死の支配者と王種の竜人の異世界冒険譚 (Mr. KG)
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設定(仮)

前話の後書きで書いた通り設定です。
今回オリジナルの種族と職業が出てきます。かなりチートです。
正直とても不安です。

注意!ネタバレにはならないよう気をつけて書きましたが絶対ではありませんので、嫌な方はブラウザバックしてください。
また、再度書くのは面倒なので削除はしませんが、書き終えて自分でもどうかと思ってしまうほど拙い設定です。
出来るか分かりませんが、読まなくてもいいよう話を進めていこうと思いますので個人的にはブラウザバック推奨です。
また、ここには基本的なものしか載せておらず、意図的に書いていない設定もあります。

5/15 耐性を変更しました。
5/28スキル名を一部変更しました。
5/31色々変更しました。


名前:ザッハーク 【Zahhāk】

[異形種]

通称:世界級竜王

リアルチート

まともな方のゴーレムクラフター

性別:男

身長:187cm(人間、半竜人態)↔︎320cm(竜人態)

所属:ナザリック地下大墳墓

ギルド:アインズ・ウール・ゴウン

住居:ナザリック地下大墳墓第九階層にある自室

属性:極善(カルマ値:300)

役職:至高の四十一人

ナザリック地下大墳墓副統括

好きなもの:モモンガ

自分の作ったNPC

ギルメン

ナザリックのNPC

ナザリック地下大墳墓

嫌いなもの:多数

趣味:NPCとの交流

アイテムの収集

読書

 

<キャラクター説明>

この二次創作の主人公でオリジナルの至高の四十一人の一人。

割とアレ──とは言ってもその時代で見ればかなり恵まれていた方──な境遇で育ち、高校を中退して実家を出奔。その後波乱万丈な紆余曲折を経てプログラマーとなる。プログラマーとしてはかなり優秀だった模様。

ユグドラシルの製作に関わっており、その際に暇つぶしで隠し職業を入れて消されなかった為、ユグドラシルの掲示板等に情報を流し「早く見つけねば私が取ってしまうぞ。(意訳)」とプレイヤー達を焚きつけていた。

その後しばらく経っても誰も見つけていなかったため宣言通り自分が取得。その途中モモンガに勧誘されクラン<ナインズ・オウン・ゴール>に加入する。

本人の性能とキャラの性能が合わさって全方位特化というなんか矛盾した存在になっているユグドラシル最強の(原義的にも)チート野郎。

 

<隠し職業>

ザッハークが入れた七つの隠し職業。どれも壊れ性能の七つのスキルを持っており、取得するとギルド武器に匹敵する装備が送られる。

実はイメージ優先のため微妙なスキルも混ざっている。

ワールド系職業に関するものや超位魔法はスキルの対象外。

最大で10Lv。どの職業も取得するとチートじみた耐性が得られる。というかぶっちゃけ耐性がメイン。

以下、耐性一覧

・精神攻撃、、デバフ、行動阻害等直接攻撃以外を完全無効化

(当然世界級は例外)

・ダメージカット(20%)

・レベルが下の相手からの攻撃を無効化 ※

※ワールド系職業に就いている相手、世界級アイテム持ち、ワールドエネミーには効果が軽減または無効化される。

相手のレベルが自分の半分未満→75%削減

相手のレベルが半分以上自分未満→50%削減

自分以上、ワールドエネミー→削減されない

 

 

<ロード・オブ・デーモン>

送られる装備:魔王らしいマントのついた禍々しい漆黒の鎧(オーラ付き)

能力値が全体的によく伸びる職業。

スキル

・上位〜下位眷属創造

眷属を作成する。上位は70Lvで6体、中位は60Lvで18体、下位は50Lvで30体。アンデッド作成とは違い、レベルと強さ以外全て同じで制限時間がない。分類は人造物(コンストラクト)

・邪悪なる王政

倒したプレイヤーから3Lv分の経験値とアイテムを一つ奪うパッシブスキル。

強欲と無欲とは違いカンストを超えて溜めるのは不可能な他、経験値を貯めてない相手からは奪えない。

アイテムは武器防具→その他装備品→アイテムボックス内の順にランダム。

モンスター相手だと倒した際の取得経験値とアイテムのドロップ率が上昇する。

・最終試練

相手が複数だと発動する。範囲内の相手の数に応じてステータス上昇。

相手のレベルは関係ない。

黙示録(アポカリプス)

モンスターを召喚する。経験値消費で最大10Lvの強化が可能。

召喚モンスター設定

支配の白騎士(ホワイトライダー)

白い馬に跨り弓を持った白騎士の姿の70Lvモンスター。

支配(ドミネート)〉の強化版スキルと四騎士共通の飛行能力を持つ。

戦乱の赤騎士(レッドライダー)

赤い馬に跨り大剣を持った赤騎士の姿の70Lvモンスター。

35Lvの雑魚モンスターをほぼ無限に召喚するスキルを持つ。

飢饉の黒騎士(ブラックライダー)

黒い馬に跨り天秤を持った黒騎士の姿の70Lvモンスター。

周囲の相手のHPとMPを減少させていくスキルを持つ。

減少は割と広範囲で早い上、隠し職業の耐性すら貫通出来る。

疫病の蒼騎士(ペイルライダー)

青褪めた馬に跨り大鎌を持った蒼騎士の姿の70Lvモンスター。

一定範囲内に状態異常〈病〉をばらまくスキルと首切り(ヴォーパル)能力を持つ。

病に掛かると時間経過で悪化していくステータス低下と継続ダメージが入る。

・アバドンズ・ローカスト

6足6節6羽のイナゴの姿の35Lvモンスター。大量に召喚される。

攻撃自体は大したことがないが装備や所持アイテムに被害を出してくる。

・マザーハーロット

モンスターではないが効果の一部なのでここに記載。

範囲内に居るエネミー全てのHPを吸収し、全ステータス超絶ダウン(骨抜きにする)

ユグドラシルはR15でもダメなため能力にしたがサキュバスがいる辺り無意味だったようだ。

・アポカリプティック・ビースト

七頭十角の獣の姿の80Lvモンスター。マザーハーロットの次、最後に召喚される。

再生能力と破壊光線のスキルを持つ。

・魔王の権能

悪魔の種族スキルをMPを消費し3分間使用できる。リキャストタイム等の制限はそのまま。職業レベルを上げることで使えるスキルが増える。MP消費量を増やしてスキルを強化出来る。

・魔王の覇気

範囲内の自分とのレベル差が30以上の格下を即死させる。差が30未満なら恐慌と6Lvのステータス低下、同格なら2Lvのステータス低下をもたらす。精神攻撃への完全耐性で軽減可能。

・魔軍召喚

70Lv以下の悪魔を召喚する。召喚出来る数はほぼ無限だが召喚するごとにMPを消費する。

 

<ロード・オブ・ヘヴン>

送られる装備:鍔にトパーズが埋め込まれた黄金の柄の長剣

全体的に能力値がよく伸びる職業。これがあるためザッハークのカルマ値は高い。

スキル

・公平の天秤

微妙系スキルその一。互いのステータスを均等にする。相手が複数だと合計値で均等にするため全く使えない訳ではない。

・正義の剣

一日三回しか使えないスキル。使用者と相手のカルマ値で威力が変わる神聖属性の攻撃。見た目が某勝利の聖剣にそっくり。

モモンガとは相性最悪で、カルマ値が最高のザッハークがカルマ値が最低でアンデッドであるモモンガに放つと素で食らった場合モモンガ7〜8人が消し飛ぶ。

・バベルの神罰

一日一回しか使えない攻撃スキル。自分と相手、カルマ値が低い方に必中の雷が落ちる。対複数の際は最も低い者で判定され全体攻撃になる。雷はカルマ値が低いほど威力が上がる。

・天の眼

視界を飛ばす。一つのワールドをカバー出来るほど効果範囲が広い上、中位以下の対情報系魔法をすり抜けられる。

・天軍召喚

一日一回ノーコストで天使を召喚出来る。召喚可能数は熾天使級が10体で位階が一つ下がると10体増える。

恒星天以上等一部例外もいる。

・天帝の加護

隠し職業の耐性を他者に一定時間付与出来る。

MPを割と消費する。

・裁きの執行者

最終試練と同様。重ねがけは無い。

 

<グランドマジックキャスター>

送られる装備:Fateの魔術王ソロモンの衣装。転移後のザッハークの普段着。

魔法に関する能力値がかなり伸びる職業。攻撃力はワールド・ディザスターに劣るが、魔法全般に高い能力を発揮出来る。

職業レベルを最大まで上げると第十位階魔法と超位魔法の間に位置する冠位魔法が解禁される。

冠位魔法もスキルの対象外。

スキル

・魔法耐性突破

名前の通り。軽減はされる。

・魔導の王冠

ユグドラシル時代の微妙系スキル。レベルが下の相手の魔法を支配する。ユグドラシル時代は相手に魔法を返す「反射」、相手の魔法の効果を奪う「奪取」、相手の魔法を消す「消去」、相手の魔法の対象を変える「変更」のコマンドをいちいち操作しなければいけなかった。

転移後の世界では自分の意思で文字通り支配出来る超有用スキル。

・智慧の王冠

常時<魔法無詠唱化>と<魔法三重最強化>が発動する。魔法によっては<魔法三重最強化>が片方だけ又は発動しないこともある。

MPを消費して一定時間別の魔法強化スキルを加えることや、普通に魔法強化スキルを使っての重ねがけも可能。

・冠位の技巧

アイテムの作成に多大な補正が入る。

・深淵の叡智

魔法行使の際の消費MPが半分になる。小数点以下は切り上げ。

・叡智の業

<魔法範囲拡大>などの魔法系スキルの複合スキル+α。職業レベルに応じて使用可能スキル数増加。

・全知の星

そのレベルで習得出来る魔法が全て使えるようになる。

ちなみにザッハーク自身が出来るため気付いていないが、転移後の世界では超位魔法を入れれば6000を超える数の魔法を暗記しないとスムーズに使えないというトラップがある。

 

<グランドファイター>

送られる装備:六形態(長剣、槍、戦斧、小太刀×2、籠手と脚甲、戦槌)に変化する武器

スキル

・グランドストライク

グランドファイターの職業レベルを最大まで上げると習得出来る攻撃スキル。武器によって変化する。全部で六種類。

・心眼

幻術や暗闇、透明化などの視覚妨害系を完全に無効化及び、クリティカル率、威力上昇。

・冠位の武練

戦士系スキルの複合スキル+α。使用出来る数は職業レベルに応じる。

・物理耐性突破

名前の通り。軽減はされる。

・冠位の祝福

手に持った武具のランクを伝説級の下位相当にまで引き上げる。伝説級以上なら単純な強化。要はFateのランスロットの騎士は徒手にして死せず。

・物理攻撃強化

名前の通り。

・致命の拳

物理攻撃にクリティカル威力上昇とクリティカル発生率上昇が付く。拳なのに物理攻撃なら蹴りや武器攻撃にも付く。

 

<グランドニンジャ>

送られる装備:黒の忍者装束

暗殺者、盗賊、忍者系の最上位職業。素早さがかなり伸びるが、防御はほとんど伸びず装備と耐性込みで紙装甲。スキルがどう考えても忍者というか暗殺者。

スキル

・専科百般

暗殺者や盗賊系スキルの複合スキル+α。他に料理などのリアル技術系スキルをグランドニンジャの職業レベルの半分のレベルで使える。(小数は切り捨て)

・死を纏う者

グランドニンジャの職業レベルを最大まで上げると習得出来るパッシブスキル。物理攻撃に一定確率で即死効果が乗り即死無効が付く。物理耐性や即死耐性も貫通するが即死率はかなり下がる。そのため非実体系アンデッドは苦手。

・忍びの歩法

イメージが優先されたスキル。壁や天井、水面などあらゆる場所を足場に出来る。空中もいけるが難易度は高い。

・冠位暗器術

一定のデータ量までアイテムをショートカット登録出来る。データ量は下位の伝説級一つ分。

・冠位忍術

名前の通りの複合スキル。

・存在隠匿

名前の通り。索敵系世界級アイテムか雨などのフィールドエフェクト以外では五感でも魔法でもスキルでも発見不可能。隠匿状態はクリティカル発生率が上昇するが防御が低下する。武器を装備していたりスキルや魔法を使おうとすると只の透明化になる。

・影灯篭

影と同化する。同化中は非実体となる。

 

<ブンゴウ>

送られる装備:表紙の四隅が金で装飾され、表表紙にユグドラシルのロゴが金糸で描かれた黒い本と万年筆

能力値がほとんど伸びない職業。非戦闘系で癖が強い。

スキル

・昇華執筆

アイテムのデータ量を増やす。Fateのシェイクスピアのエンチャント的なスキル。

・付与執筆

アイテムに属性を付与する。

・魔導執筆

書物系アイテムを作り出せる他、ランクにもよるが複製も可能。

国王一座(ザ・キングス・メン)

一日に3回しか使えないスキル。自陣営に強化、敵陣営に弱化がかかる劇場を展開する。脱出は困難。

・NPC作成

敵と戦うことでポイントを溜めてNPCを作成出来る。

ポイントは同じ相手と戦うほど減り最終的に0になる他、相手が強いほど得られる量が増える。プレイヤーは『プレイヤー』と一括り。

・ファースト・フォリオ

本に書いた文章を現実化する。とはいってもそっくりそのままに現実化するとは限らない(例えば「壁が現れ攻撃を防ぐ」と書いても必ず防げるとは限らない)上、いちいち文を書かなければ(入力しなければ)いけないため使いづらい。

・即興劇場

簡易的なNPC作成。Fateのシャドウサーヴァントのようなもの。凄く弱い。数を出せる為、主な用途は肉壁と時間稼ぎの雑兵。

 

<グランドアーチャー>

送られる装備:引き絞ることでチャージが出来る大弓。

アーチャーでレンジャーでハンターな職業。宣言したからには、と取ったもののほとんど使っておらず本人も「宝の持ち腐れ」「もっとよく考えるべきだった」と供述している。素早さが比較的伸びやすく他は普通な伸び。

スキル

魔弾の射手(デア・フライシュッツ)

射撃武器の威力や命中率、射程距離などが向上する。

・魔矢作成

MPを消費し矢を作り出す。MPの消費量に応じて属性を付与したり威力などを向上させたりと使い勝手の良いスキル。

・飛び道具耐性突破

名前の通り。

・駿足の狩人

地形や罠、障害物の無視。及び素早さの向上。

・狙撃体勢

森林フィールド内、射撃体制での隠密効果。

・射手の心得

射撃系スキルの複合スキル+α。

・森の賢人

レンジャー系スキルの複合スキル+α。

 

<キャラクター性能>

種族ーーー竜人(ドラゴノイド)10Lv

ーーー竜人の戦士(ドラゴノイド・ウォリアー) 10Lv

ーーー王種の竜人(ロード・ドラゴノイド)5Lv

職業ーーーロード・オブ・デーモン 10Lv

ーーーロード・オブ・ヘヴン 10Lv

ーーーグランドマジックキャスター 10Lv

ーーーグランドファイター 10Lv

ーーーグランドニンジャ 10Lv

ーーーブンゴウ 10Lv

ーーーグランドアーチャー 10Lv

ーーーワールドチャンピオン 5Lv

 

種族レベル25+職業レベル75=100Lv

 

能力値(最大値を100、スキルは含まないものとする)

※竜人態時。人間態時は低下する。

HP:100

MP:限界突破

物理攻撃:限界突破

物理防御:95

素早さ:限界突破

魔法攻撃:限界突破

魔法防御:90

総合耐性:限界突破

特殊:100




職業やスキルなどこの方が良いんじゃないかといったものがあればご提案ください。
誤字、脱字、その他何かありましたらそっと教えてください。批判はオブラートに包んでお願いいたします。
中間試験が近いので多分更新は遅くなります。

ネーミングセンスの無さが良く分かりますね。読み返す度にクリティカルヒットですよ。
今後もっとましな名前が思い付いたら修正します。


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第1章 不死者の王と悪蛇王
プロローグ


頭の中の妄想を形にしたものです。
拙いものですが楽しんでいただければ幸いです。
オリ主ザッハークの容姿は腕の入れ墨が無い魔術王ソロモン(赤黒いオーラを纏っていない方)でイメージして下さい。


DMMORPG≪Dive Massivery Multiplayer Online Role Playing Game≫。

電脳世界へダイブし、専用のコンソールを使うことでまるで現実のように楽しむことのできるRPG。

数多あるその中で、かつて燦然と輝いた一つのタイトルがあった。

「ユグドラシル」。広大なマップと高い自由度から日本国内で爆発的な人気を博していた。

しかし、どんなものにも終わりはある。

技術の進歩による新しいゲームの開発や12年の歳月により発掘され尽くした未知などの理由でプレイヤーはどんどんと減っていった。

それにより、ユグドラシルはとうとう終わりを迎えることとなった。

 

 

かつてユグドラシルにおいて知らぬものはいないほどの知名度を持ったギルド<アインズ・ウール・ゴウン>、その本拠地ナザリック地下大墳墓第九階層「円卓の間」。

その部屋の中央に、黒曜石で作られた巨大な円卓があった。41人分の豪華な席が円卓の周りに置かれていたが、その席にある影はたった一つだった。その影は豪奢な漆黒のローブを纏っているが、人間ではなかった。身体は白骨であり、眼窩には鬼火のような赤い光が揺らめいていた。魔法を極めたリッチの最上位種の死の支配者(オーバーロード)である。

 

「はぁ、ザッハークさん、遅いな。22時ぐらいには戻るって言ってたのに」

 

そのオーバーロード──モモンガがぼそりと呟く。

彼と共にユグドラシルのプレイ人口減少に伴って櫛の歯が抜けるようにギルドメンバーが引退して行く中でギルドを維持し続けた一週間程前からユグドラシルが終わるから、と格安で売りに出されているアイテムの収集に行っているメンバーが22時を30分以上回っているにも関わらず戻ってこないのだ。

とはいっても、モモンガはさほど心配していなかった。これはモモンガが薄情なのではない。そのメンバーは壊れ性能の職業を複数取得している上、本人のプレイヤースキルも高い。世界級アイテムも所持している上、多対一に強いスキルや魔法も持っているのだ。総合的な戦闘力はユグドラシル最強と言える。

おそらく、アイテム集めに熱中しているのだろう。

昔から何かに熱中すると時間を忘れることがよくあったことを思い出し、苦笑する。

と、噂をすれば影といったところか「円卓の間」に一つの人影が転移してきた。白や黒を基調とした豪奢な装いをしたその人物は、新雪のような白銀の髪を編んでおり、十指にはめた指輪や太陽と月をかたどった黄金色のピアスが髪とは逆の褐色の肌に映えていた。首には魔法金属ガルヴォルン製のチョーカーをつけており、穏やかで理知的な印象を受ける顔に掛けられた黒縁眼鏡の奥には紅玉の瞳がある。

 

「おかえりなさい、ザッハークさん。どうでした?」

 

モモンガの問い掛けに人影ーザッハークは自分で組んだプログラムによって表情を微笑みに変え、返答する。

 

「ただいまです、モモンガさん。そうですね、主な収穫は神器級(ゴッズ)が253個、世界級(ワールド)が13個といったところです。これで神器級(ゴッズ)がギルメンの装備を入れれば1200個を超えて、世界級(ワールド)が121になりました」

 

「随分集めましたね。そんなに売りに出されていたんですか?」

 

「いえ、一部はPVPで奪い獲りました。あとは他のギルドとパーティ組んでワールドエネミーに挑んだりですね。違うギルドのメンバーだったので攻撃に気をつけないといけなくて結構苦戦しました。」

 

「はは、相変わらず手段を選びませんね」

 

「当然です。欲しいものは必ず手に入れるのが私ですから。まぁ」

 

もうすぐ全部消えてしまうんですが、という言葉を飲み込む。あれほど入れ込んだユグドラシルが終わるなど、認めたくなかったのだ。

モモンガの方もそれを察して追求はしない。少し沈黙が流れ、気まずくなったザッハークが口を開こうとする。

 

「モ≪ヘロヘロさんがログインしました≫お?」

 

ちょうど口を開いたタイミングでアイコンが表示され、一つの人影が円卓の間に現れた。その人影はコールタールのように黒くドロドロした粘体だ。強力な酸で武装を破壊してくる嫌われ者のモンスターの古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)である。

その古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)ーヘロヘロが触腕を持ち上げ、ぺこりと頭らしき部分を軽く下げる。

 

「「お久しぶりです!ヘロヘロさん!」」

 

「はは、おひさーです。モモンガさん、ザッハークさん」

 

ヘロヘロは二人の嬉しそうな声に軽く笑いながら挨拶を返す。

それに微笑みだった表情を笑顔に変えたザッハークを見てヘロヘロが軽く呻く。

 

「うわ、相変わらずすごいですね。そのプログラム。表情今何個あるんですか?」

 

「いや、それほどでもありませんよ。多分あと2、3年すれば普通に使われるようになりますって。それに表情の数もまだ喜怒哀楽に+αで17個しかありませんし」

 

「いやいや、一般に普及するまで2、3年はかかるプログラムを今使ってるって時点で十分すごいですよ。表情もかなり自然ですし」

 

「そうですかね?っと、すみませんモモンガさん置いてけぼりにしてしまって」

 

プログラマー二人の会話に入れず、傍観者になっていたモモンガに気付き申し訳ないという表情に変え謝罪するザッハークに、モモンガはひらひらと肉のない骸骨の手を振って気にしなくていいと示し、話題を変える。

 

「本当にお久しぶりです、ヘロヘロさん。転職して以来ですから大体2年ぶりぐらいですかね」

 

「うわ、そんなに時間がたっちゃってるんだ。やばいなぁ、最近時間の感覚が曖昧になっちゃってる。実を言うと今もデスマーチ中なんですよ」

 

「それって、大丈夫なんですか?」

 

「体ですか?ちょーボロボロですよ」

 

心配の表情に変えて問い掛けたザッハークに触腕をひらひらと振って見せるヘロヘロだが、その声には隠しきれない疲労が滲んでいた。

その後も色々なことを話した。

ユグドラシルの思い出や近況報告、仕事の愚痴など、ヘロヘロからは仕事の愚痴がほとんどだったが、モモンガとザッハークは久しぶりのお互い以外との会話に終始楽しげだった。

 

「と、もうこんな時間ですか。本当は最後まで付き合いたいんですけど、ちょっと眠すぎて」

 

「あー、まぁ仕方ないですよね。今の話聞く限り相当ブラックみたいですし」

 

「あの、お疲れなのはわかりますが、折角ですしユグドラシルの最後を一緒に迎えませんか?」

 

「あー、それもいいですけど、さすがに寝落ちで強制ログアウトになりそうなので………」

 

「まぁ、そう、ですよね。我儘言っちゃってすみません」

 

ザッハークが心中で少し葛藤して提案するが、ヘロヘロは申し訳なさそうに触腕を振りやんわりと断る。

 

「いえいえ、お気になさらず。モモンガさん達は最後まで残るんですね」

 

「ええ、私はギルドマスターですし。それに誰か来るかもしれませんから」

 

「私もモモンガさんと一緒にいようかと」

 

「そうですか。……今までありがとうございました、モモンガさん。きっとこのゲームを楽しめたのはあなたがギルドマスターだったおかげです」

 

モモンガは気恥ずかしそうに大袈裟なジェスチャーで応える。

 

「いえいえ、私なんか雑務をやってただけです。皆さんがいてくれたからこそですよ」

 

「いえ、私もそう思いますよ。モモンガさんがいてくれたからこそです」

 

「ええ、モモンガさんは本当によくギルドをまとめてくれたと思います。今まで、本当にありがとうございました。また、どこかでお会いしましょう。次に会う時はユグドラシルIIとかだったらいいですね」

 

「ええ、私もそう思います。また会いましょうヘロヘロさん」

 

「私も次会う時を楽しみにしていますよ」

 

「ええ、それじゃお疲れさまでした」

 

≪ヘロヘロさんがログアウトしました≫

 

ヘロヘロがログアウトし、円卓の間にはモモンガと無表情に戻ったザッハークの二人だけになる。二人とも若干俯いており、暗めの雰囲気が漂っていた。

そんな中で思い出すのはヘロヘロが言っていた言葉

 

「『また、どこかでお会いしましょう。』か…」

 

「…………」

 

モモンガの呟きにザッハークは無言で応える。ザッハークもその言葉に何も思わない訳ではないのだ。

 

「ふざけるな‼︎」

「みんなで作り上げたナザリック地下大墳墓じゃないか!どうして、そんな簡単に捨てられるんだ!!!」

 

モモンガが円卓に拳を叩きつけ、慟哭する。それと同時に自動でダメージ計算がされ、0damageというアイコンが表示される。ザッハークも同じ気持ちだった。ザッハークにとってもギルドメンバー皆で作り上げたここ、ナザリック地下大墳墓は何物にも代えられない思い出が詰まっているのだ。モモンガは仕方ないと自分に言い聞かせているが気持ちを抑えられないのだろう、円卓に置かれた拳が震えている。

