きゃらづけ (家葉 テイク)
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きゃらづけ

転生モノの二次創作を書く肩慣らしに原作キャラのみで小話を一つ。


「――――全然ダメダメじゃないっ!!」

 

 部屋の中に、少女の悲鳴めいた怒声が響き渡った。

 

 俯いた少女は、目に涙すら溜め、四人の彼女の仲間たちを見据える。

 四人はみな一様に、気まずそうに――あるいは申しわけなさそうに、少女の非難めいた視線から目を逸らしていた。

 そんな少女に、眼鏡の少女は何か声をかけようとするが、しかし声が出ない。どんな言葉をかけてあげればいいのか、彼女には全く分からなかった。

 最初は、こんなはずではなかったのに。

 もっと、誰かの為というような――そんな温かい発想から生まれたものだったはずなのに。

 

 この状況に辿り着いた経緯を説明するためには、時計の針を少しだけ戻さねばなるまい。

 

 きっかけは、些細なことだった――――。

 

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「私、キャラが薄いと思うんです」

 

 ある日のレッスン終わり。

 PPPの面々の前で、ジェーンは暗い面持ちでそう切り出した。

 唐突な話に、PPPの面々はみな一様にぽかんとしてしまう。例外は、マイペースにジャパリまんを頬張っているフルルくらいだった。

 

「いきなり何言ってるのよジェーン! そんなことないわ。アナタはしっかり正統派キャラじゃない!」

「それが弱いと思うんです!」

 

 プリンセスの反論に被せるように、ジェーンは言い返した。普段の穏やかな物腰からは想像もつかない剣幕に並々ならぬ意思を感じ、プリンセスは思わず沈黙してしまう。

 

「コウテイさんはリーダーだけど天然というキャラですし、プリンセスさんはしっかり者なツッコミ役というキャラです。イワビーさんはボーイッシュな恰好と言動でしっかりキャラが立ってますし…………」

「フルルはー?」

「…………言わずもがなでしょう」

 

 言わずもがななフルルから視線を逸らし、ジェーンは俯く。

 

「その中で、ただ正統派なだけじゃ、埋もれてしまうと思うんです。私、そんなの嫌です……!」

「で、でも……」

 

 その様子に、プリンセスは狼狽しつつも、なんとかジェーンのいいところを伝えようとする。というのも、彼女も『自分だけがこのグループの中で劣っている』という気持ちに囚われたことがあるので、ジェーンの劣等感もよく分かるのだ。

 そんな彼女だからこそ、ジェーンには自分がPPPにはなくてはならない存在なのだと伝えてあげたい。

 

「…………なので、私思ったんです!」

 

 と、思っていたのだが。

 

「キャラが立っていないなら、立てればいいのだと! というわけで、皆さん、私に協力してくれませんか?」

 

 それは、どうやら余計なお世話というものだったらしい。

 ジェーンのやる気に燃える瞳を見て、プリンセスは自らの考えすぎを悟った。同時に、ジェーンはこの様子なのに過去の自分は…………と少し複雑な気分になったりもしたが。

 

「うん、そういうことなら、勿論協力するぞ!」

「面白そうだな! やってやるぜー!」

「……そうね! せっかくだもの。協力してあげる!」

「皆さん…………ありがとうございますっ!」

 

 プリンセス達が協力を承諾すると、ジェーンは嬉しそうに微笑んだ。正直、プリンセスは十分ジェーンもアイドルとしてしっかりやれていると思うのだが、こういうのは気の済むまでやった方が良いかもしれないという思いもあった。それに、そうやってキャラを模索していくうちに意外な発見があるかもしれない。

 

「…………ふっふっふ、話は聞かせてもらいましたよっ!」

 

 と。

 そこで、PPPしかいなかったはずのレッスンルームに、一つの人影が現れる。

 

「あ、マーゲイ!」

 

 ネコ科特有のブラウスとミニスカートに身を包んだ、メガネの少女。

 マーゲイが、手押し車を引いていた。

 

「マーゲイ、ジャパリまんありがと~」

「うぇへへ、これもマネージャーの務めですから……。…………ってそうではなくっ」

 

 マーゲイはジャパリまんに群がるフルルをブロックして、

 

