無能アニキ憑依録 (にわにわか)
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1話

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 声が聞こえる。……男の声だ。何処かで聞いたことのある様で、しかし頭は(もや)がかかったかのようにぼんやりとしていてそれが誰の声なのか判別がつかない。もう少し寝させてくれすごく眠いんだ。

 しかし、そんな俺の願いは声の主には届かず。ゆさゆさと肩を揺すって起床を促した。一言文句を言ってやろうと薄目を開き不機嫌さを全面に出しつつ声の主へと睨みを効かせる。

 

「アニキ、おはようございやす」

 

(…………? 誰だこのいかにもマフィアとか任侠ものに居そうな奴は)

 

 どうやら場所は車内らしい。左ハンドルのそれからして外車だろうが生憎と車にはそこまで詳しくない。助手席の男は全身黒ずくめだ。ハットにスーツ。サングラスに至るまでまっくろくろすけな上にガタイも良い。強面の大男である。

 

(それに、この顔。前にどこかで……)

 

 いろいろな意味で重い頭を支えるように顎先に手を当て、記憶を辿るべく他に情報がないか車内を不自然ではない程度に目線を動かした所でルームミラーにひどく違和感を覚えた。

 

(そもそも俺ってこんな顔してたか? 銀髪に今にも人でも殺しかねない鋭い目に不機嫌そうな面構えと隣の男同様黒のコート……ダメださっぱりわからねぇ)

 

「どうかしたんですかい、アニキ? 黙り込んじまって」

 

「(しまった。流石に不自然だったか)……なんでもねぇよ。それより用件はなんだ?」

 

「何ってアニキ、そろそろ時間ですぜ。奴がちゃんと一人で来るかどうか確かめるんじゃなかったんですかい? そろそろ入らねぇと取引時刻に遅れやすぜ」

 

「(一体何の話をしているんだ? とりあえず話を合わせておくか)嗚呼。そろそろ行くとするか」

 

「入園チケットは先に買っておきましたぜ! 勿論アニキの分も」

 

 そう言って男はスーツのポケットからよくある遊園地の入場券を二枚取り出し、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「(いい年こいて野郎二人で遊園地とかどんな罰ゲームだよそれ)余りはしゃぐなよ」

 

(それにしても、トロピカルランド(、、、、、、、、)ねぇ……どこかで聞いたことのあるような無いような)

 

 

 

 

 

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 自分が記憶喪失、あるいはそれに準ずる何かに近しい状況であると認識するにはそう時間はいらなかった。しかし、何故かは分からないがわからないなりに引っかかりを覚えるものが節々に感じ、それらが靄を晴らすきっかけになるだろうと半ば確信めいた感覚が己の中にあった。

 

「アニキ、ジェットコースターの方が空いているらしいですぜ。上からなら奴の姿も確認しやすいはず」

 

「(誰かを探しているなら観覧車の方が良いんじゃないのか?)嗚呼。お前に任せる」

 

 男は意外にも遊園地を楽しみにしていたらしく、本人は気づいていないだろうが鼻歌混じりに隣を歩いていた。少しばかり話してみた所見た目に反して人柄は良い。顔は厳ついが実は意外と良い奴なのかもしれない。

 片や不気味な笑み片や仏頂面。しかも両者ともに黒ずくめ。そんな俺たちの様子をジェットコースターの受付の女性が何とも言えない顔を必死に笑顔に変えて列へ並ぶように手をかざして誘導する。

 

 運が良いのか悪いのか最後尾にすんなりと座ることが出来た俺たちは人探し(、、、)をするべく発車を待った。前の列では毳毳(けばけば)しいの女とお似合いのいかにも軽薄そうな男がイチャついており、野郎二人で遊園地にいる現状に凄まじい敗北感を味わうこととなった。

 

「発車しまーす!」と従業員が口にすると同時にコースターが動き出し、坂を登り始めた。頂点に達し掛けたその時、男が「居ましたぜ」と小さく口にした。どうやら探し人は見つかったらしい。仕事はしっかりこなす様である。

 

 坂を猛スピードで下り、曲がり、トンネルへと突入してしばらくした所でコースターはざわつき始めた。生暖かい液体が顔にかかり、反射的にそれを手で拭う。どこかから温水でも漏れているのだろうかと設計に不安を抱きつつもトンネルを飛び出すコースター。

 

 気がつけば眼前には首から大量の血液を吹き出し続ける(カレシ)の胴体とそれを至近距離で見て悲鳴を上げる女がコースターに乗っていた。

 

 この悲惨で凄惨な状態にも関わらず俺はやはり冷めた目でどこかで見たことのある光景(、、、、、、、、、)だと、そう思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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2話

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 俺たちを乗せたコースターが戻ってくるとコースター乗り場は阿鼻叫喚の嵐だった。それもそのはず。人の頭が無くなってコースターは血で真っ赤に染まっているのだから当然である。普通の感性をしていればパニックに陥るのが普通(、、)というものだ。しかしどうだ。俺と連れの男は始めこそ驚いたがまるで人の死(ソレ)が慣れ親しんだものの如く今となっては何の感慨も感情も沸いては来なかった。

 

 正直に言って俺は俺自身のことが空恐ろしいとすら思う。今もなお記憶が定かでないが常人であれば他の乗客や野次馬と同様にパニックに陥って然るべきであろう。もし、記憶が蘇ったらどうなってしまうのかと漠然とした不安が脳裏をよぎる。

 

 そんなことを頭の片隅で考えながらも心は冷静そのもので周囲の人々を観察していた。そして、同乗者の中に居たであろう中高生程度の少年と不意に目があった。彼もまた同年代の(おそらくは彼女だろうと思われる)少女を(なぐさ)めつつ冷静に周囲の人間を注意深く観察していた一人である。

 

 目が合うと少年はまるで蛇に睨まれた蛙のように萎縮(いしゅく)し端正な顔を強張らせた。そんなに俺の顔は怖いのだろうか。いや、それはこの際どうでもいい。不思議とその少年少女に特別な何か(、、、、、)を感じるような気がしておおよそ目覚めてから初めて胸中がざわついた。

 

(俺はあの少年と少女を知っている。……そんな気がする)

 

 おそらく向こうはまだ(、、)俺のことを知らないだろう。とまで何故か理解した。それが当たり前のことのように。気味が悪い話ではあるがそういうこともあるのだろう。しかし記憶に鍵がかかった状態ではそう飲み込むことしか出来ない。

 

(何かきっかけでもあれば……)

 

「ア、アニキ。さっさとこんな場所ずらかりましょうぜ」

 

 俺をアニキ呼ばわりする大柄の男は面倒事はゴメンだとばかりに早く場所を移動しようと腕を引きながら提案してきた。俺も容疑者扱いされるのは流石に勘弁願いたいので男の話に乗るべくにその場を後にしようと背を向けた。

 

「待て! これは事故じゃない! 殺人だッ!」

 

 すると背を向けた俺たちに対して声変わりして間もないだろう少年の声が背に突き刺さる。嗚呼、そうだろうとも。事故にしては不自然にすぎる。続けて声の主は犯人はコースターに乗っていた自分たちの中に居るとさえまで言ってのけた。

 

「ガキの探偵ごっこなんざ付き合ってらんねぇぜ。行きやしょう、アニキ」

 

 知ったことかと有無を言わさぬ物言いで立ち去ろうとする連れの男に「警察だ!」と再び待ったの声がかかる。

 恰幅(かっぷく)の良い熟練刑事の見本のような男は部下を引き連れ、的確な指示を出しつつ野次馬の排除と現場保存を開始した。

 

「おぉ、工藤(、、)くんじゃないか!」

 

 刑事は親しげに少年の元へと近づき何故ここに居るのかと問いかけ、少年の方も親しげに刑事(目暮警部と言うらしい)に愛想よく答えていた。そして周囲の人々は少年、工藤の名に大袈裟なほど色めき立った。

 

(工藤? ……工藤新一。高校生探偵。サッカーボール…………ぐッ!?)

