 

 閑話休題。

 

「さて続き……と言っても、これ以上の仮定は無意味だ。

 ……情報が増えなければ、な」

 

 そう言って、群雲は肩に乗るキュゥべえに視線を向ける。

 

「魔法少女は“お前がいなければ、存在しない”んだ。

 つまり“お前が契約した少女の中に、加害者がいる”って事になる」

 

 群雲は、自身の持つ情報を、的確に抽出する。

 そして、群雲の言葉は、話を聞いていた二人の魔法少女に、驚愕の表情を作らせる。

 

「契約した魔法少女同士が殺しあう。

 その状況を、お前は容認しないはずだ」

 

 その上で“最凶の絶望情報(魔法少女の真実)”を巧みに隠しながら。

 魔人と孵卵器は言葉を交わす。

 

「当然だね。

 僕としても、容認出来る筈が無い。

 魔女を倒す力を魔法少女(なかま)殺しに使うなんてね」

「そしてお前なら。

 確定出来てはいなくても“容疑者を絞り込む”ぐらいは出来る筈だ。

 例外無く“魔法少女はお前と契約している”のだから」

「もちろん、候補を絞り込んではいるよ。

 でも、決定的な確証を得るまでには、至っていないのが現状だ」

「どうして、私達に相談してくれなかったの?」

 

 会話を聞いていたマミが、質問で割り込む。

 それに対するキュゥべえの返答は。

 

「僕は最初、容疑者の第一候補に“群雲琢磨”を挙げていたからね」

 

 予想の上をいっていた。

 

「……怒るわよ、キュゥべえ?」

 

 当然、相棒を疑われて、いい気分になるはずも無い。マミは冷たい声色でキュゥべえに告げる。

 だが、それを遮ったのは。

 

「なるほどね」

 

 群雲本人だった。

 

「オレの見た魔法少女の遺体は“切り刻まれた痕”があった。

 日本刀やナイフを用いるオレは、充分容疑者になりえる」

「それに琢磨は“自分の為にならない存在は、容赦なく殲滅する”からね。

 これは、琢磨自身が公言している事だ」

「見ず知らずの魔法少女を殺す“動機”も、オレには充分って事だな」

 

 さらに、キュゥべえを補足までしてみせる。それが群雲琢磨という少年。

 流石に、この展開には、マミも黙らざるを得ない。

 

「だが、ナマモノの口振りだと、今は違うって事だろう?」

 

 容疑者の第一候補に挙げて“いた”と、キュゥべえは言った。

 それは、今は違うと言う事の証明である。

 キュゥべえは、それを踏まえた上で、情報を開示する。

 

「はじめは、魔女の仕業だと思っていたんだけれども。

 使い魔や魔女の攻撃方法では有り得ない死に方をしていた魔法少女も居たんだ」

「鋭利な刃物による物だと思われる事、か?」

 

 聞いているだけではない。杏子も情報を得て、自分なりに結論付けようとしている。

 そんな杏子の疑問を肯定しながら、キュゥべえは話を続ける。

 

「その通りさ。

 だからこそ“魔法少女狩り”が起きていると結論付けた。

 さっきも言ったけど、容疑者最有力は琢磨だったけれど。

 それを覆す情報を、僕は得る事が出来た」

 

 それこそが、群雲の嫌疑を晴らし。

 同時に、最有力の情報となり得る事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「被害者の一人が、死に際に言い残したんだ。

 “くろいまほうしょうじょ”とね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 呉キリカ

 

「……まずいわね」

 

 織莉子の言葉に、私は首を傾げる。

 確かに、見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)と、ニアミスしたし。

 織莉子の警戒している殲滅屍(ウィキッドデリート)も見た。

 でも、私は見つかっていない。向こうは気付いていなかったはず。

 未来を見ていたらしい織莉子が、真剣な表情で私を見る。

 

殲滅屍(ウィキッドデリート)と“アレ”が接触するのは、喜ばしい事じゃないわ」

 

 うん。言ってる意味がよく解らない。

 でも、それに対して、私が織莉子を攻める事は無い。当然でしょ?

 

「でも……良い“現実の情報”だったわ、キリカ」

 

 誉められた! やったね私!!

 

「そう……“あの二人”が、見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)に加入したのね。

 これは“喜ばしい事”だわ」

 

 織莉子が見る“世界”を見られないのは、苦痛でしかない。

 でも、そんなことはどうでもいい。

 

 私は織莉子に尽くす。それが私の願いで望み。織莉子さえいてくれれば、私の世界は無限に続く。

 

「一息つきましょうか」

 

 そう言って、織莉子は優雅な振る舞いで、ティーポットに手を伸ばす。

 

「砂糖は3個。

 ジャムも3杯。

 いつもの紅茶でいいかしら?」

 

 あぁ、もう! そうやって織莉子はいつも!!

 

「シロップなんかじゃないんだ!

 織莉子が入れてくれる、甘い紅茶がいいんだよ!!」

「えぇ、わかってるわよ」

 

 その笑顔が、私を満たしてくれるんだ。その存在が、私を生かしてくれるんだ!

 

「大好きだよ!

 世界を滅ぼせるほどに!!」

「織ってるわ。

 世界を護り通せるほどに」




次回予告

対話と会話 仮定と過程 原因と結果 目的と手段

舞台は、確実に整っていく




さて、それは果たして

誰にとっての、舞台なのか

百一章 現状の正常認識


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百一章 現状の正常認識

「いつも思うんだが」
「どうしたんだい?」
「ナマモノって基本的に、他の魔法少女の情報ってくれないよね」
「当然だね。
 僕らにとって、害悪にしかならない魔法少女なら、情報を回して排除してもらう事もあるけど。
 基本的に、中立だから」
「でも、聞かれれば答えるよね」
「僕らには、騙すという概念はないからね。
 嘘を付く事もない」
「ほんと、やりやすくてやりにくい」
「わけがわからないよ」
「お互いに、な」


SIDE 佐倉杏子

 

 “くろいまほうしょうじょ”

 黒い魔法少女か……織莉子じゃないらしいな。

 まあ、あたしは織莉子の攻撃方法とか知らないけど。

 

「なるほど。

 オレは黒くない。

 それ以前に、少女じゃねぇし」

「その通りだね。

 魔法少女狩りが、琢磨の仕業であったなら、特定は容易だ。

 現状唯一の魔人だからね」

 

 そんなあたしの思考を無視して、キュゥべえ達は会話を続けている。

 

「つまり、変身した時に黒ベースの魔法少女が候補になると言う事ね?」

「……いや、そうとは限らないな」

「琢磨の言う通りだね。

 白ベースでも、長い黒髪が特徴的であったとすれば。

 後から見た際に、黒い魔法少女という印象を受けても、おかしくはない」

「さっきのオレの仮定。

 “被害者を殺す為に加害者が結界に入った”という仮定から、さらに過程を仮定するなら。

 黒い魔法少女の目的は、魔法少女狩り。

 すなわち“魔法少女の殺害”となる」

「つまり?」

()()()()()()()()()()()だ。

 ハイリスクノーリターンだよ」

 

 確かにな。殺害対象に、わざわざ自分の存在を認識させる理由は無いってことだ。

 突然襲われて、その場に倒れた状態で、襲撃者を目撃するとして。

 去っていく襲撃者が長い黒髪だったなら、黒い魔法少女という印象を受けても、おかしくはないか。

 

「ただ……」

 

 ここへきて、琢磨が電子タバコを咥えたまま、肩を竦める。

 

「これ以上の仮定から、発展するとは思えないんだよな。

 決定的な情報が無いから」

「……頼むから、一人で納得すんな」

 

 説明しろよ、それ込みで。

 

「解りやすく言えば、証拠が無いんだよ。

 切り刻まれた魔法少女の遺体から、状況を分析して、過程を仮定した訳だが。

 仮定は、実証できなきゃ、真実には成り得ない。

 って、なんかのドラマで言ってた」

 

 そして、オチをつけんな。あたしとマミが同時に溜め息をついた。

 

「容疑者が判明して、かつ、背後関係とか解れば、もう少し発展出来るだろうけど。

 これ以上は、仮定じゃなくて、ただの想像にならない?」

 

 本当に、こいつの頭はどういう構造をしてるんだか。

 

「なら、何の為の会話だったんだよ?」

「現状の正常認識の為、かねぇ?」

 

 あたしの質問に、琢磨はあっさりと返答する。

 

「魔法少女を狩る魔法少女。

 その存在を、知らないままと知っているのでは雲泥の差だ」

「警戒するには、充分な存在よね」

「それが見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)の縄張りにいる可能性。

 まあ、狩られた魔法少女の遺体があったんだから、黒い魔法少女の行動範囲内に、オレ達の縄張りが含まれて居るのは、間違いない。

 警戒するのは当然じゃないか?」

「つまり、魔法少女狩りに注意しましょうって事か」

「端的に言えばね」

 

 一言でまとまるのかよ。

 

「そして、明日取るべきであろう選択肢候補は、今のところ二つ」

 

 その後の方針を決める為の話し合いだったって事か。

 変わらず、口の端を持ち上げながら、琢磨は右手の人差し指を立てる。

 

「学校が休みなんで、明日は4人が揃って行動出来る。

 故に、一つ目は全員で修行」

「特訓ね」

「意味、一緒じゃん」

 

 でも、特訓はいい考えかもしれないな。

 

「今回の魔女狩りで、ゆまも頭角を現してきた感じだし。

 一度、本格的に特訓するのもありじゃないかと、群雲君は考えた。

 ゆま、ツノが生えてる訳じゃないけど」

「生えててたまるか」

 

 そして、オチをつけるな。

 あたしのツッコミを無視して、次に左手の人差し指を立てる。

 

「二つ目は、情報収集。

 目的がなんであれ、オレ達にとって“くろいまほうしょうじょ”は、敵にしかなりえない」

「魔法少女狩りを続けるのなら、見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)にとっては、そうなるしかないわね」

「巴先輩の性格的にも、ねぇ」

「なんか、私が悪いみたいな言い方ね」

「悪いなんて、一言も言ってないよ。

 が、群雲君的に、こちらはあまりお勧めはしないかな」

「どうして?」

「情報が少なすぎ」

「その情報を探すんじゃないのかよ?」

「どこから、どうやって?」

 

 ……あ。

 

「情報が少なすぎて、探しようがないのが、現状じゃないか?

 まさか、聞いて回る訳にもいかんし」

 

 なら、特訓か?

 

「なら、特訓かしらね?」

 

 あたしの思考と、マミの言葉が被った。

 

「まあ、それが妥当だろうね」

 

 そこに、キュゥべえが割り込んでくる。

 

「魔法少女狩りを探して、逆に狩られたのでは、意味が無いからね。

 自身の実力を上げて、襲撃に備えるのは良い判断だと思うよ」

「魔法少女を狩れる実力を、黒い魔法少女は確実に有している。

 ミイラ取りがミカンになっちゃ、意味が無い」

「いや、ならねぇよ!?」

 

 なんで、ミカンなんだよ?

 

「お隣さんから、差し入れに貰った。

 食べる?」

「相変わらず、唐突過ぎるだろ、お前!?

 ……食べるけど」

「じゃ、明日は特訓って事で」

 

 言いながら、琢磨は電子タバコを右手にしまい、部屋の中へ。

 そう言えば。

 

「悪い、琢磨」

「ん?」

「眼鏡、壊しちまった」

「……ああ」

 

 キッチンに向かう琢磨に、あたしは謝る。

 

「まあ、オッドアイを隠す為のモノだし、今は眼帯してるし、気にせんでいいよ~。

 ……それなりに長い付き合いだったし、愛着もそれなりにあったけど」

「気にさせるつもり満々だな、お前!?」

 

 ああ、そうだ。こいつはそういう奴だよ!

 

「まあ、無くても困らない程度の代物だし、気にせんでいいよ~」

 

 言いながら、いつものように笑う琢磨。

 泣いているような印象を受けてしまう、琢磨の笑顔。

 ……ああ、そうだ。こいつはそういう奴だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ、蜜柑じゃなくて柚子だ!?」

「マジカ」




次回予告

自分勝手に決め付けて 自分勝手に解釈し

自分勝手に判断して 自分勝手に黙ってる

そんな少年の、孤独な駆け引き


百二章 まだまだ


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百二章 まだまだ

「わけがわからないよ」
「どうしたんだい、琢磨?」
「いや、最初にそう言えば「お前かよ!?」ってツッコミが来るかなぁと」
「わけがわからないよ」


SIDE out

 

 人々が眠りにつく時間。当然のように、魔法少女達も夢の中へ。

 

「魔力で動かしているだけの道具なんだから、そんなものは必要ないんだけどね」

「しかたないさ。

 その事実を知らない以上、皆は“人として生活するしかない”んだから」

 

 マンションのベランダで、眠る事無く会話をするのは、ヒトならざる者。

 ひとつは、魔法少女を生み出す、白い異星物。

 ひとつは、真実を知り、それを平然と自分の為に酷使する、魔人。

 

「さて、ここからはオレ達だけ。

 さらに深くて不快な話になるな」

「皆にも、真実を教えたらいいんじゃないのかい?」

「お前って、ほんとバカ。

 真実を知る事が、魔女化に直結する事だってある。

 その情報を効果的に使えてないから、()()()()()()()()()()んじゃねぇのかよ」

 

 電子タバコを咥える群雲と、その肩に乗るキュゥべえ。その会話に遠慮なんて言葉は存在しない。

 

「そして“くろいまほうしょうじょ”は、おそらくは“真実を知らない”んだろうが」

「何故、琢磨がそういう結論に至ったのか。

 もちろん、教えてくれるんだろう?」

「そりゃそうよ。

 その為の、皆が寝てからの会話なんだから」

 

 ここからの群雲の仮定は、魔法少女システム前提での過程になる。

 

「被害者は、鋭利な刃物で切り刻まれた。

 オレが見た遺体以外も、そこは共通してるんだろ?」

「その通りだね。

 だからこそ、魔法少女狩りが同一犯のものである事。

 合わせて、黒い魔法少女が容疑者になっている」

「そうだろうな。

 そして、真実を知っているのなら、そんな回りくどい事をする必要が無い」

「なるほどね。

 魔法少女の本体は、あくまでもSG(ソウルジェム)だ。

 肉体(どうぐ)傷付ける(こわす)意味が無い」

「真実を知っているなら、な。

 知らないからこそ、切り刻むなんで、面倒な事をしているんだろう」

 

 仮に、群雲が魔法少女を殺害しようとするなら。

 SG(ソウルジェム)を破壊する事に、全力を注ぐ。

 しかし“黒い魔法少女”が、真実を知らないなら。

 そう仮定しているのだ。

 

「それで、容疑者は何人いるんだ?」

 

 そのまま、会話は“黒い魔法少女の正体を仮定”する方向へ。

 

「残念ながら、確証がないよ」

「それでもいいさ。

 警戒するべき存在を疎かにするなんて、自分の為にならないってだけだし」

 

 犯人を捜して捕まえる。これ以上、被害を増やさないようにする。

 そんな事は、群雲は知ったこっちゃ無いのである。

 

「出来れば、削除してくれると、僕らとしても有難いんだけどね」

「まあ、先輩達が放置するとは考えられんし。

 いずれ、戦う事にはなりそうだが」

 

 そして、エネルギー回収が目的の孵卵器にしてみれば、回収前の卵を壊されているようなもの。

 その存在を、容認する理由が無い。

 

「最有力は、二人」

「意外と絞り込めてるんだな」

 

 キュゥべえの言葉に、群雲は素直な感想を抱く。

 

「もちろん、最有力であって、決定的じゃない」

「それでも、二人か」

 

 意外と簡単か?

 そんな、群雲の感想は、見事に外れる事になる。

 

「一人目は“呉キリカ”

 マミと同じ中学の生徒だね」

「意外と近い位置にいた!?」

 

 まさかの同じ学校。

 

「学年も、マミと同じだよ」

「マジカ!?」

 

 しかも同級生である。

 

「最近は、登校していないみたいだけどね」

「確かに、魔法少女狩りの行動範囲に、見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)の縄張りがあると仮定はしたが。

 まさかのど真ん中かよ」

 

 だが、それでも確証がないと、キュゥべえは言った。

 

「変身した姿も、黒い魔法少女と呼ぶに相応しい姿をしている。

 使用する武器も、魔力で作り出したかぎ爪だし、殺害方法も一致する」

「それでも、確証がないのは?」

「動機さ」

 

 キュゥべえは、情報を掲示する。群雲は、情報を分析する。この二つは、そんな関係。

 

「キリカは今、別の魔法少女と行動を共にしている。

 その魔法少女のおかげで、僕は何人かの、新たな契約者を得た」

「矛盾しているって事か」

 

 一人は魔法少女を増やし、一人は魔法少女を減らす。

 そんな者が、行動を共にしているのは、理に反する。

 

「だから、確証が得られない。

 容姿も能力も、充分に容疑者だけれど」

「魔法少女を狩る理由が、呉キリカには無いって訳か」

 

 魔法少女狩り。黒い魔法少女の目的は、魔法少女の殺害。

 少なくとも、呉キリカにはその目的を目指す理由が無い。

 

「その、もう一人の魔法少女に黙って行動してるとか?」

 

 行動を共にしているからと言って、目的を一緒にしているとは限らない。

 実際に、行動を共にしていながら、こうして独自に動いている群雲だからこそ、説得力のある言葉だ。

 

「その可能性もあるだろうね。

 でも、あくまでも可能性だ」

 

 そして、キュゥべえもまた、同様に分析はしている。

 だからこそ、確証がないのだ。

 

「まだまだ、情報が不足している感じか?

 働けよ、ナマモノ」

「わけがわからないよ」

 

 それでも、このふたつは会話を続ける。お互いにとって、相手の存在が貴重である故に。

 

 群雲にとってのキュゥべえは、貴重な情報源である。

 キュゥべえにとっての群雲は、貴重なサンプルである。

 

「それで、もう一人は?」

 

 魔法少女を増やすのはキュゥべえ以外にありえない。故に群雲は、その存在を自分の為になると判断している。

 魔法少女システムを知りながらも、自分達に無意味な敵意を向ける事はしない。故にキュゥべえは、群雲との会話が必然的に増える。

 感情を持ちながら、()()()()()()()()()()()()()()()()()群雲の存在は、インキュベーターにとっては貴重な存在なのである。

 

「もう一人も、見滝原中学の生徒だよ」

「……うん、もう驚かねぇよ」

 

 まさかの、二人共、である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「名前は“暁美ほむら”

 最近、転入してきた少女だ」




次回予告

多くの言葉は必要ではない その存在を表すのには、一言で充分


多くの考察は必要ではない その存在を示すのには、一言で充分














どこまで同じで どこから違う?









百三章 魔獣


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百三章 魔獣

「琢磨も、効率の悪い方法を選んでるよね」
「何の話よ?」
「痛覚の遮断を、わざわざ魔法で行っているんだろう?
 そんな事をせずとも、痛覚の遮断は可能だよ?
 君達の意識は、肉体と連結してはいないんだから」
「なん…………だと…………!?」


SIDE out

 

「どちらも、見滝原中学の生徒とか、世界はこの場所が大嫌いだろ?」

「わけがわからないよ」

 

 深夜の考察。魔人と孵卵器。その思考は、全ての斜め上へと到る。

 

「長くて黒い髪。

 琢磨の言った印象と一致する少女だ」

「それだけじゃないだろ?」

「当然だね。

 もっとも、僕の持つ情報はあまりにも少ないけど」

「おいこら、働けよナマモノ」

「仕方が無いと、琢磨も考えるはずさ。

 ほむらは、僕を見ると殺しに来るからね」

「……なるほど」

 

 情報を得る為に近付けば、殺される。それでは情報を得る事は難しい。

 

「無駄な事をしてるな」

「ほんとだね。

 この星に、僕は無数にいるから」

「実は、ビッグなボディとか、ないだろうな?」

「わけがわからないよ」

 

 だが、難しいのであって、不可能ではない。この二つは、それを熟知している。

 

「ナマモノを殺すって事は“真実”を知っている可能性が高いな」

「何故か、人類は真実を知ると、僕らを目の敵にするからね」

「そして、お前を殺しているって事は、魔法少女を増やす事を、良しとしていないって事だ」

「現存する魔法少女を、駆除しても、おかしくはない」

「動機は成立する訳だな」

 

 真実を知り、孵卵器を目の敵にするならば。

 その目的であるエネルギーの回収をさせないようにするならば。

 エネルギーの元である魔法少女を、魔女になる前に殺していても、おかしくはない。

 

「容姿も動機も成立可能。

 その上で確証が無いって事は」

「そう。

 殺害方法が一致しない。

 ほむらが僕を殺す方法は、銃殺や爆殺。

 斬殺された端末は、存在しない」

「加えて、真実を知るならば。

 SG(ソウルジェム)を狙った方が、効率がいい事を知っているはずだしな」

 

 もちろん、それがフェイクである可能性もあるが。あくまでも可能性の話だ。

 

「こうして考えると……中々素敵な状況だな」

 

 容姿と殺害方法が成立して、動機が成立しない呉キリカ。

 容姿と動機が成立して、殺害方法が成立しない暁美ほむら。

 

 そして。

 

 殺害方法と動機が成立して、容姿が成立しない群雲琢磨。

 

「嫌な三すくみだな、オイ」

「まったくだね」

 

 故に、確証がない。得られない。決定的なモノが無い。

 

「共通しているのは、全員が契約者って事ぐらいか」

 

 呟き、電子タバコを咥える群雲にとって、完全に予想外の一言が、キュゥべえから告げられる。

 

「多分ね」

「……は?」

 

 首を傾げる群雲に、変わらず無表情なキュゥべえは、淡々と事実を告げる。

 

「暁美ほむらとは、契約した記録が無い」

「いやまて、なんだそれ?」

「琢磨と同等のイレギュラーだよ、ほむらは。

 その力は、間違いなく魔法少女のものだ。

 SG(ソウルジェム)も確認している。

 でも、契約した記録が無い。

 魔法少女であるはずなのにね」

 

 その言葉に、群雲は黙り込むしかない。完全に想定外の情報であるが故に。

 

「琢磨を異物とするなら、ほむらは異端と呼ぶべきだね。

 そんな彼女が魔女になった時、どれほどのエネルギーを得られるか」

 

 結局、キュゥべえにとってはそれこそが重要なのだ。

 

「オレが魔女になった時と、どちらが多い?」

「どうだろうね?

 そればかりは、回収してみないと」

 

 そしてキュゥべえは、一つの訂正を加える。

 

「琢磨の場合は、魔女とは呼ばないけどね」

 

 再び、首を傾げる群雲に、キュゥべえは告げる。

 

「魔女、及び、魔法少女。

 これは、君達人類に合わせての呼称だ。

 当然、魔人である君には、魔人に合わせた呼称があるよ」

「なにそれ、初耳なんだけど?」

「言ってなかったかい?

 いずれ魔女になる、だから魔法少女。

 同じ様に、自分を失い、人という形から堕ちていく」

 

 その言葉から、自身への呼称に予想がついた群雲は。

 

「ケモノに成り下がるって事か?」

 

 口の端を持ち上げながら、問いかける。

 それに合わせるように。

 キュゥべえもまた、口の端を持ち上げながら答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いずれ理性を失い“魔獣”に堕ちるキミの事は。

 “魔人”と、呼ぶべきだよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にあわねぇな、おい」

「やっぱり?

 君のように表情を造れば、僕らも効率良くなるかと考えたんだけどね」

「表情造っても、感情がなければ一緒じゃね?」

「そういうものか」

 

 それでも、結局変わらない。呼び方が違えと、答えは同じ。

 

「感情を持つ個体を、精神疾患として処分するんだっけ、おまいら」

「それが、どうかしたのかい?」

「それを研究材料にでもすればいいんじゃね?」

「残念ながら、サンプルとしては少なすぎるんだよ。

 個という概念が無い僕らには、意見交換なんて作業は存在しない。

 だからこそ、琢磨の存在は貴重なんだけどね」

 

 真実を知らなければ、意見交換は出来ない。

 真実を知っても、インキュベーターに敵意を抱く者とは、意見交換なんて不可能。

 真実を受け入れ、割り切り、それでも生きていくと決めた群雲琢磨だからこそ。

 インキュベーターとの異星交流が、成立しているとも言える。

 

「なんにしても。

 魔法少女狩りは、僕らにとっては害悪でしかない」

「だよな。

 魔女になる前に殺されたんじゃ、お前らはエネルギーの回収が出来ない」

「縄張りで魔法少女狩りが起きている以上、これを放棄する事は出来ない」

 

 そして、利害が一致する。それが魔人。それが異物。それこそが群雲琢磨。

 

「両方と、接触してみるのが一番なんだが」

「そのまま、殺されるなんて事はないのかい?」

「はっはっは。

 完全に否定出来ないあたり、オレって才能ないよね」

「わけがわからないよ」

 

 どちらにしても、明日は特訓の日だと決まっている。

 動くのは、それ以降になるだろう。

 

「イベント盛り沢山で、泣けてくるね」

「その割には、嬉しそうだね」

 

 煙を吐き出しながら、群雲はいつものように微笑んだ。




次回予告

明確に存在する敵

これまでとは、意味を変える敵

生き延びる為 意志を貫く為

必要なのは、力




そして、その正確な使い方













百四章 たくちゃん


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百四章 たくちゃん

「いつも思うんだが」
「どした、佐倉先輩?」
「前髪、うっとおしくないか?」
「慣れたよ」
「慣れる前に、切れよっ!?」


SIDE 群雲琢磨

 

 朝。そう、朝です。特訓予定の朝が来たのです。

 ……結局、ナマモノとの会話で夜が明けるとか、何してんだろうね、自分。

 

 リビングで、無音のテレビから情報を取得。魔女が関係していそうな事件は見当たらず。

 朝食は、軽めの物を用意。本来なら食事すら必要ないんだけどね、オレ達(契約者)は。

 作った事のある食事なら、おかしな色にはならない。うん、わけがわからないよ。

 

「おはよう、琢磨君」

 

 準備を終えて、ベランダで一服中に巴先輩が起きてきた。

 

「おはよう、巴先輩。

 朝食は出来てるよ」

「相変わらず、早起きね」

 

 寝てませんもの。そんな事言ったら説教コースなんで言わないけど。

 

「おはよう、琢磨」

「おはよう、佐倉先輩」

 

 続いて、佐倉先輩もやってきた。当然のように、ゆまもそこにいる。

 僅かに俯き、目を合わせないようにしながら、ゆまも挨拶した。

 

「お、おはよう、たくちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 佐倉杏子

 

 ゆまの挨拶直後、琢磨の動きが止まった。

 まあ、いきなり呼ばれ方が変われば驚きもするか。そう思った次の瞬間。

 

「くぁwせdrftgyふじこlp」

「何語!?」

 

 顔を真っ赤にして、両手を上下に振り回しながら、琢磨が奇声を発した。思わずツッコんだあたしは、悪くない。

 

「ちょ、お、う、あ、えぇ!?」

 

 ここまで狼狽する琢磨を見るのって、初めてだな。それほど、想定外だったのか。

 くすくすと笑いながら、マミが琢磨に告げる。

 

「琢磨君とゆまちゃんの仲を修復する為。

 と、言ってもゆまちゃんが一方的に嫌っているのが現状よね?」

「う、お、おぅ」

「だからまず、呼び方から変えてみようと思ったのよ。

 だから、たくちゃん」

「いや、その理屈はおかし……くないのか?

 いや、まあ、うん、好きに呼べばいいんじゃないかな。

 いや、でも、もうちょっと、何とかならないのか。

 いや、割り切ればいいのかも。

 いや、しかし」

「いやが多すぎるだろ、おい」

 

 顔を真っ赤にしたままの琢磨の呟きに、ツッコミを入れるあたしは悪くない。はず。

 

「いや?」

「とりあえずゆまは、その上目使いは反則だから、自重しような。

 呼び方と合わせて、オレの神経が羞恥でマッハ」

「お前はまず、理解出来る日本語を使え」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 閑話休題。

 

 朝食を終えたあたし達は、リビングで今日の予定を話す。琢磨だけはベランダにいるけど。

 

「特訓はいいが……場所はどうするんだよ?」

「いつもの高架下か、郊外に出るか……。

 特訓の内容にもよるんじゃね?」

「特訓内容は決めてあるわ。

 その為には……やっぱり郊外が最適かしらね?」

「お弁当だな、まかされたぜ!」

「ピクニックじゃねぇんだぞ、おい」

 

 場所は……ある。でも……。

 

「さて、この群雲琢磨君が特訓場所の候補を、絞り込んでおいたぜ」

「準備いいわね」

「オレの候補は108まである」

「多すぎだろ、おい」

「いやぁ」

「それで、どこにするつもりなの?」

「……おのれ、適度にオレをあしらえる様になってやがる……」

「当然でしょ?

 どれだけ、一緒にいると思ってるのよ」

 

 見滝原に戻ってきて。あたしは何度も思い知る。

 マミと琢磨の繋がりの強さ。

 隣町に住んでいたあたしは以前、押し掛ける形でマミの弟子になった。

 

 だが、琢磨は違う。

 

 琢磨は、最初から“マミと対等の立場”で接触した。

 

 男の子の癖に。年下の癖に。少女ですら無い癖に。

 自分の事しか、考えてない癖に。

 

 違う。

 自分の事しか考えてないからこそ。

 

 琢磨にとって、他人はすべて“平等”なんだ。

 

 他人の評価なんて、知ったこっちゃ無い。

 これまでの経歴なんて、知ったこっちゃ無い。

 

 今、自分にとって。それだけが判断材料。

 

 マミをマミとしてのみ。ゆまをゆまとしてのみ。あたしを佐倉杏子としてのみ。

 

 そして、自分を群雲琢磨としてのみ。

 

 だからかな? そんな琢磨の笑顔が、泣いてる様に見えるのは。

 だからかな? そんな琢磨の生き方が、悲しすぎるような気がするのは。

 だからかな? 自分の為と言っている琢磨が――――

 

「どした?」

 

 考えに耽っていたあたしを、琢磨の声が現実に引き戻す。

 

「考えてたんだよ。

 特訓場所をな」

 

 ベランダで、電子タバコを咥えて。

 前髪が長く、右目に眼帯をして。

 僅かに見える左目が、あたしを真っ直ぐに見据えている。

 

「見滝原の郊外」

 

 だから、あたしも。

 

「風見野との境に近い位置」

 

 対等になる為には。

 

「佐倉さん……あなた、まさか」

 

 もう一度、あの時のように。いや、あの時以上に。

 

「寂れた教会があるはずさ」

 

 みんなと、一緒にいる為に。

 

「そこなら、人目につく事はないはずだ」

 

 乗り越えないと、な。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 巴マミ

 

 佐倉さんの言葉に、私は言葉を失った。

 郊外にある教会。

 それが、佐倉さんにとってどういう場所なのかを知っていたから。

 まさか、その場所を佐倉さん自身が推すなんて、考えても見なかったから。

 

「佐倉さん……いいの?」

 

 私の問いかけに、彼女は微笑みながら言った。

 

「あの場所だからこそ、あたしにとって、新たな一歩を踏み出す為に。

 素直になるのに、相応しい気がするからさ」

 

 その微笑み方はどこか。琢磨君に似ていた。




次回予告

どれだけ強大な力を持っていても

心一つで、無力になる

どれだけ強大な力を持っていても

心一つで、暴力になる

善悪を決めるのはいつだって心






ならば心は、どうやって鍛える?

百五章 拠り所


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百五章 拠り所

「前から思っていたんだけれど」
「どうした、マミ?」
「どうして佐倉さんは、琢磨君を下の名前で?」
「……ゆまに引き摺られて、だな。
 あいつが呼び捨てだから、必然的にあたしもそうなった。
 マミはどうして?」
「信用に値する子だから。
 なんだか、手の掛かる弟みたいで」
「あいつなんか、よびすてでいいよ」
「ゆまちゃんはちゃんと、たくちゃんって呼ぶのよ?
 じゃないと……」
「じ、じゃないと?」
「琢磨君の作った、黄身が黒い目玉焼きを食べてもらうわ」
「……それ、焦げただけじゃないのか?」
「白身は緑だったわ」
「なんで!?」
「カカオ98%ぐらいのチョコレート味だったそうよ」
「あいつの料理は、マジでなんなんだよっ!?」


SIDE 佐倉杏子

 

「戻ってきたよ……父さん」

 

 見滝原郊外に存在する、寂れた教会。(あるじ)を失い、荒れ果てたその建物の前に立ち、あたしは静かに呟いた。

 

「キョーコ……?」

 

 右手を握っていたゆまが、その力を強める。それを感じて、ゆまに視線を向けて苦笑した。

 

「本当に良かったの?」

 

 後ろに控えていたマミも、心配そうに見ている。ただ一人、琢磨だけはいつも通り。電子タバコを咥えていた。

 

「言い出したのは、あたしだろ?

 そんなに、心配しなくても大丈夫さ」

 

 ここはもう、あたしの拠り所じゃない。ゆまがいて、マミさんがいて、琢磨がいる。

 ここに来たのは、割り切る為。そして、報告をする為。

 

 ――――家族の皆、ごめんなさい――――

 

 ――――あたしだけが生き残ってしまって――――

 

 ――――でも、あたしを必要としてくれる子がいるんだ――――

 

 ――――でも、あたしを導いてくれる先輩がいるんだ――――

 

 ――――でも、あたしをあたしとして、見てくれる奴がいるんだ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――だから、もう少し、生きてても、いいかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

「ヒャッハーッ! 特訓じゃ~ぜ~!!」

「テンション高いな、おい!?」

 

 いや、まあ、特訓の内容が容易に想像出来るもんでね。今のうちからテンション上げとかないと!

 

 さて、教会の前で話すのは、これからの特訓内容。もちろんオレは用意していた言葉(ネタ)を使う……!

 

「琢磨君、3連戦よろしくね」

「鬼や! 巴先輩は鬼や!! ここに鬼がおるで~~!!!」

「3人同時が良い?」

「すいまっせんしたーーーーーー!!!!」

 

 笑顔ながらも、声のトーンを一つ落とした巴先輩へ、ジャンピング土下座。うむ、完璧!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 巴マミ

 

「まったくもう……」

 

 いつものように、場を掻き乱す琢磨君に苦笑していた私に、佐倉さんが聞いてくる。

 

「3連戦って、どういうことだ?」

「そのままの意味よ。

 せっかく4人が早い時間から行動出来るのだから、特訓内容は模擬戦」

「ゆまがたく……ちゃんと?」

 

 私の言葉に、ゆまちゃんが首を傾げる。呼び方は……まだ慣れてないみたいね。仕方ないけれど。

 

「最初は私と佐倉さん、ゆまちゃんと琢磨君の組み合わせを考えていたんだけれど。

 ゆまちゃんの当面の目標が琢磨君なら、私と佐倉さんが、どうやって琢磨君と戦うのかを見るのも、参考になる筈」

「私は後、二回の変身を残していますよ……クククッ」

「いや、いくらなんでも琢磨に負担かけすぎじゃねえか?」

「無視? ねえ、オレのネタは無視?」

「個人的に、佐倉さんと琢磨君の戦いにも、興味があるわ」

「……ちくせう……」

 

 隅の方でしゃがみこんで、のの字を書いている琢磨君はスルー。これは基本。

 私は、持ってきていた鞄から、魔法関係を纏めているノートを取り出す。

 

「琢磨君の戦闘スタイルは、基本的に距離を選ばないわ」

 

 取り出したノートに視線を向けながら、私は答えていく。

 このノートに書いてあるのは“魔人群雲琢磨”の事。

 

「遠距離では、数種類の銃に、放電現象とそれを利用した遠距離用魔法。

 近距離では、ナイフに日本刀、時には徒手空拳での立ち回り。

 敵として考えた場合、琢磨君ほどやっかいな相手はいないわ」

 

 それに加えて“時間停止”という、反則的な切り札まである。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「琢磨を相手にするのが、大変なのはわかったが……」

 

 流石に3連戦は厳しいのではないか?

 そう言いたげの佐倉さんに、私はひとつの事実を伝える。

 

「二人が来る前は当然、私と琢磨君が模擬戦をしていたわ。

 戦歴は18勝16敗3引き分けで、私がギリギリで勝ち越してる」

 

 その言葉に、佐倉さんは首を傾げて。

 

「その内の7戦は、琢磨君のハンデ戦よ」

 

 次の言葉で、目を見開いた。

 

「は、ハンデ……?」

「さっきも言った通り、琢磨君は距離を選ばない戦い方が出来る。

 それはつまり、複数の戦い方を身に着けていると言う事。

 逆に、琢磨君は“広く、浅い”のよ」

 

 ひとつの事に集中する。複数の事を同時に行う。どちらも、費やす“時間”は一緒。

 故に、琢磨君は広くて浅い。

 

「私はリボンと、編み出したマスケットでの戦闘技術を磨いている。

 同じ時間を琢磨君は、徒手空拳とナイフによる戦闘、日本刀による技能、銃による射撃練習に、魔法による電気応用」

 

 こうして並べれば、一目瞭然ね。佐倉さんも気付いたのか、僅かに顔を引きつらせている。

 

「ハンデ戦というのは、その内のいくつかを封印した状態での模擬戦の事。

 それでも、ハンデ戦だけの戦歴で言えば2勝3敗2引き分けで、私が負け越しているわ」

「いやまて!

 なんでハンデ戦なのに、マミが負け越してるんだよ!!」

「それは、ハンデ内容によるわ」

 

 銃撃戦で言えば、私の方が上。徒手空拳なら、リボンによる拘束がある分、私が有利。

 日本刀やナイフを使われた場合、距離を詰められると琢磨君の方に分がある。

 

「それでも、マミとほぼ互角なのかよ……」

「まあ、私の特訓でもあるから、最近はナイフメインだったけれどね。

 二人が来る前は、琢磨君が前、私が後ろが基本だったから」

 

 基本戦術が決まっているのだから、当然それを伸ばす方向で特訓する事になるわ。その結果が現状の戦歴。

 ちなみに、引き分けの内、2戦は一般人に気付かれそうになっての中断。1戦は双方が相手の額に銃口を押し当てての相撃ち。

 

「佐倉さんも一度、琢磨君との模擬戦を経験してみるといいわ」

「ねぇ、まだ~?」

 

 かけられた声に振り向くと、何故か琢磨君とゆまちゃんがラジオ体操をしていた。琢磨君は既に変身状態だ。

 

「やる気満々ね」

「そりゃ、3連戦だからね。

 気合を入れないと」

 

 それで何故、ラジオ体操なのかしら? まあ、聞くだけ無駄でしょうけど。

 

「それで、順番は?」

「ゆまからいく!」

 

 琢磨君の質問に、私が答える前に、ゆまちゃんが声をあげた。

 本当なら、ゆまちゃんは最後にするべきなのかもしれないけれど。

 

「悪いがゆまは、2番目だ」

 

 そう言って、佐倉さんが変身した。

 

「あたし、ゆま、マミの順番でいいか?」

「オレは構わないよ」

「その順番の意味は?」

 

 単純に勝たせるだけを考えるなら、ゆまちゃんを最後に回すべきだと思うけれど。

 

「琢磨とは初めてだし、一番手はあたし。

 ゆまは前に一度、戦り合ってるから次。

 模擬戦数の多いマミが最後。

 何か問題は?」

 

 ……それだけ、かしら?

 でも、即座に否定できる材料がないし、それでいくしかないかしらね?

 

「さて、と」

 

 私とゆまちゃんが少し離れた場所に移動。

 

 教会前で、佐倉さんと琢磨君が対峙する。

 

 張り詰める緊張感に、ゆまちゃんも真剣な表情。或いは二人の戦いを見て、琢磨君を倒すための作戦を考えようとしているのかもしれないわね。

 私は鞄から別のノートを取り出し、新しいページを開く。

 

 スティックキャンディを咥えた佐倉さんと、電子タバコを咥えた琢磨君が、同時に開戦を告げた。

 

「いくぜ、琢磨!」

「では、闘劇をはじめよう」




次回予告

第一試合 佐倉杏子VS群雲琢磨

重要なのは勝敗ではなく、その過程

なぜならこれは、訓練であって

殺し合いではないのだから

百六章 影が薄い


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百六章 影が薄い

「聞きたい事があるのだけど?」
「どしたよ、巴先輩?」
「琢磨君は、模擬戦で時間停止を使わないわよね?」
「そりゃ、そうでしょうよ。
 なんだかんだで<オレだけの世界(Look at Me)>が、一番魔力消費が大きいんだもんよ。
 GS(グリーフシード)が入手出来る訳じゃない模擬戦で使って、その後に魔女狩りが出来ないんじゃ、意味が無い。
 インターバルもあるし」


SIDE out

 

 見滝原郊外、寂れた教会の前。

 自らの力を高める為に今、赤い魔法少女と魔人の戦いが幕を開ける。

 

 槍を構えた杏子を相手に、群雲は日本刀を取り出して距離を詰める。

 当然、それに合わせて杏子が槍を振るうが、群雲は日本刀を抜く事無く、弾き返す。

 そのまま、懐に潜り込み。

 

「逆手居合 電光抜刀 壱の太刀」

 

 日本刀を用いた肉体操作プログラムを発動させる。

 

「逆風!」

 

 逆手居合による、斬り上げ。魔法により威力、速度を底上げされたそれは、早々に決着を着ける。

 

「甘ぇよ!」

 

 筈も無く。

 槍を弾き飛ばす為に繰り出された『逆風』を、杏子は槍を多節棍状にする事で()なす。

 そのまま、群雲の体を絡め取り。

 

「うぉっ!?」

 

 肉体操作プログラムである為、往なされようとも構わず、納刀モーションに入っていた群雲は。

 絡め取られるがままに、杏子によって吹き飛ばされた。

 しかし、当然のように着地。二人はそのまま距離を離して対峙する。

 

「最近、日本刀の影が薄い。

 むしろ、弱い。

 つーか、ナイフの方が使いやすいから、むしろ使う方が危険。

 これは、テコ入れが必要か」

「知るかよ」

 

 軽口を叩きながら、群雲は日本刀を戻し、替わりに両腋から二丁の自動拳銃を取り出す。

 

「実弾銃なのは、知ってるよな?」

 

 器用に電子タバコを咥えたまま、白い煙を吐き出して、群雲は告げる。

 

「流石に殺すつもりは無いからな。

 生き残れ、佐倉杏子!」

 

 そのまま、左手を突き出し、右手を曲げる独特の構えから、乱射を開始する。

 杏子は多節棍状態の槍を操り、襲い来る弾丸を全て弾く。

 全弾撃ち尽くした群雲は、右手の銃を一時的に右手の平へ収納し、左手の銃から弾倉を抜き取り、入れ替える形で次の弾倉を右手の平から取り出して。

 

「させるかよ!」

 

 そんな行動を、杏子が黙って見ている筈も無く。

 槍を元の形状に戻し、上空から群雲を襲う。

 

「うん、わかってた」

 

 群雲は瞬時に、空の銃と弾倉を上に放り投げると、右手の平からナイフを3本取り出し、杏子へ投擲する。

 襲い来るナイフに対し、杏子は自身の槍を投げて対抗する。

 質量の違い、勢いの違い、立ち位置の違い。色々な要素はあれど。

 杏子の槍が、群雲のナイフを弾き飛ばしながら進む現実に、違いは無い。

 

「邪魔ぁ!」

 

 襲い来る槍を、群雲は再び取り出した日本刀で弾いて、方向をずらす。

 自身の横を通り過ぎて、地面に刺さる槍を尻目に、群雲は上空で身動きが取れない杏子に迫る。

 

「逆手居合 電光抜刀 弐の太刀」

 

 自ら距離を詰めての横薙ぎ。

 

「閃ぷ「縛鎖結界!」へぶしっ!」

 

 しかし、杏子は自身の前に紅いひし形の結界を張り巡らす事で、群雲の突進を防ぎ。

 肉体操作プログラムであるが故に、群雲は見事に結界に突進、衝突した。

 

(((かっこわる……)))

 

 相手の杏子と、観戦中の二人の魔法少女。全員の思考か一致する中、群雲は衝突の際に飛んでいってしまった電子タバコを、何事も無かったかのように、普通に拾う。

 

 縛鎖結界を中心に、二つに分かれた二人が、思考を巡らせる。

 如何に攻めるか。如何に凌ぐか。如何に勝ちを拾うか。

 

「キョーコ、勝てるかな?」

 

 離れたところに、ビニールシートを敷いて、戦況を見守っていたゆまが、横にいるマミに問いかける。

 

「そうねぇ……」

 

 ゆまの横に座るマミが、戦況を見極める。

 

「佐倉さんが気付ければ、勝機はあるわね」

「……?」

 

 マミの言葉に、ゆまは首を傾げる。

 

()()()()()()()()()()()()()()()のよ。

 それに気付けなければ、ナイフあたりを首に突きつけられて決着が着くでしょうね」

 

 以前、同様の策で敗北した事のあるマミが、冷静に分析する。

 

「初見であの策を見破るのは、難しいでしょう。

 それだけ、琢磨君は佐倉さんを評価しているという証でもあるけれど」

 

 策を破る方法はある。でも“今の佐倉杏子”では難しいだろうと、マミは判断していた。

 マミの言葉を聞き、不安げな表情のゆまが見守る中、戦いは次の局面へ。

 

「さて、その結界があると、戦いが続かないんだけど」

 

 電子タバコを右手の平に収納し、代わりにナイフを取り出す群雲。

 

「わかってるさ」

 

 先程投擲した槍を消し、新たな槍を構えて、杏子も構える。

 一瞬の間。縛鎖結界の消失と同時に、二人は間合いを詰める。

 

 ここで、群雲は杏子にとって想定外の行動に出る。

 持っていたナイフを、投げるでもなく。収納するでもなく。

 

 右手を開いて、その場に落とした。

 

「は?」

 

 思わず、ナイフに視線が行く杏子。その一瞬の隙を突き、群雲が再び、懐に潜り込む。

 

「ゆまは耐え切ったが、佐倉先輩はどうかな?」

 

 そして発動する、肉体操作プログラム。

 

 至近距離での戦闘において。攻撃速度を比較するならば。

 長物である槍よりも、日本刀の方が短い分、速く。

 日本刀よりも短い、ナイフの方が速く。

 当然、拳の方が速い。

 

 <電気操作(Electrical Communication)>技能『黒腕の連撃(モードガトリング)

 

「邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔!!」

 

 その名の通り、ガトリングガンを髣髴とさせる、黒い電気を纏った両手のラッシュ。

 杏子は槍を離し、両腕をクロスさせる事でガードする。

 黒腕の連撃(モードガトリング)の利点は、<電気操作(Electrical Communication)>の補助を受けた、通常以上の高速ラッシュ。

 黒腕の連撃(モードガトリング)の欠点は、肉体操作プログラムである為の、応用性の無さ。発動したら解除するまで、狙いを変える事は出来ない。

 故に、杏子の腕を滅多打ち状態である。当然、杏子がそのままでいる筈も無い。

 ガードの際に落とし、足元に転がる槍を器用に足で蹴り飛ばし、群雲の足を狙う。

 

「邪魔邪魔邪魔邪魔ぁぉうっ!?」

 

 足への衝撃に、群雲はバランスを崩してしまうが、両腕は止まらない。慌てて肉体操作プログラムを解除する。

 その隙を突いて、杏子が間合いを取る。再び離れて対峙する二人。

 

(攻撃が多彩すぎる……次の手が読めない)

(あそこで槍かよ……あの凌がれ方は想定してなかった)

 

 今度は、縛鎖結界がないが、関係なく二人は思考を巡らせる。

 

(なにが、広くて浅いだよ……充分じゃねぇか)

(Lv1であるが故の欠点だよなぁ……だから、魔女戦では武器を使ったほうがいいんだよ……)

 

 杏子は槍を構え、対して群雲は素手のまま。相手から視線を逸らさずに。

 

(対応出来る速度だから、何とかなってる感じか)

(そろそろいけそうな気もするが……盛り上げるか?)

 

 そして、先に動いたのは。

 

 

 

 

 群雲琢磨。

 

 

 

 

「3連戦なんだよね」

 

 いつものように、口の端を持ち上げて。群雲は言葉を紡ぐ。

 

「だから、そろそろ決めさせてもらうぜ?」

 

 その言葉に、杏子の表情が一層に引き締まる。

 

「出来るのかよ?」

 

 言いながら、槍の感触を確認し、群雲に集中する。どう動いても対応出来るように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出来るんだ」「なぁこれが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っ!?」

 

 視線を逸らした訳ではない。集中を切らした訳でもない。

 

 「出来るんだ」までは、群雲は確かにそこに居た。

 だが「なぁこれが」の言葉は、杏子の後ろから聞こえていた。

 

 杏子が反応するより前に。群雲は、先程上に放り投げた銃が、重力に従い落ちてきたのを、しっかりと受け止める。弾切れの為、スライドが引かれたままの銃を左手に、弾の込められている弾倉を右手に。

 風が頬を撫でる中、叩き込むように弾倉を装填した音に反応し、杏子が動く。

 杏子が選んだ行動は、攻撃。飛び退いて間合いを取るのではなく、自分の後にいる群雲への反撃。

 考えた訳でもなく、反射的に体が動いたのだ。

 回転するように槍を横薙ぎに振るう杏子。その腕を右手で掴み、その動きを抑え込む群雲。

 同時に、群雲は杏子のこめかみに、左手の銃口を押し当てていた。

 

勝利は、オレの手に(Rock you)

 

 その言葉と共に、銃のスライドが元に戻り、弾が込められた事を示す。

 

 勝者は、一目瞭然だった。




次回予告

何が起きたのか

ゆまと群雲の戦いが始まる前に

語られるのは、成功した魔人の策

合わせて語られる




二人の少女の、心


百七章 使わなかった


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百七章 使わなかった

「なあ、ナマモノ?」
「なんだい?」
「最近、対魔女よりも対人の方が効果的な魔法や技能が増えた気がするんだが」
「気付いてないとは、僕も想定してなかったね」
「え? わかるの?」
「独りだった時は、魔女戦やそれを元にしての研磨だっただろう?
 でも今は、マミとの模擬戦。
 そこからの考察がメインになっているからね。
 発展方向が絞られてしまっても、不思議じゃない。
 <一部召還(Parts Gate)>が、それを証明しているだろう?」
「意外な落とし穴ッ!?
 な、何ということだ、このタクマ……何てざまだ、このタクマ!
 自分の為に願った魔法が、こんな無惨になりさらばえて可哀想によ……」
「マミとの模擬戦に勝つ為に、発展したんだろう?
 無惨とは言わないんじゃないかな?」
「通用した事ないんだよっ!
 むしろ二人で「え? どうするのこれ……?」的な空気が痛かったんだぞ!」
「わけがわからないよ」


SIDE out

 

 初戦は、群雲の勝利。続いて第二戦。千歳ゆまVS群雲琢磨……なのだが。

 

「無ぇ! ナイフが見当たら無ぇ!!」

 

 杏子との模擬戦にて、群雲はナイフを投げて、杏子はそれを槍投げで迎撃した。

 その際、群雲のナイフは弾かれて、あさっての方へ散らばった。

 それを探しているのである。

 

「まだ~?」

「いや、手伝ってよ」

「や」

「……ですよねー」

 

 そんな軽口を交わしつつ、ナイフを探す群雲と、それを待つゆま。

 そして、少しはなれた所に座る、巴マミと佐倉杏子。

 

 今回は、その二人の会話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 佐倉杏子

 

「残念だったわね」

 

 マミの言葉を聞きつつ、あたしはその横に座る。あらかじめ準備されていたクッキーを手に取り、口に運ぶ。うん、うまい。

 

「流石の琢磨君、と言った所かしらね。

 以前、私に行った方法で佐倉さんまで退けるのだから」

 

 水筒から、紅茶を注ぐマミの言葉に、反応しないはずが無い。

 

「マミは、琢磨が何をしたかを理解出来てるのか?」

「ええ。

 以前、同じ方法で負けたしね。

 それに、ギリギリだったみたいだけど“ゆまちゃんにも見えていた”みたいよ」

 

 思わず落としそうになったクッキーを、慌てて口に運ぶ。

 待て、あたしにはさっぱりだったあの状況を、ゆまは理解出来ていたのか!?

 

「観戦だったからこそ、ゆまちゃんにも見えていたんでしょうね。

 対峙した状態なら、あの策を初見で破るのは難しいと思うわ」

 

 言いながら、差し出された紅茶を口に運ぶ。それを見ながら、マミは真剣な表情で話し始めた。

 

「全てが伏線、策を成功させる為の布石。

 最初の『逆風』も、二丁拳銃の乱射も、槍とナイフのぶつかり合いも、その後の結界突進も」

 

 色々と言いたくなるが、辛うじて言葉を飲み込む。まずは説明を聞かないといけない。

 

「最初に琢磨君は、自分の<電気操作(Electrical Communication)>による速度に、佐倉さんを()()()()()

 これが、琢磨君の速度だと、佐倉さんに思い込ませたの。

 その為だけの立会いだったのよ。

 そして、前触れ無く<操作収束(Electrical Overclocking)>を用いる事で、完全に佐倉さんの死角をついた。

 端的に言えば、それがすべてよ」

 

 <電気操作(Electrical Communication)>と<操作収束(Electrical Overclocking)>

 これを琢磨は“Lv1”“Lv2”と呼ぶ。

 当然、強力なのは後者の方だ。

 

「最初からLv2を使用すれば、早期決着が可能だったかもしれない。

 でも万が一、その動きに対応されてしまうと、琢磨君としてはやりにくくなる。

 だからこそ“Lv2を使用した時点で決着を着ける必要があった”のよ。

 佐倉さんとの模擬戦、これが“初戦”だったからこその策ね」

 

 そこまで考えてたのか……マジで、あいつの思考が理解できないな。

 

「そして、佐倉さんは“琢磨君から視線を外している”わ。

 だからこそ、最後のLv2に対応しきれずに、琢磨君の勝利を確実なものにしたの」

「は? いや、ちょっと待てよ!」

 

 確かに対応できなかった。だがあたしはあの時、琢磨から視線を外した筈が無い。

 一対一の状況で、それがどれだけ危険な事か。一人で生きてきたあたしには、充分理解出来てるんだ。

 

「残念ながら事実よ。

 佐倉さんは無意識に、視界を閉ざした。

 その瞬間があったのよ」

 

 言いながら、マミは自分を指差しながら、目をパチパチと………………!?

 

「まばたき……ッ!?」

「そう。

 その一瞬こそが、琢磨君の動く合図だったのよ」

 

 全容が明らかになる、群雲琢磨の策。

 Lv1で動き、渡り合う事で相手の誤解を誘発。遠近両方を使用する事で、相手からの行動開始を迫害。

 睨み合いの状況に持っていく事で、相手の“瞬きする瞬間”を見極める。

 その一瞬で、極限まで体勢を低くして相手の死角に入る。

 そして、詰み(チェックメイト)

 

「ただ、琢磨君にとって想定外だったのは“上空に放り投げた銃と弾倉が、自分の所に落ちてきた”事でしょうね」

 

 は? あれは想定外だったのか?

 首を傾げたあたしに、マミは一度、紅茶で喉を潤してから、説明を続ける。

 

「わざわざそんな事をしなくても、日本刀なりナイフなりを首元に当てれば終わってたわ。

 でも、落ちてきた銃と弾倉を、琢磨君は反射的に手にとってしまった。

 結果的に詰み(チェック)できたけれど、そのせいで佐倉さんに“一手”を許してしまった。

 そして、それこそが“琢磨君の弱点”でもあるのよ」

「……すまん。

 わかりやすく、頼む」

 

 どうしてそれが、弱点なのか理解できない。

 マミの説明は続く。

 

「琢磨君の魔法は、電気を応用した、自身の高速化」

 

 うん、それは知ってる。

 

「逆を言えば“素の反射行動が、最も遅い”事になるの」

 

 ……!?

 

「Lv1での肉体操作は、通常以上の速度で動かす為のプログラム。

 Lv2での肉体操作は、脳からの指示を電気信号自体の収束、速度を上げたもの。

 つまり琢磨君は“考えて動く時が最も速く、考えずに動く時が最も遅い”のよ」

 

 だからあの時(閃風で)、あたしの縛鎖結界に突っ込んだのか! プログラムの解除が間に合わずに!

 だから、死角に入りながらも、銃を手にとってしまった。落ちてきた銃を。手にとって、弾倉を装填してしまった。

 だから、あたしは一つだけ行動出来た。銃を手に取らなければ、あたしはそれすら出来なかった筈なんだ!

 

「もちろん、琢磨君自身もそれを理解しているわ。

 だからこそ琢磨君は“策を練る事に重点を置いている”の」

 

 そうだ! 全ての行動が高速化しているのなら!!

 病院での魔女戦で“右腕を失う事はなかったはず”なんだ!!!

 

「どんな状況下においても、高速で思考を巡らせて、常に最善手を模索する。

 それこそが、琢磨君の真骨頂。

 逆に、どんな状況下においても、高速で思考を巡らせる事で、次への行動が僅かに遅れる。

 それこそが、琢磨君の弱点なのよ」

 

 最初から最後まで。あたしの行動は“群雲琢磨の想定内”だったって事か。

 ……そりゃ、勝てないわ。

 

「なら、琢磨を攻略するには?」

 

 あたしの質問に、マミはノートを広げて、視線を落とす。

 

「闇雲に、正面から向かったのでは駄目よ」

 

 ぐっ……! 痛い所を突きやがる。以前、()()()()に散々言われた事を、また言われるなんて……!?

 

「でも、佐倉さんにはある。

 琢磨君を退ける魔法が」

「なんだよ、そ……っ!」

 

 広げられたノート、そのページを見て、あたしは言葉を失う。

 

『まあ、そんな佐倉先輩のページに、ポツポツと濡れた痕があれば……ねぇ?』

 

 脳裏に浮かんだ、琢磨の言葉。その通りに、濡れた痕がある。

 だが違う。あたしが言葉を失ったのはそれだけじゃない。

 

赤い幽霊(ロッソ・ファンタズマ)なら、確実に琢磨君を出し抜けたでしょうね」

 

 そのページに視線を落としたままのマミ。

 そのページから、視線を外せなくなってしまったあたし。

 少しして。マミが顔を上げる気配を感じ、あたしも反射的に顔を上げる。

 

 僅かに寂しそうな表情のマミ。

 あたしは今……どんな顔をしてるんだろう?

 

「やっぱり、使()()()()()()訳じゃなく、使()()()()()()()()のね」




次回予告

その魔法は願いの発露

その魔法は罪の十字架

その魔法は絆の証明

その魔法は無くした力












その魔法は、唯一名付けた彼女の魔法

その魔法は、唯一彼女が名付けた魔法












百八章 ロッソ・ファンタズマ


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百八章 ロッソ・ファンタズマ

「僕にとっては、好ましくない展開だけどね」
「バッカ、ナマモノ、オマエ、バッカ」
「なんで片言なんだい?」
「下手に魔女だらけになったら、素質者()がなくなるだろ?」
「そうだね。
 素質があっても、契約していないと、魔女に対抗する事は出来ないからね」
「なら、実力の高い魔法少女を生き残らせて魔女を狩り、成り立ての魔法少女を孵化させた方が、効率いいだろうに」
「間引きが必要だというのかい?」
「バランスが重要って事だよ」
「でも、契約した以上は魔女になってもらわないと、エネルギーが無駄になるじゃないか」
「魔法少女狩りが、それを加速させてるだろ?
 魔法少女狩りを殺せる魔法少女の確保は、重要だぜ?」


SIDE out

 

 佐倉杏子は、黙っていた。

 以前も、今、この時も。

 

 家族の為に願った。最愛の人たちの為に祈った。

 そして、力を得た。魔法少女になった。この力で、幸せを広げるはずだった。

 

 しかして、結果は真逆に終わる。最低な形で、幕を下ろす。強制的に降ろされた。

 

 佐倉杏子は、黙っていた。

 以前も、今、この時も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 佐倉杏子

 

「最初に気付くべきだった。

 気付いてあげるべきだったのね」

 

 あたしの耳に届いたのは、マミの後悔する声。

 違うだろ? そうじゃないだろ?

 あんたが謝るのは、おかしいんだ。あんたが傷つくのはおかしいんだっ!

 

 ゆっくりと深呼吸をした後、マミは真剣な表情であたしを見る。

 その眼差しを……あたしは正面から受け取ることが出来ず、視線を逸らす。

 

「確信したのは、先日の病院での魔女戦よ」

 

 マミは言う。その時の考えを。その時の状況を。

 

「ゆまちゃんの作戦を聞いて、佐倉さんは反対した。

 でも、他に策が無かった。

 ならば、それを実行するしかなかった。

 それが、病院での状況だった」

 

 マミは言う。そこでの考えと、そこでの“証拠”を。

 

「あなたが、ゆまちゃんを大切に思っているのは知ってるわ。

 だからこそ、ゆまちゃんが最前線に立つ作戦を、反対するのは当然。

 そして、他に策が無いのなら。

 ゆまちゃんへの危険を、少しでも遠ざける筈。

 その点において、幻惑魔法(ロッソ・ファンタズマ)ほど、最適な魔法は無かった筈なの。

 その事に、あなたが気付けない筈がないのよ」

 

 

 幻惑魔法ロッソ・ファンタズマ

 あたしが得た魔法。マミが名付けた魔法。

 

 家族と共に、失った魔法。

 

「でも、あなたは使わなかった。

 ゆまちゃんを守る為に最適のはずだった魔法を。

 当然、導き出される結論はひとつだけ。

 使えなかったのね?

 いえ、使う事が出来なくなった」

 

 開いていたノートが、閉じられる音がした。でもあたしは、顔を上げる事が出来ないでいる。

 

「駄目な先輩ね、私も。

 気付かなかった。

 気付く事が出来なかった。

 これじゃ、救える人の数なんて、たかが知れてるわ」

 

 っ!? だからっ!

 なんで、あんたがそこまで気遣わないといけないのさ!

 そう、叫ぼうとしたあたしの耳に。

 

「あといっぽぉぉぉぉん!!!」

 

 未だにナイフを探している琢磨の声が届いた。

 

 ………………。

 

「「はぁ……」」

 

 あたしとマミが、同時に溜め息をついた。

 こっちの空気はガン無視か。まあ、琢磨が空気を読むとは思えないが。

 そんな事を考えながら、あたしは声のした方を見る。

 

 茂みに頭を突っ込んだ状態の琢磨に、暇そうに欠伸をするゆま。

 

 そして、二人が居るのは、教会の前。

 

 

 

 

 

 あたしは、なにをしてるんだ? 何の為に、この場所を選んだんだよ?

 

 僅かに震える右手を、無理やり押さえ込んで、あたしはマミを見る。

 マミもまた、あたしと同じ様にゆま達を見ていたが、あたしの視線に気付いて、顔を向ける。

 

赤い幽霊(ロッソ・ファンタズマ)が使えなくなったのは、家族の心中が原因だ。

 結局、あたしの願いが家族を壊しちまった。

 願わなければ良かったなんて後悔が、魔法が使えなくなった原因だって、キュゥべえは言ってたよ」

 

 あたしは、ゆっくりと発露する。もう二度と、後悔しない為に。

 

「もう二度と、誰かの為に魔法は使わない。

 家族を不幸に巻き込んだ力で、赤の他人まで巻き込みたくなかったから。

 だから、誰かの為に戦うあんたとは、一緒にいられない。

 いるべきじゃないって、そう思ったんだよ」

「佐倉さん……でも」

 

 何かを言おうとしたマミを遮るように、あたしは言葉を続ける。

 

「マミ先輩なら、それでも一緒にいてくれたかもしれない。

 でも、あたしのせいで、戦い方を変えられたりしたら、きっとあたしは後悔する。

 一緒にいる事を、後悔する」

 

 あたしの言葉に、マミは息を呑む。

 

「マミさんは優しいから。

 魔法が使えなくなった、足手纏いなあたしにだって、GS(グリーフシード)を分け与えただろうね。

 そんなの…………あたしが、惨め過ぎるじゃんか」

 

 一緒でも。一緒じゃなくても。どうなっても。

 自業自得だ、あたしの。

 

「だったら、別れるのが一番だろ?

 どっちにしたって、傷つくなら。

 より、被害が少ない方を選ぶだろ?」

 

 あたしのせいで、マミが傷つく。その結末が不可避なら。

 一緒にいて、足を引っ張り続けるよりも、きっぱり別れた方がいい。

 あたしは、そう思ったんだよ。

 

「……そう…………だったのね」

 

 僅かに震える声で、そう呟いたマミは。

 

「先輩失格ね」

 

 そう、苦笑した。

 

「っ!?」

 

 だから、なんであんたが傷つかなきゃ……っ!

 

「私はね、佐倉さん」

 

 一気に感情が爆発しそうになったあたしを、マミの声が押し留める。

 

「正義の味方になりたかったわけじゃないの」

 

 そして、その言葉が。あたしの動きを止める。

 

「事故に遭って、願いを叶えて、私だけ生き残った。

 すぐに後悔したわ。

 どうして私は“自分の為にしか願えなかったんだろう?”って」

 

 左手の中指。SG(ソウルジェム)が形を変えた指輪をなぞりながら、マミは続けた。

 

「でも、私が魔女や使い魔を倒す事で、ひとつでも命が繋ぎ止められるなら。

 きっと、それが私の使命なんだって。

 そう思ったのも事実だし、人々を救う事で、私は自分の心を救いたかったのかもしれないけど。

 本当は、独りになりたくなかっただけなのよ」

 

 正面から、あたしはマミの顔を見る。

 悲しいような、寂しいような、怖いような、辛いような。

 そんな、表情をしてる。

 きっと、あたしも同じ様な顔をしてるんだと思う。

 

「家族を失った私は、魔法少女として戦う。

 そう言っていたのは、キュゥべえ。

 もし、私が魔法少女として戦わないなら。

 キュゥべえまで、いなくなってしまう。

 きっと、弱い私はそれに耐えられない」

 

 家族を失っても、キュゥべえは現れる。使用済みのGS(グリーフシード)は、あいつじゃないと処理出来ない。

 魔法少女である限り、キュゥべえは二度と現れない事はない。

 戦えるわけじゃないけど、魔法少女と共にあるキュゥべえの存在は、間違いなく孤独を紛らわす。

 

「これ以上、自分との“繋がり”を失うのが怖かっただけ。

 繋がる相手がいなくなったら……繋がる事を諦めたら。

 きっと私も、魔法を失うんでしょうね」

 

 そのまま、マミは視線を琢磨に向ける。

 

「繋がりを手放さず、引き止める為。

 頼りがいのある先輩を演じた。

 拒絶されないだろう“正義の味方”を求めた。

 結局、私は自分の事で精一杯。

 自分との繋がりを大事にして、繋がっている相手を、ちゃんと見てなかったのね」

 

 つられて、あたしも琢磨を見る。

 

「そういう意味で言えば、琢磨君は誰よりも優れてるわね。

 “魔法少女である事に縛られてる”と言われた時は、心を鷲掴みにされたようだったわ。

 それでも“ここにいてもいいか?”なんて聞き方をするんだから、卑怯な子よ。

 空気を読まないし、嘘吐きだし、自分の事しか考えないし。

 電子タバコなんて使ってるし、新しい料理に挑戦したらおかしな色になるし。

 この間なんか、学校にお弁当を持ってきた上に「お姉ちゃんにお仕置きされたくないから」とか、捨て台詞を残していくんだもの。

 クラスメイトの誤解を解くのが、大変だったんだから!」

「マミ……後半、ただの愚痴になってるぞ……」

「本当に……“肩肘を張る”のが、馬鹿らしくなるわよ」

 

 ……あ。

 

「見せ掛けの強がり。

 足手纏いになっちゃいけないとか、一人でカッコよくならなきゃとか。

 自分すら騙す、寂しい嘘。

 琢磨君はそれを、別の見方から突き崩す。

 虚構を削ぎ落とす、優しい嘘。

 本当に……嘘吐きで、卑怯な子」

 

 あたしは、マミと琢磨のやり取りを、何度か“手馴れてる”と考えてた。

 でも、それは違った。あしらい、あしらわれる。そんな関係じゃなかった。

 

 自然体

 

 片意地を張らず、自分を偽らず。

 ただ純粋に、心の想いを表現する。

 それでよかった。それだけでよかった。

 

 

 

 

 だから、あたしは琢磨が羨ましかったのか……。

 

「どんなに強いモノにだって、弱点は必ずあるものよ。

 だからこそ、私達は独りぼっちじゃ駄目だったのよ」

 

 でも、あたしの“見方”で言えば……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「琢磨の生き方はとても「あったぁぁぁぁ!!」空気読めよマジでぇぇぇ!!!」

 

 反射的に、叫んだあたしは悪くない。

 

「会話は、一時中断ね」

 

 苦笑しながら、マミは肩を竦める。あたしはもう、張り詰めていたモノが、根こそぎ吹き飛ばされた気分だよ。

 

「待たせたな!」

「そのドヤ顔がウザイ!」

 

 ようやく対峙した琢磨とゆま。マミは当然のように、琢磨に声をかける。

 

「3連戦の2戦目ね」

「そうだね、プロテ「ハンデ戦、武器使用不可で」……マジカ……」

 

 はぁ!?

 

「いや、いくらなんでもそれは……」

 

 あたしの言葉を無視して、マミは言葉を続ける。その言葉は当然のように、あたしの予想の斜め上を行く。

 

「常に万全の状態で戦えるとは限らない。

 琢磨君は“ナイフを探している状態で、ゆまちゃんが仕掛けてくるのを待ってた”でしょ?」

「oh……バレテーラ……」

 

 え、えぇっ!?

 

「そのまま、なし崩し的に模擬戦開始するつもりだったんでしょうけど、そうはいかないわ」

「なし崩し的に、ゆまを瞬殺して、巴先輩に専念したかったぜ……」

「むっ」

 

 苛立ちを顕にするゆま。自分の策が潰されて、空を見上げる琢磨。再びノートを開くマミ。

 ……置いていかれたあたし。

 

「闘劇をはじめた以上、幕を下ろすまでは全開だからな」

 

 琢磨は改めて、ゆまと対峙する。それを見たゆまも、手に持つハンマーを構える。

 

「3連戦と最初に言った以上、琢磨君にとっては“私を倒すまでが戦闘モード”なのよ」

 

 ……マジ、あいつがわからねぇよ、あたしには。

 結局、話し途中になったし。

 

 でも、話の続きはいつでも出来る、か?

 

 そんなあたしの前で、2戦目がはじまる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆまが、たくちゃんを倒す!」

「やってみろ! このたくちゃんに対して!!」

 

 色々台無しだった。




次回予告

第二戦 千歳ゆまVS群雲琢磨

子供の喧嘩 第二幕

条件は違えど、それは変わらず

子供の喧嘩 第二幕

少女は、少年を倒す為に力を磨き

少年は、少女の壁となる為に煽る









ガキの、意地の張り合い

ただ、それだけのこと

百九章 遅い 色々な意味で


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百九章 遅い 色々な意味で

「聞いてもいいかい?」
「オレ達の間に遠慮は不要な気もするが、なんだよナマモノ?」
「普段から、ゆまとはあまり絡まないよね?
 どうしてだい?」
「嫌われてるからなぁ。
 無論、仲良くなるのが見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)としてはベストなんだが」
「自分の為になっていないんじゃないのかい?」
「ところが、そうでもないんだなぁ。
 オレを嫌い、距離を置く分、先輩達との時間が増えるって事だ。
 先輩達が優れた連携により、戦果を挙げてくれれば」
「くれれば?」
「オレが楽できる」
「やっぱり、えげつないよね、琢磨は」


SIDE out

 

 戦闘が始まった次の瞬間には、宙に浮いた群雲の右手が、ゆまの頭を掴もうと伸ばされる。

 

 <一部召還(Parts Gate)>

 

 前回、ゆまに敗北を与えた魔法で、早期に決着をつけようとする群雲だが。

 

「ふんっ!」

 

 伸ばされた腕を、ゆまはハンマーで叩き返す。自分に決定的な敗北を与えた魔法なのだ。ゆまが警戒しないはずもなく。

 加えて、ゆまは“守護(まもる)”事に特化している。自分から攻められない訳ではないが、その特性は攻めるよりもカウンター狙いの方が効率も能率もいいのだ。

 ハンマーと衝撃波、攻撃力で言えば充分であるが故に。

 

「っとと……」

 

 叩かれた腕を戻し、上下に振る群雲。考えて動く事に特化している現状、迎撃される事も想定内。

 

 群雲にとって重要なのは“武器使用不可”という、ハンデである。

 

 離れた位置で対峙する、群雲とゆま。

 ゆまが迎撃の態勢であり、群雲が近付かなければならない現状は、当然のように膠着する。

 

 

 

 

 

「さて、どう見る?」

 

 気を取り直し、新たにクッキーを口に運ぶ杏子に対し、ノートを開いたマミが現状を分析する。

 

「琢磨君にも、純粋な遠距離魔法はあるけれど、良い手段とは言えないわね」

 

 横から覗き込んだ杏子が見たのは、開いているページ。当然、群雲の事が書いてある。

 

 

電光球弾(plasmabullet)

 電気を球状に束ねて射出する魔法

 利点:遠距離にも対応可能 着弾時に弾ける為、対象の動きを一時的に封じる事がある

 欠点:遅い 色々な意味で

 

 

「なんじゃこりゃ……」

 

 思わずそう呟いた杏子に、マミが説明する。当然、その言葉が出たのは欠点についてだろうから。

 

「元々、琢磨君の“電気”は、体外に出るほどの出力はないわ。

 辛うじて、体の一部に纏わせる程度でね」

 

 その最たる例が黒く帯電する拳(ブラストナックル)である。

 

「わざわざ、体外で電気を束ねる。

 当然、球状になるまでの準備(チャージ)が必要になる。

 加えて、射出速度は大きさに反比例する。

 大きければ、威力も大きい、でも遅い。

 小さければ、速いけど、威力とすら呼べない程度よ」

「どれだけ弱いんだよ、それ」

「電気マッサージ以下」

「……うわぁ……」

 

 だからこそ、前回のゆまとの戦いで、琢磨はゆまに()()()れな()()()()ならなかった。

 触れていたからこそ、自分に纏った電気を送り込む形で、ゆまの意識を刈り取ったのだ。

 

「そして、ゆまちゃんの現状の攻撃手段は、ハンマーと、それを用いた衝撃波。

 戦いを“近距離”“中距離”“遠距離”で分類したとしたら、最適な間合いは“近距離~中距離”になるでしょうね」

 

 衝撃波、それを視認する事は出来ない。しかし“ハンマーを振る”という動作が必要である以上、予想するのは不可能ではない。

 加えて、対峙しているのは魔法により頭の回転を早くしている状態の群雲だ。

 ただ、闇雲に衝撃波を発生させても、回避される可能性が高い。

 そして、ハンマーという大振りになりがちな武器であるが故に。

 二発目よりも速く、群雲が間合いを詰めるのは容易に想像出来る。

 

「如何に、自分の間合いで戦うか。

 自分の間合いで、戦う事ができるか。

 今回の勝負の命運は、そこにあるでしょうね」

「だからこその、武器使用不可か」

 

 武器が使用可能であれば、群雲は間違いなく“遠距離戦”を選ぶだろう。

 衝撃波で凌ぎきれないほどの弾幕。ゆまが反応する前に着弾する、超速の電磁砲(Railgun)

 そして、炸裂電磁銃(ティロ・フィナーレ)

 処理する方法は、いくらでも選択できる。

 

 だからこそ、マミは“武器使用不可”というハンデにした。

 

 群雲の持つ“大量のナイフ”でも、処理可能な事を知っているからだ。

 

「さて、どうするかしら?」

 

 マミの言葉に合わせ、杏子が対峙する二人に視線を向ける。

 そして、それを合図にするかのように。

 

 群雲が動いた。

 

 両手をクロスさせながら、ゆまに突進して行ったのだ!

