とある青年が銀河英雄伝説の世界に転生した (フェルディナント)
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プロローグ

「はっ!」僕は飛び起きた。
 僕は洲崎竜。18歳の大学生「だった」。
 早くに親を失い、独り暮らしをしていた「はずだった」。
 だが、今日起きてみれば、外はまるで違った世界ではないか。しかも、外の町並みは、まるで中世ヨーロッパのようだった。
 どうなってるんだ、一体!?僕は、タイムスリップしてしまったのではないか?と、突然轟音が響いた。腹に来るゴゴゴゴという音。僕は、それをエンジン音だと解釈した。
 だが、中世にエンジンなんて聞いたことがないぞ、と思いつつ部屋に一つだけある窓を開ける。どうやらとある建物の2階のようだ。
 そして、空を見上げると、
 「はあっ!?」
 宇宙戦艦だ。紛れもない、宇宙戦艦だ!
 長方形の艦体の後部には、3つのエンジンがついている。それを見て、僕はあることに気づいた。
 これ、銀河英雄伝説に出てくる標準型戦艦ではないのか!?
 いやいや、そうにしかみえない。あれは、絶対銀河英雄伝説の戦艦だ。その後方からは、巡航艦も見えるし。
 ってことは、もしや僕は、銀河英雄伝説の世界にいるのか!?
 僕はますます訳がわからなくなった。だが、ここがどこかをはっきり示す光景が、僕の下で繰り広げられていたのだ。
 「ラインハルト!」その声に、僕はギクッとした。ラ、ラインハルト!?
 しかも、この優しそうな声の主は、
 ア、アンネローゼ様!
 紛れもない、まだ10代の、アンネローゼ・フォン・グリュ・・・じゃなくてミューゼルだ。
 そして、今姉の方を振り返ったのは、
 後のローエングラム王朝第1代皇帝、ラインハルト・フォン・ローエ・・・じゃなくてミューゼル!
 な、なんと、ここは本当に銀河英雄伝説に出てくる銀河帝国首都星、オーディンだ!
 「ラインハルト、忘れ物よ」アンネローゼがノートを金髪の少年に渡す。そして、
 「あら、ジーク。おはよう」
 燃えるような赤毛、振り返ったラインハルトより少し背が高いこの少年は、
 「キルヒアイス!」ラインハルトが手をふる。
 ジークフリード・キルヒアイスだった。
 やった!憧れのキャラが、勢揃いだ!
 僕は小躍りした。
 そして、なにも考えず、窓を飛び出してしまい、
 落ちた。
 「わあああああああ!」
 どしゃ。下に積み上げてあった藁の山に落ちた。
 「あら!大丈夫!?」アンネローゼが駆け寄ってくる。
 僕は自分がピンチであることを悟った。銀河英雄伝説キャラに、何て説明したらいいんだ!?まさか「朝起きたらここに飛ばされてました」何て説明できる訳がない。自分の名前すら知らないんだぞ?てか僕の転生したキャラの戸籍あるのか?
 僕はとりあえず藁の山を降りた。良かった、藁があって。
 アンネローゼと二人の少年が来た。「大丈夫?痛いところはなくって?」
 「あ、はい」僕はアンネローゼの言葉に赤くなりながら答えた。
 「君・・・」キルヒアイスが思案顔になる。「今日転校してくるルートヴィヒ・フォン・ヒルシュフェルト君?」
 「え?」僕は唖然となった。「どうして?」
 「いや、そのヒルシュフェルト君の写真を見たから。似てるなって。間違えてた?」
 どうしよう。でも、ここは。「そうだよ。僕が、ルートヴィヒ・フォン・ヒルシュフェルトだ。ジークフリード・キルヒアイス君と、ラインハルト・フォン・ミューゼル君だね?」あれ、何で話せるんだろ。僕はドイツ語を知らないのに。
 「そうだよ。よく知ってくれてるね」
 「ぼくがラインハルトだ。よろしく」そう言ってラインハルトが右手を出した。
 この頃のラインハルトはまだこんなだったんだ。そう思いつつ、僕は彼の手を握り返した。「よろしく、ラインハルトって呼んでいい?」
 ラインハルトは頷いた。
 やった。ラインハルトと友達になったぞ。
 「ルートって呼んでいい?」アンネローゼが聞いてきた。
 僕は頷いた。アンネローゼ様のお頼みを断ることなんて絶対にするか。
 「弟をよろしくね、ルート」
 「あっ!もういかないと!」キルヒアイスが言った。
 「えっ!?」
 「急ごう!遅れる!」ラインハルトが走り出す。キルヒアイスも続く。
 僕は一瞬迷った。この二人と一緒に銀河を駆け抜けるのか。一人で行くのか。
 僕の脳は一瞬で結論をだし、肉体に伝えた。
 僕は、全速で走り出した。

 あとがき
 ARC170と申します。別のサイトに「日本機動部隊」という小説を書いています。
 銀河英雄伝説ものは初めてなので、ちゃんとかけるか心配です。キャラ崩壊も激しいと思いますが、ご容赦ください。

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第一話

 ラインハルトと出会って十年が過ぎた。階級も少将になった。
 今僕はラインハルト・フォン・ローエングラム上級大将の旗艦「ブリュンヒルト」艦橋にいる。立場としてはラインハルト艦隊副司令官だ。
 ラインハルトの副官のジークフリード・キルヒアイス准将も僕の横に立っている。
 今まさにアニメ版第一話に当たるアスターテ会戦が始まろうとしていた。
 僕はふとここまでの記憶を思い出した。

 ラインハルトと出会って数ヵ月後、アンネローゼが皇帝に「さらわれた」。
 その時、僕はラインハルトとジークフリードと共に誓ったのだ。「ゴールデンバウム王朝を倒す」と。
 そして僕らは帝国幼年学校に入学し、五年後に次席で卒業した。首席が誰だったか、言うまでもない。
 僕はそれほど頭の良い方ではなかったが、銀英伝についての知識が豊富だったため、次席になれた。
 その後三人で惑星カプチェランカに行き、アニメ通りの展開で終わった。僕がいて変わったことはそれほどない。
 さらに駆逐艦「ハーメルンⅡ」の機関部員を担当した。ここでの展開もそれほど変わりがない。
 軍務省での仕事は退屈だった。ラインハルトと同じ思いでいた。
 今度はラインハルトが駆逐艦の艦長となり、僕は砲術長となった。そして第五次イゼルローン攻防戦に参加し、その後ラインハルトが艦長を務める巡航艦の砲術長になった。
 僕はどうやら砲撃とその延長線上にある攻撃が得意らしい。ファーレンハイトににてるのかな。
 ピンチに陥ったときにアイゼナッハが助けてくれた時は僕も歓喜した。
 任務が終わると、ラインハルトが大佐になり、僕は中佐になっていた。そして、幼年学校の連続殺人では正確な分析をし(知ってるからしょうがない)かなり早く犯人を見つけれた。
 そしてラインハルトは准将になり、少将、中将と上がっていった。僕も少将になっていた。そして、第四次ティアマト会戦でラインハルトは上級大将となり、今に至る。
「敵第四艦隊、正面!」
「全艦、攻撃開始!ファイエル!」
アスターテ会戦が始まった。
 最初、第四、第六艦隊を殲滅するところまで、僕は何もラインハルトに忠告しなかった。ここまでのラインハルトの戦術は完璧だし、僕は別にラインハルトのよりも良い案を持っているわけではない。
 だが、第二艦隊と交戦に入り、しばらくたってラインハルトが敵中央を突破する策に出たときは止めることにした。
 「閣下。今の敵艦隊の動きは先程とは違います。多分、指揮官がより有能なものに変わったのでしょう。今中央を突破すれば、逆に敵によって後背を衝かれかねません」
 「ほう。ではヒルシュフェルト。お前はどうすべきだと思う?」
 「敵の右翼か左翼のどちらかに突撃し、さらに中央を攻撃するのです。そうすれば、両方から包囲されることはなくなります」
 ラインハルトは頷いた。「お前はよくわかっているじゃないか、ヒルシュフェルト。よし、そうしよう。敵の左翼を攻撃する!全艦、突撃隊形に移行せよ!」

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第二話

 「敵艦隊、我が艦隊の左翼を圧迫してきます!」ダスティ・アッテンボローが報告した。
 「右翼を敵の後背に回し、中央と合わせて攻撃しろ」ヤン・ウェンリーは命じた。
 「はっ!」通信士が敬礼する。
 直ちに第二艦隊右翼が敵の後背に回り込むべく、運動を開始した。中央艦隊は敵左翼を攻撃すべく機動する。

 「敵右翼、運動を開始!我々を後背から攻撃する模様!」
 「敵中央、我が艦隊の左翼、エルラッハ艦隊を攻撃開始」
 「エルラッハ、フォーゲル艦隊は敵中央艦隊を迎撃せよ。右翼は放っておけ」ラインハルトが命じる。「それでいいよな、キルヒアイス、ヒルシュフェルト」二人の親友のほうを向く。
 「はい」二人は即答した。
 この時点で敵左翼は大損害を受けていた。無理もない、アーダルベルト・フォン・ファーレンハイト少将とウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ中将の猛攻撃を受けていたのだから。
 だが、エルラッハ、フォーゲル艦隊の戦術の酷さはパストーレやムーアより格下だったかもしれない。
 相手がヤン・ウェンリーだったとはいえ、同数の艦隊を持ちながらここまでの醜態をさらせるものなのか。
 ラインハルトは音高く舌打ちした。「エルラッハとフォーゲルは何をやっているのか!戦線の維持すらまともにできんとは!」
 僕も同感だった。エルラッハ艦隊はすでに六割を失い、フォーゲル艦隊も四割を超える損害を受けている。
 こうなっては仕方ない。作戦を変えるとしよう。「閣下。ここは敵を一気に突破してさらに敵中央を攻撃すべきかと存じます。このままぐだぐだと交戦を続けていては敵の右翼に後背を衝かれかねません」
 「その作戦が成功すれば敵左翼は崩壊し、敵中央も壊滅させられましょう」ジークフリードも同調してくれた。
 「ヒルシュフェルト。卿の策を採ろう。全艦、突撃!」
 これまで砲撃戦を続けてきた帝国軍が一斉に攻勢に出た。先頭はファーレンハイト艦隊とメルカッツ艦隊、右翼はシュターデン艦隊、左翼はエルラッハ、フォーゲル艦隊。
 「砲火を一点に集中せよ!そこを一気に突破する!」ラインハルトの戦術に僕は感嘆するばかりだった。彼はやはり天才だな。
 だが、ファーレンハイトのようにラインハルトを信頼し、戦果をあげる提督もいれば、エルラッハのように人を見る目も戦術能力もない輩もいる。
 「若造めが!突撃なぞやるものか!金髪の若造めの言うことなど無視しろ!正面の艦隊に集中砲火!」
 だが、その瞬間旗艦の通信装置が壊れ、エルラッハ艦隊の艦がラインハルトの本隊に続き、ただ一隻回頭しなかったエルラッハの旗艦は数百本のビームに切り刻まれて轟沈した。
 「エルラッハ少将、戦死!」
 「自業自得だ!」
 え?エルラッハが命令無視したなんて報告、入ってないんだけど。まあ、偏見かな?
 そうこうしている間にも帝国軍は確実に敵に損害を与え、穴を穿ちつつある。
 「敵中央、我が艦隊の後背に移動!」
 「構わん!このまま突破しろ!」ラインハルトは動じない。
 そして、
 「敵中央を突破に成功!」
 「全艦回頭!しかる後砲撃開始!」
 


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第三話

 「先輩、どうします?」アッテンボローが聞いた。
 「そうだな・・・」ヤンは考え込んだ。
 この時点で帝国軍は元左翼部隊の後方に回り込み、猛烈な砲撃を加えてきている。ヤンは直ちに最大戦速で逃げるように命令し、さらに元右翼と中央を合流させていた。
 「アッテンボロー。全艦のC4回路に入力した四番目の行動パターンを起動してくれ」」
 「これですか?」
 「ああ。それだ」

 「敵艦隊に動きあり!」逃げる敵を追撃する帝国軍艦隊の旗艦「ブリュンヒルト」艦橋に新たな報告が入った。
 帝国軍から見て正面に逃げる敵艦隊、その奥に敵の右翼と中央にいた艦隊約9500隻が展開している。その「主力」が四方に分散し始めた。敵の元左翼は相変わらず逃げ続けている。
 「閣下!危険です!」僕はラインハルトに向かって叫んだ。「集中砲火を食らいます!」
 次の瞬間、四方に分散した敵艦隊が一斉に砲撃してきた。
 「何?」ラインハルトが立ち上がった。
 「敵弾、来ます!」
 突撃し、さらに敵後背に回り込み、そのまま追撃してきたために陣形が乱れていた帝国軍は一挙に数百隻の損害を受け、戦闘部隊は身動きできなくなった。
 「くっ!」ラインハルトが歯を噛み締める。
 「閣下!ここは一度後退し、陣形の再編を!」僕よりも前にジークフリードが提案した。
 「そうです!閣下、早く!」僕も言う。
 「わかった。全艦後退!後退しつつ陣形を再編!」ラインハルトが命じる。
 「後退?」高速戦艦「ダルムシュタット」で命令を受けたファーレンハイトはそう聞き、副官サンデルスが答える前に決断を下した。「全艦後退!他の隊を援護しつつ、陣形を再編する!」
 かくして、帝国軍は一斉に後退を開始した。ファーレンハイト、メルカッツ両将の指揮で陣形を素早く再編する。その見事さに僕は感心した。

 「敵艦隊、後退を開始しました。予想どうりですね、先輩」
 「そうだね。よーし、全艦、逃げろ!」ヤンは命じた。
 「アイアイサー!」アッテンボローは全艦に命令を伝達した。
 
 「敵艦隊、撤退していきます」その報告は僕にとってさほど驚きではなかった。
 「キルヒアイス、敵艦隊に伝えろ。”卿らの奮戦に敬意を表す。再戦の時まで壮健なれ”とな」
 「はっ」ジークフリードが敬礼した。

 こうしてアスターテ会戦は帝国軍の圧倒的大勝利に終わった。
 原作以上の敵艦を撃沈できたが、結果としてヤンを倒すことは出来なかった。まあ、それはそれでいい。僕にも、好敵手がいるということだから。
 それ以上に大事なのは、ラインハルトが元帥に昇進したことだ。二十歳の元帥なんてほんとにすごいんだなって実感した。
 その影で僕も中将に昇進し、ローエングラム元帥府に提督として迎え入れられた。

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第四話

 


 その三ヶ月後のこと。ジークフリードはカストロプ動乱を平定し、中将に昇進した。
 そして、ヤン・ウェンリーはイゼルローンを攻略し、中将に昇進した。あれ、キルヒアイスとヤンはほぼ同じタイミングで中将になったんだね。
 僕の配下には13500隻の艦艇が入った。そして、個人用旗艦を与えられた。
「ルーヴェ(獅子)」。後の「獅子帝」ラインハルト・フォン・ローエングラムの忠臣(と信じたい)僕にとってこれ以上によい名前の艦はなかった。
 新鋭戦艦ベイオウルフ級の三番艦で、主砲の出力を向上させている。機動力も多少高い。バリアの出力は「ベイオウルフ」と「トリスタン」の中間といったところか。緑色のラインが「ベイオウルフ」と同じところに入っている。
 戦艦「ブリュンヒルト」「バルバロッサ」とならんで停泊する姿は壮観だった。
副司令官にはロルフ・オットー・ブラウヒッチ少将、参謀長にアルフレート・グリルパルツァー准将。この中でも、グリルパルツァーにロイエンタールを殺されたくないので、グリルパルツァーは手元においておくとしよう。
 こうして、「ヒルシュフェルト艦隊」が完成した。
 これから考えるべきことは「僕はアムリッツアで誰と相対するか」だ。史実よりも一個艦隊こちらが多い以上、この一個艦隊をラインハルトは好きなところに投入できる。
 史実で生き残った艦隊は敵の第五、第八、第九、第十、第十三艦隊だ。
ここから半数を失った第九、第十艦隊を抜くとして、後はビュコック、アップルトン、ヤンか。
 アップルトンも除外だな。ここで考えにいれることはない。
 とすると残りはビュコックとヤンか。でもここはやっぱりヤン・ウェンリーの第十三艦隊だろうな。
 とすると次は「どこで叩くか」だ。最初はヤヴァンハール星系でのケンプ艦隊との戦い、次にドウェルグ星系でのキルヒアイス艦隊との戦いだ。最後にアムリッツア恒星系での死闘。この三つの戦いのいずれかでヤン艦隊と戦うか。
 ケンプ戦では僕とカール・グスタフ・ケンプ中将と僕の階級が同じなので、第八次イゼルローン攻防戦よろしくケンプの指示で動かざるを得ないかもしれない。
 アムリッツア本戦ではすでに乱戦状態にあり、ビッテンフェルトを支援することも難しいだろう。もちろん、チャンスは多いだろうが、他の艦隊との戦いに忙殺される可能性がある。
 とすると、ドウェルグ星系でのキルヒアイス戦か。ここでなら、ジークフリードも言うことを聞いてくれるだろう。実際ここの戦いが一番チャンスが多いように思える。もしここで五倍の戦力でかかれば・・・倒せるかもしれない。そうすれば、ケンプ、レンネンカンプ、シュタインメッツは助かるし、戦いももっと早く終わるだろう。
 僕は策を巡らせた。全てはラインハルトのために。
 

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第五話、

 史実が伝える通り、帝国領侵攻作戦が開始された。
 これも史実が伝える通り、迎撃を一任されたラインハルトは焦土作戦を実行。侵攻軍の弱体化に努めた。
 次第に補給が欠乏してきた同盟軍は本国から輸送船団を発進させる。だが、これはジークフリードの率いる艦隊に捕捉され、壊滅した。
 民忠も、物資も失った同盟軍に勝機はほとんど残されていなかった。そして、大反抗作戦が開始されたのである・・・

 補給線を断たれ、窮地に陥った同盟軍を殲滅すべく、帝国軍は一挙に反撃に転じた。
 「来るぞ!敵との予想接触時間は!?」第十艦隊司令官ウランフ中将は聞いた。
 「およそ、6分!」レーダー観測員が報告する。
 「よし、全艦総力戦用意!司令部、および第十三艦隊に連絡!”我、敵ト遭遇セリ”とな!」
 「はっ!直ちに!」チュン参謀長が敬礼し、通信手が作業に取りかかった。
 「さあ、やがてミラクル・ヤンが駆けつけてくれる。敵を挟み撃ちにできるぞ!」
 「おお!」艦橋の空気が盛り上がる。
 ウランフはそう言いつつ、分かっていた。
 (もっとも、ヤンの方も今頃・・・)ミラクル・ヤンも来れないことを。

 「敵ミサイル群接近!」
 「九時方向に囮を射出しろ!」戦艦「ヒューべリオン」艦長マリノが命じる。
 直前にヤン・ウェンリー中将の出した命令に従い、スパルタニアンが次々と発進していった。

 「なんたるザマだ!あの程度の敵にてこずりおって!後方から半包囲して艦砲の射程に誘い込め!」
 カール・グスタフ・ケンプ中将に命令に従い、ワルキューレ隊は敵機を後方から攻撃し、うまく艦砲射撃で大損害を与えた。
 
 一方、第十艦隊旗艦「盤古」では。
 「敵味方の損害は絶対数においてほぼ同レベルですが、元々敵の方が数において勝ります。その上・・・」
 「我が軍は食い物もなく、士気の低下が著しい、か?」
 「はっ。このままでは・・・」
    
 それと戦うビッテンフェルト艦隊では。
 「全艦に伝えろ。”撃てば当たる。攻撃の手を緩めるな”とな」フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト中将は言った。
 
 遠く離れたビルロスト星系では。
 「敵の追撃を振りきれません。いかがなさいますか、ビュコック提督?」副官ファイフェル少佐が聞いた。
 だが、老練の名将は動じない。「どうするもこうするも、ここは逃げの一手じゃ。全速でイゼルローンまで後退せよ」
 そして、戦況を見て呟く。「やれやれ、はじめから撤退準備をしていた我々もこのありさまじゃ・・・これでは他の艦隊はダメかもしれんの・・・」
 「何かおっしゃいましたか?」ファイフェルが聞いた。
 「いや、何でもない。年寄りは独り言が多いでな・・・」第五艦隊司令官、アレクサンドル・ビュコック中将は答えた。
 
 「ほう。最初から逃げにかかっているな。戦術的には正しい判断だが・・・」旗艦「トリスタン」艦橋でヘテロクロミアの提督はほくそえんだ。

その頃、ドウェルグ星系では。
 「閣下。敵艦隊より入電。降伏勧告を受諾するとのことです」参謀長グリルパルツァー准将が報告してきた。
 僕は戦艦「バルバロッサ」艦橋のジークフリードと同じく、ただ頷いた。
 あとはヤンだけだ。さて、いかにして確実に倒すか。

 「提督。我が艦隊はすでに四割を失い、残りの半数も戦闘には耐えられる状態ではありません。降伏か、逃亡かを選ぶしかありません」チュンが報告した。
ウランフはチュンの方を向いた。「不名誉な二者択一だな、うん?」
 すぐに結論を下すと、ウランフは向き直った。「降伏は性に合わん。逃げるとしよう」
「はっ!」
 損傷した艦艇を内側にして紡錘陣形をとれ。敵の包囲陣の一角を、突き崩すんだ!」
 ウランフの指示にしたがい、第10艦隊の残存部隊は急ぎ紡錘陣形に移行し、突撃を開始した。
「砲火を集中しろ!撃って、撃って、撃ちまくれえ!」ウランフの命令は、全艦隊を鼓舞した。
「怯むな!敵の最後の足掻きだ!」ビッテンフェルトは」そう結論付けたが、シュワルツ・ランツェンレイターの黒い高速戦艦は次々と沈んでいった。
 「いまだ!」
 「ぬうっ!」
 ついに包囲陣の一角が突き崩され、第10艦隊はどんどん脱出していく。
 「提督、本艦も!」
 「まて、傷付いた味方艦を一隻でも多く逃がすんだ!ギリギリまで踏みとどまる!」ウランフはまさしく勇将だった。
その間にも、シュワルツ・ランツェンレイターの猛攻を掻い潜り、見事、同盟軍艦隊は離脱していった。
「よし、脱出する!最後のミサイルを、全弾発射しろ!」
「盤古」のミサイルランチャーが数十発のミサイルを発射した。だが、ついに猛将ウランフの命運も尽きた。
ビームが次々と命中し、艦橋も爆炎に呑み込まれた。
ウランフは苦しい中にも身を起こし、最後の質問をした。「参謀長、味方は・・・脱出・・・したか・・・?」
「は、半数は・・・」
「そ、そうか・・・」
「盤古」は轟沈し、ウランフはこの世を去った。

あとがき
主人公の出番ありませんwアムリッツアは、やはり主人公だけでなく、全体を描きたかったんです。

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第六話

 第十艦隊がその半数を失い、ウランフ中将も戦死していた頃、そこから離れた惑星レーシング上空では。
 同盟軍第三艦隊がアウグスト・ザムエル・ワーレン中将の艦隊の猛攻を受け、壊滅していた。
 生き残った艦のなかには第三艦隊旗艦「ク・ホリン」もいた。だが、この戦艦も、
 「右舷、味方艦!」
 「ああっ!」司令官ルフェーブル中将は驚き、対応指示を出せずいる内に、友軍戦艦が衝突した。そのまま両艦は近くの小惑星に打ち付けられ、爆沈した。

 ボルソルン星系では、ボロディン中将の第十二艦隊の内わずかな数の艦艇が生き残った他の艦を逃がすため、遅滞戦闘を行っていた。
 「味方は、何隻残っている?」ボロディンは聞いた。
 「はっ。本艦「ペルーン」以下八隻を残すのみです」副司令官コナリー少将は答えた。
 「そうか」そうボロディンが言ったとたん、艦橋内にブラスター音が響いた。
 「はっ!ボロディン提督!」コナリーは頭を撃ち抜いて自害したボロディンに駆け寄った。
 すでに死んだことのみが確認され、コナリーは立ち上がって、ウランフと並ぶ名将の遺体に敬礼した。
 「指揮権を引き継ぐ。全艦機関停止。敵艦隊に降伏する」

 「正面敵艦隊!」第十三艦隊旗艦「ヒューべリオン」艦橋に凶報が入った。
 「ここは、第七艦隊が駐留していた宙域です」参謀長ムライ少将が言った。
 「敵艦隊、我が軍のおよそ四倍!」
 「敵の司令官、キルヒアイス中将の名で、降伏を呼び掛けてきています!」
 「我々だけなら、それもいいんだがね・・・」司令官ヤン・ウェンリー中将はベレー帽を押さえて言い、背後からの視線に気づいて振り向いた。そこには驚いた表情のムライ、副参謀長フヨードル・パトリチェフ少将、フレデリカ・グリーンヒル中尉がいた。

 アルヴィース星系にはアル・サレム中将の第九艦隊がいた。
 その旗艦「パラミデュース」の艦橋にいたある士官はふと横を見た。その表情が突然ひきつった。
 アル・サレムも横を見た。彼の目に写ったのは、多数の帝国軍艦艇だった。
 「うわああ!」
 「な、なんと素早い!」
 「まるで、疾風のようだ!」
 
 ウォルフガング・ミッターマイヤー艦隊旗艦「ベイオウルフ」のミッターマイヤー中将はこの状況をみてこう言った。「いかんなあ。もう少し速度を落とさんと」
 一斉に艦隊は後退し、整然たる砲火を浴びせ始めた。
 次々と第九艦隊の艦艇は轟沈し、その火線は「パラミデュース」にも直撃した。
 艦橋にも被害がおよび、アル・サレムは後に「殺人ワイヤー」と呼ばれたワイヤーに全身を打たれ、吹っ飛んだ。
 「閣下!」参謀長が駆け寄る。「アル・サレム提督!アル・サレム提督!」
 アル・サレムは力を振り絞って声を出した。「モートン少将に伝えろ。指揮権を委ねると・・・」言い終わった瞬間、彼は吐血して気を失った。

 ヴァンステイト星域ではアップルトン中将の第八艦隊がエルネスト・メックリンガー中将の艦隊に追撃を受けていた。
 メックリンガーは長距離からの正確な砲撃を命令し、精密砲撃によって第八艦隊は三割の損害を出した。だが、メックリンガーの追撃が比較的緩かったこともあって撤退に成功した。

 ドゥエルグ星系では。
 戦艦「バルバロッサ」艦橋のジークフリード・キルヒアイス中将は幕僚のハンス・エドワルド・ベルゲングリューン准将とフォーカー・アクセル・フォン・ビューロー准将に作戦を説明していた。
 「我が艦隊だけで敵のおよそ四倍。これを四隊に分け、二時間交代で遠距離からの砲撃を加えます。敵を殲滅する必要はありません。敵の疲労と消耗を誘い、ヒルシュフェルト中将の攻撃をやり易くするのが目的です」
 キルヒアイス艦隊の総兵力は艦艇39000 。これと「僕」すなわち隠れて待機しているルートヴィヒ・フォン・ヒルシュフェルト中将の艦隊13500隻を合わせて約52500隻。ヤン艦隊の兵力が約9600隻なのを思うと、圧倒的な数であり、勝利は疑い無いものに見える。だが、相手はあの「ミラクル・ヤン」だ。
 
 旗艦「ルーヴェ」の艦橋から僕は戦況を見守っていた。
 今の僕に出番はない。兵士にも休息を命じてある。
 「さすがはキルヒアイス提督ですね」参謀長アルフレート・グリルパルツァー准将が言った。
「このままでは、我々の出る幕もないのではありませんか?」
 確かにそうかもしれない。だが、ここで僕が求めるのは「敵の方が損害が多い」ではなく、「敵提督戦死」である。そのためには、僕の決戦兵力が不可欠だった。
 「まあ、まだ勝ちと決まったわけではない。敵の司令官もなかなかどうしてやるじゃないか。必ず出番は来る、それまで待っていよう」
 「はっ!」
僕は知っている。この後ヤンがどういう戦法を取るかを。敵は艦隊陣形をU字型に再編すると。そこを外側からつくのだ。
敵は内側を攻撃する陣形に再編しているため、外側からの攻撃には脆いはずだ。そこを攻撃し、確実にヤンを倒し、その後のアムリッツアでビュコックも倒してしまおう。
 僕の頭の中では、すでにそこまでシナリオが用意されていた。だが、けっして「俳優」が思い通りに演じてくれるとは限らない・・・

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第七話

 補給線を断たれた同盟軍は、各地で敗退を強いられ、撤退しつつあった。同盟軍第三、第七艦隊は全滅し、第五、第八艦隊は三割の損害を出して敗走、第九、第十、第十二艦隊は半数以上の艦を失い、ウランフ中将、ボロディン中将は戦死した。
 そして、ドウェルグ星系では、ジークフリード・キルヒアイス中将の艦隊とルートヴィヒ・フォン・ヒルシュフェルト中将の艦隊がヤン・ウェンリー中将の第十三艦隊と交戦していた・・・

 「敵艦隊、U字型の陣形に移行!」
 「閣下。ここは敵を外側から攻撃するのはいかがでしょう」参謀長アルフレート・グリルパルツァー准将が提案してきた。
 僕は頷いた。「自分もそう思っていたところだ。よし、全艦前進!敵を攻撃する!ブラウヒッチ少将を先陣とし、一気に突入しろ!」
 「はっ!」
 ラルフ・オットー・ブラウヒッチ少将は僕の艦隊の副司令官。今は戦艦「グスタフ」に座乗し、三千隻の艦隊を率いている。攻撃に強い勇将だ。彼に先陣を切らせ、一気にヤンを倒す。それが僕の作戦だった。

 「新たな敵艦隊、二時方向に出現!」
 「二時だと?」パトリチェフが立ち上がった。
 「閣下、このままでは陣形が外側から攻撃されます!」
 ヤンは頭をかいた。「何て良いタイミングで来るんだ。キルヒアイス中将といいこの艦隊の司令官といい、帝国の司令官は精鋭揃いだな・・・」
 「敵艦隊発砲!」
 ヤンは新たな策を思い付いた。「新たな敵の進路上にいる艦は敵を避けて中にいれてやれ。入ってきたら四方から集中砲火を加えろ」

 僕の艦隊は一気に突き進んだ。
 「敵は怯んでいる!この機を逃さず攻撃しろ!」ブラウヒッチ艦隊は本隊よりはやく突撃した。敵は次々と撃沈され、U字陣形に穴を開けつつある。だが、ブラウヒッチは単独で突出し、「ブラウヒッチ艦隊が危険です!」グリルパルツァーが言ってきた。
 「あのままではマズイ!敵中に孤立することになるぞ!戦艦「グスタフ」に繋げ!」僕は命じたが、
 「敵の妨害電波で交信不能!」
 僕は肘掛けを叩きつけた。「くそっ!仕方ない、我が艦隊も突入し、離脱する!」
 猪突猛進でミスるのはビッテンフェルトだけで良いのに、ブラウヒッチ、何しやがる!
 
