天音 (脳髄)
しおりを挟む

これは私の

この作品は視点を変えて変えて変えますがsideはつけないでいくのでそこだけよろしくお願いしもっす。


雨雲がお空を覆っていた。

 

そろそろ一雨来そうだ。

 

びしょびしょになると服が体に貼り付いて気持ちが悪いから公園を探すことにした。

 

初めて見る街並みは小さなことの一つ一つが新鮮に感じて不安にも感じて、迷路のような気がした。

 

ーーーでももう身体はもたなかった。

 

雨がポツポツと降り始め、すぐに大雨に変わってしまった。

お空には光が見えなくて少なくとも小時間では止まない。

 

もうどれくらい歩いただろう。目的地もまともに決めないで来てしまった。

 

それでも歩いて歩いて、気が遠くなるほど歩いて、やっと雨宿りできそうな公園を見つけた。

 

 

ヤドカリのような滑り台があってそこで雨宿りをする。

 

雨脚はますます強くなる。水たまりがいくつも出来ていて、次第に川のように一つにつながった。

 

そのうちゴロゴロと唸りあげてカミナリが鳴り始めた。

 

 

怖くなった。もし私が雨にうたれれば雨のように流されていつか乾いてしまう。雷に打たれれば激しい音で私は消えてしまう。

 

そんな不思議な気分になった。多分弱っているからこんな気分になったんだろう。

 

運が良かった。こんな大雨の振り始めに雨宿りをするところがあることが私にはとても都合がいいことだ。

 

 

いく先のあてもなければ、やりたいこともない。

もう、やりたかったことはできてしまったから。

この先のためになんてことは微塵もなくて何も私は用意をしてこなかった。

この一瞬のために、苦心して私は寒空の下走り抜けたのだから。

 

 

 

 

だんだん心身ともに冷えてきて、頭が痛くて肌寒い。

悪寒が巡る。

 

これは罰だ。

 

誰にも優しくして、心を開かせて、私は心を開かなかった。

何もみないし、見させなかったから私のことをちゃんと知っている人なんていない。みんなみんな騙して欺いてきたのだから。

 

大人はみんな嫌いだったけどみんな優しい子ばかりで私たちはどんな仕打ちも励ましあって乗り越えてきた。

私だけだ。私だけが最後まで嘘八百を並び立て最も汚れていた。

 

今頃、どうなっているだろう。多分、みんなは八つ当たりにあっているのかも。

いや、絶対に躾られている。二人めの私が出ないように。

雨の中みせしめに誰ががもしくはみんな乱暴されてるかもしれない。

それも私より2つ3つ年下の子もそれ以上に下の子も。

全ては私のせいで。

 

 

 

でも知らない。私は知らない。そう決めたんだ。

誰に疎まれようとも、仇にされても、愛されてほだされかけても

 

私は私のまま裏切る。

 

辛いから裏切る。

面倒だから裏切る。

愛して止まないから裏切る。

 

だから、これが罰で死んでしまうなら

 

それさえ裏切ってやる。

 

 

何は無くとも生き延びてやりたい。

お母さんとお父さんに誓ったことなのだから。

 

 

 

 

雨は止むことを知らない。これは私の心から全てを捨てるためだ。

だからことが済むまで止まないでほしいと願った。

 

 

 

 

 

結局、心だけが空回りして私はヤドカリの中、意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

それが学年でいうと小学校三年の時の話だった。

その後、私は紆余曲折あり、保護されることになった。

風の噂によるとあそこはその後、数々と問題が発覚されて大手新聞会社にも取り上げられてマスコミに矢面に挙げられたらしい。

 

しかし、私はそれ以上に、私が逃げ出した施設の子どもたちがどうなったかを知りたかった。

裏腹に私は知りたくないという感情も共存させていた。

 

結局わたしは素知らぬふりを決め込んだ。

 

あの日、私は確かに助かったみたいだった。

 

なんせ私は意識を失っている間に助けられたのだから。

 

命からがらで助かったと聞かされた。

私は自覚しているほどの物を何も持ってない。

わずかなものも全部、雨に流されて雷に焼ききれてしまった。

空っぽの私が出来上がりだ。

 

あの日私は、契約をしていたのだ。一人を殺してその後を手に入れるという条件で。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------

 

 

放課後のこと、私は生活指導の平塚先生に呼ばれたみたいだった。

 

別に呆けているわけじゃなくてクラスの友達伝いで告げられたから呼ばれたみたいという結果に至っただけで詳しく要件を述べない辺りなにかしてしまったのかもしれないと思った。

 

目をつけられることはしてないと思うけど....。

 

今日は誰かと一緒に帰る予定もないし、特にやらなければいけない課題もないので早く帰ろうと思っていたのに。

仕方ないので早く済ませて帰宅するべく、私は職員室に向かった。

 

 

平塚先生のところには先客がいた。

 

えーっと名前は...うん。

クラスは....うん。

 

