新サクラ大戦 降魔世界大戦 乙女の血は紡がれて 第一部 (魯竹波)
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第一章 新たなる世代の風
序話 海軍の卒業前演習


1951年3月 江田島・海軍兵学校宿舎

 

海軍兵学校の三年生は、明後日に航海演習を控えており、その準備に明け暮れていた。

 

そう、この2名を除いては……………。

 

 

 

 

「よし、届いたっ!  菊原っ!」

 

大神優一郎は同室の親友:菊原武を呼び寄せた。

 

「どうしたってんだ? 優一郎。 」  

 

優一郎は幾重にも包まれ、封印された袋を突き出して

 

「ついに馬糞が届いた!

栃木の伯母さんに送ってもらった奴だよ。」

 

「早速、やるつもりか!

面白ぇ。  楽しみだぜ」

 

「ああ。  これを鬼佐々木の枕元に潜ませておくんだ。

洗顔料にもね。

何故か、不思議と気づかないんだよね~鬼佐々木の奴。」

 

「毎回毎回、つくづく面白いイタズラを考えるな。

しかも、中将閣下の息子と来てるから、奴もうかうかと手出しできないしな。」

 

「あはは…………普段、僕達生徒を鬱憤晴らしに虐めている罰だよ。

皆の意趣返しをしてやるのが、権力者の息子としての責務だと、僕は思う。」

 

「嘘つけ。 お前はただ楽しんでるだけだろ」

 

「えへへ。 そういう考え方もあるよね~。」

 

と、その時

 

「おいっ! 大神と菊原っ! いるか!」

 

優一郎のイタズラを仕掛ける対象……………もとい、数年に一回は自殺者を出す程の苛烈な指導で鬼と謳われている鬼佐々木こと、教官の佐々木軍曹が乱入してきた。

 

「噂をすれば陰って奴だな。」 

 

「人外でも通用するとは知らなかったよ……。」

 

「返事をせんかっ!」

 

「「はっ! 如何なさいましたか教官殿!」」

 

「校長殿がお呼びだ。 さっさと行けっ!」

 

「「はっ!」」

 

「ふん! それと、大神っ また変なイタズラをしてみろ。

死ぬような思いをさせてやるからな。」

 

「はいはい。」

 

 

 

 

 

 

「全く、何の用だよ 校長が。」

 

「さぁね。  

僕と君が学年のツートップだから褒めてくれるんじゃないの?」

 

「冗談はよせ。 校長は、将官の息子だからと俺らが贔屓されていると思っていやがる連中の一人だぞ。」

 

「冗談冗談。  さ、ついたよ」

 

優一郎と菊原は、校長室の扉の前に立った。

 

「「大神優一郎、菊原武の両名、只今到着致しました!」」

 

二人がそういい、ノックすると

 

「入り給え」

 

「「失礼します」」

 

2人は校長室に入った。

 

そこにはいつものハゲデブの校長がどっしりと構えていた。

 

「大神優一郎くん、菊原武くん。

君達、先月の妙な健康診断を覚えているかね?」

 

校長が二人に尋ねた。

 

「はい。  あれは一体、何だったのでございますか?」

 

「あれはただの検査ではない。

軍のさる秘密組織の適正を調べるための検査だ。 

そして、君達はその検査で合格値を示したんだ」

 

言葉を次いだ。

 

「「……………それが如何なさいましたか?」」

 

「大神優一郎くん、菊原武くん。

君達には、最上級生の卒業前演習に加わり、蒸気甲冑の実戦演習をしてもらう!」

 

校長は高らかに用件を告げた。

 

日中戦争で、戦争に実戦投入された蒸気甲冑は、それ以降、海軍兵学校の必修指導要領に含まれていたのだ。

 

「……………マジかよ」

 

「謹んでやらせていただきます!」

 

菊原と優一郎はとりあえず返事した。

 

「よろしい。 では、今から、早速、参加して貰うぞ。

いいかね?」

 

「「はいっ! 失礼します。」」

 

二人は校長室を出た。

 

 

 

 

「あちゃあ、参ったな~。

蒸気甲冑、苦手なんだよな~」

 

「あはは…………。

菊原はそれさえなけりゃ首席に立てるのにね~。」

 

「いや、お前の素行不良がなくなりゃあ、それでも無理だがな。」

 

「イタズラばかりは、止められないかも。

相手が相手だからねぇ。

止めるのは相手が女の子の時くらいじゃないかな?」

 

「そういうの興味なさそうなお前から、まさかそんな言葉が出るとは思わなかったぜ

まあ、そうだろうな。  ハハハ。」

 

(にしても、蒸気甲冑の演習か……………何故だろう。

なんか、臭うな。

明後日に航海演習を控えている中で、一体、何の目的で…………。

やるしかないにしろ…………不安だなぁ。)

 

優一郎はそんな風に考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

「凄い眺めだな。」

 

「ああ。」

 

教官に指示された演習場に行ってみると、数十年前の光武くらいの大きさの蒸気甲冑が所狭しと並んでいた。

 

(それにしても、ここで一体、何をさせる気なんだ?

蒸気甲冑にただ乗れますよ~ じゃ意味ないし、何よりまだ蒸気甲冑での戦闘はやったことないし………。)

 

と優一郎が考えていた、その時。

 

 

 

「見ろよ、なんで下級生がいるんだ?」

 

「昨日、上官が言っていたろう

蒸気甲冑演習に二人、下級生を参加させるって」

 

「可哀想にな。  

まだ戦闘演習はしたことないだろうに。」

 

「だな。  いや、それより、蒸気甲冑の予備ってあったっけな。」

 

「いや、一応、あるにはあるが、今まで一度も動かせた奴がいないとか言われている機体らしいよ。

名前は確か……………。」

 

「しっ! 聞こえてるだろ」

 

居合わせている上級生からそんな声が聞こえてくる。

 

「気にするな。 お前は他人の目をいちいち気にするところがあるからな。」

 

菊原の声に、優一郎は頷き返した。

 

 

 

 

 

 

やがて、最上級生の監督をしている教官が皆が集合している演習場の台に立った。

 

「それでは、本日、貴様らが卒業するにあたり、重要な試験の内の1つである、蒸気甲冑の実戦演習を行う。

ルールは簡単だ。

周囲にいる仲間を倒していけ。

最後に生き残った奴が当科目の首席だ。

なお、倒すための条件は、

1、相手から武器を奪う

2、相手の蒸気甲冑を中破、大破させる

以上だ。

なお、蒸気甲冑は中破、大破しても、来年6月まで演習ないから構わんぞ。

落第がない科目だからといって、油断してると

 

死ぬぞ     」

 

その教官はそう言葉を終えた。

 

「嘘だろ 嘘だよな優一郎?」

 

「……………………。」

 

二人は完全にビビっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「おい。 大神と菊原はこっちだ。」

 

別の教官に指示され、優一郎と菊原はある機体の元に案内された。

 

その機体は妙な即席の倉庫の中に仕舞われていたようだった。

 

「こ、これは……………。」

 

整備されているのが見て取れるとはいえ、その機体はやや埃を被っており、古い機体であることは間違いない。 

だが、妙な気配を感じた。

まるで、生きているかのような。

 

そして、何故か、不思議と優一郎を懐かしい気持ちにさせていた。

 

「さる秘密部隊が有していたとされる旧式の機体だ。

海軍の上層部から、二人にはこの機体に乗せるようにとの指示があったのでな。

だが、今まで動かせた者は、海軍士官学校の生徒では私は見ていない。

現に、お前達に動かせるとは、私にも思えんがな。」

 

優一郎の方の機体は、太刀を2本、有する機体。

 

菊原に用意された機体は、太刀1本の機体だった。

 

これは菊原の学んできた剣術が新陰流の系統なのと、優一郎が学んできた剣術が父親と同じ二天一流なのに起因している。

 

「すみません、この蒸気甲冑の機体構造は、通常機体と同じでしょうか?」

 

「いや、操作自体は通常機体よりも簡単に出来ているらしい。」

 

「はは…………よかったぜ。

妙にピンクがかった、この機体の色を除けばな。」

 

「そう?」

 

「それじゃあ、大神に菊原、乗ってみろ」

 

「「畏まりした。」」

 

「なお、いずれの機体もお前達にそれぞれ合うよう、微調整は済んでるから、そこら辺は気にするなと伺っている。」

 

「「はい!」」

 

二人は蒸気甲冑に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、嘘………………だろう?」

 

教官は声を上げた。

 

 

 

「なんだよ。 ちゃんと動くじゃねえか。」

 

「そうだね。  ぎこちなくはあるけどね。」

 

優一郎と菊原は動き回る。

 

「如何なさいましたか教官殿?」

 

教官は驚きながらも

 

「い、いや、何でもない。  さっさと行けっ」

 

「「はっ」」

 

二人の蒸気甲冑は、足についている車輪を展開し、演習場に向かった。

 

 

 

 

 

「ば、バカな。  信じられん。 あの機体を動かせるとは………………。

動力の伝達経路は少しだけ弄っていたが、内部の動力の中心部は全く弄られていないはず………。」

 

教官は、この蒸気甲冑は動力部の出力が弱いために動かないものとばかり思っていた。

そして、伝達経路を弄っただけでは出力の問題までは解決できないことを知っていた。

 

「当たり前や。 何言うてはりますのや。

あんさん。」

 

眼鏡をかけて白衣を着ている中年の女性が教官に近づいていく。

 

「え?」

 

「あれは 寅型霊子甲冑 光武二式。

かつて、帝国華撃団・花組で使用されてはった蒸気甲冑や。

 

常人には出力不足で動かないように見えるかもしれへんけど、あの二人は、違う。

 

才能があるんや。 それもかーなりのもんが。」

 

その女性は笑みを浮かべてそう呟いた。

 

 

 




大神優一郎……………1934年7月9日生まれ
身長169センチ、体重55キロ
帝国海軍中将兼海軍副大臣・大神一郎と真宮寺さくらの長男。
伯母:大河双葉に養育されており、武術、勉学などは人並み外れて優れる一方、絵画や図画工作、楽器の演奏は超苦手。 
小学校を1年、中学校を1年飛び級している。
普通、海軍兵学校の受験資格は16~19才だが、体格のために14才で海軍兵学校の受験が認められ、これに合格している。
顔は童顔で、母親に生き写し。 
女性を苦手としている。(※ホモではありません)



菊原武…………1934年8月8日生まれ
身長170センチ、体重54キロ
帝国陸軍大将(関東軍総司令官)・菊原一の一人息子。
「海の大神、陸の菊原」と謳われることに、対抗意識を燃やした父親の意向を受け、海軍を志した。

同じく14才で海軍兵学校の受験が認められ、これに合格している。
大変な美男子である。


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第一話 新たなる風は 帝都に 

1952年 4月

 

 

「……………………。」

 

(どうして、こうなったんだ……………。)

 

大神優一郎は、身の回りの一式を持って東京駅にいた。

 

(1年繰り越しで卒業させられるなんて思いもよらなかったよ!