実際仕方ないのだろう。アインズ・ウール・ゴウンの加入条件は二つ、異形種であること、もう一つが社会人であることなのだ。

引退していったメンバー達にも社会人である以上どうしようもない事情があったのだろう。

ザッハークは、そんなモモンガに近づき握り締められた拳にそっと両手を重ねる。

 

「ザッハークさん…。すみません、ちょっと取り乱しちゃって」

 

ザッハークはハッとしたようにこちらを見て申し訳なさそうに謝罪のアイコンを出すモモンガに微笑みかけ、口を開く。

 

「大丈夫ですよ、モモンガさん。私も同じ気持ちです」

 

「ザッハークさんもですか」

 

「ええ、最終日なのに2人しか来てくれなかったんです。誰だってそう思うでしょう。だから、気にすることはありませんよ。愚痴、聞きますから。どうせならここで全部吐き出してサービス終了をスッキリ迎えましょうよ。幸いにも終了まであと30分ほどありますから」

 

「…よろしいんですか?」

 

「構いません。モモンガさんがギルドの維持の為どれだけ頑張って来たか、私は知ってますから」

 

なんせ、一緒にログインしてたんですからね。そう言って笑った友人を見てモモンガも軽く笑う。本人は否定しているが、ずっとログインして楽しめたのはこの友人の存在が大きい。その悪名から、効率の悪く人気のない狩場でギルドの維持資金を稼がなければいけない時一緒に稼いでくれたり、他のギルドがいない時間を調べてダンジョンに連れ出してくれたりと、ザッハークには感謝の念に尽きない。

 

「ありがとうございます。それならご厚意に甘えさせていただきますね」

 

「ええ、どうぞ甘えちゃってください。私もモモンガさんに随分助けられましたからね、少しでも恩返しが出来たら幸いです」

 

相変わらずの謙虚さに苦笑しつつ席に戻った友人へ口を開く。

最初こそ愚痴をこぼしていたが、途中から思い出話になっていってることにどちらも気づいていたが気にしない。やはり、最後なら湿っぽいより明るい方が良いのだから。

 

「と、もう50分になっちゃってますね。そろそろ玉座の間に行きましょうか」

 

「もうですか。もうちょっと話していたかったですね」

 

モモンガはまだ話したそうなザッハークを「仕方ないですよ」と諌め、椅子から立ち上がるとザッハークも苦笑しつつ立ち上がる。モモンガがそのまま玉座の間に向かおうとするとザッハークに止められる。

 

「どうしました、ザッハークさん。何か忘れ物でも?」

 

「ええ、忘れ物です。ほら、あれ」

 

ザッハークが指さした先にあるのは一本の杖だ。

ケーリュケイオンをモチーフにした七匹の蛇が絡み合ったデザインで、七匹の蛇はそれぞれ違う宝玉を咥えている。

アインズ・ウール・ゴウンのギルド武器である≪スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン≫だ。

 

「いいんでしょうか? 勝手に持ち出して」

 

アインズ・ウール・ゴウンは多数決を重んじたギルドだ。それ故にモモンガはいくらギルドマスターとはいえ勝手に持ち出していいのか悩む。輝かしい思い出の結晶を残骸のような今に落としていいのかという思いもあった。

そんなモモンガにザッハークは「ええ、構わないでしょう」と肯定し、「それに、」と続ける。

 

「モモンガさんはずっと我儘言わず、ギルドマスターとして頑張ってたじゃないですか。今日ぐらい我儘言ってもいいと思います、ギルメン達だって許してくれます。というより、来なかった方が悪いんですよ。一昔前の裁判でも来なかったら来なかった方が悪いって事で本人居なくてもやってたんですよ? それに私、これ持ったモモンガさん見てみたいです」

 

「確かにそうですね。せっかく作ったのにのにずっと動かさないままっていうのも可哀想ですし」

 

ザッハークに促されサービス終了の日ということもあり迷いを振り払ってギルド武器を手に取る。

すると杖から赤黒い苦悶の表情を浮かべた人の顔のようなオーラが立ち昇っては崩れ、消えていった。モモンガは自分のステータスが上昇するのを確認する。

 

「うわ、作り込み細か過ぎ」

 

モモンガが思わず苦笑混じりで呟いてしまうほどの細かい作り込みにザッハークも苦笑する。

 

「これ作るとき、いろんなことがあったよなぁ…」

 

「そうですね。今となってはいい思い出ですけど、あの時は本当に大変でした」

 

モモンガとザッハークが思わず回顧し苦笑してしまうほどこのギルド武器を作る際はいろいろなことがあった。

チーム分けし、各自競うようにレアな材料を集めた。デザインを決めるために何度も話し合い、皆の案を少しずつまとめていった。馬鹿なお喋りで一日潰れたことがあった。強力なモンスター相手に壊滅しかかったことがあった。仕事で疲れた体に鞭打って来てくれた人がいた。家族サービスより優先して奥さんと大げんかした人がいた。有給を取ったぜ、と笑っていた人がいた。

それら一つ一つがまるで昨日のことのように思い出せる。

 

「それでは、私も」

 

そう言うと身に纏っている装備の肩の部分を掴み、剥ぎ取るような動作と共にコンソールを操作するとザッハークの体が変化していく。褐色の肌は髪と同じ白銀となり、体躯は3mに迫るほどになる。変化が終わるとそこには白銀の体躯を持った竜人が佇んでいた。竜人系の最上位種族、王種の竜人(ロード・ドラゴノイド)に相応しく立派な角を生やし、背には白翼がある。特殊技術(スキル)の効果により、瞬時に換装した見事な純白の鎧を身に纏った姿はまさしく王者であった。

ザッハークがワールドチャンピオン・ニヴルヘイムになった際賞品に選んだその鎧は輪郭こそ同じワールドチャンピオンであるたっち・みーのものに似ているが、色が純白で肩や前腕等、所々に竜を思わせる意匠があり、胸には氷のような透き通った水晶が埋め込まれている。

ザッハークが悪役ロールプレイの一環として身につけた装備変更と変身を同時に行う技である。

 

「久しぶりに見ましたね、その姿」

 

「ステータスが上昇する奥の手ですからね。まぁ、デメリットもありますけどやっぱり悪役が第ニ形態に変身するのは浪漫ですし」

 

「ふふっ。さて、準備は出来たみたいですし、────行こうか、我がギルドの証よ」

 

「玉座の間で待ってます」と書き置きを残してモモンガを先頭とし、その右斜め後ろに騎士のごとく付き従う形で円卓の間を後にする。ナザリックの風景を楽しみつつ歩いて行き、最下層である第十階層へ到着する。九階層と十階層を繋ぐ階段を降りた先は広間になっており、複数の人影が整列していた。

モモンガ達が近づくと軽く礼をする。

モモンガは手前側に居る執事服を着た初老の男性の前で立ち止まるとザッハークも立ち止まり、男性とその横に並ぶ六人の美女達を見る。

 

「えっと確か…」

 

「ナザリックの家令(ランドスチュワート)のセバス・チャンですね。たっちさんが作ったNPCです。その横が戦闘メイドのプレアデスで右からユリ・アルファ、ルプスレギナ・ベータ、ナーベラル・ガンマ、ソリュシャン・イプシロン、シズ・デルタ、エントマ・ヴァシリッサ・ゼータですね。ちなみにシズは略称で正確にはCZ2I28・デルタで、私の作ったNPCです。Lvこそ低いですけど援護に徹すれば十分私やモモンガさんと共に戦えるだけの性能はあると自負しています。

他のプレアデスやセバスだって外装や装備の作製に関わっているんですよ。ほら、このユリの眼鏡とか……っとすみません、モモンガさん。どうもこういう自分の自慢出来るようなものの話だと止まらなくなってしまって」

 

しばらく見ていなかったが故に忘れていたモモンガに説明する。途中から自分が作製に関わっているNPCの説明に熱が入っていき脱線しかけたことに気付き謝罪するが、モモンガは軽く笑って流す。自分にもそういったところはあるし、ザッハークが装備や外装に拘り過ぎて幾人かの製作者が音を上げかけたほど熱中していたのはギルメン全員が知っている。現在宝物殿にいる自分の黒歴史を作る際も「多分、後で後悔しますよ?」と軽く笑いながらドイツ語や軍服の監修を(割とノリノリで)してくれた。

 

「8階層を突破された際の時間稼ぎのためにここに配置されているんです。8階層を突破したプレイヤーは居なかったので結局出番は無かったですね。出番が無い方が良いっていうのはわかってるんですけど、なんか申し訳ない気持ちになります」

 

ザッハークはNPCの作製に本気で打ち込んでいたギルメンの一人だ。別に他のギルメンが本気ではなかったという訳ではないが、1LvNPCのメイド服を作るためにボスキャラに何度も挑むなどユグドラシル全体で見ても1%にも満たない少数派だろう。

そんなザッハークだからこそ一回ぐらいは出番を与えてやりたかったのだろう。もちろんセバスやプレアデスに死んで欲しい訳ではないのだがそれでもずっと配置しっぱなしなのは偲びなかったのだ。

そんなザッハークの心中を察したモモンガが提案する。

 

「それなら、一回ぐらい動かしますか。本来の役割とは違いますけどね」

 

「そうしましょう、作ってからずっとここに配置しっぱなしですからね。私なら音をあげてますよ」

 

「そうですね。では、付き従え」

 

モモンガが発したコマンドを発すると頭を軽く下げ、命令を受諾したことを示したセバスとプレアデスはザッハークの後ろに並ぶ。搭載しているAIには最後尾にいるギルメンの後ろにつくよう組まれているためだ。心なしか少し嬉しそうに見えるセバス達を引き連れ歩いて行くと大広間に到着する。

大広間はドーム型の空間になっていた。天井に西洋風の雰囲気を崩さないようにデザインをアレンジして描かれた五行図には、それぞれの属性に対応した宝玉が中心にある物も含めて6つ埋め込まれており、その四隅では四色のクリスタルが白色光を放っている。

壁には穴が掘られ、72体の悪魔をかたどった彫像が置かれている。

この部屋こそがナザリックの最終防衛ラインソロモンの小さな鍵(レメゲトン)だ。

壁に置かれた彫像は全てが超が付くほど希少な魔法金属で作られたゴーレムだ。製作者のるし★ふぁーが途中で飽きて放り出したために端のゴーレムはザッハークが作ったものであり、そのため、よく見ると造型の仕方に若干の違いがある。

天井の五行図は5属性の根源の精霊+星霊を召喚し、クリスタルは地水火風の上位エレメンタルを召喚するとともに広範囲の魔法爆撃を行うモンスターとなっている。五行図の方は一日一回しか機能しない、が部屋の雰囲気を崩さぬよう皆で話し合ってデザインした思い入れのある代物だ。

広間を横切り、玉座の間への扉の前に立つ。

5m以上ある巨大な扉だが竜人形態のザッハークが前に立つと普通より少し大きいだけに見えてしまう。

扉の右側には女神が、左側には悪魔が細かく彫られている。まるで今にも動き出しそうなほど繊細な造型だ。

そこまで考えたところでモモンガに一つ不安が浮かぶ。

 

(これ、襲いかかって来ないよな?)

 

馬鹿らしいとも思うが、この扉を作ったのはギルメン屈指の問題児だ。強いゴーレムを作ったとモモンガ達に見せに来た時突然そのゴーレムが殴りかかって来たこともあった。

そのことを思い出し扉に手を出すのを躊躇うモモンガだったが、それを察したザッハークが扉に仕掛けはないことを教えたことで扉に手を触れる。シズの製作者であるザッハークはシズと同じくナザリック内のギミックは全て把握しているのだ。

引退しているギルメンが置き土産として内緒で何かを残していった可能性もあるがその時はその時だ。

結果として仕掛けは無く扉は重厚な見た目に相応しいゆっくりとした速度で開いていった。

玉座の間に到着したモモンガがセバスとプレアデスに待機のコマンドを出し階段脇に待機させるとザッハークが何かを思い出したかのように「あ」と呟いた。

 

「どうしました?ザッハークさん」

 

「モモンガさん、どうせなら私の作った他のNPCも呼んでいいですか?玉座の下にいるのが7人だけだと少し少ないですし」

 

「ええ、構いませんよ。他のNPC呼びに行くのだと間に合いませんからね」

 

ザッハークが左手中指に嵌めているリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンは複数人の転移も可能だがサービス終了まであと少ししかない以上数の少ない階層守護者でも全員を集めるとなると慌ただしくなるだろうという判断だ。

モモンガの許可を貰ったザッハークはアイテムボックスから一冊の本を取り出す。

黒い表紙の本で、四隅が金で補強されており表表紙にはユグドラシルのロゴが金糸で描かれている。

ザッハークがその本の目次に当たる部分を開くとウインドウが現れる。その中から集合を選び、タッチするとザッハークの周囲に7人の人影が現れた。

人影はそれぞれ銀髪のメイド姿の美女、紺色の髪をした青みの強い紺の忍び装束を着た青年、黒の全身鎧を纏った赤鱗の竜人、手と首から上以外の肌を覆う和風ドレスを着た膝より下が無い半透明の姫カットの女性、赤黒いドレスを纏った貴族然とした金髪の女性、黒髪のローブにも似たゆったりとした黒地に金刺繍がされた服を着ている中性的な青年、その青年と髪と服の黒と白が反転している以外は瓜二つの中性的な少女と装備や外装にはほとんど共通点が無かった。

集合を確認したザッハークは満足気に頷き、待機のコマンドを発するとセバスとプレアデスとは通路を挟んだ向かい側に整列する。

それを確認したモモンガとザッハークは階段を登り、モモンガは玉座に腰掛けザッハークはモモンガの右斜め後ろに立つ。

 

「そうだ、モモンガさん。どうせならあれ流しましょうよ」

 

「あれですか、いいですね。結局ザッハークさんが作って持ってきてから一回も流してませんし」

 

モモンガの了承を得たザッハークはアイテムボックスを開きスクロールさせていく。ザッハークはアイテムボックス内は使用頻度や五十音で整頓してあるものの、その収集癖のせいで大量に収納されていることと、ナザリックに攻め入るプレイヤーが居なくなった為に目的のアイテムを下の方に収納した事で時間がかかるだろうと判断したモモンガが手持ち無沙汰になったため少し周囲を見回すと、玉座の脇に立っている一人のNPCが目に入る。

 

「確か、アルベドだったっけ。タブラさんが作ったNPCの」

 

そう呟いたモモンガはどんな設定だったか気になりアルベドの設定欄を開くと、そこにはびっしりと書き込まれていた。

 

「ああ、そういえば設定魔だったなタブラさん」

 

設定欄はびっしりと書き込まれて一大叙事詩のようになっており、これを読むとなるとサービス終了の方が早く来てしまうだろう。

そう考えたモモンガはアルベドの設定欄をスクロールし流し読みしていくと最後の文を目にして思わず固まる。

 

『ちなみにビッチである。』

 

(そういえばギャップ萌えでもあったっけ… )

 

モモンガはアルベドの製作者である大錬金術師の性癖を思い出し、げんなりする。とはいえ流石にこれではアルベドが可哀想だ。

それに最終日ということで一回ぐらいギルド長権限を使ってみたい。

本来なら設定の書き換えには専用のコンソールが必要だが、ギルド武器ならコンソール無しでも書き換えられる。

 

(さて、どうしようかな )

 

ビッチ云々は消したが代わりに何か入れた方がいいだろう。上限いっぱいまで書き込まれているため11文字以内で納めなくてはならない。

そこでモモンガにちょっとした悪戯心が湧き上がる。

 

(最終日だしちょっとぐらいふざけても良いんじゃないか…?)

 

とりあえずザッハークを横目でちらりと伺うと目当てのアイテムがまだ見つかってないようでこちらは見ていない。

よし、と声に出さないよう決意しアルベドの設定欄に文字を打ち込んでいく。

 

『モモンガを愛している。』

 

「うわ、恥ずかしい」

 

モモンガが書き換えた設定を見て悶えていると後ろから声を掛けられ、思わず「うおおうっ?!」と声を上げてしまう。

振り返るとザッハークが怪訝そうに首を傾げこちらを見ていた。

 

「どうしました、モモンガさん?」

 

「い、いえ。なんでもありませんよ、はい」

 

「?、そうですか? じゃあ流しますけど、準備出来ました?」

 

「はい、大丈夫です」

 

ザッハークは挙動不審なモモンガに首を傾げながらアイテムボックスから一つのアイテムを取り出す。

ザッハークが取り出したのは赤水晶で出来たサッカーボールのような正五角形と正六角形を組み合わせた多面体だ。中に金のアインズ・ウール・ゴウンの紋章が浮かんでいる。

<上位道具創造(クリエイト・グレーター・アイテム)>により作り出した黒曜石で出来た小さな机に赤水晶で出来た多面体を置き、上部の五角形の面を押すとウインドウが浮かび上がる。そのウインドウに一つしかないキーをタッチすると禍々しくも荘厳な音楽が流れ始める。

 

「久しぶりに聞きましたけど、やっぱり良い曲ですね。まさしく最終決戦といった感じです」

 

「ありがとうございます。そう言われると頑張った甲斐がありましたよ」

 

流れている曲の名前は≪魔王降臨〜アインズ・ウール・ゴウン〜≫。

アインズ・ウール・ゴウンが非公式ラスボスと呼ばれているためどうせなら、とザッハークが著作権が切れた昔の曲から作ってきたものだ。

ギルメン全員が認めたアインズ・ウール・ゴウンのテーマ曲である。

玉座の間まで攻め込まれたらこの音楽と共に迎えようと決め、結局流されることは無かったがそれでも大切な思い出だ。

 

(ああ、本当に楽しかった… )

 

モモンガとザッハークは曲を聴きながらこれまでの思い出を振り返っていく。

 

「俺 」

「たっち・みー 」

 

ザッハークは玉座の間の通路に掛かったそれぞれのギルドサインが描かれた旗を指さし名前を上げていくモモンガに少し驚くが、すぐにその意図を察し、モモンガに合わせる。

 

「「死獣天朱雀 」」

 

「「餡ころもっちもち 」」

 

「「ヘロヘロ 」」

 

「「ペロロンチーノ 」」

 

「「ぶくぶく茶釜 」」

 

「「タブラ・スマラグディナ 」」

 

「「武人建御雷 」」

 

「「ばりあぶる・たりすまん 」」

 

「「源次郎 」」

 

「「私/ザッハーク── 」」

 

 

ギルメン全員の名前を言い終わり、モモンガは深く玉座に腰掛ける。

サービス終了まで残り時間はあと少しだ。

 

「モモンガさん、今まで本当にありがとうございました。私、皆に会えて良かったです」

 

「いえ、それはこちらのセリフですよ、ザッハークさん。私こそこのメンバーと一緒にユグドラシルをプレイするの、楽しかったです」

 

お互い感謝の言葉を述べる。短い言葉にこれまでの感謝を込めて。

 

23:59:57

 

23:59:58

 

23:59:59

 

ーーーーーああ、本当に楽しかった…。

 

二人は思い出に浸りながら静かに目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◾️◾️◾️◾️◾️

 

00:00:01

 

00:00:02

 

00:00:03

 

 

 

 

「「……………………あれ?」」

 

 

 

 

かくして彼らは異世界へ旅立った。

未知の土地にて死の支配者と王種の竜人の新たな物語が始まる。




とりあえず次回は設定を投稿しようと思っています。
いらねーよという方もいるでしょうが多分(私にとって)結構大事なので。
誤字や脱字、文章がおかしいなどがありましたらオブラートに包んだ上でご指摘下さい。


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1話 異変と守護者達

大分遅れましたが第1話です。
いやぁ、小説執筆なめてました。週一投稿とか本当に尊敬します。
オリ主のザッハークですが、感想返しで竜人は竜系種族では無いと原作者様がおっしゃっていましたが王種の竜人になることで竜に近づくということでご納得ください。

設定を一部修正しました。
昔思いついたものを再利用しているので、今後もこういったことがあると思います。全ては設定を本文内で出す自信が無い故にスキルの名前などを固める前に投稿してしまった私の未熟さ故です。申し訳ありません。


「………………………あれ?」

「………………………?」

 

モモンガとザッハークは困惑した。

既にユグドラシルのサービス終了時刻は過ぎているというのに、一向に終わる様子が無い。

 

(サービス終了が延期になったのか……?)

 

もしそうだとしたら運営から何かしら連絡が来ているだろう。そう考えたザッハークはコンソールを開こうとする。

しかし、コンソールを開く動作は何の反応も示さない。

ザッハークがモモンガの方を見るとモモンガも同じように、コンソールを開く動作をしているがやはり開かないようだ。

ザッハークは困惑しながらもコンソールを使わない他の機能を使おうとする。

しかし、強制アクセス、チャット機能、GMコール、強制終了、そのどれもが一切機能しない。

そして、更に異常に気付く。

 

感覚がおかしいのだ。

ユグドラシルに限らずDMMORPGのようなダイブ型のゲームでは、仮想現実から戻ってこない事態などを防ぐために味覚と嗅覚、触覚の一部に制限がかかる。

しかし、ザッハークの今の五感は口内の唾液や玉座の間の空気が感じ取れる。

それだけでは無い。

モモンガの側に待機するアルベドの気配や、玉座の下に跪くセバス達NPCの注意がこちらに向けられているのが、視界に入れずとも感じ取れる。

明らかに異常だった。ザッハークとてワールドチャンピオンを取得出来るほどだ、当然武芸の心得はある。だが、他者の気配やこちらに注意が向けられていることを鋭敏に察知するなど、到底不可能だ。五感が働いていて、それが異常なほど鋭くなっている。

この異常事態、とりあえずまずはモモンガと相談するべきだと判断したザッハークは流れている曲を止め、モモンガに話しかけようとするが、それより一瞬早くモモンガを挟んだ反対側から鈴を転がすような声が聞こえて来た。

 

「どうかなさいましたか?モモンガ様、ザッハーク様」

 

『な………』

 

声の方向を向き、その声が誰が発したものかを理解したモモンガとザッハークの声がシンクロした。その声に含まれた感情は驚愕。ありえない⁈、何故NPCが喋っている⁈、そんな思考が頭を埋め尽くす。

二人が困惑に包まれる中、声の主であるアルベドは反応が無いことが不安になったのか、モモンガに近づき再度問いかける。

 

「失礼致します。どうかなさいましたか?」

 

アルベドがモモンガに近づき、顔を覗き込む。異性と接したことなど数えるほどしか無いモモンガは狼狽えるが、とりあえず何か返事をしなければいけないだろうとショートした頭で考える。しかし、混乱し上手く働かない頭ではどう返答すれば良いのかわからない。

軽くパニックになりかけるモモンガだったが、不意に昔言われた言葉が頭の中に蘇る。

 

───焦りは失敗の種であり、冷静な論理思考こそ常に必要なもの。心を鎮め、視野を広く。考えに囚われることなく、回転させるべきだよ、モモンガさん。

 

モモンガは、アインズ・ウール・ゴウンの諸葛孔明と呼ばれた男、ぷにっと萌えの言葉を思い出したことにより冷静さが戻って来た頭でアルベドへの対応を考える。

 

「………いかがされましたか?」

 

しかし、その冷静さも間近に迫ったアルベドの美貌にどこかへ消えてしまいそうになるが、すんでの所で堪えもしかしたらという思いを浮かべ口を開く。

 

「………GMコールが利かないようだ。何か知らないか?」

 

「………お許しを。無知な私ではモモンガ様の問い掛けであられるじいえむこーるなるものに関してお答えすることが出来ません。ご期待にお応え出来ない私にこの失態を払拭する機会をいただけるのであれば、これに勝る喜びはございません。何とぞなんなりとご命令を」

 

モモンガと二人のやりとりを横で見ていたザッハークはNPCがこちらの言葉を理解し会話している事を確信する。

NPCが喋ること事態はそういったプログラムを組めば可能だ。実際ザッハークもNPC達にいくつかの音声データを入れている。

しかし、会話など到底不可能だ。NPCは特定のコマンドにしか反応しないし、音声データもあまり複雑なものは無い。

何よりありえないのが表情だ。喋るとともに口が動き、表情が変化する。ザッハークも表情を変えること自体は出来るが、あれはアイコンの代わりであり口は動かないし変えるまではずっと同じ表情だ。

自分のこれまでの常識が一切通じない現状にザッハークは一旦思考を放棄する。本来ありえないこの状況をそういうものだと受け入れ、放棄した思考の代わりに、自分はどうするか強引に冷静さを取り戻した頭で思考を重ねていく。

現状、最も必要なものは情報だ。この異常事態に巻き込まれたのはナザリック地下大墳墓だけなのか、それともユグドラシル全体がこうなっているのか。自分やモモンガの性能はそのままなのか。それ以外にも確かめるべきことはあるが、まずは安全の確保だろう。