私の知らない人だ。

 

あっ!殴られた。でも、かなり手加減してる。

 

所謂愛の鞭かな。素晴らしきかな、生活指導の鏡。

 

「おや、九石《さざらし》、君もやっと来たか」

 

「はい、何かご用件でもあるんですか?」

心当たりがまったくないのである。

 

「君もそこのと同じだ」

平塚先生先生の右手が突きつけたのは私の作文である。

 

何か不味いことを書いたことは無いと思うけど。

 

「まぁ、確かによく出来た作文だよ。それは文法的にも内容的にも」

思ったよりも高評価だった。教師に面と向かって褒められたことは割と少ないので普通に嬉しいのだが、

 

「しかし、言ってはなんだが薄ら寒い。とにかく気味が悪い。君はどんなことを思ってこれを書いた?」

 

不味そうな料理が出て来たときの態度である。

 

だいぶ、失礼なことを言われた気がする。

 

私の横にいる男の子も思わず平塚先生にうわぁーっと少し引いてる。

 

「フィクションというものありがたみ、ですかね」

 

「書き直しだ馬鹿者」

 

丸まった作文で軽く私の頭を叩く。

痛くない。

 

大きく溜息を吐き、私と隣の子を交互に見直して

 

「比企谷、九石、少し付いて来たまえ」

 

そう言って白衣を翻して私と隣の子、比企谷くんを連れた一行は平塚先生を先頭に先導されるがまま、ある教室についた。

教室の入り口のプレートに何も書かれていないので空き教室で間違いない。

 

平塚先生はノックもせず、勢いよくドアを開ける。

 

「雪ノ下はいるかねー」

 

「平塚先生、ノックをしてください」

 

「雪ノ下、君はノックをしても返事をしないじゃないか」

 

「私が返事をする前に入るからです」

 

平塚先生らしいエピソードだと思う。たしかにこの人はそれくらい平然とやりそうだ。思春期のお子さんがいらしたら大変子どもは反発しかねないだろう。

 

「平塚先生、そこのぬぼーっとした人とボヤッとした人は?」

 

なんとかさんが平塚先生に問いかける。

よく見るとなんとかさんは大層な美人さんだ。

少々、キツイイメージがあるけどそれがまた、一種の味なんじゃないかなと考える。

 

にしてもボヤッて。的確だよ。

 

「入部希望者だ」

 

平塚先生はサラリと言ってのけた。

 

 

 

 

 

そこからはゴタゴタあって比企谷くんは部活をやりたくない、雪ノ下さんは願い下げ物だけど仕方ないから、本当に仕方ないから受けてやる。平塚先生はいつの間にか教室からいなくなっていた。

というより、私がボンヤリしていて、いなくなったことに気づくのが遅かった。

 

 

 

 

「それじゃ変わらないじゃない!」

 

空き教室に声が響く。

雪ノ下さんと比企谷くんが何をしゃべっていたか気にしていなかったので、聞いていなかったけど感情的な声で少しびっくりした。

 

そして平塚先生が再登場。とても機嫌が良さそうだ。多分廊下で聴きながらニマニマしていたのだろう。

容易に想像できる。

まともに人が通らない廊下、先生がニヤニヤとバレないように息を潜めてしゃがみながら壁に耳を当てる姿が。

 

壁に耳あり、このことである。

 

 

 

平塚先生の活躍を要約すると、はい、こちら。

 

平塚先生考案の元、不思議な学園バトルが火蓋を切って落とされた。

 

勝者は好きなことをなんでもだそうだ。

 

ちなみに私はオブザーバーという異質な役割を任されることになった。

 

私自身、部活に入って、一文の得もないが親に部活に入ったと告げるのは少しの徳があるかもしれないということで引け受けることにした。

 

平塚先生も気が済んだのか、回れ右して職員室に戻った。

 

訪れた何度目かの静寂。

 

 

とりあえずボンヤリしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

「あなた、さっきから聞いているの?」

 

雪ノ下さんの声が聞こえた。

さっきまでなにか言っていたみたいだけど聞いてなかったので何が何だか分からない。

 

「ごめん、ちよっと聞いてなかった」

私は素直に謝る。

 

「はぁ、まぁいいわ。貴方はたしか九石 綴さんだったかしら?」

 

「あ、うん、九石 綴《つづり》です。以後よろしくお願いします」

当たり障りなく気の利いたことも言わずに挨拶した。

 

「えぇ、正直貴方が入った理由はよく分からないのだけれど聞かせてくれないかしら?」

 

「うーん。原因は作文にあるけど、問題点は特に何も言われてないよ? まぁ胡散臭いとか薄ら寒いとか言われたかな」

 

そう、一応、貴方もそこの比企谷君と同じということね、とこちらを残念そうに見た。

 

「まぁ、辞めるまではよろしく頼むよ、雪ノ下さん」

 

「あなたが自ずから頑張るのよ、九石さん」

 

それはそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「教室を閉めるわ。出ていってちょうだい」

 

 

鶴の一声で初めての部活は終了した、

今日は依頼が来なかったから雪ノ下さんは読書、比企谷くんも同様に読書。かくいう私も鞄から単行本を取り出し、読んでいた。

 

三人いても誰もまともに喋らないのでとても静かで読書は家ほどではないが捗った。

 

私はオブザーバーという役割を任されたが今日、あの二人を見て、特に思うこともないわけで平塚先生の真意がさっぱり分からない。

 

帰り道、この時間になると人通りが少ないこの道を好んで歩いていると黒猫が私の前に現れる。

 

黒猫は不吉の象徴だ。

 

「ねぇ、私ってなんだろうね?」

 

茜色の空、夕焼けの光が私の影は大きくする。

 

触ろうとしたら、そそくさと人が通るには狭い道に逃げて行った。

猫の警戒心は強い。というより甘えどきじゃないのかな。

 

そう感じた今日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 




底には何がある。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

見て聴いて

この作品は、作っていて大変楽しいです。


HRが終わり、教室はざわめき出す。

昨日までは、ここで誰かに付き合って時間をいたずらに捨てる毎日だったけど、今日から、この時間は読書の虫になる時間になった。

 

毎日毎日、よく話題が尽きないなぁ、と私はいつも感心していた。

基本的に私は聞き役に徹し、相手が共感を求めていたらそれに沿うように答える。

 

そんなベルトコンベアのような作業だったのが他人の世界にのめり込むが出来る幸せの時間に変化した。

活字に浸かれるそんな至福を私は手に入れたんだ。

 

それだけで報われた気分になる。

 

そもそも私は元来、人付き合いが好きではない。

 

特に多数な人と話すのは絶望的に嫌い。

その中で話していると自分がいなくても話がうまく回る気がしてならないから。自分がそこにいる理由もさして見つからないのにこんな気持ちを抱いてしまうなんて大層気分が悪くなる。

楽しくないだけならまだしも、不快になるのだから、本当に嫌いだ。

 

その点、少数の人と付き合っていくの大変都合がいい。

自分の話したいこと聞きたいことが無くても、相槌を打つことに熱心になってれば、深い仲を育むつもりさえなければそれだけで事足りるのだから。

 

人の社会はどうしても大多数のコミュニティが複雑に縛られて絡み合っている以上、人付き合いは将来的に要求されるだろうけど、裏方に回れる仕事をすればいい。ひっそりとのっぺりと。

 

そう結論づけて、机に突っ伏していた私は上半身を起こしてゆっくり背筋を伸ばし、教材を鞄にしまい込む。

 

 

 

 

そうして教室を一歩飛び出したところで、残りの時間が少ないセミのようにピクピクと痙攣している比企谷くん、その人がいる。

 

前方には拳を固く握り締めているあからさまに怪しい第一発見者もとい平塚先生がいらした。

 

 

......おまわりさん。十中八九この人が犯人です。

 

 

 

 

 

 

 

_______________________________________________________________

 

廊下には足音しか聞こえない。和気藹々としているのが廊下というのも何故か、ヤンキー高校とかしか想像できないけど比べてしまうくらい足音しか無かった。

 

 

お互い気遣いがないのだからそれは話すことも聞くこともましてや笑顔になるような気持ちはない。

 

 

 

私の横には平塚先生、私の左手には通学用鞄。平塚先生の右手には比企谷君。比企谷くんは借りてきた猫のように静かでこんな理不尽にも不平不満をこぼすことはなかった。

 

女性に手を握られてるのが恥ずかしいのか緊張しているのかは比企谷くんのみぞ知ることだけど、私も手を握られると恥ずかしくなるのかなぁと他人事のように思う。

 

文化部の棟に入っても一切会話はない。でも会話をしなくても気まずくならないというのは私にとって最も良い関係だからちょうどよかった。

 

「やぁ、雪ノ下。彼らがゴネるので連れてきた。今日もよろしくしてやってくれ」

 

そう言って足早に来た道を引き換えす。

雪ノ下さんは何か言いそびれてため息をもらしている。

まず間違いなく、ノック無しだろう。

神経質だなー。でも普通といえば普通か。

 

「こんにちは、雪ノ下さん。今日もよろしく」

 

「ええ、こんにちは、九石さんと...誰かしら?」

 

「あの天下の雪ノ下が人の名前を覚えられないとは呆けているところがあるんだな」

 

「ごめんなさい。貴方のような矮小で卑屈、惨めな塵芥を覚えることが出来ない私が悪いわ。それと聞き捨てならないわね。貴方は人じゃないでしょ?比企谷くん。」

 

あまりに端正な笑顔が一男子に向けられている。

私が男の子なら直ぐにおとされることまったなしかな。

でも綺麗すぎて敬遠するかも。

 