何考えてんのかな……………海軍の上層部は

 

たかだか、あの蒸気甲冑で先輩方を抑えて首位に立った程度で…………。

蒸気甲冑よりも重要な単元は沢山あるというのに……!!)

 

 

 

ーーーーー(回想開始)ーーーーーーー

 

 

 

 

 

優一郎と菊原は上級生が乱れて戦っている場所に辿り着いた。

 

「さぁって!  殺りますか!」

 

「待って菊原っ 今の君から人を殺しかねない殺気を感じる!」

 

「まーまー。  普段から先輩方には理不尽な目にも遭わされてるだろ?

今、仕返ししないでいつ仕返しするんだよ~? え~?」

 

「まー、それも、そっか。

大人しくしてるよりはそっちのが面白そうだしね!」

 

動力部の馬力を一気に跳ね上げ、乱戦に飛び込む。

 

「はあっ!」

 

「でやっ!」

 

武器を叩き落とし、蒸気甲冑の腕を破壊し、頭の部分に強烈な一撃を叩き込み、或いは切り裂いて中の操縦者が剥き出しにした。

 

「う、う、うわぁああああ」

 

「な、なんで、あの機体が、動いているんだぁっ!!」

 

「それよりも、何故、あの二人は動かせるんだよっ!」

 

「あ、あり得んっ!」

 

海軍の最上級生は悉く敗れていく。

 

 

 

 

 

 

気づけば、残ったのは優一郎と菊原のみとなった。

 

「流石、優一郎だな。

はじめて、コイツはヤバいと悟った男だ。

 

士官学校入学時から今まで、それは変わらない!」

 

「それはこっちの台詞でもあるんだよ!

行かせて貰うっ!」

 

「「でゃああああっ!」」

 

二人は刃を交える。

 

 

 

両者は互いに譲らない。

 

そして、そんな中で、二人はある異変に気づいていた。

 

((この、甲冑には、妙な癖がある………!!))

 

前にも人が使っていたから、当然、癖はある。

 

しかし、この癖は、それとは一味違う。

 

 

それは

 

((ある技の型を異様にしたがるのは、一体………?))

 

優一郎が乗る機体は霊子甲冑・光武二式の大神機。 菊原の乗る機体は霊子甲冑・光武二式のさくら機である。

 

それぞれの必殺技を、それぞれの霊子甲冑は覚え込んでいた。

 

((やはり、覚え込まれている技がある。

ここは、身を任せて……………打つ!))

 

二人はほぼ同時に、それぞれの必殺技を相手に叩きつけようとする

 

 

 

(出、出ない…………?)

 

破邪の血を引かない菊原は必殺技を繰り出すことが出来ないのに対し。

 

(な、何だこれぇ!)

 

優一郎は妙な力を、蒸気甲冑全体に感じていた。

 

そして、刀の先端に青白い気が迸るや。

 

次の瞬間には、その気は一気に莫大な力へと変化していき、強烈な一撃となって、菊原の乗る蒸気甲冑に振り下ろされた。

 

 

 

「ふぅ…………って、大丈夫かな? 菊原っ!」

 

優一郎が菊原の蒸気甲冑をこじあけると、菊原は蒸気甲冑の中で既に気絶していた。

 

「おいっ!  しっかりしてくれっ!  菊原ぁぁああっ!」

 

直後、そう叫んだ優一郎の背中を叩く人がいた。

 

「合格や 優一郎はん!  

はっきり言うて、期待以上や!

 

これで、大神はんに吉報を届けられる!」

 

振り向くと、白衣を着た眼鏡の中年の女性が優一郎の背後に立っていた。

 

「こ、紅蘭………さん? 」

 

その女性こそ、かつて帝国華撃団・花組の一員であった、李紅蘭その人である。

 

「ウチのこと、覚えてはったんか?

大した記憶力や。

 

にしても、えろう大きゅうなったなぁ! ウチもわが事のように嬉しいわぁ」

 

紅蘭は優一郎を目を細めて見つめる。

 

「は、はい…………。

ところで、紅蘭さん、合格……………とは?」

 

「とりあえず、これ、読んでや。」

 

紅蘭は優一郎にある紙を渡す。

 

「……………辞令?」

 

海軍士官学校の卒業生は、辞令を受けて配属先に派遣される。

 

封を破り、中を改めると

 

「………………は??」

 

中には

 

「以下の者、1名を大帝国劇場・帝国華撃団花組に配属するものとする

 

少尉・大神優一郎

 

大日本帝国海軍大臣 鈴木敏太郎」

 

と書いてある。

 

「ち、ちょっと紅蘭さん?  僕はまだ卒業もしていないで………」

 

「政府の上の方のお偉いさんが、優一郎はんを1年早く卒業させることを決定しはってな。

 

大神はんに、優一郎はんの実力を試してこい言われて。

ウチの眼鏡に適う実力を有しているかどうか、帝国華撃団の戦力になり得るか確認さしてもろうたんや。」

 

「そ、そんなの、アリなんですか?」

 

「んなこと、ウチに聞かれても困るわ。

まあ、適わんようなら、この辞令破り捨てるようにも言われてはったけどな。」

 

「なにそれぇええええっ!」

 

こうして、大神優一郎は海軍を1年繰り越しで卒業させられ、銀座・大帝国劇場勤務を命ぜられたのである。

 

 

ーーーーーーー(回想終了)ーーーーーーーー

 

(でも、まあ、父さん母さんも帝都東京にいるし、何よりも米田のお爺ちゃんのゆかりの場所、大帝国劇場に勤務となったのは、嬉しいかな~。

 

だけど、大帝国劇場勤務って、何するんだろう?

帝国華撃団花組って、そもそも何?

 

秘密組織ということ、蒸気甲冑に乗らされること、その蒸気甲冑が一般人には載れない特殊な代物であること。

 

これ以外はまるで謎なんだよね…………。

 

 

しかも、大帝国劇場勤務となれば、女優さんとかとも話をすることになるんだろうな。

女性苦手なのに…………。)

 

 

とにかく、そう考えながら歩いていると

 

(さ、殺気かっ?)

 

突如、背後に妙な気配を感じた。

 

(頭が、危険信号を発している…………ようなこの感じ

まさか……………。)

 

「あ、いたいた~♪ 元気だった~?」

 

(な、なんでいるの………??

ねぇ……………。)

 

 

 

視線の先には

 

「優ちゃん。 久しぶり。」

 

彼の姉:大神あやねがいた。

 

 

 

 

 




大神あやね 1934年8月7日生まれ
身長162センチ、体重46キロ
実は大神夫妻の子ではないが、本人や優一郎はその事実を知らない。
大河双葉に養育され、武術に加えて、掃除洗濯や料理など、家事と呼ばれる代物で出来ないものはない。
女学生風の袴(〝ハイカラさんが通る〟みたいなアレで、真宮寺さくらの袴よりも地味)を着用している。

実は優一郎の女性が苦手なのは彼女のせいだったりする。


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第二話 大神あやね

「あ、……………うん。 久しぶり。

あや姉さん」

 

彼は辛うじて、笑いかける。

 

「ところで、何故優ちゃんまでこっちにいるの?」

 

あやねは間髪入れずに聞いてきた。

 

「ん? あ、いや、何故か1年、繰り上げで卒業させられて……………。

海軍大学校に入るまで、しばらく海軍省にて実務を積むようにと辞令がきたんだ。」

 

海軍兵学校を卒業後、10年程度の実務を得て、海軍大学校に入学し、これを卒業すると、高級幹部になりやすい

 

と言っても、優一郎の父親・大神一郎のように海軍大学校に行かずとも海軍の要職に就く道は幾らでもあるし、何よりも優一郎の場合は秘密組織への配属の隠れ蓑であった。

 

「やっぱり、頭良いんだね~。  流石優ちゃんっ」

 

「そ、それよりも、何であや姉さんまで帝都に?」

 

「ん~?  まさか、知らないの?」

 

「………………え?」

 

(な、何だ…………悪い予感がするな…………。)

 

「この度、あたし、大神あやねは、今月より大帝国劇場の帝国歌劇団花組にて女優デビュウをすることとなりました~。」

 

「ええっ!?」

 

あやねは花組の付属機関・乙女組にいて、2年程研修を受けていた。

それが今月、花組に昇格したのである。

 

「ん? どうかした?」

 

「……………待って、あや姉さん、今、帝国華撃団花組って言ったよね?」

 

「うん。 

あ、そうだ! 