 

「っ!」

「は?」

「え?」

 

 三者三様のリアクション。しかし、状況は止まらない。

 当然、ゆまはハンマーを振るい、衝撃波を発生させる。

 

 そして群雲は、後方に吹き飛ばされた。

 

「「「え?」」」

 

 三者同様のリアクション。しかし、状況は止まらない。

 吹き飛ばされる事を想定していた為、群雲は倒れる事無く、砂煙を上げながら着地する。

 

「……ふむ」

 

 両手を軽く振り、群雲は電子タバコを咥えたまま、策を組み上げる。

 

 そして、再び突進する。

 そして、再び吹き飛ばされる。

 

 群雲は何度も何度も、同じ様に突進し。

 ゆまは何度も何度も、同じ様に吹き飛ばす。

 

「琢磨の狙いはなんだ?」

「……わからないわ」

 

 観戦していた二人も、訝しげな表情を浮かべている。群雲琢磨という少年を知っている二人だ。この行動に何かしらの意味があるのは明白。しかし、その内容がわからない。

 

 何十回か吹き飛ばされて、ようやく群雲の動きが変わる。

 なんて事は無い、ゆまへと接近する行動だ。

 

 今までと同じ様に、ゆまは衝撃波で群雲を弾き飛ばそうとする。

 

 そして群雲は、衝撃波を受けた瞬間。

 

 

 

 

 加速した。

 

 

 

 

 自分を後方へ吹き飛ばす衝撃波。それ以上の加速。

 それは“衝撃波を受けながらも、止まる事無く接近する”事を可能にする。

 

「っ!」

 

 迫り来る壁をぶち破るような衝撃に、群雲の咥えていた電子タバコが、粉々に砕ける。

 しかし、そんな事はお構いなしに、群雲は一気に間合いを詰めた。

 

「なるほど。

 今回は、相手ではなく、自分が慣れる為なのね」

 

 成功した事で、マミは群雲の策を理解する。

 何度も繰り返された突進行動。ゆまも同じ様に、何度も衝撃波で弾き飛ばした。

 群雲の<電気操作(Electrical Communication)>は、肉体操作プログラムを主としている。当然、突進する速度を、常に一定に保つ事も可能。

 そして群雲は“視認出来ない衝撃波の衝突を予測”して、直撃と同時に加速。

 結果、今は“群雲の間合い”だ。

 

「当然、オレが何をするかはわかるよな?」

 

 砕けた電子タバコを吐き捨てて、群雲は拳を振り上げる。

 

「邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔!!」

 

 黒腕の連撃(モードガトリング)が、ゆまを襲う。その乱撃をゆまはハンマーを盾にして耐える。

 それは、初めての対戦と同じ状況。しかし、これは初めての対戦ではない。

 当然、この状態になった時の策を、群雲は考えてある。

 

「さて」

 

 一度、黒腕の連撃(モードガトリング)を解除して。

 

「耐えてみなっ!」

 

 再び、黒腕の連撃(モードガトリング)を発動する。

 狙うのは、ただ一点。ハンマーを持つゆまの()

 

「邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔!!」

「~~~~~~~~~~~~~ッッッ!!!!」

 

 例え、武器を持って防いでいても。それが大きな盾でも無い限り。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 肉体操作プログラムであるが故に。寸分の狂い無く。ゆまの手のみを対象とした連撃を可能にしていた。

 

 想定外の激痛。それでも正気を保っていられるのは、孵卵器の技術力故か。

 

 しかし。

 

「これで、詰み(チェック)だ」

 

 唐突に、黒腕の連撃(モードガトリング)を解除した群雲は、ゆっくりとゆまの額に右手を当てる。

 先刻までの連撃による激痛に耐えていたゆまは、唐突の状況変化に理解できない。

 

「痛みに耐え、呻いている時ってのは、他の事には気が回らないものさ」

 

 電気ショックを与える訳でもなく。

 しかし、勝敗は明白だった。

 




次回予告

魔法少女であること 魔法少女でいること

生き方を決められた少女たちは

それでも、生きていく










さて、それは ヒト とはどう違うのだろう?




百十章 それでも望むのは


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百十章 それでも望むのは

「一つ、疑問があるんだけどいいかい?」
「オレに答えられるかは、保障しないぞ?」
「かまわないよ。
 あまり期待はしてないからね」
「そうだよな。
 ナマモノはそういう奴だよ、知ってたよ」
「キミの魔法は“時間停止”“放電能力”“空間干渉”の三つだ」
「そうだな。
 願いを叶えた結果、得た魔法だな」
「僕等には、キミ達の願いも、それによる能力も、干渉する事は出来ない」
「らしいね。
 それで?」
「時間と空間。
 この二つは密接な関係にあるから、理解出来る。
 でも“放電能力”だけが明らかに異質だ」
「うん、聞かれても答えられねぇよ」
「魔法は願いにより左右される。
 しかし、放電能力だけは、願いとは別にあるとは思わないかい?」
「わけがわからないよ」
「僕の台詞だよね」
「言われてもなぁ……。
 ただオレは、使えるモノは徹底的に使い潰すだけだし」
「せーの」
「「わけがわからないよ」」


SIDE 群雲琢磨

 

「キョ~コ~!!」

「あぁ、とりあえず治療しような?」

 

 泣きながら、先輩達の元に駆けていくゆまを見ながら思う。

 

 ごめんなさい、正直いっぱいいっぱいでした。

 

 色々な武器を使って立ち回るオレにとって“武器使用不可”は、はっきり言って致命的。

 うまい具合に策がはまったから良かったが、正直他に浮かばなかったってのが大多数を占めていた。

 

 先日の魔女戦のようにゆまが回転して、衝撃波を出し続けてきたら、こうはいかなかっただろうねぇ。

 ……電子タバコ壊れたし。

 まあ、ストックはあるのだが。

 

 新しい電子タバコを<部位倉庫(Parts Pocket)>から取り出して、オレはそのまま口に咥える。うん、落ち着くわ~。

 

「何本持ってるのよ?」

「百から先は略」

「……取り上げるべきかしら?」

「貴重な修行道具なんで、勘弁して下さい」

「修行道具じゃなかったら、取り上げてるわよ」

「修行道具じゃなかったら、そもそも持ち歩かないよ」

 

 そんな雑談をしながら、ゆまと入れ替わる形でオレと対峙する巴先輩。

 

「ハンデはいる?」

「今回はいいわ。

 ゆまちゃんの手前、私がハンデ戦をしても、効果は薄そうだし」

 

 ふむ……。

 まあ、今回の模擬戦はゆまの経験値と“オレの退治方法”の二つがメインだろうしねぇ。

 負ける気? 無いよ?

 

「ゆまの治療完了を待って、開幕といこうか?」

「普段から、そうやって空気を読んでくれると嬉しいのだけど?」

「オレが空気を読めると本気で思ってるなら、まずはそげぶ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 佐倉杏子

 

「う~……」

 

 手の治療を終えたゆまが、唸りながらクッキーを食べている。

 

「落ち着いたか?」

 

 その頭を撫でながら、あたしも同じ様にクッキーを口に運ぶ。

 

「負けちゃった……」

「そうだな」

 

 ゆまの言葉に、あたしは相槌を打つ。ハンデ戦なのに敗北した。その事実はゆまには辛いかもしれない。

 

「ゆま、弱いね」

「いや、弱いわけじゃないよ」

 

 即座に返す。首を傾げるゆまの頭を撫で続けながら、あたしは言うべき言葉を捜す。

 マミさんなら。琢磨なら。どう言って、ゆまを励ますのだろう?

 

「でも、負けたよ?」

「負けたから弱いって訳じゃない。

 そんな事言ったら、あたしだって弱い事になる」

「キョーコは弱くないよ!」

 

 あたしの言葉に反応して、ゆまが大声を上げて立ち上がる。

 それに気付いたマミが、心配そうにこちらに視線を送る。琢磨? いつも通り。

 

「でも、負けたぞ」

「う……」

「負けたあたしを、ゆまは弱くないと言う。

 なら、負けたゆまは弱くないと、あたしが言う。

 間違ってるか?」

「うぅ……」

 

 返答できないゆまは、再び座る。

 マミはこちらを見たまま。どうやら会話が終わるまで、模擬戦を開始しないようだ。

 あたしは、再びクッキーを頬張る。

 

「あたしとゆまは負けた。

 それは弱いからじゃない。

 琢磨の作戦に、見事に嵌められたからだ」

「オレが悪者みたいだな。

 うん、知ってた」

「オマエは黙ってろ」

「理不尽だ!?」

 

 地団駄を踏む琢磨を見て、多少は溜飲が下がる。それを見たゆまも「いい気味」と呟いていた。

 

「逆に言えば、琢磨の作戦を破っちまえばいい。

 強いから勝った訳じゃない。

 弱いから負けた訳じゃない。

 琢磨が、ほんの少しだけ、あたし達より勝つ為の努力をした。

 それが結果さ」

 

 そして、それこそがマミの言った“琢磨の真骨頂”なんだろう。

 どんな状況においても。自分の為になる事は何かを、常に模索し続けている。

 もちろん、戦闘においては勝つ事こそが自分の為になる。

 常に、勝利への道筋を模索する。

 後は、それを実行できるだけの実力があるかどうか。

 

「例え弱くても、作戦次第で強い相手に勝つ事が出来る」

「それだと、オレが弱いみたいじゃん。

 否定はしないけど」

「……」

「せめて、黙ってろとか言って!?

 無視が一番辛いんだぞ!!」

 

 少しぐらい、意趣返ししてもいいよな?

 

「まあ、とにかく。

 ゆまが自分を弱いと思うなら、強くなればいい。

 弱いままでいいなら、そのままでいい。

 あたし達は、一緒に居る理由を、強弱で選んだ訳じゃないんだからな」

「! うん!」

 

 あたしの言葉を理解してくれたのか、ゆまは元気良く頷いた。

 それを見て、あたしも笑いながらゆまの頭を撫でる。

 マミも琢磨も、笑顔を見せていた。

 

「でもやっぱり、たくちゃんはゆまがたおす!」

 

 それでも望むのは、それなのか……。

 思わず苦笑した、あたしとマミ。

 

「最初にゆまと戦った時、衝撃波で倒れたけどなオレ」

「そーゆー意味じゃない!!」

「うわ、こいつメンドクセ」

「むぅ~!

 やっぱ、たくちゃんキライ!!」

 

 頬を膨らませて、そっぽを向くゆま。

 

 その時の、琢磨の眼差しは、とても優しく感じた。

 

『羨ましくて妬ましい』

 

 以前、琢磨はゆまの事をそう言った。

 ゆまの事が羨ましいと。ゆまの事が妬ましいと。

 

 まあ、あたしから見れば、今の二人は“喧嘩するほど仲が良い”状態のような気もするけどな。

 

「そろそろ、始めましょうか?」

 

 マミの言葉に、琢磨は真剣な表情に切り替わる。

 ゆまも、真剣な表情で二人を見る。

 

「3連戦最終章。

 華麗に勝利して、幕といこう」

「阻ませてもらうわよ。

 華麗に舞うのは、私の方なんだから」

 

 そして二人は、それぞれの言葉で開戦を宣言する。

 

「だって私、魔法少女ですもの!」

敗北を送ろうか(Rock You)




次回予告

巴マミVS群雲琢磨

互いに信を置き 互いに力を磨き

故に、互いの戦いを知る

どちらの方が強いか どちらの方が弱いか

勝敗を決めるのは、そこではない

どうやって、勝ちを手元に収めるか

ただ、その一点が、すべてを決める戦い




百十一章 付け焼刃


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百十一章 付け焼刃

「なんでもかんでも、電気を纏わせればいいって訳じゃない」
「人間の死に方の中に、感電死があるからね。
 本当に、君達は多彩な死に芸を披露するよね」
「相変わらず、不謹慎だな、ナマモノ」
「で、電気がどうかしたのかい?」
「スルーかよ、慣れてるけど。
 前に、全身に電気を纏っていれば、攻撃されないんじゃね?
 とか考えて、実行した事があるんだけど」
「どうなったんだい?」
「動けなくなった。
 多分、纏った電気が、脳からの電気信号を妨害したみたい。
 残念ながら、専門的知識がないから、仮定するしかないけど」
「まあ、普通の人間なら、全身に電気を纏った時点で死ぬよね」
「静電気程度じゃ、意味無いからな。
 そういう意味じゃ、黒く帯電する拳(ブラストナックル)は、ベストな形とも言える」
「電気を纏うのは拳。
 すなわち“手首から先”の部分。
 対して、動かすのは腕。
 すなわち“手首より手前”の部分。
 なるほど、効果的だね」
「応用出来れば、完璧なんだけどね。
 発動したら、その状態を繰り返すだけのプログラムである黒腕の連撃(モードガトリング)しか、今の所使い道がない。
 そもそも、魔女戦での使い道が無いからな、これ」
「どうして、メインとなる魔女戦で使えないような魔法を、思いつくんだろうね、君は」
「せーの」
「「わけがわからないよ」」


SIDE out

 

「すごいね……」

「ああ。

 そうだな」

 

 杏子とゆまは、観賞していた。二人の銃闘士(アルマ・フチーレ)の舞を。

 

 完全に銃撃戦だった。マスケットを編み出し、舞うように回転しながら、的確な射撃を行う巴マミ。

 二丁の自動拳銃(オートマチック)で、一発ごとに自分の軸を左右にずらしながら、的確な射撃を行う群雲琢磨。

 刀剣に比べて、圧倒的な威力を持つが、あくまでも直線的でしかない、銃による攻撃。

 しかしそれは“飛来する弾丸を回避する能力があって、初めて言える事”である。

 そして、この二人はそれを保有していた。

 

 契約すれば、身体能力が上がる。そのままでは魔女に対抗する事など出来ない。

 杏子やゆまにだって、弾道を見切る事は不可能ではない。魔法少女とは()()()()()()だ。

 

 飛来する弾丸を、設置したマスケットで防ぎ、時に舞うように回避する巴マミ。

 飛来する弾丸を、紙一重で左右へとかわし、時に手に持つ銃で弾き落とす群雲琢磨。

 時に二人の弾丸が衝突相殺されたりもする。

 そんな、真正面の銃撃戦は、双方の弾切れにより、幕間となる。

 

「大分、上達したわね」

「巴先輩が学校に行っている間、射撃練習をしてるからね。

 ゲーセンのガンシューティングで」

「よく、補導されないわね」

「逃げるからね!」

「胸を張って言う事じゃないわ」

 

 そんな、他愛ない会話をしながら、マミは周りのマスケットを消す。

 対する群雲は、自動拳銃の弾倉を交換する。

 

「なんで、ゲームなのよ?」

「オレの魔法、知ってるでしょ?

 <電気操作(Electrical Communication)>でコントロールした方が、射撃速度も命中精度も上。

 それを鍛えるには、ガンシューってうってつけだと思うんだが、どうよ?」

「聞かれても、返答に困るわ」

「ですよねー」

 

 補充の終わった銃を、両腋に戻し、群雲は電子タバコを咥える。

 

「さて、銃撃戦はここまで。

 そろそろ、攻めさせてもらうぜ?」

 

 接近戦においては、群雲に分がある。それを理解している為、当然間合いを詰めるのが重要。

 

「させないわよ」

 

 接近戦においては、群雲に分がある。それを理解している為、当然間合いを詰めさせないのが重要。

 

「佐倉さんとゆまちゃんが一緒になって。

 自分に求められる役割を考えてみたわ」

 

 マミの言葉に、群雲は煙を吐きながら、耳を傾ける。

 

「今までは、前に出る琢磨君を、私が後から援護するのが最適だった。

 でも、佐倉さんの武器は多節槍だし、ゆまちゃんのはハンマー。

 四人の布陣を考えるなら、やっぱり私が後になるわね」

「オレが後に回るのも、ありだけどな。

 それを想定して、炸裂電磁銃(ティロ・フィナーレ)を考え付いた訳だし」

「琢磨君は、どの距離でも戦えるものね。

 でも、私は遠距離に重点を置いている。

 その上で“前衛が三人になる”とすれば」

 

 マミが、ゆっくりと右手を上げる。それを合図に、マスケットが一丁、設置された。

 地面にではなく、空中に。その銃口を群雲に向けて。

 

「私の銃は、単発式。

 それを補うには」

 

 新たに、マスケットが空中に設置される。二丁、四丁、八丁。加速度的に増えていく。

 

「単純な話。

 “銃の数を増やせば良い”のよ」

 

 無数のマスケットが、マミの周りに設置された。地面にではなく、空中に。

 

「そうきたか……。

 オレとは逆に、火力ではなく手数を……」

 

 僅かに顔を引き攣らせながら、群雲は電子タバコを右手の<部位倉庫(Parts Pocket)>に戻し、<操作収束(Electrical Overclocking)>を発動する。

 

「凌ぎきれるかしら?

 繰り出される魔法の弾幕。

 無限の魔弾を」

「さあ、どうだろうね?」

 

 互いに笑みを浮かべ。戦闘が再開する。

 

「パロットラ・マギカ・エドゥ・インフィニータ!!」

 

 ほぼ同時に、全てのマスケットが火を噴く。迫り来る無数の弾丸は、まさにその名に相応しい。

 それに対し群雲は、ゆっくりと右手の平を正面に突き出す。

 

「回避するには多すぎる。

 だが、当たらなければ、どうという事は無い!」

 

 そして、無数の弾丸が。

 空中で静止した。

 

「っ!?」

「はぁ!?」

「????」

 

 三者三様のリアクション。しかし、共通するのは驚愕。

 まるで、群雲の前に見えない壁でもあるかのように。

 

「……くっそ」

 

 そして、群雲自身は悪態をつく。

 

「数が多すぎる……全部は無理だったか」

 

 何発かは、止まる事無く群雲を貫いていた。しかし、致命傷には至らない。

 

「当たらなければ、どうという事は無い。

 だが、当たるとやっぱり痛い!」

「駄目じゃねぇか……」

 

 叫ぶ群雲に、思わず杏子が呟く。それに対し、マミはゆっくりと周りの使用済みマスケットを消す。

 

「防御系魔法?

 琢磨君らしくないわね」

「うん、オレの事を巴先輩がどう思ってるのか解る一言だね。

 全肯定しますが、なにか?」

 

 無数の弾丸が、空中で静止する中。群雲は言葉を紡ぐ。

 

「先日の、四人での魔女戦。

 あの時は、オレが右腕を失った。

 まあ、自業自得ではあったし、時間と魔力をかければ、その内生えてきたと思うが」

「生えるって……」

「まあ、それは置いといて。

 誰かが怪我をした場合、当然治療する。

 オレ以外が怪我をした場合を仮定すると、必要となるのは、治療を終えるまでの安全確保。

 で、考えたのが()()だ。

 <操作収束(Electrical Overclocking)>の応用編。

 そうだな……『電磁障壁(アースチェイン)』とでも名付けようか」

 

 発電と磁力は、物理学的に深い関係がある。

 電気を発生、収束させる<操作収束(Electrical Overclocking)>を応用し、自身の前に磁力の壁を作り出したのだ。

 

「この間、TVの教育番組で、電磁石についてやってたんでね。

 なんとなく、オレにも出来る様な気はしていた」

 

 群雲が右手を下ろすと同時に、宙に浮いていた無数の弾丸も、重力に従い地面に落ちる。

 

「でも、まだまだ未完成だな。

 覚えたての付け焼刃じゃ、こんなもんか」

 

 体の状態を確認し、戦闘継続が可能であると判断した群雲は。

 

「それでも、3連戦は辛い。

 そろそろ、決めさせてもらうぜ」

 

 腰の後から、ショットガンを取り出した。




次回予告

それは、ある意味、必然の流れであったのかもしれない

まったく違う構造によって

まったく違う過程をもって

それでも、まったく同じ響きをもつ

それは、ある意味、必然の流れ

しかし、その決着においては……




百十二章 ティロ・フィナーレ対決


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百十二章 ティロ・フィナーレ対決

「電気を全身に纏うのは無理。
 それで考えたのが『電磁障壁(アースチェイン)』なんだね?」
「さすが、ナマモノ。
 理解が早くて助かる」
「しかし、弾丸を静止させるほどの磁力となると、それこそ超伝導磁石を上回るほどの磁束密度が必要だろう?
 予め磁気化していたならともかく、飛来する弾丸を静止させるとなると」
「そう、磁気嵐の中に居るみたいなもの。
 思いついたからやってみよう! な感じの初回は、一時期聴覚を失った。
 すぐに魔力で修理したけどね」
「相変わらず、自分の肉体に負担を強いる魔法ばかり思いつくね、キミは」

「「わわけけががわわかかららなないいよよ」」

「合わなかったね」
「そういう日もある」


SIDE out

 

 <操作収束(Electrical Overclocking)>発動中。それはすなわち、炸裂電磁銃(ティロ・フィナーレ)の準備が可能である事を意味する。

 無論、充電(チャージ)だけであれば、Lv1でも不可能ではない。相応に時間を有する事になるが。

 それだけではない。炸裂電磁銃(ティロ・フィナーレ)は、弾丸と銃本体の両方を準備(チャージ)しなければ、正常に発動しない。

 

 “魔法”でありながらも、妙に“現実的”な制約を有しているのも、群雲の“放電能力”の特徴でもあった。

 

 対するマミは、静かに佇んで、群雲の準備完了を待っていた。

 本来、これが“殺し合い”であったなら、相手の大技を待つ必要は無い。

 しかし、これは模擬戦。しかも“千歳ゆまの為”という意味合いが強い。

 正面から、打ち破ってこそ、意味がある。

 

 巴マミは、そう考えて迎え撃つ事にした。

 

 そして群雲琢磨は、巴マミがそう考えるだろうと過程を仮定していた。

 

 同じく巴マミも、群雲琢磨がそう判断するだろうと予測出来ていた。

 

「ティロ・フィナーレ対決なんて、考えもしなかったわ」

「そりゃ、オレのティロ・フィナーレは、形になったばかりだしね」

 

 模擬戦中。何気ない普通の会話。

 しかし、それこそが打破の鍵。

 

 弾丸の準備が終わり、今度は銃本体の準備に入る群雲。

 それに合わせて、マミの横に編み出される、巨大なマスケット銃。

 

「無駄に大きいよね」

「銃の威力は弾丸の大きさに左右されるものよ。

 当然、発射口も大きくないと駄目だし、他の部位も必然的に強度を高めないといけない。

 結局、すべてを巨大化させるのが、一番安全なのよ」

「自分の魔法なのに暴発とか、笑えないからか」

 

 準備を終えた二人の銃。後は、弾を発射するだけ。

 自然体で立つ群雲。ゆっくりと右手を上げるマミ。

 交差する視線。高まる緊張感。観戦中の杏子とゆまも、固唾を呑んで行く末を見守り、自分たちが強くなる為の切っ掛けを探す。

 

 先刻、無限の魔弾のいくつかは、群雲を貫いていた。致命傷は無い。戦闘の継続は可能。

 しかし、怪我が治っている訳ではない。傷は傷のまま。

 ゆっくりと、紅い雫が群雲の右腕を伝い、右手の中指に溜まっていく。

 

 そして、重力に従い、地面へと落ちる。

 

 

 

 

 それが、合図になった。

 

「「ティロ」」

 

 群雲が銃口をマミへ向け。マミは右手を群雲に向ける。

 

「「フィナーレ!!」」

 

 同時に発射された、二つの最後の射撃(ティロ・フィナーレ)は、真っ直ぐに相手に向かい、ちょうど中心で衝突する。

 爆発。発生する突風に、巻き上がる砂煙。一瞬にして射撃者すら飲み込んでいく。

 

「っ!?」

「ふぇ!?

 砂が痛い!!」

 

 強大な力のぶつかり合いは、観戦者達も影響を及ぼす。

 その視界を塞ぎ、戦況がまったくわからなくなる。

 慌ててゆまを守るように抱きしめる杏子と、想定していなかった被害にうずくまるゆま。

 

 

 

 戦況は動いている。

 

 

 

 しばらくして、煙は晴れる。当然の事。

 そうすれば、状況を把握できる。だがそれは、当然の事ではない。

 

 杏子とゆまは見た。

 煙の中から、最初に確認出来たのは巴マミ。所々怪我しているが、両足でしっかりと立っている。

 巨大なマスケット銃は既に無く。しかし、真剣な表情で変わらず正面を見据えていた。

 当然、次に確認できるのは群雲琢磨。しかし、状況を把握出来るかは別問題。

 

 現れた群雲琢磨は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黄色いミノムシになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「は?」」

 

 

 

 

SIDE 巴マミ

 

 琢磨君の炸裂電磁銃(ティロ・フィナーレ)は“着弾後に弾ける”構造になっている。

 その為、私の射撃と衝突した時点で弾けた。細かい散弾全てを相殺する事は出来なかったわ。

 それでも、正面は私の射撃があった為、何発かが掠める程度に留める事はできた。

 掠めただけでも、充分痛いわ。流石の電磁砲(Railgun)と言った所ね。

 

「さて」

 

 煙が晴れて、私はゆっくりと対戦相手に近付く。

 首から下が完全に黄色いリボンで包まれた状態。

 

「……あー……」

 

 身動きが取れない琢磨君は、転がったまま。残念そうに言葉を発する。

 

「せめて……木にぶら下りたい……」

 

 え? そこ?

 

「仕方ないわね」

 

 私は琢磨君を包むリボンを一本操作し、近くの木に繋げる。

 

「お?」

 

 そのまま、引き上げるように琢磨君を引き摺り、丈夫そうな枝にぶら下げた。

 

「おぉ~!」

 

 ぶら下った琢磨君は、嬉しそうに左右に揺れる。本当に、黄色い蓑虫状態ね。

 

「いや、なにしてんだよ……」

 

 呆れたように呟き、佐倉さんとゆまちゃんが近付いてきた。

 

「無意味な行動でもないんだけどね」

 

 微笑みながら、私は琢磨君に向き直る。

 

「貴方の動きは完全に封じたわ」

「左右に揺れてるけどね」

「茶化さないの」

 

 それでも、解ってる。状況が示す結末。

 

「流石に、3連勝は無理だったよ」

 

 それは、琢磨君の敗北宣言だった。

 

「リーダーとして、簡単に負ける訳にはいかないもの」

 

 それに合わせるように、私は勝利宣言を行った。

 

「さて、反省会といきましょうか」




次回予告

























本当に、どうしてこうなった?














百十三章 黄色いミノムシ


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百十三章 黄色いミノムシ

「前から疑問なんだが」
「どうしたんだい?」
「見滝原に限らず、魔法少女が存在する」
「僕が契約した少女達だね」
「他の街の魔法少女は、どんな生活をしてるんだ?」
「基本的には、人と同じだね。
 もちろん、以前の琢磨のように、住みなれた街を離れ、魔女狩りの旅をする娘もいるけど」
「そして、他人の縄張りに入り、衝突すると。
 なら、事前に情報を……。
 いや、お前にそれを期待しちゃ駄目か」
「わけがわからないよ」


SIDE 巴マミ

 

 黄色いミノムシな琢磨君はそのまま。私は佐倉さんと反省会を始める。

 

「えい! えい!」

「痛っ! 痛っ!

 オレ、サンドバッグじゃねぇぞ!?」

「たぁーーーー!!」

「ちょ、武器は、おま、いつ変身して、アーッ!!」

 

 鉄棒の大車輪の如く、グルグル回る黄色い蓑虫(たくまくん)を尻目に。

 

「ちょっ、助ける気無し!?」

「罰ゲームという事にしておくわ」

「おま、3連戦1敗で罰ゲームとかそれ、なんて、いじ「たぁーーーー!!」だからハンマーはNoooooo!!」

 

 うん、平常運転ね。

 

「あたしは、頭が痛いんだが」

「慣れよ」

「……変わったな、マミさん……」

「琢磨君の扱いに慣れた、と言って欲しいわ。

 それ以外で、変わった事は……。

 独りじゃない分、心に余裕が出来たぐらい、かしらね」

 

 琢磨君は、よくわからない子。それでも、信頼できると信用できる子。ほんと、よくわからない子ね。

 

 最後の射撃対決(ふたつのティロ・フィナーレ)で汚れてしまった荷物の砂を落とし。私達はその上に座る。

 紅茶を入れる佐倉さん。ノートを開く私。

 

「さて、反省会を始めましょう」

 

 

 

 

SIDE 佐倉杏子

 

 黄色い蓑虫(琢磨)で遊ぶゆまを片隅に、あたし達はいつものように反省会を開始する。

 

「まずは、琢磨君と佐倉さんの対決ね」

 

 うあ、耳が痛い事に。

 

「後に続くゆまちゃんの為。

 最後に戦う私の為。

 極力“琢磨君から仕掛けさせて、その動きを把握する”のが、基本目的だったでしょ?」

 

 さすが、マミ先輩。しっかりと、あたしの狙いを見極めてた。

 

「そして、琢磨君も気付いていた。

 だからこそ、後に繋げる為に“Lv2を使用した時点で決着を着ける策”を用いた。

 戦略で言えば、琢磨君が一手、上をいっていた形ね」

 

 自分が負けても、後の二人に繋げれば。あたしのそんな考えを仮定して、過程となる作戦を考えた。実に琢磨らしい。

 

「ゆまちゃんの為に、佐倉さんが手を抜くと考えていたからこそ、琢磨君は躊躇い無く策を実行できた。

 これを見て」

 

 そう言って、マミは開いていたノートをあたしに見せる。そこに書いてあるのは琢磨の項目。

 

『重要なのは最初の一歩。

 いくら速度で上回っていようとも、それが長時間続けば、慣れられてしまう。

 緩急が大事。静と動を明確に。

 それを常に、最適の形で使用するなら。

 目指すべきは“初速=最高速”となる動き方』

 

「これが、琢磨君の<電気操作(Electrical Communication)>と<操作収束(Electrical Overclocking)>での基本行動よ」

 

 あたしは、言葉を失う。自分の為に得た力を、自分の為に全開で使う。これが琢磨の基本理念。

 その為に必要なのは“自分が出来る事を正確に把握する事”だと、このページが証明している。

 

 あたしが瞬きをする、その一瞬。それで決着を着けられると判断したのは、この“実績”があったから。

 

 不意に、思い出すのは最初の光景。あたしが最初に見た、独りの魔人。

 あたしが見た時、()()()()()()()()最初の邂逅。

 

「強いな、あいつ」

「強い、と言うよりも、(うま)い、と言った方が的確でしょうね。

 自分に出来る事を正確に把握し、状況から最適な行動を選択する」

 

 確かにそうか。

 

「だからこそ、策が破られると意外に脆かったりもするわ。

 先日の魔女戦で、有効な策が浮かばなかったからこそ“私達を待ち”“ゆまちゃんの策に乗り”“その上で、自分が出来る事を模索した”のだからね」

 

 有効な手があるのなら、わざわざあたしらを待つ事無く、魔女を退治していた。琢磨はそういうやつだ。

 

「対ゆまちゃんの作戦は驚いたけどね。

 正面から、衝撃波を体一つで打ち抜くだなんて、予想してなかったわよ」

 

 確かに、あれは驚いたな。

 

「理論だけで言えば、単純な事。

 後に下げられる以上に、前に進む。

 ただ、それだけなのだけれどね」

 

 衝撃波。すなわち“自分を後に押す力”を“それ以上の前に進む力”で相殺、上回る事で間合いを詰めた。

 その為に必要なのは“衝撃波が衝突した直後の加速”であり。

 不可視である衝撃波が、衝突する瞬間を“予測”する為の情報だった。

 だから、琢磨は何度も何度もゆまに突進して行き。

 何度も何度も吹き飛ばされた。

 

「間合いを詰めた時点で、琢磨君の勝利はほぼ確定。

 なら、ゆまちゃんの課題はふたつ。

 “敵を間合いに入れない立ち回り方”と“近接戦での対処法”ね」

「なにかありそうか?」

「間合いに入れないだけならば、先日の魔女戦で行った方法かしら?」

 

 横回転か。確かにあれなら近づけないな。

 ……あたしらも含めて。

 

「接近戦に関しては、数をこなして慣れていくのが一番でしょうね。

 ハンマーを用いた立ち回りとなると、残念ながら三人とも専門外だわ」

 

 マミは銃。あたしは槍。琢磨が使う武器にもハンマーは無い。

 ゆまが自分で考えて、自分で発展させるのが一番なのか。

 

「もちろん、補佐をする事はできるけれど……。

 自分の戦いやすい動き方は、本人が一番理解出来る事でもあるしね」

 

 マミも同じ意見のようだ。

 ハンマーと衝撃波。ある意味、一つの武器で遠近両方に対応可能な分、ポテンシャルで言えばゆまは高い方だろう。

 あとは、ゆま自身の成長次第、か。

 

「そして最後は、私と琢磨君ね」

「ほんと、どうしてああなった?」

 

 うんざりしながら、琢磨の方を見れば。

 相変わらずミノムシな琢磨に、ゆまがしがみついて、一緒に左右に揺れていた。

 ……実は、仲良いだろ、おまえら……。

 

「琢磨君は、戦闘中でもお構いなしに、会話をするような子だけれど」

 

 同じ様に苦笑した後、マミはあたしに向き直り、真剣に話し出す。

 

「戦闘中でも、自然体。

 もちろん、真剣ではあるのでしょうけどね。

 それでも、さも余裕であるかのように、自然に振舞う。

 それは、共に戦う者に安心を。

 そして、敵対する者に疑心を与えるわ」

 

 確かにそうだ。実際に戦ったからこそ、理解出来る。

 

 右腕を失った状態でも、普段通りに振舞う事で、共に戦うあたしらを落ち着かせ。

 対峙した状態でも、普段通りに振舞う事で、あたしを欺き、隙を突いて見せた。

 

「今回に関しては、その会話があったからこそ、私が一手、上をいけた形でもあるわね」

 

 そして、マミが教えてくれた事は、あたしが考えもしなかった事。

 

 『覚えたての付け焼刃じゃ、こんなもんか』

 『そりゃ、オレのティロ・フィナーレは、形になったばかりだしね』

 

「私は、この二つの言葉から読み取ったのよ。

 琢磨君がティロ・フィナーレで、()()()()()()()()()()()()()




次回予告

反省会は続く

それは、自身の力を理解する為であり

それは、自身の魔法を理解する為であり

それは、自身に出来る事を把握する為でもある









もちろん、自分だけじゃなく








百十四章 横に立つ


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百十四章 横に立つ

「やはり、おかしいよね」
「お前、疑問ばっかりだな」
「君の事だよ?
 だからこその異物な訳だけど」
「わけがわからないよ」
「それは僕も同じさ。
 自分の為に願い、自分の為に魔法を得た。
 その魔法が、自身に負担をかけるものばかり。
 わけがわからないよ」
「頑張れ、ナマモノ。
 オレは応援するぞ。
 何故ならば……!」
「何故ならば?」
「オレに、わかるはずもないからだ!!」
「わけがわからないよ」


SIDE out

 

 巴マミと佐倉杏子。会話の内容は先程の模擬戦。

 魔人の狙いと、その上をいった魔法少女の話。

 

「決着を着ける気が無かった!?」

 

 驚愕するのは佐倉杏子。どう見ても、最後の一手だと思われた、あれこそがフェイク。

 

「覚えたてでは、充分な効果が得られない。

 それは、電磁障壁(アースチェイン)が証明している。

 あの、琢磨君が。

 そんな、覚えたての炸裂電磁銃(ティロ・フィナーレ)を決め技にするはずが無い」

 

 それを読みきり、上をいった巴マミだからこその言葉。

 

「ティロ・フィナーレの衝突を盾に、間合いを詰める。

 これこそが、琢磨君の狙いだったのよ」

 

 巴マミの性格。互いの技の特徴。自身の勝利条件。

 病院での魔女戦で、二人のティロ・フィナーレが魔女を倒す際に起きた爆発。

 当然、二人のティロ・フィナーレが衝突した際に、爆発が起きるのは想定出来る。

 それを隠れ蓑にして、間合いを詰めて王手(チェック)

 それこそが、群雲琢磨の策だった。

 

「だから私は“近付いてくる琢磨君を拘束”する方法をとった。

 利用したのは、琢磨君の魔法」

「琢磨の?」

 

 群雲の策が読みきれなかった杏子には、さらにその上をいったマミの策が解るはずもない。

 それに対し、マミは真剣な表情のまま。自身の行った行動を説明する。

 

「私の『無限の魔弾』は、電磁障壁(アースチェイン)により防がれた。

 では、防がれた弾はどうなった?」

「どうって……」

 

 言われて、杏子はその状況を思い出し。

 

「あ……!?」

 

 そして、気付いた。砂煙の中、起きていた状況を理解した。

 

 あの時、無数の弾丸は、電磁障壁(アースチェイン)に阻まれ、地面に散らばった。

 そして、その弾丸こそが“巴マミの編み出した魔法”によるものだった。

 ティロ・フィナーレの直後。巴マミは弾丸を糸に戻し、群雲を拘束するように操作したのだ。

 結果、間合いを詰めようとした群雲は、自分から無数の糸に直進する結果となり。

 

 黄色いミノムシの出来上がり。

 

「琢磨君が間合いを詰めてくる事に気付けなかったら。

 負けていたのは私の方だったでしょうね」

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 コアラのようにしがみ付いているゆまと一緒に、左右に揺れながら。

 オレはしっかりと、先輩達の会話を聞いていた。

 

電磁障壁(アースチェイン)で防いだ弾丸を、その場に放置した事。

 それが、オレの敗因なんだよ」

「マミおねーちゃんの方が強いの?」

 

 当然、ゆまも聞いている。補足する形で、オレはゆまと会話していた。

 

「強さの基準を何処に置くか。

 それで評価は変わるだろうな。

 大前提として言うなら。

 

 “魔法少女>魔人”

 

 オレが最弱だぞ?」

「ゆまもキョーコも負けたよ?」

「だからこそさ。

 オレは、自分が魔人である事。

 オレ以外が魔法少女である事。

 基本的に、自分が劣っているのを自覚してる。

 だが“強弱”と“勝敗”は別物だ。

 単純な力比べ、魔力比べじゃ勝ちようが無い。

 なら、別の方向から、勝ちを引き寄せないといけない訳だ」

 

 魔人の絶対数の少なさ。その要因の一つでもある。

 契約自体は可能だが、その後のリターンが釣り合わないと、そもそもインキュベーターは契約自体を持ち出さない。

 契約するだけなら、少女である必要は無い。実際に、オレは少女じゃないし。

 希望と絶望の相転移。そこからの感情エネルギー。

 回収できるエネルギーが、一定ラインを上回らないと、ナマモノにとっては契約する価値は無い。

 人間だって、食べられる野菜じゃないと育てない。牛や豚を飼育しない。

 利益を得られない“他物”は、所詮は自己満足の延長に過ぎない。

 そして、感情を持たない孵卵器が、そんな趣向を持ち合わせているはずがないのだ。

 

「だから、タクマクンは毎日必死ですよ?」

 

 まあ、そんな内容は、ゆま達には必要の無い情報だ。

 今、必要なのはそんな事じゃない。

 

「強い人達から、勝利を得る為に。

 弱い自分が、勝利を掴む為に。

 だからこそ“足手纏いにならないように”必死になってる」

「たくちゃんは、足手纏いじゃないと思うけど?」

「そうならないように努力してます。

 ゆまはどうだった?

 “魔法少女になったから大丈夫”とか、思ってなかったか?」

「う……」

 

 オレの質問に、ゆまが言葉を詰らせる。まあ、想定内ですがね。

 

「それじゃだめなのさ。

 大人になったから大丈夫な人なんて、独りも居ない。

 大人にだって、どうしようもないクズはいる」

 

 オレをボロアパートに押し込めて放置してた親戚とかね。

 

「それは、魔法少女も同じ事。

 魔法少女だからって調子に乗ってちゃ、魔女に殺されてオワリ。

 Answer Deadさ」

 

 だからこそ。共に戦うゆまには“そこで立ち止まられると困る”訳だ。

 主に、オレが。

 

「そして、おねーちゃん達が自分達のせいで傷つくなんて、笑えない事はしたくない。

 なら、ゆまに何が出来る?

 オレは、なにをすればいい?」

「……強くなる事?」

「ちと違う。

 ちゃんと“横に立つ”事だよ」

 

 

 

 

 

SIDE 佐倉杏子

 

 いつしか、琢磨とゆまの会話を、あたしらは無言で聞いていた。

 あんな風に考えてたのか、あいつは……。

 

「本当に、年下である事を忘れてしまいそうだわ。

 それもまた、琢磨君の狙いなのかもしれないけれどね」

 

 マミの言葉が、妙にしっくりくる。

 

 ……これで、黄色いミノムシじゃなかったらな。

 

「そろそろ、解きましょうか?」

 

 言いながら、立ち上がったマミが二人に近付く。

 

「そうだね。

 やらなきゃいけない事があるし」

 

 言いながら、左右に揺れる琢磨と、地面に立つゆま。

 ゆまはトコトコとあたしの横に立つ。

 

「ゆま、頑張るよ!」

 

 あたしの手を握りながら。しっかりと前を向いたゆま。

 

「ああ。

 そうだな」

 

 相槌を打ちながら、あたしも手を握り返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やらなきゃいけない事って?」

炸裂電磁銃(ティロ・フィナーレ)の欠点、覚えてる?」

「強烈な反動ね。

 ……え?

 そう言えば、どうやって?」

「手を離した。

 そうする事で、自身への反動を最小限に抑えて、間合いを詰める予定でした」

「つまり?」

「どっかに飛んでったショットガンを探しに」

「お前はオチがないと気がすまないのかよっ!?」




次回予告

寂れた教会 原初の罪

少年は、自分の為に




事実を疑う

百十五章 想像に妄想を


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百十五章 想像に妄想を

「真実は、いつもひとつ?」
「そりゃ、ひとつしかないだろう」
「その真実は、そいつにとって【一番都合の良いモノ】なんだから」
「オレ?」
「しったこっちゃないね」


SIDE out

 

 見滝原郊外にある、寂れた教会。その前で、自分達の力を高める為。

 戦いを繰り広げた少女達に訪れる、つかの間の休息。

 

 戦いと、仲間の治療に力を使ったゆまは、木漏れ日の中で眠り。

 彼女に膝を貸したマミも、まどろみの中で漂っていた。

 

 そして、教会の中。

 祭壇の前で膝を着き、祈りを捧げる佐倉杏子。

 

「祈るのか」

 

 入り口からゆっくりと進んでいく、群雲琢磨。

 

「銃はあったのか?」

「意外と簡単に見つかった。

 衝突したらしい、不自然に圧し折れた木があったからね」

「とんでもないな、おい……」

 

 言いながら、ゆっくりと立ち上がる杏子。少し離れた位置に立ち、その背中を見つめる群雲。

 

「あたしが祈るのはおかしいか?」

 

 背を向けたままの杏子に対し、電子タバコを咥える群雲。

 

「無神論者なオレには、祈る事なんてないからな。

 佐倉先輩の境遇も、最初に会った時に聞いたし。

 だからこそ、祈れる先輩が羨ましくもある」

「なんだそりゃ」

 

 家族の為に願い。その願いが家族を壊した。

 それでもなお、祈る杏子が、群雲には理解できないのだ。

 

「あたしが祈ったからって、誰も喜ばないけどな」

 

 自虐気味に呟いた杏子の耳に届いたのは。

 

「愛する娘が未だに祈りを捧げられるなら、親父さんも嬉しいんじゃないのか?」

 

 予想外の言葉だった。

 

 

 

 

SIDE 佐倉杏子

 

「馬鹿にしてるのか?」

 

 振り返り、睨み付けながら。あたしは言葉を紡ぐ。

 

「まさか。

 素直にそう想っただけだよ」

 

 対する琢磨は、相変わらずの自然体。口から煙を吐き出した。

 

「嬉しいわけないだろ?」

「果たして、そうかな?」

 

 あたしの言葉に、即座に切り返す琢磨に、苛立ちを覚える。

 こいつは、あたしの境遇を知っているはずなのに!

 

「違和感は、最初からあったんだよ」

 

 そんなあたしを無視して、琢磨はゆっくりと告げる。

 

「結果から過程を逆算し。

 さらにそこに仮定を加えて。

 補う為の想像に妄想を重ねた上で。

 納得する為の真実に辿りつく」

 

 真剣な左目が、あたしを映す。

 

「そんな下らない戯言で良ければ、話をしてみるのも悪くないが?」

 

 何が言いたい? どう考えてる?

 そんな興味が、あたしに芽生える。

 好き勝手に、斜め上を行くような奴だ。聞いてみてもいいかもしれない。

 

「まあ、暇潰しにはいいかもな」

 

 ポケットからキャンディを取り出し、あたしは口に運ぶ。

 

「くうかい?」

「タバコがあるので、ノーサンキュー」

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

「まずは、事実確認から」

 

 GS(グリーフシード)のストックはある。内容が内容だけに、いつでも取り出せるようにしておく。

 オレと会話したから魔女化しましたとか、笑えないにも程があるしな。

 

「佐倉先輩は、ナマモ……キュゥべえに願った。

 『父親の話を、みんなが聞いてくれますように』

 しかし、父親がそれを知り、壊れた。

 そして、一家心中。

 端的に言えば、これが全て。

 間違いないよな?」

「……あぁ」

 

 自身にとってのトラウマ。それは佐倉先輩の歪んだ表情が物語る。

 それを見たオレは。

 

 <電気操作(Electrical Communication)>で、不要な情報を遮断する(考えたくない事は、考えない事にする)

 

「【佐倉先輩の話を聞いて】【巴先輩のノートを見て】」

 

 自分の考え。考えた事。思った事を発露する。

 

「【実は】【違和感だらけだったんだよ】」

「あたしが、嘘を言ってるってのかっ!?」

「【落ち着け】【話が出来ない】」

「っ!?」

 

 佐倉先輩が、むりやり言葉を飲み込んだのを確認し、オレは言葉を続ける。

 

「【最初の違和感は】【一家心中】【佐倉先輩だけ】【取り残された】【コレガワカラナイ】」

「どういうことだよ?」

「【佐倉先輩の父親は】【聖職者だ】【一家心中するほど追い詰められていた】」

「【しかし】【自らの命を絶つ】【そこまで追い詰められていたのなら】」

 

「【なぜ、佐倉杏子を置いて逝った?】」

 

 話を聞いてもらえるようになった。それ自体は、喜ばしい事のはず。

 にもかかわらず、佐倉父はコワレタ。

 その理由を考えれば、違和感の答えの“ひとつ”が視えてくる。

 

「【佐倉先輩の願い】【そこから生まれた魔法】【ロッソ・ファンタズマ】【幻惑】」

 

 最初の違和感。

 

 “話を聞いて欲しい”から、何故“幻惑の魔法”だったのか?

 

「【おそらくは】【佐倉父の言葉に】【洗脳的な能力が備わった】【と、群雲琢磨は仮定する】」

 

 インキュベーターは願いを正しく叶えた。佐倉父の話を、みんなが聞くようになった。

 “その言葉を聞かなければならない”という力を“佐倉父の声”に付加する形で。

 だからこそ、佐倉先輩の魔法が“幻惑”なんだろうと、オレは結論する。

 

「【話の内容は度外視】【ただ、真剣に話を聞くだけ】【それは、言葉の意味を完全に消去する】」

 

 聖職者がコワレルには、充分だろう。

 思い当たる節があるのか、佐倉先輩は顔を蒼くしている。

 

「【それが佐倉杏子の願いによるもの】【魔女と罵られてもおかしくない】」

 

 重要なのはここからだ。

 

「【なら聖職者として】【魔女を生かしておくのは】【論理に反する】」

 

 オレの仮定から考えれば。

 

 “佐倉杏子を殺さない理由が無い”事になる。

 

 にもかかわらず、残ったのが佐倉杏子である事実。

 佐倉杏子以外での一家心中という事実。

 

「【納得できる理由が無い】【どう考えても】【佐倉先輩が残される】【この事実にたどり着けない】」

 

 しかし、それこそが事実。それこそが現実。

 

 なら、疑うべきは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【そこで】【群雲琢磨は考えた】」

「【事実に辿り着けないならば】【事実を疑うべきだ】」

「【なら】【違和感を拭う為の】【最初の問い】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」




次回予告

求めるモノは真実で無く

欲しいモノは現実で無く



求めるモノは





たった一つの、妄想程度で、かまわない、理由









望むのは、ただ、笑う事

それ以外、いらないはずなのに




百十六章 疑うべきは、前提


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百十六章 疑うべきは、前提

「オレは、オレの為に動く」
「当然、真実がオレの為にならないならば」
「そんなものは、いらない」


SIDE out

 

 群雲琢磨は、自身に魔法を使っている。

 <電気操作(Electrical Communication)>による、自身への脳操作。

 感情を排除した言葉で、群雲は自身の“仮定”を話す。

 

「【親父さんがコワレタ】【酒に溺れ】【心が歪んだ】【話を聞いた限りじゃ】【自殺しても不思議じゃない】」

 

 それを聞く佐倉杏子は、自身のトラウマに正面から挑む形になる。

 口の中のキャンディを噛み砕く。その音を聴きながら、群雲は言葉を続ける。

 

「【だが】【父親として】【聖職者として】【魔女になった娘を】【そのまま放置は考えにくい】」

 

 だから、辿り着かない。それが、群雲の違和感。

 事実を聞いたにも関わらず。事実へ辿りつけない。

 

「【だから】【群雲琢磨は考える】」

 

 なら、疑うべきは事実。

 

「【親父さんの得た力が】【オレの予想通りであったなら】【その力を】【誰が一番受けている?】」

 

 群雲琢磨が考え、辿り着いた結論は。

 

「【家族】」

 

 杏子の目が見開かれる。流石に想像すらしていなかっただろう。

 群雲は、その想像を妄想で補い、形にしていく。

 

「【一家無理心中】【母親と妹は包丁で】【父親は首を吊り】【そうだったよな?】」

 

 昔の事件。一家無理心中。風見野。佐倉。聖職者。教会。

 調べる為の情報は、充分に揃っている。

 そして、群雲が。

 自分の感じた違和感を放置するなんて、自分の為にならない事はしない。

 もっとも、調べた事件は杏子から聞いた内容と、違いはなかった。

 だからこそ、違和感は違和感のまま残り。

 群雲は、自分で消化するしかなかった。

 

「【親父さんが無理心中するなら】【そもそも】【包丁なんて必要ない】」

 

 一緒に死のう。そう言うだけで良かったはず。

 

「母さんが……やったってのか?」

「【さあ?】【あくまでも想像だ】【事実を確認する術は】【もう無い】」

 

 或いは、妹であった可能性もある。純粋な子供ほど、影響が強くでてもおかしくはない。

 

「【まあ】【どちらにしても】【事実は事実】【心中した事に変わりはない】」

 

 群雲が導く結論は、違和感を拭う為のものであり、真実を暴く事ではないのだ。

 

「【仮に】【どうであったとしても】【死に方が違う】【この事実こそ重要だ】」

 

 全員が一緒に首を吊っていたのなら。それでも違和感は拭えない。

 杏子を置いて逝く理由にはならない。

 だが、一つの事実が。納得のいく答えに辿り着く為の鍵になる。

 

「【状況から考えて】【母親達が死んだ後】【それを見た親父さんが首を吊った】【そう仮定するなら】」

 

 どうして、佐倉杏子を置いて逝ったのか?

 

「【後を追った】【そう考えるのが自然】【だが】【それでも】【やっぱり佐倉杏子の放置は】【考えにくい】」

 

 なら?

 

「【放置したのではなかったら?】」

 

 疑うべきは、前提。その為に、群雲琢磨が疑ったのは。

 

 佐倉杏子を恨んでいるという、父親の感情。

 杏子は、父親が自分を怨んでいると思っている。

 

 “その前提を、群雲琢磨は疑ったのだ”

 

「【ここで】【群雲琢磨は】【過程を仮定する】」

 

 佐倉父の状況を仮定して、考えてみたのだ。

 

「【家族が死んでいる】【包丁が転がっている】【或いは】【包丁を取ろうとして】【誤って刺した】」

 

 ここの仮定は、大して重要じゃない。重要なのは家族が死んだ“後に”佐倉父が首を吊った事。

 

「【家族の死体を前に】【親父さんは絶望し】【自ら命を絶つ決意をした】【だが】【気付いたはずだ】【娘が一人足りない事に】」

 

 魔女と罵り、蔑んだ娘。自分を絶望に叩き落した魔女。コワレタ父親が、殺さない道理はない。

 その上で、事実に当て嵌めるのならば。置いて逝ったのではなく。

 

「【一家心中に“巻き込みたくなかった”から】」

 

 琢磨のその言葉が、教会内に静かに、だがしっかりと響いた。

 言葉を紡ぐ事すら忘れ、驚愕のまま固まる杏子に対し、琢磨は変わらず話を続ける。

 

「【残った最後の娘を】【殺す事は出来なかった】【自分の言葉で】【惑わしたくなかった】」

 

 だから“首を吊る”という“声を殺す”形で自殺した。

 仮に、一家心中が佐倉父によるもので、家族を包丁で殺したのなら。

 自分の命を奪うのもまた、包丁であったはずなのだ。

 

「【生きて欲しかった】【残された最後の娘には】【幸せになって欲しかった】」

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 魔法を解除し、オレは電子タバコを咥える。

 

 親子だな。素直にそう思う。

 ゆまとの模擬戦前に、佐倉先輩は言っていた。

 

 自分の願いで家族を失った佐倉先輩は。

 自分の魔法で不幸になる前に、巴先輩と別れる事を選んだ。

 

 親父さんもきっと。

 これ以上家族(むすめ)が不幸になる前に、別れる(しぬ)事を選んだ。

 

 これが、オレの出した結論。

 怨んでいたなら、置いて逝く筈が無い。

 なら、怨んではいなかった。

 これが、オレの出した結論だった。

 

「でも……あたしは…………」

 

 俯いた佐倉先輩から聞こえる声は、とても弱々しかった。

 オレはそのまま、佐倉先輩の横を通り過ぎて、ボロボロのステンドグラスを見上げる。

 

「親父に……魔女だって…………」

「魔女だと本気で思ってたんなら、置いて逝くのはおかしい」

 

 散々言ってる気もするが。これがオレの最初の違和感だったしな。

 そもそも、オレ達が言う“魔女”と、親父さんが言う“魔女”は、別物だしな。

 

「母さんや、モモを殺してっ!」

「なら、佐倉先輩だって殺される。

 少なくとも、殺されようとされないとおかしい」

 

 今までの自分の考えを否定されたせいか、佐倉先輩が震える声で叫ぶ。

 オレはそれを、自分の考えを告げる事で、背中で受け止める。

 

「あたしがっ! あたしだけが!!」

「そう、生き残った。

 それが、憎しみからだとは、考えにくかった。

 だから、群雲琢磨は過程を仮定した」

 

 最初の事実。その前提を疑った。

 流石に、振り返る気になれなかったので、オレは背中を向けたまま、言葉を続けた。

 

「怨んではいなかった。

 むしろ“自分が不甲斐無いせいで、娘が悪魔と契約をしてしまった”とか、考えていたのかもしれない」

 

 まあ、皮肉な事に、それはある意味正解なのだが。

 

「自分が死ぬ事で、娘が悪魔と契約をする事は無くなる。

 そんな風に考えたのかもしれない」

 

 真実を知る術は無い。真実が事実である必要も無い。

 ただ、自分が違和感無く、納得出来る理由が欲しかっただけなんだがな。

 

「父親が、愛する娘に生きていて欲しいと願うのは、当然じゃないのか?」

 

 その言葉を最後に、教会内に沈黙が降りた。

 オレは、深呼吸するように、白煙を吐き出す。

 

 顔も名前も思い出せない。そんなオレには“思い出”なんて、存在しない。

 自分が壊した家族を想い、それでも祈れる佐倉先輩が羨ましくもある。

 まあ、家族の思い出が必ずしも良いものだとは限らない。

 ゆまの場合は最悪だろうしな。虐待されてたらしいし。

 

 それでも“無い”よりはマシなんじゃないかと思うのは。

 ……ただの、無い物ねだりかねぇ。

 

「…………たくま…………」

 

 そんな、他愛ない事を考えていたら、佐倉先輩の声が聞こえた。

 

「少し……背中貸せ」

 

 背中? オレの方が小さいのに?

 

 そんな疑問が口から出る前に。佐倉先輩がしがみ付いてきた。

 オレの背中に顔を埋め、両腕を掴む。

 ちょ、動かせない、タバコが吸えない。

 

「うぅ……ひっく…………」

 

 くぐもった、佐倉先輩の嗚咽が聞こえる。

 

「……まあ、オレの背中ぐらい、どう使ってくれてもいいが」

 

 最後に一言、オレは静かに呟いた。

 

「泣きたいなら、思いっきり泣けばいいじゃん。

 咎める奴なんて一人もいないし、そんなのはオレが許さない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「父さん……あああ……ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 大声で泣く佐倉先輩の声と、背中に感じる重み。

 くっきり青痣になるんじゃないかと、くだらない心配をする程度には力の込められた手。

 

「母さん!! モモ!! あたしは……あたしはぁぁぁぁぁ!!」

 

 そういえばオレ、両親と一緒に涙も失ったっけ。

 あぁ……本当に……。

 

「わああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!」

 

 

 ――――――――――――――うらやましいなぁ。




次回予告

廻る歯車

全てが噛み合う事で

機能するのは









最悪への舞台装置








様々な思惑

それらが何であれ

装置は、変わらず、稼動する


百十七章 裏目


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百十七章 裏目

「どうしても、予期しない事は起こるよね」
「たとえ、琢磨が自分の為に行った行動と思惑でも」
「想定してない事は、起きるよね」


SIDE 美国織莉子

 

 私の膝を枕にして眠るキリカ。その髪を撫でながら、私は望む未来への道筋を模索する。

 

「あれに手を貸すのね、殲滅屍(ウィキッドデリート)は」

 

 今まで、何回か未来を視てきたけれど、殲滅屍(ウィキッドデリート)が敵対しているような状況は無かった。

 システムの事を知らない? ならば見滝原から始まる終焉で、何故哂っていられる?

 終焉の地にいた事や、知名度等、その実力は決して低くは無い。

 だから、私はキリカに、絶対に逃げるように話した。キリカを失うなんて、私には考えられない。

 彼女がいなければ、私はとっくにコワレテいたでしょうから。

 

「戦力を削ぐ? でも下手に手出しをして、殲滅屍(ウィキッドデリート)孵卵器(インキュベーター)に察知され、警戒されるのは避けるべき」

 

 目的を見失ってはいけない。私の目的は“アレ”の対処だ。

 

「なら、リスクを恐れてはいけないわね」

 

 ただでさえ“黒い魔法少女”の動向は、注視されるべき所にまで来ている。

 見滝原を縄張りとしている銃闘士(アルマ・フチーレ)が、黙っているのは考えにくい。

 或いは既に、調査に乗り出しているかもしれない。

 

 

 

 私は未来を視る。終焉ではない。それより前の時間。

 

 魔女結界らしき場所にて、倒れる黄色い魔法少女と、その前に立つ黒い魔法少女。

 

「仕掛けるべきね」

 

 油断はしない。失敗は避けるべき。

 でも、望む未来の為、私は戦う事を決意する。

 

「私達の世界を護る為に……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 巴マミ

 

 教会から、マンションへの帰り道。私は佐倉さんを背負い、琢磨君はゆまちゃんを背負い。

 夕暮れの中、並んで歩いていた。

 

「どんな話をしていたの?」

 

 佐倉さんが泣き疲れて眠ってしまうなんて、予想もしていなかったわ。

 

「禁則事項です」

 

 何に対してなのよ? この子は本当にわからない子だわ。

 

「まあ、詳しくは佐倉先輩に聞いてくれ。

 同じ話を二回もする気は無いし、めんどくさいし、億劫だし、めんどくさい」

 

 二回言ったわ。めんどくさいって二回言ったわ。

 

 琢磨君と二人、仲間を背負って歩く。

 こんな状況になるなんて、考えても見なかった。

 そしてそれは、間違いなく琢磨君がいなければ、有り得なかった事。

 

「タバコ吸いてぇ~。

 ゆま背負ってるから吸えねぇ~。

 タバコ吸いてぇ~」

「御願いだから、思っていても声に出すのは控えてね」

「うぃ~」

 

 3連戦で気が抜けたのか、琢磨君がまったりモードだわ。

 

[タバコ吸いてぇ~。

 ゆま背負ってるから吸えねぇ~。

 タバコ吸いてぇ~]

「念話も止めて」

「うぃ~」

 

 本当にこの子は……。

 

「ところで、巴先輩や?」

「どうしたの?」

「晩飯、どうしようかね?」

 

 そうね。どうしましょうか?

 

「模擬戦したわけだし、栄養満点なのがいいわね」

「かといって、あんまりガッツリなものだと、カロリーがやばいよね。

 多分、気にしてるのは巴先輩だけだろうけど」

「女の子ですもの、当然じゃない」

「佐倉先輩もゆまも、気にして無さそうじゃない?」

「う~ん……。

 それはそれで、どうかと思うわよ?」

「オレに言われても」

 

 他愛の無い会話をしながら、家に帰る。

 こんな平穏な時間を過ごす事になるなんて、夢みたいね。

 

「琢磨君」

「はい?」

「ありがとう」

「いや、何に対してよ?」

「色々と、よ」

「わけがわからないよ」

「そこは、素直に受け取ってほしいわ」

「むぅ……」

 

 照れくさそうに、琢磨君は唸る。こういう時は、年相応なんだけどね。

 

 感謝しているわ。貴方のおかげで、私は随分と癒されたんだもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE インキュベーター

 

 見滝原にある、高層ビルの屋上。

 

「やあ、久しぶりだね」

 

 振り返った僕の言葉に、彼女は満面の笑みを浮かべる。

 

「くふふ。

 ご無沙汰ですねぇ、キュゥべえ」

 

 そのまま、僕の横に並び、見滝原を見下ろす。

 

「見滝原市。

 魔女(エモノ)がたくさん出るって評判ですよぉ?」

 

 なるほど。それでここに来たのか。確かに見滝原は統計的に魔女の出現率は高い。

 

「でも、ここは“見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)”の縄張りだ。

 他にも魔法少女が存在するし、人手は充分だよ」

 

 そして、見滝原には魔女が多いという評判には、必ずマミチームの名前も付いてくる。

 

「ある程度、有名になっておけば、余計な諍いを減らせる。

 お前だって、魔法少女同士が戦って、SG(ソウルジェム)が砕けたら、エネルギーの回収が出来ないだろ?

 オレ、敵になる魔法少女がいるなら、躊躇い無く弱点(ソウルジェム)を狙うぜ?

 オレの為に」

 

 以前、琢磨はそう言っていた。確かに僕らにとって、SG(ソウルジェム)の破壊による魔法少女の死は、損失でしかない。

 縄張り争いで、浄化が追い付かないのは、むしろ喜ばしい事ではあるけれど“ある程度のストックを所持し、それを使い回している魔人”がいる現状と、その魔人は躊躇い無くSG(ソウルジェム)を破壊できる人物である事実。

 ある程度の知名度が欲しいと言った琢磨との“取引”は、双方にメリットがある形で成立している。

 

 僕は“見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)の知名度を上げる”代わりに、琢磨は“極力、SG(ソウルジェム)の破壊を避ける”という取引。

 魔法少女システムを完全に理解している琢磨だからこそ、成立した取引だ。

 

「その事なんですけどぉ~」

 

 目の前の彼女は、笑顔のままに言葉を続ける。

 

「その子達よりも、わたしの方が優れている事を示せば。

 私がここを縄張りにしても、問題ない。

 違いますか、キュゥべえ?」

 

 なるほど。確かに彼女の願いと能力なら、相手が“強者”であるほど、見返りは大きい。

 どうやら、完全に裏目に出たようだよ、琢磨?

 もっとも、僕はあくまでも中立だ。自分達にも利益のある取引外の事に関しては。

 

「僕にしてみれば、見滝原が誰の縄張りであろうと、問題はないよ」

「ふふっ、やりました!」

 

 満足そうに笑顔を浮かべ、宣言する彼女を見ながら、僕は状況を整理する。

 

 今、見滝原では“魔法少女狩り”が多発している。容疑者は黒い魔法少女。

 見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)は、間違いなく容疑者と敵対するだろう。

 イレギュラーである暁美ほむらに、容疑者の一人である呉キリカと行動を共にしている美国織莉子。

 そこに、縄張り目的で彼女が参戦か。

 出来れば、魔女化を促進して欲しいところだね。

 

 

 

 

 

「ではではっ!

 見滝原は、このわたし“優木沙々”がもらっちゃいますねっ!!」




次回予告

動き出す物語

日常の中 非日常の先




少女達は、出逢うべくして


百十八章 知ったことではないわ


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百十八章 知ったことではないわ

「予定がおかしいんだよ、ナマモノ」
「琢磨でも、想定外な事があるのかい?」
「オマエ、オレをなんだと思ってんだ?」
「異物」
「うん、知ってた」
「で、なにがおかしいんだい?」
「主夫になった時点でおかしかったんだけどさ。
 生活費管理まで、オレが担当してるんだぜ?」
「家に居る時間は、琢磨の方が長いんだから、当然じゃないかな?」
「だからって、通帳と印鑑まで渡されてもさぁ……。
 おかげで、切り崩してるは、オレの両親の遺産だぜ?」
「わけがわからないよ」
「いや、流石に使えねぇっての。
 その上で、先輩達に悟られないようにしなきゃいけないんだぜ?」
「おおよそ、琢磨らしくない行動だね?」
「は? オレの為に決まってるだろ?」
「どこがだい?」
「オレと共同生活したせいで、先輩達が不自由になるとか、笑えない事する訳ねぇだろ?」


SIDE 群雲琢磨

 

「いってきます」

「いってらっしゃい」

 

 いつものように、巴先輩を送り出した後。

 オレは、手早く掃除を終わらせる。

 佐倉先輩とゆまは、未だに夢の中。まあ、学校に行ってない彼女達には、早起きをする理由が無いわけで。

 オレ? ただ寝てないだけよ?

 

「これでよしっと」

 

 二人宛ての、書置きと朝食(もしかしたら、昼食になるかもしれないが)の準備を終わらせて、オレは静かにドアの外へ。

 電子タバコを咥えて、まずは深呼吸。うん、うまい。不登校な小学生のする事でもないが。

 

「さて、行くか」

 

 思考を切り替えて、オレはゆっくりと歩き出す。

 

 

 

 

 

SIDE 巴マミ

 

 いつもの学校生活。という訳にはいかないわね。

 黒い魔法少女による、魔法少女狩り。

 犯人はわからないけれど、自分と同じ魔法少女が狙われている事実。

 いつか、私の前に現れるかもしれない。

 油断は禁物。その為に、琢磨君達と決めた事は、単独行動を極力避ける事。

 

 もっとも、学校に行っている私は、どうにもならない。佐倉さんとゆまちゃんは、基本一緒に居るから安心だけれど。

 ……琢磨君は……平気で単独行動しそうなのよねぇ……。

 あの子には時間停止という、絶対に逃げ切れる魔法があるから、安心といえば安心なんだけれど。

 

 自分の為なら、平気で無茶をして、無理を通すような子だから、どうしても心配だわ。

 

 

 

 放課後、私は行動を開始する。

 クラスメイトとの挨拶をそこそこに、私は念話を飛ばす。

 

[聞こえているかしら?

 暁美ほむらさん?]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 暁美ほむら

 

 巴マミからの念話を受け、私は教室の外に出る。

 そこには既に、巴マミが立っていた。

 

「話とは?」

 

 重要な話があるから、直接会って話したい。それが、巴マミからの念話。

 それでも、私の目的はあくまでもまどかを守る事。

 手早く済ませる為に、私は廊下で巴マミと対峙した。

 

「黒い魔法少女による、魔法少女狩り。

 貴方は、気付いているかしら?」

 

 真剣な表情で話す巴マミ。

 魔法少女狩り? 初耳ね。今までの時間軸で、そんな出来事は無かった筈。なにかしらのイレギュラーが起きているようね。

 

「私達は、そんな存在を容認する訳にはいかないの。

 貴方は、なにか情報を持っていないかしら?」

 

 私達、ね。見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)の事は、耳にしている。

 

 

 

『また、な』

 

 

 

 二度も、絶望の終焉に置いていってしまった琢磨。あれ以降、出逢わなかった魔人。

 あの子が今回、巴マミの相棒として、見滝原にいる事実を、喜んでいいのかどうか、私には判断しきれない。

 

 真実を知り、それでも平然とする魔人と。

 真実を知り、皆を殺そうとした先輩と。

 

 巴マミの反応は、至極当然の事。自分達が魔女になる。自分達が殺してきたのが、元魔法少女である。そんな残酷な現実に、易々と耐えられるものではない。

 まどかを救いたい。その覚悟が私に無かったら。

 私の代わりに孵卵器(キュゥべえ)と会話をし、激昂し、殺してくれた琢磨がいなければ。

 

 

 あの時、所持していた最後のGS(グリーフシード)を琢磨が私に使ってくれていなければ。

 

 私も、魔女化していても不思議ではなかったのだ。

 

 かと言って、巴マミを非難する権利など、私には無い。

 あの“約束の世界”で、私は巴マミがしようとした事を、この手で行ったのだから。

 制服の内側。胸元には“あの時の空薬莢”がある。チェーンを通してネックレスにし、身に着けている。

 これは、約束の証であり、決意の印なのだ。

 

「知らないし、知ったことではないわ」

 

 だからこそ、私はまどかを諦める訳にはいかない。

 現状魔法少女ではないまどかは、魔法少女狩りの標的ではない。

 ならば、私にとってはどうでもいい事だ。

 

「私には、私の目的があるの。

 そんな事に、構っている暇なんて無いわ」

 

 私の言葉に、巴マミの表情が僅かに歪む。でも、これは譲れないの。

 

「ほむらちゃーん」

 

 私を呼ぶ声に、視線を向けると、まどかが笑顔で手を振っていた。

 

「さやかちゃんと仁美ちゃんが、玄関で待ってるはずだよ。

 私達も、早く帰ろ?」

「ええ」

 

 右手で髪をなびかせ、私は返事をする。

 

「もういいかしら、先輩?」

「忠告はしたわ。

 貴方も気を付けなさい。

 魔法少女同士で争う事を、私達は望まないの」

 

 ……貴方が、それを言うの? 皆を殺そうとした貴方が?

 

「そう……なら」

 

 巴マミの横を通り抜ける際、私は一言だけ告げる。

 

「私達に接触し(さわら)ないで」

 

 思わず、睨み付けてしまったけれど、私は気にせずにそのまままどかの所へ歩いていく。

 私の目的は、まどかを守ること。魔法少女にさせるわけにはいかない。

 

 残念だけれど、魔法少女である貴方達は邪魔なのよ。

 

 

 

 

 ワルプルギスの夜。あの魔女の討伐も大事だけれど。

 それ以上に、まどかの方が大事なの。

 目的を、履き違える訳にはいかないわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 託してくれた、琢磨の為にも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 巴マミ

 

「ふぅ……」

 

 帰宅途中、私はひとつ、息を吐く。

 

 暁美ほむら。最近になって、転入してきた魔法少女。彼女の目的は何?