 「閣下!ブラウヒッチ艦隊が孤立しつつあり。危険です!」ハンス・エドワルド・ベルゲングリューン准将が言った。
 ジークフリードは頷いた。「全艦敵の左翼に砲火を集中。ヒルシュフェルト艦隊の退路を切り開く!」
 そして、ブラウヒッチ艦隊は敵陣を突破し、U字陣形の中に入り込んでしまった。
 
 「敵艦隊、こちらの陣の中に入りました!」
 「閣下!」パトリチェフが期待するように立ち上がる。
 ヤンは手を振り下ろした。「撃て!」
 第十三艦隊は一斉にブラウヒッチ艦隊を砲撃し始めた。砲火の嵐の中で帝国軍の艦艇が次々と沈んでいく。
 「怯むなあ!撃ち返せ!」ブラウヒッチは命じたが、三方を囲まれ、圧倒的数で砲撃されてはブラウヒッチ艦隊に生き延びるすべはなかった。わずか三十分でブラウヒッチ艦隊はその戦力の半数を失った。
 「閣下は?ヒルシュフェルト閣下の本隊はどこにいるのか!?」
 「通信が途絶しており、不明!・・・いや、味方です!本隊が来ました!」
 
 「全艦突撃!敵中に突入し、そのままキルヒアイス艦隊の方向へ一点突破を図る!」僕は命じた。
 艦隊は突撃し、包囲陣の中に入った。
 「閣下!三方から集中砲火を受けています!」
 「構わん!このまま一気に突破する!」
 この戦いぶりで、第十三艦隊は意外なほどの損害を出した。特に僕の艦隊が突破した辺りにいた敵艦隊の損害は大きく、包囲陣形と言ってもその実は半包囲だった。

 「閣下。敵が左翼を突破しつつあります。いかがなさいますか?」ムライが聞いた。
 「いいさ。させておくんだ。こちらは離脱する敵艦隊をキルヒアイス中将の艦隊からの盾としつつ離脱する。命令通りアムリッツアに向かおう」ヤンはまさに魔術師だった。
 
 「閣下。敵はヒルシュフェルト艦隊を盾としつつ撤退していきます。しかし、なぜこの有利な状況で撤退していくのでしょう?」ベルゲングリューンは聞いた。
 「おそらく、急な撤退命令でも出たのでしょう」ジークフリードの推察は当たっていた。

 「閣下。功を焦って猪突猛進し、無為に兵を死なせ、敵将に名をなさしめました。申し訳ございません」ブラウヒッチは頭を下げた。
 このときの僕にアムリッツアの直後のラインハルトとビッテンフェルトのことは頭になかった。「卿は自分の罪をよく知る。それでよし。だが、今回の罪は無罪放免とはいかない。あの艦隊を指揮するのは魔術師ヤンだ。彼を倒す絶好のタイミングで卿が猪突猛進したがために敗北を招いた。自室にて謹慎せよ。処分は追って伝える」
 「はっ・・・」ブラウヒッチはより深く頭を下げた。
 (ヤン・ウェンリー。次こそは必ず倒す。必ずな・・・!)僕の心は雪辱をあじあわされたヤンへの復讐心で一杯になっていた。

 「敵はアムリッツア恒星系辺りに集結するようです」
 「そうか。奴らがアムリッツアを墓に選ぶというのなら、その願いを叶えてやろう」
 

 次回予告(先にも後にも一回のみ)
 大損害を受けた同盟軍はアムリッツアで再起を図る。しかし、帝国軍もまた、そこに迫っていた。
 ヒルシュフェルトは雪辱を果たすべく、ヤンに再び戦いを挑む。だが、魔術師もただやられるだけではなかった。
 次回、第八話「アムリッツア星域会戦」
 銀河の歴史が、また一ページ。

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第八話

 大損害を受けた自由惑星同盟軍。
 ラザール・ロボス元帥はこの状況の中で生き残った第五、第八、第十三艦隊と第九、第十、第十二艦隊の残存部隊をアムリッツア恒星系に集結させた。
 帝国軍の司令官、ラインハルトもこの動きを察知し、手持ちの全軍をアムリッツアに向かわせる。その中にはルートヴィヒ・フォン・ヒルシュフェルト中将の艦隊もいた。

 同盟軍は恒星アムリッツア上空に布陣していた。
 右翼が第十三艦隊8900隻、中央が第八艦隊7600隻、左翼が第五艦隊8100隻、その後方に第九艦隊(ライオネル・モートン少将指揮)2900隻、第十艦隊(ダスティ・アッテンボロー准将指揮)4200隻、第十二艦隊(第八艦隊に編入されている)3400隻。合計して37100隻ほど。総指揮はアレクサンドル・ビュコック中将がとる。
 これに対する帝国軍はラインハルト・フォン・ローエングラム元帥指揮の艦隊11000隻、ミッターマイヤー艦隊14000隻、ロイエンタール艦隊13000隻、ケンプ艦隊12000隻、ビッテンフェルト艦隊10000隻、メックリンガー艦隊13000隻、そしてルートヴィヒ・フォン・ヒルシュフェルト中将の艦隊10200隻。
 別動隊としてキルヒアイス艦隊12000隻、ルッツ艦隊10000隻、ワーレン艦隊12000隻。
 合計すると主力だけで約70200、別動隊34000も含めると104200隻にもなる。同盟軍に対して三倍近い兵力だった。
 会戦に先立ち、ラインハルトは各艦隊の布陣を指示した。ラインハルト艦隊は第五艦隊と、メックリンガー艦隊、ケンプ艦隊が第八艦隊と、ミッターマイヤー、ビッテンフェルト、僕の艦隊は第十三艦隊と戦い、ロイエンタール艦隊は予備として待機する。
 ほとんど原作と同じ布陣だ。違うことがあるとするなら僕もヤンと戦えることか。ヤン・ウェンリーめ。待ってろよ。

 「敵艦隊、恒星に核融合弾を投下!」グリルパルツァーが報告してきた。
 「敵は一気にミッターマイヤー艦隊を叩く気だ。全艦、敵第十三艦隊が上昇し、ミッターマイヤー艦隊を攻撃し始めたタイミングで敵の横を攻撃しろ!」
 いやあ、原作知ってるっていいね。
 予想通り、ヤン艦隊はミッターマイヤー艦隊を攻撃し始めた。
 「左舷、損傷!」
 「ちっ。動きが早い。さすがにヤン・ウェンリーだな。一旦後退しろ。後退しつつ陣形を再編。敵が怯んだタイミングで攻勢にでる!」ミッターマイヤーは命じたが、
 「ヒルシュフェルト艦隊、敵の右翼を攻撃開始!」
 「敵艦隊の動き、止まりました!」
「いいぞ!そのまま確実に撃破しろ!ミッターマイヤー艦隊と半包囲体制を築く!」

 「閣下、いかがなさいますか?」ムライが聞いた。
 「装甲の厚い戦艦を並べ、その隙間から小型艦の主砲で砲撃しろ。砲撃しつつ後退するんだ」ヤンは命じた。
 
 「敵は戦艦を盾にしてきたようです。やりますな」グリルパルツァーが感嘆の息を漏らした。
 「なら敵の一角を突き崩せばよかろう!砲火を一点に集中!」
 あとで思ったが、僕は完全に冷静さを失っていたと思う。一度ならずヤンにやられたという思いは、僕の「転生者」というハンデを有効に利用する冷静さを失わしめていた。
 敵の一角に砲火を集中するが、敵戦艦はバリアの出力を最大にしているためなかなか撃破できず、逆に反撃で損害を受けている。
 だが、この攻撃は結果としてシュワルツ・ランツェンレイターの第八艦隊への突破口を開ける形になり、ビッテンフェルトは突撃を命じた。

 「進め進め!勝利の女神はお前らに下着をちらつかせているぞ!」
 黒い高速戦艦が一斉に砲撃を開始した。シュワルツ・ランツェンレイターの高速戦艦は普通の高速戦艦より攻撃力が上げられている。その効果は抜群で、第八艦隊は恐るべき勢いで撃破されていった。
 そのビームは戦艦「クリシュナ」にも命中した。
 「機関損傷!機動レベルを維持できません!」
 「総員退去!」司令官アップルトン中将は命じた。
 「閣下!」参謀長が彼を呼ぶ。
 「私はいい!」アップルトンは首を横に振った。
 乗員が脱出し終わるとすぐに「クリシュナ」は恒星に墜落していった。
 
 「第八艦隊旗艦「クリシュナ」撃沈。アップルトン中将も戦死の模様」
 「閣下。このままでは我が軍は分断されます」
 「だが、助けにいくことはできない。こちらもこれで精一杯だ」
 事実、ヤンの艦隊は一個艦隊でミッターマイヤー艦隊とヒルシュフェルト艦隊の二個艦隊を支えていた。
 
 「ようし!先ほど通過した第十三艦隊を背後から襲う!主砲を短距離に切り替え、ワルキューレを発進させろ!」
 直ちにシュワルツ・ランツェンレイターは回頭したが
 「今だ!予備艦隊全艦、背後で回頭する黒い艦隊を撃て!」
 ヤン艦隊の中で後ろを向ける艦と戦場後方で待機していたアッテンボロー、モートン艦隊が砲撃し、黒い高速戦艦は次々と轟沈していった。
 挟まれた形になったシュワルツ・ランツェンレイターの被害は甚大だった。

 「ビッテンフェルトは失敗した!ワルキューレを出すのが早すぎたのだ!」ラインハルトは立ち上がった。
 「ビッテンフェルト提督から増援要請です」通信兵が報告した。
 「増援!?増援だと!?私が艦隊のわき出る魔法の壺でも持っているというのか!?ビッテンフェルトに伝えよ。”我に余剰戦力なし。そこで死守し、武人の職責を全うせよ”とな。以降ビッテンフェルトからの通信を切れ。敵に傍受される」
そう言ってからラインハルトはモニターを見た。「どちらもよくやっているではないか・・・特にあの第十三艦隊。さすがはヤン・ウェンリーと言ったところだ」
 「ですが、このままですとこちらの損害も無視し得ないものになります」総参謀長パウル・フォン・オーベルシュタイン准将が言った。
 ラインハルトの脳裏に赤毛の親友の影が浮かび上がった。まだ戦場に到着していない、親友の影が。
 「キルヒアイスは、まだ到着していないのか?」ラインハルトは参謀長の方を振り向いた。
 オーベルシュタインはその言葉に反応した。「ご心配なのですか」
 オーベルシュタインのナンバー2不要論はラインハルトも知っている。キルヒアイスとヒルシュフェルト。この二人がナンバー2だった。
 「そうではない。ただ確認しただけだ」ラインハルトは再びモニターの方を向いた。

 第十三艦隊はロイエンタール艦隊を含めた数万隻の圧倒的大軍に押されながら、なお秩序を保って行動していた。
 「くっ!ヤン・ウェンリーめ、何て強さだ!」僕は舌打ちした。
 自分が不利になるとすぐ苛立ってくる。これは僕の欠点だった。子供の頃からそうだったな。それをふと思い出した僕は、自分の苛立ちを鎮め、戦場全体を見渡した。
 第十三艦隊の奮戦もむなしく、戦局は帝国軍の圧倒的有利に動いている。ビッテンフェルトも強引に敵艦隊を突破し、離脱に成功した。同盟軍は予備を使いきり、後方はがら空きになっている。
 (これは・・・いけるぞ・・・)僕の頭に描かれたのは、おそらくは今機雷原の前にいるだろう30000の艦隊。赤毛の提督の率いる艦隊だった。
 
 「閣下。前方に敵機雷群。数およそ4000万」ベルゲングリューンが報告した。
 「予想道理ですね。指向性ゼッフル粒子を」
 巨大な工作艦が前進し、新兵器指向性ゼッフル粒子を散布する。
 「発射!」ジークフリードの号令で、「バルバロッサ」の砲口から青白いビームが放たれた。そのビームは機雷原を突き抜け、ゼッフル粒子を引火させた。
 巨大な爆炎が踊り、みるみるうちに広がっていく。機雷は次々と炎の中に消えていった。
 ジークフリードは頷いた。「全艦前進!敵の背後を襲う!」
 戦艦「ヒューべリオン」艦橋に更なる凶報が舞い込んだ。
 「後方に敵!数、およそ30000!」
 「30000隻!?」パトリチェフが立ち上がった。
 「馬鹿な!機雷原はどうした!?」ムライが大声をあげる。
 「突破された模様!」
 フレデリカは黒髪の司令官の方を見た。
 ヤンはこの事を予測していたようだが、まさか30000も来るとは思ってなかったのだろう、厳しい表情を見せている。
 そして、ジークフリード・キルヒアイス、アウグスト・ザムエル・ワーレン、コルネリアス・ルッツ三中将の艦隊は攻撃を開始した。
 
 ・・・標準時10月14日、勝敗は決した。

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第九話

 同盟軍にたいし決戦を挑んだ帝国軍。ヤン・ウェンリー率いる第十三艦隊の激しい抵抗にあいながらも同盟軍を圧倒。そしてキルヒアイスが敵後方の機雷原を突破し、勝敗は決まった。
 
 「敵艦隊、後退を開始。第十三艦隊がしんがりになるようです」グリルパルツァーが報告した。
 「ならば第十三艦隊を叩くまでだ。全艦前進!敵の右側背に回り込め!」
 直ちに僕の艦隊は敵艦隊の右舷に回り込んだ。このまま砲撃しつつ、後ろから叩く。
 他の艦隊も第十三艦隊を包囲する配置についた。だが、そのなかでもやはりビッテンフェルト艦隊は薄かった。ここでどうにかしなければ、ヤン艦隊に逃げられてしまう。
 「全艦、ビッテンフェルト艦隊の後方に展開しろ」
 「なぜです?」グリルパルツァーが聞いてくる。
 「わからんか。ビッテンフェルト艦隊の薄さは他の艦隊に比べても顕著だ。敵はここを狙ってくるはずだ」
 「なるほど」
 
 「敵の一部、移動を開始」
 「ほう。敵にも先の見えるものがいるらしいね。これじゃあ突破できないな」
 「ですが、このまま戦っていても全滅するだけです。いかがなさいますか?」ムライが聞いた。
 「全艦、後退の速度をあげろ。敵が食いついてきたら敵艦隊左翼に砲火を集中。混乱した敵左翼を盾としつつ離脱する」
 「はっ!」

 「敵艦隊の後退の速度が上がりました」
 ちょっと待て。このあとどうすればいいんだ?史実ではビッテンフェルトが突破されて終わるから、そうならないということか?もしくは僕の艦隊がヤン艦隊を全力で追いかけるように仕向け、その隙にビッテンフェルト艦隊を突破するつもりか?どちらにせよ、こっちは下手に動かず、他の友軍と足並みを揃えた方がいいな。
 「全艦、速度をあげろ。敵を確実に追い詰めるぞ。いざというときには我らが予備部隊になる」
 それからしばらく砲撃戦は続いた。だが。こちらはただでさえ大軍なのにそれが速度を上げて砲撃戦をしていることもあって陣形が乱れた。

 「今だ!全艦全速!敵の左翼、ミッターマイヤー艦隊に砲火を集中!」
 「撃て!」マリノが命じる。
 第十三艦隊は一斉に突撃し、ミッターマイヤー艦隊に砲撃した。
 「いかん!こちらは陣形が乱れている!直ちに停止!しかるのち陣形を再編!急げ!」
 だが、各部隊の足並みが乱れ、ろくに再編もできない。そのうちに第十三艦隊はミッターマイヤー艦隊の鼻先を抜けていった。しかもミッターマイヤー艦隊のせいで他の艦隊も撃てない。そもそも陣形が乱れている以上、まともな攻撃も望めないが。
 「くそっ!」僕は肘掛けを叩きつけた。みすみすやられた!

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第十話

アムリッツア星域会戦は終わった。
 誰がどうみても帝国軍の勝利だった。同盟軍はその兵力の大半を失い、帝国領侵攻はおろか防衛すらも満足にできなくなった。
 だが、僕にとっては「敗北」だった。ヤンを倒すことができなかったのだ。転生しておきながらこの醜態。少しも自慢できない。
 アムリッツアからの帰路、僕はブラウヒッチ少将を謹慎からといた。
 彼の打撃力は十分に大きい。彼がいなかったからアムリッツアではヤンを迅速に撃破できなかったのだ。
 また、会戦直後にラインハルトとジークフリードの交わした会話を思い出して謹慎を解いたのだった。
 また、僕はジークフリードと同じく上級大将に昇進した。指揮下の艦隊は18000に達した。


帝国軍艦隊は惑星オーディンに帰還した。だが、新たな戦いが彼らを待っていた。
 すなわち、「リップシュタット戦役」。貴族連合軍との戦いである。
だが、この戦いは多くの艦隊を失い、ジークフリードも死んでしまった。また、ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツが亡命してしまった。これがなければ後々うまくいっていただろうに。せめてジークフリードは守らないと。そのために何ができるか・・・よし、ブラウンシュヴァイクとリッテンハイムを早めに倒してしまおう。
 そのためにはオーディンを脱出するあのタイミングで倒してしまえばいい。軌道上の艦隊は僕が指揮し、あの金ぴかの客船を残骸にしてやろう。
 
 それから数ヵ月後。
 「閣下。市内各所に火の手が!開始された模様です!」新たな艦隊参謀長ナイトハルト・ミュラー中将が報告した。
 ミュラーはとても温厚な性格で、むしろ上司にしたいくらいいい人だった。彼は本来ブラウンシュヴァイク公の屋敷に踏み込むはずだったが、その役はワーレンが勤めている。
 彼の助言は攻撃向きの僕にとって非常にありがたい。お互いの弱点を補いあう、いいコンビだな。
 ここまで妄想して僕は前方のモニターを見た。数隻の船が上昇してくる。
 「全艦戦闘用意!事前に配置したワルキューレ隊に攻撃を命令!初弾は当てるな!だが、従わなかったらすぐに撃沈しろ!」
 「はっ!」ミュラーが敬礼し、艦隊に命令を伝達する。すぐに砲撃が開始された。
 「金色の客船がブラウンシュヴァイクの船だ!見つけたらすぐに撃沈しろ!」
 「見つけました!」すぐに報告が入ってきた。
 っと。早いな。「よし、取り囲め!」
 数分後、
 「ブラウンシュヴァイク公の客船を捕らえました!」
 まったく。どこまで展開が早いのやら。よくやった。他の船も同じようにしろ。宇宙艦隊司令長官につなげ」
 モニターにラインハルトの姿が写し出された。「ヒルシュフェルトか。どうだ?」
 「公爵を捕らえました。他の貴族も大半を捕らえ、リッテンハイム侯もその中にいます。ファーレンハイト提督も捕らえました」
 「よくやってくれたヒルシュフェルト。こちらも目標を達成したようだ」ラインハルトの声には心からの喜びが感じられ、僕は心のなかで小躍りした。
 「では、残敵を掃討して帰投いたします」
 ラインハルトは頷き、モニターは暗くなった。
 「他の残敵も掃討しろ。抵抗するなら撃沈して構わない。ここで取り逃がすと、後々多くの民が死ぬことになる」僕はミュラーに言った。
 「はっ。直ちに伝達します」
 僕は、銀河英雄伝説の歴史が代わり始めていることを実感した。必ず、より良い世界にして見せる。前方での攻防を見ながら、僕は思った。

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第十一話

 捕らえられたブラウンシュヴァイク公やリッテンハイム侯に対し、ラインハルトは厳しい態度でのぞんだ。
 「馬鹿な!どこに証拠がある!?」ブラウンシュヴァイク公はうなった。
 「証拠はあるではありませんか。あなた方は不当にもラインハルト・フォン・ローエングラム元帥およびアンネローゼ・フォン・グリューネワルト伯爵婦人を害しようとし、それが失敗すると帝都オーディンからの脱出を図ったではありませんか」ラインハルトにこの件を任された僕は厳しく追求した。
 「それは、フェルナーめの勝手にやったことで・・・」
 「アルツーム・フォン・シュトライト准将の証言もあります。お望みなら、お聞きくださっても結構ですが。どちらにせよ、我が帝国正規軍の度重なる臨検命令を無視し、逃亡を図ったのは事実ではありませんか。それをどう弁明されるおつもりか!?」
 「だまれ貴様!」ブラウンシュヴァイクは椅子を蹴って立ち上がった。「ただの帝国騎士にしか過ぎない貴様が、なぜ帝国最大の大貴族足るわしを不当に審問しておるのか!礼儀をわきまえろ!」もはや理性もなにもない。貴族の権威を傘に借りた主張だった。ならばこちらもより大きな権威に頼らざるを得ない。
 「公爵閣下。あなたは帝国最大の貴族であらせられる。しかし、それも皇帝陛下の権威に比べたら取るに足らぬもの。私は皇帝陛下の勅命を仰せつかった宰相リヒテンラーデ公爵閣下の指示であなたを審問しておるのです」
 「ぬうっ・・・」ブラウンシュヴァイクもさすがに「皇帝陛下」の権威には沈黙せざるを得ない。それでも別の角度から切り込んできた。「だっ第一、貴様らが仕えるローエングラム、あの金髪の小僧めとリヒテンラーデめが皇帝陛下を実質的な傀儡としておるではないか!反逆者なのは貴様らの方であって、わしの方ではない!」
 まあ、それは一定の事実ではあるけれども。かといって沈黙してしまってはならない。「ですが公爵閣下。どこにその証拠がありましょうか?確かに現皇帝陛下エルウィン・ヨーゼフ2世はリヒテンラーデ公爵閣下の推されたお方でございます。ですが、公爵閣下やリッテンハイム侯爵閣下も自らの御息女を女帝につけようとしておられたではありませんか。あなた方「帝国最大の貴族」であらせられる御方々が新皇帝を擁立されようとして問題ではなく、なぜフリードリヒ4世前皇帝陛下の直系の子孫であらせられるエルウィン・ヨーゼフ2世を皇帝陛下になされて問題となりましょうか?」
 「だが、傀儡にしたのはー」
 「どこにその証拠がおありですか?おありなら提示していただきたい。リヒテンラーデ公爵閣下やローエングラム侯爵閣下が皇帝陛下を傀儡にしているというその根拠は一体どこから出してこられたのかを提示していただきたく存じます。確たる証拠がおありでないのなら、仮にも宰相であらせられるリヒテンラーデ公爵閣下や帝国軍最高司令官であらせられるローエングラム侯爵閣下に対する誹謗中傷でしかありません」
 「だまれ!だまれだまれえ!」ブラウンシュヴァイクは」椅子を蹴り飛ばした。「貴様ごときがなぜわしを裁く!その権利は一体どこにある!わしは皇帝陛下を傀儡どもの手からお救いし、もって帝国の現状を改善しようとしておるのだぞ!それを「反逆」とはなにごとか!貴様ごとき低級身分の身が、何を申すか!しかも、貴様の隣に座る、そのキルヒアイス上級大将に至っては卑しき平民ではないか!低級身分の者共に裁かれるほど、わしは落ちぶれておらん!」
 僕のとなりにいたジークフリードは表情を変えなかった。内心は怒りで一杯だろうが、ここで激発してはいけない。それをジークフリードはわきまえているのだ。僕はそんなジークフリードを助ける必要があった。そして、ブラウンシュヴァイクは致命的なミスをおかしていた。それをついてやろう。「あなた方は皇帝陛下をお救いするとおっしゃいますが、そもそも皇帝陛下と敵対する立場に立つこと自体、自ら反逆者になっていることではありませんか。反逆者は極刑に処される。これはおそれおおくも皇祖ルドルフ大帝陛下の、法を定められしときより、罪には罰をもってむくいることが摂理というもの。たとえ帝国最大の大貴族であらせられるブラウンシュヴァイク公爵閣下も例外ではございません」
 ブラウンシュヴァイクは狼狽の色を見せた。「まさか、それはわしを処刑するというのか!?」
 今さら何を慌てる。「それ以外に聞こえになりましたか?」
 「帝国最大の貴族たる、わしをか!?」
 「はい」できる限り冷たく、無感情に言い放った。
 「馬鹿な!」ブラウンシュヴァイクの顔はみるみるうちに青くなった。
 よし、止めだ。ブラウンシュヴァイクよ、報いを受けるが良いっ!「エルウィン・ヨーゼフ皇帝陛下よりの勅命である。ブラウンシュヴァイク公爵に死を賜る。格別の御慈悲により、自裁をお許し下された。さらに、その公爵たる礼遇をもってその葬式をなすであろう」まさかこんな台詞が公爵にあたる者に使われたことはこれが初めてだろう。そして、最後だ。
 ブラウンシュヴァイクは脂汗を流し、椅子にへなへなと座り込んだ。「卿に・・・金ならいくらでもやろう。領地でもよい・・・そうだ。わしの娘をやろう。そうすれば皇帝陛下の縁戚にー」
 そんなことは少しも望んでねえよ馬鹿野郎。「見苦しい物言いはお止めなさい。もはや刑の変更の余地はありません。誇りある帝国貴族なら、最後は潔く逝去なさることです」
 僕は合図した。毒入りのワインを持った皇宮警察本部長が進み出た。
 「や、やめてくれ!なんでもしてやる!」ブラウンシュヴァイクの姿は醜態に近かった。あれだけ権力を振り回し、偉そうに振る舞ってきたクズがすくみあがって優美ならざる動きで死をもたらすワインから逃げようとしている。僕はそれに汚物を見るような視線をぶつけた。
 「や、やめろー!」他の警察官に押さえられ、ブラウンシュヴァイクはワインの前に引きずり出された。
 赤い液体がブラウンシュヴァイクの喉に注ぎ込まれる。本人の意思に関係なく、ワインは彼の喉を通過していった。
 突然ブラウンシュヴァイクが血も凍る叫び声をあげた。口から血が吐き出される。それが床に飛び散り、赤い染みを点々とつけた。
 こんなクズ野郎でも血の色は赤いのである。できれば同じ種族に生まれたくはなかった。実際に会うことでその感情はいっそう高められた。だが、もう最後だ。
 オットー・フォン・ブラウンシュヴァイク公爵は前のめりに倒れて息絶えた。
 僕は長いため息をついて椅子にもたれ掛かった。帝国最大の貴族が、無様な死にかたで倒れている。これほどゴールデンバウム朝帝国の終焉を物語るシーンがあろうか。
 
