弟はマのつく自由業、私はメのつく自由「いえいえ、王たる夫に永久就職です!!」 (紗代)
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神代編
プロローグ


初投稿の新参者です。拙いですがよろしくお願いします。


 私、渋谷祷(しぶや いのり)は今とても参っている。

「ここはどこだ―――――!!」

只今見覚えのない平原でぼっちの迷子である。

 そもそも私はこんな青々とした自然の中に迷いこむほど夢見てない。だってついさっきまで学校の屋上にいたのだから。

 人生初の呼び出しを受けたのだ。おそらく告白の。体育館裏とか笑えない、というかまずそんなことされる身に覚えがない。だからテンションもいつもより高く油断していたのだ。

「うわ、風強い――――――――わっ」

風の勢いが強すぎて身構える。けどそんな抵抗空しく私は端の手摺りまで追いやられ背中が手摺りの金属の触感に撫でられるのを感じる。と同時に足の感覚が、ない。

あ――――私、死ん、だ?

 

****

 

 そして現在。目が覚めるとそこは見知らぬ大地だったのです。信じられる?死後の世界がこんな原始的なところなんて。そして

「キュウ?」

子ライオンちゃんが無垢な目でこちらを見る。私が抱き上げて撫でてやると気持ちよさそうにすり寄ってきた。————どーしよ、これ。

ひょっとしたらとんでもないところにきてしまったのかもしれない。

「まあ、いっか」

深く考えることをやめてとりあえず散策。しばらく歩いているとライオンの群れに遭遇した。ひょっとしたらこの子の群れなのかもしれない。即刻返しに――――いや待てよ。目の前の連中には私は子を連れ去った密猟者に見えるのではなかろうか。

もしそうだとすれば・・・・アウト完全に死亡フラグで捕食されちゃうわ。

そうやってうんうん無い知恵絞っているうちに群れが私たちに気付いた。

あ、バッドエンドですねわかります。

しかし、ざっくりとかばっさりとかそんな効果音はいつまでたってもこない。何故だと目を開けると至近距離にライオンの顔。ひえええええええええ。そうか、まだ準備中だったのか。死んだのに死後の世界でまた死ぬとか。ナニコレ。私、どうなるの?よくある魂が傷付いて消滅しちゃう系なの?何それ怖い。

とか思っていると顔を舐められた。え?

それでみんなすり寄ってくる。あれ?なんか助かったの?

そして気が付く。私はしゃがんでいるわけではないのに四足歩行のライオンに顔を舐められたのだ。まさか。

水たまりに映ったのは昔のアルバムにある懐かしい自分の姿だった。え、なん、だと?

死人は若返るというが、神様よ。さすがに女子高生にこんな恩恵をくれなくてもよかったのではないのだろうか。そこで私の意識はキャパオーバーを迎えたのか静かにログアウトしていくのであった。

 

 




死ネタっぽく見えますが、主人公死んでません。単純に運命でこっちの世界に引っ張りこむためのきっかけになっただけです。その辺はまた今度。それでは!


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誘拐(+殺人未遂)は犯罪です。

 FGOでメルトもリップも鈴鹿もこない。くるのは礼装のアンデルセンと生徒会だけ。王様礼装来ません。物欲センサー?


 ———目覚めよ。

 何か聞こえる。聞いてるだけで落ち着く声、でも間違ってもお母さんの声じゃない。もっと中性的なでも深みのある声だ。

――――目覚めよ我らが愛し子、女神の欠片を持ちし半神半人の子よ。

え、何それ。私はとりあえず目を開けた。でもそこにはさっきまで一緒にいたライオンの群れはいない。それどころか草原ですらない。何もないしひょっとしたらどこかの異空間なのかもしれない。

「あなたは?」

だれもいない空間で響く声に話しかけてみる。

――――我が名はアヌ。そなたをこの時代に呼んだ者だ。

え、私って死んだんじゃなかったの?確か手紙と一緒に屋上から落ちたはずなんだけど。

するとアヌと名乗った天の声さんは私の思っていることが分かるようでそのまま疑問に答えてくれた。

――――そなたはまだ生きている。ああなったのはこちらに来るきっかけを作るのにひと手間かかったのでな・・・本当はもう少し穏便にしたかったのだが仕方なかったのだ。

チョットマテ。じゃあ私の人生初のラブレターは・・・・?

――――ああ、あれは偽物だ。

う、うああああああああ!!主犯はこいつだった!!私の期待と時間を返せええええええ!!!!

――――こらこら、仮にも女子がそんなぎらついた目をするでないわ。

させてんのはあんただよ!!どうしてくれるの私の人生!いきなり平原に立ってて味方はライオンの群れしかいないし・・・いや、あったかいしもふもふだしある程度意思疎通できるし寂しくないし・・・あれ、結構平気かもしれない。

――――・・・・とにかく、我らがそなたを呼んだのは単純に時期がきたと判断したからだ。単刀直入に伝えよう。そなたは本来ならばこの時代に生まれるべき存在だったのだ。

ある王を諫めるためにそれと同等の存在として我らが直接魂から造り出した半神半人。それがそなただ。

いきなり言われてもパッとしない。それどころか胡散臭い話にさえ思えてくる。

「いや、そんなこと言われても私一般家庭の庶民派女子高生でして。女神とか言われても超能力とか魔法とか超直感とか能力の兆しとかそういうの一切なかったし・・・人違いでは?」

――――そなたをこちらに呼んだ時点で既に魂に女神としての核を融かしておいた。うまく馴染んでいるようで何よりだ。そもそもそんな力を持つ者をそなたの時代に組み込んだらそれこそ収拾がつかなくなるだろう。だから時期が来るまでただの人間として暮らせるよう元の魂・女神としての核・権能を分けておいたのだ。

「ちょっとまって、けど権能なんて私知らないし、なぜか体も縮んでるんだけど」

――――体については魂の調整の副作用だ。成長するし、体に影響もない。権能についてはそうだな。荒療治にはなるが・・・女神としての自身を受け入れよ。

そうすれば嫌でも理解できるだろう。そう言われると同時に視界が眩む。その霞んだ僅かな一瞬でホワイトアウトする意識。と同時に全身に走る激痛。

 

 私が『私』になって『私』が私になる。

 溶け合う。共有する。

 愛して、守って、誓って。

 我が身は愛するもの(世界)のため

 我が心は愛するもの(生命)のため

 我が全ては愛する者たちのため

 ——————「永劫なる星の礎(エヌマ=エリシュ)」

 

 「受け入れてくれてありがとう」。完全に溶け合う前、私たちはお互いにそう囁いた。

 

 

 




 プロローグと分割して書きたかった話。これから展開していく話の主人公についての基礎教材みたいな話です。割とどうでもいいかもしれないけど、主人公が自分の能力を駆使するに当たって知っておかなきゃならない事だと思って書きました。
 主人公は弟と同じで素直だけど、理想論より現実を見てそれらを織り込みながら自分の意見や見識を言うタイプの人間。無茶な特攻もするけど考えなしの無鉄砲さんじゃないです。
 ただ文章見ててわかる人もいらっしゃるかもしれませんが、権能が「傷つける」より「守る」ことに特化しているので無茶すること多いかも・・・・。


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運命の出会い(個人情報って大事だよね)

 ギル君との出会い編です。ここで会うっていうことは叙事詩とかにも登場する・・・とか期待されている方には申し訳ありませんが、私は叙事詩をほぼ知らない人なのでほぼオリジナルになります。


あのアヌという天の声、そして女神としての自分を理解してから早数ヵ月。私は子ライオンと一緒にこのメソポタミアを旅していた。

 自分のことは分かった。けど見ておきたかったのだ、自分が愛するものを。ちゃんと自分の目で見て触れて、自分の意志で愛するかどうかを決めたかった。

 ちなみに、なぜ付いてきたのが子ライオン一匹かというと、あの群れは女神イシュタルの随獣。いわゆるイシュタル管轄の神獣だったのだ。なぜその一団が私の元に来たのかというと、生まれて日の浅いこの子ライオンがイシュタルの気配に触れる前にトリップさせられてきたばかりで理解していなかった私の無意識に放つ気配やら魔力やら神気やらを察知してしまい、私を主だと思い込んでやってきたのを追っかけてきたのである。即座に気に入られたのでそのまま和気藹々と過ごしていたが、もし気に入られなかったらその場で即殺されていたのだろう。今振り返ってみると背筋が凍る思いである。結局一団はイシュタルの元に帰っていったものの、この子だけは私から意地でも離れようとせずイシュタルからしぶしぶ譲渡された。旅のお供が出来た嬉しさで全力でイシュタルにお礼をいうと「別に、あ、あんたのためにあげるわけじゃないわ!その、そう、私に懐かない髄獣が混じってたら士気に関わるから!それだけよ!」と言いながらも耳まで赤かった。女神様のデレかわいい。

 そして話を戻すとその結果、私が最後に向かうのは都市国家ウルク。王が直接治める活気あふれた国である。

ウルクに着くまで実に一週間かかった。私が方向音痴なのではなく、単に世の中甘くないというだけの事である。主に騙されたり、所持品を盗まれそうになったり。改めて日本がどれだけ治安がいいのか身に染みるところである。

「ここが、ウルク」

道すがら聞いていた都。けれどやっぱりこうして直に来てみると圧倒されるものがある。

「どこから回ろうか・・・・いや、まず泊まるところ探そうか」

「キュウ・・・」

しかし、当の私たちはこの一週間かかった道のりでやや疲れてしまっており、とにかく今日は休んで明日から満喫しようと思っていた。ひとまず、道行く人に尋ねることにしよう。

「どうしたんですか?」

おお?いきなり声掛けられた!背後からのその声に振り返るとそこには―――――とてつもない美少年がいた。太陽みたいなサラサラの髪にルビーみたいな、ひょっとしたら血よりも濃い色の赤い虹彩が印象的な子。

「えっと、辺りを見回していたので何か探しているのかと思ったんですけど」

「あ、あー。その、泊まれるところ探してるんですけど、どこかに宿とかってあります?」

その子は私をしっかりと認識すると同時に目を見開いていたけどすぐに笑顔になった。

「ええ、正確には宿じゃないんですけど・・・・そうですね、寝心地と食事の美味しさの保証くらいは出来ますよ」

「?、宿じゃない?それって・・・」

「どういうこと?」と言い切る前に「ついてくればわかります」と少年に遮られ、他に行く当てもないのでついていくことになった。あ、そういえば大事なこと聞くの忘れてた。

「ねえ、わたしの名前は祷(いのり)。あなたの名前、聞いてもいい?」

「僕ですか?・・・・僕はギルガメッシュ。あなたと同じ神に造られた半神半人です。」

え、MAZIで?正体もバレちゃってるし。なんか初対面の人に一方的に正体バレてるって怖いんだけど。反射的にやや距離をおこうと思ったけどさせないとばかりに手を握られた。これで普通に個人情報握られてなかったらキュンとかドキとかしたのに、今はその屈託のない笑顔が逆に恐怖だ。

「なに百面相してるんですか?行きますよ」

そして私は彼と王宮までの道を歩いていくことになったのだった。

 

 

 




 ギルくんの方は元からちょっと面白い出会いありそうっていうのを察知してわざと知らないふりして主人公に声かけました。で、直接対峙して自分と同類であることを確信して正体を明かしてます。逆に主人公にとっては恐怖になってしまいましたが。でも主人公も主人公で慣れてくるとこれと言って余程の事でない限り気にしなくなるので問題にはなりません。慣れて適応するのも早い主人公です。


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花冠をあなたに。甘い想いは箱の中

 主人公の恋心自覚編。人に関しては鈍い主人公だけど、自分のことは自分の事なのである程度はっきりわかる子です。


 王宮にお世話になって早数か月。ギルに慣れる(恐怖心をなくす)のに一週間。そのあとはギルと一緒に気ままに過ごしている。

 友達になるのにはそうかからなかったけどギル本人には凄く微妙な顔された。「いや、あなたは友達というより・・・・」とかなんとか。なんだと、中学に上がってからは全く言われない「かわいい」の単語を連発されていた少しはましな小学生時代の容姿にどんな不満があるというんだ。それともあれか?近年やっと緩和されてきた男尊女卑的なことか?子供になってただでさえゆるくなった涙腺は決壊し、泣いていた私にはその先の言葉を聞いていない。結局ギルが怒って隠れた私を見つけ出し仲直りすることで事なきを得た。

 そして今、私はギルの目を盗んでちょっと前に見つけた花畑でせっせと花の冠を作成中である。日頃の感謝を形にしてギルに伝えたかったのだ。お金で買えるものならとっくにギルは手に入れているだろうし、せっかくなら手作りのものをあげたい。ギルのことだから千里眼でお見通しなんだろうけど、それはそれ。突っ込まないでいただきたい。

 ちなみになぜギルの目を盗んでなのかというと、一言でいうなら過保護なのである。私に対して。どこに行くにしても一緒。うん、これはいい。でもさすがにトイレは勘弁してほしい。あと、一緒じゃないと王宮から一定以上離れることをよく思っていない。この花畑があるのはギリギリその一定内か外かのくらいなのでなんともいえないところなのだ。

「よし、あとはここを・・・・できた!!」

我ながら結構うまくできたんじゃないだろうか。なんて思ってるとポン、と肩を叩かれた。「何ができたんです?」

「ギル!」

出たなラスボス。だがこっちはお前に用がある!!

「ギル。これをあなたに」

「僕に、?」

「そ、日頃の感謝の気持ち。どうしても形にしてあなたに渡したくて・・・・受け取って?」

「ふふ、そうですか・・・ならイノリ。君が僕に被せてくれませんか?」

「う、うん」

花の冠をギルの頭に乗せるとちょうど風が吹いた。花びらが舞う中で夕日に照らされながら悠然と立つその姿は―――――とても、とても美しかった。

「綺麗・・・」

「そんなに見つめられると穴が開いちゃいますよ」

「ご、ごめん!」

「・・・ねえ、イノリ。僕、今とってもほしいものがあるんです。まだ芽が出たばかりで時間はかかるかもしれないけど、これからもっと囲って愛でて・・・・花開かせたい」

「だから」と言った彼の目は歳に合わず切なげで、でもどこか獲物へ狙いを定める肉食獣のような異彩を放っていた。

「覚悟、しておいてくださいね」

 恋とは不意打ち。きっと私は、自分のこの想いに気付くよりずっと前から、彼に囲われていたのだ―――――。




 実はギル君の方は最初のうちから自覚していて、主人公の安全性もあるけどそれより誰にも奪われたくなくて目の届くところに置いておこうと囲っていきました。そして主人公も自分のギル君に対する恋心に気付いちゃったので今後デレが増えるかも(そもそも素直な子なのでツンデレにはなれない)。宣言しちゃったギル君は徹底的に落としにかかります。


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愛があってもトータル××億円コーデは重過ぎる

 ギル君による未来の妃様(予定)コーディネートの巻。ギル君は子供でも大人でも奥さんにだけは貢ぎ癖があると思う、っていう妄想の産物。


 少し前の花畑の一件。あれからというもののギルからの贈り物が増えた。嬉しい、嬉しいんだけど・・・

「さすがに、これは・・・」

目の前には磨き上げられた大粒のラピスラズリとそれを彩るように繊細な装飾を施された金(おそらく純金)のチェーン・・・そう最高級品っぽいペンダントだ。庶民で高級品なんぞに縁のない私でさえそう感じるのだ。なによりギルの選ぶものなのだし値段は聞かない方がいいのだろう。というかそもそも値段を付けられるのだろうか。古代ってたしかクレオパトラの時あたりでさえ真珠一粒で国が買えるとか言われてたらしいから・・・・

「おや、気に入りませんでした?」

「いや、気に入る気に入らないじゃなくてさ・・・・もうちょっと身の丈にあったものがいいというか・・・」

「ふんふん。じゃあ次は冠にしてみますか?」

「いや、何更にグレード上げようとしてるの?!そんなの付けてたら怖くて歩けないよ!!」

「ええー、似合うと思うのに。イノリは自己評価が低すぎます。」

「そんなこと言われても根は庶民だし、恐れ多くて動けなくなっちゃうよ・・・」

「それに私、これが似合うような美人じゃないし」そう言っててなんだか悲しくなってきた。するとギルは溜息を吐くと私の目を見てしっかりとした口調で話す。

「いいですか?イノリ、君は僕が見てきたどんな人より魅力的な人です。だから、そんなに自分を卑下しないでください。それとも、僕が君に選んだこれは嫌いですか?」

「き、嫌いじゃないよ!!」

「なら付けてみてください。きっと似合いますよ」

言われるがままに付けてみる。胸元に輝くラピスラズリはこれでもかというほど惜しげなくその深い青色を晒しなんだか肌によく馴染む色合いだ。

「うん、やっぱりよく似合ってます。綺麗ですよ、イノリ。このまま宝物庫にコレクションしたいくらいですけど、やめときます。あなたか泣いちゃうのは僕にとっても本意ではないので」

「え」

なんか今凄い物騒な言葉が聞こえたような気がするんだけど・・・気のせいかな?

「ああもう、かわいいなあ。ふふふ、さてと、受け取ってもらえましたし、これからももっともっといろんなもの贈りますね。言ってませんでしたけど僕、あなたを着飾るの大好きなんです・・・次は何がいいかなあ靴はこの間新調したし、髪飾りも・・・・ああそうだこの間の服に合う帯なんてどうでしょう?」

しまったと思ったときにはもう遅かった。ラテイケメンな彼に流されてつい受け取ってしまったが、これで私は贈り物を拒否する口実がなくなった。今の私にできることは、これ以上贈り物のグレードが上がらないようやんわりと説得することだけだった。

 

(でもギルのことだから意味ないかも)

(贈り物そのものなら愛されてるみたいですごく嬉しいんだけどなあ・・・)




 日本人に一番似合う色は銀と紺(or藍)だそうなのでラピスラズリの出番!でもギル的に自分の色の金色を身に付けさせたいと思ってるとかわいいなと思ってわざと金にしました。
 そろそろエルキドゥ出したいので両想いの二人にはいったん離れ離れになってもらいます(外道)。主人公の能力や宝具は追々、というか神代編の最期あたりになっちゃうかもしれないです。


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生かしたいのか殺したいのか、どっちだ

 今回は外に出るきっかけの回です。女神様たちとエルキドゥはまた今度。でも仲間が増えます。


 ハロー。つい最近まで王宮で暮らしてたイノリです。しかし今は野宿。ホームレスへの転落はあっという間だった。

 実のところ、天の声・・・アヌ神から叱られたのだ。何でもギルを諫める補佐的な役割として派遣したのに一緒にのんびり過ごしているとは何事か!みたいな。え、悪いことなんて何もしてないし、平和だし、王座に関してだってギルはちゃんとやり繰りしてるし不満なんて何もないはず・・・と思ってたんだけど違った。神様方的には諫めるというよりギルを自分たち好みの王様に仕立て上げるために導く存在として私を呼んだらしい。

 そんなのあんまりだ。どこのRPGの黒幕だよ。ギルは半分以上神様かもしれないけどそれでも人間だ。人の事をからかいながらも一生懸命に生きる命を好む変なところが人間くさい人。贅沢が大好きで黄金が似合う、この上ない王様。私の初恋で大好きなひと。

 アヌ神は私の廃棄を思案しているようだった。いや、なんかかなり汗かきまくってるし眉間に何重もシワを寄せてる。それで私とギルは思った。————あれ、ひょっとして私(イノリ)のこと本当は殺したくないの?

 もういつもの偉そうな口調も外れて「ちょっと働いてくれたら考え直してやらないこともないんだけどな~」とか言いながらチラチラこっちを見てくる。やめてくれ、威厳を保とうとしていい年こいたオッサン姿で現れてんだから。フツメンだろうがイケメンだろうがオッサンはオッサン。見てて気分のいいものではない。

 しかし確かに私にとっても自分の死は見過ごせるものではない。まだ生きていたい。せめてギルの生き様を見てから死にたい。こう、主役じゃなくていいから最後まで生き残るモブとか語り部みたいな立ち位置にいたい。

「わかりました。具体的にはどうすれば?」

「そうか!やってくれるか!」

立ち直り早すぎだろ神様。

****

 そうして神様から出された課題「白き魔獣を倒せ」なのだが・・・

 真っ白でツヤツヤな毛並みにヒゲ、何より特徴的な長い耳。

「どうみても・・・ウサギじゃん!!」

「Garrrrrr!!」

狂暴化して目が血走ってて体は高層マンションくらいあるような巨体だけど、うん。どこからどうみてもうさぎです。普通に考えてここは普通ドラゴンじゃないんですか。

なんて思ってみたけどこの子結構強い。一撃がシャレにならない破壊力。だって拳を受けたところにクレーターができるし、何よりその威力で地震が起きるんだよ!?

「ええい、いい加減におとなしく、しなさい!」

ドスッ

イエーイ、決まった!クリティカルヒット

「Gi・・・」

私の盾が当たったウサギは呻き声を上げ力なく倒れた。そしてピクリとも動かない。

え。

「呆気なさすぎる気が・・・」

そう言ってウサギに触れると同時にボンッという音と煙。トラップ?!いや変身?!私何もしてないんだけど!そして残ったのは大きな毛皮。あれ中身は?そう思ってると毛皮の一部が動いた。そのままこちらに向かってくる。

「ムー・・・ウ!!」

「へ?」

出てきたのはさっき倒したウサギによく似た子ウサギでした・・・・。

「まさか、いままで大きくなってたのって君?」

「ム!」

元気良く鳴くとすり寄ってきた。あれ、これってデジャヴュ?

仲間が一匹増えました。

 

 




 残念なことに竜じゃなくてウサギ。今回主人公は倒しただけで殺してませんがどうしても殺さなきゃならない局面では殺せる子です。次は女神様の回になります。


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わがままと事故

 CCCのイベントでイーター系のクエストが追い付かないので概念礼装装備させて周回してます。KP集めるのってしんどいですね・・・・


 さて、これからどうしようか。依頼は達成。毛皮は持って帰るとして・・・。

「ギルに何かお土産でも持って行った方がいいのかな」

私がウルク離れるって言ったら凄く渋ってたし、でもやっぱり帰らない方がいいかな。

 私もギルももうそろそろ子どもじゃなくなる。特にギルは王様だから四の五の言わず世継ぎ問題に直面するだろう。そうなるとはっきり言って私は邪魔者である。ギルとの関係性がはっきりしていない女。それがお妃様にとってどれほど苦痛になるか。それなら素直に「愛人です」とか言われてたほうがマシである。

「私の場合、ギルと同じ半神半人っていうだけで後ろ盾とかさっぱりないからなあ」

元々この世界にいたわけじゃないのだから当たり前といえばその通りなんだけどね。あーあギルが結婚かあ・・・きっと国一の美女とかをもらっちゃったりするのだろう。それで私以上にその人のことを着飾って、褒めて、極めつけに「好き」っていう。お似合いの仲睦まじい夫婦になっていく。ギルを好きな身としては嫉妬してしまうのだがその反面、ギルが幸せならいいかなとか思っているところもあったりする。ばかだなあ、私。

 そんな風に思っているとリオ(子ライオンの名前)が何かを引きずって帰ってきた。実はこの子は前科持ちであり、珍しいものをよく引きずって持ってくるのだ。どっかの誰かさんの死体に嚙みついてた時なんか、「NO、ヒューマンミート!リリース!」なんて言いながら引っぺがしたのだ。

 そして今回引きずられてきた哀れな被害者を見るとそこには――――――目を回している美の女神様がいた。

 

****

 

「本当に、うちの子がごめんなさい・・・」

「ええ、本当に!全く、誰に似たのかしらね!」

女神様、お怒りモード。話によるとやや離れたところからこちらの様子を窺っていたらしいのだが、気配に気づいたうちのリオが天舟から引き摺り下ろすようにして強引に連れてきたらしかった。というかリオ、仮にも君の元ご主人様に何してるの?

「もう最悪よ!どう落とし前つけて・・・・て、あら?貴女が持ってるのって・・・・」

「ああこれ?さっきこの子を倒したときにドロップしたの」

綺麗に纏めた大きな毛皮と「この子!」とさっき仲間になったウサギを見せると女神様・・・ええと、イシュタル様は目を輝かせる。

「お父様にごねた・・・んん!おねだりした白の毛皮!覚えていてくださったのね!」

「え」

アヌ神よ・・・あんた娘のために私をパシリにしたんか。娘に対して甘過ぎなんじゃ・・・

「と・に・か・く!その毛皮は私がお父様に譲り受ける予定のものよ。なんならこの場で直接引き渡してもいいのだけれど」

「いいですよ、はい」

私が素直に渡すとイシュタル様は意外そうな顔になった。

「案外渋らずに渡すのね・・・まあ、私もその方が楽だしいいのだけれど・・・」

「何か?」

「いいえ、なんでもないわ・・・・あと、その、戦ってる貴女の姿、悪くなかったわよ」

「え?」

「あーもう!用は済んだし私、神殿に帰るから!さよなら!」

「うん、またね」

「!、ふん!」

そしてそのまま女神様が遠くなるのを私たちは見送るのであった。そのとき見えた女神様の顔がやや赤かったのは黙っておこうと思う。

 




 イシュタルは素直じゃないけど主人公のことを認めてます。どうしてもツンデレっぽくなっちゃうのは仕様。


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主人公設定+a

 感想の方でアドバイスがあったので書いてみました。神代編後にまた別に書くつもりでいますが、「今」の時点での設定です。
 マ王側と分けます。


渋谷 祷(しぶや いのり)

 

・この物語の主人公にしてヒロイン。

 

・現代生まれなのに神様の策略で古代メソポタミアにトリップさせられてしまった可哀想な人。

 

・容姿は長い黒髪に黒目(しかし、半神半人になったあとは深い蒼色(深海のイメージ))で華憐。時折色っぽくなる(ギルガメッシュ談)。

 

・ギルガメッシュと同じく魂レベルから設計された神様と抑止力お手製のデザインベイビー。

 

・そのため彼女も半神半人(3分の2が神、3分の1が人間)である。

 

・現代にいた時は半神半人の力が世界に与える影響力を考慮して力を分割されていたため、至って普通の女子高生だった。

 

・しかし、古代メソポタミアに呼び寄せられるにあたって、現代に馴染むための人間寄りの身体と魂から本格的に半神半人へと変えられている。

 

・ちなみに彼女が造られたのは彼女が王の補佐になることでよりギルガメッシュを神の思い通りに動かすためであり、わざわざ現代に魂を送られたのも神秘の恩恵が薄く無意識に呼吸が苦しくなるところに送ることで「神代の方が過ごしやすい」「人のみに世界を任せればいずれ現代のようになる」「神の恩恵があるからこその世界」というように現代より神代を優先するように洗脳するため。

 

・しかし金剛石のごとき打たれ強い精神とゆるい家庭環境から全く気にせずのびのびと成長したことで全く意に添わず、逆にギルガメッシュと親密になっていく。

 

・明るく切り替えが早い。また、素直で人好きの性格から人間、動物どころか神々や世界にさえ愛されている。

 

・本人に自覚はないが、かなりの美少女でありスタイル抜群だったりする。美醜に厳しいギルガメッシュやイシュタルが口にするほど(イシュタルの場合はツンデレで素直になれないのと、美の女神としてのプライドから本人の前では歪曲した言い方しかしない。本人がいないと結構素直に言ったり、物事の比較対象に使ってたりする)。

 

・本人の与り知らぬところで「ウルク一の美女」と呼ばれている(事実なので本人以外が否定することはない。イシュタルは「私は世界一だから。むしろ私と一緒にいるのだからそのぐらいになってないと困る」というスタンスをとっている)。

 

・ギルガメッシュが初恋で大好きなのだが、絶賛片想い中(勘違い)。

 

・たぶんちゃんと告白しないとわからないタイプ。

 

・武器の盾は彼女の権能の一部が具現化したもの(それゆえに自由自在に形を変え操ることが出来る)。

 

・ぶっちゃけそんじょそこらの女神より強い力を持っている。

 

・元々身体能力が高いこともあって戦闘に支障はないが、白兵戦はそこまで得手としていない(十分に強いが)。

 

・ステータス的に魔術関係に傾いている。

 

 

随獣

リオ(子ライオン)

 

・元はイシュタルの神獣。

 

・実はまだ生まれてそこまで経っておらず、イシュタルの気配や力に触れていないほやほやの赤ん坊だった。

 

・トリップしてきたばかりで力の制御ができないイノリのダダ漏れの力に触れ、主と勘違いし出会う。

 

・そのあともイシュタルに懐かなかったためやむおえずイノリの随獣になった。

 

・普段は出会った当時の子ライオン姿だが、成獣の姿にもなれる。

 

・空を飛ぶ、口から炎をはくことが出来る(能力だけ見るとドラゴンっぽい)。

 

・イノリのことが大好きで、子ライオンの姿でいるのもイノリに抱き上げてもらえるから。

 

・同じ随獣になったウサギのユキとは自然界的に捕食者と被捕食者の関係にあるはずなのだが、普通に仲良し。一緒に昼寝してたりする。

 

 

ユキ(ウサギ)

 

・イノリに倒され、とどめを刺さなかったイノリに恩を感じている。

 

・同じ随獣のリオと共にイノリに絶対の忠誠を誓っているが、お人好しの彼女の危なっかしさにハラハラしているところもあったりする。

 

・戦闘より諜報や状況把握能力に長けている。

 

・元は普通に草食だったが、相方の影響なのか雑食になりつつある(メソポタミアの生態系ェ)。

 




 CCCイベントのKPで買うものって全部買わないとラスボスに勝てないって聞いたのですが実のところどうなんですかね?
 CCCの本編の頃からラスボスにあんまりいい感情持ってない自分はラスボスVSラスボスの意趣返しにしてやろうかどうか検討中です。


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設定~マ王編~

 というわけで渋谷家の人々の設定です。
 かなり簡易的かつ、予定みたいなネタみたいなものも入れてます。
 父ちゃんの設定だけ本当に簡素になってしまいました・・・ゆーちゃんパパファンの方申し訳ありません。


今日からマのつく自由業!

