蒼穹のファフナー ~The Bequeath Of Memory~ (鳳慧罵亜)
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平穏

はじめましての人ははじめまして。
久しぶりの人は久しぶりです。

蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH ~まだ私は、ここにいる~ の続編がいよいよ始動します。

前回はなるべく3人称視点で書こうとしていたのですが、今回は1人称視点で書く事が多いと思います。

ですので、雰囲気とか結構変わるかもしれませんが、どうかお付き合いください。

EXODUSの物語において、レイ君が一体どういう選択をするのか―――それにより何が変わるのか。ご期待に添えるかはわかりませんが、頑張ってみたいと思います。

それでは、どうぞ。


――――あれから2年。変わらぬ平和な日々を過ごしていた。

 

皆1人1人、それぞれの道を歩み出し日々歩き続けている。皆で勝ち取った平和を噛み締めるように、1日1日を積み重ねて今を生きてきている。

 

変わらない日常に、それぞれの未来を思い描いて少しづつ、確かに進み続けているのだ。当たり前に続く平和を、いつまでも続くようにと祈りながら人々は今日を生きている。

 

それは尊いことで、どこまでも眩しいもの。かつて戦ったからこそわかる。この何一つ変わらない平穏な日常にこそ、何にも変えられない価値が有ることを知っている。

 

戦いの中で、消えた命があった。

 

仲間に後を託し、散った命があった。

 

巻き込まれただけの、無辜の命があった。

 

常に、誰かが勝ち取った平和を譲ってもらい、ここにいる。この平和は常に誰かの血に濡れたものであるが、だからこそ、その人の血で輝ける尊きものだと思うのだ。

 

でも、だからこそその平和が永遠ではないことを理解している。いつか、この平和が崩れ同時に新たな戦いの狼煙が上がる。

 

知っているんだ。今までもそうだったから、誰もが忘れても、忘れることはない。

 

けど、それは「いつ」になるかはわからない。近いだろうとは個人的に確信していたけれど、同時に今であってほしくはないとも思っていた。

だけど「それ」を確信している。だからこそ、その為に今やれることをやらなくてはならなかったんだ。

 

今か、次の世代か、次の次の世代か―――。

 

いずれ訪れる新たな戦い。その時戦う者たちのために、それは今ここにいる人かもしれないし、そうでないかもしれない。いずれその時は来る。だからこうして、出来る限りのことをするんだ。

 

この平和が、たとえ今日限りのものだとしても。

 

明日、再び戦いの幕が開かれるとしても。

 

その時のために、今出来うることをやっておこう。起こりうる戦いを少しでも早く、終わらせるために。

 

でもどうか、もう少しだけ―――。

 

この平和が、続きますようにと。

 

そう、願っていたんだ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

竜宮島。

 

戦乱により日本が消滅した後、『平和』という文化を残すために建造された人工の島。

小さい島にふさわしく、昭和初期のような木造の日本家屋と緑豊かな自然が共存し、とても人工の産物とは思えないような一体感と景観を持っている。

 

かつての戦い、皆城総士がこの島へ帰ってきてから早2年。この島は勝ち取った平和の中で、穏やかな日常を刻んでいた。

 

海では漁を終えた小舟が港へと戻り、鳥の鳴き声が高らかに昼時を告げる。

家屋の並ぶ場では、強い日差しを避けるように、猫が日陰の中を歩いていた。

 

鈴村神社が建つ山間には、夏を意識させるように蝉の鳴き声が響き渡る。

そう、今は旧日本の暦で夏の真っ只中。学生たちは夏休みを満喫している頃合だ。

 

この島も今はやや南下しているだろう。経度で言えば、もうすぐ九州の軸線上に達するだろうか。などと言ってみたが、実際はどうかは判りません。

 

大まかな経路は知っているが、詳細な位置情報までは知る理由もなかった。そのあたりは羽佐間さんや、要さんあたりが知っているでしょうが。

 

さて、学校ではそろそろマラソンの地区対抗が近い。咲良も今まで以上に気合を入れて指導に励んでいると思いますが。でも、ここのところ台風の兆しもない。偽装鏡面にも映す雲がない以上、雲一つない青空と直射日光が指しているでしょう。

 

いずれ、咲良のスパルタから何人か脱落者が出てきて、剣司のいる保健室に運ばれるかもしれない。当の剣司はというと、おそらく寝てるでしょう。

 

何せ、昨日も遅くまで医療関係の本を読み耽っていたのだ。資料集めを手伝っていた僕も今は少し眠いですね。彼は咲良さんが倒れて以来、ずっと医療の道を考えていたそうですが、人は変わるものですね。あの時からは想像もできない成長です。

 

ところで、剣司と咲良の関係は順風満帆だと知っていますか?もしかしたら、僕らが先を越されることになるかもしれません。尤も、そんなことは認めませんけど。

 

さて、夏休みに差し掛かり、島でも数少ない駄菓子屋を営んでいる西尾家では、我らが後輩の西尾家長女、里奈さんが店番をしているはずです。多分、あくまで予想だけど、暑い暑いとボヤきつつ、祖母に「アルヴィスで働きたーい」とでも言っているかもしれませんね。

 

今頃TVには、広登君が出演している番組が、チャンネルすべてを埋め尽くしているハズ。彼が「アイドルになりたい」という夢を、形は少し違えども立派に叶えてしまった事には驚いたものです。

 

 

 

Alvis.ファフナーブルグ「機体開発室」と書かれた部屋に。彼は居た。

1人でいるには広すぎる一室で、1台のコンピュータを操作している少年。コンソールを叩いては指を止め、そうかと思えばまた叩く。

 

それに応じる様に、彼が睨んでいるモニターに表示されているグラフは、波打つように変動し、停止しては変動するを繰り返していた。そして時折深く息をついて、打ってきた内容を消してまた打ち直す。彼はこの動作を延々、繰り返し行っているのだ。時折、中断して唸ったり大きなため息が聞こえたりもするが大筋は変わらない。

 

時間にしておよそ9時間ほど、日が昇る前からずっと繰り返している。

 

「―――だめだ」

 

何度繰り返したかわからない作業、それが漸く止まり彼は今までとは全く別の動作を行った。

 

座っているキャスター付きの椅子を机から後ろに流しながら、彼は大きく伸びをした。その表情には明らかに疲労の色が浮かんでいる。そして、不可解そうに眉を顰めた。

 

表示されている中、画面中央のグラフが動いているが、左から右へ数値と線が上昇はしているが、安定せず一瞬グラフの底辺近くまで落ち込んだり、逆にグラフを突き抜けるなど、そこだけは素人が見ても一目で異常であると判断できる様であった。

 

「アクセラレータの出力が安定しない。このままだと、下手をすれば起動動作時点で暴走してしまう……何が問題なんでしょう?」

 

下げたキャスターを戻し、顳かみを抑えながらモニターを見やる。表示されているのはある機体の設計図面。そして、様々なグラフや数字の羅列。

 

素人には訳がわからない表示面を一部一部見落としがないようにゆっくりと上から順に目で沿っていく。

 

だが、注意深く観察してもなお、不良部分は見当たらない。結局、原因が分からずじまいで5分が経過した。再び椅子の背もたれにもたれかかり、天を仰ぐ。

 

「未だ実験段階以前のシミュレート段階で躓くなんて、モルドヴァ基地以来ですよ……」

 

思い出すのは9年前。メカニック見習いとして恩師のもとにいたときである。そのときは何をやってもシミュレートで機体を暴走、爆発させていたものだと懐かしく感じた。そして、深くため息を吐く。

 

「はあ……こんな時こそ、貴方から助言なりを賜りたいですね……洋治さん」

 

天井を見上げながら、そう呟いた。今は亡き師父に思いを馳せるが、答えは帰ってくることはない。一言で言えば、彼は少し焦っているのだ。

 

2年前からずっと行っている機体の設計図面が、未だに完成しない。もっと詳細を言えば、本体そのものは既に完成している。が、肝心の「切り札」に相当する機構が未だ不完全なのだから。

 

それもそのはず。なにせ、その機構は未だ誰も立証したことがなく、誰も考えつかなかった彼自身の正真オリジナルの物で、今まで島のファフナーの設計者である人物や関係者に相談しても、これといって進展することはなかった。

 

だが、完成すればその力は強力無比。現在の島の主力であるノートゥング・モデルを遥かに上回る性能を発揮することができるのだ。

 

彼の見込みでも、リミッターの掛かったマークザインにある程度肉薄する。それほどの力を持っている文字通りの「切り札」足り得るもの。

 

その機体は『エインヘルアル・モデル』

かつて、彼の先達が至った「一人でも多くの兵を救う」でもなく、「一体でも多くの敵を倒す」でもない。

 

彼の思想が色濃く出た「1秒でも長く戦い続ける」という彼自身が願った理想形がこの機体だった。

 

(ノートゥング)』では及ばず、かと言って『救世主(ザルヴァートル)』では人の身には遠すぎる。故に『永遠の戦士(エインヘリアル)』。戦わなければ何も勝ち取れないと知り、守るために勝ち、勝つために戦う。そう決意した、彼の答えの形である。

 

最も、未だ製造の目処すら立たない今の状態では例えどのような思想があろうとも、無用の長物に成り下がるだけ。彼は何とかして形に仕上げたいが、彼は見えない壁に突き当たっていた。

 

「―――ん?ああ、もうこんな時間ですか」

 

ふと、モニターのデジタル時計を見やると、時刻はもうすぐ9:00に差し掛かろうとしている。気が付けば9時間もの間、モニターと睨めっこしていたことになる。無論、ここまで一睡もしていなかった。どうりで眠気がするわけだ。

 

昨日の夜に剣司の資料探しを手伝い、そのままブルグでこの作業を始めてしまったのだった。そして、メカニックとしての質の悪い病気―――「1度始めてしまうと止め時がわからなくなりズルズルと気が付けば徹夜してしまう病」が発症していたらしい。

 

これは本当にイケナイ病気だ。何せ下手をすると「おれはコンソールを打っていた筈なのに、いつのまにか床に倒れていた。な、何を言っているのかわからな―――」なんて事が本当に起こりかねない。

 

ファフナーのパイロットだった時は自身のメンタルやポテンシャルの維持にも充分気をつけていたというのに、メカニックに集中することとなった今ではすっかり自身の体調に関しては無頓着になり始めていた。これはいけないなあ、実にいけない。

 

彼女が心配するだろうし、かけるわけにはいかない。何よりそうなったら僕自身が申し訳ない気持ちで頭を壁に叩きつけたくなってしまう。

 

そういえば、今日は喫茶店の手伝いを頼まれていることを思い出す。彼らだけでも大丈夫だろうが、週末は手伝いに来てくれと頼まれている以上反故にするわけにも行かないから、手伝いに行かなくては。

 

随分と遅くなるがランチタイムが過ぎれば喫茶店で仮眠を取るのも悪くはないだろう。

 

手早く現在のデータを保存して、コンピュータを落とし、足早に部屋を後にした。部屋を出るとき、一瞬だけ部屋の中のあるものを見て。

 

彼が見たものは、コンピュータの隣に立てかけてあるひとつの写真。

 

昔、彼が故郷にいた頃の、1人の少女と映った写真だった。

 

 

――――

 

 

竜宮島、アルヴィス職員の連絡船で移動する。普段漁師の方々が使う船と比べてこちらのエンジンの方が性能が高く速い。

 

この船の船長とはちょっとした顔見知りだ。なので普段は指定時間でなければ出ない船をこうして動かしてもらっている。ここの船長も喫茶店の常連ですし、ね。

 

この船ならば、40分ほどで慶樹島から本島へ到着する。前方に見える竜宮島本島。もう少し進めば波止場と港が見えてくるはずだ。港に到着したら一度自宅に戻り、事前に仕込みをしてあった品々を原付に載せて運ぶ。ランチタイムには相当な量が必要だから今回も荷物用のボックスに頼る事になる。

 

量が量だけに喫茶店に到着するのは少し遅れるが、ランチの準備には間に合うだろう。

 

波を切り裂くように進む船に揺られながら、今日のランチタイムについて考えを巡らせていく。

 

アイリッシュシチューにクリスプ、ソーダブレッドもいいですね。スコーンは切らしていましたっけ。

 

「よお坊主、今日は何作ってくれるんだい?」

 

「―――そうですね。ダブリンコドルとチップブティなんて如何でしょう?」

 

不意に、船長から声がかかり、その声を聞いた時点で思いついたメニューで決定。

 

ダブリンコドルとはジャガイモとベーコン、ソーセージ等を用いた煮込み料理。チップブティはフライドポテトを挟んだサンドウィッチのことだ。

 

「うーん……坊主の作る料理はいつも名前だけじゃ分からんな!」

 

「そうでしょうね」

 

等と、笑いながら船を操縦する船長に、肩をすくめてみせた。

 

 

港に到着した後、自宅で準備を済ませ喫茶店に向かう。

 

比較的海岸に近い住宅地に建っているその店は、随分と特徴的な佇まいをしている。

店の中を見通せる大窓や出入り口のドア、その直上に存在する自動車のライトとバンパー部分と、製作者の趣味が見え隠れするこの店こそ、洋食兼喫茶『楽園』。

 

柵のところに黒板の立て看板が有り、白いチョークで「準備中」と書かれている。さらに店の前にちょっとした階段が有るのだが、その下に用水路が流れており、この時期夜になると蛍が飛んでくるのがなかなかに綺麗なんです。

 

店の脇に原付を停めて、ボックスを肩に下げる。かなり重いがそこは仕方ない。「よっと」と思わず声に出たのは別に年をとったからではないと思う。

 

「こんにちは」

 

店のドアを開けると、風鈴の「カラーン」と乾いた金属独特の音色が店内に響く。当然店内に客入りはなく、厨房に2人ほど慌ただしく作業をしていた。

 

1人は僕よりも背が高く、トントントンと包丁を扱う音が聞こえてくる。音の感覚からするとキャベツの千切りでもしているところでしょうか。

 

もう1人は寸胴で煮込み作業を行っている。軽く匂いを嗅ぐと、じゃがいもと……人参の匂いが微かに臭ってきた。十中八九、名物料理のカレーを作っているところだ。左側の背が高い彼は真壁一騎。島のファフナー部隊元パイロット。現存している唯2機のザルヴァートル・モデル「マークザイン」に搭乗できる唯一の人間だ。

 

いやだった(・・・)、が正しい表現か。今はもうパイロットを引退している。

 

そしてもう1人は西尾暉。現役のファフナーパイロットで、搭乗機体はノートゥング・モデル『マークツェーン』。中距離支援型の機体で主に拠点からの狙撃支援を担当している。

 

4年前までは、彼は失語症だったらしい。初めてファフナーに乗ったときに治ったそうだ。僕はそのあたりのことはよく知らないけれど、そのせいもあってか、意外にお喋りなところがある。

 

「遅いぞレイ。ランチまでもう時間ないぞ」

 

「こんにちはレイ先輩。いつものところにお願いします」

 

「すいません。何分こっちも忙しい身ですから」

 

入店に気がついた2人は此方を一瞥すると、また忙しそうに作業に戻る。こうしてはいられない。此方も作業を始めなければ、と思いながら僕―――レイ・ベルリオーズは厨房に入り、ボックスを開ける。

 

中には蓋の固定された鍋に、アルミホイルで包まれた籠が2つ。内の鍋を取り出すと、一騎に当たらないように気をつけながら暉の隣まで運ぶ。

 

暉の鍋の隣に置いて、火を弱火でかけると、次に下の用具入れから比較的底の浅い丸鍋を取り出して、此方も火にかける。

 

「ああ暉君。その鍋沸騰しだしたら火を止めて蓋を開けてください」

 

「はい。わかりました」

 

「っと、一騎。揚げ物用の油ってこちらでいいんでしたっけ?」

 

「ああ。そこの3番目のポリタンクだ」

 

一騎に一言お礼を言い、彼の言葉通りの場所にあった半透明のポリタンクを取り出すと、火にかけた丸鍋に油を入れていき、油が6分目まで入ったところで、ポリタンクを元の場所にしまう。そして、火を強火にして今度は籠を包むアルミを解いていく。

 

入っていたのは2種類のパンで、1つは全粒分入りの食パンに、もう一つは全体的に白濁色の目立つパンだった。白濁色のパンはソーダブレットと言う、僕の故郷アイルランドではメジャーなパンだが日本、特にここ竜宮島では馴染みは全くと言っていいほどにない。

 

僕も郷愁に駆られ自分で作り始めるまではこの島で食べたことはなかった。

 

記憶に残っている味と、僅かに覚えていた作り方だけでここまで再現するのは難しかったが、この2年の間で限りなく故郷の味に近づけたと思う。

 

郷愁とは、僕もあの時から変わった所もあるものだと、試行錯誤の途中で苦笑したのを覚えている。

 

そもそも、僕がここでこんなこと(喫茶店の手伝い)をしているのは2年前、この島にある少年が帰ってきたことがあった。その日の夜にパーティを開いたのですが、そこで作った料理が皆さんにうけたらしく、溝口恭介さんの一声、「おめえさんもここで働けよぉ」で、ひと悶着あったものの最終的に忙しい時にヘルプで入る、という形で落ち着いたためである。

 

そんなことをジャガイモをスティック状に切りながら考えてたら、横から一騎が顔を出してきた。

 

「ん?じゃがいもをスティックにして何を作るんだ?」

 

どうやら、フライドポテトを知らないらしい。無理もない。この島にファストフード店なんて存在しないし、誰もわざわざ作ろうとは思わないだろう。などと、ちょっとした文化圏のギャップを感じつつ、「ああ、これはですね」と口を開いた。

 

「これはフライドポテトと言いまして、このようにスティック状に切ったジャガイモを油で揚げる料理ですよ。今の竜宮島にはありませんけど、昔はこういったファストフードと言う料理を安価で提供するチェーン店が日本に限らず世界中に沢山あったんですよ?」

 

「へぇ……簡単そうだけど、おいしいのか?」

 

ジャガイモを切り終え、油に投入するのを見ながら一騎が訪ねてくる。顔が興味深そうに鍋に向いているにも関わらず、千切りを続行する手腕は見事としか言う他ない。僕にはあんな真似はできません。というより千切りなんてしたこと今も昔もありません。

 

「ええ、そのまま軽く塩やケチャップ等を振っても良いですし、僕の故郷ではパンに挟んで主食とすることも多かったです」

 

「そうなのか」

 

多量の気泡を吹き出しながら100℃を優に超える油に揚げられていくジャガイモ。溺れ、もがいているようにも見えなくもないそれらを綺麗な黄金色に変わったものから逐次救出、クッキングペーパーの上に晒す。こうして余分な油を取り除いて仕上がったそれは、僕の記憶にもよく似た良い仕上がりになっていた。

 

揚がった直後の香ばしい香りが鼻をくすぐるそれを1本程、熱さに気をつけながらつまんで口に入れる。外側はパリッと、中はホクホクとした実に美味しいフライドポテトの完成と相成った。

 

それらに塩を振り掛け、食パンに挟む。そして軽くラップで包み、10分程馴染ませれば完成となる。

 

「では、表に今日のメニューを書いてきますね?」

 

「ああ」

 

一騎の返事を聞きながらドアを開け、外に出る。と、丁度こちらより年下と思わしき少年がバイクから降りていたところだ。

 

「こんにちは御門君。今日もご苦労様です」

 

彼の名前は御門零央。菓子店「御門や」を営んでいる父親の一人息子。母親が病死して現在は父子家庭ではあるが、父親によく似たまっすぐな少年だ。

 

「こんにちはレイ先輩。今日は手伝いですか?」

 

「ええ、今日の特別メニューは初めて出すやつですよ」

 

そう言いながら、店内に入っていく彼を見送り、黒板にチョークでメニューを書き出していく。筆記体で「Special Menu」と書いているので英語がある程度以上人読める人以外になんて書いてあるかわからないと思うけど、今に始まったことではないと思う。その下に、ランチセット「ダブリンコンドル&チップブティ」とカタカナで書いていく。

 

ちょうど書き終わったところで、人の気配を感じたのでそちらを向くと、1人の青年が立っていた。

 

背中まで届く長い茶髪を先端に近いところで纏め、最近掛け始めた眼鏡も相まって生真面目な雰囲気を漂わせる男性。

 

服装は焦げ茶色のややぴっちりした長袖に黒いズボンという姿の青年は彼も良く知っている人物だった。

 

「こんにちは総士君。研究はもう終わりですか?」

 

「ああ。ところでまだ準備中か?」

 

「ええ、ですが貴方なら一騎も歓迎すると思いますよ?僕も歓迎します」

 

と、軽く微笑んでみせたが、彼は軽く首を振る。

 

「お前は単に人手が増えるのが嬉しいだけだろう」

 

「そうとも言いますね」

 

そう言って立ち上がる。メニューは書き終わったので、「お先に」と言って店内に戻る。中では一騎が零央が持ってきたデザートのケーキを興味深そうに見ていた。さて、ここでちょっとした噂の種をご覧頂こうと思います。その噂とは?一騎に声をかければ解るかと思いますが。

 

「一騎。お客さんですよ」

 

「ん?」

 

そう言って一歩右側にずれる。

 

するとどうでしょう。ちょうど店内に入ってきた総士君が一騎の目に入ってきます。すると彼の反応は―――

 

「総士。早いな」

 

発せられた声は、何時になく穏やかで優しいものだった。

 

そう、これが噂の種―――「一騎と総士がデキている」疑惑である。聞きましたか?一騎の総士と呼ぶときのあの「はあと」が付きそうなほどに優しい声色を。そんなだからいろんな人に勘違いされるんですよ。

 

4年前のある事件の時も、「総士を返せ!」「総士いいいいいい!!」等と約1分の間に11回も彼の名前を呼ぶほどに仲がいいというかなんというか……これはもはや「総士病」という新手の病気ではないかと。

 

症状は主に何かと「総士」が気になり、仲が良くなる。「総士」が連れ去られると上の通り「総士いいい!!」と大声で連呼するとかですかね。ああ恐ろしい病だ。感染症ではないことが唯一の救いですかね。

 

「午前の研究が終わってな。まだ準備中のようだ、出直そう」

 

中の様子を伺う総士だが、一騎は柔らかに微笑んで答える。

 

「入れよ。賄いでいいだろ?」

 

「―――ああ、すまない」

 

このやりとりだけで一部の女性たちは歓喜物ですね。そう思いながらも面白いのでそのことは決して口にはしない彼なのだ。

 

 

因みに―――余談ではあるが、一騎、総士、暉。この3人にはある共通項がある。

それは「1人の女性に想いを寄せているor寄せられている」という点だ。その対象は遠見真矢、どこか蕩ける様な甘い声の持ち主で、現在は戦闘機のパイロットの訓練を積んでいる。

優しく、人の考えていることが解る、というレベルに洞察力が良い女性で、僕も彼女には友人として好感を持っている。

 

さて、その遠見真矢はというと、一騎に想いを寄せており、総士と暉に想いを寄せられているという現実がある。

 

つまり―――

 

 

       皆城総士?←―┐

          ↓    |

        遠見真矢→真壁一騎

          ↑     

         西尾暉

 

 

という三角関係ならぬ、通称「恋のクロスドッグ(4機連携隊形)」という状態なわけです。

 

昼ドラを遥かに超えるズブズブのドロドロの関係ですね。喧嘩沙汰にならない限り見てる分には非常に面白いので、どうかこのまま更にドロドロに嵌って行っていただきたいものです。

 

――――

 

ランチタイム。忙しくなるこの時間帯では厨房にいた一騎や暉も給仕を行っている。一番最初の客は島で銭湯「竜宮城」兼漫画作家を営んでいる小楯保及びアシスタントの

イアン・カンプの2人。次いで先ほど僕を乗せてくれた船の船長さん。他には学生及び西尾姉弟や堂馬広登等がここで食事を取っていた。

 

昼時に入店してくる人たちの半分がこの店の名物『一騎カレー』。彼、一騎が手ずから作ったカレーが絶品だと、何処かの何方かが島中に広めてしまったために現在はこのように昼時に食べにやって来る人が多いのだ。

 

そしてもう半分が、僕が作るアイルランドの郷土料理。スープはともかく、ソーダブレッド等は島では僕以外に作れる人がおらず、またしても何処かの何方かが島中に広げてしまったためにこうして週末に作りに来ているのだ。そのためか、週末は何時にもまして人入りが多くさばくのも大変なのですが、今に始まったことではないので割愛させていただきます。

 

そして、やや時間を置いた時辺り―――人が少なくなったのを見計らうように彼女達が入店してくるのだった。

 

――――

 

カラン、と入店を告げる風鈴がなり、振り返るレイ。入店してきた人達を見た途端、疲れた表情でテーブルを拭いていた先程までとは打って変わって優しそうな微笑みを浮かべた。

 

やや明るめの赤い髪をした女性と、その後ろにいる茶髪の女性。年齢的には2人は親子くらいの差であろうか。赤髪の女性は店内を見渡して口を開いた。

 

「まだランチはやっているか?」

 

「ええ、勿論。さ、どうぞ掛けてください」

 

今までの客に対する接し方と比べると、えこ贔屓とでもいうレベルで優しく、丁寧な接客を見せるレイに一騎と暉は苦笑を浮かべるしかない。いや先程も丁寧な接客ではあったが、忙しいこともあってかどこか感情が薄い、昔の彼のような無機質な接し方であった。

 

所が、赤髪の彼女―――狭間カノンとその母である狭間容子の2人に対しは、いわば魚が水を得たような生き生きとしたものに変わっている。厨房の方で、暉と一騎が「相変わらずだな」「今日も絶好調ですね」等とヒソヒソと話し合っているのも無理はないことだろう。

 

男なら誰だって、好きな子(・・・・)には格好つけたがるものなのだから。

 

「では、2人とも注文はいつもので変わりませんか?」

 

「ああ」

 

「よろしくね?」

 

丁寧にお辞儀をして見せるレイ。格好つけているとは言っても、ここで調子に乗って厨房の2人に指示を出したりすることはせず、普段と変わらず「メロンフロートとアイスティー、ミルク1つお願いします」と変わらぬ調子で告げる。

 

2人への対応と一瞬で劇的に変化してみせる彼に対し一騎は「はいはい」と笑ってグラスを取り出す。レイも慌ただし訳でなく、程よく素早く厨房に入りグラスを受け取るとメロンフロートとアイスティーを注いでいく。余談だがこのアイスティーは、レイがこの店で作り置きしているものである。

 

そして、メロンソーダの上にバニラアイスを載せたレイは一騎に軽く目配せすると、一騎は軽く頷いて棚から四角い缶を取り出した。レイは「有難うございます」と一言礼を言ったあとで、缶の中のものを取り出す。

 

そして、コースターを3つ(・・)用意して、カノン達の元へ向かう。

 

「お待たせしました。容子さんはアイスティーとミルクです」

 

と、給仕らしく小慣れた動作でコースターとグラスを置く。容子がありがとうと言うとレイは軽くお辞儀をし、カノンの方へ向き直る。

 

「カノンはメロンフロートと―――」

 

そう言って置いたメロンフロートの隣に3つ目のコースターを載せる。カノンからはレイ手が被さり見えないが、飲み物ではないことは確かだ。はたして、その正体はというと。

 

「はい、これ」

 

彼がコースターから手を離すと、彼女の目に映ったのは飴玉だ。3つのリボン包みが施された飴はそれぞれオレンジ、黄色、黄緑と鮮やかな彩りがなされている。

 

「な、なんだ。頼んでないぞ」

 

「ええ、サービスです」

 

そう言うと、レイは笑顔を作って言った。20歳に近づいても変わらぬどこか中性的な顔は普通に笑顔を作るだけで女性を赤面されること請け負いな破壊力を持つ。ある日、罰ゲームで彼が女装をした時の笑顔などは最たるもので、女性陣はもちろん、剣司や一騎達男性陣も思わず赤面してしまうことがあったそうだ。

 

「いつも来ていただいているようですし、ね。好きでしょう?」

 

そう言って、一度厨房に戻るレイ。カノンは思わず顔を軽く伏せてしまった。自分の顔、特に頬が熱くなるのを感じる。きっと自身の髪色の様に染まってしまっていると考えると、とても彼と顔を合わせていられなかった。

 

彼の言葉「好きでしょう?」その一言に彼女は一瞬2つの意味を感じ取ってしまっていた。一つは単純に飴が「好きでしょう?」という言葉通りの意味。そしてもう一つは―――

 

「き、嫌いでは……ない」

 

なんとか口からこぼれた声は小さく、またタイミングも遅かったため、厨房に戻った彼には聞こえることはなかっただろう。

 

だが彼、レイも内心はそれどころではなかった。厨房に戻る彼もまた、頬を赤くしていたのだから。その理由はカノンと同じで、自分の発言に2つの意味を感じてしまったからだ。

 

足取りは軽やかに、しかし内心では慌ただしく鼓動も心なしか早まりながら一騎達の所に向かう。

 

「へ、変に思われませんでしたかね?」

 

「?何が?」

 

「レイ先輩……流石です……」

 

レイが心配そうに2人に尋ねる。一騎はよくわからないといった感じで首をかしげ、暉は何が流石だったのか、レイの行動に関心すらしていた。

 

そして、レイは2人に聞いたことに若干の後悔を覚えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――これは、レイ・ベルリオーズの、記憶です。

 




感想、意見、評価、お待ちしています


新章開幕!1万時超え!!