「話は聞かせてもらいました。ジェーンさんの更なるキャラを模索したいそうですね。キャラが薄いと自認しているキャラが奮闘するのも、また乙なもの……! ふへ、うへへへ」

「マーゲイさん、マーゲイさん」

 

 なんだか陶酔しかけているマーゲイを、ジェーンが揺さぶって元の世界に引き戻す。はっとしたマーゲイはこほんと咳払いをすると、気を取り直して続ける。

 

「ともかく。せっかくなら、楽しくキャラが模索できるようにゲーム風にしてみるのはどうでしょう!? そしてその模様を録画して、次のPPPライブのトーク時間で流してコメンタリーを……!」

「ま、マーゲイの言っている事はよく分からないな……」

「でもよー、なんだか面白そうだぜー!」

 

 能天気なイワビーだったが、つまるところそれがPPPの総意でもあった。せっかくなら面白い方向で。自分達が楽しめた方が、ファンの皆だって楽しいに決まっている。

 

「ええ! それじゃあマーゲイ。企画してくれるかしら? というか決定よ!」

「はい! 任せてくださいっ!」

 

 ビシッと指差したプリンセスに呼応するマーゲイ。いつもの流れにPPPの面々が『おお~』となっている横で、ぽけーっとことの成り行きを見守っていたフルルが、思い出したように口を開く。

 

「それで、なんでジャパリまん食べさせてくれないの~? レッスンしてもうお腹ぺこぺこだよ~」

 

 フルルは眉を八の字にして、お腹を抑えるジェスチャーをする。実際、フルルでなくてもレッスンの後でお腹が空いているのは同じだったが。

 それに対してマーゲイはけろっとした表情で、

 

「ああ。どうせなら、このジャパリまんをゲームの景品にしようと思いまして」

 

 などと宣った。

 一瞬後。

 

「ええええ~~~~!?」

 

 PPPメンバーの絶叫が、レッスンルームに響き渡った。

 

「え……じゃあ、げーむに勝たないと、ジャパリまん食べられないの……?」

「はい。そうなりますね」

「……………………」

 

 静かに、フルルの目が本気(マジ)になった瞬間だった。

 

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12.x話 「きゃらづけ」

 

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「ルールは簡単です」

 

 ジャパリまんをどこかへ隠してきたマーゲイ(ある種のネコ科の動物は食べきれない餌を貯蔵するのだ)は、戻って来るなりそう切り出した。

 

「皆さんが各々考えたゲームを順番に行います。一番ジェーンさんのキャラが際立ったと思うゲームを考えた人が優勝です! 審査員は私が務めます」

「は~い、ジャパリまん大食い競争がいいと思う~」

「それは景品がなくなっちゃうので駄目ですね」

「というかアナタが食べたいだけでしょうに……」

 

 呆れるプリンセスに、フルルは『やっぱり駄目か~』と肩を落とす。どうやらフルルはあの手この手でジャパリまんを一刻も早く食べられないかと模索するつもりらしい。

 

「食い意地キャラ……」

 

 ぽつりと、ジェーンが呟く。

 

「し、しっかりしろジェーン! あれは狙ってやってるわけじゃない! 無理はよくないぞ!」

「え、ええ。分かってます。心配要りませんよ」

 

 虚ろな笑みを浮かべるジェーンは、もはキャラ付けの亡者一歩手前であった。『なんでこんなになるまで放っておいた……!』とコウテイは世の無情を嘆かざるを得ない。

 

「それで、誰から行く? 俺は誰からでもいいぜー!」

「うむ……では、私から行かせてもらおう」

 

 一番槍に名乗りを上げたのは、リーダーのコウテイだった。両手を腰に当てて胸を張ったコウテイは、自信満々に言い放つ。

 

「ずばり――私の考案したゲームは、これだぁっ!」

 

 どーん! と擬音がつきそうなくらい堂々と宣言したコウテイ。

 ……何も起きない。

 

「…………マーゲイ。準備を頼む」

「了解ですっ!」

 

なんともしまらないコウテイの指示でマーゲイが押してきたのは、透明の水槽だった。

 

「これ、なんだ?」

「わ~お水~」

「いや、少し違う」

 