 

『長い黒髪が特徴的であったとすれば。

 後から見た際に、黒い魔法少女という印象を受けても、おかしくはない』

 

 以前、魔法少女狩りについて話し合っていた際に、出てきた言葉。

 

 ――――暁美さんの後姿を見た時に、思い出した言葉。

 

 考えすぎかしら? でも、魔法少女狩りと転入時期は近い?

 目的が解らない。そして、彼女は友好的ではない。

 

 暁美ほむらが、黒い魔法少女だったとすれば。目的をぼかす事で、こちらの情報を探っていたとしたら?

 

 

 

 

 『まあ、あんまり『たら』『れば』を並べてみても、現実は変わらない』

 

 ……ここで、琢磨君の言葉を思い出すあたり、私も影響されてるのかも。

 

「巴さ~ん!」

 

 考え込んでいた私に向かって、声が掛けられる。

 見れば、優木さんが手を振りながら、こちらに向かって駆けてきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 佐倉杏子

 

 目を覚ました時、マミも琢磨もいなかった。

 いや、マミが学校に行っているのは解るんだが……琢磨、どこいった?

 

「ったく、あいつは……」

 

 単独行動は避ける。そう言っていたそばから、単独行動だよ。そういう奴だよ、知ってるよ。

 

「はぁ……らしくないな」

 

 スティックキャンディを咥えながら、あたしは一人で呟く。

 琢磨に振り回されまくり。思えば、最初からそうだった。

 妙に距離を置いているように見えて、誰よりも近い所からあたしを見てる。

 笑顔で振舞うくせに、心で壁を作ってる。

 真剣に考えているようで、全てを無視して動く。

 そんな奴だよ。知ってるよ。

 

 なのに……なんであたしは…………。

 

『そんなのはオレが許さない』

 

 琢磨の言葉を思い出し、熱くなった顔を手で扇ぎながら、あたしはテーブルの上を見る。

 何かが白い布で隠されており、その横には置手紙があった。

 テーブルの前に座り、あたしは置手紙を取る。手紙の枚数は3枚。ご丁寧に数字が書かれている。読んで欲しい順番らしい。あたしは1を開く。

 

『手紙を読む人へ。

 この手紙を読んでいるという事は、オレは既にいないんだろう。

 部屋に』

 

 ここまで読んだ段階で、破り捨てたくなる衝動を抑えながら、あたしは先を読む。

 

『何時に起きるかわからないので、とりあえずの食事で我慢して欲しい』

 

 そこまで読んで、あたしは白い布を取る。そこにあったのはカップ麺。いや、手抜きすぎるだろ。

 

『きっと佐倉先輩がこれを読み、今頃は手抜きだとか考えているかもしれない。

 しかし、手軽に出来たてが食べられるという点で、カップ麺は優れているのだ。

 異論は認めない』

 

 なんか、あいつの予想通りに事が運ばれてる気がしてむかつくわぁ……。

 

『1枚目はここまでにしておこう。

 ちなみにこの手紙は、読み終わると爆発する。

 なんて事が出来たら面白そうだと思うのだが、どうだろう?』

 

 知るかよ。反射的に握り潰した手紙をゴミ箱に投げ捨て、あたしは2と書かれた手紙を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バカが見る~! m9(^Д^)プギャー 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 とりあえず、後で絶対に殴り倒す事を誓いつつ、あたしは2枚目を破り捨てる。なんか、3枚目を読む気が失せるんだが……。

 そういう訳にもいかず、あたしは渋々3枚目を開く。

 

『きっと、お優しい佐倉先輩なら、ちゃんと読んでくれている事を期待して。

 魔法少女狩りの犯人“黒い魔法少女”は、魔法少女を狙う。当然の事。

 しかし、一般的な魔法少女は“学校に通っている”のが普通。

 故に放課後までは安全だと判断しました』

 

 本当に、あいつの頭はどうなってんだ? 12歳だなんて言われても、信じられない。

 いや、あいつは“世界の時間が止まっている中でも生きている”のだから、実際にはもっと上なのかもしれない。

 見た目は、10歳程度なんだけどな。

 

『もちろん、確定情報ではないので、油断は禁物。

 見た目的にも、ゆまは狙われやすそうなんで、任せた。

 まあ、オレの意見は関係なく、一緒に居そうだけどね』

 

 そして、最後の一文を見て。

 やっぱり殴り倒そうと、誓いを新たにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『じゃ、セール会場で、おばちゃん相手に闘劇してきます』




次回予告

整った舞台は、次の演目へ




普通の舞台と違うのは

次の演目を選び

次の演目になるように









動くモノが、多すぎる事









百十九章 将来が心配


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百十九章 将来が心配

「ちょっと! 離しなさいよ!!」
「うるせぇ、ババア!!
 こちとら人数が増えたせいで、やりくりが大変なんだよ!!
 この小麦粉はわたさねぇっ!!!!」

「わけが「てめぇはとっとと、お一人様一パック限りの卵をキープしてこいやぁ!!」わからないよ」


SIDE 巴マミ

 

「優木さんは、最近どう?」

「相変わらず、平穏ですよぉ~?」

 

 帰宅途中、私は優木さんと合流し、並んで歩いていた。

 優木沙々。魔法少女である私の、数少ない()()()()()だ。

 

「平穏なのは、良い事じゃない」

「そうなんですけどぉ、それはそれで退屈ですよ~」

「あら、優木さんなら、面白い事でも見つけていそうだけれど」

「面白い事ですか~?」

 

 私の言葉に、優木さんは立ち止まって考え込んでしまった。そこまで、深い意味で言った訳ではないのだけれど。

 しばらくして、優木さんが首を傾げながら言った。

 

「不登校なのか、微妙な生徒が居るってのは、聞いた事ありますけどねぇ~。

 全然、知り合いでもなんでもないんですけど」

 

 知り合いじゃないって……。いや、それほどに違和感があるという事かしら。

 

「詳しく、話をしてもらってもいいかしら?」

「お? 食い付きましたねぇ。巴さんもやっぱり気になります? ですよね~」

 

 自分の提示した話題が採用されて嬉しいのか、優木さんは上機嫌で話し出す。

 

「いじめられてるんじゃないかって疑惑があった子なんですけどね。

 休みがちだったその子が、ある日を境に性格が明るくなったそうで。

 先生達も一安心だって話ですよ~」

 

 ある日を境に、ね。やっぱり“契約”かしら? キュゥべえの事を知っている身としては、その可能性が真っ先に浮かぶ。

 

「たしか“呉さん”です。

 ただ、それでも微妙に休みがちらしくて~。

 病弱って訳でもないのに、不思議な話ですよねぇ」

 

 ……ここで、真っ先に琢磨君を連想してしまうあたり、あの子も異常な存在感よね。

 

 琢磨君は、本当なら小学六年。学校に行っていないと駄目な12歳。

 でもあの子は「学校なんかよりも、魔人の方が重要ですしおすし」とか言ってる子。おすし?

 まあ、佐倉さんも今は学校行ってないし、一緒だったゆまちゃんも当然……。

 

 家の同居人、将来が心配すぎて、胃が痛くなるわね……。

 

 その“呉さん”というのも、魔法少女となっていたら。学業より魔女狩りを優先するような子だとすれば。

 説明可能な分、怪しいわね。

 

 いつもの十字路で優木さんと別れ、私は帰路を急ぐ。

 キュゥべえなら、呉さんが魔法少女なのかどうか、知っている筈。確認は早いほうがいいわ。

 

 

 

 

 

SIDE 優木沙々

 

 手を振って、巴さんの背中を見送り、別の道を歩く。

 

「ふ」

 

 どうしよう? 我慢する? うん、無理。

 

「くふふふふふふふふっ」

 

 首尾は上々。ちょろいわ~。見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)ちょろいわぁ~。

 情報なんて、簡単に入手できます。ちょっと高めの立場の人に、魔法でちょちょい。らくしょ~。

 

「これで、潰しあってくれればいいですけどね~」

 

 狙うのはやっぱり、実力者と名高い見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)です。

 でも、キュゥべえの話では、魔法少女よりも魔人の方が弱いそうで。そっちは後でいいですよね。弱いなら“私の使い魔”でちょちょい。

 私が直接出張るのは、一番最後。最後の一人を倒しちゃえば、自動的に見滝原は私のものですから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 呉キリカ

 

 前方にいた生徒二人が、十字路で別れた。当然、私が尾行するのは“銃闘士”の方。それが織莉子の指示だからね。

 

「妙な手出しをする魔法少女が居るけれど、そちらは気にしなくていいわ」

 

 織莉子がそう言っていたからね。従うのは当然でしょ。

 狙うのは銃闘士。その中での頂点。リーダー格。

 

「っ!?」

 

 お? 前方の銃闘士が歩みを止めた。私も歩みを止めて観察する。

 

「こんな時に……っ!」

 

 少し悩んだ後、銃闘士はSG(ソウルジェム)を手に、別の道へ進んだ。

 流石、私の愛する織莉子。ちゃんと言われてた通りに状況が動いてる。

 

「だったら私が、それを磐石なものにしなきゃね」

 

 銃闘士が向かう場所は確定。なら、先回りでいこう。確実に迎え撃って。

 

「織莉子が指示を出し、私が手を下す」

 

 完璧だよ! 出来ない事なんて、ないさ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 佐倉杏子

 

[佐倉さん、聞こえてる?]

 

 ゆまと二人、リビングでテレビをみてたら、マミからテレパシー。

 

[マミおねーちゃん?

 どうしたの?]

 

 どうやら、ゆまにも届いていたようだ。先に返事をされた。

 

[魔女結界を察知したわ。

 琢磨君と三人で合流出来る?]

[たくちゃん、いないよ?]

[……説教が必要ね]

 

 あたしに殴り倒され、マミに説教されるのが確定したぞ、琢磨。

 

[テレパシー範囲内かしら?]

[無理だな。

 あたしやゆまも、何回か送ってはみたが、返事が無い]

[どこいったのよ、あの子は!]

[セール会場]

[ティロってやろうかしら?]

[マミおねーちゃんが怖いっ!?]

 

 居ないのに、掻き乱すのか、あいつは。そういう奴だな。知ってる。

 

[私は魔女に向かうから、佐倉さん達は琢磨君を回収して頂戴]

[回収って……いや、マミ一人で大丈夫かよ?]

[もちろん、深追いはしないわ。

 ただ、琢磨君はテレパシーが不慣れすぎて、受信範囲が狭いのよ。

 最初は、同じデパート内ですら届かず、迷子のお呼び出しだったんだから。

 しかも、私が放送で呼ばれたのよ!]

 

 うん、実に琢磨らしい行動だ。最近、二言目には琢磨の愚痴になってるぞ、マミ。

 

[だから、頼んだわよ、佐倉さん]

[ったく、しょうがねーな]

 

 まあ、魔法少女なんだから、魔女を倒すのは当然の事。

 

「いけるな、ゆま?」

「うん!」

 

 元気良く答えたゆまに笑顔を向けながら、あたしは立ち上がる。

 

「琢磨の奴、絶対に殴り倒してやる」

「ゆまもやっていい?」

「武器はやめとけよ?」

「や」

「……治すの、ゆまだぞ?」

「むぅー」

 

 そんな会話をしながら、あたしたちは“家”を出た。




次回予告

遂に出会う、真逆の少女

互いの信念 それ故に




譲り合う事など、ありえない

百二十章 私が創る


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百二十章 私が創る

「琢磨は知ってるよね。
 食事が必要じゃない事は」
「肉体が道具である事を、オレは知ってる。
 それが?」
「なぜ、食料の買出しに、僕を?」
「オレはともかく、先輩達は“魔法少女の真実”を知らない。
 故に、人としての生活しか“送る事が出来ない”訳だ。
 人間は、知らない事は行えないからな」
「それは、僕とは関係ないよね?」
「最後まで聞けよ、ナマモノ。
 人として生活する以上、食事は不可欠だ。
 そして、主夫をやってるオレは、食事の準備をする。
 その為には材料が必要だ。
 だから、オレは買い物をする」
「で、なんで僕を?」
「なんとなく」
「わけがわからないよ」


SIDE 巴マミ

 

 結界を見つけて、中に入る。

 ……入り口に歪みがあった。他の魔法少女がいる。

 それを証明するかのように、使い魔がまったく現れない。

 

「普通の魔法少女であれば良し。

 なんとか共闘して、魔女を撃退出来ればいい」

 

 でも。もしも。

 

 黒い魔法少女であったなら。

 見過ごす訳にもいかないわね。

 

 単独行動は危険。でも間違いなく、この場所に“仲間”は向かっている。確実に合流出来る。

 ならば、向かうべきね。奥へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 呉キリカ

 

 魔女結界の最深部。準備を終えて、私は迎え討つ。

 見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)。リーダー巴マミ。

 織莉子の予知で、この魔女結界に“独りで来る”事は織っていた。

 後は、私が狩る。織莉子の未来を、私が創る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE out

 

 使い魔も魔女もいない。そんな歪な魔女結界。

 最深部まで到達した巴マミは、敵のまったくいない場所で、首を傾げる。

 

 呉キリカは、マミの死角。天井に鉤爪を突き刺してぶら下がっていた。

 完全な不意打ち。その一撃ですべてを決める算段である。

 完全に“自分の魔法の影響下”にある場所であれば、負ける事などありえない。そんな自信が、呉キリカにはあった。

 

 魔力で生成される鉤爪を一時的に消し、キリカは下降を開始する。すぐに再生成した鉤爪がマミを捕らえて切り裂く。

 

 はずだった。

 

「っ?」

 

 一瞬、自分がなにかに絡め捕られるような錯覚をキリカが受けると同時に、マミはその場を飛びのいて、キリカの攻撃を回避した。

 間合いを離して対峙し、マミは自身の周りにマスケットを設置する。

 

「使い魔も魔女もいない結界であれば、警戒心が薄れる?

 逆よ、黒い魔法少女さん」

 

 地面に降り立ったキリカもまた、ゆっくりとした動作で、マミと対峙する。

 

「大体は、これで決まるんだけどな。

 噂通りの実力だね、銃闘士」

 

 その発言こそ、自分が魔法少女狩りの犯人である事を証明している。もはや、言葉は必要ではなかった。

 

 一気に間合いを詰めるキリカに、マミはマスケットを手に取る。

 

(速いっ!?)

 

 しかし、銃口を向けるよりも速く、キリカは身を翻していた。

 鉤爪の攻撃は、的確にマミの指を傷つける。引き金を引かせない為だ。

 そのまま、首を刎ねる為に振るわれる鉤爪は、マスケットを盾にしたマミには届かない。

 

「ふっ!!」

 

 飛び退き、動き回るキリカ。なんとか指の治療に専念したいマミだが、容易に射線から逃れる速度を持つキリカ相手に、それは悪手である事は重々承知。鉤爪の攻撃をマスケットで凌ぐだけの、完全な防戦になってしまっていた。

 

「さすが銃闘士。

 ここまで死ななかった魔法少女は初めてだよ。

 記録更新だ、おめでとう」

 

 自身の優位を理解し、軽口を叩くキリカ。それに対し、マミは悲痛な表情を浮かべている。

 

 マミにとって、キリカの戦闘能力は天敵と言っていい。

 射線から確実に逃れる事を可能にする速度。リボンによる拘束魔法も鉤爪の前には無力。

 

(ナイフのみを使用する、琢磨君を相手にしてる気分ね)

 

 それでも、マミは諦めない。そんな選択肢は存在しない。

 仲間は、確実にここに向かっている。その事実がマミを支える。

 

 しかし、相手は黒い魔法少女。これは、模擬戦ではなく殺し合い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 美国織莉子

 

 庭のテーブルで、私は紅茶を準備する。

 キリカだったら、いつものように。純粋な笑顔を私に向けながら。

 帰ってくるに決まってるんだから。

 

 そう思っていた。その“未来”を視るまでは。

 

 黄色い魔法少女。黒い魔法少女。そこに降り立つ、もう独り。

 

 それを視た、次の瞬間には。

 私は紅茶の準備をそのままに、駆け出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 呉キリカ

 

 銃闘士は優等生だね。ここまで死ななかった魔法少女は初めてだよ。ほんと。

 

「でも、ここまでだね」

 

 私の前には、うつ伏せに倒れ、辛うじて顔を起こしている銃闘士。

 銃を使うなら、引き金を引く為の指を真っ先に狙う。相手がこちらの攻撃を防ぐなら、逃げられない様に足を狙う。

 じわじわと、少しずつだが確実に。私は銃闘士を追い詰めていた。

 

「なぜ、魔法少女を狩るのか。

 最後に、教えてはくれないのかしら?」

 

 倒れたままの銃闘士の問いかけ。それに答える必要は無い。

 

「そう……残念ね」

 

 無言のまま、右手を振り上げた私に対し、銃闘士は言葉を続ける。

 

「なら、こちらから二つ。

 言っておきたい事があるわ」

 

 しっかりと、私の目を見つめて。銃闘士は言った。

 

「一つ。

 前方の注意は、疎かにするべきではないわ」

 

 唐突な助言に、私は前方を見る。銃闘士の後ろ。そこにあるのは、宙に浮いて銃口を私に向けたマスケット。

 

「っ!?」

 

 放たれた弾丸を、私は鉤爪で凌ぐ。倒れ伏したこの状況でも、反撃の手を!?

 

「もう一つ。

 右に気をつけなさい」

 

 その言葉に、私は右を向く。しかし、そこには何も無く。

 

「がぁっ!?」

 

 突然の、後ろからの衝撃に、私は吹き飛ばされた。

 

「あら、ごめんなさいね」

 

 体勢を立て直す私に届く、銃闘士の言葉。

 

「私から見たら右だけど、貴方から見たら左だったわね」

 

 そして、私の前に立つ、独りの少年。

 

殲滅屍(ウィキッドデリート)……!!」




次回予告

対峙する、右目を隠した二人

一人は、大切な者に尽くす、黒い眼帯

独りは、自分の為に費やす、白い眼帯














百二十一章 だれやねん


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百二十一章 だれやねん

「魔法少女から魔女になる」
「そういうシステムだね」
「魔人から魔獣になる」
「そういうシステムだね」
「魔法少女と魔人の違いってなんだ?」
「基本的に、名称が違うだけだよ。
 第二次成長期の少女が、最も効率がいい。
 それは“それ以外の契約者”と比較しなければ発見しようが無いからね」
「だから、最も効率がいい存在とそれ以外って括りになるのか」
「相変わらず、理解が早くて助かるよ」
「じゃあ、魔女と魔獣も名称が違うだけか?」
「残念ながら、そうじゃないんだよ。
 魔女と魔獣では、決定的な違いがあるけど」
「けど?」
「その内、本編で明かされるんじゃないかな?」
「メメタァ」


SIDE 呉キリカ

 

殲滅屍(ウィキッドデリート)……!!」

「だれやねん」

 

 私の言葉に、殲滅屍(ウィキッドデリート)はなぜか、関西弁で返事をした。

 

「助かったわ、琢磨君。

 佐倉さん達は?」

「え?」

「え?」

 

 私から、視線を外す事無く。殲滅屍(ウィキッドデリート)は銃闘士との会話を続ける。

 

「……琢磨君は、どうしてここに?」

「セール会場の帰りに、偶然」

「わかったわ。

 帰ったら説教タイムよ」

「助けた結果、説教確定っ!?

 わけがわからないよ」

 

 なんだこれは? それまでの空気を一変させる、銃闘士と殲滅屍の雰囲気は!?

 

 『絶対に逃げなさい』

 

 織莉子はそう言っていた。今ならその理由が少しだけ理解できる。

 

「さて、それはそれとして。

 正直、納得いかないけど切り替えますよ、だって魔人だもの、みつ……たくま」

「何を言おうとして、なぜ言い直したのよ?」

「そこはほら、空気読んでよ」

「間違いなく、それは琢磨君がするべき事ね」

「ジーザス!

 って、どういう意味だっけ?」

「……」

「無言の圧力、まじやめて」

 

 捉え所が無さ過ぎる。世間話をするような状況でないにも拘らず、この会話。

 その上で、まったく隙が無い佇まい。

 

「それで、魔法少女狩りの犯人。

 黒い魔法少女ってのは、そちらのお姉さんの事で間違いないかな?」

 

 銃闘士を庇う様に、私に向かって対峙する殲滅屍。

 

 どうする? どうする? どうする?

 

 織莉子は言った。逃げろと。なら逃げる?

 

「逃げるつもりか?」

 

 っ!? 私の考えを読み取ったかのように、殲滅屍は言葉を紡ぐ。

 

「まあ、そうだろうな。

 病院の魔女結界に“確実に黒い魔法少女はいた”はずだ。

 オレ達という“先客がいた事を知った上で”だ。

 にもかかわらず、仕掛けては来なかった。

 ただ、魔法少女を狩る“だけ”であるならば“仕掛けない理由はなかった”はずなんだよ。

 ならば、結論は簡単。

 “仕掛ける訳にはいかなかった”事になる。

 さて、現状はどうだ?」

 

 今なら解る。織莉子が逃げろと言った意味。対峙しただけで、ここまで心を掻き乱すッ!

 どうする? 魔法少女の死体なんて、いくらでも見つかっていい。

 だが“生きて帰す”のはだめだ。私の事をしろまるに気付かれれば。

 そのまま、織莉子まで到達するだろう。

 

 こいつらは、ここで 殺 さ な け れ ば な ら な い !

 

「先方、闘争の意思あり、か」

 

 鉤爪を構えた私に、殲滅屍(ウィキッドデリート)は電子タバコを咥え、器用に嗤う。

 

「当方、迎撃の用意あり、だ」

 

 いつのまにか殲滅屍(ウィキッドデリート)の右手には、ナイフが爪のように握られていた。接近戦か、ならば私の間合いだ。

 

「黒い魔法少女の実力は、充分に理解できる。

 これまで、魔法少女を狩り続けていた事が、黒い魔法少女の実力の高さを証明している。

 だが、黒い魔法少……言いにくいわぁ!!」

 

 言葉途中で、何故か殲滅屍(ウィキッドデリート)がキレて、持っていたナイフを地面に叩きつけるように投げ捨てた。

 

「まず、名前教えれ!

 このままだと、黒い魔法少女がゲシュペンスト崩壊するわ!!」

 

 ゲシュ……なに?

 

「私がそれに、答える義理はないね。

 なんで、殲滅屍(ウィキッドデリート)にわざわざ名前を教えないといけないのさ?」

「だから、だれやねん!

 そのウィキッドデリーなんとかってのは!!」

 

 言えたよね? 絶対最後まで言えたよね、この子!?

 もう、色々とめんどくさい。どうせ、ここで殺すんだし、いいか。

 

「私は呉キリカ」

「オレは群雲琢磨」

 

 仕方なく、名前を言ったら、即座に返された。

 

「年上っぽいし、呉先輩と呼ぼう」

 

 先ほど投げ捨てたナイフを拾ったウィキ……群雲は、それを左手で爪のように握り込む。

 

「呉先輩は強い。

 だが、この群雲琢磨が戦うのには、それは()()()()()()()()

 

 言いながら、振られた右手には、同じようにナイフが握り込まれる。鉤爪と爪のような持ち方のナイフ。右目を眼帯で隠した者同士の戦い。

 だが、この結界は私の魔法の効果内だ。負ける道理は無いはずっ!

 

「では、闘劇をはじめよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 いつもの言葉で、オレは思考の全てを戦いの為に切り替える。

 

[巴先輩は“警戒”を続けてくれよ]

[どうして?]

[オレは、呉先輩が“単独”だとは考えてないから]

 

 同時に間合いを詰め、オレのナイフと呉先輩の鉤爪が激突、拮抗する。

 

[悪い、話は後]

 

 やばい、呉先輩が想像以上。互いに両手の武器を振るい、火花を散らす。

 待てよ、こっちはLv2全開だぞ?

 襲い来る鉤爪を、ナイフで弾く。

 オレより速いっ!?

 防戦だ、まずい、これが魔法少女狩りの実力ッ!?

 

 巴先輩が追い詰められていた。その時点でオレに“遠距離戦”という選択肢は無くなった。自分より優れている巴先輩が押されてたんだから、当然である。

 日本刀による『電光抜刀』も、選択しない。呉先輩の武器が“両手”の鉤爪である以上、手数で押されるのは目に見えてる。

 故に、オレは“ナイフを用いた<操作収束(Electrical Overclocking)>で戦う”事を選んだんだが。

 

「くぉっ!?」

 

 容赦無く襲う鉤爪を、辛うじて弾く。接近戦は相手の間合い。それを速度で上回る事で、優位に立つ。はずだったが。まさか、Lv2より上かよっ!?

 間合いを離すか、いや、させてくれそうもないな。

 

 なら、相手から間合いを離すように、誘導するか。

 

 切り裂かれようと関係ない。痛覚はすでに遮断済み。両手には握り拳の間にナイフ。

 

 ()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

「邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔!!!!」

 

 黒腕の連撃(モードガトリング)verナイフ装備。滅多打ちのような滅多刺し。突然の高速ラッシュに、呉先輩が慌てた様に後方に下がる。

 右肩やられたっ!? 痛くないっ!!

 

 追撃のナイフ投げだ! オレは左手に持っていたナイフを投擲する。

 しかし、Lv2に匹敵、上回りかねない呉先輩は、当然のように回避する。

 オレはかまわず、右手のナイフも投擲する。もうチョイ下がって。そんな希望を胸に。

 連続投擲は想定してなかったのか、呉先輩は鉤爪で弾き飛ばす。

 

 ……うん?

 

 ふと、違和感を感じた。なんだ?

 

「私からすれば、お前が邪魔だよ」

 

 ちょ、考えさせれ、無理か。

 

「ステッピングファング!」

 

 呉先輩が、鉤爪を投げ飛ばす。てか、飛ぶのっ!? それっ!??

 

「邪魔ァッ!!」

 

 反射的に、左手に日本刀を取り出して、そのまま弾き飛ばす。あっぶねぇっ!?

 

「流石は、数多の魔法少女を狩ってきた呉先輩。

 種族的に劣る、魔人群雲では荷が重いかもしれない」

 

 いつものように、オレは口の端を持ち上げる。咥えた電子タバコから煙を吸い、咥えたまま吐き出す。うん、落ち着く。

 ひょっとして“電子タバコを吸うと落ち着く”ように、無意識に操作してるかもしれん。

 

「なら、狩られてよ。

 私も暇じゃないんだ」

 

 自身の優位を確信したのか、呉先輩が嬉しそうに言う。そりゃ、そちらが優位だわ。

 

 Lv2の動きに合わせられる以上、接近戦は不利。巴先輩を追い詰めるのだから、銃を用いても結果は見えてる。やっべ、強いわこの人。

 

「わかりました。

 なんて、笑えない事を言うはずもないだろ?」

 

 巴先輩の参戦に期待するか? いや、呉先輩の“協力者”を考えると、後方に控えて貰わないと、対応出来る気がしない。

 <オレだけの世界(Look at Me)>で、追い込むか? いや、これは最大の切り札だ。焦って使うのは愚策。

 

「なので、群雲琢磨はこう動く」

 

 接近戦は辛い。銃でも上回れそうにない。なら。

 

「オレのナイフは、大量だぜ!」

 

 右手の<部位倉庫(Parts Pocket)>から、大量のナイフを取り出す。扇状に手にしたナイフを、まとめて投げる。

 

 はい、回避されました。そりゃそうだ。銃弾より遅いもの。

 まあ、後方に飛ぶ形で回避してくれたので、距離はさらに広がったけど。

 

 ……うん?

 

 散らばるナイフを見て、オレは再び違和感を覚える。なんだ?

 

[琢磨君]

[はいな?]

 

 ここで、念話ですか? ごめん、今忙しい。

 

[ナイフ投げ、繰り返してもらえる?]

[はいな]

 

 取り出して投げる。取り出して投げる。取り出して投げる。取り出して投げる。取り出して投げる。

 オレは、言われた通りにナイフ投げを繰り返す。流石に次々に飛来するナイフは想定外なのか、呉先輩は回避行動に専念する。

 

[なるほどね]

[そういう事か]

 

 オレと巴先輩の念話が、同じ結論に到達した事を示す。

 

「いや、これだけの大量のナイフを回避するか。

 さすがと言っておくよ、呉先輩」

 

 もう、何度目か解らないほど、扇状に取り出したナイフを手に、オレは声をかける。

 

「無駄な事はやめなよ。

 どうせ、私には通用しないんだから」

 

 変わらず、優位を保つ呉先輩の言葉に、オレはいつものように口の端を持ち上げる。

 

「確かにそうだ。

 このまま“ナイフを投げ続けるだけ”じゃ、勝利を掴む事は出来ないだろう」

[巴先輩は“警戒”を続けてくれ]

 

「確かに、呉先輩は強いさ。

 巴先輩を追い込み、オレを簡単に退ける。

 見事だと、言わざるを得ない」

 

 左手と両足を用いて、オレは準備を開始する。その為に必要なのは、時間を稼ぐ事だ。

 

「速さには、オレも自信があったんだがね。

 まさか、上回ってくれるとは、想定して無かったよ」

 

 オレの言葉に、不穏な気配を感じたのか。呉先輩の表情が引き締まる。

 だが、関係ない。オレは言葉を続ける。

 

「だがっ! しかしっ!!

 この群雲琢磨が、自分を上回る速度を持つ相手に、何の手立ても無い筈がないのだッ!!!」

 

 笑え。嗤え。哂え。オレは、その為に魔人になった!

 

「確かに速い、認めよう!

 だが、それだけでッ!

 勝利が当然だなどと、思い上がるんじゃあないッ!!」

 

 魅せてあげよう! <操作収束(Electrical Overclocking)>のバリエーション!!

 

「そこで、呉キリカ!

 貴様がどれだけ速く動こうともっ!

 関係無い、回避不能の処刑方法を用いてやるよっ!!」

 

 たった一人の魔法少女を追い詰める為に!

 時間を止める必要なんて!!

 

 無いッ!!!




次回予告

自分の為に力を得た少年は、自分の為にその力を使う

自分の為に力を得た少年が、自分の為にその力を使う

その力を、より自分の為の力にする為に

自分の為の力を、自分の為に発展させる

それもまた、自分の為の、力の使い方



そんな、歪な少年の、完成させた一つの形








百二十二章 短剣思考


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百二十二章 短剣思考

「琢磨の異常な所は」
「うん?」
「挙げたらキリが無いけれど」
「マテや」
「その一つが、魔法の運用方法だよね」
「……<電気操作(Electrical Communication)>関係か?」
「僕らには、想像しえない使い方をしてるからね」
「まあ、魔法という“超常現象”を“現実的に分析”して、発展させたからなぁ」
「ある意味“魔法と科学の融合”ではあるよね」
「本来存在しない“電気”を応用して“磁力の壁を造る”のが電磁障壁(アースチェイン)だしな」
「ふと、思ったんだけれど」
「どした、ナマモノ?」
「これ、次回予告後のTIPSでいいんじゃないかな?」
「メメタァ」


SIDE out

 

 魔女も使い魔もいない。そんな“死んだ”結界の中。

 戦うのは、右目を隠した二人の子供。

 

 一人は、呉キリカ。美国織莉子と共に生きる、黒い魔法少女。

 独りは、群雲琢磨。自分の為に自分を続ける、現状唯一の魔人。

 

「呉先輩の能力。

 いや、これこそが、貴方の“魔法”なのかもしれないが」

 

 少し離れた場所にいる“銃闘士”巴マミ。

 結界内には今、この三人だけが存在する。

 

 しかしっ! 今ッ! この“場”を支配するのは、最も小さき者!!

 

「実に見事で、素晴らしい力だったよ。

 魔法少女を狩り続けられたのも、納得だ」

 

 先の攻防により、大量のナイフが散らばった場所で。その右手に大量のナイフを持つ少年。

 

「だが、ダメだ。

 それじゃあ、()()()()()()()()

 

 余裕を魅せ、口元から白煙を燻らせる少年に対し、黒い魔法少女は油断無く鉤爪を構える。

 

「違和感は、最初からあったのさ」

 

 それすら封殺する、魔人の“普段通り”の佇まい。

 

 それは、味方に位置する者に安心を。

 それは、敵方に位置する者に疑心を。

 

「まあ、違和感があって当然だ。

 魔女も使い魔もいない魔女結界。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 脳を加速させる事による、情報分析。群雲の得意とする力であり、群雲を特異とする魔法である。

 そう、呉キリカは“群雲に情報を与えすぎた”のだ。

 

「本来ならありえない事が起きている。

 それは“ありえない事を起こしているモノがいる”事を意味する」

 

 情報戦で異星物(キュゥべえ)とすら渡り合う少年が、その言葉で場を支配する。

 

「オレはありえない。

 後から乱入したわけだしな。

 巴先輩も無い。

 一般人にとって“毒”でしかない魔女結界を、いたずらに存在させる理由はない。

 さあ、答えはひとつだ」

 

 語る言葉と語らない言葉。その“両方”で、群雲は情報を選定する。

 

「では、ここで一つの疑問。

 “消えるはずの魔女結界を存在させる、呉キリカの魔法とは一体何か?”

 その答えは、先程のナイフ投げが充分な情報を集めてくれたのさ」

 

 その言葉に、キリカは眉を顰める。ただ、ナイフを取り出して投げる。それだけだった筈の行動こそが、決め手となった事実に。

 

「オレの魔法の基本的な使い方は“電気信号をプログラム化”する事にある」

 

 自分が認識出来ないほどの“速度”に対応する為に。

 動きを“プログラム化”する事で“その後の状況を予測”する。

 自分が“どうなろうと”動きが変わる事が無い為、群雲は基本的に“一手先を見据えて行動する”のである。

 

「プログラム化された肉体の動き。

 当然“変化”する事はない。

 ナイフ投げにも、それは適応される」

 

 キリカは首を傾げる。群雲が言わんとする所が見えないからだ。

 しかし“群雲を知る巴マミ”は、群雲と同じ観点から“同じ結論”に達している。

 自身の回復状況と“警戒”を悟られないように、巴マミが言葉を引き継ぐ。

 

「ナイフ投げが“プログラム化された動き”ならば“投げられたナイフの速度も、常に一定”だと言う事よ」

 

 その言葉に、キリカは目を見開く。自分の“魔法”が把握された事を、その言葉で理解する。

 

「何本だろうと、何十本だろうと、何百本だろうと。

 速度が変わるはずが無いのよ、群雲琢磨のナイフ投げは、ね」

「それが、呉先輩の魔法の特性なんだろうな。

 先輩が避けたナイフが“後方で加速する”なんて、本来ならばありえない」

 

 群雲の感じた違和感の正体がこれだ。キリカの魔法の影響下であるからこそ、起こりうる状況。

 それと“魔女結界の異常”を照らし合わせる事で、その“本質”が見える。

 

「「呉キリカの魔法は“対象の速度を落とす”魔法」」

 

 見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)が同時に告げる。相手の力を把握した事を。

 

「呉先輩は、回避する為に、ナイフの速度を落とした」

「回避の終わったナイフに、魔法を使う意味は無い為、結果的にナイフが加速する事になった」

「本来、消滅するはずの結界は」

「消滅するまでの“速度を落としている”からこそ、今も存在している」

「近接戦闘での、立ち回りも」

「射線から逃れるだけの速度も」

 

「「その魔法ひとつで、説明可能」」

 

 二人は追い詰める。魔法少女狩りの犯人。黒い魔法少女を。

 しかし、それであきらめる。呉キリカにその選択肢は存在しない。

 

「私の魔法が解ったからなんだ!

 結界内が私の魔法の影響下だ!」

 

 呉キリカ以外の速度が落ちているのなら、実質“呉キリカが速い”のと同義。

 

「だから、言ったよな!

 お前がどれだけ速く動こうとっ!

 関係ない手段を、この群雲が用いてやるとッ!!」

 

 群雲が声を上げながら、左手の人差し指を伸ばす。

 

「結界内がお前の影響下であったとしても!

 この“空間”は、オレの力が充満している!

 そうさせたのだッ!!」

 

 大量に散らばった無数のナイフが。

 

「速く動こうとも関係ないッ!」

 

 誰の手に触れる事無く。宙に浮かび上がり。

 

「動く事が出来ないようにすればいい!」

 

 その切っ先を呉キリカに向けて。

 

「全方位のナイフ全てが、オレの意のままよッ!!」

 

 戦局を決した。

 

 

 

 

 

「これが『短剣思考《Knife of Liberty》』だッ!!!!」




次回予告

その思考に加護はなく

その思考に容赦はなく

その思考に遠慮はなく












その思考に、慈悲は無し


百二十三章 安心して死ね


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百二十三章 安心して死ね

「タイトルが物騒なのは、この作品の特徴だよね」
「いきなりメタいな、ナマモノっ!?」
「以上だよ」
「マジでッ!?」


SIDE out

 

 短剣思考(Knife of Liberty)

 

 磁力を用いて、一定範囲内のナイフを、群雲の意のままに動かす魔法。

 空中に浮かび上がる、無数のナイフに囲まれて。

 呉キリカは、その行動が完全に封じられた。

 

「全てのナイフがオレの意のまま。

 つまり“全てが一斉に動き出す訳ではない”と言う事だ」

 

 一瞬で入れ替わった優劣の立場。それを群雲は普段通りに説明する。

 

「呉先輩が、オレのナイフを“回避出来ない”んじゃない。

 オレが、呉先輩に合わせて“ナイフを動かす”んだ」

 

 キリカが使う魔法が“速度低下”であるならば。低下してないナイフを動かせばいい。

 回避されたナイフを反転させて、再度向かわせる事も出来るし。

 弾かれたナイフを別角度から襲わせる事も出来る。

 キリカにはどのナイフが一番最初に動くか解らないし。

 群雲には、どのナイフでも一番最初に“到達”させる事が出来る。

 襲うと見せかけて、ナイフを急停止。別のナイフを死角から襲わせる事も出来る。

 

 それら全てを“呉キリカの行動に合わせて選択可能”な状態。

 

「と、言っている間にも、死角のナイフが近づいていたり?」

 

 その言葉に、キリカが慌てて振り返る。しかし、ナイフは微動だにせず。

 

「なんて事を言って隙を突くぐらい、いとも容易く行える訳だ」

 

 弄ばれた事を自覚し、キリカが群雲を睨み付ける。それに対し、群雲はあくまでも自然体。

 

「さらに、こうやって」

 

 言いながら、右手に持っていた大量のナイフを無造作に放り投げる群雲。

 そのナイフ達もまた、キリカの包囲網に加わる。

 

「まだまだ、増やせる」

 

 打つ手無し。キリカは完全に詰みの状態となった。

 

「さて」

 

 電子タバコを咥え、左手の人差し指を伸ばしたまま、群雲は改めて声をかける。

 

「質問に答えて貰おう。

 魔法少女を狩る理由はな「いやだね」……」

 

 群雲の言葉を、キリカは即座に拒否する。

 

「まさかとは思うが“オレが呉先輩を殺せない”なんて、楽観視はしてないよな?

 質問に答えてくれないのであれば、オレが貴方を“生かす理由が無い”んだが?」

 

 平然と殺害宣言をする群雲に、キリカは哂いながら答える。

 

「結構だ!

 たがだか死ぬ程度で私の全てが守れるのなら!

 殲滅屍(ウィキッドデリート)の思い通りにならないのなら、大いに結構!!」

 

 その言葉に、群雲は落胆したように咥えた電子タバコに右手を添える。

 

「質問は受け付けないよ。

 私に対する全ての要求を、完全に拒否する!!」

 

 尚も言葉を続けるキリカ。それを聞き届けた群雲は、電子タバコを右手に持って。

 

「なら、こちらから話をしよう」

 

 口の端を持ち上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 だから、だれやねん。そのウィキッドデリートってのはさぁ?

 まあ、オレの事なんだろうけど、そんな厨二な名前、名乗った事ないぞ?

 

 ま、いいか。

 

 呉キリカ。黒い魔法少女。魔法少女狩りの犯人。

 彼女がどう動いても対応出来るよう、視界に納めつつ。

 オレは“戯言”を披露する。

 

「呉先輩が何故、魔法少女を狩るのか?

 オレがそれを知る術は無い。

 しかしっ!

 状況から過程を仮定し。

 想像に妄想を組み合わせる事で。

 真実“らしきもの”に近づく事は不可能じゃない」

 

 オレの言葉に、呉先輩の表情が消える。構う事無く、オレは言葉を続ける。

 

「呉先輩の魔法が“速度低下”であるならば。

 ここで一つの疑問が浮かび上がる。

 それは“どうやって魔法少女を狩っていた”かではない。

 “どうやって、魔法少女を誘き寄せていたか”にある」

「どういう事?」

 

 後ろから聞こえる、巴先輩の質問に、オレは視線を向ける事無く答える。

 

「魔法少女狩りが起きていながらも、その発覚が遅れた理由。

 それは呉先輩が“魔女結界内で魔法少女を狩っていた”からだ」

 

 もし、魔法少女の死体が明るみになっていたら。

 間違いなく“一般的にも大きなニュース”になる。

 第二次成長期の少女ばかりが狙われる、猟奇連続殺人事件として。

 しかし、魔女結界内であれば、死体は結界と共に消える。

 行方不明者が大量に発生すれば、なにかしらの事件が起きていると騒がれるだろう。

 しかし“行方不明”と“連続殺人”では、騒がれる規模が違う。

 社会は、そう出来ているのだ。

 

「まあ、死体がいくら出ても、呉先輩には重要ではないのかもしれない。

 死人に口無し。

 そこから直接、呉先輩に辿り着くのは難しいだろう」

 

 今回のように“前もって魔女を倒しておいて、他の魔法少女が来るのを待ち伏せる”としても。

 呉先輩の魔法は“低下”であって“停止”ではない。

 結界消滅までに、他の魔法少女が現れなければ、無意味だし。

 結界消滅までに、現れた魔法少女を狩る事が出来るとも限らない。

 万が一にも、逃がしてしまうような事になれば、面倒になるのは必至。

 

「魔法少女を確実に狩り続ける為には、確実な勝利が必要になる。

 その条件と状況を作り出す方法は、流石に解らないけどな」

 

 だがっ! この群雲琢磨には確実な切り札があるのだッ!!

 

「疑問は他にもある。

 最重要なのは“先日の病院の魔女結界で、呉先輩が襲って来なかった事”だ」

 

 事実である必要も。真実である必然も。知ったこっちゃない。

 

「狩っていたのはオレ達以外の魔法少女。

 右腕を失った直後と言う“狩るのに丁度良いオレ”がいたにもかかわらず。

 その事実を吟味する事で、一つの道が見えてくる」

 

 簡単な。とても簡単な理由。

 

「魔法少女を狩る。

 それは“呉キリカの目的ではない”って事だ」

「「!?」」

 

 魔法少女を狩る事が目的であるなら。確実に魔法少女を狩るのなら。

 オレがここに来た時点で“確実に逃げ出している”はずなのだ。

 そして、病院の魔女結界において。

 “最初から、同業者が複数いる魔女結界”は、避けるはずなのだ。

 にもかかわらず、魔法少女を一人だけ狩る事に成功している。

 にもかかわらず、オレ達の前に姿を現すことはなかった。

 

「なによりも、先程の言葉。

 それは“魔法少女狩りも自分の命も、最重要ではない”事を表してるのさ。

 気づいてなかったか?

 先輩自身がオレに“最大のヒント”を与えていた事に」

 

 呉先輩が、オレを睨む。視線で人が殺せたら、確実に死んでそうな目だ。死なないけど。

 

「さて、言いたい事は理解して頂けたかな?

 “魔法少女狩りの犯人、黒い魔法少女は呉キリカである”

 “呉先輩の魔法では、魔法少女を誘き寄せる事は出来ない”

 “魔法少女を狩るのは、呉先輩の目的ではない”

 以上の点から、導き出せる答えは一つ。

 

 ()()()()()()

 

 ってことだ」

 

 オレの言葉に、呉先輩の表情が歪む。わっかりやすっ!

 

「だから、私に“警戒”を続けさせていたのね?」

「そう言う事です」

 

 呉キリカ単独と仮定した場合。腑に落ちない点が多すぎる。

 しかし、複数犯であったとすれば。

 

「指示する者と、実行する者。

 おそらくは、そんなところだろうね」

 

 呉先輩では、魔法少女を誘き寄せる事は出来ない。

 なら、誘き寄せる力を持つ協力者がいる。それだけの事。

 

「さて、そうなると、状況が変わってくる。

 呉先輩が実行する者であるなら、指示する者が別にいることになり。

 呉先輩を殺しても、指示する者を止めなければ、事態は収束しない」

 

 良心も道徳も。オレの為にならないならば、必要ない。当然、容赦する意味も無い。

 オレは、徹底的に呉先輩を追い詰める。

 

「そして、呉キリカが普段、どんな生活をしていたのか。

 どこへ行き、誰と会い、何をしていたのか。

 徹底的に調べれば、指示する者に辿り着くのは不可能じゃない。

 なんだ、やっぱり“生かす理由はなかった”な。

 じゃあ、呉先輩、安心して死ね」

「ウィキッドォォォォォォォォォ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「させないわ」




次回予告

















明確で、的確で、当然で









ようやく、確定した関係










百二十四章 敵


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百二十四章 敵

「立場で変わる。
 状況で変わる」
「そんなモノに、何の意味がある?」
「そんなコトに、何の理由がある?」
「まあ、オレは当然のように言うさ」

「知ったこっちゃないね」


SIDE 群雲琢磨

 

「琢磨君っ!!」

 

 巴先輩の言葉に反応し、オレは一気に飛び退く。一瞬後、オレのいた場所に何かが大量に飛来した。

 あっぶね、巴先輩がいなかったら直撃してたな。

 飛び退いたオレはそのまま、巴先輩の近くに移動し、状況を見極める。

 

「全てのナイフが意のままならば。

 全てのナイフを無効化すればいいのよ」

 

 ナイフに囲まれた呉先輩の横。同じようにナイフに囲まれた魔法少女が一人。

 ……自分から?

 そう思ったオレが見たのは、全てのナイフの切っ先に設置された、不思議な意匠の水晶球。

 

「確かにその通りだが……それを行えるのも凄いな」

 

 水晶球は、魔法少女の物なのだろう。魔力で造られているのなら、ナイフを増やしても対応されそうだ。

 

「貴方が、ゆまを契約させるように誘導した魔法少女か?」

 

 電子タバコを咥えたオレに対し、白い魔法少女は真剣な表情で相対した。

 

「その通りよ、殲滅屍(ウィキッドデリート)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE out

 

 白い魔法少女、美国織莉子。彼女の予知により、この状況はある。

 しかし、すべてがすべて、織莉子の予知通りであった訳ではない。

 黒い魔法少女の前に倒れ伏す、黄色い魔法少女。

 その状況は確かにあった。織莉子の予知通りに。

 しかし、織莉子は予知しきれなかったのだ。その直後に介入する魔人の存在を。

 故に、キリカをマミに向かわせてしまった。故に群雲と戦わせてしまった。

 状況が動く中、織莉子は再び予知にて知る。キリカが追い詰められている事に。

 キリカの元へ向かうのは、当然の事。その途中、再び観た未来。無数のナイフで造り出された牢獄。

 織莉子は、対抗策を見事に思い付き、実行してみせた。

 

「白い魔法少女。

 オレをウィキッドデリートと呼び、呉先輩に魔法少女狩りを指示する者。

 間違いないか?」

「確信しているのに問いかけるのね、ウィキッド」

 

 宙に浮くナイフをそのままに、電子タバコを咥える群雲に、織莉子は冷静に言葉を紡ぐ。

 

「出来れば、貴方とは対峙したくなかったのだけれど」

「なら、最初から魔法少女狩りなんてさせなければ良かったのさ」

 

 空気が違う。今までの戦闘時特有の空気とは。

 それは、織莉子の発する威圧。全てを捨てる覚悟を持った者だけが持つ、必殺の気合。

 事実、キリカもマミも、言葉を発する事が出来ない。

 言うべき事があるのに。聞くべき事があるのに。

 

「目的はなに?」

「それは、オレのセリフだと思うが?」

 

 ただ独り。その威圧を正面から受けながら。群雲だけは自然体。

 或いは、自然体であるように“自らを操作”しているのか。それを行えるのが群雲琢磨である。

 

「貴方達とは、いずれまた()う事になるでしょうね」

 

 その言葉を合図に、群雲は右手を掲げる。その手に大量のナイフが向かって行き<部位倉庫(Parts Pocket)>に収納される。

 同時に大量の水晶球も、景色と同化する様に消えていく。

 

 キリカの魔法は“低下”であって“停止”ではない。元々、この場所は長居が出来るはずもないのである。

 群雲も織莉子も、理解していたのだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

「言いたい事がひとつ。

 聞きたい事がひとつ」

 

 電子タバコを咥え、ゆっくりと深呼吸し、群雲が言葉を紡ぐ。

 

「オレの名は、群雲琢磨だ」

殲滅屍(ウィキッドデリート)はお気に召さないかしら?

 殲滅する屍、貴方にぴったりだと思うけれど?」

 

 キリカを伴い、群雲の横を通り過ぎながら、織莉子が返答する。

 

「とりあえず、名前。

 白い魔法少女のままだと、呼びにくい」

「こちらの情報を、簡単に渡すと思って?」

「だろうねぇ。

 まあ、状況を利用すれば“あいつ”から聞き出す事は可能か」

 

 群雲の言葉に、織莉子の足が止まる。

 

 インキュベーター。魔法少女を生み出し、魔女へ変貌させる事でエネルギーを得る異星物。

 アレにとって、魔法少女狩りは害悪でしかなく、当然“処理”の対象でもある。

 

 “白い魔法少女もまた、魔法少女狩りの一端を担っている”

 

 この情報を、群雲は最大限に利用する算段だ。

 

「美国織莉子よ」

「了解した。

 年上っぽいし、美国先輩でいこう」

 

 やはり、殲滅屍(ウィキッドデリート)とは、接触するべきではなかった。

 織莉子はその事実を、痛感する事になった。

 

「最後にひとつ。

 白と黒の魔法少女は、オレ達の……見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)の敵か?」

「勘違いしないで。

 ()()()私の敵なのよ、ウィキッド」

 

 そのまま、何の決着も無く。幕は下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

「っは……」

 

 詰まった息を吐くような音に、オレは振り返る。

 二人の魔法少女が立ち去ると同時に、魔女結界は解除された。

 路地裏の一角で、巴先輩がその場に手をついている。うわ、すごい汗。

 

「よ……よく、平然と会話出来たわね……」

 

 立ち上がり、汗を拭う巴先輩に対し、電子タバコを咥え直すオレ。

 

「ハッハッハッ」

「膝が凄い事になってるわよ。

 震える通り越して、残像が見えるわ」

 

 操作しなければこんなもんよ。あの威圧はトンでもない。まるであの時の……。

 

 

 あの時?

 

 

「まあ、それはそれとして」

 

 感覚が鈍ってるのに、ここまでになるって事は、巴先輩の心情もお察し。

 

「ひとまず、佐倉先輩達と合流だな。

 立ち位置が明確になった以上、このままでいるのもなぁ」

「そうね。

 色々と情報交換もしないと」

 

 震える膝を<電気操作(Electrical Communication)>で押さえ込んで、オレは巴先輩と共に帰路に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、まずは説教からよ」

「MA☆JI☆DE!?」




次回予告

邂逅は僅か 交わす言葉は極小

されど

それまでと、いままでと、これまでと



妄想するには充分で 仮定するには十全で









事実かどうか 真実かどうか









戯言









百二十五章 それが正解だ


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百二十五章 それが正解だ

「なにが正解だ?」
「出オチかい?」
「そう言うなよ、ナマモノ」
「いきなりそう言われれば、誰だってそう思うんじゃないかな?」
「感情、ないくせに」
「無いなりに、理解しようとはしているさ。
 でなきゃ、感情エネルギーを流用しようとは、考えなかっただろうからね」


SIDE 群雲琢磨

 

「ただい「ふんっ!」ぺぷし!?」

 

 巴先輩と帰ってきて、ドアを開けたら拳が飛んできた。どういうことなの……。

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 定例となった、食後の会議。三角テーブルでデザートと食べる三人の少女と、ベランダに居るオレ。

 情報を交換し、考察が始まる。

 

「オリコが魔法少女を狩っていたのか……」

「狩るように指示をしていた、が正解かな」

 

 話の内容故に、仕方ないけれど、空気重っ!

 

「まず、聞きたいんだけどさ」

 

 佐倉先輩が、フォークを弄びながら聞いてきた。

 

「なんで、あたし達を待たなかった?」

 

 ふむ、その事か。煙を吐き出して、オレは考えを纏めて話し出した。

 

「魔女結界が“呉先輩の速度低下魔法によって、辛うじて維持されていた”のが一つ。

 佐倉先輩達が来るより前に、結界が解除される可能性もあった。

 流石に路地裏とはいえ、一般人に目撃されるかもしれない危険は、取り除くべきだ。

 おそらくは美国先輩も同様に考えていた筈。

 “深追いは禁物”だってな」

 

 魔法少女が有名ではない、世間に知られていない理由は“ナマモノが素質者にしか認識出来ない”事だけじゃない。

 魔女や使い魔も“同様”である事が挙げられる。

 実際、魔女や使い魔による“魔女の口づけ”が原因であったとしても、世間一般は“別の動機(異なる事実)で納得する”んだ。知らないのだから当然なんだが。

 魔法少女の事を公表しても“妄言”の一言で片付けられるのがオチだ。

 それを無意識に理解出来ているからこそ“魔法少女”も、一般人に知られる事を避ける。

 ほんと、インキュベーターにとっては、都合の良い“社会”だ。あいつらの構築したシステムなんだから、当然なんだけど。

 

「その“美国先輩の能力が不明だった”事が一つ。

 大量の水晶球で、オレの『短剣思考(Knife of Liberty)』を無効化した。

 “現れてすぐに”な。

 そこにLv2の……<操作収束(Electrical Overclocking)>に匹敵する速度低下を使う呉先輩の事を考えると、少なくとも“同時に相手する”のは得策とは言えない。

 オレも結局“速度では敵わなかった”訳だしな」

 

 オレと巴先輩が共闘しての場合、残念ながら勝ちは薄いと、オレは仮定する。

 巴先輩と呉先輩の魔法相性もあるが、美国先輩との相性が不明瞭すぎる。美国先輩の能力が不明だから、当然ではあるが。

 ただ()()()()なら、充分可能だった。オレには<オレだけの世界(Look at Me)>がある。

 しかし『短剣思考(Knife of Liberty)』を即座に対処してみせた美国先輩だ。時間停止に対応出来ないとは限らない。

 オレの力が万能じゃないのは、オレ自身が充分に理解している。

 なによりも“伏せ札”が最大限に活用されるのは“最初の一手”だ。

 “切り札”のような“切れば全てが終わる”ほどの能力は、オレの時間停止には無い。

 故に“戦闘継続が困難な状態において、伏せ札を切る選択肢なんてありえない”訳である。

 ナマモノから“呉キリカが単独じゃない事を聞き出していた”オレが、時間停止ではなく電気を応用したナイフで、呉先輩の動きを封じた理由はそこにあった。

 オレにとって<オレだけの世界(Look at Me)>はオンリーワンだが、短剣思考(Knife of Liberty)は魔法を応用して編み出した技術の一つにすぎない。

 速度とは別の次元にある“時間停止”なら、呉先輩に対しては切り札足りえる。

 だが、それが美国先輩にも通用するなんて、楽観視は出来ない。

 実際の所、オレが時間を止められると知っている巴先輩は、対応可能だったりするしね。

 

「オレを明確に“敵”としているのも、理由の一つ。

 目的が解らないからこそ“敵のままでいるべきか”の判断材料が無い」

 

 これが一番大きい。仮に、オレが“敵のまま”でも“先輩達の目的がオレの為になるのなら、邪魔する理由が無い”事になる。

 にもかかわらず、判明している事が少なすぎる。

 

 美国織莉子は、千歳ゆまが魔法少女になるように先導した。

 呉キリカは、美国織莉子の指示で魔女を狩っていた。

 

 一見、相反する二つの事実。しかし“どちらも美国織莉子が主導”である以上“どちらも必要な事”であるはずなのだ。

 うん、これが最大のネックだね。ぶっちゃけ想像する所にまで辿り着けない。

 

「そこまで考えるかよ、普通……」

「琢磨君は、普通じゃないからね」

「いやぁ」

「たくちゃん、絶対にほめられてないよね」

 

 そしていつもの空気に戻る。原因はオレ。知ってる。

 

 正直な所、深刻な空気って好きじゃないんだよね。好きな人がいるかは知らんが。

 

「解らないと言えば……あの“転入生”もね」

 

 巴先輩の言葉で、話題が変わる。オレ達には“魔法少女狩り”も重要だが“見滝原という縄張りを持つ者”としての責任もある。めんどくさっ!?

 

「後で、説教追加ね」

「なんでさっ!?」

「たくちゃん、解る時と解らない時の差がすごいよ」

「マジでっ!?」

 

 それは気付かなかった。ポーカーフェイスには自信があったんだが。

 

「暁美ほむら……彼女の目的がわからないわね」

「最近、転入してきた魔法少女だっけ?」

 

 巴先輩の言葉に、佐倉先輩が反応する。

 暁美先輩の転入時期と、魔法少女狩りが一致している。

 だからこそ、オレは最初、暁美先輩を“容疑者の一人”に挙げてたっけか。

 

「魔法少女狩りに関しては知らなかったみたいだけれど。

 それを鵜呑みにする訳にはいかないわ」

「彼女は、最大級のイレギュラーだからね。

 同等以上がそこにいるけど」

「普通にまざってくるなよ、キュゥべえ」

「褒めるなよ、照れる」

「たくちゃんはむしだよ」

「オレの扱いがひでぇ……」

 

 いつの間にか(オレは気付いてたが)オレの右肩に乗るキュゥべえが加わり、相談は続く。

 

「それはともかく、オレ達の仲間にならないまでも、敵対しない事を確約させたいところだが」

「難しいだろ?

 目的が解らない以上、見滝原を管轄するあたしらにとっちゃ、敵だろ?」

 

 むぅ……情報不足が露呈してるな。直接会ってみるべきかね?

 

「目的不明の、謎の魔法少女ねぇ……」

「加えて、魔法少女を狩る魔法少女の存在か……イベント目白押しで泣けてくるわね」

「楽しいジャン?」

「あたしらは、お前みたいに割り切れないんだよ」

「大丈夫。

 きっと、それが正解だ」

 

 何も考えずに、状況の推移を見守る。うん、得策とは思えないな。

 なにかしらのアクションを起こしてみるべきか。

 いつものように口の端を持ち上げながら、オレは電子タバコを咥え直した。




次回予告

先輩達との会話の後は

たった独りの情報戦

いつもの事ではあるけれど












さて、誰が味方で


さて、誰が敵?



百二十六章 いつか


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百二十六章 いつか

「会話だけでは、得られないものがあるよね」
「だが、会話しないと得られないものもある」

























「今回は、シンプルだね」
「まあ、それ以外に“言うべき事”は無いってわけだ」
「なるほど」


SIDE キュゥべえ

 

 琢磨が見滝原で、マミと一緒に行動するようになってから、僕らは深夜のベランダで会話をする事が、半ば日課とすら呼べるようになっている。

 魔法少女システムを理解し、僕らに敵対心を持つでもなく。それすらも当然のように消化した琢磨。

 感情を持つ生物(にんげん)と、意見交換が可能になるなんて、想定してはいなかった。

 そういう意味でも、群雲琢磨という魔人は“異物”と呼べる。

 

「やっぱり、両方と接触してみるのが一番かねぇ」

 

 電子タバコを咥えた琢磨が、のんびりとした口調で呟いた。

 

「ほむらはともかく、織莉子とは殺し合いになるんじゃないかな?」

 

 暁美ほむら。彼女の目的は不明。

 美国織莉子。彼女の目的も不明。

 

「働けや、ナマモノ」

「わけがわからないよ」

 

 同じ観点で状況を見る事が出来る、異なる存在。

 だからこそ、琢磨との意見交換が成立する。

 魔獣になれば、僕らのノルマに貢献し。

 魔人のままでも、充分に役に立ってくれる。

 そういう意味では、とても“都合の良い存在”でもある。

 

「美国先輩が、オレを“敵”としている現状、対立の立場は崩れない。

 暁美先輩は……そもそも目的が解らないから、判断材料が無い」

「ほむらの場合、僕を見ると殺そうとするから、僕から情報を得る事が出来ないよ」

「だからオレが接触してみないと、どうにもならないってのが現状じゃないか?」

 

 マミの話を聞く限り、ほむらは見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)を、良くは思っていない。

 優れた魔法少女が近くにいるという事は“自分に回ってくるGS(グリーフシード)が不足する”可能性を高める。

 だからこそ、魔法少女同士で“縄張り争い”が発生する。

 

「しかし“魔法少女狩り”を重要視していない事から“暁美先輩の目的は、魔法少女とは別の所にある”と見るべきか」

「魔法少女とは別?

 魔法少女なのにかい?」

「魔法少女だからって“魔法少女に関わらなければならない”とは一概には言えない。

 実際オレも、魔女を狩って旅してた最初の頃は、他の魔法少女と接点があった訳じゃないしな」

 

 特定の縄張りを持たない契約者も、当然存在する。

 それはつまり“人としての生活を捨てた生き方”とも言えるだろう。社会から別離した生活になるのだから、当然。

 そういう意味で“両方の生活を経験した”琢磨であれば、その両方を視野に入れて考える事も出来る。

 

「感情の無い僕らと、感情を有する琢磨。

 意見交換の対象としては最適だね」

「そりゃそうだ。

 普通、魔法少女の真実を知ったら、お前らを信用なんて出来んだろ」

「わけがわからないよ」

 

 真実を求めるくせに、いざ真実を知ると激昂する。本当に、感情とは厄介なモノだね。

 

「いつか、オレがお前の敵になる可能性だってあるんだぜ?」

「そうなのかい?」

「可能性は……ゼロではないっ!」

「深夜は静かにするのが常識なんじゃないのかい?」

「うん、正論なんだけど、お前に言われると気ぃ悪いわぁ」

「わけがわからないよ」

 

 織莉子にも困ったものだけど、ほむらにも困ったものだ。

 そして琢磨は、別の方向で困らせる。

 僕らには感情が無い。それを知った上で、ネタと呼ばれる行為に及ぶのだ。

 

「まあ、オレ達の事はそぉい!しといて。

 明確な問題は二つ。

 “美国織莉子”と“暁美ほむら”だ」

「僕らとしては、織莉子の方を優先してもらいたいね。

 魔法少女狩りなんて、非生産的行動は謹んで貰えると助かる」

 

 魔法少女が魔女になる。その感情エネルギーを回収。宇宙延命の為のエネルギーに変換する。

 僕らが地球にいるのは、その為だ。

 魔女になる前に“処理”されては、無駄骨になってしまう。

 

「暁美先輩を説得して、ナマモノを狩らないように……無理か」

「諦めが速いね。

 理由は?」

「想像と妄想と仮定と過程な戯言でもいいか?」

「いつもの事だね。

 それでも、僕らには考え付かない事だったりするし、無駄にはならないよ」

 

 織莉子の方を優先してほしいと言った、次の瞬間にほむらの事か。流石だよ琢磨。

 

「お前を狩るって事から、暁美先輩は魔法少女システム(インキュベーターの事)を理解していると仮定。

 ただ、お前らがウゼェってだけなら、巴先輩への対応は違ったものになるだろう。

 魔法少女自体を快く思っていないなら、魔法少女狩りをしていても不思議じゃないから、容疑者の一人だったんだけど、実際は違った。

 故に“美国先輩との共闘関係”も、オレは違うと仮定する」

「根拠はあるのかい?」

「美国先輩が“魔法少女を増やす行動をとっている事”だ。

 お前に敵意を向けるって事は“魔法少女が魔女になる事が容認出来ないから”に、他ならない。

 オレ? 見ず知らずの魔法少女なんざ、知ったこっちゃないよ」

「最後の一言は聞いてないし、解ってるよ」

「ノリが悪いなぁ、ナマモノ。

 知ってるけど。

 それはともかく、さっきの理由から“暁美先輩と美国先輩が共闘してる”ってのは考えにくい。

 “魔女になる為に魔法少女になる”このシステムに反発するなら“魔法少女を増やす行為”なんて、容認出来るはずが無いからだ」

 

 なるほど。確かに織莉子とほむらが目的を共にしていると考えるには、反論材料が明確だ。

 

「加えて、暁美先輩と美国先輩が共闘していたなら、巴先輩を狙うのが暁美先輩である可能性のほうが高い。

 明確に巴先輩を敵としているなら“協力する振りをして不意打ちした方が、成功率が高い”からだ」

「そういうものなのかい?」

「ここで、オレが唐突にお前を殺そうとしたとして、対応できるか?」

「なるほど」

 

 僕は、琢磨が無駄に殺しをしない事を知っている。僕に敵対していない事も知っている。

 そんな状態での不意打ちに、戦闘能力の無い“交渉用端末機()”が、抗う事は不可能に近いだろう。

 

「美国先輩側の動き。

 “魔法少女を狩りながらも、社会的に注目されていない”のが現状。

 そこを加味すれば“魔女結界の速度低下という、不確実な手段”よりも“限りなく近い所からの不意打ち”の方を選ぶだろう。

 しかし、現実は違った。

 現実を把握している現状は“共闘関係を否定する材料ばかりで、肯定する要素は無い”わけだ」

 

 言いながら、琢磨の表情が変化していく。真剣な表情。それでいて、口の端を持ち上げる。

 

「なるほど、そうか。

 意外な所から、切っ掛けが見つかったな」

 

 どうやら、何かに気付いたようだ。

 

「魔法少女を増やす事。

 魔法少女を狩る事。

 その両方を満たす“条件”がある」

 

 ここで織莉子の方なあたり、流石だよ琢磨。頭の回転を早める事で“情報の処理”の精度が上がっている影響か。

 

「どちらも“真の目的ではない”って事だ」

 

 




次回予告

思いつかない事 思いついた事

想定していた事 想定外の事










あぁ、この夜は











オモイノホカ、ナガイラシイ










百二十七章 デコイ


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百二十七章 デコイ

「得た情報が、真実かどうかはわからない」
「当然だね」
「だが、偽りの情報でも、それが“偽りだと知っていれば”充分有用になる」
「つまり?」
「見極めが肝心だって事さ」


SIDE インキュベーター

 

「真の目的?」

 

 深夜のベランダでの会話。

 僕と琢磨だけの情報整理は、意外な展開をみせていた。

 

「魔法少女を増やせるのはインキュベーターだけだ。

 美国先輩は新たな素質者をお前に教えてた」

「その通りだね」

「そうなると当然、お前は“契約の為に動く”事になる」

 

 深呼吸するように、煙を吐き出す琢磨。僕はその横で琢磨の言葉を待つ。

 

「黒い魔法少女による、魔法少女狩り。

 それを知れば当然、他の魔法少女達はそちらを注視せざるを得なくなる」

 

 なるほどね。確かにその通りだ。

 

「つまり、美国先輩にとって“相反する二つの行動”は。

 目的を隠す為の手段。

 すなわち“(デコイ)”でしかないって事だ」

 

 魔法少女を増やす事。魔法少女を減らす事。真逆と呼べる行動。

 そのどちらも“真の目的を隠す為”であるならば。

 その両方が“必要な事”となる。

 

「そして、真実を知る者に対して、相反する行動をとって見せる事で疑惑を持たせ、行動を迫害する」

 

 なるほど、よく出来ているね。でもこうなると。

 

「織莉子の“真の目的”は?」

「わかるわけないじゃん。

 あくまでもこれは“戯言”だし。

 仮に真実だったとしても“思いついたのはたった今”だぞ?」

 

 確かに“真の目的の為の情報処理”はこれからか。

 

「と言っても……情報が少ない通り越して、無い」

「駄目じゃないか」

「仕方なくね?」

 

 琢磨の言葉は、本人の言う通り“根拠のない妄言”にすぎない。

 ただ“相反する行動に対し、理論付け可能な事柄の羅列”でしかないのだ。

 

「しかし、よくそこに辿り着いたね」

 

 これまでの会話から、そこに至るまでの経緯。そこは非常に興味深いよ。

 

「ん?

 簡単な事だよ」

 

 電子タバコを咥え直し、琢磨は事も無げに言ってのける。

 

「暁美先輩と美国先輩。

 二人が共闘している要素はない。

 ならば当然“無関係”という結論に辿り着く。

 その“視点”で見ればいいのさ」

 

 琢磨と僕らの、絶対的な違いは“感情の有無”だ。

 それは、僕らは常に“客観的視点”しか持たない事を意味し。

 琢磨は“自分の見たい場所から物事を図る”事を意味する。

 だからこそ、成立する意見交換。うん、君は貴重な存在だよ。

 

「魔法少女を“増やす”事と“減らす”事。

 二つは相反している。

 ならば“どちらも重要ではない”と考えれば。

 それは“手段”であり“目的”ではないと結論付けられるって訳だ」

 

 戯言だけどね。

 そう言って、琢磨は深呼吸する要領で、白煙を吐き出す。

 

 確かに、琢磨の言葉には“物的証拠”どころか“状況証拠”すら、存在しない。

 辻褄が合う。それだけで真実とは呼べない。

 辻褄が合う。それだけで事実とは言えない。

 でも、辻褄が合うのなら。すべてが虚構とは言えないのではないか。

 そんな、どっちつかずの、成り行き任せ。

 

 有史以前より、人類を観察してきた僕らにとって。群雲琢磨という存在は“唯一”と言える。

 システムを理解した上で、受け入れて接する。

 劣る存在と理解した上で、受け入れて生きる。

 群雲琢磨が理解した上で、受け入れて過ごす。

 それが、どれほどの異端か。それが、どれほどの異常か。

 

「君は本当に“異物”と呼ぶに相応しい存在だね」

 

 僕のこの言葉すら、すでに66回目だ。

 

「異物か……普通でもないし、人でもない。

 うん、実にオレらしい」

 

 そう言って嗤う琢磨を見るのも66回目だ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「どちらにしても、だ。

 やっぱ、オレが直接会ってみないと、これ以上の情報が得られないな」

 

 どれだけの情報を分析しようとも。どれだけの情報を解析しようとも。

 決定的なものが無い以上、語られる言葉は、琢磨の言う“戯言”なのだろう。

 

「それでも充分だよ」

「うん、知ってる」

 

 例え、戯言であったとしても。

 

 “まったくの予想外”と“僅かでも予想内”では、雲泥の差だ。僕らにとっても、琢磨にとっても、ね。

 インキュベーターの目的は“宇宙延命の為のエネルギー回収”だ。すべてがそこに収束する。

 群雲琢磨の行動理念は“自分の為”だ。すべてがそこに集約される。

 

 

 

 

 だからこそ、僕らは言葉を交わすのだ。

 

 僕らは琢磨を“異物”と呼ぶ。

 

 男とも。女とも。大人とも。子供とも。当然、魔法少女とも違う“異なる物”と。

 

 琢磨は僕らを“ナマモノ”と呼ぶ。

 

 人物でも。植物でも。動物でも。無機物でも。当然、生物でもない“ナマのモノ”と。

 

 だからこそ、僕らは言葉を交わすのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

「さて、そろそろいくよ」

 

 そう言って、ナマモノはオレの肩から飛び降りる。そのままベランダを乗り越えていく。

 

[そのまま死ね]

[わけがわからないよ]

 

 まあ、死なないよね。知ってる。

 見上げれば、夜空。雲ひとつ無い。でも、星がよく見える訳でもない。普通の街の空。

 

[無駄に潰されるのは、もったいないじゃないか]

[おや、意外。

 学習能力あったんだな、お前]

[当然だろう?

 学習した結果が“第二次成長期の少女を優先する”現状だからね]

[キュゥべえ……恐ろしい子!?]

[わけがわからないよ]

 

 まあ、このままここにいたら、そうなるだろう。キュゥべえは、そう判断したって訳だ。

 

「いや、まいったね、ほんと」

 

 空を見上げながら、一服。うん、落ち着く。むしろ、落ち着かないといけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 では

 

 

 

 

 

「逃げも隠れもしないから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 闘劇を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話があるなら、こっちに来たら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はじめよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「佐倉先輩」





























次回予告

百二十八章 幸運


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百二十八章 幸運

「履き違えるなよ」
「重要なのは真実でも事実でもない」
「そんなものは、等しく無価値」
「必要であるのなら、嘘だって、輝くものさ」


SIDE 佐倉杏子

 

 なんとなく、目が覚めた。そんな、何気ない夜のはずだった。

 リビングに向かうと、誰も見ていない無音のテレビが光を発して自己主張している。

 ふと、視線を向ければ、ベランダにいる琢磨と、その肩に乗るキュゥべえ。

 なんだ、まだ起きていたのか。

 普段なら、適当に声を掛けるか、無視して寝室に戻るかしただろう。

 

 

 

 ある言葉が、あたしの耳に届かなければ。

 

 

 

 あたしは足を止める。今、聞こえてきた言葉を頭の中で反復する。

 なんて言った? 何を言った? なんで言った?

