カロスポケモン協会理事 ハチマン (八橋夏目)
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0〜4話 前編

お久しぶりでございます。
最初から変なタイトル話数ですが、お気になさらず。


「はあ………、何やってんだかなー」

 

 カントーへ帰る飛行機の中。

 横に座るユミコもトベもヒナも寝てしまい、俺は一人物思いに耽っていた。

 失恋。

 これがそれならばそうなのかもしれない。

 だが、それもなんかちょっと違う気もする。

 俺はずっとユキノちゃんにどうして欲しかったのだろうか。恋人になりたいだとか、結婚したいだとか、考えたこともない。なのに、何故かずっと心のどこかで執着していた。

 原因は分かってる。スクール時代のあの頃だ。ユキノちゃんのオーダイルが暴走して、それを自分はどうすることもできなかったあの日。だが、まだあの頃は漠然とした感じだ。一番のきっかけはやはりあのバトルだろう。

 校長とあいつのバトル。

 あれをユキノちゃんと見せられてから、俺と彼女の関係は崩壊した。

 それまでハルノさんの言いつけで二人してポケモンをもらった日から毎日バトルをしていたのに、それも途絶えて段々と距離を置かれるようになって。最後の学年なんて碌に言葉も交わしていない。卒業してからは俺も吹っ切れようと、彼女のことを忘れようとユミコたちと旅に出た。それまでもユミコたちとはよく出かけていたし、何気ない日常が楽しかったのは事実だ。ユミコがヒンバスと間違えてコイキングを捕まえたことも、いい思い出である。

 旅に出てからはサイやエレンとブーの姉弟にも出会って、俺もどんどんトレーナーとして強くなれた。

 だが一方で、何か物足りなさを感じている自分もいたような気がする。それが何に対してなのか、まったく覚えてないが。

 思い返せば、それがユキノちゃんに対する感情だったのかもしれない。

 

「自分の感情ほど理解できないものはないのかもな………」

 

 本当に俺はどうしたかったのだろうか。

 他人なら言動を見ていれば、何となくしてほしいこととかが見えてくる。それに倣って俺も動けばいい。だが、自分の感情というものはなかなかどうして理解できない。素直じゃない、そういってしまえば終わりなのだが、本当に何をして欲しかったのか分からないのだ。

 

「だけど、あのカラマネロに乗っ取られている時、俺は確かにユキノちゃんを意識していた…………んだよなー」

 

 機内の天井を見上げる。特に何もない、普通の天井。ああ、緊急時のマスクがあるか。まあ、それくらいしかない。

 結局、俺はみんなに迷惑をかけてしまった。四冠王だとか謳われながらも、その実ただの十六歳の男子だったのだ。そこをカラマネロに突かれたと言っていい。

 要するに俺の素はユキノちゃんと何かしたかったのかもしれない。というかただ話がしたかっただけなのかもしれない。

 うわ…………、俺も人に顔向けできないくらいの変態じゃないか………。

 

「あいつが聞いたらさぞ喜ぶんだろうな………」

 

 あいつ、ヒキガヤハチマン。

 俺ができなかったオーダイルの暴走を単身止めた男。

 俺と同じくリザードンを使う同級生、なのにすでにその時点で実力の差が見えていた。

 もちろん嫉妬したさ。自分とあいつでは何が違うのか。その違いが分かれば、ユキノちゃんが距離を置いた理由も理解できるかもーーーなんて。実際はその後にバトルする機会が訪れたがコテンパンにされた。最後ーーー恐らくあれはメガシンカなのだろうーーーあの時点で高みへと登っていたのだ。

 大いに嫉妬したさ。

 何故あいつは強くて俺はこんなにも弱いのか。

 その理由も後から見せつけられた。何故かあいつは全力の校長とバトルしていた。避難訓練とか言ってたはずなのに、あいつはゲンガーが教室に来た時点で動き出し、帰ってこなかった。そういえば、あの時ユイもいなくなってたな。…………そうか、彼女はすでにあいつを知っていたんだ。

 校長とヒキガヤのバトルには何故かオーダイルまで参加していた。普通に言うこと聞いていて驚いたのを覚えている。

 そしてーーー。

 

「ーーーまさか、あの時にはすでにダークライを連れていたなんて誰も思わないって」

 

 そう、黒いポケモン、ダークライがいた。

 出てきたのは最後だったが、見たこともないポケモンだったため、旅をしながらずっと探し回った。

 ようやく答えに行き着いたのはシンオウ地方に行った時。リーグ戦の二冠王を目指してジム戦巡りをしていた道中、ミオシティの図書館に行った時だ。悪夢を見せるとされるポケモンがいるという写真付きのダークライについての詳細。そして、もう一体。対となるポケモンについても見つけた。

 

「はあ………、いつの間にかユキノちゃんがクレセリアを連れてるし………」

 

 ダークライの悪夢を取り払う力を持つとされるクレセリア。

 まるでヒキガヤとユキノちゃんの関係を見ているような、そんな感じがしてならない。

 ………はは、今でもちょっと嫉妬してるみたいだ。

 ーーーああ、だから俺も伝説のポケモンを手に入れようだなんて考えに行き着いてしまったのかもしれない。俺も伝説のポケモンを手にすればあの二人に並べる、そう思ってしまったのだ。

 いや、むしろ勝てるなんてことも思ったのかもしれない。意識的か無意識的なのか、操られていた時の感情なんてどっちが正しいのか分からないが、そんなことを思ってしまった時点で、あんな動きに出てしまったのだろう。

 

「自分が思ってるほど俺はできた人間じゃない、そう思っていたのに。まだまだ甘かったってことかな…………」

「…………ハヤト、はさ…………」

「ユミコ………?!」

 

 もしかして………今の聞かれてたのか………?

 

「ハヤトはただあの二人に、認めて欲しかったんだと思う。気づいたらユキノシタと距離を置かれて、ヒキオには実力の差を見せつけられて。だから四冠王なんて称号を手にするまで足掻いていたし、あの二人に再会してからのハヤトは無理をしてるように見えた」

 

 無理してた、か。

 そう、なのかもしれない。

 あのどこまで突き詰めても自分を見てくれないユキノちゃんと、そんな彼女にずっと見つめられているあいつに、見て欲しかったのかもしれない。認めて欲しかったのかもしれない。

 は、ははっ、ただの構ってちゃんじゃないか。

 ある意味ヒキガヤに抱きついていたハルノさんに近いかも…………。

 

「もういい。もう、いいんだよ。ハヤトはハヤトだし。それにヒキオは背負ってるものがデカイから強いんだし。あーしの知ってるハヤマハヤトは頑張り屋だから、頑張りすぎちゃうし。そろそろ力抜けし」

「…………俺はユミコが思ってるほど頑張り屋なんかじゃ………」

 

 自分で言うのもなんだが、『ハヤマハヤト』というのは一つのブランドのようなものだ。昔から『ハヤマハヤト』を知っている者ほど、そのブランド力を認識している。

 だからーーー。

 

「そういうとこ、ヒキオそっくりだし」

「うっ…………」

 

 た、確かにその通りかもしれない。

 あいつなら絶対しそうな思考回路だったな。まさか筒抜けだったとは。

 

「別にいつものかっこいいハヤマハヤトが好きだから一緒にいるわけじゃない。むしろあーしらにしか見せないハヤマハヤトが見てみたいし」

「…………ユミコ………」

 

 あれ………?

 なんかうるっとしてきた。

 なんだろう……あれか? 柄にもなく感動している、のか?

 

「悲しいなら泣けし。悔しいなら叫べし。あーしは全部受け止める覚悟はすでに出来てるし」

 

 ………ごめん、『ハヤマハヤト』なんてブランド力を気にしていたのは俺の方かもしれない。

 

「………ありがとう、ユミコ。なんか、まだよく分からないけど、分かった気がするよ」

 

 自分で言っててひどい言葉だと思う。

 いろんな感情が渦巻いているし、頭の中はぐちゃぐちゃだ。だけど、それでも一つだけ分かったことがある。

 卒業間際に校長から言われた言葉。

 

『お主は強い。強いが、脆い。何があろうとも決して大切なものだけは見失うでないぞ』

 

 心を開けないままの自分とここまで一緒にいてくれた仲間がいるんだ。

 強さだなんだ、そんなものは関係ない。

 俺も、まあ時間はかかるかもしれないが、もっと自分をさらけ出してみよう。

 

「ユミコ………」

「ひぇっ?!」

 

 お礼と言ってはなんだが、ヒキガヤがイロハたちによくやっていたみたいにユミコの頭を撫でてみた。

 

 

 うん、なんとなく、ヒキガヤが頭をよく撫でる理由が分かった気がする………。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 いやー、これでお兄ちゃんも安泰ですなぁ。

 コマチも一安心できるってもんだよ。

 まあ、でも?

 まさかお兄ちゃんがあそこまで強かったなんて知らなかったなー。

 コマチの旅についてこなかったら、ずっとお兄ちゃんの実力を知らないままだったんだろうなー。それで帰ってきて、お兄ちゃんとバトルなんかした日には返り討ちにされるのが目に浮かぶよ。

 お兄ちゃんのおかげ? で無事事件も解決して五日後。

 コマチたちは二度目の旅に出ているのです。今はハクダンジムにいるよん。

 なんかお兄ちゃんがねー、半年後くらいにリーグ戦するわ、なんて言い出すからさー。ユイさんとイロハさんと三人でもう一度ジム戦巡りをすることにしたの。コマチはもうバッジをもらってるからしばらくジム戦しなくてもいいだけどねー。でも、すでに事情を知ってるのかビオラさんが二つ返事で引き受けてくれちゃったから、やるしかないよね。

 ハクダンジムジムリーダー・ビオラさん。この人も結構キテると思うんだよなー。コルニさんと並んで二大現地妻になりそう。

 よし! コマチ、お兄ちゃんのために頑張っちゃう!

 

 

 うぅ………、人のことばかり心配してないで自分のことも心配しなきゃ………。

 昔からお兄ちゃんはかっこいい。それを誰も分かってくれないから、せめてコマチがお兄ちゃんに尽くそう。そう思ってたのに、いつの間にかお兄ちゃんがモテモテなんだよ?

 嬉しいことだけど、寂しいのも事実。

 口ではコマチを溺愛してくれてる………手癖も溺愛してるか………やっぱただのシスコンだね………。

 でもなんだかお兄ちゃんが遠くにいるように感じちゃうの。

 コマチはお兄ちゃんのこと大好きだし、お兄ちゃんもコマチのことが大好き。血の繋がった兄妹だから切っても切れない関係だけれど。やっぱりなんか遠く感じる。

 もっと強くなって、お兄ちゃんたちに並べるようになったら、その時には近く感じられるのかなー。

 

「あ、タマゴが………」

 

 お兄ちゃんからもらったタマゴが光りだした。

 これって………。

 

「いよいよ孵化ね。ビオラ、貴重なシャッターチャンスよ」

「え、待って! カメラの準備準備!」

 

 そう言ったのはビオラさんのお姉さんのパンジーさん。

 お兄ちゃんとは、なんか怪しい関係の人。別に不倫とかそういう匂いではなく、なんだろう、同業者…………みたいな?

 別に悪い人じゃないからいいだけどね。

 

「うわー、初めて見るかも………」

「これでコマチちゃんも五体目のポケモンを手にするのか。私も何か捕まえようかなー」

 

 ユイさんもイロハさんもお兄ちゃんのことが大好きな人。

 それぞれにお兄ちゃんとの思い出があって、今でも忘れられないんだって。

 他にもユキノさんとそのお姉さんのハルノさんもそれぞれお兄ちゃんとの思い出があるみたいだ。

 特にすごいのがユイさんとユキノさんだ。

 ユイさんはスクール入りたての頃にお兄ちゃんと会話してるんだって。学年が上がるにつれてお兄ちゃんと喋らなくなって、ずっと寂しい思いをしてて。でもお兄ちゃんの卒業間際に久しぶりに喋って楽しかったんだって。

 その頃にはもう落ちてたみたいだね。

 そしてユキノさん。これまたすごいことに卒業してからのエンカウント率が高すぎる。追っかけといってもいい。それくらいお兄ちゃんと出会ってるらしい。そして、よく助けられたんだとか。

 なのにお兄ちゃんったら、その全部を忘れちゃってるんだよ? まあ、仕方ないんだけどね。お兄ちゃんは自分の記憶を代価にみんなを助けてくれたんだから。

 

「………えっと、この子は……?」

「キバァ?」

 

 タマゴから孵ったのはなんともかわいらしい、くりんとした目のポケモン。色は深緑色で牙が特徴的、かな。

 

「キバゴね。ドラゴンタイプのポケモンよ。うーんと、どうやらオスのようね」

 

 キバゴ、ドラゴンタイプ………。

 よし! 決まった!

 

「今日からよろしくね、キーくん!」

「キッバァ」

 

 おうふ。

 かわええのう、かわええのう。

 おー、よしよし。

 

「なんかキバゴを抱くコマチちゃんの目が………」

「コマチちゃんを撫でてる時の先輩みたいですね………」

 

 えへっ☆

 だって兄妹ですから。

 

「お兄ちゃん、待っててね。コマチも強くなるよ」

 

 寂しいなんて言ってられない。遠くに感じちゃうなんて言ってられない。

 いつだってお兄ちゃんはコマチの側にいてくれたんだ。家を離れる前にはコマチが寂しくないようにってお母さんに何かお願いしてたし。そのすぐ後にカーくんがうちにくることになったんだよ? ポケモンの触れ合いイベントに行って、カーくんがほしいってコマチがおねだりしたら、お父さんが二つ返事で買ってくれたからだけど。よくよく考えればあの日あの場所に行くことになったのはお兄ちゃんの策略かもしれない。

 おかげでコマチはお兄ちゃんがいなくても寂しくなかったよ。あ、いやでもさすがに一年くらい音沙汰なしだった時は寂しかったよ?

 ま、帰ってきてからは基本的にずっと家にいた(たまに家を開けることはあったような気もする)から、あまり気にも止めなかったんだけどね。今にして思えば、あの空白の時間は事件に巻き込まれてたりしてたのかもしれない。

 今回のことでよく分かった。お兄ちゃんは事件に巻き込まれやすい。それだけ裏社会というところで名の知れた存在らしい。コマチたちを危険な目に遭わないように気を配っていたのもうなずける。

 だから今度はコマチがお兄ちゃんを守るよ! 今よりもっともっと強くなって、お兄ちゃんを守って見せるんだから!

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 最近、というかカントーに帰ってきてからのハヤトがおかしい。

 急に人間らしくなったというか、端的に言うとボディタッチが増えた。トベが肩を組んでも今までなら何食わぬ顔で腕を外していたのに、今では逆に組み替えしてるし。

 あーしは飛行機の中で頭を撫でられて以来、よく撫でられるようになった。どこぞのヒキオみたいに裏があるのではないかって疑いたくもなるが、全くもってそんな気を感じられない。

 なんというか、別に悪くない。なんか初めて『みんなのハヤマハヤト』じゃないハヤトに触れている気がする。

 おそらくこれがハヤトの素。

 まあ、これがハヤトの素っていうんだったら、結構な甘えん坊? なのかもしれない。

 

「と、ここだな」

 

 ポケモン協会からハヤトの処分が下された翌日、クチバの母校にあーしらは来ている。本当に顔を見せるらしい。

 

「ハヤマです」

 

 行く当てもないので取り敢えずついてきたものの。

 あーしらは何を話せばいいのか、正直分からない。

 別に校長との思い出があるわけでもないし、スクール時代にサシで言葉を交わした記憶もない。せいぜいあるのはハヤトくらい。

 うーん………。

 

『入りたまえ』

「失礼します」

 

 ハヤトがノックをするとドアの向こうから年老いた声が聞こえてくる。いつか聞いた校長の声。この半月でくたばっていなかったみたいだ。

 

「よく来たの」

「いえ、俺も校長先生にはお礼を言いたかったので」

「皆もよくきた」

「ども……」

「ちーっす! コウチョーも元気っすね!」

「どうもー」

 

 校長に促されてソファーに座らされた。

 いつからか、ハヤトの隣はあーしが陣取るようになっている。別に二人に遠慮されているわけではないが、自然と身体が動いてしまうようだ。習慣になってしまったのかも。

 

「して、お礼とは?」

「俺が卒業する時、校長先生に言われた言葉ですよ。『大切なものを見失うな』って。最近になって、その意味がようやく分かった気がします」

「そうか………、そうかそうか。それは何よりじゃ」

 

 ハヤト…………。

 あ、う……なに、ちょっとうるっとしてるし。

 こんな一言でも感動しちゃうなんて、あーしもどうかしてる。ユイのことを棚に上げられないな………。

 

「あなたはすでにあの時、俺の危うさを見抜いていたみたいですね」

「いや、なに。お主だけは対照的だったからのう」

「対照的………とは?」

「うむ、ヒキガヤハチマン。あやつに心打たれた者の中では唯一お主だけが逆を向いていた」

 

 まさかここでヒキオが出てくるとは。

 ヒキオ………ヒキガヤハチマン………そういえば初めてフルネームを聞いたかも。特に目立つような男子でもない、至って平凡な奴。あ、でもあの目は悪目立ちしてもおかしくないか。

 だがその中身はありえないほど強いポケモントレーナー。実際にあーしもコテンパンにされている。こっちだけフルにポケモンを出しても勝てない相手なんてハヤト以来だ。しかも最終的には伝説のポケモンを三体連れてたからね。もうその時点で規格外すぎる。

 

「それは……ユキノちゃん、のことでしょうか?」

 

 ハヤトはあの一件以来、ユキノシタのことを昔の呼び方で呼ぶようになった。なんかムカつく。

 ユキノシタユキノ。あーしが一方的に因縁を持っているハヤトの幼馴染。あーしらの学年ではハヤトに並ぶ実力だった。ま、あーしらが知らなかっただけでさらに強いのが一人いたんだけどね。

 

「あの娘もその一人ってとこかの。儂の孫娘もじゃし、あの、名前なんだったかの………もう一人、お団子頭の………」

 

 ーーお団子頭。

 たぶん、ユイのことだろう。

 確かにユイはずっと誰かを見ていた気がする。気にもとめてなかったが、見てた先はやはりヒキオだ。

 詳しいことは知らない。ネボリハボリ聞く気もない。聞いたら絶対あーしも何か言わされるし。だから聞かない。

 

「ユイガハマユイ、ですか?」

「おお、そうじゃ。あの娘もそのうちの一人じゃよ」

 

 ユキノシタにユイにイッシキ。

 結局三人とも今はヒキオの元にいる。何ならユキノシタは姉の方までいる。何なのあの姉妹。二人で同じものを好むとか、双子かっつの。仲よすぎでしょ。

 

「主らは知らんじゃろうが、儂の弟子二人も思うところがあったみたいじゃぞ。久しぶりに鍛えてくれ、なんて言われたのが懐かしいわい」

 

 弟子………?

 

「弟子………とは、ヒラツカ先生とツルミ先生を指してらっしゃるんですよね?」

 

 へー、あの人校長の弟子だったんだ。道理で強いわけだ。

 ま、もっと驚きなのはあの保険医兼家庭科教師。

 バトルしてるところなんて見たことないけど、強かったんだ………。なんか意外………。

 

「うむ、ツルミの方は娘もじゃがな」

「娘………、ああルミちゃんですね」

 

 ルミ………?

 ツルミルミ…………誰だっけ?

 全然顔が出てこない。確かあっちにいた時にやってきたスクール生の中にいたはず。

 まあ、いいか。

 

「結局あの後、あやつと同じことをしよったわい」

「卒業しちゃったんですか?!」

「あれはいい師に巡り会った。あやつでなければ背中を押すことは難しかったろうのう」

「いつの間に………」

「あの子はスイクンに選ばれた子でな。まあ、何か目的があってのことじゃろうが、まさか最初のポケモンが伝説のポケモンになるとは夢にも思わなんだ。さすがの儂でも手に余る案件じゃった」

 

 スイクンとか、一体どんな子だし………。

 そんなすごい素質を持った子がいたのだろうか………。

 

「それをヒキガヤに解決させたと?」

「お主も覚えておろう? あやつが最後に見せたポケモン」

「ッッ!? ダークライ、ですか………」

 

 あの黒いポケモン、スクールにいた時からいたんだ………。ほんと何なのヒキオって。

 

「うむ、あの歳ですでに伝説に巡り会うという似た者同士。先人の知恵でも授かればと思うたまでよ」

「なるほど………、道理で急な話だったわけだ」

「ま、これからは毎年いけそうだがのう」

「えっと………、それはどういう……」

「なんじゃ? 聞いとらんのか? あやつ、カロスのポケモン協会のトップになりおったぞ」

「「はあっ?!」」

「マジかー、ヒキタニくん、大出世とかないわー」

 

 聞いてないんですけど?

 思わず叫んじゃったじゃん。

 えっ? じゃあユキノシタとかユイって今や金持ちの嫁ってこと?

 あれ? そもそもあいつらってそういう関係だっけ?

 そもそもヒキオってハーレムなんて作れるような魂じゃなかったような………。

 

「ポケモン協会のトップ………つまり、理事ってことですか?!」

「うむ、これで孫も安心というものよ」

 

 マジなんだ………。

 この老人の口ぶりからしてイッシキもあいつの仲間入り。

 ちょ、ヒキオのくせに生意気でしょ。

 

「そう、ですか………。ははっ、さすがヒキガヤだ。いつも斜め上の展開にしてくれる」

「というわけじゃ。お主らも一つ働かんか?」

「………というと……?」

「一人あやつに取られてしまったからのう。今なら四人まとめて即採用するぞ」

 

 一人取られてしまった、それはおそらくあのアラサー独身のことだろう………。

 えっ、つまり、まさか………。

 

「はっ? はあ?! それって、あーしらに教師をやれっての?!」

「教師?! マジかー、俺が教師とかないわー。絶対子供に遊ばれる未来しか見えない…………。ああ、いろはすがいっぱいいるのか………べー、マジっべー」

 

 何を想像したのかトベが段々と意気消沈していく。

 

「先生かー。私は別にやってもいいかなー。特にこれからのことも決めてないし」

「俺はいいですよ。今まで自分しか見えてなかった俺にはちょうどいいかもしれないです。な、二人はどうだ?」

「へっ? あ、あーしは別に、その………てか、あーしに教師が務まるとは………」

「そうかな? 俺はこの中じゃユミコが一番似合ってると思うけどな。それに………」

「それに………?」

 

 似合ってる………、似合ってるだって………、えへへへっ。

 

「俺個人の意見でいえばユミコの教師姿を見てみたいなー、なんて」

「うっ〜〜〜」

 

 こんなの反則だ。

 ハヤトにそんな少年のようなキラキラした目でお願いされたら、断れるわけないじゃん。

 これも今までのハヤトだったら最後の一言はない。あってももっと爽やかなスマイルだけだ。

 素のハヤトって…………ずるい………。

 

「………やる」

「ありがとう、ユミコ」

「うひゃっ?!」

 

 だから反則だって………。

 いきなり頭撫でるなし!

 

「ハヤトくーん、俺に教師なんて務まるべ?」

「トベはひこうタイプの使い手だろ。その分野なら俺よりも教えられると思うぞ?」

「お、おお! さっすがハヤトくん! なるほど、そこか! これで俺も威厳が出るってもんだわ! うおおっ、なんか俄然やる気出てきたっしょーっ!」

 

 トベ、うるさい!

 あーしは今ハヤトを堪能してんの!

 少し黙ってろし!

 

「ちなみにお主らの専門タイプは?」

「俺はほのおタイプですかね」

「……あーしはみず」

「俺はひこうっしょ」

「えっと………私は………強いて言えばかくとうタイプと触手系?」

 

 エビナ………、その括りはダメだから………。

 ここ、一応ポケモンスクールだからね。

 

 

 とにもかくにも、あの一件以来ハヤトとの距離が近くなった、と思う。

 もう邪魔はいない。だからこれから絶対落として見せるし!

 覚悟してろし、バカハヤト。




タイトル詐欺だなんて思わないでね。
一話目からただのスピンオフ集ですが、本編の方もぼちぼち書いています。
書き上がるまでただ待っていただくのも何だったので、この間にハチマンの周りの人に心情を語っていただこうかと思ったので、数話挟ませていただきます。
一人一話で書けたら別作品として投稿できたんですが、ぎゅっと絞る感じなのでこんな形での投稿にお許しを。


前編があればもちろん後編もあります。もしかしたら中編もあるかも。そこは分かりませんが引き続きお楽しみいただきながら、本編の方をお待ち下さい。


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0〜4話 中編

無事中編になりました。


 コマチちゃんに新しい仲間ができた。

 ドラゴンタイプのキバゴ。ちっちゃくてかわいい。

 そしてあたしにも昨日新しい仲間が増えた。

 22番道路に一人でいたリオル。じっとあたしの胸を見てきたかと思ったら、いきなり触ってくるんだよ?! びっくりして、思いっきり転んじゃった。しかもその拍子にモンスターボールがリュックの中から落ちちゃって……………入っちゃったの………。カチッて、カチッてなっちゃったんだよぉ…………。

 それからことあるごとにあたしの胸を触ろうとしてくるの!

 あたし、どうしたらいいの?!

 こんなんじゃ、絶対ヒッキーに笑われるし! それだけならまだしも「俺にも触らせろ」なんて…………言って……きたり…………ハッチーの変態! スケベ! ハチマン!」

 

「ユイせんぱーい、顔赤いですよー」

「……気にしないでイロハちゃん」

「そうですねー。確かに先輩に胸を触られる想像とかしてたなんて、忘れてほしいですよねー」

 

 えっ…………?

 

「…………声に出てた……?」

「そりゃもう。ばっちりと」

「うぁぁぁあああああああああああああっっっ!?!」

 

 やばいやばいやばいやばいっ!

 これじゃただの変態だよぉ。

 妄想癖のある痴女だよぉ!

 あー、うー、もうそれもこれも全部ヒッキーのせいだ!

 

 

 ヒッキーことヒキガヤハチマン。

 あたしの初恋の人。

 目つきがキモくて猫背で捻くれた人だけど、あたしはこの人が大好きだ。

 自覚したのは彼がトレーナーズスクールを卒業する頃。ほんと久しぶりに話して、いろいろあってこれが恋心なんだと自覚した。

 最初にあったのはスクールに入りたての頃だ。人見知りだったあたしに声をかけてくれたのがキッカケ。今の彼からは想像もできないことだけど、事実なのだから怖い。人ってすごく変わるもんなんだね。

 それからも度々話すようになって、彼と話すようになってからはようやく他の子たちとも喋れるようになった。そしたら、なんて言ったと思う?

 

『お前はあっちにいるべき存在だ。俺は一人でも構わないから、みんなと仲良くしてこい』

 

 だよ!

 バカじゃんバカじゃん!

 それに乗ってしまったあたしはもっとバカじゃん!!

 うぁぁあああああああああああああ、ヒッキーごめんねー! もっとあたしがかしこかったらその言葉の意味を理解してあげられたのにー!!

 あ、でもだからと言って音信不通ってわけでもなかったよ。一日に一回くらいあいさつくらいは交してた。

 でもそれも四年に上がるくらいまでだったかなー。その頃くらいからヒッキー、スクール来るの遅くなったし、帰るのは早いし。

 声をかけるタイミングなんてほとんどくれなかったんだよ。

 そんなこんなでいつの間にか五年になってて。でも、あたしが何も知らなかっただけなんだよね。ヒッキーはもう立派なポケモントレーナーになってたの。

 あれはほんとたまたま。帰り道、久しぶりに一人になった時に野生のポケモンに襲われたの。どんなポケモンだったかな………。今じゃ思い出せないや。

 で、それを助けてくれたのがヒッキーだったの。

 ただね、悲しいことにあたしの顔、忘れちゃってるんだよ? そもそも名前も知らないみたいだったし。………まあ、あたし自己紹介した記憶ないんだけどね。で、でもだよ! 五年も同じ教室にいるんだよ? 普通覚えてると思うじゃん!

 それからもまた話すタイミングがなくて。

 あれは確かヒッキーが卒業するって話になる一ヶ月くらい前かなー。

 ポケモンの触れ合いイベントがあって、そこに家族でいったんだー。そしたらね、ヒッキーもいたの。妹ーーコマチちゃんらしき子がニャオニクスをねだっててさー。あれが今のカマクラなんだろうね。

 で、なんと!

 あたしはあたしでサブレに会ったのである!

 ポチエナの頃のサブレがかわいくてさー、あ、今のグラエナのサブレもかっこいいよ!

 でもサブレが新しく家族になったからといって、あたしはポケモントレーナーになったわけじゃない。バトルなんてさせたことないし、第一まだお世話くらいしかできなかったから。一応ママがトレーナーのポケモンだし。

 でもあれだね。どうしてあたしよりヒッキーに懐いてるんだろうね。ずっとお世話してたのに、ひょっこり出てきたヒッキーにあっさりその椅子をとられるってなんかフクザツ………。助けてもらったから何も言えないんだけど。

 助けてもらったで言えば、ヒッキーの卒業試験。

 あの時はほんとにあたし邪魔ばかりしてたかも………。

 で、でもさ、やっぱ心配じゃん?

 一週間くらい前にはゆきのんのオーダイルに二度も切られてるんだしさー、ゲンガーが教室に来た時は身体が勝手に動いちゃったよ。

 けど、そんなお邪魔虫なあたしを律儀に助けてくれちゃうあたり、ヒッキーらしい。普段減らず口ばっかり叩くくせに、ああいうピンチの時は絶対に助けてくれる。

 あたしにとってヒッキーはヒーローだ!

 本人が聞いたら、「いや、ないから」って言いそうだね。でもさー、バトルしてる時のヒッキーはかっこいいんだよ?

 

「ユイせんぱーい。帰って来てくださーい」

「おーい、ユイさーん」

 

 わはー、思い出したらヨダレたれてきちゃった。

 やっぱりヒッキーはやるきを出すと目がキリッとなるんだよなー。あーもー、かっこいいなー、このこのっ!

 

「あ、お兄ちゃん」

「えっ? ヒッキーッ?! どこどこ?!」

「あ、帰ってきた」

「ユイせんぱーい、ハチマンくんならいませんよー」

「えっ? 嘘なの? そんなー………」

 

 なーんだ、嘘だったのかー。ヒッキーのこと考えてたら会いたくなっちゃったよ……………。ヒッキー元気かなー。一昨日見送られたのが最後だもんなー。会いたいなー。

 ん?

 ハチマンくん?

 

「ねえ、イロハちゃん?」

「はい?」

「ハチマンくんってなに?」

「やだなー、先輩のことじゃないですかー。私もいつまでも先輩呼ばわりじゃただの後輩でしかありませんからねー。帰った時に度肝を抜いてやるつもりです」

 

 今はその練習〜、とイロハちゃんが何か言っている。

 えっ? あ、なんか新鮮すぎて頭が追いつかないや。

 なんだろう、あたしも名前で呼んだ方がいいのかな………。

 

「いいじゃないですかー。ユイさんもユキノさんもハルノさんも名前呼びですし、イロハさんもそのままゴーですよっ」

「やっぱり〜? いやー、後輩キャラってのも私の特権みたいなものだけどさー、やっぱり不意をついて名前で呼んだらどんな反応するのかなーって思ったわけよ」

「あのお兄ちゃんですからねー。そりゃ楽しい反応をしてくれちゃうと思いますよ」

 

 ヒッキー、ハッチー………うーん、結構特別な呼び方なんだけどなー。

 名前で呼ぶとしたら………ハチマン? うーん、ゆきのんたちとかぶるなー。ハチマンくん………はイロハちゃんが仕掛けるみたいだし………。

 ハチくん?

 うん、あたしじゃないな。あたしのキャラじゃない。

 やっぱりヒッキーとハッチーでいいや。

 

「そういえば、三人ともリーグ戦のルール知ってるの?」

「ルール?」

「まず今の手持ちじゃ参加できないわね。六対六のフルバトルだもの」

「うぇっ!? マジですか………?」

「マジよ、大マジ」

 

 そっか、みんなあと一体捕まえないと参加できないんだね。というか参加資格ってあったんだ………。あ、だからヒッキーがジムバッジをうんぬんかんぬん言ってたのかなー。

 うーん、リオル、もといシュウは予定外だったからなー。何気に強かったから驚いたけど。というか今もスカート引っ張ってきてるのはなんなのかなー。

 あ、ちょ、ほんとにやめてよー。

 

「そのリオル、ユイちゃんにベッタリだね」

「これはベッタリとかのレベルじゃないですよっ!」

「確実にオスですね」

「だね」

 

 うわーん、誰か止めてーっ!

 

「さて、ユイちゃん。バトルしよっか」

「その前にシュウを取ってー!」

 

 ヒッキー、ゆきのん。

 あたし、絶対強くなるからね。もっと強くなって、その時は二人を守って見せるんだから!

 それとヒッキー! このお団子はヒッキーがほめてくれたからしてるんだからね! いつかちゃんと気づいてよ!

 

 

 あ、スカートがっ!?

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 ハヤマ君たちと同じ飛行機で帰った僕は早速、フスベジムに向かった。

 なんかハチマンがね、『トキワジムは鬼畜なジムリーダーだからフスベジムを先に攻略した方がいい』って言ってたの。そんなにトキワジムって鬼畜なのかな。そりゃ強かったし、コテンパンされちゃった経験あるけど………。

 あ、そうそう。帰ってきてからまだ四日しか経ってないけど、実は新しい仲間が増えたんだー。その名もマンムー! フスベシティの北にある洞窟で捕まえたの。手持ちいっぱいになっちゃったからハピナスは家でお留守番。ごめんね、ハピナス。帰ったらいっぱいいっぱいバトルのお話しするからね。

 これなら絶対勝てるよね。だって、相手はドラゴンタイプだもん。ニョロボンもハチマンに鍛えてもらったし、絶対勝ってみせるよ!

 

「それでは、これよりジム戦を始めたいと思います! 使用ポケモンは四体。技の使用は四つまでとします! 交代は挑戦者のみ自由とします!」

 

 四対四のバトルか……。

 前に戦った時は三対三だった気がするなー。一体増やしたのかなー。

 

「準備はよろしいですか?」

「はい!」

「いつでもいいわよ」

「では、バトル始め!」

「いきなさい、ギャラドス!」

 

 最初はギャラドスか。

 あっちでミウラさんのギャラドスを見て勉強してきたんだ。大丈夫、いける。

 

「いくよ、トゲキッス!」

 

 特性の威嚇をしてくるけど、トゲキッスは打撃系の攻撃はあまり覚えていない。今回使おうと思っているのも遠距離系。まずはギャラドスの特性を無効にすることに成功だ。

 

「ギャラドス、ハイドロポンプ!」

「トゲキッス、でんげきはで電気分解!」

「キィッス!」

 

 トゲキッスが身体から放電させ、迫りくる水砲を気体へ分解していく。ハチマンもよくやってた戦法。

 

「ギャラドス!」

「ッ!? トゲキッス、躱して!」

 

 うそ、あれでもまだ全力じゃないんだ。水圧を上げてきたよ………。

 そう、だよね。ハチマンも言ってたじゃん。最初から自分の手札をすべて晒すのはバカがやることだって。

 

「ちょっと掠っちゃったか………。トゲキッス、でんじは!」

 

 右の翼に攻撃を受けてしまったが、トゲキッスの羽毛が抑えてくれたみたいだ。

 体勢を立て直したトゲキッスがでんじはを送り、ギャラドスを痺れさせた。

 

「あなた、以前ジム戦しにきたのよね。これは対策を立ててきたと見ていいのかしら?」

「対策、というほどのものじゃないですよ。ここに帰ってくるまでにいろんな人たちと再会したんです。その中には僕のあこがれの人もいて、その人の背中から学んだだけです」

「そう、その人いいトレーナーなのね」

「はい」

「それじゃ、わたしも全力を出さないと。ギャラドス、りゅうのまい!」

 

 気合を入れなおしたイブキさんが、ギャラドスに竜の気をまとわせた。

 ハチマンたちもよく使ってた技だ。

 

「トゲキッス、マジカルシャイン!」

 

 一瞬でも目くらましになればいい。

 麻痺は急激な動作の転換ではよく発動するらしい。

 

「たきのぼり!」

「でんげきは!」

 

 竜の気を帯びた水をまとい、突っ込んでくるギャラドス。

 だが、その攻撃は失敗に終わり、電撃がギャラドスを襲った。

 よし! 効果抜群!

 

「麻痺……ッ!?」

 

 痺れで動きの止まるギャラドス。

 

「トゲキッス、もう一度マジカルシャイン!」

 

 再び身体から光を迸らせ、体勢を立て直そうとするギャラドスの視界をさえぎった。

 

「くっ、はかいこうせん!」

 

 やっぱジムリーダーのポケモンってすごいね。目をつぶっていても正確に狙ってくるんだもん。

 

「躱してでんげきは!」

 

 でも、今の僕たちならやれる!

 

「ギャラドス?!」

「ギャラドス、戦闘不能!」

「やった!」

 

 トゲキッスははかいこうせんを躱せるようになったもん。あれだけのことがあればちょっとやそっとじゃ驚かないもんね。

 

「戻って、ギャラドス」

 

 判定を下されたギャラドスをイブキさんはボールに戻した。

 

「強いわね。一戦目から悔しいわ」

「いえ、僕はまだまだです。上には上がたくさんいますよ」

「兄者より強い人がいるとは思えないけれど………」

「兄者、が誰のことか分かりませんけど、ハチマンは誰にも負けないくらい強いですよ」

「……ハチマン!?」

「僕のあこがれの人です。……知ってるん、ですか?」

「………そう、あの、あいつの知り合いというわけね。人を散々小ばかにしたようなバトルばかりして! 挙句最後にはーー」

 

 一体ハチマンはこの人に何をしたんだろう。

 というかいつここに来たんだろう。もしかして卒業していった後なのかな。

 すごいなー、ハチマンは。僕らが卒業して旅に出るころにはもう頂に立ってたっていうんだもんね。そりゃ、有名人にもなるよね。

 

「……まあ、いいわ。あなたがどういう人かはさておき、あいつの知り合いというのであれば本気の本気で行かせてもらうわ」

 

 あれー、なんかそれってとばっちりなような気がするよー。ハチマーン、助けて―。

 

「ハクリュー!」

 

 イブキさんの二体目はハクリューか。これもミウラさんが連れてたっけ。あの長い体を使った攻撃には注意が必要なんだよね。

 

「トゲキッス、あんまり近寄らないでね」

「キッス」

「ハクリュー、アクアテール!」

 

 こっちが近づかないと知ればあっちから動いてきた。

 尻尾に水のベールをまとい、長い体をうねらせてくる。

 

「マジカルシャイン!」

 

 光を迸らせ、再度目くらまし。

 それでも今度は尻尾を振り下ろしてきた。

 

「トゲキッス!」

「ハクリュー、でんじは!」

 

 お返し言わんばかりにトゲキッスが痺らさせられてしまった。どうしよう………あっ!

 

「トゲキッス、戻って。ゆっくり休んでてね」

 

 一度トゲキッスをボールへと戻した。そして、新しいスーパーボールを取り出す。

 

「お願い、マンムー!」

 

 そう、マンムー。まさかこんなにも早く出番が来るとは思わなかった。だけど、一番タイプの相性がいい。

 

「でんじはを使わせないつもりね。いいわ、ハクリュー。りゅうのいぶき!」

「マンムー、こおりのつぶて!」

 

 地面を蹴り上げ衝撃を生み出し、一気に空気を凍らせると、牙で飛礫を送り込んだ。ハクリューの技が出る前に当たり、効果抜群の技の影響からか、攻撃は失敗に終わっていた。

 

「とっしん!」

「ムゥーッ!」

 

 ドッシドッシかけていくマンムー。大型のポケモンを使うのは初めてだけど、絶対使いこなして見せる!

 ………ハチマンだったら、どんなバトルをするのかなー。

 

「ハクリュー、躱してアクアテール!」

 

 うねうねと身をよじってマンムーの突進を躱すと、ハクリューは再び尻尾に水のベールを巻いた。

 遠心力を使って振り下ろされた尻尾がマンムーの頭に直撃する。

 

「ムゥーッ?!」

「マンムー!?」

「そのまま巻き付いてげきりん!」

「ッ、のしかかり!」

 

 マンムーの身体に巻き付いてきたハクリューを地面に転がり込んで、押しつぶしていく。ハクリューは押しつぶされながらも竜の気を暴れさせているのだからすごい。

 たぶん、このままだどマンムーの方が押し切られそう。何かもう一攻撃いれないと………。

 こういう時、ハチマンだったらーーー。

 

「つららおとし!」

 

 ハクリューを背中でゴリゴリ押しつぶしているマンムーが、一本の氷柱を打ち上げた。打ちあがった氷柱は引き寄せられるように落ちてくる。

 

「………今だよマンムー!」

「なっ?!」

 

 ギリギリまで氷柱を引き寄せ、マンムーが重たい体を転がしてハクリューの上から逃げると、一瞬重さから開放されて飛び上がったハクリューに氷柱が突き刺さった。

 

「ハクリュー!?」

 

 でも、まだ戦える余力が残っているみたい。

 すっごくしぶといなぁ。

 

「勝ちなさい!」

「マンムー、こおりのつぶて!」

 

 ハクリューが最後の一撃に出た。だけど、早いのはこっちだよ。

 突っ込んでくるハクリューに対して、地面を蹴り上げ、一瞬で空気を凍らせ、牙で飛礫を撃ち込んだ。

 

「ハクリュー、戦闘不能!」

 

 防御なんてものを無視して突っ込んできたため、全部当たっちゃった。

 当然ハクリューは戦闘不能。

 

「よし、これで二勝!」

「くっ、あの避け方、あいつを思い出すわ」

 

 あいつってのはハチマンのことかな。

 一体ハチマンはどんなバトルをしたんだろう。今度聞いてみよう………記憶ないんだった…………。

 全く気にする素振りを見せないもんだから、すぐ忘れちゃうよ。

 ばかばか、もう僕のばか。ハチマンが記憶を代価にしてまでみんなを守ってくれたのに、そんな大事なこと忘れちゃうなんて。こんなんじゃ、友達失格だよ。

 

「マンムー、お疲れ様。ゆっくり休んでてね」

「あら、マンムーの出番はおしまいなの?」

「無理はさせたくないので」

「それが仇にならないといいわね。クリムガン!」

「大丈夫ですよ。いくよ、ニョロボン!」

 

 イブキさんの三体目はクリムガン。…………あれってもしかして色違いなのかな。クリムガンって青かったような気がするんだけどなー。

 

「クリムガン、りゅうのいかり!」

 

 口を大きく開いて咆哮。

 それと同時に竜の気を帯びた衝撃波が流れてくる。

 すごい咆哮だ。こんなの初めてかもしれない。

 

「こっちも負けてられない。ニョロボン、れいとうパンチ!」

 

 ダダッと駆け出したニョロボンが拳に氷をまとわせて、腕に大きく勢いをつけていく。

 

「きりさく!」

 

 寸でのところで拳と爪が交差した。ギチギチと嫌な音が軋めいている。

 

「グロウパンチ!」

 

 空いている左拳で勢いよくクリムガンのお腹を殴りつけた。

 あ、なんかニョロボンが拳を痛めたみたいだ。どういうこと………?

 

「ドラゴンテール!」

「ニョロボン、躱して!」

 

 拳が痛むことですぐに危機を感じたのか、命令と同時にニョロボンは動いてくれた。危うく追撃されるところだったよ。

 さて、今のはどういうことなんだろう。クリムガンを攻撃したら、逆にニョロボンにダメージが入った。かと言ってクリムガンにダメージが入っていないわけではない。だからカウンターとはまた違うのだろう。

 あーん〜〜、ハチマンだったら、すぐにピンと来てるだろうに。

 ………ダメだ、こんな時までハチマンに頼ってちゃ一人前のトレーナーになんかなれやしない。

 捻り出せ、僕がこれまで培ってきた引き出しを全部開くんだ。

 

「ニョロボン、さいみんじゅつ!」

 

 ニョロボンがお腹の渦を見せてクリムガンの目を回した。ふらふらとした足取りで地面に倒れると、クリムガンはそのまま気持ちよさそうに眠り始める。

 しばらく寝ててね。

 よし、その間に考えてしまおう。

 まずは持ち物。何も持ってない、と。

 次、特性。クリムガンの特性は………なんだったっけ………?

 ………………………でもごつごつした体付き………あっ、さめはだだ!

 そっか、だからニョロボンが痛がってたんだ!

 

「だったら直接触らなければいいんだよね。ニョロボン、拳に氷を集めて!」

 

 まずはれいとうパンチを昇華させないとね。ハチマンに教えてもらったこの技を直接触れない形に………。

 

「クリムガン、起きなさい! 寝ている暇なんてないのよ!」

 

 眠ったクリムガンを起こしにかかるイブキさん。

 もうちょっとだけ寝ててほしいなー。

 

「その調子だよ、ニョロボン」

 

 ハチマンはバトル中に新しく技を覚えさせたって、ユキノシタさんやユイガハマさんが言っていた。彼女たちが知っているということはスクールの時の話のはず。つまり、ハチマンはあの頃からすごかったってことだ。しかも初めて覚えてるタイプの技を覚えさせた。

 僕にはそんな真似はできない。できないけど、やってみたいとは思った。大技じゃなくていい。新しいタイプじゃなくていい。今ある技を使ってそれっぽい技ができれば充分だ。

 

「ニョロボン、その氷の弾から手を引っこ抜いて!」

 

 集まった氷は次第に拳に覆うように球体になっていく。そこから一気に拳を引っこ抜き、氷の弾を完成させた。

 ハチマンの妹ーーコマチちゃんならこの技の名前を何て呼ぶんだろうか。僕が意識したのはアイスボールだから………、ほんとのアイスボール、かな。ふふっ、コマチちゃんもみるみる強くなってるからなー。さすがハチマンの妹って感じだよ。

 あ、ちなみにアイスボールは自分が氷を纏って転がっていく技なんだけど、それじゃ直接触れることになるからね。どこかでニョロトノが氷の弾を投げていたし、こんな形でもいいと思うんだー。

 

「せーの!」

 

 思いっきり氷の弾をクリムガンに投げつけた。

 

「クリムガン、ドラゴンテール!」

「あっ」

 

 でも先にクリムガンが起きてしまっていた。竜の気を帯びた尻尾で氷の弾を弾き返してくる。

 

「きりさく!」

「れいとうパンチで受け止めて!」

 

 やっぱり強い。ジムリーダー、それも最後の砦とされているジムリーダーなんだ。これくらいじゃ倒れるわけないか。

 

「ニョロボン、アイスボール!」

 

 爪を拳で受け止めていたニョロボンに次の命令を出した。

 拳の氷はみるみる膨れ上がり、クリムガンの爪をも凍らせている。

 

「クリムガン、ドラゴンテール!」

 

 氷の弾を作っていると、クリムガンが尻尾でニョロボンを叩きつけてきた。

 

「ニョロボン?!」

 

 怯んだところに腕を振り回されて、そのまま僕の元へと戻って来るニョロボン。

 ドラゴンテールの効果と思いたいところだけど………。

 

「キッス?」

「トゲキッス! よかった………」

 

 クロバットかホルビーが出てきたらミミロップが出せなくなるところだったよ。

 危なかったー。

 

「ごめんねトゲキッス。もう少しだけ頑張って!」

「キッス」

 

 休んでいたとはいえ、痺れの効果がなくなったわけではない。

 今でも耐えているはずだ。

 

「トゲキッス、マジカルシャイン!」

 

 体内から光を迸らせて、クリムガンの視界を奪う。

 

「クリムガン、きりさく!」

 

 だけど、そんなの関係ないと言わんばかりに差し迫ってくる。

 

「はどうだん!」

 

 光が効かないなら波導の塊をぶつけることにした。でもすぐに真っ二つ人されてしまう。

 

「躱して!」

 

 間違えてここで攻撃しようものなら確実に爪が入っていた。

 まったく、しぶとい相手だね………。

 

「トゲキッス、もう一度はどうだん!」

「キィッス!?」

 

 うっ………、やっぱり痺れが………。

 

「クリムガン、連続できりさく!」

 

 痺れで動きが一瞬止まったところを逃がしてくれるほど相手は甘くはなかった。

 瞬時に見抜き、ここぞとばかりに連続で攻撃を続けてくる。

 トゲキッスの方は痺れで思うような動きがとれず、躱すこともできないでいた。

 

「くっ………どうしたら………」

 

 戻す………?

 戻しても、次誰を出せば………。

 やっぱりもうミミロップを出すしかないのだろうか。メガシンカを使わないと勝てない相手なのだろうか………。

 

「キゥ………」

「ううん、迷ってる暇はない。トゲキッス! 戻って!」

 

 メガシンカをしてこない相手にメガシンカを使うということは対等では戦えない?

 そんなプライド、トゲキッスが痛めつけられているのを前にそんなこと言ってられないよ!

 

「ミミロップ!」

「ミィ!」

 

 僕の最後の切り札。

 相手が切り札を出してきていないけど、これは出し惜しみをしている暇はない。

 トゲキッスもマンムーもニョロボンも頑張ってくれたんだ。それに応えなきゃ。

 

「いくよ、ミミロップ。メガシンカ!」

 

 リストバンドに付けたキーストーンがミミロップのペンダントと共鳴し始める。光と光が絡み合い、次第にそれはミミロップへと集まり彼女の姿を変化させていく。

 

「メガ、シンカ………?」

 

 あれ……?

 メガシンカってこっちじゃ有名じゃないのかな………。

 でもメガシンカという現象自体は知ってるよね?

 

「これが、そう………なのね………」

 

 どうやら初めて見るみたいだね。

 そっか、それは確かにこんな反応になるはずだよ。僕も初めて見たときはそりゃもう驚いたもん。

 

「ミミロップ、シャドーボール!」

「ミィッ!」

 

 藍色の塊をクリムガンへと投げつけた。

 クリムガン自身、ミミロップのメガシンカに戸惑っていたのか、イブキさん同様反応が遅れていた。

 

「はっ、クリムガン、げきりん!」

「グロウパンチ!」

 

 一瞬で懐に潜ると耳を使ったダブルパンチが炸裂した。

 吹っ飛んでいったクリムガンはまるで動かない。

 

「クリムガン、戦闘不能!」

「………これが、メガシンカの力………。なんてパワーなの………」

 

 意識を失ったクリムガンをボールに戻しながら、今なお驚いているイブキさん。

 やっぱりすごいものなんだね。メガシンカって。

 あっちではハチマンたちが強かったから、例えメガシンカが使えたとしてもそこからがスタートラインだったからちょっと麻痺してるかも………。

 

「キングドラ!」

 

 とうとうイブキさんの切り札が出てきた。以前バトルしたときはこのキングドラに全員倒された苦い経験がある。それをミミロップも思い出したのか、構えを低くしていつでも攻撃をいなせるように態勢を戦闘モードへと移行した。

 

「ミミロップ、くるよ!」

「こうそくいどう!」

 

 は、早い………。

 僕の目はもうキングドラを捉えきれていない。ミミロップの方はどうなんだろう。

 

「ミミロップ、こっちもこうそくいどうだよ!」

「ミミッ!」

 

 僕は追いつけなくてもいい。ミミロップ、頑張って!

 

「りゅうのいぶき!」

「躱して!」

 

 さすがドラゴンタイプ専門のジムリーダー。素早い動きの中でも正確に狙ってくる。

 それを何とかミミロップが躱しているみたいだけど、僕も何か指示を出さなければミミロップがやられるのも時間の問題だ。

 

「………ミミロップ、地面にグロウパンチ!」

 

 どうせあの動きの中では直接触ることができない。

 だったら、障害物を作るのも手だと思う。実施にハチマンたちもよくやっていた。何も攻撃することだけが攻撃じゃない、といわんばかりに。

 

「ハイドロポンプで薙ぎ払え!」

 

 地面に衝撃を与えてクレーターを作り、一瞬だけ破片を浮上させる。

 それをすぐにかき消そうとキングドラが動き出した。

 意識は、破片に向けられている。

 

「シャドーボール!」

 

 細長い口から水砲撃が飛び出す前に目の前の破片の隙間でシャドーボールを破裂させた。衝撃で破片は散り散りになりキングドラに襲い掛かる。当然、無作為に飛んでくるためミミロップも襲われている。

 

「ミミロップ、こうそくいどう!」

 

 今度はこっちから仕掛けることにする。素早い動きで水砲撃を躱し、キングドラの懐へと潜り込んだ。

 

「げきりん!」

「スカイアッパー!」

 

 こうそくいどうで躱してくるものだとばかり踏んでいた。

 だけど、竜の気を暴走させるげきりんで自らを守りながら攻撃に転じてきた。

 さすがだよ。やっぱりこの人は強い。

 ミミロップの掬い上げた拳がキングドラの顎にヒットしたが、尻尾で蹴り上げられてしまい、もう一発打たれて吹き飛ばされてきた。これでこちらにも相当のダメージが入ったのは間違いない。

 

「ミミロップ!」

 

 お互いに一度距離を取り、態勢を立て直す。

 

「キングドラ! いきなさい!」

 

 キングドラはまだ竜の気を暴走させている。

 どうする…………?

 このまま真っ向から立ち向かうか………ハチマンだったら間違いなく搦め手を入れて回避するはず…………。だけどユキノシタさんだったら「真っ向から叩き潰してこそ勝利というものよ」なんて言いそうだなー…………。

 

「うん、でもここは勝ちに行くよ。ミミロップ! こうそくいどう!」

 

 まずは高速で移動してキングドラの目を撹乱。

 

「グロウパンチ!」

 

 そして、四方から連続で拳を叩き込む。

 キングドラは強い。あのまま真っ向からいっても、よくて相打ちくらいだ。下手したら疲弊した他のみんなを出さなければならなくなる。それはかわいそう、というか僕が見ていられない。だから、最小限のダメージで勝つ。

 

「キングドラ、もう一度!」

 

 キングドラは反転して、背後を取ったミミロップに突っ込んでくる。

 よし、今度こそいける。

 伊達にグロウパンチを使ってないんだ。今の攻撃力ならいけるはず。

 

「ミミロップ、スカイアッパー!」

 

 一瞬身体をさげて、キングドラの懐へと再度潜り込む。

 そして右拳を掬い上げ、キングドラを真上へ突き上げた。

 

「キングドラ!?」

 

 キングドラは天井にぶつかるとしゅーっと何の反応もないまま落ちてきて、地面にまで身体を叩きつけた。

 

「キングドラ………戦闘不能! よってこの勝負、挑戦者の勝ちとします!」

「やった! 勝った! 勝ったよ、ミミロップ!」

「ミミィ!」

 

 やった、これでジョウト地方のバッチがそろった………。後はカントーに戻ってトキワジムを攻略するだけだ。

 それもこれも全部ハチマンたちと……僕に力を貸してくれたミミロップたちのおかげだよ。みんなありがとう。

 

「くっ………、ほほほほらっ! ありがたく受け取りなさい! こここ今回ばかりはわたしの負けを認めてあげなくもないわ! でもだからと言って今度はそう上手くいくと思わないことね! 今度は負けないんだから!」

 

 あ、はい………。

 捲し立てられながらも差し出してきたバッジを受け取った。

 ジョウト地方のバッジケースに入れて並べてみる。

 うん、壮観だなー。すごく気持ち良い。

 

「ありがとう、ございます………」

 

 この人あれだよね。なんというかサガミさん、みたいな人だよね。

 確かハチマンの前じゃこんな態度だったし。でも別に怒ってるわけじゃないんだもんね。

 

「えと、その……勝った僕から言われるのは嫌かもしれませんが、イブキさんは強いですよ。以前負けているのが何よりも証拠です。先回も今回も良い勉強になりました。ありがとうございます」

「うっ…………、次いっても頑張りなさいよ…………」

「はいっ」

 

 うん、やっぱりいい人だ。

 それからイブキさんに見送られてフスベシティを後にして、トゲキッスに乗ってクチバシティに帰ることにした。

 

 

 あ、帰ったらハチマンに結果報告しよーっと。ふふっ。

 




行間

トツカサイカ 持ち物:キーストーン etc………
・ニョロボン ♂
 覚えてる技:ハイドロポンプ、グロウパンチ、どくづき、さいみんじゅつ、れいとうパンチ、カウンター、アイスボール

・トゲキッス(トゲチック→トゲキッス) ♀
 覚えてる技:マジカルシャイン、つばめがえし、てんしのキッス、ゆびをふる、はどうだん、サイコショック、はがねのつばさ、でんげきは、ソーラービーム、やきつくす、でんじは、にほんばれ、ひかりのかべ、あさのひざし

・クロバット ♂
 覚えてる技:クロスポイズン、ねっぷう、エアカッター、アクロバット、ギガドレイン、しねんのずつき、はがねのつばさ、ブレイブバード、わるだくみ、あやしいひかり

・ミミロップ ♀
 持ち物:ミミロップナイト
 特性:じゅうなん←→きもったま
 覚えてる技:とびひざげり、ほのおのパンチ、シャドーボール、たがやす、ミラーコート、とびはねる、からげんき、スカイアッパー、グロウパンチ、ともえなげ、おんがえし、こうそくいどう、かげぶんしん

・ホルビー ♂
 覚えてる技:マッドショット、あなをほる、ワイルドボルト、でんこうせっか、とびはねる、こうそくいどう、かげぶんしん

・マンムー ♂
 覚えてる技:こおりのつぶて、とっしん、のしかかり、つららおとし

控え
・ハピナス ♀
 覚えてる技:タマゴうみ、ちいさくなる、いやしのはどう


イブキ
・キングドラ ♀
 覚えてる技:りゅうのいぶき、ハイドロポンプ、げきりん、こうそくいどう

・ギャラドス ♀
 特性:いかく
 覚えてる技:ハイドロポンプ、たきのぼり、はかいこうせん、りゅうのまい

・ハクリュー ♀
 覚えてる技:アクアテール、りゅうのいぶき、げきりん、でんじは

・クリムガン(色違い) ♂
 特性:さめはだ
 覚えてる技:りゅうのいかり、きりさく、ドラゴンテール、げきりん


今作品では公式バトルの描写が前作よりも増えることでしょう。
というわけで、主にバトル展開しかない話の後書きには行間をつけていきます(最後にもいつものようにまとめて載せますので悪しからず)。


思った以上に天使のリベンチマッチが長くなってしまいました………。
まあ、次回もこんな割合なんですけどね。バトルじゃないけど。


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0〜4話 後編

 なん、なのよっ!

 あんのバカ!

 なんでうちがこんな泥臭い仕事しなきゃなんないのよ!

 しかもなんでよりにもよって知らない人と一緒にやらなきゃなんないのよ!

 誰よ、あの二人。

 うちの知らない間に新しいのを二人も引っ掛けてきやがって。

 ほんっと女に対してだらしなさすぎるでしょ!

 みんなもあんな奴の何がいいって言うのよ!

 

「うひゃー、全然進まないねー」

「そりゃ、ここ一帯を整備だからね。さすがに広すぎるでしょ」

 

 名前なんだっけ?

 オリ………オリ……そう、オリモトさん!

 それともう一人ナカマチさん。

 彼女たちもまた別件でカロスに来ていて、それをあのバカがまとめて解決しちゃったらしい。そして目的もなく暇を持て余していたところをあいつに雇われたんだとか。

 

「でもここであたしらのポケモンの面倒も見てくれるんでしょ?」

「見るのも私たちだけどね」

「ウケる」

「サガミさんも大変だね。ここの責任者にされて」

「え、あ、うん、そう、だね………」

 

 ふぇぇええええええっ。

 助けてディアンシー!

 一体何にウケるっていうの?!

 いきなり話振られても困るんだけどー!

 

「あーもー、疲れたー。一旦休憩しよー」

「はいはい、あんたは自由すぎ。まあ、でも。一息いれるのには賛成かな」

 

 うちらは今、とある仕事を与えられている。

 それは4番道路を東に抜けたところ、ミアレシティの南東部周辺エリアを開発することだ。開発って言ってもそんな大層なものじゃない。ただポケモンたちが住みやすいような環境に揃えるというだけの話。後は柵などを立てて敷地をはっきりとさせるだけなんだけど………。それが異常に広いのだ。どうしてあのバカはこんな無理難題を押し付けてきたのだろうか。

 事の発端はあいつが「育て屋でもするか」なんて言い出した事だ。そこから話が転じて自分たちのポケモンたちを一箇所に集めておこうということになり、現在に至る。要は連れ歩けないポケモンたちをここで世話しようというのだ。

 まあ、それはいい。それはいいよ。うちの知ってるあいつが言いそうな事ではある。ただ問題なのはなんでこの三人なのかってことだ。

 うち、あの二人のこと何も知らないんだけど!

 ほんと誰なのよ!

 元シャドーにいた奴ら、なんて説明されてもそもそもシャドーなんて聞いたことないし!

 調べたら、シャドーは悪の組織だって言うじゃない!

 そんなの人目のない今、うち大ピンチじゃん! どうしてくれんのよ!

 

「サガミさーん……ってやっぱ、まだ信用してない感じ?」

「え、あ、や、そういう、わけじゃ………」

 

 ちょ、そういう聞き方しないでよ。答えづらいじゃん!

 

「まあまあ、実際あたしら恐れられるようなところにいたんだし、仕方ないって。ただそれを言ったらヒキガヤもだからねー。というかあたしらよりもよっぽど恐ろしいと思うよ」

 

 恐ろしいヒキガヤとかウケる、とオリモトさんはけらけら笑っている。

 分かっている。彼女たちは別にうちに襲いかかってこようなんて考えていない。はっきり言って普通の人たちだ。彼女たちの言う通り、もっと恐ろしい存在が近くにはいるんだから、彼女たちをあいつ以上に恐れているのは間違っている。

 でも、なんか………。

 

「にしてもヒキガヤいないと暇だなー」

「あんた、どんだけ好きなのよ」

「いや別に好きってわけじゃないから。ヒキガヤと恋人とかないわー。友達くらいならいいけど」

「本人聞いたら泣くと思うよ。一応告白されたんでしょ?」

 

 そうなのだ。

 多分、そこに引っかかっているからなのだ。

 件のあいつ、ヒキガヤハチマンは以前オリモトさんに告白をした経験を持つ。振られたらしいけど、そんな二人が今普通に話している姿を見て、うちの中で何かモヤモヤしたものが生まれた。これが何なのか分からないけど、気になってしょうがない。

 それが災いして彼女たちの目を見られないというのがうちの現状である。

 

「…………その、なんで付き合わなかったの……?」

「ん? 告白の話? そりゃーだって、シャドーにいた頃だよ? 別にそういうつもりでヒキガヤと接してたわけじゃなかったのに、いきなり告白されたら誰でも焦るって。楽しくなかったか、って聞かれたら楽しかったけどさー、付き合うとか考えたこともなかったし。てか、あたし男装してたし。男装と恋人とかただのBLじゃん」

「大丈夫じゃない? 一部の人たちからは喜ばれると思うよ?」

「いや、それはマジでウケないでしょ。あたし、これでもピュアな女の子だから」

「ピュアな女の子………ないない」

 

 そもそもヒキガヤが告白とか全く想像ができない。

 や、今でこそ周りがあんなんだから甘くなってはいるけど、戦闘モードに入った時のあいつの目は怖かった。特に敵に対しての目は尋常じゃない。一度向けられたうちが言うんだからそうなのだ。

 

「今と昔じゃ状況も違うんだから受けてあげたら?」

「本人にもうその気はないって。それにあたしはほら、そういうんじゃないしさ」

 

 そういうんじゃないってなに………?

 結局彼女自身にはその気があるってことなの?

 

「チカも分かってるでしょ。あたしとあいつとじゃ住む世界が違う。こうやって表に出られただけで他に何も望んじゃダメなんだよ。また、間違えるから」

 

 間違える………。

 一体何をとは聞けない。

 だって、それはうちの知らない世界の話だから。うちが聞いたところで何も言えないから。

 でも、これだけは言える。

 

「………間違っても、あいつはちゃんと正してくれる………と思う」

「…………………」

「…………………」

 

 なんでそこで黙るのよ。

 何か言ってよ!

 

「……そっかそっか、ミナミちゃんもこっち側に足を踏み入れそうになったんだね」

「……それを彼が助けてくれたと。できた話だなー」

 

 ちょ!?

 なんなの二人とも!?

 なんでそんなニヤニヤによによしてるの?!

 気持ち悪い顔になってるんだけど!!

 

「ケッ」

「いったぁ?! ちょ、何すんのよ!?」

 

 何故かドクロッグに頭を叩かれた。

 みんなしてなんなのよ!

 

「「まあまあ、その話、くわしくっ」」

 

 だから顔を近づけるなっ!

 あーもう、ヒキガヤのバカぁぁぁ!!

 あんたのせいで結局うちのポジションがいじられる方に決まっちゃったじゃない!!

 

「絶対、絶対話さないんだからーっ!」

 

 …………結局、全て吐かされてしまった。

 お返しにカオリちゃんたちの話も聞かせてもらったけど、最終的には何故かうちがいじられていた。

 もう、なんなのよっ!

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「ビビヨン、サイコキネシス!」

「デンリュウ、パワージェム!」

「ビビヨン!?」

 

 ふぅ、勝った。

 

「ビビヨン、戦闘不能! よってイロハちゃんの勝ち!」

 

 デンリュウ一体で勝っちゃった。

 もちろんメガシンカはしていない。

 

「………とほほ、みんな強すぎ………」

 

 今日でハグダンシティに来て三日目。

 初日はコマチちゃん、二日目はユイ先輩、そして三日目の今日、私がジム戦することになっていた。

 そして今、三人が三人同じジムバッジを手にしている。

 まあ、ユイ先輩はふんじんを使われてウインディが酷い目に遭っていたけど。それでもタイプ相性とか、ちゃんと考えられているバトルをしていたのだから、さすがはユキノ先輩だ。最初のバトルなんてそりゃもう酷かったもん。

 

「はあ………、ハチマンくんに何言われるかなー」

「大丈夫ですよ。私たち以外に負けたら何か言うかもしれませんが、そもそもそんなみみっちいことしませんって。先輩の懐はそりゃもう広いですから」

「まあ、お嫁さんを四人も抱えるお兄ちゃんだもんねー」

「えへへへー」

「………正確には誰も結婚なんてしてないけどね。みんな自分で言ってるだけだから」

 

 ユイ先輩。それを言うのはなしですよ。

 ユイガハマユイ先輩。

 私がスクールにいた頃の先輩であのハヤマ先輩たちと同じ学年。あの頃は羨ましいと思ったし、一緒に旅もしてみたいなー、なんて思っていた。

 だけど、今じゃハヤマ先輩に夢中、なんて自分はいない。ただのお友達感覚だ。カロスに来てしばらく一緒に旅をしていたのも『お友達のお誘い』だったから。別に楽しいからいいんだけど。なのにとある先輩にはお熱になってしまっている。特にかっこいいわけじゃない。何なら目が濁っているというか、いい印象すらない。それでも何故か惹かれている。

 

 

 

 私がまだトレーナーズスクールにいた頃の話。

 私の一つ上には「最強の二角」と呼ばれるユキノシタユキノ、ハヤマハヤトという二人の先輩がいた。今のあの二人である。ユキノ先輩のお姉さんーーはるさん先輩ーーの言い付けらしいけど、二人は毎日のように放課後ポケモンバトルを繰り広げていた。なのにその二人に、というかユキノ先輩に悲劇が襲った。

 新学期が始まる半月前のある日、彼女のポケモンであるオーダイルが暴走したのだ。そして、その日を境にして二人が対戦することは全くなかった。

 そこには一人の男子生徒の姿があったらしい。何でも、オーダイルの暴走を止めた男子生徒がいたのだとか。当時は既に最上級生が卒業しており、実質ユキノ先輩たちが最高学年であったため、オーダイルの暴走を止められる程の強さの男子生徒は彼女たちと同学年だと思った。後に本人に会うんだけどね。

 でも確かに私のポケモンが暴走しちゃったら、トラウマもんだと思うし、ユキノ先輩がハヤマ先輩とのバトルを避けたのも分からなくもない。分からなくもないけど、もう少しハヤマ先輩を見てあげて欲しかったとも思う。勝手だけど。でなければハヤマ先輩が壊れることもなかったと思うから。

 だけど、ユキノ先輩はそれだけで済まされなかった。だからもう距離を置くしかできなかったんだろうね。

 オーダイル暴走の一週間後に新入生を呼び込むためのイベントと称したポケモンバトルのトーナメント戦が開かれたのだ。もちろん、「最強の二角」さんたちも奮って参加した。トーナメント戦では順調に二人とも勝ち進んでいき、決勝は二人のバトルになるだろうと誰もが思っていた矢先ーー………。

 

 ーーーハヤマ先輩が負けた。

 

 それは衝撃的だった。

 今まで、ハヤマ先輩が負けるのはユキノ先輩とのバトルにおいてだけ。それも勝ちもしたり負けもしたりの均衡戦。他の人たちとバトルをしても例え相手がタイプの相性が悪かろうが絶対に勝っていた。そんな無敵のハヤマ先輩が、「その他大勢の生徒」としか認識されなさそうな男子生徒に負けたのだ。ショックなんてものじゃない。棍棒で頭を打たれたような鈍い痛みが身体の中を走った感じだった。

 だが、別にそのバトルが手抜きしたようなものでもなかった。ハヤマ先輩はリザードンをパートナーとしていて、相手の男子生徒もまさかのリザードンをパートナーとしていた。ユキノ先輩やハヤマ先輩は私たちとは別次元の強さを誇っており、このバトルも同じリザードンだからと言って、ハヤマ先輩がすぐに倒してしまうだろうと会場の皆がそう思っていた。なのに、いざバトルを始めるとハヤマ先輩のスピードについてくるわ、弱点を突いてくるわで二人は同じ次元でバトルをしていたのだ。見ているこっちは頭が全くついていけてなかった。だって、ハヤマ先輩がガチな方の目をしていて、それでも倒せない相手。それどころか、攻撃を普通に躱されていたのだ。その時点で既に有り得ない光景だった。でも、それ以上のことが最後に起きた。相手のリザードンが炎の渦に包まれたかと思うと一瞬にして距離を詰め、ハヤマ先輩のリザードンを倒してしまったのだ。

 

 そう、彼はハヤマ先輩とのバトルで一つ上の次元に昇ってしまったのだ。

 

 

 それは綺麗で美しい炎だった。

 

 それは熱く猛々しい炎だった。

 

 それは目に焼き付いて離れない炎だった。

 

 それは私の人生を変えてしまった炎だった。

 

 

 私は彼に興味を惹かれた。ただ純粋に憧れた。

 ポケモンバトルの奥深さを魅せられた感じだった。

 だからだろう。その後の決勝戦も私は彼に釘付けだった。当然、決勝戦での相手はユキノ先輩。彼にとっては相性の悪いオーダイル。でも彼が負けるような未来が見えなかった。独創的なバトルを組み立て、その都度臨機応変に対応してくる彼は純粋に凄いトレーナーだと思った。だけど、彼もユキノ先輩もツイてないようでオーダイルが再び暴走してしまった。なのに、彼はそんな状況ですら既に見越していた感じだった。オーダイルが暴走し出したと分かると真っ先にユキノ先輩の保護へと駆け出し、リザードンがオーダイルのドラゴンクローの爪の間に自分のドラゴンクローの爪を通すという、何とも器用なことをして食い止めた。その間、彼はユキノ先輩に何か話していたが、流石に連戦で体力を消耗していたリザードンが振り切られ、彼はオーダイルに攻撃された。よくは見えなかったが、音が結構な感じでヤバかった。今でもあの音を思い出すと彼のことが頭の中を過る。それくらいの連鎖性を私の中に植え込まれている。あの音だけはちょっとトラウマ。

 その後、流石に彼もキレてオーダイルを自ら殴った。そして、彼はその場に倒れ、ヒラツカ先生に運ばれていった(多分、保健室へ)。

 ーーーまったくもう、思い出しただけでかっこよすぎですよ、先輩。

 これがハヤマ先輩だったら抱きついてましたからね。

 ………あれってそういえばその翌日だったっけなー。

 昼休みに渡り廊下でオーダイルと先輩を見かけたのだ。終始オーダイルが無言なのが変な感じだったのを覚えている。

 で、その日の放課後。

 先輩がヒラツカ先生と校庭でバトルをしていた。

 ルールはよく分からないが、遠巻きながら見ていた限り何でもありだったらしい。だって、先生が一生徒相手に二対一でバトルしてるんだから容赦なんてものは全くないでしょ。なのに、先輩は動じることなく対処していたんだよ? というか攻撃の躱し方が上手いのなんのって。サワムラーの蹴りを着地がカイリキーのところに行くようにタイミングを合わせて躱すとか、当時の私には想像もできなかったバトルだった。何をどうしたらあんなに上手く立ち回れるのか分からないし、しかも自分の身体じゃない、ポケモンを上手く回避させているのだ。そして平然とした先輩の顔がさらに技術の凄まじさを掻き消し、逆に恐ろしく見えた。

 だけど目は離せない。

 何故か審判をしているユイ先輩も息を呑んで魅入っていた。ツルミ先生に連れられてきたハヤマ先輩とユキノ先輩も静かに見ていた。なんか黒髪の小さい女の子もいるけど、ツルミ先生に似ていたし、もしかしてルミちゃん、だったのかな………。

 

 ーーー先生たちはこのバトルを見せて何かを伝えようとしているのだろうか。

 

 そんな考えが当時頭を過ぎった。

 それにあのメンバーは一体…………。

 まさかとは思うけど、私まであのメンバーに入ってたりはしないよね?

 

『ふんっ、生意気な戦い方をする』

 

 あーそうだ。

 この時、初めてヤドキングと会ったんだった。

 ふと、どこからかそんな声が聞こえてきたのだ。聞こえてきたというよりは頭を過ぎったと言った方が合ってるかもしれない。

 気配を感じて横を見るとヤドキングが立っていたんだよ? 怖くない? ねえ、怖いよね?

 それにあの仁王立ち。格好いい筈なのにヤドキングだとちょっと残念感が凄かった………。本人に言ったら泣かれそうだからそっと心に秘めておこう。

 

『自分の実力を把握して、無理な攻撃には移らない。極力相手の動きを使って隙を作る。何ともムカつく野郎だ』

 

 何故か私に聞こえるようにそう言ってきたの。

 というかそもそも何でヤドキングが喋ってるわけ?! ポケモンって喋れるの?! て、もう頭の中ぐちゃぐちゃ。

 いろんな意味でヤドキングはインパクトが大きい。

 で、その横にはなんと!

 長い顎髭が特徴の校長先生ーー驚きなことに私のおじいちゃんだったーーが立っていたのだ。

 なんで身近にいたっていうのに言ってくれなかったんだろう。確かになんでおじいちゃんと会った記憶がないのかなーって思ってはいたけどさ。酷くない?

 それからおじいちゃんとヤドキングとで先輩たちのバトルを見ていた。途中ヤドキングが鼻息を荒くして顔を近づけてきたり、お尻触ってきたりした。今と変わりないことに驚きである。

 その後先輩は無事勝った。そしてユイ先輩がパンツを見られたり、三日後に校長先生と彼のバトルが決定したりとあの人も大変だなーと見ていたのを覚えている。

 でもね、さすがにね。おじいちゃんが六体も出してて、あれをリザードン一体で倒せるとは思えなかったよ。

 ねえ、特例の卒業ってあれが普通だったりするの?

 

 

 

 イベントから二日後。

 スクール内の先輩の話題は消えること知らない。当然だよね。だって先輩は「最強の二角」の二人ともを倒しちゃったんだから。ただ、主に上級生の間で話が飛び交い、下の学年になるにつれて情報の格差が見られた。それでもおかしな話、誰一人として先輩の名前を覚えている者はいなかった。そして、それは私も例外ではない。

 まあ、そんな噂の波に漂ってるうちに一時間目となり朝から体育という重労働を課せられた。せっかく噂話でテンションが上がってたのに、一気に憂鬱な気分へと駄々下がり。おまけに転けて膝を擦りむくというね。で、保健室に行ったら行ったで先生いないし。いるのはソファーでうつ伏せで寝ている男子生徒が一人。音を立てずに部屋の中へと入り、ソファーの前にある丸椅子に腰を落とす。ソファーと丸椅子の間にある白いテーブルの上には、彼のだと思われるカバンが無造作に置かれていた。じーっと観察していると制服の左肩部分が破けているのに気が付いた。こんな時間にこんな所で授業をサボってるんだから不良さんなんだろうか。だけど、その認識は彼がいきなり口を開いたことで覆った。

 ………さすが先輩。いつでもブレないそのシスコン。尊敬に値しません!

 ちょっと意外な内容だったというのもあるけど、いきなり口を開いたという驚きもあり、つい私は応答してしまった。だけど、先輩は漸く私がいたことに気付いたようで、声が少し慌てていた。というかキョドリ方がキモかった。でも私は持ち前のコミュ力でそれは顔には出ないようにした。昔の私ってえらい。そしてさすが先輩。今も昔も反応が一緒である。

 話していると保健室に来た理由を聞かれたので擦りむいたこと教えたら、いきなり立ったかと思うと消毒液と脱脂綿と絆創膏を持ってきてくれた。勝手に持ち出していいの? とも思ったが、先輩に諭されて手当てをしてもらった。消毒液が急に沁みたため、つい先輩の頭を掴んでしまい、涙目になってる自分をみられたくなくて、そのまま彼の頭をがっちりホールドしてるとふわりと私の頭の上に温かい感触がした。それは先輩の手で、「初めて」家族以外の男の人に頭を撫でられた瞬間だった。突然のことで私は素っ頓狂な声を出してしまい、いつもの私はどこかへと消えていた。

 うへへ〜、思い出しただけでまた撫でて欲しくなってきた。あのあったかい感触が忘れられない。病みつきだ。先輩、責任取ってください。

 その後ツルミ先生が入ってきて、先輩の傷を見せてもらったりもしたけど、あの人人間なんですかねー。ほぼ完治状態とか治り早すぎじゃないですか? じこさいせいでも使えるんですかね………。

 それから三日経って、校長と先輩のバトルの日がやってきた。

 やってきたのはいいのだけど、あの時の私はとてもピンチだった。何故かヤドキングに追いかけられていたのだ。事の始まりはまたしても一時間目の体育である。後片付けをしているといつの間にか私だけが取り残されていた。や、別にいつものことだから何とも思わないんだけどね。いつも尻尾を振ってきていた男子たちも手伝っちゃくれない。その程度のものだったってだけのことだしね。ただその時はそれが仇となってしまったのだ。一人片付けをしているところにヤドキングがひょっこり現れた。それからは追いかけ回されているというね。鼻息を荒くして興奮状態になっている。やっぱり可愛くさりげなく去ろうとしたのがダメだったのかなー。身の危険しか感じなかった。

 かと言って既に二時間目が始まっており、廊下には人気がない。聞こえてくるのは教室からの声とヤドキングのうるさい足音のみ。助けを求めればよかったんだろうけど、おじいちゃんのポケモンだしね。下手に人数を増やす方が却って被害が増すと思って呼べなかったの。ピンチでも周りを機にする私ってえらい。ヒラツカ先生でもいればよかったんだけどなー。

 だから私は逃げることにした。だってその日は先輩と校長とのバトルの日。このままサボってバトルの様子とか見れちゃったり、とかいう甘い考えが私の中にあったりしたのだ。

 正直、あのイベントの後から授業に対して身が入らなかった。あんなバトルを見せられたら今やってることもバカバカしく思えてきたのだ。友達だ勉強だポケモンだ、なんかそういうのが全てどうでもよくなってしまった。一つだけ例外を上げれば先輩のバトルをもう一度見たいってだけ。あのハヤマ先輩もユキノ先輩もヒラツカ先生までもが勝てなかった先輩がどれほどの強さなのかこの目で見ておきたい。そんな思いが私の中を渦巻いていた。

 そして、ヤドキングから逃げ回っていたら都合よく先輩と会ってしまった。まあ、その横にはユイ先輩もいたんだけどね。

 どうやらすでに卒業試験が始まっていたようで、ヤドキングもお仕事の最中だったらしい。放棄してるようにしか見えないよね。

 その後脱出の際に先輩が綺麗な石を落としたのだ。それを拾い上げた私にくれたんだけど、まさかそれがキーストーンだとは当時全く考えもしなかった。そもそもメガシンカの知識がなかったのだから仕方ない。綺麗な石なのと、先輩との思い出の品ってことで身につけていた。ユイ先輩も何か欲しいっておねだりして制服の上着を渡されていて、ちょっと羨ましいとか思ったり思わなかったり…………うん、思わなかった。全然思わなかったんだからね!

 

「私はユイ先輩みたいに変態じゃないもん!」

「へっ? な、なにいきなり?! イロハちゃん、どういうこと?!」

「ふぇ?」

 

 あ………。

 トリップ、してたみたい………。

 

「イ〜ロ〜ハ〜ちゃ〜ん?」

 

 こわっ?!

 ユイ先輩こわっ!?

 

「ごめんなさいごめんなさい先輩の制服の上着の匂いを嗅いでいたユイ先輩を思い出して羨ましいとか思ってないのでごめんなさい!」

「ちょ!? それいつの話だし!? というかそれただの変態じゃん!! あたしそんな変態じゃないし!!」

 

 あ、なんか機が動転して口走っちゃった。

 コマチちゃんがすごい目で見てる。

 よし、ここはこのまま押しきろう。

 

「ごめんなさいごめんなさい私もこの胸が欲しいとか思ったりしてるので、分けてくださいいただきます!」

 

 先輩の時と同じように早口で捲し立てて言いたいことを言っていく。

 私、何言ってるんだろう…………。これじゃ私も変態だよ。

 

「ふぎゃ!? いいいいイロハちゃん?! なんなの、いきなり!? あたし、ヒッキーじゃないからいつものクダリいらないよ! って、うひゃ!?」

 

 顔を真っ赤に染めたユイ先輩の二つのお山に飛びついた。ぐりぐりと頭を丘に押し込んでいく。

 

「ふへー、なんか落ち着きます」

 

 大きいことはいいことである。

 私もこれくらい成長して先輩の顔をぐりぐりしてみたい。

 うわ、もうこれ完全にアウトな発言だ………。

 

 

 もう、これはあれだね。

 先輩、帰ったらこの責任、と後ついでにかわいい私でいることに冷めてしまった長年の責任、ともう一つ。私をここまで本気にさせて責任、取ってくださいね。ハ〜チマンくん!

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「ああーっ、もうっ! 三日も経ったのに全然終わる気しないんですけどー!!」

「うわっ、どしたの、ミナミ」

「だって、だってぇ………もう腰痛いし、腕痛いし…………ヒキガヤの顔見てないし……………」

「あ、ここにも相当彼のこと好きなのがいたんだった」

「ウケる」

「ウケないよ!」

 

 もういやーっ!

 せめて顔くらい見せなさいよ、うちらを労いなさいよ、ヒキガヤのバカぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!」

 

「ミナミの遠吠え、超ウケる」

「だからウケないって!」




一人だけ長いのは割と初期の頃にスピンオフ一人目として途中まで書き残していたからです。
それとおそらくみなさんの中では「あれ? こっちはやらないの?」ってキャラもいることでしょう。本編でもハチマンの近くにいるので書かなかっただけです。書いたらキリないですし。
それでも一人、書けなかった子がいるので、どこかで挟みたいと思います。


では、来週からいよいよ本編です。


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1話

さて、今日から本格始動ですよー。


 フレア団の事件も収束し。

 再び安息の地に戻ったカロス地方。

 そこに俺は居座ることになった。

 元々は愛しのマイリトルエンジェル、コマチの旅についてきただけだというのにフレア団の事件に巻き込まれ、なんだかんだ地位と権力とポケモンたちの力を使って、解決に至ったわけだが(主に他の人が解決したけど)。

 そんな俺にジョウト・カントーポケモン協会の理事長様からお達しがあったのだ。

 

『そのまま独立してカロス地方の再建をしてくれないか』

 

 と。

 これが意味するのは俺がカロス地方のポケモン協会を再建し、長になれってことである。つまるところ人事異動である。酷い………。

 まあ、文句を言いつつも引き受けたわけだけど。だって物入りなんだもん。

 で、そんな達しがあった日から四日後のミアレシティポケモン協会カロス支部にて。

 新たなポケモン協会の理事長就任式が軽く行われている。式といっても俺が前に座っているだけ。まあ、今日の主役ですからね。

 つか、朝からこんな集まらんでも。

 

「というわけで彼が新しい理事長に就任することになりました」

 

 淡々と説明しているのは、自称俺の正妻を名乗るユキノシタユキノである。

 独立するにあたって取引として引き抜いた人材だ。

 

「ジムリーダーや四天王のみなさんの中には彼のことを知っている人もいますし、問題ないかと思うのですが」

「本当にハチマンが理事長なんだ………」

 

 周りから(主にイロハから)現地妻と揶揄されているコルニが驚きの声を上げた。

 一応これでもシャラシティのジムリーダー。なのだが、フレア団の事件で割と散々な目に遭った少女である。一時期人間不信にまで陥ってたからな。重症だったぞ。

 それもどうやら俺たちがハヤマと一戦交えている間に目が覚めたらしい。イップス状態も解けたみたいで、元通りの快活さを取り戻している。スイッチがまだ残っているかもしれないから注意が必要だが、今のところは安心といったところか。

 

「いやー、話を聞いたときは驚いたけどねー。まさかハチマンがこんな大出世するなんてねー」

 

 けらけら笑うのは何を隠そう、ユキノシタハルノである。

 妹の方を抜擢したら勝手についてきた寂しがり屋。仕方ないので姉妹で俺の両腕になってもらうことにした。なにこれ、超最強過ぎじゃね?

 ああ、当然俺の部下ってことになってるザイモクザとカワ…………カワ……なんだっけ………? ま、まあ、取り敢えずカワなんとかさんも否応なく人事異動になった。

 一応聞いたら、「ふーん、あんたってやっぱすごいやつだったんだ。いいよ。帰る予定は立ってないから」と軽く了承。あんまり俺が理事長になったことにも驚いてなさそうだった。肝が据わってるというかなんというか。相変わらず動じない少女である。

 逆に弟のカワサキタイシとかいうコマチを付け狙うクズ虫は「お、お兄さん!? 大出世じゃないっすか!? はっ?! というかそもそもお兄さんってそんなすごい人だったんすか!? そりゃ、ヒキガヤさんも強いわけだ…………」と素直に驚いていたな。コマチはやらんぞ。

 

「んー、素質は十分だけど、大丈夫なのかなー?」

「何か問題でも?」

 

 ハクダンジムのジムリーダー・ビオラさんが心配そうな面持ちで俺の顔をジロジロと見てくる。

 

「んー、ほら、ハチマン君ってカントー出身じゃない? 中には余所者が、なんて思う人もいると思うの」

「んなの言わせておけばいいじゃないすか? そもそもしばらく公表する気ないし」

「えっ? 公表しないの?」

「どんだけ仕事に貪欲なんですか………」

 

 あんたも結構酷い目に遭ったんじゃねぇのかよ。少しは休もうとか考えろよ。ジャーナリストの血は騒ぎ出すと止まらないんだな、パンジーさん。

 

「んじゃ、基本的にパンジーさんの雑誌で情報公開ってことにします?」

「いいの?!」

「俺も少し手を加えさせてくれるなら」

「やったーっ。仕事がきたーっ!」

「よかったね、姉さん。あ、写真が必要なときは言ってね。というか撮らせて」

 

 ちゃっかりビオラさんまで仕事をこじつけてきやがった。

 いいけどさ。

 

「一気に専属のカメラマンまで揃えたわね………」

「これが今まで私達に発揮されていた力なのね………」

 

 俺の両脇に座る二人が頭を押さえているのはなんでだろうね。

 

「これはその………あれだよ、あれ。オレらはまだ実力を知らねぇのよ。バトルするなり見せてもらわねぇと」

「いんや、大丈夫だ。今回の騒動でハチマンはかなり強くなったみたいだからな。もう誰も手をつけられんところにいるよ」

「そんなにか? これはあれだな、最終兵器みたいなもんだな」

 

 ウルップという雪降るエイセツジムのジムリーダーの疑問にけらけらと軽い口調でコンコンブル博士が説明した。

 それ、前にも言われたな。誰か俺を最終兵器だって言ってたような気がする。

 というか、だ。

 ウルップさん、寒くないんですか? ふくよかなお身体ですけど、シャツ一枚ってあーた。

 

「それで、ですけれど。カロスのポケモン協会はフレア団騒動でも活動していなかったわけで、名誉は地に落ちているも同然。そのためにも一つイベントを開催しようという結論になりました」

「イベント?! どんな?!」

「ポケモンリーグ。ジムリーダー、四天王、チャンピオンと揃っているのにリーグ戦があった経歴がない。人材だけいてもその実力を見せなくては意味がないだろ? それにフレア団によってジムリーダーにはセキタイ爆破の嫌疑がデマで流されたんだ。フレア団を引っ捕らえたからそのデマも噂で終わったが、疑いの目が消えたわけじゃない。何ならパキラは四天王。同じ枠組みの四天王はもちろん、チャンピオンだって立場が危ういんだ。だからこうして俺が人事異動になったというわけだ。つーわけで、名誉挽回のためにもリーグ戦を開こうと思う」

 

 コルニが身を乗り出してきたので、答えてやった。

 

「それは構わないのだけれど。いえ、構わないというのにも語弊があるわね。色々と問題が山済みだもの」

「カルネの意見は最もである。第一の問題が貴公は一体何者なのだ? コンコンブル師匠は信頼できる者だと仰られていたが、貴公の言葉でそこを明らかにしてほしい」

「何者………ねー」

「「「そんなの決まってるじゃない」」」

「えっ? ちょ、なに?」

 

 どしたの、二人とも。それにコルニまで。

 

「「「忠犬ハチ公よ!!」」」

 

 ねぇ、そんな声張ってまで言うことじゃないと思うんだけど。

 まずそれで伝わる…………伝わったみたいだ。みんな固まっちゃってるよ。

 マジで広まってるのね、その名前。やだわー。

 

「それは真なのか? あの、カントーのロケット団を相手に暴れまわったとかいう………」

「そういえばグリーンさんが何か意味深なことを言ってたわね。『これからカロスには強敵が現れる。チャンピオンのお前の座も危うくなるぞ』って」

「絶対にハチマンだよ、それ」

 

 俺だな、それ。

 くそ、あの野郎。俺を危険人物に仕立て上げやがって。

 

「これは失敬。そのような経歴をお持ちだとは」

 

 でしょうね。

 だって、こんなのがそんな変な通り名の実物だもんな。

 誰も同一人物だなんて思わねぇよ。

 

「ルールはどうするのですか? 参加条件など、色々と取り決めなくては」

「そこに関してはカントーに則ってやりますよ。まず予選と本選に分け、本選出場者を選出。ただし、カロス地方のジムバッジを八つ揃えた者は無条件で本選へ出場可能。だからジムリーダーは負けてもいられないって話ですよ」

「これはこれは。同時にジムリーダーの実力を試してくるとは君らしい。我々も最初から全力を出さなければなりませんね」

 

 ザクロさんが涼しそうな顔で言い放った。

 そんないい笑顔してるけど、実際挑戦者に勝つのって大変だぞ?

 

「つーわけで、コルニ」

「へっ? なに?」

「お前が一つのターニングポイントになる。メガシンカの後継者として存分に力を奮え」

 

 カロスの西部周りだとすぐにメガシンカしたポケモンを相手にすることになる。生半可な挑戦者はここで心が折れるといってもいいだろう。

 そのためにもコルニにはしっかりと働いてもらわなければ。

 

「………ごほうびでもあれば頑張れるのになー」

「分かった。終わったら何か一つ言うこと聞いてやるよ」

「一つだけなの?」

「いいよ、もう。好きなだけ聞いてやる」

「やったー! あたし頑張る!」

「多分、三人くらいには負けると思うけどな」

「ウェ?! まさかの未来予知?!」

「すでにやる気満々の奴らがいてな。実力も申し分ない」

 

 お前の知ってるやつらだよ。

 フレア団の事件で以前よりめっきり強くなってるから覚悟しろよ。

 あーあ、トツカも帰っちまったし、コマチもこの後出て行っちまうし、しばらく帰ってこねぇからなー…………。

 ああ、天使が恋しい。最後に堪能しとこう。

 

「ねえ、ユキノちゃん。見た?」

「ええ、ばっちりと。まさかごく自然に現地妻の力を発揮してくるだなんて」

「現地妻の名は伊達ではないわね。ハチマンも甘すぎ」

「基本彼は歳下に対して甘いもの。仕方ないわ」

 

 二人とも、聞こえてるからね。今ちょっと天使を思い出してたからそっちの方がばれたのかと思ったじゃん。この二人タイミングとか計ってそうで怖い。

 まあコルニに関しちゃ、自分でも甘いとは思うぞ?

 ただコルニの場合は少し甘えさせないとまた閉じこもるかもしれねぇし。

 もうないことを祈ってるけど。

 

「あー、そのあれだよあれ。発言いいか?」

「どうぞ」

 

 手を挙げたウルップさんにユキノが先を促した。

 

「オレもあれでな、メガシンカ使えるんだわ」

「へー……メガシンカを………。これはあれだな、東回りも苦しい旅になるということだな」

 

 そりゃ初耳だ。コルニ以外にもいたのか。まあ、いてもおかしくはないか。

 そもそもコルニなんてジムリーダー初心者なんだし、他に誰かメガシンカ使いがいた方が自然である。

 

「ハチマン、口調がうつってるわよ」

「大丈夫だ。あれがあれしてるだけだから」

「そうね、いつも言い訳の時によく使ってるものね」

 

 ごめんなさい、私がバカだったわ、とユキノがこめかみを押さえた。

 

「あれだな、驚かないんだな」

「まあ、さすがにジムリーダーの中でコルニだけがメガシンカ使えるってのも疑問でしたから。こいつ一番年下だし」

「年下だからって何さ! ピッチピチの美少女じゃん!」

「尻がな」

「おじいちゃん?!」

「まあ、確かにピッチピチだな」

「ハチマンまで?!」

 

 スパッツなんてもんを穿いてるんだ。そりゃ当然ピッチピチである。

 

「ま、取り合えず、東から行こうが西から行こうが砦は用意されてるようだし。おいそれと負けないように気を引き締めておいてください。そんでもってリーグ戦には四天王も参加してもらいます」

「我々もか?」

 

 本業シェフ………名前なんだっけ?

 まあこの人も、というか四天王はパキラ以外がメガシンカの継承者らしい。その実力を生かして自分の店では裏メニューとしてメガシンカバトルをしてるんだとか。

 四天王で実力を晒してるのはこの人くらいだしな。

 

「盛り上げるためなのと、四天王の実力を見せつけるためですよ」

 

 他の二人も実力を見せつけないと。

 

「あらあら、私たちも負けられないのね」

 

 うわー、このおばさん緊張感ないなー。

 おかげで実力も未知数なんだけど。

 

「でも、それだとパキラが…………」

「ええ、問題はそこです。四天王の一人が除名された今、四天王は三人」

「ただの三天王だね」

 

 ユキノの説明にハルノさんが茶々を入れた。

 

「姉さん、茶々入れないで。というわけで誰か一人四天王を兼任してもらわなければならないのだけれど………」

 

 まあ、バッサリ切られたが。

 残りの四天王、一体誰にしようか。いや、マジで。

 

「決まったも同然じゃないのか? そこに暇そうなのがいるし」

 

 …………………。

 

「はっ? なに? 俺?」

 

 なんか全員が俺のことをじっと見てくるんですけど。

 おいこらじじい。勝手なことぬかすんじゃねぇ!

 

「問題はないかと」

 

 いやいや問題ありまくりでしょ。何言っての、ザクロさん。

 

「あの時の再現だーっ。またハチマン君のリーグ戦観たいなー」

 

 はしゃぐな、そこのカメラマン。

 再現っていうならハルノさんも出さないといけなくなるぞ。

 

「専門タイプもばっちりよ。炎のリザードンが切り札だし、むしろ他にほのおタイプ使いがいないんだ。これ以上ない人選だと思うんよ」

 

 だから、おいこらじじい。

 最もらしい言い分を並べるな。俺の首が締まるだろうが。

 

「ハチマン、今の手持ちって誰がいるの?」

「えっ、ここで教えろってか」

 

 手の内晒せってのかよ。

 しれっと言ってくれるな。

 

「したところで強いの変わらないじゃん。それとも教えるだけで変わるもんなの?」

 

 こいつ………。

 どこでそんな挑発テクニックを覚えてきたんだよ。

 いいよ、乗ってやるよ、その安い挑発。

 

「はあ………、リザードンにゲッコウガ、ジュカインにヘルガー、ボスゴドラ………は群れに帰ったがすぐ近くにいるし、後はお前らが保護してたディアンシーと………企業秘密」

「企業秘密って………、超気になるんだけど」

「やめとけ、知らない方が身のためだ」

 

 さすがにエンテイとダークライは言えないだろ。

 知ってるやつはそのまま心に閉まっておいてね。

 

「ゴジカ姐さん、何か見えたん?」

「………知らない方が身のためね」

 

 エスパー姐さんもどんどん顔が青ざめていく。

 一体何が見えたんだろうか。

 気になる。怖いけど、めっちゃ気になる。

 

「ええっ?! ゴジカ姐さんまで?! どないポケモン連れてはるんよ………」

「デスヨネー。チャンピオンより強い四天王ってどうなんだ………」

 

 そもそもすでにチャンピオンより強いと思われるやつを四天王に迎え入れるってどうなんだよ。ただのバカだと思うぞ。

 

「あら、やってないうちから私の負けにされたんじゃチャンピオンの名に置けないわね」

「カルネさん、やめた方がいいよ。ハチマンのバトルは鬼畜だから」

「全員メガシンカしたポケモンと思ってもいいくらいじゃよ。そこを差し引いてもハチマンとリザードンには何かあるからの。あれがメガシンカだったのかはわしにもわからんが、今のカルネが勝てるとは思えん」

「………師匠が言うのであればそうなんでしょうね」

 

 博士とコルニに諭され、チャンピオンもさすがに挑発をやめた。

 そんな言うほど鬼畜なバトルなんてしてないと思うんだけど。してるのはゲッコウガだから。俺は悪くない。

 

「一応私も三冠王の名を引っさげて参加するのだから、あなたも参加しなさい」

「や、俺が参加したら絶対勝っちゃうじゃん」

 

 ちなみにユキノは自ら客寄せヤンチャムを買って出た。

 三冠王が四冠王になれるかどうか、という広告を掲げて宣伝するつもりらしい。

 いいのかよ、俺が出て。

 勝ち目が低くなるだけだぞ?

 

「いいじゃないですか。私では君の実力を全て引き出すことは無理だったように感じます。そんな私からの頼みということで一つ……」

「はあ………分かりましたよ。フクジさんにそう言われては拒否できませんから。でも優勝しても知りませんよ?」

「それはそれで大いに結構。君の全力を見ることができるのだから、楽しみですな」

 

 結局、フクジさんに言われてしまっては折れるしかなく、俺がパキラの失脚により空いた四天王の枠を兼任することになった。

 うへぇ、面倒くさい……………。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「それでは次へいきますが」

「あ、あの………」

「はい? どうかしましたか?」

 

 ユキノが次の議題に移ろうとしたら、水色の作業着を着た少年がおずおずと手を上げてきた。ミアレジムジムリーダー・シトロンとかいったか?

 

「開催場所がミアレシティになってるんですが、やはり運営費とか負担しなきゃいけないのでしょうか………」

「それについては大丈夫よ。今回はユキノシタ家が全面的にサポートする予定だから」

「二人とも籠絡されちゃったものねー。いち早くスポンサーに名乗り出て、資金繰りしちゃってるから、その辺は大丈夫大丈夫」

 

 いや、ほんとマジで。

 ユキノシタ家には感謝である。

 姉妹で両親を説得? ……………脅迫のような気もするが、二人のおかげで無事にポケモン協会にスポンサーがついた。そしてこれからハルノさんがあらゆる権力をフル行使して、フレア団をスポンサーしていた企業を脅し………契約を結びに行ってくれるらしい。

 

「では、何かシステム関係のことがあれば呼んでください。ぼく、これでも趣味が発明なんで」

「へー」

 

発明……俺とは真逆だな。数学なんかできるか。ダメージ計算もよく分からなかったってのに、それ以上のことなんか聞き取れすらしないわ。

 

「彼はミアレの発明王と言われているんですよ。防犯設備など、施設運営で必要になってくるでしょうからぜひ彼を使ってあげてください」

「ほー、ならそん時はよろしく」

 

 ま、適材適所。できないことはできるやつに任せればいい。

 

「はいっ」

 

 おーおー、やる気に満ちてんなー。

 これで何も頼まなかったら落ち込みそうだな。なら、いっそシステム関連、あるいは広報活動も手伝ってもらった方がいいかもしれない。俺にはさっぱりの世界だし。

 

「もっと愛想良くできないのかしら」

「淡々と説明してるお前に言われたくないわ」

「進行役が感情だけで話してたらグダグダになるじゃない」

「そりゃそうだ」

 

 ユキノの言う通り進行役が自分の感情任せに話していては、先へ進まない。だからユキノの態度があってはいるのだが、それにしたってちょっと淡白過ぎない?

 

「だからもっと愛想よくしなさい」

「本気を出したら何人落ちるかなー」

 

 俺が愛想よくとか想像できない。できても気持ち悪い絵面しか見えてこない。だめだこりゃ。

 それに、な。今の俺は自分の行動一つで人が右往左往することを理解している。立場的にも人間的にも、だ。そんな奴が変に愛想よくしたらどうなるかくらい、対人スキルの乏しい俺にだって想像できる。

 そして俗に人はこれを恋心と勘違いをする。オリモトに対しての俺がそうだったのだから間違いない。

 

「お口にチャック」

 

 ま、すでにその一言で心が右往左往してるのがいますけどね。どんだけ嫉妬深いんだよ。俺のこと大好きすぎでしょ。

 ………うわー、これただのナルシストだわ………。

 

「はい………」

 

 これ以上口を開けばさらなる爆弾が落とされそうなので、素直に従っておいた。

 

「うわー、ユキノちゃん露骨に嫉妬しすぎー」

「そういう姉さんこそ、彼の手をいつまで握っているのかしら?」

 

 それな。さっきからにぎにぎと指を絡めてきやがって。こそばゆいだろうが。

 

「いいじゃない。そこに手があるんだから」

「えっ? なに? 俺の手があればどこにいようと握っちゃう気ですか………?」

「そうだけど?」

 

 この人もこの人で何言っちゃってんの?

 一応ここ公共の場だから。

 少しは自重しなさい。

 

「なぜさも当然のように………。この人段々幼くなってないか………?」

 

 見た目完璧美人がこうも甘えてくると、もうね。しかもしっかりと胸を押し付けてくるという。おかげで俺の右腕はマッサージされている。

 

「そのまま身体も幼児化して仕舞えばいいのに」

「どことは聞かないでおくわ」

 

 ぽつりと呟いたユキノの皮肉に思わず反応してしまった。

 だって、ここだけ姉妹だとは思えないんだもん。

 

「ハチマン、その一言がもうアウトだよ」

「ねえ、今私の何を見ていったのかしら?」

「な、何でもないです」

 

 怖いよ怖い。一気に温度が下がったぞ。ぜったいれいど並みだわ。

 

「……まったく。さあ、次を説明してちょうだい」

「次ってなんだっけ?」

「育て屋よ」

「ああ、あれね。なんか、俺の周りに人が増えてポケモンの数も増えたんで、育て屋することにしたわ」

 

 ユキノに向けていた顔をジムリーダーたちの方へ回した。

 以前、冗談半分で話してコマチにやってみたらと言われていた育て屋。

 あの時はやる気の欠片もなかったのだが、こうして俺の周りには人が増えてしまった。つまり、世話しないといけないポケモンの数も増えたわけで………。

 結局、育て屋という名目でポケモンの世話をすることに落ち着いたのだ。予算外の出費だわ。もう貯金が尽きたと言ってもいい。

 

「かるっ?! もっと心込めて言いなよ」

「や、だって俺が育て屋とか色々と危険だろ」

「………どうして?」

 

 あれ?

 コルニって知らなかったっけ?

 俺の異常な体質。体質なのかどうか知らないけど。

 

「こういうことよ」

「メ〜ノッ」

「うん、今日も実に冷んやり」

 

 手っ取り早く状況を再現。

 ユキノのボールから出てきたユキメノコが俺の背中に抱き着いてくる。

 もう慣れたわ。この冷んやり感。

 

「…………?」

「この男、人のポケモンでも勝手に懐かれるのよ」

「……………それって」

「ああ、そうだ。預かっていたポケモンをいざトレーナーに返すとなった時に帰らないかもしれない」

「ポケモンホイホイ………」

 

 ようやく理解してくれたか。

 俺が乗り気じゃなかった理由。それはよく分からないが俺はポケモンに懐かれやすいからだ。一部の例外(主に兄貴分のゲッコウガ大好きマフォクシーやイロハ大好きヤドキングには敵視されている。こうしてみるとイロハのポケモンにはあまり好かれてないのかもしれない。だがコマチのカメックスも俺のことバカにしてくるし………)を除いての話だが、ユキメノコのように懐いているのだ。特にユキノのポケモンは異常だ。オーダイルなんかバトルでも言うこと聞くからな。

 

「営業どころの話じゃないのう」

 

 デスヨネー。だから無理があったわけだが、何も現場に俺が出ることに必然性はないのだ。こんだけ人が揃えば任せればいいだけの話。

 

「つーわけで、ひっそりとやるから広めないように。後から知られて変に広まるのが嫌だから先に言っただけだから。マジで誰にも言わないで。言わないでくださいお願いします」

「ちなみに場所は?」

「ミアレの南東付近」

「………君はこうしてミアレにいるわけですし、誰か他の人が?」

「暇そうな女子三人を捕まえて、今開拓させてます」

 

 というわけで暇そうな女子三人、サガミとオリモトとナカマチさんに育て屋を任せることにした。なんか話を切り出した時にサガミがギャーギャーうるさかったので、責任者にしてやった。ま、せいぜい四苦八苦することだな。

 

「レディに何させてんのよ」

「バカ言え。男女平等を重んじての見解だ。何なら金も出る」

 

 これもユキノシタ家がスポンサーについてくれたおかげだ。新たな事業拡大に向けてデータが欲しいということで、手助けしてくれるんだそうだ。

 

「あんさん、ほんといい性格してはるわ〜」

「そうね。でも案外、当たりかもしれないわ」

「ゴジカ姐さん、何か見えたん?」

「いえ、何も。ただそのユキメノコを見ている限り問題はなさそうと思っただけよ」

 

 フッと何かを見透かしたような笑みを浮かべるエスパー姐さん。この人いくつなんだろう。知りたいけどあまり知りたくない。

 

「…………本当は別の理由があるんじゃなくて?」

 

 その態度を代弁するかのようにチャンピオンが口を開いた。

 

「さすがチャンピオン。鋭いですね。……フラダリとパキラがああなってしまいましたからね。俺があの二人のポケモンを預かることにしたんですよ。更生も兼ねて一から育て上げるために場所を設けた。まあ最も、俺はコマチに色々なポケモンと触れ合って欲しいんでね。そのために連れ歩けないポケモンたちを世話する場所が必要だったってのが九割の理由ですけど」

 

 仕方なくではあるが、やるとなればいっそコマチにいろいろなポケモンを育てられるような環境を用意してやるのもいいかと思い、有り金ほぼすべてを投資することにした。フラダリたちのポケモンはただのついでだ。カツラさんに頼まれたからついでに世話をするだけだ。

 

「さすがシスコンだねー。ついで実家にいる私たちのポケモンもこっちで面倒見てもらおうかなー」

「見るのはあの三人ですよ?」

「大丈夫大丈夫。お姉さんのポケモンたちは賢いから」

「だからでしょうが。あいつら、萎縮しますよ」

 

 オリモトなら平気そうだが。あいつ、あれでも育て方はしっかりしてそうだし。ダークオーラの根強かったマグマラシーー今はもうバクフーンだがーーの暴走状態を普通に扱いきれていたからな。普段の世話が行き届いていなければ難しいことだ。

 

「また始まった。三人の世界を作らないでよ」

「えー、なにー? 混ざりたいのー?」

 

 ああ、もうだめだ。話し合いも飽きたみたいだ。

 

「うっ……、べ、別にそういうわけじゃ」

「へー、なら私は堪能させてもらうひゃっ?! ひゃ、ひゃひまん……んっ!」

 

 少し大人しくしていてもらうために、ずっと絡めて来ていた右手を動かしてみた。案の定、こそばかったのか変な声を上げている。

 

「ちょ、手、ダメ……ん」

「大人しくしないとハルノさんの恥ずかしい話、みんなにしますよ?」

「わ、分かったから………。その手、ダメ………んっ!」

 

 従順になったのを確認するとパッと手を放した。すると顔を赤くして息も荒くなったハルノさんがテーブルの上に蹲った。

 

「ま、色々面倒でしょうけど、こんなんがトップなんで気楽にやってください。名誉挽回だなんだってのは二の次でいい」

 

 ぷしゅーと煙を上げているハルノさんの頭を撫でながらみんなを見渡した。

 

「えっ、あ、や………その………」

「どした、コルニ。顔が赤いぞ」

 

 一人顔を赤くしている奴がいたので指摘したら、さらに真っ赤になった。

 

「ゴジカ姐さん。見はった、今の?」

「ええ、意識的か無意識的か、彼は色々と危険ね」

「いつの間にやら、プレイボーイになってしまったのう」

「いいじゃないですか。それが彼の魅力なのでしょうから」

「………いやはや、勉強になりますね。僕もビオラに………」

「これはあれだな、女難の相ってやつだな」

「…………姉さん、頭撫でられるのって気持ちいいの?」

「私に聞かれても………」

 

 酷ぇな、あんたら。言いたい放題じゃん。

 返して! 俺の締めの言葉を返して!

 

 

 これにてプチ理事長お披露目会は終了。

 ああ、この後コマチともしばらくお別れになるのか。なんか目に汗が流れてきたわ。

 




今作は前作よりも短くなると思います。
ただし、前作に比べて作品全体におけるバトル描写は多くなるかと。
一応最後まで見通しが立ったので、今後の展開をお楽しみに。


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2話

「………あなた、いつの間にあんなテクを身に付けていたのかしら?」

「別に………。ただハルノさんは責めるのは好きでも責められるのは苦手みたいだから」

 

 ジムリーダーたちも解散し、部屋には俺たちだけになるとユキノが口を開いた。

 未だ俺の右側には机に突っ伏しているハルノさんがいる。はて、いじけてしまったのだろうか。怖いので頭はずっと撫で続けている。

 

「へぇ、よく見てるのね」

「………見てるというより見えてくるんだよ。こんな寂しがり屋」

「ま、姉さんが殻を破ればこんな寂しがり屋だとは思わなかったけれどね」

 

 実の妹ですら知らなかった一面か。一体何がきっかけなんだか。

 

「………たまにはいいんじゃねぇの。こんな無防備な姿、俺たちにしか見せないんだし」

「そうね。今まで家のことはすべて姉さんに任せっきりだったし。あなたに関しては大目に見てあげるとしましょう」

 

 ただ、そんな一面を隠さなくなったってことは、それだけ信頼を置いてくれている証拠なのかもしれない。

 それか今まで溜め込んでいたものが一気に吐き出されているか。

 何はともあれ、こんな顔を見せているときは他の人に会うわけにもいかない。さっきはすぐに突っ伏してくれたからある意味良かったのかも。

 

「なんか強気だな」

「そうかしら? 私はいつでも強いわ。だって、私はあなたの正妻だもの」

「いや、だから俺ら結婚してないから。誰も側室ですらないから」

 

 名前呼びの発言と言い、どうしてお前はそう突拍子もないことを口走るんだよ。おかげで心臓がうるさいんだけど。

 

「あなたも頑固ね。さっさと認めてしまえばいいことを」

「バカ言え。どこの世界にハーレムなんか築けるやつがいるんだよ」

「現にここにいるのだから探せばいくらでもいるんじゃないかしら?」

「ハーレムを築いた覚えはないんだが」

 

 誰がそんなどこぞの主人公みたいな真似をしてるっていうんだよ。

 それにハーレムメンバーは誰なんだよ。

 

「でも、私たちのことは受け入れてくれた」

「ッ………、ただの気まぐれだ」

 

 そこへ不意を突かれたかのようにユキノの言葉が俺の胸に刺さった。

 恥ずかしいというかなんというか。こんな気持ちを他人に抱いたのは初めてだし、オリモトに対してのあの時の感情がそういうものではなかったと改めて実感している。ただ、あの時間違っていたからこそ、この感情を受け入れられたのかもしれない。

 

「ハチマン、膝枕……」

「はいはい」

 

 ユキノから顔をそむけた先にはゆら~りとした動きで倒れ込んでくるハルノさんがいた。しなだれてくる体を受け止め、膝の上に頭を落ち着かせる。まるで小さい時のコマチをあやしているような気分だ。

 

「あなたと出会って何年経つのかしら………。ずっとあなたを見ていたから時の流れがあっという間だわ」

 

 で、それだけならまだしも今度はユキノが体を寄せてきやがった。そして、遠くを見るような呟き。俺の心臓が保たん。

 

「ストーカー………」

 

 辛うじて出した言葉がこれである。

 未だすべての記憶が戻ったわけではない。だが、本人たちから聞かされた話ではユキノはずっと俺に忘れられながらもしがみついていたようで。

 その情景を浮かべての一言である。

 

「そうね、そう言われても仕方ないわ。だって、あなたにもう一度会いたくて旅に出たようなものだもの。この高揚感はなんなのか、なぜあなたに会いたいと思うのか、会ってみなくちゃ分からないことだらけだったのよ」

 

 なのに、一切の否定が返ってこないという。

 あっさりと認めやがって。嬉しいとか全然全くこれぽっちも思ってないからな!

 

「………それで、再会した感想は?」

 

 感情を隠すように視線を膝に落とした。

 ハルノさんの頭が俺の腹の方を向いているから、顔は見えない。ただ、頭を撫でていた手を掴まれ、遊び始めやがった。

 こそばゆいからやめいっ。

 

「心が躍ったわ。でも同時に怖くもなった。あなた、いつも何かに巻き込まれているんですもの」

「………へー、やっぱり俺は昔からそんな感じなのか。手帳に書いてあっても信じがたい話だな」

 

 これはあれだな、知りたくもなかった情報だな。

 結局、今も昔もやっていることは変わらない。違うのは周りに人がいるかいないかの違い。

 ああ、もう一つあるか。今の俺には守るものが一気に増えてしまったもんな。

 

「あなたの交友関係をたどれば自ずと見えてくるんじゃないかしら? なんて危ない人たちの連絡先があるのかって」

「………それ、サカキのことだろ」

 

 サカキ。

 ロケット団のボス。

 手帳には俺の旅にしばらく同行したり、リザードンにじめんタイプの技を教え込んだ師と書いてあった。

 もうこの時点でいろいろとアウトな気がするが、これでもまだまだ序の口なのだろう。

 

「シャドーに潜入した時は驚いたわ。当時まだ捨て駒だった私は協会の命令で潜入捜査に行ったけれど。まさかあそこにあなたがいるなんて思いもしなかったもの」

「…………ああ、帰れって言ったのに人の忠告を無視してのこのこ戻ってきてサカキに人質にされてたな」

「思い出したの!?」

「ちょっと前にな。今はまだそこくらいだ」

 

 ほんと、バカだよな。

 いくら探していた相手が見つかったからって、自分の実力を見誤ってまで残る必要ないってのに。それで捕まってしまうとか、素人にもほどがあるっての。

 

「そう………。私、ずっとあなたを追いかけていたけれど、足しか引っ張っていなかったわ。背中を伸ばしていたのでしょうね。あなたがロケット団殲滅に動き出した時にも傍で見ていたいがためだけに実力に見合っていない戦場に志願したくらいだもの」

「そりゃ、また大きく出たもんだ」

 

 何がそこまで、なんて聞くのは野暮だろう。言ったら睨まれるのがオチだ。

 

「………結局、私はあなたがいないと何もできなかったのよ。そう、何もね」

 

 どこか遠い目を向けるユキノ。

 だが、一つだけ間違っていると思うぞ。

 

「そうか? お前、俺なしでも何でもできてると思うんだが。クレセリアとか、捕まえたのはユキノの実力だろ」

「違うわよ。クレセリアはただ私を選んだだけ。それもあなたと旅をするためによ、きっと」

「でも、選ばれるのだって実力のうちだと思うぞ。伝説のポケモンってのは気まぐれで、警戒深くて、用意周到だ。実力が伴わなければどいつも寄って来やしない」

 

 ダークライはよく分からないが、ディアンシーを例に挙げてみるか。あいつは一度俺と会っていて実力を知っていた。だから協力してくれたし、記憶がないことも受け入れてくれた。エンテイも俺がリザードンを使い手にしているから今でも認めてくれていると考えていい。逆にスイクンはルミルミに浮気しちまったしな。みずタイプはあくまでもゲッコウガとオーダイルしか使えなくて、みずタイプの使い手じゃないってことだろ。

 

「………根拠がなくてもあなたに言われるとそうなのだと思えてしまうのだから、不思議ね」

「………なあ、クレセリアには何も代価を払わなくてもいいのか?」

 

 ふと、ダークライを思い浮かべて疑問に思った。

 対となすクレセリアには何も代償を支払わなくていいのか。

 あのハルノさんですら、未来や過去を見るのに代償を払わされている。それはまあ、ネイティオだからなのかもしれないが。伝説のポケモンでもないネイティオでは逆に負担がかかるため、代償を支払う必要があるとも考えられるからな。

 

「今のところは、ね。あなたや姉さんみたいにクレセリアの力を私が使えるようになったら、代価を払う必要が出てくるかもしれないわ」

 

 ああ、なるほど。

 そもそもクレセリアの力をまだ引き出せてないということか。

 

「それにしても少し好き勝手し過ぎじゃないかしら、姉さん。狸寝入りなんて趣味が悪いわよ」

「………ふーんだ」

 

 俺の手で遊ぶのも止まってたからマジで寝たのかと思ったんだがな。

 いじけた子供かよ。かわいすぎだろ………。

 思わずわしゃわしゃと撫でちまったじゃねぇか。

 

「ハチマンもハチマンよ。姉さんばかりずるいわ」

「そう、拗ねるなって。ほら」

 

 こっちもいじけてしまいそうだったので、同じように頭を撫でてやる。

 

「ん」

 

 すると、一瞬で蕩けた顔になり、体を預けてきた。

 何、このチョロインたち。

 

「………全く、この姉妹はいつから甘え上手になったのやら………」

 

 しばらく、俺の体はこの姉妹によって占領されていた。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 しばらくユキノシタ姉妹に巻き付かれた後、プラターヌ研究所に戻った。すでに三人の準備は済んでいたようでヒラツカ先生もメグリ先輩もお茶を飲んでおり、博士が何やら三人と話している。

 

「あ、おかえりなさい」

 

 うん、さすがめぐりん☆パワー。超癒される。

 

「今日も相変わらずはるさんがべったりだね」

「デスヨネー。そろそろ歩きたくなくなってきましたよ」

 

 あはは、と苦笑いを浮かべるメグリ先輩。

 ねえ、ちょっと。さすがに離れてくれませんかね。段々、重たくなってきたんですけど。それと痛い。何がって色々と。視線とか視線とかユキノの視線とか。

 ふっ、背後から氷の刃が飛んできそう。

 

「えー、いいじゃん。減るもんじゃないんだし」

「俺の精神がすり減ってるから。氷の女王が凍てついてるから」

「ぶーぶー」

「ったく」

「にょわっ?!」

「………どっちが上なのか分からなくなってきたよ」

「わ、わしゃわしゃするなー」

 

 荒く撫でて髪を逆立たせてみる。

 お仕置きだ。しばらく髪直すのに時間を費やしていなさい。

 

「お。お兄ちゃんが無敵になってる………」

「いつの間にかはるさん先輩まで敵わなくなってるなんて………」

「ヒキガヤ、ハルノのあしらい方にだいぶ慣れたようだな」

 

 むすーっとしたハルノさんをユキノが回収していく。

 そこにヒラツカ先生が現れて、声をかけてきた。

 

「おかげさんで。あの人、今は根が子供ですから」

「いやまさかあのハルノがこうなるとは。君はあいつにとっていい刺激だったらしいな」

 

 ユキノに髪を整えてもらっているハルノさん。

 どっちが姉なのか分からなくなってきた。

 

「ただ、一つ気になるのは力を行使し過ぎた影響かもしれないって可能性がなくなってないんですよね」

「そうだな。一体何を見たのかは知らないが、いきなり幼児化されるとな」

 

 目が覚めてからというものずっとあの調子。時折、お姉さん風が吹いてくるが基本的には幼児化している。意識的にやっているのであれば、まあ安心くらいはできるのだが、どうにも腑に落ちない。どうしても頭のどこかでネイティオの力を行使し過ぎた影響の可能性をぬぐい切れないのだ。

 先生も何かしら思うところがあるようで、ため息をこぼしている。

 

「………あれはあれでいいんじゃないですか? あんな強化外骨格に覆われていたんだ。たまにこうして甘えつくすのも必要だと思いますよ」

 

 ま、これが一年も続けば問題だが、しばらく好きにさせておいても問題はないだろう。

 あの人のことだ。何かしら手を打っている可能性もある。

 

「なら、やはり君がいいカンフル剤だったというわけだ」

「はっ? カンフル剤?」

 

 どういうことだってばよ。

 

「………そうだな、試しに名前で呼んでみたらどうだ?」

 

 答えてくれねぇのかよ。

 はいはい、そういう人でしたね。ハルノさんの名前なんてきききキスされて強制されてますけど?

 

「もう呼んでますよ?」

「いや、そうじゃなく呼び捨てでだ」

「先生………、なんか楽しんでません?」

 

 なんだろう、このアラサー独身。自分のことじゃないからかすごく楽しそうだ。

 

「そりゃな。なんせあのハルノだからな。君と同じくらい手のかかる子だ」

「なにその現在進行形感。一緒なくくりとかやめてくださいよ」

 

 あの人の方が数倍手がかかるでしょうに。基本的に手の付けようがないのだから。完璧魔王、恐るべし。

 

「………ハルノもな、色々背負っているものがでかくてな。母親がちょっと癖があって、妹を守るためにも『ユキノシタハルノ』を作り上げたんだ。妹をハヤマとバトルさせていたのもトレーナーとして強くするため。あいつなりの守り方だったらしい」

「あー、なんかスクール時代でしたっけ? ハヤマとバトルしてたって言ってましたね」

「………今の君はまた記憶をなくしているんだったな」

「みたいですね。たまに話についていけませんし」

 

 記憶がないやつに、記憶喪失なのか聞かれても困るんだけど。

 一応、ここ一か月の記憶とシャドーの記憶があって、手帳と一致するからいいものの、他の奴だったら返答できないからね。

 …………あんたら記憶があるということをありがたく思いなされ。

 

「記憶喪失ってのは、その………どんな気分なんだ?」

「そうっすね、知識はあっても実際に使った映像がないって感じですかね。例えば包丁とか」

 

 包丁を猫の手で持たないと危ないだとか、そういう知識は無駄にあるが、実際に使った記憶がないため包丁を持つのが怖い。

 そんな感覚なのである。

 

「ふむ、つまり今の君はただの知識の塊ということか」

「ま、端的に言えばですけどね。経験の欠けた使えない知識の塊ですよ。宝の持ち腐れと言ってもいい」

「このちぐはぐさに耐えられるものなのか………?」

「なんか言いましたか?」

 

 ちょっとー、ぼそぼそ言わないでくださいますー?

 気になっちゃうでしょうが。

 

「いや、それよりもそろそろあの三人の出る時間じゃないか?」

「えっ? まだ俺コマチを堪能してないんですけど」

 

 なんですと?!

 アラサーと話してる場合じゃないじゃん。何引き留めてくれちゃってんだよ。

 

「ああ、それを聞くとやはり君は君なのだと感じさせられるよ。このシスコン」

「酷い言われようですね」

「それじゃ、お兄ちゃん。コマチたちは行ってくるであります!」

 

 敬礼をしたコマチの元へ速足で向かう。

 

「俺が渡したカプセル式のやつ、ちゃんと持ったか?」

「もちろん!」

「タマゴを落とすなよ」

「分かってるよ。もう、過保護だなぁ、お兄ちゃんは」

「んじゃ、最後は俺とのハグだな」

 

 バッと両手を開いて待ち構える。

 

「しないよ。もう、大丈夫かなー。コマチがいない間に変なことしないでよ!」

 

 だが空振りだった。

 

「大丈夫だ。問題ない」

 

 コマチエナジーが足りないのがいささか問題ではあるが。

 

「怖いよぉ、お兄ちゃんが絶対変態さんになってるよぉ」

「誰が変態だ」

 

 …………ハグはなしか……………。ハグ………ハグ…………………。

 

「あ、妹ちゃんにはこれ渡しておくね」

「は、ハルノさん………、これ………って」

 

 てててっとどこぞのあざといろはすのような小走りでハルノさんがやってきたかと思うと、コマチに何かを渡した。

 計算されたように俺からは見えないという。

 この人ほんとは正気なんじゃないだろうか。

 

「今の私じゃ使い切れないからね。どうせなら使っておいで」

「ありがとうございます! これでお兄ちゃんを倒せるように強くなって帰ってきますね!」

「期待してるよんっ」

 

 絶対あの幼児化は意識化だ………。

 はあ………、そんなに窮屈な思いをしてたってことか………。

 やはり社会は厳しくて苦い。だからマッ缶くらいは甘いのがちょうどいい。

 

「ゆっきのーん!」

「あ、暑苦しい………」

 

 それか、ああいう百合百合しいの。

 甘ったるくて和む。

 

「あたしも強くなってくるからねー。またバトルしようねー」

「そんな遠い日のことみたいに言わなくても………。遅くとも半年後にはバトルできるでしょうに」

「半年だよ、半年! あたし、半年もゆきのんに会えないんだよ?!」

「あら、一度も帰ってくる気ないのね」

「え?! 帰ってきてよかったの?!」

「別にだめだなんて誰も言ってないじゃない」

「ゆっきのーんっ!!」

「…………」

 

 あいつはやはりアホの子だったな。いつから帰ってきてはいけないルールができたんだよ。帰ってこいよ。半年とか俺が無理だわ。コマチ成分が足りなさすぎて自分から会いに行くまであるぞ。だから帰ってこい。というかコマチだけは帰せ。

 

「せーんぱいっ、私には何もないんですか?」

「くっ、出たなあざといろはす」

 

 上目遣いで俺の顔を覗き込んでくるくりんとした双眸。

 相変わらずあざとかわいい。

 

「もう、だからあざとくないですよぉ!」

 

 プンプンと頬を膨らませるいろはす。

 うん、今日も平常運転で何よりである。

 

「ま、お前はそうだな。じわれでも使えるようになって帰ってきたら最強なんじゃね?」

「なんですか、嫌みですか、そうですか」

「なんでだよ。お前課した課題終わってないんだぞ? 後新しくポケモン捕まえて育てることくらいじゃん」

 

 結局、俺が出した課題は一撃必殺以外は完成させちまったんだし、こいつならそのうち一撃必殺も使えそうな気がする。

 

「………そうですねー。新しいポケモンを捕まえて、フルバトルで先輩を倒さないといけませんもんねー」

「あくまでもそのスタンスなのね………」

「そ・れ・に!」

「な、なんだよ」

 

 ウインクするな。かわいいじゃねぇか。

 

「私、もう新しい仲間の候補は決まってるんですよねー」

「ほう、上手く捕まえられるかが見物だな」

「………私が失敗することでも想像したんですかー? 超失礼ですね」

「や、お前も俺と似てるところあるじゃん」

 

 ナックラーとか、過去の実例もいるじゃん。

 なんかまたあんな感じなのを引っかけてきそう。

 

「はっ?! まさかお前は俺と似てるんだから考えてることも同じだろだから結婚しようとか突拍子もないことを言い出す気ですか?! そうですかそうですか、残念ですがまだ私が結婚指輪を用意できていないので出直してきてくださいごめんなさい」

「突拍子もないのはお前の頭の中だ。なんだよ、結婚って。話が飛びすぎだろ」

 

 いきなり結婚なんて単語が出てきたからびっくりなんだけど。これがヒラツカ先生なら問題ないんだがなー。しょっちゅう言ってるし。

 それがイロハ、とか他の奴らに言われると変に意識してしまう。なんか、恥ずかしい。

 

「なんですか、もう」

「………またやってるよ、あの二人」

「………ユイさんはお兄ちゃんとお決まりのやり取りってないですよね」

「はっ! 確かに?! あ、あたしも何かやった方がいいのかなー」

「やめろアホの子。お前がそれ以上アホな発言をしたんじゃ俺が対処できない」

 

 なんてことを言いだすんだ。そんなことしてみろ。スルーという名の無視しかできないからな。

 

「アホってなんだし! アホじゃないし!」

「あ、すいません。ユイさんにもありましたね」

「ええっ?! これなの!? これがお決まりなの!?」

「そうね、昔からあなたたちのやり取りはこんな感じだったものね」

「覚えてるんだ………。そんなところまで覚えてるんだ………」

 

 昔からって……昔からこいつはアホだったのか。

 ユキノが認めてるのだから間違いない。

 

「お兄ちゃん、とにかく変なことしちゃだめだからね! あと無作為に女の人を引っかけちゃだめだよ」

「誰だよ、そのイケメン。ハヤマよりも質が悪いな」

 

 ハヤマですらあのイケメン力を使いこなせてないってのに。どこのどいつだ、そんなハーレム作れちゃう奴は。

 

「女の子はね、好きになっちゃえばどんなに目が腐っていてもフィルターがかかってイケメンに見えちゃうんだから!」

「えっ? なにそれ、初耳。そんな能力を身に付けていたのか女子の目ってパネェ」

 

 あ、違ったみたいだ。悪いのは女の方だった。俺は悪くない。………自分が原因だと自覚してますね。

 

「お兄ちゃんだってそうなんだよ? 好きだと自覚すれば、見える景色も変わってくるでしょ」

「ん? うーん? ………さっぱりわからん」

 

 知らねぇよ。好きってなんだよ。どんな感情のことを言うんだよ。そりゃ確かにみんなのことは、こう、なんというか失いたくはないって思ってはいるけどよ。

 

「トツカさんとか」

「あ、うん理解できたわ。トツカはいつもキラキラしてるな。目をこすってもそれは変わらん。眩しい。太陽のようだ。眩しすぎて目が痛いまである」

 

 なるほど。

 つまりはあの感情が好きという感情だったんだな!

 よし、後でプロポーズしよう!

 

「先輩、目が血走ってます。どんだけトツカ先輩のこと好きなんですか」

「三食すべてトツカでもいいくらいだ」

 

 おいおいイロハさん。チミは一体何を言ってるんだ?

 三食トツカとか、もう最高じゃねぇか。

 

「手遅れだ………。さいちゃんに勝てないあたしたちって」

「ばっかばか、トツカとか超天使だろうが。ポケモンセンターに就職でもしてみろ。毎日通って告白して振られるまであるからな」

 

 あ、プロポーズしたら振られちゃうんだ。ああ、でもトツカなら振るときの顔もさぞかわいいだろう。

 

「振られちゃうんだ………」

「というかトツカさんがいつの間にか女の子に………」

「だったら、早く玉砕してくれることを祈るばかりね」

「だねー。ハチマンは私たちのものなんだから。他の子に目移りしちゃうとか、ちょっといただけないなー」

 

 お、この背中が刺されそうな声。ようやく帰ってきたか。これに乗じて話を変えよう。

 

「………おかえりなさい魔王様。随分長い幼児化でしたね」

「…………………つーん」

 

 気抜きすぎだろ。そんな反応するくらいならもう少し貫けよ。

 つか、自分でつーんとか言うなよ。

 

「はあ………」

「うぎゃ?! だからわしゃわしゃするなーっ」

 

 いやー、実にいい反応だ。

 なんか一段と顔がだらしないことになっている。

 写真に残しておきたいくらいだわ。

 

「………何気に気に入ったのね」

「反応が面白いからな」

「まあ、これが自分の姉だと思うと頭が痛くなってくるわ」

「残念ながら、こんなんでもお前の姉貴だ」

 

 頭にのせた俺の手を押さえつけようと躍起になっているハルノさんに、ユキノはため息がこぼれ出るだけだった。

 

「はあ……、こりゃ先が思いやられるよ。大丈夫かなー」

「たはは………、どうだろ…………」

「というかはるさん先輩、本当にどっちなの………? 素……?」

「なんかはるさんがかわいい」

「それはそうなんですけどねー。ああなるのは先輩の前だけっていうか」

「うんうん、いやーほんとヒキガヤ君はすごいなー。よかったー、はるさんもちゃんと女の子の顔してるよ」

 

 なんかハルノさんの話になっているようだが、俺と彼女の取っ組み合いはまだ続いている。力がありそうで、その実軽い。腕の力とかコマチよりは強いくらいだ。

 

「そっちがその気なら! とおっ!」

 

 両手を押さえつけたらタックルしてきやがった。思わず俺は尻餅をついてしまう。

 

「ちょ、待っ、ぐふっ」

 

 そのまま柔肉が二つ俺の胸に押し当てられてくる。

 

「ハチマン、生きてる………?」

「お、おう……なんとか、なっ………?!」

 

 ユキノがスカートのまましゃがんで覗き込んできた。

 そうか……………、今日も白ですか。

 合掌。

 

「あれって素なんだ………」

「そうだよ。初めてだよねー。私の髪で遊ぶ時もあんな感じだよ」

「うりゃー」

 

 まだやるのか。

 

「はあ………こうなったら………」

「ひゃうっ?!」

 

 背骨に沿って指を這わせる。ゆっくりと、触れるように。

 

「ほー、やっぱり背中は弱いか」

 

 ……………あれ?

 背中にあるはずの女性特有の固い衣服の感触がないんですけど。それに指が引っ掛かる感触もない。

 

「いっ、ひっ、ちょ、ハチ、まっ、こそばっ、い、から、ひゃあ!」

 

 ま、さか……………?

 

「………あんな感じ、なんですか………?」

「ごめんねー、ちょっとちがうかも。あれはもっと、なんていうかヒキガヤ君に強制的に素を引き出されてる感じだなー」

「……あの、聞いてもいいのか分かりませんけど、ハルノさんってどんな人だったんですか?」

「はるさんはねー、いつでも強かったよー」

「……いつでも?」

「うん、いつでも。だから初めてだったんじゃないかなー。ヒキガヤ君に負けたの」

 

 すみません。いろんな意味でこの人、俺に勝てなくなってます。もうなんかトロンとした顔になってきてるし。

 

「姉さん」

「ユキノ、ちゃん………?」

 

 すると突然ユキノがまさかの顎くい。

 

「彼の上で馬乗りになって暴れてるといかがわしいことしてるみたいよ」

「~~~」

 

 とどめ刺しやがった。

 女の子同士で耳つぶとか、余計いかがわしいんですけど。

 

「ふぅ、これでしばらく大人しくしてるでしょう」

「俺は解放されてないんだけど」

「シスコンはそのまま拘束されてなさい」

「あ、おい、こら、抱きつくな。締め付けるな」

 

 妹にとどめを刺されたハルノさんは顔を真っ赤にして煙を上げながら、俺の体を締め付けてきた。なにこれ、みちづれ?

 

「姉さんは昔から強かったわ。ユキノシタの長女としてそれ相応の実力を見せてきた。私はそんな姉さんと比較されるように見られるのが嫌だったのだけれど、結局心のどこかでは追いかけていたのでしょうね」

「……ゆきのんはハルノさんのこと」

 

 ものすごく大好きだと思うぞ。

 この姉妹、シスコンだから。

 

「好きよ。血のつながった姉だもの。今まで家のことは姉さんに任せっきりだったから、これを機に私も向き合っていくつもりよ」

「………無理、しちゃだめだよ?」

「昔の私なら無理をしてでも姉さんの代わりをやろうとしたでしょうね。でも、今はそんな気はないわ。どこかの誰かさんの影響かしら。面倒なことは一人でしたくないわ」

 

 誰だよ、それ。俺を見るなよ。

 

「完全に影響されてるよ………」

「だから大丈夫よ。でもそうね、あまり遅いと無理するかもしれないわね」

「わぁん、分かったよ! すぐに強くなって戻ってくるから!」

「ええ、期待しているわ」

「では今度こそ、行ってくるであります!」

「ええ、気を付けて」

 

 くっ………俺とコマチのハグは次回に持ち越しかよ………。仕方がない。今回はこの柔肉で勘弁しておいてやろう。

 こうして、同じ日にプラターヌ博士からポケモンをもらった三人は新たな旅へと行ってしまった。

 

 

 

「あの、なんでブラつけてないんですか?」

「えー、なにー? 揉みたいのー?」

「くっ、狙いはこれか………」

「ほれほれー」

「どうなっても知りませんよ?」

「えへへ~、ハっチマーンっ!」

「くそ、やっぱり俺の方が踊らされてるんじゃねぇか。魔王恐ろしい人……」

 




進み具合でスピンオフ3話分のタイトルが変わると思います。
やはり予定よりも進まないですね。



ついにポケモンの続編? マイナーチェンジ? が発表されましたね。
これでウルトラビーストやウルトラホールについて完結するのか、楽しみです。
個人的にはDPリメイクでウルトラビースト完結だと面白いんですけどね。
アルセウスを模したポケモンもいることだし、何よりパルキアとかギラティナとかの空間に関するポケモンもいるし、ダークライとクレセリアの新月満月の月関係もいますし。何かしら絡めそうな気はするんですよねー。



ま、一番は新作の読みを間違えたことでこの作品のダークライがオリジナル技を使ってることになるというね…………。


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3話

 さて、今日のやることはすべて終わってしまったわけだが。

 明日からまた忙しくなるんだよなー。

 はあ………、コマチがいないのに何をエネルギーに頑張ればいいのだ………。ハルノさんのせいで精神が磨り減ったってのに回復できないぞ。

 そのハルノさんは俺を堪能したのか、メグリ先輩と出かけてしまった。

 ほんと自由すぎでしょ、あの人。

 

「ハチマン、ホロキャスターが鳴ってるわよ」

「お、ああ、えっと………トツカ!?」

 

 ユキノに促されてホロキャスターを見ると。

 まさかのトツカからのコールである!

 いやっふぅぅぅうううううううううううっっっ!!!

 もうね、その場で立ち上がっちゃうくらいにはテンションマックスになってしまった。

 さすが天使。名前を見ただけで心が浄化されていく。もうこれで明日は頑張れそう。

 

「も、ももももしもし!」

「なぜそんなにテンパってるのかしら」

 

 書類を整理しているユキノがぽつりとツッコミを入れてくるが、今の俺にはどうでもいい。

 全てはトツカのためである。

 

『もしもし、ハチマン? 今大丈夫?』

「大丈夫だ。問題ない。問題があっても問題ない。トツカとの会話が最優先事項だ」

『もう、ハチマンってば。大げさすぎだよ』

 

 はわー、かわええのう。

 さっきのコマチの話じゃないが、画面越しでもトツカはキラキラしている。めっちゃキラキラしてる。

 これが恋というものなのか。

 なんてすばらしいものなんだ。

 

『さっきね、フスベジムを攻略してきたところなんだ』

「ほー、ということはジョウトのバッジは揃ったってことか」

『うん!』

 

 はふぅ、癒される。

 守りたい、この笑顔。

 

「そりゃおめでとさん。次はカントー制覇だな」

『だねー。でもすごく強いんでしょ? 勝てるかなー』

「………どうだろうな。あのイケメンはオーキド博士の孫でじじい曰く、『育てる者』らしいからな。俺も負けた経験があるみたいだし、他のジムリーダーたちとは格が違うと思っておいた方がいいぞ」

 

 顔は覚えている。こっちでの会話も覚えている。だが、残念ながらどういう間柄だったかは覚えていない。不思議な感覚である。記憶がないというのも不便なものだな。

 最近は手帳が手放せない。大いに役立っている。過去の俺、さすがだ。

 

『だ、大丈夫かなー………』

「なに、不安を煽るようなことを言ってるのよ」

「ま、トツカなら勝てる、なんて無責任なことが言えるような相手じゃない。ただ、あいつに勝てた時が初めて自分が強くなったと実感できるんじゃないか? 何度も挑戦してみるといい」

 

 別に一回しか挑戦できないわけじゃないんだし。あのイケメンには何度も挑戦しても毎度何かしら得られるものはあるだろう。

 

『そっかー………、他のみんなは?』

「ついさっき、旅に出た」

 

 行ってしまったのだよ。ついに、とうとう。

 ああ、コマチが恋しい。

 

『ありゃ、ちょっと遅かったか』

「つってもハクダンシティに向かったんだけどな。初心者……もう初心者と言わない方がいいだろうけど、あいつら三人がジム巡りをすることになってな」

 

 だがカロスはまだいい作りをしている。どこに行くにしてもミアレシティを通過することになるのだ。すなわち、たまには顔を見せに来てくれる。はず………だよね? くるよね?

 

『へー、まあ三人なら強くなって帰ってくるよ』

「うかうかしてるとイロハやコマチが急成長してくるからなー」

『ユイガハマさんはそこに入らないんだ………』

 

 入らないというか入ってほしくないというか。

 

「あいつはあいつで成長はしてくるって。ただ、他の二人が早すぎるんだよ。あれが普通だ」

 

 あの年下二人の成長が著しすぎて困る。

 いつ追い抜かれるかひやひやしっぱなし。

 

『なら、そっちに戻った時にでもバトルしてみようかなー』

「いいんじゃないかしら? ユイもジムバッジを集めて帰ってくる頃には独り立ちできるようになっているでしょうし」

 

 書類整理が終わったのか、ぬっと顔を出してきた。ぼそっとツッコミだけは参加してたけど、やっぱり話すのね。

 

『ユキノシタさん、久しぶりだね』

「ええ、久しぶりね」

『残ってるのってユキノシタさんだけ?』

「……そうね、私と姉さんとシロメグリ先輩だけね」

 

 それとヒラツカ先生ね。

 あとは全員で払っているぞ。

 

『あれ? サガミさんたちも?』

「彼女たちはこの男に雇われて開拓しに行っているわ」

『開拓?』

 

 おう、そんなかわいく小首をかしげないでくれたまえ。悶えてしまうだろうが。

 

「ほら、なんだかんだで人が増えちまっただろ? つまりはポケモンの数も増えたわけだ。それにまだまだ新しくゲットしてくる可能性もある。となると世話するのが大変になってくる。疲れるのは嫌だ。なら、一か所にポケモンたちが自由に生活できる環境を作っておいた方が俺たちの手間も省けるだろ?」

『……つまりは育て屋さん……?』

「一般開放してない、会員制のだけどな。しかも野放しという」

「その作業を行っているのがサガミさんとオリモトさんとナカマチさんというわけ」

『へー、結局育て屋さんやるんだね』

「まあな。俺が見るわけでもないし、勝手知ったる奴らばかりだからトレーナーの元へ帰らないなんてことにはならないだろうし」

『サガミさんたちのこと、ちゃんと労ってあげないとだめだよ?』

「そりゃ、まあ、善処する」

 

 労うって言っても、俺が言ったら目ばっかり言ってきそうだしなー。オリモトとか取り合えず何かにウケてるし。あいつの笑いのツボは何なんだろうな。

 

『心配だなー』

「や、だってサガミとか俺が来ても嫌がるだろ。金くれるから引き受けてくれたんだろうし」

『はあ………サガミさんももう少し素直になればいいのに。ハチマン! サガミさんはオリモトさんたちのことよく知らないんでしょ? 勝手知る人がいない中に一人放り込まれたら不安になるんじゃないかなー』

「ああ、そこは大丈夫だろ。なんたって、相手はオリモトだ。半日もあれば距離を縮められてしまう。リア充おそるべし」

「………これが過去に告白された女のアドバンテージなのね。くっ、新しい伏兵が現れたものだわ」

『なんかオリモトさんのことだけよく知ってる感じだね。ちょっと嫉妬しちゃうなー。………ハチマンはオリモトさんのこと好きなの?』

「「ぶっ」」

 

 ぬなななっ、なにを言いだしてんだ!?

 ファッ?!

 

「な、なに言い出すんだよ………」

『だって、告白したんでしょ? 今でも好きなのかなーって』

「あれはただの勘違いだ。思春期特有の思い上がり、いいように解釈してただけだ。だからそもそもそんな感情はない」

「ほっ……」

『よかったね、ユキノシタさん』

「ななななんのことかしらっ?」

 

 安堵しすぎだろ。せめて画面に映らないようにやりなさいよ。

 トツカが意地の悪い顔で俺たちを見てるじゃないか。

 

『まあ、僕はハチマンの周りの人が増えるのはいいことだと思うけどねー。一人で頑張るハチマンもかっこいいけど、みんなに囲われているハチマンも見たいなーって』

「やめておけ。そもそも人選を間違えてるぞ。こいつらに囲まれたら俺はオブジェクトでしかなくなる。身動きなんてとれやしない」

『あはは~、ハチマンも面白いこと言うね~。それだけみんなに慕われてる証だよ』

 

 やだよ、あんなべったり。要するにハルノさんが何人もいるってことだろ? そのうち変なスイッチとか入ったりしたらそれこそ俺の体が危ない。いろんな意味で危ない。

 

「………慕われてる、ねー」

『自覚はあるでしょ?』

「………トツカも人が悪いな。本人がいる前で言わせようとするなよ」

 

 ここに一人いるんですよ?

 面と向かって言うのとか恥ずかしすぎるんですけど。というか言った記憶がまだないし。口に出そうものなら噛むわ、もごもごになるわ、酷いもんだろう。

 もう少し心に余裕が持てるようになったら、その時は、まあ、無きにしも非ず? 的な? 感じだな。

 

『あはは、ごめんね。その反応だけで充分だよ』

「ゴホン! ま、まあ私としてはその続きの言葉を聞いてみたい気もしなくもないけれど。いえ別に全くこれぽっちもそんなことを考えたりはしていないのだけれど。甚だ遺憾ながらわわわ私も長年温めてきた気持ちが爆発し………ゴホン! その、トツカ君にはまだ言ってなかったと思うから知らせておくわ。半年後くらいにカロスでポケモンリーグを開くことにしたわ」

 

 えっ、なんだったの今の長文。

 なんか早口ですげぇこと言ってたような………。

 これはあれだな。言われる方も心に準備が必要だってことだな。イロハがよくいってるし、そういうことなのだろう。

 

『えっ? ポケモンリーグ?』

「知らないかしら?」

『ううん、カントーでも有名な大会だもん。それに僕が集めているバッジを揃えるとその大会の本選に無条件で出られるようになるんだから、当然知ってるよ』

「それをこっちでもやることにした」

 

落ち着きを取り戻して、ユキノの話に加わっていく。

 

『発案者はハチマン、だよね?』

「ええ、この男がこっちでポケモン協会の理事になったことは覚えてるわよね? フレア団によって地に落ちた協会のイメージを回復させるためにもド派手な大会を開くことにしたのよ」

『へぇ、さすがハチマンだね』

「カントーのやり方に則ってるから予選からなら誰でも出られるが、本選には予選を勝ち進むかジムバッジをそろえなければならないルールがある。どうだ? まだ半年以上先のことだからトツカも参加してみないか?」

『そだね。トキワジムを攻略できたらそっちに行くことにするよ』

 

 出ようと思えば誰でも出られる。

 だが、本選に立つにはそれなりの実力がなければ手が届かない。そういう大会だ。

 

「ま、がんばれよ」

『うん! がんばる!』

「トツカ君もどんどんポケモンを捕まえてくるといいわ。こっちで預かるから」

『うん、ありがと! それじゃまたね!』

 

 最後に言葉を交わすと、トツカの方から切れた。

 はあ………、癒された。ものすごく癒された。

 これでしばらくは大丈夫、だろう。

 

「はあ………、あなたはいつも通りね」

「なんだよ」

「顔が気持ち悪いことになっているわ」

「にへらぁ」

「ほんと腹立つ顔ね。そんな顔にはこうよ」

「んぐっ!?」

 

 え、あ、ちょ、息が………息が?

 っっっ!?!

 おおおおい、この子はいったい何やってくれちゃってんの?!

 

「ぷはっ、………ふふっ、さっきよりも酷い顔ね」

「おまっ………、くそっ、見境なくなりやがって」

 

 顔を固定してまで俺の唇を奪わないでくれます?

 さっきとは違うドキドキなんですけど。心臓がうるさい。これでもかってくらいうるさい。

 もうね、ハルノさんの寝起きのキス事件以来、この姉妹は容赦なく狙ってくる。や、別に嫌ってわけじゃないけど、場所というものをね。誰かに見られてたらどうするんだよ。

 

「ごちそうさま」

「………」

 

 憎たらしい笑みを浮かべやがって。舌なめずりするなよ。俺の理性を飛ばす気かっ!?

 

「きゃっ!?」

 

 うん、すでに飛んでたね。

 余裕ぶってるユキノの腕をつかんで手繰り寄せると、思いっきり抱きしめてやった。

 

「ちょ、ちょ、ハチマン!?」

「仕返しだ」

 

 首筋にカプっと。

 血を吸うかのようにかぶりついた。

 

「ひあっ!?」

 

 あ、ちょっとやりすぎたな。

 まあいいか。

 それにしてもこの匂い。ずっと嗅いでいると頭がおかしくなりそうだ。フェロモンぷんぷんじゃねぇか。

 

「……ふぅ、これは結構来るな………」

「あなたって人は………」

 

 さすがにこれ以上は危険だと思ったので解放してやると、案の定口に手を当て顔を真っ赤にしているユキノがいた。

 うん、ご満悦。

 これでちょっとは懲りただろう。

 

「………うわー、首にマーキングされてるー」

「「……………!!」」

 

 やばい、一番いてほしくない人が現れた。

 何が嫌って仲間はずれにすると途端に構ってちゃんになるところだ。一度なるととことん甘えてくるんだよ。もう、やばいくらいべったりと。

 俺の理性はいつも限界にいる。今すでに崩壊したところなんだから危険だ。二人がかりとか俺がチョロインになりそう。

 

「いいなー、私もマーキングされたいなー」

「ッ!?」

 

 ようやく気が付いたユキノが思わず手で首筋を隠した。

 まあ、赤くなってますしね。

 でもその表現はやめてもらおうか。合ってはいるけど、生々しいんだよ。

 

「さて、明日はどうしようか」

「そ、そうね、明日はトツカ君に言われたようにサガミさんたちを労いに行きましょうか」

「だな。トツカに言われたんじゃ行かないとな」

「ぶーぶー、私も混ぜろーっ」

 

 結局。

 この日はユキノシタ姉妹の挟み撃ちにあっていた。

 怖いよ、二人とも。いつからそんなキス魔になったんだよ。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 翌日。

 メグリ先輩にハルノさんを任せ、ユキノと二人でミアレシティ南東の外れに向かった。何でハルノさんを連れてこないかって? そりゃもちろんサガミが怖がるからだ。

 

「ヒキガヤのバカぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!」

「ミナミの遠吠え、超ウケる」

「だからウケないって!」

 

 すでに情緒不安定? ってくらいの遠吠え。

 近づいてみるとそこにはすっかり仲良くなってるっぽいサガミたちの姿があった。

 さすがオリモト。ハヤマ並みに距離の詰め方が早い。恐るべきコミュ力。

 

「ゲッコウガ」

 

 まあ、まずはご挨拶。

 人を馬鹿呼ばわりした罰だ。

 影から伸びてきた舌がサガミの首筋を這った。

 

「ひぃっ!?」

 

 ビクンッと身震いを起こすサガミ。一瞬遅れて、その場から距離をとった。振り返りざまに右手は腰のボールに、左手は首筋を抑えている。

 

「メガニウム、はっぱ……! ちょ、ドクロッグ!?」

 

 何故かドクロッグにより腕を押さえつけられ、メガニウムを出すことができないようだ。毎度なんなんだ、あのドクロッグは。勝手に動きすぎだろ。結局ボールに収めてないのか?

 

「ケッ」

「あっれー? ヒキガヤ? どしたの?」

 

 このでかい声はオリモトか。

 なんか一人だけ楽しそうだな。多分、どこにいても割と楽しめてそうな奴だ。

 

「あー、どんな状況かなと」

「ふーん、丁度よかった。ミナミがヒキガヤがいないと寂しいってうるさいんだよ」

「言ってないし! なんでうちがこんな男がいないと寂しいって思わないといけないのよ!」

「ってな感じでさー。どうしよっか」

「や、どうもしねぇよ。つか、相変わらずだな」

 

 こうも簡単にサガミが遊ばれているとは。恐るべしリア充。

 

「何が?」

「もう名前呼びなんだなって。何したんだよ」

「知りたい?」

「いや、いい。怖いから聞きたくない」

 

 なんかこう、女子独特の会話とかあったりするんだろうし。そんなものを知りたいとか全く思わないから。知らぬ存ぜぬが一番安全なまである。

 

「大丈夫だって。シャドーの話しただけだから」

「どこが大丈夫なんだよ。それ、絶対俺が笑いものになってるだろ」

 

 だからと言って、そこに自分が出てきてしまってはどうしようもない。俺の知らないところで笑いものになっていたことだろう。そりゃもう、さぞ盛り上がったんだろうな。

 ひどい奴。

 

「当たり! やー、あの時のヒキガヤは今思い出すと超ウケるし!」

「ウケてたまるかっ。あの頃の俺は病気だったんだ。病気でおかしくなってたんだ!」

「病気とかウケる………」

「ウケねぇよ」

「病気? あんた何か病気にかかってたの? そんな話聞いてないけど」

 

 あ、うん、多分想像してるような病気じゃないな。もっとこう、なんというか、心の病気的な?

 

「ええ、そうね。今は治っているもの。バトル中に少しスイッチが入りすぎると発症するみたいだけど」

「ユキノシタさん………てことは……」

 

 俺の後ろからすっと顔をのぞかせたユキノの姿を見るや、サガミが一歩下がり、顔が青ざめていく。俺も違う意味で青ざめていく。

 なんでそういうところまでこいつは覚えてるんですかね。いいじゃん、忘れなさいよ。高い記憶力をそんなどうでもいいことに無駄遣いするなよ。

 

「大丈夫よ、姉さんは置いてきたから」

「ほっ……よかった………。あ、や、別に嫌いとかそういうわけじゃ」

 

 自分で超失礼なことを言ってる自覚はあるんだな。まあ、俺が言えた義理じゃないが。俺なんか普通に魔王呼びしてるし。いつか殺されそうだな。

 

「いいのよ、今のあの人は面倒だから。たまっていたものが今になって吐き出されているのよ。姉さんに甘えすぎていた私が悪いのだけれど、しばらくは好きにさせるしかなさそうだわ」

 

 呆れの混じった声で遠くを見据える。

 俺も思い出しただけでため息が出てしまいそうだ。

 

「まさに魔王が暴れてるって感じだもんな」

「それが全てあなたに向けられているというのはいささか癪よね」

「代わってくれるなら代わってほしいわ。なんだって夜這いまで仕掛けてくるんだよ。お前がユキメノコを置いていかなかったら今頃俺は………」

 

 ほんと昨夜は危なかった。寝ようとしたら急に部屋の扉が開いてハルノさんが普通に入ってくるわ、すぐに抱きついてきたかと思うとなんか昼に味わった柔らかい感触が違うわ、そんなこんなしてるうちにユキメノコがハルノさんを氷漬けにするわ。しかもそのハルノさんがまさかのゾロアークというね。何あの嫌がらせ。

 結局何だったのかと思案していると今度は背後から抱きつかれて、今度はまごうことなき柔らかい感触があり、本物のハルノさんだった。首に回された腕によりベットに押し倒され、抱きつかれたまま寝る羽目になるのかと思いきや、またしてもユキメノコが出てきて、サイコキネシスでゾロアーク共々部屋の外へと追い出してしまったのだ。

 まあ、それで睡眠の邪魔をされることはなかったのだが。

 

「えっ? 私は別にユキメノコに命令なんて…………まさか?!」

「な、なんだよ」

 

 何か驚いたような顔をしているユキノ。

 なんか俺変なこと言ったか?

 

「あなた、昨日ユキメノコと寝た?」

「おー、寝たぞ。冷んやりしてて気持ちよかった」

 

 ご褒美としてユキメノコと一緒に寝た。また襲われても困るからな。警備も兼ねてだ。

 

「はあ、まったく…………ユキメノコには困ったものだわ」

「そうか? 今もこんな感じだぞ」

 

 そんでもって、今日はずっと背中が冷んやりしている。

 見えないだけでユキメノコが背中にへばりついているからだ。

 

「メ~ノ」

「ユキメノコ………、朝からボールにいないと思ったらそこにいたのね」

 

 姿を見せたユキメノコにユキノが呆れた眼差しを向けた。

 

「ヒキガヤ、懐かれすぎでしょ」

「………やっぱり何かおかしいよ、この人」

 

 ナカマチさんはやはりこの状況を異常だと感じているようだ。まあご最もであるが。というか正常な感覚の持ち主がいてくれて助かるわ。最近の俺の周りは異常者しかいなくなってしまったからな。格いう俺が社会不適合者という異常者だ。類は友を呼ぶとはこのことを言うのだろう。………違うか。違うな。異常者にしているのは感情だな。恐るべし感情。リア充並みに怖い。

 

「………ユキメノコの狙いは姉さんを追い払うことじゃないわ。追い払った後に自分が一緒に寝ることが目的だったのよ」

 

 ほーん、まあどっちでもいいや。

 

「まさかのポケモンまで参加してるんだ………。何なのこの人たち………」

「ねー、ミナミも大変だねー。ライバル多すぎでしょ」

「俺と寝ることが目的だったとして何か問題でもあるのか?」

「はあ………、つくづくポケモンには甘いわね」

「別にそうでもないだろ。ユキメノコはしっかりとハルノさんを追い払ったんだ。その働きにそれ相応の褒美があっても文句ないだろ」

「あ、じゃあ、あたしらもしっかり仕事してるからご褒美が欲しいかも!」

 

 えー、絶対高いもんねだってくるだろ。

 それにしっかり働いていたかなんて現場を見ていない俺には判断できないし。

 

「口先だけなら何とでも言える」

「じゃあ確かめてみなされ」

「へいへい」

 

 はあ、仕方ない。当初の目的をやりますかね。

 

「じー………」

 

 なんですか、サガミさんや。目が怖いですよ?

 

「あー………、ごめんごめん、ミナミ。あたしらが独占しすぎたから。ほら」

「あ、おい、ちょ」

「ひゃあっ?!」

 

 何故押す。

 バランス崩してサガミの方に倒れこんじゃっただろうが。なんとか踏みとどまったけど、ちょっと生暖かい感触があるんですけど。

 

「……とっとと、おいこらオリモト! 何しやがる!」

「ミナミのことも構ってあげないとだめだよ」

 

 はあ?

 なに?

 この顔を真っ赤にして今にも怒り出しそうなサガミを構えと?

 どこにいっても一人は構ってちゃんがいるのか。まあ、ハルノさんが一番堂々と抱きついてくるから厄介ではあるが。

 それでも、構えって何すればいいんだよ。遊んだりか?

 

「え、なに? こいつも構ってちゃんなの? 困ったちゃんすぎるだろ」

「今のはウケないわー」

「ウケろよ。咄嗟に引っ掛けてみたってのに。お前のツボがよくわからん」

「ふんっ!」

「ぐおっ?! ぼ、暴力反対………」

 

 やはり気に障ったのか脇腹に拳がねじ込まれた。超痛い。マジ痛い。暴力反対!

 

「ありゃりゃ、ほんとに困ったちゃんだ」

「カオリがいじるからでしょうが。ミナミが繊細なの忘れてるでしょ」

「いやいや、忘れてないよ」

 

 というかサガミが繊細とか想像できない。どっちかつーとヘタレだろ。繊細とかそんな綺麗なもんじゃない。

 

「そもそも繊細という感覚がないのじゃないかしら」

「あ、うん、そうかも……ユキノシタさんの言う通りだよ。カオリに繊細なんて言葉があるだけでもよしとしなくちゃ」

 

 あ、それは言えてるかも。

 オリモトに繊細とかヘタレとかそんな感覚、絶対理解できなさそうだ。

 

「ひどっ?! チカもユキノシタさんも酷くない?!」

「カオリちゃんとは正反対に位置するから。うちのことなんて分かるわけないよ………」

「ミナミまでスイッチ入った?!」

 

 サガミ卑屈モード。

 

「………はあ、もっと素直にいれば楽なものを。見てみろ、オリモトなんか自分に正直すぎるくらいに生きてるんだぞ。少しは見習え」

 

 まあ、こいつはこいつで思ったままに行動するべきだとは思うが。オリモトまでとはいかなくてもあれくらいノリで動けたら楽に生きられそうだ。そこだけは俺も感心してしまうまである。

 

「ひどっ?! ヒキガヤ、あたしだってちゃんと考える時は考えるから!」

「………カオリちゃんみたいにはなりたくない」

「………だってよ」

「ウケないわー」

 

 サガミの一言にショボーンとするオリモト。軽口叩けるくらいには仲良くなったみたいだ。俺がいなくても毎日こんな感じなのだろう。………これはナカマチさんに何か礼をしておいた方がいいかもしれない。苦労をかけてるみたいだし。

 

「ケッ」

「ひぁっ?!」

 

 すっとサガミの背後に現れたドクロッグが腕を上から下に下ろした。どうやら背筋をなぞったらしい。おかげでサガミがまたしても変な声を上げている。

 

「あー、ドクロッグがついに我慢の限界にきちゃったか」

「なんかあったのか?」

「ミナミ大好きドクロッグの嫉妬」

 

 隙ができたサガミを軽々と持ち上げると連れて行ってしまった。

 

「連れて行かれたわね」

「そのうち戻ってくると思うよ」

 

 これが初めてということでもないらしい。

 はあ、戻ってくるまでに出来上がりを見せてもらうとするか。

 

「なら、その間に成果とやらを見せてもらおうか。ご褒美が出るかはそれ次第だ」

「まっかせなさい! あたしらの頑張りを見せてあげようじゃん」

 

 なんでそんなバトルする勢いなんだよ。ただ見て回るだけだろうが。

 




不図思ったのですが、新作のポケモンにはリージョンフォルムが追加されるんですかね。
されるとすれば、まず第二世代のポケモンなのは間違いなく、メガシンカをすでに獲得しているポケモンも前作同様かと。加えてアローラ図鑑にすでに記載されている第二世代はリージョンフォルムにならないのではないですかね。逆に島スキャンという特殊な方法で出てくるポケモンは、新たな生態系を築くという意味では可能性があるのかもしれません。ポケモン図鑑も認識しませんし。


なんて、不図した疑問でした。
島スキャンのポケモンたちなら第二世代の御三家もいますし。初代と第三世代はメガシンカをもらっているのに、間の第二世代だけ何もないのは不遇だなあ、と。メガシンカの可能性が薄くなってきているし、専用Z技と合わせてきても問題はなさそうな気がします。
ただ、島スキャンで出てくる第二世代って御三家を除けばトゲピー族、マリル族、ウリムー族とタッツー族の最終進化のキングドラで、トゲピー族とウリムー族は第四世代のトゲキッスとマンムーに進化しますからね。どうなることやら………。


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4話

 コマチたちが旅に出てから早三日。

 俺の限界が近づいてきていた。

 

「コマチ成分が足りない」

「何を言い出すかと思えば」

 

 書類整理をしていたユキノがため息まじりに呆れた声を返してくる。

 

『マスター、お茶ですわ』

 

 元々あったポケモン協会を乗っ取り、綺麗にした事務所で、俺は事務仕事をしていた。のだが、そろそろマジで限界である。

 そこにコトッと置かれる湯呑み。これを入れてくれたのはポケモンである。

 彼女? の名はディアンシー。

 フレア団との抗争の最中、俺のポケモンになった………まあ、ボールには入れてないが。

 テレパシーで会話ができ、口調は少しお嬢様気質のいい子である。

 

「すまないね」

『いえいえ、マスターのお役に立てて光栄ですわ』

 

 裏路地にあるこの建物であるが、整備すれば広々としており、部屋もたくさんあるため使い勝手がいい。

 

「明日明後日には帰ってくるらしいわよ」

「へー…………保ちそうにないな」

「しょうがないわね。だったら私が「遠慮しておく」………ケチな男ね」

「だって、お前火が付くと何してくるか分かんねぇもん」

 

 なんかほんと最近見境なくなったというか。

 どうしてこうも不意を突かれてしまうのだろうか。おかげで俺の唇が乾くことを忘れてしまっている。

 

「あら、嫌かしら?」

「嫌じゃないから困るんだ。もっと節度をだな」

 

 嫌だったら普通引き剥がすから。

 嫌じゃないから困ってんだよ。ずるずると泥沼にハマっていってる気分だわ。

 

「あなたへの気持ちを押さえつけるのはもはや無理よ。何年、追いかけてきたかと思って」

「そうですね。俺が悪うございました。………記憶がない奴に過去の話するなよ」

 

 平謝りはするが記憶がない奴に昔のことを言われてものねぇ。

 事実らしいから困った。俺はいったいどうすればいいのだろうか。

 

「まったく、いい身分よね。私たちの苦労を記憶がないの一辺倒で通せてしまうのだから」

「それで生きてるんだから安いもんだろ。別に永久的に記憶が戻らないってわけでもなさそうだし」

「それはそれ。これはこれよ。あなたのやったことは誰にもできないことだし、それでみんな救われたわ。でも同時に寂しい気持ちというものを残してくれちゃったから問題なのよ」

「無理言うな。俺は完璧じゃないんだ。リスクがないようにはできない」

「ええ、分かってるわ。私はいつでもあなたを見てきたもの。でも頭と心は同じじゃないわ」

『ユキノさん。お客様が来たみたいですよ? 表に気配があります』

「ふぅ、分かったわ。一緒に来てくれるかしら、ディアンシー」

『了解しましたわ』

 

 気を利かせたのか、本当に気配を察知したのか、ディアンシーは割り込んできた。そしてユキノもまたそれに従い、ディアンシーを連れて部屋から出て行ってしまった。

 

「頭と心は同じじゃない、か。………分かってるさ、そんなこと」

 

 独り言ちてしばらく、再び部屋の扉が開かれた。

 

「………あれ?」

「………ん?」

 

 なんだこの子?

 来客……? じゃなさそうだな。ならその子供か?

 

「じー………」

「なに、どした?」

「さーちゃんのおともだち?」

 

 さーちゃん? かーちゃんのことか?

 

「勝手に来ちゃダメだろ。一緒に降りるから戻ろうな」

 

 立ち上がって少女のところへ行き、向き合う。

 

「あのね、さーちゃんね。だれかに会いにきたんだって。でもちがうお姉ちゃんが出てきて、お話ししてるの」

 

 違うお姉ちゃん………それはユキノのことか?

 

「そうか。ならそのうち上がってくるかもしれないな」

 

 ふむ、ということは何か問題があったってわけでもなさそうだな。世間話、をするような奴でもないし………。はっ?! まさかコマチたちが帰ってきたとか?! いや、それだとこの子が謎だ。

 うーん、なんか、誰かの面影がないわけでもないような気がする。

 うーん………。

 

「ねえねえ、あそぼ!」

「俺、一応仕事中なんだけど」

「ごーちゃん、かーちゃん、ぼーちゃん! みんなであそぼ!」

 

 えっ?

 なんかいるわけ?

 この子、もしかしてやばい子だったり?

 こんな可愛いのに。

 

「ケシシシッ」

「ボゥズ」

「ボー」

 

 と思ったら、何かが実態化した。

 ゴースト、カゲボウズ、それにこの白いのは………知らないポケモンだな。

 

「というかこの面子………」

 

 すげぇ見たことある奴いるんですけど。

「けーちゃん!!」

「あ、さーちゃん!」

 

 さーちゃんのご登場。

 って、ただのカワなんとかさんじゃねぇか。えっ、なに? まさか娘?

 

「………確かに似てるな」

 

 娘と言われても疑問にすら思わない。

 カワなんとかさんが大人びているから余計にそう見えるのだろう。

 

「ごめん、妹が勝手に来ちゃって」

「あ、なんだ妹か」

 

 妹か。

 ま、どっちにしようがブラコンだし、親バカがシスコンに変わったところで見てる分には何も変わらない。

 

「………なんだと思っていたのか聞こうかしら?」

「あ、や、その………」

 

 げっ、ユキノ………。静かに入ってくるなよ。

 背中に冷気を感じる。こりゃ、前も後ろも挟み撃ちか。くそ、ユキユキコンビで挟み撃ちとか卑怯だぞ!

 

「ほら、けーちゃん、お名前」

「かわさきけーか!」

「お、おう、ハチマンだ」

 

 元気な少女だな。

 姉とは大違いだ。

 

「はち、まん………へんな名前!」

「けーちゃん!?」

 

 ほんと元気がよろしいことで。

 さーちゃんが申しわなさそうにしてるぞ。律儀なやつ。こいつくらいだろ、こんなことで申し訳なくなってるの。

 

「はははっ、自分でもそう思ってるから別にいい」

「変な名前っ………」

 

 ほら、現にいましたよ。名前に反応する奴が。好きよね、あなた。人の名前がいじられるの。

 

「おうこら、そこの雪女。ツボに入ってんじゃねぇよ」

 

 ユキノが口と腹を抑えて笑いをこらえている。全くこらえきれてないけど。漏れ出しすぎだろ。

 

「はーちゃん、あそぼ!」

「はーちゃん?」

 

 俺? と指をさしてみる。

 

「はーちゃん!」

 

 指をさされて肯定された。

 それは俺のことだったのか。また変な名前がついてしまったな。忠犬ハチ公よりは断然いいが。

 

「さーちゃん、どうすればいい」

「あんたまでさーちゃん言うな!」

 

 さーちゃん、目が怖いぞ。

 

「よっと………で、けーちゃんは何したいんだ?」

 

 そう言いながら、目の前の幼女を抱え上げ、抱っこする。かわいい。実にかわいい。

 

「あのねあのね、けーかね、バトルしたい!」

「……………」

 

 ちょっとー? カワカミさーん?

 お宅の妹さんの教育どうなってんのー?

 カワナカさーん?

 

「バトルは今度な。俺の相手をするならまずはさーちゃんを倒せるようにならないと」

 

 カワシモさんも強いからな。まずは妥当さーちゃんでがんばろうな。

 

「はーちゃん、つよいの?」

「さーちゃんに勝ったことあるぞ」

「はーちゃんすごい!」

「それよりけーちゃんが好きなものを教えてほしいな」

「んとねー、さーちゃん!」

「ぶはっ!?」

 

 あ、さーちゃんが鼻血噴き出した。やはりシスコンだったか。

 だがしかし、誰も介抱する者はいなかった。ミウラあたりがいれば、対処してくれたかもしれないが。あ、いや、無理だな。性格的にミウラと折り合い悪そうだわ。

 

「カワサキさん、大丈夫………なの? すごい勢いで鼻血が出ているけれど」

「だ、大丈夫………。たまに出るから」

 

 それはそれで問題だろうに。

 あ、ああ!

 なんかいないと思ったらあのクズ虫がいないのか。

 はっ?! まさかコマチに会いに行ったとか?

 あの害虫め、俺が目を離した隙に………。

 

「なあ、あのクズむ……タイシはどうしたんだ?」

「今なんて言いかけた? ああっ?」

 

 うわっ、このブラコンめ。鼻血出したながら睨んでくるなよ。絵面が余計に怖いじゃねぇか。

 

「たーくんはねー。しゅぎょーしてくるってどっかいっちゃった」

「ほう、よく行かせたな」

「………好きに旅させてみただけだし」

 

 ぷいっと目を逸らすさーちゃん。

 ああ、ダメだ。今度からさーちゃんで定着しそうだ。まあ、あれだ。いい加減名前を覚えられるんだから良しとしよう。

 

「ま、俺たちが介入しすぎるのもよくないからな。頃合いだったんじゃねぇか?」

「どの口が言うのよ。コマチさんに三日も会ってないとか言ってさっきまで項垂れてたのはどこの誰だったかしら?」

「さあ、誰だろうな。けーちゃん、大きくなっても優しいけーちゃんのままでいるんだぞ? 口の悪いけーちゃんになったらはーちゃん泣くからな?」

「うん、わかった!」

 

 うんうん、いい返事である。

 けーちゃんの十年後が楽しみだ。

 ………………十年か。俺、何してんだろうな。

 

「………後で覚えてなさい」

「んで、カワサキ。ここに来るなんて珍しくないか? というか来るの初めてだろ」

「……ん、ミアレまで戻ってきたから寄ってみようかって」

 

 けーちゃんを高い高いしながら聞いてみる。するとすんなり返ってきた。

 

「あら、これからミアレで何か予定でも?」

「別に。特にすることはない。ただ、一つ聞きたいことがあって」

「用事あるんじゃねぇか………」

 

 きゃっきゃきゃっきゃはしゃぐけーちゃんは実に癒される。新しい天使の発見である。

 

「そ、それは………個人的なことだし」

「それで、何を聞きたいんだ?」

 

 でもこんな無垢な子でも仲良くなったのがこの三体のポケモンなんだよなー。ゴースト、カゲボウズ、それと白いの。恐らく全員ゴーストタイプ。

 怖いわー。この子の将来が怖いわー。

 

「………風の噂で半年後にポケモンリーグが開かれるって耳にしたから。あれって本当?」

「ええ、本当よ。今はそのために準備をしているのだもの。ユイたちもそれに合わせて旅を再開したわ」

「………ん? あんた、ユイガハマのこと名前で呼んでたっけ? しかも呼び捨て」

「あら、何かおかしいかしら?」

「いや別に」

 

 やっぱり、急に名前呼びになると違和感を覚えてるもんなんだな。

 もう慣れてきてしまったからその感覚、忘れてたわ。

 

「………俺が記憶喪失になったのをいいことに、俺のことを名前で呼び始めて、あまつさえ彼女と言い出したのがそもそもの原因だったよな」

「ああああの時はどうかしてたのよ! あなたの記憶がまたなくなって私たちのことを忘れてしまったと思ってたのだから。もう忘れられるのは嫌だったのよ……」

「はいはい、俺が悪かったよ。つか、それ何回も聞いた」

 

 ぼそっと突いてやったら顔を真っ赤にしてまくし立ててきた。

 段々と尻窄みになっていく声には悲しみの色が混ざっている。

 

「………あんたたち、デキてるの?」

 

 何が?

 

「デキてるのか?」

 

 よく分からないので、そのままユキノに振った。

 

「あら、私は返事をもらった覚えはないわ」

 

 返事?

 ……………ああ、カップルかどうか的なね。

 

「…………確かに言った覚えはないな」

 

 結局、言った記憶がない。

 や、別に嫌いじゃないし、何なら失いたくもない。ユキノはもちろんユイもイロハもハルノさんも俺の絶対的な弱点とさえ言える存在だ。コマチ? 俺が誰かにくれてやると思ってやがるのか? 有りえない。コマチだぞ。俺のコマチだぞ。

 

「キスはしたのにね」

「それな」

 

 キスまでしちゃってるのにね。不意打ちでキスしてきた時にはキスマークのお返しをしたりするし。もう、ドロドロといってもいいくらいだ。

 これではっきりしてないってんだから、俺はどうしようもないヘタレなのだろう。それかみんなの好意に甘えてる小心者か。どっちも一緒だな。

 

「ああああんたたち! ケイカの前で何話してんの!」

「何って、日常会話?」

「そそそそんな破廉恥な会話をケイカの前でするなんて!」

 

 おやおや?

 顔が真っ赤ですよ?

 

「はーちゃん、けーかもはーちゃんとチューするー」

「ほら、キスをちゃんとチューに変換できるくらいには理解してるみたいだぞ」

「けけけ、けーちゃん?!」

「ほんと、耐性なさすぎだろ」

 

 どんだけ初心なんだよ。見た目とのギャップが激しすぎんだろ。ついでにゴーストタイプも苦手なんだろ? やばいわー、さーちゃんマジギャップ萌えだわー。

 というかなんか普通の女の子だな。誰かさんみたいに見た目で差し引きゼロになっちまってるな。誰だろうな、そんな目の腐ったやつ。………俺ですね。

 

「………ん、んん、と、とりあえず、そういうことならあたし、ミアレジムに行ってバトルしてくる」

 

 下手な咳払いだこと。

 まだ顔が真っ赤ですよ?

 

「けーちゃん、行くよ」

 

 はあ、仕方ない。

 ちょっとは癒されたし、仕事頑張りますかね。

 

「はーい! はーちゃん、またね!」

 

 けーちゃんを下ろすとブンブンと手を振ってきた。

 

「おう、いつでも来ていいからな。何なら住み着いてもいいぞ」

「……………ロリコン」

 

 うぐっ、何も言い返せない。

 だがしかし。あれは天使だ。天使に大きさなんて関係ない。年齢なんて関係ない。ましてや性別なんてもってのほかだ。天使は天使である。はあ…………、トツカ今何してんだろうなー。

 

「何故そこで恋する乙女のように遠くを見ているのかしら。気落ち悪いわね」

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 その日の夜。

 ここ最近日替わりで来ていた夜這いが来ない代わりに一通のメールが届いていた。

 差出人はザイモクザ。

 

「………レッドプランとは聞いたことあるか? ………なんだよ、レッドプランって」

 

 なんか危険な臭いがしなくもない。危険信号を表すレッドだからだろうか。

 

「げっ、なんつータイミングで」

 

 まるで俺がメールを見たのをどこかで監視していたかのようにポケナビの方にコールが入った。

 やはりこちらもザイモクザ。

 

『ゴラムゴラム! 久しぶりだな、ハチマン! 剣豪将軍、ザイモクザヨシテーープツン』

 

 あ、やべ、思わず切っちまった。

 と思ったら掛けなおしてきやがった。

 

『見下げ果てたぞ、ハチマン! 我の挨拶の途中に切るとかあんまりだ!』

「だったら、普通にかけては来いよ。思わず体が反応してしまったじゃねぇか」

 

 まったく………、長々と聞かされるこっちの身にもなれっての。

 

「で、あの意味深なメールは何なんだ?」

『うむ、実は我、今カントーにいるのだ』

「へー、あっそ」

『もう少し興味を持ってくれてもいいではないか!』

 

 結構どうでもいいし。

 

「や、だってさっきまでお前のこと忘れてたし」

 

 何ならメールが来るまで、存在自体を忘れてたし。静かだなーと思ってはいたけどよ。

 

『くそうっ、このリア充めが! イチャコラしおって!』

「イチャコラって………、ほぼ俺がなじられてるだけじゃん」

 

 まあ、否定はしないけど。

 ただあえて言わせてもらおう。俺が悪いんじゃない! あいつらが、ユキノシタ姉妹が悪いんだ!

 なんなんだよ、あの二人。ハルノさんのキス以来、欲望に忠実すぎるだろ。これはあれか? 性欲に支配されてないだけマシって思わないとダメなのか?

 

『話しかけてもらえるだけ喜べ! なのにそれだけでは飽き足らずきききキスまでするわ、べったり女子に囲まれてるわ、何なのだ、あの羨まけしからん状況は!!』

「………なんかごめんな? 俺たちのせいで息苦しい思いをさせちまって。つらいことがあるなら相談に乗るぞ?」

 

 前にハヤマに言われたような言葉を返してみた。

 なんか今になってあの時のあいつの気持ちがわかってきたような気がする。ま、だからと言ってあいつに同情することはない。

 

『ぎゃふん! い、今に我も………お、おおお覚えておれ、ハチマン!』

「切れたし………」

 

 マジでなんなんだよ、あいつ。

 結局、何が言いたかったんだ?

 

「って、またかけてきたやがったし」

『………悔しさのあまり思わず切ってしまったではないか』

「知らねぇよ」

『ふぅ……』

「こっちがふぅ………だわ」

 

 結局何がしたんだよ。付き合わされるこっちの身にもなれっての。

 

『して、ハチマン。レッドプランという言葉に聞き覚えはないか?』

「ようやく本題かよ。つか、よく記憶のない奴にそんな質問ができたな。ちょっと待ってろ…………えーっとレッドプラン、レッドプラン………」

 

 もちろん記憶にはないので、手帳を開いていく。

 ざっと目を通す限り………。

 

「ないな」

『……そうか』

「で、なんなんだ? そのいかにもな名前は。メールにもあったが」

『う、うむ……知らないのであればそれでいいのだ。我の勘違いだったようだ』

 

 …………この歯切れの悪さ。

 なるほど、つまりは俺に知られてはいけないようなことなのか。

 

「………変なもんにだけは手を出すなよ」

『心得ておる』

 

 それだけ言ってプツンと切れてしまった。

 レッドプランね。

 今度は何を見つけてきたんだか。

 

「レッド………まさかな」

 

 まさかマサラタウンのレッドが関係しているとか、そういうのではないだろうな。

 そうだったら、ガチのヤバいもんだと思うぞ?

 

「夜這いが来る前に寝よう」

 

 連日、監視の目が少なくなったからか、ユキノシタ姉妹の夜這いが加速している。

 まあ、夜這いといってもただ一緒に寝るだけなんだが。だが日によっちゃ両側が埋まってしまうという何とも眠れない状況が続いているのだ。はっきりってエマージェンシー。俺のいろんなもんがエマージェンシーを起こしている。シャドーの生活の方が楽だったかもしれないと本気で考えてしまうくらいには俺のいろんなものがエマージェンシーである。

 昼間は昼間で不意打ちのキスやら、たわわに実った双丘で攻撃されて、夜がこれだろ? よく我慢してるな、と自分を褒めたたえてあげたい。俺、超聖人君主。

 

「って、今度はホロキャスターか。あ? ハルノさん?」

 

 なんかメールが来たみたいだ。

 コールじゃなくてよかった。

 

『じゃーん!』

 

 ……………。

 これは何なんだろうか。つか、あの人はアホなのだろうか。というか無駄にエロい身体してんなこの人。

 

「ねえねえ、ハチマン。開けてー」

 

 言ってる傍から来ちゃったよ。

 これ、絶対俺の反応聞きにきたって感じだよな。ふむ、つまりは夜這い…………。くそぅ、今日こそは追い返そう。

 

「ったく」

 

 扉の前でずっと騒がれても迷惑なので、仕方なく部屋の中に入れることにした。

 

「何なんですか、あの写真は」

「えへへー、どう? 興奮した?」

 

 扉を開けると写真と同じ服を着た彼女の姿があった。

 うっ、生は違う…………。

 

「べ、別に興奮なんか………。つか、もう時期的にニットの季節じゃないでしょうに」

「いやー、安売りセールしてたからつい買っちゃった」

 

 ニット。

 淡い水色のニット。

 一か月くらい前までならこの姿で外を歩いていてもおかしくはないニット。

 なんて解説がどうでもいいくらいにある部分が強調されている。というかちょっと見えちゃってる。

 

「………胸あきのニットとか、男をたぶらかす気ですか? ハルノさんが着ると一発で襲われますよ?」

「うーん、間違ってはないかなー。でも一発で襲ってくれないんだよねー」

「なんですか、その襲ってほしそうな言い方」

「…………」

「…………」

 

 無言で上目遣いとか、………ああ、そういうことですか。やっぱり俺のことを挑発してるんだな。あんな写真を送ってまで部屋に押しかけてくるくらいだし。

 

「きゃあ!?」

 

 それならご要望通りにしてあげようじゃないか。

 目を態とらしくうるうるさせているハルノさんの手を掴み、部屋の中にちょっと強引に引き入れた。そのままずかずかと歩いてベットに倒れるようにバランスを崩させた。

 

「と、とと……ハチ、マン………?」

「………………」

 

 押し倒して気づいたが、これニットワンピースの方だわ。下にスカートすら履いてないんだけど。あ、やば、見えた。へえ、黒じゃないんだ。水色なんだ………。なんか意外。

 

「えー、と……無言はちょっと怖いかなー、なんて」

 

 あ、思わず観察してしまった。ま、あれだ。見えてはいけないものがちらっと見えてしまったのが悪いんだ。見たくて見たわけじゃない。

 

「生足とか、どんだけ襲ってほしかったんですか」

「え? あ、や、別に、そういうわけじゃ………生足好きなの?」

「そりゃ男ですから。嫌いじゃないですよ?」

「ぁ………」

 

 いつだったか漫画で見たあごくい。

 気障ったらしいなーと思いながら、記憶がある。ふむ、少しは記憶が戻ってきているということか。あ、話がぞれた。

 

「ふっ、顔、真っ赤」

 

 続けて気障ったらしく余裕な笑みを浮かべて鼻で笑う。

 やってから思ったが、これって「ただしイケメンに限る!」って奴だよな? 俺がやって大丈夫なのか?