 コウテイはニヤリと笑って、

 

「これは、『ねっとうぶろ』だっ!!」

「『どーん!』」

 

 今度こそ、自信満々に宣言した。気を利かせたマーゲイが効果音を担当してくれているのがちょっと切ない。

 

「『ねっとうぶろ』? それ、何よ?」

「ああ、ねっとうぶろとは、水をとても熱くして、入れなくなるくらいにしたものをいっぱい集めたものだ」

「え~何それ~。それじゃ入れないじゃん~」

「そうだぜ! 熱い水はクールじゃないぜ! ホットだぜ!」

「だが、入るのだ」

 

 困惑するPPPメンバーに、コウテイは力強く断言してみせる。あまりのワードパワーに隅の方でマーゲイが感極まって蹲っているのはご愛嬌だ。

 

「これに入って、その時のリアクションでキャラを際立てるんだ! 古くはダチョウのフレンズもやっていたと聞くぞ!」

「コウテイ、アナタなんだかいつもより張り切ってないかしら……?」

 

 由緒正しき芸だから張り切ってしまっても仕方がないのだ。

 というわけで、チャレンジ開始なのだった。

 一番手は厳正なるジャンケンの結果、イワビーが。

 

「嫌だぜ! 嫌だぜ! こんなの全然ロックじゃないぜ!」

 

 で、どぼん。

 

「うわちゃちゃちゃちゃちゃー!?」

 

 イワビーは必死の思いで転がり出ると、その横に備え付けられた粉氷の山に飛び込む。

 

「どうですか~解説のマーゲイさん~」

「ぐふふふ~~だぜ口調で嫌がるのはポイント高めですねぇ!」

 

 続いて、プリンセス。

 

「や、やめましょう! こんなのアイドルには必要ないことよ! 絶対に間違ってるんだから! こんな……。…………何よアナタ達、その顔。………………わ、分かったわよ! やればいいんでしょ、やれば! …………ええいままよ!」

 

 で、どぼん。

 

「あっちゅい――――っ!?!?!?」

 

 なんだかんだと言っていたプリンセスも、無言の圧力に負けて大分。ゴロゴロと転がり出ながら、粉氷の山にダイブしていった。

 

「プリンセスってなんだかんだでちゃんとやってくれるよね~」

「実は一番バラエティ映えするキャラですねっ! ええ!」

 

 続いてジェーン。

 良い流れが続いているので、此処でジェーンも決めて更なるキャラを獲得してもらいたいとマーゲイは思うが……。

 

「行きますっ!」

 

 で、どぼん。

 

「あっ、あつっ……! っと、っとと……」

 

 顔を強張らせたジェーンは、ほかの二人よりも圧倒的に早いタイミングで熱湯風呂へ突入し、そして大したリアクションもなく、面白味もなく熱湯風呂から撤退し、そしてお上品に粉氷を体にまぶしていた。

 あまりに滑らかな動作に、あらゆる印象も滑らかに通り過ぎてしまうかのようなつまらなさだった。

 

「おぉ~、ジェーン、速~い」

「どんな時でも正統派なのは、ジェーンさんの素晴らしいところですねっ!」

 

 フルルとマーゲイは高評価だったが、ジェーンとしてはどうしても肩を落としてしまう。新たなキャラクターを模索しているのだから、『正統派』の範疇で終わるリアクションでは意味がないのだ。

 

 続いてコウテイ。

 

「…………い、いやだ! こ、こんな、湯気が立っているじゃないか! 絶対熱いぞこれ!」

「そんなこと言っても、コウテイが企画したゲームじゃんこれ~」

「大体、私達はペンギンだぞ! 寒いところが好きなのに熱湯なんて、馬鹿じゃないのか!?」

「だからコウテイが決めたんだよね~」

 

 そのコウテイは、今まさに熱湯風呂に入るぞと水槽のふちに足をかけた段階で、フルルと言い合いをしていた。見事な往生際の悪さである。

 

「くっ…………わ、分かった。でも私のタイミングで入らせてくれ。ちょ、ちょっと心の準備が必要だから。…………あ、押すなよ! いいか、絶対押すなよ!? 私のタイミングで、」