「辛辣すぎるだろ。何なんか悪いことしたっけ。俺は親の仇なの?つーか名前覚えてんじゃねーか。」

 

「あら、冗談よ、聞き流しててちょうだい」

 

これを観察してなんになるのだろう。そう思ったので無視して本を読むことにする。

私が手を出す理由なんてどこにもないから、これからも続く会話にも耳を傾ける気はない。ここで口を出していたらいつもとやってることと同じ。

 

 

 

 

 

読書を始めようとしたら、弱いノックが数回、ドアを叩く。

沈黙がようやく生まれる。それも直ぐ消え去る。

 

「失礼しまーす。ここは奉仕部であってますかー。」

 

「えーと失礼します。平塚先生に言われて、あのー」

 

2人の来訪者、1人は低身長の男子と同じくらいの上背で髪は綺麗な黒髪、サイドを編んでいて制服はキチンと着ているのに対し、もう1人は髪は茶髪、頭にはお団子。明らかに着崩された制服。胸元のアクセサリーと諸々合わせて校則違反のオンパレード。

 

なんにせよ、どちらも美人さんだ。

 

 

「ここが奉仕部よ、白河涼子さん、それと依頼かしら?由比ヶ浜結衣さん」

 

へぇー私のこと知ってるんだ、と嬉し驚きをするなんとか浜さん。

となりの白河さんは笑みを絶やさない。

なぜずっと笑っているのだろう。あまり良い印象はうけない。

 

「あー!ヒッキーがなんでここにいるの?」

 

ヒッキー?、ああ、比企谷くんのことか。彼に合いそうなニックネームだね。

 

「それから九石さんも」

 

ん?私のことも知っているの?

 

「私のことも知ってるの?名前を覚えてるなんて不思議なこともあるもんだね」

 

「えっ!同じクラスじゃん!もしかして九石さん、私のこと知らなかったの!?」

 

あちゃー比企谷くんパターンか。同じクラスなのにまだ名前も覚えてないどころかいたのかいなかったのかという存在さえ知らない最悪なケース。

 

そろそろちゃんと人の名前は覚えた方がいいらしい。知らなくてもなんとかなるからと高を括っていたのが仇になるとは...

 

ここ一週間の中で一番の衝撃を受けた気がする。

 

 

そうこうして、自分の殻にこもっているといつの間にか比企谷くんと由比ヶ浜さんが言い争っている。

 

ビッチだのボッチだの悪意むき出しの言葉を互いにぶつけ合っている様は醜いというより、和やかとしていてなぜこうなっているのか意味がわからない。

 

「由比ヶ浜さん、それと白河さん、そろそろ依頼内容を」

 

雪ノ下さんが雑言の中に割り込む。

 

「あっ!そうだった。私たちね、実はクッキーを作りたいの」

 

白河さんはそう言うと、刻々と今回の依頼を語りだした。

 

 

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「というわけで!」

 

 

 

「結衣ちゃんが贈り物をしたいとのことでね、私が手伝ってたんだけど...まぁー、凄いのなんのって感じだから私なんかじゃあまりにも無理だぁーってことです。さすがに出来ないからってほおっておくこともできなくてぇ」

 

「それで奉仕部に白羽の矢が建てられたのかしら?」

 

「そーいうことです。お願いしてもいいかな?」

 

結衣ちゃんは。お願いしますと、頭を下げる。

 

 

しかし、この家事万能親孝行娘っぼい人が赤旗を上げるほどとはたしていかほどのものなんだろう?

 

それにクッキーでしょ?あれは確かに料理を始めたばかりならわからなくはないけど、それだってお菓子作りの本があればそうそうなことには??

 

 

 

「分かったわ、その依頼を受諾するわ」

 

雪ノ下さんの一声で全てが決まった。

 

ちなみになぜか比企谷くんは人数分の飲み物を買いにいかされている。

 

はたして何かあったのだろうか?

 

 

 

 

 

雪ノ下さん一行と家庭科室に向かい、クッキーを作っている。

私もなんとなくクッキーが食べたくなったので作ろうとしたら

 

「不本意ながら貴方はそこで見ていてちょうだい」

 

雪ノ下さんに遮られる。続けて

 

「平塚先生に執拗に念押しされているの。恨むなら平塚先生を恨んでちょうだい」

 

勘違いされてよかったのか悪かったのかは見当がつかないけど、

クッキーを食べられないのは少しばかりのショックだ。

 

仕方ないので家庭科室の料理本を見ることにした。

和洋折衷料理の数々が載っていてとても美味しそうだ。

私は料理がそこまで上手じゃない。たまに晩御飯を作る程度なので簡単な料理は作れるけれど。

 

両面にはパエリアのレシピ。

私には作れなそうだ。今度、お母さんに頼んでみよう。

 

「九石さん」

 

「はい?どうかした?」

 

「クッキー、食べてもいいわよ」

 

紙皿の上にはクッキー。

 