とすると今やるべきは魔法やスキルの使用が可能かの確認とナザリック周囲の把握、NPCの忠誠心の確認、と結論を出したザッハークは、玉座の下に跪くNPC達を見る。

先程のアルベドを見る限りでは今すぐ襲いかかって来ることは無いだろうが、いつまでもそうだとは限らない。自分達が魔法やスキルを使えなくなっている場合それを知って亡き者にしないとは言い切れないし、ミスなどの何らかの要因で見限られる可能性もある。加えて、忠誠心があるようなアルベドも100%信頼出来るとは言い切れない。

他にも様々な不安があるが、まずは試して見なければわからない。やってみれば杞憂で終わるかもしれないのだ。というか、そうであって欲しい。

ええい、ままよ!と覚悟を決め、暗記している能力などから玉座の下に跪くNPC達の中で誰に命令を下すかを数瞬ほど考え、結論を出してザッハークは命令を下すべく口を開く。

 

「………セバス」

 

こちらの呼びかけに応じ顔を上げたセバスの表情は真剣そのものだ、何としても期待に応えるという気迫に満ちているように見える。

それを見て、ザッハークは内心の不安が幾分か軽くなるが、不測の事態に備えて、腰に()いたワールドチャンピオン・オブ・ニヴルヘイムを抜けるよう右腕に力を入れ、命令を下す。

 

「サイゾウとレイヴナントを連れてナザリックの周囲1kmを探索せよ。知的生命体が見つかった場合や不測の事態が起こった場合は指示を仰げ」

 

「了解致しました、ザッハーク様。直ちに行動を開始致します」

 

ザッハークの命令を受けたセバスは青味の強い紺色の忍び装束を着た紺の髪の青年───サイゾウと手と首から上以外の肌を覆う和風ドレスを着た膝から下が無い半透明の黒髪姫カットの女性───レイヴナントと共にモモンガとザッハークに跪拝し、玉座の間を退出して行く。

セバスを選んだのは実験だ。ユグドラシルが現実化したように思われる今、拠点から出られないようになっているNPCが外に出られるかを確かめるのは必須と言える。システム通り出られないままなら反旗を翻された時ナザリックの外に出れば自分達を追えるのは製作方法が違うため外に出られる7人だけになるのだから。

確かめるだけならばプレアデスでも良かったが、もし出られた場合ナザリックの周囲にあるグレンベラ沼地には80Lv以上のモンスターもいる以上、プレアデスでは対処出来ないのだ。

そしてセバスが出られなかったとしても忍術と隠密に特化した人狼(ワーウルフ)のサイゾウと精神系魔法詠唱者(マジックキャスター)で霊体種族のレイヴナントの外に出られる2人だけでも探索は可能だ。魔法やスキルが使えなくなっているという事態になっていない限り周囲の把握という目的は達成出来るだろう。

ザッハークはNPC達がこちらに従ってくれるということに安堵し、残りの者達の方を向き、命令を下す。

 

「プレアデスとフィリア達は第九階層に上がり、異常が無いか警戒せよ」

 

「承知致しました、ザッハーク様」

 

命令を下されたNPC達がセバス達と同様に跪拝して玉座の間から退出していくのを見送ったザッハークはモモンガ達の方へと向き直ると、アルベドが優しげな微笑を浮かべこちらに問い掛けてくる。

 

「ではザッハーク様。私はいかが致しましょう?」

 

「ふむ………」

 

アルベドの問い掛けにザッハークは考え込む。この場で試せるような魔法やスキルを試したいため、退出させることは決まっているが、ただ退出させるより何か命令を与えた方が自分に対する忠誠心の確認も出来る以上その方が良いのだが、肝心の命令がとんと思いつかない。

悩むザッハークが出した結論は、

 

「何かありますか? モモンガさん」

 

モモンガへの丸投げだった。癖の強いギルメン達をまとめていたモモンガなら何か案を出してくれるだろうという信頼だったが、傍目からは冷静に指示を出していたように見えるザッハークに任せて自分は思考に没頭していたモモンガにとっては寝耳に水であり、それ故に

 

「え?えっと、そうですんんっ! そ、そうだな………」

 

盛大にテンパった。謎の精神安定のおかげで落ち着けたが、思考に没頭していたせいで上手く考えがまとまらない。頭を軽く2、3度振って無理矢理未だ残る混乱を払って考え、口を開く。

 

「アルベド、私の元まで来い」

 

「はい」

 

嬉しそうな表情を浮かべてにじり寄ってくるアルベドだったが、やけに近い。今にも抱きつかんばかりの距離だ。

モモンガは浮かび上がってくる邪念を払い、アルベドの手に触れる。

 

「………っ」

 

「ん?」

 

するとアルベドは痛みを堪えるような表情をする。モモンガは熱いものを触った時のように反射的に手を離す。

嫌だったのだろうか、とモモンガが軽く傷つく中ザッハークは眼鏡の効果で可視化されているアルベドのHPが減少したのを見て疑問に思う。

ユグドラシルでは同士討ち(フレンドリー・ファイア)は無いためダメージは受けないはずなのだが、同じギルドに所属しているアルベドにダメージが入っている。

同士討ちが解禁されているというのは、ユグドラシルが現実化したと思われる現状ではありえることだ。仲間だから攻撃が当たってもダメージが無いなど、現実ではありえないだろう。同じギルドの仲間としてカウントされていないという可能性もあるが、その可能性は低い筈だ。

となると、少しまずいか、とザッハークは考える。ザッハークが持つパッシブスキルの一つに物理攻撃に即死効果を乗せるというものがあるのだ。即死耐性や物理耐性を貫通出来るものの、ダメージを与えなければ即死判定が入らない上、耐性を持った相手だと即死率は大きく低下するため即死対策が当たり前なユグドラシルでは発動すればラッキー程度で両の指で足りる程しか発動したことがないが、何かの間違いで味方に発動したら目も当てられない。

切っておいた方がいいかどうか、ザッハークは悩む。まだNPC達が襲いかかってこないという保証が無く戦闘に入る可能性がある以上切らない方が良いようにも思うが、戦意の無いNPC達に何かの間違いで発動した結果戦闘に入ったりしたらそれこそまずい。

高速思考により数瞬ほど考えたザッハークはスキルを切っておく。もとより発動したらラッキー程度のおまけなのだから、争いの芽は早めに摘んでおいた方が良い。

まるで呼吸のように自然にスキルの切り方が分かったことに少し驚くが、この異常事態への驚きに比べれば些細なものだ。

ザッハークはこちらをチラチラ伺うモモンガの様子から何を試そうとしているかを察し、何かあった際モモンガを庇えるように注意しつつ顔をそらしてモモンガとは反対の方向を向いておく。

何やらモモンガの方から初めてがどうのこうの聞こえるのを無視してザッハークはモモンガの方に気を払いつつ先程放棄した思考を再開する。

とはいってもザッハークの中で既に答えは出ていた。ただ、普通ありえない結論であるため、頭を整理したかっただけだ。

思考を重ねていると「一時間後に第4、第8階層守護者を除いた全階層守護者を第6階層の円形劇場(アンフィテアトルム)に来るように伝えろ」とモモンガの指示を受けたアルベドが少し早足で玉座の間を退出していくのを察知する。

 

「ザッハークさん」

 

「分かってます。色々話し合いたいところですが、まずは自分が出来ることを確認しましょう。時間は有限です」

 

「そうですね、まずは魔法やスキル辺りからですか」

 

長い付き合い故短い会話でやるべきことを纏めた二人はまず、ゲームで出来たことが出来るかの確認をすることにした。

 

 

 

▪️▪️▪️▪️▪️

 

 

 

「とりあえず魔法やスキルは普通に使えるみたいですね」

 

「ええ、耐性もそのままのようですし、アイテムも使えます。これなら全階層守護者相手にしても大丈夫でしょう」

 

検証した結果アバターの性能は一部フレーバーテキストに合わせたものに変化していたが、そのままのようだ。玉座の間で試せるものしか試していないが恐らく他のものも使えるだろう。

そしてどうやら先程からの鋭敏な感覚はユグドラシルでは単純な探知効果だったパッシブスキルの〈ドラゴニック・センス〉がフレーバーテキスト通りに変化したもののようだ。ついでにスキルであると同時に感覚でもあるためon/of切り替えは出来ないことも分かった。

 

「さて、次はこれですね」

 

そう言ったザッハークは今は鎧により見えないが、右手中指に嵌められた指輪をかざす。

見た目こそただの金のリングだが、その指輪の名はソロモンの指輪。ダンジョン《時間神殿》を最初に適正レベルで攻略することで手に入る世界級(ワールド)アイテムだ。

 

召喚(サモン)、バアル」

 

ザッハークが──特に必要無いが──言葉を発すると業火が巻き起こり、中からネコ、ヒキガエル、王冠を被った男という三つの頭を持つ蜘蛛が現れた。

 

「ふむ、特に変わってはいないようですね」

 

召喚されたバアルとの間に主従を示すかのような繋がりを感じとり、ザッハークが満足そうに頷く。運営にソロモン好きが居たのか元ネタに忠実に──厳密に言えば違うが──再現された72柱の高位悪魔の使役能力は利便性が高く、これが使えるかどうかで取れる手段がかなり変わるのだ。

 

「うわぁ、何度見ても凄まじい姿ですね。私、やっぱり好きになれそうにないです」

 

召喚されたバアルの姿を見たモモンガが呻く。しかし、それも仕方ないだろう。何せ三種類の頭を持った1.5m程の蜘蛛という醜悪な姿なのだ。それでも戦闘力は高いためザッハークは重宝している。

 

「戻れ、バアルよ」

 

ザッハークは自分の言葉を受けたバアルが召喚時と同じように業火の中に戻っていくのを見送り、ゴーレムなどの確認をするためにモモンガと共にソロモンの小さな鍵(レメゲトン)へと移動する。

 

 

 

 

「戻れ、レメゲトンの悪魔達よ」

 

モモンガの言葉に従い72柱のゴーレム達は己の配置場所へと戻っていく。ゴーレム達防衛システムが正常に機能することを確かめたモモンガは「ふぅ」と言葉だけの息をつく。

レメゲトンのゴーレム達に自分達以外に従わないように指示を出し、それが出来ない五行図の方は機能を停止した。途中ザッハークがこっそりレメゲトンの5つの章にちなんだ5体の上級ゴーレムを隠していたことが判明するというハプニングがあったものの、無事確認は終了した。

一息ついたところで、ふとザッハークが口を開く

 

「そういえば、少し気になったことがあるんですが」

 

「何かありました?」

 

「モモンガさん、アルベドが退出していった後『やっちまった………』って雰囲気出してましたがどうかしたんですか?」

 

「あー。えっと、その、実は……………」

 

「アルベドの設定を変更しました?」

 

「な、何で分かったんですか⁈」

 

モモンガはあっさりと当てられたことに驚愕する。精神安定が発動する程では無いが、肉の無い骸骨の顔でも分かるほど驚いている。

 

「そうですね、私がアルベドの設定を見ていたモモンガさんに声をかけた時の驚きようと、さっき言った雰囲気から推測しました」

 

モモンガは、ザッハークの軽い笑い混じりの声音でそう思った根拠の説明に納得すると同時に相変わらずの鋭さに感心する。最もザッハークからすればモモンガが分かりやすいだけなのだが。とりあえずアルベドの設定をどう変更したのかを聞いたザッハークは軽く竜人故に分かりづらい笑みを浮かべ、言葉を紡ぐ。

 

「それだったら大丈夫だと思いますよ」

 

「どういうことですか?」

 

「前にモモンガさんが会議の資料作らないといけなくて三日ログイン出来なかった時がありましたよね。その時にログインしていたギルメンでちょっと討論したんです」

 

「討論ですか?」

 

「はい。『アインズ・ウール・ゴウンに所属する者の中で自分の作ったNPCを嫁or婿に出すとしたら誰か。』という議題で。で、その中にタブラさんがいたんですけど『俺はNPCを嫁に出すならモモンガさんだな』って言ってました。それでその会議、最後は殴り合いに発展しましたね」

 

「何があったんですか⁈」

 

「まぁ、色々と。なのでアルベドの設定変更、タブラさん的には問題無いと思いますよ?」

 

「そうなんでしょうか………………」

 

ザッハークは設定の変更について問題無いだろうと伝えるが、律儀なモモンガはそれでも罪悪感が消えないようだ。モモンガの罪悪感はタブラの作ったNPCを変えてしまった、ということに起因するのだから当然なのだがザッハークとしては「生真面目すぎやしないか?」と思う。まぁ、そういった生真面目さが慕われる要因になっているのだし別に構わないのだが。

それはともかく、設定が生きているというのは僥倖だ。それはつまり、メイドのフィリアやシズ、忍者のサイゾウなど従者としてのキャラメイクをしたNPCは信用出来るということになるのだから。

ただそうなると、元ネタからプライドの高い貴族として設定されたカーミラや神へ反旗を翻した天使がなるという設定の種族《堕天使(フォールンエンジェル)》のルシフェルが不安だが、もし叛逆されたとしても倒すことは出来る。

 

「はぁ………」

 

ザッハークは思わず溜め息が出る。自分の子と言えるNPC達を仕方ないのだとしても疑い、殺すことまで考えるなど、心底嫌になるが今はそんなことをしている時ではない。

円形劇場(アンフィテアトルム)への集合時間まであと30分ほどだ。思考を切り替えモモンガへ自分の案を告げる。

 

「とりあえず宝物殿へ行きましょう」

 

「宝物殿、ですか………」

 

「ええ、いざという時の逃げ場は必要ですから」

 

「確かにそうですけど………」

 

モモンガは苦い声で呻く。それが大事だとは分かっているようだが、自分の黒歴史と対面しなければならない以上、明らかに気乗りしていない。

 

「ほら、渋ってないで行きますよ。あと30分ほどで第6階層に行かないといけないんですから」

 

「はぁ……。分かってますけど気乗りしないですね………」

 

モモンガは渋々といった雰囲気で宝物殿へと転移する。ザッハークもそれに続き、転移する。

一瞬視界が黒く染まり、つい1時間と少しほど前に来た宝物殿の光景が目に入る。

先に来ていたモモンガと共に奥へと向かう。途中、軽く打ち合わせをしつつ、モモンガは魔法、ザッハークは翼により飛行して金貨の山を超え、宝物殿の奥へと続く扉の前に到着する。

ザッハークが合言葉で扉を開き、様々な武器が展示してある部屋をさっさと通り過ぎて霊廟前の部屋へと出ると、その部屋にいた軍服を着たハニワそっくりの人影が大仰な仕草と共に出迎える。

 

「ようこそおいでくださいました。ザッハーク様に私の創造主モモンガ様っ!」

 

「………久しぶりだな。パンドラズ・アクター。元気そうで何よりだ」

 

そのハニワ──パンドラズ・アクターの自分の黒歴史そのものな言動に一瞬で精神安定が発動したモモンガは苦味を帯びた声で応える。

監修しかしていないザッハークは懐かしいで済んでいるが、動作や設定を考えたモモンガとしては見ているだけで恥ずかしい。

 

「はい! 元気にやらせて頂いています。ところで今回は、どうなされたのですか?」

 

「ああ。現在ナザリックは何かしらの異常に巻き込まれているようだ。何か異変は無いか?」

 

モモンガの問いにパンドラズ・アクターは顎に手をつけ、少しの間考え込んだ後、ゆっくりと首を振る。

 

「いえ、思い当たることはございません」

 

「そうか。それなら構わない。私がここに来たのはお前に頼みたいことがあるのだ」

 

「はっ!何なりとご命令を、モモンガ様っ!」

 

びしっと擬音が付くような見事な敬礼をするパンドラズ・アクター。会話でも度々大仰な動作を入れるため、既にモモンガの精神安定回数は2桁に迫ろうとしていた。

モモンガはさっさと宝物殿を出るべくパンドラズ・アクターへ事前に打ち合わせしていた命令を下す。

 

「私達はこれから第4、第8階層を除く全階層守護者と会ってくる。現在ナザリックは未知の異変に巻き込まれている以上反旗を翻す者がいるかも知れん。その場合私達は一旦ここへ転移するつもりだ。その時に備え、お前は戦闘準備をしておけ」

 

「恐れながらモモンガ様。それならば私がモモンガ様へと扮していった方がよろしいかと」

 

パンドラズ・アクターが進言する。確かに安全にいくならその方が良い。しかし、打ち合わせによりその進言がある可能性を予期していたモモンガは淀みなく反論する。

 

「いや、もしそれがバレた場合守護者達がどう反応するか分からん。それに戦いになった際、転移を封じられればザッハークさんと二人で戦うことになる。ザッハークさんとの連携は一緒に戦った経験の無いお前には厳しいだろう」

 

「なるほど、さすがはモモンガ様。過ぎたことを申しました」

 

「構わん。それでは準備をしておけ」

 

「承知いたしましたっ!」

 

命令を受けたパンドラズ・アクターはまさしく舞台俳優のごとき大仰な身振り手振りを交えた優雅な礼を見せる。

それを見たモモンガは宝物殿に来てから数えるのも億劫になった精神安定が発動する。とりあえず手首に巻いてある腕時計を確認すると守護者達の集合まであと20分ほど。まだ時間に余裕があると判断したモモンガはパンドラズ・アクターを部屋の隅まで引っ張っていく。

そちらの方から「敬礼はやめないか?」やら、「我が神のお望みとあらば(Wenn es meines Gottes Wille)!」やら聞こえてくるのを聞いてザッハークはだから後で後悔すると言ったのだがなぁ………などと思いながらも壁側から聞こえたパンドラズ・アクターの言葉から一つの推測を打ち立てる。

NPCは自分の創造主を最も尊重するのではないか、と。確証は無く、推測でしかないがザッハークはほぼ確信していた。何せ、他のギルメンに対して『迷い無く』なのだ。

と、そこで恐ろしいことに気づく。

 

(…………もしや、あれがデフォルトなら設定に『主に対して絶対の忠誠を持つ』と書かれたフィリア達はあれ以上になるのか?)

 

大仰な身振り手振りと口調のせいで分かりづらいが、パンドラズ・アクターは自分の創造主であるモモンガに相当な忠誠心を持っているように思える。

それならば自分が製作したNPCはシズを除いて特殊なスキルで製作している上、メイドや忍者、侍、天使など誰かに仕える種族や職業、役職の場合、主が最上位だと設定してあるのだ。既に絶縁してはいるものの家柄は良かった為傅かれるのは慣れているザッハークだが、応えるだけで潰れそうな忠誠を向けられるなど想像したことすらない。

ザッハークがありえそうな予感を立ててう〜むと唸っているとパンドラズ・アクターとの話が終わったモモンガがこちらに戻ってくるのを感じ取る。

どうも疲労の状態異常とは無縁のアンデッドにも関わらず、げんなりとしているように感じる。それ程までに自分の黒歴史が凄まじかったのだろう。ザッハーク的には割とアリだと思うのだが、普通の感性ならダサく、元中二病患者からすれば恥ずかしいというのは理解している。

ザッハークはとりあえず時間もおよそあと15分しか無いのとモモンガの精神のためにパンドラズ・アクターについては触れずに二人で話し合ったルベドや第8階層のあれらへの最後の保険をかけに第6階層へ転移する。

 

転移した先は洞窟だ。3mに迫る身長のザッハークが手を伸ばしても天井に届かないほどの高さの洞窟は怪物が口を開いているような錯覚すら覚えるほどの威容で佇んでいる。

この洞窟は『ラビリンス』。第6階層から第7階層まで繋がった大型迷宮。ここに配置しているモンスターこそが最後の保険なのだ。

ラビリンスの入り口に立ったザッハークが中へと呼びかける。

すると、奥から巨大な何かの気配がこちらへ来るのを感じ取る。

ラビリンスの中から現れたのは二足歩行をする漆黒のドラゴンだ。それもただのドラゴンではない。

類人猿のような四足歩行も出来る骨格で、竜人形態のザッハークですら見上げるほどの5mはあるだろう巨躯。背中にはコウモリのような飛膜を持った巨大な翼を生やし、強靭な体を包む漆黒の鱗は特級の呪具を彷彿とさせる程、荘厳にして禍つ闇の威圧感。何よりの特徴として、夜天の凶星のごとき真紅の双眸煌めく首が3つ。

このドラゴンはアジ・ダハーカ。課金ガチャの超激レアモンスターだ。そのレア度は流れ星の指輪(シューティングスター)をあっさりと引き当てる豪運を持ったザッハークさえ容易には引けず、嘘か誠か有志の計算によると1%を軽く下回るらしい。

魔力系、信仰系、森司祭(ドルイド)系と三系統の魔法を90個ずつ第十位階まで使いこなし、自己再生のスキルやダメージに応じてモンスターを生み出すカウンタースキル、奥の手まで備えており、ステータスも前衛が出来るほどの高さの強力なモンスターなのだ。

 

「久しいな、元気だったか?」

 

アジ・ダハーカはザッハークの問いに地響きのような唸り声で返す。鳴動する大気は猛毒じみた精神への圧力と化すが、ソロモンの指輪の能力の一つであるテイマー職無しでのモンスターのテイム──設定文によると動植物との会話能力──により、意外なほど鷹揚な問題無いという返答を理解出来た。

ザッハークはアジ・ダハーカに円形劇場(アンフィテアトルム)上空での待機を命じる。

アジ・ダハーカが〈完全不可知化(パーフェクトアンノウンブル)〉を使い円形劇場(アンフィテアトルム)上空へ飛んでいくのを見届けた二人は、ラビリンスから円形劇場(アンフィテアトルム)まで転移する。

 

転移した先の通路で最終確認をしてから通路を抜ける。

闘技場まで出ると「とあ!」という声と共に貴賓室から人影が跳躍する。

人影は空中で一回転すると足を軽く曲げるだけで衝撃を完全に殺し着地する。

 

「ぶい!」

 

飛び降りてきた人影は両手でvサインを作り、得意げな表情を浮かべる。

 

「アウラか」

 

モモンガはその人影の名前を呟く。闇妖精(ダークエルフ)の特徴の浅黒い肌と長く尖った耳を持ち、緑と青のオッドアイはキラキラと輝いていた。その闇妖精(ダークエルフ)はアウラ・ベラ・フィオーラ。第6階層守護者の一人である。アウラが小走り──ただし速度は獣の全力疾走並み──でモモンガとザッハークの方へ向かってくる。ある程度まで近付くとアウラが足で急ブレーキをかける。靴が地面を削り土埃が上がるが計算しているのかモモンガとザッハークには届かない。

 

「いらっしゃいませ、モモンガ様、ザッハーク様。あたしの守護階層までようこそ!」

 

満面の笑みでの挨拶は敵意の類は感じられず、パンドラズ・アクターやアジ・ダハーカと同様〈敵感知(センス・エネミー)〉にも反応は無い。やはり、NPCは基本的にこちらへ忠誠心を持っていると考えていいようだ。

モモンガとザッハークは体に軽く入れていた力を抜く。

 

「………ああ、少しばかり邪魔させてもらおう」

 

「何を言うんですか。お二方はナザリック地下大墳墓の主人。絶対の支配者ですよ?そのお二方がどこかをお訪ねになって邪魔者扱いされるはずが無いですよ」

 

「そうか?ところでアウラだけか?」

 

モモンガの問いにアウラは貴賓室の方を向き、声を張り上げる。

 

「マーレ!モモンガ様とザッハーク様が来てるのよ!さっさと飛び降りなさいよ!」

 

「む、無理だよぉ………お姉ちゃん………」

 

アウラの声に距離もあり、ザッハークでも聞こえない消え入るような声がドングリ型の通信用のアイテムから返ってくる。

アウラは「はぁ」と溜め息をつき、更に声を張り上げる。

 

「お二方をこれ以上待たせるって言うの!さっさと来なさい!」

 

「わ、分かったよぉ………えい!」

 

その声と共に貴賓室からぴょこんと人影が飛び降りる。人影はそのままトテトテと走ってくる。その遅さにアウラは眉間を痙攣させ、怒号を放つ。

 

「早くしなさい!」

 

「は、は、ははい!」

 

走って来たのはもう一人の第6階層守護者、マーレ・ベロ・フィオーレだ。アウラにそっくりだが、格好や雰囲気は正反対で製作者であるぶくぶく茶釜の理想の弟像が反映されている。

 

「これが茶釜さんの本当に望んだアウラとマーレなんだろうな」

 

モモンガが感慨深げに呟く。ザッハークもそれには同意だ。もし二人の製作者であるぶくぶく茶釜がこの光景を見たら実弟を放ってずっと構っているのが目に浮かぶようだ。

 

「お、お待たせしました、モモンガ様………」

 

マーレがびくびくと二人を窺うように上目遣いをする。美少女に見える外見と相まってかなりの破壊力だが、現実は無情である。第6階層守護者の双子は製作者の趣味により異性装となっているのだ。つまり、男である。これにはザッハークも戦慄したものだ。

それはともかく、ザッハークは不思議に思う。ザッハークは子供が嫌いだ。特に無邪気な、言い換えれば鬱陶しいタイプは嫌悪と言っていいほどに。しかし、何故かこの双子には全く悪感情を感じないのだ。かつての仲間が製作し、自分もそれに関わったからなのか、人間ではないからなのか、それともそれ以外なのか。