 

 工藤という名前に連鎖するように次々と()が知らないはずの情報が激しい頭痛とともに想起する。想像を絶する痛みに歯を食いしばって一瞬ふらついた身体に力を入れて踏みとどまる。どれほどの間そうしていたのか徐々に痛みが引いていき、自身が置かれている状況にようやく理解が及んだ。

 

 どうやら俺は秘密結社の幹部。それもアンダーグラウンドで人殺しが常の様な非日常に生きる男に成り代わってしまったらしい。コードネームはジン。信条は疑わしきは罰せよ。とかなり非情で残忍な性格な様だ。連れの男の名はウォッカと言うらしく、だいたいいつもツーマンセルで行動していた様である。

 

 そうこうしているうちに高校生探偵は自身の推理を繰り広げていた。犯人は被害者の友人だという女の一人。殺害方法はコースター搭乗時、容疑者が身につけていたはずの消えた(、、、)ネックレスを用いて行ったのだと実演を交えて解説し、追い詰めていく。遂には観念したのだろう。泣き崩れ、男に捨てられた腹いせに殺したのだと涙ながらに自供した。

 

「フン、くだらねぇ。さ、行きやしょうアニキ」

 

 時間を無駄にしたとばかりに男ウォッカはスタスタと歩き出した。遅れて俺も歩を進める。少し先を行くその背中を見ながら、これから起きるであろう数多ある問題に頭を悩ませることになるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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3話

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 時は夕暮れ。もう少しで完全に日が落ちるであろう時刻。俺たちはとある社長と取引するべく人気の少ない場所へと移動していた。周囲は木々に囲まれ、秘密の取引におあつらえ向きな人目を避けることの出来る壁までそこにはあった。

 

 ……この時、まだ俺は迷っていた。工藤新一を幼児化させるべきか否か。彼の未来を紙面上とは言えある程度知識として知っている俺としては何も知らないまま平和(と言っても何かと事件に巻き込まれるが)な生活を送っていたほうが良いのではないだろうかと。

 

 下手に組織に関わって死ぬ可能性のある非日常に引きずりこむのは正直に言って気が引けた。だが、かと言って彼が江戸川コナン(、、、、、、)として本来の活躍をしなかった場合のことを考えると彼の周囲の人間がより多くの不幸に苛まれる可能性のほうが多くなるかもしれないとも考えられる。

 

 どちらが正しいのか、そもそもとして俺が知っている知識は本当に正しいものなのか。俺が(ジン)として存在している時点でその前提条件は間違っているのではないだろうか? と思考が堂々巡りに陥ってしまう。

 

 そうして考え込んでいる間にも運命のタイムリミットは刻一刻と近づいていた。いつものことのように交渉役を買って出たウォッカ(ジンが交渉役の場合話が(こじ)れる可能性があるためだろう)と別れ、取引現場に人がやって来ないか見張りの役をするべく取引場所付近の木陰に身を潜め隠れていた。

 

 その時、知識にあるとおりに()がやってきてしまった。キョロキョロとあたりを見回し誰かを探すように現れた彼は壁の向こう側で怪しげな取引をする二人を見つける。

 

(嗚呼……本当に来やがった。)

 

 来なければ来ないで良いとさえ思っていたのに。そんな俺の思いとは裏腹に彼は知識のとおりに取引現場をこっそりと壁の影から覗き見しつつボイスレコーダーかなにかを上着のポケットから取り出して録音する体勢に入っていた。取引に夢中になっているのかその背は隙だらけだった。

 

(このままコイツを見逃せば……)

 

「誰だ! そこにいるのはっ」

 

 ウォッカと取引をしていた筈の社長が闇夜の薄暗がりの中目ざとくも壁の影から顔を覗かせていた少年を見つけて指差していた。ウォッカは慌てて振り向き、その手を内ポケットに差し入れ黒塗りの拳銃を素早く抜き出した。

 

(しまった。……こうなったらもう、やるしかない)

 

 俺は足音を殺しつつ素早く少年の背後へと移動し、伸縮性の特殊警棒を取り出して不意打ちするべく殴りかかった。その対象となった少年はろくに反応することも出来ず後頭部を強打、そのままドサリとうつ伏せに倒れ伏す。頭からは赤い血液がドロリと流れ出し、脳震盪(のうしんとう)でも起こしたのかぐったりとしている。

 

「ヒぃッ! ひえええええぇぇぇ」

 

 社長はその様子を見て悲鳴を上げながら人殺し(ジン)に怯えるようにそそくさと脇目も振らず一目散にその場から逃げ出していった。対してウォッカは小走り気味にこちらへと駆け寄り倒れ伏した少年に銃口を向けて話しかけてくる。

 

「アニキ、コイツさっきの探偵気取りのガキじゃないですかい。……殺しやすかい!?」

 

「待て、今拳銃(チャカ)を使うのは不味い。さっきの騒ぎでまだ警察が近くをうろついているはずだ。それに都合がいいことにコイツ(、、、)がある」

 

 懐から銀色のケースを取り出してウォッカに見せると一瞬怪訝そうな表情を浮かべ、「なんですかい、ソイツは」とこちらに問うてきた。俺は少年に聞こえるように(、、、、、、、)ペラペラと説明を始める。

 

「コイツは組織が新しく開発した毒薬だ。おまけに死体からも毒が検出されない完全犯罪すら可能にする代物だ。(まぁ、とはいえ少なくとも俺の知る工藤新一や宮野志保(、、、、)には本来の効果が発揮されない様だが)」

 

「そいつはすげぇ! さっさと飲ませてずらかりましょうぜ」

 

「嗚呼。……あばよ、名探偵。精々足掻きな」

 

 髪を掴んで顔を上げさせて無理やり口に赤と白の錠剤『APTX4869(アポトキシン)』を突っ込み水で流し込む。すぐさま反応が出たのか少年は苦悶(くもん)の表情を浮かべもがき苦しむように大地に爪を立て痛みに耐えるようにかきむしった。

 

