もう、いいから構うなよ! (サガアキ)
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序章

序章『すごい、綺麗!目の前の景色が、緋色に輝いてる!』

 

ああ、不幸だ。某超人気ライトノベルの主人公が言う不幸なんて比にならいほど俺は不幸だ。

 

ん?どのくらい不幸かって?

そうだな、まず軽いジャブからいこうか先週父親が援助交際で逮捕された。相手は俺の片想いのクラスメイトのA子ちゃん...親父ィ

もう1つ、今朝起きたら母親からの置き手紙が置いてあった。「捜さないで下さい。各々頑張りましょう」とか書かれてた。

 

ね?半端じゃないでしょ?ああ、不幸だ。死のうかしら。

まあそんな度胸も俺にはないんですけどね?

 

で、極めつけなんだけど、今俺ん家が燃えてるんだよね。めちゃくちゃ綺麗!あ、ヤバイ意識が...

 

...

 

ーここはどこだ?体がダルい。俺はベッドに寝かされているようだ。ああ、病院か。

でも、なんで?記憶がない。

俺に背を向け看護師さんがカーテンを開けていた。起き上がろうとしたが体が言うことを聞かない。

すると看護師さんがこちらに気がついた。

「あ!よかった、意識が戻って」

どうやら俺は意識を失っていたらしい。

「おはようございます、俺は・・・やばいなんにもわかんない」

「少し落ち着いて、今先生が来るから」

 

5分ぐらいで医者が到着した。

「はい木村さん。大丈夫ですか?どこか痛みはありますか?」小太りの医者が呼び掛ける。

木村?ああ、俺のことか。

「大丈夫です。少し体にダルさはありますが。ところでなんで僕はここにいるんですか?」何があったのか、更には自分の名前さえも俺は覚えていなかった。

医者と看護師は顔を見合わせる。

「はい、木村さん、ご自分のお名前わかりますか?」小太りの医者に聞かれる。

「木村、・・・拓也?」俺は答える。

「えー、『木村 攻人(きむら こうと)』さん。あなたはショックで一時的に記憶を失っているようです」・・・いや、違うなら違うって言ってよ!ん?ショック?なんの?

「あの?事故か何かに僕はあったんですか?」

「あなたの家が火事にあって、あなたはガスを吸って気を失っていました。幸いなことに火傷などの外傷は殆ど見られませんでした」俺ん家が火事に?ということは他の家族はどうなった?

「あの、僕の家族は無事ですか?」

医者と看護師が言いづらそうにしている。

ああ...、悟ってしまう俺。しかし、

「あの家には君しか住んで居ませんでしたよ」

と急に一人のスーツの男が入ってきた。

「どなたですか?」

スーツの男は胸ポケットから手帳?を取りだし、開いて見せた。

「刑事の竹内です」

け、刑事?

「・・・」

「すみませんでした」

とりあえず謝っておくことにした。

 

つづく

 



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第1話『来客からの衝撃』

家が火事になり記憶を失った俺、『木村 攻人(きむら こうと)』の元に刑事さんがやってきた。

 

「すみませんでした」

何も覚えていないがとりあえず謝っておくことにした。

「木村君?何かしたの?」

「いや、反射的に...すみません」

「僕は昨日の出来事を詳しく教えてほしくてきたんだけど」

刑事さんは手帳にメモをとる形で聞いてきた。

「すみません、昨日の出来事どころか自分が誰かということさえわかりません」

「記憶喪失ですか?」と小太りの医者に聞く刑事さん。

「一時的なものだとは思いますが」と医者。

「そうですか...」と考え込む刑事さん。

「あの、僕の家の火事の火元は何ですか?」刑事さんに訪ねる。

「それが火元がわからないのです。放火の可能性が高いです。なので木村君に何か見に覚えがないかと聞こうと思ったのですが」と刑事さん。

放火?やだ、恐い。

「すみません、意識が戻ったばかりなのでこれくらいで...」と看護師さん。やばい、超優しい。

「そうですね。あ、木村君これ僕の連絡先、何か思い出したことがあったら連絡を下さい。こちらからも何かわかったらお伝えします。」

と名刺を俺に渡し、部屋から一礼をして刑事さんは出ていった。

 

「僕はどれくらい、入院すればいいんですか?」医者に聞く。

「あと2、3日もすれば退院できますよ」と医者。

 

よかった。あまり長く病院にいるのは嫌だからな。

ただ、家はもう、ない。俺はどこに帰ればいいんだろうか?

 

ー2日後

ベッドの上でボーッとしていると、俺に来客が現れた。

その来客は20代前半くらいの髪が短い綺麗な女性だった。

「大変だったね。攻人」と綺麗な女性。

やばい、目を見れない。記憶がないからわからんが多分俺は童貞だ。

「はい」下を向きながら答える俺。

「あれ?攻人、わたしのこと覚えてない?」あなたのことどころか自分のことも覚えていません。

「すみません、僕は記憶喪失なので。失礼ですがお姉さんはどなたですか?」正直に。

「記憶喪失!?」とても驚いているようだ。

「はい」下を向き(略

「そっか、そういうこと....。わたしはあなたの従姉の『加藤 涙美(かとう るみ)』今大学3年生よ」

従姉か、よし!身内なら目を見て話せる。

「叔父さんと叔母さんのこともあったし、本当に大変だね攻人」俺の父親と母親のことか。

「あの僕の父と母になにがあったんですか?」

「あー!もう!敬語やめてくれる?気持ち悪いからタメ口で話してよ!」と、涙美さん

「いや、でも...」流石に記憶がないから初対面みたいな感じだしなぁ。

「タメ口で話さないなら教えない」 なんかギャルゲみたいだな。

仕方ない。「わかったよ。教えてよ」

「よろしい。じゃあ、教えてあげる。でも後悔しない?思い出さないほうがいいこともあるよ?」ああ、そうとうキツイことだな。もしかしたら父と母はもう...