優ちゃんも是非観に来てくれたら…………嬉しいな。」

 

優一郎に秋波を送るあやね。

 

「何か、聞いてない気もするけど、ま、いっか………。

実は、海軍省ってのは隠れ蓑にしか過ぎなくて、僕の本当の配属先は大帝国劇場なんだ。

 

しかも、多分帝国華撃団花組…………。」

 

「ってことは……………毎日会えるっ!  やったー!」

 

あやねは優一郎に抱きついてきた。

 

「ち、ちょっと………?!」

 

流石に恥ずかしく感じた優一郎が慌てて引き剥がすと

 

「あ、さ、流石に恥ずかしいか…………。

でも、照れちゃって可愛い~。」

 

一人で盛り上がるあやね。

 

ただでさえ両親のいずれにも似ないどころか、この両親からでさえも生まれ得ない域とまで言われた美少女で、すれ違う人の尽くが振り返るような容姿である。

 

既に何人か注目していた。

 

「ほ、ほら、とにかく、行くよっ!」

 

「うん!」

 

「……………って、何してるのかな?」

 

「腕組んで、優ちゃんの肩に頭乗せてるんだけど……。」

 

「それ、姉弟のすることじゃないから!」

 

「いーじゃない。  …………好きなんだから。

やっと、久しぶりに会えたんだし…………」

 

顔を赤らめるあやね。

 

(やっぱり、変わらないなぁ…………あや姉さんは。

やっぱり、今でもまだ………………。)

 

優一郎は大きくため息を吐いた。

 

周りの視線をかなり集めており、その視線の大半が好奇と嫉妬だったのもある。

 

だが、それ以上に、あやねが俗に言うブラコンで、彼に抱く気持ちが肉親以上のソレであることを、優一郎本人が随分前から知っていたからだった。

 

 

 

 

その発端は、二人が育ってきた環境に由来する。

 

大神一郎は当時日中戦争に駆り出されていたし、真宮寺さくらは大帝国劇場支配人の任務に忙殺されており、二人の面倒までは見る余裕がなかった。

 

だが二人の祖父母にあたる大神一郎の両親は既に他界しており、真宮寺さくら側の両親も真宮寺一馬のみならず、若菜まで死んでいた。

 

そこで大河双葉が栃木の大神家にて養育にあたった。

 

両親とは偶に会える程度。 

 

加えて昔は気弱だったので虐められており、大河双葉も当時は結構冷たくあたっていたので、自動的に優一郎に頼らざるを得なかったのだった。

 

それがあやねが優一郎を男性として意識する結果に繋がったのだった。

 

 

 

 

 

「やっぱり、嫌…………?」

 

「うん。 止めてくれるとありがたいんだけど……。」

 

「じゃあ、  やめないっ!」

 

「えっ!  そこは止めるとこでしょ!」

 

「もう…………仕方ないなぁ」

 

「……………ソレもダメ。」

 

あやねは優一郎の胸に頭をもたれかけてきた。

 

「え~?」

 

改めて優一郎はあやねの方を見つめた。

 

(やっぱり、美人だな………………本当に、姉でさえなかったら凄く嬉しいんだけどな………。)

 

優一郎は大きくため息をついて、銀座方面行きの電車に乗り込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第三話 親子再会

地下鉄を降り、デパートの松屋の銀座本店の地下の出口から少し歩いたところに大帝国劇場は存在する。

 

「……………三年ぶり…………か。」

 

優一郎の出身中学は海軍兵学校の予備校として名を馳せたさる有名な中学校であり、当時は新宿の近くに存在するそこに通っていた。

 

「そうだよね~。  やっと家族揃って暮らせるね。

16年振りかな?」

 

「そうだね」

 

表玄関から入る。

 

表玄関のエントランスは相変わらず懐かしい感じを漂わせていた。

 

その、昔と相変わらないヴィクトリア調のデザインは世代を超えて愛されている。

 

「ごめん下さーい!」

 

優一郎は大声で叫んでみる。

 

「おかしいな お父様もお母様もいるはずなのに。」

 

すると

 

「はーい。」

 

控えめだが、綺麗な声が聞こえてきた。

 

やがてスタスタと二階へ続く階段から人が降りてきて。

 

「あら、あやねさんでしたか………こちらは?」

 

大人しそうで、おっとりとしている感じの、和服の可愛い女の子が降りてきた。

 

「ああ、昭子ちゃん。 

お父様とお母様は?」

 

「支配人室にいらっしゃると思いますわ」

 

「この子は話していた例の優ちゃんだよ。」

 

「ああ、あやねさんの……………。」

 

「大神優一郎と言います。 よろしくお願いしますね。」

 

優一郎は握手を求め、片手を差し出す。

 

「は、はい…………。よろしくお願いします。」

 

女の子は手を握り返したが、顔が既に赤い。

 

「顔が赤いよ?  大丈夫?」

 

優一郎がつかさず尋ねると

 

「だ、大丈夫………です………。」

 

女の子は顔を一層赤らめた。

 

「昭子ちゃんは男の子に慣れてないから。」

 

「ああ……………そういうことね。

僕も女の子に慣れてないから、同じだよ」

 

「慣れてないって何よ 私がいたじゃないの!」

 

「ほ、ほら?! 肉親はまた違うし…………。」

 

優一郎は慌てて言い返し、

 

(なんか、親近感湧くなぁ…………。

やっぱり女優なだけあって可愛いし。)

 

等と考えていると、

 

「私は九条昭子と申します。 これからよろしくお願いします………。」

 

女の子は返してきた。

 

「よろしく。   昭子さん。」

 

「あ、あ、よ、よろしくお願いします」

 

一層慌てだした。

 

「そんな固くならなくても大丈夫だよ。 

落ち着いて………ね?

多分これから仲良くしていくことになるだろうし。」

 

「は、はい、そうではなく。」

 

「え?」

 

「あの……………あやねさんから聞いていた通り、可愛らしい方だなと思って。」

 

言っちゃったといった風に口に手を当てて昭子は恥ずかしがった。

 

「ええっ?!」

 

意外な言葉に驚く優一郎。

 

(嬉しくないなぁ……………。)

 

「だから…………その、安心しましたということです。」

 

「なるほど……………それはよかった。」

 

ほっと息をついた昭子からは顔から赤さも消えている。

 

「緊張とれたみたいだね よかった。

さて、支配人室はどこかな?」

 

「はい、こちらになりま………」

 

「ところで、優ちゃん」

 

「ん?」

 

(何故だろう 悪い予感がする…………。)

 

優一郎の予感は的中する。

 

 

「昭子ちゃんっておっぱい大きいよね」

 

「……………え?」

 

「な、な、あやねさん?!」

 

優一郎は改めて見てみた

 

(確かに………。)

 

着痩せしたのかどうかは分からないが、間違いなく大きい方だ。

 

「あの、男の子ですから多少は仕方ないと思いますが、見られて心地良いものではありませんわ」

 

その視線に気づいてか眉を顰めて昭子は呟く

 

「な、ご、誤解だからっ!  言われるまで何も気づなかったのにっ!」

 

慌てて訂正するも

 

「悪いことする目はこの目ね!」

 

「理不尽っ!!」

 

あやねの目潰しが飛ぶ。

 

「うう…………あや姉さん酷いよ…………。

あや姉さんが何も言わなけりゃ、僕は何にも気づくことなかったし、こんなことにはならなかったのに。」

 

あやねは我に返ったようで。

 

「優ちゃんはともかく、昭子ちゃんごめん!

つい、慌ててる姿が二人とも可愛くて。

 

さっきの冗談だから、もうしないから、許して? ね?」

 

「その冗談のために僕は酷い目にあったんだけどね………………。」

 

「あやねさんっ!」

 

「ごめんね。 胸をコンプレックスにしてるの知ってたに…………。」

 

「あ、いえ…………その、年頃の男の方と一緒に生活していかねばなりませんから、私の方でも、その…………きちんと向き合いたいと思ってますし、それに、あやねさんには常々、お世話になってますから…………。」

 

「昭子ちゃん…………。」

 

(なんか、置いてけぼりにされてる気がするのは仕方ないか……………。)

 

やり場のなくなった視線をふと、二階に向けると

 

二階の廊下へ続く方からコツコツと歩いてくる音が聞こえてきた。

 

 

「三人とも、無事、仲良くやってるみたいだね。

ひとまず、安心したよ」

 

「父さん!」

 

「久しぶりだな。 優一郎。」

 

二階の廊下から、大神一郎が降りてくるのが優一郎の目に飛び込んできた。

 

 

 

 



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第四話 種明かし

色々バタバタしてまして………。


「久しぶり…………です…………。」

 

「どうかしたか?」

 

「いや、その……………。」

 

「!?」

 

息子の、いや、あやねや昭子までもが揃いも揃って微妙な表情をしているのに気づいた一郎。

 

ふと、背後に立っている人物に気づいた。

 

「…………………あ」

 

「まったく、あなたのそうやっていっつもすぐ飛び出していくのは若い頃から全く変わりませんね。」

 

呆れながらも強烈な殺気を発している、その人こそ

 

「飛び出していく勢いで支配人室に散らばった食事を誰が片付けると思っているんですか?!」

 

優一郎の母親、真宮寺さくらである。

 

髪型や服装、雰囲気、そして口調も年相応に落ち着いており、嫉妬深さも結婚後は鳴りを潜めていた(?)が、その恐ろしさだけは磨きがかかっていた。

 

「ご、ごめん………。」

 

「まあ、あなたのそういうところ、あたしは好きですけどね」

 

苦笑してみせた。

 

(こ、怖っ 双葉伯母さんに迫りつつあるな………。

父さんが母さんとくっついたのは案外、そう言うところが似………)

 

「…………優一郎さん、今、何を考えていました?」

 

「い、いえ。

久しぶり………です……………母さん」

 

優一郎は声を絞り出した。

 

(す、鋭い…………。)と思いながら。

 

「海軍兵学校に入って以来だったかしら

あの頃よりも随分大きくなって………。」

 