 痛ましいその姿に背を向け早くしろと急かすウォッカの後を追うようにその場を後にした。

 

(生き残れよ、工藤新一。無事に生きていれば……手助けくらいはしてやるさ。例えこの手を血に染めようとも、な)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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4話

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 工藤新一にAPTX4869を飲ませてから数日が経過した。新聞やテレビでは連日『眠りの小五郎』が難事件を解決したと大きく取り上げられており、俺は工藤新一が幼児化し無事江戸川コナンとして生存することが出来たのだ。と一安心していた。

 組織の仕事は不定期らしく取引を終えると待機となり、その間俺はこれからどうするべきかを拠点として生活しているマンションの一室のベッドに寝転がりながら考えていた。

 

 先ず、大前提として俺は組織を脱退したい。しかし、組織に関わった以上(それも幹部クラスの人間を)そう簡単に「はいどうぞ」と素直に抜けさせてくれるだろうか? いいや、ありえない。もし抜けようとするものなら口止めに殺されること請け合いだ。今は耐えるべきである。

 

 次に、俺の知識の中にある(ジン)の行動がキーマンである江戸川コナン(くどうしんいち)、引いては灰原哀(みやのしほ)結果的(、、、)にとはいえ助ける形になるという事だ。組織側からしてみれば裏切りに近いレベルの行動である。

 

 例を上げると、宮野志保(はいばらあい)の幼児化を悟った組織の幹部(ピスコ)を始末したり、江戸川コナンが工藤新一だと気づいた幹部(アイリッシュ)を始末したり、組織に入り込んだNOC(ノック)NonOfficialCover(ノンオフィシャルカバー)の略称。また、潜入捜査官の事を指す)の容疑がかかった幹部に猶予(ゆうよ)を与え結果として始末しなかったりと一部を取り上げるだけでも彼の行動が実は組織を陥れるためのものなのではないか? と勘ぐってしまう程に江戸川コナン達をサポートしているのだ。これが悩みのタネである。

 

 では、どうすればいい。知識にある通りに行動していればそれでいいのか? 確かにそれも良いだろう。ジンの行動を可能な限りトレースしていれば直に組織は江戸川コナンや公安、FBI等の手によって壊滅するだろう。下手に動いて状況を悪化させる必要はない。なんならFBIや公安に擦り寄って証人保護プログラムを受けるのも手だろう。

 

(いや、……待てよ。そう言えば、何か忘れているような。…………そうだ、宮野明美だ! 彼女はFBI捜査官の赤井秀一の恋人であり、組織に赤井を引き入れたことから怒りを買って終いにはジンに殺されることになるはずだ)

 

 FBI切っての切れ者、それもあのベルモットをして銀の弾丸(シルバーブレット)になり得る存在だと危惧した男を敵に回すのは流石に勘弁願いたい。既に因縁深いものが構築されていそうではあるがこれ以上恨みを買うのは不味い。彼女の死をきっかけに妹の宮野志保も俺が工藤新一に飲ませたAPTX4869を自ら飲み、幼児化して組織を抜けるのだ。

 

(宮野明美を助ける、あるいは見逃す。となるとどうなる? いいや、そもそもとして組織は最初から彼女を始末するつもりだったはずだ。仮に盗んだ一〇億円を組織に献上(けんじょう)した所で殺されるのは目に見えている)

 

 新しく降ってわいた問題に頭を悩ませる。次から次へと問題が出て来るせいで組織が壊滅する頃にはストレスでどうにかなってしまうのではないかと憂鬱な気分になって来た。

 

 一先ず、彼女を助けた場合と殺したあるいは助けられなかった場合を考えることにしよう。

 

 では、助けることが出来た場合。赤井秀一や宮野姉妹に恩が売れる。とはいえ、問題は山積みである。組織を誤魔化すための嘘が通じるかどうか。相手の信用は底辺な上、信じてくれるか分からない点。それに俺が助けたと組織にバレた場合幹部とは言え俺の身も危ないこと。等、不安要素が多い。

 

 次に、殺したor助けられなかった場合。これは言うまでもなく赤井秀一や宮野志保だけではなく江戸川コナンにまでも恨みを買い、後々まで遺恨を残すことになるだろうこと。

 しかし、江戸川コナン(くどうしんいち)にとっては組織と戦うことに対しての決意や覚悟を固めるきっかけとなるはずだ。生半可な覚悟では彼の生死に関わる以上、彼には必要な試練と言い換えても良いのかもしれない。

 

 どちらも一応のメリットはある。これらを上手くまとめ、江戸川コナンに組織の危険性を知らしめつつ宮野明美を助けるそんな上手い方法を考えたい、がそんなものあるわけ………………あった。

 

(一種の賭けに近いが、コレ(、、)なら出来るかも知れない。)

 

 となれば準備が必要だ。忙しくなるな、これは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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5話


今話、次話共に語り部がジン(オリ主)ではなく別の人物になります。

ご注意ください。

また、原作(2巻FILE.4-5)をご存知であれば今回の話は読まなくても然程問題はありません。



 □

 

 

 

 

 

 オレは高校生探偵、工藤新一。幼馴染で同級生の毛利蘭と遊園地に遊びに行った際、黒ずくめの男の怪しげな取り引き現場を目撃した。取り引きを見るのに夢中になっていたオレは、音もなく背後から近付いて来るもう一人の仲間に気が付かなかった。オレはその男に毒薬を飲まされ、目が覚めたら身体が縮んでしまっていた!

 

 工藤新一が生きていると奴らにバレたら、また命を狙われ、まわりの人間にも危害が及ぶ。

 知人である阿笠博士の助言で正体を隠すことにしたオレは、蘭に名前を聞かれてとっさに江戸川コナンと名のり、奴らの情報をつかむために、父親が探偵をやっている蘭の家に転がり込んだ。

 

 ところがこの親父はとんだヘボ探偵だった。オレは小五郎のおっちゃんを名探偵に仕立て上げるべく、時計型麻酔銃でおっちゃんを眠らせ、蝶ネクタイ型変声機を使っておっちゃんの声で代わりに事件を解いている。

 この二つのメカは、阿笠博士の発明品だ。博士は他にもターボエンジン付きスケートボードや、キック力増強シューズなど次々とユニークなメカを作り出し、小さくなったオレが動きやすくサポートしてくれている。

 蘭もおっちゃんも、オレの正体には気付いていない。知っているのは阿笠博士ただ一人。

 

「小さくなっても頭脳は同じ! 迷宮なしの名探偵! 真実はいつもひとつ!!」

 

「何言ってるの、コナン君? 大丈夫?」

 

 小首をかしげてこちらを見る蘭の姿は少々物憂げな様子に見える。一体どうしたというのだろうか?