「もらっていいなら貰うね。ありがとう。クッキー食べたいと思ってたから」

 

「えぇ、召し上がれ」

そう言って翻す。

 

見るからによく出来てるこのクッキーは間違いなく美味しいだろう。

 

「一口食べたら止まらない、か」

 

程よく甘くて、しっとりとしている。口の中はざらつかず、水分をひったくられた気もしない。

 

本当によく出来てる。

 

 

 

料理本を元の棚に戻して、私は一つ、また一つとクッキーを口にしながら三人のお菓子作りの雲行きを見ることにした。

 

 

 

 

 





私はそれを失くして忘れて


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

腐敗する腸を

分量が多いととっても読みづらくなるのでかなり削ったけどそれでもこのザマ。もう少し少なくして分けて投稿したいと思います。
あと、アンチ・ヘイトでは無いけど少しおぞましい。そんな作品にしていきたいですね!


暖かい家庭に、暖かい食べ物、ゆらめぐ光

 

望んだことがないとは、頑として言えないものがそこにある。

今日はクリスマス。聖夜よりもサンタが、雪よりも期待が私の心にふりつもっているはず。

そうして窓を見つめていると、だんだん香ばしい匂いがしてきた。

美味しそうなお肉の匂いにつられてリビングに向かうとテーブル一面にご馳走で飾られていて私のお腹が恥ずかしそうに鳴いている。

サンタやプレゼントを待つより今はお母さんの作った料理をお腹いっぱいたべよう。

 

蝋燭が形を無くしてはケーキを染める。これで四度。

暖かすぎるのかな、残念だなぁ。

すっかりと高揚が冷めて、心が凍る一歩手前。

父と母が私を包み込んでくれたいつかを思い出して

生暖かくて居心地が良くなって私は満足した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

あれはそれ、これはどれ?うざったいな!もうどうにでもなってしまえよ‼︎

 

そう私は悪態をつきたくなった。

それもひょんなことからというより、故意に産み出された気がしてならない、そいつはそんな驚天動地の仕上がりだった。

結論から述べよう。由比ヶ浜さんの料理はとても創作的だった。

材料の使いどころはてんでバラバラ、小麦粉、バター、卵に関しては

大雑把極まりない。ダマに固形に、あげくは殻。砂糖から塩にジョブチェンジ。

次はインスタントコーヒーを取り出したが、そんなことに気を使うことよりも!っとツッコミをいれたくなったが、比企谷くんは感心しているみたいで

 

「ほー、コーヒーか、確かに飲みものがあると食は捗るしな、気が利いてるな」

 

「はぁ?違うんですけど、男の子って甘いもの苦手な人が多いから、隠し味に使うだけだし」

 

いやいや、私の目に映っているのは山盛りの黒い粉。激しすぎる自己主張に思わず引いてしまう。

 

「「か、隠れて、ねぇ!ないよ!」」

 

「なら、砂糖でその分をっと!」

 

今度は白い山がそびえ立ってしまった。

彼女はどうやら引き算がとっても苦手らしく、足し算すればいいと思っているらしい。

ちょっと待って!そ、そんなにバニラエッセンスを使っても....!

 

 

 

そんなこんなで、出来上がった物体は材料からは想像できないほどの仕上がりだったと言わざるを得ない。

故に私をふくめて若干4名は現在、脱帽していて口を開くことすらままならない。

 

では前置きはここまでにして、私が脳内でくっきー(仮)レビューをしてみよう。

 

まず、黒い。硯を溶かしてその上に漆黒の着色料を一切の惜しみなく使い切った、そんな血迷ったなんてものじゃすまないほど気味が悪い黒ですっ!

この世の全ての悪もびっくり!圧倒的暗黒だね。

こうなると月並みな言い方でしか説明出来ないけどこのクッキー(仮)は間違いなく界面活性剤とか殺虫剤とかに分類分けされているものであって、間違えても口にするなんて論外だよ。

と言うよりそうであってほしくてたまらない。だってそうじゃなきゃこちらの、死に最短で逝ける芸術作品を食べなければいけないのだから。

 

「ごめん、私ちょっとお化粧を直してくるね」

三十六計逃げるに如かず。祈りは非力、永劫に届かないことは目に見えた。だってこれはその前に昇天もあり得る。

 

「俺も少しトイレに行ってくるわ」と彼もすかさず逃亡を図る。

 

「まちなさい、二人とも。貴方達には義務があるのよ」

断腸の思いを乗せた表情を浮かべているところから察するに、どうやら感情的には私達と同族だ。

 

 

「ちょっと白河さんとそこの不届者二人はこちらに来なさい。由比ヶ浜さんはケータイでクッキーのレシピをしらべてもらえるかしら?もう一度作るから私達が話を終えるそれまで、しっかりと目を通しなさい」

 

 

「あ、うん。なんかごめんなさい」

 

「いえ、気にしてないわ、料理が壊滅的なのはまだ経験を積んでないからだわ。だから一切気にしていないわ。えぇ気にしていない」

 

彼女の右手の木ベラがミシミシと悲鳴をあげている。

多分、勇者を成長する前に叩く魔王のような気持ちなんだと思う。

つまり雪ノ下さんの見立てでは彼女はこれ以上成長させてはいけないのだろう。

いや、そんなことは...。マイナスアップはありえないはずだよね?