「はい!  でもなぜか、早期卒業扱いを受けてここに居るのですが…………。」

 

「それについては、俺が説明するよ。」

 

「そうですね。  後はお願いします。」

 

「ついてこい、 優一郎。」

 

「は、はい…………?」

 

(やはり、父さんが呼び寄せたのか。

軍人が劇場支配人なんておかしいとは思っていたけれど…………

ただ、妙だ。

父さんは身内贔屓で人を選ぶような人ではないはず。

 

新次郎さんや昔の加山さんといった例外はあるけども………。)

 

怪しみながらも優一郎は支配人室までついていく。

 

 

 

 

 

「………………うわぁ」

 

支配人室に入ると散らばった食事が目に入る。

 

「そっ、それは気にしないでくれ………。

それだけお前の到着を待ち侘びていたんだよ。」

 

「…………………。」

 

微妙な空気が流れた後で。

 

「さて、まず、俺の上にある表額を見てくれ」

 

「帝国歌劇団……………大帝国劇場支配人ですから、普通では」

 

「…………お前の配属先は大帝国劇場・帝国華撃団花組だろう?」

 

「はい。 表には歌劇団、裏には華撃団。

そういう秘密組織があるんですよね?」

 

(あや姉さんが歌劇団、僕は華撃団、そういうことだろう

 

 

どんな人が仲間なんだろう…………。)

 

「物分かりが良いな。   

俺の時は大分戸惑ったものだけれど。」

 

「…………え?」

 

「お前の言うとおり、帝国華撃団花組は帝国歌劇団花組でもあるんだ。

帝国歌劇団花組の女優達は、帝国華撃団花組の隊員でもある。

大神優一郎少尉!」

 

急に真面目な顔つきに戻る大神一郎。

 

「は、はっ!」

 

「貴官には帝国華撃団花組隊長見習いとして、霊子甲冑・光武に乗り、花組の隊員の皆の戦闘の指揮を執ってもらう。」

 

「はっ!…………………え?  えっ!?」

 

(………戦闘?  花組が? あの2人も?

霊子甲冑が蒸気甲冑に類するものであるということ以外、まるで話しが分からないぞ…………。)

 

戸惑いを隠せない優一郎。

 

「どうかしたのかい? 蒸気甲冑に乗ることだけは知らせておいた筈だけれど。」

 

「いえ、まず、花組が戦闘とは?」

 

「そのまんまの意味だよ 花組の女優達…………あやねや昭子くん達を率いて、帝都の闇と戦うということさ」

 

「え……………」

 

(ちょっと不安すぎるぞ……………。)

 

優一郎は顔から不安を隠せない。

 

「不安そうだね。

彼女達が戦えるのか。 

若しくは、優一郎、お前自身のの問題かい?」

 

「はい。 どっちもです

それに、女優業と戦闘員を兼業するなんて、負担が大きすぎるのではありませんか?」

 

帝国歌劇団花組は、1945年を最後に戦闘要員が大神一郎・真宮寺さくら夫妻しか残っていない状態に追い込まれており、今日(1952年4月)に至るまで、女優業と戦闘要員を兼務する人材は、花組には不在だった。

 

乙女組・奏組が機能していたのと、難敵が現れなかった為にそれでも問題はなかったのである。

 

「それは心配いらないよ。 

二人には既に実戦経験を積ませてあるし。

霊子甲冑の操縦なら、彼女達に一日の長がある。

 

お前に関しても…………しばらくは俺が一緒に出るから、その時に経験を積んでいけばいいし、何よりも、お前は物覚えが良いから、すぐ二人をも追い越してしまうとも思う。

 

女優との兼業に関しては、米田さんの時はそうしてきた訳だし、難しいこともない。

 

ただ…………。」

 

「僕の、僕自身の問題ですね。」

 

「そうだ。 お前には、彼女達が命を預け得るに足るかどうか、まだ分からない筈だ。

 

だから、彼女達の強さを知って貰いたいと思う。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




年月を踏まえて大神一郎、真宮寺さくらの口調はいじってありま………力量不足ですゴメンナサイ 

さくらさんのはガチですが。

真宮寺さくらの容姿変化については、黒髪のあやめさん的な感じに近いのを想定しています。

大神さん?  想像におまかせします。

二人の中身は、やはりショウ劇場(4コマ)を多分に活用することになります。


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第五話 降魔出現す

「ということは、僕は次回は出撃出来ないということですね。」

 

「華撃団の歴代男性隊長には、誰一人として、着任早々出撃した者はいないよ。

別に優一郎だけが特別な訳じゃない。

 

もちろん、今のお前が、命を預け得る仲間として二人

に不安を抱くことは決しておかしくないさ。」

 

「ここに来るまでに、母さんが大帝国劇場に長らく居続けている理由が帝国華撃団にあることは既に想像がついていました。

花組の女優だった時にも、戦ってきてる筈です。

 

ただ、どうにも、現実味がないのです。

少女達が戦うという、この現実に。」

 

「………確かに華撃団構想が立ち上がってから数十年が経つ現在でも、少女達を戦わせていることへの批判が後を絶たない。

 

先代の米田さん当人も一時期悩んでいたくらいだからね。

 

だけど、それは違うんだ。  

 

彼女達は、自分達の生きている場所。この帝都のために、帝都を愛しているからこそ、戦っているんだ。

 

それをお前にも分かって欲しい。 そして、帝都をお前も愛して欲しい。 

 

俺達がそうしてきたように。」

 

「……………はい!!」

 

「よし。 

じゃあ、早速だけど、上野の米田さんの墓に、お墓参りに行ってくるんだ。

 

その墓前で、帝都を守る決意をあらたにしてこい。

 

いいな?」

 

「わかりました!!」

 

帝国華撃団初代司令:米田一基陸軍中将。

1943年に亡くなり、国葬された彼は、寛永寺に葬られていた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーー上野・寛永寺ーーー

 

 

「おっと、  あったあった。」

 

優一郎がここに訪れるのは14才の頃から、数えて3年ぶりである。

 

ふと、見ると、周りのお供え物の酒の徳利が揃いも揃って空なのが目立つ。

 

「またお供え物のお酒を飲んだな!

この酔っ払いっ!」

 

(全く………………。)

 

溜息を吐きながら、道中買ってきていたお酒の徳利を供えた。

 

すると、墓石の上から視線を感じた。

 

それは米田一基、その人の幽霊である。

 

目が、よぉ、久しぶりだなと笑っている。

 

ただ、何時ものように幽霊が何を話しているかまでは分からない。

 

「米田のおじいちゃんも息災に幽霊してるようで何よりです。

 

あ、そうだ。

米田のおじいちゃん、 僕は今回、帝国華撃団花組に正式に配属されたんですよ。」

 

するて米田は遠い目をしながら、しみじみと感じ入った風を見せた。

 

もう、そんなに月日が流れたのか………とでも語るかのように

 

「はい。 もう僕もそういう年ということです。」

 

そうかそうかと頷く米田。

 

米田はやがて、

 

帝都を、花組を頼んだぞ

 

そんな風に目で訴えてきながら、米田は優一郎の両肩に両手を置いた。

 

無論、感触はない。

 

「はい!」

 

優一郎は、内心は分からないことが多く、不安をも抱えながらも、頷き返した。

 

「じゃあ、米田さん、僕はこれで。」

 

優一郎が引き返そうとした時。

 

「…………………?!」

 

(あ、あれは?)

 

視界に妙な怪物の一団がよぎった。

 

降魔である。

 

現れなくなって久しかった降魔だが、長らく続いた日中戦争の末期、状況を打破すべく中華民国側が軍用降魔を使用し、帝都を攻撃した。

 

大神一郎のいない帝国華撃団は花組・奏組・乙女組・夢組・月組の力を結集してこれを撃退したが、帝都そのものはその影響を甚大に受けてしまい、帝都の地脈・霊脈が狂ってしまった結果、1945年以降、帝都に再び出現するようになってしまっていた。

 

ちなみに、優一郎が中学時代を過ごした3年間は、彼の中学のあった新宿界隈では出現しなかったため、彼が降魔を見るのは初めてである。

 

「あ、あっちは!!」

 

降魔の一団は街道の方へと侵攻していった。

 

「止めないとまずいが、あの大きさ…………だが、やるしかない。

なんてったって、僕は軍人…………もとい帝国華撃団花組なのだから!」

 

 

 

街道筋に着けば、既に辺りは大騒ぎとなっていた。

 

「降魔が来たぞぉっ!」

 

「きゃああああああっ!」

 

男も女も、老いも若きも、皆が逃げ惑っている。

 

警察が出動しており、沈静化に努めようとするも、降魔相手では為す術はない。

 

「おじさん、借りるよ!」

 

優一郎はその腰のサーベルに目をつけ、奪っていった。

 

「こらぁ貴様! ………海軍の軍人だな!

覚えておけよ!」

 

奪われた警察は、優一郎の背中に向け、そう叫んでいた。

 

 

 

「さて、と。」

 

降魔は10体くらい。  そして、降魔と自分の間には、少年が転んで泣いていた。

 

「こ、怖いよう 」

 

そして、まさに降魔の手は少年に向かっていた。

 

「助けてやるぞ、 待っててっ!」

 

優一郎は走り出し、手に向かって、サーベルの刃を叩きつけた。

 

帝都花組歴代最強の霊力を持つアイリスをも凌ぐ霊力を持つ優一郎の刃は、普通のサーベルではあったが普通に、降魔の腕を切り落とした。

 

「お兄ちゃん………」

 

「さ、ついてこいっ!」

 

優一郎は走りだした。

 

降魔はそれを追いかける。

 

だが、如何せん、大きさが違いすぎた。

 

(だ、ダメ……………か?!)