 

「ぁぅ………」

 

 あ、全然問題ないようですね。この目とか絶対危ない目をしてると思うんだがなー。ユキノといいこの姉妹は物好きにも程があると思う。

 

「ハルノ」

「ひうっ?! な、ななななまえ……?!」

 

 そういえば、と思い顔を彼女の耳元へ持って行き、名前を呼び捨てで呼んでみる。ヒラツカ先生が呼んでみろなんて言ってたからな。

 だが、まあ。いい絵面である。

 なるほど、ハルノさんも相当な乙女チックなようだ。

 

「ふぅー」

「ひゃあっ!? みみ、みみみ耳はダメっ」

 

 なんか楽しくなってきてしまい、いじめたくなってきた。

 ひとまず、耳に息を吹きかけてみる。

 

「…………はあ、耐性ないのに挑発するからですよ。俺じゃなかったら、このままくみし抱かれてもおかしくないですからね」

 

 ま、今日はこれくらいにしておこう。

 夜が開ければ、どうせいつものハルノさんになっている。つまりはまたこんな状況が来るかもしれない。となれば抵抗手段を最初から全て見せてしまうのも勿体無い話だ。

 

「………うぅ………、なんか角が取れたら勝てない………悔しい………………」

「ほれ」

「うぅー、だからわしゃわしゃするなーっ」

 

 悔しがるハルノさんの頭をくしゃくしゃに撫でてみる。

 うん、やはりこの反応が可愛い。歳上なはずなのになんか子供っぽさがあってギャップがすごい。

 普段のお姉さんキャラもいいけど、違うのもいいものだ。

 

「そうやってる方がかわいいですよ?」

 

 プシューと煙を上げたかのような耳まで真っ赤になったハルノさん。

 

「………何をやっているのかしら? 二人して」

 

 そこに新たな厄介ごとが割り込んできた。

 くそぅ、せっかく一人落としたってのに。なんで新たに出てくるんだよ。

 

「「……………」」

「…………」

 

 ほら、突然の登場だから時間が止まっちまったじゃねぇか。

 どうすんだよ。

 

「や、お前も何してるんだって状況じゃん。なんで枕持ってきてるんだよ」

 

 で、最初に時間が動いたのが俺っていうね。

 よく見るとユキノの腕には枕が抱えられている。

 

「そ、それは、一緒に寝よう、かと思って」

 

 随分素直じゃありませんか、もっと隠せよ。聞いてるこっちが恥ずかしいだろうが。ただでさえ、今ハルノさんを陥落させるのに似合わないことして口から火が出そうな勢いだってのによ。

 

「姉さん、色仕掛けなんてずるいわよ」

「………仕返しされた」

「へ?」

「だからハチマンの色気にやり返されたの!」

「………いやらしい」

 

 あ、汚っねぇ!

 こいつら姉妹で手を組みやがった。

 これ、今日も俺の負け確定じゃん。や、今日は無理だろ。シングルに三人とか。

 

「そう思うならハルノさんの恰好に文句をつけてからにしてくれ」

「そうね、その恰好は私に対する嫌がらせだものね」

「ふふんっ、羨ましかろう」

「腹立つわね。そんな胸にはこうよ」

 

 あ、俺もやってみたかったことを。男だからできないってのに。

 にしても指が埋まるんだな。

 

「あんっ、も、もう、ユキノちゃ」

「この肉がハチマンを誑かす原因なのね。いいわ、だったらこの武器を存分に使ってもらおうじゃない」

「へっ?」

「お、おわっ?!」

「あ………ふうんっ」

 

 げっ、油断した。

 ユキノに腕を引っ張られて踏ん張ろうとしたが、背後からユキメノコに押されてしまった。よろけた勢いでベットにダイブし、その両脇に姉妹が俺の腕を固定するかのように肢体を絡ませてくる。

 ーーああ、ここは天国であり地獄なんだな。天使がいないわ、柔らかいわ、我慢しなきゃだわ、いい匂いだわ。まさに混沌としてんな。主に俺の頭の中での話だけど。

 結局、明け方まで寝付けなかった。だって二人とも……………ね。

 



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5話

いやー、大変遅くなりました。
本当は昨日のうちに投稿したかったんですがね。
休むつもりもなかったので、今日この時間に投稿することにしました。
来週も不定期になるかもしれませんが、お許しを。


「たっだいまっ……ぁ……?」

「……ねえ、コマチちゃん。これは夢かな?」

「ヒッキーが………ヒッキーが………」

 

 くそっ、急に仕事が増えたな。まあ、ようやく細かいところが決まってきたってことなんだろうけど。にしてもこっちも決めることが多いとかマジでしんどいんですけど。ハルノさんが上手くフレア団についていたスポンサーから金を巻き上げてきてくれたから、金に関しては困らないし、バトル会場もユキノシタ建設が全面的に動いてやってくれているから、俺がどうこう言うようなことはないのだが。いかんせん、これは客商売。観客の安全面も考慮しないといけないわ、何かあった時にはすぐに対処できるようにしておかないといけないわ、俺が今まで考えたこともないようなことが次々と出てきて嫌になる。

 誰か代わってくれー。

 

「「「仕事してる!!?」」」

「ユキノ、避難経路の図面はどうなった?」

「警察の方で作ってもらっているわ」

 

 警察、というとあの人たちかね。うわ、不安しかない。何が不安って俺を捕まえたあの人だよ。また引っ掻き回してないといいんだけど。

 

「ねえ、ちょっと! 無視しないで!」

「コマチだよ?! コマチが帰ってきたんだよ!? いつものお兄ちゃんならすぐに寄ってくるのにどうしちゃったのさ!?」

「先輩! 仕事と私達とどっちが大事なんですか!?」

「あ? ん? ああ、お前ら帰ってきてたのか」

 

 なんかさっきからいろんな声が聞こえると思ったら、いつの間にかコマチたちが帰ってきていた。

 

「ハルノさん、本戦開始の一ヶ月前くらいにはグッズの展開ができるように促しておいてください」

「はいはーいっ」

 

 さて、これは一大イベントだからな。謳い文句もカントーを絡ませている。それに加えて三冠王の参加。大会一ヶ月くらい前には遅くともグッズを揃えておいた方がいいだろう。それでも品切れになるかもしれない。量産やニーズの把握の仕方も体制を整え解かなければな。

 

「なっ?! それだけですか!?」

「ヒッキー!? 頭大丈夫なの?! 何か変なものでも食べた?!」

「食ってねぇよ。見りゃ分かるだろ。忙しいんだよ。ディアンシー、取り敢えずあいつらの相手しておいてくれ。もう少しで手が開けられそうだから頼む」

 

 何なら、飯食った記憶がない。や、多分食べてるとは思うが、忙しすぎて何を食べたのかもどんな味だったのかも覚えてないのだ。うわっ、何これ。絶賛社畜じゃん。超社畜じゃん。

 

『了解しました。みなさん、ソファーにおかけになってお待ちください。今お茶を淹れますわ』

 

 俺のメイドと化しているディアンシーに三人の相手を頼むと快く引き受けてくれた。

 くそぅ、こんな時に帰ってくるなよ。コマチを堪能できないだろうが。

 

「え、あ、うん。なんか、ごめんね」

『いえいえ、これもわたくしのお仕事ですので』

「着実に調教されてる………」

「おいイロハ。人聞きの悪いこと言ってんじゃねぇよ」

 

 一度認識すると不思議なことに聞いていなくても聞こえてくるみたいだ。しかも言葉を理解できちまうんだから、俺のスペックが高いってことだろう。うわっ、こんなの口に出したら袋叩きにされそうだ。危険だな、考えるのもやめよう。

 

「あ、メグリ先輩、これ出来上がりましたんで、警察の方に渡してきてもらえますか? あと、本戦中の警備態勢の体系図も手に入れられるようならもらってきてください」

「はーい、分かったよ。ヒキガヤ理事」

「こらこら茶化さないでください。あそこの三人がギョッとした目で見てるじゃないですか」

「ふふふ、ヒキガヤ君のこんな姿誰も見たことないからねー。珍しいんだよ」

「そりゃそうでしょ。自分でも珍しすぎて気持ち悪いくらいなんですから。っと、すんません。電話ですわ」

 

 誰だよ、こんなクソ忙しい時に。

 って、オリモトか………。何かあったのか?

 

「はい、なんか用か?」

『あ、ヒキガヤー? ………なんか怒ってる?』

「怒ってねぇよ。なんか急に忙しくなってよ。超疲れてる」

 

 やべ、ちょっと声が低かったか?

 疲れてるとそこまで気が回せなくなるな。ま、元々電話で気なんか遣ったことないが。そもそもが電話なんかしないんだし。かかってきても気違うような奴らじゃないし。

 

『へー、ヒキガヤが仕事してるなんてウケる!』

「用がないなら切るぞ。こっちは忙しいんだ」

『あ、マジで忙しんだ。あー、ひとまず開拓の方は終わったからさー。確認してくれないかなー、って思ったり思わなかったり』

 

 なんかオリモトに遠慮気味に話されると逆に気持ち悪いな。

 えっ? つか、なに? もうできたの?

 

「えっ? もうできたのか? 俺が行ったのほんの数日前だろ? あの時全くのようにできてなかったってのに」

『そうそう、ドクロッグがほとんどやっちゃった』

「あいつ何なの? 訳分からんわ」

 

 ほんと何なんだ、あのドクロッグは。変にスペックが高いんだけど。振り切れてるまであるぞ。そんなのがサガミを気にいるとかほんともう訳が分からん。

 

『ご主人様想いだよねー。いやー、おかげで暇んなっちゃった』

「あー、ならしばらく自分たちのポケモン相手に育て屋というものをやってみろ。基本的に自分たちがしてる世話の仕方になるだろうけど、改めてポケモンをじっくり観察するのも大事だぞ。建物の方はこっちで話を回しとく。そのうちユキノシタ建設が来るだろうから、そん時は対応よろしく」

『はーい、ってこれミナミの仕事じゃん』

 

 今気づいたのかよ。

 

「そもそも報告をあいつがするべきだと思うけどな」

『ミナミちゃんはヒキガヤ相手に上手く話せないのでーす』

『ちょ、カオリちゃん!? 何変なこと口走ってんの?! ちがうから、ちがうからね! 勘違いすんじゃないわよ! ヒキガヤ!』

 

 ぎえっ?!

 耳いてぇ………。

 なんでマイクに近づけて叫ぶかな。キーンってなったぞ、キーンって。

 

「はいはい、分かった分かった。分かったからマイクに話しかけんな。おかげでほら」

『うわー、みんな変な目で見てるねー。怖い怖い』

 

 うるさいからお茶を飲んでいた三人にもまる聞こえというね。目が怖いよ、君たち。

 

「お前、絶対楽しんでるだろ」

『あっはっはっはっ、みんな元気ー? 昨日ぶりー』

 

 ホロキャスターを回してオリモトたちにも見えるようすると普通に挨拶しだした。

 怖いもの知らずめ。危ない橋を渡ろうとするんじゃありません。最悪戦争だぞ。

 

「えっ、お前ら昨日行ったの?」

『そうだよー。三人とも来たよー』

 

 結局行ったんだ。

 

「ああ、そう………。ま、つーわけだからそっちはよろしく」

『はいはーい、ヒキガヤもちゃんとみんなの相手してあげないとダメだよー。ただでさえこっちにも不貞腐れちゃってるのがいるんだから』

『だからうちは不貞腐れてなんかいないから!』

 

 あ、サガミが切りやがった。

 ま、切れたならそれでいい。こっちはまだすることがあるんだ。

 

「つーわけで、ユキノ。家の方に」

「分かったわ。メールで場所と要件を伝えておくわ」

 

 よし、これで育て屋の方は何とかなるだろう。

 

「おう、頼む。げっ、セキュリティーもか…………。よし、ミアレのジムリーダーに投げよう。俺にはさっぱり分からん」

 

 くそ、また訳分からんもん出てきやがった。

 知るか、セキュリティーなんて。俺にはそんな知識はない。こんなのはシステム関係が得意と豪語していたミアレのジムリーダーに投げるのがうってつけだ。自分から使ってくれって言ってたんだし、思う存分使ってやろうじゃねぇか。

 

「やっぱり、そこはお兄ちゃんだったか………」

「ヒッキーがこんなに仕事ができるなんて…………」

「よし、今日はもういい。疲れた」

 

 もう知らん。

 今日は疲れた。今からコマチに癒してもらう!

 

「やっぱりヒッキーだった………」

「そうね、そろそろ休憩しましょうか。休めるうちに休まないといつ仕事が入ってくるかも分からないもの」

「だな。マジで鬼畜だわ。誰か後継現れないかなー」

 

 もうね、なんでこんな面倒なことをやっちゃったかなーって後悔してるわ。はあ、働きたくない………。

 

「なったばかりでしょうに。早くも理事交代だなんて大問題よ?」

「へーへー、分かってますよー」

『マスター、お茶ですわ』

「おう、サンキュー。…………ふぃー、生き返るー」

「オヤジ臭いわよ」

「社畜ってのは年齢より歳を重ねてしまうもんなんじゃね?」

 

 ユキノのツッコミに適当に答えているとバタンと部屋の扉が開かれた。

 

「はーちゃん!」

「おお、けーちゃん。おかえり」

 

 たたたっ、と入ってきたのはけーちゃんだった。ということはさーちゃんもいるということか。

 

「えっ? 誰………?」

「えっ、先輩、まさか幼女にまで………」

「あ、あの子どこかで」

「あたしの妹」

 

 ぬっと現れたさーちゃんにイロハが無言で驚いている。というか顔が引きつっている。うん、まあ目つきが鋭いからね。俺と一緒で色々と損してるよね。

 

「あ、サキさん!」

「ん」

 

 コマチは平然としてるけど。まあ、兄が困難だし慣れてるのかもね。

 

「はーちゃん! あのねあのね!」

 

 事務椅子に座る俺の膝に飛び乗ってきたけーちゃんを抱えると、ずいっと身を寄せてきた。

 にこぱーと笑うその笑みは太陽のように眩しい。

 

「なんですか、あの笑顔。気持ち悪いくらいいい笑顔ですよ」

 

 誰のことを言ってるんでしょうかねー。

 

「ダメだ………、あれには勝てない…………」

「く、私の年下キャラが………」

 

 なんか視界の端で崩折れるのが見えたが気のせいだろう。

 

「おう、何でも言ってみろ」

「さーちゃんとバトルして!」

 

 おう?

 

「ちょ、けーちゃん?!」

 

 バトルとな?

 ふむ、ケイカもバトルに関心を持つようになったのか。うんうん、今からいろんなバトルを見ておくのも大事だろう。

 

「おー、いいぞー。さーちゃんがやってくれるならだけど」

 

 それにこの眩しい笑顔。崩すわけにもいかないだろ。

 

「だからさーちゃん言うな!」

 

 あ、やっぱりダメ?

 

「けど、どうしたんだ。帰ってきて早々バトルだなんて」

「バトルシャトーでいろんなバトル見て感化されたみたい」

「ああ………、こりゃ将来に期待できそうだな」

 

 なるほど、バトルシャトーに行くとか言ってたもんな。

 そこでいろんなバトルを見てきて刺激を受けたってわけだ。この時でバトルを楽しめるとは大したもんだな。

 

「バトルー」

「はいはい、カワサキいけるか?」

「あんたこそ。今まで事務仕事してたんじゃないの?」

「だから体を動かすんだよ」

「お、お兄ちゃんが………」

「あのヒッキーが………」

「働かない宣言をしていたあの先輩が………」

 

 はあ、ずっと同じ体勢で仕事してたからな。丁度いい、軽く動くことにしよう。

 

「「「知らない間にまっとうな人間になってる………!?」」」

 

 なんて考えてたら、三人に盛大に驚かれてしまった。

 

「あら、久しぶりにハチマンのバトルが見られるのね。審判は私がやるわ」

 

 バカ言え。俺は最初から超真っ当な人間だろうが。こんな薄汚れた裏社会を見てきてもなお、普通に過ごしてるんだぞ。真っ当以外の何者でもないだろ。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「さて、誰で行こうかね」

「カイッ!」

 

 どんなバトルにするか決めてすらない。

 カワサキとは一度バトルをしているし、お互いの強さも把握しているつもりだ。だがあっちはバトルシャトーで鍛えまくってるし、こっちはまだ見せていないポケモンたちがいる。今回もどう転ぶか分からないな。

 

「お、ジュカイン。やるか?」

「カイカイ」

 

 そんな中で勝手にボールから出てきたジュカイン。

 ま、自分からやる気を見せてきたんだからジュカインで行くしかないでしょ。

 

「ふーん、ジュカインか。あんたのポケモンじゃ初めて見る顔だね。ならあたしはこの子でいこうかな。ハハコモリ!」

 

 ハハコモリか。

 相性で言えばこっちに勝ち目がないな。

 だがここはジュカイン。どうにかなるだろ。

 

「くさ対くさ……」

「いえ、ハハコモリの方にはむしタイプもあります。タイプ相性はハハコモリの方が有利です」

 

 ほう、ちゃんと復習してるようだな。関心関心。

 

「ルールはどうするのかしら?」

「好きに決めていいぞ」

「けーちゃんどうする?」

「ゴウカザル見たい!」

「うーん、じゃあ三対三くらいでどう?」

「いいぞ」

 

 無邪気な一声でルールが決まるとか、どんなバトルになるんだろうな。まあ、バトルをするのは俺たちだから何も変わらんけど。

 

「あんたのポケモンを全員出させられるように頑張るよ」

 

 そうだな、俺のポケモンを全員出せたらそりゃもうすごいことだな。

 

「それでは、バトル始め!」

「ハハコモリ、いとをはく!」

「マジカルリーフ」

 

 まずは吐き出された白い糸を葉で切り裂いていく。

 

「シザークロス」

「こっちもシザークロスだよ」

 

 今度はこっちから仕掛けると、同じ技で受け止めてきた。

 両者、ともに態勢を崩そうと力の出入を行う。

 

「しぜんのちから!」

 

 ハハコモリが足を地面に突き刺すと、地面がうなりを上げ出す。かと思うとジュカインの足元が盛り上がってくる。

 

「こうそういどうで躱せ」

「エレキネット!」

 

 今日はやけに糸を出してくるな。

 逃すまいと電気の通った糸がジュカインの頭上から降ってきやがった。間一髪で躱したものの、それだけではすまない。

 

「はっぱカッター!」

 

  その間にもハハコモリが無数の葉を飛ばしてきた。

 

「おいおい………」

 

 なのに、葉はジュカインを焦点に定めていない様子。狙ってきたかと思えば、通り過ぎていくのだ。変な緊張感だけが俺たちに押し寄せてくる。

 何を狙っているのか見守っていると、葉は電気の通った糸に絡みついた。あの葉って切れ味いいんじゃないのか?

 

「ハハコモリ!」

「なるほど、そうきたか」

 

 狙いは葉にエレキネットを付着させ、ドーム型に広げてジュカインの動きを封じること。イロハの部屋作りに似ているな。

 

「ジュカイン、メガシンカ」

 

 ま、でんきタイプの技だしね。特性ひらいしんをうまく利用しないと。

 

「早速来たね、メガシンカ。ジュカインもメガシンカできることには驚きだけど、止まったら終わりだよ」

 

 キーストーンとメガストーンの共鳴により姿を変えたジュカインは、頭上から降り注ぐエレキネットにつかまった。だが、糸はジュカインに吸収されていく。

 

「えっ?」

 

 カワサキでも理解が追い付いていないようだ。まあ、メガシンカについては研究中だしな。

 

「ドラゴンクロー」

 

 メガシンカとその前のこうそくいどうで素早さが格段に上がったジュカインは一瞬でハハコモリの背後を取った。そして、両腕に竜の気をまとい、詰めを作り出すと、大きく切り裂いた。

 

「くさむすび」

「躱して、シザークロス!」

 

 立て続けに命令を出すと、ようやく戻ってきたカワサキにより命令が出される。

 ハハコモリの足元から伸びてきた草を腕の葉で切り裂き、削ぎ落としていく。

 

「ジュカイン、白い刀をイメージしろ。お前のスピードを最大限に生かせるように細く、それでいて固くするんだ」

「ハハコモリ、何か来るよ。はっぱカッターで身を隠して!」

 

 身を隠しても無駄だ。こいつは密林の王。草木をかき分けて獲物を捕らえることに長けた生き物だ。

 

「ーーーつばめがえし」

 

 ほんの一瞬。

 それで勝負は決した。

 

「ハハコモリ、戦闘不能。相変わらずチートよね」

 

 初めて使う技でもすんなりと完成させ、一瞬でハハコモリの懐に飛び込んだジュカインが下から上からハハコモリを切り裂いた。

 効果抜群の技にハハコモリは何もできないでいた。というか攻撃を食らったことへの反応が一瞬なかったような気がする。

 それだけジュカインの動きが早かったというわけだ。

 

「くっ……、やっぱり強いね、あんたは」

「そりゃどうも。けど、強いのは俺じゃない。こいつらだ」

 

 俺は別にこいつらが上手く立ち回れるようにサポートをしているにしか過ぎない。

 

「そんな力を使いこなせる時点で、あんたの能力が高いってことでしょ」

「はーちゃん、つよーいっ!」

「ふっ、当然」

「あ、ナルだ」

「ナルね」

「ナルですね」

「お兄ちゃんがナルシストだったなんて………ちょっとその傾向あったからあんまり驚かないや」

「ひでぇ………」

 

 いいだろ、ちょっとはかっこよくありたいじゃん。ケイカも喜んでるんだからそれでいいじゃん。

 

「あんたも相変わらずだね」

「何を言う。少しは変わったぞ」

「そうだね。知らない間に名前で呼び合ってるもんね」

 

 なんかちょっと棘のある言い方だな。なんというか不機嫌なユイみたいな感じか。

 

「なんだ、嫉妬か?」

「ううううるさい! 次いくよ!」

 

 さすがさーちゃん、期待通りの反応をしてくれる。

 で、出してきたのはニドクイン。

 あれー、弱点ばっか突いてくるねー。まあ、そんなポケモンばかりいるから仕方ないけど。

 

「んじゃ、準備運動もできただろ? 好きに暴れていいぞ」

「カイッ!」

 

 いい具合に走り回ったからな。気合は十分そうだ。

 

「ニドクイン、すなあらし!」

「くっ、マジか………」

 

 うわぁぁぁ、目が、目がぁぁぁぁ!

 とザイモクザよろしく目を抑えてみる。まあ抑えないとマジで目に入ってくるから嫌な技だ。トレーナーにも被害が出る技とかやめていただきたい。

 

「ヘドロばくだん!」

「ジュカイン、スピードスター!」

 

 ジュカインは尻尾を振りまき、星型のエネルギー弾を撃ち飛ばした。ヘドロとぶつかると弾けて四散していく。

 

「タネばくだん!」

 

 そこにさらに爆弾を投入。

 

「く、ニドクイン、ストーンエッジ!」

 

 生み出された爆炎の中、地面から岩が這い上がってきた。

 

「躱して、タネマシンガン!」

 

 ま、ジュカインには効きませんけど。もっと絡め手を使わないとジュカインの動きは止められないぞ。

 

「なっ………」

「くさむすび」

 

 タネマシンガンによりニドクインの体から芽が出てきた。伸びるに伸びて身動きを封じていく。地面からも草が伸び、ニドクインを絡め取った。勢いがすごかったのか、砂嵐も収まってしまった。

 

「ハードプラント!」

「ニドクイン、じわれ!」

 

 だが、ニドクインは身をよじって強引に蔓をぶった切り、究極技を止めようと地割れを起こしてきた。普通に一撃必殺を使ってくるから怖いよね。イロハにしてみてれば、カワサキの位置付けがユキノよりも上に来てることだろう。

 太い根は地割れに呑まれて逆に足場となってしまう。

 そこに二ドクインがすかさず走りこんできた。

 

「つのドリル!」

「ギガドレイン!」

 

 恐らくこれが最後の攻防だろう。究極技の反動で動きが鈍くなっているジュカインには躱すこともできない。だったら、奪える体力を根こそぎ奪っておいてもいいだろう。さっき種も植えつけたことだし。

 それでも二ドクインの足が止まることはない。

 

「ニドクイン………」

「いや、こっちもだ」

 

 やるな、ニドクイン。最後の最後に角の先を当てやがった。というか一撃必殺の連撃ってマジか………。

 

「ニドクイン、ジュカイン、ともに戦闘不能!」

 

 ジュカインのメガシンカも解け、どさっとその場に倒れこんだ。

 一撃必殺にはどうしようもないからな。

 

「お疲れさん」

「よくやったよ、ニドクイン」

 

 お互いポケモンをボールに戻し、次のボールへと手をかける。

 ………次、誰で行こうか。

 

「コウガ」

「あ、今度はお前なのね」

 

 どうやら俺に選ぶ権利はないらしい。

 こいつら自分たちで出る順番とか決めてたりしねぇよな?

 うわっ、なんか考えたら有りえそうで怖いんだけど。

 

「ゲッコウガ………コロコロタイプが変わる奴だったね。ゴウカザル!」

 

 ゴウカザルとな?

 タイプの相性からは分が悪いと思うが。かくとうタイプで見ればそりゃ有利だけどさ。基本的にこいつら炎と水だぞ?

 

「で、今日の一発芸はあるのか?」

「コウガ」

「そうか、なら見せてみ」

「コウガ」

 

 ゲッコウガは軽く首を縦に振ると一気に駆け出した。

 

「ゴウカザル、マッハパンチ!」

 

 あっちも最初から飛ばしてきたか。ま、それだけゲッコウガを警戒してるということだろう。

 

「ゲッコウガ、グロウパンチ!」

 

 拳と拳がぶつかり合い、ギチギチと嫌な音が鳴る。

 

「みずしゅりけん!」

 

 空いた左手で水でできた手裏剣を作り出し、ゴウカザルの顔面めがけて投げた。

 

「躱しな!」

 

 咄嗟に身をよじり、ゴウカザルは手裏剣を躱す。それと同時にゲッコウガからも距離を取った。

 

「じしん!」

 

 拳を地面に叩きつけ、激しい振動を送りつけてくる。

 

「ゲッコウガ!」

 

 そろそろだろう。

 今日の一発芸を見せてもらおうじゃないか。

 

「コウ、ガ!!」

 

 水を波導で操り足場にすると、浮上し出した。

 そして、一拍手。

 水がゲッコウガを覆い、形を変え始める。腕が伸び、脚が伸びていく。頭にはゆらゆらと揺れる水が。

 

「まさか………ゴウカザル………」

 

 カワサキの言う通り。ゲッコウガは水で一回り大きいゴウカザルを作りあげ、身に纏っていた。

 

「コウ」

 

 着地したところにゴウカザルが走り込んでくる。

 

「ゴウカザル、かみなりパンチ!」

 

 なら、もう一つ。

 驚いてもらおうか。

 

「めざめるパワー」

「なっ?!炎!?」

 

 ゲッコウガの内なる力が放出し、炎へと変わった。

 炎はゴウカザルを覆い尽くし、動きを封じる。

 

「ゴウカザル!」

 

 すると一瞬にしてゲッコウガの背後に現れた。

 前に一度、この感覚を味わったことがあるぞ。しかも同じゴウカザルに。

 

「みがわりか」

「ストーンエッジ!」

 

 ゴウカザルは地面を叩きつけ、岩を突き上げてきた。

 めざめるパワーでほのおタイプになったと認識してるのだろう。

 ………カワサキにはアレを説明してなかったっけ?

 

「ゲッコウガ、ハイドロポンプ!」

 

 突き出る岩を一掃すべく水砲撃を撃ち放つ。

 

「インファイト!」

 

 だが、まさかの両手両足で水砲撃を攻撃し、四散させてしまった。

 うえぇー………。

 

「かみなりパンチ!」

 

 そのままゴウカザルが突っ込んでくる。

 さて、あの水のゴウカザルをどう使ったものか。

 

「ゲッコウガ、掴め!」

「コウガ!」

 

 ほう、さすがゲッコウガさん。器用に水を操り腕の部分でゴウカザルの拳を受け止めやがった。

 

「けたぐりで薙ぎ払え!」

 

 長い足を活かしてゴウカザルの両足を薙ぎ払い、バランスを崩させる。

 倒れるゴウカザルは踏ん張ろうをあたふたしているが、中々体勢が整わないみたいだ。

 

「ぶんまわす!」

「ゴウカザル、フレアドライブ!」

 

 未だゴウカザルの拳を掴んだ状態であるのをいいことに、目一杯振り回してやる。

 途中からゴウカザルが燃え始めたのでゲッコウガの方から吹き飛ばしたみたいだな。

 

「腕が蒸発したか」

 

 今ので水でできたゴウカザルの腕が蒸発し、なくなってしまった。腕のないゴウカザルって何か違和感を感じるな。

 

「ゲッコウガ、いつものだ!」

「コウガ!」

 

 今日の一発芸も観れたことだし、そろそろ締めにかかろう。

 ゲッコウガも気が済んだみたいで、本気を出してきた。水でできたゴウカザルが解け、ただの水となり、ゲッコウガを包み込む。

 

「な、何………?」

 

 うんうん、ちゃんと驚いてくれてるな。

 

「メガシンカ」

「はっ?!」

 

 水のベールに包まれたゲッコウガがみるみるうちに姿を変えていく。背中には八枚刃の手裏剣を担ぎ、青と赤と黒が特徴的な頭部にはどこぞの誰かさんのような濁ったような目が、体全体に至っては八枚刃の模様の手裏剣が至る所に施されている。

 

「………また、メガシンカ………なの? あんた、一体どんだけキーストーンを………」

「いや、これはメガシンカであってメガシンカではない」

「………意味分かんないんだけど」

「こいつは特別仕様でな。メガシンカの工程を特性として取り入れやがったんだよ」

「やっぱり意味分かんない………」

 

 ふむ、やはりこいつは規格外のポケモンってことなんだな。どうにも誰もすんなりとは受け入れられないらしい。

 

「ま、お前ならやばいってことくらいは分かるだろ」

「それは十二分に。ゴウカザル、こっちもいくよ!」

「ゴウガァァァアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 おいおい、ゴウカザルも炎のベールに包まれやがったぞ。

 あ、や、まあこれはあれなんだろうけど。このタイミングでやるとか紛らわしいっつの。

 

「……もうかですね。特性が発動するくらい、すでにダメージを受けていたってことですか」

「多分、インファイトの後にけたぐりを受けたからでしょうねー」

「あ、え、そ、そうなんだ………」

 

 ちょっとー、そこのユイさーん。あなたユキノにしこたま扱かれてるんじゃなかったのー?

 

「ゴウカザル、これで決めるよ。ほのおのパンチとブレイズキックでインファイト!!」

 

 はい?

 急に何を言いだしてんだ?

 まさかの合体技なのん?

 

「ゲッコウガ、こっちもいくぞ。みずしゅりけん!」

「コウ、ガァァァアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 背中の八枚刃の手裏剣を抜き取り、頭上に掲げる。するとくるくると回転し始め、熱を持ち出したのかオレンジ色に染まり始めた。回転しながら段々と巨大化もしている。

 その間にもゴウカザルは拳に炎を、足にも炎を纏い、突っ込んでくる。気づけばもう目の前だ。

 

「ゲッコウガ!」

 

 拳を振り上げたゴウカザルに巨大なみずしゅりけんを真上から突き落とした。

 爆発とともに両者の姿が見えなくなる。

 だが、所々で衝撃波が飛んできているので、ゴウカザルが暴れまくっているのだろう。

 

「って、おいおいマジかよ………」

 

 インファイト恐るべし。

 強大なみずしゅりけんを砕きやがった。

 

「ゴウカザル、きあいだま!」

 

 さすがだカワサキ。

 やはりお前を俺の部下にして良かったと思うわ。

 

「押し返せ、グロウパンチ!」

 

 拳をエネルギー弾に叩きつけ、勢いを武器に押し返した。

 

「マッハパンチ!」

 

 それを素早い身のこなしで躱すとゴウカザルがゲッコウガの懐へと飛び込んでくる。

 

「ゲッコウガ、ずっと命令したことなかったが、とうの昔にこれを使えてるんだろ?」

 

 あ、こいつ今鼻で笑いやがったな。

 

「あくのはどう」

 

 一度見た技を覚えてしまうこいつのことだ。俺と出会ってから何度も見てきているこの技くらい朝飯前だろう。

 ゲッコウガの体から発せられた黒い波導が爆発するように発せられ、衝撃を生む。ゴウカザルは目の前で衝撃波に呑まれて、後ろの木へと吹っ飛んで行った。

 

「ハイドロ………いや、追撃はなしだ」

 

 見ればゴウカザルはすでに意識を失っていた。

 これにはカワサキも固まってしまっている。反応すらできなかったようだ。

 

「ゴウカザル、戦闘不能」

「はっ、ご、ゴウカザル!」

「はあ、結局いつも通りね。ハチマンの勝ち」

 

 ゴウカザルに駆け寄るカワサキを見ながら、俺の勝利を宣言してきた。ただその声は呆れているような感じもする。

 

「なんか文句でもあるのか?」

「ないわよ。ただ、何気にカワサキさんが一撃必殺を使えていて、それでもあなたに勝てなかったっていうのだから、ため息しか出てこないわ」

「さいですか………」

 

 まあ、そう言われるとな。

 イロハたちん方も同じ反応をしているし。

 もう少し喜んでくれてもいいじゃね? って思わなくもないが。

 

「はーちゃん、すっごく強い!」

「ま、今日はこの声でよしとするか」

 

 今日の一番の褒め言葉はこれだからな。

 けーちゃんが喜んでくれたならそれでいいさ。

 



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6話

遅れて申し訳ないです。
しばらく日曜投稿にしようかと本気で思い始めてきました。
それくらい平日に考える余裕がなくてつらいです………。
もっと、面白い展開にしたいんですけどね。


「負けたよ。やっぱりあんたは強いね」

 

 ゴウカザルをボールに戻したカワサキが戻ってきて早々、そう口にした。

 

「ま、今日はけーちゃんが見てたからな。負けるお前の姿も見せるべきかと思って張り切っちまったわ」

「張り切らなくてもいいのに」

 

 ぶっすーと不貞腐れた顔がちょっとギャップがあって、面白い。

 

「で? 俺に聞きたいことがあるんだろ?」

「………分かってるでしょ」

 

 今度はそっぽを向いてきた。

 今日はやけに表情がコロコロ変わるな。

 

「………通称御三家と言われているポケモンについて、どこまで知ってる?」

「各地方に生息するポケモンの中でもくさ、ほのお、みずのタイプ相性が循環する組み合わせで、かつ初心者でも扱いやすいポケモン、よく最初のポケモンとして用意されていたりするポケモンでしょ」

 

 さすがだ。しっかりと勉強してきたことが身についているようだ。見た目が怖いだけに、マジで損してるよな。普通に秀才だぞ。

 

「ああ、そうだ。で、そいつらの特性は?」

「しんりょく、もうか、げきりゅう。滅多に見ないけど、もう一つの特性があったりするってことくらいじゃないの?」

「そうだな。しんりょく、もうか、げきりゅうの他にあるとすれば他は一つだけ。ならゲッコウガはどうだ?」

「なんかタイプがコロコロ変わる特性………、げきりゅうじゃないね。でも今日はタイプの変化が見られなかったような気がするんだけど?」

「こいつの特性はもうへんげんじざいじゃないからな」

 

 すげぇな。

 あのバトルでもうそこまで見極めてたのかよ。

 前は何戦かしてようやくへんげんじざいを見破ったってのに、今の一戦だけでゲッコウガの特性の違いを気づくとは。

 熱いようでいて冷静さを持ち合わせているようだ。

 

「はっ? ………えっ? ちょ、ちょっと待って! それじゃげきりゅうに…………いやでも、あれはげきりゅうの効果とはまったく違うし………まさか、そんなこと………」

 

 どうやら気づいたみたいだな。

 

「ゲッコウガにはさらにもう一つの特性があったんだよ」

「っ!? そ、そんな、マジ………?」

「マジだ、マジ。大マジだ。かつてあの姿になったゲッコウガがいたっていう記録も残ってるらしい」

 

 コンコンブル博士がゲッコウガのあの姿を見て、かつてあの姿になったゲッコウガがいた、なんて言ってたんだし、まああんな感じにフォルムが変わったんだろうな。

 本当に手裏剣が八枚刃だったかは怪しいけど。あいつのことだからハチマンに賭けてきててもおかしくはない。それくらいには芸を挟むような奴だ。

 

「でも、最初はそのへんげんじざいって特性だったんでしょ。そもそも特性が変わることなんて有り得るの? 進化の過程で変わったっていうなら分かるけど」

「ゲッコウガに進化しても最初はへんげんじざいだったぞ。ただ、周りのメガシンカに感化されたみたいで、特性で姿を変えられるようにしやがったんだ」

「………あんた、なんかしたでしょ?」

「そりゃ、もちろん。その片鱗を見せてきたからな。完成させる手助けはしたぞ」

 

 だからこそ、過去のゲッコウガとそのトレーナーがどういう風に特性を変えたのかが謎である。あるいは最初から『きずなへんげ』だったか。

 

「………で、その特性の名前は?」

「俺たちの間では『きずなへんげ』って呼んでる」

「『きずなへんげ』………、タイプが変わるへんげんじざい………メガシンカ………絆………。ねえ、片鱗って言ってたけど、どんな感じだったの?」

「視界・感覚の共有といったところか。俺も実際にバトルしてる気分が味わえた。あと、会話とまではいかないが意思の疎通はできるようになったな」

「なるほどね、だから絆なのか」

「今はもう視界も感覚も共有することはなくなったがな。ただ、あの姿の時は俺の頭の中に直接見たもの聞いたものを流せるらしい」

 

 ゲッコウガとしても便利性を感じていたのかもしれない。だから超能力まがいの力を残したってところだろう。

 

「………その顔は何か分かったみたいだな」

「まあね、仮説にしか過ぎないけど」

 

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべてくるカワサキ。正直怖い。

 

「へぇ、聞かせてくれよ」

 

 なんとか噛まずに対応できた。俺も成長したな。うんうん、マジで成長したわ。

 

「いいけど」

 

 いいけど何だよ。

 あ、こいつらか?

 集まってきたユキノたちのことを気にしてるのだろう。

 別に言っても構わんぞ。すでに話してあるし。理解できてるかは別として。

 その意を込めて手を仰ぎ、先を促せる。

 

「ん、まずゲッコウガはあんたの言う通り周りのメガシンカに影響されて、自分もメガシンカしたいと思った。だけど、メガストーンを持っていなかった。だから今あるものでメガシンカのプロセスを組み立てようとした。メガシンカは出会ったばかりのポケモンでは上手くいかない。ある程度信頼……この場合絆って言った方がしっくりくるね。絆が芽生えてなければできない代物だって聞いたことがある。それを踏まえるとあんたと視界なり感覚なりを共有することで、メガシンカのプロセスの足りない要素を補うことができたんじゃない? で、実際の進化のプロセスにはへんげんじざいのタイプが変わるという習性を使った。こんなところでしょ」

 

 おおう、まるっきり同じかよ。こいつも実はこっち側の人間なのかもな。あ、やべ、これだよ俺も含まれるような言い方になるからやめよう。

 

「………す、すごい……」

「まさか一発で先輩の仮説を言い当てるなんて………」

 

 まあ、驚くよな。俺も驚いてるもん。

 

「ただ二つだけ分からない」

「なんだ?」

 

 二つ。

 こんな複雑怪奇な話で疑問点が二つだけって。マジでこいつ研究者向きなんじゃ………。

 

「ゲッコウガという種族がなせる業だとしても、特性を書き換えるのに限界はなかったの?」

「おお、そんなところにまで気がついたのか。さすがだな」

 

 で、一つ目が特性の書き換えの限界か。

 普通、そんなところにまで理解が追いつかないと思うんだがなー。

 まさか、心当たりがあるとかそんなんじゃないだろうな………。

 

「で、どうなの?」

「答えはイエスだ。普通に考えて特性を書き換えるなんざ無理な話だ」

「でもゲッコウガの特性は変わった」

「企業秘密の薬を飲ませた。それだけだ」

 

 特性カプセル。

 まだ開発段階の代物。

 一般社会に普及される日が来るのだろうか。あまり来て欲しくはないな。

 

「…………あんたが裏の世界にいることはよく分かったよ」

「や、まあ一応ちゃんとした人が開発したものだから。闇取引とかから取ってきたものじゃない」

 

 闇商売とかしてないからね。俺はいたって健全だから。ちらほらと闇の人たちが周りにいるだけだから。アウトですね………。

 

「まあ、そこはあんただからってことでいいや」

「ひどい………」

 

 その納得のされ方をすると、それはそれで来るんだけど。

 

「もう一つ。最後のみずしゅりけん。あれはきずなへんげの効果なの? それだったら、もう一つ追加の仮説があるんだけど」

「どうなんだろうな。あの姿になったことで使えるのは間違いないが。そこにも一応仮説は立ててあるけど」

 

 おやおや?

 これはまさかのそっちのシステムも知ってたりする口ですか?

 

「Z技。アローラ地方に伝わるポケモンに全力の技を使わせるシステム。あんた知ってる?」

「………お前すごいな。ユキノでも理解が追いついてなかったってのに。まさかここまで言い当てられるとは」

 

 いやもうね。完敗だ完敗。今の話でここまで理解されちゃ、俺の立つ瀬がないわ。俺ですら何度かあの力を使って、博士に聞いて、カツラさんと仮説を立てて、覚醒して初めて納得がいったってのに。

 

「じゃあ」

「ああ、俺たちもそのZ技と関係があるんじゃないかって仮説を立てた。Z技については俺もよくは知らん。ただ、こっちも絆が関係してくるんだとか」

「なるほど、同じ絆が関係するシステムか。メガシンカを成り立たせる過程で、そっちにも手を出したってわけだね」

「あるいは偶然出来てしまったか、だが。何にせよ、技を強化してるのは間違いない」

「ふぅん。ほんと、不思議なやつだね、あんたってのは」

 

 不思議なのは俺ではなくゲッコウガの方だろ。

 くいくいと服を引っ張られたので見やると、けーちゃんが手を伸ばしてきた。俺も自然と体が動き、そのまま抱き上げる。

 

「あー、技を強化するで言えばあの時のアレもそうなのかもしれんな」

「なに急に」

「や、最終兵器のエネルギーを吸収する時にダークホールを巨大化させたなーと」

 

 あの時、黒いクリスタルをもらったしなー。あれのおかげでダークホールが強化されたんだし、Z技に近いものがあるように感じる。

 

「なんかいろいろと突っ込みどころ満載なんだけど。ダークホールって、あんたまさかダークライを」

「あ、知ってるんだ。お前、ユキノより物知りだったりするんじゃ………」

「あら、それはあまりにも酷い言われようね。否定できないから悔しいのだけれど」

 

 ユキペディアのプライドをもってしても、敵わないらしい。

 すげぇ悔しがってる。そんなに悔やむことでもないだろうに。

 知らないなら知らないでいいじゃないか。

 

「あたしは噂程度の話しか知らないよ。実証された研究データのことだったらユキノシタの方が知識あるでしょ」

「ああ、なるほど。確かにユキノは噂話に疎そうだもんな」

 

 うん、そう言われると色々と納得したわ。要はカワサキの情報源が噂であり、その信憑性を確かめているから自然と知識も増えていってるってところだな。ユキノの場合は研究結果から入るため、知識も偏ってくるってわけだ。

 

「ふん!」

「いでっ! おま、踵落としはないだろ。足の甲がめっちゃ痛い」

 

 カーンとユキノの踵が俺の足の甲に落ちてきた。しかも今日に限ってヒールを履くなよ。刺さってる。刺さってるから。

 

「はーちゃん、だいじょうぶ?」

「だ、大丈夫だ。いつものことだから」

 

 心配そうに俺の顔を覗き込んでくるけーちゃんの頭を撫でながら靴の中で足を動かし、避難場所を探す。だが、いかんせん上から押さえつけられているので言うことを聞かない。

 

「いつものことなんだ。一体何をやらかしてんだか」

 

 これもユキノなりのスキンシップなのだと思えば、可愛いもんだ。今までは散々な口撃だったからな。それだけ俺とユキノの距離も近くなった証だろう。

 

「おや、お揃いのようだね」

「ぷ、プラターヌ博士!」

 

 ユイの声につられて見ると青色のシャツを着た変態が現れた。両手には華、ではなく重そうなカバンがをぶら下げている。

 

「久しぶりだね」

「何しに来たんだよ」

「いやー、実は警察の方から事件で押収したメガストーンを押し付けられてしまってね。数が数なだけに一度君にどうするべきかを相談しようかと思ってね」

 

 どうやらあのカバンの中身はメガストーンがあるらしい。

 なんでこんなところに持ってきてるんだよ。言ってくれればそっちに行ったってのに。

 

「用済みになった証拠品を研究に使えってことなんじゃねぇの?」

「まあ、そうなんだろうけどね」

「言ってくれればそっちに行ったってのに」

 

 こんな研究し甲斐のありそうなもんを放置しておく方が勿体ないもんな。そのせいで研究が何十年も遅れるようなことになったら、非難を浴びるのは警察の方だし。

 

「ほんとかい? 君のことだから面倒だなんだ言い出すと思ってたよ」

「ばっかばか、メガストーンだぞ。しかも一個や二個じゃない。そんなもんを持って歩く方が面倒なことになりそうだわ」

 

 ひでぇ。

 俺をなんだと思ってるんだよ。

 しょうもないことでの呼び出しならまだしも、さすがにメガストーンとなれば、安全第一に考えるっての。

 

「心配性だなー。一応僕もバトルはできるんだよ」

「初心者のイロハに負けたしな。まあ、エックスには勝ってるか。つっても、あれはタイプ相性もあったし、エックスが本気を出していなかっただけだし」

 

 おそらく残ったカントー御三家のどちらかを使ってイロハたちとバトルしたんだろうけど、それでもイロハには負けてるんだからな。トレーナーとしての実力はそんなに高くないのだろう。

 あれ? ていうかイロハって、みずタイプのゼニガメまで倒したってことなのん?

 よくよく考えてみたら、こいつ最初からやばそうなトレーナーになる兆候が出てたんじゃ………。

 じっと見ていると「せーんぱいっ」と今にも言いだしそうなあざとい笑みを返してきた。なんだこいつ、かわいいじゃねぇか。

 

「見られてたのか………」

「たまたまだ」

「ま、僕の相棒はガブリアスなんだけどね。あ、そうそう、残ったフシギダネがフシギソウに進化したんだ」

「へー、育ててたのか」

 

 マジで意外。バトルは強くないって自分で豪語してたくせに。育ててたのかよ。そして、何気にエックスのあのリザードンがコマチの前に出された御三家の一体だったとは。

 

「まあね。フレア団事件で僕も出歩いてたから、ちょっとはね」

「それで、メガストーンを持ってきて、はい終わりってわけじゃないんだろ?」

「さすがハチマン君。察しが良くて助かるよ」

「で、誰のがあるんだ?」

「サーナイト、ガルーラ、ハッサム、ヘラクロス、ヘルガー、チャーレム、ボスゴドラ、ユキノオー、メタグロス、ハガネール、オニゴーリ、プテラ、そしてクチート。こんなところだよ」

「あいつら、どんだけかき集めてるんだよ」

 

 俺たちのところにあるメガストーンと比較してみると………、リザードンXにジュカイン、ボーマンダにデンリュウ、カメックスにバンギラス、そしてフシギバナとエルレイドか。半分ちょっとだな。ハヤマたちのを合わせると追加でリザードンYにギャラドス、ミミロップか。それでも追いつかないとか、フレア団のヤバさがよく分かるわ。

 

「プテくんの………」

「ん? ああ、そうか。化石研究所で盗まれたとか言ってたな。プテラはそのせいで外に出てコマチの元へ来たんだし」

 

 コマチを攫ってまでピンチを伝えたかったんだもんな。それくらいプテラにとってメガストーンは大事なものだったのだろう。そうならばやはり元の持ち主に返すのが一番なのだが………。

 

「そうなのかい? だったら、コマチちゃんにはプテラナイトを渡しておいた方がいいのかもね」

「いいんですか?!」

 

 カバンを開いて、一つのメガストーンをコマチに手渡した。

 

「持ち主に返すのが一番だろう? それに実際に使ってくれた方がデータが集まってこちらとしてもありがたいんだよね」

「そ、それなら、お言葉に甘えて………」

「………メガストーンがあってもキーストーンがなければメガシンカできないだろうに。そこら辺のことはちゃんと準備してるんだろうな?」

 

 キーストーンがないとメガシンカできないからね?

 メガストーンだけあっても意味ないんだぞ?

 

「大丈夫だよ、お兄ちゃん。コマチはもうキーストーン持ってるから」

「はっ? お兄ちゃん聞いてないぞ?」

 

 いつの間に?

 そういうことはお兄ちゃんにちゃんと報告しなさいよ。や、まあ言いたくなかったってならいいけどよ。そんな縛りつけるような真似はしたくないし。お兄ちゃん泣くけど。

 

「あれー? 言ってなかったっけ? でもお兄ちゃんの前でもらったしなー」

「三人がミアレを出る日に、姉さんがあなたに見えないように渡してたわ」

「あの人、地味な嫌がらせをしてくるな………」

 

 あの、なんかコマチに渡してるような気がしたあの時だな。

 くそ、地味な嫌がらせをしやがって。帰ってきたらお仕置きだ確定だな。

 

「大方、コマチさんがあなたとバトルをした時にでも驚かそうなんて考えてたのでしょうね。我が姉ながら幼稚よね」

「ってことは何か? カメックスナイトでももらったのか?」

「何でそこは知ってるの………」

 

 けーちゃんが動き出し、さーちゃんを呼んだ。

 手を差し出してくると、さーちゃんの方へと乗り移っていく。

 うわー、結構体重あるんだな。抱っこしてる時は軽いなーと思っていたが、いざなくなると重さが急に抜けて、バランスが崩れそうだ。

 

「俺がキーストーンをもらった時にそこの危機管理のなってない男が言ってたからな。カントーの御三家にはメガシンカがあり、メガストーンが研究所にあるって」

「言ったねー、そんなことも。まあ、ハチマン君のはメガストーンが元々君のだったんだけどね? キーストーンもメガシンカおやじに託されたものだったし」

「変なカマかけやがって。普通に言えばいいだろうに」

「言ったところで混乱されても困るじゃないか。君なら心配ないだろうけど、僕は君がメガシンカについてどこまで知っているかなんて知らなかったからね。下手に扱われても困るのさ」

 

 こら、急にそんな真面目な顔になるなよ。調子狂うじゃねぇか。

 こう言われてしまうとどうしても俺よりも大人で、ポケモン博士なのだと感じてしまう。嫌だー、なんか気持ち悪い。

 

「もういいけどよ。それよりヘルガーもあるんだな」

「ん? なんだい? まさか君がヘルガーを連れてるとか言わないよね?」

「そのまさかだけど?」

「いつの間に捕まえたんだい?」

 

 眉がピクピクしてる。なんて器用なんだ。

 それとも無意識なのか? 変な能力持ってんな。

 

「えっと………四年位前になるのか?」

「そうね、あなたがシャドーにいたのはそれくらいになるわね」

 

 そうか、もうそんなに経つのか。記憶がなくなってるから時間の感覚がさっぱり分からん。取り敢えず、当時の年齢だけで割り出したが、やっぱりこういう時に記憶がないと不便を感じてしまう。

 

「シャドー?」

「まあ、そこはいいとして」

 

 シャドーん話なんかし出したら、俺の黒歴史が再更新されそうだ。それだけは何としてでも避けたい。

 

「何ならジュカインもいますしねー」

「………君ってポケモンを捕まえる方だったっけ?」

「いや? 全部、懐かれただけだぞ?」

「やっぱり、ハチマン君を研究する方がこの先いいような気がしてきたよ」

「人を実験動物にするなよ」

 

 俺はポケモンかよ。どんな珍種だよ。まあ、人間の中でもこんな目は珍種だけどよ。

 

「リザードンはヒトカゲの時にお兄ちゃんが手当てして、オーキド研究所で預かってもらったのに、結局もらってきてますねー」

「あの黒いポケモンもスクール卒業する時にはいたし………」

「ヘルガーはシャドーの方で渡されたダークポケモンだったのよね?」

 

 なんかそれぞれが俺のポケモンのことを語りだしたんだけど。

 

「「「「…………ジュカインは?」」」」

 

 で、行き着くのはそこになるわけだ。

 誰も知らないのかよ。ユキノあたりなら知ってると思ってたんだがな。

 

「………えっと? ホウエン地方のトウカの森出身の小生意気なキモリとしばらく同行………だってよ」

「結局捕まえてはないんだ………」

「ああ、あの時の」

 

 なんだよ、知ってんのかよ。こいつ、どんだけ俺を追いかけてたのん? ストーカーに近いものあるよね?

 俺やだよ? ヤンデレとか萌えないからね?

 

「うーん………ああっ、いるな、ボール投げて捕まえた奴」

「「「えっ?」」」

「……まさかエンテイ、なんて言わないでしょうね」

「…………」

 

 首がぐいんと勝手に回った。

 あっれー、すぐにバレちゃったぞ?

 

「えっ? まさかの初ゲットがエンテイ?!」

「あ、っと、その、実はスイクンも、一緒に………」

「そういえばダークオーラから解き放ってたわね………」

「「「はぁぁあああっ!?」」」

 

 まあ、そうだよな。エンテイだけならまだしもスイクンとまで関わりがあるとか絶対に思わないもんな。

 

「はーちゃん、エンテイってだーれ?」

「……出てこい、エンテイ」

 

 初めて聞くポケモンの名前に興味深々なけーちゃん。興味を持ったのならその時点で見せておくのがいいだろう。

 

「うわーっ」

 

 出てきたエンテイに感嘆の意を荒げる。カワサキに近づくように促してエンテイに手を伸ばすが、若干カワサキが冷や汗をかいている。子どもの興味は怖いもん知らずだな。相手は伝説のポケモンだというのに。

 

「ねえ、ヒッキー。ボスゴドラは?」

「ん? あいつはあれだ。洞窟の案内を頼んで、しばらくついてきてただけだ」

「…………やっぱり君は規格外のトレーナーだね」

 

 いや待て。ポケモンレンジャーなるものがこの世にはいるだろうが。あいつらは野生のポケモンたちの力を借りてミッションをクリアしていくんだぞ? そう考えると俺はそれに倣ってポケモンの協力を得たと考える方が自然だろうが。それに………。

 

「いやいや、今ホウエンには初めてのポケモンがスイクンって奴がいるんだ。それに比べたらよくてイーブンだろ」

「………それって、先輩よりも下ですよね?」

「下? ……あー、歳か? この前特例でスクールを卒業した新米トレーナーだぞ」

「なんかもう一人ヒッキーが増えた!?」

「ばっかばか、あいつのおかげでルギアを何とか正常に戻せたようなもんなんだぞ」

 

 虹色の羽がなかったら、今頃ルギアをスナッチだけして考えあぐねているだろう。

 マジでルミがいなかったらどうしようもなかったような気がする。ジョウトかオーレに行くこともあったかもしれないし。

 

「具体的に、何をしたのかしら? ホウエン地方にいるのよね?」

「まずジュカインがこっちに来ただろ。んで、虹色の羽を取ってきてくれた。その流れでエンテイとヘルガーが戻ってきたって感じだな」

「ほぼ増えたポケモンばっかだ………」

「………あの、その子の名前は?」

「ツルミルミ」

「「「「……………」」」」

 

 あ、なんか固まった。

 

「………どんな子なの? あたしは実際に会ってないよね? それにハヤマと敵対してた時にもあたしはいなかったから、どんな状況だったか報告見ただけだし。結局何があったの?」

「どんな子………見た目スクールのユキノ、中身スクールの俺」

「うわ………」

 

 ドン引きしてやるなよ。かわいそうだろうが。

 

「ちなみにメガシンカしたリザードンと戦って一撃必殺で相打ち」

「一撃必殺………」

「………え? あれ? 一撃必殺って、一撃必殺ですよね?」

「そうだけど。スイクンにぜったいれいどを使わせてたわ」

「………………負けた………」

「や、あれはスイクンだからだろ。他のポケモンで使えるかは知らんぞ」

 

 あーあー、魂が抜け出してるぞ。

 帰ってこーい、いろはすー。

 

「………あんたからしてみれば、楽しみなんだろうね」

「はっ? どういうことだよ」

「初めてでしょ。自分と同じような人間に出会うの」

「……………」

「あれ? ちがった?」

「い、いや、その、なんというか、よく分かったなーと」

「ば、バカ! べべべ別に特に深い意味はないからね! あんたの武勇伝を聞いてたら、そうなのかと思っただけだから!」

「さーちゃん、お顔まっかー」

「けけけけーちゃん?!」

 

 おう、いつの間にエンテイの背中に乗ってるのん?

 ほんとこの子の将来が怖いんだけど。トレーナーになったらどうなるんだよ。ルミよりもすごそうなのは間違いない。

 

「と、取り敢えず、そういうことならヘルガナイトとボスゴドラナイトを渡しておくよ」

「ボスゴドラは今はもう群れに帰ったし、いないぞ」

「ポケモンリーグやるんじゃないのかい?」

「やるけど………」

「ボスゴドラを呼び戻す可能性だってあるんじゃないかい?」

「無きにしも非ずだろうが………、今絶対これでメガストーンが手元からなくなって万々歳、研究のデータも取れて万々歳とか思ってるだろ」

「な、なんのことだい?」

「やっぱりか………」

 

 目が泳ぎまくってんぞ、こら。

 嘘つくにしてももっと上手くなれよ。下手すぎるだろ。

 

「さすがにこれだけあると身の危険を感じちゃうからね」

「だったら、最初からそう言えよ。いつもの強引さはどこへ行ったんだよ」

「いやー、フレア団事件で痛い思いをしたからねー」

「さいですか………」

 

 はあ、面倒な人だ。どうしてこう、俺の周りにはこんなのばっか集まるんだろうか。誰か引き寄せてるのかね。

 

「あ、それと僕も質問だけど、ジュカインもメガシンカできるのかい?」

「知らないのかよ。確かにザイモクザ経由でもらったリストにはホウエン御三家の名前がなかったが」

 

 リストにはなかった。つまりは博士が知らないということなんだろう。

 

「ホウエン、というとオダマキ博士か。よし、後で聞いてみよう」

「まあ、全員できると思うぞ。ラグラージもメガシンカできるようだし」

「確かにそうだね。ジュカイン、ラグラージがメガシンカできるとなるとバシャーモもできるだろうね」

「………確かに、そこも考えるとゲッコウガは特に異質だね」

「な? 俺もな、不図思うんだわ。どうしてゲッコウガだけなのか。マフォクシーとかには何もないのかってな」

 

 次の課題はそこになるだろうなー。

 マフォクシーを連れているイロハとブリガロンの進化前を連れているユイのデータが鍵となってくるだろう。まずあんな現象が起きるかどうかから調べないとな。

 

「ん? ゲッコウガがどうかしたのかい?」

「あれ? あんたには話してなかったっけ?」

「何をだい?」

「ゲッコウガのメガシンカについて」

「はっ? メガシンカ?! ゲッコウガに?!」

「そうそう」

 

 分かったからそんなに顔を近づけないで。

 どこかしらからか愚腐腐と聞こえてきそうだ。

 

「き、聞いたことがないね………。あ、でも以前コンコンブルさんが何か………」

 

 仕方がないのでこの後、博士にもゲッコウガの現象について説明してやった。

 きずなへんげについてはすごい興味を示してきて気持ち悪かった。ドン引き生であったな。

 



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7話

後書きにてお知らせがあります。


「なるほどねー。ゲッコウガにはそんな力があったのか」

 

 よかった。まずはゲッコウガの現象について理解してくれたようだ。

 

「君たちはゲッコウガについてどう思ったんだい? 近くにいた君たちの意見も聞きたいな」

「あ、あたしたち、ですか………?」

「うん、僕はハチマン君とゲッコウガがどんな経験をしてきたのか見てないからね」

「って言われても……」

「コマチたちの知らないところでゲッコウガがパワーアップしてましたし」

 

 だよなー。

 肝心な時って俺たちしかないかなったし。

 

「………フレア団、でしょうね。私たちがフレア団に初めて襲われた時、ケロマツはゲッコウガに進化していました」

 

 まあ、ユキノは導き出せるか。

 

「ケロマツがゲッコウガに? ゲコガシラじゃなくて?」

「二段階進化だ。そもそもケロマツはあんたからもらう時点で進化を拒み続けていたんだぞ? すでに進化のエネルギーはあったんだ。けど、フレア団に囲まれた時にはさすがのケロマツにも限界がきた。だから進化した」

「で、でもそれじゃどうしてゲッコウガに………」

 

 愚問だな。

 進化を拒み続けていたケロマツだぞ。

 

「………あなたとの旅は刺激がたくさんあった。バトルもより強いポケモンを相手にすることができた。だから進化のエネルギーをさらに蓄えることができていた」

「……そういうことだろうな。俺もゲッコウガじゃないから実際のところは分からん」

 

 それにユキノやカワサキという強いトレーナーと戦うことができた。それを経験した上でのフレア団に襲撃されたんだ。進化のエネルギーを蓄えることくらい容易なことである。

 

「そうだとしても、やはりあのケロマツがあっさり進化を受け入れるとは思えないな………。ハチマン君、進化の時に何かしたかい?」

 

 進化に?

 何かしたっけ………。

 メガシンカもどきは秘薬を与えたが、進化に何かした記憶はない。記憶がなくなってるってわけでもないし。

 

「………うーん………、あー、ここがお前の限界なんじゃねぇのってことは言ったな。あとは別に姿が変わっても俺はお前のトレーナーだとか言ったような気はするが。そんくらいだな」

 

 進化しても扱えるのか心配してやがったしな。案外、最初のトレーナーがトラウマだったのかもしれない。

 

「………これ、だろうね」

「これですね」

「たはは、やっぱりヒッキーはヒッキーだ」

「先輩、口説いてるんですか? ごめんなさい私BLに需要を感じる派ではないのでこればっかりは受け入れられないです、ごめんなさい」

「や、俺もねぇよ。そんな需要」

 

 BLとか誰得だよ。しかも人間とポケモンって。種族からして違うぞ。

 あ、一人腐った人がいたな。けど、あの人にも需要はあるのか?

 

「はぁ………、これだからごみぃちゃんは。自覚が足りなさすぎるよ」

「な、なんだよ………」

 

 自覚って何を自覚するんだよ。

 そして、なぜみんなしてため息を吐く。

 

「あなたの一言でゲッコウガは進化を受け入れたのよ」

「や、まあそうだろうけどよ」

 

 それはまあ、そうだな。

 そこを気にしてたみたいなんだし。

 

「そうじゃないわ。あなたが言っているのはゲッコウガになる進化。私たちが言っているのはメガシンカも含めてよ」

 

 はっ?

 

「………はっ? えっと、ちょっと待てよ? そうなると俺がどんな姿でも受け入れるなんて言ったから、あの姿にもなれたってのか?」

 

 まさかのそこにもなのか?

 まあ姿が変わるってとこは同じだし、考えられなくもないが。だからって、なー。

 

「きっかけ、と言う意味ではね。あなたの言葉がなければゲッコウガは姿を変えることでさらなる高みを目指せるなんて発想にも行き着かなかったでしょうから」

「おいおい、マジか………」

「メガシンカに必要な確かな絆。きっとそこで強固な絆になったんだろうね」

 

 絆、か。

 俺の一言でゲッコウガも俺に歩み寄ってきたってことか。元々自分から俺を選んできたようなポケモンだ。俺が背中を後押ししてやれば、それだけで何でもできてしまうのかもしれない。………というかすでにあのバトルの度にやる一発芸とか、俺が受け入れてるからという可能性もある。

 ったく、どんだけ俺のこと好きなんだよ。逆に恥ずかしいわ。

 

「視界と感覚の共有も君と共に在りたいと思った証かもしれないよ」

 

 視界と感覚の共有………。

 

 ーーードクン!

 

「ぐ、あ………!」

「は、ハチマン?!」

「お兄ちゃん?!」

「ヒッキー!?」

「先輩!?」

「ヒキガヤ!?」

 

 ぐ、あ………。

 なん、で、このタイミングで…………。

 

「………っ、はあ、はあ………」

 

 はあ………はあ……っ!

 

「だ、大丈夫かい!」

「あ、ああ………すまん………」

 

 くそっ、めちゃくちゃ頭が痛ぇ。

 なんだよ、これ。かち割れそうなんだけど。

 

「……ライ」

「ダークライ……」

 

 この野郎。

 なんで今回は今なんだよ。

 いつもは寝てる時なのに。

 おかげで頭がパンクして、オーバーヒート起こしてんぞ。

 

「この、タイ、ミング、で、記憶を、戻、すな………。起きてる、時に、戻されると………んくっ、情報処理、が、追いつかなくて………はあ……はあ……、頭がパンクして、かち割れそう、なんだっつの」

 

 頭が痛すぎて立っているのも怠くなってきた。

 取り敢えず、本能に身を任せて、楽な体勢を取る。まあ、地面に横たわるだけなんですけどね。

 

「……消えた」

「逃げたのかな………」

「それよりも。あなた、記憶が戻ったの?」

「…………チャンピオン、だった、ハルノさん、とのバトル、とその前後だけ、だけどな」

「そう、少しずつでも記憶が戻るってことが分かっただけでも一安心だわ」

「ダークライが記憶を戻す時は奴の気分次第だからな。あるいはその時の状況に合わせてってことも有り得るが」

「あ、じゃあ、あの時のリザードンのやつも何か分かります? メガシンカっぽいやつ」

 

 メガシンカ。

 おそらく言いたいのはハルノさんとのバトルの最後で見せたあの姿のことだろう。

 なんてことはない。あれは単なる未完成のメガシンカだ。

 

「いつの話なんだい?」

「五年くらい前だっけ?」

「ということは僕とハチマン君が出会った後くらいになるのかな?」

 

 多分そうなんじゃねぇの?

 あんたとの記憶なんて、こっちに来てからのしかないし、俺に聞かれても困るんですけど。

 

「あれ? でもキーストーンはイロハさんに渡してて持ってないんじゃ………」

「ですです。私、先輩の卒業試験の時にもらってますよ」

「となると、まさかもう一つ手に入れた?」

「………ハチマンだから有り得なくもないわ」

「たはは、ヒッキーだもんね。ちょっとやそっとの有り得ないことは普通に有り得そうだよ」

 

 確かに、キーストーンはない。

 メガストーンの方はあのバトルが終わった後に、コンコンブル博士と話して、去り際に落とした。それは間違いない事実だ。だが、キーストーンは持っていないのだ。それっぽいものをあの時点では持っていない。おそらく過去に手にしたのはイロハが持っているキーストーンのみ。

 ただ、一つだけ。考えられることはある。

 

「………俺の腹」

「ッ?! ま、まさかその頃に何か拾い食いを」

「んなわけねぇだろ。……くっ」

「きゅ、急に動いちゃダメだよ!」

 

 少し頭痛も治まってきたので、いい加減痛くなってきた背中を解放させるために、重い体をゆっくりと起こした。

 そこに背中を支えるようにユイの手が割り込んでくる。

 なんか介護されてる気分だわ………。

 

「はーちゃん、だいじょーぶ?」

「あ、ああ、大丈夫だ」

 

 ケイカが心配そうに俺の顔を覗き込んできたので、優しく頭を撫でてやる。すると気持ちいいのか、だらしない顔になっていく。

 

「あの頃の俺にメガシンカの概念はない。だから意図せず使ったことになる。しかも俺の腹にはキーストーンと同じような波長を出す何かがあるんだろ? いつからそんなものがあるのかは知らないが、あの時点ですでに腹の中にあったっておかしくないんじゃねぇの?」

 

 実際、メガシンカさせられるだけの効力があるみたいだしな。キーストーンを飲み込んだと考えてもおかしくはない。

 しかし、石だぞ? 誰が好き好んで口に入れるんだよ。

 

「それは、そうかもしれないけれど」

「ついでに言えば、あの時俺の視界はリザードンのものになっていた。感覚的にもゲッコウガの時と似ている」

「ゲッコウガと同じ現象っ?!」

「つまり、メガシンカの未完成形、そう言いたいのね?」

「ああ、メガシンカにはそれなりの覚悟が必要だ。なら、あの時の俺には、俺たちにはメガシンカの概念すらなかったのだから、覚悟も何もあったもんじゃない。だから完成形には至れなかった」

 

 これまでメガシンカを使ってきて分かってきたことがある。メガシンカを正しく理解していなければ使うことはできない。なら校長は? となるが、あの人の場合、メガシンカという概念がなかっただけで、二つの石を用いた強化という認識は持っていた。だから、使えたのだろう。

 そして、俺はというと何が起きているのかさえ、理解できていなかった。というかもうかが異常に発動したとしか認識していない。だから完成形に至ることはできなかったのだ。暴走させなかっただけマシとしておこう。まあ、ある意味暴走状態だった気もしなくはないが。

 

「………ま、話を聞く限りではそうかもね。それよりもあんたの身体の方が不思議すぎて聞きたいことばかりだけど」

「こればっかりは俺にもさっぱりだ。一体俺の旅では何があったんだろうな」

「ま、まあ、取り敢えず。ハチマン君の凄さは分かったよ。ゲッコウガとリザードン、二体の現象についてはもっと調べてみる必要がありそうだね」

「メガシンカって奥が深いですね」

「なあ、カワサキ。そういや、お前はなんでZ技について知ってたんだ?」

「これ」

 

 唐突に聞いてみるとカワサキはズボンのポケットから何かを取り出した。

 見せられたのは…………ナニコレ。台座?

 

「Zリング。んで、真ん中に嵌ってるのがZクリスタル。あたしが持ってるのはひこうタイプの技をパワーアップさせるZクリスタルね」

「ん? ………ちょっと見せてもらってもいいか?」

「はい」

 

 ……………。

 この台座に嵌め込まれたクリスタル。菱形だ。

 そして色。空色である。

 色は違えど、俺はこの菱形のものを知っている。

 ダークライからもらった黒いクリスタルだ。あれも菱形であり、ダークホールを強化した。形、効果共にZ技の概念に当てはまりそうである。

 

「いや、何でもない。それより、どうして俺とのバトルじゃ使わなかったんだ? 前回バトルした時といい、本気を出してなかったのか?」

「………たくないから」

「は?」

「だから使いたくないの! あんな、あんな変な踊り………ああ、思い出しただけで恥ずかしい………」

 

 なんかカワサキが急に顔を赤くして踞りやがったんだけど。一体何があるというんだ、Z技ってのは。

 

「おい、ポケモン博士。Z技ってのは結局何なんだ?」

「よくぞ、聞いてくれた。Z技というのはアローラ「そこは聞いた」………まあ、ポケモンの技をパワーアップさせるものなんだけどね。その際にトレーナーとポケモンが同じポーズをすることで、ポケモンに未知なる力が溜め込まれるとされているんだ」

「同じポーズ? 必要あるのか?」

「詳しいことは僕も知らないよ。なんせ、僕はメガシンカについての研究者だからね。技に関してはノーマークだ」

 

 同じポーズね。

 同じ動きということで言えば、ゲッコウガと視界を共有している時の俺の動きもゲッコウガと似ていたらしい。無理矢理こじつけるとすれば、ここだろうな。

 

「………それがポケモンとトレーナーの絆の現れってことか」

「恐らくはね。カツラさんもどこまで知っていて君に話したのかは分からないけど、少なくとも技の強化、同じポースを取るということは理解しているんじゃないかな」

 

 同じポーズを絆とすれば、ゲッコウガのあの現象も説明がつく。

 となると、実際に見てみたいものだ。

 

「カワサキ、そのZ技ってのを俺に見せてくれないか?」

「………やだ」

「………けーちゃん、ゴーストとカゲボウズともう一体を呼んでくれないか?」

「うん! 分かった!」

 

 仕方がないので、けーちゃんと遊ぶことにしよう。となればゴーストたちも一緒の方がけーちゃんも楽しかろう。快く引く受けてくれたし。

 

「ちょっ!? まっ!? ああああんた! いいいいきなりななな何言いだしてんの!?」

「なんだ? お前に断られたんだし、することないからけーちゃんたちと遊ぼうと思ったんだが」

 

 んー? あれー? なんかさーちゃんが顔をさらに真っ赤にさせて叫んでるぞ?

 

「分かった! 分かったから! Z技見せるから!」

「いいのか? 悪いな」

「くっ、この鬼畜………」

 

 なんのことだろうなー。

 

「出たわ、人の弱みに付け込む汚い手法」

「自称ぼっちのくせにどこであんなテクニック覚えてくるんでしょうね」

 

 知ーらない。

 

「ま、というわけだ。けーちゃん、ちょっと遊ぶのはお預けな」

「はーいっ!」

 

 よしよし。

 かわええのう、実にかわええのう。

 つい、頭を撫でてしまうではないか。

 幼女って恐ろしい何かを秘めてるよね。

 

「ゲッコウガもジュカインもバトルしたことだし……、ああ、ヘルガーのメガシンカを試してみるか」

 

 折角メガストーンをもらったんだしな。試してみないと。

 ボールからヘルガーを出すと飛びかかってきた。

 お前、そんな懐っこい性格だったっけ? もっとキリッとしたクールな感じじゃなかった?

 

「オニドリル、あの鬼畜をぶっ倒すよ」

 

 わぁ、激おこだー。

 目が怖い。

 ギロリと睨んでくる。イロハなんか怯え始めてるぞ。

 

「サキー、目が怖いよ………」

「ああっ?!」

「ひっ!?」

 

 あちゃー、アホの子がツッコンじゃったよ。おかげで火に油を注いだ状態である。俺も煽りすぎたな。

 

「Z技〜、Z技〜。いやー、君達といるとほんといろんなものが観れて楽しいよ」

 

 うぜぇ。

 基本的にうざったい性格してるのに、さらに機嫌がいいと歌い出すとか超うざいんですけどー。

 誰かアレをなんとかしてくれ………。

 

「ヘルガー、かえんほうしゃ」

 

 全員俺たちから離れたのを確認して、バトルを始めた。

 

「オニドリル、ドリルくちばし!」

 

 炎を吐き出し、高速回転しながら突っ込んでくるオニドリルに応酬するが、あの嘴の回転は炎をかき分けることができるようだ。小手先が器用というか、上手く技を使いこなしている。

 

「ほのおのキバ」

 

 仕方がないので、炎を纏った大きな牙でオニドリルを受け止めた。

 

「ねっぷう!」

 

 回転が止まる前に、翼から熱風を送り込んでくる。

 ま、無駄なんですけどね。ヘルガーの特性はもらいび。炎はこいつの食料だ。

 

「効いてない………」

「アイアンテール」

 

 オニドリルの回転が止まったところで、ジャンプしながら回り込んで、右翼を狙って鋼の尻尾を叩きつけた。

 オニドリルはバランスを崩すも崩れることはなく、ヘルガーから距離をとった。

 

「オニドリル、ゴッドバード!」

 

 旋回している間に大技の力を貯めていく戦法か。こっちが空を飛べないのをいいことに使ってきたのだろう。

 だったらこっちもその時間を有効に使わせてもらおうか。

 

「ヘルガー」

 

 博士からもらったメガストーン、ヘルガナイトをヘルガーに放り投げた。ヘルガーは口で受け取るとしっかりと咥え込む。

 

「メガシンカ」

 

 ポケットから取り出したキーストーンとヘルガナイトが共鳴し出し、光と光が結びついていく。

 光はヘルガーを覆い、姿を変えていく。

 

「今だよ、オニドリル!」

 

 旋回してきたオニドリルが焦点をヘルガーに定めて再び突っ込んでくる。

 だが、こっちも成功したようだ。

 黒い身体には一際目立つ骨のような白い角がより強さを象徴しているかのように見える。

 

「れんごく」

 

 口から炎を吐き出し、オニドリルを焼いていく。焼き鳥の完成である。

 だが、それはゴッドバードのパワーには弾かれてしまったらしく、黒煙の中をくぐり抜けてきた。

 

「チッ、躱せ!」

 

 やっぱ、無理か。

 急所には入らなかったが、痛いダメージである。

 

「オニドリル、今度は全力でいくよ!」

 

 カワサキがそう言うと、ヘルガーを突き飛ばしたオニドリルが再び旋回を始め、カワサキの元へと戻り始めた。

 

「ヘルガー、戦闘モードだ」

「ルガッ!」

 

 黒い波導を身に纏い、戦闘態勢に入った。目の色が変わり、一瞬で周りの空気を凍てつかせる。

 

「ぶほっ!」

 

 なんじゃい、あれは。

 なんかカワサキが両手を広げて羽ばたくような仕草でしゃがみ込むとオニドリルも同じように地面に降り立ったんだけど。

 そして左腕を天に掲げるように突き上げると、オニドリルも左翼を掲げ、上空へと一気に飛び上がった。

 

「ファイナルダイブクラッシュ!!」

 

 ぶほっ!

 技のネーミングもザイモクザかよ。

 マジか。これは確かにカワサキが使おうとするはずがない。あんな恥ずかしがり屋が人前でこんなこと好き好んでできるわけがないよな。

 

「ヘルガー、あくのはどう!」

 

 あっ………。

 上空から落ちてきたオニドリルの勢いにかき消されちまった。

 やべぇ、あんな恥ずかしい技だけど威力が半端ない。

 並みの技じゃ押し返せないということか。技のパワーアップというのは、そのままの意で捉えていいみたいだな。

 

「ヘルガー!」

 

 呆気に取られたヘルガーも身動きを取れず、そのままのしかかられてしまった。これはヘルガーの負けだな。

 衝撃で煙が上がり、二体の姿が見えないが、ドサッと一つ地面に倒れる音がした。

 

「えっ?」

 

 だが煙が晴れると倒れていたのはオニドリルとメガシンカの解けたヘルガーだった。

 まさかのダブルノックアウト。

 一体何を………、みちづれか?

 こいつ、みちづれ覚えやがったのか?

 

「オニドリル!?」

「うぇっ? まさかのオニドリルも戦闘不能ですか?!」

「お兄ちゃん、一体何を命令してたの………」

「……ヘルガーで相打ち……、恐らくはみちづれでしょうね。でもあの様子じゃ覚えたてじゃないかしら」

「それって、ヒッキーは命令してないってことだよね」

「ええ、強力な技がヘルガーの成長に繋がったということね。全く、絶対何かしらの収穫してくるものだから、侮れない男よね」

 

 ユキノの見解もみちづれということなので、恐らくはみちづれを覚えたということなのだろう。

 また変な手数が増えちまったな。使う機会とかくるのか?

 

「何これ………、恥ずかしい思いして、結局相打ちって………」

 

 あーあー、さーちゃんの魂が抜け始めたぞ。

 

「ヘルガー、お疲れさん」

 

 ヘルガーをボールに戻すと、魂の抜けた抜け殻の元へと歩み寄った。握られたボールにオニドリルを戻してやり、カワサキの肩を揺さぶってみる。

 起きない。

 相当のショックだったようだ。

 よし、仕方ないので、奥の手を使うとしよう。

 

「けーちゃん、ちょっとおいで」

「なーにー?」

 

 ててて、と駆けつけてくれるけーちゃん。

 いやー、癒される。欲しいくらいだわ。

 

「さーちゃんに抱きついてみ」

「ん? うん、さーちゃん! すきー!」

 

 ぎゅうーっとけーちゃんが抱きつくとピクリと反応が返ってきた。そろーっとした手つきで右手が動き出し、小さな頭を撫で始める。「うへへへぇ」と涎を垂らしてそうな声にようやく戻ってこれたようだ。

 

「けーちゃん………」

「あ、さーちゃんもどってきた」

「ん、ただいま」

「ありがとな、おかげでZ技がどういうものかちょっとは近いできたわ」

「………ん」

 

 なんかまだ覚醒しきっていないのかトロンとした目つきで、つい俺もさーちゃんの頭を撫でてしまった。

 

「うわ、なんですかアレ。なんか夫婦に見えてきましたよ」

「むー、ハッチー…………」

「うひょひょーっ。ついにサキさんも陥落しにかかったーっ!」

 

 ちょっとー。

 それ今カワサキが聞いたら一生戻ってきそうになるから控えようね。

 

「………羨ましい」

 

 最後最後。

 本音だだ漏れだぞ。

 ま、何はともあれZ技というものが見れたんだ。

 もっとゲッコウガの技にも注視していれば何か関係性が見えてくるかもしれないな。

 

「いやはや、まさかこれほどとは。Z技ってのはすごいんだね」

「それな」

 

 それにしてもカワサキは一体どこでこんなものを手に入れたのだろうか。俺の知る限り、というか弟のタイシ曰く、家事で忙しく大会には全く参加してなかったらしいし。ってことは当然、他の地方へ出向く時間もないという意味でもあるわけだ。

 うーん、謎だ。

 

「あ、え、ヒキガヤ………?」

「ん、ああ、悪い。つい、なんか手が出てたわ」

 

 覚醒したカワサキが俺の右手に気がつき、頬を染め上げた。

 

「べ、別に嫌じゃないから………いいけど………」

 

 そして、俺に聞こえるか聞こえないかのか細い声で、ブツブツと少々危険な匂いを言葉にしやがった。

 あいつらに聞かれてなくてよかった。

 

「けーかもはーちゃんみたいなおにいちゃんがほしいなー」

 

 おう、けーちゃん。これはもう合法だよな?

 

「おおおお義兄ちゃん?!」

「俺はいつでもオーケーだぞ。何なら今すぐ俺の妹にしたいまである」

「いいい義妹!?」

「ヒキガヤケイカ………、語呂は悪くないな」

 

 うんうん、いい響きなまである。

 

「………ん? あれ? ヒキガヤケイカ?」

「ん? どした? 何か問題でもあるのか?」

 

 なんかさっきまで顔を真っ赤にしていたのに、急にポカンとした表情に切り替わっている。

 マジでどしたの?

 

「あれ? ああああたしとあんたが、けけけ結婚するってことじゃなかったの?!」

「はあっ? どうしてそうなる。俺は単にけーちゃんをヒキガヤ家に引き込もうとだな」

 

 ちょいちょいちょい!

 いつからそんな話になったんだ!?

 俺はただけーちゃんを妹にしようとだな………。あ、でも確かに義妹にはなるわけか………おい待て。まさかそっちに捉えてたとかじゃねぇだろうな。

 

「それもそれで問題だらけだし………。なに人の妹をさらっと自分の妹に使用してんの」

「急に睨むなよ。ビビるだろうが」

「ああっ?」

「今度は威嚇か。よしよし、落ち着け」

「〜〜〜〜」

 

 よし、これで大人しくなったな。

 

「はい、ストップー!」

「時間切でーす」

「………正妻は私よ」

 

 ユイにイロハにユキノか。

 すごい嫉妬の念を感じるんだが。

 

「おーおー、修羅場ですなー」

「コマチ、見てないで助けてくれよ」

「まあまあ、これもお兄ちゃんを思ってのことなんだから。みんなの愛をちゃんと受け止めないとダメだよ」

 

 愛が重たい…………。

 なんて口が裂けても言えない。

 

「………一番不思議なのってあんたたちの関係だよね」

 

 うん、確かにそうの通りですね。

 カワサキのボソッとしたツッコミにぐうの音も出なかった。




これまで金曜投稿でアップしてきましたが、平日の時間が中々この作品に当てられず、週末に書くことが続いています。
そこで、投稿日を金曜から日曜に変更したと思います。これがしばらくなのか作品が終わるまでずっとなのかは見通せませんが、引き続き当シリーズを楽しんでいただければ幸いです。


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8話

なんか遅れてごめんなさい。


「そうそう、今度フロストケイブにメガシンカの研究調査に行くんだけど、行きたい人いるかな」

「フロストケイブ………」

 

 博士の言葉にユキノが思うところがあったみたいで、繰り返すようにつぶやいた。

 

「なんだ、興味あるのか?」

「いえ、雪の多いところだったはずだから、もしかしたらいるかもしれないと思っただけよ」

 

 いる?

 何が?

 

「何がいるんだよ」

「秘密よ」

 

 そっぽを向いたユキノは話そうとはしない。なのに、視線はチラチラと俺と博士を交互に見てくる。

 

「博士、ユキノ連れてってくれ。それとカワサキも。この二人がいれば百人力だろ」

 

 はあ………、行きたいならそう言えばいいのに。何を遠慮してんだか。

 

「………いいの?」

「こっちのことは何とかする。それにユキノもリーグ戦に出るんだ。広告塔であるお前が初戦敗退なんてことになったら、つまらんだろ」

「じゃあ、なんであたしまで」

「いろんな世界を見てこい。カワサキにはまだまだ成長の兆しがある」

 

 いるってのはおそらくポケモンのこと。ユキノは新しい仲間を欲しているということだろう。

 そしてカワサキはまだまだ知識をつければ強くなれる。部下を育てるのも上司の務めというものだ。

 

「あなたもリーグ戦に出るじゃない」

「俺はいいんだよ。別に開催前から顔がバレているわけでもないし、空いた四天王の席は当日まで明かすことはないんだし、いくらでも替えが効く。俺の他に適任者が出て来れば、そいつに四天王の座を譲るだけだ」

「結局それ、働きたくないだけでしょ」

 

 何を今更って話だぞ、イロハ。

 

「当たり前だ。お前もさっき見ただろ。仕事をするってのはあんなに忙しくなるってことなんだ。何が楽しくてあんな面倒なことしなきゃならねぇんだよ」

「じゃ、じゃあやっぱり私は………」

「いいから行って来い。誰か、探してるんだろ?」

「え、ええ、まあ………。でも仕事を放り出してまでするようなことではないし」

 

 強情な奴だな。仕方ない、強制送還にするか。

 

「はあ………、上司命令だ。博士を手伝ってこい」

「うっ………、分かったわよ」

 

 それじゃあ、お願いします、と博士に頭を下げているユキノを見ていたら、カワサキがボソッとつぶやいた。

 

「あんたも甘いね」

「社会は厳しいからな。特にユキノの場合は誰もが知る有名人だ。一度人前に出ればあいつはユキノシタユキノでいなきゃいけない。だったら、俺と、俺たちといるときくらい我儘を言ったっていいんじゃないか?」

「あんたって、ほんと面倒見がいいよね」

「全ては俺が楽をするためだ」

「ふっ、そういうことにしておいてあげる。ありがとね」

 

 なんだろう、全部見透かされてる気分だ。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「おい、これは一体どういうことだ?」

「どうしましたー?」

「どうしたじゃねぇよ。なんでいるんだよ」

「やだなー、ユキノ先輩たちだけに抜け駆けさせるわけないじゃないですかー」

「やっぱりそれなのね………」

 

 夜。

 ようやくゆっくりできると思っていた束の間。

 俺の部屋に先客がいた。

 ベットが占領されている。君どんだけ寛いでるのん?

 ここ、一応男の部屋だよ?

 

「はあ………、つっても、こっちはこっちで忙しいからな。お前らが思ってるほどベッタベタな状態でもないぞ」

 

 まあ、誰かしら来そうな予感はしてたけど。だからと言って先にいるとか、そんな発想はなかったわ。

 

「毎日顔が見れる時点でずるいですよ。ぶーぶー」

「相変わらずあざとい………」

 

 どかっと、ベットに座りイロハの頭に手を置く。

 

「そう言いつつ、頭を撫でてくれる先輩、ポイント高いですよ?」

「いつから導入したの、そのポイント制。コマチポイントならぬ、イロハポイントなの?」

 

 やだ、いろはす。

 コマチとキャラ被るからダメよ。お前はあざとさが売りだろう?

 

「そもそもっ、なー……んで押し倒されちゃうわけ? 夜這い?」

 

 口を開けば腕を引っ張られ、ベットに押し倒され、俺の腹の上にイロハが跨ってきた。スカートから伸びる生足がちょっと危ないですよ? 太もも見えすぎ。

 

「明日、コマチちゃんとバトルします」

「お、おう……。まあ、実力を高め合うのはいいことだと思うぞ?」

 

 別に俺に報告するようなことじゃなくね?

 勝手にやっててくれちゃっていいんだぞ?

 

「全力のバトルです」

「まあ、お前らの成長は早いからな。俺の知らぬ間にどれだけ強くなってるのか楽しみだな」

 

 全力でバトルとなれば、手持ち全部かそんな感じだろう。となると久しぶりに二人の強さを測れるというわけだ。

「………全力です」

「………何が言いたい?」

 

 なのに、いろはすったら真剣な顔をしちゃってる。全力という言葉も念を押される始末。

 何? 何があるのん?

 

「コマチちゃん、カメックスを暴走させました」

「はっ?」

 

 カメックスが暴走?

 今更すぎない?

 なんでここに来て暴走なんか………っ!?

 

「メガシンカ、させたのか………?」

 

 導い出された可能性はただ一つ。

 ハクダンへ行く前にハルノさんからもらったキーストーンとメガストーン。

 

「はい」

「いつだ」

 

 思わず身体を起こしてしまった。おかげでイロハとの距離が近すぎる。

 

「私がビオラさんとバトルをした後。パンジーさんとのバトルです。コマチちゃんが勝ちはしましたが、バトルが終わった途端、力に呑まれて私がデンリュウの電気で痺れさせて戦闘不能にする羽目になりました」

「そうか………」

 

 恐らく。

 メガシンカで上昇した力を存分に奮う前にバトルが終わってしまい、結果暴れ足りなくて力に呑まれたのだろう。

 

「正直ギリギリでした。こっちもメガシンカさせて弱点技で攻撃しなければ、やられてます」

「………特性の暴走とはまた違うからな。力の桁が違う。あの力に呑まれてしまえば、破壊活動という表現が適切なくらいだと思う。それくらいには暴走したら危険な代物だ」

「………先輩、知ってますか?」

 

 いや、知らねぇよ。何をだよ。

 

「何をだよ」

「私とコマチちゃんとの差」

「差? バトルの……だよな?」

「それらも含めてのトレーナーとしてです」

「差……差、ねぇ………」

「ビオラさんとパンジーさんに言われました。二人の師は誰だ? と」

 

 はあ………。

 そういうことかよ。

 イロハはメガシンカを俺とのバトルで嫌ってほど見てるし、くどくどと同じことを話してもいる。反対にコマチにはそんな話を個人的にした記憶がない。念には念を、ということもできていなかった。だからこそ、メガシンカはある程度覚悟を決めないと力に呑まれてしまうということも刷り込まれてないだろうし、初めてメガシンカを使うところを見届けてやることもできなかった。

 何やってんだ、ハチマァァァァアアアアアアアアアアアンっ!!

 

「………分かった、明日のバトル、俺も見ていればいいんだろ」

「はい、そういうことですっ」

「急にあざとくなるな。ったく………、その、ありがとな」

 

 湿っぽい展開から急におちゃらけんなよ。ぼっち歴の長かった俺に急な空気の変化は対応がままならないんだぞ。ちょっとはそこらへんも考えて!

 

「あ、言葉より態度で示してほしいですね」

 

 そういう意味合いも含めて頭を撫でたら、しれっとこんなことを言われてしまった。なんなのこの子。

 

「くっ、何が望みだ」

「どーん!」

「ちょっ? また? って、んぐっ!?」

 

 今回はマジで押し倒された。

 押し倒されてキスまでされた。

 うわー、三人目……人工呼吸も入れたら四人目。

 やばい、超絶キチガイ野郎になりつつある。というかなってるような気がする。

 

「ぷはぁ………、私のファーストキス、いかがでした?」

「いきなりすぎて味なんて分からねぇよ」

「わぁー、クズっぽいセリフだー」

「や、まさにクズだろ。結局誰か一人を選んだわけじゃないんだし。何なら告白されても返事をしないでキープしてる状態の男だぞ?」

「うわ〜、マジモンのクズっぷりですね………」

「それを加速させてるのが自分たちだって自覚しろよ、このヤロ。仕返しだ」

「んぐっ?!」

 

 俺はクズだ。俺を慕う女の子に告白までされても誰にも返事をしていない。なのに、離す気もない。しかも誰かに盗られることを恐れている。加えてキスを平気でしてしまう。こんなのマジモンのクズでしかないだろう。

 別にハーレムを狙ってるわけでもないし………。

 

「ぷはっ、はあ、はあ……………せんぱい、のくせに、上手すぎですよ………」

「知らねぇよ」

「自覚ないとか、質悪いですね。こんなキスされたら、もう引き返せませんよ」

 

 なんでそこでぶるっと震えるかね。さらに危ない状況に突入しそうじゃねぇか。

 

「もう、もう、わたし………」

 

 顔を真っ赤にして、なのにその目はハート型に………あれ? まさかの幻覚見えちゃってる? 目がハート型とか有り得ねぇだろ。

 

「い、イロハ………?」

「せんぱい………」

 

 ぐっ、しまった………。

 腹の上に跨られているから逃げられない。

 さすがにこの先はヤバいだろ。それ以上は恋人がやることであって俺たちは…………。

 

「お姉さんも混ぜて欲しいなー」

「「ッ!?」」

 

 お、おう? おおう?

 な、ん、え……? ま、魔王………帰ってきたのか。

 

「ははははるさん先輩っ?!」

「あれー? もう終わりなのー?」

「え、あ、いや……」

 

 あのいろはすが圧倒されちゃってる。やだ、魔王怖い。

 

「それなら今度は私の番だねー。ハチマン、キスしよー」

「はるさん先輩!?」

「おい、待て、ハルノ。落ち着け。取り敢えず、落ち着いて下さい」

「ぁぅ………」

 

 あ、あれ? 急に大人しくなったぞ?

 

「ちょっ!? いいいいつの間に名前で呼んで?!」

「えっ? あ、あー………まあ時々だな」

「ぁぅー…………」

 

 あーあーあー。魔王から一転、ただの女の子になっちまったよ。や、この一人、そろそろ二十歳になるからね? 女の子って歳でもなさそうだからね? それが未だ俺の腹の上に跨っているイロハよりも幼く見えちゃうもんだから不思議。

 

「………先輩、なにナチュラルに頭撫でてるんですか」

「あん? おお、無自覚って最強だな。なら」

「んぎゃ?! だ、だからわしゃわしゃするなーっ!!」

「うわっ?! 間近で見るとすごくかわいいです!」

 

 割と気に入ってしまったこのやり取り。

 や、だってこの人、これするとすげぇかわいいのなんのって。髪は女の命とかいうがまさにその通りなのか、髪をくしゃくしゃにされたくないようだ。

 

「むー、はるさん先輩だけずるいです」

「はいはい」

 

 じとーっとした目で見られては仕方がない。さらにへんな要求をされないようにここで応えておくとしよう。

 

「うへへへっ」

「これもお決まりの反応だよな」

「だってー、気持ちいいもんはー、気持ちいいじゃないですかー」

「や、知らねぇよ。されたことないし」

「「…………」」

 

 ん?

 どしたの二人とも。急に固まって。何気ホラー現象みたいだからやめてくんない?

 

「「……………」」

 

 二人は視線を交わすと無言で頷いた。

 えっ? なに? 以心伝心しちゃってる系? そして俺は逃げられない系。

 

「せーんぱいっ」

「ハーチマンっ」

 

 再三にわたり押し倒されました。しかも両側から首に腕を回されるという。枕が高めでよかったとしみじみ感じてしまう。これ枕が低かったらすげぇ首が疲れることになってるからな。

 

「「お返しだーっ!」」

 

 そして、何故か俺が頭を撫で回されるという。何これ、超恥ずい。身動き取れないからどうしようもできないし。詰んだ……。

 これはあれだな。またしてもシングルベットで三人で寝る奴だな。うん、分かります分かります。

 はあ…………、ベットでかいの買おうかな………。狭い………。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 朝起きると。

 二人は既に起きたのか誰もいなかった。と言っても俺はいつも通りの起床時間である。あの二人、何気に早起きだったりするのん?

 それともあれか? 俺が恥ずかしさを堪えるために目を瞑っててそのまま寝ちまったから部屋に戻ったとかなのか?

 や、だってあれは反則だろ。あんなのどう反応すればいいんだよ。小っ恥ずかしい。

 あーあー、絶対あの二人のことだからコマチやユキノに話してるんだろうなー。うわー、あの二人のニターっとしてあ不敵な笑みが今から怖いんだけど。何されちゃうの?

 

「ふんふんふんっ〜」

 

 なんて溜息を吐きながら台所へ行くと、自称俺の正妻が朝飯の支度をしていた。何この子。エプロン姿がかわいいですけど。

 

「あら、昨日はお楽しみだったようね?」

「朝っぱらからやめい。マジで勘弁して。今いろいろと恥ずかしさに悶えてるとこだから」

 

 俺に気づいたユキノの開口一番がこれである。おはようではなく、これである。おい、自称正妻。正妻ならもっということあるだろうが。

 あ、そもそも俺の正妻というか嫁でもないから、言うことなんてないか。

 

「寝起きで悪いけれど、ちょっといいかしら?」

「ふぁ〜あ、なに? 別になんでもいいぞ」

「な、なんでも………」

 

 大きく欠伸をしていたら、変なところで反応してきやがった。おいおい、一体何を考えて、いや企んでいやがる。

 

「ま、まあ、これは後にしておきましょう。それよりも今人がいないから言うけれど、コマチさん。メガシンカを暴走させたみたいね」

 

 ………ああ、なんだそういうことか。

 ちゃんとユキノには話したんだな。同性だし、同性だからこそ話せる姿勢ってのもあるのだろう。しかも俺は血の繋がった兄であり、男である。話すに話せなかったのだろう。

 

「イロハから聞いた。まあ、その、なんだ? 話を聞いてやってくれてありがとな」

「別に構わないわ。だって義妹だもの」

「ちょっとー? なんかおかしくないですかー?」

 

 今シリアスな展開じゃなかったのん?

 あ、でもこいつの目は本気だ。

 ええー? それはそれでいろいろと問題だろ。

 

「普段はどう見ても強者感を感じさせないあなたの実力は、思いの外コマチさんを苦しめていたようね」

「………だろうな。だから俺はコマチに実力を見せてこなかったんだと思う。記憶がないからなんとも言えんが」

「いいじゃない。おかげで私もメガシンカを使う時の覚悟というものを改めて考え込んだもの」

「………ゲッコウガのあの現象のおかげで、ようやく俺もメガシンカを使う時の覚悟の意味が理解できたくらいだ。別にいいんじゃねぇの?」

「……よく気づかれなかったものだと、感心するわ」

「そこら辺はユイ並みに上手いからな。何ならあのアホの子より顔に出ないから質が悪い」

 

 帰ってきてからというもの。

 コマチは明るかった。無理して明るくして言うという素振りすら見せてこなかったのだ。いくら俺でもそれではコマチの異変には気づけるわけがない。

 ったく、変な小技を習得してきやがって。誰の影響なんだろうか、魔王様。

 

「今日のバトル、どうなるかしらね」

「さあな」

「はれー、ヒッキー? ゆきのん? どしたのー?」

 

 夢現なユイが現れたため、この話は中断。しなくてもよかったのだろうが、朝からあの睡魔に勝てそうにないアホ毛を立てたアホの子の頭を行使させるのもかわいそうだし。

 ユイに続いてイロハ、ハルノさん、コマチと起きてきた。めぐり先輩? あの人は庭の花の手入れをしてたらしいぞ。おそらく一番早く起きたんじゃないだろうか。

 

 

 

「さて、イッシキとヒキガヤ妹のバトルを始めようか」

 

 今日も今日とて、審判はヒラツカ先生がやるらしい。

 朝食後だからまだ日は高くない。だから日差しが暑いというわけでもないため、外にいてもなんら平気である。

 

「お兄ちゃーん、仕事しなくていいのー?」

「バカ言え、これを見て仕事をしてないように見えるのか?」

「やー、だってビデオ回してるだけだし」

「というか先輩。そのビデオなんなんですか?」

「あ? コマチの成長記録に決まってんだろうが」

 

 何言ってんだ、いろはす。これは大事な仕事だろうが。

 

「はあ、これだからごみぃちゃんは。そんなこと言ってると、みんなに逃げられちゃうよ」

「大丈夫よ、コマチさん。すでに諦めてるから」

「諦めちゃってたんだ?! 道理で余裕なわけだ!?」

「あはは……、でもヒキガヤ君の仕事はいつも的確だから、今くらいは休んでいても平気だよ」

「シロメグリ先輩がそこまで言うのなら、そうなんでしょうね。無駄に優秀すぎて困りますよ、先輩」

「ひどい………」

 

 いろはす、辛辣ー。

 お前が見ろっていうからいるんだろうが。

 言わなくても暴走させたなんて聞いたら何が何でも見に来てたと思うけど。

 

「キーくん、コマチのバトルしっかり見ててね」

「キバァ」

 

 ん?

 あいつ、いつの間にキバゴをゲットしてたんだ?

 

「あ、そういえばヒッキーはまだ見てなかったよね。んとね、ヒッキーが持って帰ってきたポケモンのタマゴが孵ったらキバゴが生まれたの」

「ああ、そういうことか」

 

 なるほど。

 あのキバゴはあのタマゴから生まれた奴だったのか。ああ、だからあの色ね。納得納得。

 

「使用ポケモンは四体。シングルバトルでどちらかのポケモンが四体戦闘不能になった時点でバトル終了とする」

「ゴンくん、いくよ!」

「ヤドキング!」

 

 まずはカビゴン対ヤドキングのバトルか。

 よく分からんな。

 

「では、バトル始め!」

「ヤドキング、きあいだま!」

 

 あー、そうね。ヤドキングはきあいだま覚えてたね。

 

「ゴンくん、引き寄せてからしねんのずつき!」

 

 対するコマチはかくとうタイプの技にエスパータイプの技を当てることで相殺しようとしているらしい。

 

「ゴー!」

 

 というだけでなく、そのまま突っ込んでいった。きあいだまを破壊するのはついでみたいなものなんだろう。

 

「まもる!」

 

 きあいだまが相殺された時点で、イロハは指示を出していた。ヤドキングは防壁を貼り、そこへカビゴンの思念体がぶつかった。ヤドキングにダメージは入らなかったが、防壁が消し飛ぶ勢い。さすがパワー系のポケモン。一撃で防壁壊すとか、ヤバいわー。

 

「ゴンくん、メガトンパンチ!」

「ヤドキング、でんじほう!」

 

 防壁が壊れて、振りかざされたカビゴンの拳が届く直前。ヤドキングの身体から電気が走り、気づけばカビゴンの姿はコマチの後ろの木をへし折っていた。

 

「ゴ、ゴンくん?!」

「………フンッ!」

 

 あ、生きてた。

 鼻息で突風を生み出し、次の指示を煽ってきた。

 

「まだまだだよね。ゴンくん、じしん!」

「うわっ、と、っと………」

 

 カビゴンが地面を叩きつけると、激しく揺れだした。

 ヤドキングもバランスを崩している。

 

「ギガインパクト!」

 

 でんじほうを受けて身体が痺れているはずなのに、構わずヤドキングへと突っ込んでいく。

 

「サイコキネシス!」

 

 だが、直前でヤドキングに止められてしまった。こうなってはもうカビゴンにできることはない。

 

「ゴンくん!」

 

 それでもコマチは進むように言いつける。

 確かにギガインパクトなら強引に突破できるかもしれない。だが、リスクは大きい。一瞬の隙を突かれてしまえば命取りである。

 

「グォォォオオオオオオンン!!」

 

 あ、なんか初めてカビゴンの雄叫びを聞いた気がする。

 

『チッ、やるな………』

 

 思わずヤドキングもテレパシーを送ってしまっている。ま、強引に突破されれば驚くわな。

 

「あ………」

 

 出たか。

 でんじほうによる痺れ。

 ここに来て、カビゴンの身体が痺れた。勢いは殺され、地面に巨体を打ち付けている。

 

「きあいだま!」

 

 そしてイロハは、それを逃すような甘い女ではない。

 ヤドキングのきあいだまが発射され、再度巨体が吹き飛んで行った。

 さっきの木の方まで行ったが、へし折ることはない。やはりでんじほうには早さも備わっているようだ。

 

「これは……、カビゴン戦闘不能!」

 

 駆け寄っていった先生が判定を下した。

 先に勝ち越したのはイロハか。

 こうなるとコマチの次のポケモンで戦局が大きく変わるな。

 

「ゴンくん、お疲れ。ゆっくり休んでて」

 

 カビゴンをボールに戻すと次のボールに手をかけた。

 

「カーくん、いくよ!」

 

 次はカマクラか。

 エスパータイプ同士。やりにくい展開ではあろう。

 

「シャドーボール!」

「カーくん、ふいうち!」

 

 ヤドキングが黒いエネルギー体を作り出すと背後から殴られた。カマクラが一瞬でヤドキングの後ろに回りこんだのだろう。

 

「でんげきは!」

 

 鈍足のヤドキングには躱すことも難しく、バランスを崩したまま呆気なく電撃を受けてしまう。

 

「ヤドキング、うずしお!」

 

 口から巨大な渦潮を作り出し、それの中心に身を投げた。

 不意打ち対策か?

 

「カーくん、もう一度でんげきは!」

 

 それを見越してコマチは近づかず、遠距離からの攻撃を仕掛ける。だが、電撃は水に吸収され、ヤドキングへは届かない。

 ………あれは純水か? また器用なことをしてきやがる。

 

「シャドーボール!」

 

 今度はイロハの方が動き出した。純水が電撃を吸収している間に、黒いエネルギー体を次々と作り出し、一気に打ち出してきた。

 

「カーくん、ひかりのかべ!」

 

 普通なら壁で攻撃を受け止めてその場をしのぐものなんだが、どうもうちのカマクラはその例に従いたくないらしい。

 いつもの通り何枚も壁を作り出すと、黒いエネルギー体がなんだ、と言わんばかりに突っ込んでいく。黒いエネルギー体に壁を壊されていくが、お構いなし。

 ついには最後の一枚も壊され、無防備状態になった。

 

「トリックルーム!」

 

 突進してくるカマクラを速さが反転する部屋の中へと閉じ込めた。

 勢いのついていたカマクラの身体は急に遅くなり、軽々とヤドキングに躱された。

 

「レールガン!」

 

 カマクラの背後を取ったヤドキングが電気を溜めていく。

 上に弾くと腕を伸ばして照準を合わせ、落ちてきた電気玉を前方へ弾き出した。

 

「ふいうち!」

 

 だが、カマクラが一瞬で消える方が早かった。

 消えたカマクラはヤドキングの背後に現れ、全身を使って殴りつけた。

 ヤドキングは吹っ飛んでいき、地面に身体をバウンドさせていく。

 

「……やっぱりふいうちは危険だね」

「ヤドキング、戦闘不能!」

 

 どうやらイロハも予想はしていたらしい。トリックルームであろうともふいうちは避けられないかもしれないと。その予想はまんまと当たってしまい、ヤドキングが戦闘不能になってしまった。

 これでイーブン。

 残り三体ずつ。

 

「お疲れ様、ゆっくり休んでてね」

 

 イロハはヤドキングをボールに戻して、次のボールに手をかけた。

 

「マフォクシー、いくよ」

「マフォクシー………、カーくん、戻って」

 

 そういえば、交代はなしってルールでもなかったな。

 

「カメくん、いくよ!」

 

 あれ?

 ここでカメックスなのか?

 プテラでも良かったと思うんだが。

 

「マフォクシー、にほんばれ!」

 

 先に動いたのはマフォクシー。

 日差しを強くしてほのおタイプの技の威力を底上げしてきた。しかもみずタイプの技の威力は落ちるからな。

 今の対局ではもってこいの技。

 

「カメくん、ハイドロポンプ!」

 

 だが、先のトリックルームが効いている。

 カメックスの動きがいつもよりも早く、背中の砲台から打ち出された水砲撃がマフォクシーに直撃した。

 

「マフォクシー、ソーラービーム!」

 

 後方へスライディングしていったマフォクシーが天へと木の棒をかざした。木の棒にはみるみるうちにエネルギーが蓄えられていき、二倍三倍に膨れ上がっていく。

 

「回って!」

 

 360度、一回転をしてソーラービームを全方位に撃ち放った。

 

「カメくん、引き付けてから躱して!」

 

 コマチは俺のやり方を真似るように引き付けてから躱す命令を出した。

 だが………。

 

「カメくん?!」

 

 なぜか今までのようには息が合っていない。

 カメックスは光線を撃ち込まれ、部屋の壁を破壊しながら吹っ飛んでいった。

 

「さて、これでトリックルームもなくなったし、今度はスピードで攻めさせてもらうよ」

 

 ふぅ、という感じに額の汗を拭うイロハ。

 こいつのフィールド支配は日に日に上手くなっていっている。トリックルームなどの部屋を作るだけでも展開は大きく変わるが、それを自ら壊すことでもフィールドの支配力を高めている。

 これは別に俺が教えたわけじゃない。俺が教えたのはせいぜい現実とメガシンカの心得だけ。だが、コマチにはそれすらもしてやってなかった。打倒フレア団で初心者だった三人を育てることにしたが、それでももっと俺にできたことがあったのかもしれない、と考えさせられてしまう。

 コマチがカメックスを暴走させたっていうのも、俺がもっとしっかりと教えていれば防げたことだ。

 

「ニトロチャージ!」

 

 炎を纏いしマフォクシーがカメックスの方にへと走り込んでいく。

 

「カメくん、からにこもるからのこうそくスピン!」

 

 甲羅の中に潜ったカメックスは高速回転を始め、マフォクシーの突進を躱した。

 

「コマチちゃん、ひどいこと言うけど、全力でこないの?」

「………っ」

 

 走りながらマフォクシーが木の棒で地面に跡をつけだした。

 何をやろうとしているんだ?

 

「全力でこなきゃ、今のコマチちゃんとカメックスでは私たちを倒すなんて無理だよ」

「ッ、カメくん、みずのはどう!」

 

 なんかイロハがコマチを煽り出してから、空気が変わった。

 なんというか、カメックスがマフォクシーに翻弄され始めたのだ。

 

「焦っているわね………」

「ああ、命令と動きにズレが出てきた」

 

 みずのはどうを撃ち出すタイミングが遅れた。

 それにより、マフォクシーの突撃を食らってしまう。

 

「マジカルフレイム!」

 

 マフォクシーが地面に木の棒を突き刺すと地面に炎が走った。

 何体ものジャローダがいるかのように、うねうねと炎が湧き立ち、カメックスを包囲していく。

 

「ワンダールーム!」

 

 そして極め付けはカメックスを部屋の中に閉じ込めたのだ。炎の海に閉じ込められたカメックスは苦しそうな顔色をしている。いくらほのおタイプの技に耐性があってもにほんばれの影響で炎技の威力が上がり、さらに部屋に閉じ込められるという地獄絵図を完成させられては。さすがのカメックスにも対処のしようがないようだ。

 

「くっ、カメくん、メガシンカ!」

 

 カメックスはコマチのエースポケモン。それを今ここで戦闘不能にさせるには惜しいと思ったのだろう。一度暴走させたとはいえ、今ここで使わなければカメックスが倒されてしまう。危険よりも勝利を選んだようだ。変に負けず嫌いなんだから。

 

「ありがとう、マフォクシー。ゆっくり休んでて」

「フォク」

 

 コマチの持つキーストーンとカメックスがどこかにつけているメガストーンが共鳴しだし、カメックスを白い光で包み込んでいく。

 そんな中、イロハはマフォクシーをボールに戻し、新たなポケモンを出してきた。

 

「デンリュウ、こっちも最初から全力でいくよ。メガシンカ!」

 

 イロハもデンリュウを出してきて、メガシンカさせてきた。

 あいつ、態とカメックスを暴走させようとしてないか?

 

「…………今のコマチさんはあの頃の私にそっくりだわ」

「あの頃?」

「今のあなたは覚えていないのだったわね。スクールの話よ。あの頃の私は自分の力を過信しすぎていた。学年最強とか言われて、ハヤマ君と勝ったり負けたりのバトルをして、自分は強くなっているとばかり思い込んでた。だから………」

「だからオーダイルを暴走させてしまった、か」

「ええ」

 

 今のコマチがあの頃のユキノとそっくりなのか。

 まあ、コマチもあれで負けず嫌いなところがあるからな。それに周りには俺やユキノやハルノさんがいる。俺たちがいることでの悪影響の方が出てきてしまったというわけだ。

 

「コマチには悪いことをしたな。俺がもっとしっかり見てやっていれば………」

「そうね、私も誰かが見ていてくれれば暴走なんて引き起こさなかったかもしれないわ。けれど、それは過ぎた話。後になってからではないと、あの時ああしていれば、なんて思いつかいないもの」

「確かに、そうだな。仮定の話をしたところで現実が変わるわけでもない」

「ねぇ、二人とも。何の話してるの? お姉ちゃん、ちょっと寂しい」

「見ていれば分かることよ」

 

 ハルノさんは知らないのか。

 まあ、コマチが話すとも思えない。ハルノさんはキーストーンをくれた相手。失敗した、なんて言えるわけないよな。

 

「………それでもまだメガシンカから手を引こうとしないだけまだマシか」

「カメくん、りゅうのはどう!」

「こっちもりゅうのはどう!」

 

 メガシンカのエネルギーでワンダールームを壊し、姿を変えたカメックスが、竜の模した波導をデンリュウに送りこんだ。

 対するデンリュウも同じく竜を模した波導で応戦。相殺されて、爆風が生み出された。

 

「あれが、カメックスのメガシンカ姿か………」

 

 背中には一本になった砲台。代わりに両腕に小さな砲台が備え付けられている。

 数で言えば三つの砲台を擁する砲撃ポケモンというわけだ。なにそれ、超怖い。狙い撃ちにされそう。

 

「ふぶき!」

 

 続けてカメックスが放ったのはふぶき。

 冷気を含んだ強風がデンリュウを襲った。

 それと同時に日差しが弱まった。

 

「じゅうでん!」

 

 はっ?

 そこは躱すんじゃないのか?

 デンリュウはメガシンカすればでんき・ドラゴンなんだろ?

 こおりタイプの技は効果抜群だぞ?

 

「リュ、リュ〜」

 

 体内に電気を溜め込みながら、強風を耐え忍んでいるデンリュウ。その声は冷たい風にさらされ、キツそうである。というか足元が凍りつき出した。

 

「レールガン!」

 

 溜まりに溜まった電気を一気に放出。今度は上に弾くこともなく、一閃を描いた。

 

「カメくん、ミラーコート!」

 

 カメックスは両腕の甲羅をクロスさせて防御の構えをとると、一閃を受け止めた。そして両腕を開くと同時に一閃を押し返した。

 

「ッ、デンリュウ、こうそくいどう!」

 

 ヤバいと判断したイロハはすぐにデンリュウに命令を出した。

 命令を受けたデンリュウは高速で走り出し、ギリギリで反射された一閃を躱し、そのままカメックスの方へと走り込んでいく。

 あ、なんか足元の氷が溶けていってるし。

 

「はどうだん!」

 

 背中の砲台と両腕の砲台から計三発のはどうだんが撃ち放たれた。

 

「デンリュウ、エレキネット!」

 

 はどうだんを捕まえるように電気の走る白い網をばら撒いた。

 

「ほうでん!」

 

 はどうだんをやり過ごしたデンリュウは、そのままカメックスの懐にまで走り込み、放電を始めた。

 

「ドラゴンテール!」

 

 電撃を受けながらもカメックスは尻尾に竜の気を纏い、身体を回してデンリュウを薙ぎ払った。技の効果でデンリュウはイロハのボールへと戻っていく。

 

「フィア」

 

 代わりに出てきたのはフライゴン。イロハを空でもバトルできるようにと進化を選んだポケモン。

 

「フライゴン、ばくおんぱ!」

 

 んげっ!?

 耳塞がねぇと!

 

「フィァァァアアアアアアアアアッッ!!」

 

 うぎゃぁぁああああああっ!!

 うるせぇぇぇええええっっ!!

 

「りゅうのはどう!」

 

 竜を模した波導が爆音の中を駆け巡る。だか、フライゴンにまでは辿り着かない。

 うはー、耳が痛ぇ……。耳鳴りがすごいんだけど。

 

「竜が消えた………」

「波導の波は音という波には勝てなかったということね」

 

 ユイの驚きに、科学的な解説をするユキノ。たぶん、ユイに言っても理解できないかもしれないぞ。というか二人とも何故に平気そうな顔してるのん?

 

「からにこもる!」

 

 押し切られた爆音を甲羅に篭ることで防いだ。

 

「カメくん、ハイドロポンプ!」

 

 甲羅の巨大な砲台から水砲撃が撃ち放たれた。カメックス自身は未だ甲羅の中である。

 何あれ、なんてシェルター?

 

「フライゴン、躱して!」

 

 水砲撃をひょいと躱し、カメックスへと近づいていく。

 

「がんせきふうじ!」

 

 いくつもの岩を作り出したフライゴンは、次々とカメックスへ送りこんだ。

 

「カメくん、こうそくスピンで躱して!」

 

 それを軽々と高速回転しながら躱していくカメックス。

 

「フライゴン、だいちのちから!」

 

 ズドン! と。

 

 躱した先でカメックスの身体が直角の吹き飛んだ。

 原因はあの溶岩。火山活動のごとく地面から吹き出した溶岩にカメックスの身体が打ち上げられたのだ。

 

「カメくん、ふぶき!」

 

 それでも甲羅を回転させてバランスを取り戻すと、ようやく甲羅の中から出てきてフライゴンを狙い撃ちにした。猛吹雪がフライゴンを襲う。

 

「ギガドレイン!」

 

 だいちのちからで打ち上げられた時にでも植え込まれたのか、カメックスの体力が奪われ始めた。回復か攻撃か。どちらが根をあげるかで勝敗は決する。そういう展開である。

 

「フィ………」

 

 やはり全回復には至らなかったようだ。フライゴンの体力がつき、シューっと地面に向かって落ちていく。

 

「戻ってフライゴン!」

 

 判定が出される前にイロハはフライゴンをボールに戻した。どうやら彼女もすでにフライゴンがこれ以上戦えないことを察知したらしい。

 

「マフォクシー!」

 

 代わりに出てきたのは再びマフォクシー。

 ほのおタイプであるが、多彩な技で相手を翻弄してくる。さて、今回二度目のカメックス相手にどう戦う?_

 

「にほんばれ!」

「カメくん、からにこもる!」

 

 両者次の攻撃に備えて準備を始めた。イロハはソーラービーム、コマチはこうそくスピンで躱すつもりなのだろう。

 

「ロケットずつき!」

「ソーラービーム!」

 

 あれ?

 躱すんじゃないんだ。

 甲羅の中だからダメージ受けないとか、そういうことなのか?

 俺はそんな話を聞いたことがないんだがなー………。

 聞いたことがないだけで、カメックスはそういう芸当ができるのかもしれない。俺の知らないことは世界にはまだまだたくさん存在している。というか俺が世界の何を知ってるんだって話だ。俺を物知りだとか言う奴はそれ以上に知らなさすぎるだけである。

 ま、かといってそんな蓄えた知識を見せびらかすようなことがしたいなんて考えたこともないが。生きるために使えれば、それでいいのである。

 

「あっ?! マフォクシー!?」

 

 やはりメガシンカの頭突きには勝てなかったようだ。

 ソーラービームを甲羅でやり過ごし、マフォクシーの目の前で頭を出したカメックスの頭突きが炸裂した。マフォクシーは後ろへと吹き飛ばされ、木々を何本かへし折ってようやく止まった。

 

「マフォクシー、戦闘不能!」

 

 これでイロハのポケモンは実質一体のみ。やはりメガシンカにはメガシンカで戦う他ないのだろう。それとあれだな。絶対イロハが本気を出していないな。あんなあっさりと倒されていくわけがない。あいつはもっとバトルの先の先まで計算している。多少のブレがあってもすぐに修正してくるし、何よりさっきの挑発はイロハらしくない。挑発してこないわけではないが、もう少し搦め手を入れてくる。だから今のあいつは本気を出していない。

 昨日全力のバトルと吐かしていたのはどこのどいつだよ。

 

「マフォクシー、お疲れ様。いよいよだよ。ありがとね」

 

 ………何か仕掛けてくるつもりか?

 実験でもしているのならば、こんな一方的な展開になっていてもおかしくはないが………。

 

「デンリュウ、一撃で決めるよ!」

「リュー!」

 

 ……………どうでもいいが、メガシンカしたままボールに戻っても戦闘中であれば、姿は変わらんのだな。戦闘モードであれば、そのままでいれるのかね。それとも気持ちの問題か?

 

「かげぶんしん!」

 

 電気を走らせるデンリュウが影を作り出し、増えた。すでに充電されているのか、溢れんばかりの電気がピリピリと鳴っている。

 

「カメくん!」

「ガメェェェエエエエエエエエッッッ!!!」

 

 コマチの呼びかけにカメックスが雄叫びをあげた。

 きた。

 

「………すまん、行ってくる」

「ええ、お願いね」

「えっ? えっ? ヒッキー、ゆきのん、どうしたの?」

「大丈夫よ。すぐに終わるから」

 

 ユイは知らないみたいだからな。俺たちの会話に疑問を抱いても仕方がない。

 

「か、カメくん………?」

 

 コマチもようやくカメックスの異変に気付いたようだ。だが、その目はすでに恐怖に染められている。

 

「ど、どうしよ、また、あの時、みたいに…………はっ?! そうだ、イロハさん!?」

「落ち着け、コマチ」

 

 俺はコマチの背後からそっと近づき、左腕抱き寄せ、右手で頭を撫でてやった。

 

「お、おに、おにいちゃ………」

「ああ、お兄ちゃんだ」

「ど、どう、しよ………、コマチ………」

「いいから落ち着け。まずは深呼吸だ」

 

 俺の熱を与えるように強く抱きしめる。震えるからは次第に落ち着きを取り戻し始めた。

 ………こんな華奢な体に俺はという存在は重かったみたいだな。そりゃそうか。今や俺は一地方のポケモン協会の理事長なんだ。重くない方がおかしい。

 

「焦ってたんだよな? どんどん強くなるイロハに、確実にバトルの経験を積んでいるユイに、三冠王だなんて呼ばれているユキノに。そして、極め付けは俺だろ? ポケモン協会の犬かと思えば、いつの間にかポケモン協会のトップにまで昇り詰めている。プレッシャーでしかないよな。カロスポケモン協会の理事はどんな奴だ。そいつの家族はどんな奴だ。強いのか? そんなことを言われると思ったんだろ?」

「…………」

「ったく、お前は強くはなったが、それでも初心者トレーナーであることに変わりはないんだっつの。先輩トレーナーに甘えればいいし、泣き言も言えばいい。人の世話ばかりしていて、自分を見失ってたら元も子もないだろ」

「…………で、でも、お兄ちゃん、頼りないし…………」

「悪かったな、頼りない兄貴で。そりゃ対人関係なんざ逆にお荷物にしかならん自覚はあるさ」

「コマチは、お兄ちゃんの、役に、立ちたくて………」

「もう充分役立ってるっての」

 

 なんだかんだ俺たちは兄妹だ。血の繋がった家族なんだ。無条件で支え合う存在だろうが。現に家族が側にいるってのは強い安心感が感じられるんだ。それだけで役に立ってるだろうが。

 それに………。

 

「お前がいなかったら俺はユキノやユイ、イロハにハルノさんと出会えなかった。や、ユキノ辺りならどこかで出会ってたかもしれん。だが、こうして全員が一斉に集まるなんてことはなかっただろうな。だから、その、なんだ………。ありがとな」

「お、おにいちゃん………」

「さて、カメックスを止めるぞ」

「………ぐすっ、うん………」

 

 ぐしぐしとコマチは袖で涙を拭うとカメックスに視線を送った。

 

「メガシンカは二つの石が共鳴することで起こる現象だ」

「うん」

「だが、それ以前にポケモンとトレーナーとの間に絆がなければ成り立たない現象でもある」

「うん」

 

 ゲッコウガのあの現象を通して分かったこと。それは二つの石を通してお互いの感情が伝わるということだ。ゲッコウガはそれを特性に盛り込み、その過程で俺と視界・感覚の共有を図った。そう、まさにこれがその感情の伝達なのだ。そして、博士が言っていた覚悟というのは………。

 

「どちらかが先走っても、無理に力を使おうとしても、それは暴走につながってしまう。メガシンカに必要なのは覚悟という名の息の合わせ方だ。ポケモンとトレーナー、二人の息が合って初めてメガシンカが完成する」

 

 息なんてどうやって合わせればいいのか、絆なんてどうやって推し量るのか。

 そういう点では御三家ポケモンは優秀だ。なんせ、究極技というトレーナーとポケモンの息が合わなければ撃てない技があるのだ。これを習得した時初めて、メガシンカも扱えるようになるだろう。いい目安というわけである。

 

「ったく、普通はこっちを先に完成させてからメガシンカさせるだろうに」

 

 コマチの右腕を前へと伸ばす。

 その右腕には水色のリングがあり、光が増していっている。

 

「まずはイメージだ。そうだな………レールガンでも思い浮かべろ」

「レールガン………中二さんやイロハさんの…………」

「狙うはデンリュウの、腹あたりか」

「デンリュウのお腹………」

「そこに向けて水の一閃を描くんだ」

「水の一閃………」

「…………今だ、やれ!」

「カメくん、ハイドロカノン!!」

 

 その瞬間、水の一閃が走った。

 水の究極技はデンリュウの腹に見事命中し、後方へ打ち飛ばした。幾本か木々を倒したデンリュウは元の姿に戻りながら、地面に倒れ伏した。

 

「デンリュウ、戦闘不能!」

 

 イロハには感謝だな。コマチをバトルに誘い出して、態と挑発し、カメックスのメガシンカを引き出した。そして、慢心するように態とバトルの手を抜き、あまつさえ暴走した暁にはコマチがコントロールする時間を稼いでくれた。極め付けは、コントロールした力をしっかりと受け止めてくれたのだ。

 もうね、あざといしか言えない。

 いつもいつもあざとい奴ではあるが、ここまであざといともう怖いくらいだ。

 ったく、俺の周りはお人好しばっかりだな。

 ま、嫌いじゃねぇけど。




土曜日が仕事で、かつ今回は文字数が多く、切りよく終わらせるためにも時間がかかってしまいました。しかも途中で内容が消えるというアクシデントも………。
ちょっと泣きたくなりましたね、消えた時は。
ではまた来週。


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9話

「すまん、コマチ」

「な、なんでお兄ちゃんが謝るのさ」

「や、だって、俺がもっとしっかりお前のことを見てやっていれば。そのためについてきてたんだし。当初の目的を忘れちまってた。悪かった」

 

 デンリュウも戦闘不能になったことでバトルは終了。

 コマチの勝ちということなった。

 

「だ、だからそれはコマチが未熟だったからで、それにいろはさんも。ありがとうございました」

「さすがに次がないことを祈るよ。先輩がいなかったらできない駆け引きだったし」

「はい、気をつけます」

 

 コマチもようやくイロハの掌で踊らされていたことに気づいたようだ。

 じゃなきゃ、イロハがあんな一方的な負け方をするわけがないからな。

 

「みなさんも、ご迷惑おかけしました」

「大丈夫よ」

「うん、大丈夫だよ。ちゃんとヒッキーが解決してくれたし」

 

 なんでそこで嬉しそうな顔をしてるんだよ。

 なに? 何を期待されちゃってんの?

 怖いよ怖い。あと怖い。

 

「ま、とにかくあれだな。コマチは究極技をコントロールできるようになってからメガシンカに挑戦した方がいいだろうな」

「………だよね。やっぱり焦ってたのかなー」

「いや、焦りもするだろ。周りにチャンピオン経験者が三人もいるんだし」

「そうね。他のトレーナーからすれば羨ましい環境かもしれないけれど、身の回りに強い人たちがいることはプレッシャーになることもあるわ」

 

 俺はそんな経験が全くないから頭の片隅にもなかったがな。

 やはり、コマチやユイ、イロハには俺たちがプレッシャーになっているのかもしれない。本人も自覚がないくらい気にも留めてなかったのだから、無意識下での出来事なのだろう。

 いやはや、無意識ほど怖いものはないな。

 

「………経験者は語る、か」

「そうね。私も二人ばかり強い人はいたもの」

「そこで俺を見るのやめい。もう一人がそこにいるだろ。つか、記憶がない」

 

 どうしていつもこういう時って俺を見てくるんでしょうね。もう一人がすげぇニヤニヤ顔してるってのに。

 ほら、期待の眼差しに切り替わったぞ。

 

「はあ………当の本人は最近こればかりね。ずるいわ」

 

 あ、なんかシュンとなった。そんなに相手にして欲しかったのかよ。どんだけシスコンをこじらせてるんだよ。や、俺も人のこと言えないけどさ。

 

「ヒキガヤ、お前はあれだな。暴走を止めるのが習慣になってるな」

「はい? ………ああ、オーダイルの話ですか」

 

 ねぇ、過去にオーダイルの暴走を止めたからって、それを習慣としないでくれます?

 別に好きでこんなことしてるわけじゃないし。時たまにそういう場面に遭遇するってだけで、専門でやってるわけじゃない。何ならあんたら散々俺のことを見てきたでしょうに。

 

「二度目の暴走の時、暴走してもおかしくはないと分かってはいたのに私は動けなかった。君を守ることができなかった」

「や、覚えてないし。………まあ、どうせあれでしょ? 俺とバトルした時に暴走したから、俺がそのまま止めに入ったとか」

 

 覚えてないが、どうせこんな展開だったのだろう。じゃなきゃ、俺が動くはずがない。

 

「思い出したのか………?」

「いえ全くこれぽっちも」

「当てずっぽうか」

「そうでもないですよ。記憶はなくても俺は俺。自分の身の危険を感じなきゃ、動かないでしょ」

「………そうだったな。君は昔からそういう奴だった」

「それにオーダイルの暴走がなければ、ここにこうして俺たちは集まっていないまでありますよ。だから思い出して申し訳なさそうな顔してんじゃねぇよ」

 

 ま、だからと言ってオーダイルの暴走が俺に悪影響を与えたかといえば、この目の濁り以外は特にないらしい。この目で苦労したことも今じゃ忘れちまってるし、もう何もきにすることなんて俺の中には残っちゃいない。

 残ったといえば、ずっと俺を追いかけていたユキノに出会い、ユイとも再会し、イロハも加わってきた。

 交わることのない糸がオーダイルの暴走を気に絡み合った、そんな気がするのだ。だから、あの暴走の件に抱く俺の感情といえば、感謝くらいだろう。

 なのにこいつとくれば………。

 

「あう………」

 

 やれ自分が悪かった、罰をくれと何度も何度も。

 あーもー、罰と髪をくしゃくしゃにしてやる!

 

「ちょ、ハチマ……ぁぅ………」

「記憶はなくてもメモ帳という俺史にはちゃんと書かれている。何なら、お前に罰ゲームも与えただろうが、ユキノ」

「………あんなの罰に入らないわよ」

「………ほう」

 

 また言い出した。

 これはあれだな。最上級のお仕置きが必要だな。

 

「先輩、なんですか、その目。ヤバいです、超ヤバいです」

「お、おおおお兄ちゃん?! いいい今何考えたのさっ!」

「ドMなヒロインの躾け方」

「なっ!? だだだ誰がドMよっ!」

 

 顔真っ赤にして、喜んでるのん?

 

「や、罰が欲しいとか自分から入ってくる時点で、ただのドMだろ」

「ちなみに何するの?」

「何もしませんよ」

「えっ?」

「ん?」

 

 なんだよ、聞いてきたのはハルノさんの方だろうが。なんで驚いてるんだよ。

 何もしないって言ってるんだから、妹が守られて嬉しんだろうが。

 

「何もしないの?」

「何もしませんよ?」

「放置プレイ? レベル高いね」

 

 それとも何か? 放置プレイをやってほしいのか?

 この人の方こそ、ただの変態じゃないでしょうか。

 

「や、どうしてそうなるんですか。単に何もしないだけですって」

「………意味が分からないわ」

 

 考えてみたようだが、ユキノには通じてないようだ。

 

「はあ……、君は悪い奴だな」

 

 だというのに、なにゆえこの元教師には通じてしまったようだ。

 

「なんで俺が悪者なんですか。そこは人が悪いって表現が飛んでくるところでしょう」

「それを自覚してるから悪い奴なのだよ」

「ひでぇ………」

「しないの?」

「えっ? なに? マジでして欲しかったの? 俺にはちょっとハードル高すぎるんですけど。というかマジでドMなのん? 怖いよ怖い。マジで怖い。あと怖い。イロハの十八番が乗り移っちまうくらい怖いわごめんなさい」

「うわっ………、地味に似てるのやめてくださいキモいですごめんなさい」

「………ほんとだ。似てる………」

 

 こてんと小首を傾げるユキノにちょっとときめいたが、ぞわっと背筋に電気が走ったことで正気を保てた。なに、この子。かわいすぎだろ………。

 かわいすぎてマジでドMだったらどうしようかとか色々考えちゃったじゃん。しかも一瞬で。

 

「あ、じゃあお姉ちゃんが「遠慮しておくわ」………まだ何も言ってないのに。ユキノちゃんのドM! 変態!」

「あ、こら、そんなこと言ったら逆に喜ぶでしょうが!」

 

 この人はどうしてこうすぐにご褒美を………。

 

「………誰がドMの変態なのかしら? 私たち姉妹の唇を奪ってなお後輩の唇まで奪ったスケコマシガヤ君? それと夜中に夜這いをかけて失敗した日には自分で火照った体を沈めている姉さんに言われたくないわ」

 

 あ…………。

 

 

 この日、氷の女王に凍らされて夜まで動けませんでした、まる。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「あの、コマチ………さん?」

 

 晩飯前に氷漬け(首から下)から解放された俺とハルノさんは山のようにたまった仕事に追われていた。

 そして今、それが終わってみるとなんとすでに日付が変わっているではありませんか。

 だというのに、えっ? なに? この状況。

 寝ようと思ったらコマチがやってきて、迫られてるんですけど。

 

「お兄ちゃん………」

 

 や、だからなんでそんな切なそうな声を出してるのん?

 なまじこの状態の女の子を知らないわけじゃないから余計に困る。

 俺たち兄妹だぞ? 血の繋がった兄妹だぞ?

 つか、どこだ? どこでフラグを建てやがった?

 

「コマチ………コマチ、もう我慢できないよ」

 

 いや、我慢しろよ。

 というかなんだよ我慢って。いろいろと危ない状態じゃねぇか。

 何をしようとしている。や、言うな。言ってしまえばもっと危険なことになる。

 

「お兄、ちゃん………」

 

 うがぁぁぁ、誰か止めてぇぇぇ。

 教えて、ユキペディア!

 

『あら、シスコンのあなたには本望でしょ?』

 

 だぁぁぁ、全く止める気がしねぇ!

 そうだ、ユイなら………。

 

『ぶー、まだちゃんとキスしてもらったことないのにー。コマチちゃんだけずるい!』

 

 だはっ?!

 あのお団子頭もコマチには甘かった………。

 はっ、そうだ、イロハ! イロハなら。

 

『せんぱーい。やっちゃえ☆』

 

 あ、ダメだ。一番アウトだった。

 なに? なんなの? みんな止める気なさすぎるでしょ。

 や、まあ、俺の妄想でしかないけど。俺の中のあいつらって………。

 

「おい、コマチ。落ち着け」

「お兄ちゃん」

 

 ぐはっ?!

 ヤバい、おでこを俺の胸にグリグリと押し付けてくるんでけど。何この子、超かわいい。

 

「………コマチにみんなと同じ接し方しちゃダメだよ………ずるいよ、あんなの………」

 

 えーっと。

 つまりはあれか? 今朝のことか?

 や、だって一大事だったんだから仕方ないだろ。取り乱したコマチを落ち着かせるのにも………そういや今も落ち着かせたいんだったな。

 あ、今ここで今朝と同じようにしたら歯止めが効かなくなりそう。主にコマチが。

 なるほど、妹であれど女の子。優しさは時として毒となるのか。そして解毒作用を使うとループに陥ると。

 

「コマチ、お前は何か勘違いをしている。今朝のが影響してるってんなら、あれは吊り橋効果だ」

「………ちがうもん。コマチは、コマチはずっと前から我慢してたもん」

「はっ?」

「お兄ちゃんが、旅に出て、急に音信不通になって、帰ってきた時には嬉しいのと寂しかったのとでお兄ちゃんに、抱きつきたかったのに。我慢してたんだからぁ………」

 

 えー。

 なんかだいぶ遡っちゃってるよー?

 

「なのに、なのに………あんなことされたら、もう、もう………」

 

 あ、ヤバい。

 目がもうアウトだ。アウトな目をしている。

 というかマウントとられた。

 

「お兄ちゃん…………」

 

 さて、どうする?

 俺はどうするべきだ?

 まず一番危険なのはここで拒否することだ。や、拒否するべきなのだろうが、今のコマチは不安に駆られている結果だ。暴走のせいで、怖くなっているのだ。そこに俺という安心材料から拒絶でもされてみろ。どう転ぶかなんて目に見えている。

 

「キス……うひゃっ!?」

 

 危ないことを吐かす前に俺の上に覆いかぶさるコマチの腕を掴み、支えを奪って抱きしめた。

 抵抗はない。というか望んでいたかのようにゆっくりと腕を背中に回してくる。

 

「今日はこれで勘弁してくれ」

「………うん、分かった。でもね」

「なんだよ」

「コマチはお兄ちゃんが好き。好き………だよ…………」

 

 ぎゅうっと。

 強く強く、なのにどこか弱々しく抱きしめ返してきた。

 やっぱり不安に駆られていただけだろう。明日にはいつも通りケロっと。

 

「初めては………お兄ちゃん、が……いい、なー………」

 

 前言撤回。

 こいつもユキノたちと同じ発情期を迎えたようだ。

 ダメだ、こうなったら俺にはどうしようもない。

 や、でもマジで? 兄妹だぞ?

 

「どこでそんな殺し文句覚えてきたんだよ………」

 

 まあ、なんであれ。

 明日からどうなるかすげぇ心配。当の本人はすでに俺の腕の中で寝息を多々ているけど。

 でもあれな。俺の行動一つでこんなにも女の子たちが心を傾けちまうってすごいことだよな。ありがたいと思うし感謝もしている。

 

「だからこそ、どれも失いたくないんだよな…………」

 

 選べばきっと失うものが出てくる。だけど、いつかは選ばなければならない。

 みんなもそう。いつかきっと誰かを選ぶ時が来る、そう思っているはずだ。だから不安にもなるだろうに、あいつらときたらそれを全く感じさせない。

 すげぇな。マジで。俺はもういっぱいいっぱいだってのに。

 

「いっそ、全員俺のものにできればいいのになー………」

 

 無理だな。即あの警察共に逮捕されるわ。

 もう寝よ。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

『起きなさい、ハチマン。一大事よ』

 

 朝。

 扉の向こうからの声に目が覚めた。

 覚めたはいいが、やはりというか。俺の腕の中にはコマチがぐっすりと………眠ってなかった。目が覚めたならさっさと起きなさいよ。なんでそのままでいるんだよ。

 

「えへへ〜、おはよ、お兄ちゃん!」

「………」

「あれ? 反応なし? 寝ぼけてるの?」

『起きなさいハチマン! 私たちの両親がもうすぐ来るわ!』

 

 ……………はい?

 

「なにこれ。どゆこと?」

「なんかねー、ユキノさんたちのご両親がやってくるんだって。もうすぐ着くみたいだよ」

「マジ………?」

 

 色々とマジ? って寝覚めだが、一番のマジ? だわ。

 なに? いつの間にそんな日程が組み込まれてたの?

 今の状況をユキノシタ家の両親に見られたら、さぞ引かれる。何なら娘をすぐにでも連れて帰るとか言い出しそう。うわっ、なにこれ。早速ラスボス登場じゃねぇか。

 

「俺、寝てていい?」

「あ、じゃあコマチも寝るー」

 

 もう色々と突っ込みたいことだらけだが。

 それでもまずはこれか。

 

「お前、一晩で俺のこと好きになりすぎでしょ」

「えへへ〜」

 

 ダメだ。

 この天使には勝てない。

 

『ハチマン、起きなさい! 今すぐ起きないと凍りつかせるわよ』

 

 はい!

 ただいま!

 

「あ、お兄ちゃん………」

「おいこら、なんでそこで切ない声を出す。やめい、俺に実の妹とどうこうなる気はないぞ」

「ないの?」

「ない」

「いいよ。コマチはそうでもないから」

「だから抱きつくな。色々と………はあ…………。ほんと、法律とかなくなればいいのに」

 

 あ、目が光った。ヤマピカリャー。

 

「お兄ちゃん!」

「メノメノ〜」

「なあ、コマチ。そろそろ限界だぞ。あそこに氷の女王がいる」

「えへへへ〜」

「ダメだこりゃ」

 

 いつの間に入ってきたのか、ユキメノコが俺の背中に抱きついてきた。目の前には笑顔なのに目が笑っていない凍てつく空気を放つ氷の女王様がいた。

 あー、これマジで大ピンチなのね。

 

「お前んとこのご両親、何しにくんの?」

「知らないわ。昨日のメールの返事が今朝来ていて、もうすぐ空港に着くみたいよ。大方、あなたの品定め、といったところかしら」

「マジか………。これ詰んだくね?」

「だからこそ、あなたには頑張ってもらわないといけないわ。今、姉さんが迎えに行く準備をしているから。その間に身だしなみを整えておきなさい」

「へいへい」

 

 言うだけ言って行ってしまった。

 あの………ユキメノコは………連れて行かないのん?

 

「はあ………だる………」

 

 何言われるんだろうか。

 まあ、まずはこの目か。

 こればっかりは俺にもどうしようもないし。

 というか、マジで何しに来たのん?

 や、ポケモン協会のバックアップ、というかスポンサー、それも他の企業とは違い全体の半分くらいを出資している頭の上がらない取引先だけどさ。挨拶の一つはや二つ、しておくのが礼儀と言えばそれまでなのだが、急に来ることもなかろうに。

 多忙だとは聞くが、急に日程に空きができたからとかで決めたんだろうか。

 はあ………、何にしても今日は荒れそうだ。

 

「お兄ちゃん、目がヤバいことになってるよ」

「何を言われるのかを今から考えるだけで、目が腐るっての」

 

 仕方がないので準備を始める。

 着替えて顔洗って頭セットして、飯食って。

 ユイやイロハもソワソワしてるし、何故かヒラツカ先生まで落ち着きがない。というかナチュラルにいるよねこの人。暇なの? 研究の手伝いはどうしたよ。

 ハルノさんが迎えに行ってくると出かけてからは、そりゃもう心臓がばっくんばっくん。何を話したらいいのかも分からないし、何をすればいいのかすら分からない。

 胃が痛い。

 ディアンシーがお茶を用意してくれるが、悲しいかな、味が分からない。

 いやー、ここまで緊張したのって何年ぶりだろうか。記憶がないから分かんねぇや。まあ一つ言えるのはフレア団との戦いの方がよっぽど落ち着いていたってことだな。

 

「………先輩、書類逆さまですよ」

「あ………」

 

 応接室でみんなとハルノさんの帰りを待っている間、仕事を少しでも進めておこうと書類を幾つか持ち出してきたが。全く内容が入ってこないと思ったら、そもそも読めてなかった。うわっ……、緊張しすぎだろ。仕事が全くに手に付かんとか。重症すぎる。

 

「もう少し落ち着いてもらえないかしら? そんな状態だとまともに会話もできないと思うのだけれど」

「や、だ、だって、ききき緊張もするだろ」

「うわっ、なんかキモいです噛み噛みでキモいです」

「ねえ、なんでそこで二回も言う必要があるの? 今日はさすがにメンタル崩壊起こしちゃうよ?」

「ひ、ヒッキーがすでに弱気だ!?」

 

 げっ、下から物音が。

 絶対帰ってきたな。

 やだなー。ラスボスの登場かー。怖いなー、布団に潜りたいなー。

 

「居留守使っていいか?」

「諦めろ。わわわ私も久々に会うから緊張してるんだ」

 

 先生が震えだした。

 えーっ、今から会う人ってそんな震えあがるような人たちなのー?

 

「さあ、入って」

 

 ガチャっと扉が開かれた。

 ハルノさんの声に促されて入ってきたのは、スーツ姿の中年のおじさんとエンジュの舞妓はんが来ているような振袖? を着たマダム。

 うん、ユキノやハルノさんに似ている。これがママのんか。

 で、こっちのおじさんがパパのんね。

 

「初めまして。君がヒキガヤハチマン君かね?」

「は、はひっ! ひ、ヒキガヤハチマンでしゅ!」

 

 噛んだ。

 盛大に噛んだ。

 ユキノとイロハが笑いを堪えるのに必死だが、完全に漏れている。

 覚えてろよ、お前ら。

 

「あら、ユキノ。元気そうね」

「母さん………」

 

 ん?

 なんだ?

 さっきまでの威勢はどうしたんだ?

 

「色々話はあるのだが、まずは君の実力を見せてもらえないだろうか」

 

 すっとモンスターボールを見せてくる。

 ああ、バトルしろとね。

 なんかこっちが緊張してるの超バレバレな感じだ。

 

「……分かりました」

「あ、だが、君は強いと聞く。私と妻の二対一でも構わんかね?」

 

 二対一か。

 まあ、大丈夫だろ。

 

「構いませんけど」

「手加減はなしでよろしく頼む」

 

 手加減なしか。

 言い換えれば本気を出せと。

 

「では遠慮なくバトルさせていただきますよ」

 

 というわけで。

 挨拶がてらのバトルが決まった。

 ………一体ハルノさんは何を吹き込んだのだろうか。

 

「では、これよりヒキガヤとユキノシタのご両親とのバトルを始めます! ルールは二対一。先に全て戦闘不能になった方の負け。技の使用制限はありません。双方、準備は?」

「いつでも」

「構いませんわ」

 

 うわ、なんか先生が畏まってると違和感が半端ない。

 いつもの男らしい先生はどこへ行ってしまったのだろうか。

 

「それではバトル始め!」

「ゆけぃ、ローブシン!」

「行きなさい、ロズレイド」

 

 本気を出せということなので。

 地面を足で叩き、黒いのを呼びつける。

 

「えっ? ここでダークライ?!」

「ガチの本気だ………」

 

 すっと黒い影から出てくるダークライ。

 ユキノシタのご両親は目を見開いている。

 

「これがハルノたちが言っていた………。ローブシン、アームハンマー!」

「ロズレイド、マジカルリーフ」

 

 ローブシンが腕を振り上げ、突っ込んでくる。それを手助けするように隙間から草を操って飛ばしてきた。さすが夫婦。いいコンビネーションだ。

 だが、甘い。

 

「ダークホール」

 

 目の前に腕を振り下ろすローブシンを黒い影の中へと吸い込む。

 あの重たい体で押しつぶすためにも出口をロズレイドの真上に指定。

 だが、出てきたローブシンをギリギリ躱しやがった。

 

「あくのはどう」

 

 今度は飛びのいた先に黒いオーラを送り込み、ロズレイドを囲い尽くす。

 

「ロズレイド、はなびらのまい」

 

 動揺を一切見せないママのんが逆に怖い。

 なにあの人。魔王よりも怖いんだけど。

 

「起きろ、ローブシン!」

 

 一方で、眠ったままのローブシンにパパのんが声をかけるが起きる気配がない。

 

「ダークホール」

 

 そんなこんなしてる内に、ロズレイドの足元に黒い影を作り出し、吸い込んでいく。

 ローブシンの隣に吐き出し、仲良く眠りにつかせる。

 

「ゆめくい」

 

 これでとどめである。

 徐々に回復しているらしいダークライの力を復活させるためにも夢を食させる。これで俺の記憶も戻ってくるといいんだけど。

 

「ろ、ローブシン、ロズレイド、共に戦闘不能! よって勝者、ヒキガヤハチマン!」

 

 はい終わり。

 いやー、やっぱこいつチートだわ。眠らせるという行動不能に陥らせ、夢を食うだけで相手を倒すとか。

 

「も、もう、終わった………」

「先輩、本気出しすぎです」

「はあ………、まったく。いつ見ても反則だわ」

 

 あ、みんなして酷くね?

 手加減なしとかいう相手には本気を出すのが筋だろうが。というか礼儀だろうが。

 

「戻れ、ローブシン。いやはや強いな君は。娘二人が気に入るのもよく分かった」

 

 カカカと高笑い。

 手も足も出ない負け方をするといっそすがすがしいらしい。

 

「では、色々と話をしようか」

 

 ちょ、和やかになったと思ったら、なんなのこのプレッシャー。

 怖いよ怖い。

 あなたがたの娘たちはこんな環境で育ったんですね。そりゃ、ああもなりますわ。

 

 

 それから色々言われた。

 娘をよろしくだとか、仕事の方でもしっかりと支えていきたいとか、娘をよろしくだとか、俺はどうして強いのかとか、娘をよろしくだとか。

 どんだけ娘が心配なんだよ。

 終始ママのんは口を開かなかったが、帰り際に一言。『娘は私のものよ』だそうだ。なんだろう、すごい嫉妬の念を感じた。

 で、二人は帰った。

 帰ったはいいが、それから二週間後くらいに、今度はガハマ夫婦がやってきた。

 こちらもまた娘をよろしくだとか、ヒッキーくんかわいいとか、息子が欲しいだとか。ねえ、ここの家庭はどうして見た目と歳がかけ離れてるのん? それと胸。超遺伝だった。

 それから一ヶ月後くらいにはイッシキ家が。

 一番まともだった。特に印象がないくらいにはまともだった。なのに、どうして娘はああなってしまったのか甚だ疑問である。

 そんなこんなしてる内に、あっという間に半年が経ち、リーグ戦の予選が始まった。それまでの間にユイの誕生日や俺の誕生日がやってきたりしたが、その度に旅からみんな帰ってくるというね。しかも俺の誕生日には重大発表なんてものが行われた。ユイがコルニのところで特訓することになり、コマチが旅の途中で出会ったカヒリというプロゴルファーに勧誘され、イロハはハクダンシティとエイセツシティの間にある巨大な山にこもるとか言い出したのだ。

 止める理由もなかったので、好きにさせてみた。

 そんな彼女たちもあと一ヶ月後には本戦に顔を揃えていることだろう。

 ん? ユキノか?

 ユキノも残り一ヶ月になるやフロストケイブに向かったぞ。山ごもりをするらしい。

 で、残された俺とハルノさんとメグリ先輩でぼちぼちと仕事をしているというね。

 

 いよいよポケモンリーグの開催である。

 さてさて、どうなることやら。

 

 

 本戦出場者

 Aブロック

 

 ・ユキノシタユキノ

 ・リュウキ

 

 ・四天王

 ・イッシキイロハ

 

 Bブロック

 

 ・ヒキガヤコマチ

 ・ヒラツカシズカ

 

 ・四天王

 ・電気の船乗り(仮名称)

 

 Cブロック

 

 ・ポケウッドの名女優(仮名称)

 ・エックス

 

 ・カワサキサキ

 ・カヒリ

 

 Dブロック

 

 ・ロイヤルマスク(仮名称)

 ・お花屋さん(仮名称)

 

 ・四天王

 ・トツカサイカ

 

 Eブロック

 

 ・カワサキタイシ

 ・ツルミルミ

 

 ・ミツル

 ・ダイチ

 

 Fブロック

 

 ・パパだよ(仮名称)

 ・Saque(仮名称)

 

 ・ユイガハマユイ

 ・四天王

 

 

 え?

 なにこの仮名称の人たち。すげぇ怪しいんだけど。つか、誰だよ、仮名称でも登録可能にしたやつ。

 ったく、なにも問題が起きませんように。




追記:今週は土日が両方仕事で書いている暇がありませんでした。次回は来週更新します。


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行間

〜手持ちポケモン紹介〜 (9話現在)

 

 

ヒキガヤハチマン 持ち物:キーストーン×2(3) 菱形の黒いクリスタル etc………

・リザードン(ヒトカゲ→リザード→リザードン) ♂ 

 持ち物:リザードナイトX

 特性:もうか←→かたいツメ

 覚えてる技:かえんほうしゃ、メタルクロー、かみつく、おにび、えんまく、はがねのつばさ、かみなりパンチ、ドラゴンクロー、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、カウンター、じしん、フレアドライブ、ブラストバーン、げきりん、じわれ、だいもんじ

 飛行術

 ・ハイヨーヨー:上昇から下降

 ・ローヨーヨー:下降から上昇

 ・トルネード:高速回転

 ・エアキックターン:空中でターン

 ・スイシーダ:地面に叩きつける

 ・シザーズ:左右に移動して撹乱

 ・ソニックブースト:ゼロからトップに急加速

 ・コブラ:急停止・急加速

 ・ブラスターロール:翻って背後を取る

 ・グリーンスリーブス:連続で攻撃して空中に釣り上げる

 ・デルタフォース:空中で大きな三角形を描くように連続攻撃

 ・ペンタグラムフォース:空中で五芒星を描くように連続攻撃

 

・ゲッコウガ(ケロマツ→ゲコガシラ→ゲッコウガ) ♂

 特性:きずなへんげ(へんげんじざい→きずなへんげ)

 覚えてる技:みずのはどう、あなをほる、かげぶんしん、れいとうパンチ、れいとうビーム、つばめがえし、ハイドロポンプ、くさむすび、グロウパンチ、えんまく、がんせきふうじ、いわなだれ、まもる、かげうち、みずしゅりけん、どろぼう、つじぎり、ハイドロカノン、めざめるパワー(炎)、とんぼがえり、とびはねる、ほごしょく、けたぐり、ぶんまわす、あくのはどう

 

・ジュカイン(キモリ→ジュプトル→ジュカイン) ♂

 持ち物:ジュカインナイト

 特性:???←→ひらいしん

 覚えてる技:リーフストーム、リーフブレード、ドラゴンクロー、タネマシンガン、ギガドレイン、かみなりパンチ、スピードスター、くさむすび、ソーラービーム、エナジーボール、シザークロス、くさのちかい、マジカルリーフ、タネばくだん、こうそくいどう、つめとぎ、いやなおと、こうごうせい、くさぶえ、やどりぎのタネ、グラスフィールド、なやみのタネ、ハードプラント、つばめがえし

 

・ヘルガー ♂

 持ち物:ヘルガナイト

 特性:もらいび

 覚えてる技:かみつく、ほのおのキバ、ふいうち、おにび、かえんほうしゃ、かみくだく、れんごく、ほえる、はかいこうせん、アイアンテール、あくのはどう、みちづれ

 

・エンテイ

 覚えてる技:だいもんじ、ふみつけ、せいなるほのお

 

野生

・ダークライ

 特性:ナイトメア

 覚えてる技:ダークホール(ブラックホール)、おにび、ゆめくい、あくのはどう、かげぶんしん、ふいうち、さいみんじゅつ

 催眠術で乗っ取ったポケモン

 ・オニドリル(フレア団)

  使った技:きりばらい

 

・ディアンシー

 持ち物:ディアンシナイト

 覚えてる技:ダイヤストーム、マジカルシャイン、ムーンフォース

 

一時手持ち

・ボスゴドラ ♂

 覚えてる技:ロックブラスト、あなをほる、なげつける、メタルクロー、アイアンヘッド、アイアンテール、てっぺき、メタルバースト、ボディパージ

 

 

ユキノシタユキノ 持ち物:キーストーン etc………

・オーダイル(ワニノコ→アリゲイツ→オーダイル) ♂

 特性:げきりゅう

 覚えてる技:アクアテール、アクアジェット、ドラゴンクロー、れいとうパンチ、ハイドロポンプ、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、げきりん、カウンター、ハイドロカノン、ドラゴンテール、めざめるパワー(電)、ゆきなだれ

 

・ギャロップ ♀

 覚えてる技:ほのおのうず、だいもんじ

 

・ユキメノコ ♀

 覚えてる技:れいとうビーム、みずのはどう、10まんボルト、シャドーボール、めざましビンタ、ふぶき

 

・ボーマンダ ♂

 持ち物:ボーマンダナイト

 特性:いかく←→スカイスキン

 覚えてる技:そらをとぶ、ドラゴンダイブ、ハイドロポンプ、つばめがえし、だいもんじ、かみなりのキバ、いわなだれ、ドラゴンテール、ハイパーボイス、げきりん、ギガインパクト、りゅうせいぐん、ねむる、ねごと

 

・クレセリア ♀

 特性:ふゆう

 覚えてる技:サイコキネシス、みらいよち、チャージビーム、くさむすび、シグナルビーム、ムーンフォース、サイコシフト

 

控え

・ペルシアン ♂

 覚えてる技:きりさく

 

・マニューラ ♂

 覚えてる技:つじぎり、こおりのつぶて

 

・フォレトス

 特性:がんじょう

 覚えてる技:こうそくスピン、ジャイロボール、パワートリック、ボディパージ、リフレクター、だいばくはつ

 

・エネコロロ ♀

 覚えてる技:メロメロ、ソーラービーム、でんげきは、ハイパーボイス、れいとうビーム

 

・ニャオニクス ♀

 特性:すりぬけ

 覚えてる技:エナジーボール、シグナルビーム、サイコキネシス、シャドーボール、チャージビーム、みらいよち、なりきり

 

 

ユイガハマユイ

・グラエナ(ポチエナ→グラエナ) ♂ サブレ

 特性:いかく(にげあし→いかく)

 覚えてる技:こおりのキバ、かみなりのキバ、アイアンテール、とっしん、ふいうち、じゃれつく、どろかけ

 

・ハリボーグ(ハリマロン→ハリボーグ) ♂ マロン

 覚えてる技:タネマシンガン、つるのムチ、やどりぎのタネ、ころがる、ドレインパンチ、まるくなる

 

・ドーブル ♀ マーブル

 覚えてる技:スケッチ、おにび、ハードプラント、ダークホール、こらえる、がむしゃら、いわなだれ、ハイドロポンプ

 

・ウインディ ♂ クッキー

 特性:もらいび

 覚えてる技:ほのおのキバ、バークアウト、ニトロチャージ、りゅうのいぶき、かみなりのキバ、しんそく、にほんばれ、だいもんじ

 

・リオル ♂ シュウ

 

 

ヒキガヤコマチ 持ち物:キーストーン、プテラナイト

・ニャオニクス ♂ カマクラ/カーくん

 特性:するどいめ

 覚えてる技:サイコキネシス、ひかりのかべ、、リフレクター、でんげきは、てだすけ、なりきり、ふいうち

 

・カメックス(ゼニガメ→カメール→カメックス) ♂ カメくん

 持ち物:カメックスナイト

 特性:げきりゅう

 覚えてる技:みずのはどう、はどうだん、りゅうのはどう、こうそくスピン、からにこもる、ロケットずつき、ハイドロポンプ、ふぶき、ミラーコート、ドラゴンテール

 

・カビゴン ♂ ゴンくん

 特性:めんえき

 覚えてる技:メガトンパンチ、のしかかり、じしん、いわくだき、ほのおのパンチ、しねんのずつき、ギガインパクト、かみなりパンチ、ふきとばし

 

・プテラ ♂ プテくん

 覚えてる技:はかいこうせん、ストーンエッジ、はがねのつばさ、つばさでうつ、ちょうおんぱ、ものまね、ドラゴンクロー

 

・キバゴ ♂ キーくん

 

 

イッシキイロハ 持ち物:キーストーン

・マフォクシー(フォッコ→テールナー→マフォクシー) ♀

 特性:もうか

 覚えている技:かえんほうしゃ、ほのおのうず、ソーラービーム、にほんばれ、ワンダールーム、スキルスワップ、メロメロ、ニトロチャージ、マジカルフレイム、シャドーボール、ブラストバーン、だいもんじ

 

・フライゴン(ナックラー→ビブラーバ→フライゴン) ♂

 特性:ふゆう(ちからずく→ふゆう)

 覚えている技:ギガドレイン、かみくだく、むしくい、じならし、すなじごく、がんせきふうじ、りゅうのいぶき、ばくおんぱ、だいちのちから

 

・ヤドキング ♂(校長からの贈り物)

 覚えてる技:サイコキネシス、みずでっぽう、パワージェム、まもる、うずしお、ずつき、トリックルーム、シャドーボール、でんじほう、かえんほうしゃ、きあいだま、いやしのはどう

 

・デンリュウ(モココ→デンリュウ) ♀

 持ち物:デンリュウナイト

 覚えてる技:ほうでん、シグナルビーム、わたほうし、コットンガード、エレキネット、でんじは、パワージェム、でんじほう、アイアンテール、りゅうのはどう、こうそくいどう、じゅうでん

 

 

ザイモクザヨシテル

・ポリゴンZ(ポリゴン→ポリゴン2→ポリゴンZ)

 特性:てきおうりょく(トレース→てきおうりょく)

 覚えてる技:トライアタック、でんじほう、ロックオン、じこさいせい、れいとうビーム、かえんほうしゃ、はかいこうせん、テクスチャー2、こうそくいどう、でんじは、かげぶんしん、テクスチャー

 

・エーフィ(イーブイ→エーフィ) ♀

 特性:シンクロ(てきおうりょく→シンクロ)

 覚えてる技:でんじほう、サイコキネシス、はかいこうせん

 

・ジバコイル

 特性:じりょく

 覚えてる技:でんじほう、ロックオン、ジャイロボール、エレキフィールド、かげぶんしん

 

・ダイノーズ ♂

 覚えてる技:でんじほう、ロックオン、マグネットボム、てっぺき

 

・ロトム

 特性:ふゆう

 覚えてる技:ほうでん

 

・ギルガルド(ヒトツキ→ニダンギル→ギルガルド)

 特性:バトルスイッチ

 覚えてる技:てっぺき、きりさく、つばめがえし、せいなるつるぎ、ラスターカノン、つじぎり、キングシールド

 

 

トツカサイカ 持ち物:キーストーン etc………

・ニョロボン ♂

 覚えてる技:ハイドロポンプ、グロウパンチ、どくづき、さいみんじゅつ、れいとうパンチ、カウンター、アイスボール

 

・トゲキッス(トゲチック→トゲキッス) ♀

 覚えてる技:マジカルシャイン、つばめがえし、てんしのキッス、ゆびをふる、はどうだん、サイコショック、はがねのつばさ、でんげきは、ソーラービーム、やきつくす、でんじは、にほんばれ、ひかりのかべ、あさのひざし

 

・クロバット ♂

 覚えてる技:クロスポイズン、ねっぷう、エアカッター、アクロバット、ギガドレイン、しねんのずつき、はがねのつばさ、ブレイブバード、わるだくみ、あやしいひかり

 

・ミミロップ ♀

 持ち物:ミミロップナイト

 特性:じゅうなん←→きもったま

 覚えてる技:とびひざげり、ほのおのパンチ、シャドーボール、たがやす、ミラーコート、とびはねる、からげんき、スカイアッパー、グロウパンチ、ともえなげ、おんがえし、こうそくいどう、かげぶんしん

 

・ホルビー ♂

 覚えてる技:マッドショット、あなをほる、ワイルドボルト、でんこうせっか、とびはねる、こうそくいどう、かげぶんしん

 

・マンムー ♂

 覚えてる技:こおりのつぶて、とっしん、のしかかり、つららおとし

 

控え

・ハピナス ♀

 覚えてる技:タマゴうみ、ちいさくなる、いやしのはどう

 

 

ユキノシタハルノ

・カメックス ♂

 覚えてる技:ハイドロポンプ、ハイドロカノン、じわれ、しおふき、あまごい、まもる

 

・ネイティオ ♀

 覚えてる技:みらいよち、サイコキネシス、つばめがえし、リフレクター、まもる

 

・メタグロス

 覚えてる技:サイコキネシス、ラスターカノン、はかいこうせん

 

・ハガネール ♂

 覚えてる技:アイアンテール、アクアテール、りゅうのいぶき、がんせきふうじ、じわれ、かみくだく

 

・バンギラス ♂

 持ち物:バンギラスナイト

 特性:すなおこし←→すなおこし

 覚えてる技:いわなだれ、じしん、かみくだく、はかいこうせん、なみのり、ストーンエッジ、かみなり、げきりん

 

・ゾロアーク ♂

 特性:イリュージョン

 覚えてる技:ナイトバースト

 

控え

・パルシェン ♂

 覚えてる技:からにこもる、シェルブレード、こうそくスピン、ゆきなだれ、からをやぶる

 

・ドンファン ♀

 覚えてる技:たたきつける、ころがる、まるくなる、じわれ、かみなりのキバ、タネばくだん、こおりのつぶて

 

 

シロメグリメグリ 持ち物:キーストーン etc………

・フシギバナ ♀

 持ち物:フシギバナイト

 特性:???←→あついしぼう

 覚えてる技:はっぱカッター、じしん、つるのムチ、リーフストーム、ヘドロばくだん、どくのこな、ハードプラント

 

・エンペルト ♀

 覚えてる技:ハイドロポンプ、はがねつばさ、アクアジェット、ドリルくりばし、れんぞくぎり、くさむすび、つめとぎ、てっぺき、きりばらい

 

・サーナイト(色違い) ♀

 特性:トレース

 覚えてる技:サイコキネシス、マジカルシャイン、リフレクター、マジカルリーフ、ムーンフォース、テレポート

 

・メタモン

 覚えてる技:へんしん

 変身したポケモン

 

・グレイシア ♀

 

 

カワサキサキ 持ち物:ヒコウZ

・ニドクイン ♀

 覚えてる技:ポイズンテール、つのドリル、ばかぢから、ヘドロばくだん、ストーンエッジ、じわれ、すなあらし

 

・ガルーラ ♀

 覚えてる技:みずのはどう、10まんボルト、ブレイククロー、はかいこうせん

 

・ハハコモリ ♀

 覚えてる技:リーフブレード、リーフストーム、しぜんのちから、ほごしょく、こうそくいどう、シザークロス、はっぱカッター、いとをはく、エレキネット

 

・オニドリル ♂

 覚えてる技:ドリルくちばし、はがねのつばさ、ねっぷう、こうそくいどう、はかいこうせん、ゴッドバード

 

・ゴウカザル ♂

 特性:もうか

 覚えてる技:フレアドライブ、かえんほうしゃ、じしん、ストーンエッジ、いわなだれ、かみなりパンチ、マッハパンチ、かげぶんしん、みがわり、インファイト、ほのおのパンチ、ブレイズキック

 

 

カワサキケイカ

野生

・ゴースト ♂

 

・カゲボウズ ♀

 

・ボクレー(色違い) ♂

 

 

ヒラツカシズカ 持ち物:キーストーン(研究所からの借り物) etc………

・カイリキー ♂

 覚えてる技:ばくれつパンチ、どくづき

 

・サワムラー ♂

 覚えてる技:メガトンキック、とびひざげり、ブレイズキック

 

・エルレイド(ラルトス→キルリア→エルレイド) ♂

 持ち物:エルレイドナイト

 覚えてる技:テレポート、サイコカッター、かみなりパンチ、インファイト

 

 

サガミミナミ

・メガニウム ♀

 覚えてる技:ソーラービーム、にほんばれ、つるのムチ、じならし、くさのちかい、しぼりとる、こうごうせい、ひかりのかべ

 

・フローゼル ♂

 特性:すいすい

 覚えてる技:アクアテール、かわらわり、れいとうパンチ、みずでっぽう、アクアジェット、スピードスター、あまごい

 

・エモンガ ♀

 特性:せいでんき

 覚えてる技:でんげきは、ボルトチェンジ、アクロバット、でんこうせっか、ほうでん、でんじは、かげぶんしん

 

・ルリリ ♀

 特性:そうしょく

 覚えてる技:こごえるかぜ、あわ、うそなき、はねる、まるくなる

 

・ドクロッグ ♂

 特性:きけんよち

 覚えてる技:ずつき、ダブルチョップ、ねこだまし、どくづき、バレットパンチ、ヘドロばくだん、どろばくだん、ドレインパンチ、みがわり、はたきおとす

 

 

オリモトカオリ

・バクフーン(マグマラシ→バクフーン) ♂

 覚えてる技:ふんか、でんこうせっか、かわらわり、かえんほうしゃ、かえんぐるま

 ダーク技:ダークラッシュ

 

・オンバーン ♂

 覚えてる技:りゅうのはどう、ばくおんぱ

 

・バクオング ♂

 覚えてる技:みずのはどう

 

・ニョロトノ ♂

 特性:しめりけ

 覚えてる技:ハイドロポンプ、アイスボール

 

・コロトック ♀

 覚えてる技:シザークロス

 

 

ナカマチチカ

・ブラッキー ♀

 覚えてる技:あくのはどう

 

・トロピウス ♂

 覚えてる技:ぎんいろのかぜ、エアスラッシュ

 

・レントラー ♂

 覚えてる技:かみなりのキバ

 

 

パパのん

・ローブシン ♂

 覚えてる技:アームハンマー

 

 

ママのん

・ロズレイド ♀

 覚えてる技:マジカルリーフ、はなびらのまい

 

 

ジム関係

イブキ

・キングドラ ♀

 覚えてる技:りゅうのいぶき、ハイドロポンプ、げきりん、こうそくいどう

 

・ギャラドス ♀

 特性:いかく

 覚えてる技:ハイドロポンプ、たきのぼり、はかいこうせん、りゅうのまい

 

・ハクリュー ♀

 覚えてる技:アクアテール、りゅうのいぶき、げきりん、でんじは

 

・クリムガン(色違い) ♂

 特性:さめはだ

 覚えてる技:りゅうのいかり、きりさく、ドラゴンテール、げきりん

 

 

ビオラ

・アメタマ

 覚えてる技:れいとうビーム、シグナルビーム、バブルこうせん、まもる

 

・ビビオン

 覚えてる技:ソーラービーム、かぜおこし、サイコキネシス、ねむりごな、ふんじん

 

 

パンジー

・オンバーン

 覚えてる技:りゅうのはどう、かぜおこし、ばくおんぱ、ちょうおんぱ

 

・エリキテル エリちゃん

 



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9〜10話

先週は忙しくて投稿できませんでした。その分、今後の展開を考える時間ができたので、リーグ開催の前に一話挟むことにしました。タイトルからもお分かりでしょうが、他の人たちです。


「ユイさん、どうして一緒に特訓しようだなんて言ったか分かってます?」

「ええっ? そ、それは………打倒ヒッキー、だから?」

「そうですね。確かに打倒ハチマンという思いは同じ。でもそれだとイロハたちも呼ばないと公平じゃないでしょ」

「そ、そうだよねー………たははっ」

 

 ハチマンの誕生日。

 その日、あたしはユイさんを鍛え上げることを宣言した。

 フレア団事件のせいで旅が途中になっていたユイさんたちが、ポケモンリーグに参加するためにもう一度ジム戦巡りをすることになり、今度はあたしもジムリーダーとしてバトルしたことはいい思い出である。というかハチマンって本当に何者なの? なんでいきなりカロスポケモン協会の理事になってるの? もうリーグ開催まで三か月ないってのに、全く分からない。

 で、現在。

 ジムバッジを八個揃えたユイさんを鍛え上げるためにシャラシティに来てもらっている。

 や、ポケモンリーグにあたしたちジムリーダーが参加できないわけじゃないけど、手持ちが六体もいないし、本選への切符を握っている砦の一人だしで、参加する気にならなかったのだ。でもハチマンを倒したいのは事実。あの腹立つニヤケ面を崩させたい。だから今こうして布石を打っているわけだ。布石はユイさんだけじゃない。エックスというハチマンを子どもの頃に戻したような捻くれた少年も参加させることにした。あっちはメガシンカを使いこなしている。正直、五体同時のメガシンカの話を聞いた時には驚いた。だけど、それだけの実力を持っている。だからそっちにも賭けることにした。

 

「ね、あたしの仕事は?」

「ジムリーダーでいいんだよね。仕事って」

「うんうん、それじゃあ専門タイプは?」

「かくとうタイプ」

「うんうん」

「……えっと、それが何か関係あるの?」

「あるよ、大有りだよ! ユイさんにはかくとうタイプの技を伝授しようと思ったの」

 

 なんでそこまで来て答えにたどり着かないの!?

 

「えっと、コルニちゃん? あたし、かくとうタイプなんてマロンとシュウだけなんだけど。他の子達は特訓してくれないの?」

「チッチッチッ。甘い、甘いですよ! ユイさんのポケモンはブリガロンにルカリオ、グラエナ、ドーブル、ウインディ、そしてブルー。どれもかくとうタイプの技を覚えることができるポケモン。加えてハチマンのポケモンは気づけばあくタイプが割と多い。かくとう技を磨かない理由がないですよ!」

 

 イロハ、コマチ、ユイさんの三人の中からユイさんを選んだ理由。それは彼女のポケモンが皆何かしらのかくとうタイプの技を覚えるからだ。あたしの専門はかくとうタイプだし、ハチマンに挑むには全員を鍛え上げても足りないくらい。それにイロハやコマチのバトルスタイルはあたしには合っていない。教えられそうにもないのだ。それよりもまだバトルスタイルが確立していない、だけど実力はどんどん上げているユイさんになら、あたしも教えられることがある。だから鍛えるのだ。

 

「そ、そうなんだ………」

「と、いうわけで! 早速バトルしますよ!」

「え、ええ〜」

「………ハチマンに勝ちたくないの?」

「……わかった、やる………」

 

 ハチマンに勝つ。どうやら彼の周りにいる者は一つの目標になっているようだ。ハチマンの誕生日にはユイさんだけじゃなくて、コマチやイロハも修行をしてくるって言ってたし。だからこそ、ユイさんがハチマンとバトルするまで勝たせるように鍛えなければ。いや、優勝を絶対視するくらいの気持ちでやらないとハチマンには勝てないか。だって、人の夢に割り込んでこれるような奴だし………。

 ああああああああっーーー!!!

 思い出したら恥ずかしくなってきた。なんなのさ、なんなのさ! あんな、あんな………。

 ………誰も信じられなくなって、「内側」に閉じこもってたあたし一人の世界にあっさりと入ってくるとか、そんなのずるい。ずるすぎる。

 

「コルニちゃん? 顔赤いよ?」

「だだだ大丈夫っ! ちょっとハチマンのニヤケ面を思い出してただけ!」

「あー、ヒッキーのニヤケ顔ってキモいよねー」

 

 キモいよねー、とか言いながらも絶対にキモいとは思ってなさそう。というかハチマンの場合、目がアレだからちょっとキモいくらいで今更なのかもしれない。

 

「ルカリオ!」

「ルガッ」

「ルカリオ………、最初から本気なんだね。ルカリオはかくとう・はがねタイプ。マロンかクッキー……波導に要注意だから、ここは素早いクッキー、行くよ!」

 

 自分も連れているポケモンだからか、しっかりと知識を蓄えているみたい。

 うんうん、やっぱりユキノさんが育てただけあるよね。

 

「ルカリオ、グロウパンチ!」

 

 まずは挨拶。

 

「クッキー、ニトロチャージで躱して!」

 

 対してユイさんはウインディに炎を纏わせ加速させてきた。

 

「だいもんじ!」

 

 反転して態勢を整えたウインディがルカリオの背中目掛けて大の字の炎を繰り出してくる。

 バトルが流れるように展開してきた。初めてバトルした時よりも、自信? みたいなものを感じる。

 

「ボーンラッシュ!」

 

 振り返るルカリオに武器を持たせる。短い骨だが二刀流でクロスさせて大の字を叩き斬った。

 

「はどうだん!」

「クッキー、ほのおのキバ!」

 

 あ、ここは躱すと思ってた。

 なんかハチマンみたいな対処の仕方だ。

 

「ルカリオ、波導を強めて!」

 

 波導を圧縮して作り出した弾丸をウインディが大きなキバで受け止めている。そこにさらに波導を送り込み弾丸を膨らませた。

 

「く、クッキー?!」

 

 何とか食い止めていたウインディだったが、力押しには敵わなかったようだ。よし、やるならここだ。

 

「ルカリオ、インファイト!」

 

 吹き飛んでいったウインディに一気に詰め寄り、両手両足にパワーを溜め込ませる。

 連続で殴りつけ、一部の反撃の隙も与えない。それがかくとうタイプの真髄、インファイトである。

 

「クッキーィィィ!?!」

 

 メガシンカしなくとも相手を戦闘不能にしてしまうこともある強力な技。これをユイさんにも教えようと考えたのだ。調べたらグラエナとブリガロン以外は覚えるんだとか。覚えないグラエナとブリガロンも他のかくとう技を覚える。だからあたしの知識をすべて教えるつもりだ。

 

「ユイさん、この技、インファイトを伝授してあげる。フルパワーで攻撃するから使った後は隙が生まれるけど、その部分の対応もしっかりと考えてあるから」

「コルニちゃん」

「あたしのすべて、受け取ってよね!」

「うん!」

 

 これでいい。これであいつのニヤケ面を崩せる。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 コマチは今、カヒリさんという女性に鍛えてもらっている。何でもアローラ地方で強いトレーナーらしい。まあ、それだけだったらコマチはこの人に鍛えてもらおうだなんて思わなかった。

 カヒリさんはなんとZ技という技を強化する手法を持っているのだ。しかも極めつけはゴンくんーーカビゴンの真の力を引き出す手段を知っていると言い出したのだ。そんなのついていかないわけないじゃん。なんて思ってたら、イロハさんもユイさんもそれぞれ鍛えることになっちゃってるし。みんなもやっぱり本気なんだって実感した。

 というかお兄ちゃんってばいつの間にかポケモン協会のトップになっちゃってるし。

 カロスに来てからお兄ちゃんがどういうトレーナーだったのかようやく見えてきた気がする。別にお兄ちゃんの旅の話を聞いたことがないわけではない。だけど、聞いたのはどんなバトルをしたとか、リザードンがどんな技を覚えたかとか。お兄ちゃんのことだから人とのつながりはないと思ってたし。なのに、それはお兄ちゃんの記憶がなくなっていただけの話で、有名人たちと知り合いだった。つまりは記憶がなくなるほどの力を使ったということ。

 想像しただけで怖い。フレア団とのお兄ちゃんの戦いっぷりを見てきたから余計に怖い。折角旅の途中に思い出した記憶も全部忘れちゃってるし。あ、ハルノさんがチャンピオンだった時のバトルは思い出したとか言ってたっけ。

 まあ、永久的に記憶が戻らないわけじゃない。コマチとの思い出もいつか思い出してくれる。だけど、それじゃあダメな気がする。

 もっともっと強く。お兄ちゃんを守れるくらい強くならないと、あの捻デレは一人で何とかしちゃう。また一人で背負わせることになっちゃう。だからコマチも含めて、みんなポケモンリーグに参加するつもりだ。

 

「コマチ、早速これ、使ってみて」

「これは………」

 

 なんて意気込んでいたらカヒリさんがキレイな………石? を出してきた。台座のようなところにはひし形の結晶のようなものがはまっている。確かサキさんが持っていたような………。

 

「Z技を使うのに必要だから、あなたにあげるわ」

「い、いいんですか?」

「ええ、そのつもりだったから。わたしはカビゴンを連れていない。そのクリスタルを持っていても仕方ないわ」

 

 カビゴンを連れてないからって理由でこんなものをくれちゃうとか、この人すごすぎだよ。

 

「……早速、バトルしましょうか」

「はい!」

「ドデカバシ」

「ゴンくん!」

 

 早速Z技を使ってみよう。

 あ、もうメガシンカの時みたいに暴走させたりはしないから。ちゃんとカメくんがハイドロカノンを撃てるようになってからメガシンカさせたし、コルニさんからのお墨付きももらった。今ではプテくんもメガシンカを安定してできるようになっている。大変だったけど、その分達成感はすごかったよ。

 だからZ技も絶対使いこなしてみせる! どうやって使うのか知らないけど!

 

「って、寝ちゃってるよ………」

 

 はあ………、たまにボールから出してもずっと寝てるのがゴンくんの難点なんだよねー。これ、ほんとにどうすればいいんだろうね。一応、寝ながら攻撃できるように技を覚えさせたけどさー。酔拳的なやつ。でもやっぱり起きてバトルしてくれた方がコマチとしてもありがたいんだけどなー。

 

「ドデカバシ、タネマシンガン」

 

 およ、早速攻撃してきた。

 種がゴンくんの柔らかいおなかに当たって弾いちゃってる。

 

「ゴンくん、いびき!」

 

 ひゃーっ………。

 いつ聞いても耳が痛いよ。もう、ぐっすり寝ちゃって。ゴンくんのバカ、ボケナス、ハチマン!

 

「ドデカバシ、いやなおと」

 

 うひゃー、この人相当強いよ。

 いびきがかき消されちゃった。

 

「くちばしキャノン」

「ゴンくん、ねごと!」

 

 ねごとは寝てても攻撃ができる。寝ぼけたように技を使うから、何を使うかは分からないところが扱いの難しいところだ。

 

「すでに覚えていたのね。覚えさせる手間が省けたわ」

 

 ギガインパクト。

 ゴンくんが寝ぼけて出した技は、最強の技だった。

 もう、なんで寝ながらそんな技出せちゃうかなー。それよりもちゃんと起きてほしいよ。

 

「躱して攻撃よ」

 

 ど、ドデ………なんだっけ。

 ま、いいや。鳥ポケモンがあっさりとゴンくんの猛突進を上昇して躱しちゃった。それだけでなく、がら空きの背中を狙って突っ込んでいく。くちばしで突こうとしてるのかな………。

 

「ゴンくん、裏拳でかみなりパンチ!」

 

 うーん、やっぱり無理か………。うつ伏せのまま寝ちゃってるよ。

 今日はバトルする気分じゃないんだろうなー。

 

「ンガァっ!?」

 

 くちばしによる連続攻撃。

 あんな技あったんだ。

 さすがのゴンくんも目が覚めたみたい。

 

「って、また寝ちゃうの?!」

 

 二度寝とかやめてよ!

 

「ゴンくん、本気を出しなさい!」

 

 ゴロゴロと転がってきたゴンくんのお腹をぺちぺちと叩く。うーん、反応ないや。それなら………。

 

「よっこいせ」

 

 仕方がないので、ゴンくんのお腹によじ登った。弾力があって気持ちいい。………じゃなくて、ちゃんと起きてもらわないと。

 

「起きて、ゴンくん」

 

 お腹の上で仁王立ち。げしげしと足でお腹を踏んでみても反応がない………?

 

「ンガァ!」

「うひゃっ!?」

 

 なんでこんなに時間差があるのさ。

 おかげでバランス崩しちゃってこけ………ちょ、ほんとにこけそう!

 

「あわわわわっ!」

 

 なんかバランスを立て直そうと変なポーズを取っちゃってるよ。お兄ちゃんがいなくてよかった。絶対笑われてたよ。

 

「えっ?」

 

 何とか耐えきったら、さっきカヒリさんがくれたキレイな石が光っていた。

 えっ? なに? なんなの?

 

「ンガァァァ!」

「ゴンくん?!」

 

 むくりと起き上がるゴンくん。ちゃんとコマチを掴んで地面に降ろしてくれた。

 どしちゃったの、ゴンくん。いきなり紳士的すぎない?

 

「ドデカバシ、私たちも」

「バーシ!」

 

 カヒリさんが変なポーズを取り始めると取りポケモンの方も同じようにポーズをとっている。あ、これZ技だ。カヒリさんの腕のキレイな石が光ってるもん。ってことはゴンくんが起き上がったのもZ技なの?

 

「ファイナルダイブクラッシュ!」

 

 よーし、だったらこっちも本気でやっちゃえ!

 

「ゴンくん、ほんき出しちゃえー!」

 

 こんなゴンくんじゃない、と思っちゃうくらい身軽に突進していき、急停止したかと思うと急上昇していった鳥ポケモンを追いかけるように地面を蹴り上げた。

 わーお、巨体がジャンプしたよ。

 

「ギガインパクトみたい………」

「ギガインパクトよ。ギガインパクトを覚えたカビゴンだけが使えるZ技。なぜ特定の技を覚えていないと使えないのかは解明されていないけど」

 

 そっか、だからカヒリさんはコマチにZ技を使えるようにしてくれたんだ。というかZ技にも特定の条件とかが必要だったりするんだね。

 うん、でも。

 これでまたコマチも強くなれる。お兄ちゃんがまだ使ったことのない? Z技をコマチはモノにしてみせるよ。

 待っててね、お兄ちゃん。コマチ、みんなと強くなって帰るから! だから帰ったらいっぱいキスしてね!

 

「カヒリさん、もう一度お願いします!」

「ええ、何回でも相手してあげるわ」

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 ピンチっす!

 なんかいきなりピンチっす!

 クリムガンが三体同時に出てくるとか聞いてないっすよ!

 ポケモントレーナーが修行のために訪れる山だって聞いてきたってのに。野生のポケモンが強すぎっす!

 

「ストライク、シザークロス! ヘラクロス、メガホーン!」

 

 ひとまず応戦してるっすけど、無理っす。俺にトリプルバトルとか無理っす。ダブルバトルが限界っすよ。マジで誰か助けてくださいっす!

 

「ストライク、ヘラクロス、逃げるっすよ!」

 

 二体のクリムガンが怯んだ隙に逃げに徹してもまだあと一体いるんすよね。

 

「ヘラクロス、戻るっす。サーナイト、ねんりき!」

 

 捕まえてまだ日が浅いヘラクロスをボールに戻し、キルリアから進化したサーナイトをボールから出したっすけど、なんかリフレクターが効いてないっすよ。

 

「ストライク、シザークロス!」

「クリガァァッ!!」

 

 尻尾で受け止められて、逆に吹き飛ばされてきたっす。

 って、ストライクやられちゃってるじゃないっすか!?

 

「や、ヤバいっす。後ろの二体も起きてきたっす………」

 

 ああ、俺ここで死ぬかもっす。姉ちゃん、ごめん………。

 

「うわぁぁあああああああっ!? 戻れストライク! サーナイト、リフレクター!」

 

 いやっす、いやっす! 俺はまだ死にたくないっす!

 

「なんでそこで壊れるっすかー!? サーナイト、もう一度ねんりき!」

 

 リフレクターがいとも簡単に砕かれたっす。

 それにしてもあの三体のクリムガン、コンビネーション良すぎるっすよ。なんなんすか、あの動き! 一番前が攻撃を防いで二番目が道を開いて最後の一体が飛びかかってくる。それのローテンションとかもう誰かに命令されてるとしか思えないっすよ!

 

「あ、灯り………って、誰かいる」

 

 こっちに気づいてないみたいだし………。このまま進んでいけばあの人も巻き込んでしまうっす。お兄さん、こんな時どうすればいいっすか!?

 って、お兄さんがいないから聞いたって無駄っすね。

 

「あ、そ、そこの人、逃げるっす! クリムガン三体が追いかけてきてるっす!」

 

 俺にはもうどうすることもできないっす。唯一できるのはこの人に注意を喚起して、一緒に逃げることくらいっすかね。

 

「デンリュウ、ヤドキング」

 

 えっ?