「大丈夫、教えてよ」といい顔で答える俺。覚悟は出来ている。

「叔父さん、つまり攻人のお父さんは援助交際で逮捕されて、叔母さんは失踪した」

 

「...あ、ああ」耳を疑った。

 

つづく

 



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第2話『解放っ!(病院から)』

病院のベッドでボーッとしていると、従姉の『加藤 涙美』がお見舞いにきてくれた。

家が火事になり、一時的に記憶を失った俺に涙美は父親と母親のことを教えてくれた。

父、援交で逮捕。母、失踪。

いやいや、笑えない。マジで?本当に?

「だから聞かないほうがいいって言ったじゃん?後悔は?」涙美が苦笑いで聞いてくる。

「していない」

といい顔で言いたかったが滅茶苦茶、後悔していたので...

「べ、別に後悔なんかしてないんだからねっ!」とツンデレ風に俺。

「うわ、キモッ!...あ、嘘、嘘」と涙美。

記憶喪失の俺からしたら身内とはいえ会って十数分の女性に『キモッ!』と言われるのは流石に辛かった。まあ、確かに今のはキモいと思うが。

「で?いつ退院なの?」

「明日」

そういえば明日退院できるんだ。やっと帰れる。明日から俺は自由だ。...が、俺の頭に一つの疑問が浮かんだ。帰るって何処にだろう?俺の家は全焼しているし。

「これからどうするの?」

「え?」

「家、燃えちゃったよね?」

「うん」そう。全焼。

「記憶ないんだよね?」

「うん」ビックリするぐらいない。

「あたしの家、来る?」

「ふぇっ?」

「親戚だし家も近いから、あたしの家から学校通えばいいじゃん?」

「いいの?」

「当然でしょ?従姉だし、記憶がないなんて方っておけないよ」

「ありがとう」やばい、泣きそう。

「じゃあ、明日のこのぐらいの時間に車で迎えに来るから、今日はもう帰るね」

涙美が帰り、病室に取り残された俺。これからの事とか色々と考えることはあったが疲れていたので考えるのをやめた。

-翌日

昨日言っていた時間はとっくに過ぎていたが涙美が病院まで迎えに来てくれた。お世話になった看護師と医者に挨拶を済ませ、車に乗り込・・・もうとしたが車が見当たらない。俺の前を歩いていた涙美が足を止める。視線を前に向けると涙美がドヤ顔で言い放つ。『乗りな!』驚いたことに自転車に跨がって。え?ママチャリ?

動揺を隠せない俺。ん?確か昨日『車』で迎えに来るって行ってたよな?まさかこれが涙美の言う『車』?いやいや、そんなバカな。

「あの?車は」恐る恐る聞いてみる。

涙美の目が死んでいた。

「お...」

お?

「お亡くなりになった」

あ、ああ...

「体は大丈夫なの?怪我とかしてない?」冷静に心配だった。

「速く乗りな!!!」

ママチャリの荷台を指差して涙美が叫ぶ。もう、完全にヤケクソだな。

「いや、だから体は大丈夫なの?」

「いいから、速く乗りな!!!」

やばい、会話が成立しない。

 

続く

 



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第3話『もう、やめたげて...』

病院から退院して従姉 『加藤 涙美』の家に向かう。風が気持ちいい。そう、今俺はママチャリの荷台に乗っていた。時速40㎞ぐらいのスピードの。

寒っ!風が冷たい!というかイタい!通行人の目がイタい!...何故かというと涙美が号泣しながらママチャリを漕いでいたからだ。詳しくは涙美は教えてくれなかったが今朝、涙美の愛車がお亡くなりになったらしい。南無。

「あの、涙美さん?スピード出し過ぎですよ?二人乗りも危ないですし...」

刺激しないように精一杯、丁寧に話しかける俺。

「いいから乗りな!」

「いや、もう乗ってるから。ていうか前見て!!」

と言ってる側から電柱にぶつかり、ママチャリから転げ落ちる俺と涙美。

むくりと起き上がる涙美、まるで何事もなかったかのようにママチャリを起こし跨がる

が、フレームが曲がりまっすぐ走れる状態ではなくなっていた。ああ、ママチャリもか。

「...どうしようか?」

「よし!歩いて帰ろう!」涙美は元気だ。

「そうだね。歩いて帰ればこれ以上壊れるものもないし」

壊れたママチャリを転がし涙美の家へと向かう俺と涙美。うん、気まずい。

そうだ、これからしばらくは御世話になるんだしお菓子か何か買っていこう。

涙美に家族の人数を確認しないと。

「お菓子でも買っていきたいんだけど、今何人で住んでるの?」

「え?いいよ、いいよ、そんなに気を使わなくても」

「いや、でも居候させてもらうんだし家族の皆にも迷惑かけちゃうから...」

「あれ?言ってなかった?わたし一人暮らしだよ?」

「え!?」

一人暮らし!?俺はてっきり涙美の実家に御世話になると思っていた。あれ?不味くないか?女子大生の部屋でこれから二人で住むの?親戚っていっても俺は記憶がないから初対面みたいなもんだし不味くない?

ちょっと困惑している俺を見て察したのか涙美が一言。

「大丈夫だよ。従姉どうしなんだし」

んー、涙美が言うならいいのか?でも涙美には恐らく彼氏もいるだろう、もし俺のせいで勘違いされたら涙美に迷惑がかかるからやめておこう。住み込みのアルバイトでも探してしばらくはそれでなんとかしよう。

「やっぱり俺遠慮しとくよ、住み込みのアルバイトでも探してなんとかするよ」

「え!?わたしと二人暮らしは嫌なの?」

「いや全然そういう訳じゃないんだけど...」

「じゃあ、どうして?」

「涙美さんも一人暮らしで大変だと思うし、俺のせいで彼氏さんとかに勘違いされたら嫌でしょ?」

「彼氏?」やばい、涙美の目がまた死んでる。

「そう、彼氏」

「昨日、振られたけど」

 

つづく



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第4話 『「え?お前どこ住んでんの?」「俺?...チェリー・ボーイ」「いや、んなこたあ聞いとらん」』

もうなんか色々と涙美が可哀想である。

 

・・・気まずい。本当に気まずい。黙々と歩き続ける涙美、後ろから着いていく俺。

なにこれ?耐えられないんですけど、誰か助けてっ!

