赤き正義の味方と禁忌教典 (暁紅)
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シロウ=エミヤは制服が似合わない

「正義の味方になりたい」

 

子供ならば誰しもが思い、成長すれば無理だと理解して自然と諦める。

 

だが彼は諦めれずにずっとその夢を望続けた。

 

その結果6歳の時に「天の知恵研究会」に誘拐されとある実験体となる。

 

実験内容は錬金術の上位互換で無から有を生み出す魔術の使用。基本錬金術は何かしらの物を、例えば土を剣に変えるなどを行うが、この魔術は土を使わずにいきなり剣を作り出そうとしていた。

 

その実験は一応は成功してしまった。

 

彼は剣にまつわる物であれば大抵の物は作れる。だが見た目は大きく変化する。

 

地毛にしては明るいと思っていた赤髪が全て白髪に変化し、肌の色も白っぽい物から浅黒い肌に変化した。

 

彼はその後も一ヶ月にわたり剣の知識を大量に埋め込まれ、戦術の知識も植えられた。大を救うために小を切り捨てる等がその時に埋め込まれた知識の一つだ。 

 

彼はその能力も相まり最強の魔術師殺しとなったが、そんな彼をも圧倒する魔術師セリカ=アルフォネアに倒され、帝国宮廷魔道師団特務分室に引き抜かれ最年少で執行者となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空は暮れ地に伏せるは大量の死体。

 

その周りに転がる大量の砕けた剣。

 

その全ては命令のままに無情に彼が殺した。殺して殺し尽くした。

 

付いたコードネームは《死神》そんな彼が逃した獲物は1人たりともいない。必ず死を届ける。それこそがコードネームの由来となっている。

 

そんな彼だが未だに「正義の味方になる」夢を諦めていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ...夢を見るとはな。少し油断しすぎだな。これから任務があるというのに」

 

彼は今回自分に当てられた任務を思い出す。それは自分の娘が心配で心配で仕方がない、1人の女性からの任務だった。

 

 

 

 

「シロウお願いがあるのです。あの子をエルミアナを見守って欲しいのです」

「私がかね?ふむ.....了解した。その命令受けるとするよ」

「良かった。それでは行ってくれるのですね」

「あぁ構わないさ。それで私は何処に行けばいいのかね」

 

本当になんでこの時にこの命令を聞いてしまったのか、いくら自問自答しても答えを得れない。

 

 

今の彼の服装は白いワイシャツの上に羽織る学園の文様が入っている青い羽織物、それに黒いロングズボン。白い髪などが合間りとてつもなく似合っていない。とても学院生とは見えず、コスプレをしているいい大人程度だ。

 

こんな事になったのもあの時の自分が行けないと、揺れる馬車の中頭を壁にぶつける。

 

「はぁ...こんな事をしていても始まらないか。とりあえずこの情報に目を通すか」

 

学生カバンから取り出したのは、数枚に渡りビッシリと文字が書かれているA5サイズの紙だ。

 

この紙はアリシアが書いた物らしく、どれだけ過保護なのか分かる代物だ。

 

「なるほどルミアか...流石に名前は変えたか」

 

一通り見て満足すると、その紙に向け「燃えろ」と呟き、火をつけ灰になるまで見届けた。

 

それをしたタイミングでちょうど、アルザーノ帝国魔術学院に到着し、待ち構えていた女性を見つけため息を吐く。

 

 

 

待ち構えていた女性は見た目は20歳程だが、実際はは400年以上生きている「永遠者(イモータリスト)」セリカ=アルフォネア。彼の運命を大きく変えた人物だ。

 

「久しぶりだなシロウ。元気にしてたか?」

「あぁ少し前まで元気があったが、君にあって無くなっ」

 

シロウの横を雷が走る。

 

数々の死線を超えてきたシロウですら、見えず動くことすら出来なかった。

 

「ほほぅ面白い事を言うな。もう1度聞こう...元気か?」

「あぁ元気だよ」

 

このまま後ろを向いてダッシュで帰りたいが、そうするとセリカが殺しにくるのでそれだけはしない。

 

まだ学院には少しあるので、軽く道を歩いているとセリカからクスクスと笑い声が聞こえる。

 

「ふふふ。にしても似合ってないな」

「それだけは言わないでくれ、これでも気にしているのでな」

「そうかそうか、ならいいさ。さてシロウお前の担任だがグレンだ」

「グレン...だと......アイツが働くというのか......明日は矢がいや、【イクスティンクション・レイ】が降るな」

 

グレンと言う男とはシロウと同じ執行者で、コードネーム《愚者》彼もシロウと同じ魔術師殺しの1人だ。

 

そんな彼の性質は働きたくない。簡単に言えばニート・フリーターの類だ。そんな彼が働く......意外すぎて頭が痛くなる。

 

その後もセリカとたわいもない世間話をしていると、あっという間に学院長室の前につく。

 

「失礼する」

「あぁいいとも」

 

それでいいのか?とツッコミたいがその声は出さない。

 

中に入るとそこはイメージ通りの大量の本などが、ショーケースの中に入っていて、その中央に高めの黒いイスに1人の男学院長が座っている。

 

「彼がそうかな?」

「あぁそうだよ。こいつがシロウ=エミヤ。ルミアの護衛できた者だ」

「そうかいそうかい。ならよろしく頼むよ」

 

学院長の出した手を握り握手をする。

 

そのタイミングで外がドタバタと騒がしくなり、ドアが勢いよく開けられる。

 

ドアから現れたのは髪から水が滴り、服も身体にぴったりとくっついていて、お風呂からすぐ出たような状態のグレンだ。

 

「クソ!テメェ!セリカ!わざと時計遅くしたろ」

「当たり前だろ。その方が面白いと思ってな」

「この......お?随分と久しぶりだな。元気そうだなシロウ」

「これが元気?は、馬鹿も休み休み言え」

 

大変仲がいいんだなと学院長は満面の笑を浮かべる。

 

下手に邪魔されても困るので、グレンには今回の任務の事を話した。

 

「なぁにぃぃ!めんどくさ!何それめんどくさ!厄介事に巻き込むなよな」

「分かっているさ。君には君の仕事を全うしてもらいたいからね」

 

これで邪魔も入らないと安心した瞬間

 

「にしてもぷぷ似合わなさすぎだろ。面白すぎて腹筋割れそうだぜ」

「そうか...投影開始(トレース・オン)

「ちょっ!まってよ!少し馬鹿にしただけだろ!」

 

そんなグレンの言い訳は聞かず、夫婦剣を握り構える。

 

「グレン君は私を怒らせた」

「いやぁ!!死ぬぅぅ!!!!」

 

数十分にも渡り追いかけっこが続いた。

 

 



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シロウのご飯は魔法並み

 

この世界には魔術と呼ばれる物がある。

 

その魔術を扱う者を育成するために多くの学院が設立され、シロウ=エミヤが通うことになった学院も同じだ。

 

そんな彼らは驚愕していた。目の前にいるあまりにも制服が似合っていないシロウ=エミヤに。

 

「えっとだな...こいつは転校生だ。名前は」

「シロウ=エミヤだよろしく頼む」

「えっと......同い歳ですか?」

「失礼だよシスティ」

「けどあれは酷いわよ。そこら辺のコスプレイヤーより酷いわよ」

「プフハハハ!酷いって本当腹が......おいお前ら同い歳だから仲良くしろよ」

「あぁ全くだ。もしまたふざけたこと言う奴がいるなら、手が滑ると思え」

 

シロウの手には黒い少し刃の部分が曲がっている短剣が握られていて、その剣と対をなす白い短剣はグレンの顔のすぐ横に突き刺さっていて、グレンの額から汗がこぼれる。

 

それを見た周りの生徒が全員理解した。決して制服の事を馬鹿にしてはいけないと。

 

それからグレンの自己紹介もあったのだが、問題はその後に起こる。

 

グレンが黒板に自習と言う文字を書くと、そのまま机に突っ伏し寝始める。

 

まぁある程度予想はしていたが、まさか本当にこんな事をするとは...はぁ...流石はグレンだな。

 

 

「これは一体なんですか!」

「ぷぷ自習も知らねぇのか?自由に自己学習する時間略して自習だろ?」

「そんな事は知ってます!私が言ってるのは何で自習何かしてるんですか!」

「えーだってめんどくさいし。そもそもやる気なんてゼロだし」

 

グレンは上げていた顔をまた机に向けて、寝息を立てた。

 

 

「むむむむ」

「システィ落ち着いてね」

「はぁ......全くグレンは...」

 

その後グレンは女子更衣室に突撃して、然るべき罰を受けることになった。

 

▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 

現在12時過ぎ頃、絶好のランチタイムの中グレンは腹を空かせていた。

 

「クソ...急ぎすぎて、サイフ忘れるとか......死ぬ...」

 

独り言をブツブツと呟きながら歩いていると、グレンをシロウが止める。

 

「何だ腹を減らしているのか。ならこれを食べるか?調味料があまり手に入らずしっかりとした」

「やっほぅぅ!飯だ飯だ!どけどけ!!」

「全く君と言うやつは」

 

シロウは呆れながらその後を付いていくと、グレンがシスティーナとルミアの空いてる席に座り、手招きをするように椅子を叩く。

 

渋々座ると2人から怪訝な目を向けられた。

 

「もしかして...これですか?」

 

システィーナは右の小指を上げシロウに確認をとる。

 

「違う。断じて違う」

「えっと...本当ですか?」

「本当だ」

 

軽く仲を疑われている中グレンはシロウから奪い取った、大きな包みを解くと2段の大きな重箱が現れる。 

 

その重箱の蓋を取ると多種多様な食材が入っていて、その下の段には米の1粒1粒が生きているご飯が出てくる。それらを横に並べると美味しそうな匂いが鼻腔をつく。

 

「うっひょうーー!うまそ」

「美味しそうですねそれ、先生が作ったんですか?」

「あぁ違うよ、シロウが作ったんだ」

「なるほど。1口貰っても良いですか?」

「別にいいぜ、こんだけいっぱいあるんだからな」

 

まずはと2人が箸を伸ばしたのは、色が茶色く変化し味が染み込んでいると分かる里芋を口に含む。

 

ひと噛み目味の爆弾が爆発する。

 

口に入れた時の不快感などは無く、丁寧に下処理をして味がしっかりと染み込んでいて、味もしょっぱくもなく濃くもなく丁度いい塩梅だ。

 

「「うまぁぁぁ!!」」

「システィシスティ!これ食べてみて本当に美味しいよ!」

「うっうん。それじゃあ」

 

若干引き気味にルミアから卵焼きを食べさせてもらう。

 

卵焼きは作り方がシンプルで、卵を溶き焼く。簡単に言えばこれだけだが、甘かったりと家庭毎に味付けが違い、誰しもが美味しいと思う卵焼きなど存在しない。

 

だがシロウの作る卵焼きは甘くないのだが、1口入れただけで分かる。

 

「美味しすぎる...何これ...」

「だよね。うぅん美味しい」

「生きてて良かった」

「やめろ褒めても今はサラダぐらいしかでんぞ」

 

どこから取り出したのか分からないが、白いサラダボウルに、野菜が盛られその上に白いドレッシングがかかっている。

 

3人とも口に溢れる唾を飲み込む。

 

食べたいと手を伸ばす......がそのサラダを横から誰かがかっさらい逃げていく。

 

「「「な!」」」

「これは頂くぞ。うんやはりシロウの作る物は美味しいな」

「「「.........」」」

「お前達も食いたいか?残念全部私が食べた」

「「「.........」」」

「いやあのなうん少し悪ふざけが」

「「「返せ」」」

「え?」

「「「サラダを返せぇぇぇ!!!」」」

 

3人とも手元にあった食器を投げた上に、 【ゲイル・ブロウ】と【ショック・ボルト】

が飛ぶ。

 

それを難なく躱したセリカは自前の脚力を全力で使い、その場から逃走する。

 

セリカを追おうと1歩を踏み出すが、先にシロウの食べてからだと席につき美味しそうにランチを食べる。

 



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グレンは.....良い奴だったよ

 

午後の授業になると珍しくグレンが黒板に自習以外の文字を書き始める。

 

シロウのご飯を食べたおかげで元気が湧き、真面目にしようと思ったが、数分で諦めて適当に教科書を読み始める。

 

当たり前のようにシスティーナは肩を震わせて、怒りをためる。

 

結局その後の授業も同じような事の繰り返し、そんな事をしていればシスティーナが怒らないわけが無い。

 

「いい加減にしてください!!」

「言われた通りいい加減にしてるだろ?」

「な!子供のような屁理屈を言わないでください!先生がその態度を変えないのなら、こちらも考えがあります」

「考え?」

「えぇ本当は使いたく無かったんですが、私はこの学院にそれなりの力を持つフィーベル家の娘で」

「よっしゃぁ!!辞められる!!」

「は?」

 

システィーナの考えではここでグレンが謝り、授業をしっかりやるのだと思っていた。だが、グレンはそんなに甘い男ではない。

 

いつもいつも予想の斜め上を行くそういう男だ。

 

「そうですか...考えを変えないのですね。なら別の形で教えます!」

「痛てっ!」

 

システィーナは自分がはめていた右の手袋をグレンの顔面に投げつける。

 

ルミアはそれの意味を知っているので必死に止めるが、システィーナはそれでもやめる気はない。

 

手袋を投げそれを受け取った相手とは決闘をせねばならない。それは昔からある伝統的な儀式だ。 

 

「お前本気か?」

「本気です」

「本気と書いてまじ?」

「えぇそうですよ本気と書いて大マジです」

「そうか」

 

システィーナはしっかりと受け取ってくれる。そう思っていたが、やはりそこはグレンだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だが断る」

「は?」

「そもそもお前みたいなガキと誰がやるかよ」

 

グレンは面倒くさそうに手を振り、椅子に座り睡眠を始めようとする。だがここまで馬鹿にされてきたシスティーナは、意地でも決闘をしたい。

 

「ぷぷ逃げるんですか?そのガキが怖くて」

「何?」

「本当のこと言ってもいいんですよ?怖いんですよね。私の事が」

「よぉし!やりたくなってきた!さっさと外に行くぞ戦闘だ戦闘」

 

グレンの手のひら返しにビックリするが、すぐにクラス全員が外に出る。

 

 

 

 

 

 

「いいな、この決闘は【ショック・ボルト】の呪文のみでつける物とする。異議はあるか?」

「いいえありません」

「それでお前が勝てば」

「先生の退職です」

「そうかなら俺が勝てば何でも言うことを聞くでいいな」

「ええもちろん。貴方なんかに負けるつもりは毛頭ありません」

「それがフラグなんて今気づいても遅いからな!」 

 

2人の無駄話をしている間に生徒間で誰が勝つか、話をした結果、9割がシスティーナと答え残り1割がグレンと答える形となる。シロウはと言うと当たり前のようにシスティーナと答えた。

 

 

2人の間の空気がピリピリと張り詰める。

 

理由としては今回の決闘に使う魔術にある。

 

【ショック・ボルト】

魔術学院に入学すれば最初に覚える、初歩中の初歩の魔術。微弱な電気で相手を気絶させる殺傷能力を一切持たない護身用の魔術である。

 

呪文を唱え、指さした相手に向け指先から真っ直ぐに、微弱な電気が飛ぶ。その簡単な魔術のため【ショック・ボルト】の撃ち合いは、いかに相手より先に発動させるかが勝負となる。

 

「ほら?どうした?かかってこないのか?」

「くっ......」

 

本来の戦闘であれば【ショック・ボルト】のような攻性呪文(アサルト・スペル)には、無数の対抗呪文(カウンター・スペル)がある。

 

だがこの戦闘においては【ショック・ボルト】しか使用出来ず、先に動いた方が確実に勝てる戦い。

 

なのだが、目の前の男グレン=レーダスは先手を譲ろうとしている。こんな事が出来るのはシスティーナより確実に早く【ショック・ボルト】が放てる自信がある者のみ。

 

グレンの実力は誰も知らず、あのセリカが念押しする程優秀なのではと予想していた。そして、この先手を譲る構えから確実に強い。

 

だからこそシスティーナは無闇に動く事が出来ない。

 

私は負けられない。これは私の意地。だけどあんな魔術を馬鹿にしてるような人、絶対に倒す。

 

腹を決めグレンを指差し呪文を唱える。

 

「《雷精の紫電よ》ッ!」

 

指先から放たれた雷は真っ直ぐにグレンに向かっていき、それを避けることなく余裕な顔で受けた。

 

「ぐぎやぁぁぁぁ!!」

「え?」

 

グレンは雷が直撃して身体をビクンと震わせる。

 

何とか耐えるとかも無く普通に倒れる。

 

何かルールを間違えた?と思っていたらグレンが起き上がる。

 

「馬鹿め!これは3回先に勝った方が勝ちだ!《雷精よ・紫電の衝撃を以》」

「《雷精の紫電よ》ッ!」

 

グレンの鈍間な呪文が完成するよる先に、システィーナの方が完成しグレンに激突する。

 

 

「はぁ...考えていた通りだったな。やはり負けるか。まぁグレンは元からこのような真っ当な戦闘には向かん男だから仕方が無いがな」

 

グレンはその後も「あそこに女王陛下が!」「あっ何だあれ?もしかして天馬か?」など言葉巧みに騙したが、やはり魔術の起動は遅く 【ショック・ボルト】が当たりまくり、結局土下座をして負けを認めた。

 

 

 

土下座をしたグレンとは言うと「魔術師じゃねーやつに魔術師のルール持ってこられては困るな」と捨て台詞を吐いて逃げていった。

 

そのあまりの情けなさから生徒からの評価は地に落ちたが、次の日もケロッとグレンは授業に現れ3日が経過する。

 

 

 

 



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グレンさんそりゃあ不味いぜ

 

今日も今日とていつものように気だるげに始まりの挨拶をすると、慣れた手つきで自習の準備をする。

 

あまりにも代わり映えのないいつもの光景に、たまに何かを学ぼうとする者がいる。

 

「あの先生......今のについて質問が...」

「聞くだけ聞くが?」

「さっき、先生が触れた呪文の意味が」

 

グレンは顔を机に突っ伏しながら近くにあった本を掴み、それを質問をしてきた少女リンに投げつける。

 

その本をどうにかキャッチしたリンが、戸惑うようにアタフタしていると、黙っていたシスティーナが口を開く。

 

「無駄よそいつは魔術の崇高さを理解出来てないの、だから私達だけで頑張りましょ?」

「で、でも」

「なぁ...魔術ってそんなに崇高なもんか?」

 

システィーナはグレンの発言に呆れたようにため息を吐く。

 

「何を言うかと思えば...あんなに偉大で崇高なのに理解出来ないなんて」

 

いつものグレンであれば「そうかねぇ?」の一言で終わっていた。だがその日は何故かそこで終わらなかった。

 

「何がどう偉大で崇高なんだ?説明してみろよ」

「え?...」

「どうした?魔術ってもんは偉大で崇高なんだろ?ほら説明してみろよ」

 

グレンは身体を起こしてシスティーナを挑発する。システィーナはどう偉大で崇高なのか説明しようとするが、途端に頭が真っ白になる。

 

「魔術はこの世界の真理を追求する学問なのよ」

「へぇ...」

「この世界の起源、この世界の構造、この世界を支配する法則。魔術はそれらを解き明かし、この世が一体何のために存在するのか、自分とは」

「何の役に立つんだ?それ」

 

システィーナの説明を我慢して聞け無かったのか、話の途中に言葉を放った。

 

その一言はシスティーナの思考を完全に停止させることとなった。

 

「そうよ...世界の謎を解き明かして、より高次元の存在に...」

「高次元?なんだ神にでもなるのか?」

「そ...れは...」

 

段々とシスティーナの肩が震え始める。ルミアはどうにか止めようとするが、既に停止する最終ラインは越えていてる。

 

「そもそも魔術って俺たちにどんな恩恵をもたらしてる?医術は死ぬはずだった人間をぐっと減らした。農耕技術は食料が作られ餓死者が減った。あれ?それじゃあ魔術は何をした?」

 

その言葉を聞いた生徒は誰しもが言い返せない。それは、グレンの発言がある意味真実だからだ。

 

そも魔術とは使える者が限られており、誰しもが簡単に使えるものでは無い。

 

先日のグレンとシスティーナの決闘を思い出せば、それがより明確になる。

 

学院ですらどう人間に役立っているのか?それすら教えていない。

 

だが一つだけ人間に役立っている事があった。 

 

「あっ、そう言えばあったな人間に役立ってた事が」

「それ...は?」

 

生徒全員が耳を傾け話を聞く。それは普通の授業では聞けることではないからだ。しかし聞いたことで多くの生徒は後悔をすることとなる。

 

「人殺しだよ」

 

グレンの一言に空気が凍りつく。

 

「いや本当良く考えればそうだよな。剣士が1人殺す時間があったら、魔術師は何十人も殺せる。いやはや凄いな...魔術って奴はこうも人殺しに役立つとは」

「ふ、ふざけないで!そんなわけ...そんなわけが......」

 

否定が出来ない。

 

それはこの国が何故魔導大国なんて呼ばれているのか?外道魔術師達が起こす悲惨な事件の件数とその内容。

 

考えれば考えるほど人殺しに繋がっていく。

 

「それなのに何でそんな好き好んで、こんな人殺しの術を覚えるのか」

 

グレンの頬にシスティーナの平手打ちが飛ぶ。

 

グレンは抗議しようとシスティーナの方を見ると、何も言えなくなる。

 

「違う違う違う違う違う違う!魔術は......そんな物じゃない!」

 

大粒の涙を流しながら走って教室から飛び出ていく。

 

システィーナが去った後何で泣くかねと不貞腐れるグレンが佇んでいた。

 

 

その授業を自習にするとそれ以降の授業に顔を出すことが無かった。

 

 

 

 

「全くこうなるか...はぁ......さてあの魔女(セリカ)は何がしたくて、このような事をしたのかな?」

 

今は放課後でシロウの仕事はルミアの護衛。なので、今は影に隠れながら見守っている。

 

ルミアが1人部屋に入り数分が経つと、その部屋の前にグレンが現れる。

 

「む?グレンだと?一体何をしに来た?」

 

何やら話をしているようだが盗み聞きをするほど無神経なシロウではない。 

 

じっと待ちづけると、今度は2人で一緒に部屋から出てきて、楽しく会話しながら下校を始める。

 

「これが噂に聞く禁断の恋か?いいネタが手に入ったな、セリカにでも言ってみるか」

 

盗み聞きはしない癖に、見たことは他人に言う。性根がどれだけ腐っているかよく分かる瞬間だった。

 

 

 

 

 

グレンとルミアの秘密のデートを別れ際まで見たあと、ルミアが家に帰るまで追跡していて曲がり角を曲がると、

 

「キャッ!」

 

ルミアの叫び声が聞こえる。

 

急いで曲がり角を見ると、明らかにヤンチャしているような若い男がルミアを囲んでいた。

 

「おいねぇちゃんよ。こりゃどういう事だ?」

「そうだそうだ!兄貴に謝れよ」

「ご、ごめんなさい」

「ごめんで済むと思うのか?普通は分かるよな?」

 

ルミアの手を兄貴と呼ばれた男が力強く掴む。

 

あまりの強さに「痛っ」と声が漏れる。

 

「貴様らルミアから離れろ」

 

2人の背後を一瞬でとり、首元に夫婦剣を当てる。それに加えちょろっと殺気を出せば、ルミアに手を出そうとしていた男達は泣きながら逃げていく。

 

逃げたのを確認すると、ルミアの腕を確認する。

 

「跡がついているな...少し触るぞ」

 

白魔【ライフ・アップ】を使い傷を癒す。

 

傷が癒えたのを確認すると、その場から立ち去ろうとルミアに対して背を向ける。

 

「まって、何かお礼をさせて!」

「お礼?そんな物はいら.........すまないがここら辺の店に詳しいか?」

 

お店ならとルミアは頷く。ここら辺の店であればシスティーナとよく買い物に行くので、よく知っている。

 

「ならば!調味料を扱っている店を知っているか!」

「えぇっと知ってるけど」

「よしならば今すぐ行こう。さぁ行こう」

「えっまっ」

「さぁさぁさぁ」

 

さっきまでとのあまりの空気の変化にクスッと笑うと、お礼という事もあり渋々付き合うことにする。

 

その日帰るのはかなり遅くなり、システィーナがカンカンに怒っていた。

 

 



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シロウ=エミヤの本領発揮

シロウはルミアに教えられた店で大量の調味料を購入した事により、テンションが舞い上がり徹夜で料理を大量に作っていた。

 

100種類程作り上げた所でふと時計を見る。

 

「まだ11時か...ならば次は何を...つく...る......」

 

夜11時ならありえない明るい光が窓を照らしていて、カーテンから零れる光は正しく朝を指し示している。

 

「馬鹿な!遅刻だと!いや遅刻どころではない!」

 

真面目なシロウは任務でも遅刻した事がなく、学校で言うところの皆勤賞レベルの事をしていたのだが、この日初めて授業をサボってしまった。

 

とりあえずご飯を捨てるのは勿体ないので、適当な弁当箱三つに詰め込み、風呂敷で包んで走る。

 

ひたすら走る。せめて昼前につくために。

 

 

 

 

どうにか全力疾走したおかげで昼飯時には間に合うと、とある噂が耳に入る。

 

『グレン先生の授業やばいらしいよ』

『1番聞いた方がいい授業らしいぜ』

 

グレンがやる気にでもなったらしい。いやはや人間どうなるか分かったものでは無い。

 

そのせいでグレンには質問が殺到していて、とてもご飯を分けられるような状況ではないので、とりあえずルミア達に渡したあと、自分で食べれない分を配布した。

 

結果として何十人もの女性のやる気を完全に殺す事になる。

 

 

 

 

 

 

 

その日の授業が全て終わり、日が暮れ生徒達の楽しそうな会話が聞こえてくる。

 

そんな生徒達を孫を見守るような暖かい目でグレンが見つめている。

 

「随分とやる気になったようだな」

「まぁな、てかお前サボったろ」

「その事は言うな。あれは仕方が無かったんだ」

「いやいやそんな訳」

「アレハシカタナイイイナ」

「yesマジすんませんでした」

 

軽く漫才をしていると女性の笑い声が聞こえ近づいてくる。

 

「流石は私のグレンだな」

「誰がお前のだよセリカ」

「ふっ」

「な!笑うなよシロウ!」

「元気になったようで良かったよ」

 

セリカの呟きに、遂にこいつボケたのか?とグレンは思い始める。

 

「確かにそうだな。鏡を見れば随分と変わったように思えるぞ」

「そうかね」

「あぁまだ完全に立ち直っていないようだが、今はそれでいい。それでこそ私の知るグレンだ」

「お前は何歳だってんだよシロウ」

「さぁな」

 

グレンに向けチョコマフィンが入った袋を放る。それを上手くキャッチしたグレンは、早速中のチョコマフィンを誰にも取られないように、口にねじ込む。

 

 

「ほふふがほふほほほ」

「食べ終わってから喋れ」

「ゴクッ...ありがとなシロウ」

「また明日も作ってやるよ」

 

そう言うとルミアが近づいてきたのが分かったので、咄嗟に姿を隠しいつもの追跡を開始する。

 

 

 

 

次の日どうにか遅刻せずに間に合うと、とりあえずルミアとシスティーナにイチゴのタルトを食べさせる。

 

「何これ美味しい」

「美味しいすぎる」

「喜んで貰えて何よりだよ。これも全てルミアのおかげだ」

 

結局昨日も一緒にシロウとルミアが帰ることになり、今度は調味料屋ではなくお菓子作りに必要な材料のお店を教えてもらい、今住んでいる家に釜を作るほど熱中している。

 

 

丁度二人がイチゴのタルトを食べ終わったタイミングで、チャイムがなり最近楽しくなってきたグレン先生の授業を今か今かと待つが、二十五分経過してもなかなか始まらない。

 

なんだこの嫌な予感は、何かが起こっている?一応グレンに確認を取るか。

 

シロウはグレンと連絡を取るための魔術を起動させる。グレンが出たかと思うと、爆裂音が聞こえる。

 

爆裂音だと!まさかこの嫌な予感は!