 

・喬林知先生作の普通の高校生・渋谷有利が異世界で魔王になり、いろいろなことに直面しながらも周囲の助けを借りつつ乗り越えていき、魔王として人として成長していくファンタジー小説。

 

 

渋谷家

渋谷勝馬

 

・原作と変わりなし。

 

渋谷美子

 

・原作と変わりなく少女趣味でフェンシングの名手。

 

・唯一の娘であるイノリを溺愛する反面、礼儀作法や家事などどこに出しても恥ずかしくないよう(というよりイノリが困らないように)幼い頃から厳しい花嫁修業を課していたりと天然でおっとりだがしっかりした人。

 

・好奇心旺盛で何事にも動じない(たぶん神代の話しても「王様と結婚したの?!何それ!ロマンチック~。ねえ、いーちゃん。王様って美形だった?ね、ね?」くらいの勢いで質問攻めされると思う)。

 

・渋谷家最強の人。

 

 

渋谷勝利

 

・ギャルゲーオタク。

 

・妹大好き!弟大好き!なシスコン&ブラコン。

 

・地球側の魔王の後継者。

 

・妹と弟に「お兄ちゃん」と呼ばれたいが呼んでもらえずにいる。

 

 

渋谷有利

 

・みんなご存じ「渋谷有利原宿不利」。

 

・正義感が強く無鉄砲。

 

・まだ魔族のまの字も知らない。

 

・野球馬鹿。

 

・異世界に行く前にイノリの正体や神代の話を聞いてもいまいちピンと来ず、母親のこともあって「うちの女ってみんなこうなるのか・・・・」とか思うだけ。

 

・異世界に行った後話を聞くと家族の中で一番オーバーなリアクション取ってくれそう。

 

・末っ子で無鉄砲なので無茶をすることも多く、イノリが現代に戻ったら真っ先に女神としての加護をかけに行く。

 

・眞魔国ではいいストッパー役になってくれそう。

 

・ギルガメッシュと会ったらまず金ぴか加減に辟易して変なあだ名をつける。

 

 

 

・時系列的にはまだマ王始まってません。本編の半年よりちょっと前くらい(有利が高校生になった春くらいで流されてたと思ったので9月・10月くらい)。

 

・魔族ではないので村田君はイノリの正体を知らないうえ、間が悪くて入れ違いになったりしているため気付くこともないまま。

 

・ちなみに何故渋谷家にイノリが生まれたのかというと、魔族の方が万が一それらしいことが起きても普通の人間より動じないと思っての事(その次に次期魔王が生まれるという想定外のこともあったが)。

 

・ひょっとしたら魔族云々より母親があの動じない性格なので、いろいろちょうどよかったのかもしれない。

 

・メソポタミア組を連れてきたらとんでもないカオスになりそうです(震え)。

 

 

 

 




 ありえそうだなーと思ったことも含めて書いてみました。魔王様と女神様の前代未聞のコラボです。「世界は破滅/愛に満ちている」を地で行きそうで怖い・・・。


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RPGといえば魔法!

 いよいよエルキドゥ解禁です!そして久々の更新で申し訳ありません。
 今回は主人公の設定にあった魔術のことと、花嫁の初夜権話のさわりです。ちなみに主人公的には「イケメンだからって何でも許されると思うなよ」です。


 皆さんこんにちは、女神様に毛皮を持って行かれたイノリです。私は現在、ウルクから遠く離れたところにいます。神様たちの次なる試練ってことで見聞を広めるためウルク周辺だけでなく世界を見て回って来いっていうお達しだそうな。

 で、ちょっとした発見、というか進歩?があった。なんと、私はペル〇ナのディアいや威力でいうならディアラハンを習得したのだ!ちなみになんでわかったのかというと、答えは単純。怪我をした動物がいたのを見て「痛そうだな~」とか思って怪我に触れたらあら不思議、全て跡形もなく傷は消え去っていましたとさ。意味が分からず「なんじゃこりゃ」とか言って駆け込んだ先には今にも死にそうな病人。けど私を神様と勘違い(いや半神半人だからその辺の区別はよく分からないが)したその人が伸ばしてきた震える手を握ったらたちまち元気になった。さっきまであんなにヨボヨボで意識も朦朧としていた人が、だよ?あ、あれ~?おっかしいな~。とか思ってそのまま旅を続けているうちに全体回復のメディア系や状態異常回復系などの支援・補助系魔法から、万能タイプのメギド系その他攻撃系魔法など多種多様な魔法が使えるようになった。ちなみに巫女さんいわく私のこれは「魔法」並のものだが大きい括りで「魔術」というらしい。

 そうして身に付けた力で目に付いた人たちや弱った人たちを治していった結果。どっかでは私を都市神として神殿を建て「女神」として祀り信仰しているところがあるらしいことを風の噂で耳にした。

 いや、ぶっちゃけ直したり物品を分け与えたりしかしてないんですけど。

 そして、今。

 

「ねえ、イノリ」

「なにかな、エルゥ」

 

私の目の前にいる優しい緑色の髪をたなびかせる青年。エルキドゥは私と聖娼シャムハトと生活することで人の形と心を手に入れた、これまた神様お手製の泥人形である。彼はほとんど私と似たような目的で作り出された存在であり、だからこそギルを知る私に預けられた子だった。王の存在を正すために。しかし、ギルはあの通りちょっとたまに黒いところがあるけれどいい子だった。だから私も彼も「今のままでも問題ない」と思ってそのままにしていた。

 けれど、私がもうそろそろで成人する頃合いになってから不穏な話を小耳にはさむことが多くなった。

 

――――ウルクの王は、まるで暴君だ。なんという横暴。なんという圧政。

――――国中の見目麗しい花嫁たちを連れ去り、その貞操を散らしてしまう。

 

初めは信じられなかった私も被害者の家族の嘆きを聞いてからというものの、現実と向き合わなくてはならないと思った。そして、そう思ったのは私だけではなかった。

 

「僕は、王様に会ってくる・・・会って、彼の慢心を正す」

「私も行く。好きな人が、変わってしまっていても、自分で納得できなきゃこの想い(恋心)は消化できないだろうし」

「ううん、君はここにいて。友として、ここで待っていてほしいんだ。————絶対、帰ってくるから」

「・・・うん。わかった。必ず、帰ってくるんだよ」

「もちろん」

 

神妙にだけれど真摯な声で答え、満足したエルゥは行こうとした。でもね。

 

「あ、そういえば言い忘れるとこだった」

「?」

「ギルの一物。去勢したうえで本人は死なない程度に血祭に上げてきて☆」

 

穢れなき乙女たちの貞操を奪った罪は重いのです。




 ペルソナの技を出せてやや満足です。ちなみに主人公のイノリちゃんは技の威力は高いですが、物理攻撃力に依存してるゴッドハンドとかの技は微妙。でも万能系のメギド・メギドラ・メギドラオンはとんでもない威力を叩き出す人。魔術に関してはほぼ無敵に近い。
 そしてギル。書いといてなんだけど逃げて超逃げて。


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相互理解はお早めに

 久々の投稿です。今回は結構難産でした。次は日記風にしてみたいと思います。
 ああ、文才ほしい。


エルキドゥが旅立ってから早1週間。黒幕との再会は案外早かった。

何故かって?エルキドゥが連れてきたのだ。いや、正確には・・・おそらくギルの宝のひとつであるのだろう黄金の飛行物体(いや舟っていうのかなこの時代では)に乗ってきた。エルキドゥの鎖で舟に縛り付けられながら、だけど。

 

「ただいま、イノリ!それと・・・ほら、ギル!連れてきたから好きにしていいよ。ああ、言われたことはきっちりやっておいたからね!」

 

言うのが早いか手が早いか、セリフとほぼ同時に鎖が解除されギルは空中から地面に蹴落とされた。それもうまく受け身が取れないような落とされ方をしたようで、顔面から地面にダイブし「ぐえ」という蛙が潰れたような声が聞こえた。

 

「何をするエルキドゥ!」

「何をするって、君を地面に降ろしただけだよギル。そのままじゃ話辛いだろう?それにさ、言わなくていいの?今回の事も含めてちゃんと言った方がいいよじゃないと彼女、わからないだろうから」

「うぐぐ・・・」

 

「じゃあ、後は当人同士の問題だからよろしく。イノリ、この子たち借りてくね」そういうとエルキドゥはユキを抱えリオの背に跨がって飛んでいった。エルキドゥは動物と会話ができるのでうちの子たちとも仲がいいのだ。なのでそっちに問題はない。問題は、このカッコ悪い登場をした王様である。

 

「……」

「……」

 

沈黙が、痛い。

でも言いたいことは全部言っておかないと。

 

「あのさ、暴君とか圧政とかは別にいいんだ、そんなの。王様なんだし。でもね……なんで初夜権なんて作ったの?あなたなら奥さんも妾さんたちも選り取りみどりでしょう?よそ様を巻き込むようなことしなくてもよかったんじゃないの?」

「・・・・おまえが帰ってこないからだ」

「は?」

「おまえがウルクに帰ってこないから、もう既にどこぞの馬の骨とも知れぬ輩と結ばれているものだと思ってせめて結ばれる前に、と思ってだな・・・」

 

何この乙女。

 

「・・・でもしっかり食べちゃったんでしょう?やめなよ、王妃様のことも考えてあげなよ・・・旦那さんが正妻の自分に見向きもせずいろんな人と不倫してるなんて体裁も女としてもあったもんじゃないでしょう」

「おまえは嫌なのか」

「嫌だね。そもそも私はそうならないようにするためにウルクから出たようなものなのに・・・あーあ」

「さっきから何を言っている?我は妻など貰っていないぞ」

「え、もうバリバリの適齢期でしょ?王様なんだしそういう話が持ち上がってもおかしくないなーって思ったんだけど」

「本当にやつの言う通りだったとは、さすがの我も想定外だ」

「?」

「イノリ、よく聞け。何を勘違いしているのかは知らんが、我は女を抱くことはしても室にしたこともしようと思ったことすらない」

「え、じゃあゲ「人の話は最後まで聞かんか」・・・はい」

 

ゲイ・・・いやこの場合バイだと思われる。でも言おうとしたら遮られた。なんで?

 

「我は我が心底惚れ込んだものしか室に迎え入れん。囲うのなどもってのほか。最愛はひとりで十分だ」

「あ、そういうところはちゃんとしてるんだね」

 

よかったよかった。なら後はしっかり吟味して結婚してお世継ぎ問題解決!まさに大団円だね!と思ってたらいつの間にか腰に腕回されてた。

 

「イノリ」

「は、はいっ」

「お前が望むのなら全て叶えてやる。前のように豪奢に着飾りたいというのなら世界中の宝石と最高の布地をやろう、居場所が欲しければ緑溢れる広大な土地をやろう。だから―――――――――――――我のものになれイノリ。」

「・・・・カッコいいけど20点」

「なっ!?」

「駄目よ、だって肝心なところが入ってないもの。ねえギル」

 

彼の頬を撫でながら目を合わせて微笑んだ。

 

「高級なものも肥沃な土地もいらない。だって私がほしいのはあなただけだもの。あなたをくれないなら私もあなたの物になるわけにはいかないな」

「なら「ギル。私ね、小さい頃からあなたのことが好き。大好きよ、愛してるって言葉も足りないくらい―――――――他にはなにも望みません。偉大なる王ギルガメッシュ。一人の人として、一人の女としての私にあなたの全てをください。」

「は、」

 

その後、真っ赤になって気絶したギルは私と呆れたエルキドゥによってウルクへ搬送され、熱を出して寝込んだ。私の告白の返事は一週間先延ばしになってしまったもののしっかりといただいた。・・・・前以上にギルが放してくれなくなったけど、それは別の話。




 ここでのギルガメッシュはいろいろ乙女なところがあります。ちゃんと男前なところもありますが、慢心によるうっかりも含めてイノリちゃんには「かわいい」と思われることも。
 でも基本、ZeroやStay nightの王様なギルガメッシュなのでしっかりと威厳や能力などはあります。単純にイノリちゃんへの惚れた弱みです。


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王宮日誌~新米王妃から見た王宮の日々~嫁入り編

遅くなって申し訳ないです。書きたいことはいっぱいあるのにそれが古代じゃなかったり断片的なシーンだったりでネタがスカスカ状態です……(泣)


久々に王宮に戻ってきた。王宮仕えの人や兵士の人たちには泣きながら熱烈な歓迎をされた。ギル、あんた一体何したんや・・・。そろそろ私もギルに嫁ぐのでこれを機に日記でもつけてみようと思う。続くかわかんないけどね。

 

 

○月●日

ギルが目を覚ましたので前回あやふやになってしまった私からのお仕置き開始。どういうことをしたのかっていうのはここには書かないでおく。ギルの名誉と後世のために。

ただひとつ心配なのは……今回のお仕置きでギルが変な性癖に目覚めないかどうかだけど。

 

 

○月◎日

遠出したらうっかり穴に落ちた。落ちた先で綺麗な女神様に出会った。エレシュキガル様というらしいその人は世間話に付き合ってくれるどころか帰り道も教えてくれる超いい人だった!帰った後で知ったけどあそこは冥界だったらしい。それでも懲りずに何度も行き来する私はすっかりエレシュキガルと顔馴染みになってしまった。またバターケーキ持っていこう。

 

 

○月□日

ギルと私の式の日取りが決まってからというものの、王宮では兵士や侍女や役付きの人なんかが慌ただしく行ったり来たりしてせっせと働いている。元々活気があって賑やかなウルクが更にパワーアップした気がする。

これもギルのおかげなのかもしれない。そう思って寝所で褒めながら頭を撫でるともっとと言わんばかりに頭を押し付けてきた。人になついたライオンのように見えるのは私だけ?

 

△月●日

権力者とか神様からとかとにかく沢山のお祝いの品が届く。でも自分で開けることはない。開けるのは大抵ギルか侍女の人である。なんでも「何かあっては困るから」らしい。私も魔術に関しては結構分かってるつもりなんだけどなぁ、爆弾処理だって爆発する前に結界で覆って爆発させればいいだけなのになんでだろ?

 

 

△月◇日

式の準備が着々と進み後一週間ほどに迫ったある日。ギルがやらかしてくれた。朝起きると神殿があった。いや冗談じゃなく。聞けば私を都市神として祀っていた所から無理矢理移動してきたらしい。どうやってここまで移動してきたのだろうか?

嫁入り箪笥ならぬ嫁入り神殿。

ギルは「こうすればお前がウルクを離れる必要もなかろう!」とか高笑いしながら言ってたけどスケールの大きさに私達は硬直、エルゥが呆れてギルに関節技をかけてた。私の加護と都市神を続けることを条件に現地の人々から譲ってもらい、私の神殿はウルクよりちょっと外れに安置されることになった。

 

 

△月◎日

とうとう結婚式当日。侍女の人々に身支度を整えてもらい、ギルの元にいく。いつもと違う装いのギルがいつも以上にかっこよくて、差し出された手を取るだけでドキッとする。そうして二人で見つめ合ってほんの少し笑い合ってギルに手を引かれて一緒に歩み出す。

こうして私は今日から英雄王ギルガメッシュの正式な妃になったのだ。




というわけで嫁入り編でした。ちなみにお祝いの品の管理や確認をさせてもらえないのは惚れ薬とかギリシャ神話お馴染みの恋の呪い的なものがかかったものとかが多かったため。あんまり作中に出してませんがこれでもウルク一の美女。人にも神にも世界にも愛された人ですから、やっぱり結婚するって言っても略奪愛とかしようとする輩もいる、というわけです。


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王宮日誌~新米王妃から見た王宮の日々~奮闘編

今回のは日記というよりイノリちゃんの独白みたいなものです。
もうそろそろ神代編終わらせようかなと思っています。日記みたいなの書くの楽しいのでそれも混ぜながらあとあって三話か二話くらいかな。


王宮の生活に慣れて早ひと月。普通お妃様は愛想振り撒いたり王様のハーレム管理したり、色んなところで暗躍したり(?)夫の帰りを寝所で待ったり(?)するものなんだと思う。

でもギルはなぜか奥さんは私一人だけで江戸時代とかの将軍とかみたいな側室はいないし、愛人もいない。だからそもそもハーレムの管理なんて仕事はない(むしろ「愛人とか作らないの?」って聞いたら「何故そんなことをいうのだ!?回数が多いのか!?だから我を避けようとしているのか!?」からの「我の最愛はお前一人だと言っておろう!!回数もなるべく減らす努力もする、だからそのようなことを言うでないわ!!」と怒られた。えー、普通の事聞いただけじゃん。でも愛されてることがわかったのでよし。その日はうんと甘やかした。ただそれで気をよくしたのかギルがいろいろレベルアップした。いやもうこれ以上上げなくていいです。ついていくの大変なんで)。

珍しく知的好奇心が刺激された魔術に関してペ〇ソナみたいなの以外にも手を出して極めたため逆に暗躍する側の摘発役をやっている。

寝所にいようがいまいがどこからともなくその時間帯になるとギルがやってきて連れていかれるため仕事というのか謎。

ぶっちゃけ王妃としての仕事=何それ美味しいの?状態である。

となると仕事はベッドでごろごろ惰眠を貪る以外になくなる。けれどみんなよく考えてほしい。だれが何と言おうと私は一般家庭出身の庶民である。贅沢に慣れていない、貧乏性の。しかも旅をしてた時は野宿なんて当たり前だったので前よりランクアップして「貧乏性の庶民」からの「逞しい貧乏性庶民」になっていた。

つまり、言いたいことは・・・・わかるな?

仕事を下さい。

ギルは私に仕事をさせたくないようだし、ウルクや庇護下の土地の人たちは根っからの「人間は神の労働を肩代わりするもの」という状態なので無理だし・・・・

 

ここで私は思い付いた。

そういえば私が魔術を使えるようになったのは怪我とか病気を治したからだった。そもそも怪我や病気が悪化するのは他の菌に感染したり、ゆっくり療養したりしないから。なら衛生面を徹底した病院を設置すればいいのではないだろうか。

次に労働力、というか人員の確保。魔術に頼りきりで巫女や魔術師以外に治療する人がいない現状。なら最低限の読み書きや計算の教育と応急手当や最低限の看護を学ぶ学校を建てればいいのではないだろうか。

 

「生存戦略、しましょうか」

 

ここに後の世で語られる「改革の女神(もしくは女傑)」が誕生した瞬間である。




イノリちゃん後世に語り継がれる偉人になる、の巻。
これで人としても有名どころになったので「英霊」の括りにもインプットされればいいなと思います。ていっても明らかにガイア側だし、聖遺物もほぼないうえあったとしても装飾品の殆どは神様かギルガメッシュからのもらい物なので何もこないorギルガメッシュ召喚になることが殆どですけど。
あとイノリちゃんに「生存戦略」言わせたかっただけ。


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王宮日誌~新米王妃から見た王宮の日々~動乱編

神代編終わりのフラグ建てました。
やっぱり叙事詩通りにするつもりはないけど、イシュタルの性格的に黙ってなさそうだなーと思ってこんな形にしました。


×月〇日

色々あってフンババを倒しに行くことになった。ギルの黄金の鎧が痛い。目が痛い。いろいろ反射して目に刺さる。「どうした、疲れたのか?」と抱き上げてくれるのはすごく嬉しい。けど痛い。自分に触れるのはいつものあったかい腕ではなく鎧。なんか腕とか背中とかがゴリゴリいってる。そのうえ鎧に太陽光が反射して私の目を潰しにかかってる。それでもって熱い。とにかく全てにおいて痛い。でも言えない。一緒にきたエルゥも生暖かい目でこっちを見てくる。見てるなら助けてよ!そうして溜まりゆくストレス、フラストレーションを申し訳ないが何の関係もないフンババへぶつけさせてもらった。ごめんね。

 

 

×月△日

フンババの戦いを見ていたらしいイシュタルがギルを見初めた。え、ギルはすでに私と結婚してるんですけど。そういえばこの人重度のほしがりさんだった。友達が恋敵に変わった瞬間。そしていつの間にか言い合いから何でもありのキャットファイトに発展し痛み分けで終了した。友情は深まったもののまだあきらめていなさそうなのでギルに個人的な結界を張っておくか検討してみよう。私だって譲れないものがあるのだ。

ちなみにこのキャットファイトは早くもギルに伝わっていたようで帰ったら離してもらえなかった。

エルゥによると結構目立っていたらしい。私の「ギルは私のだっていってるでしょ!一昨日きやがれコノヤロー!!」などの叫びやイシュタルの暴言も筒抜けだったらしくもうしばらくはウルクを出歩けないかもしれない。

 

 

□月△日

この頃熱っぽい、あと食欲があんまりない。変な病気だったら困るので医者に診てもらうことにした。

妊娠三ヶ月目だった。

びっくりなのと嬉しいのとで寝所に戻るまで上の空だった。

ギルに報告したら「そうか、そうか!!」って言って嬉しそうに私のお腹に手を置いてた。なんだかこそばゆい。

 

 

◎月×日

安定期に入ってしばらく経つ。大きくなったお腹に手を当てるとポコっと内側から蹴られて思わず笑ってしまう。今日もお腹の我が子は元気だ。この頃私は体調がいいと王宮の中庭でひなたぼっこするのが日課なのだが今日はなぜか突然神殿に行くことを勧められた。よく見ると侍女や兵士たちのなかには苦笑いを浮かべる人やギクシャクした動きの人がいる。

それで察した。「あ、イシュタル来たなこれ」と。

前のケンカで軽く周りが更地になり、クレーターもいくつかできて月みたいになってしまったのは記憶に新しい。二度とあの悪夢を繰り返すことがないようにみんな私達を鉢合わせしないようにしているのだ。

私が神殿に行こうと王宮を出ると同時に上から響く轟音そして流星のごとき速さで去っていく天舟が見えた。あそこは確かギルのいる王の玉座のある階だったと思うんだけど……

まあ、私の予想通りやっぱりイシュタルはギルを口説き落とそうと直接乗り込んできたらしい。ギルは彼女とどんな会話をしたのか怒り心頭で拒絶して追い出したらしい。

 

 

◎月□日

イシュタルがギルにフラれた腹いせに天の牡牛を放った。しかもウルクの市街地に。どこまで傍迷惑な女神様なんだあの人。

形は牛っぽいけど大きさは目測スカイツリー以上だし、気性も荒いし最早災害…いや天災レベル以上の怪物だった。そんなのが市街地で暴れては今までの私の、私達の生存戦略として打ち出した改革が無駄になってしまう。いてもたってもいられない私は皆が必死に止めるなか権能を使いウルクに結界を張り、牡牛をウルクの外へ弾き出した。

そのあと駆け付けたギルとエルゥによって牡牛は見事退治され事は終息した。

そのあとギルとエルゥにこっぴどく怒られた。もう臨月に入っているのにあんな無茶するやつがあるか‼イノリはもっと大事にされてることを自覚したほうがいい。とか。そのあと顔馴染みで結構仲のいいお付きの侍女たちにも泣きながら怒られた。こう言っては不謹慎だけど愛されていることを自覚できて凄く嬉しい。そうだ。これからは母親になるんだしよき母、よき王妃になれるように頑張らないとね‼

 

 

 

幸せだなあ。

最愛の夫と親友。王宮の人々。ウルクで生きる人々。エレシュキガルやイシュタル。

色んなひとと出会って仲良くなったり見守ったり。最初連れて来られた時はこれからどうなるのか、いやむしろ生きていけるのか不安だったけど、今はもうどうってことない。うん、我ながら凄い環境適応力だ。

 

「イノリ」

 

ギルに呼ばれ手を引かれてテラスへ出るとウルクに沈む夕日が見えた。そしてそれに照らされて輝くギル。ああ、あの時と一緒だ。

 

「きれい…」

「ああ、まるでお前のようだ。一際輝きながら皆を見守り包み守る。沈めども記憶に焼き付いて離れぬ美しいものだ」

「ふふ。それならギルは太陽ね、となるとエルゥは海かしら」

「…今回は流石の我も肝を冷やした」

「ごめんね、あれ以外思い付かなくて」

 

やっぱりやりすぎだったかなーと思っているとそれに呼応するようにお腹の内側から衝撃がきた。

 

「あらら。こどもにまで怒られちゃった」

「ふん、これに懲りたら大人しくしておれ」

「むー…ねえギル」

「どうした」

「だいすき」

「ふ、我は愛している」

「ずるい」

 

ああ、こんな時がいつまでも続けばいいのに。

 

そう思いながら幸せを噛みしめる。本当に幸せだ。

 

 

幸せだった

 

 

 

 

 

 

はずだった。




不吉なラストの言葉は次の話に続きます。ちなみにみんなはイシュタルとイノリちゃんを近づけないようにしていますが、本人たちは別にこれといって何事もなく仲良し。
ギルがイシュタルに激怒したのはイノリちゃんをダシに・・・というかイノリちゃん目的の求婚だったため。興味本位のセイバーに対してさえあれだけ執着してたんだから本当の最愛であるイノリちゃんに手を出そうとするならその比じゃないだろうなっていう。
あ、あと乗っけるの忘れましたけどやっぱり親友二人に付きまとおうとするイシュタルにはエルキドゥもいい感情持ってません。会うたび手あたり次第にもの投げるのはお約束になります。


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落陽

これにて一応神代編終了です。次はまるマか別の何かとのクロスオーバーにしようと思っています。


しまった、と思った時にはもう遅い。

そんなの今に始まったことじゃないけど。

 

「ゴホ」

 

苦しくてせき込む。けどそれがまた更に苦しくさせる。

してやられた。この間あったイシュタルが首謀者の「天の牡牛事件」。あの時は天災以上の怪物としてしかあれを見ていなかったため私はよく知らなかったことなのだが、どうやら思っていたよりやばいものだったらしい。倒されたことで神様方が集まって会議を開くほどの重要案件化してしまうくらい。

その会議の中では直接倒してしまったギルとエルゥに処罰を与えるべきかどうかという話だった。しかしある神がこう言った。

 

『いえ、それよりも処罰すべきは落陽の女神の方ではありませんか。彼女が牡牛を弾き出さなければあの二人が本気で牡牛を殺すこともなくウルクで抑え込むだけで済んだかもしれません。それに元はと言えばイシュタル様とギルガメッシュによる彼女を取りあっての口論が原因でしょう』

 

「いやしかし」とか「だが」とか渋る他の神様たちをよそに着々と話を進め最後は無理矢理丸め込んで押し通したその神様はどうやら殺すことも自分ですると宣言したらしい。

そしてそのせいで今現在私はこうして苦しんでいる。

彼の神様は、私を確実に弱らせ殺害するために「神の毒」を使った。神さえ死に至る猛毒。そんな恐ろしいもの、普通は持っているはずがない。しかし「半神とはいえ神を殺すのだから」とろくに許可も取らないままエレシュキガルの冥界から持ち出したものなのだという。

会議に使者を送ることがあるエレシュキガルが水鏡でギルたちに教えてくれたけど。もうその時には遅かった。

普段なら権能で浄化したり毒が回るのを止めたりできたのだろう。でもこの間の結界で結構使ったし、妊娠してて力は安定しないし、その安定しない力もお腹の今にも生まれそうな我が子を守るのに全部回してるから自分には回せない。

 

「ね、ぎる、えるぅ・・・」

「なんだ」

「っ・・・」

 

二人とも泣きそうな顔をしている。ごめんね。抱きしめたいけどもう腕に力が入らない。視界が霞む。終わってしまうかもしれない恐怖。意識が飛びそうになりながらそれでもと続ける。

 

「このこ、生まれたら。まっさきにだっこ、してあげて。・・・わたしにはもうできそうにないから」

「ああ」

「それから・・・・えるぅ、わたしたちのしんゆう。だいすきなわたしの、ともだち。ぎるを、おねがいね。あなたも知ってのとおり、このひと、つよいくせにさびしがりだから」

「・・・うん」

「ぎる、だいすきよ・・・だれよりいちばんあいしてる」

「ああ」

「それで、さいごに、このこ」

 

まだ、生まれていない愛しい我が子。最後だからと、全部声にしようと溢れる涙をそのままにして言葉を紡ぐ。

 

「ほんとは、抱き上げたかった。なまえを呼んであげたかった。いっぱいいっぱい愛して世界で一番幸せな子にしてあげたかった。ごめんね。もう私があなたにしてあげられるのはこの世に生んであげることだけ。こんな母親でごめんね。絶対に、幸せに、なるんだよ」

 

そうしてもうほとんど感覚のない真っ暗な世界で、それでもたしかに私は聞いた。我が子の元気な産声を。

ああ。

 

生まれてきてくれて、ありがとう。

 

そのまま私の意識は完全に途絶えた。

 

 

*****

一方、冥界。そこには一人の神が立っていた。

 

「どういうことだ?なぜ彼女がいない!?」

 

あの時確実に神の毒で殺したはずなのに!!そう苛立っているのは他でもないイノリを殺すことを神々に提案した神だった。

何故彼がここにいるのか。理由は簡単、死んで冥界に来るであろうイノリをわが物にするためである。

彼は一目見たその時から彼女に焦がれていた。しかし純粋な神故のプライドから半神半人たる彼女に自ら話しかけるような真似はしなかった。

やがて旅から帰ってきた彼女が本格的に「ウルク一の美女」と謳われ、功績から祀り上げられ神殿を持つ女神となったその時には既にギルガメッシュに先を越され、他の神同様に様々なものを入れ込んだ物を送ったが見向きもされなかった。

どうすればいい、どうすれば彼女を自分の物にできる。そう考えていた矢先好機が訪れる。そう、「天の牡牛事件」である。

そうして作戦を決行し、首尾よく進み彼女が死んだのも確認済み。後は冥界にやってくるであろう彼女の魂を自分の物にするだけだった。

それなのに、冥界に来るのは普通の人間たちだけで彼女はいない。

 

「お困りのようですね、冥界に探し物でも?」

 

そんな中現れたのはこの冥界を支配する女神エレシュキガルだった。普段なら近寄ることさえ忌避するものだが今回ばかりはありがたかった。

 

「ああ、実は・・・」

 

他の神たちから手を離れたこの案件ももう既に終わったことだからと全て打ち明けた。全てはイノリ欲しさに全て仕組んだことだったと。それを聞いていたエレシュキガルの表情がだんだんと消え失せ能面のようになりながらも目ははっきりと冷徹な炎を灯していることに、彼は気づかなかった。

 

「それで探しているんだが、彼女の魂は今どこに?」

「残念ですが彼女の魂はここにはありません。いえ、元々ここに彼女の魂を置く予定そのものがありません」

「なぜだ!?」

「さあ、それはお父様のご意向でしょうし私にはなんの連絡もありません。それよりもあなたは人のことよりご自分のことを気にした方がいいのでは?」

「は?なにを・・・っ?!」

 

自分の手首を拘束した鎖を解こうとするも余計に絡まり上へと引き釣りあげられる。そして穴を抜け地上に着くと、そこにはエルキドゥとギルガメッシュがいた。

 

「捕まえたよ」

 

そう言ってエルキドゥが全身を同じ鎖で拘束する。そして前のめりになると今度はギルガメッシュが口を開いた。

 

「話は全て聞かせてもらった・・・我のものに手を出そうとするどころか殺した挙句魂をわが物にしようなどとんだ外道な神もいたものよなあ?」

「ああ間違えたな。最早貴様など神ですらないただの堕ちた男か。まあ良い。疾く失せよなどとは言わぬ、時間をかけ徹底的にいたぶり尽くしてやろうではないか雑種」

 