15分ぐらい歩いたところで涙美が足を止めた。ボロボロのアパートの前で。

「着いたよ。ここがわたしの家」涙美がアパートを指差す。驚いた。そのアパートは本当にボロボロでベランダなんかは錆びていた。ここに涙美が住んでいるなんて意外だ。このアパートに涙美は一人で住んでるのか...涙美も大変なんだなと思った。ただ、俺が驚いたことはそのアパートの外観だけではなかった。むしろ壁に書かれていた文字がインパクト強すぎて外観が霞むほどだ。

『メゾン・ド・ビッチ』

うん。名前。なんでここにしたの?もっといいアパートあったでしょ?いや、居候させてもらうんだから文句は言わないけどさ。

涙美がそのアパート『メゾン・ド・ビッチ』に向かって歩きだしたので着いていく。何故か『メゾン・ド・ビッチ』を通り過ぎる涙美。すると後ろにもう一つ綺麗な建物が見えてきた。『メゾン・ド・ビッチ』に隠れていたが後ろにもう一つ建物があった。こちらの建物はあちらとは違いすごくきれいでなんかお洒落な感じだった、テラス?見たいなものも付いていた。

あ、ああこっちが涙美の住んでいるアパートか、そっか、そっか勝手に勘違いしてたよ。こっちの建物なら女子大生の涙美が住んでいても全然違和感はないな。むしろ、すごく似合うと思う。

腕を組ながらしみじみとその建物を見上げる俺。壁になんか書いてある。ああ、アパートの名前か。どんなお洒落な名前だろう?少なくともさっきみたいな名前はないだろう。

『チェリー・ボーイ』

マジでか?いやいや、マジでか?...本当に?

涙美がその建物に入っていく。

「ちょっ!待って!あの壁に書いてあるのって誰かのいたずらだよね!?」

「何が?」涙美は不思議そうな顔をしている。そりゃ、そうか。

「いや、あの壁に大きく書いてある『チェリー・ボーイ』ってなに!?」

「ああ、あれね。」涙美がニコニコしている。

「うん。あれ」

「この建物の名前だ...」

「違うっ!」涙美が言い終わる前に大きな声で遮る俺。何も聞こえなかった。よし、大丈夫。

「違わない、この建物の名前は『チェリー・ボーイ』!」俺の口を手で塞ぎながら涙美が叫ぶ。

...叫ばんでいい。

膝から崩れ落ちる俺。え?これかれしばらくは住所書くとき『チェリー・ボーイ』って書かなきゃいけないの?なんのアピールだよ!!!

「誰がつけたんだろうね?どんな奴か顔が見たいよ」涙目。

「さあ?管理人さんとかじゃない?あ、ほらあそこにいるよ」涙美の指差す方向には見覚えがある人物が。

 

俺の病室に来てた刑事だった。

 

お前かっっ!!!

 

つづく

 

 



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第5話『マスター(仮)と狂戦士(涙美)』

アパートに『チェリー・ボーイ』とかいうふざけた名前を付けたのは『俺ん家全焼事件』の捜査を担当している刑事だった。

 

よりによって、あの刑事かよ。

つーか、何を思ってあんな名前付けたんだよ。すると刑事がこちらに気づいた。涙美がその刑事に向かって手を振り呼び掛ける。

「こんにちは!マスター!暑いねー!」

そうだね。暑いね。暑くて頭をやられちゃったのかな?涙美さん。あの人は信じられないけど刑事さんだよ?なに?マスターって?

「暑いねー、涙美ちゃん。ん?その横にいる子は新しい彼氏かな?こんにちわ」

普通に挨拶をされる。

「こ、こんにちわ」

「ち、違うよ!マスター!!わたしが付き合う人はみんなルックスも良くて経済力もあって頭も良かったよ、...そう元カレは完璧だった。何に置いても完璧だった」あ、なんかヤバイ気がする。

「それに比べてこの子、頭が良いとか経済力があるとか以前に自分の記憶すらないのよ!?」

る、涙美さん?

「挙げ句、この子は女の子の目を見て話せないのよ!?多分チェリーボーイよっ!!!」知ってる?言葉だけでも人は殺せるんだよ?...やばい、立ち直れるかわからん。

「ま、まあ、落ち着きなよ、涙美ちゃん?彼泣いてるよ?」マスター(仮)に気を使われる俺。

涙美が正気に戻る。

「はっ!?ごめん!攻斗、今の全部、嘘!」いやいや。

ん?あれ?このマスター(仮)、俺に気づいていない?別人?もしかしてあの刑事じゃないのか?

「君の顔、どこかで見覚えがあるな、もしかして君よく、警察のお世話になったりする?」

なんと失礼な!記憶喪失なのでわかりません。

あと、お前やっぱあの刑事だろ?

「警察のお世話になんかなってないですよ!というより刑事さん僕のこと忘れたんですか?」

「刑事?ああ兄さんと間違えてるのか」マスター(仮)は言った。

兄さん?双子ってこと?じゃあ、なんでよく警察のお世話になるとか聞いてくるんだ?さっぱりわからん。

「兄さんって『竹内刑事』のことですか?」

「そうそう、僕と兄さんは双子なんだ。兄さん『竹内 右神(うしん)』は刑事、弟の僕『竹内 左神(さしん)』はマスターをやっているんだよ」何故かにやけている涙美。なんかあるな。

で、『マスター』ってなに?ていうか名前、無駄にカッコいいな。財布に入っていた竹内刑事から貰った名刺を確認する。『竹内 信一(しんいち)』と書かれていた。...嘘じゃん!!

「すみません、ちょっといいですか『信二(しんじ)さん』」多分こんな感じだろう。

「「!?」」涙美とマスター(仮)が驚愕の表情を見せる。二人で後ろを向き何やらヒソヒソと話している。

「何故、僕の名前を彼が...?」

「さ、さあ?少しからかうつもりだったのに何で攻斗がマスターの名前を?...あ!攻斗はマスターのストーカッ」

言い終わる前に涙美の肩を掴む。

「で?涙美さん、信二さん、これなんの冗談?」

「いや、せっかく攻斗がこの『チェリー・ボーイ』に来てこれから一緒に暮らすんだから歓迎の意味と顔合わせを兼ねてサプライズを...」いや、意味わからん。サプライズってどれ?