まぁ、いいか、とザッハークは思考を放棄する。理由が分かったところで何かが変わる訳でもなし。それならば別に突き止めなくても構わないだろう。

この双子を嫌わずに済む。それだけでいい。敵対したならともかく、同じギルドに所属している相手を嫌いたくなどないのだから。

 

「ところでお二方はどんな目的で来られたのですか?」

 

「ああ、少し訓練をしようと思ってな。ザッハークさんは見物だ」

 

「訓練?え?モモンガ様が⁈」

 

アウラとマーレが驚愕の表情を浮かべる。NPC達が自分達を絶対者だと認識しているのは分かっていたため、モモンガは「そうだ」と簡素な返事と共にスタッフで軽く地面を叩く。それを見て双子の表情が納得に変わる。

 

「そ、それがモモンガ様しか触ることが許されないという伝説のアレですか?」

 

マーレが瞳を輝かせてモモンガに問いかける。モモンガはその問いに伝説のアレという言い方に引っかかるものを覚えつつスタッフを掲げ、双子に見せる。

今まで自慢したくともする機会がなかったためつい我を忘れて語りそうになるのを堪え口を開く。

 

「そう言うことだ。準備をしてもらえるか?」

 

「はい!かしこまりました。すぐに準備をします。それで………あたし達もそれを見てよろしいのですか?」

 

「ああ、構わない。私しか持つことを許されない最高の武器の力を見るがいい」

 

アウラはやったーと飛び跳ね、マーレは耳をピコピコと動かし喜びを表す。その姿にザッハークも嫌悪感など一切湧かず微笑ましく思う。モモンガも同様だが、二人ともそれを表情には出さない。

 

「それとアウラ。全階層守護者をここに呼んでいる。あと十分ほどで集まるだろう」

 

「全階層守護者って、もしかしてシャルティアも来るんですか⁈」

 

アウラが明らかに嫌そうな表情を浮かべる。お互いの製作者が姉弟でしょっちゅう言い争いをしていたためか、シャルティアとアウラは仲が悪いと設定されているのだ。マーレは特にそういったことは設定されていない。

耳をしょんぼりとさせるアウラの姿にモモンガは「一体どんなことになるやら」と小さく呟いた。

 

 

▪️▪️▪️▪️▪️

 

 

モモンガは闘技場の隅に立てられた藁人形ヘ指を向け狙いを定める。ここで試すのは玉座の間で試せなかった範囲攻撃魔法だ。

試す魔法を頭の中で選び、選んだ魔法を放つ。

藁人形ヘ向けた指から放たれた〈火球(ファイヤーボール)〉が着弾し、炎が広がる。

焼け焦げた藁人形を見るに範囲攻撃もユグドラシルとほとんど変わっていないようだ。むしろコンソールを操作する必要が無い以上こちらの方が使いやすい。

ザッハークがモモンガが魔法を放つのを見物していると〈伝言(メッセージ)〉が飛んでくる。

 

「レイヴナントか。周辺はどのような様子だった?」

 

『はい。周辺は見渡す限りの草原となっており、知性を持つ存在は確認出来ませんでした』

 

「草原だと? 沼地ではなく?」

 

『はい。目視のみですが上空から確認した限り、恐らく最低でも3kmは草原が広がっていると思われます』

 

レイヴナントの言葉にザッハークはふむ、と考え込む。ナザリックの周囲はグレンベラ沼地という毒の沼地でツヴェークなどのモンスターが生息していた。それが草原に変わり、知性を持つ存在もいないとなると、ナザリックが異世界ヘ転移した、という荒唐無稽な仮説が浮かぶ。平常であれば発言者の頭を心配するような考えだが、現状はその可能性が高いように思える。既に普通ならありえないことばかりの現状、常識的に考えてありえないなどと言っている方が愚かだ。

そんな思考に没頭していたザッハークだったが、レイヴナントの怪訝そうな『ザッハーク様?』という声に現実に引き戻される。

 

「ああ、済まない。思考に没頭していた。それで周囲は草原なのだな?」

 

『はい、間違いありません。食料問題などを抜きにして考えた場合、戦闘力の無い下等で脆弱な人間が放り出されても生存は容易いでしょう』

 

「そうか、分かった。では帰還し、第6階層の闘技場まで来い。そこに守護者達を集めている。そこでナザリック周囲の状況を説明してもらう」

 

『承知いたしました』

 

その返事と共に〈伝言(メッセージ)〉が切れる。ザッハークは新たに入ってきた情報に頭を抱えたくなるが、情報の共有をすべくそれを抑えこちらを伺うモモンガヘナザリック周囲の状況と自分の仮説を伝える。

 

「異世界転移、ですか………」

 

「ええ。荒唐無稽ですがレイヴナントの〈伝言(メッセージ)〉と現状を合わせて考えるとこの可能性が一番高いと思います」

 

ザッハークの仮説にモモンガはふむ、と考え込む。ふと、ザッハークは不安が出てくる。今まではやることがあったため考えていなかったが、ザッハークに元の世界に帰るという選択肢は無い。しかし、モモンガもそうだとは限らないのだ。一部の特権階級のためのディストピアではあったがそれでも残したものがあるのなら帰ろうとするだろう。

口を開くが、元の世界に帰りたいと思いますか?という問いが貼り付いたかのように出てこない。

 

「とりあえず、今は守護者達のことを考えましょう。集合まであと10分ありませんよ?」

 

結局ザッハークの口から出てきたのはそんな言葉だった。答えを聞くのが怖くて目前の問題に気を向けることで問題を先延ばしにしようという普段であればしない逃避をする。

モモンガがそうですね、と返し引き締まった雰囲気になり、ザッハークも先ほどの思考を頭から払う。

それとほぼ同じタイミングでザッハークが〈伝言(メッセージ)〉でレイヴナントと会話していた間に始まっていたアウラとマーレのコンビと根源の火精霊(プライマル・ファイヤーエレメンタル)の戦いが終わる。

時間が余り無いから早めに終わらせるように、とモモンガに言われた二人は見事な連携による苛烈な攻めで3分ほどで根源の火精霊(プライマル・ファイヤーエレメンタル)を倒してみせた。

 

「二人とも、素晴らしかったぞ」

 

「ああ、正に連携の見本のようだった」

 

モモンガとザッハークの心からの賛辞に二人とも嬉しそうな笑顔を浮かべる。

 

「ありがとうございました、モモンガ様。こんなに運動したのは久しぶりです!」

 

そう言って二人は額の汗を拭う。それを見てモモンガはアイテムボックスから無限の水差し(ピッチャー・オブ・エンドレスウォーター)とグラスを取り出し、水を注いで二人に差し出す。

恐れ多いと遠慮する二人に苦笑し、いつも良く働いていることへの感謝の表れだ、と伝え再度差し出す。

照れたように顔を赤らめた二人がふわー、と気の抜けたかのような声を出し恐る恐るグラスを受け取る。

嬉しそうに笑みを浮かべる二人にザッハークもアイテムボックスの中を探る。

取り出したのは飴だ。両端を捻って留めた包装紙に包まれている飴と聞いて誰もが思い浮かべる形をしている。

一定時間体力が回復し続けるというアイテムだが、100Lvからすると微々たる量の持っている意味の無いアイテムだ。しかし、リンゴやブドウ、オレンジと──効果は変わらず設定だけだが──様々な種類があったためコレクター魂が刺激されて全種類持っていたのだ。

アウラにはリンゴ、マーレにはブドウを選びモモンガさんと同じ感謝の気持ちだ、と渡す。

渡されたアウラとマーレは嬉しそうに顔を綻ばせるが、飴を舐めながら話すのは問題だと考えたようでポケットにしまう。

 

「ザッハーク様は知ってましたけど、モモンガ様ってもっと怖い方だと思ってました」

 

「そうか?その方がいいと言うのならそうするが………」

 

「今のままの方がいいです!絶対いいです!」

 

 

アウラがかなりの勢いで返答する。その勢いの強さにモモンガは面食らうが、表に出さずなら、このままだな、と返す。

 

「も、もしかしてあたし達にだけ優しいとか………」

 

アウラの呟きに何を言うか迷ったモモンガは何となくアウラの頭を撫でる。えへへ、と嬉しそうに笑顔を見せるのをマーレが羨ましそうに見ていたため、ザッハークもマーレの頭を撫でておく。約三倍の体格差から指先で撫でる形になったがマーレは嬉しそうに耳を動かしている。

 

「おや?わたしが一番でありんすか?」

 

唐突に少女の声の廓言葉が響き、地面から影が扉の形に持ち上がる。

その中から出てきたのは漆黒のボールガウンに身を包んだ銀髪の少女、ナザリック地下大墳墓の第一から第三階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールンである。

シャルティアは真っ直ぐにモモンガへと向かい、首に両手を回して抱きつくような姿勢になる。

 

「ああ、我が君。わたしが唯一支配できぬ愛しの君」

 

同じ吸血鬼のカーミラ辺りがやれば妖艶な光景だが、いかんせんシャルティアでは身長など色々と足りず微笑ましいだけだ。

シャルティアがモモンガヘ向ける態度は設定された性癖の一つ、屍体愛好家(ネクロフィリア)によるものだろう。

エロゲにありがちな設定らしいが、ザッハークが製作者のペロロンチーノに勧められてプレイしたエロゲにもそれ以外のエロゲにも出てきていないため、屍体愛好家に関してはペロロンチーノの趣味ではないかと疑念を抱いているのだが肯定された場合が怖くて聞けていない。

 

「いい加減にしたら………」

 

アウラの怒気のこもった低い声にシャルティアはそちらを向き、嘲笑を浮かべる。

 

「おや、チビすけ、いたんでありんすか?視界に入ってこなかったから気づかんでありんした」

 

怒りを浮かべるアウラを無視し、シャルティアはマーレに声をかける。

 

「ぬしも大変でありんすね。こな頭のおかしい姉を持って。こな姉からは早く離れた方がいいでありんす。そうしないとぬしまでこなになってしまいんすよ」

 

シャルティアが自分を出汁に使ってアウラに喧嘩を売っていると悟ったマーレの顔色が悪くなる。

しかしアウラはそれを気にせず微笑みを浮かべ、

 

「うるさい、偽乳」

 

爆弾を投下した。

 

「………なんでしってるのよー!」

 

一瞬で先ほどまでの雰囲気が崩れ、廓言葉を忘れるほど動揺するシャルティア。

そこからは昔製作者姉弟がよく繰り広げていた光景だった。シャルティア(ペロロンチーノ)の必死の反論をアウラ(ぶくぶく茶釜)があっさり叩き潰す。

口喧嘩の末、戦闘態勢に入る二人を止めようとザッハークが口を開きかけたその時、「騒ガシイナ」と硬質な声が響く。

声の主はライトブルーの甲殻に身を包み、冷気を纏った二足歩行の昆虫のような姿の異形、ナザリック地下大墳墓の第五階層守護者コキュートスだ。

 

「御方ノ前デ遊ビ過ギダ………」

 

「この小娘がわたしに無礼を働いた───」

 

「事実を───」

 

睨み合うアウラとシャルティアにモモンガは軽く息を吐き、威厳に満ちた声を発する。

 

「………シャルティア、アウラ。じゃれあうのもそこまでにしておけ」

 

「「申し訳ありません!」」

 

モモンガに諌められた二人は即座に頭を下げる。

ザッハークは二人への対応をモモンガに任せ、コキュートスへと話しかける。

 

「久しいな、コキュートス。よく来てくれた」

 

「御方ノ御呼ビトアラバ、即座ニ」

 

コキュートスは武人らしい生真面目な答えを返す。ザッハークはそうか、と軽く返し闘技場の入り口に新たに来た二人の気配を感じとり顔を向ける。

 

「オヤ、デミウルゴスニアルベドガ来タヨウデスナ」

 

ザッハークに少し遅れて闘技場の入り口へと顔を向けたコキュートスが呟く。

アルベドが先に立ち、その後ろには三揃えのスーツを着こなした浅黒い肌の東洋系の顔立ちの男が続く。

男が一礼し、口を開く。

 

「皆さん、お待たせして申し訳ありませんね」

 

男はデミウルゴス。ナザリック地下大墳墓の第七階層守護者でナザリックの軍事面の最高責任者である。

 

「では皆、至高の御方々に忠誠の儀を」

 

アルベドの言葉に守護者達が佇まいを正し、真剣な雰囲気へと変わる。

アルベドを前にし、守護者達はその後ろに並ぶ。

まず、シャルティアが一歩前へ出て片手を胸に当て、跪く。

 

「第一、第ニ、第三階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールン。御身の前に」

 

シャルティアに続き、コキュートスが前へ出て臣下の礼を取る。

 

「第五階層守護者、コキュートス。御身ノ前ニ」

 

その次は闇妖精(ダークエルフ)の双子が。

 

「第六階層守護者、アウラ・ベラ・フィオーラ」

 

「お、同じく第六階層守護者、マーレ・ベロ・フィオーレ」

 

「「御身の前に」」

 

そしてデミウルゴスが。

 

「第七階層守護者、デミウルゴス。御身の前に」

 

最後にアルベドが。

 

「守護者統括アルベド。御身の前に」

 

集合した守護者全員が跪く。そのままアルベドが続ける。

 

「第四階層守護者ガルガンチュア及び第八階層守護者ヴィクティムを除き、各階層守護者、御身の前に平伏し奉る。ご命令を、至高なる御身よ。我らの忠義全てを御身に捧げます」

 

ここからが正念場だ。主にモモンガに任せているが、場合によってはフォローなどが必要になるだろう。

モモンガの右後ろに移動したザッハークは唾を飲み込む。

モモンガの方からピリピリとした空気を感じ、竜人の広い視野で見てみるとモモンガが漆黒の後光を背負い、絶望のオーラを纏っていた。

その支配者らしい威厳にザッハークは感心し、モモンガに倣ってスキル〈魔王の覇気〉を発動する。

 

「面を上げよ」

 

モモンガの言葉に守護者達の頭が一糸乱れず一斉に上がる。

 

「まずはよく集まってくれた、感謝しよう」

 

「感謝などおやめください。我ら、至高の御方々に忠義のみならずこの身全てを捧げた者達。至極当然のことでございます」

 

アルベドの返答は迷い無く、本心からのことだと感じる。他の守護者達も同じようで誰一人として口を挟もうとしない。

パンドラズ・アクターとの会話で多少耐性がついたようでモモンガは即座に口を開く。

 

「それでは今回守護者達を集めた理由を説明しよう」

 

モモンガの言葉に守護者達の表情の真剣さが増す。一言たりとも聞き逃さないといった気迫だ。

 

「現在ナザリックは原因不明の異常事態に巻き込まれていると考えられる。詳しい話は地表の探索に出しているセバス達が戻って来てからになるが、どうやらナザリック地下大墳墓が草原へと転移したようだ。この異常事態について、何か前兆など思い当たる点がある者はいるか?」

 

アルベドが肩ごしに守護者達を伺い、その顔に浮かんだ表情から返答を把握し口を開く。

 

「いえ、申し訳ありませんが私達に思い当たる点はございません」

 

「では、階層守護者達に聞きたい。自らの守護階層で何か異常事態が起こった者はいるか?」

 

モモンガの問いに階層守護者達が口を開く。

 

「第一階層から第三階層まで異常はありんせんでありんした」

 

「第五階層モ同様デス」

 

「第六階層もです」

 

「は、はい。お姉ちゃんの言う通り、です」

 

「第七階層も異常はございません」

 

守護者達の答えは異常無し。アルベドが第四、第八階層の探査をモモンガに申し出る。

その申し出にモモンガがアルベドに一任したところでザッハークは闘技場の入り口の少し前からこちらへ向かってくる内一つがひどく希薄な三つの気配を感じとり顔を向ける。

 

「どうやらセバス達が戻って来たようだな」

 

ザッハークの言葉にモモンガと守護者達がそちらに顔を向ける。

セバスが小走りでこちらへ近づいて来る。その後ろにサイゾウとレイヴナントが片方は忍者走り、もう片方は霊体らしく宙を滑るように続く。

セバス達はモモンガの元へ着くと守護者達と同様に跪く。

 

「遅くなり誠に申し訳ありません」

 

「構わん。それではお前達が見てきた周辺の状況を教えてくれ」

 

「了解いたしました。まず周囲1kmですが───」

 

セバスによると周辺は草原で、モンスターもおらずいたって普通とのことだ。

周辺の状況を説明を聞いたモモンガはセバスを労い、守護者達へ命令を下す。

 

「全員、己の守護階層の警戒レベルを一段階引き上げろ。もし侵入者がいれば殺さず捕らえろ」

 

守護者達は頭を下げ了承を示す。

 

「次にアルベド。各階層守護者の間での情報のやりとりや警備のシステムはどうなっている?」

 

「各階層の警備は各守護者の判断に任されておりますが、デミウルゴスを総責任者とした情報共有システムは出来上がっております」

 

アルベドの言葉にザッハークは表情に出さず少し驚く。

ユグドラシルではNPCはAIの通りに動くだけで、情報共有のシステムなどあるはずもないがこれも現実化の影響だろうか。ザッハークはどこまで現実化により変化しているか気になるが、今はそれを考える時ではないと思考を払う。

 

「では、ナザリック防衛の最高責任者デミウルゴス、守護者統括アルベド。両者の責任の下でより完璧なものを作り出せ」

 

「了解いたしました。それは八、九、十階層を除いたシステム作りということでよろしいでしょうか?」

 

アルベドの問いにモモンガは先ほどアルベドに下した命令を撤回し、七階層から直接九階層へ来られるよう封印の解除を命じ、九階層及び十階層を含んだ警備を行うよう告げる。

NPC達は九階層と十階層をギルメンしか入ることが許されない聖域だと認識しているようで驚愕し、畏れ多いといった様子だったがモモンガが問題無いと許可を出したことで了承した。

モモンガは双子へ視線を向け、問いかける。

 

「次にマーレ。ナザリック地下大墳墓の隠蔽は可能か?」

 

「ま、魔法という手段では難しいです。地表部の様々なものまで隠すとなると…………。ただ、例えば壁に土をかけて植物を生やした場合とか…………」

 

「栄光あるナザリックの壁を土で汚すと?」

 

アルベドの言葉にマーレがビクリと肩を震わす。他の守護者やセバス達も何も言っていないが、雰囲気から察するにアルベドと同じ意見のようだ。

 

「アルベド、余計な口を出すな。私がマーレと話しているのだ」

 

「はっ、申し訳ありません、モモンガ様!」

 

モモンガの低い声にアルベドが深く頭を下げる。モモンガの叱責を自分達にも当てたものと受け止めたようで、それと共に守護者達やセバスの顔が引き締まった物へ変わり、空気も変化する。

 

「壁に土をかけて隠すことは可能か?」

 

「は、はい。お、お許しいただけるのでしたら………ですが………」

 

「だが遠方より観察された場合、大地の盛り上がりが不自然に思われないか? レイヴナント、この周辺の地形はどうだった?」

 

「はい、目視によるものですが最低でもおよそ3kmほど平坦な草原が続いておりました。夜ではありましたが、(わたくし)はアンデッドの身なれば、見逃した可能性は極めて低いと思われます」

 

「そうか………。しかし壁を隠すとなるとマーレの手が妙案。であれば周辺の大地にも同じように土を盛り上げ、ダミーを作れば?」

 

「それならば突如丘が出現したことは不自然に思われるでしょうが、隠蔽自体には問題無いかと」

 

「よし、ではアウラとマーレで協力してそれに取りかかれ。その際に必要な物は各階層から持ち出して構わない。隠せない部分には後ほど、ナザリックに所属する者以外に効果を発揮する幻術を展開しよう」

 

「は、はい。かしこまりました」

 

「よし。私からは以上だ。ザッハークさんからは何かありますか?」

 

マーレの返答にモモンガは満足そうに頷き、ザッハークに問いかける。聞かれたザッハークはええ。一つだけ、と返答し一歩前へ出てモモンガの横に立つ。

 

「アルベド、デミウルゴス。おまえ達には防衛システムを組むついでで構わん、フィリアやパンドラズ・アクターと協力し、恐怖公の眷属やシャドウ・デーモンのような、死んだとしてもナザリックに被害の無い者で情報収集部隊を作ってもらいたい。パンドラズ・アクターは知っているか?」

 

「はい。面識はありませんが存在は把握しております。宝物殿の領域守護者でございますね?」

 

「ああ、その通りだ。後でモモンガさんに紹介してもらえ。宝物殿は指輪が無ければ入れないからな。それと恐怖公には使者や伝言(メッセージ)による連絡でも構わん」

 

「………ぇ?」

 

「「かしこまりました」」

 

「頼んだぞ。おまえ達ならば出来るだろう」

 

そう言ってザッハークは一歩下がる。モモンガの声は幸いにも守護者達には届かなかったようで誰も反応しない。モモンガがザッハークに聞いていないといった視線を向けた後、口を開く。

 

「では、今日のところはこれで解散だ。各員、行動を開始せよ。どの程度で一段落つくか不明である以上、しっかり休息を取り決して無理をしないように」

 

モモンガの言葉に守護者達が頭を下げ、了承を示す。

 

「最後に各階層守護者に聞きたいことがある。まずはシャルティア──おまえにとって私やザッハークさんはどのような存在だ」

 

モモンガの問いにザッハークは誰にも気づかれないようにため息をつく。評価を正面から聞くのは苦手なため気乗りしなかったのだ。それに何と無く嫌な予感がしていた。

そしてその予感は当たることとなる。

まずモモンガに関して、シャルティア曰く美の結晶、コキュートス曰く守護者各員より強き方、アウラ曰く慈悲深く配慮に優れている、デミウルゴス曰く賢明な判断力と瞬時に実行する行動力を有している、セバス曰く最後まで自分達を見放さず残った慈悲深い方、アルベド曰く最高の主人で愛しいお方。

そしてザッハークに関しては、シャルティア曰くモモンガとはまた違った美の結晶、コキュートス曰くナザリックにおいて最強の方、アウラ曰く慈悲深さと包容力を併せ持ったお方、デミウルゴス曰く類稀な武勇と聡慧さを兼ね備えたお方、セバスは大体同じ、アルベド曰くモモンガを支え、並び立つお方。

 

正直勘弁してくれ、と言いたかった。確かにセバスの評価など間違ってないものもあるがモモンガもザッハークもそんな完璧超人ではない。

 

「………なるほど。各員の考えは十分に理解した。それでは私の仲間達が担当していた執務の一部までおまえ達を信頼して委ねる。今後とも忠義に励め」

 

モモンガとザッハークは大きく頭を下げ拝謁の姿勢となった守護者達から半ば逃げるようにレメゲトンへ転移する。

周囲を見渡し、ザッハーク以外誰もいないことを確認したモモンガが大きく息を吐く。

ザッハークも軽く息をつき、人間形態に戻るとアジ・ダハーカに伝言(メッセージ)でラビリンスへ戻っていいと告げる。

 

「ザッハークさん、パンドラズ・アクターの件、私聞いてないんですけど」

 

「まぁ。言ってませんし」

 

しれっと返したザッハークにモモンガがため息を吐く。自分でもそれがいい手だとわかっているのだろう。ただ、あの黒歴史を出したくないのだ。

 

「いや、にしてもすごい高評価でしたね」

 

「ていうか、最早別人ですって、あれ」

 

「冗談や演技って感じでもなさそうでしたね。もしあれが演技だっていうならお手上げですよ」

 

ザッハークの言葉にモモンガがはぁ、と本日何度目かのため息を吐き、気まずそうに口を開いた。

 

「………ザッハークさんは元の世界に帰りたいと思いますか?」

 

「え?」

 

モモンガの問いにザッハークは驚きの声をあげる。それはザッハークがいつか聞かなければいけないと思っていた問いだった。

 

「私は向こうに残してきた家族も友人もいません。でもザッハークさんはどうですか?」

 

「いえ、全く」

 

今度はモモンガが驚きの声をあげる番だった。

ザッハークは微笑みを浮かべ、答える。

 

「私もモモンガさんと同じです。元の世界に未練なんて一切ありませんよ」

 

ザッハークの返答にモモンガはそうですか………と呟く。その声に含まれた安堵を感じ取ったザッハークはそうです、と力強く肯定する。

 

「それでは、私はいろいろとやることがあるので自室に行きます。モモンガさん、パンドラの件忘れないでくださいね?」

 

「分かってますよ。はぁ、まさかこんなことになるとは………」

 

モモンガの嫌そうな声にザッハークは軽く笑い、自室へと転移した。

 




ザッハーク、人間形態で眼鏡掛けてるから竜人形態でも眼鏡なんですよね。純白の全身鎧を纏った白銀の竜人が眼鏡って何かシュール。
にしても細かく描写しちゃうせいか進まねぇや、文才とか他の要因もあるだろうけども。
信じられます?能力の検証に入るまでで5000文字超えたんですよ?
読者の方は知ってるだろうから削った方がいい部分があるのは分かってるんですが、どうも説明が少ないのはなんかダメな気がするんですよね。まぁ、これから頑張ります。
それでは、オリ世界級(ワールド)アイテムの解説です。

ソロモンの指輪
ダンジョン《時間神殿》を最初に適正レベルでクリアすることで入手出来る。能力は72柱の高位悪魔の使役、テイマーの職業無しでのモンスターテイム(設定によると動植物との会話能力)魔法に関するステータスの上昇、MP回復量増加の4つ。
能力が複数あるため、他の召喚系やステータス上昇系の世界級アイテムと比べると効果は低めだが、世界級アイテムだけあり死霊系特化のモモンガが指輪以外同じ条件の下でワールド・ディザスターのウルベルトに迫る火力を出せるようになる。

ところでオリキャラについてですが後書きに設定を載せるのと設定集を投稿するのと本文中で出していくの、どれが良いと思いますか?