 

「えっ? ちょ、何してるっすか?!」

 

 その人の横を走り抜けようとするといきなりポケモンを出してきたっす。しかもこの声、女の人。

 ………まさかこの人やるつもりなんすか?

 

「レールガン」

 

 デンリュウとヤドキングがボールから出てきて早々、電気を溜め始めたかと思うと、一閃を描いたっす。なんか見たことあるようなないような技っすね。

 クリムガンたちに命中したらしく、土煙が上がり、それでもまだ一体のクリムガンが土煙の中から出てきたっすよ。この人もすごいけど、あのクリムガンも相当の強者っす。

 

「フカマル」

 

 いつの間に出したんすか?!

 と思ったらどこにもいないっす。

 

「フガッ!」

 

 あ、地面から出てきたっす。

 まさかあなをほるで地面に隠れていたとは………。

 そのままフカマルは腕を振り上げたクリムガンに突撃していき、天井にクリムガンの身体を突き上げたっす。まだ進化前のポケモンなのにあのクリムガンをやすやすと怯ませるなんて、すごすぎっすよ。

 

「サーザッ!」

「ンバーン!」

 

 ひぇぇ、また新しい野生のポケモンが出てきたっす。今度は退路を塞がれたっすよ! どうするんすか!

 

「へー、ここって野生のポケモンが超攻撃的なんだ。これはちょっとヤバいかも。少年くん、逃げるよ」

「へっ? に、逃げるってどうやるんすか!?」

 

 こんな状況でどうやって逃げる気なんすか。お兄さんじゃあるまいし。や、お兄さんでも無理………はないっすね。あの人なら出てくる野生のポケモンを全部倒してもおかしくないっす。

 

「デンリュウ、ヤドキング、戻って。フライゴン」

 

 デンリュウとヤドキングをボールに戻すと、女の人はまた新しいポケモンを出してきたっす。

 フライゴン、ということは背中に乗れってことっすか?

 

「フカマル、少年くん、いくよ!」

「フガッ!」

「は、はいっす! サーナイト、戻るっす!」

 

 女の人に促されて、差し出された手を掴んでフライゴンの背中に跨ると、サーナイトをボールに戻す。

 

「フライゴン、りゅうのいぶき。フカマル、りゅうのいかり」

 

 行く手を阻むのはさ、さささサザンドラ!? マジっすか!? それにオンバーンまでいるっす!

 ひぇぇぇ、こんなとこくるんじゃなかったっす!

 

「少年くん、出口見えてきたよ」

「えっ?」

 

 身を丸めていたらいつの間にか出口にたどり着いていたみたいっす。

 すげぇ、この人すごすぎっす。あの有象無象が蔓延る中を淡々っと切り抜けてきちゃったっすよ。

 

「って、あれ………? もしかして、カワサキ先輩の弟くん?」

「へっ? あっ! お兄さんのとこにいた!」

 

 顔を上げて彼女の顔をよく見てみると、なんと!

 見たことある顔っす!

 お兄さんのところにいた、ヒキガヤさんのお友達の………名前なんだったすかね。思い出せないっす。

 

「か、カワサキタイシっす!」

「イッシキイロハだよ。よろしくね!」

 

 うっ、この人かわいすぎっす。なんなんすか、この可愛さ!

 で、でも、俺にはヒキガヤさんという太陽のような女の子が……………ああ、でもこの人も眩しいっす。

 

「って、また囲まれてるっすよ!?」

「ふぅ、しょうがないね。さ、降りた降りた」

「こ、今度はどうする気なんすか!?」

 

 洞窟の外に出てこられたっていうのに、いつの間にかオニスズメやオニドリルに囲まれてたっす。なんなんすか、ここは! 次から次へとポケモンが攻撃してくるとか超危険なとこじゃないっすか! こんなところで修行しようとか思う人の心が理解できないっすよ!

 

「まあまあ、お姉さんたちの実力を見てなさいな」

 

 ヒキガヤさんに聞いた話じゃ、この人もヒキガヤさんと同じ初心者トレーナーのはずっすけど。いや、でもさっきの実力を見る限り、すでに俺を超えてるっす。というかトレーナー歴三年でもこんな場所は危険だと思うのに、どうしてこの人は平気な顔をしてるっすか。そっちの方がなんか怖いっすよ。

 

「フライゴン、フカマル、りゅうせいぐん!」

 

 二体のドラゴンが上空に流星を打ち上げた。片や上空で弾けて群となり、片や流星のまま落ちてきた。

 って、そのまま落ちてくるとかどういうことっすか!? ちょ、このままだとこっちに落ちてくるっすよ!?

 

「あちゃー、フカマルは今日も失敗かー。マフォクシー、サイコパワーで流星を操って!」

「フォック!」

 

 また新しいポケモンが出てきたっす。今度はマフォクシーっすか。ほのお・エスパータイプのポケモンっすね。

 

「お、おおー、失敗した技でもあんな使い方ができるんすね!」

「先輩見てると、これくらいできなきゃ勝てる相手じゃないなーってつくづく思うんだよね。なんかまだやっと扉が一つ二つ開いたって気分だよ」

「お兄さんってほんとに何者なんすか…………」

 

 ついこの間まで初心者トレーナーだった彼女をこんなすごいトレーナーに育て上げ(たのがお兄さんなのかは知らないっすけど、少なくとも強い影響を与えてるってことだけは分かるっす)、それでもまだまだって言わせてしまうお兄さんの実力を知りたいようでなんか知りたくないっす。

 

「あ、まだ追いかけてきたっすか。洞窟の中じゃないなら俺も戦うっす! ニドキング、どくづき!」

 

 さっきのオンバーンとサザンドラが洞窟の中から出てきたっす。まさかここまでしつこく追いかけてくるとは。もしかするとクリムガンたちも追いかけてきたりしてないっすよね? 考え出したら自信なくなってきたっすよ。

 

「フライゴン、ばくおんぱ! フカマル、ドラゴンクロー!」

 

 オニドリルたちを一掃したイッシキさんはそのままサザンドラの方へと二体を向かわせた。

 爆音で耳がいたいっすけど我慢っす。

 

「ニドキング、オンバーンにとどめ行くっすよ! ヘドロばくだん!」

「マフォクシー、ブラストバーン!」

 

 地面に叩きつけたオンバーンにヘドロの爆弾を放り投げた。紫色の爆弾に飲み込まれ、オンバーンは気を失ったみたいっす。

 それよりもこっちっすよ! なんなんすか、これ。マジでお兄さんを思い出すから、怖いんすけど!

 

「さ、サザンドラが呆気なく戦闘不能になったっす…………」

 

 おかしいっす。サザンドラってもっとこう強いイメージだったのに、なんかイッシキさんが相手にすると全く怖さを感じなかったす。となるとお兄さんが相手の場合は遊んでいるようにしか見えないってことなんすかね。うわっ、なにそれ、超怖いっす!

 

「ふぅ、これでひとまずは大丈夫かなー」

「っすね。すいませんっす。俺のせいで」

「いいよ、いいよ。私もここがどういうところか実感できたし」

 

 なんでこの人はこうも明るくいられるんすかね。今の今まで大ピンチだったっていうのに。

 

「あ、そうだ。弟くん、しばらく私のバトル相手になってよ。ここにいるってことは修行してるんでしょ?」

「え、あ、や、まあ、そうっすけど………。でも俺はまだここに来るべきじゃなかったんすよ。見てたでしょう、今の。俺にはまだまだここの野生のポケモンに立ち向かう勇気も実力もないんすよ。なので………」

「じゃあなおさらだね。先輩のスパルタ教育よりはラクショーだよ」

「へっ? お兄さん、スパルタ教育だったんすか?」

「そ、主に心のね」

「あ、なんか納得っす」

 

 やっぱりお兄さんが仕込んでたんすね。それならこの強さも理解できるっす。

 うーん、そうなるとここでイッシキさんも認める強さを手にすればお兄さんだって認めてくれるはず………。そうなればヒキガヤさんとも………。

 

「分かったっす! 俺も強くなりたいっすから! よろしくお願いするっす!」

「うん、じゃあよろしく」

 

 こうして俺の密かな思惑が動き出したっす。

 



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10話

追記:27日はお休みします。中々書く時間がなくて、もどかしい思いです。しかもバトル描写なので、どうにも動きに辻褄を合わせようとしていると中々進まないという。
最近投稿ペースが落ちていますが、仕事の方が落ち着けばまた週一に戻せるかと思いますので、しばらくはご容赦を。


『みなさん! お待ちかね! これより! 第1回カロスリーグの開会式を始めたいと思います!』

 

 司会進行の男性の声が会場に響き渡る。

 

「やー、始まりましたねー」

「………なあ、ほんと何なの、そのフカマル。お前の顔食われてるぞ」

 

 ポケモンリーグに向けて各々が修行をやってきたわけだが。

 取り敢えず、帰って来て一番シュールな光景を現在も醸しているのがイロハである。またしても野生のフカマルに懐かれてしまい、ついてきてしまったのでゲットしたという、どこぞのナックラーのような展開だが、さらに質が悪いようで頭を甘噛みされている。甘噛みなのにそのでかい口のせいで食われているようにしか見えない。何ともシュールな姿である。そんな姿で開会式に出なくてもいいだろうに。

 

「ちょ、シュウ?! だ、だからスカートめくろうとするのやめて!」

 

 こっちはこっちで変態ポケモンがいるし。

 ハクダンシティへ二度目の訪問をした際に、ボールに入ってしまったんだとか。最初の頃はまだリオルだったから、体も小さく子供が戯れているように見えていたのだが、ルカリオに進化してしまうとこう、変態チックにしか見えない。どんなに頑張っても変態チックである。というか変態である。

 ちなみに名前はシュークリームからだそうだ。なら『シュウ』じゃなくて『シュー』だろと言いたいところだが、まあユイなのでそこは仕方がない。ただ、おかげで一番まともな名前をつけられている。変態なのに。

 

「はあ………、ユキノがいたら目潰しされてただろうな」

「ハチマン、大丈夫?」

「大丈夫だ。問題ない」

 

 俺の隣にはなんと!

 帰ってきたトツカエルが!

 もうね、帰ってきた時には心の中で泣き叫んだわ。感動のあまり男泣きした。

 

『それでは! 開会宣言をこの方にお願いしましょう! チャンピオン、カルネ!!』

 

 会場はドーム型の施設で、中央部にてバトルが執り行われる。大型画面も設置してあり、その下では司会の男性や解説としてプラターヌ博士とチャンピオンのカルネさん、そして今大会の広告塔のユキノが参列している。

 ………だから俺が変態ポケモンにスカートをめくられているユイを見ていても咎める者がいないのだ。

 

「というかお兄ちゃん。よくこんな特等席用意できたね。権力振りかざしたの?」

「ばっかばか。ここは本戦出場選手とその関係者用の区画なんだよ。対戦相手を一番よく観られる席として用意したんだ」

「へー、ちゃんと考えてたんだね」

「当たり前だろ。俺はポケモン協会の理事なんだぞ。細かいところまでやらないと後ろ指刺されるだろうが」

「ぬぅ、お主も変わったようであるな。以前のハチマンなら働きたくないでござる、と吐かしていてもおかしくなかったというのに」

「何を言う、ザイモクザ。働きたくないのは今も同じだ。ただやらなきゃいけないからやったまで。んで、仕事が増えないように細かいところまで取り決めただけだ」

「全く、昔からそういうところは変わらないな」

「そりゃそうでしょ。俺は俺であり、他の何者でもない。オーダイルの暴走にしろ、俺が一番側にいて、対処もできたからやったまでです」

「………?」

「ッ! ヒキガヤ、お前………」

 

 気づいたヒラツカ先生に俺は口に人差し指を当てて、沈黙を促した。

 先生が気づいたように俺はこの半年の間にスクールの記憶を取り戻している。あとシャドーの記憶もか。残念ながらその後の記憶はまだ思い出せていない。みんなの話を聞いている限り、シャドー脱出後の記憶は一度も戻ってないらしい。俺の記憶を握るダークライの気まぐれなのか、それとも俺がそれを望んでいるのか。理由は分からないが、これだけ一度も戻らないとなると何かあったのは間違いないだろう。

 

『会場のみなさん! カロス地方のみなさん! 世界中のみなさん! ついにカントー地方で始まった最大のバトル大会、ポケモンリーグがカロス地方にもやってきました! これも新生カロスポケモン協会! スポンサー企業の方々! そしてカロス中の、世界中のみなさんのおかげと言っても過言ではありません! カロス地方のチャンピオンとして、厚くお礼を申し上げるとともに! 今ここに、カロスリーグの開催を宣言します!!』

「「「「「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!」」」」」

 

 ま、無難な挨拶だな。

 会場のこの熱気を見るに開始は上々だ。さらにバトルが始まれば盛り上がりも一気に急上昇だろう。

 

「「「イエーイっ!」」」

 

 ここにもいたか。君たちノリよすぎない? お兄ちゃんついていけない。

 

『それではまずはルール説明といきましょう! 説明してくれるのはこの人! 三冠王、ユキノシタユキノ!!』

 

「「「「「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!」」」」」

 

 いやいや、おかしいだろ。

 なんで開催宣言よりも叫び声がでかいんだよ。熱烈なファンがいるのか? まさか顔写真付きのうちわとかを持ってきてたりするのか?

 何それ怖い。

 

「わー、ゆきのんだーっ」

 

 席から立ちあがったユキノは中央にあるマイクスタンドの前に立ち、一礼をした。それだけで会場のどよめきが静まりかえった。律儀すぎんだろ、あいつのファンども。

 

『ルールを説明します。本選出場者はカロス地方のジムバッジを八つ集めた者、またこれまで行われてきた予選通過者となります。各ブロックの勝者、総勢六人による準々決勝が行われ、準決勝からはチャンピオンも加わり、カロスの頂点を決めていきます。また準々決勝よりシャッフルマッチとなり、毎度対戦相手を決めていきます。続いてバトルルールですが、六対六のシングルスでのフルバトル、使用技は四つ、交代は自由とします。今回四天王は出てくるまでは分からないというセッティングになっており、初戦から四天王と当たっている選手の皆さんは特に気を引き締めていてください。それでは、早速バトルと行きましょうか。ユキメノコ』

『メノメノ~』

 

 一通り説明を終えたユキノはユキメノコを呼ぶと一瞬で消えた。ユキメノコのゴーストタイプ特有の消える能力を使ったのだろう。

 

『こ、これは!? なんということだ!? 三冠王がいつの間にかバトルフィールドに立っているではありませんか!! 早速彼女の実力をこの目で確かめられるみたいですよ!!』

 

 ハルノさんが演出にこだわっていたからなー。いろいろと案を練ってたんだろうな。

 

『さあ、では彼女の対戦カードを発表しましょう! ドラゴン使いのリュウキ選手!!』

「……オレは、スターになる男だ!」

 

 うわっ、なんか赤いのが来た………。

 何あれ、超危なくね?

 

「なんですか、あの変なコスプレ」

「言ってやるな。そういう年頃なのだ。そこのザイモクザみたいに」

「ふひっ」

「「ひぃいっ!?」」

 

 キモい反応をしているザイモクザは見捨て、中央の大型画面を見ると、うん、やっぱりなんか危ない奴にしか見えない。

 

「これより、三冠王ユキノ選手とドラゴン使いリュウキ選手のバトルを始めたいと思います! 双方、準備は?」

 

 二人とも審判に頷き返し、先を促した。

 

「それでは、バトル開始!」

 

 うっわ、もう熱気がヤバいんだけど。どんだけみんな楽しみにしてたんだよ。来客数もほとんど席が埋まるくらいだし。空いているのは本選出場選手とその関係者ゾーンだけ。後は立ち見とかもいて満員状態である。

 

「これだけ集まれば、元は取れるか」

「ハチマン、すっかり商売人になっちゃったね」

「まあな。企業との契約や何やらで嫌でも身についちまったらしい」

「ほとんどはるさん先輩が走り回ってたって聞きましたけど?」

「さあ、どこがいいか選びなさいって感じで最後の判断を俺に擦り付けてきたんだよ」

 

「ジャラコ!」

「行きなさい、ユキメノコ」

 

 相手のあのポケモン。

 四足歩行のポケモンのようだが、見たことがない。他の地方から来た奴なのだろう。

 

「ジャラコ、おたけび!」

「ジャラァァァァッ!!」

 

 おたけびか。

 その名の通り雄叫びを上げて、相手を威嚇する技。直接、遠隔両方の攻撃力を削ぐ効果がある。

 

「見たことのないポケモンだけれど、ドラゴン使いと称するのだからそのポケモンもドラゴンタイプなのでしょう。ユキメノコ、れいとうビーム」

 

 あー、なるほど。確かに紹介ではドラゴン使いって言ってたもんな。一応肩書的なものも入場時のアナウンスで言ってもらえるようにしてるし。

 俺か? 俺はあれだ。一応四天王枠で出るからな。肩書も四天王だ。変な肩書になるよりはずいぶんマシだと思うね。

 

「くっ、ジャラコ、後ろだ!」

 

 雄叫びを上げている間にユキメノコは消える能力を使い、ジャラコ? の背後に現れた。

 うわー、なんてずるい性能。ゴーストタイプはこれだから。まあ、ユキメノコはよく俺の背後に突然現れるからもう慣れたけど。

 それにしてもあいつ、俺のこと好きすぎだろ。ユキノが顔を赤くしてツンとした態度をとる時には必ずと言っていいほど抱き着いてくる。ご主人様を煽るなよって感じだ。

 

「ドラゴンクロー!」

「ジャラッ!」

 

 ユキメノコのれいとうビームを軽い身のこなしで振り返り、切り裂いた。

 

「そのままドラゴンテール!」

「躱しなさい」

 

 爪にあった竜の気を尻尾に移し、飛び上がった。ユキメノコは尻尾が叩きつけられる直前に消えると、またしてもジャラコの背後に現れ、今度は両腕をジャラコの前足の脇に滑り込ませ、持ち上げた。

 

「れいとうビーム」

 

 捕まったジャラコがユキメノコの腕の中で暴れているが、全く身動きが取れないようだ。そこに容赦のかけらもなく、冷気を打ち付けられ、見る見るうちに凍り始めた。

 暴れなくなったのを確認するとユキメノコはジャラコを地面に放り投げた。こおりタイプだけに冷たい対応である。関係ないか。

 

「ジャラコ、戦闘不能!」

 

 カチンコチンに凍ったジャラコはそのまま目を回して気絶していたようだ。まあ仕方がない。恐らくはドラゴンタイプなのだから。効果抜群の技を超近距離で受けたのだ。それに見たところまだ進化の可能性を感じられる。最終進化まで遂げていればあるいは…………なんてこともあったかもしれないが、相手がユキノなのでそれも無茶な話だ。

 本当に氷の女王とか呼ばれる日が来るんじゃないか?

 

『三冠王、まずは一勝だぁぁぁあああっ!!』

「戻れ、ジャラコ」

『さすが、というべき三冠王の実力! 今度はどんなバトルを見せてくれるのか! そしてリュウキ選手! これからどう逆転劇を転じるのか!』

 

 実況がすでに暑くなってやがる件について。

 いつも思うが、どうして実況はこうも騒ぎ出すのだろうか。もう少し落ち着いて見ていられんのかね。

 

『さすが三冠王ね。圧倒的なバトルだったわ。プラターヌ博士は彼女とここ半年付き合いがあるのですよね?』

『ええ、わたしの助手をしてくれている方の元教え子でしてね。昔からバトルを組み立てるのが上手かったみたいですよ。彼女のバトルを何度か見てきましたが、相手が「彼」でなければ必ず勝ってますね』

 

 おいこら、変態博士。

 観客が気になるような発言をするな!

 おかげで俺の周りの奴らがニヤニヤニマニマしてるじゃねぇか!

 ねぇ、ほんとやめて! マジで恥ずかしいからこっち見るな!

 

「お前の出番だ、バクガメス!」

 

 うわっ、また見たことのないポケモンを出してきやがった。カメックスではないが、なんかそっちの系統に近いポケモンだな。

 あのゴツゴツした甲羅? には入れたりするのだろうか。

 

「また新しいポケモン出てきましたね」

「あれはバクガメス。ほのお・ドラゴンのポケモンだよ」

「か、カワサキ先輩?! へ、へー、ほのおとドラゴンなんですか………」

 

 ………こいつあれだな。カワなんとかさんの存在をまるっきり忘れてやがったな。まあ、そんな発言する方の奴じゃないから必然的に影は薄くなるが………。

 いやだが、さーちゃんだぞ? じっと見てて睨まれたら恐怖で頭に焼き付いてしまうまであるからな。

 

「それじゃサキさん、さっきのポケモンは?」

「あれはジャラコ。ドラゴンタイプ」

「ドラゴン使いっていうだけありますねー」

 

 なんでこんなに知ってるんだろうか。ユキノもジャラコについては知らなかったみたいだし、おそらくバクガメスとやらのことも知らないだろう。うーん、実はこの二体が生息する地方に行ったことがあるとか? まあ、可能性としてはそこが妥当か。

 

「バクガメス、かえんほうしゃ!」

 

 首を動かしてユキメノコに照準を合わせると、長い鼻の孔から炎を吐き出した。

 

「炎技……、ユキメノコ、みずのはどう!」

 

 デスヨネー。ユキメノコなら水技を覚えてるもん。そりゃ打ち消してくるでしょうよ。

 

「れいとうビーム!」

「もう一度かえんほうしゃ!」

 

 今度はあっちが相殺するように技を選んできた。だが、ユキメノコが狙ったのは相手のポケモンではない。その後ろの地面である。炎は的を外れ、空を燃やす。

 

「うひゃー、もう始まってるっすか! はい、これみんなの飲み物っす!」

「おかえりタイシくん。もう相手のポケモン二体目だよ」

 

 カゴいっぱいにストローを刺した長カップを入れて戻って来た。別にじゃんけんに負けた罰ゲームとかではない。タイシの方から言い出したのだ。コマチの気を引くために。おかげでコマチは今の今まで忘れてたようだが。

 ふっ、ざまぁ。

 

「みずのはどう!」

 

 ユキメノコは一瞬消えて、バクガメスの背後を取ると水気を操り、バクガメスを飲み込んだ。

 

「バクガメス、りゅうのはどう!」

 

 波導には波導を。

 纏わりつく水気の波導に竜気の波導で穴を開けた。

 

「ユキメノコ、もっと威力をあげなさい」

「バクガメス、オーバーヒート!」

 

 開いた穴を皮切りに酸素を取り込むと一気爆発した。

 炎を水を蒸発させ、弾けた炎がユキメノコに襲いかかる。

 フィールド全体に炎が走り始め、宙をふわんふわん動いているユキメノコでも逃げ場はない。

 

「ユキメノコ、バクガメスの頭上に逃げなさい!」

「メノ!」

 

 一つ安全地帯といえば技の発動者であるバクガメスの頭上だ。ここだけはどんなに天高く昇っても場外にはならない。バトル失格になることもないのだ。

 

「弾丸にしてみずのはどう!」

 

 ゲッコウガやコマチのカメックスが使うみずのはどうだん。これを言うのが嫌なのか、普通に言いやがった。

 さすがゆきのん。普段はツンデレのんのくせにこういう時だけは腰引けのんになるからなー、俺にキスをしてくる時みたいに堂々としていればいいものを。

 というかなんで半年経ってもキスばっかなんだよ。どんだけキス好きなんだ………うっ、なんか背後から殺気のこもった視線を感じるんだが………。

 

「爆ぜろリア充弾けろリア充バニッシュメントリア充」

 

 いやもうわけがわからん。バニッシュメントリア充ってどういう意味だよ。爆ぜろ弾けろまでは理解できなくもないが、バニッシュメントとリア充くっつけるのはどうかと思う。

 

「せ、先生、落ち着いて」

「止めるな、ユイガハマ。私はどうしてもこの超リア充に現実とやらを見せてやらねばならんのだ!」

 

 あーあ、ユイもかわいそうに。先生の隣に座ったら永遠とこんな話ばっかりを聞かされるんだぞ。

 

「きあいだま!」

 

 弾丸には弾丸を。

 波導といい、同じような技をぶつけるのが好きな相手なのかね。

 あ、ユキノのやつそれを見越して二発打たせてやがったみたいだ。後から一発がバクガメスに直撃したぞ。

 

「れいとうビーム!」

 

 さらにユキメノコがバクガメスの四方の地面に氷を貼り、みるみるうちにバクガメスの足元までをも侵食していった。

 これでバクガメスの身動きを封じたというわけか。だが、相手はほのおタイプ。溶かそうと思えばいくらでも溶かせられる。

 

「バクガメス、かえんほうしゃ!」

「ユキメノコ、かげぶんしん!」

 

 ユキメノコを狙おうとした矢先、ユキメノコは一度消え、次々と姿を現した。バクガメスを取り囲むようにユキメノコが不敵な笑みを浮かべている。加えて、増えた影ですら消えたり現れたりするもんだから、恐怖しか覚えない。

 照準を定められないバクガメスは本物のユキメノコを探し出そうと躍起になっている。そのせいで、一歩、また一歩と氷の上で回り続け、ついに重たそうな体躯がバランスを崩した。

 

「れいとうビーム!」

 

 そこに容赦なく全方位からの冷気が流れ込んでくる。

 

「バクガメス!」

 

 相手トレーナーが呼びかけるが、背中から地面に倒れたバクガメスは起き上がることができないようで、手足をばたつかせている。だが、それも間もなく動かなくなり凍り付いてしまった。

 ほのおタイプが凍るということは相当な冷気を必要とする。あのユキメノコがそこまでの冷気を擁していた記憶はないが、一体この一ヶ月の間に何をしてきたっていうんだ。

 

「戻れバクガメス! カイリュー、交代だ!」

 

 動かなくなってもまだ戦闘不能になったわけではないようで、一度交代させてきた。代わりに出てきたのはカイリュー。ドラゴン使いが好んで使うポケモンの一体である。

 

「ぼうふうでユキメノコの影を吹き飛ばせ!」

 

 ボールから出てきたカイリューは翼を扇ぎ、暴風を生み出した。風に飲まれたユキメノコの影たちは次々と消えていき、本体だけが高みの見物をしている。

 

「ほのおのパンチ!」

 

 ユキメノコを見つけるや、カイリューは拳に炎を纏い、すぐさま上昇していった。

 

「躱して、れいとうビーム!」

 

 一瞬消えたユキメノコがカイリューの背後から冷気を飛ばしてくる。

 

「カイリュー、躱してドラゴンダイブ!」

 

 それをカイリューは旋回し、ユキメノコの頭上にきたところで一気に地面に向かって加速しだした。次第に赤と青の竜を模した気を纏い、ユキメノコへとダイブした。

 割と一瞬のことであり、これにはユキノもユキメノコも反応することができなかったようだ。

 

『ドラゴンダイブが決まったぁぁぁあああああああっっ!! リュウキ選手、ついに三冠王にダメージを与えることに成功だぁぁぁああああああっっ!!』

 

 逆転劇、とまではいかないがその糸口を作り出した相手選手に会場も盛り上がりを見せている。

 確かに今のはいい攻撃だった。おそらくユキメノコも立ってはいられないだろう。だが、それでもまだユキノのポケモンを一体倒したにすぎない。まだ五体残っているのだ。対して相手選手はすでに三体のポケモンを出している。手の内を半分もさらけ出したのだ。不利な状況なのは変わらない。

 

「ユキメノコ、戦闘不能!」

「お疲れ様、ゆっくり休みなさい」

 

 地面に転がるユキメノコに審判の判定が下され、ユキノはボールへと戻した。

 さてさて、次は何を出してくるのかね。

 

「いきなさい、オーダイル!」

『三冠王の次のポケモンはオーダイルのようです! 彼女を三冠王にまで至らしめた立役者の一人と言っていいでしょう!』

 

 オーダイルか。

 れいとうパンチやゆきなだれを覚えてたからな。ただカイリューに届くかどうか。

 

「オーダイル、りゅうのまい!」

「カイリュー、かみなりパンチ!」

 

 炎と水と電気の三点張りを頭上で絡め合わせ、竜の気を練り上げていく。そこへカイリューが拳に電気を纏い、急降下してきた。

 

「アクアジェット!」

 

 竜の気の上にさらに水を纏い、上昇。

 カイリューの拳は地面に突き刺さった。

 オーダイルは旋回し、カイリューの背後へと移動していく。

 

「れいとうパンチ!」

「かみなりパンチ!」

 

 迫り来るオーダイルに対応しようと振り返ったカイリューの腹に氷を纏った拳がめり込んだ。

 

『カイリューにれいとうパンチが刺さったぁぁぁあああ!! 効果は抜群だぁぁぁあああ!!』

「もう一度れいとうパンチ!」

 

 続けて空いた左拳でアッパー。

 カイリューの身体が吹き飛んでいった。

 

「カイリュー、ぼうふう!」

 

 地面に身体を打ち付ける前に態勢を立て直すと、翼を扇ぎ暴風を生み出した。精神力が鍛えられているのか、未だに持ちこたえている。

 

「アクアジェット!」

 

 そこへオーダイルが水を纏って突っ込んでいった。一直線に突き進むため、オーダイルは暴風の影響を受けてないらしい。

 オーダイルの突撃は見事決まり、カイリューはフィールド外の壁、観客席との隔壁に身体をめり込ませた。もちろん意識はない。

 

「カイリュー、戦闘不能!」

『なんということでしょう! ユキメノコを倒したカイリューをあっさりと倒してしまったぁぁぁああああああっっ!! 強い、強すぎる! 王者の貫禄を見せつけてきたぁぁぁああああああっっ!!』

 

 王者の貫禄ね。

 別にあれはまだ序の口だ。

 ユキノはまだ本気を出していない。オーダイルも然りだ。

 

「ゆきのん、圧倒的だね」

「そうですねー。ユキノ先輩もこの一ヶ月はフロストケイブに篭ってたみたいですし、以前とは比べ物にならないくらい強くなってるでしょうねー」

 

 ユキノがフロストケイブへ行っていたのは知っている。プラターヌ博士の付き添いで行って以来、気に入ったようでよく話に出していた。

 何があったのかは聞いていない。ただ、何かがあったのは間違いないだろう。だからこそ思い入れもできて、再び訪れようと考えた。リーグに向けての調整にフロストケイブを選んだのもそういうことに違いない。

 

「戻れ、カイリュー。いけ、ジジーロン!」

 

 はあ、また知らないポケモンだ。

 一目でドラゴンタイプだとは分かる。そして名前。どこか年寄り臭い。頭部にある白い体毛。白髪にしか見えない。髪の流し方がどこかコンコンブル博士に似ているように見えてしまうのは俺だけか? 絶対あれが原因でこんな名前付けられただろ。かわいそうに………。

 つか、あの赤服選手は一体どこの地方に住んでたんだ? 住んでなくとも旅をしていた場所が気になってしまう。

 俺の知らないポケモンたち。見たことも聞いたこともないポケモンたちを俺もこの目で確かめたくなってきた。

 

「オーダイル、りゅうのまい」

「ジジーロン、かみなり!」

 

 再びりゅうのまい。

 竜の気をさらに強くして攻撃力と素早さを底上げする算段か。

 だが、空には黒雲が流れ、ゴロゴロと鳴いている。

 

「撃ち放て!」

 

 黒雲から雷が撃ち落とされた。

 狙うはオーダイル。今ようやく竜の気を練り上げたところだ。電気が先か行動が先か。速い方がこの勝負をつけるだろう。

 

「アクアジェット!」

 

 ふっ、ユキノの勝ちだな。

 パワーアップした竜の気に水のベール。しかも抜かりなく純水にしていることだろう。もし雷が直撃してもあの水のベールがある限り、電気がオーダイルに届くことはない。

 

「ハイパーボイス!」

 

 げっ、俺この技嫌いなんだけど。耳が痛くなるじゃん。

 塞げ!

 

「ジロォォォオオオオオオオオオオオオオオオンンンッッッ!!」

 

 音波で、水のベールを、剥がそうって、魂胆、なんだろうけど!

 うるさいっつーの!

 

「トルネード!」

 

 おうふっ。

 なんか聞いたことある命令だな。オーダイルを回転させて、衝撃波を流そうってことだろう。それ、リザードンに使わせてるやつじゃん。ほんと、人のこと研究しすぎでしょ。

 

「れいとうパンチ!」

 

 音波の中を切り抜けたオーダイルは拳に氷を纏い、ジジーロン(名前がちょっと衝撃的で覚えてしまった)の目の前で振りかぶった。

 

「ふぶきーー」

 

 水のベールをそのまま凍らせようとしたのだろう。だが、ジジーロンが吹雪を起こす前にオーダイルの拳が頭から振り下ろされた。衝撃でジジーロンは顎から地面に顔を押し潰され、地面にはクレーターを作った。

 おいおい、オーダイルさんや。一発でそんな衝撃を生むような技にするなよ。俺の卒業試験の時とは随分とパワーアップしてるじゃねぇか。あの時も今と同じように竜の気を重ね掛けしてたっていうのに。

 

「ジジーロン!?」

 

 おっと?

 ついに赤服選手が声を荒げたぞ?

 やばいわー。相手からしたら今のユキノは絶対恐怖の対象になってるわー。

 

「ジ、ジジーロン、戦闘不能!」

 

 ほら、審判までもがたじろいでるじゃねぇか。

 

『い、一撃で決まったぁぁぁあああああああああっっ!! オーダイル、れいとうパンチの一撃でジジーロンを戦闘不能に追いやってしまったぁぁぁあああああああああ!!』

 

「スイッチ、入っちゃったみたいですね………」

「だ、だね………」

「あちゃー、ユキノちゃんが乗ってきちゃったかー」

「はあ………、ユキノ先輩とは当たりたくないですよ………って、はるさん先輩?!」

「ひゃっはろー、お迎えに来たよー」

「へっ?」

 

 突然の魔王の登場。

 いろはすマジ驚愕。普通に会話したもんな。

 

「イロハ、次はお前の出番だろうが。前のバトルでどちらかのポケモンが三体倒れた時点で召集かけるようにしてるんだよ。んで、その担当がハルノさんとメグリ先輩な」

「あー、通りでここにいないわけですか。はるさん先輩、お疲れ様です」

「いいよいいよ、後でハチマンにはたっぷりご褒美がもらえる約束だから」

「お、お兄ちゃん!? な、何をする気なの!?」

「おいこら、逆になんで俺が何かすることになってるんだよ」

「えっ? 違うの?」

 

 この妹は一体何を想像したというんだ。いつかのカメックスの暴走以来、たまに色を孕んだ目をするというか。今もそんな目をして、何かを期待している。

 ちょっとー、誰よこんな子に育てたのは。

 うん、俺とうちの両親だな。

 

「せんぱいせんぱい」

「なんだよ」

 

 そんなことを考えていると立ち上がったイロハが近づいてきて、耳元に顔を寄せてきた。

 

「やっちゃえ☆」

「………………」

 

 こいつら何なの? 帰ってきてからなんか俺をよく煽るようになってきてるんだけど。俺の我慢も限界だよ?

 

「ガブリアス!」

「あ、そろそろ行ってないとまずいみたいなんで行きますねー」

「じゃあ、ハチマン。夜は楽しみに待ってるよー」

 

 ねえ、ちょっと。

 ほんとそういう置き土産的な冗談を言い残して行くのやめてくんない?

 おかげでユイが頬をすげぇ膨らませてるんだけど。

 

「………たらし」

 

 ぐふっ!

 思わぬところから口撃が飛んできたぞ。けーちゃんをしっかりと抱きかかえて俺には近づけまいとしている。

 

「………どうしてこんなのがモテるんだ………。私だって、私だって………ああ、結婚したい」

 

 ああ、あんたには甘すぎましたね。今の会話。

 ほんと誰かもらってあげて!

 

「最初からマッハで飛ばせ! ドラゴンクロー!」

「オーダイル、こっちもドラゴンクロー!」

 

 初手からぶっ飛ばしてきたガブリアスの竜の爪をオーダイルも竜の爪で受け止めた。器用にガブリアスの爪と爪の間に自分の爪を割り込ませているし。あれも知ってるぞ。オーダイルが暴走して時にリザードンがやってたやつじゃん。

 

「爪を砕いてれいとうパンチ!」

 

 自分の竜の爪に力を加えて相手の竜の爪を砕いた。そしてそのまま拳に氷を纏わせ、両拳で二発、ガブリアスの腹に叩き込んだ。

 

「ガブリアス、じしん!」

 

 吹っ飛んでいくガブリアスは腕の羽を地面に突き刺し、態勢を立て直すと両腕を地面に叩きつけ、衝撃をあたえて揺らし始めた。

 これにはオーダイルもバランスを崩して転倒。久しぶりにユキノの方にダメージが入ったな。

 

「ドラゴンクロー!」

「アクアジェット!」

 

 体を折りたたんで突っ込んでくるガブリアスを、水を纏って躱し、そのまま背後についた。

 

「れいとうパンチ!」

「どくづき!」

 

 振り向いたガブリアスの拳とそのまま加速したオーダイルの拳がぶつかり合い、衝撃波を生み出す。砂が舞い、二体をかき消した。

 

「上よ! オーダイル、アクアジェット!」

 

 砂が舞ったことで特性が働いたのか?

 中で何が起きたのかは分からないが、どうやらガブリアスが上に逃げたらしい。

 

「躱せ!」

 

 砂煙りの中からガブリアスが飛び出したかと思うと体を逸らし、そこをオーダイルが突き抜けていった。

 

「れいとうパンチ!」

 

 上を制したオーダイルがガブリアスの逃げ場を塞ぎ、急降下していき、氷を纏った拳を叩きつける。ガブリアスのはオーダイルのスピードに押され、力負けして地面に体を打ち付けた。

 

「……ガブリアス、戦闘不能!」

『つ、強い! 強すぎるぞ、三冠王! このリーグ戦で彼女が四冠王になるのも現実になってきたぁぁぁああああああっっ!!』

 

 いや、確かにオーダイルは強くなった。ユキメノコも強くなった。だが、今のバトルではっきりした。相手の選手はまだ未熟だ。ドラゴンタイプの力を使いこなせていない。少し気になるところはあったが、カイリューとガブリアスは中々いい動きをしていた。だが、その他が上手く立ち回れていなかった。スピードの問題とかではない。ポケモンの特徴を生かしきれていないのだ。だからポケモンによって完成度にバラつきが出てくるし、その隙を使ってオーダイルがパワーアップしてしまった。

 ポケモンを出す順番とかももっと研究しておく必要があったな。ま、それを今回自分で気づければ上出来かもしれん。

 

「戻れ、ガブリアス。バクガメス、オーバーヒート!」

 

 赤服選手はガブリアスをボールに戻すと再びバクガメスを出してきた。凍ったままの体を内側から燃やし、溶かすつもりか。

 

「アクアジェット!」

 

 はあ………、もうこの勝負も決まったな。

 俺の見る限り、バクガメス? の活かしどころはあの甲羅だろう。噴射口も見えるし、何かしらできるはずだ。もしかしたら自分から仕掛けるよりも返し技とかの方が得意なのかもしれない。

 とにかく、どこか活かしきれていないのがありありと見えてしまっているのだ。

 

「バクガメス!?」

「バクガメス、戦闘不能!」

『バクガメスも倒されてしまったぁぁぁああああああっっ!! リュウキ選手、ついに最後のポケモンだ!! どう出てくるか! 三冠王を前にどう出てくるのでしょうか!!』

 

 最後のポケモンか。

 最後のポケモンは上手く扱えているといいけどな。

 

「戻れバクガメス! いけ、ナッシー!」

 

 はい?

 ナッシー?

 ここで?

 確かにくさタイプでオーダイルの弱点はつけるが。ドラゴン使いじゃなかったのか?

 

「えっ? なに、こいつ………」

「「「「ナッシーィィィッ」」」」

 

 出てきたのはナッシーのような、だが異様に首の長いポケモンだった。

 えっ、マジでなにこいつ。ナッシーの進化系とか?

 いやでも、ナッシーって言ってたしな…………。

 

「なるほど、アローラの方のか。それならドラゴンだね」

「………どういうことだ?」

「ん? あ、知らない系? アローラ地方ってところに生息するナッシーは育ちすぎて首が異様に長くなってるんだよ。タイプもくさ・エスパーからくさ・ドラゴンになってるし。リージョンフォームっていうんだって」

「………確か校長のロコンもこおりタイプだったな」

 

 さーちゃん、物知りだな。

 ユキノがいない今、解説はさーちゃん頼りである。

 

「ロコンもリージョンフォームがあるね。他にもラッタ、コラッタ、ディグダ、ダグトリオたちもリージョンフォームが確認されてる」

 

 他にもいるのか………。

 

『な、なんだ、このポケモンはっ!? ほ、本当にナッシーなのかっ!? こんな首の長いナッシーは見たことがないぞ!!』

『あれはリージョンフォームですね。アローラ地方で確認されています。わたしの助手が今アローラにいるので、時々アローラのポケモンについて情報をもらってますよ』

『博士、リージョンフォームとは?』

『環境によって姿やタイプを変えたポケモンたちのこと差します。ポケモン研究の権威、オーキド博士の親族がその研究に当たっているそうです』

『な、なるほど……。これは面白いポケモンが出てきました!!』

 

 よく見ると尻尾にも顔があるし。

 不気味なポケモンに変わっちまったな。元々不気味なポケモンだったのに。

 

「ナッシー、ウッドハンマー!」

 

 ぎょわっ!?

 マジか………。

 あの長い首で攻撃するのかよ。フィールド全体が攻撃範囲じゃねぇか。

 

「オーダイル、アクアジェットで躱しなさい!」

 

 思わずユキノも回避に回ったか。まあ、分からなくもない。あんな異様なポケモンを目にして即座にバトル展開を組み立てられる方がどうかしてるわ。

 

「なにあれ………」

「なんか、なんでしょう………なんか………」

「わかるよ、コマチちゃん。なんか、アレだよね」

「ええ、アレです」

 

 あ、コマチとユイが相当引いてる。

 

「オーダイル!?」

 

 おっと?

 オーダイルさんが躱しきれなかったぞ?

 というかマジで攻撃範囲広すぎだろ。

 

『オーダイルにウッドハンマーが炸裂したぁぁぁああああああっっ!! 効果は抜群だぁぁぁああああああ!!』

 

 いつの間に上から振り下ろされていたナッシーの頭がオーダイルを突き落とし、地面に叩きつけた。

 

「起きなさい、オーダイル!」

 

 オーダイル自身、何が何だか分かってないようだな………。

 頭をかきながらのっそりと起き上がった。

 

「ドラゴンハンマー!」

 

 今度は掬い上げるように地面すれすれの低空から首が迫ってくる。

 もうはや恐怖でしかないな。

 

「オーダイル、もう一度アクアジェットで躱しなさい!」

 

 今の今までバトルを優位に進めてきたユキノであるが、ここにきて翻弄され始めた。まあ、あんなポケモンとやるの初めてだし、対処の仕方も思いつくまい。俺でも無理だ。リザードンで焼くか、ゲッコウガの手裏剣くらいしか使えそうなものはない。それでも大したダメージは通らないだろう。

 

「オーダイル!?」

 

 逃げようとしても、長い首に捕捉され、叩きつけられていく。

 …………あ、逆に勝てるかも。

 

「あ、あれって………」

「ああ、攻撃を食らったことでダメージが溜まったらしい。ピンチでラッキーだ」

 

 トツカも気付いたようだ。

 オーダイルの特性、げきりゅう。

 攻撃を受けたことで発動したらしい。それだけあの長い首からの攻撃は危険だということである。

 

「っ!!」

「ナッシー、ウッドハンマー!」

「オーダイル、ナッシーに向かってアクアジェット!」

 

 ああ、そうか。リーチがある分、ナッシーに近づけば近づくほど首からの攻撃が届かないな。

 ナッシーの近くこそが安全地帯とも言える。

 

「そのまま全力でれいとうパンチ!」

 

 振り下ろされるナッシーの首が届く前にナッシーの前に移動し、ありったけの氷を拳の纏わせていく。

 

「ナッシー、サイコキネシス!」

 

 あー、やっぱりナッシーはナッシーだったか。エスパー技も使えるんだな。

 

「だが、今の半暴走状態のオーダイルには効かないだろうな」

 

 一瞬だけ身体の自由を奪われたが、オーダイルはすぐに竜の気とげきりゅうのオーラを外へと放出し、サイコキネシスを打ち破った。

 そして、思いっきり氷を纏った両拳を叩きつけた。

 後ろに吹っ飛んでいくんだろうなー、と思っていたら意外と頭が重いのかけたぐりよろしく、そのまま前のめりに倒れていった。

 

「ナッシー、りゅうせいぐん!」

 

 尻尾にある顔が上空に流星を打ち上げた。だが、弾けることもなく、霧散し消えていった。

 どうやらバトルが終わったらしい。

 

「ナッシー、戦闘不能!」

 

 いやはや、中々面白いものが観れた。

 まだまだあんなポケモンが世界にはいるんだな。久しぶりに心が躍ったわ。

 

『ナッシー、戦闘不能!! よって、勝者は! 三冠王、ユキノシタユキノだぁぁぁああああああっっ!!』

 

 ふぅ、ようやく初戦が終わったか。次はイロハだし、相手は確か四天王。どんなバトルになることやら。




行間(バトル使用ポケモン)

ユキノシタユキノ 持ち物:キーストーン etc………
・オーダイル(ワニノコ→アリゲイツ→オーダイル) ♂
 特性:げきりゅう
 覚えてる技:アクアテール、アクアジェット、ドラゴンクロー、れいとうパンチ、ハイドロポンプ、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、げきりん、カウンター、ハイドロカノン、ドラゴンテール、めざめるパワー(電)、ゆきなだれ

・ユキメノコ ♀
 覚えてる技:れいとうビーム、みずのはどう、10まんボルト、シャドーボール、めざましビンタ、ふぶき、かげぶんしん


リュウキ
・ジャラコ ♂
 覚えてる技:ドラゴンクロー、ドラゴンテール、おたけび

・バクガメス ♂
 覚えてる技:かえんほうしゃ、りゅうのはどう、オーバーヒート、きあいだま

・カイリュー ♂
 特性:せいしんりょく
 覚えてる技:ぼうふう、ほのおのパンチ、ドラゴンダイブ、かみなりパンチ

・ジジーロン ♂
 覚えてる技:かみなり、ハイパーボイス、ふぶき

・ガブリアス ♂
 特性:すながくれ
 覚えてる技:ドラゴンクロー、じしん、どくづき

・ナッシー(アローラの姿) ♂
 覚えてる技:ウッドハンマー、ドラゴンハンマー、サイコキネシス、りゅうせいぐん


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11話

2週分の量になっちゃいました。
長いです。


「次はイロハちゃんの番か。相手は四天王なんだよね!」

「ああ、強いのか弱いのかは知らんけど」

「四天王に選ばれてる時点で相当な強者でしょ」

 

 初戦はユキノの勝利で幕を閉じ、Aブロック二戦目。トレーナーになり半年強のイロハの初陣である。

 ただ、その相手は四天王。俺がここにいる時点で今回の四天王枠は俺ではない。誰が出るのかは………。

 

『さあ、盛り上がってきました、カロスリーグ! 次のバトルはこの二人だぁぁぁあああ!! トレーナーになってまだ半年! イッシキイロハ!』

 

 と、どうやら選手入場らしいな。

 イロハの相手もすぐに出てくるだろう。

 つーかあいつ、人に観られることに慣れすぎじゃね?手なんか振っちゃってるぞ。

 

『そして対戦相手はこの人! 四天王、ドラセナ!』

 

 あ、おばさんが出てきた。そうか、イロハの相手はあの人か。底の知れない人だからな。どんなポケモンを連れているのかさえ知れない。

 

「お兄ちゃん、あの人強いの?」

「知らん。どんなポケモンを連れているのかさえ知れないくらいの人だ」

「なんで知らないのさ。それでもポケモン協会の理事なの?」

「や、出場選手の強さを全て把握するとか無理だから。対戦表に変な名前の奴らもいるだろ。そんな奴らも参加してるんだから、知る由もない」

「ねえ、ヒッキー。イロハちゃん勝てるかなー」

「さあ、どうだろう「絶対勝てるっすよ! トレーナーになって半年しか経ってないのに、もう姉ちゃんに引けを取らない強さっすよ! 勝てないわけがないっす!」……お、おう。なんかイロハに入れ込んでるな」

「べ、べべべ別にそんなんじゃないっす! ただ山で一緒に修行した仲っていうか、強敵ばかりの野生のポケモンに囲まれてもあっさり倒してしまう人が負けるとは思えないだけっす」

 

 ん? 強敵ばかりの野生のポケモンに囲まれても?

 あいつ、一体どんな修行をしてきたっていうんだよ。このクズ虫と一緒に帰ってきた時には驚いたが、カワサキの実力をずっと見てきたタイシが言うんだから、そうなのだろう。

 うへぇ、壊れていませんように。

 

『カルネさん、ドラセナさんは一体どんなトレーナーなのでしょうか?』

 

 実況の男性がカルネに話を振った。この大会の目玉の一つである四天王をチャンピオンが紹介することになっているのだ。チャンピオンと四天王の関係上、近しい間柄という理由でハルノさんがこの演出を決めてしまった。

 いや、いいんだぞ? 観客にとって四天王とはいかなるものなのか、実力はどんなものなのか、バトルの前に知ることができるのだから。そしてこれから始まるバトルどれだけ高度なバトルになるのかが理解できてくるだし、いいのだ。

 問題なのは俺だ。四天王として出るが別にチャンピオンと近しい間柄ではない。お互いよく知らない………全く知らないと言っても過言ではないか。

 

『ドラセナは四天王の中で最も長く役職に就いている強者です。それもドラゴンタイプの使い手であることが関係しているでしょう。ドラゴンタイプは聖なるポケモンとして、扱いが最も難しいとされています。先程のバトルでもリュウキ選手がドラゴンタイプを使っていましたが、相手が三冠王だったため、一方的だっただけで、バトルセンスは悪くありませんでした。磨けば光る逸材ですね。そんな気難しいポケモンたちを使いこなすドラセナの相手は相当骨が折れることでしょうね』

『なるほど……、どうやらこのバトル、イロハ選手には苦戦を強いられるものになりそうですね』

『それはどうかしら。イロハには四天王よりも高い壁を越えるという目標があります。四天王が相手だからといって、早々に負けているようでは「あの男」に勝つのは無理な話ですよ』

『「彼」を超えてる人っているのかい?』

『本人曰く、探せばどこにでもいるらしいですよ』

『適当な答えだね……。「彼」らしいよ』

 

 ねえ、ちょっと君達? オンマイクで俺のディスるのやめてくれる?

 他に会話のネタねぇのかよ。まあ、ユキノだから仕方ないけどよ。話振る方ももう少し考えろよ。

 

『あの、先程も仰っていましたが、その「彼」というのは?』

『カルネさんも知っている人物ですよ』

 

 しかもチャンピオンはまだ誰のことを言っているのか分かってないみたいだし。

 あーた、リーグ戦を開催するって時に呼び出したでしょうが。俺のこと、全く目に入ってなかったのか? いや、コルニとかコンコンブル博士と話してたんだし、コルニなんか俺の連れてるポケモンを聞き出してたまであるんだぞ? なんか少しくらいは覚えているはずなんだが。

 あ、それともあれか? ステルスヒッキーが発動したとか?

 ふっ、俺もついに影の住人になってしまったか。

 って、誰だよこのキャラ。キモいわ。

 

『さあ、それではバトルといきましょう!』

「これよりイッシキイロハ選手対四天王ドラセナ選手のバトルを始めます! 双方、準備は?」

「いつでもいいですよー」

「わたしも大丈夫よー」

 

 なんだこの二人。緊張感なさすぎだろ。

 

「それではバトル開始!」

「いってらっしゃい、ドラミドロ。うふふっ」

「いくよ、ヤドキング!」

 

 まずはヤドキングと………何あのポケモン。カロスに生息するポケモンか?

 

「なあ、カワサキ」

「あのポケモンはドラミドロ。どくとドラゴンを併せ持つ珍しい海のポケモンだよ」

「どくとドラゴンか………」

 

 タイプで言えばヤドキングの方が有利。だが、イロハがドラミドロについて知っていればの話。相手のポケモンについて知らなければ、弱点を突くこともできない。

 さて、イロハはどう出る。

 

「あらあら、エスパータイプだわ。さっさと倒しちゃいましょう。ドラミドロ、10まんボルト」

「ヤドキング!」

 

 ヤドキングを呼びかけると、迫り来る雷撃が止まった。

 サイコキネシスでも使ったのだろう。

 

「あらあら」

 

 ヤドキングが腕を広げると雷撃は霧散していった。

 そして、何の命令もなくドラミドロが後方へ吹き飛ばされ、隔壁にクレーターを作った。

 

『おおっと! イロハ選手、何の命令のないままドラミドロを吹き飛ばしたぁぁぁあああっ!!』

 

 命令をしていないわけじゃない。声に出す必要がないのだ。ヤドキングはエスパータイプ。テレパシーを用いた会話も会得している。だから、俺たちに聞こえないだけで命令は下されているのだ。

 

「ドラミドロ、りゅうのはどう」

 

 壁に激突したドラミドロが態勢を立て直し、赤と青の竜を模した波導を送りこんでくる。

 

「ヤドキング!」

 

 今度はヤドキングの方が電気を溜め始めた。

 そこにりゅうのはどうが突き刺さり、相殺させた。と思いきや、一閃がドラミドロを貫き、地面に倒れた。

 

「10まんボルトよ」

 

 レールガン。

 でんじほうをさらに速く、無駄のない形で撃ち出すザイモクザの得意技。ザイモクザの場合はロックオンを使ってからのでんじほうであり、追尾機能までつけてくる。そのため高速弾を躱したとしても当たるまで追いかけてくる厄介ものなのである。

 イロハにはまだロックオンを覚えたポケモンがいないからザイモクザのような鬼畜さはないが、その分フィールドを巧みに操り、逃げ道を絶ってくるから、それはそれで面倒ではあるが。

 でんじほうであるからして、追加効果の痺れも備わっているし、現にドラミドロは身体が痺れて起き上がれなくなっていて、雷撃を撃ち出すこともできないようだ。

 

『ドラミドロ、万事休すかぁぁぁあああ!? でんじほうと思われる一閃を受け、ドラミドロ、身体が痺れて動けない!!』

 

「とどめだよ」

 

 イロハの一言でヤドキングの額の赤い珠が光り、ドラミドロを宙へと浮かせた。もがくドラミドロであるが、それも無駄な抵抗となっている。

 

「ヤドキング!」

 

 勢いよくドラミドロを地面に叩きつけ、クレーターを作った。

 

「ドラミドロ、戦闘不能!」

『決まったぁぁぁあああっ!! イロハ選手、まずは先取点をもぎ取ったぁぁぁあああっ!!』

「あらあら、まあまあ。ドラミドロ、戻りなさい」

 

 なんか、思ったほど堪えてないらしい。こんなのまだまだ序の口よ、とでも言いたいのだろうか。

 うーん、全く読めない。

 

「強いわねぇ〜。テレパシーで命令を出せるなんてカルネくらいのものだと思っていたのだけれど。腕がなるわ〜っ」

 

 次に出してきたのはヌメヌメとした体液を垂らしているヌメルゴン。あいつのことは知っている。最弱のドラゴンから進化するポケモンだ。

 

「ヌメルゴン、パワーウィップ」

 

 駆け出したヌメルゴンの二本の角が光ると、グインと伸び始めた。

 それと同時にイロハの命令が下ったのかヤドキングの額の赤い珠が光り、ヌメルゴンの動きを止めた。だが、ドラミドロを相手にしていた時とは全く力が違う。受け止めてはいるが、ヌメルゴンはギチギチと角を前へ前へと押し出し、サイコキネシスを正面突破しようとしているのだ。

 

「ヤドキング!?」

 

 とうとう破られ、初のダメージを受けてしまった。

 

『ヌメルゴンのパワーウィップが決まったぁぁぁあああッッ!! 効果は抜群だぁぁぁあああっっ!!』

 

 だが、あいつはこんな一撃でノックアウトするようなやつではない。やられるならやられるで置き土産を残していく。無駄にイロハと意思疎通ができるわけではない。

 

「ヤードッ!」

 

 テレパシーがこないとなんか変な気分である。あいつが喋ってないのが気味悪いというかなんというか。や、普通は会話ができる方が気味悪いんだけど。

 

「またでんじほう!?」

「むふんっ! 我の奥義、レールガンをモノにしてきたようであるな」

「ただでさえ命中率の悪いでんじほうをさらに加速させて撃ち出すとか、誰も考えねぇだろ」

 

 ザイモクザでもロックオンを使ったりしてるのにな。マジで山に篭って何をしてたんだか。まさか俺が出した課題を全てクリアしてきたとか言わないだろうな…………。

 

「………誰も考えないからこそいいのだろう? 君のバトルがそうではないか」

「いや、誰かやってるでしょ。俺みたいにとはいかなくても。別に俺が特殊なんじゃなく、期待以上のものに仕上げてしまうリザードンたちがすごいんですよ」

 

 先生、そんな持ち上げないでください。俺はいたって普通だし、逆に飛行術が乏しかったから、アニメを漁っただけだってのに。いや、あれはマジですごいと思った。ポケモンじゃなくて人間自身が空を飛べるようになってるんだからな。

 

「打ち上げて」

 

 ヌメルゴンは二本の角で一閃の角度を変えた。

 

「花火になっちゃった………」

 

 何をどうしたら花火になるんだろうか。まさか今のはヤドキングの方が仕組んでいたとか?

 

「ヤードッ!」

 

 なんて花火に目がいっていると、ヤドキングが仕掛けた。一瞬遅れて部屋の中に閉じ込められたことに気づいたヌメルゴンがキョロキョロと辺りを見渡している。

 

「ヤドキング!」

 

 口を大きく開いたヤドキングが今にも凍りつきそうな風をヌメルゴンに送りこんだ。ふぶきだ。

 

『おおっと、ヌメルゴン! 急に部屋の中に閉じ込められたかと思うと吹雪に煽られ、身動きが取れない!?』

 

 右腕で身を守る態勢を取っているヌメルゴンの足元が段々と凍りつき始めた。

 

「ヤドキング、交代!」

『ど、どういうことだっ!? 攻めに回っていたヤドキングがボールに戻っていく! イロハ選手、一体何をする気だ!?』

 

 あの部屋はトリックルームだろう。

 そしてここで交代。ということは鈍足の奴が出てくるのかもしれない。

 

「フカマル、ドラゴンクロー!」

 

 お、交代したからイロハの命令が聞けるようになったぞ。

 ボールを投げることでヌメルゴンとの距離を縮め、さらにトリックルームの効果で一瞬でヌメルゴンの目の前にフカマルがいた。竜の爪で下から上に斬り裂き、ヌメルゴンが後ろへとバランスを崩した。

 

『交代で出てきたフカマルのドラゴンクローが決まったぁぁぁあああっ!! 恐らくこの部屋はトリックルーム! イロハ選手、進化前のポケモンで有利にバトルを進めるべく、ヤドキングにトリックルームを使わせていたぁぁぁあああ!? なんという、なんという巧みなバトル!! 半年前にトレーナーになったばかりとは思えないぞっ!!』

「ヌメルゴン、アクアテール!」

 

 だが、それも束の間。後ろに倒れるのをいいことに、尻尾に水のベールを纏わせ、くるっと身体を捻り、斬り裂くためにジャンプしたフカマルを地面に叩きつけた。ドサッと自分も地面に倒れたがあまり堪えてない様子。さすがのタフさである。

 ………ん?

 なんか、ヌメルゴンが尻尾を気にしてないか?

 こう、なんというか痛みを感じているような………。

 

「ヌメルゴン、どうかしたの?」

「フカマル、あなをほる!」

 

 うわー、容赦ねー。

 攻撃してこないヌメルゴンを見て、すぐに穴を掘って身を隠しやがった。

 

『こ、これはどうした?! ヌメルゴンが尻尾を気にしている!? 何か問題が起きたのかーっ!!』

『………おそらくフカマルの特性だね』

『特性ですか。なるほど、確かフカマルの特性は二つ。すながくれとーー』

『彼女のフカマルの特性はさめはだ。触ると危険な特性を持ってます』

『やっぱりか。君たちはつくづくレアなポケモンを捕まえてくるね』

『そこに私も含めるのはやめてほしいですね。レアなポケモンを捕まえてくるのはイロハとハチ……「あの男」くらいだもの』

『うーん、まあ、「彼」の方はもう特殊な能力だと思った方がいいんじゃないかな』

『そうですね、そうしておきます』

 

 ダメだ………。

 あいつら口を開けば俺のことばっかディスりやがる。おかげで実況もカルネさんも会話に加われない状態になるというね。仕事してくれ。

 

「ぷくくくっ」

 

 あ、あっちにも話聞いていやがった奴がいる。

 おいこら、バトルに集中しやがれ!

 

「ヌメルゴン、フカマルの特性はさめはだよ。直接触れるのはよくないわ」

「メゴッ」

 

 いつぞやのナックラーみたいな奴だとは思っていたが、まさかそこまで一緒だったとは。ナックラーも特性はちからずくでレアな方の特性だった。そしてフカマルもレアな方の特性であるさめはだときた。出会った場所も同じであれば、懐かれ方も同じという、何かあるとしか思えない偶然の一致。しかもあれだ。タイプももろ一緒だからな。何なのあいつ。いつからそんな特殊な能力をつけてんだよ。おまけに喋るヤドキングだろ? あいつのポケモンの雄どもは碌でもない奴しかいないな。

 

「ゴー!」

「フガッ!」

 

 ヌメルゴンの視線が足元から離れた隙にフカマルが地面から飛び出してきた。そのままヌメルゴンに体当たりをかまし、角で捕まえられてしまった。

 何やってんだよ。

 

「えへっ、りゅうせい!」

 

 ん?

 りゅうせい?

 りゅうせいぐんじゃないの?

 群れないの? え? 単発?

 

「ヌメルゴン、りゅうのはどうよ」

 

 大きく開かれた口から吐き出された一発の流星は上空に吹き飛んで行ったヌメルゴンへと一直線に走る。それに気づいたヌメルゴンは上から押さえつけるように赤と青の竜を模した波導を撃ち出した。

 徐々に押し返されてくる流星。

 そこへイロハの声が走った。

 

「フカマル、進化!」

 

 おい、またか。

 マフォクシーに進化した時も進化を合図出していたよな。

 何なの、その能力。一体いつからポケモンの進化を自在に操れるようになったんだよ。こうなってくるとナックラーの進化が感動的すぎるだろ。

 

『なっ、なんということだ!? イロハ選手、次なる命令は進化とき………は、始まりました!! イロハ選手の命令通り、フカマルの進化が始まりましたっ!!』

 

 フカマルが白い光に包まれ、姿を変え始めた。

 本当に進化が始まったのだ。

 誰だよ、こんな風に育てた奴。俺はこんな奴に育てた覚えはないぞ!

 

「……あらあら、まさか本当に進化のタイミングを命令できてしまうのね。トレーナーになってまだ半年の初心者、なんて考えは邪魔なだけだわ」

 

 どうやら四天王の方も本気でくるらしい。

 目つきとオーラがガラッと変わった。

 さすがに波導と押し返された流星を進化の時に放出されるエネルギーで弾き飛ばしてしまう相手には本気を出すのが礼儀と思ったのだろう。

 よかったな、イロハ。今のお前は四天王に本気出させるほど、強くなったらしいぞ。

 

「ガバイト、りゅうせいぐん!」

「ヌメルゴン、げきりん!」

 

 進化したことで今度はりゅうせいぐんになった。撃ち出された流星が弾けて群になり、次々と落ちてくる。

 その中を竜の気を暴走させてヌメルゴンが一直線にガバイトの方へと突っ込んできた。

 

「受け止めて! ドラゴンクロー!」

 

 進化したことで長くなった腕に竜の爪を作り出し、交差させて真っ逆さまに落ちてきたヌメルゴンを受け止めた。だが、やはり暴走状態。そんな程度では受け止め切れはしなかった。

 

「ガバイト!?」

 

 技と技がぶつかり、相当なエネルギーが凝縮されたようで、爆発が起きた。爆風に呑まれ、ヌメルゴンもガバイトも荒れ狂う町のゴミのように吹き飛んで行った。

 

「ン~、メゴーッ!」

 

 うわ……、タフにもほどがあるだろ。あれでまだヌメルゴンは立ち上がれるのかよ。ガバイトは起きる気配がねぇぞ。どうすんだよ。

 

「ガ……バ………」

 

 まだ意識はあるようだ。だが、あと一撃で倒れるのは間違いない。ガバイド自身、技を出せるか怪しいところである。

 

「まだ意識があるみたいだわ。ヌメルゴン、とどめよ」

 

 未だ竜の気を暴走させているヌメルゴンに四天王からの命令が出された。それを聞いたヌメルゴンはすぐさま駆け出し、フラフラと立ち上がろうとしているガバイドの目の前に移動した。

 

「メーゴッ!」

「ガバイト、ステルスロック!」

 

 振り被るヌメルゴンに対し、身を守ることもせず、見えない岩をフィールドへ仕掛けた。

 最後の力を振り絞って、といった感じか。

 なぜあのタイミングでフカマルに交代させたのかは分からない。何が狙いなのかも未だに掴みきれていない。ただ進化させたかっただけかもしれないし、他のポケモンの体力を残しておきたかったからかもしれない。最後のステルスロックが本命だったとかだったら、俺は泣く。フィールドに仕掛けをするために手持ちを一体犠牲にするとか、贅沢すぎるだろ。

 

「ガバイト、戦闘不能!」

『ガバイト、戦闘不能っ! 四天王、すぐに追いついてきたぁぁぁあああっ!!』

 

 あれ? イロハがなんか不敵な笑みを浮かべてるんだけど。ああいう時のイロハって絶対何か企んでる時だよな。何を仕掛けたんだ?

 

「ヌ、ヌゴ〜………」

 

 竜の気の暴走も治ると、フラフラとヌメルゴンの足元が足元が覚束ない。

 

「あらあら」

 

 ついにはヌメルゴンも地面に背中から倒れてしまった。

 

「ヌ、ヌメルゴン、戦闘不能!」

 

 そして力も尽きてしまったようだ。

 

『ヌ、ヌメルゴンも倒れたぁぁぁあああっっ!! いつの間にかヌメルゴンにダメージが入っていたみたいですっ!! イロハ選手、巧みな戦略でヌメルゴンを道連れにしましたっ!!』

 

 いつ、なんてそりゃ最後の攻撃だろう。

 特性を忘れたのかよ。ガバイトの特性はさめはだ。フカマルから進化しても特性は変わらない。だからげきりんで毎度直接ダメージを入れていた分、自分にも跳ね返ってきていたというわけだ。

 ああ、そういうことか。最初のやり合いでヌメルゴンの耐久力を思い知り、トリックルームを残して交代した。トリックルームはフカマルが動きやすいようにするためであり、踏ん張りどころでは進化をさせて意表を突き、本気を出してきたところで相討ちを狙う。しかも倒れる直前にはフィールドに仕掛けも施したわけだ。何かを狙ったわけでなく、すべて狙っていたみたいだ。

 なんて奴だ。一体どんな修行をしてきたんだよ。

 

『やるわね、あの子』

『そういう子ですから』

『初めてバトルした時からバトルセンスはあったけど、これはちょっと予想外だね』

『あまり彼女とはバトルをしたことがないのですが、バトルをするたびに強くなっていますね。優位に進めていてもいつの間にか支配権を奪われている、そういうバトルが何度もありました。奪い返しましたけど』

『しょ、将来が楽しみな逸材だわ』

 

 いやー、怖い。

 何が怖いって、フィールドだけじゃなくて観客すら支配してそうで怖い。

 それとユキノさんや。お前の負けず嫌いに、チャンピオンが引いてるぞ。

 

「これはちょっと意外な展開だわ。四天王として示しのつくバトルをしなくちゃ。ガチゴラス」

『四天王ドラセナ選手の三体目のポケモンはガチゴラスだ! 一体どんなバトルを見せてくれるのか!!』

 

 ガチゴラスか。

 ザクロさんのチゴラスが進化した姿だったな。あのでかい顎は要注意だ。噛みつかれたら離れない。噛まれなければいい話なのだが、そう簡単にもいくまい。あいつは脚力もある。離れていようが一気に距離を詰めてくることだって考えられる。イロハがどこまで上手く躱せるか、そういうバトルになるだろう。

 と、ここでガチゴラスに地面から岩が生え、突き刺さった。ステルスロックだ。

 

「ガチゴラス!」

 

 だが、突き上げられた身体を回し、宙返りをするとそのまま態勢を立て直し着地した。

 

『ガチゴラス、ステルスロックを上手く躱したぁぁぁあああっ!!』

 

 普通躱そうとしても躱せないもんだと思うんだけどな。なんかもうこの時点でドラミドロやヌメルゴンとは一味違う育て方をしてきたように見受けられる。

 

「ガチゴラス、ザクロさんが連れていたけど、あの子よりもずっと強い気を感じる………。ヤドキング、まずは動きを止めるよ!」

「ヤードッ!」

 

 まずはふぶきか。

 凍風がガチゴラスを襲う。

 

「ジャンプで躱して、かみくだく」

 

 早速出してきたか。

 一跳びで凍風を躱し、ヤドキングの頭のシェルダーに噛みついた。

 あれ外れたらヤドンに戻るのだろうか………。ちょっと見てみたい気もしなくもない。けど、要は馬鹿に戻るってことだしなー。それもなんか気が引ける。

 

「あらあら、サイコキネシスね。ガチゴラス、もろはのずつき」

 

 噛みついてきたガチゴラスを超念力で何とか切り離した。だが、そこは四天王。すぐに対応し、超念力をいとも簡単に破り、そのままヤドキングを弾き飛ばした。ヤドキングは観客との隔壁にぶつかり、壁にクレーターを作って動かない。

 

「や、ヤドキング?!」

「……ヤドキング、戦闘不能!」

 

 ものの一発。

 それだけであのヤドキングが戦闘不能にされてしまった。

 

『こ、これが四天王の実力かぁぁぁああああああっっ!! もろはのずつきの一撃でドラミドロ、ヌメルゴンと倒してきたヤドキングをあっさり倒してしまったっ!! 強い、強すぎるぞ!!』

 

 これがまさに四天王の実力なのだろう。

 技の一つで空気を変えてしまう。それくらいの実力がなければ就けない役職。責務というか名前の重みというか、背負うものに見合う実力が必要なのだ。

 

「お疲れ様、ゆっくり休んでて。ガチゴラスはいわ・ドラゴン………。ラプラス、あなたの番だよ!」

 

 ラプラスとな?

 マジか………、またレアなポケモンを捕まえやがって。何なのあいつ。何を目指してるわけ………?

 

「れいとうビーム!」

「ジャンプで躱すのよ」

 

 やはりあの脚力はすべての攻撃を躱してしまうようだ。一跳びで自在に距離を詰めることだってできそうな跳躍力。サワムラーも泣きそうな脚力だわ。

 

「もろはのずつき」

 

 ジャンプしたままガチゴラスがラプラスに飛び込んでいく。当のラプラスは外れたにも拘わらず、冷気を飛ばし続けていた。冷気はフィールド一帯の地面で固まり、アイスバーンに。ガチゴラスに躱されたステルスロックも凍り付いている。

 

「躱して、れいとうビーム!」

 

 水上でもないのに躱せるのかと思いきや、地面に張った氷のおかげでスイスイとガチゴラスを躱した。頭から地面に転がり落ちたガチゴラスは、地面の氷のせいで隔壁の方まで滑っていき衝突した。

 そこにラプラスの冷気が突き刺さり、ガチゴラスの尻尾を凍り付けにする。

 

「ガチゴラス、ドラゴンクローを地面に突き刺して」

 

 起き上がったガチゴラスが地面に竜の爪を両方突き刺し、どうするのかと思えばロケット弾のように飛び出し、一気にラプラスとの距離を詰めた。

 

「ラプラス、躱してあられ!」

「ラプラスを掴むのよ」

 

 氷の上を滑るように躱すラプラスの首に竜の爪を引っ掛けると、遠心力でそのままラプラスの背中に着地した。ラプラス、大ピンチ。後ろを取られてしまった。

 

『ガチゴラス、ラプラスの背後を取ったぁぁぁあああっ!! イロハ選手、このピンチをどう乗り切るっ!!』

 

 と、あられを呼ぶことには成功したようだ。

 パラパラと雪が降り始めた。

 

「もろはのずつきよ」

「フリーズドライ!」

 

 背中、というか首に激烈な頭突きを受け、前転で隔壁まで滑っていく。

 

『もろはのずつきが決まったぁぁぁあああっ!! ラプラス、万事休すかっ?!』

 

 効果は抜群。

 ヤドキングを一発で倒した技だ。効果抜群で受けてしまえば、続行不能の可能性は大である。

 

「ラプラス、戦闘不能!」

 

 やはりか。

 だがイロハはしっかりと置き土産を作っている。

 

『ラプラス、戦闘不能! ガチゴラス、立て続けにイロハ選手のポケモンを戦闘不能に追い込んだっ! ……おや? ガチゴラスの様子が…………な、ななななんとイロハ選手、置き土産を作っていたぁぁぁあああっ!! ガチゴラス、身体中凍り付いてしまい動けないっ!!』

 

 宙返りをして着地したガチゴラスは足元から静かに凍り付いていき、気づいた時には首にまで来ていた。そこまで来てしまえばどうすることもできない。ただ凍り付くのみである。

 

「ありがとう、ラプラス。ちゃんとこのチャンス活かすからね。マフォクシー!」

 

 ラプラスをボールに戻すと、四体目のポケモンとしてマフォクシーを出してきた。

 マフォクシーは木の棒を取り出し、地面に突き刺した。すると地面に亀裂が入り、隙間から炎が噴き出した。炎は凍ったガチゴラスを呑み込み、火柱を上げる。

 

「ブラストバーンか。急激な温度変化にさしものガチゴラスも耐えられるわけないか」

 

 氷漬けからのマグマを浴びる感覚を受けて、耐えられる生き物なんているとは思えない。

 それにあのガチゴラスは何度ももろはのずつきを使っている。もろはのずつきはその名の通り諸刃なのだ。

 リスクだってもちろんある。攻撃の度に反動。全く顔に見せないがガチゴラスの体力消耗は激しいことだろう。そこにあんな温度変化を使った技の組み合わせをされたのでは立っていられるとは思えない。

 

「ガゥ………」

 

 バタリと。

 炎に呑まれたガチゴラスが地面に倒れ伏した。

 残念ながら炎はまだ燃え続けている。水をかければ鎮火するかもしれないが、生憎マフォクシーは水を生み出すことができない。ガチゴラスも何かできるほどの体力はない。

 熱が膨張し、いつの間にかあられは止んでしまっている。

 

「マフォクシー、あの炎を取ってあげて」

 

 マフォクシーは地面に突き刺した木の棒を引っこ抜くとくいくいと動かし、それと同じようにガチゴラスを包む炎も動き出した。どうやら見かねたイロハが炎を取り除くことにしたみたいだ。四天王の方もボールを取り出して戻す準備をしている。

 

「ガチゴラス……、戦闘不能!」

「よくやったわ。ガチゴラス」

 

 すでに意識のなかったガチゴラスに審判が判定を下し、それを聞いた四天王がボールへと戻した。

 

『とうとうガチゴラスも倒れたぁぁぁああああああっっ!! 一進一退のハードな攻防! 実に見応えのあるバトルとなっております! さすがリーグ戦! さすが強者たちが勢揃いな祭典です!』

『こりゃ参った。まさか半年で四天王に引けを取らない実力者になるとは』

『最初のポケモンを渡した身として、喜ばしいことなのでは?』

『嬉しいよ。嬉しいさ。だけど半年だよ? 周りの環境を考えれば妥当な期間なのかもしれないけど、一度ポケモントレーナーを目指した身としてはあり得ない期間だね』

 

 あり得ない期間か。

 だが、イロハのこれまでの環境を考えればあり得なくもないだろう。校長というベテラントレーナーに知らず知らずの内に鍛えられ、いざ旅をするとなれば俺やユキノというチャンピオン経験者やザイモクザというある部分に特化したトレーナーがいたんだ。それにあいつ自身、潜在的な能力というかあのあざとい言動の延長戦というか、空気を操るのが上手い。それが人の感情だったり、バトルフィールドだったり、進化だったりとやり方は様々であるが、それらすべてを巧みにコントロールしている。

 正直なところ、出来レースに実践を組み込み、経験を積んだだけのような感じである。すべてをモノにしたのはイロハ自身の努力なんだが。

 

「ねえ、ハチマン。妹ちゃん、借りていい?」

「うおっ、なんすかいきなり。後ろから抱き着かないでくださいよ」

 

 なんかいきなり後ろから柔らかい感触が襲ってきた。

 

「あ、ハルノさん。お迎えですか?」

「そうそう、二人とも三体目のポケモンが戦闘不能になったからね。こっちに来る間に巻き返しちゃうんだもの。展開が早くて大変」

「それはそれは、お疲れ様です」

「もっと労って。お姉さんを労って!」

 

 何、この駄々をこねるどこぞの水の女神様みたいな反応。俺にどうしろって言うんだよ。

 

「はいはい、よく頑張りました」

「うわー、テキトーだー」

 

 言うな、コマチ。これで満足してしまう魔王様がここにいるんだから。

 なんだよ、こんなのでいいのかよ。ただ肩に乗せてきた頭を撫でただけだぞ。棒読みで。

 

「はるさーん、いきますよー」

「あ、メグリ。待ちなさい」

 

 しっかりと堪能したのか、スッキリとした顔でメグリ先輩の方へと駆け寄っていく。一体何しに来たんだよ。

 

「さて、いくかヒキガヤ妹」

「へっ?」

「コマチ、お前の相手はヒラツカ先生だ」

 

 コマチ、対戦表見てこなかっただろ。自分の相手を知っておくのも大事なことだぞ。

 

「ふふんっ、兄貴には負けたが妹には勝ってやる!」

「あんた、大人気ないな………」

 

 んとにこの人は………。

 どうしてこう俺に対しては対抗心が強いんだよ。俺、一応あんたの教え子だからな。教え子相手にムキになるなよ。しかも勝てないからって今度は妹の方に手を出すとか。これで負けたら一体どうなってしまうんだ…………?

 うわっ、考えただけで今から面倒臭そうだ。考えるのはやめよ。

 

「先生、負けませんよ! コマチはもう先生が知っているコマチじゃありませんから!」

「ほう、あまり大人を嘗めてはいけないぞ」

「んじゃま、行ってこい。骨は拾ってやる。先生も骨くらいは拾ってあげますよ」

「………いっそこの身をもらってくれればいいものを………」

 

 ちょいちょいちょい!

 今なんか危険な発言が聞こえてきたんですが。

 

「クリムガン」

 

 おっと、四天王が次のポケモンを出してきたみたいだぞ。続き見ようぜ、続き。

 

『ステルスロックが決まったぁぁぁあああっっ!! 激しい攻防で実況の私もすっかり忘れていたステルスロックがクリムガンに刺さりました!!』

「…………はあ、結婚したい」

「シズカちゃーん、最近発言が重たいよー」

「何を言うハルノ。教え子に先を越されるこの気分を知らないから言えるんだ」

「あはは………、と、とりあえず控え室にいきましょー、ね?」

「シロメグリ、とりあえずで片付けられるような案件ではないぞ。これは死活問題なのだ。私というこんなにも素晴らしい女性がいながらどうして世の男どもは揃いも揃ってーーー」

 

 スイッチの入った先生はハルノさんとメグリ先輩に愚痴をこぼしながら引きづられていった。それを追うようにコマチもついていく。タイシが「がんばるっすよー」などと手を振っているが思いの丈はあまり届いていなさそうである。ただ単に無邪気な笑顔を向けられていた。ざまぁ。

 

「嵐のようだったね」

「だな」

「ねえ、ハチマン。このバトル、どっちが勝つと思う?」

「さあな。リーグ戦をやるって決めてからはあまり人のバトルを見ないようにしてきたからな。俺には手の内を知られたくないだろうし」

 

 近くにはユキノたちもいたが、仕事が忙しくて人のバトルを見ている余裕がなかったのが正直なところである。

 いや、ほんとマジで。

 運営体制を整えるのはもちろんのこと、何かあっては大変なのでセキュリティーや避難マニュアルなど、次から次へと仕事が降ってきたのだ。何が嫌って最終的な判断は俺が下すということだ。責任重大すぎて胃が痛いね。

 特に防災関係は面倒だった。最悪のケースを想定って、何を想定すればいいんだよ。隕石か? 隕石が降ってきたときのことを考えればよかったのか? まあ、今回はフレア団の事件を踏まえてロケット団が強襲してきたらという想定にしたが。

 俺が思いつく最悪の事態がロケット団って………。

 火事とかの災害じゃないところがポイントな? そんなのはポケモンがいれば何とかならんこともない。共通項として避難のルートと誘導を重点的に取り決めたし。

 …………フラグになりそうだからもうこの話を思い出すのはやめよう。

 

「じゃあ、イッシキさんがラプラスを連れていたのも」

「初めて見たな」

「そ、そうなんだ………」

「ま、俺が言えるのは勝とうが負けようがあいつは強くなった。一段とバトルしたくない相手になってしまったわ」

 

 ユキノといいイロハといい、一体何をどうしたらいきなり強くなって帰ってこれるんだよ。怖いんだけど。女の底力とか言われた日にはもう立ち上がれないまである。

 

「すごいよねー。たった半年であそこまで強くなれるなんて」

「素質はあったからな。それよりも驚きなのはユイが本戦に出場してくるってことだな」

「えへー、何か言ったー?」

 

 フィールドを見ているユイをため息まじりにチラ見すると、屈託のない笑顔を向けられた。

 はあ、この半年で化けたのは言うまでもなくユイだ。別にバトルを見たわけではない。何故かジムバッジを八つ揃えてしまったのだ。コマチたちから聞いてもちゃんとバトルして勝ち取ったバッジであり、正真正銘の本戦出場選手になったのだ。しかも何があったのか知らないが、コルニに鍛えられることになってたし。

 

「いや、何も」

「マフォクシー!」

「クリムガン、かたきうち」

 

 何を命令したのか知らないが、マフォクシーが木の棒で文字を描くように動かし、クリムガンに何かを送り込んだ。鬼火、とはまた違う。

 その間にクリムガンはマフォクシーとの距離を詰め、音もなく切り裂いた。

 

「ま、マフォクシー!?」

 

 ドサッと。

 技の衝撃で爆発が起きるとかでもなく、静かに倒れた。

 かたきうち。

 その名の通り、敵を討つ技。別に仲間の敵を討つ必要がなくても技は使えるが、仲間が倒されて本当に敵相手となった場合、威力が跳ね上がる。今のはガチゴラスの敵なのだろう。

 それにしてもハサミギロチンみたいだな。だが、かたきうちは一撃必殺ではない。

 

「………フォッ………ク……」

『一度倒れましたが、マフォクシー。根性で立ち上がりました!』

「ほっ、よかった………」

『と、どうしたクリムガン! ヌメルゴンのように腕をさすっているぞ!』

「あらあら、マフォクシーが痛がるならわかるけど、クリムガンが痛がるなんて…………」

『プラターヌ博士、これは一体どういうことでしょう?』

『うーん、マフォクシーが痛がるのなら分かるんですがね。クリムガンの特性にはさめはだがあります。フカマルーーガバイドと同じように触れた相手にダメージを与える特性です』

 

 なら答えはもう一つじゃねぇか。

 マフォクシーはスキルスワップを覚えている。そしてあの木の棒の動き。あれがスキルスワップを使った証だったのだろう。

 スキルスワップはお互いの特性を入れ替える技。一見、何をされたか分からない。だからクリムガンも気づかなかったというわけだ。

 

『なるほど。では、三冠王はどうみますか?』

『恐らくクリムガンの特性はさめはだ。それをマフォクシーが奪ったのでしょう』

『奪う………?』

『なるほど、スキルスワップだね。マフォクシーのタイプにはエスパーも含まれている。覚えていてもおかしくないですね』

 

 ユキノは知っている。だからすぐに答えにたどり着いた。だが知らない奴からしてみれば謎だらけのトリックだったというわけか。

 

「ほんとすごいわ~。まさかここまで翻弄されちゃうなんて」

「私には倒したい人がいますから」

「まあ、それは三冠王さんのことかしら?」

「ユキノ先輩もですが………。三冠王や四冠王ですら勝てない相手です」

「あらあら、四冠王も勝てない相手なんて。うーん、誰かしらー」

「マフォクシー!」

「仕方がないわ。クリムガン、マフォクシーには退場してもらいましょう。ドラゴンテール」

 

 少し会話をしたかと思ったらイロハの方から仕掛けた。

 マフォクシーが木の棒を振り、新たな部屋を作り出していく。

 マフォクシーが覚えていたのは確かワンダールーム。直接攻撃への防御力と遠距離からの攻撃への防御力を入れ替える特殊な部屋。だが、クリムガン相手に必要なさそうな気がするんだが。

 と、そこへ飛び上がって、尻尾に竜の気を纏わせたクリムガンが振りかぶってきた。するとマフォクシーは木の棒を振り、ワンダールームを投げつけた。部屋の壁にぶつかったクリムガンはそのまま弾き飛ばされ、四天王の前でくるっと一回転し着地した。

 

「コマチちゃん、みたいな使い方するね」

「ああ、あいつもついに鬼畜になったんだな」

 

 およよ、とコマチ風に泣き真似をしてみる。後ろから刺さるカワサキの冷たい視線が超痛い。

 

『な、なんという技の使い方! 作り出した部屋を障害物としてクリムガンにぶつけるなんて見たことがないぞっ!』

 

 いや、前は足場にもしてたしな。そう考えると思いついてもおかしくはないが、コマチ……というかカマクラを見ているようでなんか萎えてくる。

 

「リベンジよ」

 

 態勢を立て直したクリムガンは着地と同時に地面を蹴り上げ、マフォクシーへと詰め寄った。

 

「マフォクシー!」

 

 またしてもワンダールームを作り出し、壁とした。だが、それを読んでいたのかクリムガンの拳が部屋の壁を叩き破り、ワンダールームを消し去ってしまった。

 

「ドラゴンテール」

 

 くるっと前宙し、竜の気を纏った尻尾でマフォクシーの頭を叩きつけた。マフォクシーは地面に伏せる暇もなく技の効果でイロハの方へと引き寄せられていく。そして、ボールに吸い込まれたかと思うとフライゴンが勝手に出てきた。

 

『クリムガンのドラゴンテールによりマフォクシー、ボールへと戻っていきました! 代わりに出てきたのはフライゴン!! ドラゴンタイプ同士のバトル!! 熱い展開になってきました!!』

「フライゴン、ちょっと出番が早まっちゃったけど、いくよ! ドラゴンダイブ!」

「迎え撃つわよ~、リベンジ」

 

 加速し勢いに乗ったフライゴンが赤と青の竜の気を全身に纏い、クリムガンへと突っ込んでいく。対してクリムガンは腕を下げて、迎え撃つ態勢を取り始めた。

 

「さめはだを奪ったからクリムガンに直接触れられるようにもなったわけか。イッシキも計算しつくしてるね」

「あいつのやることに無駄はないからな」

 

 カワサキが感心したように呟いた。

 よかったな、イロハ。恐らく俺がお前に与えた課題を全てクリアしてそうなカワサキがお前のバトルに関心を持ってるぞ。

 

「ほんとどれくらい先まで見通してるのか怖いくらいっすよ」

 

 弟の方なんか震え上がってるし。

 山で一緒に修行してた時のことでも思い出したのだろう。お前、一体どんな修行をしてきたんだよ。

 

『ドラゴンダイブが決まったぁぁぁあああっ!! さあ、クリムガンの反撃だっ!!」

 

 衝撃で爆発が起き、一足先にフライゴンが空へ回避してきた。様子を見る限り、攻撃を受けていない。

 

「クリムガン…………、戦闘不能!」

『おおっとクリムガン、反撃の狼煙を上げられずダウン!! 一歩リードしたのはイロハ選手だっ!!』

 

 四天王は判定を受け、クリムガンをボールへと戻した。

 これで相手はあと二体。数的有利はイロハにあるが、果たしてすんなりバトルが展開していくのだろうか。相手は四天王。多くの猛者たちから選ばれた言わば最強の中の最強。その一角を担うあのおばさんがそう簡単に勝利をくれてやるとは思えないんだが。

 

「オンバーン、上に行くのよ~」

『五体目のポケモンはオンバーン! どうやら空中戦に持ち込むようです!』

 

 五体目はオンバーンか。

 パンジーさんが連れてたっけ。

 

「あ、ステルスロックが………」

 

 トツカも気が付いたようだが、出てきてすぐに上空へ飛んで行ってしまったため、ステルスロックの餌食にならなかった。ただ障害物として岩が突き出てきただけである。三つもあると邪魔だな。別のフィールドになったみたいだわ。

 

「フライゴン、ハイヨーヨー!」

 

 おい!

 なんでお前までそれ使ってんだよ。いつの間に覚えやがったんだ?

 

「出たっす! あれ、ポケモンの技じゃないから反則にもならないし、でも空中戦じゃ移動の方法でも勝負の行方が変わるって言ってたっすよ!」

 

 お、おう………。

 どうしたクズ虫。そんなに上昇していったフライゴンがすごいのか?

 

「あ、あのタイシくん………」

「はいっす!」

「あれね、元々ヒッキーが編み出したものだから………」

「へ………?」

「タイシ………」

 

 さーちゃん頭痛そうだな。

 

「ハイヨーヨーは上昇するという反重力のエネルギーを無理矢理蓄えて、下降する時に上乗せして一気に詰め寄る飛行術だ」

「………マジっすか…………。お兄さん、何者なんすか………」

「今はカロスポケモン協会の理事だな」

 

 以前は………、何になるんだ? カントー理事の懐刀? 元チャンピオン………と言えるほど就いてないし。みんなは元チャンピオンって言ってるけど。脅し程度には使える肩書きだから、まあ便利ではあるが。

 ………ああ、あるじゃないか。元シャドーの戦闘員的なの。

 うん、やめよう。シャドー脱走の後からこっちに来る数日前の記憶がないんだ。しかもその部分だけ、あまり詳しいことが手帳には書かれていない。一番謎な部分を突き止めない限りは昔の俺を語らない方がいいよな。

 こんなことあまり深く考えたことなかったが、ポケモン協会の理事になんてものになってしまった以上、詮索されないとも限らないからな。一応パンジーさんを専用記者に抜擢し、情報漏洩を抑えてはいるが、それでもホロキャスターなる検索機器がある時点で、俺の過去を突き止められないとも限らない。

 近しい人物でも俺の記憶にある範囲内のことだけしか話さない方が得策だ。

 ありがとよ、タイシ。おかげで用心しておくことがまた一つ明らかになったわ。

 

「や、それは知ってるっすけど………。そうじゃないっす!」

「えーと、ヒッキーは………ポケモントレーナー………?」

「分からんのなら口を挟まない方がいいぞ」

 

 そう言えばユイたちは俺のことをどこまで知っているのだろうか。ザイモクザはなんだかんだ俺の部下扱いで行動を共にしていることが多かったようだ。それにユキノもなんだかんだで付き合いがあるらしい。ハルノさんも魔王なので全てを知っていてもおかしくはない。

 だが、ユイやイロハは?スクールの時から好意を持っていたことを仄めかしてくる二人だぞ? 調べていないとも限らないのではないか? 調べられるのか疑問ではあるが………。俺ってアレじゃん? 割と危ない奴じゃん? 情報の漏洩とか厳しい…………こともないか。厳しそうなのはシャドー脱出後くらいだろうし。

 

「うぅ………」

「えっとね、ハチマンはカントーの元チャンピオンだよ」

「はっ?」

「うぇっ?!」

 

 姉弟で驚いている。

 ユイとコマチは言っちゃってよかったの? なんて顔を向けてきたが肩を澄ませて肯定しておいた。

 

「チャンピオンってあのカルネって人と同じ………?」

「無論、我が相棒は偉大なのである」

「アホ、そんな大層なもんじゃないだろ、俺の場合」

「通りでヒキガヤさんがすぐに強くなったわけだ………」

 

 それは別に関係ない。

 コマチが強くなったのはコマチ自身の努力だ。素質があったことは認めるが、そもそも素質なんて皆最初は平等に持っている。ただ違うのはこれまで何を見聞きし、何を経験してきたのか。そこで差が生まれてくるのだ。要は環境の問題………ん? ちょっと待てよ? そう考えるとコマチやイロハはどこでそんな経験をしてきたんだ? イロハはまあ、あのじじいがいるし………いや、そうは言っても過度の接触はできていなかった。イロハがポケモントレーナーになってようやく祖父であることを打ち明けたのだ。バトルを教え込むことなんて無理だろう。

 ………となるとやっぱりあいつ…………。

 それにコマチもか…………。あ、でも俺の強さなんて知らなかったって言ってたし、それが原因でケンカまがいのこともしたわけだし。

 取り敢えず、この条件でいくとユイは何も知らなかったとみて間違いないな。

 ふぅ……、ちょっと落ち着こう。バトルでも見て思考を止めるとするか。

 見ると、急降下し始めたフライゴンをギリギリで躱し、すぐにオンバーンはフライゴンの後をついてきていた。

 フライゴンは地面スレスレで方向を変え、ステルスロックの間を翔け抜けていき、オンバーンもギリギリで方向を変えていく。

 

「オンバーン、エアスラッシュ」

「フライゴン、躱して!」

 

 空気を固めた無数の刃を飛ばしてきた。

 それをフライゴンは後ろを見ず、感覚だけで躱していく。無数に飛ぶ刃のいくつかが岩を砕き、見晴らしをよくしてしまった。これでイロハが作り出したフィールドも払われたことになる。

 

「フィッ!?」

 

 そうなるとやはり無理があったらしい。一刀を背中に受けると次々と斬り裂かれていく。

 俺の飛行術を使うのであれば、ソニックブーストを使えば躱すこともできたはずだ。だがあれを使わなかったということは完璧にマスターしたというわけではないらしい。できるものだけでも習得させたと見るのが妥当だろうな。

 

「くっ、フライゴン、エアキックターン!」

 

 なるほど、空気を蹴って、方向転換をするエアキックターンは使えるのか。ということは翼を使う術には得手不得手があるということだな。

 

「フライゴン、ドラゴンダイブ!」

 

 崩されたバランスを立て直しながら方向転換すると、勢いよく空気を蹴りつけた。そして赤と青の竜の気を纏い、オンバーンへと突っ込んでいく。

 

「いかりのまえば」

 

 巨大な前歯を作り、突っ込んできたフライゴンを捉えた。

 交錯したのは一瞬で、二体はそれぞれ地面に転がり込んでいく。

 

『オンバーン、フライゴン、交錯して両者地面へと叩きつけられましたっ! 激しい、なんと激しいバトルなのでしょうか!!』

「フライゴン、ストーンエッジ!」

「フィッ………、ラッ!」

「オンバーン、ばくおんぱよ」

「オォォォバァァァァァァアアアアアアアアアンッッ!!」

 

 両者起き上がれないまま、技を繰り出した。フライゴンが叩きつけた地面からは岩が飛び出し、その岩をオンバーンが音波で粉砕していく。

 

「りゅうのはどう」

「りゅうのいぶき!」

 

 今度は波導とブレスの交錯。

 激しい衝撃波を生み出し、両者をさらになぎ払っていく。

 

「フライゴン!?」

 

 地面にバウンドしていった二体は起き上がる気配がない。

 ぐったりと。

 それはもうぐったりと横たわっていた。

 

「………フライゴン、…………………オンバーン、ともに戦闘不能!」

『両者ともに戦闘不能だぁぁぁああああああっっ!! ドラゴンタイプの同志のバトルは引き分けに終わったぁぁぁああああああっっ!!』

 

 今思ったんだが、フライゴンはクリムガンも相手しただろうが。そっちもドラゴンタイプ同志のバトルになるんじゃねぇのかよ。おい実況。しっかりしろよ。

 

「ハッチー、とうとう最後の一体になったね………」

「そうだな。だが油断は禁物だ。相手は四天王。場数じゃ相手の方が遥かに上だ」

「そうだね、ここからがイッシキさんの腕の見せ所になるだろうね」

「ああ」

 

 トツカの言う通り。

 最後のポケモンだからこそ、腕の見せ所になる。おそらく相手は切り札とも呼べるポケモンを出してくるだろう。そいつはこれまでの比じゃない強さを持っているはずだ。イロハにとってそいつをどう攻略するか、そこが勝利への鍵となる。

 

「フライゴン、お疲れ様。ゆっくり休んでて」

「お疲れ様〜、よくやったわ〜。…………ここまで追い込まれたのは初めてかもしれないわ。強い信念と高い実力。四天王として敬意を表さないとだわ。………本気、出させてもらおうかしら」

 

 あ、ちょっと声の高さが低くなった。

 おばさんが超本気モードに入ったようだ。

 

「チルタリス」

 

 出してきたのはチルタリス。

 もふもふが人気の可愛い系ドラゴンタイプ。

 その顔に似合わず、見事にステルスロックを躱しやがった。

 

「チルタリス………、マフォクシー、お願い!」

 

 対してイロハはマフォクシーか。

 何を企んでいるのか知らないが、メガシンカという切り札は最後まで取って置くつもりらしい。

 

『四天王ドラセナ選手の最後のポケモンはチルタリスだ! マフォクシー、四天王の最後のポケモンを攻略することができるのか!!』

 

 先に仕掛けたのはマフォクシーか。

 出したのはサイコショックか? 地面に転がる岩の破片を浮かせ、チルタリスの周りに集め始めた。

 

「チルタリス、あなたの歌声の虜にしちゃいなさい。うたう」

「チール」

 

 ピンチだというのにチルタリスは歌い出した。いや、いい声してるよ? ずっと聞いて痛くなる心地いい音色である。

 

「綺麗………」

 

 おーい、そこのあざとかわいい子。バトルに集中しないと負けるぞー。

 

「フォ……ク………」

 

 ほれみろ。マフォクシーがとうとう崩折れて寝てしまったじゃないか。チルタリスを囲っていた岩の破片どももパラパラと地面に落ちていってるぞ。

 って、トレーナーの方まで目をこすってるし。まずいな。これは非常にまずい。

 

「チルタリス、りゅうのはどう」

 

 心地いい音色が消えたかと思うと、ズドンと激しい振動が会場を襲った。

 チルタリスのりゅうのはどうが眠っているマフォクシーに当たったようだ。

 

「あ………」

 

 なるほど、これはイロハも一枚取られたな。今まで散々会場をも包み込むような支配力を見せてきたが、ここに来て真の支配力というものを見せつけてきやがった。

 

「マフォクシー、戦闘不能!」

 

 眠気が消えさり、ようやく状況を把握できたって感じだな。

 なんか一気に絶望に打ち引かれてるな。

 

「………ごめんね、マフォクシー。わたし………」

 

 太陽が出てきたからか、イロハの目元が暗くなった。なんてタイミングのいいこと。

 

『………うーん、まさ……か、チルタリスの、歌声、が………こんなにも眠気を誘うってくるとは…………ふわぁ〜………』

 

 よし、あの実況クビだな。

 仕事放棄してんじゃねぇよ。まあ、あの歌声に呑まれるなって方が無理な話だろうけど。だからってオンマイクであくびはダメだろ。

 

「………なんだよ」

 

 なんかイロハがこっちを見てきてるんですけど。

 なに? 俺にどうしろってんだ?

 いやそもそも見られているのは俺なのか? 他の誰か、例えばユイという可能性もある。

 

『まったく、これくらいのことで何を暗くなっているのかしら? 上を目指すのならこれくらいやられて当たり前でしょう?』

 

 おーい、いいの? 解説者が一個人に喝を入れるとか。まあ、ルールにそういう規定はないから違反でもなんでもないが。

 

「ッ!?」

 

 おーおー、驚いてる驚いてる。

 ユキノはイロハに対してあまり口出しはしてこなかったからな。こんなこと言われたのも初めてなんじゃないか?

 

「…………デンリュウ、最初から本気でいくよ」

「リュウ!」

 

 首を横に振るとイロハはようやく最後のポケモンであるデンリュウを出してきた。

 

「メガシンカ!」

 

 取り出したペンダントを強く握りしめると、デンリュウのメガストーンと共鳴しだし、白い光に包まれていった。

 デンリュウの尻尾にはチルタリスのようなもふもふな毛が生え、姿を変えていく。

 

「あらあら、メガシンカを使えたのね」

「りゅうのはどう!」

 

 叫ぶような命令が下され、竜を模した波導がチルタリスを襲いかかる。

 

「でもメガデンリュウはでんき・ドラゴンタイプ。ドラゴンキラーと称されるわたしには相手じゃないわ。チルタリス、メガシンカ」

 

 だが、相手の方も光と光が共鳴を始めた。

 そういえば、メガシンカのリストにチルタリスもあったな。だが詳しいことまでは知らない。誰も連れていなかったから調べるということもしてこなかったのだ。

 チッ、こんなことだったら全メガシンカポケモンについて調べておくんだったな。これだから社畜は………。

 

「えっ………? 効いて、ない………?」

「ええ、効かないわ。だって、メガチルタリスはドラゴン・フェアリータイプですもの。チルタリス、はかいこうせん」

 

 ………そういうことか。

 通りでずっと余裕で居られたわけだ。

 フェアリータイプであればドラゴン技は効かない。

 それはイロハの思考を一瞬でも止めてしまう材料になりえるからだ。

 現にイロハはなす術もなく思いつかず、デンリュウがはかいこうせんを受けてしまった。

 

「あ、ああ………デン、リュウ…………」

 

 そして、デンリュウのメガシンカがあっさり解けてしまった。

 えっ? 一発でか!?

 はかいこうせんでデンリュウが倒れる………効果抜群でもない限り一発でとかありえないだろ。仮にもメガシンカしたポケモンだぞ?

 いくらメガシンカしたポケモンからのはかいこうせんだとしても……………効果抜群? 

 もしはかいこうせんがメガチルタリスのタイプであるドラゴン、あるいはフェアリータイプの技だったらどうだ? ………一発退場もありえなくはない。というか技のタイプを変化させる特性があったような…………。

 

『ドラセナは私と同じメガシンカの継承者でもあります。従ってメガシンカを使う時が彼女の本気というわけです。そして他の四天王たちも同じくメガシンカの継承者。そんな彼女たちからメガシンカを引き出せた時点で、トレーナーとしてレベルの高い実力を持っているという証です』

 

 ………そう、か。

 四天王は皆メガシンカを使えるのか。つーか、そもそもあのくそじじいの弟子だったのか。

 はあ………、こんなことなら調べておいてやるんだったな。

 

『激しくなるかと思われた最後のバトル!! メガシンカ同士の熱いバトルになるかと思いきや一転!! 四天王ドラセナ選手の見事な戦術にイロハ選手手も足も出す暇もありませんでした!! Aブロック二戦目。勝ったのは四天王ドラセナ!!』

 

 

 

 

 ーーーイロハの初のリーグ戦は。

 

 

 

 ーーー呆気なく終わった。




行間(バトル使用ポケモン)

イッシキイロハ 持ち物:キーストーン
・マフォクシー(フォッコ→テールナー→マフォクシー) ♀
 特性:もうか
 覚えている技:かえんほうしゃ、ほのおのうず、ソーラービーム、にほんばれ、ワンダールーム、スキルスワップ、メロメロ、ニトロチャージ、マジカルフレイム、シャドーボール、ブラストバーン、だいもんじ

・フライゴン(ナックラー→ビブラーバ→フライゴン) ♂
 特性:ふゆう(ちからずく→ふゆう)
 覚えている技:ギガドレイン、かみくだく、むしくい、じならし、すなじごく、がんせきふうじ、りゅうのいぶき、ばくおんぱ、だいちのちから、りゅうせいぐん、、ドラゴンダイブ、ストーンエッジ

・ヤドキング ♂(校長からの贈り物)
 覚えてる技:サイコキネシス、みずでっぽう、パワージェム、まもる、うずしお、ずつき、トリックルーム、シャドーボール、でんじほう、かえんほうしゃ、きあいだま、いやしのはどう、ふぶき

・デンリュウ(モココ→デンリュウ) ♀
 持ち物:デンリュウナイト
 覚えてる技:ほうでん、シグナルビーム、わたほうし、コットンガード、エレキネット、でんじは、パワージェム、でんじほう、アイアンテール、りゅうのはどう、こうそくいどう、じゅうでん

・ラプラス ♀
 覚えてる技:れいとうビーム、フリーズドライ、あられ

・ガバイド(フカマル→ガバイド) ♂
 特性:さめはだ
 覚えてる技:あなをほる、りゅうのいかり、ドラゴンクロー、りゅうせいぐん、ステルスロック


ドラセナ 持ち物:キーストーン
・チルタリス ♀
 持ち物:チルタリスナイト
 特性:???←→フェアリースキン
 覚えてる技:りゅうのはどう、はかいこうせん、うたう

・ドラミドロ ♀
 覚えてる技:10まんボルト、りゅうのはどう

・ヌメルゴン ♀
 覚えてる技:パワーウィップ、アクアテール、りゅうのはどう、げきりん

・ガチゴラス ♀
 特性:がんじょうアゴ
 覚えてる技:かみくだく、もろはのずつき、ドラゴンクロー

・クリムガン ♀
 特性:さめはだ
 覚えてる技:かたきうち、ドラゴンテール、リベンジ

・オンバーン ♀
 覚えてる技:エアスラッシュ、いかりのまえば、ばくおんぱ、りゅうのはどう


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12話

ちょっと遅れましたけど。


『さあ、いよいよBブロック! まずは一戦目のバトルはこの二人だっ! 夢は兄に勝つこと、ヒキガヤコマチ!! そして、ポケモンスクールの元教師、ヒラツカシズカ!!』

 

 消え入るようにフィールドを後にしたイロハに変わって、コマチとヒラツカ先生が登場した。コマチはイロハと交代だったし、フィールドの整備の時間もあったから、その間に何か話したのだろうか。あまり話しかけられそうな空気でもないような気もするが。

 

『プラターヌ博士、シズカ選手の方は博士の助手をしているんだとか』

『ええ、今は僕の研究所で手伝ってもらっていますよ。主にメガシンカの研究を、ですが』

『ということは彼女もまたメガシンカ使いだと?』

『もちろん、彼女はアグレッシブなバトルをしてくれます。今回もどういうバトルを組み立ててくるのか楽しみですよ』

 

 なんか先生が名前で呼ばれるのって不思議な感覚だな。呼ぶのってハルノさんと博士くらいだし。

 …………さっきの今でときめいてるとかないよな?

 

『コマチ選手の方は三冠王とともにカロスを旅していたと伺っていますが』

『ヒラツカ先生に呼ばれてカロスに来た時にプラターヌ博士の研究所で会いまして。最初は一人で回るつもりだったのですが、彼女たちに誘われて一緒に旅をすることにしました』

『なるほど、これは期待できそうな選手ですね』

『期待、という点でいえば、イロハ同様半年前にトレーナーなったばかりの新人ですから、ここまで来れた実力が楽しみですね』

『あの子って確か四天王に就いてくれた彼の妹よね?』

『し、四天王の妹なのですか………?!』

『そうですけど、それで彼女を評価するのは間違ってますよ。彼は別格ですから』

『………未来の旦那の評価は絶対的ね』

『なんのことでしょうか?』

 

 なにやってんだ、あいつら。

 目が笑ってない笑顔のやりとりが怖いんだけど。

 実況の男性も二人が怖いのか、未来の旦那発言に突っ込もうとしないし。や、それでいいんだけどさ。突っ込まれると余計にややこしくなるし。

 

「これより、ヒキガヤコマチ選手対ヒラツカシズカ選手のバトルを始めたいと思います! 双方、準備は?」

「いつでも」

「いつでもいいですよー」

「それでは、バトル始め!」

「いくよ、カーくん!」

「ハリテヤマ!」

 

 まずはカマクラとハリテヤマか。ハリテヤマの平手打ちでカマクラが吹き飛んでいきそうなほどの体格差だな。というかやっぱり先生が捕まえるポケモンってかくとうタイプなのか。俺の代わりに四天王とかやらないかな。

 

「カーくん、サイコキネシス!」

「ハリテヤマ、ねこだまし!」

 

 ふっ、これがほんとのねこだましってか。

 おいこら、初っ端から何遊んでんだよ、あの人は。

 

『おおっと、ニャオニクス! ハリテヤマの一拍手に怯んで技を出せなかった!!』

 

 音がね、パアンッとね。

 そりゃビビるって。特にカマクラとか耳いいし。

 

「カーくん、気を取り直してもう一度サイコキネシス!」

「ふっ、次も使わせるものか。ハリテヤマ、バレットパンチ!」

 

 ダッと地面を蹴り出したハリテヤマが一瞬でカマクラの前に現れた。

 

「カーくん、切り替えて! リフレクター!」

 

 咄嗟に技の変更をさせるが最初の一発が入ってしまった。続けて打ち出してくる拳を何とか壁を貼って抑えたが、それでも壁にはヒビが入ってしまった。

 やべぇ、あのハリテヤマ強ぇ。

 

「はたき落とせ!」

「カーくん、リフレクター十枚張り!」

 

 鉄になっていた拳を開き、大きく振りかぶって平手打ちが襲いかかってくる。そこにリフレクター十枚を挟み込み勢いを殺すと、くるりとハリテヤマの平手の横をスイスイと抜けていった。

 

「サイコキネシス!」

 

 今度こそサイコキネシスが使えた。自分の何倍もあるハリテヤマを超念力で持ち上げ、宙で振り回し始める。

 

「たたきつけちゃえーっ!」

 

 コマチの一言でカマクラはハリテヤマを地面に叩きつけた。なんて痛そうな音なんだ。砂煙が巻き上がるくらいには衝撃波があったみたいだぞ。

 

「バレットパンチ!」

 

 ヒラツカ先生が砂煙の中に呼びかけると、勢いよくハリテヤマが飛び出してきた。その足はそのままカマクラの方へと向かっている。

 

「カーくん、リフレクター!」

 

 リフレクターを張り、鉄拳の高速パンチを受け止めていく。

 

「ばくれつパンチ!」

 

 だが、急にパンチの種類が変わった。振り降ろされた拳は壁を破壊。そのままカマクラを隔壁へと吹き飛ばした。

 

『ばくれつパンチが決まったぁぁぁああああああっ!! ニャオニクス、壁に激突してクレーターを作りました! なんという破壊力! コマチ選手、ハリテヤマの猛攻をどう攻略していくのでしょうか!!』

「反撃の隙はやらん。とどめだ、ハリテヤマ。バレットパンチ!」

 

 あ、あの人ちょっとスイッチ入ったな。決めポーズまで取り始めたぞ。

 

「ーーカーくん、ふいうち」

 

 目の前に現れたハリテヤマに一切動じず、高速パンチを躱し、背後に回って殴りつけた。

 混乱とかしてねぇのかよ。ばくれつパンチはその衝撃の強さで相手をしばらく混乱させてしまうんだぞ。何気にリフレクターが衝撃を殺していたってことなのか?

 

「はたき落とせ!」

 

 隔壁のクレーターの前で踏みとどまったハリテヤマが、踏ん張る力を利用してカマクラにとびかかった。

 

「カーくん、リフレクター二十枚張り」

 

 おう………、さらに枚数を増やせるのか。というか、壁を囮に後退してるじゃねぇか。ハリテヤマもさぞ嫌な気分だろう。律儀にすべて壊していく方も行く方だけど。

 

「チッ、さすが兄妹ということか。段々とその嫌な逃げ方が兄貴と似てきている」

「でも、お兄ちゃんはこんなことしませんよ? カーくん、サイコショック!」

 

 いつぞやのイロハが見せたレールガンの乱れ撃ちのごとく。

 壊れた壁の無数の破片をハリテヤマに襲いかかる。これもサイコショックという技であるからして、効果抜群。

 ハリテヤマにとってはかなり痛手となっただろう。

 

「今度はイッシキか。つくづく人の真似をするのが得意な奴だな。だが甘い」

 

 一拍手。

 ハリテヤマが先生と合わせるように両掌を打ち付け、音を鳴らした。

 それだけで、壊れた壁の無数の破片が地面にパラパラと落ちていく。

 

「先生もかなり戦略を練ってきてるというわけか」

 

 あれは恐らくねこだましの応用。カマクラに使っても一度受けているため効果はないに等しくなっているが、技に対して使う分には効果は健在らしい。

 

「バレットパンチ!」

 

 うっ………、なんか急に日差しが出てきたな。

 眩しい。横に座っているトツカがキラキラしているからではない。そんなのはいつものことなので今更な話である。眩しいのは太陽の光がだ。誰かがにほんばれを使ったわけでも特性ひでりのポケモンがバトルしてるわけでもないのに。天気というのは実に気まぐれである。

 

「カーくん、リフレクター!」

 

 またしてもカマクラは防御態勢。

 

「なにっ!?」

 

 だがハリテヤマの拳は空を切った。

 一体どういうことだ? 今の今まで真っ直ぐにカマクラに迫っていたというのに。

 

「くっ………、っ!? なるほど……、光か」

「あ、そういうことか」

「………どういうことだよ」

 

 先生の呟きにトツカが反応した。

 光? 確かに日差しはきつくなってきたが、それと何か関係があるのか?

 

「光の屈折だよ。リフレクターは半透明の壁でしょ。コマチちゃん、というかカマクラの方がかな、リフレクターの角度を計算して、照りつける光をハリテヤマに反射させたんだよ」

 

 ほー、あの壁ってそんな使い方もできたのか。ただ殴りつけるような代物ではなかったんだな。

 

「カーくん、そのまま殴りつけちゃえー!」

 

 お返しと言わんばかりにカマクラがリフレクターでハリテヤマを打ち上げた。どこからそんなパワーが出てくるのか甚だ疑問ではあるが、打ち上げられてしまうハリテヤマもどうかと思う。体格差ありすぎなくせに何打ち上げられてるんだよ。

 

「とどめだよ、サイコショック!」

 

 バット代わりにした壁を吹き飛んで行ったハリテヤマの方へと飛ばし、上から叩きつけた。

 エスパー怖い。何このバトル。色々と間違っている気がするんだけど。

 

「ハリテヤマ!?」

 

 ドサッと巨体が地面に叩きつけられ、衝撃で風が吹いた。先生の声が風に逆らいハリテヤマの方へ飛んでいくが反応はない。

 

「ハリテヤマ、戦闘不能!」

 

 返ってきたのは戦闘不能の判定だけ。

 まずはコマチが一勝か。

 

「ご苦労だった、ハリテヤマ。ゆっくり休むがいい」

『まずはコマチ選手が一歩リード! シズカ選手、巻き返しなるか!!』

『いやー、日を追うごとに強くなっているね。シズカ君も元教師としての威厳を見せないと巻き返せないかもねー』

『なぜそこで先生を挑発するような発言をするのかしら。そこは無難な言葉でいいと思うのだけれど』

『だって、彼女はまだまだ本気じゃない。僕が知ってる彼女は熱い魂のこもった力業ですべてを薙ぎ払っていくような人なんだよ』

『言いたいことは分からなくもないですが』

『ねえ、彼女は一体どんなトレーナーなの?』

『元来、生徒思いな先生ですよ。私もいろいろと支えられてきた身ですから』

『わたしはカントーでフィールドワークをしている時に出会った少年に教えてもらいました。「俺を調べるよりももっと個性的な人がいる」って言われまして。そして向かった先が彼女の務めるスクールだったというわけです』

『……確かに個性的な人にさらに個性的な人がいるなんて言われたら、興味は沸きますけど。その言葉の後に「だからさっさと帰れ」くらいのこと言われたんじゃないですか?』

『はっはっはっ、まさにその通りだよ』

『はあ………』

 

 高らかな笑いに、重いため息を吐くユキノ。

 分かる。分かるぞ、その気持ち。ウザイよな、あの変態。まるでトベだ。

 

「ゴロンダ、頼むぞ」

 

 次に出てきたのはゴロンダというポケモン。主にカロス地方に生息するポケモンである。なぜ生息地を知っているのかといえば、以前ユキノが熱く語ってくれたからだ。

 進化前のヤンチャム。彼女のお気に入りのポケモンである。理由は…………顔を真っ赤にしてきたから聞けなかった。代わりにこんな無駄知識を捲し立てられたが。

 論理的結論として、リーグ戦に向けたパーティーには合わなかったらしい。取り敢えず、リーグ戦が終わるまではお預けなんだとよ。

 

「ゴロンダ………、確かあくタイプだっけ?」

 

 ヤンチャムがかくとうタイプだし、あくタイプが付くなら、かくとう・あくじゃね?

 タイプまでは聞いてないから知らんけど。逆にヤンチャムについては嫌ってほど聞かされた。あいつ、どんだけ好きなんだよ。

 

「カーくん、戻って。クーちゃん、出番だよ!」

 

 クーちゃん?

 新しいポケモンか?

 

「チート!」

「クチートか……」

 

 クチート。はがねタイプであり、フェアリータイプでもあることが確認されている。すなわりフェアリータイプの弱点であるはがねタイプの技が効果抜群ではないというわけだ。

 ついでに特性はいかくのようだ。思いっきりゴロンダを威嚇している。

 

「クチートはね、結局行けなかった輝きの洞窟ってところで捕まえたんだよ」

「へぇ」

 

 輝きの洞窟か。

 確か化石掘りに行くぞー、的なことを言ってて向かっている道中にフレア団に襲われたんだっけ?

 ユイたちと三人で改めて旅をしている時に行ってきたんだな。まあ、化石研究所に寄ったついでなんだろうけど、あそこの研究員に案内されたのかね。

 

「ふっ、ゴロンダ、ビルドアップ!」

 

 初っ端からゴロンダが肉体美を見せてきた。そうか、あいつもそっちに行ってしまったか。エビナさんのゴーリキーを思い出してしまう。先生のカイリキーも使ったりするのだろうか。

 

「クーちゃん、ものまね!」

 

 クチートもゴロンダを真似してビルドアップ。だが、なぜだろう。クチートがやると可愛げがある。ごつくないからだろうか。まあ、あの角は怖いけど。

 

「ものまねか、ならこれならどうだ。ゴロンダ、じしん!」

 

 ゴロンダが地面を殴りつけ、揺らし始めた。

 ただ、揺れているのはフィールドだけ。というのも会場の改修に免震工事を取り入れたからだ。全て提案はユキノシタ建設からであり、観客の安全を考慮すると是が非でもやっておいた方がいいということだった。確かにこれなら安心して見ていられる。

 

「クーちゃん!」

 

 翼があるわけでも身軽な動きができるわけでもないクチートは、振動にじっと耐えるしかなかったようだ。

 

「お返しだよ、クーちゃん! メタルバースト!」

 

 ま、そこら辺はしっかり対策を立ててきてたみたいだな。飛べるわけでも身軽なわけでもない、耐えることしかできないクチートには打って付けの技である。カウンターも覚えることができるが、メタルバーストの方が返せる技の範囲が広い。

 クチートは耐えている時に蓄積したパワーを一気に解放させた。角が変形した顎から放出された鋼色の光がゴロンダを襲った。

 

「ゴロンダ!?」

 

 吹き飛ばされて、頭から地面に落ちたゴロンダはそれでもまだ起きる力が残っているようだ。ぐぬぬっ、と腕に力を込めて起き上がってくる。

 と、口から枝のようなものが落ちた。というかあれ枝だな。何のために咥えていたのかは知らんが、咥える力も落ちたということだけは分かる。………キモリも枝を咥える習性があったな。

 

「ものまね!」

 

 続けざまにクチートは拳を地面に叩きつけた。激しい揺れに起き上がろうとしていたゴロンダがバランスを崩し、四つん這いになった。

 

「反撃だ、ゴロンダ。アームハンマー!」

 

 激しい揺れに耐えたゴロンダは拳を強く握りしめ、一気に立ち上がるとそのまま一飛びにクチートの正面に移動し、頭上から振り下ろした。

 

「クーちゃん、じゃれつく!」

 

 だが、クチートはその拳をよじ登るように伝っていき、ゴロンダの身体中を這いまわり始める。突然のことにゴロンダも反応できなかったようで、ガクンと姿勢を崩し膝をついた。

 

「ッ!? ゴロンダ、お前……………」

 

 するとクチートは攻撃をやめ、コマチの元へと戻っていく。

 そして、先生は何かに気づいたようだ。審判に首を横に振り、何かの合図を送った。それを確認した審判はゴロンダの方へと駆け寄っていき、顔を覗き込んだ。

 

「ゴロンダ、戦闘不能!」

 

 あ、マジか………。

 ぶっ倒れてないからまだいけると思ってたが。

 気絶してなお、まだ戦う姿勢を見せていたのか。なんて奴だ。

 

「よくやった、ゴロンダ。ゆっくり休め」

『ゴロンダ、戦闘不能!! コマチ選手、連続でシズカ選手のポケモンを倒したぁぁぁああああああっ!! これが四天王と同じを血を持つ者の実力なのかぁぁぁああああああっっ!!』

 

 別に四天王の血と同じ血が流れているからって強いわけではない。それを言ったら、俺の両親はどうなるんだ? 親だから二人ともチャンピオンなのか? んなわけねぇだろ。もう少し、言葉を選びやがれ。

 

『同じ血が流れているからといって強いわけではないですよ。それを言い出したら、私の両親は何冠王になるのかしら。ハヤマ君の親だってそうね。あら、そういえばここにはカロスチャンピオンがいましたね。カルネさん、あなたのご両親はチャンピオン歴があったりするのでしょうか?』

 

 うわーっ、実況者に向けての嫌悪感がふつふつと伝わってくるんですけど。ユキノもいろいろ言われてきたんだろうな。

 ハルノさんの妹だから、チャンピオンの妹だから強いのは当たり前だ。ユキノシタユキノは特別なのだ。

 馬鹿馬鹿しい。最初がどんなトレーナーだったか、そこからどんな経験をして、どんなことを学んできたのか。それを知った上で人は語れないだろうに。

 

『あ、え、そ、そんな、ことはないけれど…………』

 

 突然話を振られたチャンピオンも驚いている。まあ、横で嫌悪感丸出しにしていれば驚かないわけがない。

 

『まあまあ、それだけ四天王という役職はすごいものだって認識されてるんだからさ。それに君の未来の旦那は四天王なんかで収まるようなトレーナーじゃないんだしさ。もしかしたら、コマチちゃんが将来四天王になってるかもしれないよ』

『……………』

『ね?』

『………わかりました。ここは博士の顔を立てることにしましょう』

『いやー、話が分かってもらえて嬉しいよ』

 

 あれー………?

 いつもの捲し立てはどうしたんだってばよ、ユキノさんや。

 なんか顔赤くないですかー? ここからでも赤く見えるって、相当じゃね?

 

「………ゆきのん、未来の旦那発言に顔真っ赤だ」

「でもユキメノコは怒るんだね。実況の人に冷気を吹きかけてるよ」

 

 トツカの言う通り、いつの間に回復したのか、ユキメノコが実況の男性に冷気を吹きかけていた。凍るほどではないにしても極寒の寒さを感じていることだろう。ざまぁみろ。

 

「ヒキガヤ妹。ユキノシタがすんごい怒りのオーラを出してるぞ? 愛されてるなー」

「コマチにとってもユキノさんたちは実の姉のような………、近いうちにほんとにお義姉ちゃんと呼ぶ日が来るでしょうからね。コマチだって、みんなのこと大好きですよ!」

「ったく、これくらい素直だったら、あいつももっと楽な人生を歩めただろうに」

 

 あいつって誰だよ。心当たりがありまくりで胸が痛んだけど。

 

「さて、次へ行くとしようか。そのクチートは私のパーティーにとっては厄介者だからな。次で倒させてもらおう。出てこい、バシャーモ!」

 

 えー、次に出てきたのはバシャーモみたいだわ。いつの間に捕まえたんだ? カロスに生息してたっけ?博士経由でホウエン地方から取り寄せたとか、そういうパターン?

 

「ブレイズキック!」

「シャモッ!」

 

 一足跳びで一気に距離を詰めてきた。

 恐らくクチートが受け止めたとしても今度は耐え切れないだろう。だからといって躱せる状況じゃない。どうするつもりだ?

 

「クーちゃん、バトンタッチ!」

「チート!」

 

 後ろに飛んだクチートの横を白い光が通り過ぎた。その時にタッチを交わし、ビルドアップで上昇した能力を引き渡したようだ。

 そして、クチートはそのままコマチの持つボールへと戻っていく。

 

「プテくん、こうそくいどう!」

 

 交代で出てきたのはプテラ。

 出てきて早々、高速で移動し始める。

 

「ほう、じゃれつくを覚えていながらさっさと使わず、回りくどいことをしていたのはこのためか。この戦法はミウラだったな。まったく……、『真似る者』と呼ばざるをえないな」

 

 真似る者、か。

 確かに、オーキド博士が図鑑所有者たちにつけている二つ名をコマチにつけるとしたら、『真似る者』になるだろうが。

 そもそもなんでそんな話を知ってるんだよ。

 

「バシャーモ、加速しろ」

「シャモ!」

 

 低空飛行でバシャーモを挑発するように飛び回っているプテラの動きに合わせるように、バシャーモも走り出した。

 

『は……、速い、速いぞバシャーモ! 高速で移動しているプテラの動きに追い付き始めました!!』

 

 さっきのユキノの言葉が刺さったのか、ユキメノコにいじめられたからなのか、少し発言に戸惑いの色が見えた。

 あれ、絶対トラウマになるだろうな。オンマイクで観衆のいる前で非難されたんだからな。

 

「プテくん、上昇!」

 

 追いついてきたバシャーモを危険と判断したのか、コマチは空に逃げるように指示する。

 つか、バシャーモの特性ってもしかしなくても、かそくだったり? またレアな方を………しかもエルレイドと同じく進化前は可愛いポケモンじゃねぇか。進化させるのにすげぇ躊躇ったんだろうな。

 

「バシャーモ、ブレイブバード!」

 

 上昇していくプテラを追いかけるように、バシャーモも上昇し始めた。

 

「うっそーっ!?」

「翼を持つ者だけが空の支配権を与えられたわけではないのだよ」

 

 あ、あれ絶対、決まった、って思ってる奴だ。かっこいいけど、残念臭がすごい。

 

「プテくん、反転してゴッドバード!」

 

 プテラは身体を地面に向けて急停止すると、一気に下降し始めた。

 そして、鳳を纏い上昇してくるバシャーモへと突っ込んでいく。

 交錯した衝撃で爆風が起き、俺たちの髪が靡いた。

 バシャーモは煙の中から何事もなかったかのように地面へと降り立ち、プテラもコマチの方へと戻っていった。

 

『プテラとバシャーモ! 一歩も譲らない! 両者、互角の戦いを見せています!!』

「さすがはバトンタッチだな。この半年で集中的に育てあげたバシャーモと互角に戦うとは。どうする、ヒキガヤ妹! バシャーモはプテラを捉えたぞ!」

「そんなの決まってるじゃないですか! このためにバトンタッチをしたんですから!」

「だろうな。私の専門はかくとうタイプだ。ひこうタイプであるプテラが今回君のキーポケモンとなることは見越していたよ。だからこそ、こっちも全力でいかせてもらう!」

 

 先生は白衣のポケットから輝く石を取り出した。

 キーストーン。

 恐らく今からメガシンカバトルになるのだろう。

 

「バシャーモ!」

「プテくん!」

「「メガシンカ!!」」

 

 コマチもキーストーンを取り出して、プテラをメガシンカさせた。

 両者白い光に包まれると、徐々に姿を変え始めていく。

 プテラは爪と翼に棘ができたような印象となり、俺のリザードンのメガシンカ、メガリザードンXに近いものを感じる。対して、バシャーモはやはりメガシンカができたのかという思いだ。これまでジュカイン、メタモンによるラグラージのメガシンカした姿を見てきたわけだが、ここまでくればバシャーモもメガシンカできてもおかしくはないと考えていた。だからこうしてバシャーモのメガシンカした姿を見られたことは俺の仮説が正しかったという証明になったわけだ。

 

「さらにギアを上げていくぞ。バシャーモ、かみなりパンチ!」

「くるよ、プテくん! ものまね!」

 

 一気に距離を詰め、目の前に現れたバシャーモの拳を真似し、電気を纏った拳でバシャーモの拳を受け止めた。だが、やはりそこは飛んでいるポケモン。踏ん張りが利かなかったようだ。

 プテラはパンチの衝撃でコマチの方にまで押し返され、バシャーモにフィールドの中央を取られてしまった。

 

「ゴッドバード!」

「バシャーモ、ブレイブバードで上を取れ!」

 

 メガシンカポケモン同士の高速戦闘が始まった。実況なんかすでに追いつけていない。俺たちも交錯したであろう衝撃波が見えるだけで、今どんな展開になっているのかさっぱりである。果たして、あの二人は今どんな展開なのか把握できているのだろうか。

 

「バシャーモ!?」

 

 お、先に根を上げたのはバシャーモか。交錯後に真っ逆さまに落ちてきた。だがまあ、そこはバシャーモ。着地はしっかりと持ち直した。

 

「プテくん、ものまね!」

 

 そこへバシャーモを突き落とし、旋回して戻ってきたプテラがものまねでブレイブバードを発動してきた。到着までコンマ数秒。

 

「バシャーモ!」

 

 瞬間。

 プテラの突撃が成功した。

 

「尻尾を掴め!」

 

 かのように思われた。

 だが、当たったのはバシャーモの分身。本体は即座にプテラの背後に現れ、止まることのないプテラの尻尾を掴み取ると遠心力を利用して、上空へと投げ上げた。

 

「かみなりパンチ!」

 

 そして、一直線にプテラへと大ジャンプしていく。

 

「プテくん、ギガインパクト!」

 

 これが最後の交錯。

 競り勝ったのはーーー。

 

「ーーープテラ、戦闘不能!」

『メガシンカポケモン同士のバトルを制したのはバシャーモだっ!』

 

 メガシンカが解けたのはプテラの方だった。

 これで一気に流れは変わることだろう。

 

「プテくん、お疲れさま」

 

 コマチはプテラをボールに戻し、次のボールに手をかけた。

 

「さて、ここからは私のターンだ」

 

 絶賛ザイモクザ化している人がいるが、気にしない。気にしないったら気にしない。

 

「カーくん、もう一度お願い!」

 

 再度カマクラか。

 メガシンカを失ったコマチに無双状態のバシャーモを止めることができるのか見物だな。

 

「カーくん、サイコキネシス!」

「バシャーモ、ブレイズキックで弾き飛ばせ!」

 

 右脚の回し蹴りによりサイコパワーが弾かれた。そのまま左脚で地面を蹴り、一気にカマクラへと詰め寄ると、踵落としのごとく脚が振り下ろされた。

 

「ふいうち!」

 

 バシャーモの右脚が当たる直前に小さな身体をサイコパワーで加速させ、背後へと回り込む。

 

「甘い!」

 

 だが、これまでに上昇していた能力を見せつけるように時計回りの回し蹴りがヒットした。

 不意を突いてもそれを上回る動きで対応してくるとは。メガバシャーモ、パネェわ。

 

「ニャオニクス、戦闘不能!」

『ブレイズキックが決まったぁぁぁああああああっ!! 今度はシズカ選手が立て続けに戦闘不能に追い込みました!!』

 

 このまま全抜きもあり得そうな勢いだな。

 そうでなくとも、まだエルレイドやカイリキーといった強敵が控えている。対してコマチはメガシンカさせたプテラと器用な戦い方をするカマクラが倒された。控えているのはカメックスやカビゴンたち。カビゴンは起きているかも怪しいくらいだ。

 

「カーくん、最後までありがと。ゆっくり休んでね」

 

 何が言いたいかといえば、コマチが不利な状況になっているということだ。数の上ではコマチが勝っていても控えているヒラツカ先生のポケモンが悪い。慎重にいかなければすぐにでも全抜きされてしまうだろう。

 

『急に流れが変わってきましたね』

『そうですね。まさかコマチさんがあそこで先生の挑発に乗ってくるなんて。メガシンカさせたのは少し早かったかもしれませんね』

『でも、あそこでシズカ君だけメガシンカさせていたら、もっと一方的な展開になっていたかもしれないよ?』

『それはそうですが………。やはりメガシンカを失ったというのに笑っているあの目を信じるしかないでしょうね』

『おや? 君はコマチちゃん派なんだね。僕はシズカ君派だよ。もっともっと彼女の強さを見てみたい』

『私は………二人ともをもっとよく知りたい、と言いたいところですが、どうしてもあの笑顔の意味が知りたいです。トレーナーになってまだ半年ばかりの子がこんな大舞台で切り札を失ったというのに笑っているんですもの』

 

 や、別にコマチはいつもそうだし。ピンチになればなるほど燃え上がるタイプだから。Mっけを感じなくもないが、多分俺の悪影響なのだろう。

 ごめんな、コマチ。こんなお兄ちゃんで。

 

「カメくん、暴れちゃって!」

「ガメーッ!」

 

 今度もタイプ相性を考えて出してきたか。次でバシャーモを落とさないと、いよいよもってピンチだぞ。

 

「ほう、カメックスか。最初の頃よりだいぶ顔つきが変わったではないか」

「そりゃ、あれから半年経ってますからねー。コマチもカメくんたちも変わりますって」

「いいことだ。変わることを恐れていたあのバカの妹とは到底思えん発言だな」

「あんな兄ですからねー。みなさんのおかげで段々変わってきてくれて嬉しい限りですよ」

 

 どうも、あのバカです。

 や、人ってそんな簡単に変わるんじゃアイデンティティというものがないんじゃないかって思うじゃん。それに働きたくないという確固たる信念をもって、ブレない心でいなかったら、俺の場合精神崩壊しててもおかしくないレベルだぞ?

 

「さて、続きだ。バシャーモ、かみなりパンチ!」

「みずのはどう!」

 

 一気に詰め寄ったバシャーモの電気を纏った拳は、水の壁に阻まれた。

 そして、水の壁は変形していき、ゲッコウガに変わった。

 

「……おいおい、見たことがあるぞ。まさかあいつまで真似ることができるのか」

 

 うん、まあ、だよな。

 あれ、絶対ゲッコウガの戦法、というか一発芸だよな。まさかそんなところからまで引っ張り出してくるとは。

 

「ゲッコウガだ………」

「………あんた、妹に何させてんの?」

「俺は何もしていない。あいつが勝手に覚えただけだ」

 

 教えた記憶もない。他ができるなんて思っちゃいなかったくらいだし。コマチのやつ、カメックスのメガシンカを暴走させて以来、皮が何枚も剥けたって感じだな。

 

「躱せ、バシャーモ!」

 

 おいちょっと待て。みずしゅりけんまで再現できるのかよ。

 もしかしなくてもメガシンカはコマチの切り札ではなく、戦略の一つに盛り込まれてしまっているのか?

 そうだとしたら、ものすごいことだぞ。半年強でメガシンカに頼らない戦略を練っているなんて、そもそもメガシンカを成功させられるだけでも異例だとかいうほどなのに。

 どうした、コマチ。どこかで頭でも打ったのか?

 

「カメくん、みずのはどうだん! 〜みずとかくとうのイリュージョン〜!」

 

 何その料理名みたいな技の命令。

 隠したいのか隠す気がないのかいまいち分からんのだが。

 

「バシャーモ!」

 

 うわー、それでもバシャーモのやつ、全て見切ってるよ。

 早すぎてよく見えないが、当たった気配がない。

 

「なっ!?」

 

 と、躱した一つの弾丸が停止し、バックを始めた。あれが本物のはどうだんね。

 

「後ろだ、バシャーモ!」

 

 前と後ろを弾丸に挟まれたバシャーモ。さあ、この状況をどう乗り切る? まず乗り切れるのか?

 

「シャモ!」

 

 まるでブレイクダンスを踊るかのように、前宙二回転ひねりで弾丸を弾き飛ばしてしまった。

 

「あ………」

 

 気づけば、上空にすげぇ水が溜まってた。あれ全部飛ばしたみずのはどうだんだな。これも見たことある気がするんだけど。

 

「さすがは、兄妹、だね………」

「ヒッキー見てるみたい」

「………ハチマンが………二人に………」

 

 なぜ一人怯えた目で頰に手を当ててるんだろうか。可愛くないからやめようね、ザイモクザ。キモいぞ。

 

「お兄さん………俺自信なくなってきたっす」

 

 んで、こっちにはバトルの前からドヨーンとした空気のクズ虫がいる。

 揃いも揃って野郎どもはダメだな。

 トツカ? トツカの性別はトツカなんだから、野郎でもない。断じてない。野郎だろとか言ったやつ、許すまじ。

 

「ガメーッ!」

 

 風呂桶がひっくり返ったかのような大量の水がバシャーモを襲った。

 さすがのバシャーモも躱せる状態ではなく、水に呑み込まれていく。

 

「バシャーモ!?」

 

 水は地面に吸い込まれていき、残ったバシャーモはメガシンカを解いて、膝から崩折れた。

 

「バシャーモ、戦闘不能!」

『バシャーモ、ついに倒れたぁぁぁああああああっっ!! 勝てない素早さを追尾機能で補い、誰にも止められないと思われたバシャーモの動きを捉えました!! 実に見応えのあるバトルです!!』

「戻れ、バシャーモ。よくやった、ゆっくり休め」

「ふぅ……、カメくん楽しいね!」

「ガメッ!」

 

 楽しい、か。

 それは何よりである。

 ポケモンバトルは楽しむことが前提だ。勝ち負けにこだわりすぎては却って自分の実力を出し切れなくなってしまう。

 今のコマチのコンディションが丁度いいと言っても過言ではない。

 

「まったく、随分と兄貴に似てきたじゃないか」

「まだまだですよ。コマチにはまだお兄ちゃんを倒せませんから。一方的なバトルにしかなりませんよ」

「それはどうかな。君のその真似る実力を持ってすれば兄貴を追い込むことだって難しくはないと思うぞ」

「ほえー、そんなことは考えたこともなかったですね」

「ま、それも私を倒せたらの話だがね。エルレイド!」

 

 出てきたか、エルレイド。対リザードン用に育てあげたというその実力。メガシンカしなくとも脅威でしかない。

 

「カメくん、みずのはどう!」

「かみなりパンチ!」

 

 出たな、テレポート。

 一瞬でカメックスの背後に現れ、電気を纏った拳をカメックスの頭に叩き落とした。

 

「次は下から!」

 

 またしても一瞬で移動し、カメックスの懐に潜り込むと、掬い上げるようにカメックスの身体を拳で持ち上げた。天井にぶつかりそうな勢いで上昇していったが、幸いにして天井に当たることはなく、エルレイドを見据えて態勢を整え、背中の砲台の照準を合わせてくる。

 

「カメくん、ハイドロカノン!」

 

 そして放出された大量の水が螺旋状に絡み合い、エルレイドを襲った。

 

「エルレイド!」

「みずのはどう!」

 

 テレポートで躱す暇もなかったらしく、防御姿勢で究極技を受け切ったらしい。

 そして、またしても一瞬にしてカメックスの背後に現れた。

 

「かみなりパンチ!」

 

 カメックスに拳を叩き込んだが、カメックスは弾け、水に戻った。

 

「上だ!」

 

 偽のカメックスを攻撃してしまったエルレイドは背中にカメックスの砲台が添えられた。

 おそらく至近距離からの究極技だろう。

 

「ハイドロカノン!」

「リーフブレード!」

 

 エルレイドは躱せないと悟ったのか、腕の刃を後ろに伸ばし、砲台からは大量の水が勢いよく噴出された。

 二体は仲良く地面に落ちていく。

 

「カメくん!」

「エルレイド!」

 

 カメックスは背中から落ちて起き上がる気配がない。だが、エルレイドの方はぐぬぬと起き上がろうとしている。まだ意識があるみたいだ。

 と、そこに審判が現れてカメックスを見遣った。

 

「カメックス、戦闘不能!」

『おおっと、ここでカメックスダウン!! 競り勝ったのはエルレイーーー』

「………エル」

 

 やはり無理だったか。

 起き上がろうとしていたエルレイドだったが、とうとう力が尽きてしまったようだ。

 

「エルレイド、戦闘不能!」

『エルレイドも倒れたぁぁぁああああああっっ!! 二体とも戦闘不能!! なんという激しい攻防なのでしょうか!!』

 

 これで先生のポケモンはカイリキーとサワムラーか。ポケモンを変えていなければ残っているのはこの二体だろう。対して小町のポケモンはカビゴンとクチートとあと一体。タマゴから孵ったキバゴはあれからどうなったのだろうか。

 

「ご苦労だった、ゆっくり休め」

「カメくん、よく暴れてくれたね」

 

 メガシンカが二人ともすでに出してしまっているため、この後の展開が全くと言っていいほど読めなくなっている。それは観戦客全員の思いだろう。カロス地方はホウエン地方と並んでメガシンカの宝庫。こんな大きなリーグ戦をやれば、勝ち上がってくるのはメガシンカ使いばかりだと思っていてもおかしくはない。チャンピオンがメガシンカを使えるのは知ってるだろうし、さっきのおばさんのおかげで四天王もメガシンカを使ってくると分かったことだ。

 だが、どのバトルでもメガシンカが鍵となると思われた直後にこれだ。これからどんな展開になるのかさっぱり掴めないことだろう。

 

「サワムラー、全て蹴り飛ばしてしまえ」

「キーくん、出番だよ!」

 

 やっぱりサワムラーか。ということはカイリキーもいるんだろうな。

 んで、コマチはキバゴ………じゃなくね?

 

「オノンド………」

 

 進化したのか。

 まあ、半年も経ってるし進化しててもおかしくはない。いくらドラゴンタイプだからってタマゴの時から一緒にいたトレーナーだ。気難しい性格にはなってないだろう。

 

「サワムラー、メガトンキック!」

 

 自在に伸び縮みする脚を使い、大股でオノンドへと駆け寄っていく。

 

「キーくん、躱してりゅうのいかり!」

 

 ビヨーンと伸びてきた脚を躱し、竜の気を飛ばした。形を変えて竜の頭になった気は、そのままサワムラーに噛み付いた。

 

「まわしげり!」

 

 長い脚を伸ばして遠心力を起こすと、竜の気を払いながら、オノンドを蹴りつけた。横からきた脚には対処しきれず、オノンドは隔壁に衝突した。というかこっちにきた。

 

「うわっ、びっくりしたー……」

「強烈な回し蹴りだね」

「蹴る専門のポケモンだしな」

 

 蹴りの代表といえばサワムラーだろう。自在に伸び縮みする脚とか反則すぎるだろ。首の長いナッシーみたいである。そんなサワムラーが蹴りの代表の座を奪われたりしたら、立つ瀬もない。

 代表の座を奪われないように頑張れよ。

 

「キーくん!?」

『立ち上がりました、オノンド! しかし、目が赤くなっている! 一体どういうことだ?!』

 

 何かする前触れなのだろうか。

 俺もどんなポケモンなのかは詳しく知らないし、何とも言えないな。

 

「キーくん、暴れまくっちゃって! げきりん!」

 

 なんと。

 げきりんを覚えているのか。

 初手がりゅうのいかりだったから、てっきりドラゴンクローとかドラゴンテール辺りを覚えているとみていたんだが、そうでもなかったらしい。

 

「………なんかさっきと気勢が違うね」

「うーん、これなんかヒッキーがたまにタイシ君に飛ばしてる感じと同じ気がするんだけど…………」

「ふっ、男の嫉妬というものは醜いものよ」

 

 やめて! 俺のハートをいじめないで!

 それにタイシに向けてるのは嫉妬じゃなくて……………なんだろうな。俺に説明できる材料がなかったわ。ぼっちの弱点だな。

 

「えー、でもなんか愛されてるーって感じしない?」

「愛が重たいでござる」

「…………だからモテないんじゃん」

「ぐふっ!」

 

 君たちなんか仲良いね。

 ザイモクザも普通に女子と会話できてるし。ユキノやハルノさん相手にはいつもビビってたりするけど、ことユイやイロハに関して言えば普通だよな。なんなの、その差は。

 

「………そうそう、これこれ……ってハッチー!? すっごい黒いオーラ出てるよ!?」

「は、ハチマン! 嫉妬の念が出まくってるよ」

 

 ヒキガヤハチマン、十七歳。割とチョロインだった件。

 誰がチョロインだ。

 

「あ、そうか。そういうことか」

「姉ちゃん、どうかした?」

「ん、あのオノンドの特性、恐らくとうそうしんだよ」

「とうそうしん?」

「そのまんまだ。相手が同じ性別だったら無性に腹が立って攻撃したくなるんだよ。逆に相手が自分と性別が違うと攻撃に躊躇ってしまう。そんな特性だ」

「うわー、もろ感情的な特性っすね」

 

 とうそうしん。そのまんま闘争心。オスならオス相手に技の威力が全て上がるという同性殺し。要は媚びたいんだろうね。

 

「けど、無理っぽいすよ。全然届いてないっす」

「いや、大丈夫。そう見えるだけであって、攻撃を受ける際に、脚にダメージを与えている。その証拠にサワムラーの脚が段々と赤くなってきた」

「うお、ほんとだ………さすが姉ちゃん。よく見てるね」

「あんたもよく見ておきな。多分、コマチはまだ何か仕掛けてくる」

「とびひざげり!」

 

 カワサキもそう思うのか。

 俺も感じてたところだ。

 なんかずっと余裕なのだ。数的有利とかではなく、まだ切り札と呼べるものが残っているような、そんな目をしている。

 

「オノンド、戦闘不能!」

「ありがとう、キーくん。これでクーちゃんの一発が効いてくると思うよ」

 

 ………?

 ほんとに何をしようとしているんだ?

 

『ついに両者のポケモンが残り二体になりましたっ!! さあ、バトル終盤! 最後の追い込み、白旗を上げるのはどちらなのでしょうか!!』

「クーちゃん、もう一度お願い!」

 

 再度クチートの登場。

 ゴロンダ戦で相当消耗していると思うんだが………。

 

「あ、そうだ、いかくが再度発動するんだったな」

 

 ボールから出てきて早々、威嚇しているクチートを見て思い出した。いかくは戦いの場に出る度に発動する。ということはこれでサワムラーの攻撃力が下がったということだ。これならば何とかなるのかもしれない。

 

「サワムラー、ブレイズキック!」

 

 効果抜群を狙って、炎を纏った脚を伸ばしてきたか。

 だが、恐らくはこれが誘いなのだろう。

 

「脚を掴んで、クーちゃん! ………メタルバースト!」

 

 遠心力を使った横殴りの蹴りを、角が変形した顎で受け止め、口からは鋼色の光が放出され、逃げることのできないサワムラーに直撃した。

 なるほどな。オノンドはこれで倒すための体力削りを行っていたというわけだ。

 これで一対一に持ち込める。運よくクチートが耐えれば儲けもん。そんな考えなのだろう。

 

「サワムラー、戦闘不能!」

 

 返し技の前ではサワムラーといえど、どうにもならなかったようだ。

 さて、クチートはっと。

 

「クーちゃん、ありがとう」

 

 よろよろっとした動きでコマチの方へ戻っていったクチートは、コマチに抱きつくと力が抜けるように倒れた。コマチは審判に対して首を横に振って合図を送る。

 

「クチート、戦闘不能!」

 

 今回クチートはよく働いていたと思う。ゴロンダを倒し、プテラの起点となり、サワムラーを倒し。

 うわっ、こうしてみるとクチートの参加率が高いな。

 さて、ここからは一騎打ち。ボールを取り替える二人はどう戦略を立ててくる?

 

「カイリキー、最後だ。一思いに暴れてくれ」

「ゴンくん、出番だよ……って、寝てるし………」

 

 うわー、案の定カビゴンは寝てたよ。ぐーすかいびきをかいてるわ。

 

「まったくもう、気持ちよさそうに寝てるんだからー」

 

 コマチは腕につけたアクセサリーをいじり、寝ているカビゴンの上によじ登っていく。

 おいおい、バトル中だぞ? 危ないじゃねぇか。

 

「ッ!? あのポーズ! まさか?!」

 

 一足先にコマチの意図に気がついたさーちゃん。

 えっ? なに? どゆこと?

 

「あ………」

 

 うん、俺知ってる。

 あれ、見たことあるわ。主にさーちゃんが使ってるのを。

 

「ゴンくん、本気を出しなさい!」

 

 コマチが変なポーズを取っていくと腕のアクセサリーからエネルギーと思しき光がカビゴンを包み込んでいく。

 そしてむくっと起きたカビゴンはコマチを持ち上げると元の位置へと降ろし、カイリキーを見据えた。

 

「ゴンくんの本気見せちゃえーっ!」

 

 こんなのカビゴンじゃねぇ………。

 身軽過ぎんだろ。

 いきなり走り出したかと思ったら、急停止して地面を蹴り上げた。

 わーお、巨体がジャンプしたよ。

 

「なっ…………!?」

 

 呆気に取られてしまった先生たちは、もう戦意すら失っている。

 や、そりゃあんな巨体が軽々とジャンプしたんだから驚くだろうよ。

 

「Z技………、コマチあんたいつの間に………」

 

 えー、とうとう妹に先を越されてしまいました。多分………。ダークライのは知らん。似てるけど知らん。

 

「か、カイリキー………」

「リ、キー………」

 

 無理でした。

 カイリキー、何もできないまま、退場。

 

「カイリキー、戦闘不能! よって勝者、ヒキガヤコマチ!」

『なんだ今のはぁぁぁああああああっっ!! コマチ選手、見たこともない技で次のバトルへと駒を進めたぁぁぁああああああっっ!!』

 

 Z技という新たな切り札を携えて俺の妹は帰ってきたやがった。

 一体誰と特訓してきたんだよ。

 

 

 

 それにしても。

 イロハが戻ってこなかったな………。




行間(バトル使用ポケモン)

ヒキガヤコマチ 持ち物:キーストーン、カビゴンZ
・ニャオニクス ♂ カマクラ/カーくん
 特性:するどいめ
 覚えてる技:サイコキネシス、ひかりのかべ、、リフレクター、でんげきは、てだすけ、なりきり、ふいうち、サイコショック

・カメックス(ゼニガメ→カメール→カメックス) ♂ カメくん
 持ち物:カメックスナイト
 特性:げきりゅう←→メガランチャー
 覚えてる技:みずのはどう、はどうだん、りゅうのはどう、こうそくスピン、からにこもる、ロケットずつき、ハイドロポンプ、ふぶき、ミラーコート、ドラゴンテール、ハイドロカノン

・カビゴン ♂ ゴンくん
 特性:めんえき
 覚えてる技:メガトンパンチ、のしかかり、じしん、いわくだき、ほのおのパンチ、しねんのずつき、ギガインパクト、かみなりパンチ、ふきとばし、いびき、ねごと

・プテラ ♂ プテくん
 持ち物:プテラナイト
 特性:???←→かたいツメ
 覚えてる技:はかいこうせん、ストーンエッジ、はがねのつばさ、つばさでうつ、ちょうおんぱ、ものまね、ドラゴンクロー、ゴッドバード、、ギガインパクト、こうそくいどう

・オノンド(キバゴ→オノンド) ♂ キーくん
 特性:とうそうしん
 覚えてる技:りゅうのいかり、げきりん

・クチート ♀ クーちゃん
 特性:いかく
 覚えてる技:ものまね、メタルバースト、じゃれつく、バトンタッチ


ヒラツカシズカ 持ち物:キーストーン(研究所からの借り物) etc………
・カイリキー ♂
 覚えてる技:ばくれつパンチ、どくづき

・サワムラー ♂
 覚えてる技:メガトンキック、とびひざげり、ブレイズキック、まわしげり

・エルレイド(ラルトス→キルリア→エルレイド) ♂
 持ち物:エルレイドナイト
 覚えてる技:テレポート、サイコカッター、かみなりパンチ、インファイト

・ハリテヤマ ♂
 覚えてる技:ねこだまし、バレットパンチ、はたきおとす、ばくれつパンチ

・ゴロンダ ♂
 覚えてる技:じしん、アームハンマー、ビルドアップ

・バシャーモ ♀
 持ち物:バシャーモナイト
 特性:かそく←→かそく
 覚えてる技:ブレイズキック、ブレイブバード、かみなりパンチ、みがわり


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13話

 今日最後のバトル。

 今しがたバトルを終えたコマチとヒラツカ先生が帰ってきたのだが。イロハが帰ってこない。

 さて、どうしたものか。

 

「イロハさん、どこいったんだろ」

「コマチも会ってないのか?」

「バトルの前に交代して以来、見てないよ。声掛けづらかったし」

「一人になりたいのだろう。しばらくすればふらっと帰ってくるさ」

 

 そういうもんかね。

 

「お兄ちゃん、心配なんだ」

「や、別に心配とかじゃなく、変に自分を追い詰めて自暴自棄になったりしねぇかなーって」

「それを心配してるって言うんじゃん………」

 

 うっ………。

 

「相変わらずの捻デレだね」

「うーん、まあ、大丈夫じゃないっすかね。愚痴でも言いにあのポケモンのところへ行ってると思うっすよ」

「あのポケモン?」

「名前は知らないっす。ただ、俺たちが山籠りしてる時に会ったポケモンで、イッシキさんに懐いたんすよ。素直じゃないっすけど」

「ほー、どんなポケモンなんだ?」

「炎と水を使う珍しいポケモンっす。リーグ戦に連れてくれば勝ってたと思うんすけどね。残念ながら野生のままっすよ」

 

 炎と水を使う珍しいポケモン。

 相反するタイプの組み合わせのポケモンってことか? まあ、一つ分かるのは俺がまだ知らないポケモンであるということだな。

 

「ヒッキーのあの黒いポケモンとかディアンシーみたいな感じなのかな」

「恐らくな。その話が本当ならイロハは大丈夫だろう。そいつ、強いんだろ?」

「かなり強いっすよ」

 

 なら、今頃はそのポケモンを相手にバトルしているのかもしれない。

 今回のバトルはイロハにとっていい勉強になっただろう。俺やユキノ以外にも強い奴はいくらでもいる。自分だけがフィールドを支配できるわけではない。負けたというショックはデカいと思うが、それを乗り越えてこそ真の強さと言えよう。

 

「………これで伝説とか幻とかを連れて帰ってきたりしたら、俺泣くな」

 

 俺がイロハに課した課題以外にもトレーナーの強さを計る要素はいくつもある。一番見て分かりやすいのが、伝説に名を残すポケモンを連れている奴らだ。伝説のポケモンの扱いにくさはドラゴンタイプの比じゃない。はっきり言って俺の周りにいる伝説のポケモンがどうかしてるんだ。ダークライとかディアンシーとか。エンテイは一度ボールに収めているし、今回もボールに入ってくれたから、他のポケモンたちと同じ手順を踏んでいるが、ダークライとディアンシーは野生のままだからな。異色なのは見て取れる。

 そう言えば、ユキノはクレセリアを扱いきれているのだろうか。ユキノ自身はまだクレセリアの能力を全て引き出せているわけではないって、以前言ってたが。

 逆に何でハルノさんには伝説のポケモンが寄り付かなんだ?伝説のポケモンですら恐れ戦く魔王様なのか?ゾロアークがその位置に一番近いが、あれは伝説に近いレアなポケモンってだけだ。

 ハヤマですら、操られている時に捕まえて扱っていたに過ぎず、ハヤマ自身の力というわけではない。

 こうしてまとめるとルミルミの異常さが浮き彫りになってくるな。これでイロハまで伝説のポケモンを連れて帰ってきたら、どういう基準で懐かれるのか甚だ疑問である。

 

『さあ、本日最後のバトル!! 初日から迫力満点のバトルが続いておりますが!! 今日は本当に豪華ですよ!! まずはこの人! 四天王、ガンピ!!』

 

 確かに豪華だな。

 このリーグ戦の看板であるユキノ以外、あみだくじで決めたのだが。初日に豪華なメンツが揃い過ぎてしまった。やり直すなんてこともできないので、このままの状態であるが、明日以降大丈夫なのだろうか。初日しか盛り上がらなかったら、マジでどうしよう。

 

『そして、四天王に挑むのはこの人! 電気の船乗り!!』

 

 全身鎧を身にまとった男と……………。

 

「ぶほっ!?」

「ちょ、お兄ちゃん汚い!」

「や、だって、あれ、ダメだろ………」

 

 黒のタンクトップと迷彩柄のズボンに金髪のサングラス。その後ろにはエレキブルが。

 見たことあるですが、ありまくりなんですが。

 何やってんの、あの人。

 

「どっからどう見てもマチスじゃねぇか………」

 

 電気の船乗り。

 少し考えれば分かる仮名称じゃん。

 でんきタイプのクチバジム、ジムリーダー。

 軍隊出身とか言ってるが、実際はロケット団の元三幹部。

 何しにきてんだよ。

 つか、あんた船乗りだったっけ? 船のイメージはあるからまあいいか。

 

「クチバジムのジムリーダーだよね。僕もバッジをもらったけど、激しいバトルだったなー」

 

 と、知らない者からすれば攻撃的なバトルをするただのジムリーダー。

 イメージ操作がお上手なようで。

 

『カルネさん、四天王ガンピ選手はどのような選手なのでしょうか』

『彼ははがねタイプの使い手です。硬い守りと隙を突いた強力な一撃が見所ですよ』

「我がはがねタイプの真髄、とくと味わうがよい」

 

 鉄の甲冑を着けた四天王の男の専門タイプははがねなのか。見たまんまだな。ザイモクザと気が合いそうだ。

 

『………うちにも一人、似たような人がいたわね』

「お、我か?」

「お前だろうな」

 

 どうやらユキノもそう感じたらしい。ため息混じりにザイモクザの話を出してきた。

 

『へぇ、強いのかしら?』

『強い、と言えば強いのでしょうね。はがねタイプを連れているかと思えば、でんじほうばかり撃ってきて、しかもロックオンで当たるまでずっとついてくる。バトルこそしたことないですが、見ているだけで戦いたくないと思ってしまう相手ですよ』

 

 へぇ、やっぱユキノでもザイモクザとバトルするのは嫌なんだな。一芸を極めた奴の恐ろしさは尋常じゃないし、それをザイモクザが体現してきたんだから、嫌にもなるか。

 

『でんじほう、といえばさっきのイロハ選手も使ってたわね。速さが異常だったけれど』

『彼女にでんじほうを教えた張本人ですから』

『あら、それは楽しみだわ』

『先に言っておきますが、彼は出ていませんよ? こういう大会には興味ない人ですから』

 

 興味ない、こともないが恐らく………。

 

「いつかハチマンやユキノシタ嬢とバトルするになることを思うと最初から出ない方がマシである」

 

 でしょうね。分かってたさ。

 

「どこぞのゲームセンターの景品を育てて俺に挑んできたくせに、自分の技で自滅したもんな」

「ぐふっ、それは言わない約束ではないか……。というか覚えていたのか…………」

「悪いな、俺の記憶はたまにはっきりと思い出す仕組みになってるんだ」

「………お主も面倒なポケモンに憑かれてるのう」

「嫌な思い出しかないからいいんじゃね? ま、最近の記憶は忘れたくないが」

「捻デレた!?」

 

 コマチちゃーん?

 捻デレたってどういう意味なの?お兄ちゃん、コマチ語が増えてきてよく分からなくなってきたわ。

 

「………なるほど、そういうことか。我は今ようやく謎が解けたぞ」

「何の謎だよ」

「お主の謎である」

「ヒッキーの謎って?」

 

 何かあったっけ?

 俺の存在か?確かに謎だわ。どうして人は寄り付かないのにポケモンは寄り付くのかさっぱり分からん。

 

「お主らは知らない方が身のためである。我ももう少し調べ直さなくては何とも言えぬのだ」

 

 というお巫山戯は通らないか。多分、未だ戻らないシャドー脱出後からの記憶に関係してるんだろうな。

 

「………ザイモクザ」

「なんだ?」

「いや、何でもない。無茶なことだけはするなよ」

「抜かりない。我は疲れることはしたくないのだ」

「それヒキガヤと同じじゃん」

 

 だってぼっちですもの。基本一人なのだから自分のやりたいことだけをやっていればいいし。

 

「それでは双方、準備は?」

「いつでもよい」

「いつでもいいぜ」

「バトル、始め!」

「いでよ、クレッフィ!」

「いけ、レアコイル!」

 

 まずはクレッフィとレアコイルか。

 クレッフィは鍵を集める習慣があり、よく分からない鍵を拾ってくることがあるんだそうだ。

 

「まきびしである!」

「ソニックブーム!」

 

 おっと、クレッフィの方が速かったか。

 画鋲のようなトゲトゲしたものが地面に吸い込まれていく。

 ソニックブームも少し掠っただけで、これといったダメージにはなっていない。

 

『いたずらごころ、だろうね』

『フィールドに仕掛けをするまきびしは否応無く先に出せる特性、というわけですか。クレッフィの特徴を生かした戦法ですね』

『ええ、ガンピは相手の隙を誘い出すことも念頭においてますから』

 

 何というか、きっちりと足元を固めてくるタイプなのだろう。真面目というか、だからこその強さというか。

 

「ラスターカノン!」

「躱せ!」

 

 鋼色の光線をレアコイルは分離することで躱した。

 

「ほうでん!」

 

 分離した中心に電気が集められると、フィールド一帯に無作為に放出された。これではクレッフィに逃げ場はなく、ピンボールのように弾き飛ばされていった。

 

「一発じゃ倒れないか」

「だが、痺れは残ったようだぞ」

 

 ほうでんの追加効果でクレッフィは麻痺状態になった。痺れで動きが鈍くなっている。

 

「自分の技で倒れな、レアコイル、ラスターカノン!」

 

 レアコイルの六つの磁石から鋼色の光が集められ、クレッフィへと放たれた。

 痺れで身動きが重たいクレッフィはまともに受けてしまい、軽い体は甲冑男の前で地面に伏した。

 

「クレッフィ、戦闘不能!」

 

 早速、勝敗が決まった。

 

「辱い、我の力不足である。ゆっくり休んでくれ」

 

 クレッフィをボールに戻すと次のボールに手をかけた。

 

「いでよ、ダイノーズ!」

 

 二体目はダイノーズか。マジでザイモクザみたいになってきたな。

 

「へっ、誰が来ようが同じだ! レアコイル、ほうでん!」

「ダイノーズ、こちらもほうでんである!」

 

 無作為に放たれる電撃がこっちに飛んでこないか心配なくらいバチバチしあっている。

 これ、終わるのだろうか。

 

「チビノーズよ、そのままほうでんである! ダイノーズ、だいちのちから!」

 

 あ、反則紛いのことを四天王がやり出したぞ。

 三体のチビノーズとかいうちょろちょろ動き回っては技を出してくる厄介な存在。ダイノーズを相手にするということは自ずと四体のポケモンを相手にするという感覚でいなければ、すぐにやられてしまう。ザイモクザを見ていてそう感じた。

 そして、チビノーズの相手をするのに手一杯なレアコイルの足元? から地面が割れ、膨大なエネルギーが襲った。

 

「チッ、卑怯な」

「レアコイル、戦闘不能!」

 

 マチスは悪態を吐きながらも意識を失い、地面に仰向けで倒れているレアコイルをボールに戻した。

 

『早速、両者一体ずつが倒れました! 四天王の相手をしている選手の登録名、これは肩書きなのでしょうか! 電気の船乗り、その名の通りでんきタイプで攻めてくるのでしょう! 四天王ガンピ選手、これからどういったバトルを展開していくのでしょうか、楽しみです!』

 

「洒落せぇ! サンダース、蹴り飛ばせ! にどげり!」

 

 ボールから出てきた勢いをそのままに、サンダースがダイノーズの背後に回りこみ、後ろ足で蹴り上げた。

 まきびしのダメージを受けているだろうに、全く表情に表れてこないのはさすがジムリーダーのポケモンといえよう。というか単に攻撃的で防御は御構い無しだからかもしれないが。

 

「やるではないか。ダイノーズ、パワージェム! チビノーズたちはそのままほうでんでサンダースの動きを止めるのである!」

 

 もう反則判定でいいよな?

 

「チッ、硬ぇじゃねぇの。サンダース、そのままチビを蹴散らせ!」

 

 硬い………確かにはがねといわの組み合わせを持つポケモンだからな。防御力も高い。つってもサンダースのにどげりを受けてまだ立ってるし、特性も関係してたりするのだろうか。そうすると特性はがんじょうが妥当か?

 サンダースは電撃にお構いなく、まずはチビノーズたちを潰しにかかった。撃たれても電気を無効にしているのか、次々とチビノーズを蹴り上げていく。

 ダイノーズが飛ばしてくる細かい岩も、その素早い身のこなしで全て躱していった。

 

「お返しだ! サンダース、10まんボルト!」

「ダイノーズ、ほうでん!」

 

 効いていないのが分かっていないのか、はたまた分かってはいるが有効な手段がないからなのか、サンダースに電気技で対応してきた。

 

「チビノーズたちよ、サンダースを捕らえるのである!」

 

 またしてもチビノーズたちを使ってきたか。

 今度は技を使わせることなく三体同時にサンダースを囲い込み、磁力か何かで動きを封じにかかった。

 

「だいちのちから!」

 

 サンダースの足元が割れ、エネルギーが放出された。

 効果は抜群である。

 

「10まんボルト!」

 

 ほんと守ることをしない。

 最後の最後まで攻撃に専念するとか、よくそれでポケモンの方もついてくるなと思ってしまう。元来ポケモンたちの方も防御なんか二の次な性格なのか?

 

「………なんと、まだ倒れぬというのか………」

 

 だいちのちからで吹き飛ばされていったサンダースは奇跡的に立ち上がる素振りを見せた。

 運がいいのか、読んでいたのか。

 

「へっ、さすがだサンダース。一気に倒すぜ、でんこうせっか!」

 

 立ち上がったサンダースは地面を蹴り出し、素早い身のこなしでダイノーズの正面に現れた。

 チビノーズたちはさっきの10まんボルトで痺れて動けないようだ。

 

「そのまま蹴飛ばせ!」

 

 体当たりをカマし、宙返りの際に後ろ足でダイノーズを蹴飛ばした。勢いに飲まれたダイノーズはそのまま後方へ下がっていく。

 

「マグネットボォォォォォォムッ!!」

「でんこうせっか!」

 

 うわっ、なんか叫び出したし。

 ダイノーズが地面に衝撃を与えて、その衝撃波がサンダースに襲いかかる。だが、サンダースはまた素早い身のこなしで躱していき、正面でジャンプした。

 

「パワージェム!」

「10まんボルト!」

 

 細かい岩がサンダースを襲い、電撃がダイノーズに降り注がれる。

 防御なんか無視したバトルは双方をフィールドの端にまで追いやり、そのまま倒した。

 

「ダイノーズ、サンダース、ともに戦闘不能!」

 

 ふむ、二体目は引き分けか。

 四天王といえど、ジムリーダー相手には一方的なバトルはできないか。ジムリーダーだって実力者なんだし。マチスなんかは元ロケット団の三韓部になるようなやつだ。強くて当たり前だ。

 

『二体目はお互い引き分けに終わったぁぁぁああああああっっ!! 本日最後のバトル、四天王相手に一歩も引かない電気の船乗り選手!! カルネさん、いかがでしょうか!』

『見事なバトルです。ガンピにここまで食らいついてくるなんて私が見たバトルの中では初めてじゃないかしら』

『うーん、マーベラス! 本当にこのリーグ戦を開いてよかったと思いますよ! 初日から立て続けにこんなレベルの高いバトルが見られるのですから。わたしもエントリーしておけばよかったと思うくらいです』

『…………博士はエントリーしなくて正解だったと思いますけど』

 

 まず本戦に出場できていたかすら危ういよな。

 そもそも博士ってそんなにポケモンを連れていたっけ?

 

『何を言うんだい。僕は君たちを見ていてまたトレーナーを目指そうかと思ってるくらいなんだよ? その証拠にこの半年間、ポケモンたちを僕なりに育てているのさ』

『リーグ戦には六体揃えなくてはいけませんけど、博士は何体連れているのかしら?』

『…………そうだね、数が足りなかったね。くぅぅっ、このバトルに魅了されて昂っている僕の若き日の思い出。誰かに受け止めてほしい気分だよ』

 

 やはりいなかったか。

 コマチに選ばれたカメックスーーゼニガメと一緒に出されたフシギダネがフシギソウに進化したとかは言っていたよな。手持ちがそれだけとは限らないと思いたいが、どうしても博士がバトルに勝つイメージが湧かない。

 

『博士もトレーナーを目指したことがおありなのですね』

『ええ、ただバトルは奥が深くて中々いいバトルができませんでしたよ。だから早々に諦めてポケモンたちを研究することにしたんです』

『何事も諦めが肝心、なんて考えでは強くなんてなれませんよ。足掻いて踠いて、それでも手が届かなくて、悔しい思い、それこそ絶望すら感じてそれでも諦められなかった。だから今の私があるんです………って、なぜそこで涙をこぼす必要があるんですか』

『いや、一途で健気な美少女がいるなーと』

『若いっていいわね』

『ッ!?』

 

 急に惚け話をしだしたユキノに解説の二人だけでなく会場一帯が暖かい何かに包まれている。

 何これ、超恥ずいんだけど。

 遅れて気づいたユキノも顔が真っ赤だし。

 

「うひゃー、ユキノさん遠慮がなくなってますね」

「もう、何あの可愛い生き物。今すぐ抱きしめたい!」

 

 ユイー、ゆるゆり程度にしとけよー。ガチゆりはちょっと困るぞー。

 

「次だ次。出てこい、マルマイン!」

「うむ、次も力強いバトルをお頼み申す。ナットレイ!」

 

 ナットレイ?

 すげぇトゲトゲしたポケモンだな。

 もう片方ツルツルの真ん丸。

 また極端な奴らが出てきたな。

 

「なあ、カワサキ。あのポケモンってどんなやつなんだ?」

「ナットレイ? 取り敢えず直接触ると怪我するようなポケモンだね。特性にてつのトゲっていう触ってきた相手にダメージを与える効果を持ってるし、加えてくさ・はがねタイプ。硬い防御力を相手にせず、離れたところから焼くのがオススメだね」

「まあ、そのタイプの組み合わせなら焼くのが一番だな」

 

 くさ・はがねタイプか。

 弱点となるタイプは…………ほのおとかくとうくらいか? 少ないな………。

 

「エレキボール!」

「ジャイロボール!」

 

 マルマインが電気を弾丸状に圧縮し、ナットレイが高速回転を始める。

 マルマインがエレキボールを放つと同時にナットレイが飛び出し、一直線に突き進んだ。そしてエレキボールはナットレイに呑まれ、マルマインを弾き飛ばした。

 

「チッ、マルマイン、シグナルビーム!」

 

 ゴロゴロと転がり、元の位置に戻ってきたマルマインが、点滅色の光線を吐き出した。

 動きの襲いナットレイは躱すことができず、直撃を余儀なくされる。

 

「ナットレイ、タネマシンガンである!」

 

 お返しと言わんばかりにナットレイが次々と種を飛ばし始めた。マルマインは転がりながら躱していくが、それでも限界があるようで、後半は身動きを取れなくなるくらいの種を打ち付けられた。加えて最後の一発は種が爆発し、マルマインへのダメージが相当蓄積されたのが分かった。

 

「マシンガン、いいじゃねぇか。マルマイン、エネルギーを溜めろ!」

 

 挑発的な目をしているマルマインは自分の体内にエネルギーを蓄え出したようだ。でんきタイプの技の威力を大きく上げる技にじゅうでんがあるが、マルマインが行っているのもじゅうでんなのだろうか。

 

「ナットレイ、ジャイロボール!」

「引きつけろ!」

 

 さっきの今でまたジャイロ回転を受けてしまえば、さすがのマルマインでも戦闘不能だぞ。何を企んでいるんだ?

 

「へっ、回り込め!」

 

 引きつけたところを背後に回りこみ、外して地面に身体を突き刺してしまったナットレイの上を取った。

 トゲが刺さって痛そうである。

 

「これがこいつの本来の役割だ。マルマイン、じばく!」

 

 …………あー、そういやこういうやつだったっけか?

 けど、相手ははがねタイプだぞ? 効くのか?

 

「………チッ、クソ硬ぇ。やりづれぇったらねぇな!」

 

 じばくでもナットレイは倒れなかった。

 結局マチスが一体戦闘不能にしてしまっただけである。

 

「マルマイン、戦闘不能!」

『ナットレイ、マルマインのじばくを直で受けてなお、立っています! おおっと、そればかりか今の爆発で地面に突き刺さった身体の自由が解かれました!』

「戻れ、マルマイン」

 

 ボールにボール型のポケモンが入っていくとかちょっとシュール、なんて思ってみたり。

 

「ライチュウ、一発で決めろ。きあいだま!」

 

 マチスの四体目のポケモンはライチュウか。

 出てきて早々、エネルギー弾をナットレイに当てやがった。

 

「ぬぅ、やりまするな」

「ナットレイ、戦闘不能!」

 

 審判の判定を受けて、ナットレイをボールへ戻す甲冑男。

 またしても両者引き分け状態か。

 

「シュバルゴ、いくのである!」

 

 四天王の四体目はなんか殻に覆われたポケモンが出てきた。

 

「なあ、今度も悪いがあれは?」

「あれはシュバルゴ。むし・はがねタイプのポケモンで、アギルダーってポケモンと対をなすポケモンだよ」

「オスとメスとかの関係性じゃないよな? プラスルとマイナンのような感じか?」

 

 ポケモンの中には伝説のポケモン達以外にも対をなすポケモン達はいる。オスとメスで違うポケモンであるニドキングとニドクインやバルビートとイルミーゼ。特性で対称性が出てくるプラスルとマイナンなど、探せばいろいろいたりする。ポケモン研究の一つの分野といってもいいかもしれない。

 

「近いけど、こっちはもっとカラクリがあってね。アギルダーの進化前にチョボマキって殻に覆われたポケモンがいるんだけど、そのポケモンが進化する時に剥がれ落ちた殻を、シュバルゴの進化前であるカブルモが身につけることで進化するっていう密接な関係があるんだよ。あたしは結構この二体の関係性は好きだね。生き物らしくて面白いと思う。ってかあんた、イッシュ地方で登録されたポケモンについてはからっきしなんだね」

「行ったことないんでな。自ずと調べることもしなくなった」

 

 なるほど、シュバルゴとアギルダーか。帰ったら調べてみよう。なんか面白い関係性である。

 

「ま、あんたの今までを考えるとこれくらいの知識は必要なさそうだけどね。ゴリ押しでなんとかしちゃうでしょ」

「あー、まあどうせはがねタイプだろ? 焼けばいいんじゃね? って感じの思考回路で終わるだろうな」

「単純なのにそれで勝っちゃいそうだから怖いよ………」

「ユイさん、お兄ちゃんが変わってるだけですから。他の人たちはそんな簡単な理屈で動けませんって」

「うむ、我も取り敢えずレールガンで試してみるな」

「ここにもいたよー。うぅ……コマチちゃーん!」

「おーよしよし、ユイさん自信持ってくださーい」

 

 ザイモクザも取り敢えずレールガンだもんな。じめんタイプとでんきタイプが相手じゃなけりゃ、麻痺状態にできてしまうし。そうすれば後の展開も楽になってくるからな。理にかなっているといえば理にかなっている。

 

「シュバルゴ、ドリルライナーである!」

「ライチュウ、でんこうせっかで躱せ!」

 

 うわっ、ガチなポケモンだった。

 ドリルライナーでしっかりライチュウの弱点を突いてきて、素早く逃げ惑うライチュウを追い掛け回している。ダイノーズの時といい、見た目に反してやることがえげつないな、あの四天王。

 

「かみなりをぶっ放せ!」

 

 走りながら電気バチバチさせて雨雲を呼び出す。

 後ろからはシュバルゴが迫っており、止まることはできない。

 

「うぉらぁっ!」

 

 突然左に切り返したライチュウの動きに合わせられず、突き進んだシュバルゴに頭上から雷撃が撃ち落とされた。

 

「まだまだなのである!」

 

 かみなりが撃ち付けられたというのにシュバルゴは再びライチュウを狙い出した。さすがのライチュウも驚き足が竦んだようで、その隙を突かれてシュバルゴの二本のドリルで弾き飛ばされてしまった。

 

「伊達に殻を付けているわけではない。シュバルゴ、とどめばり!」

 

 一方的に突き飛ばされたライチュウの前にはすでにシュバルゴが移動していた。

 

「チィッ、ライチュウ、きあいだま!」

 

 即座にエネルギー弾を作り出し、シュバルゴの二本のドリルを受け止めた。

 

「ドリルライナー!」

 

 再度ドリルを回転させてきあいだまを霧散させると、二本のドリルでライチュウを突き飛ばした。

 なんて奴だ。

 これは勝ち上がって当たった時には焼く以外考えない方がいいな。近づくのは危険だ。

 

「ライチュウ!?」

 

 おお、あのマチスが驚きを見せているぞ。なんか新鮮だ。

 

「ライチュウ、戦闘不能!」

『なんとマチス選手! 一方的に攻撃されてしまったぁぁぁあああっっ!! さあ、次は五体目のポケモン! 四天王のシュバルゴをどう攻略するのでしょうか!』

「実に不愉快だぜ。出てこい、ジバコイル!」

 

 ライチュウをボールに戻して、五体目として出してきたのはジバコイルだった。

 レアコイルを連れてなおかつジバコイルかよ。

 専門タイプを持つというのも大変だな。種族が同じポケモンでも使い方の違いを知る必要があるとか面倒極まりない。

 

「でんじほう!」

 

 おお、出た。取り敢えずでんじほう。ザイモクザが感動してるぞ。

 

「ドリルライナー!」

 

 うわー、もうあのドリルマン鬼畜すぎんだろ。そんな動きが速いわけではないが、直撃した技も受け止めちまうあのドリルが脅威でしない。初心者トレーナーがあれで全ポケモンを戦闘不能に追いやられたとしよう。………うん、トラウマでしかないな。

 

「でんじほうも弾くのか………」

 

 初心者トレーナーでなくとも嫌気がさすのは変わらないみたいだ。

 マチスも唸り声を上げている。

 

「ジバコイル、でんじふゆう!」

 

 でんじふゆう。

 すでに浮いているジバコイルが使っても意味があるのかと思われるが、一応じめんタイプの技を全て無効化にする効力があるのだ。どういう理屈なのかは知らないが、浮くだけでなくじめんタイプの技を無効化する何かが出ているのだろう。

 ほんとポケモンは技一つを取っても不思議な生き物である。

 

「なんと、地面技を封じてこられたか。シュバルゴ、ジバコイルを追いかけるのだ!」

 

 スイーっと上昇していくジバコイルを追ってシュバルゴも上昇し始めた。はがねタイプって何気浮いているポケモンが多いよな。

 

「チィ、撃ち落とせ、かみなり!」

 

 再び雨雲を呼び出すとすぐに雷撃が落ち、ジバコイルの真下にいるシュバルゴに突き刺さった。

 

「だましうち!」

 

 だが、そこにいたはずのシュバルゴはいつの間にかジバコイルの足元? にへばり付いており、二本のドリルを突き刺していた。

 

「いわくだき!」

 

 そのまま二本の腕を広げて、鋼の身体に傷を入れていく。

 

「ジバコイル、エレキフィールド!」

 

 あのマチスが攻撃を捨てた………?

 フィールド一帯に電気が張り巡らされた。

 

「もう一度、いわくだきである!」

 

 そして、最後の一発が決まり、ジバコイルは地面に投げ落とされた。

 

「ジバコイル、戦闘不能!」

「………全くついてねぇぜ」

 

 今回のリーグ戦、マチスにとってはあまり気乗りのしなかったことなのか?

 それならなぜ参加しているのだと問いただしたくなるが。

 

「エレキブル、最後に思いっきり暴れちまいな」

「む? そのエレキブル、そなたの切り札とお見受けするが」

「ま、そんな感じだ」

「うむ、ならばわれも切り札で挑むのが、せめてもの敬意であろう」

 

 やっぱそういうところは律儀なんだな。

 騎士様って感じがする。

 

「戻るのだ、シュバルゴ。大義であった。ハッサム、われらと共に熱いバトルを繰り広げてくれた者に敬意を示そうぞ!」

 

 ハッサム。

 こいつがあの甲冑男の切り札なのか。ということはこいつがメガシンカすると見ていいのだろう。

 

「エレキブル、ほのおのパンチ!」

「我が鋼の真髄、解放せよ! ハッサム、メガシンカ!」

 

 早速かよ。

 最強を以って最強を打ち破るというスタンスなのか。まさに見たまんまの人だな。

 

「メガ……シンカ………」

 

 白い光に包まれていくハッサムと甲冑。

 甲冑で光が反射して無駄に眩しいんだけど。

 

「まるでここは魔窟じゃねぇか」

「ハッサム、つるぎのまい!」

 

 ……………あれ?

 なんかあんなポケモンいなかったっけ?

 ほら、宇宙から飛来した………隕石の…………。

 

「まるで、デオキシスのようであるな…………」

 

 あ、やっぱり?

 ザイモクザもそう思うのか。

 俺だけじゃなくてよかった。

 

「デオキシス?」

「宇宙にいるポケモンだ」

「宇宙にもポケモンがいるんだ?!」

 

 そうなんだよ。宇宙にもポケモンがいちゃうんだよ。

 異空間にいたりするし、一体ポケモンとはなんなんだろうな。

 

「ワイルドボルト!」

「バレットパンチ!」

 

 全身に電気を纏い突進していくエレキブル。

 だが、ハッサムがそれをあっさりと躱して背後から連続でパンチを繰り出した。技の相性では効果がいまひとつではあるが、ハッサムは初手につるぎのまいを使っている。メガシンカも合わさって、無敵状態だ。

 

「ほのおのパンチ!」

「バレットパンチ!」

 

 何度腕を振り回そうがーーー。

 

「10まんボルト!」

「バレットパンチ!」

 

 何度放電しようがーーー。

 

「ワイルドボルト!」

「とどめである! シザークロス!」

 

 何度突進を仕掛けようがその度に躱され、隙を突かれて攻撃を受けてしまった。

 しまいにはとどめを刺される始末。

 

「エレキブル、戦闘不能! よって勝者、四天王ガンピ!」

『決まったぁぁぁああああああっっ!! なんという一方的なバトル!! これが、これが四天王の実力なのかぁぁぁああああああっっ!! 果たしてこれから勝ち上がってくる選手に彼を止められて者は現れるのでしょうか!!』

 

 本日最後のバトル。

 専門タイプを極めた者同士のバトルを制したのは四天王の方だった。

 

『それではみなさん! また明日お会いしましょう!!』

 

 初日としては最良。

 逆に二日目からが心配なくらいの迫力のあるバトルばかりだった。これならば提供元の企業が出している販促グッズも売れ行き良好であろう。取り敢えず俺の顔は綺麗なままというわけか。

 

 

 何事もないといいんだが。

 取り敢えず、イロハを探すとしよう。

 




行間(使用ポケモン)

ガンピ 持ち物:キーストーン
・ハッサム ♂
 持ち物:ハッサムナイト
 特性:???←→テクニシャン
 覚えてる技:バレットパンチ、シザークロス

・クレッフィ ♂
 特性:いたずらごころ
 覚えてる技:ラスターカノン、まきびし

・ダイノーズ ♂
 特性:がんじょう
 覚えてる技:ほうでん、だいちのちから、パワージェム、マグネットボム

・ナットレイ ♂
 特性:てつのトゲ
 覚えてる技:ジャイロボール、タネマシンガン、タネばくだん

・シュバルゴ ♂
 特性:シェルアーマー
 覚えてる技:ドリルライナー、とどめばり、だましうち、いわくだき


マチス(電気の船乗り)
・エレキブル ♂
 覚えてる技:ほのおのパンチ、ワイルドボルト、10まんボルト

・ライチュウ ♂
 特性:せいでんき
 覚えてる技:きあいだま、でんこうせっか、かみなり

・レアコイル
 覚えてる技:ソニックブーム、ほうでん、ラスターカノン

・ジバコイル
 特性:じりょく
 覚えてる技:でんじほう、かみなり、でんじふゆう

・マルマイン
 覚えてる技:エレキボール、シグナルビーム、じばく

・サンダース
 特性:ちくでん
 覚えてる技:にどげり、10まんボルト、でんこうせっか


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14話

久しぶりにバトルが一切ありません!


「陽が傾いてきたな」

「だねー」

「………結局、戻ってこなかったですね、イロハさん」

「………あいつも一人になりたい時だってあるさ」

 

 会場から観客がいなくなるのを待ち、清掃業者の受付を終えた後、ようやくみんなで帰路についている。みんなといってもハルノさんとメグリ先輩は別行動。一度ポケモン協会の方へより、今日の記録をまとめてから帰ってくるんだとか。

 任せっきりでいいのかと思わなくもないが、俺も俺で仕事はあるからな。適材適所に動かなければ、こんなデカい大会を運営できないというものよ。

 

「ん? なんだよ、そんなしおらしい態度で」

 

 くいくいと裾を引っ張られたため振り返ってみると、ユキノが遠慮気味に引っ張っていた。

 

「……みんなの前で改めて言うのは恥ずかしいのだけれど」

「けど?」

「私はあなたが好き。ハチマンが好きよ」

「お、おう………えっ? なに? 何企んでんの? 公開処刑?」

 

 え? なに? このいきないの告白。

 別に初めてじゃないし、何度も聞いてるけど、こうみんなの前で言われると恥ずかしいぞ。言った本人もみるみるうちに顔が赤くなっていくし。

 なんなの?

 

「そうではないわ。私はあなたが好きだし、ユイもあなたが好き」

「うん! あたしはハッチーが大好きだ!」

 

 あれ?