「えいっ」

「どっわあああああ!?」

 

 埒が明かないと判断したのか、コウテイが駄々をこねている間にフルルは音もなく背後まで忍び寄り、そしてその背中にヤクザキックを叩き込む。

 どっぱーん、と水しぶきをあげながら、コウテイは水槽の中に真っ逆さま。

 

「あ゛ーっづ!! あづい!! あっつ! あっつつっつ!!」

 

 水槽を中から蹴倒しながら、コウテイは喚きつつ粉氷まで転がって飛び込む。もはやアイドルという言葉の定義が崩壊しかねない体を張ったリアクションだった。

 

「凄まじいリアクションでしたねっ! リーダーや天然だけではない、コウテイさんの新たな一面がこれでもかというほどにアピールされていましたよ!! これは新たな路線の可能性も……ぐふふふふ」

「コウテイはマゾだからね~」

 

 そんな感じで、全員の熱湯ダイブが終了。

 

「…………待ちなさいよ。フルルがまだでしょう? なんでアナタだけやってないのよ」

「だって~。コウテイが熱湯風呂蹴倒しちゃったし~、もう一回熱湯を用意してもらうのも大変でしょ~?」

 

 フルルの神回避っぷりである。

 ちなみに、フンボルトペンギンは温帯に生息しているため、ほかの面々よりも熱さには強かったりする。多分やっていたとしても普通に『良いお湯~』とか言っていたに違いない。

 

「……でも、ジェーンさんよりはコウテイさんのキャラの方が目立ってしまっていましたね」

 

 話を切り替えるように、マーゲイはそう総括した。それは皆も思っていたのか、全員一様に残念そうに俯いてしまう。

 そんな中、空気を切り替えるようにプリンセスが手を叩いた。

 

「まだ始まったばかりじゃない! 次行きましょ、次! 何かある人はいないかしら」

「おう! それなら俺に考えがあるぜ!」

 

 声を上げたのは、自信満々な様子のイワビーだ。

 イワビーは、どこから引っ張り出したのか、腰くらいの高さの机を五人の前に置くと、その上にクッションを敷いた。

 

「俺の企画は――ずばり! アームレスリング大会だぁ!!」

「『ばーん!』」

 

 バン! と机を叩くと同時、マーゲイが寸分違わぬタイミングで効果音を入れてくれた。ご満悦なイワビーは、そのまま説明を続ける。

 

「アームレスリングっていうのはな、机に肘をつけて、お互いに手を握り合って、相手の手の甲を机に押し付けた方が勝ちってゲームだ! パワー、パワーが全てのロックな戦いなんだぜ! ちなみに、左手は机を掴むのはOKだけど、相手の手を押すのに使ったりするのはダメなんだぜ! 腕一本の戦い! 最高にクールだと思わないか!?」

「あ、次はイワビーの番ね」

「…………え?」

 

 うっとりしながら解説していたイワビーは、そこでプリンセスに声をかけられて、目が点になってしまう。

 イワビーが解説している間に何があったのか、机にはフルルが肘をつき、その近くではジェーン、コウテイ、プリンセスが疲れたという様子で座り込んでいた。

 

「な、なんなんだぜ、これ……?」

「ふ、フルルさん、今のところ全勝ですっ!」

 

 呆然とするイワビーに、マーゲイは震える声で事実を伝えた。なんか解説の時間が長すぎるから、その間にみんなでアームレスリングを始めてしまったのである。なお、フルルが物凄い強いため勝負にならなかったのも、さっさと終わってしまった一因である。

 

「よ、予定が狂っちまったけど、いいぜ! フルル、俺が相手になってやるぜーっ!」

「早く終わらせてジャパリまん食べたいよ~」

 

 そして、勝負が始まった。

 

「…………きゃあっ」

 

 結果は、あっさりついた。

 圧倒的フルル力の前に、イワビーは一秒と持たずに倒されてしまったのだ。

 

「……ま、負けちまったぜ」

「イワビー、いま『きゃあ』って~」

「さあ! 俺の番は終わりだぜ! 次! 次行こうぜ!!」

「『きゃあ』って~」

「次――――っっ!!!!」

 

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 そういうわけで次の企画である。

 