感想や誤字、脱字、文章がおかしいという指摘などお待ちしております。


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2話 準備と月下の語らい

結局日曜日までに投稿は出来ませんでした。執筆って難しいですね。
緑ですが評価バーに色がつきました。お気に入りも79に増えてプレッシャーも増しましたが、頑張っていきます。

今回は時間軸が結構飛びます。

活動報告でも書きましたが、前話の後書きでのオリキャラの設定をどこで出すかについて特に意見が無かったので後書きで一人ずつ出すことにしました。


「冒険者をやってみたい?」

 

ユグドラシルのサービス終了時の異変から約一日半が経過した。

アルベドとデミウルゴス主導の下、ナザリック地下大墳墓の新たな警備態勢が構築されていく中、アルベドにより選抜された品位と実力を兼ね備えたシモベ達が警備する第九階層のモモンガの自室。

そこでザッハークの不思議そうな声が響いた。

 

何故ザッハークがモモンガの自室にいるのかというと、一時間ほど前のこと。ザッハークが命じた情報収集組織はナザリックの知恵者四人が協力しただけはあり既に結成され、ニグレドにより発見された三つの国へと潜り込んでいた。

そしてザッハークが上がってきた情報をまとめてシズにモモンガへ届けさせると、その数十分後にモモンガに相談したいことがあると呼ばれたのだ。

伝言(メッセージ)〉越しのモモンガの声は何時もとあまり変わっていなかったため、まとめた情報に不備があったわけではないだろう。ザッハークが見た限り特に興味を引かれるものはなかったはずだが、他者との価値観の違いなどとうの昔に自覚しているザッハークは自分が興味を惹かれなかったものの中にモモンガが興味を引かれるものがあったのだろうと結論づけ、モモンガの自室へと来たのだ。

フィリアと交代制でザッハークの専属メイドとなったシズはモモンガの自室の前で待機している。

そしてモモンガから開口一番告げられたことにザッハークは冒険者という職業について概要程度は載せていたはずだが、何故そう思ったか分からず不思議そうな声を上げた。

 

「ええ、ちょっと興味を引かれまして」

 

「ふむ。ですが、モモンガさん。確かに冒険者という名前ではありますけど実際はモンスター相手の傭兵みたいなものですし冒険はほとんどしないみたいですよ?」

 

「ええ、それは分かってます。上がってきた情報にも載ってましたし」

 

「それならば何故ですか?」

 

ザッハークの問いにモモンガは気恥ずかしそうに軽く頰をかき、理由を説明する。

 

モモンガの言う理由は三つ。

一つ目はこのまま凄まじい忠誠心を向けられ続ければ精神的疲労が溜まるだろうから、息抜きとして。

二つ目は上位の冒険者となれば回ってくることのある遺跡の調査などの冒険への憧れ。

そして三つ目が現地での情報収集。最もこれはついで程度だそうだ。

 

「それにザッハークさんとまた一緒に冒険したいと思いまして」

 

モモンガの言葉にザッハークは少し眉間にしわを寄せる。それを見てモモンガが不安そうな声で問いかける。

 

「えっと、嫌でしたか?」

 

「ああ、いえ。そういうわけではないんです。ただ私も行くとなるといくつか問題がありまして」

 

「問題ですか?」

 

「はい。現在上がってくる情報をまとめたり吟味したりするのは私がやっているので、私が行くとなると確実に出来ると言える四人がただでさえ仕事量が多いのに負担が増してしまうんです」

 

「なるほど………」

 

ザッハークの説明を聞いてモモンガが難しそうに唸る。現在ナザリックの知恵者四人は警備態勢の構築に奔走しているのだ。それに警備態勢が整ったら新たな任務を任せる予定がある。

情報の整理が出来るのがその四人だけということはないだろうが、いかんせんナザリックのNPCは数が多い。性格などが設定に由来するようなので、設定がほとんど無いセバスや、間違った廓言葉を使っていることからもわかるようにアホの子設定をされたシャルティアなどは除外出来るが、他の全員を情報の整理などが出来るかを調べるとなると手間がかかる。

ザッハークもNPCの設定を全て把握している訳では無く、調べるとしたら候補は知性を持つモンスターを含めれば百はいるだろう。

 

「それにギルメンのことを相当慕ってるようですからね、私達二人が外に出るとなるとかなり面倒なことになると思います」

 

「確かにそうですね。となるとどうしましょう」

 

「別に私はモモンガさんがどうしてもと言うなら面倒ですが頑張りますよ?」

 

「いえ、ザッハークさんの気持ちは嬉しいですけど私の我が儘で負担を増やす訳にもいきませんから」

 

「…そうですか」

 

ザッハークの声が若干沈むが、直後にそれを打ち消すかのように、よし、と声を上げる。

 

「それじゃ、私はモモンガさんの冒険者デビューを手伝うとしますよ。モモンガさんは冒険者としてどんな職種でいくんですか?」

 

「そうですね、この世界のレベルはかなり低いようなのでどうせなら前衛やってみようかなと思ってます」

 

モモンガの返答にザッハークはなるほど、と相槌を打ち少し考えてでは、と続ける。

 

「では、装備と供回りは私が選んでおくのでモモンガさんは特訓でもしていて下さい。コキュートスとドレイクには私から連絡しておきますので」

 

「え?」

 

「ん?」

 

モモンガの不思議そうな声にザッハークも不思議そうな声で返す。何故そんな声を出したのかわからない様子のザッハークにモモンガが疑問を呈す。

 

「えっと、供回りと特訓はわかりますけど装備ってどういうことですか?」

 

「どういうことって、言葉の通りですよ。鎧やら武器やらその他諸々です。〈完璧なる戦士(パーフェクトウォリアー)〉使えば問題ありませんよね?」

 

「いや、この世界って30Lvで最強クラス何ですよね? だったら〈上位道具創造(グレータークリエイトアイテム)〉で十分だと思いますけど」

 

モモンガの疑問にザッハークは何を言ってるんだと呆れた風に肩をすくめ、口を開く。

 

「いいですか、モモンガさん。確かにこの世界では平均Lvが低くぶっちゃけ私達からすればゴミ同然です。ですが、だからといって装備を(おろそ)かにしてはいけないでしょう? 私達以外にプレイヤーが転移してきていないとは言い切れないんですから」

 

「なるほど、それは確かに」

 

モモンガの反応を見てザッハークはさらに畳み掛ける。

 

「それに、周辺諸国でスレイン法国は人類至上主義を掲げている上にまだ、中枢に潜り込めてない以上、私達にも効く隠し球が無いとは言い切れません」

 

「はぁ……。それもそうですね。備えあれば憂いなしとも言いますし。分かりました、その件に関してはザッハークさんに任せます」

 

「分かっていただけてなによりです。では、時は金なり、(ただ)ちに行動を開始しましょうか」

 

モモンガの諦めたような声の返答にザッハークはにっこりと笑みを浮かべて締めくくる。

 

 

 

◾️◾️◾️◾️◾️

 

 

 

(まず、モモンガさんの同行者は誰にするべきだろうか)

 

モモンガとの話し合いを終えて自室に戻ってきたザッハークはモモンガのお供の条件を頭の中に浮かべていく。まず、息抜きが目的の一つである以上、一人くらいがいいだろう。

次に、他のプレイヤーが転移してきている可能性がある以上100Lvプレイヤーと戦えなければいけない。職種としては冒険者としてモモンガが前衛をやるのだからバランス的に後衛、そしてプレイヤーとの戦闘になった場合に前衛が出来る魔法戦士や神官戦士が望ましい。

他にも人間との接触が多くなる以上臨機応変に対応できた方が良く、ユグドラシルで主に服飾関係のデザイナーが使っていたグラフィックを変えるアイテムがあるが、100Lv同士の戦いとなれば装備一つが勝敗を分けることは珍しくない上、見破られた際のリスクを考えると素で人間と変わらない姿の方が望ましい。

 

「………」

 

ザッハークは頭の中で候補を選んでいく。まず、強さでいくとルベドや第八階層のあれらが思い浮かぶが、どちらも色々とまずいので却下だ。となると必然的に100LvNPCの中から選ぶことになる。

他二つの条件の内、職種と姿では神官戦士のミカエラとグレーゾーンだがシャルティア、魔法戦士のフィリアとルシフェル、戦士では無いが、マーレも一応候補に残る。

そして残りの条件を満たさないシャルティアとルシフェル、ミカエラ兄妹も除外出来るが、そうすると残りはフィリアとマーレになる。

マーレは見た目は最高位冒険者"蒼の薔薇"にイビルアイという同じ程度の体格の持ち主がいるという報告を考えればそこまで問題にはならないだろうが、広域殲滅型のため前衛としては少々頼りない上、対人能力に不安がある。

フィリアはパーフェクトメイドとしてキャラデザインしているため臨機応変な対応は出来るだろうが、メイドとして戦闘に関わらない職業を幾つか取っている関係で純粋な魔法戦士と比べると戦闘力は劣る。

 

「さて、誰にしたものか」

 

天秤自体はフィリアに傾いているのだが、非常時の戦闘力の面で不安がある。ルシフェル、ミカエラ兄妹ならば問題は無いのだが、息抜きのお供としては性格に少し難がある。

 

(…………待てよ、あいつなら)

 

ザッハークは頭に浮かんだ者について考える。

戦闘力───問題無し

姿───問題無し

性格───問題無し

息抜きに関してもあまり問題はないだろう。

 

(よし、奴ならば問題は無いな)

 

結論を出したザッハークは部屋の隅に待機しているシズに行き先を告げ、転移した。

 

 

 

◾️◾️◾️◾️◾️

 

 

 

「ふぅ…………」

 

モモンガは軽く息を吐いた。アンデッドであるため疲労はしないのだが、人間の残滓とでもいうべきモノが疲れを訴えていた。

現在モモンガがいるのは第六階層のアンフィテアトルム。ザッハークが話を通していたコキュートスとドレイクと共に剣の鍛錬のために来ていた。

ナザリックの転移から60時間ほど経っており、モモンガはアンデッドの特性によりほとんど休まず鍛錬をしていた。

剣の腕が上達していくのを感じるのは楽しいが、2mを超す蟲王(ヴァーミンロード)竜人(ドラゴノイド)と至近距離で斬り合うというのは中々のプレッシャーだったため適当な理由をつけて少し休憩に入ったモモンガは、魔法で創っていたグレートソードを消し、闘技場の中心へ視線を向ける。

モモンガが視線を向けた先ではライトブルーの蟲王(ヴァーミンロード)と黒い鎧を纏った赤鱗の竜人(ドラゴノイド)がモモンガの目では捉えられないほどの速さで斬り合っていた。

別に殺し合っているわけではなく、モモンガが休憩に入る際模擬戦の許可を与えたためだ。

ドレイクは両手で、コキュートスは四本の腕全てでダメージが入らないように用意した低位の武器を持っており、単純に考えて手数は四倍違うだろうが、専業戦士と魔法戦士の差か互角に渡り合っていた。

 

「ん?」

 

二人の模擬戦を観戦していると〈不死の祝福〉により闘技場の入り口にアンデッドの反応を探知したモモンガはそちらへ視線を向ける。

やって来たのは何冊かの本を乗せたカートを押してきたメイドだ。黒と白の由緒正しいメイド服に身を包んでおり、その上からでも分かる女性らしい起伏に富んだ体つきに、氷で出来た一輪の花を思わせる美貌、第六階層の天蓋の明かりを受けて煌めく銀髪を後ろで一度折って黒地に竜をかたどった精緻な銀細工が施されたバレッタで留めている。

そのメイドはフィリア・ファルシオン。ザッハークが最初に作製したNPCでナザリックのメイド長補佐である。

 

「失礼いたします、モモンガ様」

 

「フィリアか、何の用だ?」」

 

「はい、ザッハーク様からこちらをモモンガ様へ届けるように、と」

 

そう言ってフィリアが持っていた何冊かの本をモモンガへ差し出す。タイトルを見るに武術の指南書のようだ。

 

「これをザッハークさんが?」

 

「はい、ザッハーク様曰く『実践が一番だが、理論を知っておいて損は無い』とのことです」

 

「なるほど………」

 

モモンガは確かにその通りだ、と考え、一番上の本を開く。

 

「ふむ………なるほど………」

 

読んでいくと思わず声が出てしまう。数十冊以上あった中でザッハークが選んだだけあり分かりやすい上に引き込まれる。

いつの間にか読み終わっており、鍛錬により剣の腕が上達していくのを感じる楽しさもあって試してみたくなったモモンガは本を傍に置きグレートソードを創り出して既に引き分けで終わっていたコキュートス達の方へ向かう。

 

「さて、特訓再開だ」

 

 

 

◾️◾️◾️◾️◾️

 

 

 

ナザリックの転移から約三日。ザッハークは恐怖公の眷属やシャドウデーモン等により集められた情報に目を通していた。

既に王国と帝国の中枢まで潜入している情報部隊よりもたらされる情報は結構な量となっている。

未だ法国の中枢へは潜入出来ていないが、二つの国からの情報だけでもこの世界の情勢についてはそれなりに把握出来る。

今はナザリックの新たな防衛態勢の構築が完了していないため後になるが、その内潜入だけでは入手出来ない情報を得るために適当な帝国の貴族等を使ってワーカーへ偽の依頼を出して誘い出したり、野盗などの犯罪者を捕らえたり他の国へ情報部隊を送る準備も必要になるだろう。

そういったことを考えつつ、ザッハークは同時に別のことも考えていた。

 

(さて、モモンガさんの装備をどうしたものか………)

 

既に九割ほどは決まっているのだが、残りの一割で悩んでいた。

アンデッドの姿は全身鎧で隠せるが、人間の街で過ごすとなるとずっとそうしているわけにもいかない。しかし、グラフィックを変えるアイテムを使うと装備箇所が一箇所潰れる上に姿こそ変わるが、それだけだ。メリットがほぼ無い。かといって一時的に人間種になるアイテムでは種族レベルの分がなくなってしまう。

ちょうどナザリックの近く──およそ10kmは離れているが──で冒険者になる前準備として()()()()()()()()が起こっている以上、早く決めたいのだが、モモンガの姿をどうするかで一部装備が変わってしまうのだ。このまま良案が浮かばなければ前者にするが、やる以上は最善を求めて考え尽くす必要がある。

ザッハークが書類に目を通す作業に一段落つけて、装備をどうするかを考えているのに専念していると〈伝言(メッセージ)〉が飛んで来た。

 

『ザッハークさん、今空いてますか?』

 

「ええ、ちょうど一段落ついたところですけど、どうしました?」

 

伝言(メッセージ)〉を飛ばして来たのはモモンガだった。ザッハークがモモンガに質問の意図を聞くとこれから少し外に出てみるから一緒にどうかというお誘いだった。

ザッハークは了承し、ついでにもしもの事態に備えるためNPCを連れて行くこととリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが一つしかないため歩いて行くことを告げる。

それに対するモモンガの返答は了承だった。声音に諦めの色が混じっていたような気がしたが、ザッハークは気のせいだろうと判断し、指輪で転移出来る中で、入り口に最も近い中央霊廟の広間に到着したら〈伝言(メッセージ)〉で連絡することを伝える。

 

『分かりました。それではなるべく早めにお願いします』

 

モモンガの返事とともに〈伝言(メッセージ)〉が切れる。

ザッハークはデスクの上に広がっていた書類をまとめて椅子から立ち上がり、部屋の隅で待機しているシズに声をかける。

 

「シズ、私はモモンガさんと少し出る。護衛として来い」

 

「………了解」

 

シズが礼とともに了解を返す。ザッハークはデスクの対面にある扉の方へ歩きながらもう一人の護衛まで〈伝言(メッセージ)〉を飛ばしこれから向かうことを告げる。

了解を受けたザッハークは〈伝言(メッセージ)〉を切り、シズの肩と膝の裏に腕を回して抱き上げる。いわゆるお姫様抱っこというものだ。

 

「………博士?」

 

抱き上げられたシズはいつもと変わらない無表情だが声に困惑などの感情が混じっていた。

 

「しっかり掴まっていろ」

 

ザッハークの言葉によりシズの細い手がザッハークの首に回される。それを確認したザッハークはスキルではシズが隠れないため、隠蔽の魔法を3つほど使用し走り出す。

凄まじい速さでの疾走によりナザリックの景色が瞬く間に過ぎて行く。シズが首に回した手に込められた力が強くなるがザッハークには1ダメージも入らないため気にしない。

〈ドラゴニックセンス〉によりシモベを探知して見つからないようにしているため、シズに気を使いつつ時々曲がったりして、第三階層を目指す。

そのまま1、2分ほど走り目的の場所に到着する。

そこは西洋の城の入り口のようになっていたが、そんなものより遥かに目を惹きつける存在がいた。

 

「お待ちしておりました、ザッハーク様」

 

門の前に立っていたのは赤黒いドレスに身を包んだ長身の女性。180センチ後半のザッハークよりさらに5センチほど高い。

生ある者には届かない滑らかな白皙に金糸のごとく煌めく金髪は(もも)まで届き、鮮血の結晶の如き深紅の瞳は引き込まれそうな錯覚を覚えるほどの美麗な輝きを放つ。その肢体は女性らしい豊満な魅力に富み、胸元の開いたドレスや人間味を感じさせないまでの高貴な美貌と相まって妖しげな色香を醸し出していた。

その女性こそカーミラ・エルジェーベト。ザッハークの製作したNPCの一人で始祖(オリジンヴァンパイア)の領域守護者である。

うやうやしい礼をするカーミラが一瞬ザッハークにお姫様抱っこされたシズに視線を向ける。それに気づいたザッハークはシズを下ろし、カーミラに問いかける。

 

「要件は〈伝言(メッセージ)〉で伝えた通りだ、頼めるな?」

 

「お任せください。至高の御方々に傷一つつけることのないよう全力を尽くします」

 

「ああ、期待している」

 

ザッハークの言葉にカーミラの体が一瞬震える。ザッハークはそれに伴って揺れる体の一部分に目を向けないようにして歩き出す。

カーミラとはナザリックが転移してから一度も会話していなかったが他のシモベ達と同じように忠誠心は高いようだ。

誇り高い貴族としてキャラメイクをしたが、いくら貴族だとしてもより家柄が上の貴族や国王にまで平民と同じような態度で接する訳はないのだから、不安になる必要はなかったかもしれない。

ザッハークはそんなことを考えながらシズとカーミラとともに城に踏み入る。

この城はカーミラの守護領域『鮮血城チェイテ』第一階層から第三階層まで続く最大級の守護領域である。トラップの多さと領域の広大さ、迷宮のような複雑な内部構造、隠し通路など数々のギミックはザッハークが自腹で高額な課金アイテムを買い集めることになったりもした程だ。

鮮血城チェイテの中は雰囲気を出す為等の理由で、そこかしこに血に塗れた拷問器具が置いてあり、課金による通常のものより強力な猛毒や負属性のエリアエフェクトに満ちているが、アンデッドのカーミラは言うまでもなくザッハークとシズも装備品などにより意にも介さず黒棺(ブラックカプセル)への転移などの罠無効や罠感知をすり抜けて発動するように作った悪質なトラップを避けつつ第一階層へ進んで行く。

トラップの数は多いが、製作者のザッハークは当然把握しており止まることなく進む。万が一忘れていたとしてもシズはナザリックの、カーミラは鮮血城チェイテのギミックを全て把握しているため問題は無い。

時折幽霊(ゴースト)疫病爆撃種(プレイグボンバー)など時間稼ぎと嫌がらせ用に配置されたアンデッドと遭遇する以外何もなく広間への階段の前に到着する。

 

「む………」

 

階段の前に到着したザッハークは階段の上、中央霊廟の広間の方に顔を向ける。

広間の方からいくつかの強力な気配を感じる。ドラゴニックセンスは鋭敏な感覚によるものだが、探知系スキルのため、ある程度強弱は分かるのだ。

今上がれば見つかるためモモンガに伝えようと

伝言(メッセージ)〉を発動させると見えない糸が探るような感覚がしてモモンガに繋がる。

 

「モモンガさん、今、中央霊廟前の階段何ですけど───」

 

『分かりました。今から行きます』

 

「あ、ちょっと」

 

伝言(メッセージ)〉の途中でモモンガが返答し、直後リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンにより転移してくる。

伝言(メッセージ)〉で伝え損なったことを伝えようとそちらの方を見たザッハークは絶句する。その姿というのは───

 

「えっと、モモンガさん、何故そんな格好を?」

 

漆黒の全身鎧だった。

まさか中二病が再発したのだろうかと訝しげな目を向ける。モモンガはそんなザッハークの目に気づいたのか、変装のためです。と少し慌てたように理由を説明する。

ザッハークはその格好では不審人物に見られるのではないかと思ったが、仮にそうなったとしても自分がいる以上大した問題にはならないだろうと考えそのことは言わず、ザッハークは階段上の気配のことをモモンガに伝える。

 

「そういえばモモンガさん、言い忘れてましたがこの階段の上からいくつかの強力な気配を感じます。この感じから察するに恐らくデミウルゴスと配下の魔将ですね。どうします?」

 

ザッハークの問いにモモンガは少しうつむいて顎に手をやり、しばし考える。

三十秒ほど考えて結論が出たようで顎にやっていた手を下ろしてザッハークの方に兜に覆われた顔を向け口を開く。

 

「行きましょう。仕事ぶりの視察も兼ねて、ということで」

 

モモンガの結論にザッハークは、では、そうしますか、と返し歩き出す。隠蔽魔法や全身鎧で姿を隠した状態なら説得力はあるし、外に出るのもマーレの仕事ぶりの視察と誤魔化せる。

モモンガと階段を上り、中央霊廟の広間に出る。そこには予想通り三人の魔将とその他の悪魔達がいた。デミウルゴスの姿が見当たらないが、気配が奥の方にあるのは把握している。

広間に出るとやはり低位階の隠蔽魔法では80Lvを超える高位モンスターには通じないようで、魔将達の視線が向けられるが、既にいることはわかっていたため動じる事無く歩いていく。

途中で悪魔達に指示を出していたデミウルゴスが合流し、5人は地表部に出る。

 

「ほう………」

 

少し前から感じていた草の香りが強くなり、肌に夜の冷えた空気が触れる。そのことにザッハークが思わず声をこぼし、目を細めていると、横でモモンガが空に飛び上がるのを感知し、自分も飛ぶために半竜人形態へ姿を変える。竜人形態の翼と尾が生え、四肢も同様に変化する。

姿が変わったことを確認し、白翼を羽ばたかせモモンガに続いて空に飛び上がる。

後ろでデミウルゴス、カーミラ、シズがそれぞれの方法で飛行して追従してくるのを感知するが、そちらの方に目を向けず空を見上げているモモンガの隣まで上がり、同様に空を見上げる。

 

「………綺麗ですね……」

 

「ええ……これが本当の星空なんですね……」

 

モモンガの感慨深げな言葉にザッハークも同意する。空に広がる満天の星はリアルでは百年ほど前に見られなくなったものだ。

見渡す限りに広がる夜の闇の中で輝く星と満月にザッハークは目を細めて見入る。

 

「ブルー・プラネットさんにも見せてあげたかったですね」

 

「あの人が見たら相当はしゃぐでしょうね。趣味に関しては結構子供っぽい所が有りましたから。そしてはしゃいだ後は星空について色々語ってくれますよ」

 

「違いありませんね」

 

モモンガとザッハークの会話が続く。ふと、モモンガが星空へと手を伸ばす。

 

「どうせなら、ギルメン全員でこの光景を分かち合いたいです」

 

「………なら、世界征服でもしてみますか?この世界に来ても、来ていても、分かるように」

 

ザッハークの提案は笑いが少し混じっている。この世界のレベルからすれば、ナザリックなら容易に思えるが分かっていないことの方が多く、たとえ成功しても統治などの問題がある。

 

「世界征服ですか。それも良いかもしれませんね」

 

モモンガもそれを分かっているのだろう、返答にはザッハーク同様笑いが混じっていた。

ナザリックの支配者二人は夜空を見上げて軽い笑いを交わす。

そして、しばらく星を眺めているとモモンガが口を開く。

 

「さて、そろそろ降りますか」

 

「そうですね、マーレの様子も見に行く予定ですし」

 

 

 

◾️◾️◾️◾️◾️

 

 

 

「モ、モモンガ様、ザッハーク様。よ、ようこそおいでいただき──」

 