レイ君も前作と比べても変わってきてますね。主に愉悦してるところとか。
前作見ている人はしてると思うのでいいますけど、今作ではレイ君は島に残る形です。

うん、構想も完成したし、あとはうまく書けるかどうかだけが不安だな……

これからもよろしくお願いします。


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崩壊

2週間振りの更新。
何とか上手く書けているといいのですがね。

それでは、どうぞ。


夢を、見ている。

 

暗い海の底に、僕はいた。

 

何も無く、何処までも広がる暗い海底は虚無感を強く感じさせる海底に僕は立っている。

 

生き物は僕以外に存在せず、生き物どころか岩も、何かの残骸すらも存在しない。

 

ただ、踏んでいる場所が砂で、それがただ無限に広がっているであろうと言うだけの、それだけしかない、虚ろな海の底なのだ。

 

いや、一つだけ、一つだけ確かに存在するものがある。それははるか遠く暗い闇の深奥、その先にーー一条の光が差し込んでいた。

 

その光を目指し、独りでにこの足は歩を進めた。進んでも進んでも、一向に近づく気配の見えない光を目指して何時迄も、何時迄も、決して立ち止まることなく進んでいる。

 

そうして進み続ければその果てに、あの光の下に届くと信じてそして信じながらも届くことは無いと理解して、それでも永劫進み続けるんだ。

 

いつかは、やがていつかはと。

 

そう、これが僕の「心象の海」。何も存在しない、1人孤独の中を虚無の先に見える光を目指して永遠に歩き続けている。そんな光景が僕の心象なのだ。

 

ファフナーのパイロットに行う検査の一つ、メディテーションの結果には以下の種類がある。

 

1. 陸地や船があって「海の上」に立っている。

2. 「海の表面」を泳いでいる。

3. 「海の中」にいて水面を見上げている。

4. 遥か「海の上空」を飛んでいる。

5. 恐ろしく深い「海の底」に沈んでいる。

 

以上5種類あるカテゴリ。この中で4番、及び5番は特殊なパターンで、滅多に該当する人間はいないそうだ。そしてその中で僕だけがこの、第5のパターンを示した。

 

このパターンを示す人物は、主に強迫観念等の何かしらの強い、それこそ人格形成にまで影響している感情を抱えている人間が示すもの。僕は、自身に対してある種の強迫観念を抱えていたことがある。これはその名残り、そして癒えることのない疵である。

 

僕は自身に対して、存在の価値を持っていない。何かの為に生きることでしか価値を見出すことができなかった。だから他人と距離を置きながら、自分に価値が有るのだろうかと、探していたんだ。

 

その結果がこの心象の海。自身に価値があるか無いかすら判らないのでは、自分を肯定する事も、まして否定することすらできずに、ただ水流に流される枯葉のように生きていた。何時までも流れの赴くまま、やがて流れの勢いに負け無残に砕かれ朽ち果てるまで、そうして生きて死ぬ。そんな生き方しかできなかった。

 

幸運にも枯葉は砕けることなくこの島に来て、皆と触れ合い、カノンと想いを重ねることができたから、今の僕は既に自分の価値を定めることができたけど、この心象は変わらなかった。それは結局の所、定めた価値は、本当に僕のものだと言えるのか、それが判らないからだろう。

 

つまる所、何も変わっていない。

 

自分に価値を定めた結果が、本当に自分に価値を認めるようなものでない限り、この水底は変わらないだろう。

 

ああ、でも―――

 

もし、この僕の心象を根底から破壊するような、そんなことが出来るとしたら―――

 

それは、なんて―――

 

――――

 

「ん―――」

 

トトト、と言う細かく何かを叩くような音で、目が覚めた。どうやら仮眠のつもりが結構深く寝入っていたようだ。やや重い頭を持ち上げながらそう感じた。

 

少なくとも、夢すら見ない(・・・・・・)程度には深度は深かったのだろう。

 

時刻は16時。時間にしておよそ2時間弱寝ていたことになる。流石に徹夜するにはだいぶ不足気味だが、夜までなら十分思考精度は保つことはできる。今日は、早いところ寝たほうがいいかもしれないけれど。

 

「お、起きたか」

 

声が聞こえ、その方向へ振り向くと、夜の営業の準備をしている一騎がいた。こちらに顔を向けているが、作業は中断することなくその手は包丁を動かしている。どうやらあの包丁がまな板を叩く音で目が覚めたようだ。

 

「おや、邪魔をしてしまいましたか?」

 

「平気さ。なんなら開店まで寝ててもいいぜ?」

 

一騎の言葉に僕は首を振る。流石にまだ仕事も終わっていないので、このままぐっすりと言うわけにはいかない。まだまだ仕事が残っているんだ。

 

一応僕も社会人。仕事を不用意にサボるわけには行かない。

 

「お気持ちは嬉しおですが、そうもいきません。カノンにもまだ教えないといけないことが有りますしね」

 

そう言って立ち上がり、店を後にする。そしてドアノブに手をかけた時、一騎が「なあ」と声をかけてきた。

 

「なんでしょう?」と応えながら振り向くと、そこには先程とは打って変わり、深刻そうな表情を浮かべた一騎がいた。

 

作業の手も止まっているあたり、真面目な話をする気だろう。僕はドアノブから手を離し、体を一騎に向けなおす。

 

「お前の作ってる新型のファフナーだけど」

 

そう切り出した一騎。その言葉の先はある意味予想通りだったといえるだろう。

 

「それが完成したら、俺もまた、ファフナーに乗れるか?」

 

「無論です」

 

対する僕の、その答えは即答だった。考える必要もなかった。

 

「僕のファフナーの設計思想は『1秒でも、長く戦い続けること』。そして其れには、もう現在のノートゥングモデルに搭乗出来ない僕が乗れる事を前提にして設計して有ります。当然貴方も乗ることはできるでしょう」

 

これは疑いようのない事実。シナジェティック・コードの形成がノートゥングモデルに搭乗が出来ないほどに劣化している僕と違い、一騎は未だパイロット達、候補生を含めた全員の中でも最も黄金律に近い。

 

マークザインと言う唯一性に加え、視点を世界規模に広げてもトップクラスのファフナーの戦闘技術を持っている一騎。既にマークザインは封印が決定しているが、引退したとはいえ、彼自身の能力は非常に高い。マークエルフを再建造してもコストに対してお釣りが来るほどの戦力になるだろう。

 

これをみすみす捨て置いてしまって良いのだろうか。確かに部隊を預かり、運用する身としては、そう思っている。

 

「ですが―――」

 

しかし、否だと自分に言い聞かせるように今までの僕の言葉を否定する。今のは軍人としての僕の意見。そしてこれは人としての、僕の意見。

 

「以前も申し上げた通り、貴方の引退は部隊、及び医療部の総意です。貴方はもう少し、戦い以外の自身を見つけるべきだと、皆に言われたでしょう?」

 

「あ、ああ……」

 

そんな僕の言葉に対し、一騎は不承不承と言った形で相槌を打つ。が、僕は僕自身の為に一騎に追い打ちをかけるべく言葉をつなげた。

 

「タイムリミットを気にしているのでしたら、そう悲観したものでは有りませんよ」

 

「え?」

 

図星を突かれたのだろう。一騎の表情が固まった。僅かに沈黙が場を支配する。やっぱり、と僕は内心でため息をついた。

 

「なんで……」

 

「どうせさっきも皆城総士と似たような会話をしてたんでしょう?でなければ貴方が僕にファフナーの事を聞くはずがない」

 

その指摘に、一騎はハットしたように表情を変えた。僕は今度は実際にため息を吐いて、言葉をつづける。

 

「3年もあれば技術は躍進します。現にノートゥングモデルも今は第4改良型が建造されています。医療技術もまた同じ。今は千鶴だけじゃなく剣司も携わっていますからね。皆城総士は可能性はある程度に言葉を留めたかもしれませんが、そう遠くないうちに新しい治療法も出来ますよ」

 

最後に「これは楽観的な見かたではなく、客観的な意見です」と付け加えておく。そう、これは事実だ。

 

現在、竜宮島では新型の同化抑制剤(アクティビオン)や、より安定させたフェストゥムゲネなどが開発されており、ニョルニア(真壁紅音)により齎された膨大なデータの解析が、今なお続けられている。

 

現在解析されたデータの中でも、未だその大半が実用域に至ってはいないものの、実用化されたものによる技術の発展が、その解析を後押しする循環柄形成されつつある。いずれ近いうちに新たな治療法が発見され、3年も経つ頃にはパイロット用の正式な医療として役立つ時が来る。

 

最後に一騎が自身のタイムリミットを気にするのもわかるが、その為に頑張って居る人達をもう少し信じてみてはどうでしょうか?と言うと、一騎は少しだけ表情を崩した。

 

「いつも、手厳しいよな」

 

「歯に絹を着せた言葉では薬にもなりません。辛辣でも事実を語らねば、為にはならないでしょう?」

 

僕の発言に苦笑いする一騎。

 

勿論、これで彼が納得し現役復帰を諦めてくれるとは思ってはいない。タイムリミットは刻一刻と迫っており、日に日に彼の焦燥は増していく。「何かをやり始めて、けど、それがやり残したことになるのは嫌なんだ」と、かつて彼はそう語った。喫茶店の店員をしている理由も、単に料理が向いていると言うだけではない。自分の残り少ない時間で、何も思い残しをしたくないのだ。

 

やり残しがあったまま、時間が尽きてしまうのは、辛いから。

 

だから積極的に何かを始めようとはしなかった。皆城総士にファフナーパイロットの教官も勧められたが、断ったこともある。

 

全く、悲観に過ぎますよ―――貴方は。

 

言葉にはしなかったが、そう思ってしまうのは、けっして僕だけではないはずだ。

 

「それでは、また」

 

そう言って、再び喫茶店のドアノブに手をかけた時だった。

 

……ブ……ン

 

普段は使用されていない筈のテレビが、ひとりでに起動した。

 

「え?」

 

「まさかっ」

 

テレビが起動した音に驚き、振り返る2人。

その画面を見た瞬間、一騎とレイはまるで時が止まってしまったかのように硬直した。

 

何故なら、それはーー

 

『Alvis』

 

そう記された紅い画面は、平穏の終幕を意味していたから―――。

 

 

――――

 

 

その画面を見た島民の行動は素早かった。

 

例え今日の漁を終え、皆で団欒を楽しんでいた漁師達も。

 

定食屋で顔馴染みの店員と談笑していた男達も、店員も。

 

自宅で漫画を手がけていた作家と、アシスタントも。

 

誰もがテレビに、パソコンのモニターに、突如表示されたその画面を見た瞬間、立ち上がり移動を開始した。

 

とうとう、この日がやってきてしまったのだ。

 

何時迄も続くと、続いて欲しかったと誰もが願ってやまないこの平穏が音を立てて崩れたこの瞬間を、誰もが理解したのだ。

 

大人達は周囲の人たちと一緒に、子連れの親は子供の手を引き、或いは抱えながらでも移動していた。

 

そしてそれは、彼らも同じ。

 

「姉ちゃん、行ってくる!!」

 

「あ……広ちゃん!」

 

少年は姉に手を振り決意に満ちた表情で、でも何処か軽快に走り出す。

 

「お婆ちゃん、あたしいってくる!」

 

少女は、店内の椅子から飛び上がり、そのまま店に振り返らずに走り出す。

 

そう、彼らは島を守る戦士達。財宝を守る為、竜へと変貌した巨人の乗り手。今まさに訪れる危機を救うのが彼らの役目なのだから。

 

そして、役目は違えど彼らもまた―――。

 

「剣司!

 

「ああ!!」

 

学校の保健室で談笑していた近藤剣司に要咲良。剣司は咲良の手を引きながら学校を後にする。

 

そして、喫茶店も同じ。

 

「レイ!」

 

「はい」

 

2人もまた、喫茶店を出るとすぐに走り出した。短距離走選手のような速度で道を走る彼らの表情は、他の人たちと同じ、決意に満ちたものだった。

 

――――

 

竜宮島。レイと一騎は剣司達と合流し地下に存在する緊急用移動設備バーンツヴェッグを用いて慶樹島に移動する。その内部で、レイは内部の通信装置で中央管制室第1CDC『パーシバル・ルーム』と通信を試みていた。

 

「―――状況は?」

 

『現在防衛圏外に人類軍大型輸送機が接近中。また、ヴェルシールド圏外にて質量不明のワームを観測しています。ソロモンに反応はまだありません』

 

応答に応じたのは女性で、彼もよく知っている人物だった。ベラ・デルニョーニ。元人類軍ファフナーパイロット。僕と同じ境遇で人類軍からアルヴィスへ帰属した。現在はCDCでオペレーターを勤めている。

 

「輸送機の機種は?」

 

『機種はC-300SG(スーパー・ギャラクシー)です』

 

ファフナー専用の長距離輸送機……戦闘部隊か、補給部隊か。どちらにせよ、相手は戦闘力を持っているなら。

 

「了解。ファフナー部隊の出撃準備に入ります。指令につなげてください」

 

『解りました。』

 

彼女の声が聞こえた後数秒のコール音が鳴ったあと、今度は男性の声が聴こえてくる。

 

『私だ』

 

声の主は真壁史彦。現竜宮島総司令を勤めている。真壁一騎の父親だ。

 

「レイです。人類軍ですが、恐らくファフナーを4、5機は抱えていると推測、進言致します」

 

『判るのかね?』

 

「スーパーギャラクシーは大型の輸送船ですが、ファフナー部隊の輸送専用機です。従ってファフナーが複数機存在しているものと推測できます」

 

『なるほど、了解した。ではレイ君は部隊の出撃準備に入ってくれ』

 

「了解しました」

 

通信が切れ、今度はもう1機、パイロットが搭乗しているバーンツヴェッグへ通信をかける。

 

数コールの後、出てきたのは西尾暉だった。彼の声以外に複数の声が聞こえてくる。どうやら割とリラックスした状況のようだ。なにやらメットがどうのと聞こえてくる。メットとは、あのゴウ何とかのアレですかね?

 

『はい。ファフナー部隊です』

 

「暉君ですか。ちょうどそこのモニターも出撃要請が入ってきていると思います。到着次第、出撃準備を」

 

『はい!』

 

「それと、水鏡美三香、御門零央、鏑木彗の3名は待機です。到着次第第2ブリーフィングルームに向かうようにお願いします」

 

「はい。解りました」

 

そう言って通信を切断、振り返るとそこには一騎と剣司、咲良の3人が沈痛な面持ちで椅子に座っていた。

 

「もう、か……」

 

「よりにもよって、ね……」

 

「……ああ」

 

まるでお通夜の様な雰囲気で、あちら(パイロット組)とはだいぶ違うなと思い、溜息を吐いた。

 

確かに招かれざる状態だ。だが、パイロットたちがリラックスしているのにこちらがお通夜でどうするのか。バックスがお通夜だと現役の向こうにまでいらぬ不安を与えかねないというのに。

 

仕方ないので、ちょこっと発破でもかけてみますか。

 

「みなさんこれからお葬式にでも行くつもりですか?」

 

「なっ」

 

「れ、レイ!」

 

「うっ」

 

三者三様の反応で実によろしい。その調子でパイロットたちを笑って見送ることが、一番なのです。無事、バーンツヴェッグが到着し、出入り口の扉が開く。3人よりも一足先に扉に手をかけ、振り返った。

 

「僕らは引退して、現役が後輩たち何ですよ?その僕らがこんなに暗かったら彼らに余計な心配と不安を与えます。「僕らで本当に島を守っていけるのか」なんて、思わせたら守れるものも守れません。そこのところ、しっかりしてください」

 

と、言ってから走り出す。これから向かう先はパーシバル・ルーム。ファフナー部隊の隊長として、務めを果たしに行く。その姿を見た3人は顔を見合わせてそれまでの雰囲気から、多少は明るい表情を作った。

 

「レイのああいう切り替えは軍人て感じだな」

 

「ホント、ああいうところはカノンとそっくりだよね」

 

「ああ、俺たちもちゃんとしないとな」

 

そう言い合い、彼よりも少し遅れてバーンツヴェッグを飛び出す。彼らが向かう場所は第1ミーティングルーム。これから起こる戦いの様子を見て、後輩たちが命をかけて戦い、自分たちは見てるのみというその歯がゆさに耐え、かつて戦場で戦った先達として助言やアドバイスをすることが、彼らの戦いなのだ。

 

それは大人たちでは行えない。かつてファフナーに乗り、戦士として島を守り続けた彼らにしかできない、辛い戦いだ。

 

――――

 

「遅れました!」

 

CDCへ駆け込むレイ。バーンツヴェッグから走り通しできたためか、少し息が上がっていた。既に正面の大型モニターには多数の映像が映し出されており、偽装鏡面も解除され、ヴェルシールドが展開されているのが見える。さらに中央の表示には「バード」と呼ばれる海猫に酷似した無人観測機が撮影したと思わしき竜巻のようなものが見える。また、防衛圏外で演習を行っていた戦闘攻撃機「ケストレル」からの映像も映し出されている。

 

「かまわん。それで、どう思うね?」

 

史彦は振り返ることなく言って、レイに尋ねる。レイは、各種の映像を見て数秒考えた後、口を開いた。

 

「C-300は今は何とも言えません。ただ、輸送機1機のみというのが気にかかります。おそらく、特殊部隊かと。それなら以上の戦力はあると思います」

 

「うむ。それと、日野家の美羽君から「輸送機を助けて」と通信があったが、どう思うかね?」

 

「……考えにくいことですが、美羽ちゃんと同じ、または近しい能力を持った人物が、輸送機に搭乗している可能性があります。その人物と美羽ちゃんが何かしらの交信をしていたら、ここへ正確にくることも可能でしょう」

 

「……なるほど」

 

レイの意見を聞いた史彦は思案するように右手で顎を支えるようにした。対するレイは、今判明している現状から人類軍側の思惑や、これからの部隊運用について考えていた。

 

もし特殊部隊だとすると、どのような部隊が来ている?輸送機単機でこの海域に来ているというのは明らかに不自然だ。ここは太平洋のど真ん中。機体の輸送にしても護衛機が着くはずだし、そもそも太平洋を横断、もしくは縦断するような航路を取るはずはない。この島を目指している線もあるが、だとしたらどのようにして島の所在を知った。

 

偽装鏡面は強力なγ線(ガンマ)以外は全て遮断するからレーダーでは発見することは不可能。目視は論外。赤外線でも不可能。熱探知も遮断する。

 

ならば、美羽ちゃんがここまで呼び寄せた?だとしても一体どうやって……やはり、彼女と同質の力を持った誰かが輸送機に乗っている……?

 

『飛行中のC-300へ。こちらFSE。コード『アロウズ』応答せよ』

 

ケストレルに搭乗している女性。遠見真矢が件の輸送機に接触、通信が試みられた。その通信はこのCDCにまで繋げられている。それを聞いて、レイは一度思考を中断した。相手の声や言葉から、その思考を読み取ろうとしたのだ。

 

『通信に感謝する。こちらC-300、コード『ケートス』人類軍南アジア艦隊所属、特殊航空連隊『ペルセウス中隊』』

 

聞こえてきた相手の声は男性。低いテノールで、落ち着いた雰囲気のある声だった。そしてレイはその声に、どこか聞き覚えがあり一瞬眉をひそめる。

 

『ケートスへ、誘導に従ってください』

 

『アロウズへ、全面的に従う』

 

が、考える暇もなく通信は続く。レイは声の主が誰なのか、考えるのをすぐに止め、当初の目的のために通信お内容に集中する。

 

『代わりに、貴官の指導者に伝えて欲しい。我々の望みは、お互いの『希望』を出会わせることであると』

 

「―――初めからここへ来ることが目的か」

 

「希望、だと……?」

 

レイがその発言から目的を察知、史彦はその先にある言葉の意味を捉えていた。

 

やはり、美羽ちゃんと同質の力を持った誰かがあの輸送機に―――けれど、南アジア艦隊は知っているけれど、ペルセウス中隊……?聞いたことがない部隊名だ。

 

ペルセウス……ギリシア神話に伝わるコルゴーンの怪物を倒した英雄の名を冠する部隊。先程のケートスというコード名もペルセウスに関係のある鯨座から取ったものだろう。

 

それにしても、あの声、昔聞いたことがあるが……思い出せない。

 

だが、これだけは言える。あの部隊はへスター・ギャロップ事務総長以下高等幹部の息のかかった部隊ではない。

 

もし、事務総長の息のかかった部隊ならば、フェストゥムと繋がれるあの力。決して見逃すはずはない。異端として排除するか。もしくは秘密裏に人体実験でもするか。少なくとも、こんな小さい島に接触させるはずはない。

 

この島を排除するために寄越したとしても、背後に核攻撃部隊を控えさせているはず。だが、現在はその影は見受けられない。

 

少なくとも、敵ということではないと判断し、通信装置を起動。ファフナーブルグへ繋ぐ。

 

「ブルグへ、ファフナーのスタンバイは?」

 

『すべて完了している。あとはパイロット待ちだ』

 

応答したのはカノンだった。思わず顔に笑みが浮かびかけるが、非常時なのでこらえて、指示を出す。

 

CDCでは今も慌ただしく変化する状況を逐次報告されていく。それを聞きながら、最適な部隊の展開位置を推定していく。

 

「了解しました。ではパイロット達が搭乗次第ナイトへーレ12、13、14、15番を接続してください」

 

質量不明のワームが存在している場所から、戦場となる場所を彦島への最短距離位置を指定する。

 

後ろを振り向くと、既に皆城総士がスタンバイしていた。

 

「やれるかね?」

 

史彦の問いに彼は「はい!」と力強く応える。その目には強い覚悟が見て取れた。

 

「お願いします。こちらも可能な限りバックアップしますが、あなたの指揮が頼りです」

 

「任せてくれ」

 

皆城総士はそう言うと後ろへ振り返り、後ろにあるのような柱へ歩いていく。その先にあるのは、ファフナーの連結型指揮管理システム『ジークフリード・システム』。 シナジェティック・コードによって、ファフナーのパイロットと脳の皮膜神経細胞を通して繋がるシステム。搭乗者はパイロットの精神状態、負傷度合い戦闘形成等を把握し、部隊全体を指揮管理、直接指揮をすることができる。また、その繋がりによって強固な対心防壁を構築し、敵の読心能力に対抗することができる。

 

が、欠点も存在し皮膜神経細胞を通してつながるため各パイロットが受けたダメージを自身がフィードバックしてしまう。それにそもそも各パイロット全員の情報が流れてくるわけだから、それを処理するために搭乗者の脳に多大な負荷をかけることになる。

 

それ故、現状の適合者は皆城総士のみとされていた。現在はもう1人、適合者が居るが、現在メインのシステム担当者は変わらず、皆城総士だ。

 

「ファフナー全機、出撃準備完了!!」

 

ちょうどいいタイミングで、出撃準備が整ったようだ。ジークフリードシステムも、既にクロッシングの用意が完了している頃合だろう。

 

「出撃!」

 

史彦の号令が下り、ファフナーが出撃する。正面モニターの端に各ファフナーがナイトへーレの門を通っていく映像が映し出されていた。

 

「輸送機、着水まで後30秒」

 

「グレース及びアロウズ、間もなくワームへ接触します!」

 

「ワーム質量固定、単体密度33、原子量28。フェストゥム、実体化します!」

 

CDCの報告を聞いた瞬間、全体に最高潮の緊張が疾る。守られてきた平和は崩壊し新たな戦いが今、始まった。




感想、意見、評価、お待ちしています。

レイ君。この物語で君の事をかなり抉り出すから頑張ってねー。


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開戦

また2週間ぶりの更新。

最低でもこのペースは守っていきたいかなーと思いつつ、書き上げていく。

それではどうぞ。


 

「―――消えた……」

 

実体化するフェストゥムへ牽制するために竜巻状のワームに接近していた濃紺色のケストレル。搭乗していた溝口京介は、その異変を正確に言葉に表した。

 

そう、確かにワームにはフェストゥムが実体化する予兆が視認できていた。暗い紫色の輝きが竜巻状のワームから零れ、フェストゥム特有のワームスフィア現象に近い現象とともに、フェストゥムが実体化する、同時にこのワームは消失する。そう、確かにワームは消失している。つまりフェストゥムは実体化しているはずなのだ。にも関わらず、ワームが存在していた場所に居るはずの金色の動体が確認できない。

 

消えた―――そう感じるのは極自然のことであろう。

 

だが、すぐに溝口は気づく。やつは消えたのではない。

 

『溝口さん!』

 

「っ!」

 

真矢の声が聞こえた瞬間、溝口は頭上を見上げた。視界の上が太陽に照らされたかのように眩しくなる。ケストレルの上、どこまでも続く蒼穹から、黄金の祝福が迫ってきた。

 

離脱せねば―――。その光景を見た瞬間溝口の思考が働く。だが、どうしようもない事とはいえ、それは迫る黄金に対しては悪手であった。溝口はすぐさまアフターバーナーのレバーを引く。だが、機体はまるで時が止まったかの様に沈黙した。

 

溝口のケストレルが半透明な紫色の球体に包まれる。フェストゥムの主な攻撃手段であるワームスフィア現象が発生しようとしているのだ。だが、今のスフィアは消滅させるためではなく閉じ込めるためのものである。

 

その証拠に、フェストゥムは溝口にぐんぐん接近している。両腕は大きく、5本の爪の様なものが伸び、全体的にマッシブな人型をしている黄金の肢体。顔に当たる部分には一つ目の下に口の様なものがある。という部位を上下ずらして並べている

という、生理的に嫌悪と恐怖を与えるような醜悪な造形をしていた。

そして、フェストゥムはその全てに例外なく読心能力を備えている。人間のあらゆる思考はその黄金の存在に読まれてしまうのだ。つまり一瞬でも離脱を考えたりすればその思考をフェストゥムは読み取り、離脱を阻止してしまう。ワームスフィアに囚われた機体は、その瞬間にすべての機能を停止させられた。

 

だが彼の名誉のためにいうが、それ(思考)は人類にとってはどうしようもないものであるのだ。古今東西あらゆる人類において、思考を全く行わない人間など存在しない。

それはまったくもって当然の生理現象とも言えるのだから。

 

『あなたは―――そこ、に―――い、ま、すか―――』

 