 「そうか。ブラウンシュヴァイクはその悪行を償うため、地獄に墜ちたか」ラインハルトは言うと、口元に笑みを見せた。「もうゴールデンバウム王朝は終わりだ。もはや俺の前に立ちはだかれるものは一人だけになった」
 「リヒテンラーデ公、ですか」ジークフリードが言った。
 ラインハルトは頷いた。「そうだ。奴を倒せば、俺の復讐は終わるのだ。だが、その後は何をすれば良いのだろうか。俺はまだわからない」
 僕は気付いた。えっ。この状況で出てくる言葉と言えば・・・
 「宇宙を、手にお入れください」
 この瞬間、ジークフリード・キルヒアイスは自らの運命の糸を断ち切り、生き残るという方向を選択することができたのである。少なくとも僕にはそう思えた。
 「そうだな。そうしよう。だが、お前たち二人と共にだ。俺が手にいれるんじゃない。俺たちが手にいれるんだ」ラインハルトの言葉は僕には勿体なかった。涙が出そうになった。涙が溜まり、潤んだ瞳に写った光景は、一生忘れられないだろう。
 僕の「銀河英雄伝説」はここから始まったのだ。

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第十二話

 まえがき
 完全な番外編です。本編で説明できなかった同盟の内情を大雑把に描いています。なので、内容の濃さのわりに短いです。

 動乱の続く帝国からイゼルローン回廊を越えた自由惑星同盟。
 今、同盟は危機の中にあった。
 アムリッツアでの敗北は同盟に決定的打撃を与えた。同盟軍のなかでまともに動ける実働艦隊は

 第一艦隊・・・パエッタ中将
 第五艦隊・・・ビュコック大将(昇進)
 第十一艦隊・・・ルグランジュ中将
 第十三艦隊・・・ヤン大将(昇進)

 のみであった。
 これに辺境警備艦隊を加えても4、50000程度にしかならない。
 逆に帝国の損害は僅少で、戦力差は4、5倍に達していた。
 人事面でもいくつか変更があった。
 統合作戦本部長シドニー・シトレ元帥・・・退役。後任は前第一艦隊司令官クルブズリー大将
 宇宙艦隊司令長官ラザール・ロボス元帥・・・退役。後任は前第五艦隊司令官アレクサンドル・ビュコック大将。
 統合作戦本部次長ドワイト・グリーンヒル大将・・・査閲部長に左遷。後任はドーソン大将。
 宇宙艦隊副司令長官・・・これまではいなかったが、ビュコック大将の推薦でヤン大将が就任した。
 イゼルローン駐留艦隊司令官・・・ヤン・ウェンリー大将。第十三艦隊そのものがイゼルローン駐留艦隊となった。ヤンはイゼルローン方面軍(艦艇15600隻)司令官となり、実質的にイゼルローン要塞はヤンが取り仕切ることになった。
 国家最高評議会議長・・・ヨブ・トリューニヒト。
 国防委員長・・・ネクロポンティ
 
 こうして、新体制の同盟軍は動き出したが、それも長くは続かなかった。
 帝国軍宇宙艦隊司令長官ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥の策でアーサー・リンチ少将が同盟に送り込まれ、クーデターを起こすこととなった。
 ドワイト・グリーンヒルが首謀者に担ぎ出され、アンドリュー・フォークの統合作戦本部長暗殺未遂事件をきっかけとして救国軍事会議がクーデターを起こした。
 同盟軍主力艦隊のうち第十一艦隊がクーデターに参加し、他の艦隊はパエッタ中将の的確かつ迅速な指揮の下バーラト星系を脱出し、周辺の星系に一時的に根拠地を置いた。
 この状況に対し、ヤン艦隊が動き、ドーリア星系で第十一艦隊11000隻を壊滅させ、反乱を鎮圧し、バーラト星系を解放してクーデターを鎮圧した。
 しかし、これはただでさえ艦隊戦力で悩んでいた同盟にとって自分で自分の首を絞めたことに等しかった。貴重な艦艇が15000隻近く宇宙のチリになったのである。
 かくして、この状態で同盟は帝国軍の侵攻を受けることとなる。その時、帝国の実権は誰が握っているのか?

あとがき
 今回はこれまでで描けなかった同盟の話をしてみました。完全に本編と離れており、「第十二話」とする意味はなかったのですが、「本編で説明できなかったところ」なので、あえて本編に入りました。

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第十三話

 オーベルシュタイン総参謀長がリヒテンラーデ公を排除する策略を考えてくれている。
 さしあたり今は僕はすることはない・・・わけではない。貴族連合軍が結成以前に瓦解したことで大量の余剰艦艇が生まれた。それをいかに配分するかという作業をやっていた。
 僕とジークフリード、ミッターマイヤー、ロイエンタールの四人でやっている。
 「各艦隊に配分するとしても、多すぎる。かといって貴族どもに渡したら好き勝手に使われるからな。予備艦艇にもできない」ロイエンタールが言った。
 ミッターマイヤーが頷いた。「やつらに渡したら、反乱の温床を自ら作ることになるな。だが、いかがしたものか。副司令官のお考えは?」
 ここでいう「副司令官」とは二人の人物をさす。ジークフリード・キルヒアイス上級大将とルートヴィヒ・フォン・ヒルシュフェルト上級大将である。この二人ともが宇宙艦隊副司令長官だった。なんかこっちが帝国の双璧みたいだ。
 「新たに艦隊を作るとか?」僕が先に発言した。
 「いや。それはできない。そもそもローエングラム侯の配下にいるものを除いて、中将以上の者がいない。いるとすれば中立派の貴族のみだ」ロイエンタールが反論した。
 「それもそうですね」ジークフリードが同意する。
 いくらなんでも貴族どもに艦隊を渡すわけにはいかない。
 議論は続けられたが、まとまることはなかった。これは全員が不仲ゆえなのではなく、本当に妙案が浮かばないだけだった。

 状況を打破するために、僕は別の策に出た。
 僕は軍刑務所を訪れた。
 「こちらです」兵士が案内した部屋の中には、一人の老将が座っていた。
 ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ上級大将。今回の一件では貴族側に属したが、いまだ処分は決定せず、拘禁されたままだ。
 「メルカッツ上級大将。自分は、ルートヴィヒ・フォン・ヒルシュフェルト上級大将です。閣下にお願いがあってうかがいました」
 「ほう。ローエングラム侯の腹心と聞く若い勇将か」メルカッツは僕のことを知っていた。
 「閣下は、この後いかがされるおつもりですか?」僕は聞いた。
 メルカッツは首を振った。「こんな老人などいなくとも、帝国はやっていけるだろう。処分を待つだけだ」
 「いえ。メルカッツ閣下は帝国に必要なお方です。一時は敵となったとはいえ、閣下が不本意であられたことは知っております。ぜひ、力をお貸し願いたく存じます」
 「わしのようなものに、なにを求めるのかね?」
 「閣下に、アムリッツア方面軍総司令官に就任していただきたく存じます。配下には艦艇43000隻が入ります。これには、アーダルベルト・フォン・ファーレンハイト提督の艦隊も入っております。閣下もご存じの通り、イゼルローンが敵の手にある今、再び帝国領侵攻が予想されます。閣下には、その方面の防備を担当していただき、帝国の民を反乱軍から守っていただきたく存じます」
 「わしに、そんな権限を与えても良いのかね?もし反乱されたら?卿はどうする?」
 僕はかぶりを振った。「閣下のこれまでの生きざまからみて、そのようなことはあり得ないと存じます。閣下のような方は、帝国を探してもほとんどいないでしょう」
 メルカッツは笑みを見せた。「わかった。そこまでいっていただけるのなら、このメルカッツ、全身全霊でその任を承ろう」
 「はっ。有難うございます。つきましては、閣下は罪を許され、釈放されます」
 僕はそのあと、ファーレンハイト中将を訪ね、協力を取り付け、釈放した。
 こうしてこの二人のもとに余剰艦艇が送られ、貴族連合問題は解決を見た。

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第十四話

 さて、僕の管轄内での仕事は終わった。他に何があったかをいっておく必要があるね。

 マリーンドルフ家・・・原作通り。ヒルダは秘書官になる。
 門閥貴族たち・・・大半は処刑、または爵位を剥奪。
 
 問題なのは、オフレッサー上級大将である。かれは行方不明になった。いや、死んだわけではない。
 彼はオーディン上空戦を脱出した。そして、ガイエスブルグ要塞にこもったのだ。彼の他には、ランズベルク伯爵ら数十人の貴族が加わったらしい。
 実働艦艇は18000隻いる。
 これらはすべて、大体の処置が終わってから明らかになった。
 そのため、急遽遠征軍が組まれた。
 司令官は僕。配下にはミッターマイヤー大将、ワーレン中将、ビッテンフェルト中将が加わった。
 遠征軍の総兵力は64000隻。ガイエスブルグ要塞を落とすにはこれくらいの兵力が必要だと見積もられた。
 そして、出発直前、ラインハルトは僕にこんな策略を持ちかけた。もっとも、オーベルシュタインが考えたらしいが。
 「ヒルシュフェルト。卿はガイエスブルグ艦隊を殲滅しろ。ただし、殲滅したら我々の増援を要請しろ。それに応じて我が全軍が帝都を離れる。そして反乱を鎮圧する。そしてこの反乱がリヒテンラーデの策謀で、我々を陥れるための罠だったとするのだ。その口実でリヒテンラーデを捕らえる。奴が先に行動を起こせば、むしろこちらにとって好都合だ」
 「御意」
 そして僕は、艦隊を率いて出撃した。

 「さて、敵を要塞から引きずり出す必要がある」旗艦「ルーヴェ」艦橋で僕は作戦説明を行った。
 「ミッターマイヤー大将。敵要塞の主砲射程外から攻撃をかけ、敵を引きずり出してください。縦深陣に引き込み、包囲殲滅します。その上で、要塞本体への強襲揚陸作戦を開始します」
 「了解した」ミッターマイヤーが頷いた。
 「ワーレン艦隊は敵の右側から、我々本隊は敵の左から攻撃する。ビッテンフェルト艦隊は敵に止めを刺すため、待機していただきたい」
 「了解した」ビッテンフェルトが頷く。
 「では作戦準備にかかってくれ」
 「はっ!」
 
 「敵が砲撃をかけてきます!」
 「ぬうっ。敵は何を考えているのだ」オフレッサーは首を捻った。
 「閣下。ここは私が参りましょう」そう言ったのはアルフレッド・フォン・ランズベルクである。「敵は金髪のミッターマイヤー大将と聞きます。彼と戦えるなど、武人としてこれ以上の誉れはありません」
 「わかった。出撃しろ」オフレッサーは命じた。
 ランズベルクの顔がぱあっと明るくなった。「ありがたき幸せ。ミッターマイヤーらと戦えるなど、このランズベルク伯アルフレッド、感嘆の極み・・・」
 実際のところ、艦隊を率いているのはランズベルクただ一人である。彼が司令官にならざるを得ない。
 そうして、ランズベルク伯爵の艦隊は出撃した。
 ランズベルク艦隊は18000。これにたいしてミッターマイヤー大将の艦隊は16000。数の上ではランズベルクの方が有利だった。
 「敵艦隊、接近!」 
 「よーし食いついたぞ。艦隊をゆっくり後退させろ。敵を縦深陣に誘い込む!」
 ミッターマイヤーはランズベルク艦隊と砲火を交えつつ、後退した。
 「敵は後退した!全艦、追撃!」ランズベルクはミッターマイヤーの誘いに乗った。
 ミッターマイヤーは後退速度を調整しつつ、ランズベルク艦隊を誘い込んだ。この艦隊運動はミッターマイヤーだからこそできたものだろう。僕にはできない。
 「敵艦隊、我が軍の縦深に引きずり込まれました!」参謀長ミュラー中将が報告した。
 僕は椅子を立った。「よし!全艦攻撃開始!ファイエル!」
 一斉に僕とワーレン中将の艦隊、合計して34000隻が砲撃を開始した。
 三方向から集中砲火を浴びせられ、ランズベルク艦隊の艦艇が面白いように沈む。
 「全艦、正面のみに砲火を集中!戦いのなかで死ぬは、武人の名誉であるぞ!」ランズベルクは命じたが、所詮彼ではとても艦隊を崩壊から救うことはできない。
 そんななかで、されにビッテンフェルト艦隊が天頂方向から攻撃を開始した。
 「全艦撃て!一隻たりとも生きて返すなあっ!」
 黒色槍騎兵艦隊の猛攻撃を食らってはランズベルクなど一たまりもない。
 「ぐわあああああっ!」ランズベルクは旗艦を轟沈されて死亡した。
 そして、残った艦艇も撃沈、または降伏し、反乱軍の機動戦力は全滅した。

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第十五話

 ガイエスブルグ要塞にこもった反乱軍は惑星ヴェスターラントから物資の支援を得て生き抜いている。
 だが、そのヴェスターラントで反乱が発生した。
 
 「なにい!?」オフレッサーは顔を真っ赤にした。
 「はい。ヴェスターラントで反乱が発生し、駐留軍は壊滅。占領軍司令官カルンボルン男爵は死亡した模様です」
 オフレッサーは机を拳で叩きつけ、机にひび割れを作った。
 「直ちに熱核融合弾を使ってヴェスターラントを攻撃せよ!」
 「ですが」アダム子爵は抗議した。「ヴェスターラントには多くの民がおります。そこを攻撃しては・・・」
 「うるさい!黙っておれ!」オフレッサーはアダム子爵を殴り付けた。
 子爵は部屋の外まで吹っ飛ばされ、廊下の壁に叩きつけられた。
 子爵は顔を青くし、司令官の命令を伝達するためというより司令官から逃れるために走った。

 ヴェスターラントに核攻撃が行われようとしているという知らせはガイエスブルグ内部の工作員から総旗艦「ブリュンヒルト」に伝えられた。
 その時、ちょうど僕は戦果の報告のために艦橋にいた。
 「それは阻止しなければなるまい。直ちに艦隊を派遣して阻止しよう」ラインハルトは言った。
 僕は背筋に寒いものを感じた。もしかしてこれは・・・
 「閣下。お待ち下さい」オーベルシュタイン参謀長が止めた。
 ヤバイ!このままじゃ・・・
 早く行動を起こさなければ!
 「閣下!オーベルシュタイン参謀長の提案は小官にもわかります。参謀長はいっそ奴らに核攻撃を行わせ、もって反乱軍、ひいてはリヒテンラーデ公爵を断罪せんというのです。それをすれば確かに陰謀の成就は楽になりますが、多くの民を損ね、将来的に閣下の名誉を損ねることになります!どうかここは、小官の艦隊だけでも、ヴェスターラントの防衛にお回しください!」
 「ですが、ここで奴らの残虐性をアピールしておけば、後でリヒテンラーデを処断するのに最良の口実ができます。確かに多くの民を死なせますが、ここで彼らが犠牲になっても、より多くの民衆が救われることになります。閣下。統治者というのは、全体の幸福のために、一部の犠牲も容認しなければならないのです」
 ここの会話は外には聞こえていない。特殊なシールドが張ってある。
 「・・・覇者足るためには、手を汚さねばならないということか・・・」ラインハルトは苦しい声を出した。
 「閣下!」僕は叫んだ。あなたはこれを実行したら、最大の友を失うことになるのですよ!?それでもよいのですか!?
 そんなことは僕には許せない。この世界に転生した時からそんなことはさせまいと誓ったのだ。
 「ヒルシュフェルト。艦隊をヴェスターラントへ向かわせろ」
 「閣下!」オーベルシュタインが抗議しようとした。
 「わかっている。一応のためだ。最終的な決定はギリギリまで待つ」
 「・・・はっ」僕は何も言えなくなった。
 
 ・・・さて、何をすべきか。僕は必死にそれを考えた。
 旗艦「ルーヴェ」の司令官席に腰を下ろして、僕は悩み続けた。
 僕はオーベルシュタインの策にも一定の理があることを認めざるを得なかった。
 そして、ヴェスターラントの一件で子供が生まれることになったのも事実だ。
 だが、ジークフリードとラインハルトの仲が悪化するのはなんとしても避けたい。そのために何ができるか。
 「・・・よし」僕は立ち上がった。「ミュラー中将。敵艦が惑星ヴェスターラントへと迫っている。これを迎撃すべく我々は出撃する。補給を急げ」
 「はっ!」ミュラーは敬礼したが、その表情は納得できないことを示していた。「ですが閣下。補給には時間がかかります。今すぐ少数の艦艇を急行させるべきだと小官には思われますが」
 ミュラーの言っていることに何ら間違いはない。もし僕がミュラーの立場だったらそう主張しただろう。
 だが、この案件はそう簡単に解決できない。わざと艦隊を遅らせ、攻撃を成功させるという悪役を僕は誰にも知られず演じなければならないのだ。
 「ミュラー中将。敵は全滅したと思うか?」
 ミュラーは頷いた。「もちろんです」
 「いや、私はそう思えない。多分敵はもう一個艦隊を待機させているはずだ。そうでもなければ核攻撃というバレバレの作戦を実行することはできないはずだ。
 もし少数の艦隊で出撃し、結果艦隊が全滅したらどうする?救援は失敗し、無用の損害を生ずることになる。それはなんとしても避けたい。
 確かに間に合わない可能性もある。だが、情報では攻撃が行われるのは4日後らしい。それまでには間に合うだろう」
 「なるほど」ミュラーは納得してくれた。
 僕は心の痛みを感じた。
 だが、ジークフリードを救うためには、「大規模な艦隊を向かわせたものの、間に合わなかった。すぐ発進した偵察艦は間に合ったものの、艦隊は補給が遅れ、到着できなかった」という状況を作る必要があったのだ。
 そして、そうすればジークフリードは助かり、ラインハルトが無用の憎悪を買うこともない。それに、仮に救援に成功すればオーベルシュタインに後で睨まれる。

 


 
 緑溢れる惑星は、熱核兵器の業火に焼かれた。300万の罪なき命が失われた。
 惑星ヴェスターラントは荒廃した砂漠同然の惑星になった。そこに生命は一人も残っていない。





 僕は映像を見ていた。
 涙が流れ出た。艦橋だが気にしない。
 映像には少女らしき遺体が写っていた。もし、援軍が間に合っていれば彼女はこれから待っているであろう幸福な人生を全うできたはずだ。
 新婚夫婦らしい遺体も見えた。彼らはこれから人生で最も幸せな時間を妻、夫と共に過ごせたはずだ。援軍が間に合っていれば。

 援軍が間に合っていれば、友人と再会できた。
 援軍が間に合っていれば、学校に行けた。
 援軍が間に合っていれば、平和を享受できた。
 援軍が間に合っていれば、愛するものの暖かさを感じられたはずだ。
 援軍が間に合っていれば、援軍が間に合っていれば・・・

 僕は目の前が真っ暗になるのを感じた。
 罪なき人が大勢死んだ。こんな罪深き僕が、どうして幸福を味わうことができようか?
 僕が独りよがりの考えで動き、あえて遅く出発することで、絶対に核攻撃を成功させることができるようにしたのだ。そんな僕が、そんな僕が、そんな僕が!
 



 ・・・ここに居ても、良いのか?・・・





 「はっ!軍医!」ミュラーは倒れたヒルシュフェルトを見て命じた。
 

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第十六話

 僕は気がついた。
 立ち上がったが、目の前に門がある以外は何もない。
 門はアーチのような形をしている。
 そこではっと僕は気がついた。
 
 これは、ヴァルハラの門だと。

 その時、声が聞こえた。正確には、僕の心のなかに響いた。
 ”あなたはあの世界にいる理由を失ったようですね”
 「誰ですかあなたは!?」
 ”私は「ブリュンヒルト」”
 ワルキューレだ!そして、ラインハルトの旗艦の名前だ!
 ”なぜあなたがこの世界にいるのか、分かりますか?”美しい声が僕の心に響く。
 僕は10数年間忘れていたことを思い出した。


 なぜ、僕はここにいるのか?


 ”あなたは前の世界で決して恵まれていなかった。だから、この世界に呼んだのです”
 「あなたは、僕に何を望んでいるのですか?」
 ”歴史を変えること。本来の世界は、最終的にラインハルトという太陽を失ったことであのあと衰退してしまった。再び戦乱が起き、多くの人がヴァルハラに誘われてしまった。あなたは、それを変えることができた”
 「でも・・・僕は・・・」
 ”あなたに罪はないのです。決してあなたが気に病むことではないのです。ヴェスターラントで亡くなったかたも、決してあなたを恨むことはしません。なぜなら、あなたは実行犯ではないし、止めようともした。最後はこれだけ反省の涙を流した”
 「ですが!」
 ”この先の世界は、ヴァルハラです。あなたがもうあの世界に居てはならないと思うなら、あなたはここの門をくぐりなさい”
 僕は迷った。そう、「銀河英雄伝説」は架空の世界であって、現実ではないのだ。なのに僕が多くの人を巻き込み、殺し、世界まで変えようとしている。むしろ、ここにいない方がいいんじゃないか?
 そう思わせた何かが、僕を門へと一歩進ませた。
 そこで思い出されたのは、ラインハルト、ジークフリードとの友情、自分が何を目的としてここまで来たのか、何のためにヴェスターラントを引き起こしたか、ということである。
 ”あなたはジークフリード・キルヒアイスを死から救いだした。ラインハルト・フォン・ローエングラムを今救おうとしている。あなたは太陽を崩壊から救いだした。なのに、ここを去るのですか?”
 「・・・」
 そうだ。僕はラインハルトやジークフリードと共に歩もうと決めたのだ。あの日、ミューゼル家の前の通りで。今ここで退いてどうする!僕なら、ラインハルトを救いだせるんだ!ジークフリードを救ったんだ!救った彼らと、銀河を駆けるんだ!それが僕の「銀河英雄伝説」だ!




 「僕は・・・ラインハルトやジークフリードと共に行きます!」これが口から出たとき、もはや後ろめたさは微塵も感じられなかった。
 あの少女、あの夫婦。彼らが命を捨てて手に入れたものが退廃でどうする!真に彼らに報いんとするなら、ここでヴァルハラの門をくぐるわけにはいかないんだ!
 僕は一歩後退した。
 ”分かりました。あなたを先程までいた世界に戻しましょう。皆さんが待っていますよ”ブリュンヒルトの声も、優しげになった。
 ”後ろに進むのです。そうすれば、あなたはヴァルハラの門を出るでしょう”
 「最後に教えてください。これは、ただの夢なのですか?それとも、現実なのですか?」僕は最後の質問をした。
 ”それは、あなた次第です”
 次の瞬間、ヴァルハラの門は僕の眼前から消えた。




 「・・・フェルト!ヒルシュフェルト!」僕を呼ぶ声がした。
 「ルート!」
 「ん・・・」僕は目を覚ました。輝く金髪が見える。あと赤毛も。
 「はっ!ヒルシュフェルト!」ラインハルトは僕の手を握った。
 「ライン・・・ハルト様・・・?」
 僕の意識は正常に戻った。「ラインハルト様!」
 そこには、二人の友人、ラインハルト・フォン・ローエングラムと、ジークフリード・キルヒアイスがいた。
 「ヒルシュフェルト、すまない!」ラインハルトは頭を下げた。僕ら以外に誰もいないからこんなことができるのだ。
 「キルヒアイスには説明した。苦労をかけた。すまなかった!」ラインハルトの陳謝は心からのものだった。これをみると、僕は本当に死の瀬戸際をさ迷っていたようだ。
 「ラインハルト様。僕は、ラインハルト様のお役に立ちたいと思っていました。今もそうです。だから、あなたの元を去りかけた私を御許しください」
 「ルート。僕はルートのためだったら協力を惜しまなかった。オーベルシュタイン参謀長の策も、容認していたよ。だから、そんなに自分を責めないで」ジークフリードが言った。
 僕は涙を流した。僕のために、こんなことを言ってくれる人がいるなんて。やはり、僕は幸せ者だし、ここにいるべきなんだ。
 「ラインハルト様。私は戻ってきました。ヴァルハラの門から。それはラインハルト様にお仕えしたい、いや、銀河に二人しかいない友でありたいと思ったからです。だから、ラインハルト様も私の・・・友であっていただけますか?」
 ラインハルトは何度も頷いた。「ああ。ああ。もちろんだ。ヒルシュフェルト。キルヒアイスもな。俺たちは、友なんだ」
 これだけで十分だった。ラインハルトのこの言葉だけで。僕には、ラインハルトを支え、歴史を変える役割があるんだ。それを自覚できた。




 そして、ラインハルトの友であれた。ジークフリードの友であれた。二人の友であれた。




 あとがき

 どうも。こんなシーン書くのは初めてなので、いろいろおかしい点があると思いますが、ご容赦ください。

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第十七話

 僕は艦隊司令官に復帰した。
 この間ガイエスブルグ要塞攻略作戦の準備が整えられ、要塞攻略作戦が開始された。
 作戦はこうである。
 まず、少数の無人艦を連続的にガイエスブルグに特攻させる。
 もちろん、大半は対空砲台によって打ち落とされるが、それでもガイエスブルグにダメージを与えることはできるはずだ。
 そして、ダメージを与え、敵が無人艦戦法に恐怖を抱き始めたタイミングで大規模に無人艦を突っ込ませる。
 要塞は、ガイエスハーケンを撃つだろう。そして撃ったらラインハルト、ジークフリード、ミッターマイヤー、ロイエンタールの艦隊が突入する。陸戦部隊を下ろし、数の力で要塞を陥落させる。オフレッサーもそれほど苦労せず殺せるだろう。
 
 そして艦隊は配置につき、要塞攻略戦が開始された。
 「ようし、無人艦第一陣突撃!要塞に風穴を開けてやれ!」無人艦を率いるビッテンフェルト提督が指示を出す。
 無人艦100隻がガイエスブルグに突進した。
 「オフレッサー上級大将!敵艦が接近してきます!」オペレーターが恐怖の声をあげた。
 「奴等は戦いを知らぬようだな。浮遊砲台で迎撃しろ!」オフレッサーは命じた。
 命令通り、浮遊砲台が浮上し、接近してくる敵に砲撃を浴びせる。
 「たとえ奴等が逃げ出そうとも逃がすなあ!」
 敵艦は次々と轟沈していく。多くの火の玉が宇宙を明るく照らし出した。
 だが、ガイエスブルグの対空砲撃能力には限界があり、敵艦が接近してくる。
 「敵が揚陸してくるぞ!白兵戦用意!」オフレッサーは置いてあった専用のトマホークを手に取ったが、
 「変です!敵艦、止まりません!このままですと、要塞に激突します!」
 「なにい!?」
 敵艦が砲火を抜け、要塞に衝突する。その度に要塞は激しく振動した。
 「ぬうっ」オフレッサーは呻いた。
 「第二波、来ます!数、およそ200!」
 「閣下!ガイエスハーケンを使用しては!?」
 オフレッサーはあり得んと言った顔で提案した男爵を睨み付けた。「黙っておれ!俺には俺の考えがあるのだ!」
 再び対空放火が放たれる。だが、特攻してくる敵の数も増えており、要塞はますます激しい振動に襲われた。
 「第2ブロックに損傷!」
 「第7ドック、爆発!」
 「第2ブロックを放棄しろ!全ての隔壁を閉鎖!」オフレッサーは指示したが、そこにはまだ3000人の兵士がいる。
 「ですが、第2ブロックにはまだ兵士がいます!そのような命令は・・・」
 「黙れ!平民が何人死のうと知らん!早く実行しろ!」
 さらに第三波、第四波と特攻が繰り返される。その度に損害は増えていった。
 「ぬうっ・・・」オフレッサーも狼狽する損害が出た。
 「敵の第五波接近!数、2500!」
 「ふふん!今度はそんな数で来たか!ガイエスハーケン発射準備!」
 ガイエスハーケンが流体装甲上に浮上し、攻撃準備を整える。
 「撃てえい!」オフレッサーは右手を突き出した。
 青白い閃光が宇宙を横切り、2500隻の無人艦が光のなかに消える。 
 「見たか!平民どもめが!」

