とりあえず自給自足や……。
木陰の中で涼みながらセミの鳴き声を聞く。たまに吹くそよ風とともにミンミンミンとうるさくて、まああたりまえだけど耳に頼るのは意味をなさなさそう。
「わかりそうか?」
尋ねる。
そのそばには誰もいない。が、蟲たちはいつも近くにいる。
「よし」
静かに目の前を飛ぶ蟲についていくようにして森を進む。どこにも目印はないけれど、迷うことはない。
蟲はとある木の前で止まって、ここだと示すように八の字を書いた。
「ここ……?」
上を見上げる。木登りは得意じゃないけれど、まあ登れないことはない。だが上を見上げても人がいるようには見えなかった。
まあそれでもいいかと目の前の幹に手をかける。と、もぞっと幹が動いた。
声を出さずに一歩後ずさる。
「見つかっちまったな」
木から現れるようにして出てきたのはトルネだった。みつけた!
「か、かくれるじゅつ!」
「そうだ、隠れ身の術、だ。今日も俺の勝ちかと思ったけど、お前も蟲使うのうまくなったな」
頭を手袋をしたトルネが撫でる。へへへ。
森の中でかくれんぼをはじめたときは、難しくて難しくて、しかもたまに迷うし、全然トルネが見つけられなくて困った。けれど、最近は蟲を使えば道を覚えておいてくれるし、さらにはトルネの場所もわかるようになって、だんだんトルネのことも見つけられるようになった。でも、トルネも術を使うのはずるいと思う。
「そろそろ帰るか」
「うん」
こうやって褒められるとうれしい。もっと上手に蟲が使えるようになったら、もっとほめてもらえるんだろうな。
だから、頑張った。うまく人と付き合うことはできないけれど、いろんな術とか、特に蟲の使い方とか、頑張って、もっと褒められたくて、頑張った。
だからだ。
「お前の子を根に入れたい」
トルネはおつかいにでかけていた。家の中には父と自分しかおらず、玄関で対応していた父の蟲のいやな気配がきになって、玄関の手前の角からこっそりと除くようにして外をうかがう。
そこにいたのは知らないおじさんで、まあ今はダンゾウだとわかるのだが、とても怖そうな人が立っているな、と思ったものだ。
当時はその言葉の意味はわからなかった。アカデミーに入ったばかりの自分は、別に特段聡明な子供ではなかった。実際聡明ではなかった。蟲がいなければ平均以下だ。
けれど蟲がいた。
トルネと遊び、見様見真似でどんどんと上達していった蟲の使い方は、どうやらダンゾウのお眼鏡に適っていたらしかった。
ねにいれたい、という言葉が何を意味するかはわからなかったが、父の様子からして良いことではないのはわかった。しかし父は強気で断ることもできないようだったし、どうしようか、と思っていたところでダンゾウと目が合った。
「お前がシノか」
「はい……」
よくわからなかったが、のぞき見を怒られたような気持になってゆっくりと体を玄関に向けた。
一度振り向いた父の目は、いつも通り暗くて何もわからなかった。そんな父の体を盾にして顔だけをダンゾウの前に出す。
「お前を根に入れたい」
ダンゾウの顔が怖くてサングラスの下で下を向く。父の様子から考えてもやはり承諾しかねる提案だった。
しかしなんといってもダンゾウである。今までのやり取りを自分が見ていたことを認識したうえでの発言だった。幼子の良心に付け込むなど容易いことだったのだろうし、きっとその後の行動もダンゾウの思い通りだったのだろう。
大好きな父が困っているのを子は放っておけない。
「父さん、困ってる?」
「いや、」
「うむ、お前が根に入らなければ父だけでなく一族が困るだろう」
事実その通りだったので、父は何も言うことができなかった。そして、父が何も言わないのでその通りだと判断した子は、言ってしまうのだ。
「……はい、入ります」
父が困るだけでなく、トルネも困ってしまうらしい。
だからこうして、油女シノは、根に入ることとなる。
油女シノ、7歳のことであった。
不憫なシノをどうにかしたくて書いた。満足。書きたいシーンだけ書いていくつもりです。
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帰宅
根が解体された。
といっても形だけだ。もちろんそれだけでダンゾウの力は結構削がれるのだろう。
だがもともと身寄りのないものを多く集めて構成された根だ。所属していた場所が解体されたからと言って仲間がいなくなったわけではない。感情を壊されながらも疑似的な家族関係を構築して、その家族の情を利用するのがダンゾウだ。
根がなくなったからといってはい、さよならダンゾウ、というわけにもいかないし、そもそも根の多くに帰る家などない。兵器のように根で教育を受けた身寄りのない忍の一部には社会性すら身についていないことが多い。突然野に放たれても困ることが多いだろう。
そのため根の多くが私兵のような形で暗部にいながらもダンゾウの影響下に置かれることとなった。
「ギン」
「はっ」
解体直後に呼ばれるということは何かの辞令だろうか、と予想を立てつつダンゾウの言葉を待つ。
「お前は根のメンバーの監視を続けつつ、油女シノとして家に戻れ」
「はっ」
「お前は暗部を抜けたことになり、アカデミーに入る。そこでうずまきナルトの友人として不自然でない距離を保ちつつ蟲を使わず監視を行え。以上だ、行け」
「はっ」
一礼してその場を去る。
もともと感知タイプとして根で活動していた自分である。任務の主な割合は親しくなった仲間の監視である。根に所属するものすべてに任意(強制)で蟲を付け、ダンゾウの要請に応じて場所を探知して報告、もしくはつけた蟲がつぶされたりした時点で裏切りだと思われることをダンゾウに報告することだ。