「そうそう、兄さんと涙美ちゃんから聞いてるよ、攻斗君。大変だったね」

「はぁ、ところで信二さん、マスターってどういう意味ですか?」やっと聞ける。

「ああ、はいはい、この『チェリー・ボーイ』は一階が喫茶店になっていて二階がアパートになっているんだよ。だから僕は『チェリー・ボーイ』の管理人兼『喫茶 チェリー・ボーイ』のマスター」

「...お客さん来るんですか?」素朴な質問。

「来るよー、特に男子高校生のグループがよく」

 

その子達はもう駄目だ。

 

つづく

 

 

 



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第6話『チェリー・ボーイの住人』

アパートだけではなく、1階にある喫茶店にまで『チェリー・ボーイ』と名付けていたマスター竹内、この人はアホだ。

 

立ち話もあれだからと『喫茶 チェリー・ボーイ』に案内される俺と涙美。

気は進まなかったが、仕方なく店内へ。入り口には『準備中』の札が掛けてあった、店の中に入ってみて驚いた。ふざけた名前とは正反対のようなお洒落な内装だった。アパートといいこの喫茶店といい見た目は良いけど名前はアレ?みたいなのはなんのポリシー?

 

それと、一つ気付いたことがある。店は準備中のはずなのに店内には既に三人座っていた。眼鏡を掛けた男子高校生が一人と眼鏡を掛けていない男子高校生が一人、それと中学生ぐらいの女の子が一人。あれ?客じゃないのかな?ていうか暗っ!雰囲気が暗っ!なんか三人とも俺のこと睨んでるし。なんで?

疑問の表情を浮かべる俺にマスターが話し掛ける。

「ああ、この子達はお客さんじゃないよ。三人ともここの住人で店が開店するまで皆こうしてここでくつろいでいるんだよ。ちょっとまってね、皆に木村くんのこと紹介するから」

そういってマスターは三人に呼び掛ける。

とりあえず挨拶を。本当に三人共暗いな。まだ、睨んでるし。

「今日からこのアパートに住むことになった木村 攻斗です。よろしくお願いします。仲良くしましょう」まあ、無難に。

三人「・・・」

うん。シカトはやめて?傷付く。

その光景を見て、はっと気付いたようにマスターが一言。

「あ、大丈夫だよ。木村君は涙美ちゃんと一緒に並んでるけど涙美ちゃんの新しい彼氏じゃないよ。彼は涙美ちゃんの従姉だよ。・・・それに」

それに?

「彼は僕達と同類だよ。彼にはここに住む資格がある!」元気よく言い放つマスター。

・・・おい、どういう意味だ?

それを聞いて三人が一斉に、口を開く。

まず眼鏡男子高校生「僕は『佐藤 瞬(さとう しゅん)』といいます。高二です。よろしくお願いします!お互いに頑張りましょう!」おう、節操がない。でどう意味だ?

次に眼鏡なし男子高校生「『鈴村 進(すずむら しん)』高一です。攻斗さんも苦労してるんですね。なにかあったら気軽に声を 掛けてください。お互い諦めず頑張りましょう!」

もう!なんかやだ!コイツら恐い!

最後に女子中学生。

「『邪堂 心(じゃどう こころ)』です。涙美さんの従姉なんですか、そうですか、これからよろしくお願いします」・・・名前。あと声が野太い!

三人が言い終わると同時に涙美が

「三人とも凄い、いい子だからすぐ攻斗も馴染めるよ?」

?を付けるな。

マスターが辺りを見渡して瞬(眼鏡)に話し掛ける。

「あれ?涼太は?」どうやらもう一人いるらしい。

「...彼女が出来たとかで今日はデートだって...チッ!死ねばいい!」瞬(眼鏡)君、妬みすぎ。

「そうか、そうか」マスターはニコニコだ。・・・なんか恐い。

 

店の扉が勢いよく開いた。

「ただいまー!」イケメンの男子が入ってきた。お、噂の涼太か?

マスターがゆっくりとイケメンに近付き、イケメンの首根っこを掴み片手で持ち上げた。

そのまま入り口へ。

「え?え?マスター?ちょっ!」動揺するイケメン。そりゃそうだ。

イケメンを外にポイ捨てし、マスターが一言。

「貴様の帰る家はない」

 

こ、恐ぇぇ!

 

つづく



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第7話『cherry deadend フラグ』

住人達との顔合わせを済ませ、少し歓談をする。マスターが皆に珈琲を容れてくれた。マスターは珈琲に関してウザイくらい説明をしてきたが、よくわからんかったから聞き流した。ただ意外にも珈琲に関してはマスターは凄く真剣だった。曲がりなりにも喫茶店のマスターなんだなと思った。

 

それぞれの前に出される一杯の珈琲。俺と涙美はブラックで、瞬(眼鏡)と進(眼鏡なし)は砂糖とミルクも貰っていた。...で、もう一人の人物、邪堂 心(じゃどう こころ)は青汁を啜っていた。いや、珈琲飲みなよ。

 

青汁を飲み干して心がマスターに一言。

「うまい。マスターの青汁は最高だ」おう、声が野太い。

それに対してマスターは

「いや、それ市販の青汁」

「・・・」黙る心。

 

...ヤバイ、気になる。気になってしかたがない隣に座っている邪道 心(じゃどう こころ)が気になってしかたがない。まず名前が凄い、見た目は完全に中学生女子。だが、声が野太い。更には妙に風格がある。他の二人とは明らかに格が違う。というより、瞬(眼鏡)と進(眼鏡なし)はキャラが薄すぎてヤバイ。眼鏡があるかないかぐらいしか見分けが付かない。恐らくこの小説から自然消滅していくだろう。南無。

先ほどマスターに摘まみ出されたイケメン、涼太。何か叫びながらドアを叩いているが、まあ、こいつもどうでもいい。

 

で、だ。邪道 心(じゃどう こころ)は一体どっちなんだろうか?見た目は女の子。それもかなり可愛い部類に入るだろう。ただ声が野太い。ここにいる誰よりも声が野太い。マスターよりも野太い。

もう男なんじゃないか?

 

本当にどっちだろう?本人に聞いてみるか?いや、なんて?