その後、一人の神が姿を消した。




一応神殿あって様々な功績があって権能持ってるんだし女神様枠にもイノリちゃんは入ります。
バッドっぽいけどまだ終わりじゃないですのでご安心を!終わるのは神代だけです。
後結局この神殺し事件でエルキドゥは死にます。ギルが一人になっちゃうのは原作と変わんないです。


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神代編終わり頃の主人公とその周り、その後

取り敢えずまとめてみました。
たぶん付け足すかも。


イノリ

・平凡な女子高生→落陽の女神にクラスチェンジした。

・現代の知識や自分の力を駆使し医療や教育に力を入れウルクの発展に大いに貢献した。

・類稀な美貌と明るく素直で人好きの性格、金剛石の如き強靭な精神性などから人に愛され神に愛され世界に愛された。もっとも、それがのちの悲劇に繋がることになるのだが。

・そして何より、夫であるウルクの王・ギルガメッシュからこの上ないほどの寵愛を受けた存在として親友であったエルキドゥと並んで有名である。

・魔術に関しては色々超越しており、天災以上の荒業や離れ業を軽々とやってのける。「魔術女王」「魔女神」の名を冠する神代の魔術の代名詞のような人物。

・ギルガメッシュとの間に後に王位を継ぐウル・ヌンガルを儲けるもある神に毒を盛られ、出産と同時にこの世を去る。

 

落陽の女神

・イノリの女神としての名前。

・日の入り(朝焼け)と日没(夕焼け)の短い時間の女神。

・魔法(魔術)、学問、愛(全般)、守護を司る。

・権能は「守護」と「浄化」。そのため「守り」に関しては最高レベルであり、ギルガメッシュの「天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)」をも完全に防ぎきる。

・また、盾もしくは結界に触れると浄化されたうえエネルギーに変換され吸収される。

・「落陽」からわかるように場合によっては「死」を象徴するためエレシュキガルと仲がいい(そういうのが無くても仲がいいが)。

 

サーヴァント風ステータス

筋力C+、耐久B、敏捷A、魔力EX、幸運A+、宝具EX。

スキル

女神の神核B(A+)

生まれながらにして完成した女神であることを現す。神性スキルを含む他、あらゆる精神系の干渉を弾く、肉体は成長しても老化しない。生い立ちがギルガメッシュと同じであることもあり、本来ならA+の精度を誇るが「神の毒」による呪いでランクダウンしており、解呪できるが過去の自身の最大の落ち度としてそのままにしている。

 

黄金律B+

人生においてどれほど金銭が付いて回るかという宿命。神々やギルガメッシュから様々な贈り物をされていたこともあり、一生贅沢・出資しても永遠に尽きぬと思われる財産を所有している。

 

黄金律(体)A

生まれながらに、女神の如き完璧な肉体を有する。どれだけカロリーを摂取しても体型が変わらない。「天性の肉体」スキルとは異なり、筋力のパラメータへの影響は存在しない。つまり、美しさが保たれる、というだけ。

 

 

騎乗A+

乗り物に乗る才能。神獣までなら全て乗りこなすことができるが竜は不可能。

 

※ギルガメッシュと同じく千里眼を持っているためグランドキャスターの資格を持つ。

 

 

 

 

 

ギルガメッシュ

・ウルクの王にしてイノリの最愛の夫。

・慢心王で暴君後に賢君になる。

・最愛はイノリ。彼女が存命中は側室も妾妃も持つこともなく彼女のみを愛した。

・イノリが亡くなってからは体裁も考えて妾妃たちを持つが囲うことはなく、室に入れることもなかった。

・実の息子であるウル・ヌンガル曰く、母親と親友の話をするときは優し気な雰囲気になるらしい。

・イノリを殺した神を突き止め神殺しを実行する。

 

 

エルキドゥ

・イノリとギルガメッシュの親友。

・イノリにギルガメッシュのことを頼まれたが結局神殺しを実行したことで原作通り死亡してしまい、約束を守れなかったことを悔やんでいる。

 

 

イシュタル

・イノリが死ぬ間接的原因を作ったひと。

・そのため今回のことは結構反省している。

 

 

エレシュキガル

・今回のこと(唯一の友人が自分の元から持ち出された毒で殺されたこと)でブチ切れそうになっている。

・なので一番ギルガメッシュたちに協力的。

・その一方でイシュタルとの姉妹仲は溝が深まる。

 




権能のことや、ステータスをかいておいたほうがいいかなと思ってまとめました。宝具名とかそういうのはのちに付け足します。
魔術女王で死を司っていることからたぶんFGOだとニトクリスと仲良しになると思います。


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まるマ編
帰ってきちゃった


珍しく今回もシリアスです。でも次からまたギャグ展開にしようと画策しております。


風の冷たさで目が覚める。

 

「!」

 

ガバッと起き上がるとそこは夕方の学校の屋上だった。

 

「なんで私生きて…?死んだはず」

 

ひょっとしたら神代で死んでそれを切っ掛けにして現代に戻ってきたのだろうか。

とりあえず自分の身体に異常が無いことを確認して立ち上がる。

あのあとギルとエルゥ、私の子はどうなったのだろうか。そんなふうに思っていると自分を照らす夕日で下校時間であることに気づいた。

 

「…とりあえず、帰らないと」

 

そしてそのまま夕日の光を浴びながら私は久しぶりのコンクリートジャングルを帰っていった。

 

*****

あれから数日経って、色々試して分かった。

魔術も権能もそのまま、というか女神⋅半神半人のままで見た目だけ女子高生に戻っただけの状態。

鏡を見るとまれに目が青く見えることがあるけど、これは魔術とか色々使えば誤魔化せるし、見た目はそのままだから普通は気付かれることはない。今までウルクでの生活に馴染み切っていたため時々戸惑うこともあるけどなんとか元の生活に順応しつつある。

これで元の日常生活には支障はない。

 

そして私がいなくなった後のメソポタミア。結局、ギルとエルゥはエレシュキガルの協力により私を殺した神様を殺してしまい、エルゥはその罰として死んでしまったらしい。残されたギルは私たちの子・ウル=ヌンガルがある程度育つと同時に不老不死を求めて旅に出る。世界の全てを見て帰ってきた賢王となったギルはウルクを再興させ王としての務めを果たし、成長したウル=ヌンガルに王位を譲り渡した。

 

「ギルとウルか・・・親子仲がよかったことを祈るけど」

 

なんたってギルの子育てとか未知数だし。子供たちには人気だったけどそれと実の子とは別だしね。ウルの性格も私はその場にいなかったからどんな子だったのか分からないし。

 

「できることなら、自分の手で育てたかったなあ・・・」

 

そんな叶わない願いをぽつりとこぼして。現実を受け入れるためにきつく拳を握った。

 

と、そういえば。帰ってきてからというものの、うちの家族、と言っても母親以外の父親・兄・弟なのだが、なんとなく気配がおかしい。いや、見た目は人間だし価値観も世間一般に通ずるものだし別にこれといって気にするほどじゃないとは思うんだけど・・・・うちってもしかして純粋な人間の家系じゃなかったりするんじゃ・・・?

その予想(疑問?)はあながち間違っていなかったことを私が確信するのは約半年後の春。弟が流されて異世界を行き来するようになってからのことである。




皆さん優しい感想をありがとうございます。おかげで今日もご飯が美味しいです。もぐもぐ。
FGOもZeroも予定に入っています。あと他の作品とのクロスオーバーなんかもしてみたいです。


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おねえちゃんは心配性

タイトルのまんまです。ほぼイノリちゃんの独白っぽくなっちゃいました。


あれから半年とちょっと。弟の有利(ゆーちゃん)は無事高校に合格し入学した。いやー、渾身の祈祷をした甲斐があったね!(←※学問の神様です)

私も学年が上がって2年生になった。これといって私に変化はない。が、ゆーちゃんにはあったようだ。

たぶん村田君っていう元同級生を庇ってなぜかびしょびしょになって帰ってきたときから。身体や心はなんともなさそうだったけど、魂レベルで覚醒させられていた。きっと誰かが無理矢理ゆーちゃんの魂に干渉したのだろう。

やっぱり帰ってきた時点でもっと強い加護をかけておくんだった。私の知る魔術より結構荒っぽいその術は下手をすると魂の崩壊が起こってもおかしくない代物だった。かけた相手をまず血祭りに上げるべきだろうか。

とにかくゆーちゃんの今後が心配なのでより強い加護をかけさせてもらった。これでしばらく大抵のことは大丈夫だろう。いざとなったらリオかユキを付けておくのもいいかもしれない。

これはゆーちゃんが乗り越えるべき試練なのかもしれない。でも、さすがにこんなことされてはちょっと黙っていられないのが私なのである。

過保護で結構。失ってからでは遅いのだからそういった不安は一から潰していくに限る。

この頃妙に運がいいのだとよくわからないながらも嬉しそうに語る弟を見て私もにっこりと笑う。

 

「へえ、そっか。よかったね、ゆーちゃん」

 

でもね、あんまり気にしなくていいよ。周りに私の正体がばれたら結構面倒臭いかもしれないから。前だったらこんなこと気にしなくてよかったんだけどなあ。今より信心深くて神様に対しての許容範囲広いし、大っぴらに魔術とか権能とか出してもあんまりとやかく言われるようなこともなかったしー・・・そう考えると今の現代社会って私みたいなやつには生きづらく設計されているのかもしれない。まあ、制約があったならあったなりに楽しむけどね!!

 

ゆーちゃん、無茶はほどほどにしてね。おねえちゃんはなんだか心配です。いざとなったら世界をぶち破ってでも報復に行くから、誰かにいじめられたときはいうのよ?

 

 

「へっくし!」

「どうなさいました、陛下?もしや風邪でも召されたのでは」

「いや、急にちょっと寒気がしただけだから。なんだろ、だれか俺の事噂してんのかな?」

「む、ユーリ!お前というやつはまた浮気か?へなちょこのくせn『ガシャーン』・・・・」

「今日は窓か、たしかこの前は床が抜けたのだったか」

「おかしいな、この間点検したばかりなんだが・・・」

 

過保護な女神(あね)がほくそ笑む。




神代での後悔を味わいたくないとばかりに先手必勝でいきました。たぶん被害は大したことないけど一番あいそうなのはヴォルフラム。有利の魂の記憶を無理矢理こじ開けたアーダルベルトはイノリちゃんのブラックリスト入りしています。


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いざ異世界へ‼

イノリちゃん、またも手違いでトリップするの巻。


ハロウ。只今絶賛ホームレス生活2のイノリです。いやなんていうか水が渦巻いてたから試しに腕突っ込んだらそのまま流されちゃったんだよね。

流されたのは、いや正確に言うと渦巻いてたのは昨日の雨で出来てた水溜まりだったんだけど、なんか魔力感じるなーと思って興味本位でやってしまった。

で、なぜか周りに誰もいない川にいたから自分で歩いて調べるしかないかー→あ、怪我人が倒れてる→こんなときは魔術でほあた★→なんか崇められちゃったYOである。

というかまず人の格好が日本じゃない。だって最初に助けた人はウエスタンな映画とかに出てくるエプロンと三角巾姿の女の人だったし。あと、言葉が日本語じゃない。古代メソポタミアの言語とも違う。とりあえず私は元々学問を司っていることもあり、一言二言言葉を交わせば理解し意思疎通ができた。うん、神様ってチートなんだって改めて知ったよ。

たぶん、ここは日本どころか外国、それどころか私たちのいた世界じゃない。これは予想ではなく確信。さっきのこともあるけど、何より決定的なのは大気にマナが満ち溢れていることである。現代社会では文明が進み過ぎて神秘がほとんどないような状態なのに対して、こちらにきて他のところも見てみたけど機械的なものがほとんどなく、移動にも遠出をするときは馬を使っているのを見るからに文明はそこまで進んでない。住人の話を聞いてみたところ「魔族」という種族や竜などの前の世界にはもういない幻想種が存在し、魔術と法術という力が発達しているようだった。

それと、人間と魔族は敵対しているらしい。異種族で同じような生命体にはよくあることだけど未だに埋まらない深い溝があるようだった。そして、魔術は魔族しか使えないらしく、法術は神に祈り修行を積んだ神官などが扱えるものらしい。なので最初に治療した女性は私を神官だと思いそのまますこぶる感謝して去っていった。・・・・これが魔術って言ったらきっと失神ものである。一度祀り上げられたことがある身としては非常にいたたまれないものであることを察してほしい。

 

「と、いうわけで。旅に出よう」

 

そう私が言うと付いてきてくれたリオとユキは「わかった」と一鳴き。

 

「ありがとね。・・・よいしょっと。じゃ、出発!」

 

ユキを抱き上げリオに跨り青空に飛び立った。

 

ゆーちゃんへ。おねーちゃんはちょっと異世界観光してきます。お土産はたぶんないから期待しないでね。時間は・・・いざとなったら前の日の夕方に巻き戻しできるだろうか?




前のメソポタミア時代の経験値とか能力とかがあるのであんまり動揺しない逞しくなったイノリちゃん。眞魔国のほうでユーリ呼ぼうとしてミスった結果、メソポタ式神様製チートおねえちゃんが呼ばれちゃったよっていう。今頃ユーリをちゃんと呼んで事情を説明しててんやわんやいってると思う。


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お姉ちゃん、弟に遭遇する。

文章ばっかりで会話があまり出せません。
小説書くのって難しいですね・・・
あとホームズさん来ません。やっぱり物欲センサー?


旅に出て早一週間。異世界旅行を満喫していると妙な噂を聞いた。なんでも魔族のお偉いさんが生き別れの兄弟を探しているらしい。ここまでは普通にお涙頂戴で済む。けど問題はその探している人物の特徴である。長い黒髪に黒い目で黒いブレザーを着込んだ少女。普通この程度の情報で見つかるようなことはないのだが、この世界では黒髪黒目は非常に珍しく、魔族では最も高貴な色として、人間では不吉な色であると同時に希少価値からなのか不老不死の薬の材料扱いされている。なにそれどこの三蔵さん?

しかし私はここに飛ばされた時点で魔術などの細工が根こそぎ剥がれ、そのせいで元の蒼い目に戻ってしまったので該当しない。おかげで最初に助けた人に怯えられずに済んだ。しかし、問題はむしろ他にある。

そう、服である。私は学校から帰ってきてすぐに水溜まりの渦に触れたから学校の制服、つまり黒いブレザー。

あれ、これやばくね?私は自由に観光したいから旅に出たのであって大事にしたかったわけではないし、まず魔族の知り合いなんていない。ここは化学より魔術が発達してるわけだからもしかしたら顧問魔術師みたいな人が「こんなやつがくるよ~」とか変なお告げとかしたんじゃないのだろうか。だとしたら捕まったら更にややこしいことになる。絶対に。

そして何より、服はこれしかない。結構気を遣って汚れとか匂いとか付かないようにしてはいる。でも心配なので毎日入念に沐浴して服もそじないように気を付けながら洗っている。ハッキリ言って捕まるよりこっちの方が私にとっては重要である。だってこれでも一応年頃の女の子ですからね!

だって服を買いに行くにしてもお金は黄金律でなんとかなっても一番最初に会った女の人がいろんな人に私の事を話したせいで目立つから服屋に行くだけでも噂になりそうだし、魔族のお偉いさんが探し回ってるっていうから気安く街中に出られなくなったから新しい服用意できないままなんだよ・・・・ほんとどうしてくれようか。

 

そして今現在。沐浴の真っ最中である。盗賊とか物騒な輩は本当は自分で対処すべきなんだろうけど自分の身は守れても服は守れないかもしれないのでリオに見張りをしてもらいながら入っている。のだが

 

「ヴルルルルル」

「?どうしたの、リオ」

 

今日はなにか見つけたらしくそのまま森に入っていった。私もとりあえずなにかあった時のために服を着る。と、何やら話し声が聞こえてきた。

 

『うわ、ライオン!?なんでライオンがこんなとこに!?』

『危ない、陛下下がって!!』

 

あ、まずい。このままだと戦闘開始のコングが鳴る。

 

「リオ!何がいたの・・・ってあら?ゆーちゃん?」

「あ、姉貴!?」

 

思わぬところで弟と再会しました。言い訳どうしよ。




女神様バレするかどうか迷っています。
でも後でギルガメッシュ召喚したいからやっぱりここでは黙秘させておこうかな、とか思ったり。


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弟はマの付く王様でした。

一旦ここでまるマ編を切ってZero編に行こうかと思っています。
ホームズさんは妹に振り向きました・・・・


ゆーちゃんとの驚きの再会から数時間。今、私は血盟城とかいう大きなお城に来ています。どうやら話しを聞くには本来ゆーちゃんを呼ぶために起こした渦をゆーちゃんが来る前に私が発見してしまいそのまま流されてしまい、ゆーちゃんはその直後に呼ばれ召喚の際ミスったことを説明され、私の声を聞いていたことを思い出していてもたってもいられなくなった。ということだった。

そしてなんと驚くことに、ゆーちゃんはこの世界の魔王様なのだとか。元々魂が普通の人間と違うことに気付いてたので驚きより納得だった。

 

「つーかさ、なんで姉貴はそんなに落ち着いてんの?それにさっきのライオンとか、姉貴の?」

「あーうんうん。私のことも話さないとね。実をいうとねゆーちゃん。私、トリップはじめてじゃないの」

「えー!!じゃあここにきたことあんの⁉」

「いや、私が行ったのは古代メソポタミア。まだ神様と人間が同じ世界に暮らしてたとき。私はその世界の都市国家ウルクでお世話になってたんだ。この目の色になったのも、リオたちに出会ったのもそこ」

「まさかの古代だった!?」

「驚き過ぎだよ、ゆーちゃん。私としては弟が異世界の魔王様だったことの方が驚きなんだけど」

「う、いや、その。なんていうか成り行きで・・・」

「まあいいけど、皆さんに迷惑かけ過ぎないように!」

「はい・・・」

「皆さんも、こんな弟ですけどどうかこれからもよろしくお願いします。野球ばっかりで頑固ででも根は真っ直ぐな子ですから」

 

私がそういうと周りの人々はうなずいたり溜息を吐いたり、あ、そっか。もうある程度分かっちゃってたりするのか。

 

「大丈夫ですよ。いざというときは我々がお守りしますし、陛下の真っ直ぐさはむしろ長所ですから」

 

茶髪のさわやかな顔の人、コンラッドさんが優し気に、だけどはっきりとそう言ったのを確認して私もうなずく。

なんだ、ここにも理解してくれる人いるんじゃない。

 

「いい人に出会ったね、ゆーちゃん。・・・・やっぱりこれ以上やるのは過保護ね」

「?なんか言った」

「いいえ、何も」

「変な姉貴」

 

そんな風に話し込んでいると菫色の美人さん(男)が元の世界に帰る準備が出来たことを知らせに来てくれた。ゆーちゃんはまだこの世界での仕事が済んでいないようなので帰還は私一人である。あの分だとゆーちゃんはもう大丈夫だ。野球をやめて沈んでいたけど今はもう支えてくれる人がいるみたいだから。

 

「あーあ。会いたくなっちゃうなぁ・・・・ホームシックかな」

 

不意にウルクのことを思い出してしまった私はちょっと寂しく思いながら長い廊下を歩いていくのだった。




文中の「やっぱりこれ以上やるのは過保護」というのはもちろん弟に対する自分の加護のことを言っています。
Zero編早く書きたいです!!ただ作者はアニメも小説も印象的場面しか見てなかったりするにわかなのでどうなることやら・・・・
感想を書いてくださっている皆さん、ありがとうございます!!へたくそなりに頑張って書いていきます。


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目下の悩みは姉である。

イノリちゃんは出てきません。有利のイノリちゃんへのシスコン具合と心配症の鱗片を書いてみました。


俺の姉貴、渋谷祷は不思議なやつだ。

同じ血の繋がった姉弟として言うのもなんだけど、かなりの美人。枝毛一つない艶々の髪の毛に、透明感のあるシミや傷痕一つない真っ白な肌(おふくろいわく、フニフニのスベスベでモチモチらしい)、ぱっちりとしてて攻撃的なわけじゃないのに意志の強そうな目、形の良い鼻に唇は淡い桜色で色っぽい。手足も細くてスタイルはよくわからないけど痩せ型、いやでもこないだ干してある洗濯物見たら・・・・体格の割りに大きめだった。何がとは言わなくても分かってほしい、よく言う代名詞のメロンとまではいかないが少なくとも大きめのリンゴくらいはある。

 

学校での成績は良い方だけど差があった。好きこそものの上手なれ?みたいな。古典と歴史が赤点ギリギリもしくは赤点そのものだったけど半年前ぐらいからその二科目の成績も上がっていった。一体どういうことなのか。

 

そんな完璧超人化してゆく姉貴だが家では普通の家族思いな姉である。

兄弟の中で唯一の女の子だからとおふくろの少女趣味や花嫁修行に振り回されても普通に付き合ってやるし、親父や兄貴の誘いをひらりと上手くかわしつつも後のフォローを忘れない。

俺に関しては姉と末っ子という立ち位置のせいか結構甘い。兄貴のように口煩いわけじゃないけど姉貴はその分甘やかしっぷりが尋常ではないため俺本人もちょっとどうかと思ってた。半年前までは。

 

半年前のいつからか姉貴はやや変わっていった。それはさっき言った成績もだけど、俺に対してもである。今までの甘やかしは鳴りを潜め、控えめにさりげなく甘やかしてくるようになったのだ。後、容姿・・・・というか雰囲気とか表情がどことなく大人びて見えることがある。

まあ、あいつだってそりゃあ17歳の女子高生だし、いろいろあんのかもしれないけど・・・・・

 

「なんていうか、いまいち納得できないんだよな」

「なに、渋谷ってシスコンなの?」

「ば、そ、そんなんじゃなくて!!ただいきなり接し方変えられて戸惑ってるっていうか、時々近寄りがたい雰囲気してたりするから何かあったのかなって思って」

「ふーん、でも思えば僕も会ったことないな、渋谷のお姉さん」

「あー、そういわれてみるとそうかも。村田と入れ違いとか、遠出してそのまま一泊してくるとかで、まだ顔合わせてないのか」

「そうそう。にしても渋谷のお姉さんかあ」

「なんだよ、いくらお前でも姉貴はやらないからな」

「だいじょーぶだいじょーぶ!シスコンな兄と弟の双璧がある間はさすがの僕も手を出すような真似はしないよ」

「だからシスコンじゃないって!!」

「はいはい、ただ前に眞魔国に来た時にお姉さん言ってたんだろ「ここに来たことはないけど古代メソポタミアに行ったことはある」って、ひょっとしてその半年前のことだったんじゃない?ほら、僕たちが眞魔国に行く時みたいにこっち側の時間が止まってたりしたならありえなくもないだろ?」

「たしかに・・・・」

「ま、こればっかりは体験した本人から直接聞かない事には分からないけどね。ほら、元気だせよ。僕は渋谷の大好きなお姉さんじゃないけど、愚痴とか悩みくらいならいくらでも聞いてやるからさ」

「ああ、そうだよな・・・って違うから!」

「は~、素直じゃないなあ」

 

余計なお世話だ!!




もうムラケンは賢者バレしてて箱はまだ解決していないくらいの時間軸です。
まるマは基本アニメ沿いで考えてます。と言ってもほぼオリジナルになると思いますが・・・・
ギルガメッシュ、登場させようかさせまいか・・・


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再び異世界へ ~え、出だしからガルラ霊ってありですか?~

イノリちゃん再び異世界への回。
今回は眞王廟に召喚されてます。


拝啓ギルガメッシュ、エルキドゥ。座での生活は如何でしょうか。といっても座には時間の感覚がほとんどないとかいう話なのでひょっとしたら居心地とか関係ないのかもしれないけど。かくいう私はというと―――――知らない池にいた。

 

「ここはどこ―――――って、あれ?」

 

さすがにトリップ数回目ともなるとやや冷静に対処するようになってしまった。余裕はないけど頭は冷えてるっていう状態はまさにこのことをいうんだろうか、と思っていたらあることに気が付いた。この大気のマナの感じって、たしか前にも経験したことがあったような。そう、ゆーちゃんが魔王様してる世界。って・・・

 

「ここゆーちゃんの治めてる世界か!!」

 

とりあえず起き上がって周りを見渡すと私のいる池のようなところは中庭のようになっており、囲うようにして壁、というか廊下が広がっている。

前はどこか分からない村の近くの森の散策しかしてないからこういう人工的なもののあるところなんて初めてなんだよね。もしここが王宮とかだったら不法侵入で捕まっちゃうし、余計なことして警戒されるのも嫌なんだよなー。

 

「リオー、私を乗っけて空飛んでくれる?」

「きゅう!!」

 

リオは元気に一鳴きすると子ライオンの姿から元のライオンの姿に変身し私を乗せると空高く飛び上がった。よくあるRPGみたいに「ぼーっとしててそのまま見つかって捕まる→見逃してもらう代わりに面倒事を押し付けられる」とか有り得ないとは断言できないもん。たとえゆーちゃんが実権を握ってたとしても皆がゆーちゃんの言ったことに満場一致で賛成するとは限らないし、身内だからと言ってゆーちゃんに謁見できるとも限らないし、何より元の世界じゃない以上ゆーちゃんとの関わりを証明できるものがないんだよね。

だから現状把握できてない今私がすべきなのは捕まって小間使いになることではなく、この世界を知り、自分の目的を確立させることである。決して前に出来なかった異世界旅行をしようとかなんて思ってない。・・・・思って、ない。

ひとまず自分のいた建物の全景とか立地とか見ておくに越したことないよね。

そして、もうここら辺までくれば見渡せるかなーとか、もうここにいればたとえ見つかったって誰も追ってこないよねーなんて考えて下を見る、と。

 

カタカタカタカタッ!

 

「は?」

 

目の前、しかも至近距離にいかにも年期の入った骸骨が・・・・

 

「な、な、なぁ――――――?!」

 

そしてそのまま軽く失神した私は下へと落下して行くのでした・・・・

 




別名・イノリちゃん脱走失敗の回。
コッヒーみたいな生物はいくらメソポタミアであったとしてもいないはず、というかそんなのがバビロニアにわんさかいたら誰だって泣く。下手するとガルラ霊が出没してるなんていう噂になる。
なのでイノリちゃんも突然のことに失神しました。
今は半神半人であって完全な女神モード(ゼロの時や神代の終わりごろの姿)じゃないので七章のキャスギルみたいに逃げなきゃならないからです。


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弟とダイケンジャー

久々の投稿で頭が回りません


目を覚ますと、そこは見知らぬ天上。

 

「ここ、は・・・・?」

「あ、お気づきになられましたか」

「?」

「少々お待ちください。ダカスコス、目を覚まされたことを至急陛下に伝えてきなさい」

「え、じ、自分がでありますか?」

「他にだれがいる!!、ほらさっさと動く!!」

「う、承りました!」

 

混じり気のない長い緑の髪をした優し気な女性は私が目を覚ましたことに気が付くと、近くにいた兵士に指示を出した。・・・さっきの口調といい逃げるように慌てて去って行った兵士の人といい、この人って結構アレなのかな・・・。

 

「あ、あのー、つかぬ事をお聞きしますが、ここはどこですか?陛下って、もしかしなくてもゆーちゃ・・・有利のことですよね?」

「はい。ここは陛下が直接お治めになられている眞魔国の血盟城という城の一画にある客室です。骨飛族が貴方様を運んで来た時には何事かと思いました」

「あはは・・・すみません」

「いえそんな、謝らないでください客人の方の体調管理も仕事の一つですから」

 

そうやって話しているうちに複数の足音が近づいてくる。

 

「ギーゼラ!姉貴が目覚ましたって本当!?」

「ええ、意識もしっかりしてらっしゃいますし、幸い意識を失ったときも骨飛族が受け止めて怪我などはありませんから大丈夫ですよ」

「そっか、よかった・・・」

「はい。では私はこれで失礼いたします」

「ありがとう、ギーゼラ」

「いえ、それでは」

 

ギーゼラと呼ばれた女性はほんの少し微笑むとそのまま退室していった。

 

「今回で二回目だけど本当にゆーちゃんは王様なのね・・・」

「はいはい、どうせ魔王らしくない魔王ですよ」

「そんなつもりで言ったわけじゃないんだけどね、どうしてもあのアメリカにいた時のキュートなゆーちゃんを思い出しちゃってさ」

「わあ!?やめろよ、人のそういう黒歴史広めようとするの!!」

「思い出すって言っただけで広めてないよ・・・と、隣にいる子は?」

 

ゆーちゃんの隣にいるここではめずらしい、日本ではよく見る黒髪黒目の眼鏡男子に目を向けた。

 

「はじめまして、渋谷のおねーさん。僕は村田健。こっちでは一応双黒の大賢者、猊下って呼ばれてます。」

「そう、よろしくね。村田君」

「ええ、こちらこそ末永くよろしくお願いしますね。おねーさん」

「村田、おまえなんでそんなにいつもより恭しいんだよ」

「え、渋谷気付いてないの?」

「なにが」

「おねーさんの魔力。尋常じゃないくらい澄んでるんだよ。それこそ、常人じゃあり得ないくらいね」

 

この子、鋭いな・・・うーんどうやって誤魔化そうか、というか誤魔化す必要は・・・いや、あるのか?変に軍事利用されても困るしな。まあ、来るべき時が来たら言うってことでいいか。

 

「うーん、魔力の感知が得意な人にはよく言われるけどね。でもあんまりこれといって自覚はないかな。本人が煩悩塗れだし」

「そうだよな」

「・・・なんか言った?ゆーちゃん♡」

「い、いえ別に」

「うふふふふー」

「ところで、なんでおねーさんはここにきたんですか?」

「それが分かんないんだよね気が付いたらここにいた、みたいな感じで。その気が付いたところが中庭っぽかったから不法侵入と間違えられたくなくて脱出しようと思ったらそこに至近距離であの骸骨がいたから失神したんだ」

「ああ、コッヒーな。俺も最初ここに来た時アトラクションかと思った。」

「私は怖かった・・・もう私死ぬのかなって、思って」

 

今思い出しても身震いしてしまう。あれが本当にガルラ霊だったら冥界行きである。

 

「あー、おねーさん?大丈夫ですよ彼らはなにもしませんから」

「本当に?ガルラ霊の進化したやつとかじゃないのね?」

「が、ガルラ霊?」

「そっか、渋谷。おねーさんはこの世界の前にメソポタミアに行ったんだよな」

「そうだけど、それと何の関係があるんだよ」

「大ありかも。メソポタミアのガルラ霊って冥界に生者が来るとそれを殺して死者にする巡回みたいなのやってるらしいんだよ。ひょっとしたらおねーさんは死にかけてガルラ霊に追いかけられたことでもあるんじゃないかな」

「ええ!?あ、姉貴―?」

「ガルラ霊怖い、助けてギル、エルゥ、エレシュキガル・・・」

「やばい、もうこれ別の扉開こうとしてる!!」

「帰ってきてください、渋谷のおねーさん!!」

 

こうして偽ガルラ霊、もといコッヒーになれるまでおよそ一週間かかってしまう私なのであった・・・



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Zero編
喚ばれちゃった


FGOに繋がりません。これって不具合のせいなんでしょうか?それとも自分の携帯が悪いんでしょうか?