 

そして、降魔のもう片方の腕が、優一郎の背中に届くと思われた、次の瞬間。

 

 

 

桜色の霊気が降魔を見事に貫いた。

 

 

「………………まさか、これが…………。」

 

霊気を放ったのは、四体の蒸気甲冑のうちのピンクの機体だ。

 

 

この四体こそ、まさしく、霊子甲冑・光武J。

 

帝国華撃団花組の乗る、それである。

 

 

 

 




日中戦争…………史実のそれとは異なる。
1933年から1943年まで続いた戦争。
帝国陸軍参謀本部の謀略にかかった中国東北部の反張作霖分子が張作霖・張学良を爆殺し、清朝の最後の皇帝・溥儀を迎えて満州国を建国し、関東軍を招き入れたことに中華民国が反発したことから起きた。
戦争が長期化する中、ロシアの参戦により、日本は不利に立たされたが、中華民国の軍用降魔使用・日本とアメリカの関係修復により、国際情勢が日本側に一気に傾いたため、イギリス・フランス・アメリカ・ドイツの支援を得た日本が勝利した。 
日本の勝利を決定付けた黄海海戦は、大神一郎を海軍随一の名将と言わせしめた戦いである。


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第六話 勝利のポーズ きめっ!

(おそらく、あれが帝国華撃団花組の霊子甲冑………僕はあれに乗って戦うことになるんだな。

 

多分、あの桜色の霊気は母さんの機体………あるいはあや姉さんの可能性もあるけど……。

 

とりあえず、僕に出来るのは…………。)

 

優一郎は少年を避難させにかかる。

 

「お兄ちゃん、あれは一体?」

 

少年が尋ねてくる。

 

「ああ、あれはね、正義の味方だよ。

黄金バットとか、ああいうのに近いやつ。」

 

ごまかした。

 

「かっこいいなぁ……………!!」

 

「でも、あれは秘密部隊だから、今日見たことは秘密だよ。

いいかな?」

 

「うん!」

 

「よし。 それじゃ、お父さんお母さんのもとにお帰り。」

 

「わかった!  ありがとうお兄ちゃん!」

 

「じゃあね~!」

 

少年を見送るや、優一郎が戦場に戻ると。

 

「増えてるな…………。」

 

降魔が30体くらいに増えていた。

 

だが、4体の霊子甲冑は怯んでいない。

 

二振りの太刀…………大神一郎機と思われる機体と、一振りの太刀………恐らくはさくら機と思われる機体が降魔を牽制し、そこへつかさず、

 

一際、大きな光線が飛ぶ。

 

(なんだ、あの霊気は? 色んな気が雑じってるぞ………。)

 

その光線は桜色、藤色、山吹色の三つの霊気が雑じった妙なものだった。

 

太刀筋は北辰一刀流。  

 

おそらくあやね機だ。

 

(父さん母さんの子供だから、両親の力が混ざったからあんな変な色をしているのかもしれないな。

僕もあんな変な色だとしたら…………嫌だなぁ。)

 

だが、その光線により、降魔のうちの中央の10体を粉砕した。

 

つかさず薙刀をもった機体…………昭子機が薙刀の刃先に円盤のような紫色の塊を次々と作り出し、次々と放っていく。

 

円盤のような塊の気は、回転しながら降魔の頭を次々と両断していき、8体くらいが消えていく。

 

 

 

残りは12体。  華撃団は残敵掃討に移った。

 

4機は隊列を崩すことなく、次々と敵を葬っていく。

 

すると、大神一郎機が見覚えのある動きをした。

 

(あ、あの動きは?!)

 

その動きこそ、まさしく、蒸気甲冑の演習にまざった時に乗っていた機体に身をまかせて菊原の機体に放った一撃だった。

 

(あの時、乗せられた機体は…………父さんの機体だったのか…………。)

 

程なく、降魔30体は跡形もなく壊滅した。

 

 

すると、4人は機体から降りてきた。

 

「やっぱり、父さん達だったんですね!」

 

優一郎は4人に駆け寄っていった。

 

「まさか、優一郎が行った方に敵が出現するとは思わなかったけどね。

とにかく、あの少年共々無事でなによりだ。」

 

「はい。  そして、これが………。」

 

「ああ。  霊子甲冑・光武だよ。

ところで、不安は払拭出来たかい?」

 

父親の問いに。

 

「はい! もうすっかり。」

 

優一郎ははっきりとした頷きで返す。

 

(むしろ、僕が出て大丈夫なのかと思えるくらい、父さん母さん、あや姉さんや昭子さんは強い。

僕の不安は杞憂だったようだ…………。)

 

「ちょっと、まさか、優ちゃん、あたし達に不安を感じてたってこと?!」

 

あやねがつっかかる。

 

「し、仕方ないじゃん。 だって女の子が武芸を習うならまだしも、戦うって、あまりにも非現実的だったからさ!

いくら、母さんがそうだったとは言え…………。

 

けど、もう大丈夫だから。 むしろ、2人について行けるか心配なくらいだよ。」

 

「なら良かった。  

ただ、もし、遅れを取ったとしても、あたし達に頼ってくれてもいいからね。

あたしが優ちゃんに、幼い頃、頼ってきたように。」

 

「あや姉さん…………。」

 

「それじゃ、これからよろしくね。

優ちゃん。」

 

「よろしくね。

あや姉さん、昭子さん。」

 

「は、はいっ。」

 

慌てて昭子も返事し返す

 

「さて、いつものやつ、やりましょう。」

 

「いつもの?」

 

「そうだね。  せーの」

 

優一郎以外の4人は、叫んだ。

 

「「「「勝利のポーズ  きめっ!」」」」

 

 

 

 

 

(な、ナニソレ……………。)

 

そして、優一郎はそう思いながら、呆れつつそんな4人を眺めていた。

 

だが、彼の心の中では、この帝国華撃団でやっていくことへの希望が間違いなく大きくなっていた。

 

 

 

 




子供に人気なヒーローの変遷はこの世界と大差ありません。

黄金バット…………古いですねぇ 



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第七話 か、体が勝手に…………(1)

結婚した後、大神さんは体が動かなくなった設定




 

な、何ですか、それ…………」

 

「あたし達独特のカーテンコールです。

勝ったら必ずやるのが、伝統なんですよ」

 

「…………………。」

 

「微妙そうだな…………。

 

そうだ。 俺達は帝劇に戻るけど、お前はどうする?」

 

大神一郎が優一郎に尋ねた。

 

「もうしばらく、久々の帝都を満喫しようと思います。」

 

「それがいいな。

守っていかねばならない帝都の空気を、より感じるいい機会だからね。

 

だけど、夕食までに帝劇に戻ってきてくれ」

 

「分かりました。  ありがとうございます。」

 

優一郎はその場を立ち去った。

 

(ふぅ……………つくづく、凄い組織に配属されたな

帝国華撃団花組…………か。)

 

今日見た光景はまさしく帝国華撃団花組の活動。

 

だが、それはまさに夢物語…………子供の好むヒーローの世界だった。

 

(現実とは到底思えないけど…………現実なんだよなぁ…………。)

 

期待の気持ちが大きい一方、やはり現実に頭が追いついていないのは否めない。

 

「けど、直に人々を守れる、素晴らしい仕事には変わりないし、頑張ろうじゃないか。

それに、何より、兵学校や海軍じゃ決してやらないようなこの仕事は、必ず後々の糧になるはずだ。」

 

そう割り切ることで、切り替えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

大帝国劇場に帰還して夕食を摂った後、優一郎は本日の主役ということで、2番目に風呂に入ることを許されたため、風呂に入った。

 

「懐かしいなぁ…………。 こんなに小さかったっけ。」

 

中学校の時以来の大帝国劇場の風呂ということで、つくづく考えさせられるものがあった。

 

「それだけ、僕が大きくなったってことか」

 

もう少し、物思いに耽っていたかったが、如何せん時間が遅いので、早く風呂から上がることにした。

 

頭と躰を洗い、歯を磨いて、体をお湯で流して、体を拭いて出る。

 

 

 

 

鏡の前に向かうと、優一郎は自分の、母親似の顔と対峙する。

 

(つくづく、父さんには似ない顔だよな。

もう少し、似てくれれば大人っぽさが増して良いのになぁ…………。)

 

そう思いながら更衣室を後にする。

 

 

 

 

 

 

「上がりました。」

 

風呂場では、司令の大神一郎を除く全員が皿洗いをしていた。

 

「分かったわ。 次は私が入るから、皆、後は頼むわね」

 

「「ごゆっくり~」」

 

マリアが風呂場へと消えていった。

 

 

 

「…………じゃあ、僕も手伝うよ」

 

優一郎は袖をまくる。

 

「優一郎さんは今日の主役ですし…………」

 

さくらが止めに入るも。

 

「いやいや。 皆が苦労してやってるのに、僕がやらないってのも、変だし。」

 

「正直、助かるよ。  ありがと」

 

「気にしないで。 」

 

優一郎も皿洗いに加わる。

 

 

 

「…………上手いですね。」

 

「まあ、この辺りは、鍛えられたからね。 誰かさんに。」

 

「いや、あたしなんだけど。」

 

「そうだよ。 あや姉さんに鍛えられたんだ。

自分でやってけるようにって。」

 

「そうだったのですか…………。

羨ましいです…………。」

 

「う、羨ましい…………??」

 

「あ、いえ。 私には弟いないので。

そういうのって何か憧れてしまうんです。」

 

「あ~。 成る程ね。

独りっ子?」

 

「一応、妹が独り…………。」

 

「妹か~。  うちのあや姉さんは、姉だけどある部分妹みたいなところもあるかr…………ぃだだだっ」

 

「誰が、妹なのかな~?  誰が?」

 

「ご、ごめんなさ……あっ 痛いですぅ。」

 

「本当、可愛らしい表情を浮かべますね。」

 

昭子はどこか恍惚とした表情を浮かべた。

 

「でしょ~。  堪らないのこれが。」

 