「結局、イワビーの企画も一番イワビーが目立っちゃったし……。しょうがないわね…………次は私の企画よっ!!」

 

 自信満々に言ったのは、プリンセスである。満を持して真打が登場しましたみたいなノリでの宣言は、もはやだれが主役かなど全く気にしていない有様だった。一応この会はジェーンの為のものなのだが…………ただ、それが真のアイドルというものなのかもしれない。

 

「私の企画は、これ…………VRホラー映画鑑賞会よ!!」

「『どぎゃーん!』」

「すまんプリンセス、今なんて?」

 

 VRホラー映画鑑賞会なのだった。

 

「これ、ボスに持ってきてもらったこのごーぐるをつけると、中でとってもこわ~い世界を覗き見ることができるの! これを見ている姿で、ファンのみんなを楽しませるようなリアクションをするのよ!」

「ほ、ホラーか…………」

「ホラー映画って、オオカミ先生の漫画みたいなものでしょうか?」

「いいえ。もーっと怖いものなのよ。図書館にあった、動く漫画みたいなものなんだって。はかせから聞いたわ!」

「わ~面白そ~」

 

 既に嫌な予感が走っている面々の中、フルルだけは相変わらず能天気なのであった。話が横道にそれ始めたので、プリンセスは咳払いを一つすると、本筋の話を進めていく。

 

「時間の関係で、今日は二人だけしかやらないわよ」

「おい! ジェーンのキャラの発掘が目的だろ! 趣旨がおかしくなってるんだぜ!」

「心配いらないわ」

 

 イワビーがツッコミを入れるが、プリンセスは全く気にせず進行していく。やはりプリンセスはMC上手なのかもしれない。

 

「まず一人目、コウテイからよ! やっちゃいなさい!」

「ええ!? 私がか!?」

 

 寝耳に水な展開に、コウテイは思わず目を丸くする。

 

「まぁ、動く漫画を見るだけなら、とくに問題はない気がするが……。うーむ、面白くリアクションできる自信がないぞ……」

「まぁまぁ、やってみなくちゃ分からないわよ。ちなみに私は何も心配してないわ。さぁ、マーゲイ、とりつけやっちゃいなさい!」

「アイアイサー! ですっ!!」

 

 プリンセスの号令に従って、マーゲイがコウテイの頭のヘッドホンを取り換え、ゴーグルをセットしていく。

 数秒とたたずにコウテイの顔上半分は機械に覆われてしまった。

 

「な、なんだ……ま、真っ暗だぞ? 大丈夫なのかこれは?」

「心配いらないわ! これから映像が始まるんだから! タイトルは――『闇芝居』よ!」

 

 怪訝そうに口をへの字にするコウテイだったが、プリンセスの自信満々な態度に押し流されて視聴を始める。

 

「おっ、始まったみたいだぞ」

「こちらからだと、何も分かりませんね……?」

「ひま~」

「退屈だぜ」

「こら、コウテイの姿を見てリアクションするのも、私達の仕事なんだからね!」

「な、なんだ!? 何か始まったぞ!?」

 

 外野でがやがや言いあっていると、コウテイが不思議そうに声を上げた。どうやら、映画の方が始まったらしい。

 

「………………」

「どうなの、コウテイ?」

「………………」

「……コウテイ?」

 

 プリンセスが声を呼びかけるが、コウテイは口をへの字にしたまま何も答えない。数十秒ほどそのままやっていた、が……。

 

「わっ、ここどこだ?」

「コウテイ、何があったの? レポートしてちょうだい」

「何か知らない場所にいきなり飛ばされ……うわっ! なんだこれ!」

 

 突然、コウテイの身体がびくんと跳ねる。そのまま、コウテイは両手を思い切り振り始めた。

 

「わわっ!? コウテイ何してるんだぜ!?」

「見えないで……き、消え……消えない!? なんで!? ここはどこなんだ!?」

「コウテイ! それは映画だから手を振っても関係ないのよ!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!! と、止め、止めてくれ! 無理、無理だから! 無理無理無理無理無理!! ひぃぃぃ!! …………」

「コウテイさーん!!」

 