 「敵、主砲を発射」
 「よし。罠にかかった。オフレッサーめ。腕っぷしは強くても、頭はないと見える」ラインハルトは嘲笑した。
 「全艦攻撃に移る。前進せよ」
 「よし、前進!」ミッターマイヤーが命ずる。
 「突撃!装甲擲弾兵部隊降下準備!」ロイエンタールが命ずる。
 「前進。要塞の攻撃を避けつつ接近する」ジークフリードが命ずる。
 「要塞本体への強襲揚陸作戦を開始する。攻撃開始!」僕が命ずる。
 後の「獅子帝」ラインハルト・フォン・ローエングラムと後に「帝国の四天王」と称される「赤毛の剣」ジークフリード・キルヒアイス、「獅子の剣」ルートヴィヒ・フォン・ヒルシュフェルト、「疾風ウォルフ」ウォルフガング・ミッターマイヤー、「ヘテロクロミアの勇将」オスカー・フォン・ロイエンタールの艦隊が前進する。その姿は、壮観と言うにふさわしい光景だった。
 そして、ガイエスハーケンの砲撃ができない隙に大艦隊が浮遊砲台を掃射しつつ要塞表面に取りついた。
 「よし、全艦陸戦隊を降下させろ!要塞を数の力で叩く!」戦艦「ベイオウルフ」に座乗しているロイエンタールが命じた。
 「さて。これからが大変だ。あのオフレッサーがいるとなるとな」ロイエンタールの隣に立つミッターマイヤーが言った。
 「ああ。あいつは人を殴り殺すために生まれてきたようなものだからな」ロイエンタールは苦笑した。
 
 要塞通路を帝国軍の装甲擲弾兵が駆け抜ける。
ラインハルト軍の部隊とオフレッサー軍の部隊が激しく斬りあった。この時点では優劣は決しかねていたが、
 「ええい、下がれえ!」オフレッサーが姿を表した。
 「オフレッサーが、オフレッサーが来たぞ!にげろお!」ラインハルト軍の兵士が慌てて後退する。
 オフレッサーは驚くべき敏捷さでラインハルト軍の兵士に襲いかかると、トマホークで一刀両断にした。
 「ぎゃああ!」兵士の断末魔の叫び声が通路にこだまする。
 「後退!こうた・・・ぐあああ!」指揮官も首を吹っ飛ばされた。
 「うはははは!」オフレッサーは嗤いながら死体の山を築き上げて行く。
 一人の兵士が負傷して歩けなくなっていた。トマホークを杖がわりにして、よろよろと歩いている。
 オフレッサーはニヤニヤと笑いながらその兵士に歩み寄ると、無慈悲にも足を切り落とし、絶叫する兵士にトマホークを振り下ろして胴体を真っ二つにした。
 「オフレッサーめ、許さん!」ミッターマイヤーはその光景を見て言った。
 「第二隊突入!如何なる犠牲を払っても通路を確保しろ!」ロイエンタールが命じた。
 一方、ジークフリードと僕の陸戦隊もオフレッサーと戦っていた。
 「た、助けてくれ!」慈悲を乞う兵士を斬り殺し、オフレッサーは笑い声をあげる。
 「貴様ら平民がいくらかかってこようともこの俺の敵ではないわ!」
 
 戦艦「ブリュンヒルト」に通信が入った。
 「誰からだ?」ラインハルトは聞いた。
 「オフレッサーです!」
 「ほう?降伏でも申し込みに来たか?」
 「金髪の小僧!」声が艦橋に響き渡った。「スクリーンを通してでも俺をまともに見る勇気はあるか!?」
 オフレッサーの挑発はとどまることを知らない。「若造が、運にだけは恵まれて、元帥になったからって思い上がるな!」
 ラインハルトからしたら不本意きわまりないことだったであろう。彼は運ではなく、自身の実力でここまで来たのだ。 
 そして、オフレッサーは致命的な文言を発してしまった。「姉ともども陛下を色仕掛けでたぶらかしおって!恥を知れ!」
 ラインハルトは怒りの炎を燃やし、立ち上がった。「ヒルシュフェルト、キルヒアイス、ミッターマイヤー、ロイエンタール!あのゲス野郎にこれまで流させた血の量と同じ量の血を流させてやれ!絶対に生かして返すな!」
 「はっ!」全員が敬礼した。
 僕も憤慨していた。実際にこの世界にいるからわかることである。アンネローゼ様を侮辱しやがって。
 「よし、ミュラー参謀長。第四波を突入させろ。この場合、犠牲を気にしている場合ではない」
 「はっ!」ミュラーは敬礼した。
 一方、ミッターマイヤーとロイエンタールは自ら戦場に乗り込んだ。
 「金髪の小僧め!俺の前に出てきてみろ!」オフレッサーは挑発を止めない。
 「威勢が良いな、オフレッサー!」低い声が響いた。
 ダークブラウンと蜂蜜色の髪が立っている。
 「ほう。偉そうな口を叩くのは誰かと思えば、金髪のミッターマイヤーとヘテロクロミアのロイエンタールか。少しはやると聞くが」
 「やってみなければ分かるまい。今にあの世へ行くことになるぞ」
 このミッターマイヤーの台詞はオフレッサーを激発させた。「なにい・・・」
 オフレッサーは走り出した。「うおおおおおれええええ!」
 と、そこには落とし穴があった。「わああ!」
 足元が崩れ、オフレッサーは落ちた。
 ロイエンタールは走り、オフレッサーのトマホークを蹴飛ばした。「オフレッサーは捕らえた!後は雑魚だけだ!けちらせ!」
 「おう!」装甲擲弾兵が突撃し、敵を蹴散らした。
 オフレッサーの殺害方法は文にするに耐えない。ともかくも、ミッターマイヤーとロイエンタールがオフレッサーの方を向いたら、オフレッサーの五体はあちこちに散らばり、赤い鮮血を吹き出していた。
 オフレッサーを失った貴族軍はあえなく瓦解。ここに、ガイエスブルグは陥落した。

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第十八話

 帝国の内戦はオフレッサー陣営の敗北に終わった。
 貴族連合軍の残党も完全に崩壊し、ここにリップシュタット戦役は完全に終結した。
 そして、ついにこの時が来た。ゴールデンバウム王朝の崩壊の時が。
 宇宙歴797年、帝国歴488年8月6日、ラインハルト・フォン・ローエングラムはある宣言を発した。
 「全帝国市民に告げる。今回の反乱をけしかけたのは、帝国宰相リヒテンラーデである。奴はブラウンシュヴァイクやリッテンハイムといった大貴族を自分の手先として利用し、我らを倒すべく反乱を起こさせた。
 それが失敗すると、オフレッサー上級大将に反乱を起こさせた。また、貴族どもに反旗を翻したヴェスターラントの勇気ある帝国市民に核を落とし、惑星ヴェスターラントを皆もみたような惑星に変えてしまった。
 これまで、ゴールデンバウム王朝に忠誠を誓っておきながら、裏で裏切りを画策し、反逆して多くの市民を殺害したリヒテンラーデは許しておくわけにはいかない。また、そのもとで甘い汁をすった貴族どもも同様に、正義の鉄槌を下されるだろう!」
 この時点ですでにワーレン、ルッツ両提督の艦隊がオーディンに向かっており、本隊も帝都に向かって進撃しつつあった。
 これに対してリヒテンラーデが持っている兵力は近衛師団のみだった。すでに貴族の持っていた艦隊はアムリッツア方面軍に編入されており、彼らに救援を求めても間に合わないだろう。
 そして、ワーレン、ルッツ艦隊はオーディンを制圧し、リヒテンラーデは自害した。ワーレンは宰相府で国爾を奪取した。
 こうしてゴールデンバウム王朝は事実上滅亡し、そのもとで安楽を貪った貴族も、ほとんどがこれまでと逆の境遇に置かれることとなった。また、ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥は帝国軍最高司令官の職はそのままに、帝国宰相となった。
 「キルヒアイス、ヒルシュフェルト。俺たちはここまで来たんだ。ついに、ここまで来たんだ」惑星オーディンを「ブリュンヒルト」艦橋から見て、ラインハルトは言った。
 「はい」その言葉に100倍する想いをこめ、僕は頷いた。
 ジークフリードは生きている。これほどの朗報があろうか。そして今頃、あの方は・・・


 「ブリュンヒルト」はオーディンの宇宙港に着底した。
 タラップがスルスルと降り、そこから三人の提督が降りてきた。
 下は多くの兵士と市民でごった返している。新たな解放者を見ようと、多くの人が集まっていた。
 まず、ラインハルトはワーレン、ルッツに歩み寄った。「よくやってくれた。卿らも大将に昇進だ」
 ワーレンは頭を下げた。「もったいないお言葉でございます。今後も、我らをお見捨てなきよう」
 
 僕らは車にのりシュワルツェンの館へと向かった。
 「久しぶりに姉上に会える。キルヒアイス、ヒルシュフェルト。やっと姉上を完全にお救いしたぞ」ラインハルトは水晶を透過して初夏の陽光がきらめきわたるような笑顔で言った。
 「そうですね。ラインハルト様」ジークフリードが言う。
 僕は頷いた。「10年以上、臥薪嘗胆を積み重ねた甲斐がありました」
 「そうだ。これからはゴールデンバウム王朝の飼い犬どもの時代ではない。俺たちの時代。俺とお前たちの時代だ」
 ラインハルトの言葉は派手でこそあれ、決して誇張ではなかった。
 ゴールデンバウム王朝は形ばかりは存続しているが、その権力は1年前の1000分の1未満まで縮まり、その権力は新宰相ラインハルト・フォン・ローエングラムの受け継ぐところとなっていた。
 ラインハルトは首を伸ばし、車の行く先を見た。「キルヒアイス、ヒルシュフェルト。見ろ。姉上がいらっしゃる」
 二人もラインハルトが見る方向に顔を向けた。
 シュワルツェンの館の前で、一人の女性が待っている。
 黄金の髪、青玉の瞳、白磁の肌。
 アンネローゼ・フォン・グリューネワルトが彼らの帰宅を待っていた。
 車は止まり、ドアが開いた。
 まずラインハルトが出た。「姉上。ただいま戻りました」
 アンネローゼはラインハルトを抱き締めた。「お帰り。ラインハルト」
 「姉上。やっと本当の意味で姉上を解放いたしました。もう姉上が恐れられるものは何もありません」
 アンネローゼのアイスブルーの瞳からダイヤモンドのような液体が流れ落ちた。「ラインハルト・・・ありがとう・・・」
 「アンネローゼ様。長い間、お待たせいたしました」ジークフリードが声をかけた。
 「ジーク・・・」アンネローゼはジークフリードに歩み寄ると、その唇に自らの唇をつけた。
 ジークフリードは驚くほど柔らかなアンネローゼの唇の感触を感じた。いつの間にか、ジークフリードもそれに対応するように唇をつけていた。
 ラインハルトはそれを見たことがないほど優しげな笑顔で見守っていた。
 僕は嫉妬の気持ちが混じった祝福の心で二人を見つめた。
 5秒して、アンネローゼは顔を赤くして顔をジークフリードから離した。その唇には、確かにキスの余韻が残っていた。
 「ルート。お帰りなさい」アンネローゼは僕にもキスをした。ただし頬に。
 キスの位置が違うことの意味を僕は知っていたが、別に怒ったりするつもりはない。本心では、アンネローゼとジークフリードが結ばれることを望んでいた。
 「アンネローゼ様。戻りました」
 その一言が、ゴールデンバウム王朝からアンネローゼを救い出そうとした12年間の終わりを告げた。


 帝国宰相に任じられたラインハルトは、続いて二人の提督を帝国元帥に任じた。
 ジークフリード・キルヒアイス元帥と、ルートヴィヒ・フォン・ヒルシュフェルト元帥である。二人は、元帥杖とマントを授かった。
 ジークフリードは両面赤のマント、ヒルシュフェルトは両面が深緑のマントである。
 この二人は敵味方を問わず、「帝国の双剣」と呼ばれることとなる。
 
 ラインハルト・フォン・ローエングラムは一人で銀河を二分する勢力の支配権を手にいれた。
 だが、彼は誰にそう言われても、必ずこう答えた。
 ・・・余一人ではない。余と、二人の友とでだ。・・・

 宇宙歴797年、帝国歴488年8月。銀河は、変わらずその時を歩み続ける・・・

 あとがき
 はい。これで実質的に一章は終わりです。読んでくださった方、ありがとうございました。これからも、よろしくお願い致します。

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第十九話

 ついにラインハルトは帝国を、宇宙の半分を手にいれた。
 だが、もう半分の宇宙を手に入れなくてはならない。
 そう、同盟領である。
 まずは、その準備だった。
 ラインハルトが宰相に就任して2日後、僕は統帥本部総長、ジークフリードは軍務尚書に就任した。宇宙艦隊司令長官の座はラインハルトがそのまま引き継いだ。
 統帥本部総長とは言っても、実質的な作戦立案権はラインハルトにある。別に僕にはラインハルトほどの才能はないので、不満はないが、名前だけの仕事だった。
 とは言っても暇なわけではない。決して統帥本部総長は作戦立案だけが仕事なわけではない。連日の激務は、僕に計り知れないほどの負担を与えてきた。もっとも、ラインハルトの計らいでロイエンタールが統帥本部次長として手伝ってくれるようになってからは負担も大きく減ったが。
 軍務次官はオーベルシュタインがその職に就き、ジークフリードを補佐した。その仕事ぶりは完璧で、事務仕事になれていないジークフリードを良く支えている。
 僕は中尉のころ軍務省にいたことがあったが、これほど大変ではなかった。
 大量の紙の山と格闘し、様々な決定を下す。そんな力が僕にあるのか?
 それでもせっかくラインハルトが指名してくれたんだ。投げ出すわけにはいかない。
 そう思って僕は砂糖のたっぷり入った紅茶を飲んで事務仕事に明け暮れるのだった。
 
 僕はラインハルトに許可を得てアムリッツア方面軍を解体した。
 もともと貴族に艦艇がいかぬようにするための処置である。貴族がその権力を失った今、アムリッツア方面軍の存在価値は減少していた。
 メルカッツは上級大将に、ファーレンハイトは大将に昇進した上で帝都オーディンに帰還した。
 「閣下。お久しぶりです」僕は執務室にメルカッツを呼んでいった。
 「私がオーディンを起ってからずいぶんと変わりましたな」メルカッツは非難とも感慨ともとれることを言った。
「そうですね。ローエングラム公が実権を握られてから、ずいぶん変わりました」僕は平凡な答えを返した。
 「それで、閣下は私に何を望まれるのです?」
 僕は頷いた。「もうすぐ、イゼルローン奪回作戦が発令されます。閣下には、その遠征軍司令官になっていただきたく存じます」
 メルカッツにはいささか衝撃だったようだ。「私がですか?」
 「閣下です」
 僕がメルカッツに出撃を命じたのは、ここでヤンを攻撃することで、同盟軍との縁(この世界ではないけど)を完全に絶ちきって貰うためだった。
 また、戦術的に考えても、経験豊富なメルカッツならイゼルローンを攻略してくれるだろうという期待もあった。
 「わかりました。直ちに、準備にかからせていただきます」
 僕は机の上のプリントを手に取った。「閣下。これはまだ一部の者しか知らない極秘事項です。くれぐれも、外部に漏れないようお願い致します」メルカッツに渡す。
 メルカッツは読んで目を丸くした。「これは・・・!」
 「はい。ガイエスブルグを移動要塞として利用するのです。科学技術総監シャフト大将の提案です」
 「これを用いて、ということですか?}
 「その通りです。機動要塞ガイエスブルグと16000隻の艦艇を用いてイゼルローン要塞の攻略をしていただきます。現場での判断は全て閣下にお任せいたします」
 メルカッツは敬礼した。「わかりました。この老体の出来る限り、全力で任に当たらせていただきましょう」
 
 その夜、ジークフリードが僕の私室を訪ねてきた。
 「どうしたんだ?こんな時間に」僕は聞いた。
 ジークフリードの目は、いつになく真剣だった。「相談が・・・あるんだ」青い瞳の奥に写る、決意の塊を僕は見た。
 「そうか。じゃあそこに座ってくれ。まだ帰って来たばかりで、軍服も脱いでいないんだ」
 僕はそう言ってマントを脱ぎ、しっかりと畳んでクローゼットにしまった。
 数分後、着替え終わった僕はジークフリードの座る椅子の前に座った。「で、話って?」
 ジークフリードは伏し目がちだった。こんなジークフリードは初めて見たぞ。「ルートは・・・姉上のことが好きかい?」
 そんなこと決まっているじゃないか。「もちろん好きさ」
 「それは、ただ親友として好きなのか、それとも・・・」ジークフリードは口ごもった。
 そこまで聞いて、僕は全てを悟った。
 
 

 ジークフリードは、アンネローゼと結婚するつもりなんだ。


 
 「つまり、ジークフリードは結婚したいんだろ?アンネローゼ様と」僕はジークフリードの言葉を待たず、聞いた。
 ジークフリードは髪の毛と見分けがつかないくらい顔を真っ赤にした。「・・・うん」
 僕にそれを止める権利はない。確かにアンネローゼと結婚したくないという人はいない。僕もその一人だ。この世界に来て、幾度となくアンネローゼと結婚した世界を想像した。だが、僕以上にアンネローゼの新たな夫にふさわしく、彼女を愛しているジークフリードから奪う権利など、僕には存在しない。
 「ジーク。僕に君を止めるつもりはない。君は、アンネローゼ様と結婚して、幸せな家庭を持つ権利がある」僕はゆっくりと、文節ごとに区切って伝えた。頭のどこかがジークフリードとアンネローゼが結ばれることを認めようとしない。それが、涙を出そうとして来る。だが、僕はそれに抵抗した。
 「アンネローゼ様は、あの皇帝に連れさらわれ、不幸な10年間を送られた。あの方が、不幸せであって良い訳がない。ジークフリード、君こそが、アンネローゼ様をお支えし、共に幸せになる権利がある唯一の人物だ。君がアンネローゼ様と結婚するのに、僕は何の依存もない」
 「でも・・・!」
 「それ以上は言わないでくれジークフリード。君は幸せになるんだ。それこそが、僕の幸せだ。それに、僕はこれからも君とラインハルト様とアンネローゼ様と共に歩めるだけで十分だ」
 「そうか・・・ありがとう!」ジークフリードの顔は明るくなった。彼がはじめて見せる、心からの喜びの顔だった。

 ジークフリードが去ると、僕は戸棚から一本のワインを出した。410年物の、貴重なワインである。
 僕はそれをワイングラスに注いだ。深紅の液体が波立つ。
 それを持ち、僕は窓の方へと歩いていった。
 外には夜景が見える。

 
 「ジークフリード。アンネローゼ様。末永く、お幸せに」


 僕はさっき言えなかった言葉を発し、ワインをぐいっと飲み干した。
 これが、僕なりの区切りの付け方だ。いいんだ。これで・・・みんな・・・幸せになれた・・・

 一筋の涙が、僕の頬を濡らした。

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第二十話

 統帥本部では来るべきイゼルローン要塞奪還作戦の準備が行われていた。
 遠征軍司令官ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ上級大将、副司令官アーダルベルト・フォン・ファーレンハイト大将とナイトハルト・ミュラー大将。
 参加艦艇は、メルカッツ艦隊8000、ファーレンハイト艦隊8000、本土より出撃するミュラー艦隊12000(僕の艦隊)の合計28000。また、ガイエスブルグ機動要塞が投入される。
 僕はこの戦いでイゼルローンを陥落させるつもりでいる。そのため、予備兵力として、ミッターマイヤー艦隊14000、ロイエンタール艦隊14000、キルヒアイス艦隊16000の44000隻の出撃準備も一応整えた。
 合計すると、72000隻という大軍となる。だが、60000近い大軍をもってしても第五次イゼルローン攻防戦ではイゼルローンを陥落させられなかった。ガイエスブルグがあるとはいえ、油断は禁物だ。
 そして、メルカッツとファーレンハイトはフレイア星系のガイエスブルグ要塞へと工兵部隊を引き連れて出発した。
 
 夜、ジークフリードはラインハルトの元に行った。
 「どうした、キルヒアイス?お前がそんな顔で来ることなど珍しいじゃないか」ラインハルトは椅子を勧めていった。
 「はい。実は、かなり重大なことでして・・・」ジークフリードは口ごもった。
 ジークフリードはアンネローゼに婚約する許可を求めに来たのだった。別に必ずしもラインハルトに許可を求める必要はなかった。だが、彼にしてみればラインハルトが望まぬ場合、結婚したジークフリードがラインハルトに仲を切られることは当然だと思っているので、こうして許可を求めに来たのだった。
 「なんだ?俺とお前に、そこまで重大なことでもあるのか?」ラインハルトはいぶかしげな顔になった。
 ジークフリードは首を横に振った。「いえ、ラインハルト様とではありません」
 「ならばヒルシュフェルトか?それとも・・・」
 「アンネローゼ様です」ジークフリードは早口で言った。
 ラインハルトは笑った。「とすると、さてはお前、姉上と結婚したいのだな?」
 ジークフリードは衝撃に身をすくませた。ラインハルトの洞察力は他の人の比ではない。それを実感した瞬間だった。
 「・・・はい」
 「で?俺はどうすればいいのだ?」ラインハルトは聞いた。
 「・・・ラインハルト様に、アンネローゼ様と結婚させていただく許可をいただきたく思って・・・」
 ラインハルトは唖然とした表情になった。「許可?許可だと?なぜお前が姉上と結婚することに俺が許可を出さなければならない?お前の人生計画は、全て俺が管理しなければならないのか?」
 「ですがラインハルト様・・・!」ジークフリードはラインハルトに嫌われた気がした。
 「それにだ、俺がお前と姉上の結婚に反対する理由があると思っているのか?俺はあの汚ならしい皇帝が姉上を誘拐したのは許してはおけん。
 だが、お前が姉上を幸せにすることに、俺がなぜ反対しなければならない?それとも俺は姉上があのまま一生を終えられることに喜びを感じているとでも言うのか?」
 ラインハルトの遠回りかつ高圧的かつわざとらしく怒りっぽい言い方で、ジークフリードは全てを察した。
 ラインハルトは僕とアンネローゼ様の結婚を望んでおられるのだ。
 だが、それを正直に言えず、まるで無能な臣下を叱り飛ばすような口調で彼の結婚を肯定しているのだ。
 ならば、ここはあえて低姿勢でいこう「申し訳ありませんラインハルト様。私が間違えておりました」
 ラインハルトはそれ以上高圧的でいられなくなった。「とにかくだ!俺にお前と姉上の結婚を阻止する理由はない!」そう言い終わってラインハルトの顔に朱がさした。
 「はい、ラインハルト様、ありがとうございます!」ジークフリードは最大限の感謝の気持ちを込めて感謝の言葉を述べた。
 「で、姉上には言ったのか?」ラインハルトは聞いた。
 「いえ。まだです」ラインハルトに肯定されて嬉しくてしかたがなく、表情を保つのに苦労しながらジークフリードは答えた。
 「そうか。早く言うことだ。俺が宇宙を手にいれてからでは、遅いぞ」
 ジークフリードは頭を下げた。「分かりました。早い内に、婚約させていただきます」
 「キルヒアイス・・・あの日を覚えているか。俺とお前と、ヒルシュフェルトが王朝を倒すと誓ったあの日を・・・」
 ジークフリードは頷いた。「もちろんです、ラインハルト様」
 「あの時はただ姉上の苦しみを和らげるために王朝を倒すと誓った。
 だが、それだけでは足りないのだ。姉上には、幸せになっていただかないといけない。キルヒアイス。お前は、姉上を幸せにして差し上げるんだ。それが、姉上を真に解放して差し上げることになるだろう」
 「はい!」ジークフリードは頷いた。

 「アンネローゼ様、いらっしゃいますか?」ジークフリードはアンネローゼの部屋のドアをノックした。
 「ジーク。どうしたの?入りなさい」中から優しい声がした。
 「はい」ジークフリードはドアを開け、中に入った。
 アンネローゼは編み物をしていた。「どうしたの?何かあって?」
 ジークフリードは心臓の鼓動を感じた。
 多分、僕の人生で一番緊張した瞬間だろうな。
 彼は後にそう思った。

 ジークフリードは、自分の心の内を全て語った。
 
 そして、

 「結婚・・・して頂けませんか?」


 「ジーク・・・」アンネローゼは涙が出ることを感じた。
 「それは、ジークの希望なの?それとも・・・」
 「私の、希望です、アンネローゼ様」
 ジークフリードの言ったことに、嘘偽りは1パーセントも含まれていない。
 それを悟ったアンネローゼは、ジークフリードに抱きついた。「私こそ、結婚・・・してもらえますか?」
 ジークフリードは何度も首を縦に振った。「はい。もちろん」
 
 二人の唇が近づき、触れあった。

 この瞬間、アンネローゼは「真に解放」され、ジークフリードは人生を通じて最も幸せな時を得ることができた。

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第二十一話

 ガイエスブルグ機動要塞が移動可能になり、「ヨルムンガンド」作戦が開始された。
 ヨルムンガンドは、北欧神話に登場する巨大な龍。
 雷神「トール」と3度戦った「ヨルムンガンド」は、最後は「ラグナロック」の戦争で相討ちになる。
 トールはイゼルローン主砲トールハンマー。
 ヨルムンガンドは今回の作戦名。
 ラグナロックは同盟領侵攻作戦。

 メルカッツ上級大将率いる28000隻の艦隊とガイエスブルグは一路イゼルローン回廊へと向かった。
 そのイゼルローン要塞では、一人の人物が陰謀に巻き込まれていた。

 「ヤン・ウェンリー大将に命ずる。直ちに惑星ハイネセンに出頭せよ」
 との命令文を見て、イゼルローン要塞の司令部のメンバーは不快感をぬぐいようもなかった。
 「だが、仕方ない。民主主義の軍人は、政府の命令には従わないといけない」ヤン・ウェンリー大将はそう言い、巡航艦「レダⅡ」に乗って副官フレデリカ・グリーンヒルをつれて首都へと向かった。
 査問の内容は「救国軍事会議クーデターにおいてなぜ惑星ハイネセン防衛の要である「アルテミスの首飾り」を破壊したのか」と「ドーリア星域会戦直前にヤンが行った演説で、政府を軽んじる発言をした。お前は政府に反抗しようとしているのか」の二つだった。
 そもそも民主主義国家で国民よりも政府の方が重んじられるのか。それでは民主主義ではなく、社会主義、全体主義ではないか。民主主義を高らかに謳う自由惑星同盟が、国民の利益より政府の意見を重視するのか。
 ヤンはそう主張したが、国防委員長ネクロポンティは「人間は一人では生きていけない。だから国家が必要なのだ。したがって、国家の利益はすなわち国民の利益に直結する。よって国家の利益が重視されるのは当然である」と言いはなった。
 ヤンはこれに対して、「別に人間の集合体は必ずしも国家でないといけないというわけではない。それ以外の共同体でも構わない。国家というのは共同体の一つの形にしか過ぎない」と言った。
 このように、国防委員会の建物のなかで不毛な論戦が繰り広げられ、本来正しいはずのヤンが不当に閉じ込められている状況をどうにかしようと
動いたのがフレデリカだった。
 宇宙艦隊司令長官アレクサンドル・ビュコック大将やジョアン・レベロに協力を要請し、ヤンを解放しようと働いた。
 だが、皮肉なことにヤンが解放された直接の原因は以下の情報だった。
 「帝国軍の大軍がイゼルローンに侵攻せり」
 この事態を受け、国防委員会は査問会の中止を決定。ヤンに、イゼルローンに赴くよう命じた。
 その頃には既に、戦闘が開始されていた。