ノイズの混ざった女性のような声がフェストゥムから発せられる。『あなたは、そこにいますか?』という簡潔な質問だ。だが、その質問に答えてはならない。

仮に、この回答に「YES」と答えたならば、その存在を理解して取り込むためにフェストゥムは溝口をケストレルごと同化しようとしてくるだろう。仮に「NO」と答えたならば、その存在を「無」に還す祝福、ワームスフィアによる攻撃を仕掛けてくる。

 

また、同化されたものは文字通り「いなくなる」為に、どちらにせよ人類にとっては攻撃されているのと変わらない。フェストゥムの目的が何であれ、あれらの行動は人類にとって

ことごとくが害になる。

 

「―――っ!―――っっ!」

 

溝口は眼前に迫り来る醜怪な祝福に、叫びそうになるのを必死にこらえこの状況を脱しようとレバーを操作するが、ケストレルはその機能を完全に停止させていた。だが、目前に迫り来る「死」を前に、溝口は自分を見失っていない。眼前に巨大な黄金の巨体が喋りながら迫ってくるのはそれだけで発狂しかねない恐怖と絶望を感じてしまう。それを前にして凄まじい精神力と言えるだろう。死の秒読みが始まっても、彼は懸命に足掻いている。

 

果たして、その足掻きは届いた。

 

輸送機の誘導を行っていた真矢が、誘導を切り替えし、溝口を救出するため、フェストゥムへ向かってきたのだ。

 

「いるよ―――」

 

フェストゥムの背後から急速に接近する赤紫のケストレル。遠見真矢は確りと右手に操縦桿を握りしめ、答えてはならないフェストゥムの問いに|あえて≪・・・≫答える。

コクピット内における彼女の目の前。モニターは既に、黄金の巨体を捉えていた。フェストゥムは真矢に反応したように、真矢の方へ顔を上げた。

 

「―――ここに!」

 

カチ、という音と共にグリップのトリガーを握りこむ。直後、彼女が乗る機体の底部から2基のミサイルが発射され、ミサイルは加速しながらフェストゥムへと飛来する。フェストゥムは直ぐに反応し、右手を伸ばし爪を広げた。すると人間でいう掌に相当する部分から、複数の触手の様なものが急速にミサイルへ向けて伸びていき、ミサイルは

その触手に直撃し爆発する。そしてフェストゥムは左腕を盾にしてミサイルを防ぐ。

 

そのアクションの直後、溝口の乗るケストレルを覆っていたワームスフィアが消失した。そう、フェストゥムは読心能力を持つが、それ以上に自身の問いに答えた者を優先する傾向があり、真矢の行ったように、敢えて問いに答える事で、そちらの方へ意識を向けてしまい、捕えた対象を開放してしまう欠点があるのだ。

 

「っ!?―――っええい!」

 

機体が動くようになったと分かった瞬間、溝口は思い切りアフターバーナーのレバーを引く。肥大化した噴射炎と共に凄まじい加速をもってその場を離脱しようとするケストレル。だが、それに気づいたフェストゥムはさせまいと左手から触手を伸ばし、ケストレルを捉えてしまう。アフターバーナーにより強力な推進力を得たケストレルに追いつくフェストゥムの動きの素早さ。これは以前には存在していなかった。

 

「っぐうう!」

 

急激な加速から一気に停止され、多大なGが溝口を襲う。アフターバーナーも停止し、機体に異常を知らせるアラートがけたたましくコクピット内に反響するが、それどころではない。

 

Gを受け大きく息を吐き出させられた溝口。だが、直ぐに状況を理解し、後ろを振り向く。

 

その視界には先程よりもより近くに迫る醜悪な黄金の顔があった。

 

あわや絶体絶命。そう思われた瞬間、フェストゥムが姿勢を崩した。直後にフェストゥムの脇を赤紫の機体が過ぎ去っていく。真矢が再びフェストゥムにミサイルを当てたのだ。

 

今度は背後から撃ち込まれたため、フェストゥムも反応が出来なかったのだろう。いくら読心能力を備えているといっても、1人に意識を向けていればもう1人にまでは注意が向かないのは人もフェストゥムも同じらしい。フェストゥムの顔は真矢のケストレルへ向いた。この瞬間、溝口はあのフェストゥムの意識から外れたことになる。

 

「ナイスお嬢ちゃん!!」

 

この機を逃がさず、そして同じ轍を踏まない為に溝口は奥の手であるイジェクションシートを起動させた。コクピットの風防がはじけ飛び搭乗席のシートが射出される。宙に投げ出される形となった溝口は自分の位置がフェストゥムの死角になることを確認して、パラシュートを起動させた。

 

真矢の乗るケストレルがフェストゥムよりも上に位置してくれているおかげで、このままフェストゥムの視界に入る事無く着水できる。溝口は右手を大きく横に伸ばして親指を立てた。

 

「よかった……」

 

真矢は溝口が無事なのを確認して一瞬ほっ、と息を吐く。が、直ぐに表情を引き締めアフターバーナーのレバーを引いた。ケストレルが通過した直後、その位置に向かって溝口が搭乗していたケストレルが振り回された。その衝撃で溝口のケストレルは原形を保っている程度にまで大破してしまう。

 

真矢は戦場となる彦島へ機体を飛ばす。アフターバーナーを切り、フェストゥムを徐々に突き放す程度の速度を出して飛ぶ。

 

その背後を追うようにフェストゥムのワームスフィアが多数ケストレルを捕えるように出現するが、その全てを真矢は置いていくようにケストレルを操作する。

 

逃げるケストレルと、追うフェストゥム。フェストゥムは完全に真矢によって戦場へと誘導されていった。

 

CDCではその状況をリアルタイムで把握していた。

 

「グレース大破、アロウズが敵を誘導!」

 

「ソロモンはスフィンクス型と断定!」

 

「人類軍輸送機、着水します!」

 

上から要澄美、ジェレミー・リー・マーシー、陳晶晶の順番で報告が矢継早に上がっていく。それらを確認した真壁史彦は次の指示を出す。

 

「シールド閉鎖。敵を閉じ込めろ!!」

 

「了解!第3、第4ヴェルシールド、展開します!」

 

ヴェルシールド。敵の攻撃から物理的に島を守る為に作られた防壁。「ヴェル」の名の通り、特殊な波長を持ったエネルギーで構成され、敵の攻撃のエネルギーや衝撃を拡散させたり、核兵器の熱量をすら遮断する強力なシールドだ。攻撃の種類によって波長を変えることで鉄壁の防御力を実現するが、機器が大型なためファフナーに搭載することはできず、相手が同じ波長を持つ場合は無効化され、敵の侵入を許してしまうという欠点も抱える。

 

数年前までは島に存在するシールドは第1と第2のみであったが、現在は最大第8までシールドを展開でき、このうちの第3、第4シールドで敵とファフナーを囲い、戦闘における被害を最小限にする「バトルフィールド」という戦場を構築することができるようになった。

 

島の海底部に存在する発生装置が起動し、シールドを投射する。海面を裂くようにせりあがる赤いシールドは敵をたやすく閉じこめるだろう。

 

真矢の乗るケストレルが、敵を1人きり残す為アフターバーナーを起動し、一気にフェストゥムを突き放しにかかる。読心能力を持つフェストゥムは真矢の狙いを瞬時に把握、

止めるべく大破した溝口のケストレルを叩きつけようと振りかぶる。

 

だが、いくら心を読めても、動き出しが遅ければ意味はない。振り上げたケストレルを真矢へ向けて振り下ろした時にはすでにシールドは完成し、真矢の乗るケストレルはシールドの向こう側。振り下ろされたケストレルはシールドに激突し爆炎を上げるのみである。ここに、フェストゥムはただ1人形成されたバトルフィールドに取り残されることとなる。

 

真矢はそれを後ろ目で確認すると、そのまま減速しつつ剛瑠の格納庫へ向けて飛んで行った。

 

「第3、第4ヴェルシールド展開。バトルフィールド、形成完了!」

 

澄美の報告を受けた史彦は頷いて隣に立つレイに顔を向ける。それをレイは頷いて応えた。

 

「ファフナー部隊出撃。クロスドッグ形成後敵の迎撃を開始してください!」

 

その号令と共に、すべてが動き出す。

 

『ナイトへーレ、開門!』

 

Alvis、海底部。ファフナーの発進を行うナイトヘーレの門には、すでに4機のファフナーがスタンバイしていた。各々それぞれに用意された武装を手に取り、門へと送られる。

 

『出撃口、グリッド3206!』

 

出撃口にある程度まで進むと、機体が一気に加速する。ナイトヘーレから海面に射出するために、速度を持たせるためだ。門より発進された機体は特殊な水球に囲われた状態で海面を飛び出す。

 

水球は一定の高度に達するとはじけ飛び、中の機体が露わになる。紫、カーキ、グレー、ワインレッド。各4色に塗装された巨人が彦島に降り立つ。その中の1機、マークツェーンは手にしている狙撃銃「ドラゴントゥース」を構えた。

 

 

発射された弾丸はバトルフィールド端で、ヴェルシールドに攻撃しているフェストゥムの背後にヒットする。背後の輪飾りの様なものが弾丸によって欠けるが、その程度の損傷は瞬く間に修復されていった。

 

振り返るフェストゥム。その視界の奥に、4機の巨人が佇んでいた。

 

「こっちだフェストゥム!」

 

挑発するように声を張るマークツェーンの搭乗者、西尾暉。その声に応じてかフェストゥムは真っ直ぐにライフルを構えるマークツェーンへと突進を仕掛ける。だが、フェストゥムの突進がマークツェーンへ当たる直前、その行く手を阻むように紫の巨人が飛び込んでくる。

 

「ゴウバイン!!見参!」

 

テレビに出演していることもあってか、妙に堂の言った名乗り向上を上げるマークフュンフの搭乗者、堂馬広登はすぐさま機体の専用武装であるシールド「イージス」を展開する。

 

4基ある発生装置から展開される水色のシールドはフェストゥムの突撃を受けても揺らぐことなく受け止め続ける。40m近くある機体とフェストゥムを覆い隠すほどの土煙が上がる衝撃を機体ともども受けているはずだが、ビクともしていない。

さらに、展開されたイージスの発生装置。その内の両端の2基がフェストゥムを囲むように稼働する。すると、その2基の部分のみシールドが消え、装置内の発振機が折曲り、まるで銃身のような形態をとる。

 

そう、それはまさにマークフュンフに新たに搭載された攻撃武装。長らく防御専門で、火力不足に悩まされてきたマークフュンフに、レイ・ベルリオーズが考案した、イージスそのものを射撃武装に転換するレーザー砲を搭載させたのだ。これによって、マークフュンフが一気に最大4門のレーザー砲を手に入れ、火力不足が解消されたことになる。

 

そして、マークフュンフの左右に、それぞれマークノイン、マークツヴォルフが配置され、陣形が完成された。

 

「ファフナー。クロスドッグ、エンゲージ!!」

 

「アローズ、剛瑠島へ帰還します!」

 

CDCも慌ただしく情報の交換が行われている。リアルタイムで状況が変化する戦場の情報をこうして複数のオペレーターにより情報が飛び交っている。それを聞きながら、レイは中央メインモニターに映し出される戦場の状況を見ていた。

 

―――2年ぶりの実戦。そして彼らにとっては初めての彼らのみでの戦闘。不安はありますが、敵はB型のスフィンクス1体。さて……

 

敵と後輩たちの戦闘を見ながら、次の戦いへ向けて状況を細かく分析していく。現状戦えない彼にとって、隊長としてやるべきことをやろうとしているのだ。思考ながら、聞こえてくる情報では、真矢が剛瑠島に帰還したことが伝えられていた。

 

『アローズよりCDC!トラック、ハンドオーバー!』

 

「アローズ、了解!ケートスは此方で誘導します」

 

晶晶が真矢の応答をする。輸送機の誘導のためにキーボードを打っていく晶晶。誘導のメッセージを送り終わったところで、真矢が再び発言した。

 

『CDC!マークジーベンの出撃許可を!』

 

「―――!」

 

レイは一瞬思考を止めた。確かに真矢、彼女はレイ達の世代では唯一現役のファフナーパイロットを務めている。

 

彼女は一騎を除けばファフナー部隊トップのファフナーの搭乗適性を持っており、その世代では最も最後にパイロットとなっていたために、未だに現役を続けられていた。だが、彼女を出撃させるのは、ほんの一瞬。レイは迷ったのだ。

 

彼女とはそれなり以上に友人として親しく、カノンとも彼女は親しかった。そして、現状の敵戦力ならば後輩たちだけでも十分撃破可能だと、最終的に判断したために

彼女までを送り出すのは躊躇われたのだ。

 

「……!真壁司令!」

 

晶晶もそうだったのだろう。一瞬驚いた表情を見せ、その後史彦へ指示を仰ぐ。

 

「許可する。ジーベンを、剛瑠島へ!」

 

史彦はパイロットたちの意思を尊重する姿勢をとっている。一瞬の逡巡の後、出撃許可を出した。レイもそれを聞いて瞬時に思考を切り替える。手元のコンソールを操作し、ファフナーのドッグへ通信をつなげた。

 

「CDCよりファフナードッグへ。マークジーベンを剛瑠島、ファフナー搭乗庫へ。新型DT装備、発進体勢で待機させてください」

 

『なっ―――真矢を出すのか!?』

 

通信に応答したカノンは驚きの声を上げた。無理もない。

 

「真矢から出撃許可の要請が来ました。急いで移送を、彼女なら2分と立たずに出撃準備を済ませますよ」

 

『りょ、了解!』

 

「お願いします」

 

そう言って通信を切る。もう1度コンソールを操作し、今度は真矢へ通信をつなげた。

 

「真矢。聞こえますか?」

 

『うん。聞こえてるよ』

 

通信に答えた真矢の声からは、恐怖や緊張は感じられず、彼女の特徴的な、どこか陶酔的な甘い声が聞こえてくる。僕は一瞬の間をおいて、口を開いた。

 

「マークジーベンに新型ドラゴントゥースのデータを送ります。搭乗しだい確認してください」

 

「了解」

 

「ぶっつけ本番ですが、いけますね?」

 

2年ぶりの実戦で、使用データすら存在しない初めての武器を使わせるのはやや心苦しいが、彼女には頑張ってもらうしかない。やや辛口で確認をとるのは、彼女への信頼の証だった。

 

「任せて。使いこなして見せる」

 

当然のように彼女は応えた。それに僕は一瞬降格が上がったのを感じながら、「お願いします」と言って通信を終え、直ぐにモニターの方へ視線を向ける。だが、そこに敵の姿はなかった。

 

「敵、反応消失!ソロモンの応答が消えました!」

 

「プレアデス型と同じ……!」

 

上がってくる報告を聞いて、直ぐに思い至った。かつて戦ったフェストゥムの中でも、特に高い戦闘力を持った個体。プレアデス型と同じ透過能力を敵は行使してきたのだ。

ファフナー4機はそれぞれ周囲を警戒する。だが、見えない敵の攻撃を防ぐのは、不可能に近かった。

 

真っ先に襲われたのはマークツェーン。機体の直ぐ上から、職種の様なものが伸びてきて、機体の左腕を突き刺す。なんと、更にそこから同化現象特有の緑色の結晶が生えてきた。

機体を同化するつもりか―――あれではペインブロックは不可能だ!

 

直ぐにマークツェーンの状況を把握、思わず声を出しかけたが、CDCから機体へ指示を出すのはできない。戦場にいない自分に苛立ち、思わず歯ぎしりする。

 

マークツェーンの異常にいち早く気付いたのはマークノイン。西尾 の姉である彼女だからこそ気づけたのだろう。機体の標準装備である拳銃「デュランダル」でマークツェーンの腕を射撃、損傷させる。

 

それならば、後はネクローシスで腕部を強制崩壊させることができる。だが、かなりの痛みをフィードバックするので、彼は戦闘が終わったら用精密検査だろう。

 

『飽和攻撃を要請!ライン08まで後退。急げ!!』

 

CDCに皆城総士の声が響く。その声を聴いた瞬間、僕もまた声を上げていた。

 

「エリアWS7からWS89までの範囲をデナイアルで爆撃してください!」

 

「了解。デナイアル、発射します!」

 

その数秒後山林部、及び海底部から多数のミサイルが発射された。それら全てはファフナーのいる付近をめがけて飛来する。そして、ある程度地面に近づいたところで近接信管が起動、爆破される。広範囲に爆炎が上がり、爆風がファフナーもろとも周囲を飲み込むが、先頭に立っていたマークフュンフがイージスで皆を護っていた。その姿はまさに守護神と言うにふさわしい。

 

そして、これにより周囲の環境は激変。特に瞬間的な気圧変化は相当なものになる。たとえ姿を隠していてもこの環境の変化には追いつきはしないだろう。その証拠に、剛島から彦島にたった今到着したマークジーベンが戦闘エリアに到達した途端にライフルを構え、発砲した。

 

発射された弾丸は、ワームの気圧変化によりフェストゥムの居る位置を中心に渦を巻くように土煙を巻き込んでいるその中心に直撃した。その瞬間、今まで透明になっていた

フェストゥムが、その姿を現した。その胸に当たる部位の中心にはしっかりと、真矢の撃った新型ドラゴントゥースの弾痕が残っていた。

 

新型ドラゴントゥース。空中戦闘を得意とするマークジーベンと、狙撃に対して極めて高い適性を持つ彼女との相性のミスマッチを解消する為に開発した武装。

 

主に銃身を可能な限り切り詰め固定用アンカーを撤去、各部の軽量化を計った物で、装弾数が若干低下し、最大射程の減少、射撃時の反動が強くなっているが、空中での取り回しはレールガンよりも高く仕上がっており、かつ威力はドラゴントゥースと変化はない。

 

そして、姿を現したフェストゥムへ目がけ、マークツヴォルフが凄まじい勢いで、「レヴィンソード」を振りかぶる。レヴィンソードも僕が考案したものを改良した物で、

ロングソードの発展と言える兵装だ。主に刀身幅の拡張と、刀身中央にプラズマアクセラレータを搭載したことにより、形成されたプラズマ刃が秒間数千回の勢いで刀身を上下に行き来する。それにより、ロングソードの3倍近い切れ味を生み出している。

 

そのレヴィンソードによりフェストゥムは一刀のもとに両断された。だが、そのまま消滅するかと思われた両断されたフェストゥムは、消滅するどころか、緑色の決勝に覆われ始めた。

 

元の躯体の何倍にも結晶は膨れ上がり、砕け散った瞬間―――信じられないことに、4体に増殖したのだ(・・・・・・・・・)

 

CDCでもその衝撃は伝わってきており、一瞬、報告の声がうわずったほどだ。

 

「て、敵、4体に分裂!」

 

「―――」

 

―――分裂?莫迦な。あれでコアが破壊されなかっただと?

 

「ソロモンの解析では敵のコアは依然1つだけです!」

 

「胴体だけ分身したというのか」

 

方々から上がる報告に、素早く思考をまとめる。成程、つまりただの身代わりだ。

 

「色々やりますね敵も。恐らく残りは影の様なものです。一定のダメージを与えれば消滅するかと」

 

「うむ。だが、敵が増えるというのは実際脅威だな」

 

「少し、長期戦になるかもしれません」

 

真壁指令の反応に、僕はそう答える。実際、数が増えたところで個体毎の戦闘力が低下してはいない。2年ぶりの実戦である彼らでは、多少の苦戦は免れないだろう。4体に増えたフェストゥムの攻撃を回避するため、マークツヴォルフとマークノインがその場から離脱。軽く分断された状況となる。

 

―――不味い。連携が途絶えた以上、フェストゥムの撃破は遅くなる。このままだと敗北はないでしょうがそれなりのダメージは避けられない……!

 

万一の時には「アレ」を使わなくてはならないかもしれない。そう思いコンソールを操作しようとした時、CDCにオペレータ以外の、パイロットやジークフリートシステムからでもない声が届いた。

 

『こちらケートス。我々も戦力を投入する』

 

その声は、先程島に誘導され、バトルフィールドの外で待機していた、人類軍からの共闘の申し出だった。

 

『共に脅威を退けよう!!』

 

その声は低く、しかし勇敢さと、頼もしさを感じる厳かな重みが含まれていた。

 

 

CDCのモニターにも人類軍の者と思わしきファフナーの映像が届いた。

 

映像には3機のファフナーが映っており先頭の1機は何か全く不明だったが、残りの2機にはレイは見覚え、というよりは知っている機体の面影を感じた。

 

―――メガセリオンモデルと、グノーシスモデルの発展系……先頭の1機は解らないけれど、すべて新型機か。フェストゥムが強くなるのを嫌がる人類軍があえて製造した新型機。その性能を見せてもらいましょう。

 

人類軍のファフナーは既にレーダーにも映っており、それぞれが彦島へむけて移動していた。

 

「人類軍、ファフナー3機が彦島へ!」

 

「シールド部分解除」

 

澄美の報告に真壁指令はシールドの解除を命じる。つまり、彼らの参戦を許可するつもりなのだ。澄美は一瞬戸惑い「えっ……あ」と、真壁指令の方へ振り向くが指令は構わず「フィールドに入れてやれ」と指示を出した。そして、1度僕の方を見る。

 

「構わんな?」

 

僕はその問いに頷いた。当然、願ってもいない事だ。

 

「はい。共闘を持ち出してきている以上、断る理由はありませんし、あの機体の戦闘データを取りたいところです。向こうもそれを承知の上で共闘を持ちかけているはずですし」

 

こうして、竜宮島で初めて明確に、向きをそろえての人類軍と共同戦線が実現したのだった。




感想、意見、評価、お待ちしています。

うん。思ったより話が進まない。そして戦闘回のはずなのに戦闘シーンが少ないというのはどういうことなのだろうか。

そしてナチュラルに入るオリジナル設定。
マークフュンフのレーザー砲、レヴィンソードの考案をしていたレイ。意外と働き者なのです。


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2週間振りの投稿、じわじわとお気に入りが増えていくのを見て嬉しく思う反面、上手くかけているか不安になる日々が続いていく。

それはそうとカノンも良いけど真矢も可愛いなあと思う今日この頃。
松本まりかさんの地声が真矢とあまり変わらないことを知って驚いたのは1年前の話である。

それでは、どうぞ。


着水した人類軍緒方輸送機―――C300から発進した人類軍機は、真っ直ぐに彦島へと向かっている。

 

「1番機は上空、2番機はトーチ型を支援!」

 

其々形状が異なる青いファフナー。その先頭にいるファフナーのパイロットが、他の機体へ指示を飛ばす。

 

「俺はソードを振り回してるヤツとやる!」

 

「了解!」

 

「やっと戦えるね」

 

先頭の指示を受け、女性と男性が受け答えをする。そして、海岸線近くで3機は分れ、各々指定された竜宮島ファフナーのもとへ向かう。それぞれ1機は沖、マークジーベンの居る方向へ、1機はマークノインが居る方へ、1機はマークツヴォルフがいる方向へと、単機でフェストゥムと戦っているファフナーの方面へ移動、合流する。

 

これにより、分断されずにいたマークフュンフとマークツェーン以外のエリアも2対1という構図でフェストゥムと戦闘する形となる。

 

最も早く竜宮島のファフナーと合流したのは、重装甲の空戦型機である。

 

上空から下降し沖の海面近くを滑空するフェストゥムを追うマークジーベン。両者の速度はほぼ拮抗しており、距離はなかなか知縮まらない。

 

そこへ、上空から青いファフナーがマークジーベンを追い越し、海面近くを飛ぶフェストゥムへと迫る。

 

「速い……!」

 

それを見た真矢も思わずそうつぶやくほどの速度で、青いファフナーは敵へ迫り、両手に保持したアサルトライフルの引き金を引く。

 

が、フェストゥムもまた速度を上げ大きく、不規則に体を左右に振る。それにより、青いファフナーの発射するアサルトライフルの弾丸はことごとく回避されていき、やがて敵を撒くように速度を落として急反転、今までとは真逆のマークジーベンの方へと飛んでいく。

 

「ッ!」

 

まんまとフェストゥムに躱された重装型機体の搭乗者は悔しそうに振り返り、機体を反転させる。機体の速度が速すぎて、急に速度を落としたフェストゥムを追い越す形になってしまったのだ。

 

実は、真矢のファフナーもフェストゥムを追っていた時のあれが全速力と言うわけではなく、もう少し速度を上げる事も出来た。が、フェストゥムを追う際に一瞬でも速度を上げなかった理由がここにある。彼女は、直前の訓練の時、溝口恭介の意地悪により彼を機体速度の出し過ぎで彼を追い越してしまっていた。

 

その際溝口に「ダメだぜぇ?速く飛べるからって、敵を追い越しちゃあ」としゃあしゃあと言われていたのだ。つまり、彼女は敵に追いつこうとするのではなく、追いついた後追い越してしまうことで隙を晒す事のないよう、ある程度の距離を保ちながら敵の隙を探すように注意していたのである。

 

逃げおおせたフェストゥムは小さく体を左右に振りながらマークジーベンへと突進するように迫る。

 

そして、真矢も先程から速度を落とすことなくフェストゥムに接近する。互いに接近し合うことでその相対速度は極めて速い。万が一衝突することになった場合、機体の大破は免れないだろう。再生能力を持つフェストゥムと持たないファフナーでは、決定的なアドバンテージの差が存在している。

 

だが、その危険性さえ今の真矢の表情を崩すことは叶わず、彼女は機体の速度を維持し続ける。

 

「……」

 

左右に体を振るフェストゥムに合わせるようにこちらも機体を左右に振る。そうして敵が体を揺らすことで定まらない射線のブレを調整していくのだ。

 

そして、互の揺れが重なり射軸が定まった瞬間を狙い、引き金を引いた。

 

マズルフラッシュと共に発射された徹甲弾は、まるでそれが当然であるかのようにフェストゥムの頭部、やや中央から外れた箇所に着弾。その衝撃でフェストゥムは体を大きく揺らし、体勢を崩して飛行速度も一気に低下する。その隙を狙ってマークジーベンはフェストゥムの脇をすり抜ける。

 

この間、僅か数秒の出来事である。

 

互いに接近し合っている状況では10秒と立たないうちに激突するであろう。その事実は本能的な焦りを生み出し、衝突のダメージを無意識にイメージすると共に自らの動きを恐怖で縛ってしまう。

 

にもかかわらず、彼女は当然のようにほんの数秒足らずで射線を調整し、見事に命中させたのだ。

 

正しく驚異的な技量であり、その光景をみた人類軍のパイロットも思わず一瞬、驚愕に顔を染めることとなる。

 

「あの速度で当てた!?なんて腕なの―――」

 

驚くと同時に、ある種戦慄してしまう。極めて高い相対速度が出ている状態で、初撃1発で敵に痛手を叩き込む。これほどの狙撃技術を持った人物は今まで、人類軍全体でも聞いたことが無かったのだから。

 

そして、今の1発でかなりのダメージが入ったに違いなく、後1発確実な一撃を撃ち込めばこの影は倒せる。真矢は経験則からそう判断した。

 

あとは、もう1発を確実に当てる状況に持ち込むのみである。

 

――――

 

マークノインは苦戦を強いられていた。火炎放射器『サラマンダー』。フェストゥムの体組織を崩壊させる気化燃料を放射する武装だが、現在交戦中のフェストゥム、スフィンクスB型に有効なダメージを与えられていないからだ。

 

最高温度2,000℃にも及ぶ火炎放射だが、フェストゥムは両腕をクロスするように防御しており、一向にダメージを与えられている様子は見受けられない。

 

最も、これは『サラマンダー』自体が全く効いていないのではなく、両腕にフェストゥム特有のバリアを集中展開しており、それにより直撃を避けている為と言ったほうが正しい。もし火炎放射が直撃していれば、10秒と経たないうちにフェストゥムの体は崩壊し消滅しているだろう。

 