声が聞こえる。とても必死な声が。

 

『誰でもいい、誰でもいいから助けてくれ!!』

 

蜘蛛の糸のようにか細いそれを私は受け取り薄く笑った。

 

「そう、なら貴方のその必死さに免じてその呼び掛けに応えましょう」

 

そうして今にも消えそうなその声を辿って

 

 

私は召喚された。

 

「サーヴァント・シールダー。呼び掛けに応じ参上しました‼」

 

なんとかうまくいった。サーヴァントっていう箱におさまるの結構苦労したしそのせいで出来ることも出力も抑えられてるけど。まあどうにかなるでしょう!

目の前にいる白髪でケロイド?のある人がマスターだろうか?

 

「バーサーカーじゃ、ない?」

「残念ですけど、私はシールダー・・・・盾兵のクラスです」

「そ、そんな・・・バーサーカーじゃないなんて・・・それも盾のクラスなんて」

 

なんか勝手に絶望してるんだけど、ていうか本人目の前にして失礼だなあんた。と、思っているとしわがれた声が響いた。

 

「どうやら召喚には失敗したようじゃのう雁夜。まあ急造のおまえにはこのあたりが限界だろうて、惜しかったのう。カッカッカッカッ!!」

「臓見おまえ・・・!ゴホ」

 

え、なんか自分だけ上の階で高笑いしてるじいちゃんいるんだけど。そしてマスターと思しき人はかなり睨んでる。そのうえなんか具合悪そうなんだけど。とりあえず死にかけてるマスター?を支えつつ上の階にいるじいちゃんに向き合う。

 

「この人とラインが繋がってるからきっとこの人が私のマスターなんでしょう。それで?あなたはどちら様?」

「何、おまえが思うような怪しいものではない。そこにいる愚息の様子を見に来たただの魔術師じゃ」

「へえ、じゃああなたはマスターの父親?実の子がこんな風になっても心配するどころか嘲笑えるなんて魔術師以上に人でなしなのね。まあいいや、とりあえずマスターがこんな状態だしここはジメジメして衛生的に悪いから私は行きますね」

 

そう言ってマスターを横抱きにして上の扉に手をかけたところで一旦止まる。

 

「ああそうだ、人の事を嘲笑うのもいいですけど、年を考えないと顎外れますよ?」

「なひほ、っ!??ひはは!」

 

明らかに私たちの事を馬鹿にしていたのでちょっと仕返しに顎の外れる呪いをかけさせてもらった。うーん、我ながら完璧である。ほんとはあの蟲の塊のじいちゃんを浄化してボン!でもよかったんだけどそうする前にマスターに回復してもらってこれからの方針を決めてからの方が良さそうなので、とりあえずこれで済ませた。まあ、私が解かないと解けないんだけどねこの呪い。

そしてその部屋から出るとそこには小さな女の子がいた。

 

「お姉さん、だれ?」

「お姉さんはこの人のお友達。あなたのお名前は?」

「・・・桜」

「そう、桜ちゃん。いい名前ね。ねえ桜ちゃん。今この人とっても具合悪そうだから寝れそうなところを探してるんだけど、案内してもらってもいいかな?」

「うん、こっち」

 

そうして私は伸びているマスターを運びつつ、桜ちゃんに案内されその場を後にした。




たぶん蟲爺が真名を聞かなかったのはシールダーが一切攻撃力を持たないクラスのイメージで自分への脅威になり得ないと勝手に位置付けたのと元々戦争に乗り気じゃなかったこともあって興味が薄れた(どうでもよくなった)ため。真名聞いてたらバリバリ警戒できたのにね!
そして雁夜さんは余裕がないこともあって結構出だしから失礼なこと言ってる。おじさんは戦争に関わるまであくまで一般人だった、というスタンスでいけたらな、と思います(変更しないとは言っていない)。


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作戦会議1~まずは万全な状態になってから~

やっと画面が白くなる不具合が修正されました。朝回復したと思ったらすぐ使えなくなった時の絶望を私は忘れない・・・・。

サーヴァント風ステータスのスキル一覧に千里眼付け足しました。妹に「なんで魔術チートなのに千里眼ないの?千里眼ってグランドキャスターの必須スキルじゃん」との指摘を受けました・・・とほほ


なついてくれた桜ちゃんと遊んでいるとマスターが起きた。

 

「ここは…?俺は蟲蔵にいたはずじゃ?」

「おはようございます。マスター」

「!」

「飛び起きるのやめてください。これ以上壊れられると困ります。」

「おまえ…サーヴァント、なのか?」

「はい。シールダーです」

 

そう答えるとなんとなく悔しそうな、いやどっちかというとやるせなさそうな雰囲気でマスターは毛布を握りしめた。

 

「なんで、なんでバーサーカーじゃないんだ。呪文もしっかり言ったはずなのに。それどころかシールダーなんて、これじゃ戦争に勝つことさえ出来ないじゃないか」

「はあ、マスター。貴方何気に失礼ですよね。確かに私は守ることに特化してはいますが、攻撃手段がないわけではありません。あと、今の状態でバーサーカー召喚したら間違いなく死にます。貴方は願いがあって参加したんじゃないんですか?」

「俺に願いなんてないさ、俺がこんなくだらない戦争に参加したのは・・・いや、これは言いづらいから二人の時に」

「おじさん、私、もう寝るからお姉ちゃんと話してもいいよ」

「え、でも桜ちゃん・・・」

「じゃあねおじさん。お姉ちゃんもおやすみなさい」

「ちょっと待って桜ちゃん」

「?どうしたの」

 

首をかしげる桜ちゃんをよしよしと撫でながら静かに言葉を唱える。

 

「この無垢なるものに我が落陽の祝福を」

 

その瞬間桜ちゃんの身体が光に包まれる。それもすぐに収まり、よく分からずきょとんとしている桜ちゃんに問い掛けた。

 

「桜ちゃんが元気になるちょっとしたおまじない。大丈夫?どこか痛いとか苦しいとかある?」

「ううん、でも温かくてポカポカするの。ありがとうお姉ちゃん」

「どういたしまして。さ、もう遅いからおやすみなさいしましょ」

「うん。お姉ちゃんおやすみなさい」

「おやすみなさい。また明日ね」

 

そしてそのまま部屋を出ていく桜ちゃんを見送りマスターに向き直った。

 

「おまえ、桜ちゃんに何をした」

「単純に私の加護をかけただけですよ。あなたには私がいますからあのさっきの魔術師に何かされにくいでしょうけど、あの子にはなにもありません。だから手出しできないようにしました」

「……」

「まあ、口頭で言うだけでは伝わりにくいですから、体験してもらいましょうか」

 

そう言ってマスターの肩を軽く叩くと一瞬の光とともにマスターの顔からケロイドが消え髪も元の色に戻って心なしか顔色もよくなった。

 

「刻印蟲の蠢きを感じない、それに視界も広くなってる・・・?」

「中にいたものならあなたの内臓食べてたので分解して再構築してあなたの魔術回路にしました。分解するうえで植え付けた魔術師の魔力も洗浄して契約とか色々壊したのであっちからの介入は有りません。もうその回路はあなたのものです。あと、身体の悪いところ、内臓含め全部直しました。・・・・これでも信じてもらえませんか?」

「わざわざ敵にそこまでする必要ないもんな・・・・わかった、信じるよ。おまえのこと」

「助かります。」

 

そうして私は薄く笑ってマスター・・・雁夜さんの話に耳を傾けた。

 




イノリちゃんチートそのいち。ちなみに桜ちゃんも加護だけでなく雁夜おじさんと同じように体内を洗浄していろんなところ直してます。これで蟲じいちゃんは二人に手を出せません。
作戦はこれから立てていくわけですが、実は天敵というほどではないし理解し合えばそれなりのコンビになりますがぶっちゃけ自分の死因もあってイノリちゃんは雁夜おじさんが苦手かもしれないです。


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作戦会議2~偶像~

今回はシリアスです。本当はシリアルにしたかったのに気が付いたらこうなってた。
/(^o^)\ナンテコッタイ


「それで、雁夜さんのこの戦争に参加する目的、いえ理由は?」

「ああ、話せば長くなるんだけど・・・」

 

雁夜さんは話し始めた。自分の家の魔術、ひいては魔術そのものが嫌になってこの家を飛び出したこと。久しぶりに幼馴染とその娘たち・・・桜ちゃんたちに会いに帰ってきたらそこに桜ちゃんがいなくて跡継ぎのいない自分の家に養子に出されたこと。そのことで幼馴染が涙ながらに桜ちゃんのことを頼んできたこと。案の定桜ちゃんは家の魔術の修行として蟲に蹂躙されていたこと。その桜ちゃんを解放するために聖杯戦争で優勝しなければいけないこと。

 

「なるほどね、じゃあマスターは生かしつつサーヴァントだけを倒すっていう形でいいの?」

「いや、マスターも殺す。少なくとも遠坂時臣・・・あいつだけは絶対に殺す」

 

意気込んでいるのはいいことなんだけどなんで矛盾に気付かないかな・・・・。

 

「それは何故?」

「なぜって、おまえも分かるだろ!こんな環境に桜ちゃんを放り込んで、あまつさえ葵さんを泣かせて!こんなふうになったのは全部時臣のせいだ‼あいつさえ、あいつさえいなければ…っ」

「ストップよ、マスター。私はあなたたちの身体を診たしこの家の酷さもある程度は理解出来る。その時臣っていう人にも言いたいことはあるわ。でもね、あなたは話し合いのなかで言ったわよね?『普通の一般人と魔術師の価値観は根底から違う』って、だからその人と分かり合えないと思うのも分かるんだけどさ、せめて理由を聞いたの?魔術師だろうがなんだろうが自分の子を養子に出すって結構大事よ。王族なら国際問題に発展したりもしかねない。その遠坂もこの家も元々貴族なのでしょう?その辺は何かしらの事情があってのことなんじゃないの?」

「でも、あいつは葵さんを泣かせて!」

「マスターの幼馴染みで大切な人?なんでそこまで執着するの?」

 

すると雁夜さんは 言い辛そうにした後、諦めたように話す。

 

「彼女は、葵さんは、俺の初恋の人なんだ。美人で優しくて…でも俺の家に来たらきっと蟲の餌にされると思ったら言えなかった。時臣は元々完璧超人みたいなやつで嫌味みたいな存在だけど、でもあいつは嫌味は言っても約束とかは律儀に守るし、葵さんにも優しかったからきっと俺と一緒になるより幸せになれると思ったんだ。けどその結果がこれだ。俺の選択は間違いだったんだ、だから」

「だから時臣さんを殺すの?」

「そうだ「マスター、あなた先のことを軽く考えすぎてない?」どういうことだ?」

 

いかにも納得いかない、と不満げな雁夜さんを見て私は内心溜息を吐いた。あーあ。なんとなく感じてたけど、この人からは私を殺した神様の匂いがするんだよなぁ。嘘か真かは知らないけど叙事詩だと私に恋して魂を手に入れようとしてたみたいな内容だったし。

 

「だってさっきの内容から察するに夫婦仲はよかったんでしょ?少なくとも桜ちゃんを養子に出すまでは。そんな人から旦那さん取り上げてただで済むと思う?マスターの口ぶりからするに恋愛結婚だったんでしょう?好きな人を奪われた人ってさ、ぶっちゃけ何するか分かんないよ。被害者兼原因みたいな私が言っても説得力がない気もするけど」

「?」

「私はある神様に殺されたんだけどね、その神様は私が欲しかったんだって。でもその当時私は既婚者でなんとかものにしようと画策しまくって、結果的に私を殺して魂になったところを狙おうと思ったみたい。でもね、殺した後が問題だった。私の死を看取った夫がそのままにしておくような人じゃなくて、結局その神様は夫に捕まって徹底的に痛めつけられた挙句殺された。まあうん。あの時は子供の出産も重なっててまさに幸せの絶頂!って時だったから余計に、だったんだろうね。それでさマスター、何が言いたいのかっていうと・・・」

 

真っ直ぐに、雁夜さんを見て裁定するように問いかけた。

 

「あなた、その葵さんにズタズタに殺される覚悟、あるの?」

「!え、な、なに言ってるんだシールダー、葵さんがそんなことするわけ・・・・」

「いくら優しくて完璧な人でもそれは人の一側面に過ぎないわ。どれだけ親しくても愛していても秘密はあるのよ。あなたが葵さんへの想いを隠して人の良い幼馴染を演じているようにね。」

「それは、そうだけど・・・」

「彼女を憧れの偶像として見るのをやめろとは言わない、でも時臣さんも葵さんも価値観は置いといて『今を生きる人間』だっていうことを忘れずにそれを自分に置き換えて方針をたてなよ」

 

やや混乱している雁夜さんはここで答えを出すことはせずに「少し考えさせてくれ」と言ってこの場は解散になった。




今回は雁夜おじさんの矛盾と葵さんについて掘り下げました。イノリちゃんとしては遠坂夫婦に物申す!みたいなイライラを抱えてたりするかも。


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作戦会議3~結論とこれから~

早くアーチャー陣営との絡み書きたいです!!
そのためにも何としてもおじさんとの和解をさせておかねば!!


次の日の朝早く。桜ちゃんが起きてくる前に意を決した雰囲気の雁夜さんが私の元を訪れた。

 

「あのさ、あれから色々考えたんだ。」

「うん」

「やっぱり時臣のことは許せない。でも、そうだな、一発殴るくらい。いや、桜ちゃんと葵さんの分も含めて三発殴るので済ませることにした。そもそも葵さんから養子に出されたことは聞いてもなぜ桜ちゃんがウチに来たのかっていう理由を聞かずに先走った俺にも落ち度はあるだろうし、でなんだけど、その、シールダー」

「はい?」

「今まで散々なこと言って、悪かった。俺たちを治してくれたのにお礼も言ってなくて」

「いえ、いいんですよ。あなたが桜ちゃんを守ろうとした。それは保護者としても人としてもとても尊いことなんですから。もし桜ちゃんが遠坂を選ばなかった場合、あなた以外に保護者の適任者はいませんしね」

「はは、ならいいけどな・・・それで、俺の願いは「桜ちゃんの幸せ」だ。俺たち大人が本来叶えてやらなきゃならない、これからのあの子の未来に願うべきこと。そのために、シールダー、俺に力を貸してくれ」

 

雁夜さんは頭を下げた。ああ、ほんとはこんな風にある程度礼儀を弁えた奥ゆかしい人だったのだろう。桜ちゃんのことも含めどれほどこの家の環境が良くないのか間桐家の闇を垣間見た気がする。

 

「もちろんですよ!これからよろしくお願いしますね、マスター!・・・・・・・となるとあれは邪魔ね」

「ありがとう、シールダー・・・・てなにか言ったか?」

「いいえ、なにも。じゃあ願いというか目標も決まったことだし、さっそく修行に移りましょうか」

「修行?」

「はい。回路があっても使えないことほど危険なことはありませんから。魔術の基礎と応用。ある程度戦えないとあなたも桜ちゃんも生き残れませんし嫌だとは思いますけど」

「いや、桜ちゃんを守れるならなんだってする。お前の足手まといにもなりたくないしな」

「・・・ありがとうございます。じゃあ時間もないのでこの部屋を疑似神殿に作り替えて精神と時の部屋みたいな時間の経過のところにします。準備ができたら二人で来てくださいね」

 

てきぱきと今後のことを決めていくと「そういえば」と雁夜さんがふと気が付いたように声を出した。

 

「シールダー、おまえの真名まだ聞いてないんだけど」

「え、言ってませんでしたっけ?私の名前はイノリ。古代メソポタミアの王・ギルガメッシュの王妃です」

 

その瞬間、雁夜さんはフリーズし桜ちゃんが探しに来るまでそのままだった。

まあフリーズしようがなんだろうが修行するのは決定事項だけどね。

 

というわけで、「イノリのパーフェクト魔術教室」始まるよー☆




具体的な修行シーンの予定はないです。単にチルノのパロさせたかっただけ。
イノリちゃんのギルガメシュ叙事詩はかなり有名です。


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修行と予感

ギルとのフラグ建てました!
あんまり書く気がなかった修行内容がなぜか書いてある不思議。あるえ?


雁夜さんと桜ちゃん両方の修行は良好で、この空間内で3日経つ頃には二人とも並の魔術師よりちょっと強い程度になっていた。普通ならこのくらいで修行を切り上げていい頃合いだけど今回は事情が事情なだけにそうも言ってられない。聖杯戦争に参加する人間をよく分からない以上凄腕の魔術師や傭兵などへの対策も取らなければならないため少なくともそれに一瞬でも対抗できるぐらいの存在になってもらわなければ困る。なので今回のカリキュラムは魔術の基礎から応用、人形相手の実戦にいざというときの護身術をメインに組み込んでいる。正直時間がないため詰め込んで追い込む形にしてしまったのではないのか・・・と内心思っていたのだが

 

「先生!今日の分終わりました。今日の成果は影15体で人形60体撃破です!」

「俺も終わった。一応迎撃用使い魔で修行の合間にここらの外一帯見てみたけどとりあえず異常はない」

 

この部屋に入って修行を始めて約一週間(と言っても部屋の外の時間は僅か数分くらいなんだけど)。二人とも生き生きとしています。どうしてこうなった?

どうやらこの二人元々知識欲は旺盛だったようでちゃんとした魔術に触れたことでそれが開花し、間桐のような歪んだものでないせいか物凄いスピードで吸収していった。後の魔術の実践や護身術を加えた実戦には個人差があったもののすっかり環境に適応してしまったようで魔術も実践もほぼクリアしており、気が付けばそんじょそこらの魔術師や傭兵なら裸足で逃げ出すような戦闘能力を持つ鉄人になってしまった。

具体的に言うと二人とも逞しくなった。雁夜さんは元が病人みたいな人だったし、直ってからもそこまで頑丈な身体付きはしておらず典型的日本人みたいなひとだったのに今は程よく筋肉の付いた・・・というかスポーツ選手のような無駄のないキリッとした体形になり、迷いのない顔つきになって益々「戦う者」になった。

一方の桜ちゃん。最も変化があったのはこの子だった。元々卓越した魔術の才能を持っていたこの子は一気に魔術を習得し自分の稀有な属性を理解し完璧に制御できるようになった。そのうえサバイバルのようなこの環境下にいたことで色々吹っ切れたのか「私、ただ何もしないで待つのやめる。自分にできることを全部やってダメだったら助けてもらえるように頑張る」と宣言し、問答無用に人形たちをサクサク倒していく姿に将来性を感じ、「先生」と私を呼び慕い私たちによく笑顔を見せるようになった彼女に私は大きくうなずくが雁夜さんは何故かやや不安そうに見ていた。大丈夫だよもうこれ以上厳しくしないから。そういうと雁夜さんは「違う、そっちじゃない」といって桜ちゃんを見ていた。え、人間の人体の急所を全部教えただけなのになんで?

 

「というわけで本日(と言っても現実だとものの15分程度だけど)を持ちまして「イノリのパーフェクト魔術教室」終了でーす!これでご褒美ないとかそんなケチなことはしません。とりあえず打ち上げっていうことで事前にハイアットホテルの高級バイキングに予約いれといたから行きましょう!」

「おー!」

「え、でも肝心の金は?」

「マスター、私の黄金律はB+よ」

「マジかよ」

「マジよ」

 

*****

 

そうしてハイアットホテルで食事を楽しんで外に出ようと席を立つと走ってきた子供にぶつかった。

 

「あ」

「大丈夫?僕」

「う、うん!だいじょぶ」

「すみません、うちの子が・・・ほら、お姉さんにごめんなさいは?」

「お姉さんごめんなさい」

「ふふ、次からは気を付けてね」

 

そのまま去っていく幸せそうな家族。いいなあ。

そんな風に思いながら次はゲームセンターに行くことにした。その道中なにかを感じたのか雁夜さんが口を開いた。

 

「なあ、シールダーの聖杯にかける願いって何なんだ?」

「何、いきなり」

「聞いてなかったと思って。だめか?」

「いや、そんなことはないよ。ま、聖杯にかけるものはないけど欲はある。私さ、出産と同時に死んだから一度も自分の子供に触れたことないの。だからあの子を抱き上げて「生まれてきてくれてありがとう」って伝えたいの。それだけが未練ね。ただ、これは聖杯に願うことではないわ。聖杯にすがってこの未練を消化したりなんてしたらそれこそ私は自分に失望する。今回の聖杯戦争に来たのはあなたの声を聞いたから。ただそれだけよ」

「・・・そっか」

 

そうやって話し込んでいるうちにゲームセンターにたどり着き、ぬいぐるみのUFOキャッチャーの元へ行くとなぜかライオンのぬいぐるみがごっそりと無くなっていた。

 

「あの、あのUFOキャッチャーのライオンがいないんですけど」

「大変申し訳ありません。実は先程いらっしゃられたお客様がすべて持ち帰られてしまいまして・・・」

「持ち帰った?えと、その人の特徴は?」

 

もしその辺をうろついていたら譲ってもらえないだろうか。私ライオン好きだから欲しかったんだけどなあ。

 

「は、はい。金髪に赤い目の背が高い男性で外国の方のようでしたが・・・」

 

え、なんだろう凄く身に覚えのある特徴なんだけど・・・まさか

 

「ギル・・・?」

 

しかしこれ以上余計に特徴を言って係員の人を困らせるわけにもいかないのでその謎を抱えたまま打ち上げが終わり帰ることとなった。




というわけで雁夜さんと桜ちゃんは心機一転してかなり強くなりました。それぞれ水・虚数のプロフェッショナル、もしくはその一歩手前くらいになってます。益々じいちゃんの肩身が狭くなる間桐家。どうなることやら。あと話題に上げるの忘れてましたが鶴野さんは今現在病院にて療養中です(この時期は家にいられるよりいろんな目のある病院にいてもらったほうが安全だという判断からイノリちゃんに直してもらえなかった可哀想な人とも言う)。


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母と子

今回は桜ちゃん回。
親子の絆はこの世で一番強いというけれど・・・みたいな話。


聖杯戦争が始まったものの、雁夜さんが迎撃用使い魔を飛ばしたり桜ちゃんが路地などの影の多いところに魔術の影を放つがまったくマスターらしい人物もサーヴァントらしい魔力も引っ掛からないままである。とにかくこのまま3人で首を傾げて唸っているわけにもいかないので気分転換に公園に出掛けることにした。ちょうどお昼頃の時間帯でみんな昼食を食べるから誰もいないだろうと思っていたのだが

 

「雁夜くん・・・?」

 

美人な長い黒髪の女性とツインテールの女の子の先客がいた。

 

「葵さん」

 

ああ、この人が雁夜さんの言ってた幼馴染みで初恋の人なんだ。でも実の母親に会ったというのに桜ちゃんの顔色は悪かった。

 

「桜・・・」

「っ・・・・せんせ、おじさん…早く帰ろう、桜、ここいたくない」

「桜ちゃん?」

「きもち、わるい」

「!雁夜さんちょっと桜ちゃんとあっちで休憩してきますね、いいですか?」

「あ、ああ。頼む」

 

葵さんに軽く頭を下げ少し離れたトイレに移動すると我慢しきれなくなったのか桜ちゃんが吐いた。後始末をしてトイレから出ると葵さんたちから離れたところにあるベンチに座って桜ちゃんに膝枕をする。そして閉じた目の上に濡らして冷えたハンカチを置いてあげると落ち着いたのか桜ちゃんの呼吸がゆっくりになった。

 

「せんせい、ごめんなさい・・・・わたし」

「ううん、だいじょうぶ、大丈夫よ。私もいるし、もうちょっと落ち着いたら帰りましょうか」

「うん・・・・あのね、先生は桜と一緒にいて迷惑?」

「迷惑なんかじゃないよ。むしろもっと甘えなさい。いっぱいいっぱい甘やかしてあげるから」

「ふふ、そっか・・・・私ね、間桐のお家の来てずっとおじいさまに「桜がいらなくなったから桜は間桐の子になったんだ」って言われて・・・でもね、ほんとは信じてたの。お父さんとお母さんのこと。でも待っても誰も助けてくれなかった。どんなにがんばって痛いのも怖いのも苦しいのも全部我慢してもそんな人は来なくて・・・一緒にいて抱きしめてくれたのはおじさんだけだったから・・・・今日のお母さん。桜がいた時とほとんど変わってなかった。やっぱり桜はいらない子だったのかな」

 

・・・・やっぱり顎を外すだけじゃ生温かった。最初から殺しておけばよかったかもしれない。

 

「そんなことないよ。少なくともおじさんと私は桜ちゃんにいてほしいと思ってる。桜ちゃんのお母さんは、ちょっと分からないけど、それじゃだめ?」

「ううん、ありがとう先生。桜とおじさんが元気になれたのは先生のおかげだから、先生とおじさんが桜にいてほしいって思ってくれるなら、きっと大丈夫。でも・・・・遠坂さんたちとおじい様は怖いの」

「桜ちゃん・・・」

「帰ろう先生。おなかすいた」

「・・・そうね、帰りましょうか」

 

それから、私たちを心配して早めに切り上げてきた雁夜さんと合流し家へ帰ることにした。




じいちゃんには元々ですが、遠坂夫婦(特に葵さんに)暗雲が立ち込めてきました。
桜ちゃんは他にも色々じいちゃんから言われていてもう遠坂の人の事を信じられない状態に陥ってしまっており、おじさんとイノリちゃんという希望と修行による成果で自信と吹っ切れで前向き・ひたむきさの鱗片を獲得しました。が、やっぱり植え付けられたトラウマはすぐには解決できず今回のようなことに・・・という話。
ただ気絶しないでちゃんと話せるくらいにはもうこの時点で強くなってると思います。公式で精神耐性が強いと言われているくらいなので。

次は遠坂突入か倉庫街か迷います。


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躾はしっかり手綱を持つことから始まる。 1

じいちゃん余計な事をする&いろんなフラグ回、またの名をバーサーカー生存回。


ある日の夕方。間桐臓見は久々に蟲蔵へと向かっていた。それを今恐怖に思う者は既にここには誰一人いなかった。

 

「(雁夜め⋅⋅⋅⋅あやつがあの女なぞ召喚しおったからに)」

 

あの女⋅⋅⋅シールダーが召喚されてからというものの臓見のこの家での生活は彼にとって最悪だった。

出会い頭に何らかの呪いをかけられ、顎が外れ呪文を唱えられないため大規模な魔術を行使できない。呪文を唱えずとも蟲たちを使役できるがその程度ではシールダーにはまったく通用しなかった。

ならば雁夜や桜を⋅⋅⋅⋅とも考えたが何らかの術で守られているため入る隙もない。そのうえシールダーの特訓により魔術も戦闘もオールマイティーにこなせるようになってしまい益々取り込めなくなった。

ぶっちゃけるとこの家での臓見のヒエラルキーは鶴野が居ないこともあって最底辺だった。

あの愚息どもや孫の怯え恐怖にひきつる顔を見るのがなによりの楽しみだったというのに、今では手のひら返したように見て見ぬふりである。

このままではまずい。本懐の不死身どころかこの家での立場がなくなる。そしてなによりたかがサーヴァント…使い魔なぞに遅れをとっているという事実が二百年以上を生きる大魔術師の自分のプライドを傷付けた。それもキャスターではないシールダーなどというエクストラクラスに。

何がなんでも起死回生の機会をつくり、思い知らしめてやろう。そう思って薄暗く湿気のあるそこにたどり着くと臓見は視界の下になにかを発見した。それは幾重にも重なった鎖で繋がれ、辛うじて唸りながらもがいていた。

それを見つけた臓見は久々に口角を吊り上げた。これは間違いなくあの時のものだ。恐らくここに縛りつけたのはあの女。これはいい。

 

「このようなところに縛り付けられ続け自らの本懐を遂げずに終わるなど余りだと思わぬか?のう―――――――バーサーカーよ」

 

唸り声をあげる忘れ去られた黒き狂戦士に益々笑みを深めるとそれを拘束している鎖に触れた。

 

 

*****

 

一方、その日の夜。イノリは自分の施した封印の揺れを察知した。

 

ーーーーーー誰がやったか、なんて考えるまでもないんだけどね。

実は私は雁夜さんの召喚に割り込んできただけであって召喚そのものはキャンセルしていなかった。本当に呼び出したかったのはバーサーカーなのだし、いざというときの戦力として残しておくのも悪くないと思い、とりあえず雁夜さんの負担にならないように供給ラインを召喚と同時に切断。暴れられると困るので魔力で編んだ特製(即席)の鎖で拘束しつつそれからバーサーカーに魔力を提供していた。

 

「桜ちゃんと雁夜さんはもうあそこに行かなくてもいいはずだし、やっぱり一人しかいないよねー・・・」

 

ということで事情を話し雁夜にも付いてきてもらいもう誰も寄り付かなくなった蟲蔵へ向かうと。

そこには元々封印していたものではなく、別の人物がかかっていた。元々即席とはいえサーヴァント・・・英霊を拘束する鎖なのでいくら名の知れた魔術師といえど言葉を発せないほどの状態になっていた。

 

「えーと、俺たちは拘束されてるバーサーカーの様子を見に来たんだよな?なんでジジイが逆に拘束されてるんだ?」

「それはこの人が封印に干渉したからでしょうね。普通に触る分には何ともないはずなんだけど、きっとこの人のことだからバーサーカーの封印を解いて私たちを出し抜きたかったんじゃないですか?」

「あー、それはたしかにあるな」

「バーサーカーっぽい魔力補足しました。ちょっと追っかけてきます。」

「ああ、じゃあ俺たちはその間に先に遠坂邸に行ってる。」

 

あの葵さんとの邂逅から私たちは話し合い、遠坂さんちに乗り込むことにした。本当はもっと前もって準備すべきなんだろうけど、今は聖杯戦争真っ只中でいつどちらが殺されてもおかしくないので早めの方がいい。という結論になり、さすがに何もなしで行くのはまずいので一方的に使い魔に郵送させてもらった。届いてないとか言われると面倒なので郵送する書状には魔術のプロテクトの他に「捨てても必ず手元に戻ってくる」「送り主じゃないと消却できない」呪いをかけておいた。そして今日の夜、というか今から行こうとしていたのだ。これさえなければ。

 

「すみません。捕まえたらその足で急行します」

「大丈夫だ、いざというときはパスと令呪がある」

「・・・はい。じゃあ、行ってきます!」

「気をつけてな!」

 

雁夜さんの声を背に私はバーサーカーの反応がある場所―――――倉庫街へと急いだ。




遠坂さんちフラグ=再会フラグにしようかどうか迷ってます。倉庫街の場面はバーサーカーなしにはきっかけとしてきついかなと思ったのでバサスロットの召喚には一応成功した、という事にしました。


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躾はしっかり手綱を持つことから始まる。 2

うーん、戦闘シーンって難産ですよね。

水着ガチャ、礼装以外当たりません・・・・


一方その頃の倉庫街。イノリがリオに乗ってその場に向かうなか、戦いは既に始まっていた。

突如として現れた乱入者・バーサーカーがアーチャーの宝具の迎撃をしたことにより一層その場の空気が張り詰める。

 

「痴れ者が天に仰ぎ見るべきこの我を同じ大地に立たせるか!その不敬は万死に値する!そこな雑種よ、最早肉片一つ残さぬぞ!!」

 

更に宝具を射出しようと構えたその時

 

「見つけた!」

 

はるか上空から声がすると同時に鎖が現れ、バーサーカーを拘束した。もがき苦しむバーサーカーを尻目に獅子に乗った少女―――――イノリが降り立ち、アーチャーとバーサーカーの間に割り込むような形になる。

 

「Aaaaaaaaaaa!!」

「やっと見つけたと思ったらこんな面倒なところにいるだなんて、あなたは狂戦士というより戦闘狂ですね。全く、あの人さえ余計なことをしなければこんな緊迫したところに首を突っ込まずに済んだんですけど」

「A、Aaaaaaaaaaaaaa!!」

「うるさい。また供給止められたいんですか?それとももっと痛いのがお好きで?私は別にどちらでも構いませんけど」

「A、a・・・」

「よろしい。なら霊体化しておきなさい」

 

そしてバーサーカーが霊体化したのを見届けアーチャーに向きあう、と目を見張る。それは向こうのアーチャーも――――――――ギルも同じだったようで驚いたように目を見開いている。それはそうだ、だって、あの時私が死んだその時でもう会えないと思っていたはずだから

 

「おまえなのか・・・?」

「うん、久しぶり、ギル」

 

すると金の粒子になったギルが私の目の前にやってきて、私を抱きしめた。

 

「ギル、」

「叶わないと知りながら、どれほどこの時を待ちわびたのだろうな我は・・・・・会いたかった」

「私も・・・・そう思ってた」

 

どれほど経ってもきっと私はこの人に恋をしてこの人を愛するのだろう。少し腕を緩めギルの目を見る。

 

「最初はただ召喚者の声に応じただけだったんだけど、ふふ、聖杯戦争も捨てたものじゃないわね」

「こうも我を興じさせるとは、聖杯もなかなか粋な事をするではないか」

「あなたは見たところアーチャー?」

「そういうお前はなんだ?キャスターか?」

「んーん、今回は正規のクラスじゃなくてエクストラクラス、シールダーとして召喚されたよ!」

「シールダー、盾のクラスとはな!おまえにピッタリではないか!」

「でしょー。ある程度自由利くように色々頑張ったんだよ。魔術は元ほどじゃないけど使えるし、ちゃんと戦えるよこれでも」

「ほう、なら試してみるか?」

 

そうしてお互いに離れ臨戦態勢に入る。ギルの背後にはさっきより多い何十もの波紋が浮かぶ。

全員が息を呑み何も言えずに見守るなか私も構えた。

 

「うーん、久しぶりだねこういうの。不謹慎だけどちょっとワクワクしちゃう」

「そら、全て受け止めて見せるがいい!!」

 

ギルの言葉を合図に宝具の雨が私に向かってきた。そして私も盾を出して応戦する。と言っても寸前で出したので爆発の煙とか轟音とかは消せなかったけど。煙が晴れるとその場にいるギル以外の全員が目を見開いてこちらを見る。

 

「馬鹿な・・・あれだけの宝具を受けて傷一つないなど」

 

いや、黒子の美丈夫さん聞こえてるよー。シールダーを舐めてかかっているセリフじゃないか?今の。

 

「聞こえてますよ!そこのタイツっぽい服の人!!」

「お、俺の事か?というかタイツ!?」

「そうですあなたです!シールダーを馬鹿にするような発言!!やめてもらえます?」

「い、いや俺はただ・・・」

「はあ、まあいいです。どうせ役に立たないサーヴァントっぽく思ってる人、あなた以外にもいるんで・・・・うちのマスターも最初そんな感じだったし・・・」

 

最初の雁夜さんを思い出して少し沈む、が今はギルとの戦闘中なのでとりあえずタイツの人を置いておいてギルに向き直る。

 

「じゃあちょっと邪魔が入ったけど、次は私ね!」

 

魔術で応戦しようと宙に浮かぶ金の文字。私を囲むように展開されたそれが消える。今だ!