仲間を監視する。本当にいやな仕事だ。
もちろんダンゾウに質問することは許されておらず、一族の者を殺した裏切り者であるはずの男につけた蟲がつぶされずにいて、その男の場所の探知も時折やらされるのだから不思議である。色々と事情があるのだろうが、首を突っ込む理由もないので淡々と従うのみだ。
もちろん他の仕事もあったのだが、根を解体されたのに人員がずっとダンゾウの下にいるのもあまりよろしくはないのだろう。一応表面上は自分がずっとダンゾウのそばで働き続ける必要はなくなったらしい。
なので。
「ただいま」
4,5年ぶりになる実家へ帰ってきた。もしかしたら二度と帰ることはなかった家である。なんだか懐かしい。
夕暮れ時に帰ってきたがどうやら家に誰もいないようだ。
静かな廊下を歩いて自室へ向かいつつ、どういう理由を付けてアカデミーに戻ることになるのか考える。根の中でアカデミーを卒業して中忍にもなっている。まあそこらへんはダンゾウがうまくやるのだろうか。
自室を開けると、そこは時が止まったかのようだった。自分の私物が当たり前のように置かれている。ここに帰ってくることになるだなんて、知らなかっただろうに。
下からガラガラと音がする。誰かが帰ってきたようだ。
ガタ。ガッガタタ。
ドタドタと慌てたようにこちらへ向かってくる音がする。
「シノ!」
「ただいま、父さん」
「……おかえり」
父が抱きしめてくる。
「悪かった……」
何に対して謝罪しているのだろうか。
父は何も悪くないのだ。ダンゾウ様がよろしくないお方だっただけだ。
父の背中に腕を回す。『父が好きな油女シノ』ならそうするべきだと思ったからだ。しかしまったく父への感情が湧かない。自分はもうギンではなく油女シノなのに。そのうち慣れるだろうか。
「トルネは?」
「あいつは毒蟲の操作がうまくなってからアカデミーには通わず認定試験だけを受けて、今は暗部なんだ。今日は帰ってこないが、そのうちな。お前も暗部だし、同じ任務にも就くかもしれないな」
父は根が解体されたことを聞いたくらいで、他のことはまだ何も聞いていないらしい。
「いや、暗部は抜けた。ことになった。アカデミーに通う」
「……それは、ダンゾウ様が?」
「そうだ」
組織は解体されたが、まだまだダンゾウ様の配下なのに変わりはないのである。すまない、父さん。
蟲師ギン
今のBORUTOでのシノの独身状態が悲しくて、シノの性別やお相手を決めかねています。
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卒業
お気を付けください。
自分が元々の『父が好きな油女シノ』に戻りえないのではないか。ギンのままではないのか。
などと考えた時期もあったなぁ、と思いつつ聞くのはイルカ先生による卒業試験の説明だ。
月日が過ぎ去るのは早く、もうこんな時期になった。
いやー早かった。
自分はギンから戻れないのではなどと思ったけどそれは余計な心配だった。バリバリ油女シノに戻れた。
今の勤務形態は昔よりよっぽど楽だ。本当に、基本的にはアカデミーに通うだけで、たまにダンゾウに呼び出されて働くぐらいだ。
「大丈夫かな……」
となりに座るヒナタが言った。
その視線を探れば、クラスの問題児、うずまきナルトがいる。
分身の術なら、ヒナタは落ち着いてやればおそらく大丈夫だろう。だが、そんなヒナタの気になる人であるナルトになると話は別だ。一緒に卒業するのは難しいかもしれないな。
一人で帰宅してから、蟲を通じて呼び出しを受けたのを察知してダンゾウ様のところに顔を出す。
「ギン、来たか」
いつも通りの定期連絡かと思いきや、ダンゾウ様のとなりには一人の青年が立っている。
あちらからは仮面があるのでこちらの正体はわからないだろうが、こちらからするとそれは知っている人物だった。
「この人物に複数の蟲をつけて、明日の昼からはこの場で常時場所を探知して報告しろ」
「はっ」
「以上だ、行け」
言われたとおりに蟲を複数付けてから、帰宅する。蟲を付けるということで相手には気味悪がられたが、まあダンゾウ様の言うことには逆らわないだろう。
何も聞かされることのない自分だが、ダンゾウ様が俺の蟲を監視に使っている以上根の人物は把握しているしすでに蟲もつけてある。
根ではないものに任意で蟲を付けるのは久しぶりだった。普段は気の弱そうな顔をしているのに、まさかダンゾウ様とつながっていたとは意外だ。もちろん、ダンゾウ様のことなので逆らえない命令なのかもしれないが、あの表情を見るに無理矢理何かをやらされるようには見えなかった。
やはり人間は見た目ではわからんものなのだ。末恐ろしい。
次の日も普通に投稿して、普通に分身の術を成功させて、アカデミーを無事に卒業した。試験では、当たり前のように昨日の人物がにこにこと人当たりの良さそうな笑顔で試験要項を説明して、合格したら額当てを優しそうに渡してくれた。
下忍認定証をもらって、忍者登録も行う。すでにギンとしては登録してあるのだが、まあ油女シノとしてまた登録するだけだ。
アカデミーを出て、これからダンゾウ様の元へ向かわねばならぬしといつも通り一人で帰ろうとする。
が。
「シノ」
「トルネか」
周りの生徒よろしく、自分のところもトルネが卒業祝いに待っていたらしい。なんだか気恥ずかしい。
「何かお祝いに食べて帰るか?」
差し出された手をつないで歩く。手袋ごしだが、温かい。お昼の時間にここにいるのだし、もしかして仕事を急いで終わらせてきてくれたのだろうか。
「いや、これから用事があるんだ」
「……そうか」