地表部に降りたモモンガとザッハークを迎えたのはマーレの緊張でガチガチになった声だった。

モモンガはそんなマーレに緊張しなくても良い、となだめ、ナザリック隠蔽の働きへの褒美としてアイテムボックスからリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを取り出し渡す。その際ひどく恐縮したマーレだったが、モモンガの言葉により硬い動きで嬉しそうに()()()()()に指輪を嵌めた。

それを見てザッハークがマーレの設定を思い返していると、後ろの夜空の方から知っている気配と羽音が近づいてくるのを察知する。

少ししてその気配と羽音の持ち主───アルベドが、マーレの問いかけにモモンガが答えるより速く会話に入り込む。

 

 

その後、会話が一段落したところでアルベドがマーレの左薬指を見て凄まじい形相へと変わる

 

「ア、アルベド?」

 

「はい。何でしょう、モモンガ様」

 

が、モモンガの声に一瞬で貞淑な美女の顔に戻る。

 

(……つくづく女という生物は恐ろしいな)

 

ザッハークは高校を中退して出奔するとともに縁を切った実家の本家の当主を思い出す。正直あの女とは二度と関わりたくない。

モモンガにリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを渡されたアルベドは今にも叫び出しそうに震え、翼もパタパタと動いている。

そんなアルベドを見たモモンガはさすがに今は渡さない方が良いと判断し、デミウルゴスに指輪を渡すのは今度ということになった。

 

「それでは、戻りますか。ザッハークさん」

 

「そうしましょう。マーレやデミウルゴスの仕事ぶりも見れましたし。ああ、その前に。シズはデミウルゴスに私が通ったルートを教えておいてほしい。頼めるな?」

 

「………了解」

 

シズは綺麗な礼をして了承する。ザッハークは頼んだ、と一言残し、モモンガとともに自室へと転移した。

 

「うおっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

その刹那、優れた聴覚でアルベドの雄叫びをしっかりと捉え驚きにより自室でしばし呆然とするのだった………。

 

 




地表部に降りた辺りほとんどセリフ無しで駆け足気味でしたね。小説読んで勉強し、執筆を繰り返してるから文体が変わってるような気もしますし。
にしても、書いている間にいくつもの作品案が浮かんできます。具体的には、ブリュンヒルデヒロインで殺伐バカップルな最強系狂人オリ主とか、ナーベラルヒロインでパンドラの上位互換オリ主とか、Tー1000とかアパテーみたいな種族金属生命体のオリ主とかですね。
Fateのヘラクレスの能力持ったオリ主とかもやりたいですし。
二作品同時執筆とか私にはかなりキツいですけど。

それではオリキャラの設定一人目です。

名前:フィリア・ファルシオン【Philia・falchion】
異形種
異名:完璧なる従者
属性:中立(カルマ値:0)
役職:ナザリック地下大墳墓メイド長補佐
住居:ナザリック地下大墳墓第九階層使用人室の一つ
身長:178cm
種族
動死体(ゾンビ)──Lv1
職業
料理人(コック)──Lv7
アーマードメイジ──Lv5
ウォー・ウィザード──Lv10、など

種族レベル1+職業レベル99=100

ザッハークが創ったNPC第1号。パーフェクトメイドとして設定されており、内政はアルベド、軍事はデミウルゴスにやや劣るがあらゆる分野に高い能力を持つ。
カルマ値:0が示す通り主人の命なら善行も悪行もためらわず実行するタイプ。
職種はメイドとしてのものと魔法戦士。コキュートスと同じ戦士に重点を置いた魔法が使える戦士。
種族のゾンビは死んでも主人に仕えるほど忠誠心が高いというキャラ設定とアンデッドの様々な耐性というメリットからで、名前が友愛(フィリア)(ファルシオン)なのはザッハークの趣味。
着用しているメイド服は本装備ではないものの、ザッハークのこだわりによりモモンガの創る鎧を凌駕する防御力を持ち、バレッタは同じくザッハークが一から製作した伝説級装備。

意見、感想、誤字脱字の指摘などお待ちしております。


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3話 説明と出発

前回感想来ませんでした。ショックでしたが、同時に感想が来るよう
頑張ろうとも思えました。
それにお気に入り登録も増えましたからね。


モモンガは自室のデスクで書類と向き合っていた。情報部隊から送られてくる情報は初めの頃より少なくなっているものの、未だ量は多い。

モモンガに届くのはザッハークが選んだ必要な量の必要な情報──現在は主に冒険者関連──だが、ザッハークが自分をモモンガの下につけたためそれ以外の書類も目を通さなければならない。

読み終えて頭に叩き込んだ書類をデスクの右端に積み、2cmほどの山を作ったところでモモンガは作業を一旦中断し、アンデッドの身となったが会社員だった頃の癖で体を伸ばして目頭を抑える。

もともと疲労などしていないのだから錯覚に過ぎないのだが、何となく楽になったように感じてふぅ、と形だけの息をついたところでコンコンコンとノックの音が響き、続いて来訪者の声が聞こえる。

モモンガがどうぞ、と入室の許可を出すと扉が開き来訪者──ザッハークが入ってくる。

と、そこでモモンガはザッハークの普段と違う箇所に気づく。

 

「ザッハークさん、眼鏡どうしたんですか?」

 

気に入っているようで常にかけていた眼鏡をかけていないザッハークにモモンガが問う。

ザッハークはそのモモンガの問いにああ、と軽く返答し、続ける。

 

「それだったら、今日来た件に関連してますから後で分かりますよ」

 

モモンガはその説明に納得し、本題のザッハークが来た目的に入る。

 

「モモンガさんの冒険者としての装備とお供が決まったので、知らせに来ました」

 

「本当ですか⁉︎」

 

モモンガの声が思わず弾む。早く冒険者として活動したかったのに加え、異世界に来てまで書類仕事をするのに若干辟易(へきえき)としていたのもある。

 

「ええ。とりあえず先に装備ですね。これは実際に見た方が早いでしょう」

 

ザッハークはそう言ってアイテムボックスに手を突っ込んで全身鎧を着用したマネキンを片手で軽々と引っ張り出して立たせる。

モモンガはそのマネキンを見て思わず目を疑う。マネキンが着用しているその鎧は穢れなき美しい純白。肩など各所が竜を模しており、胸には氷のような水晶が埋め込まれ、背には金糸で竜と王冠をかたどった紋章の描かれた赤いマント。

そう、それは───

 

「は………?いや……これは………」

 

ザッハークがワールドチャンピオンとなった際に運営から送られた鎧だった。

出て来たとしてせいぜい神器級(ゴッズ)だと思っていたモモンガはしばしフリーズし、ザッハークの怪訝そうな声に我に返り、

 

「ちょっと、これはさすがにやりすぎだと思うんですけど⁈」

 

と詰め寄るが、当の本人はそうですか?、と首を傾げる。

 

「ユグドラシルのプレイヤーが来てた場合を考えるとこれが最善の筈ですけど」

 

「それは……そうかもしれませんけど………」

 

モモンガの声がしぼんでいく。ザッハークの言うことは正論だ。コキュートスやドレイクと訓練こそしたが、モモンガは本来完全な魔法職、

完全なる戦士(パーフェクトウォリアー)〉を使っても100Lv戦士職には劣る。

コキュートスやドレイクの模擬戦によって100Lv戦士職のスペックを見ているが、あれは咄嗟に対応するのは厳しいだろう。それならば神器級(ゴッズ)を凌駕する性能を持つワールドチャンピオンの鎧は最善と言えるのは分かる。

モモンガが理屈では納得しながらも、折角の未知なのに何から何までお膳立てされていることに感情で納得出来ないでいるとザッハークがそれに、と続ける。

 

「私は基本、人間態でその鎧着てましたからユグドラシルプレイヤーなら喧嘩売ってくる可能性はぐんと低くなると思います」

 

「ああ、確かに……」

 

モモンガはザッハークの言い分に同意する。誰だって蘇生出来るかも分からない状態で、たとえ出来ても中堅ギルドの二つや三つを単騎で潰し、倒されればレベルや装備が奪われるユグドラシル最強相手に喧嘩を売ろうとは思わないだろう。

モモンガは決してガチビルドではなく、もっと強い相手など大量にいる。PVPで勝率五割以上ではあるが、情報あってこそだ。無用な争いを避けることが出来るザッハークの案に渋々ながら了承し、〈完全なる戦士(パーフェクトウォリアー)〉を唱える。

現実化により一瞬で装備するといったことが出来ず、こういったところは不便に感じつつ下から鎧を着用していく。

と、右手の小手を取ったモモンガはまたもや目を疑う。

マネキンが中指に嵌めていたのは一見只の金のリング。しかし、その正体は───

 

「ソロモンの指輪ぁぁっ!!!!?!」

 

ソロモンの指輪。200しかない世界級(ワールド)アイテムの一つである。

今まで気づかなかったが、ザッハークの右手を見てみると中指の指輪が無い。

しかし、ザッハークはモモンガの驚きにそうですよ?、と軽く肯定する。

鎧だけなら先ほどの説明もありギリギリ許容出来たが、さすがにこれはやりすぎだと抗議するとザッハークは頰を掻いて若干気まずそうに口を開く。

 

「いやぁ、それが……実を言うと私ちょっとミズガルズと向こうの一方的な因縁がありまして………」

 

モモンガはザッハークの爆弾発言にしばし固まり、恐る恐る口を開く。

 

「えっと、ミズガルズってまさか………?」

 

「ええ、ワールドチャンピオン・ミズガルズですよ。まったく、勝てないことを理解する頭も無いのか、あいつは」

 

その因縁が相当鬱陶しいようで、辟易とした雰囲気だったがモモンガにとって重要なのは別のことだった。

もし、ナザリック同様に転移していた場合、上の上プレイヤー三人と互角と言われるワールドチャンピオンの一人と戦う羽目になるかもしれないのだ。正直言って勝てるとは思えない。

その可能性に思い至ったモモンガは無い血の気が引いていくように感じた。

そんなモモンガの様子に気づいたのか、ザッハークが大丈夫ですよ、と笑みを浮かべる。

 

「だからこそのソロモンの指輪とお供ですから」

 

モモンガはその言葉に納得する。ソロモンの指輪は能力が複数あるため他の世界級(ワールド)アイテムと比べると一つ一つの性能は低めだが、それでも世界級アイテムだけあり、呼び出せる72柱の悪魔は強力だ。ワールドチャンピオンが相手でも72柱全てで行けば撤退の時間くらい余裕で稼げる。

安心したモモンガは中断していた鎧の着用を再開する。

鎧の下にはザッハークが集めて宝物殿に放り込んでいた神器級(ゴッズ)と思われるアイテムがあったが、何となく予想出来ていたため特に驚く事無く装備していく。

兜以外を着用し終わり、兜を取ったところでザッハークの眼鏡に関する疑問を思い出し、同時に解決する。

その眼鏡は兜の下にあったのだ。よく考えれば当然だろう。ザッハークの眼鏡は〈生命の精髄(ライフ・エッセンス)〉や

魔力の精髄(マナ・エッセンス)〉の他、ステータスの看破、文字の解読などの効果がある。小卒のモモンガでは英単語なども満足に読めず、ましてや異世界の文字など読めるはず無いのだから。

眼鏡と兜を着用し、姿見で自分の姿を確認する。

骸骨の全身が純白の鎧によって隠され、立派な騎士の外見になっており、鎧がたっち・みーのものに似ているためモモンガ自身も少し高揚してきた。

 

「あとは武器ですね。フィリアから聞いたのでグレートソードにしておきました」

 

その言葉に気持ちを落ち着けて姿見から視線を戻すとザッハークが鞘に納められた二本のグレートソードを差し出してくる。

黒の鞘には白の蛇が互いに絡み合うような意匠の紋様が描かれ、抜いてみると白銀の刀身に(つば)の辺りには蒼の宝玉がはめこまれている。

眼鏡の効果の一つ『鑑定』によると神器級アイテムであり、切れ味とクリティカル性能に特化した物のようだ。

モモンガがグレートソードを鞘に戻したところでザッハークが口を開く。

 

「次はお供の紹介といきたいところですが、その前に説明をしておきましょうか」

 

「説明ですか?」

 

「ええ、多分モモンガさんにはショッキングだと思うので。見るのが嫌になったりなどがあれば早めに言ってくださいね?」

 

ザッハークの言葉に嫌な予感しかしないが、わかりました、と頷く。それを聞いたザッハークはデスクの方まで行き、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)を持ってきて起動する。

モモンガが慣れた手つきで操作していくザッハークに感心している間に目当ての場所を映せたようで、鏡の前から横に移動する。

そこに映し出されていたのは村と思しき場所だった。だが、どうにも騒がしい。

 

「祭りか……?」

 

「まぁ、賑やかな催しという点で言えば祭りですね。|血腥〈ちなまぐさ〉いですが」

 

思わず口からこぼれた言葉にザッハークが真面目に返してくる。しかし、今のモモンガにはそれに反応せず映し出される光景に目が離せない。

その光景は悲惨だった。

武装した騎士が村人達を村の中央へと追い立てて切り殺し、家を焼き払っていく。しかしモモンガはそれに何も感じない。まるで足元で蟻が争っているような感覚、血が飛び散ろうと動揺も何も無い。

アンデッドとなったことで肉体に精神が引っ張られているのだろうか、なんて考察する余裕があるほどだ。

そのことに自分という存在が変わっていくような恐怖を感じていると、ザッハークのどうやら大丈夫そうですね、という声が聞こえる。

 

「とりあえず見ての通りです。冒険者になる前に村を救ってもらいます」

 

モモンガはその言葉に少し驚きを覚えるが、ザッハークは表情を変えず続ける。

 

「パーティメンバーの紹介があるので、次の村になりますね。この騎士達を王国戦士長のガゼフという者が追っているので、繋がりを持っておけば冒険者として早く昇格出来るかと。騎士達はLv10にも満たない程度の雑兵なので心配はありません」

 

分かりましたか?、という問いにモモンガはええ、と返す。その返答にザッハークは満足そうに頷き、では次ですね、と言って扉の方へ向き直る。

 

「入って来い」

 

ザッハークの言葉にかしこまりました、と鈴の音のような返答の後、失礼いたします、という声がして扉がそっと開かれる。

入って来たのは怜悧な美女──フィリアだったが、その姿は普段と違った。

氷の花のような美貌は変わりないが、純銀そのもののような銀髪は艶めく黒に染まっており、その服装は普段のメイド服ではなく簡素な服装だった。そう、まるで冒険者のような。

そう考えて、フィリアが自分の供だと理解する。しかし、疑問にも思う。

モモンガの知るザッハークは非常に用心深い。十中八九では安心せず、石橋どころか鉄橋ですら叩きまくって渡るようなタイプなのに、メイドとしての職業も取っているため純粋な魔法戦士と比べて戦闘力の落ちるフィリアだけを供に選ぶだろうか。

それにフィリアの髪に関してもだ。モモンガの知る限り、ザッハークは作り終わったものを完成したとして変えることを是としなかった。

モモンガはその二つの疑問をザッハークに伝える。

 

「ああ、当然他にもう一体いますよ。体が大きくてこの部屋に入れないので、私達が(おもむ)きます。フィリアの髪はこの世界では南方という場所が神秘的に見られてるので装備について誤魔化しが効くんです。例えるなら黄金の国ジパングや暗黒大陸ですね。そしてその南方の出身者は黒髪が特徴だそうです。」

 

モモンガはその言葉に納得するとともに、他の供が誰かを察する。用心深いザッハークさんらしい選択だ、などと考えていると、では、お供の紹介といきますか、とザッハークが言う。

 

「フィリア、冒険者としての設定は覚えているな?モモンガさんに説明を頼む」

 

「かしこまりました」

 

フィリアはザッハークに普段通りの綺麗な一礼をして、モモンガへと向き直る。

 

「冒険者としての私の名前はシャーナ。表向きは第三位階まで、実際は第五位階まで使用可能な魔法詠唱者(マジックキャスター)で、モモンとは同郷の(えにし)による知り合いとなっております」

 

フィリアの淀みない説明を頭にしっかり刻みつける。正直言うと、知恵者の一人であるフィリアがお供となると支配者ロールが見破られてしまいそうで別の者が良かったと思わなくもないのだが、ザッハークに任せたのはモモンガ自身なのだ、文句は言わない。

 

「よく覚えていたな。四日ほど前に一度言っただけだったというのに」

 

「この程度、賞賛を賜わるほどではございません。ザッハーク様より"完璧たれ"と創造された私がこれしきの事を覚えられぬなど、この命をもってしても(あがな)えぬ失態でございます」

 

訂正、これほどの忠誠を持つ知恵者と過ごすということに少し文句を言いたくなった。しかし、口には出さずに小さいため息に留めてザッハーク達と共に第六階層『ラビリンス』へと転移するモモンガだった。

 

 

 

▪️▪️▪️▪️▪️

 

 

 

第六階層『ラビリンス』

 

第六階層と第七階層を繋いでいる、雰囲気を出すための幽霊(ゴースト)系モンスターやひと昔前の映画に出てくるようなトラップが置かれた巨大迷宮だ。

そんなラビリンスに転移したモモンガ達を出迎えたのはラビリンスの主である三つ首の黒竜アジ・ダハーカだった。

転移早々5mはある竜の出迎えは中々に強烈でモモンガは思わず声をあげそうになったが堪え、ザッハークに問いかける。

 

「アジ・ダハーカが私のもう一人、というか一体のパーティメンバーということですね?」

 

形こそ問いかけだがほぼ確信しているそれにザッハークは頷く。

 

「その通りです。テイムしたモンスターという扱いですが」

 

「グルル」

 

「そうか。よろしく頼む」

 

ザッハークから渡されたソロモンの指輪によって理解したアジ・ダハーカの言葉に返す。

アジ・ダハーカには鞍や手綱の他、よく見ると鱗が黒いため分かりづらいが、テイムしたことを示すためだろう黒い首輪がその三つ首につけられていた。

モモンガとアジ・ダハーカの簡単な挨拶が終わるとザッハークが無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァサック)遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)をアイテムボックスから取り出して鏡を地面に置き、袋をモモンガへと渡す。

 

「とりあえずこれも持っておいてください。魔封じの水晶を初めとして色々入れておいたので。」

 

「ああ、ありがとうございます。……ところで、魔封じの水晶には何を?」

 

ありがたく受け取るモモンガだが、今までのザッハークの行動から何となく嫌な予感がしたため聞いておく。

その嫌な予感は出来れば外れてほしかったが、やはり世の中はそう甘くなかった。

 

「そうですね。余り多くても困るので〈夢の棺(ドリーム・コフィン)〉に〈絶対零度(アブソリュート・ゼロ)〉、〈圧縮(コンプレッション)〉の三つです。それと、しっかりアンデッドでも回復出来るアイテムも入れてあります」

 

「ああ………」

 

魔封じの水晶に込めた魔法を聞いたモモンガは突っ込む気力も無くす。どう考えてもやりすぎだ。

今挙げられた三つの魔法はザッハークが取得している隠し職業の一つ〈グランドマジックキャスター〉の職業レベルを最大まで上げることで解禁される位階魔法と超位魔法の中間に位置する冠位魔法。その中でも特に強力な即死系だ。

もはやモモンガは突っ込む気など微塵も起きずため息──無論、形だけだ──を吐いて無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァサック)をアイテムボックスに仕舞う。

 

(ああ、これがヘロヘロさんが言っていた諦めの境地か………)

 

モモンガがかつての仲間の言葉を思い出しているとザッハークとアジ・ダハーカの声が聞こえてくる。

 

「転移する場所は………ふむ、そうだな。この辺りだ。分かったな?」

 

「グルル」

 

「よし。では門を開け」

 

何故ソロモンの指輪も無いのにアジ・ダハーカの言葉が分かるのか不思議に思いながらも、聞こえてきた声にザッハークの方を向くと鏡の中央左、森林に見える辺りを指差していた。

覗き込んでみるとどうやら村の外のようで姉妹と思われる二人を騎士が追いかけていた。見る限り速さを上げる術でも無ければ10秒もせず追いつかれるだろう。

モモンガがかつての自分ではありえないほど冷静に分析していると鏡の横に〈転移門(ゲート)〉が開かれる。。

 

「では、行ってきてください、モモンガさん。その〈転移門(ゲート)〉はそれに映ってる森林に繋がってるので」

 

「わかりました」

 

モモンガは力強く頷いて〈転移門(ゲート)〉に歩み寄る。

色々とお膳立てはされたものの、やはり未知となると心が躍る。この世界はレベルは低いがモモンガの知らないことばかりだ。

待ち受ける未知に期待を抱きながらモモンガは〈転移門(ゲート)をくぐった。

 

 

 

▪️▪️▪️▪️▪️

 

 

 

モモンガに続いてフィリアとアジ・ダハーカがくぐり〈転移門(ゲート)〉が閉じる。

二人と一匹を見送ったザッハークは大事なことを忘れていたことに思い至る。

 

「………ふむ。モモンガさんが冒険者になること一部の者にしか伝えてなかったな」

 

それに思い至ったザッハークは、既にモモンガさんが出発した以上自分が伝えなければならないだろう、と結論づけアルベドに〈伝言(メッセージ)〉を送るのだった。

 




フィリアの冒険者としての名前「シャーナ」はザッハークの出典元であるイランの叙事詩「シャー・ナーメ」からです。
どうせならカルネ村まで行きたかったけど、そうしたら長くなるからやめておきます。
息抜き作品を書いたら何かそっちの方が評価高いっぽくて複雑な気分。
とりあえずオリキャラ二人目とオリ魔法の設定です。

名前:カーミラ・エルジェーベト 【Carmilla・Erzsébet】
異形種
異名:鮮血の城主
属性:邪悪(カルマ値:−400)
役職:ナザリック地下大墳墓領域守護者
住居:ナザリック地下大墳墓第一〜第三階層鮮血城チェイテ
身長:192cm
種族
吸血鬼(ヴァンパイア)──Lv10
真祖(トゥルーヴァンパイア)──Lv10
始祖(オリジンヴァンパイア)──Lv5
職業
モンク──Lv10
ブオウ──Lv10
ベルセルク──Lv5、など

種族レベル25+職業レベル75=100

ザッハークが製作したNPC二号。容姿は金髪緋眼の長身爆乳美女、設定を誇り高い貴族としてキャラメイクされており、領地経営など特定分野ではナザリックの知恵者にも匹敵する。
名前の由来は女吸血鬼カーミラとハンガリーの血の伯爵夫人エリザベート・バートリー(バートリ・エルジェーベト)
カルマ値や名前の由来が示す通り、人間に対しての見方は用途の多い家畜程度。
職業はモンク系統だが、戦士系のベルセルクも取得しているため、鎧の装備が可能。近接戦闘に限ればザッハークが製作したNPCの中でもドレイクに並び最強を誇る。

『鮮血城チェイテ』
カーミラの守護領域。ナザリックの第一階層から第三階層まで続いており、守護領域最大の規模を誇る。
内部は課金による通常のものより強力な猛毒と負属性のエリアエフェクトが展開されている上、隠し通路やダミー通路、主に転移系のトラップに加え配置されたアンデッドは嫌がらせと時間稼ぎに重点を置いている鬼畜仕様。
ちなみにカーミラはチェイテ内のギミックや通路を全て把握している。

夢の棺(ドリーム・コフィン)
判定が失敗した対象に一定時間あらゆる行動が出来なくなる「忘我」のバッドステータスを与える。アンデッドにも効くが、機械系やゴーレムなど人造物には無効化される。
絶対零度(アブソリュート・ゼロ)
即死耐性を無視する冷気系の即死魔法。冷気に対する完全耐性が無いと判定失敗で即死、成功しても大ダメージ、素早さ低下、「忘我」と同じバッドステータス「凍結」を与える。
圧縮(コンプレッション)
即死耐性を無視する物理系の即死魔法。防御力が一定以下だと判定無しで問答無用で即死。物理無効の相手(非実体系等)には無効化される。

意見、感想、誤字脱字の指摘などお待ちしております。
特に現在どのぐらいの文字数が良いか模索中なので、それに関する意見を。


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4話 カルネ村と王国戦士長

遅れまして大変申し訳ありません。活動報告にて明日投稿すると書いたにもかかわらず遅れてしまい、お恥ずかしい限りです。
テスト期間や短編の続き等で執筆が進みませんでした。一番の理由はダルいからなのですが。昔からどうもやる気を出すのが苦手なんです。

投稿が遅くなったことにしか関係ないですが、FGO始めました。
現在剣豪です。気付けば随分と進みましたね。いつの間にかスカサハ師匠が絆Maxになっていましたし。やはり福袋とはいえ初めて当てた星5なので思い入れが強いサーヴァントですからね。聖杯も捧げました。

それとプロローグでザッハークの容姿をFateのソロモンと書きましたが、正確には後ろ髪が短くなっています。
プロローグを書いた時にはfgoを始めておらずソロモンの後ろ髪が長かったのに気づかなかったのが原因です。