(君、かわいいよね。で、性別どっち?)...だめだ、失礼すぎる。

よし、涙美に聞いてみるか。涙美に小声で聞いてみる。

「心ちゃんてすごくかわいいけど、女の子だよね?」ど直球。疑問を浮かべる涙美。

閃いたように涙美が、心を呼び出す。...おい、ちょっっと待て。

「攻斗が心ちゃんのことかわいいって!で、性別どっち?だって!」

おい、4行前の文読み返してみろ。俺同じこと言ってるから。

ていうか失礼過ぎるだろ!俺が言ったみたいになってるし。まあ、思ってはいたけどさ。

震えだす。邪道 心(じゃどう こころ)。...これは百パーセントこちらが悪いな。傷つけてしまった。謝ろう。

「あ、あの心ちゃん?ごめんね。悪気はないんだよ?ただあまりにも...」俺が言い終わる前に走り出す心。...一人の女性?を傷つけてしまった。

マスター&瞬&進「「「まずいっ!!!」」」うん。ハモるな。

マスターが心を指差して叫ぶ。

「速く!心ちゃんを追いかけて!攻斗君!」言われなくてもわかってる。心を追う俺。

遠くでマスターがまだ叫んでいる。

「早くしないと攻斗くんは...っ!」

ん?攻斗くんは?

「一生、童貞っ!!!」

ふぁっ???

マスターが続ける「...の果てに死ぬっ!!!」

 

・・・

 

え?俺、一生童貞で死ぬの?

 

つづく



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第8話『眼鏡っ娘で僕っ娘で薙刀っ娘の彼女』

どうやら俺は一生童貞で人生の幕を閉じるらしい。...やだ、泣きそう。

俺は『邪道 心(じゃどう こころ)』を全力で追っていた、が一向に距離が縮まらない。だって、俺は全力で走っているけど彼女?はビックスクーターに乗っていて爆走だもの。

ていうか、もう見えません。あの人、中学生じゃないの?

 

すると、後方から涙美の声が聞こえてきた。

「攻斗ー!早く乗りなー!!」力強く言い放つ涙美。...いやいや。変わらん。ママチャリじゃあ、あの爆走してるビックスクーターとの距離は縮まらん。

「もう!早くしないと間に合わなくなるよ!?」と涙美。だからってママチャリに乗ってこられても...。

一向にママチャリに乗らない俺に涙美は呆れたように溜め息をつき、ポケットから携帯をとりだし誰かにかけだした。3分ぐらい電話の相手と話している涙美。一体、誰と話しているんだろう?

おっ?電話が終わったようだ。

「誰と話してたの?」涙美に尋ねる。

「心ちゃん」即答。なんで?

「なんか心ちゃん、許してくれるって」

おっ?急にどうしたんだろう?

「攻斗のこと色々話したら、なんか許してくれるって!」色々?

「色々って、なに話したの?」

「ああ、記憶がないってこととか叔母さん、叔父さん、家のこと」それはもう、全部じゃん。憐れみだよね?多分憐れみで心ちゃんは許してくれたんだよね?

「あ、そうそう今日の夜、マスターが歓迎会兼、送別会開いてくれるって言ってたよ」マスター、俺が結局、死ぬって思ってるよね?まあ、結果的には歓迎会のみになるわけだからいいとしよう。

 

チェリー・ボーイに戻ろうと言う涙美。...なんか深い意味があるように聞こえるがチェリー・ボーイとはアパートの名前だ。雑談をしながらチェリー・ボーイに戻る俺と涙美。ふと思い付いたことを涙美に話す。

「邪道 心(じゃどう こころ)ちゃんは本当にキャラ濃いよね。それに比べてあの男二人はキャラ薄すぎるけど大丈夫?」男二人とは眼鏡を掛けた高二「佐藤 瞬(さとう しゅん)」と掛けていない「鈴村 進(すずむら しん)」高一のことだ。

「男二人って?進君と...」そうそう、進君ともう一人。

「マスターのこと?」いやいや、マスターはキャラ濃いでしょうが心ちゃんに次ぐぐらい濃いでしょうが。まさか、涙美にも忘れられるほどなのか?瞬は。だとしたらもう南無。

「いや、瞬のこと忘れてない?」瞬の存在を促す俺。

すると、涙美は何を言っているのかわからないといった表情をしている。

「え?瞬ちゃん?」ん?ちゃん?

「瞬ちゃんは女の子で、薙刀の達人だよ?ちなみにマスターの姪だよ?キャラ薄いかな?」

 

...え?瞬って女の子だったの?ていうか整理するとこういうこと?

 

『佐藤 瞬(さとう しゅん)』

・高校二年

・性別 女

・僕っ娘&眼鏡っ娘

・ボーイッシュ

・マスターの姪

・薙刀の達人

 

キャラが濃いっ!!!そしていよいよ、進の立場がない。

 

つづく



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第9話『なぎなタワー』

一生童貞のまま人生を終えるというフラグを、回避した俺『木村 攻斗(きむら こうと)』はアパートの大家であるマスターが歓迎会を開いてくれるとのことなので帰路についた。

 

従姉の涙美と二人でチェリー・ボーイ(アパート)に帰る途中で発覚した衝撃の事実。キャラクターが薄すぎて自然とこの小説から消えると思われていた『佐藤 瞬』。彼には実は沢山のキャラ要素が付いていた。そう、彼は彼女だった。

 

...まあ、ぶっちゃけ作者の気紛れで色々とキャラ付けをされただけの瞬なんだけど。

 

俺と涙美がチェリー・ボーイに着いたら、その瞬が出迎えてくれた。

「おかえりー、二人とも」と瞬。律儀にも薙刀を持って立っていた。前髪も下ろし女の子らしくなっていた。頭に鉢巻きも巻いていた。

その鉢巻きには「滅殺」とか書いてあったけど気にしないことにした。

「あ、そうそう良かったね、攻斗さん、心が許してくれたんだよね?」と普通に会話を進める薙刀っ娘の瞬。なんかチラチラこちらに視線を向けてくる。

...なんだろう?ツッコミ待ちなのかな?だが、面倒くさいのでノータッチで行くことにした。

「そうなんだよ、なんかよくわかんないけど(憐れみで)心ちゃん許してくれたんだよー」

すると瞬は頬を膨らませてふてくされていた。

見た目も女の子らしくなっていたので、最初の印象とのギャップもあり、不覚にも少しかわいいと思ってしまった。

 

そして次の瞬間、チェリー・ボーイの玄関の横に停めてあったビックスクーター(心のだ。)に向かって勢いよく薙刀を突き刺した瞬。まだ頬を膨らませていた。

 

コイツもマジか?衝撃的過ぎて開いた口が塞がらなかった。

「ちょっ!なにやってるの!?瞬!?」と俺。いや本当になにやってるの?瞬?