俺が用事だと言えばそれはたいてい根の関わることである。周りがどうこう言える話ではない。
「じゃあ晩飯においしいものを食べに行こうか」
「いや、いつ用事が終わるかわからない」
「……そうか。無茶はするなよ」
返事はしない。無茶をするかしないか決めるのは、俺ではないからだ。
といっても、結局大した仕事ではなかった。場所の探知以外にも仕事があるかと思いきや、本当にそれだけだった。
探知対象は昼間はいつも通りにアカデミーにいて、夜から動きがあり、森の中に入り、明け方には――暗部の拷問施設にいた。
それをダンゾウ様に告げる。
「フン、仕方あるまい、蟲は外しておけ」
言われたとおりに蟲をバレないように対象から離す。身体検査で油女一族の蟲が発見されれば、色々ダンゾウ様が関わっていたことがバレかねないからだ。
「もういい。行け」
帰れと言われたので帰る。
覚悟はしていたが、徹夜をしてしまった分眠い。今日はアカデミーで班分けをするはずだし、少し寝てから行きたい。
寝ぼけ眼のまま起きる。一時間しか寝てない。まあ他の人に目を見られることもないので、眠いことには気付かれないだろうか。
「シノちゃん、おはよう」
「おはよう、ヒナタ」
「ねえねえ、ミズキ先生体調悪いとかなんとかで、今日来てないんだって」
「そうか」
だろうな、としか思えなかった。暗部の拷問施設に連れていかれたやつが、すぐに解放されるとは思えないからだ。
そしてこの後、俺はヒナタとキバとで8班に分けられた。
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八班
下忍になるにあたって、うずまきナルトの監視任務はもっと緩くなった。元々親しくするつもりだったが、蟲を使うということで自動的に距離を取られるようになったため、アカデミーでの行動を監視する程度のものだったが、アカデミーを卒業した以上大したことはできない。まあヒナタがナルトを陰から見るときに便乗して見るくらいである。
8班では、新米上忍だという夕日紅先生の下につくことになった。くノ一が増えて紅一点構成での班作りが難しくなったとはいえ、8班は明らかに感知能力に重きを置かれたメンバーが選ばれている。なのでてっきり先生もそういった人が来るのだと思っていたが、どうやら違うらしい。
さらには女性の先生だったことで、男はキバ一人というなかなか珍しい班になった。赤丸というキバの相棒もいるのでそこまでではないだろうが、本人にとっては割と居心地が悪いかもしれない。
アカデミーから卒業するときは、卒業試験のあとも何かの試験があるというのは聞いていたが、これはどうやら担当の先生に任されているらしい。紅先生によって感知能力を生かす試験を与えられ、三人の能力で力を合わせて無事に試験を突破した。
俺たちは晴れて下忍となり、時折紅先生の指導を受けつつ感知能力を存分に生かした任務を行っている。……まあ基本的には探し物や探し人である。
今日は紅先生による指導の日だ。
メニューは簡単、木登りだ。手を使わず、足の裏のチャクラをコントロールしてやるものだ。
……と、いっても、簡単なのは根の出身である俺にとってだけであり、キバやヒナタにとってはそうではない。そもそもアカデミーではやらないからだ。
紅先生の見本のすぐあとに俺があっさり登ってしまえば、二人からは感嘆や疑問があがった。
「お前なんで出来るんだよ!」
「……なぜなら、高い場所にいる蟲を捕まえるのに必要だからだ」
「シノちゃん、すごーい!」
こうして一人暇になってしまったうえ、紅先生も何も追加課題を出さないので、指導の下木登りを頑張る二人を横目に昆虫観察や昆虫採集に励んだ。帰ってもよかったのだが、ある程度訓練したらみんなでぜんざいを食べに行く話になっていたので待つことにした。
少し気になったのが、紅先生が得ている情報である。俺は先生が俺の情報を正しく持っているのか知らない。ただの油女シノとして認識しているのか、はたまた元根の油女シノとして認識しているのか。もしかしたら、監視されているのかもしれない。
「シノちゃん、もう行こう」
日も暮れないうちに、訓練は終わりになっていた。下から少しだけ木に登ったヒナタに呼ばれてみんなと里のほうへ歩きだす。
途中、いの達アスマ班とすれ違ったので軽く会話を交わす。といっても俺はずっと黙っていたが。
どうやらナルトたちカカシ班は波の国への任務に向かったらしい。それを聞いたキバが俺たちもと喚いたが、それはおそらく無理だろうと心の中で謝っておいた。
ダンゾウ様が何かあったときにすぐ俺の監視を付けられるようにしたい以上、今の能力ではこの里から離れることダンゾウ様が許さないだろう。蟲分身を使えなくはないが、さすがに限界がある。キバには悪いが、この班で活動する以上里の外へ出る任務は今年中にはもらえないだろう。ヒナタはナルトたちを心配しているが、まだ里の外で任務を行う度胸はないだろう。
それにそもそもまだ実力が足りているとは言えない。カカシ班が波の国へ向かったのは、偏にあのコピー忍者のはたけカカシが担当だからであろう。紅先生にどれほどの実力があるかはわからないが、上忍になったばかりである以上里の外へ出るには少し心もとない。
店について4人分のぜんざいと一匹分のおやつを注文する。チームを組み始めてからわかったが、キバは普段なら大盛りを頼むという。しかし今回は餅だ。赤丸はまだ子犬だし、喉に詰まる可能性を考えてやめとくらしい。
チームワークを深めるがてら、色々な会話をする。
「ねえ、みんなは好きな人いるの?」
紅先生の質問でヒナタが真っ赤になった。