 

シロウが確信を得た時、唐突に教室のドアが開き4人の男が入ってくる。

 

「ちゃお。君達の先生遅れるらしいから、僕達代わりね」

「何ですか貴方達、ここは部外者以外立ち入り禁止ですよ」

「えぇいいじゃん」

 

頭にバンダナを巻いた男のチャラさが妙に気分を空回りさせる。さっさと追い出そうとした時その男から衝撃の一言が放たれる。

 

「そうだそうだ。俺達は有り体に言えばテロリストでね。ここにはあの雑魚い守衛サンを殺して来たわけ」

 

生徒達の顔から血の気が引いていく。

 

今の男が言ったことが確かならば、こいつらはかなり強い集団と言うとことになる。

 

魔術師の卵が多くいるこの場所の守衛達はかなり強い。なのにそんな訳がと思うが、現実はそう甘くない。

 

「ふ、ふざけないでちゃんと答えてください」

「ちゃんと答えてるんだけどな......そうだこれ見せたら早いかな?《ズドン》」

 

システィーナの横を雷線が通り、机なども貫通する。そんな威力のある雷を放てる魔術など、一つしかない。

 

軍用の攻性呪文【ライトニング・ピアス】

その威力、弾速、貫通力などどれをとっても【ショック・ボルト】など到底及ばない。

 

初歩程度しか覚えていない彼らでは、全くもって相手にならない。

 

 

「おいおい震えてんのか?随分と可愛げがあるなぁ」

「ふ、震えて、なんか」

 

システィーナは生で初めて感じた死の恐怖に自然と足が震える。

 

「さてさて君達に聞きたいことがあるんだ、ルミアちゃんて子はいないかな?」

 

クラス中からポツリポツリと何でと声が漏れる。

 

「出てこないか...なら《ズド」

「私です。私がルミアです」

「おっやっと出てきたね。まぁ君の顔は知ってんだけどね」

 

このようなふざけた態度の男でも、今の彼らでは勝てる相手ではない。

 

「ジン後は任せる」

 

後ろに控えていた強面の男がルミアの腕を掴むと、どこかへと連れていった。

 

不味いなここで離されては...だが相手の情報が少なすぎる。誰か尋問したい所だが...

 

シロウがグレンとの通信魔法陣を小さくして、考えているとバンダナの男がシスティーナを連れて教室出ていく。

 

丁度いいな。残りは二人...やろう。

 

シロウは手首をゆっくり回し軽くほぐす。

 

さて行こうとした時に、魔法陣からグレンの声が聞こてえくる。

 

『おい!そっちどうなってる!』

「グレン少し待ってろ...」

 

残っている2人がグルグルと生徒達を回り【マジック・ロープ】で作った紐で手足を縛り、その上に【スペル・シール】をかけ無力化をして回っている。

 

そして、遂にシロウの番がきた。

 

「おい後ろに手を合わせ」

 

ロープを持った男が言い終わる前に、腹部に飛び膝蹴りを入れ一撃で意識を奪う。

 

「糞ガキが!反抗するな!反抗するならこいつを殺すぞ!」

 

もう1人の男が近場にいた女性を1人掴み人質にする。だがシロウにとってはルミアが、最優先事項なのだ。

 

投影開始(トレース・オン)

 

手によく馴染む夫婦剣を作ると、その両方を投擲する。

 

夫婦剣は弧を描くように回転し、男の両肩に突き刺さる。

 

「がはっ!」

「全てが遅いな」

 

その隙に一瞬で懐に潜り込み、首を片腕で締め上げる。

 

「さて貴様らの目的はなんだ?」

「俺ら...は知ら......されてねぇ......だから...頼む...助けて」

「なるほどな良いだろう眠っているといい」

 

肩に突き刺さっている剣を抜き、その柄を使って首筋を強打し意識を奪う。

 

一仕事終えたように息を吐くと剣を消し、グレンに報告する。

 

「私はルミアの方に行く。グレンはシスティーナの方に行け」

 

この日遂にシロウ=エミヤが動き始めた。

 

 



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エミヤさんマジパネェ!!!

今日朝目が覚めると評価の色が赤になっていて、夢だろと数十分寝たら学校遅刻しかけました。

 

皆様こんな作品に評価してくださいまして、ありがとうございます。

─────────────────

倒した2人の兵士を拘束すると、生徒につけられている【マジック・ロープ】を切断して、走って逃げられるようにするとドアを開け逃げ道をつくる。

 

「ここから一直線に逃げろ。せめてこの学院から離れる事だな」

「君は一体」

「何しがない正義の味方だよ」

 

カッコイイ捨て台詞を吐いて廊下にでる。

 

軽くその教室から離れた場所で、顔を赤めて蹲る。

 

『あっれ?どうしたのかな?しがない正義の味方さん?』

「言うな。なんであんな事を...なんでさ......」

 

シロウはなんか暴れたのでテンションが上がり、一時的に昔の中二病の時のような言葉を口走った。

 

それをグレンは腹を抱えて笑っている。よし殺そう今殺そう、とシロウは考える。

 

 

『とりあえず仕事はしろよ』

「分かっている。グレンはシスティーナの方に行くのだな」

『そうだな。お前がルミアを助けて、俺が白ね...システィーナを助ける』

「ほほう......白猫と言いかけたか?」

『なっ違うわ!』

「照れるな照れるな。まさかまたそのような事を口にするとはな...セラを思い出すな」

 

グレンは押し黙る。

それはまだ彼が完全にセラの死から立ち直っていないのが大きいのだろう。

 

よくよく考えるとシスティーナとセラはかなり似ている。

となるとまさかグレン惚れたか?これは面白いな。さっき茶化した罰だ少しの間これでいじってやるか。

 

『てそんな事よりしろね...システィーナは』

「白猫でいいぞグレン」

『くっ...し、白猫はどこにいんだよ』

 

システィーナの居場所は具体的には分からないので、ここから先は憶測だがと伝える。

 

まず情報としてあの男のシスティーナを見る目は、色欲の類いだろう。それならばなるべくすぐに手を出したいから、近くになるはずだ。その事から一階のどこかではと予想する。

 

そして、これはあの男の独断の可能性が高く、先ほど倒した男達がやめた方がと言っていたので、バレると不味い事になると思われ、教室からはそこそこ離れていて、人があまり出入りしない所だと予想する。

 

その事を伝えると「お前の予想マジで当たるから怖いわ」といい魔法陣が消え、システィーナを救出に向かうようだ。

 

 

一人残ったシロウはまずルミアの居場所特定から開始する。

 

目的は不明。居場所も不明。だが範囲は限られている......いや既にこの場にいない可能性もあるな。さてどうする

 

「なぜここに貴様がいる」

「君はあの時ルミアを連れていった男か...ならば君に聞くのが早いな。ルミアはどこだ?」

「そう簡単に教えると思うか?」

 

瞬間シロウ目掛けて数本の剣が飛ぶ。

 

それを見たシロウは嘲笑う。まさか私に剣を向けるとはな。

 

投影開始(トレース・オン)

 

飛んでくる剣と全く同じ物を作り、剣同士をぶつけ合わせる。ぶつかった剣は互いに粉々になる。

 

「それはまさか貴様が執行ナンバー13《死神》か!」

 

それは裏に精通する魔術師であれば誰もが知っている、最凶の魔術師だ。

 

その男が始末または捕縛した魔術師は五百人を越え、逃がした魔術師もいない。正しく『魔術師殺し』と呼ばれるにいたる存在だ。

 

能力は不明だがどうにか伝わっている情報では、自分が使っている剣と全く同じ剣を使う。無限に剣を作り出す。

 

なぜそれだけで魔術師を倒せるのか、全くもって不思議でならなかったが、それは戦って初めて理解した。

 

まるで相手を射殺さんばかりの殺気、一節のみで武器を作り出す手際。それは最凶なり得るかもしれないと、だが男はその程度で諦める程弱くない。それに所詮は剣それだけで負ける程弱くない。

 

「ふ!」

 

今度は十本に増やしてシロウを囲むように突き進む。さらにそれに加え、

 

「《ズドン》」

 

【ライトニング・ピアス】を使う。

 

この構えを突破した魔術師に男は出会った事が無かった。

それはどちらか一つの対処に集中すると、もう一方が疎かになり直撃する。

 

だがこの男はこの程度の道は既に通っている。

 

突き刺しにくる剣を先程と同じように砕き、音速を越えようとしている【ライトニング・ピアス】を、手元に作り出した刀『雷切』で切断する。

 

「なんだと!」

「私はただ剣を真似るだけの、雑魚だとでも思ったか?」

 

『雷切』とはここから東方の地に伝わる神の雷を切ったと言われる刀だ。

 

シロウは剣の知識を広げるために世界各地を極秘裏に回っていた。その中で見つけた本物の『雷切』それを投影した。

 

 

「くっ、《ズドン》《ズドン》《ズドン》《ズドン》」

 

何発も何発も【ライトニング・ピアス】を放つが、シロウの持つ『雷切』の前には全て無力だった。

 

さらに【ライトニング・ピアス】を放とうとすると、突然視界が輝き視界が奪われる。

 

 

【フラッシュ・ライト】名前の通り目くらまし程度にしか使えない物だが、この極限状態に於いては絶大な威力を発揮する。

 

「目がァ」

「貴様には聞きたい事があるから、今は殺さないでおいてやる」

 

胸を十字に夫婦剣で切り裂くとその場うつ伏せで倒れ込む。

 

男を仰向けにして念のために【マジック・ロープ】と【スペル・シール】をつけると、夫婦剣の剣先を向ける。

 

「さてルミアはどこにいる?」

「敗者は敗者なりの仕事をせねばな......ルミア嬢はあそこだ」

 

身体は満身創痍で震えながら指を指したのは、他の場所から転移する場合に使われる転移塔。

 

 

その時丁度一階の付近で大きな爆発が起こる。

 

「これは...グレンか。ならこちらも終わらせよう」

 

ルミアの居ると思われる転移塔へと急ぐ。

 

 

 



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禁断の力を解放せよシロウくん

シロウさんてこんな性格だっけ?

───────────────────

男を倒し転移塔へと進んでいると、突如として巨大なゴーレムが道を塞ぐ程出現する。

 

「時間稼ぎか、たがわざわざそれに付き合うほど、お人好しではない投影開始(トレース・オン)

 

手元に黒い弓を作り出し、それに先がいくつもにも捻れた剣を添える。すると、その剣はまるで弓矢のように長くなる。

 

「I am the born of my sword...偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)!!」

 

射出された剣は手前のゴーレムに当たると、一瞬で粉々して突き進み、全てのゴーレムを粉砕する。

 

ゴーレムが破壊された事を確認すると弓を消して道を進む。

 

シロウの放った剣により学院が崩壊寸前までいっているが、今は気にせずひたすら走る。そうルミア優先そう言う命令ルミアタスケルルミアタスケル...

 

 

精神がおかしくなるほど自問自答して数十分が経つと、塔の頂上まで登り目の前にある大きな扉を開ける。

 

その部屋の中は真っ暗だが、シロウの目にはしっかりと見えている。

 

「貴様が黒幕でいいのかね?ヒューイ=ルイセン」

「流石は帝国宮廷魔道師団の執行者ですね。こう言った方が言いでしょうか?元天の智慧研究会の被験者シロウ=エミヤさん?」

「なるほど貴様は天の智慧研究会の人間か」

 

天の智慧研究会とは政府と敵対する組織で、シロウが投影魔術を使えるように改造した組織でもある。

 

そのシロウの事を知っていると言うことは、天の智慧研究会の関係者であるのは明白であった。

 

「シロウさん?...」

「ルミアか...これは......まさか【サクリファイス】か」

「ご明察」

「貴様死ぬ気か」

「ええそうですよ。ルミアさんを送った後すぐにでもこの術式が起動して、私の命と引き換えにこの学院が吹き飛ぶでしょう」

 

死ぬのが当たり前そう口にするヒューイに、少しばかり驚いた。

 

だが、逆に落ち着きすぎているとも思った。

 

 

「なるほどなそれで何故君は死ぬ?ルミアの誘拐が目的では無いのか君たちは?」

「そうですね。ですがルミアさんの立場や特性が少々特殊でして」

「第二王女エルミアナ」

「知っていましたか。となると貴方が護衛役と言う事なんでしょうね」

 

ヒューイは納得と言った様子で頷く。

 

「では本題です。貴方はルミアさんの下にある魔術式を解かねば」

「君は一体何がしたい」

 

シロウの言葉にヒューイは急に黙る。

 

それは先程からの口調にある。何かとルミアを大事にしているようにルミアさんと呼び、助ける方法すら提示する。

 

ヒューイはシロウの目を見ると諦めるように心のうちを語る。

 

「私はまだ講師をしたかったのですよ。ここは本当に楽しい...どうしてこうなってしまったのか私にも分かりません」

「ふ、それが君の本心かね」

「えぇ、そうですよ」

「ならばそれに答えるとしよう」

 

シロウは魔術は使えど、魔法陣を解読して解除するなど出来ない。

 

「私が何故魔術殺しと言われているか知っているか?」

「いえ知りませんね」

「先の戦いを見たなら分かると思うが、錬金術の上位互換の魔術を使っているが、それでは魔術殺しなんて呼ばれない」

「確かに...なら一体」

「これを見て生きた者はいなかったからだ......投影開始(トレース・オン)

 

シロウの手に魔力の渦ができ、その形が定まると、刀身の部分が波が打っているような形で、殺傷能力がかなり低い武器を作る。

 

ヒューイは何故?と思うがその考えは次の瞬間に打ち砕かれる。

 

「ルミア離れていろ」

「ううん...後でちゃんと聞かせてね」

「あぁ分かっている」

 

ルミアを安心させるために満面の笑みを浮かべ、その武器の能力を解放する。

 

破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)ッ!!」

 

 

その剣が魔法陣に突き刺さった瞬間、魔法陣が跡形もなく粉々に壊れる。

 

「...何が......」

「これは破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)と言ってね、起動する魔術を全て無効にする事ができる」

 

グレンも似たような物を持っており、グレンのそれは『愚者の世界』と呼ばれ相手と自分共に魔術が使えなくなる。

 

それに対してシロウのそれは、起動しようとする魔術に突き刺せば、その全てを無効にできるかなりのチート武器だ。

 

一時期シロウとグレンが組んだ時はどんな魔術師ですら相手にならなかった。

 

「まさかここまでとは...それは敵わない訳ですね」

「あぁだから君は眠っていろ。すぐに終わる」

 

ヒューイの首に手刀を放ち意識を奪うと、ルミアの所に向かいルミアを拘束しているヒモを切る。

 

拘束から解かれたルミアは数回手首を回すと、その場に正座してシロウを座らせる。

 

「何で私の事を知っていたんですか?」

「あぁ...そうだな......たまたまと言っても無理があるか」

「はい。ちゃんと答えてください」

「...とある女性から依頼されてね、君を守って欲しいと。今言えるのはそれだけだ、後は本人にでもあって聞いてくれ」

「分かりました、ちゃんとその時聞きます。それとありがとうございましたシロウさん」

「そのシロウさんはやめろ、小はずかしい私の事はシロウでいい」

「はいシロウ」

 

ルミアは恐怖を感じさせないような笑みを浮かべる。

 

それがどうしても酷く脆くシロウは感じた。

 

ルミアの本質は自分は傷ついても、他人は気づけない事なのだろう。

 

そんなルミアを見たのがいけなかったのだろう、自然と手が伸びルミアの頭を撫でる。

 

「良く頑張ったな」

「なん...で......うっ」

「君は1人で良くやったさ。だから今はぐらいは泣いていい。ここから先は私の仕事だからな」

 

ルミアは撫でられ暖かい言葉を掛けられた事をきっかけに、せき止めていた感情が溢れ涙が零れた。

 

シロウはルミアの泣き顔を後ろに隠れているグレンに見られるのは不味いと、自然と抱き寄せ胸を貸した。

 

 

そんな事をしながらポツリと呟く。

 

「しまった転移魔術も一緒に壊してしまった...」

 

それはセリカからの厳しいお仕置きを意味していた。

 



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シロウのうっかりは治らない

とりあえず1巻の内容が終わったので毎日投稿は一旦終了です。

もしかしたら夏休みの時は復活するかも?

 

決して疲れたとかそう言う理由ではなく、他の投稿作品も進めるためです。

ご了承ください。

 

ですがこの先も作って参りますので、どうぞこの作品をよろしくお願いします。

────────────────────

 

アルザーノ帝国魔術学院自爆テロ未遂事件。

 

たった一人の生徒と非常勤講師の活躍により、最悪な結果とならずにすんだこの事件は、関わった組織があまりにも巨大なため、この事件の真相を知っているのは極少人数の講師と教授陣と実際に体験した生徒のみだ。

 

そして、この事件を解決した2人は学院長室に呼ばれていた。

 

「さて、何か弁明はあるか?シロウ」

「これは仕方がなかった事だ。そう、コラテラルダメージだ、ルミアを守るためぇにぃぃ」

「はっはっは随分と面白い事を言うな」

 

セリカは笑ってはいるが目が全く笑っておらず、確実に怒っている。

 

さらにセリカはシロウの頭を片手で鷲掴みにして、宙に上げている。だんだんメリメリと聞こえてはいけない音が聞こえてくる。

 

シロウはこの事を予想していて、許してもらうための最終兵器をだす。

 

「これ...を......」

「これはなんだ?私に買収はされんぞ、何せ今回の後始末全て私がおっ...た...」

 

今回シロウが出した被害は、学院の破壊+転移魔法陣の破壊。それを全て1人で片付けたセリカは決して許さないと固く誓っている。

 

そんなセリカが渡された袋を片手で開けると、中には丸く白い何かが棒に三つ刺さっていて、その上にトロトロと黒い蜜がかかっていて、甘そうな匂いが鼻を突き抜ける。

 

「これは...」

「ここから東方の地にある和菓子と呼ばれるものでね、今その菓子作りにハマっていて」

 

セリカはシロウの堅苦しい説明など無視して、1個棒から取って噛む。

 

うまい純粋にその一言だった。

 

白く丸い物はかなり柔らかい上にある程度の歯ごたえがあり、掛かっている蜜は丁度いい甘さで、無性に熱いお茶が欲しくなる。

 

「こ、この程度では私は」

「他にも饅頭、桜餅、あんころ餅、あんみつがあるぞ」

 

セリカはシロウの手にある紙袋を受け取ると、反省文用紙を1枚手渡し紙袋を大事そうに机におく。

 

「さて、グレン貴様は何かあるか?」

「な!セリカ今買収」

「されてないぞ、これは詫びとして普通の事だ。ほれシロウそれを明後日までに提出しろよ」

「了解した。失礼するよセリカ、グレン」

 

 

愉悦という表情を取ってドアを出ると、何かグレンが叫んだ気がするが無視をする。

 

 

ドアを出て外に出ると心地よい風がシロウを吹き抜ける。

 

「随分と平和だな...あそことは大違いだ」

「あそこって軍人時代ですか?」

「あぁそうだよ、だが君には難しいだろうねルミア」

「むぅ馬鹿にしないで下さい」

 

ルミアは頬を膨らめて不貞腐れる。

 

それを軽く笑うとルミアの頭を撫でる。

何故か撫でたくなる。これがまさか母性なのではと思い始める。

 

「あっ...うぅ...はぅ...」

「おっとすまない。つい本気で撫でてしまった。とりあえずあっちに行こう」

 

ルミアを連れて近くにあるベンチに座ると、彼女用に作っていたお菓子入りの紙袋を渡す。

 

それは先程セリカに渡した物と同じだが、2つ謎の箱が入っていた。

 

疑問に思いお菓子より先に正四角形の箱を開ける。するとそこには七つの花弁が円のようにくっついている指輪が入っていた。

 

「これって...」

 

ルミアは嬉しさのあまり頬が紅潮する。

 

「あぁ君には必要だと思ってね。もう一つの方も開けてみてくれ」

 

もう一つの指輪の入っていた箱より厚さの無いケースを開けると、今度は波を打つような形をした髪留めが入っていた。

 

まるで夢を見てるようと思う。

 

「じゃあシロウは」

「あぁこれは君を守るための物だ」

 

え?

 

「その指輪は魔力を通せば熾天覆う七つの円環(ローアイアス)と言う盾を出せる。そっちの髪飾りは破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)が」

「うん分かってた。シロウはそういう人だって」

「何故落ち込んでいるんだ?」

「別に何でも」

「風邪か?少し触るぞ」

 

シロウはルミアの髪を上に上げると、そっとおでこをくっつける。

 

そんな事をすれば当然ルミアの体温は上がる。

 

「少し熱があるな」

「むぅシロウのせいなのに」

「一度保健室に行くか」

「大丈夫だから早く行こう」

 

ルミアが言うのならと納得して授業を受けるために教室に向かう。

 

だがその前にシロウはルミアの肩を掴み止めると、今付けている髪飾りを外し、新たにシロウの作った髪飾りをつけ、指輪を適当に左手の薬指につける。

 

指輪の位置には必ず意味があり、その場所は永遠の愛を誓うなど、婚約者がつける位置だ。

 

それに気づいたルミアは自然と頬が紅潮するが、シロウにバレないようにと前を向く。

 

 

▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 

「まさかエルミアナが襲われるとは。やはりシロウに行って貰って正解でしたね。まぁそれはいいです...けど......ルミアの報告が少なすぎます!!」

 

アリシアは目の前に広がる3日に1回にシロウから送られてくる、ルミアの報告書を読み耽っていた。

 

アリシアして見れば1日に数回ほど送ってもいいものなのにと思っている。

 

そして、アリシアは後もう少しでエルミアナを間近で見れると思いワクワクするのと同時に

 

「エルミアナを泣かせた上に抱きついたシロウはどうしてくれましょうか...フフフフフ」

 

アリシアにはシロウ以外にもグレンと言う情報網があり、そこからあの事件の時に起きた不祥事について聞いていた。

 

それを知り不敵な笑みを浮かべシロウの写真に何回もナイフを刺す。

 

 



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シロウさんの料理番組ぃぃ!!!イェェェェ!!(嘘です)

あれ?これって料理小説だっけ?

────────────────────

未だに日が登りきっていない中、シロウは財布と袋を持って出歩いていた。その目的は金がねぇぇ!と言って泊まりに来ているグレンの朝食の食材を購入するためだ。

 

「どれもいい魚だな...どれにするか......」

「お、また来たのかい兄ちゃん」

「あぁやはりここの魚が一番でね、新鮮で種類が豊富。全く素晴らしい店だよ」

「おいおい褒めるな褒めるな、褒めたって最近入荷した鯛ぐらいしかでねぇぞ」

 

シロウと親しげに話す店主が氷で締められている鯛の尻尾を持って見せてくる。

 

朝飯に出すにして重すぎる......晩飯用だな。

 

朝の食材を買いに来たのに、夜の献立まで決まり一石二鳥だった。

 

鯛以外にも魚の開きを買っていく。

 

「これと鯛をもらおう」

「おっ、いいね。さすが兄ちゃん目の付け所がいいねぇぇ。よしさらにサービスしとくぜ」

 

店主は鯛と2匹の開きが入った袋に、近くにあった蟹を入れてくる。

 

さすがにそれはと断ろうとするが、兄ちゃんに食べて欲しいんだと言われ有難く頂く。

 

 

今日もいい買い物が出来たと足が軽くなる。

 

 

 

家に帰るとすぐに食事の支度を始める。

 

まず時間のかかる米を炊き始め、次に魚の開きの下処理をする。

 

グレンは基本骨がある事を嫌うので、丁寧に丁寧に骨をピンセットを使って抜いていく。

 

細かな骨を取り終わると、両面に塩を振りかけ魔力で火をつけじっくり低温で焼いていく。

 

 

魚がいい色に焼け匂いを放ち始めたタイミングで、グレンが目を覚まし奥の部屋から出てくる。

 

「ふわぁぁ......ねみぃぃ...美味そうだな」

「少しまて後少しで終わる」

 

最後に汁物を作る。

 

魔力で冷やし続ける箱の中から、一つの鍋を取り出す。

 

その鍋の中には、昨日の夜の内から煮干と昆布を水につけていた物をが入っていて、いい出汁がでている。

 

それを火につけ沸騰する前に火を弱め、味噌を溶かして火をつけている間に切っていたネギとワカメ、そして手作りの豆腐を入れる。

 

沸騰しないように弱火で軽く火を通したあと、丁度炊けたご飯と共に器によそう。

 

そして最後の仕上げとして軽く卵を溶き、熱していた細長いフライパンに入れ卵焼きを作り、食器の上に盛る。またもや丁度のタイミングで魚が焼け、これで全ての準備が整う。

 

「グレン完成だ、しっかりと味わえ」

「うっひょぉぉうまそう!!いただきます」

 

卵焼きと魚を食べ「うめぇぇ!!」と叫んだ後味噌汁をのみ「ほうわぁぁ」と和み米を口に運び「なんでただの米がこんなに美味しんだろ?」と思う。

 

結論やはりシロウの飯はうまい。

 

ご飯を数回おかわりして食べ終わると、鞄に荷物を詰め(飲み物となけなしの金しか入っていない)顔を一回洗うと、シロウより先に出る。

 

「じゃあ行ってくんな」

「後から追う、それと弁当は後で渡す」

「了解」

 

グレンが行ったあと4人分の弁当を用意し始め、完成した時には丁度いい時間になっていた。

 

 

家を出て数分歩くといつものようにルミアとシスティーナに合流する。

 

「待たせたか?」

「ピッタリだよ」

「本当時間に正確ね」

「あまり褒めてくれるな、ほれ今日の分だ」

 

2人は弁当を受け取ると自分の鞄に詰める。それこそ手馴れたように。

 

それもそのはず、今では普通の学食では満足出来ない身体になってしまい、昼ご飯をシロウに作って来てもらっていた。

 

その後も3人は話をしながら学院へと向かい、自分達の教室に辿り着く。

 

 

 

 

 

 

 

現在システィーナが一時的に指揮を執り、魔術競技祭の種目決めを行っている。

 

魔術競技祭とは生徒の実力を見るために年に3回開催される催し物だ。そして、その魔術競技祭で優勝したクラスの担任には、特別賞金が発生する。

 

確実にグレンはヤル気をだすな。

むっ噂をすればなんとやらか。

 

廊下の方から誰かがものすごい速度でかけてきている音が聞こえる。

 

シロウの予想通りその音を出していたのはグレンで、開口一番に言葉はまるっきりシロウの予想と被っていた。

 

「さぁ!優勝するぞ魔術競技祭!!!!」

 

 

 

 

次の日の放課後。

 

「グスッ......」

「いい加減腹をくくれグレン」

 

グレンが泣いているのには訳がある。

 

 

それはその日魔術競技祭の特訓をしていた際に、隣のクラスのハーレー先生ととある約束をしてしまったのが原因である。

 

その約束は負けた方が給料三ヶ月分渡すという物だ。

 

「だったら!シロウでてくれよぉぉ」

「それは無理だと言ってるだろ。私は護衛の任務に行かねばならないんだから」

 

そうシロウは何故かアリシア女王陛下の護衛任務が発せられていた。

 

「シロウの裏切りものぉぉ」

「なるほどな...そう言う事を言うなら飯はぬ」

「ごめんなさいまじごめんなさい」

 

ジャンピング土下座をかましたグレンに呆れながら、そんな事をするはず無いだろと声をかけ晩御飯の準備に取り掛かる。

 

 



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アリシアさんさすがにそれは不味いです。一応貴方は王女のはず……

毎日投稿は辞めると言って昨日投稿したのに、何で今日また投稿してるの?と思っただろう。それは勉強で疲れた腹いせです。誠に申し訳ありません。

───────────────────

それはルミアは何度も見た夢。

 

だからなのかまたあの夢なのだとルミアは漠然と思った。

 

「お母さん......お母さん...ひっく...」

 

まだまだ幼いルミアは泣いている。

 

幼い頃のルミアは母が世界の全てだった。

だが突然世界は壊れルミアは捨てられてしまった。

 

けど、まだ、とお母さんがいるのでは?と辺りを見渡す。しかし飛び込んでくる景色は決して子供が見るようなものではない。

 

辺り一面に広がる血の池。

 

それが一人の人間から流れたのか?それとも多数の人間から?などは幼い頃のルミアに考える余地は無く叫ぼうとする。

 

「今叫ばれると不味い。少し静かにしていろ」

 

それはパッと見同年代ぐらいの少年だが、口調が妙に大人ぽい。

 

そんな彼に口を塞がれ、息がまともに取れない。

 

「むっ力が強すぎるのか。すまない」

 

少年は1人で勝手に納得すると力を緩め、やっと新鮮な空気が肺に入る。

 

「ぷはぁ!......はぁ...はぁ......私も殺すの?」

 

同年代の少年だから聞けたのかもしれない。もし少年ではなく大人であったのならば、きっとこんなに冷静に聞く事なんて出来なかっただろう。

 

「君を?ありえないな。私の目的は君を護ることだ」

「護る?」

「あぁそうだ。私は正義の味方だからな、それぐらい出来て当然だ」

 

胸を張る少年に少し笑った所でルミアの夢は覚める。

 

ルミアは飛び起きると1度時計を見る。針はまだ2時から動いておらず外も暗い。よし寝よう。また枕に頭を押し付け眠る。今度は夢が見れなかった......

