藤原を追うもの (stingray)
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誕生“秋名のハチロク”
割り込み車


初めて書きます。
ギャァァァアアア ゴワァァァアアア
言ってる漫画を文章にするのは苦労しますね。


「くそ、しけてやがる。今日は来ねぇんかな、毅さんを負かせたっていうハチロク」

 

「あの32に勝てるなんて普通じゃねえからな、どんなマシンなのか気になるぜ」

 

 

その日、秋名の頂上には普段見慣れない車が止まって居た。

黒のS13シルビアと黒のSW型MR2である。車自体は、峠ではごくごく当たり前の組み合わせだ。

しかしこの2台は、地元チームの“秋名スピードスターズ”のメンバーではなく、妙義山をホームにする“妙義ナイトキッズ”のメンバーなのだ。

 

この2台が秋名に来ているのは訳がある。

 

この夏、群馬エリアの走り屋達からすれば、とてもセンセーショナルな出来事が発生したのだ。

それは、群馬エリアで1、2 を争うトップドライバー。通称“赤城レッドサンズの高橋兄弟”その弟、高橋啓介が、愛車FD3Sで負けたのだ。それも、スプリンタートレノ“AE86”に。

 

 

連勝を重ねていたレッドサンズに初黒星を付けた“秋名のハチロク”に、群馬中の走り屋達が興味を向けた。

 

 

その証拠に、つい最近、秋名ハチロクに挑んだものが居た。それが、妙義ナイトキッズのリーダー、BNR32使いの中里毅であった。

GTR使いとしてかなりの使い手である中里もハチロクに負けてしまい、秋名のハチロクは完全に時の人である。

 

 

そんなハチロクを一目見ようと、あわよくば勝負を引っ掻けようとしたのがこの2台である。S13の助手席に乗っていた三人目が、下から上ってくる一台のエキゾーストノートを拾った。そして現れたのは、一台の白のカローラレビンであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

「ひゃー!たのしー!やっぱり峠はたのしいよぉ!」

 

 

「ああ、そうだな…(乗ってるこっちからすれば怖くて仕方がないがな)」

 

 

納車したばかりのハチゴーレビンを操る武内樹は、初めて自分の手で車を操り、峠を攻める快感に夢中になっていた。

ちなみに助手席に座る“秋名のハチロク”こと藤原拓海は、あまりの下手くそさと怖さに若干顔が青ざめていた。

しかしそれと同時に、高校生にして念願のレビン(ハチゴーだけど)を購入した樹に対して憧れと喜びを持っていた。

やはり自分の車を持っている者は羨ましいのである。

 

 

(本当によかったな。樹)

 

 

 

拓海が樹の運転に酔いそうになっている中、ハチゴーは秋名の頂上に到着した。そして二人は、ナイトキッズのメンバーと遭遇する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果的に言えば、樹の宝物であるハチゴーは、ナイトキッズのメンバーにバカにされてしまったのだった。

ガキがいっぱしにハチロクにのって走り屋ぶっていているのが腹立つ。更にクソダセェ音だしてるという彼らからすれば、端からドノーマルの4A-GエンジンのAE86乗りと思ってなめてかかれる要素がたくさんあったが、まさか更に古いフケが最悪と言われている3A-UのAE85だとは夢にも思っておらず、気づいたときには笑いが止まらなくなってしまったのだ。

 

その日の昼間に池谷達に既に笑われていた樹は、自慢のハチゴーに自信を失ってしまっていた。

 

 

「許せねぇ、イツキ!俺にちょっとだけこの車。運転させてくれ!」

 

 

嘲笑ったまま去っていった2台を睨み付けたまま、拓海は樹にそう申し出た。

 

 

「ええ!無茶だよ!これはハチゴーだぞ!?サスだってスカスカだし、タイヤ70だぞ!?LSDだってついてないし!」

 

 

「LSDってなんだ、知らねーよそんなもん。いいからベルト!」

 

二人はシートに座り、ベルトを付けた。

 

「見てろよイツキ…。皆が笑っていた、この車の本当の限界を今から見せてやるから!!」

 

拓海は83馬力とは思えない様なホイルスピンをさせ、あの2台を追いかけ始めた。

 

そしてまだ、二人は気づいて居なかった。これから起きる出会いが、とても重要になることを。

 