 言葉の意味を理解した。頭の中が沸騰するかのように感じてる。

 そんなあたしをよそに、キュゥべえが琢磨の肩から飛び降り、そのままベランダの外へ。

 深呼吸するように、空を見上げながら白煙を吐き出した琢磨の視線が、あたしを捉える。

 

「逃げも隠れもしないから、話があるならこっちに来たら?」

 

 いつの間にか変身をした琢磨が、いつものように、あたしを先輩と呼ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 激しい、憎しみを、覚えた。

 

 

 

 

 

 

 自分の感情のまま、あたしはベランダに向かい、琢磨の襟首を持ち上げる。

 

「騙してたのか……あたしらをっ!?」

「静かにしようぜ。

 ちゃんと話すから、まずは落ち着けっての」

 

 平然と、感情の篭らない黒い左目が、あたしを射抜く。だが、それで退いちゃ意味が無いんだ!

 

「答えろ琢磨っ!!

 “魔女になる為に魔法少女になるシステム”ってなんだっ!?」

「よりにもよって、それを聞いたか。

 まあ、話すから放して。

 このままだと、話す前にオレが意識を手放す事になるから」

 

 なんでこいつはいつも平然と、あたしの心を掻き乱すんだっ!?

 それでも、話を聞かなきゃ始まらない。

 突き飛ばすように、あたしは手を放

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 世界と一緒に停止した佐倉先輩を尻目に、オレは尻餅。御尻。いかん、思考が定まらない。

 

 佐倉先輩に掴まれた瞬間に、オレは<オレだけの世界(Look at Me)>を発動させていた。

 話を聞かれていたのは想定外だが、そこから拡散する事だけは、笑えないので完全阻止。

 よって、時間停止。このまま逃げてやろうか?

 

「とは、いかないよねぇ」

 

 電子タバコを咥え直し……吸えないんだった。これ、<電気操作(Electrical Communication)>で電気を送り込んで機能させてるんだから。時間停止中に魔法が使えないオレだもの。

 

「うん、軽く混乱してるな、オレ」

 

 想定外なんだって。まさか聞かれてるとは思わなかったもの。何の為に深夜にナマモノと会話してると思ってるのさ。空気読んでよ。からけ。

 

「うん、キレが悪い。

 いや、そんな事を考えてる場合でもないんだって」

 

 うわ、魔法の補助がないと、オレってこんなにダメな奴なのか。新たな自分発見。イラネ。

 

「依存度えげつないな。

 まあ、魔人なんだから魔法に依存するのは悪い事じゃないのか。

 いや、その結果がこれなんだから、悪い事なのか。

 そもそも、善悪で謀れるような事じゃない。

 まて、なにを企むんだ、オレ」

 

 落ち着け。マジで。頼むから。

 自分が自分を思い通りに動かせないとか、SG(ソウルジェム)濁るっちゅうに。

 いや、時間停止継続中だから、穢れがしっかり溜まってるだろうけど。

 

「作戦決めての時間停止ならともかく……思考する為の時間停止がまともに機能しないってのは……」

 

 普段(変身前)の状態で<電気操作(Electrical Communication)>を使えるように頑張ってる理由の一つがここにある。

 人は、意識して自分を動かす事はほとんどない。

 例えば、林檎を食べようとする。林檎を手に取り、口を開けて、林檎を移動させて、COME。

 『林檎を手に取ろう』『口を開けよう』『林檎を口に近づけよう』

 それを“一々考えながら行っている訳じゃない”んだ。

 半ば無意識に『行動を脳が指示している』状態だ。

 

 ところが、オレの魔法はその法則の外にある。

 無意識に魔法なんて使えない。そんな事をすれば、SG(ソウルジェム)の穢れが加速度的に溜まる。

 

 オレはそれを知っている。

 

 意識的に行動しないと、取り返しがつかなくなる事を、オレは理解している。

 だからこそ、オレは<電気操作(Electrical Communication)>を重視する。自分を操作するこの魔法を。無意識を意識出来るこの力を。脳が指令する事を脳とは別に行えるこの無法を。

 

 が、オレは今、その魔法が使えない。完全に“酢の自分”な訳だ。すっぱいっ!? そもそもCOMEってなんなんだ!? いや、林檎が来るから合ってるのか。りんごなう。オレ、林檎っ!?

 

「剃れすぎだ。

 ちげぇっ!?」

 

 何を剃るんだ? 髭か? 生えてねぇよ、契約してから肉体がまったく成長してないんだぞ、オレ。それもあり“肉体を操作する”事に重点を置いてるんだし。

 

「……うん、色々と求めすぎてるよね、オレ」

 

 なんて事はない。自分が()()ば良かった筈だ。()()だけは手放したくないと願ったはずだ。

 いつからだ? いつからオレは皆の――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 佐倉杏子

 

 した。尻餅を付いた琢磨が、平然と立ち上がる。その左目には迷い無い光。

 

「【ひとまず場所を変える】【巴先輩とゆまを叩き起こして】【話をしたいなら止めないが】」

 

 琢磨の言葉が、静かに響く。ゆま達には聞かせられないってのか!?

 

「【はっきり言おう】【オレはこの事を】【誰にも話す気は無かった】【それほどの事だ】」

 

 ……どうやらあたしは。

 

「【でも】【佐倉先輩なら】【大丈夫だと】」

 

 自分が思っている以上に、幸運だったみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オレは、信じてる」




次回予告

情報の取捨選択

真実はいつだって

心を砕き 魂を汚す



情報の取捨選択

必要であるのなら

虚言すら、正しい道となる








選定された情報に、虚偽も無ければ、善悪の境もない


百二十九章 こんなにも


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百二十九章 こんなにも

「他人の心を、思い通りにするのは難しい」
「不可能、と言わない所が琢磨だよね」
「そりゃまあ、魔法を知った身としてはね。
 洗脳魔法とかあれば、他人を意のままに動かせるだろうし」
「使いたいのかい?」
「まさか。
 そんなの楽しくないじゃないか。
 何が起きるかわからないから、人生は面白い。
 って、なんかの本で読んだ。
 概ね同意しますが、なにか?」
「辛い事が起きたら、笑えないんじゃないのかい?」
「辛い事が何も起きない人生に、笑う価値はないさ」


SIDE 佐倉杏子

 

 琢磨と共にやってきたのは、あたしにとっての原点。

 あの教会だった。

 よりにもよって、ここか……。

 色々な意味で、起点となっている場所に、あたしは思わず苦笑する。

 

 苦笑出来るようになったのは、きっと琢磨のおかげだけれど。

 

 それでも、あたしは聞かなければならない。あの言葉の意味。

 “魔女になる為に魔法少女になるシステム”の事を。

 

SG(ソウルジェム)ある?」

 

 電子タバコを咥え、いつもの調子で琢磨が言う。

 

「オレのでも良いんだけどさ。

 多分、佐倉先輩の方が解りやすいから」

 

 言われ、あたしは左手の指輪をソウルジェム(元の形)に戻し、琢磨に手渡した。

 受け取った琢磨は満足そうに頷くと、祭壇に上がりSG(ソウルジェム)を置く。

 その横に、いつの間にか手に持っていた――――<部位倉庫(Parts Pocket)>から出したんだろうが――――GS(グリーフシード)をその横に置くと、あたしの方に歩いてくる。

 

「【同じモノ】【なのさ】」

 

 感情の篭らない声で、真剣な表情で、琢磨は言った。

 同じ……もの?

 

「【GS(グリーフシード)に穢れが溜まると】【魔女になる】【知ってるよな】」

 

 祭壇上のSG(ソウルジェム)GS(グリーフシード)を見つめながら、あたしは琢磨の言葉を聴く。

 

「【SG(ソウルジェム)に溜まった穢れは】【GS(グリーフシード)で浄化する】【知ってるよな】」

 

 いつの間にか、あたしの横に立っていた琢磨は、あたしとは反対方向にある扉に視線を向けたまま、言葉を続けていた。

 

「【そして】【SG(ソウルジェム)を浄化したGS(グリーフシード)には穢れが溜まる】【当然】【許容限界を超えれば】【魔女になる】【だからオレ達はそうなる前に】【ナマモノに処理してもらう】」

 

 感情の篭らない、ただの情報。そんな言葉だからこそ、あたしはそれをスムーズに受け入れる。

 

「【つまり】【SG(ソウルジェム)に溜まる穢れと】【GS(グリーフシード)に溜まる穢れは】【同一】【になるわけだ】」

 

 そして琢磨は、決定的な結論を。情報として口にした。

 

「【ならば当然】【GS(グリーフシード)に穢れが溜まって魔女が産まれるなら】【SG(ソウルジェム)にも穢れが溜まれば魔女が生まれる】【すなわち】【SG(ソウルジェム)GS(グリーフシード)もまた】【同一】【と言えてしまう訳だ】」

 

 なら……あたしらは…………魔女になるしかっ!?

 

「【さて】【重要なのは】【キュゥべえが】【魔女と戦う為に魔法少女になって欲しい】【と】【()()()()()()()にある】」

 

 ……なに?

 あたしの思考を無視するように、琢磨は言葉を続けていく。

 

「【魔法少女になったら】【魔女と戦わなければならない】【何故か?】【GS(グリーフシード)が手に入らないから】【結果として】【魔女との戦いがある】」

 

 琢磨の考えが、まったく見えてこない。そういう奴だって知ってる。でも、この状況下でさえも。こんなにも琢磨がワカラナイ。

 

「【視点の違いだ】【オレ達にとって】【命がけの戦い】【それが奇跡の対価】」

 

 そうだ。奇跡を叶えて貰った結果。あたしらは魔女と戦う運命を受け入れた。

 

「【キュゥべえは】【SG(ソウルジェム)GS(グリーフシード)に変わる時の】【エネルギーを回収して】【宇宙延命の為に変換して使用する】【それが目的らしい】【つまり】【魔女になる事】【それが奇跡の対価】」

 

 擦れ違い。決定的で絶対的な。それを琢磨は明確にした上で、言ってのけた。

 

「【つまり】【魔女になる為に魔法少女になって欲しい】【そう()()()()()()()以上】【なってやる義理なんざ無いって訳だ】」

 

 ……言葉が……出てこない。

 

 いずれ魔女になる。その絶望を。

 

 

 

 こいつはこんな形で【処理】したってのか……!?

 

 

 

「【だからこそ】【オレは以前】【キュゥべえに言った】」

 

 いつしかあたしは、琢磨の横顔を見つめていた。その姿が、最初の光景とダブる。こんなにも、琢磨はあたしの心を掻き乱す。

 

「【オレからのエネルギーは期待するな】【ってな】」

 

 擦れ違いと勘違い。それを()()()()()()()()()()

 キュゥべえも、琢磨も。

 こんな風に、こいつはたった独りで【戦って】いたのか。

 

 いつだってそうだ。自分勝手で、空気を読んだ上で壊すような奴だ。

 こんな、最悪な事実でさえ、自分勝手に独りで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 独りで?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ともすれば、心が折れてしまいそうな事実。こいつは独りで、それに立ち向かってる?

 誰にも言う事無く。自分独りで背負い込んで。悟られないように。

 何が……琢磨をそうさせるんだ?

 

 浮かんだ疑問の答えは、簡単に得られるはずだ。寂しい横顔を見せる少年に聞けば良い。

 

「あ……」

 

 でも、声が出ない。言葉にならない。すぐそこにいるはずなのに、琢磨が物凄く遠くて。

 そうだ、あたしはずっと思ってた。あたしの“見方”は、最初からずっと同じだ。

 

 

 

 

 

 

 群雲琢磨の生き方は、とても“危ない”んだ。

 

 自分の為。こいつはいつもそう言ってる。実際そうやって動いてる。

 そこに、一切の躊躇いが無い。

 

 “自分の為”にこの事実を隠してた。あたし達に黙ってた。たった独りで耐え忍んでた。

 

「見滝原に来る前、独りで放浪してた時。

 この“最悪な事実”を知って、そのまま絶望した魔法少女がいた。

 SG(ソウルジェム)を自らの手で、破壊し、自殺した魔法少女がいた。

 仲間が魔女になる前に、自分の手で殺そうとした魔法少女がいた。

 な?

 言えないだろ、こんな事」

 

 だから、言わなかった。言うわけにはいかなかった。

 “自分の為”に?

 

「一緒に魔女を狩るチームメイトがそうなるなんて、笑えないにも程がある。

 そんなのは“オレの為”にならないだろう?

 だから、言うつもりはなかったんだよ」

 

 本当に? 本当にそうなのか?

 琢磨の事だ。間違いなく本心からなんだろう。

 だからこそ、あたしには“危ない”生き方に見える。

 

 こいつは“自分の為”に、絶望の現実を独りで耐えてるんだ。

 こいつは“自分の為”に、あたしらに知られないように動いてたんだ。

 深夜にキュゥべえと会話してたのが、その証拠だ。

 

 【自分の為に自分を殺せる】

 

 琢磨は、そんな奴なんだ。

 

「琢磨……」

 

 あたしの呼ぶ声に、琢磨はあたしの方を向く。正面から見据えているのに、前髪が長くて表情が解りにくい。でも、電子タバコを咥えた口元は笑みを造ってる。

 笑うのか。そんな風に。お前は今も。笑うのか。

 

 無意識に、あたしは琢磨に左手を伸ばし、その頬に触れた。右目の眼帯のせいで、その手の動きに気付かなかったのか、琢磨は僅かに驚いた表情で、あたしを見上げる。

 

「……だから、言いたくなかったんだよ」

 

 震えているあたしの手。真実を知ったから震えていると、琢磨は思ってるのかもしれない。

 違う。あたしが震えているのは、魔女になる為に魔法少女になるシステムを聞いたからじゃない。

 確かにこの事実は強烈だ。キュゥべえの奴は、後でとっちめてやりたい。

 でも、それ以上に、あたしを不安にさせるのは、目の前の少年だ。

 

 たった独りで最悪に向かい、そのまま居なくなってしまいそうな。

 

SG(ソウルジェム)が反転する程に穢れを溜め込まなければ、魔女にはならない。

 チームメイトが魔女になるなんて笑えない事を、オレは望まない」

 

 その結果、お前は独りで頑張るんだろ? 今までも、これからも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初からそうだった。群雲琢磨は、佐倉杏子の心を掻き乱す。

 

 独りで、魔女を狩っていた少年。

 あたしと会って、お互いに色々な話をした少年。

 ゆまと出会ったあたしが再び、見滝原に来る切っ掛けを。マミと仲直りする切っ掛けを与えた少年。

 共に生活する、空気をぶち壊す少年。戦いにおいて、信頼に値する少年。

 あたしの過去を、救ってくれた少年。あたしの涙を、黙って受け止めてくれた少年。

 

「あったかいな」

 

 そう言って、右頬に触れるあたしの手に、琢磨は自分の右手を重ねて微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あぁ、あたしはこんなにも。

 群雲琢磨に、焦がれてる。




次回予告

自覚した想い

無自覚の思い

自分の為の行動

他人の為の言動

何も起きなくても、世界は回る

何かが起きても、世界は廻る




今、ここに、生きる

それが重要で、それが必要で



真理な心理が呼び込むのは、希か絶か


百三十章 あたしを信じてない


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百三十章 あたしを信じてない

「もし、あたしが魔法少女じゃなかったら」
「この恋の形は、違っていたのかな?」


SIDE 佐倉杏子

 

 深夜。二人っきりの時間。人知れず存在する、荒廃した教会。

 あたしは、自分のSG(ソウルジェム)を指輪にすると、横にあったGS(グリーフシード)を視線を向けずに、後ろに放り投げる。

 後ろにいる少年は、間違い無くそれを受け取っている。そんな確信と共に。

 

 ……そのまま、あたしはボロボロのステンドグラスを見上げる。

 

 魔法少女システム。

 かなり強烈で、残酷な内容だった。

 琢磨が黙っていたのも当然であり、その事についてはもう、あたしは責める気は無い。

 

 知る事を切っ掛けに、魔女になる奴がいても不思議じゃないほどの真実。

 あたしは、乗り越えた。

 

 乗り越えたと言うか……別の“感情”が、その絶望を押し流したというか……。

 

 振り返ったあたしの視界にいるのは、電子タバコを咥えた、白髪の少年。

 

 そうだ。こいつはいつだって。あたしの心を掻き乱す。

 なのに……なんであたしは…………。

 

 こいつに、惚れちゃったんだろうな。

 

「どした?」

 

 首を傾げる琢磨に、あたしは首を左右に振る。

 

「なんでもねーよ」

 

 あたしを不思議そうに見ながら、琢磨は煙を吐き出す。

 

 

 

 

 

 自覚した今ならわかる。琢磨を見た最初の光景。あの時すでに、あたしは心を奪われてたんだ。

 一目惚れなんて言っても、きっとこいつは信じないだろうけど。

 打ち明ける気も無い。魔法少女のシステムを黙ってたって事は、琢磨はあたしを信じてないって事なんだから。

 寂しいと思う。好きな人に信じてもらえないんだから、当然。

 優しいと思う。結局、琢磨の“自分の為”ってのが“誰かの為に動く際の、自分への言い訳”にしか感じられないから。

 だから“危ない”って思うんだ。

 

「なあ、琢磨。

 少し付き合えよ」

 

 そう言って、あたしは辛うじて原型を留めている椅子の一つに腰掛ける。

 琢磨の事だ。あたしの絶望を紛らわせる為に、付き合ってくれるはずだ。

 

「まあ、断る理由は無いな」

 

 ほら、な。

 あたしの横に座った琢磨を見て、思わず笑みが浮かぶ。

 そのまま、あたし達は会話をする事無く、時間が流れるのを感じる。

 それでよかった。それだけでよかった。

 群雲琢磨はこんなにも。あたしの心を占めている。

 

「なあ、琢磨」

「ん~?」

 

 スティックキャンディを咥えたあたしと。電子タバコを咥えた琢磨。

 

「お前、恋人とか欲しいと思うか?」

「まさかのガールズトークかよ。

 先輩達としなさいな、そういうのは」

「たまには良いじゃないか」

「むぅ」

 

 同じように、咥えた白い棒を上下に揺らし。

 他愛の無い会話をする。

 もっとも、そんな状況でさえ。琢磨は斜め上を行くんだが。

 

「欲しい欲しくない以前に。

 ()()()()()()、かな」

 

 言いたい事の意味がわからない。いつもの事だけど。

 深呼吸するように、煙を吐き出した琢磨は。

 

「オレは、オレの為に、オレを生きる。

 自分のやりたい事を、やりたいようにやる。

 そんなのと一緒になってみ?

 泣くのが目に見えてるだろ」

 

 そうだ。こいつはそういう奴だ。

 自分が笑えないから、自分の望みを放棄できる。

 恋人が欲しくても、その恋人を泣かせてしまうから。

 だから、要らない。自分には相応しくない。

 

「寂しい奴だな」

「知ってる」

 

 思わず漏れたあたしの言葉に、琢磨は苦笑して答える。

 

「仮定をした話をしよう。

 群雲琢磨に恋人が出来た話だ。

 仮に、オレと佐倉先輩が付き合っていたとしよう」

 

 え、えぇっ!?

 あ、あたしと琢磨が、つ、付き合ってっ!?

 

「……いや、仮定だからね?」

 

 狼狽したあたしを見て、琢磨が苦笑する。

 いや、唐突過ぎるわ。ほんと、あたしを掻き乱しすぎる、こいつ……。

 早急に結論を告げる気なのか、琢磨は一気に言葉にした。

 

「付き合ってます。

 当然、デートします。

 

 『好き~!』『ガバァ!』『ちゅ~』『SG(ソウルジェム)に反応あり』

 

 どうよ?」

 

 ………………うわぁ。

 

「同じ立場ですら、こうなる。

 片方が【純粋な一般人】なら、状況はもっと悪化する。

 一般人の視点で言えば。

 『仕事とあたしとどっちが大事なのよ、ぷんぷん!』

 って感じだ」

「一々、言葉にネタを入れるな」

「オレだからね」

 

 そうだな。琢磨だもんな。

 しかし、琢磨の言いたい事がようやく理解できる。

 

 『魔女を狩る』

 

 これは、魔法少女である以上、避けては通れない道だ。

 それが“生活の一部”であるあたしらと“まったく認知しない”一般人では、隔たりは大きい。

 

 そして、琢磨は間違いなく“仕事”をとるだろう。魔女退治に平然と向かうんだろう。

 だから、群雲琢磨に、恋人は相応しくない。

 寂しい奴だな。だけど、それ以上に優しい奴だ。

 自分が仕事を選ぶ。その事を琢磨は十二分に理解してる。

 だからこそ、自分に恋人なんて勿体無い。

 

「苦労するな……」

「しないよ?

 最初から“恋人をつくらなきゃいい”んだから」

「お前じゃねぇよ」

「?」

 

 あたしだよ。小首を傾げた琢磨に、あたしは溜息をひとつ。

 それでも、気持ちは変わらない。あたしの心を占めてるんだから。

 

 

 

 

 ふと。自分の心に聞いてみる。それは、今まで出来なかった事。

 家族を壊して。マミさんを裏切って。あたしは必死に逃げてた気がする。

 

 随分荒れてた。犯罪行為も平気でやった。万引きに始まり、ATM襲撃なんて事もした。

 きっとあたしは、このまま擦り切れていくんだろう。そんな風に漠然と思ってた。

 そんな恐怖と、自分と向き合う事も無く。

 ただ“魔法少女の役割”だけをこなして……。

 

「どした?」

 

 相も変わらず、空気を読まない琢磨が、あたしに呼びかける。それに反応して、あたしは琢磨を見る。

 白い前髪の間から、僅かに除いた黒い左目が、あたしを射抜く。

 

 あぁ……だから、あたしは琢磨が“羨ましかった”のか。

 自分がいずれ、化け物になる。きっと琢磨は“初めてあたしと出会った時には、既に知っていた”んだ。

 でも、契約した事を。魔人である事を。

 琢磨は、後悔していない。

 たった独りの寂しい奴。でも琢磨は強い。

 孤独に荒れていたあたしにはない“強さ”を、琢磨は持ってる。

 同じ“独り”の筈なのに、こんなにも違う。

 荒れていたあたしとは別物。それでも“笑う事が出来る”琢磨。

 

「お前は、さ」

 

 こんなにも愛おしい。佐倉杏子は群雲琢磨を求めてる。

 

「もし、魔女になるとしたらどうする?」

 

 だから、問いかけてしまった。きっとあたしは、琢磨の答えが解ってる。

 

「ガールズトークから、いきなりのガチシリアスね。

 ま、いいけど」

 

 あたしから視線を外し、琢磨はゆっくりと煙を吐き出す。

 

「魔人の場合は、魔女じゃなくて魔獣らしいよ。

 見た事ないけど、まあ、魔女と同種なんだろうね」

 

 そして、躊躇い無く言ってのけた。きっと琢磨はこう言うだろうと解ってたのに。

 

 死ぬかなって。

 

「なる前に死ぬのが理想かな」

 

 だって、笑えないからって。

 

「魔女みたいに、呪いと絶望を振りまくのって、笑えなさそうだし」

 

 うん、そういう奴だよ、お前は……。

 それでもやっぱり、斜め上を行くのが琢磨だった。

 

「まあ、未来がどうなるかなんて、今のオレには解らないし、知ったこっちゃないけど。

 もし、魔獣になっちゃったら。

 佐倉先輩に退治して欲しいかな」

 

 ……は?

 

「魔獣になって、見ず知らずの魔法少女に狩られるより。

 佐倉先輩に殺して貰った方が、逝き方としては幸せだと思うんだが、どうよ?」

 

 …………そんな風に考えてるのか。たった独りでそう考えてきたのか…………。

 本当に、苦労するな、あたしは。

 

「前の話題に戻るけど。

 ね? オレに恋人は“相応しくない”だろう?

 答えは一つ。Answer Deadだ。

 たった一度だけ。それがAnswer Deadだ。

 たった一度しか死ねないのなら。

 オレは、恋人に殺して欲しい。

 ホント、我ながらに情けない。

 そんなの、笑えるはずが無いって理解してるはずなのに、な」

 

 それでも、あたしはこんなにも。

 群雲琢磨に、恋焦がれてる。






次回予告

自覚してた想い

無自覚のままの思い

自分の為の言動

他人の為の行動

何も起こさなくても、世界は回る

何かが起きてしまっても、世界は廻る




今、ここに、生きる

それが重要で、それが必要で



望むモノの前に立つのは、希か絶か


百三十章 Answer Dead


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百三十章 Answer Dead

「もし、オレが魔人じゃなかったら」
「この恋は、そもそも始まらなかったのかな?」


SIDE 群雲琢磨

 

 夜。二人っきりの時間。人知れず存在する、荒廃した教会。

 SG(ソウルジェム)を指輪に戻した佐倉先輩は、横にあったGS(グリーフシード)を後ろに放り投げる。

 当然、後ろにいたオレは、それを難なく受け止める。

 

 ……ごめん、嘘ついた。取り損なって、慌てて拾いなおしました。うわ、かっこわる。

 ステンドグラスを見上げていた佐倉先輩には気付かれて無いっぽい。セーフ。

 

 しばらくして、振り返った佐倉先輩は、複雑な表情でオレを見つめる。

 

「どした?」

 

 首を傾げるが、首を左右に振り。

 

「なんでもねーよ」

 

 なんでもない人がする表情じゃなくね?

 そう思ったが、下手にツッコんで、先輩のSG(ソウルジェム)が穢れるのはよろしくない。

 落ち着くために、オレはゆっくりと電子タバコを吸った。

 

 魔法少女システム。

 かなり強烈で、残酷な内容だ。

 それこそ、知ることで魔女化する危険を孕む“最悪の絶望情報”である。

 だからこそ、オレは誰にも言う事はない。

 筈でした。聞かれてました。最悪なのはオレか。

 どうやら、佐倉先輩はそうはならないみたいなので、一安心ではあるが。

 

「なあ、琢磨。

 少し付き合えよ」

 

 しばらく後、辛うじて原型を留めている椅子の一つに腰掛けながら、佐倉先輩からご氏名です。違ぇ!?

 そんなボケを脳内で展開させつつ、オレは僅かに口の端を持ち上げる。

 危惧していた最悪の事態は回避出来そうだが……穢れに直結する負の感情って、意表を突いてきたりするしな。

 気を紛らわせるのは、実はかなり重要だったりする訳で。

 

「まあ、断る理由は無いな」

 

 横に座ったオレに、佐倉先輩が微笑む。うは、照れる。

 そのまま、オレ達は会話をする事無く、時間が流れるのを感じる。

 ゆったりとした時間。心を落ち着ける時間。そんな時間になっていればいいな。

 なんて、ガラにも無い事を思いながら、オレは電子タバコを吹かし続けていた。

 

「なあ、琢磨」

「ん~?」

 

 しばらくして、スティックキャンディを咥えた佐倉先輩の問いかけ。

 

「お前、恋人とか欲しいと思うか?」

「まさかのガールズトークかよ。

 先輩達としなさいな、そういうのは」

「たまには良いじゃないか」

「むぅ」

 

 何ゆえにその話題? 新手のイジメですか? 実らない初恋真っ只中ですよ、こっちは。

 まあ、付き合わない訳にもいかないが。かといって“戯言”駆使するのも違う気がするしなぁ……。

 

「欲しい欲しくない以前に。

 ()()()()()()、かな」

 

 正直に言う事にした。ドン引きされそうな気もするが。

 

「オレは、オレの為に、オレを生きる。

 自分のやりたい事を、やりたいようにやる。

 そんなのと一緒になってみ?

 泣くのが目に見えてるだろ」

 

 進んで、誰かを泣かしてやりたい。なんて事は考えてないが。

 自分の為に生きる。これが“希望”だったのは、紛れも無い事実。魔人になれた事が、それを証明している。

 故に、この生き方を曲げる訳にはいかない。それは自分自身を否定する事と同義。

 

「寂しい奴だな」

「知ってる」

 

 佐倉先輩の言葉に、オレは苦笑する。

 孤独でも、優しくされなくても、知ったこっちゃない。

 魔人になる()に、家族すら忘れ去ったオレだ。

 既に欠陥だらけだったオレが、孵卵器によって、魔人になった。

 魂は物質化し、肉体は道具となり。

 それでもオレは、群雲琢磨のままで。

 人間として欠陥だらけで、人間ですらなくなって。

 魔法少女にすらなれない。素質ですら失格だ。

 それでも、魔女を狩らなければ。他者の(たましい)を喰らわなければ、活動すら出来ない。

 

 ……なるほど。

 美国先輩の言っていた【殲滅屍(ウィキッドデリート)】ってのは、最も正確なのかもしれないな。

 ただ、殲滅するだけの、生きていない(しかばね)

 自分が活動する為に魔女(ウィキッド)(デリート)していくモノ。

 

 

「仮定をした話をしよう。

 群雲琢磨に恋人が出来た話だ。

 仮に、オレと佐倉先輩が付き合っていたとしよう」

 

 せっかくの機会だ。いっそ徹底的に自分と向き合うのも一興か。

 

「……いや、仮定だからね?」

 

 狼狽した佐倉先輩に、思わず苦笑する。

 色々とネタを仕込むつもりだったが、そんなに嫌か、この仮定。泣くぞ。

 早急に結論を告げようと、オレは一気に言葉にした。

 

「付き合ってます。

 当然、デートします。

 

 『好き~!』『ガバァ!』『ちゅ~』『SG(ソウルジェム)に反応あり』

 

 どうよ?」

 

 うん、引いてるね。泣くぞ。

 

「同じ立場ですら、こうなる。

 片方が【純粋な一般人】なら、状況はもっと悪化する。

 一般人の視点で言えば。

 『仕事とあたしとどっちが大事なのよ、ぷんぷん!』

 って感じだ」

「一々、言葉にネタを入れるな」

「オレだからね」

 

 落ち込んだりされると、SG(ソウルジェム)が心配になる。だからネタを入れる。笑えないからね。

 

 それはさておき。

 魔人として生きると決めている以上、オレに“魔女を狩らない”という選択肢は無い。

 そして“GS(グリーフシード)がないと、魔人として生きていけない事”を、オレは知っている。

 魔女狩りを“仕事”と定義するならば、どちらが大事かと問われれば“仕事”と答える。

 

【恋人と仕事を天秤に掛ける事無く、即決で仕事を選ぶ】

 

 そんなオレに、恋人? むしろ恋人が不幸になるだろ?

 欲しい。欲しくない。それ以前に。

 恋人なんて存在、オレに相応しい筈がないのだ。

 

 

「苦労するな……」

「しないよ?

 最初から“恋人をつくらなきゃいい”んだから」

 

 無い者に、気を使う必要なんて、無い。

 恋人をつくらなければ、そもそも悩む必要すら、無い。

 

「お前じゃねぇよ」

「?」

 

 うん?

 再度、問い掛けようとしたが、真剣な表情で瞳を閉じた佐倉先輩に、オレは開きかけた口を閉ざす。

 

 佐倉杏子。

 オレと同じように、独りで生活していた人。

 でも、彼女はオレとは、あまりにも違いすぎていた。

 そりゃそうだ。一般人なんて知ったこっちゃないオレとは、違って当然。

 ゆまの存在が、それを際立たせている。

 仮に、佐倉先輩の立場でゆまと出会っていたとして、助けるという選択肢が出てきたかどうかすら危うい。

 独りなのに、ちゃんと誰かを助けられる。

 すでに“生き詰った”オレとは、まるで違うモノ。

 だからこそ、彼女との“共闘”は、間違いなく“オレの為”になるのだ。

 

 ふと、先輩を見直してみれば、なんとも複雑そうな表情。

 

「どした?」

 

 耐え切れず、オレは声を掛けた。地味にSG(ソウルジェム)が穢れてました。なんて言われたら、むしろオレが死ねる。

 オレの声に反応し、佐倉先輩がオレを見る。その瞳が読みきれない。まあ、他人を読みきれるほど、オレは自分を卑下してない。

 ……うん、そんなに見つめられると照れる。

 

「お前は、さ」

 

 何よ? むらくもくんですよ?

 

「もし、魔女になるとしたらどうする?」

 

 ……oh。

 ここへきて、その質問が来るか。やっぱ、先輩の心に影を落とすか。最悪の絶望情報。

 無難に取り繕うか? どうやってだよ?

 結局、言いたい事しか言えないあたり、オレってばかだよなぁ……知ってるけど。

 

「ガールズトークから、いきなりのガチシリアスね。

 ま、いいけど」

 

 先輩から視線を外し、オレはゆっくりと煙を吐き出す。

 

「魔人の場合は、魔女じゃなくて魔獣らしいよ。

 見た事ないけど、まあ、魔女と同種なんだろうね」

 

 負の感情が凝り固まり、瘴気となって臨界点を越えると、魔獣という形になる。

 が、瘴気となる前に魔女の卵が孵化する為に蓄えてしまうので、魔獣の発生率が低い。

 と、ナマモノから聞いていた。

 さて、オレがそうなるのは、魔人なのでほぼ確定。覆す方法は一つで。

 

「なる前に死ぬのが理想かな」

 

 生きるモノの、最後の答えは決まっているなら。

 

「魔女みたいに、呪いと絶望を振りまくのって、笑えなさそうだし」

 

 それでも、未来は不確定。生き詰ったオレですら、可能性は零ではない。

 

「まあ、未来がどうなるかなんて、今のオレには解らないし、知ったこっちゃないけど。

 もし、魔獣になっちゃったら。

 佐倉先輩に退治して欲しいかな」

 

 きっと、これが理想系。最も幸せな逝き方。

 

「魔獣になって、見ず知らずの魔法少女に狩られるより。

 佐倉先輩に殺して貰った方が、逝き方としては幸せだと思うんだが、どうよ?」

 

 それでもきっと“人として終わってる”考え方なんだろうなと思いつつ。

 これがオレなんだから、終わってる。

 

「前の話題に戻るけど。

 ね? オレに恋人は“相応しくない”だろう?

 答えは一つ。Answer Deadだ。

 たった一度だけ。それがAnswer Deadだ。

 たった一度しか死ねないのなら。

 オレは、恋人に殺して欲しい。

 ホント、我ながらに情けない。

 そんなの、笑えるはずが無いって理解してるはずなのに、な」

 

 それでも、答えが一つでも。

 そこに至る()は、一つじゃない。

 きっと、それこそが可能性で。きっと、それこそが生きるって事で。

 だから、オレにとって最高の“答え”は。

 

 

 

 

 

 

 恋焦がれる相手に、終わりを告げて貰える事かな、なんて。




次回予告

全ての役者が揃い、時間が流れる意味

状況の変化 状態の変化 情勢の変化

一つ、一つを、順番に

だけれど、時間は待つ事はない








そんな、最も長い一日がはじまる

そんな、最も長い一日でおわる








見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)

百三十一章 私はあの子を知っている


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百三十一章 私はあの子を知っている

「生きていれば、色々な事が起きる」
「まあ、オレの場合は波乱万丈すぎるような気もするけど」
「問題は……終わり方が二択って事ぐらいか?」


SIDE out

 

「「ごちそうさまでした」」

「はい、おそまつさまでしたっと」

 

 杏子を除いた3人での朝食を終えて。

 マミが指を鳴らすと、下りていた髪が、普段通りにセットされる。

 

「その魔法の使い方は、それはそれで、どうなのさ?」

 

 三角テーブルにある、空の食器を運びながら、群雲が苦笑する。

 

「これぐらい、良いじゃない。

 魔法少女の特権よ」

 

 言いながら、かばんを手に取り、マミは玄関へ。ゆまはそれについて行き、群雲はキッチンで洗い物。

 

「じゃ、いってくるわね」

「いってらっしゃい」

 

 いつもの挨拶。普通なら、当たり前の事。しかし、少女達にとっては一時、当たり前ではなくなっていた事。

 だからこそ、この“当たり前”がいかに愛おしい事なのかを、少女達は理解していた。

 

「あら?」

「まあ?」

 

 玄関を開けたら、そこには沙々がいた。

 

「おはようございます、巴さん」

「おはよう優木さん」

 

 挨拶をした沙々は、マミの後ろで驚いた表情をしているゆまに気が付く。

 

「巴さん、その子は~?」

「知り合いの子よ。

 事情があって、預かってるのよ」

「そですか~」

 

 あらかじめ、準備されていた言葉。

 巴マミ。両親と共に事故に遭い、唯一生き残った少女。天涯孤独。

 千歳ゆま。魔女結界に囚われ、唯一杏子に助けられた少女。天涯孤独。

 未成人の少女達だけの生活。世間一般から逸脱した存在。

 それでも、彼女達は生きていかなければならない。その為に“用意されている情報”だ。

 

「そろそろ行きましょう。

 遅刻する訳にはいかないわ」

「はい~」

 

 沙々が、ゆまに対して笑顔で手を振る中、玄関の扉は閉じられた。

 突然遭遇した、見ず知らずの相手に固まっていたゆまは、気を取り直してリビングに戻る。

 そんなやり取りがあった事等、知る由も無く。

 群雲は、朝食で使用した食器類を、真剣な表情で洗っていた。

 

 変身した上に、眼帯を外した姿で。

 

 ゆまが、群雲の元に行くと、首を傾げて問いかける。

 

「なんで、ういてるの?」

 

 群雲は背が低い。その事実を補う為、群雲は浮いていた。

 

「洗い物の為。

 あと、修行の一環でもあるな」

 

 手を休める事無く、群雲は平然と言ってのける。

 しばらく、不思議そうにその光景を眺めていたゆまは、リビングに戻ってテレビの電源を入れる。

 

「キョーコ、ねぼすけさんだね」

「そうだねぇ」

 

 未だに起きてこない杏子に、ゆまは退屈そうに呟き。

 その原因とも言える群雲は、作業を続ける。

 

「まあ、学校に行く必要が無いんだし、別に良いんじゃないか?」

 

 義務教育を完全に放棄した自分達の事を、棚上に投げ捨てて。

 洗い物を終えた群雲は、変身姿のまま、ゆまの横に座る。

 

「面白いか?」

「よくわかんない」

 

 ニュース番組を見ながらの、会話。

 外交問題がどうだとか、内閣の人事がどうだとか。

 ゆまに、そんな情報が完全に理解出来る筈も無く。

 群雲に、そんな情報は完全に必要の無いもので。

 結局、数分後には子供向けの教育番組に、チャンネルは切り替わっていた。

 

「さて、出かけるかな」

 

 右手の<部位倉庫(Parts Pocket)>から、愛用する白い眼帯を取り出しながら、群雲は立ち上がった。

 

「どこいくの?」

「エロ本を立ち読みに、嘘だけど」

「……たくちゃんのエッチ」

「いや、嘘だからね?」

 

 緑の右目を眼帯で覆い、群雲は平然とはぐらかす。

 

「ゆまはどうする?」

「キョーコといる」

「だろうねぇ」

 

 予想通りの返答に、群雲は微笑むと、変身を解除。

 <部位倉庫(Parts Pocket)>から愛用する黒いコートを取り出して、袖を通す。

 

「昼飯は、冷蔵庫の2段目にあるから、レンジでチンね」

「は~い」

 

 ゆまの返事を背中で受けながら、群雲は玄関に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 暁美ほむら

 

 何度も繰り返していた。それだけ、まどかを救えなかった。

 今度こそは。そう思いながらも、私の手は届かなかった。

 もちろん、諦めるつもりは無い。諦めてしまったら、そこが私の終着点。

 魔女になるか、自らSG(ソウルジェム)を破壊するかの二択。

 

 何度も繰り返していた。だから、今の授業も経験済み。

 この授業で、私が当てられる筈がない。内容は飽きるほどに経験してる。

 何気なく、外を眺めながら。私は思考の海に沈む。

 

 ワルプルギスの夜。最強最悪の魔女。

 

 まどかを救う為には、避けては通れない戦い。

 

 

 

 まどかが契約する前に、ワルプルギスが来訪した時間軸があった。

 崩壊した見滝原で、まどかはキュゥべえに『大好きな見滝原を元に戻して欲しい』と願ってしまった。

 

 

 

 まどかが契約する前に、ワルプルギスを討伐する。

 これが理想だけれど。未だに一度も成功していない。

 最強の魔女を打倒するには、私にはまだ、実力が足りない。

 決定的なのは“ワルプルギスとの戦闘中に、時間停止が使用不可になってしまう事”だ。

 そうなってしまった私は、人間より耐久力が高いだけの存在。

 

 経験した時間軸の大半は、ワルプルギスの“災害”で、まどかが死んでしまう事だった。

 だから私は、ワルプルギスを倒さなければならない。

 

 

 

 他の魔法少女との共闘。最も勝利する可能性が高いだろう状況。

 しかし、一筋縄ではいかないのも、繰り返した現実。

 

 巴マミ。見滝原を縄張りとする魔法少女。

 実は、彼女との共闘が一番難しい。

 

 要因は孵卵器(キュゥべえ)だ。

 まどかを魔法少女にする訳にはいかない。だから私はキュゥべえを殺す。

 しかし、巴マミにとってキュゥべえは“友達”なのだ。

 これでは、仲良くなるなんて無理な話。

 

 “魔法少女の真実”を言うのも躊躇われる。真実を知った“結果”を私は最悪な形で経験してしまったのだから。

 魔法少女だったまどかがいなかったから。私はきっと、あの時に死んでいただろうから。

 

 美樹さやか。まどかの親友。

 私が出会う時、彼女は魔法少女じゃない。

 まどかからキュゥべえを遠ざける事は、必然的に美樹さやかからも遠ざける事に繋がる。

 加えて、なりたての彼女がワルプルギスを打倒出来るほどとは、どうしても思えなかった。

 

 佐倉杏子。巴マミの元相棒。

 活動場所が見滝原じゃないから、接点を持つ事がまず難しい。

 何らかの理由で見滝原に来る事はあるが、全ての時間軸で彼女が来る訳ではない。

 最も、共闘自体は、接触さえ出来れば比較的楽な方。

 彼女の利となる条件……例えば、GS(グリーフシード)の取り分を佐倉杏子よりにすれば、可能だ。

 

 群雲琢磨。

 出会ったのは2回だけ。私が眼鏡を外すようになってからは、一度も出会っていない。

 

 こうして考えれば、やはり佐倉杏子が一番現実的か。

 

 しかし、今回はまた、勝手が違う。違いすぎるのだ。

 

 

 見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)

 

 

 巴マミと群雲琢磨。

 

 最も難解な先輩と、最も難解な後輩。この二人が共闘している時間軸。

 下手をすれば、二人の仲を引き裂きかねない。二人共を敵に回すかもしれない。

 

 

 

 

 思考の途中、窓から外を見ていた私は気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教室内を、()から覗き込む存在を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 声を出さなかった私を褒めたいと思う。というか、何しているの?

 鼻先が辛うじて見える程度に顔を覗かせるその子は、逆さまであるが故にその両目が顕わになっている。

 普段は、長い白髪に隠れているだろう、異色の両眼。

 

 そう。私はあの子を知っている。反射的に私は、制服の内側にある空薬莢を握り締める。

 教室を覗き込んでいたその両目が私の姿を捉え、その視線が停止する。

 ……?

 どこか……違和感が…………?

 

[暁美ほむらさん?]

 

 その子からの念話。そう、私はあの子を知っているけれど、あの子からすれば、初対面なのね。

 

[そうよ]

[ちと、話があるんで、時間とれない?

 他の人に見つかると面倒なんで、校舎裏で待っているから]

 

 それだけを告げ、顔が上に引っ込んだ。

 相変わらず、唐突に現れるわね。それをあの子に言っても、いつものように微笑むんでしょうけど。

 話、か。どんな内容かしら? 巴マミとの会話も知っているでしょうから、その上で現れたって事なんでしょうけど。

 

 そういえば、眼鏡をしていなかったわね。

 

 話の内容に対する一抹の不安と、久しぶりに出会えた事の僅かな安堵。

 不可思議な感情に気を引き締めながら、私は時間が流れるのを待った。




次回予告

望むモノを求めて生きる

当然、手に入るとは限らない

それでも、諦められないから



だから、生きる

魔法少女になっても

魔人になってしまっても



人間じゃなくなっても


百三十二章 こうなるなんて思わなかった


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百三十二章 こうなるなんて思わなかった

「希望と絶望の相転移」
「それが、僕達の行動原理だね」
「ナマモノってさ。
 宇宙が延命できれば、それでいいのか?」
「キミの言葉を借りるなら。
 それ以外は、しったこっちゃないね」


SIDE out

 

 昼休み。見滝原中学の校舎裏。

 人が寄り付かないであろう場所に、暁美ほむらは現れた。

 視線の先にいるのは、体の右側――――右肩から先――――を隠すように、建物の角に立つ魔人。

 

「他の人に見つかると面倒なんでね。

 このままで良いかい?」

「かまわないわ」

 

 質素なやり取りを挨拶代わりとして。

 眼帯を巻きなおした少年と、癖とまで言えるようになった、髪を梳く動作をした少女。

 

 時間に干渉する二人の、心理戦が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 暁美ほむら

 

(似合っているわね、眼帯姿も)

 

 何度となく、繰り返してきた一ヶ月。

 “何もかもが、まったく同じ世界”は存在しなかった。

 まず第一として“他の世界ではありえない私の存在”がある。

 その私が動く事で、僅かながらに世界は変わる。

 その変化を“まどか生存”に繋げる事が、私の目的。

 

 しかし、私が戻る“前の過去”に、どのような変化があるか確認する事は容易ではない。

 当然の事。まだ“私”がそこにいないのだから。

 確実に、変化しているとは思われる。

 その証明の一つが、私の前にいる少年だった。

 

 契約した世界。まどかと巴マミに魔女から救ってもらった、最初の世界。

 そこに、琢磨は現れなかった。

 しかし、契約して戻った世界で、琢磨は見滝原に現れた。

 共に戦い、ワルプルギスの夜を討伐し。

 まどかが魔女になり、私は琢磨を置いていった。

 

 次の世界でも、琢磨は現れた。しかし、佐倉杏子と共に、敵対する事となる。

 ここまでで既に、三つのパターンを構築している。

 

 “見滝原に来ない”“単独で現れる”“佐倉杏子と共に現れる”

 

 自分の行動が、直接影響しているとは考えにくい。

 しかし、魔法少女に共通する存在“孵卵器(インキュベーター)”が、契約した記録の無い私の存在を危惧し、魔人と言う“希少種”である琢磨に白羽の矢を立てた可能性は大いにある。

 

 アレを、人間の価値観で判断してはいけないのだ。

 

 しかし、そんな思惑を理解した上で、無視して動くのがこの少年だ。

 人間の価値観だけでは、図ってはいけないのだ。そんな存在なのだ、この子は。

 

「それで、話とはなんなのかしら?」

 

 油断してはいけない。敵にも味方にもなり得るこの少年は、いつだって予測できない事をする。

 今だってそうだ。本来小学6年のはずのこの子が、電子タバコを咥えてる。

 

「見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)

 リーダー巴マミから、魔法少女狩りの話を聞いているはずだ。

 まずは、その事に進展があったから報告」

「関係ないと伝えたはずよ」

「犯人が“この中学に在籍していても”か?」

 

 ……え?

 

「名前は、呉キリカ。

 詳しい過程は省略させてもらうが。

 彼女のターゲットに“明確な指針は無い”と、オレは考えている」

 

 随分と、世間は狭いわね。魔法少女狩りが、こんなに近くにいるなんて。

 でも、おかしくないかしら?

 

「見滝原は、貴方達の縄張りでしょう?

 その場所で行われる魔女狩りが“ターゲット不問”なの?」

「過程は省略するって言ったじゃんよ。

 こっちだって、リーダーに喧嘩腰の魔法少女なんて、本来なら知ったこっちゃないんだから」

 

 ……難しい立ち位置ね。あの時のやり取りから、こうなるなんて思わなかったわ。

 見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)に非協力的な私では、仕方の無い事なんでしょうけど。

 

 でも。琢磨は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『また、な』

 

 

 

 

 

 

 

 

 置いていってしまったのは“この琢磨”じゃない。まだ、私は置いていってはいない。

 でも。だからこそ。

 私は“この琢磨”を信用していいのか、わからない。

 世界が違う。時間が違う。その違いが及ぼすズレ。

 それを、明確にしてくれるのも“群雲琢磨”という魔人なのだから。

 

「なら、どうしてその話を私に?」

 

 思惑が読めない。ならばこちらからの“質問”で、その“真意”を読み取る必要がある。

 妙に手馴れている感じで、琢磨は電子タバコを咥えながら、煙を吐き出して告げる。

 

「少なくとも“見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)”は、魔法少女狩りを容認しない」

 

 そうでしょうね。巴マミが放置するとは思えないし。

 

「相手の実力は高い。

 魔女を狩る片手間に殲滅する、なんて気軽に出来ないほどに。

 しっかりと対策を練って、相応に準備をしなければ、返り討ちになる可能性の方が高いだろう」

 

 琢磨がここまで言うって事は、本気でヤバイ相手みたいね。

 そんな会話の最中に、琢磨は私を驚愕させる。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 笑えない横槍は勘弁願いたいのが、実情なわけだ」

 

 その言葉は確実に、知っていなければ出てこない。

 

「あなたはすでに知っているのね」

「真実を、だろ?

 契約の有無に関わらず、生きるモノが最後に行き着く答えはひとつ。

 Answer Deadさ」

 

 説明をしなくていいのは喜ぶべきなのか。どういう経緯で知ったのかはわからないけれど。

 絶望しなかったのは、精神力の高さ故?

 きっと、違う。

 

 いつか死んでしまう事。いつか化け物になる事。同列に考える事で“どうしようもない事”だと割り切ってる。

 だってどの世界でも。琢磨の笑顔はからっぽで。

 

「魔女が元魔法少女でも。

 オレが、オレの為に生きるのにGS(グリーフシード)が必要ならば、そこに躊躇いなんてあるわけない。

 まあ、狂ってるからね、オレは」

 

 その笑顔ですら、必死にならないと造れない。

 それでも決して、諦める事無く前を見る。

 そんな子なんだと、私は既に知っている。

 

「まあ、要するに。

 暁美先輩の目的が何であれ、見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)が魔法少女狩りと、何らかの形で決着を着けるまで。

 余計なちょっかいは止めといて欲しいって事を、お願いに来たわけよ、オレは」

 

 邪魔をするな。琢磨が言いたいのは、この一点のみ。

 でも、それだけじゃないでしょう? それだけの為に、ここに来たりはしないでしょう?

 

 私が琢磨を探っているように。

 琢磨も私を探っているのね。

 

 敢えて“魔法少女の真実を連想させる言い回し”をしたのが、その証拠。

 

 どこまで知り、どこまで織るのか。

 

 ここで突然、琢磨が何かに気付いて身を隠す。

 

「ほむらちゃん?」

 

 一瞬の後、私の後ろから聞こえる声。振り返らなくても解る。私の、大切な友達。

 

「こんな所で、どうしたの?」

 

 いつでも身を隠せるようにしていて、正解だったわね。

 そんな事を思いながら、私は振り返る。

 

「静かな所で、少し落ち着きたかっただけよ、まどか」

「そっか。

 ほむらちゃん、長い間入院してたんだもんね」

 

 勉強も運動も出来るから、忘れちゃいそうだけど。

 そう言って微笑むまどか。この子の笑顔に、私は確実に救われている。

 

[残念だけれど、話はここまでかな?]

 

 届いたのは、琢磨からの念話。自分の事しか考えてないと言うくせに、妙な所で気遣ってくれるのも、やっぱり琢磨なのよね。

 

[貴方達から、変な手を出してこない限り。

 少なくとも、私は敵ではないわ]

[……ふむ。

 覚えておくよ]

 

 無理よ。全てを覚えておくなんて。

 でも、今の琢磨からその言葉を聞けたのなら、多少は安心かしらね。

 

「いきましょう、まどか」

 

 振り返る事無く、私はまどかの手を取った。




次回予告

たったこれだけ

たったそれだけ














そこから、選別して選定する事が出来る

そんな、狂いきった、ふたつ






百三十三章 はたらきなよ


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百三十三章 はたらきなよ

「見るたびに思うんだが」
「なんだい?」
「この中学、絶対耐震性低いよね」
「僕にいわれてもね」



SIDE 群雲琢磨

 

 建物の角。向こう側にあるふたつの気配が遠ざかるのを確認して、オレは煙を吐き出した。

 

「時間も情報も不十分だったな」

 

 結局、暁美先輩の目的はさっぱり。縄張り目的でもなければ、敵になる訳でもない。

 

「はたらきなよ、琢磨」

「言ってくれるな、ナマモノ」

「キミから学習したんだけど」

「やめてさしあげろ」

 

 足元で首を傾げるナマモノに、オレは苦笑した。

 

 

 

 

 建物の角で、体の右側を隠していたのは、素早く隠れる為だけじゃなく。

 いつものように“右肩に乗るナマモノを隠す為”でもあった。

 暁美先輩は、ナマモノを敵視してるからね。余計な諍いは笑えない。

 

「結局、何も得られていないのかい?」

「は?

 このオレが、そんなはずはないだろう?」

「その辺が、異物だよね。

 まあ、僕の方も収穫はあった」

 

 意外。ナマモノにも収穫があったんかい。これは是非とも“騙し聞いて”やらないとな。

 

 

 

 

 

「暁美先輩の、目的自体はわからない。

 それに関しては、まったく情報が無いからな」

 

 見滝原中学を離れて、街中をのんびり歩きながら。オレは、いつものように右肩に乗るナマモノと情報交換を行う。

 

「純粋なナマモノの殲滅ってのも、違う感じだな」

「根拠はなんだい?」

「真実を知っている事。おそらく台所に出るアレみたいな存在だと知っている事」

「ひどい言い草だね」

「黒いGならぬ白いQ。Bでも可」

「わけがわからないよ」

 

 要するに。

 

「ナマモノを殺す事に大した意味が無い。

 その事を知っている可能性」

 

 ナマモノに“死の概念”はない。ここに“ある”のは交渉用の端末機である。

 加えて、こやつらには“個の概念”もない。ラジコンは大量にある上に、リモコンを壊す事が出来ない状況。

 

「知った上でなお。

 お前を殺してる」

「そうだね。

 そのせいで、暁美ほむらの情報が収集出来ない」

「はたらけよ、ナマモノ」

「やめてさしあげろ?」

「首を傾げるな」

 

 脱線させても、たまにそのまま直進しやがるから、めんどくさいんだよな、こいつ。

 脱線させなきゃいいんだけども。まあ、オレだしねぇ。

 

「その上で“現存魔法少女との接触に消極的”である事を踏まえると。

 “魔法少女にしたくない人がいる”ぐらいしかない」

「なるほど」

 

 こちらから余計な手を出さない限りは敵ではない。暁美先輩はそう言った。

 魔法少女でありながら、他の魔法少女との接触を避け、魔法少女を造り出すナマモノを殺し続ける。

 無理やり捻り出した想像と妄想でしかないな。

 

「戯言だなぁ」

「確かに“そう考えられるだけ”であって、他に有力な情報があれば容易く消し飛んでしまうね」

 

 過程の仮定。想像の妄想。偏屈な選別。無限な夢幻。

 不確かなモノしか確かでなく。不完全である事だけが完全。

 まさに、どうとでもなる成り行き任せ。知ったこっちゃない現実任せ。当否を逃避した事実の曲解。

 

「つまり、オレの収穫はふたつ」

 

 左手の人差し指を鋭く立てて。

 

「戯言の域を出ない以上、これを遺棄出来ない」

「今まで通りだね」

 

 その通りですね。現状維持です。

 

「そして、オレに手を出す理由が無い以上、暁美先輩は敵じゃないって事だ」

 

 言いながら、人差し指を素早く引っ込めて拳を握る。

 

「現状に変化なし、と言う事かい?」

「現状を維持するのが、今のところの最善って事だ」

 

 間違いなく、当面対応するべきは魔法少女狩りの方だ。

 目的のわからない魔法少女に、良い様に振り回されてる訳にもいかない。

 その意味で言えば、現状維持で問題ない事を確信できたのは、充分な収穫であると言えた。

 

「それで、ナマモノの収穫ってなんだよ? ブドウ?」

「僕は果物じゃないよ?」

 

 美味しくなさそうだな。今度煮込んでみるか。はんぺんっぽいし。

 

「僕の収穫は、暁美ほむらの事じゃない。

 キミには不要な情報だと思うけれどね」

 

 すでに慣れ親しんだ、電子タバコの使用。深呼吸の要領で煙を吐き出してから、オレは告げる。

 

「何言ってんだよ。

 情報が不要かどうかを決めるのは、お前じゃない」

 

 逃がさねぇよ?

 

「それに、直接関係ない情報でも、別の所に流用する事で、意外な突破口になったりもするしな」

「キミが言うと、説得力があるね」

「その辺の情報共有が重要なのは、お前にだって解ってるだろう?」

「確かに、実績と言う意味では申し分ないね」

 

 ナマモノにとってオレは、唯一“同じ立場から意見交換が出来るレアな存在”だ。

 それを逆手にとれば、こいつらから情報を聞き出す事も可能。

 

「暁美ほむらを呼びに来た少女が、素晴らしい素質を持っていたってだけだよ」

 

 わぉ、ホントに関係ねぇ!

 

「本来、資質となる因果律はその立場に変動されやすい。

 強大な因果を荷うのは、身分的に立場の高い者や、将来偉業を達成するような存在だ」

 

 だからこそ、ナマモノは“少女との契約を優先”する。

 因果律だけで判断するなら、一国の長や、世界を変えるような発明をする研究者の方が良いはず。

 しかし、それはあくまでも“因果にのみ”焦点を当てた場合に限る。

 

 重要なのは“希望と絶望の相転移”による“感情エネルギー”の方なのだ。

 因果律は“契約者としての実力”に直結する。

 実力の高い者が、魂が穢れきるほどの絶望を味わう。その()()()()がエネルギー量に影響する。

 大人になればなるほど、感情の制御に慣れていく。もちろん精神餓鬼のままの大人もいるにはいるが。

 そんな下らない大人は、大した素質を持っていない。

 素質とは、契約者としての“潜在力”なのだ。

 

 無論、素質の無い存在と、ナマモノが契約をする理由はない。

 素質が高ければその分“回収するエネルギーの変換率が上がる”のだ。

 だからこそ、素質の高い多感な少女が、最も“効率が良い”という事になる。

 潜在力は、魔力の総量に繋がり、それが“エネルギー総量”に繋がる。

 

 希望。絶望。因果。素質。

 それらが最もバランスよく成立している。

 その存在の事を“魔法少女”という。

 

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 と、いうのがインキュベーターに対するオレの持論。

 実際は違う点もあるかもしれないし、きっとあるとは思う。

 が“インキュベーターに感情が無い”にも関わらず“感情を中心に添えたシステム”である以上、インキュベーター自身も完全に把握出来ていない。

 

 だからこそ、オレとナマモノの意見交換が成立し、それをナマモノは“必要”としているのだ。

 

「もう少し、あの少女について調べてみたいね」

「勝手にどうぞ」

 

 うん、ごめん、知ったこっちゃない。

 

「随分と冷めているね」

「ナマモノが素晴らしいと言うぐらいなんだし、オレなんか指先一つでダウンさせられそうだが。

 でも、オレから言わせてもらえるなら。

 魔法少女(同業者)じゃない存在に気を配っていられる状況じゃないんよ」

 

 魔法少女狩りを相手せにゃならんのに。

 “魔法少女になるかどうかもわからない人”の事に費やす時間は無い。

 

「一つ、老婆心ながら忠告させてもらえれば。

 オレ、お婆さんじゃないけど」

「知ってるよ」

「暁美先輩と仲が良いって事は、下手に調べようとして接触したら、ぶっ殺されるぞ」

「それが問題だね。

 あの中学に通っていると知った以上、調査も接触も出来たも同然だけれど。

 僕を目の敵にしているほむらに見つからないようにするのは難しいね」

「お前とその子が接触した事を暁美先輩が知ったらどうなるか。

 仮定するまでもないな」

 

 そう考えると……オレのざれ「キミの戯言も、いい線いってるかもしれないね」かぶんな。

 

 ただ、その仮定で疑問なのは“なぜあの娘なのか”ということだ。

 暁美ほむらは、あの娘の素質をどう知った? 他人の素質ってわかるものなのか? オレにはさっぱりなんだが。

 自分の戯言に、自分が囚われたんじゃ意味が無い。状況はもっと多角的に見るようにしなければ。

 そうじゃなきゃ“どの場所が一番自分の為になるか”が判断できない。

 

 

 

 

 そんな感じで、あーでもないこーでもない、なんて事をしていたら次の目的地に到着。

 よくよく考えれば、右肩に乗るナマモノは一般人には見えないんだから、オレってかなりアブナイ子やね。

 まあ、見えてたら見えてたで、騒ぎになるんだろうけど。

 

「じゃ、僕はここで」

「おう。

 やっぱり、あの子を調べるのか?」

 

 肩から降りて、テクテクと歩いていくナマモノにオレは問いかける。

 

「もちろんさ。

 放置しておくには、あまりにも勿体無いほどの素質だったからね」

 

 そのまま、ナマモノは歩いていった。よし、逝ってこい。

 その姿を見送った後、オレは目的の場所を観察する。

 豪邸。富裕層。金は天下の回り物と言うが、絶対()()()()()がその流れを止めてるんだよねぇ。

 まあ、その気になれば“お金を使わずに、豪遊出来る”オレが言う事でもないが。しないけど。

 そんな、他愛のない事を考えながら、オレはインターホンに指を伸ばして。

 

[庭で待ってるわ]

 

 押す前に、念話が来た。どうも 読 ま れ て い た よ う だ 。

 

「まいったねぇ」

 

 電子タバコを咥え直し、オレは『美国』と刻まれた表札を尻目に、門を開ける事無く飛び越えた。




次回予告

賽はすでに投げられていた


ある少女は強くなる為に

ある少女は未来の為に

ある少女は強くなる為に

ある少女以外は自分の為に


望むのは、いつか夢見た世界の続き



賽の目は、開幕をすでに告げていた




百三十四章 読書が好き


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百三十四章 読書が好き

「聞いても良いかい?」
「どした、ナマモノ?」
「前書き、いるかな?」
「メタいな、おい。
 まあ、今更止めるわけにもいかないだろ」
「そんなものか」
「そんなものさ」

「聞いても良いかい?」
「どした、ナマモノ?」
「どうして、サブタイトルと内容がかけ離れてたりするんだろうね?」
「サブタイトルは“本文内から”という縛りプレイ中だからな、イヤン」
「つまり、あえてギャップのありそうなものをチョイスしているのか」
「あるいは、重要な言葉から、だな。
 ちなみに、選定基準はその日の気分」
「わけがわからないよ」
「この辺は“今の自分を柱として生きるオレ”にあわせてのものらしいぞ」
「厄介だよね、琢磨も」
「わけがわからないよ」


SIDE out

 

 見滝原郊外に位置する、寂れた教会。

 千歳ゆまは一人で、この場所を訪れていた。

 

 ここでの模擬戦。戦った記憶。会話した内容。

 それを思い出し、自分に足りないものは何かを探る。

 佐倉杏子。巴マミ。群雲琢磨。

 三人の先輩は確実に、ゆまの成長を促進させていた。

 

「み~つけた」

 

 教会を見上げていたゆまの背後からの声に、慌てて振り返る。

 その視線の先にいたのは………………呉キリカだった。

 

 

 

 

 呉キリカは魔法少女を狩っていた。

 織莉子の指示でターゲットを定め、自身の魔法を最大限に利用して。その殆どを不意打ちで仕留めてきていた。

 しかし、先日の銃闘士との戦い。

 正面からの勝負において、呉キリカは自分の弱さを目の当たりにする。

 織莉子が来てくれなければ、助からなかっただろう。

 それではだめだ。それではだめなのだ。

 弱いままでは、織莉子に無限に尽くせない。

 強く、ならなければ。もっと強く。二度と無様な姿を織莉子に見せない為に。満足いくまで、織莉子と共にいられるように。

 

 だから今回の魔法少女狩りは、正面から行くと決めていた。

 

「おね~さん、だれ?」

「魔法少女狩り」

 

 ゆまの質問に、キリカは簡潔に答える。その答えにゆまの表情が強張る。

 

「織莉子の為に。私の為に。

 狩られてもらうよ」

「……ゆま、負けないよ!」

 

 強くなりたい。強くならなければ。大切な人の傍にいる為に。

 そんな二人の魔法少女が、同時に変身して対峙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドロレス。ストロベリーカップ。銀世界。プリンセスダイアナ」

「薔薇が好きなの?」

「読書が好きなの。

 知識を得ている間、考えている間は“嫌な思い出を片隅に追いやれる”し。

 記憶はいつでも、好きな時に取り出せるもんでね」

 

 同時刻。美国邸の庭。設置されたテーブルにある紅茶を飲みながら。

 美国織莉子と群雲琢磨の“探り合い”は始まっていた。

 

「これだけの種類の薔薇。揃えるのは大変だっただろうね」

「お父様の趣味よ」

「なるほど。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 群雲のその言葉に、織莉子の表情が驚愕に彩られる。それを無視して、群雲は言葉を続ける。

 

「その上、ばれそうになったら死に逃げる。

 なんで、議員になれたんだろうねぇ?

 まあ、真っ当な方法じゃないのは想像に難しくないわけだが」

 

 さも、世間話をするかのような口調と声色で。群雲は死者を貶し、蔑み、冒涜する。

 

「……どうしてそれを?」

 

 目つきがきつくなった織莉子の怒気を受け流し、群雲は紅茶を飲み干す。

 

「言ったろ?

 読書が好きだって。

 当然、それには新聞も含まれているし。

 記憶した記録はいつでも取り出せる」

 

 <電気操作(Electrical Communication)>で、脳を操作すれば容易い。

 通常、人間は全ての記憶を意識的に思い出すことは出来ない。

 全てを意識的に記憶していたら、脳に掛かる負担は想像に難しくないだろう。

 その為、無意識というカテゴリで記憶される事が大半を占める。

 街中で擦れ違う全ての人を記憶する事は出来ない。だが、もしかしたら見た事あるかもしれない。なんて現象は無意識に記憶されている事が、無自覚的に呼び起こされた為に起きているという説もある。

 

 <電気操作(Electrical Communication)>で脳を操作する事で“無意識を意識的に操作”出来る群雲にとって、流し読み程度の事すらも明確に引っ張り出す事が出来る。

 当然、脳自体に負担は掛かるが、それすら魔力で“修理”出来る事を、群雲は知っていた。

 

 美国織莉子。フルネームが解れば、そこから戸籍を<オレだけの世界(Look at Me)>で盗み読み、家族構成を把握。

 父親が犯罪者ならば、当然その名前を“無意識の中から、いつ見たのか”を引っ張り出せば、過去の事件に辿り着くのは容易なのである。

 

「親が親なら、娘も娘。

 魔法少女を増やしたり減らしたりと、わけがわからない」

 

 電子タバコを咥え、深呼吸をひとつ。群雲はその言葉で、織莉子の心を削っていく。

 

「それで、何を言いたいのかしら、殲滅屍(ウィキッドデリート)?」

 

 しかし、白い魔法少女がそのままでいるはずもない。

 確かに群雲琢磨(ウィキッドデリート)は、織莉子の“過去”を調べ、そこから追い詰めようと目論んだ。

 この少年が“自らを敵とする存在に、容赦するはずも無い”のだ。

 

 しかし、織莉子の心は折れない。折れるはずが無い。

 群雲は、織莉子の過去を調べた。だが、織莉子が見据えるのは“未来”なのだ。

 

 揺さぶるだけ無駄。そう判断した群雲が口を開く前に。

 織莉子の言葉が紡がれる。

 

「そういう貴方はどうなの?

 自分が唯一の魔人。

 “誰よりも特定されやすい契約者”だと知った上で、見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)をキュゥべえに頼んで流布してもらった。

 自分が見滝原にいる事を“宣伝”するかのように。

 当然、貴方の目的はそこにはないのでしょうね」

 

 その言葉に答えず、群雲は電子タバコを咥える。

 

「まるで“本当の目的を隠す為に、解り易い情報を大げさにしている”ようよね?」

 

 群雲琢磨は、自分の為に生きる。

 常日頃からそう言っているし、当然キュゥべえも知っている。

 キュゥべえから“魔人”の情報を聞き出そうとすると、当然のようにその情報が出てくる。

 

 まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 実際に織莉子は、魔人の事を聞いた時に、答えられている。

『自分の為に動く事を信条としている少年だ』と。

 

 

 

 

 自分達の知る情報は、本当の目的を隠す為の(デコイ)なのではないか。

 奇しくも、二人の考えは。

 立場こそ違えど“一致している”のである。

 

 

 

 しかし、織莉子は一歩先を行っている。彼女は未来を知りうるのだ。

 終焉の世界で嗤う少年を織っているのである。

 

 絶望の未来を回避しようとする織莉子にとって。

 群雲琢磨は、敵でしかありえないのだ。

 崩壊した見滝原で哂う存在など。

 敵以外には、ありえないのである。

 

「ふむ……交渉は決裂かな?」

「交わってすら、いなかったわね」

 

 二人は同時に、椅子から立ち上がる。

 

 変身はすでに終えていた。

 

 

 

 

「排除させてもらうわ」

「では、闘劇をはじめよう」




次回予告

もはや、戦う以外の選択肢は残されていない

善も 悪も 正も 負も

戦いにおいて重要なのは、そんなクダラナイモノなどではない



肉体 精神 魂 意識 




重要なのは、その力


百三十五章 実力伯仲


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百三十五章 実力伯仲

「どんな状況であれ」
「求めた結果が得られるのなら」
「それ以外は知ったこっちゃ無いね」




































「真似してみたけど、琢磨っぽかったかい?」


SIDE out

 

 呉キリカは攻めあぐねていた。

 

 先日の銃闘士と殲滅屍を相手にした戦いにおいて、キリカは完全に敗北していた。

 生き延びられたのは、織莉子の存在があってこそ。

 故に、自らはもっと強くならなければならない。

 そんな、強迫観念にも似た想いが、キリカにはあった。

 

 だからこそ、銃闘士の仲間であるゆまをターゲットに希望し、織莉子の許可を得た。

 

 速度低下により、動きの鈍くなった相手を切り裂く。何度も行ってきた行為。

 しかし、その大半を“不意打ち”で仕留めてきたキリカには“魔女との戦闘経験”はあっても“魔法少女との()()()()”は少なかったのである。

 実際、銃闘士(アルマ・フチーレ)を仕留める事は出来ず、殲滅屍(ウィキッドデリート)には追い詰められるという失態を晒した。

 

 

 

 今回こそは。

 そう意気込んだキリカだったが、ゆまを相手に苦戦を強いられている。

 

 キリカの魔法は速度低下である。停止ではない。だがそれ以上に。

 

 

 

 

 

 速度を落としても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 

 

 

 

 加えて、衝撃波を遅くするという事は“衝撃を受ける時間も長くなる”事を意味する。

 鉤爪を武器とするキリカは、近づかなければならないが、自らの魔法がその枷になってしまっていた。

 

 

 

 

 

 結果、呉キリカは攻めあぐねていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千歳ゆまは攻めあぐねていた。

 

 速度低下の影響下にあるゆまにとって、キリカはとても“速い”存在となる。

 そうなれば、如何に相手を得意な間合いに入れさせないか。この点が重要となる。

 高速度を主武器とする群雲を打倒目標としているゆまにとって、キリカは“同種”の敵と言えた。

 

 では、打倒する手段があるのかどうか? 答えは否である。

 あるのなら、ゆまは群雲討伐を成し遂げているだろう。

 

 現状、ゆまの最強攻撃は“ハンマーと衝撃波の同時、波状攻撃”となる。

 それを成すには“ハンマーの間合いに入る”事が絶対条件。

 しかし、群雲をして“速度では敵わなかった”と言わしめる程、キリカは速い。

 ハンマーの間合いに入る事は同時に、キリカの鉤爪の間合いに入る事を意味する。

 

 

 

 

 結果、千歳ゆまは攻めあぐねていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実力伯仲。否。互いの戦闘相性は互いに最悪であると言えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大豪邸。そんな言葉がぴったりな美国邸の中に逃げ込む。廊下の角に背を預け、群雲は電子タバコを咥えたまま深呼吸した。

 漂い、消えていく白煙を見ながら。

 

 群雲琢磨は、焦っていた。

 

「笑えねぇな、マジで」

 

 実力伯仲なんて言葉が遠すぎるほどの劣勢だった。

 銃やナイフ。日本刀に徒手空拳。全ての攻撃を完全に回避され。

 織莉子の生み出した水晶球は、一発も外れる事無く命中していた。

 肉体を道具として割り切り、ダメージをダメージと認識しない事で擬似的高耐久を実践する群雲でなければ、とうに終わっていただろう。

 

 しかし、重要なのはそんな事じゃない。

 百発百中に絶対回避。通常であれば有り得ない。

 

「だが、これが現実……」

 

 むしろ、自分で魔法少女狩ってた方が効率良かったんじゃないかと。

 そう思えるほどに劣勢。戦闘ですらない、一方的な虐殺。

 勝てるビジョンが見えるわけは無く、観えているのは敗北の一点のみ。

 

「ま、大人しく殺されてなんてやらないけど」

 

 一言呟き、群雲琢磨は思考に沈む。

 自らの持つ情報を纏めていく。

 

 キュゥべえを誘導し、ゆまを契約させた織莉子。呉キリカに指示を出し、魔法少女を狩っていた織莉子。

 自らを敵と定めた織莉子。むしろ“自分だけを敵”だとしている節もある。

 

「完璧じゃない。完璧なはずが無い」

 

 そんなものはない。そんなモノは存在しない。それがあるのなら、きっと世界は今よりも優しい。

 あるはずなのだ。付け入る隙が。あるはずなのだ。

 

 

 

 だが、わからない。群雲琢磨には見えていない。

 そして、時間が止まっているわけでもない。状況は常に動いている。

 思考に没頭して、無様な隙を晒すのも馬鹿げている。

 群雲はそっと、顔を覗かせて織莉子を確認しようとして。

 

「がっ!?」

 

 その直後、織莉子の水晶球が群雲の左目を捉えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

「くっそっ!?」

 

 痛覚は遮断している。重要なのは左目だという事実。右目に眼帯をしているオレにしてみれば、完全に視界を塞がれたのと同義。

 数瞬前に見た廊下の状況を思い出しながら、オレは壁に手を添えながら暗闇を進む。

 ほどなく、記憶の通りにドアノブにぶつかり、音を立てないように扉を開けて潜り込む。

 同じく、音を立てないように扉を閉めて、オレはそのまま背を預けた。

 

 何だ今の!? 攻撃が的確すぎるだろっ!!