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 

 

あっという間に1週間が過ぎ、遂にアリシア七世が来賓として学院にやって来た。

 

 

 

 

シロウが数回ドアをノックすると、中からどうぞと声がかけられる。それに失礼すると答え中に入る。

 

その部屋は来賓の人物が休むように作られている部屋なのだが、完全にアリシアの部屋に変化している。

 

部屋の壁の至る所にルミアの目線の合っていない写真が貼られていて、アリシアが抱きついている抱き枕にはルミアが印刷されている。

 

「相変わらず酷いなこれは」

「酷いとは何ですか。全く......それと例の物は持ってきたのですか?」

 

物とは言い方が悪いが、手提げ鞄に入れていた物を渡す。

 

「やはりシロウの盗s、隠し撮りの写真はたまらんですなぁぁ」

 

何も隠しきれていないのだが、と誰も答えることが出来ない。

 

シロウはこんな事のためにステルス能力を極めたのではないと意気消沈する

 

「まさかこれは」

「バレないかヒヤヒヤしたがどうにか取ってきた」

「ひやぁぁエルミアナァエルミアナァ!」

 

それはルミアの制服だった。

 

アリシアから突然命令が下りルミアの制服を盗んでこいと言われた、最初は反対していたのだが国家反逆罪にするぞ?と言われ渋々行った。

 

その際に新品らしい制服を渡され交換した。

 

ルミアのお古の制服を手に入れたアリシアは、制服に顔を突っ込んで匂い嗅ぎまくる。

 

もうどこぞのストーカーより酷い。

こんな姿が見られたら終わるなこの国。

 

「ゼーロスあれはいいのか?犯罪だと思うが」

「シロウ殿何を言っている。私は何も見てないし聞いていない」

「いやしかし」

「シロウ殿それ以上は言わないでくれ」

 

アリシアの護衛としてこの衝撃の事実を知っている、強面の騎士ゼーロスはアリシアの現状を見ないようにしている。

 

この2人が何故知り合いなのかは、過去にアリシアの護衛を数回任命された事があり、その時に出会っていた。無論数度手合わせをしている。全部シロウの勝利だった。

 

 

「そうでした忘れる所でした」

 

アリシアはルミアの匂いを堪能したのか、制服を綺麗に畳んで立ち上がると、ドアから沢山の騎士が入ってきてアリシアとシロウを円状に囲む。

 

「これは」

「フフフフフグレンから聞きましたよ。エルミアナを泣かせた上に抱きついたそうですね」

「なっグレンの奴め!最悪な相手に密告してくれた物だな!」

 

確かにアリシアの言ってる事は事実なのだが、どうやら変に伝わっているのは分かるが、バーサーカー状態になったアリシアは何も聞かないだろう。

 

どこかからか逃げようとするが、それを騎士達が連携して防ぐ。

 

「ゼーロスこれは間違っている」

「仕方ない事なのだ...殿下の命なのだ...すまんシロウ殿...」

 

ゼーロス達騎士は涙を流しながらシロウを足止めする。そんな彼らから逃げるなんて事は出来ない。

 

シロウは大人しく捕まるとどうにか誤解を解くことに専念した、例えどんな拷問にあおうとも......

 

 

それから数時間後

 

「ゼーロス私は生きているか?」

「問題ない」

「ならばこっちを見て言ってくれないか?」

「問題ない」

「おいゼーロス」

「問題ない」

「よく生きてたな私は」

 

今のシロウは首から下がピクリとも動かず、かろうじて口が動いている。

 

どんな事が起きたのかはシロウのプライバシーのため秘密だが、あのシロウが何度も三途の川を渡りかけたのは言わずとも分かるだろう。

 

「ごめんなさいシロウ。まさか勘違いしていたなんて」

「大丈夫だ。後でグレンをシバくいや間違えた殺るだけだから」

「そうですかなら安心です」

 

アリシアは笑顔をシロウにかけると制服を家宝のように丁重に保管せよと命令する。

 

そこまでなのかと思いながら、身体中に魔力を巡らせ回復力を高め自己治療する。

 

 



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アリシアさん暴走しないで.....マジでお願いします(割りとガチで思っています)

一応アリシアさんキャラ崩壊を追加しました。

うんこれは仕方がない。

─────────────────

今魔術競技祭はグレン率いる2組がとてつもない勢いで、勝ち続けている。

 

 

「これは凄まじいな」

「えぇ全くです」

「アハハハ!これだからグレンを見てて飽きない」

 

セリカが太ももを叩きながら笑う。

 

その後ルミアも出場してまさかの1位を獲得した。そんな我が子の晴れ舞台を見てしまえば、実際に会いに行きたくなるのが親の性だろう。

 

会いに行きたく肩が震える。

 

「はぁ...アリシア。そんなに会いたいのなら会いに行けばいいだろう」

「それはダメです。私はあの娘を事情はあっても捨てたのです。そんな私が今更どうやって」

「我慢は今後の仕事に支障がでる可能性もあります」

「あぁそうだぞそいつの言う通りだ。我慢せずに行ってこい。護衛はシロウがやるしな」

 

げ!と顔を引き攣らせるが、アリシアの玩具を欲しがる子供のような表情を見て、ここで無理とは言えず渋々従う。

 

 

 

ルミアがどこかに行くのを遠くから確認すると、執行者時代の服を着て護衛する。

 

筋肉が確実に目立つ黒いタイツのような物を着て、マフラーのように灰色の布を巻いている。

 

これが執行者時代の服装なのだが、何故目立たないのか?それはシロウのステルス性能が高く、セリカですらたまに気づかない事がある。

 

シロウはそのステルスを全開にして木の影に隠れながら、アリシアを護衛している。

 

 

「久しぶりの再会だが、やはりルミアは他人を装うか」

 

ルミアは泣いて抱きつきたいのだろうが、そんな私情を消して他人のフリをする。

 

 

 

「やはり私ではダメですよね......ルミアさん貴方のその指につけている物綺麗ですね」

 

アリシアは最後かもしれないのでと間近で見回していると、とある変化に気づく。

 

髪飾りの変化はシロウから聞いているのでいいのだが、ルミアの指のそれも既婚者がつける部分に指輪が付いている。

 

その事について聞くとエルミアナは突然顔を赤らめ、モジモジと体をくねらせる。

 

一体何があったのですかエルミアナ。

 

「これはその...」

「シロウが渡したらしいです王女殿下」

「へぇ...シロウガ......オモシロイデスネハハハ」

 

先程まで纏っていたおおらかな雰囲気から一変し、目からはハイライトが消え声が数トーン落ちている。

 

アリシアはその状態のまま近くにあった小石を拾うと、木の影に向けて投げつける。

 

「「?」」

「気にしないでください。手が滑っただけですから」

 

2人はなんだ手が滑っただけかと納得するが、1人シロウだけ驚愕していた。

 

シロウの顔の近くにある木の幹をアリシアの投げた小石が貫通していた。

 

シロウは偶然だ、そう偶然だと自分に言い聞かせながらアリシアを見ると目が合う。

 

偶然だ偶然

 

目があったと思ったら今度は口パクで何か言ってきた。

この時程読唇術を覚えたの後悔した事はない。

 

カクゴシロヨ

 

それがアリシアの唇から読み取れた言葉だった。

 

 

ルミアが走ってどこかに行き、アリシアか戻っている途中で突然ゼーロス達がアリシアを囲んだ。

 

「どういう事だ。それに刃を向けるだと?一体何が起こっている」

 

今下手に手を出すとアリシアが怪我をする可能性があるので、見逃しているとゼーロスが上を向いて口を動かす。

 

エルミアナ殿下を守ってくれシロウ殿

 

何が起こっているのか一瞬にして理解し、ルミアの元へと向かう。

 

 

 

 

いざ急いで会場に向かうもそこにルミアの姿が見えず、とにかく辺りを虱潰しに当たっていると、木の影に隠れているグレンを見つける。

 

「グレン何をしている」

「うおっ!ビックリさせんなよ」

「それについては謝るが、何をしている」

「それがなルミアが騎士の奴らに攫われてな、隙を伺ってんだよ。にしても懐かしい格好してるな」

「これは急いで来たからな。なるほど...なら【フラッシュ・ライト】を使え、オレが突っ込む」

 

シロウの一人称が『オレ』に変化した事により、これは大変な事なのだと今更ながら理解する。

 

グレンはシロウの指示通り【フラッシュ・ライト】の詠唱を終えると、【フラッシュ・ライト】を放つ。

 

騎士達の視界が光に染まり一時的に見えなくなった所で、シロウはいつもの独特の詠唱をして夫婦剣を作ると、騎士達全員の首に衝撃を与え意識を奪う。

 

騎士達が全員倒れたのを確認すると、ルミアを拘束していたロープを切断する。

 

「シロウ?」

「今はここから離れるぞ。しっかりと掴まっていろ」

「キャッ」

 

未だ何が起きたのか理解出来ていないルミアを肩で担ぐと、グレンが【グラビティ・コントロール】を使うために詠唱をしている中、自前の脚力を使って屋根まで飛ぶ。

 

肩に担いでる間にダイエットしとけば良かったと小さな声で呟いているが、シロウの耳には全て入ってきているが、今は無視をする。

 

「俺も担げよ!」

「グレンは死なんだろ。君を信じているよ。ここでまさか時間を稼いでくれるなんてな」

「誰がそんな事をするかァァ!!」

 

グレンもシロウと同じ屋根に飛ぶとそのまま2人で屋根をかけ、どうにか一息つける場所まで急ぐ。

 



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シロウの賑やかな日常

この話ではあまりシロウが活躍しません。

理由としては次回の話でやばいぐらい活躍します。

どうぞご期待ください。

────────────────────

人気のない建物の影に隠れ各々座り込む。

 

グレンに至っては魔術を行使し過ぎたのか、少しばかり息が上がっている。

 

「グレン、セリカに連絡を頼む。何故か知らんがアリシアが危険だ」

「分かった...はぁ...はぁ......よし」

 

グレンは慣れた手つきでセリカに連絡する。

 

連絡はしたものの「私からは話せない」の一点張りで何も情報が入らない。

 

ゼーロスが裏切るとは考えづらい...となるとアリシアを人質に取られているのか?しかしどうやって...

 

シロウがブツブツ呟きながら考えていると、2人分の足音が近づいてくる。

 

それに3人が気づき音のした方を見ると、2人の内の一人の小柄な人物が、魔法陣を地面に拳ごと叩きつけその人物の身体ぐらいある剣を作り出す。

 

その剣を握った小柄な人が上空に飛び上がり、重力に任せて剣を振り下ろしながら落下してくる。

 

それをシロウは慣れた手つきでルミアのみを抱え躱す。グレンは突然の事に躱す動作に移れずオワタと思ったが、何故か後ろにいた人物から放たれた【ライトニング・ピアス】が、剣を振り下ろしている人物の後頭部に直撃する。

 

「は?」

 

グレンは素っ頓狂な声を出して一体何が起きているのか理解が出来てない。そこでシロウはこの現象を納得させる言葉を放つ。

 

「リィエル言っているだろ、背後からにも気をつけろと」

「ごめんなさい師匠。グレンに気を取られた」

「謝れるなら大丈夫だよ。さて、久しぶりだなアルベルト」

 

流石にここまで喋ればグレンも理解し、よくよく2人を見渡す。そうすればかつての同僚脳筋ロリ『リィエル=レイフォード』と残念イケメン『アルベルト=フレイザー』だと分かる。

 

「どうしてここにいんだよ」

「グレンを倒すため」

「違う。この状況を作り出した騎士団について調べていてな、その過程でこうなった訳だ」

 

グレンはリィエルとの再会を楽しく会話している中、シロウはアルベルトの隣に行き誰にも聞こえない声で会話する。

 

「ゼーロスが裏切ると思えない。となるとアリシアが人質に取られている可能性が高い、何か理由を知らないか」

「それはもう一つの仕事に関わっている可能性があるな」

「もう一つだと?」

「そう騎士団の監視以外にもう一つ仕事があった。貴様も会っている人物だ」

「エレノアか」

「気づいていたか」

「勘だがな」

 

アリシアの護衛をしている時にエレノアと数回接触して、その時に感じたイメージがシロウと同じ『闇』だった。

 

けれども中には『闇』を抱えながら、メイドをしている者もいるので一時も離れないように気をつけていた。

 

その間にエレノアは変な事はしてこなかったので、安心しきっていた。

 

「居場所は」

「不明だ」

「そうか...ならばオレも手伝おう」

 

ルミアの事はグレンに任せ一人街へと繰り出す。

 

 

▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 

 

この街の1番高い塔に登りどこかにいないか探し始めてすでに数時間。日も微かに沈み始め本格的に暗くなり始める。

 

さすがのシロウも暗闇になってしまえば、確実に見つける事など出来ない。なので少し焦りながら探していると遂に見つける。

 

「アルベルト発見した」

『位置はどこだ』

「そこの角を3回右に曲がり、2つ曲がり角を無視して左の曲がり角に入れそこにいる」

『了解だ。行くぞリィエル』

 

通信の向こう側の2人は急いで向かっているので、こちらも準備を始める。

 

作り出すは黒い弓、それと普通の剣だ。

 

偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)を放ちたい所だが、場所が街中なので強力な一撃は放てないので、威力が低めの通常の剣を使用している。

 

数分もすればアルベルト達とエレノアが接触する。

 

剣を弓の弦に当てアルベルトの合図をひたすら待つ。

 

アルベルトが右手を上に上げ合図を出した。

 

シロウの狙いは頭。確実に仕留めるつもりで放つ。

 

 

 

 

が、それをエレノアは身体を一回転させて華麗に避ける。

 

「ち、避けられたか。なら二発目を」

 

すぐに二発目を装填するが、放つ時にはエレノアは完全に3人を撒いていた。

 

 

 

「はぁ...鈍った物だな私も」

 

シロウは自分の実力の低下に落胆していた。

 

過去の執行者時代であれば確実に仕留められていたのだから。

先程は気持ちが先行しすぎて、軽く殺気を出してしまいそれに気づかれたようだった。

 

とりあえず優勝と言う事で騒いでいるであろう店に向かっていると、その店の前にルミアが立っていた。

 

こちらにルミアが気づくと小走り気味に駆け、近づいてくる。

 

「シロウ!」

「どうしたルミア」

 

ルミアはシロウの胸に飛び込む。

 

随分と元気だなと思っているとルミアが勝手にその理由を喋り出す。

 

「よかった無事に戻ってきて」

「当たり前だろ。私がこの程度で負傷するわけが無い」

「なら良かった。それじゃあ中に入ろ?」

「あぁいいが...何にも参加してない私が行っても」

「ほらいいからいいから」

 

ルミアに引っ張られ店の中に入ると、そこでは酔っぱらい達が大暴れしていた。

 

グレンがシスティーナにちょっかいを出し、リンにちょっかい出し、男子生徒と戦闘をしたり......基本グレンが悪いのだが、面倒なとため息を吐く。

 

それを見てルミアが笑う。

 

「何かおかしな所があったか?」

「ううん別に。さシロウも飲もう」

「まぁ今日だけは祝の日だからな」

 

ルミアからぶどうジュースらしきものを受け取り、1口で一気に飲み干す。うん完全に酒の味がする。

 

怒る所なのだろうが祝の日とさっき自分で言ったばかりなので、この賑やかな光景を肴に酒を飲む。

 

それが妙に似合っていてルミアが笑い、シロウは何故だと先程と同じような事を繰り返す。

 

この時のシロウの心の内を知るものはまだ誰もいない。

 



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脳筋幼女降臨!!燃えろグレンのSAN値

リィエル愛のため少し長くなってしまった。

──────────────────

システィーナには最近新たな日課が出来た。

もしその日課が周りにバレれば確実に変な目で見られる事間違いなしだろう。

 

「はぁ...はぁ...」

「ギブアップか?君はその程度で終わらせるのか?」

「そんなわけない......私は私は」

「だったらもっと力抜け。そうしないと出来ないだろ」

「で、でも」

「それに私はもう少しで帰らねばならない。だから急げ」

「うぅぅ分かったわよ」

 

木に凭れかかるような体制だったシスティーナは立ち上がり、しっかりと腰を下ろす淑女がするには恥ずかしい格好をとる。

 

その羞恥心は並ではなく、いくら見られないようにと朝早くにしているとはいえ、近くには男2人がいるのだ。全く恥ずかしくないという訳もなく、顔は耳まで真っ赤に染まっている。

 

「これでいいんでしょ!」

「もっと腰を落とせ、手伝おう」

 

シロウはシスティーナの腰に触れると急に下に力を加える。

 

その衝撃に倒れそうになるが、どうにか耐える。それよりも触られた事の方がダメージがでかい。

 

「それをキープしたまま拳を突き出せ」

「えい」

「もっと気持ちを込めろ」

「でも」

「はぁ......1度手本を見せよう」

 

シロウはすぐに腰をシスティーナよりも低くして拳を突き出す。

 

「は!」

 

突き出された拳が木に直撃すると、殴った場所にクレーターのように丸く削れ、そのまま水平に木にひびが入り倒れる。

 

「「うそぉん」」

 

システィーナとグレンの口から情けない声が漏れる。木を倒すぐらいなら魔術を使えば簡単に引き起こせる。

 

だがこの現象を引き起こしたシロウは魔術を一切使用せずに木を倒した。

 

シロウはこの力を『八極拳』と言っていたが、グレンは『マジカル八極拳』と言っていた。

 

 

 

▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 

学院に行く道の途中にある噴水にてグレンとシロウは座って人を待っていた。

 

「にしてもどう思うよリィエルが来るなんて」

「いいと思うがね。リィエルはまだ若い、それならば友ぐらい必要だろ」

「それを同い歳の奴が言うかね」

「言うだろ」

 

そうグレンのクラスには新しい仲間が増える。その目的はシロウと同じルミアの護衛だった。

 

まぁそのリィエルを呼んだのがシロウだとはバレていないようだった。

 

「先生」

「奇遇だなルミア」

「態とらしいぞグレン」

「全くグレン先生は」

 

グレンが軽く笑いながら進み始めると、それに釣られ動こうとした時、シロウはとある少女の存在に気づきシスティーナとルミアをグレンの側から離す。

 

そのシロウの働きと同タイミングで、グレンに向け大剣が振り下ろされる。

 

「ぐぉぉぉぉ!!」

 

それを何とか白羽取りして持ちこたえる。

 

「リィエル言っただろもっと重量を使えと」

「焦った...ごめんなさい」

「別にいい。さてさっさとその剣を振り下ろして殺れ」

「分かったグレン倒す」

「だぁぁ!まてや!あの時のは解決しただろ!!」

「解決?何の事だ?面白い事を言うなグレン」

「てめぇぇぇ!覚えてろよぉぉ!!!」

「先に行きましょルミア」

「うんそうだね」

 

当たり前のように2人はスルーして先に学院へと向かう。

 

 

 

そのお遊びを数十分すると急いで学院へと向かう。

 

リィエルがグレンとクラスに入ると、辺りは騒然とする。まぁ確かに顔だけを見れば問題ない...そう顔だけなら

 

グレンが雑談を止めさせるとリィエルは自己紹介を始める。

 

「リィエル=レイフォード。帝国軍が一よ...痛い師匠」

 

確実に機密情報すら吐きそうな勢いだったリィエルの頭を思いっきり叩き黙らせると、ため息を吐き耳元で何を言えばいいかを呟く。

 

「将来?...帝国軍への入隊を目指して?......出身地は...イテリア地方......らしい......年齢は十五らしい......趣味は...なんだっけ?」

「スイーツ巡りだろ」

「そうスイーツ巡り」

 

軽く片言なのが気になるが、今はそんな事より新たな仲間に大量の拍手を送る。

 

転校生と来たら定番の質問タイムが待っていて、それにリンが手をピンと上げる。

 

「イテリア地方と言っていましたが家族はどうなされているんですか?」

「家族...兄がいる...いた?......兄」

「あぁすまんこいつに家族の話は止めてやってくれ、ちょっとデリケートな話でな。家族以外ならどんどん質問してやってくれ」

 

リンはやってしまったと見るからに肩を落とす。普通にこんな話をすれば気分が落ちるのも当たり前だろう。

 

その空気を壊すためカッシュと言う勇者が立ち上がる。

 

「リィエルちゃん。何かグレン先生とシロウさんと親しいみたいだけど、その理由を教えて欲しいなぁ」

「それ、私も気になっていましたわ」

 

カッシュの出した新たな話題に皆が「俺も」「私も」と声を上げる。

 

それとカッシュの発言の中で「シロウさん」と呼ばれているのは、誰かが怪我をするとすぐに直したり、服に穴が空いたら直ちに修復するので、まるでお母さんみたいだと尊敬の意味を込めて「シロウさん」と呼ばれている。

 

シロウ本人は全くこのあだ名が気に入っていないが。

 

「私はリィエルとは家が近くてね...」

 

シロウは適当な理由を上げるとリィエルの耳元で何かを呟く。

 

その行動に頭を傾げる。その行動はすぐに答えを出した。

 

「グレンは私の全て。グレンがいなければ私は生きてない。グレンを...愛している?これでいいの?」

「あぁバッチリだ」

「なんでこうなるぅぅぅぅ!!!!」

 

愛しているの意味は深く理解出来ていないリィエルは、とりあえず好きだとシロウに教えられていた。loveかlikeかではlikeの方なのだが。

 

リィエルの発言を聞いた皆は当たり前のように騒ぎ声を上げる。

 

「きゃぁぁぁ!!まさか生徒と教師の禁断の恋なのぉぉ!!」

「うぎゃぁぁ振られた!!!」

「そんな...シロ×グレが......」

「リィエルちゃんがぁぁ...」

 

何か聞き流してはいけない言葉が聞こえた気がしたが、シロウは無視をする。

 

そんな騒ぎを起こした張本人のリィエルは頭を傾げ、システィーナは頬を少し膨らませそっぽを向いていた。

 

 

 



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海に行くとなればする事は一つ。海よ魚の貯蔵は十分か?

愛してる発言は瞬く間に広がってしまい、それを沈静化させるためにグレンは各クラスを回って誤解を解いていた。

 

 

「シロウ...てめぇ...おぼえてろよ......はぁ...」

「いい運動だろ。食べてばかりだと太るからな」

 

シロウが話の片手間に【ショック・ボルト】を的に向けて放つ。

 

確率は6/6とパーフェクトだが、その内の2回は奇跡で当たっているので、実際の実力では4/6だった。

 

そして、次はかなりの問題児であろうリィエルの番が来た。

 

【ショック・ボルト】を3節で詠唱して放つも的には当たる気配がない。

 

五回目が過ぎても当たらない。最初は興味津々で見ていたが、あまりにも魔術が下手すぎるので呆れて見てない者が増えていた。

 

「これ【ショック・ボルト】じゃなきゃだめ?」

「いやまぁそれ以外でもいいけどよ...軍用魔術は使うなよ」

「分かった」

 

リィエルは魔法陣を作り出し魔法陣と一緒に拳を地面に叩きつける。

 

叩きつけられた魔法陣からリィエルの髪の色のような綺麗な青色の大剣が出てくる。

 

 

「えい」

 

それを上に飛び上がると、全力で的に向け投擲する。

 

投擲された大剣は見事に回転しつつ、的を粉々にする。

 

グレンはそれを見て、また始末書が増えると肩を落とした。

 

 

 

 

 

「全くどうしたものか......リィエルに普通の学院生活をと思ったのだが、裏目にでたか?」

 

シロウがこの学院にリィエルを呼んだのは確かにルミアの護衛もあるが、メインとしてはリィエルに楽しい学院生活を送らせることだった。

 

近々遠征学修があるのでと思ったのだが、明らかに先ほどのインパクトが強すぎて、大剣投げるヤベェ幼女認定されて軽く恐れられている。

 

「こうなれば全員の前で何か食べさせるしかないか」

 

リィエルは物を食べる時はシロウですら可愛いと思う。なのでそこを見せればとリィエルを探していると、食堂にてシスティーナ達とワイワイやっているのが見えた。

 

「私の出番はなしか...まぁその方がいいか...」

 

シロウは食堂から離れルミアを監視しながら食事をとる。

 

 

 

リィエルが転校してきて早1週間。

最初は恐れられていたリィエルも、すっかり周りと馴染み年相応の学院生に見える。

 

「リィエル落ち着け取る奴はいない」

ふごごががごががごががごご(師匠の料理がいけない)

「ちゃんと食べてから喋れ」

「...ゴクッ...師匠の料理が」

「少し動くなよ」

 

シロウは手元に用意していたハンカチで、リィエルの口周りに付いているクリームを取る。

 

「ぅうん...」

「動くな。口周りに気をつけて食べろよ」

「ぅぅん......分かった」

 

普通の人間であればこんな光景を見ていれば、このリア充めぇぇ!!と睨みつける所だろうが、既に見慣れた皆に取っては親子にしか見えない(無論シロウが母親でリィエルが娘)

 

昼食も終わると授業が始まり、その日最後の錬金術の授業が終了するも、その教室に数人が残りリィエルの話を聞いていた。

 

「ここがこうなって......ズバーーンといってドガーーン......そうそれでジャキィーーン...違うそこはバッカァンン」

「意味が全然分かりませんわ」

「これって俺が悪いのか?」

「リィエルの使う錬金術は既に固有魔術の域まで達している。それを真似しようとするのはあまりオススメしない。それに最悪リィエルのを使うと廃人になるぞ」

 

シロウの言葉に真似しようとしていた人たちは顔が青ざめる。逆にそれを使って何も問題がないリィエルの方に驚いていた。

 

固有魔術であるならば仕方ないかと言って皆諦める。

 

そもそも固有魔術はその人にしか使えないから固有魔術なのであって、ポンポン皆が使える物の事ではない。

 

それでも数人は覚えたかったのか肩を落として落ち込んでいた。

 

 

 

遠征学修の場所は白金魔道研究所となった。その場所の近くには海がある。そう海だ...海があるのだ。

 

「食費を抑えて餌を少し奮発して、竿は投影すればいい...あとクーラーボックスか」

 

久しぶりの釣りに胸を踊らせていた。

 

全員の色々な思惑が交差しながら遠征学修当日になる。

 

 

 

今目の前に広がるのは広い広い綺麗な海に......大の大人グレンのゲロだった。

 

「うげぇぇ」

「だから言っただろう。酔い止めを飲めと」

「めんどくそかっおぇぇぇ」

 

シロウの注意をガン無視して面倒臭いの一言で酔い止めを飲まなかったグレンは、船に酔いかなり吐いていた。

 

グレンの背中を擦りどうにか耐えさせ遂に念願の島へと到着する。

 

「グレン自由時間だったな!」

「あぁ...」

「ルミアの事は頼むぞ、久しぶりに腕がなる」

 

シロウは大きなカバンを持つと急いで山の奥へと進んでいき、人気の少なそうな場所まで行くと釣竿を投影して釣りを開始する。

 

 

30分経過しても竿に当たりはこない。

 

2時間経過しても竿に当たりはこない。

 

その後も一向に当たりは起こらず、日は暮れ時計の針は9時を回ろうとしていた。

 

 

「くっ...何故だ......竿がいけないのか?...いやそんなはずは...」

「何か釣れましたか?」

 

シロウがブツブツ呟いていると不意に背後から声がかかる。

 

「あぁ今しがた釣れたよ...天の智慧研究会エレノア」

「あらあらまぁ」

 

竿を静かに地面に置き、振り向くと、そこには魔術競技祭にて軽く戦闘した相手がいた。

 

服装はあの時と特に変化はなく、完全にメイドだった。

 

「貴様は...なるほどな......姑息な真似をする物だな」

「やはり見て気づきましたか...」

「君にまた会うとはね」

 

エレノアの後ろから1人の誠実そうな青年が現れる。

 

その青年はリィエルと同じ青の髪をしていた。

 

「シオン...いや違うな誰だ?まぁそれは今はいいか」

 

シロウは夫婦剣を投影し、それを投擲する。

 

そして、次の日の研究所見学にシロウが現れる事は無かった。

 

 

 



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まぁグレンは...いいやつだったよ

まじで誤字報告感謝しています。

────────────────────

「たくシロウの奴何処いんだよ」

 

グレンは研究所見学が終わるとシロウを探しに街へと繰り出していた。

 

シロウ程命令に忠実な人間もいないのですぐ帰ってくるとも思ったが全く帰ってこない。

 

もしかしたらと最悪な考えが浮かぶが、頭を横に振ってありえないと切り捨てる。

 

シロウの実力はグレンよりも上で、アルベルトにも過去に模擬戦で勝っていた。そんなシロウが負ける相手なんて今ここにいる人間じゃあまず勝てない。

 

探し始めて既に数時間経過している。

さすがに行方が一向に掴めず、ヒント無しで探すのは辛く身体もかなりバテてきた。

 

「どうすっかな...」

 

グレンがため息混じりで呟いた時、建物と建物の間で何か物音がなる。

 

いつもなら猫だろと見に行かないのだが、今回は別で藁にもすがる思いで見に行く。

 

するとそこには息を上げ左手をだらしなく垂らし、その左手で掴んでいる刀が地面を削りながら歩いていて、身体の至る所から血を流しているシロウがいた。

 

「シロウ!!」

「グレンか......はぁ.........」

 

グレンは慌てながらも簡単な白魔術をかけ、シロウの治療を始める。

 

シロウの傷が目に見えなくなると、上がっていた息も戻り立ち上がる。

 

「助かった。だが今はそれどころではない」

「どういう事だ?」

「リィエルが狙われている」

「リィエルだと!!」

「あぁそうだ。今どこにいる」

 

グレンはリィエルの行きそうな場所を必死に考える。

 

研究所での険悪な雰囲気を考えるに、確実に落ち込んでいるだろう。だって昨日まではあんなに楽しそうに笑っていたのだから。

 

その場でジタバタ考える事数分、考えがまとまり予想がたつ。

 

「海辺だ」

「海辺?」

「あぁ多分そこにいる。てかここら辺つったら海辺しかないだろ?いつものお前ならすぐ分かったと思うけどな」

「すまない気が動転していた」

 

まぁそれもそうかと納得して海辺に向かう。

 

 

 

海辺に行くとやはりそこにはリィエルがいたが、それ以外にもう1人別の男がいた。

 

「あいつは天の智慧研究会の一員だ」

「ならもう手を出してんのか!行くぞ」

「あぁアレを発動させておけ、私は武器を作っておく」

 

 

シロウは刀を作り、グレンはポケットに手を突っ込んで「愚者の世界」を発動させリィエル達の間に割り込む。

 

「随分と手が早えな」

「なっ、君はグレン...レーダス」

「なんだよそこまで知られてんのかよ。ならこれの意味も分かるな」

 

グレンはポケットから愚者のカードを取り出す。

それは「愚者の世界」の発動を意味する。

 

さらに目の前にいる男は驚きのあまり瞬時に魔術の発動を行う素振りを一切見せなかった。

 

勝った!第3部完!