「攻斗さんがスルーするから...」

 

え?俺がスルーしたから?ある意味、ボケにたいしてノータッチというのはそれはそれで返しとすてはアリだと思うんだけど?...そんなことより薙刀!!!

心のビックスクーターに綺麗に突き刺さってるんだけど!なんか細い塔みたいになってるよ!?

「なんで薙刀、ビックスクーターに突き刺しちゃうの!?」

「そこにあったから、僕の『瞬殺(しゅんさつ)』が唸ってつい...」あ、その薙刀、『瞬殺(しゅんさつ)』って名前なんだ。いや、どーでもいいわ!!で、唸ったって、何!?

 

「...あーあ、攻斗のせいで」と涙美。

え?俺のせいなの?本当に?てゆうか涙美さん一言も喋らなかっからいるかどうか怪しかったけどいたのね。...この状況をどうすればいいかまるで考えが付かない。

ビックスクーターに目を向けると瞬が薙刀を抜こうとしていた。ガンガンッ!、とビックスクーターを蹴りながら。

 

いやいや、こんなん心が見たら洒落にならないって!本当に!とりあえず心に見つかる前になんとかしなきゃ!(←フラグ)

 

ガサッ!背後から物音。恐る恐る、後ろを振り向く俺。

 

心が立っていた。右手には鳩が握られていた。は、鳩がめっちゃ暴れてる(汗)。羽根が周りに尋常じゃないくらい散らばっていた。

 

涙美と俺のファインプレーでビックスクーターを心に見えないように隠す。まだ、見られてはいない筈だ大丈夫。

「そ、その鳩どうしたの?心ちゃん?」何故に手掴みで鳩を...。

「ん?今日攻斗さんの歓迎会やるって聞いたから七面鳥、採ってきた」と心。

 

いや、それはただの鳩っ!!!

 

つづく



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第10話『やつの名は「七面(しちめん)」』





...

アパート『チェリー・ボーイ』の玄関前。

薙刀が突き刺さったビックスクーターを二人係で覆い隠す男女。腕を組み、頭には「滅殺」と書かれた鉢巻きを巻いて立っているボーイッシュな女子。右手に鳩の足を握り逆さまに鳩を持って立っている女子。その女子の手に握られながら尋常じゃないくらい暴れている鳩。

 

なにこれ?めちゃくちゃシュールなんだけど。

 

簡単に前回のあらすじを説明しよう。

瞬がふてくされて薙刀を心のビックスクーターに突き刺した。心に、見つかる前に何とかしようと考えている所に心参上。見つからないようにビックスクーターを二人で覆い隠す俺と涙美。ビックスクーターの持ち主の心は右手に握られている鳩を七面鳥と言い張る。...と、まあこんなとこだ。

 

「二人で何を隠しているの?」

俺と涙美を見て心が質問してくる。心なしか険しい顔の心。ヤバイ、気づいてる?

その質問はもっともだけど右手の鳩を離しなさい。

「「イイヤナニモ」」答える涙美と俺。もちろん二人とも目が死んでいる。

ガンッガンッ!と俺と涙美の背後から聞こえる音。ん?なんの音?いや、まさかな?顔を見合わせる俺と涙美。...恐る恐る後ろを振り返る。

 

瞬がビックスクーターを蹴りながら薙刀を抜こうとしていた。絶句。

 

「この状況はどういうことなのかな?」右手に鳩を持ち、野太い声で質問してくる心。いや、俺が聞きたいよ!それはそうとあなたはその鳩を離しなさい。

下に顔を俯けながらスッと俺を指差す、涙美と瞬。おい、なにしてんだ?このやろう。

それを見た心は「...やはり、貴様か?」と俺に質問を投げ掛ける。

やはり、ってなに!?俺じゃないよ?あと鳩がさっきから全然動かないけど大丈夫?

「俺じゃなっ...!」言い終わる前にビンタされた。涙美に。痛ってぇ。なにすんの?

「いいからっ!」とビンタしたあと俺の肩を持ち力強く言い放つ涙美。なにがいいの?

「いや、だから俺のせいじゃっ...!」言い終わる前にビンタされた。瞬に。マジでなにすんの?

「いいからっ!」と瞬。え?最終的にはこんな感じ?俺が全部悪くなる感じ?

そのやり取りを見てた心が俺に聞いてくる。「で?この状況の原因は?」

「...すみません。俺です」俺が言ったと同時に心からもビンタが飛んで来る。右手で。俺の頬を撃ち抜いた右手。鳩は?...俺の横に転がっていた。...は、鳩。まだ微かに動いていた。よ、よかった。

 

この鳩にはシンパシーを感じる。俺が保護し大切に育てることにしよう。名前はそうだな、「七面(しちめん)」なんてのがいいんじゃないかな。よし、そうと決まれば色々と用意しなくちゃな。

 

鳩(しちめん)の代わりに大きな石のブロックを握って立っている心。

 

俺が無事だったら。

 

つづく

 

 



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第11話『夢落ちだと信じたい』

体に力が入らない。記憶喪失の俺、『木村 攻斗(きむら こうと)はベッドの上にいた。 ...え?また?全然覚えてないんだけ...ど?ベッドの横に視線を向ける。

 

俺のベッドの横には『邪堂 心(じゃどう こころ)』が座っていた。心は本を読んでいて俺には気付いていないようだ。

 

回想中...

お、思い出した。確か瞬が心のビックスクーターを薙刀でぶっ刺して、なんだかんだで全部俺のせいになって近くにあった手頃な石で心に頭を殴打されたんだった。...恐っ!!!