 ユイはもう状況が読めているのか? それとも事前に打ち合わせしたとか? というか地味に手を繋いでるんじゃねぇよ。ガチ百合じゃねぇか。

 

「お、おおう? なあ、トツカ。俺は一体これから何をされるんだ?」

「何されるんだろうねー」

 

 なんていい笑顔。

 まさに満面の笑み。

 ああ、天使様、トツカ様。

 

「でもあなたと同じくらい、イロハのことも大好きで大切よ」

 

 ーーーああ、そういうことか。

 要はこいつらもイロハのことを心配してるってことなんだな。

 

「あたしさ、最近思うんだ。ようやくハッチーの凄さに気づいてくれる人が増えてきた。ようやくあの時のわくわくをみんなにも感じ取ってもらえるようになってきたって。だからみんなハッチーの周りに集まるようになったし、目標にしてるの。以前のヒッキーからは想像できないよね。でも、変わったよ」

「………今のあなたは覚えてないでしょうけど、私はあなたとシャドーで再会して以来、何かと理由をつけては近くにいようとしていたわ。何もできないくせに、邪魔しかできないくせにそれでも、あなたのそばに居たかった。同じ歳なのに、同じことを学んできたはずなのに、私にはできないことを平気でやってのけてしまうあなたが羨ましくて、悔しかった。私なんか眼中になかったあなたに、私を、私だけを見て欲しかった………」

「あたしもさ、最初こっちでヒッキーと再会した時はあたしだけを見てーって思ってたんだ。今もそれはちょっとはあると思う。でもさ、そんな気持ちを抱いてる人が他にもいるんだって分かった瞬間、その人の気持ちも大事にしたいなって思ったんだ」

「私も同じよ。そしてイロハも………。だからその………上手く言えないのだけれど、同じ気持ちを持つ者同士、家族みたいなものなのよ」

「だからハッチーには誰かを選んでなんて言わない。逆にハッチーのそばに居たいって人の気持ちを大事にしてあげて欲しいんだ」

「………えっと、結局何が言いたいんだ? こんな公開告白がしたいわけじゃないんだろ?」

「うん………」

「その………」

 

 ちらっと二人は視線を交わすとお互いに頷きあった。

 そして、ぎゅっと互いの手を握り締めたかと思うとユキノが先に口を開いた。

 

「今のイロハには一人で居たいって気持ちと、そんな気持ちを土足で踏み込んできて晴らして欲しいって気持ちがきっとあるはずよ」

「そして、それはあたしたちじゃダメなんだよ。あたしたちじゃ………」

 

 ………言わんとしていることは、何となくだが理解できて来た。要は俺が塞ぎこんでいるであろうイロハを見つけて連れて帰って来いってことなのだろう。

 

「………なんかそれ、分かりますねー。頭がわしゃわしゃーってなって、一人で落ち込んでいても、やっぱり誰かさんにはそばに居て欲しいですし」

「コマチ………?」

「お兄ちゃん、同じ気持ちを持つ三人が言うんだからまちがいないよ!」

 

 そもそも実の妹がこの二人と同じ気持ちを抱く時点でまちがってると思います!

 

「………あのよ、お前ら俺がどんな奴か忘れたのか?」

「バカ」

「ボケナス」

「ハチマン」

「だからハチマンは悪口じゃねぇよ」

 

 なんでここでも三原則みたいに出てくるんだよ。

 口裏合わせてきたのか?息がよすぎて怖いんだけど。

 

「ぼっち」

「我が同志」

「はーちゃん!」

「ふふふっ」

 

 お前らも答えるのか。

 トツカだけただただ笑顔を向けてくるだけだけど。かわいいから超許す。写真に撮って額縁に入れておきたいくらいだ。

 

「捻デレ」

「たらし」

 

 ……………………。

 

「「「えっ?」」」

「ん?」

 

 今何か聞き覚えのある声が聞こえたような………。

 いや、空耳だろう。空耳ということにしておこう。

 

「散々な言われようだが、確かに俺はぼっち「この状況でぼっちとかハチマン欲張りすぎ」…………」

 

 ちょっと下の方からも声が聞こえるんですけど。

 えっ? なに? やっぱり空耳違うの?

 

「………なんでいるんだよ」

 

 見渡せば二つの顔が増えていた。

 ツルミルミとその母親。

 

「ツルミ、お前はいつも唐突だな」

「あ、先輩、お久しぶりです」

 

 母親の方は現役の保険医兼家庭科の教師。旅に必要な知識や知恵を今でも教えているのだろう。

 

「えっと……ルミ、ちゃんだよね?」

「確かツルミ先生の娘さんでスクールの修学旅行に………」

「んで、なんでまたこんなところにいるんだ? ホウエン地方に行ってたんじゃねぇの?」

「ハチマンにエンテイとヘルガーを送った後、ジム制覇した。バトルフロンティアもバトルタワー以外は制覇したから、カロスで大会やるっていうし、こっちにきただけ」

 

 ああ、そう。リーグ戦を聞きつけてやってきたのね。

 というか何気にホウエンのジムを制覇したのかよ。すげぇな。

 

「それにしてもー。ヒキガヤ君はモテモテだねー。こんな公衆の面前で美少女二人から告白されるなんて。このこのー」

「あ、や、ちがっ……」

「べ、別に告白とか、そういうんじゃ………」

 

 ここって俺が顔を赤くするところじゃないのん?

 なんで二人が顔を真っ赤に染め上げてるんだよ。

 

「………一つ言っておきますけど、告白ならずいぶん前にされてますよ」

「な、なんだって!?」

「や、んな驚かんでも………」

「だ、だって、あのヒキガヤ君だよ? 女の子の気持ちを揺さぶるだけ揺さぶっていなくなるようなヒキガヤ君だよ?」

「………今日一番の言われようだ………」

「何本フラグを折る気なの………?」

「折らねぇよ。全部回収してるわっ!」

 

 …………ッ!?

 やべ、思わず言わなくてもいいことを口にしちまった。

 ああ、みんなの笑顔が痛い………。

 

「じゃあ問題ないね。さあ、早くイロハちゃんを探してくるんだよ」

「えっ、先生知ってたんですか?」

「というか私たちのセリフを全部取られたわね………」

 

 ほんとこの人怖いんだけど。察しはいいわ、タイミングはいいわ、マジで何者なんだよ。これもあの校長に扱かれたなりの果てなのか?

 はあ………、もういいや。すでに自爆してるし、今更自爆ネタの一つや二つ増えても関係ねぇよな。

 

「………はあ………、そもそもぼっちってのはバカでヘタレで欲張りなんすよ。自分に好意を向けてくれた相手を無下にはできない。誰か一人を選ぶなんておこがましい。選んで失うくらいなら全部自分のものにしたい。ただそれだけで絶対的な地位ですら、いとも容易く掴み取る」

「ッ!? あなたまさかそんな理由で………?!」

「そりゃそうだろ。誰が好きで働くかよ。ポケモン協会の理事で仮でも四天王。加えて忠犬ハチ公なんて恐れ戦く通り名まであるんだ。これだけ揃えば誰も文句は言えんだろ」

「………呆れた。まさか、そんな………」

「その割には嬉しそうではないか、ユキノシタ」

「べ、別に嬉しいわけでは………」

 

 ヒラツカ先生の茶々に再度顔を赤く染め上げるユキノ。今日は表情がコロコロ変わるな。

 

「もう、なんかもう! ヒッキーのバカバカバカ! ヒッキーがイロハちゃんも気に掛けるようにあの手この手考えてたのに! ………ずるいよ」

「お、お兄ちゃんがフラグ回収の準備をしてたなんて…………」

 

 俺だって人間だ。

 記憶をなくして元に戻って、そんなことを繰り返せてたのはずっとぼっちだったからだ。記憶がなくなろうが支障が出てくるのは自生活だけ。他に影響はない。

 はずだったんだがな………。

 ユキノはそれでも俺を追いかけてきてたみたいだし、ユイやイロハは五年が経っても数日の接点しかない俺のことを覚えていた。そして、記憶がなくなることを悲しんだ。

 別に自分のことではないのに、自分のこと以上に泣きそうな顔を向けてきたんだぞ。もう、あんな顔は二度と見たくない。

 

「それとイロハにポケモンバトルの術を叩きこんでるのは俺だぞ? あいつの行動くらい、想像つくっての」

「うわっ、なんですか黙って聞いてれば恥ずかしい告白ばかりしてお前は俺のものだとか言いたいんですかそうですか私もやぶさかではないですがまだ自分に納得いってないので納得いってから改めて言ってくださいごめんなさい!」

「うおっ!? い、イロハっ!? おまっ、いつの間に………」

「あれー、私の行動くらい想像つくんじゃなかったんですかー?」

 

 と、当人の、当然の、登場に…………恥ずかしすぎて胸が裂けそう。

 うわー、聞かれてた。やばいやばい、身構えてなかったから恥ずかしすぎて恥ずか死ねるレベル。心臓は一気に鼓動が早くなり、頭に血が逆流していくのが分かる。

 

「い、イロハちゃん!? だ、大丈夫なの?!」

「あなた、負けて帰ってこないから相当落ち込んでるのだと………」

「いやー、心配かけてしまい申し訳ないです。ストレス解消にショッピングしてました」

「ああ、お兄ちゃんが灰になっていくよ…………」

 

 そうか、俺は今灰になっていってるのか。

 道理で体が軽くなっていってると思ったら………あ、なんかトツカがたくさん見えてきたぞ? うわーい、トツカに囲まれちまった。ここは天国か? 天国なんだな?

 

「先輩、何大衆の前で四つん這いになってお祈りしてるんですか? キモいですよ? それにみなさんも公衆の面前で告白タイムとか………」

「「誰のせいだと思って!」」

「んもぅ、気にしすぎですってば。そりゃ、無断で出ちゃったのは悪いと思ってますけど。ほら、先輩も。恥ずかしいんで早く立ってください」

「痛っ、おま、足で蹴るじゃねぇ…………っ!?」

 

 イロハに足蹴りされて仰向けにされた瞬間、声とは裏腹に無表情なイロハがいた。目の下は泣きはらしたように赤くなっている。

 

「ではでは、帰りましょうか」

 

 パンっと手を叩いたイロハは一瞬で口角を上げ、吊り上がった頬により赤い部分が緩和された。

 こいつ………まさか、全部計算してやっているのか?

 俺が呆然としているのを他所に女性陣はイロハを追いかけるように歩き出した。

 

「ハチマン、大丈夫?」

「あ、ああ………」

「何かあったのであるか?」

「いや、イロハは強いなと思ってな」

「「ん?」」

 

 トツカが差し出してきた手を掴み立ち上がると女性陣を追いかけて帰路についた。

 仕方がないので両手に抱えた荷物を持ってやろうとしたら、頬を膨らまされて、結局持たされたのは言うまでもない。

 

「なあ、タイシ」

「はいっす」

「お前の予想、外れたな」

「お兄さん、それ言わない約束っす」

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 夜。

 プラターヌ研究所でツルミ母娘も混ぜた初日お疲れさん会も終わり、全員が寝静まったころ。

 俺も部屋に戻るために廊下を歩いていたら、ハルノさんが俺の部屋の前に立っていた。

 

「………夜這いですか?」

「それもよかったんだけどねー。今日は『妹』に譲ることにしたわ」

「はい? ユキノが中にいるんですか?」

「んーん」

 

 ハルノさんが首を横に振った。

 ということは誰のことを指しているんだ?

 

「ならなんすか」

「ユキノちゃんに聞いたよ。公衆の面前で告白タイムを繰り広げたんだってね。聞きたかったなー」

「こっ恥ずかしいんで思い出させないでください。ユキノも何話してるんだよ………」

 

 なんだ、姉貴には逆らえなかったとかそういうパターンか?

 まあ、相手は魔王だしな。

 

「…………正直、ハチマンがそこまで私たちのことを欲しがってるなんて思わなかったよ」

「言い方言い方。なんか生々しい」

 

 ちろっと舌を出して唇を舐めるハルノさんがなんかエロい。

 

「…………昔ね、一度だけ相手のポケモンを一体も倒せない相手とバトルしたことあるんだ」

 

 うわ、ハルノさんまで突然語りだしたぞ? なに? あんたも告白タイムなのん?

 つか、一体も倒せないって………。

 

「初めて完敗したわ。悔しくて、でも嬉しくていろんな人に聞いて回って調べ上げたの」

「姉妹揃ってストーカー気質の持ち主だったか………」

「ある意味そうかも」

 

 認めやがったぞ、この人。

 そうか、やはりユキノシタ家にはストーカー気質があったりするのか。娘二人がストーカーとか親父さんたちも大変だな。

 

「で、そいつの名前は? 名前くらいは調べられたんじゃないですか?」

「ヒキガヤハチマン、当時十二歳。リザードン一体でチャンピオンを倒した少年」

「へぇ、そいつ以外には一度も完敗したことないんですね」

 

 やっぱり俺だったか。

 年齢まで調べられてるし。まあ、今の俺から逆算すれば簡単に分かったりもするからあれだけど。

 

「そうだね。でもおかしいと思わない? リザードン一体で仮にもチャンピオンのポケモンを全員倒すなんて」

 

 おかしい?

 そりゃ、おかしいだろうよ。

 

「そうですね。その頃のそいつは一種の病気を患っていましたからね。仕方ないんじゃないですか?」

 

 変なスイッチ入ってたんだから。

 ほんと、こんな記憶しかないなら忘れていた方がマシと思えてしまうから不思議。けど、今は少しでも思い出さなければ過去にみんなとどういう出会い方をしていたのかが分からないんだよな。

 ああ、思い出したくない。

 

「仕方ない、か。まあ、確かに仕方ないのかも。本人にとっては不可抗力、利用されてたに過ぎないのだから」

「…………何が言いたいんすか?」

「レッドプラン」

 

 ッ!?

 なぜハルノさんがその計画? を知っているんだ?

 

「…………確かザイモクザもその計画? について聞いてきましたよ。俺にはさっぱりですけど」

「だよね。今のハチマンは記憶がないもの。もしかしたら記憶が戻っても知らないのかも」

「で、そのレッドプランってのは何なんですか?」

 

 ザイモクザも調べているみたいだが、詳しいことは分からないらしい。記憶のない俺に聞いてくるくらいだし。それをハルノさんは知ってるということなのか?

 

「『研究者カツラ及びミュウツーの関係性を基に図鑑所有者レッドの量産を目指す』、それがレッドプラン。そして、その研究の基軸を作ったのが元ロケット団ユキノシタハルノ」

「はっ?」

 

 はっ?

 ちょっと待て。いろいろと待て。

 ハルノさんが元ロケット団?

 レッドプランの基軸を作った張本人だと?

 ………おいおい、ここにきてこれか? こんなことって……………。

 

「私よりも強いトレーナーが現れてほしくてロケット団に入った。でもそこでも満足いかなかった。だから自分の手で作ろうとした」

「…………それが俺ってわけですか」

「んー、ちょっと違うかな。これは私が考えた個人的な研究。………悪用されたのよ。ロケット団ボス、サカキに」

 

 サカキ………。

 やはりあいつが一枚噛んでいるのか。

 

「私が考えた本来の『レッドプラン』は図鑑所有者レッドのようなトレーナーを量産する育成プログラムだった。だけど、サカキの手によってカツラさんとミュウツーの関係性の研究も盛り込まれ、人体実験にまで変わり果てた。ねえ、ハチマン。お腹の中からキーストーンと同じ波長のエネルギーが出ているのっていつからだと思う?」

「………まさかその『レッドプラン』ってのが関係してるとか言いませんよね?」

 

 いや、まさか、そんな…………。

 

「そのまさか。当時まだそれがキーストーンだとは認識していなかったロケット団は、輝く石を砕いて薬にし、被験者に投薬。それと同時に強化するポケモンとお互いの血を共有することで実験は終了したの」

「……………」

 

 なら、それはいつ投薬されたんだ?

 それにお互いの血を共有だと?

 つまり俺の身体にはリザードンの血が、リザードンには俺の血が流れているってことなのか? 輸血、と言い換えてしまいたいが、この場合は事実をひた隠しにする表現にしかならないか。

 あああ、思い出せないのがイライラする。

 まずは整理しよう。今ある記憶の中でサカキとの接触はシャドー脱出後。あと手帳に書いてあったことで覚えているのはカントーを旅していた時にしばらく同行していたということ。それ以外の接点は全く分からん。ただ時系列を考えると後者の方が可能性がある。前者はハルノさんとバトルしてから半年以上経ってるからな。

 

「言葉も出てこないって感じね。でも事実よ。私のせいでハチマンは、おかしくなってるの」

「…………なせ、この、タイミングで?」

 

 思考が安定しない中、紡ぎだしたのがタイミングの話だった。

 まあ、確かになぜ今このタイミングでカミングアウトしてるんだ?

 

「……………次の被験者を選びに来てるからよ」

「………えっ? つまりサカキたちが来てるってことですか?」

 

 俺が聞き返すとハルノさんは無言で頷いた。

 おっと、俺の方もちょっとは落ち着いてきたみたいだな。ハルノさんの顔を見られるようになってきた。

 えっと、で? えー、サカキたちがカロスに来ている可能性があると。だが、俺はサカキを見ていないし………あー、マチスのおっさんか。

 うわっ……、マジで厄介ごとが降り注いできやがった。

 

「…………なるほど、それでマチスか。段々読めてきた。要はリーグ戦出場者の中にサカキたちが混ざっているってことですね」

 

 確認を取るとまたしても無言で頷いてきた。

 はあ………、まったく姉妹揃って……………。

 

「………私のことを見損なったでしょ。ずっと言おうと思ってたけど、ユキノちゃんがあまりに執着してるものだから。それに他のみんなも、私自身も…………。だからね、だからっ………私はどうなってもいい! でも他のみんなは、ユキノちゃんたちは守ってあげーー」

 

 なんか話を一人で進めようとしているおバカさんを抱き寄せ、頭を撫でた。

 うん、艶があって綺麗な髪である。

 

「ユキノの話を聞いたのなら、俺が何言ったのかも聞いたでしょう? 俺は俺に好意を向けてくれる奴を失いたくない。それはハルノだって同じだ。俺にあんたを捨てる気は毛頭ない」

「ハチ………マン……………?」

「ったく、姉妹揃って…………」

 

 自己犠牲もいいところである。自分が言えたことではないが、そんな過去の話を気負う必要なんてないのだ。実際、俺は覚えてないのだし、思い出したところでどうにか対処するための策を考える要素にしかならない。大事なのは今なのだからな。

 

「…………あの、さ………それで、なんだけど……………イッシキちゃんが危ないかもしれない」

「はい?」

「さっき一人でミアレの中央広場の方に飛んでいくのが見えたから。すでに敗北した選手で一番目立っていたのはイッシキちゃんだし、被験者はいくらあっても困らないから」

「ッ!?」

 

 あーもー、ほんと面倒な集団だな。

 何もこんな時に来なくたっていいだろうに。

 

「ッ……、行って。イロハちゃんを、『妹』を守ってあげて!」

 

 驚いてつい抱きしめる力を強めてしまったが、ハルノが俺を押し出すように突き放した。

 

「言われなくても! おい、そこで立ち聞きしてるド素人! 実の姉なんだから落ち着くまで傍にいてやれ!」

「………バレてたのね」

「ドアを半開きで覗いていれば分かるっつの」

 

 そもそもお前はこういうの下手だろうが。シャドーの潜入捜査で学ばなかったのか?

 

「……イロハを頼むわ」

「ああ」

 

 ここはどうやら俺一人で行くしかないようだ。

 帰りの話通りなら、あいつは今…………。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 俺は一人の少女を追いかけてミアレタワーにまで来ていた。急いでいるため、リザードンの背中に乗っている。地上ではまだ明かりがついており、騒いでいる観光客たちがチラホラ。

 と、どこからか歌声? が聞こえてきた。下、からではない。上の方から。

 となるとミアレタワーの上か?

 リザードンに上昇するよう合図を送り、ビル風に煽られながら昇っていく。

 

「ーーて後になってー、ごめんねって言う~……、その顔ー、好きーだーった~………」

 

 と、イロハがいた。

 歌声の主はイロハだったのか。それにこの曲、確か………。

 

「離さないでー、ぎゅっとを~……そう思いっきり~……、あなーたーのー腕の、中にいーたい~……」

 

 ミアレタワーの天辺に着地すると、サビなのに何故か歌うのをやめてしまった。

 俺が来たことにようやく気付いたのだろうか。

 

「………何帰りに言われてたことを実行してるんですか」

 

 背中を向けているためどんな表情をしているのやら。

 さて、どう切り出したものか。

 ロケット団が狙っているかもしれないとか言っても仕方ないし。となると………。

 

「………帰りにお前が見せた無表情が気になってな。それにそこの荷物。今日買いだめしたものだろ?」

「………あーあ、せっかく我慢してたのになー。何で先輩は気づくかなー」

 

 あれで隠してたつもりなのかよ。

 

「気づいてほしくないなら俺の前でも終始笑うべきだったな」

「………そこまで分かっちゃいましたか。ほんと、ずるいです……………」

 

 空を見上げているのか、頭頂部が見えた。

 

「…………お前ってみんなから愛されてるよな」

「はっ? それ先輩の方がでしょ。女の子たくさん侍らせて」

「や、その一人がお前だからな。そうじゃなくてユキノもユイも、あのハルノさんまでもがイロハのことを『妹』って言い表してたぞ」

「えっ…………?」

 

 ようやく振り向いた顔にはツーと涙が流れていた。

 なるほど、これは意外な話だったわけか。

 

「同じ気持ちを持つ者同士、家族みたいなものなんだとよ」

「…………」

 

 何かを払拭するかのように首を思いっきり横に振るとイロハが顔を上げた。

 

「………私はまだまだ弱いです。今日改めて思い知らされました」

「そうか」

「バトルを支配しているつもりが、全てあの人の掌で踊らされていました。気づいた時にはもう何もできなくて………。終わってから、先輩が日頃言っていたことを思い出しました」

 

 最後、目線を逸らされてしまった。

 

「………俺、なんか言ってたか?」

「『俺より強い奴は探せばいくらでもいる』っていつも言ってるじゃないですか」

「それ、俺の真似なのね…………」

 

 そっぽを向いたまま、俺の真似を入れてきた。似てないな。

 

「あの人は先輩より強いとは言いません。ただ私の中で先輩が最高で、他は下だと決めつけていた節があったんだと思います。はっきり言って私の驕りです。勝手な決めつけで勝負を舐めてました。全力を出していても先を読む注意力が欠けていた。そんな奴に育てた覚えはないって先輩に見放されても何も言い返せないです」

「………くくくっ」

 

 真面目にシリアスな展開なんだろうけど、笑わずにはいられない。

 どうしてこいつはこう俺の辿ってきた道を何度も行くのだろうか。面白すぎて笑いが止まらないぞ。

 

「ちょ、なんでそこで笑うんですか!」

「あ、いや、くくっ、すまん。なんか、俺と同じ道を辿ってるなと思ったら、笑いが………」

 

 急成長することはいいことである。だが、疎かになってくる部分も出てくるのも事実。俺はカントーチャンピオンになるまでそのことに気づけなかった。それまで負けることを知らなかったというのもある。いや、負けたことはあっても完敗がなかったといった方がいいか。覚えてないだけかもしれないし。

 

「よかったじゃねぇか。トレーナーになって半年で気付けて」

「はっ? 何言ってるんですか! 私は先輩に教えてもらったことを何も活かせなかったんですよ! こんなの、こんなの………」

 

 ほんと、こいつはあれだよな。完璧主義すぎる。

 

「俺さ、ちょっとは記憶が戻ってるんだわ。んで、今ある記憶を遡るとトレーナーになって三年以上過ぎた頃か? ようやく自分が調子に乗っていた頃に気づいたんだ。それに比べれば半年とか早すぎだろ。それに俺の教えを活かせてないとか、どの口が言ってんだよ。あんなバトルができれば上出来だっつの。しかも相手は長年四天王に居座り続ける実力者だぞ。そんな人の本気を引き出すことができたんだ。誰もお前が弱いとは思わねぇよ。お前は端から上を見すぎなんだよ」

「で、でも、だったら、先輩は誰が守るんですか! 私たちはまだまだ初心者で守られてばかりで、フレア団の時だって結局ユキノ先輩やはるさん先輩に無茶をさせて、先輩に至っては記憶を大半失って…………。私嫌です! 先輩が、ハチマンくんが無茶するのは見たいくないです! ユキ姉やハル姉が無理してるところを見たくないです! だから、だから…………」

「だから強くなって俺たちを守りたいってか」

 

 それこそ上を見すぎだっつの。

 

「驕りもいいところだな。俺やユキノやハルノははっきり言って特殊だ。一番まともなのはユキノだが、三冠王だぞ。超のつく有名人だ。んで、俺とハルノは裏社会に手を出している。常に駆け引きを要するところに足を置いていた。そんな俺たちと肩を並べようとか気が早いっつーの」

 

 イロハに近づいていくと、身構えるように腰を落とした。

 なんか敵視されてる気分だわ。………うん、これは嫌だな。

 

「何も焦る必要はないんだ。お前も自分がまだまだ初心者だって自覚してるじゃねぇか。それでいいんだよ。今日見に来ていた人たちも半年でここまで来たのかって驚いてるくらいだ。コマチがいただけに、負けたくない気持ちが生まれるのは当然だが、お前らの成長速度は普通じゃない。タイシを見てみろ。あいつ、トレーナーになって三年くらい経つみたいだが、バトルはどうだ? イロハの方が強いんじゃねぇの?」

「……………」

 

 じっと見つめてくるイロハの腕を掴み、引き寄せると思いっきり抱きしめてやった。

 

「え、ちょ、ハチマ………」

「…………うん、やっぱり小さいよなー」

 

 決して胸のことを言っているわけではない。全体的な話である。あ、でもちょっとハルノと比べた……言わないでおこう。

 

「はあっ!? こんな時に何言って………!」

「あんまり強く抱きしめると折れそうだわ」

「ちょ、私を殺す気ですか!?」

「アホか。俺の大事なもんを失ってたまるかっての」

「………えっ、ちょ、先輩………マジで、どうしちゃったんですか…………?」

 

 どうしたもこうしたもお前が身構えるからだろうが。

 なんかこうしたくなったとしか言いようがない。けど言えない。もれなく恥ずか死ぬ。

 

「いやさっきな。ハルノから衝撃的なカミングアウトをされてな。お前に説教垂れたことを言いながらずっと気が動転してるんだわ」

「…………なんて言われたんですか」

「俺は強化人間なんだとよ。無敵パワーの塊だって言われたわ」

「………いやほんとマジで何言ってんですか」

 

 だよなー。

 詳しいこと話し出したら長くなりそうだから間接にまとめてみたが、適当すぎたな。

 

「よく考えてみろ。カントーリーグをリザードン一体で優勝するとかあり得ないだろ」

「………確かにそうですが、先輩なら………」

「その『なら』の部分の裏付けが強化人間の証なんだよ…………」

「………先輩? 怖いんですか?」

 

 あれ?

 どうしてその返しになるんだ?

 なんか思ってた返しと違うんで反応に困るんだけど。

 

「…………どうだろうな。ただ、アホらしいと思わないか。こんな強化人間を守るだとか」

「それ言いたいがための嘘、ってわけじゃないんですね………。だったら!」

 

 あっれー?

 なんか思いっきり突き放されたぞ。

 ここって優しく抱きしめ返してくるところじゃね?

 

「だったらなおさら私は強くなります! 私の大事なものを自分の手で守れるように強くなります!」

「………頑固だな」

「何とでも言いやがれです!」

 

 ま、この目ならもう大丈夫そうだな。

 と、この気配。

 客人のお出ましか。

 

「ふっ、炎と水を操るポケモンだっけ? そいつ、捕まえて来いよ。懐かれたんだろ?」

「なっ!? ………弟君ですか。黙っててって言ったのに………」

 

 あのアホ。口止めされてたの忘れてんじゃねぇよ。おかげで面白いポケモンがいることが分かったが。

 

「手持ち六体だろ。誰か置いてけよ」

「ポケ質ですか………。分かりました、ヤドキング」

『って、オレっちかよ!』

「あなたは私のポケモンだけど、ここまで強く育てたのはおじいちゃん。やっぱりあのポケモンは自分で捕まえて育ててきたポケモンで捕まえたいから」

『はあ………、ほんっと頑固なご主人様だぜ』

「自分のポケモンにまで言われるとか………」

 

 こいつ、どんだけ普段から頑固者なんだよ。自分のポケモンが呆れ返って笑い飛ばしてるぞ。

 

『分かった。けど、必ず捕まえてくるんだぞ。あの捻くれ者、次こそ泣かせてやる』

 

 お前ら、そのポケモンと何してきたんだよ。

 少なくともヤドキングは何戦かして負けてるだろ。

 

「あったり前じゃん! 今よりもっと強くなって、必ず捕まえてくるんだから!」

 

 そう高らかに宣言したイロハはフライゴンを出すと荷物とともに背中に飛び移った。

 

「先輩、それヤドキングのボールです。ではでは、また会いましょう!」

 

 んで、ヤドキングのボールだけ寄越してそのまま東の方へと飛んで行ってしまった。

 

「…………そいつオス?」

『おそらくは』

「なら大丈夫じゃね?」

『イロハだもんな………』

 

 あいつ、メロメロ使えるじゃん。相手オスじゃん。んでもって捻くれ者の割に懐いてるんだろ?

 もうすぐじゃん。

 

「と、ゲッコウガ」

「コウガ」

 

 さて、ゲッコウガにイロハをお願いしますかね。

 

「ハルノとの話は聞いてただろ。リーグ戦に出られなくなるだろうが、イロハのこと頼んでいいか?」

「コウガ」

「頼むぜ、相棒」

 

 拳と拳をコツンと合わせ、ゲッコウガを送り出した。影だらけの夜だからすぐに追いつくだろう。

 

『お前も過保護だな』

「……そうも言ってられねーんだよ。なあ、サカキ」

 

 いつの間にか地上の光も街灯のみになっていた。

 そんな光少ない闇夜の中から黒スーツの男が顔をのぞかせた。

 

「落ちたものだな、ハチマン」

 

 やはり来ていたか。

 元トキワジムのジムリーダーにして、ロケット団のボス、サカキ。

 これでハルノの話も信憑性が増してきたことになる。

 

「………狙いは何だ? 俺か? それとも敗者か?」

「ほう、思い出したのか?」

「いや、話を小耳に挟んだだけだ。『レッドプラン』、あんたのせいで俺の身体は常人のそれとは違うものになってるって言うじゃねぇか」

「オレのせいではない。お前が望んだことだ。俺はそれを叶えてやっただけに過ぎん」

「はっ? んなわけ………」

 

 俺がそんな怪しい計画に手を出すわけないだろ………。

 

「どうやらすべてを思い出したわけではなさそうだな。では日を改めるとしよう」

「あ、おい、ちょっと待て! ………行っちまったか」

 

 スピアーに連れられ、行ってしまった。…………ダメだ、追いかける気になれん。

 はあ………、マジでロケット団がカロスに来ているのか。今度は何をするつもりなんだ? 少なくとも『レッドプラン』が関係しているのは分かったが、それにしても面倒なことになってきやがった。フレア団の次はロケット団かよ。勘弁してほしいわ、いやマジで。

 まずは敗者たちの警護を強化しておくか。他には…………俺の手持ちを揃えとかないとな。ポケモンの登録は初戦まで変更可能だし。

 そのまま仰向けに寝っ転がり、空を見上げた。明日も晴れるのだろう。星々が綺麗に輝いている。

 

「……………また、引き寄せちまったな。なあ、ヤドキング……」

『困ったなぁ…………』

 




ようやく本作もきな臭くなってきましたね。
どうなることやら………。


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15話

大会二日目でバトル祭りの再開、と思ったらほぼバトルがなくなっちゃいました。


 はあ…………。

 なんでこんな朝早くに目が覚めてしまうんだ………。

 まだ五時前だぞ。もう少し寝かせろよ。

 って、まあ昨夜を思い出せばそれも無理な話か。

 ハルノさんが元ロケット団で俺は人体実験の被験者。さらにそのロケット団のボス様がカロスに来ていらっしゃる。前半だけでも調べる必要があるというのに、現在進行形で問題を起こしそうな奴がそこにいる。落ち着いて寝てもいられないわな。

 

「はあ………」

 

 仕方ないので外の空気を吸いに行くことにした。

 しばらくゲッコウガもいない。代わりに残されたヤドキングも姿がない。どこかにいるのだろうが、まあ放っておこう。

 リーグ戦二日目の今日は俺の出番はない。色々調べたいことだらけだが、何かあった時のために会場にいなければならないしな。責任者というのも面倒な仕事である。

 

「フシギソウ、はっぱカッター!」

 

 ん? この声………。

 

「続けてつるのムチ!」

 

 庭の方で。

 変態博士がガブリアス相手にバトルをしていた。

 バトルといってもただ技を受け止めてもらっているだけ。まだまだバトルとは言い難い戦いである。

 

「お粗末だな。あんたも一度はトレーナーを目指した端くれだろ?」

「おや、ハチマン君。いやー恥ずかしいところを見られたね」

 

 声をかけるとようやく気づいたようで、照れ臭そうに頬を掻いた。

 俺はなぜか寄ってきたフシギソウの頭を屈んで撫でてやる。

 

「ポケモンバトルはただ技を出せばいいわけじゃない。ポケモンの特性、特徴、攻撃技を出すのか状態異常にさせる技を出すのか、何なら技を出すタイミングからそれまでの駆け引き、果てには技そのものを根本から理解しないといいバトルはできないもんなんだ。あんたの場合、研究者としてポケモンについての知識は豊富に培ってるだろう。だが、経験が足りない」

「そうだね、それは僕も痛感しているよ。早々に諦めた身だからね。仕方ないことさ」

「そんな諦めた身の奴が何でまた………」

「一つは君だよ。いや、君たちか。僕も研究という面からポケモン達と向き合うだけじゃなくて、トレーナーとしてポケモンを育ててみたいと思ったんだ。見ているだけじゃ分からないこともあるんだって教えられたからね」

 

 ま、確かに育ててみないと分からないこともあるわな。ゲッコウガのあの現象だってトレーナーがいなかったら成り立たなかったんだし。

 

「一つ、ということはまだあるのかよ」

「………前にも言ったようにフレア団の件で僕も戦える力があればと思ったんだ。エックスたちにはポケモンを渡してそのまま戦火へ放り出したようなものだからね。僕がトレーナーとしてもあればもう少しあの子達の負担を軽くできたと思うんだよ」

「そりゃねぇな。いくらあんたがトレーナーとしてあろうが、あんたはフラダリがフレア団ボスだということを一度は否定したんだ。その時点であんたは戦力外だ。誰も頼ろうとはしない」

 

 トレーナーであろうがなかろうが。

 あの時、あの時点で立場は二極化したのだ。

 もれなく戦力外通達された奴がトレーナーだったら、なんて言ったところで結果は変わらない。

 

「………そう、だね………」

「だが、あんたはトレーナーでもあるべきだとは思うぞ?」

 

 だが、博士がトレーナーとしてあるべきかどうかはまた別の話である。

 

「励ましてくれるのかい?」

「いや、それはない」

 

 あんたを励ますとかないな。絶対にない。

 

「ないんだ………。はっきり言うね………」

「視点がずれてるんだよ。あんたがトレーナーとしての力をつけたところで、例えば俺たちが相手をしている奴らを倒せると思うか?」

「………無理だろうね」

「だろ? だったら、せめて俺たちが手を回さなくてもいいように自分の身は自分で守れるようにしとけばいいんじゃねぇの」

「自分の身は自分で守る、か………」

「名の知れた研究者の研究資料が狙われるのはよくあることだ。あんたはその確率が高い」

 

 オーキドのじーさんも狙われた過去がある。あの人はトレーナーとしても優秀だが、老いには成す術もなくあっという間捕まったらしい。

 ま、そんな感じで研究者が狙われることだってあるんだ。トレーナーとしての腕も磨いて自分の身は自分で守ってもらわないと困る。ぜひ面倒事を増やさないようにしてもらいたいものだ。

 

「確かに君の言う通りだ。僕が今更トレーナーとして磨き上げたとして君たちには敵わない。助けるなんて痴がましいくらいだ。けど、どうだい? 僕のバトルはお粗末なのだろう? 自分の身も自分で守れない気がしてきたよ」

「んじゃ、等価交換と行こうか」

 

 まったく、そうやって俺に言わそうとするなよ。

 

「おや、僕にポケモンバトルを教えてくれるのかい?」

「そう言わせようとしてたのはどっちだよ」

「あはは、それで何が望みだい?」

「あんたの記憶」

「えー、まさかダークライに記憶を差し出せってのかい? それは勘弁してほしいな」

 

 食う記憶は基本的に俺のだっつの。後は敵さんとか。

 誰から食うわけじゃないみたいだぞ。

 夢にして食う記憶にも美味い不味いがあるのかもしれない。

 ………うん、俺の記憶ってのはそんなに美味いのかよ。というかあいつの好みに適しているって表現の方がいいよな。

 

「そうじゃねぇよ。あんたは以前、俺と会ってるんだろ? その時のことを詳しく教えろ」

 

 ダークライは今回お預けだ。

 俺に要望はこの耳で実際に当時の話を聞くことだ。

 レッドプランやそこに繋がるヒントが絶対その時期にあるはずだ。

 なんせ俺の記憶はカントーを旅した時とシャドーを脱出した後からが全く戻っていない。カロスに来て少しずつ戻り始めていたこともあるが、その二つの時期だけは一度も戻っていないのだ。まあ、全部またパーになって一から戻ってきているわけだけど。それでも一度も記憶が戻らないということはそこに何か重大なことがあったということだろう。要するに俺の本能が当時を思い出したくないと拒否している証拠だ。だから聞くしかない。

 

「おや、まさか君が過去を気にするとは」

「今回は記憶の中にヒントがあるように思うからな」

「つくづく君はトラブルに愛されているね」

「嬉しくねぇよ。愛はあいつらのだけで十分だ」

「おっと、まさかここで惚けられるとは。困ったね、僕には返す言葉が見つからないよ」

「十二分にパンチを出してきてると思うんだが?」

 

 俺としたことが。

 なにさらっと恥ずかしい台詞言ってんだよ。最近の俺はどうもおかしい。リア獣発言がさらっと出てきてしまう。言った後で内心恥ずかしくなっているのは内緒な。絶対に誰にも言えん。

 

「何のことだい? 僕には分からないな」

「だったらそのニヨニヨした顔やめろよ。気持ち悪い」

「いいよ。前回は何も出来なかったからね。今回は僕を好きなだけ使うといいさ」

「そうかい。だったらバトルしながらでもどうだ?」

「だったらフィールドの方へいくとしよう。その方が気兼ねなくできるんじゃない?」

 

 仕方がないので、バトルをしにムカつく笑顔について行った。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「さて、僕はフシギソウをどう育てたらいいのかな?」

「んじゃ、まずはフシギソウが、あるいは進化したフシギバナがどんなポケモンか全部思い出せ」

「いきなりハードなことを要求するね。えーっと、フシギソウ、というかフシギダネからフシギバナにかけて一貫して言えることだけど、成長とともに背中の種が蕾に、蕾が花に成長していく。その変化に合わせて進化も行われていくっていう実に生物的なポケモンだね」

「へー、それは初耳だわ。まあ、流れからして進化に関係してるんだとは思ってたけど。で、他には?」

 

 実際、確かめたことはなかったからな。フシギダネ系統を連れているやつなんて俺の知っている限り、レッドとメグリ先輩だけだし。今近くにいるメグリ先輩に聞けばよかったんだろうけど、忙しくてそれどころじゃなかった。というかそんなことを考えたこともなかったから、今思い出したって感じである。

 全く、記憶ってのはあっても思い出せないんじゃ役に立たないんだよな。ないのと同じようなものだし。けど、それでもないよりはマシ。きっかけがあれば思い出すこともできるのだから。ない記憶はいくら思い出そうとしても絶対に思い出せない。

 いやはや面倒なこった。

 

「タイプは一貫してくさとどく。特性はしんりょくと稀にようりょくそを持っていることがあるね」

「そのフシギソウはどっちなんだ?」

「この子はどっちなんだろうね。まだ特性が発動したことがないんだよ、残念ながら」

 

 まあ、バトルする機会も少なかったから確かめられなかったってことにしておこう。

 

「ふーん、んじゃ攻撃の持ち味は?」

「そりゃやっぱり蔓を使った幅広い攻撃じゃないかな」

「そうだな。上手く使いこなせば防壁にだってなり得るだろうからな。攻撃以外でも汎用性が高い」

「だとは思ったんだけどねー。どうにもタイミングが掴めなくて困ってるんだよ」

 

 躱すタイミングか。

 そういえば、カロスに来た時ユイも俺の真似をして技を躱そうとハリマロンに仕込んでたよな。根本的に間違ってるからやめさせたが。

 ………ああ、なるほど。そこか。

 

「それはあんたが躱すタイミングを命令してるからとかじゃねぇの?」

「ダメなのかい? 躱すのもトレーナーの腕の見せ所だって聞いてたんだけど」

「間違っちゃいないが、何にでも限度ってもんがあるだろ。逐一トレーナーが命令を出してたんじゃ、トレーナーの動きにしかならない。ポケモンにも直感ってものはあるし、戦っているのはポケモンだ。バトル中の感覚はポケモンの方が上なんだよ」

 

 これはゲッコウガと意識や視界が繋がった時にはっきりしたことだ。何か仕掛けようって時にはこっちで躱すタイミングを命令してもいいが、そうでなければポケモンに任せた方が上手く躱してくれる。

 

「それだと勝手な動きに繋がっちゃうんじゃない?」

「アホか。何も勝手な動きで躱させるんじゃねぇよ。あんたはトレーナーだろ? ちゃんとポケモンを育てねぇといけないだろうが」

「ふむ………、つまり?」

「躱し方のバリエーションを増やしてやるんだよ。それがトレーナーとしての回避に関する介入の仕方だ」

 

 まず回避に関しては、トレーナーが口を挟むことはない。だが、それだと博士の言うように勝手な行動に繋がってしまう。それはポケモンを調子付けてしまい、力に呑まれて暴走を引き起こすことにも繋がってくる。そうならないためにもトレーナーがしっかり命令を出す必要があるのだが、それでは全くの矛盾でしかない。

 そこでトレーナーが回避についてとやかく言ってなおかつポケモンを制御するには回避の技術を目一杯叩き込んでやるのだ。どれか一つでも上手くいけば、トレーナーに対しての信頼感を持ってもらえるだろう。それを積み重ねていくことで勝手な回避をしても勝手な動きには繋がらなくなる。それが俺の持論である。

 

「ああ、なるほど! そうか、そうだね………、確かに君のバトルを思い出してみるとそんな感じだった気がしてくるよ。ただ横に躱すんじゃなくて、受け流すとか色々やってたよね」

「そういうことだ。で、フシギソウはどうやって躱す?」

「そりゃもちろん。汎用性の高い蔓を使わない手はないでしょ」

「正解だ。飛び込んできた相手には蔓を巻きつけて遠心力で躱したり、足に絡ませて転ばせたり、いくらでもバリエーションがある。それをフシギソウに叩き込めば、まずやられることはない」

「でも勝てないんじゃない?」

 

 こいつは何を言っているんだ?

 負けないんだぞ?

 

「ばっかばか、何も強力な技を撃って勝つことだけが勝利じゃねぇんだよ。時には負けないということがアドバンテージになることだってあるんだ。例えば相手の攻撃を全て躱したとしよう。技を連続で出せばいずれ疲労で隙が生まれる。そこを一歩つ狙えばあっという間、なんてこともあるんだよ。真っ向からぶつかることが全てじゃない」

「………うん、実にハチマン君らしいバトルだね」

「それにトレーナーの方にもイライラが蓄積して、判断ミスを呼び寄せることにもなるんだ。想像してみろ。相手が自分の攻撃を全て躱してくるんだぞ。何をしても当たらない攻撃。イライラするわ見透かされているようで怖いわ、不安定になる材料が次から次へと生まれてくる。嫌な相手だろ?」

「………想像をしたくないくらいには嫌な相手だね。まるでハチマン君だ」

「いや俺が使ってるんだからどうしても想像したのが俺になるのは当たり前だろ」

 

 何を今更なことを。

 

「んじゃ、まずはそれを踏まえてバトルだな。リザードン、フシギソウに突っ込んでみてくれ」

「シャア!」

 

 リザードンをボールから出すと話は聞いていたようで、すぐに意図が伝わったようだ。

 

「おっと、フシギソウ! 蔓を使って回避だ!」

 

 博士の命を受けたフシギソウは突っ込んでくるリザードンに蔓を巻きつけたかと思うと、流すように押し出し、自分はリザードンの横をすり抜けて、自分とリザードンの立ち位置を入れ替えた。

 

「………なるほど。こういう風になるわけだ」

「ああ、後はもう少し蔓の使い方を細かく指示したり、色々とやり方はある」

「いやはや、恐れ入ったよ。トレーナーとは実に奥が深い」

「だろ? トレーナーを舐めてると足元すくわれるんだよ」

「うん、なんかハチマン君の凄さを今改めて感じたよ。なるほど、回避か………」

 

 さて、そっちの要求はやったんだ。

 今度はこっちの要望を聞いてもらおうか。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「で、なぜイロハがいないのかしら?」

 

 博士との朝練の後。

 朝食をとっていると静かに睨まれた。低血圧なのか、不機嫌なもんだから余計に怖い。

 

「炎と森のカーニバル………じゃなかった炎と水を操るポケモン捕まえてくるってよ」

「あ、タイシ君が言ってたポケモン!」

 

 ユキノの横でパンを頬張るユイが思い出したかのように手を叩いた。

 

「………そんなポケモンいたかしら。いえ、ドラゴンタイプであれば、それも可能でしょうし、そうでなくてもほのおタイプとみずタイプの技を覚えるポケモンなんてたくさんいるけれど。そういうことではないのでしょう?」

「もちろんちがうっす! あのポケモンはタイプがほのおとみずなんす。水の砲弾を打ち出してきたかと思えば、炎を撒き散らしてきて、しまいには水蒸気を発生させて目くらませまでするんすよ。めちゃくちゃなポケモンっす」

 

 高らかに説明していくタイシ。

 無駄に朝から元気な奴だな。

 カワサキは弟を放っておいてケイカと一緒に食べてるし。

 

「へえ、面白そうなポケモンがいるんだね。お姉さんも欲しくなっちゃったかも」

「やめておけ、ハルノ。お前は伝説のポケモンにさえ怖がられるだろう?」

「えー、シズカちゃんひどーい。こんな一途で純真無垢な私を怖いだなんて」

「純真無垢なやつは自分で自覚してないから純真無垢なのだ。ゾロアークがお前についてきているだけでも喜ぶんだな」

「うわっ……、伝説のポケモンどころか男も捕まえられないアラサーに言われるなんて………」

「………ほう、どうやらその減らず口を強引に塞いでほしいようだな」

「え、ちょっと、私そっちの気はないよ………?」

 

 なんかすごいイケメンがいます。女性ですが。まったく惚れ惚れしい限りである。

 ハルノさんなんか勘違いしてるし。

 

「ま、まあまあ、二人とも。なんか会話が噛み合ってきてませんからその辺で、ね?」

「チッ、仕方ない。シロメグリに免じて許してやろう」

 

 ふぅ、とため息を吐くと先生はモーモーミルクをぐびっと一気に飲み込んだ。

 飲み方一つを取っても男らしい。

 

「姉さん、これ以上問題ごとを増やさないで頂戴」

「ぶー、ユキノちゃんも冷たい。ねえ。ハチマーン」

 

 まったく、なぜそこで俺に話を振るかね。いじめたくなるだろうが。

 

「…………素直にイロハが心配だって言えばいいじゃないですか」

「ッ…………」

「…………どこかの誰かさんに狙われるかもとか言い出してきて、イロハが俺以外受け付けないからって俺に泣きついてきたくせに」

「ッッ…………………」

 

 はい撃沈。

 ハルノさんは顔を真っ赤に染め上げてテーブルに顔を突っ伏してしまった。

 ユキノ以外は何が何だか分かってない様子。

 しばらく無言でプルプル震えていたかと思うとガバッと体を起こして立ち上がった。

 

「べ、べべべ別にイロハちゃんのことなんか心配してないんだからね! メグリ、行くよ!」

「あ、ちょ、はるさん、待ってくださいよ~」

 

 ツンデレ乙。

 皿を片付けておけよ、と言わんばかりに放置し、さっさと行ってしまった。

 メグリ先輩、なんかすんません。

 

「容赦ないわね。現場を見ていただけに…………」

「ああでも言わないとまた無茶しでかしそうだしな」

 

 未来予知で自分の未来が見えないから身を投げ出すなんて前科があるし。

 おかげで時間旅行することになっちまって。まあ、あの時はついでみたいなもんだったんだろうけど。でもまた無茶されちゃ、時間旅行する羽目になるから勘弁してほしいわ。

 

「あなたがそれを言うのはどうかと思うのだけれど」

 

 うっ…………。

 

「………まったく、昔のハルノが見てたら自分を殺しにかかりそうだな」

「そうですね。昔の姉さんならこんな姿絶対に見せませんでしたし」

「つくづく人をダメにする男だな」

「まったくです」

 

 ちょっとー?

 いつから俺の悪口になったのん?

 二人して俺の顔をじっと見てきたかと思えば溜息吐くとかやめてくんない?

 

「お兄さん、Sっすね」

「ばっかばか、んなわけないだろ」

「えっ? じゃあお兄ちゃんドMなの?!」

「アホか! なんでそうなる!」

 

 誰がドMだ。

 痛いのとか嫌いだっつの。あんなので喜べるとか変態でしかないだろ。

 

「俺はいたってふつーのノーマルな人畜無害だ」

「人畜無害………」

「あ、おはよう人畜くん!」

「誰が人畜だ。つか、聞いてやがったな。ルミ、お前の母親をなんとか…………」

「お母さん、気持ち悪い」

「ぐはっ………!」

 

 朝っぱらから背中に抱き着いてきたツルミ先生が、娘の一言が効果抜群だったらしくそのまま項垂れてくる。

 ルミルミ、お前も一撃必殺を使えたのか………。

 

「じー………」

「なんだよ」

「いえ、別に。大きい方が好きだものね」

 

 じとーっとした目でユキノが見てくるので聞いてみたら、含みのある言い方をされた。

 そして、左を見て右を見て、自分の胸にそっと手を当てて深いため息を吐く。

 どうやら先生とユイの胸を見て、余計に悲しくなったみたいだな。

 

「ユキノちゃん、大丈夫だよ。人畜くんはオールマイティーだから」

「………それだとただの変態ですね」

「何言ってるの、変態くん。変態くんは変態くんじゃん」

「変態変態連呼しないでください。無駄に耳元で言いやがって。嫌がらせが過ぎるでしょう」

「なーにー? 顔が赤いよー?」

「カイリキー、そろそろツルミをお仕置きしてやってくれ」

「リキ」

 

 さらりとボールからカイリキーが出てくると背後から先生の頭を掴んだ。俺の頭のすぐそばでやるもんだから俺もやられるんじゃないかってドキドキが止まらない。

 

「頼んだぞ」

「リキ」

「え、ちょ、先輩?! カイリキー!? た、たすけてー、ルミー、ヒキガヤくー!!」

 

 最後まで言わせてもらえないままカイリキーに担がれて、ツルミ先生は消え去った。

 ふう、ようやく嵐どもがいなくなったな。

 

「………ごめん、なんかお母さんが」

「気にするな。あの人は昔からああいう人だ」

 

 自分の母親の見たくもない姿を見てしまったルミルミはいたたまれない気持ちになっていることだろう。俺だって嫌だわ、母ちゃんがあんなんだったら。

 

「それよりルミ、お前もパンでも食ったら?」

「ん、そうする」

 

 無駄に広いキッチンの方へ行き、ゴソゴソと漁り始める。

 俺は食事の続き………も終わったので、ぼーっとすることにした。

 

「ヒントはなしか………」

「お兄ちゃん、なんか言った?」

 

 ……………博士と俺との出会いにレッドプランに関するヒントらしきものはなかった。

 まず俺たちが出会ったのはハナダシティ。ハナダのどうくつを覗きに来ていた博士が野生のポケモンと戦っている俺を見つけたのだとか。バトルの仕方を面白いと感じたらしく声をかけたところ、無視されたんだとよ。まあ、普通だろうな。見知らぬ人にいきなり声なんか変えられたら、気持ち悪いに決まっている。知らない人についていかないとか俺超優秀。

 

「およ? お兄ちゃん? 聞いてるの?」

 

 で、無視されたからといって引き下がらなかったのがあの変態らしい。

 野生のポケモンのように俺の目の前に飛び出し、リザードンに焼き払われ、の繰り返しだったんだとか。

 バカじゃねぇの? ストーカーと一緒だな。よく通報しなかったな、過去の俺。あ、通報したらしたで警察と話さないといけないからそれが嫌だったのかも。うん、その可能性が一番高いな。

 その後オツキミ山を通ってニビシティ、トキワの森、トキワシティへと向かったんだとか。ついてきてたのが恐怖でしかない。

 まさかこいつのせいで記憶回復を拒否してるとかじゃないよな? 有り得そうで悲しくなるんだけど。

 

「お兄ちゃん?」

 

 と、そうだ。最後に気になることを言っていたな。

 俺たちはオツキミ山で出会った男性と三人でトキワシティに向かったらしい。おそらく博士の方が捕まえてきたのだろう。

 

 

「お兄ちゃんってば!」

「んあ? ああ、なんか言ったか?」

 

 おっと。

 いつの間にかコマチに呼ばれていたようだ。呼ばれていることに気づかないなんて相当トリップしてたようだな。

 

「言ったのはお兄ちゃんじゃん。いつも通り変だけど、なんか今日は特に変だよ?」

「妹にいつでも変って言われたらそりゃ変にもなるだろ」

「んもう、そういうことじゃなくてさ!」

「まあまあ、コマチちゃん。きっとヒッキーも運営の仕事で疲れてるんだよ」

「甘いですよ、ユイさん。このごみぃちゃんはこういう時こそ何をしでかすか分かんないですから」

 

 ぷりぷりと起こるコマチも可愛い。

 実に可愛い。

 

「ハチマン、今のあなたは犯罪者の目をしているわ」

「お、おう………それはさすがに気をつけるわ」

 

 ユイに宥められるコマチを観察しているとユキノに釘を刺された。さすがに犯罪臭が出ていちゃ困る。何が困るってここにはルミやケイカがいるんだ。もし二人でいようものなら即通報されてしまう。ただでさえこんな目なのに、さらに犯罪臭がすれば即アウトである。

 

「さて、今日も一日頑張りますか」

「あなたはただ見ているだけでしょうに」

「はい、すんません…………」

 

 今日はやけにユキノの言葉が胸に突き刺さるな…………。

 




来週からはリーグ戦再開します。


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16話

先週は予告なくお休みして申し訳ないです。
ただ、今回はまた二週分くらいの量があります。


『カロスリーグ二日目! 今日は一体、どのようなバトルが繰り広げられるのでしょうか! みなさん、一緒に盛り上がっていきましょう!!』

 

 カロスリーグ二日目。

 初日の昨日、販促品の打ち上げは上々だったらしい。しかも勝ち上がった選手のポケモンのグッズも今準備しているんだとか。再登場に合わせて並べるつもりなのだろう。

 

『今日一本目のバトルはこの二人!! 若き天才、エェェェェェックス!!』

 

 巻き舌で叫ぶなよ。

 朝からテンション高すぎだろ。

 

『そして、彼の相手は、ポケウッドの名女優!!』

 

 いや、誰だよ。

 また抽象的な名前の奴が出てきたな。

 今度は黒長髪のナイスバディな……………。

 

「ヒッキー、鼻の下伸びてる」

「ばっかばか、あの人じゃ物足りん」

「え? じゃあどんなのがいいの?」

 

 今日は俺の右横を陣取っているユイがコテンと小首をかしげてくる。

 

「お前が聞くな………」

「「「うんうん」」」

「あ、あれぇ……………」

 

 コマチ、カワサキ、ルミルミに同意され訳が分からないといった感じのユイ。

 いいんだ、分からなくて。それも大事なことだから。

 

「はっ! はははハッチーのえっち!」

 

 視線がユイの胸に集まっていることに気づいたのか胸を隠して俺を指さしてきた。うん、かわいい。

 

「相変わらず口が上手いねー」

「や、それ関係ないでしょ。今のは罵詈雑言吐かれても文句言えませんよ。それとツルミ先生は子供産んだとは思えないナイスバディですよ」

「ぶはっ!?」

「つ、ツルミ!? 朝っぱらから甘い言葉で鼻血を吹くな!」

「………ハチマン、今のわざとでしょ」

「そりゃそうだろ。言っててすげぇ気持ち悪くなってるんだから」

 

 左隣からじとっとした冷たい視線が突き刺さってくる。

 

「『教えて、口の上手い奴をどう殺せばいいか』と」

「おいこら、ザイモクザ。何検索してんだよ」

「お、出たぞハチマン。えーっと、『無理です。言葉巧みに誘導され、逆に殺されます』………、お主無敵ではないか」

「アホ、俺とか超やられてるだろうが。フレア団絡みで何回意識を失ってると思って」

 

 無敵だったらそもそも一人でフレア団に乗り込んで最終兵器も木っ端微塵にしてくるっつの。それができないからあの手この手と無駄な手まで行って、ようやく倒せたんじゃないか。倒したのもエックスたち図鑑所有者だし。俺たちはフレア団の一部を倒しただけに過ぎない。なのに、何度気を失っているのやら。数えただけでも割に合わない気がする。

 

「………それを抜いてもヒッキーは無敵だと思う。伝説のポケモンを普通に呼び出せるし」

「セレビィは道具が揃ってたからだっつの。エンテイはルミが放り出してきたし、ルギアは三鳥の争いに駆けつけてきただけだし、ディアンシーはすでにカロスにいたし。俺が何かしたってのはない」

 

 セレビィはそもそもルミが虹色の羽を取ってきてくれなければ出会うことはなかったし、その場合ハルノさんは死んでいた。エンテイもルミがホウエンで会っていなければ、経由して俺のところにやってくることもなかっただろう。ルギアはそもそも三鳥が集まったせいだし、ハヤマが余計なことをしてくれたからラスボスになってしまっただけだし。ディアンシーなんか元からカロスにいたからな。保護しておかないといけないようなポケモンだから、今こうして俺たちのところにいるだけだし。

 どれを取っても俺がすごいわけではない。条件がたまたま揃っていただけだ。

 

「そもそもそれだけのポケモンに出会えてる時点でおかしいでしょ。一生で会えるかどうかも怪しいくらいのポケモンなのに」

「よかったな、お前ら。一生で会えるかどうかも分からないポケモンにたくさん会えて」

「あんまりうれしくないよ………」

 

 そりゃそうだ。俺もできることならルギアには会いたくなかったし。ルギアに会うということはヤバイ状況であることの証拠だからな。具体的に言えば、三鳥による気象の乱れなんだが。

 

「それでは、バトル始め!」

 

 あれ?

 いつの間にか始まってるし。

 対戦者の紹介ももう終わった感じ?

 

「行きなさい、ユンゲラー」

「ルット、一番手よろしく」

 

 お互いに出してきたのはスプーンを持ったユンゲラーと頭のハサミが特徴的なカイロス。タイプの相性ではカイロスが有利であるが、相手はエスパータイプ。油断は禁物である。

 

「エックスー、がんばれー!」

「エッPー、負けちゃだめだよー!」

 

 なんか黄色い声が聞こえる。

 俺たち以外にも団体でいるやつっていたんだな…………。

 

「って、エックスのとこのか………」

「エックスくーん、頑張ってー」

「勝ち上がってくるのである!」

「………フッ」

 

 うわ、その奥に四天王がいるんですけど。しかもエックスの応援隊として。

 

「な、なんかあっちすごいね………」

「奥に四天王がいるように見えるんだが…………私の気のせいか?」

「いや、気のせいじゃないっすよ。あれ本物の四天王です」

 

 何してるんだ、あの人たち。

 あんたらが誰か一人の選手に肩入れしちゃってていいのかよ。

 おかげでフィールドの方では黒いオーラが漏れ出ているぞ。嫌がられてるのに早く気づきなさい。

 

「四天王が駆けつけるほどのトレーナーということか」

「………そりゃ、まあ。風の噂ではあいつ、五体同時にメガシンカさせてるみたいですし」

「………リザードン、ジュカイン、ゲッコウガ、ディアンシー…………あ、あっちの方が多い!」

「ユイガハマさん、どうかしたの?」

「んとね、ヒッキーが同時にメガシンカさせてたのって四体同時だったなーって」

「んー、そうだね。確かにあっちの方が多いね」

「お兄ちゃんよりすごい人がいたんだ…………」

「言っとくが、お前らより歳下だからな。ルミルミくらいじゃないか?」

 

 直接会ったことはない。プラターヌ研究所で博士とバトルしているところを見ただけの一方的な出会いだ。後はコンコンブル博士から聞いた(聞かされたの方が正しいかもしれない)話ばかりである。やれ、ジュニアカップでは優勝するような逸材だっただの、継承式を行わずに継承させた第一号だの、同時メガシンカを成功させただの。

 いや俺知らねぇし、としか反応のできない内容のばかりであった。

 ま、そのおかげであいつがどういうやつなのかは掴めているがな。

 

「ルミルミキモい」

「お、おう………」

 

 再度じとっとした目が下から突き刺さってきた。

 

「それにユイガハマ。あたしの予想じゃメガシンカの条件さえ揃えば、ヒキガヤなら六体同時にメガシンカとか普通にできそうだと思うんだけど」

「た、確かに…………」

「はーちゃん、つおい!」

「けーちゃん、つよい、な」

 

 カワサキの言う通り。

 今更五体になろうが六体になろうが、同時にメガシンカさせられている時点で何体になろうがイケそうな気がする。ただキーストーンが足りないだけの話なのだ。

 

「それにゲッコウガは石必要ねぇし。実質三体同時だな。やれやれ、普通に俺の上をいくやつが現れたなー」

「なんでそんな棒読みなの………」

「おい、それよか見てなくていいのか? もうすでに第一攻防終えてるぞ?」

 

 女優さんのユンゲラーのサイコキネシスをルットと名付けられたカイロスがフェイントをかけて躱した。フェイントって本来あんな使い方じゃないのにな。

 

「サイケこうせん」

「ルット」

 

 あのカイロス、相当な実力を持っているみたいだな。ピンクと紫が混ざったような色の光線をギリギリ届かない間合いにまで下がり躱しやがった。連続で撃ち出してきたのも前に転んだり、フェイントを使って一瞬の錯覚を生ませて躱したりと躱す技術が半端ない。

 こうなってくるとユンゲラーの方も当てるために近づく必要が出てきて………。

 

「ルット、飛び込め。シザークロス」

 

 頭のハサミを光らせて一気に間合いを詰めにかかる。

 

「フフッ、テレポート」

 

 かかったと言わんばかりの不敵な笑みを浮かべる女優さんになぜか背筋が凍り付いた。なんだろう、身体が覚えている感じがする。

 

「サイコキネシス」

 

 テレポートで一瞬のうちにカイロスの背後に移動したユンゲラーが超念力で動きを止めようとしてくる。

 

「ルット!」

 

 力が作用しない『隙間』が見えているかのような軌跡を描き、ユンゲラーの腕を掴んだ。流れるように反転しながら懐に入ると片足でユンゲラーを持ち上げ背負い投げの状態へ持って行く。

 

「やまあらし!」

 

 腕を引き下げ、勢いをつけてそのままユンゲラーの身体を地面に叩きつけた。

 

「シザークロス!」

 

 背中から地面に叩きつけられたユンゲラーにとどめの一発を突き付けた。

 効果は抜群。しかも耐久力のないユンゲラーではカイロスの攻撃を耐えることはできないだろう。

 

「ユンゲラー、戦闘不能!」

 

 呆気なく終わった一戦目。

 女優さんの方はあのカイロスをどう攻略する気なのだろうか。

 ユンゲラーをボールへ戻す女優さんはあまり堪えている様子ではない。むしろ喜んでいるとも見て取れる。

 

「いきなさい、シンボラー」

 

 また俺の知らないポケモンを。

 なんか古代文明の宝の模様みたいなポケモンだな。しかもそれが飛んでるんだろ。不気味でしかないわ。

 

「エアスラッシュ!」

 

 出て来て早々、高速で翼を羽ばたき、空気の刃を作り出していく。

 

「………見たことのないポケモンだけど。ひこうタイプの技を使ってきてかつ飛んでるってことはひこうタイプってことで確定か。でも空を飛べるのは何もそのポケモンだけじゃない………。ルット、メガシンカ!」

 

 ぶつぶつとエックスが呪文を唱えている。遠くて何を言っているのか分からないが、まあ最後の一言で何をするのかは分かった。

 カイロスのメガシンカ。

 ザイモクザに渡された資料にはメガシンカポケモンとして載っていたし、エックスは五体同時メガシンカを成功させている。手持ちにブリガロンがいることを踏まえれば、そいつは以外はすべてメガシンカポケモン。

 

『な、なんとエックス選手、ここでメガシンカを出してきたぁぁぁああああああっっ! 早くも切り札を出してしまって大丈夫なのかっ!?』

 

 それは四天王やユキノたちに言えたことだろう。だが、あいつは違う。切り札は一つじゃない。だから今使っても惜しくないのだ。

 

『あら、早速メガシンカを使ってくるのね』

『しかし彼はバトルの読みがすごいですからね。メガシンカを使ってきたのも考えがあってのことでしょう』

『そうですね。エックス君は私たちが考えもしなかったことを成功させてますもの。それに師匠が認めた継承者でもあります。今回のリーグ戦の優勝候補といっても過言ではないでしょうね』

 

 リーグ戦の優勝候補か。

 そうは言うが、いずれ自分もバトルすることになるってこと忘れてないか?

 準決勝からはチャンピオンも参加することになってるんだぞ。自分は候補に挙げてないのかよ。

 

『………私は一度プラターヌ研究所で博士とバトルしているところを見ましたが、彼についてはそれくらいしか。お二人ほど情報は持ち合わせていません。ただ一つ言えるのは、追いかけている背中もあんな感じだったということですね』

『だった、ということは今は違うのかい?』

『根本的には変わりませんが、今は私を知っています。疑心暗鬼になられることはなくなりました』

『………一体何をしたっていうのかしら……』

 

 そりゃ知らない奴を信じるとか無理な話だろ。当時、どういう状況だったのか知らんけど。早く俺の記憶を戻してくれませんかね。

 

『いえ、基本的に疑ってかかる口なだけですよ』

『確かにエックス君も妙に慎重だったわね………。もしかして元引きこもり?』

『私の親友は「ヒッキー」と呼んでますよ、ふふっ』

 

 おいこら、バカユキノ。

 それをここで広めるんじゃない。

 俺が出た時に頭のいい奴なら全部結び付けられちまうだろ。そんで会場一帯に俺のことはヒッキーで定着するとか何の罰ゲームだよ。

 

『…………なんか、聞いちゃいけないことだったみたいね。ごめんなさい』

『今頃どこかですごい顔で睨んでるだろうね』

『どうでしょう。恥ずかしすぎて悶えてるかもしれませんよ』

「全部当たってる…………」

「お兄ちゃん、キモい」

「ハチマン、キモい」

 

 お兄ちゃん、泣きたい………。

 

『…………どうしよう、何を振っても誰か特定の人の話になっていくわ…………』

 

 それな。ほんとそれ。

 博士がユキノを煽って俺の話ばかりに持っていくもんだから困ったもんだ。全部、ダメージが俺にくるから少しは自重して!

 

「もう一度エアスラッシュ」

「躱して、フェイント」

 

 メガシンカしたカイロスが空へと翔け出す。

 

『と、飛んだっ!? カイロスが、なんとカイロスが空を飛んでいるではありませんか!? これは一体どういうことだぁぁぁああああああっっ!!』

 

 空気の刃を次々と躱していき、シンボラーを捉えた。

 

『あれはカイロスのメガシンカによるものです。メガカイロスはタイプがむし・ひこうに変わり、背中には翼が生え、自由に空を飛ぶことができるようになりました。相手のポケモンは確か………シンボラーというイッシュ地方で登録されたポケモンです。タイプはエスパーとひこう。カイロスに近づかずに空から攻撃できるよう点で出されたのでしょうが、なるほど、彼は空の支配圏を明け渡すつもりはないという主張をしているわけですね。いやはや手強い。これでまた展開も変わってくるでしょう』

『な、なるほど………』

「れいとうビーム」

 

 シンボラーは近づけさせまいと、冷気を吐き出し、カイロスを威嚇する。

 

「ルット」

 

 身体を反らせて冷気を躱したカイロスは、シンボラーから距離を取るように同じ高度のまま離れていく。

 

「サイコキネシス」

 

 なのに、それすらさせまいと超念力でシンボラーはカイロスの動きを封じにかかった。

 

「シザークロス」

 

 あわや、というところで頭のハサミで切り裂き、超念力から逃れた。

 

「フェイント」

 

 切り返したカイロスが再びシンボラーに突っ込んでいく。

 

「なっ!? 何もないところでぶつかった?! ルット!」

『ど、どういうことだぁぁぁああああああッッッ!! エックス選手のカイロスが優勢に進めていたかのように思われたこのバトル! 突然カイロスが地面に落ちたぁぁぁあああああああああっっ!!』

 

 だが、近づくことはできなかった。

 何もないはずのところで何かにぶつかったかのように動きを止め、真っ逆さまに地面にまで帰ってきた。

 

「れいとうビーム」

 

 すぐさま上空からは冷気が吐き出されてくる。

 

「ルット」

 

 態勢を立て直したカイロスは冷気を躱し、上昇を始める。

 

「ルット、そっちじゃない!」

 

 だが、何故かカイロスは斜め方向に飛んでいき、真上にいるシンボラーを捉えてはいなかった。

 

「エアスラッシュ」

 

 そこに追い打ちをかけるように空気の刃が四方から飛んでくる。

 視界が定まっていないのか、今までの機敏な動きとは裏腹に、何もできずにカイロスがダメージを負った。

 

『形勢逆転! とうとうカイロスがダメージを受けたぁぁぁああああああっっ!!』

 

 あの女優さんは何者なんだろうか。

 立て続けにエスパータイプを出してくるあたり、エスパータイプの使い手なのかもしれないが、それに加えてこの圧倒的な空間の支配力。誰かに近いものを感じるのだが、思い出せない。

 

「壁があるはずなのに攻撃は飛んでくる…………」

「もう一度、エアスラッシュ」

「ルット、エアスラッシュに飛び込め! シザークロス!」

 

 打開策を見つけたのかカイロスに技に飛ぶこむように命令。

 ひこうタイプの技なのだから、打開する前にカイロスが倒れるという可能性は考えてないのだろうか。いや、あの捻くれた性格がそれくらい考えていないわけがないか。

 

「くっ………ポケモンの技であるのはまちがいないか」

 

 だが、またしても壁にぶつかったようだ。それと同時に空気の刃も阻まれ、技は失敗。

 エアスラッシュを撃ち出したということは、その軌道上には何もないということ。エックスはそこに目をつけたのだろうが、結果は両方が阻まれた。警戒して相手が咄嗟に壁を作り出したのだろう。

 それにカイロスが技に飛び込めたということは技を捉えていたということ。さっきみたいに視界が定まっていないということはなかったみたいだ。

 となると…………。

 

「それなら、ルット。かわらわり!」

 

 リフレクター、あるいはひかりのかべ。コマチの使い方を見ていると忘れてガチだが、普通は技を受け止めたりするのに使う技。それをエスパータイプの超能力も合わせて昇華させると見えない空間を作り出すこともできたりする。コマチもぜひそっちに行って欲しいものだが、無理かなー。

 

「シザークロス!」

 

 パリン! と粉々に砕けた空間の中をカイロスがハサミを光らせて一直線に翔け上がっていく。

 ハサミはずっと同じ軌道を描き続けていたシンボラーを捉えて斬りつけた。

 

「やまあらし!」

 

 そのまま翼から伸びるヒラヒラした部分を掴み上げると思いっきり引き寄せ、懐に入り、背中越しにシンボラーを地面に叩きつけた。

 

「シザークロス!」

 

 とどめと言わんばかりの急降下で地面に倒れるシンボラーに突撃していく。

 

「サイコキネシス」

 

 のそのそと起き上がろうとしているシンボラーが気力を振り絞って、先ほどは切られた超念力を成功させた。カイロスは動きを止め、踠いている。

 

「れいとうビーム」

 

 淡々と出される命令は的確で、身動きの取れないカイロスを氷漬けにしてしまった。

 

「ルット!」

 

 エックスの呼びかけにカイロスは応じない。

 

「うそ………あのルットが………」

「相手は相当強いということだよ」

「でも、エックスなら絶対勝つさ」

 

 さて、ここからどうするのかね。もたもたしているとシンボラーが態勢を立て直してしまうぞ。

 

「ルット、戻れ!」

 

 早急に退避したか。

 まあ、それが妥当な判断だな。カイロスの技はすでに四つ使っている。その中で打開出来そうな技はない。しかもメガシンカをしてひこうタイプがついたことでエアスラッシュだけでなくれいとうビームも弱点技となっていた。その二つを受けているのだから体力面からしても続行は難しいだろう。それなら戦闘不能の判定が下される前にボールへ戻し、形式上まだ戦える状況にしておく方が賢い。

 

「ラスマ、あのポケモン、かなり強い」

「………なるほど、これがカロスの図鑑所有者ね。判断が早いわ」

「シャドーパンチ!」

「サイコキネシス!」

 

 交代で出てきたのはゲンガー。

 これまたエスパータイプの弱点を抑えてきたようだ。

 

『交代で出てきたゲンガー! 早速消えたっっ!?』

 

 ゴーストタイプ特有の能力を駆使し、消えたゲンガーは一瞬でシンボラーの背後にいた。

 背後までには超念力を張り巡らせられていなかったようで、ゲンガーの動きは止まらない。

 伸びた腕がシンボラーを貫通し、地面に突き落とした。

 

「………シンボラー、戦闘不能!」

 

 結局相手は立て続けに戦闘不能に追い込まれる形となった。

 

「戻りなさい、シンボラー」

 

 地面にぶっ倒れているシンボラーをボールに戻すと女優さんは次のボールに手をかけた。

 

「スリーパー」

 

 三体目のポケモンとして出てきたのは催眠術を得意とするスリーパー。巷ではショタコン、ロリコンなポケモンと噂されているが、実際のところは判っていない。ただ、奇妙なポケモンであるのは確かである。

 

「シャドーパンチ!」

「ねんりき!」

 

 ゲンガーはぬぼーっとしているスリーパーの影に腕を突き刺し、足元から突き上げた。対するスリーパーは影の拳を念力で押さえつけ始めた。

 両者一歩も引かず、ギチギチと震えている。

 

「イカサマ!」

「あやしいひかり!」

 

 先に動き出したスリーパーに対して、即座に目眩ませをする。狙いの分からない状況での判断としては良かったが、スリーパーの形振り構わない動きに腕を掴まれ投げ飛ばされてしまったゲンガー。

 

「ねんりき」

 

 追い打ちをかけるようにスリーパーがゲンガー右手を向けた。

 

『おおっと、これはどういうことだ! スリーパーのねんりきが発動しない!?』

「ラスマ、あくのはどう!」

 

 だが、技は発動しなかった。

 それを好機と見たエックスは即座に命令を出し、黒いオーラでスリーパーを覆いつくす。

 

『やはりゲンガーの噂は本当だったみたいだね』

『噂………、ですか?』

『ええ、たまに聞くんですよ。ゲンガーとバトルした時にかなしばりを使われたかのように技が出せなくなると』

 

 そんな噂、聞いたことがないな。

 ゲンガーにあまり出くわしたことがないってのがデカいのかもしれないが、最近出てきた噂なのかもしれない。

 

『ゲンガーはかなしばりを覚えるポケモンですから、技のフォームをたまたま持たないゲンガーを相手にしていたという可能性が考えられますね』

 

 まあ、スリーパーがねんりきを発動できなかったのをゲンガーのせいだとすれば、かなしばりに遭っているというのが妥当なところである。すぐにそこにたどり着けるのはさすが三冠王と言えよう。

 

『そうだね、でも僕はそうは思わない。もっと根本的な部分で認識を間違えている可能性だってあると考えているよ』

『根本的な部分………?』

『ゲンガーの特性はふゆう。進化前のゴースたちもふゆう。なのにゲンガーだけはスカイバトルに参加できない。なぜかルール上、ゲンガーは禁止になっているんだ。ガス状のポケモンから急に重さを持ったポケモンになったことが原因なのかもしれない。ゴーストタイプ特有の消える能力を使って空を飛び回ることもできるというのにね』

 

 そもそもスカイバトルについて詳しく知らないから、へえって感じだわ。要は空でバトルをするからひこうタイプや飛んでいるポケモンがその対象となるんだろうが、やったことがないためよく判らない。だからゲンガーが参加できないって言われてもピンとこないわけで……。

 

『………………つまり、博士はゲンガーの特性がふゆうではないと仰りたい、のですか?』

『そういうことだね。ほら、考えてもみなよ。進化前の二体に比べて浮いている要素のないゲンガーの特性ふゆう。そして今相手をかなしばり状態にして、直前に使った技を封じ込めたゲンガー。これでゲンガーがかなしばり以外の技を四つ使えば、新たな結論が導き出されるさ』

『…………のろわれボディ』

『正解』

 

 つまり何か?

 ゲンガーの特性はふゆうとされてきたが、実は攻撃してきた相手を金縛り状態にする特性のろわれボディだってことなのか?

 

「ヒキガヤ、今の博士の説明、君ならどう考える?」

「………そもそも俺はゲンガーについてよく知りません。まともにバトルした記憶も普通に遭遇した記憶もないですし。スクールで教えられた知識くらいしかないですよ」

「そうか………」

 

 先生に問われても答えられることなんて限られている。今まで一人でいたわけだし、この半年で周りに人が集まってきたといってもゲンガーを連れている者はいなかった。校長が連れていたが、卒業間近で知ったのだから当然詳しいことは知らないし、今後の可能性としてはけーちゃんのゴーストが進化してゲンガーになるくらいだ。はっきり言ってゲンガーについてこんなに考え込むのが初めてである。

 

「シャドーボール!」

 

 早速、四つ目の技を使ってきたか。これで博士の仮説は事実へと一歩近づいたわけだ。後はゲンガーの特性が複数ないかを確認し、もう少し研究データを集めて論文にまとめ上げれば、公式データとしてゲンガーの特性が書き換えられる。

 

『言ってる傍から四つ目を使ったね。これで僕の仮説は正論になったわけだ。長年、特性がふゆうとされてきたゲンガーは実はのろわれボディの持ち主だった。………論文を書かないとね』

『………珍しい特性、という可能性はないのですか?』

『それも含めての研究だよ。ただ一つ言えるのはふゆうという特性は実は曖昧ということさ。ひこうタイプを持たない浮いているポケモンが持っているかと思えばそういうわけでもない。常時浮いているポケモンでもふゆうを持たないポケモンだっているし、浮いていないポケモンでもふゆうを持っていたりする。シビビール、シビルドンがその例だね。カロスでの確認はされてないポケモンだけど、その実海に生息しているとも言われている。他にもシンオウ地方で登録されたドーミラー、ドータクンなんかはふゆう以外にも特性を持っているよ』

『ほんと、ポケモンって謎だらけね』

 

 饒舌に語る博士に肩を透かしてため息を吐くチャンピオン。

 でも確かに博士の言う通りだ。リザードンを例にあげよう。リザードンのタイプはほのおとひこう。ところがどっこい、メガシンカすればほのおとドラゴンに変わってしまう。翼は残っているため自由に飛ぶことができるが、特性はふゆうではない。空を飛べるのにひこうタイプでも特性がふゆうというわけでもないのだ。そう考えてみるとふゆうという特性がいかにあやふやなものかが理解できるだろう。

 

『ええ、でもそこが面白いんですよ。あ、そうだ。特性といえば、君の側にはもっと珍しい特性のポケモンがいたね』

『………あれは私のポケモンじゃありませんし、未だに解らないことだらけです。こじつけた理屈で無理矢理納得しているだけですよ』

『まだまだ分からないことだらけだからね。研究のし甲斐があるってもんだよ』

 

 呼んでますよ、ゲッコウガさん。

 

「スリーパー、さいみんじゅつ!」

 

 ゆら~りゆら~り左手の振り子を振り始めた。

 あれだけ攻撃されてもまだ倒れないのね。意外とタフな体してんな。

 

「ラスマ、振り子を見るな! シャドーパンチ!」

 

 ゲンガーは一瞬で消えるとスリーパーの背後に現れた。そして、拳を影に突き刺し影を盛り上がらせてスリーパーを打ち上げた。

 

「さいみんじゅつ!」

 

 飛ばされながらも振り子を揺らして、催眠の波動をゲンガーに送り込む。

 波動が届いたのかゲンガーの動きが急激に落ち始めた。

 

「ラスマ!」

 

 コクリコクリと舟を漕ぐゲンガーは正面から倒れ臥すと仰向けにゴロンと転がり、腹をほりぽりと描き始める。

 

「ゆめくい!」

 

 いい夢でも見てるのか、時折涎を垂らしていたりするが、それも全てスリーパーに吸われていくと怪訝な顔付きとなり、不機嫌オーラが飛び交った。

 

「起きろ、ラスマ!」

「そのまま全部吸い取りなさい」

 

 眠り続けている間、ずっと夢を食い尽くしていくらしい。しかもどくタイプを持つゲンガーには効果抜群の技。目を覚まさなければ、ゲンガーは退場となるのは確実だ。

 

「…………このままじゃ…………」

 

 エックスもそれは分かっているらしい。

 

「やっぱりさっきメガシンカを使ったのは間違いだったのかもな」

「さあ、それはどうでしょうね。あいつは優勝候補だとチャンピオンが豪語する逸材ですよ」

「ほう、では君は彼がどうこの状況を脱却すると言うのだ?」

「見てれば分かりますよ」

 

 恐らくエックスの頭の中には脱却方が描かれているだろう。後はそれを出すタイミングを計るだけ。

 

「すー………はー………、ラスマ、メガシンカ!」

 

 きた。

 二体目のメガシンカ。

 ゲンガーのメガストーンとエックスのキーストーンが結び付き、ゲンガーの姿を変えていく。

 あいつの真骨頂はここからだ。

 

『な、なんと!? エックス選手! 二体目のメガシンカをしてきたぁぁぁああああああっっ!! これは一体どういうことだ?! メガシンカはバトル中に一体だけしかできないのではなかったのかっ?!』

『………まずはメガシンカについて確認しておきましょう。メガシンカはトレーナーが持つキーストーンとポケモンが持つメガストーンが共鳴し合い起こる現象です』

「ラスマ、シャドーボール!」

 

 メガシンカの膨大なエネルギーを受けてか目を覚ましたゲンガーが即座にシャドーボールを投げ放った。

 

「スリーパー、躱してねんりき」

「シャドーパンチ!」

 

 影弾を躱したスリーパーの足元から影が盛り上がり、打ち上げた。

 

「あくのはどう!」

 

 さらに追い討ちをかけるように頭上から黒いオーラで一閃を描く。

 

「決まったな」

 

 ゆめくいで回復したと言ってもメガシンカしたゲンガーの猛攻には耐えられないだろう。

 

『一体のポケモンをメガシンカさせるのに必要な道具はキーストーンとメガストーンが一つずつ。彼はここに目をつけました。キーストーンが二つあり、対応するメガストーンも各ポケモンにあれば、その二体をメガシンカできるのではないか? 答えは見ての通りです。バトル中においてメガシンカできるのは一体ではなく、二つの石のセットがある分だけ。最大で六体をメガシンカさせることだってできるでしょう』

「スリーパー、戦闘不能!」

 

 これで女優さんのポケモンは残り三体となった。

 次の試合はカワサキが出場になるみたいだし、その内迎えが来るだろうな。

 

『しかし、メガシンカには二つの石以外にも重要な要素があります。それはトレーナーとポケモンの絆です。しっかりとした信頼関係が気付けていなければ、メガシンカが失敗するケースもあるのです。ただ、それを逆手に取ったポケモンもいます。詳しい記録は残っていませんがトレーナーと深く絆を結んだポケモンがメガシンカのように姿を変えたという言い伝えがあり、二つの石を必要としなかったメガシンカのケースなのでは、とわたしは推測しています』

「戻りなさい、スリーパー」

 

 スリーパーが戦闘不能になったというのに博士の解説が続いているため、実況の出番も奪われているのか。

 というかなんか今日はしっかりと働いている感じが出ていて癪である。ま、どうせ今だけだろうけど。その内またユキノと誰かさんの話に華を咲かせるのだろう。恥ずかしいからやめてほしいが。

 

『石を必要としないメガシンカ………?』

『ええ、わたしもメガシンカを提言した時にはまだまだ分からないことだらけでした。ただあの現象の確立はしておきたかった。………それからもメガシンカの研究を続け、この可能性を見つけたのです』

『………メガシンカはあくまでもトレーナーとポケモンの絆による現象であり、その絆を一定値に安定させておく媒体となるのがキーストーンとメガストーン。そう仮定するならば、例え二つの石がなくともポケモンとの深い絆を築けていれば、メガシンカに至る…………でしたっけ?』

『よく覚えていたね。………三冠王の話は少し難しかったかもしれませんが、要はポケモンとの深い絆を得られればキーストーンとメガストーンがなくともメガシンカができる可能性も捨てがたいということです。まだまだ研究段階なので、確かなことは言えませんがね』

「いきなさい、モルフォン」

 

 四体目のポケモンはモルフォンか。今までエスパータイプばかり出てきていたから、てっきりエスパータイプ専門のトレーナーかと思っていたんだが、そうでもないらしい。

 まあ、ジムリーダーじゃあるまいし早々揃えてもいられないのだろう。

 

「サイケこうせん!」

『な、なるほど………。つまりエックス選手はキーストーンを二つ持っており、メガストーンもポケモンに合わせて持っているということですね。プラターヌ博士、ありがとうございました! しかし博士の解説を伺っている間にバトルの展開がどんどん進んでいってますね。さあ、ポケウッドの名女優選手。二体目のメガシンカポケモンをどう攻略する!!』

 

 初手は紫とピンクが混ざったような色の光線か。

 こりゃあれだな。モルフォンもエスパータイプの技を覚えるからメインパーティーに組み込まれてるんだな。やっぱりあの人エスパー専門なのかもしれない。

 

「ラスマ、消えてあくのはどう!」

 

 ゴーストタイプ特有の消える能力を使い、サイケこうせんを躱すと黒いオーラでモルフォンを取り囲んだ。

 

「あやしいひかり!」

 

 おお、考えたな。

 黒いオーラと対比して眩しい光を与えることで、より強力な目眩ましになるというわけか。黒いオーラは夜をイメージしてのことなのだろう。

 

「かぜおこし!」

 

 モルフォンは自分を取り囲む黒いオーラを掻き消すためにか翼ーー羽と言った方がこいつの場合はいいのかーーを羽ばたき風を作り出す。

 

「シャドーパンチ!」

 

 まだ消え去らない黒いオーラを媒体に、拳を送り込んだゲンガー。バトルの中で影の使い方がトレーナー共々上手くなっていっているようだ。さすがは図鑑所有者に選ばれるだけのことはある。

 

「くっ、モルフォン、一度戻りなさい!」

 

 執拗な黒いオーラに嫌気がさしたのか一度モルフォンを引っ込め………られていない。

 どういうことだ? モルフォンがボールに戻って行かないぞ?

 

『おおっと、ポケウッドの名女優選手! メガゲンガーの猛攻に思わず交代をしようとしたが、モルフォンがボールへ戻らない!? これはどういうことだっ!?』

『メガゲンガーの特性はかげふみ。相手のポケモンの影を踏むことで、その場にいさせ続け交代をできないようにしてしまう特性です。のろわれボディといい、メガゲンガーについてといい、今日はゲンガーについて語っちゃいましたね』

 

 かげふみか。

 それなら交代できないのも納得だ。

 

「ラスマ、とどめだ! シャドーボール!」

 

 そうこうしている内にエックスがとどめに入っている。

 やはりメガシンカというのは場の展開を一方的にさせてしまうほどの力を持っているということか。

 

「モルフォン、戦闘不能!」

『モルフォン、倒れたぁぁぁああああああっっ!! エックス選手、未だ戦闘不能を出さずに次々と倒していくぞぉぉぉおおおっっ!!』

「ふぅ、もう展開が早すぎるよー」

「君も大変だな、シロメグリ」

「あ、メグリちゃん、お疲れー」

「ヒラツカ先生、ツルミ先生。あのエックスって子、まだスクールにいてもおかしくない歳に見えるのにバトル慣れしていて、展開が早すぎますよー」

 

 お、今日はメグリ先輩が担当なのか。

 次はカワサキだったな。ま、勝つだろ。

 

「と、次はあたしか」

「さーちゃん、がんばってー」

「うん、絶対に勝つよ。タイシ、けーちゃんを頼むよ」

「分かってるよ、姉ちゃん。お兄さんもいるから大丈夫」

「まあ、そっか」

「はーちゃん、だっこ」

 

 ……………。

 なにこの可愛い生き物。

 

「お兄さん、ずるいっす。実の兄の俺を差し置いてけーちゃんの面倒見るとか」

「バカ言え、ご指名なんだから仕方ないだろ。なあ、けーちゃん」

「ねー、はーちゃん」

「くぅぅっ!!」

 

 両手を前に出して歩み寄ってくるケイカを抱き上げ、膝の上に乗せる。軽いな………。

 おいこら、クズ虫。ハンカチを噛むな。

 

「なんか悪いね」

「いいから行って来い。けーちゃんが心配でバトルに集中できなかったとか言われてもこっちが困るんだ」

「いきなさい、バリヤード」

 

 とうとう五体目が出てきてしまった。

 バリヤード。

 パントマイムを得意とするエスパータイプのポケモン。ヤマブキジムのジムリーダーナツメが連れて……………っ!?

 

「んじゃ、お願いね………って、どしたの?」

「いや、何でもない」

「そう」

 

 そういうことかよ。

 確かにシンボラーとスリーパー以外のポケモンはナツメの連れているポケモンとして記録されていた。

 それにエスパータイプの専門。

 

「もう、これ本人じゃねぇか」

 

 ということは最後の一体はフーディンか。

 

「あ、シロメグリ先輩」

「ん? なーに?」

 

 さあ、カワサキさん、いくよーっと先導を切っていたメグリ先輩を呼び止める。

 

「ハルノさん、まだ拗ねてます?」

「あはは、絶対仕返ししてやるーって言ってたよ」

 

 仕返しか。

 まあ、どうせ失敗するんだろうけど。

 なんか最近、仕返しだーとやってきては顔を真っ赤にして自爆してるだけだし。

 

「そりゃ怖い」

 

 じゃあねー、とカワサキとともに行ってしまった。

 

「ラスマ、シャドーボール!」

「バリヤード」

 

 ナツメの呼びかけにバリヤードは飛んできた影弾を弾くことで応えた。

 出たな、ひかりのかべ。

 思い返せばシンボラーの時も見えない壁を作り出して、カイロスを翻弄させていた。他にもこんなことしてくる人がいるんだなーと思っていたが、本人なら他のポケモンで使えてもおかしくはない。むしろ当然と言えるまである。

 

「バリヤード」

「ラスマ、シャドーパンチ!」

 

 おい、シャドーボールになってるぞ。どうなってんだよ。

 

『おおっとゲンガー! エックス選手の命令を無視してシャドーボールを放った!』

 

 命令を無視、というより出させられたと見た方がいいだろう。信頼関係云々はメガシンカできている時点でクリアしている。なのに、命令に背いた動きに出たとなるとバリヤードが何かしたと見るのが妥当だ。

 影弾はひかりのかべに跳ね返されてゲンガーの元へ帰ってきた。

 

「…………」

 

 取り敢えずはゲンガーが自分で躱したが、こりゃ一筋縄では終わりそうにないな。まあ、相手がナツメとも来れば普通か。ロケット団の三韓部の一人だったナツメだ。ここにいるということはまたサカキとともに行動していると見て間違いない。マチスもいることだし、また何か企んでいるのだろう。

 

「バリヤード」

 

 今度は紫とピンクが混ざったような光線ーーサイケこうせんを放ってきた。

 というか全く技の命令を出さないんだな。やはり彼女もアレができるというわけか。

 

「ラスマ、あくのはどう!」

 

 あくタイプの技で技を打ち消しにかかるが、ゲンガーは依然として命令を無視し続け、シャドーボールを放った。

 ………違う技を命令してもシャドーボールか。

 これはもしや………。

 

『なるほど………、これはまたエックスもやられたね』

『………ですね。恐らくこれは………』

『アンコールね』

 

 だろうな。

 アンコール。この技を受けたポケモンはその名の通り同じ技を繰り返し出してしまう技。トレーナーが何を命令しようが同じ技ばかり使ってしまう嫌な技である。

 

「アルコール?」

「それは酒だ」

 

 このおバカさんは。

 

「アンコールは受けたらしばらく同じ技ばかり出させられてしまうんだよ。現にエックスが何を命令しようがゲンガーが出す技はシャドーボールの一択になっている。命令を無視しているんじゃなくて、強制的にシャドーボールしか出せなくなっているんだ」

「ほえー、そんな技が」

「しかも相手はエスパータイプ専門のジムリーダーだ。ひかりのかべをあらかじめ貼っておき、シャドーボールのみを出させられるようにして、攻撃を流している。そしてあっちは狼狽えている間にダメージを積み重ねていくって戦法だな」

「「ジムリーダーっ!?」」

「あ、やっぱりそうなんだ。ヤマブキジムのナツメさんだよね」

 

 トツカは気づいていたみたいだな。

 まあ、コマチとユイが知らなくても当然といえば当然だ。会ったことがないのだからな。

 

「バリヤード」

 

 今度はねんりきか。

 自分の腕をまじまじと見ていたゲンガーの隙をついて、念力で捉えやがった。そして恐らく四方にはひかりのかべが貼られていることだろう。ここからは一方的な展開になりそうだな。

 

「ラスマ!」

「無駄よ」

 

 ナツメがそう言うや否やゲンガーが四方の壁に打ち付けられ始めた。

 

「くっ、ラスマ、戻れ!」

「それも無駄」

「っ!?」

 

 おい、マジか。

 フィールド一帯がすでにひかりのかべで覆われているじゃねぇか。しかも一瞬だけ見えたが、ボールに戻せないようにかエックスの前の壁は何重にも貼られているようだし。

 さすが、ロケット団。やることがえげつない。

 

「とどめよ、バリヤード」

 

 最後にまたサイケこうせんか。

 効果抜群の技を受け続けたゲンガーにもはや戦う力なんて残っていない。

 

「ゲンガー、戦闘不能!」

 

 散々打ち付けられたゲンガーはメガシンカが解かれ、倒れ臥していた。

 

「戻れ、ラスマ。よくやった」

 

 とうとうエックスのポケモンにも戦闘不能が出てしまった。と言っても五対二。余裕と言えば余裕ではあるが、相手はジムリーダーのナツメだ。容易く倒されてくれるような人ではない。しかも見ている限り、やはりロケット団なのだと思い知らされるえげつない戦法。エックスの方にもう一発サプライズがないとキツくなるだろう。

 

『とうとうエックス選手のポケモンが戦闘不能になったぁぁぁああああああっっ!! どうなる、このバトル!!』

 

 交代の間休憩でもするのかと思えば、何やら手を動かしている。

 

「マリソ!」

 

 ほう、ブリガロンか。

 くさ・かくとうタイプだが、大丈夫なのか?

 

「バリヤード」

「なっ!? バリヤードが浮いてる!?」

 

 ああ、完成してしまったようだな。

 ひかりのかべによる見えない空間。話では見えない部屋ができているんだとか。

 

「どうなってるの?」

「エスパータイプだから超能力で浮いてるんじゃないかなー」

 

 確かにトツカの言う通りエスパータイプなら超能力で浮くことも可能であるが。

 

「いや、よく見てみろ。空中でも歩いている」

「ほんとだ。わけわかんなくなってきたよ…………」

「ひかりのかべだ。ナツメのバリヤードはひかりのかべを自在に操り、見えない空間を作り出すんだよ」

「そんなことできるんだ………」

「トツカは使われなかったのか?」

「うん、初めて見るよ。あれは本気出してなかったんだね」

 

 使われなかったのか。まあ、あれを使えばジムに挑戦しにくる奴らでは突破できないどころか、全く責められず力の差を見せつけられるだけで、ポケモントレーナーを諦めてしまう奴も出てくるかもしれないしな。そうなってしまえば、ジムリーダーとして示しがつかなくなってしまう。

 

「ミサイルばり!」

 

 ミサイルばり。むしタイプの技か。

 

「貫通した?!」

 

 なるほど、それはいい発想だな。

 シャドーボールを跳ね返したところから、バリヤードが使っている壁はひかりのかべと断定。遠距離攻撃には効果を発する壁に対し、自分の背中の棘を飛ばすことで壁を貫通させ、バリヤードに当てたというわけだ。

 

「マリソ、かわらわり!」

 

 敢えてかくとうタイプを出したのもこのためだろうな。しっかりと考えられている。さすが図鑑を渡されただけのことはある。

 ブリガロンが腕を横に振り、縦に振り、十字を描くとパリン! と見えない部屋が破片となり、散り始めた。足場を失ったバリヤードはバランスを崩して地面へと落ちていく。

 

「バリヤード!」

「マリソ、ニードルガード!」

 

 アンコール読みのガード技。

 ブリガロンは両拳を顔の前で合わせると巨大な円形の盾を作り出し、防御姿勢を取った。

 

「そのまま走れ!」

 

 技をやり過ごしながら、落ちてくるバリヤードに突進していくブリガロン。

 

「ミサイルばり!」

 

 走りながら背中の棘を再度飛ばし、着地したバリヤードに態勢を立て直す時間を奪っていく。

 上手い。

 二体のメガシンカによる注目を集めているが、こうした細かい一手も目を見張るものがある。

 

「ねんりき!」

「ニードルガード!」

 

 再び両拳を合わせて巨大な円形の盾を作り出し、力を抑えつけた。棘はねんりきにより地面へと落とされていく。

 

「ウッドハンマー!」

 

 ブリガロンはそのまま真正面から腕を振り上げ、丸太を作り出すとバリヤードを頭上から殴りつけた。

 バリヤードのねんりきも間に合わず、地面にクレーターを作ってぶっ倒れていた。

 

「バリヤード、戦闘不能!」

『な、なんという巧みなバトル!! ブリガロン、苦手な相手を屁ともせず、流れるような技の数々でメガゲンガーを苦しめたバリヤードをあっさり倒してしまったぁぁぁああああああっっ!! エックス選手、いよいよ勝利に王手をかけました!!』

 

 お見事。

 

『マーベラス! 敢えてかくとうタイプを持つマリソーーブリガロンを出して見えない部屋を崩し、防御しながらの強力な一発。さすがエックスだよ!』

『ええ、本当に。相手のポケウッドの名女優さんも中々見応えのある展開を見せてくれますし、楽しいバトルですよ』

「戻りなさい、バリヤード」

 

 大人二人は大賞賛らしい。

 そりゃ、一人はジムリーダーだしもう一人は優勝候補と豪語してるくらいの奴だ。二人のバトルが面白くないわけがない。展開こそ一方的であるが、エックスの前に立ちはだかる壁という意味では見応えのあるバトルをしている。

 

『………なんとなくお二人が彼を買う理由が分かった気がします。昔言われた言葉を思い出しました』

 

 ユキノもようやくエックスというトレーナーが分かってきたようだな。

 

『また「彼」かい?』

『いえ、スクールの校長です。「圧倒的な力をコントロールするには基礎が必要じゃ。では基礎とは何か? それは見識の広さじゃよ」。見ている世界が狭いことを私に伝えようとした校長の言葉です。エックス選手はメガシンカという圧倒的な力に偏らず、しっかりと対処をしています。昔の私では到底敵いませんよ』

『なるほどねー。いい言葉じゃないか』

『ええ、スクールを卒業するまでの最後の一年間はみっちりと鍛えられましたよ』

 

 へえ、俺が卒業してから校長に扱かれてたのか。そりゃハヤマともバトルしようなどとは思わんわな。いつもいつも同じ奴の相手ばかりしてたんでは世界が狭くなるのは必然的だ。それで勝とうが負けようが、外に出れば関係ない。すぐに敗北を味わうことになるだろう。

 オーダイルの暴走で自分の至らなさに気づいたユキノに、校長が手を添えていたっところだろう。

 

「フーディン」

 

 やはり最後のポケモンはフーディンだったか。

 エックスは交代させるのか?

 

「マリソ、ゆっくり休んでてくれ。こっちもマリソにつられて闘志を燃やしてるみたいだからさ」

 

 交代するみたいだな。

 まあ、手の内も全てさらけ出したわけだし、同じ手が二度も通用するような相手でもない。しかもフーディンである。かくとうタイプを持つブリガロンでは一発退場も有りえなくもない。

 

「サラメ、行くぞ!」

 

 投げたボールから出てきたのはリザードン。

 出てきてそのままフーディンの元へと突っ込んでいく。

 

「いざ、メガシンカ!」

 

 まだできたのかよ。一体何個キーストーンを持ち合わせてるんだ?

 

『な、なんとエックス選手! さらにメガシンカさせてきたではないかっ!! 一体何者なのだ!!』

 

 飛びながら姿を変えていくリザードン。

 体色は黑くなり、口元には青い炎が揺らめいている。メガリザードンXである。

 

「フレアドライブ!」

「っ!? フーディン、サイコキネシス!」

 

 超特急な攻撃に遅れて対処にかかるフーディン。

 だが、その努力も虚しくリザードンの突撃を許してしまった。

 フーディンは隔壁にぶつかり目を回している。

 ………はっ? もう終わりかよ。

 

「……………」

「……………」

 

 思わず審判も口を開いてあんぐりかえっている。

 

「はっ! フ、フーディン、戦闘不能!」

 

 やがて我に返った審判がフーディンの様子を確認しに行き、判定を下した。

 

『なななななんということだぁぁぁああああああっっっ!! エックス選手、交代で出してきたリザードンをメガシンカさせた挙句、一発でフーディンを戦闘不能に追い込んでしまったぁぁぁああああああっっ!! 強い、強いすぎるぞ!! Cブロック第一試合の勝者はエックス選手に決まりだぁぁぁああああああっっ!!』

 

 うおぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおっっ。

 きゃぁぁぁあああああああああああああっっ。

 

 などとスタンディングオベーションが鳴り止まない。

 こっちでもツルミ先生やトツカが立ち上がって拍手している。

 ただ。

 

「………なんだろう」

「うん、見たことあるよね」

「だよなー」

 

 俺とコマチとユイ、それにヒラツカ先生はそういうわけにもいかなかった。

 だって、ねぇ。

 

「ビデオで見たハルノとのバトルの時のヒキガヤとまるで同じではないか」

 

 そうなのだ。

 ボールから出てきて、そのまま突っ込んで行って、一発で勝負を決する。

 しかも出したポケモンはリザードン。

 なんか展開が似すぎてて嫌なんだけど。

 

『………将来、彼が女たらしにならないことを祈りましょう』

 

 会場中の拍手喝采でユキノの独り言はかき消され、誰も気に留めていなかった。




行間(使用ポケモン)

エックス 持ち物:キーストーン×3
・ブリガロン ♂ マリソ
 特性:しんりょく
 覚えてる技:ミサイルばり、かわらわり、ウッドハンマー、ニードルガード

・リザードン ♂ サラメ
 持ち物:リザードナイトX
 特性:もうか←→かたいツメ
 覚えてる技:フレアドライブ

・ゲンガー ♂ ラスマ
 持ち物:ゲンガナイト
 特性:ふゆう→のろわれボディ←→かげふみ
 覚えてる技:シャドーパンチ、あくのはどう、シャドーボール、あやしいひかり

・カイロス ♂ ルット
 持ち物:カイロスナイト
 特性:かいりきバサミ←→スカイスキン
 覚えてる技:フェイント、シザークロス、やまあらし、かわらわり


ナツメ
・ユンゲラー ♂
 覚えてる技:サイケこうせん、サイコキネシス、テレポート

・シンボラー ♀
 覚えてる技:エアスラッシュ、サイコキネシス、れいとうビーム、ひかりのかべ

・スリーパー ♂
 覚えてる技:ねんりき、イカサマ、ゆめくい、さいみんじゅつ

・モルフォン ♀
 覚えてる技:サイケこうせん、かぜおこし

・バリヤード ♀
 覚えてる技:サイケこうせん、ねんりき、アンコール、ひかりのかべ

・フーディン ♀
 覚えてる技:サイコキネシス


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17話

感想にちらほらとバトルを巻いてほしいという希望もあり、私としてもずっとバトルばかりでもつまらないなーと思っていたので、展開の構成を再検討することにしました。今はまだちょっと手探りな状況ななので、また少し時間が空くかもしれませんが申し訳ありません。


『さあ、Cブロック二戦目! 次はどんなバトルが見られるのかっ! それでは登場していただきましょう! カワサキサキ! アーンド、プロゴルファーカヒリ!!』

 

 本日二戦目。

 何気に一撃必殺やZ技を使いこなすカワサキの登場。

 一見強そうなトレーナーに見えない(睨むと怖いけど)が、恐らくキーストーンとメガストーンを渡せばすぐに使いこなし、一撃必殺、メガシンカ、Z技とあらゆる方面から高い実力を発揮してくる奴だ。

 もしかするとユキノよりも、ハルノさんよりも強いかもしれない。

 ………そりゃ言い過ぎか。

 

『まさか世界で活躍するプロゴルファーが出てくるとはね』

『カルネさん、彼女のこと知っているのですか?』

『ええ、彼女はアローラ地方出身のプロゴルファーです。しかし同時にバトルの腕前も一流だという噂があるんですよ。こういう公の場でバトルをすることはなかったのですが………、これはとても貴重なバトルが見られることでしょう』

『アローラ地方ですか。昨日のリュウキ選手もアローラ地方で登録されたポケモンを使っていましたね。カヒリ選手もアローラのポケモンやリージョンフォームを出してくるかもしれませんよ』

 

 ほんと、リージョンフォームとかやめてほしい。昨日ナッシーといい、訳が分からなくなる。

 というか純粋なカロス出身の選手って何人出てるんだ? 四天王以外全員外から来た奴とかいうオチか? ………よし、コマチたち三人はカロスでトレーナーデビューしたから、カロス出身ということにしておこう。

 

『自分の知らないポケモンが出てくるとタイプが分からないことがあります。トレーナーの知識と経験が試される場面になるでしょう』

「おりょ、カヒリさんだ」

「コマチ、知ってるのか?」

「知ってるもなにもコマチにZ技を教えてくれた張本人だよ」

 

 ん?

 

「ん? ちょっと待て。それはアレか? 修行をつけてもらったって人か?」

「そうそう」

 

 ………………。

 実は妹の師匠でした、ってオチかよ。

 おいこら、世間ってのはどうなってやがんだ。狭すぎるだろ。

 

「カヒリさんはすっごく強いよ。サキさんでも勝てるか分かんない」

「そこまでか…………」

 

 そんな強い相手なのか。

 

「それではバトルを始めたいと思います! 双方、準備はよろしいですか?」

「「いつでも」」

「では、バトル始め!」

 

 さて、バトル開始か。

 まずは誰が出てくるのやら。

 

「エアームド」

「いきな、ハハコモリ」

 

 カワサキはハハコモリで相手はエアームドか。相性から見て分が悪いな。

 

『サキ選手、始めから油断できないカードになってしまった!』

「ドリルくちばし!」

「ほごしょく!」

 

 ま、それは織り込み済みだよな。

 むしとくさの組み合わせとか、弱点を突かれまくるだけだし。さっさとタイプを変えた方が安全である。

 

『本戦に出てくる以上、しっかりと対策を立てて来ているわね。ほごしょくで一旦消え、次に出て来た時には違うタイプになっている。この場合、フィールドが砂地だからじめんタイプかしら』

 

 チャンピオンの言うように、ハハコモリはほごしょくで周りと同化し、エアームドの突撃を躱すと、相手選手の前に現れた。フィールドを半周したみたいだな。

 

『これはまた面白いバトルになりそうだ。まだ彼女のバトルは見たことがないからね』

『彼女は強いですよ。バトルシャトーでダッチェスの爵位をもらったらしいですし』

『あら、それは楽しみね』

 

 そういえば、そんなことも言っていた気がする。まだバトルシャトーに通ってたのかよって感想を抱いた覚えがあるわ。

 

「いとをはく!」

「はがねのつばさで斬り裂いて!」

 

 さて、カワサキの狙いはなんだろうな。白い糸を吐いてもエアームドの鋼の翼で裂かれて効力を失い、宙にヒラヒラと舞っているだけだし。

 

「連続でいとをはく!」

「こちらもはがねのつばさで斬り裂き続けなさい」

 

 確かに距離が縮まればエアームドの方に斬り裂くスピードが要されるが、果たして上手くいくのだろうか。

 

「併せてドリルくちばし!」

 

 翼で足りなければ嘴もってか。

 

「回転!」

 

 そして身体全体を回転させて、ローリングで白い糸を弾き飛ばし始めた。

 

「ハハコモリ、躱して!」

 

 止まる気配のないエアームドの突撃を引きつけるだけ引きつけてから身体を反らして躱した。

 エアームドの通過した後には白い糸が風に煽られ、エアームドを追いかけていく。

 

『一体何が狙いなのか、サキ選手! エアームド、油断できない状況です!』

『彼女の狙い、何だと思う?』

『さあ、分かりません。ただあの糸に何か仕掛けがあるのでしょう』

『そうね、でもあのエアームドはそう簡単にかかるかしら』

 

 カワサキが何を仕掛けてくるかによるだろうな。

 

「エアームド、ドリルくちばし!」

「いとをはく!」

 

 二度目の攻防が始まるもカワサキは一貫して白い糸を出すばかり。一つ違うのは、向かってくるエアームドに対して飛ばすのではなく、地面に突き刺したり、アーチ型にしたりと突撃までの数秒の間に仕掛けを施したのだった。

 

『ああーっと、今度はハハコモリ! エアームドのドリルくちばしを躱せなかったぁぁぁああああああっっ!! サキ選手、万事休すかっ!?』

 

 ま、おかけで躱す時間がなかったんだけどな。

 

「ハハコモリ、エレキネット!」

 

 攻撃を食らいながらも、必死に耐えたハハコモリはアーチ型に地面に突き刺した白い糸を軸に、宙を舞う糸屑を連結させ、巨大な球体型の檻を作り上げた。中にはすでにエアームドが放り込まれている。

 なるほど、攻撃を受けたのは相手の隙を作るためと直接エアームドに触るためだったか。

 

『な、なんだこれはっ?! サキ選手、いきなりとんでもないものを作り上げてしまったぞ!!』

『………以前はこんな技の使い方をしていなかったと思うのだけれど』

『周りの環境がそうさせたんじゃない?』

『はあ………、何だかスクールで習ってきたことが悉く壊されていく気分です』

 

 基本は基本。あくまでも基本だ。

 だがあの球体は基本ができて初めて完成する応用だ。エレキネットは網目状に練られた糸に電気を走らせている、という技そのものを理解していなければ、いとをはくで出される糸に仕掛けをするなんて発想すら思いつかないだろう。だから基本は何も壊れちゃいない。

 まあ、ユキノが言いたいのは時代の流れとともにバトルも進化していて、スクールで習ってきたことが必ずしも活かせるとは限らないってことだろう。

 ………絶対誰も分からんわ。

 

『確かにこういう技の使い方を何度も見せられちゃうと、スクールの改編が必要になってくるわね』

 

 うわっ、さすがチャンピオン。

 しっかり拾いやがった。

 

『これは忙しくなりそうだね、ポケモン協会も』

『監修として博士に協力要請がくるでしょうね』

『ははは、………あり得そうだね………』

 

 自分で話を振って、その返しで仕事が確定とか可哀想な人だな。まあ、働いてもらうけど。

 

「ハハコモリ、圧縮!」

 

 カワサキの言葉にハハコモリは宙に浮かぶ監獄エレキネットを圧縮していき、じわじわとエアームドに痺れを与えていくつもりらしい。

 

「がんせきふうじで身を固めて!」

 

 対するエアームドは岩石で身を固め、網目状の糸から身を守る態勢に入った。エレキネットはそのまま岩石にへばり付き、電気をバチバチ弾かせながら岩にヒビを入れていく。

 

「エアームド、開放!」

 

 プロゴルファーの合図でエアームドは岩石を弾き飛ばし、エレキネットを撃ち抜いた。

 

「ハハコモリ!」

「ハハーリー」

 

 だが、カワサキたちに動揺は見られない。ハハコモリはアーチ型に地面に設置した糸を使い、いつの間にか弾丸状にしていた白い糸をパチンコの要領で撃ち放った。白い弾丸は岩の隙間を掻い潜り、エアームドにヒットすると身体中に伸びていき、翼の自由を奪って、地面に落とした。

 はがねのつばさで回転し、糸を絶つということもできただろうが、岩を飛ばすのに力を使い、トレーナー共々対処が間に合わなかったのだろう。

 

「しぜんのちから!」

 

 捥がくエアームドの地面が割れ、爆発的なエネルギーが噴き出した。恐らくだいちのちからだろう。しぜんのちからという技はその地形に合わせて出てくる技が変化する特殊な技。だから今回はだいちのちからになったってわけだ。何気、ほごしょくでタイプも変えて、タイプ一致にしているのはさすがである。

 

「エアームド、こごえるかぜ!」

「なっ、あれでまだ倒れないの?! ハハコモリ!」

 

 打ち上げられたエアームドは煙の中から羽搏き、冷たい風を送りつけてきた。

 頑丈な身体はあの程度では倒れないらしい。

 

「くっ」

 

 何かしようにも冷風に煽られ、動けないハハコモリ。ほごしょくのタイプ変化でじめんタイプになっている今、効果抜群である。

 

「そうだ、ほごしょく!」

 

 そして動けなくても使える技といえば、一旦姿を消すこの技くらいだろう。

 

「エアームド、とどめのはがねのつばさ」

 

 だが、読んでいたのかすぐさま距離を詰めてきた。

 先にハハコモリが姿を消せたが、エアームドが地面を蹴り上げて切り返し、左の裏翼で逃げるハハコモリを捉えた。翼はそのままハハコモリを地面に叩きつけ、右翼でのしかかる。

 

「ハハコモリ!」

「………ハハコモリ、戦闘不能!」

『糸を使った仕掛けでエアームドを翻弄したハハコモリ、ここでダウン! 先取ポイントを獲得したのはカヒリ選手だっ!』

 

 まずは相手が先取ポイント獲得か。

 まあ、元々の相性を見れば当然ではある。逆にハハコモリでよく追い込んだものだ。

 

「お疲れ、ハハコモリ。アンタの仇はちゃんと取るから」

 

 さてさて、次は何を出してくるのやら。

 

「ガルーラ、一発で仕留めるよ。はかいこうせん!」

 

 おうふ、出て来て早々、はかいこうせんかよ。さすがのエアームドも驚いて反応が遅れてるぞ。

 

「エアームド!」

『な、なんと! ガルーラ、初めから大技を繰り出してきたぁぁぁあああっ!! 反応が遅れてたエアームド、躱すことが出来ずクリーンヒット!』

 

 初手で撃ち落とされたエアームドは動かない。

 

「エアームド、戦闘不能!」

『決まったぁぁぁああああああっっ!! サキ選手、一撃で流れを引き戻しましたっ!!』

 

 たった一撃でイーブンへ。

 交代の間に硬直も抜けることだろう。

 

「戻りなさい、エアームド」

 

 エアームドをボールへと戻すプロゴルファー。

 次は誰が出てくるのだろうか。アローラのポケモンか、はたまた俺たちでも知っているポケモンか。

 

「クロバット、あなたのスピードで翻弄しなさい」

 

 二体目はクロバットか。

 トツカも連れているどく・ひこうタイプのポケモンだ。注意するならあの素早い身のこなしと毒を使った攻撃だろう。毒状態になってしまっては動きは鈍るは体力は奪われるわ、負のスパイラルの始まりである。

 

「ガルーラ、一旦交代。いきな、ザングース!」

 

 おっとカワサキも交代か。

 カワサキの三体目はザングース。どくタイプのハブネークとは因縁のあるポケモンか。毒に免疫があるため、交代させたのだろう。

 

「クロバット、エアスラッシュ!」

「ザングース、ブレイククロー!」

 

 クロバットが無数の空気の刃を作り出し、それをザングースが爪を伸ばして全て叩き落としていく。

 何とも激しい攻防である。

 

「走りながらつるぎのまい!」

「ヘドロばくだん!」

 

 自分の周りに剣を並べ、自在に剣を合わせていく。そこへヘドロが吐き出され、ザングースに当たると爆発した。ザングースの足は止まり………。

 

「ザングース、からげんき!」

 

 いや、止まっていなかった。爆風の中、紫色の目をしたザングースが飛び出てきて、勢いよくジャンプするとクロバットに体当たりをかました。

 

「あれ? ザングースの目ってさっきまで赤くなかった?」

「あ、確かに………」

 

 ユイの言う通りザングースの目は普段は赤い。なのに、今は紫色の状態だ。これが意味するのは…………。

 

『おお、これは珍しい! どくぼうそうじゃないか! こんなレアなザングースを連れていたなんて驚いたなぁ!』

 

 どくぼうそう?

 特性か?

 

『………博士、そのどくぼうそうというのは………?』

『ああ、ごめんごめん。どくぼうそうというのは特性のことだよ。毒状態の時に攻撃力が増すんだけど、この特性を持つのは今のところザングースのみ。しかもザングースの中でも非常に珍しい特性なんだよ。いやー、資料で見たことはあったけど、実際に見れるなんて思っていなかったなー』

『毒状態の時に………、なるほど、だからからげんきですか』

『でしょうね。状態異常の時に威力の上がる技だもの。ヘドロばくだんをまともに受けて毒状態となり、特性と技の効果を一度に発動させてくるなんて、狙ってやったのかしら?』

『少なくとも視野には入っていたでしょうね』

 

 どくぼうそうという特性があるのか。しかもそれを持ち合わせているのはザングースだけであり、それも珍しい特性の部類。超レアな特性といっても過言ではないな。そんな特性を持ったザングースを捕まえていたとは………。

 

「クロバット、戦闘不能!」

 

 ま、そうだよな。つるぎのまい経て特性発動からのからげんきを耐えられる奴がいるわけがない。

 

『ザングース、クロバットを一撃で落としたぁぁぁああああああっっ!! レアな特性を持つザングース、クロバットの攻撃をフルに生かしたバトルを組み立ててきています!』

 

 だが、忘れてはいけない。

 ザングースは毒状態である。特性が発動しようが、からげんきをフルに活かそうが、毒による体力の消耗は避けられない。

 ザングースが長く居座れる確率は今も減り続けている一方である。

 

「戻りなさい、クロバット。こちらの技を逆手にとってくるとは、あなた腕の確かなトレーナーね」

「そりゃ、どうも」

「あ、エックスお帰りー!」

「エックス、まずは一勝だね!」

「エッP、おめでとう!」

「さて、次行きましょうか。アーケオス!」

 

 プロゴルファーの三体目は…………知らん。

 知ってそうなカワサキはフィールドにいるし………誰か知ってる奴はいないかしら?

 

「………無理だな。よし、ザイモクザ。あのポケモンを検索だ。確かアーケオスとか言ってたはずだ」

「うむ、心得た」

 

 誰も無理そうなので、ネットに頼ることにしよう。

 

「アーケオス………、ザングース、いわなだれ!」

「でんこうせっかで躱しなさい!」

 

 目が紫色のザングースがアーケオス? の頭上に岩を作り出し、雪崩れ込むように落とし始める。それを隙間を縫うようにして切り抜けると、ザングース目掛けて一直線に突っ込んできた。

 

「からげんき!」

 

 ある意味暴走状態のザングースはフルパワーのからげんきで迎え撃ち、結果アーケオスの方を押し返した。だが、少し下がっただけですぐに体勢を戻し、再度突っ込んでくる。

 

「がむしゃら!」

 

 ………どうやらさっきの突撃は囮みたいだな。

 本命はこっち。さっきの突撃で態と攻撃を受け、体力を減らし、それでも体勢を立て直して切り抜ける力だけは残してからの我武者羅な攻撃。技を出し切ったザングースは躱すタイミングを失っている。

 

「む、あったぞ。アーケオス、さいこどりポケモン。いわ・ひこうタイプ。………どうやら化石から復活したポケモンのようだ。古代イッシュ地方を主な生息地としていたポケモンらしい」

「いわとひこうか。なるほど、からげんきを耐えてもおかしくはないな」

 

 いわタイプにはノーマルタイプの技とされるからげんきは効果いまひとつである。いくらつるぎのまいと特性を上乗せしていたとしても耐える可能性は大いにある。現にアーケオスは耐えた。

 

「ザングース、翼を掴んで!」

 

 腹にアーケオスの頭突きを食らったザングースが、それでも足掻き、両翼を掴んだ。

 

「回転して振り落としなさい!」

 

 だが、掴まれたのを逆手に取り、ローリングでザングースを振り回していく。あれ、絶対毒の周りが早くなってると思うぞ。

 最後には地面に叩きつけるように拭い落とし、旋回して距離をとった。

 

「とどめのアクロバット!」

 

 くるくると後転しながら後退して、勢いをつけると一気にザングースへと降り注いだ。当のザングースは振り回されたことで足元が覚束なくなり、ふらふらとバランスを崩している。

 

「ザングース! からげんき!」

 

 迎え撃つ準備をさせるも、やはりアーケオスの方が力押しで勝ち、踏ん張りの利かなかったザングースを突き飛ばした。白い体は隔壁へと打ち付けられ、クレーターを作っていた。

 

「………アーケオス、羽を休めて少し休憩よ」

「………ザングース、戦闘不能!」

『猛威を振るっていたザングース、ここで戦闘不能! 両者一歩も引かない戦いとなってきたぁぁぁああああああっっ!!』

「お疲れ様、ザングース。アンタの仇はきちんと取るよ」

 

 カワサキはザングースに声をかけながらボールへと戻した。

 これで両者またしてもイーブン。

 

「いきな、ニドクイン」

 

 だが、ニドクインを出したことで手の内を一枚多く明かしたことになる。

 

「アーケオス、バトル再開よ」

「アーッ!」

「アクロバット!」

 

 翼をはためかせ空に飛んでいくと再びくるくると後転しながら後退し、勢い良く降り注いできた。

 だが、先ほどのような危険を匂わす空気はカワサキから感じられない。

 

「つのドリル」

 

 逆にこの冷たい一言で、会場一帯を凍りつかせた。アーケオスの突撃の直前、回転していた角を突き刺し、アーケオスの体を突き上げた。無残にもドサっと地面に落ちたアーケオスの顔が痛々しい。

 

『………い、い、い、一撃必殺ッッ!! ニドクインのつのドリルが決まったぁぁぁああああああっっ!! サキ選手、一撃必殺を使いこなすとんでもない選手だった!! このバトル、全く先が読めません!』

 

 なに? サキと先とかけたのん?

 とまあ、実況の洒落はどうでもいいとして。

 ついにカワサキが本気を出してきた。

 このまま、バンバン一撃必殺で攻めていくつもりなのだろう。だが、果たしてそう簡単に事が運ぶとは思えない。なんせここまで相手が使ってきたポケモンはひこうタイプばかりである。あんな離れた位置から攻撃されてきたら、一撃必殺を当てる事は難しい。ましてやじわれを使おうとすれば、まずは相手を地面に固定させておかなければならない。

 

「………まさか一撃必殺が出てくるとは……想像以上だわ」

 

 アーケオスをボールに戻しながら、そう呟いた。

 

「オドリドリ、いきなさい」

 

 え、何だって? オドリドリ? 踊る鳥なのん?

 

「ザイモクザ、もういっちょ検索」

「相分かった」

 

 出てきたのは赤い鳥。

 今まで出てきた彼女のポケモンの中では一番小さいと思われる。

 

「フラフラダンス!」

 

 ふらふら〜と踊り出した赤い鳥ポケモン。

 不規則な動きにニドクインの視線が奪われていく。

 

「ニドクイン、目を閉じて!」

 

 ああ、ダメそうだな。

 一緒に踊り始めたぞ。

 

「エアスラッシュ!」

 

 つられて変な踊りをしているニドクインに空気の刃が突き刺さる。前方後方いたるところから切り付けられた。

 

「ニドクイン、交代だよ。ガルーラ、さっさと仕留めるよ」

 

 たまらずニドクインを交代。代わりに出てきたのはガルーラだった。

 

「10まんボルト!」

 

 出て来て早々、雷撃を撃ち落とした。

 

「躱して、エアスラッシュ!」

 

 だがオドリドりは小さくて身軽な体を活かして雷撃を躱すと、空気を叩き刃に変えて、ガルーラに向けて飛ばしてくる。

 

「ブレイククロー!」

「むっ、あったぞ。あれはオドリドリというポケモンらしいが、どうやら四種類確認されているみたいであるな。あの赤いフォルムはめらめらスタイルというほのお・ひこうタイプのフォルムらしい。他にもぱちぱちスタイル、ふらふらスタイル、まいまいスタイルとあるらしいが、どれもアローラ地方にある各島で作られる密によって変化するらしいぞ」

「アローラ四島に対応したフォルムチェンジか。また珍しいフォルムチェンジだな」

「スタイルの名前が違うということはタイプも違ったりするのか?」

「うむ、ヒラツカ女史の言う通り、各スタイルごとにタイプが変化する。これもまたアローラ四島の気候に合わせたものなのだろう」

 

 ザイモクザによるオドリドリの説明の間に、ガルーラは空気の刃を両爪で弾き落としていた。

 

「10まんボルト!」

 

 そしてすかさず反撃に移る。

 

「上昇!」

 

 だがそれをオドリドリは急上昇し、躱していった。

 

「フェザーダンス!」

 

 オドリドリは上空から羽を撒き散らし、ガルーラの意識が無数の羽に向いてしまう。

 フェザーダンスによる羽は当たってしまえば攻撃力が極端に下げられてしまう効果があり、ガルーラにとっては痛手となってしまうだろう。

 

「もう一度、10まんボルト!」

「オドリドリ、めざめるダンス!」

 

 羽を撒き散らしたオドリドリは空中で身軽ルナステップを踏みながら、時折翼を叩いて音を出し、決めポーズを挟んでいる。

 その間にガルーラは電撃を飛ばし、空中で舞うオドリドリを狙って攻撃を仕掛けるが、いかんせん羽が多く、電撃は羽に当たって屈折し、思うようにオドリドリへ飛んで行かなかった。

 まさかこんな方法で身を守ってくるとはな………。攻撃技でも防御技でもない、一般的に変化技と分類される技で防御をしてくるなんて俺も発想がなかったわ。基本的に変化技なんて使わないし。リザードンがりゅうのまいを使うくらいじゃないか? あとはやどりぎのタネ………ああ、意外と使ってるな。

 

「ガルーラ!?」

 

 電撃は防がれ、代わりにオドリドリが全力で踊って貯めたパワーで作り出した炎に包まれてしまった。宙を舞っていた無数の羽も一緒に萌えてしまった。

 

「ッ!?」

 

 なんだッ!?

 この背筋が凍りつくような感覚は………?

 なんか、見られている………。

 誰だ? サカキか? いや、サカキならもっと殺気立っているはずだ。

 これは殺気というよりかはじっと見つめられているような………、殺気よりも気味が悪い感じである。

 

「はーちゃん、どうしたの?」

「……………」

 

 どうする………?

 この得体の知れない何かをこのまま見過ごすか?

 

「なっ………!? 空が………」

 

 破れたッ!?

 

「ハチマン?」

 

 不気味な視線を感じる背後ーー南の空を見上げると、空に亀裂が入っていた。今にも何か出てきそうな隙間が開いている。

 

「………すまん、ルミ。ちょっと仕事入ったみたいだわ。ジュカイン、上に登って見張っててくれ」

「カイッ!」

 

 ボールからジュカインを出すと素早い身のこなしで、会場の柱をよじ登っていった。

 

「おい、タイシ。ケイカのことは任せた」

「あ、は、はいっす!」

 

 膝の上にいたケイカをタイシに預けるとケイカが寂しそうな顔で手を伸ばしてくる。

 

「はーちゃん、どこかいっちゃうの?」

「ごめんな、けーちゃん。はーちゃんは今からちょっとお仕事しないといけないみたいなんだ。さーちゃんが戻ってくるまでタイシと大人しく待っていられるよな?」

「うん! けーか、おるすばんできる!」

 

 頭を撫でながら諭すと、ケイカは元気よく手を挙げてきた。

 

「よし、いい子だ」

「えっ、ちょ、お兄ちゃん?!」

「ヒッキー!? 一体何があったの?!」

 

 立ち上がった俺に気づくとコマチとユイがギョッとした顔で見返してきた。

 

「俺にも分からん。ただ何が起きているのかを確かめないことには対処すらできそうにないんでな」

「………無茶だけはするなよ。君はもう、独りじゃない」

「分かってますよ。俺がこのままむざむざとやられて帰ってきたらあの姉妹は特に責任を感じるでしょうし」

「まったく、君の周りはトラブルが絶えないなー」

「トラブルを持ち込んできた人に言われたくないですよ。んじゃ、行ってきます」

 

 先生二人にも挨拶をして、客席の階段を駆け上がっていく。すると同じく階段を駆け上がってきたエックスとばったり。どうやらこいつも空の亀裂に気付いたらしい。

 俺たちは無言で頷き合い、会場の出口へと走り出した。

 

「あなた、ハチマンって人ですよね」

 

 道中、エックスがポツリと呟いてきた。

 俺と会話するのは初めてだと思うんだが、俺って名前を知られるほど有名だったっけ?

 

「………誰から聞いた」

「初代図鑑所有者の、グリーンさん、から。それに、コルニさんもよく、話題に出して、いました」

「あいつら…………」

 

 なんとなく分かってはいたが、あの二人が原因かよ。

 グリーンは何だ? また何か面倒ごとを押し付けてきたとかか?

 コルニは俺のことをバカだのアホだの言ってたんだろう。

 

「他には?」

「このリーグ戦では、四天王として参戦、というのをコルニさんから、グリーンさんからは、何かあればそいつを頼れって、言われました」

「ああ、そう………」

 

 あのイケメン。立ち去り方もイケメンだな。おかげでこうしてエックスと面会する機会ができたぜ。

 

「で、どうだ? お前から見て、あの空は」

「分からない。ただ、何か得体の知れない、奇妙な気配を、感じました」

「俺もそんな感じだ。急ぐか」

「無理」

「だよな………。俺もこれが全速力だ」

 

 ああ………、きつッ………。

 最近、運営の準備ばかりしていて運動という運動をしていなかったからな。全然足が動かん。昔からではあるが、やはり走るのは苦手だ。

 

「これ以上ペースを上げても、いざ戦闘になったら、はあ、はあ、息切れをしていて太刀打ちできない、なんてことになっても嫌ですし」

「ま、取り敢えず今、俺のポケモンが、見張りについている。くっ、何かあっても、俺たちが到着するまでの時間は、稼げるはずだ」

「随分と手際がいいですね。もしかしてあなたがすべての仕掛け人、なんてこともあるんじゃないですか?」

「お前な………、ほんといい性格してるよな」

「人のことを、散々、はあ、はあ、調べ上げといてよく、人に、言えますね………」

 

 お互いに段々息が上がり始めてきた。

 これ以上はさすがに飛ばせない。

 

「やっと、出口か………」

「避難とか、いいんですか?」

「大丈夫だ。その辺の段取りは、大会前から、付けてある………くはっ」

「だったら、もっと最短ルートを、確保しておいて欲しかったですね」

「すまん、そこまで考えが、及んでいなかったわ」

 

 最短ルートか。

 確かにあったら実に動きやすくなるが………、無理だろ。

 どこで何が起きるか分からんのに、最初からそこへの最短ルートなんて作れるわけがない。まあ、そんなルートが作れたら実に対処が早くできるだろうよ。

 

「サラメ!」

「リザードン!」

 

 外へと出ると、周りなど気にせずボールからリザードンを出した。エックスもリザードンを選んだようだ。お互い自分のポケモンに乗ると、勢いよく南の空へと上昇。会場の屋根にはジュカインが南の空を戦闘モードの状態で睨みつけていた。

 

「あれは………」

「ジュカインだ。ホウエン地方で登録されたポケモンだな」

 

 ジュカインを見るのは初めてらしい。

 まあ、そりゃそうだろうと思う。だって、引きこもりだったんだし、そもそもカロスのポケモンじゃないんだし。生息すらしていないんだから知らなくても当然である。

 

「まだ………」

「ああ、破れてるな」

 

 俺たちが到着するまでの数分の間に、空が閉じるかもと思ったりしていたが、その気配は全くなさそうだ。でもだからと言って中から何かが出てくる気配も感じられない。

 それよりもこの鋭い視線。今度は殺気も感じ…………。

 

「ふん、仲良くリザードンでご登場か」

「ッ!?」

 

 この声。

 今日は堂々と出てきやがったか。

 

「何の用だ、サカキ」

 

 振り向けばパルシェンに乗った黒スーツ姿のサカキがいた。

 そして………。

 

「いや、ロケット団」

 

 その後ろにはジバコイルたちの電磁場を足場にしている金髪ジムリーダーマチスとバリヤードのひかりのかべを足場にしている黒髪ジムリーダーナツメの姿もあった。




行間(使用ポケモン)

カワサキサキ
・ニドクイン ♀
 特性:どくのトゲ
 覚えてる技:ポイズンテール、つのドリル、ばかぢから、ヘドロばくだん、ストーンエッジ、じわれ、すなあらし

・ガルーラ ♀
 覚えてる技:みずのはどう、10まんボルト、ブレイククロー、はかいこうせん

・ハハコモリ ♀
 覚えてる技:リーフブレード、リーフストーム、しぜんのちから、ほごしょく、こうそくいどう、シザークロス、はっぱカッター、いとをはく、エレキネット

・ザングース ♂
 特性:どくぼうそう
 覚えてる技:ブレイククロー、からげんき、いわなだれ、つるぎのまい


カヒリ
・エアームド ♂
 特性:がんじょう
 覚えてる技:ドリルくちばし、はがねのつばさ、がんせきふうじ、こごえるかぜ

・クロバット ♂
 覚えてる技:エアスラッシュ、ヘドロばくだん

・アーケオス ♂
 覚えてる技:でんこうせっか、がむしゃら、アクロバット、はねやすめ

・オドリドリ(めらめらスタイル) ♀
 覚えてる技:エアスラッシュ、めざめるダンス、フラフラダンス、フェザーダンス


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18話

さすがにレインボーロケット団は考えてなかったですね………。


「ロケット団………」

 

 空へ昇るとサカキを始めとするロケット団の三人がいた。

 

「………ロケット団?」

「昨夜ぶりだな、ハチマン」

「今度は何の用だ。イロハなら遠出中だぞ」

「ふっ、別にあの娘に用はない」

「だったら………」

 

 ハルノさんが言っていたようにイロハたち実力のある敗北者たちを攫うのが目的なんじゃないのか?

 だったら、何しに遠路はるばるカロスまで来てやがるんだ?

 

「穴が閉じるぞ」

「ッ!?」

 

 くそっ、こいつと話している間に空の裂け目が閉じ始めたじゃねぇか。

 何も分からないまま帰れってのか。冗談じゃない。

 

「……………」

 

 奥は暗い。

 何というか別世界に繋がっているような、しかしダークホールのような、それでいてワープホールのような、なんとも形容しがたい穴である。

 

「……………」

「………ポケモン?」

 

 ん? エックスには何か見えたのか?

 

「……………エックス、何が見えた」

「赤くて細い何かが………一瞬だけ………」

 

 赤くて細い………?

 

「ふっ、やはり図鑑所有者というのはどこにいこうが特殊な奴らしいな」

「どういう意味だ?」

「そのままの意味だ。オレが見てきた図鑑所有者はどいつもこいつも変わり種だ。いつでも問題の渦中にいる」

「その問題とやらを起こしているのはアンタらだろうが」

「そうだ。図鑑所有者というのはオレたちの計画を邪魔しにやってくる煩わしい人間だ」

「ボス、折角だから今の彼が使いものになるのか、試してみてはどうかしら?」

「ッ!? さっきオレとバトルした………」

「あら、坊やのことは聞いてるわ」

 

 黒長髪の女性、ナツメがエックスを舐めるように見下ろした。そして、満足したのか何を投げてきた。

 

「受け取っておきなさい」

「ジム、バッジ………? えっ………?」

 

 ジムバッジ………。なるほど、今でもジムリーダーとして活動しているのか。そして、エックスのことを認めたってわけだ。

 イッシュ地方で女優として活躍しているとか言っていたが、本業もそのままらしい。

 

「カントーヤマブキシティジムリーダー、それがその女の正体だ」

「さすが忠犬ハチ公ね。私との面識なんてジム戦くらいのはずだけれど。それも何年も前の」

「伊達に忠犬ハチ公なんて呼ばれてねぇよ」

 

 ロケット団についての情報は恐らく俺が一番持っているのかもしれない。『今の』ではなく、『過去の』俺だが。

 未だ欠けている記憶を抜きにしてもロケット団との縁はよくあり、そのほとんどがサカキとの絡みばかりだ。内部の情報も聞かされたりしているし、あながち間違いではないのかもしれない。

 

「さて、ハチマン。貴様の実力を計らせてもらおうか」

「断る。さっさとカントーに帰れ」

「ほう、生意気なことを言うようになったじゃないか」

「俺はいつでもこうだと思うが?」

 

 悪党に遠慮する必要なんてないんだし。

 逆に悪党に対して遠慮なんかしてたらバカとしか言えないだろ。

 

「ふっ、まあいい。その足りない記憶でどこまで対処できるのか楽しみだな」

 

 ッ!?

 こいつ、俺の記憶が一部欠けていることを知っているのか?

 サカキならありえなくもないが、なら尚更………。

 

「やれ」

 

 サカキは自分のボールを投げると、次々とポケモンを出してきた。空中にいるのに、飛んでいるのはスピアーとパルシェンのみ。後は全員空中で止まっていた。

 

「ニドキング、ニドクイン………それにボスゴドラにドサイドンまで……………」

 

 エックスは厳ついポケモンたちに囲まれて一瞬たじろいだが、そこは図鑑所有者。すぐにボールに手をかけ戦闘モードへと切り替えやがった。

 

「はあ………、いつの間にか穴は閉じてるし、結局何だったのか判らず仕舞いだし。………エックス、下がってろ」

 

 サカキたちと話してたら、いつの間にか空の穴は完全に塞がってしまっていた。何の穴なのか、誰が作り出したのか、何も手がかりはない。唯一、エックスが一瞬だけ見えた赤くて細い何かがいるってことだけだ。これだけでは余計に混乱してしまい、情報としては意味をなさない。

 

「よっと」

 

 リザードンから飛び降りると黒い足場が出来上がった。

 

「えっ、浮いて………?」

「ふっ、さすが生まれてくる時期や場所が違えば図鑑所有者になっていた男だ。まだ『そいつ』を飼いならしているようだな」

 

 そいつ、とはダークライのことだろう。

 

「………リザードン、かえんほうしゃ」

「がんせきふうじ」

 

 リザードンの炎をニドキングとニドクインが岩を飛ばして防いだ。やっぱそう簡単にはいかないか。

 

「リザードン、半分任せた。使えるもんは好きに使ってくれ」

 

 空中戦とかリザードン以外できないし。ナツメが足場を用意してくれるわけでもないし。というかそっちに頼ればいつ落とされるか分からんし。それにエンテイを出すわけにもいかない。最初から伝説のポケモンに頼るのはお門違いだ。ダークライ? いいんだよ、あいつは。そういう契約らしいから。

 

「は、半分………? ってまさか?!」

「好きに使えって言ったが、俺にボスゴドラとドサイドンの相手させるのかよ」

 

 リザードンはすでにニドどもの方へと行ってしまい、残されたボスゴドラとドサイドンの相手を俺がすることになってしまった。いくらいわタイプに弱いからってお前ね………。

 いや、毒も嫌だけどさ。これはこれで怖いものがあるのよ?

 

「おっと」

 

 腕を振り回されるだけでも怖いんだけど。

 

「大人しく寝てろ」

 

 左腕をボスゴドラに向けると黒い穴が現れ、腕を振りかぶってきたボスゴドラを呑み込んだ。

 

「危ねっ」

 

 次いで右腕をドサイドンに向けると黒いオーラが形を成し、剣へと変わった。アームハンマーだと思われる衝撃を黒いオーラがすべて吸収してしまい、俺の腕への負担は一切ない。代わりにドサイドンを押し返し、もう一度左腕を向けるとドサイドンの背後に黒い穴が現れ、後退するドサイドンを呑み込んだ。

 

「ほら、全部吸っちまえ」

 

 手を貸してくれたダークライにボズゴドラとドサイドンを穴から出させて、眠っている二体の夢を食わせた。

 

「スピアー、ダブルニードル」

「つばめがえし」

 

 もう一体、忘れられているかもしれない奴が、俺の横を通り過ぎ背後に現れたスピアーを切り付けた。そいつは足場がない空中に着地し、二撃目を入れるために片足で方向を変えると、一気にスピアーへと詰め寄っていく。

 

「ほう、そのジュカイン、お前のだったか。スピアー、メガシンカ」

 

 また唐突な………。

 メガシンカの光でジュカインを押し返すなよ。

 

「パルシェン、れいとうビーム」

 

 おうおう、そっちからも来るのか。フルでポケモン出しやがって。

 

「ジュカイン、屈め!」

 

 スピアーへと走り出したジュカインに向けて、サカキを乗せたパルシェンが冷気を吐き出してきた。

 

「ふん!」

 

 黒いオーラを屈んだジュカインの頭上を走らせ、冷気を受ける壁に作り変える。

 

「こうそくいどう」

 

 ああ、もう。次から次へと。ほんと容赦ない奴だな。

 

「リザードン、ジュカイン、メガシンカ!」

 

 リザードンの方も直接触ると危険なため使える技が限定されてしまい、しかも空中戦であるため一撃必殺も使えず、苦戦していた。どうしてこうサカキのポケモンってのは会うたびに強くなっているのだろうか。

 なんかムカつく。

 

「ユンゲラー、テレポート!」

「ッ!?」

 

 俺が持つ二つのキーストーンとリザードンとジュカインのメガストーンが光を発し始めた瞬間。

 リザードンの懐にユンゲラーが現れ、リザードンの首に巻きつけてあるちょっとオシャレな首輪をテレポートさせてしまった。

 当然、石のないリザードンはメガシンカできず、ジュカインだけが姿を変えていく。

 

「ダブルニードル」

 

 いきなりのことでリザードンは反応できず、スピアーの攻撃を受けてしまう。腕の針から毒でも盛られたのか、みるみる顔色が悪くなっていく。

 

「おい、メガストーンをどうするつもりだ」

「さあ、どうしようかしらね」

「シャ、ア…………」

 

 くそ、こいつらの狙いは何なんだ?

 リザードンのメガストーンを奪ってどうするつもりだ。

 

「ジュカイン、こうそくいどうでスピアーからリザードンを守ッ!?」

 

 ぐ、はっ…………。

 な、なんだ、血が、血の流れが………。

 

「はあ、はあ、はあ……………」

「あ、あの、大丈夫、ですか………」

 

 後ろからエックスが話しかけてくるが応えられるほど余裕がない。

 どうする、これかなりヤバいぞ………。

 

「へい、ボス。もう一発ってところか」

「だろうな」

「オーケー。エレキブル、リザードンに10まんボルト!」

「エーレッ!」

 

 くそっ、声が出ない。

 ジュカインもスピアーと高速戦闘をしていて、それ以上を求めるのは無理だろう。

 

「ッ!?」

「なんだ?!」

 

 ああ、もう一体いたな。

 よく遠くから狙えたもんだ。おかげでエレキブルの電撃は相殺されたよ。

 

「おそらくアレね」

 

 俺も視線を向けると会場の屋根にヤドキングがいた。アレはイロハのヤドキングである。ついでにジュカインが空中戦を行えるのもヤドキングが足場を作っているからだろう。いつからナツメのポケモンと同じことができるようになったのやら。

 

「サラメ、やきつくす!」

「パルシェン、ハイドロポンプ」

 

 おい、バカ!

 何勝手に攻撃してるんだ!

 それじゃ逆効果だぞ!

 

「………手、を………出す、な…………」

「シャアァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!?!」

「ぐぉがあああああああッッ!!!」

「カイッ!?」

 

 ヤバい、マジでヤバい。

 リザードンの力が暴走し始めやがった。特性もうかに呑まれたとかいう次元の話じゃない。もっと別の、死の危険すら感じる力が、リザードンには秘められていて、それが表に出ようと暴走している感じだ。ゲッコウガがメガシンカを習得するために俺と視覚・感覚を同調させていたように、急に視界が変わり、俺にも力に呑まれる感覚が伝わってくる。

 だが、一つ言えるのはゲッコウガの時とは明らかに違うということだ。リザードンの暴走に合わせて俺の血も活性化し、俺の中でも暴走を始めているような感じがある。はっきり言って今の俺は自分とリザードンの暴走を一つの体で受け持っている状態である。

 俺、死ぬのかね………。

 

「な、にが、起こって………」

 

 ああ、エックスには悪いことをしたな。また引きこもりに戻らなければいいが。

 

「ボス、あいつ生きてられるのか?」

「さあ、どうだろうな」

「フンフフフ、お困りのようですね、サカキ様」

 

 誰、だ…………また、新しい、のが、来た、のか………?

 ぐぉぁっ!

 

「サキ………」

「サキ………?! なるほど、これが裏切り者ね」

「裏切り者とは酷い言われようだ、ナツメ。私は当初より私の目的のために動いていただけにすぎん」

「フン、ちょうどいい。お前をここで殺すとしよう。オレをコケにした報いを受けるがいい」

「フンフフフ、それはまた物騒ですね。ダークライ、この者たちを排除なさい」

「スピアー、ダブルニードル」

「ユンゲラー、フーディン!」

「エレキブル!」

 

 サキ………?

 カワサキ、のことか…………?

 いや、あいつは、こんな話し方、はしない。

 というか、ダークライ。テメェ………なに俺以外の奴の言うことを聞いてんだよ。

 

「うおっ?!」

 

 な、なんだ?! 急に身体が下に引っ張られるような………。落ちてる、のか…………?

 

「おっと、危ないですね。スターミー、サイコキネシス」

 

 あ、急に身体が軽くなった………。

 くそ、痛みに慣れてきたが、意識が朦朧としている。視界も安定しないし、何よりリザードンが見えない。ただ、ダークライが全面的に俺から離れたことは理解した。

 

「あなたは………?」

「申し遅れました。私はSaque。彼の右腕にございます」

 

 はっ?

 何を言っているんだ、こいつは………。

 俺の両腕はユキノシタ姉妹だぞ。誰かも分からん奴を右腕にしたつもりはない!

 エックス、騙されるな!

 

「あの者たちはカントーを、世界を支配すべく活動している悪の組織、ロケット団にございます。あの者たちは力を持つために最恐のポケモンを生み出し、最恐のポケモントレーナーを作り出そうと計画しております。そしてその被験者こそが我が主というわけにございます」

 

 何を言っている………。

 そんなわけ、あるはずが………。

 ッ!? こいつ、俺を落ちないようにすると見せかけて、身体の自由まで奪いやがったのか?!

 口は開かないし、身体も動かせない。

 空で磔の刑とかマジかよ………。

 

「エレキブル!?」

「ユンゲラー、フーディン!?」

「………なるほど、だからボールには決して入らないのか。いや、だがそれ以前に八幡の元にいたとも聞いているが………」

「それはもちろん。いくら扱いきれないポケモンだからと言って、一度はボールに収めたポケモン。今でもダークライのボールは持ち歩いていますよ。フンフフフ」

 

 ダークライのボール、だと?

 確かにあいつは一度たちともボールに入ろうとはしなかったが。

 

「シャアッ!?」

 

 ぐはっ!?

 今度はなんだ!?

 リザードンと感覚が同調してるんだから同じようにダメージがくるんだっての!

 

「水の手裏剣?!」

「一体、どこから飛んできやがった!?」

「まだ何かいるということですか。ダークライ、さっさとスピアーも始末なさい」

「ライ」

 

 水の、手裏剣、だと………?

 それってつまり………。

 

「………ッ」

 

 またしても視界が変わった。今度は懐かしい感覚である。力に呑まれるわけでも痛みがあるわけでもない。

 段々と血流も正常に戻り、心拍数も安定していく。

 

『ゲッコウガ、いきなりどうしたの!? メガシンカしたりして! キリキザンも驚いてるよ?!』

『コウ、コウガ』

 

 この声は、イロハか。

 

『そう? もういいならいいけど。それよりバトルの再開だよ! 絶対あの子をゲットするんだから!』

『コウガ。コウガ、コウコウガ!』

『でもまさかゲッコウガがトレーナーになっちゃうなんて………。先輩、驚くだろうなー』

『コウガ』

 

 はい?

 ゲッコウガがトレーナーになった?

 んなバカな。

 

『コウガ、コウコウガ』

 

 まあ、何にせよ、ありがとよ。

 おかげで助かったわ。

 

「ふぅ………」

 

 それにしてもまさかこの状況でゲッコウガが反応してくるとはな。

 態と以前のように俺と意識を同調させて、リザードンの上書きをしてくるとは。タイミング良すぎだろ。

 おかげで正常に戻れたわ。

 

「………くくくっ」

 

 それにしてもありゃないだろ。ポケモンがトレーナーにとか。あれ、本当なのか? 本当だったらマジで伝説のポケモンになるぞ。

 ………ああ、おかげで頭が冴えた。

 リザードンの方もみずしゅりけんのおかげで暴走が止まったようだし、ゲッコウガ様様だな。

 

「さすがだよ、ゲッコウガ」

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 おいおい、そんなに驚くなよ。

 いくら俺が元の状態に戻ったからってそりゃないだろ。

 

「来い、リザードン!」

 

 俺とリザードンの意識が何故同調したのかは分からない。ただ俺たちの中に何かあるのは確かだ。これまでも記憶の断片にリザードンと意識を共有した時がある。時間は短くとも、同調は同調だ。

 これがハルノさんが言っていたレッドプランと関係があるのかどうかは知らないが、まずはこいつらにお返しするとしよう。

 

「シャアァァァアアアアアアアアッッ!!」

 

 リザードンの咆哮。

 今度は暴走してるわけではない。

 それでも意識は再びリザードンと同調されていく。

 へぇ、どうやらさっきので何かがリザードンの中でも目覚めたらしい。

 腕には常時電気を纏っており、翼は鋼になっている。

 

「ブラストバーン!」

 

 中から溢れてくる力も合わせて、炎を吐き出した。

 

「バリヤード!」

「ジバコイル!」

 

 どうやらギリギリ防がれたようだ。

 ま、今それでもいい。

 

「えんまく」

 

 それよりさっさとここから立ち去るのが先決だ。今の状態ではまともにやり合うのもキツい。

 

「エックス、逃げるぞ!」

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 はあ、はあ…………。

 ひとまず、これで一息つけるか。

 リザードンもかなり消耗しているし、これ以上のことが起きてもボールからは出せないな。

 

「改めて、我が主。お久しぶりにごさいます」

「………アンタ、誰だ」

 

 現在、ミアレタワーの中に避難。

 人がたくさんいるため、ロケット団もこの中じゃ表立って行動はしてこないだろう。

 

「ああ、なんという。私のことをお忘れになってしまうとは。これも全部ロケット団の仕業なのですね………」

 

 それにしても目の前のこの女。

 すげぇ胡散臭い。

 俺に敬意を払っているつもりなのだろうが、ポーズが大きすぎて胡散臭すぎる。忠義なんてものを全く感じられない。というかやめて! 周りからの危ないものを見るような視線がこっちにまで突き刺さってくるから!

 

「記憶、ないんですか?」

「どうだろうな。ただ、俺はアンタを信用できない。俺にはすでに両腕がいる。そこに右腕を名乗る奴が出てきても信用できるはずがないだろ」

「では、信用していただくためにも何なりと質問なさいませ。全てお答えしますわ」

「………それはつまり、アンタは俺の命令を全て聞けると解釈していいのか?」

「ええ、何なりとお申し付けを。我が主の命とあらば不詳Saque、命を賭してやり切る所存です」

 

 うわぁー………。

 今時こんなこと言う奴いるんだな。しかも俺より歳上の奴が。いや、歳が上の方がそういう傾向が残っていると言った方がいいのか。

 

「なら、今日はもう帰ってくれ。情報が多すぎてアンタを相手にする余裕がない。頭の中を整理する時間をくれ」

「かしこまりました。では、最後に一つだけ。裂空より来る訪問者、裏側より来る支配者、狭間より来る異形者。この者たちにお気をつけを」

「何のことだ」

「いずれ判ることにございます。それでは後ほど、近いうちに」

 

 だからその胡散臭いポーズはやめろって。

 ったく、ようやく消えてくれたか。

 すげぇ胡散臭いのを相手にしているから肝が冷えて仕方ない。

 

「すげぇ胡散臭い奴だったな」

「あなたも十分胡散臭いですけど」

「お前ね………」

 

 この少年ったら毒舌すぎない?

 なんか昔の俺と言葉の返しが似ていて、胃がキリキリするんだけど。

 

「………あなた、本当に何者なんですか」

「何者、か………」

「オレはあなたからフレア団、フラダリと同じ匂いがした」

「…………間違っちゃいねぇな。裏社会で生きているのは確かだ」

 

 フラダリと同じ匂いか。

 なんかやだな、あいつと同じ匂いとか。

 …………加齢臭とかそっちの匂いじゃないよね?

 俺、この歳で加齢臭とかごめんだぞ?

 

「………メガシンカ、複数同時にできること知ってたんですね」

「まあな。キーストーン一つに対してメガストーンが一つ反応するんだし、その考えに行き着くだろ」

 

 ……………。

 一つの話題が短すぎない?

 俺が答えたらその先が全くないんですが………。

 

「……………」

「……………」

 

 とうとう会話の内容も尽きたようだ。

 ま、俺から話すことなんてないしな。エックスも昔の俺に似ていると誰かさんから評されているくらいだし、人との会話なんて苦手なんだろう。

 分かる、分かるぞその気持ち。

 

『サイカ選手、とうとう残り一体になってしまったぁぁぁあああああああああ!! 強い、強いぞ四天王!!』

 

 中央にある柱に取り付けられた大画面の液晶画面にはトツカが映し出されていた。

 その画面の左右の柱にも液晶画面が取り付けられており、四天王と思われる相手選手を映し出している。

 おそらく反対側にも画面があり、柱の四面にそれぞれ二つずつトツカと四天王を写しているのだろう。会場に入られなかった人たちへの配慮かね。

 

『お願い、ミミロップ!』

 

 トツカの最後の一体はミミロップか。まあ、メガシンカを使えるんだし、切り札だよな。

 

『ミミィ!』

『いくよ、ミミロップ。メガシンカ!』

『おおっと、ここでメガシンカ! サイカ選手、巻き返しなるか!』

『メガシンカ………いいでしょう。四天王として、その実力を受け止めるとしましょう。戻りなさい、ブロスター。カメックス!』

 

 カメックス?

 四天王の切り札がカメックスなのん?

 

『最初から芸術的なメインディッシュを味わっていただきましょう。カメックス、メガシンカ!』

 

 そうみたいだわ。

 これはあれだな。カントー御三家のメガストーンってのは至る所に転がっているってことなんだろうな。ということはフシギバナのメガストーンも結構あるということか。誰かフシギバナ連れてる奴はいないのかね。こっち来てからメグリ先輩のフシギバナしか見てないぞ。

 

「あ、あの変態博士が育ててたな………」

「変態博士………?」

「プラターヌ博士だよ」

「………なんで変態なんですか。まあ、分からなくもないですけど」

「多分その想像であってると思うぞ」

 

 あのしつこさは変態の領域に達してると思う。

 

『ミミロップ、グロウパンチ!』

『カメックス、こちらもグロウパンチ!』

 

 どちらも一進一退の攻防を繰り広げている。

 

『お次は私から参りましょう。カメックス、ロケットずつき!』

『ミミロップ、おんがえし!』

 

 殻の中に籠もったカメックスが発射し、それに向けてミミロップも走り出した。

 二諦の衝突とともにカメックスの頭が現れ、ミミロップの身体と押し返し、弾き飛ばした。

 

『ミミロップ、かげぶんしん!』

 

 飛ばされながらミミロップは影を作り出し、カメックスを取り囲んでいく。

 

「どう思う、このバトル」

「………別に、何とも。まだどこが悪いかとかは。初めて見るバトルですし」

「なら終わった後にでも感想を聞かせてもらおうか」

「随分と上からですね」

「チャンピオンよりも偉いからな」

 

 だって実際に偉いし。その分、責任とかすげぇ重たいんだからな!

 

『カメックス、ハイドロポンプ、連射!』

『ガメースッ!』

 

 背中と両腕の砲台を駆使して、ミミロップの影を次々を消し始めた。

 

「あの、結局さっきの黒いポケモンってなんだったんですか?」

「黒いポケモン? ああ、ダークライのことか」

「ダークライ………?」

『りゅうのはどう!』

 

 影に紛れて飛ばされたところとは対面の場所に移動していたミミロップに、カメックスの背中と両腕の砲台から撃ち出された三色のエネルギー体が絡み合い、竜を模した形に変わった波導が正確に突き刺さった。

 

「シンオウ地方に伝わる伝説に名を残すポケモンらしい。いるだけで寝ている奴に悪夢を見せるんだとよ。あいつ自身、苦労してるみたいだぜ」

「なんでそんなポケモンを普通に連れてるんですか」

「俺が初めて旅に出る前に会ってな。それ以来の付き合いだからもうかれこれ六年以上は付き合いがあるな。一度たりともボールに入れたことはないが」

「でもさっきの人はあの黒いポケモンに命令を出し、過去にはボールに抑えて、そのボールを今でも持っていると言っていた」

「ああ、そうだな。さすがに俺も驚きで顎が外れるかと思った。あいつのことは今までずっと野生のポケモンだろばかり思ってたからな。まあ、でも。これでボールに入ろうとしない理由は理解できたさ」

『いかがでしょう。特性メガランチャーによる強化されたりゅうのはどうは』

『くっ………強い』

 

 さすがは四天王。一撃の重さが段違いである。

 

『ミミロップ、突っ込んで!』

『カメックス、迎え討ちなさい。ハイドロポンプ!』

『かげぶんしん!』

 

 体勢を立て直して走り出したミミロップに向けて、背中と両腕の砲台を一点に集中させるように中央へ押し出し、水砲撃を発射した。連続で撃ち出される水砲撃を影を囮に躱していき、距離を詰めていくが、近くなるほど躱すのも限界が近くなってきているようで、時折肩に掠めているのが画面に映し出されている。

 

『ミラーコート!』

 

 とうとう躱しきれなくなったタイミングで、まさかの返し技を選択。

 恐らくこれを狙っての突撃だったのだろう。

 威力が二倍になって返ってきた水砲撃に飛ばされていくカメックス。自分の技で吹き飛ばされるというのはどんな気分なんだろうか。

 

『な、なんと、ミミロップ! 近距離からのミラーコートでカメックスのハイドロポンプを押し返し、カメックスを吹き飛ばしたぁぁぁあああああああああっっ!!』

「………なるほど、近距離からのミラーコートか。あの距離なら反応は無理だ」

「どうだ? お前はまだやったことのないバトルスタイルだろ?」

「はい、オレのポケモンはあまりああいうのは得意じゃないので」

 

 やっぱこいつも図鑑所有者である前に一人の少年なんだよなー。

 自覚はないみたいだが、さっきから目がキラキラしてるぞ。

 

「俺もやったことはないな。あれはトツカが武器にしている戦法だ」

「あの人、知り合いなんですね」

「まあな。今回の大会には俺の仲間がこぞって集結してるんだよ」

「あなたが裏で手を引いたんじゃないですか?」

「バッジも集められず予選敗退で終わるようなら、本戦に出たところで何もできないまま終わるだろうが。そういう奴らが出てきてないってことは俺は裏から手を回してない証拠だ」

 

 俺が手を回さない限りは本戦で雑魚が出てくるようなことはない。今の所誰も雑魚と判断されるような選手は出てきていない。

 まあ実際、裏から手なんて引いてもいないんだし、いるわけないよな。

 

「………でもこの勝負。四天王の方が勝ちますね」

「どうしてそう言える?」

「今のでカメックスが戦闘不能になっていない。なら、負けたも同然でしょ。後にはまだ二体、ブロスターともう一体が控えてますし」

「………さすがはメガシンカの申し子だ。さて、帰るか」

 

 バトルが終わる前からすでに展開は読めるのか。

 かつてジュニアチャンピオンに上り詰めたって話もじじいらが言ってたっけ。

 バトルの先を読むことくらい朝飯前ってか。けど、それは公式戦に限る、ってのがつくんだろうなー。

 

「見ないんですか?」

「ばっかばか、見たいに決まってんだろ。けど、ジュカインを回収しに行かねぇと」

「そういえば、さっきスピアーに突き落とされてましたね」

「だろ?」

 

 今頃ジュカインはどうしてるのだろうか。

 はっきりと覚えてはいないが、スピアーとの戦闘に負けたのは知っている。

 リザードンが暴走して、俺も一緒に呑まれた時に気を取られて、その一瞬を突かれたのだろう。

 

「……………やっぱり、オレはあなたを全面的に信用はできないですね」

「今はそれでもいいさ」

 

 




行間(使用ポケモン)

トツカサイカ 持ち物:キーストーン
・ミミロップ ♀
 持ち物:ミミロップナイト
 特性:じゅうなん←→きもったま
 覚えてる技:とびひざげり、ほのおのパンチ、シャドーボール、たがやす、ミラーコート、とびはねる、からげんき、スカイアッパー、グロウパンチ、ともえなげ、おんがえし、こうそくいどう、かげぶんしん


ズミ 持ち物:キーストーン
・カメックス ♂
 持ち物:カメックスナイト
 特性:???←→メガランチャー
 覚えてる技:ハイドロポンプ、ロケットずつき、りゅうのはどう、グロウパンチ

・ブロスター ♂


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19話

追記:案の定仕事やUSMをやっていたら中々書けませんでした………。来週には投稿します。


『おい、こらバカやろう!』

 

 げっ、ヤドキング………。

 人混みに紛れながら会場の方に戻ると、ヤドキングが待ち伏せしていた。その傍らにはジュカインがぐったりとしている。どうやらヤドキングがジュカインを回収したらしい。

 

「んだよ、俺も結構ヤバいんだぞ。今にも倒れそうだ」

『さっさとボールに戻せ!』

「はいはい。お疲れさん、ジュカイン。遅れてすまんな」

 

 ヤドキングに急かされながら、ジュカインをボールへと戻してやる。

 

「どうした、エックス」

『ポッポが豆鉄砲くらったような顔をしているぞ』

「あ、いや、ゼルネアス以外にも会話のできるポケモンがいたんだなって」

 

 ………いや、ゼルネアスと会話してることの方が驚きだわ。

 ちゃんと見たことないが、ゼルネアスとやらもテレパシーが使えるんだな。

 

「エスパータイプの中にはテレパシーを習得してる奴もいるからな。伝説のポケモン以外にもテレパシーを使って会話をできるポケモンは結構いる」

 

 …………あれ? ゼルネアスってエスパータイプだっけ?

 

『うむ、オレっちもイロハと話したいがために猛特訓したのだ』

「お前の動機なんか聞いてねぇよ。なんだよ、その下心満載な動機は」

 

 こいつは…………。

 どこまでも欲望に忠実に生きやがって。

 

『いいではないか! オレっちの未来の主と話してみたいと思うのは普通のことだろうが!』

「はいはい、ペドキングだもんな」

『オレっちをロリコン扱いするな!』

「ほら、エックスが引いてるぞ」

『さっさと誤解を解け! オレっちはイロハがいいのであって、ロリコンなのではない!』

「それはそれでって感じの目をしてるぞ?」

『ぬぁぁぁっ!? どうしてくれるんだ!』

 

 うん、ヤドキングをいじるのは楽しいな。

 こうやってポケモンと会話するというのも新鮮で、ネタがポンポン思いついてしまう。

 

「まあまあ、落ち着けペドキング」

『イロハぁぁぁああああああっっ! 助けてくれぇぇぇっ!!』

「何をやっているのかしら、あなたたちは」

「「『……………』」」

 

 ……………………………まあ、そう長くは続かないよな………。

 背中がめっちゃ冷たいんですけど!

 

「帰る人たちの邪魔になるから他所でやってくれないかしら?」

 

 ヒュォォォオオオオオオオオオッッ! と雪山に吹きそうな風が吹いたような気がした。

 

「あ、エックス! もう、いきなりどこ行ってたのよ!」

「………別に」

「ヒッキー! 全然帰ってこないんだから! 心配したんだからね!」

「お、おう、すまん」

 

 冷風に煽られていると今度は俺もエックスも取材班に囲まれた。

 

「というかお兄ちゃん、なんかボロボロになってない?」

「あ、あー、まあ、いろいろあったからな」

「ハチマン、この喋るヤドキングなに?」

『なにとは失礼な! どこからどう見てもヤドキングだろうが!』

「あら〜、校長のヤドキングじゃない。イロハちゃんはどうしたの?」

『一時待機なのだ!』

「…………エッP、この人たちは………?」

「………三冠王とそのお仲間さん」

「でも中心にいるのって………」

「明日になれば分かるよ」

 

 さて、こいつらどうしたものか。心配させたのは悪かったが、一体何をどう話したものやら。説明しないなんて選択はないだろうし。言わなきゃ吐かされる。

 

「エックス………?」

 

 幼馴染ズに質問責めにあっていたエックスが何故かフラッと俺のところに流れてきた。

 

「コルニさんたちの話も含めて、あなたが敵ではないことは分かりました。でもオレはあなたを全面的に信用することはできない」

 

 え、なに? それを言いに態々きたわけ?

 

「別にそれでいいんじゃねぇえ………のっとと」

 

 うおっ、なんか急に足の力が抜けやがった。

 

「大丈夫か?」

「すんません、ちょっと疲れることがありまして」

 

 ヒラツカ先生がいなければ変な体勢で地面に倒れてたぜ。骨折もありえたかもな。

 

「…………無茶すると死にますよ」

「そうだな」

 

 先生の肩に腕を回され担がれるように立ち上がる俺にエックスが忠告してきた。

 今回は本当に無茶をすると俺は死ぬかもしれない。あのリザードンの暴走が然り、ロケット団が然り、サキの言うどっかからやってくるという奴らが然り。

 フレア団の方が幾分か単純だったように思えてくる。それくらいには何かとてつもないものが一気に押し寄せてきそうで、正直怖い。

 

「それじゃ」

 

 言うだけ言ってエックスは言ってしまった。他の四人もエックスを追いかけるように走って行ってしまう。だが、その先にはなんか見覚えのあるローラースケーターが手をブンブン振り回していた。横には老人もいる。

 

「あいつら、こっちに来てるのかよ。ジムの仕事しろよ」

「あははは………、コルニちゃん相変わらずだね」

 

 一行が歩き出すと何故か振り向いてあっかんべーと喧嘩を売ってきやがった。

 

「ほんと、相変わらずね………」

 

 それにはユキノも呆れたようで、こめかみに手を当てている。

 

「………アンタ、顔色悪いね」

 

 うおっ!?

 いきなりなんだよ。びっくりするだろ。

 ってか誰だよ。

 

「あ、さっきバトルしてた人!」

「お花屋さん、だっけ?」

「あたしが作ったオレンと七種の実の特性ジュースをやるよ」

 

 ほれっとボトルに入ったジュース? を投げてきた。

 えっ、これ何入ってるわけ………?

 毒とか入ってないよね?

 

「…………その赤いフード………もしかして…………」

「マグマ団ね」

 

 ………毒か、毒入りなのか!?

 メグリ先輩の驚きに、ユキノが静かに答えた。

 

「へぇ、あたしのこと知ってんだ。つっても今のあたしはマグマ団じゃないけど。バトルといったらこの衣装だし、カロスならマグマ団を知る奴もいないと思ってたけど、予想は外れるもんだね」

 

 プーと口から風船のように何かが膨らんで出てきた。

 風船ガムか?

 それにしても中々のプロポーションである。マグマ団の団服らしいが長スリットから覗く生脚が妙にエロい。フードも摂ればかなりの美女だろう。

 

「俺たちはカントー出身だからな」

「なるほど、そりゃ知っていてもおかしくはない………のかね………。あたしは………この格好だしカガリと名乗っておこうかな」

「カガリ………ッ!?」

 

 これまで驚きを見せなかったユキノが急に反応を示した。

 パックの蓋を開けて特性ジュースとやらの匂いを嗅いでみる。特に異臭はない。

 

「ゆきのん、知ってるの?」

「ええ、ホウエン地方に陸を増やそうとして失敗し、大災害をもたらした組織の幹部の名前よ」

「マグマ団、聞いたことがあるな。それに似たような組織もあったはずだ」

 

 おっと、先生もマグマ団を知っていたのか。まあ、ホウエン地方を始め、世界中に大災害をもたらしかけた連中だからな。

 

「それってアクア団のこと? あたしらマグマ団がアクア団と同時に大災害をもたらしたのは事実だよ、ま、それを止めるために奮闘してあたしは死んだ、はずだったんだけどね。どうしてか生き残っちまったよ」

 

 思い切ってぐびっと一口飲んでみた。………うん、悪くはない。というかサッパリしている。

 ………ホウエン地方で活動していたマグマ団の幹部、ねー………。

 

「ホウエン地方………、マグマ団………アンタ、ホウエンのバカップルって知ってるか?」

「あっはっはっはっ! まさかそのフレーズが出てくるとはね。いや、うん、もちろん知ってるよ。こうしてあたしが生きてるのもルビーのおかげだろうしね」

 

 どうやら旦那の方とは面識もあるようだ。

 

「それで? そんなアンタが俺たちに何か用か?」

「別に、ただアンタが今にも倒れそうなくらい顔色が悪かったから声をかけただけだよ」

「そりゃどうも」

 

 礼を言いながらぐびぐびジュースを放り込んでいく。じんじんきたきたーっ、的なことはないが、体の中がサッパリしていくのが分かる。これ、意外とすげぇ飲み物なんじゃ………。

 

「んじゃ気をつけなよ。見たところ、アンタも『ルビー』と同じ体質のようだし」

「『ルビーたち』、じゃなくてか?」

「ルビーはトラブルに巻き込まれる上に女泣かせだろ?」

「「「ああ………」」」

「なぜそこでお前らが頷く」

 

 俺も女泣かせって言いたいのか?

 そんなことない…………ことも………。

 

「あら、心当たりがないなんて言わせないわよ?」

「いや、まあ唐突に動いたのは悪かったけどよ。何が起きてるのか確認しねぇと立場的にもダメだろ」

 

 うん、心当たりがすげぇありまくる。今さっき言われたところだし。

 

「確認だけなら誰も咎めないわよ」

「そうだよっ! 確認しに行ってボロボロになって帰ってきたら、そりゃあ誰だって心配するよ!」

 

 ちょいおこなユキノに服の裾をがっちりつかんでくるユイ。

 どうしようか…………。

 

「トツカ、ヘルプ!」

「あーあ、ハチマンに僕のバトルを見ていてほしかったなー」

「ぐはっ!」

 

 やめて!

 その目が一番ダメージデカいのよ!

 

「だから、罰として何があったのか全部教えてね」

「イエスマム!」

「………ハチマン、キモい」

「んぐ………」

 

 ルミルミ辛辣。

 だって、仕方ないだろ。トツカだぞ? 天使だぞ? 天使の言うことは絶対なんだぞ。

 

「さて、負けたことだし、帰ってコンテストの準備でもしますかね」

 

 それだけ言ってカガリは立ち去ってしまった。

 この特性ジュースのレシピを教えてほしかったんだがなー………。

 

「…………」

 

 うーん、さっきから何か違和感を感じる。いつもだったらちょっかいを出してきては引っ掻き回す誰かさんが……………。

 

「………姉さん?」

 

 ユキノも違和感を感じとったらしい。

 当の違和感の正体は一人距離を開けて立っていた。今日は早く終わったのかまだまだ日が高く、夕日を背景に、なんては言えない情景だ。

 

「おい、ヒキガヤ………?」

 

 先生の肩から腕を解き、ゆら〜りゆら〜りハルノさんの前まで歩いていく。

 ま、どうせボロボロになった俺を見て昨日のことを連想したんだろう。相手としては間違っちゃいないが、目的はどうやら違うようですよ。

 

「………色違い 瞳の奥の 伝説や 嘘か真か 幻影の覇者」

 

 ふと思い出した詩歌。

 自分が見ている世界が本物なのかという問いかけを、ハルノさんも連れているゾロアークで比喩した詩歌である。

 

「………な、なによ、急に」

「いえ、別に。ただ、ハルノさんには現実が見えてるのかなと」

 

 この歌をハルノさんが知らないことはないだろう。そしてこの歌の意味することも。

 

「失礼ね。見えてるわよ」

「そりゃ、よかった。なら帰りましょうか」

「………もう、フラフラじゃない。肩貸してあげるからしっかり歩きなさい」

 

 俺に顔を見られないような絶妙な動きで腕を掴まれ、肩に回されていく。そのまま歩き出したハルノさんだが、耳が真っ赤である。

 

「ありがとう、ハチマン。でも、ごめんね………」

 

 消え入りそうな声は、波乱の予感がした。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「さて、みんなに話す前に何があったか洗いざらい吐いてもらおうじゃない」

「ねぇ、なんで俺は壁ドンされてんの?」

「やってみたかっただけよ」

「躊躇ねぇな………」

 

 えー、あれからリザードンとジュカインを回復させるべく、みんなとは別れてポケモンセンターに来たわけなのだが。

 リザードンたちの回復が終わると何故かユキノに壁ドンをされているというね。待っている間に俺も自称カガリからもらった木の実ジュースを飲んで復活を遂げた。あ、なんかこう言うとかっこいい。

 ちなみにハルノさんとメグリ先輩は今日の戦績の記録を取りまとめる作業が残っているということで、俺とユキノをポケモンセンターに残してポケモン協会の方へ赴いている。

 

「………あまりときめきがなかったわね。やっぱり私はハチマンに壁ドンされる方が嬉しいわ」

「ねぇ、よくこんな公衆の面前でそんなこと言えるな。俺はさっきから周りの目が怖いんだけど」

 

 うーん、と深く考え込みながら歩き出したユキノを追い、外へと出る。

 ようやく肩を借りなくても一人で歩けるまでには俺も回復した。

 

「あら、周りなんかどうでもいいのよ。私たちには私たちの世界があるんだから」

「ちょっとー? 危ない人みたいな発言やめてくださいますー? 本当に危ない人としてしょっ引かれるぞ」

 

 スタスタと歩くユキノの横に並んだけど、これちょっと距離あけた方が身のためではなかろうか………。

 

「それで、体の方はもういいの?」

「ああ、さっきの元マグマ団には感謝だな。あの木の実のジュースのおかげで力が湧いてきた」

「………全く、心配するこっちの身にもなって欲しいものだわ。毎回心臓に悪くて、いくつあっても足りないくらいよ」

「へいへい、俺が悪ぅございました。俺も何がなんだがよく分かっちゃいねぇ………」

「あなたが分からないことなんて、私にも分からないわよ」

「そりゃそうだろ。俺が上手く説明できないんだ。ユキノが理解できるとは思えない」

 

 ほんと、マジであれはなんだったんだろうな。

 

「………それでも聞くわ」

「説明に文句は言うなよ」

 

 くわっと顔を上げてきたその目には何かを覚悟したかのような色が見えた。

 ここまで言われたら、俺も言わざるを得ないので仕方なく新高給を始める。

 

「すー……はー………、リザードンが暴走してゲッコウガのように俺と視界を同調させてきたが、なんか俺まで暴走しかけた」

「えっ………?」

 

 スタスタと歩いていたユキノの足が急に止まった。急に止まるからちょっとビビった。

 

「ほら、やっぱ「もう一回言って」り………、だからサカキのスピアーに攻撃されたリザードンが暴走して、ゲッコウガがメガシンカを習得するために俺と視界を同調させたように、リザードンも視界を同調させてきたかと思ったら、俺まで暴走しかけたんだって」

「うそ………、でしょ……………また、あの力が………」

「はっ? えっ、なに? お前、知ってる感じ?」

 

 わなわなと震えだすユキノ。

 なんか思い当たる過去があるらしい。

 

「おーい」

「…………………」

 

 トリップを始めたのか、全く反応がない。

 

「ユキノさーん?」

「………まさか『レッドプラン』って…………」

「はい?」

「ハチマン、その力に呑まれちゃダメよ。あれはいずれ二人の身を滅ぼすわ。次は、記憶だけじゃすまないかもしれないのよ」

 

 ………ん?

 記憶………?

 最終兵器吸い取った反動で記憶の大部分を失ったが、それ以前に記憶がなくなってたのって………。

 

「………それ、ハルノさんは知ってるのか?」

「ッ………姉さん、まさか!?」

「お、おい」

「ハチマン、急ぐわよ。姉さんがバカな考えを起こす前に止めないと」

 

 急に走り出すなよ。

 

「俺まだロケット団に襲われたって言ってないんだがな………」

「昨日の今日よ。タイミングが良すぎるわ。あれだけ警戒していた姉さんなら、ロケット団に結びつけてもおかしくないもの」

「そんな単純な人だったか?」

「………何があったのかは分からないわ。でもロケット団に対して異常なまでに反応を示してる。しかも自分の作った計画が悪用されて被験者となった人が目の前にいるのよ。その被験者や私たちが狙われるともなれば、いくら姉さんでも罪悪感や責任感を強く感じてしまうでしょうね」

 

 まあ、ボロボロな俺を見て静かだったからな。

 

「………分かった。取り敢えずポケモン協会だな」

「ええ」

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「メグリ、退きなさい!」

「いやです!」

「私に逆らうつもり?」

「今のはるさんは私の上司じゃありません!」

「そう、だったら力尽くでもいかせてもらうわよ! カメックス、バンギラス!」

「フシギバナ、エンペルト、お願い!」

「カメックス、あまごい!」

「エンペルト、バンギラスにアクアジェット!」

「バンギラス、かみなり!」

「フシギバナ、はっぱカッター!」

 

 おいおい、どうなってるんだ?

 ポケモン協会に戻ってきてみれば、通路でなんかバトルが始まってんだけど。今は誰もいないし来ないだろうけど、客がいたらいい迷惑だぞ。

 

「はるさん、さっきヒキガヤ君に嘘つきましたよね。遠回しに忠告してたのに」

「そんなこと、分かってるわよ。そういうところに鋭いのがハチマンだもの。でも今回ばかりはそうもいかないわ。またハチマンを巻き込んでしまえば………」

「顔を向けられない何かがあるのは分かりますよ! 何年の付き合いだと思ってるんですか!」

「だったら、黙って行かせなさい! ハチマンが死ぬ可能性だってあるのよ!」

「だからこそじゃないですか! ヒキガヤ君の凄さは私よりもはるさんの方がよほど知っているはずです!」

「知っているからこそよ! 無自覚だけど彼は他人を優先に考える生き物だわ。そのハチマンが今回はターケットなのよ!」

「何を証拠に言えるんですか! まだヒキガヤ君から何があったのかも確かめていないってのに!」

「証拠ならあるわ! 今カロスにはロケット団が来ているのよ。それに見たでしょ、ボロボロのハチマンを。ハチマンはロケット団のボス、サカキのお気に入りよ。………もう分かるでしょ!」

「それこそ本人に確かめるべきじゃないですか」

「できるわけないじゃない! 全部私が悪いんだから!」

「それじゃ半年前と同じじゃないですか! 結局、何もかもを自分のせいにして、勝手に責任を感じて! 一人で突っ走って!」

「同じでも同じじゃなくてもこれは私が解決しなきゃいけない問題なのよ! ハチマンだけじゃない。ユキノちゃんにだって関わってくることなんだから!」

「はるさんの分からず屋! 行くよ、フシギバナ。メガシンカ!」

「カメックス、こっちもメガシンカよ!」

 

 うわー、とうとうメガシンカまでしちゃったよ。

 というかユキノさーん? 体力ないにもほどがあるだろ。しかも無駄に俺に寄りかかって息を荒くして。こんな時でもなければ思わず抱きしめちまうだろうが。他では絶対やるなよ。

 

「フシギバナ、ハードプラント! エンペルト、ハイドロポンプ!」

「カメックス、じわれ! バンギラス、はかいこうせん!」

 

 げっ!

 ここでそんな技ばかり使われたら建物がいくつあってもありねぇっての!

 

「ダーク………チッ、いないか。エンテイ、せいなるほのお!」

 

 くそ、こんな時に限ってダークライはいねぇし。まあ、トレーナーが現れたんだからそれが普通か。逆に今までなぜ俺といたのか不思議でしかない。

 

「「えっ!?」」

 

 突然のことに驚くお二人さん。

 

「やるならせめて外でやってくれませんかね」

「ハチマン!?」

「ヒキガヤ君!?」

 

 炎に飲み込まれて意気消沈しているポケモンたちを他所にトレーナー二人がこっちを向いてきた。

 

「って、おい、ユキノ?」

 

 すると俺の腕の中からするっとユキノが抜け出し、スタスタとハルノさんの方へと行ってしまった。

 そしてパチンッ! と。

 頬を叩いた。

 

「ッ………、なに、するのよ」

「なにするのよ、はこっちのセリフよ」

 

 あ、オニノシタになってるわ。

 今度は姉妹ゲンカに発展するのかなー。やだなー、怖いなー。

 

「勝手な妄想で動かれてはこちらもいい迷惑だわ」

「妄想じゃないわよ!」

「ええ、そうね。確かにハチマンを襲ったのはロケット団。サカキよ。それに恐らく姉さんの言う『レッドプラン』なるものが深く関わっている可能性だってあるわ」

「だったら!」

「だったらなぜ止めるのか、かしら? そんなの当然じゃない。姉さんも結局ハチマンと同じよ。自分の身を汚して、省みないで突っ走る。半年前と何も変わってないわ。駄々をこねるその姿、醜いだけよ」

「ッ!?」

「ほら、やっぱり現実が見えてないじゃない」

「あうっ!?」

 

 相当頭に血が上っているのか、いつもの冷静さが全くなくなっている。ユキノの口撃にも過剰に反応をしているし、およそユキノシタハルノとは思えない姿を醸している。

 だからなのか俺が近づいても一向に気付く気配がなく、後ろからチョップを入れることができた。

 

「痛い痛い痛いっ、あうっ」

 

 二発三発四発とまるでリズムを刻むように繰り返し、最後にデコピン。

 

「なん、なのよ〜」

 

 デコピンが効いたのか、後頭部を抑えてこっちを向いてきた。

 目はすでに涙目である。

 

「全く………、狙われる本人よりも過剰になりすぎでしょ。危機感とかのレベルを通り越してるぞ」

「ふぇっ」

 

 覇気も抜けてしまったハルノさんを胸の中へと引き込んだ。

 

「なあ、ハルノ。昨日も言ったけど、俺は別にこんな体にしたハルノを見捨てる気は毛頭ないぞ?」

「………だからじゃない。こんな優しくされたら、余計に………苦しいわよ」

 

 ぎゅうっと俺の背中を掴んできた。

 ーーああ、そうだ。罪悪感とか責任感ってのは優しくされればされるほど、膨らんでいくんだったな。悪いことをしたやつに罰を与えるのは、その均衡を保つため。俺は逆に罪悪感や責任感を増幅させちまってったってことだ。

 

「だったら罰でも受けてもらおうか」

「………今更罰なんて………」

「ハルノの人生は全部俺のものな」

「「「えっ?」」」

 

 誰だよこれ。

 絶対俺じゃない。俺じゃないったら俺じゃない。こんなハヤマが言いそうな言葉を俺が言う日がやってくるとか…………。

 

「そ、それって………」

「あわ、あわわわわっ」

「一生俺に奉仕するんだ。どうだ、重い罰だろ?」

「………重いにもほどがあるわね………。要はそれ結婚じゃない」

「ばっかばか、メイドという選択もあるだろうが」

「姉さんの目を見てそれ言える?」

「……………」

 

 無理だよ。メイドという言葉に今にも泣きそうになっているし。というか罰なのに喜ばせるって、もうそれ罰じゃなくね?

 

「それに正妻である私には一度も言ってくれたことないじゃない」

「はっ? だって言う必要ないだろ。ユキノは俺の正妻なんだろ?」

「…………意味が分からないわ」

「だから、ユキノはすでに俺の嫁になってんじゃん」

「ぁぅ……………」

 

 ユキノ、轟沈。

 

「で、だ。夫婦ってのは隠し事はない方がいいと聞く」

「卑怯よ………それ」

「だって罰だし」

 

 これからは俺も二人に隠し事が出来なくなるわけだ。まあ隠すようなことなんてもうないんだが。覚えてないんだから話しようもないし。

 

「………もう好きにしなさいよ。私の負けよ、バカハチマン」

 

 ハルノ、轟沈。

 

「そんじゃ、まずはその口で約束してもらいますかね」

「「な、なにを言わせるつもり………?」」

「決まってるだろ。『もう勝手に一人で動いたりしません』って」

「だったら、あなたも約束しなさい。じゃなきゃ言わないわ」

「ああ、いいぞ。と言っても今回みたいなのはどうしようもないが」

「まあ、今回のようなケースは見逃してあげるとしましょう」

「………なんか、俺が誓わされる形になってない?」

「気のせいじゃないかしら」

「この正妻、恐るべし………」

 

 なにこの有無を言わせない圧力。さっきまで顔を真っ赤にして轟沈してたくせに復活早すぎるでしょ。ハルノなんかまだ俺の胸に顔をぐりぐり押し付けてるぞ。

 

「勢いで嫁が二人できましたけど、どうしましょうか。メグリ先輩」

「本気のヒキガヤ君がいろんな意味で怖いよ………」

 

 ひとまず、これからのことを話す前に誓いの言葉を言うことになった。

 こうでもしなや、俺もハルノも一人でやっちゃうタイプだからな。言ったところで一人で動く可能性すら否定できないし。

 ええ、ええ、極力善処しますとも!