 

そう思ったのもつかの間次にグレンを襲ったのは、背後から感じる鋭い痛みと、胃の方から上がってくる何か。

 

それを止められずに口から赤い液体として溢れる。

 

「血?...なんで...」

 

グレンは口元の血を拭った時自分の胴体を貫く一つの刃が目に入る。

 

その剣はリィエルが作るような青い模様ではなく、割り込む時にシロウが作った刀だった。

 

「どういう......ことだよ......シロウ...」

「これを見れば簡単に分かるだろ。私は君の敵だよグレン」

 

何でだよとシロウを見つめながら、腹から刀を抜かれその場に意識を失って倒れ込む。

 

 

▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 

昨日の夜。

 

シロウの投げた夫婦剣をエレノアは避けようとせず、そのまま剣は回転して進み、木を登っていた大トカゲの脳天を直撃する。

 

「それが貴方の答えですか?」

「あぁ私には世界を守る力がいる。だが、あの学院にいると鈍って仕方がない。だから君達の側につくよ」

「だけど、そんな簡単に仲間になれると思ってるのかな?」

 

まぁそれが当たり前の反応だろう。

 

少し前まで敵対関係だったのに、俺お前の仲間になると言われ、よしおけ!と言う馬鹿はいない。

 

そこでシロウは予め考えていた条件をだす。

 

「ならば信頼を得るためグレン=レーダスを殺そう」

「あらあらまぁ」

「さらに」

 

 

▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 

 

「本当にグレンは死んだのかい?」

「心臓の音を確認してみろ」

 

青髪の青年シオンは恐る恐るグレンの胸に手を当てると、心臓が全く動いていないのを確認する。

 

まずそんな心臓の音を確認する前に、かなりの量の血が流れているので普通に考えて死は確定しているだろう。

 

「確認したな。ついでに死体の処理をしておこう」

 

シロウは躊躇いなくまたグレンに刀を刺すと、軽く振りかぶり海へと向け投げる。

 

投げられたグレンの腹部からは赤い液体が滴りながら宙にばらまかれ、大きな水柱を上げるとその身体は海底へと向かって落ちていく。

 

いやいい兵士を得た。

 

それがシオンの感想だった。

かつての仲間を殺す。それも躊躇いなく。もうこれだけで仲間にしてもいいと思うのだが、シロウはさらにもう一つ条件を自分で出していた。

 

 

『ルミア=ティンジェルの捕獲』

 

これが最後に自ら出した条件だ。

 

これはリィエルでは下手に怪我を負わせてしまう可能性もあるので、シロウならば怪我なく捕獲できると確信して、リィエルを連れ先にシオンはアジトへと帰る。

 

グレンを刺した刀を消すと今度は足に力をため、ルミア達がいる寝室へと向かう。

 



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シロウの裏切り

先日この作品が検索妨害だと運営から言われ、ビックリしました。

まさかクロスオーバーを入れていないからだとは.....心臓に悪い。

 

盛大なミスを犯し、別作品のタイトルにて投稿してしまった。恥ずかしさのあまり1月程寝込みます。

────────────────

今のシロウの足を持ってすれば海岸から宿まで二分もかからない。

それは屋根を使って一直線に進んでいるからでもある。

 

ルミアのいる部屋は予め覚えていたので、後は最後の屋根を踏み砕いてルミアのいる部屋まで跳躍するだけだ。

 

 

丁度届く程度で飛ぶ音を立てずに着地をすると、中にいるであろう人物に声をかける。

 

「すまない開けてくれないか」

「シロウ?こんな時間にどうかしたんですか?」

 

疑問に思いながらも窓を開けてしまう。

 

そして窓の向こうには血塗れの布を首に巻いているているシロウがいた。

 

「それは...」

「しまった着替え忘れたか。まぁいいどうせすぐ終わる」

 

ルミアは抵抗しようと指輪をつけている手を前に突き出し、熾天覆う七つの円環を起動させようとしたが、起動よりも先にシロウの手刀がルミアの首に吸い込まれるように叩き込まれる。

 

首の骨を折らないように手加減をしているが、それだけでもルミアの意識を奪うには十分すぎた。

 

その場から崩れ落ちるルミアの腹部に腕を回し支え、そのまま慣れた手つきで肩に担ぐ。 

 

これで帰れると安心したせいで警戒を怠り、こちらに向かってきていた足音に気づけなかった。

 

「ルミア...何をしているの!」

「はぁ...自分が嫌になるな、まったく」

 

システィーナは震える手つきでシロウに指を向ける。

 

もしグレン辺りが向けているのであれば軍用魔術も使えるので警戒するが、システィーナは言ってしまえば子供に毛が生えた程度、警戒する必要もないので気にすら留めない。

 

「打たないのか?」

「う、打つわよ!」

「そんな震える手では守りたい物も守れないぞ」

 

なのだが、何故かちょっかいをかけたくなり話かけてしまう。

 

その震える手つきが昔のグレンぽかったのでちょっかいをかけたのは秘密だ。

 

「よくもルミアを...」

「安心しろルミアは殺していない。ルミアはこの後の計画に必要なのでな」

 

システィーナは最悪な事を想定してしまう。

 

だがそれは違うと頭を横に振るう。だってあの人はと。

 

そんな彼女の心を打ち砕くかのように、シロウは出来得る限りに醜悪な笑みを浮かべ告げる。

 

「分かっているだろう。グレンの血だ」

 

嘘と呟きながらその場に膝を折って崩れ落ちる。

 

遊び過ぎたなと内心自分を叱りながら、窓からルミアを連れて飛び降りる。

それをシスティーナは見守る事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

「いや素晴らしい!これでアレが進む」

「ならば良かった。その前に何か羽織る物はないか?さすがにこのままでは耐え難い」

「そうなると思っていましたわ」

 

エレノアは赤い畳まれた物を差し出す。

 

今は四の五の言ってられないので、それを受け取り着る。

 

ただ羽織る上に腰に巻くだけだったので楽だったのだが、うんなんと言うか派手だ。

 

シロウの基本スタイルは姿を消しての奇襲だったのでこんなに派手ではそれも果たせない。まぁそれも今回はあんまり関係ないかと一応服に何か細工がないか『眼』と『魔術』を使ってしっかりと確認する。

 

何も問題が無いことを確認するとそこら辺の壁にもたれかかり、軽く仮眠をとる。

 

 

 

 

 

「どういう事だこれは!!何故あの男が生きている貴様が殺したのでは無いのかシロウ!」

 

せっかく眠っていたのに不意に起こされ、少し機嫌が悪いので適当に答える。

 

「知らん。確かにあの時殺した。シオンがその証明をするはずだ」

 

本当かと睨むとシオンは肩を竦める。

 

ちゃんと始末すら出来ないのに何だその態度は!と怒りたい所だが、今はそれよりも進めたい事がある。

 

「まぁいい。奴らには合成魔獣(キメラ)を向かわせる」

 

キメラを覚醒させるためにバークスはキーボードを打ち始める。

 

研究者とは随分と切り替えが早いなと思っていると、後から声がかけられる。

 

「先生...よかった...」

 

ルミアが安堵のため息を吐くとバークスがキーボードを強打する。

なんせ彼としてはかなりの傑作の合成魔獣(キメラ)達が瞬く間にやられたのだから。

 

まぁそれが普通の反応だろうな。執行者時代でもあの2人が組んだ事があったが......まぁ化け物じみていたからな。

 

軽く過去を思い出して懐かしんでいると、エレノアを連れバークスは2人の足止めに向かう。

 

 

 

アルベルトが上手くグレンを逃した事でこちらに物凄い速度で向かってきている。

 

「どうする。私が迎え撃つか?」

「いやここはリィエルに任せようと思う。行けるねリィエル」

「分かった」

 

グレンが扉を蹴破り現れるのには数分もかからなかった。

 

「グレン先生!!」

「ルミア!...さて、どうしてくれようか2人とも」

 

グレンは手首をパキパキ鳴らしながら近づいてくる。

 

それを迎え撃つためリィエルは剣を作り出し、グレン目掛けて振り下ろす。

 

そこに微かに躊躇いがあり、グレンは余裕で避ける。

 

「リィエルお前そいつが本当に兄だと思うのか」

「信じてる。だって目の前にいる」

 

グレンはリィエルの剣を巧みに躱しながら語りかける。

その語りかけは、微かに残っていたリィエルの迷いを刺激し始め、だんだんとその剣速は落ちていき、終いには完全に剣を地面におろす。

 

このタイミングを狙っていたのか、グレンはリィエルの心を揺さ振る一言をかける。

 

「なぁそんなに兄が大好きなら名前言えるよな」

「そんなのあた...り...まえ......」

 

リィエルは名前を思い出そうとするが、頭痛が襲い剣を地面に落としてしまう。

 

突然の頭痛に頭を抱えその場に蹲ると、頭にかかっていた靄が消え名前が浮かび上がる。

 

 

「シオン......そうだ...私は...」

「やっと思い出したか...これでリィエルはいいとして、後はシロウお前だな」

 

グレンは懐に隠し持っていた銃をシロウに向ける。

それでもなおシロウから笑みが消える事は無い。

 



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シロウの本当の固有魔術

鈴木このみさんのライブにより復活。

 

そのおかげでやっとこさロクでなし7巻まで読めました。

何あのヘラクレスもどき。めちゃくちゃシロウと戦わせたいんだけど...

 

タイトルの通りどうにかこの話で出せました。てかここ以外今のとこ出す...出せる予定がない.....

─────────────────

グレンは銃口を向けているが微かに震えている。

 

それは過去にも何度も戦った事があるが全て負けているからではない。先日まで何の変哲もなくいたのに、敵に回ってしまっていたからだ。

 

例え自分を刺し殺そうとしたとしても、心の何処かで何か特別な理由があったのではないか?と考えてしまっている。

 

「やはり君は執行者などではなく、講師が向いているよ」

 

シロウは姿勢を少し屈め自前の身体能力で地面を蹴り抜く。

 

グレンは慌てて固有魔術『愚者の世界』を発動させる。

 

それでもシロウは止まることなくグレン目掛けて進む。グレンは2発銃弾を放つが狙いを定められておらず、シロウの足元に当たるだけだった。

 

そのあまりの姿に呆れると、グレンの腹部に平手を身体全体の力を使って叩き込む。

 

グレンはかなりの速度で後方に飛び柱にぶつかって、破壊するとグレンを覆い隠すように土煙が立ち上がる。

 

「だめ...」

 

今度はリィエルが立ち上がり剣を向ける。

リィエルはグレンと違い手が震えていない。

 

「師匠である私に勝てると思うのか?」

「くっ」

 

リィエルは剣を握りしめる手に力が入る。

 

リィエルも過去にシロウと何回か戦っていたが、2人の相性はグレンとシロウ程合っていない。

 

リィエルの基本スタイルは大剣を思いっきり振り下ろす一撃狙い型、シロウは双剣での近接戦に加え、剣を投影・投射するなど手数に優れるトリッキー型だ。 【注】誤字報告で無く恐縮です……『二つの双剣』は重複表現、かつ剣製に寄る戦術描写が不足しているように思いました ご確認のうえ、不要であれば差し戻し下さい

 

なのでリィエルは未だに1度も勝てていない。 【注】誤字報告で無く恐縮です……『なので』が唐突に思います。“シロウの技量に翻弄され“等の理由付けがあればよいのですが……

 

けど今のリィエルは敵となったシロウに躊躇いなく剣を振り下ろす。

 

「いい攻撃だ、だがそれでは昔と何も変わっていない」

 

シロウは嫌味のようにリィエルと同じ大剣を作り出し、両手で握りぶつけ合わせる。

 

ぶつかった瞬間鉄と鉄がぶつかり合う甲高い音が響くと、互いの剣が粉々に砕け散ると思いきや、リィエルの剣だけが砕け散った。

 

「なんで」

「昔言っただろ。常に想像するは最強の自分と」

 

リィエルに向け剣を振り下ろす。

 

正しく圧倒的だった。決してグレンとリィエルが弱いのではなく、シロウが異常に強すぎるだけだ。だがそれを持ってしても圧倒的だった。

 

「クククハハハハ!さすがだよ!君のおかげで丁度全て終わったよ。これで君の今日の仕事は終わりだね」

「そうか......だそうだグレン」

 

シオンのニコニコしていた笑顔が変わる。

 

「やっとかよ!!」

 

グレンの持っている銃は早撃ちがしやすい。それをさらに早くするために独特な構えをとる。 【注】誤字および重複表現です

 

撃鉄の上に左手を構え、指1本1本を使ってシリンダーを回転させ、トリガーも高速で引きまくる。 【注】誤表現?です。グレンの所作(ファニング)を見るにペネトレイターはシングルアクション、つまり引金は『引いたまま』です。なおファニングは掌で撃鉄を起こす動作で、指まで使う場合持ち手の親指・空いた方の親指と小指によるトリプルショットが有名なガンプレイですね

 

発射された6発全ては、空中に浮かんでいるモニターに全て直撃し破壊する。

 

「あぁぁ...」

「全く面倒な仕事を押し付けられたものだな」

 

シロウはため息を吐きながらルミアを拘束している機材を破壊して助け出す。

 

「え?」

「すまなかったルミア。これも仕事だったからな。Project: Revive Lifeの全容を入手せよとな」

「な!...ふ!やっぱりなそうだと思ったぜ」

「グレン嘘。さっきまで信じてなかった」

「し!し!リィエル黙ってろ」

「ん?アルベルトから聞いて無いのか?だからグレンが生きてると思っていたが...」

 

グレンが砂浜であんなに血を流していたのに生きていたのは、シロウが上手く心臓を避け剣を刺したからだ。

 

さらに言えば心臓も一瞬だけ止め、もう1回刺したタイミングで戻していた。

 

全てアリシアからの命令でアルベルトも聞いていたのだが、グレンに言うと騙し通せなさそうなので黙っていた。 【注】誤変換です

 

「あんのやろぉぉ!!後で絶対ボコす!」

「だが今はそれよりもアイツではないか?」

 

シロウが視線を向けた先には驚きのあまりその場に崩れ倒れているシオンがいた。

 

いやシオンでは無い。シオンの真似をしている。

 

「いい加減モノマネはやめろライネル」

「.........そうだ...私はライネルだ!だがそれがどうした!今ここにProject: Revive Lifeは完成したのだ!!」

 

ライネルを守るようにリィエルソックリの少女3人が囲む。だがその少女達の目には生気が感じられなかった。

 

「ゲスが...感情を消したな」

「落ちる所まで落ちたってか...せっかくシオンがお前も助けようとしていたんだがな...」

 

グレンは自分の不甲斐なさに頭を搔く。

 

やっとグレンらしさが戻ったなと軽く笑うと、グレンの後ろに回る。

 

「グレン少し時間を稼げ」

「いいぜだけどなるべく急げよ!!」

 

グレンは拳銃を構え撃ちながらリィエルもどきに近づく。 【注】誤字です

 

その間にシロウは右手を前に構え、左手を添える。

 

「君たち天の智慧研究会は私の魔術を何か勘違いしているな。私は無限に剣を創るんじゃない、無限に剣を内包した世界を創る。それが私の本当の固有魔術だ」

 

シロウに魔力の渦が包み込む。

 

体は剣で出来ている(I am the bone of my sword)

 

血潮は鉄で、心は硝子(Steel is my body, and fire is my blood)

 

幾たびの戦場を越えて不敗(I have created over a thousand blades)

 

ただの一度も敗走はなく(Unknown to Death)

 

ただの一度も理解されない(Nor known to Life)

 

彼の者は常に独り剣の丘で勝利に酔う(Have withstood pain to create many weapons)

 

故に、その生涯に意味はなく(Yet, those hands will never hold anything)

 

その体は、きっと剣で出来ていた(So as I pray,UNLIMITED BLADE WORKS)

 

シロウの固有魔術『無限の剣製(Unlimited Blade Works)』が発動し世界が変化する。

 

 



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無限の剣製はガチでチート

 

これでどうにか区切りのいい場所?まで書けたので、次回は閑話になります。

しかし、閑話と言ってもそこそこ重要な話をするので出来れば見て欲しいです。

まぁ時間がない!と言う場合でしたら多少うん?と思う程度でこの先も読めると思います。

 

次回なんとあの親が.....

───────────────────

先程までいた機械じみた不気味な部屋が消え、新たに無限に広がっているように見える荒野。空は暮れ空に浮かんでいる大きな歯車達。荒野に刺さる大量の剣。

 

「転移魔術でも使ったのか?いやそれにしては...」

 

それにしては魔法陣が形成されていなかった。それにこのような場所など記憶が無かった。

 

そこでシロウが放っていた言葉が頭をよぎる。

 

『私は無限に剣を創るんじゃない、無限に剣を内包した世界を創る』

 

「ありえない!まさか世界を新たに構築したとでも言う気か!!!」

 

シロウを問いただすように怒鳴る。

 

「そんな大層な物ではない。これは私の心象世界をこの世界に侵食させ、それを結界として展開させたに過ぎない」

 

シロウはいとも簡単な事のように言っているが、これはそう簡単に出来る事ではない。

 

そもそも世界に何かを侵食させるなど、世界を新たに構築するよりかは簡単だが、明らかに魔法の域に届きかけている。

 

「だが僕には僕だけのリィエルがいる!行けリィエル!その男を殺せ!」

「良いだろう。贋物(ニセモノ)贋作(ニセモノ)どちらが上か決めよう」

 

リィエルもどき達は大剣を横に構え、全速力でシロウに向けて進む。

 

シロウはそれに対して地面に突き刺さっている剣を数本を意識し一切触れずに地面から抜くと、そのまま剣先を正面にして空を舞う。

 

空を独特な軌道で動き回ると、突然リィエルもどきに方向を変え突き進む。

 

咄嗟に3人は躱そうとするが、その内の1人に飛んでいた剣が心臓などを貫く。

 

辺りにリィエルもどきの血が飛び散り、その血が剣を躱していた1人の目に当たり視界を一瞬失う。

 

その隙を見逃すシロウではなく、地面に突き刺さっていた剣を2本引き抜くと、上に跳躍し視界を失っているリィエルの心臓に突き刺す。

 

だが感情のないリィエルにとって完全に死ぬまでは生きていると同意義なので、シロウの両手を掴み行動を制限してから意識を消失する。

 

「失敗だったな!やれ僕のリィエル!!」

 

ライネルの指示に頷くと剣を思いっきり振り上げる。 【注】誤字です

その状況であってもシロウから笑みは消えない。

 

何故そんな顔でいれる!! 【注】タイプミス?です

 

ライネルにはシロウの心がまるで理解出来ていなかった。

 

「何故と言う顔だな。ならばその答えを言おう。私の良く使う双剣の干将・莫耶には特別な性質があってね、それは互いと互いが引き合う磁石の+と-のような性質を持っている」

「だからなんだと言うんだ」

 

まだ分からないのかと笑うとその答えがすぐ起こった。

 

振り上げていたリィエルの両手の腱に夫婦剣が突き刺さる。いかに痛みを感じないと言っても、人間の性質上腱を切られれば力が入らなくなる。 【注】主対象を追記、一部文言除去を提案。ご確認のうえ、不要でしたら差し戻しください。

 

手から零れ落ちるように大剣が地に落ちる。

 

さらに追い打ちをかけるように、空を飛んでいた剣がリィエルの背中に突き刺さる。

 

鶴翼、欠落ヲ不ラズ(しんぎ、むけつにしてばんじゃく)

 

心技 泰山ニ至リ(ちから やまをぬき)

 

心技 黄河ヲ渡ル(つるぎ みずをわかつ)

 

唯名 別天ニ納メ(せいめい りきゅうにとどき)

 

両雄、共ニ命ヲ別ツ(われら、ともにてんをいだかず)

 

鶴翼三連(かくよくさんれん)!!!」

 

 

シロウの手に持つ夫婦剣が羽のような形に変化したうえ大剣のようになる。

 

それを片手ずつで持ち✕を描くように、リィエルの胸を切り裂く。

 

その一撃は心臓にまで達し、リィエルは何の抵抗もすること無く息絶えた。 【注】前段の文章から主語の位置を入れ替え、一部文言修正を提案。ご確認のうえ、不要であれば差し戻し下さい

 

 

「バカな......」

「後はお前だけだなライネル......テメェは俺が」

「待ってグレン」

 

ライネルを殴ろうとグレンが手を上げ掛けた所を、リィエルが掴み静止する。 【注】脱字です また「掲げる」は人目につく高いところに上げるという意味から、殴る準備の動作としては不適に思いました。ご確認ください

 

「信じていたよ本物はやはり君だ」

「私が殴る」

 

グレンはそうかよと言うと『愚者の世界』を解除する。

 

リィエルは身体強化の魔術を限界まで自分にかけて、右拳を振り上げる。

 

「そうだ!僕はシオンとも」

「いやあああああああああ!!!」

 

リィエルはライネルの顔面にめり込む程の拳を叩き込む。

 

殴られ吹き飛ばされたライネルはピクピクと動き、意識を失っている。

 

▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 

グレン達が皆の元に戻ると異様にボロボロになっていた事に驚いたが、それも一瞬の事ですぐに温かく迎える。 【注】誤字です

 

そんな感動的な雰囲気がある中、別の場所にいる2人は神妙な面持ちで裏路地にいた。

 

「これを仕組んだのはやはりイヴだな」

「その通りだ」

 

シロウにしては珍しく嫌そうな顔をする。

 

だがまぁ仕事は仕事だと手に持っていた水晶を投げ渡す。

 

それには『Project: Revive Life』の全容が記されている。

 

「これか......こんなに丸いと落として壊してしまいそうだな」

「私もそれに気をつけたよ」

 

2人は高笑うとアルベルトが水晶を地面に叩きつけ、シロウがそれを踏み砕いた。 【注】『叩き投げ』は違和感があり代替表現への置換を提案。ご確認のうえ不要でしたら差し戻し下さい

 

『Project: Revive Life』の事は出来れば回収して欲しいと言われていたので、それが出来なかったとしても特に罰則はない。

 

であればリィエルを貶めるような物は要らないと2人は同じ考えをしていた。

 

「アルベルト、帰る前にグレンに言っといてくれ。この生活は満足だったと」

 

微かな後悔の念が入った口調で伝えると背を向けその場から姿を消した。

 

 



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閑話:まさかまさかの登場。

本当は1話完結させようとしたのですが、あの人が暴れるから.....

それと本当はあの人達登場させるつもりは一切無かったのですが、出さねばいけない状況になってしまいました。

 

※時間軸が遡ります。なので残念ながらリィエルが登場しません。何でだよ...と思われるかもしれませんが、それは作者も同じです。

──────────────────

男の口から吹き出された煙草の煙が荷馬車の窓から漏れ出て、天高く飛び上がりそのまま見えなくなっていく。

 

「今は煙草はダメって言ったでしょ。女王陛下がいるのよ」 【注】誤字……というか誤用です。女王ですよね?

「大丈夫だよ。ここにいるのは女王アリシアでは無い。一介の町娘のアリーだからね」

「そうです私の事は気にしないでください。それにあともう少しで...グへへへへへへ」

 

ホラと男は注意してきた女に言い返す。それが気に入らない女は頬を膨らませる。そんな夫婦のイチャイチャを見ていてもアリシアはルミアの事のみを考えていた。 【注】重複表現です(「頬を膨らませる」か「膨れっ面になる」)。ご確認ください

 

 

今のアリシアの服装はいつも着ている華やかな物ではなく、黒い帽子の中に金髪を全て隠し、正体を隠すため眼鏡をかけ、着ている服も白色のロングシャツにベージュ色のロングズボンを穿いている。

 

いつもの華やかさがないが、元から若く見える顔と服装が相まって完全に20歳にしか見えなくなっている。

 

そのアリシアと一緒にいるのは、アリシアの髪とは対照的な白銀で瞳も綺麗な赤色の女性。

 

その女性が着ている服はワインレッドの長袖服の胸の辺りに黒のリボンが飾られ、その下は白いスカートに黒のタイツに白のロングブーツ。 【注】おそらく脱字と思われます

 

何処かの令嬢のような雰囲気が、質素のように見えて大幅に魅力を引き立てる服を着ているせいで、いつもの3割増になっている。

 

対してその女性の隣に座っている煙草をふかしている男は、全身真っ黒のスーツを着て黒のロングコートを羽織っている。

 

男に関してはあまりにも仏頂面なので、これと言って魅力は無いが、手に持つ厳重に保護されているアタッシュケースが男の独特な雰囲気をさらに上げている。

 

「グレン=レーダス.....《愚者》か...随分と懐かしい名前だね」

 

男の呟きは誰にも聞こえることなく、たまたま口から漏れてしまったようだった。

 

この厄介な3人を乗せた荷馬車の御者は、ミスったかなと呟きながらアルザーノ帝国魔術学院へと進んでいた。 【注】表現の修正を提案 不要でしたら差し戻しください

 

▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 

「へえっくしょ!」

「お!ビックリさせんなよシロウ。どうしたんだ珍しいなくしゃみなんて」

「いやなんだ。何かいやな者が近づいているような気がしてな」

「おいおいシロウの勘はよく当たるからな、あんまり変な事を言うなよ」 【注】誤字です

 

グレンはシロウの肩を叩くと明日の準備を始める。

 

いつもは準備など一切しないのだが、明日は事情が事情なのだ。それは授業参観、生徒の親達が常日頃の授業の態度や講師などを見に来る日だった。 【注】主対象の記述が不足していました。ご確認のうえ不要なら差し戻し願います

 

魔術学院に入っている生徒の中には貴族が多いので、もし下手な事をすれば一発で解雇される。

 

過去のグレンであればよし辞めれる!と言っていたのだろうが、今のグレンは辞めたくないそう思っていた。

 

その心境の変化にシロウは驚いたが、それはそれでいい物だと埃を被っていたローブを丁寧に洗い、新品同然に仕上げる。

 

「はぁ...なんだろうなこの胸騒ぎは......」

 

確かにグレンの心境は変化していた。だが、それは、辞めたくないと言うだけであり、子供のようなイタズラ心は何ら変わっていなかった。

 

 

 

 

次の日になりグレンはシロウより先に家を出て、事前に準備をするとの事だった。

全く随分と変わった物だなと、まるで我が子の成長が嬉しい親の感覚を味わっていた。 【注】てにをはの修正、もしくは代替表現として「~我が子の成長を喜ぶ親の~」提案 不要であれば差し戻しください 

 

シロウはいつも通り家を出てシスティーナとルミアと合流して、学院に向けて進んでいると、背後から突然自分に向けて殺気が飛ばされる。 【注】タイプミスと思われます

 

(数は一...まさか天の智慧研究会か?だが奴らにしては随分と白昼堂々としているな。それ程自信があるのか?まぁ罠だと分かっても乗らない理由はないか) 【注】「乗らない訳にはいかないか」と「乗らない理由は無いか」が混在しているように思います。一旦後者に修正を提案。不要でしたら差し戻し下さい

 

殺気の出ている方を流し目で確認すると、やはりと言うべきなのか路地裏の方から飛ばされていた。

 

「すまない2人とも先に行っててくれ」

「うん良いけど...忘れ物?」

「そうだな忘れ物だな」

 

2人は変なシロウだなと首を傾げながらも、手を振ってシロウを見送る。

 

それに応え手を振り、2人が見えなくなったところで裏路地に入る。

 

「出てきたらどうだ?」

 

裏路地に入った時点で辺りの怪しさは満点だった。 【注】誤字です

 

ここは裏路地で確かに人通りは少ないはずだが、今は朝だ少なくとも1人や2人程は目的地に急ぐためいるはずなのだ。

 

だが今は誰1人見当たらない。人の気配すら感じない。 【注】記述が不足しているように思います 不要であれば差し戻し下さい

 

いつもの夫婦剣を投影すると、辺り全体を見渡しながら警戒する。 【注】Fate的表現に修正を提案

 

今のシロウに油断は一切ない。

 

にも関わらず、突如赤い布で顔を隠している人間がシロウの懐に入り込む。 【注】文頭の微修正、本文の並び替えを提案

 

「な!」

 

謎の人間は拳をシロウに向けて振るう。 【注】誤字です

 

それを夫婦剣をクロスさせて防ぐも、夫婦剣はたった1回受けただけで粉々に砕け散った。 【注】タイプミスです

 

「チッ!」

 

夫婦剣はシロウが1番創りやすく、1番扱い易い武器だった。今まで数々の魔術師相手に使って来たが、こんな事は片手で数えられる程しかない。

 

しかもそれのどれもがかなりの強者だった。

 

警戒度を格段に上げ、人払いの結界が張られているのを好都合として、黒い弓を創りそれに剣を番える。

 

それはシロウの使う矢の中で1番の威力を誇る物。

 

「<ruby><rb>我が骨子は捻じれ狂う</rb><rp>(</rp><rt>I am the born of my sword</rt><rp>)</rp></ruby>――偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)!!」 【注】Fate的表現としてダッシュ追記を提案

 

今回はゴーレムの時に使った時よりも威力を上げて放った。

 

それを謎の男は突然動きが早くなり、いや2倍の速度で動き躱してシロウの背後を取ると、銃口を頭に当てる。

 

「何故ここにいるキリツグ」

「少し用事でね、シロウ」

 

赤い布を取るとシロウにとっては見慣れた黒髪の男、キリツグ=エミヤがいた。

それはエミヤの姓が示す通り、親子の久しぶりの再会であった。 【注】誤字です。また意味が通り辛く思ったので若干の追記を提案

 

「あ!私もいるのよ!シロウ」

 

アイリスフィールもいます。

 



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閑話:ありえないありえないそんな事に力を使うなんて.....