 

「神秘が少ないのはいただけないけ、どっ!!」

 

まあ、私にはあんまり関係ないだろうし、とか他人事っぽく思いながらギルに向けて一閃。ギルはそれを避け当たらなかったそれは拡散しまた集まって一本の巨大な剣になってギルに迫る。けど――――――――剣はギルに当たる直前で砕けた。ギル自身に結界を張る力や権能はない。とすると

 

「ふん、お前の魔術だ、耐えられるものにも数に限りがあるが・・・確実に耐え防ぎ切るものなら一つある」

「!それ、私のあげた鏡」

「そうだ。―――――――さてそろそろ仕舞にするとするか。」

「!、なら」

 

ギルの新たに出した波紋から金の柄が出てくる、間違いない。エアだ。

私も負けじと盾を展開して待ち構える。が、ギルが柄に手をかけようとした瞬間ギルの動きが止まった。

 

「貴様如きの甘言で王たるこの我に退けと?大きく出たな時臣」

「え」

 

ギルは納得いかないようでかなりイラついているようだけど展開していた波紋も、刺さっていた宝具も全て消えていく。おそらく令呪を使われたんだ。というかひょっとしてギルのマスターって時臣さんなんだろうか。

 

「雑種共!次までに有象無象を間引いておけ、我とまみえるのは真の英雄のみでよい」

「あ、待って。今言った人がマスターなら私も付いてく」

「よし、行くぞ。」

 

そして霊体化しているバーサーカーの鎖を持ってリオに乗りそのまま私も倉庫街を離れた。




次はお約束の突撃遠坂さんちの晩御飯!をやろうと思っています。
そして作中に登場させていないイノリちゃんからのギルへの贈り物。天の鎖が宝物庫にあったのを思い出して親友があるのに奥さんがないなんて・・・と思って緊急出動させました。
あとランサーは驚いて呟いた言葉のせいでイノリちゃんのなかではちょっとだけ株が下がりました。魅了も全く効いてないから特にね!


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突撃!巷で噂の遠坂家お宅訪問

想像以上に長くなってしまった遠坂お宅訪問の回。長いので分けます。
シリアスです。
先に謝らせてください。遠坂夫婦ファンの方ごめんなさい。


遠坂邸に着くとギルと別れ、家の門の前に雁夜さんと桜ちゃんがいた。

 

「あれ、二人とも中に入ってないんですか?」

「時臣のやつ、魔術を捨てた俺が本当にここに来ると思ってなかったみたいでな。使用人も殆ど暇を出した・・・というか休暇でいないらしくて今てんやわんやなんだ。何もなければいいけど、あいつ肝心なところでドジだからな・・・」

「でもたしか文面には《奥方も》って入れたから葵さんも来てると思うよ」

「!」

「そうだな・・・大丈夫だよ桜ちゃん。いざとなったら俺の使い魔かシールダーと遊んでおいで」

「・・・うん」

 

両親、特にこの間のことが尾を引いているのか桜ちゃんが反応した。本当は連れてくるべきじゃないんだろうけど、あの家に一人にしておくなんて出来ない。でも、雁夜さんが頭を撫でて微笑むとコクリとうなずいてほんの少し笑顔になった。ここの空間だけ別世界だ・・・。

そんなふうに思っているとカソック姿で体格のいい人が出てきた。

 

「間桐の使者、少々遅れてしまったが準備が整った。さあ中へ、師と奥方が待っている」

 

言われるがままについていくと応接間のようなところに通され、そこには既に赤いスーツを着て貴族然とした男性―――――おそらく時臣さんがいた。

 

「ようこそ。色々あって大したもてなしは出来ないが、寛いで行くといい。ああ、綺礼。葵を呼んできてくれ」

「は、只今」

 

そういうとさっきの体格のいい人が部屋を出ていく。そして今のうちに私も聞いておく。

 

「桜ちゃん、これから私たち話し合いをするんだけど、もしこれ以上ここにいたくないなら別のお部屋借りる?」

「ううん、大丈夫。だって、先生もおじさんもいるから、私、頑張る」

「・・・そっか。でも無理なときは無理って言うのよ?」

「・・・・うん」

 

桜ちゃんは私の服の裾をぎゅっと掴みながらもその場から一歩も引こうとはしなかった。

それからしばらくすると案内されて葵さんが応接間に入ってくる。この間の公園の時のように優雅な足取りで夫の斜め後ろまで歩いていく、しかし雰囲気は前とは打って変わって硬く張り詰めている。

 

「さて、書面にあった人物は全員揃った。私も時間がないからね、さっそく始めようじゃないか」

「・・・・そうだな。じゃあまず一番聞かなきゃいけない質問。なぜよりによって間桐に桜ちゃんを養子に出したんだ。」

「何を聞くかと思えばそんなことか、魔術は一子相伝。遠坂は凛にしか継がせられないが、それでも桜には凛と同等の才能があった。それを潰してしまうより、生かしてやるのが親というものだ」

 

その言葉に私・桜ちゃんそして葵さんが反応した。

 

「・・・うちに養子として送り込んだのはなぜだ?時計塔に縁のあるお前ならもっと名門の家との交流もあったはずだ」

「・・・・これは桜の才能にもかかわってくることだ。いい機会だし話しておこう。桜は凛並の魔術回路に架空元素・虚数という稀有な属性をもっている。この属性はその名の通り元の五大元素とは全くの別物であり、もちろん血縁だからと言って受け継がれていく可能性も限りなく薄い。協会に見つかれば間違いなく「封印指定」を受け生涯幽閉された挙句検体として標本化される。そのようなものを扱う人間を持つ家など私のもとにはいなくてね、正直言って、私も持て余していた。そんな時、声をかけてきてくださったのが間桐のご老体だ。桜の処遇に困り果てていた私に養子の話を切り出してくれた。思わず天啓だと思ってしまったくらいだ」

 

やっぱり何かしらの事情があったんだ。なるほど、この人はこの人で桜ちゃんを守ろうとしていた、ということになるのだろうか。

 

「おまえは、間桐の魔術の酷さを知ったうえで桜ちゃんを手放したのか?」

「間桐と言えば使い魔の扱いに長けた魔術を使うと聞いている。それに家の秘伝は極秘事項だ、むやみに詮索することは許されない。それを魔術の酷さ?魔術を修めるにあたって多少の苦痛は付き物だ。魔術から逃げた落伍者の君に語ってほしくはないね」

 

そこで葵さんも時臣さんに続く。

 

「そうよ、雁夜くん。正直言って私も桜を送り出すのはつらかったし、納得いかないところもあったけれど、それが魔道に生まれたものの宿命。出ていったあなたには関係のないことよ」

「っ・・・葵さん」

「雁夜くん、私は言ったはずよ。この人の妻になるとき覚悟を決めたの。今の話でこれしか桜が幸せに生きられる道がないことも分かったわ。だからもう、このことで私たちに関わるのはやめて頂戴」

「でも、それが桜ちゃんの幸せに本当に繋がるとは」

「しつこいわ、桜の事を頼みはしたけどそれはあくまで間桐の話。遠坂の決定とは別の話よ」

 

平行線になりそうだし、なんだかイライラしてきたので発言させてもらおう。

 

「マスター、発言の許可を」

「シールダー・・・わかった、いいぞ」

「ありがとうございます。ではまず、葵さん。あなたから」

「・・・・私が何か?」

「《魔道に生まれたものの宿命》っていいますけど、葵さんは魔術師の家系なんですか?」

「いいえ、私の生家は数世代前まではそれでしたが、今は普通の名家です。だから魔術師の使命や重圧は理解しているつもりですわ」

 

だからこの人から普通の人間程度の魔力(生命力)しか感じなかったのか。あれ、でも魔術師は利益優先にする人が多いって話・・・ただ貴族の妻として最適な何も言わない人なら他の魔術の名家でも家を継げない子に処世術として躾けているなんて話はザラにある。なのにどうして魔術回路を持たない、ともすれば凡俗とも蔑まれそうな人を時臣さんは妻に・・・・?ちょっと待てよ、いくら時臣さんが優秀な人だと言っても桜ちゃんの方が見たところ魔力に溢れているうえに虚数なんてレア属性な奇跡みたいな子が生まれるか?前に会ったツインテールの子も一目見ただけだが桜ちゃん並に才能に溢れた子に見えた。そんな奇跡の連続が起きるなん、て。

 

「葵さん、あなたの実家で、特異体質の方はいますか・・・?」

「?いいえ。超能力などの目に見えた力を持ったものはだれもいません」

「そう、ですか」

 

私の質問に反応したのは時臣さんだった。葵さんはそれに気づかず私に返事を返す。即答したところと反応の薄さ、時臣さんの反応。おそらく葵さんは自分が知らないだけで特異体質。父親の個体を超える個体を生み出すとかそういうものの。そして、反応を見るに時臣さんは知っていたのだろう。

 

「少し、話がずれました。答えていただきありがとうございます。それで、葵さん。あなたは魔道に生まれたものの宿命と言いました。それが桜ちゃんにとっての幸せだと。ならなぜその魔術から遠退いた雁夜さんに「頼む」なんて無責任なことが言えるんです?それも悲痛な表情で。「桜ちゃんはもう間桐の方で幸せになっている」そう思っている、覚悟を決めて割り切った人ならそんな顔しません。しかもそう打ち明けた雁夜さんには前置きに「あなたには関わりのないこと」なんて釘まで刺しているのに頼むだなんて友人に対して取っていい態度ではありませんし、彼がもし理性的な人物じゃなくて「あそこまで言われてなんで頼みなんて聞かなきゃならないんだ?よし、腹いせに桜ちゃんをボロボロにしてやろう。だっていいよね、頼まれたんだし」なんてクズだったらどうするんです?」

「!、そ、そんなこと雁夜くんはしないわ」

「この養子の件を聞いたときに雁夜さんもあなたと同じことを言ってました。でも人間なんて多面的で不確定の塊みたいな存在なのになぜ一面だけで判断できるんです?」

「あ・・・」

「それに、養子に出したなら出したなりに節度を持って対応すべきです。もう桜ちゃんは「遠坂」ではなく「間桐」なのでしょう?なら前のように呼び捨てではなく「桜ちゃん」で通すべきです。それこそ凛ちゃんのお友達に接するように。・・・桜ちゃんは分かりませんが、子供に無責任な希望を持たせるの、やめたほうがいいですよその分絶望も深いですから。養子に出した以上元には戻れない、そう覚悟していたのでしょう?」

「うるさい!!」

「葵さん!」

「葵やめなさい!!」

 

耐えきれなくなったのか震えていた葵さんは般若のような形相になって私に掴みかかった。

 

「あんたに、子供を産んだこともないようなあんたに何が分かるのよ!子供を取られた親の気持ちが!私だって本当は他所になんてやりたくなかった!!でも仕方がないって言い聞かせて必死に飲み込んでただ幸せを願ったわ!それが親の務めでしょう!?」

「ほら、それが本音なのでしょう?」

「!!」

「雁夜さんから聞きました。あなたは女性として完璧な人だって、魔術師の夫に対してもあなたは同じように三歩下がってついていくような、妻の鏡のような人物。だからいままでの時臣さんの決定には何も言わなかった。桜ちゃんの時も。でもだからこそ、養子の話を言われたときあなたは時臣さんに抗議すべきだった。もしかしたらいつもと違って必死に抵抗するあなたを見て、ある程度意見を変えることだってあったかもしれない。・・・人間も神様もみんな口に出して言わないと分からない。そうでしょう?きっと時臣さんもあなたの本音を聞いたのはこれが初めてだったのでは?」

「あ、私、私は・・・」

 

よろめく葵さんから目を離し次と言わんばかりに時臣さんを見る。時臣さんも葵さんの豹変も本音を聞くことも初めてだったらしく驚いていたようだけど、容赦するつもりはない。

 

「では、時臣さん。あなたは桜ちゃんを守ろうと、幸せになってほしいがゆえに間桐へ養子に出した。そういうことで合ってますか?」

「あ、ああ。合っている」

「その点は親としてちゃんと責務を果たした、とみるべきなのでしょう。でもよく考えてみてください。今までほぼ没交渉気味だったはずの同じ地に根付くライバルがなんの打算もなく名門の当主であるあなたに近づくでしょうか?」

「その点に関しては了承している。そこの落伍者・・・いや失礼。貴方のマスターである雁夜が魔術を忌避し出奔したことで間桐には跡継ぎがいなくなってしまった。間桐のご老体は何としても家を途絶えさせるわけにはいかなかったのだろう。桜を次期当主にすえることで家の庇護によって桜を守ると約束してくれた。それに我々魔術師に課された命題・・・根源到達の悲願はどの家でも同じこと。凛も桜もそれができる可能性を十二分に秘めている。だから私にはどちらの才能も、そうした輝かしい未来も潰すことはしたくなかった」

「それが凛ちゃんと桜ちゃん、もしくはその後継者たちが血で血を洗うような殺し合いになったとしても?」

「無論。将来根源を求めて姉妹で相い争うこととなり、どちらが勝者となっても、娘たちとその末裔は幸福であると私は確信している」

「・・・魔術師としては正しいのでしょうけど、それはあなたの理想であって二人が、少なくとも桜ちゃんが言ったことではありませんよね」

「しかしこれは魔道の家系に生まれた者なら誰しも思うことだ。最も、凡俗と魔術師では価値観に差異があることは分かっている。だから無理に理解してもらおうとは思わない」

「・・・まあそうですね。私も魔術は使いますけど根源を目指そうと思ったことはないし、魔術師ではありませんから・・・なら分かりました。さっそく答え合わせといきましょうか」

「答え合わせ?」

「はい。どうやら私たちとあなた方の間には価値観以前に認識や情報の食い違いがあるようですから、お互いに埋め合ってなるべくこの件に関して隠し事をなくそうと思いまして。マスターいいですか?」

「・・・・ああ、本当は葵さんに見せたくないけど・・・納得してもらうにはこれしかないなら・・・桜ちゃん、おじさんたちちょっと難しいお話するからおじさんの使い魔とシールダーのリオと一緒に隣の部屋に行っててくれるかい?」

「うん、わかった。いこ、リオ」

 

促す桜ちゃんにリオは了解したように一鳴きすると付いていった。桜ちゃんとリオの足音が遠のいたのを確認し、話を戻す。

 

「まず前提から崩していきましょうか。時臣さん、間桐のご当主が望んだのは「将来有望な後継者」などではありません「自分好みの木偶人形」です。そもそも後継者のことで必死になっているならいくら才能が劣っていようと出奔した雁夜さんを野放しになんてしないでしょう。本当に雁夜さんに呆れていてもそれなら間桐と相性の良さそうな伴侶をあてがえばいい。そうすれば何も聖杯戦争で争う家に借りなんて作らずに済みますし、普通に魔術を扱える程度の才能を持った子が生まれることだって可能性はゼロじゃない。けれどそれをせずに、むしろもっと効率のいい方法があった。それが、桜ちゃんを養子に迎えること」

「まあ、そういうことは他の家でもやっていることだ。しかし間桐のご老体をそこまで言うとは、あなたも雁夜に絆されたのでは?」

「いいえ、こういうことには私は独自に動きますから、マスターはあまり関係ないです。と、話を戻しましょう。桜ちゃんは魔術の才能を見込まれて養子に行ったのではありません。ある特異体質の可能性を見込まれて間桐に引き入れられたんです」

 

そこで時臣さんの表情が少し強張った。

 

「まさか、いやしかし・・・」

「・・・私が召喚されて桜ちゃんを見た時、あの子の身体はマスターほどではありませんが相当ボロボロでした。おそらく長期にわたる蟲たちによる蹂躙でもうほとんどの魔力を食われ、心身ともに傷ついて。あなたが言う稀有な属性の虚数もそのせいで間桐の水の属性に塗りつぶされ、それどころか魔術の基礎、魔術の知識さえ教えられてなかったんです」

「そんな、それではまるで桜は・・・」

「はい。おそらくあなたの想像通り、あの子は間桐の血を繋げより優秀な子を産む胎盤扱いだったのではないのでしょうか」

「馬鹿な・・・っ」

「これでも雁夜さんが帰ってきて彼が桜ちゃんを庇って蟲に蹂躙されるようになってからは身体の負担が軽減されたためかマシになったらしいんですが・・・心の方の傷はなんとも」

 

ショックで何も言えない時臣さんと泣きながら震える葵さん。おそらくこの二人は理解してしまったのだろう。自分たちの理想と桜ちゃんの現実の落差を。特に葵さんは名家の淑女として貞操の重さを理解しているはずなのでなおさらだろう。

 

「雁夜くん、なぜあなたはあの時間桐から出ていったの・・・?あなたさえいてくれれば桜だってこんなことにはならなかったはず、そうでしょう?」

「あ、葵さん・・・?」

「それにあの子だってその時いた当事者でもないのに・・・やっぱり桜を返して頂戴。その環境においたのが間違いだというならまたやり直せばいいのよ」

 

そういう葵さんの目は泣いているのにどこか怒りに染まった色をしていて口元には薄く笑みを浮かべていた。雁夜さんはまさか葵さんにそんなことを言われて詰め寄られるなんて思ってもいないことだったのか反応が遅れてしまい葵さんの手が自分に迫っているのに動けない―――――――そんなとき床から見覚えのある赤と黒の帯のような影が現れ葵さんを拘束した。

開いたドアに目を向けるとそこにいたのは――――

 

「ほう、騒がしいと思ってきてみれば、なかなか面白いことになっているではないか」

「・・・・」

 

ギルと桜ちゃんだった。




次回はギルが出てきちゃったので真実(主に葵さんの)と桜ちゃんの本音大暴露回にするつもりです。次も色々シリアス多いかも。


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本音と家族

桜ちゃんの本音と葵さんだけが知らない葵さんの体質の話。
本当に葵さんファンの方には申し訳ないです。


開いた扉の先にいたのはギルと桜ちゃんだった。そして間一髪で葵さんを拘束したのは桜ちゃんの虚数でできた影だった。

 

「おじさん!」

「桜ちゃん!どうしてここに!?」

「何、時臣が帰ってこいなどと我に令呪を使い、帰ってきてみれば何やら応接間が騒がしいことに気が付いてな。寄ろうと思い廊下を歩いておればこの見かけぬ子雑種がいたゆえドアを開けてやった、それだけのことよ」

 

桜ちゃんが驚く雁夜さんのもとに走って飛び込んだ。雁夜さんは咄嗟にそれを抱き止めて目線を合わせる。

 

「おじさん、大丈夫?ケガしてない?」

「うん、桜ちゃんのおかげで助かったよ」

「よかった」

 

ほっとしたようにほんの少し笑顔になる桜ちゃんとそれを見て桜ちゃんの頭を撫でる雁夜さん、本当の親子のように見えるそれだったが、拘束されている葵さんはそう思えなかったらしく桜ちゃんの方を見て声を上げる。

 

「桜!何をしているの。さあ、お家に帰りましょう。間桐のようなところにあなたを置いておけないもの。今度こそ家族みんなで一緒に遠坂で暮らしましょう、ね。ほら、手を取って」

「嫌です」

「?な、なにを言ってるの、桜?その人たちは今まであなたに痛いことをしてた人たちなのよ?こっちに来なさい」

「嫌だって言ってるでしょ!!」

 

その時桜ちゃんは葵さんの差し伸べた手を払いのけた。桜ちゃんは葵さんを睨みつけ、葵さんは振り払われたことへのショックと理解できない娘の行動に目を白黒させているようだった。

 

「桜、どうして「何もしないで見てただけの人に言われたくない!!」っ!」

 

桜ちゃんの叫びにも似た声に葵さん、時臣さん、雁夜さんが固まった。

 

「・・・ほんとは、信じてた。辛くて痛くて苦しくても魔術の修行さえがんばってれば、いつか桜を助けに来てくれるんじゃないかって。おとぎ話やテレビのドラマみたいに。間桐のお家にかっこよく乗り込んできて「もう大丈夫」って言ってくれるお父様や抱きしめてくれるお母様をずっとずっと信じてたの・・・でも待っても来てくれなくて、おじい様の言ったように桜は「いらない子」だから間桐に入れられたんだって思うようになって・・・でもおじさんが戻ってきて抱きしめてくれたから今まで頑張って来れたの。おじい様にいじめられてる桜を助けてくれたの!桜の代わりにいじめられるようになってからもおじさんは桜のこと真っ先に心配してくれたよ!おじさんの方がどう見たって桜よりボロボロで痩せてて血を吐いても、おじさんは桜の前では「辛い」なんて言わなかった!そんなふうになっても、桜と一緒にいてくれたの!なのに、なのにどうしておばさんや遠坂さんはおじさんと先生の悪口ばっかり言うの!?先生は桜とおじさんを助けてくれたんだよ!?おじい様を倒して、桜とおじさんの悪いところを全部直してくれて、痛くない魔術も戦い方も全部教えてくれたの。なのになんで!?何も知らないくせになんでそんなふうに言うの!?」

「雁夜くんが、そんな目に・・・?」

 

葵さんの目が雁夜さんに向けられるが雁夜さんはその目線に答えようとはしなかった。そして桜ちゃんはまだ止まらず話し続ける。

 

「遠坂さんはおじさんが家から逃げたから馬鹿にしてるの?でもあんなの見せられたら誰だって逃げ出したくなるよ。だってどんなに頑張ってもおじい様の新しい器か、おじい様の蟲に食べられて蟲の栄養にされちゃうんだもん」

「そんな・・・」

「嘘じゃないよ、だっておじい様が鶴野お父さんに言ってるのきいたもん」

「っ」

 

時臣さんの顔が蒼白を通り越して紙のように真っ白になっていた。そりゃそうだ。見下していた雁夜さんの環境がここまでひどいものだなんて思ってなかっただろうし、間桐も資産家で資金はあるし、たぶん自分と同じような生活を送りつつ魔術を忌避する愚か者だとでも思っていたんだろう。そのうえ未来を信じて養子に出した娘が間桐にとって体のいいただの胎盤扱いだったのと、その娘と将来できるであろう子供が最終的にたどり着く末路。正直最悪以上のものと言っても差し支えない。

打ちのめされ深く沈んだ時臣さんを一瞥すると今度は今まで黙っていたギルが葵さんに向かって口を開いた。

 

「――――――時に女、お前は自分がなぜ時臣に選ばれたのかわかるか」

「え」

 

私が、私たちが敢えて触れずに素通りしていたところを突いた。葵さんもよく分からないといった表情でギルを見る。

 

「ギル!それは・・・」

「止めるでない、イノリ。おまえはこういったことにはどうにも甘すぎるきらいがある。こうなった以上どうせ遅かれ早かれ暴かれることなのだ。いっそこの場で引導を渡してやるというのが筋だろうよ」

「・・・・」

 

その言葉に私は黙り込む。確かにそれはそうだ。でも今までの展開からして、これは葵さんにとって一番最悪な話になる。それが更に彼女を追い詰めることに成りかねない。

一方で葵さんはいきなりの質問に困惑していた。

 

「それはどういう意味?」

「そのままの意味だ。おまえはどこまで理解している」

「・・・・私の家は元々魔術師の家系で、ある程度それに理解があるだろうからと。私の家の方も限界を感じて根源を目指すことを数代前に諦めてしまったようだったからまだ魔術師として続く遠坂の家への輿入れには積極的だったのもあって私は時臣さんのプロポーズを受け入れた、それだけよ」

「ふ、ふふ、フハハハハハハハハハハハハッ!!」

「っ、何がおかしいというの?」

「なんだ、お前はたったそれだけで選ばれたとでも思っているのか?フハハハハ!これは滑稽にもほどがある!そのような価値観の理解などというのが理由だというのなら今頃はどこぞの三流魔術師でも娶っておろう。ましてや貴様の一族は既に数代前には諦めが付くほどの回路しかなかった。ならばもうその数代先の貴様には回路はない。一つもな。魔術師の間では回路を持たぬ人間を「凡俗」と侮蔑し切り捨てる。貴様も本来ならばその部類の雑種にすぎぬ、ならばなぜ己の娘さえ切り捨てる典型的な魔術師である時臣が貴様を選んだのか、だが」

 

ギルが一旦区切って葵さんに目を向ける。やや目を細め、口元には薄く笑みをたたえて。裁定、真実を暴く者もしくはその両方。しかしこれは、もっと純粋に抉り出そうとするあくどい笑顔だ。

 

「それはなお前が「番の血統の潜在能力を最大限まで引き出した子を産む」という特異体質だったからだ。これは相当珍しい体質でな、禅城の女が輿入れした家系が魔術師として再興・大成したとでも聞いていたのだろう、これに目を付けた時臣は歳の近い貴様に近づくことで理想の後継を作ろうとした。わかるか女、貴様が時臣を選んだのではない。時臣が貴様の才能欲しさに取り入った、それだけのことだ」

 

突きつけられた真実に葵さんの目は見開かれ、身を守るように両腕で自分を抱きしめている。

 

「そんな、そんなウソ、嘘よ!ねえ、時臣さん何か言ってください。お願いですから、違いますよね?」

「・・・・」

「なんで?なんで何も言ってくれないんですか?まさか本当なんですか?私は、私は体質だけで選ばれたの?じゃあ、今までの私の努力は?何も言わずにいた私は?桜を手放した私は・・・私は一体なんだったの!?」

「葵・・・」

「嫌!そんな目で、憐れんだような、何も見ていないような目で私を見ないで!嫌、嫌。いやあああああああああ!!」

 

頭を抱えて泣きじゃくり床にへたり込んだ葵さんの悲痛な叫び声が響き渡った。

 




たぶん葵さんは魔術師の価値観を受け入れられても自分がその中に入っているとは思ってなさそうだなと思って書きました。最愛の娘を巻き込まれてる時点で自分も十分その中に入ってると思うんですが・・・。
ちなみにイノリちゃんはこの話題を避けつつ話を終わらせようとしていました。凛ちゃんのことも考えて葵さんを再起不能にさせるつもりはなかったからです。ただ、ギルの言う通りいずれ知ることだろうし、何より桜ちゃんが胎盤扱いされるきっかけって葵さんが遠坂に嫁に行っちゃったからなんだろうなと考えたらやるせなくなってギルに出張ってもらいました。


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新しい絆/現代的愉悦講座

遠坂家訪問編はこれにて一旦終了です。


葵さんが落ち着くのにまだ時間がかかるとのことで、私たちは一旦別の部屋で待機することになった。そこで桜ちゃんは何か言いたそうにもじもじしながら落ち着かない様子でチラチラと雁夜さんを見ている。

 

「?どうしたの、桜ちゃん」

「あ、あのね。おじさんに、言いたいことがあるの」

「な、何かな?」

 

お互いに落ち着かずしどろもどろになりながらではあるが、雁夜さんは桜ちゃんの前に行きしゃがんで目線を合わせる。すると桜ちゃんが深呼吸をして雁夜さんを見た。

 

「雁夜おじさん!」

「は、はい!」

「桜のお父さんになってください!!」

「はい!!・・・え?」

 

桜ちゃんがそんなことを言うとは思っていなかったらしい雁夜さんは勢いで返事をしたが、正気に返ったのか処理が追い付かず間の抜けた顔になる。

 

「もう、マスター?かわいい女の子が一生懸命頼んでるのに、肝心の大人がそんなでどうするの!」

「あ、ああ。桜ちゃん、その、本当におじさんでいいのかい?」

「うん、おじさんがいい。入院してる方のお父さんは間桐のお家から出れて生き生きしてるみたいだし、元々、お父さんたちとの家族みたいな思い出なくて、おじさんと一緒の方が多かったから・・・」

「桜ちゃん・・・・」

 

しんみりとした空気の中で「それに」と桜ちゃんが付け加えた。

 

「『もし断られるようなら弱みを握れるだけ握って突きつけてやれば必ずうなずいてくれる』って言われて集めたおじさんの弱みリストがあるから大丈夫!!」

 

にっこりと笑う桜ちゃんとピシッと固まる雁夜さん。

 

「さ、桜ちゃん、一体誰からそんなこと習ったんだい?」

「先生!!」

「シールダー、おまえ・・・」

「・・・・ごめんなさい」

 

雁夜さんが凄い目でこっちをみている。ここは素直に謝っておこう。だがしかし!