なんでこの娘、あたかも看病してるかの様に横に座ってるの?恐っ!!!

 

心がこちらに気付き野太い声で一言。「良かった、無事で」いや、お前が言うな!なにをさらっと言ってんだ!

続ける心。「意識が戻ったんですね。攻斗さん。大丈夫ですか?わたしのことわかりますか?」わかるに決まっている。『修羅』だろ?ていうかあなたが俺を気絶させたんでしょ?取り敢えず質問に答えよう。

「修羅?」すかさずアイアンクローが飛んで来る。痛い。俺いくらなんでも散々すぎるだろ?さすがに怒るよ?

「いや、心ちゃんが石で殴ったからこうなったんじゃん!」迫真。

「石?」疑問の表情を浮かべる心。え?覚えてないの?恐っ!

続ける心。「攻斗さん、覚えてないんですか!?攻斗さんはわたしが殺る前に突然倒れたんですよ?」もう『殺る』って字がおかしいじゃん。あれ?じゃあ俺なんで倒れたんだ?

心に尋ねる。「じゃあ、俺なんで倒れたの?」

「さあ?」まあ、そりゃそうか。...ん?なんか後頭部に違和感がある。ていうか後頭部が痛い、ヤ

バイ尋常じゃないくらい痛い。なんで?後頭部に手をあて確認してみる。

 

...な、なんか刺さってるー!!!しかもそこそこ大きい物体が。なにこれっ!?痛い!痛い!マジ痛い!つーか、ベッドに寝かせる前にまず抜いて手当てしてくれよ!

 

「心ちゃん!俺の後頭部、なんか刺さってるよね!?」涙目で訴えかける。

「え?」俺の後頭部を確認する心。気付いてなかったのマジで?いや、まさかね。

「あ、本当だ」気付いてなかったんかい!ところでなにが刺さってんの?滅茶苦茶痛いんだけど!

「心ちゃん、俺の頭に刺さってるのなに!?早く抜いて!」

「カブトムシ」と心。

すまない。よく聞こえなかった。

「...はい?」聞き直す。

「カブトムシ。あ!オスのほうです」

いや、オスかメスかなんてのはどうでもいいんだよ。なんで俺の頭にカブトムシが突き刺さってるの?ていうか俺の頭にカブトムシ刺さってるのにそれに気付かなかったって心ちゃんすごいな!ところで頭にカブトムシが突き刺さってるってなに?もう!涙美も瞬も見当たらないし、怖いから触れないでいたけども七面(はと)も見当たらないし。この状況はなに!?わからん、わからんよくわからん全然意味がわからん。パニックだ。で、なんで心ちゃんはカブトムシを抜いてくれないの?

 

ガラガラッ!

俺がパニックになっていると部屋の扉が勢いよく開いた。

姿を見せたのは涙美と瞬だ。七面(はと)は?

ん?後ろにもう一人いる。見たところ普通の男子高校生か。なんかどっかで見たことある気がするか気のせいだろう。もう、なんでもいいから俺の後頭部にいるのを誰か抜いてくれ。

するとその高校生が俺を見て一言。

「すみません、まさかこんなことになるなんて...」

 

...いや、まず君は誰?

 

つづく



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第12話『もう、なんかスピンオフ』

主人公『木村 攻斗(きむら こうと)』の頭にカブトムシが突き刺さる少し前のお話。

 

今回は主人公とは別の人物を主役にあてた物語。

個性がゼロに等しい男子高校生『鈴村 進(すずむら しん)』。作者でさえ、うろ覚えなモブの中のモブだ。うん。本当にモブだ。ていうか自分が書いた小説を読み直さないと名前すら浮かんでないキャラクターって一体?...ま、まあ気を取り直して。今回はそんな彼をモブキャラというカテゴリーから救済するお話。では。

 

...おかしい。どうもおかしい。この小説内での俺、『鈴村 進(すずむら しん)』の扱いが酷すぎる。初登場時は『邪道 心(じゃどう こころ)』には敵わないにしても『瞬(しゅん)』とは同等の立場だった筈だ。それなのにいつの間にか瞬はいくつかの個性を獲得し今じゃほぼレギュラーだ。何故だ?この差はどこで生まれたんだ?何か作者には考えがあるのか?

(すみません。何も考えていませんでした。ただの気紛れです。by作者)

 

まあ、いい。今回は俺が主役ということでこの機会に俺もキャラを確立させ次回からレギュラーとしてこの小説に参加しよう。まずは俺のキャラクターとしての個性を考えなくては...。俺の特徴を抜き出してみよう。

 

・童貞

 

やばい、泣きそう。俺のキャラクターとしての個性は童貞だけだった。童貞キャラ?いやいや、んなのは死んでもごめんだ。何よりこの小説内ではそんなことは個性でもなんでもない。だってみんなデフォのように持ってるもの。他は?他に俺に個性はないのか?...本当に俺ってモブなんだなぁと実感した。いや、別に今の段階で個性がないんだったらこれから作ればいい、そうだそうしよう。誰にも被らないような俺だけの個性。『鈴村 進(すずむら しん)』というなの個性を!

 

で?どんな?パッと思い付けば苦労しないんだけど。あとこの小説の作者はそんなに急に新しい個性あるキャラクターを考えるのは無理だよ?そんなにポンポンいいキャラクターが思い付いてたらどんどん出してるし。もう取り敢えず、語尾に『ござる』って付けておくか?

 

うーん、そうでござるなぁ。なんか他にないかなぁ。

ん?ふと足元を見ると何かが俺のズボンに張り付いていた。なにこれ!?...カブトムシ?なんで?いや、そんなことを気にしている場合ではな、...おっ!でもこれいいじゃん!常にカブトムシを持ち歩く男子校高校生。なかなかじゃないか?いや、待てよ。まだ少し弱いか?どうしたものか?

そういえば最近、庭の木にマスターがダーツの的を取り付けてたな。ダーツの代わりに自在にカブトムシを投げて的を射る男子校高校生。...これだっ!!!