「あら! 誰よ!」
みんなで視線をヒナタに合わせたのでヒナタが俯く。仕方ないので顔を上げるとキバと目が合った。ああ。アカデミーにいたら大体わかる。
「どうせナルトだろ?」
流石に勝手にいうのは良くないと思ったが、キバは構わずにヒナタに追撃を食らわせた。
「ななな、え、や、いぇ!?」
ヒナタ……。気付かれてないと思っていたのだとしたら、忍には向いてないかもしれんぞ。
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薬師
普段通りの任務。
いつも通り探し物の任務を請け負い、アカデミーの近くを通りかかり、スズメ先生に声をかけられ、俺とヒナタが静かすぎるものだからくノ一クラスでもなかったキバと赤丸が代わりに対応し、任務終了の報告をしに行ったところでたまたま紅先生と合流した。
今日は簡単な仕事だからと紅先生ナシで行動していたので、これは完璧な偶然である。
しかし何を思ったか、任務後だというのに修行を付けてもらうことになった。
少し修行を付けてもらったところで、空の上でピロロロと忍鳥が飛んでいる。……招集だ。もちろん俺の呼び出しではない。紅先生だ。
紅先生が行ってしまったので、解散しようとしたが先に甘味処に行っているように言われた。また合流するらしい。
「なんだろうな?」
「クーン」
「……中忍試験に関することじゃないか?」
「え、そうかな? どうしてわかるの?」
「なぜなら、里にたくさんの他里の忍が来てるからだ」
それと、この前ダンゾウ様に呼び出されて色々と工作をしたからだ。中忍試験の運営を安全に行えるようにと口では言っていたが、あれはどう考えても建前だった。陰から色々とやったが……。そもそも他里の額当てをつけた忍に蟲を任意でつけているのがおかしい。相手がよそに潜入した木の葉のスパイならわかるのだが、あれはどうなんだ? ……まあ、どうせ俺の知ったことではないのだが。
「一週間後!?」
キバにつられて赤丸がワンワン、と吠える。
「そうよ。で、私は推薦しただけだから、受けるならこの志願所にサインして、明日の午後4時までにアカデミーにね」
紅先生が呑気に志願所を渡してくるが、横で驚いたヒナタが白玉をつまらしたので背中をたたいてやる。
中忍か……まあ推薦されたからには受けるが。
「俺は受けるぜ!」
「わたしはどうしよう……」
「……ゆっくり考えてもいい。それに受けてる途中で棄権するのもありだ」
「……うん」
翌日、試験会場に入ると待ち受けていたのは同期だった。不慣れなところであれば知り合い同士固まるものだ。そこに話しかけてくる奴がいた。
……ナルトやサクラたちと話しているが、俺は面倒ごとに巻き込まれたくないので少し距離を取った。
カブトなどと名乗っているが木の葉の額当てを付けているが、少なくとも真っ白奴ではない。
蟲がついている。
会場内には俺が蟲を付けたやつが複数いるが、その中でもこいつは中忍試験前に新しく蟲をつけたやつだ。ダンゾウ様の関係者でわざわざ木の葉のルーキーに話しかけてくることなど、後輩の面倒を見るのが大好きなのか、それとも何か狙いがあるのかの二択に等しいだろう。
そこに音隠れの忍が近寄り、カブトが攻撃される。
……こいつらもこの前蟲をつけたやつらだった。
……きな臭い。いきなり攻撃してきたのも意味が分からない。怪しい。怪しすぎる。
「静かにしろ!」
少し警戒するべきだ、とヒナタとキバに注意喚起しようとしたところで声がかけられた。煙玉で注意をひいて入ってきたのは試験管の森乃イビキと名乗る人と部下らしきたちだ。……おそらく暗部の拷問部隊か?
どうやらやっと第一試験が始まるようだ。
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遵従
根は木の葉を陰から支えるためにある。
俺が根でダンゾウ様に従うのは、もちろんすでにこの身を根にささげたからというのもあるが、そもそも根はやり方が強引だとしてもこの里のために貢献できていると信じているからだ。
だが。
ダンゾウ様の思考回路はよくわからない。中忍試験が始まってから怪しいことだらけだ。木の葉の忍でない者についての経過報告も欠かさず続けてきた。中忍試験の本選が始まる前に音忍や薬師カブトなる人物につけていた蟲は潰された。それもダンゾウ様に報告したが、特に何も言われなかった。確実にダンゾウ様が何かの糸を引いていたはずなんだが。 ……もうわからん。
「計画どころじゃない!」
砂も音も何やら怪しかったが、あのテマリとかいうやつの言葉がもう怪しすぎる。今はサスケと風の我愛羅の試合中だというのに、計画という言葉が関係あるだろうか。……ない。
なんだか会場全体の様子がおかしい。羽が、ひらり、ひらりと――解。
幻術だ。手早く幻術返しをして様子を探る。ボフッと火影の観覧席のほうで煙幕が張られて完全に空気が動いた。
明らかに何かが起きている。これはもうおそらく俺からダンゾウ様に報告が行かなくても誰かが報告するだろう。いや、外からも戦いの音が聞こえる。ダンゾウ様はもうとっくに気付いていると考えるべきか。
戦闘会場から砂の忍が逃げていく。……ダンゾウ様の指令がない以上、俺はギンではなく油女シノだ。これは俺自身の判断で動いてよいということか? サスケが何かしらの命令を受けて砂の忍を追いかける。とりあえず蟲を付けておくこととしよう。
目の前ではサクラがカカシ先生から任務を与えられている。フォーマンセルでAランク任務らしい。サクラ、そして明らかに起きているシカマル、そして俺とあと誰かか? と思いきや、俺はお呼びではないらしい。