だが、如何に強力な武装も直撃をさせなければ有効打とはならない。本来、彼女の武装は味方と連携してこそ、その高い威力を発揮できるものだ。

 

そして逆に言えば防御に集中している分、フェストゥムも攻撃に移ることは出来ないでいる。

 

フェストゥムも攻撃をする為に何度も移動しているが、その移動に合わせて『サラマンダー』も制圧射撃のように追従して放射されており、防御に徹するしかないのである。

 

苦戦をしているといってもマークノイン、里奈は決して不利には置かれてはいない。いわば膠着状態を呈している。

 

が、このままでは『サラマンダー』の燃料が切れ彼女は膠着状態から一転、一気に振りに追い込まれる。だが、彼女に膠着を破る手段はなく、そしてそれはフェストゥムも同じ。だとすれば、この状況を打破するのは彼女等以外の、第3者によってでしかなされない。

 

よって、この介入は必然と言えるだろう。

 

マークノインの背後に、突如降り立つ青い影。レイが、グノーシスモデルの発展系と予測、判断した機体がここに現れた。屈んだ状態の着地体制から、ゆっくりと起き上がる機体は、標的を定めると左肩下部に搭載されている機関砲をフェストゥムに向け発射する。

 

その瞬間、フェストゥムは両腕で火炎放射を弾くと同時にその場から急速離脱。青いファフナーの射線から逃れようとする。

 

そのフェストゥムに機関砲で牽制しながら、青い機体はマークノインに接近した。

 

「やあ、お邪魔するよ」

 

青い機体の搭乗者は胸元にぶら下げたネックレスを揺らしながら、明朗にそう告げた。無論、無線機のないノートゥング・モデルにはその声は届くことはない。

 

それを確認したマークノインの搭乗者である西尾里奈は突然の闖入者に感謝することなく、寧ろ嫌がるように口を開いた。

 

「なんでコイツ等が来んのー?」

 

『今は必要な連携だ。文句を言う前にやるべきことをやれ』

 

その里奈の呟きに応えるように、彼女の傍に皆城総士の紅い幻影が現れる。それに里奈は渋々と言ったように「はーい」と返事をした。

 

こうして、互いにスレ違いながらも、即席の連携が成されるのだった。

 

――――

 

マークツヴォルフは一度距離をとった。自身の装備である『レヴィンソード』の刀身がフェストゥムの腕から伸びる触手に絡め取られ、折られてしまったからだ。折れた刀身は高く弧を描くように回転しながら落下し、マークツヴォルフから離れた位置に突き刺さる。

 

一見丸腰になったマークツヴォルフだが、実は戦闘能力を完全に失ったわけではない。彼女の機体には標準装備の『デュランダル』『マインブレード』以外にも、強力な装備が存在している。

 

それの使用する隙を見出すため、一旦距離をとったのだ。

 

フェストゥムは追撃をかけるため、左腕から伸ばされた触手を戻しながら右腕を引き絞るようにして攻撃体制を取る。

 

が、直後―――横から飛来する水色のプラズマ弾がフェストゥムに直撃した。

 

直撃したプラズマは破裂し、水色の爆炎を作る。その衝撃でフェストゥムは体勢を崩し、そのままプラズマ弾の飛来した反対の方向に倒れ込んだ。一体何が起きたのか、その全ては鏡のように磨きこまれた『レヴィンソード』の刀身に写りこんでいた。

 

空から接近している青い機体が銃剣のような武装を構え、そこから高速のプラズマ弾を発射していたのだ。

 

それは地面に突き刺さった刀身が横たわるその瞬間まで、鏡写しに鮮明に投影されていた。

 

「―――なに?助けてくれるの?」

 

マークツヴォルフに登場する立上芹は、驚いたように青いファフナーが居る方向を見た。そのファフナーはこちらに軽く会釈するように手を向けると着地し、フェストゥムに向かって滑るように地面を滑走しだした。

 

それを見た芹はフェストゥムと青い機体に対して十字に挟む様に逆サイドに移動する。西尾里奈と比べて、スムーズにこちらは連携を始めていた。

 

――――

 

人類軍との共闘が始まって数分で決着の時は来た。

 

1番早かったのは、やはりマークーベンのいる海上方面だった。

第3ヴェルシールド付近を戦場をにし、フェストゥムの後を追いかける形の青い人類軍製ファフナーは。装備しているアサルトライフ―――ガルム系の発展型であろう。

 

その武装の上部ユニットから2発のミサイルを発射する。

 

ミサイルの1発はシールドスレスレを飛行するフェストゥムに躱されシールドに直撃し、発生するシールドの赤い波紋と共に爆発する。2発目は海上スレスレに移動したフェストゥムを追いかけるが、上に回避され海上へ着弾し、水飛沫を上げる。

 

ミサイルを躱したフェストゥムは遠巻きを旋回していたマークジーベンの背後に回り込むと、ワームスフィアの変形であろうか、自身の眼前にワームスフィアを形成、そこから矢尻状のワームを多数マシンガンのように連続して射出した。

 

 

完全にこちらの知らない攻撃形態を取ったフェストゥム。それをCDCのモニター越しで見ていたレイは「なっ!?」と驚きの声を上げ、不意をつかれた形となったマークジーベンの、一瞬後の機体破壊を幻視し歯を剥き出しにして顔を歪めた。

 

 

 

だが、真矢はフェストゥムがワームを自身の眼前に形成した瞬間を後ろ目に確認、攻撃手段を瞬間的に察知したかのように放たれるワームを機体を左右に揺らすことで回避していく。

 

 

 

 

 

 

偏に、これは真矢の持つ天才症候群(サヴァン・シンプトム)。「異常推測能力」によるものである。

 

彼女は、相手の表情や仕草を見るだけで、考えていることが概ね把握することができる。これにより彼女はフェストゥムが自らの目の前にワームを展開したことを見て、「直接的な遠距離攻撃を仕掛けようとしている」ことを察知し、即座に回避行動を移すことができたのだ。

 

そして、そのスキを狙ってフェストゥムの真上に陣取った青いファフナーが、今度はアサルトライフルに取り付けてあるグレネード弾をフェストゥムへ向けて発射した。発射されたグレネードはやや軌道がブレながらもフェストゥムの眼前、海面に(・・・・・・)着弾。着弾したグレネードは爆発し、先ほどのミサイルの倍はあろうかというほどの大きさの飛沫を上げた。

 

一見狙いを外したように見えるこの攻撃。それは直接的なダメージを狙ったものではなく、マークジーベンの攻撃のアシストのために撃たれたものだ。水しぶきによりワームスフィアが掻き消され、フェストゥムも体勢を崩す。それにより矢尻状のワームも止んだ。

 

それを確認した真矢は機体の手を海面に差し入れると、それを軸にするようにして水しぶきを上げながら一気にフェストゥムに向けて反転した。

 

飛行による慣性により大きく横に流れながら反転したため、手を差し入れた海面からまるで海面を切るようなしぶきが上がっていく。

 

急反転により体にはかなりのGが掛かっているはずなのに、彼女の表情には僅かの機微も感じられず、只々冷静に標的を定めている。機体も未だ横に高速で流れているにも関わらず、彼女はまるで体が静止しているのではと思ってしまうほどに、その標準と銃口は一瞬たりともズレる事なくフェストゥムを捉え続けている。

 

そして、自身のイメージが完全にフェストゥムを捉え、それを表すかのように真矢の目が細まる。直後

 

Pi――――

 

ロックオンを告げる電子音がコクピット内に響き、真矢は躊躇なく引き金を引いた。

 

銃口から閃光とともに撃ち出された徹甲弾。それはまるで吸い込まれるように、初めからそうなることが決まっていたかのようにフェストゥムの頭部に穴を穿つ。

 

直撃した徹甲弾の衝撃でシリコンの破片が飛び散り、体を仰け反れせるフェストゥム。

 

 

そして、そのまま動くことなくワームスフィアの黒い球体に飲み込まれ、無へと帰っていったのだった。

 

 

――――

 

 

マークノインと青いファフナーは1箇所に固り、火力線を敷いた。

青いファフナーによる機関砲での牽制。そして、マークノインによる『サラマンダー』での制圧攻撃。同時に放たれる青い機体によるミサイルの3段攻撃。

 

牽制の機関砲を躱すフェストゥムは躱した方向から放たれる火炎放射を受け止める。そして、防御したことにより動きを止めたところへミサイルが迫り来る。

 

フェストゥムはミサイルを避けるため、火炎放射を弾き飛ばすが既に遅い。急速離脱を試みるものの、複数のミサイルにあっという間に追いつかれてしまい、その直撃を受けた。

 

爆炎に包まれるフェストゥム。複数のミサイルの直撃はフェストゥムの影を削りきるのには十分過ぎた。ミサイルの爆煙が消える前にその煙の中から、ワームスフィアが出現。フェストゥムの消滅が確認された。

 

「むぅぅ……」

 

里奈は不承不承といった面持ちで、『サラマンダー』を下ろす。彼女的には自分1人で事足りる戦闘に、ただでさえ信用できない存在筆頭である人類軍に手助けをされたという事実が、どうにも容認できない様であった。

 

――――

 

マークノインと、彼女と連携を取っていたファフナーの攻撃により消滅するフェストゥム。

 

その真下では、マークツヴォルフと連携を取っていた青いファフナーが、フェストゥムに肉薄していた。自身の装備品である銃剣のような武装をフェストゥムへ突き刺していたのだ。

 

その銃剣は、ルガーランスと同様の使用法を想定しているのか、青いファフナーはそれをフェストゥムに突き刺したまま、刀身を広げた。ルガーランスに比べれば広がり幅は狭いが、それでもプラズマ弾を発射するには十分な隙間ができる。

 

そして、青いファフナーは突き刺した銃剣をフェストゥムに押し込むようにしてプラズマ弾を発射。水色の閃光とともにプラズマはフェストゥムの身体を突き抜ける。射撃の衝撃により突き刺した銃剣はフェストゥムから引き抜かれ、フェストゥムはその衝撃により蹌踉めくが、直様右腕を振り下ろして反撃する。

 

が、青いファフナーは背部のブースタを起動し、空中へ逃れる。

 

そして、その隙を突いて別方向から攻撃を試みるマークツヴォルフ。この機体にのみ装備されている特殊武装『ショットガンホーン』を起動する。背中の突起物が反転し、頭部に角が生えたような形態を取る。そして、イージスとなじ様なフィールドを三角錐状に展開。

 

頭部を突き出す形で突進するマークツヴォルフを、フェストゥムは躱すことができずに直撃を受ける。先ほど青いファフナーが銃剣を突き刺した胸部へ上乗せするように突き刺された『ショットガンホーン』突進の勢いも加わって、このフェストゥムの影には十分に致命傷となった。

 

「はあああああああああああ!!!」

 

女性としては、いっそ雄々しさすら感じさせる雄叫びをあげ、立上芹は突き刺したフェストゥムを上空へ放り投げる。

 

空中へ投げ出されたフェストゥムは既に力尽き、身動きひとつ取らないまま消滅していった。

 

そんなあまりにも予想外の攻撃方法にその光景を上空から追撃を掛けるべく旋回していた青いファフナーの搭乗者は思わず2度見してしまった。

 

「頭部で攻撃するのか!?あの機体―――」

 

まさか頭突き用の武装があるなんて―――搭乗者に合わせた調整を施す技術者と、その武装で実戦的に戦える技術力に思わず感心してしまったのだった。

 

――――

 

そして、消滅した3体は影。最後に残る本体はマークフュンフとマークツェーンの2機と対峙していた。

 

フェストゥムは執拗にマークフュンフの展開する防護シールド『イージス』のフィールド越しから何度も打撃を加えているが、その程度ではマークフュンフは小揺るぎもしない。

 

むしろ、その攻撃によって生まれる隙をじっくりと待ち構える時間を作っていた。

 

そして、フェストゥムが両腕を広げ、フィールドに突き立てた瞬間、マークフュンフ―――堂馬広登は後ろを振り向いた。

 

「暉!!」

 

その声に応じるように、マークツェーンは片手で『ドラゴントゥース』を持ち上げ、マークフュンフの右肩に銃身を乗せた。

 

フェストゥムはなおも激しく『イージス』のフィールドを叩くが、前のめり両腕が広がり気味で叩きつけられた瞬間に、『イージス』中央のフィールドが消失し、露わになったマークフュンフの胴体から突き出された『ドラゴントゥース』の銃口が、前のめりになっているフェストゥムの胸部に密着する形で突きつけられる。

 

「ああああああああああアアアアア!!!」

 

声が裏返りながらも雄叫びを上げる暉。昂ぶる感情のままに引き金を引く。密着状態で発射された弾丸はフェストゥムの内部を蹂躙する。金色の表面が醜く膨れ上がり、破裂寸前の様子を呈した瞬間、もう1発ダメ押しの弾丸が発射され、膨れ上がった胸部は水風船を割ったかのように破裂し、内部の赤いシリコンを生物の血と肉の様にまき散らす。

 

そのまま地面に仰向けに倒れるフェストゥム。胸の中央に円形に表面が剥がれ、内部がむき出しになったその有様は神々しさすら感じさせるその幻想的な姿とはかけ離れた

あまりにも醜い内面を晒していた。

 

その醜き赤いシリコン。胸部の中央、やや右に存在し太陽光を反射して緑色に光る結晶こそが、このフェストゥムの心臓である「コア」と呼ばれる物質である。

 

コアを破壊すればこのフェストゥムは完全に消滅することとなる。フェストゥムはそのコアを覆い隠すように自己再生を始めていた。

 

徐々に剥がれた表面が元に戻っていき、赤い部分が小さくなっていく。コアもまた、赤い肉の様なものに覆われていく―――

 

その前に、マークフュンフの両手に構えるマシンガン『スコーピオン改』から発射された弾丸が、コアを破壊した。連射される弾丸の脅威にさらされたコアは一瞬で粉々にされ、フェストゥムから消失する。

 

その様を見届けたマークフュンフはその場から飛びのいて離脱した。

 

「―――まだ、解り合えないんだな。お前等と……」

 

止めを刺され、消滅を待つのみとなったフェストゥムを見て悲しそうに呟く広登。いつか、フェストゥムとも解り合い、共に生きていけると信じている彼の目線は未だそのフェストゥムへと向けられていた。

 

フェストゥムは真っ黒に変色―――ただの珪素の固まりへなりながら、ワームスフィアと共に消滅していった。

 

――――

 

「―――ふぅ」

 

CDCで、戦闘の行く末を見届けたレイは軽く息を吐いた。

 

一時は肝が冷えた場面もあったが、何とかこの場は切り抜けられた―――。そして、これから続いていく戦いの為に必要なものも理解し、思考をまとめていく。

 

―――まずは2年間のブランクの解消。そして各自の戦闘法及び陣形の調整。まずはここから始めていきましょう―――。と必要な事を纏め、思考を中断する。

 

「敵の消滅を、確認!」

 

要澄美の状況報告が成され、一瞬場の空気が弛緩する。

 

 

「救護班は、溝口さんの救出に向かってください」

 

 

―――だが、その空気は直後に塗り替えられることとなる。

 

 

 

 

『SOLOMON』

 

 

 

 

 

ブザーと共に表示された敵の新たな反応。それだけで弛緩した空気は再び緊張状態に戻り、解析が進められる。

 

「ソロモンに応答―――っ、何これ!?」

 

3Dレーダーに映し出されたモノは、今までに見たことが無い、警告音が鳴り響くほどに巨大な質量のワーム。そして、その反応が消失するとともに「それ」は姿を現した。

 

「―――」

 

「―――」

 

「―――」

 

「あれは―――」

 

中央モニターに映し出された映像を見て、周りが絶句する中、レイは僅かに反応を返した。

 

そう、最初に対応した元軍人のジェレミーが思わず「何これ」と口走ってしまう程に、CDC内の皆が絶句してしまうほどに、それは異質なものだった。

 

――――

 

海上では既に救護部隊を乗せた船が溝口の近くにやってきていた。

 

「おーい!」

 

簡易的な1人用救命ボートに包まれた溝口は無線機を握った右手を振りながらこちらに向かってくる船へ声をかけた。

 

「陣内!ここだ、ここー!!」

 

溝口の視線の先には、特殊部隊用の高速艇がこちらへ向けて進んできており、その船首に1人の男性が手を振りながら溝口に応えている。

 

「オヤジさーん!今行きま―――!ッッ」

 

笑顔で溝口の声に応えていた陣内だったが、その視界に映ったものを見て表情を一変し、険しいモノに変える。それをみた溝口は怪訝そうに「?なんだぁ―――」と後ろを振り向く。

 

「―――ッな!?」

 

溝口も目の前に広がった光景を見て、驚愕に表情を染めた。

 

そこには―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――あまりにも、巨大な『祝福』の姿がそこに在った―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

突如姿を現した巨大なフェストゥム。その周囲を旋回するマークジーベン、真矢も驚きを隠せないでいた。

 

「フェストゥム……なの?」

 

「何だ……あの巨大さは……」

 

ジークフリートシステムを司る皆城総士もまた同じ、その表情を驚愕に染める。5年前も、2年前も、あのような存在はデータ上にも存在していない。正しく初めて見る光景であった。

 

ただ一つ、人類軍の面々だけはその存在に対して特別驚く様子を見せていない。

 

「追ってきたか……」

 

先程、真矢との通信に応じた男性は、輸送機内そ座席に座り、手元のモニターでその存在を認識し、やはりか―――という感想を得た。彼の前の席に座っている少女は、静かに目をつむる。

 

「こんなところにまで……」

 

「ッ……しつこいっ」

 

「っく……」

 

青いファフナーのパイロットたちも3者3様の反応を示す。が、その中のだれもがまるでそれを災害を見るかのような、いかにも忌々しくもどうしようもないかのような眼でその存在を唾棄していた。

 

彼らはこの巨大なフェストゥムを知っている様子だ。あらかじめ知っているならば、確かに驚くことはないだろう。そう、その巨大なフェストゥムは輸送機に乗っている男性の言葉通り、追っているのだ(・・・・・・・)

 

巨大なフェストゥム。その顔に当たる部分は静かに竜宮島を見据えている。はたして、その黄金の貌は何を捉えているのだろうか。彼らにもし、思考というものがあるのだとしたら、島を見据え、何を思っているのだろうか。やがて、巨大な『祝福』はその目的も、胸中もなにも明かさないまま、本当に何もアクションを起こさないままにその姿を薄れさせていった。

 

CDCは今までに見たことのないフェストゥムの存在に最大級の警戒態勢をとっていたが、そのフェストゥムの反応がソロモンから消失したのを確認すると、しんと静まり返った広い室内に、どこからか安堵のため息が漏れた。

 

「ソロモンが沈黙……消えました」

 

ジェレミーからの報告を聞いたCDCからは安堵の息が静かな空間に響く。

 

「余程重要な存在を島に入れたようだ……」

 

真壁史彦は深刻な面持ちでそう呟くと、脱力して椅子に座り込みもたれ掛かった。大きく息を吐いて、言葉を続ける。

 

「フィールドを解除。来訪者を、招き入れよう」

 

「はい。何はともあれ、会って話をしてみないことには判断はできませんね」

 

史彦の言葉にレイは頷き、踵を返すとCDCを後にした。その表情は険しく、新たに出現した脅威や島に来訪した人類軍、そしてこれから起こりうるであろう問題の数々を想像すると、やりきれない気持ちになる。

 

彦島では先程戦闘を行っていたマークフュンフ、マークノイン、マークツェーン、マークツヴォルフの4機が1箇所に合流していた。

 

彼らは揃って上空を見上げている。

 

彼らの上を3機の青い人類軍ファフナーが通過して行き、輸送機へと戻っていった。。驚くことにあの3機はそれぞれ機種が違うにも関わらず揃って飛行能力を備えているようだ。その様子を見ていた4人。特に、マークノインに搭乗する西尾里奈は人類軍を警戒するように睨みつけていた。だが、すぐにジークフリートシステムから指令が入る。

 

『何をしている。帰還しろ』

 

「あっ……―――」

 

彼の指示に物申すかのように、ジークフリートシステムに座っている皆城総士の前に、里奈の紅い幻影が現れた。

 

『だって、あいつら信用できないですよーっ!』

 

それに対して、総士は子供に言い聞かせるように、嗜めるように口を開く。

 

「忘れるな。ファフナーに乗れば乗るほど同化現象に襲われる」

 

その言葉を聞いた里奈は「うう……」と痛いところを疲れたと言わんばかりに、それでもまだ何か言いたげにするが、総士は取り合わない。

 

「戻って検査を受けろ」

 

『はーい……』

 

再度の指示に里奈も不承不承といった形で拗ねたように返事をして戻っていく。それを見届けた総士は「全く……」といった面持ちでため息をつく。

 

『マークツヴォルフ。帰還します!』

 

『ほら、大丈夫か暉』

 

『ありがとう―――っ。助かる』

 

次いで芹の凛々しい声が上がり、その後に肩を貸しているのだろうマークフュンフと今回唯一の負傷者である暉の声が届く。仲間同士での連携や人間関係は相変わらず良好な様子で、先程も分断されるまでは連携は上手くやっていた。

 

その事実を再確認した総士は、「ふ―――」と僅かに苦笑を漏らした。そして、ファフナー全機のドッグへの帰還を確認したところで、自分もジークフリードシステムを停止。席から立ち上がる。

 

フィードバッグという形で、ファフナーの受けたダメージを一身に共有する自分もまた、彼らと同じように検査が必要なため、医務室へ向かうのだった。

 

―――

 

竜宮島波止場。人類軍輸送機が誘導されたこの場所には、竜宮島特殊部隊の面々が銃器を構え待機していた。相手が人類軍である以上、何をしてくるかはわからない。通信内容から少数の人員しかいないのは判明しているが、警戒して損をすることは決してないのだ。

 

輸送機の出入り口から設置されたリフトへと足を踏み出す1人の軍人。輸送機に向け構えられている銃器の数々に、怯むこともなく彼は感慨深そうに周囲を見渡した。

 

「たどり着いたな。Dアイランドに」

 

口からは感嘆の息とともに言葉が紡がれる。その男の背後から、1人の少女が興味津々といった様子でリフトに立つ。

 

「―――ここのミール(・・・・・・)空気なんだ(・・・・・)

 

何でもないような様子で、少女はつぶやいた。

 

だが、そのつぶやきはまさしく異様である。何故、少女は島にミールがあることを知っているのであろうか。そして、フェストゥムの頭脳体である結晶『ミール』が島の空気となって遍在していることを、ひと目で見抜くことができるのだろうか。

 

その様は不可解なものである。

 

もし、少女の言葉を輸送機の周囲に居る特殊部隊が聞いていたら、同様とともに一層、警戒を強めるだろう。それが起きず、余計な対立が発生しなかったのは不幸中の幸いと言えただろうか。

 

そんなことはつゆ知らず、少女は大きく深呼吸をした。まるで、それはこの島のミールと交信をしようとしているかのようである。

 

「―――私たちを、受け入れてくれてる!」

 

少女の言葉に、男は無言で頷くと、少女の背中にポンと、手を当てて、先へ進むように促す。

 

その2人の背後からは、先程の戦闘で、真矢達と共闘した青いファフナーの搭乗者達があとに続いていった。




感想、意見、評価、お待ちしています。

ううむ……戦闘シーンなのに、長々と説明文を書いてしまう。
これはイカンと思いつつも結局書いてしまう。

どうしたものか……。

あ、さりげなくサラマンダーの所にオリジナル設定、というか独自解釈を突っ込んでみました。

劇中で全く聞いている様子のないサラマンダーをフォローしようとした結果がこれだよ!
これが限界だったんです許してください。

あ、後下にレイ君の紹介を行いたいと思います。

興味ない人はスルーしていただいて結構です。

では、どぞ


レイ・ベルリオーズ
(イメージCV:松本恵)
プロフィール
生年月日:2132年06月20日(19歳)
星座/血液型:双子座/O型
身長:174㎝
体重:65kg
好きな物:小説、コーヒー、チェス

第1種任務:竜宮島ファフナー部隊部隊長
第2種任務:慶樹島エンジニア(技術開発)

人物像
男性とも女性とも取れるような中性的な顔つきで、淡い金髪とエメラルドブルーの目が特徴な青年。基本的に誰にでも柔らかい物腰と丁寧な言葉遣いをし、顔立ちも相まってアルヴィス内部に小さいファンクラブが出来ているとのことだが、本人はそれを知らない現実。羽佐間カノンの恋人でプライベートではよく海岸や楽園でデートしている。
Alvisにおいてはファフナー部隊の隊長を勤め、既にパイロットを引退したものの、部隊の面々を纏めている。彼がいるからこそ一騎が無茶苦茶をしない(出来ない)とも言えるだろう。
慶樹島において、エンジニアとしても活動しており、ファフナーの新型ドラゴントゥースやレヴィンソード等の兵装を開発、また現在は新型ファフナーの設計、建造も行っているが、現在は行き詰まっている様子。
フェストゥムに対しては強い敵意を持っており、竜宮島の理念である「フェストゥムとの共存」に対して、他の者たちと違いやや懐疑的。
最も、これに関しては「対立者が居なければ物事を掘り下げることはできません」とも言っていて基本的には賛成している模様。
現ファフナーパイロット候補生の鏑木彗に尊敬の念を向けられている。

地味に技術者として日野洋治に、ファフナーパイロットとして日野道生に支持しているハイブリッドな人。

人物相関

人物:その人物から見たレイ⇔レイから見た人物像
羽佐間カノン:恋人何よりも大切な存在⇔恋人。何よりも護りたい存在
近藤剣司:親友であり師でもある⇔親友でありちょっとした弟子のようなもの
鏑木彗:憧れの先輩⇔期待の後輩
日野洋治:尊敬する偉人
日野道生:ファフナーの先輩、尊敬に値する人
皆城総士:自分より皆を率いるのに向いている⇔どう接すればいいかわからない
真壁一騎:凄い奴だな⇔切り札であり仲間、生き急ぐのはダメだと思う
西尾里奈:信頼する先輩⇔時期隊長として最も相応しいと思っている


ファフナー搭乗時には変成意識の影響で過激になり乱暴な言葉遣いが見受けられた。現在はパイロットを引退している。

シナジェティック・コード形成数値(上は黄金率)
黄金率.      0.618:1:1.618
レイ・ベルリオーズ.14.833:1:15.273
変性意識下の特徴/備考
過激/変性意識中は口調も攻撃的になるなどの変化もある。

―――


マークヌル
分類:ノートゥングモデル
開発:人類軍
機体タイプ:高火力型
搭乗者:レイ・ベルリオーズ
初期搭載兵装
・レージングカッター(左腕部のみ)
・複合兵装型右腕部【デストロイ・アーム】
:高周波クロー
:レーザーバレット
:大型レーザー砲『シヴァ』

嘗てレイが搭乗していた人類軍製ノートゥングモデル。
第2次蒼穹作戦の際、ザルヴァートルモデル、『マークニヒト』との戦闘を経て最終的に大破。現在は解体され新型ファフナーの素体として再利用されている。

こんな感じです。
如何でしょうか?如何にか他のキャラを食わないように、そしてしっかりと活躍できるようにしてみた結果ですが。

質問等有りましたら気軽に感想欄にどぞ。


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合流

ギャー!!
2週間をめどに更新するはずだったのにー!!
仕事の都合で平日に更新ができないんです。1週かの暮れてしまい申し訳ありませんでした。





アルヴィスの通路で司令の真壁史彦は2人の護衛とファフナー部隊の隊長を連れて、人類軍と接触を図るべく移動していた。予定では、特殊部隊が先導を行いアルヴィスの通路内で合流する手筈となっている。

 

そんな移動中に、ふと思い出したように史彦は隣を歩く少年に話しかけた。

 

「そういえば、溝口はどうした?」

 