 

「だって桜ちゃんに前々から相談されててやっぱり短期間で有無を言わせない手段ってこれくらいかなーって思ったんだもん!後悔は(反省も)していない!!✨」

「ふざけんなてめえええええええ!!」

「おじさんは、私と家族なの嫌・・・・?」

 

しょぼんとした桜ちゃんに雁夜さんがうっと言葉に詰まった。よし、ありがとう桜ちゃん。明日の朝ごはんに好きなもの作ってあげる。

 

「そんなことないよ。じゃあ、桜ちゃん。こんな俺だけど、これからも一緒にいてくれるかい?」

「うん、もちろん!」

「よかったね、桜ちゃん」

「ありがとう、先生!」

「でもお前は別だからなシールダー」

「・・・はい」

 

ち、誤魔化せなかったか。とりあえずもうこっちは大丈夫そうだけど・・・と思って振り返るとひどく沈んだカソックの人―――――言峰綺礼さんというらしい、がいた。

 

「どうしたんですか、ひどく弱ってますけど・・・大丈夫ですか?」

「シールダーか・・・私は・・・いや、やはりなんでもない」

「こーら、言いかけてやめるのやめなさい。どう見たって何でもないって顔してないでしょーが・・・遠坂さんたちのああいうの見ちゃった後だし、私もいろんな人間を見てきてる。ちょっとやそっとのことじゃ引かないし、あなたの変なところを見ても何の得もないんだから思い切って話しちゃえばいいのでは?」

「本当か?」

「もちろん」

「そうか・・・」

 

そして綺礼さんは話し始めた。自分の生い立ちのこと、全うなことに楽しみを感じられないこと、人の嫌がることや悲運にしか興味が見いだせなかったこと、それが原因で奥さんと死別してしまったことなど・・・余程溜まっていたのだろう。しかもそんな心を持ちながら家はバリバリの聖職者。本人が真面目すぎるくらいの生真面目さんだったこともあってもう追い詰めに追い詰められていたのだろう。いやなんていうか桜ちゃんとか雁夜さんとは別方向でヤバイ人だった。

 

「そして今日、師と奥方の追い詰められたあの姿に、私は明らかに悦びを感じていた・・・・やはり私は生きていることそのものが罪なのだ」

「スト―――ップ!!あなたの真面目さならそういうと思ったけどダメよ!」

「なら私にどうしろというのだ!?私はどうしたらこの苦しみから解放される!?」

「あのねえ・・・・たぶんその悩みを持っているのはあなただけじゃないわ、世界の何人もの人が自分の性格・生い立ち・性癖とかで悩んでる。ただ、あなたの場合はそれが異常なほど傾いてるから苦しいのよ、他人と共有できないから。普通の人ならそれを抑えて隠しつつ人とうまくやっていこうとするものだけどあなたはそれを抑えすぎてそれがストレスと苦しみになってる。なら人に迷惑をかけない方法で発散すればいいのよ!!」

「なん、だと?」

「正にあなたの前職の代行者なんて天職じゃない‼」

「しかしそれでも私の空虚は・・・」

「自覚するのとして無いのとじゃ雲泥の差よ!さあ、まず手始めにこのゲームをやってみなさいな!」

 

そう言って私が取り出したのは、そう「バイ●ハザードシリーズ」である。

 

「こ、これは・・・・?」

「死徒のような化物、ゾンビを倒して倒して倒しまくるゲームよ、あなたPSとPS2もしくは3持ってる?」

「いや、こういったものには関心が向いていなかったからな、生憎と持っていない」

「なら私のを貸してあげる‼さあ、お試しあれ‼大丈夫、ゾンビを倒してすっごい笑いながらストーリー楽しむよりそっち優先になってる人もいるから」

「ふっ・・・そうか、なら借りておこう」

「ぜひぜひ!!あ、あともっとおすすめなキャッチコピーが「どうあがいても絶望」なホラゲーもあるから」

「な、なんだそれは!」

 

口ではそう言いつつも目の輝きとにやけを抑え込めない綺礼さん。うん、バイオが終わったら貸してあげよう。

 

「イノリー、暇だ構えー」

「あれ?ギル、時臣さんのとこにいなくていいの?」

「あやつはつまらん、本当につまらん。今回の話で灰になっているのには笑えるがそれだけだ、ぶっちゃけもう飽きた」

「あらららら・・・」

「それよかイノリ!久しぶりに会ったのだ、我はもっとお前とイチャイチャしたい!」

「い、イチャイチャって・・・こ、子供のいる前で・・・」

「何、遠慮なく我の腕に飛び込んでくるがいい!」

「んと、えーっと・・・あーもう!えいや!」

 

覚悟を決めてギルにダイブする。あー、ほんとにかわってないなあ・・・そしてそんなふうに呆れつつも満更でもない甘えたな私がいるのだ。私はもうダメだ。ダメ人間なんだー!!

そんなふうに思っていると時臣さんの使い魔がやってきた。そしてそれを見たギルは舌打ちをする。

 

「・・・思いのほか早かったではないか、あともうしばらくそのままであればいいものを」

「時臣師も焦っておられるのだろうな、規格外のお前に想定外の暴露。あの方を含め魔術師は不測の事態や反則を嫌う。特にあの方は今回の聖杯戦争に前々から十全な準備をされていたからな」

「それの一環がお前がアサシンのマスターになり間諜に徹することか?」

「!アサシンの、マスターだって!?」

「そう身構えるなシールダーのマスター。私の求めていた答えは今まさに出ようとしている。故にもう参加する理由などない。恩人である彼女を狙うような真似はしない」

「そう、か」

「それはそうと、使い魔が来た。奥方が落ち着いたのだろう。ではこれでお開きか・・・名残惜しいが、案内しよう」

「ああ、頼む」

 

そして来た時と同じように綺礼さんに案内されて門まで行くとそこには時臣さんと葵さんがいた。けれど時臣さんはともかく葵さんは沈んだままで表情が見えない。

 

「今日はありがとうございました。」

「ああ、少々不手際があって、申し訳ない」

「いいえ、それでは自分たちはこれで」

 

そう言って去ろうとする雁夜さんの服の裾を桜ちゃんが引っ張った。目を瞬かせうつらうつらとしているあたり眠いのだろう。今日も色々あったからね。

 

「おとーさん、抱っこかおんぶ」

「はいはい、お姫様」

 

もうすっかり親子のやり取りをする雁夜さんと桜ちゃん。私がさっき目を離している間により打ち解けたようで雁夜さんは慣れた動作で桜ちゃんを抱っこし歩き出す。そしてそれに私も続き、こうして今日は明日へと移り変わっていくのだった。

 

 




綺礼さんが仲間になった!
時臣さんは立ち直った(混乱している)!
葵さんは倒れた(瀕死)!

というかんじです。

今後の問題は葵さんになると思います。なんせ時臣さんよりも徹底的に追い詰められてますから。
綺礼さんは英雄王主催の方の愉悦講座を受けずにイノリちゃんの愉悦講座を受けたので人畜無害とまでは言えなくとも人に被害をもたらすような人にはならなくなったので。きっと趣味の欄に酒の収集に付け足されてホラーゲーム収集も書かれるようになることでしょう。
ちなみに見送りの遠坂夫婦は桜ちゃんと雁夜さんのやり取りをしっかり見て聞いていました。なので色々思ったり考えたりして声をかけることが出来ませんでした。


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キャスターの痕跡~水路に残る傷痕~

ライダー陣営と水路の回です。
やっぱりイノリちゃんは子どもに執着しているのかも。


遠坂家訪問の次の日。三人で朝ごはんを食べながらテレビをつけると連続児童誘拐事件の話題で持ちきりだった。

 

「連続児童誘拐事件・・・しかも今の冬木で・・・」

「いくらシールダーに魔術と護身術習ってるっていっても桜も気を付けるんだよ。世の中何があるか分からないから、寄り道しないで真っ直ぐ帰ってくるんだ、いいね?」

「うん、わかった。・・・でもうちのクラスも何人か来てない子いるの、これってこの事件と関係あるのかな・・・」

「どうだろうね・・・」

 

そして桜ちゃんが学校に行ってしばらくしてから雁夜さんに教会から招集がかかった。何かあってはまずいからと雁夜さんは蝶の形をした使い魔を教会に送った。そして監督役からなにを言われたのか大慌てで私の元に来た。

 

「シ、シールダー!!」

「どうしました?」

「キャスターのマスターが、冬木で起こってる連続児童誘拐事件の犯人だって!!」

「!!」

「それで見かねた教会が追加の令呪を報酬にキャスター討伐を依頼してきた」

「そう、ですか・・・よし、キャスターの拠点を襲撃しましょう」

「ああ!とその前に、拠点の正確な位置を割り出さないとな・・・シールダー、ここら辺で御三家以外に魔力を強く感じる所か魔力の残滓ないか?」

「今探ってます・・・・!ありました、中央を流れる未遠川、そこの一番大きな水路周辺におびただしい残留魔力と血の匂いがします!」

「そこか!なるほど、水路とか下水道なら誰も寄り付かないし、貯水池とか人が点検するときに入るスペースもあるから工房づくりに最適な環境だったってことか!くそ!なんで気が付かなかったんだ」

「マスター、ひょっとしたら今までの子たちもそこに・・・・」

「・・・可能性は、否定できない」

「っ・・・・・マスターは、桜ちゃんの所にいてあげて、工房には私一人で行ってくる」

「なに言って・・・」

「せっかく家族になれて安心しているあの子をまた一人にするつもり?だめよ、もしキャスターとそのマスターが二手に分かれているとしたら桜ちゃんが狙われたとき誰が守ってあげるの」

「!!」

 

はっとする雁夜さん。そう、桜ちゃんの心の負担は取れたがだからと言って安全に暮らせるようになったわけではないのだ。魔術も護身術も教え込みはしたがまだ6歳の子供。怖いことや知らなくていいことはいっぱいある。

 

「けどシールダー・・・」

「大丈夫ですよ、いざというときはパスで呼ぶか令呪使ってください。こっちも危なくなったらパスで連絡しますから」

「・・・・わかった、でも本当になにかあったら呼べよ」

「はい」

 

そして私は準備のためすぐに出ることはできず、次の日問題の水路へ向かった。

 

*****

 

水路に着くとそこにはさっき視た魔力の他にもう二つの魔力が微かに残っていた。

 

「さてと、ちょっと出遅れちゃったみたいだけど・・・・私もこの現場を見逃すわけにはいかないのよ」

 

そして私も水路に入っていく。

一歩踏み入れただけで分かるほどの濃密な魔力と耳障りなカサカサグネグネ動く触手のような生き物。他に罠は無さそうだ。とりあえず襲ってくる触手たちを焼き消して一番魔力の濃いところに向かう。そうして着いたのは貯水地のような広い空間。しかしそこには既に先客がいた。とりあえず隠れた方がいいのだろう。そう思って入り口の死角に身を寄せる。

 

「それはそうと、おい!そこの奴、いるのはわかっておる。出てきたらどうだ!」

「・・・」

 

やっぱり誤魔化せないか。観念して姿を見せるとライダーのマスターの蒼白かった顔色が更に血色悪くなる。

 

「シ、シールダー!?おい、ライダーどうすんだよ‼」

「落ち着きなさいライダーのマスター。私はキャスターの工房の偵察と破壊のためにきただけ。そちらが何もしなければ私もあなたたちに危害を加えるつもりはありません」

 

そうしてライダーのマスターたちを退けて工房の惨状を見る。

 

「酷い」

 

その一言に尽きた。そして私は子どもの遺体・・・・もう既に遺体と呼んでいいのか分からないものもあるけど一人一人抱き締めてから準備して持ってきた昔ながらの木の舟に乗せていく。

 

「お、おい。なにやってるんだ?」

「・・・・供養か」

「・・・ええ。きっとこの子たちも最後は抱き締めてほしかっただろうから、間に合わなかったせめてもの償い。・・・・ごめんね」

 

そう言って最後の子を乗せるとある呪文を唱える。すると奥の壁が開き、薄暗い海辺見えた。

 

「うわ、って海?」

「冥府に繋がる海よ、ライダーのマスター、きみは絶対入ってはだめ」

 

そして舟を海に流しゆっくりと進み見えなくなるのを確認すると閉じた。

みんな、アサシンの登場まで黙ったままだった。




子供たちのためにあの世へ繋がる涯(はて)を繋げて送り出してやるイノリちゃん。ここは零~刺青の聲~のエンディングで怜が零華と要を流してやるシーンをイメージしました。
次は凛ちゃんの冒険回…という名の雁夜さん・葵さんの回。どうなることやら・・・少なくとも葵さんはまともじゃないのは確かです。
イノリちゃんが木の舟持ってるわけないのと時系列合わせのために一日準備に使いました。木の舟はもちろんイノリちゃん製の品です。


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交わらない思い

凛ちゃんの活躍はほぼありません。
そして今回も真剣なシリアス。そろそろシリアルコーンフレークが書きたいよ・・・


夢を見た。

現代じゃ動物園かアフリカくらいでしか見れないようなライオンの群れ。

もうほとんど見れない神殿や歴史的建造物。それらを一通り確認して《俺・私》は一息つく。そしてそこに鮮やかな緑の髪の親友と最愛の夫がやってくる。三人で冒険したり、今日あったことを話して笑い合ったり次は何をしようかと話し合う。

 

それからしばらくして、子供が出来た。最愛の人との間にできた愛しい我が子。元気に生まれてきてくれることを毎日祈り、生まれてくる日を心待ちにする。

生まれてきたら、真っ先に「はじめまして」「生まれてきてくれてありがとう」と声をかけよう。抱き上げて、眠れなければ子守唄を歌おう。気が早いのかもしれない、でもそのぐらい《俺・私》にとってうれしくて待ち遠しいことなのだ。

 

《彼女》は愛された。人にも神にも世界にも。幸せだった。

 

場面が切り替わる。《彼女・私》は殺された。名も知らぬ神によって。牡牛を殺した責任を取れと。神をも殺す毒が身体を蝕む。《私》のことはどうでもいい。それよりもお腹の子がどうなってしまうのかが恐怖だった。毒が下にいく前に我が子にありったけの加護を与え力尽きる。もう何も見えない中で《私》は確かに聞いたのだ我が子の産声を。

 

出来ることなら、抱き上げてやりたかった。母親らしいことをしてやりたかった。しかし、もう産むこと以外で我が子にしてあげられることなどない。無力な自分を恥じた。

 

 

そして、そこで俺も目が覚めた。おそらくあれは、シールダーの過去だ。

俺は最初これを見た時、なんて報われないやつなんだろうと思った。全てから愛され全てを愛し、待望の子供まで授かったというのに。彼女の愛想は仇で返され、実の子の顔も知らないまま出産と同時に力を使い果たし死んだ。

これではいくら愛されたと言っても割に合わないどころじゃない。

 

シールダー。バーサーカーの代わりに召喚され(バーサーカーもちゃんと召喚されていたが)俺たちを救ったサーヴァント。最初こそ邪険に扱ってしまったもののそれでもこんな俺の人となりを認め受け入れてくれたあいつに俺は絆され、同時に惹かれていたんだ。

じゃなきゃきっと俺はシールダーを使い魔として扱って極力話すこともせず、過去のことを聞いたり彼女が一人で行こうとするのを止めたりしない。

 

「はは、また報われないのか」

 

葵さんといいお前といいなんでこうも報われない恋をしたがるのだろうか、俺も。

 

「でも」

 

――――――だというのに葵さんの時と違って、どろりとした感情はほぼない。夫への嫉妬もある、なのにこんなに晴れやかな気持ちのままでいるのだ。

不思議なものだ。ひょっとしたらシールダーがああいうふうに俺をちゃんと見て理解してくれているからなのかもしれない。

――――――そろそろ俺もけじめつけないとな。

 

*****

遠坂の家に呼ばれ帰って私に待っていたのは、自分だけが知らない、自分にとって最悪の真実だった。

あの後どうやって禅城の家に帰ったのか、まったく覚えていない。ただ、両親を問い詰めたところ思い当たることがあるようで否定してくれなかった。

本当に、私の今までは一体なんだったのだろう。愛する娘を手放し、愛する夫に裏切られ、極めつけに自分以外の周りが自分の体質について知っていたことが・・・私だけが何も知らず今まで綺麗な箱庭で生きていたことがひどく私を追い詰めた。

そんなふうに沈む私に凛が近づいてきて覗き込んだ。

 

「お母さま、大丈夫?」

「大丈夫よ、凛。・・・・ねえ、凛はお母さまを置いていかないって約束できる?、あなただけはお母さまと一緒にいてくれる?」

「うん、約束する!置いていったりしないって!」

「そう、いい子ね、凛」

 

そう、約束したはずなのに。

 

*****

夜の公園。そこに彼は待っていた。

彼の抱える娘は意識こそないものの、寝息を立てて眠っているようだった。

彼から凛を受け取り抱きしめる。

彼――――――雁夜くんから連絡が来たのは凛がいなくなって1時間ほどした頃だった。凛を保護したとき、最初は私たちのいる禅城の家に行こうとしたらしいが聖杯戦争のマスターである自分が冬木から出て桜や私たちに何かあってはまずいからと、この前会った公園を選んだらしい彼は凛を引き渡すと安心したように一息ついてその場を去ろうとした。

 

「待って!」

「葵さん?」

「待って頂戴雁夜くん・・・・あなたも知っていたの?私の体質を、だからあなたもこんなふうに私に優しくしてくれるの!?」

「それは違う」

「ならどうして・・「あなたが好きだったから」え・・・」

「あなたが好きだったからだよ、葵さん」

 

そういう雁夜くんはひどく澄んだ目で真っ直ぐに私を見る。

 

「でも、俺にはあなたにそれを伝える勇気はなかった。いや、あったとしても言わなかったと思う。間桐に入った人は皆結局用済みになると蟲の餌になったから・・・俺の母親みたいに」

「!」

「俺は時臣に嫉妬していたんだ、あなたと理想のような家庭をもっているあいつに。けどもういいんだ。もう、俺も見つけたから。「自分のやりたいこと」と「自分の幸福」を」

 

「だから」と雁夜くんは続ける。その澄んだ目で私から目をそらさずに。本当はやめてほしかった。だって彼の言う事に見当がついてしまっていたから。

 

「ありがとう、葵さん。あなたは昔の俺にとっての光でした。どうか、凛ちゃんと幸せに」

 

やはりそれは事実上の別れの言葉だった。

それだけ言って、雁夜くんは本当に去っていってしまった。こちらを振り返ることもしない彼を私はただ見送ることしか出来なかった。

 

*****

禅城の家に着くと疲れがどっと押し寄せてきた。

やっぱり、何も知らずにいたのは私だけだった。弟のように思っていたあの子は私の知らない間に成長していた。

私だけが何も知らずにいつの間にか取り残されていく。時臣さんも、そしてこの子も。

横目で眠る凛を見る。そしてふと、魔が差した。

この子にもいつか置いていかれる?私は、この子にまで置いていかれるの?

実際今日、私は目を離した隙にこの子に置いて行かれたのだ。行き先さえ告げられることなく・・・・約束したばかりだというのに。

 

「なんで、私ばかり・・・」

「お母さま・・・?」

 

凛が目を覚ましこちらを見てくる。あの人と同じ澄んだ青い目をした・・・あの人と、おなじ。

 

「あ、ぇ?・・・お母さ、ま?」

「愛してるわ、凛」

 

青い目が私に向かって見開かれる。ああ、本当にきれいな青い目、あの人にそっくりな本当に本当に・・・・

私の手が食い込むにつれて暴れる腕や足なんてどうでもいい。だんだんと凛の目から光が無くなって虚ろになっていく。ああ、もう少しね・・・もう少しであなたは私だけのものになる。もうこれで置いてかれるなんて思わずに・・・

 

「お嬢様・・・っ!?凛様!!」

「誰か!誰か来て!!葵お嬢様が・・・・」

 

近くを通った使用人に取り抑えられる。なぜ止めるの?もう少しなのに・・・と思ったところで我に返った。私の力を込めていた手は軽い火傷を負っている。そして離した手の形の痣が首に、その首を沿うようにして見ていくとそこには虚ろに目を見開いて焦点が合っていない凛がいた。私が、凛を・・・?

 

「嫌」

 

私が手を離したことで凛は床に倒れ、声を聞きつけ集まってきた使用人たちに運ばれていく。

 

「嫌、そんなの」

 

凛は、私のせいで・・・

 

「嫌、いやあああああああ、凛―――――!!」




という訳で雁夜さん吹っ切れと葵さんの回でした。
ちなみに葵さんの手が火傷していたのは凛が本能的に魔術で自己防衛しようとしたから。でも刻印まだ移植されてないので本格的なものじゃないです。その結果無理した魔術回路は暴走し色々後に響くようになっていきます。
というか私の書く葵さんは叫びまくっている可哀想な人になってしまっています・・・ごめんなさい。


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三者三様の王+王妃&マスターinアインツベルン城 チキチキ大暴露大会~過去の因縁も拳で解決!~

という訳でついにきました聖杯問答。
ちなみに前回の話で言及していませんでしたが凛ちゃん生きてます。そこらへんは時臣さんのサーヴァントのギルあたりに触れてもらいます。
なんか肝心なところの解説役をほとんどギルに回しちゃってる気がしないでもない。


キャスターの工房、水路から出る際にライダーに誘われたのでせっかくだし彼主催の宴会に顔を出すことにした。場所はたしかアインツベルン城だったか。手ぶらで行くのもあれなのでとりあえず色々作っていくことにした。これでも花嫁修業と称してお母さんに色々躾けられてきたので、料理だってその一環としてお母さんの肥えた舌を満足させるほど鍛錬を重ねた。前は王妃だったのであまり作れなかったけど遠出したときお弁当作ったらギルとエルゥに気に入ってもらえたし、今回だって雁夜さんと桜ちゃんの食事を作ってるんだしたぶん大丈夫なはずだ。

 

「お重でいいかな・・・あ、バスケットの方には洋食を入れて・・・・あと悪酔いしたとき用に水と、飲まない人のためにジュースとお茶でしょ、それから・・・」

 

そうやって準備するうちに結構な量になってしまい

自分たちだけでは持っていけないのでリオにもくくりつけた。

そろそろ時間かな、と思っていると雁夜さんが帰ってきたので私、雁夜さん、桜ちゃん、リオそしてバーサーカーでアインツベルン城へ向かうことになった。

 

*****

ということでアインツベルン城の庭?広場?を貸し切っての宴会。料理を取り出したり配ったりでてんやわんやだったが大体並べ終えたので一息付いていた。

 

「おい、シールダー。酌をしろ」

「はいはい、今行きますよー」

 

こんなときでもギルは変わりなく暴君である。よいしょ、と重い腰をあげギルのもとに行き酌をする。

 

「お前もここにいろ」

「え、いいの?私王様じゃないよ?」

「よい、我が許す」

「じゃあ失礼して」

 

するとライダーがにやけながら煽る。

 

「随分夫婦仲がいいのう、英雄王」

「あれ?もう私達の真名にたどり着いたの?」

「おうとも。余以上に態度のでかい王など一人しかおらん。そこに魔術と守護に強い親しげな嬢ちゃんときた。ならば確信したも同然だろうよ」

「ほう、言うではないか征服王。では我とこいつがなんなのか当ててみるがいい」

 

こいつ何 勝 手 に と ん で も な い 爆 弾 投下してんだよ。

 

「あ、アーチャー!?何言ってるの!!あなたのマスターが聞いたら卒倒ものよ!?」

「時臣ならばここにはいない。なんでも「錯乱したあの女が跡取りの子雑種に手を上げた」ようでな、一命はとりとめたがしばらくはそちらに掛かりきりだ。女の方が原因なだけに任せておくわけにもいくまい。まあ、世間では「連続誘拐魔の手から逃れたものの大怪我をして入院している」になっているらしいが。どちらにせよあやつは来るまいよ。つまらぬ男だからなあれは」

「そう…」

「お前が気にすることなどない。言っただろう、いずれああなると」

「…うん」

 

ギルが私の頭を撫でる。それでほんの少し落ち着いた。

そして改めて見回すとセイバーが力なく俯いていた。・・・・これは・・・・

 

「もしかして、二人してセイバーのこといじめたの?」

「なに、「国に全てを捧げた」などというやつを笑い飛ばしたまで」

「はあ・・・セイバー、辛いかもしれないけど私にも話してもらっていい?何事も相手の話を聞かないことには始まらないからさ」

「・・・・いいだろう」

 

そしてセイバーは淡々と話す。自分の考え、まっすぐでとても高い理想、そして聖杯への願いを。

 

「そう、あなたは正し過ぎたのね。自分の理想に沿うために王としてに徹した、個人の幸せを捨ててでもみんなの思う理想の王の体現でありたかった、みんなに幸せでいてほしかった」

「そうだ・・・・しかしこの二人の話を聞いて思うのだ、私が王として行ったこと、王になったことそのものが間違いだったのではないのかと」

「うーん、あのさ。そもそもあなたの貧しくて蛮族がいっぱいのところと豊かな彼の国とじゃ前提も求められていることもちがうしさ。あんまり気にしない方がいいと思うよ。あなたは失敗しただけで間違ってたわけじゃない。あなたは正しいの。人間らしいかといわれるとそうじゃないけどね。」

「それは・・・「褒めてるよ、でも誰かに心の内を打ち明けないと皆あなたの事が分からなくなっていく。そしてあなたもそんな彼らに気付いて益々自分を責めていく。その悪循環」

「ならばあなたは、あなたは過去に悔いがないと言い切れるのか?」

 

グッと切羽詰まったようにセイバーがこちらを見る。

 

「そうね、私も確かに悔いがないわけじゃない。私だってもっと生きていたかったし、彼と一緒にいたかった・・・・我が子を抱きしめたかった。でもそのために聖杯を使おうとは思わない」

「なぜだ!そう思うのならばなぜ聖杯を求めない!なぜやり直しを求めない!?」

「充分だからよ」

「充分、だと」

「そう、私は昔彼らに充分以上に愛してもらった。私はもっと愛していたかったけど、いや今も愛してるけどそれでいいの。それに未練はいーっぱいあるけど我が子を産むこともできた。女としても人としても充分すぎる幸せを私はもらったの。そのうえそんな私の人生が物語になって語り継がれてる。これって私がいたってことをみんなが認めてくれているってことじゃない?」

 

そのまま私は続ける。

 

「みんなに認められて、語り継がれていく。ひょっとしたら感銘を受けてそれを片隅に置きながら人生の指針の一つにしてくれているかもしれない。そう思ったらそんなふうにやり直しはできないよ」

「っ」

「それにね、あなたはやり直しを望むけどたぶんだれもそれを望んでないと思うよ。人生は一回きりだし、みんな好きにやりきった、そう思った方がいいと思う。あなたを慕ってあなたのために命懸けで仕事してきた人だっていたはず。その人の忠誠心も偉業もなかったことにするつもり?」

「!!」

「誇りなさい、騎士王。あなたは正に民にとっての目標であり誇りであり理想だった。あなたの美しくも気高い理想と行いは間違いなどではない。女神の名においてあなたを王として認めよう」

「!そう、か。私は、私の人生は間違いなどではなかったのか・・・・逆に今回で間違おうとしていたのだな・・・・・ありがとうシールダー。私に気付かせてくれたこと、礼を言う」

「いえいえ、私は事実を言っただけ。それに自分で国を崩壊させたって言ってたけどそういうやらかしやった人なんて世界にはごまんといるよ。ねー、アーチャー?」

「・・・・まあ、そうだな」

 

つんっとするギルを見てかわいいなあなんて思いながら少なくなった酒を注ぎ足す。

 

「しかし、それではお主の戦う理由がなくなるのではないか?」

「いや、私にはまだ戦う理由がある。そうでしょう、アイリスフィール」

「セイバー・・・」

「あの男は正直気に食わないが、護衛を任された以上それをやり切ってから消えます」

「!ええ、ありがとうセイバー」

 

こうして感動的な空気に水を差すようで悪いがこの人とバーサーカーのためにもバーサーカーを現界させる。

 

「バーサーカー!?」

「大丈夫。鎖で抑えてるから、ただ私の予想が当たってるならあなたたちは話さなきゃならない」

「しかし、狂化がある以上意思疎通は・・・」

「その辺も、ね。バーサーカーに命じます。狂化を解除し兜を脱ぎなさい」

 

バーサーカーの制御用(契約ではない)の疑似令呪で命じて外させる。解析して作るの結構面倒だったから効いてもらわなきゃ困る。

そして私の予想が当たったのかセイバーは目を見開いた。

 

「あなたは――――ランスロット卿、なのか?」

「お久しぶりです、我が王よ」

 

魔力をある程度供給する都合上バーサーカーの過去を見たことがあるためセイバーを見てもしやと思ったけど、やっぱり二人は生前から縁のある存在だったのか。

二人の会話・・・ランスロットの話を聞くに彼はどうやら王妃との浮気をセイバー自身に責めてほしかった、けれどセイバーは王妃の幸せを願い二人を許し身を引いた。そんな「理想的」な彼女に「人間らしさ」を求めたランスロットはいつしか彼女を憎むようになっていったらしい。なんじゃそりゃ。

 

「だったらさ、いっそのこと殴り合いでもすれば?」

 

そんな私の提案により庭はセイバーVSランスロットの素手の殴り合いによる決闘場と化した。

 

「あなたがあのとき彼女を連れて行っていれば――――!!」

「ぐは!!」

 

・・・・勝敗は言うまでもなくセイバーのほぼ一方的な勝利だったけど、終わった時に二人ともすっきりしていたようだったからいい、のかな?