それはさておき、皆さん良いお年を。


転移門(ゲート)〉を抜けた先では妹と思われる幼女を抱きしめて庇う姉と思われる少女に向かって騎士が剣を振り下ろそうとしていた。

現在モモンガがいるのは森の中、少女達の右手後方だ。既に剣は振り下ろされており、普通なら全力で走ったところで間に合うはずは無いが、

完全なる戦士(パーフェクト・ウォリアー)〉により100Lvの戦士となっているモモンガからすればあくびが出るほど遅い。

モモンガは木々の間をすり抜け、一瞬で騎士と少女の間に入り込んで振り下ろされる剣をグレートソードで受け止める。

 

「──ぇ?」

 

そして思わず声が溢れた。グレートソードで受け止めた剣はそのまま受け止められた部分から斬れたのだ。

剣が斬れたことでバランスを崩し、勢いそのまま向かってくる騎士をコキュートスやドレイクとの訓練の経験から反射的に斬り捨てる。

手応えを感じさせず騎士は鎧ごと上半身と下半身に分かたれ、下半身はその場に倒れるが、上半身はモモンガの胸にぶつかり落ちる。

確かにザッハークはLv10にも満たないと言っていたし、眼鏡の効果により実際に確認していた。しかし、実際に剣を受け止めてみれば想像以上に弱かった。

モモンガも自分よりレベルが圧倒的に低い相手と戦ったことはあるが、大抵は30〜40Lvほどのダンジョンのモンスターで、90以上の差がある相手との戦いの経験はほぼ無かったのだ。

騎士を斬り捨てたモモンガはグレートソードを握った自分の手を見る。斬れ味の良さにより感触は感じなかったが、目の前に自分が斬った騎士の死体があるというにも関わらず嫌悪感や罪悪感の類いを一切感じない。

自分が人間をやめたということを改めて実感する。

不意に、鎧を着て歩く際のカチャカチャという音が聞こえて顔を上げる。

視線の先には先ほどの音の主と思われる騎士がおり、モモンガを見て慌てて村の方へと走り出そうとする。

 

「ふっ!」

 

しかし、モモンガが一瞬で斬り捨てる。騎士は声を上げることすら出来ず左肩から袈裟斬りにされて倒れる。

他に騎士がいないか辺りを見回してもうこの場にはいないことを確認したモモンガは少女達に向き直り、声をかける。

 

「さて、大丈夫だったか? 」

 

「え? あ、は、はい! ──っ!」

 

モモンガの問いに慌てて答えた少女の顔が歪む。逃げている最中に騎士に斬られた傷が痛むのだろう。

ポーションでも使えば治るのだろうが、この世界ではユグドラシルの赤いポーションではなく、青いポーションが使われているため使ってしまえば悪目立ちしてしまう。

となると、もう一つの手段を使うため少女の後ろの方へと顔を向ける。

モモンガにつられてそちらを向いた少女達がひっ!と引きつった悲鳴を上げる。何故なら視線の先に居たのはフィリアとアジ・ダハーカなのだ。

絶世の美女であるフィリアは別だが、アジ・ダハーカは5mはある三つ首の黒竜だ、無理もないだろう。

モモンガは少女達に自分の仲間とテイムしたモンスターであることを伝える。それを聞いた少女達は恐怖が少しは薄れたようで、全身から力が抜ける。

それを確認したモモンガがアジ・ダハーカへ呼び掛けるとアジ・ダハーカが二人へと歩み寄り両手をかざす。

少女達には一瞬びくりとしたが、優しい緑の光に包まれ驚きの表情を浮かべる。

 

「傷が………」

 

斬られた傷が綺麗に無くなった事に少女は驚いた様子を見せる。何故かは知らないがユグドラシルと同じ魔法があるこの世界でこの反応ということは、少女が育ってきた環境では魔法が使われることは無かった、あるいは少なかったのだろう。

この分だとザッハークからの情報にあった第三位階で一流というのも現実味を帯びてくる。

 

「もう傷はないようだな」

 

「は、はい。ありがとうございます」

 

ポカンと呆けた表情で少女がアジ・ダハーカが怖いのかモモンガに礼を言う。モモンガはそれに気にするな、と軽く返し、村の方へ歩き出す。

 

「あの!──助けてくださって、ありがとうございます!」

 

「ありがとうございます!」

 

涙の混じった少女達の感謝の声。モモンガは再び気にするな、と短い返答をする。

 

「あ、あの。お名前はなんとおっしゃるのですか?」

 

その問いにモモンガは事前に決めていた名を名乗る。

 

「私はモモン。旅の者だ」

 

モモンガの偽名を聞いた少女は必死さをにじませ、懇願した。

 

「あ、あの、図々しいとは思います!ですが、どうかお父さんとお母さんを助けて下さい!お願いします!」

 

「お願いします!」

 

少女の懇願に幼女も続く。モモンガはその懇願に短く返す。

 

「ああ、生きていれば助けよう」

 

言外に死んでいればそれまでだ、と伝えるが、少女達はありがとうございます!と再び頭を下げた。

 

「とりあえず、二人だけでは危険だろう。アジ・ダハーカ」

 

モモンガの呼びかけに意図を察したアジ・ダハーカはグルル、と返事をしてスキルを発動する。

すると、アジ・ダハーカの左の首が抜け出るように双頭竜と首が一つの普通の竜へと分裂する。

分裂状態ではアジ・ダハーカが使える魔力系、信仰系、森司祭系の三種類の魔法が分割されたり、スキルの効果が低下したり等のデメリットもあるがステータスは変わらないのだ。

 

「行くぞ。シャーナ、アジ・ダハーカ」

 

モモンガは分裂したアジ・ダハーカに少女達を守って村まで連れて行くように言い、フィリアと双頭アジ・ダハーカに呼びかける。

その呼びかけにフィリアははい、双頭アジ・ダハーカはグルル(意訳:了解)と返答する。

そしてモモンガはフィリアと双頭アジ・ダハーカを連れて村の方へと駆けだした。

 

 

 

▪️▪️▪️▪️▪️

 

 

 

村へ到着してからは流れ作業だった。まず、村の外に居た騎士を気絶させてアジ・ダハーカの魔法で捕縛したら村の中へ突入し、中央に集まって居た騎士達をやはり気絶させて捕縛する。

そして騎士を捕縛し終わると怯えを乗せた表情の村人達へモモンという名前、旅の者だということ、騎士達の所業を見過ごせず助けに来たことを伝える。

すると一人の男性が歩み出て来て村長だと名乗る。そしてモモンガ達はその村長の男性に誘われ、村長宅へと向かった。

村長宅に着いたモモンガは双頭アジ・ダハーカに家の外で待つように言い、お邪魔する。

モモンガとフィリアに椅子をすすめて村長も座り、その後ろに白湯を用意しようとしてモモンガに「お気遣いなく」と言われた村長夫人が立つ。

フィリアは主人の隣に座るということに躊躇したのか一瞬止まるが、大人しく座る。

 

「まず、この村を救っていただいたこと、大変感謝いたします。何とお礼を言ったら良いか……」

 

村長がそう言って頭を下げ、夫人もそれに続く。モモンガはヒラヒラと手を振り口を開く。

 

「いえ、お気になさらず。先程も言いましたが、私はたまたま通りがかっただけですので」

 

「それでも、貴方様が居なかったらこの村は全滅していました」

 

そう言って村長は再び頭を下げる。そして頭を上げた村長の顔は不安に彩られていた。

 

「ところで、貴方様へのお礼なのですが………」

 

続く言葉にモモンガはそういうことか、と思い至る。先程の騎士達とは比べ物にならないような鎧に身を包み、更に村を救われたとなればそのお礼など用意出来ないかもしれないと考えたのだろう。

 

「お礼は要りません。『困っている人を助けるのは当たり前』ですから」

 

モモンガの言葉に村長夫妻の顔が明らかにホッとした様子へと変わるが、まだ不安は残っている。

人が良いのかもっと大変な要求をされるのではないかと怯えているかのどちらか─或いは両方─だろう。

その気持ちを察したモモンガはですが、と続ける。

 

「あなた達もそれでは不安でしょうから、そうですね……」

 

顔を彩る不安が強まった村長夫妻が唾を呑み込む。その様子にフィリアがピクリと柳眉(りゅうび)を動かすが、さすがは完璧な従者として作られたNPC、一瞬で滲んだ不快感を隠す。

 

「私は冒険者登録をしようとエ・ランテルへ向かっているのですが、私が冒険者と成り依頼でトブの大森林へ行く際に無料で宿を貸してもらう、というのでどうでしょう」

 

モモンガの提案に村長夫妻の顔が不安に代わり驚きに彩られる。

 

「そ、そんなことでよろしいのですか?」

 

「ええ、構いません」

 

モモンガの言葉に村長夫妻は安堵の表情を浮かべる。

 

「分かりました。貴方様が森へ行かれる時は精一杯おもてなしさせていただきます」

 

お礼に関する話が終わったところで、村人の埋葬に移る。ここで良い印象を持たせておきたいため、モモンガ達も手伝う。アジ・ダハーカが村人達に怯えや不安の視線を向けられたりしつつも、あらかた完了したところで村人が村長の元へ走り寄ってきた。

何やら相当慌てている様子で村長に話をしている村人を見てモモンガは村長へと近づき声をかける。

 

「どうかされましたか?」

 

「あ、モモン殿。実は───」

 

村長によると鎧に身を包んだ騎士達が馬に乗ってこの村へ向かってきているのだそうだ。

モモンガは申し訳なさと期待を滲ませた表情の村長へ安心させるよう声をかける。

 

「とりあえず出迎えた方が良いでしょう。村長さんは私と一緒に、他の皆は何処か一箇所に固まっていて下さい」

 

村長はモモンガの言葉に頷き、村人達へと指示を出して行く。

モモンガは先程の姉妹─エンリとネムというらしい─と共に戻ってきて元の三頭竜に戻ったアジ・ダハーカに固まった村人達を守るよう命じる。

村人達が倉庫に固まったのを確認してフィリアが倉庫へ魔法をかけ、アジ・ダハーカが姿を消して扉の前に陣取る。

モモンガ達は村長と共にやってくる騎馬隊を迎えるべく村の入り口へと移動する。

程なくして騎馬隊が村に到着して、その中から一人だけ抜きん出たレベルの男が歩み出る。

 

「私はリ・エスティーぜ王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフ。国王の命により、近隣の村を襲う帝国の騎士達を追っている」

 

「王国戦士長………」

 

男─ガゼフの言葉に村長が呆けたように呟く。するとガゼフが村長の方へと歩み寄る。

 

「村長だな?」

 

ガゼフの問いに村長は緊張した様子で(うやうや)しく頷く。

 

「隣の方々は誰なのか教えて貰いたい」

 

ガゼフの言葉に屈強な体躯や王国戦士長という立場から威圧感を感じたのか村長は逡巡を見せる。

それを見たモモンガはガゼフへ一歩歩み出る。

 

「それには及びません。私はモモン、旅の者です。こちらが──」

 

と、モモンガが手でフィリアの方を示すとフィリアがモモンガの少し後ろまで歩み出る。

 

「モモンさんと共に旅をしているシャーナと申します」

 

そう言ってフィリアは綺麗な一礼をする。

 

「旅の途中でこの村が襲われているところに遭遇し、見過ごせずに助けに入りました。捕縛した騎士達はあちらの方に」

 

モモンガはそう言って村の中央の方を指し示す。

ガゼフはなるほど、と頷いたと思うと唐突に馬から降り佇まいを正して頭を下げた。

 

「モモン殿、シャーナ殿。この村を助けていただいたこと、本当に感謝する」

 

ガゼフの行動に村長が驚いた顔をする。モモンガとフィリアは既にガゼフの人柄を知らされていたため驚きは無いが、村長の反応を見るにこの世界の位の高い人物としてはありえない行動なのだろう。

 

「いえ、お気になさらず。『困っている人を助けるのは当たり前』ですから」

 

モモンガの言葉に何やら驚いたような様子を見せたガゼフだったが、直ぐに平常へと戻り頭を上げて口を開く。

 

「それでも、貴殿達がこの村を救ってくれたのは事実だ。……ところで、この村を襲った不埒な輩の話を聞きたいのだが、よろしいかな?」

 

 

 

▪️▪️▪️▪️▪️

 

 

 

「戦士長!付近に複数の人影!この村を囲う形で接近してきます。

 

その報告が来たのは村長の家で村を襲った騎士について話をしているところだった。

途中でアジ・ダハーカがガゼフ達の前で透明化を解除したことで一悶着あったりしたが、順調に進んでいったところで飛び込むようにガゼフの部下が来たことでモモンガ達は一旦話を中断し、確認に向かう。

 

「確かに居るな」

 

村を囲う人影に見つからないよう慎重に様子を伺ったガゼフが呟く。人影は囲う形を崩さずに向かってくる。

 

炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)ですか……」

 

「シャーナ殿、知っているのか?」

 

フィリアの言葉にガゼフが反応する。ガゼフの問いにフィリアがはい、と頷き説明する。

 

「あれは炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)。第三位階の信仰系魔法によって召喚されるモンスターです」

 

「なるほど……。それほどのマジックキャスターを揃えられるとなると………スレイン法国、それも六色聖典の奴らか……」

 

ガゼフが苦々しげに呟く。後半が小声なのは国家機密にあたる為だろう。第三位階など、モモンガのような高レベルプレイヤーからすれば基本的には選択肢に入ることなどほとんどない低級の魔法なので微妙な気持ちになるが、おくびにも出さず同意を示す。

 

「モモン殿、シャーナ殿。どうか、村人達をもう一度守ってもらえないだろうか? もちろん、相応の礼はしよう」

 

覚悟を決めた様子でガゼフが問いかけてくる。モモンガは村人達の葬儀の間などでザッハークに確認した計画を再度の確認の為に思い出しながら口を開く。

 

「それは構いませんが……ガゼフ殿はどうするつもりですか?」

 

モモンガの問いにガゼフの返答は「自分達が法国の注意を引き付けるから村人達を逃がしてほしい」というものだった。

モモンガはここまでザッハークの計画通りに進んでいることを確認しつつ、次に進めるためにガゼフの頼みを承諾する。

 

「分かりました。村人達は私が責任を持って守ります。ご安心を」

 

「そうか。これで後顧の憂いは無くなった。我々は前だけを見て進ませてもらおう」

 

ガゼフが決意を固めた顔になる。

行けば何人もの腕利きのマジックキャスターを相手にすることになるというのにその顔には恐れの”お”の字も無い。

モモンガはその有り様に尊敬と憧憬を抱く。まるであの純銀の聖騎士のようで……。

 

 

 

▪️▪️▪️▪️▪️

 

 

 

馬に乗ったガゼフは自分の部下達を見渡す。これから法国の六色聖典を相手にするというのにその顔は決意を固めていた。その顔を見てガゼフはせめて彼らだけは生かそう、と改めて覚悟を決める。

あの帝国の騎士達も恐らく法国の偽装だったのだろう。王国貴族を通して王国の至宝を纏わせず近隣の村々を襲うことでおびき出す。

王国戦士長とはいえ、たった一人の人間を殺すためにここまでするということがある種光栄にすら感じる。

このまま行けば間違いなく死ぬのだろうが、村人達は救われる。戦士長としての勘が、モモン達は自分より強いと断言するのだ。出来れば騎士達も守ってほしいが、最優先は村人達だ。

最後まで平民の自分を取り立ててくれた国王に仕えられなかったのは心残りだが、民を守ることが出来たのなら後悔は無い。

他にも王都の自宅に居る使用人夫婦等、色々と頭に浮かんでくるが、いつまでも感傷に浸っていては折角シャーナにかけてもらった魔法が切れてしまう。

それ故ガゼフは感傷を振り払い、自慢の部下達に向けて声を張り上げる。

 

「行くぞぉぉぉぉォォォ‼︎奴らの(はらわた)を、食い散らかしてやれぇぇぇぇェェ‼︎」

 

『おおおおぉぉぉぉォォォ‼︎』

 

雄叫びを上げ、ガゼフ隊は法国の包囲網へと突撃して行く。

 

 

 

▪️▪️▪️▪️▪️

 

 

 

「さて、そろそろ私も動くとするか」

 

そして、上空にて白翼を羽ばたかせ、様子を見ていた竜人も動き出す。

 




さて次回、ザッハークが何やら画策している中我らがニグンさんはどうなってしまうのか⁉︎
頑張れ、ニグンさん!人類の未来は君の手にかかっている!

そんな結果の分かりきった次回予告は置いといてオリキャラ設定です。

名前:サイゾウ・ミストハイド【Saizo Mist hide】
異形種
異名:テンプレートウルフ忍者
属性:中立(カルマ値:0)
役職:ナザリック地下大墳墓領域守護者
住居:ナザリック地下大墳墓第六階層忍者屋敷
身長:170cm
種族
人狼(ワーウルフ)──10Lv
職業
アサシン──10Lv
ニンジャ──10Lv
カシンコジ──10Lv、など

種族レベル10+職業レベル90=100

ザッハークが製作したNPC三号。忍者としてデザインされており、一人称が拙者のテンプレートな忍者キャラ。ただし語尾にござるはつかない。
容姿は青に近い紺の忍び装束に身を包んだ目つきの鋭いはねた紺髪の青年。口元をいわゆるカカシマスクで隠しているが端正と分かる顔立ち。
カルマ値0が示す通りフィリア同様主君の命なら善行も悪行も一切躊躇わない。
職業はアサシンやニンジャなど隠密と補助に特化しており、その分正面戦闘力は低い。
名前の由来は霧隠才蔵の名字を英訳しただけと非常に単純。
種族が人狼のため頭に狼の耳がある。「男のケモミミとか誰得だよ!」と主張するペロロンチーノ他数名と戦いになったとか。

忍者屋敷
第六階層にあるサイゾウの守護領域。ドレイクの守護領域とはアンフィテアトルムを挟んで反対側にある。
名前の通り内部はつり天井やどんでん返しなどのトラップが設置されている。
データ量はチェイテの方が上だが面積あたりで比べるとこちらが上。

意見、感想、誤字脱字の指摘などお待ちしております。


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5話 戦闘と暗躍

最近、まだ学生なのに抜け毛の目立つ作者です。
オーバーロードの2期が始まった……などと思っていたらもう終わってしまって時間の流れの早さを感じます。前回の投稿からもうすぐ、7ヶ月なんですねぇ……。更にはオーバーロード3期まで始まりましたし。

2期で番外席次の容姿を見て何か違うと感じたのは私だけじゃないはず。他は六腕の読み方とか。お前らろくわんじゃなかったの⁈

今回強めのアンチ要素が出てきます。ご注意を。


 ガゼフは雄叫びを挙げて馬を走らせる。生きて帰れないことなど理解して、しかし、その心中に恐怖など微塵も無い。頭にあるのは、ただ王国戦士長として村人達が逃げる時間を稼ぐこと、そして自慢の部下達を死なせないよう逃がすことのみ。それ以外の余計なことを考えながら戦える程器用では無い。

 スレイン法国の魔法詠唱者達へ突撃していきながらも包囲網を観察し薄いところ及び指揮官を見極める。そして見つけたのは頰に傷のある金髪の男。他の魔法詠唱者達が従える天使とは明らかに違う天使を従え、全体を見渡せる位置にいる。

 その姿を確認したガゼフは弓に矢をつがえ放つと、途中で不可視の何かがあるかのように勢いが弱まりながらもそれを貫き指揮官へと飛んで行く。

 それを見た指揮官は驚いたように目を見開くが、即座に躱す。

 

(魔法か!)

 

 そう判断したガゼフは即座に弓を捨て、剣を抜く。このまま弓で戦ったとしてもシャーナのおかげで魔法の防御は貫けるだろうが、当たらないのならば只の矢と変わらない。寧ろ防御を貫けるからといって弓に頼った結果剣にかけられた魔法が切れたとなれば、武技が使えるガゼフはともかく部下達はなす(すべ)が無くなってしまう。

 戦士達も同様に弓を捨てて剣を抜き、突撃する。

 すると、法国の魔法詠唱者がお返しとばかりにガゼフに魔法を使う。その瞬間、馬が小さく悲鳴を挙げ減速するが、疾走を止めることはない。

 その様子を見た魔法詠唱者達は効果が見込めないと判断したようで、代わりに形成されるのは天使の包囲網。

 ガゼフは心中で魔法をかけてくれたシャーナに感謝しつつも飛んできた天使を一刀のもとに斬り捨て勢いのまま突撃し、指揮官を目指す。しかし、敵も精鋭、即座に天使を再召喚し、ガゼフを囲むように配置しタイミングをずらして攻めてくる。

 絶妙な時間差攻撃だが、ガゼフとて伊達や酔狂で王国戦士長という役職に就いているわけではない。(かわ)し、捌き、受け、包囲を突破して斬り捨てる中、その進撃は止まらない。

 後ろでは部下の戦士達が事前にガゼフが言った通り二人一組でフォローし合い天使と戦っている。

 次第に乱戦となり、ガゼフは馬の背から前方へと跳躍し、そのまま自分を強化する武技を使用して相手の指揮官を目指し走り出す。

 

 

 

 

「ふむ、それなりにやるか」

 

 それを上空にてレイヴナントに借りた複数体の霊体系アンデッドを透明化させて侍らせ、白翼を羽ばたかせて俯瞰するザッハークが呟く。その表情は人形の如き無。ナザリックに居る時のザッハークを知るギルメン達が見れば、まず間違いなく瓜二つの別人だと判断するだろう程におおよそ人間味というものが見受けられないその顔は、しかし、ザッハークの素であった。

 飛行しているとはいえ高度は10mも無いというのに、その場にいる誰一人としてザッハークの存在に気付くことは無い。その訳はザッハークのスキルの一つにある。

 隠密系の最上位スキルであり、探知系の世界級アイテムや一部のフィールドエフェクト等の限られた手段以外ではどんなスキルや魔法であろうとも発見することの出来なくなるというそれは、気配隠匿状態で武器を装備したり魔法を行使しようとすると只の透明化となるが、無手で種族特性により飛行するザッハークを捉えるのはほぼ不可能と言っていい。

 ザッハークが結果の見えている場に態々(わざわざ)時間を割いているのは、"ある物"を待っているためだ。

 それは、可能性は高いが、100%とは言えない。だが、上手くやれば大きな利益となることは間違いない。今の所、来る様子は無いが今回の主目的であるスレイン法国の特殊部隊の捕縛は村の周りに残っていた者達を隠密能力に長けたモンスターによって終えており、後は金髪の指揮官──確かニグ何とかと呼ばれていた──が率いる本隊だけでやろうと思えば今すぐにでも出来る。実際今も戦場の周りに不可視のモンスター達がいるのだ。

 ザッハークが"ある物"を待ちつつ、ついでに目的の一つである王国戦士長の実力や武技というものを確認していると、不意に戦況が変動する。

 ガゼフと他の戦士達の強化魔法が切れたのだ。

 スレイン法国の魔法詠唱者達は、天使による物量で持久戦を展開、ガゼフ達は攻めきれず魔法が切れたその瞬間にガゼフを相手取る天使達はそのままに、攻勢に回った他の天使達によりたちまち戦士達は地に伏して地面を赤く染めていく。

 それとともにガゼフを相手取る天使が増えていき、魔法が叩き込まれていく。

 

「ガハッ!」

 

 そしてついにダメージが限界に来たようで、決して少なくない量の血液を吐き出し膝をつく。その眼は未だ燃え上がるような執念を宿しているガゼフだが、部下は全員倒れ伏し、自身は満身創痍で逆転の目など皆無に等しい。そこに追い打ちをかけるように指揮官の冷静な指示が放たれ、天使が迫る。

 状況は既に絶体絶命。ガゼフ・ストロノーフの死は最早抗えぬ結末だろう。

 

「なぁぁぁぁめぇぇぇるぅぅぅなぁぁぁぁ!!!」

 

 それでも、そんな不屈の意志を感じさせる雄叫びを挙げフラつきながらも立ち上がる。今にも倒れそうなほどに満身創痍ながら、圧倒的な意志力から放たれる迫力は陽光聖典の兵が思わず後ずさり、天使の動きを止める程。

 

「大した男だ。だが、貴様に何ができる。既に死に体ではないか」

 

 しかし、それでも敵の指揮官は動じない。そして指揮官の冷静な言葉によって落ち着きを取り戻した兵達により動きを取り戻した天使が迫る。

 

 

 

(……この程度か)

 

 迫る天使を瀕死の体で何とか斬り払っていくガゼフのことを、ザッハークは極寒の無表情で見下ろす。

 この光景はザッハークにとって予想の範疇を何ら外れるものではない。

 例え、カリスマに溢れ、高い政治能力を持つ優れた為政者やあらゆる敵を打ち倒す無双の豪傑が居たとしても、全てを救うことなど不可能なのだ。だからこそ、救うか救わないかの取捨選択をすべきであり、王国戦士長という国防の要は村の二つ三つなど切り捨ててでも生かすべき存在だ。

 無論、事は国の面目に関わる以上兵は出さなければならないだろうが、王国から見える部分で判断すれば、戦士長を動かす必要性は無い。

 だというのに、自分の価値を理解せず無謀にも死地に飛び込むなど、ザッハークからすれば合理を解さぬ阿保でしかなく───

 

「ごふっ!」

 

 だからこうなる。

 例え限界を超えて立ち上がろうと満身創痍であることには変わりなく、加えて相手は一人一人が精鋭で数もそれなりに多い。先ほどの焼き直しのようにガゼフは倒れ伏し、天使が迫る。

 しかし、その先まで同じとはいかない。突如天使達がほぼ同時に斬り伏せられて消滅する。

 

「遅くなったようで申し訳ない、ガゼフ殿」

 

 天使達を斬り伏せ、ガゼフの前に現れたのは純白の鎧を纏った騎士。沈む夕陽を照り返して光り輝くその姿はその場に立つ誰もに息を呑ませる。

 少し遅れて降り立つのは、双頭の黒竜を従え一切の光を呑み込む闇のような漆黒の艶髪を風に揺らした美女。

 城塞の如き静かな威圧感を放つ騎士、冷たくも凛々しい底知れぬ美女、その見た目だけで内に秘めた絶大な力が伺える異形の黒竜に魔法詠唱者達がたたらを踏むように数歩後ずさる。それは指揮官も同様で、余裕に満ちていた顔は冷や汗を流している。彼我の戦力差を判断できる能力は指揮官の必須条件の一つ。幸か不幸かで言うなら限りなく不幸に近い幸と言ったところか、この瞬間、彼はザッハークの目に極僅かなりとも留まることとなった。

 指揮官を僅かに目に留めたザッハークは考える。地上では既にガゼフはアジ・ダハーカとフィリアにより村まで運ばれ、僅かな間に天使は全滅、魔法詠唱者も幾人か意識を刈り取られている。このまま待っていたところで、望むものは来ない可能性が高いと判断したザッハークが帰還しようと転移門を開こうとしたところで、聞き逃せない声が耳朶(じだ)を打つ。

 

「時間を稼げ!最高位天使を召喚する!」

 

(最高位天使だと?)