溝口恭介。アルヴィス特殊部隊隊長にして竜宮島指令補佐を務める男が、何故かこちらに合流していない。既に彼は海上から回収され、もうこちらに戻ってきているはずなのだ。だが、先ほどから姿が見えず、こちらに合流する気配も見えない。

 

その質問に対して彼の隣を歩くレイ・ベルリオーズは首をすくめてこう答えた。

 

「将陵さんに捕まって陣内さん共々説教中です」

 

「そうか」

 

史彦はその一言で察したのか、納得したような表情で頷いた。そしてもう一度口を開く。

 

「それで、先程の戦闘を見て君はどう思った?」

 

史彦の更なる質問に対し、レイは少し考えるそぶりを見せた後、口を開いた。

 

「部隊長としての意見ですが、機体性能でいえば彼らの機体はノートゥングモデルに近しい性能を持っていると思います。総合性能でいえばこちらの方が勝っていますが、局所的な部分で言えば、こちらが劣っている部分もあるでしょう。特に、あの3機全てが飛行可能というのは、こちらには無い特徴と言えます」

 

「成程」

 

頷く史彦に対し、レイは言葉を続けた。

 

「パイロットの能力で言えばあの3人は恐らく此方の現役パイロットたちよりも高いかもしれません。流石に2年前の戦闘経験しかない彼らとあちら側のパイロットたちでは実力に開きはあるでしょう。最も、真矢さんは桁が外れているので論外ですが―――」

 

「うむ」

 

2人は人類軍に関しての意見交換を行いつつ、合流予定地点へと向かっていった。

 

 

――――

 

 

タラップより降り、竜宮島の地に足を踏み入れた人類軍。その彼らに銃を向けていた竜宮島特殊部隊の1人が銃を下ろし、人類軍の先頭に立つ男に近寄る。

 

「此方です。くれぐれも、変な真似は起こさないようにお願いします」

 

銃は下ろしたとても、警戒は決して緩めない部隊員に男は頷く。その表情に警戒されていることの嫌悪や不安感はなく、むしろこちらの対応に感心したといった面持ちで口を開いた。

 

「分かっている。警戒するのも無理はないだろう」

 

そう言うと、後ろにいるほかの人類軍の面々へ振り返り、「行こう」と告げる。他の面子もそれに対し「はい」

と返事を返すと、案内されるままに、先導する特殊部隊員に付いていった。

 

道を進んでいくと、ガードフェンスに仕切られた場所へ出る。フェンスには『関係者以外立ち入り禁止』という趣旨の看板が取り付けられ、カードキーによるロックが掛けられていた。特殊部隊員が懐から取り出したキーでフェンスを開く。すると、フェンスの傍に立ち、「こちらへ」と手で道を指す。

 

「こちらの奥に進むとゲートがあります。後は向こうに案内がいますので、そちらに従ってください」

 

「ありがとう。道案内、感謝する」

 

人類軍の先頭に立つ男はそう言うと、他の面子とともにフェンスの奥へ入っていく。

コンクリートで舗装された道の奥は崖となっており、見上げると、茶色の地肌を剥き出しにした山が聳えていた。道の正面に、コンクリートで入口が掘られており、鋼鉄製のゲートが有る。

 

人類軍がそのゲートの前まで到着すると、間も無くゲートが重苦しい音を響かせながら開いていく。

 

ゲートが開いた先には、山の中にあるとは思えないほどに綺麗に整備された機械的な通路が存在していた。

 

「すごい……」

 

「地形を利用して、広い空間を基地として使用しているみたいだ」

 

人類軍の彼らはこの竜宮島の施設に対して興味津々といった様子である。そして、開いた通路の中央に立っている2人の人影。奥の2人は先ほどの特殊部隊員と同じ格好をしており、どうやら彼らがこの先の案内人の様だ。

 

「どうぞ、こちらへ」

 

その中の1人が通路内に入るように促し、先導するように歩き始めた。彼らもまたそれに従うように通路へと入っていく。人類軍は中に入ってからも、興味津々な様子であたりを見渡しつつ先導に従う。

 

そして何分か歩いた後、竜宮島の隊員が立ち止り、道を開ける。

 

「ここでお待ちください」

 

「間もなく司令が到着なさいます」

 

その言葉に一同は驚いた様子で、やや空気がざわついた。

 

「え、司令って……」

 

「竜宮島の司令自らが来てくれるというのか」

 

「ウソだろ……!」

 

等など、各々が口々に呟く中、通路の奥、右側のドアが開き中から出て来る人影が見えた。

 

人影の数は4人。1人は人類軍の髭の生やしたリーダー格の男性と同じくらいの年齢だろうか、黒を基調とした制服を着ている。その隣に居るのはやや背が低いが、年齢は人類軍のパイロットたちと同じくらいの年齢だろうか。

 

淡い金髪とエメラルドブルーノ瞳をした、やや中性的な顔立ちの青年だ。その容姿から竜宮島の―――つまり元日本に元から住んでいる人ではない事が予測できる。

 

その2人の後ろに立つ2人はこちらを今まで先導してくれていた隊員たちと同じ格好をしていた。恐らくは護衛だろう。

 

人類軍のリーダー格らしき人物は1歩前へ出る。そしてこちらにやってきた男性へ向けて右手を差し出した。其れに応えるように恐らく竜宮島の司令と思われる男性、史彦も一歩前へ出て右手を出して、2人は有効の証を立てる。つまり握手を行った。

 

「人類軍総括本部所属、ナレイン・ワイズマン・ボース大将だ。受け入れに感謝する」

 

「竜宮島アルヴィス司令官、真壁史彦。今の人類軍は将校が部隊を引きるのかね?」

 

2人は自己紹介を終え史彦が挨拶代わりに質問を投げかける。2人の手は自然と離れ、人類軍のリーダー格、ナレインはややうんざりする様に目を閉じてその質問に答えた。

 

「今は大将だけで100人は居る。もはや階級に意味はない」

 

あきれたような声色をしているナレインはその実呆れているのだろう。「大将だけで100人は居る」その言葉に少なからずレイは驚きと呆れを覚えた。

 

どうやら人類軍は5年前と比べてもさらに肥大化していたようだ。最終作戦『ヘブンズ・ドア』北極ミールとの決戦で文字通り総力をぶつけたであろう筈なのに、未だ巨大化の一途をたどるのはむしろ呆れを通り越して感心してしまうほどでもあった。

 

そして、レイはナレインという名前を聞いた瞬間、思い出した。

 

―――ナレイン・ボース……総括本部の、当時はまだ少佐でしたっけ。道理で覚えがあるわけだ。

 

ナレインはレイが人類軍にいた当時からも、穏健派として一定の発言力と力を持っていた。そして、その意見が彼の恩師である日野洋治と合ったのか、ナレインはモルドヴァを拠点としていた僕らの事を訪ねてきていたことがあった。そのときにも何度か会話をした覚えがある。

 

「命と希望を失わなかった者が責任を背負うのだ」

 

ナレインの口から発せられたその言葉には強い意志力が感じられる。その言葉にはレイも賛同するところだった。そして、史彦にも。

 

「同感だ」

 

ナレインの言葉に同意する史彦はやや視線を落とし、ナレインの後ろにいるほかの人類軍の人間に視線を向ける。

 

「武装解除の為、ファフナーパイロットには監視をつけさせてもらう」

 

「当然だな。彼ら3人と、私だ……」

 

史彦の提示にさして動揺するわけでもなく全員が受け入れた。ナレインは後ろにいるパイロット達3人をみやった後に、少し気恥ずかしそうに自身もパイロットであることを告げた。

 

「!ファフナーに乗れるのか!?」

 

「搭乗適齢は既に終わっているはず―――」

 

その言葉には流石に史彦とレイは驚きを隠せなかった。島のほかのパイロットたちとは違い、フェストゥム因子を持たないでも、常人とは桁違いのシナジェティック・コード形成数値を持っているレイですら、既にノートゥング・モデルへの搭乗は断念してしまっているのに、それらの機体に近しい性能のあのファフナーに乗れるというのを聞いてしまえば、驚くのも当然と言えた。

 

「史上最高齢のパイロットであることが、ささやかな自慢でね」

 

気恥ずかしそうに答えるナレイン。そして、彼はある事に気が付いたのか、少し驚いたようにレイに視線を向けた。そして、やや震える声でつぶやく。

 

「君は―――まさか」

 

その眼は信じられないモノを見ているような驚きと、それでいて旧友と再会したような親愛の感情が複雑に絡み合っている。その視線の意味に気づいたレイは1歩前へ出て、少しだけ表情を緩めた。

 

「はい。人類軍、第7特殊機動部隊に所属していた、レイ・ベルリオーズ元少尉です。お久しぶりです。ナレイン将軍」

 

「やはり、ヨウジの下にいた少年か」

 

「2人は旧知かね?」

 

見知った中であるような口ぶりに史彦は口を挟んだ。レイが元々は人類軍に所属していたことは彼も当然知っている。だが、彼とナレインと言う男に接点があったことは流石に知らなかった。ナレインは視線を史彦に戻し、少し焦った様子で史彦に説明する。

 

「ああ、済まない。彼は私の友人のヨウジ・ヒノのところで機体の設計を学んでいてね。よく顔を合わせていたんだよ。パイロットに転属していたとは聞いていたが……まさかDアイランドで再会できるとはな」

 

「洋治先生の……」

 

史彦が懐かしい名前が出てきたのを懐かしそうに反芻している中、ナレインの後ろにいるパイロット達はレイのことに対して驚きを隠せない様子で「第7特機って、あの『トリプルシックス』の?」「嘘でしょ?私たちとそう変わらないのに、特Aクラスのパイロットだなんて」等とレイをチラチラと見ながら話し合っている。それを途切れとぎれだが、聞いていたレイは少しこそばゆくなってきた。

 

そういえば、当時は自覚していなかったが、自分と彼女の所属していた部隊は特殊任務が多い精鋭部隊であったな、と。川に流される木の葉だった過去の自分を思い出し、そんな自分に対して今となっては懐かしさすら感じている。

 

そんな中、3人のパイロットのうち、一番平静を保っていたブロンドの長髪の青年が1歩前へ出てきた。

 

「お願いします。どうかパイロット同士の交流を許可してください」

 

それに続くように、後ろの女性と、スポーツ刈りの青年も前へ出て、口を開いた。

 

「是非、カズキ・マカベや彼と話がしてみたいんです!お願いします」

 

「僕からもお願いします!」

 

3人からの希望の声、にレイは一瞬気になる単語を発見した。どうやらそれは史彦も同じだったようで「カズキ?」とレイの思考を代弁するように疑問を投げた。

 

「そう、スーパーエースパイロット。僕たちに『マカベ因子』を与えてくれた人」

 

「北極ミールを破壊したパイロットでしょ!?」

 

史彦の疑問に答えたのはパイロットの中で一番後ろに居たスポーツ刈りの青年だった。その言葉に続くように女性のパイロットが興奮気味に続ける。

その勢いに押された史彦に、やや苦笑気味にナレインは解説を加えるのだった。

 

「我々の英雄なのだよ。Dアイランドのカズキ・マカベは」

 

飛び込んでくる情報を聞いていたレイは、一つの仮説に思い至った。

 

―――モルドヴァが消滅した以上、その情報を新しく公開するには当時モルドヴァから脱出した我々か、あの「アイアン・レディ」以外には不可能。

手に入れたノートゥングモデルの情報と共にプロパガンダに利用したというわけですか。

 

「ふむ。どうかね?」

 

史彦は僕に視線を投げかける。僕は一瞬思考を巡らせ、口を開いた。

 

「許可します。ほかのパイロット達にも伝えておきましょう」

 

彼らはある程度の経験を積んだパイロットであることは間違いない。こちらのパイロット達との交流で、彼らの話を聞くだけでも実戦には劣るもののいい経験になる。

特に里奈さんは人類軍に対して警戒心が強い。そう言った人たちとも交流を重ねて、彼らに島のことを理解してもらうことも必要でしょう。

 

僕の言葉に対して、「やった!」等と嬉しさを表しているパイロット達を見ながら、つらつらと思考を重ねていく。

 

「では、パイロットの方はこちらへ、交流の場や、他の施設を簡単に案内します」

 

パイロット全員と交流をするならば、打って付けの場所がある。おいしいカレーも食べられて、エースパイロットたちとも交流が出来る。一石二鳥というやつですね。

僕は踵返し、3人のパイロットたちを先導する。念の為に、後で陣内さん達に監視を頼みましょう。

 

「では、ナレイン将軍、私たちはこちらです」

 

「ああ。彼らの要望に応えてくれて、感謝する」

 

「応えたのはレイ君です。人類軍に対する警戒心が人一倍強い彼が信頼しているならば。我々は彼を信じています」

 

「ああ」

 

―――偶に信頼が重い時もありますが、それはそれですね。その信頼に応えられるよう、努力します。

 

こうして、一行は互いに別れ、別別の場所へと移動していった。パイロットの3人はこれから行われる交流に期待を膨らませ、レイはこれからの交流、そしてこれからの戦闘に向けて思考を重ねながら。

 

――――

 

ファフナーブルグ。地下ドッグにて、話題の渦中にいた人物は封印された自らの機体を眺めていた。

 

救世主(ザルヴァートルモデル) マークザイン。既存のファフナー全てを凌駕して尚、その先を走り続ける2機の世界最強のファフナー。その片割れである。

現在は、封印処置を施され全身を特殊鋼材で巻かれ、うっすらと人型であることが解る程度にしか外見をとどめていない。

 

そんなエジプト王家の木乃伊のような状態になった愛機の姿を彼は何を思って見ているのだろうか。

懐かしいような、悲しいような。そんな曖昧な表情を浮かべる彼は身動きもせずに、僅かな明りしかない暗い室内でずっと機体を見続けていた。

 

そして幾許かの時間が過ぎたころ、不意に彼の後ろのゲートが開く。

 

「此処にいたか、一騎」

 

後ろから聞こえてきた聞きなれた女性の声に、一騎はようやく振りかえり、機体から目線を外す。搬送エレベータから降りてくる人物は彼の予想通りに、

特徴的な赤い髪を揺らしながら、こちらに向けて歩を進めてくる。

 

「カノン。お疲れ様」

 

「全く……なんでここに来たんだ?」

 

赤い髪の女性。羽佐間カノンは呆れ果てた様子でため息をつきながら一騎に問いを投げる。一騎はその問いに視線を再び機体へ向けて答える。

 

「なんとなく、コイツが見たくて」

 

カノンはその質問に対して頭を振り、一騎の傍まで近寄ると「乗る気じゃないだろうな?」と再び問う。それに対する一騎は「違うよ」と返す。

表情はカノンからは見えないが、声色からすると、苦笑しているであろうことは容易に想像できる。

 

「何度も言うが、お前はもう十分戦ってきた。レイだって、あれでも最後はファフナーから降りる決心をしたんだ」

 

まだ戦うために、思いっきり自分が乗る為の機体を作ってるがな―――とは口の中だけに留め、言葉にはしない。したら面倒なことになるのは

火を見るよりも明らかなため、余計な事は喋らないようにする。

 

最愛の人間が今も尚未練タラタラで戦うための準備をしているのは、彼女にとっても心苦しかったが、レイはああなると止まらない事は知っている為、

カノンは折を見て強制的に叩き下ろすことにしていた。

 

「……マーク・ザインには、だれも乗らないんだな」

 

そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、のほほんとした様子でそんなことを口にする一騎。ファフナー部隊やアルヴィスの職員のほとんどが一騎以外に

乗れない事を知っているのにもかかわらず態々そんなことを口にするのはどうなのか。最も―――

 

「特殊すぎてだれも乗れない。コアの摘出が成功したら、その……解体して、海底に沈めた後、フェ、フェンリルで……消滅させる予定だ」

 

真面目な気質のカノンは恋人が提案したあまりにも物騒な処理方法に内心ドン引きしながらも答えてしまう。……最近レイはファフナーに

乗らずとも言動や行動が過激になってきている気がする。

 

「そっか」

 

一騎はカノンの言葉に極めて平静にそう返すとマークザインヘ近寄っていき、カノンが「あ、おい!」と駆け寄っていく。一騎は落下防止の柵が設けられているところまで歩み寄ると、

徐にマークザインヘ手を伸ばした。そして、マークザインを覆う特殊鋼材に伸ばした手が触れようとした時―――

 

「そこまでだ!」

 

カノンが一騎の手を取って、強制的に下へ降ろす。一騎は少し驚いた表情を浮かべ、カノンは呆れと心配が混ざった表情をしていた。

 

「封印しているとはいえ、何が起きるかわからない。特にお前の場合はそのまま機体に同化されかねん。頼むからそういう無茶はやめてくれ」

 

「心臓に悪いんだからな」と一騎の行動を咎めるカノン。一騎はしばらく呆然としていたが、やがて観念したように笑い、「わかったよ」

と口にした。

 

「一騎……」

 

「俺だってまだ死にたくないし、レイに知られたらどうなるかわかったもんじゃないしな」

 

そういって、カノンの手を軽く振りほどく一騎。本当に分かったのかは信用しがたいが、一騎が「わかった」と言った以上、

一応こちらもそれで良しとしなければならない。どうせすぐまたここに来るだろうから、何らかの監視でもつけてしまおうか。そう考えるカノンであった。

 

「それで、俺を探してくれてたんだろ?何か用事でもあるのか?」

 

一騎は思い出したようにそう言った。そう、カノンが最初に口にした言葉「此処にいたのか」それはつまり、カノンは一騎の事w探していたと言うことになる。

そんな一騎の能天気な発言に、「はぁ……」と心配した自分はいったいなんだったのだろうか。と思いつつも口を開いた。

 

「レイがな。楽園で人類軍との交流会を開くんだそうだ。それでお前にパイロット達と人類軍3人分のカレーを作ってもらうから呼んでほしい。と言っていた」

 

「レイが?」

 

一騎は意外な人物の名前が上がりきょとん、と首をかしげる。彼ら竜宮島パイロット達の共通認識で、「レイは人類軍に対して人1倍警戒心を持っている」というのがある。

むろんこの認識は正しい。それは彼が元人類軍で、彼らのやり方を良く知っているというものがある為で、そのため彼は人類軍全般に対して強い警戒心を持っている。

 

ただ、警戒しているだけで敵対心は持ってはいないため、信用できると判断した場合は友好的に振る舞うこともあるだろう。

 

「私もわからないが、「彼らは信用できます」とだけ言っていたぞ」

 

「そっか、なら大丈夫だな」

 

「そういうことだ。分かったらさっさと店に戻れ」

 

「はいはい」

 

一騎は「じゃ、あとでな」と言って一足先にドッグを後にする。それを見送るカノンはがっくりと頭を落とし、またしても溜息を吐いたのだった。

 

「全く……いつまで強がりを続ける気なんだ」

 

その溜息は、決して呆れの感情だけでは済まないほどに、重苦しい物だった。

 

――――

 

「いやーごめんごめん。待たせちゃったね」

 

竜宮島。海岸線の港で、レイと人類軍のパイロット達は特殊部隊用の装備を整えた陣内貢達

と合流していた。もっとも、陣内達はやや遅れてしまっている様子ではあるが。

 

「何かあったんですか?」

 

「いやー。おやっさんが将陵さんに捕まっちまってな」

 

どうやら将陵佐喜さんに先の戦闘での一件に関して説教を喰らっていたらしい。それで、一緒にいた陣内さんも道連れに喰らっていたと……。

陣内さんを含めた3人は一同に苦笑している。

 

「ま、いいでしょう。とりあえず、島の主要施設を回りましょうか。交流会の場所はその後で」

 

「あ、あの。ちょっと待ってください」

 

これからまわろうという時に、人類軍の長髪の青年があわてた様子で口を挟んできた。「なんでしょう?」と尋ねると、青年は少し言いづらそうに口を開いた。

 

「俺たち、まだ自己紹介してませんよね」

 

「あ、そうよ。まだ全然してなかったわ」

 

そう言われれば、先程からずっとお互いに名前で呼ぶことはなかった。自己紹介をしていないから当然だが、僕は彼らの名前を知らない。

流石にこのままと言うのはやりづらいか。

 

「そういえばそうでしたね。では改めて、自己紹介とまいりましょう」

 

僕は3人に向き直り、改めて口を開いた。

 

「僕はレイ・ベルリオーズ。元は人類軍第7特機隊所属していました。現在は竜宮島ファフナー部隊の部隊長兼、機体開発部副室長を務めています」

 

僕の自己紹介が終わると共に、3人の人類軍パイロットの自己紹介が始まる。最初に始まったのは、女性のパイロット。軍人らしく姿勢を正し、敬礼を取る。

 

「アイシュワリア・フェイン。人類軍ペルセウス中隊所属のファフナーパイロトです。「アイ」って呼んで下さい」

 

次に紹介をするのはスポーツ刈りの青年だ。彼もアイと名乗った女性と同じ様に敬礼の形をとる。

 

「ビリー・モーガン!同じくパイロットです」

 

そして、最後の紹介はおそらくこの3人の中のリーダー格である長髪の青年だ。前の3人と同じ様に敬礼し紹介を始める。

 

「ペルセウス中隊、ファフナー隊隊長。ジョナサン・|ミツヒロ・バートランド≪・・・・・・・・・・・≫!」

 

「……!バートランド―――」

 

ミミツヒロ・バートランド。その名前は僕は良く知っていた。元人類軍の兵器開発部上席技官であり僕らの大切な仲間、遠見真矢の実父だ。

 

目的のためには手段を択ばない策略家であり、当時島に狩谷由紀恵をスパイとして竜宮島の情報を人類軍に流していた。

 

 

僕の師父、日野洋治とともに新型のファフナーの開発を行っていたが、

洋治さんの「1人でも多くの兵を助ける」という設計思想と彼は対立「1人でも多くの敵を滅ぼす」という設計思想を持って、2人は決別し、それぞれあのザルヴァ―トルモデル「マークザイン」と「マークニヒト」を作り上げた。

 

 

 

すでに故人となっているのは蒼穹作戦の折に確認しているが、その最期は詳しくは知らない。

 

おそらく禄な死に方をしなかったのではないだろうか。

 

その彼と同じ名前の人物。縁者だろうか?

 

 

 

 

「―――はい。俺はあのミツヒロの息子です」

 

 

 

僕の呟きに反応したらしい彼は。軽く笑みを浮かべながらそう答えた。

 

 

 

「……そうですか」

 

 

 

「はい。実は俺は、あなたの事は知っていました」

 

 

 

「!」

 

 

 

まさかの発言に、ほかのビリーと名乗った青年とアイと名乗った女性は初耳だったようで「嘘!?」「ホント!?」などと驚いていた。無理もない。正直僕も驚いている。でもそうか、確かにあの男の性格なら、要注意人物として僕を挙げるのも当然だろう。

 

 

何せ僕は―――

 

世界最高クラスのファフナーパイロット、日野道生と世界最高のファフナー技師、日野洋治。この2人の薫陶を受けた、言わば擬似的なサラブレッド。

 

 

仮に僕が人類軍にいたとして、竜宮島で最も注意する人物を挙げるならば、それは僕以外にいないだろう。その2人の持っていたものは、それほどに強力なファクターであることを、僕は熟知している。

 

方や名実ともに世界最高レベルのファフナーパイロット。「666」トリプルシックスという特別な刻印を許されたほどの実力者。

指揮者としても優秀で、僕の戦闘技術と指揮能力は彼から譲り受けたものだ。

 

方や僕が知る中で世界最高のファフナー開発者。

 

世界に2機しか存在しない救世主の名を冠する機体の1機を作り上げ、その知識と技術のすべてを僕に受け渡してくれた、僕の第2の父親だった。

 

あの2人のおかげで、僕はカノンを守り、今も彼女とともに歩くことができている。

それにはもう、感謝の念しか僕にはない。

 

「ここで、こうして会えて、少し感動しています」

 

ミツヒロはその言葉とともに、僕に右手を差し出してきた。握手を求めてきたのだ。

 

 

 

 

「世界最高のパイロット。トリプルシックスの薫陶を受けた、獣の後継。貴方は、俺の憧れです」

 

 

 

 

「―――」

 

 

 

 

正直、こう来るとは予想外ではある。まさか、僕を憧れているなんて、人類軍のパイロット言われるのは、そんな日が来るとはとても思っていませんでした。

 

悪い気はしないのですが、なんだかちょっと、来るものはありますね。こそばゆいといいますか、照れくさいといいますか。

 

 

 

「―――その憧れを幻滅させてしまわぬよう、努力しましょう」

 

僕は彼との握手に応じる。

彼の手は強く、それでいて適度に優しかった。そして、その眼は使命感に溢れ、ブルーの色はひたすらに真っ直ぐな輝きを放っている。

 

実直かつ誠実。好青年に見える反面、真っ直ぐゆえのどこか危うさを感じさせる人物だったが、少なくとも彼の人格は信用できるものだと、僕は素直にそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

知っていた。知っていたのです。

 

異なる希望。それが出会うとき、必ずしも平和への道が開けるとは限らないと。

守るということ。それが戦いである限り、希望もまた、戦いの中にしか存在しない。

 

すべてを失う可能性ももちろん知っている。それでも、過ぎ去った過去のため、いずれ来る未来のため、そしてこの生きる今のために戦うことを望んだのだから、この未来は必然でもあったのです。

 

一度戦うことを望んだその時、他の道を選ぶ権利を、自ら捨てたのです。

 

 

 

 

全ては―――守るために戦うと、決めたのだから。

 

 

 

 

これが、レイ・ベルリオーズの選択です。




感想、意見、評価、お待ちしています。


ばんばん独自解釈とオリジナル設定を組み込んでいくスタイル。
いつもいつも批判を食らうんじゃないかと戦々恐々としながら書いていますはい。

いやまあ、批判も書いてもらって全然かまいませんよ?きちんと注意事項を守ってるなら。

Tueeeeee表現はしたくないものの、オリ主h活躍させたい。そして、その活躍に納得のいく設定や描写をうまく書きたいと常々思っています。

そのあたりの線引きに気を付けながら書いていますが、何かしら気になる点とかありましたら、是非ぜひ感想欄にください。

よろしくお願いします。


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親睦会

ぎりぎり、アウト。




その日の夕方。僕らは喫茶『楽園』に赴き、開店準備をしていた一騎と真矢に彼ら人類軍の紹介を行った。

 

一騎達は驚いた様子だが、特に真矢さんが彼―――ジョナサン・ミツヒロ・バートランドに驚いていた。無理もない。初めて合う人類軍のパイロットにまさか血縁者がいたとは夢にも思わないだろう。

 

自己紹介が終わったあと、開店までは互いに多少の交流をしたあと、日が沈み喫茶店が開店する。既に人類軍パイロット達との親睦会が行なわれるから来てくださいという旨を剣司を通して各パイロットに伝えたので、少ししたら皆もやってくるだろう。

 

そして、現在人類軍たちはというと―――

 

 

 

 

 

 

 

「―――これが、「カズキカレー」!?」

 

 

 

 

 

 

目の前に置かれた喫茶店の名物(いつものカレー)に目を輝かせていた。率直に言って、子供のようにはしゃいでいる。

 

「食べたらどうか率が上がるのかなー?」

 

「黙って食え。マカベに失礼だぞ」

 

訂正。どうやらはしゃいでいるのはアイシュワリア・フェインとビリー・モーガンの2人だけのようだ。彼、ジョナサン・ミツヒロ・バートランドは落ち着いた様子で2人を注意している。

 

だが、「一騎カレー」を食べる時に笑を漏らしているのが見て取れる。彼も多少浮かれているところもあるのだろう。

 

カウンターに掛けてある時計を見ると、そろそろ後輩たちが来てもいい頃合いだった。彼らもまた、人類軍に対して思うところが多いだろうが、これからの事を考えておくと、あの3人とは多少なりともスムーズな連携が取れるようにはなっていてほしい。

 

彼らが態々このような存在するかも不透明な|場所≪竜宮島≫にやってきたからには、こちらに協力を求めて来たのだ。長い期間、共に行動するかもしれない。ならば、今のうちにわだかまりを解いておくのが上策と言えるだろう。色々と問題が起きるでしょうが、それらをここで解消してしまう必要があるのだ。

 

ガチャリ、とドアが開く音がした。後輩たちがやってきたのだろう。店員の真矢が「いらっしゃいませ」と反応する。

 

「はあー腹減った―――」

 

その先頭には堂馬広登が立ち、その後ろに西尾暉、西尾里奈と続いていた。

 

「―――ってええっ!?」

 

と、何かに驚いたように広登が立ち止り、そのすぐ後ろを歩いていた暉が彼の背にぶつかり、何事かとその後ろにいた里奈が首を2人の間から覗かせて、こちらの様子をうかがう。広登達の視線はある一点―――つまり、奥の座席に座っている人類軍の3人である。

 

ちなみに僕は陣内さん達とカウンターでカレーを食べている。ライス大盛りで。

 

「人類軍が……」

 

「……カレー食ってる」

 

広登に続き暉まで、なにを驚いているのだろうか。親睦会を行うと既に連絡はしてあったはずなのに、とレイは首をかしげる。

 

「ちょっと、遠見先輩!なんであいつらがいるんですか?」

 

里奈さんに至っては真矢に訪ねている始末。連絡が行き届いていないと言うことでしょうか?