 「全艦後退せよ。敵をガイエスハーケンの主砲射程に引きずり込む」旗艦「ネルトリンゲン」艦橋で、メルカッツは命じた。
 既にメルカッツ、ファーレンハイト艦隊の内12000隻が敵のアッテンボロー、フィッシャー分艦隊と交戦し、両軍の要塞主砲射程外で激しい艦隊戦が繰り広げられていた。
 「よし。後退しろ!」旗艦「アースグリム」艦橋のファーレンハイト大将はメルカッツにしたがった。
 「敵軍、後退します!」アッテンボロー少将の副官ラオ少佐が報告した。
 「くっそ。敵は手練れすぎる。俺達はこの状態じゃ下がることもろくにできゃしないじゃないか!」アッテンボローは戦況を見て毒づいた。
 メルカッツ艦隊は後退しながらも激しく、的確な攻撃を加え、同盟軍が後退すればすぐさま逆進して攻撃できる体制を崩さなかった。
 「アッテンボロー。聞こえるか?」要塞司令官アレックス・キャゼルヌ少将が通信を入れた。
 「こちとら激戦の中にあり!」アッテンボローはモニターに向かって叫んだ。
 「一旦後退しろ!敵の動向がわからん以上、むやみに追跡するな!」
 「ですが先輩!口でおっしゃるのは簡単ですが、この戦況じゃ後退することもできやしませんよ!下手をしたら平行追撃戦になってしまいます!」
 「それは分かっているが、他に手の打ちようもあるまい!フィッシャー少将が艦隊運動の指揮を執るから、お前は敵の反撃を封じ込めるんだ!」
 キャゼルヌの言うことにも一理あった。フィッシャーの艦隊運動で
後退するなら、それほどの混乱は生じるまい。「了解しました!せいぜい派手に攻撃して見せましょう!」

 「ほう。さすがだな同盟軍は。噂のヤン・ウェンリーの指揮能力は、伊達ではないと言うことか」メルカッツは呟いた。
 「ですが、このまま交戦を続けていては、やがてこちらがトールハンマーの射程に入ることになるかもしれません」副官ベルンハルト・フォン・シュナイダー中佐が意見を述べた。
 メルカッツは頷いた。「その通りだシュナイダー中佐。こちらはガイエスブルグを前進させ、ミュラー艦隊も投入することにしよう」
 
 「敵の要塞、動き出しました!」艦隊を有機的な運動で後退させていたエドウィン・フィッシャー少将の元に新たな報告がもたらされた。
 「敵要塞の主砲射程が分からない。敵艦隊を盾にしつつ後退する」フィッシャーは命じた。
 
帝国軍は逆に同盟軍艦隊をトールハンマーからの盾としつつ要塞をイゼルローンに接近させる作戦に出た。
 両軍が平行追撃戦を行っているかのような状況となったのである。
 イゼルローン回廊内を青白いビームが飛び交い、被弾した艦艇の爆発光が二つの要塞の表面に反射する。
 
 後に「要塞対要塞」とも言われた第八次イゼルローン攻防戦はまだ始まったばかりである・・・

 その頃、同盟首都ハイネセンではヤンがイゼルローン増援艦隊の準備に精を出していた。
 イゼルローン要塞が陥落するということは再び同盟領が戦場になるということであるし、ヤンにとっての家が喪われるということであった。
 イゼルローンを救援するために用意できそうな兵力は少なかった。
 パエッタ中将の第一艦隊は本土から出撃できなかった。
 「アスターテでの恩を返したい」とパエッタは国防委員会に艦隊の出撃を要請したというが、却下されたようである。
 ビュコック直率の第五艦隊も出撃を許されず、辺境星区に配備されていた艦隊で独立艦隊を編成し、それをイゼルローンに送り込まざるを得なかった。
 だが、独立艦隊の数は多く見積もっても5500隻ほどしかいなかった。イゼルローンにいる艦隊は今のところ14000隻。敵は28000隻。仮に独立艦隊が無傷のままのイゼルローン駐留艦隊に合流しても数は19500隻。帝国軍に遠く及ばなかった。
 それでも、イゼルローンを救援するしかなく、ヤンはわずかばかりの戦力をもってハイネセンを出撃したのである。
 
 「敵要塞、接近!」
 「トールハンマー発射用意!」キャゼルヌは立ち上がった。
 「最強の砲をもって最強の装甲を攻撃する。世の人、これを矛盾という」オリビエ・ポプラン少佐が軽口を叩いた。
 「お前なぁ・・・」イワン・コーネフ少佐が呆れて頭を押さえる。
 「敵要塞、射程内に入りました!」
 「撃てぇ!」キャゼルヌは手を振り下ろした。
 イゼルローン要塞主砲「トールハンマー」が発射された。吸い込まれるようにガイエスブルグ要塞に向かい、命中した。
 「命中を確認!」
 入れ替わりにガイエスハーケンがイゼルローンに直撃し、イゼルローンの人間はこれまで味わったことのない衝撃に襲われた。
 「第5ブロック損壊!生存者、無し!」
 「バカな!あそこには、4000の人間が詰めていたのだぞ!?」ムライ参謀長が唖然としていった。
 「戦死した模様!」
 「撃ち返せ!」キャゼルヌは命じた。
 再びトールハンマーが発射される。ガイエスブルグにもこちらが受けたのと同等、いやそれ以上の損害を期待するしかない。
 「駐留艦隊はどうした!?」キャゼルヌは聞いた。
 「敵艦隊多数と交戦中。後退は困難!」要塞防御指揮官ワルター・フォン・シェーンコップ少将が報告する。
 「耐えろ!ヤンが戻ってくるまで、ここを陥落させられてはいかん!」
 「敵弾、来ます!」
 激しい振動が司令室を襲った。
 「第七ブロック被弾!」
 「ブロックを放棄しろ!」
 「第三工場に流体装甲が流入!」
 「第三工場を含めたブロック全体を閉鎖!兵員の退避が終わったらすぐにやれ!」
 報告と対処指示が飛び交う。その間にも外では艦隊戦が続いている。
 「イゼルローンが砲撃されています!」
 「そうか。それがどうした!俺たちの家が吹っ飛ばされたわけではない!今は正面の艦隊にのみ集中しろ!」アッテンボローは激を飛ばした。

 「さすがはヤン・ウェンリーだ。この猛攻撃を見事に跳ね返している」メルカッツは称賛したが、実際のところヤンはイゼルローンにいない。
 「閣下。ミュラー提督より入電です」
 「つなげ」
 モニターにナイトハルト・ミュラー大将の顔が写し出された。メルカッツは敬礼した。
 「閣下。先ほど敵艦隊の残骸のなかに生存者を発見し、事情を聴いたところ、要塞にヤン・ウェンリーはいないといっていました。無視してもよろしいかもしれませんが、敵の行動があまりに消極的にすぎることの説明にはなります」
 「とすると卿はヤン・ウェンリーはここにはおらず、他の者が指揮しているというのか?」メルカッツは聞いた。
 ミュラーは頷いた。「はい。その可能性は十分にあります」その顔の右半分が、ガイエスハーケンの光に照らされた。
 「ううむ・・・」メルカッツは考え込んだ。「確かに卿の意見にも一理ある。もう少し敵の出方をうかがって考えよう」
 「はっ!」ミュラーは敬礼し、モニターから消えた。
 
 第八次イゼルローン攻防戦は、その激しさを増していた。

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第二十二話

 僕はイゼルローン攻略軍に状況の説明を求めた。
 ただし、ある思惑で副司令官の一人、ナイトハルト・ミュラー大将に。
 ミュラーは予想通りと言うより期待通りの報告をしてくれた。
 「捕虜の一人がヤン・ウェンリーはイゼルローンにいないと言っています」
 史実では、ヤンが要塞にいるという前提で戦いが進んだため、ヤンが帰って来るまでだらだらと戦い続けた。今回はそんなことのないようにしたい。
 翌日、僕は統帥本部総長としてメルカッツに命令した。
 「ヤン・ウェンリーはイゼルローンにあらず。よって、直ちに猛攻撃を加え、要塞を占領、或いは破壊せよ」
 この命令はメルカッツに「イゼルローンを破壊する」という選択肢を与えたものだった。

 統帥本部総長ヒルシュフェルト元帥の命令にしたがい、メルカッツ指揮下のイゼルローン攻略軍は一斉に攻撃に打って出た。
 まず、ミュラー艦隊12000が同盟軍艦隊と正面から交戦しつつ、ガイエスブルグ要塞が進撃する。
 「全艦攻撃!」ミュラーは手を振り下ろした。
 旗艦「リューベック」以下の艦隊が一斉に同盟軍グエン艦隊へと攻撃する。
 「攻撃を受けている!?そんなものは知るか!戦場で安全な場所などない!」グエンは報告してきた参謀に怒鳴り付けた。
 戦艦「マウリア」以下のグエン分艦隊4600とアッテンボロー分艦隊4400が数において倍以上のミュラー艦隊と交戦した。
 「艦隊を援護する!フィッシャー、艦隊も出撃させ、トールハンマーで支援しろ!」キャゼルヌはマイクに大声で怒鳴った。
 フィッシャー艦隊4500も出撃し、これでイゼルローン要塞の艦隊戦力が0になった。
 それでもなお、ミュラー艦隊と互角程度にしか戦えない。しかも、ヤン艦隊側は統率する指揮官がおらず、各艦隊がバラバラの状態で戦っていた。
さらにガイエスブルグ要塞がイゼルローン要塞に接近してきた。
 「トールハンマー発射!」シェーンコップが命じる。
 青白い閃光がガイエスブルグに向かってのび、それのお返しにガイエスハーケンも直撃した。
 「敵要塞、止まりません!」
 「バカな!奴ら、要塞同士をぶつける気か!?」キャゼルヌの首筋を冷たい汗が流れた。
 だが、現実はキャゼルヌが想像していたものより、もっと深刻だった。
 「共倒れを覚悟で・・・?」キャゼルヌが呟いたとき、
 「トールハンマー、流体装甲のなかに水没!使用不能!」
 「何だと!?」
 「引力だ・・・!」ムライ参謀長が唖然として言った。
 「ということは・・・後ろだ!」キャゼルヌは戦術テーブルに目をおとした。
 突然要塞が激しく振動した。
 「後方から敵艦隊!数、およそ15500!」
 「後方は無防備だ!浮遊砲台も使えない!」シェーンコップが歯を噛み締める。
 
 「全艦撃て。敵要塞に穴を開けるのだ」旗艦「ネルトリンゲン」でメルカッツは命じた。
 メルカッツ、ファーレンハイト艦隊が一斉に攻撃を開始した。数十万のビーム、ミサイルが剥き出しになったイゼルローンの表面を破壊する。
 史上初めて、イゼルローン要塞が艦砲射撃で傷つけられた瞬間だった。
 「攻撃を続けろ。反撃を許すな!」ファーレンハイトも旗艦「アースグリム」艦橋で部下を叱咤した。
 帝国軍はありったけの攻撃を撃ち込む。ワルキューレも要塞表面に取り付き、爆撃を開始した。
 この時は史実と違ってミュラーが敵艦隊を押さえていた・・・筈だった。

 「司令官代理。ここは後ろの艦隊ではなく、横の艦隊を攻撃しましょう。トールハンマーはそこになら撃てます」パトリチェフ副参謀長が提案した。
 キャゼルヌは頷いた。「では、そうしよう。トールハンマーで横にいる12000の敵艦隊を砲撃する!」
 トールハンマーがミュラー艦隊のほうを向いた。
 「閣下!トールハンマーが・・・!」オウラウ参謀長が若い司令官に顔をひきつらせて報告した。
 「何!?」ミュラーはイゼルローンのほうを向いた。トールハンマーがこちらを向いている!
 「全艦散会!しかるのち退避!急げ!」ミュラーは慌てて命じた。
 ミュラーの命令が伝達される前にミュラー艦隊の艦は退避を始めていた。だが、それは無秩序な混乱以外の何者でもなかった。
 「ファイア!」
 「一点を集中砲撃せよ!」
 「撃てえええい!」
 ヤン艦隊が一斉に砲撃し、ミュラー艦隊の艦が鮮やかな爆光に包まれて消滅する。
 「いたずらに陣形を乱すな!余計に損害を受けることになるぞ!」ミュラーはその人となりからは全く想像できない表情で艦隊に指示をだし続けた。
 だが、艦隊の混乱ぶりはいかにミュラーでも制御できず、ヤン・ウェンリー直伝の一点集中砲火でミュラー艦隊は一気に分断された。
 さらにその分断された艦隊にトールハンマーが襲い掛かった。
 白熱したエネルギーの波が帝国軍の白い艦艇を凪ぎ払う。崩壊へと向かうミュラー艦隊は半包囲陣形を取りつつあるヤン艦隊によって打ちのめされ、戦場をのたうち回った。
 その中でもミュラーは不退転の決意をもって旗艦「リューベック」を駆って戦場を駆け回り、崩壊しかけた陣形を再編し、分断された部隊を再結集させて戦線に投入し、同盟軍の攻撃を支え続けた。
 だが、猛攻撃の中でミュラー艦隊は既に戦力の大半を失っていた。 
 他の提督にはできない見事な防衛戦で味方を崩壊から救い続けたミュラーにも、地獄からの招待状が届いた。
 一発のビームが「リューベック」を貫き、艦橋にまで爆発が及んだ。
 ミュラーは数メートルの距離を飛ばされ、壁に激突し、床に転がった。
 「軍医!」オウラウが司令官のそばに駆け寄る。
 「閣下!閣下!」
 「・・・大丈夫だ・・・私は・・・まだ死ぬわけにはいかない・・・」ミュラーは弱々しく笑った。
 すぐに軍医がやって来た。ミュラーの傷の具合を調べる。
 「全治にどれくらいかかる・・・?」ミュラーは苦痛をこらえて起き上がろうとした。だが、激痛が走り、彼は床に倒れこんだ。
 軍医はミュラーの傷の度合いに驚いた。下手をしたら死んでしまうぞ。「か、閣下は不死身でいらっしゃいますな」 
 その背後で戦艦「ハルテンベルク」が火の玉となって弾けとんだ。
 ミュラーは口のなかに温かいなにかを感じた。「いい台詞だ・・・私の墓碑銘はそれにしてもらおう・・・ぐふっ!」彼の口から、血が漏れ出した。それと同時に、若い司令官は意識を失った。
 「閣下!」
 「大丈夫です。意識を失われただけです。ですが、すぐに手術しませんと」
 「すぐにやってく・・・」
 「援軍だ!援軍がきたぞ!」オペレーターが歓喜の声をあげた。
 メルカッツ、ファーレンハイト艦隊の全戦力がミュラー艦隊を救いに到着した。
 「ちっ!敵の艦隊を一個潰せるところだったのに!」アッテンボローは舌打ちした。
 「アッテンボロー。戻ってこい」キャゼルヌが通信画面から語りかけた。
 「了解」アッテンボローは反抗しようとしなかった。
 フィッシャーの艦隊運動で同盟軍は要塞に帰投した。
 帝国軍はそれを追撃する余裕はなく、一時的に後退するしかなくなった。
 こうして帝国軍の攻撃は失敗に終わり、ミュラー大将が負傷。8000隻の艦艇が失われた。

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第二十三話

 イゼルローン侵攻軍は最高戦力たるミュラー艦隊を壊滅させ、8000隻。の艦艇を失っていた。
 ミュラー大将は重傷を負って取り敢えず後方の病院船に収容され、残存艦隊1000隻も再編のために後方へと退いた。
 「してやられたな・・・」僕は報告書を見て呟いた。
 「どうする?このまま戦っていては我が軍の壊滅は目に見えている」統帥本部次長オスカー・フォン・ロイエンタール上級大将が聞いてきた。
 「そうだな。ロイエンタール上級大将とミッターマイヤー上級大将は直ちに艦艇30000隻を率いて出撃。イゼルローン回廊へと向かってくれ」
 ロイエンタールは席を立った。「了解した。俺の今日の業務はこれで終わりだ。後は頼む」

 帝都オーディンを戦艦「ベイオウルフ」「トリスタン」に率いられた31400隻の大艦隊が出撃した。
 「ローエングラム公も戦局の悪化を憂慮しておられた」ミッターマイヤーが通信画面越しにロイエンタールに語りかけた。彼は宇宙艦隊副司令長官なので、ラインハルトとよく接している。
 ロイエンタールは頷いた。「だがこの出兵を決められたのはローエングラム公だ。あの方も今回ばかりは失敗なさったな」
 ミッターマイヤーは目を細めた。ロイエンタールの言葉のなかに尋常ならざるなにかを見いだしたのである。「それは・・・」言葉につまり、話を変える。「過ぎたことを悔やんでも仕方あるまい。大事なのはこれからどうするかだ」
 ヘテロクロミアの青年提督は同意した。「そのとおりだ。いくら俺たちがここで論評しても、何ら建設的な意義はない」
 「とりあえずは急いでイゼルローンに向かおう。一刻も早く到着する必要がありそうだ」
 通信が切れると、ロイエンタールは従卒にコーヒーを運ばせてから彼一人の思いに浸った。
 (ローエングラム公も失敗をされるお方なのだろうか。今回の出兵はシャフトの俗物の提案したことだ。準備をしたのはヒルシュフェルトやキルヒアイスといっても、決断したのはローエングラム公に異ならない。あの方も、オーベルシュタインやシャフトの傀儡に成り下がられるのか。そうなったら目も当てられんな。そのときには・・・)
 ロイエンタールは赤と青の光を漆黒の宇宙に向けて放った。
 
 戦艦「ベイオウルフ」艦橋でコーヒーカップを傾けつつ、ミッターマイヤーは思う。
 先程の会話でのロイエンタールの言葉。何か危険なものがあった。
 言葉自体は問題とはならないだろう。もっとも、あのオーベルシュタインならその言葉を口実にロイエンタールの粛清を行うかもしれんが。
 だが、言った時にロイエンタールは何と思ったのだ?あの目はただローエングラム公を批判していただけではなかった。あいつは俺の知らないところで、何を考えて・・・
 「閣下」ミッターマイヤーの背後から声がした。
 ミッターマイヤーは思考を中断されたことに不満を覚えたが、口にも表情にも表さなかった。「バイエルラインか。どうした?」
 「メルカッツ提督からの報告文が入っております。ご覧になられますか?」カール・エドワルド・バイエルライン中将は言った。
 ミッターマイヤーはこれまでの思考の結晶を頭から追い払った。「見よう。持ってきてくれ」

 軍務尚書ジークフリード・キルヒアイス元帥は帝国軍最高司令官ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥の執務室を訪ねた。
 「どうした、キルヒアイス?」ラインハルトは従卒にコーヒーを持ってこさせ、椅子を勧めて聞いた。
 「ラインハルト様。イゼルローン攻略が順調でないとうかがいました」
 ラインハルトは頷いた。「分かっている。だからこそミッターマイヤー、ロイエンタールを送ったのだ」
 「いえ。私が申し上げたいのは、撤退すべきだということです。確かに、成果をあげてはいませんが、このまま戦闘を続けていれば損害は拡大する一方でしょう。それを防ぐためには、一刻も早く撤兵すべきです」
 「だが、俺の今の名声は勝利してきたからこそのものだ。それは知っているだろう、キルヒアイス」
 「存じております。だからこそ、不名誉な敗北を喫する前に撤退すべきなのです」
 ラインハルトはジークフリードの言葉に一理を感じていた。だが、彼のプライドが撤退の決断を下させずにいた。
 ジークフリードは何度も粘り強くラインハルトを説得した。
 「ラインハルト様!」
 「キルヒアイス!何度も言うな!」ラインハルトはキルヒアイスの態度に嫌気が差したようである。だが、明らかにこの態度は帝国元帥にふさわしいものではなかった。彼の純粋な、あるいは傲慢な一面がジークフリードを攻撃したのである。
 ラインハルトはジークフリードに退室を命じようとした。だが、その言葉が咽喉から飛び出す寸前に、新たな客が来た。
 「失礼します!統帥本部総長閣下、おみえであります」
 ラインハルトもジークフリードも、救われた思いだった。彼らの二人目の親友がやって来たのである。
 僕は部屋のなかに入ったとき、事情を50パーセントほど悟った。「ラインハルト様。提案がございます」
 ラインハルトは落ち着きを取り戻し、椅子に座った。「言ってみろ」
 「ただいまミッターマイヤー、ロイエンタール両上級大将が回廊に向かっております。ですが、イゼルローン攻略自体は困難でしょう。まもなく、あのヤン・ウェンリーがイゼルローンに到着します」
 ラインハルトの怒りが再沸騰し始めた。ジークフリードが僕を止めるかのような目で見る。
 「ですが、ここで撤退しても我らに利益はありますまい。なので、両提督の到着後に一度だけ総攻撃をかけることを許可いただきたく存じます」
 ラインハルトは体内の温度が急低下するのを感じた。ジークフリードはほっとため息を着いた。
 「・・・キルヒアイス。どう思う?」
 「それでよろしいと思います」ジークフリードは妥協した。恐らくここで即時撤退を進言しても受け入れられないだろうという判断が含まれていた。
 「わかった。ヒルシュフェルト。お前の作戦を是とする。直ちに準備にかかれ」
 「はっ!」
 僕が退室すると、ラインハルトはジークフリードに言った。「俺は時々自分の短気さをもて余したようだ」
 これがラインハルトの最大限の謝罪だった。ジークフリードか僕でなければこんなことすら言わないだろう。そうと知っていたジークフリードは笑顔を見せた。「お気になさらないでくださいラインハルト様。私がラインハルト様を見捨てることは決してございません」
 それはジークフリードの本心であった。
 「それはそうと、姉上との結婚式の準備は進んでいるのか?」ラインハルトは唐突に聞いた。
 「はい。今年中には」
 「そうか」ラインハルトの一言には、言葉で表せない重さがあった。

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第二十四話

 帝国軍による第二次イゼルローン攻略戦が失敗して後、帝国、同盟両軍はイゼルローン回廊内部で膠着状態にあった。
 両軍とも少数の艦隊を繰り出して敵の出方をうかがう形で時が過ぎ、戦闘開始から4週間が過ぎた。
 その日、メルカッツ艦隊の一部、グリューネマン中将の率いる艦隊の偵察隊が接近しつつある多数の光点を捉えた。その数は5000隻を越えると言う。
 「何だと!?」報告を受けたグリューネマンは顔を青くした。
 彼はこの情報が何を示すかわかっていた。
 同盟軍の援軍。ヤンの知謀に加え、更なる武力が加わったのだ。

 「ヤン提督が帰ってきたぞ!」
 「ヤン提督万歳!」
 イゼルローン要塞は歓呼の嵐に包まれた。
 「そうか。やっとヤンが帰ってきたか」キャゼルヌは深いため息をついた。
 ヤン艦隊のイゼルローンへの帰投は同盟軍に希望をもたらした。
 すぐに回廊各所に展開する帝国軍はガイエスブルグ要塞に撤退し、メルカッツは艦隊を再編した。
 ミッターマイヤー、ロイエンタール艦隊が到着するまで、この状況を維持する必要があった。
 
 「・・・と言うことだ。だから、敵軍はしばらくこちらに攻撃をしては来ないだろうね」ヤンは会議室に幕僚を集めて自分の見解を説明した。
 「では、こちらも戦力の集結を行い、戦闘に備えますか、提督?」ムライ参謀長が聞いた。
 「いや。ここはあえて攻撃に出ようと思う」

 ガイエスブルグ要塞正面で待機する帝国軍艦隊右翼、マイフォーハー中将の艦隊が接近する数百隻の艦隊を発見した。
 「敵の数は少なく、簡単に殲滅できます。ここは全艦隊で出撃するべきかと存じます」と参謀長は提案したが、
 「いや。メルカッツ閣下は援軍の到着まで大規模な戦闘は控えるように命令された。ここは命令を守るべきだろう。アルトマイヤーに迎撃させろ」
 アルトマイヤー准将率いる800隻の巡航艦部隊が出撃し、敵部隊と交戦状態に入った。
 同盟軍は消耗戦の無意味さを悟ったのか、後退を開始した。
 アルトマイヤー准将はこのまま撤退するのを良しとせず、追撃を命じた。
 帝国軍は一斉に攻勢に移り、戦列が同盟軍は算を乱して敗走した。
 そして勢いにのって猪突猛進したアルトマイヤー艦隊は気がついたときには上下左右を4000隻の敵に囲まれ、破壊的な連続掃射で潰滅した。
 ヤンは敵の一部のみをアッテンボロー率いる小部隊で自軍の陣の中に引きずり込み、包囲殲滅したのである。ヤンの作戦も去ることながら、アッテンボローの「逃げるフリ」は神業と呼ぶに値した。
 ヤンはすかさず全艦隊に兵力減少したマイフォーハー艦隊への攻撃を命じ、予備兵力として待機していたモートン少将の艦隊3000がマイフォーハー艦隊に襲いかかった。
 マイフォーハー艦隊は突然の奇襲に慌て、2000隻の残存艦隊の内1200隻を2時間で失った。
 メルカッツは直ちにミュラー艦隊の生き残りである総司令部予備部隊をグリューネマン中将の指揮下に入れ、マイフォーハー艦隊の救援に向かわせた。だが、グリューネマン艦隊は救援に向かったところを側面からグエン・バン・ヒュー、フィッシャー両艦隊に攻撃され、ズルズルと乱戦に引き込まれた。
 メルカッツは突然敵が攻撃に出てきたことに驚かざるを得なかった。数の差が残っている以上、同盟軍は防御に徹するものと思っていたのだ。
 しかし、彼も無能ではない。ガイエスブルグ主砲ガイエスハーケンの射程に敵を引きずり込み、撃破する作戦にでた。
 だが、彼の手元に残された予備兵力はファーレンハイト艦隊しかなく、しかもその一部は新たに出現した同盟軍空戦部隊との戦闘に巻き込まれていた。
 メルカッツはファーレンハイト艦隊の一部を前線から引き抜き、それをグリューネマン艦隊の救援に差し向け、混戦状態を脱させようとした。
 だが、その間にヤンの率いる主力部隊がマイフォーハー艦隊を殲滅し、そのまま帝国軍本陣をつかんとする勢いを見せた。
 メルカッツはこれに対処すべくガイエスハーケンの発射準備を進め、ヤンが接近してきたら巨大砲で殲滅しようとした。
 「閣下。敵要塞が砲撃準備を整えつつあります」フレデリカ・グリーンヒル大尉が報告した。
 「予想道理だ。無人艦部隊を突撃させてくれ」
 ヤン艦隊の高速艦1600はメルカッツの旗艦部隊に向けて一気に突撃してきた。それ以外の部隊はグリューネマン、ファーレンハイト、フィッシャー、グエン・バン・ヒューが乱戦を繰り広げている戦域に向けて回頭しつつある。
 メルカッツの本陣を守るのはわずか600隻の艦艇だった。
 「ファイエル!」メルカッツの号令と共にガイエスハーケンが発射された。光に包まれた同盟軍艦艇は消滅した。
 その間メルカッツの部隊は後退し、ヤン艦隊主力との距離をとった。これでヤン艦隊が再反転しても接近してこれない。
 だが、破局はその直後に待ち構えていた。
 「右舷前方、敵艦隊!数、およそ1000!」
 最大速力で突っ込んできたのはアッテンボロー艦隊だった。
 「ネルトリンゲン」の周囲で次々と爆発の渦に巻き込まれる戦艦を見たとき、メルカッツは自分がヤンの二重三重の罠に陥れられたことを実感した。
 
 ・・・宇宙歴798年、帝国歴489年5月1日21時21分、ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ上級大将は旗艦「ネルトリンゲン」と運命を共にした。
 総司令官を失ったことで帝国軍は大混乱に陥り、一挙に損害を拡大させ、ファーレンハイト大将が指揮統制を回復させたときには全軍の半分以上が失われていた。