 必死に三人(フルルはコウテイを見て笑っている)で呼びかけてみるも、映画の中に入り込んでしまっているらしいコウテイは全く反応を返さない。そして――、

 

「…………ぁぁ…………………………」

「お、終わったみたいね」

 

 すべてが終わったらしいコウテイのゴーグルとヘッドホンを外すと、コウテイは白目を剥いて気絶してしまっていた。

 

「結局、どんな話なのかは分からなかったね~」

「こういうときの為に二人目が用意されているんですっ! さあさあ、ジェーンさんやってみましょう!」

「ええっ……わ、私、心配です…………」

 

 不安そうにしながらも、真面目な性格ゆえか、ジェーンは受け取ったヘッドホンとゴーグルをほとんど躊躇なく身に着けていく。あまりに滑らかな進行に、周りのメンバーも口を差し挟む隙が一切ない。

 

「……あ。黄緑の顔をしたフレンズがいます。……なんでしょう、見たことないフレンズさんですね…………」

「おおっ、いいわよ、いい解説力じゃない! さすが正統派!」

 

 だが正統派では駄目なのは今までの流れから分かり切っている。

 

「あっ、場所が移りました。ここは……どこでしょう? 向かい側にフレンズが二人います。知り合い……なのでしょうか? なんだかよく分からないものをいじってますね。ボスの仲間でしょうか?」

「ふむふむ……どうやらそこで、さっきコウテイが見たこわいものが起きるみたいね」

「なあープリンセスー暇だぜー」

「ジャパリまん食べてもいーい?」

「もうちょっと我慢しなさい!」

「ん゜っ!? 今何か、右端に何かが…………きゃっ!? な、なにこれ……何かがいっぱい…………きゃー!?」

「あ、ほらジェーンがリアクションしてるわよ!」

「俺も見てみたいぜ! 絶対怖がらないぞ!」

「おなかすいた~」

「フルル……アナタねぇ……」

 

 相変わらずなフルルはさておき、ジェーンもやはり恐怖映像の餌食になっているのか、悲鳴を上げながら申し訳程度に首を振っていた。数十秒ほどそうしていたが――――、

 

「はぁ、はぁ……」

 

 やがて、ジェーンは自力でヘッドホンとゴーグルを外した。

 

「ジェーン、どうだった~?」

「い、意外とたのしかったです」

「それじゃダメじゃないのよっ!!」

 

 わりと爽やかめな笑みを浮かべたジェーンに、プリンセスは速攻でツッコミを入れる。

 

「こわ~い映像でジェーンの『正統派キャラ』を崩壊させて、新しいキャラを見つけようとしたのに……アナタのキャラ鉄壁じゃないのよ! これじゃ作戦が台無しじゃない!」

「…………………………そ、その為に、私は巻き添えを食ったというのか…………?」

 

 不満たらたらに文句を言うプリンセスの、その背後。

 まるでゾンビか何かのようによろよろと佇む人影が、一つ。

 

「……あ、こ、コウテイ。お、起きたのかしら?」

「プリンセス…………お前も、私と同じ目に遭ってみるといい」

「ちょっ、ちょっと待って! 話せば分かるわ! そのゴーグルをテーブルに置いて? ほらコウテイそんな怖い顔しないで」

「問答、無用」

「きゃ――――っ!?!?!?」

 

 かくして、コウテイの逆襲が開始された。

 なんか、ジェーンのリアクションとかはどうでもよくなってしまっていた。

 

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「結局ダメダメじゃないっっ!!!!」

 

 そして冒頭にもあったプリンセスのダメ出しである。

 

「ジェーンの新しいキャラを見つける為の企画なのに、みんな揃いも揃って自分のキャラが深まっちゃってるじゃないのよっ!」

「それはプリンセスも同じことだと思うぞ……」

「私の場合はちょっと計算外があっただけよっ!」

 

 ぷりぷりと怒るプリンセスだったが、実際のところその通りではある。

 ジェーンの新たなキャラの発掘としては、殆ど成果がない。にもかかわらず、ほかの面々の新たな一面ばかりが強調されてしまっているのだ。フルルに至ってはまだ一つも企画を出していないくせに一番目立っている。コイツは本当にいったい何者なのだろうか。あと、マーゲイもマーゲイでマネージャーというよりほとんどADみたいな仕事内容になって、便利屋ポジションを確立しつつあるのであった。