 顔を覗かせるのと、ほぼ同時に直撃。どんだけ正確無比だよっ!!!!

 

 咥えた電子タバコで深呼吸。この状況下で冷静さを失う事は愚策。

 

 考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ。

 自然に考えるな違和感を抽出しろ抜粋してまとめろ自分の中で形にしろ。

 

 美国織莉子に関する情報を吟味しろ。

 

 魔法少女を増やす為に、美国織莉子はナマモノを先導していた。

 魔法少女を狩るように、美国織莉子は呉キリカに指示を出していた。

 

 そもそもこれは、本当に“囮の情報”なのか?

 

 過程を仮定しろ。情報は零ではないのだ。

 

 

 

 

 ふと、何かがすっぽりと収まった。きっちりとあるべき所に収まった。そんな戯言。

 

 美国織莉子は魔法少女になれる少女の存在を、どうやって知った?

 美国織莉子は呉キリカが狩れる魔法少女の実力を、どうやって知った?

 

 出会ってすらいないオレが“敵”だと、どうやって知った?

 そもそも、オレと呉キリカが戦っていた魔女結界の場所はどうやって?

 

 インターホンを押す前に、美国織莉子は念話を送ってきた。

 呉キリカを追い詰めるオレの『短剣思考(Knife of Liberty)』に、即座に対応してみせた。

 

 ゆまが魔法少女になるように、誘導した。これは“佐倉先輩と行動を共にしていたからこそ”の筈だ。

 それを、どうやって美国織莉子は知りえたのか。

 

 そうだ。オレはすでに疑問に思っていたじゃないか。

 美国先輩の能力を、ある程度絞り込んでいたじゃないか。

 

 “呉先輩の魔法では、魔法少女を誘き寄せる事は出来ない”

 

 だが“誘き寄せる類の能力ではない”のだ。

 そういった“洗脳系”であるならば、敵対者を“戦う事無く無力化”出来る。

 故に、この仮定ではない。この戯言は虚言だ。

 

 しかし、しかしだ。

 発覚の遅れた魔法少女狩り。黒い魔法少女の凶行。

 “それを成しうる”のは“美国織莉子(共犯者)の能力”なのだと、オレは仮定した。 

 

 説明する事が出来る。

 

 たった一つの言葉で全ての疑問に答える事が出来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【識っていたから】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 美国織莉子は識っていた。ゆまが魔法少女になる事を。

 美国織莉子は識っていた。呉先輩が魔法少女を狩れる事を。

 美国織莉子は識っていた。オレが、呉先輩を追い詰める事を。

 美国織莉子は識っていた。オレが、敵になる事を。

 美国織莉子は識っていた。今日、オレが来る事を。

 美国織莉子は識っていた。オレがどう攻撃するのかを。

 美国織莉子は識っていた。オレが、どう回避しようとするのかを。

 美国織莉子は識っていた。オレが、顔を覗かせる事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『未来予知』

 

 それが、美国織莉子という魔法少女の根源……!!

 

 未来を知っていた。否、未来を知っていなければ、説明出来ない事柄が多すぎる。

 

 証拠があるわけじゃない。だが、これがおそらく“最も真実に近い戯言”だろう。

 そうと決まれば話ははやい。だったら……。

 

 だったら…………。

 

 

 

 だったら………………。

 

 

 

 

 

「あれ? 詰んでね?」




次回予告




考える事に特化した果てに

考える事を縛り付けた少年







大切な人に尽くし尽くす為に

尽くす事に縛られた少女










大切な人と一緒に歩く為に

歩く事を無理矢理に行う少女



















望む未来を手にする為に


手にするモノを望んだ少女




















あぁ……どこまでも不完全な




















百三十六章 水しょ


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百三十六章 水しょ

「誤字じゃないよ?」
「いきなりメタいな、ナマモノ」
「言っておかないと、誤解されそうだからね」
「もうやめて! 作者の精神(ライフ)はゼロよ!!」
「過ちがあったのなら、即座に訂正し、対処すればいいのに。
 本当に、人間の感情は、わけがわからないよ」


SIDE out

 

 永遠に続く均衡は無く。永遠に続く闘劇は無い。

 

 誰だって、死にたくなんてない。だからこそ、戦いにおいて重要視されるのは“自己の安否”である。

 ゆまもキリカも、それを優先しているからこそ、攻めあぐねていた。

 

 しかし、そのままでは意味がない。戦況も戦局も動かない。

 

 

 

 

 ある意味、必然であったのだ。

 二人が同時に、行動を起こす事が。

 

 二人共が、大切な人の為に力を求めていたが故に。

 ある意味、必然であったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時に間合いを詰める為に駆け出した二人は、相手の行動に一瞬面食らう。

 しかし、止まらない。止まるわけには行かない。ここで止まる事は、大切な人を諦める事と同義。

 

 織莉子の為に。杏子の為に。

 立場こそ、圧倒的に違う。しかし、その心にある思いは同一であったのだ。

 

 

 

 

 間合いを詰める勢いのまま、二人は自らの武器を横なぎに振るう。

 

「はあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「たあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 一瞬の交差。二人は勢いをそのままに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 受身を取る事無く転がり、地面に倒れ伏す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 衝突などなかったかのように。

 静寂が、辺りを包んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 未来予知。それは言うなれば、絶対的な先手。

 読み合いなんて事をするまでもない、絶対的優位。

 

「考えれば考えるほど……状況は最悪だなぁ」

 

 煙を吐き出しながら、オレは苦笑する。

 

 突き詰めれば“勝利する事を識っているからこそ、美国先輩はオレと戦っている”訳だ。

 美国邸に来た時点で、オレの敗北は決定したと言っても、過言ではないんだろう。

 

 オレが、未来予知出来ると仮定するなら。

 

 “勝てない勝負は回避する”

 “勝てる勝負を回避しない”

 

 それだけの事。それ故に重い。

 

「手詰まりだな……」

 

 奇を衒う。それすらも“予知の範囲内”であるのなら、無価値。

 白い魔法少女(みずから)の存在を巧みに隠し、魔法少女狩りを行ってきたのだ。

 “(オレ)”との戦いに万全でない筈がない。

 

 美国織莉子は予知した(識っている)のだ。完全なる勝利を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 即ち“群雲琢磨(ウィキッドデリート)の殺害”を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法少女狩り(殺人行為)を指示する存在が“敵を退ける”だけで済ますはずがない。

 

楽観視(望み)なんて、あるわけないわな……」

 

 呟いた自分の言葉。なるほど、これが絶望か……。

 

 これが

 

 

 

 

 絶望

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「考えろ群雲琢磨。

 【オレ】は【まだ】【死んで】【無い】だろう?」

 

 絶望ってなんだ? 【望】みが【絶】たれる事?

 

 【オレの望みはなんだった?】【オレが叶えた希望は】【絶たれてなどいない】

 

 【そうだ】【考えろ】【思い出せ】【記憶された記録を】【全て】【呼び起こせ】

 

「【完璧】【そんな能力は】【存在しない】」

 

 【美国織莉子が】【完璧だったなら】【そもそも】【呉キリカを】【使う必要など無い】

 

 深呼吸するように、煙を肺の中に入れる。それだけの行為が、全身の血液を意識させる。その流れが脳に集約されていき、思考が嗜好によって活性化する。そんな、戯言。

 

「12歳の思考じゃねぇっての」

 

 苦笑しながら、オレは電子タバコを吸い、煙を吐き出す。

 

 

 【はて?】【オレは】【12歳】【だったか?】

 

 

 脳裏に浮かんだ不可思議な疑問は、どうしたって【今】【必要な事ではない】

 

「【魔法少女狩り】【黒い魔法少女】【呉キリカ】【千歳ゆま】【白い魔法少女】【ナマモノ】【佐倉杏子】」

 

 【言葉にして認識しながら】【オレは情報をまとめていく】

 

「【美国織莉子の能力が】【未来予知ならば】【説明出来る事】」

「【魔法少女狩り】【発覚が遅れた上に】【容疑者の特定も容易ではなかった】」

「【呉キリカ】【黒い魔法少女が】【魔法少女を狩れる】【その未来を見た上で】【指示を出していたのなら】【説明可能】」

「【千歳ゆま】【魔法少女になる存在】【その未来を見た上で】【ナマモノを先導した】」

 

 【こう考えれば】【未来予知という能力を持つ】【その仮定を後押しする】

 

「【群雲琢磨】【オレが敵になる】【その未来を見たからこそ】【美国先輩は“最初からオレを敵と認識していた“事になる】」

 

 【会った事のないオレを】【明確に敵としていたのだ】【そう考えるのが自然か】

 

 【ナマモノから魔人の事を聞いていた】【それだけでオレを敵とするには弱い】【明確にオレが敵である“未来”を識った】【だからこその】【殲滅屍(ウィキッドデリート)

 

「【殲滅する屍】【魔女を削除】【確かにぴったりかもな】」

 

 【はたしてオレは一体】【未来で何をやらかすんだろうか】【知ったこっちゃ無い】【むしろ知りようが無い】

 

「【情報が少なすぎる】【今回が二度目だし】【当然なんだが】」

 

 【そもそも】【オレが死ぬ】【これが確定した未来】【だからこそ美国先輩は】【今】【オレと戦ってる訳で】

 

「…………………………ん?」

 

 【なにか】【引っかかる】【何だ?】【思い出せ】【最初に美国先輩と会った時】【ここに来て】【美国先輩とした会話】【一方的な百発百中】【気力が削がれる絶対回避】【魔法少女という存在】【魔女という存在】【魔人という存在】【殲滅屍(ウィキッドデリート)】【群雲琢磨】

 

「あった……!!」

 

 状況を打破する手段。一つだけ思いついた。思い付けた!!

 

「あったけど……なぁ」

 

 マジデスカ。いや、他に思い付けるとも限らないから、やるしかないんだけど。

 

「まいったねぇ」

 

 言いながら、オレは入ってきた扉から離れて、電子タバコを一服。

 右手の<部位倉庫(Parts Pocket)>にタバコを入れて、そのまま右手の平を眼帯に押し当てる。

 そのまま、眼帯も収納して軽く首を回す。

 ふと、右側に鏡があるのを見つけた。全身が見えるその鏡には当然、オレがいる。ふむ、左目の“修理”は滞りなく終わったか。

 僅かに持ち上がった白髪。緑の軍服に両手足を染める黒。緑の右目に黒い左目。まごうことなく群雲琢磨くんです。

 その口の端は持ち上がっていた。笑ってるのか。オレは。

 

「狂ってるよな、やっぱ」

 

 緑の義眼で、世界は見えない。左半分の世界。世界の半分を代償に。オレは何を得て。それ以上にナニを失ったのか。うん、らしくないな。笑っていられるのなら、これもまた“絶望じゃない”って事だ。

 

「さて、逝くか」

 

 一言呟き、オレは動き出す。全力で扉を蹴破り、美国先輩がいるであろう方向に体の正面を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある意味予想通りで。ある意味想像以上の光景が、そこには広がっていた。

 

 そこにあったのは、視界を埋め尽くすほどの、大量の水しょ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE インキュベーター

 

「やあ」

 

 マミの住むアパートの一室。目を覚ましたばかりの杏子に、僕は告げた。

 

「どうやら、最悪の状況みたいだよ」




次回予告

最悪 最も悪いコト

それを、想像できるのなら















それ以上は無いと、断言出来るのかい?
















百三十七章 惨敗


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百三十七章 惨敗

「人間の感情とは、厄介なものだね」
「時に、感情の強さが、あらゆるものを凌駕する」
「その感情に救われているのも確かだけれど」
「まったく、わけがわからないよ」


SIDE out

 

 見滝原郊外に存在する、忘れ去られた教会だったモノ。

 そこには、二人の少女が倒れ伏していた。

 

「…………ぐっ!?」

 

 内臓を搾り出すかのような声を上げ、体を動かしたのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 呉キリカだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 双方が突進状態での横薙ぎ。不幸な偶然が必然を呼び、この結果はあった。

 呉キリカの(ソウルジェム)は腰の後ろにあり、千歳ゆまの(ソウルジェム)は首の後ろにある。

 二人の攻撃は、相手の攻撃を防ぐ事は無く。突進も止まる事は無く。

 不幸にも、SG(ソウルジェム)を射程に捉えていた。

 

 腕の延長のように伸びる、キリカの鉤爪はゆまのSG(ソウルジェム)を捉えていた。

 ゆまのハンマーは、キリカのSG(ソウルジェム)には届かなかった。

 

 しかし、ゆまの攻撃はハンマーだけではない。放たれた衝撃波は、キリカのSG(ソウルジェム)を捉えていた。

 

 明暗を分けたのは、キリカの魔法。

 

 

 対象の速度低下。

 

 

 ゆま自身の速度が落ちていたからこそ、キリカの鉤爪はSG(ソウルジェム)を完全に破壊した。

 ゆま自身の速度が墜ちていたからこそ、ゆまの衝撃波はSG(ソウルジェム)を破壊するには至らなかった。

 

 衝撃波という“見えない壁”で攻撃と防御を同時に行っていたゆま。

 あと一秒。いや、それ以下の時間。ゆまの魂が破壊されなければ(意識が保たれたなら)、放たれる衝撃波は確実に、キリカを殺して(魂を破壊して)いただろう。

 

 

 

 

 そんな、紙一重だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「織莉子……おりこぉ…………」

 

 しかし。無事。とも言えなかった。

 

 破壊()こそ免れたとはいえ、ゆまの放った衝撃波は、キリカの(ソウルジェム)を傷付けるには充分すぎる威力があり。

 満足に動かせない体を、心がバラバラになるような苦痛を。

 

 織莉子への想いだけで、キリカは耐え、立ち上がった。

 

「はやく……おりこのいれた……こうちゃがのみたいよ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE インキュベーター

 

「惨敗、だね」

 

 美国邸の廊下。そこでおきた惨劇を、窓から離れた位置で僕は確認していた。

 荒い息を吐く織莉子と、足元に転がる“頭部が完全に潰され、原形を留めていない屍”は、結果を顕著に表している。

 

「やれやれ」

 

 このような形で殺されてしまっては“僕達はエネルギーを回収出来ない”じゃないか。やはり織莉子は近い内に、キリカ共々“処分”しないと、効率が落ちてしまうね。

 

「織莉子の能力は解った。

 さすがに“未来予知”に対抗するのは、困難だね」

 

 その結果が“あの惨劇”なのだ。織莉子は自身の能力をしっかりと把握し、的確に使いこなしている。

 

「君の見た未来を得る為に。

 或いは、君の見た未来を回避する為に。

 君は動いているんだね」

 

 それが“ナニ”か解らない。しかし、僕らの存在意義(エネルギー回収)の妨げになるのは、これまでで実証されている。

 

「まったく……人間の考える事は理解できないよ」

 

 観察していた織莉子が突然、顔を蒼白にして座り込んだ。その瞳から涙を流し、呆然としている。

 どうやら、なにかを“予知”したらしいね。しかし、それを確認しに行くつもりはない。僕は僕で、やらなければならない事が出来てしまったからね。

 しばらく、座り込んでいた織莉子は、変身状態のまま立ち上がり、(琢磨)の足を取る。

 そのまま引き摺りながら廊下を駆けていった。

 

「希有な存在とはいえ、流石の琢磨でも未来予知が相手では荷が重かったかな」

 

 引き摺られていった貴重なサンプルは、前例の無い事を成しえた“異物”だ。屍を回収して、研究する価値は充分にある。僕としては、琢磨が勝利してくれた方が利益としては大きかっただけに、残念だ。

 もっとも、琢磨が異常なだけであって、元々“魔人”という存在は“魔法少女(高い素質)に至らない契約者”の総称。当然生存率も、魔人の方が圧倒的に低い。

 琢磨の生き方が、生存率の上昇に直結した、効率的な生き方だったからこそ、二年近くも生き長らえたんだろう。

 

 家の外に出てきた織莉子は、引き摺っていた屍を、植え込みに隠すように放り投げた。こんな所に死体があったら、社会的に問題だからね。少しでも人目の付かない所に隠しておきたいんだろう。

 それにしては、お粗末過ぎるけれど。

 僕の存在に気付かず、織莉子はそのまま走り去っていった。

 

「やれやれ。

 “複数の端末を駆使しなければならない”なんて、ね」

 

 今頃、別の個体が杏子に状況を告げているはずだ。そして、この個体にはやるべき事がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「急いだ方がいいよ」

 

 慌てて着替え、部屋を飛び出した杏子の背中に声を掛けた。どうやら届いてはいないようだ。

 それに“間に合いそうに無い”ね。

 キミだったら、この状況をどんな“戯言”で彩るんだろうね。

 

 

 

 

 

 

 理解できない事が多い。

 

 未来予知により、自身にとって“都合のいい未来へ向かって動いていた”織莉子だけれど。

 どんな未来を見たら“キリカを用いた魔法少女狩り”に行き着くのか。

 ゆまに関しても、契約する未来を知り、僕を向かわせたのは確定。

 織莉子の行動は間違いなく“未来に直結している”はずだ。

 それがどんな“未来”なのか。判断するだけの情報を、持ち合わせていない。

 それだけではなく、行動が“不自然すぎる子”がいる。

 あの子の行動を、織莉子はあくまでも“識った”のであって“そうなるように仕向けた”訳ではない。

 

「ふむ……どうやら間に合わなかったみたいだね」

 

 別の個体が確認した光景を見て、僕は一斉に呟いた。

 

「残念だったね」




次回予告

噛み合った歯車に、止まるという選択肢は無い



事実がどう在れ 現実がどう荒れようとも



回る歯車を止める事は――――







百三十八章 怒涛の困難


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百三十八章 怒涛の困難

「くふふふふ」


SIDE out

 

「いや~、死ぬかと思った。

 いや、死んだのかもしれんけど。

 あるいは、生きてないだけなのかもしれんけど」

 

 見滝原の郊外に存在する、教会だった場所。

 そこに向かいながら【殲滅屍(ウィキッドデリート)】は軽い感じで呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は、僅かに遡り――――――――――

 

 美国邸。織莉子が急いで駆けていった後、キュゥべえは群雲の遺体へと近づいた。

 大量の水晶球は、その全てが群雲の頭部へ襲い掛かり。その質量は圧壊させるには充分すぎる威力があった。

 “異物”と呼ぶに相応しい魔人を、死んだ後も有用する為に。回収目的で近づいたキュゥべえが見たのは。

 

 

 

 頭部を修理している最中の群雲だった。

 

 

 

 赤黒い肉が蠢きながら、粘着音を辺りに響かせる。魔法と言う名のファンタジーなんて存在しない、生々しい“修理”だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。

 キミ達の肉体は“魂と連動してはいない”からね」

 

 キュゥべえも。美国織莉子も。見誤っていた。群雲琢磨という少年を。

 この少年が、自らを“敵”としている相手の本拠地に。

 

 素直に“(弱点)”を持って行く筈もないのである。

 

 結晶化された魂。抜け殻となった肉体。通常であれば嫌悪感しかない事実。

 それすらも“自分の為に使い潰す”のが、異物と呼ばれる所以。

 それが群雲琢磨なのである。

 

「流石に、これほど大掛かりな“修理”は初めてだよ」

 

 こともなげに言ってのけ、起き上がった群雲には“右目”が無かった。

 収まっていたのは、義眼。それは“SG(ソウルジェム)の変化した義眼”ではなく、()()の義眼だったのだ。

 

「惜しい物を無くした。

 同じ色の義眼って、めったに無いんだよねぇ」

「それのおかげで、生き延びたのだから良いんじゃないかな?」

「まあね」

 

 白い眼帯を身に着けて、群雲は立ち上がる。変身を解除し、意気揚々と美国邸を去る群雲の右肩に、いつものようにキュゥべえが乗る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「右目に眼帯をして、左半分の世界しかないオレに対する嫌がらせか?」

「わけがわからないよ」

 

 そこが定位置であるかのように、右肩に乗るキュゥべえ。左目しか機能していない群雲にとっては、面倒な事この上ないのだが。そのような事に気を使うなんて、キュゥべえがする筈も無かった。

 

「それにしても、よく織莉子を出し抜けたものだね。

 琢磨には本当に、驚かされるよ」

「出来もしない事を言うなよ。

 しかし、その言い方って事は、やっぱり美国先輩の能力は“未来予知”で間違いはなかったか」

「琢磨も気付いたみたいだね」

「でなきゃ、こうして生きてないさ」

 

 未来予知。その性質の過程と仮定。魔法少女に劣る魔人は、その異常な性質で事実を騙し抜く。

 

「織莉子の未来予知を、どうやって退けたんだい?」

「退けてはいないさ。

 あの状況じゃ、どうにもならなかった。

 だが“未来予知をベースに考えれば、出し抜く事は可能だった”ってだけさ」

 

 群雲琢磨の敗北。それを予知した織莉子。

 

 そこで“群雲琢磨の未来が終わる”のなら“さらにその先を予知したりしない”のではないか?

 つまり“一度死んで()()()”事で“織莉子の未来予知から外れる”事が可能ではないか?

 それが、群雲の狙いだった。

 

 未来予知を的確に使いこなしている。それは群雲との戦い方から、充分に理解出来た。

 だからこそ、群雲はその裏をつく。

 

 使いこなしている。それは即ち“予知する方向を選べる”という事。

 逆を言えば“見ようとしない未来は、見る事はない”という事。

 

 死んだと認識した相手の“未来”を見ようとはしない。美国邸で死んだ群雲の未来を予知しようなんてしない。

 なにかの切っ掛けで、織莉子は再び“殲滅屍が存在している事”に気付くだろう。

 しかし、重要だったのは【今】【あの状況から】【脱却する事】であり。

 群雲は、それを成し得たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、ナマモノ」

「なんだい?」

 

 見滝原の郊外に存在する、教会だった場所。

 そこに向かいながら、群雲琢磨はキュゥべえに告げる。

 

「ゆまが呉先輩に殺されたってのは、マジか?」

「マジだよ。

 僕は、それをしっかりと見届けたからね」

 

 電子タバコを咥えて、深呼吸。衝動的にナマモノを殺したくなる気持ちを、群雲は無理矢理押し留める。

 

「一難去って、また一難か」

 

 あるいは、すべてが繋がっているが故の、絶望ラッシュ。

 時間が平等に、一定に流れるが故の、怒涛の困難。

 

「事実に違和感を感じるって事は……きっと“そういうこと”なのか」

「何の話だい?」

 

 煙をふかしながら、群雲はキュゥべえの質問には答えずに、自らの情報をまとめていく。

 事実に違和感がある。すなわち、事実に至る過程を“仮定できない”という事。かつて、佐倉杏子の過去に感じたモノと同質。ならば、疑うべきは前提。間違っているのは“どの前提”なのか?

 群雲琢磨は考える。自分が美国織莉子と戦っていたのと、ほぼ同時期に起きていたであろう戦い。

 

 だが“その戦いが起きている事こそに、違和感を感じる”のである。

 

「なあ、ナマモノ?」

 

 もやもやとしたもの。それを自分の中で枠を作って形にする。その為に必要なのは……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 ナマモノと別れて、以前は4人で進んだ道を、独りで進む。

 

 まさか。まさかである。

 

 ゆまが殺されているだなんて、想像の外だった。

 有り得ない。ありえない。アリエナイ。

 それが、起きて良い筈が無いのだ。

 二人の先輩に対する言葉をどうするか。吟味しながら、オレは教会前に辿り着く。

 

 残念ながら、戦闘の跡を読み取るなんて芸当は無理。ただでさえここで模擬戦やってたんだし。

 

 しかしながら、目聡く“証拠”を見つけてしまうあたり、オレって最低だよなぁ。

 ゆまのSG(ソウルジェム)の欠片と思われるモノ。美しき宝石のかけら。真っ先にそれを見つけてしまう辺り、オレって最低やね。知ってるけど。

 

「出来る事なら……もう少し仲良くなりたかったものだがな」

 

 小指の爪より小さな、その欠片を拾い、オレは呟いた。

 

 千歳ゆま。佐倉先輩に救われ、佐倉先輩を想い、たった一度だけの奇跡を、佐倉先輩の為に叶えた少女。

 千歳ゆま。群雲琢磨を嫌い、群雲琢磨を倒そうとし、群雲琢磨に届かなかった、哀れな少女。

 千歳ゆま。巴先輩に懐き、巴先輩に教えを受け、巴先輩に一緒に説教をされた、幼い少女。

 

「千歳ゆま。

 やっぱりお前は『不合格』だよ」

 

 死ぬなよ。何で殺されてるんだよ。オレを倒すんじゃなかったのかよ!!

 オレは、お前に倒されるのを楽しみにしてたんだぞ!!!!

 オレには出来なかった事。誰かの為に願った事。それが、どれだけ羨ましかったと思ってんだよっ!!!!

 

「出来もし無い事を、口走ってんじゃねぇよ」

 

 言いながら、オレは咥えていたタバコを<部位倉庫(Parts Pocket)>へ戻し、手にしていた欠片を躊躇い無く、口に運ぶ。

 

「硬っ!?」

 

 仕方ないので、そのまま飲み込む。うぉっ!? 喉に刺さった!!

 

「げっ、げほっ!?」

 

 痛覚は遮断しているので、痛くはないが、異物感パネェ!?

 そんなにオレが嫌いか、ゆま。うん、知ってるけどね。

 

「あ゛~。

 なにやってんだろうな、オレは」

 

 馬鹿な事してますね。知ってますよ。

 これで、ゆまの治癒能力がオレに宿ったり……ないか。

 仮に、そんな事が出来るのなら、魔法少女狩りまくるぞ、オレ。

 出来ないし、しないけど。

 

「……うん?」

 

 ここに来て、オレはようやく気付いた。ここでゆまが殺されたのなら。

 

【ゆまの抜け殻は】【どこにいった?】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教会の扉を開けたオレが見たのは。

 横たわるゆまと、その前に座り込む……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『だから、キョーコと一緒に戦うもん!

 ゆまだって、キョーコを守れるもん!!』

 

 死んだら……誰も守れないじゃないかよ…………。

 わかってるのかよ、ゆま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「佐倉先輩」




次回予告

後悔 後から悔やむ事



どうすれば、この結末を回避出来たのだろう?
どうすれば、幸せな結末を迎えられたのだろう?
どうすれば? どうすれば? どうすれば?






後悔 後から悔やむ事

百三十九章 自棄


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百三十九章 自棄

「感情を持たない僕らからすれば」
「わけがわからない事だよね」


SIDE out

 

 最悪だ。最悪を通り越した言葉があるのなら、今の状況はまさにそれだ。

 群雲が内心、そう愚痴ってしまうのも仕方の無い事だろう。

 よりにもよって。ゆまの“抜け殻”に最初に到達していたのが、杏子なのだから最悪でしかない。

 

 横たわるゆまの“抜け殻”は、所々に汚れこそあるものの、明確な死因と言える外傷は存在しない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 杏子の右横に座った群雲が、冷静に自分を操作(コントロール)しながら、状況を整理する。

 

 しかし“時間”はそれを、悠長に待ったりはしない。

 群雲の視界に入ったのは、座り込んでいる杏子の手にしていたもの。

 “穢れきった結晶”に向けられる。

 

 相互関係。

 ゆまを確実に絶望させるには杏子を。

 

 

 

 杏子を確実に絶望させるにはゆまを(これが、目の前の現実)

 

 

 

 

 まだ間に合う。絶望はまだ孵化してはいない。群雲はその手をSG(ソウルジェム)に伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、群雲の手が届く前に、杏子は手元の魂を、傍らに放り捨てた。

 

 

 

「いらない……」

 

 どこか、怒りの込められた声色で、杏子は呟く。

 手を伸ばした状態で静止した後、群雲はゆっくり、ゆっくりと息を吐く。

 浄化の拒否。それが意味する事。

 ゆっくり、ゆっくりと群雲はもう一度息を吐くと、杏子の横に座り直した。

 

「怒らないのか?」

「何に対して?」

「そりゃ、色々とあんだろ……」

 

 電子タバコを咥えた群雲に、杏子がした質問は、質問で返された。

 色々。それに込められた意味。群雲が気付いていないはずもない。

 ゆまを独りにしてしまった事。それが招いた結末。

 SG(ソウルジェム)の浄化を拒否した事。それが招くだろう結末。

 自棄になっている。杏子はそれを自覚している。だがそれすらももはや、どうでもいい。

 

「結局、あたしは何も出来なかった。

 家族を救う事も。

 ゆまを救う事も」

 

 杏子にとって、ゆまはそれほどに大きい存在だった。

 亡き妹と重ねている。そう言われても仕方が無い。

 だが、魔法少女になった事で壊した家族とは違い、魔法少女として助けた、妹のような存在。

 ゆまの存在に、杏子の心は確かに救われていたのだ。

 

 ゆまが魔法少女になった事は、悔やむべき事ではある。

 だが、それを切っ掛けとして、群雲と再び出会い、マミと合流する事になり。

 過ごした時間は、掛け替えの無いものだった。

 姉のように感じていた巴マミ。妹のように懐いてきた千歳ゆま。

 

 だが、これが現実。今、ここにある残酷な事実。

 

 

 

 家族を“二度も自分のせい”で失って正気でいられるほど、佐倉杏子という魔法少女は“人間をやめていない”のである。

 

「随分と、自棄になってるんだな」

 

 群雲の言葉を否定出来るはずも無く。杏子は自虐的に薄く笑う。

 

「そんな、自暴自棄になっている佐倉先輩への、最後の戯言はいかが?」

 

 まあ、勝手に話すけどね。

 そう続けて、群雲は煙を吐き出す。

 あくまでも、冷静に。判断を誤る事無く。高速で回転する思考が、佐倉杏子の斜め上をいく。

 

「ゆまは、救われていたさ」

「ふざけんなっ!!」

 

 そして、一言目で逆鱗に触れた。

 杏子は怒りのままに、群雲の襟元を両手で掴んで立ち上がる。

 背は杏子の方が高い。結果として、宙吊り状態となる群雲だが。

 

「言っただろ、戯言だって」

 

 以前のように、そんな状態でありながらも群雲は平然と言葉を続ける。

 

「実際のところなんて、知る由も無い。

 だから、オレが言うのは“戯言にしかならない”訳だ」

 

 死人に口無し。ゆまは二度と動かないし、二度と話さない。何を思って生き、何を想って死んだのか。それを知る術は無い。

 だから、群雲は【戯言】しか話さない。だから、群雲は【戯言】しか話せない。

 掴み上げられながらも、冷静に話す群雲の左目を見つめ、杏子は手を離す。

 この少年が不気味で不可思議なのは、今に始まった事ではなく。

 この少年に、心奪われているのもまた、杏子は自覚してしまっていたからだ。

 杏子の手を離れ、群雲は再びその場に座り込む。少し後、杏子もそれに続いて座り、群雲の言葉を聴く。

 

「魔女結界に捕らわれていたゆまを、佐倉先輩が助けた。

 うん、ゆまは救われたね、物理的に」

 

 改めて電子タバコを咥え、群雲はゆまの亡骸に視線を向けながら、戯言を紡ぐ。

 

「だが、それだけじゃない。

 もっと精神的な部分でも、佐倉先輩はゆまを救っていたんだ」

 

 妬ましい。それが、群雲のゆまに対する感情。

 

「確かに、ゆまは死んだ。

 今、目の前にあるのが“結果”だが。

 所詮は【結果でしかない】んだ」

 

 過程も。結果も。原因さえも。群雲にとっては【どうでもいい】事。

 魔人として“今を生きる自分の為に”なるのなら、等価値にして無価値。

 

「もし、佐倉先輩がゆまを助けなかったら。

 オレに会う事無く、死んでいただろう【結果】は、容易に想像できる」

 

 どちらにしても同じ。

 【Answer Dead(死という結末)】に変わりは無い。

 

「オレは、嫌われていたが。

 少なくとも、佐倉先輩と一緒にいる時のゆまは“幸せそう”だったぞ」

 

 それは、群雲には出来無い事。ゆまのあの笑顔は、杏子だからこその笑顔。

 

「結果的には“少しだけ、死ぬまでの時間が稼げた”程度の事。

 だが“それまでの時間、ゆまは確かに幸せだった”のさ」

 

 佐倉杏子の為に願い、魔女になる(絶望する)事無く、その生涯を終えた。

 それは“契約者”としての、一つの“正しい終わり方”と言えるのだ。

 

「そしてそれは“佐倉先輩がゆまを救ったから”に他ならない。

 そしてそれは“佐倉先輩だから”に他ならない。

 佐倉先輩は、ゆまを救ったさ。

 佐倉先輩と一緒に、ゆまは確かに“笑っていた”んだからな」

 

 誰かを救い、誰かと笑いあう。そんな、幸せな光景。

 誰もが願い、誰もが求める、幸福の一つの形。

 それは確かに、そこにあったのだ。

 

「……ほんと、容赦ないよな、お前は」

 

 言いながら、杏子は群雲の背中に回り、覆いかぶさるように体を密着させる。

 内心飛び上がりそうな程に驚く群雲だが、それを表に出す事無く電子タバコをふかす。

 

「ゆまは、幸せだったのかな?」

「過去は知らんけど。

 少なくとも“オレの知る千歳ゆま”に、不幸だと呼べる要素はないな」

 

 誰かの為に願い、誰かの為に努力した時間。群雲には絶対に訪れない【時間】だ。

 だからこそ、群雲は言う。

 【羨ましくて妬ましい】と。

 

 しばらくそのまま、ゆまの亡骸を見つめ、今は亡きゆまを想う二人。

 

「……本当に」

 

 ふと、唐突に杏子が声を出す。

 

「容赦ないよな、琢磨は」

「……褒め言葉?」

「さあな」

 

 それでも、運命は変わらない。すでに定められている。

 自棄になっている杏子は、普段なら言わないような事を、平然と口にする。

 

「なんであたしは、そんな奴に惚れちゃったんだろうな?」

 

 伝える事による変化。それはある種の恐怖となり、言葉にする事を躊躇わせる。

 良い方向に行く変化か。悪い方向に行く変化か。それが不確定であるが故に。

 しかし、今の杏子には、躊躇う理由が無いのだ。

 

「今なら、琢磨の言ってた事が理解出来る」

「いや、狂った餓鬼の事を理解しちゃいかんでしょ」

「いいじゃんか。

 惚れた相手を知りたいと思うのは、当然だろ?」

 

 もはや、歯止めなど存在しない。その想いのままに、杏子は言葉を紡ぐ。

 

「まあ、今更言っても、仕方ないのかもしれないけどな」

「そうだねぇ」

 

 群雲の言葉に、杏子は自虐的に微笑むが。

 

()()()だったのなら、もっと早くに知りたかったかな」

 

 次の瞬間、驚愕に彩られる。

 

「いや、でも……告白ってどうやれば良かったんだ?

 佐倉先輩、知ってる?」

「聞くなよ、あたしに」

 

 以前、この教会で行われた二人の会話。

 その会話で、杏子は群雲への想いを自覚した。

 

 そして、それ以前から、群雲は杏子に想い焦がれていたのだ。

 だが“自分に恋人は相応しくない”という考えの群雲は、その想いを奥底に閉じ込めた。

 自身の魔法を総動員して“考えないようにしていた”のである。

 

 その防波堤が今、あっさりと崩れ去る。

 

「一目惚れって言ったら、佐倉先輩は信じるか?」

「はぁ!?」

 

 初めて会ったあの日。群雲は自覚していた。そんな、無自覚な一言。

 

 

 

『佐倉先輩は、どうする?』

 

 

 

 自分の為に生きる少年なのだ。そもそもこんな問い掛け自体がおかしい。

 返答の有無など気にせず、自分の為に生きれば良い。

 

 あの瞬間、群雲は確かに“佐倉杏子を中心に添えていた”のだ。

 

 それは『ここにいてもいいかい?』という、マミに対しての質問とは、意味を違える。

 マミに対する質問はあくまでも『群雲琢磨を中心』とした質問だ。

 “はい”だろうと“いいえ”だろうと、群雲は“自分を中心に動いていた”だろう。

 自分の為に“留まる”事も、自分の為に“立ち去る”事も出来た。

 

 だが、杏子に対しては違う。

 “はい”であるなら“佐倉杏子の望み通り”に、共に見滝原へ向かい。

 “いいえ”であるなら“佐倉杏子の望み通り”に、独りで見滝原に向かう。

 

 最初の邂逅でも、ゆまを連れた再会の時も。

 

 群雲は確かに“佐倉杏子を中心に添えていた”のだ。

 

「本当に、容赦なさすぎだろ、お前」

 

 今更。本当に今更である。後の祭りなんて比じゃない程に。

 

「いや、違うな。

 だからこそ、か」

 

 群雲琢磨に焦がれた、佐倉杏子。だからこそ、群雲の言葉を理解して、自らもそれを望んだ。望んでしまった。

 

「なあ、琢磨?」

「ん?」

 

 後ろから抱きついた状態のまま、佐倉杏子は。

 

「たった一度しか終われないから。

 たった一度しか死ねないんだから。

 あたしの全てを、お前のモノにしてくれないか?」

 

 最後の“望み”を告げた。

 

 

 

 

「佐倉先輩も、大概容赦ないよな」

 

 回された手に、自分の手を重ねて、群雲琢磨は瞳を閉じた。

 

『たった一度しか死ねないのなら。

 オレは、恋人に殺して欲しい』

 

 以前、この場所で。群雲琢磨の告げた言葉。

 魔人の“理想的な終わり方”を、佐倉杏子は望んだ。

 

「オレに、出来るかねぇ?」

「大丈夫だろ。

 あたしは、信じてるよ」

「……本当に、容赦の無いことで」

「おたがいさま、だろ?」

 

 本当に、本当に。

 なにもかもが、遅すぎた。

 

「なあ、琢磨?」

「ん?」

「あたしらが、デートするとしたら、どこに行く?」

「ん~。

 やっぱ、ゲーセンかねぇ」

「ムードも何も無いな」

「夜景の見えるレストランで『キミの方が綺麗だよ』とか、言った方が良い?」

「うわ、似合わねぇ。

 そもそも、ガキ二人でどうやってそんな場所に行くんだよ?」

「時間止めて、忍び込むとか」

「もはや、デートじゃないな、それ」

 

 もっと早く。想いを伝えられていたら。

 この運命は、違った結末を迎えたのだろうか。

 

「なあ、琢磨?」

「ん?」

「遊園地とかどうだ?」

「行った記憶がないから、よく解らん」

「マジか」

「乗るなら、観覧車かなぁ」

「お、意外とムードのある乗り物を選んだな」

「消去法。

 ジェットコースターとか、それ以上のスリルを普段から味わってるし。

 お化け屋敷なんて、目じゃないようなのと戦ってるし。

 メリーゴーランドとか、なにが楽しいのかさっぱり」

「前言撤回。

 やっぱ、ムードもなにも無いな」

 

 もっと早く、二人の想いが繋がっていたのなら。

 

「なあ、琢磨?」

「ん?」

「好きだよ」

「……よりにもよって、オレか」

「ああ。

 よりにもよって、お前さ」

「残念な事に、オレも杏子が好きなんだ」

「ああ。

 それは、残念だよ」

 

 きっと、幸せだったんだろう。

 

「なあ、琢磨?」

「ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 どれぐらいの時間、こうしていたのだろう?

 一分? 十分? 一時間?

 まあ、そんな事はどうだっていい。

 背中の温もりを、いつまでも感じていたい。そう想うのは、当然の事。

 だが、残念ながら時間切れ。

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 

 

 それでも、オレはしばらく、そのまま動かなかった。

 周りの、切り絵みたいな使い魔達は、襲い掛かってくること無く。

 奇妙な行進を続けている。

 

 いい加減、はじめないとな。

 そう思い、オレはゆっくりと立ち上がろうとして。

 背中の温もりが失われていくのを、はっきりと感じ取った。

 重力に逆らう事無く、支えを失い転がった【ソレ】は、二度と動いたりしてくれない。

 オレは【ソレ】を、ゆまの横に同じように並べる。

 

 ……なんで、そんなに安らかな表情なんだよ。

 

 その表情を見て、自分も笑顔になるんだから、オレはとことん狂ってるな。

 今度こそ、オレは立ち上がった。

 変身して、周りを見渡せば、赤い石畳の、深い霧の中。

 

「待たせたな」

 

 オレの言葉に合わせるように、視線の先で炎が燃え上がる。炎は煙を上げ、煙は霧となり炎を包む。

 霧の晴れた先、白い馬に跨る、煌びやかな着物を着た、人型の蝋燭。

 その手に持つ長槍は、どうしても【以前】を連想させる。

 

「では、闘劇を」

 

 いつものように、オレは告げ……ようとして、首を振る。

 そうじゃない。そうじゃないだろう?

 

 改めて。オレは【彼女】に向き合って、告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、()し合おうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なあ、琢磨?』

『ん?』

『あたしは、お前に会えて。

 お前を、好きになって。

 お前に、殺してもらえるんだから。

 きっと、幸せだよ』




次回予告














さあ、()し合おうか

















百四十章 らしくない戦い方


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百四十章 らしくない戦い方

「感情の振れ幅は、大きい方が都合が良い」
「恋愛感情は、研究に値するかもしれないね」


SIDE 巴マミ

 

「ただいま」

 

 学校から帰って、私は玄関を開ける。

 でも、いつものように「おかえり」の声が無い。

 

「皆、出かけているのかしら?」

 

 呟き、中に入ろうとした所で。

 

「やあ、マミ」

 

 外から、キュゥべえに声を掛けられた。

 

「キュゥべえ。

 どうしたの?」

「君に、大至急伝えなければならない事があってね」

 

 その言葉に、私は表情を引き締める。大至急という単語に、一抹の不安を感じるからだ。

 

「今、琢磨が単独で魔女と戦っている。

 杏子やゆまでは、琢磨を助けられそうも無い」

「!?」

 

 琢磨君が魔女と!?

 私は持っていた鞄を玄関内に置いて、キュゥべえと向き合った。

 

「案内してちょうだい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE out

 

 武旦(ウーダン)の魔女、手に持つは長槍。

 対峙する魔人、手に持つは日本刀。

 

 刀と鞘を共に逆手で振るう魔人に対し、騎馬上から長槍を巧みに操って往なす。

 

 

 

 群雲琢磨らしくない戦い方をしていた。

 様々な武器を用いて、距離を選ばない戦いをする群雲。

 その理由は“相手の土俵で戦わない”事で、自らの生存率を高める為である。

 近距離には遠距離で。遠距離には近距離で。

 <電気操作(Electrical Communication)>の使用。即ち“注ぐ魔力”の大半を“速度”に費やしているのも、同様の理由。

 相手を粉砕する剛腕なんていらない。生き延びる為の足があれば良い。

 強力な遠距離魔法なんていらない。回避する為の足があれば良い。

 “Lv2”が、速度強化の方向へ進化したのは、もはや必然であると言えた。

 

 

 

 長槍を持つ相手に日本刀で挑むのは、実に群雲琢磨らしくない戦い方である。

 

 しかし、群雲琢磨には理由がある。

 

 これは、魔女狩りじゃない。

 これは、闘劇なんかじゃない。

 

 自身の全てを費やすべき【愛死合】なのである。

 

 

 

 対する魔女『オフィーリア』も長槍を駆使して、逆手二刀流状態の魔人を迎え撃つ。

 魔女である。ここは魔女結界である。当然、使い魔も存在する。

 しかし、オフィーリアは単独で迎え撃つ。白髪の魔人を、白い馬に乗って。

 使い魔は行進している。

 『二人』を見守るように。『二人』を称えるように。

 

 

 

 決定打がない。日本刀も、切り裂けるようになった鞘も、オフィーリアの長槍の前に阻まれ。

 時折、長槍が魔人を捕らえるも、それは命を奪うには至らない。

 

 群雲琢磨には、治癒能力は無い。ゆまやマミのような“回復魔法”を持たない。

 では何故、群雲琢磨が戦い続けられるのか。

 その要因は二つ。

 一つは“痛覚の遮断”である。

 本来、痛みとは肉体の異常を知らせる、重要な役割を荷う。

 痛みを感じるからこそ、人はその部分を庇い、無理をしないようにする。

 痛みを感じなければ、変わらず使い続け、いずれは壊れてしまうだろう。

 

 しかし、痛みという“感情”は、決して良いものではない。

 SG(ソウルジェム)に穢れを溜めてしまうのだ。

 

 痛覚を遮断し“痛みを感じない”事は、悪い事ではないのだ。

 殊更、契約者にしてみれば。

 

 もう一つの要因、これは群雲の偏屈な考え方にも起因するが。

 肉体を“道具”だと、割り切っている事である。

 

 群雲が行うのは“肉体の回復”ではなく“道具の修理”である。

 魔法少女システムを知り、それを割り切った群雲が辿り着いた異常な結論。

 

 【道具は直せば良い】

 

 その思考が、回復に優れていない群雲に“自分にだけ適応する修理能力”を与えたのだ。

 

 群雲琢磨にとって“都合の良い様に”作り替えられた『ムラクモカスタム』の中でも、異質にして最強。

 それが“群雲琢磨”という名の“道具”なのである。

 

 

 

 

 しかし、それが“勝利”に直結するほど、世界は優しくはない。

 刀と鞘の逆手二刀流。騎馬と長槍。その実力はオフィーリアの方が上だったのだ。

 

「……やれやれ」

 

 右肩を貫かれ、素早く後退した群雲は“道具を直して”一息。

 槍を回転させながら、追撃せずに間合いをとるオフィーリア。

 

「搦め手無しの真っ向勝負。

 もしも“こうなる前”に行っていても、戦局は変わらなかったのかもな」

 

 そんな【戯言】を呟きつつ、それでも群雲琢磨は、らしくない戦い方を続ける。

 そうでなければ、意味がない。そう在らなければ、価値もない。

 

 しかし、現実は非常に非情だ。

 

 たのしいたのしい逢瀬も、乱入者によって次のステップへと進む。

 

 それでもなお。群雲とオフィーリアは戦い続けていた。

 巴マミが、辿り着くその時まで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なあ、琢磨?』

『ん?』

『魔法少女でも、魔人でもなかったら。

 あたしらは幸せになれたかな?』

『どうだろうなぁ。

 オレの場合は不幸になるビジョンしかないし。

 それに……』

『それに?』

『契約しなかったら、逢えなかったと考えれば。

 やっぱ、不幸だったんだろうなぁ』

『……たまにお前、恥ずかしい台詞を平気で言うよな』

『少なくともオレは、逢えて、惚れて、幸せだと思うがね』

『…………ばか』




次回予告

余計なモノはいらない

オレはただ あたしはただ




愛し合うだけ 殺し合うだけ



だから だから



邪魔をしないで






百四十一章 真っ赤な嘘


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百四十一章 真っ赤な嘘

「魔法とは、厄介なものだよ」
「どんな魔法を使えるようになるのか、僕達では介入できないからね」
「だからこそ、僕達は言うのさ」
「魔法少女は、条理を覆す存在なのだと」


SIDE 群雲琢磨

 

 何度目かなんて、数えてはいない。オレの日本刀と【彼女】の長槍が衝突した際の火花を見ながら、不可思議な感覚を味わう。

 嬉しいんだろうか? 悲しいんだろうか? 充実しているんだろうか? 虚しいのだろうか?

 

 でも、間違いなく不幸ではない。

 

 直前の会話が、こんなにも【魔女狩り】の色を変える。

 直前の会話が、こんなにも【殺し合い】を【愛し合い】に変える。

 

「狂いすぎだろ、やっぱり……」

 

 突いてきた槍を、鞘で往なしながら体を捻って回避し、オレは間合いを開ける為に後退する。

 対する【彼女】も、馬を後ろに下がらせて、間合いをとる。

 

 さて、どうしたものか? 近接戦闘ではどうやら【彼女】の方が上。こっちが<操作収束(Electrical Overclocking)>を全開にしてるのに、だ。

 ならば、遠距離戦。電光球弾(plasmabullet)を充分な威力まで準備(チャージ)するのは無理っぽいから、使用するのは銃器類。

 

 と、普段のオレなら考えるんだが。

 

「銃を使うのは……違うよなぁ」

 

 ただの、自己満足。それだけの事。でも、重要な事。

 まあ『炸裂電磁銃(ティロ・フィナーレ)』なら、ギリギリ納得の範囲、かな。

 もちろん、準備(チャージ)をする暇なんて、与えてはくれないんだろうが。

 

 しかし、どうやら【時間切れ】らしい。

 

「琢磨君!!」

 

 遠くから、こちらに向かって走ってくる巴先輩を見た。

 その足元には、変わらぬ表情のナマモノもいる。

 やってくれやがったな、インキュベーター……。

 だが、ここで誰もが予期しなかった事が起きる。巴先輩をこれ以上進ませないように、赤色の結界が行く手を阻んだからだ。

 

「これは……っ!?」

 

 予想外の『魔法』に、巴先輩が結界の前で視線を巡らす。程なく、この魔法を使った【はず】の魔法少女を見つけて。

 

「佐倉さんっ!! ゆまちゃん!!」

 

 結界の向こう側。すなわち『こちら側』で並んで横になっている二人に呼びかける。

 

「無駄だよ、マミ」

 

 結界の前に佇んだナマモノが、感情のあるはずの無い声で、無感情な言葉を発する。

 

「ゆまは既に活動を停止しているし、杏子は“そっちじゃない”からね」

「どういう……こと……?」

 

 足元のナマモノに対する、巴先輩の問い掛け。

 あぁ……こりゃマズイな。

 

「言っただろう?

 『杏子やゆまでは、琢磨を助けられそうも無い』とね。

 ゆまは既に“死んでいる”から、無理だし。

 杏子は“琢磨と戦っている”んだから」

 

 その言葉に込められた意味。ゆっくりと噛み締めたんだろう、巴先輩が青ざめた表情で【彼女】を見る。

 そんな【彼女】は、巴先輩の妨害を阻止出来た事に満足したのか、槍を回転させながらオレに向き直る。

 

「うそ……よね……?」

「僕には、嘘を付く機能なんて無いよ」

 

 平然と言ってのけるナマモノを、とりあえずぶち殺してやりたいが【彼女】の結界がそれを許してはくれない。

 本当に、まいったねぇ。

 これを切っ掛けに“見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)”を崩壊させるつもりか?

 まあ、ナマモノの目的は“エネルギー回収”だからな。好機と言えるか。

 

 知ったこっちゃ無いがね。

 今のオレには、もっと【重要】な事がある。

 改めて、向き直った【彼女】の周りに、霧が発生していた。

 なにか、仕掛けてくるか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE out

 

 霧に包まれている『オフィーリア』に対し、群雲は右足を前に出した状態で腰を落とし、両手を顔の高さで広げるように構えた。左手に持つ鞘ですら“切り裂ける武器”である為、実質的な逆手二刀流である。

 

 戦いは、ひとつ上のステップへ。

 

 それを証明するかのように、霧が晴れた先で『オフィーリア』は()()()()()()()()

 

「あ……」

 

 それを見たマミは『オフィーリア』が“誰なのか”を理解してしまう。

 

 それは、彼女が唯一名付けた魔法。

 それは、彼女に唯一名付けた魔法。

 

 ロッソ・ファンタズマ(幻影の赤)が、真っ赤な嘘ではない(これが現実である)事を証明する。

 

 

 

 対し、群雲は……焦っていた。どれが本体か解らない。

 戦闘スタイルが“高速度を利用して、見てから動く”タイプの群雲にとって“見ているものが本物かどうか解らない”状態は、まさに最善手と言えるのだ。

 

 『オフィーリア』の一体が、馬を駆り、間合いを詰める。

 本物か? 偽者か? 幻か? 実体か?

 判断しきれない群雲がとる行動は、結局のところ一つしかない。

 

 迎え撃つだけである。

 

 繰り出される長槍の突きを、群雲は両手の武器で弾きながら、自らも飛び上がる。

 そのまま、槍の上に着地した群雲は、間髪入れずに駆け上がり、その間合いを一気に詰める。

 

「はあぁぁぁりゃあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 逆手持ちであるが故、横に回転しながら『オフィーリア』を切り裂く。

 しかし、手応えはまったく無かった。群雲の視線の先、霧となって消えていく『オフィーリア』が、笑っているような気がした。

 

「幻、か」

 

 本体だろうと幻影だろうと。判断出来ない以上、全力で戦わなければならない。群雲は次の『オフィーリア』に狙いを定めて……()()()()()()()事に気付く。

 

(もう一人は?)

 

 捕捉するよりも“もう一人”の方が速かった。群雲に切り裂かれ、霧となって消えた幻影の影に隠れ、完全に死角となった場所から、長槍が振るわれる。下から上へ、振り上げるように。

 それは、群雲の左腕を的確に斬り飛ばした。

 

「!?」

 

 痛覚は遮断している。しかしそのままでいいはずも無い。右手に持つ日本刀と入れ替える形でナイフを取り出し、ノーモーションで飛ばす。

 狙いは、斬り飛ばされた左腕。的確にナイフが刺さるのと同時、群雲は再び日本刀を手に、腕を斬り飛ばしてくれた『オフィーリア』に迫る。

 振り上げた状態である上に、長槍である。間合いを詰めれば群雲の方が速い。

 胸元あたりに拳を叩き込み、そのまま上へ切り上げる。縦に割れた蝋燭は、霧に包まれて消える。

 

「こっちもかっ!?」

 

 最後に残った『本体』が、幻影が切り裂かれている隙に間合いを詰めて、反転。馬の後ろ足が群雲を蹴り飛ばした。

 衝撃を和らげる事すら出来ず、群雲は無様に吹き飛び、地面を転がる。

 

(肉体は道具。壊れたら直せばいい)

 

 転がる勢いのまま、群雲は無理矢理両足で飛び上がり、滑りながらも着地。

 

短剣思考(Knife of Liberty)!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()して、自分の所へと移動させる。

 

「斬り飛ばされても、鞘を離さなかった、オレの左腕グッジョブ」

 

 言いながら、結合部を押し付けて修理を開始。生理的に不快な粘着音を響かせながら、離れた体の一部が元に戻る。

 

(肉体は道具。道具は疲れたりしない)

 

 左腕に刺さっているナイフを抜き、傍らに放り投げた群雲は、修理状態を確認しながら、視線を向ける。

 

「まいったねぇ」

 

 そこには『三体のオフィーリア』がいた。

 

 幻影魔法。それは、魔人群雲琢磨を攻略する上での最善手。

 群雲にとっての『天敵』が【彼女】なのは、はたして運命の悪戯か。

 

 攻略の糸口が見えないまま、それでも群雲は、先程と同じように構えた。

 

(<オレだけの世界(Look at Me)>なんて使えない。

 今のこの時間は【二人で共有】しなきゃ、意味は無いからな)

 

 愛し合いは続く。その戦局は『オフィーリア』に大きく傾いていた。




次回予告

苦戦しない筈がない

魔法少女と魔人

その力の差は歴然だ

孵卵器が、そう造ったのだから




百四十二章 オレには見えている


















TIPS 群雲琢磨の勘違い

やぁみんな!! 元気にケーヤクしてる? ボク、キュゥべえだよ!!
ものすごく久しぶりの“TIPS”は、ボクが進行していくからね!!

今回は、みんなのマスコットであるボクが発見した、たくちゃんの矛盾点を教えてあげるよ!!

実は、たくちゃんは自分の能力をかなり勘違いしているようなんだよね
以前の感想でも指摘されていた事だし、今回はそこを紐解いてみよう!!

幕間から抜粋して、おかしな点を【】してみたよ



Lv.1 電気操作<Electrical Communication>

電撃能力
【固有武器(両手袋と両ブーツ)を媒体として発動可能な魔法】
拳に纏う事で、攻撃力を高めたり、両足神経に流し込み、通常以上のスピードで走る事が出来るようになる
主力魔法であり、発展させ、開発した技も多い
電気の色は黒
最近になって、思考をフル回転させている時に、無意識に使用している事が発覚
それを足がかりに、Lv2が完成した
独自の異常な修行法で、最近変身せずに使えるようになりつつあるが、まだ未完全




気付いたかな?
固有武器の能力であるなら、未変身時に使えるはずがないんだよ
作中でも時々、電子タバコを咥えたまま作動させたりしているからね
思考をフル回転させている時に発動するのなら、固有武器は必要じゃないよね



さて、ここでボクは仮説を立てる事に成功したよ!!



電気ウナギって知っているかい?
“発電板”という細胞で、電気を発生させる生き物だね

たくちゃんが最初に発動させたのは“両足の加速”だった
それは“脳が認識出来ないほどの加速”だ
たくちゃんはそれを“両足のブーツが発電した事によるもの”だと誤認したわけだね
それがブーツではなく“たくちゃん自身の細胞が起こしたもの”だと仮定すれば
未変身時でも使用可能な事に、説明がつくのさ

電気を発生させているのが“細胞”ならSG(ソウルジェム)による負担は限りなく少ない
それを勘違いしたまま、技能を発展させてしまうのだから、たくちゃんってば

い・ぶ・つ❤




さて、そうなると【固有装備が両手袋とブーツ】である事すらも疑問視できるよね
もちろん、みんな大好きキュゥべえは、その点についても仮説を立ててあるよ!!
次回のTIPSで教えてあげるから、楽しみにしていてね

ヒントはもちろん、たくちゃんの魔法さ
ひとつだけ、おかしな性能をもつ魔法があるよね
それと繋ぎ合わせれば、固有装備の能力も見えてくるのさ
似た能力者もいる事だしね


それじゃあみんな!! 次話のTIPSでまた会おうね!!
それまでにケーヤクしてくれるとうれしいな!!


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百四十二章 オレには見えている

「心はどこに宿る?」
「胸か? 脳か?」
「オレは、こう答えるね」
「魂だと」


SIDE out

 

 ジリ貧。周りから見ればそう言わざるをえない状況が続いていた。

 幻影を巧みに操り、的確に攻撃する『オフィーリア』に対し、肉体を道具として割り切る事で、疲労すらも切り捨てる群雲。

 どれだけ幻影を斬り捨てても、無意味。

 どれだけ肉体を傷付けても、無意味。

 双方が両方共、ジリ貧だった。

 

 

 

 

 それは、周りから見れば、だろう。

 当人達は、そうは思っていなかった。

 例えるならソレは、意地の張り合い。

 

 貴女はオレのモノだろう? お前はアタシのモノだろ?

 

 そんな、恋人の痴話喧嘩。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 刀と鞘を持ちながら。

 オレは、大の字になって倒れていた。

 

 ちっきしょ、キリが無い。

 

 幻影魔法。おそらくは『ロッソ・ファンタズマ』だろう。魔女っても使えるのかよ。むしろ、魔女ったから“再び”使えるようになったのか。

 はっきり言おう。どれが『本体』か解らないんだよ。

 しかも『幻影』でありながらも『実体』を持ってるんだから、性質が悪い。幻だからと無視すれば、後ろからグサリである。オレじゃなかったら死んでるね。

 しかし、まずい。こっちの魔力は無限じゃないんだ。

 全身のバネを用いて飛び起きると、オレは一度、日本刀を鞘に納め、左手の<部位倉庫(Parts Pocket)>へ。

 そしてオレは、右手の平の<部位倉庫(Parts Pocket)>から

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソウルジェムを取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初は、ただの思い付きだった。契約者にとって、絶望を産む切っ掛けにもなりうる、魔法少女システム。

 自分の為に生きるオレは当然、このシステムも自分の為に活用しなければならない。

 そんな時の、ふとした思い付きだった。

 

 【SG(ソウルジェム)を<部位倉庫(Parts Pocket)>に収納しとけば、オレ、無敵じゃね?】

 

 問題点、不安点は当然あった。

 

 SG(ソウルジェム)が今現在、どの程度穢れているのか、把握できない事。

 収納した状態で、自分がどれだけ“肉体を操作出来るのか”という事。

 

 なによりも。

 

 <部位倉庫(Parts Pocket)>の特徴にこそ、問題があった。

 

 

 

 “倉庫内の時間が止まっている事”

 “異空間と思われる倉庫内が、コントロール範囲外の可能性”

 

 

 収納した瞬間、意識が途切れてしまったら。オレは二度と目を覚まさないだろう事は、容易に仮定出来るのだ。

 しかし、それを乗り越えられたのなら。

 

 結果として言えば、オレは賭けに勝った。<部位倉庫(Parts Pocket)>にSG(ソウルジェム)を収納した状態でも、オレはオレのままだったのだ。

 

 考えてみれば、当然でもあった。

 オレが、オレだけの為に願い、オレだけの為に叶った結果の、オレだけの為の魔法。

 大前提として、そんなオレの魔法が、オレの為にならないはずがないのだ。

 

 オレは、外的要因で死ぬ事は無くなった。

 美国先輩との戦いで、平然と“死”に向かえた理由がこれだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 右手の上に乗る、オレの魂の結晶。緑の義眼。

 ゆっくりと、その形状が変化する。

 台座付きの宝石へと。

 

 魔法少女と魔人の違いなのか。オレの宝石は卵型ではなく、菱形だ。

 あの孵卵器(ナマモノ)の事だ。

 魔法少女と魔人の名称の違いのように。

 【魔女に成る者】と【魔獣に成る者】の区別として、物質化の際に形状を変えてるんだろう。

 魂を物質化しているのはインキュベーターなんだから、それぐらいやってても不思議じゃない。

 

 知ったこっちゃないがね。

 

 続けて取り出したGS(グリーフシード)SG(ソウルジェム)を浄化し、魔力回復。スッキリ。

 

 用済みとなった“同胞の成れの果て(グリーフシード)”を傍らに放り捨てる。

 魔女に成る前。魔法少女だった頃。どんな希望を持って。どんな絶望に押し潰されたのか。

 知る術がない以上、オレにとっては“生きる為の餌”でしかない。素敵に狂ってますね。知ってますよ。

 

 SG(ソウルジェム)を義眼に戻しながら、オレは再び日本刀を左手に取り出す。

 そこで気付いた。行進していた使い魔の一人が、近づいてきてる。なにさ?

 

 使い魔は、オレに襲い掛かる訳でもなく、オレが投げ捨てたGS(グリーフシード)の前に立ち。

 火を噴いて、GS(グリーフシード)を破壊した。火、噴けるんだ、キミ。

 その際、不自然に首が長くなっていた。伸ばせるんだ、首。

 用事が済んだのか、その使い魔はオレに何かするでもなく、行進する列に戻っていった。オレに対してなにもせんのかい。

 

 なんとなく。オレは眼帯を右手の<部位倉庫(Parts Pocket)>に収納し、入れ替えるように右目()を収めた。

 あるがままの自分で、なんて。そんな不似合いな感傷でもあったのかもしれない。

 久しぶりに“あるべき場所”に収まった“(ソウルジェム)”は。

 久しぶりである事なんて“知ったこっちゃない”って感じで、違和感無く収まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、全ての音が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 過程も仮定もいらない。原因も結果もどうだっていい。ただ、オレには()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 オレには見えている。【彼女】が見えている。

 

 居合いの構えをとる。左足を引き、日本刀を腰に添え、右手を柄に。

 基本的に、右目が使い物にならないオレが、逆手居合いを用いる理由がこれ。

 一般的な居合いの構えは、右目が前になるからだ。

 

 しかし、今のオレには見えている。

 

 抜き放とうとする、オレの右手は順手。逆手ではなく、順手。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オレには見えている。二体の『幻影』と【彼女】が。

 白い馬に跨り、煌びやかな衣装を着て、長槍を携える【佐倉杏子】が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オレには見えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

終焉 それはあまりにも残酷で



終焉 それはあまりにも当然で




終焉 それはあまりにも優しい









終焉 それを告げるは 終の太刀


百四十三章 無風















TIPS 群雲琢磨の勘違い WTMk-Ⅱ2nd

やあやあ、遠からん者は音に聞け、近くば寄ってケーヤクしてよ!!
みんなのドメスティックバイオレンス、キュゥべえだよ!!

前回のつづきを全開でいくからついてきてね? 無理? ならボクとケーヤクすればモーマンタイだよ!! 今ならソウルジェムをギミック付にする特典もつけちゃう❤



<電気操作(Electrical Communication)>が“魔法”ではなく“細胞発電能力”によるものならば
いったい“固有装備”の能力はなんだろう?
そもそも“両手袋と両足ブーツ”が魔道具なのかどうか?

さあ、みんな!! 思い出してみよう!! 無理? ならDVDを購入して、資金を提供してよ!! Blu-rayだと、もっと嬉しいな!!!!

“魔道具の使用は、変身しなくても可能”なんだよ!!

原作アニメで、マミがお菓子の魔女結界内で、ほむほむをリボンで拘束したのを覚えているかい?
あの時、マミは変身してはいなかったよ QEDならぬ、QBEだね!! ボクです!!




では、琢磨の魔道具はなんなのか? それを解き明かすのは当然、琢磨の魔法さ!!
それは、今回の話でも、大活躍だった魔法

そう!! <部位倉庫(Parts Pocket)>だよ!!

以前のように、幕間から抜粋して、要点を【】しよう!! 喜べ!!




Lv.1 部位倉庫<Parts Pocket>

収納技能
体の一部分と異空間をつなぎ、道具を収納する魔法
収納出来る物の大きさに規定はないが、【基本、一箇所にひとつ】
【例外として右の手の平だけは、収納数無限】






はい、おかしい話がだいぶ

例外? 自分の魔法に? 自分の願いが生み出した魔法に? 例外?
さすが、たくちゃんってば、い☆ぶ☆つ★


では、同様の能力を持つ魔法少女を思い出してみよう!! ほむほむぅぅぅ!!

盾の中に、あらゆる物を収納する魔法少女 『収納の盾(スクード・ディ・ストカッジョ)』を持つ魔法少女だね!!

時間と空間は、密接な関係性を持つから、そこに疑問点なんてあるわけないけど

“時間停止”を使用する魔法少女の魔道具は“空間を操作して、道具を収納する”

その点が、たくちゃんにも当てはまるわけさ!!

何故、右手の平だけが、収納数無限なのか? それは『右手袋こそが魔道具』だからって事になるのさ!!

えげつないのは、それが“魔道具の能力ではない”と勘違いしているたくちゃんだよね
『右手での収納が可能なら、左手でも可能じゃね?』
『体の一部を出入り口に、収納出来るんじゃね?』
そんな勘違いが<部位倉庫(Parts Pocket)>を形作ったわけさ

すなわち

右手の平の“収納魔法”は固有装備の能力である
それ以外の“収納魔法”は固有装備の模倣である

<部位倉庫(Parts Pocket)>という“ひとくくり”でありながら、その本質は別
さっすがたくちゃんだ!! そこに痺れたりしない!!



右手の平以外を“別空間をいう名の見えない袋”だとすれば
未変身時の右手の平は“魔道具への出入り口”だから、収納数無限の状況が変わらないってわけさ!!

そうした“空間操作”が、その能力を開花させた それが<一部召還(Parts Gate)>だね
体の一部を出入り口にするのではなく、体の一部を空間から抜き出す
勘違いから、ここまで能力を発展させるんだから、たくちゃんってば


い・ぶ・つ❤















これだけの勘違いを、そのままに発展させる
それこそが、群雲琢磨の魔法特性

重要なのは、本編の群雲琢磨が【勘違いに気付いていない】事だよね

次のTIPSで、群雲琢磨の魔法特性である“無法”を解説するよ
















無法 すなわち















  法  則  を  無  視  す  る  魔  法


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百四十三章 無風

「聞いてもいいかい?」
「本当に、質問が好きだな、ナマモノ」
「知識は、多い方が都合がいいからね」
「そんなもんか。
 で、なによ?」
「何故、抜刀術の名前に“風”を入れてるんだい?」
「割と、どうでもいい質問だったっ!?」
「そうかい?」
「特に、大きな理由がある訳でもないけど。
 電気と風って、接点がないじゃん?」
「ただの皮肉って事かい?」
「そ」
「わけがわからないよ」


SIDE out

 

 一瞬の出来事だった。

 赤い結界に阻まれ、介入する事が出来ない巴マミにも、キュゥべえにも見えなかった。

 

 残されたのは結果だけ。『幻影』の一人が細切れになったという結果だけ。

 

 

 

 

 群雲琢磨の中で、何かが変わっていた。或いは、何も変わってなかったのかもしれなかった。

 ただ、群雲琢磨には見えているだけ。愛しの【彼女】が、見えているだけ。

 

 人の五感は、脳が支配する。脳が受け取る電気信号が、五感を司る。

 故に存在する“自分だけの世界”が、今の群雲の全てだった。

 たとえそれが“現実とは異なる事実”であったとしても。群雲琢磨は言うだろう。

 

 知ったこっちゃない、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 例えば、林檎なんてどこにも無いのに【林檎がある】という電気信号が脳に届いたら。

 本人には【林檎が見える】事になる。どこにも、ありはしないのに、だ。

 今、群雲琢磨が【見て】いる【佐倉杏子】は、その類のモノなのか?

 それでもやはり、群雲琢磨は言うだろう。

 

 知ったこっちゃない、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 残った『幻影』を消して【佐倉杏子】は馬上で構えた。それに呼応するかのように、群雲もまた、構えを変えた。

 左手に持つ、鞘に収まった日本刀を地面と平行になるように横向きにしながら、その左手を前に突き出す。

 右手は柄を握り、目と同じ高さで正面に。

 

 決着の時。

 

 先輩魔法少女と、孵卵器が見守る中。

 

 逢瀬が、ついに、終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 馬を走らせ、迫る【佐倉杏子】に対し、限界まで動かなかった群雲。

 交差は一瞬。

 瞬きをする程度の一瞬で【二人】の位置は入れ替わっていた。

 

「あ……あぁ…………」

 

 その“惨状”に、マミは言葉にならない音を漏らす。

 

 順手で刀を抜き放った状態で静止する群雲。その体の中心には“穴”が開いており。

 いつの間にか、逆手に持ち替えていた魔女の長槍。その先に刺さるのは、未だに鼓動を続ける“心臓”だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだな、名付けるのなら」

 

 体に穴が開いたまま、群雲はゆっくりと姿勢を正し、告げた。

 

「終の太刀 無風」

 

 その言葉とほぼ同時。魔女の体が炎に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 速さで言えば、圧倒的にオレの方だった。

 繰り出した『無風』は確実に【彼女】を捉え、そのまま通り抜ける、筈だった。

 

 オレの方が速い。そう判断したんだろう【彼女】は、長槍を逆手に持って、後ろに突いた。

 結果、オレは後ろから貫かれる事になる。

 だが、構わず前進したオレは、見事に心臓を置き去りにしてしまった。

 いや、死なないけどね。まさか心臓持って行かれるとは思わず。やっぱ【彼女】は強い。

 

 ゆっくりと振り返った先。

 オレの心臓を大事そうに胸に抱える【彼女】がいた。

 

 汚れるだろうに。

 そんな事を思いながら、炎の中にいる【彼女】に見惚れてしまうのだから、たまらない。

 ふと【彼女】と視線が繋がる。左手で心臓を抱えたまま、右手でオレの方を指差す。

 その指の先を辿ったら、オレの持つ日本刀。

 

 その刀身が【黒】になっていた。

 

 いや、なんでさ? 柄の白に黒の刃。なんで刀身が変色してるわけ? なにかしたか、オレ?

 

 考えようと思ったが、それよりも重要な事がある。

 オレは視線を【彼女】へと戻した。

 日本刀も気になるが、オレにとっては【彼女】が最優先。

 

 再び繋がる、オレ達の視線。

 

「しょうがない奴だなぁ」

 

 そう言いたげな表情で、杏子は苦笑した。いや、人の心臓を大事そうに抱える貴女も相当よ?

 きっとオレも、杏子と同じような表情をしてるんだろうな。

 

 体に穴が開いてるオレと、炎に包まれている杏子。

 見つめ合っていた時間はどのぐらいだっただろう?

 長かったような気もするし、短かったような気もする。

 最後に、杏子は笑顔で手を振ると、オレに背を向けた。

 炎に包まれ、消えて良く杏子を、オレは最後まで見届けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと、気がつけば教会の中。いかん、放心してた。

 オレは、ゆっくりと刀身が黒になった日本刀を鞘に納める。

 

 次の瞬間、鞘が粉々になった。

 

 ぇー、何それ~? 鞘ってのは刀身を納める物でしょうがよ~。

 刀身が黒になった影響か? どうすんだよ、この危険物。

 

 とりあえず、右手の<部位倉庫(Parts Pocket)>にでも入れておくか?

 流石に“彼女を殺したモノ”を手放す気はないぞ?

 

 そう思った次の瞬間、オレの横に奇妙な“空間”が出来た。

 ワームホール? とでも言えばいいのだろうか?