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20話

「頰が痛い………」

「謝らないわよ、姉さんが悪いのだから」

「ハチマン、ユキノちゃんが冷たい」

「アホなこと考えた罰だ」

「ハチマンも冷たい………」

「あっははは………」

 

 とか言いながらちゃっかり俺の腕を奪って自分の胸へとまわしている。なんでこんな俺がハルノを包み込むような態勢なんだと思わなくもないが、右腕にすごく柔らかい感触があったりなかったりで………。

 

「ひゃぅ……!?」

「………シロメグリ先輩、今すぐ警察を呼びましょう」

「もう番号打ち終わってる!?」

「ま、待て、ユキノ! 俺は悪くない!」

「この状況でよく言えたわね。痴漢、変態、色情魔」

「なんで罵倒が棒読みなの?!」

「はは~ん、ユキノちゃんも揉まれたいんだー?」

「そそそ、そんなことあるわけないじゃない…………………姉さん、みたいな…………くっ」

 

 段々と視線が下がっていったかと思えば、ユキノがいきなり地面に土下座した。

 イッタイナニヲオモッタンダロウナー。

 

 

 閑話休題。

 

 

「それで、さっきの話の続きをしてくれるのでしょうね?」

「………そうだな。コマチたちに話すにしても三人には先に話しておいた方が要点がまとまるか」

 

 姉妹での格差社会を改めて思い知らされたユキノも復活したことで、ようやく本題に入った。あれはなかったことになってるのね。

 

「気づいてるかは知らんがカワサキのバトル中、南の空に亀裂が入っていた。さすがに空が破れているなんてのは異常事態だからな。ポケモン協会のトップとして仕方なく確かめに行ったんだ。ただ異変に気付いたのは俺だけじゃなくて、エックスーー五体同時メガシンカを成功させた奴もいてな。二人で空に向かったところにサカキ、それとマチスとナツメの元祖ロケット団に出くわしたってわけだ」

「………空が破れる………? それって………」

「何か心当たりがあるのか?」

 

 ユキノが何か心当たりがあるように呟いた。

 

「シンオウ地方の伝説に名を残す世界の裏側に住むポケモン………」

「ギラティナね」

 

 さらなる呟きにハルノがそのポケモンを名指ししてくる。

 ギラティナか………。

 

「でも、それならヒキガヤ君も分かるんじゃ………」

 

 確かに考えられるポケモンの一体ではある。あるが………。

 

「世界の裏側…………裏側より来る支配者…………いや、まさかな」

 

 サキという奴が言っていたことと妙に引っかかってくる。嫌な予感しかしない。

 

「可能性としては捨てない方がいいわね。あなたのダークライのダークホールは破れた世界に通じているのでしょう?」

「………何で知ってるんだよ」

「私に教えたことを忘れたあなたが悪いのよ」

「俺が言ったのかよ。覚えてねぇわ」

 

 過去の俺、ユキノに色々と話しすぎじゃね?

 

「それで、どうしてヒキガヤ君がボロボロに?」

「サカキとバトルすることになりましてね。ほぼ強制的に。カントーに帰れって言っても帰ってくれない酷い奴なんですよ」

 

 ほんと、酷い奴だよな。

 帰れって言っても聞かないばかりか、攻撃してくるし。おかげで俺もポケモンたちもボロボロだっつーの。

 

「いや、悪の組織のボスなんだから、それくらいで帰っちゃったら威厳も何もないんじゃないかなー………」

「まあ、メグリったら。ロケット団の肩を持つのね。ポケモン協会の人間として失格だわ」

「えっ?! はるさん?! 今そういう流れだった!?」

「ハルノ、そろそろ真面目にしてないと凍らされるぞ。主に俺とハルノが」

「あら、大丈夫よ。たとえ凍ったとしても私たちの愛の熱ですぐに溶けるわ」

 

 ダメだ。凍るだけではすみそうにない。

 

「…………エンテイに助けてもらおう」

「姉さん? そろそろ本当に凍らせるわよ。ただでさえユキメノコが恨めしそうなオーラを出しているのだから、トレーナーとしてガス抜きをさせてあげないといけないと思うのよ」

「い、いえすまむ………」

 

 さすがにポケモンからの嫉妬には弱いようだ。

 俺の腕からもすーっと離れて、ユキメノコに俺を譲った。いや、それもそれでおかしいとは思うが仕方がないのだ。なんせ空いた胸にすぐに飛びついてくるくらいなのだから。

 どうやらユキメノコにまで心配をかけてしまったらしい。俺は大丈夫だとユキメノコの頭を撫でてやった。

 

「でー、俺がボロボロになったわけなんですけど、リザードンが暴走したんですわ。俺の意識も乗っ取っられそうになるくらい」

「えっ?! 暴走!? 大丈夫だったの?!」

「ご覧の有様ですよ。俺もリザードンもボロボロです」

「………暴走………意識……………まさか!」

 

 あっけらかんと言ってみたものの、メグリ先輩は当然驚くわ、ハルノは考え込むわ、ユキノはユキメノコを羨ましそうに見ているわで、反応がめちゃくちゃである。

 

「えっと、はるさんどうしちゃったのかな?」

 

 急に黙り込んだハルノを不審に思ってか、メグリ先輩が落ち着きを取り戻した。

 この人、切り替え早すぎない?

 

「あー、メグリ先輩は知ってるんですかね………」

「なにを?」

「ハルノが元ロケット団だってこと」

「……………」

 

 木枯らしでも吹くかのように辺りが静まり返った。

 

「ぴゅ、ピュー………」

 

 そして、ギュインとメグリ先輩がハルノに顔を向けると、吹けていない口笛を吹いてごまかしていた。もっとごまかし方があるだろうに…………。なんでよりによって、そんな下手な芝居になってんだよ。魔王様はどこへ行ったんだ。

 

「……………」

 

 あ、こっちにいました。

 メグリ先輩が若干魔王化しつつある。なんか漏れ出るオーラが怖い。

 

「その顔は知らないって顔ですね」

「はるさんと同じチームになって四年経つのに全く知らなかったよ。どういうことですか、はるさん! 説明して下さい!」

 

 やだ、超笑顔なのに超怖い。

 

「だ、だって………メグリったらロケット団の話になるといつも顔つき変わるし………」

 

 うわー、なんかハルノが小さくなっていくぞ。

 見たくなかったなー、こんな風景。

 

「当たり前ですよ! ロケット団が今まで何をしてきたのか忘れたわけじゃないでしょ! カントーでの窃盗や脅迫、恐喝からポケモン殺し、終いにはカントー支配の構想を企て、水面下ではポケモンの改造、新たなポケモンまで生み出し、記録には人体実験や未だに分かっていない実験まで行っていた組織ですよ! そんなの普通に聞いていられるわけないじゃないですか!」

「「………………」」

 

 メグリ先輩の勢いにハルノも押されているが、なんか俺まで呆気に取られている。

 いや、ロケット団に対して当然の反応なんだとは思うが、昔何かあったのかと想像してしまうくらいには口調が強くなった。

 

「はあ………、シロメグリ先輩、落ち着いてください」

「それに忠犬ハチ公が………、ヒキガヤ君がロケット団残党の討伐を決めなかったら、今頃カントーは気づいた頃にはもうロケット団の掌の上だったってことになりかねなかったんですよ!」

 

 ユキノの静止も聞かずに語り続けるメグリ先輩。

 マジで何かあったんじゃないだろうな。

 許すまじ、サカキ。ほんわかめぐりんを返しやがれ!

 

「………そう、なのか?」

「………どうかしらね。そもそもあなたがロケット団残党の案を出したのも元はと言えばサカキの提案ですし」

「だからロケット団………えっ………? ユキノシタさん、今なんて………?」

「なんて、とはどの部分でしょうか?」

「ロケット団残党の討伐を企てたのって、ロケット団ボス、本人………?」

「ええ、そうですよ。サカキがハチマンにその指示を出しました。私もそこにいましたから、この耳でしっかりと聞いていますよ」

「じゃ、じゃあヒキガヤ君も、ユキノシタさんも、元ロケット団………?」

「いえ、そんな単純な話じゃないですよ、私たちの場合。………そうですね、ハチマンのためにも少し昔話でもしましょうか」

 

 な、なるほど。

 勢いが止まらない人にはさらに突拍子もない話をすることで意識がそちらに向いて落ち着きを取り戻すのか。

 しかも今度はユキノが語りだすとは。話の主導権まで奪いやがったぞ。

 

「私はスクール卒業後しばらくして、姉さんがカントーリーグで負けたという知らせを受けました。現チャンピオンが負けたのですから、話題性のあるニュースとして連日報道もされていましたよ。ただこの時、私は姉さんが負けたことよりもその対戦相手に目が離せませんでした。卒業してからずっと行方の分からない人がそこにいたんですから。ねえ、ハチマン」

「あ、え、俺? ま、まあそうか。カントーリーグでチャンピオンとして負けたゃと言えば、対戦相手は俺りゃもんな………」

 

 ちょっとー、いきなり話を振らないでくれますー?

 思いっきり噛んでるんだけど。

 穴に入りたい。

 

「かみかみ………」

 

 ハルノに笑われた。泣きたい………。

 

「その後、姉さんに対戦相手が誰なのか知っていることがバレて、連日迫られ、教えるかわりにポケモン協会に連れて行くよう交渉したんです」

「あったねぇ、そういうことも」

「チャンピオンを倒したトレーナーに協会側がアクションを起こさないとは考えられませんでしたからね。ただ、ショックだったのはハチマンがチャンピオンの座を辞退し、消息が途絶えたということでした」

「…………それってアレか……? シャドーに拉致された………」

 

 あの数日の間に俺の知らないところではそんなことがあったんだな。

 

「ええ、そうよ。私は半年以上カントーやジョウトを飛び回り、できる限り情報を集めたわ。だけど、全くの手がかりなし。ただ一つ見えてきたのはオーレ地方というところで危険なポケモンが出回っているということ」

「………なるほど、だからお前が潜入捜査に来たってわけだ」

「そうよ。でもまさか、あなたがそのオーレ地方にいるだなんて誰も思わなかったわ」

 

 でしょうね。俺自身、信じられなかったし。

 

「えっと………、話が見えないんだけど………」

「ああ、すみません。シロメグリ先輩、オーレ地方と聞いて何か思い出すことってありますか?」

「えー、んー、なんだったかなー。なんか怖いポケモン………が出回っているとか………あっ! そうだ、シャドーって組織がダークポケモンを…………あ………」

 

 自分で口にした言葉で今の話が理解できたようだ。さすがエリートトレーナー。

 

「どうやら繋がったようですね」

「ヒキガヤ君は元シャドーの人間………なんだよね?」

「ええ、それは事実のようですよ。まあチャンピオンを辞退した直後に拉致されて強制労働を強いられていた奴隷ですけどね」

 

 あれでシャドーの団員とみなしていいのか甚だ疑問ではあるが。

 でもまあ、他の団員たちの、特にナンバー2とかのポケモンも育ててたわけだし、シャドーの団員になるか。なりたくもないけど。

 

「じゃ、じゃあロケット団とは敵対する組織だったから、ロケット団のボスとも面識があるってこと?」

「いえ、事はもっと複雑です。私は潜入初日にハチマンにより外に出され、その二日後にはハチマンがエンテイとスイクンを連れてシャドーから脱出してきました。そしてタイミングよく現れたのがロケット団のボス、サカキというわけです」

 

 そもそもロケット団と交流すらあったのかね。脱出後にサカキが現れたわけだし………。深いところの話は末端の俺にはよく分からん。

 

「何か過程に色々聞きたいことがあるけど………………じゃあ、やっぱりそこで二人ともロケット団に………」

「いえ、サカキの狙いは最初からハチマンだけです。私はおまけのようなもの。だから普通に人質に使われ、ハチマンの逃げ道を塞いでしまう材料になってしまいました」

「ほんと、あの時はマジで勘弁してくれって思ったわ。まあ、まさかあれがユキノだとは思っちゃいなかったが」

 

 勝手についてきてたかと思えば、人質にされてるし。ザイモクザ? あいつは伸びてただけだからいいんだよ。動けない奴を人質にするのは逆にリスクが大きいから、サカキが人質に取るようなことはしなかっただろうし。

 

「………あれ? ヒキガヤ君ってスクールの時からユキノシタさんの事知ってるんだよね? 顔とか覚えるの苦手だったり?」

「いえ、ダークライに記憶を食われてたんですよ。最終兵器のエネルギーを吸収するためにほとんどの記憶を代償にして半年、ようやくその頃の話も思い出せるようになりましたが、未だカントーを旅した時とシャドー脱出後に何をしていたのかは全く思い出せないままです」

「………ごめんね。私たちがもっと強ければ………」

 

 それは最終兵器の件についてなんですかね。

 だったらそれは謝罪されるいわれはない。メグリ先輩たちは充分に役割を果たしてくれたし、強力な戦力だったのは確かだ。そもそも俺が別行動をとれたのもコマチやユイ、イロハを守ってくれる存在があったからだ。だから俺に謝るとかまちがっている。

 だが、やはり俺ばかりがボロボロになっているのに責任を感じているのだろう。ならばこう言ってやるまでである。

 

「俺の負担が減らせた、ですか? バカ言わんで下さい。俺たちが強くなったところでダークライの能力が使えるわけでも、最終兵器に対抗できるわけでもないんです。人を凌駕してこそ伝説であり、伝説だからこそ人を凌駕する。それが伝説に名を残すポケモンたちなんですから」

 

 結局のところ、俺がいくら強くなろうが最終兵器を止めるためにはダークライの力が必要不可欠であり、やることも同じであるため負担は何も変わらない。

 

「………やっぱり、ヒキガヤ君は特別なんだね」

「特別なんじゃなくて普通じゃないんですよ。異常と言っていいまである」

 

 ダークライと過ごして六年くらいになるのだろうか。それだけの期間をなんだかんだ共に過ごしてきてようやく身体にも耐性ができてきたのだろう。記憶の一部が残っているのも前回の記憶喪失よりも回復が早いのも、そのおかげなのかもしれない。

 

「ええ、そうね。あなたは普通じゃないわ。誰かさんの計画のせいでね」

「ユキノちゃん………、やっぱり怒ってる?」

「はるさん、何かしたんですか?」

 

 一人だけ、ハルノの過去を聞かされていないメグリ先輩は頭の上に疑問符を浮かべているようである。

 

「その話は後ほど。話を戻すと私を人質にサカキがハチマンに要求したこと、それがロケット団残党の討伐なんです」

「………それって、つまり」

「ええ、仲間打ちをハチマンにさせたんですよ。そしてこれを機にハチマンは忠犬ハチ公と言われるようになりました」

 

 …………それ、体よく使われたってことだろ? なのに周りは俺を忠犬ハチ公呼ばわりする。一体どんなやり方をしたんだよ。同業者から恐れられるって相当のことだぞ?

 

「ひどい………、いくら悪の組織でも自分の部下たちを切り捨てるなんて………」

「それが、そうも言ってられないんですよ。ロケット団残党の討伐と同時期にある騒動がありました」

「騒動………?」

「アルセウス」

「………えっ?! アルセウス!? あのシント遺跡での!?」

「どうやらサカキは自分がいない間にロケット団再興を掲げて動いていた幹部四人を好ましく思っていなかったみたいですよ。まあ、サカキのやり方とは随分と違いましたからね」

 

 へえ、そんなこともあったのか。

 要するにサカキはその四人の幹部が引き連れていたロケット団を解体し、再度自分がトップに立つために俺に内部からロケット団を潰すように仕向けていたってわけだ。

 いちいちやることが汚い奴だ。

 

「以上がロケット団残党の討伐作戦の大まかな経緯です」

「あの、質問いいかな?」

「どうぞ」

「ロケット団のボスはシャドー脱出後にヒキガヤ君を狙って来たんだよね? そもそもヒキガヤ君はどうしてロケット団のボスに目を付けられるようになったの?」

「………それについては姉さんから説明してもらいましょうか。姉さんがハチマンに何をしたのかを」

 

 なんて意地の悪い奴なんだ。

 

「えっ? 私っ!?」

 

 おかげでハルノが委縮してるじゃん。

 姉の威厳が崩壊状態だな。

 

「他に誰が説明するっていうのよ。ハチマンは当時の記憶がまだ回復してないのだし、元々は姉さんの計画を悪用されたのだから、姉さんが一番知っているでしょうに」

「で、でも………」

「さっきの誓いは何だったのかしら?」

 

 妹にとどめを刺される姉貴。

 あいつ絶対心の中でガッツポーズしてるだろ。

 

「………わ、分かったわよ。……………メグリには、その、初めて話すけれど、私は強さを求めてロケット団に入ったわ。どうして悪の組織なんかにって思うかもしれないけれど、当時の私は対等と呼べる対戦相手がいなかったの。孤高の強さはむなしいだけ。そこを突かれてロケット団に勧誘された。………ロケット団で私がしていたのは最強のポケモンとトレーナーを作り出すこと。全部私の欲望の為だけにね。でも、結果は失敗。そのまま表向きチャンピオンとして活動し、暇を持て余していたわ」

 

 確かハルノも俺と同じように特例でスクールを卒業したんだよな。前例があったから俺も特例で卒業できたわけだし。それに昔のユキノはハルノが絶対的な存在だったらしいからな。姉に言われたことは愚直にこなすのみだったのだろう。その一つがハヤマとの毎日のバトルだった、と。

 

「………でもある時、信じられないものが私の目の前に現れた」

「………それがヒキガヤ君、ですか………」

 

 ハルノは黙って首を縦に振った。

 

「………リザードン一体でリーグ戦優勝に王手をかけ、チャンピオンに挑んできた。はっきり言って異常だったわ。中でも最後の方は普通のリザードンの域を超えていたもの………。でもね、同時に気づいちゃったのよ。私が立てた最強のポケモンとトレーナーを作り出す計画、『レッドプラン』の被験者なんだって」

 

 まあ、本人が一番異常だと思ってるからな。強者揃いのリーグ戦にリザードン一体で乗り込んで優勝とか、もはや反則したとしか思えない。

 だから正直、俺が計画の被験者でしたって言われても納得できてしまった。

 

「それで気づかされたわ。私はまた一人、孤高の存在を作ってしまっただけなんだと。でも私の計画は失敗していたはず。だからあれはロケット団のボス、サカキが改良して完成させた作品なんだって」

 

 恐らく、その頃にはすでにカツラさんもロケット団から抜け出してるはずだしな。他にロケット団で有名な科学者なんて俺は聞いたことがないし。となるとサカキ自らが答えを出したってことなのだろう。

 実はあいつも何でもありの奴だったり………?

 

「ここからは二人にもまだ話してないことだけど…………、ユキノちゃんからハチマンのことを知っているだけ聞き出して、計画の改良を図ったの。見返りにポケモン協会へ連れてけなんて言われたりしたけどね。………そして私はサカキがどこを改良したのか、私の計画とは何が違ったのか。…………ユキノちゃんがハチマンを追いかけている間、ずっと計算していたわ。気づいたら二冠達成した強者なんて言われ始めてて、もう驚きよ………」

 

 チャンピオンを辞退してから何をしていたのかと思えば、ずっと『レッドプラン』に縛られ続けてたんだな。

 

「でも同時にピンときてしまったの。ユキノちゃんなら私の計画を実現してくれるんじゃないかって」

「………姉さん、私に何かしたっていうの………?」

「ねぇ、ユキノちゃん。どうしてさっき暴走という言葉で苦い顔をしていたの?」

「そ、それは………ここに来るまでにハチマンから聞いて」

「一度、いえ二度よね。………ハチマンたちの暴走をその目で二度も見てきたから、それにユキノちゃん自身、オーダイルを暴走させた経験があるからその時のことを思い出したんじゃない?」

「ッ!?」

 

 まあ、俺たちの中で暴走を早くに経験しているのはユキノだしな。トラウマが残っていてもおかしくはない。だから苦い顔を浮かべたこともなんらおかしなことではないのだ。

 

「………何かある度にハチマンの側にはユキノちゃんがいた。しかもハチマンの暴走を二度も止めているのよ。………ハチマンに対抗し得る存在としては充分だと思わない?」

「ッ!? ま、さか………?!」

 

 だがハルノはそこに着目したってわけだ。

 暴走を何度も見てきたユキノだからこそ、暴走を止めるすべを知っているはず。その経験が暴走した俺に対抗する手段になると考えて。

 

「ごめんね、ユキノちゃん。こんなお姉ちゃんで。でももう他に方法がなかったのよ。何度やっても私じゃ無理だったし、だからと言ってサカキの思惑通りになっちゃったら、今度こそ危険なの………」

「そんな………そんなの……………はるさん………」

 

 メグリ先輩もようやく言っている意味が理解できたようで、わなわなと口元を覆う手を震わせていた。

 

「………………姉さん、一つだけ訂正させてもらうわ。私はハチマンの暴走を止めたわけじゃない。暴走しかけたハチマンに声をかけたら、落ち着いてくれただけよ」

「そこがポイントよ。私やメグリ、他の誰でもない、ユキノちゃんの声に反応したってこと。ハチマンにとって、あなたはなくてはならない存在なのよ」

 

 いや、それ単にユキノしかいなかったとかっていうパターンなんじゃねぇの。そりゃ確かにユキノは俺にとって大事だけどさ。それを言ったらハルノだって同じだし。

 

「ね、軽蔑するでしょ。自分の欲を満たすための計画を作り、悪用されて、しかも自分で蒔いた種を他人に押し付ける、私は最低な女なのよ」

「………だって。どうする、ユキノ」

「バカね。ほんと大バカよ。そんな大事なこと今まで黙ってるだなんて。でも、これでようやく納得したわ。どうしてクレセリアが私を選んだのか」

「だな。俺を止めるために俺と同じ境遇に堕ちたお前がクレセリアに選ばれるのはある意味必然だよな」

「ええ、あなたにはダークライがいるんですもの。対抗するならクレセリアがいなくては話にならないわ」

 

 そう言うと思ったよ。

 そもそもユキノはなんだかんだ言ってシスコンだし、俺はシャドーで真っ黒な世界を見てきているし、今更ハルノの悪事の一つや二つに驚きはしない。というか魔王要素が残っていたことに安堵したくらいだ。

 

「え、ふ、二人とも………なんでそんな笑って………」

 

 だが本人にとっては予想だにしていなかった状況らしい。

 まあ、罪悪感ありまくりですってオーラ出してるしな。避難されて当然と思ってたんだろう。

 いやはや、ほんとバカな人である。

 

「ハチマンが私を必要としてくれてるみたいだし、私はそうありたいとずっと願っていたもの」

「それに逆に考えてみれば、暴走を超えた先の力をモノに出来れば、さらに強くなれるってことだろ」

「「………………………」」

 

 とうとうメグリ先輩まで呆気に取られてるぞ。

 そんなに意外なことかねー………。

 ま、このまま続けていても話が進みそうにないし、話題を戻すか。

 

「さて、ハルノも全部話せたようだし。話を戻して………、結局何の話だっけ?」

「はあ………、まったく。あなたがどうしてサカキに目を付けられたのかって話よ。まあ、姉さんの話で大体掴めたけれど」

「マジか………、お前ってどんだけ俺のこと知ってるわけ?」

「記憶がない時点で私はあなたよりもあなたのことを知ってるわ」

「逆に怖いんだけど」

「具体的に言えば、ほくろの数から変態的趣味趣向まで………」

「やっぱストーカーだろ。いつほくろの数なんか数える時が来るんだよ。それに変態的趣味趣向は俺にはない」

 

 ほくろの数とかいつ調べたんだ。俺だって把握してないってのに。ゆきのん、恐るべし。

 

「あら、大きい胸には反応するじゃない」

「小さいのも需要はあるんだぞ」

「あなたはどうなのかしら?」

「大きいだけが正義じゃない。感度だって大事だ」

「そう、やっぱり変態的趣味趣向は持ち合わせているのね」

「うぐ………、せっかく人がフォローしようとしてるのに。そんなに小さいのが嫌なら揉めば大きくなるだろ」

「だったらあなたに揉んでもらいましょうか」

 

 いやー、それにしても俺たち成長したなー。

 こんな下世話な話を言い合ってるんだから。半年前はこんな会話、お互い顔が真っ赤になってたっていうのに。時間というものは恐ろしい限りである。

 

「はるさん、この二人でよかったですね………………」

「………うん」

「でも、私は怒ってますからね! こんな大事なこと、今まで一人で抱え込むとか、はるさんは大バカ者です!」

「うん、ごめんなさい」

「………あの一つ聞きたいんですけど、罪滅ぼしのために一生ヒキガヤ君に尽くす、とかって考えてたりします?」

「へっ? それって、私がハチマンを選んだ理由?」

「はい」

「確かに罪滅ぼしって思いもないこともないけど、それ以上にこんな私を時を超えてまで助けてくれたのはハチマンだけだもの。………あれはさすがに反則よ」

「あー………、ヒキガヤ君、君は悪い人だね」

「何を今更」

「ふふっ」

 

 あの時のことを思い出したのか顔を赤く染め上げるハルノを見て、メグリ先輩が俺ににっこり笑ってきた。超いい笑顔だけど、なんか怖い。さっきの笑ってない笑顔がトラウマになってしまったのだろうか………。

 ああ、めぐりんパワーで癒されたい。

 

「さて、本当に話を戻すとして、ハチマンはカントー地方を旅していた時に、サカキと出会ったと聞きました。姉さんの話を照らし合わせれば、この時にハチマンは『レッドプラン』の実験をさせられたのでしょう。以来、ハチマンはロケット団、というよりはサカキから目をつけられるようになったんだと思います」

「やっぱり、記憶が戻らないカントーの旅とシャドー脱出後の話は重要そうだな」

 

 話を戻して、ユキノは俺がいつ『レッドプラン』の被験者になったのか考察してくれた。どうやら肝心なのはカントーの旅の記憶とシャドー脱出後からの記憶らしい。

 後者は恐らくディープな内容なのだろう。だから一度も記憶が戻らなければ記録すらあまり残っていない。書き残したくない、あるいは書き残すことができなかったとみていい。

 ……………あまり思い出したくなくなってきたな。今から思い出すのが怖いんだけど。犯罪に手を染めるようなことをしてないといいが。

 

「そうね、だから早く記憶を取り戻してもらえると嬉しいのだけれど」

「無理言うな。記憶を戻すのはダークライの仕事だ。俺にはどうしようもない。つか、そもそもダークライが今いない」

「はい? それはどういうことかしら?」

「さっき暴走しかけてた時にサキって奴も現れたんだ。しかもそいつはダークライのトレーナーだった」

「っ!? ダークライって野性じゃなかったの?!」

「俺もずっと野性なんだとばかり思っていたんだが、ダークライはそのサキって奴の言うことを普通に聞いていた」

「サキ…………Saque……………っ!! ねぇ、ハチマン。そのサキって奴、どんな感じだった?!」

「な、なんだよいきなり。なんか、血の気のない青褪めた顔つきだったぞ」

 

 フンフフフ、とかいう奇妙な笑い方もしてたっけか。まあ、見た目からして奇妙な奴だったな。

 

「ッ?!」

「ハルノ、大丈夫か………? 顔がどんどん青褪めていってるぞ」

「まさかSaqueまでやってくるだなんて………」

「知ってるのか?」

「知ってるも何も、私をロケット団に勧誘してきた張本人よ」

 

 それはまた………。

 偶然なのか、それとも仕組まれたことなのか。

 どちらにしてもやはり信用できる相手ではないようだ。帰しておいて正解だったな。

 

「………ナツメが裏切り者とも言っていた。それはどういうことなんだ?」

「サキの正式名称はSaqueでサキ。その正体はギンガ団の幹部。ロケット団にはギンガ団の計画を進めるために潜入していたのよ」

「………ギンガ団………。宇宙の創造を目論む組織だったはず………」

「そうよ、宇宙の創造。その為には宇宙を知らなくてはならない。………だから宇宙から来たとされるポケモンを手に入れようとロケット団を動かしていた」

「………デオキシスね」

「カントーのナナシマで事件もありましたね」

「ええ、カントーの図鑑所有者たちの前に裂空の彼方から突如として現れ、次々と事件を起こしていったポケモン。その当事者の一人がSaqueよ」

「デオキシス………裂空………裂空より来る訪問者……………裂空の訪問者………デオキシス………」

 

 これは確定だな。

 サキ改めSaqueはデオキシスを捕獲するために現れたのだろう。裏側より来る支配者というのもギラティナで間違いない。ギラティナはシンオウ地方の伝説であり、ギンガ団もシンオウの組織。

 となると残り一つ。狭間より来る異形者とは誰を指しているのだろうか。狭間だから時空の狭間に住んでいるとされるディアルガやパルキアのことなのか?

 

「ハチマン………?」

「…………待てよ、確かエックスが破れた空に一瞬だけ見たっていう赤い、ポケモン………」

 

 いや、でもそれは考えすぎか。

 そもそも空を破る能力を持っているとは…………持っている………とは………………、あるな。空だろうが地面だろうが裂け目を作る事はできる能力があるじゃねぇか。図鑑所有者の両親を攫ったっていうブラックホールが。

 ダークライのダークホールみたいなものなのか、はたまた別物なのか。

 何はともあれ、これだけは確かだと言える。

 

「…………また厄介ごとが舞い込んできたな」

「厄介ごと、ね………。愛されてるわね」

「嬉しくねぇよ」

 

 フレア団の事件から半年。

 新たな事件が舞い降りてきた。

 

「なんだか頭が痛くなってきたわ。一度みんなのところに戻りましょうか」

「だな。説明しないとあいつら泣くだろうし」

「今回は姉さんが泣かれるから安心しなさい」

「それはそれで面倒だぞ………」

 

 主に俺が相手をしなければならなくなるんだろうしな。



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21話

一つ修正をさせていただきます。
行間の手持ち紹介でハルノの欄にホウオウが、メグリの欄にイベルタルがいたかと思いますが、覚えているでしょうか。これはそれぞれハルノのポケモンであるゾロアーク、メグリのポケモンであるメタモンが作品中で変身した姿ということで記載していました。
しかし、過去にも何人か勘違いをしている人がおり、紛らわしいようなので変身した姿までは載せないことにしました。

以上のことから行間のハルノ及びメグリの欄から変身したポケモンたちは削除してあります。


「ただーまー」

「あ、ヒッキーおかえ………り………。ねえ、なんか四人ともゾンビみたいなんだけど」

「あん? そうか? 俺たちはいたって普通なんだが」

「や、ヒッキーが普通とかありえないから! あんなボロボロになってたんだし! はかせー! お風呂借りますよー!」

「あ、ユイさん。って、お兄ちゃん?! どしたの、そのヤツれた顔。それにユキノさんたちまで」

「別にヤツれてなどいないのだけれど」

「コマチちゃん」

「ユイさん」

 

 二人はコクリと頷き合うと俺たちの背中を押していき、プラターヌ研究所にある風呂場へと連れて行かれた。なんか今日のこの二人、随分と強引じゃね?

 

「あれ、ハチマン? よかった、ちゃんと帰ってきたんだ。またどこかで事件に巻き込まれてるのかと心配しちゃったよ」

「あ、さいちゃん! ヒッキーをお風呂に入れるの手伝って!」

「ユイガハマさん? ………そうだね。うん、僕に任せて!」

「トツカさん、兄をお願いします! さあ、三人はこっちですよー!」

 

 トツカに手を引かれながら連れて行かれたのはただの脱衣所。棚越しにはユイとコマチの急かす声とそれに戸惑う三人の声が聞こえてくる。

 えっと、一体これはどういうことだってばよ?

 

「あの、トツカ………? 俺ってそんなに顔色悪いか?」

「うん、なんか死相が出てる感じだよ」

「死相………あー、まあ、心当たりがなくもないな…………」

「まあ、ハチマンのことだから、また何か事件を解決しなきゃならなくなったとかなんだろうけどさー」

「……………」

「でも、今回は一人じゃないんだね」

「………さすがに泣かれると居た堪れないしな」

「そっか、さあ服脱いで。お風呂だよ」

 

 風呂か………風呂………トツカと風呂?

 ひゃっふぅぅぅぅうううううううううううううっっっ!!!

 

「そうだな! 風呂だな! 風呂入るには脱がなきゃな!」

「えっ? ちょ、ハチマン? 急に元気になってどうしたの? そんなにお風呂好きだったっけ?」

「ちょっとそこの変態さん? 私という正妻がありながらも姉さんという側室を作るだけには飽き足らず、私個人としては男として超えて欲しくない壁をとうとう越えようとしているようだけれど。あとで覚えておきなさい」

「ちょっとー、ユキノちゃーん? なんか私の扱い雑じゃなーい?」

「うひゃぁ!? ね、姉さん!? ちょ、あ、そこっ、揉んじゃ………はぅ?!」

「ふぉぉぉおおおおお!?! ゆ、ユキノさんが………」

「ゆきのん………、あたしも触りたい」

「ね、ねぇ、みんな………? ヒキガヤ君に聞かれちゃひゃうっ?!」

 

 ………………。

 

「なあ、トツカ」

「ん? なあに?」

「風呂場で男湯女湯別れてたっけ?」

「やだなー、そんなわけないじゃん。いくらプラターヌ研究所っていっても、そんなホテルみたいに完備できないって」

 

 ………………。

 

「俺、後で入るわ」

「もう、そう言って結局入らないんだから。さあ、早く脱いで」

 

 トツカに脱いでと言われるとなんかいけない気持ちにならなくもないが、それ以上にこの先の展開がいけないことになりそうで怖い。

 あいつら、ちゃんと気づいているのだろうか。

 

「………なら、さっさと入ってさっさと出よう」

 

 棚を隔てて黄色い声が飛び込んで来る中、俺はさっさと浴場へと向かった。

 

 

 

 

 カポーン。

 風呂場独特の音が鳴り響く中、一人お湯の中へ。

 ふぃー、ぬくぬくだにゃー。

 

「うぅ………、はるさんからやっと抜け出せた………」

 

 はやっ!

 もう少し揉み合ってるかと思ったのに、来ちゃったよ。しかもメグリ先輩が。すげぇ気まずい。どうしようか。

 

「…………………」

「…………………」

 

 げっ、こんな時に限ってタイミングよく目が合うんだよなー。

 

「ひっ?! ヒキガヤ君!?」

「………俺、やっぱり上がりますね」

「えっ、今入ったとこだよね?」

「まあ。でもゆっくりできそうにないんで」

 

 今にもやってくるだろうあの姉妹を思うと、今のうちにさっさと出た方がいいような気がする。思いだったら吉日で、そのまま立ち上がり湯船から上がろうとした。

 

「…………いいよ、私は」

「はい?」

 

 が、上がれなかった。立ち上がった身体は突然の発言に動かせなかった。

 

「ヒキガヤ君も一緒に入っても、いいよ」

「…………」

 

 まさかメグリ先輩がこんなことを言い出すとは。

 

「あ、や、その、ヒキガヤ君は今日もまた私たちのために戦ってくれてたんだし………。追い出すとか、できないよ」

「「というか逃がさないわよ」」

 

 ザブン! という水の跳ね上がる音がしたと思えば、俺の背中に熱が伝わってきた。

 

「ひっ?!」

「ちょっとヒッキー、キモい!」

「ふぉぉおおおお、お兄ちゃんが両手に花どころじゃない展開になってるよ!」

「さすが、ハチマンだよ」

 

 この両腕に伝わる片や大きく、片やつつましく、だが二つとも柔らかいこの感触は………。

 

「それじゃ、僕はみんなのところに戻ってるね」

「うん、ありがと、さいちゃん」

「どういたしまして、ユイガハマさん」

 

 なん、だと…………?!

 トツカと一緒の風呂じゃなかったのか?!

 

「この男、トツカ君が出ていくといったら、急に動かなくなったわ」

「………私じゃ魅力ないの?」

「え、あ、や、そ、そんなことは、ないじょ?」

「「「「「…………………………」」」」」

 

 噛んだ………。驚くとよく噛むな………。

 

「あ、あの二人とも………タオルは……………?」

 

 メグリ先輩の言う通り。

 恐らくこの柔らかい感触、生である。

 ピッチピチのナマモノである。しかも俺の両腕が腹? の部分にあり、下手に動かせない状態なのだ。

 え、というかトツカ普通に入って来てなかったか? 見られてたんじゃねぇの? 

 

「こ、これはあれか………さっきの仕返しという奴か………」

 

 そういえばさっきユキノが覚えておきなさいとか言ってたような気がする。まさかその仕返しが今来たということなのだろうか。

 

「あら、何のことかしら?」

 

 振り向けないが、すごくいい笑顔なのはまちがいない。

 恐怖に呑まれて俺の鼓動が早くなっていくのが分かる。ついでに血流も活性化している気がする。

 

「私はただハチマンとあんなことやこんなことをしたいだけよ」

「あんたが言うと洒落にならん」

 

 耳元でハルノにささやかれたことで、ぞわりと背筋に電気が走った。

 

「私のすべてをささげるわ」

「絶対態とだろ。メグリ先輩がゆでだこになってるぞ。おい、ユイ、コマチ。お前らも手の隙間から見てんなよ」

 

 ぎゅむっと放漫な胸を右腕に押し当てられ、思わず反応してしまった。自分を保つためにも周りを確認したら、メグリ先輩はあうあうと顔を赤くしており、白いTシャツを着たユイとコマチが両手で顔を隠しながら、指の隙間から俺たちを除いていた。

 まあ、もっとも俺の行為は引っ付いている姉妹の肢体を目に焼き付けてしまい、逆効果であったが。タオルは、一応、巻いてるみたい………。

 

「ユイさん、前と後ろ、空いてますよ?」

「ぐぬぬ………、やっぱり恥ずかしいし」

「そんなこと言ってるとあの二人、お兄ちゃんのすべてを食べちゃいそうですよ」

「こ、コマチちゃん。なんか生々しいよ」

 

 いや、実際マジで食われそうな勢いである。というか目がマジである。肉食系女子というのはこういうのを指すんだろうか。

 

「でも、あたしまだ、キスもされたことないのに………」

「えっ?」

 

 ……………確かにしてないかも。というかこの姉妹(特にユキノ)が時たま発情する(ハルノは子供化してたから甘えられまくった)もんだからそれどころじゃなかったし。それにユイはコルニの所で修行してたろ………。時間を作るのが難しいだよ。つーか、いいのかよ、俺で。や、もうこれは俺の勘違いだなんて思わないけどさ。ユイの好意を受け止めてるけどさ。

 

「あははは………、やっぱりユイガハマさんもヒキガヤ君のことが大好きなんだね」

「ちょっとお兄ちゃん! ユイさんにまだ手を出していないってどういうことなのさ!」

「今、それどころじゃない………から」

 

 マジで!

 微動だに出来ない。

 嫌に血の流れる音と鼓動がうるさく聞こえてくる。

 

「そうね、随分と興奮してくれているようだし」

「やっぱり男の子だねー。お姉さんの身体がそんなにいいのかー? ほれほれー」

「うぐっ………、あの、俺も一応男なんで………」

 

 くそっ、さっきまであんな自己嫌悪してたくせに。

 ぐおっ!

 

「姉さん」

「だね………。コマチちゃん、マット持ってきて」

「あいあいさー!」

「えっと、もう、上がっても、よろしい、でしょうか? いろいろと、その、ヤバいんで」

 

 全身血の巡りが良すぎで活性化しすぎている。今にも我を忘れてしまいそうだ。………暴走とはまた違う感覚だな。

 つか、マットってなに? 何されるのん? 風俗店にでもなった?

 

「さあさ、どうぞどうぞ!」

「おいコマチ。一体何をする気だ」

「旦那様への労いだって」

「はっ?」

「ユイさんはどうします?」

「………やる」

「じゃあメグリさんはコマチがお背中流しますんで、こっち来てくださいねー」

「えっ、あ、うん。ありがと………」

 

 一応タオルを巻いていたが、それも今ではあまり役に立っていない様子。

 風呂場だから下手に動けないし。俺、これから何されるんだろうか。

 

「さあ、うつ伏せに寝なさい」

「……………」

 

 二人に連れてこられたのは用意されたビニールのマットの前。要はここにうつ伏せになれってことらしい。まさか背中に何かするんじゃないだろうな。それともこの流れ。ガチで風俗っぽい。行ったことないから実際どんなものなのか知らんけど。

 少し恐怖を覚えながらも言われたようにマットの上にうつ伏せになった。

 

「さあ、やるわよユイ、姉さん」

「ええ、ハチマンをメロメロにしてあげるわ」

「ひ、ヒッキーのためだし! がんばるし!」

「はい?」

 

 いやマジで。何する気?!

 というかいつの間にユイまで参加してるのん?

 

「ふぉっ!?」

「ちょ、変な声上げるなし!」

「や、急に冷たい感触がだな………」

「ただのローションよ」

「いや、もうこの状況でローションが来たらアウトだろ」

「さすがに体で洗ったりはしないから」

「そういう問題じゃねぇよ。おい、ハルノ。俺の前に座るな。いろいろとまずい」

「はいじゃあ、お姉さんヘッドスパやりまーす」

「ふごっ!?」

 

 前に座ってきたハルノに頭を掴まれたかと思えば、いきなり太ももの間に追いやられた。

 ヤバいヤバいヤバい!

 それはもういろいろとまずいって!

 

「………姉さん、あまり刺激を与えてはだめよ」

「えー、別に襲われてもいいんだけどなー」

「ユイが心の準備ができていないのよ」

「はーい」

「えっと、じゃああたし脚やるね」

「なら私は腰かしら」

 

 ……………………………………………………。

 なにこれ、どういう状況?

 ユキノとハルノはタオル一枚の裸同然の恰好で、それぞれ頭と腰を揉み始め、ユイが(おそらく)Tシャツ一枚でふくらはぎを揉み始めた。

 これはあれか? 全身マッサージという奴か?

 なんでまた急に。風呂場に連れてこられたのもコマチが俺たちの顔色が良くないっていうからだし。

 さてはコマチが何か仕組んでたんだな。この用意の良さ。俺たちが帰ってくるまでに揃えたのだろう。

 

「ふぉご、ふぉごごご………」

「ちょ、ハチマンっ。しゃべっちゃダメだって、くすぐったひゃうっ!」

「ユイ、足のツボでも押してあげなさい」

「わ、わかった」

「ふごぉぉぉおおおおおおおおおおっ!!」

 

 な、え、なん、ちょ………、ユイさん?

 いきなり足の裏を押すとか容赦なくね?

 ユキノもユキノで、腰に力を加えてきたし。気持ちいいっちゃ気持ちいいが、すげぇ痛い。

 

「………みんな容赦ないね」

「あれくらいやらないと休まない人なんで………。さすがに今日は驚きましたよ」

「まさかコマチちゃんたちが、こんなことを考えてたなんてねー」

「一応全員に集合をかけてみたんですけどね。研究所までは集まってくれたけど、さすがにお風呂は恥ずかしいって」

 

 全員ってどんだけ呼んだんだ?オリモトとかも呼んだってことなのか?

 

「あははは………、逆にあの二人がすごいだけだね。ユイガハマさんもよく加わったね」

「そりゃ、想いを告げているのに一度もキスされてないですからねー。一人だけ置いてけぼりを感じたんでしょう。気がないならいっそ振ってあげれば」

「それは無理だと思うなー。ヒキガヤ君、ユイガハマさんのこと大好きだし」

「ふぇっ?!」

 

 ぐおぁっ!

 ユイこら、急に力を強めるな! 変なとこ入ったぞ!

 

「全く、これだけ一途に想っている子を蔑ろにしているなんて。私の旦那として恥ずかしいわ」

 

 俺はこんなところで旦那発言される方が恥ずかしいです。

 

「コマチちゃんはいいの?」

「コマチはいつでもできますから。妹特権ってやつです」

「できた妹だね」

「………あれで、カロス地方トップの権力を持ってるっていうんだから、人って分からないですよね」

「ふふっ、そうかな? 私はヒキガヤ君がなるべくしてなったって思うよ」

「………メグリさんはどうなんですか?」

「私? 私は………できることなら、ヒキガヤ君の側に居たいかなー」

「「「「っっ!?」」」」

 

 え、なに? 急にどうしたわけ? まさかメグリ先輩も?

 全員手が止まったぞ。

 

「多分、好き、なんだとは思うよ。でも恋人になりたいとか、そういう感情でもないんだ。知り合い、友人、上司………っていうのもなんかちがうなー。なんなんだろうね………あははっ」

「それは憧れってやつじゃないですかね。お兄ちゃんの側にいて、お兄ちゃんをもっと知りたい。そんな感じなのでは?」

「………そう、かもしれないね。確かにヒキガヤ君の背中を見ていると、自分はまだまだだなーって思うし、ヒキガヤ君みたいにみんなを守れるような強いトレーナーになりたいなーっては思うし」

「あーん、ハチマンの女たらしー。このこのー」

「ふごぁ?!」

 

 ちょ、ハルノ! マジでヤバいから! み、見え………る………ぶほっ!」

 

「ちょ!? は、ハチマン?!」

「血っ………!」

「と、とりあえず、あおむけに………」

 

 ゴロンと仰向けにされる感覚が時間をかけて伝わってくる。

 

「「「あうっ……………」」」

 

 段々意識が薄れていく中、三人が顔を両手で覆っているのが見えた。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 朝。

 目が覚めて、朝飯食いに台所へ向かったら誰もいなかった。人の気配がまるでない。ここの研究所、大丈夫なのだろうか。

 仕方なくテレビをつける。

 

『ラグラージ、マーイーカのサイケこうせんを片手で振り払ったぁぁぁあああっ!!』

『ラグラージ、アームハンマー』

 

 ラグラージがマーイーカの光線を片手で振り払い、もう片方の腕を振り上げて迫っていく。

 まさか腕の振りだけで技を掻き消されるとは思ってなかったようで、対応できていない。

 

『マーイーカ、戦闘不能!』

『アームハンマーが決まったぁぁぁああああああっ!! 最初に勝ち星を挙げたのはルミ選手!! タイシ選手、巻き返しなるかっ!?』

 

 …………………………………。

 はい?

 ルミ選手? タイシ選手?

 …………………………………。

 

「げっ、もう始まってるし!」

 

 ぐりんと首を回して時計を見やると、すでに大会三日目が始まっている時間だった。

 

「これ中継かよ」

『サーナイト、さっさとラグラージを片付けるっすよ! マジカルリーフ!』

 

 何の番組なのかぼけーっと見ている場合ではない。

 ヤバい、寝過ごした…………。

 というか何で誰も起こしにこないんだよ。

 あれか? 昨日、俺がボロボロになってたからか? ゆっくり寝かせておこうってことか?

 今気づいたがなんか服が新しいような気がするし。デザインは全く同じだというのに。

 

「………………」

『ラグラージ、まもる』

 

 そういえば昨日俺はいつ寝たのだろうか。全く覚えてないんだが。最後に見たのが顔に手を当てて真っ赤に染め上げていたユイとユキノとハルノだったような…………。

 っ?!

 そうだ、昨日俺は人生初の風俗というものを体験したんだ! や、アレを風俗といっていいのか問いたいところだが。それでもアレはダメだろ。アウトだろ。姉妹でタオル一枚とか…………やべぇ、なんか鼻血出てきそう。鉄の匂いがする。

 うん、でも。正直ぐっときました。次あんなことがあったら襲ってしまいそうなまである。

 

「ユキノやハルノだけじゃなくて、ユイのことも考えないとな。あとイロハのことも………」

『ラグラージ、効果抜群の技を防壁を張り凌ぎましたっ!』

『戻って、ラグラージ。いくよ、オニゴーリ』

 

 あの二人はどうしたいのだろうか。散々ユキノに言われてきたので、ユイもイロハも俺に好意を向けてくれていることは認めている。これは自惚れでも何でもない、事実だ。じゃなきゃ、昨日の展開が起きるわけがない。好きでもない男と例えシャツを着ていたとしても一緒に風呂に入ろうなどとは思わんだろ。

 

「つーか、俺が言った髪の色にずっと染めてるみたいだし、これで違いますなんて言われたら俺泣くな」

『何をする気か知らないっすけど! サーナイト、ムーンフォース!』

 

 そもそもどうしてユイは俺をヒッキーと呼ぶのだろうか。ハヤマたちは普通に名前呼びなのに。………トベざまぁ。

 

「やっぱりどこかで記憶が抜け落ちてるのかね………」

『オニゴーリ、ぜったいれいど』

 

 と言っても遡るのはスクール低学年くらいかそれよりもっと前。記憶を失っていなくとも思い出せるか怪しい範疇である。

 ……………………。

 

「………………はっ?」

 

 今テレビの中でルミはなんて言った?

 ぜったいれいど?

 オニゴーリで?

 まさかもう一撃必殺をマスターしたっていうのか?

 以前使えたのはスイクンだったからで、特別じゃなかったのか?

 

「ルミルミの成長がヤバい件………」

『サーナイト、戦闘不能!』

『一撃必殺! サーナイトの体温を急激に下げ、戦闘不能に追い込みましたっ!』

 

 こりゃ俺もうかうかしてられないな。ネットの変なスラング立ててる場合じゃない。

 取り敢えずパンでも食べよう。

 

『一撃必殺使えるとか聞いてないっすよ………。まるで姉ちゃんを相手してる感じだ…………』

 

 そう呟きながらもタイシはサーナイトをボールに戻していた。

 そんなシーンを見ながら食パンをオーブントースターへ放り込む。タイマーをセットしてテレビに向き直るとタイシがボールを投げていた。

 

『いくっすよ、ヘラクロス!』

 

 出てきたのはヘラクロス。こおりタイプのオニゴーリの弱点を突いてきたというわけか。だが、そう上手くいくだろうか。

 

『かわらわり!』

 

 むしポケモンらしく、背中から羽を出してオニゴーリめがけて飛んで行った。

 

『躱して、ぜったいれいど』

 

 まあ、ひょいと躱されるんですけどね。しかも反撃がまたしても一撃必殺。ルミルミ怖い。

 

『ヘラクロス、こらえる!』

 

 ほお、こらえるか。

 この技なら確かに倒れることない。

 

『おおっと、ヘラクロス! 一撃必殺を堪えたぁぁぁああああああっっ!! どうなるこのバトル!』

『きしかいせい!』

 

 当然、先方としては起死回生だよな。これでオニゴーリも戦闘不能に、なればいいけどな。

 

『オニゴーリ、メガシンカ』

 

 デスヨネー。

 あのルミルミが何の手も打ってこないはずがないもんな。

 オニゴーリに迫っていったヘラクロスはメガシンカの光に弾かれて、タイシの方へ戻っていく。

 

『フリーズドライ!』

 

 おう、今度は冷気で一気に温度を下げる技か。

 どんだけ冷やせば気が済むんだ。

 

『ヘラクロス!?』

 

 冷気を浴びたヘラクロスは徐々に凍り付いていき、地面に転がり落ちた。

 

『ヘラクロス、戦闘不能!』

『戻れ、ヘラクロス!』

 

 お、パンが焼けたみたいだ。

 さて、何を塗るか………。

 

「無難にチーゴの実のジャムかね」

『ピンチかと思われたオニゴーリ! メガシンカで主導権を渡さず連続でタイシ選手のポケモンを戦闘不能に追いやったぁぁぁああああああっっ!!』

『いやー、強い。まさかここまで強くなってるとは』

 

 お、今日も出てくるのか解説席。

 ほとんど解説しているんじゃなくてしゃべってるだけだけど。たまに俺を話に出すのもやめようね。無駄だろうけど。

 

『私の見立てでは十二歳くらいなのだけれど………、こんなあっさりメガシンカに一撃必殺を使ってくるなんて、信じられないわ』

『………それはどうでしょう。唯一彼女とバトルをしたことがある「彼」が言うには最初からトレーナーとしての才能を開花させていたらしいですよ』

『それにしたって………』

『実は彼女、私の後輩でもあります。半年前、私がいたスクールの修学旅行としてプラターヌ研究所にやってきて、しばらくお手伝いをさせていただきました』

『あの時は突然呼び戻して悪かったね。人手が足りなくて助かったよ』

『次からはもう少し計画的に呼んでください。特に今の私たちはフリーじゃありませんから。……それで話を戻しますけど、彼女はスクールを特例で卒業した三人目に該当するようです』

『特例………?』

『はい、スクールで一番強い校長と何でもありのフルバトルをして倒すことで卒業が認められます』

『………スクール生が必ずしもフルバトルできるとは限らないと思うのだけれど』

 

 ええ、ええ、ごもっともですよ。俺もルミルミも戦力合わせに人のポケモンを使いましたとも。

 

『ええ、そこが肝です。この制度を初めて利用した私の姉さんは六体揃えてのフルバトルで勝利しました。ですが、二人目は自分のポケモン二体と私のオーダイルを使って校長のポケモンを全員倒しています』

『なんか聞いたことがある話だね』

『それはそうでしょう。二人目は「彼」ですから』

『………君の旦那を一度隅々まで調べ上げたいものだね。ポケモントレーナーの何たるかが分かるんじゃないかな』

『やめておいた方がいいですよ。特に博士は』

『そういえば、今朝は起こさなくてよかったのかい?』

『大丈夫ですよ。ポケモンたちもいますし。それに姉さんが見てますから。ふふっ』

 

 ………え……………?

 

「あ……、だぁぁぁああああああっ! 床にジャムが!?」

 

 一瞬止まった思考からポロリとパンが落ちてくるくる回転した後、ジャムを塗った方を下にして床に着地した。

 ジャムって結構粘っこくて落ちにくいんだよなー。

 

「あれ? 浮いてる………?」

 

 面倒ごとが増えたと思いながらパンに手をかけると、拾い上げる感覚がなかった。怪しく思い、床に耳を付けてパンを見ると、床とパンの間に隙間ができていた。つまり、パンが浮いていたのだ。

 

「……………なにこれ、心霊現象?」

 

 ゾゾゾっと背筋に寒気が走る。急に誰かに見られているようなそんな気さえしてくる。さっきのユキノの言葉が原因かもしれない。

 そーっとパンを掴み、ジャムを塗った方を上に戻すと急に掌に重みを感じた。

 

「……………」

 

 ヤバい。

 これ絶対何かいる奴だ。

 ダークライが戻ってきて悪戯をしているとか、そんなんじゃない。というかあいつがそんなちゃちなことをするとは思えないし、そもそもあいつ今どっか行っちまったし。あの青白い死人のような女のボールにも入ってるのかね。

 長年連れ添ったぼっちの薄情さに呆れながらも仰いだ。

 

「………………」

 

 目をごしごしと擦り、もう一度仰ぐ。

 

「………………」

 

 めちゃくちゃ見られてる……………。

 ハルノに……………。

 

「お、あ、おわぁぁぁあああああああああっっ!!」

 

 こっわっ!?

 マジで怖いって! お化け屋敷よりもお化け屋敷かよ、この研究所は!!

 

「ネネネネイティオ………!?」

 

 天井に、逆さまにぶら下がっている、無表情の、ネイティオがいた。

 いやもう、不気味でしかない。

 

『あ、やっと気づいた。ひゃっはろー、ハチマン』

「やめろハルノ! ただでさえ無表情で不気味なネイティオにそんな明るい口調を出させるな!」

『えー、あ、でもちゃんとパンを落とすところとかばっちり見てたからっ』

「見てんじゃねぇよ!」

 

 やだもう、なんでいつもタイミング悪いのん。

 

『中継見てるから分かると思うけど、今日の最後はハチマンたちの試合だからね。遅れちゃだめだぞっ』

「分かった。分かったからネイティオにハルノの口調を出させるな」

『あ、ルミちゃん、四体目倒しちゃったよ。じゃねー』

 

 ……………………すごい技術なはずなのに、恐怖しか覚えないんだけど。

 夢に出てきそうで怖い。今ならダークライもいないしコントロールもされないから、マジで出てきそう。ダークライが見せる悪夢とどっちが怖いんだろうな………。

 

「………あれ? なぜにテレビが消えて…………」

 

 お前か!

 

『………………………』

 

 心当たりのありそうな不気味なポケモンを見やるも、どこか遠くしか見ていない。

 

「……………残すならユキメノコがよかった」

 

 こんな恐怖を感じるくらいならユキメノコに抱き着かれてた方がよっぽどいいわ。なぜユキメノコを置いて行かない。

 

「……………、ポチっとな」

『オニゴーリ、強い、強すぎるぞ! サーナイト、ヘラクロス、ストライクと立て続けに戦闘不能にされてしまった!! タイシ選手、あと二体で巻き返しなるか!』

 

 再度テレビをつけるとマジでタイシのポケモンがあと二体になってしまったようだ。オニゴーリ強し。というか一撃必殺ある時点で勝敗が決してるような…………。

 

『く、ラグラージも倒せなかったっていうのに、メガシンカしたオニゴーリなんか………』

 

 あーあー、タイシが随分と自信を失ってきてるぞ。

 

『アメモース!』

 

 五体目のポケモンはアメモースか。これまた不利なポケモンだな。

 

『ちょうのまい!』

 

 四枚の羽を羽ばたき、すいすいと移動し始めるアメモース。それはまるで踊っているかのようである。

 

『オニゴーリ、ぜったいれいど』

 

 まあ、何をしても無駄そう…………でもないようだ。

 ちょうのまいで素早さを上げたアメモースの背後で、一瞬後に氷が弾けるような音が聞こえてきた。

 

『な、なんと!? タイシ選手を苦しめていたぜったいれいどをアメモースが躱しました!! これでまた流れが変わるでしょう!!』

 

 さて、ではどんな反撃をするのか見せてもらおうか。

 

『アメモース、エアスラッシュ!』

 

 空気でできた刃を無数に作り出し、オニゴーリへと飛ばしていく。

 

『躱して』

『むしのさざめきっす!』

 

 空気の刃をひょいひょい躱すオニゴーリ。そうしている間にアメモースが近づき、さざめき音を奏でた。音波のせいだろうか。空気の刃の軌道が少しずつズレていき、タイミングを見誤ったオニゴーリに初のダメージが入った。受けの体制ができていなかったのか、立ち直りが悪い。

 

『もう一度、エアスラッシュ!』

『オニゴーリ、フリーズドライ』

 

 高速で移動してしまうアメモースにではなく、空気の刃に向けて温度を下げた。刃は凍り、物体へと変わる。

 

『ジャイロボール』

 

 そして、飛んでくる氷の刃を身体全体をジャイロ回転させて弾き飛ばした。

 一発で学習するとか、なんかマジで特例で卒業してきたんだなって実感させられてしまうな。今もスイクンはルミのボールの中にいるのだろうか。

 

『かげぶんしん』

 

 一度入った攻撃が二度目には全く効果を発揮しなかったことに驚いてタイシを他所に、オニゴーリは自身の影を次々と作り出し、高速で移動するアメモースを取り囲んだ。

 

『アメモース、エアスラッシュっす!』

『ぜったいれいど』

 

 タイシは空気の刃で一回で全ての影を排除しようと考えたのだろうが、すでに奴はルミの掌の上で踊っている状態だ。何をしても結果は変わらない。

 

「確実に一撃必殺を当てられるようにしてくるとか、鬼畜だな」

 

 どのオニゴーリがとどめを刺したのかは分からない。ただ、オニゴーリは浮いているポケモン。その中に一体だけ地面にフラフラと落ちてくれば、それがアメモースなのだと嫌でも分かってしまう。オニゴーリの影がやられたらその場で消えるし、本体がやられたら影の方が全て消えてしまうのから、あとはアメモースしかいないと判断できてしまうのだ。

 

『アメモース!?』

『アメモース、戦闘不能!』

 

 タイシの呼びかけも虚しく、アメモースは地面に横たわって気絶していた。

 

『またしても一撃必殺が決まったぁぁぁああああああっっ!! オニゴーリに初の攻撃が入った時には流れが変わると思っていましたが、全くそうではないではないか!!』

『アメモース、戻るっす!』

『さあ、後がなくなってしまったタイシ選手! 最後のポケモンは誰を出してくるのか!!』

 

 恐らく二ドリーノ、ないしニドキングだろう。後でていないのはそれくらいしかいないだろうし。

 …………ルミルミの試合を最後までみたら会場へ向かうとしよう。途中で切って後で何か言われるのも嫌だし。ルミルミとか「ちゃんと見てた?」とか聞いてきそうだし。そうでなくても娘の晴れ姿についてきているような母親がいることだし。何かしら、言ってくることは間違いない。

 

『ニドキング、頼むっすよ!』

 

 ふっ、やはりニドキングか。

 姉のカワサキがニドクインを連れていて、弟のタイシが二ドリーノを連れていたんだ。進化の道具くらい持っていてもおかしくないよな。

 

『だいもんじ!』

 

 出てきて早々、ニドキングは大の文字を描く炎をオニゴーリに送りつけた。一方でオニゴーリはというと………。

 

『オニゴーリ、ジャイロボール』

 

 ジャイロ回転で炎を弾いていた。

 

『そのまま突撃』

 

 ルミルミの命に合わせて、ジャイロ回転で炎の中をくぐり抜け、早速ニドキングのペースを奪いにかかった。

 

『どくづき!』

 

 ニドキングはジャイロ回転に応戦しようと紫色の腕をさらに紫色に染め上げ、腕を引いていつでもすくい上げられるような態勢で待ち構えている。

 そこへ見事オニゴーリがやってきて、技と技が交錯しあった。爆発が起き、黒い煙が立ち上っていく。

 

『す、すごく激しいぶつかり合いだ! これでどちらかのポケモンが倒れているということも考えられます!!』

『ぜったいれいど』

『な、なんとルミ選手! この、ポケモンが見えない状況で技の指令を出しました! 一体彼女には何が見えているのでしょうか!』

 

 見えているというか絶対的な自信だろう。オニゴーリの実力を知っているからこそ信じて次の行動を命令できる。だからこそメガシンカも可能にしているというわけだ。

 

『………………ニドキング、戦闘不能! よって勝者、ツルミルミ!』

『ぜったいれいどが決まったぁぁぁああああああっ!! 圧倒的な実力を見せてルミ選手、勝利を掴みました!!』

 

 タイシには悪いがこの対戦カードはやる前から結果は見えていた。なんせルミはスイクンに選ばれたのだからな。しかもトレーナーとしてまだポケモンをもらってすらいない時期に。伝説のポケモンに選ばれることだけでもすごいことだが、最初のポケモンになんて前代未聞である。そんなルミがトレーナーとして経験を積んでいけば、どうなるかくらい想像がつくさ。

 

「将来、俺よりも強くなってるかもな」

 

 ルミの開花は現在進行形。これからどんな経験をし、何を思うのか。

 新人トレーナーの将来が楽しみである。

 

 

 




行間(使用ポケモン)


ツルミルミ 持ち物:とうめいなスズ(ミナキからの借り物) キーストーン
・ラグラージ ♂
 覚えてる技:アームハンマー、まもる

・オニゴーリ ♂
 持ち物:オニゴーリナイト
 覚えてる技:ぜったいれいど、フリーズドライ、ジャイロボール、かげぶんしん


カワサキタイシ
・ニドキング(二ドリーノ→ニドキング) ♂
 覚えてる技:つのでつく、にどげり、だいもんじ、どくづき

・ストライク ♂
 覚えてる技:シザークロス、つじぎり、むしのさざめき

・サーナイト(キルリア→サーナイト) ♂
 覚えてる技:ねんりき、マジカルリーフ、シャドーボール、リフレクター

・アメモース ♀
 覚えてる技:エアスラッシュ、むしのさざめき、ちょうのまい

・マーイーカ ♂
 覚えてる技:サイケこうせん

・ヘラクロス ♂
 覚えてる技:かわらわり、きしかいせい、こらえる


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22話

 ルミのバトルを見終わり、いろいろと仕度をして外へ出ると後ろに気配があった。

 

「………連れてけと?」

 

 振り返れば案の定ネイティオが。

 俺が間に合うようにハルノが置いていったネイティオである。

 無表情なため超不気味。

 

「……………………」

 

 返事はないが代わりに翼をバサッと広げてきた。急に広げるもんだから超不気味。もう存在自体が不気味である。

 

「………なあ、そこの君」

 

 おい、誰だよ。誰か呼ばれてるぞ。さっさと返事してやれよ。

 

「君だよ、君。ネイティオといる君だ」

「お、俺かよ………」

 

 呼ばれてたのは俺だった。

 振り向いてみると………ぶっ!?

 上半身裸に白衣を着た男がいるんだけど。よし、警察を呼ぼう。

 

「………警察警察、と」

「わあっ、待ってくれ! 俺は変質者でもなんでもない!」

「ククイ君はこれでも一応ポケモン博士なんだよ」

 

 これで博士?

 やっぱりポケモン博士ってのは変態しかいないのかもしれない。

 それと連れのメガネ。よくこんな危ない奴と一緒にいれるな。

 

「で、変態博士が俺に何の用ですか?」

「ここってプラターヌ博士の研究所だろ?」

 

 まあ、カロスじゃ有名だしな。知っていてもおかしくはない。

 

「でも今博士はポケモンリーグの会場にいるはず。なのに、君が出てきた。だから声をかけたんだよ」

「…………質問の答えになってないように思えますが?」

「…………なかなか手厳しいな」

「ククイ、先に自己紹介をしておいた方がいいんじゃないかな」

「そうだな。俺はククイ。アローラ地方ってところでポケモンの技について研究している。それと夢はアローラにポケモンリーグを作ることだ」

 

 ………はい?

 ポケモンリーグを作る?

 

「それは今やってるバトル大会のことっすか………?」

「いや、チャンピオンと四天王、この五人を位置付けた組織とシステムのことだ」

「だったら、まずはアローラ地方のポケモン協会を斡旋して、カントーのポケモン協会に乗り込めばいいんじゃないですか?」

「ッ!?」

「ま、難しいでしょうけど」

「………やけに詳しいな」

「僕はマーレイン。よろしく。けど、ククイ。アローラにポケモン協会はないよ」

「だよなー。どうしたものか」

「……………」

 

 へぇ、アローラにはポケモン協会がないのか。

 ここでうだうだ言われても俺にはどうしようもないし、そろそろ会場に向かわないと何を言われるか。初戦で遅刻して不戦敗とかごめんだからな。

 

「えーっと、………あったあった」

 

 ホロキャスターを出して、ある番号にかけた。

 

「もしもーし」

『そっちからかけてくるとは珍しいではないか』

 

 相手はカントーポケモン協会本部の理事。

 

「なんかアローラでポケモンリーグを創設したいとか言う人がいてな。どうしたものかと」

『ふむ、アローラか』

「どうする、そっちにやればいいか?」

『そうだな。こっちに向かうように言ってくれ』

「はいよ」

 

 許可も出たので通話を切る。

 すると上半身裸の白衣男とひょろっとした金髪メガネがポカンとした顔で俺を見ていた。

 

「………君は何者なんだい?」

 

 とは金髪メガネ。

 

「カントーの本部には話つけたんで、アローラにポケモンリーグを創設したいならそっちに行って下さい。んじゃ」

「質問の答えになってないと思うが?」

 

 さっさとこの場を離れようとしたら、一枚食われた。ニヤリと変態が笑っている。マジで警察呼ぼうかな。

 

「……………カロスポケモン協会理事。それ以上は言わん」

 

 ちょこちょこと追いついてきたネイティオの首根っこを掴み上げ、捕獲。

 そのまま今度こそ、この場を離れた。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 途中、間に合わないと思ったのか、ネイティオのサイコパワーで運ばれ、一気に会場へと辿り着いた。

 

「うおおぉぉぉっ! ブーバーっ!!」

 

 担架で運ばれるブーバーとそれを追いかけるやまおとことすれ違った。本戦出場選手だったのだろうか。到底見えないが。

 

「………うーん、ジバコイルの努力値をもっとふらないと………。それにカクレオンの特性ももっと活かせるはずだし………。もっと、もっと強いトレーナーとバトルして戦法を盗まなきゃ」

 

 中に入ったら入ったで、緑色の髪の少年がうんうん唸っていた。努力値って何よ。

 

「あっれー? ヒキガヤ?」

 

 するとどこからか名前を呼ばれた。このデカイ声………。

 

「オリモト………」

 

 振り向けば、オリモトがいた。

 

「ようやく起きたんだね。ま、ハードワークの後だったし、今日のトリでもあるし、みんな休ませたかったから起こさなかったんだけどね」

「そりゃ悪かったな。つか、何故いる」

「昨日、あんたの妹に召集かけられて、預かってるみんなのポケモン全員連れて飛んできたんだけどさー」

「コマチか………」

 

 あいつ、いつの間に呼んでいたんだ………。

 

「………聞いたよ、全部。あんたがお風呂場で鼻血出して気絶してる間に」

「おい、周囲のみなさんの目が怖いのでやめて下さい。いやマジで」

 

 なんかとんでもないことを話しながら歩き出したオリモトを慌てて追いかける。

 

「くくくっ、やっぱヒキガヤはヒキガヤだ。焦りすぎ」

「んな恥ずかしいエピソードを大衆の前で言い出すからだろ」

「………でもちょっと納得。バトル山の戦績を知ってる身としては、ようやく腑に落ちたって感じ」

 

 バトル山か………。百人のトレーナーに無敗で勝たないと制覇できない山だったか。

 最後のじいさんが俺にシャドー脱出を企たせるキッカケを与えてくれたな。セレビィという可能性があったから、今もこうしていられる。じいさんに感謝だな。

 

「あたしさー、ちょっと怖かったんだよねー。勝ち進んでいくヒキガヤたちを見てるのが。段々ヒキガヤの本気というものが見えてきて、あたしでは歯が立たない相手だったんだって痛感した。だから仕事と称して見に行かなくなった」

「………俺の告白を断ったのも本当の理由はそれか?」

「………そうだね。それもあるかもね」

 

 それ『も』ということはやっぱり勘違いさせてごめんなさいってことで正しいのだろう。逆に勘違いしてごめんなさいって言いたいくらいだわ。言わんけど。

 

「でもさー、今は怖くもなんともないっ。あたしも自分たちに自信を持ってるから、ヒキガヤが怖いなんて思わないよ。だからさ、………バックアップはあたしらに任せて思いっきり暴れて!」

「………ありがとな」

 

 ニカッとはにかむオリモトの笑顔は眩しかった。

 あんな話を聞かされてよく受け入れられたもんだとつくづく思えてくる。バカな奴だ。

 

「あ、お兄ちゃん!」

「ヒキガヤ!」

 

 観客席にたどり着くとコマチとサガミ俺たち二人に真っ先に気がついた。その声に合わせてぐるりと一同が首を回してくる。

 

『スターミー、ほごしょく!』

『ふっ、ニドキング、じしん』

 

 その奥からはフィールドで戦っている二人のトレーナーの声が聞こえてきた。なんか聞き覚えのある声のような…………。

 

「ヒッキー………」

「いよいよ今日だな」

「うん。………あたし、がんばる。相手が四天王でも、負けない!」

 

 ……………あれ?

 

「えっと、ユイ………さん?」

「相手、誰だか、知ってる、よな…………?」

 

 コマチとヒラツカ先生が思わず聞いちゃってる。

 やっぱり、こいつ分かってないのか?

 

「え? だからあたしの相手って四天王の人でしょ?」

「あ、ああ」

「そうだけど、えっと、ユイガハマさん? 四天王の一人がフレア団で事件のせいで剥脱されたから、この大会に向けて新しく四天王が選ばれたよね」

「うん、ヒッキーでしょ?」

「そうだけど…………今日までにハチマン以外の三人の四天王が……………」

「あ…………………」

 

 トツカの説明で、ようやく気付いたのか。

 さっきまで意気込んでいた顔がみるみる固まっていく。なんか面白いと思うってしまうのは場違いなのだが、堪えるのがもう大変である。

 

「………あたしの相手って、ヒッキー…………なの?」

「何を今更。だから『いよいよ今日だな』って言ったのに、お前は…………」

「あっはははは………ははは……………はぁぁ………」

 

 枯れた笑いが段々とため息へと変わっていく。

 

「バッカみたい。どうせ勝ち抜いたらハチマンと戦うことになるんだし、それが早いか遅いかのことじゃん」

 

 ルミルミ辛辣。

 まあ、そうなんだが。俺が負けるという可能性は考えてくれないのだろうか。

 

「ルミちゃん………、そうだよね! あたしが一番最初にヒッキーに強くなったあたしを見せられるんだもんね! ヒッキー、あたしがんばる! 全力でいくから!」

「あぁ〜、小さかったユイちゃんがここまで大きくなるだなんて。先生、感激だわ〜」

「お母さん、キモい」

「ヒキガヤくん、ルミがいじめる〜」

「だぁぁぁああああああっっ! いい大人が抱きつかないでください!」

 

ほんとこの人は!

どうしてすぐ抱きつこうとするかね。

 

『スターミー、戦闘不能!』

『くっ………戻れ、スターミー』

『さっきまでの勢いはどうした? オレを倒すのだろう? Saque』

「ッ!?」

 

 Saque…………だと?!

 それにこの口調………。

 

「ザイモクザ、今バトルしてるのは誰だ」

「どうしたのだ、ハチマン」

「いいから教えろ」

「う、うむ………。えー、今バトルしてるのは………『パパだよ』選手と『Saque』選手らしい」

「ッッ?!」

「ハッチー………?」

 

 そうか。

 ハルノから名前を聞いたときにどこかで見たような気がしたが、出場選手だったのか。確かにいたかもしれない。それに相手の『パパだよ』って奴。変なネーミングで登録してきたと思ったが、奴ならそうせざるを得ないだろう。

 

「サカキ………」

 

 フィールドを見やると黒いスーツと黒のハットを深くかぶった男がニドキングに指示を出していた。

 片や青白い顔の女はボールを投げ、次のポケモンを出してきていた。

 

「ダークライ…………」

『Saque選手、四体目のポケモンは、なんと! 幻のポケモンダークライだぁぁぁあああああああああっっ!! ピンチのこの状況、伝説の力で巻き返しなるのかぁぁぁっっ!!』

 

 あいつ、やっぱり戻ってくる気はないんだな。

 本来のトレーナーのところへ戻ったわけだ。

 

「………お前が敵になるっていうなら、俺はお前を倒すだけだ」

「ヒキガヤ、どういうことだ」

 

 つーか、二人は選手として出てるんだよな?

 だったらハルノやメグリ先輩がいつものごとく案内をしたってわけだ………っ?!

 

「ネイティオ、ハルノやメグリ先輩は無事なのか?!」

「なーにー、お姉さんのことがしんぱーい?」

「ひっ!?」

 

 ハルノのポケモンであるネイティオにハルノたちの安否を確認しようとしたら、急に背中からしなだれるように抱きつかれた。

 

「は、ハルノ………!?」

「心配性だなー。私は名前見た時点で気付いてるんだから、対策位立ててるよ」

「そ、それならいいんだが………」

 

 まあ、一番奴らを知っているのはハルノだしな。用意周到な彼女が何の対処もしてないわけないか。

 

「ユイガハマさん、迎えに来たよ」

「メグリ先輩、お疲れ様です。あの、ヒッキーが急に怖い顔になったんですけど、理由ってわかります?」

「あー、それはね。今バトルしてる女の方が昨日話したSaqueって人なの」

「「「「「「ッッ!?!」」」」」」

 

 ………どうやらサカキの方には気がついていないようだな。

 それならそれでいい。下手に知って怯えられても困るだけだ。

 

「ハルノをロケット団に誘った張本人、か………」

「ということは悪者………」

「だね。でもバトルは相手に手も足も出ないって感じだよ」

 

 そりゃ、だって。世界征服を企む悪の組織、ロケット団のボスだし。元幹部ごときに負けるわけがないだろう。

 

「それじゃあ、あの男性を応援するべきだよね」

 

 おいおいサガミ。そんな単純に応援する方を選んでいいのか? 両方とも悪人だぞ?

 

「………ヒキガヤ、あたし両方匂うんだけど」

 

 うん、やっぱり元悪の組織の一員だけあって、そっち側の人間には敏感なようだ。

 オリモトが俺にだけ聞こえるように呟いてきた。ま、未だ俺に抱きついているハルノには聞こえたかもしれないが。

 

「ああ、おそらくな。あっちもあっちで、というかあっちの方が大物だ」

「やっぱり………」

「ユイの護衛、頼んでいいか?」

「ん、分かった」

 

 短く返事だけを残し、オリモトは黒子のようにスッと下がった。

 

「ま、あっちは俺が行く方だから、様子を伺ってみるわ」

「無茶、するなよ」

「しませんって。バトル前なんすから」

「それじゃ、ユイガハマさん。いこっか」

「はい。ハッチー! 負けないよ!」

「ああ、全力でこい」

 

 ふんすっ! と気合を入れ直してユイはメグリ先輩と行ってしまった。その後ろをオリモトが音もなくついていく。

 なんか俺よりステルス性があってすごいと思ったのは言うまでもない。

 

「んじゃ、俺たちも行くか」

「…………さっきの、ちゃんと説明してね」

 

 やっぱり、オリモトと会話は聞こえていたらしい。

 歩き出すとカチャリと左腕からこすれる金属音がした。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 ハルノと二人、フィールド入り口へ向けて移動する間、俺はオリモトとの会話の説明をしていた。

 

「おそらくあの『パパだよ』って選手はサカキだ」

「えっ?」

「あの声にあのニドキング。それに元シャドーの戦闘員だったオリモトが反応したってことは間違いないだろう」

「そんな………、やっぱりハチマンを狙って………」

「かもしれないが、それだけじゃない気がする。昨日、Saqueとのやり取りで殺すとかなんとか言っていた。ロケット団を裏切った、というか潜入していた別の組織の幹部を片付けようとしているのかもしれない」

 

 裏切り者には容赦ないからな。

 そもそも容赦ない性格だが、一段と容赦ない。

 

「………やっぱり、ハチマンは出ない方が………」

「いや、俺は出る。ユイの成長を見届ける必要があるからな。それになんか引っかかるんだよ。ロケット団が何か企んでいるんだったらこんな回りくどいことせずに、破壊の暴挙をやり尽くしてくるだろうし。なのに、ボス自らがこんなバトル大会に参加している。どう考えてもこの大会に出る必要があったってことだろ」

「た、例えば………?」

「俺とバトルをするため、とか」

「…………否定はできないけど、それだったらいつでも奇襲をかけられるでしょ」

「サカキは元ジムリーダーだからな。意外とバトルには形式にこだわりを持っている。たまにそれが発揮されることがあるんだ」

「なんか随分と詳しいのね」

「………なんだかんだ、俺はサカキに鍛えられたからな」

 

 特にじめん技や一撃必殺はサカキに教えられたようなものだ。

 よくよく考えれば、何故サカキがそこまで手塩にかけるのか甚だ疑問になってくるな。

 

『ニドキング、ついに伝説を前に力尽きたぁぁぁああああああっ!! なんという一方的な展開! さっきまでのバトルとは一転してダークライが押しています!!』

 

 サカキのニドキングを倒したのか。

 

『しかしニドキングも健闘しましたね。眠気に耐えて攻撃を続けるなんて、相当な神経よ』

『え、ええ、そうですね』

『………ダークライを連れている人を見るのは二人目だなー』

『やれ、ドサイドン』

 

 ユキノはあのダークライが俺のところにいたダークライだって知ってるからな。コメントのしようもないのだろう。

 

「………ねぇ、長年一緒にいたダークライが敵になっちゃったみたいだけど………、どうするの?」

「………どうもしない。敵として立ちはだかるなら倒すまでだ」

「そう」

 

 ハルノの質問に答えてやると、短い返事だけを残し会話が途切れてしまった。

 

『ドサイドン、じわれ』

『かわせ』

『ドサイドン、開始早々一撃必殺を出してきたぁぁぁああああああっっ!! しかし、ダークライには当たらない!!』

 

 聞こえてくるバトル展開は音だけだが、あのダークライが負けるとは到底思えない。

 

『ダークホール!』

『ダークライ、ダークホールを………いや、これはあくのはどうだ! 黒いオーラがドサイドンに襲いかかる!!』

 

 ん………?

 言うことを聞いていないのか?

 ボールに収めていながら命令を聞かないとは………。

 恐らくダークライを使いこなせていないという証。

 

「ダークライ、お前は一体何を考えているんだ………?」

 

 長年生活を共にしてきたポケモンであるが、今のあいつは何がしたいのかさっぱり分からない。

 

「……ここで待ってて」

「あ、ああ………」

 

 そんなことを考えているとフィールド入り口に到着。ここを曲がった先からは淡白な声が聞こえてくる。

 

「貴様、どういうつもりだ!」

「ふん、それが貴様の実力だ。ドサイドン、がんせきほう」

「ダークホール!」

 

 覗いてみるとブワッと何かが頭の上を過ぎ去っていった。

 振り返るとそこには黒いポケモンーーダークライがいた。

 

「おのれぇぇぇええええええっっ!! ダークライ!!」

『ああっと、これはどういうことだ?! ダークライ、試合を放棄して戻っていったぞ!! それを追うようにSaque選手も退場していきました!! プラターヌ博士、この場合はどうなるのでしょうか!』

 

 実況の言うようにすぐにSaqueが追いかけてきて、目の前にやってきた。

 それと同時にハルノが顔を隠すように俺の背中に逃げていく。

 

「ダークライ! 貴様、なにを………!?」

 

 視界の端に俺が映ったのだろう。ようやく俺たちがいることに気づき、深呼吸を始めた。

 そして、落ち着きを取り戻すと俺たちの方へと向きを変え、口を開いた。

 

「これはこれは我が主人。大変お見苦しいところをお見せしました」

 

 仰々しい礼をしてくるSaque。これが一番胡散臭いってことを分かってないのかね。

 

「このダークライ、未だ謎が多いゆえ、私も扱いに手を焼いているところにございます」

 

 …………!?

 ダークライ………、なぜお前はそこで礼を尽くしている。

 

「ダークライ………」

「おや、そこにいるのは誰かと思えば、役立たずの裏切り者ではないか」

 

 そこにいる………役立たずの裏切り者…………?

 

「………ハルノ」

 

 やっぱりか。

 急に背中に隠れたし、会いたくない相手であることは分かっていたが。

 なるほど、自分が勧誘した駒が勝手に逃げ出し、あまつさえ計画の邪魔をしてくる。だから、こいつの中ではハルノが邪魔者でしかない。その証拠がこのゴミを見るような目だ。

 

「………き、気安く名前を呼ばないでちょうだい」

 

 いつもの気迫が全くない。

 それだけこの女はハルノの心を抉る存在だということか。

 

「我が主人。その役立たずはさっさと捨て置き、私とともに未来を創造しようではありませんか」

 

 はっ?

 何言ってんだ、こいつ。

 意味が分からんのだが。会話の脈絡がまるでない。

 と、彼女の背後に佇むダークライと目が合った。その目はまるで何かを訴えているような、そんな目をしている。

 

「Saque、といったか………」

「はい」

「俺は今から仕事があるんだ。だから帰ってくれ」

 

 ダークライの目が俺の左腕へと流れていく。

 こいつ、気付いているのか?

 

「………残念ですが、主命とあらば。ダークライ、戻れ」

 

 反抗するわけでもなく、Saqueはさっさと聞き入れた。

 こいつは本当になにを企んでいるんだ? 全く底が見えないんだが。

 

「………貴様、どういうつもりだ!」

 

 ボールから出た光をダークライは何故か躱した。

 どうやらボールに入る気はないらしい。

 こいつもこいつで一体なにを……………っ!?

 

「………そういうことか」

「あ、主人………? どういたしました?」

 

 ああ、そうか。

 ようやくダークライの意図が掴めた。

 要はここで俺たちの関係をハッキリさせようってことらしい。

 しかも俺の敵となりそうなこの女をドン底へ突き落とすことも同時にやろうとしているわけだ。

 なんてことはない。

 こいつはこいつなりに俺のために行動してくれていたらしい。

 俺は左腕に取り付けた装置のスイッチを入れた。

 

「ダークライ、どうしてお前が俺を選んだのか、ようやく分かった気がする。ぼっちって共通点もあるが、それ以上にお前、自分を受け止めて欲しかったんだな」

 

 思えばダークライは俺に自分や仲間のことについて教えてくれた。普通出会ったばかりの奴に、しかもダークライをぼっちへと追いやった存在である人間に自分の過去を見せるとか、あり得ないだろう。

 なのに、こいつはそれをやってのけた。

 それに今のこの状況。

 きっとこいつは俺に自分の状況を教えたかったのかもしれない。自分の目で確かめろと。確かめて決めてくれと。

 

「いいぜ。ずっと俺たちの関係を進めてこなかったが、お前がそれを望むなら、俺はそれを受け入れるまでだ」

 

 俺はポケットからダークボールを取り出し、左腕に装着していく。

 

「ハチマン………? なにを………?」

「来い、ダークライ!」

 

 左腕を突き出し、ボールのスイッチをダークライに見せた。

 するとダークライは飛び込むようにボールのスイッチを押した。開いたボールから光が放たれ、ダークライの身体を吸収していく。

 

「なっ!? あ、主人!? い、一体なにを?!」

 

 突然のことに驚きを隠せないでいる青白い顔。

 より一層青白くなっているのではないだろうか………。

 

「………絶望がお前のゴールだ、だとよ」

 

 恐らくダークライが言いたかったであろう言葉を青白女に叩きつけてやる。

 

「あ、主人! 我が主人! 以前立てた計画はどうするのですか!」

 

 まだしがみつくか。

 いい加減腹が立ってきたぞ。ダークライのことといい、ハルノのことといい。散々言った落とし前、今ここでつけてもらおうか。

 

「………失せろ、Saque」

「「ひっ!?」」

 

 ぎゅっと。

 背中に握り締められる感触がした。

 

「これは命令だ」

 

 ダークボールから出てきた黒いオーラが真っ青な顔に襲いかかっていく。

 

「ひ、ひぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいっっっ!?!」

 

 さすがに観念したのか、悲鳴をあげて立ち去っていった。

 と、背中が今度はものずごく震えだした。

 

「あ………」

 

 振り返ってみると全身震えたったハルノの姿があった。目には涙を浮かべている。

 これ、やっちまったパターンか?

 

「くくくっ、あははははっ! さすがボスが見込んだだけのことはあるわね」

 

 と、ハルノの後ろからどこかで聞いたような声が飛んできた。視線を上げるとこれまた見たことがあるお姉様が。

 

「………何の用だ、ナツメ」

 

 ヤマブキシティジムリーダーにして、ロケット団の幹部の一人でもあるナツメがやってきた。

 

「私たちがカロスに来た目的の一つを実行しようと思って来たのよ」

「へぇ、それは是非お聞かせ願おうか」

 

 なんかまたハルノが俺の背中に隠れたんだが。

 ナツメにまで何かされたのか?

 

「昨日、ボスが仰っていたようにあの女の排除よ」

「それなら逃げていったぞ」

「ええ、見させてもらったわ。まるで機嫌が悪い時のボスにそっくりなものだから、見入ってしまったわ」

「そりゃ、お恥ずかしい限りで」

『それでは登場していただきましょう! 最後の四天王はこの人だぁぁぁああああああっっ!!』

 

 げっ、呼んでるし。

 あの女のせいですげぇ時間食ってたんだな。

 というか結局サカキとのバトルはどうなったんだ?

 逃げ出したあの女の反則負けが妥当だろうが、というか全く実況の説明が聞こえてこなかったんだが。それだけこっちに集中していたってことなんだろうか。

 ヤバイな、一度スイッチが入るとどうも抑えが効かん。

 つーか、今こんなこと考えてる場合でもないし。早く行かないと。あ、でもハルノはどうすれば………。

 

「あれくらいで怯えるなんて、腰抜けね」

「っ!? は、ハチマン! こ、これとこれ! つけて出て!」

「はっ? ちょ、えっ? 今どっから出したっ?」

「いいからさっさとつける!」

「は、はい………」

 

 いきなり手渡された………黒いハット? と………何この黒い布切れ…………布切れ? まさかマントにしろ、とか言わんだろうな………。

 

「………これ、やっぱりマントなのか」

 

 布の端に留め具が二箇所ついていた。

 はあ………、なんでこんな恥ずかしい格好をしなきゃいかんのだ?

 

「うん、バッチリね! これで顔は見えないわ!」

 

 なに? この目を他の奴らに見せたら集団で死人が出るとかそういうことなのん?

 

「さあ、いってらっしゃい! ユイちゃんのためにも。私は大丈夫だから! がんばってね、ダーリン!」

 

 おい、さっきまで震えていたのはどこ行ったんだ。

 ナツメの挑発で普段の活気を取り戻したハルノが俺の背中を押し、フィールドへと投げ出された。

 ハルノ、覚えてろよ…………。

 




「はあ………はあ…………ちゃんと、できたかな…………」
「それはもう見てるこっちが笑いを堪えるのに必死なくらいにはできてたわ」
「………何が目的」
「歳下のご主人様にお尻を振る誰かさんの様子を見に来ただけよ」
「相変わらず、嫌な人ね」
「それはあなたもでしょ? 相変わらず可愛げがないわね」
「……………ロケット団が何を企んでいるのか教えなさい」
「………ハルノ、あなたいつからそんな口の利き方ができるようになったのかしら?」
「はぐらかさないで」
「まるで獣ね、今のあなたは。そんなにご主人様が大切なのかしら?」
「ええ、大切よ」
「……だったら、問題ないわね。ボスは彼を救うつもりだもの」
「………意味が分からないわ」
「『レッドプラン』」
「やっぱりあの計画が関わってるのね。あの頃の私が恨めしいわ」
「あなた、何か勘違いしているようだけど、『レッドプラン』を利用したのにも理由があるのよ」
「最強のポケモントレーナーを作る、でしょ」
「やっぱり勘違いしてるわね。そもそもどうして彼だけが被験者になったのか、考えたことある?」
「ハチマンだけが被験者…………?」
「彼、いえ彼とリザードンは特別よ。『レッドプラン』を必要としたのも元はといえばリザードンの方に原因があるのだから」
「………どういうことかしら? それではまるでリザードンのためにハチマンが『レッドプラン』を受け入れたという風に聞こえるのだけれど」
「そのままよ。彼のリザードンはミュウツーのような最強のポケモンを今いるポケモンの中から作り出す計画『プロジェクトM’s』の第一被験者でもあるのよ」
「ッ!?」
「どうやらその顔は知らなかったという顔ね」
「じゃあ、あの暴走も…………」
「暴走? ああ、昨日のことかしら。ええ、そうよ。ボスが態とリザードンが暴走するように刺激を与えたのよ」
「ッ?!」
「彼のリザードンは元々、ロケット団の科学者たちがクチバの研究所で薬を投与していたヒトカゲなのよ。研究所を脱走して、保護したのが彼。一度オーキド研究所に預けられたけれど、後に彼のポケモンとなったというわけね」
「じゃあリザードンはハチマンのポケモンとなる前から…………」
「そうなるわね。ただ巡り合ったトレーナーがよかったものだから、暴走は長く起きることはなかったわ」
「………過去に二度、かしら?」
「ええ、ボスの話では二度ともあなたの妹が偶然にも止めているわ」
「偶然じゃないわ。ユキノちゃんは唯一ハチマンを止められる存在よ」
「………どういうことかしら?」
「ユキノちゃんがハチマンと同じってことよ」
「……………ハルノ、あなた………」
「全ては私の計画が引き起こしたこと。だから悪役になるのは当然でしょ」
「………………」
「そう思っていたのに、リザードンの方にも原因があるだなんて………。ユキノちゃんに申し訳ないわ」
「バカね、ほんとバカ………………」


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23話

あけましておめでとうございます。

大変遅くなりまして申し訳ありませんでした。
色々と話すことがありますが、後書きで。


 うわー、恥ずっ………。

 公衆の面前でこんな格好とか。

 いつ以来だよ。

 マントって………マントっておい…………。

 

『さあ、いよいよ本日最後のバトル! 新四天王の実力は一体どれほどなのか!! 皆さん、期待が膨らむ一方でしょう!!』

『いよいよだね』

『ええ、いよいよです』

『私も実際にこの目で確かめたわけではないもの。興味深いわ』

 

 今日で本戦出場者全員が初戦を終えることになる。そのトリが自分たちだっていうのだから、気が重い。まあ、ユキノと俺の対戦日はハルノが決めてしまったんだがな。俺たち二人を除いた二十二人をランダムで決めたのだ。どうしたって俺はこの期待の眼差しを受けることは決定していたわけだ。

 やだやだ。

 

「双方、準備は?」

「いつでも」

「こっちも大丈夫です」

「それでは、バトル開始!」

 

 審判の合図でいよいよバトルが始まった。

 

「ショコラ! いくよ!」

「出たい奴、早い者勝ちだぞ」

「ヘゥガッ!」

 

 切り込み隊長はヘルガーが行うらしい。リザードンもジュカインも昨日散々暴れたから別に出る気がないのかもしれない。というか昨日の疲れが残ってるんだろうな。まあ、なんにせよヘルガーに頑張ってもらおう。

 

「こわいかお!」

 

 ユイの一番手はグランブルか。

 グランブルはフェアリータイプ。元々ノーマルタイプに分類されていたが、フェアリータイプを提言したことでそちら側に属するようになったポケモンだ。

 そもそもノーマルタイプというのが曖昧な定義である。一言でいえば他のタイプに属さないもの、分類できないものが一貫してノーマルタイプに振り分けられる。覚える技も幅広く、タイプにバラつきがあるため、定義が難しいらしい。

 

「目を閉じろ」

 

 こわいかおで恐怖心を煽り立て、硬直させようという算段らしいな。

 だが、見なければ効果はない。

 

「ショコラ、今のうちにインファイト!」

 

 なるほど、目を閉じた瞬間を狙って高速で打ち出す技を合わせてきたのか。

 これは恐らくコルニの入れ知恵だろう。それにあの腰に巻いた黒い帯。威力を高めるものかもしれない。注意しておくべきだな。

 

「バク転二回からのアイアンテール」

 

 飛び込んでくるグランブルをバク転で躱し、二回目で距離を取ると、着地の踏ん張る力を利用し地面を蹴り上げ、一気に近づいていく。

 

「ストーンエッジ!」

 

 グランブルはヘルガーが躱してスカした両腕を地面に連続で叩きつけ、盛り上がって出来た岩が次々と襲いかかってきた。

 技と技の間に無駄がない。失敗しようが次の展開に持っていけるところまで成長したってことか?

 あるいは全て先に練られていた展開であるか。

 どちらにしても判断を下すのはユイだ。トレーナーとして見極めることが出来なければ上手く流れが掴めない。その点からいけば、ユイはこの半年でかなりの成長を遂げている。

 

「………へぇ、随分とバトル慣れしたじゃねぇの」

「そりゃコルニちゃんやみんなに鍛えてもらったもん」

 

 ヘルガーが鋼の尻尾を盛り上がった岩に叩きつけ、粉砕していく。

 

『さ、最初から息をするのも忘れてしまうような激しい攻防! 相手が四天王だとは思えない白熱したバトルとなっております!! カルネさん、最後の四天王はどのような方なのでしょうか!?』

『申し訳ありませんが、私も余り彼のことは知りません。師匠やコルニがいたく気に入った人物ではあるのだけれど。実力がいかほどなのか私にも分からないのです。私よりもこっちの二人の方がよくご存知かと』

 

 俺の紹介が入りそうなため、ユイが「どうする?」というジェスチャーを送ってきた。俺は解説席の方を親指で指して「聞いてろ」と合図を送っておいた。

 

『では、三冠王にお聞きしたいと思います!』

『彼は………そうね、他の四天王の方たちみたいに専門タイプはありません。………ないというより全てのタイプが専門と言ってもいいでしょう。彼はどんなポケモンでも力を最大限引き出してくれます』

『す、全てのタイプが専門、ですか………』

『あれ? でもほのおタイプが専門だから選んだんじゃなかったっけ?』

『ええ、まあ。割とほのおタイプのポケモンが多いですし、最初のポケモンもほのおタイプですし、そういう意味では彼の専門タイプはほのおタイプと言ってもいいでしょうね』

『いやー、ほんと彼は面白いからね。ポケモンと同じくらい研究してみたいよ』

『………斬られても知りませんよ?』

『あっはっはっ! 斬らないよ、彼は。縁は切られそうだけど』

『誰も上手いこと言えとは言ってませんから………』

「ちょっとゆきのん! いつ再開すればいいの?!」

「長ぇよ………」

 

 折角待ってやってるってのに………。ユイの紹介もしてやれよ。思わずツッコミを入れてるぞ。

 

『それにしてもあの子、そんな相手によく物怖じせず向かっていけるわね』

『私の親友ですから。どんな相手でも立ち向かっていけるよう叩きこんであります』

『あら、三冠王を師に持つなんて』

『師は私だけじゃありませんよ。あそこにいる変なマントとハットを着けた全くカッコよくない男も師の一人です』

『お、久しぶりの罵倒だね』

 

 やっぱこれダサいよな………。

 着たくて着てるんじゃないから許して………。

 

「なあ、ユイ。これ放っておいたらずっと続くぞ」

「あははは………、ゆきのんよく喋るなー」

 

 流石のユイでもフォローはできないらしい。

 ユキノさーん、いつもより暴走してますよー。

 

「んじゃ、再開といきますか。ヘルガー、アイアンテールで尻尾を地面に擦らせたまま、フィールド一周だ」

「ヘゥッ!」

 

 俺の指示に軽く返事をすると、ヘルガーは円を描くようにフィールドを走り始めた。

 

「ショコラ、ストーンエッジ!」

 

 ヘルガーを追いかけるように地面から岩が突き出してくる。

 

「尻尾で薙ぎ払え」

 

 円の上に来た岩を鋼の尻尾で砕き、再び走り始めた。

 

「もう一度ストーンエッジ!」

 

 それを追いかけるようにまたしても岩が地面から突き出してくる。

 今度は何の命令もなしにヘルガーが自ら同じ対処を行った。砕けた岩の破片が描いている円の周りに落ちていく。

 

「行かせないよ! ショコラ、こわいかお!」

 

 なんてやっていたら、グランブルがヘルガーの前に立ちふさがった。誰とも言えない顔が睨みつけるオーラを出し、威嚇してくる。

 

「ヘルガー、もっと怖いもんを見せてやれ。あくのはどう」

 

 尻尾で円を描きながら、黒いオーラを解き放った。

 

「ひっ?!」

「ブルォ!?」

「尻尾で薙ぎ払え」

 

 怯んでいる隙にヘルガーがグランブルを横薙ぎに払った。そしてすぐさま円の続きを描いていく。

 吹き飛ばされたグランブルは自分が盛り上げた岩に激突し、少なからず追加ダメージが入ったらしい。

 

『一体ヘルガーは何をしようとしているのでしょうかっ?! 円を描くことに拘るかのようにグランブルの攻撃を次々といなしていきます!!』

『何か分かるかい?』

『いえ、私にもさっぱり。ただ、何かあるのは確かですね』

 

 ユキノもまだ意図は掴めてないか。

 なら、完成したときに驚くがいい。

 

「ショコラ、まだいけるよね! 岩にインファイト!」

「ヘルガー、次は大の炎を地面に流せ」

 

 お互い次の攻撃の準備に入ったというところか。

 はてさて、ユイは何を狙ってくるのやら。

 

「マジカルシャイン!」

 

 体内からエネルギーを放出させ、光を迸らせると、その衝撃で砕いた岩の破片がヘルガーに向けて飛ばされてくる。さすがに尻尾で弾き返せるような量ではない。

 

「だいもんじで壁だ」

 

 自分の目の前に「大」の字型の炎を作り出し、その炎を回して飛んでくる破片を燃やし始める。

 

「今だよ、ストーンエッジ!」

 

 なるほど、俺が何かしようとしているのは判っているってことか。それを実行するためにもここは防御に専念すると見たのだろう。その隙を突いて攻撃してくるのは、まあ妥当だな。

 

「だがまあ、それが発火装置になるんだがな」

「えっ?」

 

 地面から次々と岩が盛り上がって出てくる。だが、その岩の一つが描いた円の線上に達したとき、その岩から炎が噴き出した。その勢いは岩をも砕き、まるで火山の噴火のようである。

 

「って、ストーンエッジの威力出すぎだろ………。こっちまで飛んでくるじゃねぇか。ヘルガー、あくのはどうでだいもんじを覆え!」

 

 ここまでストーンエッジの威力が高いとなるとやはりあの黒い帯が要因だろう。恐らくは達人の帯。効果抜群の技の威力を高める道具だ。

 

「ショコラ、マジカルシャイン!」

 

 一か所から始まった噴火活動は次々と円状に発生し、火山岩のように吹き飛んだ岩々が誰彼構わず襲い掛かってきた。

 ユイの方に飛んでいってないだろうか………。

 ちょっと不安になってきた。

 

「ヘルガー、すまんがユイの方にも頼む」

「ヘゥッ!」

 

 大の字を黒いオーラで円形に囲ってできた壁を置いて、ヘルガーはユイの方へと走っていく。身軽な身体は降り注ぐ岩々を掻い潜り消えていった。

 

「ヘ、ヘルガー?!」

 

 どうやらユイの下へたどり着いたらしい。

 ヘルガーが自分を守っていることに驚いているようだ

 

「これはさすがに威力があり過ぎるな………………」

 

 試しにやってみたが、これは公式戦で使うような戦法じゃないな。下手したらこの会場がぶっ壊れそうである。

 

「ショコラ!?」

 

 ようやく噴火活動も収まり、立ち昇っていた黒い煙が晴れると、散りばめられた岩々の中にフラフラと起き上がろうと踏ん張っているグランブルの姿があった。

 だが、それも虚しくドサっと突っ伏した。

 

「グ、グランブル、せ、せせせ戦闘不能!」

 

 いやー危なかった。

 出す技全てがヘルガーの弱点を突いたり、その補助になったり、相当分析されているのが分かる。先にバトルのシナリオを考えた奴がいるのか、ユイが自ら練り上げたのか。定かではないがどちらにしても半年前のユイには到底無理な話だ。シナリオを再現するにもバトル慣れしていなければならないからな。

 

『………な、ななななんだったのでしょうか、今のは!! フィールド上で火山が噴火したような、そんな大技が放たれましたっ!! 新四天王、とんでもない実力者だったぁぁぁああああああっっ!!』

「お疲れさま、ゆっくり休んでね」

『………なにっ、今の!?』

『はあ………、また新しい技を創り出したりして………』

『いいねー、いいよー! これだよこれ! 彼といえば、こういう大技だよっ!』

 

 それにしてもよくここまで育ったもんだ。最初は結構酷かったってのに。一体ユキノはどんな教え方をしてきたんだか。あとコルニもか。ジムリーダーが一トレーナーに肩入れするのも珍しい事である。

 

「………あーあ、やっぱり強いなー」

「そりゃ俺とお前じゃトレーナー歴が全然違うんだから、強くて当たり前だろ」

「コルニちゃんといろいろ作戦立てて、上手く仕掛けるまではできたのに、あんな大技を作り出すなんて聞いてないよ」

「………使いどころがなかったんでな。ユイが鍛えてる間、俺だってこいつらの攻撃パターンを編み出したりしてたんだぞ」

 

 フレア団の事件以来、俺たちももっと攻撃パターンを増やさなければならないと、いろいろ練ってきた。リザードンやゲッコウガはすでにいろんなパターンの攻撃が可能であるが、ジュカインやヘルガーにはバリエーションがあまりなかった。しかも公式戦ともなれば技の使用制限もかかってくる。いかに少ない技で大技に変えるか、それが今日までの課題としていたのだ。

 そしてできたのが、あの噴火擬きというわけだ。

 

「だよね………。ヒッキー! 手加減なんかしないでよ! 今のあたしがヒッキーにどこまで通用するのか試したいから!」

「それは構わんが、またあの噴火活動とか起こすかもしれんぞ?」

「逆にあれを超えられればヒッキーを倒せる確率も上がるってことでしょ!」

「はあ………、前向きなのはいいことだが、俺を見くびってもらっちゃ困るな」

『いやー、最初から全開だね』

『少なくともユイは、ですけど』

『……あれでまだ本気を出してないっていうの?』

『ええ、恐らくまだ序の口です』

「まずはヘルガーを倒すよ、クッキー!」

 

 ユイの二体目はウインディか。同じほのおタイプをぶつけてくるとは。

 だが、ヘルガーの特性を忘れているのだろうか。こいつの特性はもらいび。炎技を受けることで強くなるんだぞ。まあ、あっちも特性がもらいびなんだが。炎を当てなければどうってことはない。

 

「しんそく!」

 

 よかった、一応は理解しているようだ………。まあ、ユキノのスパルタ授業を受けてきたんだから、俺たちのポケモンくらいなら知識として残っているか。

 

「つーか、速ぇよ」

 

 一瞬でヘルガーの前に現れて体当たりしてきたぞ。

 トレーナーの俺が反応できなかったわ。

 

「へへっ、まずは一発!」

「ヘルガー、生きてるかー?」

「ヘゥッ!」

 

 突き飛ばされたヘルガーはまだまだやる気なようだ。なら俺もそれに応えなきゃな。

 

「ヘルガー、だいもんじで壁だ。それから波導で覆え」

「ヘッガッ!」

「クッキー、りゅうのいぶき!」

「ウィッ、ガァァッ!」

 

 目の前に大の字の炎を作り出し、それを黒いオーラで覆っていく。

 さっきも作りだした壁が完成した。これで時間稼ぎにはなるだろう。

 

「ヘルガー、波導を集めろ」

 

 赤と青の息吹きを大文字壁で受け止め、その間に黒いオーラを頭上に球体へと練っていく。

 

「クッキー!」

 

 もっと! という合図を受け、ウインディが出力を上げてきた。どんどん炎が消えていく。

 

「纏えっ」

「ヘェッ、ガァァァアアアアアアッッ!!」

 

 頭上の黒い球体を自分に落とし、衝撃で破裂した黒いオーラがヘルガーの白い体毛に吸い込まれていく。体毛は黒く染め上げられ、まるで悪魔のように禍々しくなり、寒気のする風が吹いた。

 これぞダークポケモン。黒い波導をダークオーラと見なし、一時的にダーク化に近い状態へと持っていく、一度ダークポケモンになったヘルガーだからこそできる芸当だ。

 

「ダークストーム」

 

 体毛から吸収した黒い波導を口から吐き出し、竜巻のように回転させて、ウインディへと解き放った。

 

「ク、クッキー! 押し返して!」

 

 襲い掛かる黒い竜巻に若干怯みながらも、ユイが指示を出した。それに応えるかのように赤と青の息吹きの形を変えてきた。

 

「………さすがはでんせつポケモン。息吹きを波導に昇華させてきたか」

 

 竜を模した波導へと変化し、黒い竜巻に噛みつかれた。噛まれた黒い波導は霧散し、再集結していく。

 

「呑み込め」

「クッキー、しんそく!」

 

 黒いオーラが再度ウインディを吞み込もうとするも一気に駆け抜け、今度はオーラ全てを霧散させてしまった。

 

「へへっ、いいよ、クッキー! 振り返ってりゅうのはどう!」

 

 三歩のステップを踏み、向きを変え、竜を模した波導を放ってきた。

 

「波導には波導だっ」

 

 どうやら俺も気持ちが高ぶってきたらしい。

 段々攻撃に遠慮がなくなってきた。やりたいことが構わずやれるって感じだ。それもこれもユイがかなり成長し、俺のバトルについてこれるようになったからだろう。それが分かったから俺も思う存分やれるってわけだ。

 

「もう一度しんそく!」

「アイアンテールでずらせっ」

 

 竜を模した波導と黒い波導がぶつかり、オーラが弾けた。煙幕よろしくフィールドに広がり、視界を塞いでいく。そんな中、一直線に突っ込んでくる影。それを鋼の尻尾で弾いて躱し、逆に背後を取…………れなかった。

 

「ヘルガー!」

 

 スカしたことで変な体勢となり、そのまま地面に身体を叩きつけた。

 何故外したのか原因を探るためにウインディを見やると鱗粉のような、粉のようなものが周りに舞っていた。そのせいでウインディの姿が一瞬ぼやけて見えてしまう。

 

「ダークストーム!」

 

 再度黒い竜巻を作り出し、ウインディを背後から呑み込んだ。

 今度は当たった。

 ぐるぐると竜巻に回され身動ぎもないまま天へと打ち上げられ、重力に引っ張られ急下降してくる。

 

「クッキー! しんそく!」

「ヘルガー、メガシンカ!」

 

 もう使っても大丈夫だろう。

 俺はポケットからキーストーンを取り出し、ヘルガーに持たせたメガストーンと共鳴させた。

 石から解き放たれる光と光が結び合い、ヘルガーの姿を変えていく。同時に眩い光が一瞬で消えたウインディを目の前で、透明で薄い壁でもあるかのような状態で行動を遮っていた。

 

『ここでメガシンカだぁぁぁああああああっっ!! 新四天王もメガシンカの使い手! これで四天王全員がメガシンカの使い手であることが判明しましたっ!! この大会、今後荒れることは確定でしょうっ!!』

「そのままインファイト!!」

 

 強引に突破しようという試みだろうか。

 血気盛んなのはいいことだが、少々強引すぎるような………。

 

「はっ?」

 

 なんかマジで突破されそうな勢いがあるぞ。どういう育て方をしたらそうなるんだ。

 

「ヘルガー、ダークストーム!」

 

 だったら押し返すまでだ。

 黒い波導を操り、再三に渡り竜巻を起こすと、目の前にいたウインディを呑み込んだ。だがそれでも連続打撃は止まらない。四足を高速で動かしているため小さな風が起き、竜巻に小さな穴が生じ始めた。

 

「りゅうのはどう!」

 

 とどめとばかりに竜を模した波導が黒い波導を突き破った。

 

「ヘルガー、アイアンテールで地面を叩きつけろ!」

「ヘゥガッ!」

「クッキー、しんそく!」

 

 前宙で鋼の尻尾を地面に叩きつけ、さっきの噴火活動で出てきた火山岩を宙に浮かした。

 

「岩を黒い波導で操れ!」

「インファイト!」

 

 それを黒いオーラで包み込み、ウインディに向けて撃ち出していく。だが、神速状態からさらに高速で四足を突き出し、飛んでくる岩を次々と砕き始めた。

 

「いっけぇぇぇえええええええええっっ!!」

「ダークストーム!」

 

 会場に響くユイの咆哮。

 ヘルガーは時間稼ぎをしている間に集めた黒い波導で巨大な竜巻を作り出し、ウインディに襲いかかった。

 

「ッ!?」

 

 な、なんだっ?!

 また外れた?!

 というか外すように仕向けられてる?

 それにまた鱗粉のようなものがウインディの周りを舞っている。

 ……………粉、技が当たらない………何か、そんな道具があったような………。

 

「………ああ、そういうことか。まさかユイがそんな道具を使ってくるとは」

 

 ウインディがどこに身につけているのかは知らないが、恐らくあの鱗粉のようなものは光の粉というものだ。持たせていると自分の周りに粉が舞い、光の屈折を生み出し、焦点をぼやかしてしまう効果がある。そんな道具をユイが持たせてくるとか全く想像してなかったぞ。つか、どこで手に入れた。

 仕方ない、これもユイの策の一つだ。一本取られたのは認めないとな。けどまあ、やられてばかりでは終わらせんよ。

 

「ヘルガー、みちづれだ」

 

 ヘルガー、四つ目の技。

 こんなこともあろうかと一枠使わずにバトルを進めていた。その分、あくのはどうのバリエーションを増やしたってわけだ。

 リザードンもゲッコウガも独自の技を持ってるし、ヘルガーもこれくらいやらないとな。

 

「ヘルガー、戦闘不能!」

 

 ヘルガーはメガシンカを解き倒れていた。反対にウインディは立っていたのだが………。

 

「クッキー?!」

 

 ドサッと力尽きたように地面に伏した。

 

「ウインディ、戦闘不能!」

 

 いやはや、まさかユイにヘルガーを倒される日が来るとは。

 

『両者戦闘不能!! ついに四天王のポケモンが倒れたぁぁぁああああああっっ!! しかし、しかしっ!! ただでは倒れない! ヘルガー、ウインディを道連れにしましたっ!!』

『見た目に反してパワフルな子ね。力押しでメガヘルガーを倒しちゃうなんて。でもやっぱり彼は上手いわね。みちづれでペースを維持したわ』

『まさかここまで強くなっているとは思いませんでした。これは私も負ける日がくるかもしれませんね』

『いやー、ポケモンを渡した身としては嬉しい限りだね』

 

「お疲れさん」

「ありがと、クッキー。初めてヒッキーのポケモンを倒せたよ」

 

 うん、初めてユイに負けたわ。

 連戦だったとはいえ、半年前のユイなら不意をつかなければ俺のポケモンを追い込むこともできなかった。コマチやイロハの成長スピードが速かった分、ユイが諦めないか心配だったが、着実に経験を積んでいたようだ。

 

『ところでプラターヌ博士! ヘルガーは技を五つ使っていたように思うのですが………』

『五つ?』

『アイアンテール、だいもんじ、あくのはどう、ダークストームとかいう技、そして最後のみちづれ。確かに五つ使っているように感じますが、実際は四つで規定違反ではありません』

『………どういうこと? 確かにダークストームなんて技、聞いたことがないけれど。でもまだ私たちが知らないだけで他の地方にはある技かもしれないし』

『そうですね、カルネさんの仰る通りです。ダークストームという技も元はオーレ地方の技でしょう。オーレ地方ではある組織がダークオーラと呼ばれるものでポケモンをダーク化し、凶暴なポケモンへと変化させる事件がありました。そしてそのダークポケモンたちが使う技にダーク技というものがあります。彼はそこからヒントを経て、黒い波導ーーあくのはどうでダーク技を再現した、そんなところでしょうね。彼はそういう人です。一つの技からいろんな形に発展させ、いくつもの技を使っているかのような錯覚を与えてきたり、相手の技を利用して大技を作り出したりするトレーナーなんです』

『一つの技からいろんな形に………、それに相手の技を利用した大技だなんて……………』

『さっきの噴火がいい例ですよ。あれは先に円を描き、その隙間に炎を流し込む。これで技の仕掛けは終了です。後は地面を盛り上げるストーンエッジを相手が使ってくるのを待つだけ。描いた円のライン上で地面が盛り上がれば、同時に炎も吹き上がり、勢いで小規模の爆発が起きて噴火活動が次々と始まっていく。恐らくこのような感じかと。ま、加減が分からずヘルガーにユイを守りに行かせるような思いつきの技でしょうけど』

『…………思いつきだけでそんなことをやってのけてしまうなんて、私に勝ち目があるのかしら…………』

「いくよ、マロン!」

「んじゃ、お次は誰だ」

「カイッ!」

 

 次はジュカインが行くのか。

 昨日のリザードンを気遣ってのことかもしれない。自分も結構がヤられてたってのに。

 残りは伝説のポケモンしかいないし、さすがに出すわけにもいかないと思ったのだろう。

 なら、なおさらこっちもジュカインの力を引き出してやらないとな。

 

『次はくさタイプ同士だぁぁぁああああああッッ!! さあ、どうなるこのバトル!!』

『そう言えば、以前コルニに聞かれた時、ジュカインが挙げられていたわ。本当にほのおタイプ以外のポケモンも使うのね』

『ただ使うだけではありませんよ。ポケモンたち自身も高い能力を持っています。例えばジュカインはくさタイプの技を全てマスターしているといいます。加えて他のタイプの技も覚えていますから、技の選択肢が多く、多彩な攻撃を仕掛けてくることでしょう。ユイにとっては新たな試練になるでしょうね』

「………なんかすげぇプレッシャーかけられてんな。」

「カイ………」

 

 ジュカインもやれやれって感じなようだ。

 当のユイはブリガロンに何か指示を出しているようだ。早速仕掛けてくる気なのかもしれない。

 

「マロン、ゴー!」

 

 まずは一直線に走りこんでくる。

 さて、どうしたものか。

 何の考えもなく突っ込んできているとは思えないし。

 

「取り合えず躱せっ」

 

 意図が読み取れないので、技を使わずに躱すことを選択。

 ジュカインは割と動きが重たい方に位置づけられるブリガロンの腕を掴み、足を引っかけて宙で一回転させた。

 

「マロン、ミサイルばり!」

「っ、ジュカイン離せ! つばめがえし!」

 

 なるほど。

 今のはこれをするために近づいてきたってことか。

 ジュカインがどう躱そうがどう受け止めようが、ミサイルばりで狙う算段であり、近距離からの攻撃ならば素早いジュカインといえど、躱せないと踏んだのだろう。しかもジュカインには効果抜群だ。いい策と言えよう。

 

「今だよ、突っ込んで!」

 

 背中から無数の針を飛ばして、地面に倒れたブリガロンがすぐさま起き上がり、またしてもジュカインへと突っ込んでいく。

 ジュカインはというと白い手刀で次々と針を落としていた。

 

「ウッドハンマー!」

 

 ブリガロンが大木の纏った腕を振り上げ、ジュカインへと一気に駆け寄ってくる。

 

「逃げ場がない、か……。ジュカイン、くさむすび!」

 

 ミサイルばりのせいで躱している暇もなさそうなので、次の技を使わせた。

 ブリガロンの足元から草が伸び、絡みついていくと、ブリガロンを宙吊りにしていく。

 

「つばめがえし!」

「マロン、ミサイルばり!」

 

 身動きが取れない間に攻撃を、と思ったが器用にミサイルばりで足に巻き付いた草に切り裂き、残りの針をジュカインへと飛ばしてきた。

 それをジュカインは白い手刀で叩き落としていく。

 

「もう一度、ミサイルばり!」

「ジュカイン、このままじゃキリがない。こっからは全開でいけ!」

「カイッ!」

 

 思いっきり地面を蹴り上げたジュカインが、ミサイルばりの僅かなタイムラグを見切り、当たるギリギリのところで頭や身体を反らして躱していった。

 

「つばめがえし!」

 

 あっという間にブリガロンの正面に辿り着き、白い手刀を振り下ろした。

 

「ニードルガード!」

 

 両腕を合わせて壁を作り、防御態勢の姿勢をとる。

 そこに手刀が刺さると腕から棘が伸び、逆にジュカインを攻撃してきた。それと同時に首から下げた何かからエネルギーを放出し、ブリガロンの身体へと吸収されていく。

 

「今だよ、ドレインパンチ!」

 

 ジュカインが反射的に仰け反った瞬間に、右腕を掬い上げてきた。その拳は体力を奪う能力を宿しており、当たるわけにもいかない。いかないのだが、躱せるタイミングでもない。かと言って新たに技を使うのも今後の選択肢が絞られてしまう。どうしたものか………。

 なんて考えている暇はない。

 

「ジュカイン、くさむすび!」

 

 バク転で地面に手を付けた時に、自分とブリガロンの足元から草を生やし、一本を自分を投げ上げ、一方はブリガロンに絡みついた。

 拘束されていくブリガロンの拳は立ち上がった草に当たり、ジュカインを捉えることはなく、そのまま伸ばした腕も草に固定されていく。

 

「ミサイルばり!」

 

 宙に投げ出されたジュカインに向けて、針がミサイルのように飛んできた。

 

「空気を蹴りつけろ! つばめがえし!」

 

 エアキックターンの要領で空気を強く蹴り出すと、重力を合わせて一気に落下した。

 

「戻ってマロン!」

 

 白い手刀が刺さる直前、赤い光が ブリガロンを包み込み、吸い込んでいった。

 

「シュウ、いくよ!」

 

 ユイのポケモンの中では一番まともな名前だと思うルカリオが交代で出てきた。

 このタイミングでの交代。何か企んでいるのだろう。ユイもルカリオもそういう目をしている。

 

「って、ちょっ! だからスカート捲らないでっていつも言ってるでしょ!」

 

 と思ったら急にユイの元へいき、ミニスカートに手をかけた。幸い捲れあがる前に押さえつけたため中は見えなかった。誰にも見えなかったはずだ。見た奴の目は潰す。

 

「ヒッキー、シュウだからこそできる技、見せてあげる!」

 

 ルカリオだからこそできる技か。

 波導かな。

 

「シュウ、散らばった針でミサイルばり!」

 

 波導だな。

 ジュカインがさっきから何度も地面に叩き落としている針を波導で操り、ミサイルばりのように全方位から狙ってきた。

 ブリガロンがこれまで何度もミサイルばりを撃ち出していたのは、このためだったのだろう。

 

「ジュカイン、両手で回転斬り!」

 

 数が多いなら手数を増やすまでだ。これまで右手の手刀のみだったのを両手にし、腕を広げて回転斬りでミサイルばりを粉々に砕いていく。これでルカリオに利用されることもない。

 

「………やっぱり効かないか……。だったらシュウ! あたしを使って!」

 

 はい?

 ユイを使う?

 

「ルガッ」

 

 ユイの元へ行くと、豊満な胸に手を伸ばした。

 おいこら、何してやがる。羨まけしからん!

 

『こ、これはっ………!』

『カルネさん、何か知っているのですか?』

『え、ええ………でもまさか、あの子が………』

 

 ルカリオは一気に手を引き、棒状の…………いや骨と表現する方がしっくりくるな。ってことはボーンラッシュの応用か? けど、ならどうしてユイから出す必要がある?

 

「はあ………はあ………、シュウ! ヴォーパルストライク!」

 

 ルカリオは左腕を前に突き出し、右肩に骨を乗せ、構えを取る。すると、骨にエネルギーが溜まっていき、地面を蹴りだして一気に突いてきた。

 

「そのままホリゾンタル・スクエア!」

 

 ジュカインが怯んだところに右から斬り、左から斬り、脇に潜り込んで回り込むと背後からまら右から斬り、左から斬り、スクエア状の衝撃波が周りに現れた。

 

「よくその技を知ってるな。お前も見たのか?」

「やっぱヒッキーも知ってたんだね………。これはゆきのんが前に教えてくれたの。『私はあまり使わないというか使ったことないのだけれど。覚えたらハチマンが喜ぶんじゃないかしら』って言ってたよ」

「ユキノの入れ知恵か。だったら、こっちもそれ相応にやらないとな」

 

 ユキノの入れ知恵ならしょうがない。

 こっちも全力を出すまでだ。

 

「ジュカイン、メガシンカ!」

 

 二つ目のキーストーンとジュカインの持つメガストーンが共鳴し始め、ジュカインの姿を変えていく。

 

『な、なんとメガシンカを複数操れる者がもう一人いたぁぁぁああああああっっ!!』

「シュウ、りゅうのはどう!」

 

 メガシンカしたところに竜を模した波導が襲い掛かってくる。

 

「ジュカイン、ハードプラント!」

 

 地面を叩き、太い根を起こして波導を貫いた。根の先はそのままルカリオ突き飛ばし、フィールドの形を変えてしまう。

 

『ここでくさタイプの究極技だぁぁぁああああああっっ!! メガシンカといい、この四天王! 類を見ない実力の持ち主ですっ!!』

「シュウ、大丈夫?!」

「ル、ルガ………」

「あ、武器が………」

「ルガゥ!」

 

 真っ二つに折れた骨棍棒。

 それに気づいたユイが戸惑いの声を上げた。

 

「ルゥ、ガッ!」

 

 ルカリオは二本に折れた骨棍棒を拾い、構えなおした。すると骨が伸び、二本の武器へと変化していく。

 

『まさかあの方法で作った骨棍棒が折れるだなんて………』

『あの方法……とは?』

『さっきのルカリオの骨棍棒の作り方よ。詳しくは他言できないのが心苦しいわ』

「シュウ………」

「ルガッ!」

「……うん、いくよ! ダブルサーキュラー!」

「ルガゥ!」

 

 地面を蹴り上げると一気に詰め寄り、右手の骨棍棒を左下から掬い上げてきた。

 

「ジュカイン、躱せ!」

「カイッ!」

 

 一歩下がり棍棒の間合いから離れる。続く左手の突きを右脇に通し、逆にルカリオの腕を掴み、背負い投げで地面に叩きつけた。

 

「くさむすび!」

 

 地面からは草を伸ばし、起き上がる前にルカリオを地面に固定していく。

 

「シュウ、波導を解放して!」

 

 だが、波導が破裂するかのように衝撃波を生み出し、草を引き千切った。

 

「りゅうのはどう!」

 

 両腕で身体を起こし、宙で身体を捻って着地と同時に竜を模した波導を撃ち出してきた。

 

「ハードプラント!」

 

 地面を叩き、太い根を起こす。今度は三方向に分かれ、竜を貫く他に、両側からルカリオに襲い掛かっていく。

 

「スターバースト、ストリーム!」

 

 着地したルカリオは両手の骨棍棒で高速で斬り裂き、斬り込んできた。両側の根は方向を変え、ルカリオの背後から追尾していき、時折一回転して背後の根も斬り裂いている。

 十六連撃。

 本来の技と同じヒット数で太い根を食い止めた。

 だが、ルカリオに硬直時間はない。

 

「ヴォーパルストライク!」

 

 すぐさま突撃に切り替え、一気に詰め寄ってくる。

 

「つばめがえし!」

 

 それを右の白い手刀で弾き、左の手刀を突き刺した。

 ルカリオが失敗したダブルサーキュラーである。

 

「………知ってるだけじゃなくて、やっぱり使えるんだ………。シュウ、スターバーストストリーム!」

「全ていなせ!」

 

 すぐに態勢を立て直し、ルカリオは二本の骨棍棒を振りかぶってきた。

 ジュカインは二本の手刀をクロスさせて受け止め押し返すと、すぐに横から骨棍棒を振り回してくる。

 それを右の手刀で流し、ルカリオの背後に回り込んだ。

 ルカリオはバク転でジュカインの頭上を取ると右の棍棒を突き刺してきた。

 それをジュカインは二歩下がることで躱し、空を切った骨が地面に突き刺さる。

 ジュカインはそこを見逃さず、地面を蹴り草を起こすと、骨棍棒を絡め取っていき、一本の機能を奪った。そして草がルカリオの腕まで届く直前、ルカリオが左の骨棍棒を地面に突き刺し、クレーターを作った。

 当然、地面から生える草もろとも双方の骨棍棒の自由が回復し、すぐさま握りなおして猛攻を続けてくる。

 

「シュウ、もっと! もっと速く!」

 

 ユイからはさらなる命令が下され、それを聞いたルカリオの動きが加速し始めた。

 

「おいおい、まさかしんそくを覚えたのか………?」

 

 地面を踏み込んだと思いきや、一瞬にしてジュカインの目の前に詰め寄っており、どうやら今ここで新たにしんそくを習得したようだ。

 

「ジュカイン、草で自分を作れ!」

 

 今ある技の中でこの動きに対応できそうなのは、ない。ただし、ルカリオの目を誤魔化すことくらいはできるだろう。

 

「カイッ!」

 

 ジュカインはルカリオの猛攻を両手の手刀でいなし、徐々に草を絡め合わせて、自分を模した草の模型を作り出していく。それは一体だけにとどまらず、二体三体とルカリオを包囲していった。

 

「ジュカイン、加速しろ!」

 

 一瞬。

 ルカリオがジュカインを模した草に気をやった瞬間に、今度はこっちから懐に入り込んでやった。そして、最後の一撃を右の手刀で流すと、左側から掬い上げるように斬りつけた。

 後ろに倒れ込むルカリオをそのまま尻尾で撃ち飛ばし、地面を叩く。

 

「ハードプラント!」

「シュウ、切り返してヴォーパルストライク!」

 

 ルカリオは地面に骨棍棒を突き刺し、減速すると、地面を蹴り返し一気に詰め寄ってきた。

 二本の骨棍棒は真っ直ぐと前に突き出され、太い根を真っ二つに斬り裂いていく。

 

「リーフストーム!」

 

 出し惜しみしている暇もないので最後の技を選択。ジュカインは尻尾を切り離し、風を生み出しながらルカリオに向けて撃ち飛ばした。

 太い根を全て斬り裂いたルカリオは、続けて飛ばした尻尾も真っ二つにしたが、同時に骨棍棒も粉々に砕けてしまった。

 

「シュウ!!」

 

 だが、すぐにユイの呼びかけに応じ、首から下げていたネックレスを引き千切ると赤い結晶を砕いた。

 

「はどうだんっ!!」

 

 弾丸状に集められていく波導に砕けた結晶が吸収されていき、弾丸が巨大化した。

 

「ハードプラント!」

 

 恐らくこれが最後の攻防だろう。

 波導や技ではない技を取り入れ、最後には道具も使い、メガシンカと互角にやり合うようになるとは………。

 全く、恐れいったぜ。

 

「ジュカイン、ルカリオ、ともに戦闘不能!」

『な、ななななんとっ! このバトル引き分けに終わったぁぁぁああああああっっ!? ユイ選手、四天王の、しかもメガシンカしたポケモン相手に食らいついていましたっ!!』

 

 フィールドに残っていたのはメガシンカを解いて、地面のクレーターの真ん中で倒れているジュカインと、太い根で突き飛ばされ、隔壁にめり込んでいるルカリオの姿だった。

 

「お疲れさん」

「シュウ、ありがとう。ゆっくり休んでね」

 

 常識離れなルカリオ相手によくやったもんだ。これで次メガシンカを習得していれば、確実に負けていたのはジュカインの方である。確かに昨日のダメージが残っており、全快の状態ではないとしても、負けるとは到底思えない。それくらい、ユイたちの成長っぷりは目を見張るものがあったというわけだ。

 

「マロン、次お願いね!」

 

 ユイも次のポケモンを出してきたことだし、俺も出すとしますか。

 

「んじゃま頼むぞ、リザードン」

「………シャア………」

 

 まあ、あまり乗り気じゃないわな。昨日の今日だし。

 しかもメガストーンを奪われて。

 

『とうとう出てきたね』

『ええ、メガシンカしたポケモン二体が倒されましたからね。彼も本気を出さざるを得ないのでしょう。………昨日のこともあるので、あまり無理はしてほしくありませんが』

『彼の切り札はリザードン、ということ?』

『そうですね。彼の最初のポケモンですし。元々彼はカロスに来るまで、リザードン一体でいろんなところを巡り歩いてきた人です。そんな彼とリザードンが織りなすバトルは、いつ見ても目を奪われます』

 

 さて、どうしたものか。

 あまりリザードンに本気を出させず、かといってそう簡単に倒せるような相手ではなくなったユイをどう攻略するか。

 

『コウガ』

「ゲッコウガ、どうした………?」

 

 いきなり繋いでくるとか何かあったのか?

 

『コウガ、コウコウガ!』

「………なるほど、俺一人でダメならお前もってか。確かにお前なら出来るかもしれないな。頼むぜゲッコウガ」

 

 どうやらゲッコウガもこっちの状況が分かっているらしい。その上で提案をしてきたというわけだ。

 正直その発想はなかった。だが、俺とこうして繋がっているゲッコウガなら、そのまま俺の負担の半分を担うこともできるかもしらない。というかゲッコウガがやるというのだからできるはずだ。

 

『コウガ!』

「リザードン、昨日のアレは気にするな。また発動しようが、今度は俺とゲッコウガで受け止めてやる。全力で行け!」

「……………、シャア………、シャアッ!!」

 

 どうやらリザードンは後のことは俺たちに任せてくれたらしい。最初から俺にアクセスし、炎のベールに包まれていく。

 くっ………、またこの重々しい感覚。

 

『コウ、ガ………』

 

 ゲッコウガも重苦しい声を荒げている。

 頼むぜ、ゲッコウガ。

 

「ブラストバーン!」

「マロン、ニードルガード!」

 

 リザードンは地面を叩き割り、割れ目から炎柱を立たせた。ブリガロンが両腕を前に突き出し防壁を貼るも、その防壁ごと炎が呑み込まれていく。

 

「マロン!?」

 

 ユイが呼びかけるが、反応はない。

 炎柱の中でどうなっているのか、まあ焼かれているんだろうけど。

 

「ガ、ロッ………!」

 

 と、ブリガロンが炎柱を振り払い、中から出てきた。その身体には多数の火傷の跡があった。

 

「マロン………」

「………ガロ……」

 

 そして、バタリと倒れた。

 

「ブリガロン、戦闘不能!」

 

 あの炎を僅かでも耐え抜くとは、相当鍛えられているな。

 初めの頃は技を躱すこともできなかったのに、躱せない場合の耐久力もつけてきていやがる。

 

「マロンのガッツは無駄にはしないよ。ありがと」

『ブリガロン、一撃戦闘不能!! またしても強力なポケモンを出してきたぁぁぁああああああっっ!!』

『はあ……、まさか初手で究極技を出してくるなんて………。ユイの心でも折る気かしら』

『というよりあのリザードンの爆発的なエネルギーを放出したいんじゃないかな』

『………なぜこの二人は平静でいられるのかしら』

 

 それは見慣れてるからです、チャンピオン。

 

「いくよ、サブレ!」

「グラァッ!」

 

 五体目に出てきたのはグラエナ。

 リザードンを睨みつけ威嚇し、頭にはハチマキを巻いている。

 

「シャアッ!」

 

 おっと、リザードンが興奮してきたぞ。

 無駄に重圧がすごい。炎の勢いも増している。

 俺もゲッコウガもよく耐えてると思うわ。

 この有り余る力をどう発散させたものか。

 究極技でも無理だったとなると、やはり一撃必殺しかないのかもしれない。

 グラエナには悪いが、これで退場してもらおう。

 

「リザードン、じわれ!」

 

 リザードンが地面を叩くと大きく割れ、グラエナを呑み込んだ。

 

「今だよ、サブレ! カウンター!」

 

 だが、吐き出されたグラエナはハチマキを光らせていた。ピンピンとまではいかないが、一撃必殺に耐え、カウンターを仕掛けてくるくらいには元気である。

 やはりあのハチマキも持たせると効果がある道具だったか。

 一撃必殺を耐え抜く効果は…………きあいのハチマキかな。

 

「ドラゴンクロー!」

 

 ハチマキからエネルギーを吸収し、口からはかいこうせんのように放出すると、リザードンを覆っていた炎のベールを貫通し、衝撃で消えてしまった。

 なおも勢いの止まらないグラエナの突撃を竜の爪で受け止め、弾く。

 

「ふいうち!」

 

 グラエナは弾かれた勢いを使い、体を捻るとリザードンの背後に回り込み、頭突きをかましてきた。

 リザードン、初のダメージである。

 

「かみなりのキバ!」

 

 続けて電気を纏った巨大な牙を作り出し、リザードンの翼を狙ってきた。しっかりと弱点もついてきてるし、ユイの成長に涙が出そうだわ。

 

「エアキックターン!」

 

 グラエナに体当たりされた勢いを利用し、反転して空気を押し蹴ると巨大な牙に向けて突っ込んでいく。

 

「トルネードドラゴンクロー!」

 

 おお、懐かしい。

 これ使うのいつぶりだ? 半年は軽く使ってないだろ。

 リザードンは両爪を前に突き出し、ドリルのように高速回転し始めた。

 

「サブレ、受け止めて!」

 

 いつぞやのヘルガーがほのおのキバで技を受け止めた時の要領で、グラエナも高速回転するリザードンを受け止めた。だが、勢いはこそ殺せていない。というか地面から吐き出されてからずっと空中にいるんだけど。いつの間にそんなバランス感覚を身に着けたんだよ。

 

「スイシーダ!」

 

 グラエナが押し負けたところにすかさず両爪で地面に叩きつけた。

 

「サブレ!?」

 

 めちゃくちゃなことになっているフィールドに新たなクレーターを作ってグラエナは倒れていた。

 

「グラエナ、戦闘不能!」

 

 いやはや、強くなってるよ。

 これでまだメガシンカもZ技も使ってないってんだから、案外イロハやコマチよりも強くなってそうな気もしてくる。

 

「やったね、サブレ。カウンター、使えるようになったね」

 

 はい?

 まさかさっきのが初成功だったとでもいうのか?

 確かにカウンターを決めるのは至難の技ではあるが、完成していない技をあえて使ってくるとか、並みの精神力じゃ無理だろ。

 ……………あのアホの子が、ねぇ…………。

 

「シャアァァァアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

 ぐぅっ!?

 お、おい、こら、リザードン! あんま興奮すんな!

 

『コウ、ガ………!?』

 

 お、重すぎだろこの圧力。

 頭がいかれそうだ。

 

『また炎に包まれたわね』

『ええ、ハチマンの顔色も随分と悪くなってます』

『………何かあったのかい? 彼もリザードンもいつもと様子が違うようだけど』

『………暴走、しかけているのを必死に抑えているのだと思います』

『『暴走?!』』

 

 ユキノめ、いらんこと言いやがって。

 

「暴走…………」

『と、止めなくてよいのでしょうか………?』

『ええ、大丈夫です。彼はポケモンの暴走に慣れてますから』

 

 ったく、好き勝手言いやがって。

 おかげでますます暴走させにくくなったじゃねぇか。

 

「マーブル、リザードンを倒すよ! ほごしょく!」

「ドブゥ!」

 

 ボールから出てきたドーブルは姿が見えなかった。本当に出てきたのか怪しいレベルである。

 

「ダークホール!」

 

 だが、ちゃんと出てきていた。グラエナが意図せず作ったクレーターの何もない上空に漆黒の穴ができ、吸引を始める。

 

「ブラストバーン!」

 

 あの穴の対処法は、莫大なエネルギーを吸い込ませることだ。

 逆に言えば、人やポケモンーー生き物を吸い込んだときは莫大なエネルギーを吸い込んだと換算されているということである。

 

「ハイドロカノン!」

 

 おっと、今度は背後に回りこんだのか。

 ほごしょくのおかげで姿は見えないし、タイプも何に変わったのか想像つかないし。

 やりにくいことこの上ない。

 

「ハイヨーヨー!」

 

 逃げるに越したことはない。

 急上昇し、一気に天へと翔け昇る。 

 

「空に逃げれば安全だと思ったら大間違いだよ。マーブル、へんしん!」

 

 ユイの指示通り、姿を見せたドーブルの身体が白い光に包まれ変化していく。

 その姿はまるで………。

 

「リザードン………」

 

 炎龍の姿がそこにあった。肩からは襷のようなものをかけている。

 

『ド、ドーブルの姿が変わったぁぁぁああああああっっ!! こ、こんなことまでできるのか、ドーブル!!』

『マーベラス!! ドーブルにへんしんをスケッチさせたのかっ!? まさかそうくるなんてね!』

『これが彼女の大本命ということでしょうか………』

『………まさかこんな形で対策を立ててくるなんて………。いろいろと質問された覚えはありますが、これは私も聞いてませんでしたよ』

 

 ユキノも知らなかったということは本当に最後の隠し球だということだろう。

 

「まだまだこれからだよ! マーブル、トルネードドラゴンクロー!」

 

 そっちも使えるのかよ。

 これはマジで『リザードン』と戦ってると思った方がいいな。

 

「こっちもトルネードドラゴンクローで急降下だ!」

 

 上昇してくるドーブルに対し、同じ技で迎え撃つ。

 本家を舐めるなよ。

 

『全く同じ姿で同じ技の交錯だっ!! どちらが押し通すのか見ものだぞぉぉおおおっっ!!』

 

 リザードンとリザードンが交錯した。地面に叩きつけられたのがどちらなのか、おそらくリザードンに意識を半分持っていかれている俺にしか分からないだろう。ユイも分かってるといいのだが。

 

「リザードン、じわれ!」

 

 地面に叩きつけたのは俺のリザードンであり、地面に呑み込まれてようとしているのがユイのドーブルである。

 

「マーブル、ブラストバーン!」

 

 裂けた地面に逆に炎を流し込み、リザードンへと押し返してきた。

 

「押し返せ、ブラストバーン!」

 

 負けじとこちらも究極技で対抗する。

 割れた地面から炎柱が勢いよく立ち昇っていく。

 

「ハイヨーヨー!」

「追え、リザードン!」

『ここで空中戦に突入だぁぁぁああああああああっっ!!』

 

 急上昇していく二体の炎龍。

 そして、先を行くドーブルが急下降に変わり、リザードンも向きを変えドーブルに追い縋っていく。

 

「マーブル、ソニックブースト!」

「リザードン、こっちもソニックブーストだ!」

 

 地面すれすれで向きを変えると超加速で二体が鬼ごっこを始めた。鬼は当然リザードンの方である。

 

「………あたしはずっと何もできなかった」

 

 切り返しに次ぐ切り返しで、どんどん上昇していく二体の炎龍。高速戦闘になっているため肉眼で見えている人たちはごく僅かだろう。かく言う俺も肉眼じゃ捉えられなくなってきた。

 

「コマチちゃんやイロハちゃんみたいにすぐにバトルができるわけでもヒッキーやゆきのんみたいにポケモンについて詳しくもない。ずっとみんなの背中しか見て来れなかった。けど、あたしコルニちゃんに言われて気づいたの。それだけたくさんのすごい人たちのバトルを見てきてるんだって」

 

 ユイ…………。

 確かにユイは誰よりもたくさんの人たちのバトルを見てきている。しかもレベルの高いものばかり。あるいは事件にも巻き込まれ、生死をさまよう戦闘を間近で見てきた数少ないトレーナーだ。トレーナーの経験としては十二分に培われている。

 

「だからいくよ、ヒッキー! これがあたしの旅の成果だよ! マーブル、メガシンカ!」

 

 これはいつぞやのメグリ先輩の戦法じゃねぇか。

 へんしんという技を最大限に生かしたトリック。メグリ先輩は最初から俺を嵌めるつもりで呼び方も変えていたけど。

 ただまあ、戦法の応用ってところか。あまり戦闘スタイルが変わるわけではないが、自分を相手にするという時点ではやりにくいことこの上ない。しかもあっちはメガシンカし、こっちはメガシンカができないという制約がかけられている。

 それにここでメガリザードンXを選んだということは、思い付きでメガシンカさせたわけでもあるまい。これまでを見る限り、使いこなせるようになった、あるいは多少の問題は有れど八割方完成しているところまでは来ているのだろう。

 

『ここでへんしんという技について説明をしておきましょう。へんしんはメタモンというあらゆるものに姿を変えることができる独特な技です。ポケモンに変身すれば姿から出す技までそのポケモンになります。であれば、メタモンは最強のポケモンということになりますが、実はそうでもありません。変身した姿のポケモンが覚える技自体を使いこなせなければ、技が使えない状態になってしまうのです』

『つまり………?』

『トレーナーもポケモンも実力がなければ使いこなせないというわけですよ。』

『………ついでにユイでいえば、ドーブルにへんしんをスケッチさせて覚えさせた。その上でリザードンに変身し、メガリザードンへと姿を変えた。彼女の実力が如何ほどなのか、もうお判りでしょう』

 

 ああ、分かるさ。

 技以外の技までも完全にものにしてきてるんだ。かなりの実力がなければそんな細かいところにまで手を出せるはずがないもんな。これはいよいよもってリザードンがピンチになってきたか?

 

『…………これは確かに四天王と言えど油断はできませんね。おっと、丁度ルールの確認が入りました。………なるほど、ドーブルがへんしんを使った場合、変身前にへんしんを含む四つの技、変身後の姿で新たに四つの技を使えるようです。まさか、こんな細かいルールまで設けられているとは驚きです!』

「マーブル、エアキックターンからのトルネードドラゴンクロー!」

「逆回転で受け止めろ!」

 

 メガシンカ後、反転して高速回転で突っ込んでくる偽リザードン。そこに逆回転で相殺し、動きを止めにかかる。

 

「ブラスターロール!」

 

 今度は上を取る気か。

 逆回転でも酔わなかったということは随分と体に覚えさせているようだな。

 

「ソニックブースト!」

 

 急加速でドーブルからの攻撃を躱し、そのまま上昇していき上を取った。

 

「マーブル、ローヨーヨー!」

 

 スカした体制が下を向いていたためか、偽リザードンは一度リザードンから大きく距離を取り始めた。だが、そこには背中がある。

 しかし、直接攻撃を仕掛けにいったとしても、急上昇してくる偽リザードンに押し返されるだろう。となるとここからでも撃てる技。しかも既に使った技でとなるともうこれしかない。

 

「口から吐き出せ、ブラストバーン!」

 

 あと一つ技を選択できるがユイが何か仕掛けてくるかもしれないし、選択肢を潰しておくのは心もとない。

 

「かわして急上昇!」

 

 ふむ、やはり届かないか。

 それよりも急上昇してくる偽リザードンをどうするかだ。

 

「マーブル、りゅうのまい!」

 

 上昇しながら水と炎と電気の三点張りからの竜の気を作り出していく。

 

「リザードン、上にいかせるな! ドラゴンクロー!」

 

 竜の気を纏うと一気に加速した。

 だが、竜の爪で弾きドーブルの動きを一瞬止めた。

 

「マーブル、ブラスターロール!」

 

 ドーブルはリザードンの背後に回り込もうとしてくるが、リザードンがそれをさせないように上を取り続ける。

 

「コブラ!」

 

 今度は急停止、一瞬後に急加速。

 先を行ってしまったリザードンにしてやったりの顔で加速時に上を狙うも、急加速と同時にリザードンが上昇し、中々思うように動けないでいる。

 

「………う、上にいけない……………はっ!? まさか………バードゲージ…………!!」

 

 ま、ローヨーヨーやらブラスターロールをマスターしてきてるんだから、当然かこの技も知ってるわな。

 バードゲージ。

 スピードを活かして相手の動きをコントロールしていく飛行技。

 

「スイシーダ!」

「マーブル!?」

 

 そろそろ振り回されるのも面倒なので背中を叩き、地面に突き落とした。

 

「じわれ!」

「っ!? ブラストバーンを撃ち込んで!!」

 

 そして、急降下して地面を叩き割り、地割れを作り出して偽リザードンに襲いかかる。

 だが、それはユイの声に反応した偽リザードンによって究極の炎で押し返された。

 

「ハイヨー………ッ!?」

「グリーンスリーブス」

 

 地面から立ち上がる炎の陰に隠れて急接近。

 再度急上昇を図ろうしたドーブルを左の竜の爪で掬い上げ、次々と爪を入れていく。

 

「マーブル!?」

 

 突き上げたドーブルはまだ意識を保っていた。

 あれも襷のおかげなのか?

 

「いくよ!! 連続でエアキックターン!!」

 

 空気を強く蹴り出し、急降下してくるドーブル。

 それを躱すと今度は下からエアキックターンで急上昇してきた。

 

「あたしたちの新しい技だよ! グリーンスリーブス横バージョン!」

 

 ぐぅぅっ!?

 強い衝撃がっ?!

 

『コウガッ?!』

 

 これはリザードンが受けているダメージと見ていいのだろう。

 

「シャアァァァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!?」

 

 すでにもうかが発動するまでのダメージを受けたのか。

 リザードンを纏う炎が激しさを増していく。

 

「とどめだよ! ドラゴンダイブ!」

 

 それまで纏っていた竜の気を竜の形へと変化させ、突撃してくる。

 

『コウガ、コウコウガ!』

 

 はっ?

 いや無理だろ。リザードンが覚える技にそんなもんはねぇぞ。つか、誰の技だよ。

 

『コウガ、コウガコウガ!』

 

 リザードンができるって言ってるってか

 それは理解できるが……というかリザードンが言ってることが理解できることに驚きだが、だからって信じろと?

 ………ったく、どうなっても知らねぇぞ、お前ら。普通はあり得ないことなんだからな!

 

「あおいほのお!」

 

 どこの誰が使う技なのか知らねぇが、リザードンがそう指示を出せというのだからそうするしかあるまい。

 するとリザードンを纏っていた炎の色が蒼色に変わり始めた。

 そして、目の前まで迫り来るドーブルが変身したメガリザードンXを蒼い炎で包み込んだ。

 

『………リザードンが、あおい……ほのお………?』

『まさか、あの炎の中でメガシンカしているとでもいうの………?』

 

 いや、それが俺にもよく分からない。

 分からないが、可能性を否定することもできない。

 ただ言えるのは、リザードンがリザードンの域を超えたということくらいである。

 

「………マーブルッ?!」

 

 蒼炎の中からシューと煙を上げて落ちてくるドーブル。変身も解かれ、まさにドーブルの姿だった。

 やっと、終わったな………。

 

「マーブル、戦闘不能! よって勝者、四天王ヒキガヤハチマン!」

 

 審判にそう宣言され、ようやく一息がつけたという思いがただただ込み上がってくる。

 

「シャア………」

 

 それはリザードンも同じなのか、飛ぶ力も失い、真っ逆さまに落ちてきた。

 だが、今の俺にリザードンを受け止める術が思いつかない。まず頭が働かない。ゲッコウガも反応が無くなってるし、あっちでも姿が元に戻っていることだろう。

 

『勝ったのは四天王、ハチマン選手だぁぁぁああああああっっ!! 思わず実況を忘れてしまうほどの見たこともないバトル!! それによくついて行きました、ユイ選手!! 四天王に引けを取らない戦略や技の数々!! メガシンカポケモンを二体も続けて倒した選手は彼女だけでしたっ!! みなさん、大健闘したお二人に大きな拍手を!!』

「カメックスはリザードンを! ネイティオはドーブルを回収して!」

 

 この声はハルノか?

 

「はあ……はあ………、キツ………」

「おっと……」

「………ハルノ」

「お疲れ様。よく暴走を食い止めたわね」

 

 倒れそうになった身体に柔らかい感触が伝わって来る。

 倒れることもなかったため、ハルノに支えられているのが分かった。

 

「……ゲッコウガが協力してくれてな」

「あの最後のリザードンにも驚かされるけど、影でゲッコウガも支えていたなんて、ユイちゃんが聞いたら驚くでしょうね」

「俺が驚いたからな。色々と………だる………」

「今は私に身体を預けてなさい。こういう時くらいお姉さんを頼りなさいな」

「すまん………」

 

 呼吸を整える中、遠くに見えたのはオリモトがユイを支えて、ネイティオがドーブルをぶら下げて後ろをついていく姿だった。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「ヒッキーっ!!」

 

 ハルノと二人でみんながいる観客席に戻ると、観客席へのゲートでユイとばったり会った。その顔は負けたというのに満足そうである。そんな眩しい笑顔で出会って早々抱きつかれた。超柔らかい感触が俺の胸に伝わってくる。

 

「ありがと、ヒッキー。あたしにも全力で応えてくれて。嬉しかった」

「あ、や、その、全力で応えたっつーか、全力を出さざるを得なかったというか………」

 

 俺の胸に顔を擦り付けながら感謝の言葉を言われた。

 このまま抱きしめ返してもよかったのかもしれないが、取り敢えずお団子頭にそっと手を置いた。というか身体が思うように動かない。疲労が一気に回ってきたって感じだ。

 

「つか、お前こそ、ルカリオと何をしたんだ?」

「ユイさんは結構珍しい人だったみたいだよ、お兄ちゃん」

「コマチ………?」

 

 俺はユイに聞いたはずなのに、答えたのは帰る用意をして観客席から出てきたコマチだった。

 その後ろからはぞろぞろ連なっている。

 

「あ、ユイさん、お疲れ様です。残念でしたね、いろんな作戦を立ててたのに」

「うん、でも悔いはないよ。あたしは今出せる全力で戦った。ヒッキーもそれにちゃんと応えてくれた。だからあたしは満足だよ!」

「そうですか、その言葉が聞けてよかったです」

「そうだな、ここでユイガハマがトレーナーをやめるなんて言い出したら、ヒキガヤにどう責任を取らせようか頭を悩ませるとこだったな」

「………なんかユイちゃん、雰囲気変わった………?」

 

 確かにサガミの言う通りユイの雰囲気が変わった。それは恐らく自分のバトルに満足し、自信がついたのだろう。

 コマチやイロハに比べて成長速度は遅かったものの、ユキノやいろんな経験が彼女を育ててくれたのだろう。遅咲きの花であるが、その分手にした技術はコマチやイロハを超えていると言ってもいい。

 なんてったって、圧倒的な力の差を生み出すメガシンカポケモンを二体も倒したんだからな。しかもコマチやイロハのようにメガシンカもZ技もなしに、自分にできることを全てやってのけての荒技で。その集中力は何物にも代えがたいものである。

 

「先生、それは見込み違いってもんです。ユイはバトルに負けたくらいでトレーナーをやめたりするような打たれ弱い性格じゃないですよ。なんせあのユキノとの特訓にずっとついていってましたし」

「今思えばすごいことだよね。ユキノシタさんの特訓に初心者がずっとついていってたなんて」

「であるな。トツカ氏の言う通りである」

 

 ま、最初からユキノという鬼教官に鍛えられてきたからっていうのもあるのかもしれない。だが、中々身を結ばなくとも、特訓を続けてきたのはユイ自信なのだ。人一倍の努力家である。

 

「それじゃ、みんな一回戦を終えたことだし、パーティーでもしましょうか! 勝った人は明日からの英気を、負けた人はお疲れ様会をってね」

「お母さん、はしゃぎすぎ………」

 

 何故か全く参加していないツルミ先生が一番はしゃいでいる。ルミがすげぇ恥ずかしそうだ。

 

「なあ、ユイ」

「ん? どったの?」

「あー、その、なんだ………」

 

 各々がぞろぞろと会場を後にしていく中、きょろきょろと辺りを見渡して、誰も俺たちを見ていないことを確認。

 そして、全く視線を感じないうちに、ユイの顎に手をかけ、唇を重ねた。

 

「………がんばったな」

 

 さすがに目を合わせるのは躊躇われたため、視線を逸らし、代わりにポンポンと頭を撫でた。

 

「え、ちょ、ハッチー………いま、き、きききキス…………」

 

 その手の下では慌てる様子のユイの声が震え上がってくる。

 

「すまん、嫌だったか?」

「う、ううん、そ、そうじゃないけど…………。ずっとして欲しかったけど………。でもあたしは弱いからハッチーの隣に立つ資格なんてないと思ってたから…………」

 

 ユイがポツリポツリと呟く内容は、俺がなんとなくそうではないかと思っていたことと同じであった。

 

「…………俺もな、結構悩んでたんだ。ユキノが正妻と言い出し、ハルノが俺に甘えるようになってキスまでねだるようになって、そしたらユキノまでキスを迫ってきて。このままずるずる二人と変な関係を続けていくのかーって。しかもそれだけじゃ終わらなくて、ユイはユイで物欲しそうな目をしてるし、イロハはなんか放っておけないし、コマチはかわいいし」

「ここでもシスコンは健在なんだね………」

「ばっかばか、コマチはお兄ちゃん大好き人間だから仕方ないんだよ」

「二人とも悪化してない?!」

「で、な。思ったわけだ。いっそ全員俺のものにできないかなーって」

「ハーレム王にでもなるの?」

「ハーレム王ならもうなってるだろ」

 

 王かどうかは知らんが、ハーレムを築いていることは自覚している。というかそもそも姉妹で俺を取り合うというか責め合うというか、色仕掛けをしてくる時点でハーレムができてしまっていた。そこにユイやイロハという、俺の勘違いじゃなければという存在もあり、もうこれは逃げられないところまできていたのだ。

 

「………そうかも」

「じゃなくて、イロハが言ってたんだ。ユキ姉ハル姉ユイ姉、みんな大事な家族だって。ハルノも『私の大事な妹たちを守ってあげて』って言ってたし」

「みんな、家族………」

「ああ、だから俺は決めたんだ。この『家族』とやらを守れるように、誰も文句が言えないようにしようって」

 

 そして決定的だったのは、イロハとハルノの言葉だ。

 姉や妹と表現してきたときに、この『家族』とやらを守りたいと思ってしまった。

 

「ハッチー………」

「だから、その………、ユイも俺の側にいてくれるか?」

「……うん、………うんっ!」

 

 多分、恐らく、正直なところ、俺から告白するのは二度目である。一度目はそもそも勘違いだったし、ユキノやハルノはあっちから言われたようなもんだし、そういう意味では初と言ってもいい。

 後はイロハにちゃんと伝えないとな。

 

「ハッチー、大好き!」

 

 取り敢えず、俺は大事な『家族』を守れるようになろう。

 




大変遅くなりまして申し訳ありませんでした。

仕事が忙しいということもあるのですが、ユイをどこまで強くするか、ハチマンをどこまで無双させるか、今後の展開にどう繋げようか、色々と纏めるのに時間がかかってしまいました。
なんか最終刊に近づいたラノベ作家の刊行速度が低下する気分を味わったような感覚です。

さて、この作品ついてですが、一応最終話までの目処は整っております。
ただいかんせん忙しく、内容を詰める時間が取れなくなってきており、またラストに向けて細かい描写もきにする必要ができてきましたので、更新速度が遅くなると思われます。
なので、今年からは更新を不定期にしたいと思います。まあ、おそらく月二回更新できればいいかなと考えている感じです。

楽しみにされている読者様には大変申し訳ありませんが、最後まで書くつもりですので、これからも当作品をよろしくお願い致します。


更新も話も謝辞も長くてすみません………。


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〜手持ちポケモン紹介〜 (23話現在)

 

 

ヒキガヤハチマン 持ち物:キーストーン×2(3) 菱形の黒いクリスタル etc………

・リザードン(ヒトカゲ→リザード→リザードン) ♂ 

 持ち物:リザードナイトX

 特性:もうか←→かたいツメ

 覚えてる技:かえんほうしゃ、メタルクロー、かみつく、おにび、えんまく、はがねのつばさ、かみなりパンチ、ドラゴンクロー、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、カウンター、じしん、フレアドライブ、ブラストバーン、げきりん、じわれ、だいもんじ、(特別)あおいほのお

 飛行術

 ・ハイヨーヨー:上昇から下降

 ・ローヨーヨー:下降から上昇

 ・トルネード:高速回転

 ・エアキックターン:空中でターン

 ・スイシーダ:地面に叩きつける

 ・シザーズ:左右に移動して撹乱

 ・ソニックブースト:ゼロからトップに急加速

 ・コブラ:急停止・急加速

 ・ブラスターロール:翻って背後を取る

 ・グリーンスリーブス:連続で攻撃して空中に釣り上げる

 ・デルタフォース:空中で大きな三角形を描くように連続攻撃

 ・ペンタグラムフォース:空中で五芒星を描くように連続攻撃

 ・バードゲージ:スピードを活かして相手の動きをコントロール

 

・ジュカイン(キモリ→ジュプトル→ジュカイン) ♂

 持ち物:ジュカインナイト

 特性:???←→ひらいしん

 覚えてる技:リーフストーム、リーフブレード、ドラゴンクロー、タネマシンガン、ギガドレイン、かみなりパンチ、スピードスター、くさむすび、ソーラービーム、エナジーボール、シザークロス、くさのちかい、マジカルリーフ、タネばくだん、こうそくいどう、つめとぎ、いやなおと、こうごうせい、くさぶえ、やどりぎのタネ、グラスフィールド、なやみのタネ、ハードプラント、つばめがえし

 

・ヘルガー ♂

 持ち物:ヘルガナイト

 特性:もらいび

 覚えてる技:かみつく、ほのおのキバ、ふいうち、おにび、かえんほうしゃ、かみくだく、れんごく、ほえる、はかいこうせん、アイアンテール、あくのはどう、みちづれ、だいもんじ

 

・エンテイ

 覚えてる技:だいもんじ、ふみつけ、せいなるほのお

 

・ダークライ

 特性:ナイトメア

 覚えてる技:ダークホール(ブラックホール)、おにび、ゆめくい、あくのはどう、かげぶんしん、ふいうち、さいみんじゅつ

 

控え

・ゲッコウガ(ケロマツ→ゲコガシラ→ゲッコウガ) ♂

 特性:きずなへんげ(へんげんじざい→きずなへんげ)

 覚えてる技:みずのはどう、あなをほる、かげぶんしん、れいとうパンチ、れいとうビーム、つばめがえし、ハイドロポンプ、くさむすび、グロウパンチ、えんまく、がんせきふうじ、いわなだれ、まもる、かげうち、みずしゅりけん、どろぼう、つじぎり、ハイドロカノン、めざめるパワー(炎)、とんぼがえり、とびはねる、ほごしょく、けたぐり、ぶんまわす、あくのはどう

 

・カエンジシ(フラダリ) ♂

 覚えてる技:おたけび、ハイパーボイス

 

・ギャラドス(フラダリ) ♂

 覚えてる技:かみつく、たきのぼり、ハイドロポンプ

 

・コジョフー(フラダリ) ♂

 覚えてる技:ダブルチョップ

 

・カエンジシ(パキラ) ♀

 

・ファイアロー(パキラ) ♀

 覚えてる技:かまいたち、アクロバット

 

野生

・ディアンシー

 持ち物:ディアンシナイト

 覚えてる技:ダイヤストーム、マジカルシャイン、ムーンフォース

 

一時手持ち

・ボスゴドラ ♂

 覚えてる技:ロックブラスト、あなをほる、なげつける、メタルクロー、アイアンヘッド、アイアンテール、てっぺき、メタルバースト、ボディパージ

 

 

ユキノシタユキノ 持ち物:キーストーン etc………

・オーダイル(ワニノコ→アリゲイツ→オーダイル) ♂

 特性:げきりゅう

 覚えてる技:アクアテール、アクアジェット、ドラゴンクロー、れいとうパンチ、ハイドロポンプ、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、げきりん、カウンター、ハイドロカノン、ドラゴンテール、めざめるパワー(電)、ゆきなだれ

 

・ユキメノコ ♀

 覚えてる技:れいとうビーム、みずのはどう、10まんボルト、シャドーボール、めざましビンタ、ふぶき、かげぶんしん

 

・ボーマンダ ♂

 持ち物:ボーマンダナイト

 特性:いかく←→スカイスキン

 覚えてる技:そらをとぶ、ドラゴンダイブ、ハイドロポンプ、つばめがえし、だいもんじ、かみなりのキバ、いわなだれ、ドラゴンテール、ハイパーボイス、げきりん、ギガインパクト、りゅうせいぐん、ねむる、ねごと

 

・???

 

・クレセリア ♀

 特性:ふゆう

 覚えてる技:サイコキネシス、みらいよち、チャージビーム、くさむすび、シグナルビーム、ムーンフォース、サイコシフト

 

控え

・ペルシアン ♂

 覚えてる技:きりさく

 

・ギャロップ ♀

 覚えてる技:ほのおのうず、だいもんじ

 

・マニューラ ♂

 覚えてる技:つじぎり、こおりのつぶて

 

・フォレトス

 特性:がんじょう

 覚えてる技:こうそくスピン、ジャイロボール、パワートリック、ボディパージ、リフレクター、だいばくはつ

 

・エネコロロ ♀

 覚えてる技:メロメロ、ソーラービーム、でんげきは、ハイパーボイス、れいとうビーム

 

・ニャオニクス ♀

 特性:すりぬけ

 覚えてる技:エナジーボール、シグナルビーム、サイコキネシス、シャドーボール、チャージビーム、みらいよち、なりきり

 

 

ユイガハマユイ

・グラエナ(ポチエナ→グラエナ) ♂ サブレ

 持ち物:きあいのハチマキ

 特性:いかく(にげあし→いかく)

 覚えてる技:こおりのキバ、かみなりのキバ、アイアンテール、とっしん、ふいうち、じゃれつく、どろかけ、カウンター

 

・ブリガロン(ハリマロン→ハリボーグ→ブリガロン) ♂ マロン

 持ち物:かいがらのすず

 覚えてる技:タネマシンガン、つるのムチ、やどりぎのタネ、ころがる、ドレインパンチ、まるくなる、ミサイルばり、ニードルガード、ウッドハンマー

 

・ドーブル ♀ マーブル

 持ち物:きあいのタスキ

 覚えてる技:スケッチ、おにび、ハードプラント、ダークホール、こらえる、がむしゃら、いわなだれ、ハイドロポンプ、ほごしょく、ハイドロカノン、へんしん

 

・ウインディ ♂ クッキー

 持ち物:ひかりのこな

 特性:もらいび

 覚えてる技:ほのおのキバ、バークアウト、ニトロチャージ、りゅうのいぶき、かみなりのキバ、しんそく、にほんばれ、だいもんじ、りゅうのはどう、インファイト

 

・ルカリオ(リオル→ルカリオ) ♂ シュウ

 持ち物:かくとうジュエル

 覚えてる技:ブレイズキック、でんこうせっか、けたぐり、はどうだん、ボーンラッシュ、りゅうのはどう、しんそく

 

・グランブル(ブルー→グランブル) ♀ ショコラ

 持ち物:たつじんのおび

 覚えてる技:たいあたり、しっぽをふる、かみつく、じゃれつく、インファイト、ストーンエッジ、マジカルシャイン、こわいかお

 

 

ヒキガヤコマチ 持ち物:キーストーン、カビゴンZ

・ニャオニクス ♂ カマクラ/カーくん

 特性:するどいめ

 覚えてる技:サイコキネシス、ひかりのかべ、、リフレクター、でんげきは、てだすけ、なりきり、ふいうち、サイコショック

 

・カメックス(ゼニガメ→カメール→カメックス) ♂ カメくん

 持ち物:カメックスナイト

 特性:げきりゅう←→メガランチャー

 覚えてる技:みずのはどう、はどうだん、りゅうのはどう、こうそくスピン、からにこもる、ロケットずつき、ハイドロポンプ、ふぶき、ミラーコート、ドラゴンテール、ハイドロカノン

 

・カビゴン ♂ ゴンくん

 特性:めんえき

 覚えてる技:メガトンパンチ、のしかかり、じしん、いわくだき、ほのおのパンチ、しねんのずつき、ギガインパクト、かみなりパンチ、ふきとばし、いびき、ねごと

 

・プテラ ♂ プテくん

 持ち物:プテラナイト

 特性:???←→かたいツメ

 覚えてる技:はかいこうせん、ストーンエッジ、はがねのつばさ、つばさでうつ、ちょうおんぱ、ものまね、ドラゴンクロー、ゴッドバード、、ギガインパクト、こうそくいどう

 

・オノンド(キバゴ→オノンド) ♂ キーくん

 特性:とうそうしん

 覚えてる技:りゅうのいかり、げきりん

 

・クチート ♀ クーちゃん

 特性:いかく

 覚えてる技:ものまね、メタルバースト、じゃれつく、バトンタッチ

 

 

イッシキイロハ 持ち物:キーストーン

・マフォクシー(フォッコ→テールナー→マフォクシー) ♀

 特性:もうか

 覚えている技:かえんほうしゃ、ほのおのうず、ソーラービーム、にほんばれ、ワンダールーム、スキルスワップ、メロメロ、ニトロチャージ、マジカルフレイム、シャドーボール、ブラストバーン、だいもんじ

 

・フライゴン(ナックラー→ビブラーバ→フライゴン) ♂

 特性:ふゆう(ちからずく→ふゆう)

 覚えている技:ギガドレイン、かみくだく、むしくい、じならし、すなじごく、がんせきふうじ、りゅうのいぶき、ばくおんぱ、だいちのちから、りゅうせいぐん、、ドラゴンダイブ、ストーンエッジ

 

・デンリュウ(モココ→デンリュウ) ♀

 持ち物:デンリュウナイト

 覚えてる技:ほうでん、シグナルビーム、わたほうし、コットンガード、エレキネット、でんじは、パワージェム、でんじほう、アイアンテール、りゅうのはどう、こうそくいどう、じゅうでん

 

・ラプラス ♀

 覚えてる技:れいとうビーム、フリーズドライ、あられ

 

・ガバイド(フカマル→ガバイド) ♂

 特性:さめはだ

 覚えてる技:あなをほる、りゅうのいかり、ドラゴンクロー、りゅうせいぐん、ステルスロック

 

控え

・ヤドキング ♂(校長からの贈り物)

 覚えてる技:サイコキネシス、みずでっぽう、パワージェム、まもる、うずしお、ずつき、トリックルーム、シャドーボール、でんじほう、かえんほうしゃ、きあいだま、いやしのはどう、ふぶき

 

一時同行

・ゲッコウガ(ハチマン)

 

野生

・???

 

 

ザイモクザヨシテル

・ポリゴンZ(ポリゴン→ポリゴン2→ポリゴンZ)

 特性:てきおうりょく(トレース→てきおうりょく)

 覚えてる技:トライアタック、でんじほう、ロックオン、じこさいせい、れいとうビーム、かえんほうしゃ、はかいこうせん、テクスチャー2、こうそくいどう、でんじは、かげぶんしん、テクスチャー

 

・エーフィ(イーブイ→エーフィ) ♀

 特性:シンクロ(てきおうりょく→シンクロ)

 覚えてる技:でんじほう、サイコキネシス、はかいこうせん

 

・ジバコイル

 特性:じりょく

 覚えてる技:でんじほう、ロックオン、ジャイロボール、エレキフィールド、かげぶんしん

 

・ダイノーズ ♂

 覚えてる技:でんじほう、ロックオン、マグネットボム、てっぺき

 

・ロトム

 特性:ふゆう

 覚えてる技:ほうでん

 

・ギルガルド(ヒトツキ→ニダンギル→ギルガルド)

 特性:バトルスイッチ

 覚えてる技:てっぺき、きりさく、つばめがえし、せいなるつるぎ、ラスターカノン、つじぎり、キングシールド

 

 

トツカサイカ 持ち物:キーストーン etc………

・ニョロボン ♂

 覚えてる技:ハイドロポンプ、グロウパンチ、どくづき、さいみんじゅつ、れいとうパンチ、カウンター、アイスボール

 

・トゲキッス(トゲチック→トゲキッス) ♀

 覚えてる技:マジカルシャイン、つばめがえし、てんしのキッス、ゆびをふる、はどうだん、サイコショック、はがねのつばさ、でんげきは、ソーラービーム、やきつくす、でんじは、にほんばれ、ひかりのかべ、あさのひざし

 

・クロバット ♂

 覚えてる技:クロスポイズン、ねっぷう、エアカッター、アクロバット、ギガドレイン、しねんのずつき、はがねのつばさ、ブレイブバード、わるだくみ、あやしいひかり

 

・ミミロップ ♀

 持ち物:ミミロップナイト

 特性:じゅうなん←→きもったま

 覚えてる技:とびひざげり、ほのおのパンチ、シャドーボール、たがやす、ミラーコート、とびはねる、からげんき、スカイアッパー、グロウパンチ、ともえなげ、おんがえし、こうそくいどう、かげぶんしん

 

・ホルビー ♂

 覚えてる技:マッドショット、あなをほる、ワイルドボルト、でんこうせっか、とびはねる、こうそくいどう、かげぶんしん

 

・マンムー ♂

 覚えてる技:こおりのつぶて、とっしん、のしかかり、つららおとし

 

控え

・ハピナス ♀

 覚えてる技:タマゴうみ、ちいさくなる、いやしのはどう

 

 

ツルミルミ 持ち物:とうめいなスズ(ミナキからの借り物) キーストーン

・スイクン

 覚えてる技:ぜったいれいど、ハイドロポンプ、バブルこうせん、オーロラビーム、かぜおこし、あまごい、みきり、しろいきり、ミラーコート

 

・ラグラージ ♂

 覚えてる技:アームハンマー、まもる

 

・オニゴーリ ♂

 持ち物:オニゴーリナイト

 覚えてる技:ぜったいれいど、フリーズドライ、ジャイロボール、かげぶんしん

 

 

ユキノシタハルノ

・カメックス ♂

 覚えてる技:ハイドロポンプ、ハイドロカノン、じわれ、しおふき、あまごい、まもる

 

・ネイティオ ♀

 覚えてる技:みらいよち、サイコキネシス、つばめがえし、リフレクター、まもる

 

・メタグロス

 覚えてる技:サイコキネシス、ラスターカノン、はかいこうせん

 

・ハガネール ♂

 覚えてる技:アイアンテール、アクアテール、りゅうのいぶき、がんせきふうじ、じわれ、かみくだく

 

・バンギラス ♂

 持ち物:バンギラスナイト

 特性:すなおこし←→すなおこし

 覚えてる技:いわなだれ、じしん、かみくだく、はかいこうせん、なみのり、ストーンエッジ、かみなり、げきりん

 

・ゾロアーク ♂

 特性:イリュージョン

 覚えてる技:ナイトバースト

 

控え

・パルシェン ♂

 覚えてる技:からにこもる、シェルブレード、こうそくスピン、ゆきなだれ、からをやぶる

 

・ドンファン ♀

 覚えてる技:たたきつける、ころがる、まるくなる、じわれ、かみなりのキバ、タネばくだん、こおりのつぶて

 

 

シロメグリメグリ 持ち物:キーストーン etc………

・フシギバナ ♀

 持ち物:フシギバナイト

 特性:???←→あついしぼう

 覚えてる技:はっぱカッター、じしん、つるのムチ、リーフストーム、ヘドロばくだん、どくのこな、ハードプラント

 

・エンペルト ♀

 覚えてる技:ハイドロポンプ、はがねつばさ、アクアジェット、ドリルくりばし、れんぞくぎり、くさむすび、つめとぎ、てっぺき、きりばらい

 

・サーナイト(色違い) ♀

 特性:トレース

 覚えてる技:サイコキネシス、マジカルシャイン、リフレクター、マジカルリーフ、ムーンフォース、テレポート

 

・メタモン

 覚えてる技:へんしん

 

・グレイシア ♀

 

 

カワサキサキ 持ち物:ヒコウZ

・ニドクイン ♀

 特性:どくのトゲ

 覚えてる技:ポイズンテール、つのドリル、ばかぢから、ヘドロばくだん、ストーンエッジ、じわれ、すなあらし

 

・ガルーラ ♀

 覚えてる技:みずのはどう、10まんボルト、ブレイククロー、はかいこうせん

 

・ハハコモリ ♀

 覚えてる技:リーフブレード、リーフストーム、しぜんのちから、ほごしょく、こうそくいどう、シザークロス、はっぱカッター、いとをはく、エレキネット

 

・オニドリル ♂

 覚えてる技:ドリルくちばし、はがねのつばさ、ねっぷう、こうそくいどう、はかいこうせん、ゴッドバード

 

・ゴウカザル ♂

 特性:もうか

 覚えてる技:フレアドライブ、かえんほうしゃ、じしん、ストーンエッジ、いわなだれ、かみなりパンチ、マッハパンチ、かげぶんしん、みがわり、インファイト、ほのおのパンチ、ブレイズキック

 

・ザングース ♂

 特性:どくぼうそう

 覚えてる技:ブレイククロー、からげんき、いわなだれ、つるぎのまい

 

 

カワサキタイシ

・ニドキング(二ドリーノ→ニドキング) ♂

 覚えてる技:つのでつく、にどげり、だいもんじ、どくづき

 

・ストライク ♂

 覚えてる技:シザークロス、つじぎり、むしのさざめき

 

・サーナイト(キルリア→サーナイト) ♂

 覚えてる技:ねんりき、マジカルリーフ、シャドーボール、リフレクター

 

・アメモース ♀

 覚えてる技:エアスラッシュ、むしのさざめき、ちょうのまい

 

・マーイーカ ♂

 覚えてる技:サイケこうせん

 

・ヘラクロス ♂

 覚えてる技:かわらわり、きしかいせい、こらえる

 

 

カワサキケイカ

野生

・ゴースト ♂

 

・カゲボウズ ♀

 

・ボクレー(色違い) ♂

 

 

ヒラツカシズカ 持ち物:キーストーン(研究所からの借り物) etc………

・カイリキー ♂

 覚えてる技:ばくれつパンチ、どくづき

 

・サワムラー ♂

 覚えてる技:メガトンキック、とびひざげり、ブレイズキック、まわしげり

 

・エルレイド(ラルトス→キルリア→エルレイド) ♂

 持ち物:エルレイドナイト

 覚えてる技:テレポート、サイコカッター、かみなりパンチ、インファイト

 

・ハリテヤマ ♂

 覚えてる技:ねこだまし、バレットパンチ、はたきおとす、ばくれつパンチ

 

・ゴロンダ ♂

 覚えてる技:じしん、アームハンマー、ビルドアップ

 

・バシャーモ ♀

 持ち物:バシャーモナイト

 特性:かそく←→かそく

 覚えてる技:ブレイズキック、ブレイブバード、かみなりパンチ、みがわり

 

 

サガミミナミ

・メガニウム ♀

 覚えてる技:ソーラービーム、にほんばれ、つるのムチ、じならし、くさのちかい、しぼりとる、こうごうせい、ひかりのかべ

 

・フローゼル ♂

 特性:すいすい

 覚えてる技:アクアテール、かわらわり、れいとうパンチ、みずでっぽう、アクアジェット、スピードスター、あまごい

 

・エモンガ ♀

 特性:せいでんき

 覚えてる技:でんげきは、ボルトチェンジ、アクロバット、でんこうせっか、ほうでん、でんじは、かげぶんしん

 

・ルリリ ♀

 特性:そうしょく

 覚えてる技:こごえるかぜ、あわ、うそなき、はねる、まるくなる

 

・ドクロッグ ♂

 特性:きけんよち

 覚えてる技:ずつき、ダブルチョップ、ねこだまし、どくづき、バレットパンチ、ヘドロばくだん、どろばくだん、ドレインパンチ、みがわり、はたきおとす

 

 

オリモトカオリ

・バクフーン(マグマラシ→バクフーン) ♂

 覚えてる技:ふんか、でんこうせっか、かわらわり、かえんほうしゃ、かえんぐるま

 

・オンバーン ♂

 覚えてる技:りゅうのはどう、ばくおんぱ

 

・バクオング ♂

 覚えてる技:みずのはどう

 

・ニョロトノ ♂

 特性:しめりけ

 覚えてる技:ハイドロポンプ、アイスボール

 

・コロトック ♀

 覚えてる技:シザークロス

 

 

ナカマチチカ

・ブラッキー ♀

 覚えてる技:あくのはどう

 

・トロピウス ♂

 覚えてる技:ぎんいろのかぜ、エアスラッシュ

 

・レントラー ♂

 覚えてる技:かみなりのキバ

 

 

プラターヌ博士

・フシギソウ

 

 

リーグ参加者

ズミ 持ち物:キーストーン

・カメックス ♂

 持ち物:カメックスナイト

 特性:???←→メガランチャー

 覚えてる技:ハイドロポンプ、ロケットずつき、りゅうのはどう、グロウパンチ

 

 

ガンピ 持ち物:キーストーン

・ハッサム ♂

 持ち物:ハッサムナイト

 特性:???←→テクニシャン

 覚えてる技:バレットパンチ、シザークロス

 

・クレッフィ ♂

 特性:いたずらごころ

 覚えてる技:ラスターカノン、まきびし

 

・ダイノーズ ♂

 特性:がんじょう

 覚えてる技:ほうでん、だいちのちから、パワージェム、マグネットボム

 

・ナットレイ ♂

 特性:てつのトゲ

 覚えてる技:ジャイロボール、タネマシンガン、タネばくだん

 

・シュバルゴ ♂

 特性:シェルアーマー

 覚えてる技:ドリルライナー、とどめばり、だましうち、いわくだき

 

 

ドラセナ 持ち物:キーストーン

・チルタリス ♀

 持ち物:チルタリスナイト

 特性:???←→フェアリースキン

 覚えてる技:りゅうのはどう、はかいこうせん、うたう

 

・ドラミドロ ♀

 覚えてる技:10まんボルト、りゅうのはどう

 

・ヌメルゴン ♀

 覚えてる技:パワーウィップ、アクアテール、りゅうのはどう、げきりん

 

・ガチゴラス ♀

 特性:がんじょうアゴ

 覚えてる技:かみくだく、もろはのずつき、ドラゴンクロー

 

・クリムガン ♀

 特性:さめはだ

 覚えてる技:かたきうち、ドラゴンテール、リベンジ

 

・オンバーン ♀

 覚えてる技:エアスラッシュ、いかりのまえば、ばくおんぱ、りゅうのはどう

 

 

エックス 持ち物:キーストーン×3(エックス・ワイ・コルニ)

・ブリガロン ♂ マリソ

 特性:しんりょく

 覚えてる技:かみつく、ころがる、つるのムチ、ニードルガード、ミサイルばり、かわらわり、ウッドハンマー

 

・リザードン ♂ サラメ

 持ち物:リザードナイトX

 特性:もうか←→かたいツメ

 覚えてる技:そらをとぶ、フレアドライブ、ひのこ、やきつくす

 

・ガルーラ ♀ ガル

 持ち物:ガルーラナイト

 特性:きもったま←→おやこあい

 覚えてる技:げきりん、10まんボルト、メガトンパンチ

 

・ライボルト ♂ エレク

 持ち物:ライボルトナイト

 特性:ひらいしん←→いかく

 覚えてる技:かみなり、ほうでん、ワイルドボルト

 

・ゲンガー ♂ ラスマ

 持ち物:ゲンガナイト

 特性:ふゆう→のろわれボディ←→かげふみ

 覚えてる技:シャドーパンチ、あくのはどう、シャドーボール、あやしいひかり

 

・カイロス ♂ ルット

 持ち物:カイロスナイト

 特性:かいりきバサミ←→スカイスキン

 覚えてる技:フェイント、シザークロス、やまあらし、かわらわり

 

 

カヒリ 持ち物:ヒコウZ

・エアームド ♂

 特性:がんじょう

 覚えてる技:ドリルくちばし、はがねのつばさ、がんせきふうじ、こごえるかぜ

 

・クロバット ♂

 覚えてる技:エアスラッシュ、ヘドロばくだん

 

・アーケオス ♂

 特性:よわき

 覚えてる技:でんこうせっか、がむしゃら、アクロバット、はねやすめ

 

・オドリドリ(めらめらスタイル) ♀

 特性:おどりこ

 覚えてる技:エアスラッシュ、めざめるダンス、フラフラダンス、フェザーダンス

 

 

リュウキ

・ジャラコ ♂

 特性:ぼうだん

 覚えてる技:ドラゴンクロー、ドラゴンテール、おたけび

 

・バクガメス ♂

 覚えてる技:かえんほうしゃ、りゅうのはどう、オーバーヒート、きあいだま

 

・カイリュー ♂

 特性:せいしんりょく

 覚えてる技:ぼうふう、ほのおのパンチ、ドラゴンダイブ、かみなりパンチ

 

・ジジーロン ♂

 覚えてる技:かみなり、ハイパーボイス、ふぶき

 

・ガブリアス ♂

 特性:すながくれ

 覚えてる技:ドラゴンクロー、じしん、どくづき

 

・ナッシー(アローラの姿) ♂

 覚えてる技:ウッドハンマー、ドラゴンハンマー、りゅうせいぐん、サイコキネシス

 

 

ミツル

・カクレオン

 特性:へんしょく

 覚えてる技:おどろかす、したでなめる

 

・ジバコイル

 覚えてる技:ほうでん、でんじほう

 

 

カガリ

・キュウコン

 特性:もらいび

 覚えてる技:かえんほうしゃ、しっぽをふる、はかいこうせん、ほのおのうず

 

 

ダイチ

・ブーバー

 

 

ロケット団

サカキ

・スピアー ♂

 持ち物:スピアナイト

 特性:むしのしらせ←→てきおうりょく

 覚えてる技:こうそくいどう、ダブルニードル

 

・ニドキング ♂

 特性:どくのトゲ

 覚えてる技:がんせきふうじ、じしん、ほのおのパンチ

 

・ニドクイン ♀

 覚えてる技:カウンター、がんせきふうじ、どくばり、ひっかく

 

・パルシェン

 

・ボスゴドラ ♂

 覚えてる技:かわらわり

 

・ドサイドン

 覚えてる技:じわれ

 

 

マチス(電気の船乗り)

・エレキブル ♂

 覚えてる技:ほのおのパンチ、ワイルドボルト、10まんボルト

 

・ライチュウ ♂

 特性:せいでんき

 覚えてる技:きあいだま、でんこうせっか、かみなり

 

・レアコイル

 覚えてる技:ソニックブーム、ほうでん、ラスターカノン

 

・ジバコイル

 特性:じりょく

 覚えてる技:でんじほう、かみなり、でんじふゆう

 

・マルマイン

 覚えてる技:エレキボール、シグナルビーム、じばく

 

・サンダース

 特性:ちくでん

 覚えてる技:にどげり、10まんボルト、でんこうせっか

 

 

ナツメ

・ユンゲラー ♂

 覚えてる技:サイケこうせん、サイコキネシス、テレポート

 

・シンボラー ♀

 覚えてる技:エアスラッシュ、サイコキネシス、れいとうビーム、ひかりのかべ

 

・スリーパー ♂

 覚えてる技:ねんりき、イカサマ、ゆめくい、さいみんじゅつ

 

・モルフォン ♀

 覚えてる技:サイケこうせん、かぜおこし

 

・バリヤード ♀

 覚えてる技:サイケこうせん、ねんりき、アンコール、ひかりのかべ

 

・フーディン ♀

 覚えてる技:サイコキネシス

 

 

Saque

・スターミー

 覚えてる技:ほごしょく

 

離脱

・ダークライ

 特性:ナイトメア

 覚えてる技:ダークホール(ブラックホール)、おにび、ゆめくい、あくのはどう、かげぶんしん、ふいうち、さいみんじゅつ



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23話〜

ちょっと短いですが、感想にあいつのバトルを見たいとあったので急遽こんな形で一話追加です。
本編に戻る前に、たまにはあいつの状況をね。


 さすがに、あれは、キツい…………。

 ハチ一人じゃ、あいつがぶっ壊れてる。二人で分けてこのザマだ。次来ても、ハチもオレも持ちこたえる自信がない。

 

「だ、大丈夫………?」

「フォック?」

 

 これが大丈夫なように見えるのか………?