 

「あ、蘭ねえちゃん。えへへ~何でもないよ。それより電話どうだったの、繋がった?」

 

 子供らしい演技をするのにも大分慣れてきた。まさか『蘭ねえちゃん』だなんて呼ぶ日が来るとは夢にも思わなかったが……。それはそうとして、さっきから何度も電話をかけていたはずの蘭はオレに対してゆっくりと頭を振って口を開いた。

 

「駄目みたい。何度かけても繋がらないのよ……大丈夫かな、あの子」

 

「あの子?」

 

「ほら、この前お父さんを探して欲しいって依頼に来た広田雅美さんのことよ!」

 

 嗚呼、なるほど彼女のことか。確か、わざわざ山形から父親探しをおっちゃんに依頼しに来たのだ。……そう言えばちょっとした手違いで彼女の腕時計に博士が新開発した発信機を取り付けてしまい外せていなかった筈だ。今度あった時にこっそりと回収させてもらおう。

 

 確か、飼い猫の名前から競馬場に出向き、親父さんを見つけると彼の跡を付けて彼女にアパートの場所を教えることで感動の再会とはいかなかったものの無事再会することが出来たのだ。あっ、もしかして。

 

「また、あのお父さんどこかへ行っちゃってたりして」

 

 え、と蘭は困惑気味に表情を曇らせる。小五郎のおっちゃんは思案顔になり、あの男ならあり得ると珍しく同意してきた。

 

「ちょっと、悪い冗談はやめてよ! ……私、やっぱりあのアパートまで行ってくる!」

 

「あ、おい待て、蘭!」 

 

 おっちゃんの制止を無視して蘭は外へと鉄砲玉の如く飛び出していった。しゃーねぇなぁとおっちゃんも渋々と蘭の後を追うように歩きだす。ボクも行くー! と(こな)れて来た子供アピールをしつつ外へと出た。

 

 

 

 

 

 □

 

 

 

 

 

 アパートに辿り着き、ちょうど外に出ていた大家さんに話を聞くと広田雅美の父親である広田健三氏は昨晩亡くなったと腹立たしげに口火を切った。それも首を吊っての自殺だと言う話だ。

 

 おっちゃんが健三氏のことを聞くと不自然なことに入居する際に家賃を一年分前払いで支払うからと無理を言ってアパートに住んでいたことや、担当した刑事の話によると殺人の可能性がかなり高いと言っていたこと等すんなりと教えてくれた。

 

 アパートで得られる情報がなくなったために大家さんにお礼を言って別れ、今度は事件の担当刑事がいる警察署へとお邪魔することになった。

 

 どうやら担当したのは目暮警部だったらしく、小五郎のおっちゃんが事情を説明しつつ尋ねると彼は確信を持って殺人事件だと断言した。

 

 現場検証をした結果、首を()めて殺した後で縄を用いて天井から吊るしたのだろう。と、首に残っていた大きな手跡から犯人はかなりの大男だと判断したようだ。

 

 また、現場の近くで広田雅美が身につけていたメガネが発見されており、行方がわからないことから彼女の身にも危険が迫っているだろうことが予測される。

 

 もしかすれば、もう既に殺されているかもしれない。最悪の事態を予想し、はたと思い出す。

 

(……彼女の腕時計に誤って貼ってしまった発信機を辿れば、探すことが出来るかもしれない)

 

 すぐさま追跡メガネのスイッチを入れる。メガネに映し出された対象は…………動いている! まだ、生きている筈だ。

 

(まだ、間に合う。急げ! 間に合ってくれ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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6話

前話に引き続き語り部はジン(オリ主)ではありません。

ご注意ください。




 □

 

 

 

 

 

 追跡メガネのレーダーを頼りに発信源を探したのだが、反応のあったパチンコ店に入るや否や追跡メガネのバッテリーが切れてしまうと同時、店員につまみ出されてしまった。クソッ、博士の発明品はいつも肝心な所で……っと恨み言を言っても仕方がない。

 

 悔しさを胸に江戸川コナンとしてお世話になっている毛利探偵事務所に帰ると見知らぬ男がそこにいた。話を聞くとどうやら彼は小五郎のおっちゃんと同じく広田健三氏の所在を探るように依頼された探偵で、先程パチンコ店でオレが見かけた大男から依頼されたのだと告げた。

 

 彼はその男に昨日調査結果を報告したのだが、翌日つまり今日になって広田健三氏が亡くなったことを知る。余りにも不自然な出来事だと依頼人である広田明(おそらく偽名)を名乗る大男に疑惑を持ち、同じ境遇である小五郎のおっちゃんにコンタクトを取りに来たのだと語る。

 

 阿笠博士に追跡メガネのバッテリーを十分に充電してもらった後、オレ達は広田明の所在を探るべくタクシーに乗り込み追跡メガネを用いて発信源であるホテルまでたどり着いたのだった。

 

「本当にここに居るんだろうな?」と終始疑わしげにしていた小五郎のおっちゃんだったが、ホテルのフロントに広田明の写真を見せて尋ねると八〇二号室に宿泊していることが判明。すると直ぐ様エレベーター乗り場に直行した。

 

 その途中、スーツケースを大量に積んだ女性とすれ違い、その時何故か既視感を覚えたのだが今は八〇二号室に行くのが先だと後回しにしてしまった。

 

 八〇二号室にたどり着き、ドアを叩きながら大声で広田明を呼び出そうとするが何時まで経っても返事がない。

 意を決しておっちゃんがドアノブを回すと鍵が空いており、中には青酸性の毒物を服用したのか血を吐いて亡くなっている広田明の姿がそこにはあった。

 

 室内には空になったジュラルミンケースが散乱し、広田健三氏は独身で妻子はいないということが目暮警部へとかけた電話により判明する。

 

 では、広田雅美を名乗る女性は一体誰なのか。何故、名前を偽ってまで広田健三氏を探していたのか。

 ……その答えは先日起きた一〇億円銀行強盗事件が関係しているのだろうと今までの細かな違和感や謎を繋ぎ合わせると克明に物語っていた。

 

 すべてを理解したオレは先程すれ違った女性こそが広田雅美その人であるとここでようやく既視感の謎が解け、一〇億円を持って高飛びする気だと思い至り、彼女を追うべく蘭を伴いタクシーに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 □

 

 

 

 

 

 タクシーの運転手に事情を説明して広田雅美が乗るタクシーを追ってもらうと彼女が下車した場所はコンテナが立ち並ぶ港だった。夜空には三日月が浮かび、辺りには小さくさざ波の音が響いていた。

 

 まだ遠くにはいっていないはずだと蘭と一緒に広田雅美を探していると一発の銃声が大きく響いた。蘭と顔を見合わせ、警察と救急車を念のため呼ぶように指示を出すとオレは一人銃声がした場所へと急いだ。

 

「なぁに、妹が作った毒薬で死ねるんだ。……姉、冥利に尽きるだろう?」

 

 それは聞き覚えのある声だった。背筋が凍る様な、低い男の声。忘れもしない、オレがこうなってしまった原因を作り出した黒ずくめの男の声だ。

 

 コンテナの影に身を潜め、様子を伺うとそこにはトロピカルランドでオレを襲った銀髪の男が倒れた広田雅美に近づき、薬を飲ませようとしているところだった。

 男の近くには以前見た取り引きを行っていたもう一人の大男がおり、迂闊(うかつ)に動けばオレの存在がバレる可能性がある。

 