 そんな中、ジェーンのキャラはこれといって見つからない……これは、確かにプリンセスが焦るのも仕方がないというものだ。

 

「じゃあ、次は私が企画をやります!」

 

 だが、ジェーンも立ち止まっているわけではない。

 ピッ、とお行儀よく手を挙げたジェーンの表情は、自信に満ち溢れていた。

 

「どんなものにするんですかっ?」

「ええ、『利きジャパリまん大会』をしたいと思います!」

「『ごごーん!』」

 

 そろそろ効果音のネタも尽きてきたのだろうか。

 

「って、利きジャパリまん大会ですかっ? でも、あまりジャパリまんを食べ過ぎると景品が~……」

「色んな種類のジャパリまんを一つずつなら、問題ないでしょう? 小さく小分けにして、一口サイズずつ食べて味の違いを判断するんです」

「なるほどぉ~! それなら景品をそれほど減らさずにジャパリまんを食べられますね!」

「え? なになに? ジャパリまん食べれるの~? やった~!」

「…………それに、フルルさんももうおなかがぺこぺこで限界だと思いますし」

 

 そう言って、ジェーンは笑みを浮かべる。

 フルルのことまで慮った、完璧な心遣い。正統派アイドルの面目躍如であった。だが、それはそれとしてプリンセスは眉をひそめ、

 

「でも……それじゃ結局、フルルのキャラクターが強調されるだけになっちゃわない……?

「いいんです。皆さん、私の為に一生懸命頑張ってくれましたから……。そんな仲間想いで、キャラの濃い皆さんの中で、埋もれないように四苦八苦している……それが私なんだって、今日で実感できましたし」

「ジェーン、アナタ…………」

「さあ! 利きジャパリまん大会の始まりですよ! マーゲイさん、お願いしますね!」

「はぁいっ! 準備完了ですよっ!!」

 

 ――そうして、利きジャパリまん大会が始まった。

 ルールは簡単、目隠しした状態でジャパリまんの欠片を食べ、その味を当てる、というものだ。これを全五種類連続で試し、当たった数の総数で勝敗を決定する。

 

「ジャパリまんの味は『いちご』『チョコ』『バナナ』『あんこ』『ミルク』の五種類ですよっ!」

「おお~いっぱい~~」

 

 まず最初のチャレンジャーは、本人たっての希望からフルルとなった。多分もう我慢の限界だったのだろう。何気にパワー系のフルルだから、これ以上彼女に我慢をさせていたら最終的に恐ろしいことになっていたかもしれない。

 

「じゃあ、いっただきま~す」

 

 目隠しをしたフルルは、満面の笑みで、おいしそうにジャパリまんの欠片を頬張っていく。間髪入れずに全種類のジャパリまんを食べきったフルルは一言、

 

「おいしかった~」

「(何味だったのか順番に言うのよ!)」

「え、なんで~?」

 

 撃沈である。

 もっとも、食い意地の権化であるフルルの挑戦である以上、こうなったのは必然かもしれないが。

 

「もう、本当にフルルは……。次、私が行くわよ!」

「はい、プリンセスさんの挑戦です~!」

 

 対照的に、プリンセスは慎重に口の中にジャパリまんを放り込んでいき、一つ一つ味わって食べてみせる。ちなみに食べた味の順番は『バナナ』『チョコ』『ミルク』『あんこ』『いちご』である。

 二つ目までは余裕の表情を浮かべていたプリンセスだったが、三つめのあたりから口の中に残った後味と混じって混乱し始めたのだろう、だんだんと表情が曇っていく。

 

「では、お答えをどうぞ!」

「え、え~~と…………バナナ、チョコ…………あ、あんこ…………?」

「はい、残念! 二つ正解ですが、あんこではなくミルクでしたね~」

「ああ~!」

 

 悔しそうに天を仰ぐプリンセス。得点は二に終わった。

 

「ですが、順位は一位ですよ。次はコウテイさんー!」

「ああ、任せてくれ。リーダーとしてしっかり違いの分かるフレンズっぷりを見せてやる!」

 

 もぐもぐ。

 