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第二十五話

 メルカッツを失った帝国軍は既に崩壊寸前にある。
 ファーレンハイトが統率を回復したときも、同盟軍の苛烈な攻撃は終わっていなかった。
 「直ちに撤退する!艦隊陣形を再編して損害の多い部隊より先に後退させろ!」
 元々ファーレンハイトは速攻を得意とする猛将である。だが、彼は敗北が確定してもなお戦い続け、部下に無用な損害を出させるようなことはしない理性ある指揮官だった。
 彼は少しでも全面崩壊へのスピードを遅らせるべく処置をとった。自身が直接指揮する3000隻の戦艦部隊が他の巡航艦、駆逐艦部隊の盾になって同盟軍の攻撃を受け止めた。
 それでも既に同盟軍との数の差はいかんともしがたく、損害は拡大する一方だった。
 また、撤退する味方が邪魔でガイエスハーケンも砲撃できない。
 「くっ!どうにか打開策はないのか!」ファーレンハイトが歯軋りしたその時、
 「後方に味方艦隊!ミッターマイヤー、ロイエンタール艦隊です!」
 
 この状況下でやっと帝国軍の双璧と謳われる二人の青年提督が率いる30000隻の兵力が到着した。
 「メルカッツ!ファーレンハイト!応答しろ!」ミッターマイヤーは旗艦「ベイオウルフ」艦橋から呼び掛けた。
 「こちらはファーレンハイトだ・・・」ファーレンハイト艦隊旗艦「アースグリム」から返答が帰ってきて、ミッターマイヤーは僚友の生存にとりあえず安堵した。
 「状況はどうなっている?メルカッツは?」ミッターマイヤーは矢継ぎ早に質問を浴びせた。
 「そこまで説明している暇はない!すでに敵艦隊は目の前まで来ている!」ファーレンハイトの顔には焦慮がはっきりと浮かんでいた。
 その事はミッターマイヤーにもわかる。バラバラに帝国軍が逃げてくるのだ。このままではミッターマイヤー、ロイエンタール艦隊の戦列に突っ込まれて陣形が崩壊する恐れもあるのだ。
 「わかった。細かい報告は後でだ」ロイエンタールの冷静な声がミッターマイヤー、ファーレンハイトの鋭利な頭脳を戦術へと引き戻させた。
 次に発せられたロイエンタールの命令は苛烈極まるものだった。「今すぐガイエスブルグに総員退去を命じろ。要塞をイゼルローンに突っ込ませろ」
 一瞬だが、ファーレンハイトは耳を疑った。「何だと!?」
 「今すぐだ!そうしなければ我が艦隊は全滅するぞ!」
 「・・・了解した!」
 すぐにガイエスブルグ要塞に総員退去命令が発せられた。
 兵士たちは必要な作業を終え、シャトルベイへと走り出す。
 ガイエスブルグはイゼルローンへと向かい始めた。

 「敵要塞、イゼルローン方面に直進!あと30分で激突します!」
 その報告はキャゼルヌを唖然とさせるに十分だったが、ヤンは自分の部屋に一匹の蚊を見つけた程度の動揺もしていない。
 「全艦隊、一旦後退。全艦隊、敵要塞のエンジンを狙い撃て!」
 特攻するガイエスブルグに向けて砲撃するため、同盟軍艦隊は全てが後退した。
 「よし!敵が要塞に食いついた!ファーレンハイト!離脱しろ!」ロイエンタールは命じた。
 ファーレンハイトは艦隊をまとめて脱出を開始した。それを追撃する同盟軍は居なかった。
 その間にもガイエスブルグはイゼルローン要塞に向かって直進し続ける。その姿は亡きメルカッツの最後の意地のようにも思えた。
 「全艦隊、砲撃準備完了!」
 ヤンは右手を挙げた。
 「全艦・・・」
 そう言って振り下ろす。「撃て!」
 同盟軍の15000隻の艦隊が一斉に砲撃した。各艦から放たれた光の矢は束となってガイエスブルグの表面に露出しているエンジンを刺し貫いた。
 エンジンを破壊されたガイエスブルグは進路をずらし、迷走し始める。
 「撃てー!」
 そこにイゼルローン要塞主砲トールハンマーの光の鎚が叩きつけられた。
 ガイエスブルグは苦悶にのたうち回るかのように震え、遮光フィールドも通用しないほどの光を放って爆発した。
 この瞬間、帝国軍によるイゼルローン攻略作戦は同盟軍の勝利に終わったのだった。だが、ガイエスブルグが最後に稼いだ時間はファーレンハイト艦隊が脱出するのには十分な時間だった。



あとがき

どうも。風邪ひいて学校早退し、ベッドの中で三十分で書き上げたフェルです。
ここ最近寒すぎます。これ以上言うと住所ばれるので言いませんが。
今度新たな小説を書こうかどうか検討中です。
それは・・・




機動戦士ガンダム
とある青年がウォルフガング・ワッケインに転生した


となります。
では、ご意見、ご感想お待ちしております。
熱辛い・・・

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第二十六話

 イゼルローン要塞攻略作戦失敗。ガイエスブルグ機動要塞破壊。ウィウリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ上級大将戦死。
 これらの凶報が嵐のごとく帝都オーディンに流れ込み、ラインハルトは顔を一瞬真っ青にした。 
 「メルカッツは何をしていたのだ!私は奴にあれほどの戦力を与えていたのだぞ!」ラインハルトは手に持っていたワイングラスを床に叩きつけた。
 この時、そばにいたのがジークフリードと僕であったことは幸いと言えるだろう。
 「ラインハルト様、ミュラーやファーレンハイトを処罰されるおつもりですか!?」ジークフリードが聞く。
 「ああそうだ!奴ら自身の失敗だ。奴ら自身で償わせるしかない!」この時ラインハルトは冷静さを欠いていた。
 「ラインハルト様。確かにミュラーとファーレンハイトは失敗をおかしました。ですが、罪に報いさせるに必ずしも処断しかないと言うわけではありますまい!」
 ここで僕も加勢した。「そうです!それにミュラーは負傷するほどの苦境を生き残り、ファーレンハイトはメルカッツ提督亡き後も艦隊をまとめて完全崩壊を防いでいるではありませんか!」
 「だが、メルカッツが死んだあと、おめおめと生きて帰ったのだ!その罪を何者に帰すというのだ!」ラインハルトは怒ってそう言ったが、彼の怒りはミュラーやファーレンハイトではなく、また別のもの、あるいは自分自身に向けられているように見えた。
 「ラインハルト様。ラインハルト様はメルカッツやミュラー、ファーレンハイトではなく、ご自分にたいして怒っておられるのではないですか?」
 ラインハルトの大理石で彫刻されたような顔が赤みを帯びた。「何だと・・・?」
 「ラインハルト様はそもそもこの作戦を一番最初に発案されたラインハルト様自身にたいして怒っておられるように見えます!そうであれば、私も罪を免れることはできません!私が今回の作戦を計画したのですから!」
 「ヒルシュフェルト!」
 ここまで言ってしまった以上、もう止まることはできない。「自分を貶められることはありません!同盟軍が勝利したのはヤン・ウェンリーの智謀のお陰であって、決してメルカッツらが無能であったわけではありません!ラインハルト様は準備に最善を尽くされましたし、敗北したところで、その罪は次の成功によって補わさせればよいではありませんか!」
 「・・・」ラインハルトは顔を背けた。自分が間違っていると分かるとラインハルトはそういう仕草を取る。ラインハルトもやはり完全無欠な万能神ではなく、人間なのだ。
 「・・・分かった。俺が間違えていた。ミュラーとファーレンハイトには悪いようにはしない。それで良いだろう、キルヒアイス、ヒルシュフェルト」
 
 帝都オーディンに帰投した帝国軍の二人の敗将はラインハルトの前にひざまづいて敗北した罪を謝した。
 言い終わったところで砂色の髪の提督の包帯から赤い流れが出て頬を伝った。
 ラインハルトは数秒間無言だった。提督たちはミュラー、ファーレンハイトにどれだけの金髪の独裁者の怒りが降り注ぐかを想像して姿勢を固くした。
 だが、ラインハルトの口から紡ぎだされた言葉は諸将の思ったのとは違った。
 「卿らに罪はない。一度の失敗は一度の成功で償えば良いのだ。遠路の征旅、ご苦労であった」
 提督たちはまず意外に感じ、次いで安堵した。特にミッターマイヤーが体の緊張を解きほぐした。
 「閣下・・・」
 「私はすでにメルカッツ提督を失った。その上卿らまで失うことはできぬ。ミュラーは傷が全快するまで静養せよ。しかるのちに現役復帰を命じるであろう。ファーレンハイトは直ちに任務に当たれ。まずは卿の艦隊を再編し、再び訪れる戦いの時に備えよ」
 「はっ・・・!」
 次の瞬間、部屋にバタリと倒れる音がした。ミュラーが全身に重くのし掛かっていた緊張から解放された瞬間、意識を失ってしまったのだ。
 そのミュラーを見るラインハルトの瞳には冷淡さや苛烈さはなかった。「病院に連れていってやれ。それから、メルカッツは昇進だ。元帥の称号をくれてやれ」
 諸将たちはキスリング大佐の親衛隊に運ばれるミュラーを見送りながら彼らの主君が度量の広い人物であることを喜んだ。
 ファーレンハイトが提督の列に加わると、ラインハルトは冷淡な視線を一人の男にぶつけた。「弁解があったら聞こうか」
 シャフト科学技術総監は雪ダルマのようにも見える体を精一杯張った。「お言葉ながら閣下。私の提案にミスはございませんでした。作戦の失敗は統率及び指揮の任に当たったものの責任でございましょう」
 僕はここまで原作通りの展開になるとは思っていなかった。となれば、もうこの後も原作通りの展開になるのだろう。
 ラインハルトが嘲笑混じりに言う。「いたずらに舌を動かすな。誰が卿に対して敗戦の罪を問うと言ったか。ケスラー!ここに来てこいつに自分の罪状を教えてやれ!」
 歩みでたのは憲兵総監ウルリッヒ・ケスラー大将である。「シャフト技術大将。卿を収監する。罪状は、収賄及び公金横領、脱税、特別背任、軍事機密の漏洩だ」
 よくここまで調べられたな。僕はケスラーの捜査能力の高さを実感した。
 「証拠は・・・」
 「連れていけ!」ケスラーはシャフトに何も言わせずに連行させた。
 「クズが!」ラインハルトは吐き捨てた。

 フェザーン自治領。
 この戦争を背後から操ってきた第三勢力である。
 その自治領主補佐官、ルパート・ケッセルリンクはある家を訪れていた。
 戸を叩くと、中から壮年男性の声がした。「このような夜中に、どちら様ですか。名前を名乗っていただきたい」
 「フェザーン自治領主補佐官のルパート・ケッセルリンクと申します。元帝国軍所属のアンスバッハ准将でいらっしゃいますね?」
 アンスバッハ。元々ブラウンシュヴァイク公の腹心と言われた男。彼は即答しなかった。「・・・何か、ございますでしょうか?」
 「ご相談があります。閣下が、かつていた栄光の地位を回復することのできる・・・」


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第二十七話

 「で、何のお話ですか」自分より遥かに若い来客を家にいれ、アンスバッハは聞いた。
 「閣下はこれまでゴールデンバウム王朝を支える貴族のなかでも最大のブラウンシュヴァイク公に仕えておいででした。今、再び歴史をゴールデンバウム家に取り戻す好機です。ゴールデンバウム家の重臣としての義務を果たされる機会なのです」ルパート・ケッセルリンクは扇動するように言ったが、壮年の元帝国軍准将は動じなかった。
 「お帰りください。私は今新たに人生をやり直そうとしているのです。過去に回帰する余裕はありません」
 ケッセルリンクも決して諦めない。「過去は捨ててよろしいでしょう。ですが、未来もお捨てになるおつもりですか?」
 ケッセルリンクはさらにフェザーン自治領政府の権力を使って介入できると脅し、アンスバッハは渋々承諾せざるを得なかった。
 「で、私に何をしろというのです。ローエングラム公の暗殺でもせよと?」
「フェザーンは流血を好みません。平和こそが真の発展に繋がると思っていますから」ケッセルリンクの言葉にアンスバッハは顔をしかめたが、口では何も言わなかった。

 銀河帝国首都星オーディン宇宙港を一隻の戦艦が飛び立った。流線型の船体に入った緑のライン。
 統帥本部総長ルートヴィヒ・フォン・ヒルシュフェルト元帥の旗艦、「ルーヴェ」だった。
 僕は艦橋の指揮シートに座って視界から去ってゆく地上の風景を眺めていた。大雨が降り、良くは見えないが。
 これからアムリッツア星系に建設されつつある「アースガルズ要塞」の視察に出発するのだ。 
 ガイエスブルグ要塞を使ってのイゼルローン要塞攻略作戦が失敗して2ヶ月。同盟軍が進行してこないとも限らない(その確率は限りなく低いが)ので、アムリッツアには小型の要塞が数個建設されているのだ。
「周回軌道に到達。まもなくワープに入ります」「ルーヴェ」艦長のローザ・フォン・ラウエ中佐が報告した。
 彼女は今年28歳。(今の僕が)22歳なので、6歳の差がある。
 いつかやった銀河英雄伝説のゲームで出てきた気がしたので採用したが、想像以上に有能で、艦長として十分な能力を持っていた。
「直ちにワープに入ってくれ」僕は命じた。
 「了解しました」ローザは敬礼し、いくつかのスイッチをいれた。
 それを見ながら僕は今後のことを考えていた。
 この視察が終わったら帝都に帰還する。そして・・・

 
 雨はいっそうひどくなり、雷すら落ち始めた。それをラインハルトは芸術品でも観賞するかのように見物していたが、後ろでドアが叩かれるのに気づくと振り向いた。書類の整理をしていた首席秘書官ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフもドアの方を向く。
 入ってきたのはジークフリード・キルヒアイス元帥だった。赤いマントが、さらに赤い髪で際立って見える。
 「閣下。先日の件ですが・・・」
 「すでに決裁した。フロイライン」
 ヒルダが立ち上がり、数枚の書類をジークフリードに手渡した。
 「ありがとうございます」礼儀正しくジークフリードは礼を言うと、紙にさっと目を通した。
 ヒルダはそのまま部屋を出た。トイレと言ったが、二人に配慮したということに気づいたのは残された二人のうち一人だけだった。
 ラインハルトは外を見た。「ヒルシュフェルトが帰ったら、いよいよだな」
 ジークフリードは頷いた。「はい、ラインハルト様」
 「お前が本当に俺たちの家族になるんだ」
 それは十二年前からのことであった。だが、血縁上でもジークフリードはラインハルトと人生を共有できる存在になったのだ。オーベルシュタインが眉をひそめるだろうが、ラインハルトにジークフリードと僕は互いに欠けてはならない存在だった。

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第二十八話

 僕はアムリッツア星系に到着した。これから星系各所の要塞を視察する。
 この時点でアムリッツアに展開していたのはアイヘンドルフ少将の指揮する3000の艦隊である。
 前回のイゼルローン攻略作戦の失敗のあと、同盟軍が回廊内部で再び展開し始めたとの情報もあり、気を抜くことはできなかった。
 だが、差し当たり僕がいる間に大規模な戦闘が起こることはないだろう。僕はミュラーにかわって参謀長になったアルフレット・グリルパルツァー中将や副司令官グリューネマン中将とともに視察を開始した。

 先の攻防戦の後、同盟軍イゼルローン駐留艦隊パイロットの養成のための訓練航海は規模を増やして開始された。
 このときはグエン・バン・ヒュー提督が指揮するおよそ4000隻の艦隊がイゼルローン回廊で航行していた。
 古今東西、遭遇戦と言われるものはどちらも予測しないうちに戦闘状況が作り上げられてゆくものである。そして、当人たちがその状況に気づくのは戦闘が開始され、避けようがなくなったときである。このときもそうだった。
 アイヘンドルフ提督の艦隊2000が索敵に当たっていたところを同盟軍艦艇200隻を発見した。
 アイヘンドルフはここで攻撃するかどうか迷ったが、いくらヤン・ウェンリーでもこの状況で罠を張り巡らせているとは考えられないと判断し、艦隊に攻撃を命じた。
 だが、同盟軍の200隻はグエン・バン・ヒュー艦隊の前衛偵察部隊であり、そのすぐ後ろから本隊が進撃していたのである。
 「何?敵がだと?」グエンは報告を受けて驚いた。「敵の規模は?」
 「およそ、2000隻です!このまま放置していては、前衛艦隊が撃破される恐れがあります!」
 「では、攻撃だ!全艦隊、最大速力!」
 「了解。最大速力」グエンの脇に座る女性の艦長が指示を下す。
 グエン艦隊はずるずると戦いののめり込んだ。そしてこれが、アムリッツア要塞の初陣であったことを知るものはこの時点ではいなかった。

 「同盟軍が!?」僕は報告を受けて振り返った。
 「はっ!アイヘンドルフ提督から報告です!「我、敵艦隊ト交戦状態ニ入レリ。敵ノ数、オヨソ4000」以上です!」
 僕は小さく舌打ちした。「何でまた遭遇戦になるんだ!直ちに近隣の艦艇を集結させろ!私の指揮下に一時的にいれてアイヘンドルフを救援する!」
 「はっ!」グリューネマン、グリルパルツァーが敬礼し、旗艦「ルーヴェ」の通信コンソールへと走っていった。
 「艦長」
 艦長ローザ・フォン・ラウエ中佐が立ち上がった。
 「直ちに出撃準備だ」
 「はい。既に準備は済んでおります」ローザは答えた。
 僕は目を丸くした。「早いな。どうしてだ?」
 「ここは前線です。いつ敵が来てもおかしくはないので、いつでも出港できるように整えてあります」
 この若い女性艦長はやはり優秀だな。「そうか。ありがとう」
 
 無秩序な撃ちあいを続けるのに飽きたグエンは全艦隊に突撃命令を下した。
 「突撃!」 
 「全艦隊、突撃!」
 グエン艦隊は突撃を開始した。全砲門を開き、火力を叩きつける。
 だが、グエン艦隊お得意の突撃もこの時は不発に終わった。アイヘンドルフは敵が前進すれば同じ速度で後退し、敵の接近を許さなかった。逆に先頭集団に砲撃を浴びせて動きを封じる。
 「よし、全艦隊、主砲斉射三連!しかる後一斉回頭してアムリッツア方面へ向かう!」
 直ちに命令が伝達され、帝国軍艦隊は主砲を一斉に射撃して敵艦隊の動きを一瞬だけ封じ、その間に一斉に回頭、アムリッツア方面に最大速力で向かった。
 そちらにはヒルシュフェルト元帥の増援兵力、そして要塞があった。

 「敵艦隊、敗走していきます!」
 「ふん、逃がすか!全艦隊追撃する!あの敵を必ずや補足撃滅するぞ!」グエンの指示は単純で、誤解のしようもなかった。
 新米をのせた空母を下がらせ、グエン艦隊は速力をあげ、帝国軍艦隊を追撃した。
 
 「アイヘンドルフ艦隊より入電。敵を釣りだし、もう少しでこちらに到着するとのことです!」
 あのあと二日間にもわたる追撃戦の末、アイヘンドルフ艦隊は同盟軍をアムリッツアまで引きずり出すことに成功した。
 その間に僕の下には4000隻の兵力が集結し、反撃開始の時を待っていた。
 「閣下。まもなくニブルヘイム要塞主砲射程に入ります」グリルパルツァーが報告した。
 アムリッツアにいくつか建設された要塞群のうち、もっとも大きいのがニブルヘイム要塞である。要塞主砲「レーヴァテイン」は通常艦砲の1、5倍の射程を持つ。
 「射程にはいりしだい砲撃開始。全艦隊、前進」僕は命じた。
 「はっ!」

 「閣下!すでにアムリッツア恒星系にまで達しています!物資が不足し始め、これ以上は戦闘続行不能です!」
 「くっ!撤退するしかないのか・・・」グエンは悔しそうに歯ぎしりしたが、彼は既に来すぎていた。
 「高熱源体接近!艦砲ではありません!」
 「何!?」
 そのつぎの瞬間、旗艦「マウリア」の脇を青白いビームが掠めた。そのビームはグエン艦隊の艦艇300隻を瞬時に撃沈してしまった。
 「全艦、直ちに後退しろ!」グエンはそう叫ぶしかなかった。
 
 「よし!全艦隊突撃!敵を一気に押し崩す!」僕は席を立って命じた。
 旗艦「ルーヴェ」を先頭に、帝国軍は一斉に突撃を開始した。主砲を全力で撃ちまくり、同盟軍艦艇を宇宙のチリに変えてゆく。
 グエンは撤退に入った瞬間にその精強さを失い、猟犬に追い回される羊の群れのごとき醜態を見せつけた。
 旗艦「マウリア」もミサイルの直撃を受けて木っ端微塵に消滅した。
 他の艦も散り散りになって逃走し、アッテンボロー艦隊が救援に駆けつけるまでにほとんど壊滅してしまった。

 フェザーン。ルパート・ケッセルリンクはあるひとつの暗号文を送信した。
 「フェンリルは鎖から放たれた」
 この暗号を受け取ったアンスバッハ元准将は宇宙港に向けて歩き始めた。
 フェザーンの陰謀を叶えるために。

 あとがき
 どうも。名前がポンポン変わるフェルディナントです。
 最近は寒いですねー。皆さん、お元気になされてますか?
 今度から、この小説を週一投稿にしようと思います。日曜日の夜にに投稿するようにする予定です。
 たくさんの感想、ありがとうございます。もし登場させたいキャラクターがおありでしたら、お早めにお申し付けください。
 では。眠いのでお風呂入って寝ます。
 

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第二十九話

 僕がアムリッツアから帰ると、すぐにジークフリード・キルヒアイスとアンネローゼ・フォン・グリューネワルト伯爵夫人の結婚式が執り行われた。
 ジークフリード・キルヒアイスは長身の美男子、知性鋭利でしかもまだ二十代前半で元帥、軍務尚書の座を占める。それでいてラインハルト・フォン・ローエングラムに勝るとも劣らない美貌を有したアンネローゼ・フォン・グリューネワルトと結婚できたのだ。これを見てジークフリードは神に愛されたのだと言えない人がいるだろうか。言えないのは運命や神を否定する一部の人間だけだろう。
 式は結婚する人の地位からは想像もできない質素さで行われた。何よりも新婚夫婦がそれを望んだのである。そして式には希望者のみが出席し、ウォルフガング・ミッターマイヤーは妻をつれて、ロイエンタールも親友と共にやって来た。オーベルシュタインは参列しなかった。それ以外にも用事で出れない提督を除いてほとんどの提督たちが参加した。
 「ジークフリード・キルヒアイスが結婚したとはな。まぁ当然と言えば当然か」フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルトが言った。
 「夫婦共に素晴らしい方です。もしお子さまがお生まれになったらどれだけの御子のなられることか」隣にいたナイトハルト・ミュラーが言う。
 「そうだな。もし子供が生まれたらローエングラム王朝はローエングラム公が結婚なされずとも続くことができる」
 「問題は、あのオーベルシュタイン総参謀長がどう思うかです。地位を利用して政治に口出しするのではないかと疑うのではないですか?」ミュラーの疑問は荒唐無稽のものではない。
 これまでの王朝で皇帝の母、あるいは姉が国政に介入し、国を窮地に陥れた例はいくらでもある。もっともアンネローゼがそのようなことをするとは思えないが、あのオーベルシュタインのことだ。もしかしたらアンネローゼを疑ってキルヒアイスを要職から更迭するようラインハルトに進言するかもしれないが・・・
 「まぁ、ありえないか」
 これほど有能で、勇敢な副将、しかも幼馴染をラインハルトが捨てるとはまず考えられない。よほど関係を悪化させるなにかがない限り・・・
 一生の愛を誓うアンネローゼとジークフリードの姿は限りなく輝かしく見えた。だが、この会場にいた人の殆どは知らなかったであろう。
 この瞬間に、アンネローゼは10年以上の呪縛から、真の意味で解放されたことを感じていたことに・・・
 「おめでとう」僕はジークフリードに言った。
 「ありがとう」やや頬を赤く染めながらジークフリードが答える。
 「僕たちの誓いが、果たされたんだな」
 ジークフリードは頷いた。「アンネローゼ様は自由だ。これからは、僕がアンネローゼ様をお守りする」
 「ラインハルト様も守り、アンネローゼ様も守るのか。大変だな」
 「だからこそ、ルートにも頑張ってほしいな」
 「勿論だ。お二人を守ることは、僕の責務のひとつだから。ジークフリードも、これからもよろしく頼む」

 式が終わると、新婚夫婦は自然豊かな惑星アースガルズに旅行に出掛けた。
 僕は統帥本部総長として国内の防衛、外征の準備に専念していた。
 それにしても、なんと理想的な形で物語は進行しているのだろう。オーベルシュタインが独裁的に権力をふるえる状況は到来せず、アンネローゼはジークフリードと結婚し、まだ一人としてローエングラム元帥府からの戦死者はいない。
 「だからこそ、これまで以上に注意しないといけないか」
 ここまで歴史が原作から変われば、この先何が起きるかわからない。これからは原作の知識だけではどうにもならないこともあるだろう。
 「頑張らないとな・・・」
 
 一人のうら若い女性があるいていた。律動的な歩調もち、男のような服装をし、くすんだ色調の金髪を短くしているので、美貌の少年のようにも見えるが、ごくわずかな化粧と、襟元からのぞくオレンジ色のスカーフとが、彼女が女性であることを証明しているようだった。
 帝国宰相首席秘書官、ヒルダことヒルデガルド・フォン・マリーンドルフがラインハルトの執務室の前にたつと、衛兵が敬礼し、うやうやしくドアを開いた。彼らに無条件でそうさせるだけの立場を、ヒルダは既に獲得していた。
 気さくに礼を言って広い室内にはいったヒルダは、建物の主人であるラインハルトの姿を求めて視線を動かした。帝国宰相にして帝国軍最高司令官を勤める金髪の若者は窓際に佇んで外を眺めていたが、豪奢な黄金の髪を揺らして振り返った。 
 「お邪魔だったでしょうか、宰相閣下」
 「いや、かまわない。用件をうかがおう、フロイライン」
 「憲兵総監ケスラー大将から面会願いが届いております。それも至急に、と」
 「ほう、ケスラーがそれほど急いでいるか。会おう。連れてきてくれ」
 彼は地位に伴う責任を回避したことは一度もなかった。それは彼の敵対者でさえ否定できない事実だった。
 
 「ご多忙のところ恐縮です」帝都防衛司令官であり憲兵総監でもあるウルリッヒ・ケスラー大将は若い主君に敬礼した。
 「実は先日、旧大貴族の残党二名が帝都に潜入いたしました。」
 「どうやってそれを知ったのだ?」
 「実は、密告がありまして・・・」
 「密告?」ラインハルトは不快そうな顔になったが、ケスラーの用件はまだ終わってはいない。彼はコンピュータースクリーンに二人の人物の顔を写し出した。
 一人は黒髪の壮年の男、もう一人は銀色の髪を持った若い士官である。
 「どちらも元々ブラウンシュヴァイク公の部下でした。一人はアンスバッハ准将、もう一人はフェルナー中佐と言います」
 この世界では、アントン・フェルナーはフェザーンに亡命していた。
 「ほう。アンスバッハは知っている。悪い印象は受けなかったが・・・このフェルナーと言うものは初めてみるな」
 とにかくにも、貴族の残党が潜入したことは事実である。しかも、身分証明書がフェザーン発行である以上、何らかの形でフェザーンが関わっていることは事実である。

 ・・・こうして、オーディンにおいて陰謀戦が繰り広げることになった。そしてそれは、更なる戦いの発火点でもあったのである・・・


 あとがき
 どうも。フェルディナントです。
 昨日ツイッター始めました。ここでの名前もフェルディナントです。趣味とか生活とか色々とつぶやいています。
 アドレス(っていうのかな?)貼っときます。良ければフォローしてください(土下座姿勢)
 @admiral_Fiel

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第三十話

 帝都オーディンにある小さなホテル。フェザーンが運営するこのホテルにアンスバッハ准将とフェルナー中佐はいた。
 アンスバッハもフェルナーも皇帝を誘拐するというこの計画には賛成ではなかったが、フェザーンでの生活権を剥奪されるとあっては、協力せざるを得ないところである。
 アンスバッハはこの状況にたいしては受動的で、フェザーンの指示を受け入れていたが、もう一人の方には別の考えがあった。
 (誘拐ごっこに付き合って人生を無駄にはしたくないからな。アンスバッハには申し訳ないが)
 フェルナーはこの状況を逆用して自分の未来を勝ち取ろうとしていたのである。
 誘拐実行の二日前、フェルナーは誘拐成功のために高等弁務官ボルテックに陽動作戦の依頼、誘拐後の保護を要請した。
 