(まさか……オレに飲ませた例の薬を!? しかし、あの薬は毒薬だと言っていたのにもかかわらず死ぬことはなかった。なら、奴らが去るのを待てば…………)

 

「くっ、私を殺したら一〇億円の在り処は永遠にわからなくなるわよ!」

 

「生憎だが金の在り処は既に絞り込んである。お前が生きていようが死んでいようが変わらん」

 

 そう言って無理矢理口に錠剤をねじ込み、水で流し込んだのか彼女の咳き込む音が聞こえる。しばらくして痛みを堪えるかのような悲痛な叫びが鼓膜を打つ。

 

「アニキも人が悪い、銃で楽にしてやれば良いものを」

 

「フン、組織を抜けようなどと考えるからこうなるんだ。それよりウォッカ、先にホテルへ行って金を回収して来い。おそらくはフロントにでも預けてある筈だ」

 

「わかりやした。それで、アニキはどうするんで?」

 

「決まっている。裏切り者の(ライ)に自分の恋人の死に様が、どんなものだったか教えてやるためにコイツがくたばるまでじっくりと眺めるとするのさ」

 

「うへぇ、ライの奴も気の毒に」

 

「無駄口叩いてないでさっさと行けッ! それともお前も飲むか?」

 

 それは勘弁、と逃げるようにウォッカと呼ばれた大男はこちらへと走ってくる。慌ててコンテナとコンテナの隙間に入り込み、大男が走り去るのを見送るとホッと一息吐いて再び銀髪の男と広田雅美がいる方へと視線を戻すと既にそこに彼らの姿はなく。

 

 広田雅美のものと思わしき着衣(、、)と少量の血痕だけが残された現場に警察と救急隊を連れた蘭がやってくると近辺を捜索したのだが、結局その後銀髪の男とその仲間である大男も広田雅美の行方も分からないまま時だけが過ぎていく。

 

(何故、奴は広田雅美を連れて行ったのか? そもそも彼女は本当に幼児化してしまったのか? 薬の本当の作用は? オレの事はバレていないのか? 工藤新一が生きているとバレたとしたら?)

 

 ぐるぐると思考が悪循環するように彼女(、、)がやってくるまで、もやもやとした日々が続くことになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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7話

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 ベッドの上に横たわる少女(、、)が目覚めるのを待ちつつ、俺は賭けに勝利したことで一人ほくそ笑んでいた。

 

(……なんとか上手くいった。だが、油断は出来ない。あと少しでもウォッカを追い払うのが遅ければ見られていたに違いない。奴は何かと(ジン)相手に下手に出ては居るが結局の所は組織の人間だ。信用も信頼も出来ない)

 

 少なくとも俺が所持しているAPTX4869(アポトキシン)が飲めば幼児化を(もたら)す未完成品であるということは絶対にバレてはならない。若返りの薬というだけでも喉から手が出るほど欲しがる輩は腐るほど居る。

 

 その上、工藤新一や宮野明美が生存しているとバレれば面倒なことになる。一度ならず二度までわざわざAPTX4869を飲ませて始末したと報告した俺の身もただではすまないだろう。

 

 前回、そして今回と一応の証人としてウォッカにAPTX4869を宮野明美に飲ませるところを見せていて良かった。奴ならばもし、疑惑の目がこちらへと向いたとしても多少なりともフォローしてくれるだろう。敬愛するアニキ(おれ)のために。

 

(精々付き合ってもらうとしよう。俺のごっこ遊びに)

 

「ここは……? ッ!?」

 

 きっと、ろくな最後を迎えられないなと自嘲気味に苦笑いしつつ、ベッドの上で眠りから覚めたらしい小学生ほどの少女を見る。

 少女いや、宮野明美は見知らぬ部屋で眼を覚ましたことに疑問を持ったのか周囲に視線を配る。俺と目が合うと彼女にかけてあったシーツを抱き寄せ、何故お前がここに居るのかと言わんばかりに顔を強張らせた。

 

「眼が覚めたか、気分はどうだ? 宮野明美」

 

「最悪ね。あなたがいなければきっと悪い夢だったんだと思っていたのでしょうけど。それで? どうして、私は生きているのかしら」

 

「フン、気丈に振る舞うのは良いが体も声も震えているぞ。……少し待て、コーヒーでも入れる。話はその後だ(そんなに警戒するなよ。まるで、俺が悪者みたいじゃないか。いや、でも下手に抵抗させないように足を撃ったりAPTX4869を無理に飲ませたりしたから警戒しても仕方がないといえばそうなのだが)」

 

 一応、命の恩人なんだがなぁ。と内心ため息を吐いてサイドテーブルの上に用意しておいた電動ポットから湯をコップに注いでインスタントコーヒーを作って手渡す。

 

 俺の分も注ぎ、口つけようとしたが彼女は何時まで経ってもコップに口をつけようとしないことに気づく。

 嗚呼、なるほど。そりゃそうか、ついさっき毒薬を無理やり飲まされたんだから飲み物にも何か仕込んでいると考えるのも無理はない。

 

「ハァ……。毒なんざ入れちゃいねぇよ」

 

「あなたの言葉なんて信用するとでも?」

 

「チッ、じゃあ俺のと交換するか? わざわざ自分のものに毒入れる馬鹿はいねぇだろ」

 

「そうね。でも、私がそうすることを見越してそっちに毒を仕込んでいるという事も考えられるわよね?」

 

「(どんだけ信用ねぇんだよ……話が進まねぇじゃねぇか、って震えが止まってやがる。まんまと嵌められたってわけだ)もういい、くだらねぇ押し問答を続けるつもりはねぇんだ。早速だが本題に入る。お前はAPTX4869という毒薬を服用して身体が幼児化したのさ」

 

「服用と言うけれど無理やりあなたに飲まされたのだけど……って、幼児化ってどういうこと!?」

 

 恨みがましげに俺をジト目で睨みつけていた宮野明美だったが、耳ざとく幼児化という部分に激しく反応した。

 子供特有の声の高音が耳に痛い。これまた事前に用意していた手鏡を彼女に手渡すと恐る恐る手に取り、小さく変化した自身の姿を愕然(がくぜん)とした表情を浮かべながら見つめ続けていた。

 

(まぁ、そうなるだろうな。一体どういう化学変化が起きたらこうなるのか目の前で実際に起きてもさっぱり分からなかったのだから本人ならばなおさらだ)

 

「元の身体に戻るにはどうすればいいの……?」

 

「さぁな。だが、老けたわけじゃねぇんだ。同じ年月をかけて地道に歳をとればいい」

 

「そ、そんな…………大君」

 

 頭を垂れ、気落ちした様に(うつむ)き涙を流す宮野明美。外見が少女とあって凄まじい罪悪感を感じ、余り言いたくはないがフォローするべく小さくため息を吐いてから口を開く。

 