 

「何を驚いているんです?」

 

とりあえず確認の為、一番近くにいる里奈さんに声を掛ける。

 

「え?だって……」

 

「人類軍との親睦会を行うと、すでに剣司から連絡が来ているはずですが」

 

僕の言葉に、一瞬きょとんとした里奈さんは何か思い出したのか、どこか曖昧な顔をした。

 

「え……あれ、でも……」

 

そして、後ろからやってきた暉君から、眼を覆いたくなるような現実が返ってきた。

 

「剣司先輩からは、『夜何かやるらしいからこいよー』としか聞いてませんでしたけど……」

 

「………………そうですか」

 

思わず目頭を押さえる。こういう時にいい加減な伝え方をする親友に若干頭痛がした気がするのは気のせいだと思いたい。

 

「まあいいじゃん。それで、3人とも何食べるの?」

 

真矢が僕の背中を軽くたたいて、なだめてくれる。特有のどこか陶酔的な甘い声に少しだけ癒されながら、既に過ぎ去ったことをあれこれ考えるより、これからの事を考えた方が建設的だと自分を説得し思考を遮断する。

 

カレーを掬い、口に入れるとピリッとしたスパイスが効いたルーが舌を刺激する。やや強めの辛さが何ともおいしい。

 

「あ、じゃああたしカレーで」

 

「オレも何時ものカレーで!」

 

「俺も一騎カレーでお願いします」

 

3人とも普段と変わらない注文をして、人類軍たちとは別の窓際の席に座る。ふと、後ろを振り返るとアイシュワリア・フェインがこちらを―――いや一騎を見ている。プロパガンダの影響とはいえ、人気者ですね、彼も。

 

「またみてる。一騎君大人気」

 

真矢もそう思ったのか、彼女もアイシュワリア・フェインを見ながらそう一騎に言っていた。だが、彼にとってはそう心地いいものではないだろう。

 

「会った事もないのにな」

 

寸胴鍋で、カレーを煮詰めている一騎。こちらから背を向けている為、表情はうかがい知れない。だが、真矢には一騎の気持ちが理解できているのか、表情を曇らせる。だが、そんな雰囲気はちょっと頂けないので、後ろから茶々をいれることにした。

 

「其れなら簡単じゃないですか?」

 

「レイ……」

 

「レイ君」

 

僕の言葉に一騎と真矢が振り返る。僕は彼らの顔を交互に見ながら口を開いた。

 

「『そんなこと、俺は知らない』って言えばいいんですよ。彼らが貴方をどう見ようと、貴方は貴方です。彼らは貴方を英雄視する。でもそれは貴方にとっては何一つ関係ない事ですし、気にする必要はありませんよ。どうなろうとも、所詮彼らの自業自得(●●●●)なんですから」

 

どこか嘲るような口調で語るレイ。彼の最後の言葉は理解できなかったのか、首をかしげる2人。それでも、言ったことの大部分は理解してくれたようで2人は苦笑いを浮かべた。

 

「そういうところ、変わらないな」

 

「優しい風して、シビアだよねー。レイ君って」

 

2人の言葉に、手を振りながら「元軍人ですので」と返す。とはいっても、僕が中々にシビアな目線をしているのは事実だ。そして、卑怯者だ。何が卑怯なのかは、いずれ理解できる時が来るでしょう。それよりも、今はこちらのほうが優先です。

 

「ところで、真っ先にここに来そうな彼はどうしたんですか?」

 

ふと、気になっていたことを思い出し、コップの水でのどを潤しながら一騎に尋ねる。一騎はまた苦笑しながら答えてくれた。

 

「総士は石棺の所に行ってるよ」

 

その言葉だけでいろいろ察することができた。僕は空になったコップを手で揺らしながら溜息を吐いた。あきらめが悪いですね。彼も。

 

「またですか。「あんなもの」コアの摘出なんてせず、深海に沈めてフェンリルで吹き飛ばせば済むものを」

 

僕の言葉に苦笑していた一騎と真矢はさらに苦笑を深めた真矢にいたっては「アハハ―」と乾いた笑すら漏れている。僕も最近思うところがるのだが、2年ほど前から、|同化促進剤≪アクティビオン≫を多用していたせいなのか、ファフナーに乗っていないのにも拘らずなにかと思考が物騒な方向に行きつつある。

 

結論そのものはずっと変わらないものの、手段や過程が昔よりも物騒な物は増えてきているのは自分でも理解していた。

 

カノンにも引かれたのはショックだったが、こればっかりはどうしようもないので、若干あきらめている。

 

「あ、すみませんがカレーお代わりです。ライス大盛りで」

 

「はいはい」

 

と空になった皿を一騎に手渡した時だった。

 

 

 

 

ガタン―――

 

 

 

 

「ん……」

 

後ろの方で、手で机をたたく音がしたので後ろに目線を向ける。そこには予測通り(●●●●)顔を伏せたまま椅子から立ち上がっている里奈さんがいた。

 

向かい側の席にはビリー・モーガンが座っている。彼が持ち上げた話題、「なんで世界に協力しないのか」それは文字通り地雷だった。「もっと君たちが協力してくれれば、

沢山の人たちが救えたのに、なんでずっとこの島にいるんだ?」等、先程から後ろの会話は聞こえていた。

 

ビリー・モーガンは若干軽いところがあるのは今までのやり取りで知っていた。故に、こうなることも当然承知の上。真実を知らない彼の疑問は地雷として島のパイロット達の導火線を焼く。特に里奈さんは僕を除けば一番人類軍に不信感と警戒心を持っている。ならばこうなることは必然であり、こういう状況になってこそ腹を割って話し合い、理解し合うことができる。そう思ったうえでのこのキャスティング。

 

荒療治ですが、互いの理解は早ければ早いほどにいい。

 

「あんたら―――あたし等になにした―――?」

 

震える声で、今にも掴み掛りそうな雰囲気を纏った里奈は、言葉を綴る。

 

「島を占領してさ、爆弾落としてさ―――」

 

言葉としては短かったが、それだけで僕を除いた他の皆は一同に表情が暗くなっていく。過去の出来事であるが、あの2つの事件で、本来竜宮島と人類軍の間には致命的な溝が生まれたと言っても良かった。

 

僕らを含めた元人類軍の兵士たちは、今でも一抹の罪悪感を抱えたまま過ごしている人たちが多い。中には、未だ罪悪感からか手段に馴染めずにいる人もいる。

 

島の人たちは、僕らを受け入れてくれた。それでも、それは人であって人類軍そのものを許したわけでは決してない。

 

里奈さんはそんな人たちの代表ともいえる立場に今、立ってくれた。

 

「何の話?なにか、勘違いしてない?」

 

そして、そんな彼女の雰囲気にあっけにとられながらも、いや、あっけにとられたからこそか、能天気な調子で疑問を投げかけるビリー・モーガン。この言葉は彼女にとって火にガソリンを注ぐような行為である。

 

数秒としないうちに彼女は怒りに任せて彼に掴み掛ろうとするだろう。顔を上げて、肩を震わせる様は今にも爆発しそうな雰囲気だ。

 

「っっっっ――ふっざけ」

 

んな―――。そう怒声を上げようとした彼女は、寸でのところで行動を停止させた。彼女の後ろには手が置かれ、軽く引っ張られたことにより動きを阻害されたためだった。だが、前のめりになったことでテーブルが揺れて、テーブルに置かれていたグラスがフローリングの床に落ちて割れる。

 

「そこまでです。里奈さん」

 

「―――っレイ、センパイ……」

 

眼に涙を浮かべる彼女の眼には、「何故止めるんですか!?」と声にならない声がひしひしと伝わってくる。だが、彼女には申し訳ないが、これ以上の行為は余計な亀裂を生みかねない為、見過ごすことはできない。

 

「気持ちはわかりますが、彼らに訴えても意味はありません。彼らは本当にここで起きたことは知らないんですから」

 

優しく、宥める様に声を掛けるレイ。そして、やがて苦笑を浮かべほんの少しだけ雰囲気を和らげながら「それに―――」と言葉を続けた。

 

「2年前の事はともかく、5年前のことは僕にもグサリと来る案件ですので、すこし控えて下さい」

 

おどけた様な調子で続けるレイに、里奈も冷静さを取り戻したようで、はっとした表情を浮かべて、申し訳なさそうに頭を振った。

 

「―――あっ……その、あたし……そなつもりじゃ」

 

「解ってますよ」

 

レイはそう言って、里奈の頭を軽く撫でる。それに堪え切れなくなったのか、里奈はやがて顔を伏せて手で両目を拭いだした。レイは後ろから駆け寄ってきた真矢に里奈を任せると、唖然としたままのビリー・モーガンの前に立った。

 

「あなた方は情報操作で知らないでしょうが、元人類軍第7特機隊は5年前、この島に侵攻しています」

 

「え―――」

 

「目的はノートゥング・モデルの奪取、及び竜宮島パイロットの情報。そして、アーガディアンプロジェクトにまつわる事象。それらを得る為に僕らは島へ戦火を向けました」

 

レイの口から語られる真実は彼らを圧倒した。この島に侵攻した事。「マカベ因子」がどうやって出来たかを、今の人類軍ファフナーが何故飛躍的な改良が出来たのかを。

島で発生した知る限りの戦闘記録。そして、2年前の事も―――。

 

「そして、人類軍は僕らをフェストゥムの小ミール諸共に消すために、「α攻撃部隊」を差し向けました。知っていますね?エノラ512を主軸にした爆撃部隊を」

 

「あ、「α攻撃部隊」だって―――」

 

「うそ、でしょ……」

 

「……」

 

その真実は、到底彼らには信じがたい物ばかりであった。だが、3人の中でただ1人。ジョナサン・ミツヒロ・バートランドだけが、沈痛な表情で真実を受け入れている様子だった。おそらく彼は5年前のことは知っていたのだろう。ただ、2年前の事は流石に知らなかった様子で、一瞬共学に顔を染めていたが、すぐに

冷静な物に戻していた。

 

「彼女に謝れ。ビリー」

 

「ミツヒロ―――」

 

告げられた真実に圧倒されていた彼らの中で、最も冷静だったジョナサン・ミツヒロ・バートランドが重々しい口調で言葉を紡いだ。

 

「彼らが俺たちに力をくれた。なのに、俺たちは彼らを助けたか?」

 

彼は周りを見渡しながら言葉を続けた。

 

「彼らはずっと孤立したまま戦い続けて来たんだ」

 

彼の視線の先には暗い表情のパイロット達。この状況になることを視越し、この舞台を用意していたレイ・ベルリオーズを除いて、彼らの表情は皆沈痛な物だった。

 

彼、ジョナサン・ミツヒロ・バートランドは人類軍の3人のなかで一番、人類軍と竜宮島の間にある溝を理解してくれていた。

 

「謝れ」

 

「あ―――」

 

そして、事の重大さが理解できたであろうビリー・モーガンはバツが悪そうに片手で頭を押さえながら、たどたどしい口調で「ごめん、なさい」と謝罪の言葉を述べる。

 

 

「―――ふんっ」

 

そして、落ち着きを取り戻していた里奈はまだ許したわけではないのだろう、そっぽを向いてしまった。そんな中、言いづらそうに「あの―――」と声を上げた者がいた。里奈の弟の、西尾暉だ。

 

「力ってなんですか?」

 

詳細を既に聞いていたレイは割れたグラスを集めている真矢を手伝うためにしゃがみこんだ。真矢は「ありがとう」と小さい声で礼を言って、レイは「気にしないでください。それよりも、彼の話を」と目線を彼に向けながらガラスのかけらを拾い集める。

 

「昔、カズキ・マカベは新国連のファフナー開発に協力してくれた」

 

協力というより、脅迫ですよねアレ。昔を思い出していたレイは口には出さないものの、記憶を頼りにそう思った。ジョナサン・ミツヒロ・バートランドの説明は続く。

 

「その時に得られた彼の遺伝子を元に、特効薬が作られたんだ」

 

「素質が足らない人間でも、ファフナーを操縦できるようになる薬だよ」

 

彼の説明に、ビリー・モーガンが捕捉を加えた。それに続くように、アイシュワリア・フェインが口を開く。

 

「感謝していますマカベ。貴方が私を、ファフナーに乗せてくれた―――っあ」

 

「―――出前言ってくる」

 

一瞬驚いたような声を出すアイシュワリア・フェイン。一騎がデリバリーボックスにカレーを入れて、スタスタと喫茶店を後にしたのだ。彼にとって、彼女たちの言葉は胸に突き刺さるものだろう。

 

自分のお蔭で戦えることを感謝されたのだから、一騎にとってはたとえ悪意が無くてもそれはナイフと同じであった。そして、これも予測の中であったので、直ぐに対応策を実行する。

 

「一騎」

 

僕の呼びかけに一度、足を止めた一騎。僕は立ち上がり、彼と背中合わせのままに告げる。

 

「僕の先程の言葉、歩きながらでも反芻してください。何があろうとも、貴方は、貴方です」

 

「―――ああ」

 

その言葉を最後に、一騎は今度こそ、店を後にした。

 

「マヤ・トオミ―――」

 

「え?はい」

 

真矢が声に振り向く。声を掛けたのはジョナサン・ミツヒロ・バートランドであった。

 

「そうか、君が―――」

 

「ねえ、君!」

 

何かを口にしようとした彼を押しのけて最初の調子を取り戻したビリーが目を輝かせながらマヤの前に出た。

 

「恋人はいるの!?」

 

「いない!!」

 

ずい、っと前に出るビリー・モーガンの質問に答えたのは、西尾暉だった。1秒とかからない即答で席から立ち上がり、威嚇するように肩を震わせている。広登は苦笑いしながら「落ち着けって暉」と彼を宥める。恋のクロスドッグに1人追加が入りますかね?

 

「そうなんだ―――うぉ」

 

「ちょっと黙っててくれ、ビリー。彼女と話が有る」

 

ビリー・モーガンの肩に手を置いて、彼を横にどけながら1歩前に出るジョナサン・ミツヒロ・バートランド。レイは彼の言葉に「まあ、当然でしょうね」と内心思っていた。

ビリー・モーガンは何か彼に言っていたが、アイシュワリア・フェインに「こっちに来なさい」と言われ、渋々彼女の元へ向かう。

 

途中で堂馬広登が彼女に反応し「うひょー」とか言っていた。それに対してビリー・モーガンが何か言っていたが、言い終わる前にアイシュワリア・フェインに腹部を殴打されうずくまった。真矢とジョナサン・ミツヒロ・バートランドはそのまま2人で店の外に出て行った。

 

「さて、多少は和解できたことでしょうし、このまま親睦会の続きとまいりましょう」

 

レイは、いつの間にかカウンターのキッチンに入り、これまたいつの間にか全員分の飲み物を作って全員に配りだす。此処までが、レイの思惑の内であったのだ。

 

親睦会は、閉店まで続いたのだった。

 

――――

 

親睦会が終わり、皆も帰ったころ、真矢は閉店の文字を店頭の黒板に書いていた。

 

すると、足音が聞こえてきて、そちらに振り向くと見知った顔が立っていた。

 

「お疲れ様、カノン」

 

「ああ。済まないが、一食用意できるか?」

 

「うん」

 

カノンと真矢は店の中に入り、カノンはそのまま自分の夜食の用意をする。大きめのどんぶりに山盛りのご飯をよそい、これまた大きめの茶碗に味噌汁を入れている。簡単な定食風の夜食が出来上がり、「いただきます」とカノンは明らかに年頃の少女が食べるには大量のご飯をためらいもなく口に入れ始める。

 

その様を見ている真矢は思う。

 

―――なんでいつもこんなに食べてるのに太らないんだろ?

 

明らかに大量の食事をとっているにも拘らず、彼女は太るどころか「ある部分」だけが成長しているように見える。一言で言って、年を追うごとにカノンは女性としてスタイルが羨ましいことになってきている。

 

自分は体重とかを気にして食事の量を考えているのに、カノンは気にする部分が最近体重ではなくもっと別の所に変わっている為、時折羨ましくも腹立たしくなることがある。

 

そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、黙々と食事を進めていくカノン。もう21時をとっくに過ぎているのにもかかわらず大量の食事をとって、それなのにスタイルも体重も崩れることなく磨きがかかっているのは本当に不思議に思うのだ。

 

普段はそんなことを考える真矢だが、今日だけは別の事に思考が割かれていた。今日告げられた新事実に、気持ちの整理がつかないからだ。

 

そんな彼女の表情が気になったのか、食事をしながらもカノンは真矢に声を掛ける。

 

「浮かない、顔だな」

 

「チョットね……」

 

真矢は明後日の方向へ向けていた顔をカノンに移して問いを投げかけた。

 

「カノンは昔の仲間に合わなくてよかったの?」

 

「顔も知らない連中だ。レイはともかく、私は話すことはないしお前たち以上の仲間はいない」

 

カノンはさも当然のように即答し、食事を続行する。真矢は「そっか」とつぶやいて、また浮かない表情を浮かべ、沈黙するのだった。

 

「ん?」

 

そんな真矢の顔を見て、カノンは食事を止めた。咳払いをひとつし、真矢に声を掛けた。

 

「悩みがあるなら聞くぞ」

 

「なんか―――」

 

そう言った。カノンだったが、ややぶっきらぼうに語られた真矢の悩みは、彼女の予想を超えていた。

 

 

 

「―――弟が出来たみたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           ―――カタン―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音は箸を取り落したもの。予想の斜め上を行く真矢の口から語られた言葉に一瞬、カノンの思考が停止した。

 

弟?誰の?

 

―――真矢の?

 

真矢の弟―――?

 

つまり―――

 

つまりつまり―――

 

え、そういうこと?

 

どういうこと?

 

 

 

 

 

 

 

「―――ななるほど、そうか。まあそう言う事もある―――悪い事ではない」

 

 

 

 

働き始めた思考回路は超特急で、友人の口から語られた言葉から状況を推測しだす。

 

そして、カノンは盛大な誤解をするのだった。

 

 

 

「え?」

 

 

カノンの言葉にきょとんとした表情を浮かべる真矢であったが、顔を寄せて、声を小さくするカノンの次の言葉に盛大な誤解が発生したことを悟った。

 

 

 

「で、遠見先生の相手は―――真壁指令か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――そんなわけないでしょ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

アルヴィス会議室。

 

 

「―――くしゅんっ」

 

いきなりくしゃみをする遠見千鶴。そのくしゃみに会議に参加していた全員の視線が彼女に集中した。

 

「大丈夫遠見先生?」

 

「風邪かね」

 

自分を心配する隣に座る羽佐間容子に儀会長席に座る真壁史彦の声に、千鶴は「ああ、いえすいません」と心配ありませんと告げるのであった。

 

――――

 

喫茶『楽園』カノンは自身の誤解を真矢に解いてもらい、改めて詳しい説明をしてもらっていた。

 

「家族、か……」

 

夜食は説明を聞いている間にあっという間に食べ終わり、デザートのアイスをスプーンで口元に運びながら、カノンは感慨深そうにつぶやいた。

 

「お姉ちゃん、お父さんのこと大嫌いだし。お母さんだって知りたくないだろうし」

 

説明を終えた真矢は再び表情を暗くしていた。自分もそうだが、真矢の家族も父親であるミツヒロ・バートランドにはいい思いを持っていないのが現状である。そんな中で、彼女たちに、いきなり甥や弟ができたなどと知れば、どうなることやら、彼女の悩みはそこにもあった。

 

カノンはかすかに微笑んで、スプーンを置いた。

 

「私は、この島で家族を手に入れた」

 

カノンが話すのは自分のこと。自分の過去のことだった。

 

「うん」

 

「ずっと、孤独だった。自分の考えを持つことも諦めていた」

 

「でも―――」彼女は今までの言葉を否定し、言葉を続けた。

 

「レイに一騎やお前や、島のみんなが私を変えてくれた」

 

どこか懐かしむ様子で語ったカノンは一度顔を上げてもう一度口を開いた。

 

「もし真矢がそいつを嫌っていないら、受け入れてやってほしい」

 

と、先ほどは興味ないといった風だったカノンも、結局は人類軍のことを気にしていた様子で、そう言った。

 

そんなカノンの言葉に真矢は「うん。そうだね」と笑い、言葉を漏らした。

 

「ありがとうカノン」

 

その真矢の言葉がうれしかったのかカノンもつられて笑う。だが、何かを思い出したように真矢に話し出した。

 

「私も話がある。一騎のことだ」

 

「マーク・ザインを見に行ったとか……」

 

「!―――知ってたのか」

 

「なんとなく、そう思っただけ。ずうと戦いだけが居場所だったから」

 

真矢の言葉に少しだけ驚いたような表情を見せるカノン。真矢は言葉をつづけた。

 

「でも、今はここに一騎君の居場所があるし、大丈夫だよ」

 

「―――」

 

カノンは少し苦笑した。言う必要もなかったか、と思いながら口を開く。

 

「理解ってるんだな?一騎のこと」

 

カノンの言葉に真矢も苦笑して両手を振る。

 

「わかってないよ。そう思ってるだけ。それに―――」

 

真矢は少し意地悪な笑顔を浮かべた。その笑顔を見た瞬間、カノンの表情が固まり、背筋に一筋の汗が流れる。

 

「カノンだって、レイ君のことよく理解してるじゃんー?」

 

「なっ―――」

 

カノンは顔を赤くし、そしてそれを隠すようにそっぽを向いた。

 

「べ、別にあいつのことは理解しているんじゃなくてだな。---ただ、付き合いが長いからあいつの行動とか、考えてることとかがただ他人より少しだけわかるというか―――」

 

その回答が自爆しているということを知らずに、赤裸々に弁明という名の自爆を繰り替えすカノン。

 

そしてやがて攻守は逆転し、今度は真矢が多少の自爆をしながら、盛大な惚気合戦が始まった。




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対話

いやー前回は申し訳ない。寝落ちしかけて慌てて書き上げてしまったのでちょいと大変なことになってたかもしんないです。

それにしても、設定に反してレイとカノンの絡みが少ない。これはいかん。



……ではどうぞ。


島の海岸で、一騎は皆城総士と一緒に砂浜に座っていた。彼が言っていた出前の出先が、総士の元であったのである。

 

傍から見ると通い妻のようであるが、本人たちにその気はない。と、思いたい。

 

そして一騎は先の親睦会で人類軍たちが言っていた『マカベ因子』について、総士に話していた。

 

「『マカベ因子』か―――人類軍らしい」

 

弁当箱に入っていた最後のポテトサラダをフォークに刺し、口に入れながら総士は簡潔に述べた。

 

「あいつらも俺みたい(・・・・)になるのか?」

 

互いに外側に対角線に成る様に座っていたが、一騎は水筒のコーヒーをカップに注ぐと、総士に手渡しながら尋ねた。対する総士は目線だけ一騎に向けながら答える。

 

「……どんな因子かは不明だ」

 

「でも、解る事はあるだろう?」

 

一騎の更なる質問に対して、総士はコーヒーを受け取ると、思考を簡潔にまとめながら口を開いた。

 

「彼らの年齢で染色体変化と同化現象を受けたなら、20代の終わりまで命が持たない」

 

「それが彼らの生存限界だ―――」そう言って、総士はコーヒーを口に運ぶ。自分好みの淹れ方をいつの間にか覚えていた一騎のコーヒーはいつ飲んでも

美味い。

 

「なのに俺は、感謝されたわけか―――」

 

一騎は顔の向きが総士と平行になる方向に座り直し、砂浜に寝そべった。それに対して、総士は「お前の責任じゃない」と少し強めの口調で断言する。

 

「立場が違えば、僕らが誰かの因子を使って戦っていた。」

 

水筒のキャップ兼コップを揺らしながらそう語る総士。一騎も思うところがあるのか、しばしの沈黙の後に口を開いた。

 

「……そうだな。同じことをレイにも言われたよ」

 

「……彼はなんて言っていたんだ?」

 

「「そんなこと、俺は知らない」っていえば言ってさ。どうなろうとも、彼らの自業自得だって言ってたよ」

 

空を見上げ、総士のもとに向かう途中も何度か反芻していた言葉を伝える。それに対して、一騎からは見えなかったが、どこか苦笑した雰囲気で総士は「そうか」と言った。

 

「らしい言い方だ。敵と味方、自分と他人、明確に線引きして判断する彼らしい、な」

 

そう言って、コーヒーを飲む総士。一騎は「そうだな」と言い、場に静寂が訪れた。お互いに何も話さず、時間がゆるやかに流れていく。海岸線に吹く風は2人の髪を揺らす程度の弱さで、時に少し強めに吹きながら絶えることなく吹き続けている。夏に差し掛かった夜が涼しく感じられる。総士は海を、一騎は夜空を見上げ、静かな時間を過ごしていた。

 

「……。……」

 

やがて、ちらりと一騎の方へ顔を向けた総士。ふと、思い出したように口を開いた。

 

「……伸びたな」

 

「?」

 

総士の言葉に、一騎は彼の方へ目線を向けた。彼の視線は肩にかかりそうなくらいに伸びている一騎の髪に向けられていた。

 

「切ったらどうだ」

 

そんな総士の言葉に、一騎は風に揺れる髪の一束を指で挟み、眺めながら言った。

 

「これも俺の一部で、生きてるって思うと、切る気がしないんだ」

 

「そうか」

 

一騎の言葉に総士はそう言って、視線を海へ戻した。

 

「少々、鬱陶しいな」

 

「お前が言うな」

 

明らかに自分の3倍以上にまで髪を伸ばしている親友の言葉に、一騎は至極まっとうに反論した。

 

――――

 

「―――人類軍の発言についてですが、美羽ちゃんは全て肯定しています」

 

竜宮島アルヴィス内の会議室にて、各リーダー格の面々が集結している。人類軍の来訪と示された全ての情報、そしてこれからのことを話し合っているのだ。当然、そこにレイ・ベルリオーズも席に座り、会議に参加している。この場では彼はファフナーのメカニックとしてではなく、ファフナー部隊の隊長という立場で参加しているため、基本この場では部隊長として以外では機体について触れることはしない。それは同席している小楯保の仕事である。

 

会議の内容は「人類軍が来た目的」と「人類軍による協力要請に応えるか」という2つの議題を同時に進行している。

人類軍が来た目的については大方の把握はできたが、正直な話恐ろしいことになりそうだ。

 

新たなミール『アルタイル』が地球に接近しつつあるという。

 