 

「では、ちょうどいいので廊下に出ましょう」

 

由比ヶ浜さん除く一同は速やかに教室から退出した。私は雪ノ下さんが一瞬安堵して息を吐いたことを絶対忘れ......ます。1、2、3、ポカン!無事忘れました、はい、私は知りません。私が知っているのは自分が以来遂行中にも関わらず、ため息をはいてしまったことだけです。

それ以上には知らないのでちょっと他のところを見てくださいません?

厳しい視線は私にとって大変よく効く毒なので。

 

 

 

 

 

 

 

 

廊下は私の心中とは反比例して静かだ。話しているのは雪ノ下さんと白河さんでその内容はあのクッキーへの飽くなき探究心。

 

喋れば本題に戻って事態が動くので最悪食べることになってしまう。だから私は黙ることにした。

 

そのせいか、この場は気まずさより不思議が場を占めている。

私と比企谷くんに関してはこの依頼を諦めることを押しているけど、頑強な二人は、何故あんなのが出来てしまったのか不思議でしょうがなくてそれどころではないらしい。

 

解決へのとっかかりが掴めず、しばらくたったそんななか、比企谷くんの発言がようやく膠着したした事態を動かし始める。

 

 

「俺は義務だのなんだので自殺するのは勘弁だぞ。いやこの場合は強迫だから他殺になる。そうなると雪ノ下は冷たい鉄格子の中で臭い飯を食べることになるんだ。だからあれはもう捨てて依頼は無しってことで。白河さんだったか?なんつーか、超頑張れ」

 

「い・や・だ・なー!雪ノ下さんは依頼を受けると言ったんだよ。こうなったら一蓮托生でしょ?死なば諸共、それにまだまだ出来ることはあるんじゃないの?早とちりはよくないよ、ね?雪ノ下さん」

 

 

 

「ええ、答えは単純に努力あるのみよ。それと比企谷君。あれはすべて食べれたであろう材料をつかっているのよ。最悪でも呑み下すことはできるわ。だから成仏することはないはずよ、ゾンビ谷君」

 

 

比企谷くんは納得がいかないのか、顔をしかめてわずかな反抗を示している。

まぁ本人は命をドブに捨てる感覚なのだろうからそれも仕方ない。

それに私も雪ノ下さんの理屈は無理やりだと思う。

 

「そうそう、それにさ、比企谷くん」

 

そう切り出すと白河さんは比企谷くんの耳元まで近づき、

 

「ーーーーーーー。」

 

私達に聞こえない声のボリュームでなにかを告げる。

 

彼女はなにを言ったのだろう?まぁ、十中八九脅しだろう。

理屈とかを抜きにして、比企谷くんの表情の変化から抽象的にもそう感じた。

そして不思議なことにそれがパズルのように一つ一つ得心のいくように象られていく。

なぜだが、何かを訴えかけられたように頭が痛くなった。

 

 

頭痛に苦しむ私が教室に少し寄りかかるなか、白河さんは体を翻し、また尋ねる。

 

「比企谷くん、じゃあ君はどうすればいいとおもう?」

 

何も具体的でない質問だからか、比企谷くんにと指名されているはずの質問が、問われていない私に投げかけられているような気がした。

まったくもってひどい錯覚で気味が悪い。

 

 

私の煩悶を他所に、問われた主はさきほどとは少し様相が変わっていて

 

「いっそのこと市販のクッキーを自分でデコレーションする。あるいは由比ヶ浜にステップをしっかりと踏ませて料理させる。それこそ二つの導火線の内、片方は触れただけでその場で爆発が起こる場合ぐらいに慎重に」

 

 

「最初はそれが妥当ね。彼女に目を離したら刹那でも駄目みたいなのだから、まったく気が抜けないわね」

 

この場合はどちらを切ってもドンッ!だと、手の施しようが私たちにはない、それよりも出来るだけ早急に逃げた方がいいと思われる。

 

 

「九石、お前はなんか他にあると思うか?」

 

そうこうして話がまとまりつつあるなか、私にもお鉢がまわった。

 

 

「ご指名されても特にないかな。後は、うん、食べるのは雪ノ下さんの美味しい美味しいクッキーがいいくらいかな。」

 

「九石さん。おだてても無駄よ。もちろん貴方もさっきのクッキーを誠心誠意食べるのよ。貴方が依頼を直接的に解決へもっていくのは禁止されているけれど一助はしても良いのだから」

 

私の素直な感想さえこの扱いだ、私がどう見られているのかなんとなくそこはかとなく分かった一瞬でした。

 