あやねも笑って返す。

 

 

 

 

 

「……………何やってるのかしら?」

 

「「「ご、ごめんなさいっ!!」」」

 

優一郎弄りは、トイレに立ったさくらが戻ってくるまで続いた。

 

 

 

こうして

 

「さて、もう終わりそうだね。

僕も部屋に戻るよ。」

 

優一郎は部屋に戻っていった。

 

「ありがとうね。 優ちゃん。

昭子ちゃんもそのお皿拭いたら、終わりだね。

終わったら、お風呂行こうかなぁ………。

 

もう一踏ん張り頑張ろ!」

 

「はいっ」

 

 

去り間際、そんな声が聞こえてきた。

 

 

 

「本当、2人は仲が良いなぁ…………ただ、二人して可愛いとか言ってくるのは、ちょっとなぁ………」

 

そう愚痴りながら、優一郎が階段を登ろうとすると。

 

「お疲れ様。 皿洗い、手伝ったそうだな。」

 

「父さん」

 

大神一郎が話しかけてきた。

 

「僕は部屋に戻って休もうかなと思っていたのですが、父さんはどちらに?」

 

「ちょっとマリアに用があってね。

どこにいるか、分かるかい?」

 

「風呂から出たみたいですけど、ちょっと分からないですね……スミマセン」

 

「あ、いや、良いんだ。  おやすみ」

 

「お休みなさい。」

 

(あ、そうだ。  寝る前に御手洗行っておこ………。)

 

優一郎は御手洗にいった。

 

 

 

 

「さて、寝るかな…………ん?」 

 

廊下に何か落ちている。

 

「これは……………あや姉さんの………全く………。」

 

それはあやねの髪留めだった。

 

いつぞやの誕生日に優一郎が買ってあげたもので、あやねもそれを肌身離さず持っていた。

 

(仕方ない…………持っていってやるか…………。)

 

そう考えてしまったのが、後に恥ずかしい目に遭わされることに繋がるとは、優一郎には思いもよらないことであった。

 

 

 

 

 

更衣室のドアの向こう側から、風呂に入ってる時の、独特のくぐもった声が聞こえてくる。

 

あやねと昭子のそれに間違いは無い。

 

「よし。  2人は風呂に入っているな…………鉢合わせなんてしようものなら……………」

 

(おっと、震えが止まらないぞ…………っ。)

 

どうにか、震えを止めると

 

「よし、今だっ……………」

 

キキィ………とドアを開け、中に侵入する。

 

 

 

 

「よし、この帯に挿しておけば、大丈ぶ………!?」

 

髪留めを帯に挿した次の瞬間、ふと、足があらぬ方向に動く。

 

(風呂場の方…………まずいっ)

 

慌てて下にうつ伏せになる。

 

(手は無事だ……………手は。

ならば匍匐前進で…………。)

 

 

 

「よし、後は一瞬だけ立って扉を…………。」

 

だが、その瞬間

 

体の主導権が足に奪われてしまった。

 

手も思い通りに動かない。

 

「あっ、  ま、まずいっ  か、体が、体が勝手にっ~!!」

 

 

 

 

 

「え、え!? ゆ、優ちゃん?!」

 

「え、な、何かあったんですか?」

 

「助けて~。  躰が勝手に動いたんだ~。

とにかく、風呂場の扉を絶対に開けないで!」

 

「…………わ、わかった!」

 

「………………き」

 

昭子は混乱していた。

 

「き?」

 

そして、我に返ったようで  

 

「きゃあああああああっ!」

 

 

 

 

 

 

「何かあったのかっ!」

 

つかさず、大神一郎が駆けつけてきた。

 

「?!  お、お前………」

 

「た、助けて下さい…………。

体が勝手に動いたんです。」

 

「何かあったんですか?! 

………はぁ。」

 

「司令の子供なだけはありますね……………。」

 

次いで入ってきたさくらとマリアもただただ呆れるばかりだった。

 

 

 

 

 

優一郎は、風呂場の扉に手をかけた状態で見つかり、そしてそのまま救助された。

 

無論、風呂場の先に広がる桃源き………桃源郷の如き光景は見ていない。

 

「………こ、これは、不可抗力ですよね……?」

 

「何言ってるんですか…………きちんと罰を受けてくださいね?」

 

「…………………。」

 

「世の中、そう容易く許されるほど、甘くないですよ

大体、何故更衣室に入ったの?」

 

「……………あや姉さんの髪留めを拾ったからこっそりと戻そうとして。」

 

「ふふ…………何とも少尉らしいではないですか。

さくら、止めてあげたら?」

 

「マリアさん、止めないで下さい。

……………さて、どう化粧しようかな。」

 

(け、化粧っ?!  じ、冗談じゃないっ!!)

 

「け、化粧って言ったよね今っ!?」

 

「…………可愛く成長してくれて、嬉しいです。」

 

 

 

「うぎゃああああああっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「やだぁ~!  かわいいっ!」

 

「本当、持ち帰りたいくらいですっ…………うふふふふふ。」

 

「ち、ちょっと昭子ちゃん?!

いくら優ちゃんの女装姿が可愛いからって、興奮しすぎで流石に目が怖いよ?!」

 

「本当に、母親似だな………。 お前は」

 

「良く似合ってるわ」

 

「若い頃のあたしにそっくりで、やりがいがあったわ。」

 

 

 

「殺せっ 殺してくれ~っ!」

 

こうして、女装させられてしまった優一郎。

 

地獄の様な一晩を過ごしたのはいうまでもない。

 

 

 

 

 

 




次回予告

「……………私より弱い奴は、隊長として認められない。
命を預けるに足りないからだ。」

浅草から帰ってきた隊員は、なんとあの人の娘だった!

だけど強い反面、心も岩のように頑なで…………。

次回「狼のように孤独な少女」 

桜吹雪は照和に烈しく吹きすさぶ。

  



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第二章 狼のように孤独な少女
第八話 お決まりの爆音と共に。


翌日

 

「全く、酷い目に遭ったよ…………口紅が未だにべったりと口について取れないし…………。」

 

日付が変わるまでいじめ…………弄られた後、ようやく寝ることが出来た。 

とは言え、朝起きるまで女装させられており、カツラや帯、袴は色々寝るのに邪魔だった。

 

「ま、とにかく女装やめて武道場に行こうかな」

 

優一郎は帯を解き、袴を脱ぎ捨て、支給された洋服(帝劇のモギリ服)に着替えた。

 

「……………これ、もうほぼ新次郎さんじゃん」

 

その顔立ちは中性的なので、真宮寺さくらだけでなく大河新次郎にもどことなく似ていたため、服を揃えたら結構似てしまうのだ。

 

「双葉おばさんにも言われたっけ………。

まあ、霊気の測定結果から間違いなく僕は父さん母さんの子供らしいけど………………。」

 

太正25年に李紅蘭によって開発された機械により、DNAではなく、霊気による親子関係の測定が可能となっていたのである。

 

華撃団の関係者の子女は6才の時にこの検査を受けるのが義務となっていた。

 

(ただ、妙なのは………………あや姉さんは詳細な結果が聞けなかったらしい……。

あやねはうちの子だ! の双葉おばさんの一言で終わったとか何とかで…………。)

 

「まあ、それはともかく。  もう行くか。」

 

 

 

 

武道場につくと。

 

「はあっ! やあっ!」

 

「えいっ! たぁーっ!」

 

既に撃ち合っている声が聞こえてくる。

 

「おはよう」

 

中には既にあやねと昭子がいた。

 

「おはよう。 優ち…………って何でやめちゃったの女装っ!」

 

「おはようございます。 

とても可愛らしくて似合っていたのに…………勿体ないです。」

 

「君達ね…………。 僕は男なんだけど。」

 

「知ってるよ。 可愛い男の子」

 

「存じております。  

大変可愛らしいので、男の方になれていない私も安心しております。」

 

「……………………。

あ、そうだ。  2人はここで何を?」

 

「あやねさんは剣術の朝稽古を。

私は薙刀の朝稽古をしておりました。

 

何分、私は体を動かさないと、すぐ太ってしまう体質なもので。」

 

「成る程ね。  じゃあ、僕も混ぜて貰って良いかな」

 

「?!  い、良いですよ。」

 

「じゃあ、まずはあたしからね。」

 

「うん、かかっておいでよ。」

 

 

 

 

「あや姉さんの癖は掴めてるから、楽なんだよね。」

 

「うう~っ!  もう1回っ!」

 

僅か5手で剣先を喉元に突きたてた。

 

「流石、海軍兵学校出身ね。」

 

「次は私が………………。」

 

「かかって来なよ  薙刀を相手にするのは初めてだから楽しみなんだよ………………ねっ!」

 

「ああっ!   離れて………下さいっ!!」

 

(ふむ………威力があるが、威力が足りない………。

やっぱり、胸が邪魔なのか…………って何考えてるんだ僕は…………。)

 

「そこぉっ!」

 

「わっ!」

 

カランカランと薙刀が地点に転がる。

 

「ま、参りました………。」

 

「ね、どうだったあたし達??」

 

あやねが付かさず聞いてくる。

 

「うーん。 昭子さんの機体は中距離系………支援役で、あや姉さんが確か、近接系………壁役だったよね」

 

優一郎は付かさず逆に質問した。

 

「はい。」

 

「昭子さんの動きは威力が充分出ていたし、支援役はタイミングさえ間違えなければ良いから、体術面ではあまり気にしなくても良いかも。

ただ、近接戦闘でもある程度は戦えるように、棒術を参考にした技を身につけてみるのは良いかもしれない。」

 

「………わかりました! ありがとうございます。」

 

「で、あたしは?」

 

「…………相手が僕だから、手を抜いてるでしょ無意識に」

 

「……………ギクッ」

 

「この先、僕の姿をした敵が出てくるかも知れない。

その時に、ソイツに対しても、或いは操られた僕自身に対してもそれでは困るよ。」

 

「………精進します 師匠」

 

「あの、あやねさんは優一郎さんの弟子なのですか?」

 

「そうだよ。 と言っても、北辰一刀流の太刀筋は双葉伯母様にならったんだけどね。」

 

「基礎に関わる部分は僕が教えたんだ。

双葉おばさんが匙を投げるほど、昔のあや姉さんは致命的にへたくそだったからね~。」

 

「ちょっと! へたくそって何よ~っ!」

 

「人間だ、誰かしら下手な物があるんだから、それくらい良いじゃないかっ! やめて叩かないで痛いっ」

 

「ほんと、お二人は仲睦まじいですね………。」

 

昭子は一瞬顔を曇らせた。

 

(……………??)