「この薬を作ったのは前にも言ったが、お前の妹だ。逆を言えば宮野志保(シェリー)だけが解毒薬を作ることが出来る唯一の存在と言っても過言じゃねぇ、だが」

 

「あの子が組織に居る限り、私は元の姿に戻れない」

 

「その通りだ」

 

「じゃあ、やっぱり無理じゃないっ」

 

 そう叫んで大粒の涙を零す少女に俺は意地悪くニヤリと口の端を吊り上げて見せる。

 

「クククッ、そいつはどうかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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8話

 ■

 

 

 

 

 

 泣きはらした目で縋るように見つめてくる少女はどういうことなのかと問うてきた。俺は現金なやつだと苦笑しながらも問に答えるべく口を開く。

 

宮野志保(シェリー)の奴も馬鹿じゃない。お前と連絡がとれなくなればお前の身に何かが起きたと勘づくはずだ」

 

「そうね。あの子は賢くて優しいから……でも、それとこれとは関係ないじゃない」

 

「本当にそう思うか? だとしたらお前は奴を見くびりすぎだ」

 

「どういう意味よ、それ。まるであなたの方があの子の事を理解してるみたいな言い草ね」

 

「何、直にわかる事だ。……調子が戻ったようだな。()は戻れない事だけ理解しておけばいい。ことが上手く運べば一年以内で諸々の蹴りがつく筈だ。その後どうなるか、どうするかはお前次第だがな」

 

(だから、ここで大人しくしておいてくれ。下手に動かれてかき乱されては困る)

 

 万が一にも正体がバレて殺されたりしたらと思うと頭が痛い。

 宮野明美は理解が追いついていないのか疑問符を浮かべながら怪訝そうにしているが、しばらくしてわからないことがわかったのかそう言えばと話題を変えようと口火を切った。

 

「聞きそびれていたのだけれど、どうして私を助けたの? あなたにメリットなんてないはずだし、まさかここまで来て口封じをしようだなんて言わないでしょう?」

 

「本当に今更だな。全く、こんな女が恋人では奴も苦労するだろうな。……お前は俺に助けられたと思っているのだろうが、俺はきっかけを作ったに過ぎん。結局のところはお前の運が良かっただけだ。運命の女神様にでも感謝するんだな」

 

「…………あなたって、本当に素直じゃないのね。まぁ、恩着せがましいこと言われるよりは良いのだけれど」

 

 くすくす。とようやく笑い声を漏らす宮野明美に抗議するように鼻を鳴らし、冷めてしまったコーヒーを一気に飲み干す。何故かいつもより苦い気がした。

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

「無駄話はこれくらいにして、今後のことを話すが異論は認めん。ここでは俺がルールだ。まずは、とりあえず名前から決めるぞ。偽名とは言え自分の名前だ好きに決めろ」

 

「好きにって言われても、困るのだけれど。……流石に宮野明美を名乗るのは駄目だってことくらいは分かるけど急にそんなこと言われても思いつかないわよ」

 

 少女はそう言って、うーん。と悩ましげな声ともつかない唸り声を上げながら頭を抱えて考え込んだ。俺も同様に何か良さそうな名前がないか一緒になって考え込む。

 

「(そう言えば妹の方、灰原哀(みやのしほ)はコーデリア・グレイ(はいいろ)とV.I(あい).ウォーショースキーからとったんだったか? じゃあ、同作者の前作アダム・ダルグリッシュをもじり禁断の果実(、、、、、)を食らったイブ……日本名っぽく伊吹で良いだろう。名前はV・I・ウォーショースキーの作者サラ・パレツキーから沙羅ってとこでどうだ?)伊吹沙羅(いぶきさら)

 

「いきなりどうしたのよ……ええと、そう言えばあなたの名前って聞いてなかったわよね。教えてくれる?」

 

「俺は…………ジンだ。別に覚えなくても良い。それより名前が決まらないなら俺の案で通すが、問題ないのか? 伊吹沙羅」

 

 我ながら字面は良いと思う。問題は宮野明美が気にいるかどうかだが。それにしても名前を考えるというのも一苦労である。

 

 生憎と自身の本当の名を思い出せない俺には皮肉にもジンというコードネームだけが俺を識別する名前と言うわけだ。

 

 この身体(ジン)となる前にどんな生活をしていたのか、親兄弟友人関係に至るまで()に関する記憶だけがすっぽりと抜け落ちている。その割には何故か無駄にサブカルチャー系統の偏った知識が残っているようだが。

 

「ジン、ね。覚えたわ。本当は本名の方が知りたいのだけれど。まぁ、今は良いわ。伊吹沙羅ってなにか理由があるのかしら? わざわざ考えてくれたんですもの、何故と聞いてもいいかしら」

 

「お前、聖書は知っているか? アダムとイブ。有名な話だが、蛇に(そそのか)され禁断の果実を食った(アポトキシンをのんだ)女の名はイブ。そいつをもじったのが伊吹。沙羅、サラもユダヤ教つまり裏切り者の母の名だ。組織の裏切り者のお前にはピッタリというわけさ」

 

「なるほどね。……あなた、もしかしてキリスト教徒なの?」

 

「悪い冗談だな。知識として知っているだけで俺は無神論者だ。神なんぞに祈ったことは一度としてない」

 

(もし神様とやらが居るとしたらソイツに鉛玉のフルコースを味わわせてやりたいくらいだ)

 

「それじゃあ、名前も決まったことだしもう一度自己紹介をしましょうか。宮野明美改め伊吹沙羅よ」

 

「ジン、だ。生憎だが他に名は持ち合わせていない」

 

 よろしくね、共犯者さん。と小さな手を差し出して微笑む少女にやれやれと頭を振ってその手をとった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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9話

ほのぼの


 ■

 

 

 

 

 

 昨夜はひどい目にあった。……いや、確かに俺の配慮が足りなかったのは認めよう。だがしかし、裸の一つや二つ見られた所で減るものでもないしそもそも幼女、起伏も色気もない子供の姿に欲情するわけが無いだろうと声を大にして抗議したいものである。俺はロリコンではない。

 

 宮野明美改め、伊吹沙羅と握手を交わした際に伸ばした腕を見て彼女は自身が今の身の丈にあったまともな衣服(、、、、、、)を身につけていないことにようやく気がついた。

 

 シーツで隠れていた身体に視線を落とすとそこには男物の白のYシャツがポンチョの様にだらりと垂れ下がっており寝苦しくないようにと開けておいたボタンの隙間からは白い肌が見えていた。少女は羞恥で顔がトマトの様に染まり悲鳴を上げてシーツを引っ被ってダンゴムシがごとく丸まった。

 

 裸よりはマシだろうと一応気を利かせたつもりで長袖のYシャツを着せておいたのだが、それが余計に彼女を苛立たせたのか『変態』呼ばわりされる始末。

 

 元の服はどこだと問われれば、発信機や盗聴器の類が仕込まれている可能性があったために港に捨て置いたと告げて、そもそも着れないだろうと指摘する。彼女もそう言えばそうだったわねと同意しつつもそれでも理解は出来ても納得したくないと乙女心故にかシーツに包まってうー、うーとベッドの上で転げ回っていた。