そのあとひとしきり語った後夜が明ける前に解散することになった。




本当はキャスター戦でバーサーカーVSギルガメッシュ空中戦をしてたんですが・・・どうしよっかなこれ・・・あ、あと時臣さんに余裕がないのでアサシンも登場させられてない!
とりあえずセイバーとバーサーカーは吹っ切れたので結構イノリちゃんに好意的です。


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女神様vs海魔

投稿が遅くなりました。そんな話をお気に入り登録してくださっている方ありがとうございます。
海魔編はこれで終了。おそらくこのあとはオリジナル展開になっていきます。


キャスターが巨大な海魔で未遠川を占領する。

海魔がただのキャスターの使い魔であったのならただ倒すだけで良かったのかもしれない。だけど、キャスターの工房だった水路の見た後の私はそうは思えなかった。

ほんの少し傷付けると再生し、伸びる触手を両断すればそこからまた海魔が増えていく。これじゃまるでキリがない。

そして思う。きっとこの海魔はこれだけでは終わらない。だってあの血の臭いに満ちた工房を作っていた者の召喚した海魔なのだ。人を害する危険性は充分にある。

なんとかなりそうなうちに手を打たなくては。

 

「セイバー、頼まれてくれる?」

「何か策があるのですか?シールダー」

「うん。そのためにはマスターの安全を確保したいの。だからあなたとランサーでここにいるマスター全員を守ってほしい。お願いできる?」

「構わないが・・・・・ランサー、いいか?」

「ああ、俺も構わない」

 

おお、ランサーの人は意外といい人だった。シールダーに対する評価も改めてくれたみたい(だってこの前の事を気にしてなのかこっちにチラチラ視線送ってくるし)だし協力してくれるのなら心強いことこの上ない!

 

「その、だな。シールダー、この前はすまなかった。だが、俺はお前の盾を侮っていたわけではない。それだけはどうか心の片隅に置いておいてはくれないか?」

「いえいえ、あの時はマスターのこともあって私もピリピリしてましたし、お互い様ですよ。それに、協力してくれるのでしょう?ならもうあとは運命共同体ということでそういうのは言いっこなしですよ!」

「!ああ!!」

 

お互いに二ッと笑って話していると突如上から何かが降ってきて私とランサーの間に刺さった。よく見てみるとあら不思議、見慣れた旦那さんのコレクションの剣でした。

見上げるとヴィマーナに乗ったギルが不機嫌そうにこっちを見ている。ああ、いつ見ても様になってるなぁ・・・

 

「アーチャーカッコいー!!でも浮気なんかこれっぽっちもしてないよ!!」

 

すると嬉しかったのか結構スレスレな凄まじいドライビング(?)テクでこっちに向かってくる。

 

「イノリ!」

「もう隠してさえくれないのね・・・まあいっか。ねえ、私を海魔の上に連れてくことってできる?」

「・・・・おまえが無事に戻ってくると約束するのならばいいだろう」

「さすがね、でも大丈夫。勝算も戻ってくる算段も付いてるから。それに、信じてるもの」

 

にっこりとギルを見るとギルは察したいや、視えたのか一息溜息を吐くと目を細め薄く笑った。

 

「まったく、お前は死んでもそのまま変わらぬか・・・・よかろう、この我が直々に送り届けてやろうではないか!!」

 

ああ、なんていうかもう・・・

 

「シ、シールダー?」

 

ライダーのマスターに話しかけられてるんだけどね、今なんて言えばいいのかな、もうそのままいっちゃっていいの?

 

「ギル・・・カッコイイ―――――」

「いいから早く行け」

 

冷たいツッコミを背に小走りでギルの元へ行く。と、もう既にギルが玉座に座って待っていた。そして私は横に待機する。

 

「ごめんね、遅くなって。それじゃあよろし「待てイノリ、お前の場所はそこではなかろう」?じゃあどこに」

 

するとギルはニヤリと笑って膝を軽く叩いた。

 

「お前の場所は生前からずっとここだとあれほど言ったはずなのだがなぁ、それともまだ足りぬと?」

 

それだけで意味を理解する私の経験値はもう天元突破しているに違いない。

 

「わ、わかってます!だって恥ずかしいんだもん!!」

「ククッ、ならばよい。さあこい」

 

しぶしぶ、というより恐る恐るギルの膝の上に座る。きっと私は真っ赤になっていることだろう。それに満足したようにふふんと笑うギルが恨めしい。

 

「ゆくぞ、振り落とされぬようしっかり掴まっておけ」

「うん、っ」

 

海魔の攻撃を避けながら本体に近づいていく。そしてちょうど真上に来たところでヴィマーナの動きが止まった。

 

「ゆくがいい、イノリ。言っておくがそのような汚物にお前を手向けるためにここに連れてきたわけではないからな」

「わかってるよ。私はあなたのもの。ちゃんと戻ってくるから待ってて・・・・どうしてもこれに引導を渡したかったから・・・じゃあ、行ってきます!」

 

そうして私がヴィマーナから海魔にダイブする。すると稼働魔力を求めてなのか私を取り込もうとしてきた。もちろん普段の私ならそれを弾いて外側から干渉するのだろう。けれど今回は内部に入り込み直接浄化する。なんでこんなことをするのか。うん、そのぐらいしないとキャスターの凶行で犠牲になった子たちの苦しみをキャスターは少しも味わうことなくいなくなると思ったから。外側の原因が分かってその分だけしか痛みがないのと内側から原因も分からず細胞レベルで変えられる激痛、といえばわかりやすいかもしれない。

こんなのは自己満足だってわかってるんだけど、私にできるのはこのぐらいのことしかないから。

そう思ってそのまま取り込もうとする海魔に抗うことなく内部に引きずり込まれていった。

 

さっそく浄化に取り掛かると頭に映像が流れていく。おそらくこれはキャスターの生前の記憶なのだろう。それはかつて敬愛した少女を救えなかった、やがて神を呪い凶行に走る男の記憶だった。

 

「たしかにあなたはとても可哀想な人。聖処女を救うことが出来ず信じた者に裏切られた哀れな人。けれどそれは自分よりか弱い者たちに向けるべきものではない。故に私が直接あなたを倒します。―――――――さよなら、ジル・ド・レェ、願わくばあなたがいつか彼女とまた笑い合える日が来ることを祈ります」

 

その言葉が言い終わると同時に浄化され保っていられなくなった体内の崩壊が始まる。私も移動しないとキャスターの消滅に巻き込まれる可能性がある。なのでパスで外にいるであろう雁夜さんに連絡を取る。

 

『マスター、聞こえますか?』

『シールダー!大丈夫か!?こっちは海魔の攻撃が止んだからとりあえずは大丈夫だ、セイバーもランサーも他のマスターも無事だ。ただ海魔が悲鳴を上げたと思ったら存在そのものが揺らぎ始めてるとかで・・・』

『はい、海魔の内部から直接浄化しましたから、もうそろそろ完全に消滅します。私、まだ海魔の中で間に合うかどうか分からないんです。それで、申し訳ないんですけど、令呪を一画使ってもらえませんか』

『俺はどう言えばいい?』

『いいんですか?』

『ああ、自分ばっかり助かってお前ばかり危険な目に遭ってるのは俺が嫌だ。』

『ふふ・・・あなたがマスターで、ほんとによかった。じゃあ―――――――――――――』

 

 

「令呪を持って命じる。本来の力を取り戻し海魔より脱出しろ!」

 

令呪が消える感覚。そしてそれとともに海魔が光の粒になって消えていくなか一人の女が立っている。

女は自分たちに気が付くとこちらに近づいてくる。その人は美しかった。まさに絶世の美女というにふさわしい容姿にその仕草には気品を感じる。

 

「ただいま、マスター」

「シールダー、なの、か?」

「はい。脱出するために本来の姿になりましたけど、正真正銘私です」

「~~~~よかった。最後のセリフ!お前、縁起でもないこと言いやがって」

「ええ?!ほんとの事言っただけなのになんで怒られるの?」

「紛らわしいんだよ!!」

 

そんなふうに安心していた俺たちは気づかなかったのだ。俺たちを観察していた影があったことに。

 

「ふうん、浄化にイノリ・・・まさか女神様が呼ばれてたなんて・・・・使えるわね、切嗣には後で伝えましょうか」

 

 

 




最後のセリフ言ったのは舞弥さんじゃないです。オリキャラになります。この人がこの場を見ていたことでどんな風になっていくのかは次回から。
少なくとも今のところはろくでもないことになる予定。


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過去の遺物

アンリマユ解説編です。よく資料漁りとかありますけど、そもそもイノリちゃんは知識を持ってないのでこういうきっかけがないと大聖杯の所にすら行かないなと思ったので書きました。前の話のオリキャラさん関連は次かその次くらいかなー・・・


今日は桜ちゃんの修行最終日。基礎から応用、発展までのテストをクリアした桜ちゃんは嬉しそうにこちらにやってくる。

 

「先生!全部終わったよ」

「うんうん、綺麗に出来てるしこの分なら問題ないわね。おめでとう桜ちゃん、これで晴れて免許皆伝です。というわけでご褒美にこれをあげる」

「白い、リボン?」

「うん、ちょっとした礼装。これからも精進するように!」

「ありがとう、先生!」

 

そんなふうにほのぼのとしていると雁夜さんが真剣な面持ちでやってきた。

 

「シールダー、ジジイが話があるらしい。俺だけだと嘘や出任せ言われるかもしれないし、一緒に来てくれるか?」

「分かりました」

 

*****

所変えて蟲蔵。と言ってももう蟲はおらず染みついた魔力も何もかもを私が浄化しもう形だけになったそこには、黒い鎖で繋がれ抵抗する気力すらなくなり項垂れた間桐臓見の成れの果てがいた。

 

「来たぞ、ジジイ」

「おお、ようやっと来たか」

 

こちらを見るとかすれた聞き取り辛い声で話す。もしかしてこの人、顎の修復に全ての力を使ったんじゃないのだろうか。確かにその鎖から逃れるよりは遥かにやりやすいと思うけれど、それどころか鎖に蝕まれたままの状態でここまで持つとは・・・このじいちゃんの執念、侮ってた。

 

「とりあえず、話がある、とのことですから顎の方、直しますね」

「ああ、頼む、シールダー」

 

雁夜さんから許可をもらい顎を治しそれでようやくまともに声が出せるようになったじいちゃんは話始めた。一応私は録音するものを複数装備し聞きに徹する。

 

「話というのは他でもない。聖杯戦争のことよ」

「今、キャスターが脱落したとこだ、まだまだかかるだろうが順調なんじゃないのか?」

「果たしてその余裕がいつまで続くことやら」

「なんだと?」

「まあそうカリカリするでない。実を言うとな、聖杯は汚染されておる可能性がある」

「はあ?」

「ワシら御三家は創始者たちの家系という事もあって他の外来の者たちよりも聖杯を欲しておる。特にアインツベルンなんぞはこの話を持ち掛けた張本人。何としてもワシらを出し抜こうとしたのじゃろう。まさかあのような反則に走るとは、ワシも遠坂も思ってもみないことじゃった」

「おい、もったいぶらずに言え、過去の聖杯戦争で一体何があった?」

「この第四次より前の第三次の時。アインツベルンは反則的技術を用いて本来召喚されぬはずのサーヴァント。俗にいうエクストラクラスを召喚した。その結果召喚されたのが復讐者のクラス「アヴェンジャー」名は確か、「アンリマユ」と言ったか」

「アンリマユってのはゾロアスター教の神の名前だろ、半神半人でもない純粋な神霊が召喚されるはずない」

「その通り、どうやらアインツベルンは質の悪い偽物をつかまされたようでな。結果は見るに堪えんものじゃった。しかし、そのアンリマユとやらは能力こそないものの、「呪う」という事に関してはとびぬけていた。むしろ存在そのものが「呪い」そのものじゃった。ゆえに―――――それを取り込んだ本命の「大聖杯」は既に穢れていると考えた方が妥当じゃ。無色透明ではなくなり「呪い」により「殺す」ことによって叶えられる願望とは見物じゃのう。ククククク」

「ジジイ手前・・・」

「待ってください雁夜さん・・・ご当主、何故今になって私たちにこの話を話してくださったのです?」

 

私が問いかけると少し黙ってから答えが返ってくる。

 

「ふん、不甲斐ない愚息を混乱させたいがための暇つぶしよ」

「左様で・・・マスター、桜ちゃんが修行の成果を見てほしいって言ってましたから行きましょう」

「ああ、大聖杯とやらの確認にも行かないとな」

「はい」

 

そう言って先に出ていく雁夜さんの後に続き扉に手をかけて振り返る。

 

「ありがとう、マキリ・ゾォルケン。あなたのおかげで私たちはまた進める。・・・どうか、安らかに」

 

そして扉を閉じた。

 

「ユスティーツァ・・・・」

 

これが、間桐臓見。――――――――マキリ・ゾォルケンとの最後の記憶である。




間桐のお家はこれで心配事ゼロになりました。遠坂さんたちどうしよっかなー。
アサシンはたぶん出ないんじゃないかなー、言峰さん願い無くなちゃってるから。ごめんね!(変更する可能性もあるよ!)


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停戦決定!~でもすべてが終わったわけじゃない~

教会大集合からの停戦通告回です。
ちょっといろんなフラグ建て過ぎた気もします・・・回収しきれるかな・・・・


大聖杯の元に行って汚染の確認に行くと、いや確認するまでもないほどの有様だったけど、とりあえずこのまま戦争を進めてはまずいと思い雁夜さんと話し合った結果、教会に声をかけて停戦してもらうことにした。教会に報告しに行った時点で綺礼さんは二つ返事で同意してくれたものの、監督役である璃正神父は認めたくなさそうな険しい顔をして渋っていた。なのでなら一緒に確認しに行けばいいということになり、連れて行ったら血相を変えて他の陣営のマスターたちに招集をかけ始めた。そして全陣営が揃ったのを確認して本題に入った。

聖杯が汚染されていること、そのせいでこのまま優勝者が出たとしても歪んだ形で叶えられるため破滅願望者でもない限り碌なことにはならないこと。

 

そこでライダーのマスター(ウェイバー・ベルベットくんというらしい)が手を挙げた。

 

「質問なんだけど、その歪んだ形で叶うっていうのは例えばどんな風に?」

「・・・前当主に聞いたところによると願いを叶える手段が「何かを殺す」っていうことになって回りまわって叶う、ってことらしい。だからよく聞く「金持ちになりたい」とか「世界平和」っていうのを願ったりすると前者なら世の中の金持ちや貴族とその相続人や後見人を全員殺して財産を独占するとか、後者は――――――――――――世界平和の考え方にもよるかもしれないけど、たぶん願った本人以外の生物がみんな死ぬ」

「みんな、死ぬ?」

「ああ、「争いがなくて誰も傷付かない」ことを願うならほぼ確実だと思う。だってほら、誰かと関わったら絶対に何処かでぶつかるだろ、価値観も生い立ちも嗜好も宗教もそれぞれ受け取り方や考え方が違うんだし、もし仮に全て一致する、全てを受け入れてくれる存在がいたとしてもそいつだって一人の人間で自分じゃないんだ。途中で考えが変わるかもしれない。たとえ同じものを見ていたとしても同じものを感じているとは限らないんだから。「生きている限りみんな傷付く」なら「これ以上誰も傷付かず、争いがない=死」っていう方程式になりかねない。となると起きるのは「全人類の虐殺」に行き着くんだ」

 

この場の空気がより一層凍り付いた。セイバー陣営のアイリスフィールさんと黒ずくめの男性・・・衛宮切嗣さんはその中でも一際沈んでいるように見えた。

そんな中一人だけ声を上げる人がいた――――――遠坂さんだ。

 

「待ってくれ。それはあくまでも俗世的な願いだった場合だろう、なら我々の魔術師特有の願い、「根源への到達」ならば叶うのでは?」

「それについては俺がお前に答えてもお前は納得しないだろうから交代する。シールダー、頼めるか?」

「はい。まず、根源に行くことは可能です。サーヴァント七機をくべればその膨大な魔力で世界に穴を開けてそこから根源の渦に入ることができます」

「なら「ですが、あなたは根源に到達した後、一体どうやってこの世界に帰ってくるおつもりで?」え?」

 

希望を見出したような目をしていた時臣さんだが私の言葉に固まった。

 

「え、っと。たぶん聖杯に溜まった魔力くらいだと行きの片道切符くらいが精々で帰りの分はゼロですよ?」

「そんな、馬鹿な・・・」

「貴方がよく根源や魔術に関して語っていたので、てっきりもう準備ができているからこの戦争に臨むのかと、思ったんですけど・・・・」

 

この前のことが効いているのか前に会った時より結構やつれているように見える。だからと言って容赦なんてしないけど。

 

「そういえば、あなたのサーヴァントから伺いましたが、ご息女は今意識不明の重体なのでしょう?なぜその回復を願わないんですか?根源到達できる可能性はご息女が一番高いのでしょう?同じような理由で下の子をろくに下見もせずにホイホイ他の家に押し付けたのでしょう?父親らしさを少しでも持っているなら根源なんかよりまず子供の方を優先すべきだと思うのですが」

「こ、根源なんか?!」

「そうですよ、根源なんかより、です。仮にもしあなたが到達し魔法使いになったとしましょう。けれど、永遠なんてものはない。だから次の世代に引き継ぐのでしょう?確か第五魔法の蒼崎は代々魔法を後継者に引き継いでいますし、第三魔法だってそのものは失われていてもその系譜であるアインツベルンがこうしてその一部を活用しているから忘れられていないんですよ。はっきり言いましょう。魔法使いだろうが魔術師だろうが身内を犠牲に利己的な行動に走った人は大抵破滅します。そのいい例があなたが頼りにしていた間桐のご老体ですよ。拘束されて魔力を根こそぎ浄化・吸収されて、蟲になってマスターと桜ちゃんを乗っ取ろうにも私の力と魔術講座で力を付けた二人に敵うはずもなく、ついこの間までヒエラルキーの頂点だったのにほぼ一瞬にして最底辺に転落。少し前に成仏するまでずっとそのままでしたから」

「しかし・・・」

「根源到達は魔術師の悲願だから何をしても許される。ですか?・・・・・ふざけるのも大概にしなさい。一体何人の人があなたたち魔術師のその狭い狭い尺度で犠牲になったと思ってる。凡俗なぞ知ったことかみたいな風に思っているのなら思い直しなさい。その凡俗を守るのはあなたたち貴族なのよ?ノブレス・オブリージュを知っているでしょう。むしろ責任を負うべき存在が何をしているの?土地の管理者は神秘の秘匿だけしていればいいの?魔術師を管理していればいいの?ちがうでしょうが!!」

「あ、うぅ」

「いいですか?貴方も私たちも魔術師や英雄である前に人間なんです。たかが魔術回路たかが伝説それがなくなればただの人間。貴方の軽蔑する凡俗なんですよ。あなたのやってることは「家庭を顧みない父親そのもの」。凡俗が当たり前のようにしていることさえできない貴方にマスターを見下す権利も義務もありません!そんな貴方より毎日を必死に、一生懸命に生きている人の方が立派です!」

「わ、私はただ・・・・」

「言い訳無用!!」

 

遠坂さんの反論を聞くことなく私は後ろに回り込みジャーマンスープレックスを決めた。だってこの人ここまで言っても弱ってるくせに「自分は間違ってない」みたいな目してるんだもん。私が説得したところで無駄だろう。だから肉体言語で沈んで・・・・コホン、納得してもらった。ちょっと頭が床にめり込んで某○神家ポーズになっちゃったけどどうしようこれ・・・・そう思って振りかえると雁夜さんはいい笑顔でサムズアップ、ギルは大爆笑、ウェイバーくんは真っ青、ライダーはなぜか感心しており、なんだかもうカオスだった。

とりあえず言わなくちゃならないことは言ったし、璃正神父が停戦を宣言してくれたのでお開きになった。

ただやっぱり私がいろんなことを言ったのに納得いかない人だっているわけで。それが目の前にいるケイネス・エルメロイ・アーチボルトさんである。

 

「たかがサーヴァント風情が我々魔術師の事情にしゃしゃり出るなど身の程知らずめ」

「主、シールダーは・・・」

「うるさい!発言を許可した覚えなどないぞ、ランサー!!」

 

ランサーにつらく当たるケイネスさん。この人聞くところによるとこの中で一番強い人(魔術師として)っていう話なんだけど・・・なんでこんなにヒステリック・・・というより余裕がない感じなんだろう。

 

「あの、失礼を承知で反論させていただきますが、我々サーヴァントをどのような存在だと思っていらっしゃるんですか?」

「ふん、ただの使い魔に決まっているだろう、そんなことも分からんのか」

「ではなぜそんな使い魔であるランサーにつらく当たるんです?機械的に接すればいいのでは?」

「部外者は黙っていろ!!こいつのせいで私の聖杯戦争は散々なものでな、そのうえ聖杯は呪われているときた。これでは名声を手にするどころかマイナスではないか!まったく・・・」

 

ケイネスさんはぶつぶつと文句を言い始めしばらく止まりそうにないのでランサーに原因を教えてもらうことにした。なんでも召喚の際それに付き添っていた婚約者がランサーを見て呪いがかかり、彼の虜になってしまったのだと、そのためケイネスさんはランサーにつらく当たるようになりそのままここまで来てしまったらしい。うわー、本物のドロドロ愛憎劇じゃないですか。でも魅了を解除すればすべて丸く収まるんじゃないのそれ?

 

「なら私がその人に掛けられたチャームを解除すればいいんですね」

「「は?」」

 

こうして、私たちはランサー陣営の拠点に向かうことになったのだった。




ちなみに床の修理代は間桐の方から教会親子に出ます。一応自分のサーヴァントがやったことですから・・・でもそれより時臣ザマァでm9(^Д^)プギャーなのでごきげんです。
次はランサー陣営とセイバー陣営の回にしようかなーと思ってます。


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恋せよ乙女/潜む人狼

ランサー陣営の悩み解消編とフラグです。


あの後、ランサーの拠点に行くのはさすがにまずい(工房なので相手側は秘伝の漏洩を防ぎたい、こっちは工房に仕掛けられた罠があった場合雁夜さんの安全が心配)とのことで、元々中立という事もあって教会に直接来てもらうことになった。もう既に停戦になったしキャスターもいないのでとりあえずは大丈夫だろう。ただもう今日はみんなショックを受けていたこともあって早々に引き上げていったので私たちも日を改めて・・・・と思ったけど、ケイネスさんが私がチャームを解除できるという事を話した途端上機嫌になり「ならすぐにでも!」とのことでランサーを引き連れすっ飛んで帰り、ランサーをダシに使って婚約者を連れてきた。

連れてこられた婚約者――――ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリさんは燃えるような鮮やかな赤毛と、ランサーに話しかけているとき以外に輝きを見せない氷のような目が特徴的な美女だった。

病院での問診票を書く時のような質問をしてそれらに同意してもらう。解呪するうえで相手に納得してもらうのは当然のことだし、ランサーさえ関わらなければ正常な判断ができる人のようなので質問はスムーズに進み残すところあと一つになった。

 

「これで最後です。これより貴方に掛けられているチャームを解除します。よろしいですか?」

「待って頂戴。チャームを解除した場合、私はどうなるの?」

「元の状態に戻ります。チャームを受ける前ですね。それで今回のことで耐性が付いているのでおそらくもうランサーのチャームに掛かることはないかと「嫌!」・・・」

 

説明の途中でソラウさんが顔色を変え勢いよく席を立ち、叫ぶようにして拒絶した。

 

「嫌よ、これは私のよ、他の誰でもない私だけの恋心なの。今までの人生の中で一番欲しいと思った人なの、唯一私が生み出した私だけの心なのよ!!なのに、これを失ってしまったら・・・私はただの空っぽな人形じゃない!」

 

既に泣きながら、それでも大きな声で話し続けるソラウさんとそれを見て呆然とするケイネスさんとランサー。

 

「貴族らしく在れと言われ続けてずっとその通りにしてきたわ。いずれ兄か私が家督を継ぐからと、でも結局継いだのは兄で予備の私は宙に浮いたまま!!挙句政略結婚の道具扱い!!回路の本数も質も殆ど差はないのになぜなのよ!・・・ケイネスに不満があったわけじゃないわ、でも一度でいいから自由になってみたかった。だからランサーのチャームを拒まなかったの・・・たとえ呪いのせいだとしても、私にも激しい感情を感じることができたから。今まで押さえつけられていたものを許されたように感じたのよ。でもなぜみんな私からランサーを奪おうとするの!?なぜやっと見つけた「私」を否定しようとするのよ!!ならなんで今更私の前に現れたの!?このまま何もなければ私は「人形」のままでいられたのに!攫うことも救うこともしてくれないならなんで・・・なんで・・・っ」

 

泣きじゃくるソラウさんを抱きしめる。

 

「そうですよね、小さいころからそうやって育ってきて、当たり前のことがある日突然覆ったらそりゃあ誰だってそうなりますよね。貴方は何も間違っちゃいなかった。ただ間が悪かっただけで、本当はもっと幼い時に体験するはずだったことを体験できずに今になって来てしまったから、どうしようもなくてそのまま「呪いであっても恋をしている自分」を受け入れたんでしょう?大丈夫、女の子はみんな通る道です。特にあなたは今まで家に押さえつけられていたから、より一層でしょう。でも、これで終わりじゃありません。また一から始めるんです」

「いちから、はじめる?」

「そう、今度はチャームとかに頼らず相手のいいところ、悪いところを見て段々好きになっていくんです。それって普通の人の付き合い方と一緒でしょう?だから、今度はちゃんと見てあげてください。ランサーのことも、ケイネスさんのことも。一目惚れから始まる恋も運命的で綺麗だと思いますけど、それと同じくらい理解ある恋も素敵だと思います」

 

ポンポンとあやすように優しく背中を叩き間をおいてソラウさんから離れるとソラウさんも落ち着いたのかコクリとうなずいてほんの少し微笑んだ。

 

「そうね、私は自分の気持ちばかりで、思えば周りにいてくれた二人を理解しようとすらしていなかった・・・・これからはもっと相手を見て自分なりに考えてちゃんと歩みよってみるわ。」

「はい」

 

これでソラウさん、ひいてはランサー陣営はもう大丈夫だろう。そしてソラウさんの同意の下、無事にチャームは解除された。

 

「はい、これでチャームの解除は完了です。お疲れ様でした」

「待って、最後に貴方の名前を教えて頂戴。ここまでやってもらったのにちゃんとお礼を言わせてほしいの」

 

真摯なソラウさんの態度に他意はないのは分かる。でも言ってしまっていいのだろうか?私としてはもう停戦したしいいと思うんだけど――――と雁夜さんを見るとこちらの思っていることを既に理解しているようで深くため息を吐くと降参と言わんばかりに肩をすくめて手を振った。

 

「じゃあマスターからのお許しが出ましたし、もう停戦してますからいいですよ。私の名前は――――――」

 

*****

 

「イノリ、だと?」

 

聖杯戦争の停戦の話を聞いた衛宮切嗣はその知らせを聞いたその時、絶望の淵にいた。

ここまで準備してきた時間、自分の愛する者たち、それら全てを犠牲にしてでも叶えようと、叶えなければならないと思っていたものがこれで遠退いた、いやもうほぼ叶うことはなくなった。そんなことを受け入れられず、試しに大聖杯の下にカメラ付き使い魔を送ってみたがそれは更に現実を突きつけた。

自分はいったい何のためにここまで来たのだろう。これから一体どうすればいい―――――そう塞ぎ込んでいた矢先の助手の一人からの報告だった。

 

「そう、ギルガメシュ叙事詩に出てくる落陽の女神。シールダーの正体はおそらくそれよ」

「待ってくれ、いくら何でも神霊を呼び出すなんて不可能だ」

「けれどそうしないと辻褄が合わないのよ、アーチャーとの関係も宝具を防ぎ切る盾もあの絶大な浄化の力も」

「・・・・・」

「根拠ならあるわ、海魔の戦い。シールダーのマスターは令呪で「本来の力を取り戻せ」と命じた。これって普段のあの力は全力ではないということでしょう?実際あの令呪をかけられたときの彼女は力も容姿も全くの別物だったのだし、これでもまだ信じられないの?」

「・・・いいや、それなら確かに――――しかしなぜ今になってその報告を」

「あなたと一緒で確証がなかったのよ、余計なことを言って混乱することはなんとしても避けたかったのだけれど、どうもそれどころではないし、何よりこれは好機だと思って――――――ひょっとしたら願望器が使えるようになるかもしれないの」

「!・・・・・いいだろう、話してくれ恵麻(エマ)」

「ええ」

 

エマと呼ばれたその助手は美しい顔を強張らせながら切嗣に己の考えた作戦をとつとつと語り始めた。――――――――――口元に浮かんだ笑みがばれないように気を遣いながら。

 




次はセイバー陣営始動・・・・かな?まだ決めてません。
人狼っていうのでお分かりの人もいると思いますがこの人狼は人狼ゲームからくる「村人に紛れ込んだ人狼」を意味しています。ちなみにアンリは関係ないです。


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私は、いなくなった。

セイバー陣営編です。


停戦から数日後のこと。私はセイバー陣営のアイリスフィールさんから呼び出されアインツベルンの城にいた。聖杯問答の際、セイバーと一緒にいた彼女は幾分か・・・・というより全く私たちを警戒していなかった。おそらくセイバーと一緒に顔合わせしたことがあるだけでなく、停戦を宣言されたこともあるのだろう。セイバーと共に出迎えてくれた彼女は輝かしい笑顔だ。

 

「ごめんなさいね、急に呼び出してしまって」

「いいえ、お気になさなず。それで用件は?」

「ええ、もう気付いていると思うのだけれど実はセイバーの本来のマスターは私ではなくて衛宮切嗣。私の夫で、ほらこの前の教会での停戦宣言の時私の隣にいた彼よ」

「ああ!あの黒いコートに黒いスーツの人ですね」

「そう、その人なのだけれど・・・・実はまだ停戦や聖杯のことに納得いかないらしくて、申し訳ないのだけれどもう一度今度は私たちと一緒に大聖杯の安置されているところまで付いてきてくれないかしら?きっとあの人も自分の目で確認すれば納得すると思うの、そのためには第一発見者である貴方たちに来てもらえたら一番確実だと思って」

「私からも頼む、シールダー。あの男は未だに何を考えているのか解らないところがあって、アイリスフィールが話しかけようとしても停戦のことに対して思うところがあるのか上の空。もしアイリスフィールが言っていることが当たっているのならやはり貴方たちに同行してもらったほうがいい。」

「俺は別に行ってもいいと思う。もう争う必要もないんだし、あの時に出した例えも今思えば結構ショッキングなもんだったしそれで受け入れられなくなってるっていうなら・・・・シールダー、一緒に行かないか?」

 

全員なんだか申し訳なさそうな顔をしており、断りづらいというか私も雁夜さんと一緒に行動していたのでほぼ同罪に等しい。あれ、なんかこのなかで一番屑なのって私なんじゃ・・・・・とにかく私たちは切嗣さんやその助手の人が先に行って調査をしている大聖杯の安置場所である大空洞へと向かった。

 

*****

なのにこの状況はどういうことだろう。雁夜さんは私の令呪が宿った方の手首を切り落とされ即座に私が治癒に取り掛かったことで失血死やショック死は免れたし手首も元通りになった。けれど状況が好転したわけではない。私の令呪は前のキャスター戦の功績で令呪を回復しているため三画揃っている。その上今それの移植をしているセイバーのマスターはセイバーと契約を続けている以上少なくともセイバーの令呪を一画は持っている。計算上四画以上持ち合わせていることになる。これはさすがにまずい。私だけならなんとかなるかもしれないけど、絶対命令権のような令呪を根こそぎ持っていかれたので今のサーヴァントの状態では重ね掛けされたら逆らえなくなるだろう。

ここまで一緒に来たセイバーとアイリスフィールさんは信じられないものを見たように切嗣さんとその隣にいる助手の人たちを見ている。

 

「キリツグ、マイヤさんとエマさんもなんで・・・?」

「シールダーとそのマスターはこの現場の第一発見者だから重要参考人として同行すると言っていたはず、なのにこの有様はなんだ!?なぜ我々を騙しシールダーの令呪まで奪う必要がある!?もう既に停戦したというのに何故そこまで戦う!?」

 

しかし切嗣さんはまるで二人の声が聞こえないかの如く私に向き直り移植された私の令呪が宿った手を翳す。

 

「令呪を持って命じる。シールダー、本来の力と姿を取り戻し、聖杯を浄化しろ」

 

言われるがままに半強制的に本来の姿になり大聖杯とそれを経由して小聖杯の方(おそらくアイリスフィールさんの心臓)も浄化する。ただ後二画残っている。腕は翳されたまま、きっとまだ何かある―――――――――

 

「令呪を併用、三画を重ねこれを勅命とする。――――――――――――――――――――――――自害しろ、シールダー」

 

刹那、その一瞬で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は私自身の心臓に無数の光の刃を突き立て絶命した。




雁夜さんは能力的にかなり強くなっていますが、切嗣さんや助手さんたちと比べて場数、戦闘経験の経験値がないのであっさりやられちゃってます。
それで今回明らかになった作戦ですが、ずばりいうと「全部イノリちゃんでまかなっちゃおう作戦」です。間違ってないし中身はクリーンですが・・・FGOやってる人(オケアノスクリアしてる人)ならたぶん分かりますよね・・・・?