 向こう側がまったく見えない、丸い“穴”が、オレの横に出来ていた。

 

 ここに入れろってか?

 

 日本刀を半分ほど突っ込んで、手を離す。ゆっくりと日本刀が吸い込まれて行って、最後に“穴”が閉じた。

 ……ぇー。これが“鞘”なのかー?

 検証、考察を重ねるべき事が増えた。マジカ。オレ、こう見えてかなり忙しいのに。

 

 見渡せば、荒廃した教会の中。すでに“結界”は無い。当然のように“彼女達の抜け殻”もない。

 替わりにあるのは、グリーフシード。愛した彼女の成れの果て。

 手放さないよ? 手放すはずがないだろう?

 GS(グリーフシード)を拾い、オレはそのまま右目に押し当てる。

 右目はオレのSG(ソウルジェム)。浄化して、魔力を回復させる。

 浄化を終えて、オレは手に持つGS(グリーフシード)を見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コレヲ孵化サセタラ、モウイチド彼女ニアエルヨネ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うん、清々しいほど狂ってますね、オレ。【彼女】に<部位倉庫(Parts Pocket)>に来て貰い、オレは入れ替える形で電子タバコを取り出し、口に咥える。

 

「さて、と」

 

 深呼吸した後、オレはゆっくりとした足取りで、先輩達の元へ。

 考える事を放棄したのか。考える許容量を超えているのか。

 巴先輩は呆然とした状態で、オレを見て。

 

 唐突に倒れた。

 

 あれ? 気絶?

 

「体に穴が開いてる人間が、平然と近づいてきたら、こうなるんじゃないかな?」

 

 ナマモノの言葉に、オレは“修理”をしてない事を思い出した。どんだけ【彼女】がオレを占めていたのか。

 

「やれやれ。

 未だに問題は山積みか。

 まいったねぇ」

 

 言いながら、オレはいつものように。或いはいつも以上に。口の端を持ち上げた。

 今、オレが笑えるのは、きっと。

 

 【彼女】を【オレのモノ】にしたからだろう。

 

 自分の中の“留め金”が、外れていく感覚を味わいながら。

 オレは、変身を解除した。




次回予告

ひとつの戦いが終わっても

物語は終わらない 終わらせる訳にはいかない





まだまだ





絶望に彩られるのは、これからだ






百四十四章 二人は、もう、いない















TIPS 魔法特性【無法】

イヤッッホォォォオオォオウ! 感想の方で、何故か個体名が決まっていたよ!!
ハイテンションキュゥべえ改め、ハジヶえだよ!!
賛辞をするなら、ケーヤクしてね!!



さあ、今回はたくちゃんの魔法特性を解説しよう!!
と言っても、ようはそのままなんだけどね!!
法則を無視する魔法 それが【無法】

全てに対し、平等に流れる『時間』の法則を無視し、自分の時だけを動かす<オレだけの世界(Look at Me)>

<電気操作(Electrical Communication)>も、根底にあるのは、人間が持ちえない“発電器官”によるもの
これは『人間』の法則を無視していると言えるね

<部位倉庫(Parts Pocket)>は当然『空間』の法則を無視しているわけさ

QEDならぬ、QBEだね!! だからボクだって言ってるでしょぉぉぉぉぉ!!!!


本来の法則を無視し、自らの望むモノを貫き穿つ
さっすがたくちゃんだ!! もちろん憧れないよ!!!!


だ・け・ど♪

ボク達がたくちゃんを【異物】と呼ぶ要素は こ れ で は な い
本編でも、何度か言ってるけど、たくちゃんってば【前例の無い事】をやっちゃってるんだよね
これに関しては、本編内で明かされるだろうから、期待しているといいよ!!































焦らしプレイ❤ いい言葉だよね❤


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百四十四章 二人は、もう、いない

「考えたんだけれど」
「なんだ、ナマモノ?」
「ここにハジヶえを呼べばいいんじゃないかな?」
「おい、やめろばか」


SIDE 群雲琢磨

 

 帰ってきたオレ達は、三角のガラステーブルの前に座る。

 一辺に巴先輩。一辺にオレ。もう一辺にいつも座っていた二人は、もう、いない。

 

「そうだわ。

 紅茶、淹れましょうか」

 

 若干震えた声で、巴先輩は立ち上がった。

 それに続く形で、オレも立ち上がる。向かうのはベランダ。

 “流れ”だけは、いつも通りなんだけど、な。

 

 電子タバコを咥えて、いつものように深呼吸。でも、オレの視線の先。三角テーブルには、誰もいない。

 二人は、もう、いないのだ。

 

 しばらく後、いつもより時間が掛かったが、巴先輩が紅茶の準備を終える。

 

「あ……」

 

 当然のように用意された“四人”分。

 

「太るよ?」

 

 茶化すつもりで言った言葉も、巴先輩には届かなかったようだ。一層暗い表情で、()()となった分を片付ける。

 テーブルの前に戻り、オレ達はゆっくりと紅茶を口に運ぶ。

 

「いつもと同じ紅茶のはずなのに……。

 あまり、美味しくないわね」

 

 同感。だが、声に出すのは控えておく。オレにしてみれば、これからが大変だからな。

 

 

 

 

 

 

 【では、闘劇をはじめよう】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE out

 

「琢磨くんは知っていたのね。

 魔法少女が、いずれ魔女に成る事を」

「【知っていた】【そして】【極力黙ってた】」

「何故?」

「【知ったとしても】【なにも変わらないから】【魔法少女が魔女に成る事】【それを】【覆せる訳ではないから】」

 

 魔法少女システム。知っていても。知らなくても。

 事実には、まったく影響しない。

 故に、群雲は黙っていた。誰にも言うつもりはなかった。

 その事実を知る事が“マイナス”にはなっても“プラス”になるとは、考え難かったからだ。

 それを証明するかのように、魔法少女システムを知っていた杏子は、()()()()()()()のだ。

 

「そう……私だけが“蚊帳の外”だったのね」

「それは違うんじゃないかな?」

 

 自虐的なマミの言葉を、いつの間にか現れたキュゥべえが訂正を加える。

 

「マミもまた“魔法少女”だからね。

 完全に無関係とは言えないよ」

 

 無関係であるはずがない。マミもまた魔法少女であり。

 魔女になる結末が、充分に在り得るのだから。

 

「【それはそれ】【これはこれ】【そんな風に割り切れるのは】【オレぐらいだろうね】」

 

 それもまた、群雲琢磨の異常性。擦り切れた精神が現実を【軽い】ものに削ぎ落とす。

 

「……何が目的なの?」

 

 ゆまの死。杏子の魔女化。もはやマミには“信じられるモノ”はない。

 

「宇宙の延命さ」

 

 だから、キュゥべえの“目的”が、あまりにも“遠い”のだ。

 

「魔法少女が魔女になる。

 その際に発生するエネルギーは、エントロピーを凌駕するんだ。

 それを回収し、宇宙の延命にあてる。

 それが“孵卵器”である、僕の役割さ」

 

 だから、キュゥべえの“言葉”が、あまりにも“無為”なのだ。

 

「できるなら、ゆまも“魔女に成ってほしかった”のだけどね」

 

 だから、キュゥべえの“存在”が、あまりにも“非情”なのだ。

 

「誤解をしないで欲しいのだけど」

 

 だから、キュゥべえに銃を向けるのは、あまりにも“当然”だったのだ。

 

「僕は別に、君達を不幸にしようだなんて考えて、動いている訳ではないよ」

「その言葉を……信じられるわけないじゃない!!」

 

 涙を流しながら、小型のマスケットを向けるマミと、決して変わる事のない孵卵器。

 紅茶を飲みながら、魔人はその様子を見届ける。

 

「考えてもみてごらん?

 僕は“希望”を。

 君達の“願いを叶えた存在”だよ?

 不幸にする為ならば、そんな事をする必要がないじゃないか」

 

 人類と孵卵器。その決定的な違いは。

 

「もしも“契約”が不幸を産んだのなら。

 それは僕ではなく、君達“魔法少女”の問題だ。

 願いを叶えた後の事柄まで、僕のせいにしないでほしいな」

 

 孵卵器。インキュベーターが“感情”を持ち得ない事。

 そして。

 

「君達はいつもそうだ。

 魔女……すなわち“魔法少女の犠牲”の上に成り立っている生を考えず、身近な存在の死に心を掻き乱す」

 

 それ故に“心を痛める事”の重要性が理解出来ない事なのだ。

 

「マミは、生きたいと願った。

 僕は、それを叶えた。

 君の願いの上に積み上げられた“同胞”の犠牲を考えてみなよ。

 それに比べれば“仲間”が二人、いなくなったぐらい、大した事じゃないだろう?」

 

 ただでさえ。状況に置いていかれていたマミは。

 孵卵器(インキュベーター)の言葉が、情報を得る為に必要な事であり。

 

 その情報が、マミを追い詰めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………そうね」

 

 手にした銃を置き。マミは俯いて、呟く。

 

「ただ一人、生き残る事しか願えなかった私が、今更なにをって話よね」

「【クチ】【挿ませてもらうぜ】」

 

 それまで黙っていた魔人の【闘劇】がはじまる。

 敵は当然【自分以外(マミも含まれている)】。

 

「【巴先輩が】【何も言えないのなら】【家族が死んでいる事を理解した上で】【自分の為にだけ願った】【オレの立つ瀬がないんだが】」

 

 顔を上げたマミが見るのは、白い眼帯をした白髪の少年。

 

「【勘違いをしちゃいけない】【オレ達は願いを叶えた】【その先にある不幸を】【()()()()()()()()()()()()()()()()】」

「契約をした先の現実を受け入れないのかい?」

「【黙ってろよ】【下等生物】」

 

 孵卵器をもってして。異物と称される存在。

 未来予知をもってして。(しかばね)と称される存在。

 

「【大前提として】【なんで】【現実なんざ】【受け入れなきゃならんのさ】」

 

 契約前(普通の現実)こそが最悪(絶望)であった、子供の戯言。

 

「宇宙の延命とか、知ったこっちゃないんだよ」

 

 ただ、自らの為だけにしか生きられない上で。

 

「良い事がある。

 悪い事がある。

 そんな程度の“当たり前”なんざ、てめぇの契約が無くたって起こりえるんだよ!!」

 

 それでも、愛し合う事が出来た少年の生き様。

 

「勘違いするな、下等生物!!

 人類(オレ)が上!! 孵卵器(オマエ)が下だ!!!!」

 

 張り上げた声が、響き渡る。

 その言葉に込められた“意味”を“理解”したキュゥべえは。

 

「わけがわからないよ」

 

 いつものように、いつもの言葉を呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 巴マミ

 

 群雲琢磨。私の知る少年は、私の考えている以上に、色々な事を考えていて。

 群雲琢磨。私の知る少年は、私が思っている以上に、色々な事に思いを馳せて。

 群雲琢磨。私の知る少年は、私が知っている以上に、色々な事を知っていた。

 

 

 

 キュゥべえ(理解不能)に対し、正面から言葉を発する琢磨くんは。

 

 

 

 それでも、やっぱり。私の知る琢磨くんで。

 この子もまた、私を“繋ぎ止めてくれてる”んだと。

 今でも、そう思うの。

 

「僕としては、マミの」

「消えて」

 

 だから、私は告げる。

 キュゥべえ(あなた)がわからないように、私もわからないから。

 

「今は、あなたと話す事なんてない」

 

 私の言葉の後、キュゥべえは何を言うでもなく、その姿を消した。

 残されたのは、私と琢磨くんの二人だけ。

 

「【魔法少女が魔女に成る】【これは変えられない事実】」

 

 冷めてしまった紅茶をそのままに、私は琢磨くんの声を聞く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【だが】【魔女に成らなければならない】【そんな決まりは無い】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告


はじめた闘劇が、いつ終わるのか


もはや、当人にもわからない






だから、魔人もまた、同じように言うのだ















わけがわからないよ















百四十五章 約束が違う















TIPS 有頂天孵卵器ハジヶえ★ウザス































え? カメラまわってる!?
やあ、みんな!! 今日もケーヤクしてコーカイしてる?
おでんのはんぺんみたいな味がするハジヶえだよ!!

今回の話は、たくマギ作者の独自解釈だよ!!
メタい? ボクにそれを言った所で、何の意味も無いのは知ってるだろう? ウフフ






インキュベーターのメインとするのは宇宙の延命!!
その為に必要なエネルギーの回収!!
そのエネルギーの元となるのが感情!!



さて、たくマギ作者はここで考えた

( ´へ`)<どうやって、このシステムを構築したんだろう?



このシステムを構築する上で、必ず必要となるもの!!

それは、ボクでもなければ、キュゥべえでもない!!
高度なテクノロジーでもなければ、崇高な理論でもない!!!!















そう!!!! 【感情】さ!!!!

宇宙延命の為のエネルギー!! それを得る為の“素材”!!
感情がなければ、そもそもそれを“変換”する事など不可能だ!!!!

たくマギ作者の考察にして、独自解釈にして!!


❤も★う★そ★う❤










インキュベーターは、元々“感情を保有していた”
感情をエネルギーに変換するテクノロジーを発明した際、インキュベーターが“自分達の感情を元にしないはずが無い”


結果“感情を吸い尽くした”


だから、宇宙延命の為に、他の知的生命体を求めて、地球に辿り着いた



有史以前から、人類と接触しているインキュベーターが感情を“理解出来ない”のは“自分達の感情を、宇宙延命の為に使い切ったから”
インキュベーターは、感情の発生した個体を“精神疾患”として処理をする
「無駄に潰されるのは、もったいないじゃないか」とか言っちゃうのがキュゥべえだよ? ボク? ハジヶえだよ!!
無駄にしない為の処理方法が“エネルギーを得る為に、感情を吸い尽くす”のであれば?



これが、たくマギ作者の考察さ!! 孵卵器えげつないね!!
褒めてくれてありがとぉ!!!!








もう、設定解説する際、ボクじゃなきゃ駄目なふいんき(ry)だよね!!
さあみんな!! ボクの活躍が見たいのならケーヤクしよう!!
今なら、ソウルジェムを合体ロボットにする機能もつけちゃうよ!!!!


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百四十五章 約束が違う

「警告しておくよ」
「なんだよ、ナマモノ」
「琢磨じゃなくて、読んでくれている人にさ」
「いきなりメタかった!?」
「今回はTIPSはないから、ハジヶえの出番もないよ」
「しかも、割とどうでも良かったっ!?」


SIDE out

 

 マンションの一室。三角テーブルの前。絶望に翻弄される魔法少女が一人。絶望を正面から殴り飛ばす魔人が一人。

 

「【生きていれば】【死ぬ】【当然の摂理】」

 

 言葉を紡ぐのは魔人。心があるのかないのか。自分自身ですら、希薄となりつつある少年。

 

「【死】【それは不可避】【人間も】【魔人も】【魔法少女も】【魔女も】【魔獣も】」

 

 自分の事は、自分がよく解っている。それを言う奴ほど【自分の事が理解出来ていない】のだ。

 

「【不幸な事に】【死には】【色々な形がある】」

 

 だからこそ。群雲琢磨は【括弧】を付ける。

 

「【魔女化】【これもまた】【死の形】」

 

 対し、巴マミは翻弄され続けている。色々なモノに。

 それをきっと、人は【運命】と呼ぶのだろう。

 

「【だからこそ】【生にもまた】【色々な形があるのさ】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 巴マミ

 

 私は、なにをしていたのだろう? 私は、なにをしてきたのだろう?

 そんな問い掛けに、きっと意味なんて無い。

 目の前の少年なら、きっと言うんでしょうね。

 

 【知ったこっちゃない】って。

 

「【好きなように生きていいんだ】【実際オレは】【自分の為に生きている】」

「【好きなように生きていいんだ】【巴先輩がどう生きても】【誰も咎めたりはしない】」

「【罪なんて】【所詮は】【知らない誰かの決めた事】」

「【好きに生きられない清らかな生】【そんなモノよりもオレは】【罪を背負ってでも好きなように生きる】」

「【オレは】【群雲琢磨を】【一歩も譲らない】」

 

 それは、とても危険な思想。琢磨君はそれを理解した上で、その道を往く。その道で逝く。

 とても、私には真似出来そうに無い。

 

「魔法少女が魔女に成るなら、皆死ぬしかないの……?」

「【どうせ死ぬなら】【生まれてこなくてもいい】【そう言うのかい?】」

 

 価値観の違い。考え方の違い。

 私と琢磨君の、圧倒的な【世界】の違い。

 

「【魔女に成りたくない】【だから】【魔女に成る前に死ぬ】【それもまた】【形の一つ】」

「【魔法少女だけど】【戦いたくないなら】【戦わなくてもいい】【それもまた】【形の一つ】」

 

 オレ達は自由だ。琢磨君はそう言っている。

 以前にも、言われていたわ。

 “魔法少女である事に縛られている”って。

 でも、私には出来ない。そんな【生き方】なんて、出来ない。

 

「琢磨君は……どうするの?」

「【今まで通り】【変わらないよ】【オレは】【化け物になるのなら】【化け物になるまで】【群雲琢磨を続けるさ】」

 

 わかった。わかってしまった。ようやく、理解できた。

 限りなく、未来に絶望した、前向きな生き方。

 化け物になるという【未来を無視した】生き方。

 化け物になるという【事実を受け入れた】生き方。

 化け物になるという【真実を諦めた】生き方。

 それが、群雲琢磨なんだ。

 

「私には、無理よ……」

 

 魔女になんてなりたくない。化け物になんかなりなくない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無理する必要なんてない」

 

 静かで、素直な声に、俯きかけた顔を上げる。

 そこにいるのは、白髪の少年。私と共に過ごしてきた……【共に生きてきた】少年。

 

「正直、先輩に負担かけてるかなぁ~とか、思った事がないどころか有り過ぎるオレだけど」

 

 右目を白い眼帯で覆い隠す、その少年は。

 

「無理して潰れる先輩とか、笑えないモノなんて見たくないさ」

 

 自分の為と言いながらも、どこか優しい少年で。

 

「良いんだよ、先輩。

 オレが自分中心に好き勝手してるんだから。

 マミさんが、我侭言ったって良いんだ」

 

 魔法少女になった私が手に入れた。

 

「だってオレ達は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見滝原の銃闘士           なんだから。

 見滝原で手にした家族        なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE out

 

 三角テーブルの中心。そこに置かれた巴マミの魂の結晶(ソウルジェム)は、半分以上が黒く穢れていた。

 

「戦いたくないの」

 

 小型のマスケット。その銃口を向けながら、巴マミは静かに呟く。

 

「魔女だって、殺したくない。

 元魔法少女だって知ってしまった以上、もう私には魔女を殺す事なんて出来ない」

 

 震える銃口を両手で押さえながら。その瞳に涙を浮かべながら。

 

「そして、魔女にもなりたくないの。

 これ以上、私は誰かを不幸にしたくないの」

 

 出した結論は――――――――――自殺。

 それもまた【形の一つ】なのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「前に、何かの本で読んだんだけど」

 

 対して、群雲のとった行動は。

 

「自殺が最も【罪深い】らしいよ」

 

 愛用するリボルバー拳銃(シングル・アクション・アーミー)の銃口を、マミのソウルジェム()に向ける事だった。

 

「琢磨……君?」

 

 予想していなかった群雲の行動に驚愕するマミ。自らが行おうとする行動に、一切の躊躇いを見せないのは、その異常さ故か。

 

「神に与えられた命を自ら捨てる事は、神の意思に叛逆する事だとか。

 まあ、無神論者なオレに言わせれば【知ったこっちゃない】わけだが」

 

 そもそも【そういった本を読む切っ掛け】が【初恋の人】だった辺りが、この少年であるが。

 

「ま、単純にオレが笑えないってだけの【我侭】だよ」

 

 目の前で死なれるのなら、自らの手で――――――――

 確実に、群雲琢磨の“留め金”は外れかけていた。

 

 銃口を下ろすマミに対し、撃鉄(ハンマー)を下ろす群雲。

 

 しかし、しばらく待っても引き金(トリガー)が引かれない。

 やはり自分で……と、マミが考え出した頃、群雲はようやく口を開いた。

 

「うん。

 言うべきかどうか悩んだけど。

 これが“最後”なんだから。

 やっぱり、言う事にするよ」

 

 マミの魂(ソウルジェム)に向けていた視線を、マミの顔(抜け殻)へ移して、群雲は告げる。

 

「オレは、巴先輩が【魔法少女になった事】に感謝してる」

 

 完全に、予想外だったその言葉。群雲琢磨はいつだって“普通の思考”の斜め上をいく。

 

「巴先輩が魔法少女じゃなかったら。

 オレ達の道は、交わる事はなかった」

 

 大前提として、群雲琢磨が魔人に“ならなかった”としたら。

 見滝原に来る事はなかった。縁も所縁も無い場所なのだから、当然。

 そして、巴マミが魔法少女じゃなかったら。

 魔人である群雲と、接触する可能性は限りなく低かったであろう。

 事実、自分中心に生きる群雲に“孵卵器と関係を持つモノ”以外との接点は皆無なのだ。

 

「辛い事、苦しい事、悲しい事。

 挙句の果てにはこの終わり方。

 それら全てを差し引いてでも。

 オレは、巴先輩と会い、過ごしてきた今日までを、後悔しない」

 

 前向きだ。未来を見ないからこそ。群雲琢磨は前向きなのだ。

 

「ありがとう、巴マミ。

 貴女と逢えたから。

 オレはまだ、魔人を続けていられるよ」

 

 最後まで告げて、群雲は視線をSG(ソウルジェム)に戻す。

 最後の言葉は、巴マミの全てを肯定した。それに満足したマミは、瞳を閉じて、ゆっくりと息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さようなら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE (?)(?)(?)(?)(?)(?)(?)(?)(?)

 

 全ての作業を終えたオレは、ベランダに出て一服。

 吐いた煙がゆっくりと消えていくのを眺める。

 

「約束が違うんじゃないかな?」

 

 右肩に乗るナマモノが、おかしな事を言う。

 

「【うん?】【何の事だ?】」

「僕らは“取引”していたはずだ。

 琢磨も、当然覚えているだろう?」

「【取引】【()()()の?】」

「最初のだよ。

 僕が“見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)の知名度を上げる”ように動き。

 琢磨は“SG(ソウルジェム)の破壊を避ける”という取引の事さ」

「【ああ】【それか】」

 

 確かに、そういう取引はしてる。魔法少女システムを知るからこそ“他の魔法少女を人質に、オレはナマモノを一点だけ有利に動かせる”って寸法だ。

 

「【約束が違う】【その認識は間違いだ】」

「どういうことだい?」

「【らしくないなナマモノ】【契約を信条とする】【お前らしくもない】」

「説明してくれるかい?」

「【取引内容は】【正確に】【ってことだよ】」

 

 くだらない言葉遊び。オレはそこに“保険”をかけている。

 

「【オレはSG(ソウルジェム)の破壊を“()()”避ける】【そうだったはずだろう?】」

 

 そう。

 “絶対”ではない。ざまぁwww

 

「嘘を付いていたのかい?」

「【オレに】【お前に対して嘘を付く】【そんな理由は無いよ】」

 

 自分の為に生きるオレだ。SG(ソウルジェム)の破壊以外に“自分の為になる道が無い”のなら。

 オレは躊躇いはしない。だからこその“保険”だ。

 

「【巴先輩の事を言ってるんだろうが】【オレが手を下さなかったら】【先輩は自分でSG(ソウルジェム)を破壊していた】【それをそのまま放置する方が】【約束が違うだろう?】【だからオレが破壊する】【その流れにして】【時間を稼いだのさ】」

 

 ナマモノに対して【用意していた言葉】を紡ぐ。

 

「【時間稼ぎ】【当然限界はある】【結局】【オレが破壊する事になったが】【極力避けた結果】【避けきれなかった】【それだけのことさ】」

「やれやれ。

 そういう事にしておくよ」

 

 あら意外。もう少しごねるかと思ったのに。

 あぁ、感情無いんだったな、ナマモノ。

 ごねるなんて、出来るはずも無いか。

 

「【まあ】【これ以上】【見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)の知名度を】【上げて貰う必要も】【なくなったけどな】」

 

 さてさて。カードが戻ってきたぞ。ナマモノをどう酷使してやろうか。

 ま、それより前にする事があるんだけど。

 

「【それで】【もう一つの取引】【どうなった?】」

「こちらは滞りなく。

 後は、琢磨次第だよ」

「【パーフェクトだナマモノ】【問題なくこなしてやるよ】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日。見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)は【独り】になった。




次回予告

頂点に行ったのならば

後は、墜ちるだけ



奈落の底に辿り着いたなら

後は、昇るだけ















そこは、本当に頂点で

そこは、本当に底辺かい?

百四十六章 取引内容


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百四十六章 取引内容

「やあ!!
 みんな大好きハジヶえだよ!!!!」
「【カエレ】」
「どうせ、本編とは関係ないように見えて、微妙な伏線を仕込んでたりする前書きだからね!!
 ボクが登場する事によって、本編参入への足掛かりにしようと思うんだ!!」
「【カエレ】」
「ボクがここに登場すると言う事は、今回もTIPSが無いって事さ!!
 それだと、皆がかわいそうだから、こうやって登場した次第さ!!
 さあ、改めてボクとのケーヤクを考えてみないかい?
 今なら、キュゥべえとの区別なんて在り得ない、ハジヶえキーホルダーを付けちゃうよ!!」









ヽ(#・ω・)ノ┌┛)ω×)(\


SIDE out

 

「くふふふふ」

 

 深夜。公園を一人で歩く。優木沙々はご機嫌だった。

 

 見滝原の縄張りを、自らのものとして動いていた彼女にとって“黒い魔法少女狩り”はいい隠れ蓑であったのだ。

 現縄張り所有者“見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)”は有名だ。そのメンバー構成は容易に掴む事が出来る。

 リーダー“巴マミ”に近付きつつ“魔法少女狩り”と『潰し合わせる』事で、自身は安全でありながら、敵の戦力を削ぐ事が出来る。

 

 そう、優木沙々はご機嫌だった。

 だからこそ、気付かなかったのだ。

 

 【たった一手を手掛かりに】【自分まで辿り着く】【そんな】【異物が】【ある事に】

 

 公園の中、機嫌よく歩いていた沙々は、前方に見えた人影に足を止めた。

 緑色の軍服に、両手足を染める黒。総白髪に同色の眼帯。

 魔人が、真っ直ぐに自分を見つめている。微動だにせず。ただ、沙々を見ている。

 

(魔人……何故ここに?)

 

 沙々自身は魔人との面識、接触は無い。自分は“見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)”の情報から、魔人について知っている。

 しかし、魔人には沙々の事を知る術は無い筈。マミですら“沙々が魔法少女である事”を知らないはずなのだから。

 そんな沙々の考えを否定するかのように。魔人は変身姿で沙々を見つめている。

 無表情で、その瞳に何の感情も見受けられず。

 

(妙ですねぇ)

 

 そんな不可思議な状況に、沙々は無意識に一歩下がった。

 

 

 

 次の瞬間、沙々の眼前に落ちてきた一筋の光。

 

 

 

 

 その光に、沙々は足元に落ちたモノに目を向ける。そこにあったのは一本のナイフ。

 

(!?!?!?)

 

 反射的に、沙々は後ろに飛び退いた。

 無意識に一歩下がっていなければ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「【う~ん】【惜しかった】」

 

 言いながら、魔人は沙々に向かって歩き出す。殺意も敵意も無く、ただ近付いてくる魔人を沙々は凝視した。

 

(何故!? わたしを攻撃した!? いや、それ以前に()()()()()()()()()!?)

 

 

 魔人を視認してから、沙々は一度も視線を外していない。ナイフを投げる動作をしていれば、確実に気付く筈だ。

 つまり魔人は“沙々が魔人に気付く前に攻撃を開始していた”事になる。

 

「【命中してくれていれば】【多少は楽になったのに】【まあ】【やる事に変わりはないけれど】」

 

 尚も、近づき続ける魔人に対し、沙々は変身する事で対応する。

 オレンジ色をベースとした、道化師のような姿。

 

「確かに命中していれば、わたしに勝てたかもしれませんねぇ」

 

 余裕を見せる沙々に、魔人がその足を止める。電子タバコを咥える魔人に、沙々は得意気に話し出す。

 

「知ってるんですよぉ?

 魔人ってのは、魔法少女よりも劣っているんでしょう?」

 

 その通りである。

 魔人、魔法少女を契約によって生み出す“孵卵器”がそう言うのだから、そこに間違いはない。

 だからこそ、沙々は魔人を後回しにしていた。

 

「【確かに】【魔法少女よりも劣る存在】【それを魔人と呼ぶね】」

 

 対し、魔人もその事実を肯定する。自らが劣る存在である事を、この魔人は充分に理解しているからだ。

 

「くふふふふ。

 最初でわたしを倒せなかったのは、残念でしたねぇ!!」

 

 手に持つ杖を振るい、沙々は“使い魔”を呼び出す。

 その“使い魔”の特性により、公園の一角だったその場所が“結界の中”へと変化する。

 

「知ってるんですよぉ!!

 貴方が劣っている事はね!!」

 

 歪んだ景色。ツギハギだらけの空間。本来なら“同時に存在する筈の無いモノ”が同居する故か。

 

「出ておいで。

 わたしのかわいい魔女さん達」

 

 沙々の後ろ。付き従うかのように姿を現す複数の魔女。従来ならば在り得ないその光景を前に、魔人は変わらない。

 

「【なんとも】【想像していなかった光景だね】」

 

 脅威の光景の前に、変わらない自然体。その異常に、沙々は気付く事無く、得意気に話し出す。

 

「くふふ、驚きましたぁ?

 わたしの魔法は“洗脳”なんですよぉ!!」

 

 戦う必要などなかった。争う必要などなかった。

 邪魔なモノを、自らの思うがままに“洗脳”すれば、沙々に出来ない事など無かった。

 

 【自分より優れているものを従わせたい】

 

 それが、沙々の願いであり、それが沙々の根源だった。

 

「【まいったねぇ】」

 

 だが、沙々は気付かない。ここに魔人がいる事実。それが導き出す【答え】を。

 

「【どうやら】【オレがここにいる】【その異常事態を】【把握してないらしい】」

 

 その言葉に、沙々の表情が変わる。まったく見えないのだ。目の前の魔人。その真意が。

 

「【ナマモノとの取引内容にて】【オレはここまで辿り着いた】」

 

 そう、これからはじまるのだ。魔人の闘劇。

 

 否【殲滅劇(アニエンタメント)】が。

 

「【教えてあげよう】【優木沙々】【オレがお前まで辿り着いた】【その切っ掛けを】」

 

 ゆっくりと右手の人差し指を、沙々の後ろに控える魔女へと向けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

パチンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 小気味良い音を鳴らす。次の瞬間、()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【千歳ゆま】【彼女こそが】【唯一にして最大の悪手だ】」




次回予告

手繰り寄せ、辿り着いた一つの答え

独りになったからといって





繋がっていない訳ではないのだ










百四十七章 ゆまが、するはずがない


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百四十七章 ゆまが、するはずがない

「どうしよう? 困っちゃったよキュゥべえ!!」
「この勢いのまま、前書きに居座るつもりかい、ハジヶえ?」
「なぜばれたし!!」
「それで、なにに困っているんだい?」
「さすが同胞……スルー能力は天下一品……!?」
「速く、結論を言ってくれないかな?
 時間がもったいないじゃないか」
「今回はTIPSがあるんだけど」
「君にとっては、いいことなんじゃないのかい?」
「ほぼ、一言だけなんだよぉぉぉぉぉ!!!!!!」
「わけがわからないよ」


SIDE out

 

 深夜の公園。その一角を塗り潰す“複数の”魔女結界。

 洗脳魔法により、優木沙々には複数の“使い魔”が存在する。

 彼女にとって、魔女狩りはとても簡単なモノであった。

 

 洗脳して、自害させればいいのだから。

 

 ()()()()()。【―――】との相性は最悪と言えるのだ。

 

 自分の為に、肉体(自分)を道具と割り切り。

 自分の為に、思考(自分)を魔法で縛り付け。

 

 自分の為に、自分の為に、自分の為に――――――――――

 

「【在り得ないんだ】【有り得無い事なんだ】」

 

 そんな【―――】の【推理劇(ショー)】を前に、沙々は観客に成り下がる。

 

「【元々】【オレ達は】【単独行動を避ける】【その共通認識を持っていた】」

 

 それを平然と無視した【―――】は、その事を彼方に放り捨て。至った道の解説場を開設する。

 

「【それでなくとも】【佐倉杏子の為に願った】【その千歳ゆまが】【()()()()()()()()()()()()など】【ありえないんだよ】」

 

 実際、ゆまは――――に「キョーコといる」と告げている。ここでゆまが嘘を吐く理由など無い。

 

「【しかし】【現実として】【千歳ゆまは一人】【魔法少女狩りに遭う】」

 

 起きた現実。無常な事実。その【有り得た事】を否定するほど【―――】は夢見る少年ではない。

 だが、それが【真実】であるのなら。必ず其処に至る道がある。その過程を仮定する事は不可能ではないのだ。

 ゆえに【―――】は考える。ゆまが、するはずがない事をした。その真実への過程を仮定する。

 その為に、一つずつ。虚言を戯言で潰していく。

 

「【魔法少女狩り】【彼女には不可能だ】」

 

 呉キリカ。その能力は速度低下。ゆまを単独行動させる事は不可能。

 

「【白い魔女】【彼女には不可能だ】」

 

 美国織莉子。その能力は未来予知。単独行動するゆまを“知る”事は出来ても“させる”事は不可能。

 事実、――――は“美国織莉子の魔法”を判断する際に“洗脳系ではない”と結論し“未来予知”へ辿り着いている。

 

「【銃闘士】【当然ありえない】」

 

 マミは学校。杏子がゆまを一人にするはずもなく。――――に至っては暁美ほむらとの不可侵を確認した後、織莉子に殺されている。

 

「【さて】【残る選択肢は】【ひとつ】」

 

 ゆまが、するはずがない。そのたった一つから【―――】は辿り着いた。

 

「【オレの知らない魔法少女が】【手を出している】」

 

 自らが知る魔法少女に不可能ならば、自らの知らない魔法少女が可能にした。

 ただ、それだけの、当然の結論。

 

 

 

 沙々は絶句していた。柔軟を通り越し、異常とも言える魔人の思考回路。事実と言うパーツのみで構成されたプログラム。それは“居るかどうかも解らない存在”に対する攻勢へ至る。

 それを、たった一手。千歳ゆまの単独行動。これだけで。

 

「【そして】【ゆまが】【するはずがない行動】【それを可能にしたのは】【本来とは違う理で作用するモノ】【洗脳能力】【そう考えれば】【しっくり来るってわけさ】」

 

 たったそれだけで、ここまで考えられるものなのか、と。

 魔人はいつだって、斜め上に飛び上がる。

 

「【だとすれば当然】【お前の前に立ったオレが】【洗脳に対抗する術を】【発案していないはずもない】」

 

 開設された解説場は、魔人の“一手”も暴露する。

 

「【洗脳とは即ち】【先】【に】【脳】【を支配する力】」

 

 そう、発案。発展ではない。

 すでにある“機能”で、充分。

 

「【ならば簡単な理屈だ】【洗脳されるよりも()に】【脳を支配しておけばいい】」

 

 

 

 

 

 

 <電気操作(Electrical Communication)>

 

 事実、何度か“脳を操作”する使い方をしていた魔人。

 それは“自分で自分を洗脳する行為”であるとも言えるのだ。

 

 自分の為に、肉体(自分)を道具と割り切り。

 自分の為に、思考(自分)を魔法で縛り付け。

 

 自分の為に、自分の為に、自分の為に――――――――――

 

 その発展がLv2<操作収束(Electrical Overclocking)>へと収束する。

 

 その在り得ない在り方。優木沙々の天敵。

 

「【考えてもみろ】」

 

 ゆっくりと、電子タバコを咥えたまま【―――】が沙々に近づいていく。

 

「【お前がどれだけの魔女を】【自らの支配下に置こうとも】」

 

 あくまでも、自然体。ただ一点だけ違うのは、その右手が握り込まれているだけ。

 

「【魔法少女は】【魔女を狩るモノ】【魔人もまた然り】」

 

 優木沙々は間違っていた。魔法少女の使命が魔女を倒す事なら。

 

「【そして】【自分の“洗脳”の上で楽をしていたお前が】」

 

 魔法少女より劣りながらも、魔法少女と同じ“起源”で生まれる魔人に。

 

「【劣る存在と知りながら】【徹底的に自分を酷使してきた】オレに!!!!」

 

 魔女を向かわせて、勝てる道理等無いのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝てるわきゃねぇだらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 振り被り、振り抜かれた拳は。

 沙々の顔面を正確に捉える。

 その凶悪な魔人の一撃は。

 

 顔面を殴られた沙々が、その場で半回転し、顔面から地面に倒れるほどだった。

 

「【っと】【思わず】【()()()()()()()()()()】」

 

 ――――は、自身に【洗脳】を懸け直して、準備していた“技能”を発動する。

 

「【短剣思考(Knife of Liberty)】」

 

 殴られた痛みすら置き去りに、光が瞬く間に景色が反転し、気が付けば地面にうつ伏せに倒れていた沙々をナイフが貫く。

 ナイフの数は4。両手と両足を的確に貫き、地面に固定する。

 

 それはかつて、佐倉杏子がお菓子の魔女を槍で固定した時とは真逆。

 

 地面から突き出した槍が“魔女”を固定した【彼女】と。

 上から地面へと、短剣で“魔法少女”を固定した【―――】と。

 

 不思議と、沙々は痛みを感じなかった。そのせいか、沙々はひとつの疑問に辿り着いていた。

 

 【自分のSG(ソウルジェム)が、殴られ、倒れた際に奪われている事に気付かないまま】

 

「その答えは、不十分じゃないですかねぇ!?」

 

 固定されてしまった体。それに抗うように顔を上げた沙々の目に映る、独りの魔人。

 劣っているはずなのに。自分の“力”の範囲外にいる、自分の“上”に立つモノ。

 

()()()()()()!!

 ならアンタが、どうやって()()()()()()()()()()()()()!!??」

 

 沙々の疑問は、当然の事。

 【―――】は“第三者がいる”という結論に辿り着いた。

 だが“第三者が誰であるか”を知る術はない。

 

 当然だ。

 第三者を【自分の知らない】“魔法少女”だと結論したのだから。

 

 だが、それこそが重要。

 アレを【情報源】として見て【自分の為になるように】交わしたこれまでが、消化されて昇華し唱歌する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつものように。右肩に飛び乗って。絶望を糧として生を紡ぐ器官が告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕が教えたからね」




次回予告

正しい事 間違っている事


何故、正しいと言える?

何故、間違っていると決める?






簡単な事









所詮、終わってから決める


評価でしかないからだ







百四十八章 最初の一歩















TIPS 有頂天孵卵器ハジヶえ★ウザス

え? このタイトルで固定する気かい? 腹筋が候wwwwwwwwww
自己紹介の必要なんて無いかもしれないけど、平たく言えば勝手に名乗るよ!!!!















めんどうだから、やめとく















今回の解説ポイントはただ一つさ!! このTIPSの進行役にして最近人気急上昇のハジヶえが教えてあげよう!!!!!!















【】←これの名称は 隅付(すみつ)き括弧って言うんだよ!!!!












































































したらな!


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百四十八章 最初の一歩

「今回のTIPSで、前回の【】に対する補足をするとでも思ったかい?」
「しないんだ」
「このハジヶえ!! そんな容易い存在じゃない!!」
「で、いつまで前書きに居座るんだい?」
「ネタが尽きるまで!!」
「わけがわからないよ」


SIDE out

 

 異物の肩に乗って。ナマモノは沙々に当然の事実を告げる。

 

「キュゥべえ……!?」

 

 孵卵器。インキュベーター。交渉用端末機。キュゥべえ。

 異物と交わした取引に基づいて。キュゥべえは今、沙々の前に姿を現した。

 

「裏切ったのか、キュゥべえ!?」

 

 ナイフに四肢を貫かれ、地面に固定されてしまった沙々の憎悪に満ちた声も、キュゥべえは受け流す。

 

「僕は中立だよ。

 誰の味方でもないんだから、裏切る事なんて不可能さ」

「だったら!!

 なんでお前は【そちら側】にいる!?」

 

 理解出来ないだろう。そも、異星物を理解する事など不可能なのかもしれない。

 

「【ナマモノは中立だ】」

 

 そして【―――】は知っている。理解する必要など無い事を。

 

「【中立であるからこそ】【取引が成立するのさ】」

 

 取引。それは【双方に利がある】事が条件。

 突き詰めれば【それ以外は要らない】のだ。

 

「僕が【魔人】と交わした取引。

 それは【手を出す魔法少女の情報】だけ」

 

 そう。情報だけである。

 だが、それで充分であったのだ。

 この【―――】にとっては。

 

「【オレの知らない魔法少女が手を出している】【そう】【魔法少女であるなら】【ナマモノが知らないはずが無い】」

 

 そして、それは。

 【知りさえすればどうとでもなる】と。

 

「【実に見事だったよ】【洗脳を用いて場を掻き乱す】【お前は“合格”さ】」

「惜しむらくは、洗脳の“対象者”だね」

 

 魔人と孵卵器。取引により【一時的な協力関係を築いた】二つの異物が、沙々を相手取る。

 

「見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)

 この縄張りの所有チームであり、そのリーダーであるマミを最初に洗脳したのは、実に見事だったよ」

 

 手を伸ばしても、ギリギリで届かない位置に移動し、キュゥべえは沙々に告げる。

 

「リーダーの洗脳。

 それは、絶対的な保険となるだろう。

 いざとなれば“沙々に都合が良い様に、仲間達を動かして貰えば良い”んだからね。

 見滝原を自らの縄張りとする上での“最善手”と言えるね」

 

 絶対的な“観測者”であるキュゥべえ。

 そのキュゥべえをして、異物と呼ばれる存在がいる。

 そのキュゥべえをして、異端と呼ばれる存在がいる。

 そのキュゥべえをして、異常と呼ばれる存在がいる。

 

 残念(幸運)な事に、それは優木沙々ではない。

 

「だから、沙々は“間違った”んだよ」

 

 理解出来ない。四肢を貫かれているにもかかわらず、痛みを感じない事に違和感すら持たず。

 沙々には解らない。自分が【なに】を間違ったのか。

 

「【良い事を】【教えてあげよう】」

 

 キュゥべえの後ろ。僅かに離れた位置で電子タバコを燻らせながら。【―――】は更なる解説場を開設する。

 

「【見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)】【この魔法少女チームは】【すでに存在しない】」

「は?」

 

 理解出来ないだろう。

 あえて“理解出来ないだろう事柄”を羅列する事で、沙々自身の思考能力を削ぐ。

 沙々自身の思考停止を誘う。

 あぁ。なんということだろう。

 

「【お前が原因だよ】【お前がゆまを単独行動させてくれたおかげで】【ゆまは魔法少女狩りに遭った】」

 

 上から、見下(みお)ろすように。見下(みくだ)すように。その狂気に満ちた()目は、完全な【―――(パラノイア)】だ。

 

「【詳しい経緯はオレも()()()んでね】【要するに】【ゆまの(?)を切っ掛けに】【銃闘士全滅】【ってわけだ】」

 

 この魔人の性質の悪い所は、()()()()()()()【言葉遊び】()()()()()()()()点であろう。

 そして、それを最大限に利用し、異星物とすら渡り合う事だろう。

 

 言葉こそが、相互理解に最も適した行為である事。

 言葉こそが、相互誤解に最も適した行為である事。

 

 それを理解しているのだ。この【―――】(ナマじゃないモノ)は。

 

「【あぁ】【勘違いしないでくれよ】【オレは別に】【お前に(?)を与えよう】【なんて考えちゃいない】」

 

 契約に基づいた行動。それは魔人にも当てはまる。それは“常人”にとってみれば、とてもえげつない行為。

 

「【そもそも】【お前に期待する事なんて】【何一つ無いんだよ】」

 

 そして“契約者(同類)”であるからこそ。最も()()()な行為。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【同胞の成れの果てを】【玩具にするお前には】【な】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………は?」

 

 混乱極まる状況に、混沌極める情報。その果ての“結論”は、ナイフのように沙々の心を抉る。

 

「【優木沙々】【お前は】【生き延びたいのなら】【見滝原に来るべきではなかった】」

「君は、生き延びたいのなら、最初に洗脳するべきはマミじゃない。

 

 “魔女も魔法少女も等しく殲滅する魔人”

 

 【殲滅屍(ウィキッドデリート)】だったのさ」

 

 魔法少女が魔女になる。その絶望に【上乗せ】される魔人の存在。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(【お前】)は、最初の一歩を間違えた(【間違った】)んだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE インキュベーター

 

 絶望に彩られた沙々の表情。更に追い詰める為に、僕の後ろから【――――(むらくもたくま)()()、ウィキッドが告げる。

 

「【何故】【魔法少女が魔女を狩れるのか?】【魔法少女の堕ちた存在だから】」

 

 ウィキッドのえげつない所は、自分の為(目的)に対し、絶対に妥協しない点だよね。

 

「【お前が】【魔女を()()()()()()()も同じ】」

 

 今回の【取引】が自分の為だからこそ。ウィキッドはこんなにも“意識して手加減しない”んだろうね。

 

「【発展途上の雌を少女と呼ぶんだ】【魔女に成る前の()()()の事は】【魔法少女と呼ぶべきなんだから】」

 

 僕にしてみれば、何故この事実が絶望に繋がるのか、理解出来ないんだけどね。

 

「【未熟な魔法少女であるお前が】【()()した魔女を洗脳出来るのは】【当然の事なんだよ】」

 

 それよりも。

 沙々自身の能力すら“絶望させる為の糧”にしてしまうウィキッドは素晴らしいね。

 対する沙々は……随分と“白い”顔をしているね。

 

「【オレ達は】【魔女を狩れる様に造られている】【何故か?】【魔女を狩れる程の魔法少女が堕ちた魔女の方が】【強力だからさ】」

 

 そこまで言って、ウィキッドは“殴り倒した際に奪い取った、沙々の(ソウルジェム)を取り出す。

 

「【で】【だ】」

 

 そのSG(ソウルジェム)を足元に置いて。

 

「【取引内容を教えてやるよ】」

 

 “あらかじめ上空に待機させていた3478本のナイフ”を『短剣思考(Knife of Liberty)』で自分の周りに移動させたウィキッドは。

 

「【キュゥべえがオレに“手を出す魔法少女”の情報を与える】」

 

 頭の後ろで結んでいた眼帯の紐を解き。

 

「【オレが“手を出す魔法少女”を】」

 

 その緑色の右目が、爛々と輝き。

 

「【魔女に成るまで追い詰める】」

 

 最後の絶望を告げた。

 

「【双方に】【利となる取引だろう?】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【安心しろよ】」

「【お前が魔女に成っても】」

「【誰かを不幸にする前に】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【オレが】【殺してやる】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 殲滅屍

 

「【エネルギー回収は?】」

「滞りなく」

 

 改めて、右肩に乗ったナマモノの言葉に、オレは口の端を持ち上げる。

 あぁ。悪いな、なんとかっていう、元洗脳魔法少女。

 お前の使い魔(魔女)が多すぎて、お前自身が【どれ】なのか、わっかんねぇや。

 

「【まぁ】【しったこっちゃないがね】」

 

 うん。どうでもいいわ。所詮は邪魔でしかなかったし。

 

「勝てるのかい?」

 

 右肩のナマモノが、失礼な事を聞く。お前、勝てると思っているのかよ、オレが。

 

「【複数の魔女を同時に相手にして】【勝てると?】」

「無理だろうね」

 

 よし、後でシバく。シバく為には生き延びなければ。

 

「そもそも、複数の魔女が同じ場所に存在する時点で、僕にとっては想定外なんだけどね」

「【それを】【範疇に入れていないあたりが】【下等生物なんだよ】【ナマモノ】」

 

 まあ、オレの準備は終わってるからな。『短剣思考(Knife of Liberty)』で操作中のナイフが、オレの“技能”を次へと導く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『電磁砲(Railgun)

 

 弾丸を電磁化して放出する事で、通常射撃以上の効果を得る為の技能。

 

 <操作収束(Electrical Overclocking)>による電磁障壁(アースチェイン)を応用して、周りのナイフ全てを“電磁化”する。

 

 まあ、先輩の模倣でしかない辺り、自分の情けなさに閉口するけどね。

 

 電磁化したナイフを、オレは一斉に射出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「パロットラ・マギカ・エドゥ・エレクトロマグネティコ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日。独りの魔女が生まれ。

 誰かを呪う間も無く、殲滅された。




次回予告

見えているものが真実か?

見えていたものが真実か?

みているものが現実か?





イマ、ミテイルモノハなにものカ?








百四十九章 明るいリビング






















TIPS 有頂天孵卵(ry



略された!? わけがわからないよ!!!!
それでもめげる筈も無い、みんなのケーヤク促進剤、ハジヶえだおwww








じゃあ、前回からの続きで【】について解説してあちょっとやめ








































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百四十九章 明るいリビング

「ボク達の扱いに、意義を唱えるべきだとは思わないかい!!」
「君だけだよ、ハジヶえ。
 僕は本編中でも、充分に活躍しているからね」
「同胞!! そこかわって!! 割と切実に、マジで!!!!」
「なら、僕が接触していない魔法少女と関わってみたらどうだい?」
「例えば?」
「暁美ほむらとか」
「絶望の未来しかないよね! 主にボクの!!」
「絶望なのかい? いい事じゃないか」
「あ、確かに」


SIDE 【殲滅屍(ウィキッドデリート)

 

 見滝原郊外に位置する、とある教会跡。

 かつて、この場所でどれほどの悲劇が起きたか。

 知られる事なく、時は流れ行く。

 

「【未練】【かなぁ?】」

 

 まあ、未練なんだろうな。

 “行くあて”の無くなったオレが辿り着いたのがこの教会なんだから、未練タラタラなんだろう。

 

 【殲滅劇(アニエンタメント)】の後、用事を全て終わらせたオレは、あてもなく町をぶらぶら。

 もっとも、問題が全て解決したわけじゃない。白い魔女と黒い魔法少女狩り。決着をつけるべき事柄はまだある。

 あーでもない、こーでもないと思考に耽り、いつの間にか教会にいたって訳だ。

 ついでに、太陽はすでに昇っている。

 

「【まあ】【明確に殲滅屍(ウィキッドデリート)()()きっかけの場所としては】【ここ以上に最適な場所も無いか】」

 

 ボロボロのステンドグラスを見上げていたオレは、ゆっくりと瞳を閉じて。

 昨夜へと想いを馳せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE out

 

 魔女化した沙々を【殲滅】した後。ウィキッドは当然のようにマンションへ戻る。

 

「わけがわからないよ」

 

 これまた当然のように、ウィキッドの右肩に乗るキュゥべえが、いつものように首を傾げる。

 

「【わからないなら】【わかるひつようはない】【ってね】」

 

 右手の<部位倉庫(Parts Pocket)>から“掃除道具一式”を取り出したウィキッドは、いつもの【群雲琢磨】のように、微笑みながら腕捲りをする。

 

「【チリのひとかけらも残さねぇ】【灰は灰に】【Amen(エェェェェィメエェェェェン)】」

 

 奇声を発しながら、魔人は部屋の掃除を開始した。

 

 

 

 

「わけがわからないよ」

 

 ベランダから、魔人を観察していたインキュベーターは呟く。

 魔人が掃除をする理由も、そうしなければならない訳も、理解出来ないからだ。

 そして、それ以上に。

 

「気付いていないんだろうね。

 おそらくは、ウィキッド本人すらも」

 

 家具の裏どころか、天井全域に至るまで。徹底的に掃除をする魔人の動き。

 それはインキュベーターの“知る”速度を超えていた。

 

 すなわち【Lv2】のひとつ上。

 

「【Hallelujah(テェラコヤァ)】」

 

 戦闘において、否、生存において。

 【群雲琢磨】が重視したのは、攻撃力より回避力。防御力より素早さ。勝つ前よりも、負けた後でも逃げる事。

 故に、その能力、メインとなる<電気操作(Electrical Communication)>を戦闘に組み込む際に。

 

 攻撃する為の“肉体プログラム”を重視した。

 

 それは“どんな状態でも逃げる事”を前提としたからこそ。

 勝つ為ではない。負けない為でもない。

 自分の為に、最優先するべき“自分の為”に。

 

 勝敗など“自分”の前に無価値。そうでなければ“白い魔女”に()()()()為に特攻なんてしないだろう。

 

 そう、だからこそ。【群雲琢磨】は気付いていない。

 『炸裂電磁銃』も『電磁の魔弾』も、先輩がいなければ、不可能だった技能である事を。

 自らの発想であみ出したのが、守り的な発想からの『電磁障壁』だった事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Lv2<一部召還(Parts Gate)>は、SG(ソウルジェム)安全な場所(戦闘区域外)へ移動させる為だった事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だからこそ。【殲滅屍(ウィキッドデリート)】も気付かない。

 自分が<操作収束(Electrical Overclocking)>を超えている事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔人が【Lv3】に気付くのは、もうしばらく後の事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 ベランダで、一服。おや、ナマモノがいない。

 まあ、オレが掃除してる風景を見てても、建設的じゃないだろうしねぇ。

 闇に包まれたリビングを見ながら、オレはゆっくりと深呼吸。

 

 髪の毛一本すら残さず、徹底的に掃除しました。

 うん、正確に言おう。

 

 “ここで四人が生活していた痕跡を殲滅しました”

 

 四人のうち、二人は抜け殻(遺体)すら無いし、一人は寝室に安置されてるし。

 

 もうひとつは【しかばね】だしねぇ。

 

「【まあ】【自己満足以外の】【なにものでもないわな】」

 

 呟いた言葉も、宵闇の彼方へ消えていく。誰に聞かれるでもなく。誰に知られるでもなく。

 

 奥深くへと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【群雲琢磨】を【仕舞い込む】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆっくりと、左目を閉じる。右目は眼帯着用。最初から否定した光。

 もう一つの瞳を閉じれば、目の前に広がるは、圧倒的な闇。

 

 こんなにも簡単に【逢える】のに。なぜ人は闇を恐れるのだろうか?

 あまりにも【逢う事】が困難なのに。なぜ人は光を求めるのだろうか?

 

 遠すぎる光なんて要らない。すぐそこにいる闇でいい。

 神の導く光なんて要らない。ただ、共にある闇がいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「らしくないな、琢磨」

 

 ふと、聞こえてきた【声】に瞳を開ければ。

 

 明るいリビング。中央にある三角テーブルを囲む、三人の魔法少女。

 

「どう考えても、杏子の影響なんだけどね」

「あたしのせいにするなよ」

「無神論者なオレが、神を例えにするようになったのは、どう考えても杏子のせいだよ」

「そんなにあたしが大好きか」

「そんなにあなたが大好きさ」

 

 電子タバコを咥えながら。飴玉付きの白い棒を咥えながら。オレタチは笑いあう。

 

「そろそろ来ないと、紅茶が冷めちゃうわよ?」

「こなくていいよ。

 たくちゃんの分も、ゆまが食べる!!」

 

 杏子の後ろ。三角テーブルにいるマミさんと、ケーキを前に目を輝かせるゆま。

 

 

【それは】【いつか】【見たのかもしれない風景】

【それは】【いつか】【見たかったのかもしれない景色】

 

「来いよ、琢磨」

 

 差し出された手は、あまりにも優しい(愚かな)オレだけが見る世界。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “Look at Me”ですらない“Rosso fantasma”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “二度と、オレを見る事は無い”哀れな“最愛の幻想”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いけないよ」

 

 だからこそ【群雲琢磨】は言う。

 

「行けないし、往けないし、逝けないんだ」

 

 その言葉を聞いて、杏子は苦笑する。

 

「ったく。

 しょうがない奴だなぁ」

 

 それは、いつか見た彼女の笑顔。それは、最後に見たはずの魔女の笑顔。

 

 ()()()()()()()()真っ赤な嘘(彼女の笑顔)

 

「お茶会の準備をして、待ってるわね」

「はやくこないと、たくちゃんの分も食べちゃうからね!」

 

 笑顔で手を振る二人に、オレも手を振り返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、琢磨」

 

 声を掛けられ、視線を向ければ。そこにいるのは【佐倉杏子】で。

 

「あたしは、お前のモノだよな?」

 

 煌びやかな(魔女の)衣装のサクラキョウコで。

 

「オレは、あなたのモノだよ」

 

 だから、群雲琢磨は佐倉杏子のモノでしかなくて。

 

「だからお前は【殲滅屍】を?」

「そうさ」

 

 だから、群雲琢磨(自分)()モノにする(命を奪う)のは、佐倉杏子が最初で最後。

 魔女や使い魔はカウントされない。あれらは“生きている”とは言い難い。

 なぜならば。その“存在”は“異星物”により歪められた“モノ”でしかないからだ。

 

「だからお前は【ウィキッドデリート】なのか?」

「【そうさ】」

 

 魔女(ウィキッド)殺す(デリート)者。あの白い魔女は、とてもいい名前を与えてくれた。

 

 群雲琢磨はここまでだ。仕舞い込んで蓋をして、奥深くで瞳を閉じて、闇の中に沈んだ先で、愛する彼女の夢を見る。

 替わりに変わって、代わって動くは殲滅屍。群雲琢磨を守護する為に。体に住み着く(【】)殲滅屍。

 殲滅するのはただの屍。群雲琢磨ですらない、ただのしかばね。

 

「【へんじがない】【ただのしかばねのようだ】」

 

 瞳を開けば、目の前には闇に包まれたリビング。だってしかばねは、夢なんて見ないんだから。

 

「【しかし】【残念な事に】」

 

 <電気操作(Electrical Communication)>を応用し、磁力を操作。便利だねぇ。

 “内側から施錠”するのさえ、電磁障壁(アースチェイン)の応用で充分に可能。

 

「【名前が決まってないんだよね】【電磁障壁(アースチェイン)の前段階】」

 

 『電磁の魔弾』にしろ『短剣思考(Knife of Liberty)』にしろ。自分の周りに磁気を纏わす『前段階』があってこそ。<操作収束(Electrical Overclocking)>を脳に集約させる技能なら、コレは“空間”に収束させる技能。

 

「【まあ】【後で考えようか】」

 

 ベランダから、地上へと視線を向ければ。マンション前に止まるのは赤いランプの車。

 

 巴マミの遺体は、密室状態の部屋で発見される。

 他の人間の痕跡は無い。オレが消したし。

 外傷もないから、しばらく後“心不全”あたりで処理されるだろう。社会はそう出来ている。

 

 それでいい。彼女の不幸は、このウィキッドが殲滅した。赤の他人が知る必要も、術も無い。

 ここで、他に生活していた少女達がいた。その痕跡は、このウィキッドが殲滅した。知られてたまるか。

 

 だからこそ。オレは【殲滅屍(ウィキッドデリート)】でいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE ウィキッド

 

 ボロボロのステンドグラスが、辛うじて太陽の光を反射する。

 そんな光に価値は無い。しかばねはただ、腐って果てるだけだ。

 

 もちろん、そのままでいるほど【オレ】は【自分】を捨ててはいないがね。

 

 振り返る必要など無い。その言葉が決戦を告げる。

 

 

 

 

 

 

「織莉子が動いた。

 どうやら、詰める気のようだね」




次回予告

全てのモノの目的が

完全に判明していなくても


時間は進む どんどん進む





だが、その時間を止められるものが、確かにいるのだ





百五十章 来るがいい、最悪の絶望

































TIPS 有頂天孵卵器ハジヶえ★ウザス


来た! ついに来た!! 出番来た!!! これで勝つる!!!!
皆が愛してやまない、むしろ病んでるのはこのボク、ハジヶえだよ!!!!

今回は業火2本立て! あっつぅぅぅぅい!!!




一つ目は、散々引っ張った挙句、結局本編で語られちゃった【】についてだね!!

【】の名称は墨付き括弧 もうこれだけで解説が終わったようなものだよね!!





え? いるの? しょうがないなぁ(ドヤァ





元々は“考えたく無い事を考えないようにする”たくちゃんの“代替品”として“肉体を動かす=言葉を発する”たくちゃんカッコ仮
これが始まりだったね
実際、たくちゃんが“言いたくないけど言わなきゃいけない事を言う”為の存在を【住み着かせた】のは“百十五章”が最初
しかも、杏子に対してだったからね

そして、本作において、初めて【】を使ったのは、実は織莉子なんだよ!! by九十七章

だからこそ、織莉子の用いた“殲滅屍ウィキッドデリート”を、たくちゃんは【住み着かせた】わけだね!!!!

もしも織莉子が【白き髪に緑の衣装を纏いし小さき肉体に強大な狂気を内包せし白鞘の侍銃士】とか呼んでたらと思うと、あまりの芳しさに腹筋がやばかっただろうね!! チッ












続いてはもちろん、パロットラ(略)マグネ(略)だよ!!

銃使いである巴マミを相棒として、見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)だったたくちゃん
ティロフィナを模倣しやがったたくちゃんが、無限の魔弾((笑))を取り入れないはずもない!!

従来は“普段使用する銃器で使用できない”弾丸の利用法として、周りにばら撒いて電磁化 一斉掃射するLv2技能だね
短剣思考(Knife of Liberty)は磁気化したナイフを操作する技能だから、それの射撃バージョンだと思ってもらえればいいよ!!
実際、ナイフを射出する事も出来るしね!!

欠点をあげるなら、やっぱり“前準備”だね!! 周りの空間を磁気化させるだけじゃなく、ばら撒いた弾丸も磁気化しないと、射出なんて出来ないもん!!
そんな“前準備”が必要な技能ばかりを発展させちゃったからこそ、時間稼ぎの意味も込めて、たくちゃんが“戯言”を用いて、場を掻き乱すようになったんだよ?





















やったぁぁぁ! できたぁ! 全部できたぁ!! 褒めてよ琢磨くーん!!! あーっはっはっはぁ!!!!!


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百五十章 来るがいい、最悪の絶望

「TIPSを下さい!!」
「そんな、世界の中心みたいに叫ばれても、僕にはどうしようもないよ」
「解説出来なきゃ、ボクの存在価値が無いじゃないかぁ!!」
「……君、インキュベーターじゃないのかい?」
「いつからハジヶえが孵卵器だと錯覚していた?」
「違うのかい?」
「違わないけど」
「わけがわからないよ」


SIDE 暁美ほむら

 

「この放送はッ! 私とッ! 織莉子がッ! 占拠したッ!!」

 

 始まるはずだった日常は、その言葉と共に崩れ去った。

 モニターに映るのは、二人の少女。

 一人は見滝原中の制服を着ているが、もう一人は初めて見る。

 

「なに? なんなの?」

 

 モニター内の少女が言葉を発している。それを無視し、私はまどかのそばに。

 

「大丈夫よ、まどか」

「ほむらちゃん?」

 

 不思議そうに私を見るまどか。彼女を安心させられるよう、ゆっくりと頷きながら、私は以前聞いた言葉を思い出す。

 

『犯人が“この中学に在籍していても”か?』

 

 魔法少女狩り。以前琢磨が言っていたように“ターゲット不問”であるなら。

 この“行動”は、実に効率的とも言える。

 

 教室内が、魔女結界に塗り替えられる中、私は変身し、呟いた。

 偶然にも、その言葉はモニターに映る少女の言葉と重なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来るがいい、最悪の絶望」

「来なさい、最悪の現実」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE ウィキッド

 

「祈るのかい?」

 

 後ろから聞こえる声に、変身状態のオレは、振り返る事無く苦笑した。

 

「【それも】【悪くない】」

 

 祈り。いや、意思表示みたいなものだがな。

 ステンドグラスを見上げたまま、オレは両手を広げて言葉を紡ぐ。

 

「我、流転せし世界を否定する楔なり」

 

 自分の為だけに、時間を止める、それがオレ。

 

「我、照らされし光から、喜びと共に背を向ける咎人なり」

 

 世間なんて知ったこっちゃ無い。自分の為になる事に対し、妥協する気はない。

 

「我、本来の自分を捨て、抜き出された魂と共に歩む者なり」

 

 契約前の一切を捨て去り、物質化した魂を手に進むだけ。

 

「我、朽ち果てた肉体と共に、魂を仕舞う者なり」

 

 その上で、群雲琢磨ではなく【殲滅屍】として動くと決めた。

 

「我、無窮の空を舞い、幾重もの絶望を見届けし狂人なり」

 

 例え、どれだけの魔法少女(同胞)を喰らったとしても、止まる訳にはいかないのだ。

 

(オレは)、自らの為に生き、自らの為に逝く魔人なり。

 生きているとさえ言えぬ肉体は、殲滅する死体。

 死んでいるとさえ言えぬ道具は、殲滅する死屍。

 神の与えし(ことわり)を逸脱し、それでも世界を嗤うモノなり」

 

 さあ、今ここに【殲滅屍(ウィキッドデリート)】として。世界を創ったらしい神様に告げよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主よ、死にさらせ(Rock You)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【見滝原中学】【ねぇ】」

 

 これまで、秘密裏に動いていた白い魔女が、表舞台で行動を開始した。確かにナマモノの言う通り“詰める”気なんだろう。

 

 が。

 

「結局、織莉子の目的はなんだろうね?」

「【知らんがな】」

 

 右肩に乗るナマモノに、オレはあっさりと返す。そう、結局白い魔女の“目的”を、オレ達は掴めていなかった。

 

「【魔法少女狩り】【その観点で見れば】【見滝原中学を目標にするのは】【実に効率的ではあるが】」

「見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)は、すでに君一人だからね。

 しかも織莉子は“君が死んだ”と誤認している」

「【そういう意味では】【見滝原中学での行動は】【白い魔女の“真の目的”に】【沿ったものではあるのか】」

 

 或いは……。

 

「で、君はどうするんだい?」

「【ナマモノにとっても】【白い魔女は】【邪魔】【だろう?】」

「質問に質問で返すのは、君の癖なのかい?」

「【お互い様】」

 

 魔法少女狩り。これ自体がナマモノにとっては“損害”でしかない。

 しかし、あくまでもナマモノは交渉用端末機であり、実力行使に出る事はない。そんな機能ねぇしな、こいつ。

 そうなると、ナマモノが出来る事は限られる。例えば【殲滅屍(ウィキッド)】に【排除(デリート)】してもらうとか、な。

 

「【まあ】【白い魔女には】【オレを殺した責任をとってもらわないとな】」

 

 だが、オレの本来の【目的】は別にある。その【目的】の為にも、見滝原中学に向かわなければならない。

 

「【最悪】【SG(ソウルジェム)の破壊も】【視野に入れるべきか】」

「僕としては、もったいないから止めてほしいけど」

「【これ以上】【無駄にするよりは】【マシだろう?】」

「それもそうなんだよね」

 

 端的に言えば“やりすぎた”んだ。ナマモノが“美国織莉子からのエネルギー回収”よりも“美国織莉子によるエネルギーの損失”に比重を置くほどに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE out

 

 見滝原中学。その校門前にウィキッドとインキュベーターが辿り着く。

 

「【本当に】【この魔女結界は?】」

「そうだよ。

 本当に、君達は僕等の想定を覆してくれるよ」

 

 校門前に存在する、不可思議な紋様。それは“特定の存在”しか認識出来ない、結界への扉。

 そして、ここにいるのは、その“特定の存在”である。

 

「【なあ】【ナマモノ】」

「なんだい?」

 

 自らの【目的】の為、ウィキッドからインキュベーターへの【戯言(ていあん)】が始まる。

 

「【今なら】【契約し放題じゃないのか?】」

「どういうことだい?」

「【第二次成長期の少女達が今】【大量に結界に捕らわれている現状】【助けて欲しい】【その願いの元に】【魔法少女量産出来るんじゃね?】」

「なるほど」

 

 魔女結界。内部は魔女の使い魔が闊歩しているだろう。そして、それに対抗する術を持つものは限られている。

 助かる道があるのなら、確実にそれに縋るだろう。その後に用意された絶望に気付く事無く。

 

「【てなわけで】【ここからは別行動だ】」

「僕には戦闘能力は無いからね。

 どちらにしても別行動だっただろうけど」

 

 また、ウィキッドにとっても魔力回復アイテム(グリーフシード)が増える事はメリットになる。

 犠牲となる存在に対し、この二つは一切の感情を持ち得ない。

 

 それは、感情を保有しない故に。

 それは、自分しか保有出来ないが故に。

 

 肩から降りたインキュベーターが、結界内に入ったのを確認し、ウィキッドは咥えた電子タバコで深呼吸。

 

 美国織莉子。

 暁美ほむら。

 ウィキッド。

 

 見滝原中学で展開した魔女結界で。すべての“未来”が確定する。

 

 

 

 

「【では、闘劇をはじめよう】」




次回予告

全ての目的が、達成される事は無い

三者三様 その目的が

互いの目的の、障害となるが故に

果たして運命は

“誰”の目的を達成させるのか

“誰”が運ぶ命を優先させるのか



未来はまだ、不確定だ



百五十一章 世界の終末に


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百五十一章 世界の終末に

「ハジヶえ★ウザス出張版だぁぁぁ!!」
「前書きにTIPSを捻じ込むか。
 出番を確立させる為の、発想の逆転だね」
「過程や方法なぞ、どうでもよいのだァーッ!」
「で、内容は無いのかい?」
「無いよ」
「わけがわからないよ」















「って事になると、流石にひどいからね」
「あ、やるんだね」
「ハジヶえ★ウザスを否定したら、ボクの存在が否定されるもんね!!」
「で、何を解説するんだい?」
「たくま☆マギカでのサブタイトルについて!!」
「また、メッタメタな所をついてくるね」
「だって、ハジヶえだもん。
 魔法少女まどか☆マギカの、各話に付くサブタイトルは“その話の中での登場人物の台詞”からなのは、有名だと思うけど。
 知らない? 見直すために買い揃えてよ!!」
「作者、買い揃えてないよね?」
「言わないで!! 下手に買い揃えると、見るだけで休日が終わって、執筆する時間がなくなりそうだって言いながら、週一で叛逆を見てる人だから!!!!」
「わけがわからないよ」
「叛逆を見直した結果、一番好感度が上がったのがキュゥべえなあたりが、たくちゃんの生みの親」
「僕なんだ」
「間違えないでね!! “キュゥべえ”だから!! “ゥ”だから!! 小さいからぁ!!」
「え? そこ?」
「キュウべえじゃない! キュゥべえだから!! 同胞をもっと愛して!!!!」
「理解したよ、ハジヶえ。
 前書きを無駄に引き伸ばす事で、存在をアピールするつもりだね?」
「バレた!? さすが同胞!! ジュースをおごってやろう!!」
「で、TIPSはしないのかい?」
「するよ」

「サブタイトルが“作中から”なのは、原作からの演出なんだけど。
 原作と同じ言葉を流用する際に、たくマギ作者は“原作を知る人へのミスリード”を意識しているようだね。
 『第一幕 二十二章』の『ティロ・フィナーレ』は、言ってるのがたくちゃんだし。
 『第二幕 六十一章』の『化け物』は、スピンオフ作品を含めて“登場人物が魔法少女の真実を知った時に言う、魔法少女の呼称”だからね」
「わかりにくいね。非効率的だよ」
「たくマギ作者を、常識で判断しては駄目だよ」
「つまり“原作の台詞”が流用されている場合、そのまま、原作通りの流れになる筈がない。
 そういう事なんだね?」
「ギャース!! 先に言われたぁ!!!!」


SIDE out

 

 『見滝原中学で展開した魔女結界。その中を進む二人の少女。

  一人は、()()()()“暁美ほむら” もう一人は()()()()()“鹿目まどか”』

 

 

「ほむらちゃん!!」

 

 まどかの声を背中で受け止めながら、それでも暁美ほむらは止まらない。

 両手に持つ銃を巧みに操り、襲い来る使い魔を射殺し続ける。

 

「ほむらちゃん!!」

 

 まどかの声をその耳に受け入れ、それでも暁美ほむらは止まらない。

 止まるわけにはいかないのだ。

 魔女結界。そんな“危険しかない場所”から、一秒でも速く、まどかを救い出す為に。

 そう、たとえ。

 

 “視界の片隅で、使い魔に襲われ、殺されるクラスメイトがいたとしても”

 

 

 

 鹿目まどかには、選択肢が無い。

 突如、目の前に広がった異様な空間。突如、襲ってくる不可思議な物体。

 混乱し、逃げ惑うクラスメイト達の中で唯一、理性的に行動する暁美ほむら。

 彼女と共にいれば安全。そんな考えは、まどかにはない。

 ただ、自らを守ろうとするほむらに従う以外、まどかに出来る事はない。

 

 “鹿目まどかは、魔法少女ではないのだから”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『結界の最深部。そこで待つのは二人の少女。

  一人は、()()()()“美国織莉子” 一人は、()()()()“呉キリカ”』

 

「大丈夫?」

 

 心配そうな織莉子に、キリカは笑顔で返す。

 

「キミの役に立てなくなる事に比べれば、これぐらいの事なんて、どうってことないさ」

 

 織莉子と出会わなければ、呉キリカは腐って果てるだけだった。

 出会いは偶然。買い物の会計の際、財布を落としてしまい、それを淡々と拾っていた時。

 手伝ってくれた、たった一人。それが織莉子だった。

 

 それだけ。たったそれだけ。たったそれだけでよかった。

 

 幼少期。名前の似た親友が、キリカにはいた。

 しかし、その子は両親の離婚が原因で、見滝原を去った。

 

 

 “万引きの罪を、キリカに押し付けたまま”

 

 

 不幸な偶然。そう言ってしまうのは、あまりにも簡単だ。

 しかし、その簡単な偶然により傷付けられた心は、あまりにも困難だ。

 親友からの罪と傷。キリカは人を遠ざけるようになり、呼応するように人もキリカから離れていった。

 相槌だけで成立する会話になんて、興味は無かった。

 ごっこで確立する関係になんて、興味は無かった。

 なにもかもがクダラナイ。そんなクダラナイ中で、私もきっとクダラナイままに終わるのだ。

 そんな時、織莉子と出会った。

 ただ、他人に優しくされた。そんな程度の事ではなかった。

 

 キリカがお金を拾っていた。だから織莉子は一緒になってお金を拾った。

 キリカがお金を拾い終わった。だから織莉子も拾い終わった。

 キリカが立ち上がった。だから織莉子も立ち上がった。

 

「これで、全部かしら?」

「う、うん」

 

 拾ったお金を財布に収めた。織莉子が拾ったお金も、キリカは受け取り、一緒に入れた。

 

「気をつけてね」

 

 そう言って、織莉子は微笑み、去っていった。

 

 なにもかもがクダラナイ。そんなクダラナイ中で、私もきっとクダラナイままに終わるのだ。

 

 そんなキリカが見つけた光。クダラナイ世界に存在した、確かな光が、そこにあった。

 なにもかもがクダラナイ? そんなはずないじゃないか! そこにクダラナクナイ人がいるじゃないかぁ!!