 

 

 

 

※※※※※

 

 

ナイトキッズの二台は、急勾配な秋名のダウンヒルをドリフトしながら攻めていた。

サイドブレーキを引いてきっかけを作り、発生させたオーバーステアをスピンさせないように走る。

遊びの域を出ない走りだが、そのドリフトの安定性にはそれなりの経験がにじみ出ていた。

 

「いぇーい!決まったぁ!!」

 

「げはははははっっ!!」

 

S13のドライバーとナビシートの男は、少々上機嫌だった。

秋名のハチロクには会えずじまいだが、自分より下の存在に対してマウントをとることは、それなりに心地よいものだった。

ルームミラーに後続車のライトが映るまでは。

 

 

「ん?おい、何かが追ってくるぜ。」

 

「あっ?秋名のイモが、俺にケンカを売ろうってか。おもしれぇ、軽くぶっちぎってやる。」

 

髪を後ろで縛ったS13のドライバーは更にアクセルを踏み込む。

ストレートでその差を広げるが、コーナーへの突っ込みで縮められる。

 

「なんだ後ろの車!?コーナーメチャクチャはえぇ!?」

 

「…なぁ、さっきまで暗くてわからなかったけれどさ、後ろの車、あのハチゴーじゃねぇか!?さっき頂上で見たやつ!?」

 

「な!?バカなこと言ってんじゃねぇ!!ハチゴーがこんなはえぇわけ……げぇ!?ホントだ!!?さっきのハチゴーだぁ!?」

 

「あのガキどもふかしやがったな!?本当はハチロクなんだろ!?」

 

ハチゴーに煽られているという事実を信じたくなかった二人は、追ってきているレビンはAE86であると決めつけていた。

しかし残念ながら3A-Uを搭載したハチゴーである。しかもノーマルのかなり状態のいい、走りとは無縁な代物というおまけ付き。

ハチゴーに追われているショックで、その更に後ろに居た車に追いつかれていることにまで、ナイトキッズの二台はまだ気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 

※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(さっきから後ろに一台張り付いてる。あの車、はやい!)

 

 

早い段階でナイトキッズ達に追い付いた拓海は、前の車を抜くための隙を探しながらも、かつて無い追い詰められ具合に少々焦っていた。

拓海の心情を支えていたのはこのハチゴーのお陰である。ちっとも走り向きじゃないこの車だから追い付かれているという言い訳にも聞こえるような気持ちが心の隅に欠片のように存在し、その気持ちが自分のドラテクを肯定しているのであった。

 

 

コレがもし普段乗っているハチロクだったとしたら、もっと早めに拓海の心は折れていたかもしれない。

秋名最速と言われていようが、バトルした回数はたったの二回。しかも両方追い抜きのシチュエーションである。

追い付かれるプレッシャーを味わった経験など、天才の彼は皆無なのだ。

 

「あのー、たくみさん??さっきから黙ってるけど、俺そんなにうるさかった!?」

 

さっきまで助手席でギャーギャー喚いていた樹も、拓海の普通ではない表情に、ふと我に帰り尋ねた。

自分の声で走りに集中出来ず、不機嫌になってしまったのかと不安になったからだ。

それでも、ナビシート用のグリップを握ってガタガタ震えては居るが。

 

「…違うよ樹。後ろに来ている車に抜かれないように必死なんだ俺。」

 

「へっ?」

 

樹が後ろを向くと、確かに真後ろに一台車が追い付いていた。

 

「ほっ、ホントだ!!いつの間に!?」

 

「…っう、この人、上手い!!」

 

前にナイトキッズの二台が詰まっており、後ろから正体不明の一台が迫ってくる。

がんじがらめの状態から抜け出そうとした拓海は、まずは前の二台を追い抜くことにした。

 

秋名も後半に差し掛かり、秋名名物五連続ヘヤピンが待ち構えていた。

拓海はここで勝負を仕掛ける。前の2台が悠長にブレーキングしているなか、それよりも遅いタイミングでブレーキングに入り、オーバースピードでコーナーに進入。

一見クラッシュ一直線に見えたが、ここで秋名のダウンヒルスペシャリストの本領発揮である。

秋名の山には時折、路肩に傾くタイプの排水溝が存在し、彼はこの排水溝にイン側のタイヤを引っかけて本来以上のタイヤのμを発生させているのだ。

こうしてナイトキッズ達は、インからスパーンとハチゴーに追い抜かれた。

 