 

 その言葉を聞いて浮かぶのは熾天使(セラフ)級天使。指揮官が呼び出すのであれば、レベルと従えていた天使から大したことは無いと捨て置いたのだが、魔封じの水晶となれば話は別だ。もし召喚された天使が至高天の熾天使(セラフ・ジ・エンピリアン)などであれば、アンデッドのモモンガ単独では(いささ)か分が悪い。

 いざという時は介入する為にザッハークは高度を落とし、そして召喚された存在に言葉を失った。

 

威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)……だと…?」

 

 ザッハークの思いを代弁するモモンガの言葉を畏れと取ったようで、余裕を取り戻した指揮官が自分達の有利を誇示するかのように高らかに告げる。

 

「ほう、知っていたか! その通りだ。誇るがいい、貴様は最高位天使を出すに値すると判断した! 本来であれば貴様のような強き戦士は我らが同胞として迎え入れたいところだが、許せ。今回はそういう訳にはいかん。だが、私は覚えておくぞ、モモンという偉大なる戦士の名を」

 

 そう言い放ち、天使に攻撃を命じる。しかし、その余裕の表情は一瞬にして反転することとなる。

 

「下らん」

 

 モモンガの一刀で威光の主天使が消滅したことによって。

 

「バ……バカな……」

 

 正に絶句。零れ落ちた否定の言葉はしかし、現実を示すかのような冷たい風に散らされ、虚しく消え去る。同時に沈み行く太陽は、薄闇に覆われた空の闇色を強めていく。

 瞬きも忘れて目を充血するほど見開く指揮官のみならず、顔を隠した部下さえも雰囲気だけで分かるほどに驚嘆とそれ以上の絶望に支配されていた。

 

「ッ! 総員撤退!」

 

 何とか我に返った指揮官が部下へと指示を出しながら、懐から取り出した手の平サイズの球体を地面に叩きつけ、少し遅れて部下達が追従する。

 地面に叩きつけられた球体は破裂し、煙幕を作り出す。その煙幕は魔法でも使われているのか、その場に壁のように留まり姿を覆い隠し、その隙にスレイン法国の部隊は迅速に撤退していく。

 

(帰るか。今回は無駄足だったようだな)

 

 その一部始終を見ていたザッハークは冷静にそう判断を下す。結果的にはプラスであったが、無駄になった時間の分、マイナスも大きい。観戦に費やした無駄な時間を使えば、一体どれほど仕事が進んだだろうか。

 無表情のままに僅かな溜息を一つこぼしながらも周辺に潜ませていた魔物に捕縛を命じて、帰った後の仕事について思考を一瞬で切り替え、ザッハークは転移門を開く。

 と、その瞬間──

 

「む、来たか」

 

 “それ”が飛んできた方へと振り返り、僅かに喜色と驚きを帯びた声音でポツリと呟く。

 ザッハークが待っていた“それ”はスレイン法国からの監視魔法。数の少ない特殊部隊であれば、裏切りや未知の脅威による全滅の可能性を考えてその程度の備えはあるだろう、という考えからモモンガに対監視魔法用の攻勢防壁を解除してもらい、監視魔法の範囲内で待ち続けていた。常時ではないという不合理さに対して瞬間的に頭によぎる考察を横に置き、口元に(かす)かな弧を描いたザッハークはスキルを発動する。

 発動したスキルの効果は格下の行使した魔法の支配。とは言っても、それはあくまでフレーバーテキストであり、ユグドラシルでは相手が魔法を行使してから、いくつかあるコマンドを選択して効果を発揮するという使いづらいスキルだった。

 しかし、この世界へと転移してから効果が変わっているスキルがいくつかあり、このスキルもその一つ。つまり、行使した者が格下であれば、問答無用で支配出来るのだ。

 即座に支配した魔法を使って行使した相手を逆に覗き見る。

 その先は屋根の無い神殿らしき場所。そこにいる人物は見たところ全員女性であり、中央に最早裸と大して変わらないような薄衣に身を包んだ少女、その少女の周りに神官らしき人物が複数に、他の者より位が高いと見える老婆が一人。そして、最も多い神秘さを損なわないような意匠の鎧を身につけている衛兵と思われる女性達。

 微動だにしない中央の少女を除き、何やら狼狽した様子なのは魔法が発動していないためだろう。

 その様子を確認したザッハークは転移門を開き、様子見として連れていた霊体系アンデッドを三体送る。

 衛兵の女性達は突如空間に開いた不気味な闇のような穴に警戒態勢に入り、そこから現れたアンデッドへと斬りかかる。しかし全く効果がなく、スキルにより次々と麻痺状態にされてザッハークが援軍を送ろうか、と考えることも無く全滅した。

 

「………冗談だろう?」

 

 思わずそんな呟きが口から滑り落ちる。送ったアンデッドは、厄介なスキルこそ持つものの、プレアデスで最もレベルが低いシズでも倒せる程度の、連れていた中で最弱のモンスターだ。だというのに手も足も出ずに全滅とは、想定より二段階ほど下回った。

 思わず天を仰ぎ、しかし直後に切り替えてアンデッドを引き連れて転移門をくぐる。

 その先で、偽装でもなんでもなく本当に全滅している惨状を目の当たりにしてため息を吐き、アンデッド達に人員及びアイテムの回収を命じる。命令を受けて神殿に存在するものを騒霊(ポルターガイスト)種のスキルを使用して新たにナザリック近くに開けた転移門へと根こそぎ運び終えたことを確認したザッハークは魔法を一つ行使する。

 発動したのは《爆裂(エクスプロージョン)》。パッシブスキルにより無詠唱化と三重最強化が付与されているそれは、原型も残さず神殿を吹き飛ばす。直後にスキル《中位眷属創造》を行使して作り出された眷属の黒竜にスキルにより、ワールド系職業、又はアイテムを所持していない、レベルが下の相手からの攻撃の無効化をはじめとする他幾つかの隠し職業に就くことで手に入る耐性を付与し、魔法で視覚と聴覚を共有する。

 

「死ぬまで暴れろ」

 

端的な指示に咆哮で応え、黒竜が駆動する。

 

「さて、貴様らの手の内、見せてもらうぞ」

 

 無感情な言葉を残し、ザッハークは指輪によりナザリックへと帰還した。




ウチのニグンさんは少し優秀になっています。原作ではあれでしたが、エリートですしこのぐらいは出来るかな、と。
次話は法国サイドからスタートです。
それではオリキャラの紹介をどうぞ。

名前:ドレイク【Drake】
異形種
異名:赤の武士(もののふ)
属性:中立(カルマ値:0)
役職ナザリック地下大墳墓領域守護者
住居:ナザリック地下大墳墓第六階層武家屋敷
身長:270cm
種族
竜人(ドラゴノイド)──Lv10
竜人の戦士(ドラゴノイド・ウォリアー)──Lv10
職業
サムライ──Lv10
ケンセイ──Lv10
ソードマスター──Lv5、など

種族レベル20+職業レベル80=100

ザッハークが制作したNPC4号。忍者のサイゾウに対し侍としてキャラメイクをされている。侍だが、サイゾウと同様に語尾にござるはつかない上、一人称は『俺』である。
カルマ値0は他の従者系NPCと同じ理由。侍ではあるが、創造主の価値観から“現実の侍”としてキャラメイクをされているため、一騎打ちも好むが、奇襲、奸計、多対一等も勝利の為に容認出来る。
容姿は2mを超える赤い鱗の竜人。プロット的には登場予定の無い人間態は目付きの鋭い大柄で野生的なイケメン。
職業は戦士系で統一されており、近接戦闘はカーミラと並びザッハークが作成したNPC最強。

武家屋敷
第六階層にあるドレイクの守護領域。サイゾウの守護領域である忍者屋敷とはアンフィテアトルムを挟んで反対側に位置する。
内部は忍者屋敷とは違いトラップの類いはあまり無いが、複数人では戦い辛い上に射線を通しづらい構造で、戦士系の高レベルモンスターが複数体うろついている。

意見、感想、誤字脱字の報告等心からお待ちしております。


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6話 法国と報告

fgoのガチャ、どうしましょうか。英雄王もミドキャスも欲しい。でも爆死のトラウマが………。


 スレイン法国は混乱の最中へと叩き込まれていた。

 始まりは土の神殿から起こった大爆発。轟音が響き、荒れ狂う熱と衝撃波が神殿のみにとどまらず周囲数十メートルを更地へと変貌させた。

その直後、濛々(もうもう)と立ち込める黒煙を吹き飛ばす咆哮を轟かせて現れたのは漆黒の竜。

 全長はおよそ二十メートル。翼や鱗は見当たらず、闇の塊のような光沢の無い漆黒の体躯に爛々と不吉な赤い双眸が輝くその黒竜は一切の異能を使わずに、強靭な四肢や短剣の刃と見紛うほど鋭利な牙の覗く顎門、体躯の三分の一を占める尾を用いた原始的な暴力による蹂躙を開始した。

 

 

◾️◾️◾️◾️◾️

 

 

「まずは、民の保護を優先しろ!火滅聖典は漆黒聖典の準備が整うまで黒竜を抑えよ!」

 

 六色聖典のまとめ役である土の神官長レイモン・ザーグ・ローランサンの声が響く。何の前触れも無く、突如爆発と共に現れた黒竜へ対処すべく声を張り上げて指示を出す。

 叡者の額冠を奪って逃走した裏切り者の捜索と王国への工作によって、六色聖典の内二つが不在という状況の中に出現した脅威は短時間で周囲を瓦礫の山へと変えていた。

 黒竜が現れた土の神殿は一般市民の居住地域とは離れた場所に建てられているが、雷鳴のごとく轟く咆哮だけでもパニックに陥った市民の間で既に怪我人が続出している。その為、魔法で壁を創り出して神殿のあった区画を隔離し、神官を何人か説明と治療の為に市民の下へ派遣した。

 現在黒竜は火滅聖典にやって抑えられているが、魔法のかかった鎧さえ容易く破壊する力に第三位階魔法すら通じない頑強さによって、既に何人もの死亡者が発生している。もはや何時全滅してもおかしく無いほど逼迫(ひっぱく)した状況だ。

 

「ええい、漆黒聖典はまだなのか⁉︎」

 

 指示を出し終えて元漆黒聖典第三席次として火滅聖典の援護に入ったレイモンの口から思わずそんな悪態が溢れる。六大神が遺した装備は、普段厳重に保管されている為、漆黒聖典が装備を整えるには時間が必要なのだ。

 

「漆黒聖典、只今到着致しました!」

 

 と、その悪態を神が聞き届けたかのように救いの声が戦いの喧騒の中で耳に滑り込む。

 レイモンは再び声を張り上げて指示を飛ばす。

 

「我々は撤退だ!漆黒聖典へと交代しろ!」

 

 指示と共に黒竜へと最大限の攻撃魔法を放ち、足止めとする。火滅聖典も同じように離れたところで、第五席次“一人師団”クアイエッセ・ハゼイア・クインティアが呼び出した二体のギガントバジリスクに無数のクリムゾンオウルを使役して包囲する。完了するやいなや漆黒聖典第一席次が鎧に見合わぬ見すぼらしい槍でもって黒竜へと斬りかかる。

 

「ハァッ!」

 

『GuuuuUUUUU !⁉︎』

 

 目で追えぬ神速の一撃を受けた黒竜が呻く。反撃に咆哮を響かせて火滅聖典の隊員を、纏う鎧の上から不揃いに輪切りにする程に鋭利な爪の生えた豪腕を振るう。しかし、その豪腕は虚しく空を切り、石畳を粉砕するに留まる。

 直後、二撃、三撃と続けて叩き込まれた槍のダメージに先程よりも大きな咆哮をあげる。

 

『GuoooOOOO!!!!』

 

「ぐぅっ!」

 

 苛立つように滅茶苦茶に振り回された両腕を躱して、一旦下がる。

 一見すれば第一席次が優勢であり、事実そうなのだが、状況は少々厳しいと言えるだろう。

 振るわれた腕が至近距離を通る度に体勢を崩しかねない程の風圧が発生する膂力に、宙を飛ぶクリムゾンオウルを回避を許さず数羽まとめて引き裂く巨体に反した速度。そして第一席次が最も厄介と捉えるのは、その防御力。

 今も、人類の限界を超えた第六位階魔法が複数直撃したというのに、その漆黒の体には傷一つ無い。さらに当然、モンスターらしい底無しの体力まで持ち合わせているとなれば、第一席次であっても長引けば(まず)い。倒せたとしても、漆黒聖典が何人か欠けることになるだろう。蘇生が可能であっても、今実力が下がるのは痛い。

 そこまで考えた第一席次は、念には念とこの戦場へ来ていたカイレに視線を向ける。意図を察したカイレが頷いて至宝を使う準備を始めたことを確認して、再び黒竜に攻撃を開始する。

 第一席次の攻撃により生じた隙をついて鎖が襲う。放ったのは第七席次“神領縛鎖”エドガール・ククフ・ボーマルシェ。意思を持つかのように蠢いて黒竜を縛り上げた鎖はしかし、常識外の膂力により儚い金属音を奏でて砕け散り、地面へぶち撒けられる。

 

『GuOOOOO !!』

 

 不気味に光る赤い眼球が鎖を放った下手人へ向けられる。その圧倒的な迫力と威圧感に思わず臆して後ずさるエドガールに黒竜が巨躯と尋常ならざる身体能力でもって僅か三歩で距離を詰め、巨大な顎門で食い千切らんと飛びかかる。

 

「くっ⁉︎」

 

 虚を突かれた第一席次が走り出すも既に遅く、クアイエッセがギガントバジリスクを差し向けるも容易くグロテスクなオブジェへと変えられる。

 手を伸ばせば届くほどの距離にまで近づいた黒竜に、せめて手傷でも、と短剣を構えたエドガールの前に一つの影が躍り出る。

 

「ヌゥゥッ!!」

 

 第ハ席次“巨盾万壁”セドランが異名の由来となった鏡のような大盾を構えて黒竜の突進に立ち塞がる。見開かれた眼球は真っ赤に充血し、屈強な腕には太い血管が浮かび上がる。凄まじいまでの衝撃に血を吐きながらも地面を踏み砕くほどに踏ん張るが、しかし黒竜相手では渾身の力を込めてさえ、今にも突破されてしまいそうなほど押し込まれていく。それでも、黒竜の動きを一時的でも止めることに成功した。

 

「カイレ様ァ!」

 

 第一席次が声を張り上げる。その声を受け、法国の至宝ケイ・セケ・コゥクの力が解放される。その力により、暴風の如く暴れまわった黒竜は沈黙して、凪へと落ち着いた。

 その様子に支配が成功したことを確認し、場に安堵の空気が流れる。

 

「……なんとも、恐ろしい相手であったな」

 

「はい。これほどの力の竜となると───」

 

「ああ、まず間違いなく破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)直属の配下といったところだろう」

 

 レイモンと第一席次が言葉を交わす。今回の黒竜は力こそ第一席次に及ばない様子だったが強力なモンスターということには変わりなく、討伐するまでに少なくない被害が出たことが予想される。本来破滅の竜王に使う予定だったケイ・セケ・コゥクをその配下に使うことになったが、支配された者が死ねば再び使うことが出来るため、それ自体は問題無い。

 しかし、竜王直属の配下を戦力として手に入れることが出来たことは僥倖だったが、その強さから竜王自身の力が相当なものだと分かり、二人は今後のことに頭を悩ませた。

 人類の為に弱味を人ならざる者達──特にエルフの王国や、竜王国を襲うビーストマン、そして竜王のいるアーグランド評議国──に悟らせる訳にはいかない。

 政治にも関わる神官長のレイモンは想像される激務に覚悟を決めるのだった。

 

 

◾️◾️◾️◾️◾️

 

 

「コレは……厄介なことになった」

 

 ナザリック地下大墳墓第九階層の一室。部屋の主の格を表すかのように煌びやかな装飾が実用性と調和したその部屋で、眷属と共有した視界を右眼で確認しつつ、残る左眼で上がってきた報告の記された書類を整理していたザッハークが起伏の無い平坦な声音でポツリと呟く。

 『漆黒聖典』というらしい部隊の中に混じっていた一人の老婆が力を行使した直後、眷属との繋がりが強制的に断たれた。ザッハークの知識においてそれが意味するところは、精神支配によって命令権が奪われたということ。

 ザッハークが眷属に付与した耐性には精神干渉無効があり、眷属自体も同じ耐性を持つ〈人造物(コンストラクト)〉だったというのにだ。

 そしてそれが出来るものをザッハークは一つだけ知っている。

 

世界級(ワールド)アイテムとは……な」

 

 ユグドラシルにおいて、世界(ワールド)の名を冠する存在は、総じて強大な力を持つ。

 その中の一つ、世界級アイテムの持つ完全耐性すら突破し、同じ世界級アイテムを持つか、世界王者(ワールドチャンピオン)のスキルをタイミングよく使わなければ抵抗すら許されないアイテムというカテゴリの頂点に座するほどの力の前には、精神干渉耐性など何の障害にもならない。

 更に、漆黒聖典の中で抜きん出た実力の男が持っていた見すぼらしい槍。

 モデルとなったものが一兵卒の所持品であるためか、見すぼらしい外見をしたその槍の名は聖者殺しの槍(ロンギヌス)。『二十』と呼ばれる特に強力な世界級アイテムの一つであるそれは、知名度の低かった初期のユグドラシルにおいて使用者と相手のゲームデータを共に消去するという、外見に反した凶悪な性能で数々の阿鼻叫喚を引き起こした武勇伝を持つ。その能力は理論上、そこらの村人Aがワールドチャンピオンを消し去ることさえ可能な上、消去された場合、復活はほぼ不可能というおまけ付きだ。

 ナザリックの現状として、デミウルゴス、アルベド、パンドラズ・アクターの三人を中心として回している。逆に言えば、この三人がいなくなるだけでナザリックは活動を大幅に抑制される。ザッハークも不眠不休で働けば三人分の働きを補うことは出来るが、能率の大幅な低下はどう足掻いても避けられない。

 もしもの場合に備えて外に出るNPCには世界級アイテムを持たせる必要が出てくるが、奪われる危険性を考慮に入れて高レベルに限られてくる。それらだけであればまだ良い。精神支配の方は不明だが、聖者殺しの槍(ロンギヌス)は一度使えば消滅する。ならば、替えが利く眷属を大量にけしかければ──確認した戦力で全てという前提ではあるが──問題無い。

しかも、ナザリック地下大墳墓はザッハークがサービス終了の知らせにより手放されたもの等を集めたことで六割の世界級アイテムを保有する。それ故、只()()()()()()()()()()()()()()であれば、ザッハークは厄介とは称しない。

 問題は世界級アイテムの存在と漆黒聖典のとても機能的には見えない外見をした装備から導き出される他プレイヤーの存在。

 漆黒聖典自体は間違いなくプレイヤーではない。使用した魔法が第六位階で、しかも通じなかったことに驚愕していたり、60Lvの中位眷属程度に槍の男以外ダメージが与えられなかったりと、レベルは低い。直に見た訳ではないとは言え、明らかに装備に対して所有者が釣り合っていない。

 プレイヤーの存在自体は、ユグドラシルのサービス終了時にログインしていたことで転移した以上その可能性は高いと踏んでいたが、実際に転移していたという証明が出てくれば、面倒にも程があると軽く嘆息してしまう。

 アインズ・ウール・ゴウンというギルドは敵が多い。

 鉱山の独占やPK(プレイヤーキル)等の行為によりDQNギルドと称され、1500人からなる討伐隊を組まれたことさえある。その討伐隊を退けたことで非公式ラスボスと呼称されるようになった為にナザリックへと攻めてくるような輩はいなくなったものの、未だ潜在的に反感を(いだ)いている者は数多い。

 ザッハークとてそれを承知しているからこそ、個人的に恨まれる要因を作らないよう常に気を払っていた。例えば、ザッハークが取得した七つの隠し職業。相当な性能を誇るそれらは、プログラマーであったザッハークが、ユグドラシルの制作に関わった際に余ったリソースを使って暇つぶしで入れて運営に採用されたという経緯を持つ。取得条件を隠して存在をネットで示唆し、暫く経っても発見されなかったために『早く見つけなければ私が取る』と焦らせた。

 結局、誰も見つけられなかった為に有言実行と自分で取得したザッハークだが、『見つけられなかった方が悪い』という理屈のみでは納得出来ないのが人間だと理解している為、隠し職業については最低限必要な物のみを条件は分からないが気づいたら取得していた、とギルメンに教えてそれ以外は誰にも明かさなかった上、能力を一部隠してもいた。

 しかしユグドラシルのサービス終了前の数日、手放される物以外の世界級アイテムを集める為に、所持しているプレイヤーを法には触れないが人に言えない方法で探して奪い取り、サービスが終了するまでの時間で取り戻せない程度にレベルダウンさせるということを何度となく行なっていた。もちろん通常時の鎧姿ではなく、魔法詠唱者の格好で行った為ナザリックとの関係は悟られていない筈だが、敵が出来たことには変わらない。

 他にも、転移したのはユグドラシルのプレイヤーに限るのか、漆黒聖典の装備やこの世界の伝承から導き出される転移時間のズレは何なのか、等と疑問は尽きないが、それらは一旦置いておく。

 まずは情報の共有を行うべき、と優先順位をまとめたザッハークは、右手首に巻いた腕時計に表示されている時間から、モモンガ達が既に村での騒動が終わって帰還していると判断し、《伝言(メッセージ)》を飛ばした。




漆黒聖典の描写の薄さは許してください。情報が殆ど出ていないので書けなかったんです。

レイヴナント【Ravenant】
異形種
異名:麗しき亡霊姫
属性:邪悪(カルマ値:−300)
役職:ナザリック地下大墳墓領域守護者
住居:ナザリック地下大墳墓第六階層亡霊の(やしろ)
身長:160cm(※膝から下が無く、浮いているため推定値)
種族
幽霊(ゴースト)───10Lv
騒霊(ポルターガイスト)───5Lv
悪霊(イビルゴースト)───5Lv、など
職業
フジュツシ───10Lv
フゲキシ───10Lv
天仙───5Lv、など

種族レベル30+職業レベル70=100

キャラクター設定
ゴースト系魔法詠唱者。精神系魔法の使い手。直接攻撃より搦め手が得意。
容姿は首から上と手以外肌の露出が無い巫女服に似たシルエットの和風ドレスを着用した20代ほどの美しい女性。黒髪を姫カットにしており、後ろ髪は膝下までの長さ。ゴーストなので膝から下が無く、半透明で浮遊状態。
名前の由来は幽霊という意味の言葉『レヴナント』。
清楚な見た目と丁寧な言葉遣いに反して悪霊のため、普通に邪悪。しかし、人間は道端のアリ程度の認識なので敵対しなければ危険度は低め。

『亡霊の社』
レイヴナントの守護領域。生温い霧に包まれた古びた神社の様相を呈している。ゴースト系のモンスターが配置されており、1500人侵攻の際はタブラと共に考えた演出で足を踏み入れた者にトラウマを与えた。

長くなるので切りましたが、次で一章のエピローグです。
感想や誤字報告お待ちしています。


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