 

 今更何を気にしているのやらと肩をすくめて、彼女が起きる前にノートPCで見ていたブラウザの画面を見せるベくシーツを無理やりに引き剥がした。恨みがましげに睨みつけてくるが知ったことではない。

 

「いつまでもそんな格好でいられないだろう。かと言って俺が買いに行く訳にもいかん。故にこれだ」

 

「ネットショッピング? 意外ね、ずっと裸Yシャツを強要させられるのかと思っていたわ」

 

「俺にそんな趣味はねぇ」

 

「どうだか……あっ、これかわいい。これとこれも」

 

 ノートPCを奪い取るようにして宮野、いや伊吹は次々と好みに合った服をピックアップしていく。一応おかしな真似をしないように見張るべく暫くの間付き合っていたのだが、長い。とてつもなく長い上に俺に意見を求めてくる。

 

 返答がおざなりだなんだと文句を言われること二時間。カートには厳選されてなお、かなりの量となった衣類品がずらりと並んでいた。

 

 これ本当に全部買うのか? と問えば当然でしょと即答され、渋々購入するハメになり、爆買してようやく機嫌が治まったのか手を口元に当てつつ大きくあくびをして「もう寝るわ」と再びベッドの中へと消えていったのであった。姉妹とはやはり似るものなのだろうか。あまりの自由奔放ぶりにため息すら出ては来なかった。

 

 と、まぁ大体こんなことが昨夜起きたわけである。一応、念のため昨夜使用したノートPCや俺のスマホにはロックをかけておいた。固定電話は元より引いていないから問題ない。宮野明美の所持品はすべて港に置いてきたも同然だからこれもまた問題ない。下手に外部と連絡を取られると困る。

 

 (はた)から見れば誘拐して監禁している様に見えるというかそのものな現状に乾いた笑いが漏れ出る。どうしたものかと頭を捻っていると伊吹が現れた。Yシャツ姿にはもう諦めたらしい。

 

「おはよう、ジン」

 

「ああ。起きたか、もう少し待て今焼き上がる」

 

 手にはフライパン。その上には朝食の定番だろう目玉焼きが出来つつあった。頃合いを見計らって(ふた)を開け先に焼いておいたベーコンが乗った皿の上に乗せる。

 と同時、トーストが焼ける音が鳴り響き時間調整が上手くいったことに、良しと内心笑みを浮かべる。

 

 二人分の皿を持って伊吹の元へと近づくとその顔は心底驚いた表情だった。

 

「あなたってホント……いえ、いいわ。何故かドンドンとイメージが壊れていく気がするわ」

 

「(あー、なるほど。(ジン)の顔や姿からしてわざわざ料理を作るような奴だと思わなかったとかそういうことか)朝食は重要だ。朝食を(おろそ)かにするやつは大抵頭が回らず無様を晒すハメになる」

 

「はいはい。わかったから食べましょ。いただきます」

 

 両手を合わせて小さくお辞儀するようにしてトーストに(かぶ)り付く少女を尻目にポットから湯を注ぎコーヒーを作って口にする。じつに平和な朝がそこにあった。

 

 

 

 

 

 



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10話

 ■

 

 

 

 

 

 伊吹沙羅(みやのあけみ)を匿い、友好的といって良い関係を構築できたと自負する頃。……遂に彼女が動いた。

 自身の姉と連絡が取れないことから異常性に気づき、姉の無事が分からないのならばAPTX4869の研究を中断し返答次第で凍結すると薬を盾に要求していた様だが、当然宮野明美はこちら側にいるので組織は彼女の要求を飲むことが出来ない。

 

 組織は業を煮やし、彼女を拘束監禁して拷問まがいの脅迫を執行するも彼女は頑なに拒んだ様だ。それからしばらくして彼女は突如として姿をくらました。

 

 組織は血眼になって彼女を捜索するが未だに足取りがつかめていないのか今日になって俺のところにも捜索するようにと指令がやってくる始末。無事に逃げ果せることが出来たのだと確信を持つことが出来たのであった。

 

「どうしたの? 嬉しそうね、ジン」

 

「よく分かったな……そうだな、懸念事項がまた一つ減ったからそう見えたんだろ」

 

「へぇ、それ何が起きたのか聞いても良いかしら?」

 

「(お前の妹が幼児化して組織を脱出しただなんて言えるわけねぇだろ。会いに行くとか言い出しかねんし、仮に会わせるとしても最低でもピスコの奴を処理してからじゃないと危険すぎる)何、大したことじゃない。それより届いた服の方はどうだ? サイズは合っているか?」

 

「ええ、問題ないわ。それよりどうかしら。似合っていると思う?」

 

 つい先程届いたばかりのダンボール箱から取り出した可愛らしいフリルの付いたワンピースに身を包んだ少女はその場でくるりと一回転して微笑んだ。

 

「馬子にも衣装だな。流石に高いだけのことはある」

 

「何よそれ、私は可愛くないってこと?」

 

 俺の言葉が気に食わなかったのか少女は膨れっ面を晒し、外見と合わさって余計に子供っぽく見えた。中身まで幼児化していないだろうか。

 

「さぁな。……仕事が入った。しばらく出かけてくるが不用意に外に出たりするな。万が一外出する場合はウィッグ(かつら)とマスクを付けるのを忘れるな。それと」

 

「はいはい。わかってるわよ心配性なんだから。私だってせっかく拾った命ですもの、おとなしくしてるわよ。……一年だけおとなしくしてれば良いんでしょ?」

 

「ああ、勿論お前の妹の安全も保証する」

 

「お仕事頑張ってね。パパ?」

 

「俺はそこまで年食ってねぇよ。じゃあ行ってくる」

 

 なんて下らない会話を終えてマンションを出る。スマホを操作してウォッカに電話を繋げつつエレベーターで下へと降りていく。

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 背を向けて走る男をゆっくりとした足取りで追う。死神が段々と近づいてくるかのようなコツコツという音が静寂の中響いた。しばらくの間追いかけっこが始まり、男は行き止まりにクソッと悪態を吐きこちらへと観念したかのように振り向いた。

 

「やめてくれ、一体俺が何をしたって言うんだっ!?」

 

 眼前には名も知らぬ男が壁際に追い詰められ、なにやら言い訳がましく命乞いをし始める姿があった。歳は二〇半ばくらい、そこいらにいそうなホストあるいはチンピラの様な風貌をした男は突如としてジャケットの内側から拳銃を取り出してこちらへと向けてきた。が、遅い。

 

「ぅ、ぐぉおおおおおおッ」

 

 先んじて撃った弾丸は男の腕を貫き、握っていた銃は落下しアスファルトの上を滑る。痛みに堪えて銃を拾おうとする男に近づき、その頭に銃を突きつける。男は恐る恐るこちらへと振り向き、震えながら助けてと口にする。

 