……。いや、まぁ、まぁ、俺は確かに戦闘に特化したタイプの忍ではないが。
……。
俺は必要とされていないのだな。まあ俺はダンゾウ様に必要とされてるからよいのだが。
とりあえず、俺は俺で動くとしよう。ヒナタやキバや赤丸は未だ幻術で昏倒しているが、起こすべきか。いや、やめとくか。サクラたちより出遅れたが、サスケを追う。別ルートで追ったのもあってか俺のほうが先にサスケに追いついた。
「お前……シノ!? なぜここに」
「なぜなら、お前に俺の蟲を付けさせてもらったからだ。」
敵はあのカンクロウというやつ一人でサスケを足止めしたいようだが。
「そいつは俺に任せて先に行け。10分で終わらせてやろう」
ふぅ。相手は傀儡使い。なかなか苦戦したが、まあどうにかなった。俺は確かに根では監視を行うことが多かったが、だからと言って実戦経験がないわけでもない。
傀儡使い相手は初めてだったが相手も特に洗練された忍ではなかった。だが俺が完勝したというわけでもない。
戦闘中に煙の毒を間違えて吸い込んでしまった。
……根で毒の耐性を付ける訓練も行ったし、トルネの毒蟲の毒の除去も研究してのでそこまでではないが、なかなかにつらい。
しかし平衡感覚が戻らず、仕方なく倒れたところで父が救援に来てくれた。
こうして油女シノとしての初めての「戦争」は終わる。
二日後。三代目火影の葬儀が執り行われた。
今回の木の葉崩し。里の損害は大きかった。火影だけではなく、他の多くの忍の命も失われた。俺が父と兄という家族を失わずにすんだのは不幸中の幸いか。
いや、そもそも俺が中忍試験前から音忍達に蟲を付けることができたという事実を考えれば、この一連の騒動はダンゾウ様に責任の一端があるのだ。里を襲った敵と、つながっていた。
……いや、考えるのはやめておこう。里を思うダンゾウ様のことだ。きっと何かの考えがあったに違いない。敵に付け込むことで里を守ろうとしていたのかもしれんし。
あぁ、そうだ、ダンゾウ様に定期報告に行かなくては。あの人物が、だんだん里へ近づいているのだ。
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再編
「ふん。こちらはしっかり約束を守っているというのに」
要注意人物として指定されていた者が木の葉に近づいている旨は報告してあったが、ついに木の葉の敷地内に入ったことを報告すればダンゾウ様の口からは小言が飛び出した。
自分にはその約束が何のことかはわからないが、ダンゾウ様にはなかなか不服らしい。
「良い、下がれ」
「はっ」
蟲の気配を探ればわかるが、件の人物の周辺にはすでに根の構成員が待機している。
まあ里の中のことと言えど俺が関わることはないだろう。
そう思っていつも通り紅班の集合場所に来たが、先生が来ない。
結構待ってからケガした先生が来たので、キバがどうかしたのか聞けば
「ちょっと茶屋のほうで色々あったのよ」
とのことだった。
……そういえばさっき蟲の反応は茶屋のほうだったな。
件の要注意人物は直接的には俺とかかわることはなかった。しかし、間接的にはもちろんそうはいかないらしい。
彼のものは木の葉でも有名な、うちは一族を滅ぼした人物である。それがどのようにうちはサスケの心を動かしたかは知らんが、それでも何かしらの影響を及ぼしたらしい。
うちはサスケが里を抜けた。
しかもそれを俺が知ったのもすべて終わった後だったというのだから、苦笑するしかない。
木の葉崩しのときにナルトやシカマルの同期達が活躍したように、今回もナルトにシカマル、チョウジに一個上のネジ、そして我らがキバと赤丸がサスケの奪還作戦に参加したらしい。
また俺は蚊帳の外だったというわけだ。……まあ今回は父親とトルネとで他の任務に出ていた関係で参加できなかっただけで、決して参加できたのに必要とされなかったわけではないのだが。
コンコン。
「……寝てるのかな?」
キバが負傷したことを受けてヒナタと見舞いに来たが、どうやら寝ているか部屋にいないからしい。
まあ仕方あるまいと許可を得ずに扉を開ければ、案の定ベッドにはすやすや寝ているキバと、その隣のベッドに寝かされている赤丸がいた。
ヒナタが持ってきた花束を生けてくるというので起きていたらしい赤丸を撫でて待つ。
「お疲れ様だ、赤丸」
「くぅーん」
結局キバが起きることはなかったので早めに部屋を出ることになった。帰りに、ナルトの病室によるかどうかをヒナタに聞いてみたが、よしておくらしい。……サスケがいたなら、サクラとナルトがくっつくことは心配しなくてもよかったかもしれんが、サスケがいない今、少し危惧しておいたほうがいいぞ、サクラ。
病院を出たところで二手に分かれて俺が向かう先は根の研究所だ。
根は根でも、根が解体されてからはあまり使われることのなかった場所だ。
というのも、木の葉崩し、大蛇丸の脅威、そしてそこに勧誘されて里を抜けたうちはサスケのことを受けて、また根が再編されることとなったのである。
これを受けて謹慎が解かれたダンゾウ様はとても愉快そうな顔であった。そして解体を受けてストップせざるを得なかった研究もまた再開することになったのだという。
ダンゾウ様の命を受けたので研究所には足を運ぶが、個人的にはあまり研究所は好きではない。あそこはダンゾウ様を妄信している者が多いのでなかなか気味が悪いのだ。
俺はダンゾウ様を尊敬はしているが、さすがに研究所の連中とまではいかない。
なので、もちろん目の前のこいつもあまり好きではない。