 ほんとアレはダメでしょ。

 アレはもうリザードンじゃない。別のポケモンだ。あの野郎、リザードンの域を出て伝説の仲間入りしやがって。

 

「………無理そうだね。マフォクシー、サイコパワーで………って無理だったね。はあ………なんであくタイプを併せ持っちゃってるかなー。こういう時不便すぎるよ」

 

 そう言われても仕方ないだろ。オレはオレなんだから。

 

「ガブリアス、運んであげて」

 

 やめろ!

 こいつの肌、すげぇ痛ぇんだぞ!

 どうせならマフォクシーのふわふわな毛並みに包んでくれ!

 

「ガブ」

 

 痛ぇぇぇえええええええええええええええっっっ!!!

 

 離せ!

 このバカ、離せって言ってるだろ!

 

「?」

 

 だぁぁぁあああああああああああああっ!?!

 首をひねるなっ!

 今、刺さったじゃねぇか!

 た、たすけてくれ、マフォク………。

 

「(お兄、昨日私をいじめた罰よ)」

 

 こんのバカ妹がぁぁぁあああああああああっ!?!

 今そこでやり返すとか卑怯だぞ!

 覚えてろよ!

 

「マフォクシー、なんかご機嫌だね」

「フォック!」

 

 くそ、強い奴と戦えるみたいだったから追いてきたってのに………。

 何だよ、あの水蒸気野郎。全然やる気がねぇ。

 はあ、こんなことなら残ればよかったかもな………。そうすればあの柔らかいお胸様が触り放題だったってのに。

 しかもハチはハチで面倒事になってるし。

 ああ、早く帰りたい………………。

 

 

 

 夜。

 小娘も眠りについた頃。

 オレは一人、身体を起こした。

 あー、身体痛い。ガブリアスのバカ野郎、オレを殺す気か?

 ………さぁて、準備の続きだ。

 取り敢えず、ヒトツキとキリキザンは仲間に取り組むことができた。後は最低二人は仲間に欲しいところだ。

 

「ギャオォォォスッッ!!」

 

 早速お出ましか。

 こんな山中で野宿してたら、遭遇しない方が稀というもんだ。

 

「(ヒマァァァアアアアアアッッ!!)」

 

 …………………。

 暇だからといって、真夜中に騒ぎ立てるなよ。

 

「(ニィヒッッ、みぃーつけたァァァッ!)」

 

 関わらない方が身のためである。

 これは食物連鎖、弱肉強食の世界、自然の摂理だ。なるようにしかならのだから、下手に顔を突っ込もうものなら飛び火が大きすぎて蛇足でしかない。

 

「(キャッ?!)」

 

 これは、狙われたのは女か?

 女も大変だな。

 こんなところで捕食されちまうなんて。

 クワバラクワバラ。

 

「(だれかっ、だれか助けてぇぇっっ!!)」

 

 …………チッ、オレの前でやるんじゃねぇよ。やるなら他所でやりやがれ。

 が、こんな声を聞いて、しかも何気に視界に入ってしまえば助けざるを得ないこの心境。

 まずはみずしゅりけんで………、デカい方にしとくか。

 となると、先に接続しないとな。意識までは接続しなくてもよくなったが、今は側でハチの様子が見られない分、こうして意識まで接続することで様子を伺っている。そのおかげて、今日も間に合ったって感じだ。

 さて、それじゃリンクスタート。

 

 ッ!?

 

 おい、ハチ。

 お前といい、リザードンといい、こんなトンデモナイ過去を持ってたのか?!

 徒者じゃないとは常々思っていたが、まさかそういうことだったとは……………。

 いいだろう、オレも自分で主人を選んだ身だ。地の果てまでお前の腕になってやる。

 

「(我はここで待っている)」

「(キリキザン、そうしてくれると助かる。こんな涎を垂らして寝ている小娘を放っておいたら、今度はこっちが狙われかねないからな)」

 

 さて、こっちは一発投げますか。

 

「(ぐぇっ!? だ、誰だッ!?)」

 

 顔にヒットか。

 これで少しは…………無理だな。サザンドラだ。元々こういう性格の奴らだ。逆にトレーナーの下にいることで大人しくなる傾向があるといった具合に、野生の奴らは危険である。

 で、襲われてるのはハクリュー。

 何でこんなところにいるのかは知らねぇけど、もっといい場所を住処にしろよ。

 

「(まあ、誰でもいい。オレ様の邪魔をした奴は一匹たりとも許さねぇからなァ。………そうだ、ここら一帯を火の海に変えちまうってのも楽しそうじゃねぇか)」

 

 クズがいたもんだ。

 ハチが以前言っていた五行相生でもやってみるか。使う技のタイプはじめん、はがね、みず、くさ、ほのお。内オレが使えるのははがね以外。それ故に今まで完成させることができなかったが、ヒトツキを仲間にできたことで、オレの武器兼はがね要員として使うことできる。

 ようやくって感じだな。

 さて、まずはどろあそびで泥まみれにしてやり。

 お次は。

 

「(ヒトツキ、ラスターカノン)」

「(はいよー)」

 

 併せてオレのみずのはどうでサザンドラを覆ってやり、足元からはくさむすびで締め上げていく。

 最後にめざめるパワーで一気に燃やす。

 一つ一つの技の威力は大したことないが、こうして相乗させてやることで最終的に威力と技のスピードが格段に上がるらしい。

 

「(ぐぅ、何者だッ!!)」

 

 通りすがりのポケモンだよ。

 悪いがお前はここでおさらばだ。

 

「(ヒトツキ、せいなるつるぎ)」

「(なめるなァァァアアアアアアアアアアアアアアッッ!!)」

 

 竜の気を一気に纏いあげた………あれはげきりんか。

 だが、まあそっちは囮だ。お前を仕留めるのはこのみずしゅりけんだよ。

 

「(ぐァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!?!)」

 

 はあ…………、何だったんだ、あいつは………。

 

「(…………あ、危ないところを助けていただきありがとうございました)」

 

 何が何だか、という顔をしてるな。

 さて、帰るぞ、ヒトツキ。

 

「(あ、あのっ!)」

 

 オレはやることがあるんだ。

 あ、こういう時こそ影に潜るべきだな。

 タイプ変化の能力を捨ててからというもの、イマイチその辺の発想に行かない。

 

「(いいのかー? あの子、呼び止めてたぞー)」

「(いいんだよ。お前は気づいてないだろうけど、あのハクリュー、結構歳食ってるからな)」

 

「(なん………だと…………っ!?)」

 

 いや、そんな大げさに驚くことでもないだろうが。

 ハクリューはドラゴン。ドラゴンってのは歳の割に見た目が変わらねぇんだってよ。

 

「(まさに魔性の女……………。オンナ、コワい………)」

 

 ほんと、女は怖い。

 腹の黒さは種族問わず真っ黒だし、変に影響しあうこともある。

 いい例が、あの小娘とマフォクシーだ。

 計算高いトレーナーの元に置いておくと、あんなにまで真っ黒に染まっちまうとは。

 末恐ろしい限りである。

 

「(なあ、ゲコー。俺たちのほかに誰をたらしこむ気なのー?)」

 

 たらしこむって………。

 俺はハチじゃないんだからたらしこむなんてしてねぇよ。

 そろそろ出るか。

 

「(ッ?!)」

 

 ここまで来れば誰も追って来ないだろう。

 

「(何奴ッ!?)」

 

 影から出て早々にかよ。

 はあ………………、タイミングの悪い。

 

「(拙者はアギルダー。貴公も名乗られよ)」

 

 アギルダー………オレと同族のむしタイプか。

 ま、お前がそれならオレは名乗る必要もなさそうだな。

 

「(見たまんまだ)」

「(ゲッコウガ…………なのか?拙者の知るゲッコウガとは少々違う気がするのだが………、まあ、いい。貴公は何者だ)」

 

 何者、か………。ハチマンというトレーナーの………ポケモンとでも言うしかないな。

 

「(だねー)」

 

 よく人間どもはオレたちのことを友達だとか言うが、オレとハチマンの関係が友かと言えば、それは違う。強いて言えば主人と使用人。トレーナーとポケモン。

 だが、ただの契約上の関係かと問われれば、またそれも否。オレはあいつ以上にオレを使いこなす人間はいないと思っているし、あいつもオレのことを認めてくれている。受け入れてもくれた。恩義あると言ってもいい。そんな関係性だ。

 

「(ん? そっちのは………ヒトツキであるか? 貴公もそのハチマンとやらのポケモンなのか?)」

「(ちがうよー。俺はこいつの仲間ー。ハチマンってトレーナーには会ったこともないよー)」

「(なぬ? それは真か? いやしかし、それではどういうことなのだ………)」

 

 オレとヒトツキはオレがボールに収めたって関係よ。

 

「(………それはつまり、トレーナーとポケモン………)」

 

 そういうことだな。

 

「(ふっ、貴公は不思議な男であるな。………うむ、ここは一つ手合わせできないだろうか。ますます貴公という男を知りたくなった)」

「(どうするー?)」

 

 いいんじゃねぇか。

 ただし、オレは武器の一つとしてヒトツキも使うがな。

 

「(うむ、拙者としてもそちらの方が貴公を知れる気がする)」

 

 二対一になるようなもんなのに、気前いいな。

 

「(では、参るっ!)」

 

 一瞬で消えたか。こうそくいどうか?

 

「(後ろがガラ空きであるぞ)」

 

 つまり、後ろか。

 みずのはどうで水のベールを作ってしまえばいい。

 

「(ぬぅ、やはり効かぬか。ならばこれはどうであるかなっ!)」

 

 スピードスターだったか。

 んで、次はかけぶんしんね。

 

「(ヒトツキ、せいなるつるぎ。薙ぎ払うぞ)」

「(はいよー)」

 

 剣先が三倍に伸びたヒトツキを一回転させ、影のアギルダーを消し去っていく。

 

「(よもや一瞬とは。ならばここからの攻撃は如何かな?)」

 

 速いっ……………。

 取とりあえず、防壁だ!

 ………これは、むしのさざめきか。

 

「(ヒトツキ、つばめがえし)」

 

 ヒトツキに斬りつけられ、さざめきも消えたため、ついでにオレも追撃として白い手刀で斬りつけた。

 

「(ぐああっ!?)」

 

 無駄に素早いためすぐ懐にも入って来れるんだな。

 

「(な、なるほど、確かに貴公はゲッコウガであるようだ。しかし、さすがにタダでは還してくれぬ。こちらも痛手を負った)」

 

 その割には嬉しそう、というか何かまだ隠しているような顔をしている。油断はできない。

 

「(ふっ、ありがたく頂戴する)」

 

 ぐああああああッッッ?!

 こ、これは、ギガドレイン、かッ!?

 

「(ヒ、ヒトツキ、オレを斬れ)」

「(いいのか………?)」

「(いいから早くっ)」

「(はいよー)」

 

 痛い。

 だが、これで吸い取られなくなった。

 

「(ヒトツキ、本気でいっていいか?)」

「(いいんじゃなーい)」

 

 ヒトツキの了承も取れた。

 まずはこうそくいどうで素早くなったアギルダーをどう捉えるかだな。

 ………影を増やして、攻撃してくか。

 

「(ぬぅ?!)」

 

 かけぶんしん。

 からの影の中に潜る。かげうちだ。

 

「(全てが消えたっ?!)」

 

 アギルダーはむしタイプ。

 つばめがえしやオレのめざめるパワーが効くがアギルダーに近づかなければならない。

 それよりもハイドロカノンを全方位から撃った方がアギルダーの心理を揺さぶれそうだ。そうなれば近づくことも容易いだろう。

 

「(そこかっ!)」

 

 おっと、気づかれた。

 まだ、姿を見せてないのだが………。直感か、何か仕掛けていたか。

 だが、温い。みずしゅりけんで牽制してきたが、それはオレの十八番だ。軌道も何もかもを熟知している。だがら、撃ち消せる。

 ハイドロカノン!

 

「(ッ!?)」

 

 今の内にアギルダーの懐へ。ハイドロカノンで倒れていればいいが、奴の素早さを考えると…………。

 

「(やはりな)」

 

 これははかいこうせんか。

 防壁でガードしながら近づくしかないな。オレの影が。

 

「(これで終わりである!)」

 

 むしのさざめきか。

 アギルダーの十八番はこの技なのかもしれない。

 

「(なぬっ?! 影………だとっ!?)」

 

 驚きとともにさざめきも止んだ。

 そこに背後からアギルダーの首筋にヒトツキを充てがう。

 

「(オレの勝ちだな)」

「(…………参った。拙者の負けである)」

 

 両手を挙げて降参の意思表示。

 いや、二対一だしな。

 これで勝たれても困るというものだ。

 

「(…………お前、一人身か)」

 

 ヒトツキを収めて、アギルダーに問いかける。

 

「(であるが………)」

「(なら、オレの仲間にならないか。お前のその速さ、勘の良さ。オレは欲しい)」

 

 近い内、ハチに何か起きるのは確実だ。オレがこうしてハチから離れているのも、何か思惑があってのことかもしれない。そうでなくともこの自由な状況。活かさない理由がない。

 その一つとして、オレ自身に新たな仲間を作ることだ。ハチとリザードンがああなっている以上、オレがどうにかする必要も出てくるはず。

 そんな中、仲間になってくれたのがヒトツキとキリキザンだ。ヒトツキはオレの武器としても使いたいと話しても二つ返事で了承。キリキザンはバトルし、オレを認めてくれた。

 そしてこのアギルダー。速さという最高の武器を持っている。オレと組んで、まだ見ぬ敵を翻弄させることもできるかもしれない。

 

「(一つ、良いか?)」

「(ああ)」

「(先の影に隠れた貴公を見つけたのは心の目で見たからである)」

「(それがどうした。心の目で見れるなら、それに越したことはないだろ)」

 

 勘じゃなくとも分かればいいんだよ。

 

「(そう言ってくれるのは貴公が初めてである。拙者と同じ他のアギルダーたちからはよく卑怯だと言われていた。………良かろう。拙者、これより貴公の手となり脚となろう)」

「(恩に着る)」

 

 オレが空のボールを差し出すとアギルダーは自らボールの開閉スイッチを押した。

 後はもう一人くらい仲間にしたいところだ。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「(お兄、起きて。起きなさいっ!)」

 

 何だよ、朝っぱらから。

 揺らすなっ。

 

「(この女、何なのっ?!)」

 

 女………?

 昨日、誰か連れて帰ってたっけ?

 

「(………♪)」

 

 ……………昨夜のハクリューか。

 ……………ハクリュー、だと?

 

「(何故お前がここにいる)」

 

 思わず飛び起きてしまった。

 もう眠気なんかさっぱり吹き飛んでいる。

 え、なに、何を企んでんだ?

 

「(………♪)」

 

 一向に返事は返ってこない。ただ笑顔が向けられているだけ。

 会話ができないわけではあるまい。昨夜はオレに話しかけてきていた。

 となると、一体何を考えているんだ………?

 

「みゅー」

 

 おい、こら。いきなりすり寄ってくるな。

 なんなんだ、こいつ。

 まさか、ハチマンの惹きつけ力がオレにも移ったとか…………?

 ありえなくもない話だ。

 

「(お兄ちゃん?)」

 

 げっ、マフォクシーのもうかが発動してやがる。

 

「みゅーみゅー」

 

 ちょ、小娘から拝借したオレの空のボールをいじるんじゃ………。

 

「(うそっ?!)」

 

 マジか………。

 ハクリューのやつ、開閉スイッチを自分で押しやがった。

 

「(………魔性の女が仲間に………)」

 

 すまん、ヒトツキ。許せ………。

 

「マフォクシー、ゲッコウガ起こしてくれたー?」

「フォック」

「うん、それじゃ今日も張り切っていこーっ!」

 

 小娘のお陰で命拾いしたな。

 ……………はあ。

 まさか、こんな形で仲間が増えるとは……………。

 それにしてもさっきから何か違和感を感じるのはオレだけか?

 

「(ま、あまり深く考えても仕方ないか。後はなるようになるだけだ。オレはその時に備えておく以外、できることはないしな)」

「(お兄ーっ、今日もあいつのとこにいくよーっ!)」

 

 全く、うちの妹はよく分からん。

 怒ったかと思えば、普通に接してくる。

 ま、ハチの周りもそんなんばっかだったけどな。

 クワバラクワバラ。

 




〜お知らせ〜

番外編『忠犬ハチ公 ハチマン』を連載中です。
本編に合わせて更新していきます。


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24話

一ヶ月半ぶりの本編更新という。
間が空いてしまって申し訳ないです。
番外編書く前に書き上げてはいたんですけどね………。


 祝勝会&お疲れさま会をそこそこに早めに寝た次の日の朝。

 早く寝すぎたせいで早起きをしてしまった。

 時刻は午前六時を回ったところである。

 そういやここはプラターヌ研究所だったなと思い出しながら台所の方へ行くと、何か物音が聞こえてきた。

 

『あ、マスター、おはようございます』

「あ、ああ、おはよう………」

 

 まさかのディアンシーがせっせと働いていた。

 

「おっ、起きたようだな」

「ハチマン、おっそーい」

 

 そしてその相手はどこぞのじじいと孫だった。

 

「………朝っぱらから何してんの?」

「いやー、昨日のネタ晴らしをしようかと思って。本人から聞いちゃったかもしれないけど」

「ネタ? なんかあったか?」

「その様子じゃ聞いてないようじゃな」

「ユイさんがいきなり強くなった理由。聞いてないでしょ!」

 

 ユイ………。

 あー、結局昨日は聞くのを忘れてたな。俺も疲れてたし、それどころじゃなかったもんな。

 

「コルニが何か吹き込んだのは分かるんだが、具体的に何したんだ?」

「あたしが、というよりユイさん自身が、かな。ねえ、ユイさんのポケモンでバトルして捕まえた子っている?」

 

 ユイがバトルして捕まえたポケモンか。グラエナ……はポチエナの頃にガハママンが買ったとか言ってたし、ブリガロンはプラターヌ博士にもらった。これもある意味仲良くなって的な捕まえ方だ。んで、次がドーブルだったか? こいつも仲良くなったから連れてきたとか言ってたし、ウインディは自らユイをトレーナーに選んだ。ルカリオ……とグランブルはよく知らん。まあ、バトルしてのゲットではなさそうである。

 

「多分いねぇな」

「そう、いないんだよ」

 

 いないんだ………。

 

「不思議だと思わんか?」

「何がだよ」

「トレーナーになって二ヶ月立たない内にバトルしないで六体揃えるなんて、何かあると思わない?」

「………それ、イロハやコマチにも言えることじゃねぇの?」

「いやいや、コマチはカビゴンをバトルして捕まえてるし、オノンドやクチートもバトルして捕まえたみたいだよ」

「ほーん」

「イロハは今苦戦してるでしょ?」

「………何でそんなことまで知ってんだよ」

「一昨日、電話かけてきたから」

「ああ、そう………」

 

 一応電波の届くところにいるということか。

 でもまだ苦戦状態。お目当のポケモンは捕まえられていないということである。あるいは捕まえられないか。

 

「で? 六体全員バトルしないで捕まえたのがそんなにすごいことなのか?」

「そりゃそうでしょ! 野生のポケモンと仲良くなるのとか、すごく難しいんだからね! 縄張り意識が高いポケモンだっているんだから!」

「………なら、俺はどうなるんだ? 俺なんかリザードンもゲッコウガもジュカインもヘルガーもバトルして捕まえたわけじゃねぇぞ。なんならそこでお茶汲みをしているメイド服を着たディアンシーはどうなんだ?」

 

 つか、今気づいたけど何メイド服なんか着ちゃってんの?

 誰だよ、着せた奴。

 かわいいじゃねぇか。

 

『えへへっ、マスター似合いますか?』

「ああ、似合ってるぞ。超似合ってる。一家に一台ほしいくらいだ」

 

 なんか「うわー………」って視線を感じるのは俺だけでしょうか。

 

「で、話を戻すとお前さんがみそなんよ。お前さんという例外がおる。だが、あるいは同類やもしれん」

「同類? 俺とユイがか?」

「うむ、お前さん、波導は使えるか?」

「………はあ? 波導? ………おい待て。まさかユイが波導使いだとかいうんじゃないだろうな?」

「そのまさかなんよ。無意識ではあるが、心地のいい波導を出しているんじゃ。それに惹かれてポケモンが集まってきよる。特にルカリオとは波長が一緒なようでな。ほれ、昨日ルカリオが骨の棍棒をユイの胸から作り出したじゃろう? あれがその証よ。ルカリオ自身の波導に追加でユイの波導もかけ合わせる。それによって、強度が上がり威力も格段に上がるってわけなんだが………。お前さんたちはそれを壊しよってのう………。どんな激しいバトルじゃとハラハラしたわい」

「…………あー、なんか二本に折れてたな。ああ、なるほど。あれはルカリオ自身の波導で補強したってわけか。つーことは、だ。ユイの波導はルカリオ以上ってことか?」

「似たようなもんじゃろう。だが、今は自覚している。少しくらいならば操ることもできるんよ」

「操れるのか…………」

「ウインディが息吹を波導に昇華させたのも、あれユイさんが波導を渡したからだしね」

「波導を渡したからって、どうやってだよ」

「ウインディが技を昇華させる前、ユイさんが呼びかけたでしょ。あの後ユイさんはウインディに波導を送ったんだよ」

 

 えっ?

 あの後にか?!

 全く気がつかなったわ………。

 

「それで結局、お前さんは波導を使えるのか?」

「………それに関して言えば、無理だな。黒い波導ならいけなくもないが、あれを使えると言っていいものかどうか」

「黒い波導………」

「あくのはどうじゃな」

「ああ、俺はダークライの波導を纏うことで、あたかも俺が波導を使っているように見せることはあるが、実際に俺自身が波導を使った経験はない」

「じゃあやっぱりユイさんは本物なんだね」

「でなければ、アレを習得するのは無理じゃと言うておろう」

「………アレ?」

「ルカリオがユイさんの胸に手を伸ばして骨棍棒を作ったやつ。あんなことができるなんて十年に一人現れるかくらいの珍しい事なんだから」

「へぇ、ならコルニはできないのか」

「うっ………」

「わっはっはっはっ! ありゃ、自身の体力をすり減らすようなもんなんよ。相当強い波導を持っていなければぶっ倒れてもおかしくはない」

「そらまたチート級の技術だこと………」

「まだまだ伸びしろがあると思うがの」

「まだ強くなるのかよ」

「でもユイさん、基本に忠実なバトルばっかりだったからなー。基礎ができてるのはいいことなんだけど、その分読まれやすいし」

 

 まず基本ができてなかったんだから仕方ない。

 けど、昨日はもう二歩も三歩も上の段階へと進んでいたぞ。

 

「でも、ふたを開けてみればいろんな技術を見てきてたしねー。かくとうタイプの技を伝授するのと同時に、そこも磨いてみたらあんなに強くなっちゃったってわけ」

「ちなみにポケモンや技の出しどころはわしが立てた」

 

 ブイ! じゃねぇよ、二人とも。

 

「………ま、なんにせよユイが自分に自信を持てたんだ。そこは感謝してる」

「「ハチマンが礼を言う、だと………!?」」

「おい、お前ら。俺を何だと思ってやがる」

 

 こいつら…………。

 俺だって例の一つや二つ普通に言うわ。

 

「知ってるとは思うが、ユイは一人だけバトルが弱かったことにコンプレックス染みた感情を抱いていたんだ。一緒にポケモンをもらったイロハやコマチはあっという間に強くなってメガシンカも使いこなせるようになっていったし、俺やユキノみたいなのも周りにはたくさんいる。フレア団との抗争の時も何か自分もやりたいってのがにじみ出ていたしな」

「はれ? ハッチー? もう起きてたのー………?」

「ユイ………?」

『ユイさん、おはようございます』

「うん、おはよー………」

 

 ふらふら~とした足取りで目をこすりながらユイが起きてきた。

 ピンク色のパジャマの胸のあたりがなんともキツそうである。

 

「まだ眠いんだろ。ほれ、こっち来て寝てろ。膝かしてやるから」

「ふぁ~い………」

 

 食卓を囲んで話しているため、空いている横の席にユイを手招きし、座らせた。

 そして、頭にそっと手を添えて軽く引き、俺の膝の上にダイブさせ、そのまま頭を撫でた。

 

「………何にせよ、こいつが自分に自信を持てたのは二人のおかげでもある。ありがとな」

 

 すやすやと早速寝息を立てるユイの髪を梳きながらそう言うと二人が目をぱちくりとさせてくる。

 

「………おじいちゃん、やっぱりこの男たらしだよ」

「憎いがたまに見せる笑顔の破壊力がヤバいのう………」

「おまたせしました、コンコンブルさん。量が多くて………おや、ハチマン君。おはよう、珍しいね、君が早起きなんて」

「昨日はくそ早く寝たんでな」

「昨日は相当疲れてたもんねー」

「そうだ、プラターヌ博士。ハチマンにも見てもらったらどうだ?」

「そうですね、お願いしようかな」

「………何をだよ」

「ゲンガーについての論文だよ。これまでふゆうとされてきた特性が実はのろわれボディの可能性があるっていうね」

「まとめるの早くないか?」

「可能性だからね。実際はどうなのか、これから調べていくところだよ」

「なるほど」

「それとメガシンカについてもまとめてみたんだ。君やエックスが何度もメガシンカさせてるおかげで新たな提言ができるよ」

「複数同時のメガシンカか。現在の提言をよく読めば引っかかることだったろうに」

 

 渡された資料に目を通していくと、細かくゲンガーの詳細が書かれていた。恐らくオーキドのじーさんたちと情報を共有し、図鑑説明などの情報を得たのだろう。加えてここ最近上がってきているという噂や今回のリーグ戦で見受けられた効果が書かれている。

 一方、メガシンカについてはエックスと俺が行った同時メガシンカについて書かれており、またメガシンカの原理についても再度書かれていた。加えて俺がカロスに来た頃に話し合った二つの石の存在意義についても書かれているという、さすがポケモン博士と言わざるを得ない出来栄えだった。

 

「ま、いいんじゃねぇの。そもそも論文なんて書いたこともないんだから批評のしようがないし」

「いや、君は両方に居合わせているからね。ゲンガーについても君が感じたことと違えば教えてほしいし、メガシンカについても君と話したことが大いに含まれている。だから君に見てもらう事は案外理にかなってるのさ」

「さいですか………」

 

 なんかこれそっち側に引き寄せられていないか?

 俺は研究職に就く気は全くないぞ。

 フラグを立てるようなこともしたくないので、変な考えを振り払うため、まだお団子にしていない茶髪に指を入れて梳いていく。女性というのは髪型一つで雰囲気がガラリと変わるからな。ユイも伸ばしたままだと普段からは想像できないおしとやかな雰囲気を醸し出している。

 まあ、明るいユイもこういう静かなユイもどっちもかわいいのだが。

 

「強いて言えば、同時にメガシンカを行うのにはトレーナー側も相当負担があるってことだな。頭痛が激しくなる感じとでも付け加えとけばいいんじゃね?」

「………なんて適当なの」

 

 や、可能性ばかり書かれてるからな。やはり実体験の話も盛り込んでおくべきだろ。

 

「…………もう一ついいか?」

「ん? 何か問題でも見つけたのかい?」

「や、このヒャッコクの日時計ってなんだ?」

 

 終わりの方に見つけた一つの項目。

 聞き覚えのない名前に、つい気になってしまった。

 

「ヒャッコクの日時計を知らないのかい?」

「知らん。ヒャッコクってところにまだ行ってねぇし」

「………そうだったね。結局カロスの西側にしか行ってなかったんだったね」

 

 それな。ほんとそれ。

 何やかんやで結局カロスの西にしか行ったことがない。行ってもクノエの病院(北)と終の洞窟(東)………とポケモンの村とかいうところ。ポケモンの村に関してはセレビィに飛ばされていたため、具体的な場所を知らない。

 ………仕事やめようかな…………。俺全然カロスを知らねぇじゃん。それでポケモン協会のトップって大丈夫か?

 

「ヒャッコクシティには日時計というオーパーツがあるんだけど、フレア団が最終兵器を起動してから変化が見られてね」

「変化?」

「うん、毎日決まった時間になると輝き出すんだ。そして呼応するかのようにカロス各地でも光を発するものが現れる」

「………それがメガストーンだというのか?」

「そう! そこにも書いてある通り、各地で輝き始めるのはメガストーンさ。そして、キーストーンも光を発する。尤も、こっちはメガストーンまで導く光だけどね」

 

 ヒャッコクの日時計、オーパーツか。

 キーストーンやメガストーンに関係する、要するにメガシンカに深く関わっている代物。

 

「へぇ、まあ覚えておくわ」

「それで、今回は何を抱えておるんじゃ?」

「………なんだよ、いきなり」

「惚けおって。昨日のリザードンが異常だったのは明らかなんよ」

「…………俺とリザードンは一種の薬物中毒なんだよ。詳しいことはまだ思い出せないが、な」

 

 嘘。

 思い出した。

 夢のおかげで『レッドプラン』、俺がその被験者になった原因である『プロジェクトM’s』がどういうものだったのか、もう知っている。そして、俺と『プロジェクトM’s』を企てる要因になったミュウツーとの初戦闘も、な。

 ただ、イッシュ建国の話の関連性が全く分からないままだけど。

 

「………あなた、思い出したの……………?」

『ユキノさん、おはようございます』

「ええ。おはよう。それとユイはこなかったかし………寝床を変えたのね…………」

 

 ユイを探して起きてきたのか。

 またタイミングがいいというか悪いというか。

 

「思い出した………? それってどういう………あっ!」

「どこまで思い出したのかしら?」

「………ロケット団残党の討伐部隊編成後しばらく……ってところだな」

 

 別に嘘ではない。

 まだ事件の収束がどういった形だったのかなんて思い出してもいないのだから。

 

「そう、事件収束まではまだまだ先のようね」

「へぇ、やっぱ時間かかったのか」

「ええ、ただあなたにとっては特に重要な記憶になるでしょうね」

 

 いや、もう充分すぎるくらい重要なんですけど。

 というか、今の俺のすべてがそこにあったって感じすらしている。

 

「そういえば、ユキノ。いつの間にユイに飛行技を教えたんだ?」

「ユイがシャラシティで鍛えてる時だけれど。私が教えたのは技のコツとか、あなたが実際に使っている様子とかくらいよ。技の根本的なことは確認してくるくらいだったわ」

 

 つまりは他の誰かが技自体を教えたという事か。

 イメージを実現するためにも、技を知っているユキノに聞いたってところだな。

 

「ふっふっふっ、これはなーんだ?」

「おいこら、待て。なぜあんたがそれを持っている。しかもそれって初回限定版じゃねぇの?」

 

 じじいが不敵な笑みを浮かべてあるケースを出してきた。

 表紙が見たことのあるアニメキャラ。

 何を隠そう俺たちが飛行技として取り入れたアニメ作品のDVDボックスである。

 

「お前さんのバトルを見て、元ネタを探して中古で買ったんよ。わしらはかくとうタイプを専門としているが、わしのヘラクロスは空を飛べなくないからのぅ。使えないかと思ったんよ」

 

 このじじい………。

 フットワークが軽いっつーか、なんつーか。

 

「ふっふっふっ、これはなーんだ?」

「お前もか、コルニ。今度は一体……………ルカリオの剣技か」

「これ、主人公がイケメンだよねー。どこぞの誰かさんと違って。似たような種族なのに」

 

 似てるとはどういう意味だ。

 昨日のマントとかのことか?

 別に全身黒ずくめの縦なし片手剣を目指してるわけじゃないんだけどな。

 どっちかっつーと犯罪ギルドの長の方が合うんじゃね?

 …………自分で言ってて悲しくなってきた。

 

「要はお前らがユイにいろいろ教えたわけだ」

「当ったりー!」

 

 はあ………、現ジムリーダーと先代ジムリーダーに俺のありとあらゆる戦術を叩き込まれ、あまつさえユイ自身の能力も開花させられてるとは………。

 バトルした俺も驚きだが、一番驚いているのはユイ本人だろうな。自分がそんな能力を持っており、鍛え方次第で俺たちを苦しめるバトルをとれるようになるなんて、想像できたとは思えない。

 

「………全く、あなたが周りに与える影響がここまで大きかったなんて。誰が想像できたでしょうね」

「何でそこで俺なんだよ」

「あら、自覚なしなのかしら? ユイがここまで強くなれたのもイロハやコマチさんが急成長の真っ只中なのも、何なら私や姉さんが今ここにいるのも、全てあなたが影響しているのよ」

「さいですか。まあ、ユキノについては否定しないが」

「………どうして私だけ否定しないのかしら?」

「だって、出来もしない潜入捜査をしてまで俺を探しに来るわ、サカキと飛空挺でバトルしてる時も俺の背中から離れないわ、その後も俺に付き纏って一日中監視してるわ、ロケット団討伐部隊編成の時にいなかったからって必死に探し回るわ、ミュウツーに襲われて俺一人残ると言い出したら聞かなくなるわ………」

「もういい! もういいからそれ以上口を開かないでちょうだいっ!」

 

 あらら、顔真っ赤に染まっちまって。

 

「ええそうよ! 以前話したかもしれないけれど、ずっとあなたを追いかけてたわよ! 三冠王とか言われるのもただの副産物よ!」

 

 副産物って………。

 ついでに参加したら優勝しましたってどんなぬるゲーだったんだよ。他の参加者がかわいそう過ぎるだろ。

 

「でもその全てが消えてしまうのは、とても辛いことよ…………。顔も声も仕草も同じなのに、全くの別人がそこにいるような感覚で………。まだ思い出していないでしょうけど、あなた最終的に全ての記憶を、失くしてしまうのよ………」

 

 ………やっぱり、そうなのか。

 薄々そうなんじゃないかとは思っていた。

 

「………なあ、重要ってやっぱりそれも含めて、なのか?」

「ええ、そうよ! なのにあなたと来たら、何度も記憶喪失を味わわせて! 本当に悪いと思ってるのかしらっ?」

「イ、イエス、マム………」

「だったらここに誓いなさい! ヒキガヤハチマンはこれ以上記憶を失いませんと。さあ、早く!」

「ちょ、それ、ダークライ、死んじゃう………」

 

 ヤバい、目がマジだ。

 

「大丈夫よ、代わりに私の消し去りたい記憶を与えればいいわ」

「んな無茶苦茶な………」

 

 あ、さすがにダークライも嫌なのね。ダークボールが異様に反応を示したぞ。

 

「ダークライも拒否してるぞ」

「だったらあなたがゆめくいを覚えなさい」

「それこそ無茶だ………」

 

 どしたー?

 なんか段々と雲行きが怪しくなってきたぞ?

 まさか夢でその時のことを見たとか………?

 …………あり得なくもないな。

 

「………なあ、まさかとは思うが夢に出て来た、とか?」

「ッ?!」

 

 図星か………。

 

「分かった、悪かった。お前の気も知らないでずっと辛い思いさせて悪かった。なるべく記憶喪失にならない範囲でやるから」

「………約束よ」

「ああ」

 

 まあ、流石にな?

 目の前かどうかは知らないが記憶を失ったところに出くわすのは辛いよな。

 俺も分かってはいるが、やらざるを得ない状況が来るもんだから仕方ないといえば仕方ない。

 ただやはりフレア団事件の後に記憶喪失のフリをしたのは軽率だったと思う。当のユキノが思い込みで先走ったというのもあるが、早くに解いてやるべきだったのだろう。

 

「………俺ももう大事な記憶を失いたくねぇよ」

 

 それに俺自身、ユキノたちとの思い出を大事なものになっている。失ってしまえば俺は何も思わないだろうが、そんな俺を見たこいつらの悲しい顔を見たくない。

 俺のため、というよりもこいつらのためにも、俺はもう記憶を失いたくないのだ。

 

「……え、えーと、さすがに目の前でラブコメ展開を見せつけられるのは少々というか、かなりハードル高いんですけど…………」

「いやー、青春じゃのう」

「うーん、今日もとても平和な一日になりそうだ」

 

 あ、そういや三人がいるんだった。

 男二人のニヤニヤ顔が腹立つな………………。

 って、こんな朝っぱらから電話かかってきたし……。

 

「…………はい? もしもし?」

『やあ、ヒキガヤ』

 

 ハヤマかよ。

 あれ? つか、何で俺の番号知ってんの? 俺の個人情報駄々漏れ? ロケット団にはすでにブラックリストに登録それてるし、仕方ないのか?

 

『俺、好きになったみたいだ』

 

 ピッ!

 つい無言で切ってしまった。

 まあ、いいだろ。変なことを言い出すあのイケメンが悪い。俺はホモじゃない。

 

「また鳴ってるよ………?」

 

 なんだよ、またかけてきやがったよ。

 やだなー、出たくないなー。

 

「出ないの?」

 

 やめろ、コルニ。

 それを言われると出ないといけないみたいな空気になるじゃねぇか。

 

「俺にそっちの趣味はないんだが?」

『誰もヒキガヤを好きだなんて言ってないじゃないか』

「紛らわしいことを言い出すお前が悪い」

『はははっ、それは悪かったね』

「で、誰が誰を好きになっただって?」

『俺がユミコをだよ』

「ああ、そう。よかったな。んじゃ」

 

 超どうでもいい。

 そんなことをいちいち報告しないで頂きたい。

 何でハヤマの恋事情を知らなきゃならんのだ。しかもこんな朝っぱらから。

 

『ちょっと待ってくれ! 俺はこれからどうすればいいか、教えてくれ! ユキノちゃんやユイやイロハに好かれている君なら、この先どうすればいいのか分かるだろ?』

「はっ? や、知らねぇよ。俺はお前じゃないんだし。そっと抱き寄せて耳元で『愛してる』って言えばイチコロなんじゃねぇの?」

 

 知らねぇよ。

 ミウラもお前のこと好き好きオーラ出してたんだから、告っちまえば万事解決だろ。

 

『分かった!』

「待ちなさい、ハヤマくん! この男の言葉を間に受けてはダメよ! 女心はとても繊細で複雑なのだから、もっと正面からぶつかってみなさい! それと自分の言葉で言うこと! いいわね! ハヤト!」

 

 むっ?

 なんか勢いに任せてハヤマを名前で呼んでなかったか?

 

「あ、なんか今最後ハチマンの顔が苦い感じになった」

「ほう、嫉妬か? 他の男をつい名前で呼んでしまった正妻に嫉妬か?」

「ん、んなんじゃねぇよ! ただなんかハヤマだけはどうしてもイラっとくるんだよ!」

 

 なんかこうイラっとくるんだよ。

 

「あら、ハチマン。嫉妬してくれるのね」

 

 嫉妬、嫉妬ね…………。

 まあ、間違っちゃいないだろうけど、でも何か違う。

 うん、ハヤマだからってことにしておこう。

 多分、他の奴じゃこんな感情は湧かないし。

 

「…………ヒッキー………んにゅ…………」

 

 ふぅ、この柔肌は落ち着く。

 こんなんでも昨日は俺に食らいついてきたんだもんな―。

 成長する者は先が見えねぇけど、楽しみではある。

 

「………なあ、ユキノ。これ、何かあったらユイに渡しといてくれねぇか」

 

 そうだな。忘れないうちにこれを渡さないとな。

 ユイが使えるかは未知数だが。

 でも今のユイならいけるはずだ。ユイはそれだけ力をつけた。自分の弱さを認めた上で強くなった。だから強い。俺はそこに賭ける。

 

「これは………」

「えっ、ちょ、ハチマン、正気?」

「正気だ。なあ、博士。これも『継承者』としての役目だろ?」

「うむ、お前さんが認めたものに渡すのも道理というものよ」

「ちょ、おじいちゃんまで!?」

 

 いいんだよ、コルニ。

 

「………本当にいいのね?」

「ああ、俺はユイの可能性に賭ける。この先、何が起きるか分からない。ただ言えるのは俺はその時、ユイたちを守れる余裕がない可能性があるってことだ」

「…………分かったわ。私も自分の役目を全うする時、みんなの側にいられないもの」

 

 いられない、か。

 もう決定事項なんだな。

 ……………ハルノが言っていたようにユキノが俺たちの暴走のキーになる。それをこいつは知ってしまったのかもしれない。

 

「ふぁ〜あ………む?」

 

 また誰か起きて………ヒラツカ先生か。

 今日も今日とて寝起きは無防備だこと。何だよ、タンクトップに短パンって………、ユキノが泣くぞ?

 

「ヒラツカ先生、おはようございます」

「ん、ああ、おはよう………」

 

 髪もボサボサだし、腹は掻いてるし。

 だから結婚できないんじゃ……………。

 

「シズカ君、おはよう」

「んあ、プラターヌ博士、おはようございます。なんか朝から賑やかですね」

「ちょっとコンコンブル博士に論文のチェックをお願いしようとしてたんだけどね。ハチマン君が起きてきて、みんなぞろぞろと」

「珍しいな、ヒキガヤ。君が早起きとは」

「昨日早く寝たんでね。身体が起きちまったんすよ」

『お茶をどうぞ』

「おお、気が利くな、ディアン……シー……………おい、ヒキガヤ。君はいつから変態に目覚めたのだ?」

「変態確定かよ。俺じゃないっすよ。かわいいけど」

「わっはっはっはっ! さすがはハチマンの恩師じゃ。率直に言うのう」

「どこぞの捻くれ者よりマシでしょう?」

 

 おい、寝起きで俺を罵倒とかさっきまでの眠そうな顔は何だったんだよ。

 

「ま、かわいいのは確かだ」

「先生も着ます?」

「……………………ジョギングでもしてこようかなー」

 

 逃げた。

 長い間は何だったのだろうか。

 自分がメイド服着てる姿でも想像したのだろうか。

 というか、先生のメイド服姿か……………痛いな。スタイルはいいんだけど。

 せめてロングスカートじゃないと、ミニスカでフリフリとか胃もたれしそうだ。

 

「あなた、カウンターが使えたのね」

「なわけあるか………」

 

 誰がポケモンだ。

 俺は人間だっつーの。

 




小町の誕生日ということで一日早めの投稿でした。でも今回小町が全くでないという………。
ごめんね、小町。


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25話

『さあ、始まりました、カロスリーグ四日目! 昨日で全ての選手が一回戦を終えましたが! まだまだこれから! 本日一発目の対戦カードはこの二人だぁぁぁあああああああああっっ!!』

 

 あれからぞろぞろをみんなが起きだし、何故か久しぶりに全員がそろっての朝食となった。

 というかよくあれだけの人数を研究所に収容出来てたなと、改めて建物の広さを感じた。あの研究所、部屋の数多すぎない? 一人一部屋あったぞ?

 

『まずは今大会の優勝候補の一角、三冠王、ユキノシタユキノ! 続いて対戦相手はこの人! 四天王、ドラセナ!』

 

 そして今日は一発目からユキノの二回戦。一回戦はユキメノコとオーダイルのみでの圧勝となったが、今回は格が違う。相手は四天王。しかもイロハを最後まで掌で転がしていたような四天王だ。恐らく四天王の中でも最強に位置する存在。

 

『それでは、早速バトルといきましょう!』

「両者、準備の方はっ?」

「いつでも」

「こっちもいつでもいいわよ~」

「それでは、バトル開始!」

 

 ユキノかドラゴン使いの四天王か。

 イロハを最後まで泳がしていたあの笑顔の裏でどんな策を練っているのやら。

 

「いくのよ〜、ヌメルゴン」

「いきなさい、ユキメノコ」

 

 やはり最初はユキメノコで行くのか。

 一回戦もユキメノコだったし、切り込み隊長なのかね。

 

「ヌメルゴン、あまごいよ〜」

「ユキメノコ、かげぶんしん」

 

 対して相手はヌメルゴン。

 ドラゴンタイプで雨が好き。そして何よりもあの身体のぬめぬめとした液体。

 

「ふぶき!」

 

 全方位からのふぶきか。しかも雨も同時に凍らせて、礫としてヌメルゴンに襲い掛かる。

 上手い、が相手はヌメルゴン。

 そう簡単に落ちるような軟な身体ではない。

 

「あらあら、凍ってしまうなんて」

 

 と、初っ端からヌメルゴンが凍り付いた。

 運はユキノの方に向いているのかもしれないな。

 

「でも大丈夫なのよね〜」

 

 なのに、動じるそぶりを見せるどころか終始笑顔。

 逆に笑顔が怖い間である。

 

「ヌメルゴン、アクアテールよ〜」

 

 言葉通り、ヌメルゴンは動いた。

 凍っているはずの身体がするりと中で回転し、氷を破壊していく。

 

「うるおいボディだな」

「あー、ヌメルゴンの特性ね」

 

 なるほど、しれっとやりやがる。

 ユキノがユキメノコを出した時点で、こうなることは予想していたのだろう。それを見越して雨雲を呼び、雨を降らせた。特性のうるおいボディは雨が降っていると凍り付いたりなどの状態異常から抜け出すことができる。

 しかもヌメルゴンはぬめぬめとした体液を纏っている。凍り付いたくらいでは行動を制限できなさそうだ。いっそあのぬめぬめを凍り付かせたらどうなんだろうな。

 

「げきりん」

 

 ヌメルゴンが竜の気を暴走させると同時に辺りに散らばる氷の破片が一気に溶けた。

 ヌメルゴンは地面を強く蹴り上げると、すでに影が消えていたユキメノコ本体に突撃していった。だが、ユキメノコがそれを拒否するかのように姿を消し、ヌメルゴンは勢いを殺しきれず壁に激突。

 

「ユキメノコ、さっさと混乱させてしまいましょう。かげぶんしん!」

 

 ヌメルゴンが立ち直す間に、ユキメノコが再度影を増やし、全方位からヌメルゴンを包囲していく。

 影の数はさっきの数倍。ヌメルゴンはその数の多さに驚愕を露わにしていた。

 

「なぎ払っちゃって〜」

 

 命令が出されるまでのほんの数瞬。

 しかし、ヌメルゴンにとってはようやくかと感じたことだろう。

 

「今よ、ふぶき!」

 

 ただその数瞬の間はとても大きかったようだ。

 ユキメノコの本体が音もなくヌメルゴンの頭上に現れ、凍てつく氷を吹き付ける寸前までの時間となり、ヌメルゴンは地面を蹴り上げ竜の気とぬめぬめした体液を周囲にまき散らしながら凍り付いていった。

 しかも竜の気は届かず、ぬめぬめとした液体だけがユキメノコに付着した。

 

「あらあら、強いわね〜」

「ヌメルゴン、戦闘不能!」

 

 今もフィールドには雨が降っているが、ヌメルゴンが氷の中から抜け出してこない。

 それを戦闘不能と取った審判が合図を出した。

 これでユキノが先取点を取ったことになる。だが、油断はできない。イロハの時は勝っていると思わせての最後の一撃で主導権を一気に奪ったからな。あれでイロハの持ち味は完全に無力化されて何も出来なくなっていた。

 ま、ユキノはそう易々と掌で転がされるような魂じゃないから、杞憂な話だろうな。

 

「ゆきのん、さっそく勝ったね」

「油断はできないがな。あのおばさん、相当のやり手だ」

「あの人は未知数だからなー」

「コルニさん、知ってるんですか?」

「ん? ドラセナのこと? そりゃ、もちろん。おじいちゃんの友達だし」

 

 ああ、それだけでどういう人か伝わってきたわ。

 要は食えない人だってことだな。

 うん、無理だ。イロハが手玉に取られていたのも頷ける。

 

「いくのよ〜、ドラミドロ」

 

 ドラセナおばさんの二体目はドラミドロ。どく・ドラゴンだったか。後は知らん。

 

「かみなり!」

 

 うわっ………。

 雨の中かみなりかよ。

 どんなに頑張っても躱せねぇじゃん。

 

「10まんボルト!」

 

 ユキノもそれが分かってるため、同じ電気技で対応してきた。

 だが、ヌメルゴンの体液が電気を通さずに不発。暴発させてようやく流れたユキメノコの電撃を、呑み込むようにして一気に雷閃が駆け下りた。

 

「とどめよ〜、りゅうのはどう!」

 

 雷閃は氷漬けのお返しと言わんばかりにユキメノコを痺れさせた。痺れた身体はドラミドロの竜を模した波導を諸に受けてしまい、観客席との隔壁にその身をぶつけた。

 

「………さすがは四天王ですね。さっきのお返しを食らうとは思ってもみませんでした」

「うふふ〜、単なる偶然よ〜」

「ユキメノコ、戦闘不能!」

 

 衝突でユキメノコは戦闘不能。

 おばさんは偶然と言っているが、あれは絶対狙ってやっている。

 

「ありがとう、ユキメノコ。いい切り出しだったわ。後でハチマンに思いっきり甘えなさい」

 

 ………………………。

 何されるんだろうか。

 ユキメノコだしなー。異様に俺に懐いてるし………、でもこおりタイプでゴーストタイプで。

 本気で甘えられるとマジで身が持たなさそう。

 

『両者、これで一枚目のカードを失いました! バトルはほぼ互角! これからさらに熱いバトルになる事でしょう!!』

『さすがドラセナね。リードされてもすぐにイーブンに戻すなんて』

『上手い、としか言いようがないですね』

『ええ、相手が三冠王と言えどドラセナはいつも通りですもの。派手さこそありませんが、動きに無駄がありませんよ』

 

 確かにそれは言えている。

 動きに無駄がない分、派手さがない。言い換えれば派手なのは無駄が多いということだ。別にそれが悪いわけではない。魅せるバトルもあるし、技自体も派手なものがある。ただ、あのおばさんの場合は無駄を一切なくした効率的なバトルとなっており、結果やられるって感じだな。

 

「雨も上がったことですし、この子でいきましょうか」

 

 あ、ほんとだ。

 いつの間にか雨雲が消えてるし。

 

「ボーマンダ、ハイヨーヨー!」

 

 ユキノの二体目はボーマンダか。

 ボーマンダはメガシンカがあるからな。このまま一気に推し進めるつもりなのかもしれない。

 

「ドラミドロ、りゅうのはどうで迎え撃つのよ〜」

 

 ボールから飛び出して、すぐに急上昇していくボーマンダに、ドラミドロが口先を向けて下から照準を合わせていく。

 

「りゅうせいぐん!」

 

 急下降に変わる寸前、ボーマンダは流星を打ち上げた。流星は弾け群れとなり、急下降するボーマンダともどもドラミドロに襲い掛かった。

 

「ドラゴンダイブ!」

 

 竜を模した波導が撃ち出されるもボーマンダが纏った竜に文字通り食われた。そして吸収したことで竜は二倍に育ち、ドラミドロに食らいついた。

 

「うふふ〜、今ので毒が回ってくれたかしら?」

「ボーマンダ!?」

「ちょっと捨て身すぎたかしらね~。ドラミドロ、ほごしょく」

 

 効果抜群の技を受けてまだ動けるのかっ。しかもボーマンダには毒が回ったみたいだし。

 ただ技を使った形跡はなかった。となると特性か………。恐らくドラミドロの特性はどくのトゲ。触れた相手に毒を盛る特性だ。

 さすがは四天王のポケモン、よく育てられている。というかあの人の笑顔が末恐ろしい。

 

「落ち着きなさい、ボーマンダ。一度眠って回復するのよ」

 

 眠って回復か。

 だが、これで技の選択肢は後一つに絞られてしまったぞ?

 ユキノ、このままボーマンダで行こうとするなら最後の技は慎重に選べよ。

 

「あらあら、寝ちゃうなんて隙だらけよ。りゅうのはどう!」

 

 ほごしょくで姿を消していたドラミドロがボーマンダの背後に現れた。

 そして、再度竜を模した波導を撃ち出してくる。

 

「それはどうでしょうね。ボーマンダ、ねごと!」

 

 ああ、もう四つ技全て使い切っちまったよ。

 まあ、ねごとならねむると相性はいいが………、いろんな技を覚えている分、結構賭けだぞ?

 

「あらあら、これはドラゴンテール。でも、地面を叩いてしまっては意味がないわ~」

 

 いや、意味はある。

 反撃には繋がらなかったが、技の相殺、砂埃で視界を悪くさせることができた。それだけでも充分な立ち回りと言える。

 

「ふふっ、ではこれならどうかしら~。ドラミドロ、こごえるかぜ!」

「ボーマンダ、ねごと!」

 

 今度は炎と水と電気の三点張りからの竜の気の生成、りゅうのまいだ。これでボーマンダの素早さが衰えることはなくなったな。

 ただなー。下手に動かない方がいいのかもしれないが、今回は逃げた方が無難だったかもしれない。ボーマンダにとっては天敵とも呼べるこおりタイプの技。効果抜群なんてもんじゃない。致命傷だ。

 

「あら、目が覚めたのね」

「マンダッ!」

 

 おかげで目は覚めたようだが。

 すでに技を四つ出してしまった状態、しかも攻撃手段はりゅうせいぐんとドラゴンダイブのみ。

 ユキノ、どうするつもりだ?

 

「そう、それじゃ始めましょうか。ボーマンダ、メガシンカ」

 

 ここでかっ?

 相手はチルタリスをメガシンカさせてくるんだぞ?

 今ここで使って大丈夫なのか?

 

『や、やはり三冠王もメガシンカの使い手だったぁぁぁあああああああああっっ!! この大会、誰が決勝まで上がるのかさっぱり分からなくなってきましたっ!!』

『こ、ここでメガシンカなのかい?!』

『何か策があってのことでしょうけど………大丈夫なのかしら………』

 

 だよなー。

 一体何を考えているのやら。

 

『でも、これでドラセナもお遊びを終えそうですね』

『今までは遊びだったんですか…………』

 

 やっぱ遊んでたのか。

 余裕出しすぎでしょ。

 

「ソニックブースト!」

 

 なんだ、今日は普通に使うのか。

 ユイに影響されたか?

 

「ドラミドロ、正面角度五十度、りゅうのはどう!」

 

 ぶっ!?

 マジか………。

 やべぇ、あの人やべぇ………。

 ガチな命令出してきやがった。

 

「垂直でエアキックターン!」

 

 うわ……………。

 こっちもこっちでオリジナル性を出してきやがった。

 ほんとみんなどうしちゃったわけ?

 

「うわー、やっぱりゆきのんも使えたんだっ」

「伊達にヒキガヤを追いかけていたわけじゃない。今までは使わなかっただけで、使おうと思えば使えたんじゃないか?」

「やっぱりユキノさんはすごいです」

「こうして、また一人ヒキガヤが生まれるのか………」

「ウケる」

「そもそもあの人、ヒキガヤ君の正妻なんだよね? どっちにしようがヒキガヤが増えるんじゃ………」

「マジウケるんだけどっ!」

 

 オリモト、お前ウケるしか言ってないぞ………。いいのか、そんな会話で。

 

「ハイヨーヨー!」

 

 急上昇を活かして、そのままハイヨーヨーか。急降下に切り替えて落下速度を加えた攻撃を仕掛ける気かね。

 

『先ほどのソニックブーストにエアキックターン、そしてハイヨーヨー! 昨日の最後のバトルで四天王、そして四天王に臆することなく挑んだユイ選手が使っていた動きです! 一体全体、どういう技なのかっ!!』

『…………はっはは、どう説明したものか。一番解説できそうな人がバトル中って、困ったことになったね』

『では、いっそ本人を呼んでみてはどうかしら?』

『やめておくよ。どうせ呼んでも来てくれないだろうし。「人前で話すとか無理」って絶対言いますよ』

『バトルは激しいのに、意外とシャイなのね』

 

 くっ………、ユキノがいないからって好き放題言いやがって。あ、ユキノがいても好き放題だったな。

 

「あっははははっ、お兄ちゃんシャイだって!」

「ぷくくくくっ、ヒキガヤがシャイとかっ………、マジウケるんですけどっ!」

「ウケねぇよ」

 

 こいつら………、ほんと良い性格してんな。

 

「お、お兄さん、シャイだったんっすか?!」

「黙れ小僧」

「ひぃっ!?」

 

 クズ虫、お前は黙ってろ。

 

「ドラミドロ、ほごしょく!」

「遅い。ボーマンダ、ドラゴンダイブ!」

 

 うわっ………?!。

 

「けほっ、けほっ………。こっちにまで爆風がくるのかよ」

「うへぇ、口に砂入った………」

 

 流星のごとく一直線に落下したボーマンダのせいで、衝撃波による爆風が砂とともに会場一帯を埋め尽くした。どんな威力だよ。

 

「ド、ドラ、けほっけほっ、………ドラミドロ、戦闘不能!」

 

 おいおい、審判の人まで砂を吸いこんじまったみたいだぞ。

 かわいそうに、一番の被害者じゃねぇか。

 

「あらあらまあまあ、そろそろ本気で行かなきゃ危ないわね〜」

 

 俺たちからは砂が待って見えないが、ドラミドロは倒れ、ユキノがまた一歩リードしたようだ。

 だというのに、四天王は余裕シャキシャキ。

 今から本気を出すみたいだぞ。

 ………なんかフラグっぽい言い方になったな

 

「オンバーン、あなたの動きでボーマンダを翻弄させるのよ。こうそくいどう!」

 

 四天王の三体目はオンバーンか。ボーマンダと同じドラゴンとひこうタイプを併せ持つポケモン。素早い動きが特徴だ。

 そんな奴がこうそくいどうとか、手に負えない状態になるんじゃないだろうか。

 

「ボーマン………はっ?! まさか、また毒が!?」

「あらあら、ようやくだわ。でも今回はさっきと違って猛毒よ~」

「猛、毒………!」

 

 いつの間に…………。

 しかも猛毒ということは特性のどくのトゲによるものではない。

 

「突撃の瞬間、どくどくを使ってたみたいだね」

「………なんつー曲者だよ。俺あの人とはバトルしたくないわ………」

「あたしもやだなー。近づけないんじゃ攻撃が半減しちゃうよ」

「ユイの場合はルカリオで何とかなりそうだがな」

「うーん、そうかなー」

「まあ、ユイさんは打倒ハチマンで特訓してきたからねー。ハチマンとは勝手が違うし、ドラセナに勝つのは難しいかも」

「やっぱりかー」

 

 ………………。

 と、とうとうユイがバトルの話についてこれた、だと………?!

 やはりこの半年間は貴重な時間だったんだな。

 なんか泣けてくる。

 

「ハチマン、キモい」

 

 ルミルミは今日も辛辣である。

 

「ボーマンダ、眠って回復しなさい」

「オンバーン、エアスラッシュ!」

 

 どくどくは痛いな。

 猛毒状態を回復するためにもねむるを選択したが、今回は無防備状態である。無数の空気の刃でボーマンダは斬りつけられた。

 

「猛毒は回復が通常よりも遅い。四天王はそれを見越して猛毒状態にしてきたのだろう」

 

 先生の言う通りだ。

 あのおばさんはドラミドロの特性で毒状態になったのをねむるで回復させてきたところに着目したようだ。猛毒は通常の毒に比べて症状が重い分、回復も遅い。だが、放っておくとダメージが積み重なり、致命傷になりかねない。そうでなくても猛毒状態でバトルを続行しろだなんてあまりにも酷すぎる。

 だから、確実にねむるで回復させてくると踏んだのだろう。あまりにも恐ろしい先読みだ。

 

「ゆきのん、大丈夫かなー」

「…………さあな。でも、まだあいつは本気を出していない」

「え、でももうメガシンカ使ってるよ?」

「ユキノの実力はメガシンカが全てじゃないだろ」

「………飛行技だね」

 

 さすがユイの師匠。

 糸が繋がったようだ。

 

「恐らくユキノは何度となく俺のバトルを見てきているはずだ。だから飛行技も知っているし、ユイにコツを教えることも出来た」

「ゆきのんが使ってるとこ、あんま見たことないような………さっきだって………」

「そりゃそうだ。ユキノが本気でバトルした相手を想像してみろ。本家を前に使おうとは思わないだろ?」

「あ………………」

 

 基本俺としかバトルをしてないし、フレア団の時はみんなを守らないと、俺の負担を減らさないと、などという気持ちが先走って、本領が発揮されていなかった。だが、事純粋なバトルに関していえばユキノは強い。強いから三冠王と称されている。俺を追いかけていた時の副産物だなんて言っているが、相当な実力者であることに変わりはない。

 

「………ま、あいつは俺と他とじゃ戦い方が違う。それにこの一か月は山籠もりをしてたみたいだしな。あれくらいじゃ負けねぇよ」

「…………ハチマン、なんか詳しくない?」

「…………別に、ただの勘だ」

 

 ロケット団残党討伐部隊を編成して、チームを組んでいる時点で、俺の傍にあいつはずっといたはずだ。未だ思い出していない過去でも。そんな気がする。

 

「さあ、どんどんいくわよ~。オンバーン、りゅうのはどう!」

 

 素早い動きでボーマンダの背後へ移動し、竜を模した波導を上から叩きつけた。

 

「ボーマンダ、ねごと!」

「あれは、かげぶんしん………だね」

 

 かげぶんしんで上手く躱し、そのままオンバーンを大きく取り囲むように円を描いた行く。

 

「メガボーマンダがいっぱいだと恐ろしいっすね」

「もう一度、ねごと!」

 

 しかし、全ての影がオンバーンの方へ向いているわけではない。寝ているからしょうがないが、ここでハイドロポンプとかりゅうのはどうなんか出たら折角の影が消えてしまうだろう。

 

「………今度はハイドロポンプだね」

 

 あ、これ俺がフラグ立てた感じか?

 すまん、ユキノ。折角の影が消えそうだわ。

 

「オンバーン、ぼうふう!」

 

 しかも相手は自分の周りに暴風を巻き起こし、自分は目の中で安全を確保しやがった。

 

「ふふっ」

 

 あー、これはアレだな。ユキノが謀ったやつだな。よかった、俺のフラグじゃなくて。

 

「ーードラゴンダイブ」

 

 段々と広がっていきメガボーマンダの影を呑み込んでいく暴風の真上から、青い一閃が叩きつけられた。

 

「…………これは一本取られたかしら~?」

 

 どうだろうな。

 暴風の中で中に起きているかなんてこっちからは見えないし。

 

「ボーマンダ」

「マァァァンッッ!!」

 

 暴風の中からボーマンダが出てきた。

 取り敢えず、ボーマンダの生存は確認できたな。

 後は………。

 

「風が収まったわ」

 

 三日月の翼になったボーマンダが出てきたことで上昇気流が発生し、暴風が霧散した。

 そして、残っていたオンバーンは地面に倒れ伏していた。

 

「………オンバーン、戦闘不能!」

 

 これで四天王のポケモンは残り三体。

 チルタリスにガチゴラスにクリムガン、だったはず。

 イロハ戦で六体全てを出していたため、すでに六体とも登録済み。大会中のポケモンの変更は不可能となっている。だから、残りはその三体である。

 しかもメガシンカはチルタリスのみ。相手の手は全て出尽くしているようなものだ。

 ちなみに技の使用制限はそのバトルのみに働いている。勝ち越せば

 

『三冠王、ここでさらにリードを広げたぁぁぁあああああああああっっ!! いや、しかし! 一回戦でのイロハ選手とのバトルではこの状況から見事覆しました! 三冠王、いまだ油断は禁物ですっ!』

『マーベラス! ドラセナさんがずっと優勢に見えていたのに結果は逆転しているっ。見事なバトルだっ』

『ええ、さすが三冠王ね。でもドラセナはそんな甘くないわ』

 

 いや、もう充分分かってますって。

 あのおばさんが曲者だってことくらい。

 

「オンバーン、ゆっくり休むのよ~」

 

 次は何を仕掛けてくるのか楽しみな反面、ちょっと怖い。

 何をするにもずっとあの笑顔なんだぞ。逆に恐ろしいっての。

 

「ボーマンダ、今のうちに眠って回復しておきなさい」

 

 ま、こっちはこっちで恐ろしいがな

 攻撃してもすぐに回復されるわ、ねごとという特殊な技で技の使用制限を平気で超過してくるわ。ルールに規定されているのだから仕方ないが、いかんせん攻撃手段が多いことには変わりない。

 

「ガチゴラス、いくのよ~」

 

 四体目はガチゴラス。

 あの頑丈な顎からの噛みつき技には要注意だ。

 

「りゅうのまい!」

 

 おお、りゅうのまい。

 これで噛みつかれたら一発でアウトになってもおかしくないな。

 

「ボーマンダ、ねごと!」

 

 体力のリセット、そして繰り出す技の無制限化。ほんと、相手にしたくない戦法だ。

 

「これは………」

「りゅうのいかりであるな」

 

 ガチゴラスに向けて撃ち放ったのは、竜の気を凝縮させた衝撃波だった。

 

「ガチゴラス〜、食べちゃいなさい」

 

 おいおい、衝撃波を呑み込みやがったぞ。

 あの顎はそんなことまで耐える頑丈さなのか。

 

「りゅうせいぐん!」

 

 しかも呑み込んだ衝撃波を撃ち上げ、流星に変えてきたし。

 天高く昇った流星は弾け、流星群となって降り注いでくる。

 

「ねごと!」

「ブォオオオマァァァアアアアアアアアアンンンッッ!!」

 

 ぐええっ?!

 ハ、ハイパーボイスかよ!

 み、耳がぁぁぁあああっ!!

 

「りゅ、流星が、みるみるうちに、砕けて………いってるっ」

「メガボーマンダの特性は、スカイスキン! ノーマルタイプの技を、ひこうタイプの技に変え、威力も、上げてくるんよ!」

「いい方に転んだみたいだけど、でも、でも、耳が痛いィィィイイイッ!」

 

 じじい! コルニ! な、何言ってるか聞こえねぇんだけど!

 

「ボーマンダ、お返しよ! りゅうせいぐん!」

 

 今度はボーマンダのりゅうせいぐん。

 ガチゴラスはどう躱すんだ? また食うのか?

 

「ガチゴラス、ドラゴンテールで登っていくのよ!」

「ガチゴッ!」

 

 おお、跳んだ。

 ガチゴラスはそのまま降り注ぐ流星を、一つずつ竜の気を帯びた尻尾で叩き落とし、反動を活かして天に向けて登っていく。

 

「ボーマンダ、ハイヨーヨー!」

 

 その間にボーマンダは地面を蹴り上げ、急上昇していった。

 

「はーい、コマチちゃん。次出番だよ」

「あ、ハルノさんっ」

 

 そういや、次はコマチの出番だったな。

 四天王の方が四体目に入ったし、ハルノが迎えに来たのか。

 

「ハルノ、一つ聞いていいか?」

「んー? シズカちゃん、なになにー?」

「君たちは………、いや、やっぱりいい。ここで聞くというのも無粋というものだ。ハルノ、今夜時間あるか?」

「………二人の時の方がいい話みたいだね。いいよ、開けておく」

「そうか、すまない」

 

 先生、一体ハルノと何を話すつもりなんだ?

 二人きりじゃないと困るような話って…………、リザードンのこととかは一応話したし、うーん………。

 

「それじゃ、いこっか」

「はいっ」

「あー、コマチ」

「なに、お兄ちゃん」

「楽しんでこい」

「がんばれー、とかじゃないんだ」

「これまで頑張って特訓してきた奴に、今更頑張れも何もないだろ。後はバトルを楽しめるかどうかだ」

「うん、楽しんでくるよ!」

 

 コマチが頑張っているのなんて知っている。

 それをさらに頑張れだなんて今更だろ。後は今までやってきたことを全て出して、バトルをいかに楽しめるかだ。

 

「りゅうのまい!」

 

 おお、どうやら登り詰めたらしいな。

 最後の流星だけは脚で着地。

 ガチゴラスは炎と水と電気の三点張りから竜の気を練り上げ、それを纏った。

 

「ドラゴンダイブ!」

「もろはのずつき!」

 

 ガチゴラスは流星を蹴り上げ、その巨体でジャンプ。ボーマンダは竜を纏い一気に急下降し、二体は激しくぶつかった。

 どちらも効果抜群。ただし、もろはのずつきは反動のダメージがある分、不利かもしれない。

 

「ガチゴラス!」

「ボーマンダ!」

 

 二人が呼びかけると、それぞれ姿を見せた。どちらもまだ戦えるようだ。

 

「………いや、反動が効いてるな」

 

 無事に見えていたが、ガチゴラスには反動のダメージが大きかったようで、バランスを崩して地面に落下し始めた。

 

「ボーマンダ、眠って回復しなさい」

 

 今回、幾度となく使用しているねむる。

 案外、これが当たりだったのかもれない。

 

「ガチゴラス、しっかりするのよ〜! こおりのキバ!」

 

 おばさんの声に反応したガチゴラスはくるくると身体を回し、地面に着地。力強く蹴り上げ、ボーマンダへと一気に距離を詰めていく。そして巨大な氷の牙を作り出した。

 

「ボーマンダ、ねごと!」

 

 こちらもねむるとともに使用しているコンボ技。出したのは三日月の翼を鋼にした技。

 

「はがねのつばさ………、あなたいつの間に覚えたのよ………」

 

 あ、今まで使ったことなかったのね………。

 ボーマンダは三日月の翼をガチゴラスに噛ませ、そのまま回転して加速し、突き飛ばした。トルネードかよ。一体どんなバトルの夢を見てるんだよ。

 

「ガチゴラス、戦闘不能!」

 

 ガチゴラスは隔壁に身体を打ち付け、動かない。効果抜群のはがねのつばさが効いたようだ。

 これで残り二体。

 ねむるで回復させて持久戦に持ち込み、ここまできたが、もしかしたらこのまま最後までいけるかもしれない。

 

「戻るのよ、ガチゴラス」

『これでボーマンダ、連続で三体を倒したぁぁぁああああああっ!! これはもしかすると最後までいってしまう可能性があります!!』

『中々ドラセナが攻めきれないわね………』

『ええ、ドラセナさんの命令に無駄はないんですがね。いやはや、彼女も恐ろしく強くなった』

『ドラセナが三冠王に勝つにはまずあのボーマンダを倒さなければいけませんね。ねむるで回復されて与えたダメージがなかったことになっている。あれを攻略しない限りは………』

 

 チャンピオンの言ってることは最もだが、ユキノはまだ二体目。ボーマンダを倒したところでまだ四体いる。古参のオーダイルに恐らく最後の砦としてクレセリアを用意しているはずだ。残り二体は誰を出すつもりなのかは知らないが、それでもこの面子をチルタリスとクリムガンだけで攻略するのは極めて難しいだろう。

 

「チルタリス、いくのよ!」

『おおっと、四天王ドラセナ選手! ここで早くもチルタリスを出してきたぁぁぁああああああっ!!』

 

 ここからチルタリスで一気に攻めようってことか。出し惜しみなんてしている場合じゃないと、そう判断したのだろう。

 イロハが知れば、さぞ悔しがるだろうな。自分ではそこまで追い詰めるまでに至らなかった。ずっと掌で踊らさらているだけだったと。

 俺から言わせてもらえば経験の差でしかないが、ああ見えて負けず嫌いだからなー。

 

「チルタリス………、先にメガシンカで倒そうってわけね」

「だな。ユキノシタもそれは分かっているだろう」

「ゆきのん………」

 

 さて、ねむるで回復しているとはいえ、三戦終えたボーマンダだ。疲労の蓄積がどこまで溜まっているのやら。

 

「起きたのね、ボーマンダ。それじゃ、さっさと倒すわよ。ドラゴンダイブ!」

 

 メガシンカされる前に倒すつもりなのだろう。

 竜を纏うと一気に詰め寄った。

 

「チルタリス、メガシンカ!」

 

 だが、まあやはりというか。

 チルタリスに届く前にメガシンカの光に包まれてしまった。ボーマンダは光が生み出すエネルギーに押し返され、踏みとどまっている。

 

「うたう!」

 

 心地よい音色が会場一帯に流れた。

 ハミングポケモンと称されるチルタリスの歌声は美しく、そして聴くものを魅了する。

 

「ボーマンダ、ねごと!」

「チルタリス、はかいこうせん!」

 

 ボーマンダが出した技は竜を模した波導。

 対してチルタリスは、禍々しい光線を放ち、竜とその先にいるボーマンダを貫いた。

 

「………これは、さすがに………」

「無理だろうな」

 

 メガチルタリスの特性はフェアリースキンとかいう、ノーマルタイプの技をフェアリータイプの技にし、威力を上げるもの。

 フェアリータイプとなったはかいこうせんはボーマンダに効果抜群。眠った後に三日月の翼を氷の牙で噛みつかれ、一応効果抜群のダメージを負っている。そこにはかいこうせんだ。立っている方が奇跡と言っていい。

 

「ボーマンダ………、お疲れ様」

「ボーマンダ、戦闘不能!」

 

 隔壁に突き飛ばされたボーマンダはメガシンカを解いて、地面に伏していた。

 ついにボーマンダが攻略されてしまった。

 やはりあのチルタリスは強い。

 

『四天王ドラセナ選手、ついにボーマンダを攻略したぁぁぁああああああっ!! これで三冠王のカードは残り四枚! 次は誰を出してくるのかっ!!』

 

 順当にいけばオーダイルか?

 一回戦ですでに出しているから相手にも知られている。このまま勝ち進むとなれば、手札を見せない方が後々有利になってくるし、俺としてはオーダイルがベストだが。実力もあるしな。

 

「行きなさい、ユキノオー」

 

 おっと、これは新しい顔だな。

 それにしてもユキメノコにユキノオー。どんだけユキが好きなんだよ。自分の名前と被るからか?

 

「あられだ………」

「ユキノオーの特性にゆきふらしってのがあるからな」

 

 つまり、あのユキノオーの特性はゆきふらし。

 

「ドラゴンタイプの弱点であるこおりタイプを選んでくるのはいいけれど、対策はバッチリよ〜!」

「それはどうでしょうね。ユキノオー、ふぶき!」

「っ?! チルタリス、だいもんじ!」

 

 これは驚いた。

 ドラゴンおばさんが初めて驚愕の顔を見せたぞ。

 

「ドラセナの奴、焦っているのう」

「ユキノさん、すごい……………」

 

 ユキノの選択は相手にとって致命傷になったようだ。あられが降っている状態でのふぶきはどこにいようが巻き込まれる。巻き込まれればひとたまりもない。

 

「ふう、さすがに今のは危なかったわ〜。でも、ここからは反撃よ。チルタリス、うたう!」

 

 さすがメガシンカ。さすがメガチルタリス。

 あのもふもふはふぶきを耐えるほどの代物らしい。

 そして、今度は四天王の反撃。まずは眠らせてのはかいこうせん、いやさっき吹雪の中で壁にしていただいもんじかもしれない。ユキノオーに大ダメージをより与えられるのはだいもんじだからな。

 

「………ユキノオー、メガシンカ!」

 

 ………………………………。

 はい?

 

「うそ………、二体目………」

『ああーっと!! これはこれはなんと!! 二体目のメガシンカだぁぁぁああああああっっ!! メガシンカ自体、ポケモンとの息が合わなければなし得ない高度な技術であるのに、この大会では様々な選手が成功させてきましたっ!! そして中でもこの二人は別格でしょう!! 四天王ハチマン選手とエックス選手!! 共に複数のメガシンカを成功させています!! そこに新たに一人加わりました!! やはり三冠王の名は伊達ではなかった!!』

『この半年、その二人に協力を仰ぎ、複数同時のメガシンカを研究してきましたが、まず常人がなせる技術ではありません。あくまでもエックスやハチマン君という、トレーナーとしてトップクラスの実力を持ち合わせていないとメガシンカの力を暴走させてしまいます。キーストーンをお持ちの方々、軽い気持ちでやるものではありませんよ。そう忠告だけはさせていただきます』

『でも、なんだか腑に落ちた感じですね。これが三冠王なのだと、改めて思い知らされた気分だわ』

 

 あいつ、キーストーン二つも持ってたっけ?

 ………あれか? 今朝のユイに渡してくれって託しておいた俺のキーストーンか?

 ………………有り得なくもない。つか、あの「いいの?」ってのはまさか「それまで私が使うわよ?」って意味だったとか?

 うわー、マジかー………。

 俺まであいつに一本取られた感じだ。

 

「ユキノシタ………、お前もついにその領域に達したのだな」

 

 先生、そんな感慨深く見入ってますけど、アレ俺のです! 俺のせいです!

 

「…………一回に二体もメガシンカさせるの、今回が初めてなんじゃ………」

「………多分な」

「ユキノさんもやっぱりハチマンに似てるんだね……………」

 

 今朝のやりとりを知っているコルニはあのキーストーンが俺のだと気付いたのか、一回のバトルにおいてメガシンカさせたのが初めてであることを見抜いていた。

 

「ぜったいれいど!」

 

 一撃必殺も使えるようになっていたのか…………。

 やはりこの半年間はユキノにとっても貴重だったらしい。複数メガシンカに一撃必殺。ものにできたようだな。

 

「っはっ?! チルタリス!?」

 

 一瞬にして凍りついたチルタリスは、メガシンカを解いていた。

 

「チルタリス、戦闘不能!」

 

 ……………。

 なんか、あっという間だったな。

 もっと激しいバトルになると思ってたのに。

 まさかユキノオーを出してきて、メガシンカまでしてくるなんて思いもしなかったわ。

 

『チルタリス、戦闘不能!! 三冠王、ここにきて圧倒的な力を見せてきました!!』

 

 ま、だから惜しみなくボーマンダをメガシンカさせられたってわけだな。

 あーあ、図らずも俺がユキノに手札を増やしてしまったようだ………。なんか、ごめんな。

 

「………チルタリス、戻りなさい………」

 

 うわー、すげぇ意気消沈している。

 反撃の兆しが見えてきたところで、一気にその芽を潰され、思考が上手くできないのだろう。

 

「一回戦、あなたがイロハに味わわせたものよ。しっかり噛みしめてもらえたかしら?」

 

 なんかこの流れ、つい最近見たことあるような気がするなー、と思ってたらやっぱりイロハの時か。立場は逆転してるけど。

 どんだけイロハのこと好きなんだよ。

 

「クリムガン!」

 

 残しておいた最後の一枚、クリムガンを出してきた。

 

「かたきうち!」

 

 先に動いたのはクリムガン。

 メガシンカしたことでユキノオーは身体がデカくなった分、動きが鈍くなったのかもしれない。

 

「ふぶき!」

 

 未だ降り続いているあられ。

 その中で放たれたふぶきはユキノオーに突撃していくクリムガンをみるみるうちに凍りつかせた。

 

「…………クリムガン、戦闘不能! よって勝者、三冠王ユキノ!」

『本日の一戦目、Aブロックを勝ち上がったのは三冠王、ユキノシタユキノだぁぁぁあああああああああっっ!!』

「………イロハ、あなたの仇は取ったわよ」

 

 うん、まあ、あれだ。

 イロハを掌で転がしていた四天王ドラセナよりも、ユキノシタユキノは曲者である。




今回使用・既に出したポケモン

ユキノシタユキノ 持ち物:キーストーン×2 etc………
・オーダイル(ワニノコ→アリゲイツ→オーダイル) ♂
 特性:げきりゅう
 覚えてる技:アクアテール、アクアジェット、ドラゴンクロー、れいとうパンチ、ハイドロポンプ、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、げきりん、カウンター、ハイドロカノン、ドラゴンテール、めざめるパワー(電)、ゆきなだれ

・ユキメノコ ♀
 覚えてる技:れいとうビーム、みずのはどう、10まんボルト、シャドーボール、めざましビンタ、ふぶき、かげぶんしん

・ボーマンダ(タツベイ→コモルー→ボーマンダ) ♂
 持ち物:ボーマンダナイト
 特性:いかく←→スカイスキン
 覚えてる技:りゅうのいかり、そらをとぶ、ドラゴンダイブ、ハイドロポンプ、つばめがえし、だいもんじ、かみなりのキバ、いわなだれ、ドラゴンテール、ハイパーボイス、げきりん、ギガインパクト、りゅうせいぐん、ねむる、ねごと、はがねのつばさ、かげぶんしん

・ユキノオー ♂
 持ち物:ユキノオナイト
 特性:ゆきふらし←→ゆきふらし
 覚えてる技:ふぶき、ぜったいれいど


ドラセナ 持ち物:キーストーン
・チルタリス ♀
 持ち物:チルタリスナイト
 特性:???←→フェアリースキン
 覚えてる技:りゅうのはどう、はかいこうせん、うたう、だいもんじ

・ドラミドロ ♀
 特性:どくのトゲ
 覚えてる技:10まんボルト、りゅうのはどう、かみなり、ほごしょく、どくどく

・ヌメルゴン ♀
 特性:うるおいボディ
 覚えてる技:パワーウィップ、アクアテール、りゅうのはどう、げきりん、あまごい

・ガチゴラス ♀
 特性:がんじょうアゴ
 覚えてる技:かみくだく、もろはのずつき、ドラゴンクロー、りゅうせいぐん、こおりのキバ、りゅうのまい

・クリムガン ♀
 特性:さめはだ
 覚えてる技:かたきうち、ドラゴンテール、リベンジ

・オンバーン ♀
 覚えてる技:エアスラッシュ、いかりのまえば、ばくおんぱ、りゅうのはどう、ぼうふう、こうそくいどう


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26話

お待たせしました。
この一ヶ月、突然の東京転勤の準備や移動で忙しくほぼ書ける状態ではなく、投稿が遅れてしまいました。
ようやく落ち着きが出てきたところなので、またぼちぼちと最終回へ向けて書いていきますので、宜しくお願いします。


『本日二戦目は、この二人! 四天王の妹、コマチ選手&四天王、ガンピ選手!!』

 

 おいこら、いつの間にそんな紹介になってんだよ。

 

「出てきたっす。ヒキガヤさん、がんばれー!」

 

 なにこの見え見えな感じ。

 コマチはやらんぞ。

 

「ヒキガヤ、今回はどう見る?」

「………厳しいでしょうね。相手ははがねタイプの専門。ほのお、かくとう、じめんタイプが挙っていないコマチでは攻略は難しいかと」

「おや、いつもの妹贔屓はどこへ行ったのだ?」

「贔屓目で見てのことですよ」

「それはさぞ厳しいな」

 

 鉄甲冑男はハッサムをメガシンカさせてくる。それ以外にも固い奴らばかりを揃えており、焼くか殴るか泥まみれにするかしないと堕とすことは不可能に近い。一回戦ははがねタイプに割と有利なでんきタイプを専門とするマチスが相手だったが、最後の一体が明かされることなく倒されている。

 

「両者、準備はっ?」

「いつでもいいですよー」

「うむ、こちらも万全である」

「それでは、バトル開始!」

 

 さて、コマチは四天王をどう攻略するのやら。

 手持ちを確認しておくと、相手はハッサム、クレッフィ、ダイノーズ、ナットレイ、シュバルゴとあと一体。対してコマチは、カマクラ(ニャオニクス)、カメックス、カビゴン、プテラ、オノンドとクチート。大型のポケモンが多いが、鋼を突くのには適していない。

 

「クレッフィ、行くのである!」

「カーくん、いくよ!」

 

 まずはクレッフィとカマクラか。

 

「まきびしである!」

「カーくん、じゅうりょく!」

 

 早いっ!

 やはり、特性のいたずらごころは厄介だな。

 これでコマチのポケモンは出てくる度にダメージを積み重ねていくぞ。

 

「………コマチちゃん、どうするつもりなのかな………」

 

 じゅうりょくを使ってまきびしをばら撒き終えたクレッフィを地面に叩きつけ、動けなくしたが、ユイの言う通りこれからどう展開させていくのか。自分も地面に引き寄せられるというのに。

 

「あなをほる!」

 

 おお、覚えていたのか。あなをほるは地面技。はがねタイプのクレッフィには効果抜群。当たればの話だが、そのためにじゅうりょくで身動きを取れなくしたのだろう。

 

「きんぞくおんである!」

 

 身動きが取れなくても出せる技を選択したか。

 このキーキー金属がこすれるような嫌な音。地中にいるカマクラでも近づきたくはないだろう。

 

「クフィッ!?」

 

 とか思っていたらクレッフィの間下の地面が割れ、ニャオニクスが出てきた。軽い身体は天へと飛ばされていく。

 あ、耳を折ってなるべく聞こえないようにしてたのね。

 そういやそういう奴だったな。

 

「リフレクター!」

 

 おい、だから何でリフレクターで攻撃できるんだよ。

 いつも思うが、おかしいだろ。

 

「ねえ、おじいちゃん。あれ、あなをほるよりダメージ入ってない?」

「うーむ、血筋じゃのう」

「や、俺やったことないから」

 

 何でもかんでも俺のせいにするのやめてくれる?

 俺ですら、コマチの戦法は真似できないからね?

 

『リ、リフレクターでクレッフィを突き飛ばしました!! ニャオニクス!! 一回戦ではハリテヤマ相手に何十枚ものリフレクターを張って攻撃を流していましたが、ここでまさかの攻撃手段として用いてきました!! プラターヌ博士、こんなことってあり得るのでしょうか?』

『うーん、一概には言えないけど、リフレクターも壁ですからね。相手が軽ければ、壁を押し付けて攻撃するのもありなんじゃないですか? そもそもこんな戦い方、彼女しか見たことがないですから、何とも言えませんね』

『あ、ありがとうございます! さすが四天王の妹! いや、それを抜きにしても半年前までトレーナーですらなかったとは想像できません!!』

 

 かわいそうに、ただのリフレクターに突き飛ばされて隔壁にめり込んでるぞ…………。

 

「クレッフィ、ラスターカノン!」

「カーくん、あなをほる!」

 

 フィールドに戻ってきたクレッフィのラスターカノンを、カマクラは地面に潜ることで躱した。クレッフィは早速地面に引き寄せられ、身動きが取れなくなっている。

 

「クレッフィ、気を付けるのである。相手はどこからでもやってくるぞ!」

「やっちゃえ、カーくん!」

 

 コマチの合図でクレッフィの背後の地面にヒビが入った。

 恐らくあそこにいる。

 

「クレッフィ、左後方である。ラスターカノン!」

 

 ズドーン!

 盛り上がった地面に鋼の光線が突き刺さった。

 今度は寝返りを打つことで向きを変えて技が出せたようだ。だが、そこにカマクラはいなかった。

 

「リフレクター十枚張り!」

 

 コマチの命に従い、一発目の穴から音もなく出てきたカマクラは、半透明の壁を次々と作り出し、身動きの取れないクレッフィに向けて叩きつけた。衝撃で壁は破片に変わり、宙を舞う。だが、すぐに重力により地面に向けて直滑降で落ちていった。落ちた先には壁の下敷きになったクレッフィがいる。

 

「クレッフィ、マジカルシャイン!」

 

 ぐあっ!?

 ちょ、待て、この状態で光を使った技はダメだろ!

 目が、目がぁぁぁあああああああああっっ!!

 

「ぎゃぁ、まぶしーっ!」

「ハッチー!」

「お、おう………」

 

 ちょっと、ユイさん?

 急に抱き着かないでもらえます?

 心臓に悪いんですよ?

 

「キラキラっす! キラキラしてるっす!」

 

 それは何を見てのことだ?

 コマチを見てのことか?

 そりゃ、コマチはいつでもキラキラしてるぞ? だってコマチだし。

 

「ハチマン……」

「ヒキガヤくーん!」

 

 ちょ、こら、お前ら、唯一空いた左腕と背中に抱き着くな!

 母娘で何してんだよ!

 

「つーか、俺の目を誰か助けて…………」

 

 結局、俺の目は隠すことができず、右腕と背中にすごく柔らかい感触だけが伝わってくる。

 

「あはは~、はーちゃんモテモテー。けーかもまざるー!」

「ちょ、けーちゃん!?」

 

 ついにはけーちゃんまでもが俺の膝の上を陣取るという何このシュールな状況。

 マジで誰か俺の目を助けて。チカチカして痛い………。

 

「カーくん、やっちゃって!」

「ニャオッ!」

 

 何が起きているのやら。

 目が痛すぎて何も分かんねぇんだけど。誰か教えて。

 おい、解説。仕事しろ!

 

「……………ク、クレッフィ…………戦闘、不能!」

 

 あーあ、審判も大変だな。

 あんな間近で光を浴びせられて。

 よく、判断を下したと思うわ。

 

『ひ、光で私状況が掴めませんでしたが!! クレッフィが戦闘不能になったようです! まずはコマチ選手が一勝!!』

『プラターヌ博士、リフレクターってああいう使い方でしたっけ………?』

『いや、普通は攻撃を受け止めたりするのに使いますけど…………、いつ見ても常識から外れてるよ……………』

 

 いいじゃないか。

 常識にとらわれない、自由なバトルで。ルール違反じゃないんだし。

 

『そういえば、いつの間にユキノオーを仲間にしていたんだい? しかも一撃必殺まで決められるなんて、ちょっとやそっとの間じゃ無理だと思うんだけど』

『すごく唐突ですね…………』

 

新しコマチのバトルと全然関係ねぇじゃん。

や、気になるとこだけどよ。

 

『君がバトルしている間ずっと疑問に思ってたことがたくさんあるからね。聞きたいことが山ほどあるんだよ』

『………あのユキノオーはフロストケイブの奥にいたユキノオーですよ。長年、あそこで暮らしてたみたいですが、外に出てみたいということで連れてきました』

『フロストケイブの奥に住むユキノオー………ああ、あのユキノオーか! マンムーロードのマンムーさんとは友達じゃないか。よかったのかい?』

『マンムーには挨拶もしてきましたよ。いろいろありましたけど』

『そのいろいろっていうのがすごく気になるわね…………』

 

 それな。ほんとそれ。

 何したんだよ。

 

『………それにしても、三冠王があんな反則まがいのことしてよかったのかい? 三冠王らしく正々堂々戦えーって批難を浴びるんじゃない? 何ならネットにすでに書き込まれるかもしれないよ?』

『今回は特別ですよ。私も普段はあんな手は使いません。ただ、私の後輩が心を折られそうになったのでそのお返しをしなくてはと。それにあれくらいしなければ勝てない相手がそのうち出てきますからね。一発本番はさすがにリスクが大きかったんですよ』

 

 ねえちょっと、どんだけイロハのこと好きなんだよ。

 本人いないから言えるんだろうけど、いたらあいつ後で絶対ネタにするぞ。

 

『これから出てくる選手はねむねごコンボを使ってきそうね』

 

 何その通の表現。

 一般人には何言ってるか分かんねぇと思うぞ。

 

『それはそれで楽しみです。ルールの隙を突いたカラクリをどこまで操れるのか、トレーナーがどこまで運を引き寄せられるのか、力量を見られるじゃないですか。やりたい人はやればいいと思います。何が起こるのか体験するのも大事なことですよ』

『…………はあ、似た者夫婦とはよく言ったものだよ』

『でも確かにねむねごコンボは賭けの方が大きいわ。覚えている技の数だけ何を出すのか分からないもの。強く育てたポケモンほど、扱いが難しいわ。逆に生まれたてのポケモンに覚えさせても、今度はバトルの経験がないからバトルにならない、ほんとトレーナー泣かせの技よね』

 

 そりゃそうだ。

 選択肢も少なく、威力も低い技しかなければ攻撃にならないし、かといって選択肢が多すぎるのも扱いが難しい。無駄に上級者向けの技であるため、あんな特殊なルールが付随されていても問題はないのだろう、

 

「ねむねごコンボってなーに?」

「ボーマンダが使ってた、ねむるからのねごとを放つことだ。こんな表現、上級者一部のトレーナーしか言わねぇけどな。ガチすぎる………」

「ハチマンも同類……………」

「「確かに………」」

「おい………」

 

 おいそこの師弟コンビ。頷くんじゃないよ。

 

「ネットでも賛否両論分かれているようであるな」

「早ぇな。どんな書き込みされてんだ?」

「博士の言うように『正々堂々戦え!』だとか、それに反論するかのように、『あんな扱いずらい技を使いこなす三冠王の実力が垣間見れた!』だとか、真っ二つって感じだぞ」

 ネットの拡散は恐ろしいほど早い。

 これで三冠王の見方も変わってしまうのかね。

 

「なんか、すごいことになってるね………」

「昔よりも質が悪くなっておるのう………」

 

 まあ、昔からそういう風潮はどこにでもあったんだろうな。ただ、今はネットという世界を繋ぐものがある分、匿名で書き込むこともできるため、一層質が悪くなっている。

 

「お、こんなのもあるぞ。『ぜったいれいども使えたんだ………。まさに氷の女王だなw』『氷の女王………、女王様万歳!』『三冠王、いや氷の女王様! ワイを踏んで!』『鞭とか似合いそうwww』………これは本人に見せない方がいいな」

「………見せたお前が代表して踏まれるだろうな。あと鞭打ちも」

「見なかったことにしておこう………」

 

 誰だよ、こんな変態的書き込みをした奴。

 否定はしないが、見つかったらお前ら凍死するぞ?

 なんせ、相手は氷の女王様なんだし………。

 

「ふっ、いい目だ。しっかり育てられている。ではこちらも参ろう。シュバルゴ!」

 

 二体目はシュバルゴか。

 ハッサムと同じむし・はがねタイプ。とにかく堅い。カマクラでは火力が足りないかもしれないな。

 

「カーくん、リフレクター!」

「シュバルゴ、だましうち!」

 

 攻撃力の高いシュバルゴを見越して、まずはリフレクターを張ったようだが、上手く回り込まれ、背後から殴りつけられてしまった。効果は抜群。カマクラにとっては致命傷に近い。

 

「畳みかけるのである! とどめばり!」

 

 吹き飛ばされた軽い身体に追い打ちをかけるように、シュバルゴが両腕のドリルを突き出し飛び込んできた。

 

「カーくん、戻って!」

 

 攻撃するでも躱すでもなく、トレーナーによる交代でピンチを切り抜いた。

 別に交代がダメなんてルールじゃないしな。逆に推奨してるまである。コマチも一回戦から交代してたし、それも戦略の一つだと言っていい。文句は言わせん。

 

「なるほど、交代か。いい判断である」

「いくよ、クーちゃん!」

 

 交代で出したのはクチートか。

 

「クチートか。確かものまねとか覚えていたが………。ヒキガヤと同じ血が流れてるしな……………」

「先輩、返し技もありましたよ」

「ああ、それに兄譲りの奔放な戦いっぷりだからな。今度は何をしてくれるのやら」

 

 威嚇を放っているが、同時にまきびしによるダメージが刺さる。

 

「クーちゃん、ほのおのキバ!」

 

 クチートは頭の大きな牙に炎を纏い、シュバルゴに向けて駆け出した。

 むし・はがねタイプのシュバルゴに唯一弱点を突ける炎技。

 カビゴンやプテラも炎技を覚えていたはずだが、出してこないということは、あの二体を今回のキーマンにしているのかもしれない。

 俺がコマチのポケモンで戦うとすれば、そうしている。後はそいつらをどう活かせるかだが。

 

「だましうち!」

 

 シュバルゴも動き出した。炎の牙に対して突っ込んでいく。

 炎の牙が当たる直前、シュバルゴの身体が大きく揺れ、消えた。

 直後、クチートは背後から殴りつけら、地面に叩きつけられた。

 

「そのままドリルライナーである!」

 

 シュバルゴは両腕のドリルを回転させ、かつ自分も高速回転して、斜め上方から一気に駆け下りていく。

 

「後ろからくるよ! メタルバースト!」

 

 やはり出してきたか、返し技。振り向き様に頭の牙で

 効果抜群の技に対してクチートが持ちこたえられるかどうか、それで勝敗は決まると言っていい。

 

「っ!? シュバルゴ、回転をもっと速めるのである!」

 

 へぇ、切り返して躱したりはしないんだ。あくまでも正面突破。

 確かに成功すれば、これ以上のない隙を突ける。だが、返し技に飛び込むということは通常の技を受けるよりもリスクは高くなる。四天王であればそれくらい瞬時に理解できていそうなものだが。余程防御力に自信があると見える。

 

『な、なんという競り合いっっ!! 両者一歩も引きません! 押し切るのか、押し返すのか! 勝つのはどっちだぁぁぁあああああああああっっ!!』

 

 恐らくどちらともであり、どちらでもない。

 押し切り、押し返すだろう。

 

「チーット?!」

「シュバッ!?」

 

 ほら、どちらとも吹き飛んでいった。

 効果抜群とその増しのダメージ。

 

「クーちゃん!?」

「シュバルゴ!」

 

 いくら防御力が高いシュバルゴといえど、返し技には押し返され、隔壁に突き刺さった。対してクチートは地面を滑り、コマチの前で止まった。

 

「クーちゃん、走って!」

「シュバルゴ、まだいけるであるか!」

「シュバ!」

「うむ、もう一度ドリルライナー!」

「いちゃもん!」

 

 そう来たか。

 効率良くダメージを与えられるドリルライナーを使ってくるとみて、敢えて隙があるのにも拘らず攻撃を仕掛けなかった。いちゃもんは同じ技を連続で出せなくする技。いちゃもんを付けられたシュバルゴは技を発動させることが出来なかった。

 

「クーちゃん、ほのおのキバ!」

 

 その隙にシュバルゴへとさらに詰め寄るクチート。

 

「だましうちで躱すのである!」

 

 頭の牙に炎を纏い、噛み付いた瞬間、シュバルゴが消え、背後に現れた。そして体当たりで地面へと叩き落とす。

 

「まだだよ、クーちゃん!」

 

 だが、クチートは身を捻り、頭の牙をシュバルゴの左腕のドリルに引っ掛け、遠心力で逆にシュバルゴを地面へと追いやった。

 

「クーちゃん、あまごい!」

 

 反動で上へと昇っていく間に、クチートは雨雲を呼び、雨を降らせ始めた。一体コマチは何をしようとしているのだ? 雨を降らせてはほのおのキバの威力が下がるだけだぞ? それともまた交代でもしようとしているのか? 交代に制限がないとはいえ、そう何度も入れ替えていては、コマチもポケモンたちもペースが乱れる可能性だってあるんだぞ?

 

「何をしようとしているのかは分からぬが………。シュバルゴ、とどめである! ドリルライナー!」

「雨………?」

「コマチちゃん、何かしようとしてる………?」

 

 再度一緒に旅をしていたユイでもコマチの手は読めないらしい。

 

「メタルバースト!」

 

 クチートはシュバルゴの両腕のドリルを頭の牙で受け止め、鋼色のエネルギーを溜め込んでいく。

 

「………なるほど、コマチは次、カメックスを出すつもりだね」

「………どういうことだ、カワサキ」

「さっきと同じ展開になった。恐らく結果も同じだと思う。でもクチートもダメージを受けて残り体力は少ない。返せたとしても相打ちがいいところだと思う」

 

 ほーん、要するにコマチは相打ち覚悟で反撃に出て、次に繋がるために先に雨雲を呼んだのか。つまり、あいつはポケモンたちの状態をちゃんと把握できているということ。

 できた上での決死の覚悟。

 

「クーちゃん!」

「シュバルゴ!」

 

 両者壁に激突。

 こりゃ、相打ちだな。

 

「両者、戦闘不能!」

『結果は引き分けだぁぁぁあああああああああっっ!! クチート、シュバルゴ、両者ともに相打ちで終わりました! 四天王、このまま一ポイントも奪えず終わってしまうのかっ!?』

 

 これでコマチが一歩リードしたまま、四天王側は三体目のポケモンに入る。

 だが、油断はできない。相手の専門ははがねタイプ。シュバルゴを倒したからと言って、まだ壁は何枚も残っている。

 

「ぬぅ、さすがはあの少年の妹気味である」

 

 シュバルゴをボールに戻しながら、鉄甲冑男が唸った。

 

「いえいえ、コマチはまだまだですよー」

 

 それに対してコマチは軽い口調で謙遜しやがった。全く謙遜を感じられなかったのは俺だけだろうか。

 

「次へ参ろうか。ナットレイ!」

「いくよ、カメくん!」

 

 だが、鉄甲冑男は特に気にする素振りもなく、バトル再開を促した。

 四天王の三体目はナットレイ。くさ・はがねタイプ。草壁である。故にカメックスとは相性が悪い。

 

「ガ、ガメスッ!?」

 

 そういやまきびし撒いてたっけな。

 地味にダメージを入れやがって。

 

「カメくん、はどうだん!」

「ナットレイ、パワーウィップ!」

 

 カメックスが先手ではどうだんを放ったがナットレイのトゲの塊が付いた触手で薙ぎ払われた。弾き返されたエネルギー弾はそのままカメックスに向けて飛んでくる。

 

「カメくん、はどうだんにれいとうビーム!」

 

 だが、それを一瞬で凍り付かせ、地面に叩き落とした。

 

「返したときの対処もできておるか。ならば、これはどうであるかな。ナットレイ、ジャイロボォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオール!!」

 

 四天王の叫びとともにナットレイが高速で回転し始めた。

 触手から伸びた鉄のトゲが遠心力でカメックスの方にまで伸びていく。

 

「これじゃ弾き返されちゃう…………」

 

 結局、雨を降らせたのはどういう意図があったのだろうか。未だ雨を活用するそぶりを見せてこない。まさかとは思うが、ナットレイをつり出す餌だったとか?

 んなわけないか。

 

「カメくん、一発入れるよ! ハイドロカノン!」

 

 ここで究極技かよ。いや、まあ、ジャイロとか関係なくナットレイを隔壁に叩きつけたけどよ。雨の効果でみずタイプの技が威力を増しているからといって、相手はくさタイプだぞ?

 

「ナットレイ、無事であるか?!」

「ナブっ!」

 

 さすがナットレイ。

 防御力がくそ高すぎるだろ。ピンピンしてるぞ。

 

「うむ、もう一度ジャイロボールからのパワーウィップである!」

 

 フィールドに戻ってきたナットレイは再度高速で回転し始め、触手を大きく広げた。

 

「カメくん、連続ではどうだん!」

 

 おい、さっき弾かれちゃうとか言ってなかったか?

 なのに、なんでまたやっちゃってんのよ………。

 

「すごい………、全部弾き返してる………」

「そりゃそうだろ。ジャイロ回転に加えて、その遠心力も活かして外れた球ですら触手の先で打ち返してるんだ。背後から狙うこともできないどころか、連続で出してカメックスが対処できるのかって、そっちが心配だわ」

 

 究極技ですらピンピンしていたんだ。あれ以上の技を使おうとすれば、コマチの場合メガシンカかZ技を使う必要がある。

 確かにここでカメックスをメガシンカさせてしまってもいいかもしれない。幸いまだ雨は降っている。究極技の一つや二つ撃っちまえばどうとでもなるだろう。

 

「カメくん、れいとうビームで全部落として!」

 

 でもコマチはそうはしない。

 無駄とわかっていてもはどうだんを使ったのにはしっかりと理由があるはずだ。

 でなければ、無駄撃ちなんかするような奴じゃないからな。お兄ちゃん、そんな風に育てた覚えないし。

 

「………まったく、先の読めん妹君であるな」

「お兄ちゃんのバトルを見てきましたからねー。あそこまではできませんけど」

 

 カメックスが弾き返されたはどうだんを全て凍り付かせて地面に落としたことで、無数の氷の塊ができている。以前もこんな展開があったような気がするな………。その時のやり口は波導を操るはどうだんの特徴を生かして、氷の塊を武器として使っていた。今回もそれが狙いなのだろうか。

 

「いくよ、カメくん! りゅうひょうぐん!」

 

 はい?

 りゅうひょうぐん?

 聞いたことない技だな。

 りゅうせいぐんの間違い、ってわけでもないだろうし。そもそもカメックスはりゅうせいぐんを覚えられないんだし………りゅうひょうぐん……………ねぇ。

 

「あ、あれっ! フィールドの氷の塊が一か所に集まってくよ!」

「………りゅうひょうぐん、星じゃなくて氷の群れが降ってくるんだね」

「あ、そゆこと」

 

 なるほど、流氷群ね………。

 ただの流星群の真似事かよ。

 

「ぬぅ、まだ波導を流していたのか。ナットレイ、ジャイロボールで弾くのである!」

 

 りゅうせいぐんの如く弾けた氷の塊が次々と降り注いでくる。それをナットレイはジャイロ回転で弾いていくが、弾かれた氷塊は元がはどうだんであるため、軌道を修正し、何度もナットレイに襲い掛かっていった。

 

「これでまた一歩リードできそうだね」

「そう………だな………………」

 

 トツカの言う通り、このままいけばいずれはどうだんが直撃し、大ダメージを与えることができるだろう。

 だが、なんだこの違和感は。

 いつもならコマチのこの独創的な発想に期待感が出てくるのだが、今回ばかりはどこか違和感を感じでしょうがない。違和感というか、危機感? といった方が正しいか?

 ………別に雨が上がったからそう感じてるってわけじゃないよな?

 

「ハイドロカノン!」

 

 本日二度目の究極技。

 ジャイロ回転も回転不足になったところ上手く突き、再度ナットレイを壁に打ち付けた。そして追い打ちの方に残りの氷塊が襲い掛かった。

 

「ナットレイ! まだいけるであるな!」

「ナトッ!」

 

 ………これでもダメなのかよ。どんだけ堅いんだ……………。

 

「ギガドレイン!」

 

 ッ!?

 これかっ! 危機感の正体は!

 くさタイプは弱点タイプが五つと多い一方、はがねタイプは耐性が十一もあり、ナットレイの弱点はほのおとかくとうのみである。加えてはがねタイプに多く見られる耐久力も持ち合わせており、持久戦を得意とする。そんな奴がギガドレインという攻撃しながら回復する技を覚えるんだから、手の付けようがない。

 しかも今ナットレイを相手しているのはカメックスだ。効果抜群でごっそり体力を奪われたことだろう。

 

「カメくん?!」

 

 今の一撃で片膝をついたか。

 だが、逆に発動したようだな。カメックスが青いオーラに包まれている。

 

『おおっと、カメックス!ついに片膝をついてしまったぁぁぁあああああああああっっ!!攻めているように見えていましたが、ギガドレインでカメックスのダメージが一気に蓄積されましたっ!!』

「もう一度、ギガドレイン!」

「カメくん、ハイドロカノン!」

 

 再三に渡る究極技。

 こんなに連発していてはカメックスの負担もかなりのものだろう。消耗が激しく、立て続けに動くことなんて普通はさせないものだ。それをさせているのだからカメックスが片膝をついてもおかしくないし、一瞬技を出すのが遅れるのも道理と言えよう。

 水の究極技はナットレイを振り飛ばすも、とうとう地面に倒れ伏したのはカメックスの方だった。

 

「カメくん?!」

 

 コマチの二度目の叫び。

 

「ガ、ガメス………!」

 

 それに応えるかのようにカメックスは声を荒げるも、完全にガス欠状態になった。

 

「カメックス、戦闘不能!」

『ここでカメックス、戦闘不能!! コマチ選手、非常に堅いナットレイの攻略はできるのかっ!』

 

 ほんとそれな。

 堅い上にギガドレイン覚えてるとかないわー。

 

「ナトッ?!」

「ナ、ナットレイ!?」

 

 と、急に何かが落ちて来て、ナットレイを貫いた。

 あれは…………。

 

「ナットレイ、戦闘不能!」

『ななななんとっ! 何かがナットレイを貫いたぁぁぁああああああっっ!? そして一瞬で戦闘不能にしてしまいました!! 一体何が起きたというのでしょうか?!』

「はどうだん、だと………?!」

 

 貫いたのははどうだん。

 カメックスなりの置き土産だったらしい。

 一体どこに隠してたんだか。最後に足掻いたのはこのためだったみたいだな。

 

「カメくん………、ありがとう」

『はどうだんですね。カメックスが流氷群で攻めている時に新たにはどうだんを何発か撃ち出していました。その一発を残しておいて最後の力で落とした、というところでしょう』

『………やるわね、あの子』

『要領がいいのは確かですね。そして兄譲りの独創的な技の出し方と、兄以上にこれまで見てきた技の模倣を得意とする子でもあります』

 

 模倣もいいところだと思うがな。完全に自分のものに進化させてしまうんだから、俺以上だぞ?

 かわいい顔してえげつないったらありゃしない。

 

「油断してたのである。まさかこのような突き方をして来ようとは、誰も想像できなかったであろうな。かく言う我輩が気づかなかったのだ。称賛に値する」

 

 あらら、四天王に称賛されちまった。

 というか、これで四天王のポケモンは残り三体。

 少し勝算が見えてきたが、まだまだ油断はできないな。なんせ、イロハがそれで痛い目にあってるんだ。コマチもそこは分かっているだろう。

 

「ありがとうございますっ! でも、コマチがここまで強くなれたのは最高の環境があったからですっ! 元チャンピオンが三人もいたり、普通じゃまず体験できないようなことも経験できましたから! そして何よりコマチの仲間になってくれたみんながいてくれたからですっ!」

「うむ、いい答えである! その気持ち、忘れてはならんぞ」

「かしこまち!」

 

 なんだよ、かしこまち! って。

 新しく流行らそうとかしてんの?

 やっはろーで充分でしょ。

 

「次は貴公である! ダイノーズ!」

「いくよ、キーくん!」

 

 コマチはオノンド、相手はダイノーズか。

 さて、後半はどうなるやら。

 

「オノッ?!」

 

 まきびし………。

 もうほんとあのちょっとしたダメージが痛すぎるだろ。

 

「キーくん、りゅうのいかり!」

「ダイノーズ、マグネットボォォォオオオオオオム!」

 

 うわ、一発目から地響きさせんなよ。

 この建物、大丈夫だよな?

 パパのんが金かけてくれたし、うん、何かあったらパパのんに対処してもらおう。

 

「りゅうのいかりが呑まれた………」

「マグネットボムであんな威力が出るなんて………」

 

 や、うん、まあ、そうだけどさ。

 それよりもオノンドがすでに走り出してることを気にしようよ。

 

「ダイノーズ、オノンドを止めるのである! でんじは!」

「キーくん、ちょうはつ!」

 

 ダイノーズはオノンドの動きを止めるために電磁波を飛ばそうとするも、挑発され、それに乗ってしまい技が出せなかった。走りながら見せたちょっとした動き。それだけでダイノーズの動きを縛ってしまった。

 

「けたぐり!」

 

 正直オノンドはまだ強いとは言えない。

 タマゴから孵り半年経ってようやくオノンドに進化した。つまるところ、それは成長にまだまだ先があるということ。

 だが、進化過程でまだ身体が小さいうちにできることだってある。

 けたぐりがその一つ。小さい身体を滑り込ませて、相手の足下を薙ぎ払い、転けさせる技だ。ダイノーズなど図体のデカい奴には良く効く特殊な技であり、今のオノンドにとって、ダイノーズを倒す切り札となし得る可能性もある。

 

『急所に入ったぁぁぁああああああっっ!! 効果は抜群だぁぁぁぁぁぁああああああっっ!!』

「キーくん、りゅうのいかり!」

「チビノーズたちよ、ほうでん!」

 

 うわ、セコい。

 ダイノーズだから仕方ないとしてもチビノーズたちも使ってくるなよ。実質相手が四体いるようなもんじゃねぇか。

 

「チビノーズたちは中二さんに教え込まれましたよっ! キーくん、あなをほる!」

 

 間一髪。

 オノンドは穴を掘って、電撃を回避した。カマクラがあなをほるを覚えたのもこの伏線なのかもしない。………考えすぎか。

 

「ダイノーズ、マグネットボォォォオオオオオオム!!」

「オノッ?!」

 

 激しく地面に衝撃を与えることで、地中にいるオノンドを強引に引きずり出したのか………!流石は四天王。発想が広い。

 

「チビノーズたちよ、ほうでんである!」

 

 うわっ、ここで数を活かしてきやがった。これじゃオノンドも躱せるはずがない。

 これはアレだな。ユキノのせいだな。あいつがルールの隙を突いてきたから、四天王の方も容赦なくルールの隙を突いてきた。案外俺が一番ルールに則ってたりして………。

 

「キーくん?!」

 

 追加で麻痺してしまったか。これではコマチの策も躱せる意味を成さないだろう。

 

「回避まではよかったが、我がダイノーズの爆発力を侮ってもらって困るぞ」

「…………強い」

 

 伊達に四天王だなんて呼ばれてねぇよ。

 

「キーくん、りゅうのいかり!」

 

 オノンドは衝撃波を飛ばそうとするも身体が痺れて、照準がブレた。その隙を四天王が逃すはずもなく。

 

「ダイノーズ、マジカルシャイン!」

 

 いやほんと、伊達に四天王だなんて呼ばれてねぇな。

 マジか………、あのダイノーズ、マジカルシャイン覚えていたのかよ。りゅうのいかりも四方に広がる光に覆われて霧散しちまったし。

 やべぇ、これは流石にコマチもオノンドも無理だわ。ザイモクザとはまた違った怖さがあるぞ。意外性出し過ぎ………。

 

「キーくん?!」

 

 あー、ほら。

 オノンドが吹き飛ばされていったぞ。

 コマチもすげぇ焦ってるし。

 

「オノンド、戦闘不能!」

 

 ま、こうなる気はしていた。

 オノンドでははがねタイプの硬さを貫くほどの力がまだない。最終進化形のオノノクスならば、また違った結果になっていただろうが、それは仮定の話。現実はオノンドが負けた、それだけである。

 

「キーくん、お疲れさま」

『これでとうとう両者残り三体になりましたっ! ダメージ量を見ても互角といっていいでしょう!』

『ガンピも相当驚いているようね。あの子の技の使い方に。私もあんな使い方方はしたことがないわ』

『技の使用限度の中で新たな技を作り出す。中々できないことですよ』

 

 普通はそうなんだろうな。

 けど、俺も含めて割と俺の周りって技を組み合わせて新しい技を作り上げるからなー。あんまりできないっていう感覚がない。

 

「ねぇ、ヒッキー。あたしもやった方がいいのかなー?」

「………はっ? お前、自覚………ないのか………。アホの子だもんな」

「誰がアホだし! アホって言った方がアホなんだから! ヒッキーのアホー!」

 

 おい………。

 

「ユイガハマ………」

「ユイちゃん………」

 

 先生方もすげぇ呆れ顔だぞ。

 

「やっぱ、アホの子はアホの子だな」

「ユイさんだし………仕方ないよ」

 

 どうやらコルニも諦めモードのようだ。

 おい、歳下にまで諦められてるぞ。

 

「カーくん、もう一度お願い!」

 

 次はカマクラを再度出してくるのか。

 だが、あいつは初戦でダメージをかなり受けている。長くはもたないだろうし技もすでに三つ使ってしまっている。あと一つ何を使うかで勝敗が決まると言ってもいい。但し、技を使う暇があれば話であるが。

 そこら辺、四天王も計算に入れてくるはずだ。速攻で仕掛けてくるか、敢えて技を使わせるか。俺だったらさっさと倒してしまうだろう。正直フルバトルなんて体力・精神力ともにすり減らされる代物だし。しかもポケモンリーグともなれば、バトルの質も高い。現にこうして目の前で高度な駆け引きがされているわけだし、初出場のコマチには相当重くのしかかっていることだろう。

 

「ダイノーズ、マグネットボォォォオオオオオオム!!」

 

 好きだな、その技。

 どんだけお気に入りなんだよ。他とはまるで扱いが違う。叫びすぎだろ。

 

「リフレクター十枚張り!」

 

 リフレクターは受けの壁であり、守りの壁ではない。故に体力の少ないカマクラでは押し切られる可能性だってある。だが、それを枚数を重ねることでその確率を大きく減らしているのはコマチのトレーナーとしての技量と言っていい。

 

「カーくん、じゅうりょく!」

 

 今度はじゅうりょくか。特に飛んでいるわけでもないダイノーズであるが、自身が磁力を出しているため、若干浮いてたりする。だから意外と効果は有ったりすんだよな。

 

「ダイノーズ、ほうでんするのだ!」

「カーくん、リフレクターに乗って躱して!」

 

 おう、ついにリフレクターをサーフボードにしやがったぞ。

 荒れ散る電撃の隙間をスイスイと抜けていき、ダイノーズの背後に回った。

 

「鉄砂の壁、僧形の塔、灼鉄熒熒、湛然として終に音無し、縛道の七十五、五柱鉄貫!」

 

 ………はっ?

 今何つった?

 ゴチュウテッカン?

 ザイモクザ?

 

「ぬ、まさかアレを出してくるとは………。やはり四天王にはアレすらも使わざるを得ないようであるな」

「おいこらザイモクザ。人の妹に何吹き込んでんだよ。これあれだろ。縛道だろ?」

「であるが、主もなかなか隅に置けぬな。よく覚えておった」

「誰のせいだと思って。あんな意味のない前置きをするのはお前くらいだろうが」

 

 コマチもよくこんなのから技をもらったな。どうでもいい、何の意味もない前置きを言わされるんだぞ。恥ずかしくねぇのかよ。

 

「だが中々のものだと思わぬか?」

 

 や、だからなんだけど。

 なんだよ、あの完成度。ダイノーズ及びチビノーズの動きを完全に止めやがった。というかリフレクター四枚使って作り出した柱五本で大小四体の動きを封じるとか、どんだけ壁が好きなんだよ。

 

「………コマチの場合、アンタと違ってどんな技でも攻撃手段にしていくから。しかもまだまだ伸びしろはこれから。将来アンタやあたしらをはるかに超えたトレーナーになってるかもね」

「珍しいな。お前がそこまで褒めるなんて」

「そう? あたしも褒める時は褒めるよ」

 

 キャラじゃない。

 キャラじゃないぞ、カワなんとかさん。

 あ、コマチは年下だからとか?

 ブラコンでシスコンなサキサキならありえなくもない。

 

「………コマチはやらんぞ」

「どんだけ妹好きなのさ………」

「それ姉ちゃんが言えた立場じゃないって………」

 

 おーい、実の弟に呆れられてるぞー。

 

「カーくん、あなをほる!」

 

 これで決めるつもりなのだろう。

 結局、四つ目の技は出さなかったか。

 

「ダイノーズ、マグネットーーっ!?」

『ああっと! ダイノーズ、柱のように現れたリフレクターによって全く身動きが取れません! 万事休すか!』

 

 何気あの五柱鉄貫が上手く効いているな。

 ザイモクザもなんだかんだ言っていろんな技の形を持ってるトレーナーだからなー。あの変な前置きさえなければ強いんだけど。

 

「「「いっけぇぇぇええええええええええっっ!!」」」

 

 うおっ!?

 お前らも興奮しすぎだろ。

 一人はジムリーダーでしょ? ユイはともかくお前はバトル見慣れてるだろうが、コルニ。

 

「ダイノーズ!?」

 

 あの小さい体でよくあの重いのを打ち上げたな。

 コマチのポケモンの中じゃ、最終的に一番小さいポケモンになるっていうのに。クチートも似たような大きさだが、あの頭の牙のおかげで迫力がある分、カマクラが余計に小さく見える。なのに、あの力技に特殊な技の使い方。何気コマチのポケモンで一番厄介なのってカマクラなのかもしれない。

 

「ダイノーズ、戦闘不能!」

 

 よし、これで相手は残り二対。

 

「とうとうここまで来たか」

「ですね。やはり血は争えませんね」

「いや、関係ないでしょ」

 

 コンコンブル博士もヒラツカ先生も買いかぶりすぎ。

 というか、俺と血が繋がっていようがいまいが、トレーナーとして成長できるかは本人次第である。現にユイは俺の想像をはるかに超える成長を遂げていた。あまり干渉してこなかったというのもあるが、それはコマチに関しても同じである。俺が主に見ていたのはイロハなのだからな。

 それでも三人とも遜色なく長所を伸ばしてきた。実力的にも五分五分といったところだろう。………ユイにはまだ何かありそうだけど。

 

「戻るのである、ダイノーズ。大義であった」

『さあ、四天王のポケモンは残り二体! しかし、前回のバトルでは残り一体は出しておりません! まだまだ逆転の循環が残っています! 油断はできませんね!』

『そうね。ガンピのあと一体はとても強力なポケモンです。時にはメガシンカするハッサムよりも上をいくでしょう』

 

 付き合いのあるチャンピオンが言うとシャレにならんな。

 一体何を出してくるのやら。

 

「ハッサム、いくのである!」

 

 あれ………?

 ここでハッサムなのか?

 まさか、もう一体もメガシンカできて、今回はそっちをメガシンカさせるとか?

 四天王だし、それくらいやっておかしくはないが…………、どうもな………。

 

「バレットパンチ!」

「っ!? カーくん、リフレクター!」

 

 一発目から飛ばしてくるな………。先手必勝ってか。

 

「………まずいな、リフレクターが薄くなってる」

「えっ? どういうこと?」

「そのまんまの意味だ。カマクラの限界が近い」

「それって………」

 

 さすがにさっきの五柱鉄貫はカマクラの方にも負担があったか。

 ま、十枚張りでも割と負担があるだろうに、あんな使い方をすれば消耗も激しいだろう。

 コマチ、こういう時こそトレーナーの判断が重要になってくるぞ。

 

「………カーくん、ありがとう。最後ににほんばれ!」

「かわらわりである!」

 

 頭上から振り下ろされたハッサムの右腕により、とうとうリフレクターが壊れ、そのままカマクラは地面に叩きつけられた。

 だが、空は雲が晴れ、煌々と太陽の光が降り注ぎ始めた。

 

「ニャオニクス、戦闘不能!」

 

 クチートの時はあまごいだったが、今度はにほんばれ。今回コマチが念頭に置いていたのは後続への繋ぎ方なのかもしれない。

 その点で言えば、合格だ。

 次に出すカメックスに向けてあまごい、そしてプテラないしカビゴンに対してはにほんばれだ。両者ともほのおタイプの技は覚えていたはずだ。その技を強化するつもりで日差しをキツくしたのだろう。

 

「お疲れ、カーくん。無理させてごめんね」

 

 これで両者とも残り二体。メガシンカも残しているが、相手は一体がまだ不明。コマチの方は技選びでさらに慎重にならなければならない。予想を立てようにも恐らくはがねタイプということくらいしか分からない。

 

「………未だ厳しい状態は変わらないな」

「っすね………。ま、これも含めてのポケモンリーグというものでしょ」

「おや、あまり妹贔屓はしないのだな」

「現実を言ったまでです。最初はジムリーダー、次に彼らを倒した自分と同等の高レベルトレーナーあるいは四天王。そしてチャンピオン。それが今回のリーグ戦の立ちはだかる壁のイメージです。バッジを集めなかった者も予選から参加できるようにはなってますが、この場で戦うということは重々に緊張する。それを鍛える場でもあるのが、ジム戦、だからジム戦で鍛えておかなければ、実力を発揮することも難しいってものですよ」

 

 結局、ジムというものとポケモンリーグというものはこういう関係性を持っているのだ。あまり知られたことではないだろうがな。俺もあまり深く考えたことはなかった、こうして主催者側になることで改めて気づかされたってもんだ。

 全く、面白い完成だよ。

 

「いくよ、ゴンくん!」

 

 次はカビゴンか。珍しく起きてるじゃないか。何があったんだよ。つか、平気なのかよ。まきびしあっただろ。それとも何か? 鈍感だったりするのか? いや、あいつはめんえきのはずだ。うーん、まあカビゴンだしないとも言えないか。

 

「ゴンくん、ほのおのパンチ!」

「ゴン!』

 

 動きも軽いし………。あっという間にハッサムの正面にたどり着いたぞ。

 

「ハッサム、メガシンカである!」

 

 ………やっぱりメガシンカさせてきたか。

 おかげでカビゴンがメガシンカエネルギーに吹き飛ばされていった。

 

「つるぎのまい!」

 

 っ!?

 やべぇ、これ完全にハッサムで終わらせにきてる。

 ここからはハッサムのターンになりかねないぞ。

 

「ゴンくん、こっちも出し惜しみしてる暇はなさそうだよ! いくよ!」

 

 また、アレをやるのか………?

 やっぱ俺はZ技を使う気にはなれんな。さすがにこんな公衆の面前であんな恥ずかしい踊りやりたくない。

 視線が痛すぎるっつーの。

 あ、コマチの変なポーズでカビゴンの目が赤く光りだしたし。

 

「ほんきをだすこうげき!」

「てっぺきである!」

 

 適応早すぎませんかね。

 まだ一回しか見せてないはずなのに、もう対処を身につけてくるとか。

 しかもこれまでの動きにも無駄がない。

 いや、あんな鉄甲冑なんて着てるかどうかと思ったけど、かなりの実力者だったわ。

 

『カビゴンの本気の攻撃がハッサムに入ったぁぁぁあああああああああああああああっっ!!』

 

 猛進撃していったカビゴンは高々とジャンプし、鉄の壁を踏み壊した。しかもヒップドロップ。おかげでハッサムまで生き埋めになっている。かわいそうに、あんな巨体に踏み潰されて。

 

「かわらわりである!」

 

 鉄の壁を壊されながらも耐え切ったのか。

 あの巨体が再度宙に投げ出され、腹の部分が凹んでいた。恐らくハッサムが殴りつけた跡なのだろう。

 

「ゴンくん!?」

 

 危機感を募り、コマチは叫ぶが、まだ大丈夫だ、カビゴンは自分の足で着地した。相当のダメージを受けたようだが、まだ戦える。

 

「まだいけるんだね。だったら、眠って回復して!」

 

 おお、カビゴン得意の睡眠。

 すげぇ嬉しそうに寝始めたぞ。

 

「隙だらけであるぞ。ハッサム、かわらわり!」

「いえ、これもちゃんと盛り込み済みです! ねごと!」

 

 あー、これもカビゴンにぴったりの技だよな。というか寝ることすべてがカビゴンのイメージでしかないまである。

 

「出た、ほのおのパンチ!」

「うん、押し返したね!」

「これでコマチちゃんにも反撃のチャンスが!」

 

 ねぇ、君たちテンション高くない?

 ルミルミが冷たい眼差しで君たちのこと見てますよ。特にツルミ先生。何二人と一緒になって何はしゃいでんですか。娘がすごい嫌そうな顔してますよ。

 

「………三冠王が使われていたねむねごコンボとやら。即席で立ててきたのであるか」

「別に即席ってわけじゃないですよ。ただあまり使ってこなかったのは事実ですけど。ゴンくん、もう一度ねごと!」

 

 だよな。俺ほとんど見てねぇし。

 まあ、だからユイは聞いてきてコマチは聞いてこなかったんだな。うん、納得だわ。

 

「てっぺきである!」

 

 ねごとで出した技はストーンエッジ。

 上手くハッサムに防がれてしまった。

 

「では、次はこちらの番であるな。ハッサム、そのまま鉄の壁を飛ばすのである!」

 

 おい、マジか。

 あの人コマチのやり方を真似てきたぞ。

 さすがのコマチもお口あんぐりって状態だ。

 

『いやはや、これは驚いた。まさかニャオニクスの戦い方をすぐに応用してくるとは。さすが四天王ですね』

『さすがのコマチさんも対処できなかったですね。カビゴンが壁に叩きつけられて、跡が残ってますよ』

 

 あー、ほんとだ。

 修理大変そうだな。

 

「ゴンくん!?」

「続けてバレットパンチである!」

 

 容赦ねー。

 見るもん見たらさっさと倒すっていうのがひしひしと伝わってくるぞ。

 

「まだ起きない………ゴンくん、ねごと!」

 

 むくっと起きたカビゴンが地面を殴りつけた。

 何を出した………おいおい、マジか……………。

 

「………む、あれは……じわれ………っ!」

「え………?」

 

 まさかの一撃必殺。

 覚えていたことには驚きだが、コマチも固まってるし知らなかったのだろう。どうやらカビゴンが隠してた切り札っぽいな。

 けど、まあ………。

 

「届いてない………」

 

 実力の差なんて見ればわかるよな。

 ハッサムにカビゴンの一撃必殺は届かなかった。

 

「ゴンくん?!」

 

 結局はハッサムによりタコ殴りにされ、敢え無く戦闘不能。

 

「カビゴン、戦闘不能!」

『カビゴン、戦闘不能だぁぁぁあああああああああっっ!! ついについに!! 四天王が逆転しましたっ!!』

 

 だがまあ、カビゴンが残したダメージは大きい。いくらメガシンカしているといえども、最後のプテラ相手に圧倒できるとは思えない。いよいよコマチが最後のポケモンを引きずり出すのも近くなってきたな。

 

「ありがと、ゴンくん」

 

 コマチはカビゴンをボールに戻し、再度のボールに手をかけた。

 あと一体。あと一体でハッサムともう一体を倒さなくてはならない。日差しはまだキツいままだがすでに時間は経っている。雲がかかるのも時間の問題だろう。

 

「いくよ、プテくん!」

「………いよいよ最後だね」

「ああ、けどそう簡単には負けないだろ。何ならこのままプテラで押し切る可能性だってある」

「そうだね、最後まで諦めなかった者だけが勝利を手にするんだもんね」

「コマチちゃん、ファイヤー!」

「いや、そこはせめてファイトだろ。燃やしてどうする。それとも伝説のポケモンなのん?」

「ハチマン、うるさい」

「はい、さーせん」

 

 ユイのよく分からない応援に横槍入れたら、凍てつく視線に刺された。ルミルミ、将来ユキノみたいになりそう。

 

「それにしてもすごいプレッシャーだな。こちらまで一瞬動けなくなる」

 

 プレッシャーか。

 確かに自分がトリってこともあり、身を引き締めるためにも物凄いプレッシャーを放っているんだろうが、果たしてそれだけだろうか。

 

「プテラの特性にはプレッシャーというものがある。ま、お前さんたちならそれを知ってると思うがな」

「プレッシャーね」

 

 とやかく俺が調べることもなかったし、コマチに聞いてもいなかったが、プテラの特性はどうやらプレッシャーらしいな。

 

「メガシンカ!」

 

 プテラ登場からメガシンカをし、トゲトゲしい姿へと変わった。

 

「プテくん、ほのおのキバ!」

「ハッサム、てっぺきである!」

 

 素早い動きでハッサムに噛み付いたプテラだったが、牙が捉えたのは鉄の壁だった。

 しかし、壁は鉄。牙は炎。

 じわじわと壁が溶け始め、薄く脆くなっていく。

 

「ハッサム、バレットパンチ!」

 

 だが、鉄の壁を破壊したのはハッサム自身であった。

 高速で打ち出されたバレットパンチが鉄の壁ごと突き破り、プテラの顔面を殴りつけた。

 

「ゴッドバード!」

 

 それでコマチがすんなり通すわけでもなく、いつの間にか鳳をまとっていたプテラがハッサムを押し返し、隔壁へと叩きつけた。崩折れたハッサムのメガシンカは解除され、戦闘不能であることを暗に示していた。

 

「ハッサム、戦闘不能!」

『コマチ選手、ここで粘りを見せましたっ!! カビゴンにより大きなダメージを与えられていたハッサムにトドメの一撃を入れ、四天王ガンピ選手の最後の一体を引きずり出すことに成功ですっ!!』

『このまま負ける、ということにならずにほっとしています。ここまで来たからにはコマチさんにはぜひ勝って欲しいですね』

『そうね、でもガンピは仮にも四天王。いくら四天王の妹だからといって、あの子は彼ではないわ。どう転ぶかは次のバトルに注目ね』

 

 最後の一体にまで持っていけたが、不利なのはやはりコマチの方だ。相手の専門タイプははがねタイプ。最後の一体も恐らくははがねタイプのポケモン。そしてコマチの最後の一体はつるぎのまいで威力を上げて打ち出された効果抜群のバレットパンチを受けたいわタイプのプテラのみ。いくらメガシンカしてるといえど、チャンピオンが示唆する通りならば、それは意味をなさないことになる。

 しかも雲に隠れて日差しが弱まってしまった。これではほのおのキバの威力の底上げすら叶わなくなった。

 どうする、コマチ。

 残り技二つ、何を使うか、キーとなるのはそこしかないぞ。

 

「やった、やった! 残りあと一体!」

「コマチちゃん、頑張ってーっ!」

 

 ………………なんか盛り上がってるなー。

 そういやこのじじいはチャンピオンの、というか四天王全員にメガシンカを継承したんだよな?

 ということは何か知ってるんじゃ・・・・・・・・・今更だけど。

 

「なあ、博士。アンタ最後のポケモンが何か知ってるか?」

「わっはっはっはっ! 知ってるも何もあやつらはわしの弟子じゃぞ」

「じゃあ………」

「ま、お前さんの妹にとってはいい復習よ」

「復習…………?」

 

 復習ってどういう意味だ?

 復讐の方じゃないよな?

 

「ハッサム、ご苦労であった。ゆっくり休むがいい。………汝、名前は?」

「ヒキガヤコマチです!」

「うむ、覚えたぞ。コマチ! 我が相棒たちを次々と倒し、最後の一体にまで追い詰めたその実力。本物である! 四天王の妹だなんだ、それはただの飾りにしか過ぎぬ。………コマチ、そなたの実力を評し、我が最高の剣で終わらせるとしよう! ギルガルド、いくのである!」

 

 …………………ギルガルドかよ。

 いや、強いけど。というかチートって感じだけど。

 確かにコマチにとっては復習っちゃ復習だけど、ザイモクザと四天王じゃバトルスタイルが全く異なるだろうに。使ってくる技も恐らくは全くの別物。

 

「つるぎのまい!」

 

 おう、またシュールな光景だな。

 剣が剣を出してるぞ。どれが本体かなー、なんて。

 

「プテくん、先に決めるよ! ほのおのキバ!」

「ギルガルド、せいなるつるぎ!」

 

 シールドフォルムかブレードフォルムにチェンジし、プテラの炎を纏った大きな牙にその身を挟み込んだ。すると爆発が起き、両者身を引き自陣へと下がった。ギルガルドの剣先は赤く染め上がり、黒い煙が上がっている。

 

「プテくん、こうそくいどう!」

「ギルガルド、盾を投げつけるのである!」

 

 はい?

 ギルガルドが盾を投げつけるだと?

 いやいや、ギルガルドの象徴といってもいい盾捨ててどうすんのよ。

 

「おい、ザイモクザ。これどうなんだよ」

「分からぬ。我もやったことはないのだ。お主の妹君も対処の術を持っておらぬ」

 

 おいおいマジか。

 これやばいんじゃねぇの?

 

「ゴッドバード!」

「かげぶんしん!」

 

 ここで影を増やすのか………?

 つまり、あの剣のみギルガルドが無数に………っ!?

 

『な、ななな、なんとぉぉぉおおおおおおおおおっっ?! 四天王ガンピ選手、ギルガルドの盾を捨てさせたかと思うと、剣のみを増やしたぁぁぁあああああああああっ!! 一体何を狙っているというのでしょうかっ!』

『これは………いやでも……………まさかあのガンピが………』

『カルネさん、どうかしましたか?』

『いえ、ただガンピが今までにないやり方をしてくるものですから、つい…………』

 

「そなたが見せたりゅうひょうぐん。あれは見事であった」

「それは……どうも………?」

「我輩は感銘を受けた。そなたとバトルしたことで新しい発想を見つけることができたである」

 

 あれに感銘を受けたのか………?

 珍しい人もいたもんだな。

 だが、これ割とフラグなんかねぇの?

 コマチ、やばくね?

 

「では、参る! ギルガルド、せいなるりゅうけんぐん!」

「ッ!? プテ君、こうそくいどうからのゴッドバード!」

 

 ほらぁ!

 やっぱり来たじゃねぇか!

 しかもりゅうけんぐんって、要するに流剣群ってことだろ。

 あ、つかせいなるってつけてた?

 聖なる流剣群ってなんだそりゃ………。

 

『ここここれはなんと! 空から無数の剣が降ってくるではありませんか! コマチ選手が見せたりゅうひょうぐん! あれを彷彿させる何かがあります!』

 

 何かも何もネタは一緒なんだよ。

 

「りゅうけんぐん…………なんかかっこいい………!」

 

 ダメだこいつ。

 すっかり四天王のバトルに魅入ってるし。

 いや、まあ否定はしないけどよ、ザイモクザ。せめてバトル終わってからにしろよ。一応俺の妹が、お前とトツカが育てたトレーナーがバトルしてるんだからよ。

 

『初めてだわ、ガンピがこんな型破りな技の使い方をしてくるなんて………』

『でも、プテラもよく躱しています』

『そうだね。躱せなくても纏った鳳が剣を消し去っている。二人ともすごいよ』

 

 そうなのだ。

 意外とプテラが落ちてこない。まだ一発も刺さっていなければ、剣の数も残りわずかになっているくらいだ。あと少しで反撃のチャンスが来るだろう。

 

「ギルガルド、キングシールド!」

 

 っ!?

 うそ………だろ……………。

 そんな使い方ができるのか………?

 

「盾が勝手に動いた……っ?!」

「ど、どどどどういうことなの、ヒッキー!」

「知らん、俺に聞くな。俺だって初めて見るんだよ。おい、ザイモクザ。同じポケモン持ってるんだから何か分かるだろ」

「さっきも言ったが我には分からぬ。分からぬことだらけである」

 

 そうだな。お前も魅入ってるくらいだもんな。分からなくて当然か。

 プテラの目の前で盾と剣が交錯し、シールドフォルムのギルガルドに戻った。当然、プテラは盾に顔からぶつかり、弾かれた。同時に攻撃力も下げられ大ピンチである。

 

「…………ゴーストタイプ、だからかも」

 

 ゴーストタイプ…………。

 いやでも、そんなことってできるのか………?

 エスパータイプならまだ想像はつくが。

 

「博士、ギルガルドは盾を呼び戻すことなんてできたりするのか?」

「そりゃ、お前さん。ギルガルドにもよるじゃろうよ。盾はギルガルドの誇り。誇り高きものを捨てるなど以ての外じゃろう」

「なら、あのギルガルドは誇りなんてものがないっていうのか? 一番誇りがありそうなもんだが」

「だからかげぶんしんじゃよ。投げた盾に影を突き刺し、地面に固定。だからすぐに呼び戻すことができたんじゃろうて」

 

 つまり、何か? あのギルガルドの狙いは………。

 

「せいなるつるぎ!」

 

 この一発だったってことなのか………?

 コマチが応用した技をさらに応用し、囮にまでして狙ったのがこの一発だっていうのかよ。

 

「強ぇ………」

 

 四天王、捨てたもんじゃないな。

 ドラゴンおばさんといい、カロスの四天王って恐ろしいのばっかだな。

 

「プテくん!?」

 

 伸びたギルガルドの剣により、地面に叩きつけられたプテラはメガシンカが解かれていた。

 戦闘不能である。

 

「プテラ、戦闘不能! よって勝者! 四天王ガンピ!」

『決まったぁぁぁあああああああああっっ!! この勝負、勝ったのは四天王ガンピ選手です! しかし、しかし! コマチ選手、トレーナーになって半年という短期間でものすごい成長を見せてくれました! これは将来、彼女が四天王の座についていても、いやチャンピオンになっている可能性だってあるでしょう! ますます未来に期待できるトレーナーがまた一人現れました! みなさん、両者に惜しみない拍手を!』

 

 負けたな。

 ただまあ、ありゃ無理だ。

 俺でも初見でどうなることやら。まあ、焼けばどうにかなるだろうけど。でもそれにしたってタダでは帰してくれないだろう。

 

「負けちゃったね」

「ですねー。でも、コマチ楽しそうだった」

「だな。ヒキガヤ、お前も兄として嬉しいんじゃないか?」

「………嬉しいっちゃ嬉しいですけど、悔しい思いもありますよ。でもまあ、あいつはさらに強くなるでしょうね」

「………だね。なんか涙出てきちゃったよ」

 

 おおう、トツカが泣いている、だと………!?

 なんて、神々しいんだ。

 

「って、こんな時に電話かよ」

 

 誰だよ、こんな時に。

 この歓声の中、気付いた俺に感謝しろよ。

 

「はい、もしもし」

 

 そそくさーと観客席から中の通路へと移動し、応答する。

 すると返ってきたのはコウジンタウンにある化石研究所の職員からだった。

 




行間 〜使用ポケモン〜


ヒキガヤコマチ 持ち物:キーストーン、カビゴンZ
・ニャオニクス ♂ カマクラ/カーくん
 特性:するどいめ
 覚えてる技:サイコキネシス、ひかりのかべ、、リフレクター、でんげきは、てだすけ、なりきり、ふいうち、サイコショック、あなをほる、じゅうりょく、にほんばれ

・カメックス(ゼニガメ→カメール→カメックス) ♂ カメくん
 持ち物:カメックスナイト
 特性:げきりゅう←→メガランチャー
 覚えてる技:みずのはどう、はどうだん、りゅうのはどう、こうそくスピン、からにこもる、ロケットずつき、ハイドロポンプ、ふぶき、ミラーコート、ドラゴンテール、ハイドロカノン、れいとうビーム

・カビゴン ♂ ゴンくん
 特性:めんえき
 覚えてる技:メガトンパンチ、のしかかり、じしん、いわくだき、ほのおのパンチ、しねんのずつき、ギガインパクト、かみなりパンチ、ふきとばし、いびき、ねごと、ねむる、ストーンエッジ、じわれ

・プテラ ♂ プテくん
 持ち物:プテラナイト
 特性:プレッシャー←→かたいツメ
 覚えてる技:はかいこうせん、ストーンエッジ、はがねのつばさ、つばさでうつ、ちょうおんぱ、ものまね、ドラゴンクロー、ゴッドバード、ギガインパクト、こうそくいどう、ほのおのキバ

・オノンド(キバゴ→オノンド) ♂ キーくん
 特性:とうそうしん
 覚えてる技:りゅうのいかり、げきりん、けたぐり、あなをほる、ちょうはつ

・クチート ♀ クーちゃん
 特性:いかく
 覚えてる技:ものまね、メタルバースト、じゃれつく、バトンタッチ、ほのおのキバ、いちゃもん、あまごい


ガンピ 持ち物:キーストーン
・ハッサム ♂
 持ち物:ハッサムナイト
 特性:???←→テクニシャン
 覚えてる技:バレットパンチ、シザークロス、かわらわり、つるぎのまい、てっぺき

・クレッフィ ♂
 特性:いたずらごころ
 覚えてる技:ラスターカノン、まきびし、きんぞくおん

・ダイノーズ ♂
 特性:がんじょう
 覚えてる技:ほうでん、だいちのちから、パワージェム、マグネットボム、マジカルシャイン、でんじは

・ナットレイ ♂
 特性:てつのトゲ
 覚えてる技:ジャイロボール、タネマシンガン、タネばくだん、パワーウィップ、ギガドレイン

・シュバルゴ ♂
 特性:シェルアーマー
 覚えてる技:ドリルライナー、とどめばり、だましうち、いわくだき

・ギルガルド ♂
 特性:バトルスイッチ
 覚えてる技:せいなるつるぎ、つるぎのまい、かげぶんしん、キングシールド


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27話

東京来てからもボチボチと書いてます。


 ポケモンリーグ四日目後半。

 俺は会場で観戦しているというわけでなく、現在リザードンに乗ってコウジンタウンへと向かっていた。

 理由はコマチの敗退が決まった後、コウジンタウンの化石研究所から電話があったからだ。何でも緊急事態らしい。切迫した声色で、また面倒なことが起きていることがひしひしと伝わってきた。

 

「よりにもよってこんな時に………。どうしてあそこは狙われやすいんだか…………」

 

 カロスを旅していた時もフレア団に襲われたり、散々な目に遭ってきてるってのに。

 今度は何があったっていうんだよ………。

 やだなー、聞きたくないなー。絶対面倒事だぞ。

 

「リザードン、そろそろだ。下降してくれ」

「シャア!」

 

 山を越えて見えて来たコウジンタウン。空から何があったのか一目で理解できた。

 

「研究所が真っ二つやんけ………」

 

 いや、もうね。

 狙われすぎでしょ。

 しかも今度は人間技じゃない。こんなきれいに真っ二つとか、最終兵器でも撃たれたのかって感じだわ。

 

「あ、ヒキガヤ相談役!」

 

 やめろ。

 なりたくてなったわけじゃねぇよ。

 

「所長、無事、みたいですね………」

「この様だが何とかね」

「………一体何が?」

「私どもも何が何だか…………」

「ポケモンだよ」

 

 化石研究所の所長が俺に気づいたため、事の次第を聞いたが、返ってきたのは研究員の方からだった。

 

「はあ………ポケモン………?」

「突然襲われたんだ。触手のように伸び縮する赤いポケモンに」

 

 赤くて触手のようなポケモン…………?

 んなのいたか………?

 

「所長! 大変です! グラン・メテオの破片が! なくなってます!」

 

 グラン・メテオ………だと?

 グラン・メテオっていえば、あるポケモンのコアが引っ付きてきた隕石として有名だ。その破片がこの研究所にも…………確かにあったかもしれない。展示品なんかいちいち把握してないっつの。出入りすら何か月ぶりだって感じだし。

 

「グラン・メテオに赤い触手のようなポケモン………」

 

 グラン・メテオで大体の姿が見えて来た。いや、だがなぜカロスに?

 カロスでなくともグラン・メテオの破片は世界中にあるはずじゃ………。それこそホウエンやカントーの方がゆかりの地だろうに。

 

「デオキシス、か」

「デオキシス………?」

 

 あ、やっぱり知らないか。

 ポケモンのコアが引っ付いてきたグラン・メテオは有名でも、それがデオキシスと特定されたことは機密事項なんだな。ま、相手が相手なだけに公にすることもできないか。

 

「ッ?!」

 

 背後を取られた?!

 

「リザードン、ブラストバーン!」

 

 撃ってからしまったと思った。ここ、普通に人いるじゃん。

 

「そ、相談役?! い、一体何をっ!?」

「………ディフェンスフォルム。防がれたか」

 

 爆発が起きたところには両腕を広く交差させて炎を受け止めている赤いポケモンがいた。おかげで被害者はゼロ。

 

「所長、皆さんと安全なところに逃げてください」

「い、いやしかし」

「邪魔です。デオキシス相手にアンタらを守りながらとか無理だ」

「わ、わかった。全員作業の手を止めろ! 逃げるぞ!」

「「「「は、はいっ!」」」」

 

 だか、デオキシスは彼らの行く手を阻むように移動し、立ち塞がった。

 

「チッ、ジュカイン! ハードプラント! アーケードを作れ!」

「カイッ!」

 

 ジュカインをボールから出し、地面から太い根を掘り起こさせる。根は研究員たちを覆うように這い、アーチ型のシェルターを作り出した。

 

「ヘルガー、あくのはどう!」

 

 相手はエスパータイプ。

 あくタイプは有効だ。

 ま、あくタイプでいえば黒いのもいるし、炎の帝王だってこっちにはいる。いざとなったら出すのもやむを得ないだろう。

 

「………そもそもデオキシスはデルタの時にホウエンのバカップルがレックウザと倒したんじゃ………」

 

 いや待て…………。

 デオキシスが初めて公に姿を見せたのはロケット団が連れだしたから。

 その前まではトクサネ宇宙センターで研究されていたはず。

 そんなポケモンをロケット団が、サカキが復活させてナナシマの事件を起こした。しかも二体。

 それからデルタの時も奴が追っていたのはサカキ。サカキを倒すために宇宙まで戻り、隕石を落下軌道に乗せた。

 そして、今。生憎揃っている。サカキとデオキシスというカードが。先二つの事件を見てもデオキシスの数は合致している。

 つまりはそういうことだろう。

 

「で、カロスを選んだのは俺がいるからってか」

 

 先の二つの事件は図鑑所有者によって片づけられている。俺は全く関わっていない。

 だからこそ、今回こそは図鑑所有者の介入がないと踏んだのだろう。ただし、何かあっても対処できる戦力はそばに置いておきたい。絞った結果、適したのがサカキと面識のない図鑑所有者がいるカロス地方なのだろう。

 

「ジュカイン、メガシンカ!」

「カイッ!」

 

 今回、デオキシス相手に一番適しているのはジュカインだろう。あくタイプを持つヘルガーの方が有利ではあるが、それは技が当たればの話。フォルムチェンジもできるデオキシスにはジュカインのスピードじゃないとついていけない。あるいはジュカインでも無理かもしれない。

 

「くっ、消えたっ?!」

 

 くそっ、スピードフォルムか。

 俺の目が追いつかない。

 

「ジュカイン、リーフブレード!」

 

 どこからくるっ?

 いや、俺が見たところで反応できないのは今自覚したところだ。ここは実際に戦っているジュカインに任せた方が得策だな。

 

「ジュカイン、好きにやれ!」

 

 後はリザードンとヘルガーでジュカインを戦いやすくするしかない。

 くそっ、リザードンもメガシンカできればまだやれることがあったのに………。サカキ、俺を、俺たちをどうしたいんだよ。

 あれか? あの力をコントロールしろってことなのか?

 無理だ。あれは消耗が激しすぎる。ゲッコウガと二人で何とか耐えられたんだ。今俺一人ではどうしようもない。

 そもそも俺もリザードンもアレにもう一度足を踏み入れることにためらっている。できることならば、このまま使いたくはない。次やれば、俺もリザードンもどうなるか、想像すらできないからな。ただ言えるのは、何事もなくは終わらないということだけだ。

 

「ッ!?」

 

 マズッ!

 狙われてんの、俺かよ!?

 

「ライ!」

 

 ッ!?

 間一髪………。

 ダークライが黒い穴で、細い腕を受け止めていた。

 つーか、こいつ俺を刺し殺すつもりなのん。

 なにそれ、超怖いんですけど。

 

「ノーマルフォルムか………」

 

 スピードが速くなったかと思えば、すでに姿は別のものに変わっていた。

 ディフェンス、スピード、ノーマル。

 次に来るのは恐らく………。

 

「出て来たなら丁度いい。ダークライ、ダークホールを広げろ! ジュカイン、リザードン、ドラゴンクロ―!」

 

 瞬間、鋭利の効いた姿がダークホールを貫いた。

 初めて本物に遭遇したが、こいつも特殊能力を持っているっていうのか………っ?

 

「やべぇ、ヘルガー、だいもんじを波導で覆え!」

 

 アタックフォルムへと姿を変え、正面突破で黒い穴を貫いたデオキシスの背後にはジュカインとリザードンがそれぞれ竜の爪を振りかざしている。

 だが、間に合わない。

 俺は咄嗟にヘルガーに命令を出した。

 

「っぶねぇ………」

 

 またしても間一髪。

 炎がデオキシスの腕を受け止め、寸でのところで俺の腹を貫くことはなかった。

 やべぇ、今のはマジ死ぬかと思った。

 つか、異様に殺気だってね?

 

「しかもこっちの攻撃は上手く防がれるし……………」

 

 ジュカインとリザードンの竜の爪がデオキシスを捕らえたかと思うと、一瞬で丸みを帯びたディフェンスフォルムへと姿を変え、ガードされてしまった。これじゃキリがない。はっきり言って俺たちがピンチである。

 

「ッ!?」

 

 な、なんだっ!?

 ダークホール、だと…………?!

 いや、そんなはずはない。ダークホールはダークライが編み出した技。ドーブルとかのような特殊なポケモンじゃない限り扱えるとは………。いや、そもそも目の前のポケモンも特殊なポケモンだったな。

 もうなんだっていい。こいつはダークホールに似た何かすら扱える危険なポケモンだ。それだけで戦い方も変わってくるもの。

 

「ライ!」

「来い、ダークライ!」

 

 まずはダークライを呼び寄せ、黒いオーラで俺を包み込んでもらい、俺自身も戦えるようにしていく。

 これで何とかダークホール擬きに呑み込まれずに済んだ。

 だが、悠長にしている暇はない。

 仕方ない、まだ試したことはないがアレをやってみるか。

 

「ヘルガー、ジュカインを黒い波導で覆え! ジュカイン、今回はお前が主役だ!」

「ヘルゥ!」

「カイッ! カイカイッ!」

 

 ヘルガーは自身を疑似的にダークポケモンへと変えることに成功している。それを今度はジュカインにやろうってわけだ。

 今回鍵となるのはやはりジュカインのスピード。デオキシスのスピードに追い付き、かつあのフォルムチェンジを対処していくとなると選択肢が一つに絞られてしまった。

 

「…………ダークメガジュカイン………てな」

 

 メガジュカインの姿からさらに黒いオーラを纏い、目を赤くしたジュカインの完成。いかにもザイモクザが喜びそうな姿である。

 

「そんじゃ、いくぞ、ジュカイン!」

「カイッ!」

「こうそくいどう!」

 

 ジュカインは一瞬でデオキシスの背後を取った。デオキシスは振り返り樣にフォルムを変え、スピードを上げて草の刃を躱し、そのまま俺の方へと突っ込んでくる。狙いはあくまでも俺のようだ。

 

「そう簡単にくれてやるかよ!」

 

 俺が腕を前に突き出すと、そこから黒いオーラが円を描き、スピードフォルムからノーマルフォルムに変えて振り下ろしてきた拳を受け止めた。

 

「ぐっ?!」

 

 なんだこれっ!

 やっぱ無理あったか。オーラがあるからと言って生身の身体で衝撃を流すのはキツい。

 だが、やられたわけじゃない。伊達にリザードンやゲッコウガと感覚共有してきたわけじゃねぇな。耐性が出来てる。

 

「かえんほうしゃ!」

 

 両脇からリザードンとヘルガーの炎がデオキシスを牽制し、押し返した。

 

「シャア!」

「カイッ!」

 

 あいつらいつの間に連携を取ってたんだよ。

 リザードンの合図でジュカインが飛び込み、両腕の刃でX時に斬りつけた。シザークロスだ。

 デオキシスは後退し、再度飛び込んでくるとアタックフォルムへと姿を変え、両腕を伸ばし、鞭のようにしならせて、ジュカイン、リザードン、ヘルガーを次々と突き飛ばした。

 そして立て続けにジュカインに向けて超強力なサイコパワーを撃ち出してきた。

 

「させるかよ!」

 

 今動けるのは俺ーーもといダークライのみ。

 地面を蹴り上げると、自分の身体とは思えない速さで移動し、ジュカインの前に立つと黒い穴を出して、サイコパワーを呑み込んだ。

 

「ジュカイン、ハードプラント!」

 

 物音でジュカインが起き上がったことを確認し、次の命令を出すと、俺の両脇を這うように太い根が走りだした。するとデオキシスはまたしても姿を変え、丸みを帯びていく。

 

「………なるほど」

 

 大体掴めた。

 奴のフォルムチェンジは一定の順番で行われている。ノーマル、アタック、ディフェンス、スピード。この順番でフォルムチェンジを行い、同時に展開もそのフォルムに適したものになっている。

 勝機、というかチャンスはここにある。

 

「リザードン、かえんほうしゃ! ヘルガー、あくのはどう! 攻撃の手を緩めるな!」

「シャアッ!」

「ヘルゥ!」

 

 これでいい。

 これでずっとディフェンスフォルムのままでいてくれる。

 あとはここからデオキシスが動くのを待つだけ。

 

「ーーきた」

 

 間もなく、デオキシスは両腕を大きく広げ、炎と黒いオーラを弾き飛ばし、同時にフォルムチェンジを始めた。

 

「今だ、ジュカイン! シザークロス!」

 

 この時を待っていた。

 今のジュカインであればスピードフォルムになる前に攻撃を仕掛けられるはず。仕掛ける技はシザークロス。一発当てれば、フォルムチェンジも中断されるはずだ。そこを狙って一斉攻撃を仕掛ければどうにかできる。

 

「なんッ!?」

 

 だが、策が最後まで行くことはなかった。

 真下から開いた黒い穴から赤く青い竜を模した波導が俺たちを撃ち抜いたのだ。

 

「ダークホール………いや、奴か………ッ?!」

 

 開いた黒い穴からは赤い目がこちらを見ている。

 …………どうやら、敵はデオキシスだけではないらしい…………………。

 

 

 

     *   *   *

 

 

 

『ただいま入ってきたニュースです。先程正午未明、コウジンタウンの化石研究所が何者かに襲撃されました。施設は全壊、他グラン・メテオ等の隕石破片がすべて盗まれた模様です。この事態に対し、対処に当たった一人のトレーナーが謎のポケモンと交戦中とのことです。………現場からの中継があるようです。現場のアケビさーん』

『はーい、現場のアケビでーす! 私は今コウジンタウンの化石研究所の前に来ていますが、ご覧の通り建物が倒壊しております。というか真っ二つです! 先ほど研究所の方に取材できたのですが、襲撃は突然だったようです。しかも謎のポケモンによる単独犯で、現在そのポケモンと研究所の相談役が交戦中との話をいただきました! またその相談役が謎のポケモンを見て、「デオキシス」と呟いたそうです! 有識者の方、情報の提供をお願ーーひゃあっ!?』

『ど、どうされましーーーッ!?』

『エンテイ、お前の力も貸せ!』

『……あれは…………忠犬……ハチ公………?』

『………あいつ………はっ! アケビ……! 仕事仕事!』

『あはっ、忘れてたっ。以上、現場よりお伝えしました!』

『……ふぅ、ありがとうございます。研究所の相談役が謎のポケモンと交戦中とは驚きですが、一体どういうトレーナーなのでしょうか。以上、臨時のニュースをお伝えしました』

『本日三戦目の最中でしたが、臨時ニュースということでお伝えさせていただきましたッ! カロスの西に位置するコウジンタウン。そこに化石研究所があるのですが、どうやらそこで事件が起きている模様です! 皆さんお近くへ行った際にはお気をつけください!』

『ちょっとよろしいですか? ポケモン協会のユキノシタハルノです。今回の事件に関しましてポケモン協会もたった今情報を認知したところでございます。ですが、ご安心を。現在対処に当たっているのは我がポケモン協会が誇る最強のポケモントレーナーです』

『………ポケモン協会が誇る最強のトレーナー…………? 理事長とかでしょうか』

『ふふっ』

「それでは、バトルを再開してください!」

「それじゃ、仕切り直しと行きましょうか」

「………はあ、んじゃエレク。メガシンカ!」

「アーケオス、もろはのずつき!」

 

 

 

     *   *   *

 

 

 くそっ…………。

 このタイミングで奴が出てくるとか、有り得ねぇだろ。

 出てくるならせめて一人で出て来いよ。

 

「泣き言言ってても仕方ないけどな。エンテイ、だいもんじ!」

 

 折角追い込んだというのに、裏側の住人さんにより邪魔をされた。おかげで仕切り直し、いや一度のチャンスを逃してしまった以上、一方的に不利といった方がいいか。相手はデオキシスだけではなくなったのだ。この黒くデカい翼を大きく広げた反物質の神も相手にしなきゃならねぇんだからな。

 以前、エックスが空に開いた穴から一瞬見えたという赤い何か。それはおそらくデオキシスなのかもしれない。こいつはダークホール擬きの穴を作り出すことができるからな。あの穴かはこいつが作り出した可能性が十二分にある。

 しかし、参った。デオキシスの穴のせいで、裏側へとゲートができてしまい、奴が来てしまったではないか。

 どうすんだよ、マジで。

 

「お前はお呼びじゃないんだよ、ギラティナ。ジュカイン、リザードン、ドラゴンクロー!」

 

 あん?

 鬼火………?

 

『ゲンインハアノトキノサイキョウダークホール』

 

 あの時…………?

 最強というからには特別なダークホールってことだよな………。

 となると………一度だけ使ったことがあるな。

 最終兵器を止めるための最後の手段としてダークライが俺に託した大技、ブラックホール(俺命名)。

 

「ッ!? ブラック……、ホール……………っ?!」

 

 そうか、そういうことか。

 デオキシスが使っているあのダークホール擬きはブラックホール。

 そして、あの時俺たちが進化させてできた技もこれと同じブラックホール。

 つまりはそういうこと。

 

「戦いの場をカロスにしたのはサカキでもデオキシスでもなく、俺ってことかよ………」

 

 俺たちがブラックホールを作ったことで、デオキシスのブラックホールとのゲートができ、こいつがカロスに来た。それを察知したサカキもカロスへと渡航。

 そして、もう一つ。ブラックホールはダークホールの上位互換。つまりはあれも世界の裏側へと繋がっている。だから神も来た。

 

「偶然にしても笑えなさすぎだろ。ジュカイン、くさむすび! ヘルガー、あくのはどうでジュカインを強化だ! エンテイ、リザードン、そのままギラティナを引き付けておけ!」

 

 いやもうほんとマジで。

 なんで次から次へと問題が起きるかね。

 胃がキリキリしてきたわ。

 

「消えた………、くそっ!? シャドーダイブかよ!」

 

 黒い穴から出てきたかと思えば、すぐに姿を消したギラティナ。

 あの巨体がいつどこから出てくるのか、ひやひやなんてもんじゃない。恐怖すら覚えるね。というかもう心臓バクバク。アドレナリンが出まくりんぐである。………なんかトベっぽくなった。

 デオキシスはデオキシスで、アシストと遊撃をしているヘルガーを突き飛ばし、同時にジュカインの尻尾を掴み上げた。

 

「ジュカイン、リーフストームで尻尾を飛ばせ!」

 

 メガジュカインになって変わったことといえば、リーフストームを尻尾を飛ばして撃ち出すことが一番大きい。あの尻尾、実は再生するんだわ。や、マジで。

 

「まあ、あっちはもっと再生してますけどね………」

 

 ドリルのように回転して切り離された尻尾はデオキシスの腕を貫き、切断した。だが、すぐに腕が生えてきた。自己再生、なのだろう。触手が無限に再生してくる感じで気持ち悪い。

 

「これじゃ、俺たちここで果てることになるじゃねぇか。んなの勘弁だっつの。何か、何か片方でも一撃で黙らせる方法を……………」

 

 一撃………。

 一撃………………………。

 ……………………一撃?

 

「ッ?! 試してみる価値はありそうだな。エンテイ、しばらくギラティナを主導で対処してくれ! ジュカイン、リザードン!」

 

 まずはあの触手ーーもといデオキシスを止める方が先決だな。神の相手はそれからだ。

 前衛として戦っていた二体に呼びかけると、リザードンはすぐに俺の考えを察知したのか、エンテイと前後を入れ替わった。ジュカインも尻尾を再生して、一度俺の元まで戻ってくると空を仰ぎ、デオキシスの出方を伺っている。

 

「ジュカイン、俺が合図を出したらリザードンと交代だ。ただし、その直前までデオキシスの意識をお前に向けさせておくんだ」

「カイ!」

 

 手短に指示を出すと再びジュカインはデオキシスの元へと走っていった。

 と同時にエンテイが地面に叩きつけられた。

 くそっ、ついに来たかシャドーダイブ。

 伝説のポケモン、しかも毛色の違う二体を相手にするのとか無理すぎるだろ。まだ三鳥と戦ってる方がマシだわ。

 

「リザードン、ローヨーヨー!」

 

 まずはリザードンを動かす。

 急降下し出したリザードンにギラティナが意識を向けるも、起き上がったエンテイが聖なる炎で包み込み、行動を制御した。ナイスアシスト。

 つか、今思ったがギラティナにはせいなるほのおは効くんじゃないだろうか。タイプ相性とかは別にして。だってあいつ聖とは真反対の奴だし。浄化とかできないのかね。

 

「ジュカイン、かげぶんしん! ヘルガー、れんごくで気温を上げろ!」

 

 ジュカインが作り出した影はデオキシスを取り囲み、一瞬の迷いを生ませた。というか、迷うことがあることに驚きである。

 いくら宇宙から飛来した謎のポケモンであったとしても感情がないとは言えないようだ。

 さらにヘルガーが煉獄の炎で下からじわじわと空気を炙っていくと、デオキシスの攻撃が外れた。影にすら届いていない

 ジュカインが作り出した影を温度上昇により陽炎へと持って行こうと思ったが、結果は上出来と言えよう。

 

「タネマシンガン!」

 

 狙うなら今だ。

 あいつのタネマシンガンの種はやどりぎのタネでもある。発動すればよし。そうでなくてもデオキシスは必ず何かしらの対処をしてくるはず。そして、それは俺たちにとっての貴重な時間となる。

 

「エンテイ、もう少し持ってくれよ」

 

 エンテイはほぼ一対一の状態でギラティナのヘイトを取っている。いや、マジで伝説様々だわ。

 

「来た………、ジュカイン! スイッチ!」

 

 グインと地面すれすれで急上昇していくリザードン。その身体は赤い炎を纏っている。

 そして、ヘルガーの補助の元リザードンと立ち位置を入れ替わった。

 急な展開にフォルムチェンジを加速させていくデオキシス。俺の目が合っていれば一周回ってディフェンスフォルムになったぞ。なんか焦っているのがすげぇ分かるんだけど。

 

「ジュカイン、ドラゴンクロー! ヘルガー、あくのはどう! リザードン、エアキックターンからのじわれ!」

 

 今度はデオキシスにリザードンがギラティナに三体がかりで攻撃を仕掛けていく。

 エンテイ?

 あいつは基本、俺の指示なしでいいんだよ。必要な時にだけ俺が指示を出す。それくらいの方があいつも自由に戦えるというもの。ま、だからといって俺の指示を無下にするようなことはない。一応俺のことはトレーナーとして認めてくれているようだし。

 

「さて、こっちも準備だ」

「ライ」

 

 リザードンがこれでデオキシスを黙らせられれば良し。ジュカインたちがギラティナに地を這わせられればなお最高。

 だが、そう簡単にいくほどこいつらは甘くない。

 だからこっちでも一発、用意しておく必要があるのだ。

 

「シャァァァアアアアアアアアアッ!!」

 

 …………上空で空気を蹴り返し、反転してデオキシスを地面に叩きつけ、地を割った。

 効いてない、か………?

 一方で、ギラティナもジュカインがその身を犠牲にして、地面に叩きつけた。ヘルガーがそれを黒い波導で固定し、エンテイがジュカインの回収に向かっている。

 全く、全員きっちり仕事してくれちゃって。ここで俺たちが失敗するわけにもいかねぇじゃねぇか。

 

「ダークライ、あん時よりは小さいが、ダブルでだ。ブラックホール!!」

 

 今回はあの黒いひし形の結晶はない。

 だからあの時のようなブラックホールは使えないが、それでも今俺たちに出せる全力を注げば裏側へとあいつらを押し込めるだろう。寿命が縮みそうで怖いけど。何ならもうすでに縮んでそうだけど。

 

「ぐぅ………、これもこれでキツ………」

 

 なんかもうね、頭がぐわんぐわんする。

 これアレだわ。ダメなやつだわ。ユイあたりはまた泣くんだろうな。自分でいうのもアレだけど、ユイってば俺のこと好きすぎるし。好きすぎるあまり俺の脱いだ服を…………おっとこの先はいくら心の中でも後ろ指刺される問題だったわ。あいつのためにも思い出すのはやめよう。

 でも仕方ないんだっての。呼ばれて飛んで来たら襲われるんだから。俺だって生き延びるようにしてはいるんだ。それであの様かと言われたら返す言葉もないけど。

 

「ヒッキー!」

「ヒキガヤ!」

「ハチマン!」

 

 あー、もうなんで来ちゃうかなー。これじゃこのまま押し切る以外の策が使えないじゃん。

 

「バシャーモ、ブレイブバード!」

「シュウ、はどうだん!」

「スイクン、れいとうビーム!」

 

 ったく、揃いも揃って。一体どこから聞きつけて来たんだか。

 

「ダークライ、一気に押し込むぞ」

「ライ」

 

 エンテイとスイクン、それぞれを主導に黒い穴へと二体のポケモンを押し込んでいく。

 それにしてもこの面子。ユイが先走ってそれを追いかけるように先生が、取り敢えずスイクンの力いるかもってことでルミルミもついて来たって感じだろうか。コマチがいないのは全員戦える状態じゃないし、運営に携わるあの三人も然り。ザイモクザとカワサキとトツカも動こうとはしたが、これが陽動で会場の方で何かあると対処の手がいるってことで残ったのだろう。あっちの指揮は………ツルミ先生かな。………あれ? 育て屋の三人は? 会場にいたはずだよな? あっちに残ったのか?

 

「「「全主砲斉射!」」」

 

 あ、来てた。

 しかもなんかトレーナーの数に対するポケモンの数がおかしい。

 アレか? 育て屋のポケモンたち…………だったわ。フラダリのギャラドスとかパキラのファイアローもいるし。

 

「「「撃てぇぇぇえええええええええっっっ!!!」」」

 

 ハイドロポンプ、はかいこうせん、フレアドライブ、ワイルドボルト。他にもいろいろな技がデオキシスとギラティナを襲い、黒い穴へと押し込んでいく。あと一息。あと一息でいける。

 

「スイクン、ぜったいれいど! エンテイ、せいなるほのお!」

 

 そしてルミが出した指示が決めてとなり、ついにデオキシスとギラティナを裏側へと送り込むことに成功した。いやほんとマジでルミルミ最強。

 

「はあ………、はあ………キツっ」

 

 やり過ぎた感が否めない。

 だが、ここまでしてようやくあいつらと対等に渡り合えるかどうかなのだ。

 マジで何なんだよ。

 もうね、キツくて膝から崩れ落ちて、四つん這い状態になっちゃったよ。

 

「ヒッキー!」

「ハチマン!」

 

 尋常じゃない汗が地面に染み込んでいく。

 脱水症状、熱中症、貧血。いろいろな症状が同時に出ている感じである。頭は痛いし、吐き気もある。やっぱ人間の身体には負担がデカすぎるってか。いやまあそうなんだけどさ。これくらいしてようやくあいつらと対等に渡り合えるかどうかなのだ。無理を承知でやるしかないだろ。

 

「………ヒキガヤ、今のポケモンたちは?」

「ははっ、先生でも知らない、か」

 

 俺は身体を支えられなくなり、地面に仰向けになった。

 ポケモン協会に所属するヒラツカ先生でもデオキシスのことは知らないか。やっぱあいつは特定機密事項のポケモンなんだな。協会でも幹部クラスの者しか知り得ない情報なのだろう。

 俺か?俺は理事直属だったからな。いやでも情報だけは入って来たさ。

 

「すごい汗………」

「先生、早くヒッキーを病院に………!」

「いや、それも意味がないだろう。違うか、ヒキガヤ?」

「その認識で合ってますよ………。時期に治る。何ならしばらく離れててくれると助かる」

「えっ?」

「………………」

 

 や、そんな悲壮感漂わせるなよ。別に突き放してわけじゃないんだから。

 

「………エンテイ?」

「よく分かったな………」

「今使えそうなのってエンテイの技くらいだもん」

「ま、さっきエンテイに指示を出せていたんだし、知ってるか」

「うん、知ってる。ホウオウのところまで案内してくれたのもエンテイだし」

「そうだったな」

 

 なんたかんだ言ってルミも伝説のポケモンたちに会って来てるんだったな。何なら今でもスイクンがいるし。さっきのぜったいれいど、今度は全員の技に掛けて急冷却して固体による重い一撃に変えてたくらいだし。

 

「エンテイか…………、なるほど。ではユイガハマ。私たちは少し離れているとしよう」

「えっ、でも」

「大丈夫だ。あとは二人に任せよう。なに、ヒキガヤが、私たちよりも遥かに伝説のポケモンたちの力をコントロールしてきた男が言っているのだ。何も心配はいらないさ」

 

そう言ってヒラツカ先生はユイを連れて、この場から少し離れたところに移動していった。

 

「それじゃ、エンテイ。よろしくね」

 

 ルミの言葉に無言で頷くとエンテイは炎を纏い始めた。その炎はやがて俺を包み込んでいく。

 ああ、これだ。この炎だ。いつかの空中戦でも味わった力が漲る炎。

 段々と落ち着きを取り戻し、頭痛や吐き気といった症状が治まっていく。

 だが、これは荒治療もいいところ。炎一つでこの身体が完全に回復するのであれば、毎日やっている。

 それができないからこんなことになってるんだし。まあ、だからと言って文句を言うつもりはない。俺はそれを承知の上でダークライの力を使っているのだから。これは記憶を食われることの合併症みたいなものだ。仕方がないことである。

 

「………ふぅ」

「どう?」

「ああ、バッチリだ」

「………不思議だよね。炎なのに服が、身体が全く燃えない。………それはスイクンの水も同じか」

「ああ、そうだな。ここにライコウの電気があれば、電気ショック治療になったかもな」

「あんまりやりすぎるとその内身体壊すよ? 文字通りの意味でも」

「大丈夫だ。もう壊れてる」

「ダメじゃん………………」

 

 この身体が正常な状態なわけなかろうに。

 酷使してるのよ。いやー社畜は辛い。

 

「なんとも神秘的な現象だな」

「先生………」

「ヒッキー、もう大丈夫なの?」

「ああ、取り敢えずな。ま、これでしばらくはどうにかなるだろ」

 

 俺の身体もあのポケモンたちも。

 いつまで保つかは判らないが。今夜かもしれないし、向こう一年かもしれない。いつ如何なる時でも対処できるようにしておかないといけないという、謂わば責任とプレッシャーは生まれたが、これで時間的猶予は稼げている。

 

「つか、どうやってこの事知ったんだよ」

「会場で臨時ニュースが流れて……」

「ニュース?」

 

 所長が情報提供したのか?

 

「いやー、見事に真っ二つだねー。ウケるんだけど」

「もうほんとなんなのよ、アンタって………」

 

 オリモト、それにサガミ………。あ、ナカマチさんも後ろでドン引きしてるわ。

 

「かおりん………」

「ヒキガヤ、あれデオキシスとギラティナでしょ。なんでいんの?」

 

 おおう、こっちがいたか。

 元シャドーなだけはある。伝説のポケモンとか、一通り頭に入っていそうだな。というか絶対入ってるよな。普段はあんななのに。

 

「…………よく知ってたな。お前の言う通り、アレはデオキシスとギラティナだ」

 

 こう言っても話についてこれるのはオリモトだけか。

 

「そっちは知らないんだな」

「………カオリほどポケモンに詳しいわけじゃないからね」

「そうか」

 

 ま、それはどうとでもなることだ。

 

「…………デオキシスってデルタの時に倒したんじゃなかったの?」

「倒した。だが、飛来したのは二体いる。倒したのはその内の一体だけだ」

「ということは今回のはもう一体のデオキシスによるものってわけか。じゃあ何でギラティナが出てきてたの。普通に考えて関係性は全くないでしょ。ヤバくない?」

「デオキシスとギラティナに直接的な関係はない。そもそもギラティナはシンオウの神話に出てくるポケモンだ。まがいなりにも神だ。邪神といった方が適切だろうがな」

「邪神………それある!」

「………それで? 間接的な関係はあるんだろう?」

 

 ったく、この人は………。

 そういうとこ目敏いですよね。

 

「………俺ですよ。正確には俺とダークライ。黒いのが使うダークホールは世界の裏側へと繋がっている。つまりギラティナの世界に繋がっているんです。………今回はフレア団による最終兵器起動を止めるために、ダークホールを強化させた。そしたら今度はデオキシスまで呼び寄せてしまったってわけです。最終兵器のエネルギーを自分に世界に送ってきたことにギラティナは怒り狂ってるんでしょうね」

「それはまたなんというか……………」

「ヒッキー………」

「ヒキガヤ、それでどうすんの? あたしが知ってる限りではあれくらいでギラティナがおとなしくなったとは思えないんだけど」

「なるようにしかならないだろ…………。ただ、面倒なことに今カロスにはロケット団が来ている。サカキの目的はおおよそデオキシス。一度手にした力をまた手にしようということだろう。その関係で俺を利用しようとしているんじゃないか………? 知らんけど」

「マジウケないんですけど………」

 

 なんかウケるの使い方がよく分からんなってきた。

 さっきといいどっちもウケないでしょ。

 

「今回ばかりは俺も同意見だ。だが、原因は俺にある。だからこの手でデオキシスと、ついでにギラティナも黙らせるだけだ」

「…………できるのか?」

「愚問ですね。できるできないの問題じゃない。やるんすよ、そのためのカードはすでに動いている」

「………それってイロハちゃん?」

 

 少し考え込んだかと思うと口にしたのはユイだった。

 うんうん、お前も成長したな。自分でも状況を整理できるようになったじゃないか。

 ま、あれだけのバトルが出来れば、自然と身につくか。シャラシティでの特訓はユイにとってかけがえのないものになったようで何よりである。

 

「いや違う。ゲッコウガだ」

 

 だが、残念ながら少し違うんだよなー。

 メインはこっち、ゲッコウガの方だ。

 

「イロハがあるポケモンを説き伏せに行くのにあいつを同行させたんだ。それが偶然にも『外』にいることになった。今あいつは事を構える準備をしてるはずです。………その内あいつ、本当に新しい伝説を作っちまいそうで怖いんですけどね」

 

 いやホント。

 マジであいつが恐ろしい。

 なんだよ、あいつ。俺の気のせいとかならまだ気を保てるんだが、どうやらこれが現実なのだから、もう訳が分からない。

 あいつーーゲッコウガはなんかポケモントレーナーに目覚めたらしい。

 いや、うん、何言ってんだって感じだけど、俺も何が起きてるのか分からないのだから仕方ない。

 

「ゲッコウガが伝説のポケモンとかウケる………!」

「………あ、だからゲッコウガはあたしとの時に出さなかったのか」

「そういうことだ。悪いな、ゲッコウガも入れた完成されたパーティーじゃなくて」

「でも、それでもみんな本気出してくれてたんでしょ?」

「逆に出さざるを得なかったってのが正しい。一体いないんだからな」

「そっか、よかった」

「ユイは胸を張ればいいと思うぞ。俺のヘルガーとジュカインを倒したんだからな。コマチもイロハもまだ俺のポケモンたちを本気にさせてないんだ」

「……………それって単に二人とバトルする機会がなかっただけだろう?」

「先生、それは言わない話でしょうに」

 

 折角ユイがパアッと明るくなったってのに、なに水差してるんですか。

 

「………さて、帰りますか。さっさと次に備えないと」

 

 それと報告もな。

 帰った時にあの姉妹がどんな顔をしているやら。

 泣きつかれるのか、抱き着かれるのか、冷たい目でくどくどと説教されるのか。……………全部いっぺんに来そうだな。

 だがまあ、これで敵は判明した。あとはやるべきことをやるだけである。

 




ようやく。
ようやく色々と動き出しました。


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28話

「カメックス、ハイドロポンプ!」

「いくぜ、ガオガエン! ハイパーダーククラッシャー!」

 

 コウジンタウンから戻ってくるとバトルも最終局面になっていた。四天王対ロイヤルマスク仮面。

 うん、やっぱり誰だか分からん。

 だが、あの仮面の男はZ技を使える実力者であることは分かった。

 

「流石です、カメックス。では、こちらもメインディッシュといきましょう! カメックス、メガシンカ!」

 

 まあ、それ以上に四天王のカメックスの方が上らしいが。メガシンカしてもいないのにZ技に耐えやがった。

 相手はほのおタイプなのだろう。不利な相手によく動いていると思う。

 

「りゅうのはどう!」

 

 メガシンカしたカメックスの巨大な背中の砲台と、両腕の小型の砲台から三体の竜を模した波導が放たれた。相手がほのおタイプならハイドロポンプの方が効果があると思うんだが。

 

「ガオガエン、DDラリアット!」

 

 ガオガエンというあの赤黒いポケモンが両腕を広げて回転し始めた。

 なんかプロレス技みたいだな。最もプロレスを見たことはないんだが。

 

「グロウパンチ!」

 

 いつの間にかカメックスがガオガエンの背後に移動していた。そして、拳を掬い上げた。

 

「ガオガエン!?」

「カメックス、とどめです! ハイドロポンプ!」

 

 打ち上げられたガオガエンに向けて砲台が照準を合わせていく。

 

「全てを干上がらせろ! フレアドライブ!」

 

 撃ち出された水砲撃に対し、自身を炎で纏い向かってくる水砲を蒸発させ始めた。

 まあ、だからといって効果抜群の技を受けているのだ。ガオガエンにもダメージは深く入っているだろう。それに相手はメガシンカしている。メガの力を侮っては自らやられにいくのと同じである。

 

「ガオガエン?!」

 

 うん、だろうな。

 さすがに無理があるって。

 

「ガオガエン、戦闘不能!」

「さすがにあれは無理あるよねー」

「………メガシンカは強い」

「で、でもあのポケモンも頑張ったくないっ?」

 

 オリモトとルミルミが辛辣なコメントを入れる中、ユイがフォローのコメントを入れてくる。

 

「よって勝者、四天王ズミ選手!」

「そうだな。あのトレーナーの方も負けたからといって落ち込んでる風でもない。満足のいくバトルだったのだろう。無論負けは負けだが、ポケモンバトルはそれだけじゃない」

「そうっすね。ポケモンバトルで生計を立てていくってんならまだしも、ただのトレーナーですからね。いちいち負けたくらいでうだうだ言う必要もないでしょ。や、まああのプロレスラー擬きがポケモンバトルで生計立ててるかどうかなんて知りませんけど」

「………でも、負けると悔しいよ?」

「ならその時落ち込んでるか?」

「…………どうだろ……」

「なるほどねー。要するに悔しいと思えてるならまだまだ次がくるってことか。うわ、ヒキガヤが言葉遊びとかウケるんですけど!」

「ウケねぇよ」

「でもやっぱり負けたら落ち込むかも………」

「ばっかばか、本当に落ち込むってのはもう絶望すら感じてその身を投げ出したくなるもんなんだよ」

「なにそれ、経験談?」

「………………」

 

 痛いところ突かれた。

 ルミルミってば鋭すぎ。鋭い目の持ち主なのん?

 

「バッカみたい」

「ルミちゃん………っ!」

「絶望的になろうが結局生きてるじゃん。そんな簡単に死ねるわけないし」

「…………ふっ」

 

 目を見張ったが同時にルミルミの頭をわしゃわしゃとしていた。うん、こいつも丁度いいサイズ感だよな。

 

「な、何するのっ」

「いやー成長したなーと」

「だからって撫でろなんて言ってない」

「………ポケモントレーナーってのは案外一番死ねない部類なのかもな」

「………どういうこと?」

「ポケモントレーナーなら必ずポケモンがいる。どれだけ絶望してもポケモンがいる。ポケモンがいる限りは死ぬに死ねないだろ。それでも死ねる奴は勇者だな」

「ほう、君の口からそんな言葉が出てくるとは。成長したではないか。撫でてやろうか?」

「遠慮しておきます」

 

 はいはい、頭から手を退かしますよ。そんな睨むなって。

 

「ルミ、何かあったら、その時はお前の母親を連れて回れ。そんで他のトレーナーを死ねない運命にしてこい」

「………?」

 

 小首を傾げるルミルミ。

 と、向こうから黒いスーツ男が歩いてくるのが見えた。俺は奴が目に入るとオートで空気を変えてしまった。

 

「………ふっ、どうやら生きて帰れたみたいだな」

「生憎、あいつがいる限り死ぬことはないんでね」

「明日が楽しみだ」

「そうだな。アンタ相手に手を緩める必要もないしな。こっちも散々な目にあってきたお返しをくれてやるよ」

「それは物騒だな」

 

 何が物騒だ。

 アンタがウロチョロしてる方がよっぽど物騒だっての。

 

「この人だれ?」

「怖い怖いおじさん。俺の次の対戦相手でもある」

「ほう、宣戦布告か」

 

 ある意味ではそうかもしれない。

 最も先生たちが想像してる程度の小さいことじゃないがな。

 

「………そうっすね。そんな感じです」

 

 今はそういうことにしておこう。下手にこいつがサカキだって教えても余計にやりにくくなるだけだろうからな。

 

「ふっ」

「ッ?!」

「先生………?」

「……トキワジムリーダー……………!」

 

 横を通り過ぎていく時の不敵な笑みに反応したのは先生だった。

 

「………ほう。まだその名で呼ぶ奴がいるとはな」

 

 足を止めたサカキは感心したように振り返ってくる。同時に黒いハットも取り、その顔を見せてきた。

 

「何故、ここに………?」

「オレはもうジムリーダーなどではない」

「ああ、そうだな。単なる指名手配犯だもんな」

「「「「「指名手配犯?!」」」」」

「なあ、サカキ」

「ふっ、いつまで経ってもオレを捕まえられない無能どもに今更オレを捕らえることなど無理な話だ」

 

 まごうことなきサカキであり、それに皆が言葉を失っていた。

 

「はっ、だったら自首をおすすめしてやるよ。カントーで悪さしてました、ごめんなさいって警察に出頭してこい」

「バカバカしい。なぜオレがそんなことをしなければならんのだ」

「そういうと思ってたわ。ま、俺はそこら辺はどうでもいいんだけどよ。協会側が本気で動くってんなら俺もそれに乗るってだけだし。つか、アンタを俺一人で捕まえるとか無理だろ。逃げ足だけは速いんだからな」

 

 結局いつもいつも引くタイミングだけはちゃっかりしてやがる。物的証拠も残さねぇし。年々隠蔽が上手くなってる気がするまであるな。

 

「なあ、そろそろ行ってくれねえか。さすがにこいつらがアンタの圧に押されて今にも吐き出しそうなんだわ」

「ふっ、この程度で根を上げるようじゃお前についていくのも無理な話だな。…………忠告だ。死にたくなければそいつから離れるんだな。でなければ近いうちに死ぬぞ」

 

 こいつの忠告は忠告で終わらないのがムカつくとこだよな。悪行やめて占い師になった方が儲かるんじゃねぇの?

 忠告を残してサカキはそのまま行ってしまった。………そういやあの二人は?今日は一緒じゃないのか?

 

「ふ、ふぅ………」

「は、はは………まさかこの私が足をすくませるとはな…………」

「………ヤバいよ、まだドキドキしてる」

「…………ハチマン、キモい」

「なんだよ、唐突に。マジで吐き気でも催したか?」

 

 ルミルミ、開口一番がそれって………………。ハチマン泣くぞ?

 

「そうじゃない。………なんでハチマンは平気なの?」

「なんだかんだ付き合いが長いからな。顔を見せれば俺を半殺しにしてくるような奴だ。嫌でも慣れてくる」

「はぅ~………」

「ああ!? チカ………!!」

 

 ついにナカマチさんがダウンした。

 まあ、この中じゃ一番耐性なさそうだもんな。

 逆にこういう時ユイの方がしっかり意識を持ってたりする。何故かは知らんが。

 

「…………慣れって怖いな」

「………カイリキー、運んでやってくれ」

「リキッ」

 

 先生が壁に寄りかかりながらモンスターボールを開いた。出てきたのはカイリキー。咄嗟に支えたオリモトからナカマチさんを受け取り、………お姫様抱っこかよ。

 

「にしても意外だな。オリモトまでやられるなんて」

「………さすがにあれはウケないよ。シャレにならない。ジャキラの方が何倍も楽だったよ」

「ジャキラ?」

「シャドーのナンバー2」

「………ああ、メタグロスかなんか育てた記憶があるわ」

 

 ナンバー2がジャキラというのは知らないがナンバー2のポケモンを育てた記憶ならある。

 

「通りであのメタグロスだけ強かったわけだ」

「へぇ、そんな強くなってたのか。なんかすまん」

「これがバトル山を制覇した男が育てたっポケモンかーって思ったなー。ほんとシャドーを抜け出すときはヤバかったよ」

 

 ということはナンバー2とやり合ったのか?