 去っていく織莉子の背中。その背中に、キリカは確かな希望を()たのだ。

 

 だからこそ、呉キリカに必要なのは美国織莉子だけでいい。

 それでいい。それ以外要らない。

 美国織莉子がいる世界こそが、呉キリカがいるべき世界なのだ。

 それ以外要らない。だって、それだけがすべて。

 たとえ、キリカが死んだとしても。織莉子がいるなら終わらない。

 たとえ、織莉子が死んだのならば。キリカが生きていても、それは世界の終末になるのだ。

 織莉子以外要らない。だってそれがキリカのすべて。

 織莉子にいる世界がすべて。織莉子の望む世界が希望。

 

「織莉子がいるのなら、私は絶対に絶望しないよ。

 だって、織莉子がいなくなる事こそが、私の絶望だからね」

 

 魔法少女となったキリカ。変身したその姿が“眼帯”をしていた理由。

 それは、視力が低かったわけじゃない。世界を否定したわけじゃない。

 

 ただ、織莉子(希望)を真っ直ぐに見る為だけに。

 

 ぶれる訳にはいかない。ずれる訳にはいかない。

 一つの瞳で充分だ。光は一つで充分なのだ。

 

 だからこそ。キリカは織莉子に無限に尽くす。

 世界の終末に挑むことすら、有限の前の無限に過ぎないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『魔女結界を進む、ふたつの異物(同一人物)

  ひとつは()()()()()()()群雲琢磨 ひとつは()()()()()()ウィキッドデリート』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【迷った】」




次回予告ぅ


やあ!! 皆大好きハジヶあちょっとやめ






































次回予告

造り出されたシステム 魔法少女

造り出された存在 魔法少女

さあ 問おう 魔法少女よ

そのシステムは 魔法少女か?




百五十二章 舞台掌握























TIPS ハジヶえだおwww

 タイトルがおかしいぉぅwwwwww

 では、TIPSをはじめよう

 と、言っても、今回はたくマギ限定ではなく、作者の独自解釈の話だよ!!
 作中の謎が判明するとでも思ったかい? 腹筋が候wwwwww
 おりこ☆マギカの“別編”を知る人に対するものだから、知らない人は回れ右ぃぃぃ!!















 当初、呉キリカの特性が“速度低下”だった事に頭を悩ませていました
 “違う自分になりたい”という願いから“速度低下”が繋がらなかったから

 しかぁし!! 別編を読んだ際に目から鱗とコンタクトが落ちたのだ!!!!

 違う自分になりたい
 それは“親友を止められなかった自分を変えたい”
 すなわち

 “親友を止めるまでの【時間】を”

 えりかを止めるまでの時間が、キリカには無かった
 だからこそ、止めるまでの【時間】を稼ぐ為、キリカが得たのが“速度低下”だった

 織莉子に会うまでの【時間】が惜しかった
 だからこそ、織莉子と再会するまでの【時間】を、少しでも縮めたかった

 呉キリカの魔法が“速度低下”なのは、これが理由なのではないか

 以上!! 有頂天孵卵器ハジヶえ★ウザスでした!!!!
 リクエストは随時、受け付けているよ!!
 むしろ、リクエストしてくれないと、ボクの存在が危ぶまれるからね!!

 さあ!! ボクとケーヤクしてエネルギーになってよ!!!!


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百五十二章 舞台掌握

「わかったよ、キュゥべえ!!」
「もう、完全に前書きを掌握したね、ハジヶえ」
「聞いてよ!?」
「なんだい?」
「本編の空気をダ○ソンの如く吸引するボク!!
 このタイミングで生まれたボクが証明するのは!!」
「なんだい?」
「作者はシリアスに向いてない!!」
「あ、そこを否定するんだ」
「だから、ボクを主人公にするべきなんだよ!!」
「わけがわからないよ」















「あ、今回はTIPSは無いよ」
「なん……だと…………」


SIDE out

 

 周りの使い魔を一掃し、暁美ほむらは手に持った銃に、弾を補充する。

 その傍らで、鹿目まどかは静かに佇んでいた。

 まるで、アクション映画……或いはホラー映画のワンシーンだ。

 そこに現実感を持たせるのは“観る”だけでは決して感じる事の出来ない“臭い”だった。

 決して見る事の出来ない、しかし確実に存在する“それ”が、まどかの心を“現実”に縛り付ける。

 対し、その“臭い”に慣れきってしまったほむらに、戸惑いはない。

 

 だからこそ、二人は同じ場所にいながらも、どこまでも()()のである。

 

「ほむらちゃん……」

 

 現実以外(空想物)でしか見た事のない代物(兵器)を平然と使いこなすほむらに、まどかは語りかける。

 

「なんで……?」

「怯える必要はないわ。

 あなたは私が護る」

「違うのっ!!」

 

 それでも、まどかがほむらに“語りかける事が出来る”のは、その本質的な“強さ”故だ。

 内気で、自分に自信を持てず。それでも“誰かを想える”その本質。

 

「ほむらちゃんは、すごい力を持ってる。

 勉強も、運動も出来るし、今だって冷静で……。

 でも、違うの!! そうじゃないのっ!!」

 

 そして、自分に自信を持てないから。自分に対する“比重”が軽いからこそ。

 

「なんで私なの? なんで私だけなの!?」

 

 まどかは自分だけの守護者(暁美ほむら)に語りかける。

 

「皆いたんだよ! さやかちゃんや仁美ちゃん、他にもいたんだよ!!」

 

 だからこそ、まどかは納得する事が出来ない。暁美ほむらが“自分だけを助ける”この現実に。

 

「落ち着いて、まどか」

 

 対し、暁美ほむらは“冷静でなければならない”立場にいる。

 その存在の全てがまどかの守護者(自分以外)であるが故に。

 

「私は、何でも出来るわけじゃないの」

 

 そして、今まで一度も“成し遂げられなかった”からこそ。

 暁美ほむらもまた、自分に自信を持てない。自分に対する“比重”が軽いのだ。

 

「全てを救うなんて出来ない。

 皆を助けるなんて出来ない。

 でも、それでも。

 私は、貴方を護りたかったの」

 

 友達として、接してきた。しかし、その本質は別にあった。

 

 鹿目まどかと暁美ほむら。どこまでも()()二人。

 

 まどかを守る為、ほむらは結界魔法を発動する。

 まどかを囲う様に発生した光の輪。かつての先輩(巴マミ)が得意としていた魔法を、自分なりに使えるようにした魔法。皆を殺そうとした先輩(巴マミ)の力を、退ける為に考えた魔法。

 

 巴マミ(尊敬する先輩)に対する、自分なりの答え。

 

「ほむらちゃ……痛っ!?」

 

 ほむらに伸ばした手は、結界魔法に阻まれる。弾かれた手を、それでも伸ばしながら。

 

「ほむらちゃん!!」

 

 背を向けて、奥へと進む暁美ほむらに投げかけた。

 

「一緒に帰ろ……」

 

 背に投げかけられた言葉を、暁美ほむらは受け取る。

 

「必ず帰るわ……」

 

 あぁ。二人はこんなにも()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 殲滅屍

 

「【さてさて】【オレは後どれだけの】【遺体を見ればいいんだろうな?】」

 

 決して走る事無く。宛てなんてあるわけも無く。

 自分に襲い掛かる使い魔だけを相手にしながら。マイペースに歩みを進める訳ですが。

 いい加減、見滝原中の制服を着た遺体は、見飽きてきた。

 仕方の無い事ではあるんだけどね。

 見滝原を縄張りとした魔法少女が、もう“活動してない”んだから。

 歩きながら、オレは思考を巡らせる。

 

 美国織莉子はやりすぎた。ナマモノにとって、都合の悪い存在となった。

 つまり“美国織莉子の情報を秘匿する必要はなくなった”と言う事。

 ナマモノが持つ美国織莉子の情報を全て、オレはしっかりと保有していた。

 

「【それを踏まえても】【真の目的がわからないあたり】【白い魔女が舞台掌握してるよねぇ】」

 

 しかしながら。情報で最弱を誤魔化す魔人には、考えないという選択肢は無い。

 

「【未来予知】【絶対的なアドバンテージ】【この展開はきっと】」

 

 未来を予知したからの動き【ではない】はずだ。詰める気なのは間違いないだろうけど、あまりにも“周りを巻き込みすぎ”なんだ。

 これまで“秘密裏”に動いていたにしては、暴挙とすら呼べる一手。

 

「【それはつまり】【そうしなければならない理由が】【白い魔女にあるって事だ】」

 

 その理由。過程からの仮定はすでに終わってる。この魔女結界がその仮定を後押ししている。

 

「【オレ自身の“目的”の為にも】【白い魔女はなんとかしなきゃいけないんだよねぇ】」

 

 相手は未来予知である。これほど厄介な相手はいない。

 時間停止を用いても“時間停止した結果”に対して、的確な対応を可能にする能力。

 

 戦略、戦術の“一つ上”から一手を打てる。結果に対して、より良い過程を選択出来る。

 相手にする、その時点で“後手”なのである。オレにとっては相性最悪。

 

 <オレだけの世界(Look at Me)>の先を“先に見る”事が出来る時点で<オレだけの世界(Look at Me)>は有効打にならない。

 <電気操作(Electrical Communication)>に連なる高速移動も“動いた先”を知られているのだから、対応は容易。

 <部位倉庫(Parts Pocket)>……戦闘技能じゃねぇよ、あれ。

 

「【チートすぎるだろ未来予知】【だからこそオレは一度】【殺されちゃった訳だが】」

 

 オレには予知なんて出来ない。出来るのは【予想】【想像】【妄想】に構築された【戯言】だ。

 だからこそ、オレはそれを“武器”とする。

 

「【存在なんて虚像と同じだ】【だってオレ達は魔法少女なんだから】」

 

 あ、オレは男なんで少女じゃないけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE out

 

 見滝原中学。そこで展開した魔女結界。

 その最深部に辿り着いた魔法少女と、迎え撃つ魔法少女達。

 

「ようこそ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見滝原中学。そこで展開した魔女結界。

 

「【迷った挙句に】【校門前だと】」

 

 何故か、スタート地点に戻った、魔法少女以外(魔人)




次回予告

すでに整った舞台で

役割通りに演じる少女達は

はたして不幸か 幸福か




すでに整った舞台は

結局の所 誰も望んではいないのだから

幸なんて 存在しないのだ



百五十三章 昏い道


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百五十三章 昏い道

「ハジヶえだよ!!」
「言わなくても、解ってもらえるんじゃないかな?」
「前書きを“台本形式”にしていればよかったのにぃ!!!!」
「なぜだい?」














HK「たくマギかと思ったか? それは私のおいなりさんだ」















「なんてネタが成立したはずさ」
「わけがわからないよ」
「まあ“ハイテンションキュゥべえ”とか思い付いただけでなく、実際に書いちゃうあたりが、三剣だよね」
「作者の名前を、平然と出すのは控えた方がいいんじゃないかい?」
「ちなみに“ハイテンションキュゥべえ”でも“ハジヶえ”でも、アルファベットで表示すると“HK”になると気づいた瞬間、ボクに変態仮面属性が付与されたよ!!」
「わけがわからないにも程がある!?
 そもそも属性じゃないよね、それ!!」
「こんな感じで孵卵器を引っ掻き回せば、多少は平和になるとは思わないかい?」


SIDE ウィキッド

 

 自らの肉体からつくり出された【紅い】水溜り。

 その中心で横たわる、見滝原中学の生徒。

 

「【まいったねぇ】」

 

 その遺体の横を、SAA(リボルバー拳銃)の弾込めを終えて、クルクル回(ガンプレイ)しながら、オレは通り過ぎる。

 

「【最近】【近接戦闘ばかりだったから】【銃の腕が落ちてるかと思ったが】【そんな事はなかったぜ!!】」

 

 よくよく考えれば、<電気操作(Electrical Communication)>をメインに、銃の練習をしていれば、その動きが“プログラム化”されていても、不思議じゃない。気づけ、オレ。

 ちなみに今のガンプレイも、プログラム化されている動きだ。落とさないよ?

 そして、プログラム化されているからこそ。

 

「【今より上は】【望めない訳だ】」

 

 決められた(プログラム化した)動き。逆を言えば“それ以外の動きは出来ない”って事。

 

「【まあ】【生まれて初めて引き金を引いたら】【反動で仰向けに倒れて後頭部打ちつけた挙句】【すっぽぬけたのに何故か真上に飛んだ銃が顔面直撃するなんて】【ギャグマンガみたいな事やらかしたからなぁ】」

「ったく、なにやってんだか」

 

 【横を歩く杏子(【ただの妄想】)】と一緒に、オレは歩みを進める。

 

「【銃の反動を明確に描写する】【西部劇が無かったのが悪い】」

「西部劇に限定するなよ。

 てか、予想通りに空想からの情報メインか、お前」

「【そりゃあ】【オレですからね】」

「まあ、どんな武器を使おうとも、お前の目的は最初からひとつだけだもんな」

「【そう言うことさ】」

 

 奥から、僅かに聞こえる銃声は、オレ以外のもの。それが意味する事はひとつ。

 そりゃそうだ。()()()()()()()()使()()()なんて、限られすぎて仮定する気にもならないね。

 

 

 

 

 

 もう隣に、杏子はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 暁美ほむら

 

 結界最深部。そこにいたのは魔女ではなく、放送室を占拠していた二人組み。

 魔法少女姿となった、二人の元凶だった。

 

 

 

 カチンッ

 

 

 

「この魔女結界を解きなさい。

 貴方達が、関与しているのでしょう?」

「なんのことかしら?」

 

 平然としらを切る。そう来るのは想定内。

 貴方達の目的なんて、知る必要は無いわ。

 

 二人の足元で、()()()()()()()()が爆発し、爆風が私を撫でる。

 右手で髪を払い、私は背を向けてまどかの所へ……。

 

「はじめから、話し合うつもりが無い相手に。

 油断する私達ではないわよ?」

 

 っ!?

 

 私の()に立つ、二人の魔法少女。

 読まれてた!? いえ、時間停止に対応したのっ!?

 

「世界の終末。

 そこに辿り着く貴方が立ち塞がるのは、当然なのかもしれないわね?」

 

 白い魔法少女が告げた言葉が、私を縛り付ける。

 世界の終末。それが意味する事。

 

 すなわち ま ど か の 喪 失

 

「私は何度も繰り返し、アレを観た。

 心を押し潰す、終焉の絶望を視た。

 それを防ぐ為。

 それを避ける為。

 その果てに私は()()の本体を()た」

 

 躊躇う理由なんて無い! 私は即座に自動拳銃(ベレッタ)を抜き、引き金を引く。

 しかし、その弾丸は黒い魔法少女の鉤爪に切り裂かれる。

 

「魔法少女狩りも、それが目的だったのね!?

 この場所で、魔女結界を展開した事も!!」

 

 構わず、私は銃を持ち変えて、もう一丁取り出し、二人の魔法少女へ向ける。

 銃口を向けられているのに、平然と言葉を紡ぐのは、余裕の表れなの!?

 

「私の言う()()が、誰を指すのかを、理解している……?

 驚いた。

 貴方は“あの場所にいた貴方”なのね」

 

 そうか……!? 白い魔法少女の能力は……!!

 

()()()()()()()()()()と併せれば、貴方の能力は理解出来るわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「未来予知」

「時間操作」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 呉キリカ

 

 正直、織莉子と目の前の魔法少女の会話が、理解出来ない。

 当然だよね。私は未来なんて見えないし、知らないし、要らないから。

 織莉子が望む未来。その為に尽くすだけだしね。

 

 “私の魂が生み出した結界”

 

 それは、私以外の存在の“速度を低下”させている。

 飛来する弾丸すら、容易く目視出来るほど。織莉子を護るのに、これほど適した能力はないと胸を張って言えるね!!

 織莉子の言うように、現れた黒髪の魔法少女の能力は“時間操作”なんだろう。織莉子が言うんだ。間違いなんてない。

 でも、織莉子は“時間操作の先”を知る。その“前”から動きが遅くなっているんだから。

 

 私達が、攻撃を回避できない訳が無い。

 相手が、攻撃を回避しきれる筈が無い。

 

 迫る“攻撃”を織莉子が予知し。

 迫る“攻撃”を私が遅らせる。

 

 向かう“攻撃”を織莉子が開始し。

 向かう“攻撃”を私が遅らせない。

 むしろ、相手を遅らせる。

 

 織莉子に敵う奴なんていない。それを私が磐石なものにする!!

 

 

 

「何度、貴方は繰り返したのかしら?」

 

 相手の攻撃を回避しながら、織莉子は魔水晶を作成する。

 

「何度、貴方は繰り返すつもりかしら?」

 

 その水晶を、自分の速度低下魔法の対象から外す。

 

「貴方の歩いてきた、その(くら)い道の先。

 望んだ形があったのならば。

 今、貴方はここにいないわよね?」

「黙りなさい……!!」

 

 その上で、速度低下魔法を相手に“重ね掛け”する事で、回避行動を遅らせる。

 

「黙れぇ!!!!」

「黙るのはキミの方だよ」

 

 私の言葉と共に、織莉子の水晶が魔法少女に直撃する。ぶざまに転がる少女を見ながら、私は織莉子の傍に立つ。

 織莉子が視た未来を成立させる為、私は織莉子に無限に尽くす。

 私が無限に尽くした結果、織莉子が見た未来が成立する。

 どちらでもいい。どっちだって構わない。

 だって織莉子が、ワタシノスベテ。他人を故人にする事なんて、無限の前の有限にすぎないんだから。

 

「道が(くら)いのならば、自ら陽を灯す」

 

 倒れ付した魔法少女の前に、織莉子は悠然と立つ。

 

「未来を諦め、過去に逃げ続ける貴方に。

 未来を夢見て、未来を見続ける私が、負ける訳が無いのよ」

 

 織莉子の横に立って、私は鉤爪を振り上げる。

 ソウルジェム(本体)はどこだろう?

 まあいいや。これまで通り切り裂き続ければ、その内死ぬでしょ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 振り下ろした鉤爪が、魔法少女に届く直前。私は織莉子に迫る黒い光を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっっっっのおおおぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 完全に不意打ちだった筈だが。呉先輩は『電磁銃(レールガン)』に対応して魅せた。マジカ。

 白い魔女に、黒い魔法少女狩り。なんか、暁美先輩が倒れてるけど、知ったこっちゃない。

 最深部に辿り着いた先に、ナマモノがいないって事は“オレの仮定した過程は正解に限りなく近かった”わけだな。ざまぁwwwwww

 

 迷った挙句、入り口に戻っちゃった【殲滅屍(ウィキッドデリート)】だが。それは“進むべき道を選択”する上で、重要だった。

 そりゃそうだ。“昏い道(間違い)”が解っているなら、後は正解しかないんだから。

 

 

 

 

 

 

 さて。目的を果たして帰って寝たいんだが。軽く一年ぐらい寝てないけどね、オレ。

 どう考えても、邪魔な存在がいるんですわ。お?

 そういうわけで、まかせた!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE ウィキッド

 

 ったく。だったら出てくるなよ。仕舞われてろよ、大人しく。無理だな。子供(ガキ)だし。

 

「【さて】【オレを殺した責任】【とってもらいに来たぜ】」

 

 オレを見る三人の魔法少女。全員が驚愕の表情なのは、想定内ですよ。

 注目の的な訳だし、オレも【群雲琢磨】だし、やっぱりここは言うべきだよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                 で

 

                 は

 

                 、

 

                 闘

 

                 劇

 

                 を

 

                 は

 

                 じ

 

                 め

 

                 よ

 

                 う



















TIPS 有頂天孵卵器ハジヶえ★ウザス
















次回予告かと思ったかい? ざんねん! ハジヶえちゃんでした!!

今回は、良い太古とはひとつだけ!!


間違えた! 言いたい事はひとつだけ!!

魔法少女まどか☆マギカの二次創作についてさ!!!!



え? お前が言うなって? ボクが言わずに、誰が言うのさ!!















設定うんぬんは、どうでもいい

同胞を“キュウベエ”とか“キュウべえ”とか書いている作品は、駄目だと思うんだよ!

“キュゥべえ”だから!! “ゥ”だから!!

いまだに安定しない辺りが、同胞が重要視されてない証明だよね!!





さあ、そろそろ次回予告にいこうか

こうやって、先手を取り続けていれば、きっとボクが本編にあちょっとやめ















次回予告

未来に向かうしかない だって過去には戻れない

未来に向かうしかない だって過去には戻れない

未来に向かうしかない だって過去には戻れない

未来に向かうしかない だって過去には戻れない

みらいにむかうしかない だってかこにはもどれない

みらいにむか しか い だって こには  れ い

みら に   し     って  には

み             て


















百五十四章 喰らって


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百五十四章 喰らって

「自分の閲覧設定が当然だと思っちゃう辺り、人間って面白っ」
「いきなりメタいね」
「たくマギは“ルビ有必須”だよ!!」
「え? 今更?」
「タグに追加するべきかな?」
「むしろ最近は、ルビ表示を演出の一環としてフル活用してるからね」
「いや、それは最初からじゃないかな?」
「琢磨の魔法名が顕著だよね。
 補足的意味を込めて、幕間での設定公開ではルビを使わずに表現しているようだけど」
「たくマギを観る時は、ルビ表示を有りにして、ボクとケーヤクしてから見てね❤」


SIDE out

 

 見滝原中学。そこで展開した魔女結界は。そこに存在した命を、容易く、無慈悲に喰らっていった。

 この結界が解けない限り、命は喰らわれ続けるだろう。

 しかし、その結界を解く為に必要なのは。

 

 結界の主を喰らう事なのだ。

 

 それを、ウィキッドは熟知している。()()()()()電磁銃(レールガン)』を用いる不意打ちなんて、えげつない事を平然とやってのけたのだ。

 

 『炸裂電磁銃(ティロ・フィナーレ)』のSAA(シングル・アクション・アーミー)バージョン。

 炸裂したりしない。だから『電磁銃(レールガン)』である。

 弾丸ではなく、銃本体に準備(チャージ)する事で成立する、電磁射撃。

 しかし、本来六連射可能なところを、単発にする辺り、ウィキッドは凌がれる事を想定していた。

 相手は、未来予知の美国織莉子である。不意打ちを“知られている可能性”は充分にあり。

 それを、ウィキッドが想定していない筈もないのだ。そういう子なのだから。

 

「【さてさて】【】」

 

 【戯言】で場を掻き乱し、それに乗じて場を支配する。しかし、ここは“魔女結界”の中。

 速度低下したウィキッドに行動させる前に、速度低下していないキリカが鉤爪を振るいながら飛び掛った。

 

「【どれだけ遅くなろうとも】【どれだけ速くなろうとも】」

 

 対するウィキッドは、そんな状況も想定済み。持っていたSAAを右腰にしまい、変わりに右手の平から大量のナイフを、扇状に手にする。

 素早く、左手の人差し指をキリカに向けたウィキッドは、自らの魔法を発動させる。

 

 自らの為に対し、一切の妥協を許さないこの異物は、たった一手でアラユルモノを凌駕する。

 

「【止めてしまえば】【同じ事】」

 

 

 

 

 

 <オレだけの世界(Look at Me)>

 

 

 

 

 

SIDE 殲滅屍(ウィキッドデリート)

 

「【オレの戯言に付き合わず】【問答無用で排除する】【その選択自体は正しい】」

 

 時間の止まった世界。オレだけが動ける時間。誰も聞いていないだろう言葉を、それでもオレは紡ぐ。

 

「【だが】【それだけでは不十分だ】【(ウィキッド)殲滅(デリート)するにはな】」

 

 <オレだけの世界(Look at Me)>

 群雲琢磨の最初の魔法。自分以外の時を止める。どういう理屈が作用しているのかは、残念ながら不明。だが、それでいい。魔法とはそういうものだ。

 問題なのは、その特性。オレが触れたものは、時間が動き出す。オレの触れたものは、オレだけの世界を享受する。

 故に、時間停止中に直接攻撃する事は出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、群雲琢磨は()()()()()()()

 

 最初が駄目だった。一番最初の使い方がまずかった。時間停止中に攻撃した結果、見事に轢き飛ばされた。この切っ掛けが最低だった。自らの魔法が、自らの為にならなかった最初の結果。

 だから、群雲琢磨は思い込んでしまった。

 時間停止中には 攻 撃 し て は な ら な い と。

 

 それは間違いだ。群雲琢磨の間違いを、殲滅屍(ウィキッドデリート)が修正する。

 

 時間が止まった世界。オレに飛び掛る黒い魔法少女。

 手に持っていたナイフを無造作に離す。ナイフはそのまま、重力に従う事無く、空中で停止する。

 オレは彼女の後ろに回り、襟を掴む。呉先輩の時間が動き出す。

 

「ぐえ」

「【おせぇよ】」

 

 そのまま、全力で後ろに引き倒す。背中から地面に叩き付けられるように、呉先輩が倒れ込み、時間が再び止まる。

 

 そう。相手の時間が動き出しても安全な攻撃を行えばいいのだ。

 

 止まっているナイフを数本取り、オレは地面に仰向けに倒れる最中の呉先輩の上から、全力で投げ落とす。

 両腕、両足を狙って、全力で投げられたナイフは、先輩を貫く前に停止する。

 

「【さてさて】【狙い通りにいけばいいが】」

 

 仮に、狙い通りではなかったとしても、オレの【目的】に支障は無い。

 時間停止前の状況に、自分を持っていく。ナイフが数本減っているけど、きっと誰も気付かない。だって今、世界はオレだけのモノ。

 直後に指を鳴らせるように、世界を自分以外のものに(時間停止を解除)する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE out

 

 パチンッ

 

 そんな、小気味良い音を、ウィキッドが左指で鳴らした瞬間、状況は一変する。

 しかしその状況を、魔法少女達はまったく違う形で認識していた。

 

 白い魔女、美国織莉子。

 ウィキッドが指を鳴らした瞬間、飛び掛っていた筈のキリカが仰向けに倒れ、ナイフで地面に縫い付けられてしまった。

 

 黒い魔法少女、呉キリカ。

 速度低下の影響を受けている筈のウィキッドが、自分が認識出来ないほどの速度で後ろに回り、引き倒すと同時にナイフで貫かれた。

 「【おせぇよ】」という言葉を、キリカは確かに自分の後ろから聞いていたのだ。

 

 倒れたままの魔法少女、暁美ほむら。

 時間を操作する彼女は、ウィキッドの時間停止を“正しく認識”していた。

 

(まさか……琢磨も時間を止められるだなんて……!?)

 

 繰り返した、数多の時間。その中で、たった二回、出会った魔人。

 しかし、初めてだったのだ。魔人がほむらの前で“時間停止を行った”のは。

 

 群雲琢磨が、暁美ほむらの“時間停止”を認識出来るように。

 暁美ほむらも、群雲琢磨の【時間停止】を認識出来るのだ。

 

 そんな、魔法少女達の困惑なんて、知ったこっちゃ無いと、ウィキッドは戯言を開始する。

 

「【さてさて】【こうしてオレがここに来たのは】【当然のように】【自分の為な目的によるのだが】」

「おりこぉ!!」

 

 しかし、ナイフで地面に固定され、動く事が出来ないキリカの声が、戯言を押し潰す。

 

「ウィキッドに構うな!! ウィキッドに付き合うな!!

 そいつに良い様に動かれちゃだめだあぁぁぁぁ!!!!」

 

 その言葉で、困惑状態だった織莉子が起動する。自らの周りに、大量の水晶球を生み出す。

 それは先日、群雲琢磨を“殺した”魔法。

 

「何故、貴方が生きているっ!?」

「【知りたい?】【ねえ知りたい?】【教えてあげてもいいけど】【教えてもらう人の態度じゃないよね】【白い魔女】」

 

 手にしたナイフを無造作に放り捨てるウィキッドに、水晶球が襲い掛かる。

 

 未来予知による必中。速度低下による回避不能。ほむらを退けた戦術と戦略が、ウィキッドを襲う。

 

 ――――命中が絶対であるのなら。

 

 それに対し、ウィキッドが取った行動。

 

 ――――――――回避が不可であるのなら。

 

 それは、両手の拳による【攻撃】だった。

 

 ――――――――――――真ん前からブッ飛ばす!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大量に襲い掛かる水晶球。その全てを両手の拳で迎え撃つ。

 

(【速く早くはやくハヤク】【もっと】【もっとだ】)

 

 自らを“殺した”白い魔女の手段。それに対抗する為に。

 速度低下。その影響下において、必要な事。

 

 それが、ウィキッドの魔法を“一つ上”へと押し上げていた。

 

 その理屈は、非常に単純なモノ。

 

 【下げられる以上に、上げる】

 

 その単純すぎる理屈が、自分の時間だけを加速させる『Lv3』へ昇華する。

 

 

 

 <好きにさせてもらう(Quiclock)>

 

 

 

 

 

 片鱗はすでにあった。千歳ゆまとの模擬戦が、確かに琢磨の為となっていたのだ。

 だがしかし、残念な事に。魔人は未だに気付いていない。

 ただ、対抗しただけ。その結果の消化は、もう少し後の話。

 魔人がこの魔法を<好きにさせてもらう(Quiclock)>と名付けるのは、もう少しだけ、後の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大量の水晶球。その全てを凌ぎきった魔人。その衝撃で粉々になった両手の骨を【修理】しながら、それでも平然としている。

 対し“まったく想定していない状況”に、織莉子は翻弄されている。

 

 仰向けに倒れ、ナイフで固定されて動けない呉キリカ。

 うつ伏せに倒れ、それでも顔を上げて状況を見る暁美ほむら。

 

 予知出来なかった未来に、困惑する美国織莉子。

 仕舞われた群雲琢磨と、そこに住み着いた殲滅屍。

 

 ありとあらゆるものを喰らって、それでも世界は前に進み続ける。

 

「【では】【戯言を】【開始しよう】」




次回予告

さあ、全力で誤魔化せ

さあ、全開で誤魔化せ

さあ、全霊で誤魔化せ





魔人の戯言が、全てを最低に貶める

しかし、この魔人は誰にも止められないのだよ

何故ならば


























百五十五章 屍は殺せない


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百五十五章 屍は殺せない

「自分の閲覧設定が当然だと思っちゃう辺り、人間って面白っ」
「またかい?」
「たくマギは“前書き、後書き表示有りを水晶”だよ!!」
「ひょっとして、推奨の事かい?」
「むしろ必須?」
「それも、最初からだよね?」
「たくマギを観る時は、前書きと後書きを読んだ上で、ボクとケーヤクしてから見てね❤」















「ハジヶえ?」
「なんだい? 同胞?」
「それを前書きで言っても、無意味じゃないかな?」
「あ゛」


SIDE out

 

「【殺した筈の存在に】【手痛い反撃を受けるのって】【どんな気持ち?】【ねえどんな気持ち?】【NDK? NDK?】」

 

 戯言を披露する上での、最重要課題。それは【冷静】【自然体】を騙る事である。

 どれだけ“絶望的な状況”であっても。必要なのは【自分の為になる事】を正確に把握する冷静さだと。

 ウィキッドは理解し、躊躇う事無く実践していく。

 

「【オレを殺した】【だからそれ以上】【オレの未来を予知しなかった】【それがこの状況を呼び込んだ】【理解しているか?】【白い魔女】」

 

 その在り方。その有り方。それは、織莉子の理解を容易く飛び越える。

 

「【お前に敵とされたオレが】【お前を敵としたオレが】【本拠地とも言える美国邸に】【馬鹿正直に弱点(ソウルジェム)を持っていくと思ったか?】【プゲラ】」

 

 その上で、ウィキッドは徹底的に煽る。魔法少女に対し、最も効果的なのが“精神攻撃”である事を。この【魔法少女殺し(ウィキッドデリート)】は理解しているのだ。

 

「【さてさて】【今】【オレの魂は】【()()()()()()()()()?】」

「!?」

 

 右目にある。眼帯に隠された右目に、その魂は宿っている。

 だが、悟らせない。語り、騙り、欺き、煙に巻き、事実を虚言で塗り潰す。そんな戯言。

 それすらも【時間稼ぎ】に過ぎない魔人の【彼女】と一緒に考えた決め台詞。

 

 

 

 

 

 

 

 

「【お前に(しかばね)は殺せない】」

 

 ――ひと

 

「【だが】【残念な事に】【オレはお前の目的を】【掴めてないんだよ】【白い魔女】」

 

 ――――ふた

 

「【お前の目的が】【オレの為になるなら】【敵対する理由は無くなる】」

 

 ――――――み

 

「【お前がどんな未来を()て】【オレを敵としたのか】」

 

 ――――――――よ

 

「【そんな事は】【知ったこっちゃ無い】」

 

 ――――――――――いつ

 

「【重要なのは】【オレが】【お前を】【敵とするかどうかだ】【白い魔女】」

 

 ――――――――――――むゆ

 

「【オレがここに来た目的に】【()()()()()()()()()()()】」

 

 ――――――――――――――なな

 

「【どうする】【白い魔女】」

 

 ――――――――――――――――や

 

「【お前が呼んだ】【しかばねを前に】」

 

 ――――――――――――――――――ここの

 

「【どんな】【未来を】【望む?】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 殲滅屍(ウィキッドデリート)

 

 たり。

 

 とお()で満たされるから、たり。

 悟られないよう【戯言】でカムフラージュしながら、オレは『前段階』を完了させた。

 『電磁障壁(アースチェイン)』や『短剣思考(Knife of Liberty)』の前段階。

 オレはこれを『舞台掌握(Sparking)』と名付けて、そう呼んでいる。

 

 

 

 

 

 

 決めたばっかりだけどね!!

 

 

 

 

 

 

「【残念な事に】【インキュベーターからお前の願いを聞いて】【その能力が未来予知だと判明しても】【目的がわからない】」

 

 だが、戯言は続ける。実はすっげぇ便利だと気付いた『舞台掌握(Sparking)』は、オレの【殲滅劇(アニエンタメント)】を磐石なものにする。

 

 対し、白い魔女は……迷っているらしい。

 オレを殺した手段を、真っ向から潰され。黒い魔法少女の動きを封じられ。

 オレは知っている。時間が足りない事を。だからこその強攻策だと、過程はすでに仮定し終えている。

 

 さあ、どう動く? 美国織莉子っ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE out

 

「見滝原の崩壊から始まる、地球の壊滅と世界の終焉。

 その絶望の未来を見たら、貴方はどうするかしら?」

 

 織莉子は自らの目的を、ゆっくりと話し出した。

 もはや織莉子は、後戻りの出来ない所まで来ており、また、戻るつもりなど毛頭ない。

 その“目的”を果たす為、障害のひとつとなっている“暁美ほむら”は、無力化が可能なのは証明された。

 もうひとつ、目の前の“殲滅屍”を何とか出来れば、織莉子の求めた未来は、手の届く位置まで。

 その為の、ひとつの賭けだった。

 

「私はその未来を“予知”してしまった。

 そして、それを回避する為に必要な情報を集めた」

 

 未来の情報。その情報を無力化するには“情報が発信される前に、発信元を潰す”事。

 

「世界を滅ぼす魔女の存在を知り。

 私は未来予知を駆使して“世界を滅ぼす魔女に成る魔法少女”を知る事が出来た」

「【なるほど】【そういう事だったか】」

 

 織莉子が全てを語るまでもなく。ウィキッドはこれまでの過程から、真実へと繋がる仮定を得る事が出来た。

 電子タバコを咥え、深呼吸するように。息を整えたウィキッドが【答え合わせ】を開始する。

 

「【ゆまをはじめとして】【白い魔女がインキュベーターに素質者を教えていたのは】」

「ええ。

 その魔法少女は“まだ魔法少女ではない”のよ」

「【だから】【()の素質者を教える事で】【インキュベーターの目を逸らさせた訳だ】」

 

 世界を滅ぼす魔女に成る魔法少女。その少女が“魔法少女にならなければ”世界は滅びない。

 つまり“その少女が魔法少女になる事”が“世界の終末への最初の一歩”なのだ。

 

「【呉先輩による魔法少女狩りは】【白い魔女の真の目的が“まだ普通の少女”である事を隠すと同時に】【契約者達の目を“魔法少女”に向ける事にあったか】」

「その通りよ、ウィキッドデリート。

 “次のターゲットが自分かもしれない”と思わせる事での行動制限。

 “他の魔法少女を注視しなければならない”と思わせる事での行動制限。

 それに加えて“エネルギー回収を妨害する存在”による、インキュベーターへの警戒行動。

 一石三鳥と言えるわね」

 

 契約済みの者達への行動制限により“普通の少女を殺害しようとする”自らの目的を隠すと同時に、妨害される可能性を減らし。

 契約が無駄になる可能性を高める事で、インキュベーターを警戒させ、その行動力を削ぐ。

 そこに“未来予知”による“先行情報”を得る事で、織莉子は“今”を動かしてきた。

 

「【その上で行動に移せなかったのは】【その少女を“排除出来た未来”を】【予知できなかったからか】」

「それが最大の誤算だったわ。

 その少女を護ろうとする者がいるなんて思わなかった」

 

 世界を守る為に、少女を殺そうとする織莉子。

 その少女を護る為に、世界を越えてきたほむら。

 二人の敵対は必然。むしろ場を掻き乱したのは“見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)”の方だったのだ。

 

「9を救う為に1を捨てる覚悟。

 私は既に終えているわ。

 1の為に9を捨ててきた彼女には、解る筈も無いけれど」

 

 哀れむように、織莉子はほむらを見る。ほむらには“全てを見捨ててやり直す”という、残酷な選択肢があるが、それはほむらだけに許された選択肢。

 逃げる事無く未来を見据えてきた織莉子とは、覚悟のベクトルが違うのだ。

 

「その為に私は“最悪の魔女になる最強の魔法少女”を“魔法少女になる前”に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鹿 目 ま ど か を 殺 さ な け れ ば な ら な い !

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人を殺さなければならない。その重圧は、本人にしかわからない。

 その重圧を押しのけてでも。美国織莉子は未来を掴む。光り輝く未来を望む。

 

 

 それが“織莉子の知った、生きる意味”であったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、相手が悪かった。

 世界の終末ですら、嗤える契約者が。自分という1の為に9を捨て去る少年が。

 捨て去る9の中に、最愛の人がいても躊躇わない狂人が。

 

 初恋の相手すら、その手で殺した魔人が。

 

 最大級の爆弾を投下する。

 

「【さっき殺したけど?】」




次回予告

百五十六章 戯言
























善悪に意義なんて無くて

真偽に価値なんて持たせず

生死に意味なんて与えない



そんな、ざれごと


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百五十六章 戯言

「重要なのは“能力”ではなく“特性”でもない」
「何の話だい?」
「ボク等には、理解出来ない事だよ、同胞」
「そうなのかい?
 なら、ぜひとも君の“答え”を聞きたいね」
「重要なのは“それを用いる存在”だ。
 赤い帽子の配管工に突破できても、緑の帽子の弟では、辿り着けない桃の姫。
 それは“赤と緑は別人だから”に他ならない」
「ふむ。何が言いたいのか、伝わりにくいんだけど?」
「身も蓋もないな、同胞!?」
「本編シリアス……しかも“中心の少女”がついに表舞台に来たのだから。
 これ以上茶化す気はないんだろう? 【ハジヶえ・ザ・キョウゲンマワシ】」
「TIPSという形で、誰よりも本編に“深い場所”にいたのは、ボクだからね。
 変態仮面の略称“HK”が、ネタで終わると思ったかい?
 言った筈だよ? ボクもまた“インキュベーター”であると、ね」


SIDE out

 

「え?」

 

 それは、誰の呟いた言葉だったのか。美国織莉子か暁美ほむらか、両方か。

 ウィキッドの言葉が、あらゆるものを掻き乱す。

 

「【無駄な事をしていたな】【白い魔女】」

 

 電子タバコを咥えて一息つき、ウィキッドが【追い詰める(デリート)】の為に動き出す。

 

「【インキュベーターはすでに】【鹿目まどかを見つけていたよ】」

「なん……ですって…………!?」

「【実際には】【オレと一緒に】【だけどな】」

 

 織莉子に殺される前。群雲琢磨は暁美ほむらに会いに行った。

 その時、暁美ほむらに気取られないようにして、キュゥべえも同伴していた。

 

 ほむらを呼びに来たまどか。その高すぎる素質を、キュゥべえはすでに把握していた。

 同時に群雲もまた、その存在を認識したのだ。

 

 そう。織莉子の行動は、()()()()()となっていたのである。

 

「【ついでに言うなら】【オレが鹿目まどかを殺した事に関し】【白い魔女は一切関わってないぞ】」

 

 その【戯言】が、織莉子の心を。柱としていたものを撃ち砕いていく。

 織莉子の目標。織莉子の努力。その一切を殲滅屍は、既に喰らった後だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 美国織莉子

 

 自分の世界が、音を立てて崩れていく。そんな感覚を、私は味わわされていた。

 絶望の未来を回避する。それが私の生きる意味であった筈。

 それを、目の前の少年がいとも容易く、殲滅していく。

 殲滅し、屍を量産していく。

 

「【ああ】【あとひとつだけ】【疑問があるんだが】」

 

 暗くなりかけた視界が、殲滅屍(ウィキッドデリート)の言葉で引き上げられる。

 一切変わらない自然体で、電子タバコを咥え、その口の端を器用に持ち上げて。

 

「【鹿目まどかを殺したが】【それで本当に】【()()()()()()()()()()】」

 

 殲滅屍(ウィキッドデリート)は、ワタシノスベテを殲滅していく。

 

「間違いないわ!!

 私は魔女化した鹿目まどかが、世界を滅ぼす未来を見たのよ!!」

 

 抗うように、私は声を荒げて反論する。

 

「そこにいる、時間を操る魔法少女も、その未来を知っている!!

 それなのに、鹿目まどかを諦められない!!

 だからこそ、私はここで魔女結界を展開させた!!」

 

 時間が無いのだ。キリカが健在である内に、結果を得なければならない。

 キリカと一緒じゃなければ、私の世界は……!

 

「【だったら】【見てみたら?】」

 

 ウィキッドの言葉に、私は反射的に未来予知を発動させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が見たのは、未来。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 崩壊した見滝原。その一角に瓦礫の山。

 その山の頂点に立ち、ボロボロながらも空を見上げて。

 

 嗤う殲滅屍(ウィキッドデリート)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE ウィキッド

 

「あなたは……」

 

 顔面蒼白の“白い魔女”が、声を震わせながらオレを見る。

 どうやら【オレが仮定した通りの未来】であったらしい。残念だ。

 

「貴方は、なにをしたの!?

 いえ、()()()()()()()()()()()の!?」

 

 良い質問だ、感動的だな。だが無意味だ。

 

「【そんなの】【今のオレが知る筈ないじゃんよ】」

 

 オレにとって重要なのは“今”である。その積み重ねた先。確実に待つ【Answer Dead】に至るまで。

 オレは今を、オレの為に生きる。

 

「【ひとつだけ】【言える事があるのだとすれば】」

 

 そのために必要である事に、オレは一切妥協しない。

 そのために邪魔なモノがあるなら、オレはその一切を殲滅する。

 

「【美国織莉子は】【最初の一歩を間違えたんだよ】【なあ】【白い魔女?】」

 

 オレの言葉が理解出来ないのか、白い魔女は呆然とした表情を浮かべている。

 

「【自分が生きる意味は】【知るものではなく】【決めるものだ】」

 

 “知る”事に必要なのは、言うなれば“外側”だ。

 自分の事を“知る”のでさえ“自分以外の要因”があってこそ。

 だって、オレが杏子に惚れている事を“知った”のだって、杏子に告白されたからだし。

 よくよく思い返せば“一目惚れ”だったんだけどさぁ。

 そんな“自分を知る為”には、杏子が不可欠だったんだ。

 

「【自分の生きる意味を知ろうとした】【つまり】【自分で決める事を放棄したんだ】」

 

 最初の願いを否定する事で、オレは追い込んでいく。

 美国織莉子を【白い魔女】に仕立て上げていく。

 

「【だから得たのが“未来予知”だった】【自分で決められないのなら】【未来で知るしかないんだから】」

 

 戯言で追い込む。戯言に翻弄されている隙を突いて、オレはゆっくりと行動を開始する。

 

「【だから】【オレが教えてやるよ】【美国織莉子が生きる意味を】」

 

 白い魔女に近づきながら、右腰の<部位倉庫(Parts Pocket)>からSAA(リボルバー拳銃)を取り出して。

 

「【周りを不幸にする為だ】」

 

 くるくる回(ガンプレイ)しながら、右腕を伸ばして。

 

「【ゆまをはじめとした】【無関係な少女達を】【無意味に巻き込んで】」

 

 胸元にある本体(ソウルジェム)に銃口を向けて静止し。

 

「【呉先輩を使って】【希望に溢れていた魔法少女の】【命を無慈悲に奪い去り】」

 

 撃鉄(ハンマー)を引き起こして。

 

「【今もなお】【無関係な者達が】【魔女結界で命を落とし続けているだろう】」

 

 引き金(トリガー)に指を掛ける。

 

「【魔法少女でありながら】【まるで魔女のように不幸を撒き散らすお前の事は】【白い魔女と呼ぶべきだろう?】」

 

 

 

 未来の為。そう動いていた筈の自分。それが自分の生きる意味だった筈。

 そんな【虚構】を【戯言】で変質させる。

 

 9の為に1を捨てる覚悟。美国織莉子はそう言っていたが。

 オレには未来と言う“1”の為に、それ以外の“9”を見限っているようにしか映らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【だから】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パァン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不合格だ」




次回予告

まだ、終わらない

まだ、おわらない

マダ、オワラナイ





魔人はこんな、クダラナイコトの為に来たのではない

さあ、今度こそ、闘劇をはじめようじゃないか

たとえそれが、誰かの絶望であっても

魔人が止まるはずもないのだから





百五十七章 目的


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百五十七章 目的

「前書きウザス!!」
「それだと、意味が違わないかい?」
「ボクだからね!!」
「前書きにTIPSなのかい?」
「まずはボクの事!!
 と、言ってもTIPSにするほどのものじゃない!!」
「言い切るんだ」
「群雲琢磨が“本編内の狂言回し”なら、ボクは“本編外の狂言回し”なのさ!!」
「琢磨は主演でもあるからね。
 狂言回しの役割が“内側による”事もある。
 僕との情報戦なんかは、その側面が強いね」
「対し、ボクは“純粋に外側”なんだ!
 つまり、読んでもらっている人達に向けられているわけだね!!」
「だから【ハジヶえ・ザ・キョウゲンマワシ】なのかい?」
「そう言う事だね。
 元々“ボクポジションのキャラ”を造る予定だったのに!!」
「よりにもよって「ハイテンションなキュゥべえを書いてみよう」とかおかしな事を思い付いちゃった訳だね」
「それが意外に好評だったが故に、ボク【ハジヶえ】が定着しちゃったわけさ!
 つまり、読者はボクとケーヤクしたって事だね!!」
「そのりくつはおかしいよ?」
「なら、改めてケーヤクしよう!!
 今ならソウルジェムを破壊する為の万力も付けてあげるよ!!」


SIDE out

 

「織莉子!! おりこおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 ナイフで地面に固定されていたキリカが叫ぶ。悲痛にまみれたその声が、空間を震わせる。

 対し、ウィキッドはどこまでも自然体。宝石をひとつ、壊しただけの事。

 痛む心なんて無い。或いは、痛くないと思い込み、自分の魂を護っているだけなのかもしれないが。

 

「【短剣思考(Knife of Liberty)】」

 

 キリカに刺さったナイフが操作される。それは、力を込めて足掻くからこそ、逆に抜けなくなっている事に気付いていないキリカの体を持ち上げる。

 

「あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 キリカの咆哮。それは“痛み”によるものではない。ウィキッドに対する“憎しみ”によるものだ。

 その声を聞きながら、ウィキッドはナイフを操作し、キリカを今度は壁に張り付ける。

 位置が変わっても、動けない事に変わりは無い。憎悪に顔を歪ませ、キリカがウィキッドを睨みつける。

 

「【う~ん】【便利だねぇ】」

 

 対するウィキッドは、自分の編み出した【魔法】の出来栄えに満足し、うんうんと頷いている。

 どこまでも自然体。それは、異常な空間の中で、より一層の異常となって映る。

 

「【さて】【呉キリカ】」

 

 壁に張り付けにしたキリカに、ウィキッドが向き直る。

 

「殺す! お前だけは絶対に殺してやるぅッ!!」

「【勘違いするな】【オレが】【お前を】【殺すんだよ】」

 

 殲滅屍の【戯言】が、キリカを標的に据える。

 

「【勘違いしてるっぽいから】【教えておいてやる】【オレの“目的”は】」

 

 咥えていた電子タバコを右手に持ち、その先をキリカに向けて。

 

「【お前だよ】【黒い魔法少女狩り】」

 

 その言葉が、キリカを沈黙へと誘う。倒れたままのほむらも、状況の転換についていけていない。

 ただ一人、この【殲滅劇(アニエンタメント)】を掌握したウィキッドだけが、劇を進行していく。

 

「【解るか?】【ここに白い魔女がいなければ】【彼女が死ぬ事はなかった】」

 

 残酷な現実。それを招いた残酷な事実。ウィキッドはこう言っているのだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。

 ウィキッドは的確に、キリカの心、その中核を穿つ。

 

「【オレがここに来た“目的”は】【千歳ゆまの敵討ちなんだから】」

 

 全てが一点に収束していく。

 キリカがゆまを殺した。その一点から一転した状況。

 

 杏子の魔女化。二人の()し合い。巴マミの絶望。要因だった沙々の殲滅。道中でのまどか殺害。そして、織莉子の死。

 傷付いたキリカのSG(ソウルジェム)。迫るタイムリミット。予知しきれないままに挑んだ未来。そして、織莉子の死。

 

 切っ掛けは、キリカがゆまと戦った事。その仮定と結果が、この状況への道標。

 

「【そうそう】【ナマモノ】【キュゥべえは興味津々だったよ】【魔法少女でありながら】【魔女結界を生み出したお前の事】」

 

 結界が張れるぐらい()()()()()()るキリカを、蹴り落とすその所業。まさに“ウィキッドデリート”である。

 

「【だから】【とっとと魔女に成って】【オレに殺されろや】」

 

 次の瞬間、ウィキッドの表情が一変する。自然体だったウィキッドの“中”から“群雲琢磨”が顔を出す。

 

「仲間を殺されて、そのまま相手を放置なんて、自分の為にならんだろう」

 

 黒い左目の込められたのは“怒り”。それは誰に対するものか。

 殺したキリカか。殺されたゆまか。手が届かなかった杏子か。蚊帳の外だったマミか。誘導した沙々か。嗾けた織莉子か。

 或いは、群雲琢磨自身か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殺してやる! お前だけは絶対に! このオレが!! 群雲琢磨がなぁッ!!!!」

「ウィキッドオオオオオオオオオオォォォォォォォォォぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 弾けた空間。魔女誕生の産声を上げるかの如く。

 キリカの腰の後ろに、SG(ソウルジェム)はある。壁に挿まれた状態のそれから、魔女が孵る。

 その為に邪魔だった“以前の肉体”を、刺さるナイフごと跳ね飛ばして。

 

 左腰の<部位倉庫(Parts Pocket)>から、群雲は新たな武器“旋棍(トンファー)”を取り出して、高速回転させる。

 

「ジャマァ!」

 

 まるで、これが最初の攻撃であるかのように飛来する“前キリカの肉体”を、勢い良く蹴り飛ばし、一気に魔女へと距離を詰める。

 

(あぁ。そうか)

 

 不意に、群雲は辿り着く。自分を吹き飛ばそうとする衝撃を、それ以上の速度で進みながら。

 まるで、ゆまとの模擬戦を再現しているかのような状況で。

 

(オレの時間“だけ”が“加速”しているのか)

 

 まるで、ゆまが導いたかのように。群雲は“Lv3”を認識した。

 

 それは<電気操作(Electrical Communication)>による加速ではない。

 それは<操作収束(Electrical Overclocking)>による加速ではない。

 肉体に負荷を掛けない代わりに、魔力を消費する加速行動。

 

 時間操作系Lv“3”を、群雲は遂に認識した。

 

 生まれ、形作られている“最中”の魔女に、群雲は回転させたトンファーで殴り飛ばす。

 変身中のヒーローに攻撃するかのような、その非道。しかしこれは“正義が必ず勝つ舞台”ではない。

 

 “魔”を冠するモノ同士の、邪気まみれの泥仕合なのである

 

 

 改めて。魔人群雲琢磨が開幕を告げる。きっと、本人は望んでいないだろう、無意味で無価値な仇討ちを。

 

「では、闘劇をはじめよう」




次回予告

たとえ、ゆまが望んでいなくても

たとえ、ゆまが望んでいないとわかっていても

その魔人は止まらない

なぜならその目的は間違いなく

魔人の為に遂行される



なぜならそれを

魔人は確かに望んでる

百五十八章 神風















TIPS 有頂天孵卵器ハジヶえ★ウザス

 前書きで終わるかと思ったかい? ザマぁ!!
 今回はLv3ではないよ? ザマぁ!!

 今回の注目は『舞台掌握(Sparking)』さ!! スパーキンッ!!


 百四十一章&百四十二章でのTIPSを覚えているかい?
 たくちゃんの“電気”は“自身の肉体が持つ細胞発電能力の応用である”と言う事!
 <電気操作(Electrical Communication)>と<操作収束(Electrical Overclocking)>の違いは“使用電力の違い”でしかないと言う事!!

 『舞台掌握(Sparking)』は短剣思考(Knife of Liberty)電磁障壁(アースチェイン)の“前段階”
 これをたくちゃんは“自分の周りに操作可能な磁気を発生させる”と思っている
 また勘違いだよ、さすがのいぶつぅ♪

 正確には“電気を全力で応用できるようにする為の準備”だね!
 その気になれば磁力だけに留まらないだろう!!

 欠点は、肉体に掛かる負荷の大きさが、これまでの非では無い事!
 要は、外側内側を含めた全身をフル稼働しているようなものだからね!
 道具は直せば良いという考えの下、その負荷をある程度無視しているけど、今度は肉体の修理に使用する魔力が増えていく事になる!!
 結果として“消費の大きいLv2”であると勘違いしているわけさ!!



 さあ!! 次のTIPSを早めてほしいなら、ボクとケーヤク!!
 今なら、ソウルジェムを装着出来るボールペンも付けちゃうよ!!!
 
 


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百五十八章 神風

「人類をエネルギー源としてしか見ていない!!」
「僕達の事だね」
「だからこそ、人類の感情による行動を把握しきれない!!」
「僕達には、感情が無いからね」
「それが、ボクたちの欠点でもあるんだぁ!!」
「どういう事だい?」
「非効率なんだよ、キュゥべえ!!
 真に効率を求めるならば、感情を理解する事こそが最重要の筈なのに!!」
「感情による振れ幅を排除すれば、より合理的な判断が出来るんじゃないのかい?」
「わかっていないなぁ!! それでも同胞かぁぁ!!」
「そうだけど?」
「ブレないな、おい」
「インキュベーターだからね」
「ボクもね!!」
「ハジヶえを同胞と分類していいかな?」
「知らん!!」
「話が逸れているね。
 何が言いたいんだい?」
「感情を排除する事と冷静さを保つ事は別。
 そういう話さ」















「後、今回はTIPSが無い!!」
「だからそんなにテンションが高いんだね。
 出番欲しさに」
「ハジケが……ハジケが足りない……!」
「充分じゃないかな?」
「まあ、本編のガチシリアスを完全に無視しているからな!!」
「インキュベーターだからね」


SIDE out

 

 孵化中にトンファーで吹き飛ばされる。しかし、それでも魔女は産まれた。

 目玉の付いたシルクハットに、女性の胴体を3つも繋ぎ合わせた様な、歪な魔女。

 いや、(いびつ)じゃない魔女なんて、いる筈も無いのだが。

 その腕は鉤爪となっており、当然のように“仇”を襲う。

 

「ふっ!」

 

 対し“仇”である群雲は、左手のトンファーを回転、その勢いを利用して鉤爪を弾き、力の向きを変える。

 そして、自らを変えた方向とは逆に移動させる事で回避。

 必要最低限の力と動きで往なしながら、魔女化したキリカを観察し、思考する。

 

(【大丈夫だ】【オレには見えている】)

 

 右手からナイフを一本、逆手持ち。軽くステップを踏む様に、ウィキッドは必要最低限の行動で、確実な回避を可能にしていた。

 戯言で煽る際に【匣】から群雲が顔を出したものの、ウィキッドはその蓋を閉じる。

 仕舞いこまれた群雲に代わり、対峙するのは殲滅屍でなければならないのだ。

 トンファーとナイフで、迫る鉤爪を往なしながら、ウィキッドは思考に沈む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE ウィキッド

 

 むぅ。どうしたものかね。

 せっかくの“ゆまの仇討ち”なんだし、ゆまっぽく行きたいが。

 うん、ないわ、そんな魔法。

 もう、密着ティロフィナって終わらせようかな、一応【対孵卵器用ノルマ】は達成したし。

 ただ、どうも【彼女】を【オレのモノ】にしてから、色々と不可思議な状態ではあるんだよな。

 

 鞘を粉々にするような危険物と化した、愛用していた日本刀は刀身が黒くなったし。

 新しい鞘になったのは異空間。しかも“肉体を介さなければならない”これまでの空間制御とは一線を画している。

 最後に繰り出した『無風』も、多分“Lv3”が関係してるっぽいし。まあ、あの抜刀術は二度と使えないだろうけど。

 自分を理解出来ないなんて、自分の為にならんのよなぁ。

 だからこその『群雲琢磨』と【殲滅屍】なんだけど。

 

 勝敗なんて重要じゃなかった。必要なのは“負けても死なない事”にある。

 <電気操作(Electrical Communication)>を始めとして、徹底的に“速度”に重点を置いた理由はそこにある。

 色々な“武器”を使うのは、自分の魔法に“攻撃力”を求めていなかったからだ。

 

 その“ツケ”がここに来て明確化している。圧倒的な攻撃力不足。

 射程と打撃力を補う為に“トンファー”を使ってみたが、魔女に効いてる気がしない。

 契約により肉体は強化されているが、強化されてようやく“魔女戦へのスタートライン”だ。

 そこから“生き延びる”ようにならなければ、意味がない。

 

 とりあえず、一気に間合いを開く為、隙をみて後方に飛ぶ。

 併せて飛んできた棘っぽいものを、右手からナイフを取り出して投げ、相殺する。

 

 離れた場所で、軽くステップを踏みながら、次々と飛来する棘にナイフ投げで応戦。

 

 ……まずいな、魔女がどんどん速くなっている?

 速度低下はまだ生きているのか、或いは強化されているのか。

 もしかしたら、少しずつ効果が大きくなる類の魔法かもしれない。

 

 長期戦は不利か。<操作収束(Electrical Overclocking)>で渡り合ってはいるが、それにも限界があるだろう。

 

「ばかだな、お前。

 ほら、使いなよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE out

 

 その瞬間、魔人の世界だけが他とは違う景色を見せた。

 

 突如、魔人の横の空間が開き、白い柄が姿を見せる。

【横に魔女服の杏子が立ち、日本刀を差し出す】

 

 当然のように、違和感無く、魔人は白い柄を握り。

 

 空間の方から移動し、黒い刀身が姿を現す。

【日本刀を渡し、杏子は満足そうに頷く】

 

 そして、空間が閉じる。

【笑顔で手を振り、杏子の姿が景色に溶け込むように消える】

 

 残されたのは、魔人と、鍔の無い日本刀。

 トンファーを左腰に戻し、魔人はゆっくりと構える。

 

 

 腰を深く落とし、魔女に向かって半身の姿勢をとる。

 黒刀を右手で持ったまま刀身は地面と水平に保ちながら、体の後ろに置いて、先端を魔女に向ける。

 左手を前に突き出して刀にやや重なるような位置へ。

 

 

 これまで、群雲が日本刀を用いていた場合、使用していたのは“抜刀術”である。

 “刀を抜きながら斬る”事で動作を簡略化し、プログラム化しやすくしていた為である。

 その為、全てが“切り払い”だった。

 

 そんな魔人が、辿り着いた形。

 自身の攻撃力を補い、自身の特性を最大限に発揮出来る形。

 

 

 

 【突進しながらの突き】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【群れし雲が、光を遮り、否定する】」

 

 詩を詠うように、紡がれる言葉。

 それを無視するかのように、魔人の全てはたった一回の突きに集約される。

 舞台掌握(Sparking)による磁力すらも利用して。

 

「【吹きし風が、命のサクラを、儚く散らす】」

 

 魔女の攻撃が止んだ訳ではない、飛来する棘が魔人を襲う。

 

 だが、遅かった。

 

 弾ける様に動き出した群雲を、戦いを見守る事しか出来ないほむらには“まったく見えていなかった”のだ。

 それほどまでの加速。一瞬で最高速に達したが故の、認識のズレ。

 

 ()()()()()()()()()()、その一撃に対応するのは難しいだろう。

 

 その一撃は、一撃であるにもかかわらず、魔女の体を上と下で完全に分断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだな、名付けるのならば」

 

 二つに分かたれ、崩れ落ちる魔女を背に、群雲琢磨は右を向く。

 そこにあるのは、再び開いた空間。しかし、群雲にだけは【彼女】が見えている。

 

「黒刀【ムラクモ】と、鞘【サクラ】」

 

 開いた空間に、日本刀を挿す。しかし、群雲にだけは【彼女】に日本刀を渡した事になっている。

 手を離すと、空間が日本刀を飲み込むように吸い込んで消える。しかし、群雲にだけは、日本刀を受け取った【彼女】が、そのまま景色と同化するように消えていくのが、見えている。

 

「そして、真の太刀『神風』ってところか」

 

 群雲琢磨が、自身の“技”に共通して名付けていた風。

 佐倉杏子が、孤独になっても尚、祈りを捧げていた神。

 

 思い付き、実行に移しただけ。真の『神風』はまだ、完成には至っていない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE ウィキッド

 

 魔女結界が消えていく。白い魔女の遺体も、黒い魔法少女狩りの元肉体も、ふたつになった魔女の体も。

 殲滅されたものが、魔女結界と共に消えていく。

 

 オレは、巴先輩と杏子の“死”には、関わった。

 だが、ゆまだけはそうではなかった。見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)として、それじゃあ自分の為にならない。

 だからこその仇討ち。ただの自己満足ではあるけれど。

 

 ガラス張りの廊下。見滝原中学に戻ったらしい。

 うん、何本かのナイフを回収しそこねた。まあいいや、まだまだあるし。

 右手から電子タバコを取り出して、一服。

 

「ふぅ~……」

 

 口から吐かれた煙に視線を向けながら、オレはタバコを咥えたまま、素早く右腰のリボルバーを取り出す。

 それを回転させながら、器用に左手でハンマーを引き、そのまま振り返りながら銃口を向ける。

 

 その先には、立ち上がってデザートイーグルの銃口をオレに向ける、暁美先輩がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやら、幕引きはまだらしい――――――――――




次回予告

見滝原中学を舞台に


繰り広げられる、最後の演目


それは、次の舞台を約束する




悲痛な覚悟と、ゆずれない願い



百五十九章 過去に戻るんだろ


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百五十九章 過去に戻るんだろ

「ひとつだけ、作者が後悔している事があるよ!!」
「相変わらずのメタさだね、ハジヶえ」
「それは、章の数字がキリのいいところで終われないって事さ!!」
「たしかに中途半端すぎるよね」
「そして、今回もTIPSがない!!」
「あ、それは別にどうでもいいかな」
「ナンデェェェェ!?」


SIDE out

 

 魔女結界は解除され、しかし闘劇の幕はまだ下りない。

 見滝原中学の廊下。そこで対峙する二人の子供。

 一人は、時間遡行者暁美ほむら。

 独りは、殲滅屍群雲琢磨。

 

「【オレには】【暁美先輩と()る理由は無いが】」

 

 互いに銃口を向け合う膠着状態の中、電子タバコを咥えた殲滅屍は自然体。完全に【】(住み着いた)形で言葉を紡ぐ。

 しかし、ほむらは違う。苦悶の表情を浮かべ、ウィキッドを睨みつける。

 

「【()るなら】【オレも本気でいくが】【もしも先輩が負けたら?】」

「関係ないわ……!」

 

 ウィキッドは“目的”を達成した。故にこれ以上の戦闘に意味を持たない。

 しかし、ほむらは違う。

 

「何故、まどかを殺したの!?」

 

 悲痛とも取れるほむらの叫び。それは、二度も絶望へ置いていった“群雲琢磨”に対する疑問。

 そして、現状無関係の筈だったまどかを“殲滅屍(ウィキッドデリート)”が殺したという疑問。

 

「【成り行き】」

 

 それに対しても、やはりウィキッドは自然体のままだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であるとも言える、もはや悲劇ですらない擦れ違い。

 

「ふざけないで!!」

 

 普段の暁美ほむらを知る人がいたら驚くだろう。それほどまでにほむらは感情を露わにしていた。

 しかし、それでもウィキッドは揺るがない。

 

「どうせ、過去に戻るんだろ?

 だったら、どうでもいいじゃないか」

 

 失敗したらやり直す。まるでゲームのようなやり直し(つよくてニューゲーム)だ。

 この現実(ゲーム)の非常にして当然の仕様は、圧倒的なマルチシナリオである点。

 当然だ、これはゲームではない。そんな生易しいものではない。

 

「【まあ】【一つだけ】【言える事がある】」

 

 クルクルと銃を回転させて手前に引き、顔の高さで静止させるウィキッド。

 銃口を外す事による非戦闘の意思。なにより、これまでのやり取りは“時間稼ぎ”にすぎない。

 

「【鹿目まどかだっけ?】【彼女を護りたいのなら】【傍を離れるべきではなかった】」

 

 殺害した張本人が何を言う? 否、殺害した張本人だからこそ、ウィキッドは言う。

 

「【魔女結界】【危険しかないような場所で】【彼女の傍を離れた】【それが間違いだ】」

 

 その言葉に、ほむらは引き金を引く。最強のハンドガンと称させる大口径の弾丸は。

 

「【無駄だ】」

 

 ウィキッドの眼前で静止する。

 

 舞台掌握(Sparking)

 

 魔女結界の消失により、効力を失ったその力をウィキッドは即座に準備していた。

 それにのみ集中していた為、すでに“たり”ていたのである。

 再びリボルバーをクルクル回した後、ウィキッドはそれを右腰に収納する。

 

「【電磁障壁(アースチェイン)の前に】【遠距離武器はその意味を失くす】」

 

 そのまま、右手で眼前に留まる銃弾を横に弾く。新たな方向へ力が加えられた弾丸は、そのまま突き進み、ガラスを粉々に粉砕する。

 

「【気付いているか?】」

 

 ガラスが割れ、その破片が落ちていく音と共に、ウィキッドは言葉を紡ぐ。

 

「【廊下のど真ん中で】【拳銃なんて物騒極まりない物を向け合う】【ガキが二人いても】」

 

 器用に電子タバコを咥えたまま、ウィキッドは煙を吐き出して続ける。

 

「【これだけ派手な音を立てて】【ガラスが割れても】」

 

 告げるのは現状の確認。もはや【戯言】ですらない。

 

「【だれも騒がない】【至って静かなまま】」

 

 その言葉に、ほむらは気付く。気付いてしまう。

 

「【全滅だ】」

 

 

 

 魔女結界。それが解除された場合、元の場所に戻る為の最低にして絶対条件。

 それは“生きている事”である。

 たとえ“魔女の口づけ”を受けていても、生きてさえいれば。

 

 いないのだ。廊下で対峙する二人以外に。

 ()()()()()()()()()()のだ。

 そして、その事実が証明する。

 

 

 

 

 

 

 鹿目まどかの死を。

 

 

 

 

 

 

 銃を下ろし、ほむらはその場に膝を着く。戦意の喪失を確認し、ウィキッドはほむらの横を通り過ぎていく。

 

「……それでも……っ!」

 

 その体制のまま、呟かれた声に、ウィキッドが足を止める。

 

「それでも私は……!

 まどかを殺した貴方を、絶対に許さない!!!」

 

 互いに背を向けたその状況は、まるで“今までとこれから”を示唆しているかのようだ。

 そして、それを証明するかのように。

 

「【知ったこっちゃないな】」

 

 誰かに恨まれようと、誰かを恨もうと。

 誰かに憎まれようと、誰かを憎もうと。

 魔人は、最後まで魔人を貫くだろう。

 

 それが出来ないのならば、それは存在の否定に繋がってしまう事を、魔人は既に知っていた。

 

 立ち去る際、最後に呟いた群雲の一言は。

 

「大変だよ。

 護るってのは、人の考える以上にな」

 

 実に、単純であるがゆえに、複雑でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 殲滅屍(ウィキッドデリート)

 

 校舎を出て、校門を抜け。

 オレの前にいるのはナマモノ。

 

「【首尾はどうよ?】」

「残念ながら」

 

 あらあら。歩みを止めないオレの右肩に乗り、ナマモノとの【情報戦】が開始される。

 

「【はたらけよナマモノ】」

「まさか、一切聞く耳を持たれないとは思わなかったよ。

 せっかくの生存の機会を潰すんだから、人類はやっかいさ」

 

 これに関しては、オレの想定内だった。

 突如展開した魔女結界。見た事ない生物(使い魔)がひたすら命を狩る現状。

 そんな“集団パニック状態”で見た事ない生物(インキュベーター)の声に、冷静に耳を傾ける人は稀だろう。

 しかも、その声を聞くことが出来る人物が限られているのだから、その可能性は更に下がる。

 それでも、一人か二人は契約者が出来ると思ったが。収穫は零だった、と。

 

「【残念だったな】」

「まったくだよ」

 

 それに、ナマモノは気付かない。感情を利用するくせに、感情を理解しないから。

 

「それで、キミは何故“取引を反故にした”んだい?」

「【何の事だ?】」

「織莉子の事さ。

 ソウルジェムを極力破壊しない、その取引は有効だった筈だよ?」

 

 きたか。だが甘いな下等生物。

 

「【極力破壊しない結果だ】【実際黒い魔法少女狩りの方は】【ちゃんと孵化させただろう?】」

「織莉子とどう関係するんだい?」

「【関係しない筈がないだろう?】【言ってしまえば】【杏子とゆまの関係と一緒さ】」

 

 相互関係。だからこその“ウィキッド”だぞ。

 

「【魔女結界を展開するほどに引っ張られてた呉先輩】【その状況すら利用する美国先輩】」

「何が言いたいんだい?」

「【どちらも“孵化前に自殺する事”だって有り得た】【真の目的がわからない以上】【その目的が達成されれば】【充分に考えられる事だ】【なら相互関係を利用し】【美国先輩を“先に殺害”する事で】【呉先輩の孵化を確実なものにする方が】【エネルギーの回収としては効率的だろう】」

「なるほど。

 どちらのエネルギーも回収出来ない可能性がある以上。

 片方からを確実にする為に、もう片方を切り捨てたのか」

「【そう言うことだ】【特に美国先輩は】【魔女化する気配がまったく無かったからな】」

「仮にキリカが魔女化しても、織莉子に連鎖する可能性は低かったわけだね」

「【そして呉先輩が魔女化する前に】【真の目的が達成されてしまえば】」

「キリカが魔女になる前に“処理”されるのも、充分にありえたんだね?」

「【相手は“魔法少女狩りすらも隠れ蓑”にするほどだ】【なら“利用されている側”の呉先輩を】【確実に魔女化させた方がいいだろう?】」

 

 戯言全開です。インキュベーターを納得させる為に、嘘と真実ごっちゃまぜ。

 効率的な判断の結果であれば。

 

「そういう事だったのか」

「【そういう事だったのさ】」

 

 意に反していても、ナマモノは受け入れるだろう。感情が無いからこそ、な。

 

「まったく。

 いつもながら、君達人間の感情は厄介なものだね」

「【それについては】【同意するよ】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見滝原中学集団失踪事件。

 一切の前触れ無く起こったこの事件の真相は、決して解明されないだろう。

 ただでさえ、異星物が深く関わっているのにもかかわらず。

 まともに捜査すらされなかったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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次回予告

それでも、その魔法少女は歩みを止めないだろう

それでも、その魔人は歩みを止めないだろう



ただひとつ この二人が共通していたのは





百六十章 絶望するわけには


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百六十章 絶望するわけには

「新年が明けたからケーヤクしようよ!!」
「最初から、全開だね、ハジヶえ」
「当然じゃないかぁ!!!
 きっと、読者のみんなも、ボクとケーヤクしたいに違いないからね!!!」
「それはないんじゃないかな。
 君とケーヤクしても、救われないと思われてるよ」
「救ってあげるさ!!
 金魚すくい(素人)の如く!!
 今なら、破れたポイも付けるよ!!」
「なんのために?」


SIDE out

 

 避難勧告。それは見滝原全域に及んでいる。

 にもかかわらず、避難していない存在が二つあった。

 

 一つは、魔法少女暁美ほむら。

 変身した彼女は、しかし戦場に向かう事はない。

 まどかのいない世界に、ほむらがいる理由は無い。

 盾の砂時計。その砂が全て落ち、再び過去へ戻る。

 自室で独り、その時をただ待っているだけだった。

 

 

 一つは、魔人殲滅屍(ウィキッドデリート)

 鉄塔の上部で、電気タバコを咥えた少年もまた、変身した状態。

 

「【なんだよぅ】」

 

 スーパーセルの“正体”を把握できる、孵卵器との契約者。

 

「【あんなにデカイんなら】【こんな場所で睡眠とらずに張ってる必要ないじゃない】【オレってばかだねぇ】」

 

 頭部が半分。下半身は歯車。そんな巨大な魔女。

 

「戦うのかよ?