研究所について俺を出迎えたのは、信楽タヌキと名乗る人物であった。年は俺より少し上か同じくらいか。俺が相槌も打たないというのにひたすら一人で研究のすばらしさとこの場を設けてくれたダンゾウ様のすばらしさを語っている。流石に俺も引く。
そして案内されたのはとある部屋だ。中の診療台にどうぞ、と言われたのでそこに体を倒す。
研究内容については詳しく知らないが、どうやらチャクラの吸収について研究しているらしい。その研究の一部として我らが油女一族の蟲とその宿主の関係を調べているようだった。とにかく、ダンゾウ様がここに行けと言ったら俺はダンゾウ様の言葉に従うのみである。
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必要
久しぶりに入った紅班の任務。報告書の提出帰りに紅先生が一人用事があるからとどこかへ行ってしまったので、アスマ先生とのデートだと仮定して二人の仲がどれくらい発展そたぁについて主にキバが一人で議論をかわしつつ歩いていたところ、ふと視線を合わせた街角に、兄の姿を見つけた。
それだけならよかった。
問題は談笑をしている相手だ。髪形にひどく見覚えがあって蟲の様子を探る。嫌な予感が当たって思わず足を止めてしまった。
「どうしたの?」
「ん? あー、あれお前の兄貴じゃん」
「……いや、気にすることではない」
「トルネ、話があるんだ」
家に帰ってきた兄を待ち構えるようにして居間に現れた兄に声をかける。何かあったのかと少し驚いた顔をしていたが、先ほど話していた相手だと告げれば「なるほど」と一言つぶやくと、朗らかに笑った。
兄によると話はこうだ。
談笑相手の名前はフー。暗部で一緒になってからよく仲良くしていた相手だ。知り合った時期を聞いてみれば、まあ根が解体された時期だ。最近は暗部で会わなくなったので、久しぶりに会って交友を深めていた。
そう、根が再編されてから、会わなくなった。
トルネとて別に無知ではない。
相手が根の構成員だというのはおおよそ把握していた。ただ、それでも普通に一友人として交友を深めていたという。
それを聞いて少しほっとした。
兄を軽く見るわけではないが、油女一族は大体こんな暗い性格で友人を作りづらい。そしてトルネも例に漏れずそうである。
そんな兄が根の者と話していたら、何か勧誘をかけられているのかと疑ってしまっても仕方がないだろう。
しかも相手はあの山中フーだ。なかなかの実力を持っていて、根が再編されてからはダンゾウ様がときたま側に置いてることもあって俺もよく見かける。
兄がもし根に勧誘されそうになっていたら、と考えるとひどく心がざわざわした。
根は必要だ。根がなくては木の葉は成り立たない。根がいれば木の葉崩しも怒らなかったはずだ。根は、根は。
でも、でも、それでも決して自分の身内が根に入る可能性があるという状況を見過ごすわけにはいかない。決して根は悪の犯罪組織などではない。でも、大切な人には入ってほしくない。
俺が、せっかく俺が、家を捨てて、父を捨てて、兄を捨てて、一族のために根に入ったのだ。
これでトルネが根にいる友人と仲良くなったから根に入る、なんてことになったらと思うと気が気じゃなかった。
俺が捧げてきたものが、無に帰してしまう。俺が捧げてきたものが、必要なことではなかった、なんてことになったら、どうしようか。
溢れ出させてはいけないものが体から溢れ出しそうで、家にもいたくなくて、でも人々が楽しそうに過ごしている場所も嫌で、結局はいつも訪れる森の中にやってきた。
三日月が空に浮かび、コオロギたちによって静かに音楽が流れている。
誰にも言わずに出てきたが、普段からダンゾウ様の呼び出しがあればどこかに行く身だ。誰も気にする人はいない。
穏やかな場所だ。
せっかく来たのだしと夜の昆虫採集を始める。
どうせ夜にこの森の中に来る人はいないし、来たとしても油女一族ぐらいだ。暗いしとゴーグルを外す。
そのまま一人の時間を楽しんでいると、近くにハッハッという声がしたかと思えば大きな毛玉に跳び付かれた。
赤丸だ。
アカデミー卒業時より二回りぐらい大きくなってくるとさすがにいきなり跳び付かれたら立っていられない。
無言で腐葉土の上に倒れることとなった。
「どうしたんだ、赤丸」
……ちょっとわかりにくいが、まあキバの元から離れるぐらいだ。緊急だと思えないから喧嘩したというところか。
わっはっは。喧嘩してくるのが、俺のところか。まあ結構仲良くなったとは思ってるが。
にしても赤丸が白い、と思ったらゴーグルを外していたのだった。ゴーグルをかけなおして抱っこする大きさではない赤丸を抱き上げて頬ずりをした。かわいい奴め。おかげでなんだか気分が落ち着いてしまった。
「今日は俺の家に泊まるか」
「アン!」
よし、ヒナタも呼んで、キバ抜きで紅班のお泊り会でもするか。
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人間
ナルトくんが修行から帰ってきたんだって。それで、風影様の奪還任務もやったんだって。
そんな情報を教えてくれたのはヒナタだったか。まあその情報は、ダンゾウ様から与えられていて既知のものだったが。
我々紅班に任務があるため、集合場所である大木の下にいたら目の前にそんなナルトが現れたので、声をかけた。
「久しぶりだな、ナルト」
「……誰?」
……お前に声をかける知り合いで、暗そうで、目にゴーグルをしていて陰気そうなやつだぞ。わかってくれ。
「仲間の雰囲気ぐらいは頑張って覚えておくものだ。なぜなら……話しかけた側が辛くなるからだ」
そういえば当のナルトは「めんどくさい喋り方」で俺を油女シノだと認識したらしい。こいつ!