今まで、地球に飛来したミールは3つ。1つは遥か昔、人類の進化に影響を及ぼしたとされる超古代ミール。フェストゥムが人類の心を読めるのはこれが関係していると目されている。2つ目はその超古代ミールに引き寄せられて飛来した瀬戸内海ミール。

 

現在はアーガディアンプロジェクトの目的の為に分解され、我々の力となっている。

 

そして、5年前―――最後の戦いの舞台となった北極に存在した北極ミール。現在は粉々にされた破片の一部が小ミールとなって世界各地に存在しているという。2年前、こちらと戦った来栖操が存在したミールもそのうちの一つだ。

 

ミールとは言わば、フェストゥムを統べる本体の様なモノ。フェストゥムにとっての頭脳体ともいえるべき存在である。

 

故に、その力は強力無比。もしそんな存在が一個のフェストゥムとして活動しているのならば、ザルヴァ―トルモデルでなければ到底太刀打ちはできないだろう存在になる。

故に、こうして緊急会議が開かれているのである。

 

途中、急に遠見千鶴がクシャミをしたが、まあそれは置いておくとしよう。問題は人類軍たちが何が目的でこの島にやってきたのかが重要であるのだ。

 

「嘘発見器による診断も、同様でした」

 

千鶴に続いて要澄美が発言をする。その2人の言葉を受けて、竜宮島指令、真壁史彦は考え込むように唸る。だが、すぐに2人から視線を外し周りで囲んでいるデスクの中央モニターにし顔を向ける。

 

「彼らの言うミールは―――」

 

モニターに3DCGで出来た映像が投射される。その映像は、ある場所を指し示している。かつて、インドと呼ばれた場所だ。

 

「インド大陸北部、シュリーナガルにある」

 

そして、史彦の言葉に合わせ、映像が更新されていく。3D投影されたインド大陸の映像の一点にマーカーが示され、「Srinagar」と地名が表示された。全員がそれを確認し、しばし沈黙が訪れる。10秒後に沈黙を破ったのは西尾行美である。アルヴィス最高齢のメンバーにして現在尚、竜宮島最下層に存在する『キール・ブロック』、別名を「ウルドの泉」と呼ばれる液体コンピュータ解析の担当者として会議に参加している。

 

「島に持ってこれないということは、よほど巨大か、地面に固定されているか……ミールが何に変化したのか、大いに興味があるよ」

 

研究者として、興味があるためか自分なりに分析した考えを周囲に伝える。その発言に幾人かが頷いていた。

 

「陸地じゃ島を近づけられん、美羽ちゃんだけ行かせるわけにはいかんだろう」

 

ここで、溝口恭介が口を開くが、その内容はこの島の現状から協力は難しいという意見が濃厚に滲んでいた。それに続いて、ジェレミーが発言する。

 

「ファフナー部隊を護衛に出した場合、島の防衛力の低下が不安です」

 

彼女も、現状の戦力では協力は難しいと考えている。そして、それは彼も同様であった。

 

「現状、僕を含めパイロットは5人引退しています。現状のメンバーをフル動員しても計5人。アルトドッグとも言えない隊形です。島外派遣をするにはトリプルドッグ。3人での連携が最低条件、それ未満は部隊長として認められません」

 

静かに、それでいて強い口調でレイは断言する。これは言外に現状の戦力では島外派遣は不可能という事を突きつけるものでもあった。

 

それに続けるように澄美の発言する。

 

「パイロットの新候補者は接続テストも、両親への通達もまだです」

 

「……改良型と、新型は?」

 

2人の言葉を聞き、文彦は今度は小楯保と羽佐間容子に視線を向けた。

 

「改良型は現在3機が完成目前ですが、内蔵させるコアが不足しています。新型機はヌルのコアを移植する予定ですが、例の新機構が完成していません」

 

容子は手前のコンソールを操作し、中央モニターに映像を投影させた。映像は一度シュリーナガルの映像が消え、新たに並ぶ3機のファフナーと、そこに少し離れた位置に表示される今までに見たことがない形状のファフナーが1機、合計4機の機体が投影されている。映し出される機体の周囲から各部位の完成状況と全体の完成率が表示されている。どれも90%以上を表示しており、唯一新型の機体だけが胸部の完成率が70%を下回っていた。だが、その新型以外の機体には、容子の言葉通り、コアが内蔵されていないという趣旨の記述がされていた。操作が終わった後で、容子がもう一度発言する。

 

「コアがなければ通常兵器と変わらず、敵に対抗できません」

 

「現在8機がコアを搭載。しかしドライとアハトが無人機の研究に使用中で、動かせるのは6機のみです」

 

容子の発言を補足する形で同じメカニックのイアン・カンプが言葉を繋げる。そう、現状機体ができても内蔵させるコアが不足しているのだ。コアがなければ敵の攻撃に対する十分な防御ができず、通常兵器同様あっさりと敵に破壊されてしまう恐れがある。例外としては一部のパイロットはコアのない機体でも敵を撃破することが十分できる実力を持っているが―――

 

「一騎やカノン、そしてお前さんはコアなしでも戦えるけどなー?」

 

「そうですね」

 

その点をやや大げさに両手でジェスチャーしながら溝口がレイを見る。レイはそれに対して肩をすくめそっけなく応えた。そう、この中でコアのない機体での戦闘経験、及び敵の撃破経験があるのが、溝口が挙げた3人である。

 

そのうちのレイとカノンは、元人類軍という都合上、長いあいだコアなしの機体で戦い抜いてきている。基本1体の敵に3、4機で戦闘する人類軍ではあるが、この2人に限って言えば単独で複数の敵を撃破してきているため、実力島のパイロットたちの中でも最高クラスであった。

 

しかし、だからといって戦えるわけではない。

 

「その3人はとっくに引退しちまったがね」

 

「だよなあ」

 

西尾行美の指摘にがっくりと項垂れる溝口。言わずもがな、彼が挙げた3人は既にパイロットを引退している。結局のところ、コアを内蔵した機体でなければ戦力にはならないということは変わらないようだ。最も、それは溝口も重々承知の上での発言のため、うなだれたのも唯のフリでしかない。それを全員が知っているため特にこれ以上言及することはなかった。

 

「……ソロモンは?」

 

溝口の発言を一通りスルーしていた文彦は次の問題について口にした。それにジェレミーが答える。

 

「アザゼル型と呼ばれる巨大な敵ですが、ソロモンは断続的に応答。島を追跡している可能性が高いと思われます」

 

「戦力を減らすわけには行かねえな」

 

「連中を信用したとしても、現実は厳しい」

 

「アザゼル型がミールそのものであると考えるとすると、現在の戦力でも太刀打ちできるかは―――厳しいと言わざるを得ません」

 

ジェレミーに続いて、溝口に小楯、レイが各々の見解を述べていく。3者別々の立場からの発言であるが、共通して人類軍に協力するのは現状の戦力では不可能と言う結論であった。

 

3人の意見に、再び場が沈黙しかけた時、真壁史彦がその空気を破った。

 

「……実は将軍から提案があった」

 

史彦がそういうと同時に彼の背後のモニターが点灯。人類軍と共にいた少女と日野美羽が一緒に画用紙に絵を描いている様子が映し出されている。

 

「あの少女が島の戦力を増大させられると」

 

「増大?」

 

「どうやってですか?」

 

史彦の「戦力を増大させられる」と言う言葉に真っ先に反応したのはレイだった。やはり部隊を担う身として、機体に携わる身として今の言葉は聞き逃すことはできなかったのだろう。次に反応したのは羽佐間容子であったが、彼女もメカニックであるためか、反応は早かった。彼女の反対の席に座る小楯保も言葉は発しなかったものの、眉を顰めていた。

 

容子の問いに史彦は応える

 

「あの少女を島のコア……皆城乙姫と、対話させたいと言っている」

 

その言葉に1人を除いた全員が驚愕した。当然だろう。皆城乙姫、この島の中心にして心臓であるコアと例の少女を接触させるというのだ。一体何が起きてしまうのかなんて、

この場のだれも想像ができないし、最悪コアが変異する恐れもある。

 

「何だって……!?」

 

「コアを通して島のミールに接触する気だねぇ。で、何をするか想像もつかないよ」

 

長い間、ミールやフェストゥムに関することを研究してきた西尾行美ですら想像がつかないという。当然この場の全員にも想像なんてできるはずがない。

 

「大丈夫なんですか?」

 

要澄美はこの場にいる中で史彦の言葉に唯一驚くことの無かった千鶴に尋ねる。彼女はあらかじめ知っていたのだろう。

 

「美羽ちゃんが言うには、ただお話しするだけだと」

 

「……明朝、あの少女を皆城乙姫と出会わせる。全エリアを監視、異常があれば中止する。異論は?」

 

史彦の言葉に応じる者はいない。この場の全員が、これから起こるであろう未知の事象に対して、何も予想が出来ない以上、

下手に動くよりもまずは見てみる事を選んだのである。

 

全員を見渡して、史彦はもう一度口を開いた。

 

「彼らの言う「希望」が、我々の中核たる存在に対しても、有益であることを祈ろう」

 

最後にそう締めくくり、この会議は終了したのだった。

 

――――

 

「島のコアと、対話……戦力の増大……」

 

夜も更けた頃、レイは帰路につきながら会議での内容を反芻していた。だが、反芻して内容を理解しようとしても、会議で語られたことは彼の思考の外側にまで広がっている。例の少女、「エメリー・アーモンド」と島のコアである「元・皆城乙姫」と対話をさせる。

 

一体それでどう戦力が増大するのか、全くもって見当がつかない。

 

予測される事態に対処しようにも、予測のしようが無いのでは後手に回る対応しかできないではないかと、思考がぐるぐると廻っていた。思考のメリーゴーランドが何週目かに入ろうとした時、自宅が見えてきた。

 

この時間だ。向かい側にある羽佐間家の明りはついていなかった。容子さんは僕が出る時にはまだアルヴィスにいたから帰宅はしていないはず、カノンはもう寝ていますね。

と思考しつつ、向かって右側の、自宅への門へ差し掛かった時、赤い髪が見えた。

 

「遅かったな。レイ」

 

「カノン―――どうしたんですか?このような時間に」

 

彼の家の扉の前にいたのは、見間違えるはずもない羽佐間カノンその人であった。彼女は私服姿のまま、こちらの帰りを待っていたのだろう。

 

肩にバッグを掛けているが、仕事用の物とは違うため、一度向かい側の自宅には帰ってきているはずだが、なぜ態々待っていてくれたのだろうか。

 

「母さんが、会議で遅くなるって言っていてな。どうせお前も遅くなるだろうと思って、待っていたんだ。10分前あたりからな」

 

「そうですか……ありがとうございますカノン。入って下さい。紅茶でよければ、出しますよ?」

 

「助かる。実はまだシャワーを浴びてないんだ。借りるぞ」

 

「ええ、どうぞ」

 

扉の鍵を開け、中へカノンを招く。理由は未だ判然としないが、待っていてくれたのはちょっと、いや結構嬉しい。どうやらバッグの中身は着替えが入っているようで、そのまま風呂場へと入っていった。

 

リビングで湯を沸かし、いつでも紅茶を入れられる準備を整えて、待つこと1時間。先程までとは別の私服姿に着替えた顔所が、持っていたらしいバスタオルで髪を拭きながらリビングへやってきた。

 

僕はテーブルの椅子に座るカノンを見ながら、彼女様に用意していたカップに紅茶を注ぐ。そして、幾つかの氷とシュガーを入れて、彼女の前に差し出した。

 

「どうぞ、カノン」

 

「ああ、ありがとうレイ」

 

カノンは紅茶を一口飲んで一息つくと、少し真剣な表情になって、口を開いた。

 

「会議、何があったんだ?」

 

「人類軍のことですが、少し妙なことになりまして―――」

 

僕はカノンに会議で会った事を話す。人類軍が島に来た理由、新たなミールの飛来、そしてエメリー・アーモンドとの島のコアとの対話の件についても。彼女も驚くことが多かったが、無理もない。僕だって未だ理解できない事が多く、正直混乱しかけている。

 

「―――と言うわけでして、明朝例の少女と島のコアを出会わせます。事が事ですので、島全域が監視対象になります」

 

「と、なると私もブルグで待機していた方がいいな」

 

「はい。保さんや容子さんも各所定の位置で待機してもらい、何かあったら対応してもらう手筈です」

 

だが、流石カノン。元軍人と言うこともあって、思考の切り替えが早い。既に自分がどうすればいいかを判断していた。

 

「だが、戦力の増大か……何が起きるのか、予想もつかないな」

 

「こればっかりは明日にならないと、ですね。明日は早いですよ」

 

僕の言葉に、彼女は頷いた。それから何点か明日の事やパイロットの事などを話し合い、そろそろお互い明日に備えて就寝しようという流れになった。

 

なったのですが、どうも様子がおかしい。いや彼女に別段変わったことはありませんが、就寝しようという話の流れに反して、どうにも自宅に帰る様子が見当たらないのはいったいどういうことなのでしょうか。

 

「あの……カノン」

 

「?なんだ」

 

少し言い辛いのだが、ここは意を決して口にしなければならないだろう。

 

「いま、就寝しようという話になりましたよね?そこは間違いありませんね?」

 

「?ああ、そうだな」

 

首をかしげながら、僕の言葉に同意するカノン。いや、首をかしげたいのは僕の方なのですが……。

 

「明日も早いですし、もう寝ようという流れですよね?」

 

「そうだが、どうした?」

 

「いえ、でしたらもう自宅に戻られた方が―――」

 

「何を言っている?今日は泊まっていくぞ?」

 

…………え?

 

「いま、なんて?」

 

「だから、泊まっていくといったんだ。母さんにはもう許可を取っている」

 

―――――なんです?

 

「僕の家に寝室は1つしかありませんよ?」

 

「知っている。ベッドも1つだな」

 

当たり前のようにそう平然と言う彼女に僕の首筋に一筋の冷や汗が流れた。

 

「もしや、一緒に寝る……と?」

 

「当然だろう」

 

―――?

 

「当然なのですか?」

 

「当然だ」

 

「当然?」

 

「当然」

 

「僕の性別は?」

 

「男だな」

 

「では、貴方の性別は?」

 

「女だな」

 

「それで、1つのベッドに一緒に寝ると?」

 

僕がそこまで言ったところで、カノンは何かを悟ったかのように、深い溜息を吐いた。そして、小さい声で「この、鈍感め」とつぶやく。いや、鈍感と言われましても、

僕には貴方の行動の方にこそ問題があると抗議したいのですがそれは?

 

「私に皆まで言わせる気か。ほら、行くぞ」

 

「わ、ちょ、カノン?」

 

「安心しろ、何が起きても誰にも言わないでおく」

 

いや、みじんももあんしんできないのですがそれは――――――!?

 

 

 

僕、どこまで理性が保つでしょうか……道生さん、洋治さん……。

 

 

――――

 

明朝、僕はカノンと一緒にアルヴィスへ赴き、途中で別れてカノンはブルグへ、僕はCDCに向かっていた。

 

島のコア。ワルキューレの岩戸には、皆城総士、立上芹、日野美羽、日野弓子、遠見千鶴。人類軍のナレイン将軍に例の少女、エメリーアーモンドの2名。そして、溝口さん

率いる特殊部隊が向かっている。

 

僕は立ち会いを辞退し、全てが俯瞰できるこのCDCで何が起きるのかを待っていた。

だが、彼らがいるから安心できるとは言っても、何が起きるかは全く未知数だ。そういう意味では関係者全員に緊張が走っている。

 

ワルキューレの岩戸の様子は此処からでも確認ができる。

 

モニターには丁度、岩戸の中へ入ってきた一行の姿が見えていた。

 

『はっ……乙姫ちゃん!?』

 

一行が岩戸の深奥、コアの存在する場所へと近づく中、芹が何かに気付いたのか、慌てた様子でコアに近づく。

 

『これほど急激に成長するなんて……』

 

『自ら成長を速めたのか……?』

 

千鶴と総士がコアの様子を見て呟いている。確かにこちらから確認できる様子には、彼らの言うとおり精々生まれたばかりの姿であったはずのコアがかつての皆城乙姫と同じ姿にまで成長していた。

 

『人の形をしたコア。人とミールの融合か。初めて実物を見たな』

 

ナレイン将軍は、どこか感嘆する様子で言葉を紡いだ。そして、彼の隣にいた少女、エメリー・アーモンドが悲しげな声で『とても優しくて、悲しい子』とつぶやき、それと同時に歩き出した。

 

その足は真っ直ぐに、コアの方へと進んでいく。

 

『待って』

 

コアの近くにいた芹が止めようとしたが、彼女の纏う雰囲気に押されたか、または別の理由か一度は制止したもののそれ以上は何もできないままにエメリー・アーモンドを見送った。

 

そして、コアの前に立つと、岩戸の深奥であるコアを護る人工子宮のガラスに手を触れた。

 

『ずっと……守っていたんだね……皆を……』

 

そう呟く少女の声は震えていて、こちらからは確認できないが、涙を浮かべているだろうことが声で予想できた。

 

『っ……!?』

 

総士や芹達が何か異変に気付いた様子だが、こちらからは判らない。しかし、エメリー・アーモンドが言葉を発した直後に、それは起こった。

 

『私達に……あなたの強さを与えて』

 

彼女がそう言った直後、岩戸の人工子宮が、輝きだしたのだ。明らかに尋常ではない事態。そして、事態はさらに動き出す。

 

『エメリー!?』

 

美羽の悲鳴に近い声が届く。エメリー・アーモンドの子宮に触れている手から、緑色の結晶が生えだした。それは一瞬のうちに彼女の腕全てを覆い尽くす。

 

『ミールに同化されるぞ!?』

 

「莫迦な!?現状のコアに自発意識はないはずです!?」

 

CDCから様子を見ていたレイは思わず叫んだ。無理もない。現状のコアは成長期を乗り越え、安定してはいるものの自発意識を持つには本来なら、もう3年は必要と目されていた。

 

そして、自発意識から体の成長状態を鑑みて自分から岩戸を出て、動くコアとして島を回ると予想されていたが、自ら何かを同化しようとするには明らかに速過ぎていた。

 

「だが、コアは既にかつて我々と共にいた皆城乙姫と同じ状態にまで成長している」

 

「……っ」

 

そして、レイを窘めるように史彦は静かに言葉を投げかけた。彼も向こうの様子に驚いているはずだろうが、彼は何が起きてもそういうことなのだろうと受け入れる姿勢を整えていたらしい。

 

レイも落ち着きを取り戻して、「すいません。理解が追い付かないもので……」と謝罪する。それに対して史彦は「君だけじゃない」と語った。

 

「この場も、あの場のだれもが、予想だにしなかった事態だ」

 

そして、彼らがやり取りをしている間にも、事態は進んでいた。CDCが異常を感知し、すぐさま情報共有が成されていく。

 

「ソロモンに応答!艦内です!」

 

「位置は!?」

 

「キールブロックで異常が発生!ウルドの泉でなにかが……発生!?」

 

「何かって……解析は!?」

 

レイが発した声は驚愕に染まっていて、CDCオペレータのジェレミーと要澄美の2人も解析を急ぎ、せわしなくコンソールを叩く。

 

「ソロモンは島のミールと断定!」

 

「ファフナーと同コードの何かが出現、さらに増加中!」

 

2人の報告を受けて文彦は緊張した様子で指示を飛ばした。

 

「モニターに出せ!」

 

間もなく表示されたモニターには、ウルドの泉が映し出されていた。そして、映像には泉の所以たる液体コンピュータから、何かが発生している様子が確認できる。

 

すぐにその「何か」が拡大され、詳細が明らかになる。

 

「こんなことが……有り得るのか!?」

 

さすがに史彦の声も驚愕に震えていた。そして、レイは「バカな……」と驚くばかり。絶句した様子でかぶりを振っている。

 

彼らの前に広がった光景とは、それほどまでに会い得ないものだった。

 

――――

 

そして、その異常はブルグでも―――

 

ファフナーブルグでコンソールを操作していたカノンは直ぐに異変に気が付いた。

自分が操作していたコンソールが、急に点滅しだしたのだ。

 

「!?」

 

しかも、それは自分が使っていたものだけじゃない。あたりを見渡すと、他のコンソールも軒並み点滅し、あまつさえブルグ室内の照明すらもがパチパチと点滅しだしたのだ。

 

さらに、何も手を出していないはずのファフナーが、起動し始める。暗く、明るくを繰り返すブルグ内でも、明確に視認できるほどに、カメラアイに光が灯ったのだ。

 

「―――なんだ!?」

 

カノンはファフナーと自身の周囲を見渡し、異常が発生した事実と、何が起きているかを確認すべく行動する。コンソールを動かしてCDCと連絡を取ろうと試みるが、点滅するばかりでうんともすんとも言わないコンソールを「ああくそっ!」と苛立ちまぎれに拳を叩き付ける。

 

だが、こちらから連絡をよこすまでもなく、インカムから通信のコール音が聞こえてきて、インカムの通信機能をONにする。

 

『カノン!』

 

通信者ははレイだった。直ぐにレイに何が起きたのかを問い質すと、レイも慌てた様子で答えた。

 

『こちらも何が起きているのかは皆目―――ですが、急いで対同化装備、回収機を用意して、キールブロックへ急いでください!』

 

息が荒く、それだけで尋常でないことが容易に察せられるほどに狼狽している声色で放たれた言葉に、カノンも言葉を失うことになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

『―――ウルドの泉で、コアが発生しています(・・・・・・・・・・)!!』

 

 

 




感想、意見、評価、お待ちしています。

レイ君にだってわからないことはあります。いっぱいあります。キャラ崩壊するほどに驚くことだってあるんです。

それにしても話が進まない。これはどうしたものか……。

レイ君。君は今のうちにカノンといちゃこらするべきだ

なぜなら君は中盤から……高濱ァ!!的なことになるのだからな!!(意味不明)


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増強

むう……今回は思ったよりも短めになってしまった。

それはそうと、The Beyond 楽しみですよね。
新しい情報がないかなーと時折サイトを見ながら心待ちにしています。




 

『ウルドの泉で、コアが発生しています!!』

 

「―――なんだって!?」

 

突然のレイの言葉に、カノンは驚愕した。「ウルドの泉」はレーダーで感知することができないフェストゥムの存在を探知できる「ソロモンの予言」の中枢を担う液体型コンピュータの名称だ。無機質の存在であるはずの液体コンピュータから、よりにもよってフェストゥムのコアが出現しているというレイの言葉は、それだけで驚愕には十分な衝撃であったと言えるだろう。事実、カノンの頭には信じられないという思いで一杯だった。

 

そして、それはレイにも同じ事が言えるだろう。コアの発生を伝えている彼の声色からしても大分動揺しているのが感じ取れた。

 

「ウルドの泉でコアがって……何が起きている!?」

 

『僕にも何が起きているのか……とにかく、防護服を装着してキールブロックへ向かってください』

 

「あ、ああ」

 

カノンの返事を聞いたレイは、「お願いします」と言って通信を切った。通信を終えると、カノンはファフナーブルグを後にすると、言われた通りに防護服を身に纏い、下層部にあるコア回収用のアーム装置の元へ向かう。

 

エレベータに乗り、回収ユニットが保管されている格納庫まで下りていく。エレベータの扉が開くと、既に何人かの人物が格納庫内の回収装置の起動準備を行っていた。そのうちの1機の装置を操作していた2人の人物がカノンへふり返る。

 

「来たわね。カノン」

 

カノンに声をかけたのは、彼女の義母である羽佐間容子であった。彼女は、アルヴィスの整備クルーであり、カノンの指導教官でもある。もう1人はイアン・カンプであった。彼女ら2人を含めた面子はファフナーブルグの下にある武装開発部で待機していたため、カノンよりも速くこの場に到着していたのだろう。

 

「か……羽佐間先生。一体、何が……」

 

「判らないわ。キールブロックでコアが発生しているなんてこと、初めてよ」

 

「とにかく、行ってみましょう。回収できるならば、速い方がいいかと」

 

カノンと容子の間に通り抜けるようにして、起動した回収装置を動かしているイアン・カンプは2人に告げる。カノンと容子はそれぞれ「そうね」「了解」と返し、残りの装置を大型搬送エレベータに載せていく。

 

合計3機の装置がエレベータに搭載され、アルヴィス最下層、キールブロックへ降下していく。

 

3人共が、現在島で発生していることの全容は知らなくとも、尋常ではありえない事象が起きている事だけは、痛いほど理解できていた。3人は降下中、一言も発することなく最下層に到達。

 

搬送エレベータの扉が開き、3人は慎重にブロックへ踏み入る。青白く発行する液体コンピュータは照明の無い無機質なこの部屋をどこか神秘的に照らしている。

 

その部屋に入った3人はその光景に一瞬、呆然となった。

 

そう、コアだ。フェストゥムの心臓であり脳、駆動中枢を担い、ファフナーの動力源や強固な対心理防壁を築く必要不可欠な物質。そして今、竜宮島に致命的に不足しているものでもあった。そのコアが、液体コンピュータである筈の「ウルドの泉」の上を浮遊しており、今尚1つまた泉の中よりコアが誕生、水面より浮上しているのだ。

 

「こんなこと……あり得るのか!?」

 

カノンが思わず口にした驚愕は、他の2人も同意見であっただろう。だが、3人の仕事は此処で呆然としている事ではない。カノンたちは回収アームを使い、出現したコアの回収作業に取り掛かった。

 

空中を流れてくるコアを特殊な磁場で引き寄せ、アームで確保する。慎重に行わなければコアに同化されてしまう恐れがあるので、回収自体の速度はゆっくりだが、作業そのものは順調に行われている。

 

「凄い数のコアだ」

 

先程の驚愕の連続から一転、興奮した様子でカノンは空中に漂っているコアの群れを見ている。彼女の隣には羽佐間容子とイアン・カンプもいた。

 

「これだけあれば、改良型だけじゃなく、欠番機も作り直せる!」

 

「この全てが、機体と適合するならね」

 

「もしそうなら、無人機の実戦配備も、夢じゃありませんよ」

 

興奮気味なカノンの言葉に、容子は一つ不安要素を挙げるが、「戦力を増加させられる」人類軍側の言葉を信じるのならば、

恐らく全てのコアはそれが当然であるかのように機体に適合するのだろう。何が起きているのかは今もって不明だが、こうして島の戦力を増やすことができるというのは、喜ぶべきことなのかもしれない。イアンも興奮を抑えきれない様子だった。現在開発中の無人機も、当然フェストゥムのコアを必要とする。今までは、コアが決定的に不足していたために開発止まりだったが、こうして大量のコアが手に入ったことで、その実戦配備も実現が見えてくる。

 

そうなれば、ファフナーに乗って闘う子供達の負担も軽減するはずだと、イアンは語る。

 

だが、こうしてもいられない。コアの回収には常に一定の危険が伴う。これもまた、危険の一つでもあった。

 

カノン達よりも奥で作業を行っていた回収機から、異常を知らせるアラートが鳴り響く。3人はすぐに振り向くと、コアを確保している2基のアームの内、右側のアームが動作不良によりコアに接触、そこから侵食するように同化されていたのだ。同化現象特有のエメラルドカラーに光る結晶が、コアと接触しているアームからあっという間に中間関節部分にまで広がっていった。

 

「EC発生!EC発生!」

 

「アームを切り離せ!!」

 

異常発生を伝えるスタッフの声がブロック内を行きかい、すぐにイアンが指示を飛ばす。

 

同化されたアームは、本体に届く前に、まだ覆われていない部分の関節部から切り離され、「ウルドの泉」へ落水した。水飛沫を上げて沈下するアームは、底へ到達する前に

結晶に完全に覆われ、砕け散ってしまった。

 

「ふぅ……」

 

イアンは安堵の溜息を洩らした。指示を出すのが遅ければ、回収機そのものが今のアーム宜しく緑色の結晶に覆われて同じ末路を迎えていただろう。そして、彼と一緒に安堵の息を吐く他のスタッフに指示を出していく。