 

思いたった俺は庭に行き、ダーツの的に目掛けてカブトムシを放った。

 

つづく



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第13話『「なんとかして能力バトル小説に...(攻斗)」「無茶言うな(作者)」』

前回までのあらすじ

頭にカブトムシが突き刺さった主人公、俺『木村 攻斗(きむら こうと)』のもとに謎の男子高校生が現れた。誰だ?こいつ。見たことない。

 

男子高校生は俺を見て、こう言い放った。

 

『すみません。まさかこんなことになるなんて...』

 

だよね?思わないよね?俺も自分がこんなことになるなんて思わなかったもん。

それにしても、いったーい!いやいやいや、マジで痛いよ!?頭にカブトムシが刺さってるっていう状況がワケがわからなすぎて既にイタいのに、肉体的にも尋常じゃないくらい痛いよ!?

ん?なになに?どゆこと?てことは犯人は『心』じゃなくてこの知らない男子高校生か?なんで?俺になんの恨みがあってこんなことするの?

 

なんでいきなり知らん奴にカブトムシを頭に突き刺されないといけないの?

「...」

「...」

お互いに沈黙。やっぱりコイツが犯人てことか。

 

気まずそうに男子高校生がゆっくりと口を開く。

「すみませんでした。攻斗さん。ちょっと手元が狂ってしまって。まさかカブトムシがあんなに綺麗な放物線を描いて攻斗さんの頭に吸い寄せられるとは思ってもみなかったので...。あ、あの!悪気はなかったんです!ただ...」

...ただ?

「自分にあったナイスなキャラ付けをしようと思って!!!」

 

よし。わかった。コイツはヤバイ奴だ。確実にヤバイ奴だ。さっきから気安く呼んでくるし。キャラ付け?何を言っとるんだね君は?百歩譲ってキャラ付けをしようとしたとしてもだ、カブトムシを人に向かって投げるのはやめなさい。危ないから。というか俺はコイツになんて言葉を返したら良いのだろう?コイツはヤバイ奴だから何をするかわからない。取り敢えず刺激しないように言葉をオブラートに包んで返そう。そう、刺激しないように。落ち着いて紳士的に。

 

「君は頭が可笑しいのかね?(真顔でど直球)いきなり見知らぬ人物にカブトムシを投げつけるとはどういう了見だゴラァァぁぁあ!!?」

 

心、爆笑。

...おい、笑うなや。

 

「こ、攻斗さん?落ち着いて下さい!」男子高校生が言う。

「う、うるせぇぇぇえ!!まず誰だ!?貴様は!名を名乗れいっ!!!」

 

「誰って...『進』ですよ。『鈴村進(すずむら しん)』。この前会ったばかりじゃないですか?ほら?『瞬』と『心』と一緒にいた!」

 

「...」

「...」またまた、沈黙。

 

『鈴村 進(すずむら しん)』?ヤバイ、全然思い出せない。

 

「し、知らんっ!!!誰だ!?貴様は名を名乗れい!!!」

「いや、だから名乗ってるじゃないですか!」

 

心 、爆笑。

頭に突き刺さっているカブトムシも驚くぐらい元気だ。

 

続く

 



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第14話『僕と契約してry...おい、やめろ!(攻斗)』

このよくわからん。『進』とかいうクレイジーなやつのことは放って置いてそろそろ、話を進めていきたいと思う。

 

ところで皆さんはお気付きだろうか?この小説は始まって以来殆んど日数が経過していない。そろそろ話を進めていかないと、ぐたぐたになり過ぎて着地点を見失いそうなので話を進めていきたい。

 

...あと、先ほどまで爆笑していた『心』が我にかえったかの様に俺の頭に刺さっているカブトムシを引き抜き、しきりに「わたしの相棒をどうしてくれる?」ととても野太い良い声で呟いてくる。超怖い。怖すぎる。カブトムシがミシミシ言ってるもん。ヤバイよ。この人。

 

んー?改めて考えるとこの小説のキャラクターはヤバイ奴しかいないな。早く!マトモなキャラを一刻も早く!!!

 

...ゴフッっっっ!!!みぞおちに強烈な右ストレートを決められる。

「だから、わたしの相棒をどうしてくれる?答えは二つだ。」と心。

 

ふ、二つ?しゃべり方カッコいいな。

 

「わたしの相棒の代わりにあなたがビックスクーターになるか、...死ぬかだ!!!」

 

もう、この人サイコだろ?だって考えがワケわかんないし、危ないもん。

 

すると、まるで助けにきたかの様に病室のドアが開いた。『涙美』だ。

あー、この人じゃ駄目だ。全然駄目だ。今のところの登場キャラの中で最も駄目だ。寧ろ、やっかいなのが一人増えただけだ。

「いいえ!答えはもう一つあるわ!」はいはい。相変わらず元気ですね。

続ける涙美。

「攻斗が魔法少女になって、心ちゃんの願いを一つ叶える!」

お、俺が魔法少女に...?ドクンッ!(衝撃)

 

ってあほか。ワケわからんわ!どゆこと!?つーか、どこで覚えた?

後ろを振り返ると『はっ!その手があったか』と両手を叩き、涙美に親指を突き立てる心。いやいや、そんな手はない。

 

戸惑う俺に心は野太い良い声で耳を疑うような一言を発する。

「攻斗さん。相棒(ビックスクーター)の代わりにわたしと付き合いなさい」

 

え?心ちゃんはビックスクーターを彼氏として見てたの?というか何?この展開?作者は何を考えてるの?これから先、ちゃんと話まとめられるんだよね。

 

(大丈夫!...だよ? by作者)

おい。

 

俺が心ちゃんの彼氏になるの?心ちゃんに確認をとる。違ってたら超恥ずかしいなこれ。自惚れもいいところだろう。

「はい?」不思議そうに心ちゃんが首を傾げる。

 

...ち、違ってたぁー!!!恥ずかしっ!俺、超恥ずかしいじゃん!

じゃあ、『付き合いなさい』ってなんのことなの!?と顔を両手で覆いながら心に聞く。

 

心が答える。「???」

心の答えに衝撃を受けると同時に俺は作者をぶっ殺そうと決めた。

 

そして黙って佇む『進』...君はもう帰りなさい。

 

つづく

 

 



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