 

優一郎がその様子を見て不思議に思っていると

 

 

 

キキーッ!   ドォオオオン!

 

 

 

 

劇場の表玄関から凄まじい轟音が聞こえてきた。

 

「「紅蘭さん……………。」」

 

「ああ、紅蘭さんか…………。」

 

呆れて3人が表玄関に出ると。

 

 

「あ、あの、ここやはり大帝国劇場でおわしますよなぁ」

 

「母さんはほんと変わらないな」

 

黒焦げの女性と女の子がそれぞれ一人、立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




あやね………髪の色:茶  
容姿モデル:「はいからさんが通る」の紅緒(2017年の劇場版アニメ)

昭子…………髪の色:黒
容姿モデル:無し

この女の子…髪の色:白
容姿モデル:デレマスのアナスタシアの表情を厳しめにしてチャイナドレスを着せた感じ。


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第九話 最初の壁

「そうですけど……………紅蘭さん

何でわざわざ爆発させるんですか?」

 

「何言うてはりますの優一郎はん。

発明は爆発や言うし。」

 

「………………。」

 

「うちの母が申し訳ない。

ところで、お前達が、新しい花組の面々か?」

 

「はい。 貴方が、浅草に出向していたという?」

 

「ああ。 劉麗華という。

ここにいる母さん…………李紅蘭の養女だ。」

 

「なるほど…………紅蘭さんに養女が…………。

僕は大神支配人の息子、優一郎です。

よろしくお願い致しますね。 麗華さん。」

 

「……………お前が?」

 

「はい。」

 

「……………司令には似ていないんだな。」

 

「母親似なもので。」

 

「……………はぁ。

駄目だな。  これは。」

 

 

「……………え?」

 

「司令からは〝確かに17才とはいえ時期尚早とはいえ、俺を超える素質を秘めている可能性がある〟と言われていた。

しかし、いくらなんでも、子供過ぎる。

命を預ける気にはなれない。」

 

「………………。」

 

「ちょっと、初対面で何言ってるのあんた!」

 

あやねが突っかかる。

 

「なんだお前は」

 

「いくらなんでも、会って早々、その言い草はないんじゃない!?」

 

「そ、それに実力もまだ分からない内からそれを言うのはあんまりです!」

 

あやねと昭子がフォローに入る。

 

「成る程。 それもそうだな。

じゃあ、見せて貰うぞ その〝実力〟って奴をな」

 

「…………いいよ。

どの道、話していたところで埒があかないだろうし。」

 

優一郎は穏やかな表情を崩さないながらも、怒気を孕んだ口調で呟いた。

 

「ちょっと、ええ加減にせんかい麗華はん!

なして、なしてアンタは早々、和を乱すようなことをするんや!」

 

堪らず紅蘭が口を挟む。

 

「止めないでやってくれないか 紅蘭」

 

いつの間にか来ていた大神一郎が口を挟む。

 

「大神はん」

 

「端から上手く纏まれという方が無理だと、そう思わないのかい?

もう少し、様子をみようじゃないか」

 

「………………。」

 

 

 

 

 

 

「得物は何を?」

 

「中国拳法をやっているから、要らない。」

 

「それなら、僕も使わない方が良さそうだ。」

 

「………………手加減ではなさそうだな。」

 

「そうだね。 木刀なんて使った日には、蹴られて両断されて終わりだからね!」

 

空手の蹴りを入れにかかる。

 

「ほぅ。  良い筋だな。」

 

「黙って集中したら!」

 

次いで次の攻撃に移る。

 

 

「……………。」

 

太極拳の単鞭の型を基とした構えで捌いていく麗華。

 

「……………そんな物か。

得物は剣みたいだし、体術から察するに聞いていたよりは大したことなさそうだな」

 

(誘われたっ!!)

 

「しまっ…………!!」

 

蹴りを避けるため、攻撃を中止して大きく後ろに飛び退くも。

 

「顔ががら空きになってるな」

 

顔面に強烈な一撃が叩き込まれた。

 

「くっ…………。」

 

歯を食いしばって、優一郎は地面に転がる。

 

「優ちゃん!」

 

「優一郎さんっ!」

 

あやねと昭子が駆けよる。

 

「まだ8割くらいしか、本気出してないぞ」

 

「いくらなんでも、加減ってものがあるでしょう!!」

 

「そうだよ あんたね!」

 

「煩い。  とにかく、ソイツに命を預ける気はない。

司令。

ソイツに命を預けるくらいなら、私は出ないぞ」

 

麗華は大神一郎とさくらの元に駆け寄り、そう呟いた。

 

「戻って来て早々悪いですけど、それならあなたは出撃しなくて結構です」

 

「?!  さくらさん?」

 

「いくら、麗華さんが強かろうと、和を乱すようでは却って作戦に支障が出て迷惑です。

そもそも、麗華さん以外実戦経験が浅いことくらい、あらかじめ伝えておいた筈ですよ?」

 

「………………。 わ、私は…………。」

 

「それに、優一郎さんに思うところがあるなら、話し合えば良いじゃない。

何故、苛立ちを他人にぶつけようとするの?」

 

「………………チッ。

なら、良いだろう  そのお遊びに来てるような連中を率いてせいぜい足搔くといい。」

 

麗華は去って行った。

 

「麗華はん!」

 

紅蘭はそれを追いかけていく。

 

 

 

 

「優一郎さん、怪我はない?」 

 

優一郎はさくらに起こされた。

 

「は、はい………大丈夫です。

ところで、何故あの子は…………。」

 

「ああ。 彼女は男嫌いですから。

過去のことがあるから、今に始まったことじゃないけど、まさか優一郎さんにまで拒絶反応を示すとは思わなかったわ。」

 

「僕にまでってどう言う意味ですか??」

 

ジト目で見つめる優一郎。

 

「優一郎さんがあたし似ってことです。」

 

「くそっ!  よくも童顔って言ってくれたなっ!」

 

「2人はそんな優一郎さんを気に入ってるみたいですよ。」

 

「な、何言ってるんですか支配人っ!?」

 

「優ちゃん可愛いもんね~。」

 

「う、嬉しくないよ……………。」

 

 

「さて、3人とも。 朝食を摂ったら台本を配るから、よろしく頼む。

時間がないので、舞台の上で早速台詞の読み合わせに入るぞ。」

 

黙って見ていた大神一郎が口を開いた。

 

「「「はーい」」」

 

(って……………台本?!  何故僕にまで?!)

 

「ち、ちょっと待ってくださいっ!

何故僕にまで?!」

 

「あれ、言ってなかったかい?

優一郎にも舞台に出て貰うって」

 

「あれ、黒子に台詞なんてあるんですか?

そもそも、黒子は月組の仕事ですよね」

 

「お前には、女装して舞台に立って貰うぞ。」

 

「?!  き、聞いてないですよっ!

それに、アメリカやフランスならまだしも、日本でそれは通用しませんって!!」

 

「大丈夫ですよ 精一杯女らしく化粧しますし、昨日のアレだって、似合っていたもの。」

 

「あ?  バれるだろ。 んなの!!」

 

「やった~!  演技はあたしたちでフォローするから、よろしく!」

 

「乙女組出身なので、大船に乗った気でいて下さい。」

 

「………………チッ。

仕方ないなっ」

 

 

こうして、優一郎は女装して舞台に立たされることになってしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十話 己でさえも分からずに

一方、麗華

 

(何故なんだ  何故なんだろう

何故、私はここまで苛立ってる??)

 

自分でも分からずに苛立ち、その苛立ちを優一郎達にぶつけてしまった。

 

男嫌いではあったが、ここまで拒絶反応を起こしたことはない。

 

冷静になった今、何故ここまで自分が苛立っているのか、分からないでいた。

 

「麗華はん! ちょっと聞いてくれへんか!」

 

「済まない母さん 1人にしてくれないか

自分でも分からずに苛立ってるんだ…………。」

 

「…………。」

 

すると

 

「大分、落ち着いたかい?」

 

「大神はん」

 

「司令…………。」

 

大神一郎が来た。

 

「司令はやはり、私は皆と出撃しない方がよいと、そう考えていますか?」

 

「いや、そうは思わないよ」

 

「じゃあ、何故あの時、何も言わなかったのですか?」

 

「それは、麗華くんが戸惑っていたのが分かっていたからだよ」

 

「……………司令。」

 

「過去について、とやかく言う気は無いけど、麗華くんは男嫌いだからね。

優一郎にどう接したら良いか、分からなくなった。

そんな気がしたから。」

 

「………………おっしゃる通りかもしれません。

しかし、女の連中だけならともかく、私はあの隊長………優一郎と上手くやる自信がない。

私はやはり…………。」

 

「だったら、話し合って見れば良いじゃないか。

アイツは滅多に怒らないし、人の話をきちんと聞ける男だから、ちゃんと親身になって聞いてくれる筈さ。」

 

「ありがとうございます。 そうしてみようかと思います。」

 

「いや、良いんだ。 これも俺の役割だからね」

 

(………………いや、司令。

確かに、優一郎に警戒を感じない自分がいた。

あの中性的な顔。 穏やかな表情。

だが、それが自分の中で戸惑いを生んで本能的に拒絶反応を起こしたのかもしれないな。

 

ただ、なんとなく見えてきたが、それだけじゃない気もする。

何なのだ…………一体。)

 

やはり混乱は深まるばかりだった。

 

 

 

 

 

その頃優一郎達。

 

「今、振り返ってしまったならば、きっと私は貴方に付いていこうとしてしまうでしょう。

雛鳥が最初に見たものを親鳥と思うように………貴方は私にとっての………。」

 

さくらの主導のもと、台本の読み合わせを続けていた優一郎達。

 

「さらば愛しき人よ…………我らの夏はもはや過ぎ去っていったのだ……………ゲホッゲホッ………。」

 

優一郎は女装、加えて声を変えて話すことが求められていたので喉をそれなりに酷使することが求められていた。

 

「だ、大丈夫ですか………?」

 

「う、うん…………しかし、かなり無茶振りをするよね。 父さん母さんは」

 

「ごめんなさいね。  乙女組にもう少し霊力が高いのがいれば花組に昇格させられて良いのだけれど…………。」

 

「片や、音子さんなんか花組の霊力条件満たしてて、本人も花組加入要員として上京したのに、霊音が見られるとか何とかという理由で奏組だからね。 

世の中上手く出来てないよね。」

 

「そうなんだよね…………てか、昭子さん、上手すぎだよ!