 

「はぁー!?何が起きたんだ!?」

 

 

「なんだあのクルマ!?ひっでー足回りなのにめちゃくちゃはぇえ!何で抜かれたのか全然わかんねぇ!」

 

 

ナイトキッズ達は、酷い状態のハチゴーになぜ抜かれたのかわからなかった。そして、呆然としていたら呆気なくその後続車両に抜かれてしまった。

彼らの目に写ったのは、全体的にほとんどノーマルの外観で、パープリッシュシルバーツートンのカラーリングを纏った後期型S13シルビアであった。

 

 

「おい!あんなシルビアさっきまで居たか!?」

 

 

「わからねぇ!!一瞬バックミラーに写ったとおもったら消えて、その後一瞬で抜かれちまった!?訳がわかんねぇ!!」

 

 

男達はその後、秋名には幽霊がいると触れ回り、仲の悪い筈のチームメイトからも心配されることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハチゴーに続いたS13のドライバーは、コーナーでハチゴーを追い抜けるか試してみることにした。

まずは五連続ヘヤピンのすぐ後の二連続ヘヤピン。それまで緩めていたアクセルを床まで踏みつけ、ハチゴーとのブレーキング対決へ持ち込む。それを肌で感じた拓海も、応じるようにハチゴーのアクセルを踏み込む。

迫る右コーナー、うねりをあげるエキゾーストノート、スキール音、2台のアンサンブルが秋名の山に鳴り響く。

拓海がセオリー通り外側に行くのに対して、S13はイン側に着く。

しかしまだ鼻先をハチゴーのテールに寄せただけで、これでは追い抜き用のラインを確保できない。

しかも、イン側はラインがタイトになるため、タイヤのμがないとろくに曲がれない。

それこそ拓海の十八番、溝落としでも使わないと。

そこでS13のドライバーはブレーキング競争へ持ちかけておきながら、拓海より早いタイミングでブレーキングを始め、すんなりと拓海が前に出てからブレーキングをした。

 

拓海がオーソドックスにアウトインアウトに攻めるのに対して、S13は早めにドリフトを始め、早めに立ち上がりの体制に入った。

拓海が速い速度でのコーナー侵入を生かしたラインに対して、S13は加速重視のラインである。

 

拓海はいまいち実感していなかった。今操っているのは普段のハチロクではなく、イツキのドノーマルのハチゴーだということを。

踏んでも前に進まないフケの悪いエンジンだということを。滑り出したら止まらない70のノーマルタイヤだということを。

 

 

拓海はいつもの四輪ドリフトを繰り出したが、いつもより外に広がっていく。

軌道修正するために内側への推進力を強める一方、前への加速力は伝わらない。

 

その間に減速をして早めに立ち上がりの体制を作っていたS13は、拓海の開けたイン側に持ち前のパワーを使いボディを入れる。そして次の左コーナーで頭を抑え、外から豪快にオーバーテイクをした。

 

その後拓海が、ストレートでもコーナーでも差を縮めることはなかった。

 

コレが、拓海が初めて抜かれた経験である。

いつものハチロクであればここまですんなりと上手くはいかなかっただろう。

ハチゴーというクルマの特性を後ろから見て、抜かし方を選んだ相手の作戦勝ちである。

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

「拓海、気にするなよ、俺のハチゴーだったんだしさ。」

 

「いや、車のせいじゃない。あの人は、俺をカーブで負かした…。上手い人だ。」

 

 

秋名峠の麓で、二人は缶コーヒーを飲みながら、「チリチリ」と鳴いているエンジンを休めたハチゴーを眺めていた。

 

「でもさ、確かにあのシルビアは速い人だったかもしれない。けれど他の二台には勝ったじゃん!!」

 

樹は嬉しそうにハチゴーを眺めていた。

 

「パワーが無くたって、腕さえあればハチゴーでも勝てるんだ。もしパワーが必要になったら、エンジン載せ変えたりしてさ、もっと早くするんだ!誰かにバカにされたって、もうちっとも気にならねぇや。やっぱ最高だよ!俺のレビン!!クゥ~!!」

 