 

ともかくようやく話にカタがついたらしいので教室に戻り、またクッキーを囲むことになった。やっぱりドス黒い、これ即ち怖くてたまらない。

額から冷や汗が滲み出るように溢れて一筋流れる。私はこれを口に運んだらどうなってしまうのだろう。

想像するだけで走馬灯がフライングし始めていてなんかヤケを起こしそうだ。

輪に入れてほしそうな、甘えてくる子犬のような由比ヶ浜さんを比企谷君が誘い、やっと心の準備を除いて万全にできた。

 

 

では、この世の全ての食材に感謝を込めて、いただきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舌に触れるととても苦かった。

 

一噛みして舌が溶けるように消える錯覚。

 

二噛みして軽いやけどのようなヒリヒリとした痛みによって舌があることを思い出して

 

三、四で咀嚼するたびに唾液が溢れて喉に向かい流れていく。輸送されていく残骸が検問に引っかかっていくたび、焦げるような、破壊された廃墟から砂煙が舞うような悲しい気持ちと無慈悲に破壊されていく苦痛があいまっていく。

 

五で....

 

 

 

 

 

私たちは溢れる涙を止められなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

私は比企谷くんが先ほど自販機で買ってきた飲み物で口を潤しているが、どうにも先ほどのクッキーをすすいでいるような気がしてならない。野菜生活が悪魔的に美味である。

それほどにさっきのクッキーもどきは厳しいものであった。

見た目のファーストインパクトもさることながら、実食のセカンドインパクトがこうも苦痛を感じるとまったく関係がない私でも少し可哀想になってきて、私からも何か言うことにした。

 

「えーと、由比ヶ浜さん?だったかな。悪いことは言わないからスーパーとかデパートでそれなりの菓子折を買ったら?」

 

もちろん、可哀想なのはこれをもらう側である。

 

 

 

「ツヅリン、諦めないで手伝ってよー。お願い!そんな目で諦めないでよーっ!」

 

由比ヶ浜さん、想いとか気持ちはね、あくまで調味料なの。目玉焼きとかハンバーグにソースをかけるでしょ?醤油でもポン酢でもいいけどね。それってさ、目玉焼きがちゃんと出来てるから、かけたときにもっと美味しく感じることが出来るの。目玉焼きが野良犬にあげるバン耳以下の場合はね、かけてもソース自体が好きな人たち、そんな好事家にしか好まれないの。

だからね、生ゴミに想いや気持ちを乗っけたところで、外見がクッキーだからって、騙されても正体に気づいたときにはゴミを渡しやがって、とそれは重い一撃を腹に入れられるわけ。

分かったらさっさと走って詫びの品、買いに行ってこい、タコがッ!と思う気持ちを収納して由比ヶ浜さんに優しく微笑む。ちゃんと微笑めてるか少し怪しい。

 

「流石にモテない男子でもこれを女子から贈られてたら半端なくガチギレするぞ」

 

どこからともなく賛同の声が上がった。いや、食べればわかる。私の意見は、正しい。これこそが膾炙されるべきである。

 

 

「ヒッキーだったら?」

 

「もちろん、何があっても絶対許さない。霊験あらたかな御人にそいつが俺をからかわなければよかったという後悔が俺の憎しみの臨界点を越えるまで恨み続けてもらう」

比企谷くんはスポルトップを親指と人差し指で挟み、長机に両手で寄りかかる。視線は遥か上を見ていて、一見怒りを抑えているようにも取れる。

 

「うぅぅ。ご、ごめんなさい」

 

精神的に屍の域に入りかけてる由比ヶ浜さん含めて三人のなか、由比ヶ浜さんに対して白河さんが一人だけポジティブなことを言いだす。

 

「まぁ、これからの伸び代に期待ってとこかな。ちょろっとこれは人にあげるには失礼だけど、次はなんとかあげられるようにね?」

 

「そうね、まだ、諦めるほどではないわ、もう少し頑張れば全体的に獣畜生並みにはなるはずよ」

 

 

「シラリン....、雪ノ下さん....そうだよね!頑張れば出来るよね!?」

 

 

いやいや、由比ヶ浜さん、これはないでしょー。白河さんはまだしも雪ノ下さんは明らかに慰めになってないでしょ。だって暗に貴方は今は獣や畜生以下だよ、って言ってるだもの。しかも料理に関してだけじゃなくて総体的に言われてるよ。

 

 

「うん、もう少し頑張ってみる!教えてもらってもいい?」

 

「ええ、任せなさい」

 

「うん、そうだよ、そのいきだよ!為せばなるからね!時間はまだまだあるから頑張ろうか?」

 

 

そう言いだした彼女らは机の上を少し片付けてもう一度クッキー作りの準備を始め出していて。それを私は遠目で見守ることにした。

 

 

 

再度作り始めて数十分が経ち、今度はマシなものに仕上がったのか、先ほどよりも断然良くなったと見た目から分かった。

美味しそうではないが、食べられないわけではなさそうで不味そうというより、苦そうだ。

それで万々歳だと思うのだが、どうやらお二方ほど納得が言っていないらしい。クッキーを睨んではため息を吐いたりと、自分の腕前を嘆いているらしいが、あそこからクッキーの形になったんだから充分どころか過剰じゃない?