 「そんな!では、モルト中将は・・・」ラインハルトの宰相府宰相執務室にはラインハルトとジークフリード・フォン・キルヒアイス元帥と僕がいた。
 「彼には申し訳ないことだが、死んでもらうしかない。誰かに責任をとらせなければならないの異だ」ラインハルトは答えた。
 僕らが話しているのは、原作でも出てくる、「フェザーンに皇帝を誘拐させ、責任をモルト中将にとらせる」と言うことだった。この策略はオーベルシュタインが提案したものである。
 「ラインハルト様・・・戦って宇宙を手にいれる以上、敵味方の血が流れるのは仕方ないことです。ですが、戦いと関係ないところで、なんの責任もない部下を殺されるのですか?」
 この計画は効率的であることは僕にもわかる。モルト一人が死ぬことでフェザーン侵攻、同盟侵攻の大義名分がたつし、同盟内部の分裂も期待できる。だからこそ皇帝を誘拐させることは決して反対ではないのだが、それの責任をモルトに押し付け、処断するのはいかがなものだろうか。
 「ラインハルト様。計算の上で無実な部下を死なせるなど、お手を汚されるようなことなどなさいますな。皇帝を誘拐させればよろしいが、モルト中将に責任を押し付け、処断する必要はないでしょう?」
 ラインハルトは首を振った。「だが、モルトが死ななければ誰が責任をとるというのだ。皇帝を誘拐されておきながら誰にも責任を追わせないわけにもいかないだろう」ラインハルトの声には自分自身が自分の今言っていることに納得していないという事実を感じさせるものがあった。「それに、覇者がこれまでひとつの悪行もなさずに覇業を達成したことがあるか?」
 ラインハルトの言葉に、反論はできない。覇者は時には味方を殺さねばならない。だが、僕にはラインハルトにはそうなってほしくないっとい思いがあった。それに、ジークフリードのことがある。二人の仲を引きちぎる要素は僕が排さなくてはならなかった。
 「それにだ、モルトは古風な男だ。たとえ助命したところでそれに甘んじたりはしないだろう」ラインハルトの声にはやりきれない怒りがあった。
 「ですがラインハル・・・」
 「ラインハルト様」僕はあえてジークフリードの発言を遮った。ジークフリードが驚いてこちらを見つめるが、それには構わず、僕は次の言葉を紡ぎだした。「彼らの陰謀を成就させ、なおかつモルト中将に不当な処置をとらずにすむ方法があります」
 ラインハルトの瞳が光を放った。それは光明の、希望の光だった。
 「誘拐の実行日はフェザーンからの情報ですでに明らかになっています。なので、その日の夜にモルトを防衛配置上の相談という形で統帥本部に呼び、その間に誘拐を実行させるのです。彼のいない間は指揮系統が成り立っていないので、誘拐も成功しますし、責任をとるべき人間はモルト中将を呼び寄せた人物という形になります。そこで私が一時的に減給されれば事件の責任問題は解決いたしましょう。ケスラー大将も同様です」
 やや難のある無理矢理な理論だが、責任問題をうやむやにできる。ありがたいことにモルト不在の間は指揮するものがいない状態になる。さすがに配下の指揮官全員を処罰するわけにはいかないので、呼び寄せた僕が減給すればいいのだ。
 「・・・なるほど」ジークフリードが目をやや見開いた。彼もフェザーンの誘拐を成功させてやることには反対ではない。民衆を犠牲にしているわけでもないのだから。
 「わかった。ではそうしよう。だが、ヒルシュフェルトはそれでいいのか?」
 「私はラインハルト様のために尽くすのみです。十年前からずっとそうでした。それに、ただの減給程度、問題ではありません」前半部が僕の思いを物語っていた。

 アントン・フェルナーが宰相府に出頭したのは誘拐が実行された夜のことである。
 アンスバッハとともにエルヴィン・ヨーゼフ二世を誘拐した直後、行方をくらましたのだ。
 フェルナーは自分がフェザーンによって誘拐犯になったことを堂々と言い、さらにブラウンシュヴァイク公爵の部下であったことも臆面もなく言い放ち、その上で「配下に加えてほしい」と申し込んだのである。
 「・・・すると、卿はどういう価値基準で行動しているのか?」
 「自分にとって、能力を最大限発揮できる場所です。自分の能力を認められず、使われない場所にいるなど、宝石を泥のなかに放り込むようなもの。社会にとっての損失だとお思いになりませんか」
 ラインハルトはあきれて首を振った。「ぬけぬけと言うやつだ」だが、彼に陰湿さがないことも分かったので、彼にオーベルシュタインの配下に入ることを許した。
 一方でアンスバッハはフェルナーが消えた後一人で皇帝を連れ出し、フェザーン高等弁務官府に保護された。
 ノイエ・サンスーシを守護する役目を果たしていたモルト中将は統帥本部総長ルートヴィヒ・フォン・ヒルシュフェルト元帥に呼び出され、防衛部隊の配置の相談をしており、彼は事態が手遅れになった段階ですべてを知らされた。彼は愕然として、続いて唖然として事態を飲み込んだ。
 翌日ルートヴィヒ・フォン・ヒルシュフェルト元帥は首都防衛司令官ウルリッヒ・ケスラー大将とともに宰相府に出頭し、モルトをもっとも大事なタイミングで職場から引きずり出した罪を詫びた。ラインハルトは彼に減給を命じ、ケスラーにも同様の処置をとった。
 こうしてフェザーンの陰謀を成功させつつモルトを救う僕の計画は成功した。だが、モルトは責任を痛感し、拳銃で自殺した。
 僕はそれを聞いて故人の死を惜しんだ。だが、モルトの名誉は、この計画で守られたのである。これだけでも満足すべきかもしれなかった。

あとがき
 どうも。YOUTUBEに動画を投稿し始めたフェルディナントです。
 今回のヒルシュフェルトの計画のために、原作から設定を変更してありますが、ご了承下さい。フェザーンからは決行日は伝えられていなかったと言うところです。
 
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第三十一話

 皇帝誘拐の直後から、僕は同盟領侵攻作戦の準備にかかった。戦略物資の集積、輸送艦隊の編成、警備部隊の編成など、やることは山ほどある。
 これまで放置されていた損傷艦艇にも修理を行って再就役させ、艦隊に編成した。
 そのような中、同盟から「帝国正統政府」の結成の報が届いた。
 「そうか。では、出撃の体制を整えなくてはな。まこと逆説的だが、これでローエングラム公は同盟をお討ちになる大義名分を手に入れられたわけだ」僕はロイエンタールに言った。
 彼が事態の一部を洞察していることを僕は原作で学んでいる。それでも、真実を表に出さない努力は必要だった。
 「そうだな。ならば準備を整えなければなるまい」ロイエンタールはそう言って三十枚ほどの紙の束を手に退室した。その時彼の肩から栗色の髪の毛が一本床に落ちたことを僕は見逃さなかった。
 「・・・そうか、また女を変えたのか」
 ロイエンタールの行為が道義上正しくはないことを知っているが、あそこまで女性に対する吸引力を発揮されると、羨ましくもなる。
 「向こうの世界でも、彼女なんていなかったからな・・・」小声で呟くと、僕は頭を振って邪魔な思いを頭から追い出した。やることはまだまだあるのだ。ボーッとなどしていられない。
 
 しばらくして、ラインハルトは同盟侵攻作戦の発動を提督たちに伝えた。それもこれまでのようなイゼルローンからの突破ではなく、フェザーンを占領しての侵攻である。
 ついに、「ラグナロック(黄昏)」が始まろうとしていた。
 直ちに本格的な準備が開始された。
 フェザーンを占拠し、同盟領侵攻の足掛かりを築くのはウォルフガング・ミッターマイヤー上級大将である。彼の後にはナイトハルト・ミュラー大将、オスカー・フォン・ロイエンタール上級大将の艦隊が艦列を並べて続く。その後ろからルートヴィヒ・フォン・ヒルシュフェルト元帥の艦隊が進撃し、五人の中将を配下にいれるラインハルト・フォン・ローエングラム元帥の艦隊が続く。旗艦「ブリュンヒルト」には総参謀長でもあるパウル・フォン・オーベルシュタイン上級大将、首席副官アルツール・フォン・シュトライト少将、次席副官テオドール・フォン・リュッケ中尉、首席秘書官ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフなどが乗り込む。
 その後ろからはヘルムート・レンネンカンプ、カール・ロベルト・シュタインメッツ大将の艦隊が続き、フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト、アーダルベルト・フォン・ファーレンハイト大将の艦隊は予備兵力として待機する。
 一方で陽動部隊であっるイゼルローン侵攻軍の布陣も重厚である。
 軍務尚書ではあるが、職務をメックリンガー提督に代行させて出撃した「帝国の剣」との渾名を持つジークフリード・フォン・キルヒアイス元帥指揮のもとにアウグスト・ザムエル・ワーレン大将とコルネリアス・ルッツ大将の艦隊が参戦し、その後方にはエルンスト・フォン・アイゼナッハ大将の艦隊が続く。
 原作で司令官の言うことを聞かず、独断を行ったレンネンカンプをフェザーン方面に置き、この世界ではまだ実現していないジークフリード、ワーレン、ルッツの三人をイゼルローン攻撃軍に配置したのだ。この布陣であればもしかしたらヤンを倒してくれるかもしれないという期待を込めてである。
 イゼルローン攻撃軍は約43000隻、フェザーン攻略軍は約105000隻。リップシュタット戦役がなかったお陰で、これだけの数の宇宙艦艇を結集させることができた。
 そして遂に作戦は開始される。第一段階として、ジークフリードの率いるイゼルローン方面軍が出撃した。
 そして他の艦隊も出撃の準備を整え、臨戦態勢にある。

 一方の同盟軍は、兵力が非常に少ない。イゼルローン要塞にいる艦隊が14500隻。本土に駐留する部隊に警備部隊も含めた艦数は35200隻だった。そして同盟軍は帝国軍がイゼルローンを突破するととらえており、ヤン・ウェンリー、アレクサンドル・ビュコックのさんざんの要請を無視してフェザーン方面の防御ラインを構築しようとはしなかった。

 ジークフリードの率いる艦隊はイゼルローン要塞を射程内に収めようとしていた。
 「閣下。いよいよですな」参謀長ハンス・エドアルド・ベルゲングリューン中将が言う。
 「そうですね」ジークフリードも頷いた。
 (必ず、生きて帰ります、アンネローゼ様)ジークフリードは遠く数千光年を飛んだ先にいる人に心の中で呼び掛けた。
 「要塞、主砲射程内です!」
 「全艦隊、砲撃準備!」
 40000を越える艦隊が砲撃の準備を整える。砲手たちの手も汗で滑るようになっていた。 
 ジークフリードが右手を軽く挙げた。
 その姿を周りの人間が神経まで静寂にして眺めた。
 緊張の一瞬が過ぎ、ジークフリードは手を勢いよく振り下ろした。「ファイエル!」

 あとがき
 どうも。YOUTUBEの視聴回数が少しだけど増えていることをニヤニヤしながら眺めているフェルディナントです。
 寒すぎて手が悴み、小説を書くのに時間がめっちゃかかりました。というか疲労困憊しているなかで書くのは大変ですね。しっかり休みます・・・

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第三十二話

 キルヒアイス艦隊が要塞を砲撃し初めてから七時間後。
 要塞表面の砲台は破壊されるか、内部に撤退するかして抵抗は全くなかった。
 数の差があるため、ヤン艦隊もそう簡単に要塞から出てくることはできない。下手をすれば出てきたところを三倍近い兵力差で長距離砲撃を受け、イゼルローン回廊の死骸の山の一部になることもある。
 それがわかっていたから、ヤンは艦隊を出撃させなかった。ジークフリードは平凡ながら重厚な陣形を敷いており、兵力も固まっているため、付け入る隙が全くない。
 「敵の火力集中ポイントの流体装甲、あと六時間で貫通します」
 「閣下。このまま戦局を眺めているだけでは、いずれ装甲が貫通されてこの要塞も破壊されます!」ムライ少将が言う。
 「分かっている」ヤンは自分が座っているコンソールを蹴飛ばしたい気持ちだった。ムライの言うことがわからないヤンではない。イゼルローンの鉄壁の防御はトールハンマーと厚い装甲の上になりたっているのだ。敵がトールハンマーの射程外から砲撃している以上駐留艦隊でどうにかするしかないが、艦隊が出たタイミングを狙って敵将ジークフリード・キルヒアイスは攻撃を集中させ、掃射で殲滅されるだろう。だからといってこのまま待っているだけではいずれは装甲が破れ、そこに砲撃が集中して艦砲でイゼルローンは大損害を被るだろう。
 普通であれば艦砲射撃程度ではイゼルローンの外壁を打ち破ることはできない。だが、この時ジークフリードがイゼルローンのただ一点に集中させた火力は尋常なものではなかった。三万を越える艦艇の全ての主砲がイゼルローンの一点、半径二キロメートル程度の圏内に集中しているのである。普通それだけ撃ちまくれば兵站面での負担は並のものではないが、帝国軍の数的優位が可能にした輸送艦の大量展開とジークフリードの綿密な補給計画はこれだけの火力集中を可能にしていた。
 「閣下!」ムライがヤンに脅迫するかのように声をあげた。
 「分かっている!」ヤンは怒声一歩手前の声で返した。
 イゼルローン、同盟を守る最大の関門を守るヤンの心労は半端なものではなかった。しかも市民が司令部に押し掛け、警備の兵士たちがそれに対応している状況である。市民の声が司令部まで入ってくる。ヤンは何度も「心配ない」と繰り返したが、市民は毎日押し掛けようとしていた。
 そしてヤンは人生初めてのことをやってのけることにした。「勝算の完全にない戦い」である。

 「敵艦隊が港を出ました!」
 「数は?」ジークフリードは聞いた。
 「およそ、1000!」
 「陽動でしょうか?」参謀長ベルゲングリューンが聞く。
 「だとしても、ここで’倒すメリットはあるはずです。ワーレン提督の艦隊は敵の1000隻の艦隊を砲撃せよ!」
 すぐさまワーレンは指示を実行した。敵艦隊を砲撃したのである。
 だが、射程ギリギリでの砲撃は同盟軍にさほどの損害を与えなかった。十倍以上の差があるため同盟軍艦艇は次々と轟沈していくが、かなり時間がかかった。
 「くっ!あの程度の敵に何をてこずるか!」ワーレンは歯軋りしたが、トールハンマーの射程内に入るわけにもいかない。砲撃が続いた。
 だが、今度は、先ほどと反対側から1000隻の艦隊が出てきたのである。
 「ルッツ艦隊をもって砲撃!」ジークフリードはワーレンが排除にあれだけてこずっていることをみても自分自身の艦隊にはイゼルローンの砲撃をやめさせなかった。少しの間でも停止すれば、再び流体装甲は元に戻ってしまう。
 ルッツ艦隊がやはり同盟軍の排除にてこずっているとき、
 「敵艦隊およそ1500隻!同盟領方面に向けて離脱していきます!」
 「どう言うことでしょうか、閣下?」ベルゲングリューンが聞いた。
 「どう思いますか、ビューロー中将?」
 ジークフリードに問われたフォルカー・アクセル・フォン・ビューロー中将は少し考え込んだ。「恐らく、VIPが脱出しているものかと。先ほどの敵艦隊は離脱の間我々を拘束する囮でしょう。ですが、意外にも速く排除が終わり、我々は追撃できる状態にあります。いかがなさいますか、司令官?」
 ジークフリードは少し考え込んだ。
 今あれを捕まえることができれば、それを取引材料にイゼルローンに開城を迫ることもできる。そもそも敵を減らしておくことは、今後のためとなる。
 「ワーレン艦隊に伝達。要塞から離脱しつつある敵艦隊を捕捉、撃滅或いは捕虜とせよ!」
 この時ジークフリードはこれらがすべて敵の罠であるという発想に至らなかった。偶然ではあったが、これはヤンにとって救いだった。

 「敵艦隊、囮部隊を追撃します!」
 「他の艦隊に動きはありません!」
 司令部が久し振りに明るい雰囲気に包まれた。ヤンはベレー帽をとってくるくると回し、安堵のため息をついた。
 「うまく行きそうですな、閣下」副参謀長パトリチェフ准将が言う。
 「そうだね」ヤンは同意したが、気を抜くことはしなかった。ベレー帽を被り直し、報告に耳を傾け始めた。
 
 「敵艦隊を捕捉!」
 ワーレンは頷いた。「よし、艦隊を二分する!ザウケンの部隊を敵の前方に進出させ、包囲せよ!」
 ワーレンの思惑通り、同盟軍の脱出艦艇は包囲された。
 「停船せよ。しからざれば攻撃す」との通信を飛ばしながらゆっくりとワーレンは同盟軍艦隊に近付く。
 そして、互いに接近して、接舷せんばかりまで近づいたとき、
 「な、何だ!」
 同盟軍1500隻の艦艇が一斉に爆発した。爆光に巻き込まれて帝国軍艦艇が消滅していく。この一撃はワーレン艦隊に物的被害以上に指揮統制の面での被害を与えた。
 そこに同盟軍アッテンボロー、フィッシャー艦隊が襲いかかったのである。この部隊はキルヒアイス艦隊攻撃範囲外で要塞の外に出て待機していたのだ。
 「撤退!撤退しろ!」ワーレンは指示したが、通信網がめちゃくちゃになっており、味方に通信が届いたかどうかすら判別できなかった。陣形も乱れに乱れ、復讐心と闘争意欲に溢れた同盟軍艦隊の猛烈な砲撃になぎ倒された。
 ようやく指揮を回復し、撤退したとき、ワーレンは2000を越える艦艇を失っていた。
 「くっ!ヤン・ウェンリーにしてやられたわ!」ワーレンは屈辱に歯を噛み締めた。

 あとがき
 どうも。フェルディナントです。
 YOUTUBE動画を作るのと視聴者を確保するって大変だね。まぁ頑張っていきます。
 先週は風邪で寝てこんでしまい、小説を投稿できず申し訳ございませんでした。また日曜日に投稿していきます。
 みなさん、STAR WARSエピソード8は観られましたか?私は昨日観てきましたが、とても良かったですよ!予想を次々と裏切ってきて!そして最後には感動のシーン!あれは映画史に残せる一作でした1是非見に行ってみてください!

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第三十三話

 イゼルローンへの攻撃を一旦中止したジークフリードは本国に「増援を要請した」。これを受けてラインハルトは即応体制で待機していたウォルフガング・ミッターマイヤー上級大将の艦隊に対して出撃を命令した。
 直ちにミッターマイヤー艦隊はイゼルローン回廊へ向けて進撃・・・するはずであった。
 だが、
 「このコースでいいのか?イゼルローン回廊とは別のほうに向かっていないか?」
 「だが、他ならぬ司令官閣下のご命令だ。俺たちは黙って従うしかあるまい」
 そしてミッターマイヤー艦隊はイゼルローン回廊へ向かうことのできる最後の分岐点に到達した。
 その時、司令官ミッターマイヤーから訓示が発せられた。
 「我らが向かう先はイゼルローン回廊にあらず。フェザーン回廊である」
 
 惑星フェザーン。
 駐在武官ユリアン・ミンツは夜闇を振り払うようにして降下してくるエンジンのバーナー炎を見た。
 「帝国軍の侵攻だ!」
 「降下してくるぞ!」
 ユリアンは踵を返して弁務官事務所に向けて走り出した。

 ミッターマイヤー艦隊の後をおって進撃するロイエンタール艦隊。
 「閣下。ミッターマイヤー艦隊より入電。「我、奇襲に成功せり」以上です!」
 ロイエンタールは頷いた。「よし。我らも急ぐぞ」
 疾風との渾名を取るミッターマイヤーのことだ。フェザーン当局が対応できないうちに制圧してしまったのだろう。
 (今回は俺の出番はなしか・・・まぁ構わん。いつかは戦うときも来るだろう)

 ジークフリードはフェザーン占領さるとの報告を旗艦「バルバロッサ」艦橋で受けた。
 「こうなればヤン提督はこのイゼルローンを放棄せざるを得ないでしょう」ジークフリードは各艦隊の司令官、参謀長を集めて説明した。
 「フェザーンを突破されたのでもはやイゼルローン要塞はその意味を果たしません。彼はイゼルローンを放棄し、わが軍の主力艦隊との決戦に全力を注ぐでしょう」
 「では、どうなさるのです?」ワーレンが聞いた。
 「ヤン艦隊1000隻以上を自由に行動させると言うことは敵が好きな場所に投入できる予備兵力を確保したのと同じことになります。よって、わが艦隊はイゼルローン占領には最低限の兵力を割きつつ、全力をもってヤン艦隊を追撃します」
 幕僚たちから感嘆の息が漏れた。
 「必ずしも戦闘に突入する必要はありません。後ろにぴったり張り付いてついていくだけでヤン提督にとっては大変な脅威となります」
 「ですが、我が艦隊がヤン艦隊にくっついていった場合、主力よりも行動の開始が早い分突出することになります。そこを敵の全軍をもって攻撃されたらどうなさるのです?」ルッツが聞いた。
 ジークフリードは頷いた。「ルッツ提督のご指摘はもっともです。ですが、我々は必ずしも敵首都まで到達する必要はないのです。敵の主力を拘束することができればそれだけで十分目的を果たしたことになります。我々が単独で敵奥深くに入り込み、同盟軍の主力を拘束している間に主力が首都に侵攻できれば我々の勝利です」
 「なるほど」
 「向こう数日でヤン提督は離脱を開始するでしょう。戦闘にはならない距離を保って全力で追撃します」

 ヤン艦隊はついにイゼルローン要塞の放棄を決定し、艦艇にまで避難民を収容して脱出作戦「方舟」を開始した。
 ジークフリードは全戦力をもって追撃を開始した。それと同時に少数の制圧部隊がイゼルローンに突入した。
 内部に入った部隊は直ちにもぬけの空となった要塞全区画を制圧。司令部を占領したが「罠」の存在には気づかなかった。
 追撃を開始してから三十分後
 「後方で爆発確認!」
 「なんだと!?」
 イゼルローン要塞表面で爆発の炎が踊っている。
 「しまった!敵の置き土産には気づかなかった!」
 「もし艦隊が接舷するタイミングで爆発していたら・・・」
 ヤンは真の罠に気づかせないために爆薬を仕掛けていたのだが・・・史実で爆弾の存在に気づいたルッツが追撃に入っていたために意見具申をすることがなかったために要塞は爆発したのである。
 爆発は収まることなく、イゼルローン全体を飲み込んで行く。
 そして、三十分後、巨大な爆発光で周囲を照らしながら消滅した。
 帝国軍の要衝として、同盟軍の絶対防衛ラインとして役目を果たしてきた巨大要塞はヤン・ウェンリーの壮大な策略を未完に終わらせながら銀河の歴史から退場したのである。
 
 「閣下・・・」フレデリカは自分の司令官を見つめた。
 ヤンは何も言わずにスクリーンで点滅する光を見つめた。そして無言のまま席を立ち、艦橋を去った。
 この瞬間、ヤン・ウェンリーは生涯初めて敗北したのである。

あとがき
 ついにヤンが負けました。
 ・・・・・はい。本当に更新遅れてごめんなさい。明日も投稿しますので、何でもしますので許してください!
 動画製作のほうに本腰をいれてしまっていて・・・

 Twitterアカウント
 @admiral_fiel

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第三十四話

 ヤン艦隊をキルヒアイス艦隊が追撃しつつあると言う情報は直ちにフェザーンに集結しつつある帝国軍本隊にも伝わった。
 「よし、キルヒアイスがヤンを拘束している間に同盟領に食い込むぞ。直ちに出撃準備を」ラインハルトはすぐに決断した。
 こうして、宇宙歴798年12月30日、フェザーンよりミッターマイヤー、ヒルシュフェルト艦隊が出撃した。
その後方に続くのはロイエンタール、シュタインメッツ艦隊である。
 帝国軍本隊の役目はキルヒアイス艦隊がヤン艦隊、可能であれば同盟軍本隊を拘束している間にハイネセンまで進撃することだった。何よりスピードが求められ、帝国軍は高速輸送艦をかき集めて投入した。

 迎え撃つ同盟軍は苦慮していた。
 戦力優勢な敵別動隊に追撃されているヤン艦隊を他の戦線に投入することはほとんど不可能である。だからと言って、敵別動隊の排除に全兵力を投入すると首都前面の防備が薄くなる。艦隊を分散して対処するなど無意味な兵力分散にしかならず、敗北が必至である。敵からすれば同盟首都にたどり着けば良いのであって、別動隊がやられたところで大したことはないだろう。
 こうした事態に対して同盟軍統合作戦本部は何ら有効な対処をし得ず、宇宙艦隊司令部のみが同盟の盾となっている状態だった。
 司令長官ビュコック大将は新任の参謀長チュン・ウー・チェン少将と会議を重ねたが、妙案の扉を叩くことはできなかった。
 だが、座して待っているわけにもいかない。ビュコックはついに決断した。
 「これより全艦隊は直ちに出撃、ヤン艦隊を追撃してくる敵艦隊を撃滅し、直ちに首都へ転進。首都前面で敵主力を迎え撃つ」
 仮に講和するとしてもカードを用意しなければならない。今同盟に残された交渉カードは「戦術上の勝利」だけだった。
 同盟政府もこれを了承した。直ちに第一、第一四、第一五艦隊合計35300隻が出撃した。
 帝国軍本隊は刻々と首都へと迫ってきており、ヤン艦隊と合流して敵別動隊を撃破できるかは歴戦のビュコック元帥と魔術師ヤンの采配にかかっていた。

 「敵艦隊多数確認!数、およそ35000!」
 「ヤン艦隊、回頭!我が方に接近しつつあり!」
 「敵の合計兵力、45000以上!我が方不利!」
キルヒアイス艦隊旗艦「バルバロッサ」に報告が次々と舞い込んだ。
 「ついに敵の本隊が出てきたようですね」ジークフリードは指揮下の二人の提督に向けていった。
 「いかがなさいますか?敵の司令長官は手練れのビュコック提督、さらにヤン提督もいます。数の上でも我が方が不利です」ワーレンが聞いた。
 「戦いましょう」ジークフリードは躊躇わずに言った。
 「ここで私たちが敵を拘束することによって最終的な勝利が手にはいるのです。私たちがこの場所で勝つ必要はないのです」
 ルッツも、ワーレンも若い司令官の意志を汲み取った。「はっ!」
 「全艦隊砲撃戦用意!」
 「陣形を左右に展開!」
 「輸送船は下がれ!」 
 「航空部隊出撃用意!」
 次々と指示が出され、戦闘用意が整って行く。
 「今ここで敵軍を拘束すればするほど、最終的な勝利に近づく!これが我々の最終決戦だ!」指揮官たちはこう言って将士を鼓舞した。
 「今回は時間を稼ぐことが目的です。両翼に陣形を広げて包囲されることを阻止し、突出する敵艦隊に逆撃を加えて敵の行動を鈍らせます」
 「了解!」ジークフリード、ワーレン、ルッツも自分の役目を果たすため、指揮に集中した。

 「敵艦隊左右に展開しつつあります」
 「・・・提督」フレデリカは指揮コンソールに座る自分の司令官の姿に呼び掛けた。
 「分かっている。ここで彼を倒さないと民主主義の未来は潰えるんだ。必ず勝つさ」ヤン・ウェンリーは言った。
 「・・・はい!」フレデリカ・グリーンヒル・ヤンは確信を持って頷いた。
 
 漆黒の宇宙空間を航行する一隻の帝国軍駆逐艦。だがこの船に乗るもの達の中に帝国軍に所属する人間は一人もいなかった。
 「・・・もうすぐ始まるようです」ルイ・マシュンゴ准尉が傍らに立つ亜麻色の髪の青年に言った。
 「僕は一番大事なときに提督のお側にいれなかった」ユリアン・ミンツは無念さを感じていた。
 (だから祈ることしかできませんが、提督、必ず勝って、帰ってきてください)