 

「アームをコアに接触させないように気をつけろ」

 

「は、はい!」

 

これで、1機の回収機が使用不能になってしまったが、残り2機の回収機で作業は続行されていった。

 

――――

 

そんなキールブロックの様子を捉えているCDC。ここも先程よりは落ち着きを取り戻し、行われている回収作業を見守っていた。

 

「―――なぜあんな現象が……」

 

だが、落ち着きを取り戻したとしても、目の前で起きている事が信じられないことには変わりなく、ジェレミー・リー・マーシーは改めて疑問を投げかける。

 

「ウルドの泉やソロモンの頭脳である、液体型コンピュータのはずですよね?」

 

ふり返り、後ろに座る真壁史彦に確認をとる様に、質問を投げかけるジェレミー。真壁史彦は腕組みをしながら真っ直ぐにキールブロックが映し出されているモニターを見据えている。そして、彼女の質問に対して視線を変えることなくモニターを見続けながら口を開いた。

 

「……皆城乙姫が誕生した場所でもある」

 

「島のコアが!?」

 

驚きの声を上げるジェレミー。彼女にとってはその事は初耳だったようで、ガタッ、と思わず席から立ち上がってしまっていた。彼女の驚愕に応えたのは、彼女の反対側に座っている要澄美だった。

 

「昔、研究者がミールに同化されたのよ。名前は「皆城鞘」お腹の中には―――子供がいたわ」

 

―――語られたことは多くはない。アルヴィスの技術開発が研究の為に入る事となったワルキューレの岩戸。瀬戸内ミールの暴走により彼女の体は半同化状態に陥っていた。そのため、妊娠していた子供を人工子宮に移す処置もあり、彼女が岩戸に入る事となったらしい。

 

結果、彼女自身はミールに同化され、お腹の子供―――「皆城乙姫」と呼ばれるようになる島のコアが誕生した。

 

それがこの話の顛末である。

 

「―――ミールが人を変貌させた……」

 

「その後、「彼女だったもの」に、分析用の液体型コンピュータを増設したのよ」

 

「彼女の意識が残っていないか、調べる為に―――」澄美のその言葉に続けるように、今度は史彦が口を開いた。

 

「そして結果的にあの泉が、敵の存在を読み取る唯一の術となったのだ……」

 

「では、既に皆城鞘の人格、意識は既に泉に溶けてしまっていると?」

 

史彦の言葉に、彼の後ろにいたレイが質問を投げた。史彦は、微かに頭を振って答える。

 

「西尾先生の見解では、「人の意識は、もう存在しない」との事だ」

 

史彦の言葉に、レイは「そうですか……」と言った後、考え込むように手を顎下に添え、視線を足元に落とした。

 

「コアの回収作業が終わり次第、各リーダーは会議室へ集合。緊急会議を開く。皆にもそう伝えてくれ」

 

「はい!」

 

史彦はそう指示をだし、レイは「解りました」と伝えると1人踵を返してCDCを後にするのだった。

 

――――

 

アルヴィス、会議室内で開かれた緊急会議。内容は新たに回収された多数のコアについてと、それにおける戦力の推移。そして、改めて人類軍の要請に応える事が出来るか否かである。

 

中央モニターには3D グラフィックで回収されたコアの分析結果が表示されているが、それらの情報を纏めると、答えは一つに絞ることができる。

 

「新たに出現したコアは全て、ファフナーのシステムに適合しました」

 

容子の報告に対し、会議室内にどよめきが起きる。それは困惑ではなく、少なからず歓声が混ざったものであった。つまり、先程カノンたちが話していたように、これにより改良型のファフナーや、欠番機の再建造のみならず、現在開発中の無人機の実戦配備が見えてきたのである。この事実は確実に喜べるものだ。

 

だが、完成を挙げたのは医療部等の他の面子であり、最も喜ぶべきはずの技術開発部の顔触れは難しい物であった。

 

「防衛力と言う点では確かに倍増。気になるのは、機体のポテンシャルが上がったことです」

 

「それは、結構な事じゃあないのか?」

 

イアンの言葉に、普段の調子を崩さない様子で問いを投げる溝口。その彼の隣に座る容子から、新たな情報が報告されていく。

 

「新たなコアを内蔵した機体だけではないんです。もともと在った機体も、何らかの影響を受けているようで……」

 

容子の言ったこの言葉こそが、技術部の顔触れが難しい表情をしている理由だった。

 

「影響?」

 

史彦が疑問を口にすると、其れに応える様に小楯保が史彦に顔を向けた。

 

「ザイン程じゃないが、コア格納ブロックが、常軌性の永劫導電回路を形成。つまり、空気中の物質をエネルギーに変えている」

 

「本来の電源が全く消耗しないのさ」

 

保の発言を捕捉するように彼の隣に座っている西尾行美が言葉をつなげていく。

 

「機体そのものがブラックボックスに変わった。何が起こるか、判らないよ……」

 

「新パイロットの接続テストは、3人とも成功」

 

行美の次に発言したのは澄美である。彼女はコンソールを操作し画面に新パイロット候補の3人のデータを表示させた。そのデータには主に候補者の名前とファフナー搭乗に必要なシナジェティック・コードの形成数値が表記されている。

 

□鏑木彗

・6.519:1:7.999

 

□御門零央

・8.380:1:8.686

 

□水鏡美三香

・10.833:1:12.057

 

3人の誰もが、高い数値を持っているのが見て取れた。この数値ならば、ファフナーに乗るには十分な数値である。だが、要澄美は注目すべき点はそこではないと言うように言葉を紡いでいく。

 

「搭乗後も、異変は無いようですが……」

 

「むしろ搭乗した際、同化現象を予防する薬を過剰に投与したのと、同じ症状がでました」

 

澄美の代弁をするように医療部の人間である遠見千鶴が報告を挙げる。これもまた、先程までの報告と同じ様に今までには無い現象である。

 

「機体がパイロットを護っていると……?」

 

「断定できませんが、パイロットの肉体的変化を見る限り、可能性はあります」

 

史彦の疑問に応えるように言葉を続けた千鶴。彼女にとっても、未知の領域であるためか、踏み込んだことは言えないのが実情であった。

 

「この島のコアが新たな力を与えてくれた……素直にそう信じたいところだけど……」

 

「実際にパイロット達が乗って戦闘をしない限り、詳しい事は何もわかりません……」

 

「全く、因果な武器だぜ……」

 

澄美の不安そうな声に続けてレイと溝口が口を開いた。レイにとっては得体のしれない武器でパイロットを戦わせるのは気が引けるところであるし、その気持ちを代弁するのが、溝口の言葉であった。

 

「島の外への派遣部隊が実現するか否かは……新たな機体とパイロット次第だ」

 

史彦の言葉に全員が彼に注目する。史彦は顔を挙げて全員を見渡すようにして再び言葉を紡ぐ。

 

「彼ら3人を正式にパイロットと認定、既定の訓練を行う。家族には―――私が通達する」

 

「新たな戦士たちの健闘と生存を、祈ろう」その言葉を以て、この会議を締める事となった。

 

――――

 

翌日、会議室では一部の元パイロットと大人が集まり、新しいパイロットについて意見交換を行ってた。メンバーは遠見千鶴に要澄美、要咲良、近藤剣司、真壁一騎、真壁史彦、レイ・ベルリオーズの7人である。

 

「新パイロット第1候補、水鏡美三香。フィジカルポテンシャル特"A++"。同化現象の耐久値も、トップです」

 

「身体能力はパイロットコース初のM1レベル。つまり一騎、アンタ並みよ」

 

澄美がパイロットデータを読み上げ、咲良が特徴や優れた点などを詳しく解説している。が、比較対象にされた一騎は特に興味なさそうに「ふーん」と返すだけで、隣に座っていた剣司が、苦笑いしながら一騎を見やる。

 

「新パイロット第2候補、御門零央。フィジカル"A"、格闘技能"特A++"」

 

「技能レベルは戦術部隊顔負け。一騎だって1本取れるかわからないわよー?」

 

先程と同じ様に澄美と咲良の説明が有り、そして挑発的に咲良が一騎に告げるが、当の本人は相変わらず興味が無い様子で、咲良は少しムッとした表情を作る。剣司はその様子を見て、「まあまあ」と彼女をなだめる。

 

「第3候補、鏑木彗。フィジカル"B"技能"A"状況判断能力"特A++"思考力集中力、メンタルポテンシャルは歴代パイロット中最高です」

 

「お頭は総士レベルよ。ジークフリードシステムの継承者でもあるわけ」

 

「因子による影響は?」

 

先程と同じ様に2による説明がおわり、今度は史彦が彼女たちに質問する。それに対しては千鶴が手元の資料を確認しながら答えた。

 

「生存率を上げるための遺伝子操作は、すべて正常に発現。自分の能力を理解できず、心身の調和を失うと言うことも、ありません」

 

「自分の力を伸ばすのは、本人の意志と努力ですから。本物の天才ですよ」

 

「そうですね。3人の能力はどれも素晴らしいものです」

 

千鶴の言葉に続けるように、医療部で医学を学んでいる剣司がパイロット候補生たちを評した。確かに、彼の言葉通りこの3人は天才と言える。レイもその点については同意した。

 

「どう一騎、元エースの意見は?」

 

「え?―――あー……」

 

咲良に質問され、おそらく先程のパイロットの紹介もどこまで頭に入っているか解らないような顔をしている我らが元エースは、何を言おうか、全く何も考えていなかったような様子だった。ただ、直ぐに聞きたいことはできた様子で、隣に座る剣司に視線を投げかけながら、質問をした。

 

「こいつら仲いいか?」

 

「割と、何時も一緒にいるな」

 

一騎の質問に、剣司は直ぐに質問の真意を察した様子で、普段の様子を思い出しながら答える。それに対してレイも同調して答えた。

 

「当然、そのあたりの事は加味して選出してますよ」

 

「ならいいんじゃないか?」

 

2人の言葉に一騎は納得したような、安心したような様子であった。最も男2人と違って女性の咲良は一騎の言葉に真意が読み取れなかった様子で、突っかかるように「何がよ!?」と前に乗り出した。それに対して剣司とレイが応答する。

 

「チームワークはどうかってことだろ?」

 

「孤立無援の僕たちにとって、各員の連携能力は機体性能以上に重要視するべきものですからね」

 

「その点は演習次第ね」

 

剣司とレイの言葉に同調するように咲良の母、澄美は資料を片手に微笑みながら言った。咲良は先程の一騎の態度と合わせて、まだ何か言いたげではあったが、とりあえずは納得した様子だった。

 

「直ぐに、始められるかね」

 

史彦は直ぐにでも訓練を始められるかをレイに尋ねる。レイは頷いて口を開いた。

 

「今すぐ始められます。そろそろカノンが機体の説明をしている頃合いでしょう」

 

「あんたも来るのよー。一騎」

 

レイが言い終わると同時に咲良は席から立ち上がり、一騎にも訓練に来るように言う。一騎は意外そうな顔で「俺も?」と不思議そうな顔をした。

 

「あの子らが無事に帰ってくるように、あたし等に出来る事は全部やるの」

 

「メディカルチェック、俺がやりますよ」

 

咲良の言葉に同意するように、剣司は千鶴にそう告げた。彼もいまは立派な医療部の一員であり、元ファフナーのパイロットだ。既に引退し、戦うことはできないが、それでも自分たちに出来うることはやっておきたいと思う。

 

「有難う。剣司君」

 

そんな剣司の思いをくみ取って、お礼を言う千鶴。子供達の成長した姿を見て満足そうにうなずいた史彦は立ち上がった。

 

「要先生と咲良君はパイロットを頼む。彼らに最高のバックアップを約束しよう。遠見先生とレイ君は私と一緒に」

 

「?レイはどうするんだ?」

 

一騎は父の言葉が気になったのか、剣司を挟んでその隣にいるレイに問いを投げた。レイは席から立ち上がりながら肩を竦めて答える。

 

「部隊長として、御両親へパイロット採用の通達しなければなりませんから。真壁指令に同行ですよ」

 

そういって、レイは咲良の方へ顔を向けた。

 

「パイロットの指導に関しては、貴女に一任します。宜しくお願いしますね?咲良さん」

 

「任せなさいっての!」

 

 

レイの言葉に、彼女はかつての様な自身に溢れた笑顔で返した。そして、会議は解散し、レイは司令達と共に居住区へ生き、一騎達はファフナーブルグへパイロット候補生たちの元へ赴いていった。




感想、意見、評価、お待ちしています

レイ、立場上カノンと離ればなれになる日々なのであったとさ。
この年でご両親への通達、いわば赤紙渡しとか……部隊長は辛いよ。

大丈夫大丈夫、きっといつかはイチャコラできるって!

ん?前に高濱ァ!なことになるって言ってた?

……うん、そうだよ(真顔)

大丈夫、たぶん「墓」とかにはならないと思う。

気になる人は「高濱、墓」で調べると出てくるよ?


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通達

いつになく短くなってしまった。

アニメ第4話もこれで終わりになるのかな?いや、もう少し続くか。
にしても4話でこのペースか……まだまだ完結までの道のりは遠いなー

では、どうぞ。


時刻は9時を回ったところ。

アルヴィスを後にしたレイと真壁史彦、遠見千鶴の3名は海岸線沿いを歩き、竜宮島本島の南端にある港に訪れていた。港から街道を上り、例のファフナーパイロット新候補者3名の両親へ通達に行く手筈になっている。

 

港に入ると、漁は既に終わっている様子で、船が戻り既にロープでつながれている。漁師は漁で揚げた魚を籠に入れ市場に運び入れ、業者がそれらを引き取る交渉を行っていた。

 

市場と言っても、立地的には小さい島なので、そう大した建物ではなく木組みにトタン屋根の簡素な造りだが、この島の人たちには丁度いい物だろう。

勿論、いい意味で。報告によると、現在航行している海域に入ってから、魚の漁獲量が減っているらしい。この海域は深度は浅くはない。海流も悪くはないはずだが、敵の襲来と関係があるのかまでは不明。現在調査中と言う状態だ。

 

中を進むと、漁師の一人がこちらに気付き、こちらに近づいてきた。

 

「真壁指令」

 

「すまない。水鏡君はいるか」

 

「有子さんですか。あの人ならあっちに……」

 

史彦が用件を伝えると、漁師の人は3人を先導し市場の中を通っていく。史彦等3人も市場の屋根の下へ入っていった。距離的には全然近い、港の船着き場。車止めに片足を乗せて、堂々と言った風情で海を眺めている人がいた。

 

「―――チッ……この辺の海は収獲が悪いね」

 

「有子さん!」

 

「あーん?」

 

呼びかけられた人物はこちらにふり返った。つなぎ姿にその立ち振る舞いから初見の人は男性と間違える事も多いだろうが、歴とした女性である。

 

彼女は水鏡有子。新型ファフナーのパイロット候補生水鏡美三香の母親だ。

 

「真壁指令と遠見先生たちが」

 

 

そう彼女に呼びかける漁師の後ろには、市場の日陰に入る場所に真壁史彦、遠見千鶴、そして漁師の陰に隠れて見えないが確かにもう1人いた。遠見千鶴もそうだが、普段は自宅で陶工の仕事かアルヴィスの総司令を務めている真壁指令がこのような場所に来るのは非常に珍しい。

 

何事かと思い、首を傾けて自分を呼んだ漁師の影になっている人物の陰になっている人物を見る。

 

「―――っは!?」

 

その人物を見た瞬間、彼女の中でピースは繋がった。

 

レイ・ベルリオーズ。元人類軍に所属していた、5年前島にやってきた少年。その柔らかな容姿と物腰から様々な人からも信頼の厚い人物だ。そして、ファフナー部隊の部隊長をしている事を聞いたことがある。

 

その人物と、島の総司令がやってきたと言うこと。それが意味する事とは―――

 

「水鏡君。話があるのだが、いいかね」

 

「……はい」

 

彼女の娘、水鏡美三香がファフナーパイロットに選出されたと言うことを、市場にいた誰もが察した。

 

――――

 

4人はトタン屋根の下、日陰に入っていく。その様子を市場にいた誰もが心配そうに見つめていた。その誰もが、真壁指令等がここにやってきた意味を等しく理解している。特に水鏡有子の家庭環境を知っている人物は、顔を伏せた者までいた。

 

「既に、実地訓練に入っている」

 

そう言って、史彦から渡された娘の顔写真の入った赤い電子プレートをゴム手袋をつけたままの、震える手で受け取る有子。それだけで、彼女の気持ちを推し量るのには十分だった。

 

震える手のままでプレートを一瞥した有子は「でも……」とその胸中を明かす。

 

「でも美三香はあたしの宝物なんだ!」

 

彼女の左手、先程まで被っていた帽子を握る手が強くなり、彼女の心を表すように帽子はひどくゆがみ、ゴム手袋はこすれ合いいびつな音を立てる。

 

「国も失って……もう、あの子だけ」

 

「有子さん。お気持ちは、わかります」

 

有子の言葉に千鶴が応える。千鶴もまた、自身の娘が5年前から今なおファフナーで戦場に出続けている。竜宮島ファフナー部隊の中でも、最高クラスの実力を誇る真矢ではあるが、戦場と言う極限の場において実力は生存の物差しになるが絶対ではない。彼女もまた、すぐ後ろに迫る「死」を振り切り続けているだけのだ。それを見守る千鶴もまた、水鏡有子と同じなのだろう。

 

「戦闘の生存率……過去、最高だってね?」

 

そう言う有子の声は恐れを感じさせる、震えた物だった。

 

「前回も全員無事だった……絶対、大丈夫だろう?」

 

声は震え、その表情は無理をした悲痛な笑顔を浮かべ、訴えるように身を乗り出した有子。2年前の、皆城総士を取り戻す戦いを挙げて、その事実に縋る言葉。親として、娘を戦場に送り出さなければならないその悲嘆は、胸に刺さるように感じた。

 

ですが、僕はその想いを切り捨てなければならなかった。

 

「戦いに、絶対はありません」

 

例え、それが残酷な物だとしても。僕はそこから目を背けるわけにはいかなかったから。

 

「誰であろうと、常に死のリスクを背負うのが戦場です。ですが―――」

 

でも、それでも。有子さんの言葉を真実にするために、この後に続ける言葉には、僕自身の願望と、祈りを乗せた。

 

「退役したパイロット達全員を含む、考えうる限り最高のバックアップは約束します」

 

「おかしいだろ……」

 

僕の言葉に、彼女は眼に涙を浮かべ、顔を逸らす。

 

「……子供に守らせるなんて」

 

涙を流すのを必死に堪え、それでも目じりに浮かんだ涙を含んだ声は、その場にいる全員の耳に、深く浸透していった。ファフナーは未発達な脳を持つ子供にしか動かすことができない存在。だが、その前提こそが何よりも破綻してしまっている。

 

未来を預けるべき子供を、戦場に送り戦わせている。その事実が、誰の胸にも突き刺さる棘となっていた。

 

――――

 

 

「大丈夫かね。レイ君」

 

水鏡有子への通達が終わり次の両親へ向かう中、史彦はレイに尋ねる。

 

「『ファフナー隊の隊長として、パイロットを戦場に送る。その責任は果たさなければ』と言う君の意見を尊重したが、本来ならば私たち大人がすべきことだ」

 

そう、本当ならば、この仕事は真壁指令と千鶴さんの二人で行うはずのものだった。それを僕が無理を言って参加させて貰ったのだ。この仕事は、いわば汚れ役に近い。パイロット候補生の親の中には、怒り我々を罵倒する者もいるかもしれない。それらを甘んじて受けとめ、それでもパイロットの安全を可能な限り約束する。その理由は今真壁指令が語ってくれた通りだが、もう1つ理由は存在している。

 

「いえ、やはりデータ以外にも、両親の反応を直に見なければ、パイロット達のメンタル面でのカバーが出来ませんから。それに……」

 

僕は1度言葉を切り、後ろを振り向いた。

 

「子供を心配する親の姿を見るのは、僕は少し嬉しかったりするんです」

 

子を守るのは親の役割。それが逆になる事はない。在ってはならない。

 

既に両親のいない僕にとって、子供を心配し涙を流してくれる親見て、思ったことが1つある。罪悪感と、少しだけ救われた気分。

 

やっぱり、親は子供が愛しいのだと。昔、僕をフェストゥムから逃がす為に僕の手を引っ張ってくれた母と、その母と僕を庇いながら走っていた父親を、思い出したのだ。

 

「……そうか」

 

真壁指令はどこか納得した様子で頷いた。次の候補者の両親の居る場所まで、もうすぐそこだ。

 

油蝉の鳴き声が響き渡る住宅街の一角にある竜宮警察署。そこに、パイロット候補の父親がいる。

 

駐在している1人の警官。鏑木充は突然の訪問者に、驚いた様子だった。

 

「真壁指令!出撃命令ですか!?」

 

真壁指令は懐からプレートを取り出す。

 

「お前ではない。鏑木」

 

そう言って、取り出したプレートを彼の座っている席の机に置く。それを鏑木充は、少し怪訝そうな表情でそのプレートに視線を落とす。その直後、更なる驚愕と共に、眼を見開いた。

 

「――――っな!?」

 

鏑木彗。彼の息子の写真名前が、赤いプレートに記されていた。

 

――――

 

その後、真壁史彦と鏑木達は、自身の妻が経営する自宅兼美容室の『鏑木美容室』を訪れ、勤務中であった妻の鏑木香奈恵を連れ自宅スペースとなっている2階へ訪れていた。

 

「命令さえあれば、何処へでも行きます」

 

リビングのテーブルに対面するように座る司令達と、鏑木夫妻。鏑木香奈恵は真っ直ぐに指令を見据えて語る。

 

「戦いに出て還らなかった、娘のように」

 

部屋のリビングの壁には、波打ち際で撮られた、娘と思わしき写真が飾られていた。

この2人。特に母親の方はまるで、息子の事を考えて居ないようだった。プレートを目にした時に、父親と違い眉一つ動かすことなく、

出て来たセリフが息子の事ではなく、自身が戦場に赴くという趣旨の発言をしたことからも、それがうかがえる。

 

「香奈恵さん。私達では、勝つ術がないんです。ファフナーでなければ」

 

千鶴は、飾られている娘の写真を見ながら、説得するように言葉を紡いだ。それが彼女たちの耳に届いているかは疑問が付くが。その証左が、鏑木充の口から紡がれていく。

 

「要隊長は、通常兵器で戦って死んだ。私達も、訓練を受け続けています」

 

「通常兵器では、誘導と時間稼ぎしかできません。敵と"戦闘"をするのは、あくまで鏑木"彗"君です」

 

レイは、「戦闘」と「彗」を強調して夫妻に言った。その口調は柔らかな物ではあるが、戦闘の後に態々「を」を入れたことからも、通常兵器は戦闘の役には立たないと言うことを述べている。そして、史彦がレイの言葉に続けるように言う。

 

「お前が彗君の支えになれ。鏑木」

 

鏑木充は、顔を伏せ、伏し目がちになりながらも、息子の写真と名前が入ったプレートを見ていた。だが、妻の香奈恵はどういうわけか、そのプレートを見る事はない。その態度はまるで、初めからプレートなどないと言っているようにも取れた。

 

鏑木家を後にした3人。そして、3人目の場所へ向かう途中、レイは戸惑うような声で口を開いた。

 

「真壁指令。あまりプライベートに干渉するのは好ましくありませんが、あの写真の娘はいったい……?」

 

レイの質問に指令は、静かに語り始めた。

 

「彼女は鏑木早苗。7年前、『L計画』で島を守るために戦ってくれた戦士だ」

 

「『L計画』……それをあの人たちは今も引きずっているの」

 

「……なるほど」

 

史彦と千鶴の言葉に、レイは一言つぶやくと、少し考えるそぶりを見せてから「有難う御座います」とお礼を述べる。3人目、御門家までは少し遠い。

 

 

――――

 

御門昌和はプレートを見た時、眼を閉じて深く深呼吸をした。覚悟はしていた。と言う風に感じたが、それでも辛いという感情は隠しきれず、震えた声で、「息子を、よろしくお願いします」と頭を下げたのが印象的だった。

 

そうだ、僕は彼ら3人のパイロットの命を預かる立場だ。その意味を言葉だけでなく体で理解するには、通達に同行して正解だった。

 

2年前の西尾姉弟達の様に、ある程度の進行があった時とは違う。彼らとは、1から繋がっていくのだからと、部隊長としての責任がいつになく重く感じられた。

 

今はもう夕刻。偽装鏡面によって作られた太陽が鮮やかな夕日を描く。真壁指令と遠見先生の2人と別れ、1人街道を歩く。海岸線に浮かぶ綺麗な夕日とは、中々のシチュエーションである。いい空気になるであろう2人の邪魔をしたら悪いので、

1人になったというわけだ。

 

1度自宅へ戻ると、何やら向かいの羽佐間家の書斎の明りがついていた。不思議に思い、

羽佐間邸の門を開け、呼び鈴を鳴らす。すると、10秒ほどたったころだろうか、慌てた様子で走る音がドア越しに聞こえてきた。

 

「はい!今開けます」

 

中から出て来たのは、意外なことにカノンだった。あれ、まだブルグにいると思っていたのだが……。

 

「レイ!通達は終わったのか?」

 

「ええ。今しがた終わったばかりですが、貴女はどうされました?訓練が終わって、機体の整備をしていると思っていたのですが……」

 

ドアを開けて居るのが僕と解った瞬間、慌てていた顔がパッと明るくなり、僕が質問をすると眼を泳がせ「それはだな……」と戸惑う表情へ、コロコロと変化する彼女を見てやっぱりかわいいなあと、何処か他人事のような感想を抱いたが、それはそれでもう一度訪ねると、機体コードが不評だったらしく、しかも「仮コードだから、本登録の時にはもっといい名前つけてくれるはず」と変に期待されてしまったらしく、その期待に応えるため書斎の本を開いてあれやこれやと機体コードに相応しい物を探しているところだったという。

 

「ところで、仮登録の名前はなんっだったんですか?」

 

「……マークエルフ改『フェート・フィアダ』」

 

「トゥアハ・デ・ダナーンが用いる隠形の能力ですか」

 

カノンはどうやら故郷たるアイルランド神話から名前をとっていたらしい。

 

「マークゼクス改『フラガラッハ』……」

 

「ルー神が振るう報復の剣ですね」

 

「…………マークフュンフ改『リア・ファル』……」

 

「エリンの4秘宝の一つ、フォールの聖石ですか」

 

どれもこれも僕らにとってはなじみ深い神話の物ではあるが、日本人である彼らにはなじみの薄い物であるし、独特の言語からくる名前は言い辛いし、人によってはカッコ悪くも移ってしまうだろう。

 

そして、何より……

 

「何とも、面白いチョイスですね?」

 

「煩い!!」

 

カノンは顔を赤くして悲鳴のような声を上げた。神話から名前を取るのは戦意高揚とモチベーション、精神的な観点から見ても割かしよくある話ですが、もうちょっとこう、もっとメジャーな所から引用しても良かったのではないでしょうか?

 

「メジャーどころじゃいけなかったんですか?」

 

「お前がさんざん自分の機体に使っているだろうが……!」

 

と、恨めしそうに上目ずかいに睨まれても反応に困りますが……あ、ちょっと涙目になってるところが可愛い。

 

「と、言われましても精々がアルスター関係しか引用していませんけれど?」

 

「とにかく!本登録には日本神話を使う!もう決めたんだ!!」

 

そういってカノンは机に開かれている時点のような分厚い本を読み始める。折角なので、僕も手伝うことにした。彼女の机に積まれている本の1冊を手に取り、

開く。漢字はあまり読めないけれど、語感がよさそうなのを引っ張ってみようと思う。

 

こうして、僕とカノンは夜遅くまで、機体コードについての議論を続ける事になったのだ。




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