 

 

「やっぱり、あたし料理に向いてないのかなー才能ってゆうの?」

 

作った料理から目を背け、はにかんだ笑顔を曇らし、まるで自分を慰めるように、そう言った。

甘い言葉を無責任に吐くだけでいいならいくらでも堕落させ、果てのない底に送ることはできるが、私の思う最適解である、肝心のかけるべき言葉が見つからない、というより見つける気はさらさらない。

 

そんなのは私のいないところで勝手にやってくれ。自分に能力を真に知って自分を貶めては自分の可能性を真っ二つに折る。お次は自分の不甲斐なさに涙を流し腫らした面で喚きながら帰るのだろうか。

 

 

あゝ心底どうでもいい。この流れで帰ってしまってもいいのだろうか?

ささっと教室から出ようとしたら

 

「この場合、解決方法は一つよ」

 

「といいますと?」

 

「努力あるのみ」

 

 

 

 

「由比ヶ浜さん、貴方さっき、才能がないって言ったわね?」

 

「え。あ、うん」

 

「まずはその認識を改めなさい。最低限の努力もしない人間には才能がある人を羨む資格なんてないわ」

 

辛辣、痛烈な物言いだがけだし至言である。

真っ向からこれだけ言われる経験は、人付き合いが多く、トモダチがこの指とまれであぶれるくらい、いても今までなかったのか、その顔には戸惑いと恐怖が浮かんでいる。

 

逆か、それだけ人付き合いに多忙だとそんなことをするほど一人に固執することがないのかな。そう考えたら辻褄が合いそうだ。

 

帰ろうとした足を止めて、その光景を眺めることにした。

 

 

由比ヶ浜さんはまだ懲りていないらしく、雪ノ下さんに言われてもへらっと自分を誤魔化して火に油注いでいる。そうなれば雪ノ下はヒートアップするわけで。

あーあ。結構厳しいこと言われてるね。嫌悪とかもありありと感じるし、由比ヶ浜さんはだいぶキツかったのか俯いちゃってる。

比企谷くんはドン引きのあまり一歩引いている。

 

スカートの端を握る拳は固く、表情は伺えない。今度は癇癪でも起こすのだろうか、我ながら性格が悪いことに少し興味が湧いてきた。

 

「か......」

 

か?あー、帰るか、妥当だね。言い方ももう少しあったしね。仕方ない仕方ない。さぁ!諦めておしまいおしまい。

 

「かっこいい......」

 

「「は」」

 

「建前とか-------」

 

私は完全に興味を削がれたので鞄を持って静かに調理室から出た。

 

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

 

階段を下りて下駄箱に行くまでは数分もかからなかった。

もう、大丈夫だろう。比企谷くんもなんか考えているみたいだし、由比ヶ浜さんもやる気に溢れ始めた。

これも雪ノ下さんあってのものか。あの三人が揃うとなんか丁度良い感じだなー。

そんなことより今日も無駄な時間を過ごしてしまった。

そう自覚するたびに腹の虫が腸を食い破り、虫が取って代わって顫動するような不快さを味わう。

 

すでに日はオレンジに変わり始めて、今から帰れば暗くなる前には無事帰宅できそうだった。

上履きから靴に履き替えて、昇降口から出ようとすると、上履きの音が迫ってきた。

雪ノ下さん、いや比企谷くん?大穴、由比ヶ浜さんかな。

音が止み、私が後ろを向くとそこにいたのはその三人ではなく、

 

「やぁやぁ!突然いなくなっちゃってどうしたの?」

 

私を追いかけてきたのは白河さんだった。大ハズレである。

その笑みはあまりにも自然体であり、特段感情が込められているわけでもなく、かといって何も込められていないわけでもないように見える。

まったくもってわからない。

 

「ごめんなさい、実は塾の時間を間違えててさ、今週から時間を変更したから忘れてて。なかなかいい出せなかったけどあとはもう大丈夫かなって思ったから出てきたの」

 

口から出まかせとはよく言ったものでそれなりの理由を咄嗟に身つくろい、言った。

 

「そうだったの!?ごめんね、私たちのことにつき合わせちゃって、って今も時間取っちゃってるね、大したことも無いからもう行ってもいいよ、止めちゃってごめんね?」

 

「別に気しなくていいよ、私の不注意だからさ。じゃあ、ごめん。また縁があればその時はってことで。さようなら」

 

私は後ろの人物から何故か逃げるように少し早足で家へ帰った

 

 

 

 

 




いつしか形が肉づいていくと


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。