「俺はお前のそういうところ、羨ましいぜ。」

 

 

拓海は、自分の車を持つことの大切さを、樹から学んだ。

 

 



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一夜明けて

久しぶりです


「なにぃー!?拓海が負けたぁ!?」

 

 

翌日、拓海といつきがバイトをしているガソリンスタンドに叫び声がこだました。

二人の先輩社員である池谷浩一郎と店長である立花祐一のものである。

 

 

「た、たくみ!、それは本当なのか!?」

 

 

「いつのことだ!?文太からは何も聞いてないぞ!?」

 

 

二人に詰め寄られ拓海は若干引いている。

 

 

「それが本当なんですよぉ~!まぁ、負けたとは言っても乗っていたのはハチロクじゃなくて俺のハチゴーだったんですけどねぇ…」

 

 

いつきの言葉に二人はあからさまに「なぁんだ~」と安心した表情を見せた。

 

 

「でも俺はあれは負けたと思ってますよ。上手いだけじゃない。車をしっかり操った上で、何が一番効率が良いのかを考えてそこを突いてきた。アイツは…早いです」

 

 

拓海は、普段の気の抜けた表情ではなくて真剣な眼差しでそう呟いた。

そして池谷は走りについてそんな表情をするようになった拓海と、そんな表情を拓海にさせるそのドライバーに感心した。

 

 

「いやーきっとすごいんだろうなそいつは、拓海に早いなんて言わせるとは。どこの誰なんだ?高橋涼介とか?」

 

 

池谷は誰が拓海を抜いたのか気になって仕方のないようだ。

この話になる前は拓海がハチゴーでナイトキッズの二人をごぼう抜きしたことから始まった。ナイトキッズの走り屋ということは、よほど下手とかじゃない限り、ハチゴーなんかに負けるはずが無いのだ。

それを負かした拓海のドライビングテクニックは、例えハチゴーであっても、並以上の速さであることがうかがえる。

そんな拓海を抜いた走り屋がどんな奴か、気にならない筈が無いのだ。

 

 

「いや、それが地元の走り屋じゃなくて、遠くに引っ越しちゃった俺たちの元同級生だったんですよねぇ~、驚いたことに」

 

 

あっけらかんといういつきだが、池谷と立花の驚きはそんなものではなかった。まさか負けなしの拓海を(クルマがハチゴーとはいえ)倒したのが元同級生。つまり普通に考えたらそのドライバーも18歳なのである。

 

 

「なんてこった…拓海が特例かと思ってたが、ここにも年下の天才ドライバーが現れるなんて…」

 

 

天をあおぎながら池谷がしみじみという。

 

 

「なぁ拓海、その元同級生ってのはどういうやつなんだ?やっぱりお前みたいに小さい頃から走りの英才教育を受けてきたやつなのか?」

 

 

立花が興味津々そうに聞く。

 

 

「俺が親父から英才教育を受けてきたってことに対して納得出来ませんが…、わからないです。中学卒業と同時に神奈川に引っ越しちゃったから…。名前は北沢流一って言います。」

 

 

「な、なにぃぃい!!!???」

 

 

立花にはその名前に強く心当たりがあった。遠い昔の記憶が蘇る

 

『ああ、祐一、産まれたよ。へっ、ありがとよ。名前?名前はアイツと決めあって、“流一”って名前にすることに決めたよ。心配すんなって、群馬に帰ったら会わせてやるよ。俺の最愛の息子にな』

 

そいつは結局何度か群馬に帰って来たが、息子をつれてくることはなかった。しかしその度に息子の名前は聞いていた。

 

 

(まさかお前の息子とはな…俺らの世代の走り屋のヒーロー。秋名の藤原文太。いろは坂の小柏健。そして赤城山の北沢欣也!!)