最近ゆゆゆい始めました。名前は作者名と同じなので会えたらよろしくお願いします。

 

さらにゆゆゆに関してもう一つ。

今日は作者の大好きな三好夏凜ちゃんの誕生日です。

 

ハッピーバースデー夏凛ちゃん!

そして、ハッピーバースデー俺!!

 

これから誕生日はもう一人じゃ無いんだ。

───────────────────

シロウは誘拐された際にセリカ達の手で救出され、すぐに特務分室に配属になったが、いくら強いと言っても未だ子供だ。 【注】意味が通り辛く思った箇所の追記を提案。不要でしたら差し戻し下さい

 

親も探しても一向に現れない。となると誰が引き取る?という話になる。

 

普通は特務分室の誰かが引き取るのが当たり前なのだろうが、残念ながら変人しかいない。

 

変人に子供が育てられるわけが無い。

 

そんな中《死神》として活動していた、キリツグ=エミヤが引き取ると手を挙げた。

 

キリツグの引退した理由が子育てのため、他の変人に預けるよりマシだと判断し、キリツグの後釜の《死神》をコードネームとして引き取られた。

 

 

 

流石に裏路地に居続ける訳にはいかないので、今は近場にあった喫茶店に入り紅茶を飲んでいた。

 

「キリツグ、イリヤとミユはいいのか?」

「うん?あぁそう言えばまだ言ってなかったね。もう一人増えたよ」 【注】誤変換です

「......は?...また拾ったのか?」

「まあね、それに彼女はシロウとも関係しているよ」

 

キリツグは困っている人がいれば極力助ける主義なので、ちゃんと血が繋がっているのはイリヤだけなのだが、シロウ以外にもミユと言う子供を拾っていた。

 

ミユは元は由緒正しい貴族の家の生まれだったのだが、その家が天の智慧研究会に協力していたためすぐさま解体された。

 

その時にキリツグが助け、イリヤと同い年だからと家族の一員にした。

 

「まぁ詳しい話は本人から聞くといいよ」

「そこは理解した。それで何故ここにいる」

「それはアリ」

「もちろん授業参観に決まってるでしょ!!」

 

シロウの頬が自然と釣り上がる。

 

キリツグとアイリスフィールはかなりの親バカで、何かイベントがあればかなり騒がしくなる。 【注】タイプミスと思われます

 

イリヤとミユの遊戯会の時は最先端の映像録画機などを用意していたほどだ。

 

もし学院でそんな姿を見せ、親だとバレればかなり恥ずかしい。だから黙っていた。

 

なのに何故か知っていた。

 

「誰から聞いたんだ?」

「《愚者》のグレン=レーダスだったかな」

 

多分面白半分か復讐でやったのだろう。確かにこれは効果的だったが、確実にシロウの逆鱗に触れている。 【注】後段の文章より、「触れ掛け」でなく「ベッタベタにタッチ」していると思われます

 

よし殺そう。今すぐ殺そう。

 

呪いがあれば今頃グレンは悶え苦しむ程に心の中で呪い続けていた。

 

「ねえねえシロウ。彼女の一人くらい出来た?せっかくの学院生活なんだから出来たよね?」 【注】誤変換です

「今は任務中だ、そんな戯言に現を抜かす場合では」

「もう。そんなんだから周りの皆が勘違いするのよ...はぁ...生粋の女たらしね」

「?そうなのか?」

 

シロウはイマイチ理解してないがかなりの女たらしだ。

 

妹の2人は完全にシロウに惚れていて、遊戯会の時にも3人ほど惚れさせていた。

 

それでもなお一向に相手からの好意に気づくことがない。

 

「まぁそれはいいとして」

 

してきたのはそっちだろと言う野暮なツッコミはしない。

 

「実はここにアリシア女王陛下が来ている」 【注】誤用です

「は?」

 

妹が増えたと聞いた時はキリツグの性格上仕方が無いと割り切れた、だがアリシア女王殿下が来ている......今一度言おう...は?

 

最悪アリシアもかなりの親バカだからお忍びで来ていてもおかしくない、だが問題はその後だった。

 

「それで『ルミアたんの匂いがァァァァ!!!』と言って走り去ってね。今何処にいるか分からないんだ」

 

なんでさ

 

一応変装はしているとの事だが、バレるのは時間の問題だろう。もしバレればルミアの事も一緒にバレる可能性がある。

 

何のために死んだと世間に公表したのか分かったものでは無い。

 

「それで今彼女が住んでい場所を聞きたい」

「ルミアのか?それだけでいいのか?」

「もちろんそれだけでいい。シロウにまで手伝って貰っては、護衛をしている意味が無いからね」

 

それもそうだなと近くにあった紙に、今いる場所からルミアが住んでいる場所への行き方を書くと、それをキリツグに渡す。

 

紙を受け取るとアイリスフィールを連れ、お茶代を机に置いて去っていく。

 

結局後でまた会うと思うと胃が痛くて仕方がなかった。

 

 

 

 

 

ルミアの下着を物色していたアリシアを捕獲し、外で軽く食事を取り学院へと向かう。

 

既にキリツグ以外の親もチラホラ見え、後は撮影場所を決めるだけだなと、アリシアをアイリに任せ一人クラスの周りを物色していた。

 

すると視界に1人の金髪の女が映り、相手も気づくと笑顔で近づき、

 

「何故ここに君がいる?不死の魔女(セリカ=アルフォネア)

「それはこちらのセリフだよ魔術師殺し(キリツグ=エミヤ)

 

セリカは手のひらをキリツグの顔の横に広げ、キリツグは懐から一瞬で出した銃口を向ける。

 

2人の間に殺伐とした空気が流れ、いつ戦い出すか分からない中、唐突に2人に衝撃を与える授業がはじまるチャイムがなる。 【注】タイプミスと思われます

 

「「な!」」

 

2人は見合うと、因縁はまた後にして、今は互いの息子の所に向かおうと決め、教室へと急ぐ。

 

2人が着いたのは丁度グレンの自己紹介が始まった所だった。

 

グレンはいつものだらけた服装とは違い、真面目にきっちりと着ているため、生徒達のあちらこちらから笑い声が聞こえる。

 

同じタイミングで到着したセリカの方を見ると、既に高性能映像録画機の設定を終わらせ起動させていた。

 

キリツグとしてはセリカに負ける訳にはいかないと、対抗するように数秒で高性能映像録画機を設定し録画を始める。

 

それを見ていたセリカと、高速でセッティングを終わらせたキリツグは互いに見合い「絶対に負けない」と心に誓った。 【注】脱字です また重複表現があります。ご確認ください

 

 

 

授業も進み後半に差し掛かるとキリツグが最初に動いた。

 

持ち運び出来る映像録画機を巧みに使い、セリカのいる位置より間近でシロウを撮影した。

 

それを見たセリカは自分も出来ると、さらに近づいて撮影する。

 

「真似をしないでくれないか?そう言っても所詮君は僕の真似しか出来ないしね」

「ハッハハ随分と面白い事を言うな、私がお前の真似?そんな面白い冗談が言えるようになっていたとはな」

「「あ?」」

 

やめてくれ今は授業参観だぞ。恥ずかしすぎる。

 

その2人の息子は心に思いながらも、注意する事が出来なかった。

 

映像録画機の手を止め数分間見つめあっていると、互いに高笑いを始める。

 

その高笑いが大きくなる度に、周りの空気の温度がどんどん下がるように感じていた。 【注】誤用です

 

「「ハハハハハ」」

「<ruby><rb>time alter──square accel</rb><rp>(</rp><rt>固有時制御・四倍速</rt><rp>)</rp></ruby>」 【注】終わり括弧の未記入

「『私の世界』─起動」

 

互いに自分だけが使用できる固有魔術を使用する。

 

セリカはラ=ティリカの時計を媒体にして、自分以外の時を完全に停止させる。

 

キリツグは自分の体内にシロウと同じタイプの結界を展開し、その結界内にある自分の身体の時間経過速度を四倍にして高速移動を可能としていた。

 

キリツグの使うそれは《タイム・アクセラレート》のデメリットを極限まで減らし、固有魔術にまで押し上げた物だ。

 

2人とも周りが気づくことが出来ないので、自由に撮影をする。

 

顔の目の前、全身の撮影、2人で一緒に撮影(相手の許可などなし)と言った具合で、その撮影タイムが終わると互いに元の位置に戻り片膝をつく。

 

「はぁ...はぁ...」

「ククク残念だったな!私はまだ1度使えるぞ!」

「なら僕も」

 

立ち上がり互いに魔術を使用した瞬間、2人の首にとてつもない衝撃が発生し一瞬で意識を失う。

 

「ごめんなさい迷惑をお掛けしました」

 

一瞬で意識を刈り取る離れ業をやってのけたアイリスフィールは、笑みを見せながら軽く膝をおり、2人に代わり謝罪をした。

 

 



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閑話:アリシアさんやっぱりアンタはスゲェよ

 

d_ o_ nさん、一つ一つ丁寧に誤字報告ありがとうございます。貴方様のおかげで前より読み易い文になりました。

心から感謝を申し上げます。

 

それとこの話をもって閑話を終了します。

─────────────────

2人が目を覚ました時には授業参観も後半に差し掛かり、外で魔術を使用して戦闘経験を積む実践系に移っていた。

 

アイリスフィールは2人が気絶している間にも一人映像録画機を止めておらず、ずっとシロウを写していた。

 

今日の授業では競技場を『荒地』の設定にしていて、足場はかなり悪く生徒と親も含め歩きづらそうにしている。

 

「私としてはこのような時がこないようにと思ってはいますが、生徒の皆様は魔術師です。魔術師であれば他者と戦う機会がないとは言いきれません」 【注】てにをはレベルですが……「~他者と戦う事がないとは~」等、代替表現を提案。不要であれば差し戻し下さい

 

いつものグレンを見ていれば背中がむず痒くてしかたのない、真面目な説明を聞く。

 

「本日は戦闘訓練用ゴーレムを相手に、魔術を使用しての戦闘訓練となります」

 

グレンは準備が万端の状態で停止しているゴーレムの肩を叩く。

 

「先生...ゴーレムの戦闘レベルはどれくらいですか?」

 

リンが恐る恐る手を挙げ質問する。

 

「そうですね...今回はレベル2でやりましょう」

 

ゴーレムのレベル2とは喧嘩慣れしたチンピラレベルだ。 【注】変換

レベル1だと一般的な成人男性。

レベル3だと途端に強さは跳ね上がり、帝国軍一般兵ほどある。

 

だが、生徒の一部はレベル2だと知るとブーイングを始める。

 

いつもならば渋々聞いているのだろうが、今日は親が来ている。親に少しでもカッコイイ姿を見せようとしているのだろう。

 

グレンは彼らの心も理解できる。だが、下手にレベルを上げると怪我をしかねない。だから合意は出来なかった。

 

それに便乗するようにアリシアが声を上げる。

 

「ゴーレムに危険は無いんですか?もし怪我をしてしまったら、どうしてくれるですかぁああ!!!」

「何かどっかで見た事が......まぁモンペには変わらねえか。はぁ...めんどくさ」

 

今はアリーと名乗っているアリシアに今回は安全だと説明を始めるも、なかなか納得してくれず、逆に他の親達も危ないの?と呟き始める。

 

グレンはまたため息を吐きながら生徒の親達に説明に四苦八苦する。

 

 

そんな中誰にもバレないようにコソコソと2人の生徒が移動していた。

 

「どうやってレベル上げるんだ?」

「確かここをこうやって...」

「何をしている?」

「「ひやぁっ!」」

 

カイとロッドはシロウの突然の声に驚いて、設定中の手を誤って動かしてしまう。

 

するとゴーレムの戦闘レベルは3に上がり、勝手に立ち上がり一番近くにいたカイとロッドに殴りかかる。

 

「「うわぁあああ!!」」

「リン、グレンを呼べ」

「ううん」

 

シロウは手元に夫婦剣を投影すると、ゴーレムの腕に上手く当てて直撃しないように逸らす。

 

「なにやってんだぁああ!!」

「「グレン先生...」」

「たくお前らは」

「グレンいい加減手を貸せ」

「シロウ、2人を頼むぞ」

「任せろ」

 

シロウが五秒から数え始め0と言い放つと、ゴーレムの腕に当てていた夫婦剣を離し、カイとロッドを抱えるその場から飛んで離れる。

 

グレンは高速で【グラビティ・コントロール】を三節で発動させると、振り下ろされるゴーレムの腕を躱しながら浮かび上がり、ゴーレムの頭に強烈なパンチを叩き込む。

 

殴ったグレンの腕からは骨が折れる音が鳴る。

 

それもそのはずだ、今のグレンは身体強化を行わず、素の状態で鉄の塊を殴ったのだ。シロウ以外であれば普通に折れる。

 

運が良かったのか、ゴーレムはその一撃で機能を停止し、倒れてから再び立ち上がる事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

「このバカがぁああ!!危険だからレベル上げるなって言ったよな!」

「ごめんなさい...」

「たく...怪我は無かったか?」

「俺達は大丈夫だけど、グレン先生の手が」

 

ロッドの言った通りグレンの手は見るだけで痛々しく紫色に腫れ上がっていた。

 

 

「別にこんなの平気だよ。それにこれなんかより、お前達の方が大事だからな」

「「先生...」」

 

グレンの痩せ我慢も限界が近づいてきたらしく、段々と顔が険しくなる。 【注】誤字です

それに気づいたルミアが急いで駆け寄り、治療魔術をかける。

 

その後も軽く一悶着あったが何も問題なく授業が終わった。

 

 

 

どうにかアリシアの正体もバレずに終わり、キリツグ達を見送るためにシロウは一緒に歩いていた。

 

アイリスフィールが馬車をつかまえアリシアと先に乗ると、キリツグはシロウにずっと持っていたアタッシュケースを渡す。 【注】脱字……と思います

 

「これは...まさか...」

「その通りだよ。今回はこれを渡すのも目的の一つだったんだ」

 

アタッシュケースを開けると、その中には20発の銃弾とキリツグが愛用しているトンプソン・コンテンダー。

 

そして特殊な雰囲気を纏っている、青と金の色が入り混じった鞘。

 

それらは全てここに来る前にシロウがキリツグへと注文していた物だった。

 

「これは起源弾だと分かるが、この鞘のような物は何だ?」

「それは所有者に強力な治癒を授ける古代魔術(エインシャント)がかかっている魔法遺産(アーティファクト)だよ。名前は全て遠き理想郷(アヴァロン)

 

キリツグは随分と簡単に言ってのけているが、基本魔法遺産(アーティファクト)など持っていれば他人に渡す何てしない。

 

それをキリツグはシロウに普通に差し出した。

 

ここまで来ると只の親バカではないような気がしてくる。

 

シロウは断ろうとしたが、将来的にかなりの強者と戦う可能性があるので、貰えるものは貰おうと三つとも受け取った。

 

 

それを満足そうに見るとキリツグは何も言わずに馬車に乗る。

 

この2人には別れの言葉など必要ないようだ......

 

 

▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 

「はぁエルミアナァァ......可愛かった......アイリさん写真は」

「えっと...これで良かったのかしら?」

「それであってるよ」

 

アイリスフィールは恐る恐るボタンを数回押すと、大きな機械的な音が鳴りエルミアナの映し出された写真が出てくる。 【注】脱字……と思います

 

それも数枚に留まらず、百枚程出てきていた。

 

それを大事そうに一枚一枚確認し、折れないようにケースへと丁寧にいれる。

 

「良かったのキリツグ?」

「ふぅ......まぁね。きっとシロウはアレを上手く使えるはずだよ」

 

僕は使えなかったからねと、肩をすくめて笑う。

 

キリツグは全て遠き理想郷を使おうとしたが、何故か反応せず全く使えなかったのでシロウに渡したのだ。

 

シロウも使えなければ元も子もないのだが、何故か使えると確証のない自信があった。

 

そして、キリツグ達はアリシアをバレないように王室に戻すと、可愛い娘達の待つ家へと帰宅する。



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許嫁が気に入らない

魔法科高校の劣等生映画見てきました。

 

とっても素晴らしく、正直感想だけで2000文字行きそうなので簡単に語ります。

 

さすおに

 

追記タイトル忘れてた。

────────────────────

─顔を合わせればすぐこれか...

 

シロウは呆れながら思っていた。

 

グレンとシスティーナが朝合流すると、何故か軽く口論を始め結局システィーナが魔術を放ちまくる喧嘩になる。

 

その光景はすでに日常になりかけていたせいで、つい注意を怠ってしまいグレンに迫る馬車に気づくのが遅れる。

 

「グレン!後ろだ!!!」

「なっ、ちょ、」

 

馬車をどうにか躱そうと身体をそる。馬車も躱すためにグレンの横で曲がったので馬車は当たらずにすんだが、システィーナの手から放たれた【ショック・ボルト】がグレンの背中に直撃する。

 

「あばばばばばば」

「先生ぇえ!!!!」

 

【ショック・ボルト】が直撃したグレンはその場に倒れ、ビクビクと身体が跳ねている。

 

そんな状態のグレンに駆け寄り身体を揺するも、最近段々と強くなっているシスティーナの【ショック・ボルト】が直撃したせいで筋肉が上手く動かない。

 

 

「らいじょうふたしほねほ」

「ううぅ私のせいで...」

 

走行していると馬車のドアが開く音がなり、誰かが降りてくる。

 

システィーナとしては自分のせいだと理解しているので、とりあえずグレンを放置して、駆け寄り頭を必死に下げる。

 

それに対して相手は無言を貫く。

 

─相当怒ってる。だって突然飛び出したんだもの...うぅどうしよう......

 

 

どうすれば許してくれるのだろうと必死に心の中で考えていると、相手から顔を上げてくださいと言われる。

 

 

その言うことに従い恐る恐る顔を上げると、そこには昔と変わらない笑顔を向けてくれているレオス=クライトスがいた。

 

見た目はグレンと違いイケメンの分類に入り、その笑みは近くにいる女性を落としていく、そんなレオスを見たシロウは警戒すべき存在だと思ってしまった。

 

 

 

 

レオス=クライトス

クライトス伯爵家の三男坊にして、初代クライトス魔術学院の学長を務めていて、次期クライトス家の当主、最近では軍用魔術に関する画期的な研究成果や論文をいくつも発表している。

 

言ってしまえば勝ち組の人間だろう。

 

そんな人間と許嫁なのがシスティーナだった。普通に考えればおめでたい事だ。

だが、シロウには微かな不安があった。

 

最初にあった時のあの不自然さ、それの理由が分からないためおめでとうと言葉をかけることは出来ない。

 

─それに何故あんな優秀な奴が、わざわざここに来る。自分の学院もあるだろうに......最近事件が多いせいか、妙に神経質になっているな。

 

シロウが思考に耽っている間にレオスの授業が始まる。

 

現在レオスの講義が行われる大講義室は全席満席、立ち見の生徒で隙間が全くないと言っていい。

 

期待に期待されたレオスの授業は、生徒にとっては斬新で、まるでグレンのような授業だった。

 

内容は如何にして今の軍用魔術の形になったのか。生徒に軍用魔術を教えることは禁止されているので、呪文は教えることが出来ない。

 

そこで、分かりなく丁寧に軍用魔術について説明している。だが、以下に言い方を変えたりしても、軍用魔術とは言ってしまえば人殺しの道具に過ぎない。

 

そんな物を生徒に説明するなど、子供の目の前で包丁を使って何か食材を切るのと同じ事だ。

 

怪しい。そんな思いがシロウの心の中で大きくなっていく。

 

 

 

 

レオスは授業を終えると、システィーナを連れ外に出る。

 

それの後を追うようにグレン、ルミア、リィエル、シロウが気配を消して尾行する。

 

中庭につくと草陰に身を隠して、何を話しているのかに聞き耳を立てる。

 

「何で俺が人の恋路を除き見なくちゃいけないんだよ」

「ごめんなさい先生。でも何だかあの人が凄い気になって」

「お?なんだなんだルミアまで惚れちまったか?」

「ち、違いますよ!!!それに好きな人なら...」

「お、おう」

 

ルミアとグレンが遊んでいる間にも、2人の会話は続く。

 

レオスは思い切ってシスティーナに告白するも、キッパリと断る。

 

その理由として「メルガリウスの天空城」の謎を解く約束をおじとしていると言うと、途端にレオスの纏っていた雰囲気が変わる。

 

レオスは「夢」と言い切った。

 

システィーナがどれだけ調べているのか、どれだけ時間を使っているのか、それを知らない相手が「夢」と言い切った。

 

それを聞いたグレンの表情が曇る。

と、同時に膝の上に置いていた手に力が入る。

 

さらには「人生の無駄」だと言い放つ。

 

グレンを見ると今にも飛びかかりそうな勢いがあった。

 

「グレン待て」

「いいや待てね。あいつはよりにも寄って夢を無駄だって言いやがった。あいつの白猫の人生を全て否定しやがった......そんな奴許せねえよ」

 

グレンの声には怒気が混じっていた。

 

「はぁ...仕方ないか......グレンいい案がある」

「なんだよそれ?」

「彼氏だと言え。ついでにキスまで奪ったと言えば、確実に決闘になる。只の魔術師が相手ならば、グレンの方が強いだろ?」

「そりゃそうだな」

 

よし、と手を身体の前でぶつけ合わせ、指を数回鳴らすとどこぞの合コン番組みたいに「ちょっとまった!」と飛び出していった。

 

 

その後はトントン拍子で話は進み、互いに決闘することになった。

 

生徒達の代理戦という形で行われる。

 

 



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簡単に強くなる方法。デメリットが無いとは言っていない

AT-Xさんのロクでなし魔術講師と禁忌教典12話、最終回丁度の時間に投稿致しました。

 

是非とも2期決定!!と出してもらいたい物です。

 

それと今回は数人ほどキャラ崩壊してしまいました。何故こうなったか自分でもよく分かりません。

─────────────────

「てことで、俺が白猫とくっついて逆玉の輿になりたいから、魔道兵団戦の訓練を今からしようと思う」

「「「「「ふっざけんなぁああああああ!!!!」」」」」

 

突然のグレンのぶっちゃけに生徒達は怒鳴り声をあげる。

 

まぁそれも当たり前の反応だろう。突然授業の内容も変えられ、さらには戦えと。どんな馬鹿な教師でもここまで酷いものは無い。

 

生徒達の反論をグレンはのらりくらりといなして、結局授業は魔道兵団戦の物となった。

 

だが戦うにしても大きな問題があった。

 

それはクラスのレベルの差だ。

 

グレンの率いるクラスにはまともに戦えるのは極少人数だ。

対してレオスの臨時担当クラスはこの学園の優秀生が集まり、ハーレーのクラスの次に優秀となっている。

 

これだけを聞けば勝つのは誰しもレオスと答える。もしグレンを知っている者がいるなら勝者は分からないと答えるだろう。グレンとは少しでも勝てる要素があれば、それを現実にする力がある。

 

「ギイブル、カッシュ、セシル。3人は私に付いてこい」

「何を言っているんだ君は」

「俺?」

「僕?」

 

それぞれが信じられないと言う顔をする。

 

カッシュとセシルは自分がそんなという感じだが、ギイブルは君に教わる事など無いといった感じだ。

 

「3人だけでいいのか?」

「あぁ3人だけでいい。本番までに使えるように仕上げるだけだ」

 

手首を回して音を鳴らした時の顔は『愉悦』と物語る笑みが浮かんでいた。

 

 

この3人は本番までの特訓の日々は正しく地獄だった。

 

ギイブルはひたすらシロウと1体1を行い。

カッシュは机に座り戦術を頭に詰め込む。

セシルは遠くからの狙撃。

 

「ふは...あはははははは!!」

「D地点からB地点にかけて攻めあげ、その間にC地点にいた仲間が...」

「目標に狙いを定めて狙撃。目標に狙いを定めて狙撃。目標に狙いを...」

「これ大丈夫か?」

「大丈夫だ問題ない」

 

精神が少しばかりおかしくなっているような気がするも、今は貴重な戦力だと自分に言い聞かせる。

 

 

勝負に勝つにはとりあえず腹ごしらえからだと、朝から豪華なメニューが並んでいた。

 

カツ丼、パスタ、ハムサンド等々シロウの知りうるゲン担ぎの食べ物が教室中に広がっていた。

 

「勝負飯だ。心して食すがいい」

「「「「「うぉおおおおおお!!!!」」」」」

 

生徒達は大声を上げて机に置かれている様々な料理を食べる。

 

料理を一つ食べるために身体中の細胞が活性化したように感じられ、もっともっとと食欲が上がっていき、膨大な料理の数々が消えていく。

 

食事が終わった頃には全員のお腹は膨れ上がり、身体が重いと椅子に座り込んでいた。

 

「げぶ...お前ら......今一度作戦を...」

 

お腹いっぱいで上手く喋れないが、消化の意味も兼ねて教壇の上に立つ。

 

すでに何回も確認した作戦を改めてもう一度する。

 

グレンの説明が終わるとカッシュが手を上げ発言する。

 

「グレン先生。現場の判断は俺がして大丈夫ですか?」

「別にいいけど出来んのかカッシュ?」

「任せてください。ギイブル」

「分かっているセシルの護衛だろ」

「セシル」

「うん大丈夫。場所の地形、今日の湿度・温度全部頭に入ってる」

「ならよし。作戦通りやり切るぞ!」

「「「「「「「おーー!!」」」」」」」

 

生徒全員の声が学園中に響き渡った。

 

全員の士気が高いままその日は午後になり、会場に行くとハーレーから今回の戦闘について説明が始まる。

 

「知っての通り、使用できる魔術は殺傷性の低い攻撃呪文(アサルト・スペル)のみだ。我々審判員から致命的な負傷を負ったと判断された者は『戦死』となる。もし怪我をした場合はすぐに教師を呼べ、医務室に勤務している法医師先生も、この場に来ている」

「皆さん遠慮なく言ってくださいね」

 

今回の戦闘は使用魔術が縛られているので、リィエルの錬金術、シロウの投影魔術が封印されている。

 

そのため力押しでの攻撃が通用しない。

 

今回は指揮官である教師がやられれば負ける勝負。 護衛としてはリィエルとシロウは弱い。だからこそカッシュに戦術を詰め込み、生徒達を上手く扱えるようにした。

 

「レオス先生!本日は大変期待しております。あの魔術師としての誇りもない最低男に一泡吹かせてください」

「はいおまかせください。決して彼には負けられない理由がありますから」

「それは俺もそうだぜ」

 

2人の間に火花が飛び交い、ハーレーの宣言と共に全員が指定された場所につく。

 

レオスは北東にある環状列石遺跡に、グレンは南西にある環状列石遺跡に。

 