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人狼≠報われぬ愚者

今回はオリキャラにして諸悪の根源的なエマさんの回。と言ってもイノリちゃんがいなくなった以上彼女以外に実況者はいないので必然的に語り部みたいな立ち位置になると思います。


これは一体どういうこと――――――。

目の前で起こっていることに頭が追い付かず衛宮切嗣の助手の一人であるエマは現実逃避も兼ねて振り返る。

 

本来、この時空に自分は、「エマ」などという人物は存在しない。

そもそも自分はこの世界に転生する前は普通のどこにでもいる一般人、そのなかでも俗にオタクと言われる部類の人種だった。そしてその世界にあった作品のなかでも一番嵌まったのがこの世界、fateシリーズ、特にこの「Fate/Zero」だった。だからこの世界に転生したと分かったときは内心歓喜した。それと同時に「私が救わなければ」と強く思った。なかでもとりわけ不幸だった衛宮切嗣と間桐雁夜を救いたい、そう思って私はここまで来た。

この年代では有り得なかったパソコンにインターネット、携帯にゲーム機器などがあることから私以外にも同じように転生してきた存在が多数存在していることを知り、原作通りに切嗣がセイバーを召喚した辺りから冬木ちゃんねるなどの大型掲示板などに書き込んで情報と救済策を求めた。しかし、間桐家の通りに住む住人のとある投稿から一変する。

 

――――――「今回の間桐家にはバーサーカーじゃなくてエクストラクラスが召喚されたらしい」

 

 

なんだそれは、そんなの原作乖離も甚だしい。原作通りにいかないと起きる出来事にも差が出かねない。ここまで考えてきた救済策が無駄になる。そして間桐家のことや倉庫街のことからギルガメッシュの王妃にして女神であった「イノリ」という人物だというのが有力だった。

そしてそんな臆測は海魔の戦いの際に確信になる。そしてそれと同時にある作戦を思い付いた。

そうだ、女神に浄化させたうえで聖杯にくべてしまえばいい。同じ半神半人のギルガメッシュでサーヴァント五機分、彼女が英霊の状態でそれなら令呪で女神に戻してくべればその倍あたりの魔力が確保できるのではないのかと。それを切嗣に伝えたあと、各掲示板に報告しに行くと全ての掲示板、ほぼ全員から止められた。

 

『FGOの人理を修復し終わった身としてはオススメできない』

『オケアノス案件っぽくなりそうだからやめろ』

『アークより聖杯のほうが方向性がなくて際限がない分たち悪そう』

『お前の女神への嫉妬に巻き込まれて死にたくない』

『聖杯で叶える内容もう一度確認した?』

『聖杯云々の前に英雄王がパーンする』

『今の騎士王じゃ英雄王には勝てんぞ、snで鞘が戻ってやっとこさで勝ったんだし。』

『つーか今回の英雄王まじ隙ねーもん。普段なら出し惜しみする奥さんの鏡、奥さんが召喚されてるって分かった瞬間から使ったっていうし』

 

などの押しとどまらせようとする意見が多かったがFGOなどしたこともないので全て無視し作戦に移った。

なぜ切嗣に伝える前に掲示板に報告し意見を求めなかったのだろう。そうすれば間に合ったかもしれないのに。

 

全ては、私の一人よがりな正義感と女神への嫉妬心が招いたことだった。

 

 

汚染は浄化され、女神がくべられたことで満たされる聖杯。アイリスフィールは異変を感じ自身から聖杯を取り出した。これにはその場にいた聖杯の仕組みを知るセイバー陣営全員が驚いた。

 

「アイリ、大丈夫なのか?」

「え、ええ。聖杯のなかの魔力の一部が心臓を造って生命活動を続けているわ、造って活動した時点で願いが叶ったとされて聖杯との接続は切れたけれど」

 

アイリスフィールに異常がないこと、心臓が出来たことで死なずに済んだこと。ここまではよかった。

アイリスフィールから出た聖杯は姿形を黄金の杯へと変え、大聖杯の中心へ移動した。おそらく聖杯が満たされたことで起きる儀式のような何かだと思い私は内心楽観していたのだ。しかしアイリスフィールの顔色は優れず表情も硬いままだった。

 

「有り得ないわ」

「え――――マダム、今、なんと」

「聖杯が黄金の杯へと変わるのは分かるの、けれど自分から自立して行動するのも大聖杯のもとへ行くのも、本来そんな機能を持っていない。むしろ魔力の無駄遣いになることだから殻に人格が宿っても聖杯そのものは無機物のままのはず。だからこの動作そのものがおかしいの」

 

その言葉に目を見開く。じゃあなぜ?私は間違えた、の?

そう思った瞬間、宙に浮かんだ聖杯から光輝く白銀の、七色の、透明の言葉に代えづらい美しい液状の魔力が溢れ出した。それはすぐに真下の大聖杯を満たしそれでもなお溢れ続けている。

大聖杯からも溢れたそれは大きな波となってこちらに向かって来た。思わず身を固くしてその衝撃に備える。しかし何も来ない。すると波は私たちを避けて大空洞の入口を壊し外へ流れ出ていった。

 

聖杯から溢れる魔力は止まっていないもののまた助かる保証はないので急いで外へ出た。

外に出た先は既に溢れ出た魔力が山を伝い住宅街へとなだれ込んだ。しかし、違和感がある。

山を覆っていた木が、植物が、魔力の伝った部分には一つも生えていなかった。いや、おそらく消されたのだ。

それを見てゾッとする。待て、たしか、魔力は、もう住宅街に―――――――

下では悲鳴、消える人間を見て逃げ戸惑う人々、ひょっとしたら魔力の通った家で眠ったまま消えてしまった人もいるのかもしれない。

 

「い、や・・・なんで」

「何故も何もあるまい」

 

背後で聞こえた温度のない声に振り返ると、そこには間桐雁夜を抱えたギルガメッシュが無表情で立っていた。




次回は恒例の英雄王による解説回になると思います。
ちなみに敢えてフォローするとエマさんは決して悪い人ではないです。ただイノリちゃんへの嫉妬と本人無自覚だけど切嗣さんと一緒にいた期間が長くて感化されて効率優先で手段を選ばないようになってしまっているだけで。


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「私たちがやりました」「結局何も理解していなかったんです」

ギルガメッシュの解説・セイバー陣営気付くの回。
次は雁夜さんとギルガメッシュ回にしようか悩んでます。


無表情で現れたギルガメッシュに私たちは強張る。特に彼と女神イノリの関係を知る私と切嗣は冷や汗すらかいていた。そんな私たちをよそに無表情のまま間桐雁夜を降すと間桐雁夜は目を覚ましたようで勢いよく身体を起こした。

 

「アーチャー!?シールダー、シールダーは!?」

「あやつは聖杯にくべられた・・・貴様はそこで寝ておれ雑種、イノリが守ったものを無為にするでないわ」

「・・・・ああ、そっか・・・・そうだよな・・・ごめんな、俺・・・・」

「よい、今は嘆いても始まらん。そのまま動くな」

 

そしてそのままギルガメッシュは私たちに向き直った。

 

「さて、先の答えだったか。当然であろう。女神とは自然そのもの、世界の一部だ。貴様らは世界の一部を贄として願望器を起動させた。どのような願いを願ってあやつを贄にしたのかは知らんが今起こっているのは曲がりなりにも貴様らの願望を叶えようとした結果だ。」

「そんな馬鹿な、僕が願ったのは「恒久的世界平和」だ。こんな人間が消えていくような世界であるわけがない!!」

「ならば聞くが、お前の思う「世界平和」とやらはどういった状態のことを指す」

「争いがない、誰も傷つかない全ての人間が平等に幸福な世界だ」

「・・・・貴様らはそんなくだらん願いのためにイノリを犠牲にしたのか」

 

地を這うような底冷えする声で、表情は無表情のままなのに切嗣を見るその目は明らかに怒気と憎悪がにじみでている。

 

「誰も傷つかない全員が幸福な世界?おかしなことを。誰も傷つかずに幸福を保つ世界などない。人間とは犠牲なくして生を謳歌できぬ獣の名だ。平等という綺麗事は闇を直視できぬ弱者の戯言に過ぎぬ。お前の願いは醜さを覆い隠し目を背けるための言い訳だ」

「っ、だが、お前も王だったならわかっているはずだ!戦場に希望なんてない。あるのは掛け値無しの絶望だけ。敗者の痛みの上にしか成り立たない。勝利という名の罪過だけだ。なのに人類は、その真実に気付かない。いつの時代も、勇猛果敢な英雄が、華やかな武勇談で人の目をくらませ血を流すことの邪悪さを認めようとしないからだ。人間の本質は石器時代から一歩も前に進んじゃいない!!」

「分かっていないのはお前だ、雑種。争いというのは生物が行き着いた最も効率のいい生き方だ。互いの利権を譲れば生き残れぬ、弱ければ死ぬ、強き者・勝者のみがしのぎを削り生き残ることを許される。これほど分かり切ったことはこの世に存在しない」

「なら、弱者の居場所はないと、そう言いたいのか!?」

「そうだ、少なくとも我の国に弱者はいらん。老若男女、強き者、有能な臣下―――――我が欲しいのは雑種などではない。王たる我に尽くし我に命を捧げる者。地獄の中ですら生き延びられるモノにこそ、支配される価値がある。その点で言えば今回は落第だったな。文明の進化・科学だよりの今の人間は目も当てられぬほどの脆弱ぶりだ。この程度で死ぬなど、最早我が手を下すまでもない。」

「なんてやつだ・・・お前にとっての人間は一体なんなんだ!?多くの人が亡くなっているこの状況をなんとも思わないのか!?」

「我にとっての人間だと?そんなものは決まっている。我を楽しませる愉悦と成り得るかそれ以外、または今すぐ死ぬかいつか死ぬか、それだけだ。それに、この状況で死に絶えるのならそれでよい。自らの罪で消え去るのなら、生きる価値などあるまい」

「?!どういうことだ」

「貴様らもイノリを知っているから贄に選んだのだろう。やつの権能は「守護」と「浄化」、そして元が「ガイア」側の英霊だ。つまりこの状況でもわかるように「世界平和」のために「星を破壊するおまえたち人間」と「消費する他の生物たち」を「星の癌細胞・敵」とみなし「世界」を「守護」するために「星の一斉浄化」をする。おそらくそういうことだろう」

「そん、な」

「だから言ったのだ「何故も何もない」と、あやつを聖杯に捧げた時点でこうなることは目に見えていた。しかし本来は既に無色透明の魔力に変換された存在であるあやつに意思なぞ存在しない。しっかりと願いを叶えるまでの道程を思い描いていれば権能に頼った極端な「世界平和」は起こらなかったはずだ。分かるか、衛宮切嗣。全てはお前たちの不手際とくだらん理想のために行き着いた結果だ」

 

真っ青になって打ちのめされる切嗣を見ていられなくなって私も声を上げる。

 

「でもこの作戦を切り出したのは私で切嗣の理想は間違いなんかじゃないわ!」

「その結果を受け入れず後悔する男のどこが間違いでないと言えるのだ、我の最愛を犠牲にしておきながらこの体たらく、呆れ返ってものも言えん。本来ならば死ぬまで徹底的に痛め付け拷問してやるところだが、気が変わった。最早貴様らにはその価値すらない。故に死ぬまでその罪と周囲の怨念に焼かれながら生き続けるがいい」

「!あ・・・・」

 

そこで私たちははたと気付いた。そうだ、この男にとって女神イノリは女神ではなくて生涯愛した最愛の女性だったのだ。殺した神を親友と共に殺し、英雄とは程遠い神殺しをやってのけるほどの。そして私たちはその再会を無惨なものにしてしまった。二人はただ再会できた奇跡を喜び一緒にいようとしていただけなのに。結局自分たちのことだけで何一つ救えない、それどころか見えてすらいなかった。もう、私たちは、この場所から一歩も動けなかった。




セイバー陣営再起不能になりました。辛うじて動けるのはセイバーですが動かすかどうかはまだ決めてないです。


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それはフィナーレというには余りにも

あっけなく静かで眠るような終わりだったのです。


セイバー陣営が気力を無くし項垂れているなか、間桐雁夜は立ち上がりギルガメッシュの方を見る。

 

「アーチャー、いや、英雄王ギルガメッシュ。頼みがある」

「なんだ雑種」

「俺を桜の、娘のもとへ連れて行ってほしい」

「桜・・・貴様とともにイノリが救った娘か。よかろう、行くぞ」

「ああ、頼む」

 

*****

まだ魔力の波は間桐の家までは到達しておらず桜は家にいたため無事だった。帰りが遅いことに不安になっていたらしい。帰った途端飛び付かれた。

 

「お父さん!!」

「桜!」

「帰って来ないから・・・・無事でよかった」

「桜も。間に合ってよかった」

「?先生は」

「シールダーはお父さんとみんなを守って消えちゃったんだ」

「桜を嫌いになったわけじゃなくて?」

「うん。むしろ消える前までは桜のところに帰ってくる気満々だったから、どっちかというと桜に会えなかったのは心残りなんじゃないかな」

「そっか・・・・・ねえ、お父さん。私、先生に会いたい」

「・・・・もう、元のシールダーの姿じゃないよ、それでもいいの?」

「うん。それでも、それでも先生とちゃんとお別れしたいから」

 

娘の我儘は自分の我儘でもあった。しかしあの空間はもう聖杯から溢れた魔力で近寄ることすら出来ない場所に成り果てているはずだ。俺だけならまだしも桜がどうなるか分からない以上ギルガメッシュに頼らざる負えない。

 

「ギルガメッシュ「話は纏まったか、ならば行くぞ」え、いいのか?」

「何を惚けている。貴様らはイノリが庇護した者たち、ならばあの魔力も眷族である貴様らには無害な水に過ぎん。何、イノリを召喚した褒美だ。我が成す幕引きに付き合うことを許す」

「・・・・ありがとな」

 

そして俺と桜はギルガメッシュと共に聖杯の、シールダーのもとへ急いだ。

 

*****

大空洞のある山に戻るとやはりまだ魔力は流れ続けており、セイバーやそのマスターたちは無事だったものの、その周囲も下の住宅街も静まり返り、植物も苔一つ生えていない有り様だった。そんな風景を見ながら大空洞内に入ると俺と桜は聖杯を一目見た後、そこからかなり離れたところに移動させられた。目が悪いわけではないので問題はないが何でも聖杯を破壊するのに本気を出すため近くにいては巻き添えになりかねないとのことだった。

そしてギルガメッシュは姿を変え、体に赤い模様のようなものが刻まれた「ネイキッド」という状態で聖杯のもとへ近づいていき突剣のような宝具を構えた。

 

「今、そこから解き放ってやる。 ――――――さらばだ我が最愛の妻よ、此度の逢瀬もなかなか愉しかったぞ」

 

そしてそれは振り下ろされ、聖杯が破壊されたことで聖杯戦争の約二百年間における歴史は幕を下ろすこととなった。

 




次はエピローグになります。


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エピローグエンドロール

エピローグです。
色々弄ってるし、無茶苦茶ですがお許しを~


聖杯が破壊されて冬木の聖杯戦争は幕を閉じた。

 

あれからもう早いことに三か月が経つ。

聖杯が元で起こった「一斉浄化」によって冬木市の、特に深山町の人口は戦争前の約二割程度に減り、その結果空き家が増え、ややゴーストタウンのような状態になっている。

大空洞のあった円蔵山は幸い柳洞寺やそこで生活する僧たちに被害はなかったものの地下の大空洞から溢れ出た魔力が地表を伝い住宅街へ雪崩れ込んだことで山を覆っていた木どころか生えていた草花、苔までもが無くなり一部山肌が見えたような状態になっているが、今は復興最優先で行政が動いているためひとまず植林などは先延ばしになるようだ。

教会と協会は御三家とともに隠蔽や実地調査、事後処理や様々な手続きなどで慌ただしく動いており、どうも協会の方はこの機会を逃すまいと聖杯の仕組みについて解析しようと試みたらしいが、ただでさえ規格外の神霊を注がれていた聖杯とそれに接続していた大聖杯はそのせいで元々オーバーヒート気味でメルトダウンを起こしていたらしい。そのうえギルガメッシュの宝具によるこれまた規格外の一撃によって破壊されたため術式も仕組みもほぼ分からず仕舞い。また、このことに関してはアインツベルンがひたすら黙秘を決め込んでいるため聖杯の鋳造方法は永遠に知れ渡ることはないだろう。

 

さて、次に聖杯戦争の結果と参加者(マスターとサーヴァント、各陣営の協力者)について。

まず初めに優勝者は一応名目上は願いを叶えた衛宮切嗣である。しかしこれが知れ渡ると協会の法廷での裁判どころではなくなる(彼は「魔術師殺し」という魔術師専門のフリーランスなヒットマンだったらしく多方面から恨みを買っている)とのことで公にはされず、結果「非公開」または「優勝者なし」とすることになった。

 

次に参加者の安否とその後。

まず聖杯を壊したギルガメッシュはそのままシールダーの後を追うように消滅した。聖杯の魔力はまだ大聖杯に湖のようにたまっていたし、後でわかったことだが外に流出した魔力もそのまま霊脈に浸透したことでマナが濃くなりサーヴァントが受肉し世界に現界し続けることも可能だったらしいがやつはそれを断った。なんでも「語り部は三人もいらん」とのことだそうだ。後「次は我ら夫婦そろって召喚せよ。ああ、もう一人・・・友を呼ぶというのもいいな」というトンデモ発言とともに消えていった。

 

次にランサー陣営。全員生還。結局ソラウさんはケイネスさんを選んだ。ランサーは受肉し、従者として付き従っている。ちなみにソラウさんのことが無くなったためか結構仲は良好なんだとか。

ただ戦争が終わってからが修羅場だったらしく事の概要を聞いたソラウさんが怒りのあまりエマさんと切嗣さんに猛抗議し(エマさんに至ってはビンタされる寸前まで行ったらしい)聖杯のことがある程度片付くと一旦帰国。ただ帰国してからも家のことで色々あったようで、次期当主であった彼女の兄が亡くなり元々彼女が生まれた時の権力争いの影響で親族で有力な当主候補は殆ど残っていなかったことから急遽刻印を移植され次期当主に据えられた彼女はケイネスさんを婿養子にして彼から魔術を教わりつつ家をまとめている。

ケイネスさんはソラウさんが次期当主になると聞いて「婚約解消か・・・・」と沈んでいたが「あら、何言っているの?貴方も一緒に来るのよ」とのソラウさんからの逆プロポーズで復活し頼れる夫として彼女を(自覚はないだろうが)献身的にサポートしている。

 

流れ的に次の紹介はライダー陣営。ライダーはやっぱり受肉した。そして「征服するにはまずこの世界のことを知らなければな!」とのことで今は一人で世界の国々を放浪しており、時々フラーっとウェイバーくんのもとに帰って来ては行って来た国の土産話を肴に宴会を開くらしい。うるさくて書類整理が捗らないと嘆きつつもどこか満更でもない声色で電話越しにウェイバーくんが語っていたのは記憶に新しい。

ちなみにウェイバーくんが付いていかなかったのは前に説明したランサー陣営が深く関わっている。

ソラウさんが急遽ソフィアリ家を継ぐことになりケイネスさんを婿として迎え入れてしまったせいで今度は当主を失ったケイネスさんの家の方で問題になってしまったのだ。そんななか、ウェイバーくんは「お前も聖杯戦争の関係者だろうが、責任とれやコラ」と言わんばかりにエルメロイ家の人々に馬車馬の如くこき使われていた時にちょうど魔術の基礎を学んでいた子にアドバイスしたところそれがなんとエルメロイの末席の子だったらしい。彼女に気に入られたことで益々逃げ場を失い自棄とばかりにバリバリ仕事をこなしたらそれが評判になり、そのうえその時上手くいったからと強請られ彼女の魔術のアドバイザーをしていたところ、どうやらウェイバーくんにはそっちの才能があったようでその子の魔術のレベルは凄いスピードで上がっていった。これまたそれも評判になりエルメロイの人々に認められつつある。認めている者の中では「ロード・エルメロイ二世」なんていう風にも呼ばれているとかいないとか。

 

アサシン陣営はこれといって、関係性に変化はない。でも悩んでいた神父はシールダーの教えた愉悦?であるホラゲーに嵌まったらしく新作が出るとアサシンに並ばせたり調査させたりしているらしい。教会の労働力も増えたことで璃正神父はこの頃上機嫌でいることが増えた。アサシンも璃正神父から労ってもらうことにやりがいを感じているらしく仕事の速度が倍速に、けれど全てを完璧にこなす執事的な存在になっているらしい。

 

世を騒がせたキャスター陣営のマスターはあの海魔との戦いの際民衆に紛れ込んでいたところを衛宮切嗣に射殺されたらしい。何故子どもを攫ったのか、あの惨状はどちらによるものだったのか謎を残したままで終わってしまった。

 

次にアーチャー・・・というかアーチャーだったギルガメッシュは消滅してしまったのでマスターだった時臣と葵さんと凛ちゃんの話になる。

時臣は桜のことと葵さんと凛ちゃんのことがあったからか凛ちゃんへの接し方について考えることが多くなった。葵さんは真実を知ってしまったあと情緒不安定になり一時期は離婚も考えていたらしいが凛ちゃんにしてしまったことと彼女の今後を考えて今度はしっかり向き合っていくのだと言っていた。桜に対してもまだ全てを受け入れられたわけではなさそうだったが少し言い辛そうにしながらも「桜ちゃん」と呼んでいた。それを聞いた桜がにっこりと笑顔で「はい」と返事をしていたのを見てお互いを認めているように見えた。

凛ちゃんは・・・・どうやら回路を暴発させたショックで魔術回路と神経両方に障害が残った。回路はメインとサブの切り替える繋ぎ目がほぼ焼き切れ、何とか繋ぎ合わせたものの別物になってしまっているらしく、魔術を使うことはできるが回路を全開にしての魔術には激痛が伴い完全に才能を発揮することが出来るかどうかは微妙なところらしい。ただ幸いだったのは後遺症で歩くことが出来ず車椅子だがリハビリを続ければいずれ歩けるようになる可能性が高いことだった。

 

セイバー陣営は失意の中でとにかく生存者を探していたところ、町に倒れていた少年を発見し保護した。士郎くんというその子は無事だったわけではなく聖杯の魔力の影響で記憶を消されてしまっていた。そもそも彼の家は魔力の通った場所にあったため家族は魔力に飲まれ、彼のみが生き残ったらしい。このままにしておくことはできないと結局セイバー陣営も深山町に根を下ろすことにしたらしい。陣営が常にお通夜状態でこのままでは自殺者が出かねないからとアインツベルンからアイリスフィールさんと衛宮切嗣の娘を奪還するときの戦力の事も考え、色々なストッパー役としてセイバーも現界したままになっている。

 

そして俺たち、バーサーカー陣営。バーサーカーはもう悔いがなく王にも会えたことからそのまま感謝しながら消滅していった。一方の俺は桜の父親としての法的手続きやら兄貴とのジジイの財産分与で頭を悩ませたりとウェイバーくんほどじゃないが落ち着かない日々を過ごしていた。俺はジジイが亡くなったことで当主にもなってしまったので教会や協会を相手に聖杯関係の方にも手を焼いている。

桜はシールダーがいなくなってから少しへこんでいた。なので二人で話し合ってシールダーが俺たちの前に現れたその日を「先生・シールダーの日」として毎年お祝いして忘れないようにしよう。ということになった。それ以来また笑顔で呼びかけてくる娘を強いなあ、なんて思いながら過ごす。

兄貴は海外から帰ってきた慎二と一緒に新都の方に住むそうだ。まああいつは資産運用とか得意そうだしあまり心配はしていない。

 

「おとーさん!手、つなごう」

「そうだね、よしじゃあ今日はお手伝いさんもいないしこのまま夕飯の買い物にいこうか。桜は何が食べたい?」

「今日はお父さんの作ったハンバーグがいい!」

「はいはい、お姫様」

 

そうして二人で歩き出す。なあ、シールダー、俺たちは今とても幸せだ。だからどうか、お前に次があるのなら、次こそは幸せになってくれ。俺も桜もそれを願ってる。

 

 

それじゃあ、また次の運命の夜に――――――

 

 




これにてZero編終了です。
なるべく大団円のグランドフィナーレ的なものを目指しました。
切嗣さんに関してはすみません、でも一番聖杯に執着してて手段選ばないのってやっぱりこの人しかいないなと思ったので白刃の矢が立ちました。あとギルガメッシュの考える世界と真っ向から対立しそうだと思ったのもあります。

これからの予定は決まってません。でもFGO編は書きたいなと思ってます。


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FGO編
きっかけ?聖杯に縁があったからじゃないですかね?


FGO編です。
ただイノリちゃんは全ての章に登場させるつもりはないのでかなりすっ飛ばしての話になると思います。
それ以外にもカルデアの短編とかイベントとか幕間の物語とか書いてみたいなあ・・・という希望。


意識が覚醒する。

体の体表が熱さを感じ取る。

鼻が燻臭さを嗅ぎとる。

目を開けると―――――――そこは地獄だった。

 

「と、ここはどこかな・・・・ユキー、お願いできる?」

 

こくりと頷くようにしてユキは猛スピードで走り出すと数分後、大体散策し終えたのか戻ってきた。

 

「ありがとう、じゃあ共有」

 

ユキの額に自分の額を合わせてユキの経験や記憶を共有する。

 

「――――――――――――なるほどね、ここは冬木市か」

 

この世界の冬木には生命と呼べるものは一つも存在していない。いるのは亡霊や黒化したサーヴァントのみ。

 

「原因は――――いや、そんなこと言ってる場合じゃないか。それよりもこれから来る子たちを見に行ったほうがいいのかもしれないな」

 

だってここはまだ始まりの序章みたいなものなんだし。黒幕はいないうえその使い魔みたいなやつも来たはいいけど隠れてるみたいだし。

というかそれよりこの世界の規模が小っちゃくてそのうえ不安定なせいか脆そう。いや、確実に脆い。この調子だとあと何日、あと何時間持つのかな・・・・。まあ、そんなこと考える前に第一村人・・・ならぬ第一漂流者たちと合流しないとね。下手すると時すでに遅しで全員殺されておじゃんになってBADエンドなんてことになりかねないし。そうなると場合によってはこの世界がループしちゃうなんてこともあり得る。見つけて助けるかどうかはその時になってから考えよう。漂流者さんたちの方にある「盾」はそんなにやわじゃないだろうから。

 

「人理、かあ・・・黒幕も随分思い切ったことをしたものだね、まったく」

 

人間に対する姿勢は回りまわってツンツンでデレをひた隠しにしちゃってるけど、嫌いなところをたくさん言えるならそれだけよく見てるっていう、裏を返せばれっきとした人類愛になるんじゃないのかな?正義とか世界平和に固執するまっくろくろすけで目が死んでるどっかの誰かさんを思い出すね!あはは!!

恨んでるわけじゃないけど令呪使われたちょうど次の日にギルとデートする約束してたんだよ?そしたら、ねえ?

・・・・傷痕が疼くぜ(※傷痕残ってない)。

 

思い出したら聖杯に対してもちょっと腹が立ってきたのでいざという時、漂流者の人たちと会わなかったときのためのプランを考えておこうと思う。

そう、名付けて「メリーさんごっこ」あ、間違えた「定時連絡作戦」である。内容は簡単。聖杯とそれの所有者に某都市伝説のごとく定期的に頭に直接話しかけるのだ。ちょっとした嫌がらせである。

 

「さて、そうと決まれば行くか!」

 

とりあえず聖杯のところへ行ってきます☆

 

 



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