 

 

鳥肌が立ちっぱなしだった。そして拓海を負かしたのにも納得した。アイツの息子ならやりかねん。

 

 

「店長?何か知ってるんですか?」

 

 

拓海が訪ねてくる。

 

 

「ん、まぁ、知ってることは知ってるがたいしたことじゃない。」

 

(欣也の奴が昔走り屋だったことを明かしてるとは決めつけない方が良いからな。後で久しぶりに電話してみるか)

 

 

 

その時、スタンドにロータリーサウンドが鳴り響いた。

入ってきたのは黄色い前期型FD3S、高橋啓介のクルマである。

 

 

「よぉ、この間のナイトキッズのとき以来だな」

 

 

啓介が不敵な笑みを浮かべながら拓海に話しかけてくる。

 

 

「…」

 

 

拓海はようすを見ているようだ。

 

 

「へ、まぁいいや。ガス入れにきたんだ。ハイオク、満タンで頼む」

 

 

「あ、はい!キャップオッケーハイオク入りまーす!」

 

 

池谷が直ぐに仕事に取りかかる。

 

 

「そうだ藤原」

 

 

「なんです?」

 

 

「俺は既に前のときと違う。この間の交流戦から自分を見直し、益々早くなったつもりだ。お前以外に絶対に負けないし、これからはお前にも負けない!!」

 

 

「…」

 

 

「だからそれまで、絶対に俺たち以外に負けんじゃねーぞ!?お前を倒すのは俺たち、赤城レッドサンズの高橋兄弟だ!!」

 

 

清々しい程の宣戦布告だった。

あの高橋啓介が宣戦布告をしている。はっきり言って弱小チームである秋名スピードスターズのリーダー池谷は、それを受けている我らが秋名のダウンヒルスペシャリストに尊敬の念を送っていた。

 

しかし天然少年ダウンヒルスペシャリストはこれに対し火に油を注ぐ。

 

 

「いやぁ、そう言われても、俺一度負けてるんでその約束は果たせないっすよ?」

 

 

 

あ、ヤバっ…

 

 

 

たくみのしれっとした発言に、声に出さない呟きが池谷達から漏れた。

 

 

 

「…なんだとてめぇ!!どういうことだ!!中里の一件以降、お前誰かとバトったのかよ!?」

 

 

当然のように啓介は怒り狂った。己を負かせた数少ない男が自分の知らないところで負けていたのだ。つまりは自分もそいつより遅いことを証明してしまうようなものなのだ。

 

 

「ええ、負けたのは悔しいけど、あれは俺の負けです。」

 

 

「おい藤原、わかっているのか?今お前が負けたってことは、この群馬エリアの勢力図が大きくかわっちまうってことだ!悔しいが世間はお前の話で持ちきりだ!お前が負けを認めるかどうかで話は大きく変わってくるんだよ!!」

 

 

「そんなことを言うのなら、流一にバトルを仕掛けてみればいいじゃないですか。しばらくは群馬に居るって言ってましたよ」

 

 

「くっ、確かに。それが一番話が早い…。おい藤原!そいつの特徴を俺に教えろ!!」

 

 

どうやら啓介は先に流一の方を潰すことにしたようだ。ここで啓介が買っておけば、高橋兄弟が倒すべきは藤原拓海だけ。元通りだからである。

 

 

「いいですよ、名前は北沢流一。年は俺と同じで黒色くしゃくしゃ頭の男です。クルマは池谷先輩と同じシルビアで、色は紫です」

 

 

啓介は池谷から紙とペンを借りるとあわててメモをし始めた。

 

 

「わかった。今日のところは帰る。だか次会うときには、俺が北沢とやらを倒して、お前に挑戦を申し込む!!」

 

 

覚悟しておけ!と言い捨て高橋啓介はスタンドから去って行った。

 

 

「いいのか拓海。負けた時に乗っていたのは、いつきのハチゴーだったんだろ?じゃああれは言ってしまえば勘違いじゃないか?」

 

 

「いいんですよ池谷先輩。そうすれば、あの人は全力で流一と戦ってくれる。俺は気になるんです。あの人が流一に勝てるのか勝てないのか。俺には、流一はあの白いRX-7の人と同じくらい速そうに思えたから」

 

 

「高橋涼介と同等の速さ!?」

 

 

「流一ってそんなに速かったのか!?」

 

 

池谷といつきが拓海の発言に食い付く。

 

 

「昨日の速さを思い出すと、高橋啓介さんや中里って人よりもあの白いRX-7の人に近い速さだった気がするんです。だから知りたい。アイツがどれだけできるのか。秋名の山での走りには少なからずプライドがあるんだ。だから次は負けない為にも、俺は知りたいんです。」

 

 

そう言った拓海の背中は一人の男の背中。

 

いや

 

一人の走り屋の背中だった。



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