両陣営が着いたことを確認して、十分間の話し合いを設けた後、ハーレーは試合の開始の空砲を鳴らす。

 

 

 



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シロウの弟子はかなり強い

やっちまったぜ、

─────────────────

試合の開始と共にグレン達は独特な形へと変化する。

 

この試合では真ん中が敵の本拠地に1番近いせいで、大体は真ん中に戦力が集まる傾向がある。

 

だからと言って決して真ん中以外の両サイドが弱いと言う訳ではない。なのにも関わらず、両サイドには相手に見えるように一人づつしか立っていなかった。

 

 

「あっちは大丈夫だろうか」

 

シロウが自ら鍛えた3人の事を考えていると、一人だと油断している生徒が三人一組(スリーマンセル)一戦術単位(ワンユニット)の形で接近してくる。

 

だが幾ら何でも馬鹿だろとしか言えない。

 

例え敵が1人でも戦場で警戒を怠るなど自殺志願者のすることだ。

 

「《雷精の紫》」

 

攻撃魔術の詠唱を完成させる前に、一瞬で懐に飛び込むと、そのままの勢いで肘を相手の腹部に叩き込む。

 

その技はシロウの使用する八極拳の基本的な技『肘撃(ちゅうげき)』と呼ばれる物で、使う者によっては岩をも粉砕する威力となる。

 

無論シロウはその域に達しているが、手加減として少しばかり骨を砕いた。

 

仲間が吹き飛ばされた事に気づいたが、あまりの早業に周りにいた仲間は何が起きたか理解出来ず唖然としている。

 

 

もしこれが軍隊の正式な人間であればすぐに状況判断して、立ち直るのだろうがそこは学院生、そこまで早い切り替えなど出来ない。そして、そんな隙があればシロウにとっては充分事足りる。

 

地面を強く踏みつけ、掌を2人の腹部に叩き込む。

 

震脚はその独特な踏み込むで全ての攻撃の威力を底上げする、それを今回は川掌と合わせまた骨を砕く。

 

2人は血反吐を出してその場に倒れ込む。

 

後ろに控えていた6人は顔を真っ青にして逃げ帰る。

 

「リィエルは大丈夫だろう......セシル達は少し心配だな。確認に行くか」

 

シロウはその場に佇み敵を威嚇していた。

 

 

 

シロウが撃退したのと同時刻、真ん中の森争奪戦では衝撃的な事が起きていた。

 

「どこからどこから狙撃をっ...」

「な!バイル!クソ!隠れろ!!!」

 

本来なら届くはずのない狙撃が届いているせいで、レオス軍は上手く攻められていなかった。

 

 

 

ありえない長距離狙撃を行っているセシルは一人丘の上で、魔法陣の上にうつ伏せになっていた。

 

「一人......隠れられた......なら岩ごと砕く」

 

敵が隠れている岩の部分に狙いを定めると、詠唱を始める。

 

「《雷精よ 紫電の衝撃もって 打ち倒せ》─!」

 

セシルによって綴られた三節の【ショック・ボルト】は、本来届くはずのない森を超え敵の隠れている岩に直撃して、岩を破壊して隠れていた敵を吹き飛ばす。

 

吹き飛ばされ隠れる場所のなくなった敵に対して、今度は一節の詠唱の 【ショック・ボルト】で意識を刈り取る。

 

 

本来なら届かないのに何故届くのか、それほセシルの下にある魔法陣に秘密がある。

 

この魔法陣はシロウの知識を総動員した作られた、魔術能力を上昇させるおまじないのような物だった。

 

そのおかげで届くのだが、当たり前のようにデメリットがある。それは魔法陣から出ると著しく体力を持ってかれ、時には意識を失う場合がある。

 

なのでセシルは狙撃にしか力を込めていない。

 

そも狙撃者とは一度狙撃したら、すぐにその場から離れ違う場所から狙撃を始め、位置を悟られないようにするのがセオリーである。それが出来ないセシルは普通ならビクビクとしているはずなのだが、セシルは近づいてくる敵には見向きもせず中央地点の者ばかりを狙撃する。

 

 

セシルの狙撃の位置を特定して急いでその場に急行していたレオスの生徒達6人は、鬱蒼と生い茂る草木を掻き分けながら進んでいた。

 

「そろそろのはずだ。多分護衛が数人いるはずだ気をつけろ」

「確かに警戒するのはいい事だけど、少し緊張し過ぎだと思うよ」

 

突然前方から聞こえる男の声に驚愕するも、とりあえずその場にある木に姿を隠す。

 

隠れた6人が6人とも近くに他の男がいないか確認する。

 

「安心していいよ。ここは僕1人だけだ」

 

敵の言葉をそう易々と鵜呑みにするほど馬鹿ではないのか、男の声を聞きつつも当たりを探る。

 

結局誰も他にいない事が分かると、木から出て声の聞こえた方へと向かう。

 

そこには、森には似合わない人工的な豪華な椅子に座って、メガネをかけ直している男子生徒ギイブルがいた。

 

「ならお前を倒せばいいんだな」

「その通りだよ」

「ならば、大人しく倒れろ!《雷精の紫電よ》─!!」

 

他の5人と比べ1人だけ実力の高さが伺える男が、一節で【ショック・ボルト】を作り放つ。それをギイブルは鼻で笑う。

 

「《遅い》─」

 

ギイブルはたったそのフレーズで【ショック・ボルト】を起動させた。

 

システィーナの得意とする技だが、ギイブルはそれをシロウとの過酷な戦闘の時に使えるようにした。いや使えなれば死んでいたと言った方がいい。

 

今でもあの戦闘を思い出すと吐き気がするが、今は過去のあの戦闘に感謝していた。

 

ギイブルに向かってきている【ショック・ボルト】は簡単に躱され、ギイブルの放った方は敵に直撃して意識を刈り取る。

 

「な!」

「《跪け》─」

 

ギイブルの手から投げられた圧縮空気球が、5人の近くで炸裂して、5人とも意識を刈り取る。

 

遊び相手がいなくなったギイブルは、フカフカの椅子に腰を降ろすとため息を吐いて空を見上げる。

 



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いくら誤魔化してもすぐ化けの皮が剥がれる

 

シロウさん影薄...

──────────────────

 

サイドでは散々な結果になっているレオス軍だが、真ん中ではかなり攻めていた。

 

「なっ!危な!」

「外したか...狙撃手は?」

「大丈夫だ、まだ囮は効いてる」

 

レオスは狙撃手が倒せないと分かれば、新たな作戦として一つの班を身代わりにして、その間に他の班で攻めると言う手に出た。

 

最悪引っかからないと思っていたのだが、思いの外囮に引っかかり、動かない、狙撃場所も分かる、となれば防ぐのはそう難しくないので囮になる事が出来た。

 

そして、攻め込んだ先ではグレンが数人の生徒と一緒にいたので、すぐさま数人の生徒を倒すとグレンに魔術を放つ。

 

グレンは飛んでくる魔術を、ギリギリで躱したり、ジャンプして躱してみたりと、アクロバティックな動きで全て避けていた。

 

グレンが余裕そうな顔で避ける度に、苛立ちが積もっていく。

 

「追い詰めたぞ...」

 

レオス軍はやっとの事で大きな岩の場所に追い込み、グレンの逃げ道を完全に奪った。

 

さすがのグレンも逃げ道が無ければ逃げられない。

 

レオス軍は死刑宣告をするかのようにゆっくりと腕を水平にして詠唱をする。

 

「《雷精の」

「今だやれ!」

 

突然カッシュの声が辺りに響き渡ると、レオス軍達を囲んでいた木々が倒れ、大きな土煙を舞いあげると共に、四角く木々が囲み逃げ道を奪う。

 

一瞬で視界が奪われ、土煙が上がり息も思う存分出来ない。そんな状況になれば到底魔術を通常通り使える者などいない。

 

急のことに何も出来なくなっているレオス軍に対してカッシュは追い打ちをかける。

 

「一班撃て!」

 

カッシュの掛け声に反応して隠れていた7人程が木の上に立つと、それぞれが木に登る前に詠唱していた【スタン・ボール】を木で囲んでいる空間に適当に投げる。

 

投げ終わった生徒は木から降り、後ろにいた二班が代わりに木に登り詠唱をしていた【スタン・ボール】を放つ。

 

また二班が降りて、詠唱を終わらせている一班が乗って【スタン・ボール】を放つ。

 

これをもう1回二班が行うと、攻撃の手を止め中の様子を見るために【ゲイル・ブロウ】で土煙を吹き飛ばす。

 

すると中には気絶して倒れている多数のレオス軍がいた。

 

カッシュの見事な作戦は見事成功して、まとめて大量の戦力を奪った。

 

 

▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 

「何故だ!」

 

レオスは何故自分が負けているのか理解できないと、地面に落ちていた小石を蹴り飛ばす。

 

蹴り飛ばされた小石は壁を数回バウンドすると、窓ガラスの無い窓から外へと飛び出る。

 

いつまでもぐずっていても仕方が無いと、次の行動に移る。

 

今出ている生徒達を全員後退させて防御の体制をとる。

 

そも戦とは基本攻撃より防御の方がしやすいのだ。

 

防御とは相手が攻められないと思わせればいい。例えば自爆特攻などがそうだろう。下手に攻めれば巻き添えをうけると。

 

しかし最近の戦では強力な何かによって、いきなり敵の本拠地を叩くなどが増えている。

 

今回は嬉しい事に使用できる魔術は制限されている。いくら強い奴がいるとしても、使えるのは初級魔術。威力は高が知れている。

 

数で攻めれば落とす事など容易い。

 

だからこそ攻めてくるであろうグレンに対抗するために防御の姿勢をとったのだが、いくら待てど一向に攻めてこない。と言うより攻める気配がない。

 

「何が...」

 

レオスはグレンの行動が理解出来なかった。

 

 

 

今回の戦いはレオスが勝てばシスティーナがレオスの物。グレンが勝てばグレンの物。では、引き分けは?

 

引き分けは誰の物にもならない。

 

グレンはレオスの物にならなければいいと考えているので、下手に攻めてカウンターで負けるより、引き分けにして誰の物にもなら無い方法を選択した。

 

では引き分けの条件とは?

それは互いの戦力損耗率が80%を超えた場合。

もう一つがあまりにも長時間に及ぶ戦闘になった場合のどれかだ。

 

そして今回はその後者の長時間戦闘にて決着した。

 

 

 

 

 

戦いが終わると最初にいた場所に全員集まってきているのだが、その雰囲気はまるっきり違っていた。

 

グレン達の方は良くやったと和気あいあいとしているのだが、レオスは生徒のせいにして怒鳴り散らしていた。

 

「おいおい、怒るのはお門違いだろ?」

「うるさい!君に何が分かる!」

「そうかよ...ん?お前顔色が」

「話をそらすな!」

 

レオスの顔色は始めてあった時よりも悪く、その怒鳴り散らす様は初めの頃が幻想だったのでは?と思う程見違えていた。

 

グレンは思惑通りになったので当初の目的通り互いに引こうと言うが、レオスが自身の右手につけていた手袋を投げつけ、当人同士での一体一となった。

 

 

 

その日の夜。

 

レオスの怪しさからシスティーナに何かをするのではと、ルミアの護衛をリィエルに任せ、自分は姿を隠しながらシスティーナを尾行していた。

 

学院の屋上への出入口でグレンと合流し、グレンの昔話が飛び出したタイミングでレオスが乱入してきた。

 

乱入したレオスはグレンの過去の秘密などを暴露して、切れたグレンに対して人工精霊(タルパ)を使用した。

 

人工精霊はグレンとは相性がかなり悪く、『愚者の世界』が通用しないため魔術で応戦しなければいけない。魔術戦...グレンにとっては致命的だ。

 

人工精霊が出てきた事で殆ど確信を得た様な物だが、最後のピースが足らないと同僚に連絡を取り『天使の塵(エンジェル・ダスト)』についての情報を手に入れる。

 

 



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油断したら負けると思え!

翌日行われるはずの決闘にグレンは姿を現さなかった。

 

その結果システィーナとレオスは結婚式を3日後に開催することになる。

 

何故グレンはそうなる事が分かっていてバックレたのか。それは、レオスに対抗するために大金を叩いて材料を買い、シロウと一緒に武器を作っていた。

 

グレンは帝国宮廷魔道士時代に戻ったような気分に苛まれていた。

 

「グレンいいのか?そんな姿を見せれば確実に避けられるぞ」

「あぁそうだろうな......だけどな、もう二度とセラの時みたいに何も出来ないってのが嫌なんだ」

「そうか......ならばあいつは私が殺すとしよう」

「ん?何か言ったか?」

「何も言っていないぞ。さてこういう時はパッパッと作れる簡単な食事の方がいいだろう」

 

シロウは覚悟を決めたグレンのために元気の出る料理を作り、自分も人を殺す覚悟を決めた。

 

 

 

瞬く間に3日経ち2人の結婚式はもう少しで始まる時刻になっていた。

 

襲撃するには一瞬の内にシスティーナを攫わなければならない。

 

今回行う作戦はグレンが突撃した後すぐにシロウが煙幕を張り、視界を奪った隙をついてシスティーナを強奪する。

 

かなり穴があるような作戦だが、これは確実に成功すると言ってもいい。何故ならレオスは、いやレオスに化けている『ジャティス=ロウファン』ならば見逃すだろう。

 

シロウは手に持つ煙幕を撒き散らす球を握る手に自然と力が入る。

 

遂に結婚式が始まり乱入がしやすいタイミングである誓いの口づけになった瞬間グレンが大声を上げて突撃して、そちらに気がそれた瞬間手に持つ球を地面に投げつけ、会場全体を覆う大量の煙を放つ。

 

「グレン捕獲したか?」

『したけど...暴れんな白猫!』

「とりあえず先に逃げろ、奴が何をするのか分かった物では無い。だから生徒の事は任せろ」

 

グレンを安心させる一言を放ち、通信を切るとまた別の人物へと通信する。

 

『おうおうやっと出番か?』

「あぁ頼むぞじいさん」

『よぉし!行くぞお前ら!』

 

通信していた相手『バーナード=ジェスター』は勝手に通信を切ると、教会内にいる生徒達の安全確保に動く。

 

彼らの戦闘能力は高く、ジャティスが使うであろう薬物人間では、到底勝てる相手ではないので安心して任せる事が出来た。

 

そして、シロウがバーナード達に守らせている間に、協会からグレンを追いかけているジャティスに追いつく。

 

「止まれ。さもなければすぐに殺す」

「おや?なるほど貴方が協力していたのですね」

「その薄気味悪い顔をやめろジャティス」

 

正体を看破されたジャティスは、姿を誤魔化すために使っていた魔術を解く。

 

解かると一年前と何ら変わっていない、自分の力に酔っているジャティスがいた。

 

「久しぶりだねシロウ」

「会いたくなど無かったがな!」

 

シロウは瞬時に夫婦剣を投影して跳躍して切りかかるも、ジャティスの手元から出てきた粉により人工精霊(タルパ)が生成されて、斬撃の身代わりとして切られる。

 

その事を予想していたシロウは夫婦剣を投擲するが、人工精霊(タルパ)が身代わりになる。

 

「甘い甘いよシロウ」

「それはお前だジャティス」

 

シロウの手には黒い弓と刀身部分が捻れている剣が握られていた。

 

宙に浮かんでいながらも体制を整え剣を弓に添えると矢のように長くなり、シロウの持ちうる武器の中で最強火力の一撃が放たれる。

 

我が骨子は捻れ狂う(I am the born of my sword)偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)

 

ここは狭い裏路地なので偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)では被害が大きくなるから使わないだろうと高を括っていたのだが、シロウは一切の躊躇いなくうち放った。

 

放たれた剣は辺りの建物事を破壊して進み、ジャティスを吸い込むように消し去る。

 

 

地面に着地したシロウはため息を一度吐くと投影していた弓を消し、破壊してしまった壁を見る。

 

もしジャティスを仕留め損なえば多大な被害が出るため、多少の損害は仕方が無いと思っていたのだが思ったよりも破壊してしまったと後悔していた。

 

崩れた瓦礫などを見ていると瓦礫に足を挟まれ痛がっている少女がいた。

 

「助けて...」

「少し待て今助ける」

 

少女の足を押しつぶしている岩を軽く衝撃を与えて壊す。

 

助けられた少女は痛い足を引きずりながら、壁を伝って起き上がると、

 

「ありがとうお兄ちゃん」

「私のせいでもあるからな、足の治療をする足を出せ」

 

少女はシロウの指示に従って足を出し、魔術による治療をかけて治す。

 

治った足を数回地面に当てて、完治したのを確認するために両足を上げてジャンプをして着地すると、治ったことに喜ぶ。

 

「ありがとうお兄ちゃん!」

「別にいいさ」

 

シロウはその場から去ろうと立ち上がり背を向けると、突然少女が呼び止め胸に飛び込む。

 

「何を...がハッ......血だと...」

 

飛び込んできた少女が離れ腹部を確認すると、何かに刺された跡がありそこから血が溢れてきていた。

 

刃物を刺したと思われる少女を見ると、目は虚ろになり足の近くに血塗れの包丁が落ちていた。

 

痛みに耐えきれずその場に蹲るように倒れる。

 

「あはははは!!どうだい?裏切られた感想は」

「最悪だな」

「うんうんとっても僕好みの感想だよ」

「ただ」

「ただ?」

「この程度で死ぬ私ではないな」

 

蹲っていたシロウは突然起き上がり地面に落ちている包丁を拾うと、下から上に動かすように切りかかる。

 

シロウの血も完全に止まっており、自由に動いているシロウに驚いたジャティスは、人工精霊(タルパ)を作れず右手を代わりに突き出す。

 

突き出された右手は手首のところから一刀両断され、右手の掌は宙を舞い手首からは血が流れる。

 

「騙したな!」

「君も騙しただろ?」

 

シロウは包丁を突っ立っている少女の眉間目掛けて投げ、眉間を貫くと夫婦剣を投擲してゆっくりとその場に倒れているジャティスに近づく。

 

「観念しろ。捕まった後は分かるな」

「そうか......だがまだ僕は捕まるわけに《いかない》ー!」

 

シロウの視界を突然閃光が覆い少しの間視界を奪うと、ジャティスはグレンのいる方へと掛けていく。

 

目が完全に元に戻るまでその場で座り込んで待っている間に、油断したと自分を責めていた。

 



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禁忌教典って結局何?本なの?それとも何か魔術的なアレ?

 

 

目が完全に回復しグレン達が何処にいるのか高い場所に行こうとした時、周りの建物より高い物体が突如現れる。

 

それは姿は先程戦っていた物と姿が違うが、纏うオーラはジャティスの人工精霊(タルパ)と全く同じ物だった。

 

「そこか、ちっ、こんな時に」

 

シロウがグレン達に合流しようと足に力を込めた時、湧き出るように天使の塵(エンジェル・ダスト)によって死んだ者達が現れる。

 

数は20人ほどで性別年齢などはまちまち、手には包丁やハサミなどの日用品ばかり、この程度であれば簡単に片付ける事ができる。

 

だが、数が数なので時間はそこそこかかるだろう。それでもグレンの場所に行きジャティスを...悪を滅ぼさねばならない。

 

「死んだのだから土に還れ!」

 

夫婦剣を6本作り適当に投擲する。橢円形を描きながら回転し、死者の首を掻き切ろうとする。

 

死者は生前であれば考えられない運動神経を発揮し飛んでくる剣を巧みに躱す。

 

それもそのはずだ。彼らは生きていれば誰しもがかかっている制限を、死んでいる事で解除し身体を100%の力で扱うことが出来る。

 

シロウがそれを知らないはずがない。

 

死者が避けた先にはシロウが拳を突き出して構えており、そこに見事に飛んだ死者は上半身と下半身がバラバラになる。

 

バラされた死者から飛び散った血はシロウの服を赤く染め、白い髪は赤くなり禍々しさが出ていた。

 

「貴様らは確実にこの場で殺す」

 

空を舞っている夫婦剣はシロウの合図と共に爆発四散する。

 

その技はシロウの投影魔術の奥の手の一つでもある。

 

シロウの投影した剣は魔力が材料となっているので、一つ一つがとてつもない量の魔力を秘めている。それをシロウはあえてバランスを崩し爆発と言う形で攻撃する方法を編み出した。

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

一応リィエルもやろうと思えば出来るが、殴った方が確実と脳筋思考をしていた。

 

シロウは爆発が全員に届く完璧な状態にするため、さも適当に投げたようにして均等に死者達をバラケさせ、丁度全員に当たるタイミングで起動させた。

 

その威力は偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)には及ばないが、人を殺すには充分な威力だ。

 

夫婦剣が全て爆発すると、辺りの建物の壁に血や肉が飛び散り、シロウの足元に幼女の顔をが転がってくる。

 

死者を全て倒し終えグレン達のいる方を見ると、巨大な人工精霊(タルパ)は空高く移動していてジャティスに完全に逃げられたようだった。

 

「仕方ないか今はグレンの所に向かうか」

 

その後グレン達と合流し、全身血塗れのシロウと会った2人が絶叫したのは言わずも理解できるだろう。

 

 

 

 

その日の夜、追撃を担当していたアルベルトと通信していた。

 

「逃げられたか...まぁ仕方がない。あいつはああ見えてかなり強い」

『だが逃がしたのは痛いな』

「それはいいだろう。それで本物のレオスはどうだ?」

 

 

シロウはジャティスが化けていると気づいた時にはすでに、アルベルト達には報告していた。

 

もし生きていればある程度の情報が手に入ると思ったからだ、だがジャティスがみすみすそんな真似をする訳がない。

 

それでももしかしたらと思ったが...

 

『すでに郊外で変死体で見つかった』

「最初からあまり期待はしていなかったが...情報はなしか...」

『いやそうでもない』

「なに?」

禁忌教典(アカシックレコード)そう奴の口から聞けた』

 

禁忌教典(アカシックレコード)』は天の智慧研究会の最終目標にもなっているものだ。

 

一体『禁忌教典(アカシックレコード)』とは何なのか、何が書いてあるのか、いまだ憶測の域を出ないが世界の根幹を揺るがすものでは無いかと考えられている。

 

二人の間に数分ばかり静寂が訪れると軽く別れの挨拶をすると通信を切る。

 

シロウは『禁忌教典(アカシックレコード)』の事が頭から離れずそのままふて寝のような感じで眠りにつく。

 

 

 

 

 

今回の起こった事件は全てジャティスが原因とされ、レオスの行動も全ては天使の塵(エンジェル・ダスト)で操られたからとされた。

 

ある意味間違っている気はしないが、もしかしたらアレがレオスの本当の姿だった可能性もあるので完全に否定することは出来ない。

 

そして、グレンはそんな悪の手からシスティーナを守るため結婚式会場から連れ出し、守り抜いたと有名人になった。

 

 

だがグレンは褒められるような事はしてないと、表彰も突っぱねいつも通りの緩い授業をする。

 

「テヘ☆遅れちゃった」

「何やってるですか貴方は!!!」

 

相手を挑発するなら完璧に成功するような、人をおちょくる表情をしているグレンはシスティーナとの夫婦漫才をしてから教卓に立つ。

 

「それじゃあ授業を始めるぞ。今日の授業は」

 

生徒達は一体グレンが何を言うのかと耳を立てる。過去にも数回無茶振りをしてきた事もあったので今度は何をするのかと思ったら、

 

「自習だ!!!」

 

黒板に白のチョークで大きく自習とかかれ、初めて授業をした時のような感じになり全員が笑い出す。

 

またすぐにシスティーナと仲良くイチャつくなど、あの事件がまるで嘘のような楽しい日となった。

 

 




最終回じゃないよ?
ネタじゃないよ?


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システィーナってかなりめんどくさいね

やったぜ遂にあのヘラクレスもどきと殺れる。
いやー楽しみだね。シロウの勇姿に乞うご期待。


 

 

平穏な日常に戻りいつも通り授業が始まる前、周りはいつも通りガヤガヤと騒いでいるが、とある一箇所だけは静まり返っていた。

 

「大丈夫だよシスティ。また次があるよ」

「うん分かってるよ....分かってるけど...へこむなぁ.....」

 

ルミアはシスティーナの肩を叩いた励ます。

 

リィエルは何と声をかければいいか分からずアタフタとしているが、シロウは何故落ち込んでいるのか知っていた。

 

今度魔術教授であるフォーゼル=ルフォイが、新たに発見された古代遺跡を調査するため団員を募集した。

 

システィーナは亡き祖父のため自分も行くのだと、団員に立候補者したのだが落選していた。

 

理由としては大きく分けて2つ。

 

第1に位階の不足。

基本遺跡調査とはそれなりの難易度のため、第三階梯(トレデ)以上の魔術師から選抜される。

対してシスティーナは第二階梯(デュオデ)なので選ばれるのは難しいだろう。

 

 

第2に調査遺跡の探索危険度の高さ。

探索危険度にはS・A・B・C・D・E・Fの七等級を、細分化した二十一段階評価で表される。

今回の調査遺跡は推定B++級。

よく準備された調査隊でも、死人が数人でるレベルだ。

 

この2点から落とされたとシロウは推理している。

 

 

システィーナの元気が少しづつ戻り始めた頃、ドアを勢いよく開け颯爽登場したグレンが、異常なテンションの高さで入ってくる。

 

この時のテンションをシロウは知っていた。確実に何か怪しい事を考えていた時だ。

 

 

「おはよう諸君!!今回は授業を始める前に超重大な発表をする!!」

 

黒板の近くに置かれていたチョークをつまみ上げ、大げさな動きで黒板に字を書き終えると、黒板に書いた文字を大きな声で言う。

 

「遺跡調査のメンバーを決めるぞ!!」

 

遺跡調査と聞けば誰しもが興奮する。

 

全員の反応を見たグレンは調査場所を発表する。

 

「何と今回はあの!『タウムの天文神殿』だ!!」

 

『タウムの天文神殿』は過去にも何度も調査され探索危険度はF級と生徒でも安全に探索する事が出来る。

 

しかし遺跡とは何が起きるのか分かった物では無い。過去にも難易度がE級で油断していたら、隠し扉が現れそこからB級まで一気に探索危険度が跳ね上がったと言う話も無くはない。

 

一応第三階梯(トレデ)の生徒を集めれば良いのに何故このクラスの生徒を集めるのか......金と言う答えに誰しもが辿り着く。

 

もし第三階梯(トレデ)を雇うとなるとお金が発生するが、ここの生徒であれば金は発生しない。

 

グレンならばめんどくさいと断る中この調査を受けた。となると今出回っている噂が真実味を帯びてくる。

 

「なぁ...グレン」

「ななんだよシロウ」

「私たちに隠し事をしていないか?例えば魔術研究の定期報告論文を書いていないとか」

「何故それを!いやーそんなことしらないなー」

「悲しいよグレン......リィエル」

「分かってる」

 

リィエルはグレンの後ろに回り込み、両手を掴みあげ拘束する。

手を拘束され抵抗しようにもリィエルの力が強く抜けられない。

 

身動きの取れないグレンに、シロウは夫婦剣を持って近づく。

 

「残念だよ......本当の事を話してくれれば......先に逝っててくれ」

「分かった分かった言います言わせてください」

 

数分後全てに罪を認め洗いざらい吐いたグレンは教卓の上で正座していた。

 

「それで尻拭いを私たちにか......随分と虫のいい話だな」

「.........」

「だが私たちの仲だ...生徒全員分の焼肉の奢りで手伝ってやるよ」

「く......分かった...」

 

生徒の全員は歓喜の声を上げる。その場にグレンは崩れ落ちて痛い出費になったと後悔する。

 

全員が自分の席にもどると、遺跡探索のメンバー続々と決まっていく。

 

・ルミア

・リィエル

・ギイブル

・セシル

・カッシュ

・テレサ

・リン

・ウェンディ

 

システィーナの内心はあまりにも早く決まっていく事に焦っていた。

 

─どうしよどうしよもうあと1人しか空いてない...お願いします神様。どうか私に

 

そんな願いが叶ったのかグレンはシスティーナの方を向く。

 

「あぁ...それとな最後の1人だが...なんつうかもう決めてんだ」

 

グレンはゆっくりと階段を登ってシスティーナに近づいていく。

 

その1本進む事にシスティーナの鼓動は加速していく。

 

そして、目の前でグレンは止まり

 

「シ」

 

システィーナの顔は春を迎えたように嬉しく笑顔になって

 

「シロウ来てくれ頼む」

「別に構わんが」

 

秋を迎えたように散っていく。

 

─どうせ、どうせそんなんなんだ...