 ベイオウルフ級戦艦三番艦「レーヴェ」が同盟軍と接敵したと言うキルヒアイス艦隊からの通信を受信したのは僕がちょうど艦橋にいたときだった。
 「そうか」僕はそれだけ言ってその通信を総旗艦「ブリュンヒルト」に伝達するよう命じた。
 (ジーク。絶対に死ぬなよ。ラインハルトもアンネローゼ様もお前を失うことはできないんだ)
 
 「レーヴェ」から転送される前に「ブリュンヒルト」でもキルヒアイス艦隊からの電文が受信されていた。
 「そうか。キルヒアイスがか」
 「どうなさるのです」総参謀長オーベルシュタインが聞いた。
 「キルヒアイスが同盟軍主力を押さえている。今の間に同盟首都を占領するだけだ」
 「ですが、キルヒアイス提督と言えど、ヤン提督などを相手にすれば・・・」 
 「オーベルシュタイン!おれ・・・私の前でその事を絶対に口にするな」ラインハルトは立ち上がった。「キルヒアイスが敗北することはない。我々はそれを信じて進むのみだ」
 「・・・御意」オーベルシュタインは引き下がった。
 ラインハルトはジークフリードが生きていることでオーベルシュタインの言うことに振り回されないようになっていた。彼が必ずしも間違っているわけではないと言え、ラインハルトは「キルヒアイスがいればどう思うか」という考えをするようになっていた。
 その考えが銀河の歴史に何をもたらすかは分からないが、このときはラインハルトは確信に満ちてジークフリードを信頼したのである。
 
 細かに見れば数人の、広く見れば数十億人の思いが集中するエルゴン星系。ここに集まった同盟、帝国両軍の兵力は90000近く。
 今、同盟の未来を賭けた一戦が開始されようとしていた。


 あとがき
 インフルになった・・・
 文章が崩壊していますがごめんなさい。インフルのせいです(言い訳)

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第三十五話


 「敵艦隊前衛、射程に入りました!」同盟軍艦隊旗艦「リオ・グランデ」に報告が入る。
 「よし、全艦砲撃開始!一分でも早く撃破するのだ!」ビュコックは命令した。
 35000隻以上の艦艇から大小数十万本の光の矢が放たれる。一本一本の矢が集束して束になったかのように見えた。
 すぐに帝国軍も撃ち返す。両軍の砲撃が漆黒の宇宙を明るく照らした。
 「このままでは消耗戦になるな・・・」ビュコックはスクリーンで点滅する光の群れを見て呟いた。
 「右翼軍は前進。敵の砲撃を集中させてその側面より左翼軍で攻撃する」
 右翼はヤン・ウェンリーのイゼルローン駐留艦隊16000が展開している。この部隊を前進させ、敵の砲撃を受けさせ、突出するであろう敵の右翼、あるいは中央をビュコック直率の中央軍16000、パエッタ中将の左翼軍14000で攻撃を加える作戦だった。
 
 「敵艦隊右翼、突出します!」
 「敵の右翼はヤン艦隊か・・・」ジークフリードは悩んだ。
 普通に見れば(ジークフリードからすれば)これは囮で、こちらが右翼軍を敵左翼に向けて突出させたところを右翼が砲撃するつもりだろう。だが、そう思わせることこそが敵の思惑ではないのか?
 判断に迷ったジークフリードは右翼のワーレンには現在位置での待機を、左翼のルッツには後退を命じた。こうすることで敵の右翼を誘い込み、左翼と中央で叩こうとする作戦である。
 
 「敵の左翼、後退します!」ヤン艦隊旗艦「ヒューべリオン」に報告が入った。
 「敵は我が方の誘いに乗らなかったようですな。いかがなさいますか?」ムライが聞く。
 ヤンは暫し考え込んだ。 
 今ここで後退すれば安全ではあるが、先ほどの消耗戦に戻るだけだ。戦いが長く続けば続くほど我々の不利になる。ならいっそ・・・
 「全艦隊、突撃!」
 「突撃ですと!?」ムライが頓狂な声をあげた。パトリチェフも唖然とした表情である。
 「敵の左翼と中央の間隙部に突入し、分断するんだ。そこに正面から攻撃をかける」
 ヤン艦隊は突進した。

 「ヤン艦隊、突進します!」
 「何だと?」ルッツは席を立ち上がった。「まずい!今中央と左翼の間ががら空きだ!何としても食い止めろ!」
 「だめです!中央艦隊に当たります!」 
 「ぬぅ・・・」ルッツは歯軋りした。 
 それでも陣形を右に広げてヤン艦隊の突撃を止めようとしたが、さらにヤンは帝国軍の予測を裏切った。

 「右翼から援軍を派遣!敵の突出を防ぐ!」ジークフリードも予測し得なかった事態に焦りを感じていた。
 「敵艦隊さらに回頭!左翼中央へ突撃しています!」
 「・・・なっ!」
 ルッツは陣形を広げていたため中央への突進を防ぐだけの兵力はなかった。
 旗艦「スキールニル」にも砲撃が集中し、大破した。
 「もはや本艦もこれまでです!脱出なさってください!」艦長の意見を受け入れ、ルッツは旗艦を放棄して近くの戦艦「バイエルン」に移乗したが、その間ルッツ艦隊の指揮系統は完全に崩壊し、各個に撃破される状況だった。
 急速突破でルッツ艦隊を突破したヤン艦隊は帝国軍の後方に展開するとそこから帝国軍に向けて猛烈な砲撃を浴びせた。
 「各方面で戦線が崩壊しつつあり!」
 「こちら第百五七戦隊!損傷艦の割合が七割を越えた!」 
 「脱落艦が多く、戦線の維持が不可能!」
 「救援を乞う!救援を乞う!」
 通信回路を悲鳴が満たした。
 ジークフリードは無念そうに肩を落とした。だが戦場ロマンチシズムに傾倒して死に場所を探し始める彼ではない。それに彼は生きて変えると約束したのだ。
 「全艦隊一斉回頭!後方の敵艦隊を突破し、離脱する!」
 ヤン艦隊単独よりは帝国軍の方が数が多い。しかも同盟軍艦隊より帝国軍艦隊の方が優速であり、一度射程外に出たら逃げ切れる。
 それを計算しての命令だった。決して破れかぶれで下した特攻命令ではない。
 突撃して離脱と言う単純明快な指示を下された帝国軍は全力でヤン艦隊に向けて突撃した。
 同盟軍艦隊ビュコック艦隊はあっという間に引き離し、ヤン艦隊めがけて突進する。
 このヤン艦隊との砲撃戦がこの戦いのクライマックスであり、両軍ともに手持ちのエネルギーを使い果たさんとの勢いで撃ちまくった。
 ルッツ艦隊の戦艦「ザクセン」など味方の退路を開くため反応炉を暴走させて同盟軍艦隊に突っ込んだ。「ザクセン」は集中砲火を浴びて爆沈したが、その大爆発は周囲の同盟軍を巻き込み、陣形が多いに乱れたところを後続艦隊が突破した。
 同盟軍も負けてはいない。オリビエ・ポプラン、イワン・コーネフの率いる空戦隊は猛獣のごとく帝国軍艦隊に襲いかかり、次々と宇宙の塵に変えていった。
 戦艦「オクシアナ」は帝国軍の戦艦二隻を相手取り、一隻を撃沈してその残骸をもう一隻に命中させて二隻とも撃沈する。
 ジークフリードの旗艦「バルバロッサ」はその大火力を遺憾なく発揮。周囲の同盟軍は接近できなかった。「バルバロッサ」だけで六隻もの同盟軍艦艇を撃沈している。
 ワーレン艦隊旗艦「サラマンドル」は艦首砲を発射して同盟軍の艦列に大穴を開けるとそこから艦隊を突破させた。だが「サラマンドル」はこれでエネルギーを使いきり、砲撃を浴びて大破した。元々シュワルツ・ランツェンレイターにいた二隻の高速戦艦「ザイドリッツ」「フォン・クラウゼヴィッツ」が危険を犯して牽引ビームで曳航し、それを周囲のワーレン艦隊の艦艇が援護した。この勇戦ぶりはビッテンフェルト艦隊の精強さを後生に知らしめた。
 近距離でエネルギーが放射され続けられて飽和状態となり、エネルギー流が発生した。突破しつつあった帝国軍はイゼルローン方向へ、ヤン艦隊はバーラト方向へ弾き飛ばされた。
 もはやジークフリードの艦隊は単独で進撃する力を失い、同盟軍は勝利した。
 エルゴン星系会戦での損害は帝国軍10000、同盟軍7000に上る。
 そして同盟軍は休み暇もなく、最終決戦に備えて首都星ハイネセンに向けて進発したのだった。

 ジークフリードはその姿を見送ると、全艦隊の帝国軍本隊との合流を命じた。

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第三十六話

 キルヒアイス艦隊敗北。そのニュースはすぐに帝国軍本隊に伝わった。
 通信スクリーンに現れたジークフリードはヤンを抑えきれなかった罪を謝した。
 オーベルシュタインは彼の更迭を主張したが、ラインハルトは無視して彼を赦し、基地化を進める惑星ウルヴァシーに赴くよう命じた。この処置はオーベルシュタインの眉をひそめさせるに充分だったが、他の提督たちからは全く反感がなかった。彼らはジークフリードの功績を知っていたし、いくら失敗をおかしたからといって、一回で更迭するというのも残酷な話だと思ったのである。
 もちろんラインハルトもそう思っていたのだが、彼には別の考えもあった。
 彼は戦いたかったのだ。自分の知略をもって同盟最高の知将ヤンを打ち破りたかったのである。ジークフリードが敗北することでラインハルトに戦えるチャンスが回ってきたことから、むしろジークフリードに感謝したいラインハルトだった。

 この間先陣として突っ走る僕は基地化されることが決定されているガンダルヴァ星系に到達していた。後続の補給部隊が到着するまではここで待機し、防衛に当たることが命令された。
 「しかし、キルヒアイスでもヤンを倒すこと叶わずか」そのミッターマイヤーの言葉はジークフリードへの侮辱ではなく、単純に「キルヒアイス提督ですらも敗北させたのか」と言う驚嘆と尊敬の思いだった。
 「そもそも数が違ったしな。だが、キルヒアイスだって敵を10000近くは沈めている」僕はジークフリードを弁護した。別にミッターマイヤーがジークフリードを侮辱してないことは分かっていたが。
 ミッターマイヤーはいかにも、と言わんばかりに頷いた。「決戦の前にこれだけ敵兵力を削ることができたことを思えば、むしろよくやったというべきだろう」
 「俺があのときキルヒアイスの立場だったら今頃ヴァルハラの門を通過してないといけないからな」
 「恐れるべきはヤン・ウェンリーの知恵だ。彼らが今ここに攻めてきたら・・・」
 突然警報が鳴り響いた。
 「敵艦隊襲来!敵艦隊襲来!」
 僕は皮肉っぽく口を曲げた。「仮定の話にはならなかったようだ」
 ミッターマイヤーは音高く舌打ちした。「悪い予感は当たるものだな」
 「どうする?敵の数は30000を越えているだろうな」
 当然同盟軍とて無傷ではない。損傷艦をドックにいれて出撃したのならその数は35000程度と思っていいだろう。だがこちらの数とてほぼ同じようなものであり、相手がヤンとあっては不利としか思えない。
 「だが、工兵部隊を撤収させなくてはならんな」
 ミッターマイヤーの言うことはもっともで、この時点で基地建設部隊がウルヴァシーに展開していた。それらの資材や機材、人員を撤収させるには時間がかかる。
 「仕方ない。一戦交えよう。地上部隊には撤収を命令!」僕は決断した。
 ミッターマイヤーも異論なく承諾した。「今回は時間稼ぎだ。下手に近づかずに行くべきだな」
 「あぁ」
 この時点でヒルシュフェルト艦隊は19000、ミッターマイヤー艦隊は16000の艦隊を配下に収めている。数ではほとんど拮抗しており、ただの撃ち合いに徹しておけばそれほどの損害を被ることなく撤退を完了させられるはずだ。
 僕にとってはアムリッツア以来二回目のヤンとの直接対決になる。緊張で鼓動が高まるのを感じた。僕はヤンには遠く及ばないのに・・・
 
 両軍の撃ち合いは長距離で開始された。後退線を確保するため帝国軍は可能なまで前進しており、砲撃が開始されるとゆっくりと後退を始めた。
 「何と・・・」ヤンは指揮シートの上でベレーをくるくる回しながら呟いた。
 「あのヒルシュフェルト艦隊、疾風ウォルフ(ウォルフ・デア・シュトルム)の行動に完全に機動を揃えているな」声から緊張は感じられなかったが、これはルートヴィヒ・フォン・ヒルシュフェルトからすれば最大の賛辞だった。
 彼は、たった今ヤン・ウェンリーに疾風ウォルフと同格と称えられたのである。
 この時の同盟軍は、全てがヤンの指揮下にあった。宇宙艦隊司令長官ビュコック元帥はハイネセンで残存部隊の統括、戦略全体の指導に徹している。
 「下手に深追いするわけにはいかない。だが、敵が望んでいるのは時間稼ぎだ」ヤンは敵の目論見を完璧に洞察していた。
 「パエッタ提督に連絡」

 同盟軍の主力、第一艦隊が突出し出したのは帝国軍からもよく確認できた。
 普通であればこれを罠と見るべきだが、第一艦隊の動きは明らかに味方との連携を欠いた行動であるように見えた。
 「どう思う?」ミッターマイヤーは聞いた。
 「いつまでも消耗戦をやっていると向こうの攻撃に対応できない。下手に近づくのは危険だが、威嚇も兼ねて一度接近して攻撃を加えよう」
 帝国軍の二個艦隊は同盟軍右翼、第一艦隊に向けて進撃した。
 この動きが信じられないスピードであったにも関わらず完璧に連携がとれていたのでヤンすらも驚いて敵将を称賛したものである。
 二個艦隊から攻撃を受けた第一艦隊は隊列を乱した。
 「これもヤン提督の作戦のうちだ!隊列だけは乱すなよ!」パエッタはアスターテの経験から今は上官となったヤンを信頼していた。
 「全艦隊、左後方に後退!」
 第一艦隊は二個艦隊に押されて左後方に向けて後退した。当然帝国軍はそれを撃つために右に回頭する。
 「今だ!」ヤンが号令を下すなや否や、フィッシャー中将が統制する艦隊6000が一気に帝国軍の左側面に躍り出た。そのスピードも称賛されるべきものである。
 気が付けば、帝国軍は完全に前と左からの半包囲にあっていた。ビームの嵐が殺到し、銀色の艦隊を刺し貫き、爆発の炎で原子に還元する。
 「今すぐ後退しろ!ちっ、俺としたことが!」ミッターマイヤーは舌打ちしつつも部隊を急速後退させ、ともすれば崩れる艦列を支え続け、後退と再編を同時に行う。
 僕も艦隊を叱咤して崩れかける戦線に兵力を派遣し、戦列の崩壊を何とか防いだ。
 常人には成し得ない速度で再編して後退し、さすがのヤン言えども完全に追撃して帝国軍を崩壊させることはできなかった。

 「我、敵と接触す」との電文が同盟軍の妨害を掻い潜ってロイエンタール艦隊旗艦「トリスタン」に届いたとき、オスカー・フォン・ロイエンタール上級大将は艦橋にいた。
 「そうか。では直ちに助けに向かわなければなるまい。最大戦速でガンダルヴァ星系に向かえ。シュタインメッツにも伝えろ」
 彼の主君ならいざ知らず、親友を見捨てることなど絶対にできないロイエンタールである。
 この時同行していたシュタインメッツ艦隊は後続艦隊との連絡のためロイエンタールより遥か後方を航行している。これはロイエンタールの行軍のスピードが早かったためであり、シュタインメッツが無能であるわけではない。
 ロイエンタールは直ちに全艦隊に最大戦速での進撃を命じた。

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第三十七話

ガンダルヴァ星系では激しい艦隊戦が行われていた。
 僕とミッターマイヤーは最初での失敗を活かし、増援が来るまで冒険的な行動にはでないことにした。それはもちろん、同盟軍の指揮官ヤン・ウェンリーにも理解できた。
 「このままでは敵に増援が到着し、こちらが不利になる一方だ」ヤンは幕僚を集めて告げた。
 「それは確かなのですが、閣下にはなにか御思案がおありなのですか?」ムライが聞く。
 「ある。が、それほど自信はない。向こうが消極的になったために、こちらも完全な勝利は望み得ない。だから、出来る限りの戦果を挙げてさっさと撤退しよう」
 「では、どのような作戦を?」
 
 同盟軍がこれまでの消極姿勢を投げ棄てて帝国軍に対し全線に渡って攻勢に出た。
 「ヤンが攻勢に?」僕は頭の辞書をたどり、ヤンの戦史の中で積極的攻勢に出た戦いを探した。
 導き出された語句は「回廊の戦い」だった。あのときと状況は全く違うが、目的が同じである可能性が十分にある。
 即ち、僕と、ミッターマイヤーを倒し、指揮系統を崩壊させることだ。それをされると我が軍の30000の戦力が失われることになる。
 それを裏付けるかのように事態は進展した。
 「敵の少数の艦隊、天底方向へ突進!」
 「敵主力、総攻撃を開始!」
 敵は我が軍よりやや優勢な兵力をもって主力を拘束し、少数の部隊で下から突き上げようというのである。
 それが分かっているなら、対策をとるしかない。
 「直ちに戦線より少数部隊を抽出!敵別動隊に砲火を浴びせろ!」
 主力をもって敵の攻撃を踏みとどめ、戦線が崩壊しない程度の兵力を引き抜いて機動戦力を抽出し、敵別動隊にぶつけるのだ。
 敵の別動隊の意図を読み間違えず、迅速に対応できたことは帝国軍を救った。僕が直率する機動戦力が別動隊の側面を攻撃し、敵の電撃的攻撃の意図は挫かれたのである。
 「なかなか敵もやるじゃないか」ヤンは感嘆して言った。
 「ですが、攻撃部隊は停滞しています。このままですと、消耗戦になります」
 帝国軍より同盟軍は優勢であるが、それはこの戦場に限った話である。戦略レベルでみれば圧倒的に帝国軍の優位にあった。仮にここでミッターマイヤー、ヒルシュフェルト連合艦隊を撃滅してもラインハルト・フォン・ローエングラムの主力軍、加えて未だ強大な戦力を保持するキルヒアイス艦隊が残っているのである。同盟軍にとって消耗戦とは自殺行為と同義語だった。
 だからこそヤンは電撃的攻撃に望みをかけたのだが、それは失敗している。それでもヤンの調子がいつもと変わることはなかった。表情は厳しいが、取り乱したりすることはない。
 「フィッシャー提督に連絡。プランBを発動するように」
 
 同盟軍の一部が今度は天頂方向から信じられないスピードで殺到した。ただでさえ天底の敵に対処するところで手一杯なのである。そこに天頂から敵が殺到したのだ。
 「閣下!旗艦を後退させます!」「レーヴェ」艦長ローザ・フォン・ラウエ大佐が言った。この状況ではさすがに冷静な彼女にも焦りと動揺が感じられる。
 この時「レーヴェ」の周囲にいたのは十隻ばかりの護衛艦のみだった。他の艦艇は全て戦線に投入されていたのだ。
 ミッターマイヤー艦隊から援軍が駆けつけているだろうが、それが敵の恐るべきスピードに対応できるとも思えない。
 「敗北したか・・・!」僕は歯を噛み締めた。
 十年以上前に転生してからこの時まで、金髪の覇王と、赤毛の友のために尽くしてきた。彼らに訪れたであろう不幸な未来から、救うために。
 だが、それの終わりを告げる鐘が鳴ったのか。
 ヴァルハラの門で未来を変えると約束したが、ここまで来て破れ去るのか。もうあと一歩で全て終わろうと言うその時に、僕は・・・
 
 「ファイエル!」
 青白い光の壁が形成され、殺到した。
 同盟軍の緑色に塗装された艦隊を光が包み込む。装甲を融解させ、中の人間を蒸発させ、艦もろとも宇宙を構成する一元素まで分解され、還元して行く。
 同盟軍別動隊司令官、エドウィン・フィッシャー中将は青白い光に包まれ、自覚もできない内に肉体もろとも蒸発した。
 光とエネルギーの暴風が漆黒の闇に溶けきったとき、そこに残っていたのはバラバラになり、原型をとどめない残骸たちだった。
 
 「援軍です!キルヒアイス、ロイエンタール艦隊が来援しました!」その声が僕を死の淵から現実へと引き戻した。
 「全艦隊、突撃!」意識もしない内に命令が口から飛び出た。
 司令官の命令が簡潔で、誤解のしようもない。
 「突撃だ!全艦隊、総攻撃に出るぞ!」
 「撃ち方始め!全門斉射!」
 「撃て、撃てー!」
 自分たちの旗艦に接近され、胆を氷点下まで冷やされた帝国軍の復讐心は半端なものではなかった。
 怒りで滾り、さながら活火山の火口のごとく沸騰するエネルギーが帝国軍を恐怖から猛撃へと突き動かした。
 もはや陣形も秩序もなく、手持ちの全てのエネルギーを砲口に込め、沸騰した思いがそれを放たせた。
 立ち直った帝国軍が無形の刃を引き抜き、同盟に斬りかかった。その強力かつ渾身の斬撃が同盟軍の中枢神経まで一瞬にして切り裂いた。
 僅かな間に同盟軍は攻める立場から一方的に打撃される立場へと変わった。体勢を崩し、倒れ行く同盟軍艦隊に帝国軍艦隊は情け容赦のない猛烈な攻撃を浴びせかけた。
 濁流の如きエネルギーの流れが同盟軍を押し流す。飲み込まれる同盟軍にさらなる一撃が叩き込まれ、部品を撒き散らして消滅した。
 最初爆発の光は点であったが、まばたきせぬ間に線となり、面となり、三次元になった。
 もはや戦場の全てを爆発の光が支配していた。その中で同盟軍の艦は悶え、のたうち回り、ビームの斬撃を食らって先発の後を追う。
 同盟軍に勝利と言う文字は消え失せ、バラバラになって敗走した。その混乱ぶりは、ヤン・ウェンリーの統制すら受け付けない前例をみないものであった。

 ようやく星系外縁部に到着し、艦隊秩序を回復したときには同盟軍艦隊は17000隻まで撃ち減らされていた。それもほとんど破壊されたような艦まで含めてのことである。
 同盟軍首脳部は戦慄した。僅か一時間で5000もの艦艇が消滅したのである。歴史上、始めての大惨事であり、帝国軍にとっては奇跡としか思えない現象であった。
 人的資源からみても補いようのない損害を受けていた。
 ヤン艦隊副司令官フィッシャー中将、第二艦隊司令官パエッタ中将、第十五艦隊司令官モートン中将。
 彼ら同盟軍の最後の希望を背負った指揮官たちが永久に去ったのである。
 報告書をみながら、何度もヤンは溜め息を着いた。もはや希望は失せたかのように思えた。
 ヤン・ウェンリーすらも敗北したのである。「不敗の魔術師」の異名は過去のものとなってしまった。
 この報を聞いた同盟政府、市民はどう思うだろうか。ヤンを非難することは置いておくとして、降伏するかもしれない。
 暗雲立ち込める空気のなか、同盟軍は首都へと向かった。

 一方の帝国軍では状況は正反対だった。
 あちこちでシャンペンが抜かれ、歓喜の声が響き渡る。
 ついに、宿敵ヤン・ウェンリーを打ち負かしたのだ。喜ばずにいられようか。
 その功績は、僕、ミッターマイヤー、救援に駆けつけたロイエンタール、ジークフリード、ルッツ、ワーレンの全員に平等に与えられて然るべきだ。
 帝国軍はガンダルヴァ星系に集結しつつあり、これを撃滅することは同盟軍の兵力では不可能であった。

 あとがき
 どうも。フェルディナントです。
 最近はYOUTUBEにも忙しく、充実した毎日を送っています。
 今は、別のサイトに「日本機動部隊、続」、こちらハーメルン様に本作と「とある艦隊司令官の日常」という小説を投稿させていただいております。毎週この中でどれかひとつを更新するつもりでおりますので、是非ご覧になってください。

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第三十八話

 ラインハルトは全ての兵力をガンダルヴァ星系に集結させた。
 このまま同盟首都へ直進してもいいが、敵艦隊戦力を残した状態だとやはり懸念が残る。
 取り敢えず、本国からの補給を待って作戦目標を決定することにした。
 だが、その補給船団が同盟軍によって壊滅させられたのだ。同盟軍は持てる兵力をかき集めて輸送船団を攻撃し、護衛に出撃していたレンネンカンプ艦隊を壊滅させた。
 史実ではゾンバルトが勤めていたこの役目を、僕の提案によりレンネンカンプに変えたのだが、その結果は悲惨なもので、輸送船は半分が轟沈し、基地設営資材の七割が失われ、レンネンカンプはヤンが仕掛けた囮にまんまと引っ掛かって後ろをとられて大損害を出し、ほうほうの体で帰還した。
 レンネンカンプに対しての処罰は重かった。まずレンネンカンプは前線から引き抜き、イゼルローン回廊帝国本土方面艦隊司令官に左遷。代わりにその役職にあったエルンスト・フォン・アイゼナッハ大将がイゼルローン回廊を経由してガンダルヴァに進出する。
 この提案を行ったのはオーベルシュタインではなく、僕だった。一罰百戒の効果を出すためと、レンネンカンプを前線から下げて後の不幸を遠ざけようとしたのだ。
 結局、レンネンカンプは僅な手勢を率いて本国に帰還することになった。
 史実と違って大戦力を張り付けていたお陰で輸送船の半分は守りきることに成功し、食糧、燃料に関しては不足することはなかった。
 これを受け、ラインハルトは新たな作戦として「ヤン艦隊の撃滅」を上げ、それに投入する戦力としてコルネリアス・ルッツ、アウグスト・ザムエル・ワーレン、そしてジークフリード・キルヒアイスの率いる合計三個艦隊を投入した。
 ジークフリードは前回のガンダルヴァ会戦でエルゴン会戦での敗北を補って余りある成果を上げ、彼に対する評価は再び上昇していた。
 僕自身が出撃できないことはやや不満だったが、僕もミッターマイヤーも艦隊の損害の再建ができなければ再出撃はできない。暫くの間、他の艦隊からの報告を待ちながら艦隊を再建する日々が続いた。
 
 トリプラ星系を航行していたキルヒアイス艦隊がヤン艦隊を発見したのは宇宙歴七九九年、帝国歴四九〇年の三月一日のことである。
 ヤン艦隊は総勢15000隻。それ以外の艦隊は全て同盟首都でビュコック元帥指揮の下展開している。
 キルヒアイス艦隊は14000隻。失った艦艇の補充はされていないため、ヤン艦隊よりやや劣性だった。
 「如何いたしますか、閣下?」参謀長ハンス・エドワルド・ベルゲングリューン中将が聞いた。
 「ここで撤退しても良いですが、すると補給線は常に危機にさらされることになります。ここは確実にヤン艦隊を撃破し、後顧の憂いを断ちましょう」ジークフリードの腹は決まっていた。
 「はっ!」
 「周辺を航行する全ての友軍艦隊に集結を命令!敵を包囲殲滅する!」
 
 キルヒアイス艦隊からの電文がラインハルトの耳に届くや、彼は決断を下した。
 全軍出撃。ヤン艦隊をここで確実に仕留めよ。
 同盟領に侵攻してから幾度となく戦った相手、ヤン・ウェンリー。勝っても負けても再び姿を表す彼に、引導を渡すのだ。
 キルヒアイス艦隊には、消極的に動いて時間を稼ぐことが命令された。
 当然、ガンダルヴァ星系を手薄にするわけにはいかない。シュタインメッツ提督、合流するアイゼナッハ提督の艦隊が防衛についた。
 それ以外の帝国全軍、十一万を越える大艦隊がガンダルヴァを出発し、先を争って決戦場へと向かった。
 これを受けてヤンも同盟全軍に出撃を要請。ビュコックの率いる残存艦隊14000が急ぎハイネセンを出撃した。
 最終局面への道は急角度をつけて下り始めていた。

 次回
 最終回パート1

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