しかもキバとヒナタは一発で思い出した。
……何が違うんだ? やっぱり顔の露出度か? そうなのか?
「任務をしくじるとはな」
ダンゾウ様からナルトの帰還を伝えられていたのは、我らが根のサイがカカシ班に入り、サスケ暗殺を行う故随時居場所を探知するよう命じられたからであった。
最近は特定の者の探知の命令だけでなく、時々理由を教えられる。一体ダンゾウ様にどういた心境の変化があったというのか。
そもそもサイが追加要因としてカカシ班に入ると聞いたときはとても驚いた。サイは根っからの根育ちの構成員だったはずである。人との、根以外との人とのコミュニケーションがうまく取れるとは思えない。人間性が抜け落ちたタイプの構成員だったはずで、中々に訝しんでいたのだが。
「カカシ班にこのまま置かせては頂けないでしょうか」
どうやらサイにも何か心境の変化……いや、人間らしくなったというべきか。
ダンゾウ様に呼び出されて何故か物陰からサイの呼び出しに付き合わされている。
以前も仮面を取るといかにも偽物ですという笑い方をする奴だったが、なんだか少し笑顔が変わったように感じられた。
人間性を得ることは良いことだ。きっとあのナルトのことだ。サイも何か影響を受けたのだろう。
だがダメだ。
サスケは重大な禁忌を犯した。
里抜けして、木ノ葉を狙わんとする大蛇丸と組んでいるのだ。お前はナルトに嫌われてでもサスケを殺すべきだったよ、サイ。……本当に人間になってしまったな。
「行け」
「はっ」
人間になった生き物がこの場を離れていく。
「ギン、サスケの方はどうだ」
「はっ。サイの任務失敗の際の保険としてサスケと遭遇した際にサイからサスケに移らせた蟲ですが、先ほどサイが報告に来る前に反応が途絶えました。おそらく見つかって潰されたのだと思われます」
「ふん、やはりダメか。もう良い。行け」
「はっ」
そして猿飛アスマが死んだ。
暁のメンバーと交戦、殉職。
それを聞いて俺たち紅班がまず思ったのは紅先生のことだ。
アスマ先生にはたくさんの近しい人がいたが、紅先生は特に近かった。なんてったって恋人だ。
俺たちはそれを聞いてすぐに紅先生の元へと走った。人は時に衝動的に信じられないことをする生き物だ。忍であろうと過言ではない。恋人を後追い、なんて多々あることではなくてもたまにあることだ。
紅先生はすでに訃報を聞いた後だった。
同じ班にいたシカマルがいの一番に伝えたらしい。
悲しむ先生に対し、どうしようかと戸惑う俺たちにえらい事実が告げられた。
それを聞いて俺たちは決心した。紅先生はこれからとても大変だろうから、俺たちがしっかり支えていこう、と。
我々ができるだけ兄代わり、姉代わりになろう、と。
だが、余談ではあるが、その子が大きくなった時一番懐いていた同期は俺たち8班の構成員ではなかった……。
シノが自分でも気づかぬうちに思想がだんだん根ぽく
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団扇
うちはサスケを見つけるために、その兄であるうちはイタチを捜索する。またはそのほかの暁のメンバーの身柄を拘束し、拷問班に引き渡せば他の情報も引き出せることだろう。だがとりあえず暁のメンバーとしてうちはイタチを追う。
そんなカカシ班の目的に適した班として選ばれたのが、我らが8班紅班であった。
カカシ班と便宜上呼んでいるが、その構成員はナルト、サクラ、サイ、そして隊長にヤマト。こちらも紅班としているが、紅先生はおらずかわりにカカシが隊長としてついている。
第一に探すのはうちはサスケ。
そう聞いて俺はとりあえず安心した。
サスケを探すのであったら、本当に何も考えずに探すことが出来る。
これがうちはイタチになると少し困る。
油女シノとしてはイタチの行方などもちろん知らないが、ギンとしてはうちはイタチの居場所など蟲を付けているので一瞬で探し出せる。茶番になりかねなかった。ボロは出さんが。
パトロール隊としてカカシ先生の出した忍犬が一人二匹ずつついた。これで頑張って探すが、はたして探し出せるだろうか。
すると向こうの方で大きな音を立てて爆発の光のようなものが見えた。
向かえば、どうやらここでサスケと他の者たちとの戦闘があったらしい。残っていた匂いからキバがその鼻を利かせてサスケを追いかけることになった。
途中、臭いの分散が確認されたためにナルトが多重影分身を使ってサスケを追う。一人だけど人海戦術である。そのうちの一体がサスケと遭遇したが、結果道中で暁のメンバーと出くわす羽目になった。
暁の衣装に、顔につけたグルグルの仮面でその顔はわからない。
ナルトが先制攻撃を仕掛けたが、なんと攻撃が素通りしてしまった。厄介が過ぎる。
早くここを切り抜けてサスケを追わねばならぬ。大体、サスケが向かった方向と蟲によって探知されたイタチの居場所が一致していることから、サスケとイタチの間で何ならかの事が起こっている可能性が高い。早く行かねば、片方、もしくは両方が死んでしまってもおかしくはない。
こいつをどうにかしなくては。
全員でフォーメーションを変えながらいろいろな攻撃を試みるが、本当に攻撃があたらない。
しかもこいつに時間を取られていたらイタチにつけていた蟲から普段と違う反応が返ってきた。――死亡、もしくは蟲を外されたか。
今までずっと蟲を黙って付けていたイタチが今このタイミングで蟲を外したとは考えにくい。……となると、サスケと戦って死亡したか?