「…………あんこ!」

「それはチョコです」

 

 撃沈。

 

「ダメだなぁコウテイもプリンセスも。ここはこのイワビー様が一流ペンギンアイドルの何たるかを教えてやるぜ!」

 

 もぐもぐ。

 

「ソーダ!」

「そんな味はありません!」

 

 撃沈。

 

「ちょっとちょっと! いくらなんでもひどすぎじゃない!? みんな、ジェーンのキャラを立たせようと無理やり間違えてない?」

「そんなこと言ったらプリンセスだって二つしか合ってないだろー! 目隠ししてるのに味なんか分からないにきまってるじゃんかー!」

「まぁまぁ……」

 

 言い合いになりかけたところを、ジェーンが苦笑しながら仲裁に入る。

 

「皆さん、一生懸命頑張っているのは私も分かっていますから。だから喧嘩なんてしないでください」

 

 そう言いつつ、ジェーンは目隠しを装備する。

 それまでメンバーは目隠しをすると必ずと言っていいほどわたわたしていたのだが、ジェーンにそれはなく、すっと背筋を伸ばした状態のまま、淀みなくジャパリまんへと手を伸ばし、そしてとくに焦るでもなく、きれいな所作で口に運んでいく。

 

「………………」

 

 食べ方も、一流の淑女のそれ。もはや彼女にこそプリンセスの名は相応しいのでは? と思ってしまうほど美しい食事風景だ。

 その後も、急ぐでもなく、躊躇うでもなく、自然体そのもののスピードでジェーンは利きジャパリまんを続けていく。その姿はまさしく一流ペンギンアイドル、違いの分かるフレンズそのものだった。

 

 ちなみに、食べた順番は『あんこ』『いちご』『ミルク』『バナナ』『チョコ』。

 まるでグラデーションのように食べ合わせのよい味をチョイスしていくスタイル。運命すらも、彼女のことを後押ししているようであった。

 その口から紡がれる答えも――――

 

 

「答えは、あんこ、いちご、ミルク、バナナ、チョコ…………です!」

 

 

 ――正答。

 

「素材の味を生かした味付け、そして生地に溶け込んだうま味のエキス……栄養を考えた素材から作られているというのに、思わず利きジャパリまんのことも忘れて舌鼓を打ってしまいましたね」

 

 完全正答を成し遂げたジェーンは、それだけでなく簡易な食レポまで添える余裕を見せた。

 

「おおおおおお!!」

「すごいじゃないかジェーン!」

「全問正解よ! やるじゃない!」

「うぇ? お、おぉー」

 

 約一名話についていけてないようだが、おおむねPPP全員がジェーンの偉業をほめたたえた。すべてを総括するように、マーゲイはうれしそうに続ける。

 

「なるほどっ! ジェーンさんは正統派、かつ――とってもグルメなフレンズだったんですねっ!!」

 

 ――グルメ担当。

 かつてヒトが運営していたメディアでは、それは不動の地位を確立していたジャンル。フルルの食い意地キャラとはまた違った、確かなキャラクターである。

 

「いや、それだけじゃないわ。ジェーン、さっきの食べている姿勢、とてもお行儀がよかったと思うわ! きっと、お作法とかそういうのも得意なのよ! 決まりね、アナタは今日からPPPの教養担当よ!」

 

 びし! とプリンセスが、マーゲイをマネージャーに抜擢したときと同じお決まりのポーズで宣言してみせる。

 

「…………私でよければ。――一生懸命、頑張ります!」

 

 それに対し、ジェーンは照れくさそうな笑みを浮かべながら、しっかりと答える。

 そんな二人を、コウテイ、イワビー、マーゲイは嬉しそうに見守るのだった。

 

(、,)(、,)(、,)

 

 フルル?

 フルルなら、こんなことを呟きながら、ちゃっかりうやむやになった賞品のジャパリまんを食べていたそうな。

 

「そもそも、イワビーとかプリンセスとか、メンバー同士でやりたいことがぶつかったときに一番率先して間に入ってくれるのって、ジェーンなんだけどね~」

 

 ………………大切なものは、探さなくても転がっているもの、らしい。




一番好きなPPPメンバーはフルルです。


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