 

肩を震わせて俯く。

 

グレンはキレた!やべぇどうしようと慌てるが、周りにいた生徒全員は分かっていた。

 

シロウはグレンにある行動をとるように言う。何故?と首を傾げるがいいからやれと蹴りを入れる。

 

「よしそれじゃあ後はシスティーナだな」

「......へ?」

「おいおい何驚いてんだよ、お前は隊長に決まってんだろ?嫌だと言っても連れてくからな。もしいかないなら単位を落としてやるよ」

 

システィーナは目元に溜まっていた涙を拭い、立ち上がりグレンを指さす。

 

「なんて卑怯なの単位を盾にするなんて、これは行かなくちゃだめね。次こんなことしたら訴えるわ。今回は仕方なく仕方なく」

 

グレンと含め全員が心の中で思った。

 

『めんどくせぇ~』

 

 



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シロウ君はスキル直感でもあるの?

現在とある事について考えています。
近々活動報告にてアンケートを取ることになるかも知れませんので、その時はよろしくお願いします。

それとテストが近いので1週間ほどおやすみとなります。誠に申し訳ありません。


 

 

時が過ぎるのは早くあっという間に遺跡探索の日となった。

 

各々がこの日のために準備をし、グレンも準備に余念は無く屋根上に二階席もある大型の貸し馬車を用意していて、皆はそれに意気揚々と乗りフェジテを発った。

 

順調に進みそよ風が背中を後押しするように吹き和気あいあいとしている中、シロウはただ1人神妙な顔つきでいる。

 

─何故だか嫌な予感がする。今日は安全はずだ...だがなんだこの安心できない気持ちは......

 

謎の不安に当てられキリツグから受け取った、銃と普通の弾と起源弾を入れたケースを大事そうに掴んでいた。

 

 

道もかなり進み皆は暇になったのか遊びようにグレンが持ってきていたトランプで賭け事をしている。

 

かなり盛り上がっているようでかなり騒がしい。

 

「まさかセリカもいるとはな。息子が心配だったか?」

「くくく、気づいていたのか。まぁお前なら気づいているとは思っていたがな、だがまだ明かすなよ。明かす時はかっこよくしたいからな」

「邪魔しないようにするよ」

 

手を振り御者に化けているセリカから離れ、椅子に座り手を組んで眠りに入る。

 

 

数十分もしていると何やら騒がしくなり自然と目を覚ます。

 

「うぅ...ん......どうかしたのか?システィーナ」

「良かった、起きたのね。問題が起きたの」

 

システィーナの指示するように外を見ると先程まで走っていた整備された道ではなく、馬車一つが通る程度には開けている森にいた。

 

近年では蒸気機関も開発され蒸気機関車が移動手段として現れたが、未だに一部でしか採用されておらず基本馬車が移動手段となっていた。

 

そして、その馬車では国がしっかりと整備した道であれば安全性が確保されているが、少し道を外れ森に入ると魔獣が現れ危険度が格段と上がる。

 

ここら辺には危険な魔獣の報告例はないが、完全に安全だと言いきれない。

 

やはりと言うべきか草むらを揺らす獣達が見える。シロウですら舌を巻く速度で『シャドー・ウルフ』十数匹は馬車を囲む。

 

『シャドー・ウルフ』には特殊な能力が備わっており、その能力とは『恐怖察知』である。

 

シャドー・ウルフ達は、自分達に向けられる恐怖の感情に敏感に反応する。その反応で襲うか襲わないかを決める。

 

システィーナはその特性を知っていたので必死に皆に安心を促すが、彼らは魔獣など見るのも初めてだ。それでいきなり恐怖するなとは無理に近い。

 

シャドー・ウルフ達は襲っていいとは判断したのか囲っていた円をゆっくりと縮めてくる。

 

そこでグレンは外に飛び出て魔獣達を退治してやろうとしたが、着地した瞬間小石に躓き足首をひねる。

 

「うぎゃあ!!」

「カッコつけるからよ!こうなったらシロウ」

「任せろ」

 

シロウはかっこよく空に飛び上がってグレンとは違い綺麗に着地をすると、グレンの服の裾にひっかかり転倒し足首をひねる。

 

「ぐわぁ!!」

「なんでそうなるのよ!!!!」

 

まさかのシロウのミスに大声を上げる。

 

弁明をするチャンスがあるのならば決して偶然起きたのではなく、必然だと言いたい事だろう。なにせセリカと約束をしたからだ邪魔はしないと。

 

銃を抜こうとしていたグレンの肩に手を置いて指を御者に指すと、一瞬驚いた顔をしてため息を吐く。

 

御者は手に抜き身の片手半剣(バスタードソード)を持っていた。

 

「いたんなら俺の出る幕ねえじゃねえかよ。てか知ってたろシロウ」

「まぁな別に言わなくても変わらんかっただろ?」

「ちぇっ、まあいいか馬車に戻って観戦といくか」

 

グレンとシロウは馬車に戻ると腰を下ろし観戦を始める。そんな2人に何で戻ってきたのと説教を始めようするシスティーナに、いいから黙って見とけといってセリカの活躍を観戦する。

 

システィーナが瞬きをした瞬間、2匹の魔獣が叫び声を上げて血を撒き散らして転がっていく。

 

何がと言葉を言う前に真後ろの方で魔獣の断末魔が聞こえる。

そっちを向いたら今度は前で断末魔と首が追いつかない。

 

その殆どが倒され残りが4匹となった所でやっと首が追いつき、その剣技の凄まじさを目撃する。

 

鎧袖一触(がいしゆういつしょく)─一呼吸の間に放たれたほぼ同時に放たれた4つの斬撃が、4匹の魔獣が宙を舞う。

 

「なんて剣技なの...」

「違うぞシスティーナ、あれは魔術だ。白魔改【ロード・エクスペリアンス】物品に蓄積された思念と記憶を読み取り、自身に一時的に憑依させる魔術だ。あの武器は帝国史上最強と謳われた剣士である女性の剣でな、それを使って倒したのさ」

 

システィーナの空いた口は塞がらない。

 

シロウの説明が本当ならばそれは『白魔儀』─儀式魔術なのだ。だが、それを儀式を行わずに使っていたのだ。

 

一体誰がそんな事を...そう思っていたら御者さんは深く被っていたフードを取り素顔を見せる。

 

風になびく綺麗な金髪、ゴスロリチックな服装。

 

「まさかこんな早くバレるとはな」

 

学園最強の教授セリカが剣を肩に乗せて、ドヤ顔でこちらを見ていた。

 



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お風呂でのイベントは大事

「いやーごめんごめん。別にお前らを怖がらせるつもりは無かったんだ。こっちから行ったほうが近道だったんだ」

「そうだったんですか」

「それと私も同行してやるよ」

 

セリカは妖艶な笑みを浮かべながら申告する。

 

周りにいた生徒達は世界最強であるセリカの申し出に喜ぶ。確かにこれから向う遺跡は危険度が低いといえ、危険がゼロかと言われればそれは無い。

 

その事も考えると精神的に安心度が増すのが分かるので、拒否することなく一緒に行ってもらう事にする。

 

 

 

グレンとシロウは荷馬車の方に行ってしまったセリカの代わりに、馬たちの手綱を握っていた。

 

「なぁシロウいつから知ってた?」

「ふむ......最初からとしか」

 

グレンはため息を吐きながら馬たちが脱線しないように扱いながら、荷馬車の中に流れる険悪な雰囲気がどうにかならないかなと思うが、めんどくせと考えるのをやめた。

 

 

タウムの天文神殿に近づくと荷馬車の雰囲気もかなり和み、笑い声などが聞こえてくる。

 

少し楽しそうで仲間に入りたいとウズウズするが、シロウに馬の手綱を握ってろといい行かせないようにする。

 

そのまま進み日が傾き始めた頃には神殿が見え始める。

 

その全貌は石で造られた巨大な半球体の本殿。それを囲むように連なる無数の柱。石には幾何学紋様が刻まれている。

 

とりあえず探索は次の日にしてシロウお手製の料理で腹を満たし休息をとる。

 

そして、翌日念のために何人か生徒を野営場に待機させ、グレン達は探索へと乗り出す。

 

探索に繰り出したグレン達を歓迎したのは謎のモンスター達だ。

その姿はまるで人を小さくしたようで、妖精と言えば分かりやすいだろう。

 

そんな妖精にセシルは躊躇いなく狙撃する。

 

「1......2......3...次は?」

「ふむ、さらにその奥110、85数は3」

「了解...《撃ち滅ぼす》」

 

今回使うのは【ショック・ボルト】ではなく、妖精や精霊などの敵にダメージを与えられる魔術【マジック・パレット】を放つ。

 

たった1度の詠唱で妖精の数丁度の数玉を作り的確に当てて滅ぼしていく。

 

「なかなかやるな」

「まぁシロウが直々に特訓したからな」

「全段着弾を確認した。セシル狙撃を終わらせろ」

「了解......うーーん終わった」

 

セシルは狙撃をしていた時の無表情の顔から、いつもの元気な笑顔を浮かべる姿に戻り狙撃する時地面に這いつくばっていたので、身体の筋肉を解くようにのびをする。

 

「私出番ない」

「仕方ないよリィエル」

「うんアレは無理よ」

 

リィエルは出番が無く剣を振るえなかったのが不満なのか少し不貞腐れたように頬を膨らませる。

 

一応セシル以外も攻撃をするが倒せたのは数人だけ、近接戦しか出来ない奴は到底倒す事はできなかった。

 

その後も時折妖精達は湧き出てくるが、セリカが一瞬で消したり、我慢の限界になったリィエルが切り殺したりして進んでいた。

 

全員はすでに公開されている地図を頼りに、第一祭儀場のあるとされる場所へと向う。

 

ようやく第一祭儀場に付くと、念のためにグレンが先に中へと入る。

 

「大丈夫だルミア。ここは安全だからな」

「うんそうだよね...」

 

ルミアは何か引っかかるようだが、シロウの言葉で無理やり納得をする。

 

グレンが合図をするまで暇なのでそれぞれが喋って時間を潰すが、いささか合図が遅い。

 

「仕方ない行くか」

「そうだな私も着いていこう」

 

セリカとシロウは中で何かをして遅いグレンを迎えに行く。

 

中に行くとそこには誰もいない空間に銃を向け、顔が青ざめているグレンがいた。

 

疲れでも溜まっているのか?と思ったがグレンが言うには不気味な少女がいたらしい。

 

突然それこそ転移したように現れ、自分の名前を知っていたとの事だ。

 

「グレン...熱でもあるのか?」

「いやねえよ!」

 

他の生徒達もグレンの異常だろと言い結局はそのまま有耶無耶になる。

 

その後も探索はどんどん進み五日が過ぎた。

 

やはり新たな発見は何も見つからず、すでに知られている事をこの目で確かめるだけだった。

 

その日の夜もシロウが皆の英気を養う料理を振る舞い、1人最後の露天風呂にて星空を眺めていた。

 

─まさかこんな事になり...この汚れた手でも友が出来るとは...

 

過去の事を思いながら手を見つめていた。

 

シロウは幼い頃から帝国のためにと多くの人間を殺した。それは正義のためとは言え子供が抱えきれる物ではない。

 

それでも尚、やってこれたのは、人殺しに慣れたのが大きいだろう。

 

始めて殺した時は、その衝撃で胃の中の物をぶちまけた。それはその後も続き、30を越えた所で吐き気もなくなり、躊躇いなく殺せるようになった。

 

シロウは殺しを躊躇わない。

そんな彼に寄り添ってくれたのはグレンやセリカ、そして護衛の対象であるはずのルミアだ。

 

未だ過去の自分を全て知っている友は1人といないが、それでもいなかった友が増えたのはいい結果だと言える。

 

─そうだなこれが終わったら妹達に会いに行くか...

 

シロウは1月前に3人の姉妹と触れ合っていた。

 

キリツグ達の血が繋がっているイリヤ。親から虐待を受けそれを保護という形で家族になった美遊。シロウと同じ実験を受け同じ能力を持っているクロエ。

 

彼女ら3人は目に入れてもいいと豪語できるぐらいには可愛いと思えている。

 

 

妹達に何をプレゼントしようかと考えるが、あんまり長湯しても悪いと思い立ち上がると、丁度岩を挟んだ向こう側にいた人物も立ち上がる。

 

「む?」

「はぇ?シロウ?」

 

立ち上がった人物の方を見ると、そこには一糸まとわぬ姿で湯に浸かっていたルミアが、慌てて前を隠す瞬間だった。

 



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謎の光や煙はまじで有能です。

 

突然起こった出来事に身体が硬直する。

 

ルミアの裸体は謎の湯気の力によりどうにか見えていないが、それでも一糸まとわぬ姿で対面している状況は心にくるものがある。

 

(くっタイミングを見誤ったか)

 

ルミアに見つかる前ならばシロウの考えていたこの場から逃走が出来たのだが、今それをやると今後の生活に問題が出てしまう。

 

覗きをした変態と言う不名誉な称号まで追加されて。

 

ここでふと思った。ルミアが1人で温泉に入るのだろうか?それはありえない。

 

この温泉は男女が交代交代で入る事が決められている。

 

となると女の時間の場合の可能性もある。

どうすればと思考しようとした時ルミアを見ると、肩を微かに上げ空気を大量に吸い込んでいた。

 

おおよそその行動から次に何をするのか分かった。

 

大声を上げるのだろう。

その事が分かってからの行動は早かった。

 

魔術で身体強化している時間も惜しいので、八極拳の震脚と呼ばれる独特な踏み出しで一瞬で加速する。

 

「キ」

「ふん」

 

シロウは瞬く間に左手でルミアの手首を掴みあげ、空いていた右手でルミアの口を抑える。

 

加速のエネルギーをその場で停止させようとしたが、思ったよりもかなり全力で踏み込んでいたらしく、そのまま湯船を囲んでいる平たい石に押し倒す。

 

ルミアは涙目になりながら睨んでくる。

 

もしも第三者に見られれば即時通報ものだろう。

 

 

少女が手首を掴まれて頭の上辺りで押さえつけられ、口元を手で覆われて目元に涙を溜める。正しく襲われる寸前という感じだ。

 

 

いつものシロウならば、決してこのような状態にならないように行動するはずなのだが、そこまで思考が回っていなかった。

 

そして、そんな時はやはりさらに問題が起こる。

 

「うーーん、やっぱりいいわね温泉は」

「まってシスティ」

 

温泉と更衣室を遮っていた戸が開き、他の女子達が入ってきた。

 

シロウは神経を研ぎ澄ましていたので、足音と女の話声が聞こえたので、拘束したまま大きな岩の裏に隠れる。

 

「ルミア!どこにいるの!!」

「まずいな...ルミア、騒がないのならこの手を離すが構わないか?」

 

ルミアは口を抑えられながらも、ゆっくりと首を縦に振った。

 

拘束を解くとさっきまで上手く呼吸が出来ていなかったからか、口を塞いでいた手を離されてすぐは呼吸が早かったが、次第に落ち着いていき10秒もすれば通常の呼吸に戻る。

 

「問題ないと伝えてくれ」

「うん分かった...けど後で覚えててね」

「覚悟しておく」

「システィ私は大丈夫だよ!ちょっと1人でゆっくりさせて!」

「うん分かった!リィエル髪洗ってあげる」

 

女子達の足音が遠のいていき、ひとまず危機は去った。しかし大きな問題は解決していなかった。

 

「逃げ道が塞がれたな...」

「ふーーん、見ておきながら逃げるんだ」

「安心しろ煙であんまり見えていない」

「あんまりって事は多少は見えたんだ...」

 

ルミアは一瞬見つめるとすぐにそっぽを向く。

 

ルミアからの視線が痛い。

 

事故なのに、わざと起こしたと勘違いしているようだった。

 

今はどうにか2人とも湯船に使っているので肩から下は見えていないが、ほぼ抱き抱えるようになっているので平常心になった分この近さはかなりくるものがある。

 

何がとは言わないがくるものがある。

 

それに簡単に計算しても、そこそこの時間風呂に入っているので、軽くのぼせ始めてきている。

 

首を少し捻るとすぐ側にルミアの金髪が鼻腔をくすぐる。髪の隙間から見える顔はゆでダコのように赤くかなり限界が近いのがわかる。

 

 

「ルミア、気を引けるか?一瞬で駆け抜けて出る」

「...へ...あぁ...うん分かった。それじゃあ行くね」

「頼むぞ。帰ったら何でもしてやるからな」

「絶対だよ...忘れないからね」

 

小指を突き出して宣言してくる。

 

それに簡潔に返事をして、こちらも小指を突き出し絡み合わせ指切りげんまんをする。

 

ルミアは後ろを隠しながら湯船から上がり、システィーナ達に話しかけ気をそらしている間に、身体強化を使ってそのまま飛び出る。

 

「!...気のせい?」

「ど、どうしたの?リィエル?」

「何か通った気がした」

「そんな事をないと思うな...ははは」

「ルミア早く」

「うん目をつぶって」

 

実際に妹はいないので分からないが、もし居ればこんな感じなのだろうなと思いながら、何を命令しようかと少し胸を踊らせた。

 

▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 

さっきの一連の現象には黒幕が存在していた。

 

今までの時間通りならば決してあのような(ラッキースケベ展開)になるはずが無いのだが、シロウが皿を洗っている間にたまには女子が一番に入りたいよなと言い出し、特に反対する理由もないのですぐに決まった。

 

皿洗いが終わるか終わらないかというタイミングを見計らってルミアのみを先に行かせる。

 

そして、この計画を仕組んだ女...セリカはいい物が取れたとニヤつく。

 

「まさかこうも上手くいくとはな...クックク」

 

1枚の紙を揺らしながら笑う。その紙にはシロウがルミアを拘束して押し倒している様子が写っていた。

 

無論これを誰に送るのかは言わなくても分かるだろう。

一体どうなるのか楽しみで仕方が無いと夜闇を照らす月のように口を歪ませ笑った。

 



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グレンはご乱心です。

皆様戻って参りました。約四ヶ月ぶりの投稿。それにも関わらずお気に入り登録者が1000人を超えました!!!

いやー嬉しいですね。ほんとうに皆様に感謝です。

この作品を久々に書くにあたりある問題にぶつかりました。
話全く進まねぇぇ!!!!この巻の内容いつまでやるつもりだよ!!このあと色々控えてるのに!!となっています。

なので進まねぇと思いながら生暖かい目で見守ってください。


それとプリヤも桜ルートも士郎の格好良さは抜群ですね。ほんとうに感激しました。ただ車のシーンで友達と首を傾げたのはいい思い出。





 

数々の珍事件を乗り越え最終日となった今日遂に最深部に到達する。

 

綺麗に磨かれた半球状の部屋の真ん中には謎の装置が置かれていて、近くには黒いモノリスがある。

 

この部屋に来ればまず行われるのが天象儀(プラネタリウム)だ。

 

噂では外に広がる星空と同等またはそれ以上とまで言われている代物だ。それに謎の機械の唯一分かっている利用法がそれなのだ。

 

ルミア達に急かされ嫌々ながらも天象儀(プラネタリウム)のセッティングを終わらせ起動させる。

 

すると、まるで世界が作り替えられるこのように足場まで真っ暗になり、天井にはきらびやかな星達が輝きを放つ。

 

今まで街などでも見た事はあるがこれ程の物を見た事は一度もない。噂は信用出来ないと言われが今回ばかりは当たったようだ。

 

楽しみの時間もそうそうに終わらせしっかりと調査へ戻る。

 

「ふむ...やはり何か気になるな」

「どうしたの?シロウ」

「いやなに、これが気になってな。しかし、何も出てはこない何でも無いはずなんだがな」

 

シロウは天象儀(プラネタリウム)発生装置を触りながら呟く。

 

これでもシロウは御伽噺などの類は子供の時たくさん読んでいたので、この地にも昔来ておりその時に軽くは調べた。

 

結局何も発見できずに終わったのだが、その時から何かをこの装置から感じていた。胸の奥がムズムズする独特の何かがあった。

 

「シロウもそう思うのね」

「君もか?」

「私は何も感じないけど、お祖父(じい)様が何かあるならここだって」

「ここか...」

 

改めて見るが不気味に聳え立つ装置のみ。エリカも調べたが何も見つからない。どんなに頑張ったとしても見つからない。だが、

 

「ルミア少し力を貸してくれないか」

「力?うん...シロウが使いたいなら」

 

そっとシロウの肩に手を当て自身の異能を解放する。

 

感応増幅能力。触れた相手の魔力を底上げして魔術を強化する異能。

 

元から魔力が多くない方であるシロウの魔力を底上げし、最も得意とする魔術を使う。

 

構造解析(トレース・オン)

 

これは剣を作ったりする上で基礎となっていた魔術だ。解析する物が一体どのような物なのか、どのような効果があるのかを調べる事ができる魔術だ。

 

この魔術はシロウが幼い頃に一番使っていた物で思い入れもかなり深い。なので決して初めて使う訳では無いがいつも以上の情報が頭に注ぎ込まれる。

 

例えるならば頭にドロドロの溶けた鉛を流し込むようなそんな激痛が走る。

 

「くっ......」

 

よろめく中モノリスに手を置くことでどうにか倒れないようにする。その直後に突然装置は大きく変形を始める。

 

最初は星空を投影したのと同じよに変形し天井に描いたのだが、装置は回転を始め流星のように星が動き出し、今度は突如として怪しい挙動を停止させる。

 

天象儀(プラネタリウム)の北側の部分に蒼色の三次元的な『扉』が現れる。

 

本来ならありえない起動。数々の研究者や魔術師が調べても現れる事の無かった謎の『扉』が現れたのだ。

 

「どうなってやがる!」

「しまったやらかしたか」

「シロウ何をした」

「モノリスに触れただけだ。他に大きな所はない」

 

とすまし顔で言っているがモノリスに触れた程度で起動するならば過去にも起動しているはずだ。それが無かったのは今回異なる前提条件があったからだ。

 

ルミアの異能による完璧なる解析。

 

シロウはあの膨大な情報の中で明らかに不審な魔術式を発見した。前に解析した時には見ることの出来なかった術式。

 

そのままモノリスに触れてしまうと勝手に起動を始めた。これで証明されたのかもしれないルミアが通常の異能ではなく、異常な異能である事に。

 

隣を見れば驚愕に顔を染める二人がいるが対照的だった。システィはお祖父様が正しかったと喜びの驚き、ルミアは自分の手を見つめ異常な事に気づいたのかもしれない悲しい驚き。

 

(不味いな。やはりと思っていたがこの事はルミアにはまだ早い)

 

考えてみれば疑問点ばかりだった。ルミアのような異能持ちは言ってしまえば他にもいる。なのになぜあそこまでルミアに執着していたのか。

 

確かに王家の血を引いている事を考えれば理由にもなるが、何度も失敗してでも狙い続ける利点が何にもない。

 

とりあえず今はどうにか気をそらさせるため話しかけようとした時背後から怒鳴り声が聞こえる。

 

「何してやがるセリカ!!」

 

声の主はグレンで声のした方に向くと『扉』に手を伸ばしながらセリカが近づいていた。

 

そして、誰もが止められるわけもなくセリカは吸い込まれるように消えていった。『扉』は吸い込んだと同時に消失し完全に行方を眩ませた。

 

あまりに一瞬。瞬き一つすら許されない僅かな時間での消失。全員は絶句とも取れる表情をしている。

 

「グレン!」

「分かっている」

 

突然消えたセリカを今すぐにでも追いかけたいが、この場に生徒を残して行くほど今のグレンは馬鹿ではない。それでも悔しさからか拳を握る力が強くなるのが見えた。



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死者には弔いを

ふぅ.....疲れた。何かどこで区切ればいいか分からんな。
だんだん短くなっていく笑


 

「くそがぉぉぉぉぉ!!!」

「落ち着けグレン。無駄な体力を使うな」

「分かってるよ...分かってるけどよ...」

 

ひとまずグレンの指示により野営場に戻ってきた一行は、それぞれが暗い顔をしていた。

 

なにせ新たな発見に喜んだのも束の間、セリカが突然失踪し何も出来ずに撤退してきたのだ。悔しさと後悔が全員の心に残っている。

 

お通夜のような空気の中一人だけもしものために持ってきていた銃を準備していた。

 

換えの銃弾と起源弾を持って来ていたバックルに入れ、トンプソン・コンテンダーをホルスターに入れ立ち上がる。

 

「行くぞグレン。いつまでもうじうじしていても始まらない」

「......そうだな...殴って連れ帰ればいいんだもんな」

「あぁそうだ、リィエル・システィ・ルミアは着いてこい。それ以外はここに残っていろ」

 

シロウの非常とも取れる判断に反抗する者は一人もおらず、ギイブル達はグレンの背中を押して送り出す。

 

現実的に考えてもリィエル・システィは大きな戦力となり実際に修羅場を超えてきている。ルミアは何となく特別な感覚を感じているので、シロウが必要だと言えばそうなのだと納得する他にない。

 

一度深呼吸をして膝を叩いて立ち上がり、グレンも銃を装備して遺跡へと五人はまた戻っていく。

 

 

先程の場所に戻り再度装置を起動させる。セリカを吸い込んで消えた蒼色の『扉』が現れる。

 

一度他の四人の顔を見ると真剣な眼差しで『扉』を睨んでいる。意気込みは充分と言った所だろうか。

 

五人は意を決して『扉』に飛び込む。真っ暗な闇...深淵。ゆく道を照らすように星星が輝いている。

 

グレンはセリカが消える前に呟いた言葉を思い出し納得する。『星の回廊』は名のまんまだと。

 

『星の回廊』を進み続けようやく出口に到着し出ると、驚愕に表情を変化させる。

 

通り過ぎた『扉』は背後から消えすぐにでも近くのモノリスを調べたいが、目の前には切り傷の激しいミイラが横たわっている。

 

ミイラに近づき状態を確認すると着ている服から魔術師なのだと初めて理解した。

 

「どうなってやがる」

「分からん。これだけの事をする者がいるのは確かだ」

 

同時にシスティは唾を呑む。今まで以上の緊迫状態に緊張し冷や汗も流れる。

 

隣を見るとルミアも平気そうな顔をしているが、長い付き合いのシスティだからこそ彼女も緊張しているのが分かった。

 

「リィエル後ろ頼むぞ」

「任せてグレン」

「先行は私がする」

 

手元にいつもの夫婦剣を創り出して辺りへの警戒を怠らずに進んでいく。

 

 

進んですぐの事前に一人の金髪の女が這いつくばっているのが見えグレンがセリカだと思い声を上げる。

 

「おいセリカ!」

 

女は顔を上げグレン達を認識する。左腕は切り落とされ目は白目など存在せず、まるで闇の塊のような物になっていた。

 

「憎イーーァァァーー憎イィィィィ!!」

 

たった片腕しか無いはずなのにとてつもなく早い速度で駆け寄ってくる。腕を地面に叩きつけ飛び上がり襲いかかってくる。

 

システィは恐怖に視界の先を覆うため腕を動かすが完全に覆う前に女が青白い炎に包まれ灰になるのを見た。

 

「私は神父ではないが、知り合いに変人(麻婆神父)がいてね。君達を弔う事はできる」

「ァァァ」

「裏切リ者サエイナケレバァ」

 

死体なのに関わらずワラワラ彼らは出てくる。それに対し嫌そうな顔一つ取らずに洗礼詠唱を始める。

 

あの神父から教わった物とは大きく違い。ただ浄化に念を置いた詠唱。

 

詠唱と言っても死者達を真っ二つに裂き祈るだけの簡単な作業だ。的は勝手に飛びかかってくるので容易く両断し、灰へと返していく。

 

シロウは切っては投げ捨てを繰り返し安全な道をを作り出して進んでいく。四人は後ろから安全な道を進んでいくが、途中でリィエルも前に飛び出し、背後をグレンが守護するようになる。

 



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最強最悪の魔術師殺し襲来

すみません。かなり遅くなりました。お詫びとしてこの後もう1回投稿しようと思います。


かなりの時間進んだ。構造は塔に近い物でひたすら下へ下へと進んだ。

 

すると、耳に巨大な爆発音が届き急いで音のする方へかける。

 

「あれは!」

()()()()》ッッ!」

 

セリカが放つ特大の爆発は異常な量の亡霊達を消し炭にしていく。

 

除霊するのではなく絶滅させていく。

 

闘技場のような形をしているこの場では、障害物も少なく下手に周りを気にする必要も無い。

 

周りの二人は凄いと呟いているが、シロウとグレンは違う。

 

「何故焦っている?何かあるのか?」

「確かにな、だが今はとりあえずアイツを拘束するぞ」

 

二人は息を合わせ戦闘真っ只中のセリカへ飛びつく。

 

「な、おまえ達」

「少し静かにしてろ!シロウやれ!」

「分かっているさ!」

 

リィエルの方はアイコンタクトで通じていたのか二人の前に立ち、大剣の背をこちら側に向け防御の姿勢をとる。

 

そして、地面にセリカを押さえつけているグレンを一見し、六本夫婦剣を作り全方位に放り投げ魔力を暴走させ爆発させる。

 

一応除霊の効果も含めていたので大量の悪霊達は全員消えていく。

 