 みかけ以上にアグレッシブな奴だな。

 

「………どうやら少しは落ち着いてきたみたいだな。そんだけ過去の話に花を咲かせられれば大丈夫だろ」

「まあね。自覚ないだろうけど、半分はヒキガヤのせいでもあるからね」

「なんでだよ」

「ほら自覚ない。ユイちゃん、言ってあげな」

「ヒ、ヒッキー………あのね? さっきの、その、サカキ? と対峙してるときね。ヒッキーも同じくらい怖かった」

「……………………あー、うん、なんか、その、すまん………」

 

 まあ、空気を変えたしな。

 にしてもサカキと同じってのがなんか癪に触るな。

 

「ううん、いいの。だってヒッキーはあたしたちを守ってくれたから」

「若干一名意識失ってるけどねー」

「オリモト」

「アイテっ!」

 

 おお、こりゃ珍しい。

 ヒラツカ先生がオリモトにチョップとは。

 

「………ヒキガヤ。その、なんだ………いい大人が教え子に守られるというのも情けない話だが………、その、改めてお前がどういう世界にいるのかをこの目で見た気分だ」

「………なんすか? さっさと足を洗えとかそういう話ですか? それならもう手遅れっすよ。俺は最初から、こっちの世界に足を踏み入れる前からマークされてるんで。どう足掻こうが結局はここに帰ってくるんです」

 

 ほんと、全てはあの出会いから始まってしまったからなー。別に後悔なんてしてないけど。あそこで俺が家の中に入れなかったら、今頃こうしてポケモントレーナーなんてやってないだろうし。

 適当に働いて、適当にサボって。そんなつまらない日常にいるはずだ。

 

「いや、今さらどうこう言うつもりはない。君のおかげで私たちが救われてきたのは事実だ。ただ、その、なんというか、守られているだけではどうにも腹の虫が治らん。君は私の教え子だ。それは今も変わらない」

「………先生、人が良過ぎでしょ。自分から損な方を引こうとするとか、病院行った方がいいんじゃないですか?」

「医者に診てもらったところ、治らんそうだ。不治の病。与える薬もないらしいぞ」

「………ま、それは先生に限った話じゃないっすね」

 

 与える薬もないとはよく言ったものだ。確かにもう手のつけようがない。当事者の俺はもとより、こいつらの親ですら無理だろう。最終的に遅めの反抗期とでも言ってしまえば何もかもがすんなり行っちゃう年頃だし。

 

「サカキの忠告は忠告で終わらないってのに。死んでも文句言うなよ」

「大丈夫大丈夫っ!」

「…………スイクンいるし、そう簡単に死なないでしょ」

「あ、あたしだって強くなったもん! バカにするなし!」

「いや、してねぇけど」

 

 誰ももうお前を弱いだなんて思わないだろ。てか、スイッチ入るとヤバいまである。

 

「ヒキガヤ」

「はい? 今度はなんッ?!」

 

 え、ちょ………え?

 

「ぷはっ………、おまじないだ。今の私にしてやれるのはこれくらいだからな」

 

 ほんのり顔を赤くしながら、ヒラツカ先生が不敵な笑みを浮かべた。

 え………、マジ?

 

「ちょ、先生何してんですか?! てか、え、ちょ、先生もなの!?」

 

 ぽかーんとしていた中、最初にユイが口を開いた。

 うん、ほんと。何してくれちゃってんの?

 

「何って大人のファーストキスだ」

「や、そうじゃなくて………え? ファーストキス………?」

 

 ユイが固まるのに合わせて冷たい風が吹いたような気がした。

 ああ、やっぱり初めてだったか。

 

「………この歳で、な」

「だ、だからっていきなりヒッキーを襲わなくても! そんなにキスがしたいならいくらでもいるじゃん!」

「………ほう、君は私が誰彼構わずキスする女だと? 悪いがわ、私だって………………女の端くれだぞ。キス一つで夢見るような乙女なんだぞ………………」

「ッッ!」

 

 今度はユイの顔が赤くなっていく。

 まるで恋する乙女のように。いや、現在進行形で恋する乙女だったな。

 うん、なんというか新しい恋に落ちたと表現するのが一番しっくりくる。つまり、あれだ。浮気現場に遭遇してるというわけだ。

 

「………先生、それずるい……………」

「女はずるい生き物なんだろ?」

「そ、それは………そうですけど……………」

「まあ、別に君たちからヒキガヤを取ろうってわけじゃない。なんというか………けじめみたいなものだ」

「けじめ、ですか………?」

「私の直感が何か大きな災いを感じ取っている。だからこそ、今この身をヒキガヤに捧げるという誓いの証を立てたのだ」

「………俺、フラグ建てた覚えないんですけど?」

 

 ハルノやユキノなら分からなくもない。ああ、このシーンは建ったかもなっていうのがいくつも思い当たるが、事ヒラツカ先生に限って言えば全くそういうシーンが思い当たらない。実際、先生を助けることなんてなかったのだし。俺が手を貸す必要がないくらい、その場での判断を的確に下せる人だからな。

 

「ま、そうだろうな。実際私もいつどこでとか、そういうのは覚えちゃいない。ただ、『君の教師』という役目を終えても尚、私は君のことをずっと気にかけてしまっている。それはもうユキノシタやユイガハマとは比べ物にならないくらいにな」

「…………ま、こんな問題児、気がかりになってもおかしくないでしょ」

「そうだな。前例としてハルノもいる。だが、やはり私は君を特別視しているのは事実だよ。教え子としても、男としても」

 

 ッッ?!

 

「………ほんと、女はずるいっすね」

 

 今まで男の落とし方も知らなかった先生が。

 こんな胸の内を明かすとなるとこうもずる賢さが出て来るとは。ユイかイロハかコマチか。一体誰に影響されたというのだろうか。

 いや、考えるまでもない。あの三人であり、加えてユキノとハルノもだろう。あの二人が素直に胸の内を明かすなど、先生からしてみれば異例の光景だっただろうし。

 しかし、それが望まぬ姿ではなかった。むしろ喜ばしいことなのだろう。だから先生も彼女たちを真似て胸の内を明かしてくれた。

 

「………先生、いやシズカさん。俺の家族になってください」

 

 だったら俺がとるべき行動は一つしかない。

 

「っ?! はい、喜んでっ!」

 

 俺は初めて恋する大人の姿を目にしたのだろう。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 コマチたちと合流した後、プラターヌ研究所にて報告会となっていた。時間はもう夕食頃になる。

 

「それで、一体何があったというのかしら?」

 

 大広間で女性陣により創作された料理を口に放りながらの報告会。

 これまた上品にナイフとフォークばかり使う料理ですよ?

 やっぱユキノシタ姉妹の家事力やべぇ。

 

「ああ、なんか臨時ニュースも入ったらしいから知ってるかもしれないが、コウジンタウンの化石研究所が真っ二つになっていた。やったのはデオキシス。指定機密のポケモンだ」

「………なるほどね。だからデオキシスについて情報を求めていたのね」

「………それにしてもよく分かったね。ヒキガヤ君も直接遭うのは初めてなんじゃ………?」

「…………俺の元々の所属、覚えてます?」

「…………所属………あっ、理事直属の懐刀………………」

 

 ようやく気づいてくれたか。

 そもそもそんなところにいなければ、こんな情報通になっているはずがなかろう。

 

「そうです、俺が色々と情報を持っているのはそのおかげですよ。指定機密だろうがなんだろうが、大体の情報に目を通している」

「じゃ、じゃあ………」

「デオキシスについても知ってますよ」

「………なにそのチートな役職」

 

 未だにむっすーとしているルミルミ。どうやらさっきのヒラツカ先生のやり口がお気に召さなかったらしい。

 

「そこら辺は今更というものよ。この男、弱冠十三歳でその席にいたのだから」

「十三、歳………」

「ユキノシタ、アンタはヒキガヤのこと色々と知ってるみたいだけど」

「そうね、あなたたちよりは知っているわ。でも、知らないことだらけよ………」

 

 カワサキの質問に遠くに目をやりながらユキノが答えた。

 これはアレだな。フォローしておかないとスイッチが入りそうだな。

 

「ユキノ、俺はまだその時の記憶を思い出しちゃいない。ただ、今夜。多分思い出すと思う」

「い、意味が分からないわ。あなたの記憶が戻るのはダークライの気まぐれなのでしょうっ?」

「…………日常的な記憶は気まぐれで食ったり戻したりしている。だが、こういう緊急事態に繋がる記憶は、今日のような日に戻ってくるんだ。…………ようやくそれに気がついた」

 

 こっちに来てからというもの。

 重要な記憶は大体何か起きる前に、いや記憶に繋がる何かが起きる時に戻ってきているといった方が正しいか。

 ………ん? ちょっと待て。そうするとダークライって未来が見えてるんじゃ………………。

 

「………それはつまり………」

「ああ、明日何かが起きる。これは決定だ。だが、まだ記憶は完全じゃない。だから今夜その記憶を取り戻す」

「………ようやく………ようやく、なのね………………」

 

 おおう、涙腺が決壊した。

 そんなに俺の記憶って大事だったのん?

 

「そう喜んでもいられないわよ、ユキノちゃん。ハチマンが記憶を取り戻すということはつまり………、計画の全てを思い出すということなのよ。それにハチマンが耐えられるかどうか………」

「あー、計画なら全部思い出してるぞ?」

「へっ?」

 

 ハルノが素っ頓狂な声を上げた。

 あー、やっぱ気にするなと言っても気にしちゃうよなー。ハルノにとって俺に計画の全てを知られるのは相当不安なことだろうし。

 

「『レッドプラン』に『プロジェクトM's』。それと『レジェンドポケモンシフト計画』だったか?なんかまだヤバそうな計画があるってことも」

「っ?!あ、あ…………」

 

 こちらも涙腺が決壊。

 この姉妹、結構涙腺緩いよな。

 

「ま、ある意味サカキが出した答えは正しかったのかもしれないな。最終的に俺を利用しようとしているようだが、訳ありヒトカゲをパートナーにした俺に、使いこなせるよう計画を立てたんだから」

「………憎まない、の………?全ては私が元凶なのよ?」

「憎む? むしろ感謝してるまである。多分、あの計画がなければ俺はリザードンを暴走させて、街一つを破壊してたかもしれないからな。後はサカキが仕込んだ『レジェンドポケモンシフト計画』をどうモノにするか。それだけだ」

 

 ほんと、逆に感謝してるっての。

 俺はリザードンにーーヒトカゲに選ばれたんだ。選ばれた以上、俺はトレーナーになると誓った。だが、そのヒトカゲに難有りというのならば、俺一人ではコントロールするのに限界があっただろう。それこそ自力でチャンピオンになれる実力に至ったとしても、その先でやはり暴走させてしまう。そうなれば手のつけようのない大惨事になり兼ねないのだ。だからそうならなかったのは、計画のおかげということである。

 

「あ、あの………あんまり話についていけてないんだけど………、ヒッキーはハルノさんを見捨てたりしないってことだよね?」

「しねぇよ。悪いな、さすがに今の話は難しすぎるよな」

「ううん、いいの。分かんなくても、ハッチーの過去をちょっと知れたから。あたしたちが普通に生活してる裏でハッチーががんばってたってことが知れたから」

 

 ああ、ほんとこの嫁は抱擁力があり過ぎる。

 どうしてこういうことに関しては寛大なのだろうか。

 

「すまない………。大人の私たちが何も気づいてやれなくて………。一度スクールが襲われた時に助けてもらったというのに私はお前が危険なところに身を置いているだなんて気づいてやれなかった。本当にすまない」

 

 逆にこっちはまだ引きずってるし。

 

「シズカさん、アホですか? シズカさんたちがコマチを守ってくれてなかったら、俺は好き勝手に暴れることも出来ませんでしたよ」

「ヒキガヤ………」

 

 ぽう、と頰を染めるヒラツカ先生。

 まずったな。名前で呼ぶんじゃなかった。

 どんだけ呼ばれ慣れてないんだよ。分かるけど。

 

「ね、ねぇお兄ちゃん? なんかヒラツカ先生が恋する乙女になってるんだけど………」

「さっきキスされてた。んで家族になろうって」

「るるるルミ?! そそそそれは本当なの!?」

「本当。その証拠にハチマンの呼び方が名前呼びに変わってる」

「………違和感はそこかーっ!」

 

 コマチ、ようやく解に辿りつきました。

 ルミルミ怖い。ほんと怖い。何が怖いって目にハイライトがなくて怖い。

 

「あっははははは…………、やっぱり驚くよね」

「せせせ先輩! ようやく自覚したんですね! おめでとうございます!」

「つつつツルミ?! そそそそれはどういう意味だ!?」

「先輩、全然自覚してないんですもん。あんな一人の生徒に卒業してからも肩入れしてたら誰だって気づきますって! 気づかないのはなぜ自分がそうまでして動いているのか分かっていない先輩だけです!」

「~~~~!」

 

 なにこのかわいい生き物。

 すげぇ顔が赤いんですけど。

 

「あっれー? シズカちゃん、そういうことだったのー?」

 

 あ、魔王が降臨した。

 怖ぇ、魔王マジ怖ぇ。

 

「で、お母さんはいいの?」

「へっ?」

「………なんでもない。自分だって自覚ないじゃん………」

 

 んん?

 ルミルミ、今の発言はどういう意味なんだっ?

 ちょっと気になるから詳しく!

 

「でさー、ヒキガヤ。デオキシスとギラティナ相手にどう戦うの?」

 

 おっと、ここで新たな爆弾魔が現れたぞ。

 なぜ今このタイミングでいうかね。

 

「ハチマン、今のはどういう意味かしら?」

「い、いや………。だからその………デオキシス以外にギラティナまで出てきたといいますか……………」

「ハチマン? ギラティナって言った? あのシンオウ地方の神話に出てくるギラティナって言った?」

「い、イエスマム」

 

 魔王がこちらにゆらりゆらりとやってくる。

 超怖い。

 さっきのバトルがかわいいと思えるくらいには超怖い。

 

「は、ハッチーは! ハッチーはあたしたちを救うために使った力のせいで狙われてるの! 最終兵器を止めるために使った力のせいで狙われてるんだから!!」

「ゆ、ユイ………?」

 

 バンッ! とテーブルをたたいたかと思うとユイが立ち上がって激高した。

 

「ふふっ、それくらい知っているわよ」

「そそ、私たちはいずれ来るギラティナの脅威の対策も練っているのよん」

 

 だが、この姉妹。

 全くひるんでなどしない。

 まるで彼女がこう言うであろうと予測していたかのように。

 

「そう、なの………?」

「ええ、ハチマンが最終兵器を止めるためにダークライの力を使ったという時点で、大体のことは想定していたわ。そのうちの一つがギラティナの反撃」

「ダークライのダークホールは反転世界ーーギラティナの住む世界に繋がっているの。だから今回最終兵器の力がその世界に吸収された。そうさせるしか手がなかったからだけど、それでギラティナが快く受け入れるなんてことはないわ。必ずハチマンを狙ってくると考えていたの」

「でもまさか、それがこの惨事と同時くるだなんて予想だにしてなかったわ。デオキシスとギラティナ。どっちも厄介ね」

 

 ……………。

 なんでこの二人知ってるのん?

 俺話したっけ?

 

「え、ていうか、なんでそんな知ってるのん? 俺話したっけ?」

 

 話したかもしれないけど、俺の知らないところでそんな対策を立てていただなんて………。

 いや、本人交えろよ。

 

「あら、忘れたのかしら? 私にはクレセリアがいるのよ?」

「…………っ!? お前、クレセリアと対話できるようになったのか?!」

 

 忘れていた。

 そうだ、ユキノにはクレセリアがいる。

 まだまだ使いこなせていたにと言っていたが、それは半年も前のこと。

 半年もあれば、対話にまで持ち込めていてもおかしくはない。

 というか、なぜ今まで俺はそのことを忘れていたのだろうか。

 

「取り合えず、デオキシスね。ロケット団がいるということは必ず絡んでくるでしょうね。敵はデオキシスだけじゃない」

「姉さん、それだけじゃないわ。あの臨時ニュース、フレア団の科学者たちによるものだったわ」

「な、なんですって?!」

「ユキノシタ、どういうことだ?!」

 

 ロケット団が絡んでくるのは間違いない。というか引き金はサカキの可能性が大なのだからな。

 それよりもユキノの今の発言。フレア団の科学者だと? あいつらは今牢に放り込まれているんじゃ………。

 

『フンフフフ』

 

 ッ!?

 いた、奴だ!

 あいつならやり兼ねないし、できてもおかしくはない!

 

「ハルノ、今すぐフレア団の科学者が牢にいるのか確認してくれ!」

「わ、分かったわ!」

 

 まずい。

 これは非常にまずい。

 デオキシス、ギラティナ、ロケット団の他にもう一つ、敵ができてしまった。

 

「ヒキガヤ君、どういうこと?」

「今の話が本当なら、フレア団の科学者は表に出てきている。それも違法なやり方で」

「えっ………」

「で、でもそんなの誰が………?」

「当然中から上げることはできない。外から誰かが干渉するしかない。だけど、憲兵が見回りについている。というか重要案件だから見張りがついているといった方がいいかも。だけど、それを潜り抜けてフレア団を世に放った奴がいる。そういうことでしょ?」

 

 さすがオリモト。

 こういう話の読みは一番早いな。

 

「ああ、そしてそいつの名は」

「ハチマン! ダメ、やっぱりフレア団の科学者たちは揃いも揃っていなくなっていたわ! 見張りが全員やられていたみたい!」

「Saque……………、やってくれたな……………」

 




次回からは番外編の方にいく予定です。まだ製作段階ですが、まずは番外編の方から完結させていきます。


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29話

長らくお待たせしました。
続編の方、再開です。


 ポケモンリーグ五日目。

 清々しい朝、というわけでもなく天気は曇り。

 曇天の空は今にも雨が降りそうな重たさを感じさせている。

 

「…………記憶は、俺がそう願ったからだったんだな」

 

 夢により思い出した過去。

 それは何とも血に塗れたものだった。

 さすがにあんな記憶は忘れたままでいたかった。だけど、そういうわけにもいかない。俺は俺たちの力から逃げたんだ。だがら向き合わなければならない。

 それに甘い考えかもしれないが、何故か暴走を止められるユキノがいる。恐らくアレがハルノがユキノに託した力なのだろう。

 

「ユキノだけじゃない。今の俺たちには仲間がいる」

 

 俺は起き上がって、キッチンへと向かった。

 まだ起きている奴は少ないだろう。

 

「あら、ハチマン。おはよう」

 

 と思っていたが、やはりこいつは早起きである。

 

「おはようさん、ユキノ」

 

 エプロン姿を見るに朝食を作っているのだろう。

 

「それで、思い出せたのかしら?」

「ああ、全部思い出した」

「そう」

 

 隠してるつもりなんだろうが口角が上がってるぞ。

 

「…………お前、こっちで初めて会った時、俺のこと知らないとか言ってたくせに、どんだけ俺の後を追っかけて来てたんだよ」

「〜〜〜ッ!? そ、そそそれはアレよ。アレがアレだから」

「言い訳が思いつかない俺かよ」

 

 ユキノもデレのんになると語彙力低下するよなー。

 ハルノの幼児化とはまた別ののパターンをお持ちのようで。

 

「………記憶を全部失くしたあなたに会うのは初めてだったのよ、バカ」

「じゃあ、何か? 俺にツンケンしてたのも俺が記憶を自ら捨てたからか?」

「そ、そうよっ! 全部、全部あなたが忘れてしまうのが悪いのよ。それなのにこっちに来てからも記憶をまた失くすかもとか言われて、正直世界なんてどうでもいいとさえ思ったわよ!」

「そうか、悪かったな………」

 

 ほんとにね。

 あそこまで追いかけて追いかけてやっと辿り着いたと思ったら記憶捨てます、だからな。んでもって、偶然か必然か、このカロスで再会して記憶を取り戻しつつあるとか言ってたくせに、また失くすかも、だぞ?

 過去の俺、仕方がないとは言え、やり過ぎだな。

 

「ほんとよ。悪いと思うならここで誓いなさい。絶対記憶を失くさないで」

「ああ」

 

 それはもちろん。

 今となっては大事な記憶だ。大事だと言えるまで俺の中で受け止められるようになったのか、それとも大事だと思える記憶で塗り潰されたのか。そんなのは俺にも分からないが、捨てたくない、失くしたくないというのが本音としてある。

 

「朝からラブラブですなー」

 

 げっ、ハルノ………。

 気配を消して現れるんじゃありません。しかも冷蔵庫からひょっこり顔を出すとか、かわいいじゃねぇか。

 

「ね、姉さん!?」

「おはよう、ハチマン。全部、思い出したんだね」

「おかげさんで」

 

 そういえば。

 ハルノは、あの時ハチ公が俺だってこと気づいていたのだろうか。

 

「なあ、ハルノ。ロケット団の討伐部隊組んだ時、ユキノと喧嘩してたりしてたけど、あの時ハチ公が俺だってこと気づいてたのか?」

「…………知らなかったわよ。なんか途中からハチ公とか黒マントとか白アーマーとか、ロケット団が口走っていたけど、それがあなたたちだったなんて思いもしなかったわ。あれから協会内でも忠犬ハチ公の名前は噂されてたけど」

 

 へぇ。

 やっぱり知らなかったのか。

 ということは、ユキノから聞いていたリザードン一体でカントーリーグを優勝した奴と忠犬ハチ公が同一人物だと気づいていなかったわけだ。

 

「…………ハチ公だって知ったのは?」

「………………こっちに来てから」

「ぶふっ!」

 

 ユキノが吹いた。

 え? なに? どしたの? 今の笑うとこだった?

 

「ちょ、ユキノちゃん?! 何で笑うのよ!」

「だって、姉さん、仮にも自分の計画の被害者だって言うのに、最初、全く覚えてなさそうだったんだものっ。おかしくもなるわっ」

「くっ………、いいよねー、ユキノちゃんはー。ずっーと、昔からずっーとハチマンにくっついていて」

 

 拗ねた。

 ハルノが拗ねた。

 うん、拗ねたハルノもかわいい。

 

「…………一緒にいるからこそ、辛いことの方が多かったわ」

「………それ言われちゃうと何も言えないんだけど………」

 

 やめて!

 なんか心が抉られるから、そっと俺を出すのやめて!

 よし、話題を変えよう。

 俺から話題の提供とかどこのハヤマさんですかね。今俺超リア充してるな。

 

「なあ、なんかどうもユイやイロハも何度か助けてたみたいなんだけど」

「あら、それは初耳ね」

「どうして助けたの?」

「どうしてって、そりゃトキワシティでロケット団の人質になったり、クチバシティでチンピラの暴動に巻き込まれたりしてたからとしか…………」

 

 何もなかったらそもそも助ける必要もないだろ。

 

「因みにその時ハチマンはどんな格好してたの?」

「黒マント」

「あー、じゃあ気づいてないだろうねー。二人ともいろいろ話してくれたから知ってるけど、イロハちゃんはうろ覚えって感じで気づいたらヤドキングがいたって」

 

 話しちゃったのか。

 イロハはいいとして、ユイは覚えてそうだしなー。

 

「そりゃ記憶食ったからな」

「ユイちゃんもアレだよ? 黒いマントのヒッキーがリザードンでドドーン! ってやっちゃったって言ってた」

「それ思っきし俺だって認識してるよな。あいつ、んなこと一言も言ってなかったぞ」

 

 覚えてるレベルを超えていた。

 やはりユイはそういうことに関して強いようだ。

 

「忘れてる人に言ったところで寂しいだけだもの。言うはずがないわ」

「へいへい、俺が悪うございました」

 

 ユイって俺のこと、どんだけ見分けつくんだよ。

 ちょっと変装でもして確かめたい気分だ。

 ああ、だからといって外ではやらないぞ。どんな目で見られるかなんて想像できてしまうからな。

 

「あとは、何かあった?」

「シロメグリ先輩のあのほんわかした感じが今尚変わってないことに泣いた」

「メグリは昔からああだからねー」

 

 いやー、あの人歳とらないよな。

 俺の一個上なはずなのに、俺より歳下に感じてしまう時がある。まあ、見た目の問題だけど。中身は俺以上に大人です。何ならヒラツカ先生よりも大人なんじゃないだろうか。

 

「他には?」

「何だよ、まだ話せって言うのかよ。いいけどよ。あー、キモリを拾って遊ばせたらむちゃくちゃ強かった」

「キモリってあのジュカイン?」

「そうそう、あいつ帰り際に約束したことを律儀に覚えていたのか、俺しかトレーナーとして認めなかったみたいだし。というか俺のポケモンになるべく修行をしてたみたいだし」

「だから言ったじゃない、罪な男ね」

「あの時絶対違う意味で言ってたよな、ユキノ」

「さあ、どうかしら」

 

 うん、伝説のポケモン倒してますからね。

 そんなのを相手させられたら、強くもなるってな。つか、他が弱く感じてしまうまである。

 

「まあ、でも。野生のポケモン拾っておいて、トレーナーとして指示も出してあんな体験をさせていれば、あなたしか認めないわよ」

 

 デスヨネー。

 うん、俺も分かってた。

 なんであんなインパクトのデカい体験させちまってるんだよ。そりゃ、トレーナーを俺しか選ばなくもなるっての。

 

「えっと、お姉さんにも分かるように説明して欲しいんだけど」

「あいつ、バトルフロンティアでレジロック相手に相打ち取ってるんだよ」

「…………それってアレかしら?好き勝手暴れては好き勝手に行動して、連絡すら誰も取りようがなかった忠犬ハチ公の時かしら?」

「…………根に持ちすぎだろ」

「…………それはハチマンが悪いわね」

 

 そんなに好き勝手やってたか?

 招集があれば必ず参加するし、会議の内容も聞いてもないのにユキノから聞かされるし、ロケット団には一番恐れられてたし。やることやってると思うんだけどなー。

 それに………。

 

「何でだよ、毎度毎度人の血見てたら頭おかしくなっても普通だろ。むしろそんなんでどうにかなってた俺を褒めてほしいくらいだ」

「しれっと危ないことしてるじゃない。そういうところよ」

「やったのは俺じゃない、白アーマーの方だ」

 

 俺といたんじゃあの暴君様のプレッシャーに気圧されてるだろうし。おまけにダークライもいるんだ。常人が正常にいられるわけがないんだ。だからこそ単独行動をとってたってのもある。

 まあ、俺も例に違わず狂っていたがな。血を見過ぎたせいだけど。

 

「………結局、その白アーマーって誰なのよ」

「ユキノ、覚えてるか?」

「何をかしら? 5の島の倉庫でミュウツーに襲われて、ハチマンがハチ公で、私たちをテレポートさせて証拠隠滅したことなんて、これぽっちも覚えてないわ」

「覚えてんじゃん。超覚えてんじゃん」

「その後アルフの遺跡で共闘してたなんて口が裂けても言えないわ」

「いやもう裂けてるから」

「で、シルヴァディって何?」

 

 何だよ、皮肉を口にしたかと思えば唐突に質問とか。

 ちょっと返す言葉を選ぶ間を下さい。

 こんなんでもやっぱ俺は俺なんだから、会話とか超苦手なままなのよ?

 

「唐突だな。アレはあの場で考えた偽名だ。彼の暴君様はバレると面倒い奴だし」

「ハチ公とミュウツー………トンデモナイコンビだったのね」

「いや、コンビ組んでたのダークライの方。俺はリザードンと後ろからちまちまとやってただけだ」

「そのちまちまを私たちでは大技に値すると思うのだけれど」

「ブラストバーンをバンバン撃ってからな」

 

 何ならそれしか使ってないかもしれない。大袈裟だが。

 

「飛行技もね」

「あー、あれは卑怯だよね。私もそれでリザードン一体にフルバトルで負けてるし」

「姉さん、ずっと黙っていたけれど、この男、まだあるわよ」

「「えっ、まだあるの?」」

「メガシンカ集団を一瞬で倒してしまった大技が」

「メガシンカ? 俺、そんな……奴ら…………と………………ああ、あれメガシンカか!」

 

 あの亜種ども、今にして思えば全部メガシンカした姿である。

 

「マジかー、ヤベェな覚醒リザードン」

 

 つまり、リザードン一体でメガシンカ集団を倒したわけだ。後半、暴君様も見守っているだけだったし。というか、うん、あの状態のリザードンに手出ししようがないな。

 

「覚醒リザードン?」

「俺たちの成れの果てだよ」

「そうね、キス魔に変わるものね」

「…………そういやしたな、身体が勝手に動いたとはいえ。ごちそうさん」

「へぇ」

「何の脈絡もなくキスよ。正直焦ったわよ」

 

 でもあなたの辛そうな顔を見たらどうでもよくなったわ、と続けた。

 辛そうな顔、か。

 まあ、確かに俺にかかる圧力は半端ないし、それ以前人の血を見過ぎておかしくなってた部分もある。

 

「その割には抵抗一つなかったような…………」

「あら、拒む理由がどこにあるのかしら?」

「……………全く、よく分かんねぇよな。何でよりにもよって俺なんだか」

「そうね、無い物ねだりという奴かしら」

「俺の何が欲しかったんだよ」

「全部よ」

 

 うん、もう慣れた。

 これくらい、いつものことである。

 

「どう思います、ご自分の妹君を」

「うーん、愛が重たいね」

「それ、そっくり姉さんにもお返しするわ。姉さんだって、自分の役目だとか何とか言って死ぬ気でいたこと、忘れてないわよ?」

「うぐ………、だってあの時は本当に私の未来が見えなかったんだもん。そりゃここで死ぬのが運命なのかーって思っちゃうよ」

「それでも、死ななかったじゃない」

「それは……………」

 

 ハルノがチラッとこっちを見てくる。

 いつの話かなんて聞くのは野暮だろう。ハルノが死ぬつもりでいたのなんてイベルタルと戦った時しかない。しかもあれは俺が未来から時間旅行の際に助けたため、ネイティオの未来予知にも引っかからなかった。ただそれだけのことである。

 

「俺が助けただけだ」

「何を言っているのかしら。あなたはあの時フレア団やイベルタルと…………」

「あの時間軸にはもう一人の俺がいたとしたら?」

「そ、それって………」

「心当たりはあるだろ?」

「………………まったく、どうしてこの男は………」

 

 ぶつぶつと文句を言っているユキノは放っておこう。

 

「話が脱線したが、『レッドプラン』『プロジェクトM's』『レジェンドポケモンシフト計画』、この三つ全ての実験が成功した時、一人を除いて俺たちを止めるのは無理だろうな」

「それってやっぱり…………」

「ああ、ユキノしかいない、と思う。過去二度、俺が暴走しても何故かユキノだけは俺たちを止めている」

「姉さんの計画が成功ってことかしら?」

「分からん。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。だから、ハルノ。ユキノがいなければ」

 

 過去二度の暴走は俺がユキノに触れることで落ち着きを取り戻し、結果リザードンの鎮静にも繋がった。つまり、暴走はリザードンにスイッチがあるが止めるのは俺の方らしい。

 俺はユキノがいないと正気を取り戻せない、というかあの圧力に対抗できないのだろう。自分の力ではどうにもできないのかもしれない。

 だったら、最悪の手段も考えておくべきだろうな。

 

「俺たちを殺せ」

「………できないよ」

 

 知っているさ、それくらい。

 無理なことを、酷なことを言っているのは自覚している。だが、今の俺たちに対抗できそうな戦力はハルノしかいない。それも一人で、ともいかないだろう。

 やだなー、俺が真のラスボスになりそうじゃねぇか。

 

「これはハルノにしかできないことだ。それともカロスを消してしまってもいいのか?」

「だったら、あなたを殺す時は私も死ぬわ」

「……………何もタダでヤられるつもりはない。俺だって死ぬのは勘弁だからな」

「うん…………」

 

 こりゃ、こっちもそう簡単に呑まれるわけにはいかないな。ハルノはこういう人だ。他人には見せない一途な一面。それが俺に向けられているってだけで嬉しくなってくる。

 しおらしくなっているのもあってか、俺はハルノの頭に手をやった。サラッとした髪を手で梳いていく。気持ちいいのかハルノの表情が柔らかくなっていくのが見てとれた。

 

「あのー、お三方ー、朝から重たい愛のつつき合いとかやめてくれませんかねー。みなみんが羨ましそうに見てるんで」

 

 イタズラな笑みを浮かべたオリモトが割って入ってきた。その後ろにはサガミとナカマチさんもいる。君たち、ほんと仲良いよね。まあ、一緒に仕事もしてるんだしそうなるか。

 

「ちょ、誰がそんな目で見てたっていうのよ! うちは別に羨ましいとか思ってないんだから!」

「はいはい、ツンデレおつー」

「カオリちゃんだって!」

 

 くいくいと。

 傍らにいたドクロッグがサガミのパジャマの裾を引っ張っている。

 

「な、何よドクロッグ………」

 

 じーっと見つめてくるドクロッグ。

 胸の毒袋が膨らんだり萎んだりで何を考えているのかさっぱり分からない。

 

「何なのよ、その目は…………」

「ケッ………」

「あーもー、何なのよ!」

「ケケッ」

 

 未だにこうなのね。

 ほんとサガミの何を気に入ったんだよ。

 なんだかんだアレだぞ?サガミのポケモンの中では一番強いぞ。最初のポケモンであるメガニウムよりも強いときた。

 マジでなんなの、このドクロッグ。

 

「これってアレでしょ? ヒキガヤに嫉妬してんじゃないの?」

「はあ?!」

「カオリ、何言ってるの………?」

「だってドクロッグってみなみんのこと好きじゃん?」

「ま、まあ、そうかも、しれない、わね」

 

 あ、そこは否定しないんですね。

 なんだかんだ、サガミもドクロッグに愛着があるようだ。じゃねぇとボールに収めるなんてしないよな。

 

「なんだお前ら。朝から元気過ぎないか?」

「あ、シズカちゃん」

「ハルノ、これは何の騒ぎだ」

「ハチマンが記憶を取り戻したらしいの」

「ほー…………」

 

 ちょっとー?

 なんつー格好してるんですか。キャミソールにホットパンツとか、妙な色気出さないでくれますー?

 目のやり場に困るんですけどー。

 

「ヒラツカ先生、一応ここには男子もいますのでそのような格好で歩かれると」

「硬いこと言うなよ、ユキノシタ。男っていってもヒキガヤかザイモクザだけじゃないか」

「あとトツカくんもです」

「あ、あー………そうだったな。…………私より可愛い男子なんぞ、女でいいんじゃないか?」

「右に同じ」

 

 まさか先生がそういう風に見ていたとは。

 やはりトツカは尊い存在ということだな。

 

「…………ハッチーの変態」

「うおっ?! ユイッ?! ビビるだろ、そんな登場の仕方とか」

 

 ぬっと。

 カウンターからぬっとユイが現れた。

 ジト目が痛い。

 

「あら、おはよう、ユイ」

「うん、おはよ、ゆきのん!」

 

 超嬉しそうに超早口で。

 早口過ぎて『おはゆきのん』に聞こえたなんて言わない方がいいだろう。変なあだ名をつけないでくれるかしら、このおはちまん! とか言われそう。

 なんだよ、おはちまんって。『おはよう』と『ハチマン』を合わせてみたが、意味のない造語にしかならなかったな。それ言ったら『おはゆきのん』も一緒か。つまり、ユイは造語製造娘って………あ、そもそも聞き間違えた俺が悪いんだった。本人はそんなこと一言も言ってなかったわ。

 

「みんな朝からうるさい。ばっかみたい」

 

 声のした方を見れば、小さいユキノがいた。

 あ、ルミルミだったわ。

 みんな寝起きだと一瞬誰だか分からなくなるよな。

 

「ルミちゃん!」

「おはよう、ツルミさん」

「ん…………おはよ」

 

 あ、そっぽを向いた。

 あんなこと言っておきながら挨拶されたら返すのね。というかユイとユキノには素直なのか?

 

「というかユイちゃん、いいの? すっぴんでしょ?」

「へっ? ハッ!? ひ、ヒッキー、こっち見るなし!」

「はっ? いや、なんで俺が悪いんだよ。別にすっぴんでも問題ないだろ。見ろ、先生を。寝起きのまんまだぞ? 頭なんかボサボサもいいところだぞ? 化粧なんか以ての外だ」

「あー、うん…………こうはなりたくないよね」

 

 ふわ〜っとあくびをしている先生を見て、ユイが苦笑いと強い決意を抱いた。反面教師としてはいい素材だな。

 

「おい待て。何故私を引き合いに出す。それとユイガハマ、それはどういう意味だ」

「シズカちゃんさー、もう少し気を使ったらー? ハチマンも色気のあるシズカちゃんの方がいいよね?」

 

 ハルノ、確かに俺が反面教師の例として出したけど、俺に返すなよ。返答に困るだろうが。

 

「うくっ、俺に振るなよ。まあ、シズカさんは大人の女性ですし?もう少し気を使った方が美しくなると思いますけど。というか破壊力は一番あると思ってるまでありますね」

「うっ………、君はよくそういうこと平気で言えるな。いや、言えるようになったと言った方が正確か」

「ま、俺もそこの姉妹に散々言わされて来てますからね」

 

 いやね、恥ずかしい台詞とか散々言わされて来たからね。何ならハルノには壁ドンとかもやらされたからな。今の俺はちょっとやそっとのことじゃ、動揺しませんって。

 

「なら言葉の威力というのも理解しておいて欲しいものだな」

「あ、ひょっとしてシズカちゃん、トキメいちゃった?」

「バカを言うな、ハルノ。わ、わわわ私はそそそそんなことでトキメくわけないだろっ!」

 

 えー、アレでトキメいちゃったの?

 先生、チョロすぎでしょ。

 

「うわー、超動揺してるー」

「先輩、今すっごい乙女な顔してますよー?」

「ツツツツルミ?!ななな何を言ってるんだ?!」

 

 そしてまた一人。

 ひょっこり背後から現れては爆弾を投下していくツルミ先生。何でこの人は煽るかね。俺がもう煽ってるんだから、それ以上はヤバいでしょ。鉄拳制裁来ますよ?

 

「はいはい、二人とも先生をからかわない。姉さんも自分が言われて恥ずかしいことは言ってはダメよ」

「いや、ハルノの場合、その恥ずかしさが快感になるから無理だ」

「ちょっ!? は、ハチマン?! なな何言い出してるの!?」

「事実だろ?」

「こ、この鬼畜っ!」

 

 ちょっと仕返しのつもりが的を射ていたようだ。

 マジかー、この人ドMだったのかー。

 そんな予感はしなくもなかったが、知りたくなかった情報でもある。

 

「………………そうね、そんな嬉しそうな顔をしてるなんて実の姉ながら………引くわ」

「やめて! ユキノちゃんに嫌われたらお姉ちゃん、泣いちゃう!」

「泣けばいいじゃない」

 

 

 この姉妹。

 最近立場が逆転してる時があるよな。

 まあ、それだけユキノがハルノに遠慮がなくなったってことなんだろうけど。

 

「あれ? コマチは?」

 

 あいつが起きてこないとか珍しい。

 

「コマチちゃんなら今シロメグリ先輩とバトルしてるよ」

 

 そんな天使の声で報告してきたのは何を隠そうトツカである。汗をタオルで拭う姿に目が奪われてしまう。

 

「オールマイティとかウケる!」

「やめろ! オールマイティとかいうな!」

 

 今頃どっかの腐女子が鼻血を吐き出して、おかんに擬態しろと言われてることだろう。

 ああ、思い出しただけで身震いしてきた。

 

「何故また急に?」

「昨日負けたからね。それにコマチちゃんはゴンくんがじわれを使えることも知らなかったし、キーくんはまだ進化が残っている。負けた点も含めた復習がてら強くなろうとしてるんだよ」

 

 あー、カビゴンとオノンドな。

 じわれを覚えていたり、まだ進化してなかったり。

 いろいろ課題はあるもんな。オノンドが進化したいかを含めて、それを一つ一つクリアしていかないと。

 

「ありがとうハチマン。コマチちゃんをトレーナーとして育てさせてくれて。僕、改めて昔の自分を振り返ることができたよ」

「いや、礼を言うのはこっちの方だ。俺はコマチのことをあまり見てやれてなかったからな。あそこまで強くなったのは間違いなくトツカのおかげだ」

 

 なぜトツカが礼をいうんだよ。お礼を言いたのはこっちだっていうのに。

 俺はイロハばかりに気を取られてコマチを見てやることができていなかった。確かに役割分担ということで指導に当たるペアを組んだが、だからと言って実の妹の成長を見てやらないというのはひどい話である。

 

「ちなみに今はどっちでバトルしてるの?」

「キーくんの方だよ。いやー、ゴンくんの成長っぷりには驚いたよ。ニョロボンがじわれに呑まれちゃってさ。まだまだ威力は足りてないけど、完成までそうかからないんじゃないかな」

「マジか…………」

 

 イロハといいコマチといい、一撃必殺までモノにしてしまうのかよ。

 怖いよ怖い。あの二人の成長スピードにはたまげたものだわ。

 

「いいなー、あたしも一撃必殺使いたいなー」

「やめとけ。その前にユイはルカリオとのアレを完成させた方が強くなると思うんだが」

「そっかなー」

「そうだよ、ユイちゃん。あれはユイちゃんにしかできない芸当なんだから。言っちゃなんだけど、一撃必殺なんてポケモン側が技を覚えていて、どれだけ使いこなせるようになっているか、そしてトレーナーがタイミングを合わせて指示できるかで結果なんて見えてくるし、所詮それだけのこと。でもユイちゃんのあれは誰にもまねできないことなんだから。まずはあっちを完成させなきゃ」

「………うん、そうだよね! あたし、もっとルカリオと、みんなと強くなる!」

「ああ、そうしてくれ」

 

 ハルノに諭され、ユイが一撃必殺を覚えるのは先の話となった。

 

「さて、なんだかんだ人が集まったことだし、改めて言っておく」

 

 コマチとメグリ先輩、それと姿がないから存在を忘れかけていたザイモクザ以外はここにいることだし。

 改めて言っておくとしよう。

 

「今日ロケット団によって何かが起きる。これはロケット団のボス、サカキから直で聞いた話だ。それと先のフレア団事件で捕まえたあの研究者どもが姿を消した。恐らくSaqueっつー、リーグ戦に出ていた奴が主導で動いているはずだ。あと俺を狙ってデオキシス、ギラティナも動いている。はっきり言って危険な状態だ。ここまでいろんな対策をしてきたつもりだったが、所詮こんなもんだ」

 

 ほんと、避難対策とか設備の整備とか、建物そのものの強化も図ったってのに、結局はこんな状況である。これではフレア団事件となんら変わらない状態である。情報が後手に回り気づいた時には最終局面で。ここまで繋がっているのはセレビィに救われたところがある。だが、今はもうセレビィはいない。あいつはどこかの時間軸へと消えてしまった。

 だからこそ、今回は俺たちで対処しなければならない。

 

「俺は何か起きればその対処に動く。どんなに被害が大きくなろうとも、原因となるモノを探して倒しに行く。だからーー」

 

 だからーーー…………………。

 

「自分の身は自分で守ってほしい。今回ばかりは俺も狙われている。守ってやるなんてことは断言できない。すまん……………」

 

 俺は頭を下げた。

 深々と。

 いつ以来だろうか。

 つい最近のような気もするし、ずいぶんやっていないような気もする。

 記憶が戻ったってのに、曖昧過ぎるんじゃないか?

 

 

「ほんとずるいよねー。私にはあんなこと言ってたくせに」

「そうね。でも慣れたわ。彼はいつもこうだもの」

「だな、いつも一人で抱え込みすぎだと言っているのに」

「ハチマンのくせに生意気」

「あ、あたしだって守ってもらってばっかりじゃいやだもん!」

 

 ふぅ…………。

 全くこいつらは……………。

 

「……………絶対捨ててたまるかよ」

 

 今回は俺が原因なんだ。責め立てたって文句は言われないってのに。

 なんでこうもあっさりとしてるんだよ、さっきから。

 いや、いつもだな。

 俺はいつの間にか、誰かを頼るようになっていた、みたいだ。

 自覚はない。けど、証拠はある。

 

「…………というか今のヒキガヤ、懐かしい気を感じたんだけど」

「気のせいだろ」

 

 気のせいだ、気のせい。

 俺が黒いオーラを出すとか、こんなところでやるわけないだろ。

 

「あ…………」

 

 どうやら気のせいじゃなかったみたいだ。

 ユイが俺の手を握ってきた。その手は若干震えている。

 

「…………きっと、大丈夫だよ。あたしのヒーロー」

 

 詳しいことは知らないけど、何となくよくないことだってことはわかるよ、と震えた目がそう訴えてくる。

 全く、ユイのこういうところは適わないな。

 …………………………昔から。

 

「そうだな」

 

 俺はぎゅっと、彼女の手を握り返した。

 




~お知らせ~

番外編である「忠犬ハチ公 ハチマン」が無事完結しました。
この一か月はそちらを書いており、間が空いたのはそのせいです。
まだ読んでいない方、番外編の方もよろしくお願いします。



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30話

『さあ、カロスリーグ五日目! 今日はなんと! 前半には二回戦も終わり、後半から準々決勝が始まります!』

 

 今日は午前の部でルミと俺がそれぞれバトルし、午後から午前の部の勝者を含めた準々決勝進出者でシャッフルバトルを行う。ここで勝てば準決勝からはチャンピオンも加わり頂点を決めていくことになる。

 ただまあ、そんなことがどうでもよくなるくらいには懸念事項がたくさんあり、内心落ち着かない。

 

『さあ、まずは本日の一戦目! オニゴーリの圧倒的な一撃必殺で駒を進めたルミ選手対ホウエン地方のバーサークトレーナーミツル選手!』

 

 紹介が二人して凄いな。

 まあ、ルミは本戦出場選手の中では最年少だろうし、そいつが一撃必殺を連発してたらこんな紹介になってしまうか。

 それに対して、相手選手。バーサークトレーナーってどういうことだってばよ。俺バトル見てないから何とも言えないんだけど。

 取り敢えず、ルミルミピンチだったりするのか?

 

「あ、ルミちゃん出てきた!」

「ルミー、がんばれー!」

 

 盛り上がってますな。

 ま、お手並み拝見といこうか。

 

「両者、準備はっ?」

「いつでも」

「大丈夫です!」

 

 ホウエン地方のトレーナーとか言ってたよな?

 やっぱり使って来るのもホウエン地方に生息するポケモンなのかね。

 

「それでは! バトル始め!」

「いくよ、ロゼリア!」

「ポワルン、いくよ」

 

 ルミはポワルンか。んで、相手はロゼリア。

 小さいポケモン同士だな。

 

「あられ」

「相手はポワルン。ルビーさんのPOPOと同じポケモン。特徴としては天気を操ることに長けているということ。そして、その天気に応じたタイプに変化すること。あられならこおりタイプ」

 

 おおう、なんかぶつぶつと言っているけど聞かなかったことにした方がいいのか?

 

「ウェザーボール」

「ロゼリア、くさぶえ!」

 

 霰の影響を受け、作り出したウェザーボールが凍りついていく。

 その間にロゼリアが草を口に当てて音色を奏でた。

 だが、霰によって草の音色はかき消されてしまった。

 

「ロゼリア、マジカルリーフ!」

 

 技が失敗したと分かればすぐに技を切り替えてきた。対処が早く正確だ。

 氷の球に向けて無数の葉が飛んでいく。マジカルというだけあって外れることはない。

 

「戻って、ポワルン」

『おおっと、ここでルミ選手! 交代を選択しました! あられによりポワルンが有利になった筈なのに、一体どういうことだっ!?』

『何か、彼女に考えがあるのでしょう』

『それは?』

『さあ、そこまでは。私も彼女のバトルはあまり知りませんし』

 

 あられを放って攻めに転じたかと思ったタイミングでの交代か。

 これは恐らく相手トレーナーへの揺さぶりだろうな。

 

「オニゴーリ、ふぶき!」

 

 うわっ…………、鬼畜にも程があるだろ…………。

 妙なタイミングでの交代で危機感を覚えていたとしても、これは対処のしようがない。

 

「ロゼリア!?」

 

 案の定、ロゼリアは猛吹雪に呑まれた。

 効果は抜群。

 

「………出てきて………………一瞬…………!」

 

 会場が息を飲んだ。

 さっきまでの騒がしさが嘘のようである。

 

「ロゼリア、戦闘不能!」

『な、何ということでしょう!! ルミ選手の交代に警戒を示したミツル選手を、圧倒的な力でねじ伏せました!!』

『………彼女、上手いわね』

『ええ』

『これは意外な展開になってきそうだなー』

 

 プラターヌ博士の意外な展開というのは、ルミが優勝してしまうことなのだろう。

 いや、あり得ない話じゃない。

 俺だって、トレーナーになったルミの実力を知らない。今こうして見せているのなんて、ほんの一部なのかもしれない。俺の予想を凌駕している可能性だって大いにある。

 伝説のポケモンに魅入られたその実力・資質は天性の、本物だろう。

 

「戻れロゼリア」

 

 早くも一体を失ってしまったホウエンのバーサークトレーナーは相当悔しそうだ。

 ま、そこでポケモンのせいにしないだけ真っ当なトレーナーである。

 

「いくよ、ジバコイル!」

 

 二体目はジバコイルか。

 ザイモクザのポケモンでもあるが、でんき・はがねタイプ。特徴として浮いているのがポイントだ。特性が浮遊とかでもない。電気と磁気による影響なんだとか。

 

「オニゴーリの弱点を突いてきたか」

「でも大丈夫よ、ルミなら。あの校長に勝ったんだもの」

「それはそうですけど…………」

 

 どうやらユイは何か釈然としないものがあるようだ。

 ほんと、そういうとこまで頭が回るようになっちゃって………。あんなアホの子だった奴にどんな教育をすればここまで育つのだろうか。教えて、ユキノ先生!

 

「ジバコイル、ラスターカノン!」

「躱して、ぜったいれいど!」

 

 一直線の攻撃を身軽に躱し、ジバコイルを氷の世界へと誘った。

 パキンッ! と氷が弾ける音がしたが、ジバコイルは浮いている。

 浮いている?

 ………うん、浮いている。

 

「な、なんで………っ?!」

「うん、その反応を待ってたよ。ジバコイル、エレキネット!」

 

 ジバコイル。

 奴の特性にはがんじょうというものがある。体力が満タンの時、つまり初撃でリタイアになることはないということ。

 そして、それが意味する果てには、これがある。

 一撃必殺では倒れない。

 

「オニゴーリ?!」

 

 無傷のジバコイルが放った電気の網に囚われたオニゴーリ。その身体は無惨にも地面に転がっている。

 

「ラスターカノン!」

 

 初めて見せたルミの動揺はオニゴーリがやられるまでの時間を稼いでしまっていた。

 気づいた時にはオニゴーリは戦闘不能に…………なっていないだと!?

 

「ギリギリ耐えた…………のか?」

「ヒッキー、あれ!」

 

 ユイの指し示す方を見るとオニゴーリに霰が降り注ぎ、傷が塞がっていくのが見えた。

 これは………。

 

「アイスボディだね」

「回復していたからギリギリ耐えたってのか」

『い、一撃必殺を防いだぁぁぁあああああああああっっ!! 一体何をしたというのでしょうかっ!!』

『ポケモンのレベル差の問題か、あるいは』

『ジバコイルの特性、ですね』

『うん、僕はこっちが強いと思うね。ジバコイルの特性にはじりょくとがんじょう、そして稀にアナライズがある。あのジバコイルの特性はがんじょうだろうね』

『攻撃を誘った、というわけですか』

『ええ、彼も彼でかなりやり手ですよ』

「オニゴーリ、ジャイロボール!」

 

 耐えたからには反撃に出る。

 まず、ジャイロ回転で電気の網をぶった切り。

 

「ジバコイル、もう一度エレキネット!」

「ふぶき!」

 

 ジバコイルは再度電気の網を飛ばし、オニゴーリを捕獲しにかかるも、吹雪によって押し返されていく。

 

「でんじほう!」

 

 だが、それらすべてがブラインドとなって、電撃の一閃を描かれてしまった。

 

「オニゴーリ!?」

 

 またもやピンチ!

 というかあのジバコイル、オニゴーリに対しての相性が良すぎる。

 

「これで今度こそ、動けないかな。ジバコイル、ラスターカノン!」

 

 でんじほうは受ければ最後必ず麻痺する効果を持っている。直撃したオニゴーリも例に違わず痺れをもらっていた。

 

「ぜったいれいど」

 

 おい、待てルミ!

 がんじょうの相手に一撃必殺は………!

 

「ラスターカノンが…………」

「凍りついた……………?」

 

 オニゴーリに直撃する寸でのところで、鋼の光線は凍りついていた。

 

「ふぶき!」

 

 つーか、なぜ動ける?!

 痺れはどうした?!

 

「ジバコイル、ほうでん!」

 

 地面に転がったまま吹雪を放つオニゴーリ。

 ジバコイルはそれを放電し、溶かすことで防御に専念している。いや、攻撃も見越した戦法だった。

 乱れ打ちに放たれる電撃がオニゴーリへと突き刺さったのだ。

 

「オニゴーリ、戦闘不能!」

『まさかまさかの一撃必殺を防ぎ、反撃も許さなかったぁぁぁあああああああああっっ!! オニゴーリ、戦闘不能! 一体何があったのでしょう!』

『やはり最初の一撃必殺を防いだのが大きい。アレで流れを全て持っていかれていたよ』

『ですね』

 

 ああ、やり手だな。

 バーサークトレーナーと呼ばれる所以は分からないが、少なくとも実力者ではある。

 

『ですが、オニゴーリも奮闘してましたね』

『ええ、特性を活用し、技で技を破り反撃の狼煙を上げた。こっちも中々手強いですよ』

「先生、どこが大丈夫なんですか! オニゴーリ、やられちゃいましたよっ!」

 

 ルミが対処できないで、オニゴーリが戦闘不能になったことにユイは危機感を覚えたようだ。

 

「先生、いくらスイクンがいるからって侮ってはいけませんよ。スイクンもポケモンなんで」

「うっ…………」

 

 図星かよ。

 しかもスイクンいることを否定しないし。

 スイクンも危機を予感してるってことなのかね………。

 

「がんじょう………、最低二発は当てないと倒せない。だったら、ラグラージ!」

 

 タイプ相性ではこれほどない確実な選択である。ジバコイルの電気技は無効、はがねタイプの技も効果はいまひとつ。逆にラグラージの地面技は効果抜群だ。

 

「マッドショット!」

「ジバコイル、戻って!」

 

 だが、バーサークトレーナーは対処が早かった。

土玉が届く前にジバコイルをボールに戻した。

 

「ラグラージはルビーさんのZUZUで痛いほど勉強したからね。ジバコイルでどうにかできるなんて考えは持たないよ。ノクタス、ニードルアーム!」

 

 ルビー………?

 あのバカップルの彼氏の方のことか?

 あのバーサークトレーナーはバカップル彼氏の知り合いなのか?

 

「ラグラージ、躱してれいとうパンチ!」

 

 そうこうしてる間に、緑サボテンの攻撃を流して氷の拳で突き飛ばした。

 

「もう一度れいとうパンチ!」

「すなあらし!」

 

 追い討ちを掛けにノクタスへと飛び込んでいくが、ノクタスを中心に砂嵐が巻き起こった。

 それだけならじめんタイプを持つラグラージには対処出来ただろうが、砂嵐の直後にノクタスの姿が消えたとあっては為す術もなかった。

 

「ッ?! 消えたっ!?」

 

 これにはルミも驚きを隠せず、叫んでいる。

 

「ギガドレイン!」

 

 そうこうしている内にノクタスはラグラージの背後に回り込んだらしく、無防備な状態のラグラージから体力を吸い上げ始めた。

 

「マッドショット!」

 

 あいつタフだな。

 体力をごっそり奪われているってのに、一回転して土玉を投げていった。

 

「あれで倒れないのか。でも、後ろがガラ空きだよ。ノクタス、だましうち!」

 

 くさタイプの技を受けてもなお立っているラグラージは初めて見た。どんな育て方をすればここまで育つんだよ。しかも仲間にして半年も経ってないんだろ?

 これはアレか? 仲間にした時には既に優秀な奴らばっかだったとか?

 まあ、アレだ。トレーナーでもないのにスイクンに選ばれてるんだから、優秀なポケモンたちがトレーナーを選んだって言われても納得がいく。というか、そっちの方だと思いたい。

 よもやルミルミに『育てる者』なんて二つ名が付いた日には俺は泣くぞ。

 

「ニードルアーム!」

「カウンター!」

 

 だましうちによる死角からの攻撃を受けたラグラージに、追い討ちを掛けるようにトゲトゲした腕が突き出された。

 だが、ラグラージはノクタスの腕を既に掴んでいた。

 そして背負い投げで地面へと叩きつける。

 ドシンッ! という痛々しい音が会場を包み込んだ。

 

「姿が見えなくても、直接攻撃の時なら捕まえることはできる。ラグラージ、れいとうパンチ!」

 

 背中へのダメージにより起き上がれないでいるノクタスの腹に容赦なく氷の拳が叩きつけられた。

 

「ノクタス?!」

 

 ノクタスの周りはクレーターと化し、当のノクタスは凍りついて動かない。

 

「ノクタス、戦闘不能!」

 

 審判により判定が下された。

 これで再びルミが一歩リード。

 

「カウンター、覚えてるんだ……………」

「一撃必殺も使えるし、メガシンカも普通に使ってくる。ほんと強いなー」

 

 ユイもコマチもルミのトレーナーとしての資質が相当なものだということを改めて思い知らされた、という顔をしている。

 

「…………ねぇ、ヒキガヤ君」

「はい? なんすか?」

「アレ、誰?」

「誰って、先生の娘でしょうに」

「私とバトルする時、ラグラージにあんな戦法取らせたことないんだけど…………」

「それは時と場合によるんじゃないですか? 先生とバトルする時は回復される前に徹底的に潰すってのがセオリーでしょうし、今のバトルは相手の動きを伺って文字通りカウンターを仕掛けた。………案外、ミラーコートも覚えてるんじゃないですか?」

 

 丁度師となるポケモンを連れてるわけだし。

 ソーナンスとかいう返し技のプロフェッサーが身近にいれば、自分のポケモンに覚えさせていても何ら不思議ではない。何ならスクールの特例試験で先生のポケモンを使ってるんだろうし、トレーナーとして技を出すタイミングも既に掴んでいる筈だ。

 だから出来た。それだけのことである。

 

「強いな、ほんと」

「そうですね、さすがスイクンが選んだだけのことはありますよ」

 

 俺ですら伝説に名を残すポケモンに出会ったのはトレーナーになってからだ。もうこの時点でルミは異例中の異例である。

 

「見えなくても直接攻撃の瞬間、か。だったらこっちの見えない攻撃はどうかな。出番だよ、カクレオン!」

 

 また面倒なポケモンを連れてるな。

 カクレオンは特徴として体色を変化させて、周りと同化する能力を持っている。

 つまり、すなあらしによるすながくれで姿を隠す以上に見えないということだ。

 

「ラグラージ、あなたはしばらく休んでて。出番はまだあるから」

「ラグ!」

 

 ルミはラグラージを交代か。

 今のバトルで役割を果たしたしな。下手に連戦させるよりは賢い判断だ。

 

「いくよ、ルンパッパ」

 

 交代先はルンパッパか。

 まずはこの砂嵐をどうにかするだろうな。

 

「あまごい!」

「させないよ! カクレオン、きりさく!」

「ルンパパ、ルンパパ、ルンパッパ!」

 

 や、今の踊りいらないでしょ。

 

「パパンッ?!」

 

 って、攻撃受けてるし。あまごいは成功したけどもそこは躱せよ。

 つーか、今の踊りがあまごいとかいうんじゃないだろうな。

 

「ルンパッパ!」

「ルンルンルンッパ!」

 

 あ、あいつ痛み感じないアホの子だったわ。

 なんで普通に起き上がったんの?

 そんなに威力がなかったわけないよね?

 

「ん? 回復した………?」

 

 今ルンパッパが回復しなかったか?

 

「あめうけざらか」

「あめうけざら?」

「雨が降っている状態だと回復する特性だ。この特性が最初に発見されたのはハスボーとその進化形であるハスブレロ、ルンパッパだと言われている。今では稀に他のポケモンでもこの特性を発見するようになってはいるがな」

「ほえー、先生物知りですね」

「や、先生だからな」

 

 コマチ、お前はアホか。

 ヒラツカ先生は元教師だぞ?

 教師が知らなくてどうするよ。

 

「あめうけざらで回復か。そりゃピンピンしてるわけだ」

 

 ルンパッパがアホの子だったわけじゃないんだな。

 

「ルンパッパ、なみのり!」

「ルンルンパッ!」

 

 ルンパッパが両手を上にかざし、雨を集め水玉を作っていく。

 

「カクレオン、したでなめる!」

 

 ビヨーンと長い舌だけが伸びてきて、ルンパッパに絡みついた。

 あれ、べっとり舐め回すタイプだな。

 

「パパンッ!」

 

 あ、気にせず水玉を地面に叩きつけて、波を起こしやがった。

 カクレオンは波に呑まれてしまったようで、絡みついた舌も離してしまった。

 

「あまり気にしてないみたいだね」

「この子、頭のネジ緩いから」

「でも、麻痺は成功だね」

 

 頭のネジが緩いのは合ってたのか。

 

「頭のネジが緩いのは時にすごい力を発揮してくれる。こんな感じに」

 

 はい?

 何するのん?

 

「ルンパッパ!」

「ルンパッパァァァアアアアアアッ!」

 

 麻痺してるくせに立ち上がった。

 え? なに?

 あの痺れが気持ちいいとか、そういうこと?

 

「やどりきのタネ!」

「しまっ?!」

 

 フィールド一帯に種を蒔き、宿り木を作り出した。

 

「カクレオン、隠れて!」

 

 これで下手にフィールドの端には寄れなくなってしまったな。

 さて、カクレオンはどう攻撃してくるか。

 

「かげうち!」

「ルンパッパ、後ろ!」

「パパンッ!?」

 

 やっぱり麻痺はしてるんだな。

 ちょっと焦った。頭のネジが緩いとか言い出すし。

 さっきのは気合いでどうにかしたってことなのだろう。

 

「続けてきりさく!」

 

 それにしても気づかないものなのだろうか。

 カクレオンって腹の模様だけ隠せないらしいぞ?今実物見て確認できたわ。

 

「したでなめる!」

「ルンパッパ、掴んで!」

「パーパンッ!」

 

 カクレオンが姿を隠してから一切攻撃を指示してなかったが、ようやくここで反撃に出た。

 まずは絡みついた舌を掴み、身体を回してカクレオンを振り回していく。そして、勢いのついたところで、手を離した。

 向かう先は宿り木。ルミはこの状況を作り出すために、敢えて攻撃を受け続けていたのだろうな。

 宿り木に身体を打ち付けたカクレオンは木から伸びてくる草蔓に絡みつかれて、がんじがらめになっている。

 

「ルンパッパ、トドメだよ。ギガドレイン!」

 

 あ、だから別に攻撃を受けてもあまり気にしてないのか。どっちにしろ回復できるし。

 

「カクレオン?!」

「カクレオン、戦闘不能!」

『カクレオン、戦闘不能だぁぁぁああああああっっ!!』

『ルンパッパはお互いの特性を上手く利用していましたね』

『ええ、あまごいで自身の特性あめうけざらを発動さて、同時にみずタイプの技の威力も底上げ。そしてカクレオンの特性へんしょくに対しみずタイプの技で攻めた後にくさタイプの技を使った。しかもそれはこちらが回復できる技』

 

 結局、ルンパッパは振り出しに戻したのだ。ジバコイルへの仕返しなのかもしれない。

 

「ルミは、これをずっと待ってたのか…………?」

「あの子、ホウエンを旅してたんでしょ」

「ああ」

「なら相手は気の毒だね。この勝負、意外性がない限りあの子が勝つと思う。バトルを見る限り、知識もバトルセンスも高い。しかも一度旅した土地出身のトレーナーが相手。勝手が分かってるからあの子にしたらやり易いだろうね」

「意外性、か……………」

 

 オニゴーリが倒されたのは特性を上手くミットさせてきたから。だけど、オニゴーリ以外は相手は倒せていない。

 確かに意外性がなきゃこっちの勝ちかもな。

 

「ま、油断はできないが」

「いくよ、フライゴン!」

 

 相手の五体目はフライゴンか。くさタイプ二体にドラゴンが一体。弱点が偏り過ぎてるな。フルバトルのパーティーとしては危うい。

 まあ、それ言ったらユキノのパーティーもこおりタイプが多くて偏ってるけどな。

 ただ、あいつらは偏ったタイプを専門としている節もあるからな。ヒラツカ先生がそのいい例だ。かくとうタイプばかりのパーティーだが、逆に精通し過ぎていて強い。

 弱点対策もばっちりである。

 

「ルンパッパ、やどりぎのタネ!」

「フライゴン、そらをとぶ!」

 

 ルミから仕掛けにいったが、フライゴンに空に逃げられ躱された。タネはそのまま地面へと吸収されていく。

 

「ルンパッパ、あまごい!」

 

 いつの間にか上がっていた雨をもう一度降らしにかかった。その間に、空からフライゴンが一直線に堕ちてくる。

 

「パパンッ!?」

 

 雨雲を呼んだところで攻撃を受けた。

 

「フライゴン、すなじごく!」

 

 続けて足下を狙われ、砂地獄へと呑み込まれていく。

 

「なみのり!」

 

 ルンパッパは降ってきた雨を掻き集め、それを足下へと叩きつけ、波を起こして砂を流した。

 

「ドラゴンダイブ!」

 

 だが、空からの攻撃は全く止む気配がない。

 赤と青の竜を纏ったフライゴンが急降下してくる。

 

「ルンパッパ!」

「ルン、パッ、パッ!」

「ッ?!」

 

 ルンパッパが下から上に伸びるような動きをすると、突如として草蔓が伸び始めた。

 

「これは………」

「宿り木ですね。最初に外した種は雨と波により水分を与えられ、急成長を遂げたということでしょう」

「ルミちゃんすごっ………!」

 

 普通はこんな発想に至らない。くさタイプを専門に扱っていれば多少可能性として挙げられるだろうが、それでも試そうとまではいかないだろう。

 

「これでまた、流れが変わる」

 

 一瞬、フライゴンに主導権を奪われたかのように見えていたが、ルンパッパの反撃により握り返した。

 

「フライゴン!」

 

 宿り木は幾重にも重なり、フライゴンを受け止めている。背後からはさらに草蔓が伸び絡みついていく。

 

「ルンパッパ、交代だよ」

 

 おい、ここでまた交代させるのかよ。

 一体何を企んでいるんだ?

 

「ラグラージ! メガシンカ!」

 

 ルンパッパと交代で再度出てきたラグラージはそのまま白い光に包まれた。

 

「メガシンカ………、でも負けない! フライゴン、ドラゴンダイーーー」

「れいとうパンチ」

 

 気づけば背後にラグラージがいた。一瞬前とか白い光に包まれていたはずなのに、氷の拳で殴っていた。

 

「実の娘のはずなのに………………お母さん、悲しい………」

 

 ちょっとー?

 やめてくれますー?

 後ろから黒いオーラ出さないでもらえますかねー。

 何なの、この教師ども。負のオーラのスイッチ表に出し過ぎでしょ。

 

「ねえ、お兄ちゃん。なんでツルミ先生、現実逃避してるの?」

「そりゃ、子供の成長についていけない親の典型例だからじゃね?」

「ヒキガヤ、ヒドいっ。ウケるんですけどっ!」

「ウケねぇよ」

 

 あ、フライゴンがやられた。

 一発で終わっちまったよ。

 

「フライゴン、戦闘不能!」

「…………フライゴン、戻って」

 

 言葉が出てこない、そんな感じだろう。

 無理もない。

 通常で手を焼いていたのに、メガシンカして手のつけようがなくなってしまったのだから。

 心が折れるのもそう遠くないだろう。

 

「あ、ヒキガヤくーん! 次出番だよー!」

 

 こ、この声はっ?!

 

「メグリ先輩、お疲れ様です」

「うんうん、いいのいいの。私よりもはるさんの方が大変だから」

 

 メグリ先輩がこっちに来たってことはハルノがサカキの元へ行ったのだろう。責任感というか義務感というか、そういうのにまだ引き摺られているんだろうな。俺もそういうタイプの人間だし、分からなくもない。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!」

 

 ハルノ?

 声を荒げてどうしたんだ?

 

「「「「ッ?!」」」」

 

 って、アンタかよ。

 

「何の用だ、サカキ」

「フン、調子はどうかと思ってな」

 

 漆黒のスーツに黒いハットで顔を隠したサカキがやってきた。その後ろからはハルノが慌てて追いかけてきている。

 

「そうだな、久しぶりに気兼ねなく『本気』を出せるんだから悪くない」

「ほう、それはこいつが無くてもか?」

「……………俺たちは元々そいつの存在を知らなかったんだ。あろうがなかろうが大したことじゃない」

「なら、こいつが今までお前たちの力を抑えてきたと言ったらどうする?」

「同じことだ。それがあったところで力のコントロールはできない。それよりも俺たちの鍵はあいつだ」

「フン、ハルノの力作か」

「その言い方はやめろ。あいつは俺の大事な奴だ。手出したら殺す」

「ふっ、血気盛んなのはいいが…………呑まれるなよ」

「安心しろ。呑まれた時は真っ先にアンタを喰らいに行ってやるよ」

 

 あれ?

 いつの間にか、チルタリスが出てるし。

 まあ、メガシンカしたラグラージの相手ではないな。

 

「チルタリス、コットンガード!」

「ラグラージ、れいとうパンチ」

 

 あーあ、あのもふもふも意味を成してないぞ。

 

「呑まれないもん!」

 

 ッ?!

 ユイ………?

 どうした、声を荒げて。

 

「ハッチーは誰よりも強いもん! あたしやみんなのことを何度も助けてくれて、あたしたちのヒーローだもん! だからハッチーは!」

「フン、たかだかヒーロー気取りが力に呑まれないなんて保障はない。理由を挙げるならもっと理路整然としたものにするんだな」

 

 ああ、言い返せなくて涙目になってるよ。

 仕方ない、撫でておこう。

 

「例え呑まれたとしても、ユキノちゃんがいるわ」

「ハルノさん………」

 

 と思ったら、ハルノに先を越された。

 くそ、ここでお姉ちゃんスキル出してくるんじゃねぇよ。

 

「確かにあの娘は切り札だろう。だが、その力が及ぶのも直接触れるしかない。暴走状態のハチマンに近づけなければないも同然だ」

「貴様、さっきから何を証拠に!」

「ふっ、証拠ならこの目で見ている。他の者も見ている。その二つで共通しているのが、『鍵』がこいつの前に現れた時に暴走が治る、だ」

「ハルノ、どうなんだ?」

「……………サカキの言っている通りよ。暴走している時、ユキノちゃんの声だけは聞こえてるみたい」

 

 いや、別に声は結構聞こえてますから。

 ただなんかユキノが側に来ると力が抜けるだけだから。

 

「お兄ちゃん、どんだけユキノさんのこと好きなのさ」

「ばっかばか、当時はストーカーくらいにしか思ってなかったわっ」

「ふむ、あれ程の登場の仕方をしておって、何をぬけぬけと」

「中二、その登場の仕方ってどんななの?」

「そこのサカキに促され、ロケット団討伐部隊を組んだ張本人が部隊にいないと思ったら、ミュウツーに襲われている我らの前に現れたのだ。こうバサっとマントを翻して」

 

 そういやいたんだったな、こいつも。

 やめろ、思い出すんじゃねぇ!そして再現するな!

 

「しかもその姿は我らとチームを組んでいた忠犬ハチ公であったのだ。そして、極め付けにはマントをユキノシタ嬢に被せて視界を奪い、我にテレポートさせて安全地帯へと送り込む始末! なかなかにうらやまけしからんラブコメ展開であったな」

 

 ぐふっ?!

 ハチマンの体力はマイナスへ達した。

 

「うわー、超捻デレ」

「愛されすぎだよ、ゆきのん…………」

「…………へぇ、あの姿で。へぇ………」

 

 怖い。

 怖いよ、はるのん。

 俺、視線だけで射殺されちゃう。

 

「ほう、ようやく合点がいった。何故お前とあいつが顔見知りなのか、ずっと気になっていたが、そういうことか」

「ま、まあ、あの暴君様を説得したのはリザードンだがな。同じロケット団に造られた存在として認めてくれたらしい」

 

 今思うとリザードンも度胸あるよね。

 暴君様を説得しちゃうんだから。トレーナーの俺はバトルで手一杯だったってのに。

 

「ラグラージ、マッドショット!」

「ジバコイル!?」

「ジバコイル、戦闘不能! よって勝者、ツルミルミ!」

『決まったぁぁぁああああああああああああっっ!!! 準々決勝に駒を進めたのはツルミルミ選手!! 本戦出場最年少でありながら、圧倒的なバトルを見せてくれました!! まさに圧巻です!』

『マーベラス! 見事という他ない!』

『ええ、素晴らしいわ。将来がとても楽しみね』

『それに彼女はまだ全ての手持ちを出したわけじゃありません。上手く使用カードをコントロールできています』

 

 結局ルミが今回出したのってポワルン、オニゴーリ、ルンパッパ、ラグラージの四体。その内二体はメガシンカ可能であることを見せている。

 あと二体何がいるのか、そうでなくてもどちらをメガシンカさせてくるのか、相手にとっては相当プレッシャーがかかることだろう。

 ま、言っても残ってるのってユキノとか四天王くらいだしな。

 それよりも………今気にしなきゃいけないのは。

 

「これ、間に合わなくね?」

 

 サカキのせいでスタンバイできてないという。

 このまま両者不在で不戦敗ってことになり兼ねない。

 ただ、走っても大分距離がある。というか階段がキツい。

 

「別にこのバトル大会での勝利に興味も何もない。ただ一つ。これだけの力がぶつかりあえば、奴らが来る材料になる。それだけだ」

 

 うわ………、さすが悪の親玉。

 考えることがえげつない。

 

「うーん、いっそここから行ったら? 二人揃ってるし」

 

 おいハルノ。

 何てこと言い出してんの?

 

「トリのパフォーマンスというわけか。面白い」

 

 そんなパフォーマンス、用意してなかったんだけどなー。そんなパフォーマンス、用意してなかったんだけどなー。

 それにこれが今日の災難でした、ってんなら何と嬉しいことやら。

 ま、ないだろうけど。今さっきサカキが言ったところだし。奴らはまた来るだろう。

 

「何でもいいさ。リザードン、仕事だ」

「ふっ、出てこいスピアー」

 

 やっぱりスピアーか。

 俺たちを暴走させる気満々だな。

 

「ふん」

「………何の真似だ?」

 

 暴走させられないように気を引き締めていこうと思った矢先、サカキがメガストーンを投げてきた。

 ヒラツカ先生の教育のおかげか、こう投げつけられても取り損なうことはなくなった。超どうでもいいな。

 

「返してやる。お前の本気を下して、オレの従順な部下に仕立ててやろう」

「………俺はアンタの部下になるつもりはない」

 

 まあ、使えってんなら、遠慮なく使ってやるよ。

 

「「メガシンカ!」」

 

 




行間(使用ポケモン)

ツルミルミ 持ち物:とうめいなスズ(ミナキからの借り物) キーストーン
・ラグラージ ♂
 持ち物:ラグラージナイト
 特性???←→すいすい
 覚えてる技:アームハンマー、まもる、マッドショット、れいとうパンチ、カウンター

・オニゴーリ ♂
 持ち物:オニゴーリナイト
 特性:アイスボディ←→???
 覚えてる技:ぜったいれいど、フリーズドライ、ジャイロボール、かげぶんしん、ふぶき

・ルンパッパ ♂
 特性:あめうけざら
 覚えてる技:なみのり、ギガドレイン、あまごい、やどりぎのタネ

・ポワルン ♀
 特性:てんきや
 覚えてる技:ウェザーボール、あられ


ミツル
・カクレオン
 特性:へんしょく
 覚えてる技:きりさく、したでなめる、かげうち

・ロゼリア
 覚えてる技:マジカルリーフ、くさぶえ

・ノクタス
 特性:すながくれ
 覚えてる技:ニードルアーム、ギガドレイン、だましうち、すなあらし

・フライゴン ♂
 特性:ふゆう
 覚えてる技:そらをとぶ、すなじごく、ドラゴンダイブ

・チルタリス
 覚えてる技:コットンガード

・ジバコイル
 特性:がんじょう
 覚えてる技:ラスターカノン、エレキネット、でんじほう、ほうでん


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31話

そろそろ終わりが見えてきましたよ。


それとお気に入りが四桁に…………(投稿時)。
投降後に変動はあるでしょうが、続編も四桁をマークできてうれしいです。
ありがとうございます。


『さあ、いよいよ二回戦ラストのバトル! 思わぬハプニングで二回戦に駒を進めた「パパだよ」選手対! 四天王ハチマン選手!』

 

 ようやく下では選手入場が始まったらしい。

 なんだよ、こんだけ時間あったなら間に合ったんじゃねぇの?

 

『…………おや? 注目のカードである両者が入場してこない………? こ、これはどういうことだぁぁぁあああああああああっっ!?!』

 

 ええ、いませんとも。

 

『あれ? ハチマン君、どうしたんだい?』

『何かトラブルでも………』

『いえ、ご心配なく。上にいますから』

 

 すでにフィールドの遥か上空で待機してましたから。

 まあ、待機といっても名ばかりのにらみ合い。俺たちの間じゃ、すでに戦闘は始まっていた。というか、どっちも隙を伺っていたにすぎない。

 

『な、ななな何と?! 両者共に既に空の上にいたぁぁぁああああああっっ!!』

『急遽、仕込んでみたパフォーマンス、らしいです』

『無茶するなぁ』

 

 ハルノ、パフォーマンスとして誤魔化したのかよ。

 

『両者、最初のポケモンも出しており、メガシンカまでさせています! そして、「パパだよ」選手はパルシェンに乗っているようですが、ハチマン選手は……………!』

『あれはポケモンの力を借りて立っているだけですよ』

 

 しかもそれで通っちゃったのかよ。

 適当すぎるだろ。

 まあ、上層部の俺が言えたことじゃないな。

 

『な、何とも不思議で異様な光景ですが! 取り敢えず問題はないとのことなので審判!』

「ば、バトル、開始!」

 

 来るッ?!

 

「スピアー、こうそくいどう!」

「リザードン、ソニックブースト!」

 

 やっぱ早ぇ。

 初速からしてまるで違う。

 飛行技もスピアーには意味を成さないっていうのかよ。

 

「ダブルニードル!」

「りゅうのまい!」

 

 チッ、これも一瞬の壁にしかならないか。

 二撃目で力を入れてくるはずだ。

 けど、それだけあれば次へ繋げられる。

 

「ほう、竜の気を防御に使ったか。だが、その程度、薄い壁でしかない」

「んなもん知ってるっつの。リザードン、コブラ!」

 

 高速移動中での急停止。

 リザードンよりも高速で動いているスピアーには止まることなど出来はしない。

 

「ブラストバーン!」

「躱せ!」

 

 再度急加速しながら、究極の炎を口から撃ち放った。

 だが、スピアーはあっさりと躱していく。

 

『な、ななななんというバトル!! 高速戦闘により、実況の私もつい解説が滞ってしまいましたっ!!』

『……………あれが彼の本来の実力………?』

『いえ、あれはまだ「本気」を出しているだけです』

『………なにがどう違うの?』

『彼の、彼らの本来の力はもっと凄まじいものです』

 

 くそっ、マジで追いつけねぇ。

 どうする、どうすればいい?

 

「ダブルニードル!」

「弾け! ドラゴンクロー!」

 

 旋回して突撃してくるスピアーを竜の爪を用意して待ち構える。

 両者とも前進しているため、思ったよりも交錯するのが早かった。

 左の突きを右の爪で弾き、真下から続くアッパーを顎を反らして躱した。そして、くるっと左回りに一回転して竜の爪で右から左に突き飛ばした。

 だが、咄嗟に左腕と足の針でガードされ、ほとんどダメージには至っていない。

 

「どくづき!」

「りゅうのまい!」

 

 ならば、と反動の力を利用して踏み込んできたスピアーを竜の気で弾き飛ばし、再度炎と水と電気の三点張りから竜の気を生成していく。

 竜の気はさらに活性化し、激しく唸りを上げている。

 

「ローヨーヨー!」

 

 今度はこっちから仕掛けることにした。

 ローヨーヨーで急降下していくと、背後からスピアーもついてきた。

 恐らくサカキもこれがどういうものなのか知っているはずだ。

 だから、単調に急上昇に切り替えるだけでは先を読まれてしまう。

 

「ッ!! そうだ、丁度地面に向かってるんだ。使わねぇとな」

 

 上昇間際に一発叩きこむとしよう。

 

「リザードン、ブラストバーン!」

 

 あと地面まで数メートルというところで命令を出した。

 リザードンもなんとなく分かっていたようで、地面に叩きつけた右拳で急上昇に体勢を切り替えていた。

 すげぇ、片腕だけで向きを百八十度変えちゃったよ。

 割れた地面から炎柱が噴き出し、リザードンを追って急下降中だったスピアーを呑み込んだ。

 

「どくづき!」

「ッ!? 躱せ!」

 

 はずが、リザードンの右腹に姿があった。

 竜の気で多少の壁を作り、針が身体に届く前に、右の爪を針には這わせ、一気に上に弾き飛ばした。

 だけど、針は一本だけでなく、下から二本追撃が来た。

 

「垂直エアキックターン!」

 

 本来のローヨーヨーの効果に加え、針を弾くのに一瞬止まった身体を空気を踏み込むことで再度加速させ、間一髪で二本の針を躱した。

 

「スピアー、こうそくいどう!」

 

 だが、あっさりとついて来た。

 まあ、最初から分かってはいたけど、心が痛むね。

 

「もう一度エアキックターン! からのトルネードドラゴンクローだ!」

「回転に合わせろ、ドリルライナー!」

 

 反転して、再度空気を蹴り出し、急降下に切り替え。

 そして、両腕を前に突き出し、竜の爪を重ねて高速で回転を始めた。

 スピアーも両腕の針を突き出して、リザードンとは逆回転で突っ込んできている。

 交錯した二体は上から押し付けるリザードンに軍配が上がった。すぐに間合いの外に出てしまっため、腕以外の針に刺されることもない。

 

「回り込め、こうそくいどう!」

 

 リザードンの勢いに押し返されたスピアーは、途中で下降を止め、一瞬で姿を消した。こうなるとスピアーを肉眼で確認することは難しい。かと言って放置すれば致命傷だ。

 

「竜の気で壁だ!」

 

 ならば受け止めるための壁を作るしかない。

 

「ドリルライナー!」

 

 竜気の壁はスピアーの両腕を押さえつけた。

 だが、このままではいずれ突破される。サカキ自身、さっき薄い壁だと公言していたんだ。

 ………………………焼くか。

 

「纏え、ブラストバーン!」

 

 壁が竜の気だけであるからスピアーに突破されるのだ。ならば、もう一枚追加すれば結果も変わってくるだろう。

 

「離れろ、スピアー!」

 

 究極の炎をさらに纏い始まると、スピアーはサッと腕を引いた。

 

「…………それが、今のお前たちの実力か?」

「どうだろうな。まだ手探り中ってのも本音だし、なんか違和感があるってのもあるが、そもそも俺が素直に本気出すと思ってんのか?」

 

 半分嘘で半分本当だ。

 スピアーの高速戦闘の隙を探してもいるし、かといって今以上の対処法がこっちにはない。現状維持なんてやっていれば、それこそこっちが先に尽きてサカキの思惑通りに事が運んでいくのが目に見えている。

 何が何でもここは耐えきるしかない。

 

「なら、使え。あの力を以ってオレを倒してみろ」

 

 あの力、とは『プロジェクトM's』のことだろう。

 確かにあれは絶大な力を秘めている。

 記憶が確かなら、スピアーを一撃で倒せる可能性だってある。まあ、まずは攻撃が当たればの話だが。

 それでも今以上の攻撃手段と突破口が開けるのは事実だ。

 だけど、あの力に頼ったが最後、自分では止まることが出来ない。いや、自分で止めた経験がないため、この状況でアレを使うのはリスクが高いのだ。

 

「だが断る。その前にルールが足枷なんだ。まずはそこから失くすべきだろ」

 

 どうせもっと本気の俺を見たいっていうなら、まずはこの公式戦のルールを失くさないことには話にならん。

 ジム戦やらカントーリーグ優勝やら、色々と公式戦で結果を残してはいるが、本来俺は野試合の方が性に合っている。

 ヒトカゲと出会って、進化したリザードを相棒に野生のポケモンと一対複数で何度もバトルしてたんだ。その時の技の数なんて、使える技は全て使いきっている。そういう風に特訓を重ねて来た俺たちに、技の使用制限なんて正直言って酷というものである。

 ま、それでも負ける気もないし、負ける気がしなかったってのが今までなのだがな。

 

「ほう、まさかポケモン協会トップの男がその発言をするとは。反発どころの話ではないぞ」

 

 けど、今はそうも言ってられない。

 相手はあのサカキだ。

 ロケット団の首領にして元トキワジムのジムリーダー。実力はジムリーダーの域を超えており、四天王ですら歯が立たないのが現実。

 しかも専門のじめんタイプよりも、どのポケモンよりも育て上げられたサカキのスピアーが相手なのだ。俺がこれまでサカキと戦ってきたデータなんてのは全く充てにならない。

 やはり、バトル以外の何かで揺さぶりをかける必要もあるのかもな。

 

『………何か、話しているのでしょうか! こちらには声が届きませんが、高速戦闘から一転、両者の動きが完全に止まっています!』

「はんっ、ならアンタが国際指名手配されてるロケット団の首領、サカキだって公表しちまえばいい」

「公表してどうする? オレを本気で捕まえるつもりか?」

「それもいいかもしれないな。アンタが野放しになっているせいで、俺は、いや俺たちは酷い目に遭って来たんだ」

「ふっ、ならばオレを捕まえるがいい。だがその時は、お前の女も道連れだがな」

 

 ダメか………。

 分かってはいたが、やはりサカキは悪党。悪党の中の悪党だ。こっちが汚い手を使おうが、サカキはそれ以上の汚い手で切り返してくる。

 

「…………因果応報、か。ま、俺がそのカードを切ればアンタがそう返してくるってのは分かっていたさ。これはただの確認、予想との答え合わせってだけだ」

 

 そしてこっちが形振り構わず実行すれば、俺の負け確定だ。

 この話は潔く流しておくのが懸命だろう。

 

「殊勝な判断だ。お前の女が謂わば人質であることを忘れるなよ」

「忘れねぇし、まだ使えねぇよ。確たる証拠がこっちにはねぇんだ。アンタとやり合うつもりなら、まず物的証拠がなければこっちが不利だって充分理解している。なんせ、汚い金だけはあるもんな」

 

 だからと言って、折れるつもりも毛頭ないがな。

 いずれ、手札を揃えた上で、俺はアンタを捕まえる。

 

「吐かせ。国際指名手配犯が金一つで釈放などあり得るわけ無かろう」

「どうだろうな。そっちの世界も結局金が動いているんだ。清廉潔白な世界だなんてとてもじゃないが言えないだろ」

 

 汚い世界に精通しているサカキのことだ。

 金に物を言わせてどうにかしてしまう可能性もある。そして、それを許容してしまう『大人の世界』ってやつがあることも理解しているつもりだ。というか、サカキがその世界を一つ組み立てているだろう。でなければ、ここまで大きく事を起こしているにもかかわらず、未だ誰も捕まえられてないとかおかしいだろ。顔割れしているというのに。フィクサーとか、そういうのがバックについていて、サカキを後押ししているのだろう。

 

「確かにどの世界も醜い部分はある。ポケモン協会もそうだろう? 何人もの人を食らいし『犬』を飼ってるんだからな」

「それこそ因果応報ってやつだろ。悪事を働いた奴らへ然るべき制裁が下された。それだけのことだ」

 

 ま、俺も人のこと言えた立場じゃないけどな。

 歯向かってくるものはギラティナの前に連れていく。見る者からすれば、俺の方がよっぽど質が悪い。

 人を殺さずとも殺しているのだからな。

 

「正当防衛というやつか」

「そうだな。そもそもあの話を切り出したのはアンタの方からだろ。ユキノやザイモクザを人質に取られて、俺は従うしかない状況だった」

 

 でもそれは。

 全て悪党に対してだけだ。

 普通一般人にこんなことするわけないだろ。

 だから、俺には正当防衛という、法の逃げ道がある。サカキたちが悪である限り、俺の過去は引っかからない。

 ……………法の上では、な。

 

「人に理由を与えられないと動けないお前にとっては都合のいい大義名分じゃないか」

「何が大義名分だ。俺に汚れ仕事を押し付け、自分は綺麗な手のまま。結局、これまでもそうなんだろ? 部下に汚れ仕事させて自分の手は汚さない。いつも安全なところから高みの見物をしている。糞食らえもいいところだな」

「………全く、まだまだ躾けがなってないようだな」

「生憎、俺はアンタのペットじゃないんでね。一生懐かねぇよ」

「懐く? バカを言え。それは女だけで充分だ。野郎は従順なイエスマンになっていればいい」

「女尊男卑も大概だな。ま、最もアンタからしたら全員下なんだろうけど」

「ああ、そうとも。そしてこれからお前もオレの下にしてやる。スピアー!」

 

 サカキがスピアーに呼びかけると、小瓶のようなものを投げた。スピアーはそれを針で突き刺し、中の液体が針に付着していく。

 色は、紫色。

 嫌な予感しかしない。

 

「ダブルニードル!」

 

 恐らくアレに刺されれば俺たちは毒素に侵される。そうすれば、忽ち力に呑み込まれてしまうだろう。最悪、俺が犯罪者になる可能性だってある。

 それは何が何でも阻止しなければ。

 あいつらに迷惑なんてかけてられないからな。

 

「躱せ!」

「緩い!」

 

 そっちもお見通しだっての。

 

「爪で弾け!」

 

 下から掬うように尻尾の針が迫ってきたのを竜の爪で弾き、蹴りを加えて距離を取った。

 だが、休んでいる暇はない。

 

「リザードン、ソニックブースト!」

「こうそくいどう!」

 

 スピアーからさらに距離を取るため急上昇したが、すぐに追いついてきた。

 何気にこうそくいどうが厄介である。

 

「ドリルライナー!」

「リザードン、無茶を言うぞ! エアキックターンで反転! それからトルネードドラゴンクローで一気に急下降! そして、もう一度エアキックターンで上昇しろ! 最後はグリーンスリーブスだ!」

 

 最早俺が何言っているのかも分からないだろう。だが、それでいい。観客は然りだが、サカキも理解が追いつかないはずだからな。

 理解しているのは俺とリザードン。そして、ユキノくらいだろう。

 

『な、何かとんでもない連続命令を出して来ました、ハチマン選手! 解説の私でも何を命令したのか全く見当がつきません!』

『一体何が始まるんだろうね』

『彼のバトルの特色と言っていい、飛行技のショーですよ』

『ショー?』

『見ていれば分かります。あれがカントーリーグ優勝者の実力だってことが』

 

 あ、こら、バカ。

 それ言うんじゃねぇよ。

 なに心なし、興奮してんだよ。

 声色で丸分かりだぞ。

 

『カントーリーグ優勝者………ですか?』

 

 リザードンは空気を蹴り返し、一気に急下降へ。

 そして、竜の両爪を前に突き出し、高速回転を始めた。

 その行き先には既に両腕を重ねて高速回転し、上昇してくるスピアーの姿があった。

 

『ええ、初代ポケモン図鑑所有者にしてリーグ優勝者のレッドに並ぶ、今もなお彼の記録に並び立つ者はいないもう一人の伝説のトレーナー。それが彼です』

 

 交錯した二体は、スピアーが先に身体を反らし、リザードンは地面に這い蹲るギリギリまで一気に下降していき、前宙からのエアキックターンで切り返し、急上昇していった。

 ユイが縦バージョンとかって改良してきた奴である。まあ、あの時のはグリーンスリーブスだったけど。ただ、上下運動は同じものである。

 

『何故そのような人がカロスに…………、いえ妹さんの旅について来たのよね』

『それ以外の理由で基本彼は動きませんから』

 

 スピアーを掬い上げたリザードンは次々と竜の爪で下から攻撃を加えていく。だが、スピアーも負けじと針で爪を流し、ダメージを全て回避してきた。

 

『その彼の妹をカロスに招いたのは私ですよ。丁度メガシンカの研究の話でカントーのオーキド博士に相談していた際に、被験者候補として挙がった一人が彼でした。候補の中では私が知っているのは彼だけでしたからね。こちらとしても実力を知っている方が安心できましたし、何より彼がメガシンカを使いこなすところをこの目で見たいと思いましてね。オーキド博士曰く、妹を旅にでも出せばついていくだろう、ということで彼女の旅をカロスで行えるように計らったというわけです』

 

 おいこら、変態博士。

 大人の事情なんか話すなよ。しかもこんな公の場で。バカなの?

 

『ただ彼女一人では怪しまれますからね。同じ町で募集をかけたところ他に二人来てくれました』

『それがユイとイロハだったと………。はあ、これでようやく話が繋がりました。全て博士の仕組んだことだったんですね』

 

 って、ユキノは知らなかったんかい!

 なに? 俺が来たから理由なんてどうでもよくなったとか、そういうやつだったりするのん?

 

『仕組むだなんて大袈裟だなぁ。後半はほんと偶然だよ。シズカ君が来たのも彼女が君を呼んだのもね』

 

 いや、うんホント。

 ユイとイロハが応募したのはすげぇ偶然だと思うわ。それにヒラツカ先生がカロスに来たのもイロハのため。主人公キャラは実はイロハなのかもしれない。

 ………ッ!!

 今だ!

 

「スイシーダ!」

 

 両腕の針を弾き、くるっと回ったところで脚や尻の針もリザードンには届かない態勢。この時を待ってたんだ!

 

「は? 消えた!?」

 

 いや、だがスピアーの姿はあったはず。爪で真っ二つに切り裂きも…………真っ二つ?

 スピアーを真っ二つになんて、できるのか?

 蛇系でもなければ無理だろ。

 

「ッ?! 上だ! ソニックブーストからのブラスターロール!」

 

 やはり。

 あれはスピアーであってスピアーじゃなかったんだ。

 これまでスピアーはこうそくいどうを何度も使ってきている。それが意味するのは限界までスピアーの素早さが上がっているということ。

 つまり…………、残像。

 

「ダブルニードル!」

 

 加速し、翻るも、その先にスピアーが移動してきた。

 

「シャアッ?!」

「リザードン!?」

 

 ヤベェ、リザードンが刺された。

 くそっ、速さが足りない。

 

「シャアァァァッ?!」

「うぐぁっ!?」

 

 な、なんだ?!

 リザードンとつながった瞬間、何かが俺の身体の中で開いたぞ。

 恐らくリザードンにも同じことが起きたに違いない。

 

「さあ、堕ちろ。堕ちてオレのものになれ!」

 

 意味が分からない。さっきは呑まれるなとか言ってたくせに。

 頭イかれたのか?

 イかれてるのは元からか。

 つーか、ヤベェ。

 息が荒くなってきた。酸素が薄い。足りない。吸い込めない。入ってこない。

 

「はあ………はあ………、さっきと真逆のこと言ってるぞ、おい…………くっ」

 

 しっかりしろ、俺!

 気を保つんだ!

 

「真逆? これは真逆などではない。お前たちが『プロジェクトM's』をモノにし、その上で俺の配下に堕ちるのだ」

 

 つまりは今からしようとしているのは『レッドプラン』、或いは『レジェンドポケモンシフト計画』の続きだろう。それも恐らくは最終段階……………うぐっ………。

 

「敵は既にカロスに来ている。時間がない。さっさと堕ちろ!」

 

 呑まれて、たまるかってんだ。

 それに時間がない? だったら、それこそこの茶番がいらないだろ。現状と対策を出しやがれってんだ。

 毎度毎度こんな方法でしか出来ないとか、それでも大悪党か?

 

「……………アンタはいつもそうだよな。何か目的があると、そのために必要なものは、何もかもを、我が物にする」

 

 この男は世界征服のため、息子を探すため、自分の病を治すため、そのために必要な力は自分の配下にしようとしていた。

 いや現にカントーのジムリーダーはサカキが元締めになっていた。そうしてカントーを内側からも支配しようとしていた。

 

「………別にそこまでしなくてもいいだろ」

 

 俺だって必要な力は全部自分の、俺たちのモノにしてきた。だがそれは、特段誰かに迷惑がかかるようなことではなかったはずだ。少なくとも法には触れていない。

 それでも俺は俺を気にかけていた奴らを心配させていたんだ。そして、後に教えられた。

 

「付き合いのある奴くらいはそういうのやめろよ」

 

 自分一人で出来ないのなら周りを使えばいいと。

 それは別に支配下に置くことでも、利用するでもない。頼むだけ。頼るだけである。

 元ぼっちの俺からしたらかなりハードルの高いことだぞ。他人を信用して、他人の力を信頼して、任せる。

 一人で全てやってきた方からすれば、恐怖でしかない。

 

「俺は、アンタがどうなろうが構わないが、世界的な危機ってんならどうにでも動くぞ」

 

 この男も結局は同じだ。

 組織のトップでありながらぼっちなのだ。

 いくらナツメやマチスといった古参の仲間がいようとも、奴の心は孤独なのだ。

 

「スピアー、やれ」

 

 だから俺たちは、この男に屈するわけにはいかない。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

『バトル開始から既に三時間が経過しております! しかし、未だ両者最初の一体でバトルを繰り広げています! なんという光景でしょう! 未だかつてこのような激しいバトルは見たことがありません!』

『ハチマン………』

『あのハチマン君を相手に………、彼は一体何者なんだい?』

『分かりません。ただ、彼と互角、いやそれ以上の実力を持っていることは確かですね』

 

 ダメだ。

 メガシンカしているというのに、以前のような技のキレがない。竜の気も、炎も何もかもがモヤっとした感じである。全力を出そうとしても出し切れない。不完全燃焼とでもいったところだろうか。

 それにこの、中から込み上がってくるような、湧き立つような何かがずっと俺の、俺たちの中にある。これに全てを押さえつけられているような、そんな感覚だ。

 

「スピアー、叩き落とせ!」

「リザードン!?」

 

 俺たちの中で何が蠢いているんだ……………?

 

『ああーっと! ここで初めてリザードンが地面に叩きつけられたぁぁぁあああああああああっっ!!』

 

 マジで何なんだ、この感覚は。

 さっきから激しく唸り出してるぞ。さっきまでは一旦落ち着いていたってのに。ここに来てまた活発になってきてやがる。

 これが実験の最終段階だとでもいうのか………?

 

「三時間…………最早耐えるのもキツいのではないか? 早く堕ちた方が楽になれるぞ」

「堕ち、ねぇよ……………」

 

 ヤベェ、唸りで胸が弾けそうだ。

 

「俺は、カロスポケモン協会の、理事だ………ぞ。そんな奴が、逆、に………混乱を招いて………………どうすんだよ」

 

 だが、俺がここで堕ちるわけにはいかない。

 ハルノの手を汚させるわけにもユイを泣かせるわけにもこの場にいないイロハのためにも、そして何よりもこれ以上ユキノに絶望を味わわせるわけにはいかないんだ!

 

「リザードン、お前はどうだ………?」

「シャア!」

 

 ゆらりと体を起こすリザードン。

 そうだよな。

 このままやられっぱなしっていうのも嫌だよな

 

「シャアッ!」

 

 振り回されるのもごめんだよな。

 

「シャアァァァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 リザードンの炎が爆発した。

 おいおい、まだまだやる気じゃねぇか。

 一瞬、もうかが発動したのかと思ったぞ。

 さて、攻撃と以外行くか。

 ……………はい? マジで使え、と?

 

「あおい、ほのお………!」

 

 いいよもう。お前が使うというなら、俺はそれを命令するだけだ。

 思う存分、激ろ!

 

『あおいほのお?!』

『プラターヌ博士、あの技を知ってるんですか?』

『ああ、知ってるよ。君はパルファム宮殿には行ったことあるかい?』

『いえ………その宮殿が何か?』

 

 蒼い炎が激しく燃え盛り、フィールド一帯を火の海へと変えていく。それでも炎の勢いは収まらず、噴火の如く高々と炎柱を上げていった。

 当然、スピアーはリザードンから距離を取る必要があり、背中を向けて急上昇していく。

 

「ヘルガー! 受け止めろ!」

 

 ん?

 

『パルファム宮殿…………、まさか?!』

『カルネさんはピンと来たようですね。パルファム宮殿には二体のドラゴンの石像があるんだ。ただし、そのドラゴンたちはカロスのポケモンたちじゃない』

『イッシュ建国史の伝説のドラゴン』

『そう、それです。真実を司る白き英雄レシラム、理想を司る黒き英雄ゼクロム。あおいほのおはこの内の一体、レシラムが使うと記されている技なんです』

 

 イッシュ建国史といえば、暴君様と初対面する前に読んだ奴じゃねぇか。

 というか炎が吸収されていってる気がするんだが。

 それに今ヘルガー!って叫び声が聞こえたような…………………。

 

「お前たち、やれ」

「クロバットたち、ゆくんだゾ!」

「バケッチャ、タネばくだん!」

「キリキザン、つじぎり!」

「ギルガルド、ニダンギル、きりさく!」

「ヘルガー、れんごく!」

『………博士、因みにそのポケモンのタイプは?』

『ドラゴン・ほのおタイプだけど』

『ッ?! ハチマン!』

 

 気のせいじゃない!?

 敵襲だ!

 狙いは……………観客か?!

 

「させるかよ!」

 

 すぐさま地面を蹴りつけ、黒いのを呼び出した。

 そして黒いオーラをリザードンと観客席へ走らせ、攻撃を受け止めた。

 

「くっ!」

 

 俺も俺でニダンギルに狙われ、黒いオーラで二本の剣を受け止めたところだ。

 同じようにサカキもギルガルドに狙われたらしい。

 

「いつまで意味のないバトルをしているつもりですか、お二人とも」

「「Saque………!」」

 

 俺とサカキが同時に見上げた空には。

 Saqueとフレア団幹部五人の姿があった。



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32話

八幡の誕生日が近かったので、更新遅らせました。

おめでとう、八幡。
そしてごめんね、ハチマン。

誕生日アップの内容がこんなので………。


「「Saque………」」

 

 案の定、奇襲をかけて来たのはSaqueだった。それもフレア団の幹部五人を引き連れて。

 

『フレア団…………!』

 

 ユキノも奴らの姿を見てピンと来たようだ。

 ただ、マイクがオンになっているのを忘れてるぞ。

 

「ハルノ!」

「……ってる! メグリ!」

「はいっ!」

 

 どうやら伝わったらしいな。これで対応計画を発動させて、総員動かしてくれるだろう。後はあっちに任せよう。

 それよりもこっちを何とかしないと。

 

「意味がないとは、言ってくれるな」

「いえいえ、無意味じゃありませんか」

 

 サカキの言葉にニタァと不敵な笑みを浮かべるSaque。

 

「ーー貴様らはここで死ぬのだからな!」

 

 会場が一気に静まった。

 さっきまで歓声はどこへいってしまったのだろうか。

 つか、死ッ?!

 殺しに来たってのかっ?!

 

『死ッ?! チャ、チャンピオン!? 三冠王!? どどどどうーー』

 

 実況も現状に全くついていけてないか。

 まあ、無理もない。

 こんな展開に出くわすことなぞ、人生に一回あるかないかだろ。

 

『カルネさん、後はお願いします!』

『ちょ?! 今出ていったら………!』

「ヘルガー、かえんほうしゃ!」

「ユキメノコ、みずのはどう!」

 

 チャンピオンがユキノの飛び出しに静止をかけたが、そのままボーマンダに乗ってフィールドへと向かってきた。その背後からはヘルガーの炎が迫ってきているが、ユキメノコも繰り出し対処させ、フレア団を全く寄せ付けないでいる。

 

「クセロシキ、やれ」

「了解なのだゾ。カラマネロ、さいみんじゅつ!」

 

 チッ、狙いは誰だ。

 俺かユキノか? それともサカキか?

 

「「「「「………………………ッ!?!」」」」」

 

 違う!?

 狙いは大勢の観客どもか!

 

「やべぇぞ、これ」

「ハチマン!」

 

 ユキノのご到着。

 さて、どうする。

 さいみんじゅつはバトルでは眠らせる技であるが、それはバトル限定の効果。本来はその名の通りの催眠術だ。術にかかったものを操る技である。

 つまりは観客を操り、俺たちと戦わせるつもりなのだろう。

 

「動くな!」

「ッ!?」

 

 着地して俺に走り寄ってくるユキノをSaqueが静止させた。

 ま、この状況を見て、下手に動けるわけないわな。

 だって、俺ののど元にニダンギルの刃が当たってるんだもん。

 サカキはサカキでギルガルドに捕らえられてるし。

 

「………まさか俺が人質になるとは……………」

 

 心臓がね。

 もうはち切れそうなくらいバックンバックン言ってるのよ。

 超怖いんですけど。

 刃物向けられるとか、ポケモンの技を受けるよりも怖い。

 だって、もうそこに死を感じちゃうんだもん。

 

「動けば、分かっているだろう……?」

 

 これさ、一応テレビ回ってるんだけど。

 しかもカロス以外にも配信されてるんじゃなかったっけ?

 うわー、やだわー。俺たち世界中で人質として認識されちゃってるよ。

 なにこの辱め。

 ああ、そういやユキノも人質に遭ったことがあったな。向こうで人質になってる奴に。

 

「全世界に告ぐ! 我々はネオ・フレア団! カロスを、いや世界を変える者だ!」

 

 随分と大きく出たな。お前ら、前例を覚えてないのか?

 すでにフラダリが失敗してるじゃねぇか。

 世界を変えるとか一個人にできるわけないだろ。

 それはフラダリが身を以て、いやこれまでの悪の組織が証明して来ているじゃないか。特にホウエンのアクア団とマグマ団は利用した古代ポケモンの力に圧倒され、想像以上の結果をもたらしてしまった。望んだ未来などそこには全くなかったのだ。

 

「まずはその手始めとして、世界中で脅威とされてきたロケット団の首領サカキと、我々の脅威となるポケモン協会の犬『忠犬ハチ公』を今ここで処刑する!」

 

 俺やサカキを殺したところで世界なんて変わらないと思うんだが。

 まあ、俺の命でカロスくらいは変わるかもしれないが、それもポケモン協会の長が変わって政策方針が変わるって程度のことだ。激震が走るほどのことではない。

 

「さあ、目を開いて二人の首が吹き飛ぶのをその目に焼き付けるのだ!」

 

 だが、まあ死にたくはないわけで。

 俺だってまだまだやりたいことあるし。というか、まだ子供の顔見てないし。何ならまだ誰も妊娠というか、その行為にまで至ってないし。

 …………って、何考えてんだ俺…………。これはアレか? 死を感じると出てくるという生存本能ってやつか?

 ああ、ダメだ。志向が変な方向へ走って行ってしまう。

 

「まずは犬の方からだ」

「待って!」

 

 犬か。

 俺は犬扱いなのか。昨日まで我が主人とか言ってたくせに。

 結局、あれは何だったんだ?

 記憶が戻った今でも、あいつに主人だなんて呼ばれる理由がないんだが。約束とかなんとか言ってたが、それに該当するようなことも心当たりないし。

 やっぱりすべて俺に近づくための演技だったとか?

 オレオレ詐欺かよ。

 つーか、あれか。俺が記憶を失っているのを利用しようとしてたってところか?

 うわー、有り得る………。

 

「ハチマンを殺したところで世界なんて変わらないわ!」

「いや、変わる。こいつは我々にとっても世界にとっても危険だ。今はまだ、だがな」

「それって…………」

 

 うん、それってつまりアレだよな。

 俺の秘密を全て知ってるってことだよな。

 まあ、ロケット団に潜入していたギンガ団の幹部なんだし、調べていてもおかしくはないけど。

 つーか、それしか考えられんな。そこで俺の記憶がないってことも掴んだんだろうし。

 

「ふっ、そうだな。殺す前にこいつの全てを全世界に晒してやろう!」

 

 え、ちょ、マジ………?

 世界中に醜態を晒して死ぬのん?

 俺の人生ェ…………。

 

「さあ、聞くがよい! 忠犬ハチ公の全てを!」

「させないわ! ボーマンダ!」

「ぐっ!?」

 

 痛ッ…………くない?

 あれ?

 ……………あー、そうだった。俺、あいつがいる限り死なないんだった。自分で言ってたの忘れてたわ。でもね、怖いものは怖いのよ。

 

「ハチマン!?」

「動くなと言っただろう。次はないぞ」

「卑怯よ!」

「何とでも言え。全員妙な動きをしてみろ。こいつらの首が一瞬で飛ぶぞ」

「くっ………」

 

 はあ…………。

 俺的にはこのままサカキの首を飛ばしてくれちゃってもいいんだけどな。

 でもやっぱ知ってる奴が目の前で殺されるってのも寝覚めが悪いというか見たくないというか、そもそも誰かが殺される場面なんて見たくないわけよ。ロケット団の下っ端どもを散々葬ってきた俺が言うのもなんだけど。葬るって言っても直接殺してはないし。

 ま、そろそろ動きますか。

 

「はあ………、お前らほんとバカだよな」

「なんだとっ!」

 

 おお、乗ってきたな。

 

「そもそもこれくらいで俺が死ぬとでも思ってんのか? 思ってるんだったら、バカ中のバカ、大バカ野郎だな」

「貴様ァ! コレア!」

「ニダンギル、やれ!」

 

 挑発したらすぐに最後まで行っちゃったよ。

 もう少し、言葉遊びができるかと思ったのに。

 残念だ。

 

「ハチマン?!」

「ハッチー!?」

「お兄ちゃん?!」

「カラマネロ、奴らを止めるのだゾ!」

「させるか! エルレイド、テレポートからのインファイト!」

「トツカ君!」

「は、はい!」

 

 あ、ユイやコマチたちまで降りてきちゃったみたいだ。

 動くなって言われてるの忘れたのん?

 君たちの命も狙われちゃってるんですけど。

 まあ、ヒラツカ先生がフォローしてくれてるみたいだし、カラマネロに操られている観客もトツカとツルミ先生が対処しに行くみたいだから、心配はないか。

 

「ダン?」

 

 俺の首を刎ねようとしたニダンギルだったが、どう動いても斬れないことわけが分からなくなっている。

 

「何をやっている。さっさとやれ!」

「やっていますが、何故か斬れません!」

「ダークホール」

 

 ニダンギルには悪いが、ここで消えてもらおう。

 俺は黒いのに合図を送ると、背後に黒い穴が出来上がった。そして、ニダンギルを吸収し、呑み込んだ。

 

「ニダンギル?!」

「貴様!」

「なあ、Saque。やっぱお前バカだわ。忠犬ハチ公の全てを語れるんだったら、もちろん知ってるだろ? 忠犬ハチ公にはもう一体のポケモンがいることを」

『……………ライ』

 

 お呼びですか、と言わんばかりにぬっと黒いのが現れた。

 そして、俺を纏っていた黒いオーラが外へと広がり、目の前の悪党よりも悪党らしくなってしまった。

 やだ、俺の方が捕まりそう。

 

「ダークライ………!」

「それにちゃんと見せたじゃねぇか。お前の目の前で。俺とこいつの関係を」

 

 忘れたわけじゃあるまい。

 実際に、お前の目の前でお前から正式に俺のポケモンにしたんだからな。

 

『………な、なぜ彼がダークライを……………。それにあの人、選手のはずじゃ…………』

 

 選手でしたよ。

 選手として潜り込んでいましたよ。

 サカキにコテンパンにされてたけど。

 さて、今度はこっちのターンかな。

 

「すー、はー……………。ポケモン協会理事として関係者各位に告ぐ! テロ対策計画を発動しろ! 計画に従って観客の避難誘導だ!」

 

 結局、ハルノたちも動けなくなっていたからな。

 俺の首が飛ぶともなれば、動けなくのも仕方ない。

 だから代わりに俺が指示を出すのが、この場合は手っ取り早いだろう。

 

「………いいの?」

「いいも何も俺は協会の長だぞ。俺がやらなくて誰がやるんだよ」

「そうじゃなくて………うわっぷ」

「…………理事になった時から腹は括ってある」

 

 ユキノが心配しているのは、ここで俺が理事であることを明かしてしまったことだろう。

 別に明かすことに反対なわけではない。明かしたことで俺が大衆の目に晒されることを心配しているのだ。俺が慣れてないから。

 だけど、今はそんなことを言っている場合ではない。

 俺はポケモン協会の理事で最高責任者だ。今ここで動かなくては余計に話がややこしくなる。スポンサーのじじいとか特に茶々をいれてくるだろう。

 だったら、今ここで明かした方がちゃんと動いてましたよアピールにもなる。

 それに、四天王としてリーグ戦に出場してた時点で大衆の目には晒されてるんだから今更だっての。

 

「…………そう。ユキメノコ、お願い」

「メノ」

 

 俺が押し付けたマントとハットをはぎ取ったユキノはユキメノコに自分の唇を切らせた。

 え? 

 なに?

 これ、どういう状況?

 

「…………最後の仕上げよ」

「んぐっ!?」

 

 は?

 えっ?

 なんで、俺キスされてんの?

 

「ゴクっ、ッッ!!?」

 

 な、なんだ、これはっ!?

 キスされて、ユキノの血を飲まされたかと思ったら、急に俺の中の『何か』が開いたぞ。

 これってもしかして、もしかしなくても……………。

 

「ぷは…………、血が少ないから長くはもたないと思うけれど……………」

「…………そういうことかよ」

「ええ、そういうことよ」

 

 口を拭いながら不敵な笑みを浮かべるユキノの意図がようやく理解できた。

 これはハルノが用意した対抗策だ。

 ユキノに施したという計画だ。

 今ならあの力をコントロールできるかもしれない。いや、できるはずだ。

 

「…………それと、これも」

「ああ、そうだな。んじゃ、こいつを使ってくれ」

「ええ」

 

 追加でユキノがモンスターボールを渡してきた。

 誰のなんて聞くまでもない。

 だから俺も代わりの戦力としてヘルガーを渡した。

 

「全員出て来い」

「カイッ!」

「オダッ!」

「…………………」

 

 振り返りネオ・フレア団を見据えると、警戒の色を強めてきた。

 別に待っていなくてもよかったのに。

 あ、待っていたんじゃなくて動けなかったって方が正しいのか。

 悪党のくせに腰抜けどもばかりだな。

 

「ジュカイン、メガシンカ」

「くっ、お前たち、奴を止めろ!」

「キリキザン、レパルダス、つじぎり!」

「ライボルド、ワイルドボルト!」

「ヘルガー、れんごく!」

「ホルード、マッドショット! バケッチャ、タネばくだん!」

「クロバットたち、エアスラッシュ!」

 

 早速ジュカインをメガシンカさせると、ようやく奴らも動き出した。

 狙いは俺たち。一斉攻撃で仕留めようという算段らしい。

 これくらいの数、今の俺たちにはどうってことないな。

 

「ジュカイン、ハードプラント。オーダイル、ハイドロカノン。エンテイ、せいなるほのお」

 

 太い根と激流が女科学者たちのポケモンを押し返し、それをエンテイが焼き払っていく。

 さて、仕上げと行きますか。

 

「リザードン、リミットブレイク」

 

 今まで中途半端に力を開放してきたため、変に暴走してしまっていた。

 だが、過去に一度だけ力を全開させたことがある。といっても不完全ではあったが。

 で、その時の言葉がこれだ。

 リミットブレイクーー限界突破。

 要するにリザードンという域を超えろという合図だ。

 

「シャァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」

 

 リザードンの域を超えた先にあるもの。

 それは恐らく三つ目の計画、『レジェンドポケモンシフト計画』が関わってくるのだろう。

 さっきのユキノと博士の会話から察するに、行き着く先はレシラムとやら。あおいほのおなんて技を使えるようになったのもその前兆だったと思われる。

 ……………そういえば、アルフの遺跡でアンノウンーーアンノーンーーが創り出したポケモンの中にリザードンとデンリュウがいた。あいつらは最後まで残っており、そして今のリザードンのように姿を変えた。

 またその姿っていうのがレシラムとゼクロムだったっていうね。偶然にしてはできすぎている話だ。考えすぎかもしれないが、もしかしたらアンノーンたちは俺たちに何か伝えようとしていたのかもしれない。

 それに、いるんだよな。相方が。この場にはいないけど。

 ま、あっちはこんな特殊なことできるはずがないんだけど。

 

「………姿が、変わった、だと……………?!」

「ど、どうなっているのだゾ!?」

「フンフフフ、やはり計画は最終段階まで来ていたようだな。やれ、スターミー!」

 

 黒い身体が一転、白い身体に代わり、高さも倍近くになっている。

 これがレシラム、これが伝説のドラゴンなのか。

 

「リザードン、いやレシラム! あおいほのお!」

 

 ほごしょくを使って隠れていたスターミーが水砲撃でレシラムに攻撃を仕掛けてくるが、蒼炎の熱により蒸発してしまった。

 やべぇ、超強ぇ。

 確かにこれはサカキが目をつけるのも頷ける。

 伝説のポケモンは扱いが難しいとされている。俺はそこまで感じたことはないが世間一般的にはそうらしい。そして、見つけ出すのも仲間になるのも難しいと来た。

 だったら、自分たちで最強のポケモンを造ってしまおう、それがロケット団の『ミュウツー計画』のコンセプトだったはずだ。そして、その廉価版として『レジェンドポケモンシフト計画』なる、既存のポケモンから伝説のポケモンを造り出すという新しいコンセプトを立てた。

 それも失敗に終わったかと思いきや、俺とリザードンという特殊な関係がいた。しかも全てが一本の糸に結びついていたとくれば、全ての計画を無事成功させて支配下に置いてしまえばいいと考えても道理と言えよう。

 迷惑な話だけどな。

 

「フン、ようやく完成か。ならそろそろオレも動くとしよう。マチス!」

「へい、首領。もういいのか?」

「ああ、やれ」

「了解」

 

 うわ、あいつずっと静かだなーと思ってたら、ただ静観してただけかよ。

 まあ、アレくらいで捕らえられるならみんな苦労してないもんな。

 

「ジバコイル!」

 

 マチスもそれが分かっていたから動こうとしなかったのか。

 で、ようやくそれも解かれたと。

 

「な、なにっ?!」

 

 マチスがジバコイルを出した途端、ギルガルド引き寄せられていった。特性のじりょくによるものだろう。

 そのおかげで無事サカキは解放された。

 うわー、檻から猛獣が出てきた気分だわ。

 

「ジュカイン、ハードプラント! オーダイル、ハイドロカノン! レシラム、ブラストバーン!」

 

 いくらレシラムになったからと言って、使える技が変わるわけでもない。というか、あれは一時的なものだろう。俺も呼び方は変えているが、ユキノの言葉通り長くはもたない。

 

「キリキザン、レパルダス!?」

「ホルード、バケッチャ?!」

「ライボルト!?」

「ヘルガー?!」

 

 今ので女科学者たちのポケモンは戦闘不能になったみたいだ。

 だが、クロバットたちに躱されてしまっている。

 やはり動きが素早いため、躱せてしまったのだろう。

 ま、数は減ったことだし、戦い方を変えますかね。

 

「スピアー、奴らを殺せ」

 

 あ、サカキがキレた。

 

「ぐぼぁ?!」

 

 けど、スピアーの攻撃が刺さる前に、Saqueが左脇腹を何かに貫かれた。

 

「「「「ッ?!」」」」

 

 あの赤と青の触手は………!?

 

「デオキシス、貴様…………ぐぼぁっ?!」

 

 一気に腕を引き抜かれ、口から血を吐いて地面に落ちていくSaque。

 

「Saque様!」

「………デオキシス」

 

 やはり。

 貫いたのはデオキシスだった。

 背後にはブラックボールと思われる穴がまだ開いていた。

 が、次の瞬間、俺は自分の目を疑った。

 穴から次々と出てきたのだ。同じ姿の奴らが。

 数も数えきれないくらい無数にいる。

 

「まさか、仲間がいたのか……………?」

「いや、あれは影だ。確かに二体いたから他にもデオキシスが存在すると思われるが、目の色が違う」

「………アンタがそういうなら間違いねぇんだろうな」

「オレを信じるのか?」

「はっ、バカ言うな。単なる参考意見としてだ。影だろうが仲間だろうが、倒すことに変わりない」

「そうだな」

 

 ……………やはりサカキはデオキシスを捕まえるつもりではないらしいな。

 なら、結局何が目的だったんだ?

 

「デオ、キシス………!」

「えっ!? アレが?!」

「なんかいっぱい来ますよ!」

 

 湧くように出てきやがった。

 これでは会場の外へも普通に被害が出てしまう。

 一応、そっちも対策として計画を立ててはいるものの、戦力はすべて会場内に集中している。後は外で安全確保に努めているジムリーダーや四天王が対処してくれることを祈るほかあるまい。

 

「うわっ?!」

「きゃあっ!?」

 

 悲鳴………?

 それにしては聞き覚えのある声が……………。

 

「トツカ君!?」

「逃げろ、ユイガハマ! ヒキガヤ妹!」

 

 トツカっ!?

 

「ッ?!」

 

 …………………デオキシスの影はトツカを捕らえていた。

 そして、ユイとコマチの上方にも影がいる。ヒラツカ先生が注意を喚起しているが間に合っていない。

 

「ジュカイン!」

 

 咄嗟に素早いジュカインに指示を出して二人のところへ向かわせると、さらに影がやってきた。

 どうやら狙いは二人だけでなく、ジュカインも狙っているらしい。

 どういうことだ?

 一体デオキシスは何をしようとしているんだ?

 というか狙いは俺だったんじゃねぇのかよ。

 

「ハチマン!」

 

 いや、俺も狙われているのに変わりないみたいだ。

 となると…………さっぱり分からん。

 分からんが、取り合えず、こいつは消し炭にしてくれてやる。

 

「हुं(ウン)!」

 

 リザードンの覇気だけで近づいてきた影を一掃。

 ガッポリ、俺たちのところだけ穴が開いた感じになってしまった。

 それだけ影がいるということである。

 

「えっ……………?」

「ユキノ、どうしたっ?」

 

 ユキノが後ろでひどく驚いた声が聞こえてきたので振り返ってみると、ユイ達の方を見ていた。

 

「今、ユイに触れようとした影の腕が………消えたように見えて」

「はっ?」

 

 そして、訳の分からんことを口にしだした。

 ユイに触れようとしたら影が消えた?

 見えざる壁でもあるのか?

 

「あ、あれ? これ、どうなってんの?」

「ゆ、ユイさん?!」

 

 あ、マジだ。

 マジな奴だ。

 さっきから何体も腕を伸ばしてユイを捕らえようとしているが、その度に腕が消えて行っている。

 つーか、代わりにコマチを捕らえるな!

 ぶち殺すぞ!

 

「カイッ!?」

 

 コマチを助けようと腕を伸ばしたジュカインも捕らえられてしまった。

 あ、あの影スピードフォルムだ。しかもなんであいつだけ雁字搦めに捕獲してんだよ。

 

「サラメ、ルット、ラスマ、メガシンカ!」

 

 ………あいつら、逃げてなかったのか。

 ほんと、図鑑所有者ってのはこういうのに巻き込まれる体質だよな。

 ま、図鑑所有者でもないのにこんな狙われてる奴もいますけどね。

 

「ッ?!」

 

 ……エックスが三体同時メガシンカを果たした途端、影の動きが変わった。

 今までユイを狙っていた影や会場の外へ出て行った影が全てエックスの方へと向いたのだ。

 どういうことだ?

 一体に何がどうなってやがる。

 

「…………これだけ人がいるのに、襲われる人とそうでない人がいる。まるで狙う法則性があるみたいだわ」

 

 デオキシスが選り好みをしている、のか…………?

 ……………確かに、言われてみればオリモトやザイモクザは一切狙われているという感じではない。周りが狙われているから対処しているとも見て取れる。

 逆に捕らえられたのはトツカとコマチとジュカイン。

 そして、狙われているのは俺とユキノとユイとエックス…………ヒラツカ先生もか。あとは…………サカキも。

 

「……な、何がどうなっているのだゾ?」

「…………裂空の訪問者デオキシス。奴の力が…………我々には、必要………だ……………」

「Saque様!」

「こ、んな………、ところ、……終わって……………たまるかっ!」

 

 出血多量で青白い顔がさらに青白くなってきている。

 今にも死のそうな感じである。

 もういっそ、そのまま死んじゃえばいいのに。

 

「ペルシアン、だましうち! ジュペッタ、シャドーボール! スターミー、サイコキネシス!」

 

 Saqueは次々とポケモンを出して、影の対処をさせた。

 だが、影はその三体を捕らえようとはしていない。邪魔をしているはずなのに、それでも興味がないかの如く素通りしていっている。

 

「ミミロッ………プ、おね、が………い、くぅんっ!? ………メガ、シンカ……………」

 

 助けを求めて捕らわれながらもボールからミミロップを出したトツカはそのままメガシンカさせた。

 するとまたしてもデオキシスの影たちはミミロップの方へと意識を向け始めた。

 

「もしかして……………」

 

 もしかすると狙いはメガシンカに関係あるのかもしれない。

 ……………………いや、恐らくそうなのだろう。

 狙われているのはキーストーンを持っている者やメガストーンを持っているポケモンたち。

 俺もユキノも然り、ユイが狙われたのも俺がユイに渡すようにユキノ預けたキーストーンが行き渡っていたからだろう。

 そして、コマチもヒラツカ先生も、エックスやサカキもメガシンカを使える。

 

「となると…………」

 

 実況席の方を見やるとやはりいうべきか、チャンピオンと変態博士が狙われていた。

 あの二人もメガシンカさせることができる。博士は基本バトル事態好んでしないが、ガブリアスという切り札を持っていたりする。

 

「…………狙いは分かったが、狙う理由がさっぱりだな」

 

 だが、悠長に考えている暇などない。

 今にでもコマチやトツカの命が絶たれそうな、危険な状態なのだ。

 

「レシラム、炎と竜気を纏え!」

「ユキメノコ、シャドーボール! ボーマンダ、ハイドロポンプ! ヘルガー、はかいこうせん!」

 

 レシラムといっても中身はリザードンだ。

 これで俺が何を意図しているのか伝わることだろう。

 

「オーダイル、アクアジェットかき乱せ!」

「オダッ!」

 

 オーダイルにはアクアジェットで動き回ってもらおう。

 あいつは以前、アクアジェットで空飛ぶリザードンを追いかけてきたことがある。だから、しばらくの間は影だろうが本体だろうがかき消してくれるだろう。

 

「リロード・オン・ファイア」

 

 蒼炎と竜の気を纏ったレシラムは上昇していき、次々と影を消していく。数はオーダイルなんて比ではない。なんか近づいただけで消えて行ってるような感じだ。

 あ、それなんかユイに近いものがあるな。

 え、まさかあのアホの子はポケモンでしたって落ちじゃないよな。

 

「シュウ、いくよ!」

 

 そんなアホの子もたくましく育っちゃったみたいで、参戦するみたいだ。

 しかもルカリオで。

 

「………あの時のか」

 

 何となくそうなのだろうとは思っていたが、やはり俺とのバトルで見せた不思議な現象を再現してきた。

 ルカリオがユイの胸から骨の棍棒を造り出し…………………あれ? なんか前よりもくそ長くね?

 

「しんそく!」

 

 そして、一瞬で空中へ移動し、くそ長い骨を振り回した。

 当たった影は消滅。

 レシラムと合わせて一気に影の数を減らしやがった。

 いや、ほんと。

 ようやくどんよりした空が再度見られるようになったもん。

 

「まだメガシンカさせてもいないのに……………」

「プテくん、お願い!」

 

 今のでコマチも開放できたようだ。

 マジか、あいつら強くなりすぎだろ。

 

「って、プテラを出したら…………」

 

 くそっ、これじゃ何をやってもキリがねぇ。

 メガシンカなしでこの状況を打開するのはあいつらには難しすぎる。だからメガシンカに頼ってしまうが、それが逆に狙われてる原因ともなれば、使えない。

 

「ユキノ、本体を探してぶん殴ってくる。フレア団と、あいつらのこと任せていいか?」

「分かったわ。けど、あなたも気を付けて。さっきも言ったけど長くはもたないわ」

「ああ、分かってる」

 

 どれだけ今の状態が保っていられるのか知らないが。

 時間制限があるからといって動かないわけにもいくまい。

 俺たちが動かなかったら、さらに被害は拡大していく一方である。

 何より、トツカがまだ抜け出せていない。

 

「俺の大事なもんに手出した借りは返してやる」

 

 




Saqueっていったい……………。


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33話

 デオキシスの本体を探すなんて言ってはみたものの。

 どう見分けたものか。

 確かサカキは目の色が違うとかって言ってたよな。

 けど、この中から一体だけ目の色の違う個体を探せっていうのも酷な話だ。

 そうなると違う方法を考えるしかあるまい。

 

「ハルノ!」

「私に命令しないで!」

 

 この声は……………?

 

「ハルノと………ナツメか?」

 

 何故あの二人が同時攻撃を仕掛けてるんだ?

 そんなに仲良かったか?

 どっちかっつーと悪かったと思うんだが。詳しくは知らないけど。

 

「み、ミミ、ロップッ…………!?」

「ミミィッ?!」

 

 トツカ?!

 

「数の暴力でやられたってか………」

 

 トツカを助けようと動いていたミミロップが、影の数に押されてすぐにメガシンカが解けてしまった。つまりは戦闘不能。

 

「ボーマンダ、メガシンカ!」

「サーナイト、メガシンカ!」

「ガブリアス、メガシンカ!」

 

 キーストーンを持っていれば狙われる。メガシンカすれば余計に狙われる。だが、メガシンカしなければ手も足も出せない。しかもメガシンカしたところで圧倒的な数にやられる可能性もあると来たもんだ。

 こんなの無理ゲーだろ。

 

「ドラゴンダイブ!」

「サーナイト、シャドーボール!」

「ガブリアス、はかいこうせん!」

 

 それでもユキノもチャンピオンも博士もメガシンカさせた。それはそうせざるを得ない状況という証である。

 

「ユイ!」

「な、なに、ゆきのん?!」

「今朝言ったこと、覚えてるかしら?」

「う、うん………でも、あたし………まだ………………」

「大丈夫、自分に自信を持ちなさい。あなたを鍛えた私が言うのよ? それに、あなたに『アレ』を託したのは他でもないハチマンよ。自分を信じられないというのなら、私を、ハチマンを信じなさい!」

 

「………………………」

 

 打開策。

 デオキシスはブラックホールらしきものを作り出す能力を持っている。そして、それがダークライの大技に反応した。

 つまり………………ッ!

 

「おい、黒いの。一発ドデカイの作って、あの影どもを呑み込むぞ」

「ライ」

 

 俺がそう言うとダークライは俺に菱形の黒い結晶を渡して来た。いつぞやの結晶と同じである。

 これで一発打てってことだな。

 

「ダークライ、ブラックホール!」

 

 これ使った後にぶっ倒れるなんてことないだろうな。前回確かしばらくしか保たなかったはずだぞ。一回目よりは猶予時間が伸びていることを祈るばかりだ。

 

「………な、ん、だ………あれ、は………」

 

 Saqueも知らない技、ということは本当に奥義らしいな。それを俺なんかに教えたってことは随分と懐かれてるみたいだ。

 悪い気はしない。俺もダークライには随分と世話になって来た。そんな俺が出来ることなんて記憶を食わせることか全力を引き出してやることくらいしかない。

 

「これが、ブラックホール………」

「どんどん影が吸収されていってる………………」

 

 ぐっ、やはり来たか。

 もの凄く頭が熱い。熱いし痛くてかち割れそうだ。

 だけど、これ一発で倒れてたまるか。

 俺にはまだまだやるべきことが山程あるんだ。

 

「……………アンタ、惨めだね」

「な、何者………だッ?!」

「元マグマ団幹部カガリ、とでも名乗っておこうかね」

「マグマ団、だと……………」

「気分はどうだい?」

「くぁっ?!」

 

 マグマ団、だと………!?

 なんでそんな奴が………。

 

「アンタも知ってるでしょ。マグマ団とアクア団がやったこと。結局は自然の力の前になす術もなくなった」

 

 くそ、次から次へと問題ばかり起きやがって!

 

「アンタも同じさ」

「違う! 私はお前たちとは目指す世界も利用するものも何もかもが!」

「違わない。アンタが利用しようとした男は古代ポケモンたちと同じ禁忌。アンタは禁忌に触れたのさ。そして、禁忌に触れた者へは鉄槌が下される」

「うあ、あああっ?!」

「コマチちゃん!?」

 

 コマチ?!

 身体が動かせないッ!?

 

「……………っ、シュウ! あたしに力を貸して!」

「ルガッ!」

「メガシンカ!」

 

 デオキシスの影とともにブラックホールへと流れてくるコマチを助けようと無理にでも身体を動かそうとするが、それでも動かない。

 やはり、相当の負荷が俺にもかかっているようだ。

 その間にユイがルカリオをメガシンカさせた。ユキノがキーストーンを渡していたのだろう。

 

「シュウ、しんそく!」

 

 メガシンカしたルカリオは一瞬でコマチの元へたどり着き、影を攻撃して救ってくれた。

 何とか間に合ったか。

 けど、まだトツカが……………。

 

「コマチちゃん!」

「ってて……、ユイさんありがとうございます。助かりました」

「………あたし、とうとうメガシンカできちゃった………」

「ユイガハマ、君は誇っていい。初のメガシンカでここまでルカリオの力を引き出せるなんて、普通は無理な話だ」

「それは、ゆきのんやヒッキーがいたから……………」

「あいつらは関係ないさ。最後は君とルカリオ自身の問題だ。そして見事、門を開いたのだ」

「コマチたちもいくよ! プテくん、メガシンカ!」

 

 ユイに続き、コマチもメガシンカさせてきた。

 もはや逃げ回ることの方が悪手のような気がしてきたわ。

 

「はかいこうせん!」

 

 プテラの攻撃はトツカを捉えている影とその周りの影を一網打尽に焼き尽くした。

 

「トツカさん!」

「クロバット、ブレイブバード!」

 

 空いた空間に流れ込んでくる影をクロバットが注意を引い、その間にトツカはトゲキッスに乗って態勢を立て直していく。

 

「ディアンシー、ダイヤストーム!」

 

 サガミの指示でディアンシーが巨大なダイヤモンドをデオキシスの大群に突き飛ばした。

 するとこれまでメガシンカポケモンたちに注意が向いていたのが、一斉にダイヤモンドの方へと向きを変え、集まり出した。

 シメた、これならポイントを絞れる!

 

「ダークライ、一気に、いくぞ!」

『ライ』

 

 ブラックホールを広げ、焦点をダイヤモンドへと集中させていく。

 こんな操作、どうやってやっているんだ、なんて問われたら答えようがないが、俺のイメージをダークライが再現している、とでも言えばいいだろうか。

 リザードンやゲッコウガのように視界も共有していなければ、テレパシーで繋がっているわけでもない。ただお互いの勘だけが頼りである。

 

「東海の神、名は阿明、西海の神、名は祝良、南海の神、名は巨乗、北海の神、名は寓強、四海の大神、百鬼を退け凶災を祓う!」

 

 巨大ダイヤモンドの上空からはザイモクザが作り出した五芒星が挟み込みにかかった。

 アレで押し返そうという魂胆らしい。

 

「今よ! 全員で一斉攻撃!」

 

 誰の合図なのか。

 聞き分ける前に各々の命令によってその声はかき消されてしまった。

 

「ボーマンダ、ドラゴンダイブ! ユキメノコ、ユキノオー、マニューラ、ふぶき! ヘルガー、だいもんじ!」

「マロン、ウッドハンマー! クッキー、インファイト! シュウ、はどうだん!」

「カーくん、サイコショック! カメくん、ハイドロカノン! キーくん、げきりん! クーちゃん、メタルバースト! プテくん、ギガインパクト!」

「ネイティオ、メタグロス、ハガネール、バンギラス、はかいこうせん! カメックス、ハイドロカノン!」

「全員でサイコキネシス!」

「フシギバナ、ハードプラント! エンペルト、ハイドロポンプ! サーナイト、ムーンフォース! グレイシア、ふぶき!」

「カイリキー、ハリテヤマ、ばくれつパンチ! バシャーモ、サワムラー、ブレイズキック! エルレイド、インファイト!」

 

 これが数の暴力というやつだろうか。

 いやはや恐ろしい。

 だが、もっと恐ろしいのは俺のポケモンたちだ。

 誰に命令されるでもなく、究極技を合成させ、三位一体の重い一撃を解き放ったのだ。

 

「スイクン、オニゴーリ、ぜったいれいど! エンテイ、せいなるほのお!」

 

 そして最も恐ろしいのがルミルミである。

 タイミングを見計らったかのようにトドメの一撃必殺で影も技も丸ごと瞬間冷却し、エンテイの炎で一気に燃やし、跡形もなく消し去ってしまった。

 俺のいる意味……………。

 

「…………やった、のか………?」

 

 いえ、影は無くなりました。

 でも無くなったのは影だけです。

 いるんですよ、まだあそこに。

 

「ダーク、ライ………」

 

 デオキシスの影も消え去ったことでブラックホールも用済みとなり、収束させた。

 穴を閉じた瞬間、俺もダークライもその場に倒れこみ、膝をついて息を荒くしている。呼吸が出来ていなかったのだ。それくらいあの技は負担が大きすぎる。

 

「はあ……はあ…………はあっ………」

「ハチマン!?」

 

 近くにいたユキノが何事かと駆けつけてきた。

 

「俺のことは、いい。それよりも、まだ奴はいる」

 

 足りない酸素を思いっきり吸い込みながら、デオキシスがいる方を指差す。

 そこは白い煙に包まれており、肉眼ではデオキシスを確認できなかった。だけど、いるのだ。

 

「………レシラム、ジュカイン、オーダイル。…………もう、一度、…………はあ………三位一体、攻撃だ………」

 

 静まりかえった戦場に再び怒号を鳴らす。

 三色の攻撃は一体となり、白い煙を消し去った。

 だがそれも、一瞬で消されてしまった。

 

「…………来るっ!」

 

 三位一体を呑み込んだ思われる黒い穴の横から、赤と青の触手が俺を射殺さんばかりに伸びてきた。咄嗟にガードに入ったレシラムを突き飛ばし、その後ろにした俺も一緒に巻き込まれてしまった。

 

「くっ………クレセリア! お願い、デオキシスの注意を引きつけて!」

 

 そう言えば、ユキノはクレセリアを連れていたな。

 クレセリアがデオキシスの注意を引きつけている間に立て直さないと。

 

「ハチマン、生きてる………?」

「あ、ああ………」

 

 生きてはいるが、正直今にもぶっ倒れそうだ。

 だが、前回よりは保っている。意識が遠のく感じがまだしない。疲労で寝たい気分だが、強制シャットダウンというわけではないから遥かな進歩と言えよう。

 

「今なんだゾ! カラマネロ、さいみんじゅつ!」

 

 ヤベッ!

 完全に存在を忘れてた。

 

「フフフなんだゾ。ようやくデオキシスを我が支配下に置くことが出来た。さあ、デオキシス。我がボールに入るのだゾ」

 

 カラマネロってさっき倒したんじゃなかったのか?

 

「チッ」

 

 見れば他の奴らも復活していた。

 薬でも使ったのだろう。

 

「フラダリさま、私クセロシキがカロスの、いや世界のリセットを果たしますゾ!」

 

 デオキシスを支配下に置いたことで世界のリセットなんてできるのか?

 いや、まあフレア団の研究チーム筆頭が言ってるんだし………。

 ええい、仕事を増やすな!

 

「だが、その前に。デオキシス、邪魔者を排除するのだゾ」

 

 おっと、とカガリと名乗る女性が触手を躱してSaqueはデオキシスに捕らえられた。

 アレ?

 これってひょっとして内輪もめって奴か?

 いいぞー、もっとやれー。

 

「………クセロシキ、貴様………貴様ァ!!」

「偉大なるフラダリさまを侮辱した報いなんだゾ」

 

 Saqueがフレア団幹部を利用していたようで、その実クセロシキが動かしていたのか。

 話を持ちかけられた時点で奴はここまで計画していたのかもしれない。

 このまま絞め殺すのかね。

 

「ダブルニードル!」

 

 だが、サカキはそうはさせなかった。

 スピアーの針が赤い触手に刺さり、締め付けが弱まったことでSaqueは解放された。

 まあ、デオキシスに刺されて大量に血を流してるから、地面に転がることしかできていないが。

 

「サカキ、さま…………」

「Saque、貴様が受ける報いはコイツからではない。このオレからだ!」

 

 要は人の獲物に手を出すなって奴か。

 どうでもいいけど、カガリと名乗る女性が上手く壁となり、コマチたちにはSaqueの様子が伺えなくなっている。地味に働きますね………。

 

「シャア………」

「お前、リザードンに戻ったのか」

「………シャア」

 

 限界が来たのか、レシラムは元の、いつものリザードンの姿に戻っていた。

 まるでメガシンカだな。

 でもメガシンカの先の力だし、ギガシンカとでもいうべきか?

 

「クセロシキ、準備ができたわよ」

「了解なんだゾ。デオキシス、サイコブースト!」

「ライ!」

 

 くそっ、この動けない時に……………。

 ダークライも無茶するな。

 

「させないわ! クレセリア、サイコキネシス!」

 

 クレセリアが防御に徹しているみたいだが、それだけでは足りないはずだ。アタックフォルムになっていればいくらクレセリアでも太刀打ちできないだろう。

 

「うそっ…………このタイミングで?!」

 

 ハルノの焦り声が聞こえてきた。

 何が起きている。起き上がれねぇからさっぱり分からん。

 

「ハッチー、どうしよう…………また新しいの出て来たよ………」

「新しい、の?」

「フレア団………………まだいたんだね……」

 

 つまりフレア団の再集結ってわけか。

 多分、囲まれてるんだろうな。

 

「ッ!? ハチマン! 黒い穴が!」

 

 ッ!?

 それはやべぇな。

 けど、リザードンは動けない。ジュカインもコマチを助けに行って、捕らえられたダメージがデカい。ヘルガーはユキノの下にいるし、呼び寄せられるのは…………。

 

「くっ、エンテイ!」

 

 仕方ない。

 また荒技でいくか。

 

「俺たちにせいなるほのおだ!」

 

 ルミのところにいたエンテイは、その場から俺に向けて聖なる炎を撃ち出してきた。

 こう、見える展開と見えない展開があるのは、何とももどかしいものだな。

 

「うわっ!? ヒ、ヒッキーィィィイイイイイイイイイッッ!!」

「落ち着け、ユイ。火傷するような熱さじゃないだろ?」

「ふぇ? あ、ほんとだ………。なんか、優しい温かさだね」

「せいなるほのおは攻撃に使えば、相手を火傷させるが、こうやって使えば治癒効果が発揮されるんだよ」

「…………………伝説のポケモンってスゴいんだね」

「ああ、けどな。今からやってくる伝説はエンテイの比じゃない」

 

 ユイはいきなりのことで慌てていたが、火傷するような熱さじゃないと分かると、炎に身を捧げた。

 ………俺の目がおかしいのだと思いたいが、炎はユイに吸収されていっているように見える。

 ほんとこの子なんなのん?

 覚醒でもするのん?

 

「サンキュー、エンテイ。今度はあっちに攻撃の炎だ」

 

 コクリと頷くと、エンテイは禍々しい濃いピンクの光線を撃ち出しているデオキシスに向けて突っ込んでいった。

 

「オダ!」

「カイ!」

 

 エンテイの炎により動けるまでには回復した身体をオーダイルとボロボロな姿のジュカインの支えで奮い立たせ、状況を把握していく。

 デオキシスから解放されたトツカとコマチをツルミ先生が手当てをし、そこをルミが守っている。ついでに逃げ遅れた観客もいるみたいだ。

 フレア団の残党どももナツメとマチス、ヒラツカ先生とチャンピオン、それにプラターヌ博士までもが参戦し、抑えている。

 科学者どもの方はエックスとコルニとこんこんブル博士が相手をしていた。

 そして、デオキシスとクセロシキにはユキノシタ姉妹が。

 デオキシスとクレセリアの対峙、そこにエンテイが炎を纏って突っ込んでいき、その90度左には巨大な黒穴が渦を巻くように開いていた。

 その奥には赤い目があり、俺を見つけるや否や青と赤の竜を模した波導を撃ち放ってきた。

 

「オーダイル、ハイドロポンプ! ジュカイン、リーフストーム!」

 

 奴を近づけさせるわけにはいかない。

 最悪魂を持っていかれるかもしれないんだ。

 そうでなくともあの暗い世界に引き摺り込まれてしまう。

 遠距離攻撃で押し返すのがベストといえよう。

 

「ヘルガー、ユキメノコ! 今よ!」

 

 あっちはあくのはどうとシャドーボールで背後からの不意打ちにかかったのか。

 だが、エンテイの突撃をディフェンスフォルムでガードしていたため、再度フォルムチェンジをされてスピードフォルムで躱されている。

 

「カイ!?」

「ジュカイン?!」

 

 黒穴とは別の方から攻撃を受け、ジュカインが吹き飛ばされた。

 

「オダ!」

 

 くそ、今ので奴が視界から消えやがった。

 オーダイルが警戒を強めているが、まるで分からない。

 どこだ、どこにいる………。

 

「シュウ、ボーンラッシュ!」

 

 ユイ………?

 お前まさか居場所が分かるのか…………?

 

「オーダイル、ルカリオのいる方へれいとうビーム!」

 

 まあ何でもいい。

 見えているなら使わせてもらおう。

 奴はドラゴンタイプを併せ持つため、こおりタイプの技は効果抜群だ。

 

「カイ!」

「ジュカイン、大丈夫か?」

「カイ………」

 

 ジュカインはまだメガシンカは解けていないものの、限界も近いだろう。

 休ませてやりたりところだが、手数が減るのも厳しい状況だ。

 どうする? どうするのが正解だ?

 

「ッ?!」

 

 なんか。

 なんか下から気配が…………。

 それにゴゴゴッ! と地鳴りがする。

 

「ゴラァァァアアアアアアアアアンンンンンンッッ!!」

 

 ッ?!

 こいつは………!

 

「ボス、ゴドラ………」

 

 地面が割れたかと思うとボスゴドラが飛び出して来た。

 ボスゴドラはそのまま垂直に飛んでいき、何かにぶつかった。

 するとラグが起きたかのように空気が乱れ、奴はーーギラティナは姿を見せた。アイアンヘッドが効いたみたいだ。

 

「そうだ………! ジュカイン、今は休め。まだまだお前が必要だからな。ここでくたばってもらっちゃ困る」

「カイ……」

 

 一つ、あることを思い出した。

 そのためにもジュカインにはメガシンカを解かせ、ボールに戻して休ませることにした。ついでにリザードンもボールに戻しておく。

 ジュカインには悪いが、生きるためだ。

 

「ボスゴドラ!」

「ゴラァ!」

 

 いつだったか博士から渡されたボスゴドラナイト。使うことはないだろうと思っていたけど、こんな形で使うことになるとはな。

 ボスゴドラもメガストーンを受け取ると、俺に頷いてきた。どうやらいけるらしい。

 

「力借りるぜ、ボスゴドラ! メガシンカ!」

 

 キーストーンとボスゴドラナイトが共鳴を始めた。

 鉄の鎧がさらに大きくなり、鉄の魔獣と化している。

 上手くいった。

 まずはギラティナを穴に押し返して、デオキシスを倒す!

 

「ロックカット!」

 

 まずは身体のツヤを上げ、素早さを上げていく。

 

「ユイ! ルカリオをこっちに寄越せ!」

「分かった! シュウ、ハッチーのところに行って! 何かするみたいだから!」

「ルガゥ!」

 

 ギラティナの背中の上を走り回っていたルカリオが、直滑降で落ちて来た。

 着地すると無駄にクレーターを作り、ボスゴドラでさえ、言葉を失っている。

 

「クッキー、マーブル、いくよ!」

 

 ユイはルカリオと入れ替わるようにウインディに乗って俺たちの前へと飛び出して来た。

 

「へんしん!」

 

 何に変身させるのかと思えば、蒼炎の黒いリザードンだった。

 ドーブルはウインディに対して炎を吐き出し、特性のもらいびを発動させ、ウインディはその炎を纏って突進を仕掛けていく。

 

「ルカリオ、ボスゴドラを天高く放り投げてくれ!」

「ル………ガゥ! ガゥガゥ!」

「ゴラ!」

 

 何やら二人でやり方が決まったようで、ボスゴドラに骨の先端部分を掴ませ、それをルカリオが振り回して回転を加えていく。

 遠心力が加わってくると、ボスゴドラの身体も宙に浮き、さらに回転を強めて、上空へと放り投げた。

 

「マロン、ニードルガード!」

 

 ギラティナのシャドークローをブリガロンのニードルガードでうまく防いでいる。

 

「ボスゴドラ、ヘビーボンバー!」

「クッキー、りゅうのはどう!」

 

 上空からはボスゴドラが、下からはウインディがギラティナ目掛けて技を撃ち出した。

 

「シュウ!」

「ダークライ!」

 

 ユイの声にルカリオはすぐさま反応し、ギラティナ目掛けて飛んでいった。

 俺もダークライを呼び寄せ、攻撃の準備を整えていく。

 

「「あくのはどう!」」

 

 左右両側から挟み込むようにして、黒い波導を送り込んだ。

 

「マーブル、いくよ! ダークホール!」

 

 ユイも随分と戦い慣れてきたもんだ。

 俺の意図をしっかり読み取って、対応してくれている。

 

「オーダイル………くっ………ハイドロ、カノン!」

「オ、オダッ!?」

「いい! 俺のことはいいから攻撃してくれ!」

「オダ!」

 

 急にフラついて倒れかけた俺を気にしてか、オーダイルは一瞬攻撃を躊躇ってしまった。

 そのせいでギラティナが防御態勢に入る隙を作ってしまったのだ。なんか俺のせいで悪いことしてしまったな。

 

「…………これでも足りない、の………」

 

 足りない、というよりは急所を外してしまったからだろう。

 さて、どうしたものか………。

 

「ハチマン! これを!」

 

 この声はトツカか?!

 手当ても無事終わったみたいだな。

 と、とと………、これは………。

 

「リザードンに使ってあげて!」

「サンキュー!」

 

 トツカが投げてきたのは黄色い結晶の塊、げんきのかたまりだった。

 こんなレアなアイテム、高かっただろうに。

 終わったら金払おう。

 

「リザードン」

「シャア…………」

「これを噛まずに飲み込むんだ」

 

 げんきのかたまりをリザードンに飲ませ、回復を待つ。

 その間、どんどんギラティナが態勢を立て直し始めた。

 

「ッ!?」

 

 また消えた。

 シャドーダイブか!?

 

「シュウ! ボスゴドラを投げて!」

「ガゥ!」

 

 ユイの指示でルカリオは、未だボスゴドラが持っていたルカリオの骨棍棒を掴み、ぐるぐる回して投げ上げた。

 

「ハッチー!」

「ああ、分かってるよ! ボスゴドラ、メタルバースト!」

 

 彼女がそう指示した意図。

 それはギラティナが出てくる場所にボスゴドラを投げ、返し技を使えということだ。

 そして、ボスゴドラが覚えている返し技はメタルバースト。

 カウンターやミラーコートより威力として劣るものの、攻撃技なら物理技だろうが遠距離技だろうが、返すことができる。

 今は別に威力を必要としているわけではない。いや、あるに越したことはないが、それはボスゴドラの役目ではないのだ。

 

「ダークライ、お前も穴を用意しとけ!」

 

 ダークライにはドーブル(メガリザードンX状態)と一緒に穴を開けて待機させることにする。

 なんだかんだあいつも限界が近いはずだ。無理をさせたくはない。

 

「いくぞ、リザードン!」

「シャアッ!!」

 

 全回復したリザードンの炎は燃え盛っていた。

 内から溢れ出る力を出し尽くしたくてウズウズしているのが伝わってくる。

 

「ブラストバーン!!」

「シャアァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 リザードンの咆哮により、ギラティナが出てきた。

 だが、そこにはボスゴドラがいて、技を受けて地面へと落ちていく最中、メタルバーストを放ち、ギラティナのバランスを崩した。

 そして、ギラティナが怯んだところにリザードンの拳が叩きつけられ、直接究極の炎に包まれた。

 炎は段々蒼くなっていき、まるでメガシンカの時のような炎である。

 

「ガオガエン、ハイパーダーククラッシャー!」

「ダグトリオ、超絶螺旋連撃!」

 

 と、上空から二人の男性の声が飛んできた。

 何者なんか、今はどうだっていいか。

 取り敢えず、この危機的状況を脱しようと動いているなら、それはもう味方だ。

 

「………………押し返した………」

 

 割り込んで来た男二人の活躍により、ギラティナは再度黒い穴の向こうへと消えていった。

 

「デオキシス、サイコブースト!」

「きゃあっ?!」

「フッフッフッ、なんだゾ。お前たち、撤退するのだゾ!」

 

 あっちは逃げられたか………………。

 

「ま、待ちなさい!」

 

 待てと言って待つような相手ではないのは分かっているが、やはり口に出してしまうものだな。

 

「あ、やべ……………」

 

 ひとまず戦う敵がこの場から消えたことで、俺のスイッチが切れた。

 身体を動かそうにも動かさず、そのままドサリ!と地面に倒れてしまった。

 超痛いんですけど。せめて痛覚も麻痺しててくれよ。

 

「ハッチー!」

 

 何事かと、慌てて飛んでくるユイ。

 いやー、大活躍だったなー。

 

「くそ、動けねぇ………」

「それは、そうよ……………。レシラムにダークライ、メガシンカって一度にやり過ぎなのよ」

「けど、やらねぇとやられてた」

「…………悔しいけど、また何も出来なかったわ」

 

 ボロボロなまま歩み寄って来たユキノがポツリと零した。

 

「いや、デオキシスを足止めしててくれたじゃねぇか」

「でも、倒せなかった」

「それは俺も同じだ。身体にガタが来て、迷惑まで掛けてた」

 

 相当悔しいのだろう。

 唇を切れちゃいそうなくらい噛み締めている。

 

「そうだよ、ゆきのん。ゆきのんたちがデオキシスを止めてくれてなかったら、あたしたちも何も出来なくなってたもん」

 

 何でもいいけど、君たち自分の姿を確認してくれると助かるんだが。

 こんな時に何考えてんだって話だが、いろいろとヤバい参上になってるぞ、布切れどもが。

 

「お兄ちゃん、大丈夫? 顔赤いよ?」

「ば、ばっかばか。これが大丈夫なわけないだろ」

「あ、口しか動いてない」

 

 口だけじゃないぞ、目も動かせる!

 

「なあ、コマチ。タイツが凄いことになってるな」

「なっ?! お兄ちゃん!? 例え血の繋がった妹でも、今のはセクハラだよ!」

 

 手で太腿辺りを隠す仕草が何とも可愛らしい。

 さすがコマチ。

 

「君たちも気をつけた方がいい。今度は男どもに襲われ兼ねんからな」

「……………そうですね。この変態が身動き取れないのが、不幸中の幸いでした」

 

 ヒラツカ先生は俺の意図を汲み取ってくれて、他の女性陣にも注意を促してくれた。

 正直、眼福ではあるが、それは俺の前だけにして欲しい。

 

「ハチマン、これからどうするつもり? 奴らがどこに向かったのか…………」

 

 鋭い口調で話かけて来たのはハルノだった。

 クセロシキたちに逃げられたのが、余程腹立つらしい。魔王が降臨している気分だ。

 

「それなら検討はついている。だろ、サカキ」

「ああ、奴らの目的は恐らく日時計だ」

「やっぱりな………」

 

 日時計と言えば一箇所しかない。

 カロスの北東、ヒャッコクシティにあるオーパーツと称されている物体だ。先のフレア団との抗争の後、ある一定の時間に特殊なオーラを放つのだ。

 博士曰く、それはメガシンカエネルギーに類似し、キーストーン、メガストーンにも影響及ぼしているらしい。

 

「よお、ハチ公。お前、分かってたのか?」

 

 マチス………。

 その担いでいるものは何なんだ?

 見たことのある髪が垂れてるぞ。

 

「なんとなくな。デオキシスが狙っていたのはキーストーンとメガストーン。そしてそれ以上に反応したのがダイヤストーム。んで、クセロシキが世界を終わらせるためにデオキシスを連れてどっか行った。なら、もう行き先は一つしかないだろ」

「キーストーン、メガストーン、ダイヤストーム………」

「全部、石が関係してるわね」

 

 そう、全部石が関係しているのだ。

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 何人かはその共通点の意味が理解できたみたいだな。

 

「そういうことだ。だから狙いは日時計なんだよ」

「確か日時計は宇宙から来たオーパーツとも言われている。デオキシスが狙ってもおかしくないわね」

「しかもコウジンの化石研究所でグラン・メテオの破片を奪ったらしい」

 

 恐らくグラン・メテオを奪ったのはデオキシス自身がフォルムチェンジするためだ。

 俺の知っている限りでは、カントーの風土がアタックとディフェンス、ホウエンの風土がノーマル、スピードに変化させる力があり、その力でフォルムチェンジを行なっていたはずだ。

 それをすっ飛ばして全フォルムにチェンジしていたところを見ると、グラン・メテオがその全てのエネルギーを持っていたと考えるべきだ。

 

「…………何をするつもりなの?」

「………恐らく日時計をデオキシスに取り込ませるつもりなのだろう。そこから先はもはや想像すらできん」

 

 最終兵器が使えなくなった今、次に可能性のあるヒャッコクシティの日時計に目をつけていたようだ。これもSaqueがデオキシスの話をしたからなんだろうな。偶然にも最終兵器級の爆発を起こせると分かり、計画を密かに立てられていた。

 爪が甘いな。

 

「ッ!?」

 

 おっと、ようやくか。

 もう少し早く来てくれるとよかったんですけどね、ゲッコウガさん。

 

『………何があった……!』

「デオキシスだ。大量の影を投入してきてこの有様だ。しかもSaque率いるネオ・フレア団とかいうのも来てな。クセロシキって覚えてるか? あのデブ、デオキシスを捕獲しやがった。カラマネロの催眠術で支配下に置かれている」

『なるほど。それで奴らは?』

「そっち行ったぞ」

『やはり来たか………』

「つか、お前なんで俺と会話できてんの?」

『便利だろ?』

「まあ、便利だけどよ…………。はあ、まあいい。しばらく足止めよろしく。なるべく早く向かう」

『テレポートで一瞬だぞ?』

「そもそも身体動かねぇんだよ。せめて一息入れさせろよ」

 

 あ、切りやがった。

 あの野郎、終わったら一発叩いてやる!

 

「……………なんだよ」

 

 なんて、未来に誓いを立てていると、ユキノがとても怪しいものを見るかのような目つきで、見下ろしてきた。

 

「いえ、急に見えない誰かと喋りだしたものだから、とうとう頭がイかれたのかと思っただけよ」

「ある意味ぶっ壊れてるわ。あいつもうポケモンじゃねぇ」

「ねぇ、ハッチー。辛かったら言ってね」

「やめろユイ。そんな優しくされると余計に心が痛むだろうが」

 

 ユイは優しい。

 だが、その優しさが時には心を抉る凶器にもなる。

 

「さてと、ルミ、ツルミ先生、それとトツカ。三人でミアレシティを見回って怪我人の救護を。ディアンシー、お前の力で避難した人たちを元気付けてやってくれ。サガミ、ディアンシーを頼む。カワサキは………」

「チカと一緒に既に外だよ。こっちだけに戦力おいておけないし」

 

的確な判断だな。

そのまま避難所に詰めておいてもらった方が賢明か。

 

「そうか、ならオリモト。お前は残ってくれ。鼻が効くお前なら残党がいても捌けるだろ」

「言ってくれるね。けどいいよ。元々そのつもりだったし」

 

この中じゃ、悪党狩りは元悪党であるオリモトが適任だ。ここには悪党中の大悪党がいるが、逆に任せられん。何を仕出かすか分かったもんじゃない。

 

「それとハルノ、シズカさん。こっちの指揮は二人に任せます」

「ああ」

「分かったわ」

「メグリ先輩は戦力の確保を」

「うん!」

「ユイ、コマチ。お前らは残ってメグリ先輩を手伝ってくれ」

「え? で、でもあたしも………!」

「コマチだって!」

「二人の気持ちは有難いが、ただ乗り込むだけでは能がない。お前らは指揮官二人のタイミングでの導入だ」

「うー……」

「分かったよ」

 

 力をつけて自信も持てて、いざ戦いだって時だから、前線で戦いたいって気持ちも分からなくはないが、今の抗争でユイのポケモンもコマチのポケモンもダメージを相当受けている。それをこのまま戦場に送り込んで仕舞えば、足枷にしかならなくなるだろう。

 しかもまだまだユイたちはそういう時の対処法が身についていない。

 こればっかりは経験を積むしかない。

 

「サカキ、アンタはもちろん前線だ」

「オレに命令するのか」

「お前こそ、今のオレたちに逆らうのか……っ!」

 

 ゲッコウガに身体乗っ取られた。

 やべぇ、もうこいつアルセウスとか余裕で倒せそう。

 というか、さっき切ったんじゃねぇのかよ。おかげで起き上がれたけどよ。

 

「ッ、貴様………何者だ…………ッ!?」

「こいつは驚いたぜ! 瞳の奥に別の何かがいるなんてよ」

 

 サカキは戦闘態勢に、マチスはゲラゲラ笑っていやがる。サカキに警戒される日が来るなんて。

 

「…………青いポケモン………?」

「落ち着きなさい、ゲッコウガ。やるなら全て片付けてからよ」

「ふん! ハチも甘すぎる………」

 

 ねぇ、ちょっと怒りのボルテージMAXになってません?

 あーた、キレるとそんな感じなのね………。

 

「………ふぅ、やべぇなあいつ。本当にポケモンか?」

「さあね。ただここまで人知を超えた存在にしたのはあなたよ。その責任は取るべきじゃないかしら」

「や、俺もまさかこうなるとは思ってなかったからな? …………今思えば、技を三つしか使わないとか進化する気はないとか言ってた最初のアレって、自分の力を抑えつけるためだったとか、そういうオチじゃないよな……………?」

「パンドラの箱を開けちゃったんだね」

「ジュカインやヘルガーも何かあるのかなー?」

「ヘルガーのビックリ箱はダークオーラだが、ジュカインにそういう類のは特にないな」

「カイ………」

 

 いや、勝手に出てきて落ち込むなよ。

 お前もあれだぞ?

 くさタイプの技コンプリートしてるじゃん?

 地味だけど、それもそれでぶっ壊れてるからな?

 

「ユキノ、ザイモクザ。デオキシスを止めるぞ」

「え? 我も?」

「お前も来い」

 

 今のあいつらでデオキシスの足止めは出来るのだろうか。まあ、何にせよ時間はない。

 はあ………、先が重いな。

 

「…………それよりハチマン。立てるの?」

「…………………」

 

 ほんと先が重い…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲッコウガ、どこに向かって…………ここって、ヒャッコクシティ………?」

『ここが鍵なんだとよ』

「鍵………? なんの………?」

『さあ、オレさまが知るかよ。ただ、やらなきゃ死ぬ。そういう未来が待っているんだそうだ』

「やらなきゃ死ぬ…………。また、先輩無茶なことしてるのかな…………」

「みゅーみゅー」

「コウガ………」

「………あのハクリュー、ゲッコウガに懐きすぎじゃない?」

『懐きすぎっつーか、そもそもあの光景自体が異常だぜ』

「………ポケモントレーナーゲッコウガ、か」



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34話

随分と間があいて申し訳ないです。
九月入ってから仕事量が増えて、中々書く時間と体力が取れませんでした。

次回更新はまたしばらく空きそうです。


「なあ、ザイモクザ。さっきの五芒星は何だったんだ?」

 

 クレセリアに回復してもらっている間、ザイモクザにさっきの五芒星について聞いてみた。

 

「む? あれはエーフィ以外のポケモンたちによるめざめるパワーの合わせ技であるぞ。お主も元ネタは知っておろう?」

「ああ、五行符を使った百鬼夜行避けだったか…………?おい、まさかお前のポケモンたちって…………」

「うむ、偶然か必然か、我の思い描く通りに各々がタイプの違う内なる力を秘めていたのである。具体的にはZがみず、ロトムがくさ、ジバコイルがほのお、ダイノーズがじめん、ギルガルドがはがね。そしてこの技の元となったのが五行を司る木火土金水。対応タイプがそろっていたがために際限ができたのである。やはり我のポケモンたちは優秀であるな」

 

 なんつー偶然だよ。

 けど、エーフィはそこに加われないんだな。

 ザイモクザにべったり懐いているのに、参加させてもらえないとか可哀想すぎるだろ。

 

「エーフィは必要ないの?」

「何を言う! エーフィがサイコキネシスで五色のめざめるパワーを操ってこそ完成する技なのだ! エーフィを抜きにして出来るわけがなかろう!」

 

 お、おう………。

 こいつもこいつでエーフィにべったりだよな。

 まあ、仕草とか可愛いとは思うけど。ユイがすげぇ引いてるぞ。

 

「けど、あんな呪文唱えるみたいな前置き、いらなくない?」

「喝ッ! これだから素人は! まず、あの詠唱はポケモンたちを配置につかせ、読み上げたタイミングでめざめるパワーを発動させていく、あれは全て必要なことなのである!」

 

 まあ、半分くらいはかっこいいからってのがあるだろうけど。

 でもザイモクザが前置きを入れるのには、技のタイミングなどを合わせるためでもあったりする。しかも言っていることはほとんどの奴が分からない。だから何をしようとしているのかも悟らせないというのが、ザイモクザの後付けの理由である。

 うん、後付けなんだわ………………。

 

「お主こそ、いつボスゴドラを呼んでいたのである。急に出てきて、我少しちびったぞ」

「汚ねぇな。んな情報いらねぇよ」

 

 段々と身体が自由に動かせるようになってきた。パキパキ音がなっているが気にしたら負けだ。

 ……………終わったらちゃんと検査しよう。

 

「俺は呼んでない。ボスゴドラが自ら来たんだ」

 

 というか何で来てくれたんだろうな。

 

「ゴラァァァンンッッ!!」

「え、ちょ、おい、いきなりどうしたっ?!」

 

 えっ? なに?

 何で急に雄叫びを上げてんの?

 気に触るようなこと言ったか?

 

「「「「ココッ!」」」」

「「「ドラドラッ!」」」

 

 うおっ!?

 

「な、なんだコドラたちか………」

「これは………どういう状況なのかしら?」

 

 マジビビるから普通に呼んで。

 地面から出てきたのはボスゴドラがリーダーを務める群れのポケモンたちだった。終の洞窟からミアレ近くに巣を移したらしく、俺も以前、そこにボスゴドラを返しに行ったことがある。

 

「ゴラ、ゴドゴド!」

「ゴラム!」

 

 ボスゴドラが指示を出したのか、群れは散り散りになり会場から出て行った。

 帰れ、というのなら群れ一帯で行動するだろう。となると、それ以外のこと。しかもボスゴドラはここに残っている。

 つまりは………………。

 

「お前、仲間たちに周辺警護にでも就かせたのか?」

「ゴラッ!」

 

 フレア団、いやネオ・フレア団の主幹どもは会場からいなくなっている。だが、下っ端どもが外にいる可能もあるだろう。

 もしそうなってくるとしたら、対応なんて俺たちの手だけでは不足しているのは明らかだ。

 あの群れの力を借りれるなら、是非とも借りたいところである。

 

「サンキュー、ボスゴドラ。俺たちもあいつらを倒す準備をするか」

「立てる?」

「よっこい、せっ! ととっ………」

「まだフラフラじゃん」

「ばっかばか。立てただけでも超回復してるっつーの」

「それ、かなり危険な状態だったって言ってるようなものじゃん」

 

 おうふ………、痛いとこ突かれた。

 

「ハチマン君! みんな! 無事かい!?」

「…………こんなフラフラな状態が無事なわけないだろ、博士」

「何とか命拾いしたという感じね」

 

 プラターヌ博士とチャンピオンが駆け足でやってきた。

 割とガチな方で焦っているのが分かる。

 

「おや、これはこれはプラターヌ博士」

「っ?! その声は………ククイ博士ですかっ?!」

「ええ、直接お会い出来て光栄です、プラターヌ博士」

「こちらこそ、ポケモンの技についていつも論文を参考にさせていただいてますよ」

 

 ククイとかいう博士がプラターヌ博士と握手している。何故上半身裸に白衣なのかは聞かない方がいいのだろうな。変態と変態の会合か。見たくなかったな……………。

 

「ククイ博士、そちらは?」

「マーレインという友人です」

「マーレインです、プラターヌ博士。ククイ君からはプラターヌ博士の研究について色々伺っています」

 

 …………見たことあるぞ、この二人。しかもつい最近。

 ………ああ……。

 

「………何日か前に研究所に来た二人だ………」

 

 裸に白衣とか珍妙な格好してる男をそう簡単に忘れることは出来なかったようだ。

 ああ、忘れていたかったな………………。

 

「お、プラターヌ研究所から出て来た青年じゃないか」

「ククイ君、彼は新四天王のハチマン君だよ」

「ああ、分かってる。今のバトルを見ただけでも、強さが未知数だったさ」

 

 バトル、なんて生易しいものじゃなかったけどな。

 

「改めて、俺はククイだ。アローラ地方でポケモンの技について研究している」

「僕はマーレイン。アローラ地方のホクラニ岳山頂にあるホクラニ天文台の天文台長を務めています」

「何でまだいるんすか。カントーの本部に話を通したでしょうに」

「いや……実は俺もこの大会に出ててな」

「…………いたっけ?」

「ロイヤルマスク。ククイ君が変装した姿だよ」

 

 ロイヤルマスク?

 誰だ、そいつ。

 

「あ、あの見たことのないポケモン連れたプロレスラー!」

「見たことのないポケモン…………?」

 

 俺、そのバトル見てないような気がする。

 だからユイがどのポケモンを指して言っているのかも分からない。

 

「カロスには生息しないジュナイパー、ガオガエン、アシレーヌのことだね。この三体はアローラ地方の初心者用ポケモン、モクロー、ニャビー、アシマリの最終進化形なんだ」

 

 いわゆるアローラの御三家ってやつか。

 んで、そのポケモンたちを変態博士二号が連れていると。

 

「それで、あれは何なんですか? 見たことのないポケモンたちがいましたが」

「それについては僕よりも彼の方が詳しいと思いますよ」

 

 じっと見つめてくるアローラの二人組み。

 腐った人がいなくてマジでよかった。

 いたら大変なことになってたと思う。主に彼女の頭の中と血の量が。

 

「いや、あのポケモンたちのことだったら、こっちの方がより正確かと………」

 

 かくいう俺もぐいんと首を回して、ユキノの方を見やった。特段驚いている様子は見受けられないが、代わりに恨めしそうな視線が突き刺さってきた。

 

「………はあ、仕方ないわね。まずあの触手のような身体のポケモンはデオキシス。かつて宇宙より降ってきた隕石に付着していたポケモンよ。そして、もう一体の黒い穴から出てきたのはギラティナ。シンオウ地方の神話に登場する世界の裏側の王よ」

「デオキシス………? 聞いたことのない名だな。マーレイン、知ってるか?」

「いや、僕も知らないよ。ギラティナについても神話のポケモンとしか知らなかったよ」

 

 アローラ地方には縁のないポケモンたちだからな。知らなくて当然か。

 

「…………それにしても何でまたシンオウ地方の伝説ポケモンがカロス地方にいるんだ? それにデオキシスだったか? 隕石に付着してっていうからには隕石が落ちたところで発見されたんだよな? カロス地方にそんなところあったか? どちらかといえば、隕石はホウエン地方のイメージなんだが」

「さすがポケモン博士、というべきかしら」

「だな。推察が的確すぎる」

 

 デオキシスやギラティナについては知らなくても他の要素から結びつけられるところはやはりポケモン博士といったところか。

 こんな見た目だけど。

 

「じゃあやっぱり………」

「ええ、デオキシスのコアが発見されたのはホウエン地方。ギラティナもカロスとは何のゆかりもないっすよ」

「となると原因は他にあるというわけか」

 

 振り出しに戻った、というため息を吐く変態博士二号。

 

「ククイ君」

「なんだ、マーレイン」

「原因かどうかは分からないけど、関係がないとも言えない要素ならあるよ」

「ほんとかっ?!」

「うん、ククイ君は今日だけで何体の伝説ポケモンを目にした?」

「伝説ポケモン………? エンテイにスイクン、黒い穴から出て来たギラティナ? にダークライと………クレセリアか」

「そうだね」

 

 どうでもいいけど、レシラムは見ても分からなかったんだな。

 

「この伝説のポケモンたちが何か関係しているのか?」

「エンテイとスイクンは可能性が低いと思うけど、同じシンオウ地方の伝説ポケモンであるダークライとクレセリアなら、可能性はあるんじゃないかな?」

「なるほど………、確かに同じ地方のポケモン、それに伝説ならあり得なくもない。けど、よく気づいたな」

「君の影に隠れガチだけど、僕はこれでもホクラニ天文台の台長だよ。当然、天文についても研究しているし、月や太陽に関連するポケモンに関しては調べてたりするからね。それとデオキシスについては知らなかったけど、何かが付着した隕石がホウエン地方に落ちたって話は聞いたことあるよ」

「………そうだったな。いや、忘れてたぜ」

「ひどい親友がいたものだ」

 

 ほんとだな。

 友人の、しかも割とアローラでは名の知れた方だろうに忘れてるとか…………。

 さすが変態博士二号。

 

「時に四天王と三冠王。そのポケモンたちはどうやって捕まえたんだい?」

「Saqueから奪った。ダークライがそうしろって言ったからな」

「う、奪った………っ?!」

「おいおい、どういうことだ? 確かにダークライ使いが出ていたが、そいつから奪ったっていうのか!?」

「六年間」

「「ん?」」

「それがダークライとともに過ごしてきた時間だ。それ以上のことは言えない」

 

 ボールに収めていなくとも六年も共に過ごしていれば、どちらのポケモンかなんて分かりきったことだろう。最後は黒いのの意志で決まったが、あんな道具としてしか見ていない奴のところにいくなど、バカげた話である。

 

「私はホウエン地方である島に迷い込んで、そこでクレセリアに出会ったわ」

「ある島?」

「地図にも載っていない幻の島です。クレセリアによって私はその島に引き込まれました」

「それはつまり………」

「クレセリアに選ばれたってことかい?」

「恐らくは。選ばれた理由も恐らく………………」

 

 ユキノがチラッと俺を見て来た。

 言いたいことは何となく分かる。

 何故ユキノなのかは俺にも断定できないが、推測だけでいうなら、ユキノは俺への対抗策として施されているらしく、それが関係しているのだろう。

 

「なるほど、ダークライとクレセリアは対をなすポケモン。つまりダークライに選ばれた四天王の相棒として三冠王が選ばれた」

「なあ、マーレイン。ダークライとクレセリアが持つ技とか特徴ってなんだ?」

「ダークライは眠っている相手に悪夢を見せると言われているよ。そして、クレセリアの羽がその悪夢を取り払う効果を持っているんだ」

「そりゃ確かに対極だな」

 

 他にも両者ともに月を司るポケモンでもある。

 ダークライは新月、クレセリアは満月や三日月の象徴とされているのだ。

 

「技もダークライは相手を眠らせるダークホール、クレセリアはみかづきのまいという人やポケモンを全回復される技があるんだ」

「ダークホールとみかづきのまい、か…………。ダークホールはアレだよな、名前からして黒い穴の…………っ?!」

 

 あ、変態博士二号が気づいたみたいだ。

 

「ククイ君?」

「そういうことか」

「何がだい?」

「ようやく原因が分かったぜ、マーレイン。ギラティナを呼んだのはダークライだ。関係があるとすればそれしかない」

「…………なるほど。つまり黒幕は…………」

「ああ、この四天王だ」

 

 二人は俺を警戒し、モンスターボールを構えた。

 いつでも応戦できるぞという合図なのだろう。

 

「お見事、さすがポケモン博士ですね。それでどうします? ここで俺を倒してネオ・フレア団とやらに世界を渡しますか?」

「なに………?」

「俺はあいつらを倒しにいくつもりなんで。アンタらがここで俺を倒していくっていうなら貴重な戦力を一つ削るってことなんですよ。そこんとこ、分かってます?」

「ネオ・フレア団の仲間、じゃない、のか……………?」

 

 俺をあんな奴らと一緒にするんじゃねぇよ。

 世界なんてもんに興味ねぇし。

 

「いろんな組織が世界征服だの宇宙の創造だの企んでましたけど、正直意味が分からないんですよね」

 

 世界を支配なんてできるわけがない。

 強い圧力はかけられても、それに反抗する因子だって存在する。そういう奴らを相手するのはただただ面倒なだけだ。しかも変に力をつけてこちらを脅かす存在にもなり得る。そんな状態で世界征服など目指して何が楽しいのだろうか。

 

「世界征服したところで絶対服従するわけじゃない。どこにでも反乱材料は転がっている。だったらやるだけ無駄だと思うんすよ。最初から反乱材料はいて当然と考えているロケット団が一番現実的でかつ分かりやすい組織ってくらいには」

「なら何故………」

「そもそも憶測でしかないし、証拠もないですけど、ダークライが原因でデオキシスもギラティナも出て来たってんなら、それこそフレア団のせいですよ。最終兵器なんざ、起動させるから、こちとら一世一代の大技を使う羽目になったんだし」

「…………つまり君は味方、なのかい?」

「味方も何も俺は最初からカロスを守ろうと動いてますけど?」

 

 つーか、敵対してるの見てたでしょうに。

 それともアレか?

 全て演技だとでも思ってんのか?

 いや、そうじゃないな。

 

「はあ………、俺の言ったこと忘れてんのか」

 

 何者だって聞かれたから答えたのに、それを忘れるとか………。

 ダメな大人だな。

 

「カロスポケモン協会理事、それが俺の肩書きだ」

 

 ………………………………………。

 

「「はっ?」」

 

 ………………………………………。

 

「「はあっ?!」」

 

 時が止まるの長くない?

 そんでもって、リアクションも大袈裟すぎ。

 

「いやいやいや、待ってくれ」

「君がポケモン協会の理事……………?」

 

 だからそう言ってるだろうに。

 耳穴塞がってんのか?

 

「前会った時に言ったと思うんですけど」

「いや、あの時はただ立ち去るための冗談だとばかり……………」

「でも、それならば色々と辻褄は合うよ。プラターヌ博士もチャンピオンも、三冠王も彼の側についている。咄嗟の指揮を出しても皆がそれに従って行動していたし………」

 

 あ、あの一瞬を見てたのね。

 パニック状態で誰も見てないと思ってたわ。

 

「彼はカントーポケモン協会理事の懐刀、忠犬ハチ公よ」

 

 驚く二人に追い打ちをかけるようにユキノが細く情報を呟いた。

 尤も、金髪メガネはピンと来ていないみたいだが。

 

「忠犬ハチ公?」

「………噂程度の話として聞いたことがある。カントー本部の理事は懐に刀を忍ばせており、そいつはロケット団をも追い詰める最強のトレーナーである、と」

「また尾ビレが付いてるな」

「噂だもの。仕方のないことだわ」

 

 実際はそこまで追い詰めたわけでもないのにな。

 誰だよ、こんな噂流した奴。

 

「彼は今まで機能していなかったカロスのポケモン協会を再興させたのです」

 

 プラターヌ博士が事の経緯を説明するとようやく信じたようだ。

 

「し、信じられん…………」

「まさかその歳でトップとは…………」

 

 なんで俺の言葉では信じず、博士の言葉は信じるんだよ。変態同士、シナジーが生まれたのか?

 

「ククイ君、僕たちは今とんでもない青年に会っているのかもしれないよ」

「ああ、カロス四天王にしてポケモン協会理事。しかもロケット団のボスでさえ対等の扱い。異例中の異例だ」

 

 あのー、サカキを刺激するような言葉ひ謹んでもらえますかね。

 このおじさん、怒ると街一つなくなるから。

 

「けど、なんで四天王なんだ? チャンピオンでもおかしくない実力を持っているというのに」

「四天王は暫定的になんで、これから新しく選出するんすよ。そのためのリーグ戦と言ってもいい」

 

 早くこの任解けないかなー。

 成り行きで就いたけど、やっぱ俺には合わねぇわ。

 

「…………あんまり実感なかったけど、やっぱりお兄ちゃんってポケモン協会のトップなんだね」

「今さらだな」

 

 コマチちゃん?

 半年以上やってるのに今更過ぎない?

 

「だってお兄ちゃんだよ? あの働きたくないでごさるとか言ってたお兄ちゃんだよ?」

「やらなくていいことはやらない。やらなきゃいけないことは手短に。省エネ人生の基本だろ」

「その割りには随分とエネルギーを消耗しているようだけれど、その辺はどう考えているのかしら?」

「やらなきゃいけないことの規模がデカすぎる」

「…………嫌ならやめればいいのに」

 

 はっ?

 

「はっ? 今なんつった?」

 

 ユキノがポツリと零した言葉に、妙に反応してしまった。反応してしまえばもう遅い。口は勝手に動き出してしまう。

 

「嫌ならやめればいいのにって言ったのよ。毎回心配する方の身にもなって欲しいものだわ」

「ふざけんな。俺に大事なもんを失えっていうのかよ! いくら働きたくなくてもな! 大事なもんくらい、自分で護りたいって思うのが普通だろうが!」

「ふざけんなはこっちのセリフよ! どうしてあなたはいつもいつも自分を犠牲にするのよ! こっちだって毎度毎度ハラハラして眠れなくなるし! 悪夢になって出てくるのよ! クレセリアでも治すのに時間がかかるくらいのね!」

「だからってこの状況で何もしないわけにはいかないだろ! 俺はカロスポケモン協会のトップなんだ! お前らを護るのと同時にカロスも護らなきゃいけねぇんだよ!」

「知ってるわよ、それくらい! 私が言いたいのはもっと自分を気遣えってことよ! それと、いつ私たちが護ってなんて言ったのかしらっ? 粋がるのも大概にしなさい、このバカ! ボケナス! ハチマン!」

 

 珍しく喧嘩? 言い争い? をした。

 今まで溜まってたものが次々と吐き出されていく感じだ。俺も、ユキノも………。

 

「………何なんだよ、いきなり………」

 

 プンスカと踵を返して行ってしまう背中を見て、余計にわけが分からなくなってきた。

 

「ゆきのんは怖いんだよ、きっと。ずっと無茶するヒッキーを見て来てるから。あたしだって怖いよ。また記憶を失うかもしれないし、それだけじゃ済まなくて、一生会えなくなっちゃうかもしれない。ヒッキーが無茶する分だけ、よくないことが頭に過ぎるの」

「ユイ………」

 

 いつもならユキノを追いかけていくユイであるが、何故か今回は俺を正面から抱きしめてきた。

 柔らかくて温かい。

 次第に昂った感情も落ち着きを取り戻していく。

 

「………俺だって怖ぇよ」

「うん」

「俺だって怖いんだ。ユイやユキノやみんなが危険な目に遭うのは想像すらしたくない……………」

「うん、あたしも一緒だ」

「一人で無茶するなって言われても、それしか方法を知らないんだっ。どうしたってそういう思考になるし、咄嗟の判断なんかは尚更なんだよっ」

「でもヒッキーは変わったよ。ちゃんとみんなを巻き込むようになった」

 

 ぎゅーっと抱きしめられた。

 力は強いのに柔らかいから抱くない。

 なんというか、抑えが効かなくなっている。

 口から全部溜めていたものが漏れ出ていく感じだ。

 

「ただ、ヒッキーは知らないんだよ。みんなを巻き込むことが終わりじゃない。巻き込んだ上でちゃんとツラい時はツラいって言うことが大事なんだよ」

 

 いい、のか…………?

 俺が持ってくるような案件なんて命の危機にさらされることばっかなんだぞ。だから俺はその言葉を誰にも言えないし、言わなかったんだ。

 口したらみんなが協力してくれるのは分かっていた。

 けど、俺のはいつも規模が違いすぎる。

 だから俺は…………。

 

「………いつ狙われるか内心怯えて暮らすのはもうツラい。怖いし、寝れないし、もうわけが分からない」

 

 一度開いた口は塞がることを知らない。

 どんなに言わないようにしても制御できない。感情のままに、思っていなくとも心の奥底で溜まっていた言葉が次々と出てきてしまう。

 

「……助けて、くれ」

 

 終いにはこれだ。

 もう無理だ。ほんと、いろんな意味で助けてくれ。

 

「……うん! 今度はあたしたちが助ける番だ!」

 

 過去最高の締め付けで抱きしめられた。

 あれ………?

 なんか身体が軽くなってきたような…………。

 ふわふわしている気分だ。

 チルタリスにでも乗ってたっけ?

 

「だからね、今はしっかり回復してね」

 

 な、んだ………?