いや、考えてる暇はない。
「こうなると厄介だな。シノ」
「わかっている」
とりあえず俺がここにいる目の前のやつをどうにかしなくては。
「うわぁきもいなぁ!」
きもいと言われたら俺は傷つくぞ。まあ敵に訴えることではないか。
蟲達を飛ばし奴の体を覆うようにして捕らえる。チャクラを吸い取とって動けなくすれば……いや、これは? どういうことだ。
奴が忽然と消えた。
蟲達が突然消えたエサを追いかけることもできず宙に漂う。時空間忍術か……?
ヒナタと赤丸が再び奴を探し出すが、そのとなりに半分人間みたいな奴が出てくる。ナルトによってトゲトゲアロエ野郎と命名された。
「サスケが勝ってイタチが死んだよ」
周りの皆が息を呑む。俺は蟲のおかげで察していたが、それでも少し驚いた。まあ顔はいつも通り表情を動かさなかったが。
しかもなんと仮面のやつは写輪眼を持っていた。
……一体どうなっているのだ。これは里に帰ってからダンゾウ様に報告することが多すぎる。
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襲撃
うちはサスケを捕らえることは出来ず、敵の言葉によればうちはイタチはサスケとの戦闘の末に死亡。俺の蟲からの反応を鑑みれば死亡は確実。
よって任務をこれ以上継続することは出来ず、村に帰還。
通常の報告の後に俺はダンゾウ様に報告。うちはイタチはうちは一族を皆殺しにしておきながら蟲による探知を甘んじて受け入れていた忍だった。決して普通の抜け忍ではなかったことは確かだ。
「ギン」
報告後にいつも通りタッタと帰ろうとしたら、珍しく誰かに呼ばれてしまった。何の用か、と振り返ってみれば、そこにいたのはフーだった。……なんだ?
「そういえば、この後……あ、間違えた」
……間違えたとはなんだ間違えたとは。
何かを間違えたにしろちょっとその対応はないんじゃないか? 俺は傷ついたぞ。
と思ってはいたが家に帰ったら色々理解した。
家に帰ると軒先でフーとトルネが話しており、窓から自室に入ってギンの仮面を外してから玄関まで行けば、今日は父が留守であるしこのあと二人と一緒にご飯に行かないかと誘われた。
これで納得がいった。
つまりこうだ。多分。
ギンはあくまで油女一族出身の誰かであり、決して油女シノではない。年頃や成長具合からしてギンが油女シノであることを察することはあっても、こちらが認めぬ限りギンと油女シノは他人である。
フーは根で見かけるギンと友人トルネの妹である油女シノがなんとなく同一人物であることを察していた。頭の中でもそうなのだろうとずっと思っていた。
なので先ほど「油女トルネの妹」を誘おうと思ってギンに声をかけたが、声をかけてから「ギンはただの根所属の忍」であることを思い出したというところだろうか。
まあ、そんなこんなで一緒にご飯を食べた。
その後数日も平和で長閑な日々が続いていた。紅班でかなり腹が膨れてきた紅先生の病院通いの付き添いをしたり、あんみつを食べに行ったり。
どこかで話が進んでいたのか、シカマルが紅先生の子の師匠になることが決まっているらしい。……いや、確かにアスマ先生の子でもあるが俺ら八班はどうなんだ。まあ感知タイプである以上あまり師として適さんのかもしれんが。
そしてそんな平和は一瞬にして崩れるのだ。
ドンドンと遠くの方から何かが壊れる音がしたかと思えがその発生源がどんどん近づいてくる。
暁による木ノ葉の襲撃だった。
まずい、と思ったのも束の間、蟲を通じてダンゾウ様から招集を受ける。
……ダンゾウ様が火影になるためにも、襲撃の間は戦力でもある根を地下で潜らせておくという。
……死傷者はそれなりに出るが、これもきっと木ノ葉のためになる。これも必要な犠牲なのだ。
本当に?
「お前もここに待機しておけ。お前はワシが火影にあった後も必要だ」
いや……木ノ葉のためになったとして、一族の者が死んでしまったら元も子もない。
「ダンゾウ様……お言葉ですが、油女シノがこの事態で地上にいないとなりますと、大変怪しまれるかと」
「フン。蟲分身でも出しておけ。本体はここにいろ」
「……はっ」
結局木ノ葉の里は今回の暁のペインの襲撃によって多大なダメージを受けた。
壊滅に至らなかったのはうずまきナルトの強さに救われたからと言ってもいい。尾獣の力もさることながら、仙術まで使いこなし、襲撃犯であるはずの長門なる人物に蘇生すら行わせたらしいのでさすがのナルトである。根の忍が戦ったところで被害を少しは減らせたかもしれんが、ナルトが行ったことに比べれば微々たるものになっただろう。今回の件でナルトはすっかり里の英雄となった。
そして里だけでなく、人的被害もひどかった。
特に、里中の治療を引き受けた五代目火影綱手様である。力を使いすぎた結果、今も昏睡状態にあり。
よって、新しく六代目火影の選出を行うことになり――正式ではないもののダンゾウ様が六代目火影を務め、綱手様の計らいによってない話になっていた抜け忍サスケの始末も決まった。
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