「今更、遅えよ」

 

 答えは拒絶。せめて楽にあの世へ逝けるようにと引き金を引く。放たれた弾丸は脳天を貫き血飛沫を上げ、その生命を散らした。

 

「相変わらずアニキは容赦のねぇ。……惚れ惚れするほどですぜ」

 

「世辞は良い。さっさとずらかるぞ」

 

「へい。了解しやした」

 

 仕事は順調に進んだ。組織の情報を流したとされる男を追い詰め始末するだけの簡単な作業であった。人を殺めたというのに何の感情も湧いてこないことからやはり俺は冷酷な人間(ジン)なのだと再認識する。

 

 せめてもの救いはこれがジンになったことによるものなのか往来のものなのかがわからないということだった。

 ……無性に伊吹に会いたくなったのは何故だろう。どこか抜けている少女の姿を思い出し、毒されたかと肩をすくめる。

 

「そういや、アニキ。宮野明美って女のこと覚えてやすかい?」

 

「ああ、俺が死に絶えるその最後まで見ていてやったからな。そいつがどうした」

 

「なんでもそいつの妹が組織から抜け出したって話がありやして」

 

「フン、使えねぇ連中だ。それで、俺たちに探せとでも言ってきたのか?」

 

 へい。と返答するウォッカ。どうやらウォッカの方にも指令が来ていたらしい。これからまた少し騒がしくなるなとハンドルを握る腕に力を込めて気合を入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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11話

ママ役登場


 ■

 

 

 

 

 

 早朝。朝食の用意をするべく冷蔵庫からハムと卵、きゅうりを取り出しサンドイッチでも作ろうかと準備をしていたところにインターホンが鳴り響いた。こんな時間に誰だと思いつつ覗き穴から外を確認する。そこには宅配業者と思わしき細身の人物が帽子を目深に被り、ダンボール箱を抱えていた。

 

「(なんだ、宅配業者か。)今、出る」

 

 鍵を開け、応対するべく扉を開くとその人物はずかずかと部屋に入り込んでくる。どういうつもりだと胸ぐらを掴んで壁に押し当てると柔らかな感触が手の甲に伝わった。壁に押し付けられたソイツは何が面白いのか高笑いをし始める。

 

 何処かで聞いたことのある女の声だ。女は帽子とマスクを剥ぎ取ると愉快そうに「久しぶりね、ジン?」と俺の名を呼ぶのであった。

 

(ベルモットだとっ!? 何故コイツがここに? ……いや、ジンと意味深な関係があると(ほの)めかされていた気もしないでもない)

 

 長い金髪をかき揚げる仕草は彼女の美貌と合わさり実に扇情(せんじょう)的だ。初見であればとても五〇以上年を食っているとは思うまい。若作りもいい加減にしろ。

 

「あなた、今失礼なこと考えなかったかしら?」

 

「フン、さてな。それより一体何の用だベルモット。俺は今忙しいんだ。さっさと用件を言って帰れ(伊吹のことがバレてはかなわん。早々にお帰り願いたい)」

 

「あらつれないわね。まぁ良いわ。しばらくここでお世話になるから、よろしくね?」

 

「(!?)聞き間違いか? お前がここで暮らすと言った気がしたが?」

 

 冗談じゃない。何故ベルモットを泊めなければならないのか。クリス・ヴィンヤードとしてホテルにでも宿泊していればいいじゃないか。

 

「聞き間違いなんかじゃないわよ。今日からここで暮らすって言ってるのよ、ジン。それじゃあ前使ってた部屋使わせてもらうわよ」

 

 そう言ってするりと俺の拘束を抜け出し、いつの間にか持たされていた荷物を運んできてと先行く彼女が言う。 呆気にとられ静止する間もなく廊下の奥へと消えた彼女の後を急いで追う。やたらと重い荷物を運びながら一番奥の部屋にたどり着くと起き抜けでパジャマ姿の少女と彼女が鉢合わせしていた。

 

「誰?」

 

 と伊吹はベルモットを指指して俺に問うてくる。ベルモットの方はといえば能面のような表情を浮かべながら(さげす)んだ目でこちらを見つめてくる。

 

「ジン……まさかあなたが小児愛者(ペドフィリア)だったとは思わなかったわ。しかも誘拐監禁するだなんて見損なったわ」

 

「待て、ベルモット。お前は勘違いをしている。そいつ、伊吹は拾っただけだ」

 

 視線を少女に向け、話を合わせろとアイコンタクトを交わす。わざわざ彼女を組織のコードネームで呼んだことで伊吹の顔も神妙なものへと変わり、こくこくと頭を上下させて同意を示した。

 

「拾ったって、あなた犬猫じゃあるまいし……本人から直接聞いたほうが早いわね。ええと、伊吹ちゃん? この(こわぁ)いお兄さんに酷いことされなかった?」

 

「おい、俺のことを何だと思って」

 

「あなたは黙ってて」

 

 舌打ちをして成り行きを見守る。一応、組織の人間に伊吹沙羅の存在が知られる(こういう)ことがあった時のためにカバーストーリーは用意済みである。抜かりはない。

 

 伊吹沙羅としての設定は基本的に人見知りであること。俺と似たように自身のことだけが思い出せない記憶喪失の様な状態となっていること。倒れていた所を俺に拾われたこと。帰る場所が見つかるまでここに居候していること。今の名前が俺から付けられたものであることなど本当と嘘を織り交ぜた見抜きにくい嘘を煮詰めたものをぽつぽつと語り始めた。

 

 初めは怪訝そうにしていたベルモットも伊吹の幼い容姿と見事な演技力に(ほだ)されたのか話が終わった頃には少女を胸に抱き、あやしていた。

 

 茶番だなと鼻で笑ってキッチンに戻り調理を再開する。そう難しいものでもないので、ほどなくしてサンドイッチが完成した。皿を手に彼女らの下へと戻るとベルモットがまるで信じられないものを見たかのように両の眼を丸くし、驚いた表情でぽつりと似合わないわねと呟き伊吹とともに吹き出し笑いだした。

 

「(言われなくてもわかってるさ。この無愛想な面で料理してるんだ。さぞ傍から見れば面白いだろうよ)そら、飯だ。文句があるなら俺が全部食うが?」

 

 伊吹は笑いを引っ込めてごめんなさいと謝罪してサンドイッチに手を伸ばす。しかし、その横から伸びてきた腕は容赦なくはたき落とした。

 

 何するのよと叩かれた手を抑えながらこちらを見る女にお前にはやらん。と別の皿に乗せてきたサンドイッチ作成時に出たのパンの耳でも食ってろと招かざる客に対して相応しいであろう朝食を渡してやった。

 

「ちょっと! 扱いの差が酷いんじゃないの。ジン」

 

「アポなしでやってくるお前が悪い」

 

 その後余りにもうるさいのでジャムをくれてやったら何とも言えない表情を浮かべるもそれを無視。取り付く島もないと諦めたのか渋々とパンの耳を食べ始める組織の女幹部の姿がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 



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