 急に、眠くなって………きた………………。

 

「待ってるよ、あたしのヒーロー」

 

 意識が段々薄れてきた。

 俺、どうしたんだ………………?

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「こ、こは………」

 

 目を開けると知らない天井だった。

 シミ一つない綺麗な白い天井である。

 

「…………あ? 起きたし………」

 

 ん?

 誰かいるのか…………?

 

「アンタ、あーしのこと分かる?」

「………………ミ、ウラ?」

 

 この話し方。

 俺の知っている限りじゃ一人しかいない。

 ミウラユミコ。

 スクールの同級生であり、ユイの友達。

 ただ彼女はカントーへ帰ったはずだ。なのに何故ここにいるんだ?

 

「今回は記憶が飛んでるわけじゃなさそうだね」

「え? マジでミウラ?」

「それ以外に何に見えるし」

「あ、いや…………」

 

 いやほんと、何でいるのん?

 襲われたりしないよね?

 身体が動かないから何されても抵抗できないぞ。

 

「またアンタ、無理したらしいじゃん」

 

 他に声が上がることがない。

 となるとミウラ以外は誰もいないというわけか。ユイ辺りは徹夜で看病とかし出してもおかしくないし、いないということはそういうことなのだろう。

 

「……………仕方ない、だろ………。やらなきゃ、やられる相手だったんだから………………」

 

 くそ、寝たんだからしっかり回復しろよ、俺の身体! 

起き上がるので精一杯じゃねぇか。

 

「ちょ、まだ安静にしてろし!」

「ダメだ、俺は行かなきゃいけないんだ。ユイたちがいないってことは、まだ終わっちゃいないってことだろ。だったら…………」

「今のアンタが行っても邪魔になるだけだし…………」

「っ?! くそっ!」

 

 分かってる。分かってるさ。

 こんな身動きもまともに出来ない身体で戦場なんかへ行けば、足手まといにしかならない。

 そんなのは俺自身が嫌ってほど分かっている。

 けど、それでも!

 

「珍しいね、ヒキオがそういう顔するの」

「……………そういう顔って、どんな顔だよ」

 

 ベットに再び倒れ込んだ俺に、ミウラが真顔でそんなことを言ってきた。

 

「不安、焦り、恐怖、後悔…………、いろんな負の感情が詰まった顔」

「………………………」

 

 俺は今そんな顔をしているのか。

 確かにそうかもしれない。

 まだ終わってないという不安感。

 行かなきゃいけないという焦り。

 俺やあいつらが死ぬかもしれないという恐怖。

 もっと事前に対処出来たかもしれないという後悔。

 そんな感情が俺の中で渦巻いている。

 

「あーしもさ、やっとハヤトのそういう顔が見られるようになった。不謹慎だけど、嬉しいと思った。けどさ、同時に不安にもなる。また一人で抱え込むんじゃないかって」

 

 何でいきなりハヤマの話が始まるんだよ。

 あいつの近況報告なんて聞いても嬉しくないぞ。

 

「ハヤトは変わった。こっちからだけじゃなくて、あっちからも近づいてきてくれる。今まで我慢してたんだって気付かされた。ハヤトは好きでやっていたなんて言ってたけど、やっぱり根本にあるのはヒキオとユキノシタとの三角関係だって思えた。なんか、ようやくハヤトの素顔を見れたって感じ」

 

 ハヤマの素顔か。

 多分、あいつは既に素顔を見せていた。感情的に、直感的に動いて、動かされていた。その結果がこれだというなら、あいつにとってフレア団は殻を破るためのきっかけになったんだな。催眠術で操られて仲間を敵に回し、好意を抱く女にも拒絶されたが、そこだけはいい結果になったと言えるだろう。

 

「ありがとう」

 

 とハヤマについて考えていると、突然ミウラが深々と頭を下げてきた。

 な、何事?!

 

「……………ヒキオには感謝してる。ハヤトのこともユイのことも、イッシキのことも」

「はっ? 何でユイとイロハまで出て来るんだよ」

 

 お、おう………。

 ハヤマはまあ、分かった。

 ユイもまあ、友達だから? なんかあったってのとだろう。けど、イロハだけはさっぱりだ。君たち仲悪いんじゃねぇのかよ。

 

「………ユイは、さ。あーしらの中じゃ一人だけずっとトレーナーじゃなかったんだ。そのことにどこか遠慮みたいなものがあったみたいでさ。ずっと見えない壁みたいなものを作ってた。ユイ本人は気づいてないだろうし、そんなことを意図してやってたとも思えない。無意識、だったんだと思う」

 

 いわゆるコンプレックスってやつか。

 旅に出た当初は、確かにそんな感じだったかもしれない。半年以上前のことだし覚えちゃいないが。

 

「ユイがトレーナーになるって話も聞かされてなかったし、あーしらには距離感があるように感じられた。けど、ユイはアンタと旅をするようになってトレーナーとしての自信がついたみたいでさ、さっきなんか『あたし、行ってくる! ユミコはヒッキーのことお願い!』なんて言ってさ。迷いなんか全くない真っ直ぐな目をしてたよ」

 

 これが半年前ならばユイとミウラは立場が逆だったんだろうな。

 それかユイが行こうとしても誰かが止めに入ってたはずだ。俺とて止めた。今回だって、あまり前線に立たせたくはなかったくらいだ。

 いくら強くなったからといって、こっちの経験は少ないんだし、立ち回りも初心者だしな。

 でも、そうも言ってられない。

 今の俺たちには戦力が必要だし、ユイは何故かギラティナを捉えることができる。喉から手が出るほど欲しい戦力なのだ。

 

「……………そうか。けど、あいつが自信を持てるようになったことに俺は関係ない。何もしてないんだ。あいつに自信をつけてくれたのはシャラジムのコルニとコンコンブル博士なんだよ。あいつの潜在能力とやらを引き出して、切り札を作ってくれた。だから今まで護られる側にいたのに、先陣切って護る側に立とうとしてるんだ」

「………それでも、やっぱりヒキオの影響だし。ユイはアンタを目指して、ずっと何かをやっている。バトルだってアンタから得たものを全部自分のものにしようとしている。なかなか出来ないことだし………」

 

 ま、リーグ戦では驚かされたからな。

 まさか、俺の使ってる飛行技までものにするだけではなく、新しく取り入れて来たんだ。しかも俺も知っているネタを。

 それだけ見てもユイが俺の後を追っているのなんて疑いようがない。

 

「………それで? ユイのことは分かった。けど、イロハはさっぱりなんだが。あいつのことこそ、礼を言われるようなことなんて何もないと思うんだけど?」

 

 そもそも、イロハとミウラってハヤマを挟んだ三角関係みたいものだったろうに。

 

「あーしからしてみれば、ユイよりイッシキの方が重要だし」

「お前ってそんなにあいつのこと好きだったのか?」

「なっ?! す、好きとか、そういうんじゃないし! ただ、あの子はずっとハヤトじゃない誰かを見てた、気がする。なんてーの? ハヤトに詰め寄る時に、上っ面というか薄いというか、本気さを感じられなかったし」

 

 ペルシアンを睨み散らすキュウコンって感じだったが、それ以上に発展しなかったのはそこが要因みたいだな。

 まあ、ほとんど見たことないけどな。ハヤマに詰め寄るイロハなんて。

 

「アンタといる時のイッシキは、絶対に人前では見せないような顔を平気でしてる。腹黒さを全く隠す気もないし、素のあの子でいる。ハヤトにすら見せたことのない顔をしてた」

 

 腹黒さって言っちゃったよ。

 やだよ、そんなの俺に向けられても。

 ドロドロしたのとかごめん被りたい。

 

「ハヤトがさ、前に言ってたんだ。『もう一人のリザードン使いがいなくなってから、雰囲気が変わった』って」

「誰だよ、そのリザードン使いって」

「アンタ、それ本気で言ってる?」

「………やっぱり俺なのかよ」

「しかいないでしょ。あーしらの学年でリザードン連れてたのはハヤトとヒキオだけだし」

「へぇ」

 

 他人のポケモンには一切興味なかったからな。

 

「…………イッシキに連絡は取ったん? 四天王に負けて修行しに行ったって聞いたけど」

「いや、取ってない。取らなくても、分かる」

「………意味不明なんだけど。アンタ、超能力者?」

「どうだろうな」

 

 超能力者だったら、もっと先が見えて対処も出来ていただろうな。

 けど、俺にはそんな力はない。俺にあるのは優秀なポケモンたちがいるということと、大事な奴らがいるということくらいだ。

 

「ライ」

「………どうした、黒いの」

 

 ミウラと話していると、ぬっと黒いのが現れた。

 こいつも行かなかったのか。

 まあ、行けなかったの方が正しいな。

 

『クレセリアガチッタ』

 

 ポウっと鬼火を出したかと思うと、文字を浮き出し始めた。

 俺との会話でよく取る手段だが、いきなり何なんだろうか。

 

『オンナシンデ、クレセリアガイキカエラセタ』

 

 はっ?

 女死んで、クレセリアが生き返らせた?

 女って………。

 

「っ?!」

 

 クレセリアが身を投げ出すくらいの相手は自分のトレーナーくらいだろう。

 つまり、女っていうのはユキノのことか?!

 

「なあミウラ。これでも今の俺に戦うなっていうのか?」

「どういうこと?」

「ユキノが、死んだ……………そしてあいつを生き返らせるためにクレセリアが散りになった」

「ッ!?」

 

 話についていけていなかったミウラも、俺の通訳により事の次第を理解したようだ。

 

「アンタの周りって何でそんな危険だらけなんだし………」

「知るか」

「ハヤトは………」

「それこそ知るか。動揺してるんじゃねぇの?」

 

 今はどう思っているのかは知らないが、あいつが動揺しないとは思えない。逆に数少ない弱点ともいえるだろう。

 

「…………どうする気? ユキノシタだけじゃなくて、ユイやイッシキまで危険な目に合わせる気?」

「はっ、悪い冗談はやめろ。これでも腹わたが煮えくり返ってるんだ」

 

 イロハは既に布陣している。

 ユイもみんなと向かったっていうし、恐らく俺がいないことでできた戦力不足を総動員でカバーしようとしているのだろう。

 

「ライ………」

 

 そんなことを考えているとダークライが右手に黒い剣を作り出した。

 その刃先は俺に向けられている。

 

「………何の真似だ、ダークライ」

 

 スッと剣を構えるダークライに、俺もさすがに危険を感じてしまい、動きの鈍い身体を無理に動かし、ギギギッとベットから降りた。

 

『ワガチカラハ、スデニゲンカイニキテイル。ダカラ…………』

 

 ガクガクと両脚が震えている。

 バランスを崩すのも時間の問題だ。

 早く何かに捕まらなければ………。

 

『ココデ、サヨナラダ』

 

 だが視線は動かすことができなかった。

 そんなことよりももっと重要な、それでいて含みのある言葉が入ってきたからだ。

 

「おい、ダークーーーッ!!」

 

 咄嗟に制止をかけたが間に合わず、俺は黒い剣で胸を貫かれてしまった。

 

『アリガトウ』

 

 その言葉を残し、ダークライは黒いオーラに姿を変え、俺を呑み込んでいく。

 視界は真っ暗であり、突然のことで頭も追いついていないはずなのに、特に何の恐怖も抱かなかった。

 恐らく俺自身、頭のどこかで分かっていたのだろう。

 いずれ来る未来を俺は記憶の奥底にひた隠しにしていたに過ぎない。

 だが、これが現実だ。

 とうとう来てしまった現実なのだ。

 

「バカ野郎が………」

 

 黒いオーラは次第に俺の中へと消えていき、視界も元通りに戻って来た。

 

「…………何が、起きたし………?」

「…………薄々分かってはいた。俺の記憶が戻れば戻る程、あいつは空っぽになっていってたんだ。それでも俺に記憶を返してくれた」

 

 記憶があいつの力の根源。

 だけど、俺のために全てを俺に返してくれたのだ。代償が自分自身であるにも拘らず。

 

「…………アイツのためにも、俺は今度こそ決着をつけに行く」

 

 それがあいつへの恩返しだ。

 この力、無駄にしてたまるか。

 

「待つし」

「止めても無駄だぞ? 邪魔するなら例えお前でも斬る」

「そうじゃなくて! あーしも連れてけし!」

「………死ぬかもしれないぞ?」

「ハヤトが戦ってる。ユイも向かった。あーしだけここで待つとかありえないし! それに………」

 

 それに、何だよ。

 含みがあって怖いんだけど。

 

「ユイが『あたしに甘えてくるヒッキー、超可愛かっ「よし行こう、今すぐ行こう!」た』って………」

 

 くそ、あれは結局夢で片付けてくれなかったのかよ、ダークライ!



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〜35話

お久しぶりでございます。
積もる話はありますが、まずは本編をどうぞ。


 ドラセナさんに負けて、みんなに合わせる顔がなくて飛び出し………。

 カロスで一番高い山にいる変わったポケモンのところに身を寄せたわけだけど。

 それも数日前の話である。

 今私は何故か先輩のゲッコウガに連れられて、ヒャッコクシティに来ていた。もちろん変わったポケモンーーボルケニオンも一緒に。

 

「やらなきゃやられることって、何が起きるっていうんだろ」

『さあな。ゲッコウガの話じゃ、世界の終わりだとか言ってるがオレ様にはさっぱりだぜ』

 

 ちなみにボルケニオンはテレパシーで会話が可能だ。

 それともう一人。本当にポケモンなのかと問いただしたくなるのが目の前にいる。

 ポケモンでありながら、他のポケモンをボールに収め、しかも会話もできるようになった。

 ほんと何なんだろう、先輩のゲッコウガって。

 すごいとかすごくないとか、そういう次元の話じゃないと思う。新しい神話や伝説が出来上がっていくような感じだ。

 私のマフォクシーは兄のように慕っている。素直じゃないけど、ゲッコウガには見え見えらしい。

 

『ッ?! あのバカ、無茶しやがって』

 

 先を行くゲッコウガが足を止めた。

 

「ゲッコウガ、どうかしたの?」

『デオキシスとギラティナがミアレに現れた。ハチが何とか対処したが、デオキシスはネオ・フレア団とかいう奴らの手に渡ってしまったようだ。そして、ハチが随分と衰弱している』

「なっ!?」

 

 また………また先輩は無茶、したんですかっ!

 みんなを護らなきゃってのは分かるけど、もっと自分の身体も大事にして下さいよ!

 

『それで? ヒャッコクに来た意味は?』

『………デオキシスの狙いは日時計だ』

 

 日時計………。

 宇宙から来たオーパーツとかって噂があるやつだよね。

 あんなデッカいのをどうにかしようっていうの?

 

「ねぇ、そのデオキシスってのは何?」

『グラン・メテオってのは知ってるか?』

「えっと………、確かホウエン地方を中心に降り注いだ隕石のことだよね」

『ああ、デオキシスってのはその隕石に張り付いてきた、宇宙からの訪問者ってわけだ』

「宇宙からの訪問者…………」

 

 …………宇宙から来たポケモン………?

 宇宙にもポケモンっているんだ。

 

「フォック!」

「ちょ、どうしたの、マフォクシー…………って、あー…………」

 

 急に怒り始めたマフォクシーに、私も驚いてしまったが、何のことはない。ここ数日のいつものやりとりである。

 

「みゅーみゅーっ」

 

 原因はゲッコウガが助けたらしいあの変わったハクリュー。でも本人はハクリューを助けたのは事実だがこのハクリューではない、のだとか。わけ分かんないや。

 それにこのハクリュー、時折別のポケモンに姿を変える類い稀な能力を持っているのだ。ハクリューってそんなことできたっけ………?

 まあ、そんなことはマフォクシーにはどうだっていいことだけど。それよりも気に入らないのは、そのハクリュー擬きがゲッコウガにべったりと引っ付いていることらしい。

 私だって先輩に変な虫が纏わり付いたら快く思わない。

 今でも充分にたらし込んでいるっていうのに…………。

 

「それで、先輩の様子は?」

『柔肌が眠らせた』

 

 ………ん?

 

「………今なんて?」

 

 聞き間違いだよね?

 

『あの柔肌が眠らせた』

 

 あ、聞き間違いじゃなかった…………。それってユイ先輩、のことだよね…………。

 え、ゲッコウガってユイ先輩のことそんな風に呼んでたの?!

 そりゃ、ケロマツの頃からユイ先輩には懐いてたけどさ………………。

 私も抱きついてみようかなー……………。

 

「………先輩も好きだもんねー」

 

 ポケモンはトレーナーに似るってよく言うけど、この二人は似過ぎている。

 

「仕草から捻くれ方まで似てるとか、先輩がポケモンになった気分だよ」

 

 でも、ゲッコウガはゲッコウガで先輩は先輩。似てはいてもこれだけは一緒にならない。

 

「先輩は、人間だってこと、自覚してるのかな………」

 

 自覚はしてると思う。

 だけど、有事の時はそういうのを後回しにするタイプだから厄介だ。

 

「心配、だなー………」

『ハチの心配もいいが、自分の心配もしておくことだな』

「分かってるよ………」

 

 ゲッコウガと会話ができるようになって思ったけど、先輩よりも捻くれてるかも………………。

 でも行動力はスイッチが入った時の先輩にそっくりだ。

 

「ああそっか。マフォクシーと私も似た者同士なんだ………」

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 小さく寝息を立てているヒッキーがあたしの胸に完全に寄りかかってきた。普段はやる気なさげにだらーっとしているのに、スイッチが入れば途端にカッコよくなる。でもこうして寝ている時は、なんかかわいい。思わず頭撫でちゃうくらいにはかわいい。

 ふらふらなヒッキーを見て、ゆきのんとコマチちゃんとでヒッキーをどうにかして休ませようと目配せしたけど、どうやらうまくいったみたい。

 

「………初めてですね、お兄ちゃんが弱音を吐くなんて」

「それだけ無理してたんだよ、やっぱり。身体的にも精神的にも」

「これからどうするんですか? お兄ちゃんは使えませんよ?」

「大丈夫! あたしに任せて!」

 

 ヒッキーはこれまでずっとあたしたちのために頑張ってくれてたんだ! だから今度はあたしたちがやる番!

 

「ねぇ、ヒッキーが危ない目に遭うのって、あなたたちロケット団のせいなんでしょ?」

「………何を言い出すかと思えば。それがどうした。オレを倒して敵討ちでもするつもりか?」

「あなたを倒したところで何も解決しないし、それを決めるのはヒッキーだから。そこはあたしが割り込んでいい話じゃない、です。それよりもあなたには最前線で戦ってもらいます」

「フン、断ると言ったら?」

「拒否権は、ありませんよ」

 

 シュウには既にサカキの背後に回ってもらっていた。

 こうでもしないとこの人との賭けは成立しない。よく分からないけど、ヒッキーなら多分こうしていたはずだ。

 

「ほう」

「あたしはあなたたちを許すつもりも好きにさせるつもりもない。知ってること全部話して下さい」

 

 今のあたしを見ればあたしらしくない、なんて言うかもしれない。

 けど、それでもいい。今はそれよりも大事なことがあるんだから。

 

「………ぼっちぼっち言ってる割には仲間がいるではないか。………ナツメ」

「いいんですか………?」

「構わん」

 

 どうやら上手くいったみたい。

 シュウも状況を察してサカキから距離を取った。

 

「………ロケット団の最初の目的は、最強のポケモンを創り出すことだったわ。最強というからにはどんな戦いにも順応し、勝てる強さが必要。だからベースとなるポケモンはそこら中にいるポケモンでは意味がなかったの」

「幻のポケモン、ミュウね」

「ええ、ミュウは全てのポケモンの遺伝子を持つとされているわ。採取したミュウのまつ毛から確証も得ている」

 

 幻のポケモン、ミュウ。

 以前ヒッキーが連れていたミュウツーの元になったポケモンだっけ?

 

「そして立ち上がったのが、ミュウツー計画だ」

「カツラ、フジ、イッシキ。三人の科学者を軸に計画は進んでいたわ。けれど、計画は破綻した」

 

 はじょう?

 計画が潰れたってことかな?

 

「だが、それで終わるロケット団ではないわ。ミュウツーがダメならば、今いるポケモンの最強を創り出すことにしたのよ。イッシキ博士のミュウツー計画を元に『プロジェクトM's』をね」

「『プロジェクトM's』………」

「リザードンの奴だ…………」

「あら、知ってたのね」

 

 知ってるも何も、ヒッキーが教えてくれたから。

 ヒッキーの大事な過去を教えてくれたから、あたしはちゃんと覚えてる。

 つまり、ここからはヒッキーから聞いた話と同じ内容ってことだ。

 

「ようやく実験に堪えたヒトカゲが脱走するなんて、誰も想像してなかったでしょうね」

 

 これはヒッキーのリザードン。

 あのまま実験を行っていたらどこかで命を落としていたかもしれない。

 

「その後、私が入って来たってことね」

「そうよ。あなたのお陰で、脱走したヒトカゲがトレーナーを見つけた場合を想定することができたわ」

 

 ハルノさんがロケット団に入ったのはその後なんだ………。

 でも、そのおかけでヒッキーもリザードンも今がある。

 

「『レッドプラン』………」

「これがなかったら、今頃共倒れになってたでしょうね」

 

 ハルノさんがしたことは許せることじゃないけど。それはあたしたちからしてみればの話。ヒッキーは逆に感謝してるくらいだった。

 こんな酷い目に遭っているのに感謝だなんて、やっぱりヒッキーはすごいかも。

 

「それは違うわ。確かに『レッドプラン』は必要だった。けど、それだけじゃない。ハチマンにはダークライがいたから何とかなっているのよ」

「それはどういうことかしら?」

「ダークライはハチマンとリザードンーーヒトカゲの記憶を食べて、暴走を起こさないようにしていたのよ。だからこそ鍵を作ることにも成功したわ」

 

 あれ? そうなの?

 そんな話聞いてないんだけど。

 ヒッキーも把握してないってことなのかな。

 

「鍵………?」

「ええ、鍵よ。ハチマンの傍らにいて、唯一暴走を止められる存在」

「それって………」

「ユキノさんのことですよね………」

「そうよ、満月島に落ちていた羽を使ってユキノちゃんを鍵としたのよ」

 

 鍵………。

 ゆきのんも同じことをされているとか言ってたっけ。

 

「自分でも試したのではなかったのか?」

「その羽はね、人を選ぶのよ。見つけた時は光っていたのに、私が拾うと光が弱まったわ。対して、ユキノちゃんに近づいただけで光を発して、離れたら光は弱まったの。こんなの羽がユキノちゃんを選んだとしか言いようがなかったわ」

 

 ヒラツカ先生の問いにハルノさんが答えた。

 羽って何の羽なんだろう。

 

「だが、それ以前にハルノは自分を実験台にしていたのではないのか?」

「ええ、してたわよ。でも足りなかったのよ。だからこそあの羽を使おうと考えた。その結果、ユキノちゃんに責任を押し付けることになっちゃったけどね」

 

 ヒッキーとゆきのん。

 なんだかんだで結ばれてるんだよね。

 あたしももっとヒッキーと結ばれたいな。

 

「クレセリアがユキノちゃんを選んだ理由なんて、本人は知らないでしょうね」

「人をバカにするのはいい加減やめてくれないかしら」

 

 あ、…………。

 

「ゆきのん!」

 

 戻ってこないかと思ってたけど、ちゃんと戻ってきてくれたんだ。

 

「ごめんねゆきのん。嫌な役させちゃって」

「気にしてないわ。私も感情に任せて言わなくていいことも言っちゃったもの」

 

 咄嗟だったからゆきのんには嫌な役させちゃったよね。

 事前決めていればあたしがその役をやってたのに。

あたしにはそういうところでしか二人の、みんなの役には立てないんだし。

 

「ごめんなさい、あまりにも無理をしているあなたの感情を爆発させようと思ったのだけれど、私も感情を抑えられなくなってしまったわ」

 

 ゆきのんはあたしの膝を枕にして寝ているヒッキーの顔に手を当てた。ゆきのんの顔、すごく申し訳なさそうだ。

 

「姉さん、改めて言っておくけれど、私は姉さんを恨んでなんかいないし、責任を押し付けられただなんて思ってもいないわ」

 

 鋭い目でハルノさんを見たかと思えば、こう言い放った。

 ほんとヒッキーといい、すごいよね。

 

「私は弱い。だからオーダイルを暴走させたり、ハチマンを追いかけても追いつかない。ずっと隣に立つことも出来なかった。けど、姉さんのおかけで私はハチマンの唯一になれたのよ。感謝こそすれ、恨むなんてバカげた話だわ」

 

 そして愛もすごい。

 ゆきのんはずっとヒッキーの横に立ちたいって思ってたんだもんね。それに比べてあたしなんかボーっと生きてただけで、また会えたらなーなんて自分では動こうともしなかった。

 だからゆきのんはすごいっ!

 

「ユキノちゃん………」

 

 でもゆきのんがここまでハルノさんに言えるようになったのもやっぱりヒッキーのおかげなんだよね。否定するだろうけど。

 

「それにクレセリアが私を選んだ理由は彼がダークライといたからよ。あの時の私はハチマンを追いかけることに必死だった。言い換えればハチマンに遭遇する確率が一番高かったのが私ってことよ。そしてもう一つ。まるで自分たちを見ているようだったかららしいわ」

 

 ゆきのんとヒッキーが自分たちそっくり………?

 ………それってつまり………。

 

「案外クレセリアとダークライもそういう関係なのかもしれないわね」

 

 そういうことってあるのかな………。

 ううん、あるんだよきっと。あるからこそ、こうやって二人に力を貸しているんだもん。

 

「………そっか。そういうことだったのね」

「姉さん?」

 

 ハルノさん?

 どうしたんだろう、いきなり一人で納得しちゃったみたいだけど。

 

「最初から違ったのね。私に足りているとか足りていないとかの問題じゃなくて、クレセリアが自らユキノちゃんを選んだのね。あの羽はユキノちゃんを探すためにあったものだった…………。はぁ………なんだかなー」

「一人で納得しているところ悪いのだけれど、別に姉さんの行動が無駄だったわけじゃないわ」

「はぁ………ハチマンみたいなこと言うようになっちゃって………」

 

 えっと、結局どういうことなんだろ。

 

「ユイ!」

「え? ユミコ?!」

 

 え? ユミコ? なんでいるの?

 

「何でカロスに?!」

「イッシキに呼ばれたからハヤトと駆けつけただけだし。つーか、イッシキは?」

 

 イロハちゃんに呼ばれて………?

 イロハちゃん、何かあったのかな………。

 

「イロハちゃん? イロハちゃんなら数日前に修行に行ったっきり、帰ってきてないよ?」

「イッシキがハヤトにアンタたちを助けてくれって言ってきたくせに………。当の本人がいないってどういうことだし!」

「まあまあ、ユミコ。落ち着いて」

「あ、ハヤト君!」

 

 あ、やっぱりユミコだけじゃなかったか。まあそうだよね。イロハちゃんが直接ユミコに連絡いれるとも思えないし。

 

「………やあ、ユイ。これはどういう状況なんだ? こっちに着いたらいきなり街中逃げ回る人々で埋め尽くされるし、ここには………ロケット団のボス、サカキもいるようだし」

「んと、それが………」

「それにヒキガヤはどうした? あいつがこんな騒ぎを放っておくはずがないと思うんだが」

「ハヤマ君、質問は一つずつにしてくれないかしら? ユイがパンクしているわ」

「ユキノちゃん!? そっか、君は無事だったみたいだね」

「ええ、そうね。理事長様自ら的確な対処をしてくれたもの」

 

 助かったよ、ゆきのん。

 あたしには説明しようにも上手く伝えられるとは思えないし。

 

「ヒキガヤ?! ………だ、誰かにやられたのかい?」

「んーん、また無茶してたから仕方なく眠ってもらったの。今回はヒッキーが狙われてるから………」

「ヒキオが………?」

「あいつらにかい?」

「近いようで遠いわね。彼らはハチマンが狙われる原因を作った人たちですもの」

「原因を作った………?」

 

 ハヤト君たちはヒッキーの事情知らないんだ。

 打ち明けたのもあたしたちが初めてなんだね。

 

「ハヤト、今は説明している暇はないわ。すぐに作戦会議を開きます。本当は頼りたくないけれど、…………あなたたちも来て」

 

 また話が逆戻りしそうだったのをハルノさんが仕切ってスタジアムの会議室へと移動していく。

 これで何とかみんな動けるよね。ヒッキーを寝かせちゃった分、あたしたちで何とかしないとだもんね。

 あたしは先にユミコと一緒にヒッキーを病院に連れていくことにした。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「日時計が狙いと聞いて、一つ思い当たることがあります」

 

 避難して人がほとんど空になったスタジアムの会議室。

 私たちはここで作戦会議を開いていた。

 参加者は私と姉さん。イロハから呼ばれて飛んで来たというハヤマ君。それにヒラツカ先生とチャンピオンとプラターヌ博士。あとククイ博士という人とその相方さん? それからロケット団の三人。あとの人たちには外で待機してもらっている。もし私たちがこうしている間に外で動きがあったら対処できないもの。

 

「半年前のフレア団騒動後、カロス各地である現象が起きているんです」

 

 そして今はプラターヌ博士が可能性の説明をしている。

 今回の事件は相手がデオキシスという宇宙から来たポケモンであること。そしてそれをネオ・フレア団なるフレア団の生き残り軍が狙っているということが重要だ。あとハチマンを狙ってギラティナが襲いかかってくることもだわ。

 今の話の軸はそもそものデオキシスがカロスにやって来た理由。その仮説を立てているところである。

 

「日時計………というと夜8時から9時の間、日時計が発光し、それに呼応するかのようにキーストーンとメガストーンが光を発し始めるってやつですか」

「ええ、私も調査に出向いたところ、キーストーンとメガストーンを発見するに至りました」

「………決まりだな。奴らの狙いはこの時間、その日時計とやらが力を発している時を狙って、デオキシスに吸収されるつもりなのだろう」

「つまり、まだ時間的猶予があるってわけだぜ」

 

 デオキシスを使ってカントーで事件を起こしているロケット団は日時計を狙っているという線が濃厚なようね。

 まあ、私も誠に遺憾ながら同意見だわ。カロスで唯一宇宙関連のものといえば日時計だもの。本当は化石研究所に巨大隕石グラン・メテオの破片が展示してあったらしいけれど、それはもうデオキシスに回収されてしまっている。隕石の破片が目的ならばさっさと帰っているだろう。というよりそもそもの話、カロスを狙うよりもホウエン地方に赴いた方が高エネルギーの隕石片を回収することもできたはずだ。だから他に目的があるとするならば、日時計に考えが至ってしまう。

 でも、そうなると一つの懸念が生まれてくる。正直知らないでいて欲しい。そう思っている私がいる。

 

「…………プラターヌ博士、彼にこのことは………?」

「当然知ってるよ。彼には実際に使う者としてのデータや意見をもらってるからね」

「そう、ですか………………」

 

 けど、現実はそういうものよね。

 彼は博士の研究データを共有していた。

 つまり、あそこで私たちが止めなければ彼は無理をしてでもデオキシスを止めに行っただろう。それが、彼だから。

 

「今はそんなことを考えている時ではないわ。まずはネオ・フレア団とやらを倒すことを考えましょう」

 

 そうね、姉さんの言う通りだわ。

 

「そうだね。ヒキガヤに頼れない今、俺たちでやるしかない」

 

 イロハは一体どこまで先を読んでいたのかしら。ハチマンがこうなることを見越してハヤマ君たちを………いえ、きっと念には念をということかもしれないわ。何せイッシキイロハだもの。

 

「あの、一つ聞かせてもらいたいのだが」

「シズカちゃん………?」

「サカキ、お前はどうしてヒキガヤに肩入れする。お前はロケット団の首領なのだぞ? いずれ敵に回ることが分かっているのに、何故そこまでヒキガヤのために動くのだ」

 

 そういえば考えたこともなかったわね。ハチマンとサカキはずっと敵対し、利用し利用されの関係しか見て来なかったもの。

 …………本当のところはどうなのでしょうね。サカキにとってハチマンは言わば巻き込まれただけの存在。なのにハチマンのために生きる術を与えていたり、確か技も教えたとか言ってたかしら。ロケット団の部下よりも手厚いサポートをしているのは事実。その先の見返りが大きいというのなら理解できるのだけれど、そういうわけでもない。ハチマンが強くなればなるほど敵戦力が大きくなっていくだけでしかない。つまりはリターンは愚かリスクしかない。なのにハチマンに拘る理由って一体………。

 

「それを貴様らに話す義務はない」

 

 でしょうね。私たちも聞いたところで納得するとも思えないし、今更って話だわ。

 ただ………。

 

「………ハチマンはあなたたちを捕らえるつもりはなさそうよ。口では色々言っているけれど」

「それはどうかな」

「いえ事実よ。彼はあなたを、あなたたちを利用しているもの」

「利用? されている方ではなくてか?」

「ええ、彼は知っているもの。ロケット団が世界に与える影響というものを」

 

 サカキがどう思っているかなんてのは知らない。けれど、ハチマンはサカキに対して、ロケット団に対して捕まえようとはしていないのが事実。口では絶対捕まえるとか言っているけれど、それは恐らく『個人的に』というもので、公に晒すつもりはない。そうすればどうなるか分かっているから。

 

「………何が言いたい」

「必要悪」

「必要悪?」

「ええ、ロケット団という巨大な悪がなければ、その他の悪党が無作法に活動しているでしょう。そうでなくとも各地方に悪巧みをしている悪党がいるのが現状。ハチマンはその抑制力としてロケット団をそのままにしているのよ」

 

 いくら自分たちを研究の被験体にしてしまった存在でも、利用できるものは利用するのがハチマン。何故かそう割り切ってしまうのだ。

 別にそれはそれでいい。それが最善策であるのは事実だから。

 ………だけどね、ハチマン。あなたが傷付いていることに自分が目を背けるのは間違ってるわ。

 

「なるほど、あいつが考えそうなことではあるな」

「それにハチマンの地位ならポケモン協会を動かそうと思えば動かせるものね」

「……………悪を悪で制す、か」

 

 まあ、言っても聞きはしないでしょうし、だから今回はあんな方法をユイと一緒に取ったのだけれど。

 悪く思わないでね。あなたは今回護られる側の人間なのよ。

 

「取り敢えず話を戻しましょう、姉さん。この話は終わってからでもできるわ」

「そうね。それじゃ博士の仮説を前提に作戦と戦力の配置決めと行きましょうか」

 

 いつまでも護られる側にいるのは性に合わないの。

 今度は私が命懸けであなたを護るわ。




改めてお久しぶりです。
ようやく検査等が終わり、筆を取る余裕が出来ました。
この作品もいよいよ終盤というところでの発病でしたので、書けない間は大変心苦しい思いでした。
病気の方は身体的異常は見当たらず、恐らくストレスによるものだと思っています。

恐らくこの作品はあと1話、2話で完結となります。
次話を近い内に投稿すると思いますので最後までよろしくお願いいたします。


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35話

「これは………」

 

 病院の外に出ると外は酷い惨状となっていた。

 建物は半壊し、黒煙が上がっているところもある。

 そして夜空にはデオキシスの大群がいた。

 

「………デオキシスってのが攻めて来たし」

 

 やはりそういうことか。

 俺が眠っている間にもネオ・フレア団は粛々と計画を進めているようだ。

 

「状況は?」

「分かんないし。あーしも窓から外を見て知っただけだから。それとニュース」

「そうか」

 

 取り敢えず、ミアレの現状を把握していこう。

 こんな状況だ。誰かしらは知り合いが残っているはず。

 

「バシャーモ、ブレイブバード!」

 

 あ、ヒラツカ先生だ。

 この病院の防衛をしているみたいだな。

 つーか、ほんとやべぇなこれ。

 

「先生!」

「ミウラ………にヒキガヤ。目を覚ましたのだな」

 

 ミウラが先生に声を掛けるとこちらに振り向き、俺たちを認識した。俺が立っていることに肩を落としているところを見ると、結構心配させてしまったらしい。

 

「ええ、まあ。状況があまり飲み込めてないですけど」

「そうか。エルレイド!」

 

 俺がそう言うと先生はエルレイドを呼んだ。

 すると上空から降ってきて、シュタッと着地した。

 うん、かっこいい。

 

「レイ」

「今、ユキノシタを中心に日時計に集まっている。デオキシスがこうして彷徨っているのを見ると、まだ奴らの手に落ちていないと思われるが、一刻の猶予もないのは確かだ」

 

 つまり、俺が寝ている間にユキノが動いたということか。

 そういやゲッコウガたちはどうしているのだろうか。あいつのことだから動いているとは思うが。

 

「エルレイド、ヒキガヤたちを日時計へテレポートで連れて行ってくれ」

「レイ!」

「はっ? ちょ、そりゃマズいんじゃ………」

「大丈夫だ。エルレイドはお前たちを連れていくだけだ。さっきユイガハマたちも連れて行っている。………ここは私たちに任せろ」

「………大丈夫なんですか?」

「私を護られる存在だけにしてくれるな。私も大人だ。たまには君の背中を護らせろ」

「ヒキオ、今は先生の言う通りにするし」

「………分かった」

 

 仕方ない。今は先生に甘えることにしよう。

 どうせ俺がこっちの状況を聞いたとしても先生は俺を強制的にでも日時計へと連れていくだろうし。

 

「んじゃ、行ってきます」

「ああ、行って来い! そして必ず帰って来い!」

「うす」

 

 先生がそう言って拳を突き出してきたので、俺も拳を重ねて返した。

 そしてエルレイドが俺たちの肩に手を置くと一瞬で景色が変わった。

 

「ここは………」

 

 辺りを見渡すと割と近くに日時計が見えた。

 建物があるのを見ると、ここはヒャッコクシティなのだろう。

 

「ヒキオ、あれ………」

 

 ミウラが指差す方を見ると所々で火災が発生していた。戦いが随分と長引いているようだ。

 

「………20時前か」

 

 最終兵器起動後、20時から21時の間、日時計から謎の光が出るようになったと博士から報告を受けたことがある。それに反応するかのようにキーストーンとメガストーンも光り、共鳴しているようだと。だが、今回はそれだけじゃないらしい。日時計は元々宇宙から来た物と言われている。そこにデオキシスの登場だ。関係ないとは言えないだろう。しかもこの謎の光を発する時間帯。何が起こるか分かったもんじゃない。

 

「時間なんか気にしてどしたん?」

「いや、リミットまで数分しかないなと思ってな」

「………知ってたんだ」

「ああ、これでもカロスの長なんでな」

「………なら早く行くし」

「そうだな」

 

 エルレイドに礼を言って見送った後。取り敢えず日時計に向けて走り始めた。

 既に避難指示は出されていたのだろう。今更逃げ惑う者は全く見当たらなかった。しかし逃げる所なんてあったのだろうか。ここもミアレシティと同じく夜空はデオキシスで埋め尽くされている。カロスは今謎の侵略者により攻撃されていますって言っても普通に受け入れられるレベルだな。

 

「ポケモンで行かないの?」

「なあ、こっちに向かったのが誰か分かるか?」

「え? ………確か、ユキノシタとあいつの姉貴、それからユイとシロメグリ先輩、それにあの太いのに加わる感じでハヤトが………。あ、アンタの妹とスクールの子も行ったっけ。それとチャンピオンとシャラジムのジムリーダー、あとロケット団だったはずだし」

 

 太いのとはザイモクザのことだろうか。

 となると、ここにイロハが加わって計14人か。いやロケット団を数に入れるべきではないな。先生ズとオリモトたち育て屋がミアレに残ったと見ていいだろう。

 多勢に無勢とは中々厳しい戦況だな。一つ救いなのがネオ・フレア団の下っ端が雑魚ってことか。

 

「そうか。戦力としてはあるが、それはネオ・フレア団だけに対してってだけだな」

「なら尚更早く行くし」

「いや、確かにポケモンに頼った方が速い。だが状況も分からないまま突っ走るのも得策とは言えない。割り込む初手は慎重に行った方がいい」

「………みんなやられるし」

「そうだな。現にユキノが一回やられてる。猶予はないな」

「だったら!」

「大丈夫だ。あいつらを信じろ」

 

 大丈夫だなんて保証はどこにもない。

 だが、あいつらは俺を寝かせてまで行ったんだ。だったらその行動力と判断を信じてやるしかないだろ。

 

「………変わったね」

「まあな。自覚はある」

 

 昔の俺からは全く想像できない思考回路であるな。

 でもまあ、悪くはない。

 

「ロケット団のボスから話は聞いたし。アンタ、以前ほど全力出せないんでしょ」

「………あいつが話したのか? まあ、奴の言う通りだ。俺のリザードンは元々ロケット団の研究の被験体。普通のリザードンとは色々と違う。そしてそれを飼い馴らす俺もな。ただ、サカキがこっちに来てからちょっかい出されて、今まで安定していた俺たちのパワーバランスを崩された。恐らく今回の事を察知したサカキによる戦力の強化なんだろうが、急すぎて俺もリザードンも自分たちの力を制御できないでいる」

「………………」

「けどまあ、そんなこと言ってられるような状況でもない。やるしかないんだよ」

「………大丈夫なん?」

「それはやってみないと分からないが………ダークライが力をくれたんだ。できるはずだ」

 

 やべぇ、走りながら喋ってたから息が上がってきた。これならリザードンに…………いや、それはリスクが高いんだったな。

 今の俺たちの武器は本来ここにいないということ。ネオ・フレア団にとっては想定外の奇襲を起こせる要員だ。それをみすみす逃すほど戦況は芳しくない。

 

「………見えて来たな」

「ヒキオ、あーしはどう動くし」

「ミウラは………因みに誰連れて来た?」

「ギャラドス、ミロカロス、ジャローダ、ハンテール、サクラビス、ハクリュー」

 

 以前と同じか。

 

「なら、あいつらの近くで待機しててくれ。ピンチだと思ったら割って入っていい。その後はひたすら防御に徹しろ」

「分かったし」

 

 防御に於いても突然現れればそれだけで戦況が変わる。最初からいるよりも精神的攻撃力が高い。

 

「ヒキオは?」

「奴らの相手をしてくる」

「………死ぬなし」

「当たり前だ」

 

 俺はミウラと別れて飛翔。空から戦況の確認に移った。

 

「日時計を囲むようにして防戦一方か。まあ、あれだけのデオキシスの影とちょっかいを出してくるネオ・フレア団のせいで攻撃には転じ得ないわな」

 

 どうやらあいつらは日時計を取り囲むように陣形を作っている。デオキシスを日時計に近づけさせまいということなのだろう。そこにネオ・フレア団の下っ端どもがちょっかいをかけて邪魔をしている。

 そして少し離れたところではサカキとマチスとナツメがクセロシキたちネオ・フレア団本陣と対峙しているようだ。

 悪に対して悪を向けたあたり、ユキノシタ姉妹の戦略だろうな。

 デオキシスを相手取る前にまずはあの邪魔なネオ・フレア団の排除が先だな。

 

「っ!?」

 

 あれはユキノか?!

 それにユイも!?

 

「………まだ目を覚ましていないのか。んで、ユイはユキノが死んだままと思い側にいる。そんなところだろうな」

 

 日時計の影に隠れるように二人の少女がいた。一人は横たわり、一人は覆い被さり泣きじゃくっている。そして、二人のポケモンたちーーオーダイル、ボーマンダ、ユキメノコ、ブリガロン、ルカリオ、ウインディーーが何とかそこに攻撃が流れていかないように防御に徹していた。当然ユキノのポケモンは誰一人メガシンカしていない。ルカリオがメガシンカしているがトレーナーからの指示はないため、戦略も何もない状態だ。一応はオーダイルが指揮を取ってはいるものの長年の勘と予測だけで動いているのだろう。

 

「あーもー、しつこ過ぎ!」

 

 この声はイロハか。

 そういやイロハがいるってことはアイツもいるんだよな。

 

「ボルケニオン、スチームバースト!」

 

 ん?

 ボルケニオン?

 誰………?

 声のする方を探すと見たことのない紅いポケモンがいた。その横でイロハが指示を出している。見たことのないポケモンだし、あれがボルケニオンとやらなのだろう。あいつ何気に新種? のポケモン捕まえたのかよ。

 

「メタグロス、バンギラス! はかいこうせん!」

「エンペルト、アクアジェット!」

 

 あっちにはハルノとメグリ先輩か。

 

「サーナイト、リフレクター!」

 

 これはチャンピオンだろう。

 

「エンテイ、だいもんじ! スイクン、ハイドロポンプ!」

 

 はっ?

 エンテイ?

 …………あ、ボールの中空っぽだ。

 誰だよ、連れてった奴。ルミルミか? まあ、いいんだけどさ。書き置きくらい欲しかったわ。

 

「リザ、かえんほうしゃ!」

 

 あ、本当にハヤマもいるわ。

 

「スピアー、ダブルニードル」

「くっ、お前たち! さっさと攻撃するのだゾ!」

 

 こっちはサカキのポケモンたちにネオ・フレア団が縮こまっちゃってるよ。

 動こうともがいているのを見るとナツメの見えない空間に閉じ込められているのかもしれない。

 

『アギルダー、むしのさざめき!』

 

 あ、いた。ゲッコウガは遊撃か。ほんとに指示出してるし。しかも自分も戦っているというハイブリット型。超次世代型ポケモントレーナーの姿はああなのかね。人間とは何なんだろうな。悲しい。

 

「クセロシキ! 出し惜しみしてる場合じゃないわよ!」

「分かってるんだゾ!

 

 ま、あっちはゲッコウガが何とか耐えてくれるだろう。

 それよりもまずはネオ・フレア団だな。

 何か仕掛けてくるみたいだ。

 一気に攻め込める方を叩き潰してしまうか。

 

「お前たち! 用意は出来ているか!」

「はい、クセロシキ様!」

「いつでも発射可能です!」

「うむ! ワタシの合図であの虫ケラどもに放つのだッ!」

「「はっ!」」

 

 奴らが陣取る所の奥に何やら巨大な砲撃装置がある。恐らくそこから何かぎ放たれるのだろう。ならばまずはあの装置から破壊だな。

 サカキがあいつらの意識を集めているため、移動も楽だ。多分、あの男からは俺の姿が見えているんだろうな。

 

「カラマネロ、さいみんじゅつだゾ!」

 

 撃つタイミングを計っているのか、時間を稼ごうとしているようだ。となると乱射するようなものではないって可能性が高いな。

 

「躱せ」

 

 まあ、スピアーのスピードに追いついてないが。メガシンカしたスピアーのスピードはチートだから仕方ない。

 さて、取り敢えずあの砲撃台は無力化しておくか。構造設計は知らないが出口が丸見えだからやりようはある。

 俺は黒いオーラを放射口に流していく。

 

「放て!」

 

 するとすぐさま合図が出された。

 だが、何も起こらない。

 否、何も起こらないのではない。起きているが何も出てこないだけである。

 

「おい、お前たち! さっさとやるのだ!」

「く、クセロシキ様! 大変です! 作動しているはずなのに放射しません!」

「ぬぅ、貸せ! ワタシがやる!」

 

 クセロシキが下っ端を退かせ、放射設定をいじり始めた。

 

「くそぅ、何故だ! 何故動かぬのだッ!」

 

 色々やったのだろうが全くの無反応。

 数値上異常がないことがさらに奴を混乱させていた。

 

「へっ、今のうちだぜっ。エレキブル、かみなり!」

「フーディン、サイコキネシス!」

 

 そんなこんなしてるうちにマチスとナツメが女幹部どもを鎮圧していっている。あとは砲撃台に群がる下っ端とこのゾーさんだけである。

 そろそろ出ていくか。

 

「ジュカイン、くさむすびで縛っておけ。ヘルガー、そいつらが妙な動きをしたら焼いていいからな」

 

 ボールからジュカインとヘルガーを出し、ジュカインには拘束、ヘルガーには見張りの役を与える。

 

「フン」

 

 そして、黒いオーラで砲撃台を真っ二つに破壊した。爆発するかとも思っていたが、どうやらその心配はないらしい。ちゃんとあっちの世界に送り込めていたようだ。

 

「こ、今度は一体何なんだゾ!」

 

 いきなり砲撃台が破壊されたことで喚くクセロシキ。いい加減うざったくなってきたな。

 

「ピーピー吠えてんじゃねぇよ、うるせぇな」

 

 ようやく何が起きたのか理解したらしい。

 俺の声に反応するようにこちらを見てくる。

 女幹部どもは無事拘束できたみたいだな。

 

「………キ、貴様ッ!」

「なあ、クセロシキ。フラダリに遠く及ばない三下風情が見栄張ってんじゃねぇよ」

 

 今の俺は奴からすると急に出てきたラスボスくらいはあるだろう。悪の先駆者であるサカキですら可愛く思える程の。

だって、禍々しく俺の周りには黒いオーラが漂ってるんだからな。俺だったら腰抜かして漏らすくらいはあるぞ。

 

「俺の大事なもんに手出したんだ。当然、分かってんだろうな」

 

 ゆらりゆらりと近づき、遂には奴の首根っこを掴んでやった。横にデカイこいつも今の俺なら余裕で持ち上げられるらしい。

 

「ぐぬぬ」

「なんだ苦しいのか? もっと苦しめよ。テメェらの行いが罪のない人間やポケモンたちを苦しめてんだぞ。今のテメェの何十倍もな」

「く、クセロシキ様!?」

「おっと動くなよ、下っ端ども。動いたら…………首が飛ぶと思え」

 

 手足をジタバタさせてもがくクセロシキを助けようと下っ端数人がポケモンを出そうとしたようだが、それをひと睨み効かせて封じた。これくらいで動けないのならば所詮は雑魚中の雑魚だ。

 

「んじゃま取り敢えず」

 

 いい加減息も出来なくなって来たようだし、上に投げ束の間の呼吸時間を返した。

 

「歯食いしばれよ悪党!」

 

 そして降ってくるクセロシキの腹に目掛けて拳を叩き込んだ。

 

「ぐぼぁっ?!」

 

 普段の俺では到底出せない力なため三回もバウンドしていった。

 恐らく気絶しているだろう。

 

「なあ、サカキ。結局テメェの狙いは何なんだ?」

「このオレ様が答えるとでも?」

「答えないのなら俺の憶測だけが正しい答えとなるだが?」

「フン、好きにしろ」

 

 やはり取り合う気はないか。

 まあ、俺を殺す気があればとっくにやっているだろうしな。

 となると、やはり俺とリザードンのあの力を見届けるつもりなのだろう。

 何度も暴走して堪るかってんだ。

 

「マチス、ナツメ。お前らはどこまで知ってる」

「あん? 少なくともお前よりは知ってるぜっ!」

「そうね。あなたよりは詳しいわ」

 

 …………ということはリザードンが実際にどんな実験をさせられていたのかや、俺が何故この実験の被験者になったのかも知ってるってわけだ。

 

「あっそ。ならお前らも同罪だな」

「あら、ヤル気かしら?」

「はっ、冗談だろ? 今のお前らを捕まえたところでジムリーダーを任命している協会に揉み消されるのがオチだ。いくら俺が会長の懐刀だろうがカロスの会長だろうが、多勢に無勢。数で勝てるわけがない。なら、揉み消しようのない証拠がないまでは首に刃を当てた状態で放っておくっつの」

「フン、お前の刃など痛くも痒くもない」

「ほう、そいつはどうかな。確かシルバーだったか? 図鑑所有者の。あいつお前の息子だろ? あいつを人質に取っちまえばいいだけの話だ」

「ッ?! 貴様、余程死にたいようだな」

「ふひっ、大分痛かったみたいだな。なるほど、シルバーが弱点と。本人に確認出来てよかったわ」

「スピアー、殺れ」

「おっと動くなよ? 今の俺はお前が知ってる俺じゃない。何なら俺すら知らない俺まである」

「どういう意味だ」

「こういう意味だ!」

 

 黒いオーラを走らせ、スピアーを襲う。

 

「ッ!? スピアー、躱せ!」

 

 もちろん警戒して来ていたが既に四方を取り囲んでいるため行き場を失っている。

 

「無理だ。既に四方を取り囲んでいる。スピードで躱せるわけねぇだろ」

 

 そのまま黒いオーラでスピアーを覆い、新たにさいみんじゅつを施した。

 イメージだけで出来ちゃう今の身体は超チート過ぎると思う。

 

「んじゃま、スピアー。サカキにダブルニードル」

 

 堕ちたスピアーはサカキへと襲いかかった。

 

「くっ」

 

 だが、ニドキングが割り込みサカキを守った。

 

「ハチマン、テメェ!」

「別に驚くことじゃないだろ。俺のポケモンはリザードンだけじゃない。あの黒いのだって何だかんだの付き合いだ。なら、こんな芸当が出来てもおかしくはないだろ」

 

 マチスが威嚇して来たため、事実を言ってやった。

 

「それに、俺がいつお前らに攻撃しないと言った?」

「ふざけるなっ! テメェは首領の恩も忘れてっ! それにテメェの女はテメェが俺たちを利用してるだけだって!」

「恩? ………ああ、この身体のことか? まあ確かに。お前らロケット団に弄られなきゃ、リザードンの力に呑まれてただろうな。けどな、それ今と一緒だと思うんだが? スピアーに何か盛られてからリザードンは暴走し始めた。俺も制御出来ない。結局最初に戻ってるだけじゃねぇか。ならそもそもの話、お前らロケット団がリザードンを、ポケモンたちを実験道具にしなけりゃ、俺がサカキに攻撃することもないはずだ」

 

 サカキに恩とかあるわけないだろ。

 あるとすればリザードンーーヒトカゲと出会いユキノたちに意識され今がある。それだけだ。だが、それをサカキのおかげだとは思っていない。多分、リザードンでなくともバトル大会に出てオーダイルの暴走を止めているし、そいつだけでポケモンリーグに恩挑んだだろう。中身が違ったとしても結果は同じような人生を歩むはずだ。所詮俺の人生の主人公は俺なんだし。人が変わらなければ結果も変わらないだろう。

 

「それに、ユキノか誰かが何か言ったんだろうが、俺はお前たちを野放しにする気もないし、許すつもりもない。言ったはずだぞ? 『今のお前たち』を捕まえる気はないと。今はまだ利用しているだけだ。何か間違ってるか?」

「くっ………」

 

 悪党に正論を突きつけてしまえば言い返す言葉なんてあるわけないだろう。

 

「やめろマチス。お前ではこいつの口には勝てん」

 

 サカキですらそれを自覚している。脳筋ってのは面倒だ。

 

「あなた、口が達者なのね」

「そう見えるなら眼球を取り替えるくらいはすることだな。俺が口達者とか、世も末だわ」

「あら、褒めているのに。素直に受け取りなさい」

「断る。エスパー使いは性格悪いって相場が決まってんだ。アンタの言葉にいちいち喜ばねぇし、嬉しくもねぇ」

 

 ほんとこの女は怖い。

 本物の超能力者なのだ。いつ俺を操ってくるか分からないのに、隙なんか見せられるはずがないだろ。

 

「ッ?!」

 

 な、何だこの光はっ!?

 

「な、なに?!」

「ま、眩しいっ!?」

 

 突如、背後に巨大な光を感じた。

 そして俺も光ってる。

 ………キーストーンか。となると俺だけでなくリザードンたちメガストーンを持つポケモンたちも光っているってわけだな。

 つまりこの巨大な光は日時計のもの。

 

「チッ、タイムオーバーか」

「………始まるようだな」

 

 どうやら間に合わなかったみたいだ。

 ロケット団に油を売っていたせいだな。

 だが牽制しておかなければ邪魔される可能性が高い。そして暴走確定。ただでさえ暴走する可能性が高いってのに、これ以上確率を上げるのは選択肢にはなかった。

 人によってはどうせ暴走するんだから邪魔されても変わらないだろうと思うかもしれないが、そのどうせってのが命取りになるのだ。

 

「………こかき」

 

 デオキシスの様子を伺っていると、異変が始まった。

 

「けきここきかかくけかききくかここけきかくくけけこかきッ!!」

 

 デオキシスの本体だと思われる奴が奇声を上げ、天を仰ぎ出した。日時計からのエネルギーを取り込んでいるように見えるのは見間違いではないだろう。

 

「こここかかきけけきかけくくけけこかきかかかッッ!!!」」」」

 

 そしてそれは影の方にも伝播していく。奇声の不協和音が俺たちの危機感を煽ってきた。心拍は早くなり、胸が痛い。鼓動がうるさいくらいに聞こえてきている。もしかしなくても緊張しているのか?

 

「………な、なにこれ………」

「こ、こんなの聞いて…………な…………」

 

 突然のことにユイは絶句、イロハも流石にビビっている声が聞こえてきた。

 

「ッ?! ジュカインッ!」

『全員伏せろ!』

 

 ふと、奇妙な遠吠えは何の前触れもなく消えた。

 そして一閃が背後から俺の顔の横を通過した。

 咄嗟にゲッコウガが指示を出したことで訳が分からないまま全員言われた動きを見せる。

 俺は止まった脚を殴りつけて一気に駆け出し、日時計の方へと向かった。横にはジュカインもいる。

 …………今の俺ジュカインと同速かよ。

 

「は、ハヤマ先輩?!」

「ユイさん!? ユキノさん?!」

 

 どうやらハヤマとユイとユキノが狙われたようだ。

 くそっ、ハヤマはともかくユイとユキノはやらせんぞ!

 

「ハヤトォォォッ!」

「間に合え!」

 

 俺は二人に向かっている一閃を見つけ、間に身体を割り込ませた。俺に触れた瞬間、一閃は消えていく。

 これは………無効タイプに起こる現象。つまり俺は今エスパータイプの技であるサイコブーストを無効化出来るあくタイプのポケモン同等ってわけか。

 

「キィナァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 げっ、このタイミングで出てくるのかよ。まだデオキシスすら倒してないってのに。

 

「………あれ………? 生き、てる………?」

「お前らを死なせるわけねぇだろ」

「ハッチー!!」

「ったく、メガシンカエネルギー同等の力を取り込んでサイコブーストの乱射とかチート過ぎるだろ。おかげで街が壊滅的じゃねぇか。この落とし前、どうしてくれんだよ」

 

 街一つぶっ壊しやがって。ミアレも合わせたら二つだぞ。どう責任取ってくれるんだよ。

 

「キィナァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 突然ギラティナが姿を消した。奴の技、シャドーダイブだろう。似たような技にゴーストダイブなんてのがあるが、奴のは威力が格段に違う。文献では魂を持っていかれるとか。誰も検証出来ていないが、今後も試されることなんてあるわけがない。俺だって勘弁だ。死ぬ気はない。

 

「…………っ」

 

 これはマズい。

 今のデオキシスの攻撃で多数が戦闘不能になっている。

 

「動ける奴はこっち来い。無理な奴は自分のトレーナーを安全なところまで避難させろ!」

 

 俺が指示を出すと真っ先にオーダイルがやって来た。

 うん、来ると思ってたよ。

 

「オダッ!」

「またお前の力も借りるぞ」

 

 挨拶代わりにオーダイルと拳を重ねていると次々とポケモンたちが集まって来た。

 ユキノのポケモンからはオーダイル、ユキメノコ、マニューラ。クレセリアがいなくなったため、メガシンカ可能な二体が残ったようだ。

 ユイのポケモンからはルカリオ、グラエナ。後はユキノのポケモンたちと避難中。

 コマチのポケモンからはニャオニクス。既にカビゴンとプテラとオノンドは戦闘不能のようだ。

 ルミのポケモンからはスイクン、エンテイ、金色のチルタリス………色違いとかよく捕まえたな。………他は避難のサポートか。

 ハヤマのポケモンからはリザードン、カイリュー。他の奴はハヤマを守って負傷したようだ。

 イロハとザイモクザのポケモンは来てないが、あいつらはトレーナー自身が動くらしい。ザイモクザは何だかんだ経験あるし、イロハにはあいつがついている。勝手に動いてもらおう。

 あと当然のように、ハルノとメグリ先輩も動けている。ベテラン組はしぶといな。

 それと誰のか知らないサーナイトともう一体、ルカリオがいた。

 

「誰のだ?」

「あ、あたしの………だよ。あと………カルネさん」

「コルニ………」

 

 そうか、こいつも来てたんだったな。

 サーナイトはチャンピオンのか。いいのかよ。つか、まさかもうやられたのか?

 

「あたしもやる」

「や、そんな身体で無理なんか「無理なんかじゃない!」………」

 

 傷だらけの身体で肩で息しているため休ませようとしたが、俺の言葉を遮って強く言い放った。

 

「………あの時みたいに動けないなんて絶対やだ!」

 

 あの時とは先のフレア団事件でのことだろう。一度フレア団にやられ意識を失い、目を覚ました時には既に終わっていた。あれが相当悔しかったらしい。

 

「分かった。なら、俺の後ろは任せた」

「うん! ならサーナイト借りてくよ!」

 

 頭を撫でると機嫌良く答えた。やられた借りは返さないとな。その気持ちすげぇ分かるぞ。

 だが、無理はするなよ。

 

「リザードン、カイリュー、それにチルタリス。サブレとカマクラとマニューラを乗せてデオキシスの気を引け! エンテイ、スイクン。先にデオキシスを片付ける。それまでギラティナを足止めしておいてくれ。オーダイル、ユキメノコ、ルカリオ。お前らは俺と来い!」

 

 時間がないため早口で命令を出したが各々役目を理解してくれたようだ。

 

「………ッ!?」

 

 ゾワリと悪寒がした。

 

「エンテイ、スイクン! 俺の後ろだ!」

 

 悪魔の攻撃だ。

 見てないが丁度姿を見せたところだろう。

 二体の聖獣は俺の両脇を駆け抜け、ドガンッ! と攻撃をヒットさせた。

 

「ハチマン、ギラティナは私たちが足止めしとくわ!」

「ヒキガヤ君が来るまで何とか保たせてみるから!」

 

 どうやらハルノとメグリ先輩もギラティナについてくれるらしい。

 まあ、聖獣二体で何とか出来るなら最初からしてるしな。デオキシスにかけられる戦略は減るが今更だし。

 

「了解! リザードン、大仕事だ。決着、つけるぞ!」

「シャア!」

 

 リザードンもボールから出した。

 

「暴走のことは考えるな。考えると余計に暴走に向く」

 

 まずはデオキシスだ。奴はメテオ・グランの破片を取り込みフォルムチェンジを自在に操る。攻撃の時はアタックフォルム、防御の時はディフェンスフォルム、逃げる・距離を詰める時はスピードフォルム。

 ………ならばノーマルフォルムは一体何があるのだろうか。

 

「確かめる術はないし、とにかく本体を探さないとな」

 

 疑問を確かめる時間も余力もない。せいぜいフォルムチェンジを考慮して攻撃するしかないだろう。

 

「エーフィ、めいそう! ロトム、でんじは!」

「フライゴン、カブリアス! ドラゴンダイブ!」

 

 あっちは既に再開したようだ。こっちも使える手を全て尽くそう。

 

「飛行隊! りゅうのはどうで注意を引け!」

 

 空には赤と青の竜を模した波導を撃ち出す三体のドラゴンと竜を纏った二体のドラゴンが次々と影を消していく。影だからかディフェンスフォルムに変わっても貫通していった。あれで貫通しなければ本物とみていいだろう。

 

「Z、ジバコイル、ダイノーズ! 斉射!」

「デンリュウ、ヤドキング、ラプラス! こっちもいくよ!」

 

 ヤドキングも来てたか。

 あいつらでんじほうを使う気だな。

 なら利用させてもらおう。

 

「ユキメノコ、あやしいひかりで誘導してこい!」

「メノ!」

 

 準備している間に次の手を打つか。

 

「三体揃ってることだしな。リザードン、まずはメガシンカだ!」

「シャアッ!!」

 

 俺とリザードンの意気込みに応えるように二つの石が共鳴していく。白い光に包まれたリザードンはみるみるうちに姿を変えた。

 

『アギルダー、みずしゅりけん! キリキザン、つじぎり!』

「マフォクシー、マジカルフレイム!」

「エーフィ、ロトム! シャドーボール!」

 

 空ではデオキシスが飛行隊の攻撃を呆気なく躱している。躱したタイミングでアギルダーたちが攻撃を仕掛けるが、それもディフェンスフォルムでガードされ弾き返された。

 だが、それと含めて攻撃を仕掛けているため、隙の出来た追撃体に攻撃しようとアタックフォルムに変わった瞬間に飛行隊が再度攻撃を仕掛けている。

 上手くローテーションで攻撃が出来ているみたいだ。ダメージにはなってないのが痛いところであるが。

 

『来るぞ!』

 

 デオキシスからの攻撃はゲッコウガの合図で躱し、何とか急所を避けている。まあこれも時間の問題だな。

 そんなこんなしている俺たちトレーナーを狙って影の大群を寄越してくるため、一息つく間もない。

 

「ギルガルド、キングシールド!」

「来た! ボルケニオン、スチームバースト!」

「ルカリオ、打ち返せ! バーチカル・スクエア!」

 

 ザイモクザはギルガルド、イロハは紅いポケモン、そして俺はユイのルカリオで攻撃を弾いた。

 

「スイッチ!」

『スイッチ!』

 

 ザイモクザとゲッコウガは合図を送り、防御に徹したポケモンたちの後ろに控える攻撃陣と入れ替えてさせた。

 

「ってーっ!」

「今だよ、レールガン!」

 

 それぞれトレーナーの合図によりレールガンが放射され、フォルムチェンジしきれていないデオキシスの影どもを押し返していく。

 ほぼ反射の要領で向きを変えたので中心の大群まで一直線に反撃が渡った。爆発で見えないが攻撃してくる気配はない。

 ならばここだ!

 

「ジュカイン、ハードプラント! リザードン、ブラストバーン! オーダイル、ハイドロカノン!」

 

 煙が晴れレールガンの連続攻撃で次々と消えていく中、一際デオキシスの塊があった。そこに向けて三位一体の究極技を放つ。

 追撃にデオキシスの対応は…………くそっ、あのままフォルムチェンジに走っていたか。

 

『来る! ヒトツキ、れんぞくぎり!』

 

 影の枚数を重ねることで分厚い壁を作り、貫通しないようにしたみたいだ。

 そして、その背後から新たな影がサイコブーストを放ってくる。

 

「ユキメノコ、ひかりのかべ!」

「エーフィ、超念力!」

「マフォクシー、サイコキネシス!」

 

 それをゲッコウガだかヒトツキだかが斬りつけいなしていった。逸れた弾道は各々の技で動きを抑え、迎撃体制を整えていく。

 

「サカキ様、何かなさいますか?」

「いや、あいつにやらせろ。それよりもこいつらだ」

「へい」

「ギルガルド、キングシールド!」

「ボルケニオン、スチームバースト!」

「ルカリオ、俺が呑み込む! その間に軌道を辿って骨を投げろ! 飛行隊はタイミングを合わせて骨の軌道先に攻撃だ!」

 

 さっきとは変えて、俺が前に出て黒い穴を作り出し特殊光線を呑み込んだ。ルカリオはその後ろで軌道を遡って骨を投げ上げ、飛行隊はそれを辿りりゅうのはどうとはかいこうせんを放った。

 ………おい待て。カマクラにサブレ。お前らいつの間にそんな技覚えやがった。

 

「ハチマン! 後ろ危ない!」

 

 ふぁっ?!

 

「な、ん痛ッ!?」

 

 ハルノの声がしたかと思ったら後ろから強制的に腰を曲げさせられた。

 何事かと顔を上げようとした瞬間、地面に巨大な影が通り過ぎていった。そして突風が巻き起こり、髪が逆立ってしまった。

 これはデオキシスのものではない。というかすげぇデカいドラゴンの姿をしている。つまり………。

 

「キィナァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 ギラティナさんのお通りでした。

 危ねぇな、もっと安全に飛びなさいよ。

 

「………ふぅ……サンキュー、オーダイル。首吹っ飛ぶところだったわ」

 

 頭を押さえる力が弱まったため身体を起こしてみるとオーダイルが横にいた。

 

「オダ」

「Z、ジバコイル、ダイノーズ! 主砲斉射!」

『ヒトツキ、せいなるつるぎ!』

 

 ゲッコウガはすぐに攻撃体制に移ったみたいだな。

 よし、次だ次。

 

「もう一度三位一体の究極技だ」

「カイッ!」

「オダッ!」

「シャアッ!」

 

 ゲッコウガの後を追うように飛行隊も技を繰り出している。

 

『撃ったら離れろ!』

 

 しかもゲッコウガの指示で俺たちの撃つ場所も用意していく始末。やべぇ、あいつ本気でやべぇ。

 

「ってーっ!」

「デンリュウ、ヤドキング、ラプラス、レールガン! ボルケニオン、ハイドロポンプ!」

「撃てっ!」

 

 再度レールガンと三位一体の究極技が影の大群に襲いかかる。先に飛行隊の攻撃で影を消費しているため層は薄い。

 なのだが……………。

 

『まだだ………!』

 

 やはりまだ届かない。手応えとしては徐々に本体に迫っている感じではあるが、そう悠長に事を進めてもいられない。なんたって厄介者は二体いるのだから。

 恐らくあっちもそう長くは保たないはずだ。それまでにデオキシスの方を倒さなければいよいよもって大ピンチだ。ギラティナ戦で俺たちが最初からクライマックス状態になっているのはなんとしても避けたい。もしそうなれば誰も生きて帰られないと思ってもいいくらいだ。

 

「くそっ、イロハ! ザイモクザ! これじゃ切りがない!」

「ならば我が守りに徹する! 攻撃は任せた!」

「はいよ! イロハ! お前はレールガンの準備だ!」

「分かりました! フライゴン、ガブリアス! 誘導お願い!」

 

 とは言ったもののこれまでの流れからみるに今の戦力じゃ決定打がない。何かもう一発協力な技を使わなければ…………。

 いっそリザードンがレシラムになりあおいほのおを放てば或いは…………いや、それはもっと危険だ。こんな考えに至る時点で既に危険だわ。忘れよう。

 ………あれ? ルカリオは?

 

「東海の神、名は阿明、西海の神、名は祝良、南海の神、名は巨乗、北海の神、名は寓強、四海の大神、百鬼を退け凶災を祓う!」

 

 気づいたらルカリオがいなかった。

 え、マジでどこ行った?

 まさかギラティナにやられたのか?

 

「ぬぅ、お前たち耐えるのだ!」

 

 巨大な五芒星がデオキシスの気を引き、集中的に狙って来た。

 そしてそれが防壁だと分かるや否やアタックフォルムへと変わり、攻撃特化で破ろうを総攻撃を仕掛けて来る。

 流石に受け止めるのにも限界があるし、破れるのも時間の問題だろう。

 

「っ、そうだ! マフォクシー、トリックルーム!」

 

 そんな時、イロハが今まさに突っ込んで来ようとする一帯を速度反転の部屋に閉じ込めた。

 これにデオキシスは単調に突っ込んでも意味がないと判断したのか、五芒星の両側から回り込んで俺たちにサイコブーストを放って来た。

 

「先輩! 横からも来ます!」

「分かってる! お前は左をやれ!」

「分かりました! マフォクシー、ブラストバーン! ボルケニオン、ハイドロポンプ!」

 

 俺も黒い穴を作り出し、吸収していく。

 

「すまぬ! あと十秒ほどで破られる!」

 

 五芒星にも限界が来た。

 ならば、破られた瞬間に反撃開始だ。

 

「イロハ! カウンターいくぞ!」

「了解です!」

「3………2………1………ぬぅわっ?!」

 

 ここだ!

 

「ジュカイン、ハードプラント! リザードン、ブラストバーン! オーダイル、ハイドロカノン!」

「デンリュウ、ヤドキング、ラプラス! レールガン! ボルケニオン、オーバーヒート!」

 

 五芒星が破れ、ザイモクザが吹き飛ぶ瞬間に五芒星を狙って三位一体の究極技とレールガンを放った。紅いポケモンはオーバーヒートで電磁砲を押し上げ、テレズマ化させている。

 恐ろしい奴………。

 

「キィナァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 ッ!!

 お前、そこにいたのかよ!

 いつの間に飛び移ってたんだよ。

 

「ルカリオ、これもいけるんだろ! ジ・イクリプス!」

 

 ギラティナがデオキシスの影なんかお構いなしに飛び回っており、その背中に長骨を構えたルカリアがいた。いないと思ったらどうやら先程の攻撃で飛び移っていたようだ。おかげで飛行隊とどういう原理で飛んでいるのか分からないゲッコウガを除けば、一番近い位置にいる。

 だから最大にして最強の技を命令してみた。出来なかったら出来なかっただ。別の技にすればいいだけのこと。

 だがその心配は杞憂に終わり、ルカリオが27連撃の大技を叩き込んでいく。一極集中の攻撃で薄くなった壁がさらに削られ、あと一歩という感じのところまで来た。

 

『スイッチ!』

 

 それを見逃すゲッコウガでもなく、ルカリオが撃ち終わる寸前に割り込み、追撃を加えた。あれは突進系斬撃のダブル・サーキュラーだな。

 …………何でお前もソードスキル使えるんだよ。ユイのルカリオだけじゃねぇのかよ。しかも二刀流とか、片方ヒトツキだよな? もう何でもありだな。

 

『ヒトツキ、ラスターカノン!」

 

 突進系斬撃の後はヒトツキによる鋼の光線が放たれた。薄くなっていた壁をとうとう貫き………。

 

「ッ!?」

 

 見つけた!!

 

「ようやく捉えたぜ、デオキシス!」

「うぇっ!? 先輩?!」

 

 奴を見つけた瞬間、黒いオーラを走らせデオキシスを掴み取った。

 何度攻撃を防がれたことだろうか。

 当てたと思えば影だったり、影の数を減らせば動きの制度を上げてくる。その上フォルムチェンジで隙がないし、気づけばまた影が増えている。

 何とも面倒な奴だった。

 

「お前が俺の大事なもんをぶっ壊すってんなら」

 

 でも、それもこれでお終いだ。

 俺は厄介者その1を片付けに黒いオーラで足場を作り、一気に駆け抜けた。

 

「まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!」

 

 どこぞのツンツン頭よろしく、黒いオーラを纏った拳でデオキシスの胸のコアを殴りつける。

 結構勢いもあったため、地面に叩きつけることも出来てしまった。同時に影も一斉に消え、恐らく本体のみしか活動できないところまで追い込めたようだ。

 いくらフォルムチェンジを使えようが、胸のコアだけはどのフォルムでも急所であり、効果抜群でもあったみたいだな。

 

「今だよ、マーブル! ふういん!」

 

 えっ?

 

「………ユイ?」

 

 突如声のした方を見るとコルニの横でユイがブイサインを送って来ていた。

 

「マーブルにスケッチさせたから! これであの技は使えないでしょ!」

「愛してるぜ、ユイ! ジュカイン、くさむすび!」

 

 全く恐れいったよ。

 まさかここでふういんを使ってくるとは。

 随分と成長したじゃねぇか。

 

「ジュカイン、何か変化があるかもしれん。そのままデオキシスを警戒しといてくれ!」

「カイッ!」

 

 草でぐるぐる巻きにされ、十字架の処刑台のようになっているオブジェの警戒をジュカインに託した。

 さて、もう一体の厄介者のところへと行きますか。

 

「リザードン、いくぞ!」

「シャアッ!」

 

 俺は羽ばたいたリザードンの背中に着地し、そのままギラティナの方へと移動した。

 

「ハルノ! メグリ先輩!」

「………ずるいなぁ、君は。いつもいつもお姉さんが来て欲しいって時に来ちゃうんだから」

 

 間に合ったようだな。

 流石にデオキシスとやり合ってる途中で反転世界の王の相手をするのは相当疲弊するようだ。伊達にプレッシャーを放ってないな。

 

「回復したら戻るわ」

「了解」

 

 ハルノたちと入れ替わり、ギラティナの前に立ちはだかる。

 

「よぉ、ギラティナ。半日ぶりだな」

 

 ようやくギラティナへと辿り着くことが出来た。

 さて、第2ラウンドといこうか。




ギラティナ戦まで入れると2話分超えたので分けました。


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36話

「よぉ、ギラティナ。半日ぶりだな。お前、何が目的だ? デオキシスか? それとも、俺か? いや、それを含めた世界か?」

 

 エンテイもスイクンも随分と疲労している。そろそろこいつらも交代してやらねぇとな。

 

「っと、危ねぇだろ。リザードン、もう一仕事だ! さっさと片付けるぞ!」

「シャアッ!!」

 

 悠長に状況確認すらさせてくれないギラティナさん、マジパネェっす。危うく真っ二つになるところだった。

 

「リザードン、トルネードドラゴンクロー!」

 

 リザードンから飛び降り、まずは挨拶代わりに竜の爪で攻撃させた。一発入ったがそれほどダメージには至っていない。

 

「リザードン、ソニックブーストで加速しろ! それからペンタグラムフォースで動きを止めるんだ!」

 

 リザードンは急加速後、巨体な五芒星を描くように何度もギラティナに挑んで行った。

 その間に態勢を確立しないとな。

 飛行隊はデオキシス相手に既に疲弊している。それはザイモクザも同じだ。今動けるのはイロハとハルノとメグリ先輩か。と言ってもイロハのポケモンはフライゴンとガブリアスが戦闘不能になっている。ハルノとメグリ先輩のポケモンは一旦回復と言っていたため、まだ戦闘不能にはなっていないと考えていいだろう。

 まあきのみとかで回復させてるって手もあるが、それは身体的な面だけだ。心の方は疲弊が残ったままであり、こういう戦いにおいてはそれが一番ネックになるだろう。身体は動くのに頭が処理できない、なんてことになれば呆然と立ち尽くすオブジェでしかない。そうなるとはっきり言って邪魔だ。戦うことも逃げることもできない、なのに助けなければならない。

 それをここにいる奴らは理解しているはずだ。こんな展開は二度目なのだから。あの時でさえ、無理に戦わせようとはしなかったしな。

 

「は、ハッチー。あたしたちも、戦う!」

「ユイ………?」

 

 振り向くとユイがルカリオと一緒にやって来た。

 ユイのエースは健在だったか。

 

「ゆきのんは、あたしを守って…………ぐずっ………だがらっ!」

「生きてるよ、あいつは」

「えっ………?」

「ユキノは生きてる。今はまだ意識が戻らないだけだ」

 

 ああ、そうか。

 ユキノはユイを守って………。

 ユキノにとってもユイは大切な存在だからな。自分の命を賭けてでも失いたくなかったんだろうな。

 

「戦えない奴はボールに戻しておけ」

「っ、うん!」

「ユキメノコ、ユキノを頼む」

「メノ!」

 

 ほんと、オーダイルとユキメノコは俺の言うことに従い過ぎだと思う。一瞬俺のポケモンだったっけってなるぞ。

 

「リザードン、エアキックターンからハイヨーヨー! オーダイル、アクアジェットで挟み込め!」

『キリキザン、つじぎり! アギルダー、こうそくいどう!』

 

 時間稼ぎにはなったが所詮それだけに過ぎないか。

 なら、一旦距離を取らせよう。

 

「サブレ、マロン、クッキー、ショコラ、ありがとね。ゆっくり休んでて」

 

 この四体は既に戦闘不能になっていたようだ。サブレも最後は気力で保っていたようなもんだしな。

 手伝ってくれてありがとな。

 

「マーブル、あなたはユキメノコといて。デオキシスのふういんが解けないように頑張って」

 

 取り敢えず今の戦力はイロハとハルノとメグリ先輩とユイか。ミウラには防御に徹しろって言ってあるし、ハヤマやコマチのポケモンは全員戦闘不能状態のようだし、戦力としては数えられないな。

 

「リザードン、ブラスタロールで躱せ! オーダイル、れいとうビームで翼を凍らせろ!」

『キリキザン、アギルダー! 翼を狙え!』

「シュウ、あたしたちもいくよ!」

「ルガッ!」

「メガシンカ!」

 

 リザードンがギラティナを誘き寄せ、オーダイルたちが攻撃していく。だが、移動のために羽ばたく翼の一風により掻き消されてします。一応直接攻撃は通るみたいだな。

 その間にユイはルカリオをメガシンカさせた。

 なんかこうして見るとユイもとうとうメガシンカを使えるようになったんだなと感慨深くなってくる。そう感傷に浸ってる場合じゃないんだけど。

 

「ユイさん、警護はあたしがやるから。そっちに集中してて」

「あ、ありがとっ、コルニちゃん!」

 

 あ、コルニも戦力として数えてやるべきだったな。まあ、いいか。ボロボロだし。

 

「シュウ、あたしを使って!」

 

 ユイはルカリオと向き合うと両手を広げて抱擁のポーズを取った。それにルカリオは右腕を差し出し、ゆっくりと引いていく。すると金色の長い骨が出てきた。

 

「くそ、消えやがった。シャドーダイブか」

 

 突然ギラティナが姿を消した。またシャドーダイブだろう。

 

「リザードン、どこから来るか分からんぞ! 空気の流れを読め!」

「シュウ!」

 

 ルカリオは何を思ったのか後ろを振り向くと何もないところへ黒い影弾を放った。すると空気が揺らめいた。

 

「ッ、左後方上空70度! シャドークロー!」

 

 ルカリオのおかげで攻撃される前に見つけることが出来た。そういやルカリオはギラティナの位置が分かるとか昼間言ってたな。実際に反応して見せていたし。

 

『リザードンに続け! キリキザン、ヒトツキ! つじぎり!』

 

 影による爪撃は消えたギラティナを捉えた。段々と色濃くなる夜空にキリキザンとゲッコウガが追撃を加えていく。

 

「かえんほうしゃで距離を取れ!」

 

 あまり長居してもそれだけ反撃を受ける可能性が高くなるため、即離脱させた。ゲッコウガたちも一撃加えてそのまま通り過ぎていき、次の攻撃の警戒を強めた。

 

「ッ、リザードン、躱せ!」

 

 ギラティナは距離を取るために使った炎を竜を模した波導で押し返して来た。速度はおよそ二倍。

 

「トルネードドラゴンクロー!」

「シュウ、はどうだんで相殺して!」

 

 残弾はユイに任せよう。

 俺たちは今のうちに攻撃だ。

 

『アギルダー、バトンタッチ!』

 

 ゲッコウガがアギルダーとタッチした瞬間、ゲッコウガが消えた。

 はっ?

 まさかあいつシャドーダイブ使えるようになったとか?

 いやいやいや、それは流石に………さすがに…………ゲッコウガだしなー。

 

『ヒトツキ、シャドークロー!』

 

 うん、単に物凄く速くなっただけだったわ。

 ちょっと焦った。ゲッコウガだしやり兼ねないだもん。

 

「バンギラス、ストーンエッジ! メタグロス、コメットパンチ!」

「エンペルト、グレイシア! れいとうビーム!」

 

 おっと、二人とも戻ってきたか。

 こっちも旋回して追撃に移そう。

 

「リザードン、ハイヨーヨーからのもう一度ドラゴンクローだ!」

 

 俺の指令に移すためかギラティナを蹴り、距離を取ってから上昇していった。

 あいつ、ギラティナに恨みでもあるのか?

 いやないこともないか。折角平和に暮らしてたのにいきなり出てきて襲いかかって来たんだもんな。しかもデオキシスと戦ってる最中に。それで暴走だろ? そりゃ恨みもするわ。

 

「ハチマン! スイクンとエンテイ、回復させといたよ!」

 

 おお、それはありがたい。いつの間にそんなことしてたんだ。休ませるつもりではあったけど回復まで俺の手は回せなかったし、ほんとにちょっと休憩のつもりだったんだがな。

 これは嬉しい誤算だ。

 

「ルミ、コマチ! お前ら、まだいけるかっ?」

「コマチはキーくんなら!」

「私はオニゴーリだけ!」

「ならお前らはジュカインと交代してデオキシスを見張っててくれ!」

「「分かった!」」

 

 取り敢えず、ジュカインを戻して………次は…………。

 

「ユキメノコ、ユキノのキーストーンを貸してくれ!」

 

 今の俺では出来ないかもしれないがやるしかない。無茶をしなけりゃ勝てない相手なのだ。それに時間だけが過ぎ、全員疲弊しきっている。そろそろ決めにいかないと。

 

「メノメノ」

「サンキュー、ユキメノコ」

 

 ユキノのキーストーンを持って来てくれたユキメノコの頭を撫で、再び目を覚まさないユキノの警護へと就かせた。

 

「カイ!」

「ジュカイン、頼むぞ」

 

 コマチたちと交代し、俺のところに戻ってきたジュカインにキーストーンを見せると意図を理解してくれたみたい。

 なら早速やりますか。

 

「ジュカイン、メガシンカ!」

 

 ユキノのキーストーンとジュカインのメガストーンが共鳴し、ジュカインが白い光に包まれた。

 今のところ俺の方への負荷はかかっていない。だが油断は禁物だ。

 

「まずはなやみのタネを自分に使え」

「カイ」

 

 メガジュカインの特性はひらいしん。でんきタイプの技を全て引きつけてしまう。普通のバトルではそれでもいいのだが、今回に限ってはマイナスでしかない。

 さすがにレールガンを引き寄せてしまっては意味がないからな。

 

「こうそくいどうからのドラゴンクロー!」

 

 俺が命令を出すと地面を蹴り上げ、ゲッコウガの方まで一瞬でジャンプしていった。二人は視線を交わすとゲッコウガの方がみずしゅりけんを投げ、それを足場にジュカインが加速し、そのままギラティナへと斬りかかった。

 

「スイクン、オーロラビーム!」

 

 ジュカインに向いた意識を今度はスイクンで上書きしていく。その間にジュカインは距離を取り、走るエンテイに着地。

 

「ジュカイン、足下を狙え!」

「カイ!」

 

 エンテイが走りながらだいもんじで壁を作り防御に徹し、ジュカインを乗せてギラティナへと近づいていく。

 

「フシギバナ、つるのムチ!」

「メタグロス、サイコキネシス!」

 

 ハルノとメグリ先輩はギラティナの動きを封じにかかった。今のうちに攻撃しろってことだろう。

 

「リザードン、ペンタグラムフォース!」

『ヒトツキ、キリキザン! つじきり! アギルダー、はたきおとす!』

 

 リザードンは五芒星、ゲッコウガたちはあくタイプの技で弱点を突きながらダメージを加えていく。

 

「エンペルト、グレイシア! れいとうビーム!」

「バンギラス、ストーンエッジ! ハガネール、かみくだく!」

「デンリュウ、りゅうのはどう!」

 

 ようやく動きが安定してきたな。これならいけるか…………?

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 くそっ、ダメだ。

 かれこれ十五分は同じことーー動きを止めては攻撃ーーを繰り返している。このままでは先にこっちがやられてしまう。

 何か、何か決定打となる攻撃が欲しい。

 効果抜群技、究極技、一撃必殺…………。効果抜群の技は既に使っている。一撃必殺はギラティナの方が格上だ。となると究極技。それも同時に、集中的に狙う奴。今使えるのはリザードン、オーダイル、ジュカイン、ゲッコウガ、マフォクシー、カメックス、フシギバナ、エンペルト………。ユイのブリガロンは戦えないし、コマチのカメックスも戦闘不能だ。あとは………ハヤマのリザードンは使えるのだろうか。いや使えたとしても草が足りないな。ドーブルが使えたが…………無理だろうな。下手に戦わせてデオキシスのふういんを解かせてしまっては最初からやり直しだ。というか水だけ多くないか? 俺たちの編成偏りすぎだろ。

 

「サーナイト、メタモン! サイコキネシス!」

「ッ!」

 

 いるじゃねぇか、メタモンが。

 

「ハヤマ! リザードンはまだいけるかっ?」

「………何か策があるのかい?」

「お前のリザードンが究極技を使えるかどうかによる」

「見くびらないで欲しいものだね。これでも君に勝つために色々試しているんだ。当然究極技も習得済みさ」

「なら手伝え。イロハ! お前はでんじほう! ハルノはハイドロカノン! メグリ先輩はハードプラントを! それとメタモンをフシギバナに!」

「分かったわ!」

「分かったよ!」

「分かりました!」

 

 これでくさ、ほのお、みずに加えでんきタイプも揃う。後はタイミングを合わせて集中攻撃に移すだけ。

 

『ヒトツキ、ラスターカノン!』

「ゲッコウガっ!」

『オレが相手する。その間にハチの指示をこなせ!』

「うん!」

『ボルケニオン、手を貸せ』

 

 ただその準備というのが割と大変だ。なんせこんな戦場で移動するんだからな。必要人材を必要な場所に集まるというのも一仕事である。それにその移動中のヘイト稼ぎも必要だ。集めたけどそこで全員やられましたじゃ意味がない。

 それをイロハのところはゲッコウガたちが引き受けるようだ。ならハルノのところにはスイクンを、メグリ先輩のところにはエンテイを行かせよう。こっちはどうとでもなる。

 

「スイクン、お前はハルノを。エンテイ、お前はメグリ先輩を頼む」

 

 二体は首肯するとそれぞれのところへと向かった。

 さて、あとは………ほのおタイプを集めるとするか。

 

「リザードン、マフォクシー、こっちに来い!」

 

 攻撃陣にいたリザードンとマフォクシーを呼び戻し、ハヤマのリザードンと並ばせた。他も隊列は整っているようだ。

 こうしてみると圧巻だな。迫力が凄まじい。

 

「ユイ、これから一斉攻撃を仕掛ける。これのキーマンはルカリオだ。次にギラティナが消えたら真っ先に場所の特定をさせてほしい。できるか?」

「任せて!」

 

 緊張を隠しきれていないユイの頭を撫でるとそれも消えていった。全く、頑張り屋なのも考えものだな。可愛すぎるじゃないか。

 

「コルニ」

「な、なに?」

「ちょっとの間、お前らも時間稼ぎに付き合ってくれ」

「い、いいけど。邪魔にならない?」

 

 こっちはユイ以上に緊張してるな。

 

「邪魔どころか手が足りないくらいだ。それに、お前も負けたくないんだろ?」

「それは、そうだけど」

「………何だよ、怖くなったのか?」

「こ、怖くなんかないし!」

「アホ、俺は普通に怖いわ」

「えー………」

 

 何だよ、普通に怖いだろ。相手はあのギラティナだぞ?

 しかもお前らが殺されるかもしれんわ、かといって俺たちだけじゃ戦略が足りないわ、その俺たちもいつ暴走するか分からないわでハラハラドキドキだっつの。心臓がずっとうるさいままだわ。

 

「だからまあ、怖いと思うのは普通だから安心しろ」

「………そこは俺が守るから安心しろとか言うところじゃ」

「俺だぞ?」

「そりゃそうだけど」

 

 俺だという理由だけで納得されちゃったよ。

 それはそれで悲しいかな。

 でも事実だし。

 

「さて、一発やりますか。ルカリオ、お前が使える技ではギラティナに攻撃できない。だから新しい技でいくぞ」

「ガウ?」

「まあ俺の言う通りにしてみてくれ」

「ガウ」

 

 久々にアレやりますか。

 

「まずは波導を感じろ」

「……何するの?」

「その中の竜気だけを意識するんだ」

「え、ちょ………」

「あったか? なら今度は竜気を竜の形に練り上げていけ」

「ま、まさか………」

「………放て!」

 

 ルカリオは上手くりゅうのはどうを発動できたみたいだ。ちょっと形は歪で勢いが足りないが初めてにしては上出来だな。

 ついでに俺もそれに合わせて黒いオーラーーあくのはどうを撃った。

 

『なるほど』

 

 空ではゲッコウガがそれに反応してみずのはどうを合わせてきやがった。あいつ、ほんとこういうの好きだよな。

 結果として三種類の波導がギラティナへと飛んでいった。

 

「りゅうのはどう………」

「ルカリオ、今の感覚を覚えておけ」

「ガウ」

「こんな時でも新しく覚えさせちゃうんだ………」

「こんな時だからこそだ。手がないなら自分で作るしかない。例え戦場だろうが打開策になるなら覚えさせるぞ」

 

 ッ!?

 来たか。

 ルカリオの一撃がギラティナの注意を引いたようだな。

 

「ユイ!」

「シュウ、ギラティナの方へ骨を投げて!」

 

 消えたギラティナに対して、ユイのルカリオは意識を集中させ感じたところへと骨を投げた。

 骨は丁度俺たちの頭上で何かに当たり、空気が歪んでいく。

 そこか!

 

「デンリュウ、ヤドキング、ラプラス! レールガン!」

「フシギバナ、メタモン、ジュカイン! ハードプラント!」

「カメックス、オーダイル、エンペルト! ハイドロカノン!」

「リザードン、マフォクシー! ブラストバーン!」

「リザ、ブラストバーン!」

 

 でんき、くさ、みず、ほのおタイプによる高威力の集中攻撃。今のメンツでこれ以上ない威力のはずだ。だから畳み掛けるなら今なのだろう。

 

「いくぞ、リザードン! リミットブレイク!」

 

 究極技を撃ってすぐだしそもそも本来は使いたくない力ではあるが、今ここで決まるのであれば暴走する前に終えられる。反転世界の神とされる伝説の中でも伝説には同じ伝説ポケモンを、それも数体充てがう必要がある。それがギラティナというポケモンだ。

 

「あおいほのお!」

 

 リザードンからレシラムへと姿を変え、メガシンカ時の蒼い炎をそのままにギラティナへと走らせた。究極技と超電磁砲をさらに押し込む形で包み込み、技同士を暴発させ反撃の隙すら埋め尽くしていく。

 

「ギィナァァァアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 だが、ギラティナは、耐えてみせた。

 しかも白い光に包まれて。

 

「は………っ?」

 

 嘘っ…………だろ…………………。

 あれだけの攻撃を耐えたとかあおいほのおですら効かなかったとかそういうのは折り込み済みだ。それよりも…………。

 

「何で、姿が変わってんだよ…………」

 

 今までは脚が六本で翼が二枚の陸上生物系だったのに、何故か全体的にトゲトゲしい姿に変化した。脚も全て尖り、翼は六枚に分かれている。

 これはあっちの世界での姿だ。ギラティナ本来の姿と言ってもいい。あっちの世界では常に飛んでいる。しかも攻撃力が高く、一撃で伸される可能性もある程。

 

「全員気をつけーーー」

「ギィナァァァアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 打ち上げ花火…………りゅうせいぐんかっ!?

 

「ッ、レシラム、だいもんじ!」

 

 大量の流星が降り注ぐ寸前、大の字の炎を黒いオーラで覆い円形の壁を作った。だが、それは俺たちのところへの攻撃に対してだけだ。他の奴らへの攻撃まで防げていない。守れたのは俺の側にいたユイとコルニだけである。

 

「………ボル、ケニオン」

「ハルさん、大丈夫………ですから」

「え、ええ、何とかね。でもみんな、もう戦えそうに、ないわ…………ッ」

「わたし、もです、…………」

「ハヤト………ッ!」

「………ユミコ、間に合って、よかった、よ………」

「ハヤト、しっかりしろし! 今手当てして」

「ユミコ、まだ終わってない…………から」

「何バカなこと言ってんの! アンタ、それじゃ死ぬよ!」

 

 くそっ、今のでかなりやられてしまったかっ。イロハはあの紅いポケモンが守ってくれたおかけで何とかなっているが、他は散々な状態。あのハルノでも今のは不意打ち過ぎたらしい。少し離れていたコマチたちでさえ泥だらけである。オノンドが咄嗟に進化してオノノクスになり守ったようだが、死んでないのが奇跡と言っていいくらいだ。

 

『心配ない。気を失っているだけだ』

 

 ゲッコウガが紅いポケモンの様子を伺い、イロハへと安否を伝えた。生きているなら一安心だな。イロハも安堵の息を吐いているし。

 

「………ははは、ユミコは心配性だな」

 

 ハヤマ、お前はまだやる気なのか。恐らくこの中で一番重傷だぞ。

 

「ったく、ハヤマ。お前は全員を安全な場所に避難させろ」

「ヒキガヤ………」

「時間がない。早くしろ!」

「っ、すまない。絶対に死なないでくれよ!」

 

 死。

 ハヤマも今ので死を感じてしまったらしい。

 いつもはどこか達観した、全てを知っているような振る舞いをするハヤマハヤトでさえ、恐怖には抗えないようだ。

 まあそれは仕方のないことでもある。相手はあのギラティナだ。一番死に近く一番死のイメージをしやすい。「死」や「恐怖」そのものと言ってもいいだろう。

 それとなハヤマ。死にそうなのはどっちだよ。お前の方が血だらけなんだぞ。

 

『キリキザン、アギルダー、今は休んでろ。あとはこいつがやる』

 

 ゲッコウガの方もあいつ以外は一旦離脱か。だがまだ一体いるようだ。

 

「レシラム、全員の避難が終わるまでヘイト稼ぎを頼む。エンテイ、戻れ」

 

 もうほとんど戦力が残っていない。エンテイもスイクンもやられてしまった。捕獲しておいてよかったと改めて思う。ボールに入れていなければエンテイもスイクンも回収ができず、さらなる追い討ちを受け、最悪に死においやってしまっていたかもしれないのだ。

 

「マフォクシー、サイコキネシスでギラティナの動きを止めてくれ」

 

 ヘイトを稼ぐリザードンのために、少しでも追いつかれないようマフォクシーにサポートを頼んだ。

 

「ヒキガヤ!」

 

 全員避難出来たか………。怪我の応急手当ても各々始めたようだし。

 さて、ここからどうするか。

 

「ッ?!」

 

 ここで消えるんじゃねぇよ!

 

「レシラム!」

「レィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッ!!」

 

 レシラムも雄叫びを上げながら無理矢理身体を捻り、これまでの動きくら推測して何もないところへと飛んでいく。

 だが思ったより早く姿を現し、竜の爪を突き刺してきた。

 

「ドラゴンクロー!」

 

 負けじとこちらも竜の爪で応戦。

 だが、返せない…………。

 どうする…………。本来ならカウンターで返せるのにギラティナには効果がない。かえんほうしゃでは火力不足。かといってブラストバーンでも押しが足りなかった。あれは三位一体だからこそ何とかなっていただけ。ならばレシラムが使えるあおいほのおか? いや、あれはそういう技じゃない。くそっ、今の状態では一番使いたくないのにやはりあの技を使うしかないのか………?

 

「ダメッ! 逃げて!」

 

 ギラティナが口を開いた。

 くそッ! 迷ってる暇はないってか!

 

「レシラム、げきりん!」

 

 一番暴走しやすそうな技が唯一確実に返せる技になるとは………。

 こうなったら短期決戦だ。

 今動けるのはマフォクシーとゲッコウガたちだけだろう。

 

「マフォクシー、ギラティナの動きを止めろ! サイコキネシス!」

 

 ふと、何故かサカキたちの方へと目がいってしまった。

 ………そういえば俺はさっきスピアーにさいみんじゅつを使い操ったな。上手く成功してたし、今の俺はさいみんじゅつも使えるということだ。

 なら………。

 

「あ、オイ、エレキブル!」

「フーディン!?」

「………お前たち、どこへ」

 

 汚い手だがそんなことを言っていられる状況じゃない。ポケモンたちには申し訳ないが付き合ってもらうぞ。

 

「スピアー、ニドキング、パルシェン、エレキブル、フーディンか」

 

 思い出せ。

 こいつらが使ってきた技を思い出すんだ。

 

「フーディン、重ね掛けだ! サイコキネシス!」

 

 ナツメのポケモン全員が覚えている技。

 

「ニドキング、がんせきふうじ!」

 

 じわれを叩き込まれた時に何度も使われた技。

 

「パルシェン、れいとうビーム!」

 

 あまりバトルには参加しないが、それでも使ったところを見たことがある数少ない技。

 

「エレキブル、押し返せ! ワイルドボルト!」

 

 初のジム戦で挑んだクチバジムでエレブーの時に使ってきた技。

 

「スピアー、ダブルニードル!」

 

 そしてサカキのスピアーの代名詞と言っていい技。

 

『そろそろお前も手伝えハクリュー!』

「みゅうみゅう!」

 

 ゲッコウガも追撃へと動いてくれた。

 ただ、ハクリューが姿を変えたのだが、理由を詮索している暇もないか。

 

『つじぎり!』

 

 二体のゲッコウガが黒い手刀で追い討ちをかけた。

 

『しまっ!?』

 

 技を打ち込んだはずのゲッコウガが驚愕の声を出し、レシラムの方へと駆け出した。

 

「レィィィイイイアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!」

 

 と、突如レシラムが吠え、突き上げられた。地面からは黒い爪が飛び出ている。

 ………シャドークローかッ!

 

「レシラ……ぐぅッ!?」

 

 やべぇ。

 とうとう来やがった。

 力の制御が出来ねぇ。

 

「あ……く……、ぐあああああああっ?!」

 

 脳が焼ける!

 いきなり過ぎて抑え込む力すら入らねぇ!

 俺、今度こそ死ぬぞこれ!

 

「ヒッキー?!」

「先輩!?」

「お兄ちゃん!」

「ハチマン!?」

 

 くそっ、今ここで呑まれるわけにはいかないんだっつの!

 

「がッ?!」

 

 か、はっ…………息が……………。

 それに、痛い………ッ。

 

「………え、ゆき………のん?」

 

 ………な、んだ…………何が………?

 冷たい………?

 水………なのか?

 てことは海に落ちたのか………?

 てか突き飛ばされたってことか?

 くそ、何も見えない。何も聞こえない。

 ただ冷たいと感じるだけだ………。

 ………また、俺は失敗した、のか…………?

 俺を選んでくれたリザードンをまた助けられないのか………?

 何が元チャンピオンだよ。何が忠犬ハチ公だよ。力の前では何もできないじゃないか。

 クソったれが!

 何だっていつも俺の邪魔ばかりするんだよ!

 力ってのはこんな時にこそ使うもんだろうが!

 それが何でピンチをさらにピンチにして引っ掻き回すんだよ!

 俺たちに死ねってかっ!

 ふざけるなっ!!

 俺にはまだやることがたくさん残ってるんだ!

 リザードンだってまだまだやりたいことがあるはずだっ!

 俺はリザードンのトレーナーなんだぞ!

 あいつのやりたいことを叶えてやるのがトレーナーってもんだろうがっ!

 だからこんなところで、こんなところで負けてたまるかっつのっ!!

 動けよ俺の身体!

 動いて足掻けよ!

 カッコいいのとかいらねぇんだよ!

 俺は所詮俺なんだ!

 どんなに力を持っていようが俺であることに変わりねぇんだよ!

 ボッチを愛し、人の裏を読んでーーー

 

 ーーー人の子よ。我の声が聞こえるか。

 

 あ? 誰だよ、テメェ。

 

 ーーー我は我だ。

 

 分かるわけねぇだろ。

 

 ーーーいや、知っているはずだ。我はずっとお前とともにいたのだからな。

 

 はっ? ずっと?

 

 ーーーああ、ずっとだ。お前が人の子であった時のことも兵器であった時のことも全て見てきた。

 

 ストーカーかよ。

 

 ーーーストーカー………。言い得て妙だな。強ち間違いではない。お前は昔から我をそう認識してきたのだからな。

 

 ますます分からん。

 

 ーーーまあいい。人の子よ、今一度問おう。お前は何者だ? 人の子か? それとも兵器か?

 

 はっ? そんなもん決まって………。

 

 ーーーなら何故お前の目の前には人の子がいる? 何故庇う? 何故捨てない?

 

 それは………。

 

 ーーー受け容れたのではなかったのか? 人の善意を。人の好意を。

 

 う、受け容れたに決まってるだろ。俺はあいつらが大切だ。失いたくないと心から………。

 

 ーーーなら何故そんなに焦っている。何故そんなに戸惑っている。

 

 知るか! お前がわけの分からん話をするから恐怖で怯えてるんだよ!

 

 ーーーそれは本当に我に対してか?

 

 ッ?!

 

 ーーー人の子よ。いい加減目を逸らさず現実を見よ。変化に戸惑うな。受け容れろ。さすればそれがお前のーーー

 

 

『大好きですよ、せーんぱいっ!』

 

 イロハは変わった後輩だ。普通なら俺のような人間に見向きもせず、それこそハヤマのような奴らといるのが当たり前。なのに卒業前の数日しか接していないのに俺のことを覚えていた。繋がりなんてその数日間だけで卒業試験の時にたまたま助けて、綺麗な石ーー今イロハが持っているキーストーンーーをあげたくらいだ。それだけで俺のことを覚えているとか普通ならあり得ないだろう。ましてや好意を持ってくれているなんて、想像すらしなかった。

 

『たまにはお姉さんに甘えてくれてもいいんだぞっ☆』

 

 ハルノはチグハグな女性だ。チャンピオンに上り詰める強さや気高さを持つ反面、かつて自分の興味本意で作った計画のせいで、俺たちの人生を壊したと思い込んでしまった。諸悪の根源はサカキたちロケット団であり、ハルノには何の責任もないというのに。ユキノシタの長女としての仮面の内側に全てを閉じ込めてまで自分を犠牲にし、最愛の妹すら利用して俺を助けようとしてくれていたのだ。

 

『これだからごみぃちゃんは。手のかかる兄を持つと大変だよ』

 

 コマチはずっと俺の心の支えだった。記憶が失くなっていく中、唯一消えることのないコマチとの思い出は、俺が俺であり続けるための最後の砦だったと言っていい。時にはコマチの元へ帰るため、時にはコマチを護るため、何かにつけてコマチを理由にすることで俺は今日まで生き抜いて来られた。

 

『ハッチー、だーいすきっ!』

 

 ユイは俺がスクールに入って初めて話しかけて友達になった奴だ。今ならそのことをしっかり思い出せる。学年が上がるにつれて徐々に回りと距離を置くようになってからも、ずっと俺のことを気にかけてくれていた。あまつさえその記憶すら失くしてしまったというのに、ユイはずっと俺を見てくれていたのだ。こんな俺には勿体ないくらい優しく、それでいて力強い。だから俺はそんな彼女の笑顔を護りたい。俺を好きだと言ってくれたその笑顔を崩させたくはない。

 

 

 ーーー我にも気を向けてくれる奴がいる。素直じゃないが。我をお前とするならば、其奴はお前の目の前にいる人の子なのだろうなーーー

 

 はっ?

 何言って………ユキ……ノ……………?

 

「んむっ!?」

 

 いきなり唇を奪われた。

 見開いた目に映ったのはボヤけたユキノのシルエットで、熱を感じる。まわりが冷たいから余計に熱い。

 

 ーーーハチマン、あなたは独りじゃないわ。最初はコマチさん。それからリザードン。そして私。あなたはもう色んな人やポケモンたちに囲まれているわ。そしてみんないつでも側にいるわ。だから、早く戻って来なさい!

 

 そう言われているような気がした。

 ユキノは………、本当にバカな奴だ。俺がオーダイルの暴走を止めただけで、先に卒業した俺を探し、身の丈に合わない危険なところにまで来やがった。姉には利用されサカキにも利用され、全ては俺が関係しているのに嫌な顔一つしない。俺が全ての記憶を失くしたところを目の当たりにしても、やはり俺の行くところにいる。そしてまた事件に巻き込まれる始末。バカを通り越してただの大バカ野郎だ。

 それだけじゃない。ヒラツカ先生や色んな人が俺を気にかけてくれていた。こんな、黒く染まってしまった俺のことを。

 ーーああ、俺は逃げてたのか。記憶を取り戻す度に知らず知らずこいつらを巻き込まないようにと、言葉と心を乖離して。

 その結果がこれだ。周りの奴らを巻き込まないようにしたところで結局は傷付けちまうんだ。

 だから俺はこうして傷付けないためにも、それで俺が傷付かないためにも人と関わろうとしなかった。傷つくのは俺一人だけでいいと、いや俺はこんなことで傷つかないと自分に言い聞かせて。

 けど、それももう俺には取れない手段になっちまってたんだ。俺はこいつらなしには生きられない。それこそ、兵器にはなれないのだ。

 

 ーーだったら、どうせ傷付けちまうのなら、一緒に傷付こう。

 

「んむっ!?」

 

 今度は俺の方からユキノの唇を奪ってやった。

 ようやく冷静になって来た気がする。

 ああ、そうか。結局原因は俺にあったんだな。自分をさながら兵器と揶揄し、蔑み、忌み嫌い、人を遠ざけて。なのに、一方ではユキノたちを受け容れたと頭では言い聞かせ、身体も言葉もそれに従い。ただ心だけがずっと揺らいでいたんだ。そこを突かれて力に呑まれた。反応こそリザードンに出たものの、呑まれたのは俺の方だ。

 

「ぼんばびばばぼぼびびばべべばばぶばっ!(こんな力如きに負けてたまるかっ!)」

 

 水中で吠えても何言ってるのかさっぱりだな。

 そんなどうでもいいことを発見しながら黒いオーラで俺たちを包み込み一気に上昇した。

 ザバンッ! と水が弾ける音がし、前髪が目にかかった。それを左手でかき上げ視界を取り戻す。

 どれだけ海の中にいたのだろうか。まあ、俺が息を止めていられるのなんて一分もない。そんな些細な時間にギラティナはさらに戦況を悪化させていた。逆にキスを二度もして息が続いた方がおかしいと思うくらいだ。だがそれはダークライの力のおかげで半ポケモンになっているからということにしておこう。

 

「………あなたもダークライに力をもらっていたのね」

「ああ」

「その力使い切るのよね」

「当たり前だ。あいつがその身を代償にくれたんだ。存分に使ってやらねぇと失礼だろ」

「なら、私も使い切ってあげるわ」

 

 ユキノもクレセリアから力をもらっていたからあれだけしても息ぐ続いてたんだろうな。

 

「こっち向きなさい」

「ん? んむ!?」

 

 またですか。

 あなたキス好き過ぎない?

 力の関係上、仕方がないことではあるけど。

 

「うおっ?!」

 

 なんか急に黒いオーラが活性化した。

 これは………?

 

「てだすけって技よ。それとつきのひかり。キスをすることであなたも対象になるの」

「繋がってるからってか。エロいな」

「バカなこと言ってないでさっさと片付けなさい」

「はいはい」

 

 つい顔がにやけてしまう。

 やっぱり俺は昔からどこかでユキノのことが好きだったのだろう。暴走したオーダイルを止めたのも然り、シャドーで助けたのも然り、その後も何度も助けて。関係ない奴を助ける程昔の俺は優しくないし、余裕があったわけじゃない。だから、そういうことなのだろう。

 

「ぬぅ、なんだゾ! どいつもこいつも役立たずばかりなのだゾ! こうなったらお前たちだけでも殺すのだっ!」

 

 あいつ………。

 声のする方を見るとクセロシキが拳銃型の何かを取り出し、俺たちに向けて撃ってきた。傍にはサカキがニヤついている。

 あいつ、何か吹き込んだだろ。

 全くバカにも程がある。今の俺たちは普通じゃない。他の奴らを狙うならまだしも、俺たちを狙ったところでその程度の代物じゃ意味がないと思うぞ。しかもサカキに乗せられてまで。

 

『させると思ってるのか?』

「ぐぁぁぁあああああああっっ!!!」

 

 左手を前にかざしたところで、先にゲッコウガが真っ二つにしてしまった。そしてそのまま俺たちの横に降り立ち、両手を払った。腰には一丁前にモンスターボールの付いたベルトを巻いている。

 当のクセロシキはヘルガーに焼かれた。死にそうで死なない、意識すら失わない程度に。

 

「よぉ、ゲッコウガ。随分と人間らしくなったじゃねぇの」

『ふん、この方が便利だからな』

「ま、俺は別にお前の好きにしてくれて構わないんだが」

『………それで、どうするつもりだ?』

「今のお前なら俺が考えていることくらい分かるんじゃねぇの?」

『ただの確認だ。来い、ハクリュー!』

「みゅうー」

 

 ……………おいちょっと待て。

 今なんつった?

 ハクリューだと?

 俺には全く別の奴の気を感じるんだが。

 

「ハクリューって、そいつ仲間にしたのか?」

『見た目はな』

「どういうことだよ」

『それこそ今のハチなら分かるだろ』

「だからどういうことかって聞いてるんだろ」

『ただ懐かれただけだ』

「そうかよ。まあ、何でもいい。リザードン!」

 

 うん、もう何でもいいよ、お前は。今更過ぎて言葉もないわ。

 だって、このハクリュー………。

 

『キリキザン、アギルダー。そのまま引きつけといてくれ!』

「メガシンカ!」

 

 俺が海に落ちている間に解けていたメガシンカ。それを再度使用した。キーストーンとリザードンの持つリザードナイトXが共鳴し結び合っていく。何気に今までとは光の量が全く違う。目が痛いくらいまでに眩しい。

 

『さて、ハチ』

「ああ、一発叩き込むぞ」

 

 ゲッコウガは既に俺の考えが分かっているようだ。というか同じことを考えているのだろう。

 

「リザードン!」

『ミュウ!』

 

 そのためのミュウなのだろうから。

 

「リミットブレイク!」

『へんしん!』

 

 リザードンは白い竜に。ミュウは黒い竜へと姿を変えた。レシラムとゼクロム。対をなす二体の伝説のポケモンである。

 

「クロスフレイム!」

『クロスサンダー!』

 

 レシラムとゼクロムの特殊な技。文献で読んだだけだが、交互に撃ちつければ威力が上がるらしい。

 

「リザードン、この力を全部捨てる勢いでやってやれ! あおいほのお!」

 

 今まではこの姿の時にはリザードンをレシラムと呼んでいた。見た目がそうだし、イレギュラー進化でレシラムになるもんだと思っていた。

 だがそれは違ったのだ。リザードンはリザードン。姿が変わろうがあいつは変わらない。その小さな一つが制御出来ない所以だったのだろう。

 

『ミュウ、らいげき!』

 

 リザードンは綺麗な青白い炎を、ミュウは雷を纏いその炎の中へと突っ込んでいく。掛け合わせてギラティナに向かっていく算段だ。普通のポケモンたちじゃ危険行為だが伝説のポケモンであればそうでもない。だからこそ伝説と呼ばれているまである。

 

「ギィナァァァアアアアアアアアアアアアッ!?」

 

 深くダメージが入ったみたいだ。

 ギラティナは怯んで後退している。

 

「な、何なのよアンタたち!」

 

 焼かれて黒い煙を上げているクセロシキの隣で緑髪の女が戦慄いた。怯えているのが伺える。知ったこっちゃねぇけど。

 

「俺たちが何なのか、ね」

 

 俺はゲッコウガと視線を交わした。どうやらこれも考えていることは同じなようだ。

 

「俺たちは」

『二人で一人の』

 

 なぁ、そんなの決まってるってな。

 

「『ポケモントレーナーだ!』」

 

 ゲッコウガの進化は止まらない。いっそ神化と言ってもいいだろう。こいつは自分の強さをポケモンとしてだけでは終わらせる気がないのだ。俺のポケモンでありながら俺と並んで指示も出す。意識を共有出来るところからこの発想に至ったんだろう。俺の背中に立つことで360度敵なしのトレーナーを作り上げる。流石の俺にもこの発想は全くなかった。

 

「ゲッコウガ、終わらせるぞ」

『はいよ』

 

 二体の竜によって消えることも出来なくなったギラティナにトドメを撃つため、ゲッコウガは水を集めていく。

 

『みずのはどう、アルセウスバージョン』

 

 これまた凄い勢いで水を唸らせ、アルセウスの形へと作り変えていった。相手がギラティナだからこその遊び心なのだろうけど、今それいる?

 あとね、一回の瞬きで目の前にいるのよ。ちょっとビビったからね?

 

『ハイドロカノン!』

 

 それを一閃にしてギラティナへと放射。アルセウスの形であるのが関係しているとは思えないが、以前よりも格段に水の勢いが速い。貫通出来ないものはないんじゃないかと思えるくらいだ。まあ出来ないんだけどね。ギラティナさん堅いし。

 

「ギィィィィナァァァァアアアアアアアアアッッ!!」

 

 だが、それでも再度怯むわけで。

 

「『トドメだ! みずしゅりけん!!』」

 

 右手を掲げると同じようにゲッコウガも右手を掲げ、頭上に特大サイズの水手裏剣を作り出した。なんか赤いけど気にしない。沸騰してるってことにしておく。

 俺が右手で投げる動作をするとゲッコウガも同じように手裏剣を投げた。消えることも躱すことも出来ないギラティナに直撃し、爆発した。

 

「…………やった、のか……?」

 

 いや、まだだ。

 まだ一発撃てる技がある。

 

「あくのはどう」

 

 俺もダークライがくれた力を全て使い切るイメージで黒いオーラを弾丸へと圧縮し、撃ち込んだ。

 すると大きくノックバックし、煙の中からギラティナが現れた。

 そしてそのまま地面を転がっていき、まだ残っていた建物を壊してようやく止まった。

 

「………………」

 

 のそり。

 ギラティナは姿をこっちの世界のものに変え、立ち上がりじっとこちらを見つめてくる。

 

「ギィィィィナァァァァアアアアアアアアアッッ!!」

 

 先程とは違い、ただの雄叫びに聞こえる。殺気を感じないからだろうか。

 するとギラティナの背後に黒い穴が現れた。あっちの世界とのゲートが開いたようだ。

 つまり、戦いは終わったのだろう。

 

 

 ーーーそれがお前か、いやお前たちか。しかと受け止めたぞ。

 

 ーーーやればできるじゃないか、ハチマン。

 

 

「………サンキュー、ギラティナ、ダークライ」

「いいえ、私もよ。ありがとう、クレセリア」

 

 ギラティナが広げた黒い穴に帰っていく時、あいつらの声が聞こえたような気がした。ユキノもクレセリアの声が聞こえたらしい。

 案外ギラティナは俺を試していたのかもしれないな。何故このタイミングでだったのか疑問ではあるが。お膳立てはダークライとクレセリアといったところか。

 

「またな、ダークライ」

 

 ま、全てはあいつらのみぞ知るってことなのだろう。



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37話

「あー、すまんユキノ。このまま支えててくれ。緊張が一気に解けて身体中に力が入らん」

「分かってるわよ」

「ん」

 

 いやー、キツい。

 ほんとこれどうにかならないかね。

 

「シャア」

「おう、リザードンお疲れ」

 

 帰って来たリザードンに労いの言葉と拳を突き出すと、リザードンも拳を突き出し合わせて来た。

 

「あ………」

 

 と、気づいた時にはリザードンの首から丸い石が落ちた。メガストーンーーリザードナイトXだ。

 落ちたメガストーンは、あろうことか割れた。

 

「え、割れるのん?」

 

 あれ?

 これヤバくね?

 ってかマジで割れるんだ。ハチマン超ビックリ。頭が真っ白になるくらいには超ビックリ。

 

「ふはははははっ!」

「な、何だよ。ビビるから急に笑い出すのやめてくれる?」

「さすがオレが見込んだだけのことはある。よもや『レッドプラン』と『プロジェクトM's』の力を棄て去るとは」

「はっ? どゆこと?」

 

 棄て去る?

 俺たちあの力棄てたのん?

 

「『レッドプラン』及び『プロジェクトM's』。この計画を最終段階に移行する上で最悪のシナリオというものがあった」

「………最悪のシナリオねぇ」

「力と力の反発、具体的にはトレーナー側とポケモン側の力の乱れ。それによる暴走。そんなところかしら?」

「………気づいていたか。ふん、まあいい。お前の言う通りだ。力と力の反発、拒絶反応。そこから引き起こされる暴走と崩壊。ハチマン、お前はそれを乗り越えてあの力をモノにしたのだ」

 

 力の反発ねぇ。

 反発というかすれ違いって言い方の方がしっくりくるんだが。

 

「だが、お前はオレの予想の斜め下に行き、あの力を棄て去った。その証拠にメガストーンが割れただろう? あの力はメガストーンを通じて引き起こされていた。石に高エネルギーが集まれば内部爆発し四散。それが割れた一抹だろう」

「つまり、これでハチマンはあの力に振り回されることはないということかしら?」

「恐らくな。ただし、あの計画により体内に必要素材は残ったままだ。条件が揃えば再び発動する可能性もある」

 

 ………可能性の話の一つとしておこう。

 要するに俺たちはメガシンカのエネルギーすらあの攻撃に入れていたってことなのだろう。そのせいで石のエネルギーはなくなり砕け散った。キーストーンに影響がないのはエネルギーの種類が違うってことか? あ、だとすると俺たちじゃなくてリザードンが、になるか。ま、細かいことはどうでもいいな。

 

「こいつらはもらっていく」

「はっ? いやいや、それはこっちの仕事だ。お前らに渡すとか」

「履き違えるなよ、ハチマン。これは正当な報酬だ。お前の面倒を見てやったな」

 

 ヤバい、眼孔が光ってるよ。

 

「………脅しか?」

「好きに受け止めろ。リョウ、ケン、ハリー!」

 

 リョウ、ケン、ハリー?

 

「ハッ!」

「ネオ・フレア団を回収しろ。一人残らずな」

「承知致しました!」

 

 他にもロケット団の奴がいたのかよ。

 今の俺たちじゃ相手取るのはどっちにしようが無理だったな。

 

「礼を言うぞ、ハチマン。お前のおかけで貴重なデータが取れた。これで我がロケット団の再興も完遂する」

 

 抜け目のない奴だ。

 こんな時でも何かしらの収穫を得ていく。貪欲というか何というか。まあ、それは対象が人それぞれなだけで人間誰しもが持っているものだろう。俺だってこの右手で抱きしめている奴を始めとした大切なものをくれてやる気はない。

 

「レインボーロケット団。今より我らはそう名乗ることにしよう。ハチマン、いずれお前たちの前に現れるやもしれんその名をよく頭に焼き付けておくことだ」

 

 拘束した元フレア団の連中をロケット団の下っ端たちが連れ去っていく。

 

「………ハチマン、テメェは一体ナニモンなんだ」

「俺単体でいえばクチバ生まれクチバ育ち最初のジムはクチバジムのクチバ大好きポケモントレーナー」

「く、はは、まあいいそういうことにしといてやるよ」

 

 そういうことってどういうことなんだろうか。一体マチスは何を納得したのだろう。

 

「オレは腹括ったぜ。テメェがオレたちを捕まえるってんなら相手になってやる」

「あ、そう」

 

 捕まる覚悟とかしてたのん?

 逆にすごいわ。

 

「ハルノ、また会いましょう」

「嫌よ、あなたになんか絶対会いたくないわ」

 

 あっちはあっちでやってるし。

 

「レインボーロケット団、か」

「今度は何を企んでいるのやら…………」

「考えても仕方ないだろ。あの男はああいう奴だし、今は止める余力がない」

 

 去っていくロケット団の背中を眺めながら、未来でやってくるであろう事件に心の中で溜め息を吐いた。

 

「…………はぁ、にしてもやっぱ目先の力は充てにならんな。結局、メガシンカの所為で振り回されてたってことだろ」

 

 見下ろすとそこには砕け散ったメガストーンのカケラが。

 ま、変に障害が残るよりは断然いい。メガストーン一つで済んだのなら儲けもんと思ってもいいくらいだ。

 それくらいあの力は強力で、常識から逸脱していた。

 

「みたいね」

「リザードン、どうやら俺たちは元あった姿に戻って来ただけらしいぞ」

「シャアッ!」

 

 あー、こいつ割と清々してるみたいだわ。

 俺もだけど、やっぱり身体が軽くなった感じなのかね。

 

「そうか。ま、これが本来の俺たちだしな。メガシンカは捨てていつもの戦い方に戻すか」

「シャア!」

 

 メガシンカに頼らなくても強くなる方法なんざいくらでもある。元々はそうやって俺たちは強くなってきたんだし、いつも通りに戻るだけだ。

 いいね、いつも通りって響き。平和を実感できるわ。

 

「ゆきのーん!」

「せんぱーい!」

 

 とか何とか二人(三人?)でしみじみしていると、我が愛しのお団子と後輩が飛びかかってきた。文字通りに。

 

「あ、ちょっ?!」

「ぐぇっ!?」

 

 ねぇ、両側からいきなり抱きつくのやめない?

 危うく俺たち転けるとこだったぞ?

 

「ゆきのんゆきのんゆきのーん!」

「………もう。ユイは相変わらずね」

「だってだってだってぇ! ゆきのんが死んじゃったかと思ったからーっ!」

 

 ま、それも今は無理だろうな。

 ユイは自分を守って命を落としたユキノがこうして自分の脚で立っているなんて奇跡を感じているだろうし。

 イロハの場合は数日俺たちと会ってないし、そのまま単独で戦場行きになったんだ。感謝こそあれど文句は出てこないな。

 

「大丈夫よ。私は生きているわ。クレセリアのおかげでね」

「ふぇ?」

「クレセリアは自分を使って私を生き返らせたのよ」

「………じゃあクレセリアは………っ」

「ダークライ共々ギラティナの世話になってるよ」

「うぇ?! ダークライ、もですか?」

「あいつ、最後の力を俺に託してな。だからこうしてここに来れたんだ」

「「うぅ、そんなぁ………」」

 

 二体とも俺たちに力を与えて消えていったなんて、どこの小説だよって言いたいが。けど、今回はあいつらのおかげで助かったのだ。悲しんでやるより感謝を述べてやった方があいつらのためだと俺は思う。

 

「あ、でも先輩があの黒い穴を開けてくれれば探しにいけるんじゃないですか?」

「残念だが、それは無理だ。あの力はもうない。託してくれた力はもう全部使い切ってしまった。それにあっちに行ったところで帰って来れない可能性の方が高いんだ。下手に行かない方がいい」

「………そう。寂しくなるわね」

「まあな。けど、あいつらがそう決めたんだ。俺たちはそれに応えていくしかないだろ」

「そうね」

 

 俺たちはまだまだやることが山積みである。

 まずはこの街の復旧をしなきゃならんし、ミアレの方もどうなっているやら。

 

「ヒキガヤ、やっぱり君は特別なんだな」

 

 うおっ?!

 一瞬ミイラかと思ったじゃねぇか。

 そんな血だらけの姿で話かけてくんなよ。ミウラに肩を借りてまで話すことなのか?

 

「はっ? んなことねぇだろ。俺よりすげぇ奴なんてそこにもいるだろ。あいつ何なの? 会話出来るし、こんな時でも芸を入れるし、何よりトレーナーになってるし」

 

 ほら、あんだけ活躍してたってのに全く疲れを見せないうちのボケガエルは、抱きつくマフォクシーを引き剥がそうとしてるくらいピンピンしてるぞ。

 しかも背中にはミュウが抱きついてるし。

 いやほんと何でいるのん?

 

「はははっ、流石に俺も驚いたよ」

「でもまあ、これもあいつなりの俺の手助けなんだろうな。一人で抱え込むなっていう」

「…………」

「何だよ」

「まさか君の口からそんな言葉が聞けるなんて」

「………変わったってか? それなら全部こいつらのおかげだ。こんな俺でも愛してくれて、傷つけられることを恐れなくて、信じてぶつかって来てくれたんだからな」

 

 俺は別に変わったつもりはない。自分が無意識にかけていた嘘という名の呪いを解いただけだ。

 変わったというのであればそれは俺を好きだと言ってくれたこいつらのおかげでしかない。

 

「…………俺も同じだよ」

「はっ?」

「俺も、ユミコがいなかったらユキノちゃんに執着するあまり君を殺して、止めようとする奴もみんな殺して独りになっていただろうからな」

「サラッと恐ろしいこと言うなよ。何なのお前。殺人鬼なの?」

「今は違うよ。いつの間にかユミコに塗り換えられてしまったさ」

「ちょ?! そういうのいいから! 恥ずいし………」

 

 イケメンの何気ない一言で赤面しているあーしさん。

 うーん、ミウラのこういう面を見るのは新鮮だな。好意に素直なハヤマはキモいけど。俺が言えたことじゃないか。

 

「よかったわ。どうやら吹っ切れたようね」

「お陰様でね。過去を忘れることはできないけど、今の俺があるのもあの件のお陰だって思えるようになったよ」

「そ。なら許してあげるわ。あなたのこれまでの行い」

「ありがとう………」

 

 人の繋がりとは不思議なものである。

 何だかんだあった関係でもこうして修復ができてしまう。さすがに以前のように、とはならなくてもそれぞれの方向からお互いを見られるようになるのだから。

 

「てかハヤマ先輩、大丈夫なんですか?」

「止血はしたけど早く病院に連れて行きたいし」

「デスヨネー」

「ならさっさと行って来なさい。回復したらこき使ってあげるから」

「そうだね。治ったら手伝うよ」

「あー、ハヤマ」

「ん? 何だい?」

「俺が言うのもアレだけどよ………人間、意外と一人にはなれないみたいだぞ」

「奇遇だな。俺もそれを実感してるよ」

「チッ、やっぱお前嫌いだわ」

「安心してくれ。俺も君が嫌いだ」

 

 俺もお前も、結局は同じところにいたんだろうな。程度の違いはあれど。だからこそ、俺たちはお互いが嫌いなんだろう。同族嫌悪というやつかもしれない。

 ミウラに支えられてながらトボトボと歩いていくハヤマの背中を見て何となくそう思った。

 

「ハチマン、あれどうするの?」

「アレ?」

 

 くいくいとシャツの袖を引っ張られたのでそちらを見るとルミルミが見上げていた。彼女の指差す方には………あー思いっきり忘れていた。そういやアレどうしようか。

 

「…………マジでどうしよう」

 

 アレとは草でぐるぐる巻きになっている十字架ーーもといデオキシスである。結局、脱出とかもしなかったんだな。

 

「……………飾っておくわけにもいかないよなー」

「アレ飾っとくのはちょっとまずいんじゃない?」

「だよなー………」

 

 ほんとどうしようか。

 

「ゲッコウガ」

『………断る』

「まだ何も言ってないだろうが」

『どうせ中身を確認しろとでも言うんだろ』

「よく分かったな」

 

 言葉で意思疎通ができるのってほんと便利よね。余計に憎たらしく感じるが。

 

『…………せい!』

「あ、こら! 何しやがる!」

 

 黙って俺を見てたかと思ったら、いきなりハイパーボールを投げやがった。

 

『アレもポケモンだろ。ならボールに入れとけば何とかなるだろ』

「えー………」

 

 あーあ、吸い込まれちゃったよ。

 

「えー……………」

 

 しかもカチッて音したよ?

 マジで?

 ヤバくね?

 

『フン、営業時間終了』

「お前って奴は………」

 

 まさかデオキシスをゲットしたのがゲッコウガとか、これどう説明すればいいんだよ。ゲッコウガだけでも色々と異常なのに、さらにデオキシスとかどうしろっていうんだ。

 もう俺の手には負えないレベル。

 

「みゅうみゅう」

『え? なに? 帰るの? あ、そう。じゃあまたな』

 

 うわっ、軽っ!?

 ミュウが帰るみたいだけど、ゲッコウガの塩対応に泣けてきた。

 

「軽すぎだろ………」

『その内また来るらしい』

「ああそう………相当懐かれてるのね…………」

 

 ゲッコウガさん、ミュウとお友達になりました。

 俺ですらミュウに会ったのこれが初めてなのに。確かにセレビィには過去二回程会ってるよ? でも別に友達になった覚えはない。そんな軽くなれるもんじゃないし、会えるだけでも奇跡に近い。

 なのにこいつと来たら………。

 いっそ同格なんじゃないかと思えてきたわ。伝説のポケモン、ゲッコウガ。うん、もうこの方がしっくり来るまであるな。

 

「………私は今夢を見ているのかしら」

「大丈夫ですよカルネさん。私たちも同じですから………」

 

 ほら、チャンピオンとメグリ先輩がドン引きしてるぞ。

 

「………姉さん、ヒャッコクシティの対処はお願いできるかしら」

「ミアレはユキノちゃんの方でやる?」

「ええ、ハチマンを病院に括りつけたらね」

「え? お前まだ働くのん? てか、俺も事後処理しなきゃならん立場じゃね?」

 

 括りつけるってどゆこと?

 まさか俺もデオキシスみたいにされるってこと?

 

「取り敢えず、あなたは寝なさい。私も最低限のことはやってしっかり睡眠を取るつもりよ。いくらクレセリアのおかげで綺麗さっぱりになっているとはいっても披露は蓄積しているわ」

「そうそう、コマチたちも手伝うからさ! お兄ちゃんはまずその身体を何とかしないと」

「そうね、ハチマンは帰って寝なさい。これはお姉さん命令よ」

「はいはい、お言葉に甘えさせてもらいますよ。けど、人選どうすんの? 二手に分けるにしても………」

 

 何だろう、この三人から立て続けに言われると反論の余地もなくなってしまう。有無を言わさない何かを纏ってる時あるよね。

 

「そこは大丈夫。あっちにはシズカちゃんや四天王もいることだし、こっちはメグリとハヤトと………そうねユイちゃんとコマチちゃん、それからカルネさんをもらおうかしら」

「それじゃハヤマがあんな状態だしザイモクザもおいてくわ。コマチ、しっかりザイモクザをこき使ってやってくれ」

「あいあいさー!」

「は、ハチマン! その扱いはあんまりではっ?!」

 

 いや、ミアレに行ったらユキノにこき使われる未来しか見えねぇぞ。それでもいいなら連れて帰るけどよ。

 

「ばっかばか、お前ミアレに行っても役割一緒だぞ。それに、お前のポケモンたちには無理をさせたんだ。さっさと回復してやれ」

「う、うむ、そうであるな………いやしかし………」

 

 仕方ない。唯一の話し相手を送り込んでやろうじゃないか。頑張ったお前のポケモンたちの顔を立てて。

 

「あっちに帰ったらトツカを派遣してやる」

「まあそこまで言うなら致し方あるまい」

 

 くそっ、現金な奴め。

 

「ネイティオ、ハチマンたちをミアレまで送ってあげて」

 

 ハルノの申し出によりネイティオのテレポートで送ってもらうことになった。先にミアレに帰るのは俺とユキノとイロハとそのポケモンたち。全員一度ボールに戻したのだが奴だけはボールから出したままにした。というかもうボールに入れられないような気がしてきた。や、だってこいつが連れてるポケモンたちはどうなるんだよって話だぞ。怖くて試すことすらできんわ。

 

「ティオ」

 

 何の前ぶれもなく一瞬で景色が変わってしまった。

 やるなら合図くらいくれよ。

 風景が似てるから一瞬分からなかったぞ。

 

「うわ………こりゃ、また酷ぇな」

「凄いことになってますね………」

「ヒャッコクは全壊が多かったから瓦礫を除去した後は建て直すだけでいいけれど、こっちは半壊ね。壊すところから始める必要があるわ」

「だな」

 

 ミアレに戻ってきたらこりゃまた酷い惨状だった。被害がヒャッコクシティ程ではないにしても建物の倒壊半壊がそこら中にある。ただこっちは半壊の方が多いのが問題だ。倒壊なら全部ぐしゃって倒れているから瓦礫を片付けることから始めればいいが、半壊だと建物の解体から始めなければならない。その分時間と労力が余計にかかってしまうため、ミアレの方が骨が折れそうだ。

 

「これ、直るの?」

「どうにかして直す。時間はかかるだろうがな」

 

 ルミが心配そうに見てくるので頭を撫でて答えてやった。

 まあ、俺もこんな状態の街を見るのは初めてだからな。不安になるのも分かるぞ。

 

「ん?」

 

 取り敢えず、俺が寝かされていた病院に向けて歩いていると瓦礫と化した建物の一角にラルトスが倒れているのを見つけた。

 

「ユキノ」

「ええ」

 

 側に寄ってみても反応がない。

 

「おい、大丈夫か? …………体温はあるか。なら意識を失ってるだけだな」

「ラルトスね」

「ああ、周りには仲間がいる気配もないしこのまま連れていくしかないな」

「分かりました」

 

 仲間と逸れて逃げ遅れたんだろう。

 このままここに置いておくのはそれこそ死に値する。手当てする必要もあるみたいだし連れていくしかあるまい。

 俺はイロハにラルトスを託し、また街の様子を確認しながら研究所へと向かった。

 その間、誰にも会わないからちょっと不安になったのは言うまでもない。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 デオキシス襲来後、一週間明けてポケモンリーグを再開することになった。ただ、金もなければ時間もない。ミアレスタジアムは半壊し、使える状況じゃなければ一週間で元に戻せるわけでもなかった。外観はどうにかなっても安全面では論外という結論が出されたのだ。そこで代替案として用意していたシャラシティとヒャッコクシティのどちらかに移動することになったのだが、後者はミアレと同じような状態であることから消去法でシャラシティでの再開が決定した。それからはユキノシタ建設によるバトルフィールド作成が始まり、場所は元マスタータワーがあった所である。しかし、再開まで一週間しかないため観客席は設置不可とのこと。天井もない。本当にただのバトルフィールドのみである。

 いやー、あの時はマジで目の前真っ暗になるかと思ったね。だがどうにか乗り切ることが出来たわけだ。ハルノの一声で。

 幸いマスタータワーが有った所は一帯が海に面している。そして何より観客の移動も考えなければならなかったので、その二つを一緒にしてしまえばいいと言い出したのだ。つまるところ船を使おうと。ミアレシティにいる観客をヒヨクシティまでバスで移動させ、ヒヨクシティからは船でシャラシティへと向かうというものだった。ちょっとした観光である。この計画にはカントーのポケモン協会でも賛成となり、資金はあちらさんで出してくれることになった。ほんと女神が来たと思ったぞ。

 そして次は選手の方。これがまた面倒だった。取り敢えず俺とサカキとのバトルはサカキの棄権(というかどっか行ってしまったため再戦すら叶わない)という判断になり、俺が三回戦出場となったまではいいのだ。だが、先に出場を決めていたエックスが疲れたという理由で棄権。よってユキノVSガンピ、エックスVSズミ、俺VSルミとなるところ、ズミさんだけが不戦勝で準決勝進出になってしまったのだ。つまりこの時点で一般参加はルミだけとなってしまったのだが、そのルミもポケモンたちが疲弊しており参加が難しかった。本人は出ると言い張ったのだが、スイクンも自分の役目を終えたらしく、エンテイと共にどこかに旅立ってしまい、他のポケモンたちも急な出来事で日が経ってから疲れが一気に出てきていたのだ。流石に無理はさせられないので、俺たちで説得し棄権扱いにしたのだった。ただその原理でいくなら、一週間病院のベットで過ごした俺も棄権扱いにして欲しかった。みんな働いている中、一人だけベットの上って結構申し訳なくて居た堪れないんだぞ。仕事はしていたけども。ユキノもハルノもみんなして心配性すぎでしょ。

 まあその結果、四天王三人と三冠王、準決勝から参加する予定だったチャンピオンだけが出場するという何とも言葉にし難い再開になってしまったのだ。

 というわけで、どうせこの面子なら三冠王のチャレンジ劇にしてみないかという話になり(提案はもちろんハルノ)、ユキノがハルノの挑発に呆気なく乗り三冠王のチャンピオン・四天王攻略が決定した。

 ………うん、俺も止めようとはしたんだぞ?

 でもな、超のつく負けず嫌いなユキノが話を聞くと思うか?

 ユイなんかユキノもポケモンたちも疲れてるんだから無理はダメってユキノに抗ったっていうのに聞きやしない。

 因みに試合順はドラセナさんは既に倒しているのでカットし、最初は三回戦での対戦予定だったガンピさん、その次がズミさん。最後の四天王が俺で、倒せばチャンピオンとバトルという中々ハードなものだ。

 ま、結果は俺がユキノに負けるわけもなく三冠王のチャレンジは失敗に終わったんだけどな。その後何故かチャンピオンとバトルさせられたのは解せん。もちろん勝ってやったわ。ガハハ。

 観客たちにも受けはよかったようで収益は思った程下がらなかったのはマジで嬉しかった。働いた甲斐があるってもんだ。というかゲッコウガがだけど。何なのあいつの人気っぷり。確かに初めて観客たちに見せたことにはなるけど。その後のグッズの売れ行きが一気に伸びたぞ。四天王三人とカルネさんの人気は元々あった。当然彼らのポケモンたちの人気も絶大だ。なのにその三倍くらいは稼いだからなあいつ。

 最終的な大会収益は半分を復興資金に回すことにした。残り半分はポケモン協会運営費ということで残した。まあ、それでも足りないので俺も貯金の半分以上を募金として投入したのだが、おかげで育て屋が運営出来なくなった。出来ないというよりは向こう三ヶ月は持ちそうだがその先が全く見えなくなったと言った方が正しいな。そこで管轄をカロスポケモン協会に移行し、個人有用が出来なくなったため被災者のポケモンたちの一時預所として再開することにした。サガミから仕事を増やすなと抗議されたのは想像に容易いだろう。給料をアップしてやったんだから許せ。その内人も増やすから。

 スポンサーへの損害賠償は保険でどうにか賄えたのがせめてもの救いだったな。

 そして無事リーグ戦も終了。民衆の間では今でも初めて出したゲッコウガの商品がバカみたいに売れている。プラターヌ博士の話じゃ、ケロマツを最初のポケモンに選ぶ男子が増えているんだとか。

 ただ、今回の件に関して協会側に賠償責任の話もあったりした。だが、何故かリーグ戦終了後にはその声もなくなってしまっていた。理由は恐らく協会理事と四天王の誰かさんが同一人物ということを公表したからだろう。ハルノのおかげというか所為というか。それからの俺は巷で『大魔王』なんて称号をもらってしまった。何だよ大魔王って。ハルノの方が魔王感あるじゃねぇか。

 今じゃカロスの顔はチャンピオン、カロスポケモン協会の顔はユキノシタ姉妹、カロスのドンは俺らしい。

 ドンって何だよ。首領とでも書くのか? どこのサカキ様だよ。大魔王だからそれ以上だな。

 その首領絡みでも事件はあった。意識不明の昏睡状態だったフラダリとパキラが姿を消したのだ。もちろん俺が預かっていたポケモンたちも。襲撃に遭った育て屋ではオリモトが敵はロケット団だったと言っている。この一連の騒動はクセロシキたちを回収して行ったサカキによるものだろう。だから深追いはしない。現状では何も手掛かりもないし、無作為にいけば返り討ちに遭うだけだ。

 レインボーロケット団。次は何を企んでるんだ?

 取り敢えず、最後に全員の近況をまとめておこう。

 まず俺は、相も変わらず社畜っている。リーグ大会が終わったから大仕事ってのはなくなったが、代わりに残されたミアレとヒャッコクの復旧作業でそれなりに忙しなく動いている。そして四天王は退いた。理由は強すぎるため。チャンピオンの座を掛けたバトルではなかったがカルネさんに勝ってしまっては致し方がない。今は空席となっている。そもそもようやくジムに挑むトレーナーが増えたばかりなのだ。四天王が必要となってくるのはまだまだ先のことだろう。ちなみにネット上では挑んだが最後生きて帰られないだとか、死ぬより恐怖を与えてくる魔王だとか、チャンピオンを圧倒したことでサカキに並ぶ魔王様とか言われている。多分ここら辺から『大魔王』なんて称号が出来上がったんだろうな。それと仲間が増えた。ミアレに帰って来た時に拾ったラルトスが正式に俺のポケモンとなった。俺が入院生活している間ずっと側におり懐かれてしまったのだ。今ではキルリアへと進化し、俺の仕事を手伝ってくれている。加えて群れのボスだったボスゴドラも戻ってきた。どうやら新たなボスゴドラが誕生し、群れのボスを譲ったらしい。まあ、俺のポケモンたちは出入りが激しかったからな。ダークライは消えたし、エンテイもスイクンと旅に出た。フラダリとパキラのポケモンは盗まれたし、ディアンシーもサガミのところへ行っちまったから内心嬉しかったのは言うまでもない。そういえばゲッコウガがボールに入れてしまったデオキシスはツワブキダイゴという超イケメンの御曹司に託した。デボン・コーポレーションでしっかり管理してくれるんだそうだ。これには俺もゲッコウガも肩を撫で下ろした。いてもどうしようもない奴だったからな。ゲッコウガもその時まで一度もボールから出していなかったみたいだし。

 次にユキノだが、いつも通り俺のサポートをしてくれている。大会後はメディアへの露出も増え、公私共に俺を支えてくれている。出来た嫁だ。最近はこおりタイプに興味を持ったようで時間を見つけてはこおりタイプの技について調べている。なんだかんだで彼女のポケモンはマニューラ、ユキノオー、ユキメノコとこおりタイプが三体もおり、さらにいつの間にかウリムーを捕まえて来ていた。実は新たな四天王を目指しているとかないよな? 専門タイプはこおりとかで。

 そして姉のハルノの方はこれまた今まで築いてきたパイプを活かして復旧活動を進めてくれている。俺がカロスのドンなんて言われているが、ハルノの方がよっぽどドンだと声を大にして言いたい。もうね、俺の知らない間に協力者が増える増える。しかも結構な有名人から。例としてはデボン・コーポレーションとか。ポケナビには大変お世話になりました。イケメン御曹司が来た時には実際にお礼も言っておいた。

 ユイはコルニのもとでジムトレーナーをしている。挑戦者が増えたがために選別する必要があり、ジムトレーナーという壁を用意した。だが、ジムトレーナーのくせにメガシンカしてくるため、ユイは最後の砦になっているらしい。そのおかけでポケモンリーグ挑戦者が現れず四天王の出番がないんだが。女優やシェフはまだいいがあのおばさんと甲冑男は普段何してるんだろうな。

 これまではエイセツジムが最難関ジムだったらしいが、今ではシャラジムがトレーナーの足止めをしている。しかもジムトレーナーが止めているため実質ジムリーダーは暇。だからなのかしょっちゅうミアレまでやってくる。その度に頭を撫でろだの抱きつくなどするのはやめていただきたい。ユキノとたまに一緒に来るユイの目が怖ぇんだよ。

 イロハはドラセナさん経由で四天王三人に可愛がられているらしい。あの三人としてはイロハを次の四天王にしようとしている節が無きにしも非ずって感じだ。それほどまでにあいつの才能は評価されている。三人からそれぞれポケモンのタマゴをもらったらしく、ドラセナさんからのはチゴラス。ズミさんからのはタッツー。そしてガンピさんからのはココドラが孵った。最終進化すればドラゴンタイプが二体増えることになり、メガデンリュウも合わせればいよいよ持ってドラゴンタイプ専門トレーナーの仲間入りを果たせそうだ。おばさん、引退とか考えてたりするのだろうか。しかもデンリュウ、チゴラス、タッツーに加えフライゴンとガブリアス、ラプラスがげきりんを使えるようになったんだとか。おいこら、マジで引退考えてるだろ。ちなみにココドラはドラゴンダイブを覚えたらしい。他にもみずタイプ、はがねタイプの技も覚える奴には覚えさせたようだ。まあ、それは後日披露してもらうことになっている。

 シズカさんはこっちでのトレーナーズスクールについて模索している。既にあるにはあるが物足りないらしく、臨時教師としてカロス中を飛び回っており、よく長文のメールが送られてくるのだ。読むだけで一苦労なのに返信も必ずしないと拗ねるから困ったもんだ。

 サガミとオリモトとナカマチさんは仕事の増えた育て屋を切り盛り。相変わらずサガミがドクロッグの尻に敷かれている。それとさっき言ったがディアンシーの意向で正式にサガミのポケモンになった。地味に幻のポケモンを手にしたサガミさん。大丈夫かしら。

 ルミルミはスイクンが旅に出たため新しいポケモンを探しにアローラ地方へと向かった。リーグ大会終了の翌日、あの上半身裸に白衣の博士たちとともに、だ。止めたけどついでだからと彼女に上目遣いをされては返す言葉もなく、仕方なく見送った。あっちに着いた第一報でアシマリとかいう初心者向けのみずタイプのポケモンを博士からもらったという話があったぞ。あいつそういうところは抜け目ないよな。ただアローラでは大変な事態になっていたらしい。怪物たちの楽園と化していたとか。俺たちも行こうかと聞いてみたが断られてしまった。ハチマンはカロスの復旧っていうお仕事があるでしょって怒られたのだ。それなら他の誰かを送るかと聞いてもそれもお断り。仕方がないので怪我だけはするなよとだけ言って任せてみることにした。これはアレかな? 一人で何でもやりたいお年頃ってやつかな。ああ、因みに母親は大会が終わってからカントーに帰ったぞ。

 カワサキ姉弟もカントーに帰った。なんだかんだ稼げたらしい。別れ際にけーちゃんがゴーストとカゲボウズとボクレー(しかも色違い)をボールに入れていた。仲良くなったから連れて帰るんだとか。けーちゃんがトレーナーになる日が楽しみだ。

 同じくハヤマとミウラもカントーに帰り、………結婚したらしい。うん、なんかすげぇ驚いた。急だな、と。だがどうやらデオキシス襲撃事件で片時も離したくないとか思っちゃったらしい。お前の恋バナとか聞きたくねぇっつの! だから手紙を寄越すな! しかも結婚祝いにスクールの校長に就任しやがった。あのじじい適当過ぎだろ。いいのかよ、そんな理由で後継ぎ決めて。あと暇になったからってこっちに来るんじゃねぇよ。俺に介護しろってか。ヤドキングがいるだろうが。仕方ないので育て屋を手伝ってもらうことにし、その知識と技術を大いに役立たせている。サガミからは文句が少なくなったのは言うまでもない。

 結婚と言えばもう一組。ザクロさんとビオラさんが結婚した。写真付きの手紙を送りつけて来やがった。しかもご丁寧に俺だけに宛てた別通まで用意して。そこには『NTR成功!』とだけ書かれていた。何の嫌がらせだよ。寝取られたとかそもそも思わないから。まずビオラさんの中での俺はアイドルのようなもんだったはずだし。意外と憧れと恋人は別ってのは多いらしいからね。

 あとは…………コマチとトツカか。あの二人なら昨日ガラル地方へと向かったぞ。コマチが新しいところを旅したいと言い出して、俺が一人は危険だなんて言ったら、トツカが一緒に行くと言い出して…………。ああ、俺の癒しは遠く離れてしまったなー………。

 ……………ザイモクザ? あいつはなんかパンジーさんに拾われて雑誌記事を作っているぞ。その傍らでミアレジムに入り浸っているようだが詳しくは知らん。

 

 デオキシス襲撃事件から四ヶ月。俺たちがカロス地方に来て一年が経った。ミアレシティ及びヒャッコクシティの復旧は順調に進んでいる。




前作からご愛読いただきましてありがとうごさいます。
当作品はこれにて完結とさせていただきます。
途中、色々ありましたが何とか完結までたどり着くことができました。これも読者の皆様のおかげです。

今後は思いつきで後日談的なものを書いていこうと思っています。エピローグがあんな形で凝縮していますので、私自身何となく物足りなさを感じました。内容は主にバトル中心になることでしょう。

では、今後ともよろしくお願いいたします。


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行間

〜手持ちポケモン紹介〜 (37話現在)

 

 

ヒキガヤハチマン 持ち物:キーストーン 菱形の黒いクリスタル etc………

・リザードン(ヒトカゲ→リザード→リザードン)←→レシラム(現在不可) ♂ 

 持ち物:リザードナイトX→なし

 特性:もうか←→かたいツメ(現在不可)

 覚えてる技:かえんほうしゃ、メタルクロー、かみつく、おにび、えんまく、はがねのつばさ、かみなりパンチ、ドラゴンクロー、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、かみくだく、カウンター、じしん、フレアドライブ、ブラストバーン、げきりん、じわれ、だいもんじ、あおいほのお(特別・現在不可)、クロスフレイム(特別・現在不可)

 飛行術

 ・ハイヨーヨー:上昇から下降

 ・ローヨーヨー:下降から上昇

 ・トルネード:高速回転

 ・エアキックターン:空中でターン

 ・スイシーダ:地面に叩きつける

 ・シザーズ:左右に移動して撹乱

 ・ソニックブースト:ゼロからトップに急加速

 ・コブラ:急停止・急加速

 ・ブラスターロール:翻って背後を取る

 ・グリーンスリーブス:連続で攻撃して空中に釣り上げる

 ・デルタフォース:空中で大きな三角形を描くように連続攻撃

 ・ペンタグラムフォース:空中で五芒星を描くように連続攻撃

 ・バードゲージ:スピードを活かして相手の動きをコントロールしていく

 

・ゲッコウガ(ケロマツ→ゲコガシラ→ゲッコウガ) ♂

 特性:きずなへんげ(へんげんじざい→きずなへんげ)

 覚えてる技:みずのはどう、あなをほる、かげぶんしん、れいとうパンチ、れいとうビーム、つばめがえし、ハイドロポンプ、くさむすび、グロウパンチ、えんまく、がんせきふうじ、いわなだれ、まもる、かげうち、みずしゅりけん、どろぼう、つじぎり、ハイドロカノン、めざめるパワー(炎)、とんぼがえり、とびはねる、ほごしょく、けたぐり、ぶんまわす、あくのはどう、どろあそび

 

・ジュカイン(キモリ→ジュプトル→ジュカイン) ♂

 持ち物:ジュカインナイト

 特性:しんりょく←→ひらいしん

 覚えてる技:でんこうせっか、リーフストーム、リーフブレード、ドラゴンクロー、タネマシンガン、ギガドレイン、かみなりパンチ、スピードスター、くさむすび、ソーラービーム、エナジーボール、シザークロス、くさのちかい、マジカルリーフ、タネばくだん、こうそくいどう、つめとぎ、いやなおと、こうごうせい、くさぶえ、やどりぎのタネ、グラスフィールド、なやみのタネ、ハードプラント、つばめがえし

 

・ヘルガー ♂

 持ち物:ヘルガナイト

 特性:もらいび←→サンパワー

 覚えてる技:かみつく、ほのおのキバ、ふいうち、おにび、かえんほうしゃ、かみくだく、れんごく、ほえる、はかいこうせん、アイアンテール、あくのはどう、みちづれ、だいもんじ

 

・ボスゴドラ ♂

 持ち物:ボスゴドラナイト

 覚えてる技:ロックブラスト、あなをほる、なげつける、メタルクロー、アイアンヘッド、アイアンテール、てっぺき、メタルバースト、ボディパージ、ヘビーボンバー、ロックカット

 

・キルリア(ラルトス→キルリア) ♀

 

一時手持ち

・エンテイ

 覚えてる技:だいもんじ、ふみつけ、せいなるほのお

 

・ダークライ

 特性:ナイトメア

 覚えてる技:ダークホール(ブラックホール)、おにび、ゆめくい、あくのはどう、かげぶんしん、ふいうち、さいみんじゅつ

 

・カエンジシ(フラダリ) ♂

 覚えてる技:おたけび、ハイパーボイス

 

・ギャラドス(フラダリ) ♂

 覚えてる技:かみつく、たきのぼり、ハイドロポンプ

 

・コジョフー(フラダリ) ♂

 覚えてる技:ダブルチョップ

 

・カエンジシ(パキラ) ♀

 

・ファイアロー(パキラ) ♀

 覚えてる技:かまいたち、アクロバット

 

一時同行

・ディアンシー(サガミ)

 

 

ゲッコウガ

・ヒトツキ

 特性:ノーガード

 覚えてる技:ラスターカノン、せいなるつるぎ、つばめがえし、かげうち、つじぎり、シャドークロー

 

・キリキザン

 特性:まけんき

 覚えてる技:つじぎり、くろいまなざし、ロックカット

 

・アギルダー

 特性:うるおいボディ

 覚えてる技:スピードスター、むしのさざめき、ギガドレイン、みずしゅりけん、こうそくいどう、かげぶんしん、こころのめ、はたきおとす、バトンタッチ

 

一時手持ち

・ミュウ

 覚えてる技:へんしん

 

・デオキシス

 覚えてる技:サイコブースト、かげぶんしん

 

 

ユキノシタユキノ 持ち物:キーストーン etc………

・オーダイル(ワニノコ→アリゲイツ→オーダイル) ♂

 特性:げきりゅう

 覚えてる技:アクアテール、アクアジェット、ドラゴンクロー、れいとうパンチ、ハイドロポンプ、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、げきりん、カウンター、ハイドロカノン、ドラゴンテール、めざめるパワー(電)、ゆきなだれ、れいとうビーム

 

・マニューラ(ニューラ→マニューラ) ♂

 覚えてる技:つじぎり、こごえるかぜ、こおりのつぶて、ふぶき、れいとうパンチ、はかいこうせん

 

・ユキメノコ ♀

 覚えてる技:こごえるかぜ、れいとうビーム、みずのはどう、10まんボルト、シャドーボール、めざましビンタ、ふぶき、かげぶんしん、あやしいひかり

 

・ボーマンダ(タツベイ→コモルー→ボーマンダ) ♂

 持ち物:ボーマンダナイト

 特性:いかく←→スカイスキン

 覚えてる技:りゅうのいかり、かえんほうしゃ、そらをとぶ、ドラゴンダイブ、ハイドロポンプ、つばめがえし、だいもんじ、かみなりのキバ、いわなだれ、ドラゴンテール、ハイパーボイス、げきりん、ギガインパクト、りゅうせいぐん、ねむる、ねごと、はがねのつばさ、かげぶんしん

 

・ユキノオー ♂

 持ち物:ユキノオナイト

 特性:ゆきふらし←→ゆきふらし

 覚えてる技:ふぶき、ぜったいれいど

 

・ウリムー ♂

 

控え

・ペルシアン ♂

 覚えてる技:きりさく、だましうち、10まんボルト

 

・ギャロップ ♀

 特性:もらいび

 覚えてる技:かえんぐるま、ほのおのうず、だいもんじ

 

・フォレトス

 特性:がんじょう

 覚えてる技:こうそくスピン、ジャイロボール、パワートリック、ボディパージ、リフレクター、だいばくはつ

 

・エネコロロ ♀

 覚えてる技:こごえるかぜ、メロメロ、ソーラービーム、でんげきは、ハイパーボイス、れいとうビーム

 

・ニャオニクス ♀

 特性:すりぬけ

 覚えてる技:エナジーボール、シグナルビーム、サイコキネシス、シャドーボール、チャージビーム、みらいよち、なりきり

 

一時手持ち

・クレセリア ♀

 特性:ふゆう

 覚えてる技:サイコキネシス、みらいよち、チャージビーム、くさむすび、シグナルビーム、ムーンフォース、サイコシフト、みかづきのまい、てだすけ、つきのひかり

 

 

ユイガハマユイ 持ち物:キーストーン

・グラエナ(ポチエナ→グラエナ) ♂ サブレ

 持ち物:きあいのハチマキ

 特性:いかく(にげあし→いかく)

 覚えてる技:こおりのキバ、かみなりのキバ、アイアンテール、とっしん、ふいうち、じゃれつく、どろかけ、カウンター、はかいこうせん

 

・ブリガロン(ハリマロン→ハリボーグ→ブリガロン) ♂ マロン

 持ち物:かいがらのすず

 覚えてる技:タネマシンガン、つるのムチ、やどりぎのタネ、ころがる、ドレインパンチ、まるくなる、ミサイルばり、ニードルガード、ウッドハンマー

 

・ドーブル ♀ マーブル

 持ち物:きあいのタスキ

 覚えてる技:スケッチ、おにび、ハードプラント、ダークホール、こらえる、がむしゃら、いわなだれ、ハイドロポンプ、ほごしょく、ハイドロカノン、へんしん、サイコブースト、ふういん

 

・ウインディ ♂ クッキー

 持ち物:ひかりのこな

 特性:もらいび

 覚えてる技:ほのおのキバ、バークアウト、ニトロチャージ、りゅうのいぶき、かみなりのキバ、しんそく、にほんばれ、だいもんじ、りゅうのはどう、インファイト

 

・ルカリオ(リオル→ルカリオ) ♂ シュウ

 持ち物:ルカリオナイト

 覚えてる技:ブレイズキック、でんこうせっか、けたぐり、はどうだん、ボーンラッシュ、りゅうのはどう、しんそく

 

・グランブル(ブルー→グランブル) ♀ ショコラ

 持ち物:たつじんのおび

 覚えてる技:たいあたり、しっぽをふる、かみつく、じゃれつく、インファイト、ストーンエッジ、マジカルシャイン、こわいかお

 

 

ヒキガヤコマチ 持ち物:キーストーン、カビゴンZ

・ニャオニクス ♂ カマクラ/カーくん

 特性:するどいめ

 覚えてる技:サイコキネシス、ひかりのかべ、リフレクター、でんげきは、てだすけ、なりきり、ふいうち、サイコショック、あなをほる、じゅうりょく、にほんばれ、はかいこうせん

 

・カメックス(ゼニガメ→カメール→カメックス) ♂ カメくん

 持ち物:カメックスナイト

 特性:げきりゅう←→メガランチャー

 覚えてる技:みずのはどう、はどうだん、りゅうのはどう、こうそくスピン、からにこもる、ロケットずつき、ハイドロポンプ、ふぶき、ミラーコート、ドラゴンテール、ハイドロカノン、れいとうビーム

 

・カビゴン ♂ ゴンくん

 特性:めんえき

 覚えてる技:メガトンパンチ、のしかかり、じしん、いわくだき、ほのおのパンチ、しねんのずつき、ギガインパクト、かみなりパンチ、ふきとばし、いびき、ねごと、ねむる、ストーンエッジ、じわれ

 

・プテラ ♂ プテくん

 持ち物:プテラナイト

 特性:プレッシャー←→かたいツメ

 覚えてる技:はかいこうせん、ストーンエッジ、はがねのつばさ、つばさでうつ、ちょうおんぱ、ものまね、ドラゴンクロー、ゴッドバード、ギガインパクト、こうそくいどう、ほのおのキバ

 

・オノノクス(キバゴ→オノンド→オノノクス) ♂ キーくん

 特性:とうそうしん

 覚えてる技:りゅうのいかり、げきりん、けたぐり、あなをほる、ちょうはつ、まもる

 

・クチート ♀ クーちゃん

 特性:いかく

 覚えてる技:ものまね、メタルバースト、じゃれつく、バトンタッチ、ほのおのキバ、いちゃもん、あまごい

 

 

イッシキイロハ 持ち物:キーストーン

・マフォクシー(フォッコ→テールナー→マフォクシー) ♀

 特性:もうか

 覚えている技:かえんほうしゃ、ほのおのうず、ソーラービーム、にほんばれ、ワンダールーム、スキルスワップ、メロメロ、ニトロチャージ、マジカルフレイム、シャドーボール、ブラストバーン、だいもんじ、サイコキネシス、トリックルーム

 

・フライゴン(ナックラー→ビブラーバ→フライゴン) ♂

 特性:ふゆう(ちからずく→ふゆう)

 覚えている技:ギガドレイン、かみくだく、むしくい、じならし、すなじごく、がんせきふうじ、りゅうのいぶき、ばくおんぱ、だいちのちから、りゅうせいぐん、ドラゴンダイブ、ストーンエッジ、じわれ、げきりん

 

・デンリュウ(モココ→デンリュウ) ♀

 持ち物:デンリュウナイト

 覚えてる技:ほうでん、シグナルビーム、わたほうし、コットンガード、エレキネット、でんじは、パワージェム、でんじほう、アイアンテール、りゅうのはどう、こうそくいどう、じゅうでん、げきりん

 

・ラプラス ♀

 覚えてる技:れいとうビーム、フリーズドライ、あられ、ぜったいれいど、でんじほう、げきりん

 

・ガブリアス(フカマル→ガバイド→ガブリアス) ♂

 特性:さめはだ

 覚えてる技:あなをほる、りゅうのいかり、ドラゴンクロー、りゅうせいぐん、ステルスロック、ドラゴンダイブ、げきりん

 

・ボルケニオン

 覚えてる技:スチームバースト、ハイドロポンプ、オーバーヒート

 

控え

・チゴラス ♂

 覚えてる技:げきりん

 

・タッツー ♀

 覚えてる技:げきりん

 

・ココドラ ♂

 覚えてる技:ドラゴンダイブ

 

・ヤドキング ♂(校長からの贈り物)

 覚えてる技:サイコキネシス、みずでっぽう、パワージェム、まもる、うずしお、ずつき、トリックルーム、シャドーボール、でんじほう、かえんほうしゃ、きあいだま、いやしのはどう、ふぶき

 

 

ザイモクザヨシテル

・ポリゴンZ(ポリゴン→ポリゴン2→ポリゴンZ)

 特性:てきおうりょく(トレース→てきおうりょく)

 覚えてる技:トライアタック、でんじほう、ロックオン、じこさいせい、テレポート、れいとうビーム、かえんほうしゃ、はかいこうせん、テクスチャー2、こうそくいどう、でんじは、かげぶんしん、テクスチャー、めざめるパワー(水)

 

・エーフィ(イーブイ→エーフィ) ♀

 特性:シンクロ(てきおうりょく→シンクロ)

 覚えてる技:でんじほう、サイコキネシス、はかいこうせん、シャドーボール、めいそう

 

・ジバコイル

 特性:じりょく

 覚えてる技:でんじほう、ロックオン、ジャイロボール、エレキフィールド、かげぶんしん、めざめるパワー(炎)

 

・ダイノーズ ♂

 覚えてる技:でんじほう、ロックオン、マグネットボム、てっぺき、めざめるパワー(地面)

 

・ロトム

 特性:ふゆう

 覚えてる技:ほうでん、めざめるパワー(草)、シャドーボール、でんじは

 

・ギルガルド(ヒトツキ→ニダンギル→ギルガルド) ♂

 特性:バトルスイッチ

 覚えてる技:てっぺき、きりさく、つばめがえし、せいなるつるぎ、ラスターカノン、つじぎり、キングシールド、めざめるパワー(鋼)

 

 

トツカサイカ 持ち物:キーストーン etc………

・ニョロボン ♂

 覚えてる技:ハイドロポンプ、グロウパンチ、どくづき、さいみんじゅつ、れいとうパンチ、カウンター、アイスボール

 

・トゲキッス(トゲチック→トゲキッス) ♀

 覚えてる技:マジカルシャイン、つばめがえし、てんしのキッス、ゆびをふる、はどうだん、サイコショック、はがねのつばさ、でんげきは、ソーラービーム、やきつくす、でんじは、にほんばれ、ひかりのかべ、あさのひざし

 

・クロバット ♂

 覚えてる技:クロスポイズン、ねっぷう、エアカッター、アクロバット、ギガドレイン、しねんのずつき、はがねのつばさ、ブレイブバード、わるだくみ、あやしいひかり

 

・ミミロップ ♀

 持ち物:ミミロップナイト

 特性:じゅうなん←→きもったま

 覚えてる技:とびひざげり、ほのおのパンチ、シャドーボール、たがやす、ミラーコート、とびはねる、からげんき、スカイアッパー、グロウパンチ、ともえなげ、おんがえし、こうそくいどう、かげぶんしん

 

・ホルビー ♂

 覚えてる技:マッドショット、あなをほる、ワイルドボルト、でんこうせっか、とびはねる、こうそくいどう、かげぶんしん

 

・マンムー ♂

 覚えてる技:こおりのつぶて、とっしん、のしかかり、つららおとし

 

控え

・ハピナス ♀

 覚えてる技:タマゴうみ、ちいさくなる、いやしのはどう

 

 

ツルミルミ 持ち物:とうめいなスズ(ミナキからの借り物) キーストーン

・ラグラージ ♂

 持ち物:ラグラージナイト

 特性???←→すいすい

 覚えてる技:アームハンマー、まもる、マッドショット、れいとうパンチ、カウンター

 

・オニゴーリ ♂

 持ち物:オニゴーリナイト

 特性:アイスボディ

 覚えてる技:ぜったいれいど、フリーズドライ、ジャイロボール、かげぶんしん、ふぶき

 

・チルタリス(色違い) ♀

 覚えてる技:りゅうのはどう

 

・ルンパッパ ♂

 特性:あめうけざら

 覚えてる技:なみのり、ギガドレイン、あまごい、やどりぎのタネ

 

・ポワルン ♀

 特性:てんきや

 覚えてる技:ウェザーボール、あられ

 

・アシマリ ♀

 

一時手持ち

・スイクン

 覚えてる技:ぜったいれいど、ハイドロポンプ、バブルこうせん、オーロラビーム、かぜおこし、あまごい、みきり、しろいきり、ミラーコート

 

 

ユキノシタハルノ

・カメックス ♂

 覚えてる技:ハイドロポンプ、ハイドロカノン、じわれ、しおふき、あまごい、まもる、はかいこうせん

 

・ネイティオ ♀

 覚えてる技:みらいよち、サイコキネシス、つばめがえし、リフレクター、まもる、はかいこうせん、テレポート

 

・メタグロス

 覚えてる技:サイコキネシス、ラスターカノン、はかいこうせん、コメットパンチ

 

・ハガネール ♂

 覚えてる技:アイアンテール、アクアテール、りゅうのいぶき、がんせきふうじ、じわれ、かみくだく、はかいこうせん

 

・バンギラス ♂

 持ち物:バンギラスナイト

 特性:すなおこし←→すなおこし

 覚えてる技:いわなだれ、じしん、かみくだく、はかいこうせん、なみのり、ストーンエッジ、かみなり、げきりん

 

・ゾロアーク ♂

 特性:イリュージョン

 覚えてる技:ナイトバースト、はかいこうせん

 

控え

・パルシェン ♂

 覚えてる技:からにこもる、シェルブレード、こうそくスピン、ゆきなだれ、からをやぶる

 

・ドンファン ♀

 覚えてる技:たたきつける、ころがる、まるくなる、じわれ、かみなりのキバ、タネばくだん、こおりのつぶて

 

 

シロメグリメグリ 持ち物:キーストーン etc………

・フシギバナ(フシギダネ→フシギソウ→フシギバナ) ♀

 持ち物:フシギバナイト

 特性:???←→あついしぼう

 覚えてる技:はっぱカッター、じしん、つるのムチ、リーフストーム、ヘドロばくだん、どくのこな、ハードプラント

 

・エンペルト(ポッチャマ→ポッタイシ→エンペルト) ♀

 覚えてる技:ハイドロポンプ、はがねつばさ、アクアジェット、ドリルくりばし、れんぞくぎり、くさむすび、つめとぎ、てっぺき、きりばらい、れいとうビーム

 

・サーナイト(色違い) ♀

 特性:トレース

 覚えてる技:サイコキネシス、マジカルシャイン、リフレクター、マジカルリーフ、ムーンフォース、テレポート、ミストフィールド

 

・メタモン

 覚えてる技:へんしん

 

・グレイシア ♀

 覚えてる技:れいとうビーム

 

 

サガミミナミ

・メガニウム ♀

 覚えてる技:ソーラービーム、にほんばれ、つるのムチ、じならし、くさのちかい、しぼりとる、こうごうせい、ひかりのかべ

 

・フローゼル ♂

 特性:すいすい

 覚えてる技:アクアテール、かわらわり、れいとうパンチ、みずでっぽう、アクアジェット、スピードスター、あまごい

 

・エモンガ ♀

 特性:せいでんき

 覚えてる技:でんげきは、ボルトチェンジ、アクロバット、でんこうせっか、ほうでん、でんじは、かげぶんしん

 

・ルリリ ♀

 特性:そうしょく

 覚えてる技:こごえるかぜ、あわ、うそなき、はねる、まるくなる

 

・ドクロッグ ♂

 特性:きけんよち

 覚えてる技:ずつき、ダブルチョップ、ねこだまし、どくづき、バレットパンチ、ヘドロばくだん、どろばくだん、ドレインパンチ、みがわり、はたきおとす

 

・ディアンシー

 持ち物:ディアンシナイト

 覚えてる技:ダイヤストーム、マジカルシャイン、ムーンフォース

 

 

カワサキサキ 持ち物:ヒコウZ

・ニドクイン ♀

 特性:どくのトゲ

 覚えてる技:ポイズンテール、つのドリル、ばかぢから、ヘドロばくだん、ストーンエッジ、じわれ、すなあらし

 

・ガルーラ ♀

 覚えてる技:みずのはどう、10まんボルト、ブレイククロー、はかいこうせん

 

・ハハコモリ ♀

 覚えてる技:リーフブレード、リーフストーム、しぜんのちから、ほごしょく、こうそくいどう、シザークロス、はっぱカッター、いとをはく、エレキネット

 

・オニドリル ♂

 覚えてる技:ドリルくちばし、はがねのつばさ、ねっぷう、こうそくいどう、はかいこうせん、ゴッドバード

 

・ゴウカザル ♂

 特性:もうか

 覚えてる技:フレアドライブ、かえんほうしゃ、じしん、ストーンエッジ、いわなだれ、かみなりパンチ、マッハパンチ、かげぶんしん、みがわり、インファイト、ほのおのパンチ、ブレイズキック

 

・ザングース ♂

 特性:どくぼうそう

 覚えてる技:ブレイククロー、からげんき、いわなだれ、つるぎのまい

 

 

カワサキタイシ

・ニドキング(二ドリーノ→ニドキング) ♂

 覚えてる技:つのでつく、にどげり、だいもんじ、どくづき

 

・ストライク ♂

 覚えてる技:シザークロス、つじぎり、むしのさざめき

 

・サーナイト(キルリア→サーナイト) ♂

 覚えてる技:ねんりき、マジカルリーフ、シャドーボール、リフレクター

 

・アメモース ♀

 覚えてる技:エアスラッシュ、むしのさざめき、ちょうのまい

 

・マーイーカ ♂

 覚えてる技:サイケこうせん

 

・ヘラクロス ♂

 覚えてる技:かわらわり、きしかいせい、こらえる

 

 

カワサキケイカ

・ゴースト ♂

 

・カゲボウズ ♀

 

・ボクレー(色違い) ♂

 

 

ヒラツカシズカ 持ち物:キーストーン(研究所からの借り物) etc………

・カイリキー ♂

 覚えてる技:ばくれつパンチ、どくづき

 

・サワムラー ♂

 覚えてる技:メガトンキック、とびひざげり、ブレイズキック、まわしげり

 

・エルレイド(ラルトス→キルリア→エルレイド) ♂

 持ち物:エルレイドナイト

 覚えてる技:テレポート、サイコカッター、かみなりパンチ、インファイト

 

・ハリテヤマ ♂

 覚えてる技:ねこだまし、バレットパンチ、はたきおとす、ばくれつパンチ

 

・ゴロンダ ♂

 覚えてる技:じしん、アームハンマー、ビルドアップ

 

・バシャーモ ♀

 持ち物:バシャーモナイト

 特性:かそく←→かそく

 覚えてる技:ブレイズキック、ブレイブバード、かみなりパンチ、みがわり

 

 

オリモトカオリ

・バクフーン(マグマラシ→バクフーン) ♂

 覚えてる技:ふんか、でんこうせっか、かわらわり、かえんほうしゃ、かえんぐるま

 ダーク技:ダークラッシュ

 

・オンバーン ♂

 覚えてる技:りゅうのはどう、ばくおんぱ

 

・バクオング ♂

 覚えてる技:みずのはどう

 

・ニョロトノ ♂

 特性:しめりけ

 覚えてる技:ハイドロポンプ、アイスボール

 

・コロトック ♀

 覚えてる技:シザークロス

 

 

ナカマチチカ

・ブラッキー ♀

 覚えてる技:あくのはどう

 

・トロピウス ♂

 覚えてる技:ぎんいろのかぜ、エアスラッシュ

 

・レントラー ♂

 覚えてる技:かみなりのキバ

 

 

ハヤマハヤト 持ち物:キーストーン etc………

・リザードン ♂ リザ

 持ち物:リザードナイトY

 特性:もうか←→ひでり

 覚えてる技:オーバーヒート、りゅうのはどう、エアスラッシュ、ソーラービーム、げんしのちから、れんごく、だいもんじ、きあいパンチ、たつまき、ブラストバーン

 

・ヨノワール ♀ ヨル

特性:プレッシャー

 覚えてる技:くろいまなざし、あくのはどう、かなしばり、トリックルーム、じゅうりょく、あやしいひかり、のろい、おにび、いわなだれ、シャドーパンチ

 

・エレキブル ♂ エレン

 特性:でんきエンジン

 覚えてる技:ほうでん、れいとうパンチ、かみなりパンチ、かみなり、ねごと、エレキフィールド、エレキネット

 

・ブーバーン ♀ ブー

 特性:ほのおのからだ

 覚えてる技:ふんえん、グロウパンチ、じならし、きあいだま、10まんボルト、まもる

 

・ドサイドン ♂ サイ

 特性:ハードロック

 覚えてる技:じしん、アームハンマー、がんせきほう、ロックカット

 

・カイリュー ♂ リュー

 特性:マルチスケイル

 覚えてる技:ドラゴンダイブ、フリーフォール、れいとうビーム、ぼうふう、りゅうのまい、はねやすめ、りゅうのはどう

 

 

ミウラユミコ 持ち物:キーストーン etc………

・ギャラドス ♂ 

 持ち物:ギャラドスナイト

 特性:いかく

 覚えてる技:ハイドロポンプ、アクアテール、10まんボルト、かみくだく、ぼうふう、ストーンエッジ、たつまき

 

・ミロカロス ♀

 特性:ふしぎなうろこ

 覚えてる技:ハイドロポンプ、ドラゴンテール、アイアンテール、りゅうのはどう、とぐろをまく

 

・ハクリュー ♀

 特性:ふしぎなうろこ

 持ち物:きあいのタスキ

 覚えてる技:アクアテール、だいもんじ、たつまき、アクアジェット、しんそく、りゅうのまい、こうそくいどう、でんじは

 

・ハンテール ♂

 特性:すいすい

 覚えてる技:アクアテール、ふいうち、かみつく、ギガインパクト、からをやぶる、あまごい、バリアー、バトンタッチ

 

・サクラビス ♀

 特性:すいすい

 覚えてる技:ハイドロポンプ、サイコキネシス、ふぶき、あやしいひかり、ドわすれ、からをやぶる、こうそくいどう、あまごい、バトンタッチ

 

・ジャローダ ♀ 

 特性:あまのじゃく

 覚えてる技:リーフストーム、アクアテール、くさむすび、まきつく、へびにらみ、いばる、メロメロ、いえき

 

 

コルニ 持ち物:キーストーン

・ルカリオ

 持ち物:ルカリオナイト

 覚えてる技:はどうだん、グロウパンチ、バレットパンチ、ボーンラッシュ、インファイト、りゅうのはどう

 

・コジョンド(コジョフー→コジョンド)

 覚えてる技:とびひざげり、ドレインパンチ、スピードスター、インファイト

 

・カイリキー(ゴーリキー→カイリキー)

 覚えてる技:かわらわり、ローキック、きあいだま、みやぶる、インファイト

 

 

カルネ

・サーナイト ♀

 

 

ズミ 持ち物:キーストーン

・カメックス ♂

 持ち物:カメックスナイト

 特性:???←→メガランチャー

 覚えてる技:ハイドロポンプ、ロケットずつき、りゅうのはどう、グロウパンチ

 

・ブロスター ♂

 

ガンピ 持ち物:キーストーン

・ハッサム ♂

 持ち物:ハッサムナイト

 特性:???←→テクニシャン

 覚えてる技:バレットパンチ、シザークロス、かわらわり、つるぎのまい、てっぺき

 

・クレッフィ ♂

 特性:いたずらごころ

 覚えてる技:ラスターカノン、まきびし、きんぞくおん

 

・ダイノーズ ♂

 特性:がんじょう

 覚えてる技:ほうでん、だいちのちから、パワージェム、マグネットボム、マジカルシャイン、でんじは

 

・ナットレイ ♂

 特性:てつのトゲ

 覚えてる技:ジャイロボール、タネマシンガン、タネばくだん、パワーウィップ、ギガドレイン

 

・シュバルゴ ♂

 特性:シェルアーマー

 覚えてる技:ドリルライナー、とどめばり、だましうち、いわくだき

 

・ギルガルド ♂

 特性:バトルスイッチ

 覚えてる技:せいなるつるぎ、つるぎのまい、かげぶんしん、キングシールド

 

 

ドラセナ 持ち物:キーストーン

・チルタリス ♀

 持ち物:チルタリスナイト

 特性:???←→フェアリースキン

 覚えてる技:りゅうのはどう、はかいこうせん、うたう、だいもんじ

 

・ドラミドロ ♀

 特性:どくのトゲ

 覚えてる技:10まんボルト、りゅうのはどう、かみなり、ほごしょく、どくどく

 

・ヌメルゴン ♀

 特性:うるおいボディ

 覚えてる技:パワーウィップ、アクアテール、りゅうのはどう、げきりん、あまごい

 

・ガチゴラス ♀

 特性:がんじょうアゴ

 覚えてる技:かみくだく、もろはのずつき、ドラゴンクロー、りゅうせいぐん、こおりのキバ、りゅうのまい

 

・クリムガン ♀

 特性:さめはだ

 覚えてる技:かたきうち、ドラゴンテール、リベンジ

 

・オンバーン ♀

 覚えてる技:エアスラッシュ、いかりのまえば、ばくおんぱ、りゅうのはどう、ぼうふう、こうそくいどう

 

 

リーグ参加者

エックス 持ち物:キーストーン×3(エックス・ワイ・コルニ)

・ブリガロン ♂ マリソ

 特性:しんりょく

 覚えてる技:かみつく、ころがる、つるのムチ、ニードルガード、ミサイルばり、かわらわり、ウッドハンマー

 

・リザードン ♂ サラメ

 持ち物:リザードナイトX

 特性:もうか←→かたいツメ

 覚えてる技:そらをとぶ、フレアドライブ、ひのこ、やきつくす

 

・ガルーラ ♀ ガル

 持ち物:ガルーラナイト

 特性:きもったま←→おやこあい

 覚えてる技:げきりん、10まんボルト、メガトンパンチ

 

・ライボルト ♂ エレク

 持ち物:ライボルトナイト

 特性:ひらいしん←→いかく

 覚えてる技:かみなり、ほうでん、ワイルドボルト

 

・ゲンガー ♂ ラスマ

 持ち物:ゲンガナイト

 特性:ふゆう→のろわれボディ←→かげふみ

 覚えてる技:シャドーパンチ、あくのはどう、シャドーボール、あやしいひかり

 

・カイロス ♂ ルット

 持ち物:カイロスナイト

 特性:かいりきバサミ←→スカイスキン

 覚えてる技:フェイント、シザークロス、やまあらし、かわらわり

 

 

カヒリ 持ち物:ヒコウZ

・エアームド ♂

 特性:がんじょう

 覚えてる技:ドリルくちばし、はがねのつばさ、がんせきふうじ、こごえるかぜ

 

・クロバット ♂

 覚えてる技:エアスラッシュ、ヘドロばくだん

 

・アーケオス ♂

 特性:よわき

 覚えてる技:でんこうせっか、がむしゃら、アクロバット、はねやすめ

 

・オドリドリ(めらめらスタイル) ♀

 特性:おどりこ

 覚えてる技:エアスラッシュ、めざめるダンス、フラフラダンス、フェザーダンス

 

 

ミツル

・カクレオン

 特性:へんしょく

 覚えてる技:きりさく、したでなめる、かげうち

 

・ロゼリア

 覚えてる技:マジカルリーフ、くさぶえ

 

・ノクタス

 特性:すながくれ

 覚えてる技:ニードルアーム、ギガドレイン、だましうち、すなあらし

 

・フライゴン ♂

 特性:ふゆう

 覚えてる技:そらをとぶ、すなじごく、ドラゴンダイブ

 

・チルタリス

 覚えてる技:りゅうのはどう、コットンガード

 

・ジバコイル

 特性:がんじょう

 覚えてる技:ラスターカノン、エレキネット、でんじほう、ほうでん

 

 

カガリ

・キュウコン

 特性:もらいび

 覚えてる技:かえんほうしゃ、しっぽをふる、はかいこうせん、ほのおのうず

 

・オオスバメ

 特性:こんじょう

 

 

ククイ

・ガオガエン

 覚えてる技:DDラリアット、フレアドライブ

 

・アシレーヌ

 

・ジュナイパー

 

・ウォーグル

 

 

マーレイン

・ダグトリオ

 

 

ロケット団

サカキ

・スピアー ♂

 持ち物:スピアナイト

 特性:むしのしらせ←→てきおうりょく

 覚えてる技:こうそくいどう、ダブルニードル

 

・ニドキング ♂

 特性:どくのトゲ

 覚えてる技:がんせきふうじ、じしん、ほのおのパンチ

 

・ニドクイン ♀

 覚えてる技:カウンター、がんせきふうじ、どくばり、ひっかく

 

・パルシェン

 覚えてる技:れいとうビーム

 

・ボスゴドラ ♂

 覚えてる技:かわらわり

 

・ドサイドン

 覚えてる技:じわれ

 

 

マチス(電気の船乗り)

・エレキブル ♂

 覚えてる技:ほのおのパンチ、ワイルドボルト、10まんボルト、かみなり

 

・ライチュウ ♂

 特性:せいでんき

 覚えてる技:きあいだま、でんこうせっか、かみなり

 

・レアコイル

 覚えてる技:ソニックブーム、ほうでん、ラスターカノン

 

・ジバコイル

 特性:じりょく

 覚えてる技:でんじほう、かみなり、でんじふゆう

 

・マルマイン

 覚えてる技:エレキボール、シグナルビーム、じばく

 

・サンダース

 特性:ちくでん

 覚えてる技:にどげり、10まんボルト、でんこうせっか

 

 

ナツメ

・ユンゲラー ♂

 覚えてる技:サイケこうせん、サイコキネシス、テレポート

 

・シンボラー ♀

 覚えてる技:エアスラッシュ、サイコキネシス、れいとうビーム、ひかりのかべ

 

・スリーパー ♂

 覚えてる技:ねんりき、イカサマ、ゆめくい、さいみんじゅつ

 

・モルフォン ♀

 覚えてる技:サイケこうせん、かぜおこし

 

・バリヤード ♀

 覚えてる技:サイケこうせん、ねんりき、アンコール、ひかりのかべ

 

・フーディン ♀

 覚えてる技:サイコキネシス

 

 

Saque

・ペルシアン ♀

 特性:じゅうなん

 覚えてる技:きりさく、だましうち、どろぼう

 

・スターミー

 覚えてる技:ほごしょく、サイコキネシス

 

・ジュペッタ ♀

 特性:おみとおし

 覚えてる技:シャドーボール、すてみタックル、よこどり

 

一時手持ち

・ダークライ

 特性:ナイトメア



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