「これで落ち着いて話が出来るな、さてセリカどうしてこのような事を?」

「やっとだ、やっと辿り着いた」

「辿り着いた?」

「あぁ、ここは地下迷宮の地下89階なんだ、あの忌々しい《愚者への試練》を突破したんだ!待ちに待ったかいがあった」

 

セリカの一言にグレンは理解が追いつかず目を白黒させているが、シロウはある意味納得していた。

 

この場所の異様な形などを考えればそうであってもおかしくはない。

 

「あそこの先に...先に」

 

錯乱した状態で闘技場の奥にある門へ歩み寄る。

 

咄嗟にセリカの腕をグレンが掴み引き止める。

 

「ダメだ行くな」

「何でだ!何でなんだグレン!私の事が」

「行けば必ず後悔することになると言ってもか?」

 

シロウはセリカの進行を妨げるために前へ入り込む。

 

「いやだ、いやだァ!!」

「しまった!」

 

我儘な子供のような事を言いながらグレンの手を振りほどき、シロウの横を通過していく。

 

「《其は摂理の円環へと帰還せよ・五素は五素に・象と理を紡ぐ縁は乖離せよ》ッッ!!」

 

セリカの持つ最大の破壊魔術。右手から放たれたそれは門に激突し、爆発を起こす。

 

並のものであれば壊せない事は無い。だが、ここは過去の者達が作り上げ霊素皮膜処理(エーテリオン・コーティング)を施され、物理的にも魔術的にも破壊は無理だ。

 

絶望し立つ気力すら無くなったセリカの腕を掴んで持ち上げ、連れて帰ろとした時だ。

 

全身に謎の悪寒が走る。

 

『その門に触れるな下郎共』

 

暗闇からしみ出るように突如としてそれは現れた。

 

『愚者や門番がこの門、潜ること、能わず。地の民と天人のみが能う。汝らに資格無し』

 

緋色のローブで全身を包み、フードの奥にはまるで無限の闇が広がっているようで、様子を一切伺うことが出来ない。

 

だが、それよりもシロウが驚いたのは両手に持つ双刀だ。

 

禍々しい呪詛と魔力が纒わり付く、紅の魔刀に漆黒の魔刀。

 

シロウは見た相手の剣を瞬時に理解し投影することが出来る。だが、その二つに関しては一切読み取れない。過去にこんな事一度も無かった。

 

『...貴女は...』

 

セリカを見つけ認識し懐かしむように呟く。

 

『戻られたか、(セリカ)よ。我が主に相応しいき者よ。だが、今の貴方にはこの門を潜る資格無し。お引き取り願おう』

 

言いたい事が終わり、次にグレン達の方に視線を変え威圧感をます。

 

『愚者の民よ、この聖域に足を踏み入れて、生きて帰れると思うなよ』

 

双刀は怪しげな光を放ち明確な殺意が伝わる。

 

システィやルミアも顔を青くし震えグレンの背にしがみついている。リィエルですら無表情を崩して息を上げている。

 

撤退だ。この惨状では何も出来ない。

 

「聞けよ!無視をするなぁ!!」

「馬鹿」

 

グレンの静止を振り切り炎柱を作り、魔人を包み込むが

 

『愚かなり。そのような愚者の牙に頼るなど、王者の剣はどうした』

 

左手の紅の魔剣を軽く振っただけで、炎柱は掻き消える。

 

対抗呪術(カウンター)の腕は中々だな、だったらこれならどうだ!」

「私も忘れられては困るな」

 

セリカが飛び出したのを合図にシロウも夫婦剣を掴み接近する。

 

【ロード・エクスペリエンス】によって《剣の姫》と謳われた彼女の剣技を身に降ろしている。

 

魔人はセリカの剣を先に弾き、次にシロウの剣も弾く。その時不思議な事が起こった。

 

「馬鹿な!何故」

「なん...だと」

 

なんと、夫婦剣が砕け散った。決して耐久力が無くなって壊れたのではない。それこそまるで魔術を打ち消したそんな感じだ。

 

それはセリカも同じらしく魔術を解除させられ、いつもの彼女に戻っている。

 

『我が刀は魔術師殺し(ウィ・ザイヤ)。そのような小技は通用しない。だが、その剣の真なる主には敬意を表する。それはお主も同じだ白髪の愚者よ』

 

これだけで瞬時に察した。全魔術師はこの男に絶対に叶わない事を。魔術でいくら強化しても解除され近接戦となってしまう、そうなれば勝てるはずがない。

 

なにせ、身体能力を鍛える魔術師など数少なく、さらにシロウより身体能力が圧倒的。まさに最強の魔術師殺しだ。

 

勝てるはずがないと思考を放棄してしまう。それほど目の前の魔人とは絶対的な差があったのだ。

 

 



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やめてそれはアレ的なアレだよシロウ!

本日二本目でございます。つい少し前に一本投稿したので、まだ見てない方はそちらをどうぞ。

もう見たぞ!という方はお楽しみください


 

「チ、だったら次」

『児戯に過ぎず』

 

次なる魔術を放つ前に姿が瞬時に消え背後をとり斬撃を放つ。

 

どうにか背を曲げ回避するが、微かに刀先が当たり擦り傷が付く。たったそれだけなのだが、全身から力が抜け崩れ落ちる。

 

『この刀は魂喰らい(ソ・ルート)、貴女は終わりだ』

 

身体はピクリとも動かず、敵を目の前に無防備な身体を露わにする。だと言うのに追撃を仕掛けない。それだけの理由があった。

 

「バレていたか」

『当たり前だ。汝をこの中で一番警戒しているのだからな』

 

セリカが近くにいるため全力で放つ事が出来ないので、当たるまで追尾する剣を打ち放つ。

 

念のため左の刀を警戒し右から狙撃したが、右の刀であっても真っ二つに剣を切断する。

 

その隙を突きグレンはセリカを救出し戦線から離脱している。

 

『陽動か』

「まぁ、出来れば倒したかったがひとまずこれでいい」

「いやぁぁぁあああ!」

 

リィエルが空に飛び上がり、重力も合わせた大剣の一撃を振り下ろす。

 

二度の誘導による攻撃は絶対のダメージを与える。魔人の身体にヒビが入り吹き飛ぶ。

 

闘技場の縁に魔人は激突し煙を上げ姿を隠す。

 

「良くやったリィエル」

「ん、師匠の誘導のおかげ」

「よし、さっさと帰」

『良き連携だ。少し慢心していたようだな』

 

声のした方向を向くと傷やヒビが一切ない魔人が立っていた。

 

先程の一撃で決まったはずなのだ。それで生きているなど何個か命を持っているとしか思えない。

 

「何でアレで生きてんだよ!」

「知らん!それより今は防御を固めろ」

 

勝ったと安心していた三人はかなり大きな隙を見せつけている。無論そこをつかない魔人ではなく、瞬時に加速し刀の間合いへ入れようとする。

 

「システィ!」

「《集え暴風・戦鎚となりて・撃ち据えよ》ッ!」

 

ルミアの『感応増幅能力』により強化された【ブラスト・ブロウ】は絶大な威力だった。

 

近接する魔人は足をその場で止め左の刀で払われそよ風と成り果てる。

 

「哼ッ」

 

今度は三射行う。

 

シロウと魔人とでは相性は最悪。近接戦は剣全てが破壊される。ならばもう残るは弓術のみ。

 

右肩、左肩、心臓。何かしらに当たればと儚い思いで撃つ。

 

いとも容易く魔人は剣を弾き落とす。

 

『どうした?狙いが甘いぞ?』

「わざとだ」

 

夫婦剣の『莫耶』だけを投擲する。

 

あまりにも幼稚で簡単な一撃。当たり前のように右の刀で切断する時、巧みに注意を逸らし投擲していた『干将』がその特性により、心臓を背後から貫く。

 

そして、それにより手が止まり『莫耶』も心臓を貫く。

 

前後からの同じ心臓突き。かなり予想外の一撃により確実に殺すことが出来たはずだ。

 

なのだが、夫婦剣を引き抜き刀で消し去るともう傷も無くなり無傷の状態になってしまっている。

 

「不死身なのか」

『中々いい攻撃だった』

「とう言うなら倒れてほしいのだがな。グレン準備をしろ」

「だけど、あいつ付いてく」

「私が残る、時間稼ぎ程度ならば任せろ」

 

とても容認出来る物ではない。あの魔人はシロウであっても勝つ姿が思いつかない。

 

魔人の持ち前の武術に、得体の知れない不死性。この二つがある限り絶対に勝つことは出来ない。

 

「だったら俺も」

 

首を縦に振るわけもなく、左右に振る。

 

「邪魔だ。お前が残っても邪魔なだけだ、先にいけ」

「けど」

「あぁ時間を稼ぐのはいいが、別にアレを倒してしまっても構わんのだろう?」

「...たく分かったよ。だけど、絶対帰ったら飯いくぞ。俺のおごりだからな」

「楽しみにしているさ。それと最低でも二回は持っていく」

 

この時一体何を言ったのか分からず首を傾げるが、すぐに退避の準備を始める。

 

維持でも残りたいと言い張るルミアをリィエルとシスティが引きずり、動けないセリカをグレンが背負って走り始める。

 

「ちくしょう」そう呟いて走り去る。

 

さてと前を振り向き改めて夫婦剣を強く握る。

 

「待ってくれて感謝するよ」

『構わん。どうせ貴様を倒した後に殺すのは変わらないからな』

「なるほど、さすがは魔煌刃将アール=カーンか」

 

その名を口にした瞬間当たりの空気は一変し、感嘆の念を口にする。

 

『魔煌刃将アール=カーン』とは絵本『メルガリウスの魔法使い』にて、主人公に仇をなす『魔王』を守護する『魔将星』として登場する。

 

『魔将星』は元は人間だった者が人間を辞め、強大な力を持った者達のことを言う。

 

中でも、魔煌刃将アール=カーンは独特な立ち位置で、魔王に仕えながらも自身の仕える魔王により相応しい人物を探している。

 

絵本での特徴は二本の魔刀と、邪神がアール=カーンに課した十三の試練を乗り越え手にした、十三の命。

 

唯一の救いは冒険の中で七回殺されているので残りは六。さらに先程二回殺したので残りは四。

 

『良く気づいた』

「かなり好きな本だったから覚えていたが、さすがにすぐには信じられなかったさ」

『では褒美だ受け取れ《■■■■■■》』

 

認識が出来ない詠唱始める。

 

すると、魔人が浮かび上がり右手を上に掲げ、その上に太陽と見間違える程の大質量の炎玉が作られる。

 

どこにそんな力があったのか疑問に思う暇もなく太陽が地面へと落ち、大爆発を巻き起こす。

 

 



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魔人VS贋作

ふぅ...疲れたぜ。何とかかけたな


 

空間全てを焼き尽くしたソレにより、地面に動ける物は誰一人としていない。

 

そう、地面にはいないのだ。

 

『甘いぞ』

 

熾天覆う七つの円環(ローアイアス)を普通に展開するのではなく、マントのように身体を覆うように展開し比較的被害のない天井へと駆け上がった。

 

そして、投影した剣を放つ。

 

しかし、魔人はその事を予め予想していて、不意打ちとなる攻撃を容易く首を傾けるだけで回避する。

 

「避けたのが失敗だったな」

『何』

 

魔人の初めての動揺だった。

 

頭を横切った剣が異常な角度で急回転し、改めて魔人の頭向け動き出したのだ。

 

通常の矢や剣ではありえない軌道に驚いたが、すぐに左の刀で剣を切り裂く。シロウの天敵である刀が今は反対方向にある。絶好のチャンスだ。

 

今から矢を構えるのは遅い。剣で接近したとしても右の刀で切られれば終わりだ。となればアレしかない。

 

トンプソン・コンテンダー。キリツグから渡されていた銃だ。

 

中間地点で折れそこに弾丸を装填。軽く上に上げ瞬時に閉じ撃鉄を引く。

 

放たれた銃弾は魔人の心臓に吸い込まれるように貫通し、一回分の命を刈り取る。

 

『爆裂の魔術の類か』

 

自分の命を刈り取った道具を見て、極小の爆裂魔術により鉄飛ばしているものだと誤解してしまう。

 

これこそが、唯一魔人に勝てている所であった。魔人は現代武器に疎い。そこをつけば殺れる可能性は格段に上がる。

 

そこにつけ入る。再び銃を中間地点で折り新たに銃弾を込める。今度のものは破壊力を重視した物だ。

 

「いくぞ」

 

装填してもすぐには撃たない。隙を付いて撃たなければ当たるものも当たらない。それだけの相手なのだ。

 

左手に銃を握っているので、夫婦剣を持つには多少問題が発生するので、リィエルの剣を投影する。

 

重さは身体強化で誤魔化し強引に振りまくる。

 

乱雑な剣戟は達人などにとっては予想できない動きであり、それは魔人にも当てはまる。

 

『他愛ない』

 

所詮魔術で作った剣。そうであれば消せない代物ではなく、逆に距離を詰めてきたおかげで右の刀で殺りやすくなる。

 

大剣は砕け散り、瞬時に仕留めにかかる。その時シロウの口元が微笑む。

 

金属と金属のぶつかり合う甲高い音が響く。

 

「警戒しすぎだ」

 

シロウは刀を銃で受け止め余裕の表情で言い放つ。

 

この銃はキリツグが改造したと言っても元は金属である。魔術的な余地は介入しておらず、右の刀を受け止めるのは容易い事だ。

 

そして、受け止めてすぐに細長いレイピアのような剣を投影し、突き刺す。あまり経験の少ない動きであったが的確に心臓に突き進む。

 

『剣だけが私の武器ではない』

 

レイピアの真ん中を左足で蹴り上げ砕く。そして、その場で一回転し今度は胸部に回転蹴りを叩き込む。

 

肋を粉砕した感触を覚え、経験則から心臓も停止した事が分かる。

 

惜しかった。純粋に魔人はそう思う。

 

命が何個もある自分で無く、一つの命しかなければ目の前の少年に倒されていたのは必至だ。

 

だからこそ、ここで殺してしまった事に悔やむほか無かった。

 

壁に激突し瓦礫にまみれたシロウを一見し地上に降り立つ。

 

突如として鉄が飛んでくる。

 

『何!』

 

思考外の攻撃に反応が遅れ、右の刀をどうにか当てるも魔術によるものでは無いので止まらず肩を撃ち抜く。

 

「外したか...数少ないチャンスだったんだがな」

『アレで生きていたのか。心臓程度は死なんか、確実にこの刀で命を刈り取ろう』

 

シロウはかすり傷ひとつ無い状態で立っている。まるで魔人と同じようだった。

 

これは、全て遠き理想郷(アヴァロン)による超回復で起こった現象で、シロウ自身も少しばかり驚いている。

 

多少ダメージは残りあまり回復しない物と思っていたが、かすり傷も殆ど消えほぼ全快だ。

 

「だがどうしたものか、もう倒す術がないな。これ以上の剣を作る事など出来ないわけで......剣?いや無理だ解析が出来ていないのだから」

 

夫婦剣以上の剣を望むが、シロウにはその存在を知らない。前までならばだ。目の前に明らかなる上位互換の剣がある。

 

だが、投影は出来ない。解析が出来ていないのだから。

 

『どうした意識が逸れているぞ』

「いやすまない。どうやってこの状況を打開しようかと考えていただけだ」

『打開。この状況でその言葉を吐いたのは貴様が初めてだ』

「そうか、ならば嬉しいついでにもう一つ初めてを頂こう」

 

では諦めるのか?否だ。諦めてどうなる事でもない、失敗しても失敗しても例え死ぬとしてもやるしかない。

 

投影開始(トレース・オン)

 

銃を投げ捨て目を見開き二本の刀を睨みつけるように凝視する。

 

なんでもいい、どんなに少なくてもいい。情報をかき集めるのだ。

 

投影開始(トレース・オン)

 

全魔力が暴れ狂う。解析出来ていない物を投影しようと言うのだから当たり前だ。ならば、それおも超えていけ。

 

両手から放たれる魔力が高密度の魔力となり、懐に入れていた非常用の魔石も砕ける。

 

投影開始(トレース・オン)

 

異常な情報量に目から血が流れ始め、手も割れるような傷ができ血が流れる。

 

血が流れたのならば丁度いい。投影魔術の元は錬金術からきている、だとすれば血も使える。

 

投影開始(トレース・オン)

 

何度やったのだろうか。すでに腕に感覚はなく魔力もそこをつきそうになってきた。

 

目が暗み足から力が抜けそうになる。でも立つ勝つために。

 

異常な執念による努力は実り始める。

 

形は不安定ながら左に紅い刀右に黒い刀が投影され始める。

 

『それ以上はまずい』

 

魔人も気づいた。自分の刀が投影され始めている現実に。

 

十メートル以上離れていた距離を瞬時に縮め、左の刀で心臓を穿つ。

 

投影に集中していたシロウは避けられない。左の刀を無防備に心臓に突き穿たれ壁に激突する。

 

「はぁぁぁああああ!!」

 

途中で止められたせいで刀は完成できず無残に消えたが、相手が接近してきたのだこの距離ならば防ぐ事も出来ない。

 

慣れ親しんだため一秒にも満たない時間で夫婦剣を投影し、最後の力の限りを尽くして魔人の心臓を貫いた。

 

 

 

 

 

『貴様は今まで一番の強さを誇った。名前を覚えよう』

「シロウ...エミヤ...」

『確かに覚えたぞ最強の愚者の民(シロウ=エミヤ)

 

心臓に突き刺された刀により力を吸われ続け、遂には瞳から光が消え首が折れ下を向く。

 

魔人は刀を抜き取り血を払い捨てると、念の為に肩から腰にかけ切り裂く。大量に血が流れ死を確認し(セリカ)達を追いかける。

 



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逃げ出した彼らは

ふぅ...2ヶ月?3ヶ月ぶりかな?
まじ遅くなって申し訳ありません。

さらには久々なのにシロウくん出ないし。もうダメな私です。

十一巻までの話を考えるだけ考えて、文字にしないとはこれ如何にです。本当に申し訳ありませんでした。




 

「なんでだよ!なんでこうなるんだよ!」

 

グレンは石の壁を思いっきり殴りつける。

 

さっきはアレしか方法がなく、最悪自分がやろうとしていたのに全てシロウが請け負ってしまったことに対して、自分への苛立ちが積もっていた。

 

「先生落ち着いて」

「くそ......クソがァァ!!」

「そんなシロウ...今からでも」

「ダメだよルミアかなり危険なんだから」

「でも」

 

ルミアはその場に倒れ込み大粒の涙を浮かべている。

 

あの魔人の恐怖を知っているからこそ、シロウが生き残っていないだろうと予想がついてしまっている。

 

その考えは皆ついており、諦めムードがこの場に漂っている。

 

『いがいね。貴女にそんな感情があったなんて』

 

どこからとも無く聞こえてくる声に下を向いていた顔を上にあげると、ルミアと瓜二つの顔をした白い少女が歩いて寄ってきていた。

 

「ルミア?違うだってここに」

「誰だお前は!」

 

グレンはシスティ、ルミアを守るように少女との視界の間には入り銃口を向ける。

 

青い大剣を両手持ちで構えリィエルは出方を伺う。

 

少女は二人の戦闘態勢に両手を上に上げ敵意が無いことを示す。

 

「安心しなさい。貴方達の敵ではないわ」

「なんだと?」

「一から話したいところだけど、あの魔人はもう動き出しているの。このまま逃げても無駄よ、倒すしかないわ」

「倒す?馬鹿な事言うなよ、あいつは不死身で」

 

そこで言葉が詰まる。

 

あいつについての情報は明らかに不足しているからだ。そんなおり背後で服がこすらる音が聞こえ振り返る。

 

「くっ、ここは...」

「目覚めたのかよセリカ、具合はどうだ?」

 

髪を掻きむしりながらグレンは様子を聞く。

 

セリカは一向に顔色が悪いまま体を引きずりながら動き、壁によりかかり言葉を紡ぐ。

 

「最悪だな。あの剣は私のエーテル体を奪い取り、自分の力にするようだ...そのせいでこのザマだ」

 

ぐったりとした様子だ自分の今の様子を語る。

 

切り裂かれた傷は治療魔術で治されていので問題は無いが、エーテル体を傷つけられたセリカは自然回復するまで魔術は殆ど使えないと思った方がいい。

 

最悪治ったとしても魔術が一生使えなくなるか、かなり制限がつくことになるであろう。それほどまでに魔術師にとってエーテル体とは重要なのだ。

 

「そう言えばあの魔人はどうした?」

「そうだな、実は」

 

あの時あった事をすべて包み隠さず話した。

 

全てを知ったセリカは余計顔色を悪くし頭を抑える。

 

「あのバカ、また無茶なことを...まぁグレンお前のことだから助けに行くんだろ?」

「当たり前だ、あいつの料理が食べれないなんてこの世の終わりだからな」

「だったら、私を置いていけ確実に足でまといになる」

 

冷めた声で淡々と言い放つ。

 

「ダメだ!お前をこんな所に置いてけるかよ」

「なら、どうする気だ?あの魔人を相手に戦えない私を守りながらやる気か?無謀にも程があるぞ」

「さ、さっき見つけたんだ。地上に出るための転移ポイントを...だからなお前だけでも」

「はっ、嘘をつくならもっとマシな嘘をつけ」

「嘘じゃねぇよ!」

「嘘だな。何年お前と一緒に暮らしてたと思っている...お前の嘘ぐらい見抜けるさ」

 

咄嗟に思いついた嘘もセリカには見抜かれていた。

 

その事に自分の力の無さを悔やむ。シロウであれば上手くかわしていたであろうに、自分ではまともに騙すこともできない。

 

「それに、逃げるなら...私がいる方が」

「ダメだ。それだけはダメだ」

「ばか、私の言うことをき」

「バカはお前だ!」

 

突然の怒鳴り声にセリカの肩が一瞬揺れる。

 

怒声は休憩に止まっている洞窟のようなこの場所全体にこだましていく。

 

「なんで、だよ」

「家族だからにきまってんだろ!」

 

いつもは言わないだあろう心の内をぶちまける。

 

かなりの不意打ちにセリカは口を開け唖然とする。

 

「逆の立場でもセリカならそうするだろ、たとえどんなに生還率が低くても...」

「......」

「それが家族だろ」

「ははっ...家族か...そうか......くすっ...」

「なんで泣くんだよ」

 

少し小っ恥ずかしい事を言ったのは自覚したいるが、突然泣き出すのは想定外だあり慌てる。

 

「私だけどおもってた...家族と思っているのは」

「はぁ?なんでそうなるんだよ」

「だって...私は人間じゃないだろ...だからグレンは家族だなんて思っていないって」

 

セリカの声から微かに喜びが感じられた。

 

さらに、硬く絡まった何かが解れるように温かい何かがセリカの全身を包んでいく。

 

この感情がなんなのか、未だによく分からない。だが、確かなのは家族と言われて嬉しかった事だ。

 

「グレンもう一回言ってくれ」

「なっ......くそっ...家族だから」

「うん?すまない声が小さくて聞こえない」

「だぁくそ!家族だからだ!これで満足か!」

「ありがとうな...グレ......ン...」

 

心の底から安心したのか気絶するように眠りに入ったセリカは、笑顔を浮かべていた。

 

『ありがと』

「うわっ、!なんなんだよさっきから」

『さて、会議をしましょう。あの魔人を倒すための』

 

謎の少女が進行をしながら対策会議が始まる。

 

 



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魔人大決戦、勝てない通りはない

 

「さて待ってたぜ魔人。最終決戦と行こうぜ」

『敵わぬと知りながらも立ち向かうとは、愚者の民ながら潔い』

「はっ、俺の教え子が一人お世話になったみたいだからな、お礼参りをしようってな」

 

両手にはめた黒の手袋をより深くハメ、右の拳を突き出し構える。

 

シロウから教えて貰った八極拳もどきの構えは、攻守隙はなく喧嘩上がりのグレンが少しまともに見える。

 

隣にいる三人の少女らも各々の構えを行い待ち構える。

 

『汝らの攻撃は効かぬ。それが分からなほど愚かでは無いのだろう』

「てこと、やっぱりシロウの見立て通りっだったわけだな。残りの命の残基は二つだろ、シロウの事だからあと一つかもしれないけどな」

 

おちゃらけた笑みを浮かべながら聞く。

 

そう、グレン達は敵の正体にたどり着いたのだ。メルガリウスの魔法使いに登場する魔煌刃将アール=カーンだと。

 

 

 

 

ルミアに似た謎の少女はナムルスと名乗り、逃げの選択を提案するもすぐに却下される。

 

「だめ、シロウを置いていけない」

「俺も同じだ。アイツは置いてけねぇよ」

『なら、どうするのアイツは不死身よ。何度殺しても勝てるわけがない』

「いいえ。シロウのおかげで正体がわかったから、確実に倒す事ができます」

 

そう言いながら取り出したのはメルガリウスの魔法使いの本であり、その中に出てくる魔煌刃将アール=カーンが正体だと語る。

 

ありえない。最初はそう思ったが、シロウの言葉が脳裏に浮かぶ。

 

「最低でも二回は持っていく」

 

あの時は意味が理解できなかったが今は確実に理解出来た。命の残基の事だと。

 

そこから計算し残る残基を二つと仮定すると、倒す希望が生まれてくる。

 

不安げだったナムルスも何処と無くムスッとした表情だが、嬉しそうな雰囲気が微かに漂う。

 

 

 

「シロウは絶対に私達が助ける!」

 

ルミアは高らかに宣言する。

 

『そうか。だが遅い。シロウは殺した』

 

魔人が放つ重圧(プレッシャー)に耐えながら投げかけた言葉は、無慈悲な魔人の言葉に打ち砕かれる。

 

嘘だと。首を横に振り否定して初撃を放つ。

 

迸る閃光は確実に狙いを心臓に定め穿つ。しかし、簡単に剣で払われ霧散する。

 

『無駄だ』

「油断大敵だぜ!白猫ォォ!!」

「分かってます!!」

 

感応増幅力で底上げされたシスティーナの巻き起こした突風は、空中に浮かぶ魔人のバランスを崩すことに成功する。

 

バランスを崩され、変化した視界の先に真銀の剣を振り下ろそうとするリィエルがいた。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁああああ!」

「こっちにもいるぞ!」

 

グレンは己の拳を強化し、刀で裂かれないよう準備をして魂喰らいの対処をする。

 

ルミアはセリカから借りている真銀の剣によって、魔術師殺しの影響を受けずに戦う事ができる。

 

まず、この形に持っていく事が迎撃の中で最も重要だと作戦を立てていた。

 

そうしなければ太刀打ちが出来ない。それほどまでに魔人の力は強大だった。

 

「クソっ!」

『温い。その程度では殺すことなど出来ないぞ』

 

上手く作戦はハマりどうにかまともに戦闘は出来て入るのだが、魔人の極められた剣術により新たに命を狩ることが出来ずにいる。

 

ルミアとシスティーナの魔術はいくら力を底上げしても、決定的な致命傷を与えられない。

 

グレンとリィエルも同じで、剣に細心の注意を払っていて接近戦なのだが深く踏み込む事が出来ない。

 

風が魔人の足を絡めとり動きを封じる。

 

今だ!!二人は一気に懐に飛び込み一撃を放つ。

 

伸びた拳は刀の柄で弾かれ、あらぬ方向へ飛んでいき、首元を掻き切るように肉迫する剣は刀を強引に引き寄せ、身体に当たる直前に剣の前へ入れ直撃を避ける。

 

互いの剣がぶつかり合い、甲高い音がドーム型のこの空間に反響する。

 

「強すぎだろ」

「そんな...」

 

千載一遇のチャンスを逃したショックな大きく、顔に諦めの文字が見え隠れし始める。

 

『小賢しい《■■■■■■》』

 

聞いたことのない詠唱を始める。

 

明らかに不気味で異様な雰囲気が漂い始め、それが魔術らしき物だと気づくのに数秒遅れる。

 

頭上に太陽のような炎の球が現れ、徐々に熱気をあげていく。

 

それは明らかに危険だと察知しグレンは愚者のアルカナを引き抜き、固有魔術【愚者の世界】を発動する。

 

魔術らしき物は途端に崩れ、それが魔術であり自分の固有魔術が有効なのだといい情報を手に入れる。

 

魔術を謎の力に妨害され、同様が目に見える魔人の隙に畳み掛ける。

 

「いいいいいいやぁぁぁぁぁああああああああ!!」

「《猛き雷帝よ・極光の閃槍以て・刺し穿て》《穿て(ツヴァイ)》ッ!《穿て(ドライ)》ッ!」

 

無防備な魔人に正面から三つの閃電が迫り、背後からはリィエルが剣を振り下ろそうとしている。

 

グレンにより魔術師殺しは閃電を払うには遅い。魂喰らいで引き裂く。

 

その間に背後から接近するリィエルに身体を縦に引き裂かれる。

 

『くっ』

 

愚者の民と馬鹿にしていた魔人は残り少ない命の一つを奪われ、残りは一つだけとなる。

 



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