普段と雰囲気がまるで違うもん」

 

「何言ってるの優ちゃん 昭子ちゃんは乙女組で首席だったんだから。」

 

「ど、道理で……………。」

 

「そ、そんなに褒めないでくださいな…………恥ずかしいじゃありませんか…………。」

 

「あ、いや、ごめん…………ついいつもと違う1面が見られたなと思ったからさ。」

 

「顔真っ赤だ………いつもの昭子ちゃんだね。」

 

「あ、そうだ。 何で2人はそんなに仲が良いの?

いくら2人とも乙女組出身だとしても、あんなに人数いたのに。」

 

「え?  あ、ああ………それはね………」

 

「さて、3人とも。 始めるわよ」

 

「「「は、はい!」」」

 

優一郎達の劇の練習は昼まで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十一話 初の霊子甲冑訓練

昼になると、午後には霊子甲冑の訓練が行われることになっている。

 

 

往年に比べて著しく戦力が損なわれている花組の戦力をいち早く回復させるために賢人機関が大神一郎に命じた方針だった。

 

無論、そのせいで劇に割ける時間が減ったため、大神一郎やさくら達、総合演出を手掛ける面々は苦労することになったが…………。

 

そして、この訓練は1945年に大帝国劇場が大改装された際に地下に新たに導入されたシミュレーションルームで行われる。

(余談だがこの際、潰されたのが薔薇組の部屋である。)

 

「………まさか地下にこんなところがあるなんて」

 

「もはや、何でもアリなところありますよね。」

 

「まあ、秘密機関だしね…………。」

 

「さて、配置についてくれ」

 

大神一郎の声に優一郎が辺りを見回すと

 

「……………成る程ね」

 

固定されて動かない霊子甲冑が何台も部屋の両脇に配置されている。

 

白、桃色、ベージュ、薄紫色と来て、群青と白の二色の機体があった。

 

「あれが、僕の機体ですか?」

 

「ん? あ、ああそうだった説明してなかったな。

済まない。」

 

「いえ、分かりました。 配置につきます。」

 

 

 

 

この訓練用霊子甲冑は固定されているので、階段で登って中に入れた。

 

中に入り、電源らしきレバーを起動させ、手の動力部分に腕を突っ込む。

 

すると、目の前に広がるスクリーンに一気に仮想空間の情景が映し出された。

 

「あ!」

 

同じような霊子甲冑のアバターがスクリーンの三次元仮想空間に何台も出現している。

 

「驚いたかい?  これが今回の訓練の主体となる仮想空間だ。」

 

訓練用霊子甲冑の中に搭載されているスピーカーからそう言う声が聞こえてきた。

 

「凄いですね……………。」

 

 

「さて、それじゃあ始めようか。

今日はまずは脇侍の掃討訓練からはじめて、最後には魔

操機兵・孔雀を倒す実戦訓練を行うとしよう。」

 

「「「了解!!」」」

 

次の瞬間、仮想空間に脇侍のアバターが出現する。

 

「こ、これが脇侍なのか…………。」

 

昨日の降魔が、初めて見た怪物だった優一郎には、無論脇侍は初見だった。

 

そう戸惑っていると、

 

スパスパスパスパと脇侍が相次いで別の霊子甲冑に斬られていく。

 

数から判断するに大神一郎やさくらも参加しているようだった。

 

「何ぼうっとしているんだっ! そんな体たらくで帝都を護れると思っているのか!」

 

叱責が飛ぶ

 

「はっ、はいっ!」

 

慌てて脇侍を斬りにかかる。

 

 

 

「くっ……………慣れないなどうにも。」

 

脇侍の胴を切り裂くという戦法ばかり取ってしまう。

 

(もう少し、首を切るとか、作業効率を上げた方が良いみたいだな。)

 

如何せん、脇侍のアバターの数が多いので、結構体力を消耗してしまう。

 

(……………その点、あとの皆は上手くやっている。

首を狙うなり、目→首だったり。)

 

その次の瞬間

 

「?!」

 

霊子甲冑の中が少し揺れた。

 

画面を見ると脇侍から攻撃を受けていた。

 

被ダメージまで忠実に再現されているためだった。

 

「よくもやったな!! 」

 

腕を切り裂き、次いで首をかっ切る。

 

そしてそのまま、左腕→首を狙う戦法に切り替えていった。

 

右腕で攻撃される前に太刀で首をかっ切っていく。

 

(効率が大分上がったな。)

 

他の霊子甲冑のアバターよりも目に見えて素の攻撃力が高かったので、処理速度が大幅に増加していった。

 

そう考えながら脇侍の掃討を行っていくと程なく脇侍は全滅した。

 

「皆、ご苦労様。 

これから出現させるのは、今日最後の仮想敵:魔操機兵・孔雀だ。

今までは俺たちも参加していたけれど、孔雀に限り、3人で挑んでみてほしい。

指揮は優一郎に任せるから、頑張ってくれ。」

 

そう言うなり、大神一郎は自身の霊子甲冑のアバター、さくら機のアバターを消す。

 

(さて、どうする……………!)

 

優一郎達には瞬時の判断と的確な動きが求められた。

 

魔操機兵:孔雀の片腕には幾つもの射撃口が取り付けられており、遠距離攻撃を得意とする。

 

「わわっ!」

 

今、迷っているこの瞬間にも優一郎機、あやね機、昭子機には的確な射撃によるダメージが与えられていた。

 

「ひとまず、距離を置いたらどうかな?」

 

「そうだね。 

円周上に敵の射程距離から距離を置いた位置を動き回り、うちの1機で敵に一気にケリをつける!」

 

「「了解っ!」」

 

(やはり普通に従ってくれるんだなぁ…………。

結構頼りなさそうな印象を受けているとばかり…………。)

 

優一郎はそう思いながらも、射撃してくる魔操機兵:孔雀から距離を置くため後退する。

 

「敵の射程圏内に入って敵を引きつけ、敵が攻撃してきたら後退する。

この動き、出来るね?」

 

「光武の扱いはあたしたちに一日の長があるし、任せて!」

 

「分かりました。 」

 

3機は射程距離を直径とした円周上に、それぞれが射程圏内に出たり入ったりを繰り返していく。

 

そして徐々に味方同士の霊子甲冑の距離を空けていく。

 

 

「よし、あや姉さんの機体が完全に敵の背後に回り込んだ今だっ!」

 

あやね機が一気に孔雀に接近し、

 

「破邪剣征・桜花流水っ!」

 

孔雀に必殺技を放つ。

 

孔雀は絶妙なタイミングで振り返ったので、孔雀の腕に必殺技が行き、射撃口が破壊された。

 

「トドメだっ!」

 

優一郎はそれを見て一気に跳躍し、

 

「でゃあああっ!」

 

強烈な一撃を叩きつけ、一気に動力部を破壊する。

 

かくして孔雀は完全に無力化され、戦闘は終了した。

 

 

 

「まいったな……………見事だったよ。」

 

戦闘終了直後、大神一郎のそんな声がスピーカーから聞こえてきた。

 

「……………倒したら拙かったのですか?」

 

「倒すのは良かったんだけど、3機で、しかも味方の被害が殆どないというのは予想を遥かに上回る結果だったからね。

驚いたよ。」

 

「ありがとうございます。」

 

「どうだ? これでも君は彼らを見直してはくれないのかい?

麗華くん。」

 

大神一郎は、実は優一郎達の3機が苦戦することを想定しており、麗華に待機させていた。

 

本当は麗華に撃退させ、仲直りのきっかけを作ろうと考えていたが、優一郎達は予想を上回る戦果を上げてしまい、その目論見は完全に崩れてしまっていたのだった。

 

「ああ。  先程は済まなかった。

お前達を、殊に大神優一郎を過小評価していた。 

ごめん」

 

スピーカーから紅蘭の養女・麗華の声がする。

 

彼女は、自分の先程の態度は、優一郎達に過小評価による拒絶と映っていると考えていた。

 

「いやいや。 気にしなくていいよ。

だって一筋縄で行く方が不思議だしね。」

 

優一郎は笑って話す。

 

「そうか…………ありがとう」 

 

訓練用霊子甲冑の中にいる優一郎達からは見えないが、恐らくスピーカーの向こうでは笑っていそうだ。

 

「全く…………次から気をつけてね!」

 

「良かったです……………仲直り出来て。」

 

あやね達も受け入れてくれたようだった。

 

 

 

 



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