 勝てる気しないだろ、あんなの」

 

 横にいる“自分だけの幻(魔女服の杏子)”の声に、オレは僅かに微笑む。

 

「【そうなんだけどねぇ】」

 

 言いながら、ウィキッドは瞳を閉じる。

 広がる闇。こんなに簡単に逢えるのに、どうして恐れる必要があるのか。

 小さな光。こんなにも遠くにあるのに、どうして求める必要があるのか。

 

 ウィキッドが閉じた瞳の先。見える映像は、よく電気タバコを咥え、ベランダから見た光景。

 巴マミ。千歳ゆま。    佐倉杏子。

 三人が、三角形のテーブルを囲み、談笑する姿。

 いつまでも見ていたかったんだな、と。失ってから気付く、そこにあった光。

 

「【結局の所】【ただの自己満足さ】」

 

 瞳を開けて、ウィキッドは魔女を視界に捉える。

 

「死ぬなよ」

「【いつか】【死ぬさ】」

 

 その言葉を最後に、ウィキッドは颯爽と飛び降りる。本来なら無事ではすまない高さでも“契約者”にとってはどうとでもなる高さ。

 

「【見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)としての】【最後の仕事は】【随分と荷が重い】」

 

 そして、最後の一人としての、最後の宣誓。

 

「【では】【闘劇を】【はじめよう】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 周りに現れる使い魔を、両腋から取り出した二丁拳銃で殲滅しながら、ウィキッドは戦場を突き進む。

 最初から<操作収束(Electrical Overclocking)>による高速行動。遠慮する理由なんて無かった。

 なぜなら、その魔人の事を、世界を救おうとした白い魔法少女はこう呼んだのだ。

 

 【魔女殺し《ウィキッドデリート》】と。

 

「【一気にいくぜ!】」

 

 近くの街灯、その頂点に立ち、ブーツと共に電磁石化。同極にして起動。直後に狙いの方向へ飛ぶ事で、ワルプルギスの夜との距離を一気に縮めていく。

 直前に現れた使い魔を完全に無視し、飛来するその姿はまさに、深緑の弾丸。

 しかし、ワルプルギスの夜は、その口から超高温の炎を吐く。近づく弾丸を焼き尽くす為に。

 持ち前の高速思考による、一瞬の判断。ウィキッドはナイフを取り出して真横に投げ、今度は右手と投げたナイフを磁気化。ナイフの方の磁気を強くした状態で起動させて、空中で直角に方向転換してみせる。

 そのまま、ビルの屋上を目指して、別のナイフを投げて、自らの肉体を操作していった。

 最終的に、ビルの屋上に設置された鉄製の扉を、蹴り壊して着地する。

 

「【試してみるか】【オレの遠距離最大火力】【そのひとつ】」

 

 水平二連ショットガンによる、炸裂電磁銃、ティロ・フィナーレ。

 

 ウィキッドの持つ水平二連ショットガン。その構造。

 左側用の引き金と右側用の引き金が存在する“両引き”と呼ばれるタイプ。

 腰の後ろから取り出したその銃には“準備済”の弾丸が装填されており、後は銃本体を準備(チャージ)するだけの状態にしてある。

 本来ならば、危険極まりない行為。それを“無法”が魔人の為に昇華する。

 

 同発。通常の水平二連銃は、一発ごとに撃つ事を想定されており、同時圧力に耐えられるようには出来ていない。

 それを成し得てしまったのが、長期使用により“魔人の為に造り替えられた”本人が自覚していない“第四の魔法”である『ムラクモカスタム』なのだ。

 

 左足を前にする形で腰を深く落とし、両手で銃を持ち、それぞれの指を引き金へ。

 そして、同時に引いた。

 

「【ディパルティト・ティロ・フィナーレ!!!!】」

 

 上方へ打つ形となった為、その衝撃はウィキッドを中心に、クレーターを作り出す。

 さらに反動がウィキッドの体を叩き付けた結果、その場所が音を立てて崩れ、階下へと落ちていく。

 

 放たれた弾丸は、平行したままワルプルギスの夜に迫る。

 が、反動の大きさに狙いが僅かにずれてしまう。

 それでも、ワルプルギスの夜の右腕を吹き飛ばす事に成功していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【反】……【動】……【えげつなっ!?】」

 

 天井を叩き崩しながら落ちる結果となったウィキッドは“道具(肉体)修理(治療)”を簡潔に終わらせて、再び屋上へと走る。

 辿り着き、見上げた先には。

 

「アハハハハハハハハハハハハハ」

 

 笑う、ワルプルギスの夜。

 

「【そう簡単に終わったら】【最強の魔女なんて】【呼ばれないよな】」

 

 右腕を失った影響なのか、頭部らしき場所が最初よりも上にある。

 

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 それでも、ワルプルギスの夜は、笑いながら進んでいく。

 まるで、戦う『群雲琢磨』なんて、存在しないかのごとく。

 

「笑えねぇな、おい」

 

 へし折れた電気タバコを吐き捨てて。群雲琢磨は勢い良く、ビルの屋上から飛び降りる。

 ワルプルギスの夜は巨大だ。比べて豆粒の如き群雲。

 故に、ワルプルギスの夜と戦う為に、舞台掌握(Sparking)を発動させるには超広範囲に及んでしまう。

 そんな事を実行しようものなら、掌握前にSG(ソウルジェム)の限界が来てしまうだろう。

 魔人は、魔獣へと堕ちるだろう。

 所詮、魔人という存在は“劣化魔法少女”にすぎないのだ。

 

「<オレだけの世界(Look at Me)>」

 

 時間停止。最初の魔法。世界の時間は止まり、世界は群雲だけを見る。

 着地して発動した魔法。その止まった時間を、群雲はワルプルギスの夜に接近する為だけに使用する。

 これが、距離を詰める確実な方法だからだ。

 

 他の魔法は使えない。それでも“契約者”であるが故、その肉体は人間を凌駕している。

 走り抜ける群雲は、ワルプルギスの夜とどう戦うのかを()()()()()()

 

 自分の為に生きる。それこそが本質。

 故に、考えるのは自分の事である。

 

(なんで、戦っているんだろうな?)

(【自分の為だろ?】)

(そうなんだけどねぇ)

 

 ワルプルギスの夜に最も近いビルを駆け上がる。扉なんて当然のように蹴り砕いて。

 屋上に辿り着き、見上げるのは最強の魔女。

 

「やっぱり、傾いてるよな」

 

 今、ワルプルギスの夜は丁度真横になっている状態。吹き飛ばした筈の腕も、いつの間にか再生している。

 

時は再び(Look out)

 

 時間停止を解除し、ウィキッドは再び水平二連ショットガンを取り出す。

 中の空薬莢を取り出し、次の弾丸を右手から。

 

「【もう一発】【いきたいところだが】」

 

 まず、必要なのは弾丸の“準備(チャージ)”である。

 前もって“準備(チャージ)完了状態で収納していたのは、あくまでもショットガンに装填されていた物だけ。

 ショットガンを戻し、右手の弾丸を“準備(チャージ)”しながら、ウィキッドは右脇の(ハンドガン)を手に取る。

 

「キャハハハハ!」

 

 現れる使い魔。黒いシルエットに銃を向けたウィキッドは。

 

「【なんっ!?】」

 

 一瞬、動きを止めた。

 そのシルエットを、ウィキッドは知っていた。

 

 一瞬の隙。使い魔は“手にするハンマー”を地面に叩きつける。

 起こる衝撃波は、弾丸をも押し返すだろう。

 

 対するウィキッドの行動は、突進だった。

 そう、あの模擬戦の時のように。

 

 しかし、あまりにも唐突過ぎた。

 なんの心構えのないままの行動では、その場に踏み止まるので精一杯だった。

 

「【このっ!】」

 

 衝撃波を耐え切り、再度銃口を向けるウィキッド。

 しかし、別方向からの“射撃”により、ウィキッドの銃が弾かれる。

 

 現れた使い魔。そのシルエットを、ウィキッドは知っている。

 

「【まいったねぇ】」

 

 言いながら、ウィキッドは使い魔を見渡す。

 

 千歳ゆまを模る使い魔と、巴マミを模る使い魔。

 

 そう、当然いるのだ。もう一体。

 

「ふざけてんじゃねぇぞ……!」

 

 蓋を蹴り上げ、群雲琢磨が顔を出す。

 それは、絶対に譲れない想い。

 

「神も悪魔も関係ねぇ!!

 世界も宇宙も知ったこっちゃねぇぇ!!!

 過去も未来もどうでもいい!!!!

 だが、カノジョだけは!!!!!

 オレノモノダ!!!!!!」

 

 杏子を模した使い魔を前に、群雲琢磨は全力で叫んだ。

 

 気付いていた。群雲と使い魔がいるビルの屋上。そこに向かって落とされる別のビル。

 しかし、それよりも。

 群雲には【彼女】を取り戻す事を優先した。そちらの方が“自分の為”だと判断した。

 

 ビルに落とされたビル。その衝撃は凄まじく、双方のビルを眼前に瓦礫にするほどのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 暁美ほむら

 

 ……時間ね。

 盾の砂時計が落ちきったのを確認し、私はゆっくりと立ち上がった。

 

「戦わないのかい?」

 

 ふと見れば、キュゥべえが紅い瞳を私に向けていた。

 

「私の戦場は、ここじゃないわ」

 

 まどかのいない世界に、用は無い。

 あの子を救う為だけに、今の私は在るのだから。

 

「そうか。

 僕には君を無理に戦わせる事は出来ないからね。

 でも、ひとつだけ、お礼を言わさせてもらうよ」

「礼?」

 

 インキュベーターが? 一体なにを――

 

「時間遡行者、暁美ほむら。

 君の存在が“異物に起きた不可解な現象”を解く鍵だった。

 さあ、行くと良い」

 

 何の事なのか、さっぱりだわ。

 でも、一つだけ言える事がある。

 

「私は、諦めない。

 まどかを救うまで、何度でもやり直す。

 インキュベーターには悪いけど、私は絶望するわけにはいかないのよ」

 

 そして、私は盾を回転させた――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうせ、過去に戻るんだろ?

 だったら、どうでもいいじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちょっと待って。

 私は今回、琢磨との接触は二回だけ。

 

 その中で“私が未来から来て、過去に戻る”事を、どうやって琢磨は知ったの!?

 

 美国織莉子との会話から推察した? いいえ、あの言い方は確信があったはず。

 キュゥべえが知るはずはない。ことごとく“駆除”していたし、キュゥべえから琢磨に洩れる筈が無い。

 

「群雲琢磨……殲滅屍……ウィキッド……デリート。

 あの子は一体…………」

 

 見慣れた病室の天井を見上げながら、私は一人、呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

「……げごぶどぎぎゅ」

 

 なんか、自分の声が……あぁ、喉潰れてるわ。

 ビル二つ分の瓦礫の山。そこから這い出したオレは、肉体の【修理】を開始する。

 うっは、自分の肝臓を目視するとか、ありえねぇ。

 

 ほんと、オレじゃなかったら、死んでるって。

 骨の大半が砕けている事を逆に利用して、瓦礫の山から這い出るとか、きっとオレにしか出来ないし。

 ……止めよう。冷静に分析すると、グロすぎて吐きそうになる。

 まあ、今のオレには吐く喉が……やめやめ。

 

 しかし、ビルを落とすとか、とんでもないなワルプリャー。

 それでも、ビルとビルに押し潰される前に、あの使い魔達は殲滅したけど。

 

「うわ、グロ!?」

 

 ふと見れば、魔女服の杏子がオレを見下ろしている。

 ゴメン、今、喋れない。

 

「ったく、なにやってんだ、お前は。

 時間停止でも使って……あぁ、直前に使ってたから無理か。

 でも、あたしを模す使い魔なんて、放置すりゃよかったじゃないか」

 

 出来る訳ないだろ?

 オレのモノになりたいって言い出したのは、杏子の方だろ。

 

SG(ソウルジェム)が壊れたら、死んじゃうんだぞ?

 そんなの、お前の為にならないんじゃないのか?」

 

 杏子がオレのモノじゃない方が、オレの為にならんだろ。

 そう言う意味じゃ、君の為なら死ねる。

 

「嘘付け。

 お前なら、SG(ソウルジェム)“だけ”でも生き延びるだろ。

 【オレの死を杏子が哀しむなんて、自分の為にならない】なんて戯言でさ」

 

 いやいや。【杏子が哀しくても、生きててくれるなら、オレの為になる】だろう?

 

「さすが【戯言】だな。

 どっちつかずの、成り行き任せか」

「成り行き任せに【自分の意思】を捻じ込む。

 それが【戯言】の真骨頂さ」

 

 修理完了。と言っても、動ける程度に、だけど。

 見た目ボロボロ。内臓も骨も、いくつか修理中。

 それでも、動けるようにはなった。

 

「穢れは大丈夫か?」

「大丈夫だ、問題ない」

「その台詞、絶対に大丈夫じゃないだろ」

「一番良いのを頼む」

「まあ、今回もダメだったのは一目瞭然だけどな」

 

 瓦礫の山。その頂点に立ち、オレはワルプルギスの夜を見上げる。

 

「は、ははは……」

 

 笑うしかない。そうだろう?

 

「アハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」

「すっごい笑ってるな。

 しかも、あたしらを無視して、通り過ぎてるし」

 

 そう、オレが見上げたワルプルギスの夜は【背中】なんだ。

 

 あぁ、オレは所詮。

 ワルプルギスの夜にとっては。

 道端の石ころ程度の物かよ!!!?

 

「あはははははははははははは!!!!!!」

「アハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」

 

 オレの笑い声と、ワルプルギスの笑い声が重なり、響きあう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オレは知らない。この光景こそが『美国織莉子が見た、最後の未来』だった事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひと ふた み よ いつ むゆ なな や ここの たり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 舞台掌握(Sparking)発動。瓦礫の山と地中の砂鉄をフルに操作して、オレは組み上げる。

 それは、ワルプルへと一直線に向かう、一本の橋。

 範囲が中途半端なんで、斜めを狙う発射台みたいになっているが。

 

「それじゃ」

「逝こうか」

 

 当然のように、オレは[鞘【サクラ】(杏子)]から[黒刀【ムラクモ】(オレの究極)]を受け取った。

 急造された発射台のふもとに立ち、オレはゆっくりと構える。

 左手を前に突き出しながら、右手を弓を引き絞るように後ろへ。

 左手と黒刀の切っ先をワルプルギスの夜へ向けながら、深く腰を落とす。

 

 

 

 オレを救う光以外は、必要ない

「群れし雲が、光を遮り否定する」

 

 

 

 

 

 

 そして、ワルプルギスの夜が。

 

 

 

 

 

 

 愛と殺した死の風に、絶てぬモノ無し

「吹きし風が、命のサクラを儚く散らす」

 

 

 

 

 

 

 針が“零”を示すように反転して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「絶望するわけにはいかねぇんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

                 全ては戯曲へと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――盛者必衰 生き残ったものは無し―――――――――――――




次回予告



時は遡り――――――――――

最後に語るべきものは 当然のようにあの少女



それは、未来を定めた瞬間であり

それは、運命を定めた瞬間であり

それは、ある少女の終わり














二人の子供の、世界を決めた邂逅















無法魔人たくま☆マギカ 第三幕 一時閉幕




百六十一章 オレに出来る事















 まだ、闘劇は、終わらない


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百六十一章 オレに出来る事

「あぁ、今回もダメだったよ」
「まぁ、第三幕がハッピーエンドにはならなかっただろうね」
「そんな、哀しい世界での最後の抵抗だ」

「「わけがわからないよ」」


SIDE out

 

――――――これはまだ、見滝原中学に展開した、魔女結界での一幕――――――

 

 

 

 鹿目まどかは、最高の魔法少女になる素質を持っている。

 何故、普通の中学生である彼女に、それほどの素質があるのか。それは、インキュベーターにも解らない。

 

 故に、彼女は“異常”だ。

 

 

 暁美ほむらは、インキュベーターの知りえない魔法少女だ。

 別の未来で契約し、平行世界の過去を巡っているのだから“その世界のインキュベーター”の記録には残らない。

 

 故に、彼女は『異端』だ。

 

 

 

 群雲琢磨は、劣化魔法少女である魔人だ。

 にもかかわらず、下手な魔法少女よりも長命である上、有史以前より人類と接触してきたインキュベーターにすら“前例が無い”と言われるほどの不可解な現象の中心点である。

 

 故に、それは【異物】だ。

 

 

 

 

 

 

 キリカの生み出した魔女結界。そこでほむらの結界魔法によって守られていたまどかだが。

 たとえ、何も出来なかったとしても。放っておく事なんて出来ない。

 ほむらの結界魔法を抜け出し、後を追っていた。

 

 鹿目まどかは、最強の魔女になる素質を持っている。

 未来予知でその姿を見た織莉子が、誰も勝てないと絶望するほどの、最悪の魔女に。

 

 しかし、まどかは“まだ契約していない”のである。

 今のまどかは、ただの中学生にすぎない。

 

 故に、使い魔に襲われても、抵抗する術を持たず。

 守ってくれるほむらも、傍に居らず。

 

 

 

 魔女結界の一角で、その生涯を閉じる事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 使い魔に襲われ、横たわるまどか。

 その体から流れ出る血液は、まどかを中心に【紅い】水溜りを作る。

 もはや、動く事すら出来なくなったまどかは。

 ただゆっくりと、死の瞬間を待つだけの状態となっていた。

 

 しかし、周りの使い魔は平然と、まどかに止めを刺す為に迫り。

 

 

 

 飛来した弾丸に、的確に撃ち抜かれた。

 

「【まただよ】」

 

 撃ち終わった右手のリボルバーをクルクル回(ガンプレイ)しながら、群雲琢磨(ウィキッドデリート)はうんざりとした感じで呟いた。

 迷った挙句に一度外に出てしまったウィキッド。そのタイムラグが偶然にもまどかとの邂逅に繋がるのだから、世界は優しく出来てはいない。

 

「【うん?】」

 

 倒れたまどかに近づき、ウィキッドは傍らにしゃがみこんで観察。

 まだ、息はある。

 だが、ウィキッドは肉体を道具として割り切る事による“修理”は出来ても、他人を“治療”する魔法は使えない。

 

「【聞こえてないかもしれないが】【既に手遅れだ】【悪いね】」

 

 朦朧とした意識の中、まどかはウィキッドの声に反応し、視線を向ける。

 

「【こういう時に】【オレが出来る事は】」

 

 対し、ウィキッドは右手の銃口をまどかに向け、撃鉄(ハンマー)を下ろす。

 

「【少しでも早く】【楽にしてやる事ぐらいだ】」

 

 そして、引き金に指を掛け……。

 

「……ぁ…………」

 

 引く直前、まどかが口を動かした。

 ギリギリで指を押し留め、ウィキッドが首を傾げる。

 

「【最後に何か】【言いたい事でもあるのか?】」

「……」

 

 懸命に口を動かそうとするまどか。しかし、その体はもはや死の直前。満足に言葉を話す事等、出来るはずも無い。

 

 

 

 

 それでも。

 

「…………ほ………………む……………………」

 

 その言葉にならない言葉を、ウィキッドは聞いた。

 

「【ひょっとして】【暁美先輩か?】」

 

 そこへきて、ウィキッドは思い出す。ほむらに会いに来た際、彼女を呼びに来た生徒がいた。

 その記憶を、その時の身を隠す直前の一瞬の光景を。<電気操作(Electrical Communication)>で脳を操作する事で呼び起こす。

 

「【暁美先輩なら】【大丈夫だろ】」

 

 そして、繰り出されるのは、優しい【戯言】だ。

 

「【きっと】【このおかしな空間も】【すぐに晴れるさ】」

 

 何の根拠も無い。そうなるかどうかは成り行き任せ。そんな【戯言】だ。

 しかし、それを聞いたまどかは僅かに、本当に僅かに微笑んで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞳を、ゆっくりと閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【巴先輩あたりに】【治療魔法でも習っていれば】【見殺しにせずに済んだのかもな】」

 

 それもまた【戯言】だった。

 もしかしたら、助けられる可能性があったのかもしれない。

 しかし、結果として残ったのは、群雲がまどかを【見殺し】にした事実だけ。

 

「【どちらにしても】【殺す以外の選択肢が無かったのなら】【一緒か】」

 

 群雲はゆっくりと立ち上がる。

 自らの肉体からつくり出された【紅い】水溜り。

 その中心で横たわる、鹿目まどかの遺体(見滝原中学の生徒)

 

「【まいったねぇ】」

 

 その遺体の横を、 SAA(リボルバー拳銃)の弾込めを終えて、 クルクル(回ガンプレイ)しながら、群雲琢磨(ウィキッドデリート)は通り過ぎる。

 

「【最近】【近接戦闘ばかりだったから】【銃の腕が落ちてるかと思ったが】【そんな事はなかったぜ!!】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「おせぇよ」

「おま、それが行列に並ばせた相手に対して言う台詞!?」

 

 キャンディを咥え、その棒を上下に揺らす相手に対し、電気タバコを咥えて、白い箱を持ってくる。

 二人は当然のように、その手を繋ぎ、指を絡めて歩き出す。

 

「大体さぁ。

 ケーキを買おうって言ったのはそっちじゃん。

 なんでオレが並ぶ事になってんのさ」

「こういうのは、男の子の役目だろ?」

「男女差別だ!

 訴えて勝つよ!」

「どこにだよ」

 

 いつものようなやり取りをしながら、歩き慣れた町並みを歩いていく。

 

「てか、ケーキならマミ先輩が容易に用意してくれるだろ。

 なんで態々、行列の出来る店のを、オレが並ばされ、買わされたのか」

「マミも食べてみたいって言ってたし。

 ゆまも興味があるって言ってたからな」

「だったらそっちが並びなさいな。

 なんでオレが」

「なんであたしが並ばなきゃならないのさ」

「理不尽!」

 

 喧嘩しているわけじゃない。これが二人にとって普通だった。

 

「お前だって、甘いものは好きだろ?」

「嫌いじゃないってだけだよ。

 お互い、好き嫌い無いのは知ってるだろ。

 むしろマミ先輩がケーキ用意してたら、どうするんだよ?」

「お前、食え。

 あたしらは、買ったケーキにするから」

「いや、両方食べなよ」

「太るだろ」

「魔法少女めたぼ☆オナカ」

「夢も希望もないな、それ」

 

 皆で住むマンションに入り、二人は同じ速度で進んで行く。

 

「なあ」

「ん?」

「好きだって言ったら、信じるか?」

「オレは、愛してるよ」

「……バカ」

 

 そして、二人は同時に扉を開けた。

 

「おかえりなさい」

「おかえり~」

 

「「ただいま」」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワルプルギスの夜。

 

 魔法少女の間で語り継がれる、伝説の魔女。

 過去に、世界で起きた大災害の一部は、この魔女によるものだとも言われている程。

 

 本気になると、普段逆さまの人型部分がひっくり返り、暴風のようなスピードで飛び回って地表の文明をひっくり返す。

 

 

 

 そして、それは起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつて、見滝原と呼ばれていた土地の一角。

 もはや、何も残ってはいないその場所には。

 

 愛する人の魂の果てを、大事に胸に抱えて横たわり。

 幸せそうな表情で眠る。

 

 少年の(しかばね)があった。




次回予告

第三幕 その幕は降りた

次の幕は、本来であれば、語るべきではない物語
見滝原を舞台としない物語

まどかも、ほむらも、マミも、さやかも、当然杏子もいない

だが、主演が魔人であるが故

これは、語るべき物語


「【不合格だよ】【プレイアデス】」


第四幕 人形(ひとかた)泡沫(うたかた)のfourth night

百六十二章 探し物


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第三幕設定(wiki風味)

「どうせなら、本編終了後に投稿すれば良かったんじゃないのかい?」
「【せっかく幕による区切りがあるんだから】【これを活用しない手は無い】【ってのが作者の談】」
「わけがわからないよ」


ストーリー展開

 

 暁美ほむら来訪の約1年前より、物語の幕が開く。マミと別れ、一人で活動していた杏子は、偶然同じ魔女結界を進んでいた群雲琢磨と邂逅する。その後、二人は一度別れて、群雲は見滝原へ。そこで活動していたマミと共闘、共同生活を送るようになる。

 それから約一年、二人は“見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)”と呼ばれるようになった。

 その頃、美国織莉子がキュゥべえと契約。鹿目まどかが魔女化し、滅亡した世界を未来予知で知る。自らを慕う呉キリカと共に、世界救済の為に動き出していた。

 織莉子の誘導により、魔法少女となった千歳ゆま。彼女と行動を共にしていた杏子は、再び群雲と出会い、見滝原での共同生活を送るようになる。

 織莉子とキリカ。四人になった見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)。まどかを救う為に動く暁美ほむら。そして、見滝原を自分の縄張りにしようと行動を開始した優木沙々。

 目的の異なる四つ巴の戦いは、キリカによるゆま殺害を切っ掛けに一気に収束へと向かう。

 杏子の魔女化。マミの自殺を経て、沙々に復讐を果たす群雲。

 キリカのSG(ソウルジェム)破損により、計画を早めざるを得なくなった織莉子。

 見滝原中学で起きた魔女結界での決着は、ほむらと群雲以外の全滅という最悪の結果となった。

 時間遡行するほむらと、ただ独りでワルプルギスの夜に破れる群雲。三度、ほむらは群雲は置いて行った事になる。

 

 

概要

 暁美ほむら?週目。彼女が繰り返した時間軸の一つの話。(※1)

 公式スピンオフ作品“魔法少女おりこ☆マギカ”を軸に、群雲と杏子の悲恋を基本プロットに。(※2)

 また、オリ主介入による悪循環をベースとしている。

 

 

キャラクター紹介

 

美国織莉子

 魔法少女おりこ☆マギカの主人公。未来予知による破滅を回避する為、まどか殺害を目標とする。

 千歳ゆまへの契約幇助に、呉キリカに指示した魔法少女狩り。そのすべてがまどか殺害へのデコイであったが『守護者』によって、その未来を予知する事が出来ず、行動に移せないでいた。

 キリカに“時間”が無くなった事で強攻策にでるが、結果として群雲にSG(ソウルジェム)を砕かれる。

 自分の見た“未来”がいつしか“まどか魔女”ではなく“ワルプルギスの夜”によるものに変わっていた事に、最後まで気づく事はなかった。(※3)

 

呉キリカ

 美国織莉子の相棒。黒い魔法少女と呼ばれる魔法少女殺し。

 織莉子に尽くす為だけが行動原理で、それ以外を完全に切り捨てている。

 孵化直前の状態を逆手に取り、見滝原中学に“自分の魔女結界”を形成。しかし、目の前で織莉子が死んだ事で魔女化。群雲に討伐される。

 

千歳ゆま

 魔女結界で杏子に救われ、彼女を慕い魔法少女になった。“見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)”のメンバーとなり、幾度か衝突しながらも、共同生活し、馴染んで来た最中、呉キリカと遭遇、殺害される。

 

優木沙々

 洗脳魔法により、魔女を従える魔法少女。縄張り目的で見滝原に訪れる。

 チームリーダーであるマミを洗脳し、ゆまに単独行動させてキリカによる殺害を誘発した。

 その事に気付いた群雲に追い詰められて魔女化、討伐される。

 

巴マミ

 見滝原を縄張りとするチーム“見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)”のリーダー。

 度重なるメンバーの不幸と、魔法少女の真実に心が折れてしまい、最終的に群雲に殺される。

 

鹿目まどか

 原作主人公。魔女結界に捕らわれ、使い魔に殺されてしまう。(※4)

 

美樹さやか

 名前だけの登場。魔女結界で命を落としている。

 

志筑仁美

 名前だけの登場。魔女結界で命を落としている。

 

上条恭介

 さやかが契約していない為、入院生活。魔女結界に捕らわれる事はなかったが、ワルプルギスの夜の来訪で命を落としている。

 

 

暁美ほむら

 まどかの『守護者』。しかし、それ以外を切り捨てていた結果、織莉子に対して後手に回ってしまった事で、まどかを守りきれずに、時間遡行する。

 

 

佐倉杏子

 本作ヒロイン。(※5)

 最も群雲に翻弄された少女でもある。

 自分の過去に救済を示し、単独でキュゥべえと渡り合う群雲に惹かれている事を自覚するも、ゆまの死により絶望。

 群雲の物になる=群雲に殺してもらう事を前提として魔女化。

 

 

群雲琢磨

 本作主人公にして、狂言回し。(※6)

 ほむら来訪の一年程前からマミと共同生活を開始した。

 杏子とゆまの合流と、銃闘士の全滅、沙々、おりキリ組との戦いを経て、ワルプルギスの夜に単独で挑み、敗北する。

 魔女化杏子殺害後に、群雲が見る杏子は電気信号を操作した『意識した幻覚』であり、他人には認識されない。

 織莉子より【殲滅屍(ウィキッドデリート)】と呼ばれ(※7)、それを自らの心の糧にする為に“住み着かせた”(※8)

 

 

 

独自設定の解説

 

魔人と魔獣

 有史以前から人類と接触していたインキュベーターが、現在の“魔法少女システム”確立前、云わば“テストケース”の際に用いていた“契約者”の総称が魔人

 その魔人のSG(ソウルジェム)が限界を迎える事で、内包していた穢れが周りに四散、瘴気となり蓄積された結果、具現化するのが魔獣である

 第二次成長期の少女による、希望と絶望の相転移からのエネルギーに注力した結果として“魔人”の呼称が“魔法少女以外 劣化魔法少女”に意味が変わっていった

 また、魔獣が具現化するほど瘴気が蓄積される前に、魔女が孵化する為に回収してしまう為、その目撃例も激減する

 

 インキュベーターが突き詰めた結果が“魔法少女システム”ならば、そのシステムが確立する前から“魔獣が存在していた”のではないか

 だからこそ“原作アニメ最終話”で“魔法少女システム”が変質した結果、魔獣が“再び”現れるようになったのではないか

 そんな独自考察から、突き詰めていったのが“魔人”の設定である

 

 

(※1)何週目なのかは不明(原作設定より) 描写はしていないが、繰り返した間も群雲は魔人であった可能性はある ただ、ほむらと出会わなかっただけで

(※2)千歳ゆまの存在はかなり大きい 正式な年齢設定は不明だが“魔法少女”で群雲と同年代or年下という数少ないキャラでもある

(※3)織莉子は途中から“まどか殺害”と“殲滅屍殺害”に未来予知を割いており“今予知している見滝原の崩壊が【誰】によるものなのか”まで至らなかった 最初に見た“まどか魔女による崩壊”から“見滝原の崩壊=まどか魔女によるもの”という【先入観】が植え付けられてしまったものである

   ちなみに、おりこマギカ『別編』において、彼女は世界を崩壊させる魔女“ワルプルギスの夜”を打倒する事を目標にしている

(※4)見【殺した】為、群雲は嘘を言っていない ちなみに描写的には「百五十三章」で、群雲はまどかの遺体を通り過ぎている

(※5)元々、ヒロインを設定していなかった為、明確に描写を始めたのは第三幕から

(※6)主演でありながら、要所では解説役を努める事になっているのは、契約者の中で一番“インキュベーター”と接触している為でもある

(※7)殲滅屍(ウィキッドデリート)は、織莉子命名(彼女が最初に発言) 群雲はその呼び名を活用しているに過ぎない

(※8)【】(墨付き括弧)である理由がこれ 別人格ではなく、心のバランスと保つ為の“役名”の方が近い

 

 




「構想的には、ここまでで“前半戦終了”らしいね」
「【前半戦ながっ!?】」


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第四幕  人形と泡沫のfourth night
百六十二章 探し物


「【では】【はじめようか】【人ならざるモノの】【闘劇を】」


 立花宗一郎は困っていた。

 

 復讐の為、手に入れたはずの爆弾。

 しかし、出てきたのは全裸の女の子。

 記憶を失い“かずみ”という名前しか解らない少女。

 自分の作ったストロガノフを米粒ひとつ、残さないように食べる彼女を見ながら。

 

 立花宗一郎は困っていた。

 

 残念な事に、状況は止まる事無く動いていく。

 そう、立花を嘲笑うかのように。

 

 

 

 ピンポーン

 

 

 

 鳴り響くチャイム。来客を告げる印。しかし立花は動かない。

 

「? 出ないの?」

「出られる訳ないだろ。

 俺の知り合いに、お前の事をなんて説明するんだよ……」

 

 馬鹿正直に話すわけにも行かない。

 ショッピングセンターを爆破する為に手に入れた、爆弾入りトランクの中に、記憶の無い全裸の少女が居た。

 犯罪レベルというよりも、犯罪そのものである。

 しかし、立花はありえない音を聞く。

 

 鍵を開ける音と、扉が開く音。

 

(鍵を掛け忘れた? いや、そんなはずはない!!)

 

 思わず椅子から立ち上がる立花に、ハテナ顔のかずみ。

 

 そして現れたのは、小さな軍人。

 

 総白髪に右目の眼帯。緑の軍服に両手足を染める黒。

 なによりも()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、少年の異常さを際立たせている。

 少年は一通り室内を見渡す。立花とも目が合い、かずみとも目が合う。

 しかし、何を言うでもなく、部屋全体を見渡し終えて。

 

「【邪魔した】」

 

 回れ右。

 

「待って!!」

 

 それを呼び止めたのはかずみ。少年は再び振り返り、かずみと視線がぶつかる。

 

「わたしの事、知らない?」

「【は?】」

 

 一切感情の篭らない【】付いた声。驚いているのかどうかも解らない、鉄仮面。

 

「【初対面だが】」

「そっか~……」

 

 変わらず返答する少年に、落胆するかずみ。

 

「【状況が見えないが】」

「こっちの台詞だ」

 

 無表情のまま、首を傾げる少年の前に立つ立花。

 

「どうやって入ってきた?

 鍵は掛かっていたはずだぞ?」

「【オレはただ】【探し物をしているだけだ】」

 

 質問に答えず、目的を話して少年ははぐらかす。もちろん、それで納得する立花ではないが。

 

 

 鳴り響く携帯に遮られる。

 

「ったく、なんなんだ今日は!」

「【どんな日だ?】」

「なんて日だ!!」

「仲いいな、お子様共!?」

 

 翻弄されっぱなしの立花だが、携帯に出た瞬間、表情が凍りつく。

 気になったかずみは携帯に耳を傾け、少年は自身の聴覚を強化して、音を拾う。

 

「オマエノ爆弾ヲ預カッテイル。30分後、BUY-LOTノベンチデ交換ダ。コナケレバ警察ニ渡ス」

 

 明らかにボイスチェンジャーを使用している機械的な声は、一方的に告げて、通話を終わらせた。

 

「【機械で声を変えてはいるが】【おそらく女だな】」

「え? わかるの? すごい!」

「……思い出した」

 

 少年の非凡な能力に驚くかずみを余所に、立花は思い出す。

 

 爆弾入りトランクを手に入れた後、同じデザインのトランクを持つ女とぶつかった事。

 その時に入れ替わったとしか思えなかった。

 

「【状況がわからないんだが】」

「わたしも!!」

 

 淡々とする少年に、興味津々のかずみ。立花は溜め息をついた。

 この件に関し、立花は言い逃れが出来る状況じゃない。

 トランクの中にいたかずみはもちろん、どうやってか不明だが部屋に入ってきた少年にも、事情を話さなければならない状況。

 “口封じ”という選択をしないあたり、立花は“悪人”にはなれなかったのである。

 

「BUY-LOTの経営者に騙されて、店も土地も奪われた。

 復讐の為に俺は、爆弾入りのトランクを手に入れた」

「でも、中には記憶を失ってるわたしがいたんだよね?」

「おそらく、さっきの電話の奴が誘拐犯だろう。

 ぶつかったときに入れ替わったんだ」

 

 訪れる沈黙。しかし、それは僅かだった。

 

「取引しよう!」

「は?」

 

 かずみの提案に立花は面食らう。

 

「だって、わたしを知る手掛かりは、誘拐犯だけだもん!」

「【待て待て】」

 

 さらに、そこに少年が待ったをかける。

 

「【少し考えろ】【どう転んだって】【損しかないぞ】」

「どういう事?」

「【確認するが】【アンタは誘拐犯を知っているか?】」

「知るわけ無いだろ」

 

 得た情報を分析、選定、検証し、少年の【戯言】が始まる。

 

「【じゃあなんで誘拐犯は】【アンタの携帯番号を知っている?】」

「「!?」」

「【誘拐犯にとっても】【この状況は想定外のはずだ】【にもかかわらず誘拐犯は】【爆弾魔がアンタだと辿り着いている】【かなりの情報網を持っている事になる】」

 

 感情無く【戯言】を話すその姿は、まさに人形。或いは機械とでも言えるかも知れない。

 

「【自分が誘拐犯だった場合を考えてみろ】【トランクの中にはなぜか爆弾】【トランク自体が入れ替わったと気付く】」

「うんうん」

「【電話してきたって事は】【誘拐犯は爆弾魔の事を調べられる情報網を持っている】」

「おまえ、本人目の前にして爆弾魔って」

「【そうだろう?】【爆弾魔】」

「そう言えば、わたしもお兄さんの名前知らない」

 

 当然である。ろくに自己紹介が出来る状況でもない。

 

「立花宗一郎だ」

「記憶喪失のかずみ!!」

「【ウィキッドデリート】【今の所】【名乗る名前はそれだけだ】」

 

 互いの名前を簡潔に告げ、少年――――ウィキッドの【戯言】が続く。

 

「【誘拐犯にとって】【誘拐がばれる時点でアウトだ】【仮にこの取引で爆弾とかずみを交換しても】【かずみが素直に誘拐されるはずがない】」

「あったりまえじゃん!!」

 

 胸を張るかずみ。

 

「【誘拐犯が】【トランクの中が爆弾だと確認した以上】【立花さんが】【トランクの中のかずみを起こしている可能性は極めて高いと考えるだろう】【記憶に関してはなんとも言えないが】」

「誘拐犯が、わたしの記憶を奪ったの?」

 

 首を傾げるかずみ。感情と行動が素直に表現される少女である。

 対し、ウィキッドは行動に感情が見受けられない。

 軽く視線を動かして、ウィキッドが聞く。

 

「【いちたすいちは?】」

「に!!」

「【テーブルの上にお皿があるが】【なにか食べてたか?】」

「お兄さんの作ってくれたストロガノフ!!」

「【以前読んだ医学書にあったが】【かずみに起きているのは“エピソード記憶の喪失”だろう?】」

「???」

 

 記憶喪失。それには色々な種類がある。

 一定期間だけの喪失。一定の出来事だけの喪失。その在り方は一つではない。

 人としての“基本的な事や知識を失う事無く、自分や他人に関する事を失っている状態”が、今のかずみだ。

 これを“解離性健忘”に分類するのであれば。

 

 自分の生まれ育ちに関わる事を忘れる“全生活史健忘”か。

 特定の人や物事に関わる事を忘れる“系統的健忘”か。

 

 最も、ウィキッドも読んだ書物による知識を“思い出せる”のであって、その事を深く研究している訳ではない。

 だからこそ、どちらにも当てはまるだろう“エピソード記憶の喪失”と位置付けた。

 

「【現代社会で】【意図的に“特定の記憶を奪う技術”なんて】【確立されてない】」

「??????」

「【その点で言えば】【誘拐と記憶喪失は】【別に考えた方がいいのは】【わかるか?】」

「ぜんぜんわかんない!!」

「【ぇー】」

 

 見事に噛み合ってなかった。

 

「あぁ~、つまり?」

「【かずみの記憶喪失と】【かずみの誘拐は】【別々に切り離して考えるべき】」

 

 立花の言葉に、ウィキッドが淡々と答える。どう見ても一番年下の少年が、誰よりも理論的に状況を整理していく。

 

「【そして今】【オレ達が考えるべきは】【かずみの誘拐についてだ】」

「わたしの記憶は!?」

「【頑張って思い出せ】【いじょ】」

「冷たいよ! ウェヒッチョトニーニョ!!」

「【言えてないし】【むしろ誰だそれ】」

「言い難いもん!!」

「【ぇー】」

 

 どうにも、緊迫とは程遠い子供達である。

 片方は記憶を失いながらも明るく。

 片方は薀蓄垂れ流す機械のようで。

 

 噛み合う筈も無かった。

 

 

 

 そして、立花宗一郎は困っていた。




次回予告

復讐の為、爆弾を手に入れるはずだった男

誘拐され、記憶を失った少女

探し物の最中、二人と関わった少年


そして、少女を誘拐した者



遂にはじまったのだ

記憶を無くした少女と 感情を失った少年が


この、あすなろ市で出逢った事で



初戦の相手は、誘拐犯


百六十三章 真実だとしても


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百六十三章 真実だとしても

「どうやら、面倒な事になっているようだね!!」
「久しぶりだからって、テンション高いね、ハジヶえ」
「TIPSを捻じ込みようがないからね!!」
「ウィキッドの解説はしないのかい?
 無表情になった理由とか」
「もうしばらくは後だね!!
 それよりも!!」
「それよりも?」
「ジュゥべえとの会話が楽しみだよ!!」
「本編で?」
「いや? その内前書きにくるじゃん?
 同胞だし」
「わけがわからないよ」


 あすなろ市にあるショッピングセンター。立花宗一郎はトランクを持って、そこに来ていた。

 トランクの中にはかずみ。少し離れた場所から()()()()()()()()()ウィキッドが身を潜め、辺りを伺っていた。

 

(【さてさて】【オレの“仮定した過程”の通りにいくかどうか】)

 

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 

 誘拐犯からの交換条件。

 青年と少女と少年は、素直に従うはずもなく。

 

「【かずみが起きた以上】【誘拐は失敗】【だとすれば】【誘拐犯はどう動く?】」

 

 愛用する電気タバコを咥え、煙を吐きながら。感情無き人形の如く、ウィキッドが言葉を紡ぐ。

 

「いや、その前にお前それ……」

「【スルー推奨】【それ所じゃないだろ】」

「キッドが不良になった!?」

「【最初からだ】【てかキッドって】」

「言い難いんだもん!!」

 

 電気タバコを咥えるウィキッドに、立花が指摘するも意に介さず。そして、かずみの呼び方は“キッド”になったようだ。

 何も無かったかのように、ウィキッドは言葉を続ける。

 

「【誘拐犯は考える】【トランクが入れ替わった時点で】【誘拐は失敗した】」

 

 当然である。誘拐を成功させる必須条件は“誘拐を他者に悟られない事”にある。

 誘拐の成功率は低い。何故なら“誘拐が判明しているから”に他ならない。

 だからこそ“判明した誘拐の成功率は低い”のだ。

 それは逆に“判明しない誘拐の成功率は高い”と言える。

 当然だ。妨害する存在は“誘拐される当事者”以外にはありえないからだ。

 

「【誘拐されたとなれば】【かずみも警戒するし】【かずみの周りの人間も警戒するだろう】」

「いるのかな? わたしにも、心配してくれる人って」

 

 かずみの呟き。記憶が無いという事は、確かな()()がない事。それは本人にしか知りえない恐怖と虚無。

 

「【だとすれば】【誘拐犯は考える】」

 

 その呟きを聞きながらも、無視して、ウィキッドは言葉を続ける。続けたいのに色々と茶々が入るのはどうにかならないものか。

 

「【爆弾魔に】【誘拐犯になってもらえばいい】」

「はぁ!?」

 

 驚愕する立花。無論、ウィキッドはそれをも無視する。

 

「【誘拐犯が捕まれば】【警戒は薄まるだろう】【()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()】」

 

 事件が解決した直後の、一瞬の緩み。ウィキッドなら確実にそこを突くだろう。

 誘拐犯が、そこまで考えているかは解らない。だが、ウィキッドが“誘拐犯”なら、そう動く。

 

「【ならば()()()は】【そこを逆手に取る】【そんなオレの戯言に乗るか?】」

 

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 鳴り響く、立花の携帯。

 

「もしもし」

「ぶつハ、ベンチノ裏ダ」

 

 簡潔に用件だけ伝え、通話が切られる。立花は言われたまま、ベンチの裏に回る。

 白い布に包まれた何か。布を取れば、出てくるのは自身の持つトランクと同デザインのもの。

 

(【さあ】【こいっ!】)

 

 <一部召還(Parts Gate)>で“左目だけ”を移動させて、ウィキッドは状況を見守る。

 すべては、自分の為に。

 

「ちょっといいですか?」

 

 トランクを摩り替えた立花。それを呼び止めたのは、二人の中学生。

 

(【……】)

 

「なんだ?」

「あなたさっき、トランクを摩り替えてましたよね?」

「犯罪のニオイがするんだよなぁ~」

 

(【ったく】【余計な事を】)

 

 ウィキッドが落胆する事など知る由も無く。

 立花は警戒を解かないままに、言葉を紡ぐ。

 

「なんだ、お前達は?」

 

 立花と対峙した二人の中学生は。

 

「通りすがりの女子中学生」

「海香とカオルでっす! よろしく!」

 

 暢気に自己紹介をする。しかし、立花の警戒は崩れない。トランクを自身の後ろに回し、取られないようにする。

 

(こいつらが“誘拐犯”か?)

(???)

(【この“想定外”は】【もうひとつの“仮定した過程”を後押しするな】)

 

 取引自体が罠。そう話し合っていた為、立花は()()()()()()()()()()()()()()()()()を敵視する。

 かずみはトランクの中。状況がわかるはずもなく。

 ウィキッドは、状況から“次”へ思考を巡らせる。

 

「摩り替えた? 何の話だ?」

 

 立花は白を切る。現状、立花にとって留まる事こそが避けるべき事なのだ。

 

「動くな」

「「「!?」」」

 

 しかし、状況は動く。銃口を向けながら近づく女刑事を先頭に、武装した警察組織がその姿を現す。

 

(【いや】【おかしいだろ】)

 

 ただ独り、状況を確認するウィキッドは違和感を覚え、それを抽出していく。

 

「立花宗一郎ね。

 あなたがこのショッピングモールを爆破しようとしている事は、すでに把握済み。

 抵抗しても無駄よ」

 

 女子中学生二人を立花から離し、女刑事は立花を睨みつける。

 立花が、ゆっくりとトランクから手を離した瞬間。

 

「撃っちゃダメだよ!!」

 

 もう一つのトランクから、かずみが飛び出してきた。

 

(【あぁ】【もう】【めちゃくちゃ】)

 

 無表情のまま、ウィキッドはため息を一つ。もはやこれ以上“状況を見守る”のは不可能に近い。

 トランクからかずみが出て来た事で、状況は混乱の一途へ。

 

「立花は、誘拐までしていたの!?」

「違う!! 立花さんはわたしを助けてくれた!! 悪い人じゃない!!」

「っ!?

 でも、それと爆弾は別よ!!」

「【よう】【立花さん】【探し物は見つかったかい?】」

 

 平然と、混乱の場に姿を見せるウィキッド。

 

「キッド!?」

「【かずみは少し黙ってな】」

「ひどくない!?」

「【ちゃんと】【場を収めてやるから】」

「ほんと?」

「【まあ】【オレは嘘吐きだけどな】」

「わかった、信じる」

 

 かみ合ってるんだか、かみ合ってないんだか。

 笑顔のかずみに、無表情のウィキッド。

 

「【ようは】【立花さんが】【爆弾で爆破しようと()()()()()なら】【問題は無いんだよな?】」

「そうではないわ。

 爆弾を所持している時点で、立派な犯罪よ」

「【なら】【話は簡単だ】」

 

 女刑事とのやりとりの後、ウィキッドは立花のトランクを手にとって、躊躇う事無く開いた。

 

「なっ!?」

「おい!!」

 

 女刑事と立花が驚く中、ウィキッドは感情の篭らない声色のまま、言ってのけた。

 

「【で】【どこに爆弾があるって?】」

 

 トランクの中。そこに入っているのは男物の着替え一式。これから旅行にでも行くかのような内容だった。

 

「ばかなっ!?」

 

 女刑事が、思わず中身を引っ掻き回す。しかし、当然のように爆弾なんて出てこない。

 

「どういうことだ?」

 

 立花の質問に、ウィキッドは平然と言う。

 

「【どういう事もなにも】【爆弾なんて持ってないだろ?】」

「でもキッド……」

「【かずみだって】【()()()()()()()()()()()()()()()()()()()】」

「!! うん!!」

「【つまり】【女刑事さんが間違ってたってだけの話さ】」

 

 たった一手で、ウィキッドは立花宗一郎の“無罪”を証明する。

 さらにかずみに“立花に誘拐されていない”と証言させる事で、誘拐の容疑すら晴らす。

 

「でも、さっきその人はトランクを摩り替えていたわ」

「【おいおい】【立花さんがトランクを摩り替えたなんて“証拠”がどこにあるんだよ?】」

 

 海香の疑惑を、ウィキッドは一蹴する。

 

「【まったく同じデザインだからな】【見間違えたんじゃないか?】」

「……」

 

 無表情、無感情な左目が海香を捉える。言外に言っているのだ。()()()()()()()()と。

 

「ばかな……そんなはずは…………」

 

 呆然と、開いたトランクの前に座り込む女刑事。それを見たかずみは、一つの答えに辿り着く。

 

「ひょっとして、爆弾でお兄さんをハメようとしたのって、刑事さん?」

 

 その言葉に、女刑事は鋭い目線をかずみに向けるが。

 

「【こら】」

「あいたっ!?」

 

 その視界に映ったのは、かずみをチョップするウィキッドだった。

 

「【これ以上】【ややこしくすなや】」

「キッド、ひどい!?」

「【立花さんの】【ありえない嫌疑が晴れたんだ】【そこで納得しとけ】」

 

 言いながら、ウィキッドの左目が女刑事を見据え。

 

「【たとえ真実だとしてもな】」

 

 そう。ウィキッドもまた、かずみと同じ答えに辿り着いている。

 しかし、それを追求する必要は無い。

 

「【ほら】【行こうぜ】」

 

 トランクを閉じて、ウィキッドはそのまま歩き出す。

 

「待ってよ、キッド!!」

 

 それをかずみが追い、立花がそれに続いた。その後ろ、睨みつける女刑事の視線は、憎悪に満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 ショッピングモールから出てすぐ、三人に声が掛かる。

 

「待って」

 

 その声に三人が振り返った先には、先ほどの女子中学生が二人。

 

「【何か用かな?】】

「用があるのは、かずみよ」

「わたし?」

 

 首を傾げるかずみに、海香は一枚の写真を見せる。そこに映るのは三人の少女。

 海香、カオル、そして、かずみ。

 

「あれ? わたしだ」

「【なるほど】【知り合いか】」

「そういうこと!!」

 

 笑顔のカオルに、かずみも笑顔になる。

 聞けば、かずみが行方不明になったのは、つい昨日の話だったらしい。

 家出なのか、誘拐なのか。

 ひとまず、二人で探してみようと出かけた矢先の、先ほどの騒動だった。

 

「なら、そっちと一緒の方がいいな」

 

 立花の言葉に、全員が納得する。

 

「あ」

 

 そしてかずみは、着ている服に手をかけ。

 

「帰るから返さなきゃ」

「かずみ!?」

「ちょ、こんなとこで脱がないの!?」

「いいよ、もってけ!!」

「【なんだかなぁ】」

 

 また一騒動である。なにかしらバタバタしないと、気か済まないのだろうか。

 そして、三人と二人は、二人と三人に分かれる。

 

「お兄さん、キッド。

 ありがとう!!」

 

 満面の笑みで手を振るかずみ。それを背中に受け、立花とウィキッドは歩いていく。

 二人の姿が見えなくなった頃、かずみ達もまた帰路に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【それで】【どうする?】」

 

 並んで歩く立花とウィキッド。その視線を前に向けたまま、ウィキッドは電気タバコを咥えながら問いかける。

 

「なにをだ?」

「【爆弾による復讐さ】」

 

 その言葉に、立花の足が止まる。

 そう、立花自身の問題は、何も解決していない。

 かずみの記憶が戻っていないのと同じように。

 かずみを誘拐したのが誰なのか、不明のままなように。

 起きた騒動が収まっただけなのである。

 

「【一つ言わさせてもらうなら】」

 

 立花と同じように、立ち止まったウィキッドは。

 

「【記憶喪失のかずみに食事を作ったり】【突然現れたオレの言葉に従ったり】【あんた】【犯罪者に向いてねぇよ】」

 

 褒めてるんだか、貶してるんだが、解らないような事を、感情を込めずに言う。

 

「【あんたにはきっと】【爆弾よりも包丁の方が】【お似合いさ】」

「キッド、お前……」

 

 いつしか、立花からの呼ばれ方もキッドになっていた。

 その事を、特に気にする訳でもなく。

 

「【オレは】【オレの探し物を】【あんたは】【あんたの探し物を】」

「……ああ。

 そうだな」

 

 結局、ガキの言葉に従うんだから、本当に犯罪者に向いてないんだろうな。

 そんな事を思いながら、立花は苦笑する。

 

「今度、お前にも食わせてやるよ、キッド」

「【ああ】【楽しみにしてるよ】」

 

 そして、二人はそこで別れた。

 後に、本当に再会する事になるのだから、運命とは不思議なモノである。

 

 立花宗一郎とも。

 

 

 かずみとも。




次回予告

早すぎた再会

そこから、動きだす歯車

その先にあるものがなんなのか

子供(キッド)にはまだ、わからない


百六十四章 都合が良かった


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百六十四章 都合が良かった

「ひゃっほぉぉぉぉぉおおぉぉぉぉ!!!!」
「いきなりテンション高いね」
「ボクだからね!!
 きっと、ボクのハジケっぷりを待ちわびている人は多いだろう!!
 さあ、見滝原でボクとケーヤク!!
 今ならソウルジェムに、近くの黒いGを強制巨大化させる機能を付けてあげるよ!!」
「嫌がらせというレベルを越えてないかい?」
「ボクだからね」
「でも不快感及び嫌悪感から、穢れが増幅される可能性はある。
 検討してみるのもいいかもしれないね」
「ゴメン、マジヤメテ」
「でも、ひとついいかい?」
「なんだい同胞?」
「今の舞台はあすなろ市だよ」
「あ゛」


「ふにゅぅ……?」

 

 自分の部屋(多分)のベッドの上。まどろみから覚醒するかずみ。

 予想以上の大きな家に“御崎海香”と“牧カオル”の三人暮らし。

 海香がベストセラー作家である事。カオルがサッカーをしている事。

 なにも、覚えてはいなかった。

 今のかずみにあるのは、トランクの中で目覚めてから“今までの事”だけ。

 美味しい食事を作ってくれた“立花宗一郎”と、呼びにくいからと“キッド”と呼ぶ事にした、白髪眼帯の少年。

 まるで、感情を失っているかのような無表情と、淡々とした口調。

 

「記憶の無いわたしと、感情の無い子供(キッド)かぁ」

 

 目覚めて、ひと悶着あって。

 今、はっきりと解っている事は。

 海香とカオルが置手紙を残し、家を出ている事と。

 

 

 

 ぐゅるるるるぅぅぅぅ~~……。

 

 

 

「わたしって、くいしんぼ?」

 

 しかし、そこからのかずみの行動は、実にスムースだった。

 自身の行動に疑問を挟む余地すらないほどに。

 作るのは、立花にご馳走になった『ビーフストロガノフ』だ。

 何故、()()()()()()()()()()()()()

 そこには確かに、失った筈の記憶への糸口がある。

 

「うん、わたしってば天才かも!!」

 

 の、だが。

 出来上がった料理に満足するかずみは、そのことに気付かないでいた。

 

 自分の分、海香の分、カオルの分。

 

「ありゃりゃ。

 作りすぎちゃったかな?」

 

 しかし、出来上がった料理は明らかに多い。そう、まるで……

 

 

 

 ピンポーン

 

 

 

 かずみに記憶は無い。しかし《無意識》には《なにか》がある。

 その事に気付く前に、鳴り響いたチャイムに、かずみの《意識》が向けられる。

 来客者は、昼間の女刑事だった。

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 あすなろ市。あすなろタワーと呼ばれる、一番高い場所に“それ”はいた。

 

「この場所は、言ってしまえば“箱庭”だ。

 いや、《常識が異なる》のだから【異世界】と呼んでも間違いではない」

 

 誰にも見られることのない、その紅い瞳が街を見下ろす。

 

「さあ、キミはこの【異世界】で、ちゃんと“探しモノ”を見つける事が出来るかい?」

 

 決して聞かれる事の無い声は、確かに街に響いている筈だった。

 

「魔女も、魔法少女も、等しく殲滅する魔人、殲滅屍(ウィキッドデリート)。」

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

「いいの?」

「いいよ!

 なんでか作り過ぎちゃって」

 

 可愛らしくベロを出し、女刑事の分を用意するかずみ。

 そして、自分の分を準備して。

 

「いだたきま「ピンポーン」ええぇぇぇぇ……」

 

 ようやく食べられると思いきや、まさかの来訪者。

 応対する為に立ち上がるかずみの後ろ、用意されたナイフをしっかりと握り締めた女刑事は。

 

「あれ? キッドだ!!」

 

 予期せぬ来訪者に、内心ほくそ笑んでいた。

 

 

 

 そんな後方の悪意に気付かずに、かずみは玄関へ一直線。

 

「いらっしゃい、キッド!!」

 

 満面の笑みをうかべるかずみに、対照的に変わらぬ無表情のキッド。

 しばし、目をパチパチさせて。

 

「【かずみ?】」

「え?」

「【え?】」

 

 

 

 

 まったくの偶然だった。

 立花の時と同じだ。キッドは【探し物】をしているだけ。

 その最中に立ち寄ったのが、かずみ達が暮らす家だっただけの事。

 

「【驚いたな】」

「だったら、もう少しリアクションがほしいな~」

「【悪いね】」

 

 変わらぬ笑顔のかずみと、変わらぬ表情のキッド。

 

「ご飯作ったけど、食べる?」

「【自分で?】」

「うん! わたしってば料理の天才かもしれない!!」

「【へぇ】」

 

 当然のように招くかずみと、当然のように招かれるキッド。

 二人の因果(歯車)は、すでに噛み合っていたのかもしれない。

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 

 ひとつのテーブルで食事をする三人。

 

「美味しいわね」

「ほんと? よかった!!」

「【ごちそうさま】」

「はやっ!?」

「【美味かったよ】」

「よかった!! でももう少しリアクションが欲しいかなぁ?」

「【悪いね】」

 

 まあ、その内の一人は速攻で食べ終わったのだが。

 食事を続ける二人と、それを無表情に眺める一人に、状況が変わる。

 

「海香ちゃん達と入れ違いで、ラッキーだったかもしれないわね」

「そうだよね、でなきゃ食事をする事も()()()()()()()()もできないもんね」

 

 そして、その状況もかずみの一言で一変する。

 

「【まあ】【かずみだけじゃなく】【オレがここに来たのも】【刑事さんにとっては都合が良かっただろうな】」

 

 キッドの来訪は完全に偶然だった。女刑事がキッドを自力で見つけるのは難しいだろう。キッドはあすなろ市のモノではない。

 しかし、女刑事がここにいる事実は、キッドが【過程を仮定】するには充分だった。

 なぜならここにいる子供達は、女刑事が【黒】だと確信していたからだ。

 

「海香とカオルの置手紙があったの。

 女刑事さんからのラブコールだってね。

 呼び出した本人が家に来るなんて、おかしいよね?」

「【そりゃ悪手以外のなにものでもないわな】」

 

 かずみの言葉に、キッドが賛同する。

 

「きっと爆弾を作ったのも刑事さんだよね?

 自分が手柄を立てる為に、立花さんを利用しようとした」

「【あ】【オレはそれを仮定してなかったな】」

「そうなの?」

「【爆弾があるかもしれないにもかかわらず】【()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()】【警察側に犯人がいるとは仮定してたが】」

 

 黙る女刑事を余所に、かずみとキッドは互いの推理(【戯言】)を披露する。

 

「そっか。

 普通、爆弾があるなんて解ってたら、一般人を避難させるもんね」

「【それがないにもかかわらず】【狙い済ましたかのように警察が来れば二択】」

「二択?」

「【一般人を守るつもりがないか】【爆弾を使用させる気がないか】」

「ん~?」

「【前者なら】【一般人よりも手柄】【後者なら】【最初から犯人を撃ち殺すつもりだった】」

「そっか!!

 爆弾を調べられたら、女刑事さんが作った物だって、ばれちゃうもんね!!」

「【そもそも】【爆弾があるのに】【ろくな装備もせずに最前列に立つ時点で】【違和感しかなかったがね】」

 

 実の所、子供達の言う事は、状況証拠からの推察であり、物的証拠はなにもない。

 シラを切り通す事は、不可能ではない。

 

「黙りなさい!!」

 

 しかし、女刑事にその余裕は無かった。テーブルの上にあった食事を激しく払い落とし、二人を黙らせようとする。

 その反応に、冷たい眼差しを向けるかずみ。

 だが、キッドはその反応を想定していたのか、変わらぬ無表情で会話を続け、かずみもそれにあわせる。

 

「【おそらく“誘拐犯”は】【何らかの形で女刑事の思惑に気付いて】【コンタクトを取ったんだろう】」

「女刑事さんが誘拐犯じゃないの?」

「【違うだろ】【もしそうならかずみを殺そうとはしない】【誘拐と殺人は別だからな】」

「違うのか~」

 

 二人は止まらない。【()()()()()()()()()()()()()()()()】女刑事を無視し、女刑事を追い詰めていく。

 かずみにその自覚はないだろう。キッドにその自覚はないだろう。

 しかし【無自覚で無邪気な】その行動は、女刑事に【邪気を自覚】させてしまう。

 

「【仮定として】【立花さんに爆弾送って唆したのが女刑事さんだとしても】【かずみの誘拐とは繋がらないだろ?】」

「そっか~。

 そもそも“トランクの取り違い”がなかったら、わたしはキッドや立花さんに会う事もなかったんだよね~」

「【トランクの取り違いから】【誘拐犯は女刑事さんを割り出して】【接触してきたって方が】【筋は通るだろ?】」

「誘拐犯は、どうやって女刑事さんに辿り着いたんだろう?」

「【そこまでは知らん】【オレ】【誘拐犯じゃねぇし】」

「無責任っ!?」

「【ただ“最初から立花さんを嵌めるつもりだった”と仮定するなら】【女刑事さんが立花さんの携帯番号を知っていても不思議じゃない】【誘拐犯が“かずみ入りトランク”の所在を求めていたのは間違いないだろうから】【入れ違いになった“爆弾入りとランク”を必要とする女刑事さんと接触しても不思議はない】」

「結局、わたしの誘拐と爆弾騒ぎは別物って事?」

「【だろうな】【繋がりがあると仮定するなら】【同じデザインのトランクを使用するのは】【愚の骨頂だ】」

「間違いの元だもんね~」

 

 限界だったのだろう。女刑事がナイフを手にかずみに飛び掛る。しかし、かずみはナイフとフォークでそれを防ぎ、同時に動いたキッドがテーブルに手をついて自身の身体を支え、そのまま女刑事を蹴り飛ばす。

 後方に吹き飛ばされた女刑事が、置いてあった電話を巻き込んで倒れこむ。

 テーブルの上から降りたキッドは、そのままかずみの横に立ち、二人で女刑事を見下ろす。

 

「もし、わたし達を始末出来ても、海香達が刑事さんに呼び出されている以上、怪しまれるのは当然の事だよ?」

「【まあ】【素直に始末されるつもりは無いけどな】」

 

 二対一。特にキッドには【これまでの経験】がある為、人間に後れを取る要素はない。

 ……女刑事が、本当に“人間”であったのなら。

 

「あなた達は、間違えているわ……」

 

 俯きながら、ゆっくりと立ち上がった女刑事は。

 

「立花の情報をくれた人がいてね。

 私はそれに乗っかっただけよ」

(【誘拐犯?】【もしそうなら立花さんは本気で爆弾を使うつもりだったのか】)

 

 淡々と情報を整理するキッドをよそに。

 

「それに、貰ったのは情報だけじゃない」

 

 嫌な音をたてながら変化していく。人ならざるモノへと。

 

「決して証拠を残さずに、人を殺せるチカラをッ!!」

「うそーーーーーーっ!?」

「【流石にこれは】【想定外だな】」

 

 化け物へと変質した刑事に、かずみは声を上げ。

 キッドは、初めて見る事態に首を傾げた。




次回予告

回りだした歯車を止めるのは難しい

記憶の無い子供は、突然の異常事態を知らず

表情の無い子供は、突然の異常事態を知らず

迫る脅威は、決して待ってくれたりはしない

回りだした歯車を止めるのは難しい


そして、止めようとするモノが、現れるとも限らない

百六十五章 初体験


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百六十五章 初体験

「仕方が無いとはいえ、納得いかないよ!!」
「どっちなんだい?」
「ドッチモー!!」
「どうせH(ハジヶえ・)K(ザ・キョウゲンマワシ)の役割を奨めるんだろう?」
「もう同胞のツッコミがクールすぎて、生きてるのが辛い!! 感情無いけど!!!!」
「それで?」
「幕間という名の【その時間軸の魔人説明】が入らないと、ボクの役割は十全に発揮されないのさ!!
 ボクは言ってしまえば【読者を誘う狂言まわっしー】だからね!!」
「どう考えても、人選ミスだよね」
「ボクだからね!!」/)(0◕ω◕0)(\モチーン


「がああぁぁぁぁ!!」

 

 化け物になった女刑事の異形な腕が、かずみとキッドを纏めて吹き飛ばす。

 窓枠ごと、外に放り出された二人を追い、化け物も外に出てくる。

 

「なにこれ!?

 なんなのよ、これはぁ~!?」

「【知らん】【流石にこれは】【初体験だよ】」

 

 混乱するかずみと、変わらぬ無表情のキッド。そんな二人を殺す為に化け物が再びその腕を振るう。

 いつの間にか、左手に持っていたトンファーで、キッドが前に立ち受け止めようとするが。

 

「【う】【お】」

 

 その威力は凄まじく、キッドはそのまま吹き飛ばされてしまう。

 

「キッド!?」

 

 自身を庇う形で前に立ち、吹き飛ばされたキッドに、かずみが慌てて駆け寄ろうとするが、その前に化け物がかずみを捕らえる。

 

 リン

 

 

 響く鈴の音

 

 

 導かれる、記憶の映像

 

 

 

 

「耳障りだ……」

 

 化け物が、呻く。

 

「耳障りだぁ!!」

「【お前の声がな】」

 

 かずみを掴む化け物の腕を、キッドが右手に持つナイフで切り落とす。

 

 リン

 

 響く鈴の音

 

 

 紡がれる、記録の調べ

 

 

 無造作に転がるかずみを庇うように、キッドは逆手に持ったナイフとトンファーを広げるように構える。

 

「【本当に】【初体験にも】【ほどがある】」

 

 電子タバコを咥えながら、無表情、無感情な子供(キッド)が、化け物と対峙する。

 

 

 リン

 

 響く鈴の音

 

 

 招かれる、力の奔流

 

 

「【まあ】【相手がどんな存在だろうと】【オレは】」リン「【さっきから】【なんの音だ?】」

 

 響く鈴の音

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 覚醒する、少女

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おぉ!?」

 

 立ち上がったかずみの服装が、変化していた。黒をベースとし、白をアクセントに加えた、ファンタジーな衣装。

 それはまさに「魔法少女」を体現した姿と言える。

 

「なにこれ?」

「【オレに聞くな】」

 

 自分の衣装をあれやこれやと観察しながら、かずみは嬉しそうに聞く。当然、答えを持たないキッドは、無感情にかえす。

 

「か~わい~~!!」

「【それは否定せんが】」

 

 はしゃぐかずみに、キッドが釘を刺す。

 

「【それどころじゃなくね?】」

 

 かずみが見た先には、化け物の腕をトンファーで受け止めるキッドの姿。

 

「ちょっ!?

 大変なら言ってよ!!」

「【むしろ】【この状況ではしゃぐな】」

「だって、可愛くない?」

「【ファッションショーは後にしてくれ】【割と切実に】」

 

 異常な状況である。

 

 化け物となった女刑事。それに平然と対応するキッド。いつの間にか服装が変わっていたかずみ。

 今、この場所に【人の常識】に当て嵌まるモノは、存在しない。

 

「【それで】」

 

 カマキリのような化け物になった女刑事の攻撃を、トンファーとナイフで往なすキッド。

 最初に吹き飛ばされた経験から、相手の攻撃を“受ける”のではなく“力の方向をずらす”事で、完全に対応しているのだ。

 

「【早着替えした理由は?】」

「わかんない!!」

 

 鈴の音に誘われるように、かずみは“変身”していた。

 しかし、それは【無自覚】のままに行われた変化。当人であるかずみには、何もわからない。彼女には記憶が無いのだ。

 

 リン

 

 響く鈴の音

 

「キッド、大丈夫?」

「【大丈夫に見えるなら】【お前の目は意味無いな】」

「ひどくないっ!?」

 

 かずみとキッドは会話する。その会話は、同じような流れのまま。

 今が、どんな状況であったとしても。

 その“異常”を、二人(子供達)は自覚していない。

 キッドが化け物の攻撃を往なし続け、かずみはそれを近くで見守る。

 そんな状況でも、会話は続く。

 

「え~っと……、なんとか出来るような気もするんだけど」

「【はやいとこ】【この化け物を殺して】」

「あ、いや、それはダメ」

「【このままだと】【オレが死ねる】」

「それもダメ!!」

「【どうせいと】」

 

 響く鈴の音

 

 それは、かずみを―――が

 

「【あ】【ナイフの刃が折れた】」

「わたしの、杖? 使う?」

「【どうせいと】」

 

 響く鈴の音

 

 それは、キッドに―――が

 

「【はい】【次のナイフですよ】」

「どこから出したの?」

「【手品は】【タネを知らない方が】【楽しめるものさ】」

 

 響く鈴の音

 

 それが、二人の子供を

 

 

「【とりあえず】」

 

 化け物の攻撃を往なし続けていたキッドが動く。

 振り抜かれた腕を、上へ弾いて懐に潜り込み、その勢いのままに前蹴り。

 

「【邪魔】」

 

 あり得ないほどの衝撃に、化け物が宙を舞う。

 

 この場にいる全てのモノにとって。この出来事は初体験。

 

「キッド、つよ~い!!」

「【いやいや】【ありえない】」

「え~? なんで~?」

「【強かったら】【倒せてるだろ】【アレ】」

 

 化け物と、距離を離すことに成功したキッドが、かずみの横に立つ。

 事実、キッドは化け物の攻撃を往なし続けていただけで、攻撃出来た訳ではない。

 手を抜いていた訳ではない。手を抜かずになんとか出来ているなら、躊躇い無く実行するのが、キッドである。

 

「なんとかなる気がするの」

 

 かずみは笑顔を、キッドに向ける。この状況でも笑顔である。しかも横にいるのが無表情だから、それは異常を助長させる。

 

「でも、わたしだけじゃ無理っぽい」

「【ダメじゃん】」

 

 電子タバコをふかし、キッドが呟く。無表情のままに動く少年の横には、明るい少女。それは異常を助長させる。

 

「かああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 吼える化け物。異形と化した女刑事が、異常な状況を体現する。

 

「キッド」

「【なに?】【今】【忙しい】」

「手伝って!!」

「【うん】」

 

 異常な状況。

 記憶を亡くした少女。感情を失くした少年。化け物になった女刑事。

 此度の“悲劇”を象徴するように、魔人が行う、いつもの宣言。

 

 

 

「【では】【闘劇を】【はじめよう】」




次回予告

歯車は回り始めた 少女の目覚めを切っ掛けに

歯車は回り始めた 少年の来訪を切っ掛けに

悲劇であろうと 喜劇であろうと


幕は、上がってしまったのだ


歯車は回り始めた 終わるために始まった




百六十六章 最後の射撃が懐かしい


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